牙狼ライブ! 〜9人の女神と光の騎士〜 (ナック・G)
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μ`s結成編
第1話 「高校」


こんにちは!ナック・Gです!

投稿予定だった牙狼とラブライブ!のクロスオーバー小説を今日から投稿していこうと思います。

今作も駄文になることが予想されますが、楽しんでいただけると嬉しいです。

新たな主人公がどのような物語を紡いでいくのか、ぜひご期待ください!

それでは、第1話をどうぞ!




……ここは東京都千代田区にある、国立音ノ木坂学院。

 

秋葉原と神田と神保町という3つの街のはざまにある伝統ある学校である。

 

ここは昔は女子高であったのだが、少子化の煽りを受けて数年前に共学となった。

 

それでも入学希望者は思うように減らず、廃校になるのでは?という噂が流れていた。

 

しかし、その噂はこの学校に通う誰もが信じようとはしなかった。

 

現在は早朝であるのだが、茶色のコートを着た少年が秋葉原の街を歩いていた。

 

その少年……如月奏夜(きさらぎそうや)は、音ノ木坂学院に通う高校2年生であるが、それは表向きの顔である。

 

奏夜は16歳であるが、古より来たる魔獣、ホラーを狩る魔戒騎士の1人である。

 

というものの、奏夜は魔戒騎士になってからまだ日は浅く、ホラーを狩りながら一人前の魔戒騎士になるために精進していた。

 

そんな奏夜であるが、とある魔戒騎士を尊敬していた。

 

その魔戒騎士とは、現在桜ヶ丘に住んでおり、「紅の番犬所」所属の魔戒騎士である月影統夜(つきかげとうや)である。

 

統夜は桜ヶ丘高校に通いながら魔戒騎士としての務めを果たし、若輩ながら数々の強大なホラーを討滅してきた魔戒騎士であった。

 

その実力は、魔戒騎士最高位の称号を持ち、最強の魔戒騎士である、黄金騎士牙狼こと冴島鋼牙(さえじまこうが)も認める程であった。

 

そんな統夜も、もうじき20歳であり、今でも現役でホラーを狩り続けている。

 

奏夜は今の自分と似た状況ながらも騎士の務めも果たし、実力をつけた統夜を尊敬していた。

 

『……おい、奏夜。次で最後だぞ』

 

奏夜の右手に嵌めてある銀色でドクロのような形をした指輪が唐突に口を開いた。

 

この指輪は「魔導輪キルバ」。魔戒騎士である奏夜をサポートする彼のパートナーである。

 

キルバのような魔導輪や魔導具はホラーを探知する能力があり、奏夜はキルバのナビゲーションを頼りにホラーを捜索して、殲滅する。

 

奏夜は高校に通いながら魔戒騎士としての務めを果たしているが、彼が魔戒騎士であることは、同業者以外は誰も知らない。

 

奏夜は現在、魔戒騎士の務めの1つであるエレメントの浄化を行っていた。

 

魔戒騎士の仕事は、昼間はゲートと呼ばれる陰我が集中する場所の浄化を行い、夜は出現したホラーを討滅する。

 

奏夜は昼間は学校があるため、朝のうちにエレメントの浄化を出来る範囲で済ませ、不足分は同じ番犬所に所属している先輩騎士に任せている。

 

この日も可能な範囲でエレメントの浄化を行い、それを終えた奏夜は学校へと向かった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

奏夜の通う音ノ木坂学院は伝統ある高校で、校舎の佇まいも歴史を感じさせるものであった。

 

奏夜が玄関に入ろうとしたその時だった。

 

「あっ、そーくんだ!!」

 

オレンジのように明るい髪で、サイドポニーの少女が、玄関に入ろうとしている統夜を指差した。

 

その側には青の入った黒い長髪の少女と、グレーっぽい色の長髪の少女もいた。

 

奏夜を指差した少女は高坂穂乃果(こうさかほのか)。この、音ノ木坂学院に通う高校2年生である。

 

そして、黒髪の少女、園田海未(そのだうみ)と、グレーっぽい髪の少女、南ことりも同じく高校2年生である。

 

奏夜は魔戒騎士になったばかりの中3の夏にひょんなことから知り合い、それ以来友人として仲良くしている。

 

しかし、この3人は奏夜が人知れずホラーを狩る魔戒騎士であることは知らなかった。

 

奏夜たちは高校2年生になってまだそんなに日が経っておらず、この前入学式を終えたばかりだった。

 

「……お、穂乃果か。おはよう」

 

「うん!おはよう、そーくん!」

 

奏夜の挨拶を、穂乃果は元気いっぱいな感じで返していた。

 

ちなみに穂乃果は奏夜のことを「そーくん」と呼んでいるのだが、それは知り合って間もない頃に穂乃果が奏夜につけたあだ名であった。

 

始めは違和感を感じていた奏夜であったが、徐々にそのあだ名にも慣れてきたのである。

 

「おはようございます、奏夜」

 

「あぁ、おはよう。海未」

 

海未は丁寧な口調で挨拶をすると、奏夜はそれを返した。

 

海未は同い年である奏夜に敬語を使うのだが、それは奏夜に気を遣っている訳ではなく、この喋り方が海未の素なのである。

 

「そーくん、おはよぉ♪」

 

「おう、ことり。おはよう」

 

脳が溶けてしまいそうな甘い声でことりは奏夜に挨拶し、奏夜は挨拶を返した。

 

ことりはこの3人の中で一番おっとりしており、時々天然な部分が顔を出す。

 

そんなことりではあるが、彼女はこの音ノ木坂学院理事長の娘でもある。

 

ことりはそんなことなど気にする様子はなく、普通に過ごしていた。

 

「それにしても奏夜。今日は少し早いですね。いつも遅刻ギリギリじゃないですか」

 

「まぁね。今日はいつもより早く起きたからこれくらいの時間に着いたって訳さ」

 

本当はエレメントの浄化が予定より早く終わったからなのだが、正直に話す訳にはいかないので、このような嘘で誤魔化していた。

 

「そうなんだ。そーくんももっと時間に余裕を持って起きれば遅刻しないんじゃないかなぁ?」

 

「おいおい……。いつも遅刻ギリギリの穂乃果がそれを言うか」

 

「アハハ……」

 

奏夜は穂乃果が朝に弱いことを知っており、そのことについてツッコミを入れると、穂乃果は苦笑いをしていた。

 

「確かにそうですね。穂乃果も毎日早起きしてくれれば私やことりも助かるのですが」

 

「あぅぅ……。海未ちゃあん……」

 

「アハハ……」

 

海未から指摘を受けた穂乃果は涙目になり、それを見ていたことりは苦笑いをしていた。

 

「ま、とりあえず行こうぜ。じゃないと遅刻するぞ」

 

「そうですね。行きましょう」

 

奏夜たちは玄関に入り、靴を上履きに履き替えると、自分たちの教室へと移動した。

 

ちなみに、奏夜、穂乃果、海未、ことりは全員同じクラスであり、休み時間はこの4人でつるむことが多い。

 

この日も何の変哲のない授業が行われていった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

そして気が付くと、放課後になっていた。

 

「さてと……」

 

奏夜は帰り支度を整え、そのまま教室を後にしようとした。

 

すると……。

 

「……あっ、奏夜。今帰りですか?」

 

教室を後にしようとする奏夜を海未が呼び止めた。

 

「あぁ、そうだよ」

 

「この後って何か予定はありますか?」

 

「……まぁ、あるっちゃあるけど、急ぎの用事じゃないからちょっとくらいなら大丈夫だよ」

 

奏夜の都合を聞いた海未の表情がぱぁっと明るくなっていた。

 

「それでしたら、私の家の道場に来てくれませんか?また組手の相手をして欲しいのですが……」

 

海未の家は、園田流という日舞や武術等の名誉ある家元であり、海未は将来その後取りになりたいと考えている。

 

そのためか海未は武術に心得があり、奏夜も武術に心得があると知ると、時々練習相手になるよう頼むことがあった。

 

「別に構わないけど、弓道部の練習はどうしたんだ?」

 

「今日は休みなのです。ですから、お願いします」

 

海未は家では日舞や武術に励んでいるのだが、弓道部に所属している。

 

そのため、海未は家の稽古や部活と忙しい日々を過ごしているのだが、彼女はこの日々に充実している。

 

「あぁ、わかった。俺で良ければ付き合うよ」

 

こうして奏夜は海未の稽古に付き合うことになった。

 

「ねぇねぇ、海未ちゃん。私たちも見学に行っても良い?」

 

「もちろんです。ぜひ来て下さい」

 

「「やったあ♪」」

 

奏夜と海未の稽古が見れるのが嬉しかったのか、穂乃果とことりはハイタッチしていた。

 

《おい、奏夜。これは毎度言ってるが出来るだけ手加減してやれよ》

 

(わかってるって。でも手を抜きすぎると海未にバレて怒られるし、上手くやるさ)

 

奏夜は海未が武術の心得があることを知っているため、手を抜きすぎるとそれを見透かされて怒られてしまうだろうと予想していた。

 

なので、バレない程度に手加減をするつもりだった。

 

ちなみに奏夜とキルバはテレパシーで会話をしており、2人は人前で必要な会話をする時には周囲にバレないようテレパシーで会話をしているのである。

 

「……?奏夜、どうしました?」

 

海未はキルバをチラチラ見ている奏夜を訝しげに見ていた。

 

「へ?い、いや!何でもないよ!」

 

「それに、その指輪、またしてるんですね」

 

海未は奏夜の指にはめられているキルバを指差していた。

 

「まぁ、これは俺にとって大事な指輪だからな」

 

キルバは奏夜の両親が亡くなってから行動を共にしている家族のようなものであった。

 

魔戒騎士となりキルバと契約する前から一緒なので、付き合いは長い。

 

「……ちょっと怖いけど、可愛いね!」

 

「うん!ことりもそう思うよ!」

 

穂乃果とことりはキルバを見て可愛いという評価をしていた。

 

《なっ!?俺様が可愛いだと!?どちらかというと格好いいだろうが!》

 

キルバは穂乃果とことりの可愛いという評価が気に入らないようだった。

 

(アハハ……。まぁ、落ち着けって)

 

奏夜は苦笑いをしながらキルバをなだめていた。

 

こうして、奏夜たちは海未の家にある道場へと向かった。

 

 

 

 

 

道場へ到着すると、海未は胴着に着替えてから道場に戻ってきた。

 

「お待たせしました。それでは始めましょうか」

 

海未の準備が整ったところで、奏夜と海未は稽古を始めようとするのだが……。

 

「……奏夜、今日も防具は着けないのですか?」

 

「あぁ。俺はこのコートを着てりゃそれで十分だ」

 

奏夜は魔戒騎士であるため、体の丈夫さは常人以上であるため、竹刀で殴られても平気なのである。

 

それに、防具を着けるより、普段から着ている魔法衣のままの方が奏夜としても動きやすいのである。

 

海未は防具を着けようとしない奏夜を訝しげな目で見ていた。

 

「……わかりました。怪我だけはしないようにして下さいね」

 

奏夜と海未の稽古はこれが初めてではなく、その度に奏夜は防具を着けようとはしなかった。

 

そのため、海未は奏夜が防具を着けろと言っても聞かないことは知っているので、このように警告するに留めていた。

 

そして、2人は竹刀を構えるのだが……。

 

「……やっぱり奏夜はその構えなのですね……」

 

海未は奏夜の独特な構えを見てため息をついていた。

 

魔戒騎士である奏夜はホラーと戦う時と同じ構えをしたのだが、武術でよくある正眼の構えではなかった。

 

「……本当にそーくんの構え方って独特だよねぇ」

 

「うん、私もそう思ったよ」

 

ことりと穂乃果も2人の稽古を何度も見ているのだが、奏夜の構えが独特だということは前から思っていた。

 

「……それでは、行きます!」

 

海未は奏夜目掛けて突撃し、面を放って奏夜から一本を取ろうとした。

 

しかし、奏夜はそんな海未の一本を軽々とかわしていた。

 

そして、奏夜は連続で竹刀を振るい、それを受けた海未の表情は歪んでいた。

 

(……っ!あんな型破りな動きなのに、なんで、ここまで激しい攻撃が……?)

 

海未は奏夜が武術の型に則っていない型破りな戦い方であることはすぐにわかったのだが、ここまで攻撃が激しいことに驚きを隠せなかった。

 

そして、武術を嗜む者の勘で、今の自分では奏夜には敵わないと思ってしまった。

 

そんなことを考えているうちに隙が出来てしまい、奏夜はその隙を見逃さなかった。

 

「……面だ!!」

 

奏夜の面は綺麗に決まり、勝負は奏夜の勝ちとなった。

 

「……っ!私の負け……ですか……」

 

「海未、さっき考え事をしてたろ?そういう油断は命取りだぜ」

 

奏夜は海未が何故負けたのかを冷静に分析していた。

 

「確かにそうですね……。奏夜!もう一度です!」

 

海未はこの結果に納得がいかなかったのか、奏夜に再戦を申し込んだ。

 

「……仰せのままに……ってね」

 

奏夜はおどけながら再戦の申し込みを受け、海未は再び奏夜に挑んだ。

 

この日も海未は奏夜から一本も取る事は出来ず、気が付けば夕方になっていた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

体力には自信のある海未であったが、奏夜に連戦した結果、息を切らしていた。

 

しかし、奏夜は息一つ乱すことなく平然としていた。

 

「海未ちゃん、辛そうだね……」

 

「何でそーくんはあんだけ動いても平気なんだろ?」

 

最初から最後まで2人の稽古を見ていたことりと穂乃果は、奏夜が息を切らしていないことに疑問を感じて首を傾げていた。

 

「……海未、大丈夫か?」

 

奏夜は息が切れてその場にしゃがみ込んでいる海未を気遣い、手を差し伸べた。

 

海未は少しだけ恥ずかしがる仕草を見せるが、奏夜の手を取り、ゆっくりと立ち上がった。

 

「……悔しいです!今日も奏夜から一本も取れないなんて」

 

海未は手を借りた奏夜から離れると、この日の結果に納得出来ずに悔しがっていた。

 

「ま、俺は武道はやってないけど、それなりに鍛えてはいるからな」

 

「そ、奏夜!教えてください!どうすればあなたみたいに強くなれるんですか!?」

 

奏夜の強さの秘訣を知りたいと思っていた海未は、奏夜に詰め寄っていた。

 

「あ……えっと……」

 

奏夜は魔戒騎士として厳しい修行をしたとは話すことが出来ず、どう返答すべきか悩んでいた。

 

そして……。

 

「……ま、まぁ、ひたすら修行……じゃないのか?」

 

返答に困った奏夜は、少々投げやりな答えを海未にぶつけていた。

 

それを聞いた海未は……。

 

「……なるほど……。私もまだまだですから、精進あるのみ!そういうことですね?」

 

投げやりな答えだとは気付かず、奏夜の言葉を真摯に受け止めていた。

 

「そ、そういうことだよ」

 

自分の言葉をストレートに聞く海未のまっすぐさに、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「海未、今日はありがとな。こっちとしても良い鍛錬になったよ」

 

「は、はい。私も良い鍛錬になりました。またお願いしますね」

 

「あぁ、その時は付き合うよ」

 

奏夜と海未は互いへの礼儀を忘れることはなく、日を改めての稽古の約束もした。

 

奏夜は海未から借りていた竹刀を、指定の場所へと戻していた。

 

「……奏夜。もう行くのですか?」

 

「あぁ。この後寄るところがあるからさ」

 

「そーくん、そこはどこなの?」

 

「悪い、それは秘密なんだよ」

 

奏夜は、ことりの問いかけに応えることが出来なかった。

 

すると……。

 

「「……」」

 

それが納得いかなかったのか、穂乃果とことりがぷぅっと頬を膨らませて奏夜を睨みつけていた。

 

「ま、まぁ!そういう訳だから、俺はもう行くな」

 

奏夜はこの場に留まったら激しい追求が来そうと判断し、逃げるように道場を後にした。

 

道場を出て、しばらく歩いていると、上空から一羽の鳩がこちらに向かって飛んできた。

 

「……!あの鳩……」

 

『あぁ、どうやら指令のようだな』

 

奏夜目掛けて飛んで来ている鳩は、奏夜の所属している翡翠の番犬所の神官であるロデルの使い魔である。

 

ロデルは奏夜のような魔戒騎士にホラー討伐の指令を出すときに使い魔である鳩を飛ばし、魔戒騎士に指令書を届けることがある。

 

しかし、様々な番犬所がある中、使い魔を使って魔戒騎士に指令書を届けるというのは、稀のケースであり、他の番犬所ではあまり行われていないのである。

 

奏夜はロデルの使い魔である鳩から赤い封筒の形をした指令書を受け取ると、鳩は主人の待つ番犬所へ向かって飛んで行った。

 

「……指令か……。一月ぶりくらい……かな?」

 

奏夜は魔戒騎士として古より来たる魔獣、ホラーを討伐しているのだが、ホラーは毎日現れるわけではない。

 

奏夜が朝行っていたエレメントの浄化をしっかりと行えば、ホラーが現れることはほぼなく、数日置きくらいの間隔でホラーが現れる時は何かしら異常事態が起きている可能性がある。

 

そのため、一月ぶりのホラー狩りや、それ以上、ホラー狩りがご無沙汰というのは、魔戒騎士としてはよくある話だった。

 

奏夜は魔法衣の裏地から、魔戒騎士の必需品である魔導ライターを取り出した。

 

このライターからは魔導火と呼ばれる特殊な炎を放ち、奏夜たち魔戒騎士はその魔導火を様々な場面で用いる。

 

奏夜は指令書を魔導ライターから放たれる魔導火で燃やした。

 

一般人が見たら驚く光景ではあるが、指令書はこの方法でしか読むことは出来ない。

 

魔導火によって燃え尽きた指令書から、文字のようなものが飛び出してきた。

 

指令書の指令は魔戒語で書かれており、魔戒騎士はこの魔戒語で書かれた文章を読み取り、指令の内容を確認するのである。

 

「……えっと……小さくはあるが、人を脅かす陰我あり。ただちに殲滅せよ」

 

奏夜が指令を読み取ると、魔戒語で書かれた文章は消滅した。

 

「……さて、久々の仕事だ。気合をいれないとな」

 

『奏夜。相手が誰だろうと油断するなよ』

 

「わかってるって。さぁ、行こうぜ、キルバ」

 

『了解だ、奏夜』

 

こうして奏夜はキルバのナビゲーションを頼りに、ホラーの捜索を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

奏夜がホラー捜索を始めて間もなく、日が落ちて夜になった。

 

奏夜がキルバのナビゲーションでやって来たのは、秋葉原某所にあるビルの屋上だった。

 

「……キルバ、本当にこんなところにホラーが?」

 

『あぁ。ホラーの気配を感じるぞ。奏夜、油断するなよ』

 

「あぁ!」

 

奏夜は魔戒騎士の武器である魔戒剣を取り出すと、いつでも抜刀出来る状態にしておいた。

 

ホラーは通常の武器や兵器では倒すことは出来ず、ソウルメタルと呼ばれた特殊な金属で出来た武器でしかホラーを倒すことは出来ない。

 

魔戒騎士の武器である魔戒剣は、ソウルメタルで作られている。

 

奏夜が周囲を警戒していたその時だった。

 

『……奏夜!来るぞ!』

 

キルバがこのように宣言すると、上空から、この世のものとは思えない怪物が姿を現した。

 

この怪物こそが、古より来たる魔獣ホラーであり、このホラーは、ホラーの中でも数が多い素体ホラーである。

 

素体ホラーの姿を捉えた奏夜は、魔戒剣を抜くと、それを構え、素体ホラーを睨みつけた。

 

すると、素体ホラーが奏夜目掛けて攻撃を仕掛けてきた。

 

「……っ!」

 

奏夜は素体ホラーの動きをギリギリまで見極めて、素体ホラーの攻撃をかわした。

 

そして、反撃と言わんばかりに魔戒剣を一閃した。

 

背後から魔戒剣による剣撃を受けた素体ホラーは致命傷とはいかなかったものの、よろめいて体勢を立て直すのに時間がかかってしまった。

 

しかし……。

 

『奏夜、踏み込みが甘い!そんな攻撃じゃ倒せる相手も倒せないぞ!』

 

「キルバ、少し黙ってろ!集中出来ない!」

 

戦闘中にダメ出しをするキルバに苛立ったのか、奏夜は声を荒げていた。

 

こんなことをしている間に、素体ホラーは体勢を立て直していた。

 

『とにかく……奏夜、一気にケリをつけろ!』

 

「言われなくても!明日も学校なんだ!一気に決着をつける!」

 

奏夜は素体ホラーを早急に倒すと宣言すると、魔戒剣を力強く握りしめた。

 

すると、先ほどの反撃をするべく、素体ホラーが再び奏夜に牙をむいた。

 

奏夜は素体ホラーを引きつけている間に魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

円を描いた部分だけ空間が変わり、そこから放たれる光に奏夜は包まれ、その状態で魔戒剣を構えた。

 

素体ホラーの爪が奏夜に迫る直前、奏夜は黄金の鎧を身に纏い、その瞬間、魔戒剣を一閃した。

 

その一撃の後、光は収まり、元の奏夜の姿に戻っていた。

 

奏夜の放った一閃により、素体ホラーの体は真っ二つに斬り裂かれた。

 

素体ホラーは苦しげに断末魔をあげ、その体は爆発と共に消滅した。

 

素体ホラーを討滅した奏夜は、魔戒剣を緑の鞘に納めた。

 

「さて……。今日の仕事はこれで終わりだな」

 

『そうだな。だが、奏夜。お前はまだまだ詰めが甘い!そんなんじゃあの男のような騎士になどとてもなれないぞ!』

 

キルバは奏夜がまだまだ魔戒騎士として未熟であると指摘し、今のままではいけないことを厳しい言葉でぶつけていた。

 

「……わかってるさ!俺だって……いつかは統夜さんみたいに……!」

 

奏夜は、自分の先輩であり、尊敬している魔戒騎士、月影統夜のような魔戒騎士になりたいと心の底から願っていた。

 

『あの男を目指すのなら、もっと精進するんだな』

 

「あぁ……!そのつもりだよ!」

 

奏夜はキルバからの厳しい言葉を闘志に変え、これからも魔戒騎士として精進していくことを決意した。

 

ホラー討伐を終えた奏夜はそのまま真っ直ぐ自宅へと帰っていった。

 

こうして、音ノ木坂学院の2年生であり、魔戒騎士でもある如月奏夜の1日が終わっていった。

 

しかし、これから音ノ木坂をめぐる大きな問題や、激しい激闘の日々が待ち受けていることを、奏夜は知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『奏夜は音ノ木坂とかいう高校に通っているが、その学校がそのようなことになるとはな。次回、「廃校」。そして、姿を現わす、金色の刃!』

 

 




1話からいきなり鎧が登場しました。

素体ホラーをワンパンしてしまったため、一瞬でしたが……(笑)

前作はメインヒロインを誰にするかギリギリまで引っ張りましたが、今回のメインヒロインは穂乃果の予定になっています。

え?何でヒロインが穂乃果だって?皆まで言わせないでよ。恥ずかしい。(ほのキチだから)

ちなみに、奏夜の相棒であるキルバですが、イメージCVは中村悠一さんになっています。

さて、次回からはラブライブの本編がスタートします。

そして、奏夜の鎧もしっかりと登場する予定です。

それでは、次回をお楽しみに!



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第2話 「廃校」

お待たせしました!第2話になります!

FF14と牙狼がコラボをしてるとのことで、FF14をやってますが、最近、牙狼や絶狼など鎧を着けてる人をチラホラと見かけるようになりました。

自分も早く牙狼装備を手に入れたい!

それはともかくとして、今回からいよいよラブライブ!の本編がスタートしていきます。

そして、今回は奏夜の鎧が登場します。

前作である「牙狼×けいおん 白銀の刃」にも奏夜は登場して鎧を召還しているので、前作を見ている方はあの鎧が登場します。

前作を見ていない方は、奏夜の鎧が登場するので、ご期待ください!

それでは、第2話をどうぞ!




奏夜が、海未の稽古に付き合い、素体ホラーを討滅してから数日が経過した。

 

魔戒騎士と高校生。2つの顔を持っている奏夜の高校生活は順調そのものであり、このまま卒業までは何事もなく順調に日々が過ぎていくと思われた。

 

しかし……。この日は朝礼があり、この学校の理事長から思いもよらぬことが告げられた。

 

それは、来年度からの入学希望者を打ち切り、この学校が廃校になるというものである。

 

そんな理事長の言葉に全校生徒は戸惑いを隠せず、ざわついていた。

 

奏夜にとっても廃校は思ってもみないことであり、驚きを隠せなかった。

 

(廃校とかマジかよ……。この学校にはけっこう思い入れがあるのに……)

 

奏夜にとってもこの学校には思い入れがあり、廃校という事実は奏夜にショックを与えるものであった。

 

そして朝礼が終わり、校内の掲示板にも廃校の知らせがデカデカと貼られていた。

 

「は、廃校って……」

 

「つまり、学校がなくなるということですか?」

 

奏夜と一緒に廃校の知らせのポスターを見ていたことりと海未も、信じられないと言いたげな感じでポスターを見ていた。

 

穂乃果も一緒にポスターを見ていたのだが、1番ショックが大きいようで、言葉を失って絶句していた。

 

「あぁぁ……」

 

あまりのショックのせいて、穂乃果は気を失ってしまった。

 

「危ない!!」

 

そのまま倒れたら危険なため、奏夜は気を失って倒れる穂乃果を支えていた。

 

「おい、穂乃果!大丈夫か?」

 

「穂乃果!」

 

「穂乃果ちゃん!」

 

奏夜、海未、ことりの3人気を失った穂乃果に呼びかけるが、穂乃果の反応はなかった。

 

「わ……私の……私の輝かしい……高校生活が……!」

 

気を失った穂乃果はみんなに聞こえるか聞こえないかくらいのうわ言を言っており、ショックのあまり涙目になっていた。

 

(……こいつは重症だな……)

 

廃校という事実を突きつけられた穂乃果が予想以上に狼狽しており、奏夜はやや呆れ気味だった。

 

「海未、ことり。とりあえず穂乃果は俺が保健室に連れていくよ」

 

「すいません、奏夜。お願いします!」

 

「お願い、そーくん!」

 

「あぁ、任せろ!」

 

こうして、奏夜は穂乃果を保健室へ連れて行くことになったのだが……。

 

「「!!?」」

 

海未とことりは奏夜の行動に驚いていた。

 

穂乃果を運ぶのに、奏夜は穂乃果をお姫様抱っこで運んでいたからである。

 

奏夜はそのまま保健室へと向かっていった。

 

お姫様抱っこというのは漫画でたまに見る展開であるからか、それを目撃した生徒の視線が奏夜に集中していた。

 

(……何か、周りの視線が凄いんだけど……)

 

《おい、奏夜。それはお前がこのお嬢ちゃんをお姫様抱っこしてるからだろ》

 

(これが1番手っ取り早いと思ってたが、恥ずかしいな……)

 

奏夜は恥ずかしさからか頬を赤らめながら保健室へと移動した。

 

「すいません、彼女をちょっとここで休ませてあげて下さい!」

 

奏夜は保健室に入るなり、保健室の先生にこう伝えた。

 

「わかったわ。こっちのベッドに寝かせてちょうだい」

 

「ありがとうございます」

 

奏夜は保健室の先生が指定したベッドに穂乃果を寝かせた。

 

「……すいません、よろしくお願いします」

 

奏夜は穂乃果を先生に任せると、保健室を後にして教室へと戻っていった。

 

教室に戻ると、まだホームルームの途中だったのだが、海未とことりが予め奏夜と穂乃果のことを先生に伝えていたからか、特に咎められることもなく、奏夜は自分の席についた。

 

そしてホームルームが終わるなり、海未とことりが奏夜のもとへやってきた。

 

「……奏夜、穂乃果は大丈夫でしたか?」

 

海未は不安そうな表情で奏夜に聞いていた。

 

「あぁ。とりあえずは大丈夫だと思う」

 

「良かったぁ♪だけど、やっぱり穂乃果ちゃんが心配だなぁ……」

 

大丈夫だとわかって安堵はするものの、ことりも不安そうな表情をしていた。

 

「確かに。俺も心配だよ」

 

奏夜も穂乃果との付き合いは長いため、穂乃果のことを心配していた。

 

奏夜たちは3人揃って穂乃果の心配をしていたその時だった。

 

ガラガラ……。

 

目を覚ました穂乃果が教室に入ってきたのだが、何故かジト目だった。

 

「穂乃果?」

 

「穂乃果ちゃん?」

 

穂乃果はフラフラになりながらも奏夜の席まで移動すると、「学校がなくなる……」とまるで呪文のように呟いていた。

 

「穂乃果ちゃん、そんなに学校が大好きだったなんて……」

 

「いえ、あれは何か勘違いをしています」

 

「あぁ。俺もそんな気がするよ」

 

「学校がなくなる」と呟いていた穂乃果を奏夜たちが心配そうに見ていたその時だった。

 

「どうしよぉ!全然勉強してないよぉ!!」

 

穂乃果は涙目になりながらこう訴えかけていた。

 

「……やっぱり勘違いしてたか……」

 

奏夜は穂乃果がこんなことを思っていると予想していたのか、ジト目で穂乃果のことを見ていた。

 

「だって、学校が無くなるってことは他の学校に行かなきゃいけないんでしょ?編入試験とかあるじゃん!」

 

穂乃果は学校が無くなるのはショックだったが、それと同時に編入試験を受けなければいけないと思い込んでしまい、焦っていたのである。

 

「ほ、穂乃果ちゃん落ち着いて……」

 

「ことりちゃんと海未ちゃんはいいよ!そこそこ勉強出来るし!そーくんだっていつもテストでは平均くらいは取れてるし!」

 

穂乃果が言う通り、ことりと海未はそれなりに成績が良かった。

 

奏夜は魔戒騎士の務めを果たしながら勉強しているのだが、成績は良くも悪くも平均的であった。

 

しかし、勉強を怠り、赤点ギリギリくらいの点数になったこともあるため、成績が良いとは言いがたいものだった。

 

「穂乃果、落ち着いて下さい。いいですか。廃校とは言ってもすぐに学校が無くなる訳ではありません」

 

「ふぇ?」

 

この音ノ木坂高校は確かに廃校が決まってしまったのだが、今すぐ学校が無くなるものではなかった。

 

来年度からの入学希望者の受け入れを辞め、今いる1年生が卒業したら廃校になるというものだった。

 

海未は穂乃果にこの説明をすると、穂乃果はどうにか納得したようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、今日もパンが美味いっ♪」

 

昼休みになり、奏夜たちは中庭で昼食を取っていたのだが、パンが大好きな穂乃果は、満面の笑みでパンを頬張っていた。

 

「それにしても、来年度から1年生が入って来ないっていうのは何か寂しいよな」

 

奏夜はコンビニで買ってきたパンを頬張りながらこう呟いていた。

 

「そうですね……。今の1年生には後輩はいないということになりますからね……」

 

来年度からの入学希望者を受け入れないということは、今の1年生に後輩が出来ることはなく、卒業して廃校になる時は先輩も後輩もいないという寂しい状況になってしまう。

 

しかも、今年の1年生は1クラスしかなく、より寂しさを感じさせるものだった。

 

そのことを痛感し、奏夜たちは浮かない表情のまま食事を取っていたのだが……。

 

「……ちょっといいかしら?」

 

突然声をかけられたので奏夜たちは声の方を向くと、綺麗な金髪のポニーテールで、吸い込まれそうなほど綺麗な青い瞳の少女が立っていた。

 

その瞳には憂いを帯びており、とても大人っぽい雰囲気を醸し出していた。

 

その少女の隣には紫の入った黒髪で、ツインテールの少女が立っていた。

 

奏夜たち2年生は紫のリボンなのだが、2人は黄色のリボンであり、黄色のリボンは3年生のつけるリボンだった。

 

それ故に2人は3年生であるということがわかった。

 

「……なぁ、海未。この人たちって確か……」

 

「えぇ。生徒会長と副会長です」

 

奏夜と海未はまるで確認を取るように小声で会話をしていた。

 

金髪でポニーテールの少女が、絢瀬絵里(あやせえり)であり、この音ノ木坂学院の生徒会長である。

 

そして、紫の入った黒髪にツインテールの少女が東條希(とうじょうのぞみ)で、彼女は副会長であった。

 

「……南さん」

 

「は、はい!」

 

ことりは絵里に名指しされ、思わず立ち上がった。

 

「あなた……。確か理事長の娘よね?理事長、何か言ってなかった?」

 

「い、いえ……。私も今日知ったので……」

 

ことりの母親はこの音ノ木坂学院の理事長なのだが、ことりが廃校の話を聞いたのは今日が初めてだった。

 

「そう……。ならいいわ」

 

「ほなな〜」

 

絵里の要件はそれだけだったため、希と共にその場を離れようとしたのだが……。

 

「……あ、あの!」

 

穂乃果が2人を呼びとめたので、2人は足を止めた。

 

「学校……本当になくなっちゃうんですか?」

 

穂乃果にとっては学校がなくなるというのは避けたいことであり、今でも信じがたいものだった。

 

そんな心配から穂乃果は絵里に訪ねたのだが……。

 

「……あなたたちが気にすることじゃないわ」

 

こう言い放つ絵里の口調はとても冷たいものであった。

 

絵里のそのような態度を見ていた奏夜は苛立ちを募らせていた。

 

「……そんな言い方はないんじゃないっすかね?」

 

そのため、奏夜は思わず絵里に反論してしまった。

 

「……何ですって?」

 

奏夜の反論を聞いた絵里は眉間にしわを寄せながら奏夜を睨んでいた。

 

(あ……やべ!!)

 

奏夜は思ったことをつい口にしてしまったことを後悔するが、既に手遅れだった。

 

《やれやれ……。思ったことを口にするのがお前の悪い癖だぞ、奏夜》

 

キルバはテレパシーで奏夜のダメ出しをしていた。

 

ここまで言ってしまったら後戻りは出来ないため、奏夜は思ったことを言うことにした。

 

「こいつは本気で学校を心配して言ってるんです。だからそんな突き放すような言い方は良くないと思っただけなんです。気に障ったのなら謝ります」

 

奏夜は出来る限り波風を立てないように、なるべく大人しめに思ったことを言っていた。

 

「そう……。気を付けるわ」

 

絵里が簡単に引き下がってくれたので、奏夜は安堵のため息をついていた。

 

「話はそれだけよね?だったらもう行くわね」

 

絵里は眉間にしわを寄せながら踵を返すと、そのまま教室へと向かっていった。

 

奏夜に反論されたことが気に入らなかったため、絵里は不機嫌そうな表情をしているということは予想できた。

 

そんな絵里の様子を見ていた希は、ニヤニヤしながら奏夜のことを見ていた。

 

「君……おもろいな♪」

 

「?そうですかね……」

 

「まぁ、そういうことや。ほなな〜」

 

奏夜のことが面白い。それだけを言いたかったのか、希は絵里を追いかけるため小走りで去っていった。

 

「……ほっ、危なかった……」

 

《奏夜。面倒なことに巻き込まれたくないなら、あまり思ったことをポンポンと言うんじゃないぞ》

 

(わかってるって)

 

キルバは思ったことをつい口に出してしまう奏夜に対してこのように釘を刺していた。

 

「奏夜、生徒会長は上級生なんですから、口の利き方は気を付けた方がいいですよ」

 

キルバだけではなく、海未も同じような注意を統夜にしていた。

 

「あぁ、気を付けるよ」

 

海未やキルバに言われるまでもなく気を付けるべきことだということは奏夜も理解しているため、自分に言い聞かせるのも兼ねて返事をしていた。

 

「さて、昼休みも終わるし、そろそろ教室に戻ろうか」

 

奏夜の言う通り、昼休みは間も無く終わるため、奏夜は教室へ戻ろうとしていた。

 

すると……。

 

「あっ、そーくん!待って!」

 

「?どうした?」

 

「ありがとね♪穂乃果のために怒ってくれて」

 

穂乃果は、奏夜が上級生だろうと自分のために言うべきことを言ってくれたのが嬉しかったのか、お礼を言っていた。

 

「べ、別に穂乃果のためじゃなくて、思ったことをつい言っちゃっただけなんだからな!」

 

お礼を言われたことが照れ臭かったのか、奏夜は頰を赤らめながらプイっとそっぽを向いていた。

 

「クスッ。そーくんってばツンデレだねぇ♪」

 

素直になれずツンデレのような対応をしている奏夜が可愛いと思ったのか、ことりは笑みを浮かべていた。

 

「そ、そんなことはないぞ!ほら!俺は先行くからな!」

 

奏夜は照れが大きかったからか、そのままスタスタと歩き出し、教室へと向かっていった。

 

「あ、そーくん!待ってよぉ!!」

 

穂乃果はそんな奏夜を慌てて追いかけ、海未とことりもその後を追いかけていた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

昼休みが終わると、奏夜は普通に授業を受けていた。

 

そして放課後、奏夜は帰り支度を始めていた。

 

「奏夜、帰るのですか?」

 

「あぁ。俺は帰ろうと思ってるけど」

 

海未に声をかけられたので、奏夜は帰り支度をしながら返事をしていた。

 

「今から穂乃果やことりと廃校をどうにか阻止するためにこの学校のいい所を探そうとしてるんですけど、奏夜も参加出来ませんか?」

 

「悪い。協力したいのは山々なんだけど、今日はこの後用事があってな」

 

「そうでしたか……。残念ですけど、仕方ないですね……」

 

「悪いな、それじゃあまた明日!」

 

こうして海未と別れて教室を出た奏夜は、そのまま学校を後にした。

 

学校を後にした奏夜は、音ノ木坂学院の近くにあるとある場所に向けて歩いていた。

 

そして、奏夜が足を止めたのは、音ノ木坂学院から歩いて3分ほどのところなのだが、その場所はなんと行き止まりであった。

 

奏夜は一切焦ることはなくキルバを行き止まりの壁に向かって突き出した。

 

すると、その壁から魔法陣のようなものが出現すると、奏夜はその魔法陣の中に入っていった。

 

奏夜がその中に入ったのと同時に魔法陣のようなものは消えていた。

 

奏夜が向かっているのは、奏夜たち魔戒騎士を総括する番犬所という機関である。

 

この番犬所は各所に存在し、奏夜の所属する翡翠の番犬所は、秋葉原と神田と神保町あたりを管轄にしている番犬所である。

 

奏夜は何もない道を進んでいくと、奏夜は神官の間にたどり着いた。

 

そこには高い玉座に座る20代くらいの男性と、その付き人の秘書官2人が立っていた。

 

「あ、奏夜。来ましたね」

 

「はい、ロデル様」

 

奏夜はこの翡翠の番犬所の神官であるロデルに一礼すると、近くにあった狼の像の前に立った。

 

すると、奏夜は魔戒剣を抜くと、狼の像の開いた口に剣を突き刺した。

 

そして、魔戒剣を引き抜くと、狼の像の口から煙のようなものが現れ、さらに小さな短剣のようなものが出て来た。

 

この短剣は、討伐したホラーを封印したものであり、この短剣が12本になった時、魔界へと強制送還される。

 

12という数字は、魔を祓う意味があるためである。

 

さらに、狼の口に魔戒剣を突き刺すことで、魔戒剣に溜まった邪気を浄化することが出来る。

 

魔戒剣の浄化を終えた奏夜は、魔戒剣を鞘に納めると、ロデルの前に立った。

 

「奏夜。どうですか?学校は」

 

ロデルは奏夜に学校のことを聞いていた。

 

奏夜がこの音ノ木坂学院に通うようになったのは、ロデルの力添えがあってこそであった。

 

そもそも、奏夜が高校に通うようになったのは、高校に通いながら魔戒騎士として務めを果たしていた月影統夜の存在がとても大きい。

 

統夜は本来高校に行く気はなかったのだが、統夜の所属する桜ヶ丘を管轄としている紅の番犬所の神官であるイレスの薦めで桜ヶ丘高校に入学したのであった。

 

高校に通いながら様々な試練を乗り越えていった統夜は高校を卒業し、今も紅の番犬所所属の魔戒騎士として、ホラーを討伐しているのである。

 

奏夜はそんな統夜に憧れ、尊敬しており、統夜のように高校生活を通して「守りし者」とは何なのかを学ぶために、共学となった音ノ木坂学院に入学することを決意したのである。

 

「えぇ。学校はやはり楽しいです。ですが……」

 

「ですが?」

 

「最近入学希望者が減っているらしく、音ノ木坂学院は廃校になるみたいなんです」

 

「は、廃校……ですか?」

 

奏夜から告げられた廃校という言葉に、ロデルは驚きを隠せなかった。

 

「今いる1年生が卒業するまでは残るみたいですけど、やはり俺は廃校して欲しくはないんですよね……」

 

奏夜は1年間音ノ木坂学院に通っていたため、その分この学校には愛着を持つようになっていた。

 

「そうですよね。どうにか廃校の話がなくなればいいですが……」

 

ロデルは紅の番犬所のイレスとは違って高校生活に憧れてる訳ではないが、奏夜から聞かされる話は面白いと感じており、廃校の話がなくなればいいと祈っていた。

 

「それはそうと、奏夜。指令です」

 

ロデルがこのように告げると、ロデルの付き人の秘書官が、赤い封筒……指令書を奏夜に手渡していた。

 

奏夜は指令書を受け取ると、魔法衣の裏地から魔導ライターを取り出し、魔導火を放つと、指令書を燃やした。

 

すると、燃え尽きた指令書から、魔戒語で書かれた文章が飛び出してきた。

 

「……若さ溢れる者を見境なく喰らう兎の魔獣が出現せり。これを討滅せよ」

 

奏夜が指令書の内容を読み上げると、魔戒語で書かれた文章は消滅した。

 

『……ホラー、ラビットールか……。若い人間を好んで喰らう胸くその悪いホラーだぜ』

 

「すでに2人の若者が行方不明になっていると聞いています。統夜、これ以上被害が出る前にホラーを見つけ出し、討滅するのです」

 

「わかりました。直ちにホラーを捜索し、討滅します」

 

奏夜はロデルに一礼をすると、そのまま番犬所を後にして、ホラーを捜索するべく行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜穂乃果 side〜

 

 

 

 

……私、高坂穂乃果!音ノ木坂学院に通う高校2年。

 

私の通う音ノ木坂学院が大ピンチなの!

 

今日の朝礼でことりちゃんのお母さんでもある理事長がこの学校が廃校になるって言ってたの。

 

私は今でも信じられないし、学校が無くなるなんてヤダよ!!

 

だから、幼馴染の海未ちゃんやことりちゃんと一緒に廃校を阻止するにはどうすればいいか話し合ってたの。

 

そーくんは何か用事があるって海未ちゃんから聞いてたけど、学校の一大事なんだから、協力してくれればいいのに……。

 

そーくんこと如月奏夜君は、穂乃果がまだこの学校に入る前の中学3年生の夏頃に知り合ったんだ。

 

穂乃果の家は和菓子屋さんなんだけど、その近くにそーくんが引っ越してきて、同じ中学に通ってるってことがわかって仲良くなったんだよね。

 

そーくんって、秋葉原周辺を転々としてたってのは聞いてたけど、詳しいことは何も教えてくれないんだよね。

 

それに、今でも仲良くしてるけど、そーくんは何か私たちに隠し事をしてるような気がするんだよね……。

 

それが何か?って言われたらわからないけど、それがいつかわかればいいな……。

 

……って!そうじゃなくて!今は音ノ木坂が廃校になるって話をしてたんだよ!

 

海未ちゃんとことりちゃんの3人で話し合っても何もいい案は出なかったから、明日以降に持ち越しになっちゃったんだよね……。

 

それで、私の妹である雪穂(ゆきほ)は音ノ木坂じゃなくてUTXっていう高校に行くって言い出すし……。

 

雪穂がどんどん入学希望者が減ってる高校に入る意味はないなんて言ってたけど、お母さんもお婆ちゃんも音ノ木坂なんだから、そんな風に言わないでもいいじゃん!

 

この日の夜、私はお風呂から出て、居間に移動したんだけど、お母さんが卒業アルバムを懐かしそうに見てたんだよね……。

 

やっぱりお母さんも音ノ木坂が無くなって欲しくないって思ってるのかな?

 

……そうだ!雪穂がUTXが人気だって言ってたし、明日の朝、UTXに行ってみよう!

 

そうすれば、廃校阻止のヒントが得られるかも。

 

よし、そーくんに相談してみよう!

 

そう思い立った私はそーくんに電話をかけるんだけど……。

 

「……あれ?出ない?」

 

そーくん、家で家事でもしてるのかな?

 

ちょっとそーくんの家に行ってみよう!

 

私は自分の部屋に戻って急いで着替えを済ませると、そのまま階段を降りていった。

 

「ちょっとそーくんの家に行ってくる!」

 

「奏夜君のって、もう夜よ?穂乃果!」

 

お母さんは引き止めてたけど、私はそれを聞かずに駆け出していった。

 

そして、歩いてすぐのところにあるそーくんの家に着いて、家のチャイムを鳴らすんだけど……。

 

「……あれ?もしかして、まだ帰ってないのかな?」

 

もう夜なのに、そーくんの用事はまだ終わってないなのかなぁ……。

 

こうなったら、家の近所を探してみて、いなったら仕方ないから諦めて帰ることにしようかな。

 

私はそーくんを探すために家の周りを探してみることにしたんだけど、やっぱりそーくんを見つけることは出来なかった。

 

……そーくん……。どこに行ったんだろ?

 

もう夜も遅いし、明日の朝早くにそーくんに相談してみようかな。

 

私は今、近所の公園にいたんだけど、諦めて家に帰るために歩き始めようとしたんだけど……。

 

「……あれぇ?お嬢さん、こんな時間にどうしたの?」

 

「!?」

 

いきなり男の人に話しかけられてしまい、ちょっとびっくりしちゃった……。

 

私は男の人が苦手って訳じゃないけど、この人はなんかチャラそうな感じで少し怖いな……。

 

「こんな時間に女の子が1人なんて危ないよ?ねぇねぇ、家はどこ?送ってこうか?」

 

「いえ、1人で帰れますので……」

 

私は怖かったので、逃げるようにその場を立ち去ろうとしたんだけど……。

 

「……ちょっと待てよ。送ってやるって言ってるのに、その態度はないんじゃないの?」

 

男の人は私の手を掴んで捕まえてきた。

 

……怖い……!誰か、助けて!!

 

私がそんなことを考えていたその時だった。

 

「……その汚い手を離せ。この下衆が……!!」

 

いきなり私の手が誰かに引き離されたんだけど、その正体はそーくんで、そーくんは怖い顔をしてたけど、私を助けてくれた。

 

「そ、そーくん……」

 

「な、何だよ!お前は!」

 

「俺はこいつの友達だよ。だからこそ、お前みたいなナンパ野郎の好きにはさせないって訳」

 

「このガキが……!」

 

男の人が、怖い顔をしてそーくんを睨んでたけど、そーくんは何故か平気そうだった。

 

「それよりも……」

 

そーくんはこう前置きをすると、いつも来ているあのコートから奇妙な形をしたものを取り出していた。

 

これは……。ライターなのかな?

 

そーくんは火を着けてたからライターなのは間違いないんだけど、何故かそのライターで男の人の瞳を照らしていた。

 

?何をしようとしているんだろう……。

 

私がそんなことを考えていると、男の人の瞳から、不気味な文字のようなものが浮かび上がってきた。

 

こ、これは……いったい……?

 

私は、この展開について行けなくて、困惑していた。

 

すると、男の人は、さっきよりも怖い顔をしていた。

 

「貴様……魔戒騎士か」

 

「魔戒騎士?」

 

聞いたことない言葉だけど、魔戒騎士って何なの?

 

私は聞いたことない言葉に困惑してたんだけど……。

 

「……穂乃果。何してる」

 

「え?」

 

「逃げろ」

 

そーくんのその声は、いつものような優しい声ではなくて、低くてドスの効いた怖い声だった。

 

「え?でも、そーくんが……」

 

「早くしろ!!死にたいのか!!」

 

初めて聞いたそーくんの怒鳴り声に、私はビックリしたんだけど、ここはそーくんの言うことを聞くことしか出来ず、その場を離れようとした。

 

だけど、そーくんが心配だったから、少し離れたところで様子を伺っていた。

 

これから……何が起ころうとしているの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜三人称 side〜

 

 

 

 

 

番犬所から指令を受けた奏夜は、ホラーの捜索を行っていた。

 

そうしているうちに夜になったのだが、家の近くの公園から邪気を感じるとキルバが探知したため、奏夜は家の近くの公園へと急行した。

 

公園に到着した奏夜が見たものは、チャラそうな男に絡まれている穂乃果の姿だった。

 

奏夜はすぐさま穂乃果を助け、魔導火を男の瞳に当てた。

 

すると、不気味な文字のようなものが浮かび上がってきたのだが、これこそが、この男がホラーである証であった。

 

奏夜は穂乃果に逃げるよう告げるのだが、穂乃果は完全に逃げることはせず、少し離れたところで様子を伺っていた。

 

「……穂乃果のやつ……。逃げろって言ったのに……」

 

穂乃果が完全に逃げていないことを確認した奏夜は、舌打ちをしていた。

 

奏夜が穂乃果に気を取られていると、男がパンチを繰り出してきたのだが、それを見切っていたのか、無駄のない動きでかわしていた。

 

そして、反撃と言わんばかりの蹴りで、男を吹き飛ばしていた。

 

「このガキ……!!」

 

自分の先制攻撃を軽くいなされてしまい、男がは怒りを露わにして、奏夜を睨みつけていた。

 

「ふふん……♪来いよ!」

 

奏夜は何故かドヤ顔で男を挑発していた。

 

その挑発で逆上した男は、奏夜に突撃して連続で攻撃をするのだが、奏夜は無駄のない動きで攻撃をかわしていた。

 

その動きは、まるでダンスを踊っているようであった。

 

「綺麗……」

 

奏夜はダンスが得意であり、穂乃果はそのことをよく知っていた。

 

そして、穂乃果は奏夜のダンスのような動きに見惚れていたのであった。

 

何度目かの蹴りをかわした奏夜は、反撃と言わんばかりの蹴りを放ち、再び男を蹴り飛ばした。

 

「どうした。もう終わりか?」

 

奏夜は、さらにドヤ顔をして男を挑発していた。

 

「おのれ……!魔戒騎士め……!!」

 

奏夜に幾度となく攻撃を凌がれた男は、確実に奏夜を仕留めるために両腕を自らの武器である爪に変化させた。

 

そして、その爪で奏夜を斬り裂こうとしていた。

 

「っ!?危ない!」

 

そんな展開に、穂乃果は思わず声をあげるのだが、奏夜は慌てる様子はなく、冷静だった。

 

何故なら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……ガキン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……魔法衣から取り出した、鞘に納まったまんまの魔戒剣を取り出し、男の爪による攻撃を防いだからである。

 

「なっ!?」

 

「残念だったな……。俺は魔戒騎士だぜ?これくらい察しろよな」

 

「こいつ……!!」

 

男は再び爪による攻撃を仕掛けるのだが、奏夜は無駄のない動きでそれをかわした。

 

そして、鞘に納まったまんまの魔戒剣を振り下ろして抜刀すると、空中に浮いた鞘を蹴り飛ばして男の顔面に直撃させた。

 

「ぐっ……!?」

 

魔戒剣の鞘はそのまま奏夜の手に戻り、奏夜は鞘を魔法衣の裏地にしまうと、魔戒剣を一閃して、男を斬り裂き、さらに男を蹴り飛ばした。

 

そして、男が起き上がるのを見ながら、奏夜は魔戒剣を構えていた。

 

「……!?け、剣!?それに、あの構え……」

 

奏夜の手にしている魔戒剣に穂乃果は驚きを隠せなかった。

 

友人である奏夜が、そんな危ないものを隠し持ってるとは思わなかったからである。

 

さらに、穂乃果は、奏夜の構えに見覚えがあった。

 

それは、海未と剣道の稽古をしている時にも、奏夜は同じ構えをしていたからである。

 

「このガキが……!ぶっ殺してやる!」

 

男の瞳が不気味なほど真っ白になると、男の体が徐々に変化していき、この世のものとは思えない怪物へと変貌していた。

 

「……!?か、怪物……!?」

 

穂乃果は初めて見るホラーに驚き、さらに怯えていた。

 

男の変化したホラーは、不気味な兎のようなホラーであり、奏夜よりも、ひと回りほど大きなホラーであった。

 

『奏夜!こいつがホラー、ラビットールだ。油断するなよ!』

 

「あぁ。わかってるって」

 

奏夜はラビットールの姿をしっかりと捉え、いつ攻撃が来ても対応できるように備えていた。

 

ホラーの姿になったラビットールは、先制攻撃を仕掛けるべく奏夜に攻撃を仕掛けるのだが、奏夜は上空へジャンプして、その攻撃をかわしていた。

 

そして、反撃と言わんばかりに魔戒剣を一閃するのだが、ラビットールの皮膚は硬く、魔戒剣でダメージを与えることは出来なかった。

 

「くそっ!厄介な硬さだな……!」

 

ラビットールの皮膚が予想以上に硬く、奏夜は舌打ちをしていた。

 

そして、今までの借りを返すため、ラビットールは渾身の力を込めて奏夜を殴り飛ばすのだが、奏夜は近くに植えられていた木に叩きつけられていた。

 

「そーくん!!」

 

奏夜が追い詰められていると感じていた穂乃果は、思わず声をあげていたのだが、ゆっくりと立ち上がる奏夜は何故か不敵な笑みを浮かべていた。

 

「……やってくれるじゃねぇか……!」

 

先ほどの攻撃は多少は効いているようだが、奏夜はピンピンしており、すぐさま体勢を立て直していた。

 

ラビットールは奏夜に追撃をかけるべく攻撃を仕掛けるのだが、奏夜はラビットールの攻撃をジャンプして再びかわしていた。

 

奏夜は再び魔戒剣を一閃するのだが、やはりダメージを与えることは出来なかった。

 

ラビットールは奏夜を弱らせるためにすかさず攻撃を仕掛けるのだが、奏夜はそんなラビットールの動きを見極めて攻撃をかわした。

 

「な、何だと!?」

 

隙だらけと思われていた奏夜に攻撃をかわされてしまい、ラビットールは驚きを隠せずにいた。

 

地面に着地した奏夜は、ラビットールの脛の部分に魔戒剣を叩き込み、ラビットールが痛みによって苦しんでいる隙に、後方にジャンプして、距離を取っていた。

 

どうやら、一気に決着をつけようとしているらしく、奏夜は魔戒剣をラビットールの方へと突き付けていた。

 

「……貴様の陰我。俺が断ち切る!」

 

「?陰我?」

 

奏夜はラビットールに向かってこう宣言したのだが、穂乃果は奏夜の言っていた陰我という言葉の意味がわからず、首を傾げていた。

 

すると……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜は魔戒剣を上空に向けて高く突き上げ、円を描いた。

 

円を描いた部分のみ空間が変化すると、その空間から放たれる光に奏夜は包まれていた。

 

すると、円の部分から鎧のようなものが姿を現していった。

 

その鎧は黄金の輝きを放っており、ガチャン!ガチャン!という金属音と共に、奏夜の足、身体、腕と順番に纏われ、最後に狼の顔をモチーフにしたかのような鎧が、奏夜の顔に纏われた。

 

狼のような顔の頭部の部分には3本の角。身体はまるで漆黒の闇を照らすような黄金の輝きを放っていた。

 

腰の部分には、自分の魔法衣にも刻まれている丸のエンブレムが存在している。

 

さらに、奏夜の左手にはめられたキルバは、まるで鎧と一体化したかのように左手にくっついていた。

 

奏夜の手にしていた鍔のなかった魔戒剣も徐々にその姿を変えていき、丸の紋章が付いた鍔が出現して、刀身も変化していた。

 

こうして、奏夜はこの世のものとは思えない異形の鎧を身に纏っていた。

 

奏夜が身につけているこの鎧は陽光騎士輝狼(ようこうきしキロ)。

 

魔戒騎士の最高位である黄金騎士牙狼(おうごんきしガロ)と同じ黄金の輝きを放っているのだが、牙狼の系譜とはまったく関係のない黄金の騎士である。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜穂乃果 side〜

 

 

 

 

 

……な、何?何が起こってるの!?

 

そーくんが剣なんて持ってるのもびっくりだけど、あんな見たことのない怪物相手に戦ってるんだもん……。

 

そーくんが強いってことは海未ちゃんとの稽古を見てて思ってたけど、まさかここまでだなんて……。

 

危ない部分はあったけど、今はまたあの怪物に負けてないし……。

 

私はそーくんの戦いをジッと見守ってたんだけど……。

 

「……貴様の陰我。俺が断ち切る!」

 

「?陰我?」

 

聞いたことない言葉だけど、それって一体何なんだろう……。

 

そんなことを考えていると、そーくんは剣を高く突き上げて、それをクルクルって回していた。

 

そこから何故か光が出てきていて、そーくんはその光に包まれていた。

 

ガチャン!って凄い音が聞こえたと思ったら、そーくんの姿はいつの間にか消えていて、代わりにいたのは金色の狼だった。

 

「……き、金色の……狼……?」

 

見た目は凄く怖い鎧だけど、その鎧はビックリするくらいピカピカで、私は気が付けばその鎧の輝きに見惚れていた。

 

「……お、黄金の鎧……!貴様!まさか、黄金騎士牙狼か!?」

 

黄金騎士?ガロ?いったい何のことなの?

 

さっきの魔戒騎士とか何とかもわからないし……。

 

「……その間違いは本当に多いんだよな……。俺は牙狼じゃない!」

 

あの鎧からそーくんの声が聞こえてきたので、やっぱりあの鎧の狼さんはそーくんだった。

 

そーくん……!頑張って……!

 

私は、そーくんの無事を祈って応援するしかなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜三人称 side〜

 

 

 

 

 

 

「……お、黄金の鎧……!貴様!まさか、黄金騎士牙狼か!?」

 

「……その間違いは本当に多いんだよな……。俺は牙狼じゃない!」

 

奏夜が輝狼の鎧を召還すると、ラビットールは黄金騎士牙狼の名前を出して驚いていた。

 

黄金の鎧ということもあるからか、奏夜は度々ホラーに牙狼と間違えられ、げんなりとすることが多く、今回も同様だった。

 

奏夜の身に纏っている輝狼の鎧は、魔界より召還されたものである。

 

輝狼の鎧を召還したのと同時に、魔界では砂時計のようなものが動き始めた。

 

輝狼を含め、魔戒騎士の身に纏う鎧には、99.9秒というタイムリミットがある。

 

その制限時間を過ぎてしまうと、鎧の装着者の身に危険が及ぶと言われている。

 

そのため、奏夜は99.9秒という短期間で決着をつけなければいけなかった。

 

そんな輝狼の鎧を目の当たりにしたラビットールは、その黄金の輝きに少しだけたじろぐのだが、どうにか恐れを振り切って奏夜に攻撃を仕掛けていた。

 

奏夜は攻撃をかわすことなく、鎧の丈夫さだけで攻撃を受け止めると、魔戒剣が姿を変えた陽光剣を一閃するのだが、その一撃でラビットールの左腕が切断され、ラビットールは痛みのあまり断末魔をあげていた。

 

ラビットールはどうにか痛みを堪えて後方に下がると、口から種のようなものをまるで銃弾のように吐き出していた。

 

奏夜はゆっくりとラビットールに近付いていくのだが、種のようなものをかわすことはせず鎧で受け止めていた。

 

種のようなものは輝狼の身体を貫くことはなく、全て鎧に弾かれてしまった。

 

「くそっ!こいつ!!」

 

ラビットールは輝狼の鎧に傷を付けることは出来ず、焦りの色を見せていた。

 

そうこうしているうちに、奏夜とラビットールの距離はかなり近くなっていた。

 

「……これで決めてやる!」

 

奏夜は陽光剣を構えると、ラビットール目掛けて突撃した。

 

ラビットールはそんな奏夜の攻撃を阻止するべく右腕で攻撃を仕掛けるのだが、奏夜は陽光剣を一閃することで右腕も切断し、攻撃を防いでいた。

 

再びラビットールが痛みで断末魔をあげている隙に、奏夜は陽光剣を大きく振り降ろすと、ラビットールの巨体を真っ二つに斬り裂いた。

 

陽光剣の一撃によって身体を真っ二つに斬り裂かれたラビットールは断末魔をあげており、その身体は陰我と共に消滅した。

 

「……よし……」

 

ラビットールを討滅したことを確認した奏夜は、鎧を解除した。

 

そのことによって輝狼の鎧は魔界へと戻っていき、陽光剣も元の魔戒剣へと戻っていた。

 

奏夜は元に戻った魔戒剣を緑の鞘に納めると、魔法衣の裏地の中にしまった。

 

そのプロセスが終わると、奏夜は穂乃果の方へと歩み寄ろうとするのだが、その前に穂乃果が奏夜の前に駆け寄ってきた。

 

「そーくん!大丈夫だったの?」

 

「あぁ。俺は大丈夫だ。穂乃果の方こそ大丈夫なのか?」

 

「うん!穂乃果は大丈夫だよ!」

 

「ったく……。俺は逃げろって言ってるのに……」

 

奏夜は穂乃果に逃げろと言ったのだが、穂乃果は少し離れたところで奏夜の様子を伺っていたため、そんな穂乃果に奏夜は呆れていた。

 

「だって……。そーくんのことが凄く心配だったんだもん……」

 

(……キルバ。穂乃果にホラーの返り血はついてないよな?)

 

《あぁ、問題ない。お前もずいぶんと気を遣って戦っていたしな》

 

奏夜はキルバにテレパシーで話しかけると、穂乃果にホラーの返り血がついていないかの確認を行っていた。

 

ホラーの返り血を浴びたものは、ホラーにとって格好の餌となってしまい、ホラーに喰われなかったとしても、100日後には悲惨な死を遂げてしまう。

 

そのため、魔戒騎士はホラーの返り血を浴びた者は容姿なく斬り捨てなければならないという掟があった。

 

穂乃果が大丈夫だとわかり、奏夜は安堵のため息をついていた。

 

「……ま、とにかく穂乃果が無事で本当に良かったよ」

 

奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべると、穂乃果の頭を優しく撫でていた。

 

そんな奏夜の顔は、ホラーと対峙していた険しい表情とはうって変わって、いつもと変わらない優しい表情をしていた。

 

ここで穂乃果は目の前にいるのはやっぱり自分のよく知っている奏夜なんだなと改めて認識していた。

 

奏夜の笑顔を見て安心したのか、穂乃果の目から少しずつ涙が溢れていた。

 

「さてと……。穂乃果。そろそろ帰ろ……」

 

帰ろうぜと言い切ろうとしたのだが、その前に穂乃果は奏夜に抱き付いていた。

 

「……穂乃果?」

 

「そーくん!……グスッ……怖かった……。怖かったよぉ……!」

 

穂乃果は奏夜に顔を埋めた状態で泣き出しており、抱きつく力も自然と強くなっていた。

 

「……あぁ。怖かったな。だけど、もう大丈夫だからな」

 

奏夜はまるで泣いている子供をあやすかのように穂乃果の頭を優しく撫でていた。

 

抱きつかれて恥ずかしいという気持ちは当然あったのだが、それよりも泣いている穂乃果を落ち着かせたいという気持ちの方が優っていた。

 

(……よほど怖かったんだろうな……。まぁ、それも無理はないよな。しばらくはこのままにしておくとしよう)

 

《そうだな。俺もそう思うぞ》

 

奏夜は穂乃果が落ち着くまでこの状態を維持しようと考えており、それにキルバは賛同していた。

 

こうして、奏夜は穂乃果が泣き止むまで、ずっと穂乃果の頭を優しく撫でていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ごめんね。もう大丈夫だから」

 

しばらくの間泣いていた穂乃果はようやく落ち着いたのか、ゆっくりと奏夜の体から離れていった。

 

穂乃果は奏夜に顔を埋めて泣いていたため、奏夜の着ていたワイシャツが穂乃果の涙で濡れてしまっていた。

 

「ごめんね、そーくん。ワイシャツを濡らしちゃって」

 

「気にするなよ。これくらいすぐ乾くしな」

 

穂乃果はワイシャツを濡らして申し訳ないと思っていたが、奏夜はまったく気にしていなかった。

 

「ところで、穂乃果は何でこんな時間にこんな所にいたんだ?」

 

奏夜は、穂乃果が何故夜の公園に1人でいたのかを聞いていた。

 

「そーくんを探してたんだよね。そーくんに相談したいことがあって……」

 

「もしかして、廃校阻止についてのことか?」

 

穂乃果の用事を察した奏夜はこう確認を取ると、穂乃果は無言で頷いていた。

 

「ったく……。そういうのは電話とかLAINで良かったのに……」

 

奏夜はわざわざ自分を探そうとしていた穂乃果に呆れていた。

 

奏夜が高校に入ったこの2年でスマートフォンが大幅に普及しており、LAINというのは、無料のメッセージアプリのことである。

 

奏夜も携帯はスマートフォンのため、穂乃果とLAINでやり取りすることは多かった。

 

「だって……。そーくん電話に出なかったんだもん……。だから直接伝えようと思って……」

 

「そうなのか?」

 

奏夜はポケットから携帯を取り出したのだが、確かに穂乃果から電話が来ており、着信履歴が残っていた。

 

「それで、いったい何をしようとしてるんだ?」

 

「あのね。雪穂が音ノ木坂じゃなくてUTXに行くって言い出したの」

 

「雪穂が?……まぁ、音ノ木坂は入学希望者を打ち切るって言ってたし、仕方ないんじゃないのか?」

 

「むぅ……!そーくんも雪穂みたいなこと言ってる!」

 

奏夜の正論が気に入らなかったのか、穂乃果はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「……あのなぁ……。俺だって雪穂には音ノ木坂に入ってほしいが、これはさすがにな……」

 

「それでね、UTXって今人気らしいんだけど、何で人気なのかって明日の朝見に行こうと思っているの」

 

「なるほどな……。そこで、廃校阻止のヒントが何かないか調べる訳だな」

 

「さっすがそーくん!」

 

自分の言いたかったことを理解してくれて、先ほどまでの膨れっ面から変わって表情が明るくなっていた。

 

「それでね……。そーくんにも一緒について来て欲しいの……」

 

「……ダメだって言いたいところだけど、UTXで待ち合わせでもいいって言うならついてってやるよ」

 

奏夜は明日もエレメントの浄化を朝から行わなければならないため、穂乃果と家で待ち合わせをしてそのままUTXへ行くのは厳しかった。

 

現地集合であればエレメントの浄化を行ってからでも行けるため、大丈夫と判断していた。

 

「うん。それでもいいんだけど、何で現地集合じゃなきゃダメなの?」

 

「……あの怪物……ホラーが言ってた通り、俺は魔戒騎士って存在なんだ。だからその仕事があるんだよ」

 

「ねぇ、それってずっと前からそんなことをしてたの?」

 

「あぁ。ちょうど今の家に越してきた辺りからな」

 

「……」

 

奏夜が自分たちと出会った時からこのようなことをしているということを知り、驚きを隠せずにいた。

 

「ねぇ、そーくん。魔戒騎士って何?あ と、ホラーとかいう怪物も」

 

「……穂乃果。そこから先は聞かない方がいいぞ。お前は普通の高校生として生きていきたいだろ?魔戒騎士に首を突っ込むと、廃校阻止どころじゃなくなるからな」

 

「……」

 

奏夜は穂乃果にこのような警告をしていたのだが、それは穂乃果には普通の高校生として生きて欲しいという奏夜の願いがあったからである。

 

「……とりあえず帰るぞ。送るから」

 

「う、うん……」

 

こうして、ラビットールを討滅した奏夜は、穂乃果を家に送るために穂乃果の家である和菓子屋「穂むら」へと向かい、穂乃果を送った後は、そのまま家へと帰っていった。

 

穂乃果は奏夜が魔戒騎士であるということを知ってしまったのだが、このことこそ、これから起こる激闘の始まりであることを、奏夜は知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『人間というのはつくづくわからん生き物だな。あんなものに夢中になるなんてな。次回、「提案」。ま、そんなものが上手くいくとは思えないがな』

 

 

 




今回、奏夜の鎧である輝狼の鎧が登場しました。

本編でも触れてましたが、輝狼の鎧も牙狼同様に黄金の鎧ですが、牙狼の系譜とはまったく関係ありません。

あと、今回登場したラビットールは、「絶狼 DRAGON BLOOD」に登場したラビリアというホラーの色違いになっています。

ラビリアは黒ですが、ラビットールは白になっています。

今回穂乃果が奏夜の秘密を知ってしまったのですが、これからいったいどうなっていくのか?

あと、何気に絵里と希も初登場しています。

絵里はまだツン期の頃なので、奏夜とぶつかりそうになる一面がありました。

これからもこんなことがあるのかも……?

さて、次回はラブライブ!原作メインの話になる予定です。

それでは、次回をお楽しみに!



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第3話 「提案」

お待たせしました!第3話になります!

この小説を投稿してまだ1週間も経っていませんが、お気に入りが10件を越えました!

これは僕も予想外でびっくりしていますが、お気に入り登録をしてくれた皆さん、本当にありがとうございます!

これからも牙狼ライブ!をよろしくお願いします!

前置きが長くなりましたが、今回の話はラブライブ!の話がメインになっています。

廃校阻止のアイデアを奏夜たちは見つけることが出来るのか?

それでは、第3話をどうぞ!





音ノ木坂学院の廃校が理事長から告げられた日、穂乃果はなんとか廃校を阻止するべく幼馴染である海未やことりとアイディアを出し合うのだが、これといった解決策は見いだせなかった。

 

その日の夜、穂乃果は用事があると言っていた奏夜を探していたのだが、その時にホラー、ラビットールに襲われてしまいそうになっていた。

 

奏夜はそんな穂乃果を助け、ラビットールを討滅した。

 

その翌日、いつもより早く起きた奏夜は、早めにエレメントの浄化を終わらせ、穂乃果との待ち合わせ場所であるUTX学院へと向かっていた。

 

《……おい、奏夜》

 

間もなくUTXに着こうとしているタイミングで、キルバがテレパシーを使って奏夜に話しかけていた。

 

(?何だよ、キルバ)

 

奏夜は立ち止まったりせず、移動をしながらキルバに応じていた。

 

《昨日のことなんだが、何故あのお嬢ちゃんの記憶を消さなかったんだ?》

 

魔戒騎士がホラーと戦う時、助けた人間のホラーや魔戒騎士に関する記憶を消さなければいけない。

 

これは、ホラーや魔戒騎士の存在を世間に広めることを避けるためである。

 

ホラーの存在が世間に広まってしまっては、隣人がホラーなのかもしれないと疑心暗鬼に陥り、大混乱になってしまうからである。

 

しかし、奏夜は昨日助けた穂乃果の記憶を消そうとはしなかったのである。

 

(もちろんそうしなきゃいけないのは知ってたさ。だけど、ホラーに関することだけとはいえ、穂乃果の記憶を消すなんて俺には出来なかったんだよ)

 

このように答える奏夜は、神妙な面持ちをしていた。

 

《……相変わらず甘いな、奏夜》

 

(言われなくてもわかってるっての)

 

キルバからの痛い指摘に、奏夜は唇を尖らせていた。

 

(……!!待てよ……。統夜さんも確か梓さんたちに魔戒騎士の秘密を話したって言ってたけど、その時は、こんな気持ちだったのか?)

 

奏夜にとっては尊敬する先輩騎士である月影統夜も、かつては軽音部の仲間たちをホラーから救ったのだが、記憶を消すことは行わず、騎士の秘密を話していた。

 

本来それは許されないことであるのだが、そうすることによって救われたことも多々あったのであった。

 

奏夜が、かつての統夜の心境を察していたその時であった。

 

「……あっ、そーくん!こっちこっち!!」

 

気が付けばUTXに到着しており、近くにいた穂乃果がブンブンと手を振っていた。

 

「……おう!今行く!」

 

穂乃果の存在を捉えた奏夜は、そのまま穂乃果の方へと駆け出していった。

 

(……ま、そういうことで、この話は終わりな)

 

《やれやれ……。仕方ないな……》

 

キルバとしても、奏夜に言いたいことはまだあったのだが、穂乃果がいることもあり、これ以上の追求はやめることにした。

 

「ねぇねぇ、そーくん!この学校凄いよ!学校の中にエスカレーターがあるんだよ!エスカレーター!」

 

どうやら穂乃果は少しだけこの学校の様子を見ていたようであり、興奮冷めやらぬといった感じであった。

 

「はいはい。それにしても、他校の生徒が何でこんなに……」

 

奏夜は周囲を見回すのだが、何故かUTXの生徒以外にも、音ノ木坂の生徒や、他の学校の生徒の姿もあった。

 

それが何故かわからず、首を傾げていたのだが、突然黄色い歓声が上がったため、奏夜は穂乃果を連れてその歓声のした場所へと移動した。

 

すると、大型モニターの前に男女問わず若者が集まっていた。

 

「……何だこりゃ?」

 

奏夜にしてみたら何が何やら理解出来なかったのだが、若者たちは、大型モニターに映る3人の少女に夢中になっていた。

 

『UTXへようこそ!』

 

3人の少女がこう挨拶をしたと思ったら、PVらしきものが映し出されていた。

 

「あっ、この人たちって……」

 

何かを思い出した穂乃果は、手にしていたUTXのパンフレットを開いて確認をしていた。

 

「そのパンフレット。いつの間に手に入れたんだよ……」

 

まさか穂乃果がパンフレットを持っているとは思っておらず、奏夜は苦笑いをしていた。

 

何枚かページをめくっていると穂乃果は、大型モニターに映っている3人の姿を見つけた。

 

そこには「A-RISE(アライズ)」というキーワードと、「スクールアイドル」というキーワードが載っていた。

 

「ふーん……。こんなこともやってるんだなぁ……」

 

奏夜は、穂乃果の開いているパンフレットと大型モニターを交互に見比べて感心していた。

 

穂乃果も同様にパンフレットと大型モニターを見比べていると、2人の隣に1人の少女がやって来て、奏夜はふとその少女の方を見たのだが……。

 

「……うっ!」

 

小柄で黒いツインテールの少女はサングラスにマスクと怪しさ全開の格好であり、その姿を見た奏夜は思わずたじろいでしまった。

 

「……何?何か用なの?」

 

「い、いや……。何でも……」

 

「ふん!」

 

少女は奏夜がたじろぐのを見て不機嫌そうに奏夜の方を向いたのだが、すぐに大型モニターの方へ視線を移そうとしていた。

 

「……あ、あの!」

 

「何?今忙しいんだけど」

 

続けて、穂乃果が少女に声をかけており、少女は再び不機嫌そうにしていた。

 

「あの人たちって芸能人か何かですか?」

 

「はぁ!?そのパンフレットにも書いてるでしょ!?何を見てるの?」

 

「す、すびばぜん……」

 

穂乃果があまりにも無知なのが許せないのか、少女は怒っており、穂乃果はたじろいでいた。

 

「……A-RISEよ。スクールアイドル。学校で結成したアイドル」

 

「ふーん……。そんなものがあるんだなぁ……」

 

確かにパンフレットには書いてあったが、スクールアイドルという単語自体は初めて聞いたため、奏夜は感嘆の声をあげていた。

 

「最近流行っているのよ。聞いたことないの?」

 

「悪いな。俺は流行に疎いもんで」

 

奏夜は学校に通ってる手前、世間のことはそれなりに知ってるつもりだったが、流行についてはよくわかっていなかった。

 

「……ふーん……」

 

そして、穂乃果もスクールアイドルという言葉は初めて聞いたようであり、パンフレットをジッと眺めていた。

 

その時だった。

 

「……かよちん!遅刻しちゃうよぉ!!」

 

「凛ちゃん!ちょっとだけ待ってて!」

 

穂乃果と似た髪の色をした眼鏡をかけた少女と、ショートヘアの少女が、こちらに駆け出してきた。

 

どうやら、眼鏡の少女のお目当は、この「A-RISE」のパフォーマンスのようであった。

 

この場にいる人たちは、「A-RISE」の「Private wars」を聴いて、盛り上がっていた。

 

ショートヘアの少女だけはポカンとしており、眼鏡の少女はスクールアイドルが好きなのか、目をキラキラと輝かせていた。

 

そして、ツインテールの少女は、「A-RISE」のパフォーマンスを見て、何故か「ぐぬぬ……!」と悔しそうにしていた。

 

「へぇ、スクールアイドルって思ったより凄いんだな。なぁ、穂乃果」

 

「……」

 

奏夜は自分の感想の同意を求めたのだが、穂乃果は頬を赤らめてA-RISEのパフォーマンスに見惚れており、奏夜の言葉は届いていなかった。

 

「……穂乃果?」

 

スクールアイドルのパフォーマンスがよほど衝撃だったのか、手にしていたパンフレットを落としてしまっていた。

 

さらに、まだ興奮しているのか、何故かフラフラになって近くの手すりに手をついていた。

 

「……おいおい、穂乃果。大丈夫か?」

 

「……ね、ねぇ、そーくん……」

 

「ん?何だ?」

 

「……これだよ……」

 

「え?これって何のことだ?」

 

「見つけたよ!」

 

穂乃果は廃校阻止のアイディアが見つかったようであり、目をキラキラと輝かせていた。

 

「見つけたって、お前まさか……!」

 

穂乃果が何をしようとしているのかを察した奏夜は、引きつった表情で苦笑いをしていた。

 

こうして、A-RISEのパフォーマンスは終了すると、奏夜は穂乃果と共に学校へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

この日の放課後。穂乃果は、さっそくスクールアイドルについての話をこれから海未とことりにしようとしていた。

 

「ねぇねぇ!見て見て!」

 

穂乃果は昼休みのうちに図書室から仕入れてきたスクールアイドルの雑誌を海未の机の上にドンと置いていた。

 

「アイドルだよ!アイドル!」

 

「やっぱりか……」

 

「アハハ……」

 

穂乃果が何をやろうとしているのか予想した奏夜は、どうやらビンゴだったようであり、頭を抱えており、それを見たことりは苦笑いをしていた。

 

「こっちは大阪の高校で、こっちは福岡のスクールアイドルなんだって!」

 

穂乃果は雑誌のページをペラペラとめくると、大阪と福岡のスクールアイドルの特集ページを奏夜たちに見せていた。

 

「ふーん……。スクールアイドルって全国区なんだな……」

 

奏夜はスクールアイドルの雑誌を見て、率直な感想を述べていた。

 

「私、考えたんだ!……ってあれ?」

 

穂乃果はこれから本題を切りだそうとしたのだが、いつの間にか海未が姿を消していた。

 

海未は嫌な予感を感じてこっそり廊下に逃げようとしていたのだが、それを見透かされてしまい、廊下に飛び出した穂乃果に見つかってしまった。

 

「海未ちゃん!まだ話は終わってないよ!」

 

「わ、私はちょっと用事が……」

 

「いい方法を思いついたんだから聞いてよぉ〜!!」

 

海未は嫌な予感を感じて逃げるつもりだったが、穂乃果がそれを許さず、駄々をこねるように話を聞いてもらおうとしていた。

 

これは逃げられないと判断した海未は、やれやれと言いたげな感じでため息をついていた。

 

「……どうせ、私たちでスクールアイドルをやろうって言うつもりでしょう?」

 

「え!?なんでわかるの?海未ちゃんってエスパー!?」

 

「誰でも想像つきます!」

 

「だったら話は早いねぇ♪今から先生のところに行ってアイドル部を……」

 

「お断りします」

 

穂乃果の提案を、海未はバッサリと切り捨てていた。

 

「何で?だってこんなに可愛いんだよ?こんなにキラキラしてるんだよ?こんな衣装、普通じゃ絶対着れないよ?」

 

「そんなことで本当に生徒が集まると思ってるんですか?」

 

「まっ、それは人気が出ればの話だよな」

 

「奏夜の言う通りです。それに、その雑誌に出てるスクールアイドルはプロと同じくらい努力し、真剣にやって来た人たちです。穂乃果みたいに好奇心だけで始めても上手くいくはずないでしょう?」

 

海未の正論に、穂乃果は何も言い返すことは出来なかった。

 

学校の部活の一環で行われるスクールアイドルといえど、努力の量はプロのアイドルに負けないほどであり、並大抵の覚悟でなければ、成功などは夢のまた夢であると思われた。

 

「……ハッキリ言います。スクールアイドルは無しです!!」

 

「あぅぅ……。そーくぅん……」

 

海未にスクールアイドルの案を否定され、穂乃果は涙目になって奏夜に同意を求めるのだが……。

 

「ま、まぁ……。穂乃果が本気でやるっていうなら俺は協力するけど……」

 

奏夜は海未とは違ってスクールアイドルに対しては否定的ではなく、奏夜の意見を聞いた穂乃果の表情はぱぁっと明るくなっていた。

 

「まったく……。奏夜は穂乃果に甘過ぎます!」

 

「そ、そうか?そんなことはないと思うが……」

 

「いーえ!甘過ぎです!改めて言いますが、スクールアイドルは無しです!」

 

改めてスクールアイドルをハッキリと否定した海未は、そのまま弓道部の部室へと向かっていった。

 

ことりは、肯定的でも否定的でもないどっちつかずのまま、用事があると言ってどこかへと行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

海未とことりの2人と別れた奏夜と穂乃果は現在、屋上に来ていた。

 

「……はぁ……。いいアイディアだと思ったんだけどなぁ……」

 

穂乃果は、海未にハッキリと反対意見を出されてしまい、しょんぼりとしていた。

 

「ま、俺は協力するとは言ったけど、海未の言い分も理解出来るんだよな」

 

「えぇ!?そーくんも海未ちゃん派なの!?」

 

穂乃果は、奏夜が手のひらを返すようにこんなことを言っていると勘違いして、膨れっ面になっていた。

 

「そうじゃなくて。やるにしたってそう簡単にはいかないってことだよ。生半可な気持ちでやれるものでもないしな」

 

「……だけど……。やっぱりこれしかないって思うんだよね……」

 

奏夜の正論を聞き、先ほどまで膨れっ面だった穂乃果はしょんぼりとしていた。

 

このままじゃまずいと、何かフォローを入れようとしたその時、どこからか歌声が聞こえてきた。

 

「……?歌?いったいどこから?」

 

「とりあえず行ってみるか」

 

奏夜と穂乃果は歌声の在処を探るため、屋上を後にすると、歌声の聞こえる方へと歩いていった。

 

どうやら音楽室からこの歌声は聞こえているようであり、2人はゆっくりと音楽室に近付いていった。

 

そして、音楽室についた2人が、入り口から様子を伺うのだが……。

 

「……♪さぁ、大好きだバンザーイ。負けない勇気〜」

 

赤い髪の少女がピアノで弾き語りをしていた。

 

奏夜はすぐリボンの色を見たのだが、どうやら1年生のようであった。

 

「綺麗……」

 

「そうだな……」

 

少女のピアノと歌声はとても透き通っており、2人はそんな少女の演奏に聴き入っていた。

 

「……ふぅ……」

 

最後まで演奏した少女は一息ついていたのだが、視線を感じたのか、入り口の方を見た。

 

すると、興奮した穂乃果がパチパチパチと拍手をしていた。

 

「ヴェェ!?」

 

少女はまさかギャラリーがいるとは思ってなかった独特な声をあげて驚いていた。

 

「悪いな。驚かせちまったかな?」

 

「べ、別に……」

 

奏夜は音楽室に入って申し訳なさそうに少女に声をかけるのだが、少女は頬を赤らめながら視線を逸らしていた。

 

「凄い凄い!私、感動しちゃったよ!」

 

奏夜と一緒に音楽室に入ってきた穂乃果は、興奮冷めやらぬ感じで少女に迫っていた。

 

「俺も凄く良かったって思うぜ」

 

「そ、そんなことは……」

 

少女は褒められることに慣れてないのか、右手で自分の髪をクルクルと回して照れ隠しを行っていた。

 

「歌上手だね!ピアノも上手だね!それに……。アイドルみたいに可愛い!」

 

「!」

 

穂乃果の言葉が思いがけないものだったのか、少女は顔を真っ赤にしていた。

 

すぐに我に返った少女は、座っていたピアノの椅子から立ち上がると、そのまま音楽室を出ようとしていた。

 

「あっ、待って!」

 

穂乃果は少女に話があるのか、少女を引き止めていた。

 

「……いきなりなんだけど……。あなた、アイドルやってみたいと思わない?」

 

「え?」

 

「おいおい。唐突に言われちゃこの子も困惑するだけだろうが……」

 

穂乃果はこの少女をスクールアイドルに勧誘していたのだが、あまりの唐突さに少女はポカンとしており、奏夜は呆れていた。

 

少女はすぐに険しい表情になると……。

 

「……ナニソレ。イミワカンナイ」

 

こう言い放ち、少女は音楽室を出て行ってしまった。

 

「アハハ……」

 

少女が出ていくのを見送りながら、穂乃果は苦笑いをしていた。

 

「ま、流石にいきなり過ぎたからな……。穂乃果、これからどうする?」

 

「あのね。私はやっぱりスクールアイドルを頑張ってみたいなって思うんだよね。そーくん、練習に付き合ってくれる?」

 

「もちろんだ。協力するって言ったしな」

 

こうして、穂乃果は1人でスクールアイドルとして頑張ることにして、奏夜と共に練習を行うために校庭へと移動した。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

その頃、スクールアイドルの提案を拒否した海未は弓道部の活動に参加していた。

 

現在は精神を集中させ、遠くにある的に向かって矢を放とうとしていたのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

〜海未の妄想〜

 

アイドルの格好をした海未がステージに立っており……。

 

『みんなのハート、撃ち抜くぞ〜。バァーン♡」

 

 

 

 

〜妄想終わり〜

 

 

 

 

 

 

 

「……!!」

 

アイドルになった自分をふと妄想してしまい、手元が狂ったことで、狙いを大きく外してしまった。

 

(……な、何を考えているんですか、私は……)

 

自分がアイドルなどとあらぬことを妄想してしまい、海未は顔を真っ赤にしていた。

 

「は、外したの?珍しい」

 

海未が的を外していたのを見ていた弓道部の先輩は驚いていた。

 

海未の狙いは正確であり、百発百中とまではいかないまでもそれに近いくらいの命中率はあるからであった。

 

「たっ、たまたまです!」

 

海未は気を取り直して、再び精神を集中させようとしたのだが……。

 

 

 

 

 

 

〜海未の妄想②〜

 

『ラブアローシュート!♡」

 

 

 

〜妄想終わり〜

 

 

 

 

 

 

再びアイドルになった自分を妄想してしまい、まったく集中出来なくなっていた海未は、10回やって10回全てを外してしまっていた。

 

「……あぁ!いけません!余計なことを考えては!」

 

どうやら、アイドルのことは気になるようであり、海未は練習に全然集中出来ずにいた。

 

その時であった。

 

「海未ちゃ〜ん。ちょっと来て〜」

弓道場の入り口からことりの甘い声が聞こえてくると、海未は1度弓と矢を片付けて、ことりの方へ駆け寄り、2人は校庭を歩いていた。

 

「……穂乃果のせいです。全然練習に身が入りません」

 

「ということは、ちょっとはアイドルに興味があるってこと?」

 

「い、いえ!そんなことは!」

 

先ほどまではアイドルになった自分を妄想していたとは言うことが出来ず、海未は全力でことりの言葉を否定していた。

 

「……やっぱり、アイドルが上手くいくなんて思えません」

 

「でも、こういうことっていつも穂乃果ちゃんから言い出してたよね」

 

穂乃果、海未、ことりの3人は小さい頃からの付き合いなのだが、遊ぶ時も穂乃果が何かを提案することが多かった。

 

「私たちが尻込みしちゃうところをいつも引っ張ってくれて……」

 

「そのせいで散々な目に何度もあったじゃないですか」

 

ある日、大きな木に登ろうと穂乃果が提案した時も、3人で木に登って枝の上に立ったのだが、その枝が折れてしまい、木から落ちそうになったこともあった。

 

「アハハ……。そうだったね」

 

「穂乃果はいつも強引過ぎます」

 

「でも海未ちゃん。……後悔したことはある?」

 

「え?」

 

海未はことりの問いかけにすぐ答えることは出来なかった。

 

木から落ちそうになった時、海未はことりにしがみついてベソをかいていたのだが、夕陽に溶けていく街並という絶景を見ることが出来たのであった。

 

それを思い出したため、海未はことりの問いかけにすぐ答えることが出来なかったのである。

 

「……見て」

 

ことりがとある方向に視線を向けていたので海未もその方向を見ていた。

 

2人が見たものとは……。

 

「……1・2・3・4!1・2・3・4!」

 

「ほっ……はぁっ!」

 

奏夜が手拍子を叩き、穂乃果がそれに合わせてステップを踏んでいた。

 

「穂乃果!バランス感覚が甘い!そんなんじゃすぐ転倒するぞ!!」

 

「そ、そんなこと言ったって……。うわぁ!!」

 

奏夜が穂乃果に助言するも、穂乃果はバランスを崩してすぐに転倒してしまった。

 

「痛たた……」

 

「ったく……。言わんこっちゃない……」

 

奏夜は穂乃果に手を差し伸べると、その手を取った穂乃果はゆっくりと立ち上がっていた。

 

「本当に難しいや……。そーくん!もう1回お手本を見せて!」

 

「やれやれ。仕方ないな……」

 

お手本を見せて欲しいと頼まれ、奏夜は先ほど穂乃果がやろうとしていたステップを踏み始めた。

 

奏夜はダンスが得意であるからか、無駄のない動きで、体幹もしっかりとしており、危なげなく、そして美しいステップを踏んでいた。

 

「やっぱり凄いな……」

 

穂乃果は奏夜のステップを見て、穂乃果はウンウンと頷きながら感心していた。

 

「……感心してる場合じゃないぞ。穂乃果。もう1回だ!」

 

「う、うん!」

 

ステップを終えた奏夜は自分の動きに感心している穂乃果に呆れており、もう1回穂乃果に先ほどのステップをさせていた。

 

そんな2人のやり取りに、海未とことりは見惚れていた。

 

「……ねぇ、海未ちゃん。私、やってみようかな」

 

「え?」

 

2人のやり取りを見たことりはスクールアイドルをやってみようと決意し、そんなことりの判断に海未は驚いていた。

 

「海未ちゃんはどうする?」

 

こう問いかけをしたことりは満面の笑みを浮かべていた。

 

海未がどう答えるか、ことりにはわかっていたからである。

 

その時であった。

 

「うわぁっ!」

 

穂乃果は再びバランスを崩し、転倒してしまった。

 

「痛たたた……。くぅぅ……」

 

「やれやれ……」

 

穂乃果が転倒しているところを当然奏夜は見ていたのだが、奏夜は何故か穂乃果に手を差し伸べようとはしなかった。

 

その理由は……。

 

「……?う、海未ちゃん……」

 

「2人で練習していても意味ありませんよ。やるなら4人でやらないと!」

 

海未とことりが見ているのを奏夜は察しており、2人のどちらかが穂乃果に手を差し伸べてくれるだろうと判断したからである。

 

「……海未ちゃん……!」

 

スクールアイドルに反対していた海未が協力してくれると言ってくれたことが嬉しかったのか、目をウルウルとさせていた。

 

そんな穂乃果を見て、海未は満面の笑みを浮かべていた。

 

その後、海未と穂乃果は立ち上がり、ことりを入れた3人は奏夜の顔をジッと見つめていた。

 

「奏夜。あなたの特技がダンスなのはよく知っています。ですが、私たちはダンスの経験はありません……。ですから、私たちのコーチをしてくれませんか?」

 

「あと、私たちのマネージャーをしてくれたら嬉しいな♪」

 

「そーくん!お願い!」

 

海未は奏夜にダンスのコーチをお願いし、ことりは奏夜に穂乃果たち3人のマネージャーをお願いしていた。

 

「……俺はもちろんそのつもりだったぜ。俺だって廃校なんて嫌だしな。俺に出来ることがあれば、何だってするぜ」

 

奏夜は最初からスクールアイドルには肯定的であったため、頼まれなくても3人のコーチやマネージャーはするつもりだった。

 

「「そーくん……」」

 

「奏夜……」

 

「……それに、やるなら“4人”で……だろ?」

 

先ほどの海未の言葉を強調した奏夜は、満面の笑みを浮かべていた。

 

「「……うん!!」」

 

「はいっ!」

 

奏夜の笑顔を見た3人は、同様に満面の笑みを返していた。

 

こうして、穂乃果、海未、ことりの3人はスクールアイドルとして動き始めることになり、奏夜はそんな3人を支えるべくマネージャーやコーチを引き受けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スクールアイドルを始めることを決めた奏夜たちは、速やかに部活設立の申請書を記入すると、それを提出するために生徒会室へとやって来た。

 

「……これは?」

 

提出された申請書を生徒会長である絢瀬絵里が訝しげに眺めていた。

 

「アイドル部。設立の申請書です!」

 

「それは見ればわかります」

 

「それでは、認めていただけますね?」

 

「いいえ。部活は同好会でも、最低5人は必要なの」

 

絵里がアイドル部設立を拒否したことに、奏夜たちは驚きを隠せなかった。

 

「え!?」

 

「ですが!校内には部員が5名以下のところもたくさんあるって聞いています」

 

「設立した時は、みんな5人以上いたはずよ」

 

こう言い放つ絵里の口調は何故かとても冷たく突き放しているようなものだった。

 

(……なんでこの人は言い方が冷たいんだ?もしかして、スクールアイドルが嫌いなのか?)

 

《その可能性はあり得るな。奏夜、面倒ごとを起こさないためにも余計なことは口走るなよ》

 

(わかってるって)

 

奏夜とキルバがテレパシーでやり取りをしていたその時だった。

 

「……あと1人やね」

 

副会長である東條希がこう呟いており、それを奏夜たちは見逃さなかった。

 

「あと1人……。わかりました。部員が集まったらまた来ます」

 

部活設立に必要な部員をあと1人集めたらまた申請書を提出しようと考えた奏夜たちは今日のところは出直そうと生徒会室を後にしようとしたのだが……。

 

「待ちなさい!」

 

何故か絵里に引き止められてしまい、奏夜たちは驚きながらも足を止めていた。

 

「どうしてこの時期にアイドル部を始めるの?あなたたち2年生でしょう?」

 

「廃校をなんとか阻止したくて!スクールアイドルって、今、すっごく人気があるんですよ!だから……」

 

「だったら……。例え5人集めたとしても、認めるわけにはいかないわね」

 

険しい表情で語る絵里の口調は、相変わらず冷たく突き放しているような感じであった。

 

「……」

 

奏夜はそんな絵里の態度に苛立ちを募らせていた。

 

《おい、奏夜!落ち着け!》

 

キルバは、奏夜が余計なことを口走って厄介ごとを引き起こさないか心配で気が気ではなかった。

 

「え!?どうしてですか!?」

 

そして、絵里の言葉に穂乃果は異議を唱えていた。

 

「部活は生徒を集めるためにやるものじゃない。思いつきで行動したところで結果は変えられないわ」

 

絵里の言葉は至って正論であり、穂乃果たちは反論をすることが出来なかった。

 

そんな中、奏夜はさらに苛立ちを募らせていた。

 

《おい、奏夜!》

 

キルバは奏夜を落ち着かせるためにテレパシーで語りかけるのだが、どうやら聞く耳を持っていないようであった。

 

「変なこと考えてないで、残り2年自分のために何をするべきか……よく考えるべきよ」

 

こう言い放ち、絵里は申請書を穂乃果に突き返していた。

 

この言葉で、奏夜の中の何かが切れてしまった。

 

「あんた……。今、何て言った?」

 

「「そ、そーくん?」」

 

「奏夜……?」

 

奏夜はまるでホラーと対峙しているかのように険しい表情になっており、ここまで怒る奏夜を初めて見た穂乃果たちは困惑していた。

 

「何って……。スクールアイドルなんて変なことは考えるなって言ったのよ」

 

奏夜の険しい表情に絵里は一瞬たじろぐが、毅然にこう答えていた。

 

一方希は、そんな奏夜を見て怯える様子はなく、笑みを浮かべていた。

 

「確かにあんたの言うことは正論かもしれない……。だけどな、こいつらは本気でスクールアイドルをやろうって考えてるんだ!そんなこいつらの本気を馬鹿にしようって言うなら俺はあんたを許さない!!」

 

奏夜はまるでホラーに向けてのように鋭い目付きで絵里を睨みつけていた。

 

(……な、何なんですか?奏夜のこの殺気は……。並大抵の人でもここまでのものは出せませんよ……)

 

海未は、まるで鬼のような形相の奏夜を見て、奏夜から放たれる殺気に驚きを隠せなかった。

 

(奏夜とは中3からの付き合いですが、まだまだわからないところも多いんですよね……。奏夜、あなたはいったい何者なんですか?)

 

海未は奏夜の正体が魔戒騎士であると見破ることは出来なかったが、普通の人間ではないのかもしれないと疑惑を持つようになっていた。

 

そして、穂乃果とことりはそんな奏夜が少し怖いと思ったのか、互いに身を寄せ合って怯えていた。

 

「……な、何よ。私は別に馬鹿にしてるつもりはないわ。ただ、認められないだけで……」

 

絵里もまた、奏夜の鋭い視線に怯えているからから、発言が少しだけしどろもどろになっていた。

 

「……それならいいんですけどね」

 

奏夜は怒りの表情からいつもの奏夜に戻っていき、それを見た穂乃果たちは安堵の表情を見せていた。

 

「……ついでに言っておきますけど、俺たちの活動を否定するってことは生徒会では何か廃校阻止の良いアイディアはあるんですか?」

 

「……っ!そ、それは……」

 

「だったら、あなたにとやかく言われる筋合いはないと思いますがね」

 

奏夜の言葉には少しだけ棘があるからか、絵里は眉間に皺を寄せていた。

 

「このままじゃどうせ廃校なんだ。生徒を集められる可能性が1%でもあるならそれに賭けるべきだと思いますけどね」

 

「……っ!そうかもしれないけど、生徒会としては、アイドル部を認めるわけにはいかないわ」

 

「……ま、それは仕方ないですね。……わかりました。俺たちは俺たちで動きます。そして、いつか生徒会にも正式に認めさせますよ」

 

言いたいことを全部言い切った奏夜はすっきりしたのか、踵を返して生徒会室を後にしていった。

 

そして、穂乃果たちは慌ててそんな奏夜の後を追いかけていった。

 

《ったく……。奏夜のやつ、言わなくてもいいことまで口走りやがって……》

 

キルバは、頭に血がのぼって言わなくてもいいことまで言ってしまった奏夜に心底呆れていた。

 

そんな中、絵里と希は、奏夜たちが去っていくのをジッと見つめていた。

 

「……おぉ、怖い怖い。あの子は怒ったら怖いんやなぁ♪なぁ、エリチ?」

 

希は怖いと言っていたが、本当に奏夜のことを怖がってるようには見えず、おどけているように見えた。

 

「別に……」

 

絵里はむすっとして視線を逸らしていたため、奏夜のことを本当に怖がっているかどうかはわからなかった。

 

(……何なのよ……彼は……)

 

生徒会長である自分に対して容赦ないことを言っていた奏夜に対して苛立ちを募らせていた。

 

「クスッ……。あの子にしてやられて悔しいんか?エリチ」

 

「べっ、別にそんなことはないわよ!」

 

希に痛いところを突かれたからか、絵里は少しだけムキになっていた。

 

「それに……。誰かさんの言ったことはそっくりそのまま返したいな♪」

 

「もぉ……。一言多いのよ、希は……」

 

再び希に痛いところを突かれてしまった絵里は、面白くなさそうにむくれていた。

 

「……それにしても、廃校を阻止するためにはどうすればいいのかしら……?」

 

絵里も廃校を阻止したいと強く思っていたのだが、どうすれば良いのかわからず、途方に暮れていた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

その頃、生徒会室を後にした奏夜たちは、学校の入り口にいたのだが、奏夜は海未から説教を受けていた。

 

いくら自分たちのために怒ってくれたとはいえ、自分たちの先輩である生徒会室にあのような口の利き方をするのは良くないとのことであった。

 

奏夜も思ったことを言い過ぎたと反省しており、それを聞いた海未は渋々ではあるが、奏夜のことを許すことにしていた。

 

「……それにしても、部活として認められないのであれば、講堂は借りられないし、部室もありません。……何もしようがないです!」

 

「そうだよね……」

 

生徒会に部活として認められないことの現実を海未が語っており、ことりはそれに同意すると、浮かない表情をしていた。

 

そして、穂乃果は俯いたまま、何も語ろうとはしなかった。

 

「……だとしても、何とかするしかないだろう。部活として認められないなら、認められないなりにやれることはあるはずだ」

 

「そーくん……」

 

「奏夜……」

 

「……それに……。みんなは本気でスクールアイドルを始めるんだろ?こんなことで挫けてどうするんだよ」

 

奏夜の言葉には厳しさが溢れていたのだが、穂乃果たちの背中を押す、暖かいものであった。

 

「……そうだよね……」

 

「?穂乃果?」

 

「穂乃果ちゃん?」

 

今まで口をつぐんでいた穂乃果がふと口を開いたので、奏夜、海未、ことりの3人は穂乃果の方を見ていた。

 

「さっきそーくんも言ってたけど、廃校阻止の可能性が1%でもあるならそれに賭けるべきなんだよ!」

 

「……ふっ……」

 

穂乃果はどうやら吹っ切れたようであり、そんな穂乃果の気持ちを汲み取った奏夜は笑みを浮かべていた。

 

「私……やっぱりスクールアイドルをやりたい!やるったらやるよ!!」

 

「穂乃果……」

 

「穂乃果ちゃん……」

 

「……決まったな。これから忙しくなるし、色々と大変なことも待ってるぞ。お前らにその覚悟はあるか?」

 

「「「うん(はい)!!」」」

 

3人の覚悟を改めて聞いた奏夜は、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「……俺がマネージャーとコーチをする以上、お前達を一人前のスクールアイドルにしてやるからな。覚悟しとけよ!」

 

「うん!もちろんだよ!」

 

「えぇ!私だって厳しいのは覚悟の上です!」

 

「そーくん、お手柔らかにね♪」

 

こうして、穂乃果、海未、ことりの3人は音ノ木坂学院の廃校の危機を救うためスクールアイドルを始めることにして、奏夜はそんな3人を支えるべく、マネージャーとダンスコーチを引き受けることになった。

 

これこそ、これから起こる大きな奇跡の物語の始まりであり、奏夜にとっては、今までにない戦いの幕開けとなるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『スクールアイドルとして動き出したのは良いが、あの海未ってお嬢ちゃんが奏夜の正体に気付きつつあるな。次回、「疑惑」。奏夜の正体がバレなければいいんだがな……』

 

 




ようやく、ラブライブ!1話の内容が終わりました。

やはり、最初だからか絵里はツンツンしており、ぶつかる場面もありました。

絵里ファンの皆さん、本当に申し訳ないです。

こうして、スクールアイドルとして動き始めた奏夜たちですが、これからどうなっていくのか……。

今回の話で、奏夜が普通の人間ではないのでは?と海未が疑うようになりました。

次回はそんな疑惑が強まっていくことが予想されますが、奏夜の秘密は次回明らかになってしまうのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第4話 「疑惑」

お待たせしました!第4話です!

この作品を投稿してからおよそ1週間となりますが、もうすぐUAが1000を越えそうです。

僕が思っている以上にこの作品を読んでくれる方がいるようで、嬉しい限りです。

これからもこの作品をよろしくお願いします!

さて、今回はラブライブ!の本編プラスオリジナルの話となっています。

スクールアイドルとして動き始めた奏夜たちですが、これから奏夜たちを待ち受けているものとは?

それでは、第4話をどうぞ!




音ノ木坂学院は現在、廃校の危機を迎えており、そんな危機から救うべく、穂乃果たちはスクールアイドルを始めることにして、奏夜はそんな3人のマネージャーとダンスコーチを引き受けることになった。

 

その翌日、奏夜たちは朝早くではあったが、再び生徒会室を訪れていた。

 

穂乃果は絵里に1枚の書類を提出するのだが……。

 

「……朝から何?」

 

朝早くから何かの申請に来た奏夜たちに、絵里は少々呆れ気味であった。

 

「講堂の使用許可をいただきたいと思いまして」

 

「部活動に関係なく、自由に講堂を使用出来ると生徒手帳に書いてありました」

 

穂乃果の言う通り、この書類は講堂の使用許可書だった。

 

スクールアイドルを始めるのはいいのだが、ライブの日だけは決めておこうとその日のうちに話し合いが行われ、ライブを行うために講堂の使用許可を貰おうと生徒会室を訪れたのである。

 

さらに、部活動でなくても、予定が空いてさえいれば自由に講堂は使えると生徒手帳に書かれたため、申請の日が空いていれば、生徒会は何も言うことは出来ないのであった。

 

部活でなければ講堂を使うことは出来ないと思っていたので、そうではないと知ることが出来たのは、奏夜たちにとって大きな収穫だった。

 

そして、そのライブを行う日付は……。

 

「新入生歓迎会の日の放課後やねぇ」

 

およそ1か月後に新入生歓迎会が行われるのだが、その日の放課後にライブを行う予定であった。

 

その歓迎会自体は講堂で行われるが、それが終わってしまえば他の部は使わないだろうと判断したからである。

 

「……何をするつもりなの?」

 

絵里は訝しげな表情で、講堂使用の目的を聞いていた。

 

「それは……」

 

海未は、ハッキリとライブをすると言っていいものかと口をつぐんでいたのだが……。

 

「……ライブです」

 

穂乃果がハッキリとライブをすると宣言してしまった。

 

「3人でスクールアイドルを結成したので、その初ライブを講堂で行うことにしたんです」

 

「まぁ、具体的な内容は決まってませんが、やるとは決めてますので」

 

穂乃果がハッキリと言ってしまったので、奏夜がフォローを入れるために毅然とした態度でライブを行うとさらに宣言していた。

 

「……本当に出来るの?新入生歓迎会は遊びじゃないのよ?」

 

絵里は棘のある冷たい言葉を言い放ったのだが……。

 

(なんだと……!!そんなことはわかってんだよ!!)

 

そんな絵里の言葉に腹を立てた奏夜は、苛立ちのあまり反論をしようとしていた。

 

しかし……。

 

《おい、奏夜!落ち着け!!ここでの反論は得策じゃないだろう!!》

 

(!?た、確かにそうだな……)

 

キルバがテレパシーを用いて奏夜をなだめると、キルバの言葉に奏夜は平静さを取り戻していた。

 

「3人……。まぁ、君を入れて4人か。みんなは講堂の使用許可を取りに来たんやろ?部活でもないのに生徒会が内容までとやかく言う権利はないはずや」

 

「それは……」

 

副会長である希は何故か奏夜たちに肩入れする発言をしており、その言葉に絵里は反論出来なかった。

 

(……?何で副会長は俺たちの味方をしてくれるんだ?)

 

《さぁな。とりあえずライブは出来るみたいだし、良かったじゃないか》

 

(確かにそうだな……)

 

何故副会長である希が自分たちの肩を持つのかはわからず解せなかったのだが、結果的に申請書は受理されたので、奏夜は深いことを考えるのはやめることにしたのである。

 

こうして、講堂の使用許可書が受理され、奏夜たちは生徒会室を後にした。

 

奏夜たちがいなくなって間もなく……。

 

「……何故あの子たちの味方をするの?」

 

絵里は、希が奏夜たちの味方をしたことが気に入らなかったのか、その真意を確かめようとしていた。

 

そんな中、希は穏やかな表情で笑みを浮かべると、何故か生徒会室の窓を開けていた。

 

「……何度やってもそうしろって言うんや」

 

「え?」

 

絵里は希の言葉の真意がわからず戸惑っていたが、近くにタロットカードが置かれているのを見て、すぐに言葉の真意を理解していた。

 

「……カードが……」

 

希がこう呟くと、突如突風が吹き荒れると、カードは宙を舞い、2枚のカードが壁に叩きつけられていた。

 

そのカードは、太陽の正位置と、ソードの騎士の正位置であった。

 

太陽の正位置は、明るいことが起こる兆しがあるということであり、ソードの騎士の正位置は、勇気を振り絞ることで成功に繋がるという意味である。

 

しかし、ソードの騎士の意味はそうではなく、魔戒騎士である奏夜の存在を示しているようにも見えた。

 

「……カードがウチにそう告げるんや!!」

 

希はこう力強く宣言したのだが、強く吹き荒れる風をなんとかして欲しいと絵里は望んでいたため、すぐに窓は閉められたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして講堂を借りることが出来た奏夜たちだったが、その後は普通に授業を受けていた。

 

そして、とある休み時間、ことり以外の3人が中庭で腰を下ろしていた。

 

どうやらことりはやることがあるようであり、この場には来れそうにないようである。

 

「ちゃんと話したじゃないですか。ライブのことは伏せておいて借りるだけ借りておこうと」

 

「ふぁんふぇ?」

 

海未はどうやらあっさりとライブをすることを打ち明けた穂乃果に一言物申したいようであるのだが、穂乃果はパンを頬張りながら首を傾げていた。

 

「……またパンですか……」

 

「私の家は和菓子屋さんだからパンが珍しいの知ってるでしょ?」

 

穂乃果は和菓子屋の娘であるため、お菓子は洋菓子より和菓子が多く、食事も洋食より和食の方が多かった。

 

そのため、穂乃果はパンに対して憧れを抱くうちにパンが大好物となってしまったのである。

 

「お昼前なのに……。太りますよ……」

 

まだ昼休みまでは時間があるにも関わらず、パンを頬張る穂乃果に、海未は呆れていた。

 

しかし、穂乃果は気にする素振りはなくパンを頬張っていた。

 

その時であった。

 

「おーい!そこの3人!!」

 

奏夜たちに声をかけてきたのは、クラスメイトである3人であり、穂乃果も仲良くしている少女たちだった。

 

「……よう、ヒフミトリオ!3人揃ってどうしたんだ?」

 

奏夜たちに声をかけてきた3人はヒデコ、フミコ、ミカの3人であるため、奏夜は親しみを込めて3人のことを「ヒフミトリオ」と呼んでいた。

 

「……奏夜君……。その呼び方はいい加減やめようよ……」

 

ヒフミトリオの1人である、短めのツインテールが特徴のミカは、奏夜にヒフミトリオと呼ばれるのを良しとしてないのか、苦笑いをしていた。

 

「まぁ、それはともかく、掲示板見たよ!スクールアイドルを始めるんだって?」

 

今度はヒフミトリオの明るい髪が特徴的のヒデコが本題を切り出してきた。

 

「掲示板?」

 

ヒデコから聞いた思いもよらぬ言葉に、奏夜は首を傾げていた。

 

「まさか海未ちゃんがやるなんて思わなかったよ」

 

「あ!もしかして、奏夜君も一緒に踊ったりするの?」

 

「おいおい。そんな訳はないだろ?まぁ、穂乃果たちのダンスのコーチとマネージャーは引き受けたけどな」

 

「そうだよねぇ。奏夜君ってダンス得意だもんねぇ」

 

奏夜の特技がダンスであるということは、どうやらクラス中に広まっているらしく、ヒフミトリオの3人も知っているようだった。

 

「それよりも穂乃果。掲示板に何か貼ったのか?」

 

「うん!ライブのお知らせを!」

 

「!?」

 

「アハハ……。いつの間に……」

 

海未はライブのお知らせを貼ったと聞いて驚愕しており、奏夜は穂乃果の素早い行動に苦笑いをしていた。

 

この場にことりの姿はないため、ポスターを作って貼ったのはことりであるということが容易に予想出来た。

 

こうして、ヒフミトリオと別れた奏夜たちは教室に向かったのだが……。

 

「勝手すぎます!あと1か月しかないんですよ?まだ何も決まってないのに……。見通しが甘過ぎます!」

 

「でも、ことりちゃんはいいって言ってたよ」

 

「おいおい……。せめて俺や海未にも相談してくれよ……」

 

海未は勝手にライブのお知らせを貼ったことに怒っており、奏夜は自分や海未に相談がなかったことに呆れていた。

 

「……でもまぁ、結果的にこの学校にもスクールアイドルが出来たと知らしめることが出来たんだから、そこは良かったんじゃないのか?」

 

しかし、結果オーライだと感じた奏夜は、これ以上穂乃果に反対意見を言ったりはしなかった。

 

このようなやり取りをしているうちに教室へと到着したのだが、教室に入ると、スケッチブックを手にして何かを描いていることりの姿を発見した。

 

「……よう、ことり。何を描いてるんだ?」

 

奏夜はことりの席まで移動してことりに声をかけるのだが、ことりはスケッチブックに集中しているからか何も答えなかった。

 

「……よし、こんなもんかな♪」

 

ことりはスケッチブックに絵を描いていたようだが、どうやらその絵が完成したようである。

 

「ねぇねぇ、見て見て。ステージ衣装を考えてみたの!」

 

どうやらその絵というのが、ライブの時に着る衣装のデザインであった。

 

「へぇ、なかなか上手いじゃん!」

 

「うんうん!凄く可愛いよ♪」

 

ことりの描いた絵は女の子らしい可愛らしいものであり、そのクオリティに奏夜は感心し、穂乃果はキラキラと目を輝かせていた。

 

「本当?ここのカーブのラインが難しいんだけど…。何とか作ってみようかなって…」

 

「え!?作ってみようって……。ことりがこの絵の衣装を作るってことか?」

 

「うん!」

 

どうやらことりは衣装のデッサンだけではなく、実際に衣装も手作りするつもりのようだった。

 

「凄いな……。頑張ってな、ことり!」

 

「うん!私、頑張るね♪」

 

奏夜にエールを送られ、ことりはさらにやる気を出したようである。

 

そんな中、ことりの衣装を見ていた海未は何故か感想を言わなかったのだが、それはある部分が気になっていたからであった。

 

その部分とは……。

 

「……ことり。ここのスーッと伸びているところはなんですか?」

 

海未は衣装を描いた絵の脚の部分を指すと、ことりに確認を取っていたのだが……。

 

「脚よ♪」

 

ことりはあっさりと返答していた。

 

「素足に、この短いスカートということでしょうか……」

 

どうやら海未は短いスカートは着たくないのか、往生際の悪いことを言っていた。

 

「だって、アイドルだもん♪」

 

「……それって理由になるのか……?」

 

アイドルだからという単純明快な理由に疑問を抱いた奏夜は首を傾げるのだが、海未はしきりに自分の脚を気にしだしていた。

 

すると……。

 

「大丈夫だよ!海未ちゃん、そんなに脚太くないよ!」

 

穂乃果は海未の体に乗っかってフォローをいれるのだが、あまりに直球すぎる言葉だったため、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「……人のことが言えるのですか?」

 

あまりに直球な言葉だったのが面白くなかったのか、海未は穂乃果にこう問いかけをした。

 

すると穂乃果は海未から離れると、自分の体を気にし始めた。

 

しばらく自分の体をチェックしていたのだが……。

 

「……よし!ダイエットだ!」

 

自分の体型が少し気になるのか、穂乃果はダイエット宣言をしていた。

 

「やれやれ……。アイドルやるんだからダイエットは殊勝な心がけだけど、あまり無理はダイエットはするなよ?体調を崩しちまうからな」

 

「う……うん。わかったよ」

 

ダイエットについて奏夜にたしなめられると、穂乃果は素直に返事をしていた。

 

「それよりも決めなきゃいけないことはたくさんあるぞ。例えば、グループ名とか」

 

「……!た、確かにそうだね!」

 

グループ名を決めるという発想はなかったからか、それを聞いた穂乃果は少し焦っていた。

 

《おいおい……。こんなんで大丈夫なのかよ……》

 

(……多分)

 

決めるものも多く、前途多難な幕開けとなっていることに、キルバと奏夜は不安がっていた。

 

しかし、そうだとしても奏夜は穂乃果たちを支えていこうと決めていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

そして放課後になると、奏夜たちは教室で、自分たちのグループ名をどうするか話し合っていた。

 

しばらく4人で案を出し合おうとしていたのだが……。

 

「ダメだ……。全く思い付かん」

 

「私たち3人に何か特徴があればいいんだけど……」

 

「今考えてみると3人とも特徴も性格もバラバラですからね……」

 

海未の言う通りこの3人は見事に性格がバラバラで、共通点がなかなか思いつかなかった。

 

「あっ、こんなのはどう?私たちの名前を取って「ほのかうみことり」なんてのは」

 

「……それじゃまんま漫才師じゃねぇか……」

 

穂乃果の考えた名前が明らかに漫才師っぽかったため、奏夜はジト目で穂乃果を見ていた。

 

「それじゃあこんなのは?海未ちゃんは海。ことりちゃんは空。そして穂乃果は陸。名付けて「陸海空」!」

 

「まんま自衛隊じゃねぇか…」

 

「それに全然アイドルっぽくないよね…」

 

アイドルっぽくない名前が再びあがってきたことに、奏夜は呆れ果てていた。

 

「むぅ……!そういうそーくんは何かいいアイディアはないの?」

 

立て続けにツッコミを入れられたのが気に入らなかったのか、穂乃果はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「そうだな……」

 

奏夜はグループ名に相応しい名前は何かないか考えていたのだが……。

 

「……恩那組(おんなぐみ)……」

 

奏夜は思いついたフレーズを呟くのだが……。

 

《……おい、奏夜。その名前はどこかで聞いたことがあるんだが……》

 

(あ、そう言えばそうだったな)

 

奏夜の考えた恩那組はどこかで使われていたみたいなので、ボツになった。

 

穂乃果たち3人は、奏夜のセンスに呆れていたので、どちらにせよボツなのだが……。

 

それからも色々とアイディアを出し合うのだが、良い案は思いつかなかった。

 

そんな中……。

 

「……あっ、そうだ!」

 

穂乃果が何か思いついたようであった。

 

その思いついたものとは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……丸投げですか…」

 

穂乃果が考えてた案は初ライブのポスターが貼ってある場所のすぐ近くに目安箱を置いて、それを見た人にグループ名を決めてもらうというものだった。

 

「でもまぁ、こっちの方がみんなも興味を持ってくれるかもな」

 

「そうかもね♪」

 

いい名前がいつ出てくるかはわからないが、グループ名を決めることに関しては保留にすることが出来た。

 

次は歌と踊りの練習をしようとのことで練習場所を探そうとしていたのだが……。

 

《……おい、奏夜。番犬所から呼び出しみたいだぞ》

 

練習場所を確保しなきゃいけない大事なところで、番犬所から呼び出しが来てしまった。

 

奏夜としてはこのまま穂乃果たちと行動を共にしたいと思っていたのだが、番犬所からの呼び出しを無下にすることは出来なかった。

 

そのため……。

 

「……悪い。練習場所探すのを協力したいんだけどさ、用事が出来ちまったから、俺は帰るな」

 

「えぇ!?今から練習場所を探さないといけないのに……」

 

「本当にごめんな!埋め合わせは必ずするから……。それじゃあな!」

 

奏夜は穂乃果たちに用事があると告げると、追求を避けるために逃げるようにその場を後にした。

 

1度教室に戻って鞄や魔法衣などを回収した奏夜は、そのまま学校を後にして、番犬所へと向かっていった。

 

「……」

 

そんな中、海未は逃げるように立ち去る奏夜を、憂いを帯びた瞳で見つめていた。

 

(……奏夜……。今日も用事ですか……。それにしても妙ですね……。そんな毎日のように用事があるだなんて、奏夜はいったい何をしているんでしょうか……)

 

奏夜はここ最近毎日のように用事があると言って帰ることが多かったのだが、海未はそれを怪しんでいた。

 

(……!!そういえば奏夜は、普通の人じゃ出せないような殺気を出してましたけど、もしかして危険なことをしてるんでしょうか……?)

 

昨日、奏夜が生徒会長である絵里に対して殺気のようなものを放った時からただ者ではないことは理解していたのだが、奏夜が危険なことをしてるのではないかと疑っていた。

 

海未の推理は良いところまでいっているのだが、奏夜が魔戒騎士であることは知る由もなかった……。

 

そんな中、穂乃果も逃げるように立ち去る奏夜を憂いを帯びた瞳で見つめていたのであった。

 

2人がそんな表情を浮かべていることにことりは戸惑っており、キョロキョロと穂乃果と海未を交互に見ていた。

 

「ほ、穂乃果ちゃん?海未ちゃん?」

 

戸惑っていることりなどお構いなしといった感じで、穂乃果は考え事をしていた。

 

(……そーくん……。もしかして、あのホラーとかいう怪物とまた戦いに行ったのかなぁ……)

 

穂乃果は以前ホラーに襲われそうになったところを奏夜に救われており、奏夜が魔戒騎士であることを知っていた。

 

具体的なことはわからず、怪物と戦っているということだけを理解しているのだが……。

 

そんな中、考え事をしていた海未はハッとしながら我に返ったのだが、すぐさま考え事をしている穂乃果の姿を捉えていた。

 

「……穂乃果?どうしました?」

 

すかさず海未が穂乃果に問いかけるのだが、急に声をかけられたため、穂乃果は慌てていた。

 

「……へ!?な、何でもないよ!!」

 

「でも、穂乃果ちゃん……。浮かない顔をして何かを考えてたよね?」

 

「大丈夫!大丈夫だから!!」

 

穂乃果は奏夜の秘密を見透かされないためにも必死になってことりの問いかけに弁解していた。

 

しかし、その必死さは、海未に怪しいと思わせるのには十分だった。

 

「……穂乃果。私たちに何か隠してませんか?」

 

「へ!?そ、そんなことはないよ!!」

 

海未の問いかけに、穂乃果は慌てて弁解していたのだが、冷や汗をかいているからか、図星であることがうかがえた。

 

「……本当ですか……?」

 

海未は険しい表情で穂乃果を睨みつけ、穂乃果に詰め寄っていた。

 

「……うっ!そ、それは……」

 

こう海未に詰め寄られてしまっては、隠し事は出来ないため、穂乃果は渋々自分の知っていることを話すことにした。

 

しかし、公然と話せる内容ではなかったため、屋上へと移動し、そこで話をすることにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

穂乃果が海未やことりにホラーについての話をしているなど知る由もなく、奏夜は番犬所に到着すると、魔戒剣の浄化を行っていた。

 

ホラー、ラビットールを封印した短剣は、昨日の浄化の時にロデルの付き人の秘書官に渡しているため、今日の浄化では、ホラーを封印した短剣は出てこなかった。

 

魔戒剣の浄化を終えた奏夜は、魔戒剣を緑の鞘に納めた。

 

「……奏夜。少しばかり疲れてるように見えますが、何かあったのですか?」

 

ロデルは、奏夜が番犬所に来た時から、少しばかり疲れた表情をしていることが気になっていた。

 

「はい……。実は友達が廃校を無くすためにスクールアイドルを始めまして、その手伝いをしているのです」

 

「なるほど……。奏夜の学校にもスクールアイドルが出来るのですね!?」

 

「ろ、ロデル様……。スクールアイドルをご存知なんですか?」

 

まさか、ロデルがスクールアイドルに食いついてくるとは思っておらず、奏夜は困惑していた。

 

「はい。たまたま人界の流行りを調べているうちにスクールアイドルを知りましてね。このパソコンでスクールアイドルの動画を見るのが私の楽しみなのです♪」

 

どうやらロデルはスクールアイドルにハマっているようであった。

 

ロデルの座る場所の近くには、番犬所に置いておくには場違いな最新型のパソコンが置かれており、どうやらそのパソコンでスクールアイドルの動画を見ているようであった。

 

《……つか、どこから電気が来てるんだよ……》

 

(そうだよな……。ネット環境だってあるかどうかわからないしな……)

 

番犬所には電気はおろかインターネットを繋げるためのルーターを置ける場所もあるとは思えず、どうやってインターネットとパソコンを使っているのかは最大の謎であった。

 

そこは気になるところなのだが、ロデルの予想外すぎる趣味に、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「今の私のイチオシはやっぱり「A-RISE」ですかねぇ……。あのパフォーマンスはそうそう真似できるものでは……」

 

「ロデル様!如月奏夜に指令があるのではないのですか!?」

 

このままではロデルはスクールアイドルについて延々と語りそうなので、ロデルの付き人の秘書官が、注意をしていた。

 

「む……。そうでしたね……。奏夜、指令です」

 

ロデルが話を切り上げたところで、ロデルの付き人の秘書官が、奏夜に赤の指令書を手渡した。

 

奏夜は指令書を受け取ると、魔導ライターを取り出し、魔導火を放つことで指令書を燃やし尽くした。

 

そして、そこから魔戒語で書かれた文章が浮かび上がってきたので、奏夜はそれを読み上げる。

 

「……優しさを見せて獲物を安心させ、その獲物を喰らうホラーあり。ただちに殲滅せよ」

 

奏夜が読み終えると、魔戒語で書かれた文章は消滅した。

 

『……ホラー、デウルか……。奴の見た目は素体ホラーだが、なかなか油断できない奴だぞ』

 

奏夜の読んだ指令を聞き、キルバはホラーの種類を分析していた。

 

どうやら、今回のホラーはそれなりに手強い相手のようであった。

 

「それにしても優しさを見せて……ねぇ……」

 

『まぁ、実際のところ、極度の優しさは怪しいんだがな。それも、初対面ならなおさらな』

 

「そうですね……。ですが、どんな相手のであれ、ホラーであるならば、全力で討滅して下さい」

 

「もちろんです。被害が出る前にホラーを討滅してみせます!」

 

奏夜はロデルに一礼をすると、そのまま番犬所を後にして、ホラーの捜索を開始した。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜が番犬所にいる頃、穂乃果たちは屋上に来ており、そこで穂乃果は、自分の見たものの話をしていた。

 

それは、ホラーと呼ばれる怪物に襲われそうになったことと、魔戒騎士と呼ばれている奏夜に救われたことであった。

 

しかし、魔戒騎士やホラーが何なのかは穂乃果は詳しくは知らないという補足説明もしていた。

 

「……魔戒騎士にホラー……ですか……」

 

「聞いたことない名前だねぇ」

 

「……奏夜がそのホラーとかいう怪物と戦ってるなら、あれほどの殺気を出せることも納得です……」

 

海未とことりは、あまりにも非日常的な穂乃果の話に驚きを隠せないものの、穂乃果の話を全面的に信じていた。

 

「……2人とも……。信じてくれるの……?」

 

「うん!もちろんだよ、穂乃果ちゃん!」

 

「えぇ。穂乃果は嘘がつけないことはよくわかってますしね」

 

「ことりちゃん……。海未ちゃん……」

 

2人が何の疑いもなく信じてくれたことが嬉しかったのか、穂乃果は瞳をウルウルとさせていた。

 

「……とにかく、奏夜が危険なことをしているのはわかりました。奏夜に会ってそんな危ないことは辞めさせなければいけませんね」

 

「うん!そーくんがそんな危ないことをしてるなんて、心配で気が気じゃないもんね!」

 

「辞めてくれるかはわからないけど、そーくんときちんと話はしたい!」

 

どうやら、穂乃果たちは奏夜に会いに行くということで意見がまとまったようであった。

 

「それでは3人で奏夜を探しましょう!」

 

「「うん!!」」

 

こうして、穂乃果たちは1度教室に戻って帰り支度を始めると、学校を後にして、奏夜を見つけるために行動を開始した。

 

行動を始めてからおよそ2時間が経過しようとしていた。

 

穂乃果たちは奏夜の行きそうなところを予想して奏夜を探していたのだが、足取りを掴むことは出来ず、気が付けば夜になってしまっていた。

 

「……そーくん……。見つからないね……」

 

「うん……。そーくん、どこ行ったんだろう……」

 

奏夜を見つけることが出来ず、ことりと穂乃果はしゅんとしていた。

 

「そうですね……。それに、気が付けばもう夜ですものね……」

 

海未の言う通り、既に夜になってしまっているため、外は暗くなってしまっていた。

 

「……ねぇ、穂乃果ちゃん、海未ちゃん。今日はそろそろ帰らない?」

 

「そうですね……。あまり遅くなってもいけないですし、今日は帰るとしましょう」

 

「……うん、そうだね……」

 

穂乃果としてはまだ奏夜を探していたいと思っていたのだが、あまり遅くなっては家族が心配してしまうため、今日のところは奏夜を探すのは諦めることにした。

 

そして、明日になったら奏夜に魔戒騎士やホラーについて話をしてもらおうと決意して、家に帰ろうとしたその時だった。

 

「……おやおや。お嬢さんたち。どうしました?こんな時間に、このような場所で」

 

現在穂乃果たちは人通りのほとんどない広場に来ているのだが、そこにフラッと現れた50代後半くらいの老紳士が穂乃果たちに話しかけてきた。

 

「……あ、いえ……。実は……」

 

「友達を探してたんですけど、今日のところは帰ろうと思っていまして……」

 

海未は正直に話すべきか迷っていたのだが、ことりが老紳士に事情を説明していた。

 

老紳士が穏やかで優しそうな雰囲気を出していたからか、ことりはふと話をしてしまったのである。

 

「おやおや……。それは大変でしたね……。もし良かったら家までお送りしましょうか?こんな時間に女性だけの行動は危険ですからねぇ」

 

「……いえ、大丈夫です。ちゃんと帰れますので……」

 

穂乃果は少しだけ怯えた表情を見せながらこう答えていた。

 

もしかしたらこの男性はホラーなのでは?

 

そんな不安が頭をよぎったからである。

 

「おや……。そうですか……。ですが、気を付けて下さいね。この辺はよく出ますので……」

 

「……出ますって……何が……ですか?」

 

ことりが不安そうな表情で老紳士に尋ねると、老紳士は怪しげな笑みを浮かべていた。

 

そして……。

 

「……“化け物”が……ですよ……」

 

「!?海未ちゃん!ことりちゃん!この人がさっき話したホラーだよ!?」

 

「えっ!?この人が……。……っ!?」

 

穂乃果はやはりこの男性がホラーであることを直感的に感じ取ったのだが、海未はそれが信じられなかった。

 

しかし、老紳士の目が真っ白になり、より不気味さを醸し出していた。

 

そんな光景を見た穂乃果たちは互いに身を寄せ合いながら、ゆっくりと後ろへと下がっていった。

 

そして、老紳士の体は一気に変化すると、この世のものとは思えない怪物へと変貌してしまったのである。

 

「……!?」

 

「あ、あれが……。ホラー……ですか?」

 

「おや?あなた方はホラーのことを知っているのですか?だったら私がこれからする事も理解出来ますよね?」

 

「!?穂乃果!ことり!逃げますよ!!」

 

このままではこの怪物に食べられてしまう。

 

そう感じ取った海未は穂乃果とことりにこう告げると、ホラーから逃れるため一目散に逃げ出したのだが……。

 

「ふっふっふ……逃がしませんよ……!」

 

ホラーはドチャッ!ドチャッ!と不気味な足音を響かせながら、ゆっくりとした足取りで3人を追いかけていた。

 

何故ホラーが悠長に歩いているのか。それにはちゃんとした理由があった。

 

それは……。

 

「……!?そ、そんな!?」

 

穂乃果たちが逃げた場所が行き止まりだと知っていたからであった。

 

全てを見透かしていたホラーは、ドチャッ!ドチャッ!と不気味な足音を響かせながら確実に穂乃果たちを追い詰めていた。

 

「……っ!こうなったら……!」

 

海未は周囲に何か使えるものがないか探すのだが、偶然にも海未の近くに鉄パイプが落ちており、すぐさまその鉄パイプを拾うと、竹刀のように鉄パイプを構えていた。

 

「穂乃果。ことり。下がっていて下さい!!」

 

「無茶だよ!海未ちゃん!」

 

「そんなんじゃあいつに勝てっこないよ!」

 

「このままでは3人とも食べられてしまいます!私が……!2人を守ります!!」

 

海未は日頃から武術を嗜んでいるからか、人を守るために戦うのは今しかないと、恐怖心を振り切ってホラーに対峙することにした。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

海未は鉄パイプを手に、ホラーへと向かっていくのだが、そんなものでホラーに敵う訳はなく、鉄パイプの一閃は軽々と受け止められてしまい、ホラーの裏拳により、海未は吹き飛ばされてしまった。

 

「「海未ちゃん!」」

 

そんな光景を見ていた穂乃果とことりは、思わず声をあげてしまった。

 

そしてホラーは鉄パイプをグニャっとひん曲げると、使いものにならなくなった鉄パイプを投げ捨てて海未へと向かっていった。

 

海未はどうにか反撃をしようとするのだが、その前にホラーに捕まってしまい、ホラーは片手で海未の首を絞めていた。

 

「くっ……!!」

 

ホラーに歯が立たなくても海未は諦めておらず、鋭い目付きでホラーを睨みつけていた。

 

「……いいですねぇ……。その反抗的な眼……。私はね、そんな眼をした人間を絶望させて喰らうのがね……大好きなんですよ……」

 

自分のあまりに奇妙な嗜好を語ったホラーはそのまま海未を投げ飛ばしていた。

 

「「海未ちゃん!!」」

 

「そこで見ているといい。君の守ろうとした2人を先に喰らって、絶望したところを喰らってあげますよ」

 

ホラーは海未を喰らう前に穂乃果とことりに狙いを定めたようであり、ゆっくりと2人に迫っていた。

 

「……や、やめなさい……!喰らうなら、私が……!!」

 

海未は、自分が今ホラーに喰われようとも、2人を守ろうとしていた。

 

しかし、ホラーとのダメージがあったからか、立ち上がることは出来なかった。

 

「……い、嫌……!来ないで!!」

 

「だ、誰か……!!」

 

「いいですねぇ、その表情……。そんな顔をしてる人間は……最高に美味いですからねぇ」

 

ホラーは目の前の獲物を吟味するかのように舌舐めずりをしていた。

 

「……ほ、穂乃果……!ことり……!!」

 

海未は倒れたまま必死に手を伸ばすのだが、2人には届かなかった。

 

(悔しいです……!親友が危ないというのに、何も出来ないなんて……!!)

 

自分は武術を嗜んでいるのに無力であり、何も出来ないことに絶望しながら、海未は唇を噛みしめていた。

 

「……ほ、穂乃果ちゃん!!」

 

絶体絶命になってしまったことりは、恐怖でギュッと目を閉じながら穂乃果に抱きついていた。

 

「そーくん!助けて!!」

 

穂乃果もまた、ことりに抱きつきながら、助けに来て欲しい人の名前を叫んでいた。

 

こう叫んだところで奏夜が都合よく助けに来てくれる訳はない。

 

そう思って穂乃果は諦めていたのだが……。

 

「……ふふふ……。いただき……うぐっ!!」

 

ホラーの背後に何者かが現れると、ホラーはその何者かに斬られてしまった。

 

「……!な、何者だ!」

 

ホラーはすぐさま斬られた方を向くのだが、乱入者はホラーを巴投げで投げ飛ばしていた。

 

「「「……!!」」」

 

穂乃果たちは突如現れた乱入者を見て驚きを隠せなかったのか、目を大きく見開いていた。

 

その手には剣が握られていたのだが、その者が羽織る茶色のロングコートに見覚えがあったからである。

 

「……お前たち、大丈夫か?」

 

「そ、奏夜……ですか?」

 

穂乃果たちを助けてくれた茶色のロングコートの人物こそ、穂乃果たちがよく知っている人物である奏夜であった。

 

奏夜はホラーを捜索していたのだが、偶然キルバがホラーの気配を探知し、現場に急行した。

 

すると、ホラーに襲われている穂乃果たちを発見し、救出したのであった。

 

「あぁ、そうだ。遅くなってすまなかったな」

 

奏夜は一瞬ではあったものの、いつも穂乃果たちに見せている穏やかな笑顔を見せていた。

 

そして、すぐに険しい表情でホラーを睨みつけている。

 

「き……貴様……魔戒騎士か……!」

 

「あぁ。そういうことだ」

 

奏夜の巴投げによって吹き飛ばされたホラーは、ゆっくりと起き上がってこの問いかけをするのだが、奏夜は淡々と答えていた。

 

「……そ、奏夜……。あなたはいったい……」

 

「話は後だ。……穂乃果、ことり!海未を頼む!」

 

「「う、うん!」」

 

奏夜は立ち上がろうにも立ち上がれない海未の姿をチラッと見ると、2人に海未の介抱を任せ、自分は魔戒剣を手にして、ホラーに突撃していった。

 

『奏夜。こいつがデウルだ。油断はするなよ!』

 

「わかってるって!」

 

穂乃果たちを襲い、奏夜と今対峙しているこのホラーこそ、指令に書いてあったホラーであるデウルだった。

 

デウルに向かっている最中にキルバから警告を聞いた奏夜は、そのまま魔戒剣を一閃する。

 

しかし、デウルの爪によって、それは防がれてしまった。

 

「おのれ……!魔戒騎士!せっかくの私の食事を邪魔しおって!」

 

「悪いな。お前らホラーの邪魔をするのが俺たちの仕事なんだよ!」

 

「私は楽しみを邪魔されるのが何よりも許せないんです!貴様は生かしてはおきません!」

 

「……言いたいことはそれだけか?」

 

奏夜の低くてドスの効いた声には、怒気が含まれていた。

 

デウルは奏夜を斬り裂くために両手の爪を振り下ろすのだが、奏夜は軽々とその攻撃をかわすと、デウルを魔戒剣によって斬り裂いてから蹴り飛ばした。

 

「くっ……!おのれ……魔戒騎士……!」

 

「よくも俺の大事な友達を怖い目に遭わせてくれたな!この落とし前は……キッチリつけさせてもらうぜ!」

 

奏夜は、大事な友達である穂乃果たちをここまで怖い目に遭わせたデウルを許すことができなかった。

 

それ故に、その瞳はギラギラしており、怒っているということがすぐにわかる程であった。

 

(……!?あの殺気……奏夜が生徒会長に向けてたものと似てますね……。やはり……あなたは……)

 

海未は、奏夜の放っている殺気を、以前も見たことがあり、改めて奏夜が普通の人間ではないことを再認識していた。

 

「……これ以上みんなを怖い目に遭わせないためにも一気に決着をつける!……貴様の陰我、俺が断ち切る!」

 

「!また陰我って言った……」

 

穂乃果は以前奏夜に救われた時にも陰我という言葉を耳にしていたため、その言葉に反応していた。

 

「陰我……?それはいったい……」

 

「そうだね……」

 

海未とことりに至っては初めて聞く言葉だったため、陰我という言葉の意味が理解出来ず、首を傾げていた。

 

そんな中、奏夜は魔戒剣を高く突き上げると、円を描いた。

 

円を描いた部分のみ空間が変化すると、そこから放たれた光に、奏夜は包まれた。

 

すると……。

 

変化した空間から黄金の鎧が出現すると、奏夜は黄金の輝きを放つ輝狼の鎧を身に纏った。

 

「「!?」」

 

奏夜が見たこともない黄金の鎧を身に纏ったのを見て、海未とことりは驚きのあまり目を大きく見開いていた。

 

「黄金の狼……」

 

「あれ……そーくん……だよね?」

 

異形の鎧を身に纏って異形の怪物と対峙している奏夜を見て、海未とことりはあの鎧を身に纏っているのは本当に奏夜なのかと疑いたくなっていた。

 

それも無理はない。

 

付き合いの長い友人がこのようなことに関わってるだけでも驚きだが、怪物と互角に戦い、この世のものとは思えない鎧を身に纏うのを見れば、誰もがそう思ってしまうだろう。

 

「……」

 

奏夜の鎧を1度見たことのある穂乃果は、雄々しき姿の輝狼の鎧に見入っていた。

 

そして……。

 

(そーくん……頑張って……!!)

 

声には出さなかったが、穂乃果は心から奏夜のことを応援していた。

 

奏夜は魔戒剣から変化した陽光剣を構えると、鋭い目付きでデウルを睨みつけていた。

 

「……!?あの構え……!!やはりあの鎧を着ているのは奏夜……なのですね……?」

 

奏夜に何度も剣の稽古を付き合ってもらっている海未は、奏夜の見慣れた独特な剣の構えを見た瞬間、異様な鎧を身に纏っているのが奏夜であると確信していた。

 

それはどうやらことりも同じであり、ウンウンと頷いて剣を構える奏夜をジッと見つめていた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

奏夜は穂乃果たちにホラーの返り血を浴びせないためにデウルに突撃すると、そのまま体当たりをして、デウルを吹き飛ばした。

 

「おのれ……!!」

 

奏夜によって吹き飛ばされたデウルは、奏夜に接近すると、反撃と言わんばかりに爪による攻撃を繰り出した。

 

しかし、爪による攻撃では、輝狼の鎧に傷1つつけることも出来なかった。

 

奏夜はデウルの攻撃を全て受け止めると、陽光剣を一閃し、デウルの体にダメージを与えると、陽光剣を手にしていない方の手でデウルを殴り飛ばしていた。

 

「……この一撃で決めてやる!」

 

こう宣言した奏夜は、魔導ライターを取り出すと、魔導火を放ち、陽光剣の切っ先に橙色の魔導火を纏わせた。

 

陽光剣の切っ先が橙色の炎に包まれると、その炎は輝狼の鎧にも定着し、陽光剣の切っ先と、輝狼の鎧が橙色の炎に包まれていた。

 

「「「!!?」」」

 

自ら炎を浴びるというあまりにも異様な光景に、穂乃果たちは目を大きく見開いて驚いていた。

 

魔導火に包まれているこの形態は「烈火炎装」。

 

魔導火を全身に纏うことにより、攻撃力と防御力を高める技で、実力のある魔戒騎士であれば使用できる技である。

 

「くっ……。このぉ!」

 

デウルは烈火炎装になった奏夜に怯むことなく、向かっていきのだが、奏夜はそんなデウルを迎撃する形で、魔導火を纏った陽光剣を一閃した。

 

デウルは陽光剣によって斬り裂かれた直後に橙色の魔導火に包まれると、その体が真っ二つになる直前に爆発がおこり、その体は陰我と共に消滅した。

 

奏夜はデウルの消滅を見届けると、陽光剣を横に大きく振ることにより、橙色の魔導火は消滅し、それと同時に体に纏われた魔導火も消え去った。

 

魔導火が消えたことを確認した奏夜は、鎧を解除すると、陽光剣から元に戻った魔戒剣を、緑の鞘に納めた。

 

「ふぅ……」

 

奏夜はデウルを討滅して一息ついてから鞘に納めた魔戒剣を魔法衣の裏地の中にしまった。

 

そのまま奏夜は穂乃果たちのもとへと歩み寄ろうとしたのだが、その前に穂乃果たちが奏夜に駆け寄ってきた。

 

「……みんな、大丈夫か?」

 

「うん。そーくんが守ってくれたから……」

 

奏夜は穂乃果たちの無事を確認するのだが、ことりが頬を赤らめながらこう答えていた。

 

(……キルバ。3人ともホラーの返り血はついてないよな?)

 

《あぁ。だからこそ烈火炎装で焼き払ったんだろ?3人とも問題はないぞ》

 

奏夜は3人にホラーの返り血を浴びせないために気を遣って戦っていたのだが、そのために奏夜は烈火炎装を使ったのである。

 

その甲斐があったからか、3人にホラーの返り血がつくことはなかった。

 

「……奏夜……。あなたはいつもこんな危険なことをしているのですか?」

 

「……まぁな……。俺はあの怪物……ホラーを狩る魔戒騎士だからな……」

 

「ねぇ、そーくん。いつからこんなことをしてたの?」

 

「穂乃果には話したんだけど、今の家に引っ越しした辺りから……だな」

 

奏夜は改めて魔戒騎士として活躍し始めた時期の話をしていた。

 

「っ!?それじゃあ、私たちと出会った時には……もう……」

 

「あぁ。そういうことになるな」

 

「「……」」

 

奏夜の知られざる一面を目の当たりにした穂乃果とことりは言葉を失っていた。

 

そんな中、海未は拳をギュッと握り締めると、唇を噛んでいた。

 

すると……。

 

「……どうして……」

 

「……海未?」

 

「どうしてあなたがそのようなことをしているのですか!?あんな怪物と戦うなど危険なことを!!」

 

海未は自分を守ってくれた奏夜に感謝はしているのだが、そのために危険な戦いに自ら飛び込んでいく奏夜が許せなかった。

 

だからこそ、声を荒げて奏夜にこう問いかけたのである。

 

「……危険なことなのは充分理解しているさ。だけど、俺のような魔戒騎士はあの怪物……ホラーを狩るだけじゃない。ホラーから人を守るという大事な使命があるんだよ。……守りし者として……」

 

「守りし者……」

 

奏夜の放った言葉は聞き覚えがないのだが、その言葉はとても暖かみのある言葉であった。

 

しかし……。

 

「……あなたが何故このようなことをしているのかはわかりました。ですが、それはあなたがしなければいけないことなのですか?普通の高校生であるはずのあなたが……!!」

 

海未は奏夜にこのような危険なことを辞めさせたいと思っているからか、このような発言をしていた。

 

「そうだな……。確かに海未の言うことは一理あると思う」

 

「っ!?だったら何故!!」

 

「俺はこの力を受け継ぐ前から魔戒騎士になることを決めていたんだ。俺が音ノ木坂に入学したのは、守りし者とは何なのかを学ぶためなんだよ」

 

「……」

 

奏夜が音ノ木坂に入学した真意を聞き、海未は驚きを隠せなかった。

 

まさか、高校に通いながらこのようなことを行うということが信じられなかったからである。

 

「……そーくん……。教えてくれない?魔戒騎士……だっけ?そのことと、さっきの怪物のことを……」

 

「私も聞きたい!お願い、そーくん!!」

 

ことりと穂乃果は、魔戒騎士やホラーについての話を聞きたいと思っていた。

 

しかし……。

 

「……ダメだ。それは教えることは出来ない」

 

奏夜は、穂乃果たちに魔戒騎士やホラーの秘密を話すことを良しとはしなかった。

 

「っ!?ど、どうして!?」

 

「……この秘密を知るということは、これからも騎士やホラーと関わる可能性が増えるってことなんだ。……そうなったら、お前らは元の日常に戻れる保証はない。……だって、お前らはスクールアイドルとして、廃校を阻止するんだろ?俺は、その邪魔をしたくないんだ」

 

「「……」」

 

奏夜の言っていることは決して脅しではなく、事実であった。

 

スクールアイドルとして活動しようとしている穂乃果たちが元の日常に戻れないということは、スクールアイドルの活動自体が危ぶまれるからである。

 

奏夜は、そんなことで穂乃果たちの夢を潰したくない。そんな思いがあるために魔戒騎士やホラーの秘密を話すことを良しとしなかったのであった。

 

その言葉に、穂乃果とことりは返す言葉がなかったのだが……。

 

「……いい加減にしてください……」

 

「……海未?」

 

「いい加減にしてください!!」

 

海未は奏夜の言葉を聞いて怒りのあまりこう怒鳴り声をあげていたのだが、そのことに奏夜は面食らっていた。

 

「元の生活に戻れないかもしれない?本当にそうなのかを決めるのは私たちです!あなたの思い込みだけで勝手に判断しないで下さい!!あなたは、私たちのことを心配してくれてるのはわかりますが、あなたの秘密を知らないままの方が余計に元の生活になんか戻れませんよ!!」

 

「……!!」

 

この海未の言葉を聞いた瞬間、3人のことを思って言った自分の言葉はただのエゴであったと思い知らされてしまった。

 

それと同時に、かつて軽音部の仲間に魔戒騎士の秘密を話した月影統夜は、こんな気持ちだったのか?と再び予想していたのであった。

 

「そうだよ、そーくん!私はこの前と今回と怪物に襲われたんだよ!!もうこの時点で元の日常には戻れてないじゃん!!」

 

「うぐっ……!」

 

穂乃果のこの言葉は正論であり、この言葉に反論する言葉を、奏夜は見つけることは出来なかった。

 

「……本当に知りたいんだな?」

 

ここまで言われた以上、奏夜が取るべき行動は、穂乃果たちのホラーや魔戒騎士に関する記憶を消すことだった。

 

しかし、ホラーや魔戒騎士に関することのみといえど、穂乃果たちの記憶を消すことなどしたくないと奏夜は考えていた。

 

だからこそ、改めて本当に奏夜の秘密を聞きたいのかと念押しをしたのである。

 

「さっきからそう言ってるよ!そーくんがそんな危ないことをしてるなら、それを知ったうえでそーくんを支えたいもん!」

 

「だけど、これからはスクールアイドルとしても活動するだろ?」

 

「もちろんです!だって、奏夜はスクールアイドルとして活動する私たちを支えてくれるのでしょう?だったら、私たちはその魔戒騎士という仕事をしているあなたを支えたいのです!」

 

「うん!穂乃果も海未ちゃんと同じ気持ちだよ!」

 

「ことりも!だから……教えて欲しいな」

 

どうやら、穂乃果はどうしても魔戒騎士の秘密を聞きたいと思っているようであった。

 

海未に至っては、魔戒騎士など危険なことは辞めさせたかったのだが、それが無理とわかると、せめて自分が奏夜を支えようと決意したため、秘密を聞きたいと思ったのである。

 

「……わかったよ……。明日の放課後、俺んちに来い。学校だと誰かに聞かれる可能性があるからな……」

 

奏夜は学校の中ではなく、自分の家で話すという条件で、魔戒騎士やホラーの秘密を話すことを了承し、穂乃果たちはそれを受け入れた。

 

こうして奏夜は、穂乃果たちを家に送り届けてから、家に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

穂乃果たちを家に送り届けた奏夜は、専用のハンガーに魔法衣をかけて、大きく伸びをしていた。

 

奏夜はそのまま着替えをしてのんびりしようと思っていたのだが……。

 

『……おい、奏夜』

 

ホラーを討伐していた後は、ずっと黙っていたキルバがここで口を開いていた。

 

「……どうした?キルバ」

 

『お前はベラベラと余計なことを口走り過ぎだ!そのせいで、何割かは魔戒騎士やホラーのことを話してしまっただろうが』

 

どうやらキルバは、穂乃果たちに話した内容が気に入らないようであり、そこに文句を言っていた。

 

「……確かにそうかもな……。だけど、熱くなった海未を言いくるめるにはああ答えるしかないと思ってな……」

 

『それに、騎士の秘密を話すとはどういう了見なんだ?あのまま3人の記憶を消してしまえば良かったものを……』

 

「……それは考えたさ。だけど、ホラーや魔戒騎士に関することだけとはいえ、あいつらの記憶を消すなんて……。俺には出来ないよ……」

 

奏夜は、穂乃果たちの記憶を消そうとしなかった理由をここでキルバに話していた。

 

「それに……。ずっとあいつらに騎士のことを誤魔化してきただろ?俺さ、そのことに疲れたんだよね……」

 

奏夜はこのまま騎士の秘密を隠し通すことに限界を感じていた。

 

その時、何かを感じ取った奏夜は目を見開いてハッとしていた。

 

「……待てよ……。統夜さんだって、本来は騎士の秘密を話すなんて許されなかったハズだ。やっぱり……あの時の統夜さんは今の俺と同じ気持ちだったのだろうか?」

 

白銀騎士奏狼こと月影統夜が、軽音部の仲間に魔戒騎士やホラーの秘密を話したのも、高2の春であり、ちょうど今の奏夜と同じくらいの時期であった。

 

自分もまた、憧れの先輩と似た境遇に直面したことで、少しだけ統夜に親近感を抱くようになっていた。

 

憧れの先輩騎士に少しでも近付けたと考えただけで、奏夜は嬉しかったのである。

 

『やれやれ……。もうこうなったら仕方ないが、どうなっても知らないからな……』

 

もう穂乃果たちに騎士の秘密を話すと言った以上、後には引けないため、キルバはそのことに呆れ果てていた。

 

こうして、穂乃果だけではなく、海未とことりまでもが奏夜が魔戒騎士であることを知ってしまった。

 

話すと決めたからには明日はしっかりと話をしようと決意をした奏夜は、少しだけ体を休めると、風呂に入って眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ……。まさかあのお嬢ちゃんたちに騎士の秘密を話すことになるとはな……。次回、「秘密」。聞くからには決して目を離すな!!』

 

 




今回はちょっと長くなってしまった……。

ですが今回、穂乃果だけではなく、海未とことりも奏夜の秘密を知ることになりました。

それだけではなく、今回はロデルの意外な趣味が明らかになりました。

まさかロデルが極度のドルオタとは……。

スクールアイドルについて熱く語るロデルは、にこや花陽といい勝負なのかもしれませんね(笑)

そして、今回穂乃果たちを襲ったホラーの人間体ですが、イメージは仮面ライダーWに登場するウェザードーパントこと井坂となっています。

ウェザードーパントはかなりの強敵でしたが、デウルはあっさりと奏夜に討滅されてしまいましたが……(笑)

さて、次回は穂乃果たちに魔戒騎士やホラーのことを奏夜が話します。

この状況は、前作の「牙狼×けいおん 白銀の刃」と似ている部分はありますが、多少は違いを見せるようにしたいと思っています。

それでは、次回をお楽しみに!



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第5話 「秘密」

お待たせしました!第5話になります!

前回、ホラーに襲われていた穂乃果たち3人を救った奏夜ですが、今回は3人がホラーや魔戒騎士の秘密を知ることになります。

奏夜の秘密を知り、穂乃果たちは何を思うのか?

それでは、第5話をどうぞ!




穂乃果たち3人はスクールアイドルとして本格的に活動し始めることになり、奏夜はそんな3人を支えることを決めていた。

 

そう決めた翌日、奏夜たちは初ライブを行うために講堂を借りることに成功し、その後も色々と決めることがあるため話し合いを行っていた。

 

しかし、奏夜は番犬所から呼び出されてしまい、途中で帰ってしまい、海未はそんな奏夜のことを怪しんでいた。

 

そんな中、奏夜が魔戒騎士であることを知っている穂乃果は、海未に詰め寄られたことで、ホラーという怪物と戦っていることを話してしまう。

 

奏夜が危険なことをしていると知った海未は、それを辞めさせるために穂乃果やことりと共に奏夜を探すものの、見つけ出すことは出来なかった。

 

この日の捜索を諦めて帰ろうとした時に、ホラー、デウルと遭遇してしまった。

 

穂乃果たちはどうにか逃げようとしたのだが、デウルに追い詰められてしまう。

 

デウルは、穂乃果とことりを守るために果敢に向かっていった海未ではなく、先に穂乃果とことりを捕食しようとしていた。

 

その時、奏夜が現れると、穂乃果たちの危機を救ったのであった。

 

奏夜はそのままデウルと対峙すると、その戦いの最中、鎧を召還したのだが、この時、海未とことりは初めて魔戒騎士の戦いを目の当たりにしたのである。

 

奏夜はこのままデウルを討滅したのだが、海未は魔戒騎士という危険なことに首を突っ込んでいる奏夜を非難するように厳しい言葉を投げかけるのだが、奏夜はそれを真摯に受け止めていた。

 

そして、奏夜は騎士の仕事は自分にとってはかけがけのない使命であると告げたのだが、そう言われると、海未は納得せざるを得なかった。

 

それならばと海未は騎士の秘密を聞こうとするのだが、1度は奏夜に断られてしまう。

 

しかし、穂乃果たちの熱い説得を聞いたことによって奏夜は渋々ではあるが騎士やホラーの秘密を話すことを決断したのである。

 

こうしてこの日は穂乃果たちを家に送って自分も家に帰宅した。

 

翌日、奏夜はいつものようにエレメントの浄化を行ってから登校したのだが、穂乃果たちは昨日のことなどなかったかのようにいつも通りであった。

 

しかし、海未は今日の放課後、練習場所を決めたらきちんと話を聞かせろと念押しをしていた。

 

そんな海未の言葉通り、奏夜たちはまず練習場所を決めることにしたのである。

 

しかし、部活として認められていない現状を鑑みると、空き教室も含め、教室を使うということは絶望的であった。

 

だが、ダメ元でも空き教室が使えないか聞いて見るために、奏夜たちは職員室に向かった。

 

自分たちの担任である山田先生に空き教室が使えないか交渉するためである。

 

「……空き教室を?いったい何に使うんだ?」

 

こう聞かれることは予想していたものの、奏夜たちはどう答えるか迷っていた。

 

「えっと…スクールアイドルの練習に…」

 

「お前らが…?アイドル…?…ふっ」

 

穂乃果がどうにか答えるのだが、アイドルという予想外の言葉を聞いて、山田先生は鼻で笑っていた。

 

アイドルなど柄ではないと思ってしまったからである。

 

(先生……。鼻で笑うのはやめて差し上げろよ…)

 

奏夜は心の中でこんなことを思いながら苦笑いをしていた。

 

このように笑われてしまったことが恥ずかしかったのか、奏夜を除く3人は顔を真っ赤にしていた。

 

「おい、如月。まさかとは思うけどお前もアイドルに……?プッ!プククク……!」

 

「そんな訳ないでしょう。俺はこの3人のお手伝いです。それに爆笑するのはやめてくださいよ…」

 

奏夜はすぐに弁解するのだが、山田先生は笑いを堪えることは出来なかった。

 

結果的に、空き教室でも借りることは不可能であった。

 

そうだろうと予想はしていたのだが、ダメとわかると多少なりとも落胆の色は隠せなかった。

 

空き教室も駄目とわかり、次に訪れたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……屋上だった。

 

日陰がないから夏は暑く、雨が降ったら練習は無理だが、もうここ以外使えそうな場所はなかった。

 

こうして選択の余地がないまま奏夜たちの練習場所が屋上に決まったのである。

 

「ここなら音を気にしないで良さそうだよね」

 

「まぁ、雨が降ったら練習は出来ないけど、贅沢は言えないからな」

 

「よしっ!頑張って練習しなくちゃ!」

 

これで練習場所も確保出来た。

 

だが、まだ決めるべきことはあった。

 

「なぁ、穂乃果。ライブでやる曲はどうするつもりだ?曲が決まってなきゃ歌や踊りの練習は出来ないだろ?」

 

「「「……あっ!」」」

 

肝心な曲のことをすっかりと忘れていた穂乃果たち3人は、重要なことを思い出したからか、顔を真っ青にしていた。

 

《やれやれ……。こんなんで本当に大丈夫なのか?》

 

(まぁまぁ。そう言うなよ、キルバ。これでもやるしかないんだから……)

 

キルバは1番大事なことを忘れていた穂乃果たちに呆れていたのだが、奏夜はそんな3人のフォローをしっかりと入れていた。

 

曲については奏夜の話を聞いてから決めることになり、奏夜たちは帰り支度を整えて、学校を後にすることにした。

 

 

海未はこの日も弓道部の練習日だったのだが、今日は休むことを事前に告げていたため、奏夜たちと一緒に行動することが出来るのである。

 

こうして、帰り支度を整えた奏夜たちは学校を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

~花陽 side~

 

こんにちは、私の名前は小泉花陽(こいずみはなよ)。音ノ木坂学院に入ったばかりの高校生1年生です。

 

私は小さい頃からアイドルが好きで、アイドルに憧れています。

 

だけど……。花陽は人見知りだし、声も小さいからアイドルには向いてないんですけどね……。

 

最近は色々なスクールアイドルの曲を聴くんですが、最近はやっぱりA-RISEが凄いです!

 

この前もわざわざUTX高校まで行ってA-RISEのパフォーマンスを見たんですけど、やっぱり最高でした♪

 

そんなある日のことです。

 

「……スクール……アイドル……」

 

どうやらこの音ノ木坂学院にもスクールアイドルが出来たみたいです。

 

まだ出来たばかりなのかグループの名前も決まってないみたいですけど……。

 

私は今そのスクールアイドルの初ライブのお知らせと書かれたポスターを見ています。

 

……ちょっと気になるし、聞きに行きたいな……。

 

そんな時でした。

 

「か~よちんっ、どうしたの?」

 

私の親友である星空凛(ほしぞらりん)ちゃんが声をかけてきました。

 

「あ、いや……。何でもないよ!」

 

「ふーん……。それじゃあかよちん、一緒に帰ろ?」

 

「あっ、うん。そうだね」

 

私は凛ちゃんと一緒に帰ることになりました。

 

……この学校のスクールアイドル……。

 

どうなるか本当に楽しみだな……♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜三人称 side〜

 

 

 

 

 

スクールアイドルとして活動を始めた穂乃果たちは、練習場所を屋上に決めた。

 

屋上だと天候によっては使えないこともあるが、今はここしか使えそうな場所がなかったからである。

 

練習場所が決まったのはいいのだが、まだライブで行う曲など、決めなければいけないことは多かった。

 

しかし、その話し合いは、奏夜の話を聞いてから決めることになったため、穂乃果たちは、現在奏夜の家に来ていた。

 

奏夜の家は、穂乃果の家である「穂むら」から歩いて数分のところにあり、奏夜1人が住むには広過ぎる一軒屋であった。

 

ここは元々奏夜の家族が所有していたとかそういう訳ではなく、魔戒騎士となり、ロデルから提供された家が偶然にもこの家だったのである。

 

穂乃果たち3人は、奏夜とは中3の夏からの付き合いであるため、何度か奏夜の家には遊びに行ったことはあった。

 

しかし、奏夜は魔戒騎士としての物を見えるところには極力置かないようにしていたため、穂乃果たちが不審に思うことはなかったのである。

 

奏夜はとりあえず穂乃果たちをそれなりの広さがあるリビングに案内すると、穂乃果たちはリビングにあるソファに腰を下ろしていた。

 

穂乃果たちが遊びに来た時はいつもここに通しており、この場所が穂乃果たちの特等席なのである。

 

奏夜は大型テレビのテレビ台に置かれた長さのある箱に手を伸ばすと、その箱からキルバ専用のスタンドを取り出し、そのスタンドをテーブルに置いた。

 

そして、指にはめられたキルバを外すと、キルバをスタンドにセットしたのである。

 

「……あれ?その指輪って、確かそーくんがいつも付けてる指輪だよねぇ?」

 

「確かにそうですね……。何故このようにセットしているのですか?」

 

キルバの存在は穂乃果たちは認識していたのだが、ただのドクロの形をした指輪だと思い込んでいた。

 

そのため、このようにスタンドにセットするという光景が不可解であった。

 

「あぁ、これか?これはな……」

 

魔戒騎士やホラーのことは話すつもりだったので、奏夜はキルバのことを離そうとしたのだが……。

 

『……それは俺自ら話すことにしよう』

 

キルバもそのことは理解していたため、自分のことは自分で説明するために口を開いた。

 

急にキルバが口を開いたため……。

 

「「「ゆ、指輪が喋った!?」」」

 

まさか指輪が喋るなど夢にも思っていなかったからか、穂乃果たちは驚きのあまり目を大きく見開いていた。

 

『おいおい。お前らはホラーを見たというのに何故俺に驚くんだ?』

 

「だって……」

 

「不可解過ぎます!!指輪が喋るなどとは……」

 

「ま、普通の指輪だったら確かにそうだよな……」

 

キルバが魔導輪ではなく、ただの指輪であれば海未の言葉は正論であり、それを聞いた奏夜は苦笑いをしていた。

 

『俺が喋ってる時点でただの指輪ではないことはわかるだろう?』

 

「た……確かにそうだね……」

 

『……まぁ、いい。改めて自己紹介をするが、俺の名はキルバ。奏夜の相棒である魔導輪だ』

 

「「「魔導輪?」」」

 

キルバは簡潔に自己紹介をするのだが、聞きなれない言葉が再び出てきたため、穂乃果たちは首を傾げていた。

 

『俺のような魔導輪はホラーを探知する能力がある。奏夜のような魔戒騎士は、それを元にホラーを捜索して殲滅するという訳だ』

 

「なるほど……。昨日、私たちの危機を救ってくれたのも、キルバ……でしたっけ?あなたがそのホラーとかいう怪物の気配を探知したからなんですね」

 

『ほう……。鋭いじゃないか。お嬢ちゃん。その通りだぜ』

 

キルバの説明を聞いて、海未は昨日奏夜が助けに来てくれた背景を理解しており、理解の早さにキルバは感心していた。

 

「お嬢ちゃんはやめて下さい!私には園田海未という立派な名前があるのですから!」

 

『フン、俺から言わせればお前らはお嬢ちゃんだ。ま、気が向いたら名前で呼んでやるよ』

 

海未はキルバにお嬢ちゃんと言われるのが気に入らなかったのだが、キルバはすぐに呼び方を改めるつもりはなかった。

 

「……まぁ、それはともかくとして、お前らは知りたいんだろう?魔戒騎士のことと、ホラーのことを……」

 

「もちろんそうだよ!」

 

「ねぇ、そーくん……。教えてくれる?ホラーと魔戒騎士って何なのかを……」

 

「わかったよ」

 

穂乃果たちの気持ちは昨日確認したため、ことりに教えてくれる?と言われなくても話すつもりだった。

 

「……まずはホラーについて話をさせてもらうよ。ホラーっていうのは、太古の時代から存在する魔獣のことで、「陰我」あるところをゲートとして人間界に現れる怪物……ってところかな」

 

奏夜はホラーという存在を簡潔に説明したのだが、それを完璧に理解するには理解しなければならない単語が1つだけあった。

 

それは……。

 

「……ねぇ、そーくん。ずっと気になってたんだけど、その陰我っていうのは何なの?そーくん、私を助けた時も、昨日も言ってたよね?」

 

穂乃果は昨日だけではなく、前回もホラーと遭遇しており、その時にも、陰我という単語を聞いており、ずっとその意味が気になっていた。

 

『陰我というのはな、森羅万象あらゆるものに存在する闇のことだ』

 

「あらゆるものの闇……ですか……」

 

「なんか、そう言われると怖いね……」

 

陰我という言葉はとてもスケールの大きな言葉であることを知り、そのことにことりは恐怖心を抱いていた。

 

「闇とかいうとスケールが大きくてわなりにくいと思うけど、例えば人間は誰しも嫉妬や憎しみとかそういう感情を抱いたりすることがあるだろ?それもまた陰我になりかねないし、物に執着し過ぎたり欲深いのも陰我になりかねないんだ」

 

「「「……」」」

 

奏夜は陰我という言葉をわかりやすく伝えるために補足説明をするのだが、人間の負の感情が陰我に繋がりかねないと知って、穂乃果たちは言葉を失っていた。

 

『ホラーは、その陰我の溜まったゲートを通って魔界から人間界に現れ、人間に憑依し、人間を喰らう』

 

「あの、ホラーが何故現れるのかはわかりました。ですが、何故ホラーは人間を喰らうのですか?」

 

『簡単なことだ。奴らは人間を餌と考えているんだ。お前らが腹が減って何かを食うのと同じ要領でな』

 

「……そんな……!人間が餌だなんて……!」

 

海未は人間を餌と考えているホラーを非情と考えるが、自分もまた肉や魚など生あるものを食べているからか、何も言うことは出来なかった。

 

「……確かにそうだけど、やっぱり人間が餌だなんて、許されないよ!」

 

海未は何も言うことが出来ない中、穂乃果は人間を喰らうホラーの思考に納得出来なかった。

 

『……ま、お前の言ってることは色々矛盾しているが、今はそのことを問答してる場合じゃないから辞めておこう』

 

キルバは穂乃果の発言がおかしいと思ったものの、それを言ったところで無駄な水掛論になると思ったため、余計なことは言わないことにした。

 

「……その話はともかくとして、ホラーは人間の負の感情や深い欲望につけ込んで人間に憑依するんだ」

 

「……!!ということは、あの男性も、その陰我があるからホラーに憑依されたって訳ですか!?」

 

『あぁ。そういうことだ』

 

「それで、そのホラーを狩るのが俺のような魔戒騎士という訳だ」

 

ホラーについての説明はおおよそ終わったため、奏夜は続けて魔戒騎士について説明することにした。

 

「ねぇ、そーくん。その魔戒騎士っていうのは、もしかして、ことりたちが見たあんな鎧を着て戦う人のことなの?」

 

「ま、そんな感じかな」

 

「……奏夜。あなたは私たちに魔戒騎士やホラーのことを秘密にしようとしてましたよね?それはいったい何故ですか?」

 

「……魔戒騎士やホラーの存在を一般の人たちに知られる訳にはいかないからだ」

 

奏夜は、何故騎士やホラーの話が秘密なのか。理由を簡潔に答えていた。

 

「何で知られたらまずいの?色んな人の協力があった方が、ホラーも狩りやすいんじゃないのかなぁ?」

 

穂乃果の抱いていた疑問はもっともであった。

 

しかし……。

 

「……穂乃果。もしホラーの存在が世間に広まったらどうなると思う?」

 

「え?どうって……」

 

「こうは考えられないか?もしかしたら隣人や親しい人はホラーかもしれない。そんな疑心暗鬼な気持ちがさらなる陰我を生み出してしまう。そうなったら世界は混乱と混沌が支配して、ホラーにとっては住みやすい世界になってしまうと」

 

「……っ!?」

 

奏夜の例え話を聞いた瞬間、ホラーの存在を広める訳にはいかないということはすぐに理解し、穂乃果は顔を真っ青にしていた。

 

『それだけじゃない。人間というのは、力を持つ者を恐れて排除しようとする愚かな存在だからな。魔戒騎士の存在が知れ渡れば、世間が魔戒騎士を抹消しようとするだろう』

 

「それこそ、ホラーの思う壺だからな」

 

『それに、奏夜は魔戒騎士を守りし者と言っていたと思うが、魔戒騎士が斬れるのはホラーだけで、普通の人間を斬ることは許されないんだ』

 

「もし、人間が実力で魔戒騎士を排除しようとしたら、魔戒騎士に抵抗することは許されない。だから、黙って殺されるか逃げ回るしかないって訳だよ」

 

「……なるほど。あなたがそこまで魔戒騎士やホラーのことを秘密にしようとしていた理由がよくわかりました」

 

「……だから、今日話したことは、家族にはもちろん、大事な友達にも言わないで欲しい。それが守れないなら、今からでもお前らのホラーや魔戒騎士に対する記憶を消させてもらう」

 

奏夜は、本来こんなことはしたくないのだが、穂乃果たち3人がホラーや魔戒騎士のことを広めようとしたならば、それもやむなしと考えていた。

 

「私たちはこの話を広めるつもりはありませんよ!」

 

「そうだよ!それをすると大変なことになるっていうのは、穂乃果でもわかるもん!」

 

「ねぇ、そーくん。さっき言ってた、記憶を消すって……?」

 

穂乃果たちは今日聞いたことを誰かに話そうとは考えていなかったが、ことりは奏夜の言っていた記憶を消すという言葉が気になっていた。

 

『……本来であれば、魔戒騎士はホラーに襲われた人間を助けた後、その人間の魔戒騎士とホラーに関する記憶を消さなければいけないんだ』

 

「そうしなきゃいけない理由は……わかるだろ?」

 

キルバが魔戒騎士が本来行わなければいけないことを説明したのだが、穂乃果たちは何故そうしなきゃいけないかは、よく理解していた。

 

「ということは、本来であれば、私たちにこのことを話すのは許されないってことですよね?」

 

『……まぁ、そういうことになるな』

 

「え?ここまで聞いといてこんなことを聞くのはあれだけど、大丈夫なの?怒られたりしない?」

 

「さぁな。このことがバレたら怒られるかもしれないし、ちょっとした罰を受けるかもしれない」

 

「「「……」」」

 

奏夜の所属している翡翠の番犬所の神官であるロデルならば許してくれるだろうと予想はしたものの、どうなるかは予想出来なかった。

 

ちなみに、白銀騎士奏狼の称号を持つ月影統夜が軽音部の仲間に騎士やホラーの秘密を話した時には、彼の所属する紅の番犬所の神官であるイレスは、咎めることはしなかった。

 

しかし、後日、全ての番犬所を総括している元老院にはこれ以上騎士の秘密を広めないようにと厳重注意を受けていたのである。

 

自分も恐らくはそうなるだろうと思っていても、本当にそうなるかどうかはわからなかった。

 

もしかしたら罰として何日分かの寿命を没収されるかもしれないが、それを話すと穂乃果たちが心配して気を遣ってきそうだったので、そこは黙っておくことにした。

 

「……俺の本音を言わせてもらえば、みんなにこのことを秘密にし続けることに疲れたんだよ……。みんなに隠し事はしたくないって思ってたからな……」

 

「奏夜……」

 

「「そーくん……」」

 

奏夜とは仲の良い友達ではあるが、何を考えてるのかわからない部分も少なからずあった。

 

だからこそ、本音を聞き出すことが出来たことが、穂乃果たちには嬉しかった。

 

魔戒騎士やホラーについての説明はほぼ終わったのだが、海未は1つだけ気になったことがあった。

 

それは……。

 

「……奏夜。ホラーは陰我あるゲートを通って人間に憑依すると言ってましたね?そんな人を救う方法はないのですか?」

 

「……!!」

 

海未の抱いていた疑問は、魔戒騎士の現実にも直結する部分なので、出来れば触れて欲しくない部分であった。

 

しかし、聞かれたからには、答えない訳にはいかず……。

 

「……ない。ホラーに憑依された時点で、その人間の魂はホラーに喰われちまってるからな……。その人間ごとホラーを斬るしかないんだ」

 

「……!?そ、それじゃあ……!!」

 

『……ホラーを斬るということは、憑依した人間ごと斬るしかない。だからこそ、魔戒騎士というのは、人殺しも同然な仕事なんだよ』

 

「「「……」」」

 

キルバは魔戒騎士の真実を語ったのだが、殺伐とした世界とは無縁だった穂乃果たちにはあまりにも重い話であり、言葉を失っていた。

 

「……そこの部分は本当は知られたくなかったんだよ……。俺が人殺し同然のことをしてると知ったら、みんなは幻滅すると思ってたからな……」

 

奏夜は、魔戒騎士やホラーの秘密を話したくなかったのは、そういう掟があるからだけではなく、このような現実を知った結果、穂乃果たちが離れていくことを恐れていたからであった。

 

驚きのあまり言葉を失っていた穂乃果たちであったが……。

 

「……やれやれ……。奏夜、あなたは本当に馬鹿ですね……。確かにその真実はショックですが、それを知ったからって、私たちがあなたのことを嫌うと本気で思ったんですか?」

 

「そうだよ、そーくん!あなたが何者で、何をしようと、そーくんはそーくんだよ!ことりたちにとって、大事なお友達だよ!」

 

「海未ちゃんやことりちゃんの言う通りだよ!私たちはあなたに出会えて本当に良かったって思ってるんだもん!」

 

「……みんな……」

 

奏夜は、せっかく仲良くなった穂乃果たちが離れていくことを心から恐れていたのだが、魔戒騎士の真実を知った上で自分のことを受け入れてくれたことは何よりも嬉しかった。

 

それと同時に、何があってもこの3人は絶対に守ってみせる。

 

言葉には出さなかったが、こう決意させるには十分だった。

 

『……さて、魔戒騎士やホラーについての話は以上だ。このことをベラベラと喋るのは問題だが、俺も自由に話せて気が楽だしな』

 

キルバは学校にいる間は言葉を発することは出来ず、奏夜とコミュニケーションを取るときは、テレパシーを用いるしかなかった。

 

しかし、穂乃果たちだけの時は自由に喋ることが出来るようになったため、キルバにとっては多少は楽な環境になっていったのである。

 

「……うん!これからもよろしくね!キー君!!」

 

キルバという新たな仲間が出来て、穂乃果は満面の笑みで挨拶をしていた。

 

『……おい、そのキー君っていうのは何なんだ?』

 

「え?だってあなたはキルバっていうんでしょ?だから、キー君だよ!!」

 

「可愛い♪これからはことりもキー君って呼ぼうかなぁ♪」

 

どうやらことりは、穂乃果が勝手につけたキー君というあだ名が気に入ったようであり、自分もキルバのことをこう呼ぼうと考えていた。

 

『俺をそんな変なあだ名で呼ぶのはやめろ!!』

 

どうやらキルバはこのあだ名が気に入らないようであり、すぐさま異議を唱えていた。

 

(アハハ……。このやり取り……。まるで唯さんとイルバのやり取りそっくりだな……)

 

奏夜は、あだ名に対するこのやり取りを他にも見たことがあるため、それを思い出して苦笑いをしていた。

 

それは、月影統夜と同じ軽音部だった平沢唯(ひらさわゆい)と、統夜の魔導輪であるイルバのやり取りであった。

 

唯は統夜の秘密を知った時から、イルバのことをイルイルと呼んでおり、そう呼ばれる度にイルバは異議を唱えていた。

 

唯は現在某女子大に通う大学2年生であり、他の軽音部員も同じ大学に通っているようであった。

 

現在も統夜は唯たちと頻繁に会っているのだが、そこでもこのやり取りは続いているようだった。

 

『それに、俺が可愛いだと?俺様は数ある魔導輪の中でも最高に格好いいからな。可愛いと呼ぶな!!』

 

「キルバ……。あなたってかなりのナルシストなんですね……」

 

キルバのような魔導輪がここまでナルシストだとは思っておらず、海未は苦笑いをしていた。

 

『……それよりも、次はライブの曲を決めるんだろう?』

 

キルバは、変なあだ名で呼ばれるのが嫌だったからか、今日話すべきもう1つの本題を切り出していた。

 

「あー!!キー君!話を逸らしたぁ!!」

 

『えぇい!やかましい!!だから変なあだ名で呼ぶな!!』

 

「「ぶーぶー!!いいじゃん別に!」」

 

あだ名で呼ばれることを良しとしないキルバが面白くないのか、穂乃果とことりの2人はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「やれやれ……。始めますよ!!」

 

海未はそんな2人とキルバとのやり取りに呆れながらも話を進めることにした。

 

「……あっ、俺、お茶を淹れてくるよ。その間にちょっとは話し合っててくれよ」

 

奏夜は穂乃果たちに何のおもてなしもしてないことに気付くと、キッチンへと急いでお茶の準備を始めた。

 

それだけではなく、お菓子の用意も始めたのだが、買い置きのものしかなかったため、仕方なくそのお菓子をお皿に用意し、淹れたお茶と共に持っていった。

 

奏夜がお茶の用意を始めた時には作曲については何とかなりそうという話をしていた。

 

「……ねぇねぇ、そーくん。この前音楽室でピアノ弾いてた娘、覚えてない?」

 

「あー、あの子か……」

 

『あのツンデレのお嬢ちゃんに作曲をお願いしようとしているらしい。まぁ、上手くいくとは思えないんだがな』

 

音楽室でピアノを弾いていた赤髪の少女に作曲をお願いしたいと考えていたのだが、キルバは断られる可能性が高いと思ってた。

 

「そうかもしれないけど、ダメ元でも聞いてみないと!」

 

「そうだな……。作曲出来る人間を探すのは苦労しそうだしな……」

 

「ねぇ、どうしても作曲出来そうな人が見つからなかったら、紬さんに相談してみない?」

 

「紬さんですか……!確かに紬さんなら協力してくれそうですよね!」

 

穂乃果のアイディアに海未は賛同していた。

 

2人の言っていた紬さんこと、琴吹紬(ことぶきつむぎ)は、統夜と同じ軽音部にいて、キーボードを担当しており、作曲も担当していた。

 

そのため、どうしても作曲出来る人が見つからない場合はそこに頼ることも考えていた。

 

しかし……。

 

「だけど、自分たちで出来ることは自分たちで解決させたいよな……」

 

奏夜は、統夜たち軽音部の力に頼るのはどうかと思っていたため、このように的を得た発言をしていた。

 

「そーくんの言う通りだよ!どうしてもダメなら仕方ないけど、やれることは自分たちでやりたいもんね!」

 

どうやら、ことりも奏夜と同じ気持ちのようであった。

 

「……そうですね……。まずは作曲出来る人を探してみましょうか」

 

「とりあえず明日、その子に会って、お願いしてみるね!」

 

こうして、作曲についてはこのような感じで話がまとまっていた。

 

もう1つの問題は作詞の方であった。

 

これから作詞の話をしようとしていたのだが、穂乃果とことりは何故か結託したかのように怪しい笑みを浮かべていた。

 

そして……。

 

「……海未ちゃん……。中学の時、ポエムとか書いてたよねぇ……」

 

「うぇぇ!?」

 

「読ませてもらったことも……あったよねぇ……」

 

穂乃果とことりが怪しい笑みを浮かべる中、よほど思い出したくなかったのか、海未の顔は真っ青になっていた。

 

「……そうなのか?俺は知らなかったな……」

 

奏夜は穂乃果たちとは中学3年生の夏に知り合ったのだが、海未がポエムを書いていたというのは初めて聞いたので、少しだけ驚いていた。

 

奏夜は知らなかったということは、たった今知ったということであり、今度は海未の顔がまるで茹で蛸のように赤くなっていた。

 

そして……。

 

「あっ!逃げた!」

 

「やれやれ……」

 

海未はいたたまれない気持ちになったのかその場から逃げようとしたのだが、すぐに奏夜に捕まってしまった。

 

「はっ、離してください!!私は帰ります!!」

 

「いいから、落ち着けって!」

 

奏夜はジタバタと暴れる海未をどうにかなだめようとしていた。

 

2人はリビング近くの玄関におり、奏夜はどうにか海未をリビングに戻そうとするのだが……。

 

「うぉっ!?」 「きゃっ!?」

 

変なところに足を引っ掛けてしまい、奏夜と海未は転んでしまった。

 

「痛てて…海未…大丈夫か…?」

 

奏夜は海未の無事を確かめるためにゆっくりと起き上がろうとしたんだが……。

 

「……!?」

 

端から見るとまるで奏夜が海未を押し倒しているかの体制になっており、それを気付いた海未も顔を真っ赤にしていた。

 

しかもタイミングが最悪で、それを穂乃果とことりが見てしまっていた。

 

「そーくんくん……?何をしているのかな……?」

 

「あっ、いや……。これは、その……」

 

この状況は明らかにまずいと判断した奏夜は、どうにか言い訳をしようとしていた。

 

「海未ちゃんを捕まえてとは言ったけど、押し倒せとは言ってないよねぇ?」

 

穂乃果とことりは何故か黒いオーラを出しており、奏夜はそのオーラに恐怖を感じてブルブルと震えていた。

 

「ご、ごめんな海未。大丈夫か?」

 

奏夜は海未を気遣う言葉を送るのだが、結果的に奏夜に押し倒される形になったことが恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしてワナワナとしていた。

 

奏夜は急いでこの体勢を直そうとしたのだが……。

 

パシン!!!

