ポケットの中の日常 (柑橘 類)
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セキエイチャンピオンシップ①わたしにこのてをうごかせというのか

ポケモンが姿を現してから、人間の生活は変わった。古来から共生し、身近なものであったゆえの弊害か、使役としての関係性への変化、研究のあり方はまだまだ不確かであり、今もなお、生態がベールに包まれている分野でもある。

 

各地域の研究者達は凌ぎを削り、その進歩に喜びを見出し、それと共にあらゆる技術が発展して行った。そのなかでもポケモンの進化の過程、卵の存在は君たちにとっても馴染みの深いもであろう。また幾度となく新種の発見が進み既に何百ものポケモンがこの世に存在し、なおこの進歩はとどまることをしらない。

 

これ以上は語るに長いから此処は割愛しよう、これはある男の人生のページを抜粋して綴ったものである。

いよいよ物語の始まりだ!

 

夢と!

 

冒険と!

 

ポケットモンスターの世界へ!

 

 

 ――レッツゴー!!

 

 

――――――――

 

四天王制とリーグ制を組み合わせてもう十年が経つ。そこではあらゆるドラマが生まれ、カントー、ないし全国の猛者どもが凌ぎを削り合い英雄と敗者を生み出してきた。

今年もどの様なドラマが此処から生まれるのだろうか。

 

 

 

-セキエイチャンピオンシップ-

 

 

 

セキエイチャンピオンシップとは、二年に一回行われる王者達の祭典である。

現カントー四天王、各地域のジムリーダー、一般、プロトレーナー達入り乱れたカントー屈指の大会である。

 

同時に、ポケモン協会が一番忙しくなる年が今年もやってきた。勝ち抜いてきたトレーナー達が華々しく脚光を浴びると共に、その裏で汗をかく人間も存在するのである。

 

 

泥沼につかったかのように、睡魔が我が身を襲い、書類を投げ出したい気持ちが溢れ出す。ただ彼は責任者である故に、迂闊に寝入ることも逃げ出す事もできない。

 

「マジで鬼畜の所業。」

 

赤髪ドラゴン野郎を呪いたいとブツブツ呟きながら、一つ溜め息をついて、後ろ背中に哀愁を伴いながら給湯器に向かうのは本作の主人公であるケンゾーである。

コーヒーを入れる為の一挙一動が愚鈍で、見るからに疲弊しきっているのが目に見て取れる。

 

 

まるでヨワシの群れのようにふわふわとその横を舞う書類群。

 

その横では、タクトを振るように腕を動かすサーナイトが真剣な面持ちで書類を分別して処理する。整理した書類を念力で所定の場所まで動かすまでがセットである。

 

この部屋で、書類が飛び交っているのはこの時期においては日常茶飯事のことであり、知人、友人関係者にとっては見慣れた光景でもある。

 

 

会場の準備に、周辺施設の整備、審判員の決定から日程の調整に、警備範囲の設定まで割振を、1人で決定しなければならないから、彼にとってはたまったものじゃない。

通常は四天王に就いている4人とチャンピオン主導の下、その補助役としてのポケモン協会が業務を回してるので成立しているこの体制もひとたび四天王が出払うなり、この様な現象が起こるのである。

確かに、最上を決める大会に限っては仕方がない事象であるとも言える。

 

 

代わりに多くのサポートの人が駆けつけて来てくれている事もあり、何とか運営は回っているのである。「しっかし、強いやつが偉い世界ってのも考えものだよな。戦闘狂に戦うなってるもんだしなぁ。」

そんな言葉を吐いている彼がしっかり働いているのも珍事と言われているのは言わぬが花か。

 

ひと段落ついた頃に、軽いノック音が室内に響き、彼に来訪者を告げる。「失礼します」と言う言葉と共に、入室して来たのは勝ち気な目をした青年であった。

 

 

 

グリーンは、ドアを開けた事を真っ先に後悔した。祖父の頼み事を受けて書類持参の元、向かった先は彼の兄貴分がいる部屋である。”会長室”と書かれた如何にも高級感溢れるプレートが鎮座し、その内奥に入るのは彼も初めてのことであった。

 

どうぞ、と言う言葉に促され先ず目に入ってきたのは満面の笑みの見知った顔。心の中の全俺が盛大にヤっちまったと思ってしまったのは悪くないだろう。横には書類が山のように積まれいる時点でお察しである。彼の隣にいるサーナイトもいかんせん目がキラキラしているもの。アレは姉貴が俺に頼み事(奴隷)にするのと同じ目だ。

 

 

おっと、いいところに来るではないかグリーン君。と彼から声がかかる。全くをもって白々しい。逃げるんだ俺!まだ勝機はある。彼の頭脳はすぐさま答えをはじき出す。グリーンは逃走した。

 

 

だが逃げられなかった。

 

 

ドアノブにグリーンが触れるその目の前にはテレポートで現れたサーナイト。おててに渡される山積みの書類。グリーンは崩れ落ちた。

 

 

 

 

しかし、一体先ほどの死んだ魚のような目はどこに言ったのであろうか。鼻歌を歌いながら、バトンタッチ!と委任して良い書類だけを選別して、グリーン押し付けるダメ兄貴である。サーナイトさんもここぞとばかりに席にグリーンを縛り付ける。

テーブルにはテレポートで輸送された書類が山積みだ。

主従共々いい加減な奴らである。全く。

 

 

今ではトキワジムのジムリーダーを務めるまでに成長したグリーンも彼らにとって小さい頃から面倒を見ている近所の弟分な様なものである。今は目の前で煤けているが。

マサラ市民会でケンゾーの口癖としてよくあがるのは「昔はナナミにおんぶに抱っこされていたものなのに...」であり、彼のポケモンが相槌をうち、全力でグリーンが嫌がると言うところまでがセットで付いて来る。まるで何処ぞのハッピーセットの様である。

 

いやいや、そんな昔の事って言わないでくれよって?んん?グリーン君そんな事を僕に言うのかね。キラキラした目でグリーンを揶揄う主人を尻目に、勝手に出て来たグリーンのフーディンもやれやれ、と主人を一瞥して放置するあたり薄情な奴である。まぁ何時ものことか。

結局しっかり書類仕事をきちんとやらされるグリーン。ヒィヒィ言ってる横で、うむ。素晴らしい援護であったとケンゾーは満足そうに一つ頷いて、目の前の仕事に取り組むのであった。

 

 

 

 

話を戻すと、グリーンが持って来た本題は、今大会におけるジムリーダーの配置に関する書類であるとのこと。あらかじめ連絡はあったが、以前から決定していたジムリーダー枠で、ハナダのカスミちゃんとセキチクのアンズちゃんが大会の予選に出る為、人員に欠員が出るという知らせが一つ。二つ目としては、クチバのマチスさんが警備長で、補佐としてアンズちゃんの代わりにキョウさんが回ってくれるとのこと、頼もしい事この上ない。二人共その道のプロといっても過言でないので、これ以上は望めない最高の人選である。

 

 

キョウに至っては警備だけでなく、トーナメントの運営を回して貰っているので、彼が部屋で書類を回していれば良いという形が出来上がっているのである。

 

そして、グリーンと残りのカントージムリーダーで運営の裏方に回ってもらっている為、目の前でグリーンを扱き使うのは間違ってはいない行動なのである。うむ、私は正しい。(ちなみに2年ごとにはカントーとジョウト地方でお手伝いは持ち回りである。)

そしてここに、グリーンを生贄を送って来るあたりカントーのジムリーダー達もいいかなり性格をしている。本当にカントーのジムリーダーは優秀である。間違いない。うむ、文句は彼らに言いたまえ。グリーン君よ。無知は最大の罪である。

 

 

 