 

「ふげっ!?」

 

海未の強烈なビンタを喰らい、奏夜は吹っ飛んだ衝撃で海未から離れた。

 

「は……破廉恥です!!何をしているのですか!?」

 

「痛てて……。さっきのは謝るけどさ、あれは事故だろう?」

 

奏夜はビンタされた痕を優しく摩りながら弁解をした。

 

弁解の後、ゆっくりと立ち上がると、穂乃果とことりが奏夜の肩を掴んでいた。

 

(な、何でこんなに2人の笑顔が怖いんだよ……)

 

穂乃果とことりは何故か満面の笑みなのだが、逆にその笑顔が怖く、奏夜の表情は引きつっていた。

 

「さっ、そーくん♪説明してもらおうかな?」

 

「説明も何もあれは事故であって…」

 

「言い訳しちゃって……。そんなそーくんはことりのおやつにしちゃいます♪」

 

(おいおい……おやつって何だよ!マジで怖えよ!)

 

おやつという言葉がとても不可解ではあったのだが、決して良い意味ではないことを奏夜は理解していた。

 

「とりあえず……。部屋に戻ってそーくんにお仕置きだね♪」

 

「賛成♪」

 

こうして奏夜は穂乃果とことりに引きずられる形でリビングに戻ることになった。

 

「……お、おい!キルバ!黙ってないで助けろよ!!」

 

奏夜はリビングのテーブルに置き去りにされているキルバに助けを求めようとしたのだが……。

 

『知らん!自分でなんとかしろ。つか、ここにいる時点で俺は何も出来んがな!』

 

キルバは奏夜を見放す発言をしており、その後の言葉は正論だったのか、奏夜の表情は引きつっていた。

 

「ちょっ、おまっ……。ダレカタスケテー!」

 

奏夜はこう叫ぶことしか出来ず、リビングに戻ると、2人からお仕置きを受けたのであった。

 

それはどんな内容なのか……。

 

それは、これを読んでくれた人の想像に任せることにする(笑)

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃……。

 

 

 

 

 

「……ハッ!?」

 

秋葉原で友人の星空凛と遊んでいた小泉花陽は、何かを感じ取ったのか、ハッとして立ち止まっていた。

 

「……?かよちん?どうしたかにゃ?」

 

「う、うん……。どこかで誰かが私の専売特許の台詞を言ってる気がして、つい……」

 

「にゃ?……変なかよちん」

 

「アハハ……そうかもね……」

 

「ほら、かよちん!早く行くにゃ!!」

 

「り、凛ちゃん!ちょっと待ってぇ!!」

 

立ち止まっていた2人であったが、凛が花陽の手を取り、どこかへと移動を開始したのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

「……解せぬ……」

 

奏夜はただ、逃げようとした海未を捕まえようとしただけなのに、こうなってしまった。

 

そのため、ボロボロになりながらもこう呟くことしか出来なかった。

 

「それも奏夜の自業自得じゃないですか……」

 

(おい、海未!お前がそれを言うのか!そもそもお前が逃げるから俺はこんなことに!!)

 

奏夜は口にするのが怖かったからか、心の中で自分の気持ちを叫んでいた。

 

『おいおい。今は作詞の話をしていたんだろう?』

 

「おっと、そうだった!それで海未。作詞のことなんだけど…」

 

「お断りします」

 

奏夜が海未に歌詞を書いてとお願いしようとするのだが、海未は奏夜が最後まで言い切る前にその話を断っていた。

 

(早っ!!即答しないでくれよ……)

 

あまりに海未が即答していたため、奏夜は呆然としていた。

 

「えぇっ!?何で何で?」

 

「絶対嫌です!中学の時のだって、思い出したくないくらい恥ずかしいんですよ」

 

《まぁ、誰にでもそういうのってあるよな。俗に言う黒歴史ってやつがな》

 

(キルバ。それ、海未には絶対言うなよ。また酷い目に遭いそうだから)

 

《俺としては言った方が面白いものが見れそうだが、ここは黙っててやるよ》

 

(お前なぁ……)

 

キルバが今の状況を楽しんでいるのを知って、奏夜は呆れていた。

 

「アイドルの恥はかき捨てって言うし」

 

「それを言うなら旅の恥はかき捨てだろ?」

 

「ほえ?そうだっけ?」

 

『おいおい。どちらにせよ意味は違うだろうが……』

 

穂乃果の言っていた的外れな言葉にキルバは呆れていた。

 

「でも私…。衣装作りもしなきゃいけないし…」

 

ことりは、これから衣装作りを始めていかなければいかないため、歌詞作りを並行して行うというのは、不可能であった。

 

「穂乃果がいるじゃないですか。言い出したのは穂乃果なんだし」

 

「まぁ、確かにここで穂乃果の名前が出てくるのは当然か……」

 

「いやぁ、私は…」

 

どうやら穂乃果は作詞どころか作文が苦手なようである。

 

穂乃果が小学生の頃、こんな作文を発表したことがある。

 

『お饅頭、ウグイス団子、もう飽きた』

 

「……ぷっ!ぷくく……!」

 

穂乃果のあまりに独創的な作文の話を聞き、奏夜は思わず笑ってしまっていた。

 

「あぁ!そーくん!笑いすぎだよぉ!」

 

奏夜が爆笑してるのを見た穂乃果は頬をぷぅっと膨らませていた。

 

「そういうそーくんはどうなのさぁ!」

 

「うっ…!お、俺か?」

 

まさか、自分に飛び火がくるとは思っていなかったのか、奏夜は驚いていた。

 

「正直なところ俺もけっこう厳しいと思うぞ。俺はみんなのダンスコーチやマネージャーをしながら魔戒騎士の仕事もしなきゃいけないからな」

 

奏夜は穂乃果たちのダンスコーチやマネージャーの仕事と合わせて、魔戒騎士の仕事をしなければいけないため、とても作詞に取り組む時間はなかった。

 

「それに、こういうのはやっぱり女の子の方がいいと思うんだ」

 

奏夜自体は作詞が出来ないわけではなかったが、アイドルらしい曲を作る自信はなく、こういう歌詞は女の子の方が書けるのでは?と意見を出していた。

 

「……はっ!そ、そうだ!作詞でしたら、澪さんにお願いしてみたらどうでしょう?あの人なら、アイドルらしい曲の歌詞を書けるはずです!」

 

海未は、ここで統夜と同じ軽音部のメンバーであり、作詞を担当していた秋山澪(あきやまみお)の名前を出していた。

 

彼女の書く詩はとてもファンシーなものが多く、アイドルの歌詞を書くのは適役だと思われた。

 

しかし……。

 

「確かに、澪さんなら良い歌詞を書いてくれそうだけど、さっきも言ったろ?やれることは自分たちの力でやるって」

 

ここで澪に作詞を頼むのはいいのだが、それを良しとしてしまっては、作曲を紬に頼らないという先ほどの言葉の意味がなくなってしまう。

 

そんな奏夜の厳しい言葉に、海未は何も言い返すことは出来なかった。

 

「お願い!もう、海未ちゃんしかいないの!」

 

「もちろん俺たちも手伝うからさ、どうにか元になるものだけでもお願い出来ないか?」

 

奏夜やことりの説得に海未は少し困った表情をしていた。

 

そんな中、ことりが胸に手を当てて何かしようとしていた。

 

「海未ちゃん…」

 

海未の名前を呼んでワンクッション置いたことりが取った行動とは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おねがぁい!」

 

「「んな!!?」」

 

ことり特有の脳トロボイスでお願いと言っていたのだが、どうやらこのお願い攻撃は海未にとっては効果はバツグンのようであった。

 

海未はことりのお願い攻撃に頬を赤らめていたのだが、奏夜もつられて頬を赤らめていた。

 

(……凄い破壊力だな……。ことりのお願いは。あれを断われるやつっているんだろうか……)

 

《おいおい……。何を言ってるんだか……》

 

「……むぅぅ……!何でそーくん、鼻の下が伸びてるの……?」

 

キルバはことりのお願い攻撃に過剰に反応した奏夜に呆れており、穂乃果はそれが気に入らなかったのか、ぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「…もぉ、ずるいですよ。ことり」

 

さすがの海未でもことりのお願いには耐えられなかったみたいだ。

 

「やったぁ!海未ちゃんならそう言ってくれると思ってたんだ!」

 

「ただし…」

 

「「「?」」」

 

「ライブまでの練習メニューは私が作ります」

 

「「練習メニュー?」」

 

「なるほどな」

 

ダンスってのは体力使うし、体力上げたりするのも含まれてるんだろう。

 

ダンス経験のある奏夜は、そのことを理解していた。

 

「アイドルって楽しく歌ってるように見えるだろ?だけど、笑顔を保ちながら踊り続けるってのはかなり大変なことなんだよ。そうだよな、海未?」

 

「えぇ。奏夜の言う通りです。絶えず動き続けながらも息を切らさず笑顔でいる。かなりの体力が必要になってきます」

 

「……穂乃果。ことり。2人とも、笑顔のまま腕立て伏せをしてみてくれないか?」

 

「え?何でそんなこと……」

 

『いいからやってみろ。2人の言いたいことが理解出来るハズだ』

 

「「う、うん……」」

 

こうして、穂乃果とことりは、渋々ではあるが、笑顔を保ったまま腕立て伏せを行ってみることにした。

 

しかし、普段から鍛えていない穂乃果とことりは腕立て伏せを続けて笑顔を保てる訳がなく、すぐにその場に倒れ込んでしまった。

 

「ほら、そういうことなんです。弓道部で鍛えている私はともかく穂乃果とことりは楽しく歌えるだけの体力をつけなくてはなりません」

 

「まぁ、曲が出来るまではそれが一番の急務だよな」

 

踊りながらバテバテなアイドルなんて誰も見たくはないだろう。こう感じた奏夜は、アイドルに対する印象が少しばかり変化していた。

 

こうして、曲作りの他にアイドルとして必要な体力をつけることが急務であるとしった穂乃果たちは、明日から体力をつけるためのトレーニングを行うことになった。

 

明日からトレーニングを行うと話した奏夜たちは、明日の集合時間と集合場所を決めた後、解散となった。

 

明日からはスクールアイドルとして忙しい毎日が始まる。

 

魔戒騎士の仕事もこなさなければいけない奏夜は、どれだけ忙しい毎日を送ることになったとしても、穂乃果たちを支えていこう。

 

こう決意を固めたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『スクールアイドルとして動き始めたあいつらだが、最初は上手くいかないよな……。次回、「名前」。あいつらの名前。それは……!!』

 

 




こうして、穂乃果たちは奏夜の秘密を知りました。

穂乃果たちは奏夜にとって守るべき存在であり、3人の存在が奏夜を強くしていくと思っています。

そして、今回からけいおん!キャラの名前がチラホラと出てきました。

まだまだ先になるとは思いますが、けいおんのキャラも登場させたいと思っています。

それだけではなく、「牙狼×けいおん 白銀の刃」で登場したオリキャラも登場予定となっています。

さて、次回はいよいよ穂乃果たちのグループ名が決まります。

3人のグループ名……いったいどのようなものになるのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第6話 「名前」

お待たせしました!第6話になります。

絶狼の7話を見たのですが、零と竜騎士のアクションが凄すぎて興奮してしまいました。

毎週欠かさず見ているので、次回も楽しみです。

さて、今回は穂乃果たち3人のグループ名が明らかにあります。

グループ名はいったいどのようなものになるのか?

それでは、第6話をどうぞ!




穂乃果たちがホラー、デウルに襲われ、奏夜が間一髪のところで3人の危機を救った。

 

その翌日、奏夜の家で、穂乃果たちに魔戒騎士やホラーについての話を行っていた。

 

あまりにも現実離れした話であったが、穂乃果たちはそんな奏夜の話を受け入れ、スクールアイドルとして活動しながらも奏夜のことを支えよう。

 

穂乃果たちはそんなことを考えていた。

 

翌日の朝7時頃。奏夜たちは神田明神という神社を訪れていた。

 

しかし、奏夜たちがここを訪れたのは神社で参拝をするためではなく、神田明神に入るために登らなければいけない階段に用があった。

 

穂乃果たちはライブで最後まで笑顔でパフォーマンスをするための体力をつけるためにこの階段の上り下りをダッシュで行うことにしたのである。

 

「ほっ、ほっ、よっと」

 

奏夜は何度目かの挑戦ではあるが軽快に階段を上っていった。

 

魔戒騎士である奏夜にしてみれば、これくらいの階段を何度上ってもバテることはないのである。

 

しかし、普段鍛えたりしていない穂乃果とことりにしてみれば、この階段は1往復でもきついのか、既にバテバテであった。

 

奏夜はそんな2人を遠目に見ながら軽々とゴールした。

 

「へぇ…。やはり奏夜は体力があるんですね」

 

奏夜が未だに息が上がっていなかったことに海未は感心していた。

 

「まぁね。俺は魔戒騎士としてかなり鍛えてたからな。これ以上にきつい修行を積んできてるし」

 

「い、一体どんな修行をしたきたと言うのですか……?」

 

「それは聞かない方がいいぞ。聞いたら多分海未はドン引きすると思うから」

「そ、それだけきつい修行だったのですね……」

 

奏夜が修行について語らない時点でそれだけきつい修行であったことを察することが出来たのか、海未は苦笑いをしていた。

 

2人でこんな話をしていると穂乃果とことりがゴールし、穂乃果は大の字で寝転がり、ことりはその場に座り込んでいた。

 

「はぁ……はぁ……もう、ダメ……」

 

「もう……足……動かない……」

 

「おいおいお前ら……だらしないぞ!これくらいでバテて」

 

「何で……そーくんは平気そうなのぉ……?」

 

「何でと言われても、お前らよりも遥かに鍛えてるとしかいいようがないからな……」

 

穂乃果もことりも奏夜が魔戒騎士だということは聞いたので、一応納得はしたのだが……。

 

「納得だけど……。そーくんの裏切り者ぉ!」

 

「裏切り者ってあのなぁ……」

 

穂乃果は奏夜に裏切り者と言わなきゃ気が済まないようであり、その発言を聞いた奏夜は苦笑いをしていた。

 

「これから朝と晩。ここでダンスと歌とは別に基礎体力をつける練習をしてもらいます」

 

「えぇ!?」

 

「1日2回も!?」

 

1回だけでもきついというのに、1日2回もこのトレーニングをこなさなければならないと知った穂乃果とことりは、海未の言葉に驚愕していた。

 

「そうです。やるからにはちゃんとしたライブをやります。そうじゃなければ生徒も集まりませんからね」

 

「はぁい……」

 

穂乃果は膨れっ面ながらも渋々了承していた。

 

「さっ、穂乃果とことりはもうワンセットです!」

 

「えぇ!?そーくんだけずるい!」

 

「奏夜は十分過ぎるくらいに基礎体力がありますからね。さ、行きますよ」

 

穂乃果たちが再び階段ダッシュを始めようとしたその時だった。

 

「君たち」

 

奏夜たちに声をかけて来たのは何故か巫女さんの格好をしている副会長こと東條希だった。

 

「あれ?確か東條先輩……でしたよね?どうしたんです?まさか….コスプレ?」

 

「そんな訳ないやん。ここでお手伝いをしてるんよ」

 

「で、ですよねー」

 

奏夜はもしここで肯定されたら逆にどうしようかと思っており、苦笑いをしていた。

 

「神社は色んな気が集まるスピリチュアルな場所やから……」

 

神社は気が集まりやすいというのは奏夜もよく理解していたのだが、奏夜は希に不思議な力があるのか?と疑っていた。

 

「4人とも、ここの階段を使わせてもらってるんやからお参りくらいしていき」

 

確かに練習で階段を使わせてもらっているため、奏夜たちは練習を再開する前にお参りをする事になった。

 

(……さて、何をお願いしようか……)

 

奏夜は一瞬ふざけようかなとも考えたが、海未の制裁が怖いので真面目にお願いすることにした。

 

「初ライブが上手くいきますように!」

 

「「「いきますように!」」」

 

奏夜たちは、これから行われる初ライブが成功するよう祈っていた。

 

神社でお参りを終えた奏夜たちは、練習を再開して、それが終わると4人揃って登校した。

 

奏夜は朝からエレメントの浄化を行わなければならないのだが、実は神社での練習が始まる前にやれる範囲で済ませているため、4人揃っての登校が可能だったのである。

 

奏夜は穂乃果たちと登校する機会はほぼなかったため、一緒に登校できる事を喜びながら学校へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、学校へ到着した奏夜たちはそのまま授業を受けたのであった。

 

この日のとある休み時間。奏夜と穂乃果が出会った赤髪の少女に作曲を依頼するべく1年生の教室に向かった。

 

昨日、その少女に作曲を依頼しようという話をしており、休み時間に1年生の教室に行こうという話も既にしていたのである。

 

何故教室に行こうという話になったのかは、1年生は1クラスだから教室に行けば会えると思ったからだ。

 

「失礼します」

 

穂乃果に続いて奏夜たちも中に入ったのだが、奏夜たちが入るなり教室がざわつき始めた。

 

唐突に上級生が来れば1年生たちがざわついてしまうのは当然のことである。

 

「1年生のみなさん、こんにちは!私はスクールアイドルの高坂穂乃果です」

 

《おいおい。まだグループ名も決まってないのにアイドル名乗っちゃうのかよ……》

 

(そうだな……。それに、教室にいる子たちはみんなキョトンとしてるしな……)

 

キルバはまだ浸透していないにも関わらず、唐突にスクールアイドルを名乗る穂乃果に呆れていた。

 

どうやらそれは奏夜も思っていたようで、苦笑いをしていた。

 

奏夜は周囲を見渡すのだが、どうやら今は探している赤髪の少女はいないようだ。

 

「あれ?全く浸透してない……」

 

「そりゃそうだろ」

 

穂乃果は自分たちがスクールアイドルだと浸透していないことにポカンとしていたのだが、奏夜はそれをよくわかっているため、ジト目でツッコミをいれていた。

 

「いきなりごめんな。ちょっと人を探してて……」

 

奏夜が教室の子達に赤髪の少女の事を聞こうとしたのだが、その前に教室のドアが開き、赤髪の少女が入ってきた。

 

「あっ!あなた!ちょっといい?」

 

「えぇ?」

 

いきなり上級生である穂乃果に声をかけられ、少女ら戸惑っていた。

 

ここだと明らかに目立つので、屋上で話をすることになった。

 

屋上に着くなり奏夜たちは彼女に事情を話して作曲をお願いしたのだが……。

 

「お断りします」

 

少女は一切迷うことなく、奏夜たちの作曲依頼を断っていた。

 

《……やはり断られたか……》

 

(確かに……。何となく断られそうな気はしてたけど、ここまで即答されるとは……)

 

キルバは赤髪の少女がこの話を断る事を予想しており、奏夜はここまで即答されるのは予想外だったので、苦笑いをしていた。

 

「お願い。あなたに作曲して欲しいの」

 

「お断りします!」

 

赤髪の少女は少しだけ語気を強くしており、断固拒否の意思を示していた。

 

「そっか……。悪いな、急にこんな話をして。俺たち、誰も作曲出来なくてな。作曲出来る人を探していたんだよ。君、ピアノは弾けるけど、作曲はてんでダメ……って訳ではないだろう?」

 

「あ、当たり前でしょう!?」

 

赤髪の少女は、奏夜の言葉が癪だったのか、少しだけムッとしていた。

 

「……悪い。気を悪くしたなら謝るよ。ただ俺は確認したかっただけなんだ」

 

「あ……いえ……。だけど私、やりたくないんです」

 

奏夜に悪気がある訳ではないとわかると、赤髪の少女は少しだけしおらしくなっていた。

 

そして、謙虚気味に作曲をする気はない事を伝えたのである。

 

「学校に生徒を集めるためだよ!その歌で生徒が集まれば……」

 

「興味ないです!」

 

それだけ言うと赤髪の少女は屋上から出て行ってしまった。

 

作曲の依頼を断られ、少しだけ気まずい空気があふれていた。

 

「お断りしますなんて……海未ちゃんみたい……」

 

「いやいや、それは言い方が同じだけだろ?」

 

「あれが普通の反応です」

 

「まぁ、あの子自体は廃校については何にも思ってないかもしれないし、興味ないってのは仕方ないかもしれないな……」

 

奏夜は廃校を阻止したいなんて思っているのは自分たちだけなのでは?と悲観的なことを考えてしまい、そんな考えのもとに、現実的な話をしていた。

 

「……せっかく海未ちゃんがいい歌詞を作ってくれたのに……」

 

穂乃果は制服のポケットから1枚の紙を取り出したのだが、それは、海未が考えた曲の歌詞であった。

 

「あっ!ダメです!」

 

海未は読まれるのが恥ずかしかったからか、穂乃果が持っている紙を奪おうとするが穂乃果は必死にそれを守っていた。

 

「何で?曲が完成したらみんなに聞いてもらうんだよ?」

 

「それはそうですが!」

 

穂乃果と海未のやり取りを奏夜とことりは苦笑いをしながら見守っていた。

 

《やれやれ……》

 

そして、キルバはそんなやり取りを見て呆れていた。

 

……その時だった。

 

屋上の扉が開かれると、屋上に入ってきたのはなんと生徒会長である絢瀬絵里だった。

 

「生徒会長。わざわざこんなところに来るなんて、もしかして俺たちに用事ですか?」

 

「えぇ。あなたたちに話があるの」

 

どうやら絵里は奏夜たちに話があるようであり、とあることを語り始めた。

 

その話を奏夜たちは黙って聞いていたのだが、奏夜はその話を聞いて苛立ちを募らせ反論しようとするも、海未に制止されたため、黙って話を聞くことしか出来なかった。

 

そして、話を終えた絵里はそのまま教室へと戻っていき、奏夜たちもとりあえず教室に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

休み時間が終わり、現在は授業中。

 

奏夜は真面目に授業を受けていたのだが、穂乃果は心ここにあらずという感じで窓から見える景色を眺めていた。

 

恐らくは、絵里に言われた言葉を気にしていると思われていたのだが、奏夜はそんな穂乃果が気になっていた。

 

絵里はスクールアイドルを行うのは逆効果であることを言っていた。

 

さらに絵里は、こう話を続けた。

 

『スクールアイドルのいなかったこの学校で、やってみたけどやっぱりダメでしたとなったら……。みんなどう思うかしら……。私もこの学校がなくなって欲しくない……。本当にそう思っているから簡単に考えて欲しくないの……』

 

簡単に思ってるなんて思っていない。

 

奏夜はこう異議を唱えたかったのだが、海未やキルバに制止されたため、言うことが出来なかった。

 

穂乃果たち3人の覚悟は本物だということを奏夜はよく理解していた。

 

そのため、絵里の言葉を気にする必要はないと思っていたが、絵里の言葉を真に受けて落ち込んでいる穂乃果にイライラしていた。

 

「私……ちょっと簡単に考え過ぎてたのかも……」

 

「やっと気付いたのですか?」

 

そして昼休みになると奏夜たちは中庭で食事を取ろうとしていたのだが、話は自然と生徒会長との話のことになっていた。

 

「でも、ふざけてやってた訳じゃないよ。海未ちゃんのメニュー、こなしているし……おかげで足は筋肉痛だけど……」

 

「確かに……頑張っているとは思いますが……。生徒会長が言ったことはちゃんと受け止めなくてはいけません」

 

「そうだよね……。あと1カ月もないんだもんね……」

 

「ライブをやるにしても、歌う曲くらいは決めておかないと……」

 

「まぁ、紬さんに作曲を依頼すれば何とかなるとはなるとは思うが、出来れば自分たちの力でやりたいよな……」

 

桜ヶ丘高校軽音部で作曲を担当していた紬に頼れば簡単に作曲の問題は解決するのだが、それをするのは甘えだと奏夜は考えていたため、それはしたくないと考えていた。

 

「そうですね……。ですが、今から他の作曲者を探すのは難しいでしょうね。だから曲は他のスクールアイドルの曲を使うしかありませんね……」

 

「そうだよね……」

 

「うん……」

 

奏夜はあまりテンションが低くなっている穂乃果たちに苛立ちを隠せなかった。

 

そして、我慢出来なくなった奏夜は口を開こうとしたのだが……。

 

『やれやれ……。あのお嬢ちゃんに言われたことを真に受けて落ち込むとは……。お前らのアイドルをやりたいという気持ちはそんなものだったんだな』

 

「「「っ!?」」」

 

キルバの放った言葉はとても厳しいものであり、穂乃果たちはその言葉に反論する事が出来なかった。

 

「……悪いが、俺もキルバと同意見だ。本気でスクールアイドルをやりたいと思うなら、誰になんと言われようとそんなものを跳ね除けてやる必要がある」

 

「そーくん……」

 

「キルバ……」

 

「それに、俺たちは今自分たちにやれることを自分たちのペースでやればいいんだよ。それに、作曲の件だって俺は諦めた訳じゃないぞ」

 

「ですが、あれだけ拒否反応を示されては厳しいのでは?」

 

「そこは俺に任せてくれないか?お前らは曲の完成に備えて基礎体力をつけることに集中して欲しいんだよ」

 

実際にパフォーマンスをしない奏夜だからこそやらねば。そんな気持ちが奏夜を突き動かしていた。

 

「うん……ありがとね……そーくん」

 

「私たちにハッパをかけてくれる言葉を言ってもらい……感謝してます!」

 

「本当にありがとね、そーくん♪」

 

穂乃果、海未、ことりの3人は、口々に奏夜とキルバに礼を言っていた。

 

「気にするな。俺はお前ら3人のマネージャーだからな。そんなお前らのやる気を引き出すのも俺の仕事さ」

 

奏夜は実際にパフォーマンスをする訳ではなく、ただ優しく励ますだけが穂乃果たちのためになるとは思っていなかった。

 

時には厳しい言葉を投げかけて3人のやる気を引き出すのも、マネージャーとしてやるべきことだと奏夜は自覚している。

 

時には優しく。時には厳しく。

 

自分もこのスタイルで魔戒騎士として鍛えてもらったため、穂乃果たちを一人前のスクールアイドルにするためにこのスタイルを貫くつもりだった。

 

「さてと……。目安箱に何か入ってないもしれないしな。ちょっと見に行ってくるよ」

 

奏夜はゆっくりと立ち上がると、ライブのお知らせのポスターが貼ってある場所へと移動を開始した。

 

そこに、穂乃果たちの名前を募集するための目安箱もそこに設置してるからである。

 

「あっ!穂乃果も行く!!」

 

穂乃果も奏夜について行く意思を伝えると、慌てて奏夜を追いかけていった。

 

奏夜は穂乃果と共にポスターと目安箱がある場所へと到着し、奏夜が目安箱の中身を見ようとしたその時だった。

 

「練習、頑張ってる?」

 

ヒフミトリオの3人が奏夜と穂乃果に声をかけてきた。

 

「おう、ヒフミトリオ。どうしたんだ?」

 

「アハハ……。ライブで何か手伝えることがあったら言ってね。奏夜くんだけじゃ大変だろうし」

 

相変わらず奏夜は3人をヒフミトリオと呼んでおり、短いツインテールが特徴のミカは苦笑いをしていたが、奏夜たちをサポートする旨を伝えていた。

 

「照明とかお客さんの整理とかやらなきゃいけないことは多いからねぇ」

 

「えっ、本当に?」

 

「うん。だって穂乃果たちは学校のために頑張っているんだし」

 

「クラスのみんなも応援しようって言ってるよ」

 

(……良かったな、穂乃果……)

 

こうやって自分たちのことを応援してくれる人がいる。

 

これだけでも穂乃果には大きな励みとなった。

 

「……そうなんだ……ありがとう……」

 

「それじゃあ頑張ってね」

 

「うん♪バイバイ!」

 

俺たちはヒフミトリオを笑顔で見送った。

 

「……友達ってのは何かいいな」

 

「うん!穂乃果もそう思う!」

 

穂乃果の表示も明るくなり、奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

いつもはまるで太陽のように明るい穂乃果に暗い顔は似合わない。奏夜はそう思っていたのである。

 

「さて、グループ名。なんか入ってればいいな」

 

「うん!」

 

穂乃果はニコニコしながら目安箱を開けたのだが……。

 

「そーくん!入ってたよ、一枚!」

 

「本当か?」

 

まさか、本当に入ってるとは思ってなかったのか、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「ねぇねぇ、そーくん!早くみんなに見せに行こうよ!」

 

「穂乃果。わかったから引っ張るなって」

 

奏夜は穂乃果に引っ張られる形で海未とことりが待つ教室へと向かった。

 

「海未ちゃん!ことりちゃん!一枚入ってたよ!」

 

穂乃果は教室に入るなり箱の中に一枚だけ入っていたことを2人に報告した。

 

「入ってたの?」

 

「本当ですか?」

 

「うん!ほら、これがそうだよ」

 

穂乃果は一枚の紙を2人に見せていた。

 

変な意見じゃなければいいのだが……。

 

そんなことを考えていた奏夜は、期待と同時に不安を抱いていた。

 

穂乃果はさっそくその紙を開いてみると……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには「μ's」と書かれていた。

 

「これってゆーず?」

 

「いやいや、ミューズだろ」

 

「あぁ、穂乃果知ってる!石鹸の……」

 

「違うだろ」

 

穂乃果はボケて言ってるのか本気で言ってるのかは分からなかったが、奏夜はジト目で穂乃果を見ていた。

 

《……おい、奏夜。確か、ミューズといえば、神話に出てくる芸術を司る女神のことだ》

 

(へぇ、芸術の女神ねぇ……)

 

キルバはミューズの意味を理解しており、奏夜は感心していた。

 

「……ミューズって、芸術を司る女神のことみたいだぞ」

 

テレパシーでキルバが言っていたことを、奏夜は穂乃果たちに伝えていた。

 

「芸術の女神……ですか……」

 

「へぇ、そーくん!物知りだね!」

 

「いや。俺じゃなくてな……」

 

奏夜はチラッとキルバに視線を向けると、穂乃果たちは先ほどはキルバの言ったことだと理解していた。

 

「いいと思う♪ことりは好きだよ♪」

 

「えぇ!私も良いと思います!」

 

「うん!今日から私たちは…μ'sだ!」

 

どうやら穂乃果たちはこのμ'sという名前が気に入ったようであり、グループ名はμ’sに決まった。

 

奏夜もこの名前は悪くないと思っており、これを誰が書いたのかは気になっていたが、今はそれを考えるのはやめた。

 

絵里に厳しい言葉を言われてしゅんとしていた3人だったが、そんな暗い気持ちはどこかへと吹き飛んでしまっていた。

 

今は俺に出来ることを全力でやろう。

 

そう考えた奏夜は、放課後になったら行動を開始しようと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後になり、基礎体力をつけるためのトレーニングをするために神田明神へ向かった穂乃果たちを見送った奏夜は再び1年生の教室へと向かった。

 

教室の中を覗くと赤髪の少女の姿はなかった。

 

(……まさかもう帰っちゃったか?それとも……)

 

《あぁ。音楽室にいる可能性は高いかもな》

 

奏夜とキルバはテレパシーで会話をしながら赤髪の少女の場所を推察していたのだが……。

 

「あっ、あの……」

 

オレンジのように明るい髪で眼鏡をかけた大人しそうな少女が奏夜に声をかけていた。

 

「ん?どうしたの?」

 

「あの、先輩は西木野さんを探しているんですよね?ピアノが上手な……」

 

「へぇ、あの赤髪の子は西木野さんって言うんだな」

 

「はい、そうです。…西木野真姫(にしきのまき)さん」

 

奏夜はここで赤髪の少女の名前を知ることが出来て、思わぬ収穫に喜んでいた。

 

「そうなんだよね、ちょっと彼女に用事があってさ…」

 

「多分西木野さんなら音楽室じゃないですかぁ?」

 

今度はショートヘアの少女が奏夜に話しかけてきた。

 

(やっぱり音楽室か……。そんな気はしていたが……)

 

《そうだな……。あのお嬢ちゃんは普段から音楽室にいる事が多いんじゃないのか?何となくではあるが、仲の良い奴がいなさそうだしな》

 

(おい、キルバ!さすがにそれは失礼だろ!)

 

キルバが赤髪の少女……真姫に失礼なことを言っており、奏夜がそれをなだめるのだが……。

 

「あの子、あまりみんなと話さないんです。休み時間はいつも図書館だし、放課後は音楽室だし」

 

(……ま、マジかよ!本当に仲の良い奴がいないのか?)

 

《やはりな……。あのお嬢ちゃんはあれだけツンデレなんだ。そうなのも納得だ》

 

どうやら真姫は上手く他人と溶け込めないタイプのようであり、キルバは真姫のそんな一面を見抜いていた。

 

「そうなんだ……。2人ともありがとな!」

 

奏夜は2人に礼を言って音楽室に向かおうとするのだが……。

 

「……あっ、あの!!」

 

眼鏡の少女に呼び止められてしまい、奏夜は足を止めた。

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「せ、先輩ってもしかして、この学校に出来たスクールアイドルのマネージャーさん……ですよね?」

 

「あぁ、そうだぞ」

 

自分が穂乃果たち3人……μ’sのマネージャーであることは隠し立てする必要のないことなので、奏夜はあっさりと答えていた。

 

「あ、あの……。頑張ってくださいね……。アイドル……」

 

「あぁ、ありがとうな。そう言ってくれると嬉しいよ。……えっと……」

 

「あっ、私は小泉花陽です……」

 

「凛は星空凛です♪よろしくお願いしますにゃ♪」

 

「花陽ちゃんに凛ちゃんね。俺は如月奏夜。2人ともよろしくな」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします…。如月先輩…」

 

「そーや先輩♪よろしくだにゃ♪」

 

《……おい、何なんだ?何故このお嬢ちゃんは語尾に「にゃ」などと猫みたいなことを……》

 

(まぁまぁ。そういう人がいてもおかしくはないだろ)

 

キルバだけではなく、奏夜も凛の語尾が気になってはいたのだが、そういう人もいると悟り、キルバをなだめていた。

 

「とりあえず、2人ともありがとな。それじゃ!」

 

奏夜は2人に礼を改めて言うと今度こそ音楽室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

奏夜が音楽室にたどり着くと、赤髪の少女、西木野真姫は、やはりピアノを弾いていた。

 

そのピアノの技術はかなりのものであり、奏夜はそんな真姫のピアノに聴き入っていた。

 

そして最後まで真姫のピアノを聴いた奏夜は、穏やかな表情で笑みを浮かべながら拍手を送っていた。

 

「ゔぇぇぇ……」

 

奏夜が聴いているとは思っていなかったのか、真姫は再び独特な声をあげて驚いていた。

 

そこを気にすることをせず、奏夜は音楽室の中に入った。

 

「相変わらず上手いな。本当に凄いよ」

 

「あっ、当たり前でしょ!そんなことを言うためにわざわざ来たんですか?」

 

《相変わらずツンデレだな……》

 

(アハハ……そうかもな……)

 

真姫のツンツンした発言を聞き、キルバはやはり真姫がツンデレでと予想していたのだが、それを聞いた奏夜は苦笑いをしていた。

 

「まぁ、本題は作曲についてなんだけどさ」

 

「しつこいですね」

 

「まぁ、そう言われちゃ何も言えないかな」

 

自分でもしつこいということは自覚していたため、奏夜はそう言われてしまうと、反論することは出来なかった。

 

「……それに私、ああいう曲一切聴かないんです。聴くのはジャズとかクラシックばかりで」

 

ジャズとクラシックばかり聴いていると聞き、奏夜はイメージ通りだなと考えて苦笑いをしていた。

 

「へぇ、それはどうしてなんだ?」

 

イメージ通りであると考えているが、何故アイドルの曲を聴かないのか一応理由を聞いてみることにした。

 

すると……。

 

「軽いからよ!」

 

「軽い……ねぇ……」

 

奏夜は真姫の言葉に反論することはなく、ジッと真姫の話を聞いていた。

 

「なんか薄っぺらくて……。ただ遊んでる風にしか見えないのよ」

 

「……なるほどな……。だけど、本当にそうなのか?」

 

「な……何が言いたいのよ!」

 

「まぁ、そんなイメージを持つのは仕方ないし、勝手だけどさ、アイドルって意外と大変なんだよ。予想以上に体力を使うしな」

 

「……そうなんですか?」

 

「まぁな。いきなりで悪いんだが、腕立て伏せをやってみてくれないか?……出来るよな?」

 

「んな……!当たり前でしょ!」

 

奏夜は真姫を焚き付ける形で腕立て伏せをさせていた。

 

真姫は制服のブレザーを脱いで腕立て伏せを始めたが、穂乃果よりも出来ていた。

 

「こ、これでいいの?」

 

「へぇ、それなりに出来るじゃないか」

 

「あっ、当たり前でしょ?」

 

少し腕立て伏せが出来ただけなのだが、真姫は何故か誇らしげにドヤ顔をしていた。

 

「それじゃあ、次は笑顔を保ったまま続けてみてくれ」

 

「ゔぇ!?」

 

今度は笑顔で腕立て伏せを始めたが、予想通り長くは持たなかった。

 

「急にこんなことやらせてごめんな。だけど、これでわかっただろ?アイドルは大変だってさ」

 

「な、何のことよ?」

 

「それでな。今度やる曲の歌詞だけは出来てるんだよ。それを一度君に見て欲しいんだ」

 

奏夜はポケットから海未から預かった歌詞が書いてある紙を真姫に差しだそうとした。

 

「だ、だから私は……」

 

「読むだけだったらいいだろう?また改めて聞きに来るよ。もちろんそれでダメならきっぱりと諦める」

 

奏夜は半ば強引に歌詞の書かれた紙を真姫に手渡していた。

 

「……答えが変わることはないと思いますけど……」

 

「その時はその時だよ。……だけど、またピアノを聴かせてくれよな。放課後はよく音楽室に来てるんだろ?」

 

「えぇ、まぁ……」

 

「……それにな。西木野さん……だっけ?君のピアノを聞いてると、なんでだろうな……。ここじゃない高校に通ってた先輩のことを思い出したんだよ」

 

「先輩……ですか?」

 

「あぁ。その先輩たちはお世辞にもプロ並に上手い演奏をする訳じゃない。だけどさ、演奏をしてる時は凄く楽しそうでキラキラしてるんだよ……」

 

「……」

 

奏夜の語る先輩というのはもちろん統夜のことであり、統夜たちのバンドである「放課後ティータイム」の演奏を聴いた時のことを思い出しながら、奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

真姫はとても優しい表情になっている奏夜の顔をジッと見て、話を聞いていた。

 

「……まぁ、曲の感じは全然違うんだけどな」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ。……こんなことを言うのはあまり良くないのかもしれないけど、君のピアノはなんとなく悲しさとか寂しさとかそんな感情が伝わってきたんだよね」

 

「!!」

 

まさか自分がピアノを奏でている時の心情を悟られるとは思っていなかったので、真姫は驚きのあまり目を見開いていた。

 

「……だからさ、俺はまた君のピアノが聞きたいよ。……心から演奏を楽しんでる君の演奏をね……」

 

「あ……」

 

奏夜の言葉は苦言と言えなくはないが、自分にここまでのことを言ってくれる人と出会うのは初めてだったため、真姫はそんな奏夜の言葉に心を打たれていた。

 

「……あ、そうそう。俺たち毎日朝と夕方に神田明神で練習やってるんだ。気が向いたらでいいからさ、顔を出してくれよ。それじゃあな」

 

奏夜は言いたいことを全部言ってすっきりしたのか、音楽室を後にしようとしたのだが……。

 

「あっ、待って!!」

 

真姫は奏夜を引き止めたので、奏夜はすぐに足を止めていた。

 

「……ん?どうした?」

 

「あなた……。名前は?」

 

「俺か?俺は如月奏夜。よろしくな、西木野さん」

 

「……ふ、ふん!」

 

真姫は素直によろしくと答えるのが恥ずかしかったのか、頬を赤らめながらそっぽを向いていた。

 

「やれやれ……」

 

真姫のツンデレな対応に、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「……ま、そういうことで、またな。西木野さん。またピアノを聴かせてくれよ」

 

奏夜は今度こそ音楽室を後にするとトレーニングを行なっているであろう穂乃果たちと合流するために神田明神へと向かった。

 

「……如月先輩……か」

 

音楽室を出て行く奏夜を見送ると、真姫は奏夜の名前をボソッと呼んでいた。

 

自分の心情をあそこまで見透かした人間とこれまで出会ったことはないため、奏夜のことが少しばかり気になったのである。

 

しかしそれは奏夜に恋をしているとかそういう訳ではなく、ただ気になるといった感じであった。

 

それだけではなく、奏夜の放つ他の人とは違う異様な雰囲気が気になっていた。

 

「……あれ?如月先輩みたいな雰囲気の 人に昔会ったことがあるような気がするんだけど……。誰だったかしら?」

 

真姫は奏夜と似た雰囲気の人物に会ったことがあるのだが、それが誰なのかまでは思い出せなかった。

 

どれだけ考えても思い出せなかったので、真姫はそのまま音楽室を後にして家路についたのだが、近い将来にその人物と再会を果たすことになる。

 

そうなるなど、真姫は知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ……。奏夜の説得は振るわなかったみたいだな……。あいつらの曲はどうなるのやら……。次回、「始走」。これがあいつらのスタートダッシュって訳だな!』

 

 




真姫可愛いよ、真姫。

僕は穂乃果推しですが、真姫も好きなのです(笑)

それはともかくとして、穂乃果たち3人のグループ名が「μ's」となりました。

グループ名も決まり、後は曲が決まれば本格的に動き出すことが出来るのですが、次回、奏夜たちの曲は無事に完成するのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第7話 「始走」

お待たせしました!第7話になります。

第7話にして、早くもUAが2000を越えそうです。

前作である「牙狼×けいおん 白銀の刃」の時よりもペースが早いため、驚いています。

これからも牙狼ライブ!をよろしくお願いします。

さて、前回真姫の説得に失敗してしまった奏夜ですが、μ'sの曲はどうなるのか?

それでは、第7話をどうぞ!




スクールアイドルとして動き始めた奏夜たちであったが、そのためには色々と決めなければいけないことがあるため、それが障害になっていた。

 

練習場所が決まり、グループ名も「μ's」と決まったのだが、自分たちの曲がまだ出来上がってなかった。

 

奏夜たちは1年生の西木野真姫に1度作曲を依頼するのだが、断られてしまう。

 

しかし、諦めきれなかった奏夜は、もう1度真姫に作曲をしてもらうために説得を試みた。

 

どうにか歌詞の書かれた紙を真姫に渡し、作曲してくれるかどうかはそれを読んで判断してもらうことにした。

 

真姫への説得を終えた奏夜が神田明神に到着し、神社に続く階段を上がっていくと、その先には息を切らして倒れている穂乃果とことりの姿があった。

 

「アハハ……。みんな、さっそくバテてるんだな……」

 

既に疲れきっている穂乃果とことりを見て、奏夜は苦笑いしていた。

 

「あっ、奏夜!待ってましたよ!」

 

「おう。ごめんな、少しだけ遅くなっちまって」

 

「いえ……。気にしないでください。それよりも、作曲の件はどうなりました?」

 

「そうだなぁ……。一応歌詞は渡した。どうなるかは正直わからないけどな」

 

奏夜はとりあえず結果だけを、海未に報告していた。

 

「そうですか……。作曲をしてくれれば良いのですが……」

 

「……こんなことを言っても気休めにもならんと思うけど、多分大丈夫だぞ」

 

「……何故そうだと言い切れるんですか?」

 

「そうだな……。魔戒騎士の勘……ってやつかな?」

 

『おいおい……。なんだよ、その適当な根拠は……』

 

奏夜の言っている勘というのがアテになるとは思えず、キルバは呆れ果てていた。

 

「クスッ……。確かに、あなたのその滅茶苦茶な根拠では気休めにもなりませんね」

 

奏夜の言葉は気休めにもならなかったが、海未を笑顔にすることは出来たようであった。

 

海未の無邪気な笑顔を見て、奏夜は少しだけドキッとしていた。

 

(……ほぉ、奏夜のやつ、少しはこのお嬢ちゃんたちのことを意識するようになったみたいだな……)

 

奏夜はこれまで穂乃果たちを異性としてはあまり見ている様子はなかったようだが、最近になって穂乃果たちを異性として見るようになったみたいだった。

 

「……おーい、お前ら!いつまで寝転がってるんだ?そろそろ練習を再開するぞ!」

 

「そ、そーくん……。もうちょっと休ませて……」

 

「こ、ことりも……」

 

奏夜は海未の笑顔を見てドキッとしたと見透かされたくないのか、穂乃果とことりに練習再開を提案していた。

 

「なーに言ってんだ。ほら、行くぞ!」

 

奏夜はどうにか穂乃果とことりを起こして、練習をさせようとしていた。

 

2人はどうにか起き上がったのだが……。

 

「あぅぅ……。そーくんの悪代官!!」

 

穂乃果は的外れな恨み言を言って階段ダッシュを始めていた。

 

「アハハ……。それを言うなら鬼教官なんじゃ……」

 

ことりは苦笑いをしながらツッコミをいれると、穂乃果の後を追いかけるように階段ダッシュを始めた。

 

「海未。お前も階段ダッシュをしてきたらどうだ?ここは俺が見てるからさ」

 

「それでは……。お願いします!」

 

海未は奏夜に監督をお願いすると、穂乃果やことりと共に階段ダッシュを始めた。

 

穂乃果とことりが階段ダッシュに苦戦する中、海未は軽々とダッシュのノルマを達成したのである。

 

「へぇ、さすがは海未だな。弓道部で鍛えてるだけあるよな」

 

「えぇ。私も日頃から鍛えてますけどね。……あなた程ではありませんが……」

 

海未は弓道部だけではなく、家で剣道や日舞などを行っているため、体力には自信があったのであった。

 

しかし、魔戒騎士である奏夜には到底敵わないと自負もしていた。

 

「まぁまぁ。そう自分を卑下するなって。普通の人間としてはかなり凄い方だと俺は思うけどな」

 

奏夜はお世辞でこう言っている訳ではなく、本音でこう言っていた。

 

「そ、そうですかね……?ありがとうございます……」

 

奏夜に褒められたのが嬉しかったのか、海未は頬を赤らめて恥ずかしがっていた。

 

「……それじゃあ、今度は俺が行ってくるかな。海未、2人のことをしっかり見ててくれよな」

 

「え、えぇ……。わかりました」

 

奏夜は海未と走る役と監督する役を交代すると、階段ダッシュを始めた。

 

魔戒騎士として普段から鍛えている奏夜にしてみれば物足りなさを感じており、軽々とノルマを達成するのだが、穂乃果とことりはノルマを達成する前にバテてしまい、階段を上がりきった所でその場に倒れこんでしまった。

 

「はぁ……はぁ……。も、もうダメ〜……」

 

「ことりもぉ……」

 

「ダメです!まだ2往復残ってますよ」

 

「おいおい、しっかりしろよ。2人とも」

 

奏夜は少し呆れ気味に穂乃果とことりに喝を入れていた。

 

「もぉ!何でそーくんは穂乃果たちと同じメニューこなしてるのに平気なのぉ?」

 

「みんなとは鍛え方が違うんだよ」

 

奏夜はそれを誇らしげに語ると、「ふんす!」と言いながらドヤ顔をしていた。

 

そんなドヤ顔を見て、穂乃果たちは苦笑いをしていた。

 

「しっかりしてください!それとも諦めますか?」

 

「あうぅ…海未ちゃんの悪代官!」

 

「それを言うなら鬼教官だろ?」

 

「奏夜?今何か言いました?」

 

「イエ、ナニモ」

 

悪代官や鬼教官というのは先ほども奏夜は言われたのだが、穂乃果の言葉を奏夜が訂正すると、海未はドス黒いオーラを放って奏夜を睨みつけていた。

 

奏夜は慌てて何も言ってないと主張するのだが……。

 

「奏夜はあと6往復走ってもらいます」

 

「ダニィ!?そりゃないよ!」

 

「あなたは鍛え方が違うのでしょう?」

 

先ほど言ってしまったことが、ここにきて仇となってしまった。

 

「……海未の鬼きょ……」

 

「さらに倍走りたいのですか?」

 

「イエ、行ってきま~す」

 

鬼教官と言おうとしたのだが、それを言ってしまったらさらに走らされてしまうため、奏夜は素直に階段ダッシュを始めようとしたのだが……。

 

「キャーっ!!」

 

突然女性の悲鳴が聞こえてきたので、奏夜たちは一斉に階段の方を見ていた。

 

「悲鳴?いったい何が……」

 

何かが起きたのだろうと海未は推測するのだが、奏夜は険しい表情のまま階段を降りていった。

 

「……おい!何があった!!」

 

奏夜は階段を降り、悲鳴が聞こえた現場の様子を見たのだが……。

 

「……へっ……?」

 

その現場を見た奏夜は、あまりに予想外な光景にポカンとしてしまっていた。

 

何故なら、奏夜が見た光景が、希に胸をワシワシされている真姫だったからである。

 

「な……何やってるんだよ、2人とも……」

 

あまりにも異様な光景を見た奏夜は動揺のあまり目をパチクリとさせていた。

 

「ちょっ……!何見てるのよ!!」

 

恥ずかしい光景を見られてしまった真姫は手にしていた学生鞄を奏夜の顔面目掛けて投げつけた。

 

「ふげっ!!」

 

本来であれば簡単に避けることは出来たのだが、ポカンとして集中力が欠けてしまったからか、見事に鞄が奏夜の顔面に直撃し、奏夜はその場で気絶してしまった。

 

(やれやれ……。あれくらいのものを避けられないでどうする……。奏夜、お前はやはりまだまだだな……)

 

いくらホラーとの戦いではないとはいえ、避けれるものを避けることが出来ずに気絶してしまった奏夜を見て、キルバは心底呆れていた。

 

「あっ……」

 

真姫はついカッとなって鞄を投げてしまったのだが、まさか顔面に直撃するとは思っていなかったので、やってしまったと後悔していた。

 

そして、心配そうに気絶した奏夜を眺めていたのである。

 

「あらら……。派手にやっちゃったなぁ。まぁ、この子はかなり鍛えてるみたいやし、問題はないやろ」

 

普通の人間であれば相当心配すべきところなのだが、希は奏夜であればそこまで心配することはないと思っていた。

 

しかし、それは奏夜が魔戒騎士だからと知っているからではなく、佇まいが他の人間とは違うと感じ取ったからである。

 

「……ま、それはそうと。今はまだ発展途上ってところやな」

 

「はぁ!?」

 

「だけど、望みは捨てなくても大丈夫や。大きくなる可能性はある!」

 

「な、何の話よ!?」

 

「……恥ずかしかったらこっそりという手もあると思うんや」

 

「え?だから何の話よ!」

 

「わかるやろ?」

 

それだけ言うと、希は階段を上っていき、神社の方へと向かっていった。

 

「……」

 

真姫は、神社の方へと向かっていく希をジッと眺めていた。

 

(……こっそり……ね……。まぁ、それなら、やってみても……いいのかもね……)

 

真姫は希と話をしたことにより、何かを決断していた。

 

そして、未だに気絶している奏夜に近付こうとしたその時だった。

 

「おーい!そーくん!!」

 

「そーくん!大丈夫!?」

 

「奏夜!返事をして下さい!!」

 

神社に向かった希から奏夜が気絶してると聞かされたのか、穂乃果たちが階段を下りてこちらへ向かってきていた。

 

「!!やばっ……!」

 

ここにいたら危ないと本能的に感じ取った真姫は、慌てて鞄を回収すると、逃げるようにその場を後にした。

 

その後奏夜は、穂乃果たちに介抱されてすぐ目を覚ましたのであった。

 

奏夜がこの状態では練習にならないとのことなので、この日は解散となり、奏夜は番犬所に顔を出し、指令がないことを確認してから家に帰ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、この日の朝のトレーニングの監督を海未に任せた奏夜は、エレメントの浄化を済ませてから登校した。

 

「……やれやれ……。昨日は酷い目に遭ったな……」

 

昨日の真姫による鞄攻撃が相当効いているのか、昨日のことを思い出して奏夜はブツブツと文句を言っていた。

 

《……ま、俺から言わせればあれくらいのものをかわせなあお前にも問題はあるがな》

 

(いやいや。だってあの時はあまりに異様な光景にポカンとしてたし)

 

《その油断がホラーとの戦いでは命取りになることを忘れるなよ》

 

(はいはい。言われなくてもわかってるよ)

 

キルバの小うるさい小言を軽く聞き流すと、ちょうどそのタイミングで学校の玄関に到着したので、奏夜は靴を脱ぎ、上靴に履き替える。

 

そしてそのまま自分の教室へと向かおうとしたのだが……。

 

「……如月先輩」

 

玄関を越えた所でいきなり声をかけられたので奏夜は足を止めて声のした方を向くと、そこには真姫が立っていた。

 

どうやら奏夜のことを待っていたようである。

 

「……あれ?西木野さん、どうしたんだ?」

 

まさか真姫が奏夜を待っているとは思っていなかったからか、奏夜は驚きながら真姫のことを見ていた。

 

「あっ……あの……」

 

真姫は話を切り出すのが恥ずかしいと思っているのか、モジモジとしている。

 

そんな真姫を見て、奏夜は首を傾げていた。

 

「きっ、昨日はごめんなさい……!あんなところを見られたからつい……」

 

どうにか勇気を振り絞り、真姫は頬を赤らめながらも昨日のことを奏夜に謝罪していた。

 

「アハハ……。確かにあれは効いたけど、気にするなよ……」

 

「あ、あぅぅ……」

 

奏夜の言葉には若干の棘があったからか、真姫は小さくなってしゅんとしてしまった。

 

「あっ!す、すまん!本当に怒ってる訳じゃなくてな……」

 

奏夜はしゅんとしてしまった真姫を見て、慌ててフォローを行っていた。

 

「そ、それよりも!西木野さんは昨日のことを謝るために俺のことを待っててくれたのか?」

 

奏夜はどうにか真姫に気持ちを入れ替えてもらうために、話題を変えようとしていた。

 

そんな奏夜の話を聞いた真姫はハッとして、本来の用事を思い出したのである。

 

「……き、如月先輩。これ……」

 

そう言って真姫が奏夜に差し出したのは、1枚のCDであった。

 

「!西木野さん。これって……」

 

「か、勘違いしないでよね!別に昨日のお詫びとか、あんたたちのためにじゃないんだから!そ、そう!昨日は暇だったからただの暇つぶしよ!」

 

真姫は家に帰った後、奏夜から預かった歌詞を元にして曲を作ったのであった。

 

本来であれば奏夜の下駄箱にこっそりとCDだけを入れようと考えたのだが、昨日のことは謝りたいと思ったため、玄関で奏夜のことを待っていたのである。

 

《やれやれ……。相変わらずツンデレなお嬢ちゃんだ……》

 

真姫の態度は明らかにツンデレのものであり、キルバは苦笑いをしていた。

 

それは奏夜も同じ気持ちであり、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「ちょっ……!何がおかしいのよ!」

 

「アハハ……。別に?だけど、本当にありがとな!」

 

「だ、だから私は……」

 

奏夜の笑顔を見て気恥ずかしくなったのか、真姫は髪の先端をくるくると回して照れ隠しをしていた。

 

「とりあえず、このCDはみんなで聴かせてもらうよ。また今度ピアノ聴かせてくれよな。それじゃあ!」

 

奏夜は改めて真姫に礼を言うと、そのまま教室へと向かっていった。

 

「……」

 

奏夜が教室へ向かっていく様子を、真姫はジッと眺めていた。

 

そして、教室に入った奏夜は、すでに登校しており、集まって談笑している穂乃果たちの姿を見つけたため、そちらへ歩み寄る。

 

「……みんな、おはよう。こいつを見てくれ」

 

奏夜は穂乃果たちが挨拶を返してくるのを待たずに先ほど真姫から受け取ったCDを穂乃果たちに見せた。

 

すると……。

 

「……!!そ、そーくん!それって……!」

 

「あぁ。さっき玄関で西木野さんに会ってな。その時にこれを預かったんだ」

 

「も、もしかして、あの子が作曲をしてくれたってこと?」

 

「ま、そういうことだろうな」

 

真姫が作曲をしてくれたとわかると、穂乃果たちの表情がぱぁっと明るくなっていた。

 

「ね、ねぇ!早く聴きたいよ!」

 

「そうですね!私も早く聴きたいです!」

 

真姫がどのように作曲してくれたのかが気になるのか、穂乃果と海未は興奮冷めやらぬ感じでこう主張したのだが……。

 

「お前ら、落ち着け。もう授業が始まるだろう?後でパソコンを借りてくるから放課後にじっくり聴こう」

 

奏夜の言う通り、もうじき授業が始まる時間帯のため、今聴くのではなく、放課後になったらこのCDを聴こうと奏夜は提案した。

 

「そうですね……。確かにもう授業が始まりますし、仕方ないですね……」

 

すぐにでも曲を聴きたいと思っていた海未は、しゅんとしていた。

 

それは穂乃果も同様であり、そんな2人を見て、奏夜とことりは苦笑いをしていた。

 

「……あっ、パソコンだったら、私持ってきてるから、大丈夫だよ〜」

 

どうやらことりは学校にノートパソコンを持ってきているようであった。

 

それはCDが来るとわかっていた訳ではなく、スクールアイドルのサイトをチェックするためである。

 

スクールアイドルとして動き始めたのは良いのだが、何もしていないため、まだスクールアイドルのランキングは圏外なのであった。

 

こうして、奏夜たちは普通に授業を受けて、放課後になるのを心待ちにしていた。

 

そして、放課後になると、奏夜たちは屋上に集まっていた。

 

真姫から受け取ったCDを聴くためである。

 

「……そ、それじゃあ……行くよ……!」

 

「う、うん!」

 

「はい……!」

 

「……」

 

既にパソコンは起動してあり、後はCDをセットして再生するだけだった。

 

奏夜たちはどんな曲になっているのか期待しながらCDをセットして、曲を再生したのである。

 

すると……。

 

ー♪I say~ hey hey hey start dash

 

曲を再生するなり真姫の歌声が聞こえてきた。

 

「す、すごい……!ちゃんと歌になってる…」

 

「私たちの…」

 

「私たちの…歌…」

 

ことりと海未も真姫の歌声と自分たちの歌が出来たことに感動していた。

 

「へぇ、いい感じじゃないか……」

 

『そうだな。俺も悪くないって思うぞ』

 

真姫の作った曲を聴き、予想以上の出来に、奏夜とキルバは感心していた。

 

奏夜たちがしばらく曲に聴き入っていると、パソコンの右下に画面が現れるとμ'sに1票だけだが票が入り、ランク外から999位になった。

 

「票が入った……!」

 

票が入ったことに穂乃果たちは驚きと同時に嬉しいという感情が溢れてきていた。

 

「……票が入ったってことは、これが俺たちμ'sの本当のスタートって訳だ。今まで以上に気を引き締めて頑張らないとな」

 

今まではスクールアイドルとしてスタートラインにも立てなかったのだが、ここでようやくスタートラインに立つことが出来たのである。

 

ここからがスクールアイドルとしての正念場となってくるので、奏夜は穂乃果たちに喝を入れていた。

 

「うん!そうだね!」

 

「えぇ、もちろんです!これからはもっと気を引き締めていきます!」

 

ことりと海未は、奏夜からの喝を素直に受け入れて、今まで以上にやる気になっていた。

 

「……みんな!練習しよう!練習!!」

 

「「うん!(はい)!!」」

 

穂乃果も曲が出来たことと、ランキングに入ることが出来たことでやる気になったのか、率先して練習しようと提案をしていた。

 

こうして真姫の作り終わった曲を聴き終えた穂乃果たちは階段ダッシュを行うために神田明神へと向かう準備を行うことにしたのである。

 

『……なぁ、奏夜。μ'sに票が入った訳だが、いったい誰が票を入れたんだろうな?スクールアイドルとしてはまだまだ知られていないハズだと言うのに……』

 

キルバは、μ'sに票を入れてくれた人物がいったい誰なのかがとても気になっていた。

 

しかし、奏夜はその人物に心当たりがあり、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「……フッ、決まってんだろ?」

 

『……!!ま、まさか……』

 

奏夜が笑みを浮かべるのを見たキルバは、そこでようやく誰が票を入れたのかピンと来たようである。

 

キルバがその人物の名前を言おうとするのだが……。

 

「……奏夜!!いつまでそこで呆けてるのですか?早く行きますよ!」

 

その前に既に屋上の入り口に移動していた海未に声をかけられたのであった。

 

「……おう!今行く!」

 

海未に声をかけられたことで、奏夜は慌てて穂乃果たちのもとへ駆け寄り、1度教室へ戻ってから神田明神へと向かっていった。

 

奏夜とキルバはμ'sに票を入れてくれたのが作曲をしてくれた真姫だと予想していた。

 

その予想は当たっており、μ'sに票を入れた真姫は、充実感に満ち溢れた表情をしていた。

 

しかし、穂乃果たち3人は、自分たちに票を入れてくれたのが真姫であると気付いたのはもう少し後のことである。

 

こうして、曲が完成したことにより、穂乃果たちのグループμ'sは本格的にスタートしたのであった。

 

いや、これこそが、この曲のタイトルにもなっているのだが、穂乃果たちμ'sにとっての「START:DASH」なのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『フン、親子の愛情というのは厄介な存在だな。それが失われるとここまで歪んだものになるんだからな。次回、「愛憎」。深すぎる愛情には要注意だぞ!』

 

 

 




今回はいつもと比べて短めとなっています。

話によってかなり長くなったり短くなったりしていますが、そこはご了承ください。

そして、ようやくμ'sの曲が完成しました!

今回のタイトルとなっている始走は、「START:DASH」をイメージしてつけてみました。

それにしても、今回初めて希のワシワシが登場しましたね。

それを偶然目撃する奏夜のラッキースケベぶりがまた……(笑)

これからも奏夜のラッキースケベは続いていくのか……?これからはそこも期待しながら見てみてください!

さて、次回は完全オリジナル回となっています。

この小説が始まって牙狼メインの話がなかった気がするので、ここで取り入れてみました。

いったいどのような話になるのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第8話 「愛憎」

お待たせしました!第8話になります!

そういえば、スパロボVがようやく発売しましたね。

僕もちょこちょこですが、プレイしています。

FF14とスパロボV。2つもやりたいゲームがあるため、執筆が全然進んでないですが、投稿の方は今のペースを崩さないようにとは思ってます。

さて、今回はオリジナル回となっていますが、いったいどのようになるのか?

それでは、第8話をどうぞ!




……ここは秋葉原某所にあるごく普通の一軒家。

 

ここに住んでいる60代後半の男性は、ヘルメットのようなものを抱えて悲しんでいた。

 

男性が持っているヘルメットのようなものは、男性の息子が被っていたものである。

 

男性の息子は、紛争地帯の真実を取材する戦場カメラマンだったのだが、取材の最中に流れ弾が頭部に直撃してしまい、命を落としてしまったのだ。

 

その訃報が聞かされたのはおよそ2週間前であり、男性は息子と無言の対面を果たすことになってしまった。

 

その時に男性は息子の形見であるヘルメットを持ち帰り、現在もなおこのヘルメットを抱えて悲しみにくれていたのである。

 

「……雅也!!何でお前は死んでしまったんだ!!」

 

男性は息子の死を受け入れられないのか、このように叫んで涙を流していた。

 

男性の妻は息子が産まれて間もなく亡くなってしまい、男性は男手ひとつで息子を育て上げたのだ。

 

そして息子は戦場カメラマンとして紛争地帯へと赴き、亡くなってしまったのである。

 

男性には親戚も頼れる人もおらず、息子を失ってしまったら1人になってしまったのだ。

 

「……いや、息子は死んじゃいない!あれは偽者だ……!」

 

男性は息子の死などなかったものにしたかったのか、このような歪んだ考えを持つようになっていた。

 

「警察の奴らめ……!!俺に嘘を教えやがって……!許さんぞ!!」

 

このような歪んだ考えは、警察への逆恨みへと変わっていったのである。

 

その時だった。

 

__そうだ……。お前の息子はまだ死んじゃいない……!!

 

「っ!?だ、誰だ!!」

 

男性の脳裏に突如謎の声が聞こえてきたため、男性は周囲を見回すのだが、誰もいなかった。

 

__無能な警察はお前の息子が生きていることを隠している……。そんな奴らが許せるのか……?

 

「そんな訳はない!……そうだ!俺は警察に復讐してやる……!例え悪魔と契約をしてもな……!!」

 

歪んだ考えによる警察への逆恨みが、男性の思考をおかしなものに変貌させたのである。

 

__よく言った!ならば、我を受け入れよ!!

 

謎の声がこのように宣言すると、息子の形見であるヘルメットから、黒い帯のようなものが現れ、それは男性の中へと入っていった。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

男性はまるで獣のような断末魔をあげるのだが、黒い帯のようなものを受け入れていた。

 

こうして、息子のヘルメットがゲートとなり、男性はホラーに憑依されてしまったのである。

 

「……ふっ……。警察に……復讐してやる……!」

 

ホラーに憑依された男性は、怪しげな笑みを浮かべると、どこかへと姿を消していった。

 

 

 

 

 

その頃、秋葉原交番で勤務する警官が、自転車を走らせながら街の見回りを行っていた。

 

「……うん。今日は以上なし……かな」

 

今日は大きなトラブルもなく、早々に交番へ戻ってひと休みしようと考えていた。

 

その時、警官の目の前にホラーに憑依されてしまった男性が立ちはだかっていた。

 

「……あれ?あなたは確か縫製屋の……どうしたんですか?」

 

ホラーに憑依されてしまった男性は、近所で服に使う生地などを扱う縫製屋を細々と経営していた。

 

扱う生地のクオリティは高く、客もそれなりに来ているため、細々と経営してても、売り上げ的には赤字ではなく、黒字であった。

 

この警官は、男性の息子が亡くなった時も対応していたため、男性のことはよく覚えていたのである。

 

「……なぁ、俺の息子は……。息子はいったいどこに行ったんだ……」

 

「へ?何言ってるんですか?あなたの息子さんは紛争地帯で亡くなってしまったではないですか」

 

その事実は男性もよくわかっているハズなので、警官は面食らっていた。

 

「嘘をつくな!息子は……。息子はまだ死んじゃいねぇ!!答えろ!息子をいったいどこに隠したんだ!」

 

男性は警官の胸ぐらを掴むと、鋭い目付きで警官を睨みつけていた。

 

 

「ちょっと……。いい加減にしろよ!じゃないと、公務執行妨害で逮捕するぞ!」

 

男性に胸ぐらを掴まれて黙っている警官ではなく、強気な発言で、男性を牽制していた。

 

男性は警官を突き飛ばす形で手を離すのだが、公務執行妨害と言われても、何故か男性は平然としている。

 

それが警官には不気味な光景だった。

 

「……わかった。もういい。真実を話してくれないなら用はない。……俺の餌にしてやる!」

 

「餌?おい、お前、何を言って……」

 

男性の放つあまりに不気味な言葉に警官は少し怯えていたのだが、男性の目が真っ白になると、人間の姿からホラーの姿へと変わっていった。

 

「……ひっ!?ば、化け物!?」

 

そのホラーは大きな剣を手にしており、肩の部分にはまるで鍛冶屋の人間が使うようなものが存在しており、その出で立ちはまるで鍛冶屋の巨人だった。

 

警官は突如現れた怪物を相手にしようにも、拳銃も警棒もないため、丸腰であった。

 

「く……来るな……!」

 

「くくく……。いただき……。ん?」

 

ホラーは警官を捕食しようとしたのだが、何かを感じ取り、それを辞めたのである。

 

ホラーの視線の向こうには、茶色のロングコートの少年……。奏夜が鋭い目付きで立っていた。

 

奏夜は街の見回りをしていたのだが、偶然にもキルバがホラーの気配を探知したため、ここへ急行したのである。

 

奏夜はすぐにでも魔戒剣を出そうとするが、助けようとしている相手が警官のため、迂闊に剣を出すことが出来なかった。

 

そのため、警官の前に移動すると、警官を守る体勢に入った。

 

「き……君は?」

 

「そんなことよりも早く逃げて下さい!こいつは普通じゃない!」

 

「で、でも!君はどうするんだ?」

 

警官は自分の立場上、自分だけ逃げるなど出来るわけがなく、奏夜にこう訪ねていた。

 

「俺だってすぐ逃げますよ!だから早く!」

 

「す、すまない!死ぬなよ!」

 

警官は今すぐにでも逃げ出したいと思っていたため、奏夜もすぐ逃げると聞いて安心したのか、自転車を回収すると、大慌てで逃げ出した。

 

奏夜は警官が逃げ出すのと同時に警官の背中に札のようなものを貼った。

 

これはホラーに襲われた人間のホラーに関する記憶を消し去るものなのだが、普段使っている札を使うとその場で意識を失ってしまうため、警官がホラーから逃げ切ったタイミングでその効果が発揮するよう細工したものを使用していた。

 

そんなことなど知る由もなく、警官は逃げ出すのだが、警官が逃げ切った頃には札の効果が発動し、何故自分が必死に逃げていたのかを忘れていたのである。

 

「……さて……。これで戦いに専念出来るな……」

 

警官がいなくなったことを確認すると、奏夜は魔戒剣を取り出した。

 

その魔戒剣を見たホラーは……。

 

「魔戒騎士か……!貴様も息子の居場所を隠しているのか!」

 

「息子?何のことだ?」

 

ホラーの発する意味不明な言葉に奏夜は面食らいながらも魔戒剣を抜いていた。

 

『奏夜!こいつはアルマー。あの鍛冶屋みたいな見た目の通り、武器を鍛えて攻撃力を上げる技を持っている!気を付けろ!』

 

「鍛冶屋ね……。わかった!」

 

奏夜は魔戒剣を構えると、鋭い目付きでアルマーを睨みつけていた。

 

すると……!

 

「……っ!」

 

素早い動きでアルマーが奏夜に迫り、予想以上の素早さに奏夜は息を飲んでいた。

 

「くっ……!こいつ……!早いうえに何て馬鹿力だよ……!」

 

アルマーは素早いだけではなく、力もかなりのものであり、奏夜は魔戒剣で受け止めるだけで精一杯だった。

 

「……このぉ!!」

 

そんな状態ではあったものの、奏夜は負けじと魔戒剣を力強く振るうと、アルマーを弾き飛ばすことに成功した。

 

そのまま奏夜は魔戒剣を一閃するのだが……。

 

「……くそっ!丈夫さもなかなか……!!」

 

アルマーの体はそれなりに硬いからか、奏夜の一撃はあっさりと受け止められてしまった。

 

反撃と言わんばかりにアルマーは大剣を振るうと、奏夜はそれを魔戒剣で受け止めるのだが、その剣圧の重さに吹き飛ばされてしまった。

 

「ぐぁっ!!」

 

そしてそのまま、近くに立っていた電柱に叩きつけられてしまった。

 

その衝撃はかなりのものであり、電柱には少しだけヒビが入ってしまい、その結果、その電柱周辺が一瞬だけ停電したのであった。

 

「こいつ……!」

 

奏夜はすぐに立ち上がり、体勢を立て直すのだが……。

 

「……フン、今日のところはこの辺にしといてやる。俺にはやらなければいけないことがあるからな」

 

アルマーはそのまま奏夜に追撃をかけることはせず、ホラーの姿のまま、どこかへと姿を消したのであった。

 

「っ!待て!!」

 

奏夜は慌ててアルマーを追いかけようとするが、素早い動きで姿を消したアルマーの姿を捉えることは出来なかった。

 

「……くそっ!鎧を召還する前に逃げられるなんて……。今度は絶対に逃がさない!」

 

奏夜は今回の戦いでアルマーに一方的にやられてしまったので、悔しさを滲ませて、唇を噛んでいた。

 

『やれやれ……。奏夜、あんな奴にあっさりと逃げられてしまうとは、お前もまだまだだな』

 

「わかってるよ……」

 

ホラーに逃げられてしまったのは自分の未熟さ故ということは奏夜も自覚しているため、その言葉に唇を尖らせながら魔戒剣を緑の鞘に納めた。

 

『とりあえず番犬所への報告は明日するとして、今日は帰るぞ』

 

「そうだな……」

 

今日のところは体を休めるために家に帰ることにした奏夜は、明日の朝イチで番犬所を訪れることにした。

 

こうして家に到着した奏夜は、明日こそは取り逃がしたアルマーを討滅すると決意を固めて、眠りについたのである。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

翌日、朝イチで番犬所を訪れた奏夜は、ロデルに昨日、アルマーというホラーと遭遇したことや、そのアルマーに逃げられてしまったことを報告した。

 

「ふむ……。貴方がホラーを取り逃がしてしまうとは、そのアルマーとかいうホラーはかなり手強いみたいですね……」

 

『いや、奴は至って普通のホラーだ。奴を取り逃がしたのは、奏夜がまだまだ未熟だからだ』

 

「……」

 

キルバはかなり厳しい言葉を奏夜にぶつけたのだが、事実だったからか、奏夜は苛立ちながらも何も言わなかった。

 

「……今のところ犠牲者が出ていないというのが不幸中の幸いですね。ですが、速やかにホラーを殲滅しなければなりません。犠牲者を出す前に……」

 

奏夜がアルマーに襲われていた警官を救ったため、犠牲者は出ていないのだが、速やかにアルマーを討滅しなければ、ホラーによる犠牲者を出してしまう可能性がある。

 

「奏夜。次にそのアルマーと戦う時、大輝に応援を要請しますか?あなたと大輝。2人が力を合わせれば倒すのは容易なハズです」

 

ロデルの言っていた大輝というのは、この翡翠の番犬所に所属する魔戒騎士である桐島大輝(きりしまだいき)のことである。

 

大輝は魔戒騎士として称号を持っている訳ではないのだが、多くの経験を積んでいるベテラン魔戒騎士であり、その技量は、称号を持たない騎士の中では最強とも言われている。

 

大輝はかつて桜ヶ丘にある紅の番犬所所属だったのだが、3年前の夏にこの翡翠の番犬所へと転属になったのである。

 

3年前の夏、この年は魔戒騎士にとってはかけがえのないものである武闘大会サバックが行われた年なのであるが、その前にアスハと呼ばれる魔戒法師が起こした魔戒騎士狩りによって、魔戒騎士の数が激減してしまった。

 

奏夜はその頃から魔戒騎士として活躍し始めたのだが、アスハの事件に巻き込まれてしまい、自分が未熟だった故、先輩騎士を見殺しにしてしまったのである。

 

その魔戒騎士狩りは、奏夜にとっては苦い事件となってしまったのだが、その事件がきっかけで、大輝は翡翠の番犬所に配属となったのであった。

 

現在大輝は翡翠の番犬所が担当している土地にも慣れ、ベテラン魔戒騎士の名に恥じない活躍をしている。

 

「……いえ。あのホラーは俺1人の力で倒します」

 

『おい、奏夜!お前1人で大丈夫なのか?』

 

「大丈夫さ。今度は必ず……!」

 

「……わかりました。アルマーの討伐はあなたにお願いしましょう。ですが、あなた1人では無理と私が判断したら、大輝を応援に寄越します。それでよろしいですね?」

 

ロデルは奏夜の実力を信頼してはいるものの、奏夜を焚き付けるためにあえて突き放す発言をしていたのであった。

 

「……っ!任せて下さい!」

 

奏夜はロデルの厳しい言葉に息を飲むのだが、確実に仕事をこなす意思を示すと、番犬所を後にした。

 

「……頼みましたよ、奏夜……」

 

奏夜が番犬所からいなくなるのを確認すると、ロデルはこのようにボソッと呟いていた。

 

番犬所を後にした奏夜は、そのまま穂乃果たちが練習していると思われる神田明神へと向かった。

 

奏夜が神社に続く階段を上がっていくと、練習が終わったのかゆっくりと体を休ませている穂乃果たちの姿を見つけた。

 

「……あっ、そーくんだ!」

 

「悪いな、みんな。遅くなっちまった」

 

「それは構わないのですが……。どこかへ行っていたのですか?」

 

「あぁ。今日は朝から番犬所に顔を出さなきゃいけない用事があってな」

 

「「「番犬所?」」」

 

聞き慣れない単語を聞いた穂乃果たちは、3人揃ってこう言うと、首を傾げていた。

 

「あぁ、番犬所っていうのは、魔戒騎士を総括する機関のことを言うんだよ」

 

「……ということは、奏夜はその番犬所というところに所属してホラーを狩っているという訳ですか?」

 

「あぁ、そういうことだ。俺の所属しているのは翡翠の番犬所って言うんだけど、秋葉原と神田と神保町あたりが管轄なんだよ」

 

「それって……。音ノ木坂の周辺ってことだよねぇ?」

 

「あぁ、穂乃果の言う通りだ」

 

「それで、その番犬所での用事とは何だったのですか?」

 

海未は、奏夜の言っていた番犬所での用事という言葉が気になっていた。

 

「実はな、昨日ホラーと遭遇したんだか、そのホラーに逃げられてしまってな……」

 

「え!?そうなの!?ということは、そーくん、ホラーにやられちゃったってこと?」

 

「……誠に遺憾だけど、その通りだよ」

 

ホラーの一撃を受けて吹き飛ばされてしまい、その後ホラーに逃げられたのは事実だったため、奏夜は悔しいと思いながらもことりの言葉を肯定していた。

 

「それで、怪我はないのですか!?」

 

「まぁ、勢いよく電柱に叩きつけられはしたけど、骨は折れてないし、大丈夫だよ」

 

「す、凄いね……」

 

奏夜が日頃から鍛えていることは聞いていたが、凄い勢いで電柱に叩きつけられても平気と聞くと、その凄まじさに穂乃果は苦笑いをしていた。

 

「ですが、奏夜ほどの実力を持っててもやられてしまうとは、そのホラーはかなりの実力者なのでしょうか?」

 

『いや、それは違うな。あいつを取り逃がしたのは、奏夜がまだまだ未熟だからだ』

 

「キルバ!そのようなことは……!」

 

海未はキルバの放った厳しい言葉に異議を唱えようとしたのだが……。

 

「海未、いいんだ。キルバは間違ったことは言ってないんだから」

 

「ですが……」

 

「……次に会った時は絶対に負けないさ。犠牲者を出す訳にはいかないからな……」

 

奏夜がアルマーを倒そうと決意したのは、リベンジを果たしたいからだけではなく、ホラーによる被害を食い止めるためである。

 

「そーくん。無理だけはしないでね!」

 

「そうだよ!私たちはそーくんのこと、心配してるんだからね!」

 

ホラーを倒すという奏夜の思いは立派だとは思っていても、穂乃果たちはやはり奏夜のことが心配であり、穂乃果とことりは奏夜を気遣う発言をしていた。

 

「あぁ……。ありがとな……」

 

穂乃果たちが心配してくれる。

 

そう考えるだけで、不思議と奏夜に力が湧いて来たのである。

 

今度アルマーと会ったら絶対に負けない。そう確信することが出来る程に……。

 

「……とりあえず、私たちは着替えてきますね。それが終わったら一緒に学校へ行きましょう」

 

「……あぁ、わかったよ」

 

穂乃果たちはジャージから制服へと着替えるために移動を開始すると、奏夜はその場で立ち、穂乃果たちの着替えが終わるのを待っていた。

 

そして、その着替えが終わると、奏夜は穂乃果たちと共に学校へと向かった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

学校へと到着した奏夜たちは普通に授業を受けていた。

 

そして、放課後、奏夜はキルバにホラーの気配を探るよう頼むと、ホラーが見つかるまでの間は練習に付き合うことにした。

 

μ'sの曲も出来上がっているため、歌の練習を行ったり、どのような振り付けにするかを話し合いながら実践をしたりしていた。

 

ある程度その練習が終わると、神田明神へ向かい、階段ダッシュを行った。

 

この時、まだホラーの気配は探知出来なかったため、奏夜は階段ダッシュの練習も付き合っていた。

 

キルバがホラーの気配を探知したのは、夕方となり、階段ダッシュの練習が終わった直後であった。

 

『……奏夜。ようやくホラーの気配を探知したぞ』

 

「わかった。……長いことホラーの探知をしてくれてありがとな、キルバ」

 

『気にするな。その代わり、今度はしっかりとホラーを仕留めろよ』

 

「わかってるって」

 

奏夜はホラーが見つかったとのことなので、キルバのナビゲーションを頼りにホラーの捜索を始めようとしたのだが……。

 

「……奏夜。ホラーと戦いに行くのですね?」

 

「あぁ。昨日はホラーにやられたが、今回は負けないさ」

 

これは決して気休めなんかではなく、本気で負けないと奏夜は思っていたのである。

 

「奏夜、無茶だけはしないで下さいね!」

 

「私たち、そーくんのこと、応援しているからね!」

 

「そーくん、ファイトだよっ!」

 

海未、ことり、穂乃果の3人が奏夜にエールを送る言葉を送っており、それを聞いた奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「みんな、ありがとな……!それじゃあ、行ってくる!!」

 

奏夜は穂乃果たちに別れを告げると、キルバのナビゲーションを頼りに、ホラーの捜索を開始した。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

奏夜がホラー、アルマーを捜索し始めてからおよそ30分後、アルマーに憑依された男性は、自らが経営している縫製屋にいた。

 

男性は今でも警察に逆恨みしており、すぐにでも警察へと殴り込もうと考えていたが、予想以上に客が来ていたため、警察への殴り込みは店が閉まってから行おうと考えていた。

 

「さて……。そろそろ店じまいか……」

 

後30分ほどで閉店時間となるので、男性は店を閉める準備をしようとしていた。

 

その時である。

 

「あのぉ……。すいません……」

 

音ノ木坂学院の制服を着たグレーの長髪の少女……ことりが、この店を訪れていた。

 

「おや、音ノ木坂のお嬢さんか。何かお探しかな?」

 

「はい。いくらか布を買いたいと思ったんですけど……」

 

どうやらことりはスクールアイドルの衣装を作るために、この店で布を買おうとしていたのである。

 

「あぁ。ゆっくり選んでいきな」

 

「それでは、遠慮なく〜」

 

ことりは真剣な表情で、どの布を買おうか吟味をしていた。

 

(……この女……。物を選ぶのに時間がかかりそうだな。俺は早く店を閉めて出たいというのに……)

 

男性はことりが来なければ閉店の準備を始めて早々に店を閉めようと考えていた。

 

しかし、来店したことりは真剣に商品を吟味しているため、買い物にどれだけ時間がかかるかはわからなかった。

 

(こうなったら……。この女を食っちまうか?若い女を喰うなど、俺の趣味ではないが……)

 

どうやら男性が憑依したアルマーは、女性を喰らうのを良しとしないようだった。

 

そんなアルマーが、本気でことりを喰らおうかと考えていたその時だった。

 

「……まだ、ここはやってるかな?」

 

茶色のロングコートを羽織った少年がこの店を訪れるのだが、その少年を見た瞬間、男性の表情が一瞬だけ歪んでいた。

 

「……あ、あれ?そーくん?」

 

先ほどホラーを探すと別れたハズの奏夜と会えるとは思っていなかったのか、ことりは目を大きく見開いて驚いていた。

 

「こ、ことりか……?こんなところで会うとは奇遇だな」

 

「う、うん。そうだね……」

 

「ことりはもしかして、衣装に使う布を買いに?」

 

「うん。ここの布は質が良いって評判だったから……」

 

ことりがここを訪れたのも、質が良い布を買えるからという評判を聞いたからこそである。

 

「ほぉ、そいつは光栄だね」

 

ことりのような少女に褒められるとは思っていなかったのか、男性は満更でもなかった。

 

「そ、そーくんがここに来たってことは、もしかして……」

 

「そういうことだ、ことり。悪いけど、衣装に使う布は違う所で買ってもらうことになるな」

 

「はぁ?おい、お前。いったい何を言って……」

 

男性は自分の正体がバレないよう奏夜に迫ろうとしたのだが、その前に奏夜は男性に近付いていた。

 

そして……。

 

魔導ライターを取り出すと、魔導火を放ち、男性の瞳を照らしていた。

 

すると、男性の瞳から不気味な文字のようなものが浮かび上がり、この男性がホラーだということが確認出来た。

 

「……俺がこの店を訪れた時、あんたが一瞬ピクッと反応したこと……。俺が見逃したとでも思ったのか?」

 

奏夜はキルバのナビゲーションにより、この店にいる男性がホラーだということはわかっていたのだが、店に入った瞬間、男性がピクッと反応したのを見ると、それは確信へと変わっていた。

 

「……くっ、くそっ!!」

 

男性は奏夜を殴り飛ばすと、そのまま店を飛び出し、どこかへと逃げ出した。

 

「……あいつ……!逃がすかよ!!」

 

殴り飛ばされた奏夜はすぐさま男性の追跡を開始し、その場にはことりだけが残されていた。

 

「あ、アハハ……。私1人になっちゃった……」

 

まさか自分が訪れた店の店主がホラーだとは思わず、ことりは苦笑いをしていた。

 

「……そーくんはああ言ってたけど、せっかくだから……」

 

ことりは既に買うべき布を決めていたようであり、布の代金をしっかりとレジの前に置いてから店を後にして、奏夜を追いかけていった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

奏夜によって自分がホラーだとバレてしまった男性は、奏夜から逃れるために必死に逃げていた。

 

しかし、奏夜はキルバのナビゲーションによってホラーの進もうとしているルートに先回りをしたことにより、すぐさまホラーを追い詰めることに成功した。

 

「……今度こそ逃がさないぞ、ホラー!」

 

奏夜は魔戒剣を取り出し、それを抜くと、鋭い目付きで男性を睨みつけていた。

 

「貴様……!昨日の小僧か……!!昨日だけじゃなくて今日も俺の邪魔をしやがって……!!」

 

男性はさらに逃げようと考えもしたのだが、昨日だけではなく今日も自分に立ちはだかった奏夜を許すことは出来ず、ここで奏夜を始末しようと決めていたのである。

 

「……俺の息子は死んじゃいないんだ……。どいつもこいつもデタラメばかり言いやがって……!」

 

男性がアルマーに憑依されたのも、自分の息子の死を受け入れられないからであり、男性は自分の息子は死んだと告げた警察に逆恨みをしていたのである。

 

「あれからあんたのことは調べさせてもらった……。あんたの息子はもう死んだんだ!現実を受け入れろ!」

 

奏夜はこの店を訪れる前に、男性の家を訪れていた。

 

キルバは、アルマーの存在を探知する前に、アルマーが出現したゲートから放たれた微かに残る邪気を探知したからである。

 

男性の家で奏夜が見たものは、リビングに無残に置かれたヘルメットのようなものだった。

 

そのヘルメットにはまるで銃弾で貫かれたような大きな穴が開いており、何の事情も知らない奏夜であっても、このヘルメットを被っていた人物は既に命を落としていることを察することが出来た。

 

それだけではなく、奏夜は1枚の写真を見つけたのだが、そこにはアルマーに憑依された男性と、その息子と思われる青年が写っていた。

 

この写真を見た瞬間、奏夜は男性の言っていた息子は死んでいないという言葉を思い出していた。

 

そして、息子の死を受け入れられないという気持ちが陰我となり、アルマーに憑依されたのだと推測することは容易だったのである。

 

奏夜がことりよりも後に男性のいる縫製屋に到着したのは、男性の家に行っていたからであった。

 

奏夜は男性の事情を理解した上で、現実を受け入れられない男性にこう訴えかけるのだが……。

 

「うるさい!……うるさい!うるさい!うるさい!!」

 

奏夜が男性に向かって投げかけた言葉は、男性をなだめさせるどころか、かえって男性を激昂させてしまった。

 

「息子は死んでなんかいない!息子は生きているんだ!デタラメなことを言うな!!」

 

激昂してしまった男性は、奏夜の話に聞く耳など持ち合わせてはいなかったのである。

 

「どいつもこいつもデタラメばかり……。もういい……。警察だけじゃない……。みんなまとめてこの俺が喰らってやる……!」

 

警察へ逆恨みをしていた男性であったが、激昂したことでさらに歪んだ考え方をするようになり、見境なく人を喰らおうとしていた。

 

歪んだ考えでおかしくなってしまった男性は、そのままアルマーの姿へと変わっていった。

 

「何を言っても無駄みたいだな……。お前を倒して、そんな馬鹿なことを止めてみせる!」

 

奏夜は魔戒剣を構えると、鋭い目付きでアルマーを睨みつけていた。

 

すると、昨日と同じように、アルマーは素早い動きで奏夜に迫ると、手にしていた大剣を振り下ろした。

 

昨日はその大剣を受け止めた奏夜であったが、今回はその攻撃をかわし、魔戒剣を叩き込んだ。

 

しかし、昨日同様に、魔戒剣による一撃では、アルマーにダメージを与えることは出来なかった。

 

昨日と違って今日はこう来ることを奏夜は予想しており、アルマーは剣を手にしていない方の手で奏夜を殴り飛ばそうとするのだが、その攻撃もかわしていた。

 

奏夜は再び魔戒剣を一閃するのだが、その一撃はアルマーの大剣によって受け止められてしまった。

 

「くっ……。こいつ……やはりなかなか……」

 

思うようにアルマーにダメージを与えることは出来ず、奏夜は焦りの色を見せていた。

 

焦りは奏夜にとって隙を作ってしまい、アルマーは大剣を大きく振り降ろすと、そのまま奏夜を吹き飛ばした。

 

「ぐぁっ……!っとと……」

 

吹き飛ばされた奏夜はすぐに着地をして、体勢を立て直すのだが……。

 

「……!そ、そーくん!?大丈夫なの?」

 

ようやく奏夜に追いついたことりの近くに奏夜は吹き飛ばされたようであり、ことりはホラー相手に苦戦している奏夜を気遣っていた。

 

「……ことりか。俺は大丈夫だ。……お前は俺が守るから、下がってろ」

 

ホラーとの戦いにわざわざ首を突っ込んできたことりにあまり感心は出来なかったものの、来てしまった以上はことりを絶対に守る。

 

そんな気持ちが奏夜を突き動かしていた。

 

「う、うん……。そーくん、無理だけはしないでね……」

 

奏夜の力強い発言にことりはドキッとしたのか頬を赤らめると、素直に奏夜の言うことを聞き、少し離れたところへ移動して、奏夜の戦いを見守っていた。

 

「……フン、餌がわざわざやって来たか。こちらとしては都合が良い」

 

アルマーはことりも捕食しようとしていたため、ことりが現れたのはとても都合が良かった。

 

「……そんなこと……させるかよ!」

 

奏夜はことりにホラーの返り血を浴びさせないために、アルマーへと突撃していった。

 

「フン、闇雲に突っ込んで、俺を倒せるかよ!!」

 

奏夜は策もなく突っ込んで来たとアルマーは思っていたのか、大剣を大きく振り下ろした。

 

奏夜は冷静に状況を見極めていたようであり、奏夜はアルマーの攻撃をかわすと、アルマーの脛に2度、3度と魔戒剣を叩き込んだ。

 

「ぐっ……!」

 

直接的なダメージはなくても、脛を狙った攻撃は効いているようであり、アルマーは痛みのあまり膝をついていた。

 

その様子を見ていた奏夜は、後方に大きくジャンプをすると、アルマーと距離をとった。

 

「お、おのれ……!魔戒騎士の小僧が……!!」

 

奏夜の一撃によって膝をついていたアルマーは、ゆっくりとであるが、立ち上がった。

 

「ホラー、アルマー!!貴様のあまりに歪んだ陰我……俺が断ち切る!!」

 

奏夜はアルマーに向かってこう宣言をすると、魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

その部分だけ空間が変化すると、奏夜はそこから放たれた光に包まれた。

 

すると、奏夜は変化した空間から出現した黄金の輝きを放つ鎧を身に纏った。

 

こうして、奏夜は陽光騎士輝狼の鎧を身に纏った。

 

「おのれ……こうなったら……」

 

奏夜が鎧を召還したのを見ていたアルマーは、大剣を肩の部分につけられた鍛冶屋が使いそうな装備にセットすると、それが起動し、その場で大剣を強化していた。

 

『奏夜。奴の大剣は相当鍛えられてるぞ。その一撃に注意しろ!』

 

「あぁ、わかってる!」

 

奏夜は魔戒剣が変化した陽光剣を構えると、アルマーの攻撃に備えていた。

 

武器の強化を終えたアルマーは、素早い動きで奏夜に接近すると、鍛えたばかりの大剣を振るった。

 

奏夜はその攻撃を受け止めることはせず、無駄のない動きでかわしていた。

 

「おのれ……!これならどうだ!」

 

アルマーは力任せに大剣を何度も振るうのだが、そのような力任せの攻撃は奏夜には通用せず、全ての攻撃がことごとく奏夜にかわされてしまった。

 

「……どうした?もう終わりか?」

 

「小僧が……!調子に乗るな!」

 

奏夜の悠々とした態度が気に入らなかったのか、アルマーは渾身の力を込めて大剣を振るうのだが、奏夜は大きくジャンプして、その一撃をかわした。

 

そして、奏夜は降下の勢いで陽光剣を振り降ろすと、アルマーではなく、アルマーの手にしている大剣を狙っていた。

 

奏夜の放った一撃で、アルマーの手にしていた大剣を真っ二つに斬り裂いた。

 

「なっ……!何だと!?」

 

自分の力によって鍛えられた大剣があっさりと折られるとは思っていなかったからか、アルマーは驚きを隠せずにいた。

 

「この剣はソウルメタルで出来てるんだ。お前がどんだけ剣を鍛えようと、負けるはずはない!」

 

「おのれ……!」

 

奏夜の一撃によって武器を失ってしまったアルマーであったが、まだ奏夜を倒すことを諦めておらず、渾身の力を込めて奏夜を殴ろうとしたのだが、その前に奏夜はアルマーを殴り飛ばしていた。

 

「くそっ!あのガキ、昨日より強くなってやがる……!この力……いったいどこから?」

 

奏夜は昨日戦った時よりも強くなっていると実感しており、それは鎧を召還したというだけの理由ではなさそうだった。

 

「……俺には守りたい奴がいるからな!守りし者として、その存在が俺を強くするんだ!」

 

実際に奏夜はことりを守る。そう考えるだけで不思議なことに力がみなぎってきたのである。

 

大切な者がいるからこそ強くなる。それこそ守りし者であると、奏夜は確信していたのだった。

 

「ほざけ!!」

 

息子の死を受け入れられない男性に憑依したアルマーは、そんな奏夜の思いを受け入れる訳はなく、疎ましいものであった。

 

「……この一撃で決めてやる!」

 

奏夜は再び陽光剣を構えてアルマーを睨みつけると、アルマーにトドメの一撃を叩き込むために接近した。

 

簡単にやられる訳にはいかないアルマーは最後の抵抗なのか渾身の力を込めて拳を奏夜に叩き込もうとした。

 

しかし、奏夜はアルマーの一撃をかわすと、そのまま渾身の力を込めて陽光剣を一閃した。

 

その一撃によってアルマーの体は真っ二つに斬り裂かれ、アルマーが消滅するのを待たずに奏夜は鎧を解除した。

 

奏夜の一撃によって斬り裂かれたアルマーは、ホラー態から人間の姿に戻ると、その場に倒れ込んだ。

 

「ま……雅也……!」

 

男性は手を伸ばしながら自分の愛した息子の名前を呼んでいた。

 

そして、男性の体は徐々に消滅していき、その体は陰我と共に消え去ったのである。

 

「……あの世で息子さんが待ってるハズだぜ。……しっかり親孝行をしてもらいな……」

 

ホラーに憑依した男性にこのようなメッセージを送った奏夜は、沈痛な面持ちのまま、魔戒剣を緑の鞘に納めた。

 

ホラーが消滅したことを確認したことりは、奏夜に駆け寄っていた。

 

「そーくん……大丈夫?」

 

「あぁ、俺は大丈夫だ。ことりこそ、大丈夫か?」

 

「う、うん。そーくんが守ってくれたから、大丈夫だよ」

 

「そっか……。それは良かった……」

 

大切な友達を守ることが出来た。

 

そう実感した奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべるのだが、そんな奏夜の笑顔を見たことりはドキッとしたのか、頬を赤らめていた。

 

そんな中、奏夜はことりを見て、あることに気付いたのであった。

 

それは……。

 

「……ことり、お前の手にしている布ってもしかして……」

 

ことりは何枚か布を抱えていたのだが、奏夜はその布に見覚えがあったのである。

 

「うん!あそこのお店の布だよ!質が良いから買っちゃった♪」

 

「やれやれ……。あの状況だったのにちゃっかりしてるな……」

 

「あ、でも、ちゃんとお金は支払ったし、問題はないよ!」

 

きちんとレジのところにお金は置いてきたため、買い物は成立しているとことりは主張していた。

 

「やれやれ……。まぁ、別にいいんだけどさ……」

 

一応は買い物は成立しているため、奏夜はこれ以上追求することはせず、苦笑いをしていた。

 

「……まぁ、とりあえず帰ろうぜ。送るからさ」

 

「うん♪そーくん、お願いね♪」

 

こうして、ホラー、アルマーをどうにか討滅した奏夜は、ことりを家に送り届けてから自分の家に戻った。

 

キルバは先ほどの奏夜の戦いにはまだまだ課題点があると厳しい指摘をしており、奏夜はそれを真摯に受け止めていた。

 

自分はまだまだ未熟である。

 

それを自覚している奏夜は、一人前の魔戒騎士になるために、これからも精進を続けることを決意し、この日は眠りについたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『もうすぐ初ライブだな。どうやら準備は順調なようだな……。次回、「準備」。まぁ、問題も少なからずあるみたいだがな』

 

 




今回の話ですが、「牙狼 makaisenki」および「牙狼 炎の刻印」第6話を足して2で割ったような内容となっています。

今回登場したホラーは、「炎の刻印」第6話に登場したアルマーで、ホラーに憑依された男性の息子が戦場カメラマンだというのは、「makaisenki」第6話に登場した老夫婦の息子と同じ職業です。

色々と取り入れているため、オリジナルじゃないじゃん!こう言われば何も言えませんが(笑)

それにしても、奏夜とホラーが戦う中、無人になった店で買い物をすることりのちゃっかりさ(笑)

それだけそこの店の商品の質が良かったってことですかね。

さて、次回からはようやくラブライブ!の第3話に突入します。

初ライブを目前に控える中、奏夜たちを待っているものはいったい何なのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第9話 「準備」

お待たせしました!第9話になります!

今回からはようやくラブライブ!の第3話に突入します。

穂乃果たちμ'sの初ライブが迫っていますが、いったいどのようなものになっていくのか?

それでは、第9話をどうぞ!




奏夜たちはスクールアイドルとして動き始め、初ライブを2日後に控えていた。

 

当初は階段ダッシュを一往復するだけでバテバテだった穂乃果とことりは、この頃にはだいぶ体力がついてきたのか、そつなく階段ダッシュを行えるようになっていた。

 

そんな穂乃果たちの成長に奏夜は心から喜んでおり、2日後の初ライブも上手くいくのでは?と大いに期待をしていた。

 

この日の夜、奏夜は番犬所からの指令を受けてホラー討伐に向かっており、現在は鎧を召還してホラーを追い詰めていた。

 

「……貴様の陰我……俺が断ち切る!」

 

輝狼の鎧を召還した奏夜は、魔戒剣が変化した陽光剣を構えると、ホラーへ接近し、陽光剣を一閃した。

 

その一撃によってホラーは真っ二つに斬り裂かれ、ホラーは断末魔をあげながら消滅した。

 

「……よし……」

 

ホラーが消滅したことを確認した奏夜は、鎧を解除すると、元に戻った魔戒剣を緑の鞘に納めた。

 

『……奏夜。今日の戦い方はまぁまぁ良かったぞ。これからもこの調子で頑張るんだな』

 

キルバは奏夜の戦いを評価していたのだが、素直に褒めることはしなかった。

 

それでも、評価してもらったことを奏夜は理解していたため、嬉しさを噛み締めていた。

 

「さて……。明日の練習もあるし、さっさと帰って寝るとするか……」

 

奏夜は明日に備えてゆっくり休養を取るため、そのまま家に帰ろうとしたのだが……。

 

 

 

 

 

 

__ピロピロピロピロ!!

 

 

 

 

 

 

 

奏夜の持っている携帯が突如反応したため、奏夜はポケットから携帯を取り出した。

 

どうやら電話のようなのだが、その相手は……。

 

「……お、珍しい。統夜さんからだ」

 

電話の相手は、奏夜の先輩騎士であり、奏夜が憧れている魔戒騎士の1人である月影統夜からだった。

 

奏夜は統夜と話をしたいと思っていたため、すぐに電話に出たのであった。

 

『……もしもし、奏夜か?久しぶりだな』

 

「はい!お久しぶりです!統夜さん!」

 

久しぶりに聞いた統夜の声は、いつもと変わらず穏やかなものであり、その声を聞けて嬉しいと思った奏夜の声のトーンが上がっていた。

 

『……アハハ……。その感じだと元気そうだな……。奏夜、今は何をやってたんだ?』

 

「はい。少し前に指令のホラーを倒して、今から家に帰るところです」

 

『おっ、奏夜は指令だったんだな。お疲れさん』

 

「はい、ありがとうございます!」

 

統夜からの労いの言葉を、奏夜は素直に受け止めていた。

 

『……そういえば梓から聞いたんだけど、穂乃果たち3人がスクールアイドルってやつを始めたらしいな』

 

「はい。統夜さんはスクールアイドルを知っているんですか?」

 

『いや。梓はハマっているらしいけど、俺はイマイチわからないんだよ。ちょっとは興味はあるんだけどな』

 

どうやら統夜はスクールアイドルのことをよくわかっていないようであった。

 

統夜が口にしている梓というのは、桜ヶ丘高校で軽音部であり、統夜の後輩でもある中野梓(なかのあずさ)のことである。

 

梓は統夜にとってかけがえのない存在であり、統夜が高校3年生の冬から付き合っている。

 

今でも2人の仲は良好であり、周囲を羨ましがらせる程であった。

 

そして梓は統夜以外の先輩4人が通うN女子大学に見事合格し、この春からその大学に通っている。

 

「明後日に穂乃果たちのグループ、μ'sの初ライブがあるんです。もし良かったら見に来ませんか?」

 

スクールアイドルに興味を持ち始めていると聞いた奏夜は、穂乃果たちの初ライブに、統夜を誘っていた。

 

『そうだな……。それも悪くないかもな。みんなは普通に講義があるだろうし、俺だけしか行けないとは思うけど……』

 

どうやら統夜は初ライブに行く気はあるようだが、1人で行こうかなと考えていた。

 

「そうですか……。軽音部の皆さんにも会いたかったですけど、統夜さんが来てくれるなら穂乃果たちも喜ぶと思います」

 

『……そっか。そのライブってのは明後日やるって言ってたけど、何時くらいにやるんだ?』

 

「16時に音ノ木坂学院の講堂でやります」

 

『16時に講堂ね。わかった。穂乃果たちの初ライブ、楽しみにしてるよ。あいつらにもよろしく言っておいてくれ』

 

「はい、わかりました!」

 

『それじゃあ、また明後日な』

 

「はい!楽しみにしてます!」

 

ここで統夜は電話を切ったため、奏夜は携帯をポケットにしまった。

 

『……奏夜。もしかして、月影統夜が来るのか?』

 

「あぁ。どうやら穂乃果たちの初ライブを楽しみにしてるみたいだ」

 

『なるほどな……。あの男と会うのなら、あいつらにホラーの秘密を話したことを相談したら良いかもな』

 

「そうだな。どうにか時間をとってもらって相談しようかな」

 

統夜は穂乃果たちがホラーや魔戒騎士の秘密を知ったことを知らないため、会った時にそのことを相談しても良いかなと奏夜は考えていた。

 

こうして、久しぶりに統夜と電話で話すことが出来た奏夜は、そのまままっすぐ家に帰り、すぐ眠りについたのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、この日も朝早くに神田明神に集まった奏夜たちは、朝からトレーニングを行っていた。

 

__ピッ!

 

奏夜がホイッスルを鳴らすと穂乃果たち3人は一斉に階段ダッシュを開始した。

 

穂乃果とことりは当初とは比べ物にならないくらい体力がついており、階段ダッシュのトレーニングは順調に行われていた。

 

階段ダッシュの練習を終えると続いてはダンスの練習に入った。

 

「12345678」

 

奏夜は手拍子をしながらリズムを刻むと穂乃果たちはそれに合わせて踊っていた。

 

曲が完成してからはダンスコーチでもある奏夜がダンスの指導を行っていた。

 

ダンスの振り付けも最初はかなりぎこちないものであり、奏夜は不安になったこともあったが、穂乃果たちは奏夜の出した厳しいメニューをどうにかこなしていた。

 

「穂乃果、ちょっと早いぞ。もっとみんなに合わせろ!ことりはちょっと遅いぞ!」

 

奏夜は的確に穂乃果たちに指示を出して改善すべきところを指摘していた。

 

「そこでタッチだ!」

 

穂乃果たちは奏夜の指示通りに動いており、奏夜はそれを見てウンウンと頷いていた。

 

(……うん、だいぶ良くなってきたな……)

 

《確かにな。ダンスの練習を始めた頃は目も当てられないほどだったがな》

 

(本当に穂乃果たちはよく頑張ってるよ)

 

奏夜とキルバは、穂乃果たちが本気で初ライブに向けて練習していることを実感しており、その成長にも感心していた。

 

休憩をはさみながら練習をこなし、朝の練習は終了した。

 

「ほらっ」

 

奏夜はクーラーボックスを持参しており、その中で冷やしたスポーツドリンクを3人に渡した。

 

「そーくんありがとう♪」

 

「そーくん、いつもありがとね♪」

 

「すみません、奏夜。いつもいつも」

 

「気にするなってこれもまた俺の仕事だからさ」

 

奏夜はμ'sのダンスコーチだけではなく、μ'sのマネージャーも行っている。

 

自分のすべき仕事は全うする。

 

こう考えていた奏夜は当たり前のことをしていると思っていた。

 

「いやぁ、終わった終わった♪」

 

「まだ放課後の練習が残っていますよ?」

 

「でも、ずいぶん出来るようになったよね♪」

 

『まぁ、確かにだいぶ良くはなってきたよな』

 

「俺から言わせてもらえれば、まだまだだけど、1ヶ月でここまで出来るようになったのは凄いと思うぞ」

 

奏夜は少しばかり厳しい評価であったが、穂乃果たちの努力はきちんと評価しており、穂乃果たちは奏夜に褒められたことが嬉しかった。

 

「2人がここまで真面目にやるとは思いませんでした。穂乃果は寝坊してくるものだとばかり思ってましたし」

 

海未は穂乃果がここまで真面目に練習をこなすとは思っておらず、遅刻もないことに驚いていた。

 

『ま、奏夜はしょっちゅう練習に遅刻しているがな』

 

「そ、それは仕方ないだろ!?エレメントの浄化だってあるし……」

 

「まぁ、奏夜は魔戒騎士ですし、そこは理解しているので大丈夫ですよ」

 

魔戒騎士が明るい時間に邪気が溜まっているオブジェの浄化をしなければいけないのだが、その仕事については奏夜から話を聞いているため、むしろ海未はその仕事をこなしながらもきちんと練習にも顔を出してくれる奏夜がありがたかった。

 

「そう言ってもらえるとこっちも助かるよ」

 

「まぁ、私はここで頑張ってる分、授業中にぐっすり眠ってるから♪」

 

「いや、大丈夫じゃないだろ」

 

奏夜は即座にツッコミをいれるが、確かに最近の穂乃果は授業中に寝ては先生によく起こされることがよくあったのである。

 

「……ん?」

 

奏夜たちがこのような会話をしていると、階段の方から赤い髪がちらっと見えた。

 

「……西木野さんか。こそこそしなくてもいいのにな」

 

どうやらこっそり奏夜たちの様子を見ていたのは真姫であり、こそこそと様子を見ている真姫を見て、苦笑いをしていた。

 

《……おい、奏夜。さっきのエレメントの浄化とかそんな話が聞かれたんじゃないのか?》

 

(そうかもしれないけど、西木野さんは意味を理解出来ないだろうし、大丈夫だろ)

 

キルバは魔戒騎士に関する単語を聞かれたのではないかと焦りを見せていたのだが、奏夜は特に心配はしていなかった。

 

この話を聞いたところで、その意味を理解出来る訳がないからである。

 

どうやら、穂乃果も真姫の存在に気付いたようであり……。

 

「西木野さ~ん!真姫ちゃ~ん!」

 

「ヴェェ……」

 

穂乃果が大声で真姫のことを呼んでおり、真姫は独特な声をあげていた。

 

「もう!大声で呼ばないで!」

 

大声で呼ばれたのが恥ずかしかったのか真姫はこっちに詰め寄ってきた。

 

「どうして?」

 

「恥ずかしいからよ!」

 

「まぁ、確かに恥ずかしいよな」

 

奏夜はとりあえず真姫に助け船を出しておいた。

 

「そうだ!あの曲!」

 

そう言うと穂乃果はポケットからiPodを取り出した。

 

「3人で歌ってみたんだけど、聴いて欲しいな」

 

真姫に曲を作ってもらい、穂乃果たちは歌の練習も行っていたのだが、3人で歌ったものを録音したのは1週間前だった。

 

「はぁ?何で?」

 

「そーくんに聞いたんだけど、この曲は真姫ちゃんが作ってくれたんでしょう?」

 

「……!む~……」

 

自分が作曲したとあまり知られたくなかったからか、真姫はぷぅっと頬を膨らませると、奏夜を睨みつけていた。

 

「おいおい。別にそれくらいはいいだろう?遅かれ早かれわかることなんだし。それよりも、穂乃果たちの曲、聞いてやってくれよ」

 

「だから何で私が……」

 

真姫が困ったような表情をする中、穂乃果が何かをしようとしていた。

 

「がおー!」

 

穂乃果は何故かライオンのような鳴き声をあげると、真姫に抱きついていた。

 

「は、はぁ?何やってるのよ?」

 

突然の出来事に真姫が戸惑う中穂乃果はフッフッフッと怪しい笑みを浮かべていた。

 

(……それにしても穂乃果の顔がまるでエロオヤジだな……)

 

《……確かにな。俺もそう思っていた》

 

「ちょ、ちょっとあんた!見てないで助けなさいよ!」

 

「まぁ、頑張れ」

 

穂乃果には穂乃果の考えがあるだろうと察した奏夜は、あえて真姫を突き放していた。

 

「はぁ?ちょっとあんた!」

 

「フッフッフッ、うひひひ……」

 

(……もう笑い方が女子高生のそれではないよな……)

 

《それに、アイドルらしくない笑い方だよな……》

 

奏夜とキルバは、呆れた表情で事の動向を見守っていた。

 

「いやあぁぁぁ!!」

 

真姫が悲鳴をあげたと思ったら穂乃果が真姫の片耳にイヤホンをつけた。

 

「え?」

 

「よし、作成成功♪」

 

「やれやれ。そんなことだろうと思ったよ」

 

奏夜が呆れながらこう呟くと、真姫は何も言わなかったが、少しだけむくれていた。

 

「けっこううまく歌えたと思うんだ。行くよ♪」

 

穂乃果が合図すると海未とことりが穂乃果の肩を掴んでいた。

 

「μ's!」

 

「ミュージック……」

 

「「「スタート!」」」

 

3人の掛け声でiPodの音楽を再生した。

 

真姫は穂乃果たちの歌を真剣に聞いており、奏夜たちはそんな真姫の様子を見守っていた。

 

「ねぇねぇ、どうだった?」

 

曲が最後まで再生されると、穂乃果は真姫感想を求めていた。

 

「まっ、まあまあじゃない?」

 

「フフッ、奏夜の言う通り素直じゃないですね」

 

「そうだろ?本当に素直じゃないんだよなぁ」

 

「な、何よ!もう用が済んだなら私は行くわよ」

 

西木野さんはイヤホンを外すとそれを穂乃果に返し、逃げるようにその場を後にした。

 

「やれやれ…。俺たちも着替えて学校に行こう」

 

「そうだね」

 

こうしてこの日の朝の練習は終わり、奏夜たちは着替えた後に学校へと向かった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

学校に到着するとすぐに、穂乃果は大きな欠伸をしていた。

 

「まったく、眠る気満々みたいだな」

 

奏夜だけでなく海未も同じ事を思ったか海未も呆れていた。

 

玄関に向かって歩いていると、「あの子たちじゃない?」という声が聞こえてきていた。

 

なので声の方を見ると、3年生の先輩が奏夜たちのことを見ていた。

 

「ねぇ、あなたたちよね?この学校でスクールアイドルをしてるっていうのは」

 

3年生の先輩が俺たちに話しかけてきた。

 

「はい。μ'sっていうグループです」

 

「ミューズ?あぁ、石鹸?」

 

「違います」

 

どうやらこのボケは鉄板のようであり、海未はすぐさまツッコミを入れていた。

 

「そうそう。うちの妹がネットで見かけたって」

 

「本当ですか?」

 

穂乃果たちのグループであるμ'sは、まだ名前だけで動画はあがっていないのだが、音ノ木坂学院のスクールアイドルということで、チェックしている者はいた。

 

「ねぇねぇ、明日ライブやるんでしょ?」

 

「はい!放課後に」

 

「どんな風にやるの?ちょっと踊ってみてくれない?」

 

「え?ここでですか?」

 

先輩たちからの無茶ぶりに、穂乃果たちは戸惑ってるな。

 

「ちょっとだけでいいから」

 

奏夜たちのやり取りを見ていたのか、他の人たちもチラチラこっちのことを気にしていた。

 

上手くいけば初ライブ前にμ`sの存在をアピールするチャンスになるかもしれない。

 

そんなことを奏夜は考えていたのだが、ここで踊ることに抵抗があるのか、海未の顔が引きつっていた。

 

奏夜が海未のことを気にしていると……。

 

「うっふっふっふっ」

 

穂乃果はアイドルらしからぬ顔で、怪しい笑みを浮かべていた。

 

「いいでしょう!もし見に来てくれたらここで少しだけお見せしますよ♪」

 

和菓子屋の娘なだけあって、穂乃果のセールストークはかなりのものであった。

 

「お客さんだけ特別ですよ♪」

 

「お友達を連れてきていただけたらさらにもう少し♪」

 

ことりもそんな穂乃果のセールストークに乗っかり、効果はバツグンのようだった。

 

「本当?」

 

「行く行く♪」

 

「毎度ありぃ♪」

 

《……本当に来てくれるのか?なんか嘘くさい気もするが……》

 

(確かにな。だけど、μ'sの存在をアピールすると考えればいいんじゃないのか?)

 

キルバは穂乃果たちのパフォーマンスを見たいと言っている先輩たちが本当にライブに来るのか怪しんでいたのだが、奏夜は来ないならそれはそれで良いと思っていた。

 

「それじゃあ頭の所だけ…」

 

穂乃果とことりが並んで踊りの準備をするのだが……。

 

「あれ?もう1人は?」

 

海未がいつの間にか姿を消しており、それに先輩たちが気付いていた、

 

そして奏夜たちもそれに気付くと、先輩に詫びを入れて、すぐ海未を探し始めるが、予想以上に海未はすぐ見つかった。

 

海未は思いつめた表情をしていたので屋上で話を聞くことになった。

 

「……無理です……」

 

屋上に着くなり海未は体育座りをし、顔を隠してこれだけ言葉をもらしていた。

 

「えぇ?どうしたの?海未ちゃんなら出来るよ!」

 

穂乃果はすぐフォローをいれるが、奏夜は何故海未がこんなことを言うのか察しがついていた。

 

「海未。もしかして人前で踊るのが恥ずかしいってことなのか?」

 

「奏夜の言う通りです…。私は歌もダンスもあれだけ練習してきました。ですが、人前で歌うことを想像すると……」

 

「緊張しちゃう?」

 

ことりの問いかけに海未は無言で頷いた。

 

(……やっぱりそう言うことか……。こいつは困ったな……)

 

《……奏夜、こればかりは海未自身が克服しないと意味がないぞ》

 

(そうだよな……)

 

ライブは明日であるため、海未にはどうにかステージに立てるようにすることが急務だが、これは海未自身が克服しなければならないものであった。

 

「それなら、お客さんを野菜だと思えってお母さんが言ってたよ」

 

穂乃果の提案したのは、緊張をほぐすのには良いと思われる方法だった。

 

お客さんをジャガイモだと思えとか、そんな感じである。

 

「野菜?」

 

穂乃果にこう言われ海未はイメージを浮かべていたのだが……。

 

「私に1人で歌えと言うんですか!?」

 

「何でそうなる!」

 

海未がどんなイメージを浮かべたのがわからず、奏夜は思わずツッコミを入れてしまった。

 

どうやらかなり重症であり、どうすればいいかわからず、穂乃果とことりも困り果ててるようだ。

 

「海未ちゃんが辛いならなんとかしてあげたいけど…」

 

「ひっ、人前でなければいいんです!人前でなければ…!」

 

人がいなければ海未は問題ないと言っていたが、客がいなきゃライブの意味はなかった。

 

「……そういえば、澪さんも人前に出るのが苦手だって言ってたけど、どうにかライブをしてたよね?」

 

ことりはここで、桜ヶ丘高校軽音部だった秋山澪の話を出していた。

 

澪もまた、海未のように人前に出るのは苦手だったが、どうにかライブをこなしていた。

 

澪とは幼馴染で親友である田井中律(たいなかりつ)曰く、追い詰められれば何とかなるみたいだった。

 

「……澪さんはそうかもしれませんが、私は……」

 

穂乃果たちは奏夜の先輩騎士である統夜だけではなく、軽音部のメンバーとも親交があるため、このような例え話が出来るのだが、それでも海未は人前に出ることを良しとはしなかった。

 

「……海未。とりあえず悩むより行動しよう。恥ずかしがりに関しては慣れるしか方法はないからさ」

 

奏夜はポンと海未の肩に手を置くと、海未にこう提案をし、それを聞いた海未はゆっくり立ち上がった。

 

「うん!ちょうど穂乃果もそーくんと同じ事考えてたよ!」

 

とりあえず行動しようと言う奏夜の言葉に、穂乃果は賛同していた。

 

「それじゃあ、海未ちゃん、行こっ♪」

 

「?」

 

海未は穂乃果の言葉の真意がわからず首を傾げていたが、奏夜たちは放課後になってから、行動を起こす事にした。

 

そして放課後、奏夜たちが向かったのは…。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

秋葉原であり、秋葉原でも人通りの多い場所に来ていた。

 

「ジャーン!ここで明日のライブのチラシを配ろう!」

 

「うんうん。俺もこれがいいかなって考えてたんだよ」

 

どうやら奏夜もチラシ配りが有効だろうと思っていた。

 

このようか人の多いところでチラシ配りをして慣れていこうと考えである。

 

「ひ、人がたくさん…」

 

「当たり前でしょ。そういうところを選んでるんだから。ここでチラシを配ればライブの宣伝にもなるし大きな声を出してればそのうち慣れてくると思うよ」

 

「ま、海未にしてみたらかなりきついかもしれないけど、これくらいしないと人に慣れるなんてとてもじゃないけど出来ないからな」

 

「うっ……。それは理解出来ますが、やはりこれだけ人がいると……」

 

穂乃果や奏夜の言い分は理解出来るものの、実際これだけの人を相手にチラシ配りをするのは、海未にとってはかなり困難であった。

 

「とりあえず頑張ってみようよ。そしたら穂乃果ちゃんの言う通り海未ちゃんだって慣れるかもしれないし」

 

ことりもどうやら穂乃果や奏夜の意見に賛成であった。

 

緊張して立ち尽くす海未を後目に、奏夜たちはチラシ配りを開始していた。

 

穂乃果は家の和菓子屋を手伝ってるからか、物怖じすることなくチラシを配っていた。

 

ことりは、普段からそこまで物怖じする性格ではないからか、問題なくチラシ配りを行っていた。

 

そして奏夜は、魔戒騎士という特殊な仕事柄、多くの人と会う機会があるため、問題なくチラシ配りを行っていた。

 

(……お客さんは野菜……お客さんは野菜……)

 

そんな中、やはり上手くチラシ配りを行えない海未は、どうにか緊張しないようイメージを浮かべていた。

 

……そして、海未は覚悟を決めたのか、目をカッと見開いていた。

 

その後海未がとった行動とは……。

 

「……あっ、レアなのが出ました……」

 

ガチャガチャコーナーに逃げ出しており、海未はガチャガチャをすることで現実逃避をしていた。

 

「って、何でやねん!」

 

海未の現実逃避に奏夜は思わずツッコミを入れてしまった。

 

「ったく……」

 

奏夜は気を取り直してチラシ配りを再開した。

 

すると……。

 

「すいません!よろしくお願いしま……」

 

奏夜はとある男性にチラシを渡そうとしたのだが、その男性のことを知っているからか、奏夜はその場で固まっていた。

 

「……そ、奏夜か。お前、こんなところでどうしたんだ?」

 

「だ、大輝さん……」

 

奏夜がチラシを渡そうとしていたのは、翡翠の番犬所所属の魔戒騎士で、奏夜の先輩騎士である桐島大輝であった。

 

大輝はエレメントの浄化を終えて、偶然ここを通りがかった時に奏夜からチラシを受け取ったのである。

 

奏夜から受け取ったチラシを大輝は確認するのだが……。

 

「……ほう。そういえばロデルがスクールアイドルとやらにハマっているみたいだが、それなんだな」

 

「はい。俺の友達がスクールアイドルをやってまして、俺はその手伝いをしてるんです」

 

「なるほど……。お前も統夜のようにやるべきことを見つけたって訳だな」

 

「は、はい。そんな感じです」

 

大輝はこの翡翠の番犬所の管轄に来るまでは桜ヶ丘にいて、奏夜の先輩騎士である月影統夜の成長も見守っていた。

 

そのため、奏夜がかつての統夜のような道を歩んでいると知り、笑みを浮かべていた。

 

「……そのスクールアイドルとやらはあの3人だろ?あいつらはホラーの秘密を知ってるのか?」

 

「……はい。実はこの前あの3人はホラーに襲われまして、俺が助けたのです」

 

「……なるほど、本当に統夜と同じような道を歩いているな。お前は」

 

大輝は奏夜の話を聞くと、怒るわけでも呆れるわけでもなく、ただウンウンと頷いていた。

 

「……大輝さん、怒らないんですか?」

 

「ま、俺は統夜の前例を見ているからな。あの3人はお前にとって守るべきかけがえのない存在なんだろう?それならば、別にいいんじゃないのか?」

 

本来であれば、騎士やホラーの秘密をベラベラと話すのは良くないのだが、大輝はその秘密を話したのが守りたいとおもっている存在であれば問題はないと思っていた。

 

奏夜と大輝が親しげに話しているのが穂乃果たちは気になったのか、奏夜の方へと駆け寄ってきた。

 

「……そーくん、この人はそーくんのお知り合いなの?」

 

穂乃果は、奏夜と大輝の関係が気になっていたのだが、それは海未とことりも同様であった。

 

「あぁ、この人は……」

 

「俺は桐島大輝。奏夜と同じ魔戒騎士だ。お前らは秘密を聞いたのだろう?」

 

奏夜が大輝のことを紹介する前に、大輝は自分で自己紹介をしていた。

 

「え!?ということは、奏夜の……」

 

「あぁ。奏夜は俺の後輩ってことになるな」

 

「「「……」」」

 

こんなところで奏夜と同じ魔戒騎士と会えるとは思っていなかったので、穂乃果たちは驚きを隠せずにいた。

 

「まぁ、お前らは今忙しいみたいだから俺はもう行くぞ。……スクールアイドルだったか?頑張れよ」

 

大輝は穂乃果たちにエールを送ると、そのままどこかへ移動を開始し、奏夜たちは大輝のことを見送っていた。

 

「……ちょっと怖そうな人だけど、いい人そうだね」

 

「そうかもな。だけど、俺にとっては頼れる先輩だよ」

 

「……そうですか」

 

「あの人のことは気になるけど、チラシ配りをもっと頑張らないとね」

 

「うん!そうだね。頑張っていこう!」

 

こうして奏夜たちはチラシ配りを再開したのだが、やはり海未は多くの人を相手にするのが抵抗があるようだった。

 

このように判断した奏夜たちはここでのチラシ配りを諦め、学校に戻ってきた。

 

学校でチラシ配りを行う方がハードルは低いからである。

 

「海未、学校でチラシ配りならなんとかやれるだろ?」

 

「はい。さっきよりは出来るかもしれないです……」

 

「それじゃあ、始めるよ」

 

穂乃果の号令で奏夜たちは明日のライブのチラシを配り始めた。

 

「μ'sファーストライブやります!よろしくお願いします!」

 

「よろしくお願いします!」

 

穂乃果とことりは幸先良くチラシを配ってるな。

 

「μ`sファーストライブやりますのでよろしくお願いします!」

 

奏夜も負けじと声を張ってチラシを配っていった。

 

学校で宣伝した方がライブに来てくれる人が増えるのではないかと思っていたからだ。

 

奏夜はチラシを配りながら海未の様子を見ると、海未は恥かしさからか声をかけることすら出来ていないようだった。

 

奏夜が海未の心配をしていると1人の少女が近づいて来た。

 

「よろしくお願いします」

 

奏夜はツインテールの少女にチラシを渡そうとしたが……。

 

「……いらない」

 

素っ気ない態度で、チラシの受け取りを拒否されてしまった。

 

(……あれ?この子、どこかで……)

 

奏夜は、どうやらこのツインテールの少女に見覚えがあった。

 

「あの!」

 

そのため、奏夜はもう一度話しかけるとツインテールの少女は訝しげな表情をしていた。

 

「何?まだ何かあるの?」

 

「気のせいだったらすいませんけど、俺たちどっかで会ってません?例えば……UTX辺りで」

 

違うだろうと思いながら奏夜は聞いたのだが、何故かツインテールの少女は明らかに動揺していた。

 

「なっ、何言ってるのよ!そ、そんな訳ないじゃない?」

 

「明らかに動揺してるじゃないですか。あからさまに怪しいですよ」

 

「あ、あんたねぇ……」

 

ツインテールの少女はジト目で奏夜のことを見ていたのだが、奏夜はここでようやくこの少女のことを思い出したのである。

 

「確か君は、UTXであからさまに怪しい変装してたツインテールの中学生?何で高校に?」

 

「あからさまに怪しいって何よ!それに、にこは中学生じゃなくてれっきとした高校3年生よ!」

 

「なっ、なん……だと……」

 

自分のことをにこと名乗る少女は、自分は高校3年生だと主張したのだが、それが信じられないのか、奏夜は絶句していた。

 

(嘘だろ……。あのチビッ子が先輩……?)

 

《まぁ、あの梓とかいうお嬢ちゃんだって小柄だが、お前より年上だろう?あながちおかしな話ではないと思うがな》

 

キルバは統夜と同じ軽音部であり、統夜の彼女である梓の話を出したのだが、その例えを聞いた瞬間、奏夜は納得したようだった。

 

それだけではなく、リボンも3年生のものであるため、このにこと名乗る少女が3年生であることは間違いなさそうだった。

 

「……あんた。さっきから馬鹿にしてる?」

 

「アハハ、まさか。それよりもあの時UTXにいたってことはアイドルに興味があるってことですよね。だったらチラシだけでも持ってって下さいよ」

 

「だから!いらないって言ってるでしょう?」

 

「いいじゃないですか!本当にいらなかったら後で捨ててもいいですから」

 

「あぁっ、もう!わかったわよ!」

 

にこと名乗る少女は、奏夜から半ば強引にチラシを受け取ると、逃げるようにその場を後にした。

 

「ねぇ、そーくん。あの人、知り合い?」

 

奏夜のやり取りを見ていて気になったからか、穂乃果が奏夜に駆け寄ってきた。

 

「あぁ。前にUTXに行ったときに怪しい格好したツインテールの女の子がいただろ?彼女がそうだよ」

 

「えぇ?そうだったんだ!」

 

奏夜の言葉が予想外だったからか、穂乃果は驚いていた。

 

「それよりも海未の様子はどうだ?ずいぶん苦戦してるみたいだけど」

 

「あぁ、大丈夫だよ。そーくんがあの人と話してる間に海未ちゃんに気合いを入れておいたから」

 

奏夜がにこと名乗る少女とやり取りをしている間に、穂乃果はうまい具合に海未を焚きつけており、海未は現在、なんとかチラシを配っていた。

 

「ありがとう、助かるよ」

 

「お礼なんていいよ♪だから、そーくんもファイトだよ!」

 

「あぁ、わかってるよ」

 

海未も一生懸命頑張っている。だからこそ海未に負けまいと奮起した奏夜はチラシを配り始めようとしたのだが……。

 

「あっ、あのっ……」

 

奏夜に声をかけてきたのは、1年生の教室で知り合い、少し話をした大人しそうな少女である小泉花陽だった。

 

「おう、花陽ちゃん。ちょうど良かったよ。あのな……」

 

「あっ、ライブですよね……。わ、私……。見に行きます……」

 

花陽はスクールアイドルが好きなようであり、μ'sのポスターを何度もこっそりとチェックしていた。

 

そのため、ライブは聴きに行こうと思っていたのである。

 

「本当?来てくれるの?」

 

「では、1枚2枚とこれを全部……」

 

「おい、海未。ズルは無しだぞ」

 

「わっ、わかってますよ……」

 

海未は素直に引き下がったのだが、どうやら奏夜が注意しなければ本気で全部渡そうとしていた。

 

「花陽ちゃん、ありがとな」

 

「あっ、いえ……。私も楽しみにしてますから……」

 

自分たちのライブを楽しみにしている。

 

この言葉は穂乃果たちにとっては何より励みになっているため、穂乃果たちは笑みを浮かべていた。

 

チラシを受け取った花陽はそのまま帰っていき、花陽が帰っていくのを見送った奏夜たちは時間の許す限りチラシ配りを行っていた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

そしてこの日の夜、奏夜たちは明日のライブの打ち合わせとの名目で穂乃果の家に来ていた。

 

ことりは何か用事があるため少し遅れるらしく、奏夜は1度番犬所へ立ち寄らなければいけないので、少し遅くなるのである。

 

チラシ配りが終わり、1度解散した後、奏夜は番犬所へ立ち寄ると、魔戒剣の浄化を行っていた。

 

この日は指令がなかったため、奏夜は心置きなく穂乃果の家である穂むらへと向かうことが出来た。

 

奏夜は穂乃果の家である、和菓子屋「穂むら」に到着すると、店の中に入った。

 

すると、店番をしていたのは、黒髪で短髪であり、中学生くらいの少女であった。

 

少女は奏夜の姿を見るなり、ぱぁっと表情が明るくなっていた。

 

「……あ!奏夜さん!いらっしゃい!!」

 

少女は奏夜が来てくれて嬉しいのか、奏夜を歓迎していた。

 

「おう、雪穂。元気そうだな」

 

「はい。奏夜さんも元気そうですね」

 

奏夜はこの少女……高坂雪穂に親しげに話しかけていたのだが、雪穂は穂乃果の妹であるため、ここまで親しげに声をかけられるのであった。

 

それだけではなく、奏夜は雪穂に懐かれており、雪穂は奏夜のことをまるで兄のように慕っていた。

 

「あっ、お姉ちゃんと海未さんが今上にいますよ」

 

「そっか。ことりはまだ来てないんだな」

 

「そうみたいですね……」

 

穂乃果と海未は一足先に2階に来てるようであり、ことりはまだ来ていなかった。

 

「それじゃあ俺もお邪魔させてもらうよ」

 

雪穂と軽く会話をした奏夜は店の奥にある家に上がろうとしたその時、ガラガラっと店の扉が開く音が聞こえてきた。

 

「あっ、いらっしゃいませ!」

 

雪穂は笑顔で来客した人物に挨拶をしていた。

 

その人物とは……。

 

「あ、雪穂ちゃん♪こんばんは♪」

 

用事があって遅くなると言っていたことりであり、ことりは笑みを浮かべながら雪穂に挨拶をしていた。

 

「ことりさん!こんばんは!ちょうど今、奏夜さんも来てますよ!」

 

「……よう、ことり。思ったより早かったな」

 

奏夜は奥に行こうとする前にことりが来たため、奏夜は足を止めてことりに挨拶をしていた。

 

「あっ、そーくん!そーくんも思ったより早かったねぇ」

 

「まぁな。……それよりその紙袋は?」

 

奏夜はことりの手にしている紙袋に何が入っているのかが気になっていた。

 

「それは後で説明するよ♪ほら、一緒に穂乃果ちゃんの部屋に行こっ!」

 

「そうだな。それじゃあ、雪穂。お邪魔するな」

 

「お邪魔しま〜す」

 

「は〜い。ごゆっくり〜」

 

改めて雪穂に挨拶をした奏夜とことりは、そのまま店の奥にある家の中に入り、階段を上がると、1番奥にある穂乃果の部屋へと向かった。

 

「みんな、お待たせ!」

 

「悪いな、遅くなった!」

 

部屋に到着した奏夜とことりは、部屋の中に入った。

 

「あっ、そーくん、ことりちゃん。見て見て!」

 

「あっ、すごい!」

 

「へぇ、ランキングが上がってるじゃないか!」

 

奏夜とことりはノートパソコンの画面をチェックすると、μ'sのランキングが若干ではあるが上昇しており、感嘆の声をあげていた。

 

「ねぇ、ことりちゃん。それってもしかして衣装?」

 

「うん!さっきお店で最後の仕上げをしてもらったんだ」

 

「なるほど、それで穂乃果の家に行くのが遅れたんだな」

 

先ほどまで気になっていた紙袋の中身がわかり、奏夜は納得していた。

 

ことりが衣装を取り出すのを穂乃果はワクワクしながら、そして海未は息を飲んで見守っていた。

 

「ジャーン♪」

 

ことりが取り出したのはノースリーブのフリフリな衣装だった。

 

それを見た穂乃果は目を輝かせ、海未は唖然としていた。

 

「うわぁ、可愛い♪本物のアイドルみたい♪」

 

「確かに、クオリティが高いな…」

 

衣装の出来の良さに奏夜も感心していた。

 

穂乃果の言う通り本物のアイドルみたいと感じたからである。

 

そんな中、海未は衣装が気に入らないのか、目を大きく見開いてプルプルと震えていた。

 

穂乃果はそんなこと海未のことなど気にせずにことりのことを褒めていた。

 

「海未、どうした?もしかして衣装がお気に召さないとかか?」

 

「あっ、いえ……。そういう訳ではないのです……。ただ……」

 

「ただ?」

 

「……ことり。そのスカート丈は?」

 

奏夜は海未がことりにスカート丈のことを聞いた時に事情を理解した。

 

海未は短いスカートは恥ずかしいから嫌で、最低でも膝下までないと履かないとまで言っていたからである。

 

「言ったはずです!最低でも膝下までないと履かないと……」

 

海未は険しい表情で衣装を作ったことりに詰め寄っていた。

 

「だってしょうがないよ。アイドルだもん」

 

「アイドルだからと言って、スカートは短くという決まりはないはずです!」

 

「それはそうだけど…」

 

「海未の言うことはもっともだが、アイドルの衣装はスカートが短めなのもまた事実なんだよな……」

 

「っ!確かにそうですが……!」

 

スカート丈の長めな衣装を着ているアイドルもいないことはないのだが、短めのスカートの衣装が多い事実を奏夜は語り、それには海未も反論出来なかった。

 

「でも、今から直すのはさすがに……」

 

「海未。恥ずかしいかもしれないけど、明日はこれで行くしかないぞ」

 

奏夜はどうにか海未のフォローをするが、効果はないようだった。

 

「そういう手に出るのは卑怯です!ならば私は1人だけ制服で出ます」

 

海未は気を悪くしたのか帰ろうとしていた。

 

「えぇ?」

 

「そんなぁ」

 

「そもそも3人が悪いんですよ!私に黙って結託するなんて」

 

「ちょっと待て!俺は衣装に関してはことりに一任してたし、あの服も今初めて見たんだから俺は2人と結託なんてしてないぞ」

 

奏夜衣装に関しては関与していないため

どうにか弁解するが、海未は聞く耳を持たず逆に睨まれてしまった。

 

「それに、あの格好の中に制服って逆にそっちの方が目立つんじゃないか?」

 

「うっ、確かにそれはそうですが……」

 

奏夜はアイドルの衣装を着た2人の中に制服の人間が入ると逆に恥ずかしいのでは?そう追求すると、海未は反論することが出来なかった。

 

そんな中……。

 

「……だって……。絶対成功させたいんだもん……」

 

穂乃果が少し俯きながらこう呟いていた。

 

「……穂乃果?」

 

「歌を覚えて衣装を揃えてここまでずっと頑張ってきたんだもん。4人でやって良かったってそう思いたいの!」

 

穂乃果の言葉には気持ちが込もっており、それが奏夜たちにストレートに伝わってきた。

 

すると穂乃果は何を思ったのか窓の方に向かうといきなり窓を開けて……。

 

「思いたいのぉ!!」

 

このようにいきなり叫びだした。

 

「何をしてるのです!」

 

「おいおい、こんな時間に近所迷惑だろ……」

 

いきなら、叫んだ穂乃果に、奏夜は呆れていた。

 

「……それは私も同じかな。私も4人でライブを成功させたい!」

 

「ことり……」

 

「もちろん、俺も2人と同じ気持ちだよ。俺だってライブの成功を誰よりも願っているからな」

 

「奏夜……」

 

海未は奏夜たちの気持ちを聞くとじっと俺たちの顔を見つめていた。

 

「まったく……。いつもいつもずるいです……。私だって……」

 

海未も同じ気持ちのため、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「……わかりました」

 

「海未ちゃん……」

 

海未は渋々衣装のことを了承すると穂乃果は目を輝かせていた。

 

そして……。

 

「だ~い好きっ♪」

 

穂乃果は海未に飛びつき抱きついた。

 

抱きつかれた海未は満更でもないといった感じだった。

 

2人が抱きついているのを見て、奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

『……おい、奏夜。もしかして、羨ましいなどとは思ってないだろうな?』

 

「あっ、当たり前だろ!?」

 

「……そーくん、変なことを考えるなら本当にことりのおやつにしちゃうからね♪」

 

「は、はい……」

 

ことりは何故か満面の笑みなのだが、何故かプレッシャーは相当であり、奏夜は素直にはいと答える事しか出来なかった。

 

衣装の問題が解決した奏夜たちは神田明神へ向かい、明日のライブの成功をお願いした。

 

「明日のライブ……成功しますように!いや、大成功しますように!」

 

「緊張しませんように……」

 

「みんなが楽しんでくれますように」

 

「……」

 

3人はお願いを声に出していたが、奏夜はあえて黙っていた。

 

「よろしくお願いします!」

 

奏夜たちはお願いを済ませると空から見える星空を眺めていた。

 

「……ねぇ、そーくん。そーくんは何てお願いしたの?」

 

「確かに。奏夜だけ黙ってましたよね」

 

「そーくん♪ことりも気になるな♪」

 

奏夜が声を出さずに何かを願っていたことに気付いていた穂乃果たちはそこを追求していた。

 

「それは……内緒だよ」

 

「えぇ?ずるい!ねぇ、そーくん、教えてよぉ!」

 

奏夜が内緒と答えると、その答えが気に入らないのか、穂乃果は頬をぷぅっと膨らませていた。

 

「そうです。奏夜だけ黙ってるなんてずるいです!」

 

「そーくん……お願い♪」

 

(うぐっ……。ここでお願いがくるか……)

 

ことりによるお願い攻撃はかなり効果的であり、奏夜はそんなことりのお願いを断ることは出来なかった。

 

「……ライブが成功しますようにだよ」

 

奏夜は嘘をついて誤魔化そうとするが……。

 

「それ、嘘だよね?」

 

「な、何言ってるんだよ!そんな訳ないだろ」

 

あっさりと穂乃果に見透かされてしまい、奏夜は焦りを見せていたため、嘘をついているのは明白であった。

 

「確かに。奏夜は別のお願いをしてますね」

 

「そーくん。教えてくれないとことりのおやつにしちゃうよ♪」

 

(もうそのおやつってのはやめてくれよ……)

 

ことりの言う「おやつ」という言葉の真意がわからず、奏夜の顔は真っ青になっていた。

 

「だから内緒だって!ほら、明日も早いんだからもう帰るぞ」

 

奏夜は必死に誤魔化そうとすると、逃げるようにその場を後にした。

 

「あっ、奏夜!待ちなさい!」

 

そんな奏夜を、慌てて穂乃果たちが追いかけてきた。

 

奏夜は正直に打ち明けても良かったのだが、それを面と向かって言うのが気恥ずかしいと思っていた。

 

奏夜が願ったのは、「明日のライブで3人の最高の笑顔が見れますように」という内容だったからである。

 

そのお願い通りの成功を祈りつつ、奏夜は逃げるように神田明神を後にした。

 

しかし、すぐ穂乃果たちに追いつかれてしまったが、奏夜はお願いを語ろうとはしなかった。

 

そんなやり取りの後、奏夜は穂乃果たちを家まで送り届けると、そのまま家に戻り、明日のライブに備えて体を休めることにしたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『ようやくあいつらの初ライブか。やるからには悔いのないように頑張れよ!次回、「舞台」。これがスクールアイドル、μ'sの初舞台だ!!』

 




今回は電話の声だけでしたが、前作主人公である統夜が登場しました。

さらに、前作にも登場したベテラン騎士、大輝も初登場です。

大輝がこの翡翠の番犬所が来る前に別の番犬所にいたという話がありましたが、詳細が気になる方は「牙狼×けいおん 白銀の刃」をご覧ください。

衣装も完成し、振り付けも仕上がり、初ライブの準備は整いました。

さて、次回はいよいよ初ライブです。

μ'sの初ライブはいったいどのような結末になるのか?

そして、前作主人公である統夜は次回登場するのか?

それでは、次回をお楽しみに!




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第10話 「舞台」

お待たせしました!第10話になります!

この小説を投稿しておよそ1ヶ月になりますが、もうすぐでUAが3000を越えそうです。

前作よりもペースが早く、これだけ多くの人にこの作品を読んでもらえてると思うと、非常に嬉しく思っています。

これからも牙狼ライブ!をよろしくお願いします!

さて、今回はいよいよμ'sの初ライブとなります。

穂乃果たちは無事にライブを終わらせることは出来るのか?

それでは、第10話をどうぞ!




奏夜たちがチラシ配りなどライブに向けて準備に追われていた翌日、この日は新入生歓迎会が行われた。

 

新入生歓迎会と言っても運動部のパフォーマンスや文化部の演奏などはなく、ただ理事長や生徒会長の話があるだけだった。

 

(……正直つまんねぇ……)

 

新入生歓迎会が予想以上につまらないと感じているのか、奏夜は座ってるだけで苦痛だった。

 

《新入生歓迎会とやらでこの程度しか出来ないとは……。廃校問題も仕方ないかもしれないな》

 

(そうだよな……。俺もそう思ったよ……)

 

この学校は確かに歴史がある分、伝統のある学校だというのは推測出来るのだが、このような堅苦しい体制だからこそ廃校問題が出てるのではないかとキルバは思っている。

 

それは奏夜も同じ思いだったため、キルバをたしなめることはしなかった。

 

(……ふわぁ….…)

 

奏夜は何度目かわからない欠伸をするとそれを海未がジト目で見ていた。

 

スクールアイドルのマネージャーと魔戒騎士。これらを掛け持ちしている奏夜は想像以上に忙しい生活を送っているため、疲れは多少出ている。

 

だからこそ奏夜は欠伸をしていたのである。

 

奏夜はまた欠伸が出そうだったのだが、再び欠伸をしてしまうと今度は海未に睨まれそうなので奏夜はシャキッとしてありがたいお話を聞くことにしていた。

 

『これで新入生歓迎会を終わります。各部活ごとに体験入部を行っていますので興味があったらどんどん覗いてみて下さい』

 

(ふぅ……。やっと終わったぁ……)

 

《おい、奏夜。落ち着いてる場合じゃないぞ。これからが本番なんだからな》

 

(わかってるって)

 

新入生歓迎会終了後、奏夜たちは再びこの後のライブのお知らせのチラシを配ることになった。

 

しかし、人数の多い部活の勧誘の勢いが凄いからか、新入生が他の部活に流れてしまった。

 

そのため、なかなかチラシ配りが思うようにいかなかったのである。

 

そんな中、昨日までの海未はどこへ行ったのか。海未は人前であるにも関わらず動じることなくチラシを配っていた。

 

その海未の様子を見ていた奏夜たちにも笑みがこぼれる。

 

恥ずかしがり屋の海未だってここまで頑張っているため自分も頑張らなければ。

 

しばらくチラシ配りを行っているとヒフミトリオが奏夜たちのところにやってきた。

 

「おっ、やってるやってる」

 

「みんな、私たちも手伝うよ」

 

「えっ、本当?」

 

「リハーサルとかしたいでしょう?」

 

「それに、私たちだって学校なくなるの嫌だし」

 

「穂乃果たちには上手くいってほしいって思ってるから」

 

この3人は何かあれば手伝いをすると穂乃果に言っていたのだが、どうやら本気で手伝いをしてくれるようだ。

 

学校が無くなって欲しくない。その気持ちは奏夜たちと同じようだった。

 

この後、穂乃果たちのリハーサルをしたいと考えていたため、ヒフミトリオが手伝いをしてくれるのは奏夜としてもありがたかった。

 

「3人とも、ありがとな。本当に助かるよ」

 

「もぉ、そんな水臭いことは言わないの!」

 

「そうだな。……そしたら穂乃果たちは講堂に行ってリハーサルをやってくれ。俺はこの後もチラシ配りを続けるよ」

 

「え?でも……」

 

「いいから行ってこい。これは実際に歌わない俺の仕事なんだ。いくらお前らとはいっても譲らないぞ」

 

「そーくん……」

 

これは奏夜の本音であった。マネージャーとして自分のやるべきことはしっかりとしたいと思っていたからである。

 

「すみません、奏夜。それではよろしくお願いします」

 

「そーくん、お願いね♪」

 

「あぁ、任せろ!」

 

こうして穂乃果たちとヒフミトリオは講堂へ向かい、1人残された奏夜はチラシ配りを続けた。

 

(……さて、穂乃果たちのためにも人をたくさん集めないとな……)

 

奏夜は気合をいれてチラシを配っていった。

 

1時間ほど続けているとヒフミトリオの1人。短めのツインテールが特徴のミカが奏夜の手伝いに来てくれた。

 

どうやら照明や音響も整い、リハーサルも滞りなく終わったみたいで、現在はライブの衣装に着替えているようだった。

 

「ねぇ、奏夜くん。ここはいいから一度穂乃果ちゃんたちの様子を見に行ってあげてよ。奏夜くんの顔を見たらきっと安心すると思うから♪」

 

「悪い。したら少しの間頼めるか?3人の様子を見てきたらまた戻ってくるから」

 

「うん♪任せといて♪」

 

奏夜はチラシ配りの仕事をしばらくの間ミカに頼むとそのまま講堂の控え室へと向かった。

 

控え室に到着するとまずはドアをノックした。

 

いきなり開けて着替え中だったらラブコメでよく見かける展開になってしまうからである。

 

「俺だけど入っても大丈夫か?」

 

「あっ、そーくん?大丈夫だよ!」

 

穂乃果の了承を聞いたところで控え室の扉を開けるのだが、そんな奏夜の目に飛び込んで来たのは、昨日ことりが用意した衣装を身に纏った穂乃果とことりだった。

 

「へぇ……」

 

アイドルの衣装が予想以上に似合っていたのか、奏夜は感嘆の声をあげていた。

 

衣装を着た2人を見た時、本当にスクールアイドルなんだなと奏夜は実感していた。

 

「そ、そーくん……どうかな……?穂乃果たち、変じゃない?」

 

「何言ってるんだよ!2人ともすっごく似合ってる。正直思ってた以上だよ」

 

『奏夜。お前は2人に見惚れて鼻の下を伸ばしてたよな』

 

「ちょっ!?キルバ!それは言うなよ!」

 

奏夜は2人に見惚れているのを見透かされないため平静を装っていたのだが、それをキルバに見抜かれてしまい、奏夜は慌てふためいていた。

 

「本当?エヘヘ……嬉しいな……」

 

「クスッ……。そーくん、ありがとね♪」

 

衣装を褒められ、穂乃果もことりも満更でもないといった感じであった。

 

「あれ?ところで海未は?」

 

「あぁ、海未ちゃんなら…」

 

穂乃果が目線を移した先は着替え専用のスペースだった。

 

まだ着替え終わってないのか恥ずかしくて出てこれないかのどちらかであると予想することが出来た。

 

「海未、俺だけどもう着替えは終わってるのか?」

 

「そ、奏夜!?あっ、はい……。ですが……」

 

「俺がいちゃまずいなら出てったほうがいいか?俺は3人の様子を見に来ただけだし」

 

「あっ、いえ。大丈夫です!」

 

「……本当に大丈夫か?」

 

海未は無理をしてるのではないかと奏夜は心配をしていたが、シャッとカーテンの音が聞こえ、あの衣装に身を纏った海未が出てきた。

 

出てきたのは良かったのだが……。

 

「ど、どうでしょうか?」

 

「どうでしょうかじゃないよ!何、この往生際の悪さは!」

 

穂乃果の言う通り海未は最後の抵抗と言わんばかりに衣装の下にジャージを履いていた。

 

『おいおい……それじゃダメだろう……』

 

海未の最後の抵抗に呆れ果てていたキルバはジト目で海未を見ていた。

 

「海未、まさかとは思うけど、それ着た瞬間恥ずかしくなったとか言わないよな?」

 

「えぇ、実は……。鏡を見たら……急に……」

 

(やっぱりか……。だけどこれで本番はまずいよなぁ……)

 

スカートの下にジャージを着ているアイドルなど誰も見たくないだろう。だからなんとかしなければ。

 

奏夜がそんなことを考えていたその時だった。

 

「えいっ!」

 

「ちょっ、おまっ!?」

 

目の前に奏夜がいるのに穂乃果は躊躇なく海未のジャージを脱がしたため、奏夜は頬を赤らめながらも咄嗟に回れ右をしてその光景を見ないようにしていた。

 

「あぁっ!嫌ぁ!」

 

突然の出来事に、海未は慌てて両手でスカートを抑えていた。

 

「隠してどうするの。スカート履いてるのに」

 

「で、ですが!」

 

「海未ちゃん、可愛いよ♪」

 

(くそぅ、見てぇ……。だけど許可もなく振り向いたら後が怖いぞこれ……)

 

ことりが海未のことを褒めている声が聞こえてきて、奏夜は海未の衣装姿を見たいと考えていたのだが、今はその時ではないと判断し、堪えていた。

 

「ほらほら、海未ちゃん。一番似合ってるんじゃない?」

 

穂乃果もまた、衣装を着た海未のことをべた褒めしていた。

 

「……そーくん、そろそろこっち見ても大丈夫だよ」

 

ここでようやく穂乃果のお許しを得たので奏夜は改めて衣装を着た海未を見たのだが……。

 

「……!!」

 

穂乃果やことりが褒める通り、海未の衣装姿はとても似合っており、それを見た奏夜は頬を赤らめていた。

 

似合っているのもあるのだが、海未は衣装を着るのが恥ずかしいのか、頬を赤らめながらもじもじしており、それが奏夜をよりドキッとさせていた。

 

「……そーくん、鼻の下伸びてるよ……」

 

今度は誰が見てもわかるくらいあからさまに奏夜は鼻の下を伸ばしていたため、ことりはジト目で奏夜を睨みつけていた。

 

「……!お、オホン!……それはともかくとして、似合ってよ、凄く。それに、3人並んで立ったら恥ずかしくないだろ?」

 

「はっ、はい……。こうしていれば……」

 

海未はちょっとはにかみながらも嬉しそうにしていたため、その姿がより魅力的に見えていた。

 

「さて、俺はもう一度チラシ配りに行くから3人は時間まで最後の調整をするといいよ」

 

「うん♪そーくん、来てくれてありがとう♪」

 

「あぁ。ライブ、頑張ろうな」

 

「「「うん(はい)!」」」

 

こうして奏夜は控え室を後にするとチラシ配りを続けているミカと合流して俺もチラシ配りを再開した。

 

その時、奏夜は相当顔がにやけていたらしく、そこをミカにいじられたのだが、そこは軽くあしらっていた。

 

「この後、16時から講堂でμ`sのライブがあります!よろしくお願いします!」

 

学校の中庭に、奏夜の軽快な声が響き渡っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

……ちょうどその頃、赤いロングコートを着た青年が音ノ木坂学院を訪れていた。

 

「……ここが奏夜の通ってる音ノ木坂学院か……。何となくだけど、桜高に似てるところはあるよな……」

 

赤いロングコートの青年は、奏夜の先輩騎士である月影統夜であり、統夜は音ノ木坂学院の佇まいが統夜の母校である桜ヶ丘高校に似ていると思っていた。

 

『……そうか?建物だけいうとこっちの方が立派そうだがな』

 

奏夜の左手にはめられているドクロの形をした指輪がふと口を開いた。

 

この指輪は、「魔導輪イルバ」。白銀騎士奏狼である統夜の相棒である。

 

その見た目は黄金騎士牙狼の魔導輪であるザルバそっくりなのだが、本人はそれを認めようとはしない。

 

それはザルバも同様であり、会えばいつも喧嘩をしてしまうため、統夜と牙狼の称号を持つ冴島鋼牙(さえじまこうが)を困らせていた。

 

「……俺は桜ヶ丘の古くさい感じが好きだけどな……」

 

音ノ木坂学院の校舎の方が若干立派であることは統夜も認めていたのだが、やはり統夜は母校である桜ヶ丘高校の校舎を気に入っていたのである。

 

「さてと……。まずはこの中に入る申し込みをしないとな」

 

何の申し込みもしないで校内をウロウロしていては不審者と思われてしまうので、統夜は学校の入り口を探していたのだが……。

 

「……あれ?見ない顔やけど、この学校に何かご用ですか?」

 

副会長である希が統夜の姿を見つけたので、統夜に声をかけていた。

 

「あぁ。俺の弟みたいな存在がスクールアイドルの手伝いをしてると聞いてな。今日ライブをやると聞いたから見にきたんだよ」

 

「弟みたいな存在……。あぁ、如月くんのことですね?」

 

「あぁ。……君は、奏夜を知っているのか?」

 

「ウチは生徒会の副会長ですから」

 

「へぇ、生徒会の人間なのか」

 

自分に声をかけてきた希が副会長だとは思っていなかったのか、統夜は少しばかり驚いていた。

 

「ウチが玄関まで案内しましょうか?」

 

「いいのか?こちらとしてはありがたいけど……」

 

「もちろんですよ。さ、こちらへどうぞ」

 

希は統夜を玄関まで案内すると、統夜は学校の中に入る手続きを済ませて、「GUEST」と書かれたネームプレートを首にぶら下げていた。

 

「……ありがとな。手続きにも立ち会ってくれて」

 

希は統夜を玄関まで案内しただけではなく、学校の中に入る手続きにも立ち会ってくれたため、統夜は改めて希に礼を言っていた。

 

「気にしなくてもいいですよ。ウチは副会長として当然のことをしたまでですから」

 

「本当に助かったよ。えっと……」

 

「ウチは東條希です」

 

「希……だな。俺は月影統夜。よろしくな」

 

「月影さんですね。覚えておきます」

 

こう語る希はかなりニコニコしていたため、統夜は首を傾げていた。

 

「……月影さんって雰囲気が如月くんと似てますね。……如月くんもやけど、他の人とは違うというか……。普通の人がしていないことをしているというか……」

 

《……統夜。このお嬢ちゃんは魔戒騎士やホラーのことは知らないみたいだが、ただ者じゃないぞ》

 

(そうみたいだな……。雰囲気だけでここまで見抜くんだもんな……)

 

イルバは希がただ者ではないと感じていたのだが、それは統夜も感じていたことだった。

 

「……月影さん?」

 

「あ、あぁ!いや、何でもないよ!俺なんてそんな凄い人間じゃないけどな。しがないフリーターだし」

 

大学に行っている訳でも就職してる訳でもない統夜は、自分のことをフリーターと言って希の話を誤魔化していた。

 

「へぇ、そうなんや……」

 

希はそんな統夜の考えを見抜いているのか、ニヤニヤしながら統夜のことを見ていた。

 

「……と、とりあえずここまで案内してくれてありがとな!それじゃあ、また!」

 

統夜はこのように希に別れを告げると、逃げるようにその場を後にした。

 

それからまもなくして、統夜はあることに気が付いたのである。

 

それは……。

 

「……あれ?何で俺はあの子に“また”なんて言ったんだ?」

 

咄嗟な言葉であったとはいえ、希に対して「またな」と言ったことが統夜は気になっていた。

 

『まぁ、俺様もあのお嬢ちゃんにはまた会いそうな気はしたけどな』

 

イルバは近いうちに希と再会することを予想していたため、特に統夜の言葉を気にしてなかった。

 

「……そうかもな。さて、校内を見て回りながら講堂へ向かうとするか」

 

統夜はとりあえず校内観光を行いながら講堂の場所を探すことにした。

 

そんな中、希は逃げるようにその場を離れていった統夜の姿をジッと見つめていた。

 

「……“またな”……か……。ふふ、確かにまた会いそうな気がする。そんな気はするよね」

 

統夜の言葉を真に受けていた希は、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

そして、1枚のタロットカードを引くのだが、そのカードはソードの騎士であった。

 

それを見た希は、再び笑みを浮かべると……。

 

「……なるほど。そういうことなんやな」

 

まるで全てを見透かしているような言葉を浮かべると、希は穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

希は本当に奏夜や統夜が魔戒騎士であるということを理解しているのか?

 

それが明らかになるのはもう少し先の話であった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

奏夜がチラシ配りを再開してどれだけ時間がたっただろうか。

 

途中「ダレカタスケテー!」とか聞こえてきて、奏夜は反応するのだが、チラシ配りをしなければならないため、奏夜はスルーしたのである。

 

奏夜が時計を確認すると、ライブ開始まであと20分と迫っていた。

 

そのため奏夜は一度講堂に戻りどれだけお客さんが入ってるか確認しに行ったんだが……。

 

「……何でだよ……」

 

講堂には誰も人はおらず、奏夜は思わず自分の気持ちを声に出してしまった。

 

無名のアイドルの初ライブなんて5、6人入れば上々だと思っていたが、まさか誰もいないとは思わなかったからである。

 

こんなのを3人に見せたらきっと平常ではいられない。

 

そう考えていた奏夜は焦っていた。

 

この状況を何とかするにはどうすればいいか必死に考えたのだが、良いアイディアは思いつかなかった。

 

考えても時間の無駄だと判断し、奏夜もう一度チラシ配りに行こうとしたのだが……。

 

「ちょっと奏夜くん、どこに行くの?」

 

「もう一度チラシ配りに行ってくる。これじゃあ穂乃果たちに合わせる顔がないからな……」

 

「奏夜くんの気持ちはわかるけど…。今から宣伝したって……もう……」

 

「……っ」

 

奏夜は居ても立っても居られないからあ、止めてくれたヒフミトリオの声も聞かず講堂を飛び出した。

 

もう16時前。チラシ配りを始めた時とはうって変わり人はだいぶ疎らになっていた。

 

そのため、ヒフミトリオの3人が止めるのも理解出来るのだが、体を動かさずにはいられなかった。

 

『……おい、奏夜。いい加減諦めろ。もうすぐライブだろう?今から頑張っても客は来ないぞ。現実を受け止めろ』

 

「わかってるよ!だけど、ジッとなんてしてられねぇよ!」

 

キルバの言い分は理解出来るのだが、奏夜はこのまま大人しくライブが始まるのを待っていられなかった。

 

奏夜の努力も徒労に終わってしまい、時間だけが無情に過ぎていった。

 

ライブ開始まであと5分まで粘ったところで奏夜は講堂に戻ってきたが、やはり誰も来ていなかった。

 

ライブに行くと話していた花陽と統夜の姿もなかった。

 

統夜は魔戒騎士であるため、急な指令が来てしまえば行けないのは仕方ないし、花陽も別の用事が出来たのでは?と予想することは出来た。

 

そんなこと考えても手遅れであり、悔しいけど、この結果は真摯に受け止めなくてはならない。

 

奏夜は唇を噛み締めながらライブ開始のブザーを聞いていた。

 

3人はどんな気持ちでそこに立っていたのだろうか?奏夜はそんなことを考えていた。

 

恐らくは不安もあるだろうが、ワクワクの方が勝っていると予想することが出来た。

 

最高のライブにする。その気持ちでここまで来たため、この現場を見て3人がどんな気持ちになるか。想像するのは容易かった。

 

そして舞台の幕が上がり、3人の姿が見えた。

 

……それはすなわち、この会場には誰もお客さんがいないということを、穂乃果たちが目の当たりにする瞬間だった。

 

「……ごめん……。私たちも頑張ったんだけど……」

 

この張り詰めた空気にいたたまれなくなったのかヒフミトリオの1人、ポニーテールが特徴のフミコが申し訳なさそうに言葉を発していた。

 

奏夜の予想通り穂乃果たちはまさかの展開に唖然としていた。

 

「穂乃果ちゃん…」

 

「穂乃果…」

 

ことりと海未に至っては今にも泣きそうだったが、どうにか涙をこらえていた。

 

奏夜は穂乃果の顔を見るが穂乃果は固まったままだった。

 

恐らく今まで頑張ってきたことを思い出しているのだろう。

 

「……そりゃ、そうだ。世の中そんなに甘くない……」

 

穂乃果はどうにか強がっていたけどその声は震えていた。

 

穂乃果だって本当は泣きたいんだろう。それは簡単に予想出来たのだが、今泣いてしまえば止まらなくなってしまう。

 

そしてライブどころではなくなる。

 

奏夜はそんな穂乃果たちになんて言葉をかけて良いのかわからず、ここで自分の無力さを思い知らされていた。

 

(……くそっ!穂乃果たちの笑顔を守ることが出来ないなんて何が守りし者だよ……!こんな時に何もしてやれないなんて……!)

 

直接的には穂乃果たちのことは守ることが出来ても、いざという時に穂乃果たちのために何もしてやれない。

 

自分の無力さを呪った奏夜は、両手の拳をギュッと握りしめて唇を噛んでいた。

 

ここにいる全員がライブの開催を諦めていたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コツン……。コツン……。コツン……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軽快な足音が聞こえてくると、赤いロングコートを着た青年が、講堂に現れた。

 

「!?」

 

「あなたは……」

 

「もしかして……」

 

「統夜……さん……?」

 

ライブの開始時間は既に過ぎているのだが、少し遅れて姿を現したのは、奏夜の先輩騎士である統夜であった。

 

「すまんな、ちょっと遅くなっちまった。ちょっと道に迷っちまってな……」

 

統夜は穏やかな表情で笑みを浮かべながら遅くなったことを詫び、弁解していた。

 

《やれやれ……。よく言うぜ……。ちょっと前までアルパカと戯れてたから遅くなったくせに……》

 

(ちょっ!?イルバ!それは言うなよ!!格好がつかないだろ!?)

 

イルバの指摘通り、統夜はここへくる前にアルパカ小屋を訪れていたのだが、時間を忘れてアルパカと戯れてしまい、この時間となっていたのである。

 

この音ノ木坂学院はアルパカを飼育しており、それは普通の学校としては珍しいケースである。

 

統夜はイルバに痛いところを突かれてしまったため、視線をイルバに向けるのだが、目が泳いでるようにも見えたため、穂乃果たち3人は首を傾げていた。

 

「……それにしても、客は俺だけなのか……。もうライブの開始時間は過ぎてるのに何で始めないんだ?」

 

現在は16時5分。16時ちょうどにライブが始まったのなら、終わってもおかしくはない時間なのだが、どうやらライブは始まってないため、そのことが統夜には気になっていた。

 

「そ、それは……」

 

この統夜の問いかけに、奏夜は答えることは出来なかった。

 

一生懸命努力をしたのに、客は誰も来なかった。

 

今、統夜は来てくれたが、こんな状態でライブなんて出来るハズはない。

 

そんなことを奏夜は考えていたからである。

 

しかし、そんな奏夜の考えを統夜は見抜いていた。

 

「まさかとは思うけど、客がいないからライブをしない……なんて言わないよな?」

 

こう問いかけをする統夜の声は、優しい声ではなく、少しだけ低く、ドスの効いた声であった。

 

「……っ!!」

 

統夜に自分の考えを見透かされ、奏夜は息を飲んでいた。

 

穂乃果たちは統夜のここまで厳しさの伝わる声を聞いたことがなかったため、驚きを隠せずにいた。

 

「お前たちも……。そう思ってるんだな?」

 

奏夜だけではなく、穂乃果たちにも統夜は問いかけをするのだが、穂乃果たちは上手く答えることは出来なかった。

 

そんな中……。

 

「そ、そう思うのも仕方ありません!これだけ一生懸命努力してきたのに、お客さんが統夜さんしかいないんですよ!?」

 

「そうです!そんな状態なのに……歌えって言うんですか!?」

 

海未とことりが、涙目で自分の思いを統夜にぶつけていた。

 

そんな2人の主張を聞いた統夜は、少しばかり呆れているのか、ため息をついていた。

 

「……そうか……。俺はスクールアイドルのことはよく知らないけど、お前らの覚悟はその程度のものだったんだな」

 

「「「「!!?」」」」

 

統夜は険しい表情で厳しい言葉を投げかけており、それを聞いた奏夜たちは息を飲んでいた。

 

そして、講堂を包み込む険悪な雰囲気に、ヒフミトリオの3人は困惑していた。

 

「……お前らに1つ聞きたいんだけど、お前らは何でスクールアイドルを始めたんだ?」

 

「そっ、それは……。廃校の危機を迎えてるこの学校を何とかしたくて……」

 

「ほぉ……」

 

この音ノ木坂学院が廃校の危機にあるという話は知らなかったからか、統夜は少しばかり驚いていた。

 

しかし……。

 

「……お前らは確かに努力をしてきたのかもしれない。だけどな、この程度のことで挫けていたら、廃校阻止なんて夢のまた夢だろうな。その程度の覚悟しかないなら、スクールアイドルなんて辞めてしまえ。今のお前らの覚悟じゃ決して上手くはいかないんだからな」

 

統夜がここまで容赦ない発言をするとは思っていなかったので、穂乃果たち3人は目に涙を溜めており、泣くのを必死に堪えていた。

 

そんな中、いくら尊敬する魔戒騎士とはいえ、統夜の発言を許すことは出来ず、両手の拳をギュッと握りしめていた。

 

「統夜さん……!いくらあなたでも言って良いことと悪いことがありますよ!」

 

「ほぉ……?」

 

鬼のような形相をした奏夜の剣幕に、統夜は少しだけ驚いていた。

 

奏夜がここまで怒るところを初めて見たからである。

 

「あいつらは……。穂乃果たちは今日のために必死に努力をしてきたんです!!全ては、スクールアイドルとして有名になって、廃校を阻止するために……!俺は3人が本気だってことがわかってたからマネージャーとして3人を支えようと誓ったんです!!」

 

「……」

 

奏夜は怒りの口調だったが、相手が統夜だからということもあるのか、タメ口は使わず、敬語で話していた。

 

「「そーくん……」」

 

「奏夜……」

 

「……それに、この3人がスクールアイドルを始めると決意したのは、並大抵な覚悟じゃないです!!……こいつらの覚悟を馬鹿にするというなら、いくら統夜さんといえど許しません!!」

 

奏夜は悪鬼の如く表情で統夜を睨みつけており、今にでも魔戒剣を抜いてしまいそうな勢いだった。

 

「ちょ、ちょっと……!さすがに暴力沙汰は……」

 

奏夜のただならぬ雰囲気を感じ取ったヒデコは奏夜をなだめようと必死になっていた。

 

そんな奏夜の言葉を聞いていた統夜は気を悪くするどころか、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

自分の大切なもののために怒る奏夜を見た統夜は、奏夜の成長を嬉しく思っていたのである。

 

「フッ……。お前らの覚悟が本物だとしたら今何をするべきか……。わかるだろ?」

 

「そ、それは……」

 

怒ることなく冷静に言葉を返す統夜を見て、奏夜の怒気はすっかりと消え去ってしまった。

 

統夜が穂乃果たちを焚き付けるために、わざと悪役を演じたということを理解したからである。

 

そんな統夜の真意を奏夜が感じ取ったその時、バタン!大きな音を立てながら、花陽が講堂の中に入ってきた。

 

花陽はμ'sのライブを楽しみにしていたのだが、何かしら用事があって遅くなったみたいである。

 

「……あれ?ライブは……?あれ……?あれぇ……?」

 

どうやら花陽はライブが終わってしまったと勘違いしていたのか、困惑しながら講堂内を見ていた。

 

「……そこの君、運が良いな。こいつらのライブのスタートはちょっと遅れたみたいでな。今から始まるみたいだぞ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

統夜の言葉を聞いて嬉しくなったのか、花陽の表情がぱぁっと明るくなっていた。

 

「と、統夜さん。俺たちはまだ……」

 

統夜のライブを行うことを前提にしている発言に奏夜は困惑していた。

 

「……たった2人の観客だけどな。客はお前らの都合なんて知ったこっちゃない。例え客が誰もいなくたって、ライブをやると決めたからには全力でパフォーマンスをする。……それがスクールアイドルってもんだろ?」

 

「!!」

 

この瞬間、奏夜は大事なことに気付くことが出来た。

 

例え客の人数が多かろうと少なかろうと、自分たちのライブを楽しみにしてる人はいる。

 

そんな人たちに応えることこそ1番大切であると。

 

(……流石は統夜さんだ……。俺は正直焦ってた。初ライブをどうしても成功させて、みんなの笑顔を守ろうって……。だけど、それは違うんだな……)

 

奏夜はこの講堂を満員にするまではいかなくても、半分以上はお客さんを動員したいと考えていた。

 

そして、それが叶わないと知ると諦めてしまっていた。

 

(……ここで歌うのを辞めたら……。俺たちはもうスクールアイドルだなんて偉そうなことは言えなくなる。本当に大事なのは、この結果を真摯に受け止めて、次に繋げていくことなんだよ……)

 

《やれやれ……。奏夜のやつ、やっと気付いたようだな》

 

キルバは今奏夜が考えていることにいち早く気付いてはいたのだが、奏夜の成長のためにあえて黙っていた。

 

奏夜が大切なことに気付き、キルバは安堵していた。

 

そんな中、統夜は……。

 

(……まぁ、音楽準備室で毎日のようにお茶を飲んではダラダラしていた俺がこんな偉そうなこと言うのはちょっと違うかなとは思ったんだけどな……)

 

《……確かにそうだが、別にいいんじゃないのか?お前さんが悪役をやったおかげで、あいつらを焚き付けることは出来たみたいだしな》

 

統夜は軽音部時代、毎日のようにお茶を飲んではダラダラと、奏夜たちのように脇目も振らずに練習に打ち込んできた訳ではなかった。

 

そのため、そんな自分がここまで偉そうなことを言って良いのかと自問自答してしまい、苦笑いしていた。

 

……そんな中、統夜が現れてからは沈黙を貫いていた穂乃果だったが……。

 

「……みんな、やろう!歌おう!全力で!!」

 

穂乃果がライブを行う意思を示していた。

 

「ほ、穂乃果ちゃん?」

 

「で、ですが……」

 

「統夜さんの言ってることは正しいよ。……それに、私たちはこの日のためにここまで頑張ってきたんだから!」

 

「「!!」」

 

穂乃果の真っ直ぐな言葉を聞いて、海未とことりは大事なことを思い出した。

 

確かに客がほとんどいないのは残念なのだが、自分たちは今日のライブのために苦しい練習にも耐えてきたのである。

 

「……だから……やろう!」

 

「穂乃果ちゃん……。う、海未ちゃん!」

 

「えぇ!そうですね!やりましょう!」

 

「……ったく……。やっとやる気になったか……」

 

穂乃果たちがようやくライブを行う決意を固めたため、統夜は安堵のため息をついていたのだが、その表情は穏やかなものだった。

 

「……みんな……。最後まで悔いのないよう、頑張れよ……」

 

そして奏夜は、ライブの成功はもちろんだが、穂乃果たちが後悔のないようパフォーマンスが出来るように祈っていた。

 

穂乃果たち3人がライブを行う決意をしたことを確認したヒフミトリオは、それぞれ持ち場について、ライブの準備を行った。

 

準備は数分で終了し、講堂の明かりが全て消えると、曲のイントロが流れ、照明が穂乃果たちに集中していた。

 

こうして、穂乃果たちのパフォーマンスは幕を開けたのである。

 

 

 

 

 

〜使用曲→START:DASH 〜

 

 

 

 

 

曲が始まると、穂乃果たち3人は歌と共に踊りを始めた。

 

3人のパフォーマンスが始まって間もなくすると、花陽の友人である星空凛が、講堂に現れた。

 

友人である花陽を探しに来たのだろう。

 

凛は花陽に声をかけようとしたのだが、花陽は穂乃果たち3人のパフォーマンスに夢中だったため、自然とステージに視線が向いていた。

 

そんなことなど気にすることはなく、奏夜は3人のパフォーマンスに見とれていた。

 

(うんうん……。正直言うとまだまだなところはあるけど、3人とも、凄く輝いてるぞ……!!)

 

穂乃果たち3人は努力の甲斐があったのか、今までで1番出来の良いパフォーマンスとなっており、奏夜はウンウンと頷いていた。

 

3人の表情は、奏夜の普段見る3人とは異なり、スクールアイドルとして恥じることのない堂々とした表情をしていた。

 

そして、スクールアイドルのパフォーマンスを初めて見た統夜は……。

 

(なるほど……。これがスクールアイドルか……。こりゃ、梓が熱中するのもわかる気がするよ……)

 

3人のパフォーマンスは素人の統夜は圧巻に見えており、恋人である梓がスクールアイドルにハマっていることに納得していた。

 

(……それに、客もちょっとずつではあるけど、増えてるじゃないか……。これなら、心配しなくても大丈夫そうだな……)

 

奏夜たちならこれからもスクールアイドルとしてやっていける。

 

3人のパフォーマンスを見て、統夜はこう確信していた。

 

(……それにしても、あの3人のパフォーマンスを見てると、軽音部でのライブを思い出すな……。3人とも、本当に楽しそうだからな……)

 

穂乃果たちのパフォーマンスを見て、軽音部でのライブを思い出した統夜は、先ほどよりも優しい表情で微笑んでいた。

 

統夜たち放課後ティータイムの行うライブは毎回毎回楽しそうだと評判であり、統夜たちも自分たちの演奏を楽しんでいる。

 

そんな自分たちの演奏と穂乃果たちのパフォーマンスを重ねて見ているからか、穏やかな表情をしているのであった。

 

さらに、統夜の言う通り、先ほどまでは客が統夜と花陽だけだったのだが、花陽の友人である凛が講堂に来ており、さらには穂乃果たちの曲を作った真姫も、講堂の入り口で穂乃果たちのパフォーマンスを見守っていた。

 

そして、希は講堂の中に入ろうとはしなかったのだが、穂乃果たちの様子を見守っており、さらには自分をにこと名乗るツインテールの少女……矢澤にこも講堂内に潜んでいた。

 

奏夜もどうやら少しずつ人が増えているのを確認し、ありがたいという気持ちになっていた。

 

人数は少なくても自分たちのパフォーマンスを見てくれる人がいる。

 

それだけでも穂乃果たちにとっては力になると確信しているからである。

 

こうして、人数は多くはないが、この講堂にいる全員が穂乃果たちのパフォーマンスに見入っており、穂乃果たちも今のところは順調にパフォーマンスを進めていった。

 

まだμ'sを結成しておよそ1ヶ月であるため、お世辞にも上手なパフォーマンスという訳ではなかったのだが、この日の穂乃果たちは誰よりも輝いていた。

 

こうして、全てを出し切った穂乃果たち3人のライブは無事に終了することが出来た。

 

演奏が終わるとこの会場にいるみんなが惜しみなく拍手を送っていた。

 

奏夜は3人の顔を見ると自分のやるべきことを最後まで出し切った顔をしていた。

 

(……本当によく頑張ったな。お前ら……)

 

奏夜は3人のパフォーマンスの成功を、まるで自分がその場で踊っているかのような感覚で喜んでいた。

 

会場も穏やかな空気に包まれていたのだが、突然現れた絵里が険しい表情をしていたため、そんな空気は壊れてしまった。

 

絵里は穂乃果たちのパフォーマンスが始まって間もなくあたりに音響室へ現れると、そこで穂乃果たちのパフォーマンスを見ていたのである。

 

「生徒……会長……」

 

「どうするつもり?」

 

ライブをやると高々に宣言して観客はほとんどいなかったため、このように聞いてくることは予想出来た。

 

そんな中、穂乃果は……。

 

「続けます」

 

と、簡潔な言葉ではあったが、力強く答えていた。

 

(……うん、穂乃果。それでいい)

 

穂乃果のスクールアイドルへの気持ちが揺らいでいないことに安堵した奏夜は笑みを浮かべていた。

 

「何故?これ以上続けても意味はないと思うけど」

 

絵里の言葉には言葉に棘があり、本当なら言い返したいと思った奏夜だったが、それは穂乃果に任せることにした。

 

「やりたいからです!今、私はもっともっと歌いたい!踊りたい!って思ってます。きっと海未ちゃんも…ことりちゃんも」

 

(……あぁ、そして俺だって同じ気持ちだ。3人を支えたいってな)

 

「こんな気持ち初めてなんです!やって良かったって、本気で思えたんです!…今はこの気持ちを信じたい…」

 

(そうだぞ、穂乃果。一番大事なのは後悔しないことだからな)

 

穂乃果の熱い言葉を1つ1つ反芻しながら、奏夜は穂乃果の言葉に同意しており、ウンウンと頷いていた。

 

恐らくあのままライブを中止してたら穂乃果たちはここまでの気持ちにはならなかっただろう。

 

「……このまま誰も見向きもしてくれないかもしれない。応援なんて全然もらえないかもしれない。でも、一生懸命頑張って。とにかく私たちが頑張って届けたい!今、私たちがここにいる、この思いを!」

 

この穂乃果の言葉を聞いた瞬間、今までやって来て良かったなと奏夜は本気で思ったのであった。

 

この結果だったからこそ、3人はスクールアイドルとしてがむしゃらに頑張る覚悟が本当に出来たんだと奏夜は確信したからである。

 

「いつか……。いつか私たち必ず……ここを満員にしてみせます!」

 

(アハハ……。大きく出たもんだ……)

 

穂乃果のこの言葉に奏夜は苦笑いをするが、目標があるから人は頑張れると確信していた。

 

絵里は何も言わずしっかりと穂乃果たちのことを見ていた。

 

「やれやれ……。確かに結果はダメだったかもしれないけど、この3人は頑張ったんだ。ライブが終わった直後にあれこれ言うのは野暮ってもんじゃないのか?」

 

ここで統夜は話に入り、まさかの統夜の介入に、奏夜は驚いていた。

 

そんな統夜を、絵里は訝しげに見ていた。

 

「……あなた、誰なの?この学校の生徒ではないわよね?」

 

「俺は怪しい者じゃないぞ。しっかり手続きをしてここに入ったしな。ほら」

 

統夜は首にぶら下げている「GUEST」と書かれたネームプレートを絵里に見せつけていた。

 

それを見て、絵里は統夜を不審者ではないと確信したのだが、何かを思い出し、統夜をジッと見ていた。

 

「あなた……。どこかで会ったことがないかしら?」

 

「さぁて、どうだかね」

 

統夜はこのようにとぼけていたのだが、実は統夜と絵里は1度会ったことがあるのである。

 

どのように2人は出会ったのか……。明かされるのはまだ先のことであった。

 

「……ま、それはともかくとして、この3人の覚悟は本物だぜ?それはあんたもよくわかってるんじゃないのか?」

 

「……っ!生徒会としては、スクールアイドル部を認めていません。部外者のあなたが口を挟まないでください」

 

「そう言われりゃ俺は何も言えんよな」

 

飄々と答える統夜であったが、悪びれる様子はなかった。

 

「……生徒会長。俺からも言わせてもらいますが、この3人の覚悟は本物です。この3人は初ライブでいきなり大きな挫折を味わって立ち上がったんです。生半可な方法じゃ彼女たちの足を止めることは出来ませんよ」

 

部外者と一蹴されてしまった統夜に代わって奏夜がこのように言葉を紡いでいた。

 

恐らくはこれからも生徒会長は奏夜たちのことを認めようとはしないだろう。

 

これは奏夜からの宣戦布告でもあった。

 

「あなたも…こんなことをして無駄だと思わないの?」

 

「全然思いませんよ?」

 

奏夜は本気でそう思っているからか、一切迷わず即答したので、それに驚いたのか絵里は少しだけ唖然としていた。

 

「そりゃあ生徒会長の気持ちもわかります。こんなことをして何になるのかってね」

 

「っ!だったらどうしてそこまで?」

 

「簡単なことです。俺は彼女たち……いや、この音ノ木坂学院のスクールアイドル「μ's」に大きな可能性を感じるからです。だからこそ俺は3人がスクールアイドルをやるって言った時に3人を支えようと決意したんです」

 

「「そーくん……」」

 

「奏夜……」

 

「へぇ……」

 

後輩である奏夜の力強い言葉を聞いた統夜は、そんな奏夜の凛とした表情に感心していた。

 

奏夜はμ'sのマネージャーに誇りを持っている。

 

それを感じ取ることが出来たからである。

 

「それに、生徒会長が言うようにやっても無駄だなんて言ってなんでもかんでも切り捨てるのは廃校阻止の可能性だって否定してるようなもんですよ」

 

「……っ!」

 

奏夜の言葉がけっこう効いてるのか生徒会長は何も反論してこなかった。

 

「俺はこの「μ's」という存在が音ノ木坂の廃校を無くすかもしれない。その可能性がある限り諦めることはしません。それは彼女たちも同じ気持ちです」

 

奏夜はまだまだ言いたいことはあったが、これ以上口撃してもどうしょうもないと思ったのでここまでにすることにした。

 

「……勝手にしなさい。だけど、私はやっぱりあなたたちを認めないわ」

 

「まぁ、それは仕方のないことですね」

 

俺はやれやれと肩をすくめながら笑みを浮かべると生徒会長は何も言わず講堂を出て行った。

 

生徒会長がいなくなったのを確認してから俺は3人に駆け寄った。

 

「みんな、お疲れ様♪3人ともすごく良かったぞ♪」

 

「「そーくん……」」

 

「奏夜……」

 

奏夜はいつもと変わらない優しい表情で穂乃果たちに労いの言葉を送るのだが、そんな奏夜の顔を見て、穂乃果たちはどうやら安心したようである。

 

すると、そんな奏夜たちの様子を見ていた統夜もこちらにやって来ると……。

 

「……よっ、3人とも、凄く良かったぞ」

 

統夜は簡単な言葉だったが、穏やかな表情で労いの言葉を送っていた。

 

「統夜さん!お久しぶりです!」

 

「今日は来てくれて、本当にありがとうございます!」

 

「いいっていいって。俺だって楽しみにしてたから来たんだぜ」

 

「統夜さん、唯さんたちはお元気ですか?」

 

「あぁ、あいつらは相変わらずだな。今日お前らのステージを見に行くって話したら羨ましがってたぞ」

 

統夜以外の軽音部のメンバーは、桜ヶ丘高校を卒業後、同じ大学であるN女子大学に進学した。

 

それから穂乃果たちは携帯で連絡は取ってはいたが会っておらず、久しぶりに唯たちと会いたいとも考えていたのである。

 

「とりあえず無事に初ライブを終えて疲れてるだろう?この後、どこかで飯でも食いに行かないか?何か奢るからさ♪」

 

「え?いいんですか?」

 

「もちろん。俺だって一応は社会人だしな」

 

統夜は、頑張った奏夜たちを労うために、食事をご馳走する旨を伝えていた。

 

「やったぁ♪統夜さん、ありがとうございます!」

 

「すみません、統夜さん。お言葉に甘えてご馳走になります」

 

「本当にありがとうございます!それじゃあ、私たちは着替えてきますね」

 

統夜のご馳走するという言葉を聞いた穂乃果たち3人は喜びの気持ちを露わにすると、穂乃果たちは着替えるために控え室へと移動した。

 

「と、統夜さん……本当にいいんですか?」

 

「いいんだよ。だって、指令が来たら使い魔の鳩が飛んでくるんだろ?」

 

「確かにそうですけど……」

 

統夜は翡翠の番犬所所属の魔戒騎士ではないが、この管轄で仕事をしたことは何度かあるため、この番犬所のシステムは理解していた。

 

現在講堂には誰もおらず、花陽を始め、ライブを見ていた者たちはみんな帰ってしまった。

 

そして、手伝いをしてくれたヒフミトリオの3人は、機材の片付けに追われているため、指令などと言った魔戒騎士に関する言葉を言っても、問題ないのである。

 

「お前も騎士の使命とスクールアイドルのマネージャーと大変だったろ?たまには美味いもんでも喰って英気を養えよ。お前の分だってもちろん奢るからさ」

 

「……ありがとうございます、統夜さん。遠慮なくご馳走になります。それに、統夜さんに相談もありますし……」

 

「俺に相談か?まぁ、構わないけど」

 

奏夜は、統夜に相談したいことがあるため、その話を聞いてもらおうと考えていた。

 

穂乃果たちは着替えに少し時間がかかるため、奏夜はこの場で穂乃果たちがホラーや魔戒騎士の秘密を知ったことを打ち明けた。

 

「……そっか……。穂乃果たちも知っちまったんだな。魔戒騎士やホラーについての秘密を……」

 

「はい……。あの3人には隠し事はどうしても出来なくて……」

 

「……本当にお前は、俺と似たような道を歩いているよな……。だから、お前のその気持ちは理解出来るけど……」

 

統夜は奏夜の気持ちを理解しているからか、その話を聞いた後も、特に厳しい言葉を投げかけることはしなかった。

 

「……怒らないんですか?」

 

「当たり前だろ?俺だって唯たちに魔戒騎士の秘密を話したんだ。お前にあれこれ言う権利はないさ」

 

「統夜さん……」

 

「それに……。穂乃果たち3人はお前にとって守りたいと思う存在……なんだろ?」

 

「はい!」

 

統夜にとって唯たちが守りたいと思う存在であり、奏夜にとって穂乃果たちが守りたいと思う存在であった。

 

「……だったらそれでいいじゃねぇか。穂乃果たちの存在がきっとお前の力になるハズだぜ」

 

「そうですね……。最近はそうだと実感していたところなんです。あいつらを守りたい。そう思ったら自然と力がみなぎってくるんです」

 

「……お前がそう思ってるのなら、俺から言えることはないな。あいつらを……ちゃんと守ってやれよ」

 

「はい!」

 

このように堂々と答える奏夜の顔は凛としたものであった。

 

「……ところでさ、穂乃果たちは俺が魔戒騎士だってことは知ってるのか?」

 

「いや、まだそこは話してないです。もしかしたら感付いてるかもしれませんが……」

 

奏夜は穂乃果たちに魔戒騎士やホラーの秘密を話しはしたのだが、統夜が奏夜と同じ魔戒騎士であることは話していなかった。

 

遅かれ早かれ知ることにはなるとは思うが、今は黙っておこうと奏夜が判断したからである。

 

「……そっか。だとしたら、この後飯食いに行く時は、迂闊なことは話せないな……」

 

穂乃果たちに統夜が魔戒騎士であるとバレないよう、気を付けなければと統夜は思っていた。

 

万が一バレてしまったら、その時はその時なのだが……。

 

このような話をしていたその時だった。

 

「そーくん!統夜さん!お待たせ!!」

 

着替えを終えた穂乃果たちが講堂に戻ってくると、2人で話をしている奏夜たちのもとへと駆け寄ったきた。

 

「……いや、統夜さんと話してたし、そんなに待ってないよ」

 

「なるほど……。それで、2人で何の話をしてたんですか?」

 

「あ、それは……」

 

奏夜は今までの話を正直に話すわけにはいかなかったため、どう答えるべきか悩んでいた。

 

すると……。

 

「最近の近況を聞いてたんだよ。詳しくは飯でも食いながら話そうぜ。お前らの近況も知りたいからな」

 

統夜はうまく話を誤魔化しながら、ここでの話を終了させていた。

 

この統夜の機転の良さに奏夜は驚くのだが、奏夜たちは機材の片付けを行ってくれたヒフミトリオの3人に別れを告げると、そのまま学校を後にした。

 

こうして、奏夜たちは統夜が下調べしておいた秋葉原のとある店を訪れると、統夜の奢りで食事を楽しみ、互いの近況を語り合ったりして、終始盛り上がっていた。

 

穂乃果たち「μ's」の初ライブは決して成功したといえる結果ではなかったが、このライブは奏夜たちが本気でスクールアイドルの活動をするという覚悟を決めたのであった。

 

完敗からのスタートだが、この結果だったからこそ、自分たちは大きく成長することが出来たと奏夜は後に実感するのであった……。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『あの大人しいお嬢ちゃんはどうやらスクールアイドルに興味があるようだな。さて、どうしたものか……。次回、「羨望」。μ'sに新しいメンバーが増えるのか!?』

 

 




μ'sの初ライブは完敗からのスタートとなってしまいましたが、無事にライブは終わりました。

そして今回、前作主人公である統夜が初登場しました。

それだけではなく、穂乃果たちを焚き付け、前作主人公らしい存在感を見せていました。

ですが、今作主人公である奏夜の出番もしっかり作ったつもりです。

どうやら絵里は統夜に見覚えがあるようですが、何故見覚えがあるのか、これから明らかになりますが、その答えは「牙狼×けいおん 白銀の刃」にもありますので、ぜひご覧ください!

さて、次回からは、ラブライブ!の第4話に突入します。

初ライブは終わり、再び動き始めた奏夜たちですが、μ'sに新たなるメンバーは入るのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第11話 「羨望」

お待たせしました!第11話になります。

さて、今回からラブライブ!の第4話の話に突入します。

初ライブを終えた奏夜たちは、これからどのような活動をしていくのか?

それでは、第11話をどうぞ!




完敗からのスタートとなってしまった初ライブから1週間が経ち、奏夜たちは今もスクールアイドルとしての活動を続けていた。

 

現在は休み時間であり、奏夜たちは今なせかアルパカ小屋にいた。

 

それはなぜかというと……。

 

「ふわぁ……。ぼえぇ……」

 

ことりは頬を赤らめながらアルパカに夢中になってるからである。

 

「ことりちゃんここ最近毎日来るよね」

 

「急にハマったみたいです」

 

穂乃果と海未の言う通りことりは最近アルパカにハマってしまい、毎日のようにここへ来ている。

 

「おい、ことり。そろそろチラシ配りに行くぞ」

 

「あとちょっと~♪」

 

奏夜はことりを説得しようとするのだが、ことりはまだここを動きたくないらしい。

 

「もぉ……」

 

「5人集めて部として認めてもらわなくては、ちゃんとした部活は出来ないのです」

 

海未の言う通り奏夜たちはあと最低でも1人部員を獲得しなくてはならない。

 

そうしなければ、ちゃんとした部活として認められず、思うように活動が出来ないからである。

 

「う~ん。そうだよねぇ♪」

 

ことりもそこは理解しているが、やはりアルパカに夢中になっている。

 

「可愛い……かな?」

 

穂乃果は、アルパカが可愛いということが疑問なのか、アルパカ小屋にいる2匹のアルパカを見て、首を傾げていた。

 

(確かに……ことりが見惚れている白アルパカならともかくあの茶色のアルパカはちょっと怖いような……)

 

《……俺は別に可愛いとも怖いとも思わんがな》

 

奏夜とキルバがテレパシーでアルパカについて話をしていると、茶色のアルパカが威嚇なのか偶然なのか鳴き声をあげてこっちを見ていた。

 

「「「うっ!」」」

 

茶色のアルパカの迫力が予想以上だったため、ことり以外の3人はたじろいでいた。

 

「えぇ?可愛いと思うけどなぁ♪首の辺りとかフサフサしてて♪」

 

ことりはそう言うと白アルパカの首を撫でていた。

 

「ほわぁ……幸せぇ♪」

 

(何故だろう…。ほっこりしていることりを見てるとこっちまで幸せになるな……)

 

ことりは本気でアルパカを可愛いと思っており、奏夜はそんなことりの姿を見て少し癒されていた。

 

「こ、ことりちゃんダメだよ!」

 

「あっ、危ないですよ」

 

「大丈夫だよ。…ふわぁ!」

 

「……っ!!」

 

白いアルパカを可愛がっていたことりは不意にアルパカに舐められてしまい、尻餅をついてしまった。

 

そんなことりを見た奏夜は、驚きからか目を見開いたと思うと、何故か「ぐぬぬ……」と悔しそうにしていた。

 

《……奏夜。もしかして、あのアルパカが羨ましいとか思ってないだろうな?》

 

(……!?な、ナニヲイッテルノカナー)

 

《……図星だな》

 

キルバの指摘通り、奏夜はことりの頬を舐めた白いアルパカに少しだけ嫉妬していたのである。

 

奏夜は慌てて誤魔化そうとしていたが、キルバはそんなことなどお見通しであった。

 

「こ、ことりちゃん!」

 

「ど、どうすれば……。はっ、こ、ここはひとつ弓で!」

 

「構うことはないぞ、海未。やっちまえ!」

 

「ダメだよ!そーくんまで何言ってるの!?」

 

すると茶色のアルパカが奏夜たちの言葉に反応したのか威嚇とも言えそうな鳴き声を発していた。

 

「ほら、2人が変なこと言うから!」

 

「こいつ……。やってくれるじゃねぇか……。アルパカの陰我、俺が……」

 

『ど阿呆。アルパカ相手に何言ってるんだよ』

 

「そーくん!魔戒剣はダメだって!!」

 

茶色のアルパカに威嚇された奏夜は咄嗟に魔戒剣を取り出そうとしたのだが、キルバに呆れられ、穂乃果は必死に奏夜を止めていた。

 

穂乃果が奏夜を制止していると体操着を着た女の子が茶色のアルパカの前に立つと茶色のアルパカを撫で始めた。

 

「……ハッ!俺ってば一体何を……」

 

「もぉ、やっと元に戻ったの?」

 

穂乃果がジト目で奏夜のことを見ていた。

 

奏夜はアルパカへの嫉妬のあまり大きくキャラが崩壊してしまい、先ほどようやく正気に戻ったようである。

 

「大丈夫、ことりちゃん?」

 

「うん、嫌われちゃったかなぁ?」

 

「あっ、平気です。楽しくて遊んでただけだと思うから…」

 

茶色のアルパカを撫でてなだめていたのは、前回の初ライブにも来てくれた小泉花陽だった。

 

「あっ、お水……」

 

花陽はアルパカの飼育委員であり、アルパカの水を交換していた。

 

「アルパカ使いだねぇ♪」

 

「あっ、私、飼育委員なので……」

 

「ふーん……。……おぉ!」

 

穂乃果は、このタイミングでようやく花陽の存在に気付いたのであった。

 

「ライブに来てくれた花陽ちゃんじゃない!」

 

「えっと……あっ、いえ……」

 

「あぁ!駆けつけてくれた1年生の!」

 

「あっ、はい……」

 

花陽は恥ずかしいのか頬を赤らめて俯いていた。

 

「ねぇ、あなた!」

 

「はっ、はい!」

 

「アイドルやってみませんか?」

 

「穂乃果ちゃん、いきなり過ぎ」

 

(こんなこといきなり言われちゃ誰だって戸惑うよな……)

 

穂乃果は唐突に花陽をスクールアイドルに勧誘しており、そんな穂乃果を見て、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「君は光っている!大丈夫、悪いようにはしないから!」

 

「いやいやいや……。明らかに怪しいだろ、それじゃあ!」

 

「確かに……。何かすごい悪人に見えますね……」

 

穂乃果の明らかに怪しい勧誘の仕方に、奏夜だけではなく海未も呆れていた。

 

「でも、少しくらい強引に頑張らないと」

 

「穂乃果の言うことももっともだけど、それじゃあ誰も入れないだろ?それに、花陽ちゃん困ってるし」

 

「あっ、いえ……。あっ、私なんかよりも、西木野さんの方が……」

 

「え?ごめん、もう一回言ってもらってもいい?」

 

花陽はどうにか聞き取れるか聞き取れないかといった感じの小さな声で呟いていたので、穂乃果は花陽の言葉を聞き取ることが出来なかった。

 

「西木野さんがいいと思います……。歌が、上手なんです……」

 

花陽がスクールアイドルにと推薦したのは、穂乃果たちμ'sの曲を作曲してくれた西木野真姫だった。

 

「そうだよね!私も大好きなんだ!あの子の歌声♪」

 

「だったらスカウトに行けばいいじゃないですか」

 

「言ったよ!でも絶対嫌だって」

 

「おいおい、いつの間に聞いてたんだよ……」

 

奏夜たちも知らない間に穂乃果は真姫にスクールアイドルにならないかと勧誘しており、そんな穂乃果の行動力に奏夜たちは驚いていた。

 

結果的には断られてしまったのだか……。

 

「あっ、すいません……。私、余計なことを……」

 

「そんなこと思ってないって。だから気にするなよ」

 

「そーくんの言う通りだよ♪ありがとね、花陽ちゃん♪」

 

花陽ちゃんは穂乃果の真っ直ぐさに惹かれつつあった。

 

その時だった。

 

「かよちーん!早くしないと体育遅れちゃうよぉ!」

 

アルパカ小屋の近くに現れた凛が花陽のことを呼んでいた。

 

花陽がジャージ姿でアルパカ小屋にて自分の仕事を行ってたのも、次の授業が体育であるからである。

 

「あっ、失礼します……」

 

花陽は奏夜たちにペコリと一礼すると凛と一緒にグラウンドの方へと消えていった。

 

「私たちも戻りましょうか」

 

「そうだね」

 

花陽たちが体育館へ向かっていくのを見送った奏夜たちは教室に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後。奏夜はμ'sのメンバー募集のポスターの補充のためポスターの置き場に向かっていた。

 

こういった仕事は、練習をしなければいけない穂乃果たちにはなるべくさせないようにしており、マネージャーである奏夜が率先して動いていた。

 

しかし、絵のデッサンには自信がないため、ポスター作りなどは穂乃果たちに協力してもらっているのだが……。

 

ポスターを補充するため、ポスター置き場に着くと、既に置かれているポスターをじっと見つめてる人がいた。

 

その正体は真姫であり、もしかしたらスクールアイドルに興味があるのでは?と疑ってしまうほどであった。

 

奏夜は声かけようかなとも考えたが、得意のツンデレが返ってくると予想したため、ここは様子を見ることにした。

 

真姫は周囲を気にするとチラシを一枚手に取ってそそくさとその場を立ち去っていったのである。

 

その時、真姫は何かを落としてしまったようであり、奏夜はその落し物を拾おうとしたその時だった。

 

「あっ、あれ?如月先輩?」

 

「よう、花陽ちゃん。いたんだな」

 

奏夜と同じくこっそりと真姫の様子を伺っていた花陽は、奏夜の姿を見かけて声をかけていた。

 

「あのっ、如月先輩。あれって……」

 

「あぁ、やっぱり西木野さんの生徒手帳だよな……」

 

「花陽ちゃん、西木野さんと同じクラスだろ?明日でもいいから届けてもらってもいいかな?」

 

「あっ、あのっ…。今から西木野さんの家に行って、これを届けようと思うんですけど……」

 

どうやら花陽は、明日ではなく、今から真姫の家に行こうとしているようである。

 

「……もし良かったら、一緒についてきてもらえませんか?」

 

花陽は、頬を赤らめながら上目遣いという状態で、奏夜にお願いをしていた。

 

まさか自分に白羽の矢が立つとは思っておらず、奏夜は驚いており、さらに花陽のつい守ってあげたくなるような表情に奏夜は頬を赤らめてドキッとしていた。

 

「……まぁ、西木野さんを改めてスクールアイドルに勧誘したいって考えてたし、俺で良ければお供するよ」

 

「あの、すみません……。わがままを言ってしまって……」

 

「気にしなくてもいいよ。可愛い後輩の頼みなんだからこれくらいはさ♪」

 

「か、可愛い!?////」

 

奏夜の言葉を真に受けた花陽は、顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。

 

「ちょっと待っててくれな。先にやらなきゃいけないことがあるからさ」

 

奏夜は忘れずにチラシの補充を行い、その間に花陽は真姫の生徒手帳を拾った。

 

「さて、仕事は終わったけど、穂乃果たちにも言っておかないとな……」

 

「そうですよね……」

 

このまま出発してしまっても良いとは思ったのだが、穂乃果たちに黙って出るのも忍びないと思って奏夜は穂乃果たちを探そうとしていたその時だった。

 

「あっ、そーくん!まだここにいたんだ!」

 

穂乃果が奏夜を発見してこっちに駆け寄ってきた。

 

この瞬間、探す手間が省けたと、奏夜は安堵していたのである。

 

「あれ、花陽ちゃんも一緒だったんだ!それで、どうしたの?」

 

「あぁ、穂乃果。ちょうど良かったよ。実は……」

 

奏夜は真姫の生徒手帳を拾ったのでそれを今から届けに行くと穂乃果に伝えた。

 

「そのついでじゃないけどさ、俺からも西木野さんをμ'sにスカウトしてみるよ」

 

奏夜は生徒手帳を届けるだけではなく、真姫の家で行おうと考えている目的も、穂乃果に伝えていた。

 

「そっかぁ……。わかった、海未ちゃんとことりちゃんにはそう伝えておくね」

 

「悪いな、穂乃果。俺は俺でμ'sのために頑張るからさ」

 

「うんっ!」

 

奏夜の「μ'sのため」という言葉に満足したのか穂乃果は奏夜にバイバイと告げると、その場を立ち去った。

 

穂乃果を見送った後、奏夜と花陽は改めて西木野さんの家に向かった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

「如月先輩。ひとつ聞いてもいいですか?」

 

真姫の家に向かう途中、花陽がこう話を切り出してきた。

 

「……ん?何?」

 

「如月先輩はどうしてスクールアイドルのお手伝いをしているんですか?」

 

この質問が来るとは思っていなかったからか、奏夜はどう答えるべきか少しだけ考えていた。

 

「穂乃果たちがμ'sを結成したのはな、この学校の廃校を阻止したいからなんだよ」

 

「廃校を……ですか?」

 

「あぁ。もちろんそれが過酷な道だってのは百も承知さ。A-RISEまでとは言わないけど人気が出ないと生徒なんて増えないからな。穂乃果たちは本気でこの学校を無くしたくないって思ってるんだ。その本気の覚悟に心打たれたから俺は何があっても3人を支えるって決めたんだ」

 

「すごいですね……。如月先輩は……」

 

「そんなことはないさ。俺はただのマネージャーとして3人を支えてるだけであって、スクールアイドルとして実際努力してるのは穂乃果たちなんだ。だけど、そう言ってもらえると嬉しいな♪」

 

「あっ……その……///」

 

奏夜は優しい表情で微笑んでおり、そんな奏夜を見てドキッとしたのか、花陽は顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。

 

奏夜たちはしばらく歩き続けると、真姫の家に到着したのだが……。

 

「ほ、ほえぇ……」

 

「すっごいな……」

 

真姫の家はかなりの豪邸であり、ここまで大きな家を見る機会はなかったため、奏夜と花陽は驚きを隠せずにいた。

 

奏夜がインターホンを押すと「はい」と女の人の声が聞こえてきた。

 

「あの、真姫さんと同じ学校に通ってる如月奏夜と」

 

「真姫さんと同じクラスの小泉……です」

 

2人がこう名乗るとドアが開き、真姫と似た雰囲気を出している赤髪の女性が出迎えてくれた。

 

(この人……西木野さんのお姉さんかな)

 

女性はとてもおしとやかな感じを出していたため、奏夜はこの女性は真姫の姉なのでは?と勘ぐっていた。

 

奏夜と花陽はそのままリビングに通されたが、あまりの広さに2人揃って驚いていた。

 

奏夜は周囲を見回すとメダルやらトロフィーやらが飾ってあった。

 

これらはピアノのコンクールなどで真姫が獲得したものではないかと予想することが出来た。

 

「ちょっと待っててね。あの子、病院の方に顔を出してるところだから」

 

「「病院?」」

 

まさかの病院というキーワードに、奏夜と花陽は揃って驚きの声をあげていた。

 

「あぁ、家は病院を経営していて、あの子が継ぐことになってるの」

 

真姫の父親は病院を経営しており、真姫は医者を志しているのである。

 

「そう……なんですか?」

 

「よかったわ。高校に入ってから友達1人遊びに来ないからあの子こと、ちょっと心配してて」

 

(……ん?あの子……?まさかな……)

 

この女性が真姫のことをあの子と言っていることに奏夜は引っかかっていた。

 

このままこの疑問を残しておくのはモヤモヤしてしまうので、奏夜が女性にあることを確認しようとしたのだが……。

 

「あら、帰ってきたみたいね」

 

突然ガチャっと扉の開く音が聞こえてきたのだが、どうやら真姫が帰ってきたようである。

 

「ただいま~。ママ、誰か来てるの?」

 

(えっ?ま、ママ!?ってことはこの人は……)

 

《あぁ。あのお嬢ちゃんの母親ってことだろうな》

 

(……)

 

真姫の母親はとても若いという印象だったので、奏夜は驚きを隠せず、目を大きく見開いていた。

 

そして、リビングに顔を出した真姫は、まさかの訪問者に、驚きを隠せずにいた。

 

「こ、こんにちは……」

 

「西木野さん、急にごめんな」

 

「お茶淹れて来るわね♪」

 

真姫の母親は真姫に友達が出来たと思っているからか、嬉しそうにリビングからいなくなった。

 

「ご、ごめんなさい。急に……」

 

「別に大丈夫よ。小泉さんはともかくとして如月先輩は何か用なんですか?」

 

同級生である花陽はともかく、何故奏夜がいるのかわからず、訝しげな目で奏夜を見ていた。

 

「ったく……。ずいぶんなご挨拶だな。俺たちは西木野さんの落し物を届けに来ただけだよ」

 

「落し物?」

 

真姫が奏夜の言葉に首を傾げていると、花陽がポケットから真姫の生徒手帳を取り出した。

 

「これ……落ちてたから……」

 

花陽ちゃんは西木野さんに生徒手帳を渡した。

 

「な、何であなたが?」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「何で謝るのよ……。あっ、ありがとう……」

 

(へぇ……。俺や穂乃果たちの前じゃ素直じゃないのに珍しく素直だな….)

 

花陽の前では真姫は何故か素直であり、そんな真姫を奏夜は穏やか表情で微笑みながら真姫を見ていた。

 

「……如月先輩、何か言いたげですね」

 

「いや、別に。ただ珍しく素直だなって思っただけだよ」

 

「!うっ、うるさいわね!」

 

奏夜の言葉に恥ずかしくなったからか、いつもの真姫に戻ってしまい、プイっと奏夜にそっぽを向いていた。

 

「西木野さん……。μ`sのポスター。見てた……よね……?」

 

「はあ?何のこと?」

 

ここで、花陽はずっと気になっていた話題を切り出したのだが、まさかの花陽の問いかけに真姫は少しばかり慌てていた。

 

「とぼけることもないだろ?生徒手帳だってμ`sのポスターが置いてある辺りに落ちてたんだし」

 

「ちっ、違うの!」

 

真姫は弁解しようと立ち上がるがテーブルに脛を打ってしまい、バランスを崩してしまった。

 

そのまま椅子と一緒に後ろに倒れてしまった。

 

「だっ、大丈夫?」

 

「へ、平気よ。全く、変なこと言うから……」

 

「……!?」

 

奏夜は真姫が倒れた拍子に彼女のスカートの中の桃源郷が一瞬見てしまい、顔を真っ赤にしながら慌てて目をそらしていた。

 

「如月先輩?なんで目をそらしてるんですか?」

 

「!?///ま、まさか……!!」

 

真姫は椅子とともに元に戻ったのだが、顔を赤らめながら俺のことを睨みつけていた。

 

「み……見たの……!?」

 

「あ……いや……その……一瞬……な。だけど、慌てて目はそらしたんだぞ!」

 

奏夜は必死に言い訳をしようとするのだが、あっさりとスカートの中の桃源郷を見てしまったことをバラしてしまった。

 

奏夜に見られてしまったと知った真姫の怒りのボルテージがどんどんと上がってきて……。

 

 

 

 

 

 

……ブォン!!

 

 

 

 

 

 

 

「……チバァ!?」

 

真姫は近くに置いてあったクッションを奏夜目掛けて投げつけると、それは奏夜の顔面にクリーンヒットし、奏夜は椅子と共にダウンしてしまった。

 

「き、如月先輩!?大丈夫ですか!?」

 

まさかの展開に、花陽は驚きながら奏夜の心配をしていた。

 

「し……シンジラレナイ!!一体何をしてるのよ!この変態!!」

 

真姫は顔を真っ赤にしながら、怒りを奏夜にぶつけていた。

 

「痛てて……。見ちまったことは謝るけどさ、あれは事故だろう?」

 

奏夜はこのように弁解しながら、椅子と共に立ち上がっていた。

 

《やれやれ……。いつぞやの海未の時もそうだったが、お前さんはどうしてここまでラッキースケベが多いんだ?》

 

(おいおい、ラッキースケベって……)

 

キルバは奏夜のこの状況をラッキースケベと一蹴して呆れており、奏夜はそれを認めたくないのか、ジト目でキルバに視線を移していた。

 

「……ふっ……ふふふふ……!」

 

事の一部始終を見ていた花陽は急におかしくなってしまったのか、笑い出していた。

 

「もぉ……!ワラワナイ!!」

 

急に笑い出している花陽が気に入らなかったのか、ムキになって花陽に向かってこう反論していた。

 

花陽も真姫も落ち着くまでしばらく時間がかかってしまい、花陽は笑っており、真姫はそんな花陽や奏夜に怒っていた。

 

 

 

 

真姫と花陽が落ち着いたところで奏夜は真姫に1番話したかったけど話を切り出そうとしたが、その前に花陽が奏夜のしようとしていた話を切り出した。

 

「……私が?スクールアイドルに?」

 

「うん。私、放課後いつも音楽室の近くを通ってたの。西木野さんの歌、聞きたくて」

 

「私の?」

 

「うん、ずっと聞いていたいくらい……好きで……だから……」

 

(なるほど。花陽ちゃんが西木野さんを薦めたのはそんな理由があったのか)

 

花陽は真姫のことを推薦していた理由がハッキリとわかり、奏夜は納得していた。

 

そんな花陽の言葉を受け止めた真姫であったのだが……。

 

「……私ね。大学は医学部って決まってるの」

 

(そういえばこの病院を継ぐって西木野さんのお母さんが言ってたっけ)

 

《そうだとしたら医学部に行く必要があるな》

 

「だから、私の音楽はもう終わってるってわけ」

 

真姫はこう言うが、どこか寂しそうな目をしていた。

 

奏夜はその目を見た瞬間、自分の気持ちに嘘をついてるなとすぐにわかった。

 

「……西木野さん、嘘つくのはやめなよ」

 

「はぁ?何が言いたいの?」

 

「西木野さん、本当は音楽続けたいんだろ?顔にそう書いてあるよ」

 

「っ!だから私は…」

 

「もちろん医学部のことは否定するつもりはない。むしろすごいと思う。だけどさ、それって自分のやりたい事を切り捨ててまでやりたい事なのか?」

 

「そっ、それは……」

 

「本気でそう思ってるなら俺は全力で応援するよ。だけどさ、せっかく高校に通ってるんだ。勉強しながらも好きなことしたってバチは当たらないと思うけどな」

 

奏夜は真姫にピアノを続けて欲しいという思いがあるからか、このようなことを真姫に伝えていた。

 

「それに、俺だって西木野さんのピアノと歌は好きだからさ。どんな形であれ西木野さんには音楽を続けて欲しいって思ってるんだよ」

 

「……」

 

奏夜の言葉が届いたのかはわからないが、真姫は少しの間黙っていた。

 

「それより小泉さん。あなた、アイドルやりたいんでしょ?」

 

そして真姫は話を切り替えるために花陽ちゃんにこう話を切り出した。

 

「え?」

 

「この前のライブの時、夢中になって見てたじゃない」

 

「え?西木野さんもいたんだ」

 

「えっ、いや…。私はたまたま通りかかっただけで…」

 

(嘘つけ。あの時間の講堂とかピンポイントでたまたま通りがかるとかあり得ないだろ)

 

奏夜は心の中でこう思っていたのだが、言ってしまえば面倒なことになりそうだったため、口をつぐんでいた。

 

「やりたいならやればいいじゃない?目の前にマネージャーがいる訳だし」

 

「まぁ、俺としても花陽ちゃんが入ってくれると嬉しいけどな」

 

「そしたら……。少しは応援……してあげるから……」

 

「……ありがとう」

 

ここで話は終わったため、奏夜と花陽は真姫の家を後にした。

 

2人と話してみて、奏夜は花陽も真姫も自分の気持ちに素直になれていないと感じていた。

 

これは時間が解決してくれると奏夜は思っていたため、ジタバタしても始まらないと感じていた。

 

奏夜は花陽と真姫が素直になるまで待つことにして、改めて勧誘をしようと考えていたのであった。

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『あの大人しいお嬢ちゃんはかなり迷っているみたいだな……。おい、奏夜。いったいどうするつもりなんだ?次回、「花連」。ここからが正念場ってやつだな』

 

 




第4話冒頭のアルパカと戯れることりは可愛いですね。

奏夜もそう感じていましたが、アルパカと戯れることりを見てると、なんかほっこりして癒されますよね。

そして、今回は花陽のメイン回となりました。

奏夜は真姫を勧誘するために花陽と共に真姫の家を訪れますが、再び奏夜のラッキースケベが(笑)

そして、奏夜の悲鳴がまるでヒャッハーのようになってる(笑)

さて、次回は本格的に花陽を勧誘しようと動き始めます。

スクールアイドルに憧れている花陽は、μ'sに入ることを決意するのか?

それでは、次回をお楽しみに!





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第12話 「花連」

お待たせしました!第12話になります!

さて、今回は本編+オリジナルの回となっています。

前回真姫の勧誘に失敗した奏夜だが、果たしてμ'sのメンバーを増やすことは出来るのか?

それでは、第12話をどうぞ!




……ここは秋葉原某所にある生け花スタジオ。

 

このスタジオの人気は低迷してしまった結果、生け花教室に申込みをする人が減り、廃業も時間の問題になっていた。

 

「……何故なの!?何故こんなことに!」

 

このスタジオを経営している女性は、廃業寸前のこの状態に納得していなかった。

 

ここ最近、生け花の人気が低迷しているためこのような状況になっているというのが予想されている。

 

しかし、それだけではなく、このスタジオを経営している女性の経営のし方にも、問題があるようであり、スタッフも全員辞めてしまったのだ。

 

「……どいつもこいつも、生けた花の本当の美しさに気付いていないのよ……!そんな醜い輩がはびこるこんな世界なんて……」

 

なくなってしまえばいい。

 

女性はこのような歪んだ考えを持つようになってしまい、それが陰我となってしまった。

 

女性がこのようなことを考えていたその時だった。

 

__貴様、本当にこんな醜い世界がなくなれば良いと願っているのか?

 

「!?だ、誰!?」

 

唐突に聞こえてくる声に、女性は困惑していた。

 

__そんなに怯えることはない。我は貴様の気持ちがよくわかるからな。

 

「よ、よくわかるって、どういうことなの!?」

 

__生けた花の美しいこと……。人間共はその美しさに気付かない愚かな生き物よ……。

 

「……そうよ。だからこそ私はこんな醜い世界なんて滅びればいいと思ってるわ。いや、私が滅ぼしてやるわよ。例え、悪魔と契約しようともね……」

 

女性の歪んだ感情がとてつもない陰我へと変わってしまい、人間を辞めてもいいとさえ思ってしまっていた。

 

そして……。

 

__よくぞ言った!ならば、我を受け入れよ!!

 

「……!!」

 

女性が生けた花がゲートとなり、1体のホラーが現れると、ホラーの体は黒い帯状になり、女性の中へと入っていった。

 

女性は悲鳴をあげることはせず、ホラーを受け入れており、そのままホラーに憑依されてしまった。

 

ホラーに憑依された女性は、怪しい表情で笑みを浮かべていた。

 

「……ふふふ、私の芸術を理解出来ない愚か者は、みーんな私の餌にしてあげるわ……!」

 

怪しい笑みを浮かべた女性は、不穏な言葉を残し、どこかへと姿を消したのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

音ノ木坂学院に登場したスクールアイドル、「μ's」の初ライブが終わっておよそ1週間が経過していた。

 

奏夜はμ'sのマネージャーを行いながら、スクールアイドルに興味を持っている小泉花陽と、μ'sの曲を作曲してくれた西木野真姫を勧誘するが、失敗に終わる。

 

しかし、花陽は本当に自分のやりたいことはなんなのか。それが理解出来ていないため、迷っていた。

 

そんな中、花陽と共に真姫の家を訪れた奏夜は、現在花陽と共に秋葉原某所の道を歩いていた。

 

「人って色々なんですね……」

 

「まぁ、そうだな」

 

花陽は真姫との会話を思い出し、しみじみと呟いていた。

 

(…….あれ?そういえばここって俺んちの近くだよな?)

 

《そうだな。それに、穂乃果の家も近いな》

 

奏夜は偶然にも、自宅および穂乃果の家の近くを歩いていたようだった。

 

「なぁ、花陽ちゃん。この近くに美味しい和菓子屋があるんだけど、ちょっと寄っていかないか?」

 

「和菓子ですか?いいですね。お母さんにお土産でも買って行こうかな……」

 

こうして奏夜と花陽は穂乃果の家である穂むらに寄ることになった。

 

「いらっしゃいませ」

 

どうやら今日は穂乃果が店番をしているようであった。

 

「よう、穂乃果。今日は店番してるんだな」

 

「あっ、そーくん!それに……」

 

「こ、こんばんは……」

 

花陽も穂乃果が店番をしていることに気付いてペコリとお辞儀をしていた。

 

「あっ、ちょうど良かった。店番もうすぐ終わるから、花陽ちゃんと一緒に穂乃果の部屋で待ってて」

 

「わかった。それじゃあ、花陽ちゃん、行こうか」

 

「あっ、はい。お邪魔します….…」

 

奏夜と花陽は店の奥に入ると穂乃果の店番が終わるまで穂乃果の部屋で待つことになった。

 

階段を上がり、2人は2階にやってきた。

 

「あの、先輩の部屋はどっちですか?」

 

「あぁ、奥の部屋だよ」

 

奏夜は花陽が部屋を間違えないように部屋の場所を教えていた。

 

ちなみに、2階には2つ部屋があるのだが、手前が穂乃果の妹である雪穂の部屋であり、奥が穂乃果の部屋となっている。

 

(……ん?雪穂の部屋からぐぬぬ……って声が聞こえてきてるけど、何をしてるんだ?)

 

《奏夜。間違ってもそこの部屋は開けるなよ。面倒なことになるからな》

 

(わかってるって)

 

雪穂の部屋の様子は気になったものの、そこをスルーした奏夜は、花陽と共に穂乃果の部屋の前にやってきた。

 

「……花陽ちゃん。ここが穂乃果の部屋だよ」

 

「そうなんですか?」

 

「とりあえず中で待ってようぜ」

 

奏夜は花陽と共に穂乃果を待つために部屋の扉を開けたのだが……。

 

「ラーンララーンララーン、ララララーン♪ジャーン!ありがとー!」

 

……奏夜は何事もなかったかのように静かに扉を閉めた。

 

「……花陽ちゃん、俺たちは何も見なかった。いいな?」

 

「え?いや、でも……」

 

明らかに様子のおかしい奏夜を見て、花陽は戸惑っていた。

 

するとその時、ガタン!と勢いよく穂乃果の部屋の扉が開かれると……。

 

「……見ました?」

 

どす黒いオーラを放った悪鬼(海未)が扉を開けて出てきた。

 

「……な、ナンノコトカナー」

 

奏夜はこの場をどうにか穏便に治めようと、話を誤魔化すのだが……。

 

「ふん!」

 

「ひでぶっ!!」

 

海未の強烈な正拳突きを受けた奏夜はその場に倒れこんでしまった。

 

「き、如月先輩!?」

 

事の一部始終を見ていた花陽は、ダウンする奏夜を見て、慌てていた。

 

《……おいおい……。さっきの海未の一撃は、ホラー相手でも充分に通用するんじゃないのか?》

 

キルバは、海未の放った正拳突きの予想以上の威力に、唖然としていた。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

「……あの、ごめんなさい、私のせいで……」

 

奏夜が海未にノックアウトされてまもなく、店番を終えた穂乃果が戻ってきたため、奏夜たちは今穂乃果の部屋にいた。

 

ちなみに奏夜は穂乃果がやってきた後、海未と穂乃果の2人の手によって、穂乃果の部屋に連行され、そこでようやく目を覚ましたのである。

 

「あぁ、花陽ちゃんが気にすることはないよ。これくらい日常茶飯事だから」

 

本音を言えばまだ痛みが残っているのだが、花陽に気を遣わせるわけにはいかなため、奏夜はこう言って平静を装っていた。

 

「それにしても海未ちゃんがポーズの練習してただなんて」

 

海未がアイドルらしいポーズを練習してたことを知り、穂乃果はニヤニヤしながら海未をからかっていた。

 

「ほ、穂乃果が店番でいなくなるからです!」

 

海未は余程恥ずかしかったのかムキになって反論していた。

 

「まぁまぁ、そうカッカするなって」

 

「奏夜は黙ってて下さい!」

 

「……すいません」

 

奏夜は海未をなだめようとしていたのだが、どうやら逆効果のようであり、海未に怒られてしまった。

 

「あっ、あのっ!」

 

海未の剣幕にしゅんとしている奏夜を、花陽が弁護をしようとしたのだが、その前にことりが穂乃果の部屋に入ってきた。

 

ことりは部屋に入るなり花陽の存在に少し驚いていた。

 

「えっ、もしかして本当にアイドルに?」

 

「たまたまそーくんと一緒にお店に来たからご馳走しようかと思って。穂むら名物「穂むら饅頭」。略して「ほむまん」。美味しいよ♪」

 

「……まるでコマーシャルのような宣伝の仕方だな……」

 

奏夜は、穂乃果の宣伝の上手さに驚いていた。

 

そこは流石は和菓子屋の娘だなと実感出来る程に。

 

「穂乃果ちゃん、パソコン持ってきたよ」

 

「ありがとう♪肝心な時に限って壊れちゃうんだよねぇ」

 

どうやら穂乃果のパソコンの調子が悪いため、ことりがノートパソコンを持ってきていた。

 

「悪いな、ことり。重いのに持ってきてもらってさ」

 

「うぅん、気にしないで♪」

 

そう言いながらことりはパソコンをテーブルに置くと花陽ちゃんはお茶と煎餅をどかしていた。

 

「あっ、ごめん」

 

「あっ、いえ……」

 

「それで、ありましたか?動画は?」

 

「まだ確かめてないけど……」

 

この間行われた、μ'sのファーストライブの映像が動画サイトに上がっているらしいという噂が出ており、今からその確認を行おうとしていた。

 

ことりはパソコンを起動するとスクールアイドルの公式サイトにアクセスして、動画を探してみた。

 

意外にも、μ`sの動画はすぐ見つかり、動画を見てみたのだが、その映像は初ライブのもので間違いなく、アングルも絶妙な感じであった。

 

しかし、ここで1つの疑問が出てくる。

 

「誰が撮ってくれたのかなぁ?」

 

「もしかしてそーくん?」

 

「いやいや違うって。俺はあの時3人のパフォーマンスに見とれてたし、カメラも持ってきてなかったし」

 

誰かがこっそりと撮影してた割にはアングルが良すぎるため、誰かが撮影したことは予想出来たものの、誰が撮影したかまではわからなかった。

 

「すごい再生数ですね….…」

 

「こんなに見てもらったんだ……」

 

思った以上にこの動画の反響があるようで、再生数も予想以上のものになっていた。

 

そのため、ランキングも多少は上がってるのではないかと予想するのは容易だった。

 

そんな中、少し離れたところで動画を見ていた花陽は、真剣な表情で動画に食い入っていた。

 

「花陽ちゃん、そっちじゃ見にくくないか?」

 

奏夜は花陽に声をかけるが、余程集中しているのか花陽には聞こえていないようだった。

 

穂乃果たちもそれで花陽が動画に見入っていることに気付くと奏夜たちは顔を見合わせて笑みを浮かべた。

 

「……花陽ちゃん!」

 

「……っ、は、はいっ!」

 

どうやら今度は気づいたようであり、花陽はいきなり呼ばれて少しだけ驚いていた。

 

「スクールアイドル、本気でやってみない?」

 

「え?でも、私、向いてないです……」

 

「心配しなくてもいいよ。そこにいる海未なんて人前に出るのが苦手なんだ。向いてるか?と言われると向いてないかもな」

 

「……確かにその通りですが、奏夜に言われるとなんか癪ですね…….」

 

奏夜の説明が気に入らなかったのか、海未は頬を膨らませながら奏夜のことを睨みつけていた。

 

「私も歌を忘れちゃったり、運動も苦手なんだ」

 

「私はすっごいおっちょこちょいだよ!」

 

「……穂乃果よ、それは自慢気に言うことか?」

 

「へ?エヘヘ……」

 

奏夜に痛いところを突かれてしまったからか、穂乃果は照れ隠しに笑っていた。

 

「プロのアイドルなら私たちはすぐに失格。でも、スクールアイドルならやりたいって気持ちをもって自分たちの目標を持ってやってみることは出来る!」

 

(なるほどな……。確かにそれは一理あるかもな……)

 

ことりの言葉に思うところがあったからか、奏夜はウンウンと頷いていた。

 

しかし、スクールアイドルはプロのアイドルと比べて始めやすいのは事実だが、その分プロ以上に努力をしなければ人気を得ることなど出来ないのである。

 

「それがスクールアイドルだと思います」

 

「だから、やりたいって思ったらやってみようよ!」

 

「もっとも、練習は厳しいですが」

 

「おいおい、海未」

 

「あっ、失礼しました……」

 

奏夜たちのやり取りを見た花陽ちゃんは笑みを浮かべていた。

 

「……だからさ、ゆっくり考えて答えを聞かせて欲しいな。俺たちはいつでも待ってるからさ」

 

こうしてこの日は解散となり、奏夜は花陽を家の近くまで送り届けることにした。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

「……」

 

現在、奏夜は花陽を家に送り届けるために花陽の家に向かっているのだが、花陽は少しばかり思い詰めた顔をしていた。

 

奏夜はそんな花陽の顔をジッと見ていた。

 

(……花陽ちゃん、相当思い詰めているな……)

 

《確かにな。だが、このお嬢ちゃんはそれだけ迷ってるのだろう。俺たちは見守るしかないな》

 

(そうだよな……)

 

もう少し押せば花陽はμ'sに入ってくれそうだが、自分の意思で入ると決めないと意味はない。

 

そのため、奏夜は花陽が自分の意思でμ'sに入りたいと決意するのを待つことにしたのである。

 

そう考える中、花陽の家に向かっていたその時だった。

 

「……あれ?」

 

花陽は何かに気付いたのか、足を止めていた。

 

「……ん?どうしたんだ、花陽ちゃん?」

 

それにつられて奏夜も足を止めたのだが、何故花陽が足を止めたのかがわからず、首を傾げていた。

 

「あっ、いえ……。こんなところに庭園なんてあったかなぁと思いまして……」

 

奏夜たちの前には生けた花を飾っている庭園があったのだが、花陽はいつの間にこのような場所が出来たのかと驚いていた。

 

《……奏夜。確かにおかしいぞ。俺たちも今日のエレメントの浄化でここを通ったが、あんなものは存在しなかったぞ》

 

(……!!そうだったな。……ということは……)

 

《あぁ。奏夜、油断するなよ》

 

この庭園はホラーが作ったものと予想することが出来たため、奏夜はどこからホラーが現れても良いように、警戒を強めていた。

 

その時だった。

 

「……あら、可愛らしいカップルじゃない」

 

「か……カップル!!?////」

 

庭園から着物姿の女性が現れたのだが、奏夜と花陽のことをカップルと称しており、それを聞いた花陽は恥ずかしさから顔を真っ赤にしていた。

 

「……あら、違うのかしら?それはともかく、そこのお嬢さん、貴女は花は好きかしら?」

 

「は、はい……。大好き……です」

 

花陽は自分の名前に「花」がついているからという訳ではないのだが、花を見ることは好きなのである。

 

「そう……。せっかくだから、私の作品を見ていきなさい」

 

「あっ……でも……」

 

「いいからいいから♪」

 

女性は、花陽を半ば強引に庭園まで連れていくと、奏夜もその後を追いかけようとした。

 

その時である。

 

《……!おい、奏夜!ロデルの使い魔がこっちに来るぞ!》

 

ロデルの使い魔である鳩が、指令書を持って、奏夜の方へと飛んできた。

 

(……ということは、ビンゴみたいだな)

 

指令が来たということは、この庭園にホラーが紛れ込んでいることはほぼ確実だった。

 

奏夜は指令書を受け取ると、ロデルの使い魔の鳩は、そのまま主人のもとへと帰っていった。

 

そして奏夜は魔導ライターを取り出すと、魔導火を放って指令書を燃やし、そこから飛び出してきた魔戒語で書かれた文章を読み始めた。

 

「……歪んだ美しさを持つ、陰我にまみれた妖華が出現せり。ただちに殲滅せよ」

 

奏夜が指令内容を読み上げると、魔戒語で書かれた文章は消滅し、魔導ライターを魔法衣の裏地の中へしまった。

 

そして奏夜は女性と花陽に合流するため、庭園の中へと入っていった。

 

奏夜が2人と合流すると、どうやら花陽は女性の作品をじっくり見ているようだった。

 

「あら……。遅かったじゃない。いったいどうしたの?」

 

「あぁ、すいません。さっきまで親に電話してたんです。ちょっと帰りが遅くなるって」

 

奏夜はとりあえず魔戒騎士ではなく普通の高校生を演じるため、このような言い訳をしていた。

 

「あら、そうなの?」

 

女性は奏夜のことをただの高校生と思っているようであり、その言い訳に納得していた。

 

「あっ、そうだ!私、親に連絡してない……」

 

「花陽ちゃん。今のうちに家に連絡しとくと良いよ。俺はここで花でも見てるからさ」

 

「はい、わかりました」

 

花陽は携帯を取り出すと、帰りが少し遅くなる旨を親に伝えるために電話をしていた。

 

奏夜はこの隙に、花陽と女性を引き離そうと考えていた。

 

何故なら、奏夜はこの女性こそがホラーではないか?と予想していたからである。

 

「あの、実は俺も花が好きなんです。ですから、あなたの最高傑作があるならば見てみたいです」

 

本当はそこまで花が好きという訳ではなかったが、このような芝居をしていた。

 

「あら、そうなの?若い男の子にしたら珍しいわね。いいわよ、こっちへいらっしゃい」

 

奏夜の言葉に気を良くした女性は、奏夜を庭園の奥に案内していた。

 

それからおよそ数分後、電話を終えた花陽が戻ってきたのだが……。

 

「……あれ?」

 

奏夜と女性の姿が消えており、花陽は首を傾げていた。

 

そして、奏夜と女性を探すために、花陽はそのまま庭園の奥へと移動したのであった。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

そんなこととはつゆ知らず、奏夜は庭園の奥にある作品を眺めていた。

 

「……へぇ、なかなか良い作品じゃないですか」

 

「あなた、なかなか見所があるじゃない。この作品の美しさを理解するなんて」

 

女性は、奏夜が自分の傑作に興味を示していることが嬉しかった。

 

「……それに比べて、最近の若者ときたら、生けた花の素晴らしさを理解しようとすらしない……!」

 

このように語る女性の表情が、突然険しいものに変わっていた。

 

そんな女性の感情の変化を、奏夜は見逃さなかった。

 

そのため……。

 

「……もしかして、生け花って思ったよりも人気がないんですかね……?」

 

奏夜はあえて女性を試すような言葉を放って、女性の反応を伺っていた。

 

その結果……。

 

「そんなことはないわ!!あなただってわかってるでしょう!?生けた花こそ普通の花よりも美しいって。それを理解しない連中が明らかに多過ぎるのよ!だからこそ、私は……」

 

奏夜の言葉が気に入らなかったのか、女性は語気を強めて生け花の素晴らしさを語っていた。

 

そんな女性の反応を見た瞬間、奏夜が女性に対して抱いていた疑惑が確信に変わったのである。

 

「……なるほどな。それがあんたの陰我って訳か」

 

「はぁ?あなた何を言って……」

 

奏夜の言葉に女性が困惑していると、奏夜は魔法衣の裏地から魔導ライターを取り出した。

 

そこから魔導火を放ち、女性の瞳を照らす。

 

すると、女性の瞳から不気味な文字のようなものが浮かび上がり、女性がホラーであるということが判明した。

 

ここまでは奏夜の予定通りだったのだが、ここで1つだけ誤算が生じたのであった。

 

それは……。

 

「……え?え!?」

 

花陽が奏夜たちを探してここまで来てしまったことである。

 

「……げ!花陽ちゃん!来ちまったのか……」

 

奏夜は慌てて魔導火を消して魔導ライターを魔法衣の裏地の中にしまったのだが、ホラーとのコンタクトを花陽に見られてしまった。

 

奏夜が花陽の方に視線が向いたその時だった。

 

女性は顔の部分だけホラーの姿に変化させると、口から鋭いツタのようなものを放ち、それは花陽を狙っていた。

 

「……!」

 

奏夜は慌てて花陽の前に立って花陽を守る体勢に入ると、魔戒剣を取り出し、抜刀していない状態で女性によるツタの攻撃を防いだ。

 

「……ヒッ!?」

 

花陽は女性の顔が急に化け物のように不気味なものに変わってしまったため、怯えていた。

 

「……花陽ちゃん!早く逃げろ!」

 

「え?で、でも!如月先輩が!」

 

「俺なら大丈夫だ!だから早く!」

 

「は……はい!」

 

花陽は奏夜のことが心配ではあったのだが、ここは奏夜を信じることにして逃げようとしていた。

 

しかし……。

 

「……逃がさないわよ!」

 

口の部分がホラーの部分に変わっていた女性の口が元に戻ると、女性はこの場に何か細工を施したのである。

 

その結果……。

 

「……あれ!?で、出られない!?」

 

花陽はこの場を離れることが出来なくなってしまった。

 

「くそっ!結界か!」

 

奏夜がこう言って舌打ちをした通り、女性は結界を貼り、花陽が逃げるのを阻止していた。

 

「……せっかく上等な獲物が現れたんですもの、逃がさないわよ。……まぁ、魔戒騎士まで釣れるとは思わなかったけどね」

 

どうやら女性は、花陽と奏夜を捕食しようとしていたのだが、奏夜が魔戒騎士だとは思わなかったようである。

 

「ま……魔戒騎士……?」

 

花陽は聞きなれない単語に戸惑っていた。

 

「花陽ちゃん。隠れてろ」

 

「は、はい!」

 

この場から逃げられないと知った奏夜は、花陽に安全な場所へ隠れるよう告げると、魔戒剣を抜き、女性へと向かっていった。

 

「け……剣!?一体どうなってるの!?」

 

花陽はあまりに唐突な展開に頭がついていかなかったのだが、すぐに我に返ると、少し離れた場所へ移動し、奏夜の戦いを見守っていた。

 

「……はぁっ!!」

 

奏夜は魔戒剣を一閃するのだが、その一撃は女性にあっさりとかわされてしまった。

 

しかし、女性は着物を着ているからか思う通りに身動きをとることができず、動きに大きな隙が出来てしまった。

 

その大チャンスを見逃さなかった奏夜は女性を蹴り飛ばし、吹き飛ばされた女性の体は自身が生けた花に直撃してしまい、自身が最高傑作と言っていた花は見るも無残な形になってしまった。

 

「……!貴様ぁ!!」

 

奏夜によって自身の作品を壊された女性は大きく激昂し、口の部分だけホラーの形に変化した。

 

すると、口から鋭いツタのようなものを放ち、奏夜の体を貫こうとするのだが、奏夜は無駄のない動きで攻撃をかわしていた。

 

それから女性のツタのようなものによる攻撃は何度も続き、避けきれない時は魔戒剣を一閃することでツタのようなものを斬り裂いて攻撃を防いでいた。

 

「……」

 

花陽は、奇妙な怪物相手に臆せず向かっていく奏夜を見て唖然としていた。

 

奏夜が普通の人とは雰囲気が違うということは察していたのだが、怪物と平然と戦えるとは思ってもいなかったからである。

 

(如月先輩……。あなたは、一体何者なんですか……?)

 

花陽は素性のわからない奏夜に困惑しながらも、奏夜の戦いをジッと見守っていた。

 

そんな中、奏夜は女性のツタのようなものによる攻撃をことごとく防ぎ、少しばかり余裕そうな表情を見せていた。

 

これは、本当に余裕なのではなく、相手を挑発するためにわざとこのような表情をしているのである。

 

「……ふふん、どうした?もう終わりか?」

 

奏夜は笑みを浮かべながら女性を挑発していた。

 

普通の相手ならあからさまな挑発には乗りにくいと思われるのだが……。

 

「……貴様ぁ!!」

 

奏夜に自分の作品を壊されて激昂している女性は、あっさりと奏夜の挑発に乗ってしまった。

 

そして、女性は一気に奏夜を仕留めるために、完全にホラーの姿へと変わっていった。

 

「!!?」

 

花陽は、この世のものとは思えない怪物を目の当たりにしたことで、恐怖で体が震えてしまっていた。

 

一方奏夜は、本当の姿を現したホラーの姿をジッと眺めていた。

 

『……奏夜!こいつはホラー、シャドウハーブ。ツタによる攻撃に注意しろよ!』

 

「あぁ、わかってる!」

 

奏夜は魔戒剣を構えると、鋭い目付きでシャドウハーブを睨みつけていた。

 

すると、シャドウハーブは体のあちこちから鋭いツタを放つと、全てを奏夜に向けていた。

 

「……っ!」

 

奏夜はどうにかその攻撃をかわすのだが、それでもなお、ツタは奏夜に向かっていた。

 

「くっ……。このぉ!!」

 

奏夜は魔戒剣を一閃しらツタを斬り裂くのだが、全てのツタを斬り裂くことは出来ず、その一部が奏夜の顔面に迫っていた。

 

「っ……!」

 

奏夜はどうにか回避体勢をとることで直撃は避けることが出来たのだが、奏夜の右頬をかすめてしまい、右頬から少量の鮮血が飛び散っていた。

 

「……如月先輩!!」

 

シャドウハーブ相手に押されていると判断した花陽は、心配からか思わず奏夜の名を呼んでいた。

 

「……ちっ!まだ生きてるのね……!!だったら……これでどう!?」

 

シャドウハーブは先ほどよりも多くのツタを奏夜目掛けて放つことで、確実に奏夜を仕留めようとしていた。

 

『……奏夜!来るぞ!!』

 

「……」

 

奏夜はシャドウハーブの放つツタの動きをジッと見極めていた。

 

すると、奏夜はジャンプをして最初の攻撃をかわすと、続けて迫り来るツタを魔戒剣の一閃にて斬り裂き、それでも迫り来るツタは、体を回転させながら回避していた。

 

「!!?」

 

「す、凄い……」

 

まさか全ての攻撃がかわされるとは思ってなかったからか、シャドウハーブは驚き、花陽もまた、奏夜のアクロバティックな動きについ見とれてしまっていた。

 

「……取った!」

 

シャドウハーブの攻撃をかわし、地面に着地した奏夜は、絶妙な位置へ移動して、魔戒剣を一閃しようとした。

 

だが……。

 

「フン、甘いわね!!」

 

シャドウハーブは体を回転させると、そこから花びらの吹雪が舞いあがっていた。

 

「ぐっ……!」

 

その一撃により、吹き飛ばされてしまった奏夜は、そのまま結界に叩きつけられてしまった。

 

「ぐぁっ……!!」

 

壁に叩きつけられたような衝撃と、結界による衝撃の2つをまともに受けた奏夜は、表情を歪ませながら、その場に倒れ込んでしまった。

 

「……!そ、そんな……!!」

 

奏夜は絶体絶命の状態に陥っており、花陽はその状況に息を飲んでいた。

 

「……これでトドメよ!!」

 

シャドウハーブは、奏夜にトドメを刺すべく、4つほどツタを放ち、奏夜の体を貫こうとした。

 

「……如月先輩!!」

 

「!!」

 

花陽の心配する声を聞いた奏夜は、ハッとして、自らを奮い立たせていた。

 

自分が花陽を守らなければいけず、シャドウハーブに負けるわけにはいかない。

 

そんな気持ちで立ち上がった奏夜は、魔戒剣を一閃して、4つのツタを斬り裂いた。

 

「……!?ま、まさか……!!私の攻撃を凌ぐだなんて……!」

 

奏夜に反撃する気力はないと思っていたからか、シャドウハーブは驚きを隠せずにいた。

 

「こんなところで……やられる訳にはいかねぇんだよ!!」

 

奏夜は改めて気合を入れると、鋭い目付きでシャドウハーブを睨みつけていた。

 

シャドウハーブの一撃でかなりのダメージを受けた奏夜だったが、戦闘続行に支障はなかったのである。

 

「……貴様の陰我、俺が断ち切る!!」

 

「……?陰我……?」

 

奏夜はシャドウハーブに向かってこう宣言するのだが、花陽は聞き慣れない言葉を聞いて、首を傾げていた。

 

そして、奏夜は魔戒剣を高く突き上げると、円を描いた。

 

その部分だけ空間が変化すると、奏夜はそこから放たれた光に包まれた。

 

すると、空間が変化した場所から、黄金の鎧が出現すると、奏夜は黄金の鎧を身に纏った。

 

こうして、奏夜は輝狼の鎧を身に纏ったのである。

 

「……き、金色の……狼!?」

 

花陽は初めて見る異形の鎧を奏夜が身につけたことに、驚きを隠せなかった。

 

(……き、如月先輩。変身シチャッタノォ!?まさか、如月先輩もあの怪物と同じ……?)

 

奏夜の身につけた異形の鎧を見た花陽は、奏夜もシャドウハーブと同じホラーなのではないか?と疑惑を持ってしまい、怯えた表情で輝狼の鎧を見ていた。

 

「おのれ……鎧を召還したからって、恐れることはないわ!」

 

シャドウハーブは、体のあちこちからツタを放ち、輝狼の鎧を貫こうとした。

 

ソウルメタルで出来ている輝狼の鎧はそう簡単に貫くことは出来ないのだが……。

 

「……キルバ!!」

 

『やれやれ……。仕方ないな……』

 

奏夜はキルバを前方に突きつけると、キルバは口から魔導火を放つと、奏夜に迫り来るツタを全て焼き払った。

 

「!!?」

 

キルバの放った炎はツタを通してシャドウハーブにも伝わっているようであり、あまりの熱さに苦しんでいた。

 

『ほう……。なるほど、考えたな、奏夜』

 

奏夜は何故キルバに魔導火を放たせたのか、その目論見に気付いたキルバは感心していた。

 

「なぁに、奴は植物のホラーだから、単純に火に弱いと思っただけだよ」

 

奏夜は単純に、シャドウハーブの弱点が火ではないかと予想し、このような行動に出たのである。

 

「ぐぅぅ……!おのれぇ!!」

 

シャドウハーブは鋭い目付きで奏夜を睨みつけるが、未だに魔導火は燃えており、シャドウハーブは熱さで苦しんでいた。

 

動きが鈍ったのがチャンスと感じた奏夜は、陽光剣を構えると、シャドウハーブにトドメを刺すべく接近した。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

奏夜は獣のような咆哮をあげながら陽光剣を一閃し、シャドウハーブの体を真っ二つに斬り裂いた。

 

奏夜の一撃で魔導火はかき消されたのだが、シャドウハーブは断末魔をあげており、その体は陰我と共に消滅した。

 

「……よし」

 

シャドウハーブを討滅したことを確認した奏夜は、鎧を解除すると、元に戻った魔戒剣を緑の鞘に納めた。

 

「……」

 

ホラーの脅威は消え去り、花陽の目には、自分が憧れているスクールアイドルの1つ、μ'sのマネージャーである奏夜の姿が映っていた。

 

しかし、鎧を召還して戦う様子を見て、花陽は奏夜にも恐怖を覚えてしまったのである。

 

そんなこととはつゆ知らず、奏夜は花陽のもとへ歩み寄った。

 

「……花陽ちゃん、大丈夫か?」

 

奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべながら花陽に近付くのだが……。

 

「……ヒッ!?」

 

奏夜に恐怖を覚えてしまった花陽は、ビクンと肩をすくめていた。

 

「は……花陽ちゃん……?」

 

ここまで怖がられるとは思わなかったからか、奏夜は面食らっていた。

 

「ご、ごめんなさい……。あと、助けてくれて、ありがとうございます……」

 

花陽は勇気を振り絞って助けてもらったことの例を言うと、逃げるようにその場を立ち去っていった。

 

「……あちゃあ……。これはちょっとまずいことになったかな?」

 

花陽をμ'sのメンバーに勧誘しようと思った矢先に、ホラーとの戦いで花陽を怖がらせてしまったので、今のままでは花陽をμ'sのメンバーにするのはほぼ不可能な状態になってしまった。

 

『ま、あれが普通の反応だな。お前だって慣れてるはずだろ?』

 

「そりゃ、そうだけどさ……」

 

キルバの言う通り、ホラーを討滅した後、助けた人に怖がられたり、お前も化け物だと非難されることはよくある話なのである。

 

そのため、花陽もその例の1人ではあるのだが、μ'sに誘えなくなったことは申し訳ないと思っていた。

 

「……明日、穂乃果たちに謝らないとな。それに、なるべく花陽ちゃんに近付かないようにしないと……」

 

『ま、それがいいだろうな。俺たちも帰るぞ、奏夜』

 

「そうだな」

 

こうして、1つの問題を抱えてしまったのだが、シャドウハーブを討滅したため、奏夜は家に帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『あのお嬢ちゃんは奏夜のことを怖がってやがる。このままだとμ'sの活動にも支障が出そうだな。次回、「勇気」。さて、これからどうなることやら……』

 

 




花陽をμ'sに勧誘し始めた奏夜たちですが、花陽は迷ってるみたいです。

奏夜は海未に殴られてまたヒャッハーのような悲鳴をあげていますが、奏夜も徐々にギャグキャラに(笑)

そんな中、花陽がホラーとの戦いに巻き込まれたため、花陽を救った奏夜ですが、怖がられてしまいました。

当初は奏夜の戦いを見てそのまま受け入れる感じにしようと思いましたが、みんながみんな反応が同じだとつまらないと思い、こうしました。

メンバーによって、奏夜を見た時の反応が異なる方が面白いかなと思いまして。

その結果、牙狼とのクロスっぽい展開になったと思います。

まぁ、牙狼とのクロスオーバーなんですが(笑)

このままだと花陽をμ'sに勧誘するのは困難ですが、花陽は奏夜に対する恐怖心を消し去ることは出来るのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第13話 「勇気」

お待たせしました!第13話になります!

そういえば、今度発売になるモンハンXXが、牙狼とコラボするみたいですね。

まだFF14で牙狼装備をまだ手に入れてないのに……。

僕はモンハンはやってないですが、牙狼とコラボするなら買おうかな。ちょっと迷っています。

さて、前回奏夜が魔戒騎士であると知った花陽は、奏夜のことを怖がってしまいましたが、奏夜の誤解を解くことは出来るのか?

それでは、第13話をどうぞ!




穂乃果たち3人のグループであるμ'sの初ライブが終わり、およそ1週間が経った。

 

奏夜は後輩である花陽と共に生徒手帳を落としてしまった真姫の家に行き、それを届けたついでにスクールアイドルの勧誘も行っていた。

 

それは断られてしまったのだが、奏夜は花陽を連れて、穂乃果の家である穂むらを訪れる。

 

そこで、奏夜たちは自分の初ライブの映像を見つけてその映像をチェックしていた。

 

その動画を真剣な眼差しで見ていた花陽をスクールアイドルに勧誘するのだが、どうやら花陽は迷っているようであった。

 

じっくりと考えて答えを決めて欲しいということを伝えると、奏夜は花陽を家に贈りとどけるために花陽の家へと向かう。

 

その途中にホラー、シャドウハーブと遭遇してしまい、花陽は奏夜が魔戒騎士であることを知る。

 

花陽はそんな奏夜に恐怖を覚えてしまったため、スクールアイドルへの勧誘は絶望的に思われた。

 

その翌日、エレメントの浄化を早々に終わらせ、朝のトレーニングに参加した奏夜は、練習が終わったタイミングを見計らって、昨日の出来事を語り始めた。

 

「……!花陽ちゃんも知っちゃったんだね。そーくんが魔戒騎士ってことを……」

 

「しかも彼女に怖がられてしまったのですね……」

 

奏夜の報告を聞いた穂乃果たちは、事の重大さに驚きを隠せず、深刻そうな表情をしていた。

 

「……すまんな。花陽ちゃんをμ'sに誘おうっていう矢先に、こんなことになっちまって……」

 

花陽を守ることが出来たのは良かったが、この出来事を招いたのは自分のせいであると感じた奏夜は、申し訳なさそうに穂乃果たちに謝罪をした。

 

「……奏夜。あまり自分を責めてはいけませんよ」

 

「そうだよ!……ことりはあの子の気持ち、わからなくはないけど、そーくんはそーくんだもん!」

 

ことりも実は奏夜が魔戒騎士だと知った時、花陽のように少し怖いと思っていたのだが、奏夜の笑顔を見た瞬間に自分の知っている奏夜だと確信をしていたのである。

 

「だから、花陽ちゃんもきっとわかってくれるよ!」

 

「ことり……」

 

奏夜はことりの本音と励ましの言葉を聞くと、自然と気持ちが楽になっていた。

 

「ねぇ、そーくん。花陽ちゃんのことは穂乃果に任せてくれない?」

 

「それはこちらから頼みたいとは思うけど、何をするつもりなんだ?」

 

「いいからいいから♪」

 

穂乃果は花陽の件をどうにかしようと思っているようだが、何をしようとしてるのかはわからなかった。

 

「奏夜。あなたはμ'sのために一生懸命頑張ってくれています。ですから、たまには私たちのことも頼ってください」

 

「そうだよ、そーくん!私たち4人は仲間なんだから!」

 

「……そうだな……。わかった。花陽ちゃんのことはみんなに任せるよ」

 

自分はμ'sのために頑張らなくては。

 

そんな気持ちを抱きながら奏夜は頑張っていたのだが、頑張りすぎていることを穂乃果たちに見透かされていた。

 

だからこそ、今回は穂乃果たちの申し出を素直に受けようと奏夜は思ったのである。

 

この話が終わったところで、穂乃果たちは着替えを済ませ、一緒に学校へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

〜花陽 side〜

 

 

 

……こんにちは。小泉花陽です。

 

私は小さい頃からアイドルが大好きで、今も、音ノ木坂学院に誕生したスクールアイドル「μ's」に興味を持っています。

 

ですが、私は昨日信じられないものを目撃しました。

 

それは、この世のものとは思えない化け物で、どうやらホラーというそうです。

 

そして、μ'sのマネージャーである如月奏夜先輩が、その化け物と互角に戦っていたんです。

 

それは、魔戒騎士って言ってたかな?

 

私は如月先輩に命を救われたのに、怖くなって逃げてしまったのです。

 

……如月先輩は悪い人じゃない。

 

頭ではわかっていたけど、やっぱり怖かったんです。

 

あの人も、あの化け物と同じなんじゃないか?と1度思ってしまったら……。

 

あの後、あの化け物について調べてみましたが、まったくその情報はありませんでした。

 

似たような都市伝説ならいくつかのサイトに載ってましたけど……。

 

どうやら、私以外にもホラーとかいう化け物を見た人はいるみたいです。

 

その話は何故か広まってないようですけど……。

 

私だってこんな現実離れな話を広めるつもりはないけれど、ホラーとかいう怪物やあの鎧のことがただの都市伝説で終わってるのは、とても気がかりです。

 

……スクールアイドル。やってみたい気持ちはあるけど、如月先輩がいるなら、厳しいよね……。

 

だけど、如月先輩には謝りたいって気持ちはあるんだよね。正直怖いけど、私の命を救ってくれたのは事実だし……。

 

でも……。

 

私は如月先輩に救われた翌日になっても、そんなことを考えていました。

 

気が付けばもう2時間目も終わっちゃったし……。

 

私は休み時間もうじうじと考え事をしていたんだけど……。

 

「かーよちん!どうしたの?」

 

「あっ、凛ちゃん……」

 

「かよちん、今日は朝から元気がないよ?いったいどうしたんだにゃ?」

 

私ってば、ずっと浮かない顔をしてたんだね……。

 

凛ちゃんもすごく心配してくれてるんだけど……。

 

「大丈夫、何でもないよ」

 

昨日のことはさすがに話すわけにはいかないから、私はこう話をはぐらかすんだけど……。

 

「嘘!何でもないことはないよ!かよちん、何か悩みでも……。あっ!スクールアイドルをやりたいけど、どうしようか迷ってるんでしょ?」

 

「そ、それは……」

 

あのホラーとかいう化け物と会うまではそうだったけど、今は別のことで悩んでるんだよね……。

 

「やりたいならやりたいって言った方がいいよ!」

 

どうやら凛ちゃんは私がスクールアイドルを始めることを後押ししてくれるみたいだった。

 

でも……。私は……。

 

私は凛ちゃんにスクールアイドルの話を断ると伝えようとしたんだけど……。

 

「……小泉さん。お客さんが来てるよ」

 

「お客さん?」

 

……?誰だろう……。

 

私は教室の入り口のところを見ると、そこにいたのは……。

 

「……高坂先輩……」

 

この学校のスクールアイドル「μ's」のメンバーである高坂穂乃果先輩だった。

 

……あれ?高坂先輩1人なのかな?

 

私としてはちょっとだけホッとしたけど……。

 

とりあえず私は高坂先輩のもとへ向かうことにしました。

 

「ごめんね、花陽ちゃん。呼び出しちゃって……」

 

「あ、いえ……。あの、私に何かご用ですか?」

 

「うん。花陽ちゃんに話があってね。……あっ、でも、スクールアイドルのことじゃないからね!」

 

?スクールアイドルのことじゃなければ何だろう……?

 

「は、はい……。わかりました」

 

「ここじゃちょっとあれだから、花陽ちゃん、ついて来て」

 

高坂先輩はこう言いながら私を連れてどこかへ移動を始めた。

 

……いったいどこに行くんだろう……。

 

それに話って、まさかね……。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

「……さて、ここなら大丈夫かな?」

 

私と高坂先輩は今、屋上に来ており、屋上には誰もいなかった。

 

……何で高坂先輩は人気のないところを選んだんだろう……。

 

「……あっ、あの……。高坂先輩、お話とはいったい?」

 

「あぁ、そんなに緊張しないで!話っていっても、そーくんのことだからさ」

 

「如月先輩のこと……ですか?」

 

「……そーくんから聞いたんだよね。花陽ちゃんがそーくんの秘密を知っちゃったって……」

 

「!?」

 

ひ、秘密って、あの化け物のこと……だよね?

 

ま、まさかとは思うけど……。

 

「……あ、あの……。もしかして、高坂先輩も……」

 

「うん。私も知ってるよ。そーくんが魔戒騎士だってことを。そして、そーくんがホラーと戦ってるってことを」

 

「!!」

 

やっぱり……。

 

高坂先輩もあの化け物に襲われたことがあって、如月先輩に助けられたってことだよね……。

 

「あぁ、でも勘違いしないでね!私は花陽ちゃんを非難するために話をしに来た訳じゃないの」

 

「……あの、高坂先輩。あなたは、如月先輩のことは怖くないんですか?あんな化け物と平然と戦えるあの人を……」

 

私はストレートな質問を高坂先輩にぶつけてみた。

 

すると……。

 

「……そりゃ、怖いって思うことはあるよ。ホラーみたいな化け物だってやっつけちゃうし、戦ってる時のそーくんはちょっとね……」

 

「……っ!?だったら何で如月先輩と一緒にいれるんですか?」

 

「……だって、そーくんはそーくんなんだもん」

 

「!?」

 

「そーくんが何をしていようとも、私たちμ'sのために頑張ってくれてることは事実だもん。それに……」

 

「それに?」

 

「そーくんは私だけじゃない。海未ちゃんやことりちゃんにとっても大切なお友達なんだよ!」

 

「!」

 

友達だから信じられる……。

 

なるほど、高坂先輩だけじゃない。他の2人も如月先輩の秘密を知っていて、大切な友達だからこそ信じることが出来るんだね。

 

……でも、私は……。

 

「花陽ちゃん。だから、あなたもそーくんのことを信じてほしいんだ。確かに、怖いかもしれないけど、あなただってそーくんがμ'sのマネージャーとして頑張ってるのは知ってるでしょ?」

 

「!」

 

確かに……そうだよね……。

 

あんなことをしている如月先輩だけど、μ'sのために一生懸命なのは決して嘘じゃない。

 

だからこそ、高坂先輩たちは如月先輩を信頼してるんだ。

 

そんなことを考えてたら、自然と如月先輩のことが怖くなくなっていた。

 

「……そうですよね。私、大事なことを忘れていたのかもしれません。だって、如月先輩いてこそのμ'sですもんね!」

 

「うんうん!その通りだよ!花陽ちゃん!」

 

今度如月先輩に会ったらちゃんと謝ろう。

 

私がそう決意していると……。

 

「……そーくん!花陽ちゃんはわかってくれたみたいだよ」

 

え?え?どういうこと?

 

高坂先輩がいきなり如月先輩を呼んだことに戸惑っていると、物陰から現れたのは……。

 

「……き、如月先輩!?」

 

なんと、如月先輩でした。

 

ということは、今までの話は全部聞かれていたってことかなぁ……。

 

「ごめんな、花陽ちゃん。盗み聞きするつもりはなかったんだけど、穂乃果がここにいろって言うもんでな……」

 

「あっ、いえ……」

 

事情はどうあれ、如月先輩がいるんだから謝らないと!

 

「あの、如月先輩……」

 

「うん」

 

「……ごめんなさい!如月先輩は全力で助けてくれたのに、私、如月先輩のことが怖くなっちゃって……」

 

……!い、言えた……。良かった……。

 

だけど、如月先輩はどんな反応をするのかなぁ?

 

「……気にするなよ。あんなものを見ちゃったら、誰だって怖がるもんさ」

 

如月先輩は特に気にする様子はなかった。

 

それはありがたいけど……。

 

「で、でも……!」

 

「そんなに気にするならさ、ほれ」

 

私の中では申し訳ない気持ちは消えてなかったのだが、如月先輩は優しい表情で手を差し伸べてくれた。

 

「……あ、あの……。これは?」

 

「握手だよ、握手。もう俺のことが怖くないなら出来るだろう?」

 

「……はい!」

 

私はゆっくりと自分の手を差し出すと、如月先輩と握手をした。

 

……如月先輩の手、暖かいな……。

 

そうだよね。確かに如月先輩は怖いけれど、決して悪い人なんかじゃないもんね!

 

こう考えるようになったら、自然と如月先輩のことは怖くなくなっていました。

 

「……ま、そういうことで、改めてスクールアイドルについてどうするか、考えてくれよな」

 

「は、はい」

 

そうだね……。今度はそこについて考えなくちゃ。

 

私がそんなことを思っていると……。

 

「……むー……!そーくん、いつまで手を握ってるの?」

 

「おっと、そうだったな」

 

そう言って如月先輩は慌てて私の手を離しました。

 

それにしても、何で高坂先輩は不機嫌そうなんだろう……?

 

「……そーくん、そんなに女の子と手を握りたかったんだね」

 

「おいおい、勘違いするなよ。俺はそういうつもりでやった訳じゃなくてだな……」

 

「海未ちゃんとことりちゃんにも報告して、後でお仕置きだね♪」

 

「ヤメロ!!そんなことしちゃいけない!!」

 

……如月先輩……。凄く必死になってる……。

 

そんなにお仕置きっていうのが嫌なのかな?

 

そんなことを考えてたら何だか急におかしくなって……。

 

「……クスッ……」

 

ついつい笑みをこぼしてしまいました。

 

「ちょっと花陽ちゃん!笑ってないで助けてくれよ!!」

 

如月先輩は私に助けを求めてきたけど……。知りません♪

 

「さて、教室に戻ろうか、そーくん。これから楽しいお仕置きが待ってるよ♪」

 

「ちょっ!おまっ!そこ引っ張るな!……だ、ダレカタスケテー!!」

 

チョットマッテテー!……じゃなくて!それは私の専売特許なのに!!

 

……コホン!それはともかくとして、如月先輩は高坂先輩に引きずられる形で教室へと戻っていきました。

 

とりあえず私も教室に戻ろうかな……。

 

私は教室に戻り、するとちょうど授業のチャイムが鳴ったので、授業を受け始めました。

 

 

 

 

 

 

〜三人称 side〜

 

 

 

 

 

 

穂乃果の活躍によって、花陽の奏夜に対する恐怖心を打ち消すことに成功した。

 

その証に奏夜は花陽と握手をしたのだが、どうやら穂乃果はそれが気に入らないようで、話が終わると奏夜を教室まで連行した。

 

そして、次の休み時間。ちょうど昼休みだったため、穂乃果は海未とことりに先ほどの出来事を報告する。

 

それを聞いた海未とことりは、奏夜にお仕置きすることに賛成したため、奏夜はお仕置きを受けるハメになってしまった。

 

どのようなお仕置きか……。今回もまた、これを読んでくれた人の想像に任せることにする(笑)

 

そんなこんなでお仕置きを受けて奏夜はボロボロになってしまったのだが、この日の放課後、さらなる不幸が奏夜を襲った。

 

奏夜はすぐ屋上に向かうつもりだったが、日直の仕事があるため遅れてしまった。

 

それだけならよかったのだが、日直の仕事が終わると、今度は担任である山田先生に雑用を押し付けられてしまい、それをこなしていた。

 

「ったく……。生徒を上手い具合にこき使いやがって……」

 

奏夜は、雑用を押し付けてきた山田先生にブツクサと文句を言っていた。

 

『ま、別にいいんじゃないか?昼休みにあんなお仕置きを受けた後だし、息抜きと思えばな』

 

「それはそうだけど、キルバ、その話はやめてくれ」

 

奏夜は昼休みに受けたお仕置きがよほど怖かったのか、顔を真っ青にしてブルブルと体を震わせていた。

 

『やれやれ……。魔戒騎士なのにその怯えようは情けないとしか言えないな』

 

「……だ、だってよ!マジで怖かったんだぜ!あれは」

 

『はいはい。奏夜、さっさと仕事を片付けて穂乃果たちと合流するぞ』

 

「わかってるって。遅くなってまた穂乃果たちにどやされたらたまらんからな」

 

奏夜はなるべく早く穂乃果たちと合流するために早急に雑用の仕事を終わらせていた。

 

そして、ようやく雑用の仕事を終わらせ、屋上に向かっていたのだが、中庭を移動していたその時である。

 

__♪あーあーあーあーあー

 

「……ん?何だ、今の声は?」

 

『どうやら近くみたいだな』

 

「……って、すぐそこじゃん!」

 

突如綺麗な声が聞こえてきたので、奏夜はその方を見ると、先程の声の主は花陽と真姫であった。

 

奏夜は拍手をしながらふたりのもとへ向かった。

 

「ヴェェ……」

 

「あっ、如月先輩」

 

真姫はいつものように独特な声をあげ、花陽は奏夜の名前を呼んでいた。

 

「な、何であんたがいるのよ!」

 

「いやぁ、たまたまこの道を通ったら綺麗な声がきこえたもんでね、それを聞かせてもらったってわけ」

 

「ふぇっ!?先輩、聞いてた……んですか?」

 

花陽は顔を真っ赤にしながらもじもじしていた。

 

「そんなに恥ずかしがることはないって。すごく良かったからさ、もっと自信わ持ちなよ」

 

「あっ、ありがとう……ございます……」

 

花陽は恥ずかしそうに俯いており、、真姫も同様に恥ずかしそうにしていた。

 

2人がここで何をしていたのか気になったので、奏夜が聞き出そうとしたその時だった。

 

「かーよーちーん!」

 

花陽の親友である星空凛がこっちに駆け寄ってきた。

 

「西木野さん?どうしてここに?」

 

「励ましてもらってたの」

 

「わっ、私は別に……」

 

(やれやれ、やっぱり素直じゃないなぁ)

 

《確かに。相変わらずのツンデレぶりだな》

 

奏夜とキルバは、いつものように素直になれず、ツンデレな態度をとる真姫に呆れていた。

 

「それに……」

 

凛ちゃんは奏夜を見つけたのか奏夜のことをジッと見ていた。

 

「よう、凛ちゃん」

 

「そーや先輩!こんにちはだにゃ!」

 

《……やっぱりあのお嬢ちゃんは猫っぽい喋りなのか……》

 

(アハハ…。猫みたいな口調は凛ちゃんの口癖なんだろ)

 

奏夜とキルバは、凛の口癖と思われる語尾に「にゃ」とつくことに苦笑いをしていた。

 

「あっ!ちょうど良かった!今日こそスクールアイドルをやりますって先輩に言わなきゃ!そーや先輩もちょうどいる訳だし♪」

 

「う、うん……」

 

やはり花陽はスクールアイドルをやりたいもののまだ迷ってるみたいだった……。

 

「そーや先輩!かよちんは本気でアイドルをやりたいんです!だから……」

 

「凛ちゃんが言いたいことはわかったけどさ、俺はマネージャーだから、俺じゃなくて穂乃果たちに直接言うべきだと思うんだよ。それに、こういうのは花陽ちゃんが自分で言わなきゃ。決心がつくまでは俺たちは待つつもりだからさ」

 

「そう……ですか……」

 

(うんうん、凛ちゃんもわかってくれたかな?)

 

素直な凛の返事に、理解してくれたのかな?と奏夜は思っていたのだが……。

 

「ところでそーや先輩。他の先輩たちはどこで練習してるんですか?」

 

「あぁ、屋上だよ」

 

「かよちん、屋上に行こう!先輩たちにアイドルやりますって言おう!」

 

「えっ?えっと…….」

 

「ちょっと待って。そんなに急かさない方がいいわ。如月先輩だって決心がつくまでは待つって言ってるんだし、もうちょっと自信をつけてからでも」

 

「何で西木野さんが凛とかよちんの話に 入ってくるの?」

 

「べ、別に歌うならそっちの方がいいって言ってるだけ」

 

(……あるぇ?なんか一触即発な感じがするぞ?)

 

《奏夜。仲裁するのはいいが、面倒事はごめんだからな。慎重に行けよ》

 

(わかってるって)

 

奏夜はこのようにキルバとテレパシーで会話をしながら、この少々険悪気味な雰囲気をどうにかしようと考えていた。

 

「かよちんはいつも迷ってばかりだからパッと決めてあげた方がいいの」

 

「そう?昨日話した感じだとそうは思えなかったけど」

 

「あ、あの……喧嘩は……」

 

花陽も必死に止めようとするが、凛と真姫は、自分の意思を主張するため、互いに睨み合っていた。

 

(やれやれ……。これじゃ花陽ちゃんがかわいそうだし、ここは俺の出番かな?)

 

ここで、話すタイミングを伺っていた奏夜は口を開くことにした。

 

「なぁ、凛ちゃん。迷うことってそんなに悪いことなのかな?」

 

俺がこう口を開くと3人の視線が俺に集中した。

 

「そーや先輩、何が言いたいんですか?」

 

「これはある人の受け売りなんだけどさ……。迷うのは悪い事じゃない。それだけ良い結果を求めている証拠だから……ってな。まぁ、迷いすぎるのも良いとは言えないけど、それも必要な時間だと俺は思うんだよね」

 

「そーや先輩の言いたいことはわかりますけど、やっぱり決める時はビシッと決めた方がいいと思うんです!」

 

「私はそうは思わないわ。今の如月先輩の話はその通りだなと思ったもの。なんでもかんでもビシッと決めるってのが全部彼女のためになるとは思えないわ」

 

(……あれ?俺余計なこと言ったかな?)

 

《……そうみたいだな。思いのほか、状況が悪化してるような気がするしな》

 

奏夜は凛をなだめるために言ったセリフが逆に裏目に出てしまった。

 

「かよちん、行こう!先輩たち帰っちゃうよ?」

 

業を煮やした凛は花陽の手を取り、そのまま屋上に向かおうとしたが、真姫が反対の手を取り、それを阻止した。

 

「待って!どうしてもって言うなら私が連れて行くわ。音楽に関しては私の方がアドバイス出来るし」

 

真姫は音楽の経験があるため、アドバイスが出来るというのは的を得た言葉だった。

 

「それに、μ`sの曲は私が作ったんだから!」

 

(アハハ……。結局それを言っちゃうのか……)

 

《ま、それは事実だし、別にいいんじゃないのか?》

 

「えっ、そうなの?」

 

真姫からの思いもよらぬ告白に、花陽は驚きを隠せなかった。

 

「あっ……。いや、えっと……」

 

(やれやれ、本当のことなんだから素直になればいいのに……)

 

奏夜は心の中でこう思ったのだが、これを言ってしまえば、面倒なことになりそうだったので、やめておいた。

 

「と、とにかく行くわよ!」

 

「待って!連れてくなら凛が!」

 

「私が!」

 

真姫と凛は花陽は、引っ張りながら屋上まで連れて行くのは自分だと主張し続けていた。

 

「誰か……ダレカタスケテー!」

 

花陽はこのように叫びながら、真姫と凛に引きずられる形で屋上へと向かっていった。

 

「チョットマッテテー!……じゃなくて!」

 

『……おい、奏夜。何なんだ?今の言葉は……』

 

「さぁな。だけど、このセリフを言わなきゃって使命感に急にかられてしまってな」

 

『何だよ、それ』

 

キルバは、奏夜の唐突な言葉に呆れていた。

 

花陽たちがそのまま屋上に向かったので奏夜は慌てて花陽たちを追いかけていった。

 

(それにしてもなんで今の言葉がスッと出てきたんだろうか……。わからん……)

 

奏夜は今になって、先ほど言っていた言葉が何故急に出てきたのか疑問に感じて、首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

凛と真姫は、花陽を引っ張ったまま屋上に向かっていた。

 

3人が屋上に着く前に奏夜は先回りをして先に屋上で練習をしている穂乃果たちと合流した。

 

「みんな、お待たせ」

 

「あーっ!そーくん遅いよぉ!どこ行ってたの?」

 

奏夜が遅れることは聞いていたものの、予想以上に遅かったことが気に入らず、穂乃果は膨れっ面になっていた。

 

「まぁまぁ、そう言わないでくれよ。もうすぐここにお客さんが来るんだからさ」

 

「「「お客さん?」」」

 

3人が首を傾げると、花陽たちが屋上にやって来た。

 

するとすぐに凛は、花陽がアイドルになりたいということを打ち明けた。

 

「つまり……メンバーになるってこと?」

 

「はい!かよちんはずっとずっとアイドルやってみたいって言ってたんです」

 

花陽は凛と真姫に、それぞれの腕を掴まれた状態になっていた。

 

「そんなことはどうでも良くて、この子はけっこう歌唱力あるんです」

 

「どうでもいいってどういうこと?」

 

「言葉通りの意味よ」

 

「わっ、私はまだ……。なんて言うか….…」

 

「もぉ、いつまで迷ってるの?絶対やった方がいいの!」

 

「それには賛成。やってみたいって気持ちがあるならやってみた方がいいわ」

 

どうやらやってみた方がいいってのは凛も真姫も同じ意見みたいだった。

 

「でっ、でも….…」

 

「さっきも言ったでしょ?声出すなんて簡単。あなただったら出来るわ!」

 

「凛は知ってるよ!かよちんはずっとアイドルになりたいって思ってたこと」

 

2人はようやく花陽を離したと思ったら、それぞれの思いを花陽にぶつけていた。

 

2人とも、それだけのことを応援してるということが伝わってきた。

 

「凛ちゃん……西木野さん….…」

 

「頑張って。凛がずっとついててあげるから」

 

「私も少しは応援してあげるって言ったでしょ?」

 

穂乃果たちはこのやり取りを微笑みながら見守っていた。

 

「えっと……私……小泉……」

 

花陽は上手く言葉を紡ぐことが出来なかったのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

トン……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凛と真姫の2人が、優しく、そして力強く花陽ちゃんの背中を押した。

 

2人の文字通りの後押しに、花陽は相当勇気づけられたと予想することが出来た。

 

花陽はここでようやく決心がついたのか、花陽の目が先程とは変わっていた。

 

「私、小泉花陽といいます!1年生で、背も小さくて、声も小さくて……人見知りで……得意なものはないです。でも、アイドルへの思いは誰にも負けないつもりです!だから……μ'sのメンバーにしてください!」

 

花陽は目に涙を浮かべながら自分の思いを打ち明け、メンバーにして欲しいと自分の言葉で伝えることが出来た。

 

「花陽ちゃん……。良く言った。頑張ったな……」

 

自分の意思でスクールアイドルになりたいことを伝えることが出来たのが嬉しかったのか、奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「こちらこそ……。よろしく!」

 

穂乃果は花陽に手を差し出すと、花陽はしっかりと穂乃果の手を取った。

 

「……かよちん、偉いよぉ…….」

 

「何泣いてるのよ……」

 

「だって……。って、西木野さんも泣いてるの?」

 

花陽の決意の涙に、どうやら凛も真姫も、もらい泣きしてるようだ。

 

「だっ、誰が!泣いてなんかないわ!」

 

(やれやれ……。こんな時でも得意のツンデレかよ……)

 

真姫の強がる態度を見ていた奏夜は、やれやれと言いたげにため息をついていた。

 

「それで、2人は?2人はどうするの?」

 

ことりの言葉に凛と真姫はハッとしていた。

 

「「えっ?どうするって?」」

 

「まだまだメンバーは募集中ですよ」

 

そう言うと海未とことりはそれぞれ手を差し出していた。

 

「「いや、私は…」」

 

(やれやれ……。今度こそ俺の出番だな)

 

ここで凛と真姫の背中を押すために、奏夜は動くことにした。

 

「花陽ちゃんだって勇気を出して自分の気持ちに素直になったんだ。2人とも今くらいは自分の気持ちに素直になってもいいんじゃないか?」

 

奏夜はこう言って2人の背中を押した。

 

凛と真姫の2人は、ぱぁっと明るい表情になると、海未とことりの手を取った。

 

こうしてこの日、μ'sは6人になった。マネージャーである奏夜を入れたら7人なのだが……。

 

その光景を見ていた奏夜は、これからは穂乃果たちだけじゃなく、この3人も守っていこう。

 

こう決意を固めたのであった。

 

それは、μ'sのマネージャーとしてだけではなく、魔戒騎士として、守りし者として……。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

翌日、この日はμ'sが6人になってから初めての練習日となった。

 

奏夜はいつものように神田明神に着くと、ちょうど凛と真姫が来ていた。

 

「おう、凛ちゃん、西木野さん。おはよう」

 

「あっ、そーや先輩、おはようだにゃ!」

 

「お、おはよう……」

 

凛は元気よく、真姫は少し恥ずかしそうに奏夜に挨拶をしていた。

 

挨拶を済ませたところで奏夜たちは階段を登り始めた。

 

「ふわぁぁ……。朝練って毎日こんなに早いのぉ?」

 

「このくらい当然よ」

 

「ま、確かに早いかもしれないけど、じきに慣れると思うよ」

 

「そういうものなのぉ?」

 

「まぁ、そういうもんなんじゃないの?」

 

奏夜たちは階段を登りきるとすでに誰か来ていた。

 

後ろを向いていたので、少々わかりにくかったが、どうやら花陽のようであった。

 

「かよちーん!」

 

このように凛は大きな声で花陽を呼んだため、花陽はこっちを向くのだが……。

 

「……おはよう♪」

 

「は、花陽……ちゃん!?眼鏡してないから思わずびっくりしちゃったよ」

 

花陽は眼鏡を外していたため、それを見ていた奏夜たちは驚きを隠せなかった。

 

「あっ、あれ?眼鏡は?」

 

「コンタクトにしてみたの。変…かな?」

 

「うぅん、すっごく可愛いよ!」

 

「へぇ、いいじゃない」

 

どうやら花陽は眼鏡からコンタクトに変えたようであり、それは凛や真姫にも好評だった。

 

「あっ、西木野さん」

 

真姫は何故か花陽に呼ばれた途端、顔を赤くして何か言いたそうにしていた。

 

「ねぇ……。眼鏡取ったついでに名前で呼んでよ」

 

「「え?」」

 

「私も名前で呼ぶから……。花陽、凛」

 

真姫は頬を赤らめて恥ずかしそうにしながらも、花陽と凛の名前を呼んでおり、呼ばれた2人はとても嬉しそうだった。

 

「……真姫ちゃん♪」

 

「真姫ちゃーん!真姫ちゃん真姫ちゃん真姫ちゃん!」

 

真姫に名前で呼ばれたのが嬉しかったのか、凛は真姫名前を連呼して、真姫に近付いていった。

 

「なっ、何よ!」

 

「真姫ちゃん、真姫ちゃん♪」

 

「う、うるさい!」

 

「照れてる照れてる♪」

 

凛は真姫に抱きつき、スキンシップを取っており、真姫は恥ずかしそうにしながらも満更でもなさそうだった。

 

だが、しかし……。

 

(……あれ?なんか俺、蚊帳の外じゃね?)

 

この状況に1人置いてけぼりになった奏夜は、ポツンと立ち尽くして寂しさを露わにしていた。

 

「……良かったな、西木野さん」

 

しかし、すぐに穏やかな表情で笑みを浮かべると、このように呟いていた。

 

真姫はどうやら、奏夜の言ったとある言葉が気に入らなかった。

 

それは……。

 

「……ねぇ、あんたは花陽と凛は名前で呼んでるのになんで私だけ苗字なの?」

 

花陽と凛は自然に下の名前で呼んでいたのだが、真姫だけはずっと苗字で呼んでいたため、真姫はそれが気に入らなかった。

 

「いや、何でと言われても、ずっとそう呼んでたし」

 

「私も名前で呼ぶから、あんたも名前で呼んでよね……。そ、奏夜……」

 

(やれやれ、先輩はつけないんだな。まぁ、いいけどさ)

 

真姫は恥ずかしそうに奏夜の名前を呼ぶのだが、先輩とかはつけず、普通に呼んでいた。

 

そのことに奏夜は少し呆れるのだが、すぐに気にしなくなった。

 

そして……。

 

「……改めてよろしくな、真姫」

 

「ヴェェ!?いきなり呼び捨て!?」

 

「それはお前もだろ?それとも真姫ちゃんの方がいいか?」

 

「い、いや。真姫でいいわ。あんたに真姫ちゃんって言われてもなんか気持ち悪いし」

 

「はいはい、わかったよ、真姫」

 

「……っ、ふん!」

 

真姫は呼び捨てで呼ばれるのが恥ずかしいのか、頬を赤らめながらそっぽを向いていた。

 

(やれやれ、ツンデレは相変わらずだな、真姫のやつ……)

 

奏夜がそんなことを思っていると……。

 

「あっ、あの…」

 

「ん、何?花陽ちゃん?」

 

今度は花陽が話しかけてきた。

 

「眼鏡を取ったついでじゃないですけど、私のことも呼び捨てで呼んで欲しいです」

 

「あっ、凛も呼び捨てがいいにゃ!」

 

「あぁ、わかったよ。改めてよろしくな、花陽、凛」

 

奏夜が2人を呼び捨てで呼ぶと、花陽と凛の顔がぱぁっと明るくなった。

 

「こちらこそよろしくお願いします。奏夜先輩♪」

 

「そーや先輩、よろしくだにゃ!」

 

こうして、奏夜は新しく加入した1年生組の3人も下の名前で呼ぶことになった。

 

メンバーも増え、これから練習も大変になると予想されるのだが、6人になったμ'sならきっと大丈夫。

 

奏夜はそう確信していた。

 

しばらくして穂乃果たちが合流したので、奏夜たちは練習を開始したのである。

 

……今よりも高みを目指して……。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『人間という生き物は本当に脆いもんだな。このようにすぐ病気になってしまうとはな……。次回、「医術 前編」。まぁ、俺は病気などしたことはないがな』

 

 




花陽が奏夜に対する恐怖心を無くし、さらにμ'sのメンバーとなりました!

それだけではなく、凛と真姫もμ'sのメンバーとなり、μ'sは6人となりました。

ラブライブ!で「ダレカタスケテー!」と言えば、花陽ですが、奏夜も使っていましたね(笑)

実は前作である「牙狼×けいおん 白銀の刃」にて、主人公である統夜も度々使っていましたし(笑)

それにしても、奏夜が穂乃果たちのお仕置きを受けたのは2度目ですが、いったいどんなお仕置きを受けてるんでしょうね。

本文にも書きましたが、皆さんの想像にお任せします(笑)

さて、今回でラブライブ!4話の話は終わりましたが、次回は、4話と5話の間の話になります。

真姫が将来医者を目指しているため、医者にまつわるお話になります。

いったいどんなホラーが登場するのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第14話 「医術 前編」

お待たせしました!第14話になります。

現在、牙狼とコラボしているFF14をプレイしていましたが、先日、ようやく牙狼装備をゲットしました!

マイキャラの名前を前作主人公の統夜にしていたため、統夜が牙狼の鎧を装備という展開に。

ゲットした瞬間はニヤニヤが止まりませんでした。

現在は、轟天ゲットを目指して頑張っています。

FFの話はここまでにして、今回は医者にまつわる話となります。

医者にまつわるホラーとは、いったいどのようなホラーなのか?

それでは、第14話をどうぞ!




……ここは、東京ではなく、某県にある最近廃業してしまったとある病院。

 

この病院の書斎に1人の青年がおり、青年は書斎の本の整理を行っていた。

 

青年の父親は医者としてこの病院を経営しており、青年はこの病院を継ぐのが嫌で、東京の医大に入り、医者となったのだが、父親の訃報と病院廃業を聞いて、戻ってきたのである。

 

「……それにしても、親父のやつ、何でこんな古臭い医術書ばかり揃えていたんだよ……」

 

病院の書斎にあったのは、最近の医術書ではなく、何百年前も昔の医術書ばかりだった。

 

青年の父親は、生前から今の医療よりも、先人たちの受け継いできた医療の方が優れていると豪語しており、周囲の偏見を買っていたのである。

 

この病院も取り壊しが決まっているため、青年が病院の中にある父親の遺品整理を行っているのである。

 

そんな中……。

 

「……ん?何だ、これ?」

 

青年は医術書の中でも、特に異彩を放ち、古めかしい医術書を発見した。

 

その内容が気になったため、青年はこの医術書を少し読んでみることにした。

 

この医術書は全て英語で書かれているのだが、青年は英語をマスターしているため、この医術書を読むのは苦ではなかった。

 

この医術書には、その時代に活躍したとある名医についての説明が書かれていた。

 

「……ん?伝説の名医「ファビアン」?彼に治せぬ病はなく、どんな病もあっという間に治したのである。……って、そんな馬鹿なことがあるかよ」

 

青年はファビアンという医者の偉業を鼻で笑っていた。

 

青年は、最先端の医療技術こそ、多くの患者を救うと信じて疑っていないため、当時の医療が現代の医療より優っているなどあり得ないと思っていたからである。

 

そんな風にファビアンのことを馬鹿にしながらも青年はこの医術書を読み続けていた。

 

そこにはファビアンが残した様々な功績や、治療法が記されていた。

 

「……ば、馬鹿な……!!当時の時代でここまでの病院を治せるもんかよ!」

 

ファビアンの功績が信じられず、青年は絶句していた。

 

このファビアンと呼ばれる医者は、当時の流行病や当時は不治の病と呼ばれた病を治しただけではなく、現代の医療技術でさえ治すのが困難な病を治したりもしていたようである。

 

「……だけど、これがもし本当だったら、親父がここまでのめり込むのもわかる気がするよ……」

 

青年の父親は亡くなる前、自身の病院の経営そっちのけでこの書斎に篭っており、日夜先人の残した医術の研究に没頭していた。

 

そのため、経営は立ち行かなくなり、青年の父親が亡くなったのと同時にこの病院も潰れてしまったのである。

 

青年は1度ファビアンについて書かれている本を読むのを辞めると、父親が読んでいたと思われる他の本たちも次々に目を通していた。

 

そして、その本を読んだ青年は、技術だけ発展している今の医療には限界があるということを思い知らされてしまったのだ……。

 

書斎の本を読めば読むほどその思いは確信へと変わり、外が暗くなるまで本を読み続けていた青年は、愕然としていた。

 

「……そ、そんな……!俺が今まで学んできたことはいったいなんだったんだよ……」

 

現代医療の限界を知り、青年は今の医療に対して絶望していた。

 

それと同時に、ここまで研究にのめり込んだ父親の気持ちが少しだけ理解出来たのであった。

 

青年が現代医療に絶望し、亡き父に想いを馳せていたその時であった。

 

__貴様、伝説の名医、ファビアンのようになりたくはないか?

 

「!?こ、声!?いったいどこから!?」

 

青年の脳裏に謎の声が聞こえてきたため、青年は怯えながら周囲を見渡していた。

 

しかし、特に変わった様子はなく、困惑を隠せずにいた。

 

__そんなに怯えることはない……。我も現代の医療には疑問を持っていたのだ。機械だけ優れていても、人の命は救えない……。

 

「お、俺もそう思ったが、お前は医療のことがわかるのか!?」

 

謎の声の言葉は、まさしく青年が思っていたことそのものであった。

 

なので、考えを見透かされているのかと怯えながらも、謎の声に驚いていた。

 

__我は伝説の名医、ファビアンの意思を継ぎし者。貴様は、ファビアンのようになりたくはないか?我と共に、この腐った医療を変えていこうではないか!!

 

「……お、俺だってそうは思うけど、いったいどうすればいいんだ?お前が知識を与えてくれるのか?」

 

__いかにも……。我と1つになることで、貴様は無限の知識を得ることが出来るのだ!だからこそ、我を受け入れよ!!

 

謎の声がこう宣言すると、青年が最初に読んだファビアンの本が、怪しいオーラを纏いながら宙を浮いていた。

 

そして、本の中から素体ホラーが現れると、青年の顔を両手でガッシリと捕まえていた。

 

「!?な、何するんだ!?放せ!!放せよ!!」

 

唐突な展開に怯えた青年は、素体ホラーを払いのけようとするが、それは不可能だった。

 

そして、素体ホラーの体が黒い帯状に変化すると、素体ホラーは青年の中に入っていった。

 

「グァァァァァァァァァ!!」

 

青年は、まるで獣のような断末魔をあげながら、ホラーに憑依されてしまった。

 

「……」

 

ホラーに憑依された青年の瞳が怪しい輝きを放ち、青年はニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。

 

「……まずは小手調べと行くか……」

 

青年はこう呟くと、今回のゲートとなったファビアンの本を持ち出し、どこかへと姿を消してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

音ノ木坂学院のスクールアイドル「μ's」は、3人だったのだが、1年生である小泉花陽、星空凛、西木野真姫が加入し、6人となった。

 

その数日後、この日は日曜日であり、練習はもちろんあるのだが、学校が休みということもあり、集合時間はいつもより遅めだった。

 

そのため奏夜は、エレメントの浄化に行く前に、朝食を食べながらテレビを見てのんびりとしていた。

 

現在奏夜が見ているのはニュース番組なのだが、奏夜はそこから流れてきたとあるニュースが気になっていた。

 

『……次のニュースです。遥か昔に活躍したと言われる名医、ファビアンが復活したと言われています』

 

このニュースの詳細は、東京近くの○○県△△村にファビアンと名乗る医者がふらっと現れ、病気に苦しむ老人や子供の病を無償で治したという。

 

これだけ言ってしまえばただの慈善事業をしている医者なのだが、驚くべきところは別にあった。

 

ファビアンと名乗る医者が治療した中には、末期ガンで余命僅かの人物もいたという。

 

なんと、ファビアンはその末期ガンすらも治してしまったという。

 

これが本当であれば、医療の歴史を根底から覆す大事件なのだが、どうやら世間の人々はこのニュースを疑いの目で見ているようだった。

 

街頭インタビューのシーンでも、人々はこのニュースを信じようとはしていなかった。

 

奏夜ももちろん、このニュースを信じてはいない。

 

「……やれやれ、ずいぶんとキナ臭いニュースが流れてるな……」

 

『確かにな。これが本当だったら国だって黙ってはいないだろう。それに……』

 

「それに?」

 

『このニュースでは良いところしか言っていないところが気になってな。病が治った連中がその後何をしているのかも語られていないしな』

 

「それは俺も気になっていたけど、キルバはこの事件にホラーが関わってるとでも言いたいのか?」

 

『まぁ、0ではないだろう。そうでなければ関わる必要もないしな』

 

奏夜のような魔戒騎士は、人間の引き起こした事件に関わってはいけないという暗黙の了解がある。

 

自分たちが斬れるのはホラーだけだからだ。

 

その事件にホラーが関わっていれば話は別なのだが、人間が引き起こした事件ならば、例え人が殺されていようが拐われようが、手を出してはいけないのである。

 

「……頭ではわかってるが、そこは解せないんだよなぁ……」

 

『そこに関しては色々言いたいところだが、さっさと出掛ける支度をしろ。今日は練習の前にある程度エレメントの浄化を終わらせなければいけないんだからな』

 

「わかってるって」

 

奏夜は残った朝食を完食し、食器を洗ってからテレビを消した。

 

その後、出掛ける準備を整えた奏夜は、神田明神に向かう前にエレメントの浄化を行うべく街を回ることにした。

 

そして、練習時間ギリギリに神田明神に到着し、穂乃果たちと合流したのであった。

 

μ'sのメンバーが6人になり、最初の課題となったのは、新しく加入した3人の体力をつけることであった。

 

穂乃果たちの時もそうだったのだが、最初から最後まで笑顔を保ったままパフォーマンスをするためには、体力をつけることが必要なのである。

 

階段ダッシュのトレーニングをして感じたことがある。

 

それは、新加入した3人の体力および運動能力の差である。

 

花陽は、あまり運動が得意ではないのか、1度階段ダッシュを行うだけでバテバテであった。

 

真姫は、花陽ほど運動が出来ない訳ではないが、やはり体力には問題があると思われる。

 

一方凛は、元々陸上部志望だったらしく、運動能力はかなりのものであり、階段ダッシュも軽々とこなしていた。

 

凛の運動能力には、魔戒騎士である奏夜も驚くほどであった。

 

そんな3人の運動能力の差をしっかりと見極めつつ、階段ダッシュのトレーニングは行われ、午前中いっぱいはこのトレーニングだけで終了となった。

 

「……いやぁ、終わった終わった♪」

 

「……まだ午後の練習が残ってますよ?」

 

「エヘヘ……わかってるって♪」

 

穂乃果は午前の練習が終わり、大きく伸びをしながらこのようなことを言っていると、海未になだめられていた。

 

「……ま、とりあえず午後の練習まではのんびりしようぜ」

 

午前の練習が終わったという訳であり、奏夜たちは昼食を取り、午後の練習までのんびりと休憩することにした。

 

そんな中……。

 

「……」

 

真姫の元気がなく、落ち込んでいるというよりは何か思いつめているという感じであった。

 

「……真姫、どうしたんだ?」

 

「へ!?な、何でもないわよ!!」

 

奏夜は思いつめている感じの真姫が心配だったのか、声をかけるのだが、急に声をかけられて、真姫は驚いていた。

 

「……何かあるなら言えよ。お前もμ'sの一員なんだから、俺たちにとっては大切は仲間なんだからな」

 

「……!////」

 

真姫は、奏夜のストレートな言葉が恥ずかしかったのか、頬を赤らめていた。

 

……それを見ていた穂乃果、海未、ことりの3人は少々面白くなさそうだったのだが……。

 

しばらくしてから、真姫は今自分が抱えている悩みを語り始めた。

 

「……ねぇ、伝説の名医って言われたファビアンって知ってる?」

 

「「ファビアン?」」

 

どうやら穂乃果と凛はファビアンのことを知らないようであり、首を傾げていた。

 

「……あぁ、そういえば、今朝のニュースでやっていた気がします」

 

「そうだね。確か、昔に活躍したお医者さんで……」

 

「それが現代に蘇ったとか!」

 

そして、海未、ことり、花陽の3人は今朝のニュースを見たからなのか知っているみたいだった。

 

「まぁ、末期ガンをも治してしまうほどの名医とか言っていたけど、ずいぶんキナ臭い奴だよな」

 

「そう!まさに奏夜の言う通りなのよ!……だけど、ウチのパパが経営している病院の患者さんの中にもファビアンに診てもらいたいって人がいて、それで、パパは悩んでいるようなの」

 

「なるほどな。確かに、そのファビアンがマジでどんな病気もタダで治すなら、病院の存在自体脅かされるもんな」

 

奏夜はここで真姫の悩みを理解し、自分の推測を語っていた。

 

「……まさにその通りなのよ。だけど、私やパパもそうだけど、ほとんどの人はそんなものはインチキだって言っているわ」

 

「確かに、何の見返りもなく難病すら治してしまうというのは、怪しいと言われても仕方ないかもしれませんね」

 

「だけど、そのファビアンって人が来た村の人って、貧しい人が多いみたいで助かってるとも言ってましたよね」

 

花陽の説明通り、ファビアンが訪れた△△村は、人口が少ないだけではなく、過疎化も進んでおり、お世辞にも裕福とは言い難い村であった。

 

中には、病院へ通うお金もなくて、通院を諦めている人もいるとの噂であった。

 

だが、そんな村をファビアンが救ったのは事実なようだが、どこまでが真実なのかはわからなかった。

 

「それに、これは噂なんだけど、ファビアンが△△村を離れて間もなく、そいつに救われた患者が何人か行方不明になってるみたいなのよ」

 

「!」

 

真姫の話したことはニュースでは取り上げられていない噂話なのだが、その話を信じた奏夜は驚きを隠せなかった。

 

(……なぁ、キルバ。まさかとは思うけど……)

 

《あぁ、そのファビアンとかいう奴がホラーの可能性は充分にあるな。だとしたら、今の人間が治せない難病を治したことも説明がつくしな》

 

奏夜とキルバは、ファビアンの正体がホラーではないかと疑っていた。

 

そうすれば、ニュースで取り上げられていた末期ガンすら治したことにも合点がいくからである。

 

(……調べてみる価値はありそうだな)

 

今のところホラー討伐の指令は出ていないが、午後の練習を休んでファビアンについて調査してみようと奏夜は考えていた。

 

そんな中……。

 

「……そのファビアンがね、噂ではこの秋葉原に来るみたいなの。だから私、午後の練習を休んで調べてみようと思って……」

 

どうやら真姫も、ファビアンについて調べてみようと考えていた。

 

「……なぁ、真姫。俺もそれについて行って良いか?」

 

「ヴェェ!?な、何なのよ!いきなり!」

 

奏夜がこのようなことを頼むなど思ってもいなかったのか、真姫は驚きを隠せなかった。

 

「ちょっと、奏夜!午後からの練習はどうするのです?」

 

「それは確かに大事だ。だけど俺はそのファビアンが本当に凄いのか興味あるし、同じμ'sの仲間が悩んでるのを放っとけないしな」

 

奏夜は海未にこう言い訳しながらも海未とアイコンタクトを取り、「ホラーかもしれないんだから察してくれ」とどうにか海未に伝えようとしていた。

 

海未はそんな奏夜のアイコンタクトの意図を理解したようであり……。

 

「……仕方ないですね……。それでは、午後の練習は真姫と奏夜は抜きということで……」

 

「ねぇねぇ!せっかくだから、私たちも一緒に行こうよ!!」

 

「え!?」

 

「ちょっと穂乃果!いきなり何を言っているのですか!?」

 

穂乃果の唐突な提案に真姫はさらに驚いており、海未は少しばかり怒っていた。

 

「だって、その人が本当に凄いお医者さんなら、会う機会なんてもうないでしょ?それに、そーくんの言う通りだよ!真姫ちゃんの悩みを解決しないと、練習に集中出来ないだろうし!」

 

「確かに……。そこは一理あるかもね」

 

どうやらことりは、穂乃果の意見に賛成のようであった。

 

これ以上自分が何を言っても無駄だと判断した海未は、やれやれと言いたげな感じでため息をついていた。

 

「……仕方ありませんね。それでしたら、終わり次第練習に戻りますからね」

 

「「「「はーい!!」」」」

 

海未は終わり次第練習することを提案することで了承し、真姫と奏夜以外の4人は返事をしていた。

 

「……みんな、悪いわね。私のワガママに付き合わせちゃって」

 

「真姫ちゃん、気にすることないにゃ!」

 

「うん!凛ちゃんの言う通りだよ♪」

 

「……凛……花陽……」

 

真姫は、奏夜たちが自分のワガママを嫌な顔1つせずに聞いてくれたことが何よりも嬉しかった。

 

「それで、そのファビアンって奴がどこに来るのかわかるか?」

 

「私の勘が正しければ……。多分……」

 

真姫は、ファビアンの診察が行われるであろう場所を話すと、奏夜たちはその話に納得していた。

 

こうして奏夜たちは昼食を食べ終えると、真姫の指定した場所へと向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

真姫の指定した場所。それは、彼女の父親が経営している「西木野総合病院」であった。

 

この病院は秋葉原の中でも大きな病院であり、毎日多くの患者が訪れている。

 

そんな中、真姫の予想が当たったのか、病院の入り口にはテントが建てられており、その入り口から、ファビアンの診察を待っている多くの人の行列が出来ていた。

 

……その行列は主に高齢者であり、子供は少ないのだが……。

 

「うわぁ……。凄い行列だねぇ……」

 

「確かにそうですね……。これはみんな、ファビアンとかいう人の力を信じてる人なんでしょうか?」

 

「ま、恐らくはそうなるよな」

 

穂乃果と海未は、ファビアンの診察を待つ行列に驚いており、そのほとんどがその力を信じている者であった。

 

「ねぇねぇ、かよちん。凛たちも並んだ方がいいかなぁ?」

 

「えぇ!?でも凛ちゃん、私、どこも悪くないよ!」

 

「エヘヘ……。凛も健康そのものにゃ!」

 

どうやら、この中で体調の悪い者はおらず、誰かが代表して診てもらうことは不可能だと思われた。

 

そんな中、ファビアンに診察してもらうための受付を行っている男性に、真姫は見覚えがあった。

 

その人物とは……。

 

「……パパ!!」

 

どうやら真姫の父親であり、真姫は父親のもとへと駆け寄っていった。

 

「あ、真姫ちゃん!待って!!」

 

「仕方ない……。俺たちも行くか」

 

こうして、奏夜たちは、真姫の父親への挨拶も兼ねて、真姫の父親のもとへ向かうことにした。

 

真姫の父親は、整った顔に、眼鏡をかけている優しそうな男性だった。

 

「……おぉ、真姫。来たのか」

 

「うん。何だかパパのことが心配になっちゃって……」

 

「……そうだったのか……。おや?真姫、この子たちは?」

 

真姫の父親は、遅れてやって来た奏夜たちの存在に気付き、奏夜たちを見ていた。

 

「えっと……」

 

真姫は奏夜たちのことを紹介しようとしていたのだが……。

 

「……初めまして。彼女たちは音ノ木坂学院にてスクールアイドルをやってまして、真姫さんは彼女たちの仲間です。……そして僕は、そのスクールアイドル「μ's」のマネージャーをしております如月奏夜と申します。以後、お見知り置きを」

 

奏夜はまるで本物のアイドルのマネージャーのように丁寧な態度で自己紹介をしていた。

 

「……おぉ、君たちがμ'sか!娘から話は聞いているよ。娘からアイドルをやると聞いた時は流石に驚いたけどね」

 

「ちょ、ちょっと、パパ!?」

 

真姫の父親の言葉に恥ずかしくなってしまったのか、真姫は頬を赤らめていた。

 

「……それに、こんなに立派なマネージャーがいるなら安心だよ。奏夜君……だったかな?娘を、よろしくお願いします」

 

「……もちろんです。お任せ下さい」

 

「ちょっと奏夜!変なこと言わないでよ!!」

 

真姫の父親と奏夜との会話がまるで結婚を控えた義父と息子の会話みたいであり、真姫は頬を赤らめていた。

 

「……それにしても、凄い行列ですね、これ……」

 

真姫の父親に簡単に挨拶を済ませたところで、奏夜はファビアンの診察を待つ行列を指差して驚いていた。

 

「あぁ……。私の病院の患者の多くがファビアン先生の診察を希望していてね、診察場所を提供して来てもらったんだよ」

 

「……でも、ここまで患者さんを取られたら商売あがったりですね……」

 

「……患者の病を治すという点では良かったのだが、まさにその通りなんだよ。だからこそ私は、ファビアン先生の医療を知るためにあえて手伝いをしているという訳なんだ」

 

「……そうだったんだ……」

 

どうやらこの話は、娘である真姫も知らない話だったようであり、驚いていた。

 

「……俺たちも同じ気持ちなんです。だから、何でもいいのでお手伝いできることはないですか?」

 

「それはありがたい。この行列だからね。正直猫の手でも借りたいと思っていたところなんだ。だけど……本当にいいのかい?」

 

「もちろんです!俺たちはそのためにここへ来たんですから」

 

「すまないね……。それじゃあ、頼めるかな?」

 

『はい!!』

 

こうして、奏夜たちは、西木野総合病院にやってきた噂の名医であるファビアンの診察の手伝いをすることになった。

 

その仕事は主に行列の誘導と受付。

 

時々診察の手伝いをすることもあったが、基本的にファビアンは、患者ではない奏夜たちや西木野総合病院の人間を、診察室に入れることを良しとはしなかった。

 

基本的に軽症な患者ならば奏夜たちや西木野総合病院の人間も診察の手伝いをしていたが、少しだけ症状が重い人間の治療の時は、診察室を追い出されたのである。

 

そんなファビアンに、奏夜と真姫は疑惑を抱きながら手伝いを行っていた。

 

しかし、奏夜を含めて7人が手伝いに入ったため、先ほどよりも誘導の仕事は順調に進んでいた。

 

奏夜はその手伝いの最中、診察室で軽症な患者の治療をしているファビアンを見たのだが、全身を覆うローブに仮面をつけており、明らかに怪しい格好だった。

 

このファビアンという医者は、顔を明かすことを良しとはしていないため、このような格好で正体がバレないようにしているのである。

 

1時間ほど手伝いをすると、行列もだいぶまばらになっていたのだが、奏夜はある光景が気になっていた。

 

それは……。

 

(……うわ、凄い数のマスコミだな……)

 

《恐らく奴がここにいることを嗅ぎつけたんだろう。奴は良い意味でも悪い意味でも注目されてるみたいだからな》

 

多くの報道関係者が来ており、ファビアンに取材をするタイミングを今か今かと待っていたのである。

 

奏夜はマスコミを気にしながらしばらく手伝いを行っていると、診察室からファビアンが出てきた。

 

(……あれ?ファビアンが出てきたぞ?まさかとは思うけど……)

 

ファビアンが出てくるのを訝しげに見ていた奏夜は、そのままマスコミに何かを語るのではないかと予想していた。

 

その予想は当たっているのか、ファビアンを見つけた報道関係者たちは、一斉にファビアンの方へなだれ込んでいき、矢継ぎ早に質問をしていた。

 

ファビアンはそれを説明するために急遽、会見を行うことにしたのである。

 

奏夜たちは、手伝いを一時中断すると、ファビアンの記者会見の様子を見ることにしていた。

 

『ファビアン先生!あなたはどうして無償で患者の治療を行うんですか?』

 

記者会見が始まるなり、記者の1人がいきなり核心をついた質問をしていた。

 

『……私は、自分の医術を多くの人に伝えたい。だから患者さんからお金は頂いていないのです。私は、医療をビジネスと考えている今の医療の人間とは違うのです』

 

ファビアンはマイクを手に、最初の質問に答えたのだが、いきなり穏やかではない答えが返ってきて、記者たちはざわついていた。

 

(……うわぁ、ファビアンの奴、いきなり喧嘩をふっかけてきてるな……)

 

《よくもまぁ、こんなことをハッキリ言えたものだな……》

 

奏夜とキルバは、ファビアンの容赦ない物言いに、少しばかり呆れていた。

 

『ファビアン先生!その仮面を外していただいて、お顔を拝見したいのですが……』

 

続いての質問も誰もが気になるであろう質問であった。

 

『……私は素顔を見せるわけにはいきません。人は、正体のわからないものには畏怖の感情を抱く……。つまり、仮面をつけることで、私の言うことを信じてもらいやすくなるのです』

 

ファビアンが仮面を外さない理由も明かされ、記者たちは再び絶句していた。

 

『……そ、それでは、もう1つ質問します!ファビアン先生は△△村にて、末期ガン患者の病気を治したと聞きましたが、それは本当なのでしょうか!?』

 

記者の1人が、恐らくここにいる全員が聞きたいであろう質問をファビアンにぶつけていた。

 

ファビアンは仮面をつけているため、表情は見えないが、動揺している素振りはなさそうだった。

 

『……その話は、私も耳にして、非常に驚いております。確かに私は△△村にて、末期ガン患者の治療を施しました。しかし、いくら私の力を持ってしても治すことは叶わず、患者さんは亡くなってしまいました。恐らくは、私の力を過大評価した誰かがそう言っていたのでしょう』

 

どうやら、末期ガンを治したと言うのは根も葉もない噂であり、記者たちのざわつきは大きくなっていた。

 

『……それが噂とはいえ、皆様を困惑させたこともまた事実。謹んでお詫び申し上げます』

 

ファビアンは記者たちに素直に謝罪をすることで、自分への疑惑をなくそうと企んでいた。

 

(……あいつ……!)

 

《真実を語ることで、世間の信用を得ようとしていやがるな……。奏夜、仮にこいつがホラーだとしたら、相当厄介なことになりそうだぞ》

 

(そうだな……。奴がホラーだと言う確信を得てからじゃないと、警戒されるだけだからな……)

 

奏夜とキルバは、現在記者会見を行っているファビアンこそが、ホラーだと疑っていたのだが、その確証が得られなければ、迂闊に動くことは出来ないのである。

 

ファビアンによる記者会見は、魔戒騎士である奏夜への牽制とも思える行為であると思われるが、真意は不明である。

 

その後もファビアンは、30分ほど記者からの質疑に答え、記者会見は終了となった。

 

(……こりゃ、明日のニュースで、どう語られるのか……)

 

《……そうだな……。しばらくは様子を見るしかなさそうだな……》

 

奏夜は、今現在の状態ではファビアンを問い詰めることは出来ないため、上手い具合に近付くタイミングを見計らうことにしたため、この日は出直すことにした。

 

こうして西木野総合病院の前のテントでのファビアンの診察の手伝いを行った奏夜たちは、神田明神に戻ると、練習を再開した。

 

ファビアンの行った記者会見は、恐らくはファビアンという医者の存在感をより大きくさせるものと予想されていた。

 

しかし、そんなファビアンに疑惑を抱いているのは奏夜だけではなく、真姫も疑惑を抱いていた。

 

そのため、真姫は独自にファビアンについて調べようと考えていたのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

伝説の名医と呼ばれたファビアンが西木野総合病院の入り口に駐留してから早くも数日が経過した。

 

奏夜は学校や練習の合間を縫って西木野総合病院を訪れ、ファビアンの様子を伺っていたのだが、多くの患者がファビアンの治療を待っているらしく、近付くことさえ叶わなかった。

 

あの記者会見の後、正直な気持ちを告白したファビアンに好感を持った者が多かったようで、ファビアンのことを信じる人物が増えたのである。

 

さらに、西木野総合病院へは1週間ほどお世話になると豪語していたため、時間的余裕はないのであった。

 

そんな中、この日の診察も終わり、ファビアンの診察室に1人の女性が訪れていた。

 

この女性はファビアンが西木野総合病院に現れた初日に行列に並んでファビアンの診察を受け、その処置によって病気を治したのである。

 

「どうですか?体調の方は?」

 

「はい。先生のおかげですっかり良くなりました」

 

「いえ。人間は元々、体内に病を治すための物質を精製し、自ら治癒する。医者はそのお手伝いをしているだけなのです」

 

「は、はぁ……」

 

「……そして、その体内で精製される物質……。それがまた美味なんですよ!!」

 

「え?」

 

ファビアンの意味不明な発言に女性は困惑していたのだが、ファビアンは女性の頭を両手でガシッと捕まえていた。

 

「!?ファ、ファビアン先生!?」

 

「つまり!ちょうど今のあなたのような治りかけの頃合い!これがまた美味なんですよ!!」

 

奏夜やキルバの推察通り、ファビアンがホラーであることは間違いなく、ファビアンは仮面に付けられているクチバシのような口を大きく開いていた。

 

「せ、先生……!一体何を!?」

 

「最高の美味……。いただきます!!」

 

ファビアンの仮面の口が大きく開かれると、女性の体は徐々に黒い粒子となっていき、ファビアンに吸い込まれていった。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ファビアンによって病を治してもらった女性は、そのファビアンの手によって捕食されてしまい、その生涯を終えることになってしまった。

 

「……ふぅ……。やはり、治りかけの人間の味は格別ですねぇ……」

 

女性を喰らい、満足したファビアンは、その後、何事もなかったかのように仕事をしていた。

 

奏夜はどうにかファビアンと接触し、これ以上の被害を食い止めることは出来るのか?

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ……。やはりあの医者はキナ臭いな……。どうにか上手いこと接触出来れば良いのだがな……。次回、「医術 後編」。奴の陰我、斬り裂いてしまうぞ!奏夜!』

 

 




今回登場したのは、「牙狼 炎の刻印」にも登場したファビアンでした。

医者にまつわるホラーはもう一体いますが、ファビアンの方を選んだのは、ファビアンが現代に蘇ったら面白いかなと思ったので選びました。

そして、今回は前後編となっていますが、1話でまとめるとなると、かなり長くなるなと思ったので、前後編とさせていただきました。

もし現代に様々な病を無償で治す医者が現れたら、世間は大騒ぎになりますよね。

今回はまさにそうですが。

このような状態で、奏夜はホラーであるファビアンの尻尾を掴み、討滅することは出来るのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第15話 「医術 後編」

お待たせしました!第15話になります!

今回は前回の続きとなっております。

突如現れた伝説の名医ファビアンですが、奏夜はホラーであるファビアンの尻尾を掴み、討滅することは出来るのか?

それでは、第15話をどうぞ!




伝説の名医と呼ばれたファビアンが西木野総合病院にやって来て、早くも5日が経過していた。

 

西木野総合病院の入り口にテントを張って駐留しており、そこを簡易の診療所にしている。

 

西木野総合病院には、ファビアンの診察を求めて大勢の患者が押し寄せるのだが、それと同時に、病院の患者数は激減していた。

 

この状況に、この病院を経営している真姫の父親は頭を悩ますのだが、ファビアンによって救われた命も多くあったことから、複雑な心境になっていた。

 

真姫は、最初からファビアンが怪しいと思い、独自に調べていたのだが、1人の力では、調べるのにも限界があった。

 

一方奏夜も、ファビアンがホラーではないかと疑ってはいたものの、その証拠を掴むことは出来なかった。

 

ファビアンは仮面をしているため、魔導火でホラーかどうかを判定することが出来ないからである。

 

夜中にファビアンのテントに忍び込み、様子を見ようと企んだりもしたのだが、ファビアンは相当用心深いからか、奏夜がテントに忍び込んだ時にはもぬけの殻だったりと、ファビアンはなかなか尻尾を掴むことは出来なかった。

 

そんな状態で5日もホラーに接触出来ず、犠牲者は出ていたのである。

 

この日、μ'sの練習を終えた奏夜は、ホラーを見つけるために、1度番犬所へと立ち寄り、作戦を練ることにした。

 

「……奏夜。例のホラーの件ですが、首尾はどうです?」

 

「申し訳ありません……。ホラーの正体に察しはついているのですが、なかなか尻尾を掴むことが出来ず……」

 

『奴は思った以上に用心深いみたいだからな。迂闊に手を出せば、面倒なことになるだろうしな』

 

奏夜は、未だにホラーと接触出来ていないことを誤り、キルバが冷静に分析していた。

 

「ふむ……。これは困ったことになりましたねぇ。それに、すでに行方不明になっている人の数がこの街だけでも5人です。恐らく、他にも行方不明はいるはずですね……」

 

ロデルの指摘通り、ホラーの被害はすでに広がっており、この秋葉原でもすでに5人が行方不明になっていた。

 

この5人の共通点としては、全員ファビアンの治療を受けていた者なのだが、ファビアンが直接的に関わっている証拠はないため、奏夜は身動きを取ることは出来なかった。

 

それだけではなく、警察もファビアンが怪しいと捜査をしていたのだが、こちらも証拠がないため、これ以上の追求は出来なかった。

 

「くそっ!十中八九ファビアンの仕業だってわかってるのに、その尻尾すら掴めないなんて……!!」

 

ホラーの正体を察することが出来ても、奏夜は何もすることが出来ず、悔しさをにじませていた。

 

「奏夜、落ち着いて下さい。私としてもこれ以上の被害は出したくありませんが、警察も動いている以上、迂闊な動きをする訳にはいきません」

ロデルは、毅然とした態度で、冷静さを失っている奏夜をなだめていた。

 

「……そうですよね……。申し訳ありません、ロデル様」

 

「わかれば良いのです。……しかし、患者にならなければ、ファビアンに近付けないのですかねぇ……」

 

「患者になる……。やっぱりこれしか方法はないのか……」

 

奏夜は、ロデルの「患者になる」という言葉を聞いて、ファビアンに接触する策を思いついたようであった。

 

「……奏夜。何か良いアイディアを思いついたようですね」

 

「はい。正直これは一か八かで、リスクはありますが、穂乃果たちの力を借りようと考えています」

 

「……μ'sのメンバーであるあの子達を……ですか?」

 

「えぇ。上手くいけば、確実にファビアンに接触出来るはずです」

 

奏夜の本音としては、穂乃果たちを危険に晒す真似はしたくなかったのだが、これ以上ホラーの被害を出さないためには、これしか方法が思いつかなかった。

 

「……わかりました。そうと決まれば、とっておきの秘薬を用意しましょう。……あの薬を奏夜に渡して下さい」

 

「ハッ、かしこまりました」

 

ロデルの付き人の秘書官の1人は、神官の間の奥から、青い液体の入った小さな瓶を取り出し、それを奏夜に手渡した。

 

「……ロデル様、これは?」

 

「実はとある魔戒法師が、ホラーとの戦いでの傷を癒す薬を開発していたのですが、これは失敗作なのです」

 

「失敗作……ですか?」

 

「この失敗作を飲んでしまうと、命に別状はないのですが、極度の腹痛に見舞われるみたいなのです」

 

ロデルの説明通り、奏夜の受け取った薬は、とある魔戒法師が開発した薬の失敗作であり、これを飲んでしまうと、極度の腹痛に襲われるという百害あって一利なしな薬なのである。

 

「本来ならばこれを処分しようと考えていましたが、まさかこんなところで役に立とうとは……」

 

ただ腹痛になる薬など必要性を感じないものであったが、意外なところで役に立つことが明らかになり、ロデルは驚きを隠せなかった。

 

「ありがとうございます、ロデル様。こいつを上手く使ってホラーを討滅してみせます」

 

奏夜は、ロデルのおかげでホラー討伐の活路を見出したため、そのことに礼を言って、実践しようとしていた。

 

「そこは頼みましたが、あまり彼女たちに無茶はさせないで下さいね!私はまだまだμ'sのパフォーマンスを見たいんですから!」

 

スクールアイドルにハマっているロデルは、穂乃果、海未、ことりの3人がパフォーマンスをしている初ライブの映像をチェックしており、その時からμ'sのファンとなっていた。

 

「はい!もちろんそのつもりです!」

 

「……それはそうと、μ'sのメンバーが6人になったそうですね!」

 

「ろ、ロデル様……ご存知でしたか?」

 

「もちろんですよ!スクールアイドルのサイトは毎日チェックしてますからね!」

 

ロデルは、番犬所の神官としての務めを果たしながら、時間のある時に、どこから電源を持ってきているのか未だに謎であるが、パソコンを使ってスクールアイドルのサイトを毎日チェックしている。

 

そこには、μ'sの紹介ページも当然あり、奏夜を除いた6人の写真が掲載されていた。

 

「……μ'sのコメントを見ましたが、μ'sのことを認めていないコメントもあるんですよね……」

 

μ'sは、初ライブを終えてからというもの、反響があったようであり、日に日に知名度が増してきていた。

 

初ライブの動画の再生数やコメントも日に日に増えており、今、人気が急上昇しているスクールアイドルグループとして、注文され始めていた。

 

しかし、μ'sのことを快く思っていないものもいるようであり、「アイドルを語るなんて10年早い!」とコメントをしている者がおり、ロデルはそれが残念でならなかった。

 

「……μ'sはスクールアイドルを始めたばかりです。そう思う人がいるのも仕方ないと思います。だけど、いつの日か必ず、その人たちも認めさせてやりますよ」

 

全員が全員μ'sのことを支持している訳ではないとわかった上で、奏夜はこのような宣言をしていた。

 

「流石はマネージャー。頼もしいですね。奏夜、頼みましたよ」

 

「はい!」

 

奏夜はロデルに一礼すると、番犬所を後にした。

 

その後、ファビアンの様子を見つつ、接触する機会を伺うために、奏夜は西木野総合病院へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

奏夜は西木野総合病院の前に立てられたテントの前に到着した。

 

この日もファビアンの診察を求めて多くの患者が訪れていたのだが、この日の診察はもうすぐ終わりのため、行列はまばらになっていた。

 

「さて……。これからどうするか……」

 

奏夜はロデルから預かった薬をどこで活用するべきか考えていた。

 

穂乃果たちに協力してもらおうとはせずに、自分で薬を飲めば良いのかもしれないが、魔戒騎士である奏夜にこのような薬は効果がない。

 

そのため、不本意ながらも穂乃果たちの協力が必要不可欠だった。

 

しかし、穂乃果たちを危険にさらして良いものかと、奏夜は悩んでいた。

 

奏夜はそのように悩みながらファビアンのいるテントを眺めていたその時だった。

 

「……あれ?そーくん、どうしたの?」

 

偶然西木野総合病院を訪れていた穂乃果たちが、奏夜の姿を見つけ、穂乃果が奏夜に声をかけた。

 

「……お、みんな。どうしたんだ?みんな揃って」

 

「練習は少し前に終わったんですけど、今日は真姫の付き添いで来たのです」

 

「パパの病院の患者さんがファビアンに取られてるから、心配なのよ……」

 

ファビアンが西木野総合病院に現れてから、患者がファビアンの方へ行ってしまったため、そのことが真姫の父親を悩ませていた。

 

「……私、ファビアンのことを怪しいって思ってるんだけど、なかなかその証拠を集めることが出来ないのよね……」

 

どうやら真姫は、ファビアンのことをホラーではなく、ヤブ医者と思っているらしく、独自に調べていた。

 

しかし、その足取りは掴めず困っており、練習にも身が入らない程であった。

 

「……なるほどな。俺もファビアンのことは怪しいと思っている。それで、ファビアンに接触したいと思っていたが、なかなか難しくてな……」

 

「……奏夜もファビアンのことを調べていたのね?」

 

ファビアンについて調べている理由は真姫とは異なるのだが、奏夜はホラーや魔戒騎士のことを真姫と凛には話していないため、その話をする訳にはいかなかった。

 

しかし……。

 

「……ファビアンに近付くなら患者になるのが一番手っ取り早いと思ってな」

 

そう言いながら、奏夜はロデルから預かった薬を取り出した。

 

「……?そーや先輩。それはいったい何かにゃ?」

 

「何かの薬……なのかなぁ?」

 

「薬は薬なんだけど、これは失敗作みたいでな。これを飲んだ人間は激しい腹痛に襲われるみたいなんだ」

 

「な、何よそれ!インチキも良いところじゃない!」

 

真姫は、薬と言うにはあまりに怪しい薬に文句を言っていた。

 

「だが、こいつを飲んで腹痛になれば、奴に近づける。そうすることで、奴の本性もきっとわかるはずだ」

 

「……!?そ、そーくん、まさか……!」

 

穂乃果は何故ここまでのことをしなきゃいけないのかを察しており、奏夜は無言で頷いていた。

 

「?まさかって何のこと?」

 

穂乃果の言っている言葉の意図が理解出来ず、真姫は首を傾げていた。

 

すると……。

 

「だったら、私がその薬を飲むよ!だって、私は少しでもそーくんの役に立ちたいんだもん!」

 

飲んだら腹痛に襲われるとわかった上で、穂乃果は薬を飲む意思を奏夜に伝えていた。

 

「だ、だけど、穂乃果……」

 

《奏夜。今さら何を迷っているんだ?最初から誰かに薬を飲んでもらうつもりだったのだろう?》

 

(確かにそうだけどさ、やっぱりみんなを危険に晒すのは……)

 

奏夜は土壇場になって、穂乃果たちに協力してもらうことを躊躇っていた。

 

下手をすれば、ホラーに捕食されてしまう可能性だってあるからである。

 

《奏夜。覚悟を決めろ!中途半端な優しさはあいつらのためにならないぞ。それに、これ以上ホラーを野放しにはしておけん。あいつらの協力もやむなしだろう》

 

(……わかったよ。俺がみんなをホラーから守ればいいんだから……)

 

《そうだ、奏夜。その意気だ!》

 

土壇場になって躊躇していた奏夜であったが、ようやく覚悟を決めて穂乃果たちに協力してもらおうと考えていた。

 

そのため、穂乃果に「頼む」と言おうとしたのだが……。

 

「いえ、私が飲みましょう。あの医者が本当にヤブ医者なら危険ですからね。ここは私に任せて下さい」

 

穂乃果に危険なことはさせたくないと思っているのか、海未が薬を飲む意思を伝えた。

 

「で、でも海未ちゃん!」

 

「私のことは心配いりません。私は鍛えていますし、ちょっとやそっとな痛みなど慣れていますから」

 

海未はスクールアイドル活動の他に、弓道部として活動しており、それ以外にも古武術の稽古や、日舞の稽古など忙しい毎日を送っている。

 

だからこそ、多少の痛みには慣れているのである。

 

「ダメだよ!海未ちゃんはただでさえ忙しいんだから!だからここは穂乃果が!」

 

「いーえ!私が行きます!」

 

穂乃果と海未は、自分が奏夜が持つ薬を飲むんだと主張して一歩も引かず、一触即発の状態になっていた。

 

奏夜が止めに入ろうとしたその時だった。

 

「……私がそれを飲むわ」

 

何と、真姫が薬を飲むと申し出ており、意外な人物が名乗り出たことに、奏夜たちは驚いていた。

 

「奏夜が何を企んでいるのかは知らないけど、この中でファビアンのことを調べたいと1番思ってるのは私よ。だから、私が体を張るべきなのよ」

 

真姫は、ファビアンの真実にたどり着くためなら、手段は選んでいられないと思っていた。

 

そんな真姫の眼は真剣そのものであり、それは揺るぎないものであった。

 

そのような眼をしている真姫を見た奏夜は、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

そして……。

 

「……真姫。頼めるか?」

 

真姫の覚悟を汲み取った奏夜は、薬を飲むのは真姫にお願いすることにしていた。

 

「……任せなさい」

 

奏夜から薬を受け取った真姫は、ビンのフタを開けると、一切躊躇することなく薬を飲み干した。

 

すると、この薬の副作用はすぐに起こってしまい……。

 

「……!!?な、何なのよ!この痛み!痛たたたた!!」

 

突然急激な腹痛が真姫を襲い、その強烈な痛みに表情を歪ませていた真姫は、その場にしゃがみ込んでいた。

 

「……ま、真姫ちゃん!?大丈夫!?」

 

「心配はいらない。こいつは1時間もすれば効果が切れるハズだ。それまでには診察も終わって痛みも和らぐことだろう」

 

奏夜の説明通り、この薬の効果は1時間程で切れるのだが、それまでにはファビアンが何かしらの治療を施すだろうと予想していた。

 

「と、とりあえず、早く診てもらいましょう!」

 

真姫のあまりの痛がりように、これがファビアンに近付くための作戦であるということを、穂乃果たちは忘れてしまっていた。

 

そんな中……。

 

(……よし、ここまでは計画通り……だな。真姫には申し訳ないけど、協力してもらわないとな)

 

奏夜は、ファビアンの正体を探るために自ら失敗作の薬を飲んでくれた真姫に申し訳ないと思いながら、このまま真姫に協力してもらおうと考えていた。

 

奏夜は真姫をファビアンのところまで運ぼうとするのだが、その前に指にはめられていたキルバを外すと、真姫の制服のポケットにこっそりと入れていた。

 

これは、奏夜がとある場面を想定してこのような行動を取っており、いざという時に、遠いところからでもキルバと連絡を取り合うためである。

 

こうして奏夜は真姫をお姫様抱っこのような形で抱きかかえながら既にこの日の診察を終えようとしていたファビアンのもとへと向かっていった。

 

その途中、穂乃果、海未、ことりの3人はドス黒いオーラを放って奏夜を睨みつけており、花陽と凛はそんな3人に怯えながら後を付いてきていた。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

その頃、この日の診察を終えたファビアンは、この日診察した患者のカルテを眺めていた。

 

「さて……今日の獲物はどうしましょうか……」

 

ファビアンは、カルテを見ながら今日喰らう人間を吟味していた。

 

診察室にはファビアンしかおらず、西木野総合病院から派遣されたヘルプの人間も、診察室の中までは入れなかった。

 

なので、患者のカルテ管理も、ファビアンが行っていた。

 

西木野総合病院の人間にカルテ管理をさせると、誰を喰らうか選べないからである。

 

ファビアンがカルテを眺めていたその時であった。

 

「……ファビアン先生!急患です!!」

 

真姫を抱えた奏夜が血相を変えて診察室に飛び込んできた。

 

「あなた方は、私のお手伝いをしてくれた学生さんではありませんか。それに……」

 

ファビアンは血相を変えてここに飛び込んできた奏夜たちに面食らっていたのだが、奏夜に抱えられたら真姫を見ると……。

 

「……!あなたは、院長のご令嬢ではありませんか!わかりました。彼女をこちらへ」

 

ファビアンは診察室のベッドを指すと、奏夜は腹痛で苦しむ真姫を寝かせた。

 

「……申し訳ありませんが、これから診察を行いますので、皆さんは外でお待ち下さい」

 

(……やっぱり、診察の様子は見せないか……)

 

奏夜はこうなることを予想しており、一瞬ではあるが、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「……わかりました。みんな、行くぞ」

 

「え?でも、真姫ちゃんが……」

 

「心配はいらないさ。ファビアン先生、真姫をよろしくお願いします」

 

「もちろんですとも。彼女はこの病院のご令嬢ですからね。全力で助けますよ」

 

ファビアンとしても、診察場所を提供してくれている西木野総合病院の院長の娘に何かあっては困るため、治療はするつもりだった。

 

(……頼んだぞ、キルバ)

 

《あぁ、任せておけ》

 

奏夜は、真姫の制服のポケットに忍ばせたキルバとテレパシーで連絡を取ると、穂乃果たちを連れて、診察室を後にした。

 

「……」

 

ファビアンはしばらく様子を見ていたのだが、どうやら奏夜たちはこっそりとこちらの様子に聞き耳を立てている訳ではなさそうだった。

 

そのため、ファビアンは聴診器を取り出すと、真姫の診察を始めた。

 

「……っ!?こ、これは……」

 

ファビアンは診察を始めてすぐに腹痛の原因を探るのだが、何が原因なのかわからなかった。

 

それも無理はない。

 

真姫は純粋に病気になった訳ではなく、奏夜の用意した薬の効果によって腹痛を起こしたため、実際の真姫は健康そのものだからである。

 

しかし……。

 

「……どんな病だろうと治してみせる!ファビアンの名にかけて!」

 

ファビアンの眼が怪しく輝くと、ホラーのゲートとなったファビアンの医術書を呼び出し、その医術書は勝手にページが開かれていった。

 

(……なるほどな……。やはりそういうことか……)

 

キルバは、ファビアンが治療法を見つける時に微かにホラーの邪気を感じ取ったため、ファビアンがホラーであることは疑いようがなかった。

 

(とりあえず、奏夜に報告はしておくか……)

 

ファビアンが医術書に則った薬を調合している隙に、キルバはこの真実を奏夜に報告することにしたのである。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ファビアンの診察室を追い出された奏夜たちは、テントの入り口で、真姫の診察が終わるのを待っていた。

 

「……真姫ちゃん……。大丈夫かにゃ?」

 

「……心配ないさ。真姫なら、きっとな……」

 

真姫の側にはキルバがいるため、何かあったとしても大丈夫だろうと奏夜は判断していた。

 

すると……。

 

《……奏夜、聞こえるか?》

 

ファビアンの診察室にいるキルバが何かを掴んだようであり、奏夜にテレパシーを送っていた。

 

(……どうだ、キルバ?)

 

《どうやら、俺たちの推測は当たっていたみたいだ。あのファビアンとかいう医者がホラーみたいだぞ。奴が治療に用いている本がゲートになってるみたいだしな》

 

キルバは、ファビアンの正体がホラーであることを見抜いており、ホラーのゲートとなったものまで探っていた。

 

(……やっぱりな……。それにしてもゲートになった本まで持ち込むとはな……)

 

ファビアンの用いている本がゲートになってしまっているため、その本を持ち歩いているファビアンに、奏夜は呆れていた。

 

《まぁ、奴はあの本を使わねば満足な医療が出来ないのだろう》

 

(……それに、俺たちは何回もあのテントに忍び込んだんだけど、何で奴の尻尾すら掴めなかったんだ?)

 

《……どうやら他にも仕掛けはありそうだな。もうじき治療は終わりそうだし、調べてみよう》

 

(……頼むな、キルバ)

 

ここでキルバとの会話は途切れ、キルバは診察室に仕掛けられた真相を調べることにした。

 

「……とりあえず、俺は真姫の診察が終わるまで待つつもりだけど、みんなはどうするんだ?」

 

奏夜は穂乃果たちを極力はホラーとの戦いに巻き込みたくないと思っていたので、こう確認を取っていた。

 

「……私は残るよ。真姫ちゃんが心配だもん」

 

「ことりも同じかな」

 

「私だって同じです」

 

「わ、私も……。真姫ちゃんが心配だから……」

 

「凛も残るにゃ!真姫ちゃんが苦しんでるのに、帰れる訳ないよ!」

 

どうやら、穂乃果たちは帰ることはせず、残る決意を固めていた。

 

それは、真姫だけではなく、凛にも、奏夜がホラーを狩る魔戒騎士であると明かすことになってしまう。

 

しかし、ここで凛だけ返すのはあまりに不自然であると感じた奏夜は……。

 

「……凛。今のうちにお前に伝えておきたいことがある」

 

「にゃん?」

 

奏夜は、やむなく凛にホラーや魔戒騎士の話をすることにした。

 

ここで何も話さない方が、凛を危険にさらす可能性が低くなると判断したからである。

 

奏夜は、自分がμ'sのマネージャーをしながら、ホラーと呼ばれる怪物と戦う魔戒騎士だということを説明した。

 

そして、真姫と凛以外はホラーに襲われたことがあり、自分が助けたことも一緒に説明しておいた。

 

「魔戒騎士……ホラー……。何のことだかさっぱりにゃ……」

 

凛は、奏夜の口からいきなり非現実的な話を聞かされたため、少しだけ混乱してしまっていた。

 

「り、凛ちゃん!ホラーと戦う奏夜先輩は怖いかもしれないけど、奏夜先輩は奏夜先輩だから!」

 

ホラーと魔戒騎士の戦いを目の当たりにして、そのせいで奏夜のことを怖がっていた花陽が、必死に凛に弁解を聞かせていた。

 

「……凛は実際に戦いを見た訳じゃないからわからないけど、そーや先輩がμ'sのために一生懸命だってことはわかるよ!だから凛はそーや先輩のことを信用してるにゃ!」

 

「凛……」

 

凛は、まだ奏夜の戦いを見ている訳ではないのだが、奏夜が信用出来る人間だということはわかっており、そのことが奏夜には嬉しかった。

 

こうして、凛にもホラーや魔戒騎士の秘密を話した奏夜は、キルバとテレパシーで連絡のやり取りを行い、奏夜がファビアンに近づけるよう対策を練っていた。

 

そうしているうちに、夜となってしまい、ファビアンは、自らの力で調合した薬を真姫に飲ませることで、真姫の腹痛を治すことに成功した。

 

その薬の副作用により、真姫は眠ってしまったのだが、キルバはその隙に、色々とこの診察室の調査を行っていた。

 

そして、その都度得た情報は、奏夜に共有していた。

 

どうやら、診察室には結界が貼ってあるようだった。

 

奏夜は何度も診察室であるテントの中に忍び込んだのだが、結界が効いているからか、中には誰もいないような感じになっていた。

 

それだけではなく、奏夜がテントに忍び込んだ時にも、ファビアンは、患者を捕食していたのである。

 

だからこそ、奏夜は今までファビアンによる被害を食い止めることが出来なかった。

 

これらの真実は、キルバがこの診察室に残されている被害者の残留思念を微かに感じ取ったために発覚したのである。

 

キルバは、ファビアンに気付かれないように、少しずつ結界を破り、奏夜がいつでも突入出来るように準備をしていた。

 

ファビアンは、真姫の診察した内容をカルテに記入しており、その内容をチェックしていた。

 

それに夢中になっているため、真姫の制服のポケットに隠れているキルバがこそこそと行っている行動に気付かなかったのである。

 

それをひと通り終えたファビアンは、「ふぅ……」と一息ついていた。

 

「……それにしても、この病院の令嬢が担ぎ込まれてくるとは……。予想外だったな……」

 

真姫の診察を終えたファビアンだったが、真姫が来ることは予想外だったため、驚きを隠せずにいた。

 

「……警察の奴らだけじゃなく、色んな人間が私の周りを嗅ぎまわっているみたいだし、ここらが潮時かもしれないな」

 

ファビアンは、これからも人間を捕食するために、明日からはこの病院を離れて別の場所へ移動しようと考えていた。

 

「その前に……」

 

ファビアンは、ベッドで眠っている真姫を見て、怪しい笑みを浮かべていた。

 

「腹痛を治した西木野総合病院の令嬢……。私のこの地最後の食事に、これ程相応しい人物はいない!」

 

どうやらファビアンは、この地を離れる前に真姫を捕食しようと考えており、目をギラギラと輝かせながら怪しい笑みを浮かべていた。

 

「さて、じっくりと味わうとしよう!この地最後の食事をな!」

 

ファビアンの仮面の口の部分が開き、まるで獣のように真姫を捕食しようとしていた。

 

その時だった。

 

「……なるほどな。あんたはそうやって患者を喰っていたって訳か」

 

キルバの力によって結界が一部破られており、そこから姿を現した奏夜が、人間を捕食しようとする決定的瞬間を目撃した。

 

「……!?馬鹿な!!ここには結界が貼ってあるのだから、誰も入ってこられないハズだ!」

 

自分で白状した通り、ファビアンはこのテントに結界を貼ることで、万が一誰かに浸入されたとしても、わからないようにしていた。

 

すべては、確実に治療した人間を喰らうためである。

 

ファビアンは治療した人間をここへ誘い込む時に一時的に結界を解くのだが、そのことにより、その一部に綻びが生じてしまった。

 

だからこそ、キルバが少々念を込めるだけで結界の一部を壊すことが出来たのであった。

 

「迂闊だったな。結界を貼るならもっと強固なものにしないと。それに……」

 

奏夜はベッドで眠る真姫に近付くと、制服のポケットに手を入れて、中に忍ばせておいたキルバを回収し、指にはめた。

 

「!?そ、そいつは魔導輪!貴様、魔戒騎士か!」

 

「ご名答。それにしても、こんなところで見境なく患者を喰らっていたとはな」

 

「……それは違うな!私は1日に食べる人間は1人と決めているのだ。暴飲暴食は体に悪いからな」

 

ファビアンはこのテントで人間を喰らっていたのだが、1日に喰らうのは1人だけと決めていた。

 

そのため、行方不明者の数はそこまで膨れあがらなかったのである。

 

「ホラーが世迷いごとを……!」

 

奏夜は鋭い目付きでファビアンを睨みつけ、魔戒剣を取り出そうとするのだが……。

 

「……ちょっと待った!見つかってしまった以上、私は逃げも隠れもしない。だから、戦う場所を変えないか?」

 

「ふざけるな!誰がホラーの言うことなど……」

 

「私としても、この病院を戦場にしたくはないのでね」

 

ファビアンはこの病院の敷地を借りて診察を行いながら人間を喰らっていたため、この病院には思い入れがあった。

 

なので、この病院の前でドンパチしたくなかったのである。

 

「……わかった。だが、移動中に妙な真似をするようなら、俺は容赦なくお前を斬る」

 

「フン。私はホラーである前に医者だ。卑怯な振る舞いはするものか」

 

どうやら、このファビアンに憑依したホラーは、他のホラーとは異なり、卑怯な振る舞いは嫌いなようである。

 

それなら人間を喰らう時に結界を貼るなよとツッコミを入れたくなった奏夜であったが、ホラーであるファビアンにそんな言葉を送るつもりはなかった。

 

こうして、奏夜とファビアンは、2人で戦うためにテントを後にすると、近くの広場に移動した。

 

その途中、奏夜は携帯を取り出すと、「真姫が診察室にいるから真姫を頼む」とLAINでメッセージを送り、それを受け取った穂乃果は、他のメンバーと共に診察室へと急行した。

 

キルバによって結界の一部は壊されており、ファビアンも結界を解いていたため、穂乃果たちはベッドで眠る真姫をすぐに発見した。

 

「……あ、あれ?私、どうして眠って……」

 

真姫は起きぬけだからか、現在の状況を理解出来ずにいた。

 

「あ、真姫ちゃん!気が付いた?」

 

「真姫。あなたは奏夜の用意した薬を飲んでそのままファビアン先生の診察室に担ぎ込まれたのです」

 

「!!そうだ!ねぇ、ファビアンと奏夜はどこに行ったの?」

 

真姫は、ここでようやく今の状況を認識し、周囲を見渡すのだが、ファビアンと奏夜の姿がないことが気になっていた。

 

「真姫ちゃんのことを頼むって連絡は来たけど、そーくんはどこに行ったんだろう?」

 

穂乃果は、奏夜からLAINでのメッセージは受け取ったのだが、奏夜とファビアンの居場所まではわからなかった。

 

「もしかして、2人揃ってどこかへ移動したのではないのですか?」

 

「それはあり得るかもね。そーくんのことだもん。きっと……」

 

自分たちをホラーとの戦いに巻き込まないために、奏夜はここを離れたのだとことりは推測していた。

 

「そういえば、ここの近くに広場があったよね?もしかしたらそこなのかなぁ?」

 

「……!何で2人はわざわざそんなところに?」

 

「とりあえず行ってみるのにゃ!!」

 

「そうだね、行ってみよう!」

 

「で、ですが穂乃果……」

 

凛と穂乃果は奏夜とファビアンがいるであろう広場に向かおうとしたのだが、海未がそれを止めていた。

 

「……海未ちゃんの言いたいことはわかるけど、やっぱりそーくんが心配だもん!」

 

「?心配って、いったい何のことよ?」

 

まだ奏夜が魔戒騎士であることを知らない真姫は、穂乃果の言葉に首を傾げていた。

 

「とりあえず、行ってみるのにゃ!!」

 

凛は、何が何だか訳のわからない真姫の手を強引に取り、広場へと向かっていき、穂乃果たちは慌ててその後を追いかけていった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

穂乃果たちが、真姫のもとに到着した頃、奏夜とファビアンは西木野総合病院付近の広場に到着した。

 

奏夜は広場に着くなり、魔戒剣を抜いて、ファビアンを睨みつけていた。

 

「……やれやれ。血の気の多い奴だな……」

 

ファビアンは、戦う気満々な奏夜に呆れていた。

 

「……黙れ!これ以上、お前の戯言は聞いていられるか!」

 

奏夜はファビアンに向かって突撃すると、そのまま魔戒剣を一閃するのだが、ファビアンはどこかに忍ばせていた2本のメスで、奏夜の一撃を防いでいた。

 

「くっ……。2本のメスでここまで耐えるとはな……!!」

 

2本のメスを用いて奏夜の攻撃を受け止めるファビアンの力は予想以上のものであり、奏夜は焦りを見せていた。

 

その焦りは隙を作ってしまい、そんな奏夜の隙を突いたファビアンは、蹴りを放って奏夜を吹き飛ばした。

 

「くっ……!」

 

ファビアンの蹴りで吹き飛ばされた奏夜は、すぐに体勢を立て直すと、再び魔戒剣を構えていた。

 

奏夜はそのまま反撃に入ろうとしたのだが……。

 

「……そーや先輩!!」

 

真姫と合流した凛は、真姫の手を取りながらこちらに現れて、少し遅れて穂乃果たちも合流した。

 

「凛……真姫……みんな……!」

 

まさか、全員揃ってこちらに来るとは思わなかったため、奏夜は驚きを隠せずにいた。

 

そして、ファビアンもそんな穂乃果たちの存在を認識していた。

 

「お前たちはこいつの仲間か……。まさか、あの病院の令嬢も、魔戒騎士の協力者だったとはな」

 

「魔戒騎士?いったい何を言っているの?」

 

ファビアンの言う魔戒騎士という言葉の意味がわからず、真姫は訝しげな表情で、ファビアンを睨みつけていた。

 

「……真姫ちゃん。ファビアン先生は人間じゃなくて、ホラーっていう怪物なの」

 

「そして、そーくんは、そんなホラーから人間を守る魔戒騎士って呼ばれる人なの」

 

「ホラー?魔戒騎士?」

 

花陽と穂乃果は、真姫に魔戒騎士やホラーのことを簡単に説明するのだが、あまりに非現実的な内容に、少しばかり困惑していた。

 

「……そう、その通り!」

 

このようにファビアンが宣言すると、ファビアンの仮面のクチバシの部分が大きく開き、ファビアンの素顔が明かされた。

 

そして、ファビアンの首から下の部分が、この世のものとは思えない、怪物と変わっていった。

 

「……!?な、何よこれ!イミワカンナイ!!」

 

「これが……ホラー……」

 

真姫は、実際にホラーの姿を見て驚きを隠せずにいたのだが、事前に話を聞いていた凛も、初めて見るホラーに、目をパチクリとさせていた。

 

凛は、初めてホラーの話を聞いた時から非現実的な話だと思ってはいたが、実際見るホラーの存在は、本当に非現実的だったからである。

 

『……奏夜!奴はホラー、メディクルス!ホラーのくせに医者の真似事が好きな変わり者なホラーだ。だが、こいつは手強いぞ!』

 

「あぁ、わかった!」

 

奏夜はキルバからホラーの説明を聞いて、魔戒剣を構えていた。

 

「「「ゆ、指輪が喋った!?」」」

 

まきりんぱなの3人は、キルバが喋るのを初めて見たので、驚きを隠せずにいた。

 

『おいおい……。目の前にホラーがいるのに何でここまで驚くんだよ……』

 

指輪である自分なんかよりも不気味な怪物がいるのに、自分が喋ることに驚く花陽たちに、キルバは呆れていた。

 

そして、真姫と凛が驚いていたのは、キルバが喋ることだけではなく……。

 

「それに、何で奏夜は剣を持っているのよ!」

 

「剣を持ってるから魔戒騎士なのかにゃ?格好いいにゃ!」

 

真姫は奏夜の手にしている魔戒剣に驚き、凛は魔戒剣を持つ奏夜を見て、目を輝かせていた。

 

真姫と凛がそんな反応をする中、ファビアンことメディクルスは、複数のメスを呼び出すと、それを全て奏夜目掛けて放った。

 

「……っ!はぁっ!!」

 

奏夜は2度、3度と魔戒剣を一閃することにより、全てのメスを叩き落とした。

 

「……魔戒騎士よ。本当に私を斬るつもりか?」

 

「今更何を言っている。命乞いでもするつもりか?」

 

「そんなつもりはないさ。確かに私は1日に1人、治療を施した人間を喰らった」

 

「!?ファビアンに診てもらった人が行方不明になってるっていう噂は本当だったのね!!」

 

真姫は、ここでようやくファビアンの本性に触れ、ただの噂とされていた話が真実であることを知ったのであった。

 

「だが、私が喰らった人間の数よりも、私が病や怪我から助けた人間の数の方が遥かに多い」

 

ファビアンは東京から離れた某県のある村での治療の他にも、西木野総合病院の敷地を借りて無償で治療を行っていた。

 

その人数はファビアンが喰らった人間よりも遥かに多く、中には、重傷を負った者や、深刻な病気の者もいた。

 

「……それでも、私を……?」

 

ファビアンことメディクルスは、他のホラーとは違い、見境なく人間を喰らう訳ではなく、1日1人人間を喰わせてもらえれば、これからも無償で人間の治療を行うつもりだった。

 

誰かが犠牲になるということは引っかかるのだが、ファビアンの存在は、これからの医療に必要なのではないか?と真姫以外の5人は思ってしまったのであった。

 

そんな中、真姫は、ファビアンの言葉が気に入らないのか、怒りで肩を震わせていた。

 

そして……。

 

「……ふざけないで……」

 

「あぁん!?何だって!?」

 

「ふざけないで!!」

 

「ま、真姫ちゃん……?」

 

ここまで真姫が怒るとは思ってなかったのか、花陽は少しだけ面食らっていた。

 

「確かに今の医療じゃ救えない人はいるし、あなたの力なら多くの人を救えるのかもしれない……。だからって、病を治した人間を喰らって良いことにはならないわ!!」

 

将来は、父親の後を継いで医者になりたいと思っている真姫は、ファビアンの思想に賛同することは出来なかった。

 

「それに、あなたの力など借りなくても、人は自ら困難を克服していくわ。医術だって少しずつではあるけど、進歩しているもの!!」

 

真姫は、これからの医療はさらに進化して、大勢の命を救うことが出来ると確信していた。

 

だからこそ、ファビアンの存在は不必要だと思っているのである。

 

「真姫の言う通りだ!……それに、犠牲になって良い人間などいない!そんなことは、俺が絶対に認めない!」

 

奏夜もまた、ファビアンに対して思うところがあるようであり、鋭い目付きでファビアンを睨みつけながら、怒りの声をあげていた。

 

「奏夜……」

 

それは真姫も思っていたことであり、そんな奏夜の言葉に、真姫は驚いていた。

 

(……そーくん……。何でだろう……。いつもより怒ってるような……。過去に何が何かあったのかな?)