冗談はさておき、世間では、緻密な構成で、若手頭脳派No.1と言われるグリーンにとって今回の大会の本命は誰なのかとケンゾーは尋ねる。ハイライトで染められた目に少し光が戻り、少し張巡してから、ワタルであろう。と返答するのは彼なりにも思うことがあるのだろうか。フーディンに書類をまた押し付けられ光が消える。グリーンの目の前は真っ暗だ。

 

 

確かに、エース格を張れるとされる龍種を何体も従えている彼は化け物である。龍種大抵はドラゴンタイプなのだが、彼らは総じてプライドが高く、大概の人は龍種を迎える時はパーティに一体、しかもリーダー格としてパーティーに迎え入れるのが一般常識であるからその異常さが際立つ。尚且つその一体一体が洗練された力を持つので尚更だろう。彼らは1対1対面に絶対的な爆発力を持つのでグリーンのいうことは余程の番狂わせがない限りほぼ間違いない。

 

 

うだうだ言いながら喋っていたら、ふと実家についての話になった。ナナミが会いたがってるらしい。自身、マサラにここ久しく帰れてないので正月にでも帰ろうかしら...と考えているあたりワーカーホリックの仲間入りである。否、この機会限定である。ただ飛び回ってるだけの間違いですからね。

 

まだ夏なんだよなぁ。季節。旅に出たいねぇ。それもこれも業務次第なんだけどねーと、サーナイトと話をする横で懇願の声をあげるグリーン。お姉様の為にも帰ってきて欲しいらしい。いったいどんなお姉さまだよ。まぁ存じ上げますけれども。

 

 

数時間にかけてカリカリ、というペンの音が室内を支配する。なんだかんだで仕事をやるグリーンの横にはなんだかんだで書類と向き合うケンゾーの姿があった。




初投稿です。


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セキエイチャンピオンシップ②電気ビリビリ紙ビリビリ

大会の時は大会毎にレベル規定が課される時もある。
その時はレベル制限装置が作動し、高いレベルのポケモンのレベルは上限に収まる事となる。


カスミちゃんが順当に決勝トーナメントに上がったらしい。アンズちゃんは予選で、シンオウのデンジ君に最後敗れたとのこと。

 

清々しい朝の中で彼はその様な報告を受けた。此処一週間で久々の四時間睡眠である。枕が恋しくなるぜ。

最近は各地域、地方の若手が伸びて来ていて、カントーにも足を伸ばしてくる様になって頼もしいことこの上なく、嘗てオーキド、キクコ両人が築き上げ轟かせて来た"カントー勢一強"の時代は徐々に終焉に向かいつつある今日この頃である。

時代は進み、発見、登録されていくポケモンは増え、なお今もこの瞬間に発見が進むとされるこの世界、話題を攫っていく人物が生まれる事は色々な面で世界、特に地域に良い影響を与える。老若男女問わず衣食住を基礎として開発や学問等の各方面で発見、開発発明を繰り返し進歩して行き、地域ごとに世界へ名を轟かせる人材が出て来ている。

 

その筆頭がバトルにおける強者に違いないだろう。色々な地方が凌ぎを削りシナジーを起こし合う。共生共鳴の関係の構築である。その中で今回大会において初戦から勝ち抜き、光を放つカスミの存在は水タイプのエキスパートとして世界に名を轟かせ、カントーに大きな影響を与えるであろう。

 

 

 

 

激闘の予選から数日たった頃、ケンゾーはまた変わらず書類漬けの生活を繰り返していた。

 

遂に決勝トーナメントの組み合わせが先日の夜に発表されたのである。昨日は興奮の嵐が吹き荒れたと行っても過言ではない。毎回50パーセントは超えてくるテレビの視聴率自体も今回は60パーセントを超えたというからその興奮度も尚更であろう。この視聴率からも、この世界のポケモンバトルに対する熱とポケモンとの関係性の深さが窺い知れるのである。同時にポケtubeも5000万人を超えたらしい。

 

 