 

穂乃果は、ファビアン相手に怒る奏夜を見て、いつも以上に怒ってる奏夜に戸惑っていた。

 

「……それに、真姫の言う通り、人は自ら困難を克服出来るんだ。俺は、魔戒騎士として、そいつを信じて守り続ける!!」

 

「フン!その頑固な頭は治療出来そうにないな!私はここで貴様を殺し、ここにいる全員を喰らうことで、伝説の名医ファビアンとして、この世に君臨し続けるのだ!」

 

「そんなこと、許されないわ!……魔戒騎士とかホラーとか、よくわからないけど、奏夜……やっちゃいなさい!!」

 

「お、おう……。ホラー、メディクルス

!貴様の傲慢に満ちた陰我……俺が断ち切る!」

 

奏夜は、何故か真姫に命令される形に困惑しながらも、魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

その部分だけ、空間が変化すると、奏夜はそこから放たれる光に包まれた。

 

すると、その空間から黄金の輝きを放つ鎧が現れると、奏夜はその鎧を身に纏った。

 

こうして奏夜は、陽光騎士輝狼の鎧を身に纏ったのである。

 

「!?黄金の……狼……!?」

 

「にゃにゃ!?そーや先輩。変身しちゃったの!?……まるで正義のヒーローみたいで格好いいにゃ!!」

 

真姫は、奏夜の身に纏う輝狼の鎧を見て唖然としており、凛は、奏夜が鎧を召還する場面を見て、ヒーローの変身と重ねてしまったからか、目をキラキラとさせて輝狼の鎧を見ていた。

 

「……一気にケリをつけてやる!!」

 

鎧を召還するなり、奏夜は素早い動きでメディクルスに接近すると、魔戒剣が変化した陽光剣を一閃した。

 

奏夜の一撃により、メディクルスの胸に大きな切り傷が出来て、メディクルスは怯んでいた。

 

「ぐぅ……!なかなかやるな……。だが!!」

 

メディクルスはどこからか塗り薬のようなものを取り出すと、それを切り傷に塗っていた。

 

すると、その薬が即効性がある物だからなのか、陽光剣による切り傷は完全に癒えてしまったのである。

 

「!?う、嘘だろ!?」

 

メディクルスは薬によって傷を完全に治してしまい、奏夜は驚愕していた。

 

「これぞ……私が持てる知識と技術を結集して作った秘薬。天才だ……。私は天才だぁぁぁ!!」

 

メディクルスは、自らの力で作った薬の効果に自画自賛していた。

 

「おいおい……。そのセリフ、ア○バじゃないんだから……」

 

奏夜は、昔の漫画であり、アニメやパチンコにもなっている某世紀末の作品に登場するキャラの名前を出し、苦笑いをしていた。

 

そんな中、穂乃果たちは……。

 

「そんな……。傷口を治しちゃうとか、反則すぎるよ!!」

 

「確かにそうですよね……。奏夜が突破口を開くためには、あの薬を使い切れない程のダメージを与えなければいけません」

 

「それって、簡単に出来ることじゃないよね?」

 

「……っ!奏夜先輩……頑張って!」

 

「そーや先輩!頑張れぇ!」

 

「奏夜……!!」

 

穂乃果、海未、ことりの2年生組は、ファビアンの用いた薬について対策を検討しており、1年生組は、純粋に奏夜を応援していた。

 

「フン!私の力はこんなものでもないぞ!」

 

ファビアンことメディクルスは、注射器のようなものを取り出すと、それを自分の腕に刺した。

 

注射器のようなものに入っているのも、ファビアンお手製の薬であり、その薬は、自身の身体能力を極限まで高める薬だった。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!みなぎる!力がみなぎるぞぉ!!」

 

ファビアンことメディクルスは、自身の薬により、パワーアップしたのであった。

 

『奏夜!奴がどれだけ力を蓄えたかは未知数だ!油断はするなよ!』

 

「あぁ、わかっている!」

 

奏夜は、薬によってパワーアップしたメディクルスに警戒をしていたのだが、メディクルスは素早い動きで奏夜に接近すると、強烈なアッパーを放って奏夜を上空に吹き飛ばした。

 

「ぐぁぁぁぁ!!」

 

奏夜はメディクルスのあまりのパワーに表情を歪ませるのだが、メディクルスは、追い討ちをかけるために素早い動きでジャンプして奏夜の近くに現れた。

 

そして、奏夜が対応するよりも速くメディクルスは強烈なパンチを放つと、奏夜を地面へと叩きつけた。

 

「がぁっ!!」

 

その衝撃はかなりのものであり、地面には小さなクレーターが出来てしまっていた。

 

「「そーくん!!」」

 

「「奏夜!!」」

 

「「奏夜(そーや)先輩!!」

 

常人であれば即死しているであろう衝撃に、穂乃果たちは思わず声をあげて、奏夜の心配をしていた。

 

奏夜は地面に叩きつけられた衝撃によって鎧が解除されてしまっていた。

 

「ぐふっ!……くっ、クソが……!!」

 

倒れていた奏夜はどうにか起き上がるのだが、あまりの激痛が奏夜を襲い、そのせいで奏夜は口から血を吐いていた。

 

奏夜の受けたダメージは相当のものであり、戦いを見ていた穂乃果たちの表情も真っ青になっていた。

 

そんな中、メディクルスは奏夜にトドメを刺す前に奏夜のダメージを確認していた。

 

「……ふむ……。頭部、及び左腕前腕部と右腕上部に裂傷……。右脚大腿部不全骨折……。内臓もやられてるみたいだな……」

 

メディクルスは冷静に奏夜のダメージを診察していたのだが、それを聞いただけでも、重傷であることはよくわかる程のダメージだった。

 

穂乃果たちはそこまでの重傷を負った奏夜を心配そうに見つめており、奏夜もまた、立つことすらままならないこの状態で、どのようにメディクルスと戦うべきか考えていた。

 

すると……。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!な、治したいぃぃぃぃぃ!!」

 

これは医者の性なのか、重傷を負った奏夜を見ていると治療したい欲求に駆られてしまい、メディクルスは頭を抱えていた。

 

「は?」

 

「「「「「「へ!?」」」」」」

 

メディクルスの予想外すぎる発言に、奏夜だけではなく、穂乃果たちも唖然としていた。

 

「ダメだ……。どうしても我慢出来ない!」

 

メディクルスは先ほど自らの切り傷の治療に使った塗り薬を手にすると、奏夜に近付き、頭部の裂傷部分にこれを塗ろうとしていた。

 

「おいおいおいおい!何をしやがるんだ!!」

 

メディクルスの予想外の行動に、奏夜は怒るのではなく、困惑していた。

 

まさか、目の前に対峙しているホラーが敵を治したいなどと言うとは思わなかったからである。

 

「大人しくしていろ!今楽にしてやる!」

 

こう言いながら、メディクルスはなんと、奏夜の治療を始めてしまったのであった。

 

「ら、楽にしてやるって……」

 

「戦う相手にすることではないですよね……」

 

「アハハ……これは……」

 

「何て言うか……」

 

「……ただの馬鹿ね」

 

「そうなのにゃ!馬鹿なのにゃ!」

 

メディクルスの予想外の行動に、穂乃果、海未、ことり、花陽の4人が苦笑いをする中、真姫と凛は思ったことをハッキリ言っていた。

 

「……これは敵に塩を送るってレベルじゃないわよ……」

 

敵である奏夜にここまでのことをするのは、「敵に塩を送る」どころか、「敵に米を送る」レベルであり、真姫はジト目でファビアンことメディクルスの治療を見ていた。

 

メディクルスは奏夜の頭部の裂傷に塗り薬を塗ると、今度は特製の薬を奏夜に使っていた。

 

「痛たたたたたたたたたた!!」

 

その治療は、荒療治と言っても言い過ぎではなく、奏夜はあまりの激痛に苦しんでいた。

 

「ふむ……。強力過ぎて人には使えないか……。魔戒騎士ならば……」

 

メディクルスはさらに薬を用意しているようで、注射器のようなものを取り出すと、それを躊躇なく奏夜の肩に刺した。

 

「痛ってぇ!!ぐぅぅぅ……」

 

あまりの激痛に、奏夜の表情は歪み、苦しんでいたのだが、気が付くとその痛みは徐々に無くなり、頭部の裂傷は綺麗さっぱり無くなっていた。

 

「……あれ?」

 

それだけではなく、他の部分の痛みも消え去った奏夜は、そのまま立ち上がるのだがら先ほどまで骨折していたとは思えないほどあっさりと立つことが出来た。

 

「ま、マジかよ……。それに、力がみなぎるぞ!!」

 

どうやら、傷を治すだけではなく、奏夜のパワーアップまでメディクルスはしてしまったようであった。

 

「私に治せぬものはない!さぁ、仕切り直しだ!」

 

『おいおい、敵を治すだけじゃなくて、パワーアップさせるなよ……』

 

ファビアンの薬はあまりに強力で、奏夜が魔戒騎士だからこそ効果があるのだが、そこまでのことをしでかしたメディクルスに、キルバは呆れ果てていた。

 

しかし、それはキルバだけではないようであり……。

 

「アハハ……。そーくんのパワーアップまでしちゃったんだ……」

 

「……これは、いくらなんでも酷すぎますね……」

 

「まぁ、そのおかげでそーくんはピンチを抜けたんだし……」

 

「確かにそうですね……」

 

「それでもやっぱりあり得ないわね……」

 

「そうにゃそうにゃ!やっぱり馬鹿なんだにゃ!」

 

穂乃果たちはジト目で自分の思ったことを口にしていた。

 

「……礼は言わんし、後悔しても知らないからな……」

 

奏夜は地面に落ちていた魔戒剣を拾うと、魔戒剣を再び高く突き上げ、円を描いた。

 

その部分だけ空間が変化して、そこから放たれる光に包まれた奏夜は、再び輝狼の鎧を身に纏った。

 

「はぁぁぁぁぁ………!!」

 

奏夜は魔導ライターを使わず、手を陽光剣の切っ先に当てることで、その部分が橙色の魔導火を纏い、奏夜は烈火炎装の状態となった。

 

「!?ほ、炎に包まれた!?」

 

「凄いにゃ!そーや先輩、格好いいにゃ!!」

 

烈火炎装を初めて見た真姫は唖然として、凛はキラキラと目を輝かせていた。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

烈火炎装の状態となった奏夜は、体を回転させながらメディクルスに突撃すると、そのままメディクルスの体を貫いた。

 

「ぐぁっ……!!お、おのれ……これならどうだ!!」

 

体を貫かれても、まだメディクルスは生きており、メディクルスは最後の抵抗と言わんばかりに多数のメスを奏夜目掛けて放った。

 

そのメスたちは奏夜の体を包む魔導火により全て燃え尽きてしまい、奏夜は陽光剣を縦と横に振るうことで、メディクルスを十文字に斬り裂いた。

 

十字に斬り裂かれたメディクルスは、断末魔をあげており、その体は陰我と共に消滅した。

 

メディクルスが消滅したことを確認した奏夜は鎧を解除して、元に戻った魔戒剣を緑の鞘に納めるのだが、その表情はどこか悲しげだった。

 

「……くそっ……!」

 

メディクルスに憑依され、伝説の名医ファビアンとして生きたこの男は、ここまで歪んだ陰我を持っていなければ立派な医者になれただろうにと奏夜は考えていた。

 

だからこそ、悲痛な表情をしていたのである。

 

しかし、ホラーに憑依された以上、この男の魂を救うためにメディクルスを討滅したと奏夜は割り切っていた。

 

奏夜が魔戒剣を魔法衣の裏地にしまうタイミングで、穂乃果たちは奏夜に駆け寄ってきた。

 

「そーくん、大丈夫?」

 

「あぁ。おかげさまで、何とかな」

 

「ですが、先ほどは酷い怪我でしたよね?」

 

「そーくん、痛いところはないの?」

 

「それが不思議なことに、痛いところはまったく無いんだよ。奇しくもあのファビアンの腕は本物だったみたいだな」

 

奏夜の怪我は問題ないようであり、穂乃果たち2年生組は、安堵のため息をついていた。

 

奏夜は実際に怪我をして治療してもらったため、ファビアンの腕を認めざるを得なかった。

 

『ま、奴はホラーなんだ。奴らの身勝手な事情で人間を食わせる訳にはいかないからな』

 

1年生組の全員がホラーや魔戒騎士についてしってしまったため、キルバは遠慮することなく口を開いていた。

 

「……ほ、本当に喋るんですね……」

 

花陽はキルバが喋るところを改めて見て驚いていた。

 

実は、初めて花陽がホラーの秘密を知った時もキルバは喋っていたのだが、どうやら花陽は気付かなかったようであった。

 

「……花陽ちゃん、凛ちゃん、真姫ちゃん。……この指輪は「キー君」!魔導輪っていう、さっきの怪物の気配を探知出来るそーくんの相棒だよ!!」

 

穂乃果は、キルバのことを簡単に説明するのだが……。

 

『おい、穂乃果。俺を変なあだ名で呼ぶな!!俺は魔導輪のキルバだ!』

 

自分の呼び方だけは気に入らなかったようであり、キルバは慌てて訂正していた。

 

「は、はぁ……」

 

とりあえず奏夜の指輪の名前がキルバで、奏夜の相棒だということはわかったため、花陽はこのような返事をしていた。

 

「そーや先輩。あれがホラーで、そーや先輩はあれと戦ってるんですね」

 

「ま、そういうことだ。……怖かったか?」

 

「確かに怖かったけど……。そーや先輩のあの鎧、格好いいにゃ!まるで特撮のヒーローみたいだにゃ!!」

 

凛はどうやら特撮のヒーローが好きなようであり、輝狼の鎧に、そんなヒーローの姿を重ねていた。

 

「そ、そうか……。俺たち魔戒騎士はヒーローじゃないけど、そう言ってくれるなら助かるよ……」

 

花陽が奏夜の秘密を知った時にあれ程怖がっていたため、ここまで憧れのような感情を抱いている凛に、奏夜は安心していた。

 

「……まさか、あんたがこんな危ないことをしていたなんてね」

 

「……まぁ、そういうことだ」

 

「あんたが他の人とは違う雰囲気を出しているとは思っていたけれど、そういうこととはね」

 

真姫は、奏夜と初めて出会った時から、奏夜がただの高校生とは違う雰囲気を出していると思っていた。

 

そんな奏夜の不思議な雰囲気に惹かれるところがあったからか、μ'sの曲を作ったのである。

 

奏夜がこの世のものとは思えない怪物と戦うのを見た時、真姫は、奏夜に対して感じていた違和感がスッと消え去ったのである。

 

「……怖かったか?」

 

「そりゃ、怖いわよ。あんな怪物を見ちゃったら。だけど、不思議ね。あんたがあんな怪物と戦ってるからあんたもあの怪物と変わらないんじゃないか?って思ってるけど、ちっとも怖くないもの」

 

どうやら真姫も、花陽の時のようにホラーと戦える奏夜は、ホラーと変わらないのでは?と思っていたのだが、花陽の時とは異なり、真姫は奏夜のことを怖いとは思わなかった。

 

「……そっか」

 

花陽の時の例を見ているため、奏夜はそんな真姫の対応がありがたかった。

 

「ま、これからもμ'sのマネージャーとして、頑張りなさいよね!」

 

「そうにゃそうにゃ!危険なことをしててもそーや先輩はそーや先輩だもん!」

 

「……ありがとな」

 

ホラーとの戦いを初めて見た真姫と凛は、あっさりと奏夜のことを受け入れており、奏夜はそのことをありがたいと思っていた。

 

「……奏夜。1度病院に行って、体を診てもらいましょう」

 

「大丈夫だって。さっきの怪我だってバッチリ治ってるし」

 

「ダメよ!あんな訳のわからないもので治すなんて、体がどうなってるかわからないわ!私がパパに口を利いてあげるから、病院に行くわよ!」

 

どうやら真姫はどうあっても、奏夜を病院に連れて行こうとしていた。

 

「な、なぁ。穂乃果たちも何か言ってくれよ!俺は大丈夫だって!」

 

奏夜は穂乃果たちに助けを求めるのだが……。

 

「……ダメだよ、そーくん♪」

「そうですよ。1度しっかり診てもらわなければいけません」

 

「あんな怪我をした後だもん。当然だよね♪」

 

「奏夜先輩。大人しく病院に行って下さい」

 

「そーや先輩!観念するにゃ!」

 

どうやら、穂乃果たちも真姫と同じ気持ちのようであり、奏夜の顔は真っ青になっていた。

 

「ほら、奏夜。行くわよ!」

 

「……はいはい。わかったよ」

 

これは逃げられないと判断した奏夜は、諦めて真姫の父親に体を診てもらうことになった。

 

穂乃果たちも奏夜が逃げないように見張るためについて行くことにした。

 

こうして奏夜は、西木野総合病院で診察を受けることになってしまった。

 

真姫の父親が直接診察してくれたのだが、特に体に異常はなく、ファビアンの薬の効果はどうやら本物のようだった。

 

病院の診察を終えた奏夜は、穂乃果たちを家まで送り届けた後に、自宅へと帰っていった。

 

μ'sの6人全員がホラーや魔戒騎士の知ってしまったのだが、これからも奏夜は魔戒騎士として、そして、μ'sのマネージャーとして、6人を守っていこう。

 

このように決意を固めるのであった……。

 

そして翌日、ファビアンが西木野総合病院を離れ、どこかへと旅立っていったことがすぐニュースになっていた。

 

それからファビアンが姿を現わすことはなく、彼の存在は生きた都市伝説となるのだが、それは後の話であった……。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ……。こいつは随分と面倒な奴に絡まれたもんだな。奏夜、いったいどうするつもりだ?次回、「襲来」。小さきツインテールが奏夜たちに迫る!!』

 

 




文字数が20000を越えてしまった……。

これ、1話にしてたら30000オーバーになってたな(笑)

そして、炎の刻印でも憎めない存在だったファビアンですが、この作品でもやってくれました(笑)

奏夜は今作で1番のダメージを受けたのに、それが全回復しましたからね(笑)

それにしても、作品を進めていくたびにロデルのアイドル好きが加熱しているような気が……。

ロデルはどうやらμ'sのファンにもなってるようですし。

そして、真姫と凛も奏夜が魔戒騎士であると知りましたが、花陽とは反応が違うのが良かったかなと思います。

さて、次回はラブライブ!の第5話に突入します。

小さきツインテール……あの人の回となります。

その人物とはいったい誰なのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第16話 「襲来」

お待たせしました!第16話になります!

2月上旬から投稿を始めたこの牙狼ライブ!ですが、早くもUAが5000を越えることが出来ました!

前作の「白銀の刃」は、ちょうど最初の章が終わるあたりでUA5000を越えたので、予想以上の早さに驚いています。

これからも牙狼ライブ!をよろしくお願いします!

さて、今回からラブライブ!の第5話に突入します。

そうです。あの人が襲来してきます。

その人物とは一体誰なのか?

それでは、第16話をどうぞ!




音ノ木坂学院に誕生したスクールアイドルグループ、「μ's」のメンバーが3人から6人になっておよそ2週間が経過した。

 

1年生である花陽、凛、真姫の3人がメンバーとして加わり、それから間もなく、ホラーとの戦いに巻き込まれてしまった。

 

凛と真姫は初めてホラーと魔戒騎士を目撃したのだが、2人とも怖がることはなく、奏夜を受け入れている。

 

その後は、奏夜から魔戒騎士やホラーについて詳しい話を聞きながら、何かあった時は奏夜を支えようと花陽たちは決意していた。

 

奏夜もまた、守るべき存在が増えて、今まで以上に気を引き締めていこうと考えていた。

 

そんな中、この日も神田明神で朝の練習があったのだが、いつもより早く朝のエレメントの浄化のノルマを達成した奏夜は、誰よりも早く神田明神を訪れていた。

 

そして、穂乃果たちが到着するまでの間、まるで座禅を組むかのように座り込み、精神を集中させていた。

 

これは実際に座禅を組んでいる訳ではないのだが、魔戒騎士として精神力を鍛えるために瞑想を行っているのである。

 

しばらくの間、奏夜は目を閉じて精神を集中させていたのだが……。

 

「……!」

 

何かを感じ取った奏夜は、カッと目を見開いて、急に立ち上がった。

 

《……奏夜、どうしたんだ?》

 

キルバは、誰かに聞かれることを考慮したのか、テレパシーで奏夜に問いかけをしていた。

 

すると……。

 

「……隠れてないで出てこい!!そこにいるのはわかっているんだ!」

 

奏夜は鋭い目付きで建物の角の方を睨みつけると、誰かに対してこのように告げていた。

 

それから間もなくして現れたのは、小柄だが音ノ木坂学院の制服を着ており、ツインテールが特徴の少女であった。

 

さらに変装してるつもりなのか、サングラスとマスクをしており、怪しさは全開だった。

 

この少女……矢澤にこは、μ'sの結成当時から、μ'sのことが気に入らなかったようだ。

 

「……なんだ。いつぞやの先輩じゃないですか。何の用ですか?」

 

にこのことを何度か目撃したことのある奏夜は、穏やかな表情で笑みを浮かべながらこう問いかけをしていた。

 

「何の用ですか?じゃないわよ!!何なのよ、いきなり睨みつけてきて、びっくりしたじゃない!!」

 

「それは先輩が悪いですよ。コソコソとこっちのことを覗いてるんですから」

 

にこは、奏夜が鋭い目付きでこちらを睨みつけてきたことにクレームを言っていたのだが、それはにこが悪いと、悪びれる様子はなかった。

 

「……あ、もしかしてμ'sの練習風景を見に来たとか?」

 

「だ、誰がそんなもの見るのよ!!にこはね、あんたたちを認めてなんていないんだからね!」

 

「やれやれ……。生徒会長と同じようなことを言わないでくださいよ……」

 

にこの発言はまるで絵里の発言と重なるところがあったため、奏夜は苦笑いをしていた。

 

その時だった。

 

「あっ、そーくーん!!」

 

穂乃果とことりの2人が奏夜の姿を見つけたので、こちらに駆け寄ってきた。

 

「あれ?この人は?」

 

「あぁ、この人は……」

 

穂乃果はすぐににこの存在に気付いており、誰なのかと首を傾げていた。

 

そして、奏夜が説明しようとしたのだが……。

 

「あんたたち!」

 

「「はっ、はい!」」

 

「さっさと解散しなさい!!」

 

(……なるほど、これが言うためにあそこで待ち伏せをしてたって訳か)

 

《やれやれ。面倒な奴だな》

 

にこの要件がはっきりわかったのだが、わざわざこのことを言うだけのために待ち伏せをしていたことに、奏夜とキルバは呆れていた。

 

そして、にこは言いたい事を言って満足したのか、さっさとその場から去っていった。

 

「そーくん……。今の人、誰?」

 

「不審者……。と言いたいところだけど、一応先輩だってことしか俺もわからん」

 

奏夜の言葉に穂乃果とことりは首を傾げていた。

 

このやり取りの後、全員が揃ったので、このまま階段ダッシュを始めとした体力トレーニングを始めた。

 

そのトレーニングが終わると、午前の練習は終了し、穂乃果たちの着替えが終わったところで、奏夜たちは一緒に登校した。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

そして放課後になり、全員が集まったところで放課後の練習が始まろうとしていた。

 

「それでは!メンバーを新たに加えた新生スクールアイドル「μ's」の練習を始めたいと思います!」

 

「いつまで言ってるんですか?それはもう2週間も前ですよ?」

 

そう、穂乃果は花陽たちが加入してから毎日のようにこう言って練習を始めていた。

 

同じフレーズを何度も聞いている海未は、このように穂乃果をなだめるのだが……。

 

「だって!嬉しいんだもん!」

 

「……まぁ、気持ちはわかるけどさ……」

 

奏夜はこう呟きながら苦笑いをしていたのだが、どうやら海未も同じ事を思っていたようであり、クスリと笑みを浮かべていた。

 

「なのでいつも恒例の……」

 

「1!」

 

「2!」

 

「3!」

 

「4!」

 

「5!」

 

「6!」

 

「……」

 

穂乃果、海未、ことり、真姫、凛、花陽の順番で番号を言うが、奏夜は続けて7とは言わなかった。

 

「もぉ!そーくんも番号ちゃんと言ってよぉ~!」

 

「だから毎度言ってるだろ?俺はマネージャーなんだし、番号言う必要ないって」

 

「そんな事ないよ!だってそーくんだってμ'sの一員だもん!」

 

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、俺はやっぱり言わないぞ」

 

「むぅー!そーくんってば強情だね」

 

奏夜が頑なに番号を言おうとしないことが気に入らないのか、穂乃果はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「……ことりちゃん」

 

「うん♪任せて♪」

 

(……何故だろう、嫌な予感がする……)

 

穂乃果が何を企んでいるのか察した奏夜の表情は引きつっていた。

 

そして……。

 

「そーくん、おねがぁい♪」

 

「!!」

 

奏夜の予想通り、ことりの脳トロボイスによるお願い攻撃が飛んできて、効果があるからか顔がピクピクと動いていた。

 

(……うぐっ!やっぱり強力だな……。ことりのお願いは……)

 

『……やれやれ……』

 

ことりのお願い攻撃を受けて明らかに動揺している奏夜に、キルバは心底呆れていた。

 

(だ、だが、いつもそれが効くとは思うなよ!)

 

奏夜はことりのお願い攻撃を受けると大概のことは断れなかったので、たまには断わろうと頑張ろうとしていた。

 

「い、いくらことりのお願いでも、や、やっぱり言わないぞ!」

 

「ええ!?ことりちゃんのお願いでもダメなの?」

 

「ただ強がってるだけに見えますけどね……。すごく体が震えてますし」

 

「な、ナンノコトカナ?」

 

奏夜が強がっていることをあっさりと海未に見透かされてしまうのだが、奏夜は表情が強張りながらもすっとぼけていた。

 

(やばい……。今回はどうにかこらえることが出来たけど、次耐えられるか……)

 

1度耐えるだけでも精一杯なため、ここで畳み掛けられたら、どうなるかはわからなかった。

 

そんな中……。

 

「ねぇ、そーくん……。ダメ?」

 

「……!(ぴゃあああああああ!!)」

 

ことりは、頬を赤らめ、涙目になり、上目遣いと男が食いつきそうな三拍子を使いこなして再びお願い攻撃をしていた。

 

これは先ほど以上に効果は抜群のようであり、奏夜は心の中で奇声をあげていた。

 

(だ、ダメだ……!これ以上は……!)

 

さすがにこのお願い攻撃を断ることは出来なかったのか……。

 

「くそっ……!何度でも言ってやるよ!……7!7!ななぁ!!」

 

「「やったぁ♪」」

 

奏夜はあまりに過剰に7を連呼しており、やっと番号を言ってもらえた穂乃果は、ことりとハイタッチしていた。

 

奏夜のあまりのキャラ崩壊に、海未と1年生組。さらに、キルバがドン引きしていた。

 

「……そ、奏夜……。あなたという人は……」

 

海未は、ここまで奏夜がキャラ崩壊するのを初めて見たため、可哀想なものを見る目で奏夜のことを見ていた。

 

『ったく……。ど阿呆が……』

 

奏夜の相棒であるキルバも、呆れてど阿呆としか言うことが出来なかった。

 

「アハハ……。奏夜先輩って面白いところがあるんだね……」

 

「凛はこっちのそーや先輩も良いって思うけどにゃ♪」

 

花陽は内心引いていたものの、奏夜に気を遣って苦笑いをしており、凛はそんな奏夜が面白いと思ったのか、あっさりと受け入れていた。

 

「……さすがに引くわ……」

 

そして真姫は、ジト目で奏夜を見ながら髪の先端をクルクルとさせていた。

 

「こらそこ!引くとか言うな!地味に傷つくわ!」

 

「知らない」

 

「お前なぁ……」

 

「まぁまぁ、奏夜。その辺にしておきましょう」

 

このままだと話が進まないと思った海未は、奏夜のことをなだめていた。

 

「それにしても6人だよ6人!アイドルグループみたいだよね!」

 

「……みたいって、お前らはアイドルだろ?まぁ、アイドルって言ってもスクールアイドルだけどさ」

 

メンバーが6人になって興奮している穂乃果に、奏夜は冷静な言葉を返していた。

 

「いつかこの6人が神シックスとか仏シックスだって言われるのかなぁ♪」

 

「穂乃果、ちょっとは落ち着け。それに、仏だと死んでるみたいだぞ」

 

奏夜が穂乃果にツッコミを入れると穂乃果以外のメンバーが苦笑いをしていた。

 

「毎日同じ事で感動できるなんて羨ましいにゃ♪」

 

『羨ましいというか単純というか……』

 

「むー!!意地悪言わないでよ!キー君!」

 

『だからそのキー君はやめろ!!』

 

どうやらキルバはキー君と呼ばれるのが気に入らないのか、穂乃果に撤回するように求めていた。

 

「……まぁ、それはともかくとして、私は賑やかなのが好きでしょ。それに、たくさんいたら歌が下手でも目立たないでしょ。あと、ダンスを失敗しても」

 

「「穂乃果」」

 

本音がだだ漏れな穂乃果に物申そうと奏夜はツッコミを入れるが、海未も同時にツッコミをいれていた。

 

「アハハ……。冗談冗談」

 

「まぁ、ちゃんとやらないとな。今朝だって、解散しろって言われちゃっただろ?」

 

「うっ……」

 

「だけど、それだけ有名になったってことだよね!」

 

『まぁ、ファンが増えればアンチも増えるってのは必然だけどな』

 

「確かにそうだよな……。だからこそ、ここからが正念場だよな」

 

ファンとアンチが出てきたということは、それだけμ'sが注目されている証拠であり、奏夜は今まで以上に厳しいレッスンを行おうと考えていた。

 

「それよりも練習。どんどん時間なくなるわよ」

 

「お、真姫ちゃん。やる気満々にゃ♪」

 

「べっ、別に!私はとっととやってさっさと帰りたいだけ!」

 

「またまたぁ♪」

 

「そうだぞ。素直になれよ、真姫。昼休みだってこっそり練習してたんだろ?」

 

「あっ!それ凛が言おうと思ってたのに!」

 

奏夜は数日前に凛から聞いたことをそのまま話すのだが、知られたくないことをバラされた真姫はギョッとし、凛は少し膨れていた。

 

「あっ、あれはただ。この前やったステップがちょっと格好悪かったから、変えようとしてたのよ。あまりにも酷すぎるから」

 

「そうですか……。あれ考えたの私なんですが……」

 

「ヴェェ!?」

 

(アハハ……。海未のやつショック受けてるな……)

 

真姫はいつもの感じで照れ隠しをしていたのだが、そこでつい本音をもらしてしまい、それを聞いた海未がショックを受けてしまった。

 

真姫はそのことに驚き、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「……まぁまぁ、海未。元気出せよ。俺はあのステップは悪くないと思ったぜ」

 

「……」

 

奏夜は海未を元気づけようとフォローを入れようとしたのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

ブォン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「あべし!!」

 

海未は無言で奏夜に腹パンを繰り出すと、奏夜はその場にしゃがみ込んでしまった。

 

「……な、何で俺が殴られなきゃいけないんだよ……」

 

「すいません。あまりに腹が立ったので殴らせてもらいました」

 

「そ……それってただの八つ当たりじゃねぇか……」

 

「……もう一発殴ってもよろしいでしょうか?」

 

奏夜はゆっくりと立ち上がりながら、海未の理不尽をなだめようとしたのだが、海未は再び奏夜を殴ろうとしていた。

 

「……申し訳ございません。もう何も言いませんから勘弁してください」

 

奏夜は顔を真っ青にしながら怯えており、必死に謝罪をしていた。

 

「まぁ、それはともかくとして、気にすることないにゃ♪真姫ちゃんは照れくさいだけだよね?」

 

奏夜たちはこのようなやり取りをしながら屋上に続く階段を上がっていくのだが、ザーッと雨の音が聞こえてきた。

 

「……うわぁ、すごく降ってきたな……」

 

「土砂降りだよぉ……」

 

「梅雨入りしたって言ってたもんね」

 

奏夜たちがμ'sを結成したのが4月であり、それから時間が経って、現在は6月。

 

ことりの言う通り梅雨入りしており、しばらく雨が続くみたいである。

 

「それにしても降りすぎだよぉ!降水確率60%って言ってたのに…」

 

「いやいや、60%なら十分すぎるだろ」

 

「そうよ、降ってもおかしくないじゃない」

 

「でも、昨日も一昨日も60%だったのに降らなかったよ」

 

「まぁ、確率なんてそんなもんだろ」

 

どうやら連日降水確率が60%の日が続いていたのだが、今日は降ってしまったようである。

 

奏夜は今日に限って土砂降りなことに文句を言っている穂乃果をなだめ、真姫は、やれやれと肩をすくめていた。

 

すると……。

 

「あっ、雨が少し弱くなったみたいだよ」

 

「……おっ、確かに雨が弱くなったな」

 

どうやら先ほどまでの土砂降りから一転して、雨は弱くなっていた。

 

「うん!やっぱり確率だよ!良かった!」

 

「これくらいなら練習出来るよ♪」

 

雨が弱くなったのが嬉しいのか、穂乃果と凛が扉を開けて屋上の中に入った。

 

「ですが、下が濡れていて滑りやすいのでは」

 

「海未の言う通りだ。流石に危ないと思うがな」

 

「それに、またいつ降り出すか……」

 

奏夜や海未の心配通り、こんな天気であるため、また急に降り始めてもおかしくはない。

 

「「大丈夫だよ♪」」

 

穂乃果と凛はこちらの心配をよそに屋上を走り回ったり跳ねたりしている。

 

これを見て奏夜とキルバは確信していた。凛も穂乃果と同類なのだと。

 

《やれやれ……。穂乃果も凛も随分と単純だな……》

 

(まぁまぁ、そう言うなって)

 

奏夜もキルバの言葉に賛同していたのだが、このようになだめていた。

 

「ほらほらみんな、これくらいなら練習出来るよ♪」

 

「うーっ、テンションあがるにゃあ!」

 

凛が前方宙返りを決め、楽しそうにターンを決めていた。

 

「へぇ……」

 

『凛のやつ、思ったよりも運動神経が良いみたいだな』

 

「あぁ。これには俺も驚きだよ」

 

奏夜とキルバは、凛の予想以上の運動能力に驚いていた。

 

運動が好きということは知っていたが、ここまでの動きが出来るとは思わなかったからである。

 

奏夜たちは驚きながらも凛を見ていると凛は綺麗にポーズを決めるが、それを嘲笑うかのように雨が急に降ってきた。

 

「おぉ!PVみたいで格好いい!」

 

「穂乃果よ、こんな状況でそんな事言ってる場合かよ……」

 

穂乃果は目を輝かせながら雨で濡れる凛を見ていたのだが、奏夜はそんな穂乃果に呆れていた。

 

「私帰る」

 

「わっ、私も今日は……」

 

「そうね、また明日にしよっか」

 

この雨だと屋上では練習は出来ないため、この日の練習は中止せざるを得なかった。

 

「ええっ、帰っちゃうの!?」

 

「それじゃ凛たちが馬鹿みたいじゃん!」

 

「「馬鹿だろ(なんです)」」

 

奏夜と海未のツッコミが綺麗に決まった。

 

ここまで綺麗にツッコミが決まったことに、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「ほら、風邪ひくからタオル使いなよ」

 

奏夜はすぐ我に返ると、少し大きめなタオルを穂乃果と凛に渡した。

 

「そーくんありがとう♪」

 

「ありがとうだにゃ♪そーや先輩ってまるでマネージャーみたいにゃ♪」

 

「いや、マネージャーだから……」

 

マネージャーじゃなければ自分はなんだと言うのか。

 

そんなことを思っていた奏夜は苦笑いをしていた。

 

「それよりも、これからずっと雨が続くとなると練習場所をなんとかしないといけませんね……」

 

「そうだな……。屋上で練習してる手前、代わりの場所をなんとかしないといけないよな……」

 

「体育館とか駄目なんですか?」

 

「講堂も体育館も他の部活が使っているので……」

 

「そうなんだよな……。空いてる教室でも使えればいいんだけど……」

 

1人で考えてても仕方ない。そう考えていた奏夜は、穂乃果たちと共に学校を後にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

この日の練習は中止になり、奏夜たちは某ファストフード店に来ていた。

 

練習出来ないのであれば、今後のことを話し合おうという海未の提案からである。

 

奏夜は自分の注文を済ませ、すでに待っている穂乃果たちのもとへ向かおうとするのだが……。

 

「……?」

 

何かに気付いた奏夜は、足を止めて、その方向を見ていた。

 

《おい、奏夜。いったいどうしたんだ?》

 

(……なぁ、キルバ。そこに立ってる頭にソフトクリームのような何かを被ってる奴なんて幻覚だよな?)

 

奏夜が見かけたのは、サングラスをかけており、頭にソフトクリームのような帽子を被っている人物だった。

 

(……しかも、それを見た子供が食べ物屋で言うには相応しくない言葉を使ってるけど、それも気のせいだよな?)

 

その人物の格好はあまりに目立つのか、子供に指を指され、食べ物やで言うことは相応しくない言葉を浴びせられて慌てていた。

 

《……確かに認めたくはないよな。お前は最近疲れてるみたいだからな……》

 

(……あぁ、そういうことにしておくよ)

 

とりあえずその人物をスルーすることに決めた奏夜は、そのまま穂乃果の隣に座ると穂乃果はジト目でポテトを頬張っていた。

 

「穂乃果、ストレスを食欲にぶつけると大変なことになりますよ?」

 

(まぁ、要するに太るぞってことだよな)

 

《奏夜。間違ってもそれは言うなよ》

 

(わかってるって。じゃないと海未の拳が飛んできそうだからな)

 

奏夜は余計な被害に遭いたくないという気持ちがあったからか、思ったことを言わずに黙っていた。

 

「……雨、何でやまないの?」

 

「わっ、私に言われても……」

 

「それに、天気なんて人の力でどうこうできるものじゃないだろ」

 

「むぅ……。それはわかってるけどさ、練習する気満々だったのに、天気ももう少し空気呼んでくれてもいいよね」

 

「穂乃果の気持ちはわかるけど、無茶言うなよ……」

 

天気に対して無茶ぶりをしている穂乃果に、奏夜は呆れていた。

 

「穂乃果ちゃん。今予報を見たら明日も雨だって」

 

ことりがこう言いながら花陽とこちらにやって来て、2人は空いている席に腰をおろした。

 

「えぇっ?」

 

穂乃果ががっかりしており、奏夜はそんな穂乃果の方を見ようとしたのだが……。

 

「……?」

 

奏夜は違和感を感じたからか、壁を隔てた隣の席の方を見ていた。

 

《……おい、奏夜》

 

(キルバも感じたか。今、そこの隙間から手が伸びて穂乃果のポテトを掻っ攫っていったよな?)

 

《やれやれ……。白昼堂々何をしてるんだか……》

 

奏夜とキルバは、空いている隙間から何者かが穂乃果のポテトを盗み食いする様を見逃さなかった。

 

(今回は見逃してやるが、次はないぞ)

 

このような事例は現行犯でなければ意味がないため、奏夜はひとまず様子を見ることにした。

 

そんなこととはつゆ知らず、穂乃果は少なくなったポテトを頬張り、さらにポテトを取ろうとしたところで異変に気付いたようだ。

 

「あれ?無くなってる…。海未ちゃん!食べたでしょ?」

 

「おいおい、向かいの奴が堂々とそれやってもバレるだけだろ」

 

「奏夜の言う通りです。自分で食べた分も忘れたんですか?」

 

穂乃果に変な言いがかりをされてしまい、海未は少しだけむすっとしているようだった。

 

そんな中、再び隙間から何者かの手が伸びると、今度は海未のポテトの中身をかっさらっていった。

 

奏夜その様子を現行犯で捕まえようとしたが、予想以上に相手の動きが早く、間に合わなかった。

 

《……やれやれ……。本当に大胆な奴だな……》

 

(まったくだ。今度は逃さないからな)

 

先ほどは現行犯を抑えられなかったため、今度こそは捕まえようと奏夜は考えていた。

 

そして、海未もすぐにポテトの中身の異変に気付いたようである。

 

「あれ?穂乃果こそ!」

 

「わ、私は食べてないよ!」

 

このままでは食べた食べてないという不毛な言い争いが続きそうだったので……。

 

「ほら、喧嘩しないでこれを2人で分けろ。それでいいだろ?」

 

奏夜はまだほとんど口をつけていないLサイズのポテトを穂乃果と海未に差し出した。

 

「そーくん、ありがとう♪」

 

「すいません、奏夜」

 

奏夜は時々穂乃果たちとこのファストフード店に来るが、穂乃果はその度によく奏夜のポテトを勝手に持っていったりしていた。

 

今回もそうだろうと思って頼んだポテトをLサイズにしたのが、不幸中の幸いとなってしまった。

 

「それよりも練習場所でしょ?教室とか借りられないの?」

 

穂乃果と海未が落ち着いたところで真姫が本題を切り出した。

 

「うん、先生に聞いてみたんだけど、ちゃんとした部活じゃないと許可出来ないって」

 

「そうなんだよね…。部員が5人ちゃんと部の申請をして部活に出来るんだけど…」

 

「そうなんだよな……。5人集めないと……」

 

奏夜は深刻な表情で、新入部員をどう集めるべきか考えていたのだが……。

 

《……おい、奏夜》

 

(?どうした、キルバ?)

 

《部員が5人必要と言っていたな?だったら、花陽が加入した時点でそれはクリアされてるんじゃないのか?》

 

「!!」

 

奏夜はキルバに言われるまでこの事実に気付かなかったようであり、キルバはそんな奏夜に呆れていた。

 

「なぁ、5人だったらもう集まってるよな?」

 

今のμ`sは奏夜を入れて7人いるため、部活申請に必要な人数はクリアしていたのである。

 

《……おいおい、この2週間。散々番号を言いまくってたのに、何で番号言った時点で気付かなかったんだ?》

 

キルバの指摘はもっともであり、この問題はもっと早く気付いていてもおかしくはない問題であった。

 

(しまったな……。俺としたことが迂闊だったよ……)

 

奏夜は今までこの事実に気付くことが出来なかったため、苦笑いをして誤魔化していた。

 

そして、穂乃果たちもまた、今いる人数を数えてようやく5人以上いることに気付いたようである。

 

「そうだ!忘れてた!部活申請すればいいんじゃん!」

 

「忘れてたんかーい!」

 

(……ん?今俺らじゃない誰かがツッコミを入れたような……)

 

《はぁ……。最早ツッコミを入れるのも馬鹿馬鹿しくなってきたぞ……》

 

キルバは、ツッコミを入れた人物がわかっていたのだが、最早それを言うことすら馬鹿馬鹿しいと思っていた。

 

穂乃果たちは、ツッコミを入れた人物が誰なのか気になったのか、隣を覗こうとしている。

 

しかし、その人物を特定することは出来なかった。

 

「忘れてたってどういうことなの?」

 

「いやぁ、メンバー集まったら安心しちゃって……」

 

「はぁ……。この人たち駄目かも……」

 

真姫は、こんな重要なことをすっかり忘れていた穂乃果たちに呆れ果てていた。

 

「まぁまぁ、そう言うなって」

 

「あんたも入ってるの!」

 

「なんと!」

 

真姫は、奏夜も頭数に入れており、奏夜はそのことを驚いていた。

 

しかし、奏夜もマネージャーのくせに人数把握が出来てない時点で何も言うことは出来ないのである。

 

「よし、早速部活申請しよう!そしたら部室がもらえるよ!」

 

奏夜は、そこまで事が思い通りに進まないような気がしていたのだが、それを言ってしまうとキリがないため、やめておいた。

 

「はぁ、ホッとしたらなんだかお腹が空いてきちゃった♪」

 

穂乃果はハンバーガーに手を伸ばそうとしたその時、隣から伸びた手が穂乃果のハンバーガーを掴んでいた。

 

今度は決定的瞬間だし、誰の目からも明らかな光景であった。

 

あまりにわかりやすい光景に、奏夜が犯人を捕まえようとしていたのだが、その前にハンバーガーに手を離していた。

 

そしてその人物らこっそり逃げようとしてるが、それを奏夜が許すはずはなかった。

 

「おい、ちょっと待てよ」

 

奏夜は相手の退路を塞いで逃げられないようにしたのだが……。

 

「……先輩……。いくら上級生だからってやっていいことと悪い事がありますよ」

 

奏夜が捕まえたのは穂乃果たちに解散しろと言ったりして、何かとμ'sに因縁を付けてくる矢澤にこだった。

 

「ちょっとあなた!」

 

奏夜がにこを抑えているうちに、穂乃果も反対方向からにこを捕まえた。

 

「あんた!解散しろって言ったでしょ?」

 

「か、解散!?」

 

そう言われたのは話していたのだが、何故か花陽は驚いていた。

 

「そんなことより食べたポテト返して!」

 

「「そっち!?」」

 

今はそんな話をしている時ではないため、奏夜と花陽が同時にツッコミを入れていた。

 

「あーん」

 

ポテトを返せと言われたにこはあーんと口を開けた。

 

すでに食べた後だったため、返せと言われても出来ない相談となってしまった。

 

「買って返してよ!」

 

「穂乃果、後でポテト買ってやるからちょっと黙っててくれ」

 

奏夜は話が進まないのでとりあえず穂乃果を黙らせた。

 

「あんたたち、ダンスも歌も全然なってない!プロ意識が足りないわ!」

 

「プロ意識ねぇ……。確かに歌もダンスもまだまだだけど、先輩が言うことですかね?」

 

奏夜はダンスのコーチとして、穂乃果たちの練習を見てきたのだが、未だに穂乃果たちの実力を認めていなかった。

 

今の穂乃果たちのレベルに合わせたレッスンを行っているため、にこのハッキリとした物言いが、奏夜は気に入らなかった。

 

「あんたたちがやってるのはアイドルへの冒涜、恥よ。とっとと辞めることね」

 

「へぇ……。言ってくれるじゃんか……。だけどな、そこまで言われて、俺が黙ってるとは思うなよ!」

 

奏夜はにこの言葉が許せないと思ったのか、まるでホラーを睨みつけるかのような鋭い目付きで、にこを睨みつけていた。

 

「うっ……!!」

 

μ'sに対して強気の態度を取っていたにこも、奏夜の怒りに満ちた表情に少しばかり怯えていた。

 

「……そーくん」

 

こんなところでこんな怖い顔をするのはいただけないと思った穂乃果は、奏夜の肩に手を置くと、首を横に振っていた。

 

「わかったよ……」

 

奏夜はにこの発言は許せなかったが、渋々怒るのを辞めていた。

 

それに安堵したにこは、まるで逃げるようにファストフード店を後にした。

 

「奏夜。私たちのために怒ってくれるのは嬉しいですが、場所はわきまえてください。他のお客さんが怖がっています」

 

海未がこのように奏夜をなだめるように、にこを睨みつけていた時の奏夜の顔はかなり怖かったからか、周囲の客が怯えた表情で奏夜のことを見ていた。

 

「ごめんごめん、色々言われてつい……」

 

奏夜は戯けた表情で笑うと穂乃果たちだけではなく、周囲の客もホッとしたようだ。

 

とりあえず明日生徒会室に行き、改めてアイドル部の申請用紙を提出しようとの話になったところで、この日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後、奏夜たちは生徒会室に行き、アイドル部の申請に来たのだが……。

 

「アイドル研究部?」

 

「そう。既にこの学校にはアイドル研究部というアイドルに関する部活が存在します」

 

どうやら、この音ノ木坂学院には、奏夜たちが設立しようとしているアイドル部と似ている部活があるみたいだった。

 

(なんてこった……。まさか嫌な予感はしてたけど、それがマジになるとは……)

 

奏夜はアイドル部と似ている部活があるかもしれないと嫌な予感を抱いていたのだが、その予感があたり、頭を抱えていた。

 

「まぁ、部員は1人やけど」

 

「えっ?でも部員は5人以上必要だってこの前……」

 

「設立する時は5人必要やけど、その後は何人になってもいいって決まりなんや」

 

(なるほど……。そしたら設立した時は5人いて、4人が辞めてしまっても部活として維持することは可能って訳か)

 

《たった1人で部活を行うとか、どうやらその部活は問題がありそうだな》

 

(そうかもしれないけど、そう言うなって)

 

「生徒の数が限られてる中、いたずらに部を増やすことはしたくないんです。アイドル研究部がある以上、あなたたちの申請を受ける訳にはいきません」

 

(まぁ、そうだよなぁ……)

 

今回ばかりは絵里の言葉が正論であり、奏夜はその言葉を認めざるを得なかった。

 

《……おい、奏夜。諦めるのは早いんじゃないのか?》

 

(確かにそうだよな。向こうは1人だって言っていたし、だとしたら……)

 

奏夜は部活設立を諦めかけた直後に1つ妙案を思いついたため、奏夜は笑みを浮かべていた。

 

「……これでこの話は終わり」

 

「……にしなくないので、そのアイドル部に直接話をつけさえすれば問題はないですよね?」

 

「その通りや。如月君は鋭いなぁ♪」

 

「ちょっと希!」

 

新しくアイドル部を作ることは認められないが、既にあるアイドル研究部と合併という形を取ることが出来れば、生徒会としても部として認めざるを得ないのである。

 

(したら向こうの部活を説得さえすりゃいいんだから、何とかなりそうだな……)

 

《まぁ、そう上手くいくとは思えないがな》

 

キルバは、たった1人のアイドル研究部の部員を説得するのは、並大抵ではないと予想していた。

 

「2つの部が1つになることは別に問題はないですもんね?」

 

「そうやね。せやから、部室に行ってみれば?」

 

「……わかりました。みんな、さっそくアイドル研究部の部室に行ってみるぞ」

 

奏夜たちは希にも薦められたこともあったからか、生徒会室を後にして、アイドル研究部の部室に行ってみた。

 

すると……。

 

「……あ、あんたたち……」

 

アイドル研究部の部室の前にいたのは、何かと奏夜たちを目の敵にしている矢澤にこだった。

 

にこは、思いもよらない訪問者に驚き、顔がピクピクと引きつっていた。

 

「……やっぱりあなたでしたか。アイドル研究部唯一の部員ってのは」

 

あそこまでμ'sのことを嫌ってたから、もしやと思っていたのだが、まさか本当にアイドル研究部の部員がにこだとは思わず、奏夜は苦笑いをしていた。

 

にこは奏夜たちの姿を見て固まっていたのだが、すぐに我に返っていた。

 

にこはまるで猫のようにこちらを威嚇したと思ったら部室に入ってしまい、鍵も掛けられた。

 

「へぇ、やってくれるじゃないか……」

 

どうやらにこは、こちらの話を聞かずに逃げようとしているみたいだった。

 

「凛、外から行って先輩を捕まえるぞ」

 

「了解にゃ♪」

 

奏夜は運動神経抜群の凛とともに外からにこを捕まえるために回り込むことにした。

 

「奏夜!あまり派手に動き回ってはいけませんよ!」

 

魔戒騎士である奏夜は、常人じゃない動きをしてしまっては目立ってしまうため、海未はこのように奏夜に警告をしていた。

 

「わかってるって!」

 

奏夜は海未の話をしっかりと聞いたうえで、凛と共に移動を開始した。

 

中庭に出た2人は、アイドル研究部の部室の窓を目指していた。

 

窓から入ろうと考えているからである。

 

そんな中、2人はアイドル研究部の部室の窓を見つけたのだが、にこは窓際にいた。

 

「待つにゃあ!!」

 

奏夜と凛が迫ってきたことに慌てたのかにこは窓から外に飛び出して逃げ出した。

 

先輩は必死に逃げるが、体力に自信のある奏夜と凛から逃げられる訳もなく、あっさりと凛に捕まった。

 

しかし……。

 

一瞬の隙をついて再び先輩は逃げ出してしまった。

 

「あっ!また逃げたにゃ!」

 

「へっ、逃がすかよ!」

 

奏夜たちは再びにこの追跡を開始した。

 

「……凛!俺は先回りをして先輩を待ち伏せするから、挟み撃ちにするぞ!」

 

「了解にゃ!」

 

奏夜は人が見ていないことを確認すると、大きくジャンプをしながら移動して、にこの進路を塞ごうと考えていた。

 

魔戒騎士である奏夜は、ホラーを追跡することはよくあるため、逃げる相手を追いかけるのは慣れていたのである。

 

にこは奏夜の姿が見えなくなったことに首を傾げながら、未だに追いかけてくる凛から逃げていた。

 

すると……。

 

「……先輩、逃がしませんよ」

 

前方から奏夜が現れて、にこの進路を塞いでいた。

 

しかし、奏夜はいきなり現れたため……。

 

「……!ちょっと!どいてどいて!!」

 

にこは急に止まることが出来ず、奏夜に突撃していった。

 

「……!!」

 

奏夜はにこを避けようと思えば避けられたのだが、ここで避けてしまっては再び逃げられると判断したため、避けられなかったのである。

 

こうして、にこは奏夜と衝突してしまい、ドスーン!と鈍い音が響き渡っていた。

 

「いてて……」

 

奏夜はすぐに我に返ると、そのまま起き上がろうとするのだが……。

 

「……!?////」

 

ぶつかった衝撃で、にこは奏夜に覆い被さる形でのしかかっており、こんな状態に奏夜は顔を真っ赤にしていた。

 

「……う、うん……」

 

少しの間気を失っていたにこは目を覚まし、起き上がるのだが……。

 

「……なっ!?」

 

何故か自分が奏夜に馬乗りになっており、にこは驚きを隠せずにいた。

 

この状態が恥ずかしくなってきたのか、にこの顔が徐々に赤くなっていき……。

 

「嫌ぁ!」

 

にこは奏夜に乗っかった状態で、奏夜の鳩尾に見事な正拳突きをお見舞いした。

 

「うわらばっ!!」

 

にこの正拳突きの効果は抜群であり、奏夜は妙な悲鳴をあげていた。

 

「……な、何やってるのよ!この変態!!」

 

にこは顔を真っ赤にしながら起き上がり、奏夜にこのような言葉を放っていた。

 

「痛たた……。そっちからぶつかってきたくせに……。しかも事故だろう?」

 

奏夜はにこに殴られた部分を優しくさすりながらゆっくりと立ち上がった。

 

奏夜と共ににこを追いかけていた凛は、先ほどのやり取りを見ていたようであり……。

 

「……これは、穂乃果先輩たちに報告しなきゃいけないにゃ」

 

凛はニヤニヤしながら、先ほどのやり取りを穂乃果たちに報告しようと考えていた。

 

「凛!頼むからやめてくれ!!」

 

奏夜は顔を真っ青にしながらこのように凛に懇願していた。

 

「黙っててもいいけど、今度ラーメンを奢ってほしいにゃ!」

 

「ラーメンでも何でも奢ってやるから!」

 

「交渉成立にゃ♪」

 

凛は、奏夜にラーメンを奢ってもらうことを条件に、先ほどのやり取りは見なかったことにした。

 

(やれやれ……。またまた始まったか……。奏夜のラッキースケベが……)

 

どうやら奏夜は、ラブコメの主人公のような属性を持っているようであり、キルバはそんな奏夜に呆れていた。

 

こうして、にこをどうにか捕まえた奏夜と凛は、にこを連れてアイドル研究部の部室に向かい、そのまま中に入ることを許されたのであった。

 

中に入れたのは良かったのだが、本当の戦いはこれからである……!

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ。人間とは本音を隠さなきゃいけない生き物なんだな。そんな面倒なこと、俺は絶対に無理だがな。次回、「本音 前編」。ぶつかり合う言葉と言葉!!』

 

 




奏夜キャラ崩壊(笑)

今までもそんな描写があったとは思いますが、ここまでのキャラ崩壊は初めてだったと思います(笑)

そして、さらに発動した奏夜のラッキースケベ。これはまたどこかで発動するのか?

さりげなく奏夜と取り引きをして、ラーメンを奢ってもらう約束を取り付けた凛のちゃっかりさ(笑)

凛も奏夜の扱いがわかってきたんだと思います。

さて、次回はまた前後編の話となっております。

本来であれば1話でまとめたかったのですが、文字数が凄いことになりそうだったので、前後編にさせてもらいました。

今回、どうにかアイドル研究部の部室に入る許可を得た奏夜たちですが、にことの交渉は上手くいくのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第17話 「本音 前編」

お待たせしました!第17話になります!

先日、FF14にて牙狼装備を手に入れたと報告しましたが、ようやく轟天をゲットしました!

轟天までの道のりは長かった……。

これからは銀牙や雷剛も狙っていこうと思っています。

さて、FFの話はここまでにしておいて、今回は前後編の話になっております。

奏夜はにこが何故μ'sを認めないのか、その本音を引き出すことが出来るのか?

それでは、第17話をどうぞ!




……ここは、東京某所にある噴水の見える広場。

 

現在は夜遅い時間であり、ここに大学生と思われる集団が集まっていた。

 

どうやら彼らは先ほどまで飲み会をしていたようであり、全員がへべれけになっていた。

 

そんな集団の先頭を歩いていたのは、2人の女性であり、この2人は仲の良い親友であった。

 

しかし、心の中にとあることを隠しているのだが……。

 

お互いそんなこととは知らなかったのだが、広場を歩いていると、突然赤い鼻をつけたピエロ風の男が現れた。

 

こんな夜中にピエロ風の男が現れることに、2人の女性は首を傾げる。

 

すると……。

 

『ねぇねぇ!2人共、2人はお互いのことをどれだけ知っているの?』

 

ピエロ風の男の左手についているパペットが急に喋り出していた。

 

『親友って言っても知らないことはいっぱいだよね』

 

今度は右手のパペットが喋り出し、2人の女性は唖然としていた。

 

『そうだ!このピエロ!すごい力があるんだって!』

 

『どんな力なの?』

 

『人間の心の声、本当の声が聞けるんだよ!』

 

『おいおい、本当かよ?』

 

『嘘だと思うなら、この赤い鼻に注目!!』

 

左手のパペットがこう話すと、ピエロ風の男の鼻が赤く光り、2人の女性はその光に見入っていた。

 

それから間もなくすると……。

 

「……アハハハハ!!」

 

女性Aがまるで気が狂ったかのように高笑いをすると、隣にいた女性を殴り飛ばし、胸ぐらを掴んだ。

 

「ちょっとアンタ!!何あたしの彼氏と浮気してるのよ!!」

 

「アハハハハ!!何でって、金のために決まってんじゃない!!じゃなかったら何であんなボンクラ男なんかと!」

 

「なんですって!」

 

「まぁ、あんたにはそんなボンクラ男がお似合いかもしれないわね。あんな男、金目当てじゃなかったら絶対に寝れないしね」

 

「ふざけるんじゃないわよ!!」

 

女性Aの彼氏と浮気をしたことを認めた女性Bはこのように本音を明かしていた。

 

そんな女性Bの本音に腹を立てた女性Aは、再び女性Bの顔を殴り、それをまともに受けた女Bも、負けじと殴り返していた。

 

彼氏を寝取られた女性Aは、再び女性Bを殴り飛ばすと、そのまま馬乗りになり、渾身の力を込めて女性Bの首を締めていた。

 

しかし、やられっぱなしでは済まされなかったのか、首を締められている女性も、反撃と言わんばかりに女性の首を締めていた。

 

そんな2人の只ならぬ雰囲気に他のメンバーが慌てて止めに入るのだが、その前にピエロ風の男が現れて、全員が男に注目していた。

 

『君たちも、赤い鼻に注目!!』

 

ピエロ風の男のつけている左手のパペットがこう宣言すると、再び男の赤い鼻が怪しく光りだした。

 

それを全員が注目してしまい……。

 

「アハハハハ!!」

 

今度は眼鏡をかけた細身の男性が高笑いをすると、隣にいた小太りの男の胸ぐらを掴んでいた。

 

「てめぇ!!俺の女に手を出しやがったな!このくそデブが!!」

 

「はぁ!?誘ってきたのはあっちからだっつうの!じゃなかったら、誰があんなブサイク女と!アハハハハ!!」

 

「言いやがったな、この野郎!!デブのくせにチャラチャラしやがって!!」

 

「お前が色々と貧相なんだよ!このもやし男!!」

 

「てめぇ!この野郎!!」

 

互いに罵り合っている2人の男性は、やがて殴り合いを始めていた。

 

「誰がブサイク女よ!!このクソ豚野郎!!」

 

それだけではなく、小太りの男性にブサイクと言われた女性Cは、その言葉に激昂し、2人の男性の殴り合いに介入していた。

 

「てめぇら、結局俺の金目当てじゃねぇのか、この薄汚い豚共が!」

 

続いて、女性Aと付き合っている背の高い男性が、2人の本音に激昂すると、2人の殴り合いに介入し、2人を一方的に攻撃していた。

 

ただ殴るだけでは飽き足らず、腹に蹴りを叩き込んだり頭突きをお見舞いしたりとやりたい放題であった。

 

「アハハハハ!!」

 

そんな中、女性Dが、チャラそうな男性の態度に腹を立て、一方的に攻撃をしていた。

 

こちらも殴るだけではなく、蹴りを放ったり、首を絞めたりと殺す気満々な感じであった。

 

女性の首を絞める力はかなりのものであり、男性は口から泡を吹いていた。

 

こうして、ここにいる全員が同じように本音をさらけ出すと、見るに耐えない凄惨な乱闘が行われていた。

 

ピエロ風の男は、そんな若者たちを煽るかのように、楽しみながらその周囲を跳ねて回っていた。

 

しばらくの間、凄惨な乱闘が続き、広場に静寂が戻るのだが、そんな広場には、先ほどまで凄惨な乱闘を行っていた若者たちの死体が転がっていた。

 

どうやら今回の乱闘によって全員が命を落としてしまうという結果になってしまった。

 

『おいおい……。みんな死んじゃったよ』

 

ピエロ風の男は、死体の山の中央に立つと、右手のパペットが口を開いた。

 

すると、男は両手のパペットを一度しまうと、2本の棒を取り出し、それをそれぞれの手に持っていた。

 

すると、男は死体を太鼓のように叩くと、死体の体が変化し、大きな玉と変わってしまった。

 

男は全ての死体を玉へと変えてしまい、その玉を使って遊んでいた。

 

そして、しばらく遊んで満足したのか、玉を1箇所に集めると、1つずつその玉を口へ運び、一部だけ変化した巨大な口で丸呑みしていた。

 

そこにいた全ての死体を喰らって満足したのか、ピエロ風の男は、その場に寝転んでいた。

 

『それにしても、馬鹿だね、人間って』

 

『本当に馬鹿だよな』

 

人間を喰らう時に使った棒をしまったピエロ風の男は、再び両手にパペットをつけると、パペットたちはこう語り出し、高笑いをしていた。

 

食事を大量に取り、満足したピエロ風の男は、その場から姿を消し、この広場には凄惨な乱闘があったとは思えない程の静寂がその場を支配していた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

音ノ木坂学院に誕生したスクールアイドルグループ「μ's」が6人になって、2週間が経過した。

 

奏夜たちの活動は未だに部活動として認められていなかったのだが、奏夜たちは7人で活動しているため、部活動設立に必要な数は満たしていた。

 

そのため、改めて部活動設立の申請を出そうとしたのだが、この音ノ木坂学院にはすでにアイドル研究部という部が存在している。

 

だから同じような部活を作ることは認められないと言われてしまったのであった。

 

奏夜たちは既に存在するアイドル研究部の部室へと赴き、話をつけようとしたのだが、アイドル研究部唯一の部員は、何かとμ'sを目の敵にしていた矢澤にこであった。

 

にこは奏夜たちを中には入れたくないようであり、中に閉じこもっていたのだが、奏夜と凛が回り込み窓からの侵入を試みた。

 

しかし、それを察したにこに逃げられてしまうのだが、すぐににこを捕まえ、どうにかアイドル研究部の部室へと入ることが許される。

 

渋々奏夜たちを中に入れることを許したにこであったが、この状況が気に入らなかったのか、ぷぅっと頬を膨らませていた。

 

このアイドル研究部の部室には、A-RISEはもちろんのこと福岡のスクールアイドルのポスターが貼ってあった。

 

そこは、流石はアイドル研究部と感心させる程である。

 

「凄いですね、校内にこんなところがあるなんて」

 

「勝手に見ないでよね」

 

にこが膨れっ面なままこう言っていたのだが、部室を見回していた花陽が何かを発見したようだ。

 

「こっ、こここ……これは……!!」

 

「花陽?どうしたんだ?」

 

「で、伝説のアイドルDVD!全巻ボックス!持ってる人に初めて会いました!」

 

花陽は、思いもよらぬものが見つかったようであり、目をキラキラと輝かせている。

 

「そ、そう?」

 

「すごいです!」

 

「ま、まぁね…」

 

花陽の豹変ぶりに、にこも少しばかり困惑していた。

 

「なぁ、花陽。それってそんなにすごいのか?」

 

「知らないんですか!?」

 

花陽がそう言って奏夜に詰め寄って来たのだが、顔が近かったため、奏夜は頬を赤らめていた。

 

そんなことなど気にせず、花陽はこのDVDの説明を始めた。

 

「伝説のアイドル伝説とは、各プロダクションや事務所、学校などが限定生産を条件に歩み寄り、古今東西の素晴らしいと思われるアイドルを集めたDVDBOXで、その希少性から伝説の伝説の伝説……略して「伝伝伝」と呼ばれる、アイドル好きなら誰でも知ってるDVDBOXです!」

 

花陽はかなりの早口でこの説明を行っており、いつもの大人しい花陽はどこかへ行ってしまったようだった。

 

「は、花陽ちゃん、キャラ変わってる……」

 

花陽は、アイドルのことになると饒舌になるみたいなのだが、そのことに穂乃果は困惑していた。

 

「通販ネットともに瞬殺だったのにそれを2セットも持っているなんて!尊…敬!」

 

「家にもうワンセットあるけどね」

 

「!?」

 

「本当ですか!?」

 

《やれやれ……。金の無駄遣いでしかないだろうに……》

 

奏夜は、希少価値があるとはいえ、同じDVDBOXを3つも所持しているにこに驚き、その価値を理解出来ないキルバは呆れていた。

 

《……なぁ、奏夜。よく見たらあのDVDBOXとやら、番犬所に置いてなかったか?》

 

(……!そういえばそうだ!どっかで見たことあるパッケージだと思ってたんだけど、あれってそんなに貴重品だったんだな……)

 

翡翠の番犬所の神官であるロデルは、スクールアイドルを始め、アイドルにハマっているのだが、どうやらにこの持っている通称「伝伝伝」を持っているようだった。

 

《ロデルのやつ、どうやってあれを入手したんだか……》

 

(アハハ……。確かに)

 

翡翠の番犬所には、どうやって電源をつないでいるかわからないパソコンがあり、それが謎だったのだが、また1つ大きな謎が見つかり、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「じゃあみんなで見ようよ!」

 

「ダメよ。それは保存用」

 

「ほ、保存用って……」

 

どうやらこのアイドル研究部に置いてあるのは保存用らしく、そのことに奏夜は苦笑いをしていた。

 

「あうぅ!で、伝伝伝……」

 

花陽はよほどこのDVDを見たいと思っていたのか、本気でガッカリしていた。

 

そんな中、ことりが何かを発見し、それをジッと見つめていた。

 

「ことり、何か気になるものでも見つけたのか?」

 

「へっ?えっと……」

 

「あぁ、気付いた?アキバのカリスマメイド「ミナリンスキー」さんのサインよ」

 

「ミナリンスキー?聞いたことないな」

 

奏夜は、初めて聞く名前だったからか、首を傾げていた。

 

(それにしてもどうしてことりはこのサインをここまで気にしてるんだ?)

 

《さぁな。もしかしたら、ことりがその本人なのかもしれないぞ》

 

(アハハ……。それはないって。まぁ、一応聞いてみるかな?)

 

キルバは、冗談半分でこのようなことを言っており、奏夜は苦笑いしつつもことりに聞いてみることにした。

 

「ことり、そのミナリンスキーっていうメイドさんのこと知ってるのか?」

 

「へっ!?べ、別に……」

 

「まぁ、ネットで手に入れたものだから本人の姿は見たことないけどね」

 

(なるほど。正体不明のカリスマメイドってやつか……。それはちょっと興味があるかも……)

 

《やれやれ……》

 

ミナリンスキーと呼ばれるメイドに興味を持つ奏夜に、キルバは呆れていた。

 

そんな中、ミナリンスキーの正体はわからないと聞いた途端、ことりがホッとしており、キルバはそれを見逃さなかった。

 

(……?ことりのやつ、何故ホッとしてるんだ?……まさかな……)

 

キルバは心の中で、ミナリンスキーの正体を察していたのだが、ここはあえて黙っていることにした。

 

「それで、何しに来たの?」

 

ここに来て、ようやくにこは本題を切り出してきた。

 

奏夜たちは本題を切り出すために、全員椅子に腰を下ろし、にこは既に自分の定位置であると思われる窓側の中央の席に座っていた。

 

「アイドル研究部さん」

 

「にこよ」

 

穂乃果は交渉を開始するのだが、奏夜たちはここで初めてにこの名前を知ったのである。

 

にこの名前を聞いた奏夜は、にこが自分のことを名前で呼んでいたことを思い出していた。

 

「にこ先輩。実は私たちスクールアイドルをやっていまして」

 

「知ってる。どうせ希に部にしたいなら話をつけてこいとか言われたんでしょ?」

 

どうやらにこは、奏夜たちの話を察していたようだ。

 

そのため、交渉は早く済むと思われたのだが……。

 

「おぉ、話が早い。だったら……」

 

「お断りよ」

 

「え?」

 

「お断りって言ってるの!」

 

にこは、奏夜たちの提案を聞かずに断っていた。

 

奏夜たちのアイドル部とにこのアイドル研究部を1つにしようと交渉するつもりなのはわかっているが、それをにこは認めたくはなかったのである。

 

(……くそっ、やっぱりダメなのか……!)

 

《……まぁ、アイドル研究部の部長があのお嬢ちゃんだってわかった時点でそんな気はしてたけどな……》

 

奏夜もキルバも、アイドル研究部の部長がにこと知った途端、断られるのではないかと予想はしていたのである。

 

「いや、あの……」

 

「私たちはμ`sとして活動出来る場が必要なだけです。なのでここを廃部にして欲しいとかと言うわけではなく……」

 

「お断りって言ってるでしょ!?」

 

海未も説得に加わるのだが、どうやらにこは聞く耳を持たないようである。

 

「にこ先輩。それって、μ'sがアイドルを冒涜してる。そう思ってるからですか?」

 

「そうよ!あんたたちはアイドルを汚してるの」

 

「先輩、いったい俺たちの何がダメなんです?先輩だってμ'sのこと見てたなら必死に練習してたのは知ってるはずです」

 

奏夜はにこの口から直接、μ'sのダメなところを聞き出そうとしていた。

 

それもわからず一方的に断られるのも面白くないからである。

 

「そういう事じゃないのよ」

 

(……ん?どういう事だ?)

 

どうやらにこが言いたいのは練習量がどうとかという訳ではなさそうだった。

 

「……あんたたち、ちゃんとキャラ作りしてるの?」

 

『キャラ?』

 

にこの思いもよらない唐突な言葉に、全員が同じ声をあげて首を傾げていた。

 

「そう!お客さんがアイドルに求めるものは楽しい夢のような時間でしょ?だったら、それに相応しいキャラってものがあるの」

 

「……なるほど、それは一理あるな」

 

アイドルについて未だにわからないところがある奏夜は、にこの言葉に納得をしていた。

 

誰よりもアイドルらしくキャラを作る。それも大事なことだと思ったからである。

 

「まったく……。しょうがないわね……」

 

にこはどうやらお手本を見せてくれるようだった。

 

奏夜たちは真剣な表情でにこに注目をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にっこにっこに~♪あなたのハートににこにこに~♡笑顔届ける矢澤にこにこ~♪にこにーって覚えてラブにこっ♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…….」

 

奏夜は、思いもよらないにこのキャラクターに唖然として言葉を失っていた。

 

(こ、これは……なんていうか……)

 

《あえて言わせてもらおう。これはナシだと》

 

困惑する奏夜を後目に、キルバは本音でにこのキャラに拒否反応を示していた。

 

奏夜だけではなく、穂乃果はたちもまた、にこのキャラに困惑しているのかポカーンとしていた。

 

「….…どう?これがアイドルらしいキャラってもんよ」

 

「えっと……」

 

「これは……」

 

「キャラと言うか……」

 

奏夜を除く2年生組はリアクションに困っていた。

 

ハッキリとした物言いをしてしまうと、ただでさえ難航している交渉に影響すると思ったからである。

 

そんな中……。

 

「……私無理」

 

「ちょっと寒くないかにゃ?」

 

「ふむふむ……」

 

真姫と凛は、自分の思ったことをハッキリと言っており、花陽は、それを参考にするからか、必死にメモを取っていた。

 

(おいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!真姫と凛!正直過ぎるだろ!俺たちが上手い具合に気を遣ってたのに!)

 

《……ま、あれが普通の反応だろうな》

 

奏夜は、2年生組の気遣いをぶち壊すような真姫と凛の本音に心の中で抗議していた。

 

「……そこのあんた、今寒いって?」

 

にこは特に凛の発言が気に入らなかったからか、むすっとしながら凛を睨みつけていた。

 

「いや、すっごく可愛いかったです!最高です!」

 

(それはそれで白々し過ぎるだろ!逆に怒らせそうだけど……)

 

凛は慌ててフォローを入れるのだが、あまりに白々しく、逆効果ではないか?と奏夜は心配していた。

 

他のメンバーも総出で凛のフォローをしていたのだが……。

 

「……出てって」

 

(あっちゃあ….…。やっぱりこの展開になったか……)

 

こう言われることを奏夜は予想していたため、頭を抱えていた。

 

「話は終わりよ!出てってって言ってるの!」

 

(おっと、俺はここで追い出される訳にはいかないな)

 

奏夜はまだにこに聞きたいことがあったため、追い出されないように身を隠していた。

 

にこが奏夜以外の全員を追い出す中、奏夜は身を隠しながら穂乃果たちがが出て行く様を見守っていた。

 

「……ふぅ……」

 

全員を追い出したと思っていたにこは、一息ついていたのだが……。

 

「……にこ先輩」

 

奏夜はタイミングを見計らってにこの前に現れた。

 

「うぇ!?あ、あんた!出て行ったんじゃないの!?」

 

「すいません。俺、先輩に聞きたいことがありまして」

 

「……何?」

 

奏夜にも出て行って欲しいと思っていたにこは不機嫌そうだった。

 

「……今から俺が言うことはあくまでも俺の想像です。なので、今から言うことを肯定も否定もしないでいいです」

 

「わかったからとっとと話しなさい。そして話したらあんたもさっさと出てって」

 

「わかりました。……にこ先輩ってもしかして以前スクールアイドルをやってたんじゃないですか?それも、俺たちよりずっと前に」

 

「……っ!」

 

先輩の表情が変わった。

 

《……どうやらビンゴのようだな》

 

(これで、ようやくにこ先輩が俺たちのことを目の敵にしてたのかわかった気がするよ)

 

奏夜は、今までのにこの態度に疑問を持っていたのだが、その理由がハッキリしたような気がしていた。

 

「俺、疑問に思ってたんです。部の設立には5人必要なのに1人しかいないアイドル研究部。それを考えた時、先輩がスクールアイドルをやってたとなると合点がいくんです。何らかの事情で4人が辞めてしまい、先輩は1人になってしまった。だからこそ、スクールアイドルとして活躍し始めてるμ'sを認めたくないって」

 

「………」

 

奏夜の推理は図星なのか、にこは黙り込んでしまった。

 

「さっきも言いましたけど、言いたくないなら肯定も否定もしなくていいです。……それじゃあ、俺はこれで」

 

奏夜は言いたいことを話したため、このまま部室から出て行こうとしたが……。

 

「……待ちなさい」

 

にこが奏夜を引き止めたため、奏夜は驚きながらも足を止めた。

 

「まったく……。あんたの推理がだいたい当たってるもんだからびっくりしたわ。だから特別に話してあげる。何でこのアイドル研究部の部員がにこだけなのか」

 

「……はい」

 

少しだけの静寂の後、にこは語り始めた。

 

「……にこね、あんたの推理通り、スクールアイドルをやっていたの」

 

(やっぱり……。にこ先輩は過去にスクールアイドルをやってたんだな)

 

「にこが1年生の時、同じ学年の子と結成したのよ」

 

(同じ学年か……。ってことは先輩が卒業して1人になったって線は無くなったな……)

 

《そのようだ。それに、深刻な事情がありそうだ》

 

奏夜とキルバはこのように推測する中、にこは再び語り始めた。

 

「それでね……。にこ以外の4人が辞めてしまったの」

 

(……やっぱりそういうことか……)

 

「……私のアイドルとしての目標が高すぎたのかな?ついていけないって1人が辞めて2人が辞めて……。最終的にはにこだけになったって訳よ」

 

(……だからなんだな……。俺たちのことを認めようとしないのは……)

 

にこはたった1人の部員となってしまい、辞めることはせずに1人でこの部を守ってきた。そんなにこの孤独は計り知れないものであった。

 

それだけではなく、仲間に裏切られるのが怖いから俺たちを拒絶したのかも。

 

奏夜はこのように推察をしていた。

 

奏夜はにことの交流は少ないが、アイドルのことに関しては真剣な人だってことは理解していた。

 

そのため……。

 

「……なんだよ、それ……。アイドルをやるってことは、目標が高くあるべきだろ?それは当たり前じゃないか!それでついていけないって、そいつらアイドルをマジで舐めすぎだろ……!」

 

自分もスクールアイドルのマネージャーをしているため、奏夜は辞めていったにこ以外の4人に対して怒りを露わにしていた。

 

「……何であんたが怒ってるのよ」

 

「俺、にこ先輩との交流は少ないですけど、あなただって真剣にスクールアイドルをやってただろうと言うのはわかります。だからこそ、軽い気持ちでアイドルをやろうと思ってたその4人が許せないんですよ!」

 

「あ、あんた……」

 

「とりあえず、俺の聞きたいことは以上です。にこ先輩、話したくないだろうことを無理に話させてすいませんでした……。部活に関してはもう一度みんなともう一度話し合うつもりです。それじゃあ、俺は……」

 

「待ちなさい!」

 

奏夜は再び部室を出ようとするが再びにこに呼び止められた。

 

「….…どうしました?」

 

「あんた、名前は?」

 

「……如月奏夜です」

 

「……ありがとね、奏夜」

 

「え?どうしてお礼を?」

 

「にこがスクールアイドルやってたことを知ってる人は少ないけど、あんたはにこのためを思って怒ってたんでしょ?それが嬉しかっただけよ」

 

「そんな……。俺は一生懸命に取り組んでるのを馬鹿にするような奴が許せないだけですよ」

 

「……それでも…….ありがと」

 

「……はい」

 

俺は穏やかな表情で微笑みながら、部室を後にした。

 

(……あれ?穂乃果たちは先に帰ったのかな?)

 

奏夜はアイドル研究部の部室を出たのだが、そこには穂乃果たちの姿はなかった。

 

《まぁ、俺たちは勝手に残ってたからな。先に帰ってても仕方ないだろ》

 

(そうだな。とりあえず連絡は取ってみるか)

 

奏夜は穂乃果たちと連絡を取るために携帯を取り出そうとしたその時だった。

 

「……如月君。どうやらにこっちから色々聞けたようやな」

 

何故かここで待っていた希が奏夜に声をかけてきた。

 

「……あっ、東條……先輩」

 

希がこんなところで待っているとは思わず、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

《……奏夜。このお嬢ちゃんには気を付けろよ。ホラーではないが、色々と厄介みたいだからな》

 

(そういえば、統夜さんも言ってたっけ?生徒会の副会長には気を付けろよって)

 

統夜は、μ'sの初ライブを見るため音ノ木坂学院を訪れた時、希と出会ったのだが、希は統夜が普通の人間ではないのではないか?と推測していたからである。

 

統夜はそんな希相手にどうにか話を誤魔化しはしたものの、あともう少しで自分がただの人間ではないことがバレそうだった。

 

そのため、奏夜には、希に気を付けろと警告したのである。

 

「東條先輩。俺に何か用ですか?」

 

「うん。君に聞きたいことがあってな」

 

「?聞きたいこと?」

 

奏夜はおうむ返しのように言葉を返すのだが、希の問いかけに嫌な予感を感じていた。

 

希は一呼吸を置いてから、ゆっくりと語り始めた。

 

「……如月奏夜君。君は一体……何者なん?」

 

「!?」

 

希のあまりに単刀直入な問いかけに、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「な、何者って……。いったい何が言いたいんです?」

 

しかし、奏夜はすぐに冷静さを取り戻すと、淡々と言葉を返していた。

 

「……君がμ'sのマネージャーとして凄く頑張ってるのは知っているんよ。でも、君は他にも何かをしてるような気がしてなぁ。それも、とても危険なことを」

 

(……!!まさか、東條先輩は、俺が魔戒騎士としてホラーと戦っていることを察しているのか?)

 

《その可能性はありそうだ。どうやら、このお嬢ちゃんは魔戒騎士やホラーのことは知らないみたいだがな》

 

「……それに、君の事をカードで占うたびに毎回同じカードが出るんよ」

そう言いながら希は、1枚のタロットカードを取り出すと、それを奏夜に見せた。

 

「このカードは……騎士ですか?」

 

「そうや。このカードはソードの騎士。正位置なら、勇気を振り絞ることで成功に繋がるという意味なんよ。だけど、このカードはそういう意味やないような気がして……」

 

希は何度も奏夜のことを占ってみたのだが、決まってこのカードが出てきていた。

 

そのため、カード自体が奏夜は魔戒騎士だと告げているようにも思えたのである。

 

「この騎士というのは、君自身のことをカードが教えてくれてるような気がしてるんよ。何かから誰かを守る騎士。それが、この音ノ木坂のことなのか、別のことなのかはわからへんけど……」

 

(……なるほどな。そういうことか)

 

《あぁ、やはりお嬢ちゃんの占いで、俺たちの正体を察したって訳だ》

 

「それだけやないで。君と初めて会った時から不思議な雰囲気を感じるなぁと思ってたんよ。それに、君のしてるその指輪からも不思議な気を感じるしなぁ」

 

「!!」

 

どうやら希は、奏夜だけではなく、キルバの存在さえも感じ取ったようであり、奏夜は驚きを隠せずにいた。

 

「……なぁ、改めて聞くけど、君は何者なん?ただの高校生なん?それとも……」

 

希は改めて奏夜の核心を突くための質問をするのだが、奏夜はどう答えるべきかじっくりと考えていた。

 

そして……。

 

「……そこまで知ってしまったのなら、真実を知るのももうすぐかもしれませんね。だけど、それまでは俺は普通の高校生ってことにしておいて下さい」

 

奏夜は下手に隠したり誤魔化したりというのは希には通用しないと思ったからか、このような表現にとどめておいた。

 

「……まぁ、釈然とはしないけど、今日のところはそういうことにしておくわ」

 

「すいませんね。それじゃあ、俺はこれで」

 

希との話を早々に終わらせた奏夜は、逃げるようにその場を後にした。

 

「……」

 

そんな中、希は、奏夜がその場を後にする様子をジッと見つめていた。

 

「……なるほど、やはりそういうことやったんやな」

 

どうやら希は、奏夜の正体を察しているようであり、このように呟いていた。

 

その後、穏やかな表情で笑みを浮かべた希は、その場を後にした。

 

一方、逃げるようにその場を後にした奏夜は、そのまま番犬所へと向かうのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『なるほどな……。あのお嬢ちゃんがここまで思い詰めていたとはな。奏夜、こいつはなんとかしなきゃいけないぞ!次回、「本音 後編」。今明かされる、矢澤にこの本音!!』

 

 




初「にっこにっこにー」いただきました!

そして、にこが何故たった1人の部員になったかも明かされました。

奏夜がその話を聞いて怒ったのは、本気でにこのことを気遣ってのことだと思います。

そして、希が奏夜の正体について核心を突いてきました。

希に正体がバレるのも、時間の問題かもしれませんね。

それにしても、冒頭の乱闘シーンですが、牙狼に登場したあるホラーの回を参考にしました。

本来はもっと生々しい会話にしたかったのですが、あまり生々しいのも良くないと思ったので、あんな感じにさせてもらいました。

さて、次回は今回の続きとなっております。

にこが1人になった経緯を知った奏夜ですが、奏夜はにこの本音を引き出すことは出来るのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第18話 「本音 後編」

お待たせしました!第18話になります!

昨日は久しぶりに映画を見に行きました。たまには映画もいいもんですね。「ひるね姫」面白かった!

映画の話はともかくとして、今回は前回の続きとなっております。

奏夜は、にこの本音を聞き出すことは出来るのか?

さらに、今回は意外なキャラが登場するかも?

それでは、第18話をどうぞ!




奏夜たちは、μ'sの活動を正式な部として認めてもらうために、アイドル研究部と話をつけるべく部室へと向かった。

 

そのアイドル研究部唯一の部員は何かとμ'sを目の敵にしていた矢澤にこであり、奏夜たちの提案は聞く耳を持たず追い出されてしまった。

 

そんな中、奏夜は何故アイドル研究部の部員がにこだけになったのかを本人から聞き出し、彼女の心の中に抱えている闇を感じていた。

 

この日の夜、アイドル研究部の活動を終えたにこは、学校を後にして、家に帰ろうとしていた。

 

「……」

 

にこの表情は晴れやかなものではなく、俯きながら考え事をしていた。

 

(……あいつ……。にこがあれだけμ'sのことを否定してるのに、にこのために怒って……。いったい何なのよ……)

 

にこの考えているのは、奏夜のことであった。

 

奏夜はμ'sのことを否定されたにも関わらずにこの過去をまるで自分のことのように考えてくれた。

 

そんな風に思ってくれる人は、奏夜が初めてであった。

 

(……にこだって本当はわかってるわよ……。あの子たちはスクールアイドルとして力をつけているって)

 

にこは内心ではμ'sのことを認めてはいたのだが、自分は仲間に見捨てられてしまった過去があるからか、素直にμ'sのことを認めたくはなかったのである。

 

(……ま、そんなことを考えていても仕方ないわね……。今日はママがご飯を作ってくれてるとはいえ、早く帰らないと……)

 

にこは色々と思うところがあるのだが、考えるのをやめて、急いで家に帰ろうとしていた。

 

その時である。

 

「……?メール?」

 

にこの携帯に反応があったため、にこは携帯を取り出すと、メールをチェックした。

 

「……!」

 

そのメールの送り主は、にこにはついて行けないとアイドル研究部を辞めた部員の1人からであった。

 

そのメールには、「話したいことがあるから、◯△広場まで来て欲しい」という内容であった。

 

にこの本心を言えば、行きたくなかったのだが、話を聞くだけならと考えたからか、母親に遅くなると連絡を入れて、相手の指定してきた場所へと向かった。

 

およそ10分後、にこは指定された秋葉原某所にある◯△広場に到着したのだが、既にメールの送り主は到着しており、それだけではなく、元アイドル研究部員たちが勢ぞろいしていた。

 

「……ごめんね、矢澤さん。急に呼び出しちゃって」

 

「……話って何なの?」

 

話をしようとしているのは、かつて自分を裏切った者であるため、にこは不機嫌そうな態度を取っていた。

 

「私たちね、矢澤さんに謝ろうと思ってきたの」

 

「謝る?」

 

元部員Aからの思いがけない言葉に、にこは少しだけ驚いていた。

 

「……私たちが間違ってたのよ」

 

「私たちがちゃんと努力すれば、今、うちの学校で活躍してるμ'sくらいにはなれたのかな?って……」

 

「本当にごめんなさい……」

 

元部員B、C、Dもまた、にこに対して謝罪の言葉を送っていた。

おそらく、最近結成されたμ'sの人気が徐々に上がっていったことから、スクールアイドルに対して思うところがあったのだろう。

 

「……別にいいわよ。もう過ぎたことなんだし」

 

本当は許したくないと思っていたのだが、早く話を終わらせたかったため、一応は許す素振りをすることにしたのである。

 

「本当にありがとう!矢澤さん!!」

 

「ねぇ、お願いがあるんだけど」

 

「お願い?」

 

「うん!私たちをまた、アイドル研究部に……」

 

アイドル研究部に入れて欲しい。

 

そう元部員Cが言おうとしたその時だった。

 

『……ねぇ、それは君たちの本音なのかな?』

 

にこの背後から、ピエロ風の男が現れると、男の左手についているパペットが急に喋りだした。

 

「……!?しゃ、喋った!」

 

いきなり現れた男にも驚いていたのだが、にこたちは、パペットが喋りだしたことに驚いていた。

 

『この4人の本音、聞いてみたいな!』

 

『だよねだよね!だったらそこの4人!この人の赤い鼻に注目!!』

 

右のパペットがこう宣言すると、男の赤い鼻が怪しく輝き出し、アイドル研究部の元部員4人は、その光を見てしまった。

 

そして……。

 

「アハハハハハハ!!」

 

元部員Aが、いきなり気が狂ったかのような高笑いをしていた。

 

「アイドル研究部にもう一度入りたいなんて、冗談に決まってんでしょうが!!」

 

「!?な、何で……!?」

 

「あんたをからかうために決まってんでしょ!?あんた、からかい甲斐があるし」

 

「それに、あんたのキャラ……。うざいんだよね。そんなんで本当に人気が出るとか思ってるの?」

 

「あのμ'sとかいうのもクソみたいなグループだけど、あんたはもっと最悪だよね!」

 

そう言いながら元部員4人は一斉に笑い出し、4人の言葉が相当効いているのか、にこは失意に満ちた表情で膝をつきらうなだれていた。

 

「そ……そんな……!私が……私がやってきたことは……いったい……」

 

『おぉ、怖い怖い』

 

『これだけ言われちゃこいつも立ち直れないよね』

 

4人の容赦ない発言に、男の両手につけられたパペットたちも引き気味だった。

 

この4人がにこを呼び出したのは、本当に、アイドル研究部に戻りたいとにこに呼びかけて、それが嘘ですと言って、さらに彼女を追い詰めるためである。

 

ここまで酷い言いようはしないつもりだったが、ホラーの力によって本音を引き出されてしまい、ここまでの本音が出てしまったのである。

 

にこは、4人の容赦ない言葉に、涙が出そうになったのだが、必死に堪えていた。

 

それと同時に、この4人への憎悪が募り、それが陰我となろうとしていた。

 

『おぉ、凄い凄い』

 

『これだけの陰我なら、極上の餌になりそうだね』

 

どうやらホラーは、にこの憎悪を陰我に変えて、その状態のにこを喰らおうと考えていた。

 

にこがゆっくりと立ち上がり、4人に対して鋭い視線を送ろうとしたその時だった。

 

「……そんな言葉に惑わされるな!!」

 

「!?」

 

突如聞こえてきた言葉にハッとしたにこは、先ほどまで抱いていた憎悪のような感情が消え去ってしまった。

 

そんなにこの危機を救ったのは、茶色のロングコートの青年……奏夜であった。

 

奏夜は希と話した後、番犬所に向かったのだが、その時に指令を受けて、ここまで来たのである。

 

「……!奏夜……どうして……」

 

にこは、突然現れた奏夜に、驚きを隠せずにいた。

 

「話は後です。それよりもにこ先輩。早く俺の方へ来てください」

 

「……っ!」

 

奏夜の言葉を素直に聞き入れたにこは、逃げるような動きで奏夜にかけよっていた。

 

「あぁん!?誰だよ、てめぇは!!」

 

「あ!この男……さっき言ってたμ'sのマネージャーだよ!」

 

「あぁ、こいつが?」

 

「マネージャーとか言ってるけど、どうせ言葉巧みにメンバーとヤリまくってる最低野郎なんだろ?」

 

アイドル研究部元部員たちは、このような根も葉もない言葉で、奏夜を貶めようとしていた。

 

しかし……。

 

「……言いたいことはそれだけか?」

 

奏夜はこの4人の言葉がホラーの力によるものと事前に知っていたため、感情を乱すことはなかった。

 

「何スカしてやがんだ。腹立つな!」

 

「ねぇねぇ、みんなであいつをボコボコにしね?」

 

「いいねぇ!したらあいつも苦しめられるだろ?」

 

「やっちまおうぜ!」

 

どうやら、元部員4人は、言葉ではなく、実力行使で奏夜を排除しようとしていた。

 

「やれやれ……。仕方ないな……」

 

奏夜は自分を狙うために向かってくる4人に呆れながら、魔戒剣を取り出すと、それを抜いた。

 

「け……剣!?あんた、なんでそんな物騒なもんを!!」

 

「にこ先輩!目を閉じて耳を塞いでください!」

 

「はぁ!?」

 

「早く!」

 

「わ、わかったわよ!」

 

にこは奏夜の意図がわからないまま、目を閉じて、耳を塞いだ。

 

そのことを確認した奏夜は、魔戒剣をキルバの口に当てると、キルバの口で魔戒剣を摩擦させ、衝撃波を放った。

 

その衝撃波をまともに受けた4人は、その場で倒れ込み、気を失っていた。

 

「……な、なんなのよ……。!?」

 

にこは、ゆっくりと手を離し、目を開けるのだが、いつの間にか4人が気絶していることに驚いていた。

 

「ま、まさか、4人とも、死んで……!?」

 

「いや、この4人は気を失ってるだけですよ。とりあえず、俺の仕事が終わるまでお寝んねしてもらいます」

 

「し、仕事って……?」

 

「……そこにいるピエロを斬ることだ」

 

奏夜はドスの効いた低い声でこう答えており、にこは、そんな奏夜に一瞬だけ恐怖を感じていた。

 

すると、奏夜は魔戒剣を構えると、ピエロ風の男に向かっていき、魔戒剣を一閃するが、その一撃は、男にかわされてしまった。

 

『……お前、魔戒騎士か』

 

『面倒な奴が現れたな』

 

「?魔戒騎士?」

 

ピエロ風の男がつけている左手のパペットが言っていた聞き慣れない言葉に、にこは首を傾げていた。

 

「俺から言わせてもらえば、お前も相当面倒な奴だけどな」

 

奏夜は指令を受けた時には、既にキルバからホラーの情報を得ているため、目の前にいるピエロ風の男に対してこのような評価をしており、げんなりとしていた。

 

『魔戒騎士……。お前の本音も聞いてやるよ!』

 

どうやらピエロ風の男は、奏夜の本音も聞き出そうと考えたからか、赤い鼻の光を放ち、それを奏夜に浴びせたのである。

 

「……」

 

ピエロ風の男の放った怪しい光を浴びた奏夜は……。

 

「アハハハハハハハハ!!」

 

奏夜はまるで狂ったかのように高笑いをすると、ホラーではなく、にこに狙いを定め、魔戒剣を構えていた。

 

「あ、あんた……!!」

 

魔戒騎士だのホラーだのとよくわからなかったのだが、奏夜が先ほどのアイドル研究部元部員たちのようにおかしくなってしまったのではないかと不安になってしまった。

 

「魔戒騎士として人間を守る!?やってられねぇよ!!人間なんて、所詮は汚い生き物なんだ!!」

 

ホラーの力に飲まれてしまったと思われる奏夜はそのまま魔戒剣を振り下ろそうとしており、にこは恐怖からか目をつぶっていた。

 

しかし……。

 

「……なんてな」

 

こう呟いた奏夜は、くるっとピエロ風の男の方を向くと、そのまま魔戒剣を振り下ろし、ピエロ風の男を斬り裂いた。

 

「ぐぅ……!!」

 

『何故だ!?何故、貴様の本音が理解出来ないんだ!?』

 

奏夜の一撃をモロに受けたピエロ風の男は表情を歪ませ、男の右手のパペットが、驚きを隠せないという感じで、奏夜に問いかけていた。

 

「悪いな……。俺のような魔戒騎士には、お前の小細工は通用しないんだよ!」

 

奏夜はピエロ風の男を油断させるためにわざと敵の術中にはまったフリをして、反撃のタイミングを伺っていた。

 

「だったらそう言いなさい!心臓に悪いわ!!」

 

先ほどは、本気で奏夜の気が狂ってしまったと思ってしまったため、にこは気が気ではなかった。

 

そのため、このように文句を言っていたのである。

 

『おのれ、こうなったら……』

 

『そこの女の本音を聞き出してやる……!』

 

どうやらピエロ風の男は、奏夜ではなく、にこの本音を引き出そうとしたのか、赤い鼻が再び怪しく輝き始め、にこはそれを直視してしまった。

 

「……」

 

「に……にこ先輩……?」

 

ピエロ風の男の放った光を浴びたにこは、何故か何も語ることはなく、俯きながら黙っていた。

 

奏夜は、ホラーの力によってにこがいったいどうなってしまったのか、心配そうに見つめていた。

 

すると……。

 

「……何よ……」

 

「……?にこ先輩?」

 

「何よ!何よ何よ何よ何よ!!にこはスクールアイドルになれなかったのに、あんたたちはスクールアイドルになっちゃって!!」

 

「にこ先輩……」

 

にこが語り出したのは、本音というより、悲痛な自分の思いであるため、奏夜はそんなにこの話に真剣な表情で耳を傾けていた。

 

「それに、何なの!?あんたたちは!いっつもいっつも楽しそうでさ!それはにこへの当てつけなの!?」

 

さらににこは、ダムが決壊したかのように、自分の思いを語り始めていた。

 

「にこだって……!にこだって!あんたたちみたいに楽しく活動したいと思ってた!!それだけじゃないわ!にこだってμ'sのメンバーに入りたいって思ってた!!でも……でも……!また裏切られるのが怖いのよ!!」

 

「……!にこ先輩……」

 

にこは涙を流しながら自分の本当の気持ちをぶちまけた。

 

そんなにこの思いは、ホラーの力によって引き出されたものとはとても思えず、奏夜の胸に深く突き刺さっていた。

 

それと同時に、奏夜は何があったとしても、にこをμ'sのメンバーにしよう。

 

そう決意させるには十分だった。

 

「……!!わ、私……いったい何を……」

 

にこは自分の本音を全てぶちまけたようであり、ホラーの力は打ち消されたようだった。

 

『う……嘘だろ!?』

 

『これが、あいつの本音だと言うのか!?』

 

にこが、全ての本音をぶちまけた上で自分の力を打ち消したことに、両手のパペットは驚きを隠せずにいた。

 

「……あ、あの……。奏夜。わ、私……」

 

「にこ先輩。話は後です!下がってて下さい!」

 

「わ、わかったわ!」

 

奏夜はにこから後で話を聞き出そうと考えているため、逃げろとは言わず、下がっていろと伝えたのである。

 

にこは奏夜の言うことに素直に従うと、少し離れた場所で、奏夜の戦いを見守っていた。

 

『おのれ……!魔戒騎士!』

 

「残念だったな……。さぁ、かかってこいよ!!」

 

奏夜はピエロ風の男を挑発すると、男は両手のパペットをしまい、両手に2本の棒を手にした。

 

そして、ピエロ風の男は、奏夜に向かっていくのだが、奏夜はそんな男を迎撃する形で魔戒剣を一閃し、続けて蹴りを放って男を吹き飛ばした。

 

『おのれ……!』

 

『こうなったら……!』

 

奏夜の攻撃にて追い詰められたピエロ風の男は、精神を集中させると、頭部がこの世のものとは思えない怪物のものへと変化していた。

 

「……!?か、怪物……!?」

 

一部とはいえ、この世のものとは思えない怪物を見たにこは、息を飲んでいた。

 

男の頭部がホラーの姿に変わると、それ以外の部分も、ホラーの姿へと変わったのだが……。

 

「……!で、でかっ!!」

 

にこは、男の変化した姿が予想以上に大きいことに、恐怖よりも驚きが勝っていた。

 

そして、ホラーの姿が予想以上に大きいことに、奏夜も驚いていた。

 

『……奏夜。あいつがホラー、アスモディだ』

 

「あいつがそうなのか……。話だけは聞いたことはあるけど、ここまでデカイとはな……」

 

奏夜は、先輩騎士である月影統夜から、アスモディの話は聞いたことがあった。

 

アスモディは、かつて黄金騎士である冴島鋼牙によって討伐されたことのあるホラーである。

 

その時も、その特殊能力により、多くの人間の本音を引き出し、争わせた人間を喰らっていた。

 

しかし、黄金騎士である鋼牙と、銀牙騎士絶狼の称号を持つ涼邑零(すずむられい)の2人によって最終的には討伐されたのである。

 

そんなアスモディが、再びとあるゲートから出現し、奏夜たちの前に現れたのであった。

 

「……くっ、ここまでデカイ相手となると、ここで戦うとそこで気絶してる4人も危ないな……。とは言っても、ここら辺に安全そうで広い場所もないし……」

 

このまま戦ってしまうと、奏夜の手によって気絶したアイドル研究部元部員たちにも危害が及び、アスモディを誘導しようにも、適した場所はなかった。

 

奏夜はそんな状況下でどう戦うべきか悩んでいたその時だった。

 

どこからか法術のようなものが飛んでくると、その場にいた、アイドル研究部の元部員たち以外の全員が姿を消した。

 

奏夜たちは、法術のようなものにより、どこかへ飛ばされてしまったようであるみたいだった。

 

「……ど、どこなのよ!?ここは!!」

 

先ほどまでいた広場とは明らかに違う場所に、にこは困惑しながら周囲を見回していた。

 

「……なぁ、キルバ。これって……」

 

『あぁ。間違いないだろうな……』

 

奏夜とキルバは、この空間がどのようなものなのか、察することが出来ていた。

 

すると……。

 

「……奏夜。苦戦してたみたいだけど、大丈夫か?」

 

何者かの声が聞こえたと思うと、奏夜の前に、一般人が着ることのない妙な法衣のようなものを着ている茶髪の青年が現れた。

 

その手には、筆のようなものと、銃のようなものが握られていた。

 

「……アキトさん!お久しぶりです!」

 

奏夜の目の前に現れた青年はアキトという名前の魔戒法師で、元老院という全ての番犬所を総括する機関に所属する優秀な魔戒法師である。

 

アキトは魔導具作りに長けた青年であり、現在、魔導具作りの名人でもある魔戒法師、布道レオの1番弟子でもある。

 

さらに、アキトは、奏夜の尊敬している魔戒騎士である白銀騎士奏狼こと月影統夜の盟友であり、彼とコンビを組むことで、幾多の強大なホラーを討滅してきた実力者であった。

 

その実力は、奏夜も認めるほどのものである。

 

「おう、久しぶりだな!だが、応援に来たのは俺だけじゃないぞ!」

 

「え?」

 

アキトの言葉を聞いて、さらに奏夜の前に現れたのは、奏夜の先輩騎士である桐島大輝であった。

 

「大輝さんも!来てくれたんですか?」

 

「あぁ。俺も、アスモディ討滅の指令を受けてな。奏夜に加勢するためにやって来たんだ」

 

「俺はたまたまこっちに用事があってこの街を歩いてたら、たまたま大輝のおっさんに会ってな。協力することにしたのさ」

 

「おっさんはやめろ!お前は相変わらずだな……」

 

アキトは、大輝ともよく仕事をしていたため、大輝のことを「大輝のおっさん」と親しみを込めて呼んでいた。

 

しかし、大輝はそれを良しとせず、言われる度にそれを訂正するよう求めていたのだが……。

 

「……な、何なのよ……。さっきから……」

 

にこは、ピエロ風の男が、アスモディに変化してからの展開の早さに、ついていけずにいた。

 

『貴様ら……。魔戒騎士と魔戒法師か……』

 

「ま、そういうことだ」

 

「奏夜。とりあえず話は後だ。まずはこいつを片付けるぞ」

 

「はい!」

 

奏夜は大輝やアキトと話したいことはたくさんあったのだが、とりあえず話は協力して、目の前の敵を排除することにした。

 

「……ホラー、アスモディ!貴様の陰我、俺たちが断ち切る!!」

 

「?陰我?それって……」

 

にこは、奏夜の言っていた言葉の意味が理解出来ず、首を傾げていた。

 

そして、奏夜と大輝は、魔戒剣を高く突き上げると、円を描いた。

 

その部分のみ空間が変化すると、2人はそこから放たれる光に包まれた。

 

すると、奏夜の頭上には黄金の鎧が現れ、大輝の頭上には銅の鎧が現れて、2人はそれぞれの頭上に現れた鎧を身に纏った。

 

奏夜は黄金の輝きを放つ輝狼の鎧を身に纏い、大輝は「鋼(ハガネ)」と呼ばれる鎧を身に纏った。

 

大輝の纏った鋼と呼ばれる鎧は、称号を持たない魔戒騎士が身に纏う鎧のことである。

 

大輝は称号を持たない魔戒騎士の中でもかなりの実力者であり、長い間培われた経験が、その実力を裏付けていた。

 

「奏夜!大輝のおっさん!!俺が奴の動きを止める!2人はその隙に奴を倒すんだ!!」

 

「はい!」

 

「だからおっさんはやめろ!」

 

奏夜はアキトの提案に素直に乗り、大輝はおっさんと呼ばれることに意義を唱えていた。

 

そんなことなどお構いなしで、アキトは銃のようなものを構えた。

 

この銃は魔戒銃と呼ばれる武器であり、アキトが開発したアキトの最高傑作の1つである。

 

3年ほど前から試行錯誤しながら試作品を実践投入していた。

 

その成果が身を結び、魔戒銃は1年ほど前に、完全な形として完成させたのであった。

 

完全に完成した魔戒銃は、威力や耐久性が初期のものとは比べ物にならないほどであり、低級ホラーであれば討伐出来るほどの性能となったのである。

 

「統夜のおかげで完全に完成した魔戒銃の力、見せてやる……!」

 

アキトは、リボルバー型からハンドガン型に変わった魔戒銃に、とある弾を装填すると、それをアスモディ目掛けて放った。

 

アキトが先ほど装填した弾は、どうやら特殊な弾のようであり、アスモディに着弾するのと同時に爆発が起こった。

 

素体ホラーであれば、この一撃で倒せることもあるのだが、アスモディの体は頑丈であり、怯ませるにとどまっていた。

 

しかし……。

 

「奏夜!大輝のおっさん!今だ!!」

 

アキトは、アスモディの動きを止めるという自分の仕事を確実にこなしていた。

 

「行くぞ!奏夜!」

 

「はい!大輝さん!」

 

奏夜と大輝は、動きの止まったアスモディの巨体目掛けて大きくジャンプした。

 

そして、2人はそれぞれの剣一閃すると、アスモディの鼻を斬り裂いた。

 

奏夜と大輝は、共にアスモディの特性を知っており、闇雲に体を叩くのではなく、本体である鼻を斬り裂いた方が確実に倒すことが出来るのである。

 

本体である鼻を斬り裂かれたアスモディは、まるで空気の抜けた風船のようにしぼんでいき、小さくなったところで、その体は消滅した。

 

アスモディが消滅したことを確認した奏夜と大輝は、それぞれ鎧を解除すると、元に戻った魔戒剣をそれぞれの鞘に納めた。

 

「……奏夜。お前、しばらく見ないうちにちっとは腕をあげたんじゃないのか?」

 

「いえ……。俺なんて、統夜さんに比べたらまだまだですよ……」

 

「アハハ!そんな謙遜すんなって!それに、大輝のおっさんも、腕は鈍っちゃいないみたいだしな」

 

「だからおっさんはやめろ!!」

 

アキトは、久しぶりに会った奏夜と大輝の力を評価していたのだが、大輝はやはりおっさんと呼ばれることを良しとはしておらず、それを見た奏夜は苦笑いをしていた。

 

「さて……。それはともかくとして、結界を解くとしますか」

 

アキトは、手にしていた筆のようなもの……魔導筆を用いてとある術を放つと、結界を解除し、奏夜たちは元いた広場へと戻ってきた。

 

しかし、先ほどまで気を失って倒れていた4人の姿はなく、奏夜たちがアスモディと戦っている間に目を覚まし、そのままその場を離れたものと思われる。

 

「……アキトさん、大輝さん。ありがとうございました。2人が来てくれたおかげで、凄く助かりました」

 

奏夜は、アキトと大輝に協力してもらったことへのお礼を言っていた。

 

「気にすんなって。俺は用事のついでに手を貸しただけなんだし。それに、お前は俺にとっても大事な後輩だしな」

 

「そこは俺も同じ気持ちだ。それに、奴ほどのホラーが相手なら、お前1人では荷が重いと判断したまでだ」

 

「ありがとうございます。……ところで、アキトさんは元老院からの指令でここに来たんですか?」

 

奏夜は改めて2人に礼を言うと、アキトがこの街を訪れた経緯を聞こうとしていた。

 

「まぁ、そんなところだな。仕事っていっても霊獣の毛皮を届けるというお使いみたいな仕事だけどな」

 

「珍しいな。お前がそんな地味な仕事を嫌がらずに受けるとは思わなかったぞ」

 

「まぁ、確かにそうだけどよ。この霊獣の毛皮は翡翠の番犬所に届けることになってるんだよ。まぁ、この仕事を受けたのは他にも理由があるんだけどな」

 

「他の理由?それっていったい……」

 

アキトは、霊獣の毛皮を翡翠の番犬所に届けるという目的とは別の用事もあるようであり、奏夜がそれを聞こうとするのだが……。

 

「……あっ、あの……」

 

先ほどまで蚊帳の外だったにこが、おずおずと声をかけてきた。

 

「おっと、お嬢ちゃんを放ったらかしだったな。悪い悪い」

 

「そういう訳だ。番犬所への報告は俺がしておく。お前はそいつを家まで送り届けてやれ」

 

アキトと大輝は、奏夜とにこが2人で話せるよう気を遣ったのか、その場を離れようとしていた。

 

「……え?でも……」

 

「近いうちにまたこっちへ遊びに行くからさ、また会おうぜ、奏夜!」

 

「わかりました!それでは、また!」

 

奏夜はアキトの用事を聞き出すことは出来なかったのだが、とりあえず大輝とアキトがその場を離れるのを見送っていた。

 

「……」

 

「……」

 

大輝とアキトがいなくなったことにより、この場には奏夜とにこしかいなかったのだが、互いにどう話を切り出そうかと迷っているため、静寂がその場を支配していた。

 

しかし、しばらくすると……。

 

「……あのさ、奏夜……」

 

にこが先に沈黙を破る形で、話を切り出してきた。

 

「?何ですか?」

 

「……さっきの言葉なんだけどさ……。あの言葉はさ……」

 

にことしては、μ'sに入りたいという本音を奏夜に知られたくなかったので、この話は忘れて欲しいと思っていた。

 

しかし……。

 

「……にこ先輩。何も言わなくてもいいですよ。あなたの気持ちはわかっているつもりですから」

 

奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべるのだが、それは、「皆まで言わなくてもいいよ」と本音を言って恥ずかしがるにこに対する優しさであった。

 

そんな奏夜の優しさに触れたからか、にこの顔は真っ赤になっていた。

 

「……ふ、ふん!わかったような口を聞かないで!」

 

にこは恥ずかしくなってしまったからか、ついツンとした態度を奏夜に取ってしまっていた。

 

「はいはい。それは悪うございましたね」

 

奏夜はこう言葉を返すのだが、特に悪びれる様子はなく、苦笑いをしていた。

 

そんなおどける奏夜から目を背けたにこであったが、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

しかし、そんな笑顔は奏夜には見せたくなかったからか、必死に隠していた。

 

「……ねぇ。さっきの化け物はいったい何だったの?それに、あんたは……」

 

しばらくの間笑みを浮かべていたにこだったが、思い出したかのように奏夜からホラーや魔戒騎士のことを聞き出そうとしていた。

 

「……本当だったら話したくないですけど、じきにわかりますよ。ホラーのことも。俺たち魔戒騎士や魔戒法師のことも」

 

奏夜は、何故かにこに魔戒騎士の秘密を隠そうとしていなかった。

 

何があったとしてもにこをμ'sのメンバーにしようと考えていた奏夜は、今更にこだけ、魔戒騎士についてのことを秘密にする必要はないだろうと判断したからである。

 

「今教えなさいよ!今!」

 

「まぁまぁ、今日はもう遅いですし、帰りましょう。送りますよ」

 

「……げっ!!もうこんな時間!?早く帰らないと……」

 

アイドル研究部元部員たちに呼び出されてからかなり時間が経過しており、にこは慌てるように自宅へと向かい、奏夜はそんなにこを送り届けてから自宅へと向かっていった。

 

その途中……。

 

『……おい奏夜』

 

奏夜が自宅に向かって歩いていると、突如キルバが口を開いたため、奏夜は歩きながらキルバへ視線を向けていた。

 

「どうした、キルバ?」

 

『どうしたもこうしたもあるか!何でお前はあのお嬢ちゃんにあっさり秘密を話そうとしているんだ?』

 

どうやらキルバは、奏夜がにこに対して魔戒騎士の秘密を明かそうとしているのが気に入らないようだった。

 

「……キルバだってにこ先輩の本音を聞いたろ?俺は何があろうとにこ先輩をμ'sのメンバーにしようと思ってるんだ。そう考えたら魔戒騎士の秘密を話した方がいいだろう?他のみんなも知ってるんだし」

 

奏夜は、にこをμ'sのメンバーにしたいと考えており、どうせホラーとの戦いを見てしまったのだから、そのまま秘密を話してしまおうと考えていた。

 

……騎士の秘密を話すこと自体は、あまり良いこととは言えないのだが……。

 

『……やれやれ……。一体全体何人にこの話をするのやら……』

 

そんな奏夜の態度に、キルバも呆れ果てていた。

 

「さて、それはともかくとしてだな……」

 

どうやら奏夜には妙案があるようであり、奏夜は携帯を取り出すと、穂乃果に電話をかけ始めた。

 

「……あぁ、もしもし。穂乃果か?実はにこ先輩のことなんだがな……」

 

奏夜が電話をかけると穂乃果はすぐに出たため、奏夜は自分のアイディアを穂乃果に報告した。

 

すると、どうやら穂乃果も奏夜と同じアイディアを思いついていたようだった。

実は穂乃果たちは、にこに追い出されて間もなく、希からにこが元々スクールアイドルをやっていたことを聞かされ、希の話を聞いた時から、穂乃果はにこをμ'sのメンバーにしたいと思っていたのである。

 

奏夜はそのアイディアに基づいた計画を穂乃果と話し合い、その後、にこもホラーとの戦いに巻き込まれたことを報告した。

 

穂乃果は当然そのことに驚いていたのだが、それ以上のことは言わなかった。

 

こうして、穂乃果との会話を終えた奏夜は電話を切ると、そのまま家に帰っていった。

 

 

 

 

 

~にこ side~

 

 

……私の名前は矢澤にこ。音ノ木坂学院に通う高校3年生よ。

 

私には今、気になってる連中がいる。

 

この音ノ木坂でスクールアイドルをやろうとしている「μ's」とかいうグループだ。

 

正直、あの子らは全然なってないわ!

 

……それに、あの子たちが楽しそうにしてるのを見るとなんか辛いのよね……。

 

だからかな?あの子たちに解散しろとかアイドルとしてなってないとか厳しいことも言ったわ。

 

私の時みたいにどうせみんな辞めてしまう。そんな気がしてならないの。

 

……それにしてもあの如月奏夜とかいう奴……。

 

……あいつがにこの過去をあっさり推理した時はびっくりしたわ。

 

本当なら話すつもりはなかったけど、あそこまで核心ついたことを言われりゃ話すしかないじゃない。

 

にこが1人になった経緯を話すと、あいつは怒っていた。

 

正直呆れたわよ。何で他人のことでそこまで怒れるんだって。

 

だけどあいつは真剣にやってる奴を馬鹿にする奴を許さないなんて言ってたわ。

 

それを聞いてあの子たちも真剣にスクールアイドルをやってるんだって思ったわ。

 

いや、そんなの初めからわかってたことよ。

 

ただ、自分の気持ちに素直になれなかっただけ。

 

あの子たちが部室に押しかけてきた帰りだって、あの子たちは楽しげだった。

 

それを見た私には嫉妬のような感情が浮かんできた。

 

何であんなに楽しそうなのよ……。にこだってあんな風に笑っていられたら良かったなって思っているのに……。

 

私はあの子たちがスクールアイドルとして活動しているのを見ていて自分も仲間に入りたい。そんなことを考えたりもしたけど、今更そんなこと言える訳ないじゃない!

 

そんな中、にこを裏切ったあの4人が私を呼び出してきた。

 

本当だったら話すこともないけど、なんでかな?断れずに呼ばれた場所まで来たんだよね……。

 

あの4人はμ'sの活躍を見て心を入れ替えたかと思ったら、やっぱりにこのことをからかってたみたい。

 

その本音は、あのホラーとかいう怪物のせいで引き出されたものだろうけど、そんなことはどうでもいいの。

 

あいつらは本気でアイドルなんて目指してないんだから。

 

そんなあいつらのことが憎いと思っちゃったけど、奏夜の声を聞いたら、不思議とそんな気持ちも消えたんだよね……。

 

そして、あいつは、あんな化け物……。ホラーとか言ったっけ?そいつと戦ってるみたい……。

 

確か、魔戒騎士とか言ってたよね?

 

にこは別にあいつが何者だろうとどうでもいいの。

 

だって、あいつがにこのために怒ってくれたっていうのは決して嘘ではないと思うから……。

 

それにしても、何でにこはあんな本音を言っちゃったかな……。

 

よりにもよって1番聞かれたくなかったあいつに……!

 

それもこれもあのホラーとかいう奴のせいよ!

 

まぁ、あいつもやっつけられたんだから別にいいんだけどさ。

 

そんなことがあったんだけど、次の日も普通に授業を受けて放課後になった。

 

1人になってからは1人で部室に行ってアイドルのDVDを見たりするそんな毎日の繰り返しだった。

 

……今日もきっとそうよね……。

 

私は部室の前に着くと楽しげな声が後ろから聞こえてきた。

 

「帰りどっか寄ってく?」

 

「そうだね!あっ、部員のみんなも声かけて一緒に行こうよ!」

 

「いいねぇ、どこ行こっか?」

 

……何よ……。楽しそうにしちゃって……。

 

そんな楽しげな声を聞き流しながら私は部員の中に入り、電気をつけたんだけど……。

 

『お疲れ様でーす!』

 

「えっ?」

 

な、何であの子たちがまた来てるのよ!

 

それにお疲れ様ですってどういうこと?

 

あー!もう!展開が急過ぎてついていけないわよ!

 

 

 

 

 

 

 

〜三人称 side〜

 

 

 

 

 

(あはは….。にこ先輩びっくりしてるな)

 

アイドル研究部の部室に入ってきたにこは、奏夜たちが普通に部室に座っていることに驚きを隠せずにいた。

 

奏夜が思いついた提案とは、アイドル部とアイドル研究部を1つにするのではなくて、いっそのこと奏夜たちがアイドル研究部に入部するといったものである。

 

この発想は正直盲点だったのだが、全ての問題を一気に解決させる妙案であった。

 

「お茶です!部長!」

 

「ぶ、部長?」

 

突然部長なんて言われたからか、にこは驚きと共に動揺している。

 

「今年の予算表になります、部長」

 

「えっ?」

 

「部長、ここにあったグッズ邪魔だったので棚に移動しときました!」

 

「こら!勝手に!」

 

「さっ、参考にちょっと貸して。部長のオススメの曲」

 

「な、なら迷わずこれを!」

 

「あはは……。花陽、伝伝伝だっけ?まだ諦めきれないんだな….…」

 

「あーっ!だからそれは!」

 

「ところで次の曲の相談をしたいのですが、部長」

 

「やはり次はさらにアイドルらしさを意識した方がいいと思いまして」

 

「それと、振り付けも何かいいのがあったら」

 

「歌のパート分けもお願いします!」

 

「色々と頼りにしてますぜ、部長!」

 

「あ、あんたまで……」

 

にこは、まるで畳み掛けるかのような奏夜たちの唐突な展開についていけてなかった。。

 

「……こんなことで押し切れると思ってるの?」

 

「押し切る?そんなこと思ってないですよ。人聞きの悪い」

 

「私たちはただ相談しているだけです。音ノ木坂学院アイドル研究部所属のμ'sの7人が歌う次の曲を」

 

「7人?」

 

「あなたのことですよ、にこ先輩」

 

にこは驚きを隠せないと言いたげな表情をしながら奏夜たちの顔を見回していた。

 

「矢澤にこ先輩。μ'sの7人目のメンバーとして、まだまだ至らない俺たちに色々教えてください」

 

「あっ、あんた……」

 

「俺たちにはあなたが必要なんです」

 

「でっ、でもにこは……」

 

「にこ先輩の心配はわかってるつもりです。俺を含めたこの7人は先輩のことを裏切ったりしません。もう一度、俺たちのことを信じてみませんか?」

 

「奏夜……」

 

にこは、奏夜の真っ直ぐな言葉を聞いて、少しだけ考え込んでいた。

 

そして……。

 

「……厳しいわよ」

 

「わかってます!アイドルへの道が厳しいことぐらい!」

 

「わかってない!あんたたちは甘過ぎるのよ!いい、アイドルっていうのは笑顔を見せる仕事じゃない。笑顔にさせる仕事なの」

 

「なるほど……。それは一理あるな」

 

アイドルのことを熟知してるにこだからこそ、この言葉に重みがあり、奏夜はウンウンと頷いていた。

 

「それをよく自覚しておきなさい!」

 

こうして、奏夜たちは、アイドル部を作ることを諦め、アイドル研究部に入部することになったのである。

 

「……それじゃあ、まずは……」

 

奏夜は制服のポケットからキルバの専用のスタンドを取り出すと、それをテーブルの真ん中に置き、そこに、指から外したキルバをセットした。

 

「ちょっと奏夜!ここはアイドル研究部なんだから、そんな悪趣味な指輪を置くのはやめなさいよ!」

 

キルバが喋ることに気付かなかったにこはこのように言うのだが……。

 

『……やれやれ……。悪趣味とは聞き捨てならないな』

 

にこは奏夜が魔戒騎士だということを知っているため、キルバは口を開いたのであった。

 

「しゃ……喋った!?い、いや。あの妙なパペットだって喋ってたもの……。あいつが喋ってたって……」

 

『ほう……。どうやらお前さんは物分かりが良いみたいだな』

 

キルバは、自分が喋るのを見て、驚きはしたものの、理解を示していたにこのことを少しだけ評価していた。

 

「あぁ、そういえば、にこ先輩も、ホラーと遭遇したってそーくんから聞いたんだった」

 

「……ねぇ、今、「も」って言ったわよね?まさか、あんたたちも……!」

 

「はい。私たちはみんなホラーと遭遇したことがありまして、みんなそーくんに救われたんです」

 

「……やっぱりそうだったのね……」

 

にこは、ホラーと遭遇した時から、そんなような気がしていたのだが、そうだと改めて聞くと、驚きを隠せなかった。

 

こうして奏夜とキルバは、にこに自分がホラーと戦う魔戒騎士であるということと、ホラーが陰我あるオブジェをゲートに現れる魔獣であることを説明した。

 

これらの話は、穂乃果たちにもした話ではあるのだが、その話を聞くたびに、穂乃果たちは改めて驚いていた。

 

「……なるほどね。だいたいわかったわ」

 

にこは、最後まで話を聞いたのだが、驚きながらも特に否定するような素振りはなかった。

 

「……まぁ、あんたが何者だろうと、μ'sのために頑張ってくれるんでしょ?だったら、それでいいんじゃないの?」

 

「にこ先輩……」

 

にこもまた、奏夜がμ'sのために頑張ってくれていることは察していたため、魔戒騎士として戦うことをあれこれいう言うつもりはなかった。

 

「……にこ先輩。俺はこれからもμ'sのマネージャーとして頑張っていきますし、守りし者として、あなたを守っていくので、安心してください」

 

「……!?////ふ、フン!せいぜい頑張りなさいよね!」

 

奏夜のストレートな言葉が恥ずかしかったからからか、にこは顔を真っ赤にして、そっぽを向いていた。

 

そして、そんな奏夜の言葉が気に入らなかったのか、穂乃果、海未、ことりの3人は、黒いオーラを放ちながら、奏夜を睨みつけていた。

 

「……そーくんって本当に見境ないよね」

 

「守りし者としての使命は大事だと思いますが、そんな口説くような言葉を多用して良いものでしょうか?」

 

「本気でそーくんをことりのおやつにしちゃおうかな……」

 

奏夜は、穂乃果たちがこっちを睨みつけていることに気付いたからか、顔を真っ青にしていた。

 

「……おっ、雨が上がったみたいだな。ほら、みんな!さっさと練習行くぞ!」

 

奏夜はふと窓の景色を見た時、雨が上がったのを確認したため、このように話を促していた。

 

すると、スタンドにセットされているキルバを指にはめ、まるで逃げるかのように部室を後にして、屋上へと向かっていった。

 

「あっ、そーくん!」

 

「こら、奏夜!待ちなさい!」

 

それを見た穂乃果たちは、奏夜を追いかける形で屋上へ向かい、1年生組もそれに続いていた。

 

「こらぁ!にこは部長なんでしょ!?部長を置いて行くんじゃないわよ!!」

 

部室にたった1人残されてしまったにこも、慌てて奏夜たちを追いかけていた。

 

雨も上がり、奏夜たちは屋上で練習することになった。

 

「いい!やると決めた以上、ちゃんと魂込めてアイドルになりきったもらうわよ!わかった?」

 

『はい!』

 

「声が小さい!」

 

『はい!!』

 

にこはアイドルについての講義を語り始めた。

 

(……なんか長いな……)

 

《やれやれ……。ずいぶんと張り切っているな……》

 

キルバは張り切ってアイドルの講義を行うにこに呆れており、奏夜はにこの話の長さにげんなりしていた。

 

奏夜はにこの話を半分聞き流しているとにこ先輩の話は終わり、続いてなぜかにこの持ちネタである「にっこにこにー」の練習を行った。

 

『にっこにっこにー!』

 

「全然だめ!…にっこにっこにー!…はい」

 

『にっこにっこにー!』

 

「ツリ目のあんた!気合入れて!」

 

「真姫よ!」

 

『にっこにっこにー!』

 

(あはは……。みんなもよくやるなぁ……)

 

奏夜は苦笑いをしながら「にっこにっこにー」の練習をしている穂乃果たちを見守っていた。

 

《あんなのが本当にスクールアイドルの練習になるとは思えないのだがな……》

 

そして、キルバは「にっこにっこにー」の練習に実用性があるのか疑っていた。

 

奏夜とキルバがそんなことを考えていると……。

 

「奏夜!キルバ!あんたらもやるのよ!」

 

「はぁ!?何で俺まで!」

 

「当たり前よ!あんたもアイドル研究部の一員なんだから!」

 

『俺はただの魔導輪だぞ!俺がやるのは無意味だろうが』

 

「何言ってるのよ!あんただって一応はアイドル研究部の一員なんだからね!」

 

どうやらにこは、キルバも、アイドル研究部のメンバーだと思っているようだった。

 

ここまで言われると、奏夜もキルバも反論は出来なかった。

 

「わかったよ。行くぞ」

 

覚悟を決めた奏夜は、意を決してあのネタに挑むことにしたのだが……。

 

「……にっこにっこにー!」

 

奏夜は全身全霊の「にっこにっこにー」を披露したのだが、やりきった後、あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にしていた。

 

「気持ち悪い」

 

真姫は、奏夜の「にっこにっこにー」をジト目で見ていた。

 

「おいコラ真姫!気持ち悪いとか言うな!俺の全身全霊だぞ」

 

「知らない」

 

「お前なぁ….…」

 

真姫のツンデレというよりただの毒舌に、奏夜は苦笑いしていた。

 

「ほら、キルバも!」

 

『やれやれ……。やればいいんだろう?やれば』

 

キルバはやらなけらば話が進まないと判断したからか、覚悟を決めるのであった。

 

『……にっこにっこにー!!』

 

キルバもまた、全身全霊で「にっこにっこにー」を行っており、奏夜たちは拍手を送っていた。

 

『くそ……!最高に格好いい俺様に何て仕打ちを……!』

 

「……あんた。けっこうナルシストなのね……」

 

知られざるキルバの内面を垣間見たにこは、ジト目でキルバを見ていた。

 

「はい!奏夜もみんなもラスト一回!」

 

『にっこにっこにー!』

 

奏夜やキルバも巻き込まれる形で「にっこにっこにー」が行われていた。

 

にこは待ち望んでいたこの光景が嬉しいのか涙目になっていた。

 

「ぜ、全然だめ!あと30回!」

 

にこは泣きそうになっているのを悟られないために、奏夜たちにまた「にっこにっこにー」をさせようとしていた。

 

「えぇっ?まだやるのぉ?」

 

「何言ってるの!まだまだこれからだよ!にこ先輩、よろしくお願いします!」

 

「……よーし!いっくよぉ!!」

 

満面の笑みを浮かべるにこだったが、その顔は、この雨上がりの青空のように晴れやかであった。

 

これからも魔戒騎士として、守りし者として、にこの笑顔を守っていこう。

 

そう決意を固めながら、奏夜は「にっこにっこにー」を行っていた。

 

そして、しばらくの間、音ノ木坂学院の屋上にこの言葉が響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

にっこにっこにー!!

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『奏夜は魔戒騎士としてそれなりに力をつけてきたみたいだが、上には上がいるな。奏夜、もっと精進しなければな。次回、「白銀」。月夜に輝く白銀の刃!』

 

 




奏夜だけではなく、キルバの「にっこにっこにー」いただきました(笑)

キルバの「にっこにっこにー」は、イメージCVが中村悠一さんなので、彼が「にっこにっこにー」をしているのを想像してみてください。

そして、前作主人公を差し置いて活躍する前作キャラたち……。

今回登場したアキトと大輝は、前作である「牙狼×けいおん 白銀の刃」にも登場したキャラで、特にアキトは僕も気に入ってるキャラです。

今回登場したホラーは牙狼一期に登場したアスモディでしたが、ベテランの猛者2人の助力のおかげで難なく倒せました。

そして、奏夜たちがアイドル研究部に入部し、にこがμ'sの7人目のメンバーとなりました。

メンバーが増えて、μ'sはこれからどうなっていくのか?

さて、次回はお待たせしました!

ついにあのキャラの勇姿を見ることが出来ます。

そのキャラとはいったい誰のことなのか?

それでは、次回をお楽しみに!





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第19話 「白銀」

おまたせしました!第19話になります。

今日で3月も終わりですね。なんかあっという間です。

4月も頑張っていきたいと思っています。

さて、今回はタイトルで察した人もいるとは思いますが、あのキャラが活躍します。

そのキャラとはいったい誰なのか?

それでは、第19話をどうぞ!




……ここは、東京ではなく、某県に存在する、N女子大学。

 

その名前の通り、ここは女子大なのだが、有名なお嬢様学校であり、入学するのも容易ではない。

 

そんなN女には、様々なサークルが存在し、軽音楽部も存在していた。

 

N女の軽音部は、1つのサークルに1つのバンドではなく、複数のバンドが存在しており、交流を深めたり、テクを競い合ったりしていた。

 

「……♪」

 

そんな軽音部の部室にて、小柄でツインテールの少女が、スマホを用いてμ'sの初ライブの映像を楽しんでいた。

 

「……あーずさっ、お前はまた穂乃果たちの動画を見てたのか?」

 

ツインテールの少女がμ'sの動画を楽しんでいると、黄色いカチューシャが特徴的な少女が現れて話しかけてきた。

 

「……あっ、律先輩。それに皆さんも」

 

カチューシャの少女以外にも、ヘアピンが特徴的の少女と、黒い長髪の少女。そして、金髪のように明るい髪が特徴の少女も一緒だった。

 

熱心にμ'sの動画を見ていたのはこの春この大学に入学したばかりの中野梓(なかのあずさ)である。

 

そして、カチューシャの少女が田井中律(たいなかりつ)で、ヘアピンの少女が平沢唯(ひらさわゆい)。黒の長髪の少女が秋山澪(あきやまみお)で、金髪のように明るい髪の少女が琴吹紬(ことぶきつむぎ)、通称ムギだ。

 

彼女たちは桜ヶ丘高校の卒業生であり、白銀騎士奏狼こと月影統夜と共に、軽音部に所属していた。

 

5人ともこの大学の軽音部に入部し、高校時代とまったく同じとはいかなかったが、お茶を飲みながらまったりとした毎日を送っていた。

 

「……穂乃果ちゃんたち、スクールアイドルになったんだもんねぇ」

 

梓が見ていたμ'sの動画を覗き見した唯は、このようにしみじみと呟いていた。

 

実は唯たちは、統夜を介して穂乃果たちと出会っていたのである。

 

それは、統夜が高校2年生の年明け早々に、翡翠の番犬所の神官であるロデルから応援を要請されて、その地で仕事を行っており、秋葉原へ寄った時に偶然穂乃果たちと知り合い、仲良くなったのである。

 

それからおよそ半年後、唯たちは初めて穂乃果たちと知り合って意気投合。

 

それからはメールのやり取りなどをする仲になっていた。

 

穂乃果たちがスクールアイドルを始めたことはすでに報告を受けており、唯たちは穂乃果たちμ'sが飛躍していくのを見ることを楽しみにしていた。

 

「そういえば、この前穂乃果ちゃんからメールが来たんですけど、μ'sのメンバーが7人になったみたいですよ」

 

μ'sの動画を最後まで見た梓は、携帯をしまいながら穂乃果たちの近況を報告していた。

 

「そうなの?3人から人数が増えていって凄いわねぇ」

 

「それだけ人数が増えたら、マネージャーの奏夜も大変そうだな」

 

「まぁ、奏夜なら大丈夫だろ」

 

紬、澪、律の3人は、μ'sのメンバーが増えたことに驚きながらも奏夜を気遣っていた。

 

統夜たちが魔戒騎士であることを知っている唯たちは、統夜の後輩騎士である奏夜のことも当然知っていた。

 

そして、統夜の口から穂乃果、海未、ことりの3人が魔戒騎士の秘密を知ったことを聞いたのだが、そこら辺の話に触れることはしなかった。

 

「それにしても、最近穂乃果ちゃんたちと会ってないし、たまには会いに行きたいよねぇ」

 

「そうだな。だけど私たちも、講義やバイトで忙しいからな……」

 

唯たちは、大学生となり、軽音部ではのんびりと過ごしてはいるのだが、なかなか全員が集まれる機会は多くなく、みんな講義やアルバイトなど忙しい毎日を送っていた。

 

「……なぁ、今度みんなで休みを取って、穂乃果たちに会いに行かないか?」

 

「あっ、それ面白そうだね!」

 

「うん!私も賛成!」

 

「私も行きたいって思ってたんだ!」

 

律の提案に、唯、紬、澪の3人は即座に賛成していた。

 

そして……。

 

「そういえば、統夜先輩も近々秋葉原に行くみたいなので、統夜先輩にも聞いてみますね」

 

統夜と付き合っている梓は、統夜が魔戒騎士としてどのように活躍してるのかを誰よりも聞く機会が多かった。

 

そして、近いうちに秋葉原に行くことも聞いていたので、上手く都合が合えば、それに便乗しようと梓は考えたのである。

 

「おう、頼むな、梓」

 

「楽しみだねぇ♪」

 

「本当ねぇ♪」

 

こうして、秋葉原へと遊びに行くことを計画した唯たちは、しばらくの間、お茶を飲みながらまったりとしていた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

奏夜たちは、アイドル部とアイドル研究部を合併させるのではなく、自分たちがアイドル研究部に入部することで、どうにか部活動として認められるようになった。

 

そして、矢澤にこが7人目のμ'sのメンバーとなってから数日が経過した。

 

にこがメンバーに加わってからはとりあえずアイドル研究部の部室に集まり、それから着替えをして練習を行うようになっていた。

 

そして、この日もみんなが集まってから練習を始めようとしていた。

 

「……♪」

 

そんな中、花陽は、アイドル研究部の部室に置かれているパソコンを使ってある動画を見て楽しんでいた。

 

現在は、にこと1年生組が部室におり、2年生組はこれから来ると思われた。

 

しばらく花陽が動画を楽しんでいると……。

 

「ごめん!遅くなっちゃった」

 

このように謝りながら、穂乃果が部室に入ってきて、それに続くように海未、ことり、奏夜が中に入ってきた。

 

「……あんたたち、待ってたわよ」

 

「悪いな。ちょっとクラスの用事があってな」

 

奏夜たちはちょっとした用事をこなしてから来たため、少しだけ遅れてしまったのであった。

 

「……あれ?花陽は何の動画を見てるんだ?」

 

奏夜は、パソコンで何かの動画を見ている花陽が気になり、こう聞きながら近くへ来たのだが……。

 

「……!?こ、これって……!」

 

奏夜は花陽の見ている動画を見て、驚いていた。

 

そのため、穂乃果たちもその動画を覗き込むのだが……。

 

「あれ?これって……」

 

「唯さんたちのライブ……ですね」

 

「ねぇねぇ、花陽ちゃん。この動画はどこで見つけたの?」

 

どうやら花陽が見ていたのは放課後ティータイムのライブの映像であり、穂乃果たちもまた、驚いていた。

 

「いつも使ってる動画サイトでスクールアイドルの動画を探した時に出て来まして……。この人たち、大学でバンドをやってるみたいなんですけど、その楽しそうな感じが、スクールアイドルみたいに輝いているって評判みたいなんです」

 

花陽が見ているこの動画は、今からおよそ1年前に行われたとあるライブの映像なんだが、花陽の説明通り、評判は良いみたいである。

 

(……よく見たら、統夜さんも映ってるな)

 

《まぁ、あいつもあのバンドの一員だからな。映っていてもおかしくはないだろう》

 

統夜は桜ヶ丘高校を卒業後もギターを続けており、この時のライブにも、男子だけど放課後ティータイムのメンバーだからということで参加が許されたのであった。

 

「……ねぇねぇ、そういえばこのライブって海未ちゃんとことりちゃん。それに、そーくんと一緒に観に行かなかったっけ?」

 

「そういえばそうでしたね」

 

「梓さんも統夜さんも大学の人間じゃないけど、放課後ティータイムのメンバーだからということで、参加してたんだもんね」

 

ことりの説明通り、梓は当時桜ヶ丘高校に通っていたため、まだ大学の人間ではなかった。

 

しかし、梓も統夜も放課後ティータイムのメンバーだからという理由で、ライブへの参加が認められたのである。

 

「……あんたたち、この人たちのことを知ってるの?」

 

「まぁ、そうですね。この赤いコートの人……。この人は俺にとって兄のような存在で、他のメンバーの人とも交流があります」

 

「私たち3人は、怖い人に絡まれてるところを赤いコートの人……。統夜さんに助けてもらって、それから仲良くさせてもらってるんです」

 

「その後、唯さんたちも紹介してもらって、今でも仲良くしています」

 

「……そうだったんですか……」

 

「……」

 

花陽は奏夜たちが統夜たちと出会った経緯を聞いて驚いていたのだが、真姫はライブの映像を見て、ギターを奏でている統夜を凝視していた。

 

「……真姫ちゃん。どうしたの?統夜さんの映像をジッと見つめて」

 

「べ、別に?」

 

ことりは、統夜のことをジッと見ている真姫が気になって声をかけたのだが、真姫は何でもないと話を誤魔化そうとしていた。

 

すると……。

 

「……ハッ!ま、真姫ちゃん。その「とーや」って人に一目惚れしちゃったかにゃ?」

 

「!?////」

 

凛の思いがけない言葉に驚いた真姫は、顔を真っ赤にしていた。

 

「ま、真姫ちゃん!!そうなの!?」

 

「ダメよ!ダメダメ!アイドルに恋愛は許されないわ!!」

 

「そうだよ!それに、統夜さんには彼女がいるし」

 

「えっ、そうなの!?」

 

凛の言葉に花陽は驚き、にこは断固として認めようとはしなかった。

 

そして穂乃果は事実を伝えると、凛は驚いていた。

 

「だから!そんなんじゃないわよ!」

 

「?それじゃあ、いったいどうしたの?」

 

「その統夜って人なんだけど……。どこかで会ったことがあるような気がするのよねぇ……」

 

真姫は、統夜に見覚えがあったため、それを思い出そうと統夜のことをジッと見ていたのである。

 

「……それに、この人の着ているコートがどことなく奏夜のと似てる気がするわよね……」

 

奏夜は現在魔法衣を着ており、真姫は画面の統夜と、目の前の奏夜を見比べていた。

 

「確かに、それはずっと疑問に思っていました」

 

「そーくんみたいな魔戒騎士の人はこういう格好をしてるんだもんね?」

 

「だとしたら、統夜さんも魔戒騎士ってことなのかな?」

 

どうやら、穂乃果、海未、ことりの3人は、奏夜が話す前に真実にたどり着いたようだった。

 

(……これ以上は隠す必要もないか……)

 

自分の秘密を知っているなら隠すこともないため、奏夜は真実を話すことにした。

 

「……お前らの察する通り、統夜さんは魔戒騎士で、俺の尊敬する先輩騎士なんだよ」

 

「……!やはりそうなのですね……」

 

「確かに……。そうだと知ってもあまり驚かないかな?」

 

「あっ、だけど、統夜さんが魔戒騎士だということを唯さんたちは……?」

 

「当然知っているさ。統夜さんは桜ヶ丘高校に通って、軽音部として活動しながら、魔戒騎士の務めを果たしてきたんだ。そんな中、唯さんたちがホラーに襲われたところを統夜さんに救われ、そこで初めて知ったみたいなんだよ」

 

奏夜は、自分が知っている範囲で、唯たちが魔戒騎士の秘密を知った経緯を話していた。

 

「……まるで私たちみたいだね……」

 

「そこは統夜さんも驚いていたよ」

 

統夜と奏夜はとても共通点が多く、2人とも魔戒騎士になったのは15歳であり、仲間がホラーに襲われて自分の秘密を知ったのが高校2年の時であった。

 

「……まさか、あんたたちの知り合いが魔戒騎士だったとはね……」

 

「ところで、その統夜さんという方も魔戒騎士なんですよね?実力はかなりのものなんですか?」

 

「あぁ。統夜さんはかなりの実力者だ。今の俺なんかじゃ全然敵わないくらいに」

 

「えぇ!?そーくんは十分強いのに、そんなそーくんよりも強いってことなの?」

 

『当然だ。奏夜は魔戒騎士としてはまだまだ未熟だからな。こいつより強い奴などいくらでもいるぞ』

 

「「「「「「「……」」」」」」」

 

奏夜の戦いを見た穂乃果たちは、奏夜よりも強い魔戒騎士がたくさんいると話を聞いて驚いて驚きを隠せず、言葉を失っていた。

 

『月影統夜は白銀騎士奏狼(ソロ)の称号を持つ魔戒騎士で、20歳という若さながらも、最強の魔戒騎士である黄金騎士牙狼と互角の力を持つ魔戒騎士なんだ』

 

「最強の魔戒騎士と互角……」

 

「統夜さんって、思ってた以上に凄い人なんですね……」

 

穂乃果と海未は、統夜がそこまでの実力者だとは思っておらず、驚きを隠せなかった。

 

「さっき話していた白銀騎士とか黄金騎士とかっていったい何なんですか?」

 

騎士の称号については話をしていなかったからか、○○騎士と言われてもピンと来なかった花陽は首を傾げていた。

 

「さっきキルバが言っていた白銀騎士奏夜と、黄金騎士牙狼っていうのは、魔戒騎士の称号のことで、魔戒騎士としてのもう1つの名前ってところかな」

 

「もう1つの名前ねぇ……」

 

「ということは、そーや先輩にもそんな名前があるのかにゃ?」

 

『あぁ。奏夜も一応は称号持ちの魔戒騎士だぞ』

 

「みんなが見たあの鎧は、陽光騎士輝狼。俺が受け継いだ、俺の魔戒騎士としての名前だ」

 

「陽光騎士……」

 

「キロ……」

 

穂乃果たちは、ここで初めて奏夜の鎧の正体を知ることが出来たのである。

 

「それに、統夜さんは高校の時から多くの試練を乗り越えてきた。だからこそ、最強と言われた黄金騎士牙狼の称号を持つ冴島鋼牙さんと互角の力を得たんだと思う」

 

『あいつは卒業式の翌日に冴島鋼牙と戦ったみたいなんだ。まぁ、勝つことは出来なかったみたいだがな』

 

「その戦い、俺も見たかったけどな……」

 

「な、なんていうか……」

 

「凄くスケールの大きい話ね……」

 

奏夜やキルバの語る話のあまりのスケールの大きさに、花陽と真姫は呆気にとられていた。

 

「それにしても、統夜さんが様々な試練を乗り越えて強い魔戒騎士へとなっていった過程を知っているからこそ、奏夜は統夜さんを尊敬しているのですね?」

 

「あぁ。だからこそ統夜さんのことを俺は尊敬しているし、目標にもしている」

 

『だが、今のお前では、奴と互角になるのはいつになるのやら……』

 

「わかっているさ。だからこそ俺は強くならなきゃいけないんだ。多くの人を守っていくために……」

 

「奏夜……」

 

強くなりたい。そんなことを思う奏夜が、今まで見たことのない表情をしており、海未は心配そうに奏夜を見つめていた。

 

「……とりあえず、この話は終わりよ。奏夜のことはわかったんだし、練習を始めるわよ」

 

このまま話を続けていたら練習時間がなくなると判断したにこは、話をここで打ち切り、練習を始めようと提案した。

 

「うん、そうだね。練習しよう!」

 

こうして、放課後ティータイムのライブ映像をきっかけとして、統夜が魔戒騎士であると知った穂乃果たちは、屋上にて練習を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

こうして練習は行われ、この日は番犬所からの呼び出しがなかったため、奏夜は最後までマネージャーとしての仕事を果たしていた。

 

必要な部分の振り付けのコーチは奏夜が行い、それ以外の基礎的な部分の指導は海未に任せていた。

 

基礎的な指導を海未に任せている間、奏夜は自分専用のノートパソコンを用いて、これからどのような練習を行っていくかのスケジュール管理を行っていた。

 

今まではパソコンを使った作業をしなかった奏夜であったが、メンバーが増えて、スクールアイドル活動が部として認められたため、パソコンを使った作業もこなしていたのであった。

 

奏夜が使っているパソコンは、奏夜の私物であり、普段は魔法衣の裏地の中にしまっている。

 

そして、ネットも繋いでいるため、ランキングチェックも欠かさずに行っていた。

 

μ'sのメンバーが7人になると、さらに人気が出てきているからか、ランキングも少しずつ上がっていた。

 

それと同時に、「7人で歌う曲が早く聞きたい」というリクエストのコメントが圧倒的に多かったため、そこをどうするべきか今度全員で話し合おう。

 

奏夜はそんなことを考えていた。

 

こうして練習は終了し、奏夜たちは帰ろうとしたのだが……。

 

「……あれ?統夜さんから電話だ……」

 

奏夜の携帯が反応したため、奏夜は携帯を取り出すのだが、なんと電話の相手は、先ほども話題になっていた奏夜の先輩騎士である月影統夜からだった。

 

「……もしもし」

 

『おう、奏夜。お疲れさん』

 

「お疲れ様です!」

 

奏夜はこのように挨拶をかわしていたのだが、穂乃果たちは、奏夜と統夜の会話の内容が気になったため、奏夜の電話に聞き耳を立てていた。

 

『奏夜、μ'sの練習ってまだ続いてるのか?』

 

「いや、ついさっき終わったところですよ」

 

『そうか。それはちょうどよかった』

 

「?どうしたんですか?」

 

『あぁ、実は今唯たちと一緒に東京に向かっててな。今日は会えるかわからないが、明日か明後日にでもみんなで学校に遊びに行くからな』

 

「!?唯さんたちも一緒なんですか!?」

 

どうやら今回東京に行くのは統夜だけではなく、唯たちも一緒のようだった。

 

奏夜は耳をすませると、唯たちの話し声が聞こえているので、統夜の言葉は間違いないようだった。

 

「え!?唯さんたちが!?」

 

奏夜と統夜の会話に聞き耳を立てていた穂乃果は、その内容を聞いて驚きを隠せずにいた。

 

『ま、そういうことだ。という訳で、楽しみにしてるからな。それじゃあ、また』

 

「わかりました。待ってます!」

 

奏夜は最後にこう言葉を返すと、電話を切り、携帯をポケットにしまった。

 

「唯さんたちに……会えるんだね!」

 

「そうみたいですね。唯さんたちに会うのはかなり久しぶりになりますね」

 

「楽しみだなぁ♪」

 

統夜や唯たちと交流のある穂乃果、海未、ことりの3人は、統夜たちが遊びに来るのを心待ちにしていた。

 

「どんな人たちなのかなぁ?凄く楽しみにゃ!」

 

「うん、そうだね。私も楽しみだよ!」

 

「……ま、面白そうな人たちみたいね」

 

「そうね。奏夜の知り合いというなら、一度くらいは会ってみてもいいんじゃない?」

 

それだけではなく、唯たちと初めて会う残りの4人も、会ってみるのは悪くないと考えていた。

 

こうして、統夜たちが来るのを心待ちにしながら奏夜たちは学校を後にした。

 

奏夜たちはまっすぐ家を帰ることはせず、ファストフード店に立ち寄り、今後どのように活動していくかの話し合いを行い、それが終わると、世間話をしていた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

奏夜たちはファストフード店を後にしたのだが、その時には既に夜になっていた。

 

「……あちゃあ……。もう夜になっちゃったんだねぇ……」

 

「まぁ、話が盛り上がり過ぎちゃったしな……」

 

ファストフード店で話がついつい盛り上がり過ぎてしまったため、予想以上に遅くなってしまったのである。

 

「早く帰らないとね……」

 

「そうだな。今日のところは帰ろうぜ。送るからさ」

 

夜は、ホラーが現れる可能性があるため、奏夜は穂乃果たちを家まで送り届けようと考えていた。

 

その時だった。

 

『……奏夜!ホラーの気配だ!ここから近いぞ!』

 

キルバがホラーの気配を探知したため、家まで送り届けるということが出来なかった。

 

「そうか……。そういうわけだから、悪いな、みんな。俺は行かないと」

 

「あっ、奏夜!」

 

奏夜はホラーが現れたと聞いたため、海未の制止も聞かずにその場を後にして、キルバのナビゲーションを頼りにホラーの捜索を開始した。

 

そんな中、その場に残った穂乃果たちは、奏夜がその場を後にするのをジッと見つめていた。

 

「……穂乃果。どうします?」

 

「……もちろん、そーくんを追いかけるよ!」

 

「えぇ!?」

 

「ちょっと、穂乃果。本気なの?」

 

穂乃果は奏夜を追いかけて戦いを見届けることを決めたのだが、そのことにことりとにこが驚いていた。

 

「もちろんだよ。私たちがいっても迷惑になるだけかもしれないけど……。出来る限りそーくんの戦いを見届けたいって思ってるから……」

 

「凛もそうにゃ!そーや先輩を支えるなら、戦いを見届けるのも必要だと思うにゃ!」

 

「で、でも!闇雲にそうしたって、危険なんじゃ」

 

穂乃果と凛の言い分を聞いた花陽だったが、ホラーとの戦いに簡単に首を突っ込むのは危険なのでは?と思っていた。

 

「花陽の言う通りです。しかし、私も奏夜の戦いを見たいという気持ちはあります」

 

「まったく……。仕方ないわね……」

 

「今日は私もついていくけど、こういうのは積極的に首を突っ込むものじゃないんだからね!」

 

「わかってるって!」

 

真姫がこのように苦言を呈する中、穂乃果たちは、奏夜が走り去った方向へと向かっていき、ホラーとの戦いを見届けようとしていた。

 

そんな穂乃果たちのことを遠くから見届ける複数の影があることに気付かず……。

 

 

 

 

 

 

 

ホラーを捜索していた奏夜だったが、ここから近いというキルバの言葉通り、すぐに発見することが出来た。

 

そのホラーは、ゲートから現れたばかりなのか、キョロキョロと周囲を見回しながら獲物を探している。

 

姿は人間なのだが、そのあまりに挙動不審な動きに、奏夜はすぐ気付いたのであった。

 

奏夜は早足でホラーと思われる男に近付くと、声をかけることもせずに魔導ライターを取り出し、魔導火を放った。

 

男の瞳は魔導火によって照らされるのだが、その時、男の瞳には、不気味な文字のようなものが浮かんでいた。

 

これこそが、この男がホラーであるという証である。

 

「グゥ……!?貴様、魔戒騎士か?」

 

「あぁ、そうだ。そして……」

 

奏夜は男の問いかけに答えながら魔導火を消した魔導ライターを魔法衣の裏地の中にしまい、その代わりに魔戒剣を取り出した。

 

「……お前を斬る者だ」

 

奏夜は魔戒剣を抜くと、鋭い目付きで男を睨みつけながら魔戒剣を男に突き付けていた。

 

「……っ!」

 

男はそんな奏夜に一瞬たじろぐのだが、負けじと奏夜に蹴りを放ち、奏夜を吹き飛ばした。

 

「……へぇ、やってくれるじゃねぇか……」

 

男の蹴りを受けてすぐさま着地した奏夜は、不敵な笑みを浮かべながら、魔戒剣を構えて男に向かっていった。

 

男は奏夜の攻撃を警戒しつつ、パンチを繰り出そうとするのだが、奏夜はその一撃をかわし、反撃と言わんばかりに蹴りを放って男を吹き飛ばした。

 

「へへっ……。さっきのお返しって奴だな」

 

「貴様ぁ……!」

 

奏夜の浮かべた不敵な笑みが気に入らなかったのか、男はすぐに体勢を立て直し、奏夜に向かっていった。

 

奏夜は魔戒剣を構えて迎撃体勢に入り、男の攻撃に備える。

 

奏夜は男の攻撃をかわしながら、魔戒剣による攻撃を2度、3度と叩き込んだ。

 

「ぐぅ……!」

 

奏夜による魔戒剣の攻撃が効いているのか、男は表情を歪めていた。

 

そして奏夜は、追い打ちをかけるために蹴りを放ち、男を吹き飛ばした。

 

「おのれ……!魔戒騎士!!」

 

男は、奏夜の連続攻撃に追い詰められながらも、鋭い目付きで奏夜を睨みつけていた。

 

「どうした?まさか、これで終わりじゃないよな?」

 

奏夜は「フフン」と笑みを浮かべながら男を挑発していた。

 

「貴様……!!許さん!!」

 

奏夜の挑発に激昂した男の体が徐々にホラーの姿へと変わっていった。

 

その姿は、まるで鬼の戦士と呼ぶべきものであった。

 

『奏夜!奴はグランドオーガ。奴のパワーはかなりのものだぞ!気を付けろ!』

 

「あぁ、わかった!」

 

奏夜はキルバからホラーの情報を聞き出すと、魔戒剣を構えてグランドオーガを迎撃する体勢に入っていた。

 

そして、グランドオーガは奏夜に接近すると、手に持っている棍棒を力強く振り回した。

 

奏夜はそれを魔戒剣で受け止めようとするのだが、グランドオーガのパワーはかなりのものであり、受け止めきれずに吹き飛ばされてしまった。

 

「くっ……!あいつの馬鹿力は厄介だな……」

 

奏夜はすぐに体勢を立て直すのだが、正攻法で戦っても、再びパワー負けするだろうと予想していた。

 

そんな中、グランドオーガは、奏夜に追い打ちをかけるべく接近した。

 

奏夜がそれを迎え撃とうとしたその時だった。

 

『……奏夜!誰かが来るぞ!』

 

「っ!?いったい誰が……」

 

キルバは乱入者の気配を感じ、奏夜はそのことに困惑していたのだが、奏夜とグランドオーガの間に何者かが割って入ってきた。

 

「貴様……。邪魔だぁ!!」

 

グランドオーガは、目の前の障害である何者かを棍棒で吹き飛ばそうとするのだが、その者は剣のようなもので棍棒を受け止めると、蹴りを放ってグランドオーガを吹き飛ばした。

 

「……!?あれは……まさか……!」

 

奏夜は、グランドオーガを吹き飛ばした乱入者の正体に心当たりがあるからか、驚きを隠せなかった。

 

その人物は20歳くらいの青年であり、奏夜の魔法衣に似ている赤いコートを羽織り、その手には奏夜の持っている魔戒剣と似た形をした剣を持っていた。

 

「……よう、奏夜。どうやら手こずってるみたいだな」

 

「と、統夜……さん……?」

 

奏夜とグランドオーガの間に割って入ってきたのは、奏夜の先輩騎士であり、東京へ遊びに行くと話していた月影統夜だった。

 

まさか、電話が終わってすぐに会えるとは思っていなかったので、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

統夜が戦いに乱入したその直後だった。

 

「……そーくん!」

 

奏夜の戦いを見届けるために奏夜を探していた穂乃果たちが現れた。

 

「お、お前たち……」

 

「へぇ、穂乃果たちが来たか。これは良い機会かもな」

 

奏夜は穂乃果たちが現れて困惑していたが、統夜はいたって冷静だった。

 

穂乃果たちが現れてまもなく……。

 

「……あっ、統夜先輩!いた!」

 

5人組の少女がこちらにやってくると、その中の1人である小柄でツインテールの少女が統夜の存在を見つけた。

 

その5人組の姿を見た穂乃果たち2年生組は……。

 

「あ、梓さん!?それに、皆さんも!」

 

統夜のことを探していたこの5人組は、統夜が軽音部で組んでいたバンド、「放課後ティータイム」のメンバーであり、この5人と親交のある穂乃果たちは驚きを隠せなかった。

 

「ほ、穂乃果ちゃん!?どうしてここに?」

 

「そういえば、穂乃果ちゃんたちもやーくんや奏夜君の秘密を知ったみたいだしね」

 

穂乃果たちの姿を見つけた小柄でツインテールの少女、梓は驚きを隠せなかったが、ヘアピンが特徴の少女、唯は統夜から事前に聞いた話を思い出していたため、そこまで驚くことはなかった。

 

「やっぱり……。唯さんたちも魔戒騎士の秘密を知ったんですね……」

 

「話は後だ!みんな、穂乃果たちを頼む!」

 

「わかりました!……さぁ、みんな。こっちに来て!」

 

互いに話したいことはたくさんあったのだが、それはホラーを討滅した後にすることにして、梓が穂乃果たちを先導して、安全な場所まで避難を行っていた。

 

「……奏夜。ここは俺に任せてくれないか?」

 

梓たちと唯たちが避難したことを確認した統夜は、たった1人でこのグランドオーガを倒すつもりだった。

 

「!?し、しかし……!」

 

「俺なら心配ないさ。たまには先輩騎士として力を見せとくのも一興と思ってな。それに、新手が現れる可能性だってある。お前は俺の代わりにみんなを守って欲しいんだ」

 

「……っ、わかりました。皆さんは俺が守ります!統夜さんはホラーに専念して下さい!」

 

このように統夜へと告げた奏夜は、魔戒剣を緑の鞘に納めると、穂乃果たちが避難している場所へと移動した。

 

「そ、奏夜!何をしているんですか!?」

 

「そうだよ!あんな強そうなのを、統夜さん1人で戦わせる気なの!?」

 

統夜の本当の力を知らない海未と穂乃果は、統夜そっちのけで自分たちのところへ来た奏夜に異議を唱えていた。

 

「……海未、穂乃果。落ち着けって」

 

「統夜君は、私たちを守るよう、奏夜君にお願いしただけなのよ」

 

統夜の本当の力をよく知っているカチューシャが特徴の少女、律と、金髪のような明るい髪が特徴の紬は、異議を唱えている海未と穂乃果をなだめていた。

 

「で、でも……」

 

「大丈夫。心配はいらないさ」

 

「そうだよ!だって、やーくんは……」

 

「様々な試練を乗り越えて、私たちを守ってくれた、守りし者だから……」

 

自信に満ちた表情で語る梓の顔はとても凛々しいものであり、穂乃果たちはそんな梓に見とれていた。

 

そして、統夜の実力をよく知っている奏夜と唯たちは、梓の言葉を聞いて、ウンウンと頷いていた。

 

こうして、奏夜たちが見守る中、統夜は魔戒剣をゆっくりと構えていた。

 

その姿はまさしく、様々な修羅場を乗り越えてきた、歴戦の勇士そのものであった。

 

奏夜は、そんな統夜の佇まい1つから統夜の実力を感じ取っており、息を飲んでいた。

 

「お、おのれ……。貴様が誰だろうと関係ない!貴様を殺し、ここにいる全員を喰らってやる!」

 

「ふっ……出来るかな?」

 

奏夜はグランドオーガの言葉にまったく動じることなく、そんな飄々とした態度自体が、グランドオーガにとっては挑発と感じるものだった。

 

「貴様ぁ!!」

 

統夜の飄々とした態度が気に触ったグランドオーガは、統夜に接近すると、先ほど奏夜を弾き飛ばす程のパワーを見せつけた棍棒を統夜目掛けて振り下ろした。

 

「……」

 

グランドオーガの棍棒が迫っても、統夜はまったく動じる事はなく、ギリギリまで相手を引き付けたところで、魔戒剣にて攻撃を受け止めていた。

 

「!?」

 

「奴の攻撃を受け止めた!?」

 

自分が受け止めきれなかった攻撃を軽々と受け止める統夜を見て、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「……どうした?お前の力はそんなものか?」

 

「グゥゥ……!貴様ぁ!」

 

グランドオーガはさらに力を込めようとするが、統夜はあえて力を抜いて棍棒による攻撃を受け流すことで、グランドオーガはそのまま転倒してしまった。

 

グランドオーガはすぐに起き上がり、再び攻撃を仕掛けようとするが、その前にグランドオーガに接近した統夜は蹴りを放ち、グランドオーガを吹き飛ばした。

 

「……あの馬鹿力のホラー相手でもパワー負けしてない……。流石は統夜さんだ……」

 

奏夜は、僅かな時間でグランドオーガを圧倒する統夜の実力に、ただただ感心していた。

 

自分の力ならば、苦戦はしても倒せるとは思うのだが、ここまで圧倒することは出来ないからである。

 

「おのれ……。だったら、これならどうだ!」

 

グランドオーガは口から大量の牙のようなものを放つと、その牙のようなものが、すべて統夜に迫る。

 

統夜の手にする1本の魔戒剣では、全てを受け切るのは困難だと思われた。

 

しかし……。

 

「!?」

 

「す、凄い……」

 

統夜はグランドオーガの攻撃を全て受け切っており、その姿に奏夜と穂乃果たちは驚きを隠せなかった。

 

1本の魔戒剣では全て受け切れないと早々に判断した統夜は、魔戒剣の鞘を取り出すと、まるで二刀流のような形で全ての攻撃を受け止めていた。

 

そんな統夜の動きに一切の無駄がなく、とても美しいものだったため、スクールアイドルとして活動している穂乃果たちは特に驚いていた。

 

「ば、馬鹿な……!俺の攻撃を全て防いだ……だと!?」

 

「ま、これくらいはなんてことはないさ」

 

統夜はグランドオーガの攻撃を全て受け切っても、余裕そうな表情をしていた。

 

『……おい、統夜。あまり遊んでないで、さっさと決着をつけろよな』

 

「わかってるって」

 

すると、統夜の相棒である魔導輪イルバが、このように苦言を呈すると、統夜はそれを軽く流していた。

 

そして……。

 

「……貴様の陰我。俺が断ち切る!」

 

「!?その言葉……」

 

「そーくんと同じ……!?」

 

統夜の宣言した言葉に、海未と穂乃果は驚いていた。

 

すると……。

 

統夜は魔戒剣を高く突き上げると、円を描いた。

 

その部分のみ空間が変化すると、統夜はそこから放たれる光に包まれた。

 

空間が変化した部分から、白銀の鎧が現れると、統夜は脚、腕、身体、頭部と徐々に白銀の鎧に身を纏っていた。

 

こうして、統夜は白銀の輝きを放つ鎧を身に纏ったのであった。

 

この鎧は、白銀騎士奏狼(ソロ)。

 

統夜が受け継いだ、統夜の魔戒騎士としての名前である。

 

「こ、これが……」

 

「統夜さんの鎧……」

 

「銀の狼……」

 

「オーラが凄いわね……」

 

「そ、そうだね……」

 

「こっちの鎧も格好いいにゃ!」

 

「……」

 

穂乃果、海未、ことり、真姫、花陽、凛、にこの順番で統夜の纏う奏狼の鎧に驚いていた。

 

(……統夜さん。見せてもらいます。さらに強くなったあなたの力を……)

 

奏夜は、久しぶりに見る統夜の戦いを見て、改めて統夜の実力を確かめようとしていた。

 

「……鎧を着ても関係ない!貴様はこの俺が殺す!」

 

グランドオーガはこう宣言すると、先ほどのように口から大量の牙のようなものを放った。

 

それは全て統夜に迫るのだが、統夜はグランドオーガの攻撃を全て鎧で受け止めていた。

 

ソウルメタルで作られた奏狼の鎧は、牙の弾くらいでは傷1つと付くことはなかった。

 

統夜はグランドオーガの攻撃を受け止めながら、ゆっくりとグランドオーガに迫っていた。

 

「くそっ!だったら……こいつをくらえ!」

 

グランドオーガは、手にしている棍棒を横に大きく振るい、棍棒が統夜に迫っていた。

 

統夜は魔戒剣が変化した皇輝剣(こうきけん)を一閃すると、棍棒を真っ二つに斬り裂いた。

 

「なっ!?何だと!?」

 

自分の武器である棍棒があっさりと斬り裂かれてしまい、グランドオーガは驚きを隠せなかった。

 

「……これで決める!」

 

統夜は、グランドオーガの棍棒を斬り裂いた勢いそのままに、グランドオーガに接近して皇輝剣を一閃すると、たったの一太刀でグランドオーガを真っ二つに斬り裂いた。

 

「つ……強すぎる……!貴様……何者なんだ……!」

 

皇輝剣の一閃によって体を斬り裂かれたグランドオーガは、統夜の圧倒的な力に絶望していた。

 

「……我が名は月影統夜!白銀騎士奏狼の称号を受け継いだ、魔戒騎士だ!」

 

「白銀騎士……だと!?」

 

『さらに言えば、こいつは黄金騎士牙狼と、互角の戦いを繰り広げた男だ。お前さんが敵わないのも当然だろうな』

 

「なっ……!?牙狼と互角……だと……!?」

 

黄金騎士牙狼という存在は、魔戒騎士の最高位であり、それと同時に最強の魔戒騎士でもある。

 

そのため、ホラーはその名前を知っており、その力を畏れていた。

 

グランドオーガは、目の前の統夜がそんな牙狼と同等の力を持っていると聞き、自分との力量差に絶望しながら消滅していった。

 

「……ふぅ……」

 

ホラーが消滅したことを確認した統夜は、鎧を解除すると、元に戻った魔戒剣を青い鞘に納めた。

 

そして、魔戒剣を魔法衣の裏地の中にしまって落ち着いたところで、奏夜たちが駆け寄ってきた。

 

「……統夜先輩、お疲れ様でした」

 

「あぁ。みんな、怪我はなかったか?」

 

「大丈夫だよ!だって、やーくんが守ってくれたし、奏夜君もいたからね!」

 

「いや……でも……俺は……」

 

「あなたのことはよく統夜君から聞いているのよ。「奏夜は魔戒騎士として立派に成長してきている」って」

 

「統夜さんが……俺のことを……」

 

統夜は、自分の後輩騎士という理由ではなく、1人の魔戒騎士として、奏夜の実力を認めていた。

 

さらには、穂乃果たちを守るという思いが加わり、守りし者としてかなり力をつえていることも実感していたからである。

 

奏夜は、自分が尊敬する統夜がそこまで思ってくれていることを知り、嬉しさを滲ませていた。

 

「それにしても、しばらく見ない間に奏夜もたくましい顔をするようになったよな」

 

「あぁ。穂乃果たちを守りたいっていう思いがあるからなんだろうな」

 

「そんな……俺は……」

 

律と澪も、奏夜の成長を実感しており、奏夜は褒められて満更でもないようだった。

 

「……それにしても、久しぶりね、穂乃果ちゃん、海未ちゃん、ことりちゃん♪」

 

「はい!お久しぶりです!紬さん!」

 

「紬さん、お元気でしたか?」

 

「私は、紬さんや皆さんと会いたかったです!」

 

穂乃果、海未、ことりの3人は、久しぶりに唯たちに会うことが出来て、嬉しさを滲ませていた。

 

「ウフフ♪私たちもみんなに会いたかったわよ♪」

 

「それに、私たちはμ'sのことを応援しているんだよ!」

 

「そうなんですか!?」

 

梓がこのような言葉を送ると、穂乃果は過剰に反応し、喜びを露わにしていた。

 

「メンバーも7人になったみたいだしな」

 

「みんな、すっごく可愛いよ!」

 

にこが最近加入したことも知っており、唯はそんな穂乃果たちのことをこのように評価していた。

 

穂乃果たちはそう褒められて頬を赤らめるが、内心はとても嬉しかった。

 

こうして、顔見知りである奏夜たち2年生組と統夜たちが再開の挨拶をしていたのだが……。

 

「……あっ、あの!」

 

花陽が興奮気味に声をかけると、少しばかり唯たちに近付いていった。

 

「放課後ティータイムのライブの映像、見ました!凄く良かったです!」

 

花陽はその動画を見た瞬間に放課後ティータイムのファンとなり、そのことを唯たちに伝えていた。

 

「ありがとぉ♪」

 

「そういえば、動画サイトにもライブの映像が上がってたよな」

 

「そう言ってもらえて、私たちは凄く嬉しいよ」

 

自分たちのバンドが認められることはとても嬉しい話なので、澪は穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「特に……。「ごはんはおかず」。あの曲は最高でした!ご飯に対するリスペクトの気持ちがストレートに伝わってきて!」

 

「ごはんはおかず?」

 

「ずいぶんと独特なタイトルね……」

 

独創的な曲のタイトルに、にこは驚いており、真姫は少しばかり呆れていた。

 

「おっ!まさか唯の感性を理解出来る人間に出会えるなんてな!」

 

「あぁ!ひどいよぉ、りっちゃん!」

 

ごはんはおかずという曲に花陽が共感していることを知った律はニヤニヤしながら唯をからかっており、唯はぷぅっと頬を膨らましながら律を睨みつけていた。

 

「……ねぇねぇ。あなた、名前は?」

 

「わっ、私は……。小泉……花陽です」

 

唯に名前を聞かれた花陽は、恥ずかしがりながらも自分の自己紹介をしていた。

 

「花陽ちゃんか……。可愛い名前だね!これからは「かよちゃん」って呼んでもいい?」

 

「は、はい!もちろんです!」

 

唯は花陽を「かよちゃん」と呼ぶことにしたのだが、花陽はそれを嫌だとはまったく思わなかった。

 

「かよちん、良かったにゃ♪」

 

「おぉ!そこのあなた、その喋り方が可愛いね♪」

 

「そ、そうかにゃ?」

 

唯は語尾に「にゃ」とつける凛の喋り方に食いついていた。

 

「あずにゃんと良いコンビを組めそうだよ!」

 

「「「「あずにゃん?」」」」

 

梓は、唯に「あずにゃん」と呼ばれているのだが、その事情を知らない1年生組とにこは、首を傾げていた。

 

「ちょっと唯先輩!いきなり何を言ってるんですか!?」

 

「だって、本当にそう思ったんだもん!」

 

どうやら唯は、本能的に猫のようなあだ名をつけた梓と、猫のような喋り方をする凛が良いコンビになると判断したようである。

 

「……にゃん?どっちかというと、凛よりもにこ先輩の方が良いコンビを組めそうだけど……」

 

「はぁ?何でそこでにこが出てくる……のよ?」

 

にこは怪訝そうに梓のことを見るのだが、何かを感じ取ってハッとしたにこは、梓のことを凝視していた。

 

それはどうやら梓も同じであり、にこのことを凝視していた。

 

「「……」」

 

梓とにこは、互いに何かを感じ取ったのか、互いのことをジッと見つめていた。

 

(……何だろう……)

 

(この子……)

 

((他人とは思えないんだけど……))

 

小柄で黒髪でツインテールと、共通点が多い梓とにこは、他人とは思えなかったからか、互いのことを見ていた。

 

「……ねぇ、あなた、名前は?」

 

「私は中野梓だよ。あなたは?」

 

「私は矢澤にこよ」

 

互いに軽く自己紹介を終えた梓とにこは、それ以上の言葉を交わさなかったのだが、互いに固い握手を交わしていた。

 

「おぉ!あずにゃんとにこちゃんが意気投合してる!」

 

「まぁ、なんとなく似てるところがあるからな」

 

意気投合する梓とにこの姿はとても微笑ましいものであり、統夜は笑みを浮かべていた。

 

「さて、色々と話したいこともあるが、俺たちはこれからムギの親父が経営しているホテルに行くことになってるんだよ」

 

どうやら統夜たちは、既に泊まる場所を確保しているようであり、そのホテルは、紬の父親が経営しているホテルだった。

 

紬の父親は桜ヶ丘随一の富豪なのだが、何故東京でホテルを経営しているのか?

 

それはすぐに明らかになる。

 

「……そうだ。お前たちも俺たちと一緒に来ないか?」

 

「え?いいんですか?」

 

統夜からのまさかの提案に、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「もちろんよ♪一緒に泊まるのは無理でも、お話くらいは出来るでしょう?」

 

「私たちは、みんなの話を聞きたいと思っているしな」

 

「「「「「「「……」」」」」」」

 

紬と澪がこのように補足をすると、どうするか奏夜以外の全員が考えていた。

 

しばらく考えていると……。

 

「……一緒について行ってもいいですか?」

 

最初にこう口を開いたのは、穂乃果であった。

 

「ほ、穂乃果?」

 

「だって!せっかく統夜さんたちに会えたんだもん!ゆっくりお話したいよ!」

 

「確かにそうだね。私も久しぶりに統夜さんたちとお話したいって思ってたし」

 

「わ、私も!ぜひお話を聞きたいです!」

 

「凛も!お話を聞きたいにゃ!」

 

「……ま、たまにはいいかもね」

 

「あまり遅くならないなら、構わないわよ」

 

海未以外の全員は、穂乃果の提案に乗っかっていた。

 

……そして、海未は……。

 

「……そうですね……。私も同じ気持ちですし」

 

「……決まりだな」

 

こうして、穂乃果たちは、統夜たちの泊まるホテルまでついて行き、互いの近況などについて話をすることにしたのであった。

 

「……それじゃあ、皆さん。俺たちもついて行きますね」

 

「うん!歓迎するよぉ!」

 

「はい!私も奏夜くんたちと話をしたいと思っていたし!」

 

「ま、そういうことだ。それじゃあみんな、一緒に来てくれ」

 

統夜が先導する形となり、奏夜たちは、唯たちと共に、秋葉原某所にあるホテルへと向かっていった。

 

……夜はこれからなのだが、これからが、奏夜たちや統夜たちにとっての、「放課後ティータイム」の始まりとなるのであった……。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『おいおい、お前ら。いくらなんでもまったりし過ぎだろ。……たまにはそんな日もあっても良いとは思うが……。次回、「茶会」。まさしくこれが、放課後ティータイムってやつなのか?』

 

 




統夜、強すぎだろ……。

確かに、前作では様々な試練を乗り越えてきた統夜ですが、前作から2年が経ち、統夜はさらに強くなっていました。

そして、今回初めてけいおん!のキャラも登場しました。

ここでようやく、前作と今作の繋がりが出来たかなと思っています。

花陽がご飯好きだということを、ここでようやく出すことが出来ました。

お米大好きな花陽は絶対に「ごはんはおかず」が好きになりますよね。

ご飯のことを歌ってる曲ですし。

聞いたことのない方も、ぜひ聞いてみてください(宣伝)

さらに、にこと梓が意気投合するシーンは個人的に入れたいと思っていたので、悔いはありません。

さて、次回は奏夜たちと統夜たちの交流が描かれます。

彼らはいったいどのような交流をするのでしょうか?

それでは、次回をお楽しみに!





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第20話 「茶会」

お待たせしました!第20話になります!

早いもので、もう4月になりましたね。

もうすぐでこの小説を投稿してから2ヶ月が経とうとしています。

これからも牙狼ライブ!をよろしくお願いします!

そういえば、絶狼の最終回を見ましたが、色々と凄かったですね。

まさかのものが見れましたしね……。

さて、今回は前回の続きで、奏夜たちと統夜たちの交流会となります。

今回の構図はまさしく牙狼×ラブライブ!×けいおん!となりますが、どのような話で盛り上がるのか?

それでは、第20話をどうぞ!





μ'sのメンバーが7人となり、数日が経過していた。

 

花陽が偶然放課後ティータイムのライブ映像を見ていたことをきっかけに、穂乃果たちは、奏夜の兄貴分である月影統夜が魔戒騎士であることを知る。

 

その日の夜、奏夜は帰りが遅くなった穂乃果たちを家に送ろうとしたのだが、その前にホラー、グランドオーガと遭遇したのである。

 

奏夜はグランドオーガのパワーに押されており、これから反撃を開始しようと思っていると、奏夜の先輩騎士である月影統夜が戦いに介入してきた。

 

統夜は秋葉原で用事があるようであり、N女子大学に通っている唯たち共に秋葉原へとやってきたのである。

 

統夜は、奏夜に唯たちと穂乃果たちを守るよう頼むと、たった1人でグランドオーガに向かっていった。

 

高校時代に様々な試練を乗り越えてきた統夜の実力はかなりのものであり、グランドオーガは、そんな統夜に圧倒されていた。

 

そして、白銀騎士奏狼の鎧を召還した統夜は、その圧倒的な力で、グランドオーガを蹂躙したのである。

 

鎧を解除した統夜は、奏夜たちや穂乃果たちと少し話をすると、自分たちの泊まるホテルに遊びに来ないかという提案をしていた。

 

その提案に乗った奏夜たちは、統夜先導のもと、秋葉原某所にあるホテルへと向かったのである。

 

そのホテルとは……。

 

「「「「「「「「……」」」」」」」」

 

自分たちが考えていた以上に立派なホテルであったため、奏夜たちは言葉を失っていた。

 

「……おい、お前ら、どうした?早く行くぞ」

 

奏夜たちが唖然としていることなど御構い無しと言った感じで、統夜たちはホテルの中に入っていったため、奏夜たちは慌てて後を追いかける。

 

ホテルの中に入ると……。

 

「……お帰りなさいませ、紬様。皆様」

 

ホテルの支配人と思われる男性が、紬たちの姿を見つけると、深々と頭を下げていた。

 

どうやら統夜たちは既にこのホテルにチェックインしたようなのだが、チェックインしてすぐに、統夜とイルバがホラーの気配を探知したため、現場に急行したようであった。

 

紬様と、重役のような扱いを受けている紬を見て、奏夜たちは唖然としていた。

 

(……こ、これは凄いわね……。パパは病院を経営しているけど、ここまでの富豪ではないわよ……!)

 

真姫の家も、父親が病院を経営しているからか、秋葉原の中では富豪の部類に入るのだが、上には上がいたため、真姫は特に驚きを隠せなかった。

 

(……それにしても、何でこの人たちはこの紬って人と仲良くなれたのかしら……?)

 

紬以外のメンバーは、とても金持ちの人間とは思えず、平凡な人物という印象だったため、紬と統夜たちが何故友達なのかという疑問を、真姫は抱いていた。

 

「……あのね、この8人は私のお友達なの。一緒に泊まりはしないのだけれど、お話をしたいと思って連れてきたの」

 

「……かしこまりました。直ちにお部屋をご用意致しましょう」

 

ホテルの支配人らしき男は、従業員らしき男を呼び出すと、何か指示を出し、それを皮切りに、従業員たちが慌ただしく動き始めた。

 

そんな慌ただしい動きを見た奏夜は、少しばかり申し訳ないと思っていた。

 

この従業員たちは自分たちのためにここまで慌ただしく動いてくれているからである。

 

奏夜は申し訳ない気持ちだったのだが、穂乃果たちは唖然としていたため、そこまでの気持ちにはなれなかった。

 

その場で待機することおよそ数分後……。

 

「……紬様。皆様。お待たせいたしました。お部屋の準備が出来ましたので、ご案内いたします」

 

どうやら、話をするためだけの部屋の用意が出来たようであり、奏夜たちと統夜たちは、支配人らしき男の案内で、とある部屋へと向かった。

 

案内された部屋は、ちょっとしたパーティーを行う時に使われる部屋のようであり、奏夜たち8人と、統夜たち6人が入ってちょうど良いスペースだった。

 

「……ほわぁ、広いねぇ」

 

「まさか、こんな部屋を用意してくれるなんてな」

 

「はい。驚きです」

 

「そうだよな……」

 

どうやらこの部屋に驚いているのは奏夜たちだけではなく、唯、律、梓、澪の4人も驚いていた。

 

「……それでは、軽いお食事とお飲物を用意いたします」

 

「うん、お願いね」

 

支配人らしき男は、こう告げて紬に一礼すると、部屋を後にして、どこかへと移動した。

 

「……さて、食事と飲み物が来るまで、のんびりお話でもしてましょうか♪」

 

紬が満面の笑みを浮かべながら奏夜たちにこう告げるのだが、奏夜たちは未だに驚いているのか、言葉を失いながら唖然としていた。

 

そんな中……。

 

「紬さん……でしたっけ?あなたはいったい何者なんですか?こんなホテルに泊まれたり、支配人があそこまであなたの事を敬ったり」

 

紬の凄さが浮き彫りになっていたため、真姫は、紬がどのような人間なのかを問い詰めていた。

 

「……ま、ムギのことを知らなかったらそう思うのも当然だよな」

 

「確かに、そうですよね」

 

紬との付き合いが長い統夜と梓は、そこまで驚きことはないのだが、μ'sの1年生組やにこのように、初対面の人間がここまでの環境を見せられたら、訝しげに感じるのも納得だろう。

 

「ムギの家は、桜ヶ丘でもかなりのお金持ちなんだよ」

 

「別荘もいくつか持っているみたいで、私たちはそこで合宿をしたりもしたよねぇ♪」

 

律と唯の説明を聞いて、奏夜たちはこのホテルに泊まれるのも納得したようであり、ウンウンと頷いていた。

 

(……それにしても、別荘……ね。ウチにも別荘はあるけど、それよりも広いのかしら?)