ワンブロック目のくじ引きからカントーは熱を帯びた。決勝トーナメントの1戦目の組み合わせはハナダのカスミ、ナナシマのカンナの組み合わせとなった。

元水タイプにおける四天王とその後継者とも言える存在。氷のカンナとして近年は名を轟かせているカンナだが、数年前まではカンナは水タイプのプロフェッショナルとして名を馳せて来た。

タイプ判別の進歩の影響から、確立した氷タイプの女王として一世を風靡した彼女だが、同様に水の覇者とも言えるのである。そこに新星として名高く、幼くしてジムリーダー迄に上り詰めたカスミが当たったもんだから視聴者の興奮度合いは言うまでにない。最初っから頂点である。

 

新旧の水のプロフェッショナル二人の戦いは公式戦で初めての組み合わせである。それは期待せずにはいられまい。他方で意図せずともカンナさんの出身であるナナシマの威信をかけたバトルともなる。四天王という一つの頂にある存在にかかるプレッシャーは相当なものであろう。

 

「あ、ミクリさんじゃん。」と決勝トーナメントについての特番を見ながら業務を進めていたケンゾーもようやく書類を横にずらしてパーティの分の朝食を用意し、全員でテレビを見つつ暫しの休息を取りながら明日の試合についての思うところを話し合うのは彼らなりのスキンシップである。

 

 

 

それからも、特番と書類仕事は続いていった。

他にも組み合わせとしては、シバとチョウジのヤナギの試合も見ものである事を記しておこうと思う。余り表舞台に立たない事で有名のチョウジジムのヤナギさんが何の因果か、今大会に志願し勝ち上がって来ている。タイプの相性的だけを見てしまうとヤナギさんの方が圧倒的に不利であるが、あのケラケラ笑いながら悪戯をかましてくる小悪魔的なデリバードが滅茶苦茶な強さを誇る事をパーティはジョウトのみならずカントーの上位トレーナーなら誰しもが知るところである。

 

因みにヤナギさんと数多く戦った事のある多くの歴戦のトレーナーがあのデリバードに何回も苦渋を飲まされている為、嫌な顔をしながらヤナギの方の勝ちを望んでいたりする。世代間の仲間意識とでもいうのだろうか。オーキド博士やキクコさんもその一人である。

 

そこをシバさんがどう立ち回るかが見ものである。あの人なら真っ向勝負一本だろうか。やはり。サーナイトさんもシバファン?弟子?の1人として応援しがいがあるらしい。

その他にもアンズちゃんに打ち勝って来たシンオウのデンジ君しかり、コガネのアカネちゃんも上に駒を進めているらしい。楽しみである。しっかし、ミルタンクの転がるは悪夢である。間違いない。

 

試合について考えていると、知らず知らずのうちにワクワクして来てニヤけてしまう。興奮するのも良いが、自重せねば。と、皆を見るとどいつもこいつもウズウズしていたので外に出しておいた。彼らならお互いで発散し合うであろう。寧ろ庭が心配である。揃いも揃って大技ぶっ放すのが大好きなのは主人の性格からくるものなのか。

 

 

 

 

 「……ヘイ、ケンサン、オゲンキですカー!」

 

 昼になり、ぷらぷらと試合の組み合わせについて考えながら会場内を歩いていると、不意に声をかけられた。声のした方を向くと、モスグリーンを基調とした迷彩柄に身を包んだ男が立っている。

 

 「――おー、マチスさんですか」

 

 

マチス-クレ。元々海外空軍の少佐であり、現カントー、クチバジムジムリーダーを務める男である。外人の気質というのもあるのか、かなり気さくな正確な人で、自分よりも早くから協会に関わって来た先輩という関係性で、リーグ、大会における警備隊長を受けていただいていることもあり、お互い良く話す間柄である。

 

 

マチスは早々にには目の前の青年に対して「ユーも出たらいいじゃないカー」と言っていた。それもそのはずである。朝一番からお庭大騒動を引き起こしてるトレーナーである。のんびりとした風貌からは中々想像し難いが、彼は目の前の男に自身は二度と負けを喫している。