 

真姫の家も、父親が病院を経営しているだけあって、秋葉原でもかなりの富豪であり、別荘も所有している。

 

奏夜たちがその真実を知ることになるのは、もう少し先の話である。

 

紬のことがわかったところで、奏夜たちと統夜たちは、適当に椅子に座ることにした。

 

「……さて、料理と飲み物はまだ来なさそうだし、改めて自己紹介でもしようぜ」

 

統夜がこのような提案をしたのだが、その場にいる全員が頷いたため、統夜たちは自己紹介をすることにした。

 

「したらまずは俺から行くか……。俺は月影統夜。白銀騎士奏狼の称号を持つ魔戒騎士だ」

 

最初に自己紹介をしたのは、言い出しっぺである統夜からであった。

 

『それでは俺も自己紹介をしておこう。俺様はイルバ。統夜の相棒の魔導輪だ』

 

続けて、統夜の相棒であるイルバが自己紹介をするのだが、奏夜以外のμ'sのメンバーは、そんなイルバをジッと見ていた。

 

「……あなたも魔導輪なんですね……」

 

「キー君とはちょっと違うけど、あなたも可愛いね!」

 

穂乃果は、イルバのことをジッと見つめながらこのように呟いていた。

 

『だからそのキー君はやめろ!』

 

穂乃果のつけたあだ名が未だに気に入らないのか、キルバはこのように抗議をしていた。

 

「アハハ……。キルバもあだ名をつけられてるんだな……」

 

奏夜の相棒であるキルバがあだ名をつけられているとは思っていなかったからか、統夜は苦笑いをしていた。

 

『やれやれ……。それに、俺様が可愛いとは解せんな』

 

イルバが可愛いという穂乃果の発言が気に入らなかったのか、イルバは呆れていた。

 

「それにしても、キー君かぁ。いいあだ名だね!イルイルもそう思うよねぇ?」

 

「イルイル?」

 

唯はイルバのことを「イルイル」と呼んでいたのだが、そのあだ名に、穂乃果は首を傾げていた。

 

『唯!お前さんは相変わらず俺様を変なあだ名で呼ぶな!』

 

イルバは唯たちにその存在を認知された時から唯にイルイルと呼ばれており、その度にイルバは異議を唱えていた。

 

それは現在も健在であり、そんな唯とイルバのやり取りを見た奏夜たちは苦笑いをしていた。

 

「それじゃあ、次は私!私は平沢唯!N女子大学に通う大学2年生だよ!」

 

統夜とイルバに続いて自己紹介をしたのは唯だった。

 

「私は秋山澪。唯と同じ大学2年生だ。よろしくな」

 

「私は琴吹紬よ。みんなからはムギって呼ばれているわ♪」

 

唯、澪、紬と、順調に自己紹介が終わり、律は「待ってました!」と言わんばかりに「ふっふっふ……」と怪しい笑みを浮かべていた。

 

そして……。

 

「……容姿端麗、頭脳明晰。……幸せ笑顔で幸せ運ぶみんなのアイドル。……田井中ぁ、り、つぅ!!」

 

律がこのような自己紹介をした瞬間、澪が律に拳骨をお見舞いしており、ゴツンという鈍い音が響き渡っていた。

 

「自分だけ盛りすぎだろ!」

 

「いやぁ……。スクールアイドルやってる穂乃果たちの前だから、これくらいのことをしないとインパクトに欠けると思って……」

 

律は、澪に殴られた部分を優しくさすりながら、このような弁解をしていた。

 

「ったく……。そういうところは高校の頃から変わってないよな、律は……」

 

律とは長い付き合いである統夜も、当時と変わらない律に呆れていた。

 

「……私は中野梓だよ。最近先輩たちと同じ、N女子大学に入ったんだ。改めてよろしくね」

 

そんな律をスルーしつつ、梓が自己紹介をしていた。

 

「それにしても、梓さんとにこ先輩ってやっぱり似てますよねぇ」

 

このホテルへ移動する前も、互いに他人のような気がしなかった2人は固い握手を交わしていたのだが、そんな2人を穂乃果は改めて眺めていた。

 

「やっぱりそう……なのかなぁ?」

 

梓はにこのことをジッと見つめながら首を傾げていた。

 

「うんうん、似てると思うぞ」

 

律は梓とにこを交互に見比べると、ウンウンと頷いていた。

 

「なんだかよくわかんないけど、あなたとなら仲良くなれそうな気がするわ」

 

「そうだね……。それは私も同じ思いだよ」

 

小柄でツインテール同士、何か感じるものがありからか、2人は互いのことをジッと見ていた。

 

「ま、そこはともかくとして、次は俺たちかな?」

 

ここで統夜たちの自己紹介は終わったため、続けては奏夜たちの自己紹介が行われた。

 

「俺は如月奏夜。μ'sのマネージャー兼ダンスコーチで、陽光騎士輝狼の称号を持つ魔戒騎士です」

 

「それにしても、μ'sのマネージャーとダンスコーチかぁ……」

 

「当時のやーくんよりも忙しそうだねぇ」

 

「あのなぁ……。当時の俺だって忙しかったんだぞ?まぁ、今の奏夜程じゃないけどな」

 

統夜は軽音部時代にどのように過ごしていたのかを思い出していたため、梓と唯の言葉に反論する言葉は見つからなかった。

 

『俺も自己紹介をしておこう。俺の名はキルバ。まだまだ未熟な奏夜をサポートする魔導輪で、どの魔導輪よりも最高に格好いい魔導輪だ!』

 

「「「「「「……」」」」」」

 

キルバのナルシスト全開な自己紹介に、統夜たちは思わず言葉を失ってしまった。

 

「キー君!そんなに格好つけた発言をするから、統夜さんたちが戸惑ってるじゃん!」

 

『だからキー君はやめろ!』

 

キルバは相変わらず穂乃果がキー君と呼ぶのが気に入らないからか、異議を唱えていた。

 

『やれやれ……。どうやらお前さんも呼ばれ方には苦労しているみたいだな……』

 

イルバもまた、唯に「イルイル」と呼ばれているため、同じように変なあだ名で呼ばれているキルバに同情をしていた。

 

「……それじゃあ私が自己紹介するね!私は高坂穂乃果です!音ノ木坂学院に通う高校2年生で、μ'sのメンバーです!」

 

奏夜、キルバと続いて、μ'sのメンバーとして最初に自己紹介をしたのは穂乃果であった。

 

「園田海未です。μ'sの活動とは他に弓道部に所属しています?よろしくお願いします」

 

「へぇ、海未は弓道部としても頑張ってるんだ」

 

「大変そうねぇ」

 

「まぁ、確かに大変ですが、私はこの日々に充実してますから」

 

海未は確かに忙しい毎日を送っており、澪と紬は驚いていたのだが、海未はこの毎日に不満はないのである。

 

「それじゃあ次は私ですね♪私は南ことりです。μ'sの衣装を担当しています!」

 

「へぇ、あの衣装はことりちゃんが作ったんだね!」

 

「さわちゃんに負けないくらいの出来だよな」

 

「さわちゃん?」

 

律の言っていたさわちゃんなる人物がわからず、ことりだけではなく、他のメンバーも首を傾げていた。

 

「あぁ、さわちゃんっていうのは、軽音部の顧問である山中さわ子先生のことだよ」

 

「あの人は衣装作りが趣味みたいでね。軽音部の部室にはたくさんの衣装があるの」

 

「まぁ、あれはほとんどさわちゃんの趣味が入ってるコスプレ衣装だけどな」

 

統夜、梓、律の3人が、軽音部の顧問であるさわ子についての説明をしていた。

 

3人のいう通り、さわ子は衣装作りが趣味であり、自分の作った衣装を誰かに着せるのはもっと好きであり、統夜たちはまるでさわ子の着せ替え人形のように、様々な衣装を着せられたのであった。

 

桜ヶ丘高校軽音部の部室にはたくさんの衣装がある。

 

その言葉を聞いたことりは、目をキラキラと輝かせていた。

 

「こ……ことりちゃん?」

 

ここまで明るい表情をしたことりを見たことがなかったからか、穂乃果は困惑していた。

 

穂乃果だけではなく、海未と奏夜も同様なのだが……。

 

「す、凄いです!今度、その衣装を見てみたいですし、その山中先生にも会ってみたいです!」

 

「まぁ、さわちゃんもμ'sのことは知ってるだろうし、そう話したら喜ばれるんじゃないのか?」

 

「そうだな。あの人のことだ。μ'sの衣装のことを話したら血相変えてこっちに飛んでくるかもしれないぞ」

 

さわ子の衣装はどれもクオリティが高く、さわ子はどの衣装も妥協をすることはしなかった。

 

衣装の作り甲斐があるスクールアイドルの衣装が作れると聞いたら、目をギラギラと輝かせるだろうと想像した統夜は、苦笑いをしていた。

 

こうして、奏夜を含めた2年生組の自己紹介は終了した。

 

「それじゃあ、次は凛たちだね!私は音ノ木坂学院1年生の星空凛です!よろしくお願いしますにゃ!」

 

続けて1年生組の自己紹介が行われたのだが、最初に自己紹介をしたのは凛だった。

 

「凛ちゃん、元気いっぱいだね!」

 

「そうだな。そういうところは律そっくりかもしれないな」

 

「えぇ?そんなことはないと思うけどにゃ!」

 

律は元気いっぱいなところが凛と似ていると言われ、何故かドヤ顔で語尾に「にゃ」とつけてみた。

 

「「「「「……」」」」」

 

そんな律に呆れているのか、統夜たちは言葉を失い、特に統夜と澪は、ジト目で律を見ていた。

 

「そ、そんな目であたしを見るな!」

 

そんな冷ややかな目線が耐えられなかったのか、律はあたふたとしていた。

 

「そ、それじゃあ、私の自己紹介をしますね。私も同じ1年生の、小泉……花陽です。よろしくお願いします……」

 

続けて花陽が自己紹介をするのだが、花陽は恥ずかしがりながら自己紹介をしていた。

 

「かよちゃん!可愛い!」

 

そんな花陽のことが気に入ったのか、唯は花陽に抱きついていた。

 

「ふぇっ!?あの……その……」

 

いきなり唯に抱きつかれてしまい、花陽は困惑していた。

 

すると……。

 

「唯先輩!早く離れてあげて下さい!花陽ちゃんが困ってるじゃないですか!」

 

それを見かねた梓が唯を注意したため、唯は渋々花陽から離れたのだった。

 

しかし、唯は梓のことをジッと見るのだが……。

 

「……あずにゃん、ヤキモチ?」

 

「なっ!?」

 

唯の唐突な言葉に、梓は顔を真っ赤にしていた。

 

「なるほど……。いつも唯に抱きつかれてるのは梓だから、面白くなかったんだな」

 

「だー!!何でそうなるんですか!!」

 

どうやら律の言葉は違うようであり、梓はムキになって反論していた。

 

そんな律と梓のやり取りに、花陽は穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「それじゃあ、次は私ね。私は西木野真姫。μ'sの曲は私が作っているの」

 

「へぇ、あなたが作曲を担当しているのね。放課後ティータイムの作曲も、私が担当しているのよ」

 

真姫が作曲を担当していると聞き、同じく作曲をしている紬が反応していた。

 

「そうなの?今度あなたと色々相談してみたいわ。作曲について悩んでるところもあるしね」

 

「もちろん♪後で連絡先を交換しましょう♪」

 

こうして真姫は、その後紬の連絡先をゲットし、作曲について相談していく機会が増えていくことになった。

 

「……それじゃあ、次はにこの自己紹介ね」

 

1年生組の自己紹介が終わり、最後ににこの自己紹介が行われようとしていた。

 

(……何故だろう。嫌な予感がするんだけど……)

 

《お前もそう思っていたのか。実は俺もそう思っていた》

 

奏夜とキルバが嫌な予感を抱きながら、にこの自己紹介が行われようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……にっこにっこにー♪あなたのハートににこにこに~♡笑顔届ける矢澤にこにこ~♪にこにーって覚えてラブにこっ♡」

 

 

 

 

 

 

……奏夜たちの期待を一切裏切ることはなく、にこは自分流の自己紹介を行っていた。

 

(や……やっぱりその自己紹介をしやがったな……)

 

《そこは期待を一切裏切らなかったな》

 

にこの自己紹介を聞いた奏夜の表情は引きつっており、キルバも呆れ気味であった。

 

「「「「「「……」」」」」」

 

にこの自己紹介に戸惑っているのか、統夜たちは言葉を失っていた。

 

(ほら見ろ!統夜さんたちもリアクションに困ってるじゃないか!)

 

統夜たちがにこの自己紹介に対するリアクションに困っているのを見ていた奏夜が取った行動とは……。

 

「……ま、まぁ!これで全員の自己紹介が終わった訳ですね!」

 

……奏夜はにこの自己紹介を完全にスルーして、なかったことにしようとしていた。

 

にこはそんな奏夜の態度が面白くなかったのか……。

 

「くぉら!奏夜!!せっかくのにこ渾身の自己紹介をスルーするんじゃないわよ!!」

 

自らの自己紹介をスルーされたにこは、奏夜に近付くと、鳩尾に華麗なボディーブローをお見舞いしていた。

 

「……ゴギャン!!」

 

にこのボディーブローが見事に炸裂し、奇妙な声をあげた奏夜は、その場にうずくまっていた。

 

「……そ、奏夜!大丈夫か?」

 

「フン!」

 

統夜が心配そうに奏夜を見る中、にこは少しばかり膨れっ面になってそっぽを向いていた。

 

「アハハ……平気です。こういうのは慣れっこですから……」

 

奏夜はゆっくりと立ち上がりながら、苦笑いをしていた。

 

「……奏夜。お前も色々と苦労してるんだな」

 

統夜は奏夜の事情を察したからか、奏夜の肩に手を置くと、ウンウンと頷いていた。

 

そんなやり取りが行われていると……。

 

「……皆様、お待たせ致しました。お食事とお飲物の用意が整いました」

 

ホテルのスタッフが何名か入ってくると、サンドイッチなどの軽食やちょっとしたおやつ。

 

その他にもスイーツに紅茶と、晩餐というよりかは、少しばかり豪勢なティータイムの準備が整ったようであった。

 

その豪勢なメニューたちに、奏夜たちだけではなく、統夜たちも驚いており、目をキラキラと輝かせていた。

 

こうして、食事の用意が整ったところで、統夜たちと奏夜たちは、ティータイムを楽しみながら、互いについて話をしていた。

 

奏夜たちはμ'sのメンバーが7人になった経緯を説明したり、統夜たちは高校時代の話をしたりしていた。

 

統夜たちは高校時代、軽音部に所属していたのだが、奏夜たちのように脇目も振らずに練習に打ち込んでいた訳ではなく、毎日のようにお茶ばかり飲んでだらけていた。

 

そんな統夜たちの実態を知って、にこは少しばかり怒っているのだが、それこそが統夜たちであると、統夜は怒るにこをなだめていた。

 

そのような話をしばらく続けていたのだが……。

 

「……そういえば、統夜さんはこっちに用事があるって言ってましたけど、その用事って何なんですか?」

 

奏夜は、統夜が秋葉原で用事があるということを思い出し、その話を切り出していた。

 

「……あぁ、実はな。今度この翡翠の番犬所に1人の魔戒騎士が配属されることになってな。何故か俺がそこの管轄を案内することになったんだよ」

 

「そういえば、ロデル様も大輝さんもそんなことを言っていたような……」

 

統夜の説明通り、近日中に、この翡翠の番犬所に1人の魔戒騎士が配属されることになっていた。

 

アスハという魔戒法師が行った魔戒騎士狩りが行われてからおよそ2年が経過しており、奏夜のようにその当時に魔戒騎士になった者が魔戒騎士として立派に成長したのである。

 

そのため、魔戒騎士の人手不足の問題は多少解決されたため、今回のように様々な魔戒騎士が様々な番犬所に所属されることになり、番犬所に魔戒騎士がいないということはなくなったのであった。

 

「新しい魔戒騎士か……。どんな人なんだろうな?」

 

「さぁな。俺はアキトの兄貴としか話を聞いてないんだよ。だから、その案内にはアキトも同行するらしい」

 

「なるほど、だからアキトさんは秋葉原に来ていたんですね」

 

にこがアスモディに襲われて奏夜が助けた時に、アキトが大輝と共に援護に来てくれた。

 

元老院所属のアキトが何故ここにいるのか理由がハッキリしたため、その理由がわからずにモヤモヤしていたことも解消されて、奏夜は安堵していた。

 

そして、新しく配属されるアキトの兄とはどんな人物なのか?

 

密かに期待をしていたのである。

 

「あの……。アキトさんって?」

 

にこ以外のメンバーはアキトに会ったことがないため、穂乃果は首を傾げていた。

 

「あぁ、アキトっていうのは、元老院という全ての番犬所を総括する機関の魔戒法師で、俺の盟友なんだよ」

 

アキトの盟友である統夜が、アキトについての説明を行っていた。

 

「魔戒法師……」

 

「それって確か、法術を使う人たちのことでしたよね?」

 

にこ以外のメンバーは魔戒法師を実際に見たことはないのだが、奏夜から話だけは聞いていた。

 

ことりの説明を聞いた統夜は、無言で頷いていた。

 

「あいつはひょうきんな奴で、誰とでも仲良くなれる奴だし、お前たちともすぐ仲良くなれると思うぞ」

 

アキトの性格をよく知っている統夜はこのように語り、奏夜はウンウンと頷いていた。

 

こうして、アキトがどのような人物なのか、穂乃果たちは楽しみにしており、奏夜はこれから来ると思われるアキトの兄がどのような人物なのか、期待していたのであった。

 

その後、穂乃果が統夜の武勇伝を聞きたいと話を切り出してきたため、統夜は高校に通いながら魔戒騎士として活躍していた話を語り始めた。

 

統夜の目の前には様々な強敵が立ちはだかっており、その度に統夜は仲間たちと力を合わせてその困難を乗り越えていった。

 

統夜の語るこれらの話はそこら辺にある冒険小説よりも面白いものであり、奏夜だけではなく、穂乃果たち。そして、統夜の戦いを見守ってきた唯たちも、目をキラキラさせながら話を聞いていた。

 

そのため、話を聞きながら食もかなり進んでおり、統夜の話が終わった頃にはテーブルにはほとんどのものが残っていなかった。

 

統夜の話が終わったところで、程よい時間になったため、奏夜たちおよび統夜たちによるお茶会は幕を閉じた。

 

時間も遅くなってしまったため、紬は何台かタクシーを手配し、奏夜たちはそのタクシーに乗り込み、それぞれの家に帰ることになった。

 

家が近いため、奏夜と穂乃果は同じタクシーに乗り込み、他愛のない話をして盛り上がっていた。

 

タクシーを降りた2人は別れの挨拶を済ませると、互いの家へと戻っていった。

 

こうして、先輩騎士である統夜のことを知った長い1日は幕を閉じて、翌日以降、統夜たちに会うことを楽しみにしながら、奏夜は眠りについたのであった……。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『穂乃果たちも多少は有名になったとはいえ、こんなこともせねばならんとはな。次回、「取材」。ま、これくらいはしっかりやっておかないとな』

 

 




今回は、いつもと比べたらやや短めとなりました。

前作である「牙狼×けいおん 白銀の刃」から2年が経っているとはいえ、統夜たちは相変わらずみたいです。

なので、前作を読んでくれた人は安心してくれたかな?と思っています。

今回、軽音部の顧問であるさわ子の名前が出て来ましたが、もしかしたら今後登場するかもしれません。

さて、次回はラブライブ!の第6話に突入します。

タイトルが取材とありますが、奏夜たちはどのような取材を受けることになるのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第21話 「取材」

お待たせしました!第21話になります!

突然ですが、皆さんはスクフェスをやってますか?

僕は最近久しぶりに再会しました。とは言っても下手ですけど。

それに、FF14もやってるので、ガッツリはやってないですけどね。

さて、今回からラブライブ!の第6話に突入します。

タイトルに「取材」となりますが、いったい奏夜たちはどのような取材を受けることになるのか?

それでは、第21話をどうぞ!




μ'sのメンバーが7人になってから数日が経ち、奏夜たちは白銀騎士奏狼の称号を持つ月影統夜と、その仲間である唯たちと偶然遭遇した。

 

奏夜たちは偶然にもホラーと遭遇したのだが、そこに統夜たちが介入し、統夜が圧倒的な力を持ってホラーを討滅したのである。

 

その後、奏夜たちと統夜たちは、互いのことをより深く知るために、統夜たちの泊まるホテルでお茶会を行い、歓談を通して、互いのことをより深く知ることが出来た。

 

その翌日の昼休みのことである。

 

「……あの……えっと……」

 

穂乃果は今、困惑していた。

 

奏夜、海未、凛、希の4人が中庭に来ており、現在凛が穂乃果にビデオを向けている。

 

穂乃果は、自分に対してビデオが向けられていることに困惑しているのである。

 

「はーい、笑って〜」

 

このように凛が促すと、穂乃果は笑ってはいたのだが、明らかに苦笑いであった。

 

「はーい、決めポーズ!」

 

続けて凛がこのように話を振ると、穂乃果は一応ポーズを取り、続けて某陸上選手のようなポーズを取っていた。

 

「……はい、オッケー!次は海未先輩ね!」

 

どうやら穂乃果の撮影は終わったようであり、凛は続いて海未を撮影するために、少し離れたところにいる海未にカメラを向けていた。

 

そんなカメラにすぐ気付いた海未は……。

 

「……ちょっと待ってください!失礼ですよ!いきなり!」

 

カメラで撮られるのが嫌だからか、海未は頬を赤らめながら恥ずかしそうにしていた。

 

「ごめんごめん。実は生徒会で部活動紹介のビデオを作っててな。各部活動を取材してるところなんよ」

 

希の説明通り、今行われている撮影は、部活動紹介ビデオの撮影であり、本当に取材だということを物語るかのように希の手にはマイクが握られていた。

 

「最近スクールアイドルは流行っているんやし、μ'sにとっても悪い話やないと思うけどな」

 

「確かに……。μ'sのことを学校のみんなに知ってもらうチャンスではあるか」

 

「そ、それはそうですが!私は嫌です!カメラに映るなんて……!」

 

ステージに立つことも恥ずかしいと思っていた海未にとっては、カメラを向けられて取材を受けるというのはハードルが高いようだった。

 

「取材……。なんてアイドルな響き!」

 

どうやら穂乃果はやる気みたいであり、嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 

「アイドルな響きって……。そんなことはないと思うけどな……」

 

穂乃果の言葉に少々疑問を抱いていた奏夜は、苦笑いをしていた。

 

「OKだよね、海未ちゃん?さっきもそーくんが言ってたけど、これ見た人がμ'sのことを覚えてくれるかもしれないし」

 

「俺としては断る理由はないと思うけどな」

 

「そ、奏夜まで……」

 

「それに、取材に協力したらカメラを貸してくれるって言うし」

 

「そしたら、PVとか作れるやろ?」

 

「PV?」

 

どうやら部活動紹介ビデオの撮影に協力してくれたら、PVなどに使うであろうカメラを貸してくれると希は提案してくれた。

 

しかし、PVと言われてピンと来なかったからか、穂乃果は首を傾げていた。

 

「そういえば、μ'sの動画ってまだ3人のものしかないし、俺もそこはどうにかしたいって思ってたんだよ」

 

奏夜は、μ'sのメンバーが増えた後も、動画を撮るということがなかったため、そこの問題をどうにかしたいとずっと考えていた。

 

「うぅ……。卑怯です!そう言われてしまっては私も断れないじゃないですか……」

 

海未もまた、新曲やPVについてはなんとかしたいと思っていたため、部活動紹介ビデオの話を断ることが出来なかった。

 

それが気に入らないのか、海未はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「やったぁ!それじゃあ、他のみんなにも声をかけてくるね!」

 

海未が部活動紹介ビデオの話を了承したところで、穂乃果は、他のメンバーに声をかけるために、中庭を後にした。

 

部活動紹介ビデオを作るという話だけはまとまったため、奏夜は希からビデオカメラを借りたところで、昼休みはもうじき終わるところだった。

 

穂乃果は、この場にいたメンバーに部活動紹介ビデオの話をした段階で昼休みが終わりそうになったため、実際の撮影は放課後に行うことにした。

 

しかし、この日の放課後は予定のあるメンバーが多く、撮影は翌日に持ち越されることになった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日の放課後、アイドル研究部の部室には、奏夜たち2年生組と、希がいた。

 

昨日は全員での撮影はなかったが、どうやら昨日、部活動紹介に使えそうな映像をいくつか撮影したようであり、その映像のチェックを行っていた。

 

最初の映像をチェックすると、授業を受けている穂乃果の姿が映っていた。

 

穂乃果は朝の練習が早いということもあるため、授業中はよく居眠りをしており、先生に起こされるということがよくあった。

 

そんな映像が映し出されて、穂乃果は面白くなさそうな表情をしていた。

 

「……これが、スクールアイドルとはいえ、若干16歳。高坂穂乃果のありのままの姿である」

 

「ありのまま過ぎるよ!!」

 

希がこのようなナレーションを入れるのだが、間髪入れずに穂乃果が異議を唱えていた。

 

「よく撮れてるよ。ことり先輩♪」

 

どうやらこの映像を撮影したのはことりのようであり、凛はことりの撮影した映像を称賛していた。

 

「ありがとぉ♪こっそり撮影するの、すっごくドキドキしちゃった♪」

 

「こ、ことりちゃんが!?ひどいよぉ!!」

 

「……そういえば、こそこそやってるなとは思っていたが、そういうことか」

 

奏夜はことりが何かをしていることを勘付いており、それがハッキリしたところで苦笑いをしていた。

 

「普段からだらけてるからこうなるのです」

 

穂乃果が居眠りをして起こされるというのは、自業自得だと言いたげに、海未は呆れていた。

 

「これからはもっと真面目に授業を……」

 

海未は穂乃果に苦言を呈そうとするのだが……。

 

「さっすが海未ちゃん!」

 

どうやら、穂乃果たちは別の映像を見ているようだった。

 

その映像には、弓道部の練習を行っている海未の姿が映っていた。

 

綺麗なフォームで矢を放つ海未だったが、その後、鏡に映る自分を気にし始めていた。

 

しばらく鏡を見ていた海未だったが、海未は鏡に向かって笑顔の練習を始めていた。

 

まさかその様子を撮影されているとは知らなかった海未はカメラの映像を遮ると……。

 

「プライバシーの侵害です!」

 

海未は顔を真っ赤にして、ムキになっていた。

 

「……まさか、海未が笑顔の練習をしてるなんてなぁ」

 

「……」

 

奏夜が先ほどの映像を見て感心していたのだが、海未は何故かプルプルと肩を震わせていた。

 

そして……。

 

「ふん!」

 

「ゴッホぉ!?」

 

海未の鉄拳が飛ぶと、その一撃を受けた奏夜はその場でダウンしていた。

 

「き、如月くん!?大丈夫なん!?」

 

「大丈夫です。問題ありません」

 

「な、何でお前が答えるんだよ……」

 

奏夜はゆっくりと立ち上がりながらツッコミを入れていた。

 

「それじゃあ、次はことりちゃんのプライバシーを……」

 

そんな奏夜をスルーした穂乃果は、ことりの鞄の中身を見るために鞄を開けた。

 

すると……。

 

「……?なんだろ、これ……」

 

ことりの鞄の中に入っているある物が気になったのだが、ことりは素早い動きで鞄のチャックを閉めると、鞄を強奪して鞄を隠していた。

 

「アハハ……。何でもないのよ!」

 

「え?でも……」

 

「何でもないのよ。何でも!」

 

ことりは苦笑いをしながら、鞄の中身を必死に誤魔化していた。

 

穂乃果や奏夜がさらなる追求をしようとしていたのだが……。

 

バタバタと慌ただしい音が聞こえると、にこが部室に入ってきた。

 

「ぜぇ……ぜぇ……。しゅ、取材が来てるって本当なの?」

 

「もう来てますよ〜」

 

そう答えながら、凛はカメラをにこに見せていた。

 

カメラが回っているのを確認したにこは……。

 

「……にっこにっこに〜♪はーい!みんなの元気ににこにこに〜♡の矢澤にこです♪えっとぉ……好きな食べ物はぁ……」

 

にこはアイドルのキャラを剥き出しにして、カメラに必死にアピールをしていた。

 

その様子を、奏夜はジト目で見ており……。

 

「……チェンジで」

 

「ぬわぁんでよ!!」

 

奏夜のあまりに容赦のない発言に、にこは異議を唱えていた。

 

「そーや先輩がそう言いたくなるのもわかるよ!それに、今回撮るのは部活動の生徒の素顔に迫る!ってやつなんだって」

 

凛は、奏夜の発言に乗っかりながらも、今回撮影するビデオの趣旨を説明していた。

 

「……あー、そっちのパターンね。ちょっと待っててね」

 

そう言いながらにこは、自らのトレードマークともいえるツインテールを解くと、サラサラのストレートな黒髪を見せ付けていた。

 

奏夜はにこが何かをしようとしてるのか見ていたのだが……。

 

「……あ、統夜さんから電話だ」

 

「え、本当!?」

 

にこが何かをしているにも関わらず、統夜から電話が来たため、奏夜は部室を後にして、それを穂乃果たちは追いかけていた。

 

にこは先ほどとは違うキャラを演じていたのだが……。

 

「……って!いないし!!」

 

最後までやってようやく、奏夜たちがいなくなったことに気付いたようである。

 

にこは慌ててツインテールを結び直すと、そのまま奏夜たちがいるであろう中庭へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

奏夜は統夜から電話が来たため、電話に出て、歩きながら中庭へと向かっていた。

 

統夜の電話は、ちょうど今、唯たちと共に音ノ木坂学院に遊びに来たという内容であった。

 

そんな統夜たちを迎えに行くため、穂乃果たちを先に中庭へ向かわせた奏夜は、玄関へ行くと、統夜たちが校内に入るための手続きを整えようとしていた。

 

どうやら、奏夜とは別に統夜たちを出迎えている人物がいるようであり、その人物のおかげで、校内へ入る手続きは滞ることはなく、スムーズに終わったのであった。

 

統夜たちを出迎えた意外な人物に、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

その人物とは……。

 

「……あら、奏夜君。来てくれたのね」

 

「り……理事長……?どうして……?」

 

ことりの母親である、この音ノ木坂学院の理事長が統夜たちの出迎えを行っていたため、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「私の父親が理事長と知り合いなの。それで、今日ここへ行くことを連絡したら、直々に出迎えをしてくれたのよ」

 

どうやら、紬と理事長は知り合いのようであり、そのツテのおかげで、スムーズに校内へと入ることが出来たみたいである。

 

「ウフフ、まさか、娘とも知り合いみたいで驚いたわ。私が琴吹さんと知り合いだということは、ことりも知らないでしょうね」

 

「そうかもしれませんね。ことりからそんな話は聞いたことありませんから」

 

「奏夜君。いつもことりと仲良くしてくれてありがとうね。これは、この学院の理事長としてではなく、ことりの母親としての言葉よ」

 

ことりが穂乃果や海未だけではなく、奏夜とも仲良くしていることを知っている理事長は、穏やかな表情で奏夜にお礼を言っていた。

 

「いえ……。俺にとっても、ことりは大切な友達ですから」

 

「これからもことりと仲良くしてあげてね」

 

「えぇ、もちろんです」

 

ことりは奏夜にとっては大切な友達であり、守りたい人間の1人である。

 

そのため、理事長の言葉を、奏夜が拒否する訳がなかった。

 

「……さて、奏夜君も来てくれた訳だし、案内は奏夜君に任せて、私は仕事に戻ります。構いませんね?」

 

「えぇ、もちろんです。お忙しいところ、ありがとうございました」

 

理事長という忙しい立場の中、わざわざ自分たちを出迎えてくれたことに、紬は礼を言っていた。

 

「それでは、ごゆっくり校内を見ていって下さい。……奏夜君、頼むわね」

 

「はい、お任せ下さい」

 

理事長は、統夜たちの案内を奏夜に託すと、統夜たちに一礼して、理事長室へと向かっていった。

 

「……それじゃあ、奏夜。案内を頼むな」

 

「任せてください。……ちょうど今、中庭にみんなが集まっているんです。今、アイドル研究部の紹介ビデオを撮影している真っ最中で……」

 

「へぇ、それは面白そうだな!」

 

「部活の紹介ビデオかぁ……。軽音部のビデオを撮った時のことを思い出すね、りっちゃん!」

 

「そうだな。……それに、ここへ来たのは絶妙なタイミングなのかもしれないな」

 

唯は、高校時代に撮影した軽音部の紹介ビデオのことを思い出しており、律は、良いタイミングでここに来れたことを喜んでいた。

 

「もし、私たちに何か出来ることがあれば協力させてね。力になるから」

 

「ありがとうございます。そういうことなら、ぜひお願いします」

 

こうして、奏夜は統夜たちにもビデオ撮影に協力してもらおうと考えながら、統夜たちを中庭へと案内した。

 

奏夜と統夜たちが中庭に到着すると、穂乃果たちは希の協力のもと、どうやら先に撮影を初めていたようであった。

 

「……よう、みんな。頑張ってるみたいだな」

 

「あっ、そーくん!それに……」

 

「よう、みんな!さっそく遊びに来たぞ!」

 

「あっ、統夜さん!皆さん!」

 

穂乃果たちは、統夜たちの存在を認識し、歓喜の声をあげていた。

 

希は、統夜とは面識はあるが、唯たちとは面識がなかったため、首を傾げていた。

 

「……あっ、東條先輩。統夜さんは会ったことあるんですよね?この人たちは、統夜さんと同じ軽音部の人たちです」

 

「「「「「よろしく〜!」」」」」

 

奏夜は唯たちのことを簡単に紹介するのだが、唯たちは、希に挨拶をしていた。

 

「あっ、どうも。東條希です。生徒会の副会長をしています」

 

そして、希も唯たちに挨拶を返し、唯たちは簡単に自己紹介を行っていた。

 

「……皆さんは大学生なんですよね。学校は大丈夫なんですか?」

 

自己紹介で唯たちが大学生であることを知った希は、もっともな疑問をぶつけていた。

 

「実は、みんなで休みを取って東京へ遊びに来たんだよ。μ'sとして頑張ってる穂乃果たちに会いたくてな」

 

「みんなの部活動紹介ビデオの撮影してる様子を見たら帰ろうかなって思ってるんだけどね」

 

唯たちは、音ノ木坂学院での用事を済ませたら、そのまま大学の寮に帰る予定だった。

 

「そうなんですね……。さっきまで撮影をやっていたんですよ」

 

そう言いながら穂乃果は、ビデオカメラを統夜たちに見せていた。

 

その内容は、メンバーの素顔に迫るというコンセプトらしいが、内容的にまとまりのあるものとは思えなかった。

 

『……トラナイデ!』

 

「……なるほどな……」

 

最後に見たのは、カメラを向けられて、このように言っている真姫であり、それを見た統夜は、このように呟いていた。

 

「よっしゃあ!あたしたちに任せておけ!悪いようにはしないからさ」

 

唯たちもこのビデオは見ており、コンセプトを理解したところで、律が撮影に協力しようと提案していた。

 

「え?いいんですか!?」

 

「もちろん!あたしたちだって、何か協力出来ることがあるなら手伝いたいと思ってたしな」

 

律も、穂乃果たちのことを応援しているため、高校時代のノウハウを活かして、手伝えることを手伝いたいと考えていた。

 

それは統夜も唯たちも同様であるため、律の言葉にウンウンと頷いていた。

 

「……悪いようにはしないから、安心してくれよな」

 

そう言いながら律は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「何故だろう……。嫌な予感しかしないんだけど……」

 

律とは小学校からの付き合いである澪は、律が何かよからぬことを企んでいるのではと考えており、苦笑いをしていた。

 

「まぁ、俺たちだっているし、大丈夫だろ」

 

澪が不安そうにしている中、統夜は楽観的だった。

 

こうして、統夜たちも部活動紹介ビデオの撮影に加わると、撮影は統夜たちに任せる形となり、撮影が行われた。

 

「スクールアイドルといえば、やっぱり衣装だよな?統夜!今朝ホテルに送られてきたあれを使うぞ!」

 

「やれやれ……。本当にあれを使う気かよ?」

 

律の言葉に、統夜が呆れながら、統夜はキャリーバックを取り出した。

 

「それは……。キャリーバック……ですよね?」

 

「いったい何が入ってるのかなぁ?」

「楽しみだね♪」

海未は、統夜の取り出したキャリーバックをジッと眺めており、穂乃果とことりはその中身を楽しみにしていた。

 

「……何故かしら。嫌な予感しかしないのだけれど……」

 

「あら、奇遇ね。私も同じことを考えていたわ」

 

にこと真姫は、キャリーバックの中によからぬ物が入っているのではないかと思っており、苦笑いをしていた。

 

期待と不安が入り混じる中、統夜はキャリーバックを開けるのだが、その中身とは……。

 

「……こ、これって……」

 

「衣装……だよね?」

 

「それも、色々あるね……」

 

「……あれ?これって……」

 

「衣装は衣装だけど……」

 

「コスプレ……よね?」

 

「……こんなことだろうと思ったわ」

 

どうやらキャリーバックの中身は全て衣装ではあったものの、アイドルのものとは言えるものではなく、コスプレに使うようなものであると推測することが出来た。

 

そんな中、真姫はこの展開を予想していたため、呆れ気味だった。

 

「お、おい、律!穂乃果たちが困惑しているじゃないか!」

 

「何おう!様々な衣装を着こなしてこそのアイドルだろうが!それに、これは全部さわちゃんのお手製なんだぞ!」

 

「そこが問題なんだろうが……」

 

統夜たちの持ってきた衣装の全てが、とある人物のお手製であり、それを穂乃果たちに着せようと企んでいる律に、統夜は呆れていた。

 

「そういえばそのさわちゃんって人はこの前チラッと話してましたよね?」

 

「そうだった。その人は、山中さわ子っていうんだけど、俺たち軽音部の顧問で、衣装を作るのが好きなんだよ」

 

統夜は、この衣装を作った人物についての説明を改めて簡単に行っていた。

 

実は、奏夜たちとのお茶会が終わってすぐにさわ子から連絡があったのだが、どこからか統夜たちがμ'sを応援するために東京に来ているとさわ子は聞きつけていた。

 

さわ子もどうやらμ'sのファンのようであり、彼女たちに相応しい衣装を作っていたのである。

 

それを、今日の朝に、キャリーバックごとホテルへと送り付けて来たのであった。

 

「私たちはよくそれを着せられてな……」

 

当時のことを思い出していた澪は、顔を真っ青にしていた。

 

「……」

 

この衣装たちが、全て統夜たちの恩師が作ったものと知り、ことりは言葉を失っていた。

 

「……ことり?」

 

「ことりちゃん?どうしたの?」

 

そんな様子に、奏夜と穂乃果は声をかけるのだが……。

 

「この前も聞きましたけど、この衣装たちはどれも凄いです!とても勉強になります!」

 

μ'sの衣装を担当していることりにとって、これらの衣装は全て参考になるものであり、キラキラと目を輝かせていた。

 

「私、やっぱり山中先生に会ってみたいです!」

 

ことりは、さわ子に会って、衣装作りのことを教わりたいという思いがかなり強くなったようである。

 

「……それをさわちゃんが聞いたら、喜んで飛んで来そうだな……」

 

「それに、衣装作りというよりは、さわ子先生の着せ替え人形にさせられそうだがな……」

 

さわ子のことをよく知っている律や統夜はこのように推察をしながら苦笑いをしていた。

 

「……とりあえず、素顔に迫る感じなんだろ?そういうのを撮るのは俺たちは得意だよな」

 

「確かに……。軽音部の時だって、そんな感じのものでしたからね……」

 

統夜たちは軽音部でも似たようなビデオを作ったことがあるのだが、その時も素顔に迫るといった感じだった。

 

「とりあえず、俺たちに任せてくれ。普通にそれらしい撮影にするからさ」

 

「はい!ぜひ、お願いします!」

 

こうして、統夜が撮影の指揮をとることになり、アイドル研究部の紹介ビデオの撮影が開始された。

 

統夜は軽音部のビデオ撮影の時に用いたインタビュー方式でμ'sの紹介を行っており、メンバーを紹介しつつ、アイドル研究部の日常風景をしっかり撮影していた。

 

統夜の指示は的確なものであり、奏夜はそんな統夜に関心しながら撮影の様子を見守っていた。

 

その的確な指示のため、練習風景の撮影も含めて撮影はスムーズに行われ、撮影は終了した。

 

その撮影が終わると、唯たちは大学の寮に戻るべく東京を離れ、統夜はどうやら魔戒騎士としての仕事があるようであり、元老院へと向かっていった。

 

どうやら元老院の神官であるグレスからの呼び出しのようなのだが、どのような内容なのかは、統夜も知らないみたいだった。

 

そんな統夜を見送り、奏夜、穂乃果、凛、希の4人は、穂乃果の家である和菓子屋「穂むら」を訪れていた。

 

どうやら他のメンバーは用事があるようであり、希を含めたこのメンバーとなったのである。

 

「そういうことはもっと早く言ってよ!」

 

現在は穂乃果の母親が接客をしており、部活動紹介ビデオの取材をしたいと説明すると、化粧を直すために店の奥へと引っ込んでしまった。

 

「生徒会の人だよ?家族にちょっと話を聞きたいってだけだから、そんなに張り切らなくても……」

 

「そういう訳にはいかないの!」

 

穂乃果の母親は、ちょっとでもビデオ写りを良くするために、入念に化粧直しを行っていた。

 

「化粧したって、どうせ同じ……」

 

「フン!」

 

「あ痛っ!!」

 

穂乃果が最後まで言い切る前に穂乃果の母親が箱ティッシュを穂乃果目がけて投げつけていた。

 

穂乃果の母親はもう少し時間がかかりそうなので、先に穂乃果の妹である雪穂の取材をしようとしたのだが、その前に、奏夜と穂乃果は厨房へ向かっていた。

 

穂乃果の父親にもインタビューをしようと考えていたからである。

 

「お父さ〜ん!ちょっといい?ちょっと話を聞きたいんだけど……」

 

そう言いながら、穂乃果はビデオカメラを穂乃果の父親に見せていた。

 

撮影というのが嫌なのか、穂乃果の父親は、後ろを向いたまま、手を振っていた。

 

穂乃果の父親はあまり喋るタイプの人間ではないため、穂乃果はこれ以上は何を言っても無駄だと判断していた。

 

「……やっぱりダメか。そーくん、行こっか」

 

「そうだな……。それじゃあ、おやっさん。また来ますね」

 

奏夜は穂乃果の家によく出入りしているため、穂乃果の家族とも仲良くなったのである。

 

穂乃果の父親も例外ではなく、奏夜は穂乃果の父親を、「おやっさん」と呼んで慕っていたのである。

 

「……」

 

奏夜と穂乃果が厨房を出ようとしたのだが、穂乃果の父親が、奏夜のことをジッと見ていた。

 

「?どうしました?おやっさん」

 

穂乃果の父親はしばらく奏夜のことを見ると、何も言わずにまだ未完成の和菓子を指差していた。

 

どうやら穂乃果の父親は、奏夜に「手伝え」と言っているようだった。

 

「ちょっとお父さん!そーくんはそのために来たんじゃないのに!」

 

「……別に構わないよ、穂乃果」

 

「だってそーくん!」

 

「後は雪穂に話を聞くんだろ?それなら俺はいなくても大丈夫だから、行ってこいよ」

 

「……まぁ、そーくんが良いならいいんだけど……」

 

奏夜は穂乃果の父親を手伝うようになり、穂乃果は店に戻って希や凜と合流しようとしたのだが……。

 

「……あら、奏夜君。手伝ってくれるの?助かるわぁ!」

 

厨房に用事があるのか、穂乃果の母親がやって来て、このようなことを言っていた。

 

「いえ。俺は高坂家の皆さんには日頃から世話になってますから。これくらいは」

 

奏夜は今の家に越してきてから、穂乃果の両親にはよく世話になっていた。

 

何かと食事をご馳走してくれたり、お店の手伝いをお願いしたりと、まるで息子のように可愛がってくれたのであった。

 

そうしているうちに、奏夜は和菓子の作り方を覚えていき、今回のように和菓子作りの手伝いを頼まれることも時々ではあるがあったのである。

 

「それにしても、奏夜君は和菓子作りの飲み込みが早いから助かるわぁ。奏夜君が穂乃果か雪穂の婿になってくれればこの穂むらは安泰なんだけど……。ねぇ、お父さん」

 

どうやら穂乃果の母親は、奏夜が本当の家族になってくれることを望んでいるようであり、穂乃果の父親も、無言でウンウンと頷いていた。

 

穂乃果の両親は、奏夜の両親がいないことを知っているため、なおさらこのようなことを言っているのである。

 

「ちょっ!?お母さん!何言ってるの!?」

 

穂乃果の母親の言葉が恥ずかしかったからか、穂乃果の顔が真っ赤になっていた。

 

「ウフフ、そんなに照れなくてもいいのに、ねぇ」

 

「と、とりあえず!俺は着替えてきますね!」

 

奏夜も穂乃果の母親の言葉が恥ずかしくなったからか、逃げるように着替えに向かっていった。

 

「わ、私も行くからね!」

 

穂乃果も、逃げるように店へと戻っていった。

 

「……まったく……。本当に初々しいわねぇ。あの2人……」

 

奏夜と穂乃果。互いの想いを察している穂乃果の母親は、このように呟いていた。

 

こうして穂乃果は店の方へと戻って希や凜と合流するのだが、顔が赤くなっていることを追求されていた。

 

それを何とか誤魔化した穂乃果は、2階に上がり、雪穂にインタビューを試みたのだが、それどころではなかった。

 

その後、穂乃果たちは穂乃果の部屋でまったりとしていた。

 

その頃、着替えを終えた奏夜は穂乃果の父親を手伝って和菓子作りを行っていた。

 

奏夜は今の家に越してきてから、穂むらでよく和菓子を食べるようになり、和菓子の美味しさに目覚めてしまった。

 

それから度々和菓子作りの手伝いをするようになったのだが、奏夜は手先が器用だからか、作れる和菓子の数も増えていき、そのクオリティは常連客にも好評だった。

 

そのため、奏夜の存在は穂むらの常連客にも認知されるようになり、先ほど穂乃果の母親が言っていたことも言われることは時々あった。

 

……高坂家の人間で、奏夜が魔戒騎士であることは、穂乃果しか知らないので、そこだけは幸いと言えるところである。

 

現在も、奏夜は和菓子作りを行っており、ちょうど店に出す和菓子が完成したところである。

 

「……おやっさん。こんな感じで大丈夫ですか?」

 

奏夜は完成した和菓子を穂乃果の父親に見せたのだが、穂乃果の父親は何も言わずにグッと右手の親指を立てていた。

 

言葉を発しなくても、奏夜の作った和菓子を評価していることは理解出来た。

 

その後も奏夜は1時間程和菓子作りを手伝い、厨房を離れたのだが、その時は既に希と凛は帰っていた。

 

穂乃果は、奏夜の働きを労い、和菓子とお茶を奏夜にご馳走しようとしていた。

 

奏夜は番犬所に顔を出そうと考えていたが、ひと休みをしたいと思っていたため、穂乃果と一緒に和菓子を食べながらまったりとしていた。

 

奏夜が和菓子作りを手伝っている頃、穂乃果は希に「何で穂乃果がμ'sのリーダーなのか?」という疑問を投げかけられていた。

 

その質問に、穂乃果はキョトンとしていたのだが、そんな希の疑問が、後に波紋を引き起こすことになる。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜が和菓子作りに勤しんでいた頃、奏夜の先輩騎士である月影統夜は、元老院を訪れていた。

 

元老院の神官であるグレス直々の呼び出しなのだが、そこ内容までは知らされていなかった。

 

「……よく来てくれましたね、統夜。あなたの活躍は娘であるイレスからよく聞いていますよ」

 

統夜の所属する紅の番犬所の神官であるイレスは、なんと元老院の神官であるグレスの娘であった。

 

イレスは親の七光りで紅の番犬所の神官になった訳ではなく、神官として相応しい資質を持っているため、神官になれたのである。

 

「いえ……。イレス様には返しても返し切れない程の恩がありますから……。そんなイレス様のために働くのは当然のことです」

 

「なるほど……。私はあなたを元老院付きに推薦してきましたが、 それを断ったのはそれも理由の1つみたいですね」

 

統夜は若輩ながらも魔戒騎士としてかなりの力を身につけており、元老院行きの推薦を何度かもらっているのだが、それを断っている。

 

イレスに対して恩があるのも理由の1つではあるが、1番の理由は、自分の大好きな桜ヶ丘の街を守っていきたいという思いがあるからこそである。

 

「それで、グレス様。あなた程の人が私を呼ぶということは、仕事ですか?」

 

「えぇ。その通りです。……翡翠の番犬所の管轄で、不穏な動きがあります」

 

「不穏な動き……ですか?」

 

「えぇ。もしかしたら、あなたが討伐した、グォルブと同じくらいの力を持つホラーが目覚めるかもしれません」

 

「!?そんな……まさか……」

 

統夜は、グレスの言葉が信じられず、驚きを隠せなかった。

 

グレスの言っていたグォルブというのは、桜ヶ丘某所で封印されていた、メシアの腕と呼ばれた強大なホラーである。

 

そんなグォルブだが、暗黒騎士に堕ちた魔戒騎士であるディオスによって封印が解かれてしまった。

 

統夜は、黄金騎士牙狼の称号を持つ冴島鋼牙や、銀牙騎士絶狼の称号を持つ、涼邑零たちの協力もあって、どうにかグォルブを討滅することが出来たのであった。

 

「詳しいことはまだわかりません。……統夜、あなたは翡翠の番犬所の管轄内にてその不穏な動きを調査し、突き止め次第、それを阻止するのです」

 

「……わかりました。お任せ下さい!」

 

こうして、統夜は翡翠の番犬所の管轄にて起きそうになっている不穏な動きについての調査を始めることになった。

 

このことは、これから翡翠の番犬所の管轄内にて起こる、壮絶な戦いの序章だということを、統夜だけではなく、奏夜も知る由はなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『なるほど、グループのリーダーにセンターか……。確かにそれは決めなきゃいけない大切なことだよな……。次回、「中央 前編」。そして現れる、謎の魔戒騎士!』

 




今回も統夜たちが登場しました。

今回をもって、しばらくは、牙狼×ラブライブ!×けいおん!の構図はなくなると思います。

今回、奏夜が理事長と話をする場面がありましたが、まさか、理事長とムギが知り合いとは……。

何気に理事長こと親鳥は初登場だったかとしれませんね。

そして、穂乃果の両親も。

奏夜は穂乃果の父親を、「おやっさん」と呼んでいましたが、おやっさんとはまるで昭和ライダーに出てくるあの人のような呼び方ですよね。

今回、穂乃果の母親が意味深なことを言っていましたが、これは、穂乃果がヒロインになるフラグですかね?どうなるのか、ご期待ください!

そして、今回ようやく話が動き出しました。

今回の黒幕も、近々登場するかもしれませんので、そこもご期待ください!

次回は前後編で、センター争奪戦が始まります。

そして、予告にあった謎の魔戒騎士とは新キャラなのか?

そこも踏まえて次回をお楽しみに!



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第22話 「中央 前編」

お待たせしました!第22話になります。

今回は、前後編で、センター決定戦が繰り広げられます。

何故前後編なのかは、本編+オリジナル回となっているからです。

そして今回は、新たな魔戒騎士が登場します。

その魔戒騎士は新キャラなのか?そして、敵か味方か?

それでは、第22話をどうぞ!




奏夜の先輩騎士である統夜や、その仲間である唯たちが音ノ木坂学院に遊びに来て、アイドル研究部の部活紹介ビデオの撮影に協力した翌日、奏夜たちはアイドル研究部の部室にいた。

 

これから、とあることを決めるべく話し合うためである。

 

「……リーダーには誰が相応しいか……。だいたい、私が部長に就いた時点で考え直すべきだったのよねぇ……」

 

この日、穂乃果が昨日希に言われた「何故穂乃果がμ'sのリーダーなのか?」という言葉を他のメンバーに話したところ、急遽リーダーについての話し合いが行われることになった。

 

「私は別に、穂乃果ちゃんで良いと思うけど……」

 

「まぁ、言い出しっぺは穂乃果だしな。俺もそこは妥当だとは思うが……」

 

どうやらことりは、穂乃果をリーダーに推薦したいようであり、奏夜は、言い出しっぺが穂乃果だということを鑑みて、ことりの意見を支持していた。

 

「ダメよ。今回の取材でハッキリしたわ。この子はリーダーには向いていないって」

 

「私もそこには賛成ね」

 

どうやらにこと真姫は、リーダーは別の人物が良いと考えていた。

 

『やれやれ……。リーダーなんてあってないようなもんだろ?そこまで躍起になって決めることなのか?』

 

「確かにな。俺もそこはキルバに賛成だ」

 

どうやらキルバはリーダーなどいらないと考えており、奏夜もそれに賛同していた。

 

「甘いわね……。これはスクールアイドルに限った話じゃなくて、これだけのグループだとしたら、メンバーをまとめるリーダーが必要になってくるのよ!」

 

「……そういうもんかねぇ……」

 

にこは、リーダーの必要性を語り、奏夜はそれに賛同出来ずにいた。

 

「……それに、リーダーを決めるということは、これから作るPVにも影響するわ」

 

「PV?」

 

「リーダーが変われば、必然的にセンターも変わるでしょ?次のPVは新リーダーがセンターになるのよ」

 

穂乃果はPVと言われてもピンと来なかったようで、にこが説明をしていた。

 

「なるほどな……。そういうことなら納得だよ」

 

センターを決めるのにも関わってくると聞くと、奏夜はリーダーの必要性に気付いたようである。

 

「それにしても、一体誰がリーダーになるべきなのかなぁ?」

 

花陽は、首を傾げながらもっともな疑問を投げかけていた。

 

そんな花陽を見たにこは、「待ってました」と言わんばかりにホワイトボードをひっくり返した。

 

そこには、にこがあらかじめ書いていたであろう文章が書かれていたのだが、それは、リーダーについての説明文だった。

 

「リーダーとは、まず第一に熱い情熱を持ってみんなを引っ張っていけること……。次に!精神的支柱になれるだけの懐の大きさを持っている人間であること!」

 

にこはホワイトボードをバンバン叩きながら熱心にリーダーの説明をしており、奏夜たちは黙ってその話を聞いていた。

 

「そして何より!メンバーから尊敬される存在であることよ!この条件を全て備えたメンバーとなると……」

 

にこは、リーダーに必要な条件を掲げ、誰がリーダーに相応しいかを言おうとしたのだが……。

 

「……海未先輩かそーや先輩かにゃ?」

 

「……って!なんでやねーん!」

 

凛が先に言ってしまい、にこはツッコミを入れていた。

 

(にこ先輩……。自分がリーダーに相応しいと言いたいんだな……)

 

《やれやれ……。面倒くさい奴だぜ……》

 

にこは自分をリーダーにしたいという考えが奏夜とキルバにはバレバレだったため、2人はジト目でにこを見ていた。

 

「えっ!?私ですか!?」

 

「海未ちゃんもそーくんも向いているかも!リーダー!」

 

「……俺は無しだな」

 

凛に推薦された奏夜であったが、即座にその推薦を辞退していた。

 

「えぇ!?なんでなんで!?」

 

「そうよ。奏夜、あなたならさっきの条件を充分満たしてると思うけど……」

 

奏夜がリーダーを辞退することに対して、穂乃果だけではなく、真姫も追求していた。

 

「俺はマネージャーであってプロデューサーじゃない。俺の仕事はあくまでみんなを支えることだから、リーダーなんて柄じゃないのさ」

 

『それに、奏夜は魔戒騎士としても忙しいからな。そんな奴にリーダーは難しいだろう』

 

「……そっか……。そうだよね……」

 

「確かに、そう言われちゃ、仕方ないわよね……」

 

キルバも、奏夜がリーダーになるべきではないと説明をしたため、その説明で穂乃果と真姫は納得したようであった。

 

「それじゃあ、やっぱりリーダーは海未ちゃんだね!」

 

「穂乃果はそれでいいんですか?」

 

「え?何で?」

 

「リーダーの座を奪われようとしているのですよ?」

 

現在、穂乃果がμ'sのリーダーということになっているのだが、海未がリーダーとなってしまえば、その座を奪われてしまうことになる。

 

その現実を理解していないのか、穂乃果はキョトンとしていた。

 

「へ?それがどうしたの?」

 

そのため、このようなことを言っており、海未は少々呆れていた。

 

「……何も感じないんですか?」

 

「だって、μ'sとして、やっていくのは一緒でしょ?」

 

「でもでも!センターじゃなくなるかもなんですよ!」

 

リーダーではないということはセンターではなくなるということを花陽が説明していた。

 

「おぉ!そうか!」

 

穂乃果はここでようやく理解したようだが、腕を組んでじっくりと考え事をしていた。

 

そして……。

 

「……まぁ、いっか」

 

『えぇ!?』

 

『おいおい……』

 

穂乃果の言葉に奏夜たちは驚いており、キルバだけは呆れ果てていた。

 

「それじゃあ、リーダーは海未ちゃんってことで……」

 

「待ってください!私にリーダーは無理です!」

 

ただでさえ人前に出るのが苦手な海未は、みんなを引っ張るだけではなく、センターとして、より一層目立つことになるリーダーになることを拒否していた。

 

「……やれやれ……。面倒な人ね……」

 

顔を真っ赤にしてリーダーになることを拒否している海未に、真姫は呆れていた。

 

「……それじゃあ、ことり先輩?」

 

海未が無理だとわかった花陽は、ことりを推薦していた。

 

「ことりか?ことりは……」

 

ことりがリーダーと言われてもピンと来なかった奏夜は、ことりのことをジッと見ていた。

 

そして……。

 

「……副リーダーって感じだな」

 

ことりはリーダーではなく、副リーダーだったらしっくりくるみたいだった。

 

「仕方ないわねぇ……」

 

自分がリーダーになりたいのか、にこはやれやれと言いたげな感じで話をしようとしていたのだが、奏夜たちはそんなにこをスルーして、話し合いを行っていた。

 

「仕方ないわねぇ!」

 

にこは先ほどよりも大きな声を出すのだが、相変わらず奏夜たちはにこをスルーして話し合いを行っていた。

 

「しー!かー!たー!なー!いー!わー!ねー!」

 

スルーされることが余程気に入らないのか、にこはどこからか拡声器を取り出して、アピールをしていた。

 

「だー!!もう!!やかましい!!話し合いに集中出来んだろうが!」

 

あまりにもにこの主張がやかましかったからか、奏夜は怒り気味ににこを黙らせようとしていた。

 

「あんたらがにこをスルーするから悪いんじゃないの!」

 

そんな奏夜に、にこは負けじと反論していた。

 

「だったら誰も文句が言えんように決めた方がいいかもな」

 

「……奏夜。何か良いアイディアがあるのですか?」

 

「……まぁな。とっておきの方法がな……」

 

奏夜はリーダーを決めるためにあることを企画するのだが、どうやらにこも同じことを考えていたようであり、奏夜たちはリーダーを決めるために部室と学校を後にしてどこかへと移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

奏夜たちがリーダーを決めるために訪れた場所とは……。

 

「……カラオケ……ですか……」

 

「そう。歌とダンスで決着よ!」

 

秋葉原某所にあるカラオケボックスであった。

 

「やはりアイドルに求められるのは歌とダンスよ!まずは1人ずつ歌って、得点が高い人がリーダー!それなら文句ないでしょ?」

 

どうやら、パフォーマンスの基本となる歌唱力の良し悪しで、リーダーを決めようとにこは考えていた。

 

「そこは俺もそう思ってたんだ。やはりリーダーがあまりに歌ヘタじゃなぁ……」

 

どうやら奏夜もにこと同じ意見のようであった。

 

海未と真姫はあまり乗り気じゃないみたいだが、それならばセンターの権利が消失するだけなので構わないとにこは答えていた。

 

「……ふっふっふ……。こんなこともあろうかと、高得点の出やすい曲は既にピックアップ済み……。これでリーダーの座は間違いなし……」

 

「……にこ先輩。本音がだだ漏れですよ……」

 

『やれやれ……。よほどリーダーとやらになりたいみたいだな……』

 

にこの怪しい微笑みを、奏夜とキルバはジト目で見ていた。

 

にこはリーダーの座を狙っていたが、穂乃果たちは久しぶりに来たカラオケを楽しもうと考えているのか、和気藹々な雰囲気だった。

 

「あんたら!緊張感なさ過ぎ!」

 

そんな穂乃果たちに、にこはツッコミを入れたところで、カラオケによる歌唱力争いが始まった。

 

1番やる気を見せているにこが最初に歌い、にこは高得点が出やすい曲を選んだことにより、最初ながらも94点と高い点数を叩き出すことが出来た。

 

これには穂乃果たちも驚きが隠せないようであり、大きな拍手を送っていた。

 

「ふっふっふ……。いい感じじゃない……。これで、にこの勝利は間違いなしね……」

 

にこは、再び怪しい笑みを浮かべると、自らの勝利を確信していた。

 

しかし……。

 

穂乃果、ことり、凛、花陽の順番で歌うのだが、4人とも90点代を叩き出していた。

 

穂乃果、ことり、凛の3人はにこの点数に届かなかったものの、花陽は94点を叩き出し、にこと順位が並んだのであった。

 

もし、他のメンバーが94点を上回らなければ、2人によるサドンデスが始まることになる。

 

予想外な展開に、にこの表情は引きつっていた。

 

続けて海未が歌うのだが、93点と惜しくもにこと花陽に届かなかった。

 

あと歌っていないのは真姫であり、彼女が95点以上を出せば、真姫の優勝が確定する。

 

そんな中、真姫が歌って出した点数が……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゅ、97点!?」

 

なんと97点と、全メンバーの中で、ぶっちぎりの好成績だった。

 

よって、歌唱力対決は、真姫の勝利に終わったのだが、真姫はどうやらリーダーは乗り気ではないようだった。

 

「う、嘘でしょ……!?」

 

特ににこは、この結果が信じられないようであり、顔をピクピクと震わせていた。

 

「……それよりも奏夜。あんたも何か歌いなさいよ」

 

「え?俺もか!?」

 

まさか自分まで歌ってくれと言われるとは思わなかったため、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「確かに。奏夜だけ歌わないなんてフェアじゃないものね」

 

「ま、まぁ!奏夜は良いではないですか!結果は出た訳ですし、次に行きましょうよ!」

 

海未は何故か、奏夜を歌わせたくないようであり、慌てた表情で、その話をなかったことにしよいとしているのだが……。

 

「私、奏夜先輩の歌を聞いてみたいです!」

 

「凛も聞いてみたいにゃ!そーや先輩の歌を!」

 

「まったく……。仕方ないな……」

 

こう言いながらも奏夜はまんざらでもなさそうであり、奏夜は真姫からマイクを受け取っていた。

 

「そ、そーくん……。やめといた方がいいんじゃ……」

 

海未だけではなく、何故か穂乃果も奏夜を止めようとしていた。

 

「……久しぶりだなぁ……。いつだか穂乃果たちとカラオケに行って以来だもんな」

 

奏夜と穂乃果たち2年生組は、中3からの付き合いであるため、ゲーセンに行ったり、カラオケに行ったりということはあった。

 

「……?何でそんなに身構えてるんですか?」

 

花陽は、2年生組が何故か緊張した面持ちで身構えているのを見て、首を傾げていた。

 

「……なるほど……。そういうことなのね……」

 

そんな穂乃果たちの仕草から、事情を察した真姫は、携帯プレーヤーを取り出すと、イヤホンを両耳につけて曲を再生し、音量を出来る限り上げていた。

 

そして穂乃果たち2年生組が一斉に耳を塞ぐのだが、その様子を、にこりんぱなの3人は首を傾げて眺めていた。

 

そうこうしているうちに曲が始まり、奏夜は歌い始めたのだが……。

 

『……♪〜〜〜〜〜!』

 

奏夜は歌い始めるのだが、それはあり得ない程の不協和音であり、まるで音波兵器のような衝撃が、この部屋を包みこんでいた。

 

「に゛ゃ゛ーー!!何なの!?これは!!」

 

「これは……。もう歌じゃないです!!」

 

「あまりに酷すぎるわ!こんなの、どこのジ○イ○ンリサイタルよ!!」

 

初めて奏夜の歌声を聴いたにこりんぱなの3人は、奏夜の歌のあまりの破壊力に、両耳を塞ぎながらも悶えていた。

 

にこに至っては、青いネコ型ロボットが活躍するアニメに出てくる某ガキ大将のリサイタルに例えていた。

 

「ちょ……!?イヤホンしてても意味ないじゃない!!」

 

イヤホンをつけて音楽を流すことで、防音を図っていた真姫だったが、どうやら効果はないようであり、イヤホンを外して、両耳を塞いで悶えていた。

 

「そうそう!この感覚だよ!」

 

「奏夜の歌はかなり久しぶりですが……」

 

「相変わらずの破壊力だね!」

 

奏夜の歌を聞いたことのある2年生組は、他のメンバーと違ってダメージは少ないようだが、耳を塞いで苦しんでいた。

 

μ'sのメンバーがこのように苦しんでいる通り、奏夜はあり得ない程の音痴であり、マイクを持って歌い始めてしまえば、相当強力な音波兵器を無意識のうちに放ってしまう。

 

奏夜にはその自覚はないため、歌っている時はとても気持ち良さそうだった。

 

その効果は奏夜たちのいる部屋のみならず、両隣の部屋にも効果が出ているようであり、両隣の部屋の人間がざわつき始めていた。

 

そして、穂乃果たちのように耳を塞ぐことが出来ないキルバはどうしているかというと……。

 

『おい!奏夜!やめろ!このあり得ない程の音痴が!お前の歌は有害でしかないんだよ!ぐわぁ!!やめろ!やめてくれ!』

 

キルバもまた、奏夜の歌に苦しんでおり、耳を塞ぐことが出来ない分、穂乃果たちよりも苦しんでいた。

 

そして、キルバは奏夜の歌に耐えられないのか、気を失ってしまった。

 

奏夜の歌った曲は3分にも満たない短い曲だったため、奏夜による騒音攻撃がすぐに終わったのが不幸中の幸いだった。

 

「ふぅ……。ん?何でそんなにみんなグロッキーなんだ?」

 

奏夜は歌い終わった後、明らかに穂乃果たちが疲弊しているのを見て、首を傾げていた。

 

「だ、誰のせいだと思ってるのよ……」

 

にこはフラフラの状態でツッコミをいれていた。

 

その後、得点が表情されたのだが、機械は正確な数字を出すことが出来ず、測定不能と出てしまっていた。

 

「ありゃ?測定不能かぁ……。機械の調子が悪いのかな?」

 

自分の歌の点数を計ることが出来ず、奏夜は首を傾げていたが、穂乃果たちは、点数が出せないという機械の判断は真っ当なものだと感じていた。

 

こうして、奏夜を含めた全員が歌を歌ったので、奏夜たちは次の目的地へと向かった。

 

続けてはゲームセンターのダンスゲームのスコアを競うこととなり、ここでは、運動神経抜群の凛が、初心者ながらも驚きのスコアを叩き出していた。

 

ここでも全員がそれなりに良い点数を出しており、予想外の展開ににこは驚きと焦りの感情を抱いていた。

 

歌にしてもダンスにしても、スコアに大差がなかったため、これだけではリーダーを誰にするかは決めかねる状況だった。

 

そこで、最後に、チラシ配りを通して、その人のオーラを測るというのを行おうとしていたのだが、奏夜は番犬所から呼び出しを受けてしまったため、穂乃果たちと別れて番犬所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

「……奏夜、すいませんね。忙しいところ呼び出してしまって」

 

穂乃果たちと別れた奏夜はすぐに番犬所へと到着するのだが、番犬所に着くなり、ロデルは奏夜に対してこのような言葉を送っていた。

 

「いえ……。魔戒騎士としての使命も大事ですので……。ところでロデル様。指令ですか?」

 

「えぇ、そうです」

 

どうやら呼び出されたのは、指令があるからであり、奏夜はロデルの付き人の秘書官から赤い指令書を受け取ると、魔導ライターを取り出し、魔導火を放って指令書を燃やした。

 

そこから、魔戒語で書かれた文章が飛び出してくると、奏夜はそれを読み上げ、文章は消滅した。

 

『……ホラー、フェンリル。スピードもパワーもある手強い相手だ。奏夜、気を引き締めていけよ』

 

「わかってるって」

 

「頼みましたよ、奏夜。……ところで、μ'sの活動の方はどうですか?」

 

指令の受領が終わったところで、ロデルは気になっていたμ'sの話を振ってきた。

 

「はい。今は新しいPVに向けて新しいリーダーを決めているところなんです」

 

「おぉ!ようやく7人で歌う曲が拝めるのですね!それは楽しみです!」

 

ロデルはμ'sが7人になったことを当然知っており、7人で歌う曲のお披露目を心待ちにしていた。

 

「今日明日にはリーダーについての話し合いは終わるでしょうから、新曲も近々だと思いますよ」

 

「楽しみにしていますよ。奏夜」

 

「ありがとうございます!失礼します」

 

奏夜はロデルに一礼をすると、番犬所を後にして、キルバのナビゲーションを頼りにホラーの捜索を開始した。

 

奏夜が番犬所を後にした時には既に夜になっており、奏夜は被害が出る前にホラーを見つけ出そうと少し焦っていた。

 

そんな奏夜が音ノ木坂学院の近くを歩いていたその時だった。

 

『……奏夜!上だ!!』

 

「っ……!?」

 

どうやらすぐ近くにホラーがいたようであり、まるで狼のようなホラーが上空から奏夜を奇襲した。

 

奏夜はどうにか魔戒剣を抜いて攻撃を防いだのだが、ホラーの攻撃の勢いはかなりのものであり、奏夜の頬には少量の切り傷がついていた。

 

「っ……!キルバ、こいつがフェンリルか!?」

 

『あぁ、そうだ。こいつはなかなか手強いホラーだからな。奏夜、気を付けろよ!』

 

奏夜に襲いかかってきたこのホラーこそ、指令の対象となっているフェンリルである。

 

フェンリルは狼のような姿をしたホラーであり、強靭な爪と牙と、俊敏な動きで、狙った獲物は確実に仕留めるホラーである。

 

先ほどの奇襲攻撃はフェンリルの得意技であり、狙われたのが一般人であればなす術なくやられてしまい、未熟な魔戒騎士や魔戒法師であっても、この奇襲攻撃を防ぐことは厳しいのである。

 

奏夜が咄嗟に防いで、少量のダメージで済んだのは、不幸中の幸いであった。

 

『フェンリルは狙った獲物を執拗に襲うホラーだ。恐らくこいつは、魔戒騎士を狙っているみたいだぞ!』

 

どうやらフェンリルは魔戒騎士をターゲットにしており、今回は奏夜が狙われているようであった。

 

「なるほど……。こいつのターゲットは俺って訳か……」

 

奏夜は、自分がフェンリルに狙われていることを理解したのであった。

 

(奴が俺を狙ってるってことは、ここで戦ったら被害が出そうだな。こうなったら……)

 

奏夜は音ノ木坂学院の近くで戦うことを良しとしていなかった。

 

そのため、奏夜はある作戦を考えていた。

 

その作戦とは……。

 

「……おい!こっちだ!こっちに来い!」

 

奏夜はなるべく人的被害が出なさそうな場所を選んで、そこにフェンリルを誘導しようとした。

 

フェンリルは奏夜がどこかへ逃げていると判断したからか、「グルルル……!」と唸り声を上げながら、奏夜を追跡していた。

 

「……よし、良い子だ……」

 

奏夜は全力疾走しながら後ろを見ており、フェンリルがしっかりと追いかけてきていることに安堵していた。

 

フェンリルの動きは素早いため、時々飛びかかってくることもあるのだが、奏夜はそれを魔戒剣で受け止め、攻撃を防ぎながら移動していた。

 

……そんな奏夜とフェンリルをジッと見つめる1人の男がいた。

 

「……なるほど、あいつがこの管轄の魔戒騎士って訳か……」

 

その男は、黒いロングコートを羽織っており、まるで魔戒騎士のような出で立ちであった。

 

男はどこからか煙草の箱を取り出すと、箱から煙草を一本取り出して、それを口にくわえた。

 

そして、ライターの火をつけると、煙草に火をつけて、煙草を吸い始めていた。

 

「……それに、あのホラー……。なるほど、俺のこの管轄初仕事には持ってこいの相手だな」

 

その男は、どうやら魔戒騎士で間違いないようであり、煙草を吸いながら、奏夜に襲いかかっていたホラーの分析をしていた。

 

『……リンドウ。油断しないで下さいよ。あのホラー、相当手強い相手ですよ』

 

すると、リンドウと呼ばれた男のつけている腕輪から少年のような声が聞こえてきた。

 

どうやら、この腕輪はこの男の魔導輪のようであった。

 

「……わぁってるよ、レン。……仕事はきっちりとこなすさ」

 

リンドウと呼ばれた男は、レンと呼ばれた魔導輪にこう答えると、地面で煙草の火を消して、吸い殻を携帯灰皿にしまってから奏夜とフェンリルが向かっていった方角へと移動した。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

奏夜は戦闘による被害を食い止めるために自分に狙いを定めているフェンリルを誘導していたのだが、奏夜がたどり着いたのは、音ノ木坂学院の裏手にある今は誰も立ち入ることのない裏山であった。

 

ここであれば、誰も来ないため、戦いに専念出来ると思ったからである。

 

「グルルル……!」

 

フェンリルは奏夜を追い詰めたと思っているのか、唸り声をあげながら奏夜を睨みつけていた。

 

「悪いな。追い詰められたのは俺じゃない……。お前の方だ!!」

 

奏夜は魔戒剣を構えると、フェンリルに向かってこのように宣言していた。

 

そんな奏夜の強気な発言が気に入らなかったからか、フェンリルは即座に奏夜に襲いかかってきた。

 

フェンリルは鋭い爪で奏夜を切り裂こうとしたのだが、奏夜は魔戒剣を一閃することで攻撃を防いだ。

 

しかし、フェンリルはすかさず素早い動きで奏夜を翻弄して、奏夜を攻撃する機会を伺っていた。

 

「くっ……!やっぱりこいつは速いな……」

 

奏夜は、フェンリルの予想以上に素早い動きに苦しんでいた。

 

フェンリルは素早い動きで奏夜を翻弄しながらも、連続で攻撃を仕掛けていた。

 

奏夜はどうにか魔戒剣で防いでいたのだが、全ての攻撃を受け切れた訳ではなく、腕や脚などに切り傷が出来ており、鮮血が飛び散っていた。

 

「くっ……!」

 

そのダメージはかなりのものであり、奏夜は表情を歪ませていた。

 

奏夜はフェンリルに追い詰められていると思われるが、スピードに翻弄されているうちにフェンリルのスピードに慣れてきたのか、動きを見切りつつあった。

 

そんなこととは知る由もなく、フェンリルは、奏夜にトドメを刺すべく、奏夜の急所目掛けて飛びかかってきた。

 

「……そこだぁ!!」

 

奏夜はフェンリルの動きを見極めて魔戒剣を一閃すると、フェンリルの顔面を斬り裂き、その一撃によって切り傷をつけた。

 

さらに、動きが止まったフェンリルに対して蹴りを放つと、フェンリルを吹き飛ばし、近くの壁に叩きつけた。

 

その時、フェンリルは、「キャイン!」と、まるで犬のような悲鳴をあげていた。

 

「……ったく……。手間かけさせやがって……」

 

奏夜はフェンリルの動きを見切ったのだが、そのためにダメージを受け過ぎており、フェンリルによって負わされた傷の痛みで表情を歪ませていた。

 

「だけど、これでケリをつける!!」

 

奏夜は鎧を召還して、一気に決着をつけようと考えていた。

 

奏夜が魔戒剣を高く突き上げようとしたその時だった。

 

「……おうおう。ずいぶんと苦戦してると思ったが、思ってたよりもやるじゃないか!」

 

どこからか、黒いロングコートを羽織った男が現れると、奏夜の戦いぶりを賞賛していた。

 

「……何者だ!」

 

奏夜は鋭い目付きで、突然現れた乱入者を睨みつけていた。

 

「おいおい……。そんな怖い顔をすんなって、少年よ。お前の管轄に魔戒騎士が派遣されるって聞いてるだろ?」

 

「!何でその話を……。ま、まさか!あんたが!?」

 

「まぁ、そういうこった」

 

どうやら奏夜の前に現れたこの男こそが、ロデルから話を聞いていたこの番犬所に派遣される予定の魔戒騎士であった。

 

その事実に、奏夜は驚きを隠せずにいた。

 

「……ま、色々話したいことはあるだろうが、まずは……」

 

男はそう言いながらフェンリルの方を見ると、体勢を立て直したフェンリルが唸り声をあげながら奏夜と男を睨みつけていた。

 

「おぉ、怖い怖い。奴さん、魔戒騎士を狙ってるみたいだな」

 

男は、先ほど奏夜の戦いを見ていたからか、フェンリルが魔戒騎士を狙っていることを理解しており、自分も狙われていると理解した男は、わざとらしく身震いをしていた。

 

『リンドウ。おどけるのはそこまでです。ホラーはすぐそこにいるんですから』

 

この男はリンドウと呼ばれており、彼の魔導輪はレンと呼ばれていた。

 

「わぁってるって。お前は真面目だねぇ。レンよ……」

 

レンと呼ばれる魔導輪がリンドウと呼ばれた男を宥めるのだが、リンドウはやれやれと肩をすくめながら煙草を一本取り出すと、煙草を吸い始めていた。

 

「ほ、ホラーが目の前にいるのに煙草!?」

 

『やれやれ……。奴は相当に緊張感がないようだな……』

 

奏夜は、ホラーを目の前にして、悠々と煙草を吸っているリンドウと呼ばれる男に驚き、キルバはそんなリンドウと呼ばれる男の態度に呆れていた。

 

そんなリンドウと呼ばれる男の態度にフェンリルは苛立っており、ターゲットを奏夜から切り替えると、素早い動きで彼に襲いかかった。

 

「……っ!危ない!!」

 

現在リンドウと呼ばれる男は丸腰であるため、奏夜は思わず声をあげた。

 

だが……。

 

「……フッ……。問題ねぇよ!!」

 

リンドウと呼ばれる男は、不敵な笑みを浮かべると、フェンリルが接近するよりも速く、魔戒剣を抜いて、素早い剣撃によってフェンリルの鋭い爪の一部を斬り裂いた。

 

さらに、連続で魔戒剣を一閃することにより、フェンリルにダメージを与えると、蹴りを放ってフェンリルを吹き飛ばした。

 

フェンリルに連続で攻撃を繰り出した後、リンドウと呼ばれる男は、悠々と煙草を吸っていた。

 

「……す、凄い……。あの人……」

 

『どうやら、ただのふざけた奴ではなさそうだな』

 

どうやらこのリンドウと呼ばれる男は、それなりに実力のある魔戒騎士であるようであり、奏夜とキルバは、驚きを隠せなかった。

 

「……あんた、いったい何者なんだ?」

 

このリンドウと呼ばれる男が魔戒騎士であることはわかったのだが、奏夜は改めて彼の素性を聞き出そうとしていた。

 

「……あぁ、俺か?俺は……」

 

リンドウと呼ばれる男は、口にくわえた煙草を地面に捨てると、足で煙草の火を消していた。

 

「……俺は天宮(あまみや)リンドウ……。神食騎士狼武(しんしょくきしロウム)の称号を持つ、魔戒騎士だ!」

 

この男……。天宮リンドウは、高々と自分の名前を宣言していた。

 

『ちなみに僕はレン。リンドウの相棒である魔導輪です』

 

そして、リンドウの相棒であるレンも、自己紹介をしていた。

 

リンドウの語る、神食騎士狼武とはいったいどのような魔戒騎士なのか?

 

それは、これから明らかになっていくのである……。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『あのリンドウとかいう奴、なかなかやるみたいだな。それに、奏夜の新たな兄貴分になりそうだしな。次回、「中央 後編」。そして、μ'sのセンターはいったい誰になるのか?』

 

 




今回、新たな魔戒騎士が登場しました。

今回登場したリンドウは、「GOD EATER」シリーズに登場したリンドウがモデルになっています。

まぁ、モデルとは言ってもまんまリンドウですが(笑)

そして、リンドウの相棒である魔導輪のレンも、「GOD EATER」に登場したあるキャラがモデルとなっています。

さらに、今回、奏夜が極度の音痴であることが判明しました(笑)

ここら辺が、前作主人公である統夜との、大きな差別化となっています。

奏夜と統夜。名前の似ている2人ですが、これからも2人の違いがよくわかる一面が出てくると思うので、そこもお楽しみに!

さて、今回はリンドウの鎧が登場します。

そして、μ'sのリーダーが誰なのかも明らかになりますので、次回をお楽しみに!



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第23話 「中央 後編」

お待たせしました!第23話になります。

今回は前回登場したリンドウの鎧が出現します。

リンドウの鎧はいったいどのようなものなのか?

そして、μ'sのリーダーはいったい誰になるのか?

それでは、第23話をどうぞ!




穂乃果たちが活動しているスクールアイドルグループ「μ's」に、現在とある問題が浮上していた。

 

それは、7人で歌う曲を作るということと、μ'sのリーダーを誰にするか?という問題である。

 

今までは、なし崩し的に穂乃果がリーダーという感じだったのだが、それでは良くないという意見があったことから、新たなリーダーを決めようと動き始めていた。

 

その途中、番犬所に呼ばれた奏夜は、指令を受けてホラーの捜索を行っていたのだが、その途中に指令の対象だったフェンリルに襲撃されてしまった。

 

奏夜は、フェンリルが自分を狙っていると察すると、戦闘による被害を避けるために、音ノ木坂学院の裏手にある裏山へと誘導した。

 

こうして、奏夜はフェンリルと戦うのだが、フェンリルの素早い動きに翻弄されてしまい、多少ダメージを負ってしまった。

 

奏夜はどうにかフェンリルの動きを見切り、反撃に転じようとしたのだが、その前に、謎の男が乱入してきた。

 

その男はどうやら魔戒騎士のようであり、この翡翠の番犬所に配属される魔戒騎士のようであった。

 

そして、この魔戒騎士はそれなりに実力があるようであり、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

その魔戒騎士の正体とは……。

 

「……俺は天宮リンドウ……。神食騎士狼武(しんしょくきしロウム)の称号を持つ、魔戒騎士だ!」

 

この男……。天宮リンドウは、高々と自分の名前を宣言していた。

 

『ちなみに僕はレン。リンドウの相棒である魔導輪です』

 

そして、リンドウの相棒である魔導輪のレンも、自己紹介をしていた。

 

「天宮……リンドウ……」

 

奏夜は、目の前に現れたリンドウの名前を口にしていた。

 

「おい、少年!ぼさっとしてないでお前も手伝え!一気にケリをつけるぞ!」

 

「わ、わかった!」

 

こうして、奏夜はリンドウと協力して、フェンリルを討伐するようであった。

 

「……貴様の陰我、俺たちが断ち切る!!」

 

奏夜はフェンリルに向かってこう宣言すると、魔戒剣を高く突き上げると、円を描いた。

 

その部分のみ空間が変化して、奏夜はそこから放たれた光に包まれた。

 

すると、その空間から金色の鎧が現れると、奏夜は金色の鎧を身に纏った。

 

こうして、奏夜は陽光騎士輝狼の鎧を身に纏った。

 

「……ほぉ、これがあいつの鎧って訳か」

 

リンドウは、奏夜の鎧を見て、黄金の輝きに感心していた。

 

『リンドウ!感心してる場合じゃないですよ!』

 

「わぁってるよ」

 

リンドウはレンからの小言を軽く流しながら魔戒剣を構えた。

 

そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……リンドウは魔戒剣を前方に突き付けると、そこで8の字を描き、その後、魔戒剣を上空へ高く突き上げた。

 

すると、描かれた8の字が1つになってリンドウの上空に移動すると、その部分のみ空間が変化して、リンドウはそこから放たれた光に包まれた。

 

すると、変化した空間からは黒い鎧が現れると、リンドウは黒い鎧を身に纏った。

 

「……こ、これが……。この人の鎧……」

 

『あの鎧……。狼というよりは竜に近いな……』

 

魔戒騎士の身に纏う鎧は、基本的に狼がモチーフになっているものが多いのだが、リンドウの身に纏った黒い鎧は、どちらかというと竜のような顔の鎧だった。

 

そして、リンドウの手にしている剣は、魔戒剣のような鍔なしの剣から、大きく変化していた。

 

刀身は魔戒剣の時よりも大きくなり、その刃には、まるでノコギリのようなギザギザが出来た機神剣(きじんけん)となったのである。

 

この姿こそ、神食騎士狼武。荒ぶる神の如く人間を喰らいしホラーを斬り裂く騎士である。

 

奏夜はリンドウの鎧を見て呆けていたのだが……。

 

「おい、少年!ぼさっとするな!来るぞ!」

 

リンドウが奏夜にこう警告をすると、体勢を立て直したフェンリルが襲いかかってきた。

 

「あっ、あぁ!」

 

奏夜は気を取り直して攻勢に転じることにした。

 

相変わらずフェンリルは素早い動きなのだが、奏夜もリンドウもフェンリルの動きを見切っており、迫り来るフェンリルに、それぞれの剣を叩き込み、フェンリルにダメージを与えていた。

 

フェンリルは素早い動きでリンドウに迫るのだが、リンドウは機神剣を一閃すると、フェンリルの体の一部を斬り裂いた。

 

「……少年!今だ!」

 

先ほどのリンドウの一撃によってフェンリルに大きな隙が出来たため、リンドウはトドメの一撃を奏夜に託していた。

 

「任せろ!!」

 

奏夜はフェンリルに接近し、陽光剣を一閃することで、フェンリルの体を真っ二つに斬り裂いた。

 

リンドウと奏夜の連続攻撃によって真っ二つに斬り裂かれたフェンリルは、断末魔をあげながら消滅した。

 

フェンリルが消滅したことを確認した奏夜とリンドウは、それぞれの鎧を解除すると、それぞれの魔戒剣を鞘に納めていた。

 

「ふぅ……。ざっとこんなもんだろ……」

 

魔戒剣をしまったリンドウは、代わりに煙草を取り出すと、再び煙草を吸っていた。

 

奏夜は、リンドウから話を聞きたいと思っていたため、リンドウに駆け寄っていた。

 

「……おう、少年。お疲れさん。お前さんもなかなかやるじゃないか」

 

リンドウは煙草を吸いながら、奏夜の健闘ぶりを讃えていた。

 

「少年はやめてくれ!俺には如月奏夜という名前があるんだから!」

 

『俺はその相棒のキルバだ』

 

ここで、奏夜とキルバは、リンドウに自己紹介をしていた。

 

「……なるほどな。お前があいつの言っていた如月奏夜か」

 

どうやらリンドウは、誰かから奏夜の話を聞いていたようであり、奏夜のことは知っていたようであった。

 

「……?あいつ?それってまさか……」

 

奏夜のことをリンドウに話した人物に心当たりがある奏夜は、その名前を言おうとしたのだが……。

 

「……あっ、いたいた。兄貴!!」

 

どこからか現れた魔戒法師のアキトは、どうやらリンドウを探しているようであり、リンドウに駆け寄っていた。

 

「おう、アキト。やっと来たのか」

 

「え?あんたの言ってたあいつって統夜さんのことじゃないのか?」

 

奏夜が思っていた人物は統夜だったため、奏夜は少しばかり困惑していた。

 

「まぁ、統夜からも話は聞いてたけどな。最初に話を聞いたのはアキトからなんだよ」

 

「言ったろ?俺はこの街で用事があるってさ」

 

アキトは、奏夜がアスモディと戦った時に、桐島大輝と共に奏夜の援護を行ったのだが、アキトは元老院からの指令の他に、この街で用事があると奏夜に話していた。

 

その中身までは明かされなかったが、リンドウのことなのかと、奏夜は納得していた。

 

「お前も翡翠の番犬所に魔戒騎士が配属されるって聞いただろ?それが兄貴だからよ。俺は兄貴に秋葉原の街を案内してたんだよ」

 

「ま、統夜とその友達も付き合ってくれたんだがな」

 

アキトの用事というのは、翡翠の番犬所に配属されるリンドウの街の案内であり、それには統夜だけではなく、唯たちも一緒に街の案内をしていた。

 

「なるほど……。アキトさんの用事はこの人の案内だったんですね……。ん?待てよ?さっき兄貴って言ってましたけど、まさか、この人が……」

 

「あぁ。俺の実の兄貴だ」

 

「えぇ!?そうなんですか!?」

 

リンドウがアキトの実の兄であることがわかり、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

アキトの本当の名前は天宮アキトであり、アキトとリンドウは、神食騎士狼武の称号の家系に生まれ、長男であるリンドウが狼武の称号を受け継ぎ、次男であるアキトは、魔戒法師となり、布道レオに師事した。

 

リンドウは魔戒騎士として多くのホラーを討滅し、その実力は元老院にも一目置かれるほどであった。

 

そして、アキトは布道レオに師事し、月影統夜と出会うことで、最高傑作である魔戒銃を完成させた。

 

「……すいません、リンドウさん。俺、あなたがアキトさんのお兄さんだとは知らず……」

 

奏夜はリンドウがアキトの兄と知り、先ほどとは態度をガラッと変えていた。

 

「いいってことよ。それに、敬語で話されるのは性に合わん。だから、さっきのように接してくれや」

 

どうやらアキトの気さくなところは兄譲りであるようで、リンドウは敬語で話されるのはあまり好きではないようである。

 

リンドウはそんな性格なため、面倒見のいい先輩騎士ということで、若い魔戒騎士に慕われていた。

 

「……わかった。よろしく頼むよ、リンドウさん」

 

「言っておくが、“さん”もいらんからな」

 

「……わかったよ。リンドウ」

 

「うんうん。それで良い」

 

リンドウは奏夜に“さん”付けで呼ばれるのも良しとしなかったため、奏夜はリンドウを呼び捨てで呼んでいた。

 

「ちなみに、俺もタメ口に呼び捨てで呼んでくれるとらありがたいんだがな」

 

「い、いや……。アキトさんは、ずっとそう呼んでましたし、いきなりは……」

 

「おいおい、アキト。あまり少年を困らせるなよな」

 

「……わかってるよ、兄貴……」

 

奏夜はアキトのことをずっとアキトさんと呼んでいたため、そう簡単に直すことは出来なかった。

 

それを理解したリンドウは、このようにアキトをなだめていた。

 

「ま、とりあえず実際にこの管轄で仕事をするのは明日以降だし、番犬所に挨拶に行くのもその辺りだからよろしくな」

 

どうやら、リンドウが正式にこの管轄で仕事をするのはもう少し先の話のようであり、今日奏夜に力を貸したのは、挨拶を兼ねてのようであった。

 

「あぁ、こちらこそ、よろしく」

 

奏夜は、新たに配属されるリンドウを、歓迎していた。

 

「さて、ホラーも倒したんだ。今日はゆっくりと飲み明かそうぜ!」

 

「ったく……。兄貴はそればっかりだよな。まぁ、俺も付き合うけどさ」

 

どうやらリンドウはこれから飲みに出るようであり、アキトもついて行くようだった。

 

「おい、少年。お前も一緒に来い。同じ管轄で働く魔戒騎士として、色々聞きたいこともあるしな」

 

「へ!?ちょっと待て!俺は未成年だぞ!だから酒は飲まないし!」

 

「ったく……。真面目だなぁ……。ちょっとくらいはいいじゃねぇか」

 

「良くないっての!」

 

奏夜は、未成年である自分に酒を飲まそうとしているリンドウを全力で止めていた。

 

「……ま、無理強いはよくないわな。そんじゃまぁ、またな!少年!」

 

こう言いながらリンドウはどこかへ移動し、アキトはそんなリンドウの後を追いかけていた。

 

『……やれやれ……。やはり真面目な奴じゃなさそうだな……』

 

「アハハ……。悪い人じゃなさそうだけどな」

 

『とりあえず、俺たちも帰るぞ、奏夜』

 

「そうだな……」

 

こうして、リンドウと共にフェンリルを討滅した奏夜は、その場を後にして、自宅へと向かっていた。

 

……そんな奏夜の戦いを見守っていた1つの影があった……。

 

「……如月君……。なるほど、やはりそういうことやったんやな……」

 

1枚のカードを取り出し、このように呟いていたのは、なんと生徒会副会長である東條希だった。

 

希は、奏夜が普通の人間ではないのでは?という疑惑を抱いており、奏夜のことを探っていたのだが、偶然にもホラーに襲われる奏夜を目撃して、音ノ木坂学院の裏山まで追いかけて戦いの様子を見ていたのである。

 

「……やっぱり如月君は、何かを守る騎士やったんやな。まぁ、あの化け物のことはわからへんけど……」

 

希は、自分の予想通り、奏夜は何かを守る騎士であった。

 

……さすがに、ホラーや魔戒騎士のことまではわかってるようではなかったのだが……。

 

「……近いうちに話を聞かないといかんなぁ。……如月君に」

 

希は、奏夜に本当のことを聞き出そうと決意すると、その場から離れていった。

 

……奏夜の戦いを遠くから見ていたのは、希だけではなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど。あれがこの管轄の魔戒騎士って訳か……」

 

裏山の高いところから、奏夜の戦いを見ていたのは、銀髪で背の高い男であり、黒のスーツのような服を着ていた。

 

「いやはや……。あんな子供が魔戒騎士とは……。魔戒騎士としての作法がなっておりませんな」

 

背の高い男の他に、60代前半くらいの男も一緒だった。

 

立場的に、この壮年の男は、銀髪の男の付き人と思われる。

 

「そうだな……。もう1人の方はまぁまぁやる方だが、俺やお前の敵ではないさ」

 

銀髪の男は、どうやらリンドウの実力は認めているようだったが、それでも自分の方が強いと自負していた。

 

「その通りです。……我らの計画も問題なく進みそうですなぁ」

 

「あぁ。伝説の魔竜ホラーの眼にそいつの牙……。俺たちの悲願を実現するために、魔竜ホラーを早く復活させないとな……」

 

「はい。早急に魔竜の眼と牙の手がかりを見つけます」

 

どうやら、銀髪の男は、とあるホラーを復活させようとしており、その封印を解くためにはいくつか必要なものがあるようだった。

 

しかし、その必要なものはまだ見つかっていないため、壮年の男は、その手がかりをどうにか見つけようとしていた。

 

「……あぁ。頼んだぞ。奴らと遊んでやるのはそれからでも遅くはなさそうだしな」

 

「あなたほどの人が出る幕もありません。あのような未熟な魔戒騎士など、私1人で充分です」

 

「ふっ……。違いねぇ。だが、俺もたまには遊びたいと思ってるから、その時は自由にさせろよな」

 

「はっ……。心得ております」

 

どうやら銀髪の男も、壮年の男も、近いうちに奏夜たちの前に立ちはだかろうと考えているようであった。

 

この2人が奏夜の前に立ちはだかるのはまだ先の話ではあるのだが、それこそが壮絶なる戦いの序章になるとは、奏夜は知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新たに翡翠の番犬所に配属されるリンドウと共に、フェンリルを討滅した翌日の放課後、奏夜はアイドル研究部の部室にいた。

 

この日もリーダーについて話し合いをするためである。

 

昨日行ったカラオケやダンスゲーム。さらにチラシ配りの結果は、全員同じようなものであり、これだけで結果が決まるものではなかった。

 

「……やっぱり昨日のあれじゃ決まらなかったか……」

 

カラオケとダンスゲームは一緒に参加していたため、奏夜はチラシ配りを行っても、誰がリーダーかはハッキリしないだろうと予想していた。

 

「えぇ。そうなのです……。ダンスのスコアが低かった花陽は、カラオケの点数が良くて。カラオケの点数が低かったことりは、チラシ配りの成績が良くて……」

 

「結局、みんな同じってことなんだね」

 

どうやら、どこかでスコアが低くても、他で補っているため、この結果だけではリーダーは決められなかったのであった。

 

「それにしても凄いね!にこ先輩!みんなよりも全然練習してないのに、凛たちと同じくらいの点数なんだもん!」

 

「アハハ……。当たり前でしょ……」

 

にこは最初から勝つつもりで挑んできたのだが、そうしなかったらどのようなスコアになっていたのかと考えていたにこは、顔を真っ青にして苦笑いをしていた。

 

「……それで?結局どうするの?リーダーは」

 

「わっ、私は、やっぱりリーダーは上級生の方が……」

 

「仕方ないわねぇ……」

 

上級生の方がいいという花陽の言葉に、にこが名乗り出ようとするものの、奏夜たちは相変わらずにこをスルーして話し合いを行っていた。

 

「……あんたたち、ブレないわね……」

 

奏夜たちの変わらないスルースキルに、にこは呆れていた。

 

色々な意見が飛び交い、リーダー選びは難航すると思ったのだが……。

 

「……それじゃあ、いらないんじゃないのかなぁ。リーダー」

 

穂乃果はさらっととんでもないことを言っていたため、他のメンバーは驚きを隠せなかった。

 

「り、リーダーなしってどういうことですか?」

 

「だって、リーダーがいなくたって、練習してきたでしょ?それに、歌だってちゃんと歌ってきたし」

 

「けど、リーダーがいないグループなんて、聞いたことがないわよ」

 

「そうよ。それに、センターはどうするの?」

 

にこや真姫の指摘通り、どのグループにもリーダーと呼べる人物が存在しており、みんなをまとめる人物がいなければ、グループとして存続していくのは難しいのではないかと思われた。

 

このように2人が心配する中、穂乃果は……。

 

「……それなんだけど、みんなで歌うってどうかな?」

 

「みんなで?」

 

「へぇ……」

 

穂乃果の言葉の意味が理解出来ていないにこは首を傾げており、意味を理解している奏夜は、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「家で、アイドルの動画を見ていて思ったんだ。なんかね、みんなで順番に歌えたら素敵だなって。そんな曲、作れないかなって」

 

「……俺はそういう曲こそ今のμ'sらしい曲だと思うんだが、どうだ?海未、真姫」

 

奏夜は穂乃果の意見を後押しする形で意見に賛同すると、作詞担当の海未と、作曲担当の真姫に意見を求めていた。

 

「……まぁ、歌は作れなくはないかと……」

 

「そういう曲、なくはないわね」

 

海未は少々戸惑っていたが、真姫もどうやら穂乃果の意見に賛成のようであり、積極的な姿勢を見せていた。

 

「ことりちゃん、そーくん。そんな振り付けは出来るかな?」

 

穂乃果は、振り付け担当であることりと、ダンスコーチである奏夜に意見を求めていた。

 

「うん!今の7人……。いや、8人なら出来ると思う!」

 

今度の新曲は奏夜の力も合わさって作られる曲のため、ことりは奏夜も頭数に入れていた。

 

「……まぁ、その分練習は厳しくなるぞ。覚悟しておけよ!」

 

「うん!望むところだよ!」

 

奏夜の脅しに近い言葉にも動じることはなく、穂乃果は力強く答えると、にこ以外の全員がうんうんと頷いていた。

 

「じゃあ、そうしようよ!みんなが歌って、みんながセンター!」

 

どうやら穂乃果は、μ'sのメンバーは1人1人が輝くべきだという思いがあるからか、このような発言をしていた。

 

実はそれは、奏夜が前々から考えていたことでもあり、このようにメンバーを引っ張る穂乃果を見て、奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「私、賛成!」

 

「……好きにすれば」

 

ことりは穂乃果の意見に賛同し、真姫も、反対はしていなかった。

 

「凛もソロで歌うんだぁ!」

 

「わ、私も!?」

 

凛は、自分がソロパートを担当することにやる気満々であり、花陽は恥ずかしいのか、頬を赤らめていた。

 

「やるのは大変そうですけどね……」

 

「さっきも言ったろ?そういう曲の方が俺たちらしいって」

 

海未が少々不安げな意見を出していたが、それを奏夜が力強い言葉で一蹴していた。

 

そした、奏夜たちは、まだ意見を聞いていないにこの方を見ていた。

 

「……仕方ないわね。ただし、私のパートは格好よくしなさいよ」

 

「了解です♪」

 

「……ま、俺の出した課題をクリア出来るなら、にこ先輩だけ目立たせてあげますよ」

 

「のっ……望むところじゃないの!」

 

奏夜はうまい具合ににこを焚き付けており、そんなやる気に満ちたにこを見て、奏夜は笑みを浮かべていた。

 

「……よーし!そうと決まれば、さっそく練習しよう!」

 

新曲についての案が決まり、リーダーの件も解決したことで、やる気になった穂乃果は屋上目指して駆け出して行き、奏夜たちがそれを追いかけていた。

 

「……それにしても、本当にリーダーがいなくても大丈夫なのかなぁ?」

 

その途中、ことりが少しばかり不安そうな表情を浮かべながら、このようなことを呟いていた。

 

そんなことりの言葉を聞いた海未は……。

 

「……リーダーならもう決まっていますよ」

 

「不本意だけど……ね」

 

一応はリーダーはいないということになっているが、真のリーダーは誰なのか、誰の目から見ても明らかであった。

 

「何にも捉われないで、1番やりたいこと。1番面白そうなものに怯まずに、ただ真っ直ぐに突き進んでいく。それは、穂乃果にしかないものかもしれません」

 

「それに、そんな穂乃果や私たちを裏方として支え続けてくれる……。奏夜もまた、もう1人のリーダーだと、私は思ってるわ」

 

「おいおい……。勘弁してくれよ……。俺はリーダーはやらないっていったろ?」

 

「そんなリーダーらしいことはしなくても良いのです。ただ、いつものように、私たちを支えてさえいてくれれば……」

 

「……ま、そういうことならわかったよ。俺は俺にしか出来ないことをする。みんなも力を貸してくれよな」

 

「えぇ、もちろんよ!」

 

こうして、奏夜もまた、リーダーの役を与えられ、表のリーダーが穂乃果であり、裏のリーダーが奏夜という形で、リーダーの問題は完全に解決したのだった。

 

「……さぁ!始めよう!」

 

こうして、穂乃果たちは練習を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからおよそ1週間後、μ'sの新曲が完成し、その曲のPVも撮影したので、スクールアイドルのサイトにアップされた。

 

今回の新曲の衣装は、「不思議の国のアリス」をイメージしたような衣装であり、帽子やうさ耳など、個性的な装飾品も身につけていた。

 

そして、この曲は、奏夜や穂乃果のイメージした通り、全員にソロパートがあり、みんなが平等に輝いている、まさにμ'sらしい曲といっても過言ではなかった。

 

この曲はこのようなタイトルであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これからのSomeday』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

μ'sのPVが完成し、すぐにその動画がアップされたのだが、反響はかなりのものだった。

 

そんな中、未だに奏夜たちの活動を認めていない絵里は、新曲の動画を、神妙な面持ちでチェックしていた。

 

「……希。あの子たちに何を言ったの?」

 

その隣には希がいて、絵里は、彼女がアイドル研究部の部活紹介ビデオの撮影に関わっていることを知っていたため、このような問いかけをしていた。

 

「ウチは思ったことを素直に言っただけや。誰かさんと違ってな」

 

「……」

 

希の言った言葉に何かを返すことはせず、絵里は相変わらず神妙な面持ちをしていた。

 

「……もう認めるしかないんやない?エリチが力を貸してあげれば、あの子たちはもっと……」

 

「なら、希が力を貸してあげれば?」

 

今でもμ'sのことを認めていない絵里は、このような言葉で、希の言葉を否定していた。

 

「ウチやない……。カードも言ってるの。あの子たちに必要なのは、エリチや」

 

希はそう言いながらタロットカードを1枚引くのだが、その時に引いたのが、「THE STAR」のカードだった。

 

星を意味するこのカードの正位置の意味は、「希望があり、光があなたを導いていく。迷うことなく、憂うことなく、光に向かって突き進めば良い」といった感じである。

 

「……ダメよ……」

 

絵里は、先ほどよりも思いつめた表情をして、希の言葉を否定していた。

 

何故、絵里がここまでスクールアイドルに対して否定的な考えを持っているのか、それは、これから明らかになっていくのである。

 

それが明らかになった時、μ'sに大きな波乱が待ち受けるのだが、そのことを奏夜たちは、知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『なるほど、スクールアイドルにはこのような大会があるんだな。だが、出るためには試練があるみたいだがな。次回、「試験」。こいつらの成績は、いったいどうなんだ?』

 




リンドウの鎧が登場しました。

神食騎士狼武の鎧のモデルですが、「GOD EATER」に登場する、ハンニバル侵食種というアラガミを小型化して、魔戒騎士の鎧っぽくした感じです。

GOD EATERをプレイしたことない方は、どんな姿なのか、1度見てみてください。Googleで検索したら画像が出てくると思います。

そして、ついに希にも奏夜が魔戒騎士だということがバレてしまいました。

とは言っても詳細のことは知らないため、これからいったいどうなっていくのか?

それだけではなく、今回の黒幕と思えるキャラが登場しました。

銀髪で長身の男に、壮年の男……。牙狼シリーズを見た方なら、もしやと思うかもしれません。

この2人は奏夜の前に立ちはだかっていくことになるのでしょうが、これからどうなるのか?

さて、次回はラブライブ!第7話に突入します。

これから先、奏夜たちを待ち受けているものとは?

それでは、次回をお楽しみに!



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第24話 「試験」

お待たせしました!第24話になります。

今回はラブライブ!の第7話に突入します。

前回の最後に新曲をあげたμ'sですが、これからμ'sの人気はどうなっていくのか?

それでは、第24話をどうぞ!




……穂乃果たちが結成したスクールアイドルグループ、「μ's」のメンバーが7人となり、新たな曲のPVが動画サイトにアップされてから、1週間が経過した。

 

この頃には梅雨は完全に終わっており、制服も夏服へと衣替えになっていた。

 

奏夜もまた、制服は夏服なのだが、魔法衣は羽織っており、この日の朝も、魔戒騎士の日課であるエレメントの浄化を行っていた。

 

「……はぁっ!!」

 

奏夜は、秋葉原某所にあるオブジェから飛び出してきた邪気を、魔戒剣の一閃によって斬り裂いた。

 

邪気が消滅したことを確認した奏夜は、魔戒剣を緑の鞘に納めた。

 

「キルバ。浄化すべき場所はこれで全部か?」

 

『あぁ。あのリンドウとかいうやつもエレメントの浄化に参加してるみたいだからな。いつもよりかは浄化すべき場所は少なくて済んでいるな』

 

この頃には、リンドウは正式に翡翠の番犬所に配属となり、魔戒騎士として仕事もこなしていた。

 

「あの人、一見ふざけてるように見えて、魔戒騎士としての実力は本物だからな……」

 

『そんな奴だが、お前も学ぶことは多いんじゃないか?』

 

「そうだな……。統夜さんや大輝さんとは違うタイプの魔戒騎士だしな」

 

リンドウは、奏夜の先輩騎士である月影統夜や、桐島大輝とは違うタイプの魔戒騎士であるため、そんなリンドウの性格に、奏夜は少々戸惑いながらも、実力は認めていた。

 

「……とりあえず、今日は朝の練習はないし、このまま学校へ向かうとするか……」

 

どうやら今日は、朝の階段ダッシュのトレーニングはお休みのようなので、奏夜はそのまま学校へと向かうことにした。

 

10分ほど歩き、学校の校門までたどり着いたその時だった。

 

(……あれ?あの制服ってウチの制服じゃないよな……)

 

音ノ木坂学院の生徒ではない女子生徒3名が校門に立っていたのだが、誰かを待っているようだった。

 

その3人の女子生徒は、奏夜の顔を見るなり、ぱぁっと表情が明るくなり、奏夜に詰め寄ってきた。

 

「いっ!?」

 

「あっ、あの!μ'sのマネージャーの如月奏夜さんですよね!?」

 

「あっ……いや……俺は……」

 

「そのロングコート……。写真で見たのと同じですよね!」

 

「こんな真夏にロングコートを着てる人なんてそうはいないですし!」

 

奏夜はどうにか話を誤魔化そうとするのだが、正体はバレバレだったようだった。

 

にこがμ'sに加入して間もなく、奏夜たちは新しいμ'sの写真を撮ったのだが、そこにはマネージャーとして、奏夜も写っていたのである。

 

その時に、魔法衣を着ていたため、この女子生徒たちは、目の前にいるのが奏夜だとすぐにわかったのであった。

 

《おい、奏夜!だから言っただろうが!魔法衣は目立つからそれを着て写真に写るなと!》

 

(だって仕方ないだろ!?穂乃果たちが魔法衣を着ろってうるさかったんだから)

 

キルバは、奏夜が魔法衣を着てμ'sの写真に写ることには反対だったのだが、穂乃果たちがどうしてもと言ったため、渋々魔法衣を着て写真に写ったのであった。

 

《ったく……。これで、魔戒騎士の仕事に支障をきたしたらどうするつもりなんだ?》

 

(……仕事に影響する程の人気じゃないと思うけどな)

 

この3人のような人間がここにやって来るのは、一時的なものであると奏夜は予想していたため、そこまで仕事に影響が出ると危機感を抱いてはいなかった。

 

《ったく……。どうなっても俺は知らんからな》

 

キルバは、楽観的な奏夜に呆れ果てていた。

 

2人がテレパシーで会話をしていると……。

 

「……?奏夜さん?」

 

「あ、あぁ。悪い悪い。で、要件は?」

 

「はい!私たち、μ'sの大ファンなんです!」

 

「ここで待ってたら、μ'sのメンバーに会えるかなと思いまして!」

 

「まさか、マネージャーに会えるなんて、感激です!!」

 

「は、はぁ……」

 

どうやらこの3人は、μ'sのファンであるみたいだが、奏夜に対して熱っぽい視線を送っていたため、奏夜は面食らっていた。

 

「奏夜さん、写真で見るより格好いいです!」

 

「奏夜さんなら、男性のスクールアイドルになっても、人気になれると思います!」

 

現在の社会では、スクールアイドル=女子高生というイメージが固まっているため、男性のスクールアイドルは存在していない。

 

しかし、この3人は、奏夜ならば男性のスクールアイドルと言っても、問題ないと思っていたのであった。

 

「い、いや……。俺はそんなに……」

 

奏夜はこう答えているものの、他校の女生徒に格好いいと言われ、まんざらではなさそうだった。

 

「奏夜さん、握手して下さい!」

 

「あと、写真も!」

 

「やれやれ……。仕方ないな……」

 

奏夜はおだてられて気を良くしたからか、3人の要望に応じて握手をしたり、一緒に写真を撮ったりもしていた。

 

(……やれやれ……。こんなのを誰かに見られたら後が怖いだろうな……)

 

キルバは、デレデレしながら女生徒の要望に応じている奏夜に呆れながら、このようなことを思っていた。

 

握手をしてもらったり、写真を撮ったりしたことで満足したのか、3人の女子生徒はそのまま立ち去っていった。

 

そんな中、キルバの嫌な予感が的中する形で、事の一部始終を見ている人物がいた。

 

「……クスッ。これは、なかなか面白いもんが見れたなぁ。これをμ'sの子達が知ったら、すごいことになりそうやなぁ」

 

見ていたのはどうやら希のようであり、遠くで事の一部始終を見ながら、クスクスと笑みを浮かべていた。

 

その後、奏夜は普通に校内に入ると、普通に授業を受けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてこの日の放課後、花陽と真姫以外のメンバーは既に部室に来ており、2人が来るのを待ちながらのんびりと過ごしていた。

 

すると……。

 

 

 

 

 

 

 

 

バタン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな音を立てながら、花陽が部室に駆け込んできた。

 

「……?どうしたの?花陽ちゃん」

 

「花陽?」

 

どうやら花陽はとても慌てているようであり、穂乃果と奏夜は、そんな花陽を心配そうに見つめていた。

 

「……た……助けて……」

 

「助けて?」

 

花陽の放った一言に、奏夜だけではなく、他のメンバーも困惑していた。

 

そんな中、花陽が何故助けてと言いたいのかを考えた海未は……。

 

「ま、まさか!奏夜にセクハラでもされたのですか!?」

 

「おい!何でそうなる!!」

 

海未がいきなりとんでもないことを言い出してしまったため、奏夜は異議を唱えていた。

 

「そ、そうなんです!私は嫌がっていたのに、奏夜先輩は無理矢理……」

 

「おい!デタラメ言うなよ、花陽!」

 

奏夜は、花陽らしからぬ冗談に異議を唱えようとしたのだが……。

 

「「「「「……」」」」」

 

花陽の言葉を信じてしまった穂乃果たちが、ドス黒いオーラを放って奏夜を睨みつけていた。

 

「……そーくん。そんな人だったなんて……」

 

「マネージャーという立場を使うとは、最低です!」

 

「もうこれは、本当にことりのおやつにするしかないよね……」

 

「そーや先輩。不潔だにゃ!!」

 

「これは……。然るべき罰が降るべきよね……」

 

どうやら穂乃果たちは、奏夜にお仕置きをしようと考えているためか、ジリジリと奏夜に迫っていた。

 

「だ、だから……。これは、嘘なんだって!俺が花陽にそんなことする訳ないだろ!」

 

「……奏夜。言いたいことはそれだけですか?」

 

「とりあえず、お仕置きだね」

 

「うん♪そうだね♪」

 

「そーや先輩。観念するにゃ!」

 

「奏夜。覚悟は出来てるんでしょうね?」

 

「ちょっ……待っ……!」

 

奏夜の言い訳など、一切聞く耳を持たないからか、穂乃果たちは奏夜に迫っていた。

 

そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーーーーーーー!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

……アイドル研究部の部室に、奏夜の悲鳴が響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っというのは冗談で」

 

花陽は、奏夜へのお仕置きが終わった直後に、平然とこのように話していた。

 

「は、 花陽……。お前って奴は……」

 

『……あいつ、以外と腹黒いところがあるのかもしれないな……。それか、奏夜の扱いがわかってきたのか』

 

「どっちにしても最悪だろ……」

 

奏夜はボロボロになりながらこう呟いており、花陽は照れ隠しに舌をペロッと出しておどけていた。

 

「……そんなことはともかく!大変!大変なんです!!」

 

「そ、そんなことって……」

 

『花陽のやつ、何気にドSなのかもしれないな……』

 

花陽の容赦ない言葉から、花陽の本性を垣間見た奏夜は愕然としており、キルバは苦笑いをしていた。

 

ちょうど奏夜のお仕置きが終わった辺りで真姫がやって来たため、そんな奏夜とキルバのことは構わずに、花陽は語り始めた。

 

「ラブライブです!ラブライブが開催されようとしているんです!」

 

「……ラブライブ?」

 

花陽の口から聞いたことのない単語が飛び出してきたため、奏夜は首を傾げていた。

 

それはどうやら、他のメンバーも同様であった。

 

「スクールアイドルの甲子園……。それがラブライブです!」

 

花陽は部室のパソコンを起動させると、ラブライブに関連するホームページを開き、簡潔に説明していた。

 

さらに花陽は説明を続けるのだが、このラブライブという大会は、スクールアイドルランキングの上位20組が参加出来る大会である。

 

そのため、実力のあるスクールアイドルたちが一堂に会す、まさしくスクールアイドルの祭典ともいえる大会なのである。

 

「ランキング1位のA-RISEは出場確実として、第2位は?第3位は?それに、チケットの発売はいつなんでしょう?初日の特典は?」

 

「本当ね!楽しみだわ!」

 

そんなラブライブを心待ちにしている花陽とにこは、目をキラキラと輝かせていた。

 

「って、2人とも、見に行くつもりなの?」

 

「はぁ?何言ってるのよ?当たり前じゃないの!」

 

「にこ先輩の言う通りです!アイドル史に残る一大イベントなんですよ!?見逃せません!」

 

スクールアイドルが誰よりも好きなにこと花陽は、興奮冷めやらぬ感じで息巻いていた。

 

「にこ先輩はともかくとして、花陽はキャラが変わりすぎ」

 

「凛はこっちのかよちんも好きにゃ!」

 

にこは常にこのような感じなのだが、花陽はアイドルのことになるとキャラが変わってしまうため、真姫は若干呆れ気味なのだが、凛はそこまで気にしてはいなかった。

 

「なんだぁ。てっきり、出場を目指そうって言うのかと思ったよぉ」

 

「っ!そ、そそそそそんな!恐れ多いですぅ!」

 

「そ、そうよ!一流のスクールアイドルの中に、私たちが入るなんて!」

 

「……だからキャラ変わり過ぎ」

 

「凛はこっちのかよちんも好きにゃ!」

 

にこは平常運転だったが、花陽はキャラが変わっていたため、真姫は呆れており、凛は相変わらず気にしてはいなかった。

 

「ま、本当に出るとするなら、今まで以上に努力をしなきないけないけどな」

 

「奏夜の言う通りね。現実は厳しいわよ」

 

奏夜と真姫は、現実的な意見を出していた。

 

今のままでは、とてもではないがラブライブ出場など夢のまた夢だからである。

 

「2人の言う通りですね。とても大会に出られるような順位では……」

 

海未は、パソコンの前に座ると、スクールアイドルのホームページを開いて現在のμ'sの順位を確認していた。

 

すると……。

 

「……!?じゅ、順位が上がっています!」

 

自分たちの思ってた以上に順位が上がっていたため、海未は驚きを隠せずにいた。

 

順位が上がっていると海未から聞いた奏夜たちは、ランキングを確認した。

 

すると……。

 

「あっ、本当だ!凄い!」

 

「人気急上昇のスクールアイドル登場してピックアップされてるよ!」

 

「それに、コメントも凄いよ!」

 

奏夜たちがアップした、「これからのSomeday」の動画が予想以上に反響があったらしく、μ'sのランキングは急上昇していた。

 

そのため、人気急上昇のスクールアイドルとしてピックアップされ、それに伴ってコメントも増えていた。

 

・新曲、凄く格好良かったです!

 

・メンバーが7人になったんですね!みんな可愛い!

 

・いつも一生懸命さが伝わってきて、大好きです!これからも応援しています。

 

・マネージャーさんも凄く格好いい!μ'sの皆さんが羨ましい!

 

・マネージャーまじでハーレムじゃん!うらやまけしからん!

 

・マネージャーが羨まし過ぎる!

 

μ'sのことを絶賛するコメントが多い中、マネージャーである奏夜に関するコメントも多くあった。

 

奏夜の容姿を褒めるコメントがあれば、マネージャーである奏夜を羨ましがるコメントもあったりしていた。

 

「もしかして、凛たち人気者?」

 

μ'sが以前よりも注目されているのは間違いないようであり、凛はキラキラと目を輝かせていた。

 

「なるほど。だからこの前……」

 

どうやら、真姫はμ'sが人気になってきたことを実感する出来事を体験したようだった。

 

その時のことを真姫は語り始めたのだが……。

 

「「「「「「「出待ち!?」」」」」」」

 

どうやら真姫はファンである他校生に写真を撮ってほしいとせがまれたようであり、そのことを聞いた奏夜たちは驚いていた。

 

「えぇ!?私はそんなの一切ないよ?」

 

「それこそ、アイドルの格差社会なんです!」

 

どうやら、出待ちというのは、人気のあるアイドルにはよくある話のようだった。

 

その中でも、グループによっては、特定のメンバーに人気が集中することもあるみたいであり、今回の真姫のケースは、その結果のようだった。

 

「おかしい……。何で真姫に出待ちが来て、このにこには出待ちが来ないのよ……!」

 

どうやらにこは、自分が人気者と自負しているようであり、真姫に出待ちが来るということが信じられなかった。

 

(……そういえば、今朝のも間違いなく出待ちだよな?)

 

《そうだな。奏夜、そのことは黙っておけよ。面倒なことになりそうだからな》

 

(わかってるって)

 

奏夜は、今朝あった出来事を黙っておこうと考えていたのだが……。

 

「……そういえば、奏夜。あんたも今朝、出待ちされたようね」

 

「!?」

 

にこがまさかの問いかけをしてきたことに奏夜は驚き、穂乃果たちの視線が奏夜に集中していた。

 

「何で、アイドルではない奏夜が出待ちを?」

 

海未は、もっともな疑問を投げかけて、首を傾げていた。

 

「μ'sの写真を撮った時に、マネージャーとして、一緒に奏夜も写ったでしょ?だからじゃないの?」

 

「アハハ……。いやぁ、何のことだか……」

 

奏夜はどうにか話を誤魔化そうとしたのだが……。

 

「誤魔化そうとしても無駄よ。これは希からの情報だもの。それに、女の子に言い寄られて満更でもなさそうだったみたいよ」

 

「!?いや、違う!あれは!」

 

奏夜はどうにか言い訳をしようとするのだが、言い訳をすればするほど、穂乃果たちはジト目で奏夜を睨んでいた。

 

「そーくん……。そんな人だったとは……」

 

「さっきあれだけ懲らしめたのに、まだ足りないみたいですね……」

 

「やっぱり、ことりのおやつにするしかないよね。これは……」

 

「奏夜先輩、最低です!」

 

「そーや先輩!観念するにゃ!」

 

「本当に見境いないわね。あなた……」

 

「奏夜。覚悟は出来てるんでしょうね?」

 

穂乃果たちはドス黒いオーラを放ちながら奏夜に迫っており、奏夜はそんな穂乃果たちに怯えているのか、冷や汗をかいていた。

 

そんな中、何かを思い出した奏夜はハッとしていた。

 

「そ、そうだ!もしラブライブに出るなら、生徒会にだって話を通さなきゃだろ?生徒会室にいかないと!」

 

こう言って難を逃れようとした奏夜は、逃げるように生徒会室へと向かっていった。

 

「あっ、こら!奏夜!待ちなさい!」

 

そんな奏夜を追いかける形で、穂乃果たちもまた、生徒会室へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

「……とは言ったものの……」

 

生徒会室の近くまで来た奏夜だったが、何か思うところがあったのか、足を止めていた。

 

穂乃果たちはそんな奏夜を捕まえようとするが、考え事をしている奏夜をみて、穂乃果たちは首を傾げていた。

 

「?奏夜?どうしました?」

 

「いや、ラブライブのことを生徒会にと思っていたんだけどさ、改めて考えてみると……」

 

奏夜は、ラブライブに出たいと絵里に話したとしても、承認されるとは思えなかったため、生徒会室に行くのをためらっていたのである。

 

「確かに。このまま話をしたとしても……」

 

「学校の許可ぁ?認められないわ」

 

「おいおい……」

 

凛が何故か絵里の真似をしており、そんな真似をしている凛に、奏夜は呆れていた。

 

「ラブライブでこの学校の名が広まったら、入学希望者は増えるとは思うんだけどな……」

 

「そんなの関係ないわよ。だって、あの生徒会長は私たちのことを目の敵にしてるんだから」

 

「どうして、私たちばかり……」

 

何故絵里がμ'sのことを目の敵にしているのかを考えながら、花陽は浮かない表情をしていた。

 

「……ハッ!まさか、学校内の人気を私に奪われるのが怖くて……」

 

「「それはない」」

 

「ツッコミ早っ!!」

 

にこの言葉にすかさず真姫と奏夜がツッコミを入れており、そのツッコミの早さに、にこは驚いていた。

 

「本当なら勝手にエントリーしたいところだけど、ラブライブって学校の許可が必要なんだろ?」

 

「はい。学校の許可が絶対条件になっています」

 

ラブライブに出場するには、ランキングだけではなく、学校の許可が必要になるため、生徒だけの判断で勝手にエントリーすることは許されていなかった。

 

「んー……。こいつはどうしたものか……」

 

奏夜は、どのように学校の許可をもらうべきかを考えていたのだが……。

 

「……だったら、直接理事長に頼めばいいんじゃない?」

 

真姫は、最終手段として、この学校の理事長に頼むことを提案していた。

 

「え!?そんなことが出来るの?」

 

「……まぁ、それしかないか。身内もいるし、話くらいなら聞いてくれそうだけどな」

 

「私?」

 

ことりは理事長の娘であるため、今回はその立場を利用しようとの考えであり、ことりは自分が話に上がったため、自分のことを指差していた。

 

「それに、話をするだけなんだ。だから理事長に会うのに生徒会の許可はいらないだろ」

 

「確かに……そうですね……」

 

どうやら他には意見がないようなので、生徒会室には行かず、理事長に直接話を聞いてもらうことにした。

 

こうして、奏夜たちは、理事長にラブライブについての話をするために、理事長へと向かった。

 

奏夜たちはすぐに理事長室の入り口に到着するのだが……。

 

「……あぅぅ……。なんか凄く入りづらい雰囲気……」

 

「ったく、そんなこと言ってる場合じゃないだろ?」

 

穂乃果が理事長室の扉をノックすることに戸惑っていたため、奏夜はそんな穂乃果にどけてもらい、ドアをノックしようとした。

 

すると、奏夜がドアをノックするより先に理事長室の扉が開かれたのだが……。

 

「あら?お揃いでどうしたん?」

 

理事長室から、希が顔を出していた。

 

「東條先輩?ということは……」

 

何故希が理事長室にいるのか推測した奏夜は少しばかり表情が引きつっていた。

 

「……どうしたの?希」

 

そんな奏夜の推測が当たっているからか、さらに理事長室の扉が開かれて、絵里も顔を出していた。

 

「……生徒会長……」

 

「タイミング悪っ……」

 

にこはつい思っていることが口に出てしまったからか、このように呟いていたのだが、それは奏夜も思っていたことなので、にこをなだめることはしなかった。

 

「……何の用ですか?」

 

「ちょっと理事長に話したいことがあるだけです」

 

「各部の理事長への申請は、生徒会を通す決まりよ」

 

「申請とかそんなんじゃないんです。ただ理事長に話があるだけなんです」

 

奏夜は、少々険しい表情になりながらも、絵里のことを牽制していた。

 

少しばかりピリピリとした空気がその場を包み込もうとしていたのだが……。

 

「……あら、どうしたの?」

 

そんなピリピリした雰囲気を包み込むように、理事長が姿を現わすと、何事もなかったかのように振る舞っていた。

 

そんな理事長の態度に、ピリピリとした雰囲気は消え去り、μ'sの1年生組以外の全員と、絵里と希の2人が理事長室に入っていった。

 

1年生組はその場に残り、ドアの前で聞き耳を立てていた。

 

そして、奏夜たちは、ラブライブというスクールアイドルの甲子園があることを理事長に伝え、それに参加したいという意思も伝えていた。

 

「へぇ、ラブライブねぇ……」

 

「はい。ネットで全国的に中継されるみたいです」

 

「もし出場出来れば、学校の名前をみんなに知ってもらえると思うの」

 

理事長の娘であることりが、ラブライブに出場することで、どのような効果をもたらすのかを説明していた。

 

「私は反対です」

 

絵里は、μ'sの存在を認めていないからか、ラブライブの出場を良しとはしていなかった。

 

「理事長は学校のために学校生活を犠牲にすべきではないとおっしゃいました。それは、彼女たちにも当てはまるのではないでしょうか?」

 

学校のために学校生活を犠牲にすべきではない。

 

この言葉があまりにも正論だったため、奏夜たちは反論の言葉がなかった。

 

そんな中、理事長は……。

 

「そうねぇ……。まぁ、いいんじゃないかしら?エントリーするくらいなら」

 

結果はどうあれ、参加しても良いのではないかと、ラブライブのエントリーを認める発言をしていた。

 

そんな理事長の言葉に、奏夜たちの表情は明るくなり、絵里の表情は曇っていた。

 

「理事長!どうして彼女たちの肩を持つのです?」

 

「別に、そんなつもりはないけど」

 

「だったら……。生徒会でも、学校存続のために独自に活動させて下さい!」

 

奏夜たちのラブライブ出場が認められたならと思った絵里は、このような交渉を持ちかけるのだが……。

 

「……それはダメよ」

 

「意味がわかりません……」

 

「そうかしら?簡単なことだと思うけど……」

 

何故か理事長は、絵里には厳しい態度を取っており、そのことに対して、穂乃果たちは首を傾げていた。

 

(……なるほどな。何で俺たちの活動は認められて、生徒会長の活動は認められないのか、わかる気がするよ……)

 

《確かにな。俺たちは純粋に目標として出場したいという思いに対して、あのお嬢ちゃんは使命感に駆られすぎてるからな》

 

キルバは、絵里の言葉が認められない原因をこのように分析し、奏夜も同じ意見だからか、ウンウンと頷いていた。

 

その後、絵里は理事長に何らかの言葉を返すことなく理事長を出ていってしまい、希はその後を追いかけていた。

 

「……まったく、ざまぁみろってのよ」

 

にこは、絵里がいなくなるのを確認してから、このようなことを呟いていた。

 

「ただし、条件があります」

 

「条件……。ですか?」

 

「勉強が疎かになってはいけません。今度の期末試験で1人でも赤点を取るようなことがあれば、ラブライブへのエントリーは認められませんからね」

 

理事長が出した条件というのは、スクールアイドルでありながらも、学生としての本分を忘れてはならないという理事長からのメッセージでもあった。

 

「赤点か……。いくらなんでもそんな奴は……」

 

成績が悪くても、赤点を取るほどひどい人間はいないだろう。

 

奏夜はこう予想をしていたのだが……。

 

「「「……」」」

 

穂乃果とにこ。そして、理事長の入り口で聞き耳を立てていた凛が、がっくりとうなだれていた。

 

「……マジか……」

 

まさか、赤点圏内の成績の人間がいるとは思わなかったのか、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

《やれやれ……。こいつは面倒なことになりそうだな……》

 

ラブライブに出場しようと張り切っていた奏夜たちに、まさかの試練が訪れることになり、その試練は簡単には乗り越えることは出来ないものだろうと予想するのは簡単だった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

理事長室へ向かい、ラブライブが行われることを理事長に報告した奏夜たちだったが、理事長はエントリーくらいならと前向きなようであった。

 

ただし、今度の期末試験で、赤点を1つでも取った者がいたならば、問答無用でラブライブへの出場は認められないといった感じであった。

 

理事長室での話は終わり、奏夜たちは部室へと戻ったのだが……。

 

「……大変申し訳ありません」

 

「……ません」

 

成績が赤点圏内と思われる穂乃果と凛が謝罪をしていた。

 

「穂乃果……。あなたの成績は良くないことは、小学生の頃から知ってはいましたが……」

 

「数学だけだよ!!ほら、私は小学生の頃から算数が苦手だったでしょ?」

 

どうやら穂乃果は、数字が苦手のようであり、算数や数学といった計算を使う教科が苦手みたいだった。

 

「それじゃあ……。7×4?」

 

「えっと……26?」

 

『……これは数学以前の問題だな……』

 

簡単なかけ算も答えられなかった穂乃果に、キルバは呆れ果てていた。

 

「そして、凛は何が苦手なんだ?」

 

「英語!凛はどうしても英語が肌に合わないの!」

 

どうやら、凛の苦手教科は、英語のようであった。

 

「た、確かに難しいよね」

 

「そうだよ!だいたい、凛たちは日本人なのに、何で外国の言葉を勉強しなきゃいけないの?」

 

「……それを言うなよな……」

 

凛の根本的な話を聞きながら、奏夜は呆れていた。

 

「屁理屈言わないの!」

 

「あぅぅ……。真姫ちゃん、怖いにゃあ!」

 

そんな話を真姫は完全に一刀両断し、凛はそんな真姫に怯えていた。

 

「これで、テストが悪くてエントリー出来なかったら、恥ずかし過ぎるわよ!」

 

「確かに。そうなったら目も当てられないよなぁ……」

 

苦手教科を克服出来ず、誰かが赤点を取ってしまった結果、ラブライブにエントリー出来ないという結果を迎えてしまったら、μ'sにとって最大の恥となる出来事になりそうだった。

 

「……まったく……。やっと生徒会長を突破したっていうのに……」

 

1番の問題と思われた絵里を突破したことに安堵をしたいところだったが、また新たな問題が浮上してしまったため、真姫はこのように文句を言っていた。

 

「ふ、ふん!まったくもってその通りよ!あ、あんたたち!あ、赤点なんて……ぜ、絶対取るんじゃないわよ!」

 

そんな中、にこはプルプルと手を震わせながら、数学の教科書を読んでいたのだが……。

 

「……さて、どこからツッコミを入れるべきか……」

 

『さぁな。俺に聞くな』

 

奏夜は今のにこの状態にいくつかツッコミを入れたいと思っていた。

 

「……にこ先輩。まさかとは思うけど、数学が苦手って訳じゃないですよね?」

 

「な、何言ってるのよ!当たり前じゃない!このにこに、苦手なものなんて……」

 

『だったら、何故教科書が逆さまなんだ?それに、手も震えているしな』

 

「うぐっ……!そ、それは……」

 

どうやらキルバのツッコミに反論する言葉はないようであり、そこからわかったことは、にこが数学が苦手ということだった。

 

「やれやれ……。とりあえず、この3バカには頑張ってもらわないとな」

 

「「「3バカ言うな!!」」」

 

奏夜の3バカという言葉が気に入らなかったからか、穂乃果、凛、にこの3人はすかさず反論をしていた。

 

「そういうそーや先輩はどうなのさ!」

 

「そうよ!あんたは魔戒騎士の仕事で忙しいんでしょ?だったら、勉強は出来ないんじゃないの?」

 

にこの指摘通り、奏夜はμ'sのマネージャーの仕事の他に、本業である魔戒騎士としても仕事をしている。

 

昼はμ'sの活動に参加するため、勉強する時間はなく、夜は夜で、ホラー討伐の仕事があるため、昼も夜も勉強する時間はない。

 

そのため、奏夜は勉強が出来ないと思われた。

 

しかし……。

 

「残念だったな。俺は勉強しなくても平均くらいは取れるんだよ。勉強は授業の時にしっかりやって覚えるところは覚えてるしな」

 

奏夜は勉強する時間がないならば授業中に頑張ろうという気持ちで授業に臨んでいるため、予習復習は授業中にしっかりと行っていた。

 

そのため、試験前に勉強しなくても、平均くらいはどうにか取れるのである。

 

「そう言えば、奏夜が勉強しているところは見たことありませんが、テストは常に平均点くらいですもんね」

 

「それに、去年のどこかのテストで、学年2位くらいの成績を取ってなかったっけ?」

 

ことりの指摘通り、奏夜は二学期の期末試験の時に、学年2位という好成績を残し、周囲を驚かせていた。

 

その時、偶然にも魔戒騎士としての仕事はあまりなく、本気で勉強しようと、家でも勉強する機会が多かったため、このような好成績を残すことが出来たのである。

 

それ以外の試験は、勉強を全くしていないため、平均点くらいの点数だったのだが。

 

「が、学年2位!?」

 

「奏夜って、本気を出せばかなり成績が良いみたいね」

 

「そうなのです。その努力を欠かさなければ、学年トップも夢ではないというのに……」

 

奏夜が思った以上に勉強が出来ることに花陽と真姫は驚いており、海未は、普段真面目に勉強しない奏夜のことをもったいないとさえ思っていたのであった。

 

「そ、そうだった……」

 

奏夜がそれなりに勉強出来ることを思い出し、穂乃果の顔は真っ青になっていた。

 

「まさか、そーや先輩が勉強出来る人間だなんて……」

 

「くっ……。奏夜の裏切り者!!」

 

どうやら穂乃果、凛、にこの3人は、奏夜が同類だと思っていたため、がっかりしていた。

 

「やれやれ……。3バカの戯言は聞こえんな」

 

「「「だから3バカ言うな!!」」」

 

奏夜の3バカという言葉がやはり気に入らないからか、穂乃果、凛、にこの3人は再び反論していた。

 

「……海未、ことり。2人は穂乃果の勉強を見てくれないか?」

 

「えぇ。私は構いませんが……」

 

「そーくんはどうするつもりなの?」

 

「悪いな。俺は、マネージャーとしての仕事もあるし、いつ指令が来るかわからないから、穂乃果の勉強を見る暇はないんだよ」

 

「くっ……。その余裕な態度……。気に入らないわね……」

 

「そういう文句は、赤点を回避してから言うんだな」

 

「わ、わかってるわよ!」

 

奏夜は、にこの文句をバッサリと一蹴すると、にこは何の言葉も返すことが出来なかった。

 

「私と花陽の2人は凛の勉強を見るわ」

 

「悪いな。2人とも、凛は任せたぞ」

 

穂乃果の勉強は、海未とことりが見ることになり、凛の勉強は、真姫と花陽が見ることになった。

 

「後はにこ先輩だけど……」

 

にこだけは3年生のため、上級生の教科を見るのは、とてもではないが難しかった。

 

すると……。

 

「……にこっちはウチが担当するわ」

 

希がアイドル研究部の部室に現れると、にこの勉強を見ると名乗り出てくれた。

 

「希!」

 

「東條先輩……。いいんですか?」

 

「構わんよ。ウチに出来ることといえば、これくらいやしな」

 

どうやら希は希でμ'sのことを応援しているようであり、このような形で協力することにしたのである。

 

「べっ……別に、希の力なんて借りなくたって、にこは赤点なんて取らないわよ!」

 

「ったく……。にこ先輩……。此の期に及んで何言ってんだか……」

 

奏夜は、明らかに強がってるにこのことをジト目で見ており、呆れていた。

 

そんな強がるにこを見た希は……。

 

「ふっふっふ……」

 

何故か怪しい笑みを浮かべていた。

 

そして、希は素早い動きでにこに接近すると……。

 

「……んな!?」

 

「そんな素直になれん子には、ワシワシやでぇ♪」

 

希はかなりの力でにこの胸をワシワシしていた。

 

「ちょ!?わかった!わかったから!」

 

にこはここでようやく素直になり、ここでようやく解放された。

 

「ウンウン。素直でよろしい♪」

 

希によって胸をワシワシされたにこは、疲弊しており、その場にうなだれていた。

 

「……////」

 

ワシワシするということは、胸を触るということだったため、奏夜はどんなリアクションをして良いのかわからず、頬を赤らめていた。

 

「ちょ、ちょっと奏夜!何で顔を赤くしてるのよ!」

 

自分がワシワシされているところをガン見されたにこは、奏夜に異議を唱えていた。

 

そして……。

 

「ふっふっふ……」

 

「東條……先輩?」

 

希はそんな奏夜を見て、怪しい笑みを浮かべていた。

 

「ウチのワシワシをガン見するなんて、如月君もスケベやなぁ。そんなスケベな子には……」

 

希は、怪しい笑みを浮かべながら、ゆっくりと奏夜に近付いていた。

 

「ちょっ……。何を……」

 

「ワシワシマックスやでぇ♪」

 

「そんな……。やめっ……」

 

希は歩みを止めることなく、奏夜に接近していた。

 

そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーーーーー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜の悲鳴が再びアイドル研究部の部室に響き渡っていた。

 

「……ふむ……。如月君ってけっこう鍛えてるなぁ。思ったよりもワシワシし甲斐があったで♪」

 

奏夜の少しばかり筋肉質な体型をワシワシしたことに希は満足しており、ワシワシされた奏夜は、先ほどのにこ同様に疲弊して、その場にうなだれていた。

 

「……まぁ、そーくんはともかくとして、これで準備は整ったんだし、明日から頑張ろうよ!」

 

「「おー!!」」

 

穂乃果と凛とにこは、大嫌いな勉強を、明日に先延ばしにしようとしていたのだが……。

 

「今日からです!!」

 

「「「あぅぅ……」」」

 

そんなことは海未が許さず、そんな海未の言葉に、穂乃果、凛、にこの3人はガッカリしていた。

 

こうして、新たなる問題に直面した奏夜たちであったが、その問題を解決するべく、勉強を開始したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『あの生徒会長は、μ'sのことを認めていないようだな。だが、それだけのことを言うものを持ってはいるみたいだ。次回、「絵里」。あのお嬢ちゃんにそんな秘密があったとはな』

 

 




花陽がドSだという疑惑が……(笑)

そして、花陽はメンバーの中で1番腹黒いのか?そんな描写をしてしまったので、花陽推しの人は、本当にすいません。

さらに、奏夜が思ったよりも成績が良いことが判明しました。

前作主人公である統夜は、勉強が苦手だったため、そこもまた、前作主人公との違いが出てきたと思います。

そして、奏夜たちは勉強が苦手な穂乃果、凛、にこの勉強を見ることになりました。

希も協力してくれるのですが、にこだけではなく、奏夜もワシワシの餌食に……。

さて、次回は奏夜たちが試験に向かって頑張っていきます。

期末試験はいったいどうなるのか?

それでは、次回をお楽しみに!




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第25話 「絵里」

お待たせしました!第25話になります!

私事で大変申し訳ありませんが、この小説執筆当初からコツコツ貯めていた小説のストックがついに尽きてしまいました。

今は26話を執筆中ですが、次回の投稿が遅れるかもしれないのでよろしくお願いします。

それでは、第25話をどうぞ!




スクールアイドルの祭典である「ラブライブ」という大会が行われることを知った奏夜たちは、ラブライブにエントリーしたいという意思を理事長に伝えるため、理事長室を訪れた。

 

そこには生徒会長である絵里と副会長である希も偶然いたため、2人もその話を聞いていた。

 

理事長は、エントリーするのは構わないのだが、1週間後に行われる期末試験で1人でも赤点を取る者がいれば、そのエントリーも認めないということを伝えた。

 

μ'sのメンバーの中で、赤点の危険があるメンバーは、穂乃果、凛、にこの3人であり、奏夜たちだけではなく希の協力も得て、試験に向けての勉強がその日から行われることになった。

 

そして、その勉強は現在も続いてはいるのだが……。

 

「……あぅぅ……。全然わからないよぉ……」

 

「穂乃果ちゃん、頑張って!もう少しだから!」

 

ことりは、穂乃果を励ましながら、どうにか穂乃果に勉強を頑張ってもらおうとしていた。

 

しかし……。

 

「ことりちゃん……」

 

「何、穂乃果ちゃん?」

 

「おやすみ……」

 

穂乃果は苦手な数学の問題に耐えられず、寝ようとしていた。

 

「あぁ!穂乃果ちゃん!寝たらダメだよぉ〜!!」

 

ことりはどうにか穂乃果を起こそうとするのだが、優しいことりの言い方では、穂乃果は起きないだろうと予測することは出来た。

 

「ったく……。仕方ないな……」

 

そんなことりを見かねた奏夜は、軽い力で穂乃果の頭をチョップした。

 

「痛っ!あぅぅ……。何するの?そーくん」

 

奏夜の軽い力でも、それなりに痛かったからか、穂乃果はガバッと起き上がり、奏夜にチョップされたところを優しく摩っていた。

 

「何するの?じゃないだろう。ここで頑張らないと赤点だぞ」

 

「わ、わかってるよ!」

 

奏夜はことりとは違い、厳しい言葉を投げかけることで、穂乃果のやる気を引き出していた。

 

穂乃果がどうにかやる気を引き出していた頃、凛は……。

 

「あぅぅ……。全然わからないにゃあ……」

 

穂乃果同様に、苦手科目に悪戦苦闘していた。

 

「凛ちゃん。わからないところは教えるから、頑張ろう?」

 

花陽は、ことり同様に優しく凛を励ましながら、どうにか凛のやる気を引き出そうとしていた。

 

そんな中、凛は……。

 

「あーっ!白いご飯にゃ!」

 

このようなことを言って、その場を逃れようと企んでいた。

 

「えっ!?どこ!?」

 

花陽だけは、そんな凛の言葉に引っかかってはいたのだが……。

 

「そんなものに引っかかるわけないでしょ!」

 

真姫はそんな凛に呆れつつ、凛の頭に軽くチョップをしていた。

 

続いてはにこなのだが……。

 

「……にこっち。ここの問題は?」

 

希はとある問題を指して、それをにこに答えさせようとしていたのだが……。

 

「……に……。にっこにっこに〜」

 

いつもの芸で誤魔化そうとしていた。

それを見た希は……。

 

「ふざけたらワシワシマックス言うてるやろ?」

 

希は席をたち、臨戦体勢に入っていた。

 

「わ、わかってるわよ!」

ワシワシはどうしても嫌だったからか、にこは慌てて勉強を再開していた。

 

(やれやれ……)

 

《こんな状態で本当に大丈夫なんだろうな?》

 

(さぁな……)

 

この場に希がいるため、堂々と喋れないキルバは、奏夜とこのようにテレパシーで会話をしていた。

 

《……とりあえず、勉強を見るのは任せて、1度番犬所へと向かうぞ》

 

(そうだな……)

 

勉強を見るのは海未とことりがいるため、自分がここにいなくても大丈夫と、奏夜は判断していた。

 

「……ことり、穂乃果のことは任せてもいいですか?私は、弓道部の練習に行かなければならないので……」

 

奏夜が話をする前に、海未が弓道部の練習があることを告げていた。

 

「海未は、弓道部の練習があるんだな。俺もちょっと用事があるんだ。ことり、悪いけど穂乃果のことは頼むな」

 

「う、うん……。わかったよ」

 

奏夜と海未は、それぞれ用事があるため、アイドル研究部の部室を後にすると、それぞれの用事へと向かっていった。

 

「……」

 

そんな中、希は、部室を立ち去る奏夜のことをジッと見つめていたが、すぐに視線を戻し、にこの勉強を見ていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

アイドル研究部の部室を後にした奏夜は、学校も後にすると、そのまま番犬所へと向かった。

 

番犬所に到着すると、狼の像の口に魔戒剣を突き刺し、魔戒剣の浄化を行った。

 

「……そういえば、奏夜。今度、ラブライブと呼ばれるスクールアイドルの祭典が開かれるのを知っていますか?」

 

奏夜が魔戒剣を鞘に納めたタイミングで、ロデルはラブライブの存在のことを奏夜に確認していた。

 

「えぇ。花陽とにこ先輩から聞きました。それで、ラブライブエントリーに向けて、頑張ろうとしているところです」

 

「ほう。それはいったい?」

 

「ラブライブのエントリーには、学校の許可が必要なのですが、今度の期末試験で1人でも赤点を取ってしまったらそれが認められないので、今は勉強を頑張っているんです」

 

「なるほど……。どうやらそこは乗り越えなければいけない試練のようですね」

 

「そうですね……」

 

「奏夜。今のところ指令はありません。あなたも、試験の勉強を頑張ったらどうですか?」

 

現在指令はないとのことなので、ロデルは、奏夜に勉強するよう勧めていた。

 

「ありがとうございます。ロデル様。そうさせてもらいます」

 

奏夜はロデルに一礼をすると、番犬所を後にした。

 

『……おい、奏夜。この後はどうするつもりなんだ?』

 

「そうだなぁ……。とりあえず学校に戻るかな。あいつらがちゃんと勉強してるかも気になるしな」

 

『あぁ。それが良さそうだな』

 

番犬所を後にした奏夜は、どこで勉強するかを考えていたのだが、穂乃果、凛、にこの3人がちゃんと勉強しているか心配だったため、1度学校に戻ろうと考えていた。

 

その途中、音ノ木坂学院の近くにあった公園を通り過ぎようとしたその時だった。

 

「……!?そ、奏夜!?」

 

公園の近くで海未とバッタリ会い、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

奏夜が驚いていたのは海未とバッタリ会ったことだけではなかった。

 

「……あなた……」

 

何故か絵里も一緒にいたため、絵里は少しだけ険しい表情をしていた。

 

それだけではなく、絵里の隣には、金の長髪に、透き通った青い瞳の少女も一緒だった。

 

少女はまだあどけなさが残っており、中学生くらいだと予測することが出来た。

 

少女は、目をキラキラとさせながら奏夜のことを見ていた。

 

「あっ、あの!如月奏夜さんですよね?μ'sのマネージャーの」

 

「あっ、あぁ……。そうだけど……」

 

「動画のコメントにもありましたけど、写真で見るより格好いいですね!」

 

「そ、そうかな……」

 

初対面の少女にここまでべた褒めされて、奏夜はまんざらでもなさそうだった。

 

「……」

 

そんな奏夜を、海未はジト目で見ていた。

 

「なっ、何だよ!そんな目で俺を見るなよ!」

 

「……それは失礼しました。ちなみに、彼女は生徒会長の妹さんみたいですよ」

 

「!?マジか……」

 

「はい!私、絢瀬亜理沙(あやせありさ)といいます!」

 

海未は奏夜に、絵里の隣の少女が絵里の妹と伝えると、奏夜は驚いており、その少女……亜理沙は、自己紹介をしていた。

 

どうやら海未と絵里はこの公園で話をするみたいだったため、その話に、奏夜も同席することになった。

 

奏夜たちが話をする前に、亜理沙は、近くの自動販売機でジュースを買ってきてくれた。

 

そして、亜理沙は自動販売機で買ったものを奏夜と海未に渡したのだが……。

 

「これって……」

 

「おでん……だよな?」

 

亜理沙が2人に手渡したのは、秋葉原の自動販売機でよく見かけるおでんが入った缶だった。

 

「……ごめんなさい。向こうでの暮らしが長かったから、まだ日本の文化に慣れていないの」

 

「向こう?」

 

「えぇ。私たちの祖母は、ロシア人なの」

 

どうやら、絵里と亜理沙は、日本人とロシア人のクォーターみたいだった。

 

(へぇ……。生徒会長もこの子も、何となく日本人っぽい雰囲気じゃないなと思ってたけど、まさかクォーターとはな……)

 

奏夜の知り合いに外国人はおらず、ハーフやクォーターの人物もなかなか見かける機会はなかったため、絵里の出自を聞いて、奏夜は感心していた。

 

「……亜理沙。それは飲み物じゃないの」

 

絵里は、奏夜たちには見せたことがないほど優しい表情で、おでん缶が飲み物じゃないことを亜理沙に伝えていた。

 

「……ハラショー……」

 

「……悪いけど、別なのを買ってきてくれないかしら?」

 

「うん!わかった!」

 

亜理沙は、そのまま自動販売機の方へと戻っていこうとしたのだが……。

 

「ちょっと待った!」

 

奏夜は亜理沙を引き止めると、亜理沙は首を傾げていた。

 

「おでん缶を買ってもらってさらにジュースというのは申し訳ないからな。これで何か買ってきてくれないか?あっ、お釣りはいらんからとっときな」

 

そう言いながら、奏夜は財布を取り出してそこから千円札を取り出すと、それを亜理沙に手渡した。

 

「ありがとうございます!」

 

奏夜から千円札を受け取った亜理沙は、そのまま自動販売機へと向かっていった。

 

「……あなたに奢ってもらういわれはないのだけど……」

 

「気にしないでください。これはおでん缶のお礼みたいなものですから」

 

「そう……わかったわ」

 

絵里は、度々ぶつかってきた奏夜に奢ってもらうのは癪だったのだが、奏夜が先ほど亜理沙が買ってきたおでん缶のお礼という理由を聞くと、納得したようだった。

 

「それにしても……。あなたたちに見つかってしまうなんてね……」

 

「?何のことです?」

 

絵里の言葉の意味が理解できず、奏夜は首を傾げていた。

 

「奏夜。私たちのファーストライブの映像。誰が撮影したのか、ずっと疑問でしたよね?」

 

「確かに。その話は度々してたけど、結局わからずじまいだったよな」

 

「えぇ。それで、あのライブを撮影したのが、生徒会長だったみたいです」

 

「!マジか……。何となくそんな気はしてたけど……」

 

奏夜は、あの動画を撮ったのは絵里なのではないかと密かに予想していたのだが、本当にそうだとは思っていなかったため、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「……何であなたがそんなことをしてくれたのかはわからないけど、そのおかげで、μ'sのことを多くの人に知ってもらうことが出来たよな」

 

「そうですね。だからこそ……」

 

「やめて!」

 

海未が絵里に対して感謝の言葉を言おうとしたのだが、それを絵里が遮断していた。

 

「あなたたちのためにやった訳じゃないのよ。むしろ逆。あなたたちの歌やダンスがいかに人を引きつけないか、活動を続けても意味がないものだということを知ってもらいたかったから」

 

どうやら、絵里が初ライブの動画を撮ったのは、奏夜たちのパフォーマンスがまだまだで、現実を知ってもらいたいという思いからであった。

 

「だから、今のこの状況は想定外。無くなるどころか人数が増えるなんて……。だけど、私は認めない」

 

μ'sがだいぶ有名になったとはいえ、絵里は奏夜たちのことを認めようとはしなかった。

 

「人に見せられるものになっているとは思えない。そんな状態で学校の名を背負って活動して欲しくないの」

 

「確かにな……。ダンスコーチをしてる俺だって今のμ'sはまだまだだと思ってる。だけど、人に見せられないパフォーマンスだとは思わないな」

 

「ダンスコーチね……。あなたはダンスが得意みたいだけど、あなたのダンスがどれ程のものなのかも疑問だけれどね」

 

絵里も、奏夜がμ'sのダンスコーチをしていることは知っていたが、奏夜のダンスのテクニックを疑っていた。

 

「……」

 

自分のことをここまで言われてしまい、奏夜は唇を噛んでいた。

 

「……話はそれだけよ」

 

そう言って、絵里はベンチから立ち上がって帰ろうとしていた。

 

「待ってください!!」

 

それを見ていた奏夜と海未が立ち上がり、海未が絵里を引き止めていた。

 

「じゃあ、もし私たちが上手くいったら……。人を引きつけられるようになったら……。私たちのことを認めてくれますか?」

 

今はまだまだではあるが、いつの日かは絵里にも認めてもらいたい。そんな海未の気持ちが、そう言わせていた。

 

しかし、絵里は……。

 

「……無理よ」

 

そんな海未の言葉を否定していた。

 

「どうしてですか?」

 

「私にとって、スクールアイドル全部が素人にしか見えないの。1番実力のあるA-RISEも……。素人にしか見えない」

 

絵里は険しい表情でこう言い放つのだが、その言葉はまるで氷のように冷たいものだった。

 

それだけではなく、絵里の言葉はA-RISEを始め、スクールアイドル全てを否定していた。

 

奏夜は、スクールアイドルがどれだけの努力をしているのかということを理解しているため、そんな努力すら否定する絵里の言葉が許せなかった。

 

「あんた……。そこまで言うのなら、あんたはそれだけのものを持ってるんだろうな?そうじゃなかったら、俺はあんたを絶対に許さない!」

 

奏夜は絵里の言葉に怒っており、鋭い目付きで絵里を睨みつけていた。

 

そんな奏夜を見た絵里は……。

 

「……えぇ。持っているわよ。A-RISEが素人だと言えるほどのものを」

 

絵里の言葉には嘘偽りはないようであり、彼女の冷静な対応がそれを物語っていた。

 

「……まぁ、どうしても知りたければ希にでも聞いてみるといいわ」

 

絵里は自らの口からそのことを明かそうとはせず、知りたければと、希の名前を出していた。

 

「……あっ、お姉ちゃん!」

 

ちょうど絵里がそう言ったタイミングで、自動販売機での買い物を済ませた亜理沙が戻ってきた。

 

「話は終わったわ。行きましょう」

 

絵里は亜理沙を連れてそのまま立ち去ろうとしたのだが……。

 

「……待ってください!」

 

ここで海未が絵里を引き止めたため、絵里と亜理沙は足を止めていた。

 

「あなたがどれだけのものを持っているのかはわかりません。ですが、私たちのことを……。そんな風に言われたくありません!」

 

海未は自分の気持ちを真っ直ぐ絵里にぶつけたのだが、絵里には届いていないようであり、何も答えることなく、絵里はその場を立ち去った。

 

亜理沙もそんな絵里に付いていくのかと思いきや、亜理沙は奏夜と海未に駆け寄っていた。

 

「……これ、飲みますか?」

 

「ありがとうございます……。って……」

 

「ほう。おしるこか……」

 

亜理沙が続いて渡してきたのはおしるこの缶であり、海未はそのことに戸惑い、奏夜はおしるこが好きだからか、目を輝かせていた。

 

「ありがとう。遠慮なくいただくよ」

 

奏夜は少しばかり嬉しそうにおしるこの缶を受け取り、海未は少しばかり戸惑いながらおしるこの缶を受け取っていた。

 

「あの……。亜理沙は、μ'sが大好きです!」

 

「ありがとな。そう言ってもらえると、こちらとしては凄く嬉しいよ」

 

キラキラとした笑顔でμ'sが好きなことを伝えた亜理沙は、ペコリと奏夜と海未に一礼すると、絵里の後を追いかけていった。

 

「……なぁ、海未。とりあえず、東條先輩に話を聞かないか?」

 

「そうですね……」

 

奏夜と海未は、絵里のことを希から聞き出すために、移動を開始した。

 

ことりに電話をかけて、希とにこが、ファストフード店で勉強していることを聞いた奏夜と海未は、ファストフード店に直行した。

 

ファストフード店に入ると、希とにこはすぐに見つかった。

 

どうやらにこは、数学の問題に悪戦苦闘しているようであり、その度に、希にワシワシされそうになっていた。

 

「……東條先輩」

 

「ん?如月君に海未ちゃんか。どうしたん?2人して」

 

「東條先輩に聞きたいことがありまして……」

 

「構わんよ。ウチで良ければなんでも聞いたげるな。そういうわけでにこっち。今日の勉強は終わりや」

 

どうやらここで今日の勉強は終わりのようであり、にこはホッとしながらも疲れ果てていた。

 

「……とりあえず場所を変えようか」

 

希は、奏夜と海未から話を聞くために、ファストフード店を離れると、神田明神へと移動した。

 

ちょうど、神社の手伝いがあるみたいだからだ。

 

「……それで、話っていうのはエリチのことやろ?」

 

どうなら希は、2人の話の内容を察しているみたいだった。

 

「はい。そうなんです。それで……」

 

「話してあげてもいいけど、ウチも如月君に聞きたいことがあるんや」

 

「俺に?」

 

どうやら、ここで希の質問に答えなければ、2人の聞きたいことは聞き出せないみたいだった。

 

「……これは改めての問いなんやけど、如月君。君は何者なん?」

 

「!?」

 

「……」

 

希の問いかけに、海未は驚きを隠せない様子であり、奏夜は何も答えずジッとしていた。

 

「如月君は、本当に騎士だったんやな。……まぁ、あんな化け物と戦ってるとは思わんかったけどな」

 

「!?と、東條先輩……。まさか……」

 

希の言葉を聞いた奏夜は、さすがに驚きを隠せないようだった。

 

「うん。実は如月君がよくわからん怪物と戦ってるところや、君が黄金の鎧を身に付けたところも見たんよ」

 

(……マジか……。よりによって1番知られたら厄介そうな人にバレるとは……)

 

《そうだな……。あのお嬢ちゃんは色々と油断ならないからな……》

 

希がフェンリンとの戦いや、鎧の召還の一部始終を見ていたことを知り、奏夜は頭を抱えていた。

 

「それに、君のつけてる指輪も、どうやら喋るみたいやしな。ただの指輪ではないとは思ってたんやけど……」

 

どうやら希は、キルバが喋るところも見ていたようであった。

 

『やれやれ……。そこまで知られてるなら、黙ってる必要はなさそうだな』

 

「キルバ!」

 

キルバがいきなり喋り出したのだが、それを咎めたのは、奏夜ではなく、海未だった。

 

「へぇ、君はキルバっていう名前なんやな」

 

『あぁ。俺は魔導輪のキルバだ』

 

「魔導輪……。やっぱり普通の指輪じゃないんやね」

 

魔導輪という単語の意味はわからなかったが、希はそれだけで、キルバが普通の指輪ではないことは理解出来た。

 

「それに……。どうやらμ'sのみんなは君の秘密を知っているみたいやしな」

 

希は、奏夜の正体を知り、μ'sのメンバーも奏夜の正体を知っているだろうと予想していた。

 

「はい……。私たちはホラーに襲われたことがありまして、それを奏夜に救われたのです」

 

「なるほど……。あの怪物はホラーっていうんやね」

 

「そうです。そして俺は、そんなホラーから人を守る魔戒騎士なんです」

 

「魔戒騎士……。魔獣を倒して人を守る存在なんやな」

 

「そんな感じです」

 

「なるほどなぁ……。まぁ、詳しいことはまた今度聞くことにするわ」

 

希は奏夜の正体がわかったということで満足したようであり、これ以上の詳しいことは近いうちに聞こうと考えていた。

 

「それで……。君たちが知りたいのは、エリチのことなんやろ?」

 

「はい……。生徒会長は、あのA-RISEでさえ素人だと言っていたんです」

 

「まぁ、エリチならそう言うやろうなぁ。エリチはそれだけのことを言えるだけのものを持っとる」

 

「それも本当なんですかね?いくらなんでも、あのA-RISEを素人と言えるレベルのものを持っているとは……」

 

奏夜は絵里に対して、それだけのものを持っていないなら許さないと啖呵を切ったのだが、それも半信半疑であった。

 

「2人が知りたいのはそこやろ?」

 

「はい。お願いします」

 

「わかった。如月君のことも教えてもらったし。教えるわ。エリチのことを」

 

そう言って希は、携帯プレーヤーを取り出すと、とある映像を奏夜と海未に見せた。

 

その映像は、バレエの映像なのだが、そこに映っていたのは、幼い頃の絵里であった。

 

「……!こ、これは……!」

 

「なるほどな……」

 

『ほぉ……。こいつはあのお嬢ちゃんがあぁ言うのも納得だな』

 

舞台を華麗に舞う絵里の姿はとても優雅なものであり、海未はそんな絵里に圧倒され、奏夜もまた、驚きを隠せなかった。

 

そしてキルバも、絵里があそこまでのことを言ったことにも納得していた。

 

そして、希が見せた映像は終わったのだが……。

 

「「……」」

 

奏夜と海未は、華麗に舞う絵里の姿を最後まで見て、言葉を失っていた。

 

「……確かにこれならA-RISEが素人と言いたくなるのもわかる。正直なところ、俺よりも上手いしな」

 

奏夜はダンスが得意なのだが、上には上がいるということを、絵里のバレエを見て思い知らされてしまい、少しばかり浮かない表情をしていた。

 

「奏夜……」

 

そんな奏夜を見て、海未はなんて言葉をかけて良いのか、かわらなかった。

 

「……とりあえず、生徒会長の実力は本物だということはわかりました。これからどうするかはじっくり考えてみるつもりです」

 

「そう……わかったよ」

 

奏夜は希に一礼をすると、神田明神を後にして、海未は慌ててその後を追いかけていった。

 

「……ま、大丈夫やろ。あの子なら……」

 

希は、少しばかり浮かない表情をしていた奏夜のことが気がかりだったが、奏夜であればこの問題も乗り越えられるだろうと確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

「……奏夜!待ってください!」

 

神田明神を後にして、家へと続く道を歩いていた奏夜であったが、そんな奏夜を駆け足で追いかけていた海未は奏夜にようやく追いつき、奏夜は足を止めていた。

 

「……正直、驚いたよ。A-RISEが素人だなんて、生徒会長の見栄だと思ったけど、そうじゃないんだもんな……」

 

「そうですね……。私も悔しいです……」

 

「だからこそ、μ'sは今のままじゃダメなんだと思うんだよ」

 

「そうは言っても、奏夜には何か考えがあるんですか?」

 

「……一応な。俺はμ'sのみんなに嫌われようが、生徒会長に認めてもらえるグループにしてやるさ……!」

 

奏夜はこのようなことを言っていたのだが、その表情は、何か覚悟を決めた表情であった。

 

「奏夜……」

 

そんな奏夜の覚悟を感じ取ったからか、海未は奏夜を心配そうに見ていた。

 

「ま、とりあえずは目の前のテストだな。あの3人が赤点を取っちまったら、それ以前の問題だからな」

 

「そうですね……。まずはそこをなんとかしましょうか」

 

「そういう訳で帰ろうぜ。送るからさ」

 

「はっ、はい。よろしくお願いします」

 

こうして奏夜は、海未を自宅まで送り届けるために、一緒に海未の家へと向かった。

 

(……改めて考えてみたら、奏夜と2人きりになるのは滅多にないかもしれませんね……)

 

奏夜と海未は中3からの付き合いではあるのだが、いつも穂乃果かことりが一緒だったため、2人きりでいる機会はほぼなかった。

 

(……!な、何故でしょう……。なんで私はこんなにもドキドキしているのですか……?)

 

海未は奏夜と2人きりでいることで、奏夜を意識しているのか、頬を赤らめながらドキドキしていた。

 

「……海未、どうした?」

 

「いっ、いえ!なんでもないです。なんでも!」

 

「?そうか?だったらいいんだけど……」

 

奏夜はどうやら、海未と2人きりでいることをそこまで気にしていないようだった。

 

(やれやれ……。まさか奏夜のやつも、色恋に関しては鈍感ではないよな?そこまで奴に似る必要はないのだが……)

 

キルバはこのように思っていたのだが、キルバのあげた奴というのは、奏夜の先輩騎士である統夜のことであった。

 

統夜は、魔戒騎士としては一流であったものの、色恋沙汰に関しては周囲が呆れる程の鈍感なのである。

 

梓と付き合うようになり、多少はマシになったのだが……。

 

奏夜が統夜のそんな部分まで似てしまったのではないかとキルバは少しばかり心配していたのである。

 

「……と、とりあえず!早く行きましょう!」

 

「そうだな」

 

海未は過剰に意識をすると恥ずかしすぎると判断したからか、これ以上は意識しないようにしており、2人はそのまま海未の家へと向かった。

 

海未を家まで送り届けた奏夜は、街の見回りは行わずに帰宅し、試験勉強を行うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日の放課後、この日もアイドル研究部のメンバー+希が部室に集まり、穂乃果、凛、にこの3人のテスト対策勉強を行っていた。

 

希は、大量の問題集を、テーブルの上に置いていた。

 

「……今日のノルマはこれね」

 

「「「……鬼……」」」

 

あまりのノルマの多さに、穂乃果、凛、にこの3人は、唖然としながらこう呟いていた。

 

「あれ?まだワシワシが足りん子がいるん?」

 

「「「ま、まっさか〜」」」

 

希からワシワシという言葉が飛び出してくると、3人は引きつった笑顔で苦笑いをしていた。

 

この3人は昼休みも部室で勉強する予定だったのだが、サボって練習をしようとしていた。

 

それを希に見つかってしまい、ワシワシという名のお仕置きを受けたのであった。

 

だからこそ、ワシワシという単語がトラウマとなってしまったのである。

 

そんな中、この日はずっと浮かない表情をしていた海未が、ゆっくりと席を立った。

 

「……ことり。穂乃果の勉強をお願いします……」

 

「え?う、うん……」

 

海未はことりに穂乃果のことを託すと、そのまま部室を後にしており、ことりはそんな海未に少しだけ戸惑っていた。

 

「……海未先輩……。どうしたんですか?」

 

「さぁ……」

 

真姫とことりは、明らかに様子のおかしい海未の様子を心配していた。

 

(……ったく……。海未のやつ、昨日のことをまだ引きずってやがるな……)

 

海未は今日1日ずっと元気がなく、奏夜はその原因が、絵里のバレエを見たからであると察することが出来た。

 

そんな状態の海未を、奏夜は放っておけないと思っていた。

 

だからこそ……。

 

「……ことり、悪い。俺もマネージャーの仕事があるから、後のことは頼むな」

 

「え?そ、そーくんも?」

 

そんな海未をフォローするために、穂乃果のことをことりに託した奏夜は、部室を後にすると、海未を追いかけていった。

 

「……おい、海未!ちょっと待てよ!」

 

すぐさま海未に追いついた奏夜は、どこかへ向かおうとした海未を引き止めていた。

 

「……海未。お前まさか、生徒会長に会おうって考えてないだろうな?」

 

「!?な、何でそれを……!」

 

奏夜は海未が何をしようとしているのかを察しており、それを見透かされた海未は、驚きを隠せなかった。

 

「……ったく……。俺もそうだったからわかるんだけど、ショックを受けたんだろ?生徒会長の踊りを見て」

 

「……はい。そうです」

 

海未は、昨日見た絵里のバレエの映像に大きな衝撃を受けており、その分ショックも大きいようだった。

 

「……正直言って、悔しいです!自分たちのやってきたことはいったいなんだったんだろうって……」

 

それだけではなく、海未は自分たちの未熟さを実感したため、悔しさを滲ませていた。

 

「やれやれ……。確かにお前たちはまだまだだけどさ、今までやってきたことは本当に無駄だと思うのか?」

 

「……!そ、そんなことは……」

 

「それに、昨日も言ったろ?これからμ'sをあの生徒会長に認めさせるってさ」

 

奏夜もまた、絵里のバレエの映像を見て衝撃を受けていたのだが、今のままではラブライブ出場は無理だと確信していた。

 

そのため、μ'sを絵里に認めさせるために何とかしようと考えていた。

 

「海未。生徒会長に会ってどうしようと思ったんだ?」

 

「……はい。ダンスコーチをしている奏夜には申し訳ないと思いましたが、生徒会長にもダンスを教わりたいと思っていました」

 

どうやら海未は、生徒会室に向かって、絵里にダンスを教わろうと考えていた。

 

「……まぁ、μ'sのことを考えるなら、俺以外の奴にもダンスを教わるのは悪いことじゃないよな」

 

「私もそう思ってのことなんです。今のみんなが、生徒会長の半分でも踊れるようになったら、本当の意味で人を引きつけられるのにって……」

 

「……俺としては、ちょっとは解せないところはあるけど、μ'sのことを思ってのことなら、俺は何も言わないさ」

 

今までダンスコーチは奏夜がやってきたので、他の誰かにダンスコーチをお願いすることは、奏夜としては面白くない展開だが、μ'sの未来を考えると、そうも言っていられないと思っていたのである。

 

「だけど、順番が違うだろ?」

 

「順番……ですか?」

 

「試験まであと5日だぞ。ここを乗り越えないと生徒会長にダンスを教わるどころかラブライブのエントリーも出来ないんだからな」

 

「!そ、そうですよね……。まずは目の前の問題を何とかしないといけませんもんね!」

 

「ま、そういうことだ。とりあえず部室に戻るぞ」

 

こうして、海未を目の前の問題へ目を向けさせると、2人は部室に戻ることにした。

 

「……穂乃果!」

 

「……あっ、海未ちゃん。そーくん……」

 

海未と奏夜が席を立ってからそこまで時間は経っていないのだが、穂乃果、凛、にこの目にはクマができており、既にグロッキーになっていた。

 

「おいおい。このわずかな時間で何があったんだよ……」

 

希がどれほどのスパルタ指導を行ったのかわからなかったため、奏夜は苦笑いをしていた。

 

そんな中、海未は……。

 

「……今日から穂乃果の家に泊まり込みます!」

 

「あぅぅ……。海未ちゃんの鬼……」

 

これからの5日間、海未のスパルタ指導が待っていると感じた穂乃果は、がっくりと肩を落としていた。

 

「アハハ……。大変だとは思うが、頑張れよ……」

 

奏夜は苦笑いをしながら、そんな穂乃果を励ましていた。

 

このように奏夜が穂乃果を励ましていると……。

 

「……奏夜。可能な限りで良いので、あなたにも参加して欲しいのですが……」

 

「はぁ!?俺もか!?」

 

まさか自分も参加しろと言われるとは思わなかったので、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「勉強のこともありますが、奏夜は一人暮らしですよね?こういう時くらい、誰かのお世話になっても良いと思うのです」

 

「そうだよ!そーくん!そーくんがいてくれた方が安心するし、お母さんたちも喜ぶからさ!」

 

奏夜は高坂家の人間に気に入られているため、このように泊まるということは、大歓迎だった。

 

「それは確かにありがたいんだけど……。若い男が女の子の家に泊まるというのは……」

 

奏夜としても、ありがたい提案ではあるが、同級生の女の子の家に泊まるということには抵抗があったのである。

 

「大丈夫だよ!私はそーくんを信じてるから!」

 

「そうですね。奏夜は私たちが引くくらいの変態ですが、嫌がる相手に手を出すようなことをする人ではないですからね」

 

「おいおい……。酷い言われようだな……」

 

海未の容赦ない言葉を聞いた奏夜は、苦笑いをしながら海未を見ていた。

 

『それに、奏夜は魔戒騎士としての使命もあるからな。泊まるとなると細心の注意を払わなければいけないしな』

 

「ちょっとキルバ!希がいるのに何で喋ってるのよ!」

 

希が部室にいるのにキルバは普通に喋っており、にこはキルバに異議を唱えていた。

 

「別に問題ないよ。だってウチは如月君が魔戒騎士……やったっけ?そのことは知ってるし、如月君が戦ってるところも見たからな」

 

「えぇ!?希先輩も知っちゃったんですか!?」

 

どうやら希までが奏夜の秘密を知ることになるとは思わなかったようであり、穂乃果は驚きを隠せなかった。

 

「まぁ、そういうことや。とりあえずにこっちのことはウチに任せて、穂乃果ちゃんは頑張りなよ」

 

希は継続してにこの勉強を見てくれることになり、厳しい勉強が待っていると予想したにこは、表情が真っ青になっており、表情が引きつっていた。

 

「凛は私と花陽に任せて!泊まり込みまではしなくても、何とかしてみせるから」

 

「アハハ……。お手柔らかに頼むにゃあ……」

 

凛も、先ほどのにこ同様、厳しい勉強が待っていると予想したからか、表情が引きつっていた。

 

「さぁ!穂乃果!帰って準備をしますよ!」

 

「あぅぅ……」

 

こうして、穂乃果の勉強はここで中断して、穂乃果の家に泊まるメンバーは、1度家に帰って泊まる準備を始めることにした。

 

凛とにこも、それぞれの先生の指導のもと、自分の苦手教科の勉強を行っていた。

 

試験まであと5日。

 

ここからが正念場である。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ……。人間とは面倒だな。こんなに勉強をしなければいけないとはな……。次回、「勉強」。勉強のし過ぎには要注意だぞ!』

 

 




亜理沙ちゃんマジ天使過ぎる。

1番の推しは穂乃果なんですが、亜理沙も好きなんですよね。

希が奏夜の正体を聞き出しました。

遅かれ早かれこんな展開にはなると思いましたが、思ったよりは早かったのかな?と思っています。

そして、絵里の秘密を知った奏夜と海未ですが、これからどうしていくのか?

さらに、海未へのフラグが少し経ってしまいましたが、そこもどうなっていくのか?

さて、次回はオリジナル+牙狼メイン回となっています。

穂乃果の部屋に泊まることになった奏夜ですが、そこで待ち受けているものとは?

それでは、次回をお楽しみに!



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第26話 「勉強」

お待たせしました!第26話になります!

最近僕はスクフェスを再開したのですが、今度のイベント報酬が穂乃果と凛。

FFもやりつつって感じになるから余計に小説を執筆する時間が……。

でも、頑張って行きたいと思います。

さて、今回はオリジナルの回となっております。

それでは、第26話をどうぞ!




……ここは秋葉原某所にある少しばかり古びたアパート。

 

その一室で、二十代前半の青年が勉強をしていた。

 

この青年は、とある大学に目標を絞って勉強をしていたのだが、受験の度に落ちてしまい、浪人を続けていた。

 

 

「今度こそ……。今度こそあの大学に合格してみせる……!」

 

青年は他の大学を受けようとは思っておらず、ある大学にだけ狙いを定めていた。

 

そのため、周囲からは白い目で見られ、親にも見放され、このような古びたアパートで一人暮らしをしているのである。

 

「あの大学に合格して……。あいつらのことを見返してやる……」

 

それだけではなく、青年は自分を見放した人間に憎悪のような感情を抱いており、そんな人間たちを見返したいという思いが、彼を突き動かしていた。

 

そのため、他の大学に行くことは考えず、第一志望に狙いを定めているのである。

 

青年がそんな感情を抱きながら勉強をしていたその時だった。

 

__貴様……。それほどまでに大学とやらに合格したいのか……。

 

「!?だ、誰だ!!」

 

突然謎の声が聞こえてきたため、青年は立ち上がり、謎の声に怯えていた。

 

__そんなに怯えることはない……。我は貴様の知識を得たいという思いに共感しただけだ。

 

「そ、そうなのか?」

 

__我が貴様に力を貸してやろうか?我の力があれば、貴様は無限の知識を得ることが出来るぞ。

 

「ほ、本当か!?その知識さえあれば、大学合格なんて……」

 

青年は、謎の声の正体はわからなかったものの、大学に合格して、周囲を見返せるならとその提案を受けようと考えていた。

 

__だが、代償がない訳ではない。貴様には、全てを捨ててでも知識を得る覚悟はあるのか?

 

「あぁ……!どうせ俺にはもう何もないんだ。無限の知識を得られるんだろ?何だってやってやるさ!」

 

青年は、大学に受かれる程の知識があれば、どんなことでもやるつもりだった。

 

__よく言った!ならば、我を受け入れよ!

 

青年の勉強していたテキストから素体ホラーが出現すると、ホラーは青年の顔をガシッと掴んでいた。

 

「!?な、何すんだよ……!」

 

自分の勉強していたテキストからいきなり怪物が現れたため、青年は恐怖で怯えていた。

 

そして、ホラーの身体が黒い粒子のようになると、その粒子は、青年の中に入っていった。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁ!」

 

こうして、青年は、大学に合格して、周囲を見返したいという思いが陰我となり、ホラーに憑依されてしまった。

 

「……ふふふ……。まず手始めに……」

 

ホラーに憑依された青年は、瞳から怪しい輝きを放つと、このように呟いて、どこかへと姿を消してしまった。

 

 

 

 

 

 

青年が姿を消したのと同時刻、秋葉原某所にある学習塾で講師をしている男がこの日の仕事を終えて帰り仕度を始めていた。

 

この男は、某大学に通う大学生なのだが、生活費を稼ぐためにこの塾で講師のバイトをしているのである。

 

大学ではトップクラスの成績を持っており、授業もとてもわかりやすいと生徒からも好評であった。

 

「さて……。さっさと帰って勉強するか……」

 

男は、家に帰っても勉強しようと考えており、大学でのトップクラスの成績も、そんな彼の努力の賜物であることは理解することは出来た。

 

男が塾を後にしようとしたその時だった。

 

「……よう。久しぶりだな……」

 

男の前に姿を現したのは、先ほどホラーに憑依されてしまった青年だった。

 

「お前……。竹村か……。何でこんなところに?」

 

ホラーに憑依された男は、竹村と呼ばれており、どうやら男と竹村は知り合いのようだった。

 

「お前はいいよなぁ……。俺の狙ってた大学に1発で合格して、今や塾の講師か……。それに比べて、俺は……」

 

「お前……。まだ第一志望狙いだったのか……。お前の学力じゃウチの大学は無理なんだから、他の大学に行けばいいのに……」

 

男は、竹村の成績を知っているため、自分が通っている大学へ行くのは無謀だと思っていた。

 

「……そんなことはないさ……。俺は今度こそ大学に合格してみせる……。お前の知識をもらってな……」

 

「はぁ?お前、何を言って……」

 

男は、竹村の言葉に不審がっていると、竹村は男の肩をガシッと掴んでいた。

 

「な、何するんだ!」

 

「決まってるだろ?お前を喰らってお前の知識を頂くんだよ」

 

「な、何を言って……」

 

竹村の表情は狂気に満ちており、そんな竹村に、男は怯えていた。

 

「……ふふふ……。いただきます……」

 

竹村がこう言った瞬間、竹村の瞳が怪しく輝いていた。

 

そしてその直後に、男の体が少しずつ糸のようになっていき、それが竹村の口に入っていった。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

そして、男は断末魔をあげながら体の全てが糸のようになっていき、一切の抵抗も出来ず、竹村に捕食されてしまった。

 

「……ふふふ……。感じる……感じるぞ!知識が入っていくのをな!」

 

竹村は、自分より成績の良い男を捕食したことにより、先ほどまではなかった知識を得られる感覚を得ていた。

 

「だが、まだ足りない。もっと知識が必要だ……」

 

竹村はこのように呟くと、その場から姿を消したのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

スクールアイドルの祭典であるラブライブにエントリーするため、奏夜たちは5日後に迫った期末試験に向けて勉強を頑張ろうとしていた。

 

そんな中、海未は、穂乃果の苦手教科を克服するために、穂乃果の家に泊まり込みで勉強することになった。

 

奏夜も穂乃果の家に泊まることになってしまい、1度家に帰って泊まりの準備を行っていた。

 

とはいっても、家は近いため、最低限の荷物で十分なのだが……。

 

リュックの中に最低限の着替えと洗面道具等を詰め込むと、そのまま穂乃果の家へと向かった。

 

「……こんばんは〜」

 

「あら、奏夜君、いらっしゃい」

 

奏夜は穂乃果の家である「穂むら」の店内に入ると、穂乃果の母親が店番をしていた。

 

「すいません。テストが終わるまでの間、お世話になります」

 

「あらあら、遠慮なんてしなくてもいいのよ?テストが終わった後も、奏夜君だけでもウチに住めばいいのに……」

 

「そのご好意はありがたいですが、そこまでご迷惑をかけるわけには……」

 

「まったくもう、真面目ねぇ……。まぁ、私たちはいつでも奏夜君のことを歓迎しているからね」

 

「はい。ありがとうございます」

 

奏夜は穂乃果の母親に礼を言うと、店の奥に移動し、そのまま自宅へと上がり、階段を上がって穂乃果の部屋へと向かった。

 

「おーい、穂乃果。来たぞ」

 

奏夜はそう言いながら、穂乃果の部屋に入るのだが……。

 

「……穂乃果。またこの問題が間違ってますよ?」

 

「あぅぅ……。わからないよぉ……」

 

海未が既に穂乃果の勉強を見ており、穂乃果は難しい問題に、頭を抱えていた。

 

「やれやれ……。相変わらず苦戦してるようだな」

 

「あっ、そーくん……」

 

「奏夜。お疲れ様です」

 

「海未。ずいぶんと早いな」

 

「私はまだお泊まりの準備をせずに来ましたからね。奏夜が来てから荷物を取りに行こうと思っていたのです」

 

「なるほどな。そういうことか……」

 

どうやら海未は穂乃果と共に家に来たようであり、お泊まり道具は奏夜が来てから準備するつもりだった。

 

そんな海未の狙いを知った奏夜は、苦笑いをしていた。

 

「そういうことですので、私は1度家に戻ります。奏夜、穂乃果のことを頼みます」

 

「あぁ、わかった」

 

海未は穂乃果の勉強を奏夜に見てもらうことにして、自分は1度家に帰り、お泊まりの準備を行うことにした。

 

「さて……。穂乃果、さっそくだけど、勉強を再開するぞ」

 

「えぇ!?ちょっとくらいは休憩させてよぉ!!」

 

休憩もなく勉強を再開させようとする奏夜を、穂乃果はぷぅっと頬を膨らませながら睨んでいた。

 

「ダメだ。あまりサボってると、俺まで海未にどやされるんだからな」

 

「あぅぅ……。そーくんの鬼……」

 

こうして奏夜は、海未が戻ってくるまでの間、穂乃果の勉強を見ることになった。

 

穂乃果は最初はブツブツと文句を言っていたが、20分ほど勉強を続けると、やる気が出てきたのか問題に集中していた。

 

そして、1時間も経たないうちに海未が戻ってきて、ことりも到着した。

 

こうしてメンバーが全員揃ったところで、勉強を見る役は海未に交代し、奏夜はそんな穂乃果と海未の様子を見ながら、自分の勉強をしていた。

 

ことりも奏夜同様に自分の勉強をしており、全員が勉強に集中しているからか、雑談らしい雑談はなく2時間が経過していた。

 

「あぅぅ……。やっと終わったぁ……」

 

ここでようやくこの日のノルマを達成したようであり、穂乃果は疲れ切った表情で机に突っ伏していた。

 

「穂乃果。お疲れ様でした。これだけ集中出来たのですから、これを継続出来れば赤点はないとは思いますよ」

 

「うんうん♪穂乃果ちゃん、頑張ってたしね♪」

 

「確かにな。穂乃果、お疲れさん」

 

海未、ことり、奏夜の3人は、勉強を頑張っていた穂乃果に労いの言葉を送っていた。

 

「エヘヘ……」

 

3人に褒められ、穂乃果はまんざらでもないようだった。

 

勉強を終えて、奏夜たちがしばらくまったりしていると……。

 

「……お姉ちゃんたち、ご飯だよ」

 

どうやら夕食の用意が出来たようであり、穂乃果の妹である雪穂が、奏夜たちを呼びにきた。

 

「おっ、ご飯だ!みんな、早く行こうよ!」

 

「やれやれ……。ご飯と聞いて急に元気になったな……」

 

先ほどまでは疲れ切っていた穂乃果であったが、ご飯と聞いて元気になっており、奏夜は苦笑いをしていた。

 

とりあえず食事が出来たとのことなので、奏夜たちは雪穂と共に階段を降りて居間まで移動した。

 

穂乃果の家は、穂乃果、雪穂に両親の4人家族なのだが、今日は海未、ことり、奏夜がいるため、7人分の料理が並べられていた。

 

「すいません。食事も人数が増えて大変だっていうのに……」

 

「あら、気にしなくてもいいのよ。人数が増えた方が賑やかで楽しいしね♪」

 

穂乃果の母親は、いつもより食事を用意する人数が増えたのだが、そこを気にする素振りはなかった。

 

「ほらほら。みんな早く座った座った」

 

穂乃果の母親にこう勧められたため、奏夜たちは席につき、穂乃果、雪穂、穂乃果の母親も席についていた。

 

そして……。

 

「あっ、お父さん来た!」

 

穂乃果の父親も居間に現れて、席についていた。

 

「おやっさん!今日からしばらくお世話になります!」

 

「……」

 

奏夜の言葉を聞いた穂乃果の父親は、かなり小さな声で「うむ」と言っており、小さく頷いていた。

 

こうして食卓に全員が席に座ったところで、奏夜たちは「いただきます」と食前の挨拶をしてから、食事を始めた。

 

「……うん!やっぱり美味いです!」

 

奏夜は久しぶりに食べる穂乃果の母親の料理に舌鼓をうっていた。

 

「そう?奏夜君は食べっぷりがいいからそう言ってくれると嬉しいわ♪」

 

「そーくん、いっぱい食べてね!」

 

「あぁ。遠慮なくいただくよ」

 

本当に奏夜は遠慮なくご馳走になろうと考えているのか、色々なおかずを頬張っていたのだが……。

 

「やれやれ……。奏夜、少しがっつき過ぎではありませんか?」

 

「まぁまぁ、海未ちゃん。それだけ穂乃果ちゃんのお母さんの料理が美味しいってことだよ」

 

「まぁ♪嬉しいこと言ってくれるじゃない♪海未ちゃんもことりちゃんも遠慮なく食べてね」

 

「「はい!」」

 

「それにしても、こんなに賑やかな食事は久しぶりね。ねぇ、お父さん」

 

穂乃果の母親が穂乃果の父親に同意を求めるが、穂乃果の父親は、無言でウンウンと頷いていた。

 

「それにしても、奏夜さんって一人暮らしなんでしょ?家からも近いんだし、もっとご飯食べに来てくれればいいのに」

 

雪穂は奏夜のことをまるで兄のように慕っており、そのために、奏夜にはもっと遊びに来て、一緒にご飯を食べたいと思っていた。

 

「そうよそうよ。奏夜君は和菓子作りの才能もあるし、もっと来て欲しいくらいだわ。本当に穂乃果か雪穂のお婿さんに来て欲しいくらいだし、ねぇ、お父さん?」

 

「……うむ」

 

どうやら穂乃果の父親も、奏夜のことは歓迎しているようだった。

 

「ちょっ!?お母さん!お父さんも!何言ってるの!?////」

 

両親の唐突な言葉が恥ずかしかったからか、穂乃果の顔は真っ赤になっていた。

 

「私は奏夜さんのこと好きだけど、どっちかというとお兄ちゃんとしてって感じだからなぁ……」

 

雪穂はどうやら奏夜のことが好きなのだが、そこには恋愛感情はなく、身内と同じような感情だった。

 

「奏夜さんってしっかりしてるから、お姉ちゃんとはお似合いだと思うんだけどなぁ」

 

「ゆ、雪穂まで!!」

 

雪穂の言葉でさらに恥ずかしくなったのか、穂乃果の顔はさらに赤くなり、奏夜と目を合わせようとはしなかった。

 

「アハハ……。参ったなぁ……」

 

高坂家の人たちの言葉に、奏夜も恥ずかしいとは思っていたが、まんざらではないようだった。

 

「「……」」

 

そんな中、海未とことりは面白くないと思っているのか、ジト目で奏夜のことを睨みつけていた。

 

「な、何だよ!」

 

「奏夜、ずいぶんと嬉しそうですね?」

 

「そ、そうか?そんなことないと思うけどな」

 

「そっかそっか……。そーくんはやっぱり穂乃果ちゃんが……」

 

「おいおい。なんでそうなるんだよ……」

 

奏夜は色恋に関してはそこまで鈍感ではないため、ことりの言葉を理解しており、少しばかり呆れていた。

 

そうだとしても、奏夜がまんざらでもないことは事実のようであり……。

 

「「……」」

 

海未とことりは無言で奏夜のことを睨みつけてると、同時に奏夜の足を踏みつけていた。

 

「っ!?」

 

今は食事中のため、声はあげなかったのだが、痛みに表情が歪んでいた。

 

「「ふん!」」

 

そして、海未とことりはぷぅっと頬を膨らませながらそっぽを向いていた。

 

「あらあら……」

 

どうやら穂乃果の母親は、海未とことりの気持ちも理解しており、穏やかな表情で微笑んでいた。

 

こうして、高坂家の夕食は進んでいった。

 

それから20分後、食事は終わり、奏夜たちは食器を片付けていた。

 

「悪いわね。洗い物をやってもらっちゃって」

 

「いえ。テストの間お世話になるんですから、これくらいは」

 

「そう?したら、頼むわね」

 

こうして奏夜は洗い物を行い、海未とことりも手伝っていた。

 

そのため、洗い物は早い段階で終わらせることが出来た。

 

洗い物を終えた奏夜たちは、穂乃果と共に穂乃果の部屋へと戻ってきた。

 

「はぁ……美味しかったねぇ……」

 

「まったく……。穂乃果はのんびりしてただけじゃないですか」

 

「まぁまぁ」

 

「とりあえず、勉強のノルマも終わったし、今日はのんびりしようよ!」

 

「そうだな……」

 

奏夜はその提案を受けようとしたのだが……。

 

『奏夜。残念ながら指令のようだ。ロデルの使い魔がこっちに向かっているぞ』

 

どうやら奏夜に安らぎの時間はないようであり、指令が来たみたいだった。

 

「やれやれ……。こんな時くらい休ませてくれよ……」

 

奏夜はこのように文句を言いながら立ち上がると、穂乃果の部屋に置いてある魔法衣を羽織った。

 

「そーくん……。行っちゃうの?」

 

「ホラーが出たとなれば放ってはおけないからな」

 

「……」

 

奏夜がこれからホラーの討伐に向かうことを知った穂乃果は、心配のあまり悲しそうな表情で奏夜のことを見ていた。

 

「……心配すんなって。俺は必ず戻ってくる。信じて待っててくれ」

 

奏夜は穏やかな表情で微笑むと、穂乃果の頭を優しく撫でていた。

 

「……うん」

 

「奏夜、気を付けてくださいね」

 

「絶対に無事に帰ってきてよ」

 

「……あぁ、もちろんだ」

 

奏夜は穂乃果、海未、ことりの3人に見送られる形で穂乃果の部屋を後にすると、階段を降りていった。

 

すると……。

 

「……あら、奏夜君。どこかに行くの?」

 

階段を降りた先に穂乃果の母親がおり、このような言葉で奏夜を引き止めていた。

 

「えぇ。毎日日課でトレーニングをしてましてね。勉強勉強だったから、体を動かして色々発散したいと思いまして」

 

「なるほど、それは大事なことね。だけど、あまり遅くならないようにね」

 

「わかりました。なるべく早く戻ります」

 

穂乃果の母親に出かけることを伝えた奏夜は、穂むらを後にすると、そのままロデルの使い魔から指令書を受け取った。

 

ロデルの使い魔である鳩は奏夜に指令書を渡すと、そのままどこかへと飛び去っていった。

 

奏夜は魔法衣の裏地から魔導ライターを取り出すと、魔導火を放って指令書を燃やした。

 

すると、指令書から魔戒語で書かれた文字が浮かび上がってきた。

 

「……己の知を追求するあまり、知力のある者を喰らうホラーあり。ただちに殲滅せよ」

 

奏夜が指令書の内容を読み上げると、魔戒語で書かれた文章は消滅した。

 

「……おう、奏夜。指令の内容は確認したみたいだな」

 

「……!リンドウ……」

 

奏夜が指令を読み上げたタイミングでリンドウが現れたため、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「今回の指令は奏夜と共に行ってくれとロデル様からの達しでね。俺と共に任務を行うことでお前を鍛えてくれと頼まれた訳なんだよ」

 

今まで奏夜の指導は大輝に任せていたのだが、リンドウがこの番犬所に赴任し、彼がまだこの地の地理には不慣れなため、この地に慣れてもらうのと、奏夜の指導を同時に行おうとロデルは考えていた。

 

「……ま、お前は魔戒騎士としてよくやってはいるが、ロデルはそれだけお前のことを心配してるって訳だよ」

 

「そう……ですよね……」

 

「ま、そこまで気負うことはないぞ。お前の力を借りればホラー狩りも楽になるだろうしな」

 

リンドウはロデルから奏夜の指導を頼まれではいたものの、奏夜の実力を買っていたのである。

 

「まぁ、俺が新米魔戒騎士を指導した時の教訓を伝えるぞ」

 

どうやらリンドウは他の管轄でも新米魔戒騎士の指導を行ったりしており、その時も2人一組でホラー討伐の任務に当たっていた。

 

「……俺が言うべきことは3つだ。死ぬな。死にそうになったら俺に任せて逃げろ。そして隠れろ。最後に運が良ければ隙をついて……ぶっ潰せ!」

 

「……おいおい、それじゃあ……」

 

「あぁ、これじゃ4つか」

 

言いたいことが3つではなく4つになってしまったのだが、リンドウは特に気にする様子はなかった。

 

「ま、あとは生きてさえいれば万事どうにかなる。無茶をしてホラーを倒したとしても、死んじまったらそれまでだからな」

 

リンドウは、この言葉を奏夜だけではなく、多くの新人魔戒騎士に伝えてきた。

 

その結果、彼が指導した魔戒騎士の死亡率は1割にも満たないという偉業を成し遂げたのである。

 

「……俺は新米じゃないけど、リンドウの言葉は肝に銘じておくよ」

 

本来であれば、新米扱いされて奏夜は面白くないと思っていたが、守りたい存在がいるため、リンドウの死ぬなという言葉が深く胸に突き刺さっていた。

 

そのため、リンドウの言葉を素直に受け入れることが出来たのである。

 

「さて……。さっそくだけど行くぞ。ホラーの居場所の目処はついているからな」

 

「ほ、本当なのか?」

 

「あぁ。今日までにホラーに喰われたと思われるのは4人だが、その4人には共通点があったんだよ」

 

「共通点?」

 

リンドウの言葉をオウム返しのように返すと、奏夜は首を傾げていた。

 

「あぁ。全員が◯◯大学の在学生もしくは卒業生で、全員がトップクラスの成績の持ち主らしい」

 

「!!◯◯大学って……!超がつく程の一流大学じゃないか……!!」

 

奏夜が驚いている通り、◯◯大学というのは、東京某所にある大学で、相当偏差値が高くなければ入ることの出来ない超がつく程の一流大学なのである。

 

「それだけじゃない。行方不明になった4人には、共通の知人がいたそうなんだ」

 

「共通の知人?」

 

「……竹村祐介という男で、何度も◯◯大学の受験に挑戦しているが、未だに合格出来ずに浪人を続けているそうだ」

 

「何浪もしてる浪人生か……。確かに動機はありそうだけど……」

 

「その竹村って男も行方不明になっている。そいつが何かしらの陰我を抱えててホラーになっちまったとしたら、色々と辻褄が合うって訳だ」

 

リンドウは、竹村という男がホラーではないかと疑っていた。

 

彼は未だに大学に合格出来ず、大学に合格した知り合いに逆恨みをしている可能性は大いにあるからである。

 

「なるほど……。その竹村って奴の足取りさえ掴めれば……」

 

「だから言ったろ?ホラーの居場所の目処はついているってな」

 

「!?ま、まさか……」

 

「竹村の共通の知人ってのがもう1人いてな。そいつはまだ喰われてはいないみたいなんだ。そいつは神田明神とかいう神社の近くにある木原塾という小さな塾で講師をしているみたいなんだ」

 

「!木原塾って……!音ノ木坂の生徒が何人も通ってる学習塾だぞ!」

 

奏夜が再び驚く通り、木原塾というのは、奏夜たちμ'sが練習に使っている神田明神の近くにある小さな塾であり、音ノ木坂の生徒や、周辺の小中学生も通っている塾である。

 

最近その塾に◯◯大学の学生が講師としてやってきて、その先生の授業はタメになってわかりやすいと評判であると、奏夜は話だけは聞いたことがあった。

 

『……どうやら、リンドウの予想は当たりみたいだな』

 

『えぇ。その辺りでしょうか?ホラーの気配を感じます』

 

魔導輪であるキルバとレンがホラーの気配を探知していたため、リンドウの予想は当たっていると思われた。

 

「そういう訳だ。行くぞ、奏夜」

 

「あぁ、了解だ!」

 

こうして奏夜とリンドウは、ホラーが出現したと思われる木原塾へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

奏夜とリンドウが木原塾に向かっている頃、この塾で講師のバイトをしている市川という男は、講師の仕事を終え、明日行う授業の準備も今しがた終えていた。

 

「さてと……。授業の準備も終わったし、そろそろ帰るかな?」

 

授業の準備も終わったため、市川は戸締りをしっかりしてから、塾を後にして、家に帰ろうとしていた。

 

すると……。

 

「……よう、市川。今帰りなのか?」

 

「……!竹村……。お前、どうしてこんなところへ?」

 

市川は、高校が同じである竹村のことを知っているため、久しぶりの再会に驚いていた。

 

「お前はいいよなぁ……。◯◯大学に1発で合格して今は小さな塾でも塾の講師とはな……。それに引きかえ、俺は……」

 

「お前……。まだウチの大学を狙ってるのか?お前の学力じゃ無理なんだから、いい加減諦めろよ」

 

市川は竹村の学力を知っているため、未だに◯◯大学を狙っている竹村に呆れ果てていた。

 

「……本当にそうかな?今の俺は、今までの俺とは違う。今年こそは合格してみせるさ……!」

 

こう言い放つ竹村は怪しい笑みを浮かべており、そんなただならぬ雰囲気の竹村を、市川は不審がっていた。

 

「……お前を喰らえば、俺は完璧になる。そして、◯◯大学に合格することで、俺を馬鹿にしたお前らや、周囲の連中を見返してやるんだ……」

 

「く、喰らうって何言ってんだよ……」

 

竹村の不穏な言葉に市川は怯えるのだが、そんな市川を見ていた竹村の瞳は怪しい輝きを放っていた。

 

「俺は俺のことを馬鹿にしてきた奴を喰らうことで、知識を得て、復讐も果たせた。お前で最後だ。俺の一部となり、俺が大学へ受かる様を見届けるがいい!それこそが、お前らを見返す瞬間なんだからな!」

 

竹村は、自分を馬鹿にした人間を喰らって知識を得ることでその知識で大学に合格することこそ、自分を馬鹿にした人間を見返すということと復讐であった。

 

そんな思いを告白した竹村は、市川を喰らうために市川へ迫ろうとした。

 

その時だった。

 

「なるほどな……。それがあんたの陰我って訳だ」

 

「!?だ、誰だ!」

 

竹村の背後から声が聞こえてきたため、竹村は後ろを振り向くのだが、そこにいたのは、ホラーの捜索を行っていた奏夜とリンドウであった。

 

「……おい、そこのお前。死にたくなければ逃げな。今のうちだぜ」

 

リンドウは飄々とした態度でこう市川に告げると、市川は一目散に逃げ出していた。

 

「貴様ら……。魔戒騎士か……」

 

「あぁ、その通りだ」

 

「それにしても、大学に合格出来ないからって、他の人間の知識を奪おうだなんて感心しねぇなぁ」

 

リンドウは飄々とした態度で竹村にこう言い放つと、煙草を吸い始めていた。

 

「ほざくな!俺は大学に合格しなきゃいけないんだ!それで、あいつらを見返してやる!」

 

「あんたが何で◯◯大学にこだわるかはわからんが、あんたのしてることはただの逆恨みだ!あんたの暴走は俺たちが止めてみせる!」

 

奏夜は竹村にそう言い放つと、魔戒剣を抜き、それに合わせてリンドウも魔戒剣を抜いていた。

 

そして、奏夜は魔戒剣を構えると、鋭い目つきで竹村を睨みつけていた。

 

一方リンドウは、煙草を吸いながら魔戒剣を構えていた。

 

「魔戒騎士が2人相手か……。こうなったら……」

 

人間の姿ではこの2人に勝てないと察した竹村は、精神を集中させると、その体をホラーの姿へと変化させていた。

 

『……奏夜!こいつはホラー、ブレイクブレイン。ホラーの中ではかなりの知識を持つホラーだ』

 

『その知識量から、どのような攻撃を繰り出してくるか予想が出来ません。奏夜、リンドウ!油断しないでください

!』

 

ブレイクブレインの攻撃パターンは、魔導輪であるキルバとレンにもわからないようであり、レンは奏夜とリンドウに警告をしていた。

 

「わぁってるよ。行くぞ、奏夜」

 

「あぁ!!」

 

魔戒剣を構えている奏夜とリンドウは、ブレイクブレインに向かっていった。

 

「愚かな……。そんな攻撃で俺は倒せないぞ!!」

 

ブレイクブレインは、両手を前方に突きつけると、そこからビームのようなものが放たれた。

 

そのビームのようなものは、奏夜とリンドウに迫っていた。

 

「……っ!」

 

「っとと……」

 

奏夜は間一髪でビームのようなものをかわし、リンドウは少しばかり余裕そうにビームのようなものをかわしていた。

 

「ちっ、かわしたか……。だったら、これならどうだ!」

 

先制攻撃をかわされたブレイクブレインは、精神を集中させると、複数の球体を呼び出していた。

 

その球体からは、ビームのようなものが飛び出していた。

 

「くっ……。多方面からの攻撃か!」

 

「やれやれ……。面倒な攻撃だぜ!」

 

奏夜とリンドウはどうにか多方面からの攻撃をかわしていたのだが、その攻撃に少しばかりうんざりしていた。

 

「ほぉ、なかなかやるじゃないか。だけど、いつまで保つかな?」

 

この遠距離攻撃こそ、ブレイクブレインの真骨頂であった。

 

ビームのような攻撃を放つことで相手を接近させず、相手と距離を置いたまま、徐々に追い詰めていき、敵を殲滅する。

 

これこそブレイクブレインの戦法であった。

 

「リンドウ!どうする!これじゃジリ貧だぞ!」

 

『奏夜の言う通りです!どうにか奴に近づかなければどうしようもありませんよ!』

 

このままブレイクブレインの攻撃をかわし続けていても埒があかないため、どうにかブレイクブレインに接近する策をどうすべきか、奏夜とレンはリンドウに聞いていた。

 

「確かに……。このままじゃ奴は倒せないだろうなぁ」

 

リンドウは攻撃をかわしながらも未だに煙草を吸っていたのだが、攻撃をかわしているうちに、口にくわえた煙草を地面に放り投げていた。

 

「……もらった!」

 

何度目かの攻撃で、ブレイクブレインは、リンドウを仕留めるために、複数のビームのようなものをリンドウの急所目掛けて放っていた。

 

「……リンドウ!!」

 

「ふっ……心配ねぇよ!!」

 

リンドウは魔戒剣を2度、3度と振り下ろすと、自分を狙っていたビームのようなものを全て消滅させた。

 

「!?な、何だと!?」

 

自分の攻撃がかき消されるとは思っていなかったからか、ブレイクブレインは驚きを隠せなかった。

 

「奏夜。俺が奴の注意を引く!その隙に、お前は奴をぶっ倒せ!」

 

「あぁ、わかった!」

 

リンドウが囮の役を買って出てくれており、奏夜はその隙を突いて一気にブレイクブレインを倒すことになった。

 

「くそっ!なめるなぁ!!」

 

ブレイクブレインは、全ての攻撃をリンドウに集中させていた。

 

「……ふっ」

 

リンドウは魔戒剣を前方に突きつけると、それを8の字に描いた。

 

リンドウの描いた8の字がそのまま1つの円になると、ブレイクブレインの放ったビームのようなものを全て防いでいた。

 

「!?また防いだだと!?」

 

再び攻撃を防がれたことにブレイクブレインが驚いており、リンドウは前方にある円から放たれた光に包まれた。

 

すると、リンドウが描いた円の部分から黒い鎧が出現すると、リンドウは黒い鎧を身に纏った。

 

こうして、リンドウは神食騎士狼武の鎧を身に纏ったのであった。

 

そして……。

 

「貴様の陰我、俺たちが断ち切る!!」

 

奏夜がブレイクブレインに対してこう宣言すると、魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

その部分のみ空間が変化すると、奏夜はそこから放たれる光に包まれた。

 

奏夜が描いた円の部分から黄金の鎧が出現すると、奏夜は黄金の鎧を身に纏った。

 

こうして、奏夜は陽光騎士輝狼の鎧を身に纏った。

 

「……奏夜!奴をぶっ倒せ!」

 

「あぁ!!」

 

鎧を召還したことで、一気に決着をつけるために、奏夜はブレイクブレイン目掛けて突撃した。

 

「……やらせるか!」

 

そんな奏夜の進撃を阻止するために、両手を前方に突きつけてビームのようなものを放ち、それだけではなく、球体のようなものからもビームのようなもの放ち、それらは全て奏夜を狙っていた。

 

「……それはこっちの台詞だ!」

 

リンドウは奏夜の前方に移動し、奏夜の盾になると、魔戒剣が変化した機神剣をまるで盾のようにしていた。

 

それにより、ブレイクブレインの攻撃は全て防がれたのであった。

 

「……奏夜!今だ!」

 

「わかった!」

 

リンドウがブレイクブレインの攻撃を防いだ隙に、奏夜は一気にブレイクブレインに接近し、魔戒剣が変化した陽光剣を叩き込もうとしていた。

 

しかし……。

 

「そう簡単にはやられはせんぞ!!」

 

このまま何もせずにやられるブレイクブレインではなく、球体のようなものからビームのようなものを放ち、奏夜はその一撃をまともに受けて少しばかり吹き飛んでしまった。

 

「くっ……」

 

奏夜はすぐに体勢を立て直し、リンドウがフォローに入っていた。

 

「奏夜。大丈夫か?」

 

「あぁ、たいしたことはない」

 

ブレイクブレインの攻撃をまともに受けた奏夜であったが、ダメージはそこまでないようだった。

 

「……どうやら、あの球体を何とかしないと、奴に攻撃を叩き込むのは難しいようだな……」

 

「……リンドウ。俺に考えがある」

 

「ほう、それは?」

 

「2人同時に烈火炎装になって、あの球体ごと奴を叩き斬る」

 

奏夜の立てた作戦は、リンドウが烈火炎装を使えることが前提の作戦であった。

 

「なるほどな……。俺は烈火炎装は使えるし、それで行くか!」

 

リンドウは魔戒騎士の中では実力のある方であり、烈火炎装は問題なく使用することが出来る。

 

「……奏夜、さっそく行くぞ!」

 

「了解!!」

 

奏夜とリンドウは同時に魔導ライターを取り出すと、魔導火を放って、それぞれの剣の切っ先に魔導火を纏わせた。

 

そして、奏夜は橙色の炎に包まれ、リンドウは青紫色の炎に包まれた。

 

こうして、奏夜とリンドウは烈火炎装の状態になった。

 

「……奏夜。俺は左から行く。お前は右から頼むぞ」

 

「わかった!」

 

奏夜が立てた作戦ではあったが、リンドウはその作戦を理解しているため、奏夜に的確に指示を出し、ブレイクブレインに攻撃を仕掛けることにした。

 

「……どんな作戦を立てようが、俺の攻撃を防げるものか!」

 

先ほど奏夜を退けて気を良くしているのか強気になっているブレイクブレインは、球体のようなものを奏夜とリンドウの方へ展開し、それぞれにビームのようなものを放った。

 

「……奏夜、来たぞ!」

 

「了解!」

 

リンドウの言葉を合図にして、奏夜とリンドウは、陽光剣と機神剣を振り下ろした。

 

すると、それぞれの魔導火の刃が飛び出し、ビームのようなものを斬り裂きながら、球体のようなものも斬り裂いていった。

 

「……!?ば、馬鹿な!!」

 

2人のたった一撃で、自分の主力武器を失うとは思っていなかったので、ブレイクブレインは驚きを隠せなかった。

 

「これで決めるぞ、奏夜!」

 

「もちろん!」

 

奏夜とリンドウは同時にブレイクブレインに接近すると、相手が次の攻撃を仕掛けてくる前に、陽光剣と機神剣を一閃した。

 

その一撃によってブレイクブレインの体はXの字に斬り裂かれていた。

 

「……そ、そんな……。この、俺が……」

 

奏夜とリンドウに倒されたことに絶望したブレイクブレインは、絶望しながらその体が消滅していた。

 

ブレイクブレインが消滅したことを確認した奏夜とリンドウは、烈火炎装を解除してから鎧を解除した。

 

そして、元に戻った魔戒剣をそれぞれの鞘に納めていた。

 

「……ふぅ。奏夜、お疲れさん」

 

リンドウは共にホラーを討滅した奏夜に労いの言葉を送ると、煙草を吸い始めていた。

 

「あぁ。リンドウ、お疲れ」

 

「お前が一緒に任務に当たってくれたおかげで、少しは楽をさせてもらったぜ」

 

「こちらこそ、あんたと共に戦えて色々と勉強させてもらったよ」

 

奏夜はリンドウと共に戦うことで、魔戒騎士として得るものがあったため、リンドウに礼を言っていた。

 

「さて、仕事は終わったことだし、どっかで飯でも食っていくか?奢るぜ」

 

「それは良い提案なんだけど、今日は友達の家に泊まっててな。今から帰らないといけないんだよ」

 

奏夜はリンドウと共にご飯を食べに行くのも悪くないと思っていたが、穂乃果の家に戻らなければならないため、その誘いを断っていた。

 

「まぁ、それなら仕方ないよな。……それはそうと、泊まる家ってのは彼女の家とかか?」

 

「ばっ!?そんなんじゃないって!」

 

リンドウの唐突な言葉に、奏夜の顔は真っ赤になっていた。

 

「はっはっは!照れるな照れるな!まぁ、青春を謳歌しろよ。少年!」

 

リンドウは照れる奏夜に笑いながら、奏夜の肩をポンポンと叩いていた。

 

そして、「はっはっは」と笑いながらリンドウはその場を後にしており、その場には奏夜だけが残されていた。

 

『……奏夜。とりあえず穂むらに戻るぞ』

 

「そうだな。あまり遅くなっても、穂乃果たちを心配させるだけだしな」

 

奏夜は穂乃果たちをあまり心配させないためになるべく早めに穂乃果の家である穂むらへ戻ることにした。

 

奏夜とリンドウがホラーと戦っていた木原塾付近から穂むらまでは歩いて5分ほどの距離なので、予想よりも早く帰ることが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜が戻って来た時には穂むらの店は閉まっていたため、裏口にある家の入り口から穂乃果の家に入っていった。

 

すると……。

 

「あっ、奏夜さん!お帰りなさい!」

 

たまたま近くにいた雪穂が奏夜のことを出迎えてくれた。

 

雪穂はお風呂上がりなのか、パジャマ姿であり、体が火照っているから、頬が赤くなっていた。

 

「おう、ただいま」

 

「奏夜さん、トレーニングしてきたんですよね?お疲れ様!」

 

「ありがとな。おかげさまで、いいトレーニングが出来たよ」

 

奏夜はトレーニングをするため出かけると話していたため、このようなことを言っておいた。

 

「鍵は私が閉めとくので、奏夜さんはお姉ちゃんのところに行ってあげるといいですよ!」

 

「すまないな。そうさせてもらうよ」

 

家の鍵を閉めるのは雪穂に任せた奏夜は、そのまま階段を上がっていくと、穂乃果の部屋へと向かっていった。

 

「……今戻ったぞ」

 

「あっ、そーくん」

 

「お帰りなさい、奏夜」

 

「そーくん、お帰り!」

 

奏夜が穂乃果の部屋に戻ると、3人ともパジャマ姿で出迎えてくれたため、奏夜は少しだけドキッとしてしまっていた。

 

「……?奏夜?どうしました?」

 

「い、いや。別に……」

 

奏夜はドキッとしていることを悟られたくなかったため、魔法衣を脱いで、それを部屋の角に置いていた。

 

「そーくん、疲れたでしょ?お風呂でも入ってくれば?」

 

「そうだな……。そしたら、着替えもしたいし、遠慮なく入らせてもらおうかな」

 

奏夜は持参した鞄からパジャマとシャンプー類を取り出して、風呂に入る準備を整えていた。

 

穂乃果たち3人も雪穂も既に風呂に入っていると思われるため、ラブコメのような展開はないだろうと予想した奏夜は、そのまま階段を降りて風呂場へと向かい、そのまま風呂へと入った。

 

奏夜は普段家に帰ると、早々に体を休ませたいと思っているため、風呂は沸かさずシャワーで済ませることが多かった。

 

そのため、久しぶりに湯船でまったり出来るのは奏夜にとってはありがたいことだった。

 

奏夜はのんびりと湯船に浸かり、戦いの疲れを癒した上で風呂を出ると、先ほどまで着ていた制服から、パジャマへと着替えた。

 

奏夜が風呂から出ると、1階の居間に奏夜のための布団が用意してあった。

 

穂乃果の部屋で海未とことりが寝るからという理由もあるのだが、若い男女が同じ部屋で寝かせるのはどうかという穂乃果の母親の配慮もあってのことだった。

 

とりあえず奏夜は穂乃果たちとは別の所で寝ることを報告するために1度穂乃果の部屋に戻ることにした。

 

「あっ、そーくん。お帰り〜」

 

「あれ?奏夜、制服はどこに置いてきたのですか?」

 

海未は、奏夜のパジャマ姿を見て、奏夜が制服を持っていないことにすぐ気付いていた。

 

「あぁ。下の居間に置いてきたんだよ。穂乃果のお母さんがそこに俺の布団を用意してくれたからな」

 

「えぇ!?そーくんも一緒に寝ようよ!」

 

「あのなぁ……。いくら何もしないとはいえ、若い男女が一緒に寝る訳にはいかんだろう」

 

穂乃果は奏夜に一緒に寝ようと言っていたのだが、そんな穂乃果をなだめていた。

 

「まぁ、仕方ないですよね」

 

「そうだねぇ。ことりもそーくんと一緒に寝たかったけどね」

 

海未とことりは、奏夜の言葉に納得はしているが、ことりは少しだけ残念がっていた。

 

「……むー……!」

 

穂乃果だけは納得していないのか、ぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「ま、そういうことだから、俺は下に行くな」

 

「奏夜、おやすみなさい」

 

「そーくん、おやすみ〜」

 

「おう、おやすみ」

 

「……」

 

海未、ことり、奏夜の3人は寝る前の挨拶を交わすのだが、穂乃果は未だにむすっとしている。

 

奏夜は穂乃果の部屋を後にすると、そのまま階段を降りて居間へと移動した。

 

奏夜は指に嵌められているキルバを外してテーブルに置くと、そのまま布団に潜り込んだ。

 

「さて……。明日も早いし、さっさと寝るかな……」

 

奏夜は、明日もテスト勉強が待っているため、早々に眠りにつくことにした。

 

ぐっすりと眠ることの出来た奏夜であったが、その快眠は、2時間後に打ち砕かれてしまった。

 

「……ん?」

 

ギシッ、ギシッと誰かが階段を降りる音で、奏夜は目を覚ました。

 

(……こんな時間に下に降りてくるとか……。トイレか?)

 

高坂家のトイレは1階にしかないため、誰かがトイレで降りてきたのかと奏夜は予想していた。

 

しかし、何者かが階段を降りると、その足音はトイレではなく、こちらに近付いてきた。

 

(……?誰だ?こんな時間にこっちに何の用なんだ?)

 

少しずつ足音が近付いてきており、その足音の正体がわからず、奏夜は首を傾げていた。

 

すると、その足音が止むと、奏夜は自分の背後から何者かの気配を感じていた。

 

奏夜は目を覚ましてその正体を確かめようとするのだが……。

 

「……そーくん……」

 

と、小さい声で呟く穂乃果の声が聞こえてきたため、足音の正体が穂乃果であることが判明した。

 

(穂乃果か……。いったいどうしたんだ?)

 

何故穂乃果がこのような時間にここへ来たのかがわからず、奏夜は首を傾げていた。

 

すると……。

 

「よいしょっ……」

 

「!?」

 

穂乃果は奏夜の布団に潜り込み、まさかの展開に奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「ほ、穂乃果!?どうしたんだよ!」

 

現在は真夜中であるため、奏夜は驚きながらも小声で話していた。

 

そして、微かに伝わる穂乃果の温もりが恥ずかしかったからか、奏夜は顔を真っ赤にしていた。

 

「エヘヘ……。やっぱりそーくんと一緒に寝たいなぁって思って……」

 

穂乃果はどうしても奏夜と一緒に寝たいと思っており、その気持ちが抑えきれなかったため、ここまで来たのであった。

 

「……仕方ないな……」

 

ここまでのことをされてしまっては奏夜も断れなかったため、渋々穂乃果と一緒に寝ることを了承していた。

 

「本当?エヘヘ……♪」

 

奏夜と一緒に寝れるのが嬉しかったのか、穂乃果は奏夜の背中にぎゅっとしがみついていた。

 

「……!?おい、穂乃果……////」

 

いきなり抱きつかれるとは思っていなかったため、奏夜は顔を真っ赤にしていた。

 

「だって……。そーくんがホラーと戦いに行くって聞いて、凄く心配だったんだよ?そーくんは大丈夫って言うけど、やっぱり心配で……」

 

穂乃果は、奏夜が魔戒騎士であると知ってから、ホラーと戦いに行くと聞くたびに奏夜のことを心配していた。

 

「……そっか……。ごめんな、心配させて……」

 

「……うん」

 

「だけど、俺は絶対に死なないさ。だって、みんなを守りたいって思ってるし、μ'sのことをずっと見守りたいって思ってるからな……」

 

奏夜は、穂乃果たちのことを本気で守りたいと思っていたし、μ'sのこともずっと見守っていきたいと思っていた。

 

その気持ちが消えない限り、奏夜は誰が相手だろうと絶対に死なないと心に誓っていた。

 

「そーくん……。信じてるからね……」

 

「あぁ」

 

「それはわかってるんだけど、今日はこのままで……いさせてね……」

 

「……あぁ」

 

奏夜が穏やかな表情でこう答えると、その答えを聞いて穂乃果は安心したのか、「すぅ……すぅ……」と、穂乃果の寝息が聞こえてきた。

 

「……おやすみ、穂乃果」

 

穂乃果の寝息を聞きながら、奏夜は眠りについていた。

 

こうして奏夜と穂乃果は添い寝をしていたのだが、朝になると穂乃果の母親に発見されてしまい、朝食の時に大いにからかわれることになってしまった。

 

そこで奏夜と穂乃果が一緒に寝ていることを知った海未とことりは、そのことをすぐにμ'sのメンバーに伝達していた。

 

そして、奏夜は穂乃果以外のメンバーからお仕置きを受けることになったのだが、これはまた別の話である。

 

そんなことがありつつも、試験当日を迎えたのだが、赤点が心配だった穂乃果、凛、にこの3人は見事に赤点を回避し、ラブライブにエントリーすることは可能となったのであった。

 

ちなみに、奏夜は勉強を頑張ったからか、学年10位という好成績を叩き出し、2年生組の中では1番の成績を残していた。

 

……勉強が得意な真姫は、それ以上の成績であり、周囲を驚かせていたのだが……。

 

こうして、大きな試練となった期末試験は幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ。期末試験を乗り越えたと思ったらこんな問題に直面するとはな……。次回、「指導」。おいおい、奏夜。いったいどうするつもりだ?』

 

 




ちくしょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

奏夜あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!

そこを代わりやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!(切実)

ほのキチである僕がこう叫びたくなるくらい、穂乃果と添い寝している奏夜が羨ましい訳です(笑)

ここら辺で徐々にヒロインのフラグが立ってきたのかなと思っています。

そして、今回登場したブレイクブレインは、ホラーにしては珍しい遠距離特化型のホラーとなっています。

球体のようなものから放たれるビームのようなものは、ガンダムに登場するビットやファンネルを参考にさせてもらいました。

知識を司るホラーだから、ビットのような攻撃も使いこなせるという設定です。

さて、次回はいよいよラブライブ!第8話に突入します。

そう、のぞえり加入編に突入するということです。

今の章はμ'sが9人になるまでの話のため、この章のクライマックスも近付いてきています。

これからいったいどうなっていくのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第27話 「指導」

お待たせしました!第27話になります!

さて、今回からラブライブ!の第8話に突入し、μ's加入編はクライマックスに突入します。

期末試験をどうにか乗り越えた奏夜たちですが、そんな彼らを待ち受けるものとは?

それでは、第27話をどうぞ!




奏夜たちはスクールアイドルの祭典であるラブライブにエントリーするため、期末試験での赤点を回避するべく勉強に励んでいた。

 

2年生組は全員穂乃果の家に泊まり込み、勉強をすることで赤点を回避し、凛とにこも、どうにか赤点を回避することが出来た。

 

これで、ラブライブへのエントリーが可能になるため、奏夜たちはそのことを理事長に報告するために理事長室へと向かった。

 

奏夜たちが理事長室の前に到着したその時である。

 

「そんな!説明して下さい!」

 

理事長室の扉越しから絵里の声が聞こえて来たのだが、その声からは焦りの感情が伝わってきた。

 

さらに……。

 

「……ごめんなさい。これは決定事項なの。……音ノ木坂学院は、来年度の生徒の募集をやめ、廃校とします!」

 

「!?な、なん……だと?」

 

ドア越しから聞こえた理事長の言葉は、信じがたいものであった。

 

もしその事実が本当であれば、ラブライブのエントリーすら危ぶまれるからである。

 

「今の話、本当ですか!?本当に廃校になっちゃうんですか!?」

 

奏夜が扉を開ける前に穂乃果がバン!とドアを開けると、穂乃果は理事長に詰め寄っていた。

 

「えぇ、本当よ」

 

「そんな……」

 

理事長から告げられた衝撃の真実に、奏夜たちは開いた口が塞がらず、花陽はショックを受けていた。

 

「お母さん!そんな話、聞いてないよ!!」

 

理事長の娘であることりもまた、悲痛な表情で理事長に詰め寄っていた。

 

「みんな、落ち着いて。廃校と言っても、2週間後に行われるオープンキャンパスの結果が悪かったら……という話よ」

 

どうやら理事長が言っているのは有無を言わさず廃校という訳ではなく、オープンキャンパスの結果が良くなかったら廃校になるということであった。

 

「オープンキャンパス……ですか?」

 

「えぇ。見学に来てもらった中学生にアンケートを取って、その結果が芳しくなかったら、廃校にする。そう絢瀬さんに話していたところよ」

 

「なんだぁ、良かったぁ……」

 

今すぐ廃校になる訳ではないということがわかり、穂乃果はホッとしており、奏夜以外のメンバーもまた、ホッとしていた。

 

しかし……。

 

「お前ら、ホッとしている場合じゃないぞ」

 

「彼の言う通りよ。オープンキャンパスは2週間後の日曜日。そこで結果が悪かったら、廃校は本決まりになってしまうということよ」

 

絵里は奏夜の意見に同意しており、そのことが珍しいと思っていた奏夜は、驚きを隠せなかった。

 

「……だからこそ、何とかしないといけないんだよな……」

 

奏夜は、オープンキャンパスを成功させるためにはどうすればいいのか考えていたのだが……。

 

「理事長!オープンキャンパスのイベントの内容は、生徒会で決めさせてもらいます」

 

「……止めても、聞きそうにないわね」

 

本来であれば承認しないつもりであったが、今回に限っては止めても無駄だと判断したからか、理事長は渋々絵里の提案を承認していた。

 

「ありがとうございます。失礼します……」

 

絵里は理事長に一礼をすると、理事長室を後にしていた。

 

「……俺たちも失礼します。ラブライブの件については、オープンキャンパスの件が落ち着いてから話したいと思います」

 

奏夜は理事長に一礼をすると、理事長室を後にしていた。

 

穂乃果たちは慌てながらも理事長に一礼をすると、奏夜を追いかけていった。

 

(……オープンキャンパスか……。ここが正念場だよな……。ラブライブに出場するためにも、俺は穂乃果たちを今以上のクオリティにしてみせる!)

 

奏夜の表情はまるでホラーと対峙してる時と同じように険しいものになっており、海未は、そんな奏夜を心配そうに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

奏夜たちは2週間後に行われるオープンキャンパスに向けて、練習を行うことにした。

 

オープンキャンパスのイベントは生徒会が決めるみたいだが、穂乃果たちはそこでライブをやって、少しでも入学希望者を増やしたいと考えていた。

 

このオープンキャンパスの結果次第では廃校が確定してしまうということもあるからか、穂乃果たちの練習にも、自然と熱が入っていた。

 

屋上に到着した奏夜たちは練習を行うことになった。

 

「……1、2、3、4、5、6、7、8!」

 

いつものように奏夜がダンスコーチを行い、穂乃果たちの振り付けを見ていた。

 

普段であれば、奏夜は気になることはすぐに注意をしていたのだが、今日の奏夜は珍しく静かであった。

 

しかし、それは穂乃果たちの振り付けのクオリティが上がっているという訳ではないようであり、奏夜は苛立ちを募らせていた。

 

そして、奏夜のダメ出しが一度も飛ぶことがなく、一通りの振り付けが終了した。

 

「……よし、みんな完璧だよ!」

 

穂乃果はどうやら、先ほどまでの振り付けは完璧だと思っていた。

 

「……」

 

その言葉を否定するかのように奏夜は黙っており、さらに苛立ちを募らせていた。

 

そんな奏夜の苛立ちに海未は気付いていたのだが、他のメンバーはそれを気にすることなく、話を続けていた。

 

「良かったぁ。これならオープンキャンパスに間に合いそうだね」

 

「それにしても、本当にライブなんて出来るの?生徒会長に止められるんじゃない?」

 

オープンキャンパスのイベントは生徒会が決めることは全員の耳に入っているため、真姫の心配はもっともであった。

 

「そこは大丈夫だよ!部活紹介の時間は必ずあるはすだから。そこで歌を披露すれば!」

 

真姫の心配を、ことりがポジティブな言葉で払拭しようとしていたのだが……。

 

「……まだです」

 

海未が浮かない表情で、先ほどの振り付けのダメ出しをしていた。

 

「まだタイミングがずれています」

 

「海未の言う通りだ。俺から言わせてもらえば完璧には程遠い。そんなんでよくそんな前向きなことが言えたもんだな」

 

海未のダメ出しに奏夜は賛同しており、それだけではなく、鋭い目付きで厳しい言葉を投げかけていた。

 

「……海未ちゃん……。そーくん……」

 

「ちょっと!そんな言い方はないんじゃないの?」

 

奏夜の棘のある言葉が気に入らなかったのか、真姫は奏夜に異議を唱えようとしていた。

 

「文句があるのなら振り付けで俺を納得させてみろ。そうすれば聞いてやる」

 

「……わかったわよ。みんな!もう1回やるわよ!」

 

「……」

 

奏夜と真姫との間に不穏な空気が流れており、穂乃果は心配そうな表情で奏夜のことを見ていた。

 

こうして、少しだけ空気がギスギスする中、先ほどと同じ振り付けの練習が行われた。

 

「1、2、3、4、5、6、7、8!」

 

「……」

 

奏夜は先ほどよりも鋭い目付きで穂乃果たちの振り付けを見ていた。

 

先ほどと何の変化もないことに、苛立ちを募らせているからである。

 

「……今度こそ、完璧だよ!」

 

「どう?これなら文句はないんじゃない?」

 

「やれやれ……。やっとにこのレベルに追いついてきたんじゃない?」

 

先ほどの振り付けとまったく変わっていないにも関わらず、穂乃果、真姫、にこの3人は先ほどの振り付けを自画自賛していた。

 

しかし……。

 

「……まだダメだ。もう1度だ!お前ら、その程度の出来で満足するな!」

 

奏夜からダメ出しと厳しい言葉が飛び出し、ことりと花陽の2人は、そんな奏夜の言葉に少し怯えていた。

 

「あぅぅ……。これ以上は上手くなりようがないにゃあ……」

 

凛はこれ以上どうすれば良いのかわからず、がっくりとうなだれていた。

 

「そんなことで諦めてるようじゃ、ラブライブなんて夢のまた夢だぞ」

 

奏夜は追い討ちをかけるように厳しい言葉を投げかけていた。

 

「ちょっと!さっきからいったい何なのよ!?そんな言い方はないんじゃないの!?」

 

「にこ先輩の言う通りよ!それに、今の振り付けの何が気に入らないわけ?答えなさいよ!」

 

先ほどまでの奏夜の厳しい言葉が気に入らないのか、にこと真姫は、奏夜に怒りの視線を向けながら奏夜に詰め寄っていた。

 

「……気に入らないところならたくさんあるが、言ってもいいのか?」

 

「うっ、そ、それは……」

 

奏夜の冷静な口調から、その言葉はハッタリではないとわかると、真姫は一歩引いてしまった。

 

本当に奏夜が自分たちのダメなところを言い尽くしてしまうと、立ち直れる自信がないからである。

 

それはにこも同じであり、これ以上の追求は出来なかった。

 

「……一言で言うならば、お前らのパフォーマンスに感動出来ないんだよ」

 

「そうです。奏夜の言葉は厳しいかもしれませんが、それは今のままじゃダメだからなんです」

 

奏夜のあまりに厳しい言葉に海未が賛同するとは思っていなかったからか、穂乃果たちは驚きを隠せず、そんな2人の態度に戸惑っていた。

 

「そうだ。俺にはお前たちをもっと高みに連れていかなきゃいけないっていう責任がある。お前たちが俺のことを嫌いになったとしても、μ'sが今以上に輝けるならそれでいい」

 

奏夜はここで、何故ここまで厳しい態度を取っているのかを明かしていた。

 

……とは言っても、1番のきっかけである絵里の話は伏せているのだが……。

 

「……奏夜先輩……」

 

「そーや先輩……」

 

「……まぁ、今でも奏夜の言葉は許せないけど、奏夜がμ'sのことを誰よりも思ってることは理解したわ」

 

奏夜の覚悟を聞いた真姫は、これ以上奏夜に怒ることなど出来ず、先ほどまでの奏夜の態度に納得していた。

 

……そんな中、穂乃果は……。

 

「……ダメだよ……」

 

「……?穂乃果?」

 

「穂乃果ちゃん?」

 

「ダメだよ!私たちμ'sは、そーくんが支えてくれるから輝けるんだよ!?私たちに嫌われてもいいだなんて……。そんな悲しいことを言わないで!!」

 

「穂乃果……」

 

ここまで穂乃果が声を荒げることはないため、奏夜は驚いていた。

 

「それに……。そーくんはマネージャーだからって何でもかんでも背負いすぎなんだよ!ただでさえ、魔戒騎士のお仕事も忙しいのに……」

 

「穂乃果ちゃんの言う通りだよ!たまには私たちのことを頼ってよ……」

 

「そうにゃそうにゃ!!凛たちだって、そーや先輩の力になれるんだから!」

 

「奏夜先輩だって、μ'sの一員なんです!困難はみんなで協力してこそじゃないですか!」

 

「奏夜。あなたは本当に面倒な人よね……」

 

「そういうことよ。こんなに頼もしい先輩がいるのに頼らないなんて、どうかしてるわよ!」

 

海未以外の6人は、全てをたった1人で抱え込もうとする奏夜に、異議を唱えていた。

 

『やれやれ……。奏夜、こいつはお前の負けだな。話してやればいいじゃないか。お前さんがそこまで焦る理由ってやつをな』

 

「キルバの言う通りです。やはりこの問題は、私と奏夜だけで抱えて良い問題ではありません」

 

『一応俺も当事者なんだがな……』

 

キルバもまた、奏夜や海未と同様に絵里の秘密を知っているのだが、奏夜や海未ほどの感情は抱いていなかったため、特にこの問題に介入しようとは考えていた。

 

しかし、当事者であることは変わりないため、キルバは苦笑いをしていた。

 

「そーくん……。話してくれる?何があったのかを」

 

「……わかった。それを踏まえて、みんなに話しておきたいこともあるしな」

 

1度練習を中断し、奏夜は絵里の秘密やそれによって自分が感じたことを話そうと考えていた。

 

奏夜たちは1度部室に戻ると、奏夜はゆっくりと語り始めた。

 

「……μ'sのファーストライブの動画、あれ、誰が撮ったのかずっと疑問だったろ?」

 

「うん。それは私も気になってたけど、そーくんは撮った人が誰かわかったの?」

 

穂乃果の問いかけに奏夜は無言で頷いていた。

 

「……生徒会長だよ」

 

「え!?そうなの!?」

 

意外な人物の名前が出てきたことに、穂乃果は驚くのだが、他のメンバーもそれは同様みたいだ。

 

「俺と海未はたまたまそのことを知って、生徒会長と話したって訳だ」

 

「……生徒会長は私たちのためにやったのではなく、私たちのパフォーマンスがいかにダメなのかを知らしめるために撮影をしたそうなんです」

 

「そんな……」

 

「でも、結果的には人気が出たってことだものね」

 

「そこは生徒会長も予想外だったみたいだけどな」

「私たちは7人になってそれなりに人気にはなりましたが、生徒会長は私たちのことをまだ認めていないのです」

 

このように語る海未の表情は少しばかり悲しげだった。

 

「生徒会長はスクールアイドル全てが素人のようだって言ってたんだ。あのA-RISEでさえもな」

 

「ちょっと……。A-RISEが素人みたいだなんて、随分とおこがましいんじゃない?」

 

「そうですよ!スクールアイドルはみんなが血が滲むような努力をしているっていうのに……」

 

スクールアイドルのことが大好きであるにこと花陽は、A-RISEが素人みたいだという言葉を許すことが出来なかった。

 

「俺もそう思ったさ。そこで、その言葉の真意を確かめるために東條先輩に話を聞いたんだ」

 

「希先輩なら、生徒会長のことを知っていると思いましたので」

 

「それで、東條先輩に話を聞いたら、生徒会長はどうやらバレエをやってたみたいなんだ」

 

「バレエ?」

 

「それは意外ね」

 

絵里がバレエをやっているという事実を穂乃果たちは知り、驚きを隠せなかった。

 

「その時の映像を見させてもらいましたが、衝撃でした」

 

「あぁ。そのバレエの映像を見た時、今のμ'sがどれだけ未熟なのかってことを思い知らされたよ。だからこそ、俺はμ'sのみんなをもっと高みに連れていきたいと思ったんだ」

 

「なるほどね。だから奏夜はさっきあんな態度をとっていたのね」

 

真姫は、何故奏夜があそこまで厳しい態度をとっていたのかがわかり、納得し、少しだけホッとしていた。

 

奏夜の人が変わってしまったのかと心配していたからである。

 

「それで私は、生徒会長にダンスを教わりたいと思いました」

 

「でもでも!それじゃそーや先輩が……」

 

「俺のことは気にするな。確かに今までは俺がみんなにダンスを教えてきた。だけど、これからのμ'sには生徒会長が必要になってくると思うんだよ」

 

凛は、今までダンスコーチをしてきた奏夜を気遣っていたのだが、奏夜はそこを気にしてはいなかった。

 

「でも生徒会長は私たちのこと……」

 

「嫌ってるよね?絶対!」

 

「というか、嫉妬してるのよ!嫉妬!」

 

奏夜の思いを聞いたのだが、花陽、凛、にこの3人は絵里に教わることは反対のようだった。

 

「お前らの言いたいこともわかる。だけど、あれだけ踊れる人がお前たちのパフォーマンスを見て、素人みたいと言ってしまうのも、わかる気がするんだ」

 

奏夜もまた、ダンスが得意なため、絵里ほどの実力者が、スクールアイドルを素人と言ってしまう気持ちもなんとなくではあるがわかる気がしていた。

 

「私は反対。潰されかねないわ」

 

真姫も、今のままじゃダメなことはわかっていたが、それでも絵里にダンスを教わることには反対だった。

 

「そうね。3年生はにこだけで充分だし」

 

「それに、生徒会長はちょっと怖いです……」

 

「凛は楽しい方がいいなぁ」

 

「……」

 

にこ、花陽、凛の3人が反対意見を聞き、奏夜は現状に満足しているメンバーたちに苛立ちを募らせていた。

 

そんな中、穂乃果は……。

 

「……私はいいと思うけどなぁ」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

「穂乃果……」

 

穂乃果が賛成意見を出したことに奏夜と海未以外の全員が驚き、奏夜はリーダーである穂乃果がこう言ってくれたことが嬉しかった。

 

「ちょっとあんた!何言ってるのよ!」

 

「だって、ダンスの上手い人が近くにいるってことでしょ?それで、もっと上手くなりたいから教わりたいって話だもんね」

 

「あぁ、その通りだ」

 

「だったら私は賛成!頼むだけ頼んでみようよ!」

 

「ちょっと!待ちなさいよ!」

 

穂乃果は改めて奏夜の意見に賛成していたのだが、にこは異議を唱えていた。

 

しかし……。

 

「だけど、絵里先輩のダンスはちょっと見てみたいかも……」

 

「わ、私も……」

 

どうやらことりと花陽は、絵里のダンスに興味があるようであった。

 

「よし!それじゃあ、明日さっそくお願いしてみようよ!」

 

こうして、翌日に、ダンスのコーチを絵里に頼むことにした。

 

「……みんな、本当にごめんな。俺、焦ってたのかもしれない。今のままじゃダメだってな……」

 

「そーくんはそーくんで悩んでいたんだもんね……」

 

「それがわかったから、私たちは気にしてないよ♪」

 

「穂乃果……ことり……」

 

穂乃果とことりもまた、奏夜が何故あれだけ厳しい態度をとったのかを理解し、安堵していたため、先ほどのことは気にしていなかった。

 

「……まったく……。どうなっても知らないわよ……」

 

にこも渋々了承したことで、今日の練習はここまでにすることにして、絵里にダンスのコーチを依頼するのは明日行うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、絵里は妹である亜理沙とその友達2人に、オープンキャンパスで話すスピーチを聞いてもらっていた。

 

その友達の中には、穂乃果の妹である雪穂もいたのである。

 

「……このように音ノ木坂学院の歴史は古く、この地域の発展にずっと関わっていました」

 

絵里の淡々としたスピーチに、亜理沙と、その友人は退屈そうにしており、雪穂に至ってはうたた寝をしていた。

 

「さらに、当時の学院内は音楽学校の側面を持っており、学院内ではアーティストを目指す生徒に溢れ、非常にクリエイティブな雰囲気に包まれています」

 

絵里のスピーチが進む中、雪穂は寝息を立てて眠っており、そんな雪穂を亜理沙と友人が心配そうに見つめていた。

 

しばらく絵里がスピーチを進めていると……。

 

「……うわぁ!体重増えた!!」

 

雪穂はこのような寝言を言いながら目を覚ましていた。

 

「あ、すいません……」

 

自分の寝言で話を途切らせてしまったことが恥ずかしかったからか、雪穂は頬を赤らめていた。

 

「……ごめんね。退屈だった?」

 

「い、いえ!とても面白かったです!後半、とても引き込まれました!」

 

雪穂が調子の良いことを言っており、友人はジト目で雪穂のことを見ていた。

 

「オープンキャンパスまでには直すから、遠慮なく言って」

 

「……亜理沙は全然面白くなかった」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

亜理沙の遠慮のない発言に、雪穂がなだめようとしていた。

 

「お姉ちゃんは何でこんな話をしているの?」

 

「何でって……。学校を廃校にしたくないからよ」

 

「私だって音ノ木坂は無くなって欲しくないけど……」

 

学校が廃校になって欲しくないのは絵里も亜理沙も同じ気持ちだった。

 

すると……。

 

「それがお姉ちゃんの……やりたいことなの?」

 

「!」

 

亜理沙が投げかけたこの疑問に、絵里はハッとしていた。

 

(私の……やりたいこと?)

 

絵里はこの先、この疑問について自問自答するようになっていったのである。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

翌日。奏夜、穂乃果、海未、ことりの4人は、生徒会室を訪れると、絵里にダンスのコーチを依頼していた。

 

「……私にダンスを?」

 

奏夜たちがこう言ってくることは思いがけないことだったからか、絵里は少しだけ面食らっていた。

 

「はい!お願いします!私たち、もっと上手くなりたいんです!」

 

穂乃果がこのように絵里に頼み込むと、絵里は奏夜と海未のことをジッと見ていた。

 

そして、絵里は奏夜と海未の言った言葉を思い出していた。

 

『そこまで言うのなら、あんたはそれだけのものを持ってるんだろうな?そうじゃなかったら、俺はあんたを絶対に許さない!』

 

『あなたがどれだけのものを持っているのかはわかりません。ですが、私たちのことを……。そんな風に言われたくありません!』

 

「……」

 

その時の言葉を思い出しながら、絵里は少しだけ考え事をしていた。

 

そして……。

 

「……わかったわ。あなたたちの活動は理解出来ないけれど、人気があるのは間違いないみたいだしね。引き受けるわ」

 

絵里は今でもμ'sのことを認めてはいないものの、人気があることだけは認めていた。

 

だからこそ、ダンスの指導を引き受けたのであった。

 

「本当ですか!?」

 

本当に引き受けてもらえるとは思っておらず、穂乃果の表情は明るくなっていた。

 

「でも、やるからには私の許せる水準まで頑張ってもらうわよ!いい?」

 

「は、はい!ありがとうございます!」

 

「……絢瀬先輩。あなたがみんなをどのように指導してくれるのか、参考にさせてもらいます」

 

「えぇ。よく見ておくといいわ。如月君」

 

ここで奏夜と絵里は、初めて互いのことを名前で呼んでおり、奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

そんな奏夜の笑顔を見て、絵里は一瞬だけ表情が穏やかになるのだが、すぐに険しい表情に戻っていた。

 

奏夜と絵里がそんな表情を浮かべる中、希も笑みを浮かべており……。

 

「……星が動き始めたようやな……」

 

希はこのように呟いており、そんな希の言葉に奏夜は首を傾げていた。

 

(……?星が動き始めた?一体何のことだ?)

 

《さぁな。俺に聞くな》

 

希の言葉の真意は、奏夜とキルバに理解することは出来なかった。

 

しかし、奏夜はすぐに希の言葉の真意を知ることになる。

 

そして、絵里が奏夜たちの指導を引き受けることで、μ'sに大きな変化が訪れることを奏夜は期待をしていた。

 

その期待が真実へと変わっていくということを、奏夜たちは知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ。あのお嬢ちゃんの指導を受けることになるとはな。これは、何かが起こりそうな予感がするぞ。次回、「女神」。今こそ集う9人の女神!』

 

 




オープンキャンパスの話が決まり、練習を行った奏夜たちでしたが、ちょっとだけギスギスしてしまいましたね。

奏夜の言葉は容赦なかったと思いますが、それは彼が魔戒騎士だからというのもあるかもしれませんね。

ここら辺は原作よりもギスギスだったかな?と思いましたが、そこをちゃんと表情出来たかどうか……。

さて、次回は予告でわかるとは思いますが、いよいよの瞬間が訪れます。

絵里がμ'sの指導を引き受けたことで、μ'sはいったいどうなっていくのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第28話 「女神」

お待たせしました!第28話になります!

活動報告でも書きましたが、僕の書いたこの牙狼ライブ!が、デイリーランキングの14位にランクインしていました。

さらに見た時は9位まで上がっており、僕の書いた駄文小説がランクインすること自体驚いています。

ですが、嬉しいことでもあるので、これからも頑張っていきたいと思っています。

さて、今回は待ちに待った瞬間が訪れます。

絵里にダンスの指導をお願いした奏夜たちを待ち受けるものとは?

それでは、第28話をどうぞ!




期末試験の問題を乗り越えた奏夜たちであったが、再び大きな問題に直面していた。

 

2週間後に行われるオープンキャンパスで中学生にアンケートを取り、結果が芳しくなければ廃校が本決まりになってしまうのである。

 

廃校を阻止するために奏夜たちは活動を行い、ダンスの練習を行っていた。

 

そんな中、絵里のバレエの映像を見ていた奏夜は、穂乃果たちのパフォーマンスに満足出来ず、それを完璧という穂乃果たちに苛立ちを募らせていた。

 

それ故に厳しい言葉を投げかけて空気がギスギスしたりもしたが、奏夜は何故このように厳しい言葉を投げかけていたのかを説明する。

 

そこで穂乃果たちは絵里のことを知り、海未は絵里にダンスの指導をお願いするよう提案していた。

 

そんな海未の提案に1年生組とにこは反対していたのだが、穂乃果は賛同していた。

 

それは、純粋にダンスが上手くなりたいという思いからであり、穂乃果の言葉に、他のメンバーも渋々海未の提案を受け入れる。

 

翌日、奏夜たちは生徒会室に向かうと絵里にダンスの指導を依頼した。

 

絵里は、μ'sの人気だけは認めていたため、ダンスの指導を引き受けたのであった。

 

奏夜たちは屋上に向かうと、さっそくダンスの練習が行われた。

 

奏夜は絵里の隣に付き、絵里がどのような指導を行うのか今後の参考にしようと考えていた。

 

「1、2、3、4、5、6、7、8!」

 

まずは穂乃果たちがどのような振り付けの練習を行っているのか絵里に見てもらっていた。

 

絵里が真剣な表情で穂乃果たちの動きをチェックしていたため、穂乃果たちは心なしか緊張していた。

 

その結果……。

 

「……にゃにゃっ……うにゃ!?」

 

凛がバランスを崩してしまい、そのまま転倒してしまった。

 

「り、凛ちゃん!大丈夫?」

 

「痛いよぉ〜!」

 

「全然ダメじゃない!こんなんでよくここまで来られたわね!」

 

「す、すいません!」

 

絵里から厳しい言葉が飛び交い、穂乃果がすかさず謝っていた。

 

(あちゃあ……。やっぱりダメか……)

 

そんな穂乃果たちの様子を見た奏夜は、頭を抱えていた。

 

「いつもはちゃんと出来るんだけどなぁ……」

 

「基礎が出来ていないから動きにムラが出るの。ほら、足を開いて」

 

凛の言い訳をバッサリと一蹴した絵里は、転倒によってその場に座り込む凛にこのような指示を出していた。

 

凛は足を開いたのだが、絵里は凛の体を前に倒すように背中を押していた。

 

「いっ!?痛いにゃあ!!」

 

凛の体はまだ固いからか、痛みのあまり凛が叫び声をあげる。

 

「これで?少なくともこの状態でお腹が床に付くくらいにならないと」

 

「なるほどな……。やっぱり柔軟は大事って訳か」

 

今まで柔軟の練習を行ってこなかった奏夜は、絵里の言葉に感心していた。

 

「柔軟性を上げることは、全てに繋がるわ。まずはこれを全員出来るようにして。さもないと、本番は一か八かの勝負になるわよ!」

 

(なるほどな……。柔軟性を上げることで体幹がしっかりしてくるし、体力付けや振り付け練習と同じくらい大切なんだな)

 

《そりゃ、そうだろうな。奏夜、お前さんは修行の時だって柔軟はやっていただろう?》

 

(確かに。魔戒騎士として戦うには体幹がしっかりしてないといけないしな)

 

体幹がしっかりしてないといけないのは、ダンスも魔戒騎士として戦うのも同じであるため、柔軟の大切さを奏夜は再認識していた。

 

「あなた……。ダンスが得意と言っていたわね?柔軟をやろうって発想はなかったの?」

 

「恥ずかしながら。その発想は……」

 

奏夜は柔軟をやろうという発想がないと知り、絵里は呆れ果てていた。

 

「やれやれ……。あなただって基礎が大事だとわかっているだろうに……。よくそんなことでダンスコーチだなんて名乗れたわね」

 

「……っ!」

 

絵里の厳しい言葉が奏夜にも飛び交ったのだが、絵里の言葉は事実であるため、奏夜は何も言うことは出来なかった。

 

「ちょっと!私たちは今まで奏夜に指導してもらったんだから、そんな言い方はないんじゃないの?」

 

ダンスコーチである奏夜にまで厳しい言葉を投げかける絵里が許せなかったのか、真姫が異議を唱えていた。

 

「あなたの無駄口を聞いてる暇はないわ。文句があるならまずは私の言う課題をこなしてからにしなさい」

 

「……わかったわよ」

 

今までは奏夜がダンスコーチだったとしても、今自分たちの指導をしているのは絵里であるため、真姫はこれ以上の反論は出来なかった。

 

こうして、穂乃果たちは先ほど凛が行っていた柔軟を行い、それに奏夜も参加していた。

 

全員予想以上に体が固いからか、なかなかお腹を床に付けることは出来なかったのだが、ことりは難なくお腹を床に付けていた。

 

それだけではなく、奏夜も難なくお腹を床に付けることが出来ていた。

 

「凄い!ことりちゃん!そーくん!」

 

穂乃果はそんなことりと奏夜を賞賛していたのだが……。

 

「感心してる場合じゃないわよ。みんな出来るの?ダンスで人を魅了したいんでしょ!?」

 

絵里は少しばかり語気を強めながらこのように檄を飛ばしていた。

 

「それに、マネージャーである彼は出来てるのに、何故あなたたちは出来ないわけ!?」

 

マネージャーである奏夜が出来ていることを話に出して、絵里はさらに厳しい言葉をぶつけていた。

 

「ぐぬぬ……。何よ。だって、奏夜は……」

 

「にこ先輩!」

 

絵里の厳しい言葉が悔しいのか、にこは奏夜が魔戒騎士であることを言いそうになってしまったのだが、慌てて穂乃果がそれを制していた。

 

しばらくお腹を床に付けられるよう練習を行うのだが、奏夜とことり以外は出来そうもなかったので、次の練習に移ることにした。

 

次に行ったのは筋トレだったのだが、穂乃果たちは腕立てや腹筋。さらに背筋などのトレーニングをなんとかこなしていた。

 

「これくらいは出来て当たり前よ!あと10分!」

 

続けて行われたのは、片足立ちのままポーズをとり、その姿勢を維持するというものであった。

 

これはバランス感覚を鍛えるものであり、体幹がしっかりとしていないと、この体勢を1分と維持することも困難なのである。

 

穂乃果たちはまだ体幹がしっかりしてないからかフラフラだったのだが、奏夜だけはピタッと微動だにしておらず、これにはさすがの絵里も驚いていた。

 

(……!び、微動だにしてない……。この子、体幹はしっかりしてるみたいね……。ダンスが得意と自負するだけのことはあるわ)

 

絵里は、奏夜がダンスが得意と自負しているからこそ、ダンスコーチをしていると思っていた。

 

しかし、基礎はしっかりしているようであり、そう思っていなかった絵里は驚いていたのである。

 

(……あの子、本当にただのマネージャーで、ダンスコーチなの?)

 

僅かな時間ではあったが、絵里は奏夜の運動神経の良さを感じ取っており、その動きがただのマネージャーのものとは思えなかった。

 

(それに、あの子は時々殺気が凄い目をしてる時もあったわよね?本当にただの高校生なの?)

 

そのため、奏夜が本当にただの高校生なのかと疑惑を抱いていた。

 

絵里がそんなことを考えていると、花陽がバランスを崩してしまい、転倒してしまった。

 

「か、かよちん!大丈夫?」

 

「う、うん。大丈夫……」

 

凛がすかさず花陽に手を差し伸べると、花陽はその手を取って立ち上がった。

 

すると……。

 

「……もういいわ。今日はここまで」

 

「「「「「「「え!?」」」」」」」

 

「やっぱりそうなるか……」

 

絵里はここで練習をやめることにしたため、穂乃果たちは驚いていた。

 

しかし、奏夜だけはこの展開を予想していたようである。

 

「ちょっと!何よそれ!」

 

「さっきから、そんな言い方はないんじゃないの!?」

 

絵里の言葉が気に入らなかったのか、にこと真姫は絵里に異議を唱えていた。

 

「私は冷静に判断しただけよ。少しは自分たちの実力がわかったでしょ?」

 

「……っ!そんな言い方!!」

 

「いや、絢瀬先輩の言う通りだ」

 

「ちょっと奏夜!あんな言われ方をして悔しくはないの!?」

 

絵里の言葉に賛同する奏夜が許せないからかにこが異議を唱えるのだが……。

 

「悔しいに決まってるだろ!!」

 

奏夜が苛立ちのあまり声を荒げてしまい、そんな奏夜の剣幕に、穂乃果たちはビクンと肩をすくめていた。

 

「……悪い。だけど、絢瀬先輩の言うことはもっともなんだよ。お前たちの基礎がなっていない以上、これ以上何を教わっても無駄ってことなんだ」

 

「彼の言う通りよ。今度のオープンキャンパスには学校の存続がかかっているの。もし出来ないというのなら早めに言って?時間の無駄だから」

 

絵里の言葉はまるで氷のように冷たいものだったが、誰も絵里の言葉に反論出来るものはいなかった。

 

絵里はそのまま屋上を後にしようとするのだが……。

 

「……待ってください!」

 

穂乃果が絵里を引き止めたため、絵里は足を止めた。

 

すると、奏夜たちは穂乃果を中心に、横一列に並んでいた。

 

「……ありがとうございました!明日もよろしくお願いします!」

 

「「「「「「「お願いします!」」」」」」」

 

穂乃果は絵里がどれだけ厳しい言葉をぶつけてこようが、指導してもらってることを忘れてはおらず、しっかりとお礼を言っていた。

 

自然と奏夜たちは穂乃果に合わせて頭を下げていた。

 

「……っ!」

 

絵里はお礼を言ってもらえるとは思わなかったため、驚きを隠せなかった。

 

その後、何も言うことはなく、屋上を後にしていた。

 

「さてと……。みんな、少し休憩したらさっきの続きをやるぞ!」

 

絵里がいなくなってすぐ、奏夜はこのような提案をしていた。

 

「えぇ!?まだやるの!?」

 

まさか奏夜が先ほどの練習をやるぞと言い出すなど予想していなかったため、にこは不満そうにしていた。

 

「当たり前ですよ!それに、基礎をクリアしないと、俺たちは前に進めない。だからやるんだ」

 

「そーくんの言う通りだよ!とりあえず頑張ってみよう!」

 

穂乃果も奏夜の言葉に賛同しており、他のメンバーも同意していた。

 

こうして、奏夜たちは少しだけ休憩を行った後、練習を再開していた。

 

「……ほらほら!お前ら、気合いを入れろ!」

 

練習を再開した時、奏夜が指導を担当したのだが、先ほどの絵里と負けず劣らずな感じの檄が飛んでいた。

 

「うにゃあ!!気合い入れても出来ないものは出来ないにゃあ!!」

 

凛はお腹を床に付けることができず、このように異議を唱えていたのだが……。

 

「あー!聞こえない!聞こえな〜い!!」

 

奏夜はそんな凛の文句をシャットアウトしていた。

 

そんな奏夜の表情は穏やかなものであり、先日のギスギスとした感じではなかった。

 

「……」

 

奏夜がいつもの奏夜に戻ったことを感じ取った海未は、安堵した表情で奏夜のことを見ていた。

 

すると……。

 

「海未!ボケっとするな!練習はまだ終わってないぞ!!」

 

「は、はい!すいません!」

 

奏夜の檄によって海未はハッとしたのか、すぐに練習に集中していた。

 

しかし……。

 

「……」

 

奏夜のことを考えて怒られてしまったため、それが気に入らず、海未は膨れっ面になりながら練習を行っていた。

 

こうして、奏夜たちは日が落ち始め、奏夜が番犬所に立ち寄る時間まで練習は行われたのであった。

 

今回の練習はいつも以上にハードだったからか、穂乃果たちはバテバテであった。

 

奏夜は早々に番犬所へと向かっていき、それからしばらく経ってから、穂乃果たちも解散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜絵里 side〜

 

 

 

 

 

私の名前は絢瀬絵里。

 

音ノ木坂学院に通う高校3年生で、生徒会長をしているわ。

 

私の通う音ノ木坂学院は今、廃校の危機を迎えているの。

 

今度行われるオープンキャンパスで結果が悪ければ、廃校が本決まりになってしまう。

 

私はなんとか廃校を阻止しなければと思っている。

 

だって、この音ノ木坂学院は私のお婆様が通っていた高校でもあるんだもの……。

 

そんな中、この学校でスクールアイドルをしているμ'sの人たちが私にダンスの指導を依頼してきた。

 

私はスクールアイドルを認めてはいない。

 

だって、バレエをやってきた私にしてみたら、どのグループも素人に見えるんだもの。

 

1番実力のある「A-RISE」でさえも……ね。

 

μ'sのことだって認めてはいないわ。だけど、人気があるのは事実だし、生徒会のメンバーもμ'sのことを推してるみたいだから、引き受けてもいいかなと思ったの。

 

だけど、μ'sは私の思った以上にひどかったわ。だって、基礎がなってないんだもの。

 

マネージャーとダンスコーチをしている如月君は、一体どのような指導をしていたのかしら?

 

私はじっくり練習をしても時間の無駄だと思って練習をやめてしまったけれど、まさか、お礼を言われるなんて思わなかったわ。

 

だけど、今のままじゃオープンキャンパスには間に合わない。

 

あの子たちは、いったいどうするつもりなのかしら?

 

それにしても如月君……。

 

あの子の特技がダンスだというのは、コーチをしてる時点で察していたし、希や他の子からも聞いてはいたけれど……。

 

あそこまで基礎がしっかりしてるとは思わなかったわ。

 

あの動きはダンスじゃないにしても、しっかりと鍛錬を積んだ者の動きだったわよ。

 

本当に……。何者なのかしら……。

 

彼が着ているあのロングコート……。

 

μ'sの初ライブに来ていたあの部外者も似たようなものを着ていたわね……。

 

それにしても不思議よね。あの部外者とは、以前どこかで会ったことがある気がするんだもの。

 

色々と気になることはあるけれど、今は目の前のオープンキャンパスをなんとかしなければ。

 

この日の夜、私はそんなことを考えていた。

 

お風呂に入った後、妹の亜理沙の部屋を通りがかったんだけど、亜理沙はμ'sの動画を楽しんでいるみたいだった。

 

あの子たちのどこを気に入っているのかしら……。

 

「……亜理沙。ちょっと良い?」

 

その真意を確かめるという訳ではないけれど、私は亜理沙の部屋の中へと入っていった。

 

「あっ、お姉ちゃん」

 

「イヤホン。片方だけ貸してくれるかしら?」

 

「うん!」

 

亜理沙は両耳につけてたイヤホンを片方だけ外すと、それを渡してくれたので、私はイヤホンを耳につけて、曲を聴いていた。

 

これは、「これからのSomeday」……だったかしら?

 

「……亜理沙ね。μ'sのライブを見ていると、胸がカァッと熱くなるの。一生懸命で、楽しそうで」

 

なるほど。亜理沙がμ'sに夢中なのはそれが理由なのね。

 

だけど……。

 

「全然なってないわ」

 

「お姉ちゃんと比べたら確かにそうかもしれないけど……。でも、凄く元気がもらえるんだ!」

 

亜理沙は本当にμ'sのことが好きなのね……。

 

私から言わせてもらえばμ'sなんてまだまだだけれど、μ'sのことを語る亜理沙の表情はとても幸せそうなんだもの……。

 

実力はあるとは言えないけれど、これこそがあの子たちの魅力……なのかしら?

 

こうして、私は亜理沙と少しだけ話をしてから部屋を後にして自分の部屋へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

〜三人称 side〜

 

 

 

翌日、この日も昨日同様に柔軟などの基礎練習を行われようとしていた。

 

「さて……。今日も頑張るか……」

 

奏夜は少しでも穂乃果たちの基礎力を上げたいと思っており、気合を入れながら屋上に続く階段を上がっていた。

 

そして、階段を上りきると、屋上のドアの前に絵里が立っており、屋上の様子を伺っていた。

 

「やれやれ……。覗き見ですか?」

 

「あっ……いえ……その……」

 

絵里は屋上に入ることを躊躇っていると思われたくないのかどう答えるか迷っていた。

 

奏夜はそれを見透かしていたため、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「……何よ」

 

「いえ?何でもないですよ」

 

絵里は少しだけムスッとしながらこう言っていたが、奏夜はおどけながら返していた。

 

そうしているうちに、1年生組の3人がやってきた。

 

「……あっ。奏夜先輩に生徒会長……」

 

「よう、3人とも」

 

「……」

 

奏夜は1年生組の3人に軽く挨拶をするが、絵里は挨拶を返さなかった。

 

「ほらほら、2人とも、そんなところに突っ立ってないで、早く行くにゃあ♪」

 

「え?ちょ、ちょっと!」

 

凛は絵里の背中を押して屋上へと移動しており、奏夜たちもそれに続いていた。

 

奏夜たちが屋上の中に入ると、2年生組の3人と、にこがすでに来ており、軽く準備体操を行っていた。

 

「あっ、生徒会長、おはようございます!」

 

「まずは柔軟からですよね?」

 

昨日のきつい練習があったとは思えないほどに穂乃果は明るい挨拶をしており、ことりもまた、明るい表情で練習メニューの確認をしていた。

 

絵里は昨日あれだけきつく指導したのに、それを感じさせない穂乃果たちに驚きを隠せなかった。

 

「……辛くないの?」

 

「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」

 

絵里からの意外な言葉に、奏夜たちは驚いていた。

 

こんなことを言われるとは思わなかったからである。

 

「昨日あれだけやって、今日もまた同じことをするのよ?第一、上手くなるかどうかもわからないのに……」

 

「やりたいからです!」

 

「っ!」

 

「確かに練習はすごくきついです。身体中が痛いです。でも、廃校を何とかしたいという気持ちは、生徒会長にも負けません!」

 

どれだけ練習がきつかろうが、自分たちがもっともっと上手くなって、もっと有名になることで入学希望者を増やしたい。

 

そして、廃校を阻止したいという気持ちを、奏夜たちは強く持っていた。

 

「だから……今日も、よろしくお願いします!」

 

「「「「「「「お願いします!」」」」」」」

 

ここで絵里は、奏夜たちの覚悟が本物だということを理解した。

 

いや、理解はしていたのだが、理解しようとはしていなかった。

 

そんな奏夜たちの本気に触れたことで、絵里は驚きながらもどうして良いかわからず、屋上を出ていってしまった。

 

「生徒会長!」

 

絵里は、穂乃果が引き止めるのを聞かずに、そのままいなくなってしまった。

 

「……みんな。ここは俺に任せてくれないか?」

 

「で、でも、そーくん!」

 

「心配するな。悪いようにはしないさ」

 

奏夜が何をしようとしてるのかわからない穂乃果は、不安そうにしていたのだが、海未は何となく奏夜の狙いを察していた。

 

そのため……。

 

「……わかりました。奏夜、行ってあげてください!」

 

「おう!任せとけ!」

 

海未の言葉に力強く返事をした奏夜は、そのまま屋上を後にすると、絵里を追いかけていった。

 

海未は、奏夜がこのようなことをしていると穂乃果たちに告げると、穂乃果たちは驚きを隠せなかった。

 

反対意見もあったのだが、穂乃果は奏夜を信じているため、肯定的な意見を出していた。

 

そのため、穂乃果たちは後のことを奏夜に任せて、練習を行うことにしたのである。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

「ったく……。どこに行ったんだ?」

 

奏夜は勢いよく飛び出していったのはいいが、絵里がどこにいるのか見当がついていなかった。

 

《やれやれ……。格好つけて飛び出していったのにこの体たらくか……》

 

(うるさいな。わかってるよ)

 

キルバと奏夜はこのような会話をテレパシーで行っていた。

 

奏夜は適当に捜索を始めるのだが、予想以上にすぐ見つけることが出来た。

 

「……!絢瀬先輩と……東條先輩?」

 

絵里の姿を見つけたのだが、どうやら希と何か話をしているようだった。

 

今すぐに顔を出せる状況でもなかったため、奏夜はその場に留まり、2人の話を聞くことにした。

 

「……ウチな。エリチと友達になって、生徒会をやってきて、ずっと思ってたことがあるんや」

 

「希……」

 

「エリチは本当は何がしたいんやろうって」

 

「……!」

 

(なるほど……。確かにそれは興味があるな)

 

希は、絵里が生徒会長としてではなく、絢瀬絵里として何がしたいのかを聞き出そうとしており、奏夜もその話には興味があった。

 

「エリチが頑張るのはいつも誰かのためばっかりで。だから、いつも何かを我慢してるようで、自分のことを全然考えてなくて……」

 

(やっぱり絢瀬先輩は自分より他人を最優先させる人なのか。そこは何となく俺と似ているかもな)

 

奏夜は魔戒騎士として、人間を守るという思いがあるため、いつも自分より他人のために頑張っていた。

 

それは、μ'sのことについても例外ではないのだが……。

 

そして、絵里も自分を犠牲にしてでも他人のために頑張る人であることがわかり、何となく自分と重なる部分があると奏夜は感じていた。

 

「学校を存続させようっていうのも、生徒会長としての義務感やろ?だから理事長は、エリチのことを認めなかったんやと違う?」

 

「……っ」

 

絵里は希の言葉を聞いて何も言い返すことが出来なかった。

 

希の言葉が図星だったからである。

 

(……俺もそう思ってた。あの人はずっと使命感で動いているように見えたからな。だから理事長があんな態度を取ったのかもわかってたよ)

 

奏夜は、理事長と絵里の会話を聞いた時から、このことに気付いていたため、2人の話を聞いて、それが真実であることを確認していた。

 

「エリチの……。エリチの本当にやりたいことは?」

 

「……」

 

希の問いかけを聞き、絵里は何も答えようとはしなかった。

 

そのため、沈黙がその場を支配していた。

 

しばらくの沈黙の後、絵里はようやく口を開いた。

 

「……何よ……。何とかしなきゃいけないんだから、しょうがないじゃない!」

 

絵里の感情は高ぶっており、自分の気持ちをぶつけるべく剣幕を放っていた。

 

「私だって……。好きなことだけやって、それで何とかなるならそうしたいわよ!」

 

絵里は悲痛な表情で本音をぶちまけており、その目には涙が溢れていた。

 

「自分が不器用だってことはわかってる!でも……今さらアイドルを始めようなんて、私が言えると思う?」

 

(絢瀬先輩……)

 

ここで奏夜は、初めて絵里がスクールアイドルをやりたいということを知ったのであった。

 

《奏夜。ここはお前の出番じゃないのか?》

 

(そうだよな)

 

絵里がスクールアイドルをやりたいということを知った以上、これ以上この場で静観していることは出来なかった。

 

そのため……。

 

「やりたいという気持ちがあるのなら、絶対に出来ますよ」

 

「如月君……。あなた……」

 

まさか奏夜が現れるとは思っていなかったため、絵里は驚いており、希は笑みを浮かべていた。

 

「すいません。話は聞かせてもらいました。あなたが本気でアイドルをやりたいというのなら、俺たちと一緒にアイドルをやりませんか?」

 

奏夜はここで絵里に素直になってもらうために、μ'sへの勧誘をしていた。

 

奏夜の勧誘を聞いた絵里であったが……。

 

「……今さらアイドルだなんて、私には出来ないわよ!!」

 

自分の本当の気持ちを押し殺した絵里は、逃げるようにその場を後にしていた。

 

「さてと……」

 

奏夜は絵里を追いかけようとはしておらず、次にどうしようかじっくりと考える素振りをしていた。

 

「如月君。どうするつもりなん?」

 

「そんなこと聞いて……。本当はわかってるくせに」

 

「クスッ、確かにその通りやな」

 

奏夜がこれから何をしようとしているのか希も察しており、希は笑みを浮かべていた。

 

「とりあえず、屋上に行ってみんなを呼びに行きましょう。東條先輩」

 

「その呼び方はちょっと違うんやない?」

 

「へ?」

 

「もうウチのこと、名前で呼んでもいいと思うんや。……奏夜君」

 

「やれやれ……。わかりましたよ。希先輩」

 

「うんうん。よろしい♪」

 

ここでようやく奏夜と希は名前で呼ぶようになり、2人は笑みを浮かべていた。

 

こうして、奏夜と希は1度屋上へ戻ると、穂乃果たちにこれから何をしようとしているのかを伝えていた。

 

しかし、穂乃果たちはそのことを察しているようであり、躊躇することなく奏夜の提案を受け入れていた。

 

そして奏夜たちは、絵里がいると思われる教室へと向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜たちが絵里を探して教室へと向かっている頃、その教室の窓側の席に座り、ぼうっと窓から見える景色を眺めていた。

 

「……私の……やりたいこと……」

 

先ほどは希に対して本音をぶつけてしまった絵里であったが、本当に自分がやりたいことが何なのかを考えていた。

 

「……そんなもの……」

 

そんなものはない。絵里は、自分の気持ちを押し殺そうとしていた。

 

その時、誰かが手を差し伸べていることに気付いた絵里は、その方向を向いた。

 

手を差し伸べてきた人物に驚いていた絵里は、驚きのあまり、目を大きく見開いていた。

 

絵里に手を差し伸べた人物……。それは、穂乃果であった。

 

穂乃果だけではなく、その隣には奏夜もおり、μ'sのメンバーは全員集まっていた。

 

さらに、希の一緒であり、奏夜たちは穏やかな表情で微笑んでいた。

 

「……!あ、あなたたち……」

 

「生徒会長……。いや、絵里先輩。お願いがあります」

 

穂乃果が改まって話を切り出してきたため、絵里は少し驚いており……。

 

「あぁ、練習のこと?だったら、昨日言った課題を……」

 

「まぁまぁ。最後まで穂乃果の話を聞いてやってくださいよ」

 

「如月君……」

 

どうやら穂乃果の話と言うのは、練習のことではないようであり、奏夜は結論を急ぐ絵里をなだめていた。

 

「……絵里先輩。μ'sに入ってください!」

 

「えっ!?」

 

「一緒にμ'sで歌って欲しいです!スクールアイドルとして!」

 

「……」

 

穂乃果の切り出した提案は思いがけないものであるため、絵里は驚きを隠せなかったのだが、それと同時に胸の高まりを感じていた。

 

「なっ……何言っているの?私がそんなことする訳ないでしょ?」

 

絵里はそんな胸の高まりを抑えるように、穂乃果の提案を否定しようとしていた。

 

しかし……。

 

「やれやれ……。あなたもどっかの誰かさんたちみたいに面倒くさい人ですね……」

 

「……何ですって?」

 

奏夜の少しばかり呆れ気味の言葉に絵里はピクッと反応していた。

 

しかし、反応したのは絵里だけではないようで……。

 

「「ちょっと!誰のこと言ってるのよ!」」

 

奏夜の言葉に心当たりがあるからか、真姫とにこが、同時に奏夜へ異議を唱えていた。

 

「……まぁ、あの2人は置いといて……。絢瀬先輩。あなたはスクールアイドルをやりたいんでしょう?あんな本音を聞いちゃった以上、放ってはおけませんよ」

 

「「……」」

 

真姫は、奏夜にスルーされたのが気に入らなかったからか、ジト目で奏夜を睨んでいた。

 

一方にこは、ホラーに襲われた時にその能力で奏夜に自分の本音を引き出されてしまい、そのことが、μ'sに入るきっかけとなった。

 

にこは、その時のことを思い出していたのである。

 

「ちょっと待って!別にやりたいだなんて……。だいたい、私がアイドルだなんておかしいでしょう?」

 

「俺はそんなことはないと思いますけどね」

 

「……何でそう思うの?」

 

「だって、絢瀬先輩は美人だし、あなたみたいな人がμ'sに入れば、新たなファンも増えそうですしね」

 

「……っ!?か、からかわないでちょうだい……!////」

 

奏夜のストレートな言葉に恥ずかしくなったのか、絵里は顔を真っ赤にしていた。

 

(……なるほど。絢瀬先輩は意外とからかい甲斐があるのかもな)

 

顔を赤くして恥ずかしがる絵里を見た時、奏夜は新たな一面を垣間見て、笑みを浮かべていた。

 

《……おい、奏夜。感心してる場合じゃないぞ》

 

(えっ?それはどういう……。って!!?)

 

奏夜がキルバの言葉の意味に気付いた時は既に手遅れであり、穂乃果たちがジト目で奏夜を睨みつけていた。

 

「……そーくん……。見損なったよ……」

 

「あなたが誰彼構わず口説く人間だとは思いませんでした……」

 

「そーくんはもう、ことりのおやつにしちゃうしかないよね?」

 

「そーや先輩!チャラ男だにゃ!!」

 

「天然のチャラ男……。タチが悪いです!」

 

「あなたって本当に見境がないわね」

 

「まさかウチのマネージャーがここまでのチャラ男だったとはね……」

 

「これは……。またワシワシマックスでお仕置きかな?」

 

穂乃果たちは口々と絵里を口説くような発言をした奏夜を非難していた。

 

それに何故か希も参加しており、お仕置きする気満々であった。

 

「おい!ちょっと待て!俺はただ容姿を褒めただけで他意はないぞ!何でそこまで非難されるんだよ!」

 

奏夜は口説くつもりで言った訳ではなく、必死に弁解をしていた。

 

「それに、今はそんな話をしてる場合じゃないだろ!?」

 

今は奏夜を責めるのではなく、絵里をμ'sに勧誘することが最優先であることを奏夜は主張していた。

 

「……確かにそうやな。それに、やってみたらええんやない?」

 

「希……」

 

「特に理由なんて必要ない。やりたいからやってみる。本当にやりたいことって……。そんな感じで始まるんやない?」

 

希の言葉に、奏夜たちは穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「……本当に……。本当にいいの?私がアイドルだなんて……」

 

「くどいですよ。絢瀬先輩……。いや、絵里先輩。さっきも希先輩が言ってたけど、本当にやりたいことがあるなら、ややこしいことなんて考える必要なんてないんですよ」

 

「……如月君……」

 

奏夜は絵里のことを名前で呼んでおり、そのことに絵里自身が驚いていた。

 

「それに、俺たちμ'sは、あなたのことを心から歓迎しますよ」

 

「……ありがとう……。奏夜君……。いや、奏夜……」

 

絵里は穏やかな表情で笑みを浮かべると、海未は絵里の加入が嬉しいのか、絵里の両肩を掴んでスキンシップを取っていた。

 

そして、穂乃果は再び絵里に手を差し伸べると、絵里は迷うことなくその手を取っていた。

 

そして、ゆっくりと立ち上がると、穏やかな表情で奏夜たちのことを見ていた。

 

この瞬間、生徒会長である絢瀬絵里が、μ'sに加入したのである。

 

「……絵里さん……!」

 

「これで、8人だね!」

 

「いや、9人や。ウチも入れてな」

 

絵里が加入して、μ'sのメンバーが8人になったと喜んでいた穂乃果とことりであったが、希もμ'sに入ることを伝えており、穂乃果たちは驚きを隠せなかった。

 

「えっ、希先輩も!?」

 

「……希先輩。あなたならそう言ってくれるって思ってましたよ」

 

奏夜だけは、希もμ'sに加入することを、予想していたのであった。

 

今まで希は奏夜たちのことを支えてくれたため、何かのきっかけがあれば、μ'sに入ってくれると確信していたからである。

 

そのきっかけが、絵里の加入なのだが……。

 

希がμ'sに入ろうと思っているのはそれだけが理由ではなかった。

 

「占いに出てたんや。このグループは、9人になった時、未来が開けるって……。だから付けたんや。9人の歌の女神……。「μ's」って……」

 

どうやら「μ's」という名前を付けたのは希であり、そのことに穂乃果たちは驚いていた。

 

μ'sは、メンバーが9人になった時こそ真価を発揮するとのことだったので、希はμ'sへの加入を決意したのである。

 

「やれやれ……。そんなこったろうと思いましたよ……」

 

前から「μ's」と名前を付けたのは誰なのか?という話が出たことはあったのだが、その正体は分からずじまいだった。

 

しかし、奏夜は何となく察していたが、証拠はなかったため、そのことを追求はしなかった。

 

結果的には予想通りだったため、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「あれ?だけど、そーくんを入れたら、9人じゃなくて10人になるような……」

 

穂乃果の指摘通り、マネージャーである奏夜も頭数に入れてしまったら、μ'sは10人となるため、占いの意味がなくなってしまうのである。

 

「……占いはさらに続いてたんや。9人の女神には、それを守護する騎士がいれば、さらに未来は輝くって……」

 

「なるほど……。騎士ね」

 

自分が魔戒騎士であるため、占いの騎士という言葉にしっくり来ていた。

 

「……言うならば、9人の女神と光の騎士って感じやろな」

 

「9人の女神と……」

 

「光の騎士……」

 

(やれやれ……。光の騎士って、まんま俺のことを指してる言葉だな……)

 

陽光騎士の称号を受け継ぐ奏夜にしてみたら、光の騎士というのはおあつらえ向きな表現であった。

 

「……まったく……。呆れるわ……」

 

どうやら希は全てを見越してこのグループの名前を「μ's」と名付けており、絵里は苦笑いしていた。

 

そして、絵里は穏やかな表情を浮かべながら、どこかへ移動しようとしていた。

 

「……?絵里先輩、どこに行くんですか?」

 

「決まってるでしょ?……練習よ!」

 

このように言い放つ絵里の表情は厳しい表情ではなく、とても晴れやかな表情であった。

 

そんな絵里の表情を見た奏夜たちは穏やかな表情を浮かべていた。

 

「そういうことなら、みんな、練習に行こうぜ!」

 

そんな絵里を見て、奏夜はこう提案をしていた。

 

しかし、穂乃果は……。

 

「……そーくん。練習が終わったら、たっぷりとお話させてもらうからね」

 

どうやら穂乃果は先ほど奏夜の言っていた絵里を口説くような言葉を覚えており、そこらへんのことを追求しようとしていた。

 

それには他のメンバーも同様であるため、ウンウンと頷いていた。

 

(……あれ?これってなんかやばい感じじゃね?)

 

《やれやれ……。思ったことをすぐに言うお前の癖が仇になったな》

 

奏夜は思ったことをすぐに言ってしまうことがあり、今回もそれが出た結果、このような発言をしていたのであった。

 

このままではお仕置きは必至のため、奏夜は冷や汗をかいていた。

 

「……あー……。みんな、俺はちょっと用事を思い出したから、後は頑張れよ……」

 

奏夜はお仕置きを避けるために、一刻も早くその場から離れようとしたのだが……。

 

「……そーくん、嘘だよね?」

 

ことりは、奏夜のそんな嘘を見抜いていた。

 

「アハハ……。馬鹿だなぁ……。俺が嘘だなんて……」

 

「それが嘘だってことはカードを使わなくてもわかるんよ」

 

どうやら、希はカードを使うまでもなく、奏夜の嘘を見抜いていたようだった。

 

「……みんな!そーくんを連行するよ!」

 

「そうですね。奏夜、覚悟していてください」

 

「そーや先輩!覚悟するにゃ!」

 

穂乃果たちは逃げようとする奏夜を捕まえて、そのまま屋上まで引きずっていった。

 

「……ちょっ……まっ……!?だ、ダレカタスケテー!!」

 

「チョットマッテテー!じゃなくて!それは私の台詞なのに!」

 

どうやら花陽は、奏夜の言った台詞が気に入らなかったようであった。

 

「……クスッ……。随分と賑やかな人たちね……」

 

絵里は、奏夜たちのやり取りに一瞬唖然とするが、絵里は笑みを浮かべていた。

 

(……絵里先輩。いい笑顔で笑えるじゃないか)

 

奏夜は、絵里の笑顔を初めて見たため、その笑顔を見ることが出来たのが嬉しかった。

 

しかし……。

 

《……おい、奏夜。そんなことを言っている場合か?》

 

(!そうだったぁ!!)

 

奏夜は、穂乃果たちに引きずられていることを思い出し、顔を真っ青にしていた。

 

そんな奏夜たちと共に屋上へ向かっている絵里は、制服に隠している牙のような形をしたネックレスに触れていた。

 

(……お婆さま。私は、私のやりたい方法で、音ノ木坂を救ってみせます!だから、見守っていてくださいね!)

 

そのネックレスは、絵里の祖母から譲り受けたものであり、絵里はそのネックレスに思いを込めていた。

 

しかし、奏夜たちは知らなかった。

 

絵里のつけているこのネックレスを巡り、壮絶な戦いが始まろうとしていることを……。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『μ'sが9人になり、活動を始めたのはいいが、まさかあんな奴が現れるとはな……。次回、「魔獣」。奏夜。油断するなよ!』

 

 




μ'sがついに9人になりました。

絵里をμ'sに誘った時から、既にデレの片鱗が出ていましたね。これからどうなることやら……。

奏夜も無意識のまま絵里を口説くような発言をしたせいで、またお仕置きを受けてしまいましたね(笑)

これからもこんな感じのやり取りが増えていきそうです。

それにしても、28話にして、μ'sが9人揃いました。本当に長かった……。

しかし、この章はまだ終わりではありません。

次回は予告で察することが出来ると思いますが、一波乱がおきます。

絵里のネックレスの件は、そのフラグとなっています。

その一波乱とは?そして、奏夜たちを待ち受けるものとは?

それでは、次回をお楽しみに!



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第29話 「魔獣」

お待たせしました!第29話になります。

まだ活動報告は出していませんが、この作品のUAが10000を越えました。

これだけ多くの人に読んでもらい、とても嬉しく思っています。

UA10000記念に番外編を投稿しようと思っていますが、どんな作品にするのは、近々投稿する活動報告をご覧下さい。

さて、今回は物語が大きく動きます。

奏夜たちを待ち受ける運命とは?

それでは、第29話をどうぞ!




……ここは秋葉原某所にある今は使われていないビル。

 

このビルの最上階の一室に、銀髪で背の高い男が座っており、椅子に座って窓から見える景色を眺めていた。

 

「……ふん。人間どもは呑気だな……。無駄な日常を過ごしやがって」

 

男は、窓から見える人間の日常を見ながらこのように呟いていた。

 

すると……。

 

「……ジンガ様。飲み物の用意が出来ました」

 

黒の長髪に、黒の法衣のようなものを身に付けた女性が現れると、ジンガと呼んだ男の前にワインボトルとワイングラスを置いていた。

 

「おう。悪いな、アミリ」

 

女性はどうやらアミリという名前のようであり、ジンガはグラスにワインを注ぐと、ワインを飲み始めた。

 

「アミリ。お前もどうだ?」

 

「いえ……。私は……。失礼します」

 

アミリはジンガからの提案を断ると、そのままその場を離れていった。

 

「やれやれ……。あいつは真面目だな。ま、そこが良いところではあるがな」

 

このアミリという女性は、どうやらジンガの侍女をしているようだった。

 

ジンガがワインを飲みながら窓から見える景色を眺めていたその時だった。

 

「……ジンガ様」

 

アミリと入れ違いで、60代くらいの壮年の男が入ってきた。

 

「おう、尊士(そんし)か。例の件はどうなった?」

 

「ハッ……。魔竜の眼はまだ見つかっておりませんが、魔竜の牙ならば、行方を見つけました」

 

「そうか……。ま、魔龍の眼は俺の方でも探してみるさ。それにしても、こんなに早く魔龍の牙を見つけるとは、流石は尊士だな」

 

「ハッ……。お褒めに預かり、光栄です」

 

どうやらこの壮年の男は、尊士という名前のようであり、彼はジンガの右腕として動いている人物だった。

 

「それで、魔竜の牙はどこにあるんだ?」

 

「ハッ。魔竜の牙があるのは音ノ木坂学院……。その学校の生徒会長なる者が持っていることを突き止めました」

 

「音ノ木坂……。あぁ、あのガキが通っている廃校寸前の学校だったか?まさか、その学校に通う人間が持っているとはな……」

 

「それに、その女は最近あの未熟な魔戒騎士と行動を共にしていることが多いようです」

 

「なるほどな。だったら、あのガキに挨拶も兼ねて、可能であれば魔竜の牙を奪ってくるんだ」

 

「ハッ!ジンガ様の崇高なる目的のために!」

 

このように尊士はジンガに頭を下げると、そのままどこかへと姿を消したのであった。

 

「さて……。あのガキのお手並みを拝見させてもらうとするか……」

 

どうやらジンガは尊士を奏夜と戦わせるみたいであり、その戦いを静観しようと考えていた。

 

ジンガは空になったグラスにワインを注ぐと、ワインを飲みながら窓から見える景色を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

μ'sのメンバーが9人になってから、1週間が経過していた。

 

絵里と希がμ'sに加入してから、練習の内容が大きく変わり、厳しさはあったものの、穂乃果たちは日を追うごとにそれをこなしていた。

 

オープンキャンパスまであと1週間を切っており、奏夜たちの練習にも自然と熱が入る。

 

穂乃果たちはこの頃には、絵里の課題をこなせるようになっており、最初は体が固かった凛も、お腹を床につけるようには出来なくても、それもあと一息のところまで来ていた。

 

さらに、バランス感覚を鍛えるトレーニングも、全員がそれをこなせるようになっていたのである。

 

そして、この日からは振り付けの練習が行われていた。

 

振り付けを考えるのはことり、奏夜、絵里が行い、実際に指導をするのは奏夜が引き受けていた。

 

とは言っても、所々で絵里にアドバイスをもらってはいたのだが……。

 

この日の練習も気合十分にこなしていた奏夜たちは、日が暮れるまで練習を行っていた。

 

「……はい、みんな」

 

練習を終えて、喉が渇いていると思われる穂乃果たちに、奏夜はスポーツドリンクを差し出していた。

 

「ありがとぉ、そーくん♪」

 

「あっ、まだ冷たいですね」

 

「さすがそーくん♪気が利くね♪」

 

「まぁ、これくらいはな」

 

こう言いながら、奏夜はスポーツドリンクを全員に配っていた。

 

「……はい、絵里先輩」

 

「ありがとう、奏夜」

 

絵里は奏夜からスポーツドリンクを受け取ると、穏やかな表情で礼を言っていた。

 

絵里はμ'sに加入してから、以前のように険しい表情をすることはなくなり、丸くなったように感じられた。

 

そのため、絵里が奏夜たちと打ち解けるのに、それほど時間はかからなかった。

 

奏夜からスポーツドリンクを受け取った絵里はすぐにそれを飲んでいたのだが、奏夜はあるものが気になっていた。

 

「……あれ?絵里先輩。その首にぶら下げるものは何ですか?」

 

「あぁ、これ?」

 

絵里は牙のような装飾のネックレスを身につけており、それが気になっていたのである。

 

奏夜の発言に気付いた穂乃果たちも、絵里のネックレスを見ていた。

 

「……凄い綺麗……」

 

「確かに。凄く絵里先輩に似合っています」

 

「……ありがとう。このネックレスは、私が音ノ木坂学院に入学した時に、お婆さまから頂いたのよ」

 

絵里のネックレスを、穂乃果と海未が褒めていたのだが、絵里は少しだけ頬を赤らめながら、このネックレスの説明をしていた。

 

「そういえばそんな話を言ってた気がするなぁ」

 

絵里とはμ's加入前から友人である希は、絵里からネックレスの話を聞いたことがあった。

 

「確か、絵里先輩のお婆さんってロシアの人だって言ってましたよね?」

 

「えぇ。奏夜と海未にはこの前話したけれど、祖母はロシア人なの。だけどお婆さまはこの音ノ木坂学院の卒業生で、このネックレスも、お婆さまが在学中に譲り受けたものらしいわ」

 

「へぇ……」

 

絵里の祖母がロシア人だということと、絵里の祖母も音ノ木坂学院の卒業生だということを知り、感心していた。

 

《……おい、奏夜。あのお嬢ちゃんの付けてるネックレスだが、妙な力を感じるぞ》

 

(!?それってまさか、ホラーの?)

 

《そこまでは俺にもわからん。だが、調べてみた方が良いのは間違いなさそうだ》

 

キルバは、絵里の付けているネックレスから力のようなものを感じたのだが、それが何なのかまではわかっていなかった。

 

「……?どうしたの?奏夜」

 

奏夜がジッとネックレスを凝視していたため、絵里は首を傾げていた。

 

「絵里先輩。あなたのお婆さんは、誰からそのネックレスを譲り受けたんですか?」

 

「さぁ……。そこはわからないわ。お婆さまに聞いたことはあるけど、お婆さまもその記憶が曖昧みたいで……。妙なコートを着てたとか着てないとか……」

 

(……!?妙なコートってまさか……!)

 

《恐らく魔戒騎士か魔戒法師だろうな。だが、魔戒騎士でも魔戒法師でもない奴に妙なものを託すとは思えないのだがな》

 

(そうだよな……。そこは疑問なんだよ。それに、力の正体が気になるし……)

 

《近いうちに、上手いこと理由をつけてそれを預かって番犬所で調査してもらうしかないだろうな》

 

(ま、それが1番無難だよな)

 

絵里のつけているネックレスには色々と謎が多いため、何かが起きる前に絵里からネックレスを預かり、調査をしようと考えていた。

 

「……?奏夜?」

 

「へ?い、いや!なんでもないですよ!」

 

絵里のネックレスをジッと眺める奏夜に絵里は首を傾げていたが、奏夜が慌てて話を誤魔化そうとしていた。

 

「ねぇねぇ。練習も終わったことだし、良かったらみんなで◯ックに行かない?」

 

奏夜のことをフォローする狙いがあるのかどうかはわからないが、穂乃果がこのような提案をしていた。

 

「お、いいね!行きたいにゃ!」

 

「うん!私も!」

 

「ま、私も別に構わないわ」

 

「にこも、行こうって考えてたし、構わないわよ」

 

穂乃果の提案に1年生組と、にこがすぐに賛同していた。

 

「私も、みんなが行くのであれば構いませんよ」

 

「ことりも行きたい♪」

 

そして、海未とことりもどうやら賛成のようだった。

 

「その店って、ハンバーガー……よね?私、行ったことがないのだけれど」

 

どうやら絵里は、1度もファストフード店に入ったことはないようだった。

 

「それならなおさらええやん。一緒に行こう♪」

 

そのため絵里は不安がっていたのだが、そんな絵里を希がフォローしていた。

 

「そーくんはどう?」

 

「そうだな……」

 

奏夜は、番犬所からの呼び出しが来ることを考えて、すぐに返事が出来なかった。

 

《ま、いいんじゃないのか?たまにはな》

 

今からファストフード店に行くことに、キルバは特に反対はしていなかった。

 

そのため……。

 

「あぁ。俺も行こうかな」

 

奏夜もファストフード店に行くことを了承していた。

 

「よーし!そうと決まれば、着替えを終えたらみんなで行こう!」

 

こうして、奏夜たちは練習の労を労うために、ファストフード店へ立ち寄ることになった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

着替えを済ませた奏夜たちは、秋葉原某所にあるファストフード店に到着した。

 

この店は、奏夜たちがよく訪れる場所であり、μ'sの今後についての打ち合わせをここで行ったこともある。

 

「……ここが、ファストフード店……」

 

絵里はこのような店には初めて入るため、少しばかり緊張していた。

 

「……絵里先輩。本当に初めてなんですね……」

 

「な、何よ。仕方ないじゃない。本当に行ったことがないのだから……」

 

奏夜は絵里の緊張ぶりに驚いていたのだが、絵里は唇を尖らせながらむすっとしていた。

 

「俺が注文の仕方を教えますから、一緒に行きましょう」

 

「……あっ、ありがとう……」

 

奏夜がエスコートしてくれるとわかると、絵里は頬を少し赤らめると、奏夜と一緒に商品の注文へ向かっていった。

 

「むー……!何かいい雰囲気だね、あの2人……」

 

「確かに。この前まであれだけぶつかっていたとは思いません」

 

「そーくんは絵里先輩みたいな人がタイプなのかなぁ……」

 

絵里と2人で注文している姿が気に入らないのか、穂乃果は膨れっ面になっており、海未とことりはジト目で奏夜を見ていた。

 

「あらあら。エリチと奏夜君、良い雰囲気やん♪」

 

そして希は、そんな2人を見てニヤニヤとしていた。

 

残りのメンバーはそこまで嫉妬する様子もなく、2人の様子を眺めていた。

 

奏夜はまずお手本を見せるようにハンバーガーの注文を行い、絵里はそんな奏夜の様子を見ながら見よう見まねで注文を行っていた。

 

そして全員が注文を済ませると、10人が座れそうな席を確保してから、各々がハンバーガーを食べ始めていた。

 

穂乃果と凛は満面の笑みを浮かべながらハンバーガーを頬張っていたのだが、絵里は不安そうな表情で2人とハンバーガーを見比べていた。

 

そして、絵里は覚悟を決めてハンバーガーを一口だけ頬張ってみた。

 

すると……。

 

「……!ハラショー……!」

 

予想以上にハンバーガーが美味しかったからか、絵里は頬を赤らめながらロシア語が飛び出していた。

 

「希!ハンバーガーって凄く美味しいわね!」

 

どうやら絵里は一口食べただけでハンバーガーが気に入ったようであり、希に同意を求めようとしていた。

 

「……」

 

しかし希は、何故かハンバーガーに念を込めており、絵里はそんな希に驚愕していた。

 

「アハハ……。何やってんだか……」

 

奏夜は、そんな希の様子を見て、苦笑いをしていた。

 

こうして10人では初めてとなる食事会は始まり、奏夜たちは互いに親交を深めていった。

 

絵里と希は、μ'sに加入してからまだ日は浅いが、それを感じさせない程に奏夜たちと打ち解けていった。

 

こうして、10人での食事会は、最初から最後まで賑わったまま幕を閉じた。

 

「……いやぁ、美味しかったねぇ♪」

 

10人での食事は終わり、奏夜たちはファストフード店を後にしたのだが、その時、既に外は暗くなっていた。

 

「それにしても、ずいぶんと遅くなってしまいましたね……」

 

「それだけ盛り上がったって訳だよ♪」

 

外が暗くなっていることに海未は不安そうな声をあげており、ことりはそこまで気にしている様子はなかった。

 

「明日も練習はあるんだし、今日は早く帰りましょ」

 

「そうだね。あまり遅いと明日の練習に響いちゃうし……」

 

「凛はもうちょっと遊んでからでもいいんだけどにゃ」

 

「私も同じよ。このまま帰るだなんてもったいないじゃない」

 

どうやら凛とにこは、もうちょっと遊びたいようであり、そのことを主張していた。

 

「おいおい。あまり帰りが遅いと、明日起きるのに苦労するぞ」

 

「そうね。オープンキャンパスまであとわずかだし、今日のところは帰りましょう」

 

「ウチもそれには賛成や」

 

奏夜と絵里がその意見に待ったをかけたことで、遊ぶ話はなかったことになりそうになっていた。

 

「それなら仕方ないよねぇ」

 

「わかったわよ……」

 

凛とにこも渋々納得しており、奏夜たちはこのまま解散しようとしていた。

 

その時だった。

 

「……お前が絢瀬絵里だな?音ノ木坂学院生徒会長の」

 

60代前半くらいの壮年の男が奏夜たちの前に現れると、絵里に対してこう言っていた。

 

「そうですけど、何の用ですか?」

 

いきなり現れた壮年の男に、絵里の視線が鋭くなっていた。

 

警戒している証である。

 

「お前自体に用はない。私に用があるのは、お前のつけているそのネックレスなのだからな」

 

「!!」

 

「こいつ……!」

 

どうやら男は絵里のネックレスを狙っているようであり、絵里は驚きを隠せず、奏夜の視線は鋭くなっていた。

 

「渡す気がないのなら、力づくで奪うまでだ」

 

男は、力づくで絵里のネックレスを奪おうとしており、格闘戦の構えをとっていた。

 

「……絵里先輩!逃げるぞ!」

 

「えっ?ちょっと!奏夜!?」

 

奏夜は絵里の手を強引に取ると、どこかへと移動し、男から逃げていた。

 

「ちょっ!?そーくん!?」

 

奏夜が絵里を連れて逃げるのを見て、穂乃果たちも慌てて奏夜を追いかけていった。

 

「……逃がしませんよ」

 

このように呟いた男は、上空に大きくジャンプをすると、奏夜たちの追跡を行っていた。

 

奏夜は絵里を連れて逃げていたのだが、特に目的地を決めていた訳ではなく、気付けば秋葉原某所にある今は使われていない廃工場の前に来ていた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……。ここまで来れば、さっきの人は追ってこないんじゃないの?」

 

「いや、恐らくは、追いつくのも時間の問題だろう」

 

「そうなの?いったい何なんなのよ、あの人は……」

 

「さぁな……。だけど、やばい奴だってことだけは理解出来るぞ」

 

奏夜があの男を見たのは僅かであったが、ホラー以上に厄介な存在であることは肌で感じ取っていた。

 

「ところで絵里先輩。本当にネックレスの正体に心当たりはないんですか?」

 

「ないわよ!私だって、あんな人に狙われるだなんて思わなかったわ」

 

「そうだな……。だけど、絵里先輩は俺が守ります。安心してください」

 

「!そ、そう……?////」

 

奏夜のストレートな言葉を聞いて恥ずかしくなったのか、絵里は頬を赤らめていた。

 

そのようなことを話していたその時だった。

 

「……やっと追いつきました。逃がしませんよ!」

 

上空から男が飛んでくると、奏夜と絵里の目の前に現れた。

 

「絵里先輩!隠れててください!」

 

「わ、わかったわ!」

 

奏夜がこのように促すと、絵里は素直に言うことを聞き、安全な場所で奏夜の戦いを見守っていた。

 

「貴様……。何者だ!」

 

「私の名前は尊士。今ハッキリ言えることは……。あなたの敵だということです!」

 

こう言い放った男……尊士は、奏夜が動き出すよりも早く奏夜に接近すると、蹴りを叩き込み、奏夜を吹き飛ばした。

 

「奏夜!」

 

いきなり尊士の先制攻撃を受けたのを見た絵里は、思わず声をあげていた。

 

「くっ……!この……!」

 

吹き飛ばされた奏夜はすぐに体勢を立て直すと、反撃を行うべく尊士に接近し、拳による攻撃を仕掛けようとしたのだが、それよりも尊士の拳の方が早かった。

 

さらに、尊士の一撃は重く、奏夜は痛みのあまり表情を歪めていた。

 

「くっ……。このぉ!!」

 

奏夜は怯まずに蹴りを放とうとするが、尊士はそんな奏夜の蹴りを受け流すと、2度、3度と奏夜の顔面に蹴りを叩き込み、さらに強力な蹴りを放った奏夜を吹き飛ばした。

 

その一撃により、奏夜は少し離れたところにある複数のドラム缶に突っ込んでいった。

 

「くっ……!」

 

奏夜はどうにか立ち上がるのだが、ここまでで相手に一撃も与えることができず、焦りの表情を見せていた。

 

「……!そーくん!!」

 

ちょうど奏夜が吹き飛ばされたタイミングで穂乃果たちが合流したのだが、穂乃果はそんな奏夜を見て駆け寄ろうとした。

 

「……!ダメだ!来るな!!こいつは普通じゃない!!」

 

奏夜は穂乃果たちを近付けさせないよう警告すると、魔戒剣を抜き、尊士を睨みつけていた。

 

「!?け、剣!?何で奏夜はあんな物騒なものを持っているのよ!?」

 

奏夜がいきなり剣を手にするとは思わなかったからか、絵里は驚きを隠せずにいた。

 

「そーくんが魔戒剣を使わなきゃいけないってことは……」

 

「まさか……ホラー!?」

 

奏夜が魔戒剣を抜いたのを見た穂乃果とことりは、尊士の正体がホラーではないかと疑っていた。

 

「ホラー?いったい何のことなの?」

 

「エリチ。その説明は後でしたる。だけど、あの男はただ者ではないようやで」

 

唯一ホラーや魔戒騎士の秘密を知らない絵里であったが、その説明は後で行うことにした。

 

そんな中、希は尊士から感じる只ならぬ気配に、不安を覚えていた。

 

希自体、ホラーとの戦いを見たのは1度だけだったが、尊士から放たれる気配は、希の見たホラーとは比べ物にならないからである。

 

(……奏夜君……)

 

希が心配そうに奏夜を眺めているのを見て、穂乃果たちまで不安になっていた。

 

そんなことなど気にする余裕はなく、魔戒剣を手に、尊士に向かっていった。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

奏夜は渾身の力を込めて魔戒剣を一閃するのだが、それを尊士に軽々とかわされてしまった。

 

魔戒剣を一閃したことで前傾姿勢になった奏夜の頭上に、尊士はかかと落としを叩き込み、その一撃で奏夜は地面に倒れ込み、すかさず尊士が蹴りを叩き込んでいた。

 

「くっ……!このぉ!!」

 

奏夜はすぐに立ち上がると、魔戒剣を振るったり、拳を放ったりと攻撃を仕掛けるのだが、尊士はそんな奏夜の攻撃を全て受け流していた。

 

そして、隙だらけになった奏夜に再び蹴りを叩き込むと、奏夜を吹き飛ばしていた。

 

「ぐぁっ!!」

 

「はぁぁぁ……!」

 

奏夜に蹴りを叩き込んだ尊士は、このように気合をいれながら格闘戦の構えをしていた。

 

「そ、そんな……!あの奏夜が手も足も出ないなんて……!」

 

奏夜の強さを知っている海未は、そんな奏夜が一方的にやられているのを見て、絶望に近い感情を抱いていた。

 

「奏夜先輩!頑張って!」

 

「そーや先輩!負けるな!!」

 

そんな中、花陽と凛の2人は、奏夜に声援を送っていた。

 

「やれやれ……。うらやましい限りですね……。スクールアイドル……だったか?どうせ廃校になる学校のために無駄な努力をするとはな……」

 

尊士はどうやら奏夜や絵里だけのことだけではなく、μ'sのことや、音ノ木坂学院が廃校になることも調べ上げていたようであり、このような言葉を送っていた。

 

無駄な努力。この言葉を聞いた時、奏夜の中で何かが切れてしまった。

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

穂乃果たちの努力を知っている奏夜は、それを馬鹿にする尊士の言葉が許せず激昂していた。

 

そして、怒りに心が支配されたまま尊士に接近し、攻撃を仕掛けるのだが、そんな攻撃が尊士には通用しなかった。

 

「やれやれ……。この程度の言葉で激昂するとは、魔戒騎士といえど、所詮は子供だな」

 

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

奏夜は魔戒剣を一閃するのだが、尊士は奏夜の一撃を受け止めると、奏夜が魔戒剣を手にしている腕に攻撃を叩き込み、奏夜の魔戒剣を叩き落としていた。

 

そして、顔面に蹴りを放つと、奏夜を吹き飛ばしていた。

 

「ぐぁっ……!」

 

尊士の連続攻撃が効いてきたのか、奏夜は膝をついていたのだが、尊士はそんな奏夜を気にすることなく、地面に落ちた魔戒剣を手にしようとした。

 

魔戒剣はソウルメタルで作られているため、誰もが扱える代物ではなかった。

 

しかし、尊士は魔戒剣を軽々と手にしていたのである。

 

「!?う、嘘だろ……!?」

 

尊士が魔戒剣を持ったことに奏夜は驚いており、そのことにより、怒りの感情は消え去っていた。

 

怒りよりも驚きの方が優っていたからである。

 

「こんな小僧が魔戒騎士とは……。最近の魔戒騎士は地に落ちたもんだな」

 

尊士はこう言い放つと、手にしていた魔戒剣を奏夜の方に投げていた。

 

奏夜が魔戒剣を手にしたとしても、自分の敵ではないと感じていたからである。

 

「くそっ!このぉ!」

 

奏夜は尊士に嘗められていることが気に入らず、魔戒剣を手にして、尊士に向かおうとしたのだが……。

 

『奏夜!冷静になれ!!じゃないと、倒せる相手も倒せないぞ!』

 

「わかってる!」

 

奏夜はキルバのアドバイスを一応聞いてはいたのだが、それを聞き入れるつもりはないようだった。

 

「!?ゆ、指輪が喋った!?」

 

絵里は、キルバが喋るとは思わなかったからか、驚きを隠せなかった。

 

そんな中、穂乃果たちはそんな絵里を一切フォローすることなく、奏夜の戦いを見守っていた。

 

「あの奏夜がここまでやられるなんて……。あの男、化け物過ぎじゃないのよ……!」

 

「さすがの奏夜でも、あいつには勝てないんじゃ……」

 

「勝てるよ!私はそーくんを信じてるもん!」

 

真姫とにこが、奏夜と尊士の実力差に悲観的な意見を出す中、穂乃果だけは奏夜のことを信じていた。

 

「ほう……。この状態で私に勝てるとあの小娘はほざいてますが、本当に私に勝てると思っているのか?」

 

「負けない……!負けてたまるか!俺はあいつらを守る騎士なんだ……!こんなところで……負けてたまるか!」

 

奏夜は未だに一撃すら与えられていない状況でも、諦めておらず、尊士を倒すことを本気で考えていた。

 

「それは面白い。ならば打ち破ってみるがいい。この私をな!!」

 

「やってやるよ……!お前の目的は知らんけど、俺はお前を倒して、みんなを守る!」

 

穂乃果たちを守る。

 

その気持ちが奏夜に火をつけたようであり、奏夜は魔戒剣を構えると、再び尊士に向かっていった。

 

「その心意気は良し。だが……」

 

奏夜は魔戒剣を一閃するが、やはり尊士に受け止められてしまい、顔面に連続で蹴りを受けてしまった。

 

「くっ……!」

 

「所詮は無能な魔戒騎士。私の敵ではない」

 

奏夜の心意気は買った尊士ではあったが、それでも自分を倒すには未熟すぎると思っていた。

 

尊士は強力な蹴りを浴びせると、奏夜を吹き飛ばしたのだが、奏夜は瓦礫の山の中に叩きつけられた。

 

「くっ……!まだまだ……!」

 

奏夜の体はあちこちにダメージが残っていたのだが、奏夜はなんとか立ち上がり、魔戒剣を構えていた。

 

「ほう。これだけやられてまだ立つか。その根性だけは認めよう。だが、それもここまでだ。お前を完膚なきまでに叩きのめしてやる!」

 

尊士はこれ以上奏夜を迎撃するのも飽きてきたからか、奏夜が立ち上がれないように一気に決着をつけようとしていた。

 

尊士は精神集中させると、人間の姿から、この世のものとは思えない怪物……ホラーの姿へと変わっていった。

 

尊士がホラーの姿に変わったその時である。

 

「……!!?」

 

絵里はホラーの姿となった尊士を見た瞬間、何かを思い出したのか、目を大きく見開いていた。

 

「……え、エリチ!?どうしたの!?」

 

「絵里先輩!?」

 

そんな絵里を見て、希と穂乃果が心配そうに声をあげるのだが、絵里は眠っていた記憶を一気に思い出しており、頭を抱えていた。

 

それがしばらく続くと……。

 

「……そう。私はあの怪物のようなものを見たことがあるわ……」

 

どうやら絵里は過去にホラーに襲われたことがあるようであり、その時にホラーに関する記憶を失ったみたいだった。

 

しかし、ホラーである尊士を見たことにより、その時の記憶を取り戻してしまったようである。

 

「それにしても、あの怪物は何なの?それに奏夜。あなたは……いったい……」

 

「エリチ。あの怪物はな。人を喰らう魔獣ホラーや」

 

「それに、そーくんは……」

 

「そんなホラーから人を守る……」

 

「魔戒騎士なんだよ!」

 

希、ことり、海未、穂乃果は、ホラーや魔戒騎士についての説明を簡単に説明していた。

 

「ホラー……魔戒……騎士……」

 

どうやら絵里は記憶を失う前にホラーや魔戒騎士の名前を聞いてなかったようであり、初めて聞く単語に首を傾げていた。

 

「それに、μ'sのファーストライブに来ていたあの赤いコートの人……。彼が私を助けてくれたんだわ……」

 

「!?まさか、絵里先輩を助けた人って……」

 

「統夜さん……なんですね……」

 

どうやら絵里をホラーから救ったのは奏夜の先輩騎士である統夜であり、その事実に穂乃果と海未は驚いていた。

 

「統夜さんと初めて会った時、何か用事があるって言ってたし、用事ってそれのことなのかも?」

 

ことりは統夜と初めて会った時のことを思い出しており、統夜の言っていた用事というのがホラー退治なのではないかと推測していた。

 

穂乃果たちがこのような会話をしているとは知らず、奏夜はホラーの姿となった尊士と対峙していた。

 

人間の姿の時でも尊士の放つオーラはかなりのものであったが、ホラーの姿となった尊士のオーラはそれ以上であり、奏夜はそんな尊士に気圧されそうになっていた。

 

(……!こいつ……!とんでもねぇ殺気だ!こいつは統夜さんと同じ……いや、それ以上か……?)

 

尊士の放つオーラが統夜以上ではないかと予想していた奏夜は、尊士に少しだけ恐怖の感情を抱いていた。

 

そんな奏夜を見ていた穂乃果は……。

 

「……っ!そーくん!!そんな奴に負けちゃダメだよ!」

 

と、穂乃果は奏夜にエールを送っていた。

 

穂乃果のエールを聞いた瞬間、奏夜はハッとしていた。

 

(そうだ……!相手が誰だろうと関係ない!俺はみんなを守らなきゃいけないんだ!こんなところでやられてたまるかよ!)

 

穂乃果たちを守る。

 

自分が1番したいことを思い出した奏夜は、尊士に対して抱いていた恐怖の感情を振り切っていた。

 

「ほぉ……。自らを奮い立たせるとは、あの9人は君にとっては特別な存在みたいだな。だが、それでも私の敵ではない!」

 

尊士は、自ら恐怖を乗り切った奏夜を評価をしていたものの、それでも奏夜を蹂躙するつもりだった。

 

「俺はお前を倒す!お前の陰我を断ち切ってな!」

 

奏夜は尊士に対してこう宣言すると、魔戒剣を高く突き上げると、円を描いた。

 

その部分だけ空間が変化すると、奏夜はそこから放たれる光に包まれた。

 

その空間から牙狼とは異なる黄金の鎧が現れると、奏夜は黄金の鎧を身に纏った。

 

こうして奏夜は、陽光騎士輝狼の鎧を身に纏った。

 

「黄金の……鎧……」

 

絵里は奏夜の身に纏う鎧を初めて見たからか、目を大きく見開いて驚いていた。

 

初めて奏夜の鎧を見て、絵里が驚く中、奏夜は魔戒剣が変化した陽光剣を手に、尊士に向かっていった。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

奏夜は気合を込めて陽光剣を振るうのだが、それを軽々と尊士に受け止められてしまった。

 

「なっ……!?」

 

「やはり無能な魔戒騎士か……。私の敵ではない!」

 

奏夜の一撃を受け止めた尊士は、奏夜の腹部に拳を叩き込んだ。

 

「ぐっ……!」

 

その一撃は重く、奏夜は怯んでしまい、そこから尊士は連続で掌底を放ち、奏夜を吹き飛ばした。

 

「ぐぁっ!!」

 

吹き飛ばされた奏夜はすぐに体勢を立て直すものの、ダメージはかなり蓄積されており、動きは鈍っていた。

 

「……どうした?もう終わりか?」

 

「まっ……まだまだぁ!!」

 

奏夜は気力で尊士に向かっていき、攻撃を仕掛けるのだが、満身創痍の状態で尊士に攻撃が届くはずもなく、軽々と攻撃をかわされてしまい、反撃として顔面に連続で蹴りを受けてしまった。

 

そして、尊士は奏夜の腹部に蹴りを叩き込み、奏夜は吹き飛ばされると、先ほど崩れた瓦礫の山のところまで吹き飛ばされてしまった。

 

「そーくん!」

 

鎧を召還しても一方的にやられている奏夜を見て、穂乃果が思わず声をあげていた。

 

「そんな……。鎧を着た状態でも敵わないなんて……」

 

「そーくん……」

 

海未とことりは、奏夜が鎧を着た状態でも尊士に一撃すら与えれないこの状況に絶句していた。

 

今までの奏夜はホラー相手に苦戦をしていたとしても、どうにかホラーを倒し続けていたからである。

 

「あいつ、化け物過ぎじゃない?」

 

「確かに。あの奏夜が一撃すら与えれないなんて……」

 

にこと真姫の2人は、尊士の圧倒的な戦闘能力に驚愕していた。

 

「大丈夫だよ!奏夜先輩なら!」

 

「そうにゃそうにゃ!そーや先輩はそう簡単に負けないのにゃ!」

 

「そうやで!奏夜君ならきっと……!」

 

花陽、凛、希の3人は、こんな状況ではあるものの、奏夜は負けないと信じていた。

 

「奏夜……!頑張って……!」

 

そして絵里も、心から奏夜のことを応援していた。

 

「そうだ……。俺はこんなところで負けない!負けてたまるか……!」

 

奏夜もまた、尊士に一撃すら与えれず焦りを見せてはいたものの、未だに諦めてはおらず、尊士を倒そうと本気で考えていた。

 

『……奏夜!奴の実力は思い知っただろ?真っ正面から突っ込んでも勝てないぞ!』

 

「んなことはわかってるよ!したらどうすりゃいいんだよ!」

 

『奴を撹乱して攻撃するしかないだろ。そうすれば多少は隙が出来るハズだ』

 

「……それしか方法はないかもな……!」

 

奏夜は、ここまで追い込まれた状況だったため、キルバのアドバイスを素直に聞き入れていた。

 

「……魔導輪との相談は終わりましたか?」

 

奏夜とキルバが話している間、攻撃する隙はあったのだが、尊士はあえて攻撃を加えなかったのである。

 

奏夜が何か仕掛けてくることを予想した尊士は、それを防ぐべく奏夜に向かっていった。

 

『……奏夜!今だ!!』

 

「おうよ!!」

 

奏夜は近くに落ちていた瓦礫の一部を拾うと、それを尊士に向けて投げつけたのだが、尊士は無駄な足掻きといいたげな感じでそれを叩き落としていた。

 

その時である。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

奏夜は獣のような咆哮をあげながら陽光剣を地面に突き刺し、自分の体を中心に円を描いていた。

 

その時に土埃が舞うと、それが尊士の視界を遮っていた。

 

「目くらましですか……。姑息な真似を!」

 

尊士はすぐに土埃を払うのだが、土埃がなくなったその時、奏夜は姿を消していたのである。

 

「なるほど……。少しは考えたみたいですね……」

 

さっきの瓦礫と土埃は、奏夜が姿を消すための囮であり、どこからか奏夜が仕掛けてくることを尊士は予想していた。

 

尊士は格闘戦の構えを取ると、奏夜がどこから現れてもいいように備えていた。

 

そして……。

 

「……そこだ!」

 

尊士の背後に奏夜が現れると、陽光剣を一閃しようとしていた。

 

しかし……。

 

「甘いですよ!!」

 

尊士は奏夜の攻撃を呼んでいたため、顔面に強力な拳を叩き込んだ。

 

それをまともに受けた奏夜であったが……。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

奏夜は渾身の力を込めて陽光剣を振り抜くと、ここでようやく尊士に一太刀を浴びせることが出来た。

 

「……くっ……!」

 

まさかここで攻撃を受けるとは思わなかったからか、尊士は一瞬だけ表情を歪めていた。

 

ようやく尊士に一太刀浴びせたのを見た穂乃果たちの表情は明るくなっていた。

 

しかし、奏夜は先ほどの一撃に全ての力を込めていたため、次の攻撃を出すことなく膝をついてしまった。

 

「……追撃出来んとは、まだまだだな!」

 

尊士は隙だらけの奏夜に蹴りを叩き込むと、奏夜は吹き飛ばされてしまい、その衝撃で鎧が解除されてしまった。

 

「うっ……!くっ……!」

 

鎧が解除されてしまった奏夜は、膝をついた状態でどうにか立ち上がろうとしたのだが、もはや立ち上がる気力すらなかった。

 

「……この私に一太刀を浴びせるとは……。そこだけは褒めてあげましょう。だが……」

 

尊士は精神を集中させると、自らの武器であると思われる剣を呼び出し、その剣を構えていた。

 

「……貴様は我が主の計画の邪魔になるかもしれない。ここで芽を摘ませてもらおうか」

 

尊士は剣を手にした状態でゆっくりと奏夜に向かっていった。

 

「やめて!お願い!!」

 

このままでは奏夜が殺されてしまう。

 

そう感じ取った穂乃果は悲痛な表情で訴えかけるが、尊士は聞く耳を持たなかった。

 

「あなたが欲しいのはこのネックレスでしょ!?こんなものくれてやるわ!だから、奏夜を助けなさい!!」

 

絵里は、奏夜を救うために祖母から貰ったネックレスを差し出そうと考えていた。

 

「ダメだ……。絵里先輩……。そいつを奴に渡したら……」

 

「だけど、このままじゃあなたが殺されてしまうわ!私たちμ'sはあなたを失いたくないのよ!!」

 

絵里は悲痛な表情で奏夜に訴えかけており、そんな絵里の言葉に穂乃果たちは無言で頷いていた。

 

「ほう……。殊勝な心がけだな。そういことならネックレスはいただいていく。だが、こいつを生かしておく訳にはいかないな」

 

「!?そ、そんな……!」

 

尊士は最初から奏夜を殺して絵里のネックレスを奪おうと考えていた。

 

「くっ……!」

 

奏夜はどうにか抵抗を試みるために立ち上がろうとするが、体が言うことを聞かず、膝をついたまま立ち上がることは出来なかった。

 

そんな中、尊士の剣は奏夜の喉元まで迫っていた。

 

「……さらばだ。未熟な魔戒騎士よ」

 

「……っ!」

 

尊士は奏夜にトドメを刺すべく剣を振り上げていた。

 

奏夜は抵抗することが出来ず、息を呑んでいた。

 

ここにいる誰もが奏夜の死を覚悟してしまい、その瞬間を見たくないからか目を閉じていた。

 

尊士の剣が奏夜の首元目掛けて振り下ろされようとしたその時だった。

 

「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

叫び声と共に、赤いコートの青年が現れると、尊士の腹部に蹴りを叩き込み、尊士を吹き飛ばした。

 

「……!と、統夜……さん?」

 

間一髪のところで、奏夜の危機を救ったのは、奏夜の先輩騎士である月影統夜だった。

 

「よう、奏夜。遅くなって悪かったな」

 

「統夜さん……。あなたがどうしてここへ?」

 

奏夜が統夜に対してこのような問いかけをしたその時だった。

 

「奏夜!無事か!?」

 

統夜だけではなく、リンドウもこの場に現れ、奏夜に駆け寄っていた。

 

「リンドウ!?あんたも来てくれたのか!」

 

統夜とリンドウ。2人の先輩騎士が自分の危機に来てくれるとは思わなかったからか、奏夜は喜びを表していた。

 

それは奏夜だけではないようであり……。

 

「そーくん……良かった……」

 

穂乃果たちもまた、奏夜が救われたことを喜んでいた。

 

「ちっ……!月影統夜と天宮リンドウか……。この2人を同時に相手にするのは流石の私でも骨が折れるな……」

 

尊士は統夜やリンドウの情報も何故か知っており、このようなことを言って2人の実力を評価していた。

 

「……リンドウ!こいつは相当厄介な相手みたいだ。ここで奴を叩くぞ!」

 

「おうよ!任せろ!統夜!」

 

統夜とリンドウは完膚なきまでに叩きのめされた奏夜の代わりに、ここで尊士を倒そうと考えていた。

 

2人は同時に魔戒剣を抜くと、そのまま尊士に攻撃を仕掛けようとしたのだが……。

 

「……ここは退け!尊士!!」

 

どこからか声が聞こえてくると、どこからか衝撃波が放たれると、奏夜、統夜、リンドウの3人は吹き飛ばされてしまった。

 

「「「くっ……!」」」

 

統夜とリンドウは体勢を立て直し、奏夜はすぐには体勢を立て直せなかったが、どうにた立ち上がることは出来た。

 

「……何者だ!」

 

統夜は鋭い視線で、衝撃波が起こった方向を見ていた。

 

すると、彼らの前に、銀髪で長身の男が現れた。

 

「!ジンガ様!」

 

奏夜たちの前に現れたのは、尊士が忠誠を誓っているジンガという男であった。

 

「貴様……。何者だ!」

 

「俺の名はジンガ。ま、それだけわかればいいだろ」

 

ジンガは自分の名前は明かしたのだが、それ以外は明かそうとはしなかった。

 

「今日お前らの前に現れたのは挨拶を兼ねてと思ってな。ついでに魔竜の牙を手に入れたかったが、思わぬ邪魔が入ったみたいだしな」

 

「魔竜の牙?いったい何のことよ!」

 

尊士がネックレスを狙っていたが、それが何かまでは説明していなかったため、ジンガの不可解な言葉に絵里の言葉も荒くなっていた。

 

「何だ、お前。誰からそれをもらったかは知らんが、そんなことも知らないんだな」

 

絵里も絵里の祖母もどうやらこのネックレスの正体は知らないようであり、そのことを知ったジンガは呆れ果てていた。

 

「そいつはな。強大な力を持つ魔竜ホラー、「ニーズヘッグ」の牙なんだよ」

 

「魔竜ホラー、ニーズヘッグ……!?」

 

どうやら絵里のネックレスはホラーの一部であるようであり、そのことを知った奏夜は驚いていた。

 

そして、それは奏夜だけではないようであり……。

 

「そんな……。お婆さまからもらったネックレスが、そんなものだなんて……」

 

絵里はネックレスの正体を知り、驚きと共に少しだけショックを受けていた。

 

それと共に、祖母が何故そんなものをお守りだと持っていたのかという疑問を抱いていた。

 

「正確に言えば、魔竜ホラー、ニーズヘッグの一部だ。奴の復活にはその魔竜の牙と、2つの魔竜の眼が必要なんだ」

 

統夜はニーズヘッグについて調べていたからか、このように説明を行っていた。

 

「そいつの言う通りだ。魔竜の眼はまだ見つかっていないが、こんな近くに魔竜の牙があるとは思わなかったぜ」

 

「お前らはニーズヘッグを復活させるつもりだろ?だったら、なおさらそいつを渡す訳にはいかない!」

 

統夜とリンドウは魔戒剣を構えると、ジンガを睨みつけていた。

 

「焦るなよ。言ったろ?今日は挨拶だって。今日のところは退いてやる。だが、魔竜の眼を見つけたら、そいつをいただくぜ。ま、せいぜい頑張ってそいつを守るんだな」

 

どうやらジンガは今日のところは魔竜の牙の回収を諦め、また改めて奪おうと考えていた。

 

「尊士、退くぞ」

 

「ハッ!」

 

ジンガと尊士は、その場を離れようとしていた。

 

しかし……。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

奏夜は魔戒剣を手に尊士の方へと突っ込んでいった。

 

「!奏夜、よせ!!」

 

奏夜は魔戒剣を一閃するのだが、尊士の背中から大きな羽根が生えると、飛翔するかたちで攻撃をかわし、ジンガを抱えて何処かへと飛び去っていった。

 

ジンガと尊士がいなくなったことを確認した統夜とリンドウは、魔戒剣を鞘に納めると、魔戒剣を魔法衣の裏地の中にしまっていた。

 

「やれやれ……。助かったな」

 

「そうだな。今の状態でまともにやり合えば、無事でいられたかどうか……」

 

もしここでジンガが本気で攻めていたらどうなっていたかと考えていたからか、統夜の顔は青ざめていた。

 

ジンガと尊士がそれだけの実力者であるということである。

 

そんな中、奏夜は魔戒剣をしまうことなく、その場で膝をついていた。

 

そして……。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

尊士に全く歯が立たなかった奏夜の慟哭が、その場を包み込んでいた。

 

「そーくん……」

 

穂乃果は、今の奏夜に何て声をかければいいのかわからなかった。

 

そんな中、奏夜をそっとしておいた統夜とリンドウは穂乃果たちのもとへと歩み寄っていた。

 

「お前たち、大丈夫だったか?」

 

「は、はい。助けていただき、ありがとうございます」

 

「気にするな。それよりもみんなが無事でなによりだよ」

 

穂乃果たち9人に危害はなかったため、統夜はそのことに安堵していた、

 

そんな中、絵里は……。

 

「あなただったんですね……。いつぞやか、私と妹がホラーに襲われたところを助けてくれたのは」

 

「やれやれ……。どうやら記憶を取り戻したみたいだな」

 

統夜はファーストライブの時は絵里のことを忘れていたのだが、その後に思い出していたのである。

 

「ま、お前の記憶を消したのは俺の弟だけどな」

 

「あの……あなたは?」

 

「俺は天宮リンドウ。あの2人と同じ魔戒騎士だ」

 

「あなたも、魔戒騎士なんですね」

 

「ま、俺はあいつらよりも経験は積んでるけどな」

 

リンドウは飄々と答えながら煙草を取り出し、煙草に火を付けようとしていたのだが……。

 

「ちょっと!未成年がいる前で煙草はやめてください!」

 

躊躇なき煙草を吸おうとするリンドウを睨みつけながら、絵里は注意をしていた。

 

「へいへい……。わぁったよ」

 

リンドウは唇を尖らせながら煙草をしまっていた。

 

「それよりも、わかっただろ?お前の付けてるネックレスがどのようなものかということが」

 

「えぇ……。未だに信じられないけど、驚いてます。まさか、このネックレスがそんな危険なものだなんて」

 

「そのネックレスを君が持っている限り、奴らはまた君を狙うだろう。君の身の安全を守るためにもそのネックレスを俺に預けてくれないか?」

 

統夜は、ジンガや尊士が再び絵里を襲撃することを予想し、それを防ぐために絵里のネックレスを統夜が預かろうと提案をしていた。

 

「……そうね……。お婆さまから預かったものだから、誰かに預けるのは少し気が引けるけど……。仕方ないわね……」

 

絵里はネックレスを渡すことを躊躇していたが、自分が狙われるかもしれないと知り、ネックレスを統夜に渡そうとしていた。

 

すると……。

 

「……ちょっと待ってください!」

 

フラフラの状態の奏夜が、ネックレスを渡そうとする絵里を制止していた。

 

「……奏夜?どうしたんだ?」

 

「そのネックレスですけど……。俺に預からせてください!」

 

「そ、そーくん!?」

 

奏夜のまさかの提案に、穂乃果は驚きを隠せなかった。

 

そんな中……。

 

「……悪いけど、俺は反対だ」

 

統夜は真剣な表情で奏夜の提案を拒否していた。

 

「!?どうしてですか?」

 

「お前がそのネックレスを持つということは、また奴らと戦わなきゃいけないってことだぞ」

 

『ハッキリ言わせてもらうが、お前さんはあの尊士とかいう男に手も足も出なかったんだろ?お前さんみたいな未熟な魔戒騎士がそいつを持っていても易々と奴らに奪われるのが目に見えてるぜ』

 

「っ……!」

 

統夜の魔導輪であるイルバからの厳しい言葉に、奏夜は何も言い返すことが出来なかった。

 

「そんな言い方はしなくてもいいじゃない!!」

 

「そうにゃそうにゃ!そーや先輩がかわいそうだにゃ!」

 

イルバのハッキリとした物言いが気に入らなかったからか、真姫と凛が異議を唱えていた。

 

『いや、俺もあいつと同じ意見だ。未熟な奏夜に預けるより、実力も実績もある統夜に預けた方が確実だし、奴らも迂闊には手を出せまい』

 

「そんな!キルバまで!」

 

キルバも同じ魔導輪であるイルバの意見に賛同しており、そんなキルバに、花陽が異議を唱えていた。

 

「悪いが、俺も奏夜の擁護は出来ないぜ。俺は奏夜の実力は買ってはいるが、今のままじゃ間違いなく奴らに殺されるだろうからな」

 

奏夜の実力を認めているリンドウですら、尊士との実力差を感じ取っていたため、奏夜にネックレスを預けることには反対だった。

 

まさか、リンドウにも反対されるとは思わなかったため、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「……奏夜。これでわかっただろ?俺はお前の気持ちは理解してるつもりだが、今回ばかりはさすがに相手が悪すぎる。だから……」

 

「だからこそです!」

 

奏夜は、先輩騎士に反対されても、絵里のネックレスを預かるということを譲ろうとはしなかった。

 

「絵里先輩のネックレスを守るということは、絵里先輩を……。みんなを守るってことなんです!いくら統夜さんやリンドウと言えど譲れません!」

 

「奏夜……」

 

μ'sのみんなを守りたい。

 

その思いを強く思っていた奏夜は、いくら尊士との実力差が大きかろうと、絵里のネックレスを守るということを譲ろうとはしなかった。

 

「それに……。ネックレスを預かるのは自分への誓いでもあるんです。今度こそあいつを倒してみせると」

 

尊士に完膚なきまでに叩きのめされた奏夜であったが、今よりも強くなり、今度こそ尊士を倒すという誓いを立て、ネックレスを預かるという大任を引き受けたいと考えていた。

 

「……」

 

奏夜の誓いを聞いた統夜は、険しい表情で考え事をしていた。

 

すると……。

 

「……奏夜。このネックレスはあなたに託すわ」

 

絵里は身につけていたネックレスを外すと、それを奏夜に手渡していた。

 

「……そうだな。そこまで言うんだったら、お前に任せるぞ」

 

そして、統夜は絵里が奏夜にネックレスを渡したことに反対はしなかった。

 

「おい、統夜。本気か!?」

 

『リンドウのいう通りだ。お前さんだって今の奏夜にそいつを預けるのは荷が重いと思っていただろうが』

 

「確かにな。だけど俺はみんなを守りたいという奏夜の気持ちに共感してるんだよ。俺だってそうなんだから……」

 

「統夜さん……」

 

白銀騎士奏狼の称号を持つ統夜は、高校生の時からずっと大切な仲間である軽音部のみんなを守りたいという思いで戦っていた。

 

その気持ちこそ、守りし者とは何なのかということを統夜に学ばせたのである。

 

奏夜にとっては、今がその時であると感じていた統夜は、荷が重いと思いながらもあえて奏夜に託そうと考えたのであった。

 

『俺はやはり反対だ。まだまだ未熟な奏夜にそんな大任は任せられないだろう』

 

奏夜の相棒として共に戦ってきたキルバは、この大任を引き受けるべきではないと強く思っていた。

 

『僕はやらせてあげても良いと思いますけどね。強い想いというのは力になる。それは統夜やリンドウだってわかっているでしょう?』

 

リンドウの魔導輪であるレンは、どうやら最初から奏夜にネックレスを預けることには賛成だったようだった。

 

「……確かにその通りだよな」

 

レンの言葉を聞き、リンドウは納得したようであった。

 

「……奏夜。そこまで言うのなら、全力で守ってみせろ。μ'sのみんなも、そして、魔竜の牙もな」

 

「……わかりました。任せてください」

 

このように答える奏夜の顔は、先ほどのダメージが残っているためボロボロだったが、凛々しさもあり、力強い表情をしていた。

 

『ったく……。どうなっても知らないからな』

 

『まったくだ』

 

今でも賛同出来ないイルバとキルバは、呆れながらもこう答えていた。

 

こうして、奏夜は絵里から預かったネックレス……魔竜の牙を、魔法衣の裏地の中にしまっていた。

 

「さて、番犬所への報告は俺とリンドウに任せろ。お前はゆっくり体を休めるんだ。オープンキャンパスも近いだろ?」

 

統夜はオープンキャンパスの話を事前に聞いていたため、奏夜を気遣って体を休ませようとしていた。

 

「え?ですが……」

 

「気にするな。俺は元老院からの指令で動いてるからどのみち番犬所と元老院に報告しないといけないしな」

 

「それに、統夜はしばらくはここに留まるんだろ?」

 

「まぁ、恐らくはそうなるだろうな」

 

どうやら統夜は番犬所と元老院に報告した後、翡翠の番犬所の管轄に留まることが予想された。

 

不穏な動きを見せている黒幕が秋葉原に潜伏していると思われているからである。

 

「そういう訳で、お前はゆっくり体を休めろよ。じゃないと、μ'sのみんなも心配で練習どころじゃないだろうからな」

 

統夜は穂乃果たちのことも気遣っており、穂乃果たちは心配そうな表情で奏夜を見ていた。

 

「……ま、そういう訳だ。後は若いもんに任せて俺たちは行こうぜ、統夜」

 

「おいおい、その発言は年寄りくさいぞ、リンドウ……」

 

統夜はリンドウの年寄りくさい言葉に呆れながらも、リンドウと共にその場を立ち去り、この場には奏夜たちだけが残されていた。

 

「……そーくん、大丈夫なの?」

 

穂乃果たちは奏夜に駆け寄り、全員を代表して、穂乃果が奏夜の身を案じる発言をしていた。

 

「……大丈夫だ。俺なら……。くっ!」

 

奏夜は大丈夫と言い切ろうとしたのだが、尊士から受けたダメージがかなり残っているからか、表情を歪ませていた。

 

「奏夜!全然大丈夫ではないじゃないですか!」

 

「心配すんな。これくらい、1日寝れば……。くっ……!」

 

奏夜はどうにか平静を保とうとしたが、やはりダメージが大きく、表情を歪ませていた。

 

「奏夜。今からウチの病院に行くわよ」

 

「大丈夫だって言ってるだろ?これくらい……」

 

「ダメよ!肋骨が折れてる可能性だってあるじゃない!ここは大人しくいうことを聞いて!」

 

「真姫の言う通りよ。オープンキャンパスだって近いし、あなたには万全の状態で見守ってほしいの。私たちのことを」

 

真姫は今から奏夜を西木野総合病院へと連れて行こうとしており、絵里もそんな真姫に賛同していた。

 

「そうだよ!だってそーくんがそんな怪我をしてちゃ、ことりたちも練習に集中出来ないよ!」

 

「そうです!だから今日のところは治療を受けて下さい!」

 

「言っておくけど、あんたに拒否権はないわよ。奏夜」

 

「そうにゃそうにゃ!怪我は早く治さないとダメにゃ!」

 

「カードも言うとるよ。今は休むべしってね」

 

穂乃果たちも奏夜には病院へ行ってほしいと思っており、希に至っては得意の占いを使ってまで、奏夜を治療させようとしていた。

 

「……わかったよ。ここは真姫の顔を立てて治療はするが、入院はするつもりはないからな」

 

奏夜はこのまま家に帰りたいと思っていたが、渋々真姫の提案を受け入れることにした。

 

しかし、治療を受けるだけで、入院だけは断固拒否していたのである。

 

「ダメよ!入院が必要ならちゃんと入院しなさい!」

 

真姫はそんな奏夜にこう言っているが、奏夜はそれを聞こうとはしなかった。

 

奏夜は穂乃果と海未に抱えられた状態で移動し、残りのメンバーはそんな奏夜を心配そうに見守っていた。

 

人通りの多いところまで移動したところで、真姫は院長をしている父親にホラーに関することを伏せて事情を説明すると、すぐに救急車を手配してくれた。

 

およそ10分後、西木野総合病院の救急車が到着すると、奏夜はその救急車に乗り込み、真姫は付き添いとして同行することになった。

 

他のメンバーも同行を希望したものの、ここは院長の娘である真姫に任せることにして、この日は解散となった。

 

こうして、オープンキャンパスを間近に控えた奏夜たちにとって、あまりに長い1日が終わろうとしていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ……。あんなことがあったとはいえ、どうにかこの日を迎えることが出来たな。後はお前たち次第だからな!次回、「開校」。今こそ輝け!9人の女神よ!!』

 

 




原作キャラ登場(味方とは言っていない)。そんな状況になってしまいましたね(笑)

奏夜は手も足も出すことが出来ず尊士に完敗しました。

マジで尊士が強すぎる……。

さらに黒幕があのジンガなため、奏夜は勝てるのだろうか……?

アミリもちらっと登場しましたが、原作のジンガとアミリは夫婦でした。

しかし、今作の2人は主人と使用人といった感じだったため、「牙狼 炎の刻印」のメンドーサとオクタヴィアに近い関係になっています。

それにしても、絵里が加入し、一気にデレ化が進みましたね。

まさしくKKE!

絵里が物語の重要な鍵を握っていたのですが、ヒロインは穂乃果の予定なので、絵里がヒロインになることはあるのか?

ちなみに、今回話が出ていたニーズヘッグというホラーですが、某ゲームの設定を参考にさせてもらいました。

もちろん一部は変えているのですが……。

さて、次回はいよいよオープンキャンパス。次回がμ's結成編の最終回となります。

オープンキャンパスで、奏夜たちを待ち受けるものとは?

それでは、次回をお楽しみに!





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第30話 「開校」

お待たせしました!第30話になります。

ゴールデンウィークになりましたね。とは言っても、仕事仕事でお休みはないんですけど……。

休みの日にFF14とこの小説の執筆を頑張ろうと思っています。

さて、今回はいよいよオープンキャンパスです。

オープンキャンパスで奏夜たちを待ち受けているものとは?

それでは、第30話をどうぞ!




μ'sのメンバーが9人となり、オープンキャンパスまで1週間を切っていた。

 

そんな中、奏夜たちは尊士と名乗る強大な力を持ったホラーが現れ、奏夜は穂乃果たちを守るために戦った。

 

しかし、尊士はかなり強く、奏夜は手も足も出すことが出来ず、一撃を与えるだけでやっとだった。

 

そんな奏夜の危機に、統夜とリンドウが現れて奏夜を救うのだが、奏夜たちの目の前に、ジンガと呼ばれる男が現れる。

 

ジンガと尊士は、絵里のネックレスを狙っているのだが、そのネックレスは、なんと魔竜ホラー、ニーズヘッグの牙であった。

 

ジンガはこのニーズヘッグと呼ばれるホラーを復活させようと企んでおり、その力が封印された牙を狙っているのである。

 

ジンガと尊士はすぐに退いたため、奏夜たちはどうにか無事だったのだが、これから壮絶な戦いが繰り広げられることは奏夜も統夜も予想することは出来た。

 

そんな中、奏夜は真姫と共に救急車にて西木野総合病院へと連れていかれ、治療を受けることとなった。

 

奏夜が治療を受けている頃、統夜とリンドウは、番犬所へと向かい、ロデルにジンガや尊士の存在と、ジンガの目的を報告していた。

 

「……なるほど、魔竜ホラー、ニーズヘッグですか……」

 

「……はい。あのジンガという男は、恐らくニーズヘッグを復活させ、人界を灰にしようとしているのでしょう」

 

「そういえば、ニーズヘッグの力は強大で、この世界全てを灰に変えてしまう程の力を持っているんだったよな?」

 

「あぁ。だからこそ、ニーズヘッグの復活は絶対に阻止しなきゃいけない……!」

 

このように語る統夜の表情は、使命感に満ちていた。

 

「それにしても、あの奏夜が完膚なきまでに叩きのめされるとは……」

 

ロデルは、奏夜が尊士に完敗したことも聞いており、驚きを隠せなかった。

 

「奏夜だって強くなっているとは思いますが、それだけ尊士という男が手強いってことですね。俺だってまともにやり合って倒せるかどうか……」

 

魔戒騎士として経験を積んできた統夜でさえ、尊士と戦い、倒し切ることが出来るかどうか自信がなかった。

 

「それで、例の魔竜の牙は、現在奏夜が持っているということですね?」

 

「はい。あいつならきっとこの障害を乗り越えてくれる。そう信じておりますので」

 

「そうですね……。私も奏夜を信じるとしましょう」

 

ロデルが奏夜のことを信じたところで、ロデルへの報告は終了した。

 

「それでは、俺は今から元老院に向かいます。グレス様にもこのことを報告しなければいけませんし」

 

「頼みましたよ、統夜」

 

「はい。失礼します」

 

統夜はロデルとリンドウに一礼をすると、番犬所を後にして、そのまま元老院へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

一方奏夜は、西木野総合病院に連れられ、治療を受けていた。

 

尊士により強力な攻撃を連続で叩き込まれたからか、肋骨が2本ほど折れており、内臓も少しだけダメージを受けていた。

 

この状態であれば入院するよう医師にも言われた奏夜だったが、入院することを拒否していた。

 

しかし、真姫が奏夜の説得を続けた結果、この日1日だけならと病院に留まることを了承していた。

 

こうして奏夜は、1日だけ西木野総合病院に入院することになってしまった。

 

翌日になると、奏夜の受けた傷はほとんど癒えており、医師や看護師を驚かせていた。

 

本来なら1日で治る傷ではないからである。

 

奏夜は魔戒騎士であるため、このようなダメージの自然治癒力も普通の人以上であるため、ここまで回復が早いのであった。

 

そんな奏夜に驚いた医師は奏夜の検査を徹底的に行っていた。

 

しかし、身体の異常は確認されず、奏夜の強い念押しによって、奏夜は退院することになった。

 

奏夜はなるべく早く退院したいと思っていたが、検査を行っていたため、奏夜が西木野総合病院を後にしたのは、ちょうど放課後になるかならないかの時間であった。

 

奏夜は急いで学校へと向かうのだが、その時はすでに放課後になっていたため、下校する生徒もちらほらと出てきていた。

 

玄関に入り、奏夜はまっすぐ屋上へと向かおうとするのだが……。

 

「……あれ?奏夜君?」

 

奏夜とは同じクラスであるヒフミトリオの3人が奏夜の姿を見つけたからか、声をかけていた。

 

「奏夜君、大丈夫なの?怪我をして病院へ行くから今日は休むって言ってたけど……」

 

どうやら穂乃果たちが奏夜が今日休んだ理由をこう言ってくれていたみたいであり、奏夜はそのことがありがたいと思っていた。

 

「まぁ、怪我っていってもそんなにたいしたことはないんだけど、みんなが病院に行け行けうるさいから今日はとりあえず病院に行ったって訳だよ」

 

「アハハ……。いったいどんな怪我をしたっていうのさ……」

 

奏夜の顔に治療したと思われる絆創膏が貼られていたため、怪我をしたことは信じていたものの、怪我の程度がわからないため、ヒフミトリオの1人であるミカは苦笑いをしていた。

 

「ま、とりあえずオープンキャンパスも近いんだ。ゆっくりは休んでられないって訳だよ」

 

奏夜はオープンキャンパスの練習を行うため、どんな怪我だろうと練習だけは休む訳にはいかないと思っていた。

 

「そういう訳だから、またな!」

 

奏夜はヒフミトリオの3人に別れの挨拶をすると、そのまま屋上へと向かっていった。

 

奏夜が屋上に着いた時には、穂乃果たちはすでに準備運動を終えたところであった。

 

「……!そ、そーくん!?大丈夫なの!?」

 

昨日はかなりのダメージを受けていた奏夜が、何事もなかったかのように現れたため、穂乃果たちは驚きを隠せずにいた。

 

「まぁな。俺は魔戒騎士だからな。あれくらいの傷なら一晩寝れば治るさ」

 

奏夜の言葉には嘘はないようであり、本当に一晩で傷は癒えていたのである。

 

「私はゆっくり入院してなさいって念押しをしたんだけどね……」

 

真姫は奏夜と病院に行った時からゆっくり入院しろと言っていたが、奏夜はそれを聞き入れようとは思っていなかったのである。

 

「そうもいかんだろ。オープンキャンパスは今度の日曜なんだ。ゆっくり休んでいる暇はないだろ」

 

「ダンスだったら私や海未も見れるのだから、もうちょっと体を休めていても良かったのに……」

 

「そうも言ってられんだろ。全体のバランスだって見なきゃいけないだから。やっぱり俺が抜けるわけにはいかないんだよ」

 

奏夜は穂乃果たちのパフォーマンスの質を上げるためにどれだけ自分がボロボロになろうとも、休むつもりはなかったのである。

 

「……止めても、聞きそうにないですね」

 

「そうね。その方が奏夜の気も済むでしょうし」

 

海未と絵里は、奏夜が昨日の完敗を引きずっているのではと心配をしていたため、それで気が紛れるならと考えていた。

 

「そーや先輩がいないとなんか落ち着かなかったし、これはこれで良かったと思うにゃ!」

 

「そうだね!奏夜先輩がいてくれた方が私も安心だし!」

 

「ま、にこは奏夜がいなくても問題なく練習は出来るけどね」

 

「……よく言うわ。昨日奏夜君が病院に送られてから、にこっちはずっとソワソワしていたくせに」

 

希はニヤニヤしながら奏夜が病院に送られてからのにこの様子をバラしていた。

 

「ちょっ!?変なこと言わないでよ!希!!」

 

知られたくないことを知られてしまったにこは、顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。

 

「……ま、ウチも気が気じゃなかったけどな。奏夜君が何でもなくて安心したわ」

 

希も奏夜のことを心配していたため、にこからの応酬が来る前に本音を明かしていた。

 

「ぐぬぬ……!!」

 

どうやら希の方が1枚上手であり、にこは悔しそうに希を睨んでいた。

 

「まぁ、奏夜を心配してたのは2人だけじゃないわ。私だって心配だったもの」

 

絵里も奏夜のことを心配しており、他の6人も、絵里の言葉を聞いてウンウンと頷いていた。

 

「みんな、ごめんな。心配かけて。だけど、今度あいつに会った時は絶対に負けない。その時までに俺も強くなってみせる。みんなを守れる程の力を得て……」

 

「そーくん……」

 

「奏夜……」

 

奏夜は力を求めているようにも見えたため、穂乃果と海未はそんな奏夜を心配そうに見ていた。

 

「……さて、この話はここまでだ。オープンキャンパスまで時間がないから、今日も気合入れて練習するぞ!」

 

『うん(はい)!!』

 

奏夜は自分の話をここで終わらせると、このように号令を出し、穂乃果たちはそれに答えていた。

 

絵里に関しては魔戒騎士やホラーに関することをもっと聞きたいと思っていたが、今はオープンキャンパスに専念することにした。

 

こうして、この日の練習にも熱が入っていた奏夜たちは実りある練習を行うことが出来て、間近に迫ったオープンキャンパスに備えていた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

それから時は流れ、オープンキャンパス当日を迎えた。

 

この日はこの街に住んでいる中学生とその親が、音ノ木坂学院を訪れ、この学校についての様々な説明や体験授業が行われていた。

 

そんな中、中学生ではない6人組が音ノ木坂学院を訪れていた。

 

「ここに来るのも久しぶりだねぇ♪」

 

その6人組というのは、奏夜の先輩騎士である統夜と、彼が所属していた軽音部の5人である。

 

統夜たちは1度音ノ木坂学院を訪れたことがあり、今回はオープンキャンパスということで、再びこの場所を訪れたのであった。

 

ちなみに、唯たち5人は、この日のためにバイトなどの予定を入れることなく、この場所に来るのを楽しみにしていた。

 

「それにしても、オープンキャンパスって、中学生が対象だろ?今更だけど、私たちが来ても大丈夫だったのかな?」

 

澪は少しだけ不安そうな表情を浮かべながら周囲の景色を眺めていた。

 

「大丈夫よ♪私、ことりちゃんのお母さんでとある理事長と知り合いなのだけれど、事前に許可はもらっているから♪」

 

「アハハ……。さすがはムギ。抜け目ないな……」

 

しっかりとオープンキャンパスの会場に入れる手筈を整えていた紬の手際の良さに、統夜は苦笑いをしていた。

 

「そういえば、μ'sのライブは何時からでしたっけ?」

 

「確か、お昼からじゃなかったか?体験授業が終わって、部活動紹介の最後の方だったと思うぞ」

 

律は事前にライブがいつ行われるのかを穂乃果から聞いていたため、梓の問いかけにすぐ答えることが出来た。

 

「だったら、まだライブまで時間があるよな?俺、行きたいところがあるんだが、いいか?」

 

統夜は何度かこの音ノ木坂学院を訪れたことがあるのだが、どうしても寄りたい場所があるみたいだった。

 

「え?どこどこ?そこに行ってみようよ!」

 

「そうですね!統夜先輩の行きたいところなら私も行きたいです!」

 

唯と梓はどうやら、統夜の行きたいところに行ってみたいようである。

 

「おやおや?唯はともかくとして、梓は相変わらず統夜とラブラブですなぁ♪」

 

「ちょっ!?からかわないで下さい!////」

 

律はニヤニヤしながら梓のことをからかっており、梓は顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。

 

「そうだぞ、律。何当たり前なことを言っているんだよ」

 

統夜は一切恥ずかしがることなく、真顔でこのようなことを言っていた。

 

「……何と言うか……」

 

「そこまでハッキリ言われると……」

 

「流石に引くな……」

 

統夜のハッキリとした物言いに、澪、紬、律の3人はドン引きしていた。

 

統夜はもともと色恋に関してはあり得ないほど鈍感であり、梓と付き合うようになってからはそれが解消されたかのように思われた。

 

しかし、時々このように天然のような発言をするようになり、よく律や澪を呆れさせて、梓を恥ずかしがらせていた。

 

梓は今回も恥ずかしがっていたため、顔を真っ赤にしていた。

 

「統夜先輩!そこまでハッキリ言わないでください!恥ずかしすぎます!」

 

「む……。そうか?そういうことなら……」

 

ハッキリ言われると恥ずかしいと言われたことにより、統夜はこれ以上の発言を控えていた。

 

「とりあえず行こうぜ。こっちだ」

 

統夜は唯たちを連れて音ノ木坂学院のとある場所に向かった。

 

その場所とは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、統夜。お前が行きたい場所ってここなのか?」

 

「そうだけど、何か問題があるのか?」

 

「メェ〜♪」

 

統夜が行きたいと言っていた場所とは、音ノ木坂学院にあるアルパカ小屋であり、統夜はアルパカと戯れながら淡々と律の質問に答えていた。

 

「確かに珍しいけど、なんでアルパカ小屋なんだよ……」

 

律はアルパカと戯れている統夜を見て呆れていた。

 

「えぇ!?可愛いからいいじゃん!」

 

「そうですね!可愛いです!」

 

「うんうん♪凄く可愛いわ♪」

 

どうやら唯、梓、紬の3人は、アルパカを気に入ったようである。

 

「メェ〜♪」

 

「……」

 

統夜、唯、梓、紬の4人は、白いアルパカと茶色のアルパカと戯れていた。

 

律と澪の2人は、少し離れたところからその様子を見ていた。

 

「……澪、お前は行かなくてもいいのか?」

 

「わ、私はいいよ」

 

「そうか?澪だったら食いつきそうだと思ったんだけどな」

 

「確かに白いアルパカは可愛いけど、あの茶色のアルパカはちょっと怖いかも……」

 

澪は茶色のアルパカがちょっと怖いと感じていたため、アルパカに近付くことを躊躇していた。

 

すると、茶色のアルパカはただ鳴いてるのか威嚇をしてるのかわからない声をあげていた。

 

「ひぃっ!?」

 

そんなアルパカに怯えた澪は、律の後ろに隠れていた。

 

「ったく……。そんなに怖がらなくてもいいだろ?」

 

統夜はそんな澪に呆れながら茶色のアルパカの頭を撫でていた。

 

茶色のアルパカは統夜に撫でられて嬉しいのか、統夜に甘えるような素振りをしていた。

 

「……。うん、可愛いな、お前」

 

統夜は穏やかな表情で笑みを浮かべると、さらに茶色のアルパカは統夜に甘えていた。

 

どうやら、このアルパカは統夜に懐いたみたいだった。

 

「おぉ、アルパカちゃんがやーくんに甘えてる!」

 

「さすがは統夜先輩……」

 

統夜は実は動物が大好きという意外な一面を持っており、唯たちがそれを知ったのは統夜たち5人が高3の時である。

 

「うんうん♪可愛いわね♪」

 

「確かに……。可愛いな……」

 

先ほどまでは茶色のアルパカのことを怖がっていた澪も、今は可愛いと感じるようになっていた。

 

こうして統夜たちはしばらくの間、アルパカ小屋でアルパカたちと戯れており、他の場所を見学する時間がなくなってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

その頃、奏夜は生徒会の手伝いとして、オープンキャンパスのスタッフとして働いていた。

 

生徒会のメンバーでもある絵里と希もスタッフとして参加してるのだが、2人のたっての希望で、手伝いをすることになっていた。

 

残りのメンバーはこれから行われるライブの準備を行っている。

 

「……奏夜、悪いわね。あなたにもお手伝いを頼んで」

 

「気にしないで下さい。俺だってこのオープンキャンパスを成功させたいんです。やれることならなんだってしますよ」

 

「ふふっ、ありがとね、奏夜」

 

絵里は穏やかな表情で笑みを浮かべながら奏夜に礼を言っていた。

 

「とりあえずやることをさっさと終わらせてみんなに合流しましょう」

 

「そうね。私だって早くライブの準備をしたいと思っているしね」

 

こうして奏夜と絵里は自分たちの仕事を手早く終わらせると、穂乃果たちと合流してライブの準備に入っていた。

 

その時には2人とは別の仕事をしている希も合流しており、これでμ'sは全員揃っていた。

 

全員が揃い、準備が整った時にはライブの開始まであと15分となっており、すでに会場となっているグラウンドには多くの人が集まっていた。

 

「……おぉ、人がいっぱいだねぇ」

 

「凄いにゃ!これだけの人が凛たちのライブを見に来てくれたんだね!」

 

多くの人が見に来てくれたことに、穂乃果と凛はキラキラと目を輝かせていた。

 

「あぅぅ……。人がいっぱい……」

 

「は、恥ずかしいです……」

 

ここまで多くの人を前にしてパフォーマンスをすることは初めてだったため、花陽と海未の2人はかなり緊張していた。

 

「あんたたち、腹をくくりなさい。このステージこそμ'sの正念場なのよ」

 

「にこ先輩の言う通りだな。これだけの人に見てもらえる機会なんてそうはないからな。大丈夫。みんなならきっとやり遂げられるさ」

 

「奏夜先輩……」

 

「奏夜……」

 

奏夜の真っ直ぐな励ましを聞いた花陽と海未はここでようやく腹をくくることが出来たのか、先ほどまでの緊張は消え去っていた。

 

「ねぇ、みんな!集まって!」

 

穂乃果がこう促すと、奏夜以外の8人が集まり、穂乃果たちは円陣を組んでいた。

 

そして、9人はピースの形をした右手を前に出すと、その指で星を形成していた。

 

しかし、その形は完成しておらず、穂乃果たちの円陣も、1人分のスペースが空いていた。

 

奏夜はその光景に驚き、穂乃果たちはそんな奏夜のことをジッと見ていた。

 

「……俺も入ってもいいのか?μ'sはお前たち9人のグループだっていうのに……」

 

「まったく……。奏夜、あなたは本当に馬鹿ですね……」

 

「そうだよ!だって、そーくんがいてこそのμ'sなんだよ?」

 

「だから……そーくんもおいでよ!」

 

穂乃果たち2年生組が奏夜を歓迎しており、残りの6人も、穏やかな表情で頷いていた。

 

「……あぁ!」

 

奏夜は力強く返事をすると、円陣の中に入り、同じようにピースの形をした右手を前に出していた。

 

こうして、穂乃果たちの円陣は完成し、指を使った星も完成していた。

 

「みんな!μ'sが9人になって最初のライブ、思い切り飛ばしていこう!」

 

穂乃果の言葉に、奏夜たちは「おう!」や「はい!」などと力強く答えていた。

 

そして……。

 

「1!」

 

「2!」

 

「3!」

 

「4!」

 

「5!」

 

「6!」

 

「7!」

 

「8!」

 

「9!」

 

「……10!」

 

 

穂乃果、ことり、海未、真姫、凛、花陽、にこ、希、絵里の順番に数字を言っていき、一呼吸置いてから奏夜も数字を言っていた。

 

そして……。

 

「μ's!!」

 

『ミュージック……スタート!!』

 

奏夜の掛け声に、9人の女神の掛け声が合わさり、奏夜たちの気持ちと言葉は1つになっていた。

 

こうしてライブ開始の時間となり、穂乃果たちはステージへと向かっていき、奏夜は特等席でライブを心待ちにしている統夜たちと合流することにした。

 

「あっ、奏夜君だ!」

 

唯は奏夜の姿を見つけると、ブンブンと手を振っていた。

 

「アハハ……。どうも」

 

奏夜はそんな唯に苦笑いをしながら統夜たちと合流した。

 

「統夜から奏夜が派手にやられたって聞いてたけど、大丈夫なのか?」

 

「えぇ。その時のダメージはもうありません。俺はこの通り元気ですよ」

 

唯たちは統夜から尊士やジンガの話を聞いており、澪は奏夜の体調を気遣っていたが、奏夜はすでに尊士から受けたダメージは完全に癒えたようだった。

 

「アハハ……。さすがは魔戒騎士だね……」

 

どれだけのダメージを受けたかはわからなかったが、すぐに治ったことは理解したようであり、梓は苦笑いをしていた。

 

「ところで、穂乃果ちゃんたちの仕上がりはどうなの?」

 

「えぇ、俺が言うのもあれかもしれませんが、バッチリですよ。今のあいつらなら、最高のパフォーマンスをしてくれるはずです」

 

「それは楽しみね♪」

 

「あぁ、私も楽しみだ♪」

 

奏夜から穂乃果たちの仕上がり具合を聞き、紬と澪はライブを心待ちにしていた。

 

「……おっ、どうやら始まるみたいだぞ」

 

律は穂乃果たちの準備が終わったことを告げると、奏夜と統夜たちの視線はステージに集中していた。

 

(……頑張れよ、みんな……)

 

奏夜は、心の中で穂乃果たちにエールを送っていた。

 

「……皆さん、こんにちは!私たちは、音ノ木坂学院のスクールアイドル、μ'sです!」

 

穂乃果が司会を務めるようであり、μ'sが音ノ木坂学院のスクールアイドルだということを説明していた。

 

生徒会長と副会長である絵里と希が加入したことにより、μ'sは正式に音ノ木坂学院のスクールアイドルということになったのである。

 

「私たちは、この音ノ木坂学院が大好きです!この学校だから、このメンバーと出会い、この9人が揃ったんだと思います!」

 

穂乃果たちが抱いている思いを伝えると、その場にいた人たちは目をキラキラとさせながらステージに釘付けになっていた。

 

「それだけじゃありません!今の私たちがあるのは、どんな時でも私たちを信じ、支えてくれた人がいるからなんです!」

 

「!?穂乃果……」

 

穂乃果の言っていた支えてくれた人というのは自分であることをすぐに理解した奏夜は、そんな言葉が嬉しかった。

 

それと同時に、ここまでμ'sを支えてきて本当に良かったという思いも抱いていたのである。

 

「これからやる曲は、私たちが9人になって初めてやる曲です!私たち9人と……。私たちを支えてくれた1人の思いが合わさった、スタートの曲です!」

 

 

 

 

 

 

『聞いてください!「僕らのLIVE 君とのLIFE」!』

 

 

 

 

 

 

こうして、曲のイントロが流れると、穂乃果たち9人のパフォーマンスが始まった。

 

 

 

 

 

〜使用曲→僕らのLIVE 君とのLIFE 〜

 

 

 

 

 

「凄いですね……」

 

「えぇ。動画で見た時とは随分と見違えた気がするわ……」

 

「あぁ。あたしらはダンスは素人だけど、そこはわかる気がするよ」

 

「うん!みんなすっごく可愛い!!」

 

「あぁ!みんな輝いているな!」

 

穂乃果たち9人によるパフォーマンスに、梓、紬、律は圧倒されており、唯と澪はキラキラと輝いている穂乃果たちを見て目をキラキラと輝かせていた。

 

「……なるほどな。あいつらも成長したって訳か。奏夜、お前も成長しないとな」

 

「……っ、そうですね……」

 

統夜は穂乃果たちがスクールアイドルとして成長していることを実感し、奏夜を焚き付けるような発言をしていた。

 

そのことは重々承知だった奏夜は、一瞬眉をしかめながらもこう答えていた。

 

(そうだ……。俺はもっと強くならなきゃいけない……。みんなを守れるほどの力を得るためにも……)

 

「……」

 

奏夜は穂乃果たちを守れるほどの力を得たいと考えており、統夜はそのことを感じ取っており、そんな奏夜を心配していた。

 

(……奏夜の奴、随分と力を追い求めてるようだな……。これからは奏夜のことを気を付けて見ないとな……)

 

《そうだな。でなければあいつは闇に堕ちる可能性があるからな》

 

統夜とイルバは、奏夜が何かしらのきっかけで闇に堕ちる可能性があると思っていたため、奏夜のことを心配していた。

 

《……おい、奏夜。今はあいつらのパフォーマンスに集中しろ。それがマネージャーの役目だろ?》

 

(っ!確かにそうだな……)

 

力を追い求めている奏夜を見かねたキルバは、奏夜の関心をライブに向けさせると、ハッとした奏夜はライブに集中していた。

 

奏夜はステージの上でキラキラと輝く穂乃果たちをジッと見ていた。

 

(……確かに、みんな成長したな……。みんながここまで輝けたのは絵里先輩が入ってくれたからだよな……。それにしても……)

 

奏夜は、絵里に注目すると、絵里は今まで見たことないほど生き生きとしたな表情で踊っていた。

 

(絵里先輩……。凄く生き生きしてるな……。これこそが、本当に絵里先輩がやりたかったことなんだよな……)

 

絵里だけではなく、他の8人の表情もキラキラとしていたのだが、特に絵里がキラキラとしているように見えたのが、奏夜には印象的だった。

 

そして、穂乃果たち9人の気持ちは1つになり、パフォーマンスは終了したのであった。

 

すると、穂乃果たちのパフォーマンスを見ていた中学生たちから大きな拍手と歓声があがり、「可愛い!」などといった黄色い歓声も聞こえてきていた。

 

最後まで全力でパフォーマンスをやり切った穂乃果たちは汗だくになっていたのだが、最後までやり切った満足感からか、とても生き生きとした表情をしていた。

 

特に絵里は、本当に自分のやりたいことを見つけたからか、その満足感は他のメンバー以上であった。

 

こうして、穂乃果たちのライブは終わり、奏夜と統夜たちは最後まで全力でパフォーマンスをやり切った穂乃果たちのもとへと向かっていた。

 

「……みんな、お疲れさん。最高に良かったぞ」

 

「そーくん……」

 

穂乃果たちにとって、奏夜からの労いの言葉が何よりも嬉しかった。

 

そのため、満足そうに微笑みながら奏夜のことを見ていた。

 

「みんな!凄く良かったわよ!」

 

「うん!すっごく可愛かった!」

 

「今までで最高のライブだったよ!」

 

「本当に良かったぞ」

 

「みんな、本当にお疲れ様!」

 

紬、唯、梓、律、澪は、ライブが終わった穂乃果たちにこのような言葉を送っていた。

 

「あっ、統夜さん!皆さん!」

 

「来てくれたんですね!」

 

「本当にありがとうございます!」

 

穂乃果たち2年生組は、統夜たちが来てくれたことを特に喜んでいた。

 

「えっと……。あなたたちは……?」

 

絵里だけが唯たちと初対面だったため、少しだけ困惑していた。

 

「こいつらは俺と同じ高校だった俺の大切な仲間だよ。今日はオープンキャンパスがあるって聞いて来たんだ」

 

統夜が絵里に説明をすると、唯たちは口々に「よろしく!」と言っていた。

 

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします……」

 

絵里は少し困惑しながらも挨拶を返していた。

 

「さて、ライブも終わったことだし、オープンキャンパスも終わるだろ?終わったら打ち上げを兼ねてご飯でも食べに行かないか?」

 

ここで律は、統夜たちと奏夜たちで一緒に食事に行くことを提案していた。

 

「おっ、いいね!」

 

「はい!私もそうしたいって思ってました!」

 

律の提案に、唯と穂乃果が乗っていた。

 

「みんなも行こうぜ!もちろん奢るからさ。……統夜が」

 

「ったく……。お前は最初からそのつもりだったんだろう?」

 

「いいじゃんいいじゃん!だって統夜はムギの次に金を持ってるんだから!」

 

律の言う通り、統夜は魔戒騎士としてかなりの実績を残しているため、月単位でもかなりの金額を番犬所から支給されていた。

 

年収にすればかなりの額になると思われる。

 

「ま、高校生にお金を出させるのは忍びないと思ってたし、そのつもりだったけどさ」

 

統夜はみんなで食事に行くなら奢るつもりだった。

 

「でも……。本当にいいんですか?」

 

「そうですよ!みんなの分となると、凄い金額になっちゃうんじゃ……」

 

「そこは気にしないでも大丈夫だ。律も言ってたけど、俺はこう見えてもだいぶ稼いでいるからな」

 

「確かに、統夜さんは俺以上に稼いでますよね……」

 

奏夜も番犬所からそれなりに貰ってはいるのだが、統夜とは貰っている金額は比べ物にならないくらいだった。

 

「そういう訳で、金のことは気にするな。みんなで楽しもうぜ」

 

統夜は穂乃果たちを心配させないように金銭面は問題ないことを強調していた。

 

「ま、まぁ……。そういうことなら……」

 

金銭面の心配をしていた海未やことりが納得し、他のメンバーもウンウンと頷いていたため、全員で食事に行くことが確定した。

 

「決まりだな。みんなはとりあえず着替えてきな。俺たちは撤収の手伝いでもさせてもらうさ」

 

「え!?いいんですか!?」

 

「ま、これくらいはな。……ムギ、どこか良さげな店を選んでくれないか?」

 

「うん♪任せて♪」

 

紬は携帯を取り出すと、店の選択を行っており、穂乃果たちは着替えるために部室へと移動していた。

 

その間に奏夜と統夜たちはステージの撤収を行い、穂乃果たちが戻ってくるまでには全て終わらせていた。

 

こうしてオープンキャンパスは無事に終了し、μ'sのライブも大成功だった。

 

奏夜たちと統夜たちは打ち上げを兼ねて、秋葉原某所にある店で食事を取ることにした。

 

その店は隠れ家的な店であり、店を貸し切ったため、気兼ねなく食事や話を楽しむことが出来た。

 

μ'sは9人となり、これから人気が出てくることが予想され、多くの苦難も待ち受けていることが予想された。

 

しかし、奏夜はどんなことがあっても穂乃果たちを支え、穂乃果たちを守っていこう。

 

奏夜は改めて心に誓うのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……μ's結成編・終

 

 

 




無事にオープンキャンパスが終了しました。

穂乃果たち9人のライブは大成功だったと思います。

そして再び登場したけいおんメンバー。

唯たちもまた、穂乃果たちを応援する人になっていると思います。

無事にμ's結成編が終了しました。新章からは牙狼サイドのストーリーを進めていきたいとは考えています。

活動報告にも書きましたが、牙狼ライブ!のUAが10000を越えました。

そのため、次回は記念の番外編を投稿しようと思います。

奏夜の先輩騎士であるリンドウにスポットを当てる予定です。

それでは、次回を楽しみに!