バレちゃいましたか。たはは。と言うがアレだけガンガンやっていたらバレるのも当然である。一応サーナイトさんにはリフレクターバリアー共々貼ってもらってはいたので周りには被害はゼロですよ。庭は荒野と化しましたが。

 

ただ結論は、運営ですので、という一言である。そりゃぁ出たいですよ。本音としては。ただ毎回出てるばかりでは成り立たないというのが泣き所ですかね。という回答には、マチスも同意せざる得ない。総じてポケモントレーナーって奴はポケモンバトルをしたがるもんである。そうして談笑しながら進む。

 

今年はサントアンヌ号の長期停泊の時期とも重なり、サントアンヌ杯の開催もあるので、その調整もまた難儀である。

 

ポケモン預かりシステムにおける第一人者、別名ハナダの鬼才とも言われるソネザキ博士、通称マサキが開発を進めているプログラムの調整が難航しているらしい。船内におけるポケモンの持ち込みと転送対応を解決出来るか頼んだのであるが、中々の難題であったようで、マサキが現在も格闘しているらしく会いに来て欲しいとの事である。自身は門外漢であり何とも言えないがマサキに言わせると技術の進歩は執念こそが全てであるとのことだ。中々に難儀なものである。

 

 

 

いつの間に出てきたのか、マチスさんのエレキブルとうちのリザードンは世間話でもしてるのか2人でケラケラ笑っていた。相変わらず友達多いね君は。というか、なんか音楽流してるし何してんのさ2人で。

 

 

 




プロフィール
マチス-クレ
現クチバジムジムリーダー
ポケモン協会所属:警備課:警備隊長
元軍人:役職少佐
※奥さんは滅茶苦茶美人さん。


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セキエイチャンピオンシップ③シャキーン!!!大食少女ミカン参上

1日、2日と試合は進み、ついには準決勝、決勝を残すばかりとなる。

盛り上がりは最高潮を迎え、スタジアムから続く屋台は遂にセキエイ高原の端まで占拠し、チャンピオンロードまで入らんとする勢いである。書類整理もここまで来るとひと段落付き、外にも出ることができるので出たらこの賑わいである。

 

 

「あー、ケンゾーやん。元気ー。」

とこちらに駆けて来るのは、今回の本戦ベスト8の「コガネの美少女アカネちゃんでーす。」被せるな。面倒くさい。と隣でぺこりと一礼して挨拶をしてくれるは本物の幸薄美少女アサギのミカンである。

 

「ええじゃないのー、あんさんと私の仲なんだからさー。うりうりー。」飛び付いてきて人に乗ってるのをいいことにちょっかいをかけているアカネをミカンは横から羨望の眼差しで見ていた。良いなぁアカネちゃんはケンゾーさんに構って貰えて。まぁアカネちゃん可愛いし、眼福だねー。と考えていたその次のケンゾーの言葉はミカンの心を貫いた。

 

「好きなもの奢るよ。好きなだけ食べな。」

 

 

食べ放題....なんて甘美な響きなんだろうなとミカンはご飯以外の全てがどうでも良くなった。

 

 

美少女と美少女?を二人お供に、喧騒の中を抜け、手短なスペースに場所を取る。ケンゾーの横で満面の笑みを咲かせているのはミカンである。彼を連れ回してかれこれもう5件。彼女の胃袋にはゴースとかでも入ってるのかしら。うん。うん。わかるよ。すごい笑顔だねミカン。幸せなんだね。帰ってきたミカンの目の前は5人前のアサギの海鮮焼きそばが鎮座しております。アカネの目に映るミカンはとても幸せそうだ。アサギでの一件から容赦が無くなったね。うん。

クチバの海鮮丼を皮切りにオレンジュース、いかりまんじゅう、モモン飴トドメの焼きそばである。これが主食であるらしい。他はデザートなんですって。追い炭水化物。食べ物怖い。