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UA10000記念作品 「神食」

お待たせしました!番外編になります!

最近PS4で使えるキーボードを買いまして、そのおかげで会話を打ち込むのが少し楽になりました。

キーボード使う方がネットゲームをしてる感が出ますしね(笑)

さて、それはともかくとして、今回はUAが10000を越えたことを記念しての番外編となっています。

今回は奏夜の先輩騎士であるリンドウにスポットを当てています。

リンドウはいったいどのような魔戒騎士なのか?

それでは、番外編をどうぞ!





……オープンキャンパスが終わってから数日が経過していた。

 

μ'sのメンバーが9人となり挑んだオープンキャンパスでのライブだったが、予想以上の出来であり、中学生たちもとても楽しんでいた。

 

それだけではない。

 

その時の様子は撮影されており、動画を投稿したのは昨日であった。

 

投稿されて1日も経っていないのだが、それなりに再生数は伸びており、ランキングも少しだけではあるが上がっていた。

 

そしてこの日、奏夜たちはラブライブに向けて練習を行っていた。

 

オープンキャンパスが成功したことに安心して気が抜けている様子もなく、奏夜たちは次の目標に向かって気合を入れていた。

 

そのため、この日の練習は、とても実りのあるものとなっていた。

 

「……はい」

 

練習が終わり、奏夜は穂乃果たちに冷たいスポーツドリンクを手渡していた。

 

「ありがとう、そーくん!」

 

「すいません、奏夜。いつもいつも」

 

「気にするなよ。これもマネージャーの仕事なんだからさ」

 

全員にスポーツドリンクを渡したところで海未が申し訳なさそうにしていたのだが、奏夜はマネージャーの仕事だからと返していた。

 

「それにしても、奏夜のマネージャーとしての姿もだいぶ板についてきたんじゃない?」

 

「そうやなぁ。もう奏夜君はμ'sにとってはなくてはない存在だよね」

 

絵里と希はμ'sに加入してまだ日は浅いのだが、マネージャーとしての奏夜の姿がとても印象的であった。

 

「そ、そうですかね……?」

 

マネージャーとして板についているという言葉が嬉しかったからか、奏夜は少しだけ照れていた。

 

穂乃果たちも奏夜の存在はなくてはならない存在だと思っているため、ウンウンと頷いていた。

 

「ねぇねぇ!これからどうする?」

 

「そうねぇ……。またいつものあそこでハンバーガーでも食べに行く?」

 

練習も終わり、にこはいつも行っているファストフード店に行くことを提案していた。

 

本当にそうするべきかと返事を出そうとしたその時だった。

 

「……よう、お前ら。やってるな」

 

屋上に奏夜の先輩騎士であるリンドウが現れると、奏夜たちにこう挨拶をしていた。

 

「リンドウ!?どうしてここに?」

 

「いやな。エレメントの浄化で近くまで寄ったもんだから、お前らの顔を見にきたって訳だよ」

 

どうやらリンドウが奏夜たち顔を見にきたのは、たまたまのようだった。

 

「あなたは、確か奏夜と同じ……」

 

「おう。俺は奏夜と同じ魔戒騎士だぞ」

 

「なるほど……」

 

リンドウが魔戒騎士であることは何となく察していたのだが、改めて正体を聞いて、絵里は驚いていた。

 

リンドウは統夜と違って穂乃果たちと交流がある訳ではないため、穂乃果たちは少しだけ緊張していた。

 

「まぁ、そう構えるな。そうだ、お前たちの練習は終わったんだろ?せっかくだから交流を深めようじゃないか!」

 

「いいですね!」

 

「それなら、部室に行きましょう!そこなら魔戒騎士の秘密も他の誰かに聞かれることはないハズです」

 

「おう!そいつはいいなぁ。よろしく頼むぜ!」

 

こうして奏夜たちはリンドウを連れて部室へ向かうと、部室で色々と話をすることにした。

 

「……とりあえず部室に来たのはいいのですが……」

 

「何を話したらいいのかなぁ?」

 

部室に到着したのは良いものの、魔戒騎士であるリンドウとどのような話をすれば良いかわからず、海未とことりは困惑していた。

 

そんな中、奏夜は……。

 

「そういえば、リンドウって色んな新人魔戒騎士を育ててきたんだろ?どんな奴がいたんだ?」

 

奏夜は、リンドウが新人魔戒騎士の指導をしていたことを知っていたため、その指導した人物がずっと気になっていた。

 

穂乃果たちもまた、魔戒騎士のことを知る機会だと考えたからか、その話に興味を向けていた。

 

「ま、ほとんどは称号を持たない魔戒騎士なんだけどな」

 

どうやらリンドウが指導した魔戒騎士は称号を持たない魔戒騎士が多かったようであった。

 

『だけど、称号持ちの魔戒騎士も指導したじゃないですか』

 

「?今の声、どこから?」

 

「あぁ、こいつだよ」

 

誰の声がわからない声が聞こえてきたため、穂乃果は首を傾げていたが、リンドウは穂乃果たちにわかるようにレンを見せていた。

 

「もしかして、この腕輪ですか?」

 

『そうです。僕の名前はレン。リンドウの相棒の魔導輪です』

 

レンは穂乃果たちに自己紹介をしていた。

 

「男の子っぽい声なんですね……」

 

「まぁ、魔導輪といっても色々だからな」

 

魔導輪や魔導具にはキルバのように青年のような声を出すものもあれば、レンのように少年のような声を出すものもある。

 

「確か統夜さんのイルバも違う感じの声でしたよね?」

 

「本当に魔導輪って色々なんだねぇ……」

 

様々な声で喋り、性格も様々なため、穂乃果たちは驚きを隠せなかった。

 

「それで、話を戻すが、確かに称号を持った魔戒騎士も指導したことはあるんだよ」

 

「その魔戒騎士って俺も知ってる人なのか?」

 

「……鷹山宗牙(たかやましゅうが)って知ってるか?」

 

「鷹山さんってあの!?」

 

『剣皇騎士奏覇(けんおうきしソウハ)の称号を持つ魔戒騎士か!』

 

どうやら奏夜は鷹山宗牙という魔戒騎士を知っているため、驚きを隠せなかった。

 

「……誰?」

 

「あぁ、鷹山宗牙さんは、20歳の若さで元老院付きの魔戒騎士になった人で、かなりの実力者なんだよ」

 

「元老院って確か、奏夜のいる番犬所の上の機関……でしたっけ?」

 

奏夜は番犬所や元老院についての話を穂乃果たちにしており、その話をされてもすぐに理解していた。

 

「あぁ。誰でも元老院付きの魔戒騎士になれる訳じゃなく、それに相応しい実力をつけないとなれないんだよ」

 

「なるほどね……」

 

「……それにしても懐かしいなぁ。あいつと出会ったのは今から4年前。あいつがまだ魔戒騎士になったばかりのヒヨッコだった時だったな……」

 

こうして、リンドウは語り始めた。

 

自分が育てた魔戒騎士、鷹山宗牙のことを。

 

そして、リンドウ自身のことを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜リンドウの過去編〜

 

 

 

 

奏夜の先輩騎士である天宮リンドウは、神食騎士狼武の称号の家系に生まれた。

 

リンドウは長男だったため、魔戒騎士になるために幼少の頃から修行に励んでいた。

 

そして、父親が魔戒騎士を引退し、リンドウが狼武の称号を受け継いだのは18の頃だった。

 

リンドウは魔戒騎士としての才能があるようであり、メキメキと頭角を現していった。

 

そんなリンドウが鷹山宗牙と出会ったのは、今から4年前。

 

リンドウが24の時だった。

 

「……おう。お前が今日から魔戒騎士になった新人か」

 

「は、はい。鷹山宗牙です。よろしくお願いします……」

 

この時の宗牙は18歳であり、魔戒騎士になったばかりだからか、先輩騎士であるリンドウを前にして緊張していた。

 

「そんなに緊張しなくてもいいぞ。俺は一応は先輩だが、そこまで小うるさいことを言うつもりはないしな」

 

「は、はぁ……」

 

「俺がお前に言っておきたいのは3つだ。死ぬな。死にそうになったら俺に任せて逃げろ。そして隠れろ。最後に運が良ければ隙をついて……ぶっ潰せ!……あぁ、これじゃ4つか」

 

リンドウは他の新人の魔戒騎士にも同じことを言っており、これこそがリンドウの教訓みたいな感じになっていた。

 

「……ま、後は生きてさえいれば万事どうにでもなる。だからこそ、絶対に無茶はするなよ」

 

「……わかりました」

 

宗牙はリンドウのこの教訓を胸に抱き、リンドウと共にホラー討伐の任務についた。

 

宗牙は魔戒騎士としての才能があるからか、初陣の時もリンドウの手をほとんど煩わせることなくホラーを討伐し、徐々に魔戒騎士として頭角を現していた。

 

最初の頃はリンドウと共にホラー討伐の任務についていた宗牙であったが、単独で任務に当たるようになるまで、それほど時間はかからなかった。

 

リンドウと別の任務につくようになってからも、宗牙は魔戒騎士として成長しながらホラーを狩っていったのである。

 

それから月日が経ち、1年半程が経過していた。

 

そんな中リンドウは、元老院からの指令を受けてとあるホラーの追跡を行っていた。

 

そのホラーはかなりの力を持っているからか、討伐の任務に当たっていた魔戒騎士を何人も返り討ちにしてしまうほどであった。

 

リンドウは元老院付きの魔戒騎士ではないのだが、その実力は番犬所も元老院も一目置かれているため、実力のあるリンドウにそのホラー討伐の任務が与えられたのである。

 

それからまもなくしてリンドウはそのホラーを発見し、魔戒騎士として大きく成長していた宗牙も、リンドウの応援に入り、そのホラーの討伐へと向かっていった。

 

「……追い詰めたぞ、魔刃ホラー……ラーヴァナ!!」

 

リンドウが追いかけていたホラーというのは、ラーヴァナと呼ばれる刃を司るホラーであった。

 

ラーヴァナの力は、使徒ホラーに匹敵すると言われており、腕に自身のある魔戒騎士たちを次々と蹴散らしていった。

 

「……また、愚かな魔戒騎士が私に挑むか!」

 

「ふっ……。そういうのは俺たちを倒してから言うんだな」

 

「それが望みならばそうさせてもらおう。貴様らを倒し、私の餌としてくれるわ!」

 

ラーヴァナは強き者を追い求めるホラーであるため、一般人を喰らうことをしなかった。

 

ラーヴァナが餌にしていたのは力のあるもの……。魔戒騎士や魔戒法師だった。

 

多くの魔戒騎士や魔戒法師がラーヴァナに敗れ、餌になってしまったのである。

 

『……リンドウ!奴はそこら辺にいるホラーとは比べものになりません!気を付けてください!』

 

「どうやら……そのようだな……」

 

リンドウの魔導輪であるレンは、リンドウに警戒するよう伝えていた。

 

いつもであれば煙草を吸って飄々としているリンドウであったが、今回はそんな余裕はないようであった。

 

『……宗牙!お前も気を付けろよ。あいつは相当にやばいホラーだぞ』

 

「わかってるさ。俺だって、奴の餌になるつもりはない」

 

そして、宗牙の指にはめられた魔導輪であるノルバもラーヴァナを警戒していたが、宗牙もまた、負けるつもりはないと思っていた。

 

リンドウと宗牙が魔戒剣を構えて警戒していると、ラーヴァナは両手に握られている剣を振るい、その一撃をリンドウと宗牙はかわしていた。

 

「……宗牙!行くぞ!!」

 

「わかった!」

 

リンドウはラーヴァナに生じた隙を見逃すことはせず、そのままラーヴァナへと向かっていった。

 

2人は同時に魔戒剣による一撃をラーヴァナに叩き込むが、ラーヴァナの体に傷をつけることは出来なかった。

 

「ちっ……!さすがに魔戒剣じゃ傷もつかんか……!」

 

「ふん……。なめるな!!」

 

ラーヴァナにダメージを与えられず、リンドウは舌打ちをするのだが、ラーヴァナはそんなリンドウと宗牙に反撃と言わんばかりの一撃を叩き込んだ。

 

その一撃を2人は魔戒剣で受け止めるものの、その威力はかなりのものであり、2人は近くの壁に叩きつけられてしまった。

 

「くっ……!こいつ……。なかなかやる……!」

 

宗牙はすぐさま立ち上がり、ラーヴァナを睨みつけていた。

 

「宗牙!ここは鎧を召還して奴を叩くぞ!」

 

「了解した!」

 

「……ふん。来るがよい!!」

 

ラーヴァナは2人を攻撃する隙はあったものの、あえて攻撃を仕掛けてこなかった。

 

その隙にリンドウは魔戒剣を前方に突きつけると8の字を描いた。

 

その後、魔戒剣を上空に突きつけると、8の字は上空に移動すると、1つの円となり、そこから放たれる光にリンドウは包まれた。

 

そして、宗牙は魔戒剣を高く突き上げると、円を描いた。

 

その部分だけ空間が変化すると、宗牙はその空間から放たれる光に包まれた。

 

2人が描いた円から鎧が出現していたのだが、リンドウの鎧は漆黒の鎧であった。

 

宗牙の鎧は赤い鎧であり、2人はそれぞれの鎧を身に纏った。

 

こうして、リンドウは神食騎士狼武の鎧を身に纏い、宗牙は剣皇騎士奏覇の鎧を身に纏った。

 

「……お前らも称号持ちの魔戒騎士か……。少しは楽しませてくれよ!」

 

どうやらラーヴァナが倒した魔戒騎士の中には称号を持たない魔戒騎士もいたようであり、2人が称号を持つ魔戒騎士と知ると、胸を躍らせていた。

 

「……行くぞ!」

 

「あぁ!」

 

リンドウと宗牙は魔戒剣が変化した剣を構えると、そのままラーヴァナへと向かっていった。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

リンドウは魔戒剣が変化した機神剣を。宗牙は魔戒剣が変化した覇皇剣(はおうけん)を一閃した。

 

2人の一撃はラーヴァナの体を斬り裂いたのだが、大きなダメージを与えることは出来なかった。

 

「くっ……!」

 

「やはり、こいつは……!」

 

鎧を召還しても決定打を与えることは出来ず、2人は少しだけ焦りを見せていた。

 

そんな中、ラーヴァナは反撃と言わんばかりの攻撃を仕掛けるが、リンドウはラーヴァナの剣を機神剣で受け止め、宗牙はラーヴァナの剣をかわしていた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「宗牙!無茶するな!」

 

勢いよくラーヴァナに向かっていく宗牙に、リンドウは警告するが、宗牙は聞く耳を持っていなかった。

 

宗牙は連続で覇皇剣を振るい、ラーヴァナに攻撃を仕掛けていた。

 

どうやらこの攻撃は多少は効いているようであり、ラーヴァナは少しばかり怯んでいた。

 

「おのれ……。小僧!!」

 

ラーヴァナの視線は完全に宗牙に釘付けになっており、ラーヴァナは2本の剣で宗牙に攻撃を仕掛けており、宗牙はラーヴァナの攻撃をかわしていた。

 

「あいつ……」

 

『どうやら、宗牙も成長しているみたいですね』

 

「あぁ。あいつ……強くなってやがるな。俺が見ない間に……」

 

リンドウは、自分の知らない間に宗牙が成長していることを知り、驚きを隠せずにいた。

 

「こいつでぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

宗牙はラーヴァナの攻撃をかわすとすかさず烈火炎装の状態となり、白い魔導火を纏った刃をラーヴァナに叩きつけた。

 

「ぐぅぅ……。小僧が……調子に乗るな!!」

 

宗牙の烈火炎装による攻撃は、ラーヴァナに決定打を与えることは出来なかったものの、確実にダメージを与えていた。

 

そんな攻撃に激昂したラーヴァナは、炎を纏った衝撃波を放ち、宗牙はそれをまともに受けてしまった。

 

「ぐぁっ!!」

 

その一撃で驚く程の勢いで吹き飛ばされた宗牙は、再び壁に叩きつけられて、その衝撃で鎧が解除されてしまった。

 

「……宗牙!」

 

「くっ……。くそっ……!」

 

宗牙はどうにか立ち上がろうとしたのだが、ダメージが大きいからか、一気に立ち上がることは出来ず、ゆっくりと立ち上がった。

 

「宗牙!後は俺に任せろ!一気に決めてやる!」

 

宗牙が命がけで作ってくれた突破口を開こうと、リンドウは奮起していた。

 

「愚かな……。脆弱な魔戒騎士如きが私を倒せると思うな!」

 

「ふっ……。それは俺を倒してから言うんだな!」

 

リンドウは機神剣を構えると、ラーヴァナに向かっていった。

 

そんなリンドウを迎え撃つべくラーヴァナは両手の剣を振るうのだが、リンドウはラーヴァナの攻撃をかわしていた。

 

『リンドウ!宗牙の攻撃した部分を狙って下さい!そこに勝機があるハズです!』

 

「あぁ、わかってる!」

 

宗牙の決死の攻撃により、ラーヴァナの一部にはダメージが残っており、そこを突くことで突破口を開こうと考えていたのである。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

リンドウは全力で機神剣を一閃し、宗牙がダメージを与えた場所を的確に攻撃していた。

 

「ぐぅぅ……。魔戒騎士風情が……!」

 

「吹っ飛べ!!」

 

リンドウの攻撃は確実に効いているようであり、ラーヴァナは怯んでおり、リンドウはすかさず機神剣を振るい、ラーヴァナを吹き飛ばした。

 

「まだまだだ!!」

 

リンドウは間髪入れずに烈火炎装の状態になると、吹き飛ばしたラーヴァナのもとへと向かっていった。

 

「くそっ……。調子に乗るな!!」

 

ラーヴァナはリンドウを迎撃するために炎を纏った衝撃波を放つのだが、リンドウはそれをまともに受けながらもラーヴァナに向かっていった。

 

「くっ……!」

 

しかし、ダメージはあるみたいだが、リンドウは歩みを止めなかった。

 

リンドウは烈火炎装により青紫色の魔導火を全身に纏っているため、それがダメージを緩和してくれたからである。

 

『リンドウ!もう時間がありません!一気に決着をつけて下さい!』

 

「わかってる!」

 

この時、鎧の制限時間は20秒を切っており、これ以上の戦闘継続は難しかった。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

リンドウは青紫色の魔導火を纏った刃を振るうのだが、これだけの一撃でもラーヴァナを倒すことは出来なかった。

 

「貴様……!」

 

ラーヴァナが反撃をしようとしたのだが、その前にリンドウは2度機神剣を振るうことで両手を切り落とし、ラーヴァナの反撃を防いでいた。

 

「すげぇ……」

 

『天宮リンドウ……。その実力は本物みたいだな……』

 

リンドウの奮戦ぶりに宗牙とノルバは驚きを隠せなかった。

 

「まだだ!!」

 

リンドウは機神剣を力強く振るうことでラーヴァナを上空へと吹き飛ばした。

 

『リンドウ!1度鎧を解除してください!もう時間がありません!』

 

「奴を倒す千載一遇のチャンス……。逃せねぇよ!!」

 

鎧の制限時間は残り10秒。

 

本来なら鎧を解除しなければ危険な時間だが、リンドウはラーヴァナを倒すチャンスを生かすためにそれをしなかった。

 

リンドウはラーヴァナよりも高く飛翔し、青紫色の魔導火を纏った機神剣を一閃した。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

リンドウは獣のような咆哮をあげながら力を込めていたのだが、ついにリンドウの一撃で、ラーヴァナを真っ二つに斬り裂くことが出来たのだった。

 

「馬鹿な……。この俺が……。だが、お前も、もう……!!」

 

自らが倒されたことに驚愕するラーヴァナだが、あることに気付いていたため、不敵な笑みを浮かべながら消滅していった。

 

青紫色の魔導火は消えさり、リンドウが地面に着地しようとしたその時……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎧の制限時間である99.9秒を過ぎてしまった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うっ……くっ……!」

 

リンドウが地面に着地をすると、リンドウは苦しみだしていた。

 

「り、リンドウ!?」

 

『あいつ……。まさか……!』

 

宗牙は何が起こったのかを理解していなかったが、ノルバはこれから何が起こるのかを理解していた。

 

リンドウは未だに苦しんでおり、そのため、機神剣を床に落としてしまった。

 

その直後、リンドウの身の丈に合っていた狼武の鎧が少しずつ変化していった。

 

腕……脚……身体と、徐々にその体は人間のものとは思えない大きさになっていった。

 

「……っ!り、リンドウ!」

 

『やはり……あいつは……』

 

目の前で起こっている状況に宗牙とノルバが驚く中、リンドウの体は魔戒騎士の鎧から巨大な獣のような姿に変わっていった。

 

この姿は心滅獣身(しんめつじゅうしん)。鎧の制限時間を越えた魔戒騎士がこの姿となり、巨大な獣の姿になる。

 

この姿になると、圧倒的な力を得ることは出来るのだが、この状態が続くと、その体と魂を鎧に喰われてしまう。

 

リンドウは今まさに体と魂を喰われそうになっていたのである。

 

「……!?まさか、あれは……」

 

宗牙はここでようやく事態が飲み込めたようであった。

 

『宗牙!ここは退け!!お前1人では心滅になったものを止めることは不可能だ!』

 

「馬鹿言うな!リンドウを見捨てろっていうのか!?このままだとリンドウの体と魂が喰われるんだろ!?」

 

宗牙は心滅になった魔戒騎士の末路について聞いたことがあったため、このまま逃げることをしたくなかったのである。

 

『ダメだ!心滅になった奴の力は、恐らく先ほどのラーヴァナ以上だ。お前如きでは太刀打ち出来ん。殺されるだけだぞ!』

 

心滅になったリンドウと宗牙の力の差は歴然であり、まともに戦うことを良しとはしなかった。

 

「だけど!紋章を突いたら助けることが出来るんだろ!?」

 

宗牙は心滅になったものを救う方法も聞いていたため、リンドウを救うことを諦めてはいなかった。

 

宗牙がここまで心滅について詳しいのは、自分よりも若い魔戒騎士が心滅し、黄金騎士牙狼や銀牙騎士絶狼に救われたという話を聞いたことがあるからであった。

 

リンドウを救うか見捨てて逃げるか。

 

このことで宗牙とノルバが問答をしていたその時だった。

 

「しゅ……宗牙……。早く逃げろ……!」

 

リンドウは現在、かろうじて自我を保っており、その自我で、宗牙を逃がそうとしていた。

 

「!?だけど、リンドウ!!」

 

「ノルバの言う通りだ……。今の俺は力を制御出来ん。戦えば間違いなくお前を殺すことになる……」

 

リンドウも心滅のことは知っているため、戦って宗牙を殺すということは避けたかったのである。

 

「……それに、これは自分で蒔いた種だ……。自らの罪はこの命で贖うさ……」

 

いくらラーヴァナを倒すためとはいえ、鎧の制限時間を越えて心滅になったことを、リンドウは自分の命を差し出すことで償おうとしていた。

 

「ぐぅぅ……!宗牙!早く逃げろ!!これは命令だ!」

 

今まで先輩騎士として宗牙に命令をすることはなかったリンドウが、ここで初めて宗牙に命令をしていた。

 

これ以上は自我を保つことが難しいからである。

 

そんな中、宗牙は……。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

突然獣のような咆哮をあげていた。

 

「リンドウ!そう簡単に諦めるなよ!お前を助ける方法があるんだぞ!?最後の最後まで足掻けよ!お前らしくもない!」

 

宗牙は、生きることを諦めてしまったリンドウに喝を入れていたのであった。

 

「宗牙……」

 

「逃げるな!生きることから逃げるな!!これは……命令だ!」

 

生きてさえいれば万事どうにでもなる。

 

このリンドウの教えを忠実に守ってきた宗牙だからこそ言える言葉であった。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

宗牙はリンドウに向かっていきながら鎧を召還し、奏覇の鎧を身に纏った。

 

この時、リンドウは自我を保てなくなり、まるで竜の獣のような姿になったリンドウは、咆哮をあげていた。

 

そして、リンドウは宗牙に向かって拳を叩き込むが、宗牙はその一撃をかわしていた。

 

「はぁ!!」

 

宗牙はリンドウの動きを止めるために覇皇剣を一閃し、その一撃によってリンドウは怯んでいた。

 

すかさず宗牙は攻撃を叩き込もうとするのだが、リンドウは先ほどラーヴァナが放っていたような炎を纏った衝撃波を放っていた。

 

「くっ……!」

 

その衝撃波の威力は先ほどのラーヴァナ以上だったのだが、リンドウを救いたい。

 

そんな気持ちが宗牙を突き動かしていた。

 

そして、宗牙は全身に白い魔導火を纏うことで烈火炎装の状態となり、リンドウに向かっていった。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

宗牙は決死の覚悟でリンドウに向かっていき、覇皇剣を腰の部分の紋章に叩き込もうとしていた。

 

しかし、リンドウから放たれる衝撃波はさらに威力を増していき、宗牙の鎧にもダメージが蓄積していた。

 

『宗牙!これ以上は危険だ!お前の体がもたんぞ!』

 

「諦めて……たまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

最後まで絶対に諦めない。

 

そんな宗牙の強い思いがリンドウの衝撃波をかき消したのである。

 

「今だ!!」

 

衝撃波をかき消したことで烈火炎装は解除されてしまったものの、宗牙は渾身の力を込めて覇皇剣をリンドウの紋章に突き刺した。

 

心滅になった者を救うには紋章を突かなければいけないのだが、鎧の装着者を突き殺す勢いがなければ鎧を解除することは出来ないのである。

 

「うっ……!くっ……!」

 

どうやら宗牙の渾身の一撃は決まったようであり、リンドウの動きは止まった。

 

そして、全ての力を使い切った宗牙もまた、鎧を解除し、その場で膝をついていた。

 

しばらくリンドウの動きが止まると、心滅の鎧は解除され、リンドウがその場で膝をついていた。

 

「はぁ……はぁ……。や……やったぞ……」

 

宗牙は最後まで諦めず、リンドウを救ったことを喜んでいた。

 

「……助かったぜ……。強くなったな……。宗牙……」

 

リンドウは疲弊しながらも自らを救ってくれたことに感謝し、宗牙が成長していることも伝えていた。

 

「……ありがとう、リンドウ……」

 

伝えたいことを伝えた2人はその場で倒れ込み、意識を失っていた。

 

それから間もなくして番犬所から派遣された魔戒法師によって2人は救出され、回復までにはかなりの時間を要していた。

 

この事件がきっかけとなり、宗牙は魔戒騎士としてさらに成長していくこととなった。

 

今から2年前。宗牙が20歳の若さで元老院付きの魔戒騎士になれたのも、この事件がきっかけだったと思われる。

 

宗牙はその年に行われたサバックという牙狼に次ぐ最強の魔戒騎士を決める大会に出場することとなり、見事にベスト4という好成績を残していた。

 

準決勝で戦った銀牙騎士絶狼こと涼邑零に手も足も出ずに敗れてしまったのだが、この敗北もまた、宗牙をより成長させるものであると予想することが出来た。

 

一方のリンドウは心滅になった件に関しては、ラーヴァナを討伐した功績により不問となったのだが、違う番犬所へ派遣され、魔戒騎士として戦ってきた。

 

リンドウもサバック出場の案内状が来たのだが、リンドウはサバックに出場せず、会場で魔戒騎士の試合を見ることもしなかった。

 

自分がやるべきなのは魔戒騎士としてホラーを討滅して人を守る。

 

ただ、それだけだからであった。

 

その番犬所にて多くのホラーを狩ってきたリンドウはその功績を認められ、奏夜のいる翡翠の番犬所へ派遣されることになり、今に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜過去編終わり〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……』

 

リンドウの壮絶な話を聞き、奏夜や穂乃果たちは驚きのあまり言葉を失っていた。

 

「……ま、今俺がこうしていられるのも宗牙がいてくれたからだな。うん」

 

リンドウはこう言っておどけながら話をまとめていた。

 

「それにしても、凄いな、宗牙さんは。心滅になったリンドウを1人で止めるなんて」

 

『それに、使徒ホラーと互角の力を持つラーヴァナを倒すとは、お前さんの力は未知数だな……』

 

奏夜とキルバはリンドウの話を聞いてその実力を改めて思い知ることになり、驚きを隠せずにいた。

 

「それにしても、魔戒騎士の鎧には制限時間があっただなんて……」

 

「それに、それを過ぎちゃったら怪物になるなんて……」

 

奏夜は穂乃果たちに魔戒騎士の鎧について詳しく話していなかったため、驚きを隠せずにいた。

 

「前にも話したとは思うけど、魔戒騎士の鎧は魔界から召還されるものなんだ。それで、鎧には99.9秒っていう制限時間がついちゃうんだよ」

 

「魔戒騎士の鎧って特撮ヒーローのスーツみたいにずっと着けられるわけじゃないんだぁ。ちょっとびっくりだにゃ」

 

「魔戒騎士の弱点をあげるとするならばその部分になると思うんだ」

 

「それに、その時間を過ぎたら怪物になるんやろ?」

 

『そうだ。もし心滅になった場合、速やかに紋章を突いて鎧を解除してやらなければ、そいつの肉体と魂は鎧に喰われてしまう。リンドウが助かったのも運が良かっただけなんだよ』

 

心滅になった者はリンドウの他にも何人かいるのだが、リンドウのように全員が助かった訳ではなかった。

 

心滅の圧倒的な力の前に救うことが出来ずに命を落としてしまうものや、速やかに鎧を解除したものの、邪気に体が耐えられずに息絶えた者もいた。

 

さらには心滅の力を闇の力によって抑え込み、暗黒騎士という禁忌の力を手に入れた者もいた。

 

これだけでもわかるように、心滅というのはとても危険なのである。

 

「……本当に心滅は危険なんだ。なっちまったら命の保証はないしな……」

 

「そーくん。そーくんは絶対にそんなことにはならないでよ。最近のそーくんは力を求めてるみたいだから……」

 

「……!」

 

奏夜は尊士に敗北した後、みんなを救えるほど強くなりたいと願っており、そんな気持ちが陰我になりかねなかった。

 

そのことを穂乃果は見透かしていたため、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「穂乃果ちゃんの言う通りや。力を求めるのはええけど、強すぎる力は身を滅ぼす。これは魔戒騎士に限った話やないはずや」

 

こう語る希の言葉には不思議と説得力があり、奏夜はさらに驚いていた。

 

「私たちを守ってくれるのは嬉しいですが、あなたがそれにより変わってしまうことを私たちは望みません」

 

「そうにゃそうにゃ!そーや先輩はそーや先輩でいてくれないと!」

 

「確かにね。いつぞやの奏夜みたいになったらたまらないわ」

 

「あんな奏夜は確かに見たくないわね」

 

真姫とにこが言っていたのは、絵里のバレエを見て焦るあまり穂乃果たちにきつく当たった奏夜のことであった。

 

当時のことを思い出し、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「……なんだか、今になって申し訳ないって思うわ……」

 

奏夜がそうなってしまったのも、A-RISEですら素人同然だという自分の発言からだと予想していたため、絵里は申し訳なさそうにしていた。

 

「私たちは、奏夜先輩に無茶はして欲しくないです!だって、奏夜先輩は私たちμ'sのマネージャーさんだから!」

 

「花陽の言う通りね。私のネックレスを守ってくれるのは嬉しいけれど、私たちはいつものあなたでいることを望んでいるわ。だから……」

 

「みんな……」

 

穂乃果たちの言葉を聞き、奏夜は自らのことを恥じていた。

 

力を追い求めようとはしなくても、これだけ自分を心配してくれる人がいる。

 

それだけで自分の力になるということを思い出したからだ。

 

「……みんな、ごめんな。俺、大事なことを忘れてたみたいだよ」

 

奏夜は力を追い求めていたことに対して穂乃果たちに謝罪をしており、それを聞いた穂乃果たちは安心したからか表情が明るくなっていた。

 

「……これなら統夜の心配も杞憂に終わりそうだな……」

 

穂乃果たちによって目を覚ました奏夜を見て、リンドウはこのように呟いていた。

 

「……さて、俺は指令を受けてるんでそろそろ行くとするよ」

 

どうやらリンドウはエレメントの浄化を行っている合間に番犬所から指令を受けているようであり、音ノ木坂学院に来たのも、時間潰しを兼ねてだった。

 

「指令があるなら、俺も……」

 

「いーや。お前さんはお嬢ちゃんたちとゆっくりしていろ。お前さんは魔戒騎士である前に高校生なんだ。今この時間を大切にしろよ」

 

「リンドウ……」

 

リンドウは奏夜が魔戒騎士として仕事をこなすのは良いと思っていたが、高校生として、当たり前の日常も体験して欲しい。

 

そんな願いがあり、それはもう1人の先輩騎士である桐島大輝も同じ気持ちだった。

 

「ま、そういうことで俺は行くぜ。ありがとよ、俺の話に付き合ってくれて。……あっ、そうだ」

 

何かを思い出したリンドウは、魔法衣の裏地から財布を取り出すと、一万円札をボンとテーブルに置いていた。

 

「それで美味いもんでも食ってこい。これは俺の暇つぶしに付き合ってくれたお礼ってやつだ」

 

それだけ言うと、リンドウは奏夜たちが引き止めるのを聞かずにアイドル研究部の部室を後にして、音ノ木坂学院も後にした。

 

奏夜たちはせっかく置いてくれたからということで、ファミレスへ行くことになり、料理を食べながら談笑を楽しんでいた。

 

そして、リンドウは魔戒騎士としてホラーを発見。

 

それを迎え撃った。

 

守りし者として……。

 

飄々とした態度の中にも守りし者として熱い思いを持っている。

 

これこそが、神食騎士狼武こと天宮リンドウであった……。

 

 

 

 

 

 

 

……終。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『どうやらこの街には「萌え」なる感情が蔓延してるみたいだな。ま、俺には理解出来ない代物だがな。次回、「給仕」。何故人間はメイドとやらに夢中になるのか……』

 

 




まさかの使徒ホラー並の強敵の出現(笑)

宗牙のアシストがあったとはいえ、そんなラーヴァナを倒したリンドウが凄すぎる。

さらに、心滅したリンドウを1人で止めた宗牙も凄すぎる。

ちなみに狼武の心滅獣身のモデルは、「GOD EATER」シリーズに登場したハンニバル侵食種になっています、

さて、前回のオープンキャンパス終了でμ's結成編は終了し、次回からは新章に突入します。

牙狼サイドの話も進めていきたいと考えていますので、次回も楽しみにしていてください!




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激動の学園祭編
第31話 「給仕」


お待たせしました!第31話になります!

最近、僕の住んでいる地域でもようやく「FF14 光のお父さん」が放送されるようになりました。

FF14をやってなくても面白いと感じると思いましたし、やってたら尚更面白いと感じると思います。

余計にFF14から離れられない……(笑)

それはともかくとして、今回の話から新章に突入します。

タイトルは、「激動の学園祭編」になっています。

この章から牙狼サイドの話も大きく進めていくため、このようなタイトルをつけさせてもらいました。

そして今回はラブライブ!の第9話に突入します。

タイトルが給仕ということは、メイドさん。

メイドさんと言えば……?

それでは、第31話をどうぞ!




オープンキャンパスが終わり、1週間が経過していた。

 

この頃にはオープンキャンパスの結果も出始めており、あちらこちらでオープンキャンパスが好評だったという噂を耳にするようになっていた。

 

「……それにしても、どこもかしこもオープンキャンパスの話で持ち切りだな……」

 

奏夜は、あちらこちらでオープンキャンパスの話をしている人たちの話を聞き流しながらこのように呟いていた。

 

《まぁ、オープンキャンパスは成功と言っても過言ではないからな。そんな噂が出るのも納得だろう》

 

(確かにそうだな。それに、俺たちにとってビッグニュースも飛び込んできたしな)

 

《あいつらも既に知ってるだろうが、その話を聞いたら喜ぶだろうな》

 

奏夜はμ'sのマネージャーとして、あるニュースを仕入れていたのだが、それは既に穂乃果たちも知っているだろうと思われた。

 

奏夜とキルバはテレパシーでこのような会話をしながらアイドル研究部の部室に入った。

 

「ういっす。来たぞ〜」

 

奏夜が部室の中に入ると、既に穂乃果、海未、ことり、凛、花陽の5人が来ていた。

 

「あっ、そーくん!聞いてよ!ビッグニュースだよ!ビッグニュース!!」

 

奏夜の姿を見かけた穂乃果は、興奮冷めやらぬ感じで奏夜に詰め寄っていた。

 

「落ち着けって。ニュースってのはオープンキャンパスが成功したってことだろ?」

 

「そうです!オープンキャンパスのアンケートの結果により、廃校の決定はもう少し様子を見てからになったそうなんです!」

 

「オープンキャンパスに来てくれた中学生の子たちがこの学校に興味を持ってくれた証拠だよな」

 

奏夜はオープンキャンパスの成功のニュースを改めて聞き、笑みを浮かべていた。

 

「ふっふ〜ん♪ニュースはこれだけじゃないんだよ?」

 

穂乃果は何故かドヤ顔でこう言うと、この部屋にあるもう1つのドアのドアノブに手をかけていた。

 

そして、穂乃果が扉を開けると、部室よりやや広めな教室に続いていた。

 

「じゃじゃーん!部室が広くなりました!!」

 

この部屋は元々空き教室だったのだが、μ'sの活躍が認められ、この部屋も部室として使用して良いと許可が下りたのである。

 

「これなら雨が降って屋上が使えなくてもここで練習出来るしな」

 

奏夜はこのニュースも既に知っていたのだが、それを言うと穂乃果が膨れっ面になりそうだったため、あえて黙っていたのである。

 

「うん!本当に良かったよねぇ!」

 

穂乃果は広くなった部室をクルクルと回りながら上機嫌になっていた。

 

すると……。

 

「……安心している場合じゃないわよ」

 

絵里が広い方の部室に顔を出すと、浮かれている穂乃果を注意していた。

 

「あっ、絵里先輩」

 

『絵里の言う通りだ。オープンキャンパスの成功などたいしたことではない。むしろここから生徒がたくさん集まらなければお前らの努力は無駄になってしまうということになる』

 

「そうならないためにも頑張らなきゃいけないのよ」

 

「はい……。ごめんなさい」

 

穂乃果はここでようやくオープンキャンパスの成功に浮かれている場合ではないことを思い知ったのだった。

 

絵里とキルバが奏夜たちの気を引き締めることを言っていたその時、何故か海未がいきなり泣き出していた。

 

「な、何泣いてるのよ……」

 

「泣いてなんかいません!嬉しいんです!キルバはともかくとして、まともなことを言ってくれる人がやっと入って来てくれました!」

 

海未は泣きながらも何故か嬉しそうに言っており、絵里のことを改めて歓迎するような発言をしていた。

 

「……それじゃあ凛たちがまともじゃないみたいじゃん!」

 

「……確かにそうだよな……」

 

海未の言葉は絵里以外の人間はまともではないと捉えることが出来るため、奏夜は苦笑いをしていた。

 

『それに、俺はともかくとはどういうことだよ……』

 

海未はキルバのことをスルーしていたのだが、どうやらキルバはそれが気に入らなかったようである。

 

「まぁ、それはともかく、練習を始めようか」

 

そうこうしているうちに希もやって来て、残りはにこと真姫だけのため、練習を始めようとしていた。

 

しかし……。

 

「……あ、ごめんなさい……。私、用事で……。だから、今日はこれで!」

 

ことりは用事があると宣言すると、逃げるように部室を後にしていた。

 

「?ことりの奴、なんか様子が変だよな……」

 

『確かにな。俺たちに隠れてこそこそ何かをやってることは間違いなさそうだ』

 

先ほどのことりの様子がおかしいということは誰の目にも明らかであり、奏夜は首を傾げていた。

 

そんなことりのことが気にならない訳ではない穂乃果たちであったが、それを忘れてしまうくらいに気になることがあった。

 

それは……。

 

「ねぇねぇ!見て見て!50位だよ!?50位!」

 

穂乃果たちはパソコンでスクールアイドルのサイトをチェックしていたのだが、前回のオープンキャンパスの反響が大きいからかランキングが50位にまで上昇していた。

 

「夢みたいです!」

 

この結果に、花陽は興奮しているようだった。

 

「本当に凄いわね!」

 

「絵里先輩が加わったおかげで女性ファンもついたみたいです」

 

「え?」

 

「確かに……。絵里先輩は背が高いし、足も長くて美人だし……。何より大人っぽい!さすがは3年生!」

 

「やっ、やめてよ////」

 

どうやら穂乃果のベタ褒めが恥ずかしくなったのか、絵里は頬を赤らめていた。

 

その時、たまたま部室に入ってきたにこも真姫も現れ、にこが絵里の横に並んでいた。

 

それをジッと見ていた奏夜は……。

 

(……確かに絵里先輩は大人っぽい雰囲気を出してるよな。それに比べて……)

 

奏夜は絵里とにこを見比べており、2人の体型の差に奏夜は可哀想なものを見る目をしていた。

 

そのことに気付いたにこは……。

 

「ちょっ!?そんな目で私を見るんじゃないわよ!」

 

奏夜に馬鹿にされていると感じていたにこは、偶然近くに置いてあった分厚い辞書を奏夜に投げつけていた。

 

「ふっ、甘いな!」

 

いつもいつも攻撃を食らう奏夜ではなく、今回はにこの投げつけた辞書をドッジボールの感覚でキャッチしていた。

 

「!?受け止めたにゃ!」

 

「ふふん。魔戒騎士の俺にそんなものを当てようなんざ、10年早……」

 

10年早い。そう言い切ろうとしたのだが、その前ににこが奏夜に接近していた。

 

そして……。

 

「ふんす!」

 

「いもぉ!?」

 

にこは奏夜に強烈なボディーブローをお見舞いし、それを受けた奏夜はその場でダウンしていた。

 

「奏夜……。油断したんですね……」

 

奏夜がにこのボディーブローを受けたのは、奏夜の油断から来たものと海未は予想しており、海未は苦笑いをしていた。

 

「ふん!」

 

自分の体型を馬鹿にされたにこは、ぷぅっと頬を膨らませながらそっぽを向いていた。

 

「そ、奏夜!!大丈夫なの!?」

 

いきなり奏夜がボディーブローを受けたのを見た絵里は、奏夜を心配そうに見ていた。

 

「エリチ。心配いらんよ。奏夜君にとってはこれが日常茶飯事やから」

 

「に、日常茶飯事って……」

 

こんなことが良くあるのかと思っていた絵里の表情は引きつっていた。

 

「ちょっ、ちょっと……。勝手に日常茶飯事にしないで下さいよ……」

 

奏夜はゆっくりと立ち上がりながら、希の言葉に異議を唱えていた。

 

「おぉ、もう立ち上がったんや。さすがは魔戒騎士。体は丈夫に出来てるなぁ」

 

希は、奏夜の体の丈夫さに改めて感心していた。

 

「そんなことはともかくとして、エリチはたまにおっちょこちょいなところもあるんよ。この前なんておもちゃのチョコを本物のチョコと間違えて食べそうになったり」

 

「そ、そんなことって……」

 

「ちょっ、ちょっと!希!////」

 

先ほどの日常茶飯事の話を流された奏夜は唖然としており、絵里は思いがけないことをバラされて顔を真っ赤にしていた。

 

『それにしても、絵里のやつはずいぶんと丸くなった気がするな。奏夜と衝突していたのが嘘みたいだぞ』

 

今の絵里は当時は絶対に見せなかった表情をしているため、そのことにキルバは驚いていた。

 

「確かに。あの頃の絵里先輩は本当に無理してたんだな。きっと、今の絵里先輩がありのままの絵里先輩なんだよ、きっと」

 

奏夜は、絵里がμ'sに加入したことにより、無理をする必要がなくなり、ありのままの姿に戻ることが出来たのだろうと予想していた。

 

「でも、本当に綺麗だよねぇ……。よし、ダイエットだ!」

 

「もう聞き飽きたにゃ!」

 

「確かに……。する気もないくせによく言うよ……」

 

穂乃果は何かがある度にダイエット宣言をしていたため、そんな穂乃果に凛と奏夜はげんなりとしていた。

 

「むぅぅ……!今度こそは本当に本当なんだからね!」

 

自分の発言にげんなりとしている凛と奏夜が気に入らないからか、穂乃果はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「だけど、ここからが大変よ。上に行けば行くほどファンはたくさん出来るんだから」

 

真姫は、スクールアイドルとして、これからは今まで以上に気を引き締めなければならないことを伝えていた。

 

「そうね……。確かに、短期間で順位を上げるためには、何か思い切った手が必要ね……」

 

「思い切った手か……」

 

現在μ'sのランキングは50位。

 

ラブライブ出場のためにはランキングを20位以上にならなければならない。

 

しかし、トップ20になろうとするならば、生半可な方法では上手くいかないだろう。

 

今以上にμ'sの存在を知ってもらうため、斬新かつ大胆な策を立てる必要があった。

 

奏夜はその方法を真剣に考えていたのだが……。

 

『……奏夜。考え事しているところ悪いが、番犬所から呼び出しだぞ』

 

「……もしかして、指令か?」

 

『さぁな。それは行ってみないとわからんな』

 

「そうだよな……。みんな、悪いけど、俺は番犬所に行かなきゃいけないから、帰らせてもらうな」

 

指令があるかどうかはまだわからないものの、番犬所から呼び出されたため、奏夜は番犬所へと向かうことになった。

 

「……奏夜……。また、あのホラーとかいう怪物と戦いに行くの?」

 

「まぁ、本当に指令だったらそうなりますかね」

 

「……」

 

絵里は、奏夜と尊士との戦いを思い出していたからか、不安そうな表情をしていた。

 

「……大丈夫ですよ。俺はどんなホラーが相手だろうと負けません。俺を信じて下さい」

 

奏夜は、不安がる絵里を安心させるために力強い言葉を送っていた。

 

「……わかったわ。奏夜、信じてるからね」

 

「はい」

 

「そーくん。気を付けてね」

 

「あぁ。それじゃあ、行ってくるな」

 

こうして奏夜はアイドル研究部の部室を後にすると、そのまま番犬所へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おっ、来ましたね、奏夜」

 

奏夜が翡翠の番犬所に到着すると、ロデルは奏夜の到着を待っていた。

 

番犬所には奏夜だけではなく、大輝にリンドウ。さらには統夜も顔を出していた。

 

「と、統夜さん!?来てたんですか?」

 

「まぁな。とりあえずロデル様の話を聞いてくれ」

 

何故統夜が翡翠の番犬所にいるのか。ロデルが直接説明することになっていた。

 

「今日みんなに集まってもらったのは他でもありません。統夜から報告を受けた魔竜ホラー、ニーズヘッグについてです」

 

「……統夜から話は聞いたが、どうやら事態は深刻なようだな」

 

「えぇ。統夜の報告によると、ニーズヘッグを蘇らそうとしているのは、ジンガと名乗る男のようです」

 

「確か、ニーズヘッグを蘇らせるために魔竜の眼と、この魔竜の牙を狙っているんですよね?」

 

奏夜は魔法衣の裏地から絵里に受け取ったネックレス……魔竜の牙を取り出して見せていた。

 

「そのようです。ジンガと名乗る男の野望を阻止し、ニーズヘッグの復活を阻止するのです。ちなみにこれは元老院からの依頼でもあり、他のホラー討伐よりも最優先事項となっています」

 

ジンガの野望を阻止することこそ、元老院から下された指令であり、この場にいる全員の協力で当たるべき仕事であった。

 

「だが、この仕事はそう簡単にはいかないぞ」

 

「そうですね。ジンガと名乗る男の部下である尊士という男は、奏夜を圧倒しました。ですから、ジンガと名乗る男の実力は未知数です」

 

「ま、やるしかないだろう。ニーズヘッグが復活したらかなりやばいことになるんだろう?」

 

「リンドウの言う通りだ。これ以上、奴らの好きにさせてたまるかよ……!」

 

統夜は本気でニーズヘッグの復活を阻止したいと考えているようであり、その瞳からは覚悟を感じ取ることが出来た。

 

「ですから、元老院から応援の魔戒騎士を派遣を申請しました。いつになるかはわかりませんが、応援の魔戒騎士が来たら協力して事に当たって下さい」

 

「え?統夜さんも一緒なのに、応援……ですか?」

 

「統夜は元老院ではなく、紅の番犬所付きの魔戒騎士ですからね。彼とは別に正式な元老院付きの魔戒騎士の応援が必要だろうと私が判断したのです」

 

統夜が元老院付きの魔戒騎士であるならば、統夜だけを派遣すれば良い話なのだが、元老院からの応援も必要だろうとロデルは判断したため、応援を要請する事にしたのだった。

 

「まぁ、やばい敵が相手なんだ。味方は1人でも多い方がいいよな」

 

「確かにな。そこは俺も思っていた」

 

「そういうことです。統夜、あなたにはジンガと尊士。両名の追跡と調査。さらには奴らが狙っている魔竜の眼の捜索をお願いします」

 

「……わかりました。この仕事は元老院からも与えられた仕事です。確実にこなしてみせます」

 

統夜はジンガと尊士に遭遇後、元老院にも事の顛末を報告したのだが、そこでもジンガと尊士の調査や、魔竜の眼の捜索を依頼されていたのであった。

 

「頼みましたよ、統夜。後の皆さんはこれまで通りホラー討伐に当たって下さい。今日は指令はありませんが」

 

奏夜たちは翡翠の番犬所付きの魔戒騎士として、いつも通り仕事をするように申し伝えがあった。

 

「……この件に関しては何かわかりましたらすぐに情報を共有したいと思いますので、よろしくお願いしますね」

 

「「わかりました!」」

 

「「了解した」」

 

奏夜たちはロデルに一礼すると、そのまま番犬所を後にした。

 

本来ならばここでそれぞれ解散となり、街の見回りに向かうところなのだが……。

 

「……なぁ、お前ら。この後、時間あるか?」

 

大輝はこのようなことを言っており、奏夜、リンドウ、統夜の3人は足を止めていた。

 

「……?どうしました?大輝さん」

 

「お前さんからそんなことを言うのは珍しいじゃないか。一体どうしたんだ?」

 

大輝が唐突に話を切り出してきたことに奏夜は驚いており、リンドウは興味津々な感じで話を聞こうとしていた。

 

「……実は最近、時々ではあるが、メイド喫茶に行くようになったんだ」

 

「!?だ、大輝さんが……ですか!?」

 

「ほぉ……」

 

大輝からのまさかの告白に、奏夜は驚愕しており、リンドウは意外な事実にニヤニヤしていた。

 

「アハハ……。もしかして大輝さん、あの時のことがきっかけで……」

 

どうやら統夜は、大輝がメイド喫茶にハマったきっかけを知っているようであり、苦笑いをしていた。

 

何故、統夜は大輝がメイド喫茶にハマったきっかけを知っているのか?

 

(詳しくは「牙狼×けいおん 白銀の刃」 UA30000記念作品「日常」を参照してください!) ←宣伝 乙w

 

「それでな、俺の行きつけの店に最近伝説のメイドと呼ばれた「ミナリンスキー」なるメイドがいるみたいなんだ。最近騎士の仕事が忙しくてメイド喫茶に行けてないし、たまには行きたいと思っててな」

 

どうやら大輝はミナリンスキーというメイドに会いたいらしいため、メイド喫茶に行きたいようである。

 

「ミナリンスキー?どこかで聞いたことがあるような……」

 

『そういえば、にこが部室に飾ってたサイン色紙を書いたのがそんな名前じゃなかったか?』

 

「そうだそうだ。本物かどうかは謎だけど、サイン色紙が置いてあったんだよな」

 

アイドル研究部の部室に飾ってあったサインを書いたのが大輝の話していたミナリンスキーなのだが、ネットで仕入れたもののため、本物かどうかは謎であった。

 

「これからだって例の事件が絡んできてより忙しくなるだろ?だから、行っておこうと思ってるのだが、お前らも一緒に行かないか?」

 

大輝はどうやら奏夜たちと一緒にミナリンスキーがいると思われるメイド喫茶に行きたいみたいだった。

 

そんな大輝の提案を聞いた奏夜たちは……。

 

「……わかりました。大輝さんが一緒に行きたいと言うならご一緒します」

 

「俺も行こう。なんだか面白そうだしな」

 

「俺もいいですよ。例の調査をするのもメイド喫茶に行ってからでも遅くはないですし」

 

理由はそれぞれなのだが、大輝の提案を二つ返事で承認していた。

 

「……すまないな。それじゃあ、行こうか」

 

こうして奏夜たちはメイド喫茶に行くことになり、大輝の先導でメイド喫茶へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

大輝の行きつけのメイド喫茶は、秋葉原某所にあった。

 

この場所は秋葉原の中でもメイド喫茶やゲームセンター、さらにアニメショップやアイドル専門店などサブカルチャーに突出したエリアであった。

 

この辺にはメイドの格好をした女性や、アニメなどのコスプレをしている人もいたため、魔法衣を着た奏夜たちが歩いていても特に目立つことはなかった。

 

大輝は慣れた感じでメイド喫茶の中に入っていき、奏夜たちはその後を追って店の中に入っていった。

 

「「……お帰りなさいませ!ご主人様!」」

 

メイド喫茶の中に入るなり、近くにいた2名のメイドが挨拶をしていた。

 

「おう。帰ったぞ!」

 

「大P!久しぶり!!最近全然お店に来てくれないから心配してたよぉ〜!」

 

「悪い悪い。仕事の方が忙しかったからな」

 

「大P!本当に待ってたよぉ〜!」

 

「アッハッハ!だいぶ待たせちまったみたいだな!」

 

大輝はどうやらこの店の常連になっているようであり、出迎えをしてくれた2人のメイドは大輝に歩み寄り、親しげに話をしていた。

 

そして大輝も、奏夜たちには見せたことのない表情をしながら、メイドにデレデレしていた。

 

「「……ま、真面目で厳格な大輝さんのイメージが……」」

 

奏夜にしてみても、統夜にしてみても、大輝が先輩騎士であることに変わりはなく、そんな大輝の別の一面に唖然としていた。

 

「ほぉ、大輝の奴、こんな一面があるとはな」

 

リンドウは大輝の知られざる一面を見てもそこまで驚くことはなく、むしろ面白がっていた。

 

「ねぇねぇ、大P!みんな大Pと似た格好をしてるけど、同僚さんなの?」

 

「ま、そんなところだな」

 

さすがの大輝も自分が魔戒騎士であることは明かしてはいないようで、奏夜たちのことは同僚と説明していた。

 

「ちょうど良かった!今凄く人気のある子がいるんだ。今来ると思うから、大Pやみんなにも紹介するね!」

 

メイドの1人が言っていたのは恐らくは先ほど大輝が話していたミナリンスキーと呼ばれているメイドであると思われた。

 

このような話をしている内に1人のメイドが奏夜たちの来客に気付いてこちらにやって来たのだが……。

 

「お帰りなさいませ!ご主人様……さ……ま……」

 

そのメイドは笑顔で奏夜たちを出迎えたのだが、奏夜の顔を見るなり固まってしまっていた。

 

どうやらそれは奏夜も同様であり、メイドの顔を見た瞬間ポカンとしてしまっていた。

 

その理由は……。

 

「そ……そーくん!?」

 

「こ、ことり!?」

 

奏夜たちの前に現れたメイドの正体がなんとことりだったからである。

 

驚いていたのは奏夜だけではなく、統夜も驚いていた。

 

「お、お前がどうしてここに?」

 

「あれぇ?ミナリンスキーちゃん。この人たちの知り合いなの?」

 

「だとしたら凄いね!だって、ミナリンスキーちゃんは伝説のメイドって呼ばれているんだもん!」

 

「あ、あぅぅ……」

 

どうやら伝説のメイドと呼ばれたミナリンスキーの正体こそが、ことりであり、ことりはそのことを知られたくはなかったようであった。

 

だからことりはバツが悪そうにしていたのだが、奏夜は最近ことりがみんなに内緒で何かをしていると察していたため、そのことに納得していた。

 

「とりあえず、こちらへどうぞ!ご主人様!」

 

立ち話をする訳にもいかなかったため、2名のメイドは奏夜たちを席まで案内してくれた。

 

奏夜と統夜の2人はことりと話をするために席を用意してもらい、リンドウと大輝は本来の目的を楽しむことにしていた。

 

「……あ、あのね、そーくん!私がここでバイトしてることはみんなには……」

 

どうやらことりはここでバイトをしていることを口外されたくないみたいだった。

 

「……どうしてだ?遅かれ早かれバレそうなものだけどな」

 

「それに、ことりが伝説のメイドだなんて、みんなが知ったら驚くと思うけどな」

 

奏夜と統夜は、わざわざ隠し立てするようなことではないのでは?と思っていたため、ここまでことりが必死なことに首を傾げていた。

 

「だって……」

 

ことりは俯きながらこう呟き、答えようとはしなかった。

 

ことりはことりなりに悩み、何かしらの事情があってここで働いているのだろう。

 

奏夜と統夜はこのように判断することが出来たのであった。

 

「……わかったよ。みんなにバレるまではこのことは秘密にしておくよ」

 

「本当!?」

 

「嘘はつかないって。本当だよ」

 

奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべながらこう答えていた。

 

「俺も黙っておくよ。一応唯たちにも内緒にしておくな。あいつらがバラす可能性もあるし」

 

「統夜さん……。ありがとうございます!」

 

統夜もまた、ことりの秘密を黙っておくことを約束し、ことりはそんな統夜にお礼を言っていた。

 

「ま、そういうことだ。ことり、せっかくだから接客をしてくれないか?」

 

「そうだな……。伝説のメイド、ミナリンスキー。その手並みを拝見するのもまた一興か」

 

「かしこまりました!」

 

ことりは席を立つと、接客の準備を始めて、すぐさまこちらへ戻ってきた。

 

「お待たせいたしました。こちら、メニューになります」

 

「「は、はい……」」

 

ことりはメニュー表を持ってきたのだが、奏夜と統夜は、呆然としながらもメニューを受け取っていた。

 

「ただ今、お冷やをお持ち致します」

 

ことりは100点満点の接客スマイルをしながら一礼をすると1度離れて、水を持ってきてくれた。

 

奏夜と統夜はせっかくだからとオムライスを注文した。

 

注文を受けたことりは厨房へと移動し、注文の内容を伝えていた。

 

オムライスが来るまでの間、奏夜と統夜は別の席にいる大輝とリンドウの様子を見ていた。

 

すると、リンドウは煙草を吸いながらご満悦といった感じであり、大輝に至っては、可愛いメイドを前にデレデレしていた。

 

今回、大輝の知られざる一面を垣間見た奏夜と統夜は引きつった笑顔で苦笑いをしていた。

 

そんな中、注文していたオムライスが運ばれ、ことりがケチャップを使ってイラストを描く。

 

そのイラストはとても可愛らしいイラストであり、奏夜と統夜は思わず携帯を取り出すとイラストが描かれたオムライスの写真を撮っていた。

 

「こ、これが、伝説のメイド……」

 

「ミナリンスキー……」

 

奏夜と統夜は、伝説のメイドと呼ばれたことりの接客に、思わず心を奪われそうになっていた。

 

一通りの接客を終えたことりは、大輝とリンドウの接客を行うためにそちらへと向かっていった。

 

「……何ていうか……。危なかったな。思わず俺までメイド喫茶にハマりそうになっちゃったよ」

 

「統夜さんもですか?実は俺もです……」

 

どうやら奏夜と統夜はことりの接客が良すぎたからか、メイド喫茶にハマりそうになっていたのである。

 

その後ことりは大輝とリンドウの接客も行っていたのだが、その2人も、思わずことりの接客に夢中になりそうになっていた。

 

こうして、奏夜たちはメイド喫茶を心ゆくまで堪能したところでメイド喫茶を後にした。

 

奏夜、大輝、リンドウの3人は別れて街の見回りを行うことになり、統夜はメイド喫茶で別れると、ジンガや尊士についての調査を行うためにどこかへと向かっていった。

 

ことりが穂乃果たちには内緒でメイド喫茶でバイトをしている訳なのだが、何故ことりはメイド喫茶でバイトをしているのか?

 

それは、これから明らかになっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『ことりの奴がメイドをやっていることにも驚きだが、そんなことを思っていたとはな……。次回、「小鳥」。産毛の小鳥は空に羽ばたけるのか?』

 




大輝キャラ崩壊(笑)

今作では出番の少ない大輝ですが、意外な一面が明らかになったと思います。

前作である「牙狼×けいおん 白銀の刃」を読んでいる人なら驚くとは思いますが、今作のみ読んでいる方も、大輝はこんな感じのキャラなんだなと言ったことがわかったかと思います。

そして、奏夜だけじゃなくて統夜までもがことりに夢中になりかけて……(笑)

ことりは奏夜に口止めをしていましたが、次回、一体どうなってしまうのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第32話 「小鳥」

お待たせしました!第32話になります!

最近仕事が忙しくて、なかなか小説の執筆が出来ない……。

どうにか今のペースは守っていますが、もしかしたら投稿が遅れることがあるかも。

そこはご了承いただけると嬉しいです。

さて、前回ことりの秘密を知った奏夜ですが、その秘密を守り続けることは出来るのか?

それでは、第32話をどうぞ!




オープンキャンパスから1週間が経ち、その結果は予想以上に反響があったようであった。

 

ランキングも50位まで上がり、ラブライブ出場が狙える順位になってきていた。

 

本気でラブライブを狙うのなら、思い切った策を立てる必要があったのだが、最近ことりの様子がおかしかった。

 

そんなことりに疑問を持ちながらも、奏夜は短期間でランキングを上げる策を考えていたのだが、番犬所から呼び出しを受けたため、奏夜は番犬所へと向かっていった。

 

ホラー討伐の指令はなかったのだが、ジンガや尊士が復活させようとしている魔竜ホラー、ニーズヘッグの復活を阻止するべく動くようロデルから通達があった。

 

紅の番犬所に所属する統夜も元老院からの指令を受けて奏夜たちに協力することになり、統夜はニーズヘッグを復活させようとしているジンガや尊士の調査を行うことになっていた。

 

それだけではなく、ニーズヘッグ復活に必要な魔竜の眼の捜索も行おうとしている。

 

奏夜たちは、詳しい情報が入るまでは魔戒騎士としての仕事を行うことになった。

 

奏夜たちは番犬所を後にしたのだが、大輝の提案でメイド喫茶に行くことになった。

 

そこで奏夜たちはその店でバイトをしていることりとバッタリ遭遇したのである。

 

実はことりこそ、伝説と呼ばれたメイド、ミナリンスキーだったのだ。

 

衝撃の事実を知った奏夜は驚きを隠せなかったのだが、ことりはメイド喫茶でバイトしていることは他言無用にして欲しいと頼まれる。

 

奏夜は遅かれ早かれバレるとは思っていたのだが、ことりが必死に頼んでいたため、それを了承する。

 

この日は、メイド喫茶を思い切り堪能してから街の見回りを行い、家路についたのであった。

 

翌日、奏夜はいつものようにアイドル研究部の部室に向かうのだが、ことりはこの日も早々に帰ってしまったようである。

 

「やっぱり今日もことりは早々に帰ったんだな……」

 

部室に入った奏夜は、ことりの姿がないことを確認して、このように呟いていた。

 

「そうなんだよ!そーくん、何かことりちゃんから聞いてない?」

 

「いや、聞いてないな。俺も気にはなってるんだけど……」

 

奏夜は自然体に答えていたため、奏夜が嘘をついていると気付くものはいなかった。

 

「ことり……。いったいどうしたというのでしょうか……?」

 

最近のことりの様子に、海未も心配していた。

 

「まさかとは思うけど、彼氏が出来たとか?」

 

「!?」

 

奏夜は事情を知っているものの、穂乃果の推測に驚愕していた。

 

そして、ことりに彼氏が出来たことを想像した奏夜は……。

 

 

 

 

 

 

ガン!ガン!ガン!ガン!

 

 

 

 

 

何故か壁に頭を何度も打ちつけていた。

 

「そ、そーくん!?いったいどうしたの!?」

 

「そ、奏夜!落ち着いてください!」

 

「そうよ!ことり先輩なら彼氏がいてもおかしくはないけれど、ことり先輩に限ったそんなことはないと思うわ」

 

そして、海未と真姫が必死に奏夜のことをなだめており、真姫の言葉を聞いた奏夜はハッとしていた。

 

「……そ、そうだよな!いやぁ、俺としたことが、少し取り乱しちまったよ」

 

『どこが少しだよ……』

 

「確かに……」

 

奏夜のあまりの動揺ぶりにキルバと花陽はジト目で奏夜のことを見ていた。

 

「……奏夜って意外と変人なのね……」

 

「今頃気付いたの?」

 

「せやなぁ。ウチも奏夜君が変人なのはすぐに気付いたんよ」

 

3年生組は奏夜の動揺ぶりを見て、奏夜が変人であると感じていたのである。

 

「ちょっとそこ!そんなこと言わんでくださいよ!地味にヘコみますから!」

 

奏夜は変人扱いされるのが解せないようであり、異議を唱えていた。

 

「……それはともかくとして、ことりはいませんが、私たちだけでも練習しませんか?」

 

「そうね……。まだ、これからのことは決めきれてないけれど、練習は必要だわ」

 

「それはともかくって……」

 

奏夜の唱えた異議は軽くスルーされてしまい、奏夜は引きつった表情で苦笑いをしていた。

 

「……それよりも。やるべきことがあるんじゃないの?」

 

何故かにこはドンと大きく構えて、このようなことを言っていた。

 

「やるべきこと?」

 

「そうよ。それは……」

 

どうやら今からにこのやろうとしていることには準備が必要であり、準備を終えた奏夜たちはとある場所へと向かっていった。

 

その場所とは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……秋葉原の街中だった。

 

何故か奏夜以外の全員はしっかりとコートを着込んでおり、マスクにサングラスと怪しい格好をしていた。

 

そして奏夜も、格好は普段の魔法衣のため変わらないのだが、サングラスだけは着用していた。

 

「……あの、暑いんですけど……」

 

穂乃果が暑いと言うのも無理はなかった。

 

現在は夏であり、半袖でも充分暑いというのに、コートにマスクという完全装備なため、サウナのような暑さになっていたのである。

 

「我慢しなさい!これがアイドルを生きる者の道よ!有名人なら有名人らしく街に紛れる格好をしないと」

 

「有名人らしくって……」

 

『それに、本当の有名人ならここまであからさまなことはしないと思うのだが……』

 

奏夜はにこの言葉に呆れており、キルバは的の得たツッコミをしていた。

 

「それにこれでは……」

 

「逆に目立つよな。そんな暑苦しい格好をしてちゃ」

 

真夏にコートを着ている時点で怪しさは全開であった。

 

……奏夜は魔戒騎士であるため、魔法衣と呼ばれるロングコートを毎日着ているのだが……。

 

「馬鹿馬鹿しい!」

 

真姫はつけているマスクとサングラスを外し、コートを脱ぎ捨てていた。

 

そんな真姫を見て他のメンバーもコートとマスクとサングラスを外していった。

 

「例えプライベートといえども、常に見られていることを意識する!トップアイドルを目指すなら当たり前よ!」

 

「その言葉には同意はするけど……」

 

『他にやり方はいくらでもあるだろうに……』

 

人に見られることを意識するという言葉に奏夜とキルバは賛同していたものの、にこのやり方が良いとは思えなかった。

 

「……それにしても、あんたはいつまでサングラスを付けてるのよ……」

 

他のメンバーがいつもの制服姿に戻っても、奏夜はまだサングラスを付けており、そのことに真姫は呆れていた。

 

「いやな。サングラスなんて滅多につけないからつい……。魔法衣にサングラス……。格好良いだろ?」

 

「いえ。充分に怪しいです」

 

「さいですか〜」

 

海未に怪しいと言われて諦めがついたのか、ここで奏夜はサングラスを外していた。

 

「それにしても、奏夜は毎日そのコートを羽織っているんでしょう?暑くないの?」

 

「確かに。そこは疑問に思っていました」

 

絵里は魔法衣を羽織る奏夜にこのような疑問を抱いており、それは海未も気になっていた。

 

「心配ないですよ。こいつは確かにロングコートですけど、これの裏地は内なる魔界に繋がってるから、温度調節も出来てますし」

 

魔戒騎士や魔戒法師の着ている魔法衣は霊獣の毛皮で作られたものである。

 

さらに先ほどの奏夜の説明通り、魔法衣の裏地は内なる魔界に繋がっている。

 

奏夜たち魔戒騎士はそこから魔戒剣を取り出し、魔戒法師は魔導筆や小型の魔導具を取り出したりしている。

 

さらには温度調節の機能も備わっているため、夏の暑い時や冬の寒い時も魔法衣1枚あれば平気なのである。

 

とは言っても、温度調節も多少なので、一般人が真夏に魔法衣を羽織っても、暑いだけなのだが……。

 

「へぇ、魔法衣って便利なのねぇ」

 

「ま、そうかもしれないですね」

 

「むぅぅ……!なんかずるいなぁ……」

 

穂乃果は何故か魔法衣の機能が気に入らないようであり、ふくれっ面になっていた。

 

そんな中……。

 

「うわぁ!凄いにゃあ!!」

 

凛の声が聞こえてきた方向を奏夜たちが向くと、そこには小さめではあるが、スクールアイドルの専門店があった。

 

スクールアイドルが流行っていることに合わせて、最近オープンしたようであった。

 

「へぇ、こんなお店があるんだねぇ」

 

「まぁ、ラブライブが開かれるくらいやしなぁ」

 

こう言いながら穂乃果と希は店内に入っていき、残りのメンバーも店内に入っていった。

 

このお店はスクールアイドルの専門店と言うだけあって、様々なスクールアイドルの缶バッジなどのグッズが置かれていた。

 

「本当に色々置いてあるな……」

 

店内にはA-RISEを始めとして、有名なスクールアイドルの様々なグッズがあり、その豊富な種類に、奏夜驚いていた。

 

そんな中……。

 

「ねぇねぇ!そーや先輩!見て見て!この子、かよちんそっくりだよ!」

 

そう言いながら凛が奏夜に見せてきたのは、花陽そっくりな人物の缶バッジであった。

 

しかし……。

 

「……ん?待てよ?これって……」

 

よく見てみると、これは花陽のそっくりさんではなく、花陽本人の缶バッジみたいだった。

 

まさかμ'sのグッズもあるとは思わなかったからか、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「なぁ、これって花陽本人だよな?」

 

「え?……あっ!本当だ!よく見たらかよちんだにゃ!」

 

「えぇ!?私の!?」

 

ここでようやく凛は気付いたようであり、花陽は自分のグッズが置かれていることに驚いていた。

 

奏夜は周囲を見渡すと、店内の目立つところにμ's専用のコーナーが設けてあった。

 

そこにはμ'sのポスターやμ'sの写真の他、先ほどの缶バッジのような商品も置かれていた。

 

「うっ、うううう海未ちゃん!こ、こここ、これ、私たち……だよね?」

 

「お、落ち着きなさい、穂乃果!」

 

まさか、自分たちのグッズがあるとは思わなかったからか、穂乃果と海未は明らかに動揺していた。

 

「こ、これって本当にμ'sのだよね?石鹸売ってる訳じゃないよね?」

 

「おいおい……」

 

穂乃果のあまりの動揺ぶりに、奏夜は少しばかり呆れていた。

 

にこに至っては、自分たちのグッズが置かれていたのが嬉しかったのか、それを写真に撮ったりしていたのだが、自分のグッズが少ないことは気に入らないみたいだった。

 

奏夜たちが自分グッズが置かれていることに喜んでいたその時だった。

 

「……あの!すいません!」

 

聞き覚えのある声が聞こえてきたため、奏夜たちはその声の方を向くのだが、そこにはメイド姿のことりがいた。

 

どうやら店員と何かを話しているようだった。

 

「ここに私の生写真があるって聞いて……。あれはダメなんです!すぐに外して下さい!」

 

「写真……?」

 

奏夜はμ's専用のコーナーをよく見てみると、隅っこの方にメイド姿のことりの写真が貼られていた。

 

恐らく、ことりの言っていた写真というのはこれのことなのだろうと察することが出来た。

 

「……ことりちゃん?」

 

「ぴゃあ!?」

 

穂乃果がおずおずと声をかけると、ことりは甲高い声をあげて驚いていた。

 

そして、見られたくないところを見られたからか、呆然としながら固まっていた。

 

(あちゃあ……。あっさりバレちまったか……)

 

ここまであっさりとことりの秘密がバレると思っていなかったからか、奏夜は頭を抱えていた。

 

「……ことり。何をしているのですか?」

 

今度は海未がこのように訪ねており、どう答えればいいのかわからなかったことりはその場で固まっていた。

 

しばらく考えた後、近くに落ちていたガチャガチャのカプセルを拾ったことりが取った行動が……。

 

「……ことり?What?ドナタディスカ?」

 

……何故かカタコトの外国人のようなキャラになってその場を乗り切ろうとしていた。

 

「……」

 

あまりにも苦しいことりの行動に奏夜はジト目になっていた。

 

「うぉっ!?が、外国人!?」

 

凛だけは何故かことりを外国人だと信じてしまい、そんなことりに、絵里もジト目になっていた。

 

「……ことりちゃん、だよね?」

 

「チガイマース!」

 

ことりは自分がことりではないと主張していたが、明らかににバレバレであった。

 

「ソレデハ、ゴキゲンヨウ。ヨキニハカラエ〜ミナノシュ〜♪……さらば!」

 

ことりは誤魔化しながら少しずつ前へ進んで行ったかと思いきや、そのまま逃げ出してしまった。

 

「あっ!逃げた!」

 

ことりが逃げ出してしまったため、穂乃果と海未はそんなことりを追いかけていった。

 

「……ったく……。仕方ないな……」

 

バレバレではあったものの、秘密を守ると約束した以上、奏夜はことりの秘密を守ることにしたため、同じようにことりを追跡していた。

 

逃げる相手を追いかけるというのは、ホラー相手によくやっていることなので、ことりが行きそうな場所を予想しながら奏夜は進み、先回りをすることにしていた。

 

すると、奏夜の予想通り、ことりは穂乃果と海未をまいて路地裏の方へと逃げていった。

 

「……ことり、こっちだ!」

 

「ぴゃあ!?そ、そーくん!?どうして……」

 

いきなり誰かに手を掴まれてことりは驚いていたのだが、それが奏夜だとわかると安心していた。

 

「約束しただろ?秘密は守るって。もうバレバレだとは思うけど、やれるところまでは付き合うさ」

 

いくら秘密がバレそうになっているからといって、その秘密をバラすことはせず、奏夜は最後の最後まで秘密を守ろうとしていた。

 

「そーくん……」

 

ことりは、最後まで自分の味方でいてくれる奏夜のことをありがたいと思っており、嬉しくも思っていた。

 

「さぁ、ことり。今のうちに逃げるぞ。みんなには俺が上手く話して誤魔化しとくからさ」

 

「う、うん!」

 

奏夜はことりを連れてさらに逃げようと考えていたその時だった。

 

「……どこに行くんや?2人とも」

 

「!?の、希……先輩?」

 

どうやら希も2人のことを先回りしていたようであり、逃げようとしていた2人に声をかけていた。

 

「ことりちゃんだけやのうて、奏夜君の様子も少しだけおかしい思うてな。先回りしてみたら、まさか奏夜君も事情を知っているとはなぁ……」

 

「!?ば、バレてる……」

 

『流石は希だな。奏夜の奴も自然に振舞っていたと思ったが』

 

どうやら希は全てお見通しのようであり、奏夜とキルバは驚きを隠せなかった。

 

「それで、奏夜君はこのままことりちゃんを逃して、そのまま話を有耶無耶にしようとしていたんやろ?」

 

「いや……あの……その……」

 

どうやら希は、奏夜の企みまで見通しており、奏夜はどう答えていいのかわからなかった。

 

「そんな悪い子には……」

 

希は急な怪しい笑みを浮かべると、ゆっくりと奏夜に近付いていった。

 

「あの……な、何を……?」

 

「ワシワシメガマックスやで!」

 

「ちょっ……やめっ……」

 

希は問答無用で奏夜に接近し、そして……。

 

 

 

 

 

 

 

アーーーーーー!!!

 

 

 

 

 

 

 

奏夜の悲鳴が大きく響き渡っていた。

 

希のワシワシはかなり強烈だったからか、奏夜はその場でダウンしてしまっていた。

 

「そっ、そーくん!?」

 

「さて、次はことりちゃんの番やな。何があったか正直に話さないと、その膨よかな胸をワシワシするよ♪」

 

希は怪しい笑みを浮かべながらことりに近付いていった。

 

「ぴぃっ!?ご、ごめんなさい……」

 

どうやらことりはワシワシ攻撃は嫌だったため、正直に全てを話すことにした。

 

「……俺、明らかにやられ損じゃねぇか……」

 

どうせことりが話すなら自分はやられる必要はないのでは?

 

そう思っていた奏夜は小さな声で異議を唱えていた。

 

「……奏夜君に関しては自業自得や♪」

 

「……ですよねぇ」

 

自業自得と言われてしまえば、これ以上は何も言うことが出来なかった。

 

こうしてことりは穂乃果たちにも事情を話すことになり、穂乃果たちと合流したところで、ことりが働いているメイド喫茶へと向かい、そこで話を聞くことにした。

 

ことりは自分の正体を明かすと、穂乃果たちは「えぇ!?」と驚きを隠せないようだった。

 

「こ、ことり先輩があの伝説のメイド……ミナリンスキーさんだったんですか!?」

 

「うっ……うん」

 

「ひどいよ!ことりちゃん!そういうことなら教えてよ!言ってくれたら遊びに行って、ジュースとか奢ってもらおうと思ったのに……」

 

「そこ!?」

 

「そこかよ!」

 

穂乃果の発言に、花陽と奏夜は思わずツッコミを入れていた。

 

「それよりも文句を言いたいのは奏夜です!」

 

「そうだよ!そーくんはことりちゃんの秘密を知ってたんでしょ?何で教えてくれなかったの?」

 

「仕方ないだろ。俺もそこまで秘密にする理由はわからなかったけど、必死に口止めを頼まれたんだから……」

 

ことりの秘密を知りながらも穂乃果たちには秘密にしていた奏夜のことが気に入らないからか、海未と穂乃果が文句を言っていた。

 

しかし、奏夜は口止めされたから仕方ないと悪びれる様子はなかった。

 

「それに、この写真はいったい?」

 

奏夜は先ほどスクールアイドルの専門店に貼られていたメイド姿のことりの写真について聞いてみることにした。

 

「店内のイベントで歌わされて……。撮影は禁止だったのに……」

 

「なるほどな。それを聞いただけでも安心したよ。好きで撮った訳じゃないんだもんな?」

 

ことりがこの写真をノリノリで撮っていたらどうしようと考えていた奏夜であったが、ことりは落ち込んでるのを見たら、嫌々撮られたものであるとわかり、少しだけ安堵していた。

 

「それじゃあ、アイドルって訳じゃないんだよね?」

 

「うん。それはもちろんだよ」

 

どうやらことりは、スクールアイドルグループμ'sの南ことりとしてメイドをやっている訳ではないため、そのことに穂乃果は安堵していた。

 

「ですが、何故このようなことを?」

 

「ことり、教えてくれないか?」

 

海未と奏夜は、何故ことりはこの店でバイトをするようになったのかを聞き出そうとしていた。

 

「……実は、まだμ'sがそーくんを入れて4人だった頃、スカウトされてこの店で働くことになったの……」

 

「そんな前のことなんだな……」

 

恐らくことりがメイドになったのもμ'sとして動き始めて間もなくであると思われたため、それなりに月日が経過していた。

 

「まぁ、メイドの服って可愛いし、ことりもそれに魅了されたってところか?」

 

「うん。メイド服って可愛いからつい……」

 

どうやら奏夜の推測通り、この仕事を始めた動機は、メイド服が可愛かったからのようであった。

 

「だけど、それだけが理由って訳じゃないだろ?」

 

奏夜は、何故ことりがこの仕事を始めたのか。

 

もっと深刻な理由があるのだろうと感じていた。

 

「……自分を……変えたいなって思って……」

 

「自分を変えたい……か」

 

「だって私は、穂乃果ちゃんみたいにみんなを引っ張っていくことは出来ないし、海未ちゃんみたいにしっかりしていない。それに、そーくんみたいに誰かを支えるなんてことも出来てないし……」

 

どうやらことりは自分に対して相当なコンプレックスを抱いているようであり、そんなマイナス面しかない自分を変えたいという気持ちがあるみたいだった。

 

「そんなことないよ!ことりちゃん、歌もダンスも上手だよ!」

 

「穂乃果の言う通り、そんなに自分を卑下する必要はないと思うぞ」

 

「っ!?で、でも!」

 

「ことりは絵里先輩に次いで体が柔らかいからな。それは大きな武器だと思うぞ。それに、ことりは衣装を担当してくれてるだろ?これは、なかなか出来る人はいないんだぞ」

 

「奏夜の言う通りです。もっと自分に自信を持っても良いと思いますよ」

 

穂乃果、奏夜、海未の3人は、自分に自信のないことりのフォローを行っていた。

 

「まぁ、2年生の中では1番まともね」

 

「おい、真姫。今の発言は聞き捨てならないな。もっとまともな人間はいるだろうが」

 

「あんたが1番まともじゃないのよ!」

 

「なんと!」

 

どうやら真姫は奏夜が1番まともじゃないと思っており、奏夜はまさかの言葉に驚いていた。

 

(確かに……。ある意味お前は1番まともじゃないよな……)

 

奏夜はμ'sのマネージャーとしては頼もしいところはあるのだが、それ以外の部分に多少の問題があるようだとキルバは思っていた。

 

奏夜たちは必死にフォローをしていたのだが、ことりはブンブンと首を横に振っていた。

 

「うぅん。私は穂乃果ちゃんや海未ちゃんについていってるだけ」

 

ことりもμ'sとして衣装など様々なことを行ってくれてるのだが、それは穂乃果たちについていっただけと主張していた。

 

(……ことりのやつ、相当思い詰めてるみたいだな……。ついていってるだけだなんて、そんなことはないのに……)

 

《まぁ、お前らがどう思ってようが、本人がそう思っている以上、フォローのしようはないがな》

 

(冷たいようだけど、その通りなんだよなぁ……)

 

奏夜たちはフォローを試みようにも、これ以上なんて言葉をかけて良いのかわからなかった。

 

ことりは俯いた表情をしており、その表情はどこか悲しそうだった。

 

「そういえば、奏夜って、ことりがここで働いてることを昨日知ったって言ってたわよねぇ?」

 

「あぁ。そうだけど……ハッ!!」

 

絵里の言葉を肯定した瞬間、奏夜は絵里が何か勘違いをしていると推測していた。

 

その推測通り、絵里はジト目で奏夜のことを見ていた。

 

「番犬所に呼び出されたとか言ってたわよねぇ……?あれは、嘘じゃ……ないわよねぇ?」

 

「うっ、嘘じゃないぞ!昨日は指令はなかったが、番犬所に呼び出されて話をしてたんだからな」

 

『俺も一緒にいたんだ。番犬所からの呼び出しは嘘じゃないぞ。この店に来たのはその後だけどな』

 

キルバは一切嘘をつくことはなく、昨日のことをありのままに説明していた。

 

「それなら良いのだけれど……」

 

「もしそれが嘘やったら、ワシワシマックスやったけどな」

 

「そ、それはご勘弁を……」

 

どうやら奏夜は希とワシワシがトラウマになっているようであり、顔が真っ青になっていた。

 

「誰かと一緒に行ったんですか?」

 

「あぁ。この前も学校に遊びに来たリンドウや大輝さん。それに、統夜さんも一緒だったぞ」

 

『まぁ、言い出しっぺは大輝だったがな』

 

花陽からの問いかけに、奏夜とキルバはこのように答えていた。

 

「大輝さんって?」

 

大輝とは会ったことのない絵里は、首を傾げながらこう訪ねていた。

 

「あぁ、大輝さんっていうのは、俺の先輩騎士の1人で、俺なんかよりも経験を積んでいるベテランの魔戒騎士なんだよ」

 

「へぇ、そうなのね」

 

「意外だにゃ!それだけ聞いたら、その人がアイドルとかそういう可愛いものに興味なさそうな感じがするし!」

 

どうやら大輝がメイド喫茶にハマっているということは大輝を見たことある2年生組にしても、会ったことない残りのメンバーにしても、予想外だったようである。

 

「昨日この4人で行った時にたまたまことりが働いているのを見てな。それで知ったって訳だよ」

 

「なるほど……。そういう訳だったのですね……」

 

「もしさっきの話が嘘だとしたら、お仕置きだったんだけどね」

 

「嘘じゃないんだから、勘弁してくれよ……」

 

先ほどの話は本当の話だから、お仕置きは避けようと必死だった。

 

「だけど、ことり先輩の秘密を私たちに内緒にしてたわよね?」

 

「それは……口止めされてたから、仕方なく……」

 

「言い訳無用だにゃ!!」

 

「そうです!」

 

「奏夜、覚悟は出来てるんでしょうね?」

 

「あ、あの……。何をしようとしてるんです……?」

 

お仕置きをされそうなオーラが放たれており、奏夜はしきりに怯えていた。

 

「「「「「「「「ふっふっふ……」」」」」」」」

 

ことり以外の全員が、怪しい笑みを浮かべて、奏夜にジリジリと向かっていた。

 

「……な、何を……!」

 

「心配しないで。直接的にはお仕置きをしないから……」

 

どうやら、穂乃果たちからのお仕置きは回避出来るようであり、奏夜はそのことに安堵していた。

 

「その代わり……」

 

どうやらお仕置きはしない代わりに、他のことを考えているようであった。

 

それは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

「トホホ……。財布が軽くなっちまったよ……」

 

お仕置きをしない代わりに、穂乃果たちは食べたいものを奏夜に奢らせており、その結果、奏夜の財布が一気に軽くなってしまった。

 

「それくらいで済んでるんですから、感謝して下さい」

 

「そうね。お仕置きをしても良いレベルだったんだからね」

 

「え、絵里先輩まで……」

 

どうやら絵里も、μ'sの雰囲気に慣れてきたようであり、奏夜の扱い方も理解しているようであった。

 

奏夜の奢りで食事を楽しんだ穂乃果たちはその場で解散し、今は奏夜、穂乃果、海未、絵里の4人で秋葉原の街を歩いていた。

 

「意外だったなぁ、ことりちゃんがそんなことで悩んでるなんて……」

 

「……俺は経済的に悩んでるよ……」

 

『……ま、別にいいだろ。下ろせば金はあるんだから』

 

「確かにそうだけどよ……。今月これ以上は無駄遣い出来ねぇぞ」

 

奏夜は番犬所から手当としてお金は支給されているのだが、奏夜は魔戒騎士としても未熟なため、それほどはもらえていない。

 

……とは言っても、東京のサラリーマン並にはもらえているのだが……。

 

「……それはともかくとして、みんなそうなのかもしれないわよ」

 

「か、軽くスルーされた……」

 

『絵里のやつ、本当に奏夜の扱い方を心得てきたな……』

 

絵里は財布が軽くなって意気消沈している奏夜をスルーして話を進めており、そのことに唖然としていた。

 

「自分が優れているだなんて、思う人はほとんどいないわ。だからこそ努力をするのよ」

 

「……確かに、そうかもしれませんね……」

 

奏夜は、オープンキャンパス前に尊士に叩きのめされたことを思い出しており、険しい表情をしていた。

 

「……そーくん?」

 

「あぁ、悪い悪い。俺は、魔戒騎士としてもっと努力しないといけない。そう思ってたところだよ」

 

「奏夜……。あなた、この前戦ったあの男のことを……」

 

奏夜が尊士との敗戦を引きずっているのではないか?そんなことを考えていた海未は、心配そうな表情で奏夜のことを見ていた。

 

「大丈夫だ。俺はもっともっと強くなる。単純に力を求めるんじゃなくて、守りし者として……」

 

「奏夜……」

 

「そーくん……」

 

奏夜の強くなりたいという言葉に絵里と穂乃果は心配そうな表情で見ていたのだが、これ以上魔戒騎士の話はしないようにしていた。

 

「……それにしても、友達って、意外とライバルみたいな存在なのかもね」

 

「ライバル……」

 

「えぇ。だからこそことりも悩んで、どうにかしようと努力をしているんじゃないかしら」

 

「……友達がライバル……。それは一理あるかもですね」

 

絵里の言葉を聞いた奏夜は、先輩騎士である統夜の親友である、黒崎戒人(くろさきかいと)のことを思い出していた。

 

黒崎戒人は、統夜と同じ桜ヶ丘にある紅の番犬所付きの魔戒騎士で、堅陣騎士ガイアの称号を持つ魔戒騎士で、統夜最大のライバルである。

 

そう呼ばれる通り、戒人は統夜と同じくらいの力を持っており、元老院所属だとしてもおかしくはないレベルなのだが、今は親友である統夜が愛している桜ヶ丘を守るために戦っている。

 

奏夜もまた、1度だけ試合形式で戒人と戦ったことがあり、その実力は理解していた。

 

「……それじゃあ、また明日」

 

「はい。また明日です」

 

途中で絵里と別れ、奏夜、穂乃果、海未の3人は再び秋葉原の街を歩いていた。

 

「……あれ?奏夜、番犬所は良いのですか?」

 

「あぁ。今のところは指令もないし、せっかくだからたまには2人と一緒に帰りたいと思ってな」

 

奏夜は魔戒騎士の仕事で忙しいからか、穂乃果たちと一緒に帰ることはほとんどなく、たまには穂乃果たちと一緒に帰りたいと常々思っていたのである。

 

そんな奏夜の言葉が嬉しいからか、穂乃果と海未の表情がぱぁっと明るくなっていた。

 

「……そういえばさ、海未ちゃんやそーくんも、私のことを見て頑張ろうって思ったことはあるの?」

 

「……えぇ。数え切れないほどに」

 

「同じく」

 

どうやら海未と奏夜は、穂乃果の存在に奮起する機会はかなりあるようだった。

 

「とは言っても、俺の場合はライバルとは違う感じだけどな。穂乃果がみんなを引っ張っていく姿を見て、もっと俺もしっかりしないとなって奮起するんだよ」

 

奏夜は、穂乃果の持つカリスマ性のようなものを感じ取って、奮起するようであった。

 

「なるほど、奏夜はそんなことを考えていたのですね」

 

同じように穂乃果を見て頑張ろうと思った同士でも、奏夜と海未は考えてることは違うようであり、海未は笑みを浮かべていた。

 

「私にとっては、穂乃果とことりは、1番のライバルですから!」

 

「海未ちゃん……」

 

海未は親友である穂乃果とことりのことをスクールアイドルとしてのライバルと認識しているようであった。

 

親友でありライバル。

 

このような関係性が、穂乃果には嬉しいものであった。

 

「なるほどな。ところで海未。俺はライバルには入らないんだな」

 

「当たり前です!奏夜はライバルと言うよりも、私たちを支えてくれる人なのですから!」

 

「そうだよそうだよ!だからそーくんは私たちにとってはライバルじゃないんだよ!」

 

「ま、確かにそうだよな」

 

スクールアイドルとそのマネージャー。

 

立場が明らかに違うため、穂乃果と海未は、奏夜のことをライバルと呼ぶことは出来ないのである。

 

「それに、そーくんは……////」

 

「私に……私たちにとって……////」

 

穂乃果と海未は最後まで言葉を言い切ることはせず、何故か頬を赤らめていた。

 

「?何で顔を赤くしてるんだ?」

 

『おいおい。お前なぁ……』

 

奏夜は普段、色恋に関してはそこまで鈍感ではないのだが、時々鈍感な一面が顔を出すこともあった。

 

そこは先輩騎士である月影統夜に似てしまったのだろうとキルバは頭を抱えていた。

 

「……なっ、何でもありません!」

 

「そうだよ!ほら、そーくん!行こっ!」

 

穂乃果と海未は話を誤魔化すために、それぞれ奏夜の手を取ると、そのまま移動を開始した。

 

「?おい!2人揃って引っ張るなって!」

 

奏夜は2人に引っ張られ、げんなりしながらもそれを受け入れていた。

 

(言えない……!言える訳ないよ!)

 

(私が……奏夜のことを……)

 

((……好きだなんて……!!))

 

どうやら穂乃果も海未も奏夜に淡い恋心を抱いているようであり、その気持ちは奏夜に気付かれないようにしようと考えていた。

 

何故2人が奏夜に淡い恋心を抱くようになったのか……。

 

それは、これから徐々に明らかになっていく。

 

それだけではない。

 

2人以外のメンバーが奏夜のことをどう思っているのか?

 

そのことも、徐々に明らかになっていく。

 

そして、今はことりの抱いている問題をどのように解決していくのか。

 

このことが大きな課題となっていた。

 

奏夜はそんなことりの問題をどのように解決するべきか考えていたのだが、結局答えが出ないまま穂乃果と海未を送り、家路についたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『なるほどな。あいつも思い切ったことを考えたものだ。さて、これからどうなっていくか……。次回、「自由」。その想い、空に羽ばたいていけ!』

 

 




ここでついに恋愛フラグが立ってしまった……。

心の中とはいえ、奏夜のことが好きと公言しているのは穂乃果と海未になっています。

他のメンバーは奏夜のことをどう思っているのか?

それは、徐々に明らかになっていくと思います。

さて、次回は自分に対してコンプレックスを抱いていることりの問題を、奏夜たちはどのように解決させていくのか?

そして、ラブライブに向けてランキングを上げるためにどのような対策をとっていくのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第33話 「自由」

お待たせしました!第33話です!

最近は最新話のストックが尽きて予定通りに投稿できるか不安でしたが、どうにか投稿することが出来ました。

FF14が楽しすぎて執筆時間が減っている……。

FF14はオンラインだし、月額かかったりもするけど、フリートライアルもあるので、ちょっとでも興味があればオススメです(宣伝)

本当に面白いですよ。牙狼装備もありますし。

ちなみに、僕は主人公の名前を統夜にしてるので、もしやってる人は見つけたらぜひ声をかけて欲しいです!

さて、FFの話はともかくとして、今回はあの曲の披露回となっています。

ラブライブ出場に向けて、いったいどのようなことを行うのか?

前書きが長くなりましたが、それでは、第33話をどうぞ!




ことりが伝説のメイド、「ミナリンスキー」であるということが明らかになった翌日、絵里は妙案を思いついたようであり、それを奏夜たちに明かしていた。

 

それは、秋葉原の街中で路上ライブを行うことである。

 

秋葉原といえば、A-RISEのお膝元とさえ言われている場所であり、そんなところでライブをしては、どうなってしまうのか予想することすら出来なかった。

 

しかし、現在の50位から20位までランキングを上げるためには、これくらい大胆な手が必要であるという絵里の力説を聞いて、奏夜たちは秋葉原でのライブを了承する。

 

そんな中、新曲の作詞を任させれたのは、なんと海未ではなく、ことりであった。

 

メイド喫茶でバイトをしているため、ことりは秋葉原に詳しいことりが適任であると絵里が判断したからである。

 

それから数日が経過し、この日もことりは歌詞作りを行っていたのだが、思うようにいかないみたいであった。

 

ことりは教室でジックリと案を練っており、奏夜、穂乃果、海未の3人は、そんなことりの様子を見守っていた。

 

最初から助けてしまってはことりのためにならないあらである。

 

「……チョコレートパフェ……。美味しい。生地がパリパリのクレープ……。食べたい。ハチワレの猫……。可愛い……。五本指ソックス。気持ちいい……」

 

ことりはそれらしいフレーズを思い浮かべてみたのだが、これを歌詞にするとなると難しいようであった。

 

「……思いつかないよぉ!!」

 

ことりは歌詞作りに苦戦していた。

 

今まで歌詞作りなど行ったことはなく、どのように行えば良いのかわからなかったため、ここまで歌詞作りが難航しているのである。

 

しばらく案を練っていたことりは……。

 

「……♪ふ〜わふ〜わし〜たも〜の可愛いな♪はいっ!あとはマカロンたくさん並べたら〜。カラ〜フル〜で〜し〜あ〜わ〜せ♪」

 

(ぐぁぁ!!やめろ!脳が!脳が溶ける!!)

 

ことりの歌を聞いた奏夜は、まるで脳が溶けるような感覚に陥っており、苦しそうに頭を抱えていた。

 

『アホくさ……』

 

奏夜のあまりの動揺ぶりにキルバは呆れており、ジト目で奏夜のことを見ていた。

 

ことりはノリノリでこのような歌を歌っていたのだが……。

 

「……やっぱり無理だよぉ!!」

 

どうやらことりは良い歌詞が思いつかず、べそをかきながらこのようなことを言っていた。

 

「……なかなか苦戦しているみたいですね……」

 

「うん……」

 

今まで作詞をやったことのない人間に作詞をやれというのはさすがに難しいのかと海未と穂乃果は感じていた。

 

ことりは歌詞が思いつかないもどかしさに涙目になっていた。

 

「あぅぅ……。穂乃果ちゃあん……」

 

ことりは涙目で、細々とこのように呟いていた。

 

それを聞いた奏夜は……。

 

「えぇい!これ以上は放ってはおけん!」

 

そんな弱った感じのことりを放っておけないと思ったのか、奏夜はことりの助け舟に入ろうとする。

 

「奏夜!落ち着いてください!そんなにすぐことりの助けに向かってはことりのためにはなりません!」

 

海未と穂乃果は慌てて奏夜の腕を掴むと、ことりを助けに行こうとしている奏夜を止めていた。

 

「えぇい!離せ!」

 

奏夜はジタバタと暴れるのだが、そんな奏夜を黙らせるために海未が拳骨をお見舞いすると、奏夜はその場でダウンしてしまった。

 

この日は結局、歌詞の妙案は思いつかず、時間だけが無情にも過ぎていってしまった。

 

それから数日が経過したのだが、やはり妙案は思い浮かばなかった。

 

そのため、ことりは授業中も心ここに在らずのことが多く、先生に度々注意されることもあった。

 

そしてこの日の放課後、ことりはやはり1人で新しい曲の歌詞を考えていたのだが、これまで通り妙案は思いつかないようだった。

 

「やはり、思いつかないようですね……」

 

「……そうだよねぇ……」

 

「こうなったら俺たちも協力した方がいいんじゃないのか?」

 

「奏夜!何度も言うようですが、ここで手を貸してしまってはことりのためにはなりません!」

 

奏夜は苦しむことりを見て手を貸そうとしていたのだが、海未に注意されてしまっていた。

 

それは今回が初めてではなく、何度も注意されたことであった。

 

しかし、今回の奏夜は……。

 

「……海未、何か勘違いしてないか?」

 

「勘違い……ですか?」

 

奏夜の言葉の意図が理解出来ず、海未は首を傾げていた。

 

「歌詞のアイディアはことり自身に考えてもらおうと思ってるさ。俺はただ、アイディアを変えるために別の場所で考えてみたら良いんじゃないかって思っただけだ」

 

どうやら奏夜は良いアイディアを出すために、どこか場所を変えるべきではないかと主張していた。

 

こう言っていた奏夜だったが、それまでは本当にことりに手を貸そうと本気で思っていた。

 

しかし、何度も海未に言われた通り、ここで力を貸してはことりのためにならないという言葉を真摯に受け止めていたのである。

 

「そうは言っても、何か良いアイディアはあるんですか?」

 

「……まぁな。つか、そうじゃなかったら、そんな無責任なことは言わないって」

 

「ねぇねぇ、そーくん!それっていったい何なの?」

 

「ふふん……。多少荒療治ではあるかもしれないけどな……」

 

このように答える奏夜は怪しい笑みを浮かべており、それを見た海未は、少しだけ不安そうになっていた。

 

そして奏夜はどこで歌詞を考えるのか。さらに何をしようと考えているのかを2人に説明したのだが……。

 

「ほ、本気ですか!?」

 

「この状況で酔狂なことは言ってられんだろう」

 

「……それいいね!私も同じようなことを考えていたんだ!」

 

どうやら穂乃果も、奏夜と同じまではいかないものの、似たようなことは考えていた。

 

そのため穂乃果は……。

 

「……ことりちゃん!」

 

1人で歌詞を考えていることりに声をかけていた。

 

「ほ、穂乃果ちゃん!?」

 

「1人じゃなくて、みんなで考えようよ!そーくんも良いアイディアがあるみたいだし!」

 

「!?ほ、本当なの?そーくん!」

 

ことりは1人でずっと思い詰めていたため、奏夜のアイディアというのは藁にもすがる思いなのであった。

 

「あぁ。ちょっと荒療治ではあるけれど、ここで考えてるよりかはマシだと思うぞ」

 

このように説明する奏夜は、再び怪しい笑みを浮かべていた。

 

『何故だろう。嫌な予感しかしないのだが……』

 

「キルバもですか?実は私もそう思っていたのです……」

 

キルバと海未は、奏夜のアイディアに対して嫌な予感しかしていなかったのだが、穂乃果とことりはやる気みたいだった。

 

こうして奏夜たち4人が向かった場所とは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お帰りなさいませ♪ご主人様♪」

 

「お帰りなさいませ!ご主人様!」

 

「お帰りなさいませ……。ご主人様……」

 

ことりの働いているメイド喫茶なのだが、ことりだけではなく、穂乃果と海未もメイドの格好をしており、このような挨拶をしていた。

 

「ふっ……。あえて言わせてもらおう。……「ただいま!!」っと!!」

 

3人の挨拶を聞いた奏夜は気持ちが昂っているからか、このようなことを言っていた。

 

『……アホくさ……。それに、嫌な予感が的中したな……』

 

奏夜の考えた案というのは、ことりの実際働いているメイド喫茶で働くことで、歌詞を考えるといったことであった。

 

そんな奏夜たちの事情を聞いたこの店の店長は、快く穂乃果と海未を受け入れてくれた。

 

ちなみに奏夜は客の1人として、3人を見守るという役割であった。

 

こうして穂乃果、海未、ことりの3人は働き始めたのだが……。

 

「やっほー!遊びに来たよ!」

 

「エヘヘ♪」

 

凛と花陽が店内に入ってきた。

 

この2人だけではなく、他のメンバーも遊びに来ていた。

 

「え!?どうして!?」

 

まさか、こんなに早く他のメンバーが遊びに来るとは思わなかったからか、穂乃果は驚いていた。

 

「俺が声をかけといたんだ」

 

奏夜は他のメンバーにもこれからやろうとしていることを伝えると、3人が働いているところを見たいがために駆けつけてくれた。

 

「奏夜から話を聞いた時は驚いたけど、良いアイディアだと思うわ。秋葉原でライブをやるのだから、秋葉原で歌詞を考えるということがね」

 

絵里はどうやら、奏夜の荒療治ともいえる考えを、全面的に賛同しているようだった。

 

「……そんなことよりも早く接客してくれない?」

 

奏夜の考えは理解しているものの、今は客であることは間違いないため、にこはこのように横柄な態度をとっていた。

 

「にこ先輩。そんな態度を取っていたらことりの神対応を見て後悔しますよ」

 

奏夜は既にことりの接客を体験しており、それを体験したらにこの今の態度は出来なくなるだろうと思っていた。

 

ことりはまず最初に凛と花陽の接客を行っていたのだが、奏夜の時同様、完璧な接客を行っていた。

 

「さ、さすがは伝説のメイド……」

 

「ミナリンスキー……」

 

ことりの完璧な接客に、どうやら花陽と凛はメロメロになっているみたいだった。

 

「うんうん。さすがはことりだよ」

 

ことりの接客を体験している奏夜は、改めてことりの接客を見て、ウンウンと頷いていた。

 

その後、奏夜たちも席に着き、飲み物やスイーツを楽しんでいた。

 

「……うん、ことりの奴、本当に生き生きとしているよな……」

 

奏夜は、ミナリンスキーとして働いていることりを見て、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

《確かにな。今こうやって楽しそうに働いているあいつは、すごくあいつらしい気がするぞ》

 

(そうだよな。それだけことりはこの店が、それに、この街が好きなんだろうな。そんな感じがするよ)

 

《この街は色々なものを取り入れては受け入れてるからな。だからこそ、メイドの姿になったら自分に自信が持てるのかもしれないな》

 

奏夜とキルバは、テレパシーで会話をしながら、ことりがメイド服を着たことによる変化を感じ取っていた。

 

(もしも、ことりがそう考えているならば、歌詞作りの最大の武器になりそうなんだけどな)

 

《確かにな。奏夜、お前はそこまで考えてここへ来ることを提案したって訳なのか?》

 

(いや、そこまでは考えてなかったさ。ことりが生き生きしてるのを見てそう感じたんだけどな)

 

《……お前なぁ……》

 

奏夜がこの場所へ行こうと考えているのも半ば行き当たりばったりなところがあったため、キルバは呆れていた。

 

奏夜がそんなことを考えていたその時だった。

 

「そーくん!!」

 

「うぉっ!?」

 

ことりが興奮冷めやらぬ感じで奏夜に詰め寄ってきたため、奏夜は驚いていた。

 

「私……。書けるかもしれない!新しい曲の歌詞を!!」

 

奏夜は厨房を覗いた訳ではないため、仕事中に何があったのかはわからなかったが、ことりが今日の仕事を通して何かを掴んだことは理解していた。

 

「そうか……。それなら、ことりの思いの丈を思い切り歌詞にぶつけてくれ!」

 

「うん!」

 

「良い歌詞を期待しているぜ!」

 

「任せてよ!」

 

最初に歌詞作りを依頼された時は色々とプレッシャーを感じていたことりだったが、色々と吹っ切ることが出来たからか、その表情には清々しさも感じることが出来た。

 

そんな自信に溢れることりの姿を見て、1年生組の3人と、3年生組の3人は、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

こうして、ことりは自信を取り戻すことに成功し、この日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

どのような歌詞を書きたいのか。

 

ことりがそれを理解し、自分に自信を持つようになってからか、これまでの不調が嘘のように絶好調な日々だった。

 

ことりは次々と伝えたい思いを言葉にしていき、歌詞が完成するまでにそれほど時間はかからなかった。

 

歌詞が出来ていない時は心ここに在らずなことりであったが、歌詞が完成してからというものの、ことりは今まで以上に生き生きとした表情をするようになった。

 

そんなことりに奏夜は安堵しながら、絵里の提案した路上ライブをどのように行うかを考えていた。

 

とはいっても、言い出しっぺの絵里が色々と提案してくれているため、プランや場所は割とすぐに決まったのだが……。

 

1番の問題となるのは衣装であったのだが、今回は全員メイド服を着ることになった。

 

短い期間で9人分のメイド服を作るのはかなり大変なため、ことりのバイト先からレンタルすることを検討していた。

 

しかし、奏夜にはメイド喫茶からレンタルをしなくてもメイド服を借りることの出来る妙案があった。

 

奏夜の先輩騎士である統夜が3年間過ごした軽音部の顧問である山中さわ子という人物が趣味でコスプレ衣装を作っており、メイド服も複数作っているということを統夜から話を聞いたことがあった。

 

その妙案というのは、統夜を通してさわ子にコスプレ衣装の貸し出しを依頼するというものであった。

 

わざわざそこまでする必要はないのでは?という絵里の反対意見もあったのだが、聞いてみるだけ聞いてみようということになり、奏夜はその旨を統夜に相談してみることにしたのである。

 

それを聞いた統夜は苦笑いをしながらもそれを了承し、すぐさまさわ子に連絡を取っていた。

 

すると、さわ子はμ'sのことを知っていたため、やる気に火をつけることになり、路上ライブが行われる次の日曜日までに衣装を揃えると言い切っていた。

 

統夜は奏夜から全員のおおよそのサイズを伝えると、さわ子はそれを参考にメイド服を用意するみたいであった。

 

こうしてライブを行う場所も確保し、衣装の問題も解決し、ライブ当日を迎えることが出来た。

 

「……あなたたちがμ'sのみんなね。写真や動画で見るよりも可愛いじゃない」

 

この日、ライブを行う場所の近くで統夜とさわ子と待ち合わせをすることになっており、奏夜たちは時間通りに待ち合わせの場所へと向かっていた。

 

そこにいたのは統夜と、自分たちより一回りくらい歳の離れた茶色の長髪で眼鏡をかけた女性だった。

 

「えっと……。あなたが……」

 

「初めまして。私は山中さわ子。桜ヶ丘高校で教師をしているわ」

 

さわ子は自己紹介をしながら穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

そんなさわ子に、奏夜を除く9人が思わず見とれてしまっていた。

 

「綺麗な人にゃあ……」

 

「うん……。すごくおしとやかな先生って感じ……」

 

凛と花陽がこのように感想を言っており、それを聞いたさわ子は、後ろを振り向いて「グフフ」と怪しい笑みを浮かべていた。

 

さわ子の本性を知っている統夜は、そんなさわ子を見て苦笑いをしていた。

 

そして、それは奏夜も同様であり、奏夜も苦笑いをしていた。

 

「……?奏夜?いったいどうしたのですか?」

 

「いや、実はな。さわ子先生っておしとやかそうに見えるけど、実は……」

 

「……あぁん!?」

 

奏夜がさわ子の本性をバラそうとしたのだが、その前にさわ子が鋭い眼光で奏夜のことを睨みつけていた。

 

「……申し訳ございません……」

 

さわ子の睨みに怯えていた奏夜は、ガクガクと肩を震わせながら謝っていた。

 

しかし、この時点で自分の本性を明らかにしているのと同様であり……。

 

「こ、怖いにゃあ……」

 

「せ、先生なのに不良さん……なんですか?」

 

先ほどの奏夜同様に凛と花陽が肩を震わせながら怯えていた。

 

「ちょ、ちょっと!私は別に不良じゃないわよ!」

 

「そうだぞ、みんな。さわ子先生は高校の時からデスメタルをやってたからこんなキャラになってるだけだから」

 

「……統夜君?」

 

あっさりと自分のことをバラされてしまい、さわ子は鋭い目付きで統夜のことを睨みつけていた。

 

「しっ、仕方ないじゃないですか!それに、おしとやかなキャラで通すなんて無理な話なんですよ!軽音部の時だってそうだったじゃないですか!」

 

「うぐっ……。それはそうだけれども……」

 

統夜はさわ子の睨みに怯えながらも正論を言っており、さわ子はそれに反論することは出来なかった。

 

「あっ、あの……」

 

「あぁ、ごめんね。ライブの時間が迫っているものね。衣装は用意してあるわ。部屋を用意してあるからそこで着替えましょう」

 

さわ子は紙袋に入った衣装を見せると、穂乃果たちを連れて近くで確保している部屋へと向かっていき、奏夜と統夜はその場で待機していた。

 

10分後、メイド服を着た穂乃果たちを連れて、さわ子が戻ってきた。

 

「……へぇ……」

 

「凄いな……。完璧な仕上がりじゃないですか……」

 

穂乃果たちの着ているメイド服はさわ子お手製のものであり、そのクオリティの高さに奏夜は驚いていた。

 

「ふふん。当たり前でしょう?どの衣装も気合入れて作ったんだから!」

 

さわ子の作った衣装のレベルは趣味のレベルとは思えないもので、職人の技と言っても言い過ぎではなかった。

 

そんなさわ子のメイド服を着たことりは、キラキラと目を輝かせていた。

 

「……?ことりちゃん?」

 

そんなことりに穂乃果は首を傾げていたのだが……。

 

「さわ子先生!」

 

「は、はい!」

 

「し、師匠って呼んでもいいですか?私、μ'sの衣装を作ってるんですけど、もっともっと可愛い衣装を作りたいんです!」

 

ことりは、さわ子の衣装を見て、弟子入りすることを望んでいた。

 

それだけさわ子のメイド服のクオリティが高いということである。

 

弟子入りしたいという話を聞いていたさわ子は……。

 

「えぇ。もちろんいいわよ。私も、スクールアイドルの衣装には興味あったしね」

 

二つ返事でことりの願いを聞き入れていた。

 

「本当ですか!?」

 

「えぇ。いつでも桜ヶ丘高校に遊びにいらっしゃい。色々と教えてあげるわ」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

ことりはさわ子という衣装作りの師匠を得て、満足そうにしていた。

 

「……なんていうか……」

 

「あぁ、何か面白いことになってきたな」

 

ことりがさわ子に師事するというこの展開は予想出来なかったからか、奏夜と統夜は苦笑いをしていた。

 

「……さぁ、もうすぐライブよ!みんな、思い切り輝いてきなさい!」

 

「何で先生が仕切るんですか……」

 

さわ子がその場を仕切っていたため、統夜は少しだけ呆れながら苦笑いをしていた。

 

こうして、路上ライブの開始時間となり、ことりを中心にして、スタンバイしていた。

 

奏夜、統夜、さわ子の3人は、ギャラリーの先頭で穂乃果たちのパフォーマンスを見守っていた。

 

穂乃果たちのスタンバイが終わり、曲が再生されると、ことりの歌から曲がスタートした。

 

この路上ライブのために作られた、「Wonder Zone」である。

 

この曲はことりがメインであり、足を止めていた客の中にはミナリンスキーがスクールアイドルとしてライブに出ていることに驚いている者もいた。

 

しかし、批判がある訳でもなく、ライブは大いに盛り上がっていた。

 

……ただ1人を除いては……。

 

「……何がミナリンスキーよ……。所詮はただのあざとい小娘じゃない……。こんな奴が伝説のメイドだなんて……。私は絶対に認めないわ……」

 

どうやらこの女性は、ミナリンスキーであることりに嫉妬のような感情を抱いているようである。

 

その嫉妬は憎悪へと変わり、ことりのことを逆恨みしているみたいだった。

 

「……私の最初の獲物は、あの女にしてやる……」

 

どうやらこの女性は、何かしらの陰我を抱えており、ホラーに憑依されてしまったみたいであった。

 

穂乃果たちは、観客の中にホラーが紛れているとは知る由もなく、パフォーマンスを行っていた。

 

それはライブを見守っていた奏夜と統夜も同様だった。

 

このホラーは気配を出していないため、キルバやイルバにも感知することは出来なかったのである。

 

そんな中、ホラーの存在に気付いているものが1人だけいた。

 

その人物とは……。

 

「……やれやれ……。せっかくミナリンスキーの晴れ舞台を見にきたというのに、ホラーが紛れているとはな……」

 

奏夜と統夜にとって先輩騎士にあたるベテラン騎士、桐島大輝であった。

 

大輝は奏夜と統夜の2人から路上ライブをやることを聞き、ミナリンスキーことことりの晴れ舞台を見たいがために駆けつけたのである。

 

大輝はキラキラしながらパフォーマンスを行うことりたちを見ながらも、ホラーと思われる女性にも目を配っていた。

 

こうして、秋葉原での路上ライブは終了し、大いに盛り上がって幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

ライブ終了後、穂乃果たちは撤収作業を行い、先ほど着替えを行った部屋で着替えを済ませてから奏夜や統夜と合流した。

 

さわ子は、穂乃果たちの着替えが終わるなり、そのまま帰っていってしまった。

 

明日はもう1つの顧問である吹奏楽部の練習があるからである。

 

穂乃果たちはさわ子を見送ってから、2人と合流したのであった。

 

「いやぁ、無事に終わってよかったねぇ!」

 

「そうだな。みんな、最高に輝いていたぞ」

 

奏夜は簡単な言葉でライブを褒めていたのだが、穂乃果たちにとっては、奏夜の褒め言葉が何よりの労いとなった。

 

「特にことり。今日まで本当に頑張ったな」

 

「うん!ありがとう、そーくん!」

 

ことりは今までの努力を褒めてもらい、満面の笑みを浮かべていた。

 

「それよりも、これからどうするの?今日はまっすぐ帰るつもり?」

 

このようにこの後の話を切り出してきたのはにこであった。

 

「どこかでご飯でも食べに行くかにゃ?」

 

「おぉ、それいいね!」

 

凛がご飯を食べに行くことを提案し、穂乃果がそれに乗っていた。

 

しかし……。

 

「今日はやめておきましょう。もう遅い時間ですし」

 

路上ライブが行われたのは夕方なのだが、撤収作業や着替えなどをしていたら、すでに外は暗くなっていた。

 

「そうね。明日だって練習を行う訳なんだし、今日はもう帰りましょう」

 

「それには賛成ね」

 

「せやなぁ。今日はもう帰ろうか」

 

絵里が帰ろうかと提案したことに、真姫と希が賛同していた。

 

遊びすぎて明日の練習に支障をきたす訳にはいかなかったため、穂乃果、凛、にこの3人も同意しており、奏夜たちはそのまま帰ろうとした。

 

その時だった。

 

「……あんたが伝説のメイド、ミナリンスキーね?」

 

怪しい雰囲気を出している女性が、奏夜たちの前に現れた。

 

「あの、あなたは……?」

 

女性の質問に答えることなく、ことりは少しばかり怯えていた。

 

怪しい雰囲気を出した女性がいきなり自分のこと名前を言い出したら誰だって警戒するだろう。

 

「あなた如きが伝説のメイドだなんて、笑わせるわ!あんたのせいで私は……!」

 

この女性は元々秋葉原某所にあるメイド喫茶でメイドをしながらこの店の経営も担っていた。

 

しかし、ことりがミナリンスキーとしてメイド喫茶でバイトするようになってからというものの、客を全てことりが働く店に取られてしまい、廃業を余儀なくされたのである。

 

……当然それだけが理由ではないのだが、この女性は伝説のメイドと呼ばれたことりに逆恨みをしていたのであった。

 

「あなただけは絶対に許さない……!あなたのせいで私の人生はメチャクチャになったのよ!伝説のメイド、ミナリンスキー!!」

 

この女性のことりに対する憎悪はかなりのものであり、鋭い目付きでことりを睨みつけていた。

 

「そんな!私はただ!」

 

ことりは自分を変えたいという気持ちでメイド喫茶で働いていたため、自分のせいで人生を潰されたと言われる筋合いはなかった。

 

女性の憎悪に満ちた表情に怯えることりを守る形で奏夜は女性の前に立っていた。

 

「な、何よ!あんた!」

 

「俺か?俺はμ'sのマネージャーだ。どんな理由だろうと、こいつらに危害は加えさせない!」

 

奏夜はことりだけではなく、穂乃果たちもこの女性から守ろうとしていた。

 

「それに……」

 

それだけではなく、統夜も女性の前に立つと、統夜は魔法衣の裏地から魔導ライターを取り出し、魔導火を放った。

 

魔導ライターから放たれる赤い魔導火は女性の瞳を照らすのだが、女性の瞳からは不気味な文字のようなものが浮かび上がっていた。

 

「……お前ら……!魔戒騎士か……!」

 

「まぁ、そういうことだ」

 

「っ!」

 

女性は奏夜と統夜が魔戒騎士であることがわかると、有無を言わせずに先制攻撃を仕掛けてきた。

 

それを受け止めた統夜は、女性と激しい格闘戦を繰り広げていた。

 

「奏夜!こいつは俺に任せて、お前は穂乃果たちを頼む!」

 

「わかりました!みんな、逃げるぞ!」

 

奏夜は穂乃果たちを誘導し、その場を離れようとした。

 

「っ!逃さない……!」

 

統夜と格闘戦を繰り広げていた女性は統夜を吹き飛ばすと、全力で駆け出し、奏夜たちを追いかけていた。

 

そして大きくジャンプをすると、女性は奏夜たちの前に立ちはだかっていた。

 

「くっ……!こいつ……!」

 

「魔戒騎士に用などないわ!私が用があるのはミナリンスキーだけなんだから!」

 

「お前にはなくても俺にはあるんだよ!」

 

奏夜は穂乃果たちを女性に近付けさせないために拳による攻撃を仕掛けた。

 

そして、女性は反撃と言わんばかりに拳を放つのだが、奏夜はその攻撃を受け止めていた。

 

その時、不思議な感覚が奏夜を襲っていた。

 

(当たり前だけど、こいつは尊士よりも攻撃が遅い……。見える!こいつの動きが……見えるぞ!)

 

奏夜は自分が完膚なきまでに叩きのめされた尊士とこの女性の力の差を確認し、女性の攻撃が尊士と比べたら明らかに遅いため、動きを簡単に見切ることが出来ていた。

 

奏夜は女性の攻撃を軽々と受け止めると、2度、3度と拳を叩き込み、回し蹴りを放って女性を吹き飛ばした。

 

「す、凄い……」

 

「奏夜……。この短期間で強くなっています……」

 

奏夜はホラーである女性を圧倒しており、そのことに穂乃果と海未は驚いていた。

 

「へぇ、奏夜の奴、あの尊士と戦ってちょっとは成長したんじゃないのか?」

 

『そうか?俺様に言わせれば、あのホラーが弱すぎるだけだと思うんだが』

 

「まぁ、そう言うなって、イルバ」

 

統夜もまた、奏夜の成長に少しばかり驚いていたが、イルバは奏夜が成長したとは思っていなかった。

 

それは、奏夜の魔導輪であるキルバも同様であった。

 

「おのれ……!魔戒騎士……!」

 

自分の攻撃を受け止められ、さらに連続攻撃により奏夜に圧倒されてしまった女性は、奏夜を睨みつけていた。

 

「……このまま一気にケリをつけさせてもらうぞ」

 

奏夜はホラーである女性を一気に討滅するために魔戒剣を取り出そうとした。

 

その時だった。

 

1人の男が戦いに乱入すると、剣らしきもので女性を斬り裂き、蹴りを放って女性を吹き飛ばした。

 

「ぐぅ……。何者だ!」

 

体勢を立て直した女性は、鋭い目付きで乱入者を睨みつけていた。

 

その乱入者の正体とは……。

 

「……奏夜、統夜。すまんな、いきなり戦いに乱入して」

 

「大輝さん!?」

 

「どうして?」

 

奏夜と統夜の先輩騎士である大輝であったため、2人は驚きを隠せなかった。

 

奏夜はともかくとして、魔戒騎士として経験を積んだ奏夜がいれば大輝がわざわざ戦いに介入する必要はないからである。

 

しかし、大輝にはどうしてま戦いに介入したい理由があったのである。

 

「……話は聞かせてもらった。そのホラーはミナリンスキーを逆恨みしているんだろ?他のメイドにも危害を加えそうと思ってな」

 

どうやら大輝は、この女性がミナリンスキーであることりを始めとして、他のメイドも狙いそうと考えたため、戦いに介入したのである。

 

「……お前たちには悪いが、こいつは俺にやらせてくれないか。こいつは俺自身の手で葬りたいんだ」

 

「「……」」

 

奏夜と統夜は、先輩騎士である大輝がここまで1人のホラーにこだわるとは思わず、驚きを隠せなかった。

 

その結果……。

 

「……わかりました。俺と統夜さんで穂乃果たちを守ります」

 

「だから大輝さんは思い切り戦ってください」

 

奏夜は魔戒剣を取り出すことは辞め、統夜もまた戦いに介入することはせず、この女性の相手は大輝に任せることにした。

 

奏夜と統夜は、穂乃果たちのもとへ駆け寄り、穂乃果たちを守る体勢に入っていた。

 

「そ、そーくん!?何やってるの!?」

 

「そうです!あの人も魔戒騎士なのでしょう?協力すれば良いではないですか!」

 

「そうにゃそうにゃ!何であの人1人で戦わせるの?」

 

「そうですよ!あの人がどれだけ強いかはわかりませんが、危ないんじゃ……」

 

奏夜がホラーをほっぽり出してこちらに来たことに、穂乃果、海未、凛、花陽の4人は異議を唱えていた。

 

「……大丈夫。あの人なら問題ないさ」

 

「どうしてそこまで言い切れるの?」

 

「だってあの人は、俺や統夜さんよりも経験を積んだ魔戒騎士なんだ。その実力は明らかに俺以上だよ」

 

絵里の問いかけに、奏夜はすぐさま答えていた。

 

「……なるほどね。あんたたちはそれだけあの人を信頼しているという訳ね」

 

「そういうことだな」

 

「それはわかったけど、やっぱりあんたらも加勢した方がいいんじゃないの?」

 

「せやなぁ。その方が戦いも早く終わるんと違う?」

 

大輝が強い魔戒騎士であることは理解したものの、魔戒騎士が3人もいるのに1人で戦わせることににこと希は疑問を持っていた。

 

「そうだよなぁ。だけど、1人で戦うのは大輝さんだっての希望なんだよ」

 

「その通りだ。男なら、譲れないものがあるからな。それは魔戒騎士であることを抜きにしてもな」

 

「……男って本当に面倒くさいわね……」

 

大輝が1人で戦うのは大輝のこだわりであるとわかり、真姫は呆れ果てていた。

 

「お前には言われたくないよなぁ……」

 

「なんですって!?」

 

奏夜にしてみたら、真姫も相当面倒な性格なため、このようなことを呟いていたのだが、その言葉に真姫はカチンときてしまったようだった。

 

このままだと2人の口喧嘩が始まりそうなのだが……。

 

「おのれ……!どいつもこいつも私のことを馬鹿にしやがって……!許さんぞ!全員まとめて喰らってやる!」

 

自分を置いてけぼりにして盛り上がる奏夜たちが許せなかったからか、憎悪の対象をことりだけではなく、奏夜たち全員に広げていた。

 

激昂した女性の体は徐々に変化していき、人間の姿からホラーの姿へと変わっていった。

 

『……こいつはホラー、ヘルディオル。憎悪を司るホラーだ』

 

『こいつに取り憑かれたあの女は、あのお嬢ちゃんへの逆恨みによる憎悪がかなりのものだったんだろう』

 

目の前にいるホラーについて、キルバとイルバがこのような解説をしていた。

 

「……ふっ、相手が誰だろうと関係ない。俺は魔戒騎士として貴様を斬るだけだ」

 

「おのれ……!この私をそう簡単に倒せると思うな……!」

 

大輝はヘルディオルを見ても余裕そうな態度を取っていたため、ヘルディオルはより一層怒り狂っていた。

 

「……貴様を斬る!そして、アキバのメイドたちは俺が守る!!」

 

大輝は魔戒剣を前方に突きつけながらこのようなことを言っていたのだが……。

 

「……不思議ね。言葉の雰囲気は格好いいのだけれど……」

 

「全然格好良くない!」

 

大輝の言っている台詞に拍子抜けしたからか、絵里とにこは呆れており、他のメンバーもポカーンとしていた。

 

穂乃果たちがポカーンとする中、大輝は魔戒剣を上空に高く突き上げると、円を描いた。

 

その部分だけ空間が変化すると、大輝はそこから放たれる光に包まれた。

 

すると、変化した空間から銅の鎧が現れると、大輝は銅の鎧を身に纏った。

 

大輝の身に纏ったこの鎧は、「鋼」と呼ばれる称号を持たない魔戒騎士が身に纏う鎧である。

 

しかし、大輝は魔戒騎士として多くの経験を積んでおり、その実力は称号持ちの騎士に匹敵する程であった。

 

「……!思い出した!あの人、にこが初めてホラーに襲われた時に奏夜と一緒にホラーを倒した魔戒騎士だわ!」

 

にこはホラー、アスモディに襲われた時に奏夜に救われたのだが、その時に大輝は奏夜の応援として駆けつけていたのである。

 

その時のことをにこは思い出しており、にこは大輝とは初めましてではないことも思い出したようであった。

 

大輝が鎧を身に纏った瞬間、ヘルディオルは大輝に向かっていったのだが、大輝は変化した魔戒剣を一閃し、返り討ちにしていた。

 

「ぐっ……!こいつ……くらえ!!」

 

先制攻撃に失敗したヘルディオルだったが、すかさずに攻撃を仕掛けていった。

 

「……ふっ、甘いな」

 

大輝はヘルディオルのストレート過ぎる攻撃を読み切っており、攻撃を完全に防ぐと、連続で魔戒剣を叩き込み、ヘルディオルに確実にダメージを与えていった。

 

「な、何故だ……!何故私の攻撃が全て防がれる!」

 

「簡単なことだ。俺とお前には決定的な実力差がある。それに、アキバのメイドを狙うお前に負けるわけにはいかないんだよ!」

 

こう言い放つ大輝の言葉はとても力強いものなのだが……。

 

「……大輝さん、完全にメイドさんにどハマりしちゃってますね……」

 

「アハハ……」

 

「やっぱり不思議と格好良いとは思えない台詞よね……」

 

「……ちょっと引くわ……」

 

奏夜と統夜は、大輝の台詞を聞いた時に大輝が完璧にメイドにハマってしまったことを察しており、苦笑いをしていた。

 

絵里もまた、大輝の台詞が格好良いとは思えずに苦笑いをしており、真姫はジト目になりながらドン引きしていた。

 

そんなことなどお構い無しで、大輝はホラーへと向かっていった。

 

「……これで決める!」

 

大輝は決着をつけるために力強く魔戒剣を振るうと、ヘルディオルの体を真っ二つに斬り裂いた。

 

「そ、そんな……!私の復讐は……!ミナリンスキーを殺すのは、私……なのに……!」

 

大輝の一撃によって真っ二つになったヘルディオルは、ことりに復讐することが出来ないことに絶望しながら消滅していった。

 

そして、鎧を解除して、元に戻った魔戒剣を鞘に納めた大輝はこのように呟いていた。

 

「……殺させはしないさ。アキバのメイドは絶対にな……」

 

「……なんだか、ツッコミを入れるのも馬鹿馬鹿しく思えてきたわ」

 

大輝の少し抜けた台詞にわざわざ反応していては疲れてしまうと判断したにこは、呆れながらもこれ以上の追求はやめておいた。

 

とりあえず、大輝がホラーを討伐したため、奏夜たちは大輝に駆け寄った。

 

「……すまんな。奏夜、統夜。お前らの獲物を横取りしてしまって」

 

「いえ、気にしないで下さい」

 

「奏夜の言う通りです。動機はともかくとして、守りたい対象は同じだったんです。それに、ホラーを誰が倒すかなんて問題じゃないですしね」

 

「……ふっ、確かにそうだな」

 

魔戒騎士である3人がこのような会話をしているところを、穂乃果たちはジッと眺めていた。

 

その会話が終わると、大輝はことりの方を見ていた。

 

「……今日のライブ。見させてもらったが、なかなか良かったぞ」

 

「えっ!?ライブ、見にきてくれたんですか!?」

 

まさか、魔戒騎士である大輝が今日の路上ライブに来ているとは思っておらず、ことりは驚きの声をあげていた。

 

「俺は伝説のメイドであるお前のファンだったが、これからはお前のファンになりそうだよ。音ノ木坂学院のスクールアイドル。μ'sのメンバーである南ことりのな」

 

大輝はμ'sの路上ライブを見て、ことりのことをミナリンスキーではなく、南ことりとして見るようになり、それを踏まえてファンであると宣言していた。

 

「!あ、ありがとうございます!!」

 

自分のことをファンだと言ってくれる人物がいることが嬉しく、ことりは頬を赤らめながらも嬉しそうに微笑んでいた。

 

「……これからも頑張れよ。スクールアイドル、μ'sよ」

 

大輝はそれだけ言い残すと、その場を離れていった。

 

「あっ、大輝さん!……それじゃあ、お前ら。また今度な!」

 

統夜はそんな大輝を追いかけていったため、その場には奏夜たちだけが残されていった。

 

「……なんていうか……」

 

「格好良いのか格好悪いのかよくわからない人だったわね……」

 

メイドが関わると熱くなってみたり、先ほどのようにクールな去り方をしてみたりを見ていた穂乃果たちは、大輝の本当の姿がわからず、絵里とにこは呆気にとられていた。

 

「……大輝さんは魔戒騎士としてはかなり優秀なんだぞ。なんだか、弁護してるみたいだけどさ……」

 

奏夜は大輝のことを熱弁するのだが、それがなぜだか大輝のことを弁護しているようにも感じ取れてしまい、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「……まぁ、とりあえずホラーはいなくなったんだ。今日は帰ろうぜ」

 

「そうですね……」

 

こうしてラブライブに出場するために行った路上ライブは無事に終わることが出来て、奏夜たちはその場で解散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

路上ライブが終わり、その場で解散となった奏夜たちだったが、奏夜、穂乃果、海未、ことりの4人は自然と再び集まっており、4人は現在神田明神に来ていた。

 

奏夜たちは神田明神の階段に並んで立って、今日のライブの成功の余韻に浸っていた。

 

「……上手くいってよかったね!ことりちゃんのおかげだよ!」

 

「うぅん!私じゃないよ!みんながいてくれたから、みんなで作った曲だから!」

 

この曲の歌詞を担当したのはことりだったが、ことりがこの歌詞を作れたのも、μ'sの存在が大きく、自分1人の力で作ったものとは思っていなかった。

 

「そんなこと……」

 

「……あるだろうな」

 

「そ、そーくん?」

 

「今日のライブを見てて思ったよ。今回のライブの成功は、1人だけの力じゃない。みんなの力が合わさったからだってな」

 

「そうそう!私もそれを言いたかったんだ!」

 

どうやらことりの伝えたいことは、奏夜の言ったことと重なる部分があるみたいだった。

 

「奏夜……。ことり……」

 

そんな奏夜やことりの言葉に海未は少々困惑していたが、穂乃果は微笑んでおり、3人もそれに合わせて笑みを浮かべていた。

 

「……それにしても、こうやって4人で並んでいると、ファーストライブのことを思い出すね」

 

「……うん、そうだね」

 

「あの時はまだ、私たちだけでしたもんね」

 

「……あの時の俺は本当に無力で何も出来なかったよ。まぁ、それは今もそうなのかもしれないけどさ」

 

ファーストライブの時、奏夜は1人でも多くのお客さんを呼ぼうと必死だったが、結果は誰も来ることがなかった。

 

あの時、統夜が駆けつけてくれなければ、ファーストライブの結果がどうなっていたか、わからなかった。

 

「そんなことはありません!奏夜は今も昔も私たちのために一生懸命ではありませんか!」

 

「そうだよ!そーくんが支えてくれるから、私たちはパフォーマンスに集中が出来るんだよ」

 

「そんなそーくんが無力だなんて、絶対に思わないよ!」

 

「お前ら……」

 

奏夜は本気で無力だと思っていたが、穂乃果たち3人は奏夜のことを心の底から信じているため、奏夜が何も出来ない無力な奴だと思うはずもなかった。

 

「……そうだな。そういうことにしておくよ。そう言ってもらえると嬉しいからな」

穂乃果たちの言葉を聞き、奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

奏夜たち4人はそのまま、神田明神の階段から見える景色を眺めていた。

 

しばらくすると……。

 

「……ねぇ、私たちって、いつまで一緒にいられるのかな?」

 

「……ことり?」

 

「ことりちゃん、どうしたの?急に」

 

唐突なことりの言葉に奏夜は困惑していた。

 

それだけではなく、ことりの言葉には他の真意があるように感じ取れたため、ことりからは寂しそうな気持ちが伝わってきていた。

 

「だって!私たち、あと2年で卒業なんだよ!?」

 

ことりは悲痛な表情で訴えかける通り、2年生である奏夜たちは、あと2年もすれば、学校を卒業することになる。

 

進路もそれぞれ異なるため、いつまでも一緒にいられる訳ではなかった。

 

「……それは仕方ないことです」

 

いくら仲が良くても、人生や進路は人それぞれである。

 

よほどのことがない限りはそれが1つに重なることはないのである。

 

「そうだよな。それに……」

 

奏夜のような魔戒騎士は、毎日が命がけであり、いつ命を落としてもおかしくはない危険な仕事である。

 

そのため、穂乃果たちとは住む世界が違うだけではなく、人生が重なるということはあり得ないことであった。

 

しかし、ここまでハッキリと言うことは出来ず、奏夜は口をつぐんでいた。

 

「……?奏夜?」

 

「いや、なんでもない」

 

奏夜はそう言って話を誤魔化すのだが、海未は奏夜の思いを察したからか、これ以上の追求はしなかった。

 

穂乃果はことりの話の実感がわかないからか、ポカンとしていたのだが……。

 

「大丈夫だよ!ずっと一緒だよ!」

 

穂乃果はそう言いながらことりに抱きついていた。

 

「だって私、この先ずっとことりちゃんと海未ちゃんとそーくんと一緒にいたいって思ってるよ!大好きだもん!」

 

「大好きって、お前なぁ……////」

 

穂乃果の言う大好きと言うのはあくまでも友人としてということはわかっていたのだが、奏夜は恥ずかしさからか頬を赤らめていた。

 

穂乃果の真っ直ぐな言葉が嬉しかったからか、ことりは瞳をウルウルとさせていた。

 

「穂乃果ちゃん……」

 

ここで穂乃果とことりは1度離れるのだが……。

 

「……えいっ!」

 

穂乃果は奏夜と海未も巻き込み、4人はまるで肩を組むかのように抱きついていた。

 

「ちょっ、穂乃果!」

 

「は、恥ずかしいだろうが!」

 

「えぇ?いいじゃん!別に!」

 

「そうだよ。ちょっとくらいはこうさせてよ。私だって、みんなのことが大好きなんだもん!」

 

穂乃果たちはギュッと力強く抱きついており、互いの体温を感じていた。

 

奏夜は気恥ずかしさがあるからか顔は赤いが、奏夜も同じ気持ちであるため、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「だから……ずっと一緒にいようね!」

 

「うん!」

 

「えぇ!」

 

「あぁ!」

 

奏夜は魔戒騎士であるため、いつまでも一緒にはいられない。

 

そんなことはわかっていたのだが、奏夜は穂乃果たちとずっと一緒にいたいと思っていたため、力強く答えていた。

 

奏夜たちは互いの絆の深さを感じ取っていた。

 

しかし、奏夜たちは知る由もなかった。

 

ずっと一緒にいようという言葉が、とある事がきっかけで崩れ落ちそうになってしまうことを……。

 

このような話をした翌日、ことりの家のポストに1枚の手紙が入っていた。

 

それは、英語で「Kotori Minami」と書かれており、ことり宛ての手紙であった。

 

ことり宛てにこの手紙が送られたこの時から、既に始まっていたのである。

 

……μ's全体を襲い、その存在を脅かす大きな波乱が……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『ずいぶんと暑くなってきたな。まさか、このようなことを計画するとは思わなかったがな。次回、「合宿」。どうやら何か企みもあるみたいだがな』

 

 




奏夜及び大輝のキャラ崩壊(笑)

特に大輝はベテランの魔戒騎士であるため、メイドとかには興味なさそうなんですけどね……。

まさかここまでどハマりするとは(笑)

しかも、大輝はことり推しになったようです。

前作である「牙狼×けいおん 白銀の刃」にも大輝は出ていましたが、ここまでキャラが崩壊することはありませんでした。

なので、前作を見た人は驚いたと思います。

ちなみに、今回登場したヘルディオルは、牙狼一期に登場したウトックの色違いとなっています。

そして、前作からさわちゃん降臨。

さわ子の衣装のクオリティは相変わらずのようです。

ことりが師事するくらいなので……。

恐らくさわ子はちょこちょこ登場するかな?とは考えています。

ここから先の話のことを考えると……。

さて、次回からは合宿回となります。

個人的にも早く合宿回は書きたいと思っていたので、執筆にと気合が入ります。

FF14はほどほどにして頑張りたいと思います(笑)

それでは、次回を楽しみに!



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第34話 「合宿」

お待たせしました!第34話になります。

この前FF14の1日メンテナンスがあったため、小説執筆にかなり時間を費やすことが出来ました。

おかげさまでちょっとは執筆が進んだ気がします。

さて、今回からいよいよ合宿回です。

奏夜たちが行う合宿は、いったいどのようなものになっていくのか?

それでは、第34話をどうぞ!




ラブライブ出場に向けて秋葉原にて路上ライブを行ったのだが、これは見事に成功して幕を降ろした。

 

このライブの映像もアップされたのだが、反響はかなりあるみたいであり、今後のランキングにも影響しそうな程であった。

 

それから時が流れ、7月も終わろうとしていた。

 

そう、学生にとっては待ちに待った夏休みの始まりである。

 

夏休みとは言ってもμ'sの練習が休みになることはなく、むしろラブライブ出場に向けてより一層練習に熱が入っていた。

 

しかし……。

 

「……あぅぅ……暑い……」

 

「そうだねぇ……」

 

奏夜たちは屋上に入ろうとするのだが、降り注ぐ夏の熱気に、にこと穂乃果は耐えられず、全員で屋上の前にいた。

 

「……っていうか馬鹿じゃないの!?こんな暑い中で練習とか!」

 

「あのなぁ……。気持ちはわかるけど、そうも言ってられんだろう……」

 

にこはこの猛暑の中での練習に抵抗があるようであり、奏夜はそんなにこに呆れていた。

 

「奏夜の言う通りよ。そんなこと言ってないでレッスン始めるわよ!」

 

「はっ、はい……」

 

絵里の強めな発言に花陽は少し怯えてしまったからか、凛の後ろに隠れてしまっていた。

 

「花陽……。これからは先輩も後輩もないんだから、ねっ?」

 

「はっ……はい」

 

自分のせいで花陽を怖がらせてしまったことが申し訳ないからか、絵里はこのような言葉を送っていた。

 

そんな絵里の言葉に安心したからか、花陽はひょっこりと顔を出すと、穏やかな表情で微笑んでいた。

 

このまま練習を始めようとしたのだが……。

 

「……あっ、そうだ!ねぇねぇ!合宿しようよ!」

 

穂乃果は唐突にこのようなことを提案していた。

 

「おいおい、ずいぶんと急だな……」

 

いきなりこのような話を切り出されたため、奏夜は少しばかり呆れていた。

 

「あぁ!何でもっと早く思いつかなかったんだろう」

 

合宿をするというのが妙案だと思っていた穂乃果はこのようなことを言いながら頭を抱えていた。

 

「合宿かぁ……。面白そうにゃ!」

 

「そうね。この炎天下の中で練習するのも体がきついからね」

 

どうやら穂乃果の言っていた合宿に、凛とにこは賛成のようだった。

 

「合宿は良いが、場所はどこでやるつもりなんだ?」

 

「そりゃ、海だよ!夏だもん!」

 

穂乃果は、合宿場所として、海のある場所を希望していた。

 

「それに、予算はどうするつもりなのです?」

 

海未の言う通り、合宿に行くならばただという訳にはいかない。

 

宿泊費や食費。その他もろもろと費用がかかってくるため、全員の負担になることは間違いなかった。

 

「大丈夫だよ!そこはそーくんが……」

 

「おいコラ、人をATM扱いするんじゃないよ」

 

全ての費用を奏夜に出させようとする穂乃果を、奏夜は軽い力で小突いていた。

 

「痛っ!むー……!何するのさ、そーくん!」

 

軽い力でも穂乃果には痛かったようであり、穂乃果は小突かれた部分をさすりながら膨れっ面で奏夜のことを睨みつけていた。

 

「頑張ればお前らの合宿代は捻出出来るが、俺の生活が脅かされるっつうの!」

 

奏夜は魔戒騎士として番犬所から手当てはもらっているのだが、まだまだ未熟な魔戒騎士である奏夜はそこまでもらっている訳ではなかった。

 

貯金も少しはあるのだが、合宿費用を出すとなると貯金をほぼ使い切ってしまう可能性がある。

 

「流石に、奏夜1人にそこまでの負担はかけられないわね……」

 

奏夜1人に出させるのはさすがに違うと思ったのか、絵里はこのようなことを言っていた。

 

「……言っておくが、ことりのバイト代をアテにするのも駄目だからな」

 

「えぇ!?なんでわかったの!?そーくんってエスパー!?」

 

どうやら穂乃果は本当にことりのバイト代をアテにしていたようであり、それをズバリと当てられたことに驚いていた。

 

『いやいや。ちょっと考えればわかるだろう……』

 

穂乃果は金を持っているであろう奏夜をアテにしようとしていたくらいだから、メイド喫茶でバイトをしていることりに頼ることは簡単に予測することが出来た。

 

「……あっ!それならば、紬さんに相談してみてはどうですか?」

 

「そうか!その手があったか!」

 

海未の提案を聞いた奏夜の表情は明るくなり、その案に乗ろうとしていた。

 

「?紬さんに?どういうこと?」

 

オープンキャンパスの時に、統夜や軽音部のメンバーと交流した絵里であったが、海未や奏夜の言葉の意味を理解出来ず、首を傾げていた。

 

「紬さんの家って桜ヶ丘の中でも随一の富豪で、複数の別荘を持ってるそうなんです」

 

「それで、統夜さんたち軽音部は合宿の度にその別荘を借りて練習をしていたみたいなんです」

 

「はっ、ハラショー……!」

 

別荘で合宿という話があまりにも凄すぎるからか、絵里は驚きを隠せなかった。

 

「だけど、紬さんだって大学の軽音部で合宿をするよねぇ?それだったら別荘を借りる交渉は難しいんじゃないかなぁ?」

 

「確かにそうだよなぁ。一緒に使わせてもらうって言っても練習メニューがあまりにも違いすぎるからな」

 

ことりの指摘通り、紬たちも大学の軽音部で合宿に行くことが予測されており、別荘を使うことが予想されるため、別荘を借りるのは難しそうだった。

 

それに、奏夜たちの練習メニューは運動部のものとそれほど変わらないものであるため、文化系である軽音部と一緒に練習するのは厳しいと思われた。

 

「……そうだよねぇ……」

 

メンバーの経済的にも厳しく、頼みの綱である紬の別荘も借りるのは困難であるため、穂乃果の立てた合宿の件は頓挫すると思われた。

 

やはり合宿を諦めきれない穂乃果は……。

 

「……ねぇ、真姫ちゃん。真姫ちゃんのお父さんって院長さんだよね?別荘とかって持ってないの?」

 

「……まぁ、あるにはあるけど……」

 

真姫の父親は西木野総合病院の院長であり、秋葉原でもかなりの富豪に入るため、別荘は持っているみたいだった。

 

「真姫ちゃん、お願い♪」

 

穂乃果は真姫に抱きつき、頬をスリスリしながらこのように懇願をしていた。

 

「ちょ、ちょっと待って!何でそうなるの!?」

 

「そうよ。いきなり押しかける訳にはいかないわ」

 

そんな穂乃果に真姫は困惑し、絵里がこのように反対意見を出していた。

 

それを聞いた穂乃果は……。

 

「……そっか……。そうだよね……。アハハ……」

 

明らかに残念そうにしており、今にも泣きそうだった。

 

そんな穂乃果の表情を見てしまった真姫は……。

 

「……仕方ないわね。聞いてみるわ」

 

「本当!?やったぁ!!」

 

先ほどまでの泣きそうな表情はどこかへと行ってしまい、穂乃果の表情はぱぁっと明るくなっていた。

 

「……そうだ!これを機に“アレ”をやってしまった方がいいわね」

 

「?絵里先輩、あれって何ですか?」

 

「ふふっ、すぐにわかるわよ」

 

どうやら絵里は合宿をやるならばと何かを企んでいるようであった。

 

こうして、合宿の話は決まりそうになっていたのだが……。

 

「……悪い。合宿なんだけど、俺は行けないかもしれないんだ」

 

「えぇ!?何で何で!?」

 

奏夜は申し訳なさそうにこう言うのだが、穂乃果はすぐに異議を唱えていた。

 

「理由としては、魔戒騎士としての仕事が忙しくなるからかな?」

 

「魔戒騎士の仕事……ですか?」

 

「夏休みは魔戒騎士の仕事に専念出来るからな。可能な限りはそちらの仕事を優先したい」

 

『それに、この前現れたあいつら絡みの事件もあるからな』

 

奏夜は魔戒騎士の仕事を理由に、合宿には参加出来ないかもしれないということを伝えていた。

 

「それともう1つ。合宿ってことは別荘にしろ何にしろ寝泊まりするってことだろ?男が1人混ざって良いものなのか……」

 

奏夜は自分だけが男なので、9人の少女と寝泊まりして良いのかと迷っていた。

 

これもまた、奏夜を合宿へ参加させることを躊躇わせる理由なのだ。

 

「大丈夫だよ!そーくんなら大丈夫だから!」

 

「それに、あなたがいないと合宿しても意味がないからね」

 

「そうです。ですから、番犬所の人に相談してはもらえないでしょうか?私たちと合宿へ行けるように」

 

「そーくん、お願い!」

 

穂乃果たちは奏夜にも合宿に参加してもらいため、このように説得を試みていた。

 

最後のことりのお願いを聞いた奏夜は、「うーん……」と真剣に考えていた。

 

ことりのお願いのため、それを無下には出来なかったからである。

 

「……わかったよ。交渉するだけしてみるさ」

 

「「やったぁ!」」

 

奏夜はロデルと話をすることを決意しており、そのことに喜んだ穂乃果とことりはハイタッチをしていた。

 

「だけど、もし番犬所がダメだと言ったら合宿には参加出来ないからな」

 

「わっ、わかってるよ!」

 

話だけはするが、もしロデルがダメだと言えば参加する訳にはいかないため、奏夜はそこは穂乃果たちの頭に入れてもらうことにしていた。

 

こうしてこの日は炎天下の中だがどうにか練習を行うことになり、奏夜は練習終了後、番犬所に向かってロデルに話をすることにした。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

この日の練習が終わり、奏夜は翡翠の番犬所へと直行した。

 

「……お、来ましたね、奏夜」

 

「はい、ロデル様」

 

奏夜はロデルに一礼をすると、狼の像の前に立ち、魔戒剣を抜くと、狼の口に魔戒剣を突き刺し、魔戒剣の浄化を行った。

 

それが終わると、奏夜は魔戒剣を鞘に納めて魔法衣の裏地にしまっていた。

 

「……ロデル様。1つお願いしたいことがありまして……」

 

「?お願い……ですか?」

 

「はい。今度μ'sのみんなが合宿を行うことになりまして……」

 

奏夜は合宿というキーワードを口にして、そのキーワードを聞いたロデルは……。

 

「行ってきなさい!何があっても!!」

 

奏夜はまだ最後まで話をしていないにも関わらず、奏夜の合宿行きを了承していた。

 

「よ、良いのですか?」

 

ここまで食い気味に了承されるとは思ってなかったので、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「当たり前です!合宿といえば泊まりでしょう?μ'sのみんなに何かあったらどうするんですか!」

 

ロデルはここまで感情的になることは珍しく、奏夜はタジタジになっていた。

 

「は、はぁ……」

 

「とりあえず、詳しい日にちがわかり次第、すぐに私に連絡をするように」

 

「わ、わかりました……」

 

ロデルはどうやらアイドルのことになるとキャラが変わってしまうようであり、花陽と重なるところがあった。

 

そんなロデルに奏夜は苦笑いをしており、2人いるロデルの付き人の秘書官は、眉をひそめていた。

 

この日は指令がなかったため、番犬所を後にした奏夜は許可をもらったことを穂乃果にすぐ連絡を入れていた。

 

奏夜が合宿に参加出来ることがわかると、合宿のスケジュールが急速に組まれていった。

 

奏夜が穂乃果に連絡するよりも早く、真姫が別荘の使用許可を得ていたみたいだからだ。

 

この日は指令はなかったため、奏夜は街の見回りを行ってから家に帰り、翌日以降から合宿の準備に追われていた。

 

そして、合宿当日を迎えた。

 

今回合宿で訪れる真姫の別荘は東京ではない場所にあるため、電車で1時間強ほどかかることになる。

 

そのため、奏夜たちは東京駅で待ち合わせをして、そこから電車に乗り込むことになった。

 

「……よう、みんな。お待たせ!」

 

奏夜が待ち合わせ場所である東京駅の広場に到着すると、既に穂乃果たちは集合しており、来てないのは奏夜だけであった。

 

「そーくん、遅い!待ちくたびれちゃったよぉ!」

 

奏夜が遅いことが気に入らなかったのか、穂乃果はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「お前らが早過ぎるんだよ。俺は時間通りに来たぞ」

 

「そういうことじゃないのよ、奏夜。いくら時間通りだろうと、レディを待たせるのはいかがなものかってことを言いたいのよ」

 

奏夜は時間通りに来たと主張していたのだが、にこはそんな奏夜の言葉に異議を唱えていた。

 

「レディ?俺の目の前にいますかねぇ」

 

奏夜キョロキョロと周囲を見回す素ぶりをしていた。

 

「あっ、あんたねぇ……!」

 

にこは奏夜の態度が気に入らないのかジト目で奏夜を睨んでいた。

 

「まぁまぁ。みんな揃ったんだし、そろそろ出発しない?」

 

ことりはそんなにこをなだめていた。

 

「その前に、この合宿でみんなにやってもらいたいことがあるの」

 

「やってもらいたいこと?」

 

「そう。それはね……」

 

絵里はふふんとドヤ顔をしながらこの合宿で「先輩禁止」を行うことを告げていた。

 

「先輩禁止……ですか?」

 

絵里の思いがけない提案に、奏夜は驚きを隠せず、それは3年生組以外の全員も同様であった。

 

「そう。前からずっと気になっていたの。先輩後輩はもちろん大事だけど、踊っている時にそういうところを気にするのはどうかと思ってね」

 

「なるほど……。それは確かに一理ありますね」

 

絵里がこのようなことを行う理由を語ると、その理由に納得したからか奏夜はウンウンと頷いていた。

 

「確かに、私も3年生に合わせてしまうところがありますし……」

 

μ'sの活動は部活動の側面もあるため、先輩後輩を意識するのは当然なのだが、海未はパフォーマンスの時でも3年生を意識するところがあった。

 

それは他のメンバーも大なり小なりはあるが感じているところであった。

 

「……そんな気遣い、まったく感じられないんだけど……」

 

にこも3年生であるのだが、海未の言うような合わせるという気遣いは見受けられなかった。

 

「そりゃあ……ねぇ……」

 

「だって、にこ先輩は上級生って感じがしないにゃ!」

 

奏夜は言葉を濁していたのだが、凛はハッキリとこう告げていた。

 

凛の容赦ない発言に、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「じゃあ!上級生じゃなかったら何だっていうのよ!」

 

「……後輩?」

 

「ていうか、子供?」

 

「マスコットやと思ったけど」

 

凛、穂乃果、希の3人は、にこに対する印象をハッキリと言っていた。

 

「どんな扱いよ!」

 

「梓さんは先輩って感じはするけど、にこ先輩はそんな感じはしないんだよなぁ」

 

奏夜が話に出したのは、先輩騎士である統夜と同じ軽音部でその統夜の後輩であり、彼と交際している中野梓だった。

 

梓はにこと同じように小柄でツインテールなのだが、しっかりとしているため、奏夜は先輩らしいという印象を持っていた。

 

「ちょっと!にこだって立派な先輩なんだけど!!」

 

にこは自分に対する扱いに対してすかさずツッコミを入れていた。

 

「まぁ、それはともかくとして、さっそく始めるわよ」

 

「それはともかくって……」

 

絵里はにこのことをスルーしており、そんな絵里に、にこは唖然としていた。

 

「それじゃあ、行くわよ、穂乃果」

 

「え?あ、はい!えっと……」

 

いきなり自分に振られたため、穂乃果は困惑していた。

 

今まで先輩と呼んでいたのをいざそう呼ばないとなると、かなり緊張するからである。

 

少しばかり躊躇していた穂乃果は……。

 

「……え、絵里ちゃん!」

 

どうにか絵里のことを先輩と呼ばずに言うことが出来た。

 

「うん!」

 

先輩禁止が上手くいき、絵里は満面の笑みを浮かべていた。

 

「ふぅ……。緊張したよぉ……」

 

「それじゃあ凛も!!」

 

絵里のことを「絵里ちゃん」と呼んで穂乃果が安心する中、次は凛が挑戦するようであった。

 

「えっと……。ことり……ちゃん?」

 

「はい♪よろしくね!凛ちゃん、真姫ちゃん♪」

 

ことりは凛だけではなく、真姫にも話を振ろうとしていた。

 

「ヴェェ!?え、えっと……」

 

いきなり話を振られた真姫は、どうにかことりのことを先輩と付けずに呼ぼうとしたが……。

 

「べ、別にわざわざ今呼ぶ必要もないでしょ?」

 

真姫は頬を赤らめながらそっぽを向いてしまった。

 

「ったく……。素直じゃないな、真姫は……」

 

「む……!何が言いたいのよ、奏夜!!」

 

「そうそう。みんなのこともそんな感じで呼べばいいんだよ」

 

真姫は奏夜だけは先輩と呼んでいなかったため、いつものように呼んでいたが、他のメンバーに対してもそう呼べばいいと優しく語りかけていた。

 

「ふ、ふん!あんたと他のみんなとじゃ全然違うのよ!あんた、先輩っぽくないしね」

 

「やれやれ……。ひどい言われようだな……」

 

真姫の素直になれない故の言葉に奏夜は苦笑いをしながらポリポリと頭をかいていた。

 

そんな真姫の様子を、希は笑みを浮かべながら見守っていた。

 

「それじゃあ、そんな奏夜君も言ってみようか♪」

 

そして希は、真姫に優しく語りかけた奏夜に話を振っていた。

 

「そうだな……。改めてよろしくな。希」

 

「うんうん♪よろしい♪」

 

奏夜は穂乃果や凛と違って恥ずかしがったり躊躇したりすることなく先輩を付けずに呼ぶことが出来ていた。

 

「ずいぶんとしっくり言えたものね」

 

絵里は、ここまで躊躇なく先輩禁止が出来ている奏夜に少しだけ驚いていた。

 

「まぁ、先輩と呼ぶのはちょっと抵抗があったのもまた事実だし……」

 

奏夜は絵里と希がμ'sに入ってからというものの、「絵里先輩」、「希先輩」、「にこ先輩」と呼ぶことに対して少しだけ違和感を感じていた。

 

希に対して「希」と呼ぶことによって、ずれていたものが治った感覚になっていたのである。

 

「それなら私のことも呼べるわよね?」

 

「あぁ、もちろんだよ、絵里」

 

「……ハラショー♪」

 

奏夜は絵里のことも躊躇なく先輩を付けずに呼べて、絵里も嬉しそうだった。

 

「奏夜、にこのことだけは特別に敬意を込めて呼んでもいいわよ」

 

「……にこ、うっさい」

 

「ちょっと!何でにこの扱いだけこうもおざなりなのよ!!」

 

「にこが一番しっくり来るんだよ!」

 

「ぐぬぬ……。あんたねぇ……!」

 

先輩と呼んでも呼ばなくてもにこの扱いだけは相変わらずのようであり、にこはジト目で奏夜を睨みつけていた。

 

「……まぁ、それはともかくとして、花陽と凛も、俺のことは「奏夜」って呼んでくれよな」

 

「……またともかくって……」

 

絵里に続いて奏夜にまで話をスルーされてしまい、にこは唖然としていた。

 

「……う、うん……。これからもよろしくね……。そ、奏夜君……」

 

「凛も凛も!そーや君!これからもよろしくにゃ!」

 

「おう!2人とも、よろしくな!」

 

花陽は恥ずかしそうに奏夜の名前を呼んでおり、凛は元気いっぱいな感じで奏夜の名前を呼んでいた。

 

「それじゃあ、これから合宿に向かいます。それでは、部長の矢澤にこさん、一言お願いします」

 

「うぇぇ!?わ、私!?」

 

「頼みましたよ。部長♪」

 

「あ、あんた……!」

 

奏夜はニヤニヤしながらにこのことをからかっており、にこはそんな奏夜の態度が気に入らなかった。

 

そしてにこは「オホン!」と咳払いをした後に一言言うのだが……。

 

「それじゃあ……しゅ、しゅっぱぁ〜つぅ!」

 

にこは力無い感じでこのように言っており、にこの言葉がそれだけなことに対して、穂乃果たちはポカンとしていた。

 

「にこって意外とアドリブに弱いんだよなぁ……」

 

「うっ、うるさいわね!いきなりなんだから仕方ないでしょ!?」

 

奏夜の言われた言葉が気に入らないからか、にこはムキになって奏夜に反論していた。

 

こうして奏夜たちは、先輩禁止をこの合宿で行い、先輩後輩の垣根を取り除くという目標を掲げながら、合宿へと出発していった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

東京駅から電車でおよそ1時間ほど移動し、その後は徒歩で別荘へと向かっていった。

 

しばらく歩いていると、大きな建物が見えてきた。

 

「おぉ、凄いな……。まぁ、真姫。もしかしてここが真姫の別荘なのか?」

 

奏夜は見えてきた大きな建物を指差してこのように聞いていた。

 

しかし……。

 

「違う違う。ウチの別荘はもうちょっと小さいわ。それに、もうちょっと行ったところにあるわ」

 

「……へぇ、そうなのか……」

 

「この建物、誰かの別荘なのかしらね?」

 

「さぁ、私は何度も自分の別荘に来てるけど、ここの所有者らしき人には会ったことがないわね」

 

真姫はこれから行く別荘に何度も行ったことはあるのだが、この建物を誰が所有しているのかは知らなかった。

 

「ふーん……。だけど、この先なんでしょう?早く行こうよ!」

 

この建物のことは色々と気になるものの、穂乃果はこの先にあるであろう別荘に向かって進んでいった。

 

「ちょっと穂乃果!先に行っても場所はわからないでしょう!?」

 

「穂乃果ちゃん、待ってよぉ〜!!」

 

先に進んでいった穂乃果を、海未とことりは慌てて追いかけていった。

 

「ったく……。俺たちも行こうぜ、真姫」

 

「そうね。行きましょう、奏夜」

 

残りのメンバーも、穂乃果たちを追いかけながら別荘へと向かっていった。

 

奏夜たちがその場を離れて間もなくだった。

 

「……ん?あれは……奏夜?」

 

真夏には合わない赤いロングコートを着た青年……月影統夜が何故かこの建物の前に現れており、別荘へ向かう奏夜たちをジッと見ていた。

 

「何であいつらがこんなところに……」

 

『あいつら、合宿をやるとか言ってなかったか?』

 

「あぁ、そういえばそうだったな。確かこの先の建物は誰かの別荘だったはずだから、μ'sのメンバーの誰かがムギみたいに別荘を持ってるってことなのか?」

 

統夜は何で奏夜たちがこんなところにいるのか理解出来なかったが、イルバの言葉で合宿の存在を思い出していた。

 

さらに、統夜はこの先が誰かの別荘であることを何故か知っていた。

 

なので、μ'sの誰かが別荘を持てるほどの金持ちなのではないかと推測をしていた。

 

『さぁな。だが、1番可能性があるとすればあのツンデレのお嬢ちゃんじゃないか?』

 

「あぁ、真姫のことか。そういえば、親が病院を経営してるって言ってたもんな。充分にあり得る話だな」

 

イルバはすぐにこの先の別荘が真姫の家のものではないかと予想しており、統夜はそれに同意していた。

 

「……それはともかくとして、イルバ、この辺に本当に魔竜の眼があるっていうのか?」

 

『さぁな。だが、元老院の使者がそれらしき物を見つけたと報告があった手前、調べない訳にはいかんだろう』

 

「それにしても、調査する場所がムギの別荘の近くとはな……。おかげで俺も合宿にちょっとは顔を出せそうだけど……」

 

統夜は先ほどまで奏夜たちが見ていた建物をジッと見つめていた。

 

どうやらこの建物は、琴吹家の別荘であり、軽音部のメンバーはここで合宿を行うみたいである。

 

『とりあえずはさっさと仕事を済まさないとな』

 

「わかってるって。じゃないと唯たちがうるさいからな。それに、今回の合宿には晶(あきら)たちも来るみたいだし」

 

『あぁ、そういえばそうだったな。とりあえず行くぞ、統夜』

 

「了解だ、イルバ」

 

こうして統夜は、本当にこの近くにニーズヘッグの力が封じ込められている魔竜の眼があるのか確かめるために調査を開始した。

 

この時、奏夜たちは知る由もなかった。

 

自分たちにとっては先輩にあたる統夜や唯たち軽音部のメンバーが自分たちの近くで合宿を行っているということを……。

 

そしてそれは統夜意外の軽音部のメンバーも同様であった。

 

こうして、奏夜たちの合宿は幕を開けようとしていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『いよいよ合宿が始まったな。まぁ、こうなるとは予想は出来ていたがな。さて、どうなることやら。次回、「先輩」。先輩後輩の垣根は取ることが出来るのか?』

 

 




いよいよ合宿が始まりましたが、まさかの統夜が登場。

さらに、真姫の別荘の近くに紬の別荘があることが判明。

金持ちすげぇよ、金持ち……。

それにしても、他のメンバーは苦労する中、奏夜は先輩禁止が早くも板についてますね。

その方が奏夜にとってはしっくり来るとはいえ……。

ちなみに、統夜が話していた晶というのは、けいおん!の後日談の漫画である「けいおん! college」に登場していたキャラクターです。

その詳細は登場した時に紹介したいと思います。

さて、次回も合宿の話となります。

真姫の別荘で、いったいどのような合宿が行われるのか?

そして、奏夜たちは統夜たちとばったり出くわすことはあるのか?

それでは、次回を楽しみに!



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第35話 「先輩」

お待たせしました!第35話になります!

FF14の話になりますが、昨日、2ジョブ目として育てていた忍者のレベルがマックスになりました。

これで、絶狼の鎧を装備出来る!

主人公の名前を統夜の名前にしているので、統夜、牙狼に次いで絶狼の鎧を身に纏うというすごい展開になりました。

次は、キバ装備を目指して頑張ろうと思います。

もちろん、こっちの執筆も頑張りますが……(笑)

さて、今回は前回に続いて合宿回となっております。

真姫の別荘で、いったいどのような合宿が行われるのか?

それでは、第35話をどうぞ!