もぐもぐ言ってるミカンの横で、んで「どうよ。センリさんは、アカネ。」この一言に彼女の目の色が変わる。

 

「いやー、強かったよほんま。うちの子達を完封するとか中々お目にかからないよ大将。」大食い少女も、もぐもぐ横で頷いてますけど

そう、センリさんアカネに完封で上に上がったのである。

こんな性格しながらも、アカネは大都市コガネのトップを若くから張ってるため、バトルも間違いなく強いのである。時、環境、運とは言うけれども本当に珍しいことであった。

 

「元々アサギに住んでたらしいんですけどねー。お父さんとお友達だって、お強いとは言ってましたけどね。びっくりですよー」

「へぇ、スダチさんと。」

皿の全部を食べ終えてミカンは満足である。天にも登る気持ちとはこのことか。幸せな子である。

彼女からするとセンリは一応顔見知りのおっちゃんである。父のスダチと違って中々に近寄り難い雰囲気もあるため人見知り気味のミカンはただ顔はわかるという程度であるが。

 

こうして愚痴を垂れ、お腹を膨らませ。彼らは試合迄ぐー垂れているのであった。

 

 

 

 

 

 

準決勝一組目はワタルとカリンさんの戦いになった。ウチの子達も試合に釘付けであった。エーフィさんなんて特に君の弟が出てたからね。応援のしがいもあるだろうよ。

試合はというと、序盤はカリンさんの優位で進んだが、最後の一対一迄もつれ込み、カイリューがドンカラスに競り勝つ形になった。

 

準決勝二組目はヤナギさんとアサギのセンリさんであった。まさかのダークホースの登場である。開幕早々センリさんのケッキングが盤面破壊と共にデリバードを戦闘不能にして始まり。出鼻を挫かれたチョウジさんは奮闘したが、そのまま一歩及ばずという結果になった。この様な試合があるからポケモンバトルはやめられない。また彗星のごとく強者が舞い降りたのである。そりゃ興奮待った無しである。

 

 

 

決勝も多分に漏れず良い試合であった。人の心を掴んで離さない試合とはこの様な試合を言うのであろう。私も次回はあの場に立ちたいものである。その前に仕事を押し付けねば。キクコさんに頼めばいけるかなぁ。

 

 

決勝の一月後にはセンリさんはチャンピオン、四天王、協会満場一致の推薦でホウエンのジムリーダーとなった。ホウエン地方のトレーナーの底上げも兼ねているのでジムの形式を道場形式にする案が濃厚である。トレーナー自身の精神も鍛えられるというコンセプトらしい。

ケッキングと彼のとっておきがあらゆるトレーナーを荒らしまわることは想像に難くないだろう。

 



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セキエイチャンピオンシップ④好きなポケモンで勝てる様にね。

今日はカリンとフスベで飲みのお約束である。

そう、常々彼女は胸をむんっとはって、夜の街に繰り出すのである。

 

何処迄も蒼い深海のような髪を靡かせ、カリンはこう言った。「勝ちたかったわね。本当。後悔はしていないけれども、幸福では無いわ。」と。ふふんと僕は笑ってこう言った。「君の想いが有限な資源であるとするならば、君のその気持ちは余剰を生み出すよ。その分はまた次回良いことになって帰って来るさ。」と。

 

御茶目な問答を返したつもりなんだがね。憂えた瞳を携えた彼女は、ほぅと一つため息をつく。彼女は勝利への想いは人一倍であった。好きなポケモンで勝つ。そこの一点。世間で広がる。種族の壁に彼女もまた、ぶつかっていた。

 

ただ彼女はつらつらと言葉を吐き出す。強烈な想いの反動はかなり大きかった。

僕には酔いが回っているのである事ない事ペラペラである。思いの丈をぶつけるは良い相手だろう。ただいかんせん飲みすぎたか。今思えば唯のアホである。酔いで頭がお花畑である。キレイハナが咲いているー。これもまた珍しいのだが、何とも言えない。まぁ人様に見せるものではないんだがお許し下さい。

 

夜の静けさと同じ様な静寂が辺りを包み人々を包み込む。目の前のキャンドルの火がゆらゆらを揺らめき、幻想を作り出す。私の真横にはあの日と変わらぬ彼がいる。いや、少しお互いに年をとったか。

 

私がいるのは無慈悲な勝負の世界である。勝者がいれば、敗者もいる。勝つか負けるかの世界。敗者としての苦渋は幾度も味わった。しかし、今回の敗戦は相当に来る。じわじわと胸を侵食し、酔いもあまり回らぬ程に。それは未だ、ヒリヒリと胸を焦がす。重い壁、大きな壁。

 

ただひたすらに言葉を吐き出す。目の前の彼はただニコニコと頷くのであった。

 

 

 

 

 

私はポツリと一言吐き出した。「結局、種族の壁は超えられないのかしら。」と。同意を求めたのだろうか。しかし、その言葉は易々と吹き飛ばされる。

 

 

「そんな事ないでしょ。全てが発展途上なのにさ、戦術も構築の概念も薄いのに。格ゲーみたいな理不尽極まりないコンボ技とかだされたら文句も言いたくなるけどさ。まだまだ力一辺倒のゴリ押しなんだって。」

 

 

 

色取り取りのネオンが光るカウンターの横で、僕はラムの身風味のビールを片手にツマミを摘む。カリンは相変わらずクラボ絞りカクテルがお好みでぐいと一つ煽り、ぐいと二つ煽るとあら不思議。容器の中身が空っぽになるのである。そしてこちらに向けるその目は据わっていた。

 

「どういう事よ。構築の概念になんですって?。」

 

お酒における剛なるものとはこの事か、まぁ俗にいう酒豪って奴である。

 

「レベルの概念もさ。最近オーキド博士によって体系化されたけど、同じレベルでも練度によって強さが違うでしょ。それと一緒だよ。まだまだ強くなれるよ。僕らは。」

 

 

 

 

今ではすっかり大人の女性であるけれども、まぁ、ダグトリオの魂はなんとやらってやつである。片手でクラボを摘みながらすっかり考えこんでしまっている。昔っからの味覚は今も変わらず、辛いものが好きなんだよね。彼女。ビール片手に塩辛とかも良く摘んでるんで、渋いなぁってのを通り越してただの親父化現象か。

 

まぁなんだかんだで、甘い物に辛いものと趣味が合うのである。

そして、彼女は勝ち負けに厳しくて勝てばそりゃもう内心すごく喜ぶし、負けたらそりゃあ落ち込む。本人は隠し切れてるだろうと思っていても、結局、昔馴染みにはすぐわかる。

普段、流麗、表情が読めないクールな女性と称される彼女も身近な人にとっちゃあただの一般人、黒いキャミソール型ワンピースに薄く白いカーディガンを羽織った彼女はやはり綺麗なもんである。まぁ酔った女性はまぁ言わずもがな、魅惑かつ官能的である。

 

 

僕らの手持ちである、エーフィ、ブラッキーは足元で2人でもう寝息をたてていた。さっきまでは仲良く遊んでいたので疲れたのだろう。

 

 

「好きなポケモンで勝てるのが一番なのにね。」っていうカリンの言葉が耳に残る。 仲が良いだけで勝てる次元に彼女は既にいないのかもしれない。

その中でも好きな子達だけで勝てて来てるのは一重に彼女の持つ才能と愛故のことであるし、それがこの一敗で否定された訳では無いが、やはり負けは堪えるらしい。結果のみの世界に生きている人間としては、当然の事であるし、自分もいざ同じ立場になるとカリンに慰めてもらうのであろう。死ぬほど悔しい。胸が張り裂けそうなくらいに、心がはち切れそうなくらいに、負の想いが身体を駆け巡るのである。それは幾つになっても中々に制御は難しいものである。それでも僕らは発展途上にいるのだから。

 

 

 

 

 

 



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