夏休みに突入し、奏夜たちはより良い練習を行うために合宿を行うことになった。

 

合宿を行うには色々と問題があったが、それを1つずつ解決していった。

 

まず予算の問題は、真姫が家の人間に相談し、別荘を使わせてもらえることになったので、解決することが出来た。

 

続けては奏夜が合宿に参加出来るかどうかの問題である。

 

魔戒騎士の仕事が忙しくなると思われた奏夜は、翡翠の番犬所の神官であるロデルに相談するのだが、ロデルは奏夜の合宿行きを即了承していた。

 

そのため、この問題もあっさり解決となり、合宿が行えることになったのである。

 

合宿当日を迎え、奏夜たちは東京駅から別荘へ向かっていったのだが、合宿を行うにあたって、絵里から1つの指令が言い渡された。

 

それは、「先輩禁止」である。

 

スクールアイドルグループ、「μ's」のメンバーとして、先輩後輩の垣根を取り除くことが目的となっている。

 

こうして奏夜たちは合宿が行われる真姫の別荘へとたどり着いた。

 

「凄いよ、真姫ちゃん!」

 

「このお家、すっごく大きいにゃあ!!」

 

「確かにな。近くにあったあの建物より小さいとか言ってたけど、全然そんなことないじゃないか!」

 

真姫の別荘を見て、穂乃果、凛、奏夜の3人は驚いていた。

 

奏夜がある建物と比較してこのようなことを言っていたのだが、ここへ来る前に奏夜たちは別の大きな建物を見つけていたのだが、その建物のことは真姫にもわからないみたいだった。

 

「そう?これくらい普通でしょ?」

 

(おいおい、これを普通と言うとか、金持ち半端ねぇな……)

 

これだけ大きい建物を普通と言ってしまう真姫の感覚に、奏夜は呆れていた。

 

「……ぐぬぬ……」

 

そんな中、真姫の別荘を見て、にこは何故か悔しそうにしていた。

 

「……にこ、何でそんなに悔しそうにしてるんだ?」

 

「べ、別に!あんたには関係ないでしょ?」

 

「さいですか……」

 

にこは慌ててツンツンしながら答えていたのだが、奏夜はにこの言葉を聞いたら、それ以上の追求はやめておいた。

 

その後、奏夜たちは別荘の中に入り、荷物を置くと、別荘の中を見て回ることになった。

 

「……おぉ、これはこれは……」

 

「すごーい!」

 

まず最初に見たのは個室なのだが、そこを見ていた奏夜、穂乃果、海未、凛の4人は驚いていた。

 

「穂乃果、こことーった!!」

 

穂乃果はフカフカのベッドにダイブして、くつろいでいた。

 

「フカフカぁ♪それにすっごく広いよ!」

 

穂乃果は、フカフカのベッドにご満悦のようであった。

 

「凛はここ!海未先輩も早く取った方がいいよ!……あっ」

 

凛もまた自分の場所を確保するのだが、海未にこう勧める時にもついいつもの癖で「海未先輩」と呼んでしまっていた。

 

「……やり直しですね」

 

そんな凛に海未はクスリと笑みを浮かべながらやり直しを要求していた。

 

「うっ、うん!海未ちゃん……穂乃果ちゃん……」

 

凛は海未だけではなく、穂乃果の名前も呼んだのだが、反応はなかった。

 

「……すぅ……すぅ……」

 

何故なら、この短い期間で眠ってしまっているからである。

 

「寝るの早っ!」

 

穂乃果がかなりのスピードで寝てしまったことに対して、奏夜はツッコミを入れていた。

 

「……こんなところで寝るんじゃないっつうの!」

 

奏夜は軽い力で穂乃果にチョップをして穂乃果を叩き起こしてから、違う場所へと移動していた。

 

続いて移動したのは厨房であった。

 

「……ふーん……。なかなか凄いな……」

 

奏夜は広い厨房に、豊富な食材を見て、驚きと興味を示していた。

 

奏夜が厨房をキョロキョロと見回していると……。

 

「あっ、そーくん!」

 

先に厨房を見ていたことりが奏夜を発見して、声をかけてきた。

 

ことりの他には真姫とにこも一緒だった。

 

「おう、ことり。ここにいたんだな」

 

「ねぇねぇ、そーくん!凄いよ!真姫ちゃんのお家には料理人がいるんだって!」

 

「ふーん、料理人ねぇ……。そりゃ、確かに凄いよな」

 

「別に……。そんなに驚くことじゃないと思うけど」

 

「いやいや……。家に料理人とか普通の家にはいないから!」

 

「そういうもんなの?」

 

どうやら真姫は、家に料理人がいるのは普通のことだと思っていたらしい。

 

「へ、へぇ……。ま、真姫ちゃんの家もそうだったんだ〜。にこの家にも専属の料理人がいるのよねぇ。だ、だからにこは、料理をしたことがないのよ」

 

「にこ……あからさまな嘘をつくなよ……」

 

にこは強がってこのような嘘をついており、そのことに奏夜は呆れていた。

 

「へぇ、にこ先輩もそうなんだねぇ」

 

「って、ことり!真に受けるなよ!そして、にこのこと先輩って呼んでるぞ」

 

「あっ!」

 

奏夜の二重のツッコミに、ことりはどうやらハッとしていたようであった。

 

「……やり直しね」

 

「うん。ごめんね、にこちゃん」

 

「よろしい」

 

にこは穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

こうして厨房を見て回った奏夜たちは厨房を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜たちは別荘内を一通り見て回ると、練習着に着替えて、外に集まった。

 

練習を始める前に、海未が合宿の練習メニューを考えていたようだからである。

 

「……これが、合宿での練習メニューになります!」

 

海未の作った練習メニューを見て、奏夜以外の全員がギョッとしていた。

 

ランニング10キロや筋トレ20セットにダンスレッスンなど、かなりハードな練習メニューとなっていたからである。

 

「凄い……こんなにびっしり?」

 

ことりは海未のメニューに驚愕する中、何故か水着を着ている穂乃果、凛、にこの3人は面白くなさそうであった。

 

「……っていうか、海は?」

 

「?私ですが?」

 

「おいおい。それ、素で言っているのかよ……」

 

海未の天然とも言える発言に、奏夜は少しばかり呆れていた。

 

「そうじゃなくて!海だよ!海水浴だよ!」

 

「おいおい、遊びに来たんじゃないんだぞ……」

 

「奏夜の言う通りです!それに、海で泳ぐのなら……」

 

海未は練習メニューのある部分を指差すと、そこには「遠泳 10キロ」と書かれていた。

 

「えっ……遠泳……!?10キロ!?」

 

「さらにその後ランニング10キロ!?」

 

あまりにハードな練習メニューに、穂乃果とにこの顔は真っ青になっていた。

 

「最近、基礎体力をつける練習が減っています。せっかくの合宿ですし、ここでみっちりとやっておいた方がいいかと!」

 

どうやら海未は1人やる気みたいであり、そのやる気が空回りしつつあった。

 

「そ、それは重要だけど……。みんな持つかしら?」

 

さすがの絵里もこのメニューには引いているようであり、そんな絵里の言葉に穂乃果、凛、にこの3人は期待を込めてウンウンと頷いていた。

 

「大丈夫です!熱いハートがあれば!」

 

「アハハ……。熱いハートって……」

 

海未があまりにもやる気満々なため、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「奏夜!あなたはどう思いますか?この練習メニューは」

 

「うーん……。そうだなぁ……」

 

奏夜は練習メニューを見て、少し考え込んでいた。

 

すると……。

 

「……魔戒騎士の俺から言わせてもらえればぬるすぎるな。せめてこれの3倍……いや、5倍はこなさないと」

 

『!!?』

 

奏夜はさらっととんでもないことを言っており、そんな奏夜に海未を含む全員が驚愕していた。

 

さすがの海未も、これの5倍をこなすのは無理だと思っていたからである。

 

「……まぁ、魔戒騎士としての視点を無しにしても、これの2倍くらいはやった方がいいんじゃないのか?」

 

奏夜はそれでも今の2倍は練習をこなした方がいいと言っていた。

 

「……だ、ダメだこいつ……。早くなんとかしないと……」

 

海未以上に奏夜の発言がとんでもないため、にこはドン引きしていた。

 

このままでは地獄のような練習メニューをこなすことになってしまう。

 

そうならないために穂乃果、凛、にこの3人がとった行動は……。

 

「……あー!!海未ちゃん!あれは何にゃ?」

 

「?何もありませんが……」

 

凛が海未の視線をそらしたその時であった。

 

「今だ!!」

 

「行っくよ〜!」

 

「行っくにゃぁ!!」

 

一瞬の隙をついた穂乃果とにこが海の方へと向かっていき、それに呼応して、ことり、花陽、凛もまた、海へと向かっていった。

 

「あ、あなたたち!ちょっと!!」

 

「……まぁ、仕方ないわね」

 

「え?いいんですか?絵里先輩……」

 

「……って、違うだろ?海未」

 

「あっ……」

 

海未は思わずいつものように絵里のことを先輩とつけて呼んでいたのだが、そのことに気付いたようだった。

 

「そうそう♪禁止って言ったでしょ?」

 

「すみません……絵里」

 

「μ'sはこれまで、部活の側面が強かったから、こんな風に遊んで、先輩後輩の垣根を取るのも、重要なことよ」

 

「うんうん。俺もそこは大事だと思うぞ」

 

「絵里……奏夜……」

 

絵里の言葉に奏夜が賛同しており、海未もそんな絵里の言葉に「うーん」と考え込んでいた。

 

その時であった。

 

「おーい!海未ちゃん!絵里ちゃん!!」

 

こう言って2人を呼んでいたのは花陽であった。

 

「へぇ、花陽のやつ、先輩禁止が板についてきたみたいだな」

 

そんな花陽を見て、奏夜はウンウンと頷いていた。

 

「は〜い!……さぁ、海未。私たちも行くわよ♪」

 

「は、はい!」

 

こうして奏夜たちは練習を後回しにして、海で遊ぶこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

穂乃果、凛、にこ以外の3人が水着に着替えると、楽しそうに海へと向かっていった。

 

「やれやれ……」

 

奏夜もまた、茶色いトランクス型の海パンをはいて、白いパーカーを羽織っていた。

 

万が一に備え、魔法衣も持ってきており、奏夜は魔法衣を抱えながら海へと向かっていった。

 

『おい、奏夜。本当にいいのか?好き勝手に遊ばせておいて』

 

「いいんだよ。さっきも絵里が言ってたろ?先輩後輩の垣根を取るのも大事だって。それに……」

 

『それに?』

 

「こうやって9人揃って遊ぶことってそうあることじゃないだろ?これもまた、μ'sの絆を深めるのに大事なことなんだよ」

 

『……ま、それならそれで良いのだがな』

 

キルバも納得したところで、奏夜は海に向かっていった。

 

『……おい、奏夜。もし海で遊ぶなら俺は置いていけよ。海水を浴びて俺の体が錆びるのだけは避けたいからな』

 

「ソウルメタルで出来てるお前が海水如きで錆びたりはしないだろうが……」

 

奏夜の言う通りキルバの体はソウルメタルで出来ており、海水を浴びたくらいでは錆びたりしないのだが、キルバは海水を浴びたくないようであった。

 

奏夜はパラソルの下に敷いてあったレジャーシートに腰を下ろすと、海で遊ぶ穂乃果たちを眺めていた。

 

「……なぁ、キルバ」

 

『?どうした、奏夜』

 

「俺たちは海に来ているってことはみんな水着を着て遊んでいるということだよな?」

 

『何当たり前なことを言っているんだよ』

 

「俺の目の前にはμ'sの名前に相応しい9人の女神の水着姿……。なんだか、かなり贅沢なことだよな……」

 

奏夜は今、海で遊ぶ穂乃果たちを見ていたのだが、バシャバシャと互いに水をかけ合っていた。

 

さらにはことりが水鉄砲を使って凛やにこに攻撃をしてご満悦になっていた。

 

希はその様子をビデオカメラに収めており、これは眼福と言っても言い過ぎではない光景であった。

 

『……ったく……。お前はかなりの変態だよ、奏夜……』

 

「……キルバ。何か言ったか?」

 

『いいや、何も言ってないぞ』

 

「?」

 

キルバの呟きを奏夜は聞き取れなかったみたいであり、奏夜は首を傾げていた。

 

すると、全員の輪に入ろうとしないで、1人ビーチチェアで本を読んでいる真姫の姿を発見した。

 

「ったく……。あいつは……」

 

そんな真姫を見かねた奏夜はゆっくりと立ち上がると、真姫の方へと向かっていった。

 

「……真姫。みんなと遊ばなくてもいいのか?」

 

「……別に。私はそんな気分じゃないだけよ」

 

真姫は淡々と答えると、奏夜の方に視線を向けることなく本を読んでいた。

 

「ったく……。お前も素直じゃないよな。あの輪に入ればみんな受け入れてくれるだろうに」

 

「うっ、うるさいわね!別にいいでしょ?」

 

みんなの輪に入ればみんなは受け入れてくれる。

 

そんなことは真姫もわかってはいたのだが、素直になれないみたいであり、真姫はついこのようにツンツンした態度を取ってしまっていた。

 

「……そんなに壁を作る必要はないと思うけどな。真姫だって本当はみんなと一緒に遊びたいんだろ?」

 

「うっ……」

 

どうやら奏夜の言葉は図星のようであり、真姫は言葉を詰まらせていた。

 

「そういった奏夜こそ、私なんかに構ってないでみんなのところに行けばいいのに」

 

「いーや。そうはいかんな。俺はμ'sのマネージャーとして、お前1人を蚊帳の外にする訳にもいかんからな」

 

「はぁ?あんた、何を言って……」

 

どうやら奏夜は真姫が動かない限りは動くつもりはないようであり、奏夜の言葉に真姫は困惑していた。

 

すると……。

 

「おーい!そーくん!真姫ちゃん!!」

 

「そんなところにいないで、一緒に遊ぶにゃあ!!」

 

ビーチチェアにいる奏夜と真姫を発見した穂乃果と凛が、2人を呼んでいた。

 

「おう!今行く!……さてと……」

 

奏夜は羽織っていたパーカーを脱ぐと、魔法衣と一緒に空いているビーチチェアに置いていた。

 

「あっ……////」

 

真姫は、奏夜の鍛えられた肉体を見て、少しだけ恥ずかしくなったからか、頬を赤らめていた。

 

奏夜は魔戒騎士のため、かなり鍛えられているのだが、ムキムキという訳ではなく、理想的な細マッチョな体型であった。

 

「……ほら、真姫。俺たちも行くぞ」

 

「えっ?ちょ、ちょっと!奏夜!!」

 

奏夜は半ば強引に真姫の手を引くと、そのまま真姫を連れて穂乃果たちの輪の中に入っていった。

 

『おい、奏夜!俺は置いていけと言っただろう!?』

 

「ダメだ。キルバ、お前だってμ'sのメンバーみたいなものなんだからな」

 

「そうだよ!どうせならキー君も一緒じゃないと!」

 

『おい、穂乃果!俺をそんな変なあだ名で呼ぶな!』

 

キルバは、穂乃果やことりに「キー君」と呼ばれており、そう呼ばれるのが気に入らないようである。

 

そんなキルバをスルーしつつ、穂乃果は海の中に入ってきた奏夜や真姫に海水をバシャバシャとかけていた。

 

「やっ……やったわね!」

 

「真姫、反撃行くぞ!」

 

「わかってるわよ!」

 

奏夜と真姫は、反撃と言わんばかりに海水を穂乃果と凛に海水をバシャバシャとかけて、互いに応酬が行われていた。

 

『や、やめろ!だから俺は海水は……。ブクブクブク……』

 

奏夜が水をバシャバシャする度にキルバは海水の中に叩きつけられることになり、キルバは苦しそうにしていた。

 

「アハハ!」

 

「楽しいにゃあ♪」

 

「このぉ!お返しよ!」

 

どうやら水をかけられたことにより、真姫にもスイッチが入ったようであり、穂乃果や凛と水の掛け合いを楽しんでいた。

 

「……ウンウン。それで良いんだよ……」

 

ムキになりながらも楽しく遊ぶ真姫を見て、奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

『俺は全然良くないがな……』

 

先ほどから海水の洗礼を受けたキルバは、フラフラになっていた。

 

奏夜が穂乃果たちを見守っていると……。

 

「……奏夜君♪ボケっとしててええんかな?」

 

希がニヤニヤしながらこう言うと、ことりの水鉄砲が奏夜に向いていた。

 

「こ、ことり……。は、話せばわかる!」

 

奏夜はどうにか水鉄砲の一撃を受けないように交渉をするのだが……。

 

「……問答無用♪」

 

ことりは満面の笑みを浮かべながら奏夜に向かって水鉄砲を放った。

 

「アブぅっ!!」

 

ことりの水鉄砲を顔面に受けた奏夜はその場でダウンしてしまった。

 

奏夜はすぐに起き上がるのだが、ことりと希はそんな奏夜を見て大笑いしていた。

 

「……ハラショー♪」

 

そして絵里も、全員が楽しそうに遊んでいるのを見て、嬉しそうにしていた。

 

その後は全員でスイカ割りをしたり、海で泳いだり、砂で何かを作ったりと楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

夕方まで思い切り遊んだ奏夜たちは、別荘の中に戻り、着替えを済ませると、練習は行わずリビングでのんびりしていた。

 

すると……。

 

「……買い出し?」

 

「うん。だけど、ここからスーパーが遠いんだって」

 

夕食を食べるためには食料を調達するために買い出しに行かなければならないのだが、この別荘からスーパーまではかなりの距離があるみたいだった。

 

「……だったら私が行くわ」

 

すると、真姫がスーパーまで買い出しに行くことを告げていた。

 

「私以外に店の場所は知らないでしょ?」

 

真姫がこう言う通り、他のメンバーはこの辺りの地理には詳しくないため、買い出しには真姫が行かざるを得ない状況であった。

 

そんな中……。

 

「だったらウチもお供するわ」

 

買い出しに、希が同行することを申し出ていた。

 

「え?」

 

希が積極的に買い出しに同行しようと言うとは思わなかったからか、真姫は困惑していた。

 

「たまにはええやろ?こんな組み合わせも」

 

希が買い出しに同行するのは何か狙いがあるみたいであった。

 

「……俺も行くよ。荷物持ちは出来るし、暴漢がいないとも限らないしな」

 

奏夜は、荷物持ちと2人の護衛という名目で買い出しに同行することにした。

 

こうして、奏夜、真姫、希の3人は離れたところにあるスーパーにて買い出しを行い、残りのメンバーは留守番することになった。

 

「……おぉ、夕日が綺麗やね!」

 

「確かにな。ここまで綺麗な夕日を見たのは久しぶりだよ」

 

希と奏夜は、海から顔を出す夕日に見とれていたのだが、真姫だけは浮かない表情をしていた。

 

そんな中……。

 

「……ねぇ」

 

と、真姫は奏夜と希に呼びかけていた。

 

「どういうつもりなの?」

 

「?どうって?」

 

「あんたたちは、何で私に構うの?」

 

希はともかくとして、奏夜はこの合宿中、やたらと真姫を気にする様子があるため、真姫はそれが気に入らないようだった。

 

「別に。真姫ちゃんは面倒なタイプやなぁって思っただけや」

 

「そうそう。海で遊んだ時だってそうだったが、真姫は本当はみんなともっと仲良くなりたいんだろ?だけど素直になることが出来ない」

 

「……わっ、私は……」

 

「まっ、俺はそんな面倒なタイプの奴についつい世話を焼くおせっかいなのかもしれないな」

 

「確かに、それは言えてるかも。海で遊んでた時の奏夜君と真姫ちゃんがまさにそんな感じやし♪」

 

希はどうやら海での奏夜と真姫のやり取りを見ていたようであり、ニヤニヤしやがらこのようなことを言っていた。

 

「それに、さすがはμ'sのマネージャーやな。みんなのことをよく見てるし、みんなを孤立もさせたりしないせぇへんもんな」

 

「当たり前だろ?μ'sは9人いてこそなんだ。誰1人と孤立させたくなくてな」

 

「……そういうところがおせっかいなのよ。あんたは」

 

「アハハ……。そこは否定出来ないな……」

 

奏夜の思いを、真姫はおせっかいとばっさり切り捨ててしまい、奏夜はそんな真姫の言葉に苦笑いをしていた。

 

「まぁまぁ。真姫ちゃんはそうやって素直になれないやろ?そういったところが似てるんよ。誰かさんに」

 

「あぁ、なるほどな」

 

希は真姫のように自分の気持ちに素直になれない知り合いがおり、奏夜はその人物に心当たりがあった。

 

「……放っとけないのよ。そういうタイプの人は……」

 

いつもはおどけた仕草の多い希であったが、落ち着いた口調で、真剣に答えていた。

 

「……何よそれ」

 

「ま、たまには無茶をしてみるのもええんやない?合宿やしね♪」

 

「そうそう。希の言う通りだ。俺に頼らずとも、積極的に行ってみればいいんだよ」

 

「……だから何言ってんのよ!」

 

「まぁまぁ。早いところスーパーに向かおうぜ!」

 

こうして奏夜はどこにスーパーがあるのかわからないのに先行していった。

 

「あっ、奏夜!待ちなさい!あんたはスーパーの場所はわからないでしょ!?」

 

「クスクス、奏夜君ってば元気やねぇ」

 

真姫と希は、どこにスーパーがあるのかわからずに先行している奏夜を追いかけていった。

 

どうにかスーパーに到着した奏夜たちは、夕食に使う食材やおやつなどを買い込み、レジで精算を済ませると、そのまま店の外に出ようとしたのだが……。

 

「……あれ?奏夜君たちだ!」

 

誰かに声をかけられたため、奏夜たちは声の方を振り向くと、そこには唯が立っていた。

 

唯だけではなく、統夜と紬も一緒であり、さらには見たことのない黒いベリーショートの髪型で、少しだけ気の強そうな女性も一緒だった。

 

「み、皆さん!?どうしてここに?」

 

奏夜は統夜たちとこんなところで会うとは思わなかったからか、驚きを隠せなかった。

 

「軽音部の合宿だよぉ!ムギちゃんの別荘でやってるんだぁ♪」

 

驚きながらこう問いかける奏夜に、唯はほんわかとした笑顔で答えていた。

 

「奏夜君たちももしかして合宿で来たの?」

 

「えぇ。真姫の別荘を使わせてもらって合宿をやっています」

 

紬の問いかけに、奏夜はこう答えていた。

 

「すごぉい!!真姫ちゃんのお家もお金持ちなんだねぇ!」

 

「べっ、別に……。これくらいは普通ですよ……」

 

「クスクス、真姫ちゃん、やっぱり素直やないなぁ」

 

「うっ、うるさいわね!」

 

唯に褒められたことに対して真姫は素直になれない感じで答えるが、それを希に見透かされてしまい、真姫はムキになっていた。

 

そんな2人の様子を、奏夜、統夜、唯、紬の4人が笑みを浮かべながら見守っていた。

 

「……あんたら2人ってあのμ'sのメンバーだろ?確か、西木野真姫と、東條希」

 

「えっ、えぇ……。そうですけど……」

 

「やっぱりそうなんだな!私もμ'sのファンなんだよ!こんなところで会えるなんて嬉しいぞ!」

 

「あっ、アハハ……」

 

統夜たちと一緒にいるベリーショートの女性は、どうやらμ'sのファンみたいであり、真姫や希と出会ったことに目をキラキラと輝かせていた。

 

「あの……。あなたは?」

 

「おっと、自己紹介が遅れたね。私は和田晶(わだあきら)。バンドは違うけど、こいつらとは同じ軽音部に入っているんだよ」

 

ベリーショートの女性……和田晶は、奏夜たちに自己紹介をしていた。

 

「よっ、よろしくお願いします」

 

奏夜が代表して、晶に挨拶を返していた。

 

「あんたは確かμ'sのマネージャーで、統夜の弟分だろ?確か、名前は如月奏夜」

 

「はい、そうです。それにしても、晶さんは俺たちのことを随分と知っているみたいですね」

 

「まぁ、あんたらのことは統夜や唯たちからよく聞いていたからな。μ'sのメンバーと知り合いだっていうのは疑ってたけど、まさか本当に知り合いとはな……」

 

晶は奏夜たちのことの話をよく聞いていたのだが、統夜や唯たちがμ'sのメンバーと知り合いということは信じていなかったのだが、真実を知って驚いていた。

 

「ま、そういう訳だ。お前らはこれから戻って夕食か?」

 

「えぇ。みんな待ってますしね」

 

「だったら、みんなもムギちゃんの別荘においでよ!みんなでご飯を食べたら美味しいよ♪」

 

唯は奏夜たちも紬の別荘に招待しようとしていたのだが……。

 

「おいおい、こいつらを困らせるなよ。こいつらだって私たちだって今日のメニューは決まってんだろ?」

 

「むぅぅ……。確かにそうだけどさ……」

 

晶がこのように唯をなだめていたのだが、唯はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「なぁ、奏夜。そっちの合宿はどれくらい行うんだ?」

 

「はい。今日から2泊3日です」

 

奏夜たちの合宿は初日2日目と練習を行い、最終日に帰るといった内容となっていた。

 

……初日に遊ぶのは予定外だったのだが……。

 

「俺たちも2泊3日なんだ。今日はそれぞれでご飯を食べて、明日はムギの別荘で一緒にバーベキューでもしないか?そしたら楽しいだろ?」

 

「わかりました。帰ったらみんなにも相談しておきます」

 

「頼むな。……あと、奏夜。今日の夜、何時でもいいから時間を作れないか?」

 

「えぇ。構いませんけど」

 

「例の件で話があるんだ。適当な時間にそっちの別荘に顔を出すな。場所は既に調べてあるから」

 

「!?わ、わかりました」

 

奏夜は、統夜がいつの間にか真姫の別荘の場所を調べていたのかと驚いていたが、統夜がこちらに顔を出すことには了承していた。

 

「それじゃあ、みんなによろしくね!それじゃあねぇ!」

 

こうして話を終えた統夜たちは先に自分たちの合宿先である紬の別荘へと向かっていった。

 

「……俺たちも戻るか」

 

「そうね」

 

「せやな。みんなも待っとるしな」

 

それから間もなくして、奏夜たち3人も、穂乃果たちが待つ真姫の別荘へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜、希、真姫の3人がスーパーから戻ると、奏夜はスーパーで統夜たちとバッタリ出会ったことを話した。

 

統夜たちも軽音部の合宿でここへ来ており、もし可能であれば明日にでも合同でバーベキューをしないかという提案をしていたことを穂乃果たちに伝えた。

 

そんな統夜たちの提案に穂乃果は乗っかり、他の全員の了承も得たところで、奏夜たちは翌日の練習終了後、真姫の別荘の近くにある紬の別荘に顔を出すことになった。

 

穂乃果がその旨を唯に電話で伝えており、その間に、今日の夕食を作ることになった。

 

今回料理を担当することになったのは、自ら率先してやると言っていた奏夜であり、にこも手伝うことになった。

 

「にこ、メインのカレーは俺が作るから、サラダをお願いしてもいいか?」

 

「まったく……。しょうがないわねぇ」

 

そう言いながら奏夜とにこは料理を作り始めたのだが……。

 

 

 

 

 

 

トントントントントントン!!

 

 

 

 

 

 

厨房内に、軽快なリズムで野菜を切る音が聞こえてきた。

 

「す、凄い!」

 

「にこも奏夜も、無駄のない動きです!」

 

2人の見事な包丁捌きに、穂乃果と海未は驚いていた。

 

奏夜は実は料理が得意であり、休みの日で時間がある時には少しばかり凝った料理を作ったりもしていた。

 

奏夜とは中学3年生からの付き合いである2年生組は奏夜がそれなりに料理が出来ることは知っていたものの、ここまで料理上手だとは思わなかったため、余計に驚いていたのである。

 

そんな奏夜に負けじとにこはサラダを作っており、その盛り付けも完璧だった。

 

そして奏夜は現在カレーを煮込んでおり、あとはルーを入れて混ぜれば完成だった。

 

奏夜はその手順通りにルーを入れて煮込んでいたのだが、奏夜は隠し味としてインスタントコーヒーの粉末を少量入れて、ケチャップと中濃ソースも入れていた。

 

隠し味を入れた後、しっかりと混ぜてカレーを煮込んだ奏夜は、小皿を取り出してカレーの味見を行った。

 

「……ん、こんなもんかな?」

 

どうやら良い感じにカレーが仕上がったようである。

 

「みんな!カレーが出来たぞ!今から盛り付けをしていくからな」

 

「やったぁ!ご飯だ!」

 

「そーや君のカレーだにゃあ!」

 

ご飯が出来たとわかると、穂乃果と凛のテンションが上がっていた。

 

そんな2人に苦笑いをしながら奏夜は盛り付けを行っていたのだが……。

 

「あっ、あのっ!奏夜君!」

 

花陽がこのように奏夜のことを呼ぶため、奏夜はその方を向いたのだが、花陽は何故か大きめの茶碗とカレー皿を持参していた。

 

「?花陽、どうしたんだ?」

 

「私のご飯なんだけど……。自分でついでもいいかな?」

 

「別に構わないけど、もしかして、ご飯とルーを別々にしたいのか?」

 

「はっ、はい!だけど、あまり気にしないで下さい////」

 

花陽はどうやらご飯とルーを分けたいらしく、そう言いながら自分の盛り付けを始めたのだが、花陽は茶碗に山盛りのご飯をよそっており、それはまるで漫画に出てくるご飯のボリュームだった。

 

そんな漫画盛りのご飯に奏夜はギョッとしており、花陽は恥ずかしそうにしながらもその場を離れていった。

 

そして全てのカレーを盛り付けた奏夜はそれをダイニングに運ぶと、それぞれの前に並べていった。

 

先ほどの山盛りご飯とカレー皿に盛られたルーを花陽の前に置くと、花陽は嬉しさからか目をキラキラと輝かせていた。

 

「は、花陽……。何でご飯とルーが別々なの?」

 

「気にしないで下さい!」

 

そう言いながら、花陽はキラキラと輝く白いご飯をジッと見つめていた。

 

こうして食事は始まり、奏夜たちはカレーやサラダをそれぞれ食べ始めていた。

 

すると……。

 

「……凄い、美味しいわ……!」

 

「うんうん!よく出来てるやん!」

 

「へぇ、奏夜って意外と料理上手なのね」

 

奏夜の作ったカレーを食べた絵里、希、真姫の3人は、口々に感想を言っていた。

 

「意外は余計だよ!だけど、料理は好きなんだよ。騎士の仕事が忙しいからたまにしか出来ないけどさ」

 

「それにしてもここまで美味しいカレーを作れるのは凄いにゃ!」

 

「そうだよね!そーくんならきっと良いお嫁さんに……」

 

「冗談でもその発言はやめてくれよ……」

 

穂乃果の本気か冗談かわからない発言に、奏夜は呆れていた。

 

「それにしても、にこのサラダも上手いよな」

 

奏夜はにこの作ったサラダを頬張り、感想を言っていた。

 

「ふっふ〜ん♪」

 

にこは自分の料理を褒められ、スプーンを持ってドヤ顔をしていた。

 

「あれ?でも、料理はしたことがないって言ってなかったっけ?」

 

「え!?」

 

ことりに痛いところを突かれたからか、にこの顔は真っ青になっていた。

 

「言ってたわ。確か、専属の料理人がいるとか」

 

さらに真姫も、先ほど聞いた話を持ち出しており、にこはさらに追い詰められていた。

 

すると、にこは何故かスプーンを足のところまで下げると、苦しそうな素振りをしていた。

 

「いや〜ん♪にこ、こんなに重い物持てなぁい!」

 

(イラっ☆)

 

にこは何故かぶりっ子のような素振りをしており、奏夜はそれに苛立っていた。

 

「……にこ、それはあまりに痛いし、苦しいぞ……」

 

そんな奏夜は呆れ気味にこう呟いていたのだが……。

 

「うっ、うるさいわね!今時のアイドルは、料理の1つや2つ出来て当然なのよ!」

 

「ひ、開き直りやがった……」

 

にこの清々しいほどの開き直りに、奏夜の表情は引きつっていた。

 

こうして、夕食の時間を楽しく過ごし、夕食後は完全にまったりムードになっていた。

 

夕食後、穂乃果はすぐに近くのソファに寝転がり、ダラダラとしていた。

 

「穂乃果。食べてすぐに寝てしまったら牛になってしまいますよ?」

 

食後すぐに寝転がる穂乃果を見た海未は、このように穂乃果をなだめていた。

 

「むぅぅ……。海未ちゃんもお母さんみたいなことを言わないでよぉ!」

 

そんな海未の言葉に、穂乃果はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「ねぇねぇ、これからみんなで花火でもしようよ!」

 

まったりムードな中、凛がこのようなことを提案していた。

 

「いーえ。練習が先です」

 

そんな凛の意見を却下した海未は、これから練習することを提案していた。

 

「え!?い、今から!?」

 

「当然です。今日のお昼はこれだけ遊んだのですから」

 

海未は、昼にたくさん遊んだことは予定外だったため、ここで練習をすることで練習予定の修正を行おうとしていた。

 

「で、でも……。みんなもうそんな雰囲気じゃないっていうか……。特に穂乃果ちゃんは……」

 

ことりは今から練習は気乗りではないことを代表して伝えると、ソファで寝そべる穂乃果に視線を移していた。

 

すると……。

 

「雪穂ぉ、お茶まだぁ?」

 

と、このようなことを言いながらダラダラしていた。

 

「おいおい、自宅かよ……」

 

穂乃果のあまりのだらけっぷりに奏夜は呆れ果てていた。

 

「……私は後片付けが終わったら、寝るわね」

 

どうやら真姫も練習には気乗りしないようなのだが、まだ洗っていない食器等を片付けたら、そのまま寝ようとしていた。

 

そんな真姫の言葉を聞いた凛は少しだけ寂しそうな表情を浮かべていた。

 

「えっ……?真姫ちゃんも一緒に花火をするにゃあ!」

 

「いーえ。練習が先です!」

 

「かよちんはどう思う?」

 

練習か花火か。海未と凛が互いに一歩も引かない中、凛は花陽に意見を求めていた。

 

すると……。

 

「……わっ、私はお風呂に……」

 

「だ、第3の意見を出してどうするのよ……」

 

花陽はここで違う意見を出しており、にこは呆れていた。

 

「……どちらにせよ、こんな状態で練習しても意味ないだろうし、今日のところは寝た方がいいんじゃないのか。」

 

「っ!そ、奏夜!ですが!」

 

「ウチも奏夜君に賛成や♪今日は寝るとして、練習は明日の早朝に行うっていうならどうや?」

 

奏夜が今日は練習を行わないという意見に、希が全面的に賛成をしていた。

 

「……まぁ、確かにその方が効率は良さそうですよね……」

 

朝早くに練習を始めるならということで、海未は納得したようだった。

 

「それに、明日の夕方は紬さんの別荘でバーベキューだろ?花火はその時にやったらもっと楽しいんじゃないか?」

 

「なるほど……。確かにその方が面白いと思うにゃ!」

 

花火がしたいという凛もまた、奏夜の提案に納得したようであった。

 

「とりあえずみんなは風呂に入ってくるだろ?洗い物は俺がやっとくから、行ってきてくれ。どうせみんなが風呂に入ってる時はやることがないんだ」

 

これからの予定を決めた奏夜は、穂乃果たちを風呂に行かせるように誘導していた。

 

奏夜だけ男であるため、一緒に風呂に入る訳にはいかないため、奏夜はその間暇になる。

 

その暇な時間を使って洗い物を済まそうと考えていたのだが……。

 

「ダメよ、そんな不公平は。気持ちは嬉しいけど、料理も作ってくれたのに、洗い物まで押し付けるわけにはいかないわ」

 

絵里は奏夜が1人でなんでもしようとしていることに反対していた。

 

奏夜1人の負担が大きいため、それが後ろめたいと思っていたからである。

 

「別に俺は不公平だとは思ってないんだが……」

 

「奏夜は黙ってて!」

 

「……はい」

 

奏夜は絵里の言っていた不公平という言葉に異議を唱えようとしたが、このようにピシャリと言いくるめられてしまい、口をつぐんでいた。

 

「みんな!自分の食器は自分で片付けて!お風呂に入るのはそれからよ!」

 

ここで絵里は、3年生かつ生徒会長らしく、奏夜たちに指示を出していた。

 

そんな絵里の言葉に奏夜たちは口々に「は〜い」と言っており、自分の食器は各自で洗い始めていた。

 

「……なんか、悪いな、絵里」

 

「何言ってるのよ。あなたは何でもかんでも1人でやり過ぎなのよ。自分で出来ることは自分でやらないとね」

 

「そうだな……」

 

「その分じっくるとお風呂に入らせてもらうけど、奏夜はその間ゆっくりしてなさい。だって最近はゆっくり休めていないでしょう?」

 

絵里は、奏夜が魔戒騎士として忙しく過ごしていることを知っており、そんな奏夜のことを気遣っていた。

 

「……その気持ち、ありがたく受け取っておこうかな」

 

奏夜はそんな絵里の気持ちが嬉しく、ありがたくその申し出を受けていた。

 

「……あっ、だからと言って私たちのお風呂を覗くのはダメだからね!」

 

「それはしないって。俺は変態じゃないんだから……」

 

「『え?』」

 

自分は変態じゃない。

 

奏夜はこう宣言するのだが、そんな奏夜の言葉に、絵里とキルバは疑っており、ジト目で奏夜を見ていた。

 

「な、なんだよ!そのリアクションは!」

 

そんな絵里とキルバのリアクションが気に入らないのか、奏夜は異議を唱えようとしていた。

 

「まぁまぁ♪それじゃあ、私も自分の食器を洗ってくるわね♪」

 

絵里はまるで小悪魔のような笑みを浮かべると、逃げるように洗い物へと向かっていった。

 

「ったく……」

 

未だに絵里やキルバの言葉に釈然としていない奏夜は、ポリポリと頭をかきながら、洗い物をしている穂乃果たちを見ていた。

 

こうしてこの日の夕食は終わったのだが、合宿初日の夜は、まだ始まったばかりであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ……。合宿だからってはしゃぎ過ぎだろ……。ま、楽しいのは何よりだがな。次回、「交流」。こいつらの合宿はまだ終わらない!』

 

 




奏夜、9人の水着姿を独り占めする(笑)

まさにその様は楽園だけど、奏夜の変態な部分が顔を出しましたね(笑)

まぁ、奏夜も高校生の男子なので、これは仕方ないかもですが。

さらに、奏夜が料理上手だということも明らかになりました。

ちなみに奏夜がカレーにコーヒーやケチャップ、中濃ソースと入れていましたが、これは自分がカレーを作る時に隠し味として入れているものです。

これ入れるとなかなかいい感じになるんですよね。

当然、入れ過ぎ注意ですが。

そして、「けいおん college」から和田晶というキャラが登場しました。

大学生になった唯たちが出会った、違うバンドを組んでいる軽音部の女性です。

統夜たちも合宿であるため、登場させてみました。

次回、統夜たちと交流はあるのか?

そして、この後の合宿はいったいどうなっていくのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第36話 「交流」

お待たせしました!第36話になります!

今回もまた、合宿の話となっております。

合宿初日の夜が終わろうとしていますが、奏夜たちはその夜をどう過ごすのか?

それでは、第36話をどうぞ!




真姫の別荘で合宿が行われたのだが、初日は遊んでばかりで、練習を行うことは出来なかった。

 

そのため、練習は翌日の早朝に行うことになり、この日は風呂に入って寝ることにした。

 

「……はぁ……最高だねぇ♪」

 

「そうだねぇ♪」

 

穂乃果たちは現在、9人並んで露天風呂に入っており、程よい湯加減に満足そうであった。

 

「明日は必ず練習ですからね」

 

「わかってるって」

 

「でも、こうやってみんなでお風呂に一緒に入るのって、初めてだにゃ!……あっ、そーや君はいないけど……」

 

「奏夜は男なんだし、仕方ないんじゃないの?」

 

「それはそうだけど、そーや君だけ仲間外れなのはちょっとかわいそうだにゃ!」

 

凛は9人揃ってお風呂に入るのは楽しいと思っていたが、ここに奏夜がいないのは残念だと思っていた。

 

しかし、奏夜だけは男であるため一緒に入る訳にはいかない。

 

それは凛にもわかっていたのだが、1人寂しく穂乃果たちが出てくるのを待っているであろう奏夜が申し訳ないとさえ思っていたのである。

 

「り、凛ちゃん!それはわかるけど、流石に駄目だよ!」

 

「そうですよ、凛!ハレンチです!!」

 

凛の言葉に、花陽と海未は顔を真っ赤にしていた。

 

「……その奏夜のことなんだけど、1つ気になることがあるの」

 

「?気になること?」

 

どうやら絵里は奏夜について気になることがあるようであり、そのことに穂乃果は首を傾げていた。

 

「みんなって……。奏夜のことをどう思ってるの?」

 

『!!?』

 

絵里の思いがけない質問に、穂乃果たちは一斉に驚愕していた。

 

「なっ……!何言ってるの!?絵里ちゃん!!」

 

「そうですよ、絵里!いきなり過ぎます!」

 

「だって……。気になるじゃない?奏夜君はμ'sのマネージャーで、魔戒騎士だけど、その前に年頃の男の子な訳だし、みんなはそんな奏夜に恋心は抱いていないのかなぁって」

 

絵里はどうやら、誰かが奏夜に対して恋愛感情を抱いているのではないか?という疑問を抱いていた。

 

そんな絵里のどストレートな話に、穂乃果たちの顔がみるみる赤くなる。

 

「そ、そんな絵里はどうなのよ!」

 

「私?私は奏夜君はいいかなとは思っているわよ。とは言っても、恋愛感情まではないんだけどね」

 

「ウチもそんな感じかな?奏夜君ってからかい甲斐のある弟って感じがするし」

 

絵里と希は、奏夜に対して好意は抱いているものの、それは恋愛感情にまでは至らないみたいだった。

 

「それで?にこっちはどうなん?」

 

続いて希は、にこに、奏夜のことを聞いてみることにした。

 

「……にこはよくわからないわ。あいつのことをどう思っているかなんて……」

 

どうやらにこは自分の抱いている感情が好意なのかどうかわからなかった。

 

「……でも、あいつには感謝はしているわ。あいつがいなかったら、にこは恐らくμ'sには入ってなかったと思うし……」

 

にこがμ'sに入るきっかけを作ってくれたのは奏夜であると感じていたにこは、奏夜に感謝していた。

 

普段は照れ臭くて絶対に言わないことなのだが……。

 

「……なるほどね」

 

「花陽たちはどうなの?」

 

続いて絵里は、1年生組に先ほどと同じ質問をしていた。

 

「凛はそーや君のこと大好きだよ!面白いし、優しいし!」

 

「それって、男の人として好きってことなのかしら?」

 

「うーん、どうかにゃ?凛はよくわからないや」

 

凛の大好きというのは友人や仲間としてということであると思われるため、凛自体は奏夜に対して恋愛感情があるのかどうかはわかってはいなかった。

 

「私は好きというより憧れてるって感じがします。奏夜君ってお兄ちゃんみたいな感じだから……」

 

花陽もまた、奏夜に対して好意は抱いているものの、年上の男性に憧れているといった感じの感情であった。

 

「それで?真姫ちゃんはどうなん?」

 

「ヴェェ!?私!?」

 

自分にもこの話が振られることは予想はしていたものの、いざ振られてみたら、真姫は驚いていた。

 

「……私も正直なところ、わからないわ。でも、私は奏夜のこと、嫌いじゃないけどね」

 

真姫は心の中では密かに奏夜に淡い恋心を抱いてはいたものの、自分の気持ちには素直になれず、このようなことを言っていた。

 

「クスッ……。真姫ちゃんらしいね♪」

 

「うっ、うるさいわね!」

 

希は真姫のリアクションにニヤニヤしており、真姫はそれが気に入らなかった。

 

「それで、穂乃果たちは……。聞くまでもなさそうなんだけど」

 

「「「……////」」」

 

穂乃果と海未は奏夜に淡い恋心を抱いているのだが、それはどうやらことりも同様であり、3人揃って顔を真っ赤にしていた?

 

「まぁ、穂乃果ちゃんたちはウチらよりも奏夜君との付き合いは長い訳やし、そんな感情を抱いていてもおかしくはないよね」

 

「も、もしかして、海未ちゃんとことりちゃんも……?」

 

「えっ、えぇ……」

 

「うん……。実はね……」

 

「えぇ!?それじゃあ、誰か2人がそーくんのことを諦めなきゃいけないじゃん!」

 

「穂乃果、落ち着いて下さい。このことはそんなに話を急ぐことではありません」

 

「え?だって……」

 

穂乃果はここで初めて海未とことりが奏夜に恋心を抱いていることを知り、焦りを見せていたのだが、そんな穂乃果を海未がなだめていた。

 

「だって、私たちがいくら思ってても、そーくんが断る可能性だってあるし……」

 

「奏夜はいつ命を落としてもおかしくない魔戒騎士ですからね……。だから、そこに気を遣って恋人を作らない可能性だってあり得ます」

 

「そんな……」

 

ことりや海未の話を聞いて、穂乃果は浮かない表情をしていた。

 

「まぁまぁ。とりあえず、みんなが奏夜のことをどう思ってるのか知れて嬉しいわ。それで、1つ約束をしない?」

 

「約束……?」

 

「もし、奏夜がこの9人の誰かを選んで、付き合うことになったとしても、文句は言わずに応援すること。色恋絡みでμ'sがバラバラになるのは良くないしね」

 

「まぁ、アイドルに恋愛はご法度なんだけど……。そういうことならわかったわ」

 

「そうだね……。そういうことなら……」

 

絵里の持ち出した提案に、穂乃果たちは納得したようであった。

 

こうして穂乃果たちはその後、露天風呂に入りながら恋バナのような話で盛り上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

……その頃、奏夜は……。

 

「……ぶぇっくしっ!!」

 

現在奏夜は別荘の中庭で剣の稽古をしていたのだが、その途中にくしゃみをしてしまったのである。

 

『……おいおい、奏夜。風邪か?』

 

「いや、俺は健康そのものだとは思うけど……」

 

奏夜は何故自分がいきなりくしゃみをしてしまったのかがわからず、首を傾げていた。

 

『……まぁ、いい。それよりもさっきから剣の踏み込みが甘いぞ。そんなことではあの尊士には到底勝てないな』

 

「……っ!わかってるよ……」

 

奏夜は少しばかり思い詰めた表情をしていた。

 

あの尊士との敗戦から奏夜は少しは成長出来たのだが、まだまだ尊士を倒すには至らないレベルであった。

 

力を求め過ぎるのは良くないと頭ではやかっていたのだが、奏夜は力を求めていた。

 

大切な存在であるμ'sを守れる力を。

 

そんな思いを胸に練習に励もうとしたその時だった。

 

「……よう、奏夜。精が出るな」

 

時間が出来たらこの別荘へ顔を出すと話していた統夜が、奏夜の前に現れていた。

 

「統夜さん……。お疲れ様です」

 

奏夜は魔戒剣を鞘に納めると、それを魔法衣の裏地にしまい、統夜に駆け寄っていた。

 

「統夜さん、話があって来たんですよね?」

 

「あぁ、その通りだ」

 

統夜の要件を知っていた奏夜はこのように話を切り出すと、統夜は語り始めた。

 

「……実は、元老院から派遣された調査員が、この周辺で魔竜の眼を発見したという報告を受けてな。元老院や番犬所から依頼を受けてその報告の真偽を調査していたんだよ」

 

「!?そうなんですか!?」

 

自分が合宿をしている間に、統夜がこのようなことをしているとは思わなかったからか、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「……まぁ、例の奴らが調べた形跡もなかったし、完全なガセネタだったけどな」

 

「そうですか……。それにしても、魔竜の眼はいったいどこに眠っているのでしょう?」

 

「さぁな。元老院も躍起になって調査はしているみたいだ。それだけニーズヘッグというホラーの存在は脅威だからな」

 

「……っ!」

 

奏夜は自分がニーズヘッグの封印に必要な魔竜の牙を絵里から託されており、その役目の重要性に息を飲んでいた。

 

「……まぁ、そう気負うなよ、奏夜。確かにニーズヘッグの問題は大事だが、今はお互い合宿の最中だろ?そんな顔をしてたらあいつらが心配するぞ」

 

「……そうですよね……」

 

統夜と奏夜がこのような話をしていると、大浴場の方から穂乃果たちの話し声が聞こえてきた。

 

どうやら穂乃果たちはお風呂から上がったようである。

 

「……おっと。穂乃果たちが風呂から出てきたか。俺もそろそろ戻るとするよ。じゃないと唯たちがうるさいしな」

 

統夜は苦笑いをしながら真姫の別荘から離れようとしていた。

 

「はい。統夜さん、ありがとうございました!」

 

統夜からニーズヘッグに関する情報を仕入れた奏夜は、統夜に感謝して、一礼をしていた。

 

「……奏夜。一応先輩として、1つアドバイスをしておく」

 

統夜は別荘を離れる前にこのように前置きをしてから語り始めた。

 

「……穂乃果たちを守りたいというのはよくわかる。だけど、力を求め過ぎるなよ。有り余る力は、闇に堕ちる要因になり得るからな」

 

「……っ!」

 

どうやら統夜は全てお見通しのようであり、自分の考えを見透かされた奏夜は驚いていた。

 

「……もしお前が闇に堕ちるようなことがあれば、その時は俺がお前を斬る。そうなったら穂乃果たちが悲しむからな。それを肝に銘じておけ」

 

「……わ、わかりました」

 

どうやら統夜は奏夜の身に何かが起こるようなことがあれば、本気で自らの手で奏夜を始末するつもりだった。

 

そんな殺気に満ちた統夜の表情に、奏夜は恐れおののいていた。

 

「……まぁ、あいつらがいるならその心配はないとは思うけどな」

 

統夜は再び穏やかな表情に戻ると、その表情を見て安心したからか、奏夜は安堵していた。

 

「……そういうことだ。それじゃあ、また明日な。待ってるぜ」

 

統夜はこのような言葉を言い残すと、真姫の別荘を後にして、今日自分が宿泊する紬の別荘へと戻っていった。

 

『……流石は高校生の時から様々な試練を乗り越えてきた月影統夜だな……』

 

統夜はちょうど今の奏夜と同じ歳の頃から様々な試練を乗り越えていった魔戒騎士であり、その時の経験があるからこそ、今の統夜があると言っても過言ではなかった。

 

「……ったく……。敵わないな……。統夜さんには……」

 

自分の思っていたことを見透かされてしまい、そんな統夜に驚きながら奏夜は呟いていた。

 

その時だった。

 

「……あっ、そーくん!こんなところにいたんだ!探したんだよ?」

 

お風呂上がりの穂乃果が穂乃果がとことこと奏夜の前に現れ、奏夜に駆け寄っていた。

 

穂乃果はすでにパジャマ姿であり、お風呂上がりだからか、体が少しばかり火照っており、頬も赤くなっていた。

 

そんなお風呂上がりの穂乃果が色っぽいと感じたからか、奏夜の顔は赤くなっていた。

 

「?そーくん?どうしたの?」

 

「いや、何でもない。それで?穂乃果はどうしたんだ?」

 

「うん!私たちはお風呂終わったから、そーくんが入りなよって伝えに来たんだ!」

 

「お、終わったんだな。そしたら、広い風呂を独り占めさせてもらおうかな」

 

奏夜は様々な疲れを取り除くために、ゆっくりお風呂に入ることにした。

 

奏夜は大浴場へと向かうと、そのまま風呂に入り、日頃溜まっている疲れを癒すためにのんびりと風呂に入っていた。

 

その時も、先ほど統夜に言われてたことを考えていたからかぼぉっと考え事をしており、危うくのぼせそうになっていたのである。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

のぼせそうになりながらも風呂から出た奏夜もまた、パジャマに着替えを済ませると、穂乃果たちがいるであろうリビングへと移動した。

 

「あっ、そーや君、来たにゃ!」

 

「奏夜、ずいぶんとのんびり入ってたんだね」

 

「もぉ、そーくん。待ちくたびれたよぉ!」

 

奏夜の入浴時間が思ったよりも長かったからか、待ちくたびれた穂乃果は膨れっ面になっていた。

 

「悪い悪い。それよりも……」

 

奏夜はリビングに来た時からとあることが気になっていた。

 

それは……。

 

「……何で布団が10枚並べてあるんだ?」

 

大きいリビングに、10枚の布団が並べてあったのである。

 

「何でって、せっかくの合宿だし、みんな一緒に寝たほうが楽しいかなって」

 

「そのみんなって俺も入ってるってことだよな?」

 

「そうよ。何当たり前なことを言っているの?」

 

奏夜の質問が愚問だと思っていたからか、絵里はキョトンとしていた。

 

「……奏夜。あなたの言いたいことはわかっています。ですが、私たちは奏夜のことを信じていますから」

 

高校生の男女が同じ部屋で寝るなど奏夜はナンセンスだと思っていたが、海未がそんな奏夜の気持ちを察して、このようなことを言っていた。

 

「そうだよ!この前の試験の時にお泊まりした時だって、そーくんと一緒に寝たじゃん!」

 

「ちょっ!?おまっ!?」

 

いきなり穂乃果が爆弾発言をするので、奏夜は慌てふためいていた。

 

「……そういえば、そんなこともありましたね……」

 

その件については奏夜は既にお仕置きを受けているのだが、その時のことを思い出した海未は、奏夜を睨みつけていた。

 

「いぃっ!?そ、その件はもう終わったことだろう!?今更ぶり返さないでくれよ!」

 

海未の睨みを見た奏夜は、慌てふためきながらもこう説得をしていた。

 

「……確かにそうですね。今日のところは見逃しましょう」

 

どうやら海未は見逃してくれるみたいであり、そのことに奏夜は安堵していた。

 

「……とりあえず今日はもう寝よう。明日は早朝から練習するんだろ?」

 

「そうね。今日はもう寝ましょう」

 

奏夜と絵里がこのように促すと、この日は寝ることになり、奏夜たちは布団に潜り始めていた。

 

「さてと……」

 

奏夜は角の方を狙って布団を確保しようとしていたのだが……。

 

「ダメだよ、そーくん!そーくんは真ん中!」

 

奏夜は穂乃果に引っ張られながら半ば強引に布団の場所を決められてしまった。

 

「マジかよ……」

 

そのことに奏夜はげんなりとしながらも布団に潜り込んだ。

 

すると……。

 

「私、そーくんの隣がいい!」

 

「穂乃果ちゃんずるい!それじゃあ私は反対側にする!」

 

「わっ、私は奏夜の向かいで寝ることにします!」

 

2年生組が早急に奏夜の近くの布団を確保していた。

 

「あぁ!穂乃果ちゃんたちずるい!凛もそーや君の隣が良かったにゃ!」

 

ここで凛は速やかに布団を確保した2年生組に異議を唱えていた。

 

「まぁまぁ、凛ちゃん。明日もあるんだし、明日奏夜君の隣を狙ってみよ?」

 

「……わかった。かよちんがそう言うならそうするにゃ」

 

どうやら凛は渋々ではあるが納得したようだった。

 

そんな奏夜たちのやり取りを、絵里と希は穏やかな表情で微笑みながら見守っていた。

 

こうして他のメンバーも布団に潜り、奏夜たちは寝ることにした。

 

「さて、部屋の電気を消すぞ」

 

「えっ、えぇ……。わかったわ」

 

「?」

 

絵里の声は何故か震えており、奏夜はほのことに首を傾げていた。

 

奏夜はリビングの電気を消し、自分の布団に潜り、奏夜たちは眠り始めた。

 

しかし……。

 

(……眠れねぇ……)

 

奏夜は9人の少女に囲まれるような感じで眠っており、そのことに緊張しているからかまともに眠れなかった。

 

《奏夜。さっさと寝ろ。明日は早いんだろう?》

 

(わかってるっての!だけど、この状況じゃ寝れないって)

 

奏夜は目を閉じて眠ろうとするのだが、寝付くことが出来なかった。

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

ボリボリボリボリ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

静寂に包まれていたリビングから、いきなり妙な音が聞こえてきたのである。

 

「……?何だ?この音」

 

この妙な音で、奏夜はより眠れなくなり、他のメンバーもその音を訝しげに聞きながら起きてしまったようだ。

 

「みんな。1度電気をつけるぞ」

 

奏夜は1度リビングの電気をつけるのだが、そこに広がっていた光景は……。

 

「……お前なぁ……」

 

煎餅をボリボリと頬張る穂乃果であった。

 

「エヘヘ……。何か食べたら眠れるかなぁって思って……」

 

どうやら穂乃果も眠れないようであり、眠気を誘うために煎餅を食べていたようである。

 

「こんな時間に煎餅を食べるとか、太るぞ」

 

奏夜はジト目になりながら、思っていることを正直に言っていた。

 

「む〜……!そういうこと言わないでよぉ!」

 

穂乃果は奏夜の言葉が気に入らなかったからか、ぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「まったく……。うるさいわねぇ……」

 

先ほどまではぐっすり眠っていたにこは起き上がり、奏夜たちの方を向いたのだが……。

 

「!!?」

 

奏夜はにこの顔を見て驚愕していた。

 

にこは、顔全体にパックをしており、キュウリのスライスと思われるものを顔につけていた。

 

「に、にこ、何よ、それ」

 

「何って、美容法だけど?」

 

「は、ハラショー……」

 

にこの異常ともいえる美容法に、絵里の表情は引きつっていた。

 

「にこは高校生だろ?そこまでする必要があるのか?」

 

「そ、それに、怖いです……」

 

にこの美容法に奏夜は呆れており、花陽は少しばかり怯えていた。

 

「誰が怖いのよ!いいから、さっさと寝るわy……」

 

にこが最後まで言おうとしたのだが、それより前ににこの顔面に枕が飛んできた。

 

「真姫ちゃん何するのぉ?」

 

「え?」

 

希がこのようなことを言っており、身に覚えのない真姫は困惑していた。

 

「あんたねぇ……!」

 

「いくらうるさいからって、そんなことしちゃダメよ♪」

 

そう言いながら希は、近くに置いてあった枕を凛目掛けて投げていた。

 

「……何するにゃ!」

 

それを顔面に受けた凛は、希に返さず、穂乃果に向けて枕を投げていた。

 

「よぉし!」

 

枕を受けた穂乃果は、その枕を真姫に向かって投げており、その枕は真姫の体に当たっていた。

 

「投げ返さないの?」

 

「べっ、別に私は……」

 

そもそも真姫は最初から枕投げをやるつもりはなかったので困惑していたのだが、別方向から飛んできた枕を受けてしまった。

 

「ウフフ♪」

 

「おいおい、絵里。お前もノリノリかよ」

 

先ほど枕を投げていたのはなんと絵里であり、意外にもノリノリな絵里に、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「いいわよ。やってやろうじゃない!」

 

ここでどうやら真姫の闘志に火がついたようであり、合宿や修学旅行の定番である枕投げが始まろうとしていた。

 

「おいおい……。明日は早朝から練習だっていうのに、そんなこt……。へぶっ!」

 

無邪気に枕投げを楽しむ海未以外のメンバーに、奏夜は呆れていたのだが、奏夜は三方向から飛んできた枕を顔面に受けてしまっていた。

 

「奏夜♪そんな悠長なこと言ってていいのかしら♪」

 

「そうやなぁ♪ここはもう、戦場なんやで、奏夜君♪」

 

「お前らなぁ……。3年生がノリノリになるなよな」

 

「あら♪先輩禁止でしょ?だから今は学年なんて関係ないわ♪」

 

このように語る絵里は、ペロッと舌を出しながらウインクをしており、大人っぽい雰囲気の絵里も、年相応の少女なんだなと実感することが出来た。

 

「みんな!今は奏夜が1番の狙い目よ!鬱憤を思い切りぶつけなさい!」

 

何気ににこもノリノリであり、1人だけ枕投げに消極的な奏夜を集中攻撃しようとしていた。

 

「いっくにゃあ♪」

 

そんなにこの言葉に乗り気になった凛は、容赦なく枕を奏夜に投げつけていた。

 

「うぶっ……。ったく、仕方ないな。どうなっても知らないからな……」

 

無抵抗なまま一方的にやられるのは面白くないと思っていたからか、奏夜は枕投げにやる気になっていた。

 

『おいおい。お前も乗り気になるなよな……』

 

穂乃果たちの暴走を抑えようとしていた奏夜まで枕投げに参加しており、キルバは呆れていた。

 

『……魔戒騎士といっても、こういうところは本当にガキだよな……』

 

枕投げを楽しむ奏夜を見て、キルバはこのように呟いていた。

 

こうして楽しい枕投げは続いていたのだが、楽しい時間は長くは続かなかった。

 

何人かの投げた枕が、勢いあまって海未に直撃してしまった。

 

『あっ!』

 

そのことに対して穂乃果たちは思わず声をあげて、顔を真っ青にしていた。

 

そして、沈黙を守っていた海未(悪鬼)が目を覚ましてしまった。

 

「……何事ですか?」

 

海未の表情は見ることは出来なかったが、怒っていることは間違いなかった。

 

目を覚ました海未は、枕を手にして仁王立ちをしており、その様子に穂乃果たちは怯えていた。

 

「あっ、いや……その……」

 

「ちっ、違っ!狙って当てた訳じゃ……」

 

海未の放つあまりに異彩なオーラに、真姫もたじろいでいて、言い訳をしていた。

 

「明日……。早朝から練習すると言いましたよね?」

 

「う、うん……」

 

「それなのに、こんな時間に一体何をしているのですか……」

 

「……お、落ち着きなさい、海未」

 

海未の放つあまりに異彩なオーラにたじろぐのは絵里も同様であり、このように海未をなだめようとしていた。

 

「ま、まずいよ……」

 

「海未ちゃん、寝てる時に起こされると、ものすごく機嫌が……」

 

どうやら海未は寝てる時に起こされると機嫌が悪くなるようであり、今はまさに機嫌が悪い状態であった。

 

海未は枕をギュッと握りしめると、枕をにこ目掛けて投げつけるのだが、その時、ブォン!と凄い音を立てていた。

 

「ぐぇっ!」

 

「にこちゃん!」

 

凛はにこに声をかけるのだが、海未の放った枕が効いているのかダウンしていた。

 

「だ、ダメにゃ……。もう、手遅れにゃ!」

 

「ちょ、超音速枕……」

 

「ハラショー……」

 

凛、花陽、絵里の3人は、海未の放つ速い枕に絶望していた。

 

「クククク……!覚悟は出来ていますか……?」

 

「海未、何か怖えよ……」

 

海未の邪悪な微笑みに、奏夜ですら怯えていたのであった。

 

「ど、どうしよう!穂乃果ちゃん!」

 

「生き残るには、戦うしか!」

 

どうやら海未を黙らせるには、枕投げによる勝負に勝つしかなかった。

 

しかし……。

 

「ふん!」

 

「ぐぇっ!」

 

海未の音速枕が穂乃果に襲いかかり、穂乃果はダウンしてしまった。

 

「ごめん!海m……」

 

絵里もまた、海未を黙らせようとしたのだが、返り討ちにあってしまった。

 

「海未。悪く思うなy……」

 

続いて奏夜も同じように海未を黙らせようとするものの、先ほどの穂乃果や絵里よりも勢いのある枕を顔面に受けてしまい、その場でダウンしてしまった。

 

そんな海未は花陽と凛にジリジリと迫っていた。

 

「「……た、助けて〜!」」

 

花陽と凛が誰かに助けを求めると、どこからか枕が飛んできて、その枕は海未に直撃した。

 

その枕を受けた海未は、その場でダウンしていた。

 

海未に枕を投げたのは……。

 

「……!真姫ちゃん!希ちゃん!」

 

どうやら真姫と希の2人のようであり、花陽は歓喜の声をあげていた。

 

「ふぅ……」

 

海未が落ち着いたことに、ことりは安堵しており、こうして枕投げは終了となり、その後は全員すぐ寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

枕投げの後、奏夜たちはぐっすりと眠っていたのだが、奏夜は5時前に目を覚ましていた。

 

奏夜はそのまま起き上がろうとしたのだが……。

 

「……暑苦しい……」

 

両隣で眠っていた穂乃果とことりが奏夜にくっついており、それが恥ずかしいと思いながらも2人を起こさないように引き離していた。

 

2人をどうにか引き離した奏夜は、ゆっくりと起き上がり、誰も起こさないように魔法衣に手を伸ばすと、それを羽織ってリビングを出ていった。

 

そのままこっそり別荘を出た奏夜は、浜辺へと移動し、剣の稽古を始めていた。

 

奏夜は時間のある時は、魔戒騎士として鍛錬を怠らなかった。

 

それは魔戒騎士として強くなりたいからというだけではなく、それが当たり前になっているからである。

 

1時間程剣の素振りを行っていた奏夜は、そこで剣の稽古をやめて、地平線から顔を出す朝日を眺めていた。

 

「……綺麗な朝日だな……」

 

海から見える最高のコントラストに、奏夜は心を奪われていた。

 

「……俺は大切なμ'sのみんなだけじゃない。こんな綺麗なものも守っていかないとな」

 

奏夜は綺麗な景色を眺めながら、このような誓いを立てていた。

 

『月影統夜も言っていたが、あまり気負うんじゃないぞ。力を求め過ぎるのは己の身を滅ぼすだけだからな』

 

「……あぁ。肝に銘じておくよ」

 

奏夜は穏やかな表情でこのように答えていた。

 

少し前の奏夜であれば、μ'sのみんなを守るという大義名分の中、力だけを追い求めていたのだが、今は違っていた。

 

心の底から穂乃果たちを守りたいと思っており、その気持ちを力に変えて強くなろうとおもっていた。

 

……まぁ、以前の奏夜も、穂乃果たちを本気で守りたいということに対しては嘘はないのだが……。

 

奏夜が海からの絶景を見ていたその時だった。

 

「あっ、そーくん!」

 

穂乃果が奏夜の姿を見つけて、奏夜に駆け寄っていた。

 

「ほ、穂乃果……。ずいぶんと早いな……」

 

穂乃果が早起きをすると思っていなかったからか、奏夜は驚きを隠せずにいた。

 

「ダメだよぉ〜、そーくん!せっかくの絶景を独り占めしたら!」

 

「?いったいどういうことだ?」

 

奏夜はここで景色を見ていたのは間違いないが、独り占めしていたという穂乃果の言葉は理解出来ず、首を傾げていた。

 

「みんな、こっちにいるから、早くいこっ!」

 

「おい、穂乃果!引っ張るなって!」

 

穂乃果は奏夜の手を取ってどこかへと向かっていき、奏夜は抵抗することなく穂乃果が向かったどこかへと向かっていった。

 

すると、先ほどまで奏夜がいた場所からそんなに離れていないところに、μ'sの8人が集合していた。

 

「おっ、奏夜。やっと来たわね」

 

「そーや君、遅いにゃあ!」

 

「そうね。あれ程言ったじゃない。レディを待たせるなって」

 

「……みんな……。どうして……?」

 

奏夜は、穂乃果たちがここまで早く起きてくるとは思わなかったため、驚きを隠せなかった。

 

「元々はウチと真姫ちゃんが早起きしてたんやけどな。ついさっき穂乃果ちゃんたちも合流したという訳や♪」

 

「なるほどね……」

 

何故穂乃果たちが早起きしてここに集まっているかを奏夜が理解したところで、奏夜たち10人は横一列に並んでいた。

 

そして、自然と互いに手を繋ぎ、地平線から顔を出す朝日をジッと見つめていた。

 

「……ねぇ、絵里」

 

しばらく静寂がその場を支配する中、真姫がこう口を開いていた。

 

「ん?何?」

 

「……ありがとね……」

 

真姫は少しだけ恥ずかしがりながらもこのようなことを言ってくれた。

 

絵里が「先輩禁止」を提案しなければ、真姫はここまで自分の気持ちに素直になることが出来たのである。

 

「……ハラショー♪」

 

絵里は自分の気持ちに素直になれた真姫のことが嬉しかったからか、こう答えながらウインクをしていた。

 

「よぉし!ラブライブ出場目指して、μ's頑張るぞ!」

 

『おう!!』

 

こうして奏夜たちは、ラブライブ出場という目標を掲げていたのだが、気持ちを新たに合宿2日目を迎えることとなった。

 

合宿2日目は昨日の宣言通りに練習が中心だったのだが、昨日散々遊んだからか、文句を言うものはいなかった。

 

そのため、合宿という名前に相応しい、充実した練習を行うことが出来た。

 

しかし、合宿はまだ終わりではない。

 

これから一大イベントが待ち構えているのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『合宿もついに終わりか。まぁ、こういったことで楽しむことも必要は必要ってことなのか?次回、「親交」。あいつらとの交流が再び始まる!』

 




ラブライブ!の10話はここで終わりました。

ですが、合宿の話はまだ終わりではありません。

それにしても、穂乃果とことりにくっつかれる奏夜が羨まし過ぎる!

奏夜!そこを代われ!(笑)

それはともかくとして、μ'sのメンバーが奏夜のことをどう思っているのかがハッキリしましたね。

今のところフラグが立っているのは2年生組だけですが、他のメンバーもフラグが立つ可能性は十分にあります。

ここから先、どうなっていくのか?ぜひご期待ください!

さて、次回も合宿回ではありますが、オリジナルの回となっています。

次回で合宿編は終わりですので、よろしくお願いします。

それでは、次回をお楽しみに!



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第37話 「親交」

お待たせしました!第37話になります!

今回でいよいよ合宿は終了となります。

もうちょっと短くまとめるつもりだったけど、まさか4話にもなるとは……。

ラブライブ!10話の話は前回で終わっているため、今回はオリジナル回となります。

奏夜たちと統夜たちはいったいどのような交流をするのか?

それでは、第37話をどうぞ!




真姫の別荘で合宿を行った奏夜たちであったが、初日は海で遊ぶのが中心となり、練習らしい練習を行うことが出来なかった。

 

しかし、絵里の提案した「先輩禁止」によって、先輩後輩の垣根を取り除いた奏夜たちはさらに絆を深めることが出来て、翌日の練習は充実した練習を行うことが出来た。

 

そして練習終了後、穂乃果たちは1度風呂に入って練習での汗を流したところで、紬の別荘へと向かうことになった。

 

奏夜たちが別荘に到着した時には、既に17時を過ぎていたのである。

 

「ここが紬さんの別荘ですか……」

 

「この前来た時はちらっとしか見てないけど、じっくり見たらやっぱりでかいよな……」

 

奏夜は、紬の別荘の大きさを新たに実感して、驚いていた。

 

「……それじゃあ、中に入ろうよ」

 

大きさな別荘に緊張しながらも、穂乃果が先導して別荘に入ろうとしていた。

 

すると……。

 

「……おっ、お前たち、来たんだな」

 

入り口近くにある中庭で、。バーベキューの準備をしていた統夜が奏夜たちの姿を見つけて、声をかけていた。

 

統夜は魔法衣を脱いでおり、Tシャツにジーパンというラフな格好をしており、頭にタオルを巻いてコンロの火起こしをしている。

 

その姿は魔戒騎士とはとても思えず、何かしらのサークルの大学生といってもおかしくない程だった。

 

「……あっ、統夜さん!」

 

「なんか、いつもと雰囲気が違うので気付きませんでした」

 

奏夜は統夜の姿を見つけて手を振っており、海未は魔法衣を着ていない統夜の容姿に違和感を感じながら苦笑いをしていた。

 

こうして奏夜たちは統夜が火起こしを行っているコンロのところへと向かっていった。

 

「……他の皆さんは?」

 

奏夜は周囲を見回すが、そこには統夜以外の姿はなかった。

 

「唯、澪、律、梓とお前らがスーパーで見かけた晶は野菜の下ごしらえをしたりおにぎりを作ったりしている。ムギと、晶と同じバンドの2人はスーパーでバーベキューの肉や飲み物の買い出しに行ってるよ」

 

どうやら他のメンバーはバーベキューの準備を行っているみたいであった。

 

「……統夜さん。俺たちも手伝います。何かやることはありますか?」

 

先輩である統夜たちだけに準備をさせるのは申し訳ないと思っていた奏夜は自分たちも何か手伝いをしたいと申し出ていた。

 

「いいんだよ。これはみんなで話し合って決めたことだ。準備は俺たちでやるってな。お前らはお客さんだしな」

 

統夜たちは奏夜たちを出迎えると聞いた時に、このようなことを話し合っていた。

 

「ですが……」

 

「いいっていいって。みんなはみんなで準備を楽しんでるしな。おっ、噂をすれば……」

 

統夜が誰かの気配を感じると、野菜の下ごしらえやおにぎりを作っていたチームが中庭にやって来ていた。

 

「あっ、奏夜君たちだ!」

 

「いらっしゃい!よく来たね♪」

 

唯と梓が奏夜たちの姿を見つけると、奏夜たちのことを歓迎していた。

 

奏夜たちは梓のことをジッと見ていたのだが……。

 

『誰?』

 

と、声を揃えて言っていた。

 

「まさか、奏夜君たちにも!?」

 

奏夜たちにこのようなことを言われ、梓は驚愕していた。

 

何故梓がこのようなことを言われていたのか……。

 

それは、梓がまるで別人のように日焼けをしていたからである。

 

梓はどうやら日焼けをしやすいタイプのようであり、合宿の度にこのように日焼けをしては、色んな人からこのようなリアクションをされている。

 

日焼け止めを塗っても効果はないらしく、やはり日焼けをしてしまうようだ。

 

「あっ、梓さんでしたか……。すいません、本当に気付きませんでした……」

 

「もぉ、気付いてくれてもいいのに……」

 

後輩にあたる奏夜たちですら気付いてくれなかったからか、梓はぷぅっと頬を膨らませながらプリプリと怒っていた。

 

その姿はとても大学1年生には見えず、そんな梓に、ことりがキュンときていた。

 

……他のメンバーも大なり小なりはあっても梓を可愛いと思っていたのだが……。

 

「……ところで統夜先輩、火はつきましたか?」

 

「あぁ。今しがたついたぞ」

 

統夜は奏夜たちと話をしながらも火起こしをしており、先ほど火がついたみたいであった。

 

「おぉ!いい感じだね♪」

 

「そうだな。後はムギたちが到着すればすぐに始められそうだよ」

 

どうやら野菜の下ごしらえやおにぎりも出来上がっているようであり、買い出し班が戻ってくればすぐにでもバーベキューは始められそうだった。

 

すると……。

 

「みんなぁ、お待たせぇ♪」

 

買い出しに向かっていた紬たちが戻ってきた。

 

「あっ、紬さん!」

 

「まぁ、みんなも来てたのね♪」

 

紬は奏夜たちの姿を見つけると、おっとりとした笑顔を向けていた。

 

「……あっ!もしかしてこの子たちってμ'sの子達だよね!」

 

「うん、そうみたい……」

 

茶色のショートヘアの少女が穂乃果たちを見つけてこのようなことを言っており、茶色の長髪に背の高い女性が頷いていた。

 

「あっ、あの。あなたたちは?」

 

「あぁ、そういえば初めましてだよね?私は吉田菖(よしだあやめ)。唯ちゃんたちとは違うバンドだけど、軽音部に入ってるんだ。ちなみに晶と同じバンドね」

 

最初に茶色のショートヘアの女性……吉田菖がこのように自己紹介をしていた。

 

菖は晶が奏夜たちと会ったことを話していたため、このような自己紹介になっていたのである。

 

「……林幸(はやしさち)。2人と同じバンドを組んでる。よろしくね」

 

続いて茶色の長髪に背の高い女性……。林幸がこのように自己紹介をしていた。

 

幸は、菖と比べたら大人しめな印象であった。

 

「そして私は和田晶。菖と幸の3人で恩那組(おんなぐみ)ってバンドを組んでいるんだよ」

 

「!!」

 

どうやら奏夜は恩那組という名前に聞き覚えがあったからか、過剰に反応していた。

 

「……?そーくん、どうしたの?」

 

「い、いや。何でもない!」

 

「?」

 

奏夜は何故か動揺していたのだが、それが何故だかわからず、穂乃果は首を傾げていた。

 

「それにしても、幸さん……。でしたっけ?背も高いし、スタイルも良いし、素敵です!」

 

「凛もそう思うにゃ!とっても素敵にゃ!」

 

花陽と凛は、幸のスタイルをべた褒めしていた。

 

それを聞いた幸は……。

 

「……」

 

何故か前かがみになって縮こまっていた。

 

「あー……。ごめんね?幸は背が大きいことがコンプレックスなんだよね」

 

何故幸がこの状態になっているのか。

 

菖が幸に代わって説明するのだが、何故か申し訳なさそうにしていた。

 

「え?そうなんですか?」

 

「ごめんなさい……。そこを気にしてるとは知らなくて……」

 

「うぅん。気にしないで。人のコンプレックスなんて知らないのは当然だから」

 

続けて幸は、穏やかな表情でこのように答えており、それを見た花陽と凛の表情も明るくなっていた。

 

「それにしても、幸さんはどうして背が高いのがコンプレックスなんですか?」

 

奏夜は何故幸がこのコンプレックスを持っているのか、根本の部分を聞いていた。

 

「だって……。背が高いと、可愛い服があまりなくて……」

 

「わかるわかる!本当に可愛い服ってなかなか見つからないよな!」

 

「私もわかる気がします。服を選ぶのにも時間がかかりますし……」

 

幸の話に、同じように背が高く、スタイルの良い澪と絵里が賛同していた。

 

この3人は意気投合し、朗らかに話をしていたのだが……。

 

「……ぐぬぬ……!」

 

背が高くスタイルの良い3人の会話に、にこは面白くないと思っていたからか、悔しそうにしていた。

 

「にこちゃん!その気持ち、私にもわかるよ!」

 

にこは自分が小柄でスタイルが良くないことにコンプレックスを持っており、似たような体型の梓はそんなにこにどういをしていた。

 

そんな梓を見たにこは、無言で梓に手を出しており、梓とにこは硬い握手をかわしていた。

 

「……梓まで乗っかるなよ……」

 

改めて意気投合している梓とにこを、統夜はジト目で見ていた。

 

「まぁまぁ♪とりあえず準備をして始めましょうか♪」

 

紬がその場をなだめると、紬たちがスーパーで買ってきた肉類を取り出し、さらに飲み物も取り出していた。

 

「……」

 

奏夜は取り出した飲み物類を見て、驚いていた。

 

「?奏夜、どうしたんだ?」

 

「いえ、皆さんは大学生ですよね?酒らしいものが見当たらないなと思いまして……」

 

「あぁ、なるほどな……」

 

奏夜の言葉の意図を理解した奏夜は、苦笑いをしていた。

 

「みんなで話をしたんだよ。奏夜たちは高校生な訳だし、堂々と酒を飲むのはいただけないしな」

 

「まぁ、あたしとしちゃあ、ちょっとは飲みたかったけどな」

 

統夜たちは事前に話し合いをした時に、奏夜たちと一緒にバーベキューをする時は飲酒を控えようという話になったのである。

 

「おい、律!お前はまだ20歳になってないだろ?まだお酒は駄目じゃないか!」

 

「へいへい。ったく……。澪は相変わらず真面目だなぁ……」

 

澪がこのように律をなだめる中、律は唇を尖らせていた。

 

「こちらとしても、そうしていただけると助かります。正直、皆さんがお酒を飲んでいたらどうしようと思っていましたから」

 

どうやら海未は、大学生である唯たちが普通に酒を飲んでいたら酔っ払う唯たちとどう接して良いかわからないため、そこだけが気がかりだった。

 

今回のバーベキューはノンアルコールで行われると知り、海未だけではなく、穂乃果たちも安堵していた。

 

こうして、不安要素が取り除かれたことにより、バーベキューは開始された。

 

今回のバーベキューはかなりの人数で行われているため、大いに盛り上がっていた。

 

奏夜たちは普段あまり交流することの出来ない統夜たちとの会話を楽しんでいた。

 

特に、ほとんど交流のなかった恩那組のメンバーとは、話題も大いに広がったからか、盛り上がっていた。

 

奏夜を含めた2年生組は、統夜たちのライブを聴きに大学まで行っており、その時に恩那組もライブをしているのだが、面識がなかったため、気にして演奏を聴いていなかった。

 

そのため、恩那組の演奏には興味を持っており、今度聴かせてくれると約束をしてくれたのである。

 

そんな話をしながら、奏夜たちは統夜たちと共に、バーベキューを楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

バーベキューが終了すると、その場にいる全員はまったりムードでのんびりしていた。

 

しばらくのんびりしていると……。

 

「ねぇねぇ。花火しよぉ♪」

 

紬がどこからか花火を持ってくると、満面の笑みを浮かべてこのような提案をしていた。

 

「おっ!いいね!凛も花火をしたいにゃ!」

 

凛も昨日やりたいと思っていた花火を提案され、ノリノリであった。

 

他のメンバーも反対する人はおらず、花火は行われることになった。

 

奏夜たちにとってはμ'sのメンバーと行う初めての花火のため、大いに楽しんでおり、統夜たちもまた、久しぶりの花火を楽しんでいた。

 

そして現在、奏夜たちは線香花火を楽しんでいた。

 

儚げに燃える線香花火に、奏夜たちは集中していたからか、自然と黙り込んでおり、パチパチパチと線香花火の音が響き渡っていた。

 

しかし……。

 

「あっ……」

 

線香花火は儚いものであり、その火種が落ちると、紬は残念そうにしていた。

 

「やっぱり、線香花火が落ちると、なんか悲しい気持ちになっちゃうわよね」

 

紬は苦笑いをしながらこのようなことを言っており、そんな紬の顔を見た奏夜たちは穏やかな表情で微笑んでいた。

 

「あっ!こっちも火が消えそうだよ!りっちゃん!凛ちゃん!!」

 

「おう!」

 

「わかったにゃ!!」

 

そうこうしているうちに唯の手にしていた線香花火の火も消えそうになっており、律と凛は唯の呼びかけで賛同していた。

 

「「「合体!線香花火マン!!」」」

 

唯、律、凛の3人はまったく打ち合わせをしていなかったが、3人の息はピッタリと合っていた。

 

「あぁ!やっぱりずるい!!」

 

3人の線香花火が合わさり、火が大きくなっており、そのことに紬は膨れっ面になっていた。

 

「「「……阿呆……」」」

 

そんな3人に、統夜、澪、晶の3人は呆れてジト目になっていた。

 

「ふふふっ……」

 

そんな統夜たちの様子を見て、穂乃果は笑みを浮かべていた。

 

「?どうした、穂乃果?」

 

「エヘヘ……。やっぱりこの人数で遊ぶのは楽しいなぁって思って♪」

 

「……あぁ、そうだな……」

 

楽しそうに遊びながら無邪気に微笑む穂乃果を見た奏夜は、穏やかな表情で微笑んでいた。

 

「「……!……////」」

 

お互いに微笑む表情を見てドキッとしたからか、2人揃って頬を赤らめており、2人は慌てて視線をそらしていた。

 

「……奏夜の奴にも、春は近いのかもしれないな……」

 

そんな初々しい反応をしていた奏夜と穂乃果を見て穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「……統夜先輩は鈍感なんだから、わかった風なことを言わないでくださいよ」

 

統夜の呟きからは色恋に関してわかってます感が出ており、それが気に入らなかった梓はジト目で統夜のことを見ていた。

 

「……なんかひどい言われようだな……」

 

自分の彼女に面と向かって鈍感と言われてしまい、統夜は苦笑いをしていた。

 

「いーや。統夜は鈍感だよ!」

 

「そうだぞ!あんなことが起こるまで梓の気持ちに気付かなかったくせに!」

 

さらに、律と澪が畳み掛けるように統夜に追求をしていた。

 

「……アハハ……」

 

ここまで言われてしまえば統夜はぐうの音も出なかったからか、苦笑いをしていた。

 

「……ま、私たちも統夜の話は聞かせてもらったけど、確かに鈍感だよな……」

 

唯たちが大学で知り合った恩那組のメンバーでさえも、統夜のことは鈍感だと思っていた。

 

ここまでの言われように、統夜だけではなく、統夜の視線の先にいた奏夜ですら苦笑いをしていた。

 

このような感じで、花火は行われ、奏夜たちも統夜たちも花火を楽しんでいたのである。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

「……肝試しをしよう!」

 

花火が終わり、花火の片付けも終わったところで、律がこのような提案をしていた。

 

「次から次へと……」

 

「でも、面白そうにゃ!」

 

律の提案に、晶は呆れていたのだが、どうやら凛は乗り気のようだった。

 

「私は乗り気じゃないんだけどな……」

 

しかし、澪は肝試しには乗り気ではないようだった。

 

「あれぇ?澪ってもしかしてこういうの苦手だったっけ?」

 

律はニヤニヤしながら澪のことをからかっていた。

 

「ぜっ、全然余裕よ!やってやろうじゃないの!」

 

そんな律の言葉にカチンときた澪は、ムキになって肝試しを行うことを了承していた。

 

見事に澪を焚きつけた律は、見事なまでにしたり顔をしていた。

 

「……まぁ、たまにはこういうのも悪くはないか」

 

「いいじゃん!いいじゃん!面白そうだし」

 

「うん、私もそう思う」

 

どうやら晶、菖、幸の3人もまた、肝試しには乗り気のようだった。

 

「肝試しですか……」

 

「そ、そうね……」

 

肝試しと言葉を聞いた海未と絵里は、少しばかり身構えていた。

 

「?海未と絵里はもしかして肝試しとかは苦手なのか?」

 

「えぇ。私はあまり得意ではありません……。ですが、たまには良いと思います」

 

どうやら海未は肝試しが苦手みたいだが、親交を深めるには良いだろうと覚悟を決めていた。

 

一方、絵里は……。

 

「へ!?な、何言ってるのよ!!ぜんっぜん!怖くないわ!」

 

海未とはうって変わり、怖くないと言っているのだが、それが強がりだというのは誰の目からも明らかであった。

 

こうして肝試しは始まったのだが、紬の別荘の敷地内にある林を一周するというものであった。

 

驚かす役は有志で決めており、残ったメンバーはくじ引きにて、肝試しへ向かうグループを決めていた。

 

くじ引きの結果、このような組み合わせになっていた。

 

 

統夜、穂乃果、澪

 

奏夜、絵里、梓

 

海未、晶、にこ

 

真姫、紬、幸

 

ことり、唯、花陽

 

脅かし役……律、希、菖、凛

 

 

 

 

 

脅かし役は準備のため4人は先に林へと向かっていき、律から連絡を受けた後に肝試しは始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜統夜、穂乃果、澪の場合〜

 

 

 

トップバッターであるこの3人は、ゆっくりと林を歩いていた。

 

澪の提案で、澪を中心に手を繋ぐことになったのだが……。

 

「……だ、大学生にもなって肝試しなんて……なぁ。アハハ……」

 

澪は苦笑いをしながら強がっていたのだが……。

 

「あ、あの……。澪さん、手が痛いです」

 

「あっ、ご、ごめん!つい!」

 

手を握る力がかなり強かったようであり、穂乃果が痛みを訴えると、澪は慌てて穂乃果と手を離していた。

 

しかし……。

 

「いだだだだだだ!!何で俺の手は離さないんだよ!」

 

澪は統夜の手を離そうとはせず、先ほどよりも手を握る力は強くなっていた。

 

『おい、やめろ!俺様も痛いんだよ!いだだだだだだ!!』

 

どうやら統夜だけではなく、相棒であるイルバも痛みを感じており、2人は激痛に苦しんでいた。

 

「アハハ……」

 

そんな様子を見ていた穂乃果は苦笑いをしていた。

 

しばらく林を歩いていると、ガサガサっと物音が聞こえてきた。

 

「ひっ!?な、何だよ!?」

 

突如聞こえてきた物音に、澪は怯えており、さらに手の力は強くなっていた。

 

「『いだだだだだだ!!』」

 

そんな状況でも、統夜とイルバは痛みに苦しんでいた。

 

すると……。

 

「に"ゃ"ーー!!化け猫だにゃあ!!」

 

簡単な小道具で化け猫に扮した凛が、統夜たちを驚かそうとしていた。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

凛がこのように脅かしたことに対して、澪は過剰に反応しており、顔が真っ青になりながら絶叫していた。

 

「うぉっ!?」

 

「!!?」

 

統夜と穂乃果は、凛の脅かしにびっくりしたのではなく、澪の絶叫に驚いていた。

 

そして澪は逃げるように林の奥へと進んでいき、統夜と穂乃果は慌ててそれを追いかけていった。

 

「……ここまでびっくりしてくれるなんて……。やった甲斐があるってもんにゃ!」

 

凛はどうやら澪のリアクションに満足しており、したり顔をしていた。

 

そして凛は次に来るグループを待ち構えていたのだが、先ほどよりも気合が入っていたのである。

 

その後、林の中に、澪の叫び声だけが響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

〜奏夜、梓、絵里の場合〜

 

 

 

 

「……ひっ!?な、何なのよ!今の叫び声は!」

 

奏夜、梓、絵里の3人がスタートして間もなく、澪の叫び声が聞こえており、その叫び声に、絵里は怯えていた。

 

「……澪先輩……」

 

梓は叫び声をあげているのが澪だとわかっており、梓は頭を抱えていた。

 

「アハハ……。あれって、澪さんなんですね……」

 

奏夜は叫び声の正体を知ると、苦笑いをしていた。

 

それよりも、奏夜は現在、気になることがあった。

 

「……なぁ、絵里。いくらなんでもくっつき過ぎじゃないか?」

 

絵里は怖がっているからか、奏夜にピタッとくっついて離れようとしなかった。

 

「な、何言ってるのよ!き、気のせいでしょ?」

 

こう言いながら絵里は強がっていたのだが、やはり奏夜から離れようとはしなかった。

 

「ま、別にいいんだけどさ……」

 

奏夜としても、そこまで悪い気はしなかったからか、この状態を受け入れていた。

 

しばらく林を歩いていると……。

 

「に"ゃ"ーー!!化け猫だにゃあ!!」

 

先ほど同様に、凛が奏夜たちを驚かしていた。

 

「きゃあっ!」

 

凛の脅かしにびっくりしたからか、絵里はさらに奏夜にくっついていた。

 

「ちょっ!え、絵里!////」

 

さすがにピタッとくっつかれて、恥ずかしくなったからから奏夜は頬を赤らめていた。

 

すると、何故か凛は恨めしそうに奏夜のことを見ていたのだが、とりあえずこの関門は突破することが出来た。

 

絵里は奏夜にくっつきながらもプルプルと震えており、そんな絵里を見ていると、不思議と守ってあげたくなる感情になっていた。

 

奏夜は穏やかな表情で進んでいき、梓は疎外感を感じながらもついて行った。

 

続けては菖と律がお化けに扮して奏夜たちを驚かそうとしていたのだが、その時も絵里は奏夜にくっついていた。

 

折り返し地点も越え、ゴールまではあともう少しのところまで来たのだが……。

 

「……スピリチュアルやぁ!!」

 

ここで真打登場と言わんばかりに希が現れると、希は某ホラー映画に登場する、テレビから出てくる人物のような扮装をして、奏夜たちを驚かしていた。

 

「ひっ!?」

 

これにはさすがの梓も驚いており、絵里に至っては……。

 

「嫌ぁっ!」

 

希の扮装はかなりの破壊力があったからか、絵里は奏夜に抱きついていたのである。

 

「ちょっ!?さ、さすがにそれは……////」

 

絵里に抱きつかれた奏夜は、絵里の豊満なバストを体感しており、顔を真っ赤にしていた。

 

しばらく奏夜に抱きついていた絵里は、涙目になりながら奏夜から離れると、その場でうずくまっていた。

 

すると……。

 

「……ち……る……」

 

絵里は小さな声で何かを呟いていた。

 

「?絵里?」

 

絵里の言葉を聞き取ることが出来なかったからか、奏夜は首を傾げていた。

 

すると……。

 

「……エリチカ!おうち帰る!!」

 

絵里は涙目でこのようなことを言っており、近くにあるゴール目掛けて走っていった。

 

「おい!絵里!ちょっと待てって!」

 

奏夜は慌てて逃げるようにゴールへと向かっていく絵里を追いかけていった。

 

「……やっぱり私、蚊帳の外だよね……」

 

一方梓は、このように呟いて疎外感を感じながらも、絵里と奏夜を追いかけていった。

 

「……あちゃあ……。ちょっと刺激が強過ぎたかなぁ……」

 

脅かし役をしていた希は、絵里の予想以上のリアクションに驚いて、少しだけ申し訳なさそうにしていた。

 

「でもまぁ、面白いものは見れたから、良しとしよか♪あんなエリチ、ウチも見たことないしな♪」

 

先ほどの絵里は希も見たことない一面を出していたようであり、ニヤニヤしながら次に来るグループを待ち構えていた。

 

続けて行われた海未、晶、にこチームは、海未が少しだけ怯えながらも、特にこれといって大きな出来事はなく終わっていた。

 

この次の真姫、紬、幸の3人に至っては、誰も驚くことはなく、脅かし役にとってみたら1番やりにくい展開となっていた。

 

最後の唯、花陽、ことりの3人に至っては、1番ほんわかしているため、脅かし役が驚かしても、反応はあるが、雰囲気は独特なものであった。

 

こうして、肝試しが終了すると、奏夜たちは真姫の別荘へと戻っていった。

 

唯たちはこの別荘に泊まることを勧めてきたのだが、帰る準備もしなきゃいけないため、奏夜たちはその提案を断っていた。

 

それは統夜たちも同様なため、この日はここで解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜たちは真姫の別荘に戻ってきた。

 

まずは女性陣が風呂に入ることになり、その間、奏夜はのんびりと体を休めていた。

 

1時間もしないで女性陣が戻ってきたため、奏夜は大浴場に向かい、風呂に入ってのんびりとしていた。

 

奏夜が風呂から戻ってくると、昨日同様に布団が敷いてあり、既に穂乃果たちは自分の場所を確保していた。

 

すると、昨日と同じ場所が空いていたため、奏夜はその布団へと向かっていった。

 

「やれやれ……」

 

自分には布団の場所を選ぶ権利はないみたいであり、苦笑いをしていた。

 

「……奏夜、今日は私が隣だからね」

 

「そーや君。よろしくにゃ!」

 

今回奏夜の両隣は、絵里と凛のようであった。

 

「あぁ、よろしくな」

 

「とりあえず、明日も早いんだし、もう寝ましょう」

 

絵里がこのように提案をすると、奏夜たちは口々に「は〜い!」と返していた。

 

こうして、部屋の電気を消すと、奏夜たちはそれぞれ眠りについていった。

 

この日は昨日のように枕投げが行われることはなかった。

 

そのため、奏夜もこの日はのんびりと眠ることが出来ていた。

 

しかし、そんな奏夜の安眠も長くは続かなかった。

 

「……奏夜。ねぇ、奏夜」

 

「……ん?んぁ……?」

 

誰かに起こされたため、奏夜はうっすらと目を開けるのだが、そんな奏夜の瞳に映っていたのは、絵里の姿であった。

 

「なんだよ、絵里。まだ夜中だろ?」

 

いきなり起こされたため、奏夜は面白くなさそうにのろのろと起き上がっていた。

 

「……ねぇ、ちょっと、夜風に当たりにいかない?」

 

「……出来れば寝たいからパスしたいんだけど……」

 

「ちょっと、そんなことを言わないでよ」

 

「……わかったよ。ちょっとだけだぞ」

 

奏夜は渋々絵里の提案を受け入れると、絵里の表情はぱぁっと明るくなっていた。

 

こうして奏夜と絵里は、こっそりと別荘を抜け出すと、近くの浜辺で夜風に当たっていた。

 

「うーん……!ちょっとひんやりはするけれど、気持ちいいわね♪」

 

絵里は浜辺で夜風に当たりながら、満足そうにしていた。

 

「ったく……。その格好だと風邪ひくぞ」

 

奏夜は羽織っていたカーディガンを脱ぐと、それを絵里にかけてあげていた。

 

「ありがとう♪優しいのね♪」

 

「べっ、別に……。これくらいは普通だろ?」

 

「クスッ、まるで真姫みたいなことを言っているわね」

 

奏夜の照れ隠しの態度を見ていた絵里は、クスリと笑みを浮かべていた。

 

「……ねぇ、奏夜」

 

「ん?どうした、絵里?」

 

「今日の肝試しなんだけど……。私、すっごくおかしかったわよね?」

 

どうやら絵里は肝試しの時の話をするために奏夜を呼び出したようであり、絵里は浮かない表情をしていた。

 

(……なるほど、その話をするために俺を呼んだのか)

 

奏夜もそのことを察しており、ウンウンと頷いていた。

 

「いや、驚いたけど、生徒会長をしている絵里の知られざる一面を見れて得した気分だよ」

 

「もぉ……。意地悪ね、奏夜は……」

 

奏夜がニヤニヤしながらおどけるのを見た絵里は、ぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「奏夜、今日のことはみんなには内緒にして欲しいの。お願い!」

 

絵里は肝試しの時に見せた一面を他の人には知られたくないようであり、奏夜に必死に頼み込んでいた。

 

「まぁ、そこまで必死に頼み込まれちゃ、断る理由はないし……」

 

「本当!?ありがとう、奏夜!」

 

奏夜が自分のお願いを聞いてくれるとわかった絵里の表情は、ぱぁっと明るくなっていた。

 

すると絵里は、ゆっくりと奏夜に近付くと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チュッ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絵里は奏夜の頬にキスをしており、一瞬何が起こったのかわからなかった奏夜は呆然としていた。

 

「……お願いね♪奏夜♪」

 

絵里は少しだけ頬を赤らめて、恥ずかしそうにしながら、ウインクをしておどけていた。

 

「あっ、あぁ……」

 

未だに状況が飲み込めない奏夜は、唖然としながらもこう答えていた。

 

「……話はそれだけ♪さぁ、戻りましょう、奏夜!」

 

絵里は満面の笑みを浮かべながら、別荘へと戻っていった。

 

奏夜は別荘へと戻ろうとはせず、その場にポツンと立ち尽くしていた。

 

「……え?い、今のって……。あれだよな?いったいどういうこと……なんだ?」

 

奏夜はここでようやく自分が何をされたのかを理解したのだが、絵里の意図が読み取れず、余計に唖然としていた。

 

絵里は自分のことが好きなのか?

 

一瞬そのようなことを考えたのだが、ブンブンと首を横に振り、そんな考えを一蹴していた。

 

それは自分の勘違いだと、思うようにしていた。

 

先ほどの絵里の行動はただの気まぐれだと思っていたからである。

 

絵里の気持ちの真意はわからなかったが、魔戒騎士としてだけではなく、μ'sのマネージャーとしても忙しくしている奏夜は、そんな浮ついた気持ちでいられなかった。

 

こうして自分の気持ちに蓋をした奏夜は、そのまま別荘へと戻っていった。

 

「……これはなかなか面白いものが見られたなぁ♪」

 

実は先ほどの一部始終を希は見ており、ニヤニヤしながら別荘へ戻っていく絵里や奏夜を見送っていた、

 

「これはこれで話しても面白そうやけど、黙ってた方が良いかもしれへんな」

 

希は穂乃果たちにこの話をしようかと思っていたのだが、絵里が奏夜にキスをしたということがバレれば大波乱になりそうだったので、あえて黙っておくことにした。

 

こうしてこの日の夜は更けていき、翌日、朝に少しだけ練習を行ってから帰り支度を行った。

 

こうして奏夜たちは別荘を後にして、秋葉原へと帰っていった。

 

μ'sにとって初めての合宿は、このような形で幕を閉じたのであった。

 

合宿は終わったが、まだ夏休みは終わった訳ではなかった。

 

そして、ラブライブ出場グループが決まるのも、少しずつ迫ってきていた……。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『ずいぶんと懐かしい場所を訪れることになったな。まさか、この場所でこのようなことをするとはな……。次回、「魔眼 前編」。嫌な邪気が迫ってくるのを感じるぞ!』

 

 




KKE!KKE!

ここまで絵里を目立たせるつもりはなかったけど、こうなってしまいました(笑)

絵里がμ'sのメンバーになって、絵里のフラグが急速に進んでいる……。

それにしても、奏夜はうらやまけしからん!(笑)

これは統夜にも奏夜にも言えることですが、2人は魔戒騎士であるけど、かなりのリア充ですよね。

あと、菖と幸が登場したことで、「けいおん! college」のメインキャラは全員登場しました!

「けいおん! high school」のメインキャラも出したいけど、出せるだろうか……?

さて、次回は前後編ではありますが、牙狼メインのオリジナル回となっております。

奏夜たちは夏休みであるため、しばらくオリジナル回が続きますが、ご了承ください。

タイトルが魔眼とあるため、魔竜の眼に関して何か大きな動きがあるのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第38話 「魔眼 前編」

お待たせしました!第38話になります!

前回で合宿が終わり、今回は牙狼メインの話になります。

前後編にかけて魔竜の眼についての話になりますが、魔竜の眼はいったいどこに眠っているのか?

そして、ジンガや尊士は動くのだろうか?

それでは、第38話をどうぞ!




……ここは、秋葉原某所にある今は使われていない廃ビル。

 

そこのとある一室にジンガはおり、椅子に座ってワインを飲みながら街の景色を眺めていた。

 

「……ジンガ様、ワインのお代わりはいかがですか?」

 

ワインのグラスが空になったタイミングを見計らって、アミリが出現すると、ワインボトルを持ってジンガの前に現れた。

 

「あぁ、いただこう」

 

「かしこまりました」

 

アミリはジンガに深々と一礼をすると、空になったグラスにワインを注いでいた。

 

「アミリ、たまにはお前も一緒に飲まないか?」

 

「いえ。私ごときがジンガ様と一緒にワインとは畏れ多いです。……失礼いたします」

 

アミリは再びジンガに一礼をすると、その場を離れていった。

 

「ったく……。あいつは秘書としては一流だけど、真面目すぎるんだよなぁ……」

 

アミリはジンガや尊士とは違ってホラーではないのだが、ジンガの思想に賛同し、彼の秘書となったのである。

 

しかし、ジンガに忠誠を誓っているアミリは、生真面目なところがあるため、ジンガはそこだけは直して欲しいとずっと思っていた。

 

ジンガがこのようなことを呟いていると、尊士が彼の前に現れた。

 

「……ジンガ様」

 

「おう、尊士か。どうしたんだ?」

 

「例の魔竜の眼ですが、元老院もどうやら調査しているようです。その形跡をたどってあるところを調べてみましたが、どうやらガセネタのようです」

 

紬や真姫の別荘のあるエリアに魔竜の眼らしきものを見つけたと元老院が調べたのだが、どうやら尊士もそこを調査していたようであった。

 

しかし、魔竜の眼どころか、有力な情報すら得られなかった。

 

「ま、そう簡単には見つからないよな」

 

ジンガは魔竜の眼がすぐ見つかるとは思っていなかったため、そこまで慌ててはいなかった。

 

「ですが、有力な情報は入手しました」

 

「ほう?聞かせてもらおうか」

 

「はい。実は……」

 

尊士は、魔竜の眼に関する有力な情報を、ジンガに伝えていた。

 

「なるほどな。そこなら魔竜の眼がある可能性はありそうだな」

 

「はい。ただちにその場所へ向かい、魔竜の眼が本当にあるのなら、回収いたします」

 

「待て、尊士。今回は俺も行こう」

 

尊士は情報の場所へと向かおうとしたのだが、ジンガも同行しようと提案していた。

 

「で、ですが、ジンガ様……」

 

「恐らくは月影統夜や天宮リンドウの妨害もあるだろう?たまには体を動かさないとなまってしまうからな」

 

「はっ、かしこまりました」

 

「それじゃあ、行くぞ、尊士」

 

「ははっ!」

 

こうしてジンガは、尊士と共に、魔竜の眼があると情報のあった場所へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

真姫の別荘にて合宿が行われたのだが、それは無事に終わることが出来た。

 

奏夜は合宿から戻ってくると、すぐさま番犬所へと向かい、合宿が終わったことを報告していた。

 

「……お、やっと戻ってきましたね、奏夜」

 

「はい。ロデル様。如月奏夜、合宿を終えて戻りました」

 

奏夜は合宿を終えたことを報告しつつ、ロデルに一礼していた。

 

「ご苦労様です。充実した合宿でしたか?」

 

「はい。練習も充実した練習を行うことが出来ました」

 

「そうですか。それな何よりです」

 

何事もなく合宿が終わったと知り、ロデルは安堵していた。

 

「奏夜。戻って早々申し訳ないのですが、あなたに行ってもらいたいところがあります」

 

「行ってもらいたいところ?指令ですか?」

 

「まぁ、そんなところです」

 

このような前置きをした後、ロデルは語り始めた。

 

「実は、例の魔竜の眼ですが、元老院の調査員が、有力な情報を仕入れました」

 

「!!それは本当ですか?」

 

合宿の時に統夜が得た情報はガセネタだったのだが、今度は有力な情報らしく、奏夜は驚いていた。

 

「それで、その場所はいったい?」

 

「……今、今年の修練場の修行が行われていますが、その修行の地に魔竜の眼らしきものが眠っていると話を聞きました。これは、目撃者も多いため、間違いはなさそうです」

 

「修練場……ですか……」

 

奏夜は修練場という言葉を聞くと、何故か表情が暗くなっていた。

 

「?奏夜?」

 

そんな奏夜に気付いたロデルは、首を傾げていた。

 

「あっ、いえ……。申し訳ありません」

 

暗い表情になっていた奏夜はすぐにハッとしており、ロデルに謝罪をしていた。

 

「奏夜。合宿から戻って早々申し訳ないのですが、すでに統夜とリンドウには向かわせています。あなたも、明日には修練場の会場へと向かってください」

 

ロデルは、大輝以外の全員を修練場の会場へと送り込み、その間のホラー狩りは大輝に行ってもらおうと考えていた。

 

「わかりました。穂乃果たちにも連絡して、なるべく早く向かいます」

 

ロデルは明日で良いと言っていたのだが、統夜やリンドウが向かっていると聞いた以上、のんびりはしていられなかった。

 

「すいませんね、奏夜。μ'sの練習を優先して欲しいのは山々ですが、今回は事態が事態です。こちらの使命を優先してください」

 

μ'sのファンであるロデルは、マネージャーである奏夜に練習を優先させたかったが、それは出来なかった。

 

「ロデル様。お気遣い、ありがとうございます。ですが、問題ありません。穂乃果たちもきっとわかってくれますから」

 

「そうですね……。それでは、頼みましたよ、奏夜」

 

「はい!」

 

奏夜はロデルに力強く返事をすると、ロデルに一礼し、番犬所を後にした。

 

「さてと……」

 

奏夜は番犬所を出るなり、携帯を取り出すと、穂乃果に電話をかけ始めた。

 

番犬所からの指令でしばらくは練習に顔を出せないことを伝えるためである。

 

奏夜の話を聞いた穂乃果は、1度電話を切ると、LAINのグループ通話に切り替え、全員にこの話を伝えられる状態にしていた。

 

10人でのグループ通話となり、奏夜は再び番犬所の指令でしばらくは練習に顔を出せないことを伝えた。

 

『……そうですか……。ラブライブも近いですし、出来れば顔を出して欲しいですが……』

 

『最優先の仕事となると仕方ないわね』

 

海未は奏夜がしばらく練習に顔を出せないと聞いて残念そうにしていたが、絵里は仕方ないと割り切り、納得していた。

 

『それで、奏夜君はどこに行くの?』

 

「あぁ。修練場っていう、魔戒騎士の卵が10日間集団生活を送りながら修行するっていうのをほぼ毎年やっていてな。その修行する場所に例のホラー復活に必要なものが眠っているみたいなんだ」

 

奏夜はニーズヘッグや魔竜の眼といった単語は出さずに説明を行っていた。

 

『修練場ですか……』

 

『まぁ、魔戒騎士にも合宿みたいなのがあってもおかしくはないわよね』

 

『それで、そーや君も小さい頃はその修行に行ってたのかにゃ?』

 

「まぁ……な」

 

凛がこのような質問をすると、奏夜の声のトーンが低くなっていた。

 

『?そーくん?』

 

「あぁ、悪い悪い」

 

『もしかして、そーくんはその修練場っていうのにあまり良い思い出はないの?』

 

「そんなところかな」

 

ことりの鋭い指摘に奏夜は驚くのだが、平静を装ってこう答えていた。

 

『奏夜。良かったら話してくれませんか?』

 

『ウチらだって、奏夜君の話くらいは聞けるしな。話したら楽になるんと違う?』

 

『そうよ。私たちは仲間なんだから、水臭いのはなしよ』

 

海未、希、にこの3人は、奏夜から修練場時代の話を聞き出そうとしていた。

 

「……ありがとな。その話は、帰ってきたらすることにするよ。今からその修練場の会場に行かなきゃいけないからな」

 

『大変ですね……。合宿が終わって解散したばかりなのに』

 

奏夜はこの電話が終わったらすぐにでも向かおうとしており、そのことに花陽は驚いていた。

 

「まぁ、合宿で2泊もして、それだけ休んでたんだ。その分は働かないとな」

 

『は、ハラショー……』

 

奏夜のあまりの働き者ぶりに、絵里は驚いていた。

 

『その姿勢は立派ですが、無理だけはしないでくださいね』

 

『そうだよ!それでそーくんが倒れることがあれば、心配だもん!』

 

海未や穂乃果は、働き者な奏夜の心配をしており、それには他のメンバーも電話越しだがウンウンと頷いていた。

 

「みんな、ありがとな。無理はしないようにするよ」

 

魔戒騎士の仕事は危険がつきものなのだが、そこをあえて言わず、こう言うことによって、穂乃果たちを安心させようとしていた。

 

『わかった。それじゃあ、そーくん。気を付けて行ってきてね』

 

「わかった。それじゃあ、行ってくるな」

 

『行ってらっしゃい!』

 

穂乃果たちが口々にこう言うのを聞いて、奏夜は電話を切った。

 

「……よし、行くか……」

 

携帯をポケットにしまった奏夜は、このまま修練場の会場を目指して歩き始めた。

 

その会場は、普通に移動すればかなり時間がかかってしまうのだが、魔戒道と呼ばれる魔戒騎士や魔戒法師しか通ることの許されない道を進むことで、かなりのショートカットが可能となる。

 

今から出発すれば、この日の夕方には到着出来る予定だ。

 

奏夜はどこも寄り道をすることなく、秋葉原某所にある魔戒道のゲートから魔戒道に入り、そのまま修練場の近くまで移動していた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜が修練場の会場に到着した時、既に夕方になっており、間もなく日が暮れるところであった。

 

会場には稽古を受けているであろう子供たちの姿はなく、既に訓練は終わっているものと予想することが出来た。

 

「……また、こうしてここへ来ることになるとはな……」

 

奏夜は修練場の会場を見渡しながら、このように呟いていた。

 

『奏夜……。そうか、お前は確か……』

 

奏夜とは付き合いの長いキルバは当然修練場時代の奏夜を知っており、そこで何があったのかを理解していた。

 

「とりあえず、誰かいないか調べないとな……」

 

魔竜の眼を探そうにも、誰かと出会わなければ話にならないため、奏夜は近くを歩いて誰かを探そうとしていた。

 

すると……。

 

「おーい、奏夜!!」

 

「あっ、統夜さん!」

 

偶然近くを通りかかった統夜が奏夜の姿を見つけて手を振っており、奏夜はそんな統夜に駆け寄っていた。

 

「お前も指令を受けたんだな」

 

「えぇ。統夜さんとリンドウもですよね?」

 

「まぁな。俺は昼頃ここに着いたが、大変だったぞ。魔戒騎士の卵たちに詰め寄られてな」

 

統夜はここで起こったことを振り返り、げんなりとしていた。

 

統夜は15歳で魔戒騎士となり、高校生という若さで様々な指令を乗り越え、牙狼と互角の力を持つ魔戒騎士に成長したため、魔戒騎士の卵たちにとって、統夜は憧れの的であった。

 

牙狼みたいに強くなれないけど、頑張れば統夜みたいになれるかもしれない。

 

そんな気持ちが統夜をより憧れの存在にさせたのであった。

 

「なるほど。だけど、その子たちの気持ち、俺にはわかる気がします」

 

「おいおい、お前もかよ」

 

奏夜もまた、15歳で魔戒騎士になったのだが、先輩騎士である統夜の背中を追いかけてきたところがあった。

 

初めて統夜に出会った時から、奏夜は統夜に憧れていたのである。

 

「ま、それはともかく、今日の訓練は終わったぞ。子供たちは今、飯を食っているところだ。今のうちに教官たちに挨拶をしてくるか?」

 

「はい。そうします」

 

「それじゃあ、案内するよ」

 

先にここへ来た統夜の案内で、奏夜は宿舎へと向かっていき、修練場で教官をしている人たちに挨拶をしていった。

 

奏夜が修練場で修行した時の教官はいないみたいであり、奏夜は安堵していた。

 

奏夜は統夜と共に、修練場の教官たちに挨拶して回っていた。

 

そして、最後に挨拶をしたのは、魔戒騎士には珍しい銀髪で、整った顔立ちをしている背の高い男性であった。

 

「……おぉ!統夜から後輩騎士が来ると聞いてはいたが、それは君のことだろう?」

 

その男性は、奏夜の顔を見るなり表情が明るくなり、歓迎ムードであった。

 

「はっ、はい。如月奏夜……です」

 

「なるほど……。奏夜か。良い名前だ。私の名は小津剣斗(おずけんと)。覚えておいてくれ!」

 

この男性は小津剣斗と名乗っており、そんな剣斗の迫力に、奏夜はタジタジになっていた。

 

「ふむ……。統夜から事前に話は聞いていたが、話に聞く以上にイイ魔戒騎士のようだな」

 

剣斗は、奏夜の体をまじまじと眺めながらこのようなことを言っていた。

 

「統夜は統夜で、若いながらも熟練した雰囲気を醸し出しており、とてもイイ!だが、奏夜。君は若さと情熱あふれる魔戒騎士だ!イイ!とてもイイぞ!」

 

「あ、アハハ……」

 

剣斗はとても熱い性格のようであり、そんな彼の一面を垣間見た奏夜は、苦笑いをしていた。

 

「君の若さや情熱あふれる戦いぶりを、修練場という舞台で拝むことが出来るのだろう?」

 

「い、いや、俺は……」

 

「ふふ、皆まで言うな。話は既に統夜から聞いているのでな」

 

どうやら剣斗はただ熱いだけではなく、冗談も達者なようであり、そんな剣斗の一面に奏夜は安堵していた。

 

「話にあったその眼のようなものは、この修練場のお守りとして保管されている。修練場の修行の際に、ホラーに襲われることが度々あったとのことでな」

 

「……」

 

どうやら魔竜の眼は実在するようであり、この地のお守りとして厳重に保管されていた。

 

その背景を聞いた統夜は、悲痛な面持ちをしていた。

 

(そっか……。確か統夜さんは修練場で……)

 

統夜も幼少の頃に修練場の修行に参加していたのだが、最終日にホラーの襲撃に遭い、共に修行をした仲間を失っていた。

 

統夜と同じ紅の番犬所に所属する、堅陣騎士ガイアの称号を持つ黒崎戒人もまた、統夜と同期であり、奇跡的にホラーの襲撃から生き延び、魔戒騎士となったのであった。

 

そんな2人の事情を奏夜は聞かされていたため、奏夜は統夜を気遣うかのように悲しげな表情をしていた。

 

「……悪い、心配かけちまったな。だけど、大丈夫だ。あいつらを殺したホラーは俺自身の手で倒したし、あいつらの想いも受け継いだから……」

 

統夜は右手をギュッと握りしめてこのようなことを言っていた。

 

「……統夜さん」

 

「話が湿っぽくなってしまったな。話を続けよう」

 

これ以上湿っぽい雰囲気を出すことを良しとしていない剣斗は、このように話を戻していた。

 

そんな剣斗の気遣いを、奏夜と統夜はありがたいと思っていた。

 

「その眼のようなものは、特別な結界で守られている。いかなる魔戒騎士や魔戒法師。さらにホラーだろうとこの結界を破ることは出来ないだろう」

 

この地のお守りでもある魔竜の眼は、とある場所に保管されているのだが、その場所は特別な結界が貼られている。

 

この結界はかなり強固な結界であり、結界を張った者くらいしか解除が出来ないものであった。

 

「……まぁ、それが本当なら安心ではあるけど……」

 

『奏夜、安心するのはまだ早いぞ』

 

「キルバの言う通りだな。尊士やジンガがここを強襲してくる可能性はあるしな。そうなると、ここで修行をしてる子供たちにも危害が及ぶ可能性がある」

 

統夜は神妙な面持ちで安心している奏夜に喝を入れていた。

 

『それだけではない。この修練場の人間にはあらぬ噂が出ているんだ』

 

「?噂?それはいったい?」

 

イルバが言った噂という言葉に、奏夜は首を傾げていた。

 

「……ホラーと結託している者がいるという噂が流れているのだ。私は当然信じてはいないが、もしそれが本当であれば、結界を解く手引きをする可能性もあるのだ」

 

「……」

 

剣斗の言葉通り、今回の修練場の教官の中にホラーと結託している者がいるという噂が流れていたのである。

 

魔戒騎士と言っても人間であるため、当然何かしらの陰我を抱えてしまったり、ホラーに弱みを握られることもある。

 

そんな人物が本当にいるのなら、結界解除の手引きを行う可能性があり得るのだ。

 

剣斗の噂を聞き、統夜は険しい表情になっていた。

 

「そんな!魔戒騎士がホラーと結託するなんて!もしそれが本当なら、その魔戒騎士は闇に堕ちたも同然じゃないか!」

 

「うむ。奏夜の言う通りだ。そんな噂が流れている故、当然元老院から派遣された保安部の連中の聞き取りも行われたが、そのようなことをしそうな者はいなかった。だからこそ、根も葉もない噂だと私は信じている」

 

剣斗は、今流れている噂が、デタラメな噂であるということを信じていた。

 

魔戒騎士の卵に魔戒騎士の何たるかを指導する教官がホラーと手を組むなど考えられないからである。

 

「……剣斗。お前のそういうところは嫌いじゃないが、やはりもう一度調べ直した方がいいんじゃないか?魔竜の眼を狙ってるジンガって男は油断ならない奴だ。どんな手を使ってくるのか……」

 

そんな中、統夜は今回の修練場の教官の中に確実に何かをしてくる奴が現れると疑いの目を向けており、慎重な姿勢になっていた。

 

「統夜さんの言うこともわかります。ですが、同じ魔戒騎士同士、そんな奴などいないと信じてみても良いんじゃないですか?」

 

『ふん、相変わらず甘いな、小僧』

 

『イルバの言う通りだ。お前だってジンガという男を見たろう?よくそれでそんな甘い考えを持てたものだ。疑わしき者は徹底的に調べなければな』

 

奏夜の意見に、イルバとキルバがこぞって奏夜に対して批判をしていたのである。

 

そんな中……。

 

「……イイ!実にイイぞ!!」

 

「……剣斗?」

 

剣斗のリアクションに、統夜は首を傾げており、奏夜も同様に首を傾げていた。

 

「どんなことがあろうと同士を信じようとする、その曇りなき心。私はそれを甘いとは思わない!」

 

「剣斗……」

 

剣斗は奏夜の考えを甘いと一蹴することなく受け入れており、そんな剣斗の言葉が、奏夜には嬉しかった。

 

すると……。

 

「ま、そういうところが奏夜のいいところなんじゃねぇのか?」

 

このようなことを言いながら奏夜たちの前に現れたのは、2人同様にここへやって来たリンドウであった。

 

「!リンドウ……」

 

「剣斗が教えてくれた魔竜の眼が保管されてるところに行ってきたが、異常はなかったぞ」

 

どうやらリンドウも既に魔竜の眼の場所に関する話や結界の話を聞いていたようであり、その話をもとに、魔竜の眼の保管場所の調査を行っていたようだ。

 

「ま、あれだけ大がかりで強力な結界が貼られてるんだ。誰だろうとそう簡単には手出しは出来ないだろう。これだけの結界を解くとなると間違いなく騒ぎになるだろうしな」

 

「……確かにそうかもしれないが……」

 

「統夜。お前さんも大人になったもんだ。だが、もし本当に誰かがホラーと結託してるなら、俺らが止めればいい。そのために俺たちが派遣されたんじゃねぇのか?」

 

統夜は様々な経験を積み、魔戒騎士として成長した故、慎重な考え方をしていたのだが、それをリンドウは見透かしており、それでいてそんな統夜をなだめる言葉を送っていた。

 

「……まったく……。リンドウには敵わないな……」

 

そんな言葉を真摯に受け取った統夜は、苦笑いをしていた。

 

「ま、俺はこう見えても色んな魔戒騎士を見ているからな。これくらいはお見通しって訳よ」

 

リンドウはこのように言いながら煙草を取り出すと、煙草を吸い始めていた。

 

「おいおい、リンドウ。ここで煙草とはイイとは言えんな。吸うなら他で吸ってもらおうか」

 

「えぇ?そんなケチくさいこと言うなよ。これでも大変なんだぜ?俺の管轄では煙草が吸えるところが少なくてよぉ」

 

「「アハハ……」」

 

このようなところはやはりリンドウなのだなと感じていた統夜と奏夜は苦笑いをしていた。

 

リンドウの言う通り、人界の現代社会は、やれ分煙だやれ禁煙だとあちこちで聞かれるようになり、路上での喫煙も注意されるようになっている。

 

喫煙者自体の健康問題や受動喫煙などの問題もあるからである。

 

そのため、リンドウは常に携帯灰皿を持ち歩いており、煙草を吸う場所の確保に苦労しているようだった。

 

「ったく……。人界のルールのないここだと心置き無く煙草が吸えるっていうのによぉ……」

 

リンドウはブツブツと文句を言いながら、煙草を吸うためにこの場を離れていった。

 

「……とにかく、その魔竜の眼とやらについてはそういうことだ。噂の真偽はともかくとして、お前たちはこの魔竜の眼を守るためにここへ来たのだろう?」

 

リンドウが離れて唖然とする空気を変えるために、剣斗は改めて統夜たちの目的を確認しており、2人は無言で頷いていた。

 

「ところで、魔竜の眼はこの修練場のお守りなんだろ?この修行が終わったらどうするつもりなんだ?」

 

奏夜はずっと気になっていた疑問を剣斗にぶつけていた。

 

この修行終了後の管理をどうするのか気になっていたからである。

 

「うむ。例年であれば、この近くにある里の蔵で保管されているのだが、事情が事情だ。恐らく今回は元老院が保管することになるだろう」

 

「なるほどな。確かに、元老院ならいくらジンガといえど簡単に手出しは出来ないからな」

 

「俺はここへ来てすぐにでも魔竜の眼を回収出来ないか掛け合ってみたんだが、これは修練場のお守りだから認められないと突っぱねられちまってな」

 

統夜は奏夜が来る前に魔竜の眼を先に回収する交渉をしていたのだが、この修行を管理する人間が許可を出さず、交渉は決裂していたのである。

 

「私の方からも話はしたのだが、頭の固い上の連中はどうも認めてくれなくてな……。元老院で魔竜の眼の保管をすると説得をするのにも苦労したよ」

 

どうやら剣斗も動いてくれたようであるが、魔竜の眼を修練場の修行終了後に元老院で保管すると説得するだけでも一苦労であった。

 

「とにかく、修練場の修行は明日には終わる。明日魔竜の眼を運ぶ時に結界は確実に解かれるだろう」

 

「狙われるとしたら恐らくはそこか……」

 

統夜は、魔竜の眼がジンガたちに狙われるタイミングを予想していた。

 

「だが、それよりも早く狙ってくる可能性もあるだろうな」

 

「あぁ。だから今夜は見張りをせねばなるまい。だが、まずは食事でもとって体力をつけてくれ。既に用意は出来ている」

 

「あぁ。そうさせてもらうよ。……行こうぜ、奏夜」

 

「はい、統夜さん」

 

ここへ来た本来の役割を果たす前に、まずは剣斗からの厚意を受け取ることにした2人は、剣斗の案内で食堂へと向かった。

 

途中、煙草を吸っているリンドウと合流し、奏夜たちは食堂に向かって食事をとることにした。

 

そんな食堂に向かう奏夜たちを遠くから見ている怪しい影があった……。

 

「……魔竜ホラーの眼……。誰にも渡すわけにはいかない……!」

 

その人物は、魔戒騎士のような容姿をしており、この地に眠る魔竜の眼を狙っているものと思われる。

 

この地に眠るニーズヘッグの眼は、いったいどうなってしまうのか?

 

そして、ニーズヘッグ復活を企むジンガと尊士はこの地に現れるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『魔竜ホラーの眼か……。禍々しいオーラを感じるぜ。こいつは狙われるのもわかる気がするぞ。次回、「魔眼 後編」。姿を現わす、魔竜の眼!』

 

 




新キャラが登場しました。

新たに登場した剣斗は、魔戒騎士としてはかなり熱い男だったと思います。

剣斗のモデルとなっているのは、FF14に登場する「オルシュファン」というキャラです。

プレイ経験のある人は「あっ……」となるかもしれませんが、僕はこのキャラが好きなので、このキャラをモデルにしたキャラを出したいと思っていたのです。

剣斗はこれから奏夜とどのように関わってくるのか?

そして、次回は魔竜の眼が姿を見せます。

魔竜の眼を巡る争奪戦が始まってしまうのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第39話 「魔眼 後編」

お待たせしました!第39話になります!

今回は前回の続きであり、魔竜の眼をめぐる争奪戦が始まります。

魔竜の眼は、いったいどうなってしまうのか?

そして、奏夜たちを待ち受けるものとは?

それでは、第39話をどうぞ!




μ'sの合宿が無事に終わり、奏夜は番犬所にいるロデルに報告を行っていた。

 

すると、ロデルから魔竜の眼に関する情報を得て、指令として、修練場の会場へと向かうことになった。

 

そこには統夜やリンドウもいたのだが、奏夜たちはそこで修練場の教官の1人である小津剣斗と出会う。

 

あまりに熱い剣斗のキャラに困惑する奏夜であったが、奏夜の人間性を肯定する一面もあり、悪い印象は持っていなかった。

 

剣斗から魔竜の眼に関する情報を得た奏夜たちは先に食堂で夕食をとり、その後、魔竜の眼が封印されている場所で見張りを行っていた。

 

「……こいつが魔竜の眼か……」

 

奏夜は初めて魔竜の眼を見ており、いくら結界で封印されているといっても、禍々しいオーラを感じていた。

 

『奏夜、間違ってもその結界には触るなよ。いくら魔戒騎士といえども一瞬で黒コゲになるぞ』

 

「わかってるよ。誰がそんな物騒な結界に好き好んで触るかよ」

 

奏夜はキルバからの話を聞いて、結界に触ろうという気持ちにはとてもなれなかった。

 

「……それにしても、ジッと見張りをするというのは退屈だなぁ……」

 

リンドウはこのように呟くと、煙草を取り出し、煙草を吸い始めていた。

 

『リンドウ、これも立派な任務なのですよ。真面目にやってください』

 

「へいへい。わかってるよ」

 

マイペースなリンドウに、相棒である魔導輪のレンが注意をするのだが、そんなレンの注意を聞き流しながら煙草を吸っていた。

 

こうしてしばらく見張りを続けていたのだが……。

 

「……!?そこにいるのは誰だ!」

 

奏夜は何か異変を感じ取り、奏夜は鋭い目付きで視線の先にある茂みを睨みつけていた。

 

すると、そこから出て来たのは、10歳くらいの少年であり、恐らくはこの修行に参加している者と思われる。

 

「……君は……」

 

「どうしてこんなところに?」

 

「子供はネンネする時間だぜ」

 

少年がここに紛れ込んでいることに奏夜は驚き、統夜とリンドウはここにいることを注意するような発言をしていた。

 

「ごっ、ごめんなさい……。俺、どうしても統夜さんや奏夜さんの顔を見てみたくて……」

 

「統夜さんと……俺の?」

 

20歳ながら様々な経験を積んでいる統夜ならともかく、自分の名前も上がっていることに奏夜は驚いていた。

 

「俺たちにとっては憧れの的なんです。15歳で魔戒騎士になって、今も最前線でホラーと戦っているお2人が」

 

「俺が……憧れ……?」

 

自分が魔戒騎士の卵たちにとって憧れの存在であることを知り、奏夜は唖然としていた。

 

すると……。

 

「……俺は……。君たちが憧れるような魔戒騎士じゃないよ……」

 

このように答える奏夜は、少しばかり俯いていた。

 

「奏夜……」

 

奏夜は魔戒騎士として、まだ未熟であり、奏夜もそれを実感している。

 

だからこのようなことを言っているのだろうと統夜は推測していた。

 

「そんな自分を卑下すんなって。お前さんは魔戒騎士としてよくやっているよ。お前さんに足りんのは魔戒騎士としての経験だけだ。剣斗的に言ったら、お前さんはイイ!魔戒騎士だぞ」

 

「……そうかな……」

 

リンドウの言葉を素直に受け止めた奏夜は、照れ隠しに笑っていた。

 

「ま、とりあえずお前さんは早く宿舎に戻りな。大丈夫だとは思うが、ホラーが出たら大変だぜ」

 

「はっ、はい!」

 

リンドウが少年をなだめると、少年はそのまま自分の泊まる宿舎へと戻っていった。

 

奏夜たち3人は、穏やかな表情でその様子を見守っていた。

 

少年が宿舎へと戻っていき、奏夜たちはそのまま見張りを続けていたのだが……。

 

『……奏夜!ホラーの気配を感じるぞ!』

 

「!?キルバ、本当か?」

 

『それも一ヶ所ではない。三ヶ所でホラーが現れてるぞ!』

 

「1体だけではなく、3体か……」

 

どうやらホラーは三ヶ所で同時に現れたようであり、この展開に、奏夜たちは驚いていた。

 

「恐らくこれは罠だろうな。俺たちをここから引き離すための」

 

「そうだとしても行くしかない。魔戒騎士の卵たちをホラーに喰わせる訳にはいかないからな」

 

奏夜たち3人はホラーが3体同時に現れたのは何者かの陰謀であるとわかっていても、修練場で修行をする子供たちを守るためにホラー討伐へ向かうことにした。

 

「とりあえず三ヶ所に散らばってホラーを討伐するぞ。それで、倒したら急いでここへ戻ってくるぞ」

 

「「わかった!」」

 

リンドウはこのような指示を出すと、奏夜たちは三ヶ所に散らばり、出現したホラーを討伐することになった。

 

ホラーは今いる場所の南東、南、南西に出現しており、奏夜は南西へと向かっていった。

 

奏夜は現場に急行すると、そこにいたのは1体の素体ホラーであった。

 

「奏夜ホラーか……。お前らホラーをここから先へは行かせない!」

 

魔竜の眼を守るために早期決着をつけるべく、奏夜は魔戒剣を抜くと、それを高く突き上げた。

 

さらに円を描くと、そこから放たれる光に包まれ、奏夜は速攻で輝狼の鎧を身に纏った。

 

そんな奏夜に怯むことなく素体ホラーは奏夜に向かってきたのだが、奏夜は魔戒剣が変化した陽光剣を一閃すると、素体ホラーを地面に叩き落とした。

 

「ギ……ギィィ……!」

 

素体ホラーはどうにか起き上がり、奏夜に対して反撃をしようとしていた。

 

しかし、奏夜は反撃の隙を与えず、陽光剣を再び振るい、素体ホラーを真っ二つに斬り裂いた。

 

その一撃を受けた素体ホラーは断末魔をあげながら消滅し、奏夜は鎧を解除した。

 

「さてと……」

 

元に戻った魔戒剣を鞘に納めた奏夜は、急いで先ほどの場所へ戻ることにした。

 

誰かが魔竜の眼を狙っているならば、何かしらの動きがあると思われるからだ。

 

奏夜は全力で駆け出し、魔竜の眼のある場所へと戻っていった。

 

奏夜が戻ると、既に統夜とリンドウは戻っており、話を聞いた剣斗も駆けつけていた。

 

「……!こ、これは……!」

 

奏夜は先ほどと違う光景に驚いていた。

 

先ほどまでは結界が貼られて守られていた魔竜の眼が無くなっていたのであった。

 

「俺たちは速やかにホラーを倒して戻ってきたというのに、もう無くなってるとはな……」

 

リンドウはこれだけの緊急自体だというのに、冷静だった。

 

「やっぱり、噂通り、誰かが結界を……!」

 

「統夜、結論を急ぐのは早い。とりあえず今は魔竜の眼を取り戻すことだけを考えようではないか!」

 

剣斗はこのようなことを言っており、剣斗の言葉に奏夜は頷いていた。

 

『眼から放たれる気配を感じる。誰が奪ったかは知らないが、奴さんはそう遠くへは行っていないようだ』

 

イルバは魔竜の眼の気配を感じ取り、このようなことを言っていた。

 

「イルバ、案内してくれ」

 

『任せろ』

 

統夜はイルバの案内で魔竜の眼の追跡を始めようとしたのだが……。

 

「……お、小津導師!大変です!」

 

剣斗はこの修練場で教官をしており、子供たちや他の教官からは導師と呼ばれていた。

 

「……どうした?」

 

「先ほどから飯田導師の姿が見えません!他の導師は皆いるのですが……」

 

どうやら他の導師がいる中、飯田玲二(いいだれいじ)という魔戒騎士の姿だけが消えていたのであった。

 

「まさか……!そいつが魔竜の眼を奪った犯人……」

 

『そう考えるのが自然だろうな』

 

「確かにな。俺もそう思うよ」

 

統夜の推測に、イルバだけではなく、リンドウも賛同していた。

 

「馬鹿な!玲二は導師の中でも真面目で優秀な男だ。そんな男がホラーとの内通者とは思えんぞ!」

 

「俺も剣斗の意見に賛同します。彼がどんな魔戒騎士かは知りませんが、魔竜の眼を持ち出すということは、何か理由があるはずなんです!」

 

「奏夜……」

 

まさか奏夜が味方してくれるとは思わなかったので、そのことが剣斗には嬉しかった。

 

『その問答は後だ。今はその真偽よりも、魔竜の眼をどうにかすることが最優先だろう』

 

『キルバの言う通りです。今からまだ追い付きます。急ぎましょう!』

 

キルバは玲二が魔竜の眼を奪って何かをしようとしている犯人かどうかという話はどうでも良いと思っており、それよりも奪われた魔竜の眼を追跡することが最優先だと思っていた。

 

それにはレンも賛同しており、奏夜たちもそう思ったからか、無言で頷いていた。

 

奏夜たちは、魔導輪たちのナビゲーションを頼りに、魔竜の眼の追跡を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜たちが魔竜の眼の追跡を始めていた頃、1人の魔戒騎士が、修練場の会場から必死に離れていた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

その魔戒騎士は魔竜の眼を抱えており、どこかへ移動しようとしていた。

 

「この眼は危険だ……。可及的速やかに処分しなければ……」

 

どうやらこの魔戒騎士は、元老院の提唱しているこの眼の保護ということに逆らい、密かに処分しようと考えていた。

 

どうやらこの男は、この眼がどのようなものなのかをよく理解しているみたいだった。

 

「……よし、ここから魔戒道に出れば、魔戒騎士もホラーも簡単には追跡出来ないだろう」

 

この男は、魔戒騎士や魔戒法師にしか使えない魔戒道を巧みに使いこなして、来るであろう追っ手をまこうとしていた。

 

しかし……。

 

「……そこまでだ!」

 

男が魔戒道の入り口に到着する前に、奏夜たちに追いつかれてしまった。

 

どうやら奏夜たちは男が魔戒道を使うことを呼んでいたようであり、先回りをしていたのである。

 

「……っ!?どうしてこんなに早く来れるんだ!」

 

奏夜たちの追跡が予想以上に早く、男は驚きを隠せなかった。

 

『フン、それだけ強力な力を持つものを持ってウロウロしていたら、俺様たちが探知出来ない訳がないだろう』

 

イルバは驚く男に対して、不敵に答えていた。

 

その男の正体は……。

 

「……やはり、お前なのか……!玲二……!」

 

どうやら魔竜の眼を奪ったのは、姿を消していた飯田玲二であった。

 

「やっぱり……。お前がその眼を奪ったのか……。その力をどう悪用するつもりだ!?」

 

玲二が魔竜の眼を悪用していると確信していた統夜は、鋭い目付きで玲二を睨みつけていた。

 

「違う!俺はただ、こいつを処分したいだけだ!何人にも触れられないために……」

 

「……そんなこと、信じられるかよ……!」

 

玲二の言っていることは、苦し紛れの嘘であると感じていた統夜は、玲二の言葉を信じようとはしなかった。

 

「待て!魔竜の眼に封印の結界を施したのは、玲二だ。彼はこの先にある魔竜の眼を管理していた里の人間なのだからな」

 

剣斗は、玲二のことを庇うかのように説明を行っていた。

 

魔竜の眼はどうやらかなり前からこの先にある里に保管されていたようであり、玲二はその里の人間であった。

 

その里の人間は、強力な力を持つ魔竜の眼を何人にも悪用されないためにも結界を張る術を身に付けていた。

 

「お前さん、何でそんなことをしたんだ?お前さんだってこの修行の後に元老院がその眼を保管することは聞いていただろう?」

 

「……あぁ、聞いたさ。ホラーもこの眼を狙っていることをな」

 

「だったらどうしてこのようなことを?」

 

「……今まで、この眼を狙う者はいなかった。それは、この眼が強大なホラーを封印したものだとは知られていなかったからだ」

 

どうやら魔竜の眼が、魔竜ホラー、ニーズヘッグの一部であるということはそこまで広く知られている訳ではないようだった。

 

玲二を含めた里の人間がその事実を知ったのも、つい最近なのである。

 

「この眼が危険なものだとわかった以上、里の人間もこの眼の処分を決めていた。だからこそ俺は密かにこの眼を奪うことを決めたんだ!」

 

どうやら、この眼を処分したいというのは、その里の総意でもあるみたいだった。

 

「……素体ホラーたちを仕向けたのもお前なのか?」

 

統夜たちは同時に現れた3体のホラー相手に追われたからこそ、この眼が奪われてしまったため、玲二がホラーと結託して、仕向けたものだと思っていた。

 

「違う!ホラーが現れたというのはまったくの予想外だ!お前たちの隙を突いて結界を解くつもりだったんだ」

 

そんな中、玲二はホラーと結託していることはしていないと主張をしていた。

 

「白々しい嘘を……」

 

「ま、とりあえずこいつを捕まえれば一件落着だ。こいつもあの里も、元老院から厳しい追及を受けることになるだろうな」

 

「そ、そんな……!」

 

リンドウの言葉を聞いた玲二は絶望していた。

 

もしそれが本当になってしまえば、里の壊滅は免れないからである。

 

そんな中……。

 

「統夜!リンドウ!待ってくれ!こいつは私の友であり、ホラーと結託など絶対にしない男だ!こいつのことを、信じてやってくれないか!」

 

玲二とは友人である剣斗は、玲二の潔白を信じていたため、玲二を捕まえようとしている統夜とリンドウを必死に説得していた。

 

「……この人が本当にホラーと結託してるかどうか……。まだ決めつけるのは早いと思います」

 

「「「「!?」」」」

 

奏夜の口からあまりに予想外な言葉が飛んできたため、統夜たちは驚いていた。

 

「奏夜……。何故そいつを庇うことをする?」

 

「そうだぜ。状況から察するに誰も弁護は出来んだろう」

 

統夜は玲二のことを守ろうとしている奏夜を訝しげに見ており、リンドウは魔竜の眼を奪われた状況を鑑みても玲二がこの事件の犯人だと疑わざるを得なかった。

 

「……何でこの人を庇うのか……。正直、俺にはわかりません。ただ、この人がそんなようなことをする人には見えなかったのです。それに……」

 

「それに?」

 

「もしここにμ'sのみんながいたら、きっとみんなも同じことを言うと思ったんです」

 

奏夜は、穂乃果たちと離れている現在でも、みんながいたらと仮定をして話をしていた。

 

それだけ、奏夜にとってμ'sはかけがえのない存在なのである。

 

「犯人だと決めつけて疑うのは簡単です。ですが、俺たちは同じ魔戒騎士のハズです。仲間である魔戒騎士を……。信じてみませんか?」

 

「奏夜……」

 

奏夜のあまりに真っ直ぐな言葉に、統夜は心を打たれていた。

 

自分も奏夜と同じ頃、彼のように真っ直ぐな心を持つことが出来ただろうか?

 

統夜は心の中で自問自答をしていた。

 

「……まさか、奏夜から学ぶことになるとはな……」

 

統夜はこのように呟いているのだが、その表情は穏やかなものであった。

 

「イイ!実にイイぞ!奏夜!それでこそ、私が認めた魔戒騎士だ!」

 

『おいおい、いつ奏夜のことを認めたんだよ……』

 

剣斗とは今日会ったばかりなのだが、彼は奏夜のことを過大評価しており、そのことにキルバは呆れていた。

 

『やれやれ。あんな小僧の言葉に感化されるとは、お前もまだまだ甘いな、統夜』

 

「……そうかもしれないな」

 

統夜は高校の時から様々な試練を乗り越え、一人前の魔戒騎士として成長してきた。

 

そんな彼ですら、まだまだ未熟であると実感しており、統夜は苦笑いしていた。

 

「……ま、俺としてはさっさととっ捕まえた方がいいとは思うが、話くらいは聞いてやるさ」

 

『リンドウ!良いのですか?』

 

「いいんだよ。それに、俺や統夜も見習うべきなんだよ。あいつの曇りなき心って奴を」

 

どんなことがあろうと、一度信じたものは信じる。

 

奏夜がそんな考えを持てるようになったのは、やはりμ'sの存在が大きかった。

 

リンドウは、そんなμ'sの存在によって曇りなき心を持つようになった奏夜を見習おうと考えていたのである。

 

「それにしても、あんたはこの魔竜の眼を処分しようとしていたんだろう?」

 

「あぁ、そうだ。こいつはとても危険だからな」

 

『そうは言っても、生半可な方法で破壊出来る物ではないと思うがな。そうだとしたら、元老院がとうに破壊をしているだろう』

 

魔竜の眼を処分しようとした玲二に対して、キルバは冷静な判断で正論をぶつけていた。

 

「当然調査を進めてから処分はするつもりだったさ。それまでは身を隠すつもりだ」

 

「そいつを狙ってる奴もいるんだ。それは並大抵なことでは出来んと思うけどな」

 

「覚悟は……出来ているさ……」

 

玲二もまた、魔竜ホラー、ニーズヘッグの復活を良しとしていないため、それを阻止するためには命すら賭けようと思っていたのである。

 

「……玲二、我が友よ。お前に、本当に託しても良いのだな?この魔竜の眼を……」

 

「あぁ。もちろんだよ。剣斗。俺のことを信じて……」

 

信じてくれ。

 

玲二は最後までこう言おうとしたのだが……。

 

 

 

 

 

グサッ……。

 

 

 

 

 

このような鈍い音が響き渡ると、玲二の表情が苦くなっていた。

 

「グハッ!」

 

どうやら玲二は何者かに刺されたようであり、玲二は口から血を吐き出すと、その場で倒れ込んでしまった。

 

その時に手にしていた魔竜の眼を落としてしまい、魔竜の眼は、玲二を刺した人物の足元に転がり込み、その人物はすぐさま魔竜の眼を回収していた。

 

その人物とは……。

 

「……ほぉ、こいつが魔竜の眼か……。思ったよりも力を感じるじゃないか」

 

その人物は、銀髪で長身の男……ジンガであった。

 

「ジンガ……!」

 

奏夜は突如現れたジンガを鋭い目付きで睨みつけていた。

 

「おいおい。とんだご挨拶だな。ま、こいつを回収出来た訳だから別にどうでもいいがな」

 

ジンガはニーズヘッグを復活させようとしているため、この眼を狙うのは当然といえば当然であった。

 

「か……返せ……!それは……俺が……」

 

ジンガに刺された玲二は既に致命傷を受けていたのだが、気力で耐えており、倒れたままジンガに近付こうとした。

 

「……フン、目障りだ」

 

ジンガは冷酷な表情で玲二のことを見ると、再び剣を玲二に突き刺していた。

 

「グハッ!……け、剣斗……!」

 

ジンガの一撃で玲二はトドメを刺されてしまい、玲二は剣斗の名前を呟いて絶命した。

 

「玲二!!」

 

命を落とした友の名を呼んだ剣斗の表情は悲痛に満ちた表情だった。

 

「貴様ぁぁぁぁぁ!!」

 

玲二の命を奪ったことが許せなかった奏夜は怒りに満ちた表情で魔戒剣を抜くと、そのままジンガへ向かっていった。

 

「やれやれ……。尊士!」

 

奏夜がジンガに向かって魔戒剣を一閃する前に尊士が奏夜の前に現れると、尊士は2度、3度と奏夜に打撃を叩き込み、奏夜を吹き飛ばしていた。

 

「「奏夜!!」」

 

奏夜はすぐに体勢を立て直すのだが、そんな奏夜を見て、統夜とリンドウも魔戒剣を抜いていた。

 

「……ジンガ様。此奴らの相手は私がします。あなたは退いてください」

 

どうやら尊士は殿を務めようとしていた。

 

しかし、ジンガは……。

 

「言ったろ?尊士。たまには動かんと体が鈍るとな。俺たちの計画に邪魔な連中を潰しておくのも一興だろうしな」

 

こう言いながら、ジンガは魔戒剣に酷似した剣を構えており、奏夜たちを迎え撃とうとしていた。

 

「剣斗……。お前はこいつを弔ってやってくれ。お前の友なんだろう?」

 

統夜はプルプルと肩を震わせながら、友を失った剣斗のことを気遣っていた。

 

「わかった。……すまない、みんな」

 

奏夜、統夜、リンドウの3人はジンガと尊士に向かっていき、その隙に剣斗は玲二の亡骸を回収し、彼の里へと向かった。

 

そこで彼の亡骸を丁重に弔うためである。

 

「……ジンガ様はやらせはしない!」

 

ジンガを守る形で、尊士が前に立ちはだかるのだが……。

 

「爺さん!お前の相手はこの俺だ!」

 

リンドウが尊士に向かっていき、奏夜と統夜がジンガに向かっていった。

 

「おのれ……!邪魔をするな!」

 

「悪いが、そうはいかないんだよなぁ。お前らの邪魔をするのが仕事だしな」

 

リンドウは飄々とした表情で答えながらも、その声色は低く、ドスのきいたものとなっていた。

 

こうして、リンドウは尊士と戦いを始めたのであった。

 

その結果……。

 

「お前ら2人が相手か……。いいだろう」

 

ジンガはふてぶてしい態度で、奏夜と統夜を迎え撃とうとしていた。

 

「はぁっ!」

 

奏夜は先に魔戒剣を一閃するのだが、ジンガは微動だにせず最小限の動きで奏夜の攻撃を受け止め、蹴りを放って奏夜を吹き飛ばしていた。

 

「奏夜!」

 

統夜はジンガにまったく相手にされていない奏夜を見て声をあげながら、魔戒剣を振るった。

 

ジンガは最小限の動きで統夜の剣を受け止め、2人は激しく剣を打ち合っていた。

 

「ほう……。やはりお前はなかなかやるみたいだな。月影統夜!」

 

「ふっ……。そいつはどうも!」

 

統夜はジンガの予想以上に重い剣撃に耐えながらもふてぶてしく答えていた。

 

「俺はお前と戦ってみたかったんだよ。メシアの腕と呼ばれたグォルブを始めとして、暗黒騎士ゼクス。さらには魔戒騎士狩りを行ってた魔戒法師のアスハと魔導人機と、様々な敵を倒してきたお前をな!」

 

どうやらジンガは統夜のことを調べていたみたいであり、統夜がどれだけの相手を倒してきたのかも理解していた。

 

「挙げ句の果てには、本気を出した黄金騎士牙狼と試合形式で戦い、あと一歩のところまで追い詰めたそうじゃないか!」

 

「へぇ、ずいぶんと俺のことを調べたみたいだな。だけど!」

 

統夜は力強く魔戒剣を振るうのだが、その一撃でジンガは一瞬怯んでしまい、統夜は蹴りを放ってジンガを吹き飛ばした。

 

「……いいねぇ!これだけ戦ってて楽しいと思ったのは久しぶりだよ!もっと来い!月影統夜!」

 

ジンガは統夜の強さに慌てることはなく、むしろ大歓迎だった。

 

「……ここでお前を倒させてもらう!ニーズヘッグを復活させる訳にはいかないからな!」

 

「ふん、やってみろ!」

 

統夜の強さを見てもなお、ジンガは余裕そうにしており、統夜とジンガは激しくぶつかっていた。

 

そんな中、奏夜はそんな2人の間に入ることが出来ず、自分の無力さを呪っていた。

 

その頃、尊士と戦っているリンドウもまた、互角の戦いを繰り広げていた。

 

「……ほぉ、なかなかやりますね。さすがは使徒ホラーと互角の力を持つラーヴァナを倒しただけのことはありますね!」

 

「へぇ、お前さん、俺のことを調べたんだな」

 

尊士もまた、リンドウのことを調べており、彼の功績の話をしていた。

 

「ですが、あなたは私の敵ではありません」

 

「ふふん、それはどうかな?」

 

尊士はリンドウを倒す自信はあったようだが、リンドウは余裕な表情を崩すことなく、2人は激しくぶつかっていた。

 

そして、統夜とジンガもまた、激しくぶつかっていたのだが、2人は互いに剣を振るい、その衝撃で、互いに距離を取っていた。

 

「なかなかやるじゃないか……。いいぜ、俺も本気を出させてもらおうか!」

 

どうやらジンガは先ほどの戦いで統夜の力を測っていたようであり、ここから本気を出すつもりだった。

 

「奇遇だな。俺もそのつもりだよ!」

 

統夜もまた、ジンガの力を測っていたようであり、2人は本気を出すことにしていた。

 

ジンガは精神を集中させると、その体が人間の姿からホラーの姿に変わっていった。

 

その姿は、どこか魔戒騎士の鎧を彷彿とさせるようなものであった。

 

「っ……!お前は……!」

 

そんなジンガの姿に統夜は驚きを隠せなかったのだが、統夜は魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

その部分だけ空間が変化し、統夜はそこから放たれる光に包まれた。

 

その空間から、白銀の鎧が現れると、統夜は白銀の鎧に身を纏った。

 

こうして統夜は、白銀騎士奏狼の鎧を身に纏ったのであった。

 

鎧を召還した統夜と、ホラーの姿に変わったジンガは激しくぶつかり合い、その激しさを物語るかのように、互いの剣から激しく火花が飛び散っていた。

 

「す、凄い……!」

 

統夜はこの事件の首謀者でもあるジンガと互角の戦いを繰り広げており、その戦いぶりに驚きを隠せなかった。

 

統夜が牙狼の称号を持つ冴島鋼牙と互角に近い力を持っていることは知ってはいたが、ここまで力をつけているとは思わなかったからである。

 

(統夜さんはこれだけ凄いのに、俺は何も出来ない……!仲間の魔戒騎士が1人死んだっていうのに……!)

 

統夜の強さを見るのと同時に、自分の無力さを思い知らされた奏夜は、両手の拳を力強く握りしめて、唇を噛んでいた。

 

(テツさんが死んだ時もそうだ……。あれから俺も成長したと思っていたが、少しも成長しちゃいない。無力な小僧のままだ……!)

 

奏夜は魔戒騎士になったばかりの頃、魔戒騎士の存在を脅かすとある事件に遭遇したのだが、その時もまた、その時翡翠の番犬所の管轄騎士の男が、奏夜を守るために奮戦し、ホラーに捕食されてしまったのである。

 

その時も奏夜は自分の無力さを感じていたのだが、その時から成長していない自分が許せなかった。

 

奏夜が自分の無力さを思い知る中、統夜とジンガの戦いはさらに激しさを増しており、統夜がややジンガを押していた。

 

「くっ……!流石は黄金騎士と互角の力を持つ魔戒騎士だな……。このままじゃまずいか……!」

 

少し前までは余裕そうな表情を維持していたジンガであったが、少しだけその表情が乱れていた。

 

このままでは本当に統夜にやられてしまう。

 

そう考えたジンガは、奥の手を使うことにした。

 

「……尊士!例のあれを使うぞ!」

 

ジンガは統夜の攻撃を防ぎ、蹴りを放って統夜を吹き飛ばすと、少し離れたところで戦っている尊士にこのようなことを告げていた。

 

「かしこまりました!」

 

尊士はジンガの呼びかけに応じると、ホラーの姿となり、リンドウを吹き飛ばすと、ジンガの背後までジャンプで移動した。

 

統夜とリンドウが体勢を立て直す中、ホラーの姿となった尊士は、気功のような体勢に入ると、ジンガに邪気らしきものを送り込み、それを受け取ったジンガからは、禍々しいオーラが放たれていた。

 

「っ!?こ、これは……!」

 

先ほどよりも禍々しいオーラを放つジンガに、統夜は驚きを隠せなかった。

 

それは奏夜も同様であり、先ほど以上のオーラのジンガに、戦慄さえも覚えていた。

 

「……奏夜!お前も鎧を召還しろ!向こうが連携技なら、こっちも連携技だ!」

 

「はっ、はい!」

 

リンドウの指示を受けた奏夜は、慌てて魔戒剣を高く突き上げ、円を描き、リンドウもまた、魔戒剣を前方に突きつけて8の字を描くと、魔戒剣を高く突き上げた。

 

奏夜の描いた円の部分のみ空間が変化し、リンドウの描いた8の字は上空に移動すると、それが1つになり、円の形となってその部分だけが変化していた。

 

2人の描いた円から放たれた光に2人が包まれると、それぞれの円から、黄金の鎧と、漆黒の鎧が現れた。

 

奏夜は黄金の鎧を身に纏い、リンドウは漆黒の鎧を身に纏った。

 

こうして奏夜は陽光騎士輝狼の鎧を身に纏い、リンドウは神食騎士狼武の鎧を身に纏った。

 

「お前ら!烈火炎装だ!奴に対抗するにはそれしかない!」

 

「「わかった!」」

 

リンドウな的確な指示を聞いた統夜と奏夜は、それを受け入れると、3人は同時にそれぞれの剣の切っ先に魔導火を纏わせ、烈火炎装の状態となった。

 

『リンドウ!小僧!お前らの力を統夜に集めろ!』

 

「おうよ!」

 

「わかった!」

 

リンドウと奏夜は、イルバの指示通り、自分に纏われた魔導火を統夜に向けて放つと、統夜は2つの魔導火も体に纏っていた。

 

奏狼の鎧は赤、青紫、橙の魔導火が纏われた状態となっていた。

 

この姿は「烈火三重装」。自分の魔導火以外に2つの魔導火が纏われた状態で、3人の魔戒騎士の力が合わさった状態となっている。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

統夜は獣のような咆哮をあげながらジンガに向かっていき、3つの魔導火が纏われた皇輝剣をジンガに突き刺そうとした。

 

しかし、強力な邪気の塊によって、統夜たち3人の渾身の一撃は防がれてしまったのであった。

 

「……っ!?何故だ!!」

 

渾身の一撃が防がれてしまったことに、統夜は驚愕していた。

 

「思い知れ!これこそが何よりも偉大で深い……。闇の力だ!!」

 

ジンガはこのように言い放つと、強大な邪気によって形成された衝撃波を放った。

 

その一撃を受けた統夜、奏夜、リンドウの3人は吹き飛ばされてしまい、その衝撃で鎧が解除されてしまった。

 

「くっ……くそっ!」

 

「まさか……ここまでとはな……」

 

「うっ……くっ……!」

 

鎧を解除された3人はその場で膝をついていたのだが、衝撃波を至近距離で受けた統夜は1番ダメージが多く、表情が歪んでいた。

 

ジンガの圧倒的な力の前に、奏夜たちは追い詰められたと思われたのだが……。

 

「ぐっ…….!」

 

先ほどの衝撃波の反動が大きかったからか、ジンガはホラーの姿から人間の姿に戻り、膝をついていた。

 

「……こいつは強力過ぎたか……」

 

闇の力を放つ衝撃波が強力過ぎるのもあったが、先ほどの統夜の攻撃も完全に防ぎ切れた訳ではないようだった。

 

「……ジンガ様!目的は果たしました!ここは退きましょう!」

 

ホラーの姿から人間の姿に戻った尊士は、ジンガを守るために前に出ていた。

 

「そうだな……。十分楽しませてもらったし、この辺にしておくか」

 

「まっ……待て!」

 

奏夜はジンガたちを逃さないために立ち上がろうとするが、なかなか立ち上がることができなかった。

 

「あともう1つの魔竜の眼を回収すれば、ニーズヘッグ復活に必要な物は揃う。……如月奏夜!それまでの間、せいぜい頑張って魔竜の牙を守るんだな!」

 

「!?」

 

ジンガは既に奏夜が魔竜の牙を持っていることを知っており、そのことに奏夜は驚いていた。

 

ジンガと尊士は、魔竜の眼を手にして、その場から姿を消した。

 

「くそっ……!逃したか……!」

 

「やれやれ……。それだけじゃなくて魔竜の眼まで持ってかれるとはな……」

 

ジンガと尊士を逃したことを悔しそうにしている統夜に対して、リンドウは飄々としており、煙草を取り出して煙草を吸っていた。

 

「……ま、取られたもんは取り返せばいい。慌てることはないんじゃねぇのか?」

 

リンドウは煙草を吸いながら楽観的なことを言っていた。

 

『リンドウ!そんなに悠長なことを言わないでください!見通しが甘過ぎます!』

 

「……ま、リンドウの言うことは一理あるかもな」

 

『おいおい、統夜。お前もかよ』

 

先程は悔しそうにしていた統夜であったがリンドウの悠長な言葉を聞いて、彼の言葉に賛同していた。

 

そのことにイルバは呆れていたのだが……。

 

「ニーズヘッグ復活に必要な魔竜の眼は2つ。奴らはもう1つの眼を見つけるのに必死だろう。それに、もう1つの鍵である魔竜の牙は奏夜が持っている。奴らの持ってる魔竜の眼を奪い返すチャンスはまだある」

 

統夜はリンドウの考えに賛同したのは、こまでの理由があってのことであった。

 

だからこそ、このように悠長なことを言うことが出来たのであった。

 

そんな中、奏夜は……。

 

「……また、手も足も出なかった……」

 

先ほどの戦いで、統夜とジンガの戦いに割って入ることの出来なかった奏夜は、己の未熟さを呪っていた。

 

「……俺がもっと強ければ……。あいつをもっと追い詰められたと思うのに……!」

 

『奏夜。思い上がるのも大概にしろ。お前がちょっとくらい強くなったところで、あいつを退けることは無理だっただろう。奴は3人の全力を受け止めたんだ。現実を受け入れろ』

 

奏夜の相棒であるキルバは、奏夜を励ますどころか、厳しい言葉を投げかけ、もっと力があればと後悔する奏夜の考えをバッサリと切り裂いていた。

 

「……」

 

そんなキルバの言葉に奏夜は返す言葉はなく、拳をギュッと握りしめて、唇を噛んでいた。

 

「……奏夜。お前は明日の朝イチで秋葉原に戻れ」

 

そんな奏夜のことを見かねた統夜は、このようなことを言っていた。

 

「……!?どうしてですか!?」

 

いきなり秋葉原に帰れという統夜の言葉が許せなかったからか、奏夜は異議を唱えていた。

 

「お前は色々と悩みすぎだ。頭を冷やす時間が必要だろう。それに、μ'sのみんなだって早くお前に戻ってきてほしいと思ってるだろう?」

 

「確かにそうですけど……!」

 

「それに、今日魔竜の眼を奪われたことは俺たちの失態として、責められるだろう。お偉いさんにあーだこーだ言われるのは俺とリンドウの2人がいれば十分さ」

 

ジンガに殺された魔竜の眼を持ち出したことが眼を奪われたきっかけとなったとはいえ、ジンガから魔竜の眼を奪えなかったのも事実なため、これは大きな失態であった。

 

そのため、報告の際にこの修練場の責任者から非難を受けるのは必至であり、高校生の奏夜をそのような場所に行かせるのは申し訳ないと思っていた。

 

「まぁ、そういうこった。だから今日のことはあまり気にするな。これはお前だけじゃなくて、俺たち全員の責任なんだからよ」

 

リンドウは吸い終えた煙草を携帯灰皿に入れながら、奏夜のことをフォローしていた。

 

統夜にしてもリンドウにしても、今回の敗北に責任を感じている奏夜をフォローをしていたのだが、奏夜にしてみれば、それは申し訳ないと思っていた。

 

「……わかりました。確かにμ'sの練習には戻りたいと思ってますので、明日の朝イチで戻らさせてもらいます」

 

そんな先輩たちの気持ちを無下には出来ないため、奏夜はモヤモヤした気持ちを残しながらも、明日の朝イチで秋葉原に戻ることにした。

 

「ま、とりあえず今日は戻って休もうぜ。明日は何時間ありがたいお説教を受けるかわからないからな」

 

「……それは勘弁だけどな……」

 

明日のことを考えると、統夜もリンドウもげんなりとしていたのだが、とりあえず自分たちのために用意された宿泊スペースまで向かうことにしていた。

 

奏夜は相当思いつめていたからか、あまり眠ることが出来なかった。

 

そして翌日、報告は統夜とリンドウに任せた奏夜は、秋葉原へと戻っていった。

 

今回の戦いでほとんど手を出すことが出来なかったことは、奏夜にとって大きな心の傷となり、これから奏夜は魔戒騎士として、大きなスランプを迎えることになるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ……。奏夜のやつ、だいぶ思いつめてるな。奏夜、思い出せ!魔戒騎士の本分ってやつを!次回、「失意」。ここは乗り越えなきゃいけない壁だぞ!』

 

 




やっぱりジンガは強いけど、そんな彼と互角に戦える統夜が強すぎる……。

さすがは前作主人公という訳ではありませんが、ジンガが統夜がどのような敵を倒してきたのかを語ってくれました。

その敵たちがどのような存在で、どのような戦いを繰り広げたかは、「牙狼×けいおん 白銀の刃」をご覧ください。

リンドウもまた、使徒ホラーと互角の力を持ったホラーを倒したことがあるだけあって、奏夜が手も足も出なかった尊士と互角に戦っています。

そんな中、戦いに入る余地のなかった奏夜は、自分を見失いそうになっていました。

これから奏夜はいったいどうなってしまうのか?

そんな奏夜を救うのは自分の力なのか?それとも、穂乃果たちの支えがあってなのか?

それでは、次回をお楽しみに!




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第40話 「失意」

お待たせしました!第40話になります!

いつもより投稿が遅くなってしまい、すいません。

最近は仕事が忙しいのとFF14に夢中になってしまったのとで、執筆の時間がガッツリ減ってしまいました。

仕事はともかくとして、FF14が面白すぎるんだよ!吉田ぁ!!(褒め言葉)

それはともかくとして、今回はジンガや尊士との敗戦を引きずっている奏夜が秋葉原に帰ってきます。

失意の奏夜は立ち直ることは出来るのか?

それでは、第40話をどうぞ!




魔竜ホラー、ニーズヘッグの復活に必要な眼をジンガと尊士の2人に奪われてしまった。

 

魔竜の眼を回収したジンガは、さっそく自分の隠れ家へ戻ってくると、その魔竜の眼を眺めていた。

 

「……本当に禍々しいオーラを感じるな……。こいつが2つ揃えば、恐ろしい程の力を出すに違いないだろう」

 

ジンガは、魔竜の眼から放たれる、禍々しいオーラに見入っていた。

 

「はっ……。直ちに、もう1つの眼の在り処も探して参ります」

 

「まぁまぁ、そう慌てるなよ、尊士。とりあえずはこいつも手に入れたんだ。調べるのはゆっくりいこうぜ」

 

「……かしこまりました」

 

ジンガは魔竜の眼を1つ手に入れたことにより、心に余裕が出来たのか、もう1つの眼探しはそこまで急いではいなかった。

 

「それに、月影統夜や天宮リンドウは手強かったが、どちらにしても俺たちの敵ではないさ」

 

「そうですな。あの小僧もあれから強くなっているとは思えません。ジンガ様の計画も順調そのものでございましょう」

 

ジンガと尊士は3人との戦いを分析すると、このようなことを言っており、余裕さを見せていた。

 

「魔竜が目覚めるのももうすぐだ……!それまでせいぜい、短い命を堪能しておくのだな。愚かな人間共よ……!」

 

ジンガは既にニーズヘッグを蘇らせるビジョンしか見えておらず、このようなことを呟きながら笑みを浮かべていたのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

ジンガと尊士によって魔竜の眼を奪われてしまい、奏夜は自分のあまりの無力さに責任を感じてしまっていた。

 

そんな奏夜を見かねた統夜が奏夜を先に秋葉原へ帰しており、奏夜は秋葉原へと戻ってきた。

 

秋葉原へ戻ってきた奏夜はすぐに穂乃果たちと連絡を取っていた。

 

奏夜が無事に戻ってきたことを穂乃果たちは喜んでおり、奏夜は翌日の練習から参加することになったのであった。

 

穂乃果たちと連絡を取った奏夜は、そのまま番犬所へと向かい、魔竜の眼が奪われてしまったことをロデルに報告していた。

 

「……なるほど、事情はわかりました。それにしても、大変でしたね、奏夜」

 

「申し訳ありません……。俺が統夜さんやリンドウの足を引っ張ってしまったせいで、魔竜の眼を……」

 

奏夜はやはり魔竜の眼を奪われたことに責任を感じており、悲痛な表情になっていた。

 

「奏夜。自分を責めてはいけません。確かに由々しき事態ではありますが、まだニーズヘッグの復活は阻止出来るのです。気をしっかりと持ちなさい」

 

ロデルは悲痛な表情をしている奏夜を励ましながらも、厳しい言葉もぶつけていた。

 

「はっ、はい……!」

 

「あなたがそこまで腑抜けた表情をしていると、μ'sのメンバーにも迷惑をかけてしまいます。彼女たちだってラブライブに向けて躍起になっているのです。一刻も早く気を持ち直すのです」

 

「は、はい……!」

 

ロデルは魔戒騎士としての奏夜の身も案じてはいたのだが、どちらかというと、μ'sのために早く奏夜が元気になるよう促していたのだ。

 

そんなロデルの勢いに奏夜は気圧されながらも返事をしており、報告を終えた奏夜は番犬所を後にした。

 

この日はゆっくりと体を休めることにして、翌日の練習に備えることにした。

 

そして翌日、奏夜はμ'sの練習に参加するために神田明神を訪れていた。

 

午前中はここで基礎体力をつける練習を行い、午後からは学校の屋上にて振り付けの練習を行う。

 

夏休みの間は、このようなスケジュールで練習が行われることになっていた。

 

午前中は階段ダッシュを連続して行ったりしていたので、奏夜が思いつめた表情をしていてもどうにか誤魔化せたのだが、振り付けの練習の時はそうもいかなかった。

 

「……1・2・3・4・5・6・7・8!」

 

絵里が手拍子をしながら掛け声を出して、穂乃果たちはそれに合わせて振り付けをしていた。

 

しばらく振り付けを続けたところで、絵里は手拍子をやめて、先ほどの動きの分析を行う。

 

「うん……。みんなだいぶ動きのキレが良くなってきたわね!」

 

振り付け自体は完成とは言い難いのだが、絵里は穂乃果たちの成長を素直に評価していた。

 

「エヘヘ……。絵里ちゃんの考えてくれた練習メニューを毎日こなしてるからかな?」

 

穂乃果たちは基礎体力をつける以外に柔軟や体幹を鍛えるトレーニングも行っており、その積み重ねが、キレの良さに繋がっていた。

 

「そうですね……。本当に絵里がμ'sに入ってくれて良かったと思います」

 

「ちょっ、やめてよ////」

 

海未の褒め言葉が恥ずかしかったからか、絵里は頬を赤らめて照れていた。

 

「奏夜もそう思いますよね?」

 

「……」

 

海未は奏夜にも同意を求めるのだが、奏夜は何か考え事をしているため、海未の言葉が耳に入っていた。

 

「?奏夜?」

 

「……」

 

さらに奏夜は何か思いつめた表情をしていた。

 

『……おい、奏夜。海未が声をかけてるぞ』

 

今度はキルバが呼びかけることで、奏夜はハッとして呼ばれたことに気付いたみたいだった。

 

「あぁ、悪いな。それで、どうした?」

 

「どうした?じゃないですよ!奏夜、いったい何があったのですか?今日は朝からずっとその調子ではないですか!」

 

奏夜は上手く誤魔化したつもりだったのだが、穂乃果たち全員は奏夜の異変にすぐ気付いていた。

 

「別に……。何でもないよ」

 

「だったらいつも通りにしてなさいよ!ダンスコーチのあんたがそんなんじゃ練習にならないじゃないの!」

 

「にこちゃんの言う通りね。今の奏夜だったらいてもいなくても変わりはないわ」

 

「にこ!真姫!そのような言い方は……」

 

にこと真姫は、練習に集中出来ていない奏夜に厳しい言葉を投げかけており、そんな2人を海未はなだめるのだが……。

 

「……いいんだよ、海未」

 

「っ!ですが、奏夜……!」

 

「……本当に、俺は……」

 

このように呟く奏夜の表情はどこか悲しげであった。

 

「……そーくん、疲れてるんだね。今日は私たちに任せてゆっくり休みなよ!」

 

穂乃果は悲痛な表情をしている奏夜を見兼ねて、このような提案をしていた。

 

「ちょっと穂乃果!本気ですか!?」

 

「もちろん本気だよ。そーくんに何があったのかはわからないけど、あえて聞かないでおくね。そーくんは魔戒騎士である前に人間だもん!何か悩むことだってあるよ!」

 

「……っ!穂乃果……!」

 

穂乃果は今の奏夜の心情を察してこのようなことを言っており、奏夜は穂乃果の気遣いが嬉しかった。

 

「……ごめん、みんな。今日は穂乃果の言葉に甘えさせてもらって帰らせてくれないか?明日にはきっといつもの俺になってるから……」

 

そんな穂乃果の気遣いを無駄にしないために、奏夜は穂乃果の言葉に甘えさせてもらうことにした。

 

「そうね……。今日のところは私や海未に任せて。私たちなら大丈夫だから」

 

「そうやで。何があったのかは知らんけど、今度たっぷり聞かせてな♪」

 

「希ちゃんの言う通りだにゃ!それに、今日のことはラーメン1杯で勘弁してあげるにゃ!」

 

「り、凛ちゃん!さすがにそれは……」

 

奏夜の言葉に絵里と希は了承しており、凛は奏夜に見返りを求めていた。

 

それを花陽が慌てて止めるのだが……。

 

「アハハ……。わかった。ラーメンでも何でも奢るから」

 

「そーや君、今の言葉、しっかり聞いたにゃ!だから、嘘はナシだよ!」

 

何でも奢るという奏夜の言葉に、凛は過剰に反応し、奏夜は苦笑いをしていた。

 

こうして、奏夜はジンガや尊士との敗戦で思いつめてることを穂乃果たちに明かすことなく、屋上を後にすると、そのまま学校も後にしていた。

 

「……穂乃果。本当にこれで良かったの?」

 

「にこちゃんの言う通りよ。無理矢理でも何があったのか聞き出した方が良かったと思うけど」

 

「だけど、無理矢理聞こうとするのは、そーくんのためにならないと思うけど……」

 

どうやら奏夜をこのまま帰したことににこと真姫は異議があるようであり、奏夜から事情を聞いた方が良いと話していたが、ことりがそれに反対していた。

 

「ことりちゃんの言う通りだよ。そーくんは魔戒騎士としての強さを持ってるけど、自分自身それを認められない弱さも持ってるんだもん」

 

「そーくんはμ'sのマネージャーとして、いつも私たちのことを支えてくれたんだもん。こういう時は私たちがそーくんを支えないと」

 

「……確かに、そうかもしれませんね……」

 

海未としても、奏夜を帰してしまったのは良しとしていなかったが、穂乃果やことりの言葉を聞いて、確かにそうだと思ったのか、すんなりと納得していた。

 

「うん。私もそう思うな……。だって、奏夜君がいなかったら、私はきっとμ'sに入ってないだろうし……」

 

「凛もそうだにゃ!そーや君には感謝してるんだあ♪」

 

花陽と凛は、μ'sに入るきっかけをくれた奏夜に感謝の気持ちを持っていたのである。

 

「それは私もそうだけど……」

 

「……そんなこと言われたら、そうだなと答えるしかないじゃない……」

 

先ほどまで色々言っていた真姫とにこもまた、穂乃果やことりの言葉を聞いて納得せざるを得なかった。

 

「とりあえず今は信じましょう、奏夜を」

 

「そうやね。カードも言うとるよ。今は待つべしって」

 

絵里と希もまた、奏夜がいつもの奏夜に戻ることを信じていた。

 

「そうだよ!だからこそ、練習を頑張って、そーくんをびっくりさせようよ!」

 

『うん!(えぇ)!』

 

こうして穂乃果たちは、奏夜不在の中、ラブライブ出場を目指して練習を行っていた。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

「……何やってんだろうな、俺は……」

 

その頃、学校を後にした奏夜はそのまま家に帰ることはせず、秋葉原の街を歩いており、小声でぼそっと呟いていた。

 

《まったくだ。おい、奏夜。お前は過去の敗北をいつまで引きずってるつもりだ?》

 

(……っ!そんなこと……)

 

そんなことはない。

 

奏夜はキルバの言葉を否定したかったのだが、図星だったからか、反論することは出来なかった。

 

《挙げ句の果てには穂乃果たちまで心配させて……。今のお前は魔戒騎士失格だな》

 

奏夜はμ'sのマネージャーとしてではなく、魔戒騎士としても穂乃果たちを守る。

 

常にそんな決意をしていたのだが、そんな穂乃果たちを心配させている今の奏夜に、キルバは呆れていた。

 

《そこまで腑抜けていたら、倒せるホラーも倒せないぞ。もっと気を引き締めろ!》

 

さらにキルバは厳しい言葉を奏夜に投げかけていた。

 

優しい言葉をかけるのは、奏夜のためにならないと判断したからである。

 

(わかってるよ!だからこそ、俺は……)

 

この時奏夜は自問自答をしていた。

 

今回の戦いは、自分が弱すぎたために統夜とリンドウの足を引っ張ってしまい、敗れてしまった。

 

だからこそ、統夜やリンドウと並ぶ程の力は欲しい。

 

しかし、合宿の時に統夜が言っていた力を求め過ぎてはいけないという発言も思い出していた。

 

そんなことはわかっていた奏夜であったが、そう簡単に割り切れるものではなかった。

 

自分は弱いままではいられない。もっと強くならなければ……と。

 

そんな考えが奏夜の頭の中を何度も何度も巡っており、そんなことを考えているからこそ、思いつめていたのであった。

 

そんなことを考えていたその時だった。

 

「……あっ!奏夜さ〜ん!!」

 

誰かが奏夜のことを呼んでいたため、その方を向くのだが、奏夜を呼んでいたのは、金色の長髪に青い瞳の少女であった。

 

彼女は絢瀬亜理沙。絵里の妹である。

 

どうやら穂乃果の妹である雪穂も一緒のようであり、亜理沙と雪穂は奏夜の姿を見つけると、奏夜に駆け寄っていた。

 

「おう、雪穂。亜理沙ちゃん」

 

奏夜は思いつめていることを悟られないためにいつも通りであると振る舞っていた。

 

「あれ?今ってμ'sの練習中ですよね?奏夜さん、いったいどうしたんですか?」

 

「あぁ、実はな。今日は大事な用事があったから休ませてもらったんだよ」

 

「大事な用事……ですか?」

 

「あぁ。それが何なのかは秘密だけどな」

 

亜理沙と雪穂はこのようなところに奏夜がいることに首を傾げていたのだが、用事があると聞いたらどうやら納得したみたいである。

 

「それで、さっき用事は終わったんだが、今から練習に行っても間に合わないと思ってな。街を歩いていたって訳だ」

 

「なるほど、それじゃあ奏夜さんは今暇なんですね?」

 

「ま、まぁな……」

 

用事が終わり、奏夜が暇であるとわかると、雪穂は何か企むような笑みを浮かべていた。

 

「奏夜さん!私たち、これから映画を観に行くんですけど、奏夜さんも一緒にどうですか?」

 

「映画か……。たまには悪くないかもな」

 

奏夜はこのままモヤモヤした気持ちでいるくらいなら、気晴らしに何かをした方が良いと前向きな気持ちだったからか、雪穂と亜理沙の提案を受け入れていた。

 

了承してくれるとは思わなかった2人の表情はぱぁっと明るくなっていた。

 

「ハラショー♪それじゃあ、行きましょう!奏夜さん♪」

 

そう言いながら、亜理沙は奏夜の右側の腕を組んでいた。

 

「ちょっ!?な、何を////」

 

「亜理沙だけずるい!私も!」

 

そんな亜理沙の大胆な行動を見て面白くなかったからか、雪穂も奏夜の空いている方の腕を組んでいた。

 

(や、やばいぞ、これは……。こんなところを穂乃果たちに見られたら……)

 

《ま、ラーメン奢るだけじゃ済まされないだろうな》

 

(そうだよな……。だけど、行くと言った手前、覚悟を決めないとな)

 

《ったく…….。ようやくいつもの奏夜に戻ったか。このラブコメ男が….…》

 

(変な呼び方はやめてくれよ……)

 

奏夜は亜理沙と雪穂の2人に引っ張られる形で映画館へと向かったのだが、その道中にキルバとテレパシーでこのような会話をしていた。

 

2人の美少女と腕を組んでいる光景はあまりにも異様であり、道行く人々から好奇の目で見られていた。

 

奏夜が女遊びをする軽い男と思われていたのであろう。

 

それを察した奏夜は、腕組みが解除される映画館までげんなりしながら歩いていた。

 

「……ところで、何の映画を観るつもりなんだ?」

 

「はい!これです!」

 

映画館に着いた奏夜は、何の映画を観るのか聞いてみたのだが、亜理沙が指差した映画は予想外なものであった。

 

その映画は、日曜日の朝に放送されている、バイクを駆って怪人を倒す特撮番組の劇場版であった。

 

「……これって、日曜日の朝にやってるやつだよな?俺はてっきり恋愛映画かと思ったよ……」

 

ちょうど同じ時間に、原作が少女漫画の映画もあったため、奏夜はそっちを観るものだと思って驚いていた。

 

「私はそっちの方が良かったんですけどね……」

 

どうやらこの映画を観たいのは亜理沙のようであり、雪穂は恋愛映画の方が希望のようだった。

 

「だって、格好いいじゃないですか!人知れず悪と戦うジャパニーズヒーロー!見てみたらついハマっちゃいました♪」

 

亜理沙は特撮ヒーローならではの格好良さに惹かれたみたいであり、スクールアイドルの時と同じように熱っぽく語っていた。

 

「そ、そうなんだ……」

 

亜理沙の意外な趣味を知り、奏夜は少しばかり困惑していた。

 

(まぁ、俺はヒーローではないが、人知れず怪物と戦うってのは重なるところはあるかもな)

 

どうやら奏夜は、そのヒーローと自分と似てる部分があると思ったのか、少しだけ興味を持ったみたいだ。

 

「それじゃあ、行きましょう♪」

 

亜理沙は1番この映画を楽しみにしていたからか、楽しそうにチケット売り場へと向かっていった。

 

「……俺たちも行くか、雪穂」

 

「そうですね」

 

楽しげな亜理沙を見て苦笑いをしながら、一緒にチケット売り場へと向かっていった。

 

高校生にもなって特撮映画のチケットをくださいというのは気恥ずかしかったが、奏夜は覚悟を決めて3人分のチケットを購入した。

 

「すいません、奏夜さん。私たちの分のチケットまで買ってもらっちゃって……」

 

「気にするなよ。これくらいはなんてことないさ」

 

奏夜は魔戒騎士としてそれなりにもらっているため、映画のチケットを出すくらいはなんてことなかった。

 

「それじゃあ、飲み物とポップコーンは私たちが出しますね」

 

「いいっていいって。それも俺が出すからさ」

 

「それじゃあ駄目です!」

 

「そうですよ!何でもかんでも出してもらうのも悪いですから!」

 

どうやら亜理沙と雪穂は、全部を奏夜に出してもらうのは申し訳ないと思っていた。

 

「……わかった。それじゃあ、遠慮なくご馳走になるよ」

 

そんな2人の気持ちを汲んだ奏夜は、飲み物とポップコーンはご馳走になることになった。

 

こうして上映時間が近付き、奏夜たちはこの映画が上映されるスクリーンまで移動し、席についていた。

 

「……楽しみですね♪奏夜さん♪」

 

「あっ、あぁ……。そうだな」

 

「私はあまりこういうの見たことないんだけどな……」

 

雪穂は特撮番組を見ることはほとんどなく、本来はこの映画を観るのは乗り気ではないのだが、親友である亜理沙の楽しそうな表情を見たら、そんなことはどうでも良くなっていた。

 

亜理沙がこれから始まる映画に期待しながら、まずは映画の予告編が始まった。

 

予告編は話題の洋画から、雪穂が見たかった恋愛映画の予告もあったりと、様々な映画を紹介していた。

 

最後に、映画の撮影や録音を禁止することを伝えるCMが流れていた。

 

それが終わると、いよいよ映画の本編が始まった。

 

未知の怪人が人類を襲っており、そんな怪人を倒すために主人公が仮面の戦士に変身して戦うといった話であった。

 

映画の序盤でも、怪人が人間を襲っており、バイクに乗った主人公が登場し、怪人の前に立ちはだかった。

 

主人公はベルトのようなものをつけていた。

 

そして……。

 

『変身!!』

 

変身ベルトから軽快な音楽が流れてると、主人公の体は人間から、仮面の戦士へと変わっていった。

 

それを見ていた亜理沙の表情はぱぁっと明るくなっていた。

 

(……それにしても、特撮って奴も案外凄いんだな)

 

奏夜は仮面の戦士と怪人との戦いを見て、素直にそう思っていた。

 

《そうか?やはり臨場感が足りないと思うがな。お前も魔戒騎士なら本当の戦いはこんなもんじゃないと知ってるだろ?》

 

(まぁ、映画ならこんなもんだろ)

 

奏夜もまた、魔戒騎士として戦っているため、本物の戦いの臨場感は知っているものの、これは映画であると納得をしていた。

 

今奏夜たちが見ているこの作品は、仮面の戦士の戦いも注目のポイントではあるが、主人公が織りなすドラマパートも注目すべきポイントであった。

 

その中、奏夜はとあるところが気になっていた。

 

(この主人公……。なんか俺と重なるところがあるな……)

 

この主人公もまた、立ちはだかった強敵に手も足も出ず敗れてしまい、そのことに対して思い詰めていた。

 

そんな主人公の姿が、今の自分と重なってしまったのである。

 

主人公は思い詰めながらも仲間たちに支えられ、本来の自分を取り戻していった。

 

(穂乃果たちも俺のことを支えてくれるのはわかってる。でも……俺は……)

 

奏夜は未だにジンガや尊士との敗戦を引きずっており、未だに立ち直れてはいなかった。

 

映画も終盤となり、主人公はボスである敵に立ち向かうのだが、やはり叩きのめされてしまっていた。

 

しかし、主人公はどれだけやられても立ち上がって敵に向かっていった。

 

『何故だ……!何故貴様は何度でも立ち上がれるのだ!?貴様では我は倒せないというのに……』

 

『俺は何度だって立ち上がる!大切な人を……守るために!』

 

大切な人を守るために戦う。映画のスクリーンに映る主人公の姿勢は、まるで魔戒騎士のようであった。

 

奏夜は大切な人を守るために何度でも立ち上がるという主人公の言葉に、感じるものがあるみたいであった。

 

魔戒騎士である奏夜は、ホラーから人を守る「守りし者」であるため、今見ているこの仮面の戦士と似ているところはあった。

 

相違点があるとするならば、魔戒騎士は人を守るが、決してヒーローではないということだ。

 

人を助けても、大きな力を持つ故に恐れられたり、蔑まされることがあったりするからである。

 

(……俺だって、みんなを守るために戦ってるさ……。だけど、今のままじゃ駄目だよな。もっと強くならないと……)

 

本当の戦いは、今実際に見ているヒーロー物のようにはいかないため、奏夜は穂乃果たちを守るために強くならなければと強く考えるようになっていた。

 

(……やれやれ……。奏夜のやつ、この映画を見て守りし者が何なのかを思い出すかと思ったが、それに至らなかったか……)

 

キルバはこの映画自体は興味なかったのだが、色々と思い詰めている奏夜には良い結果をもたらすことを期待していた。

 

しかし、奏夜の考えが変わることはなく、そのことにキルバは頭を悩ませていた。

 

奏夜とキルバがそんなことを考えながらもストーリーは進んでいき、主人公は自らの力を高める強化アイテムを用いて強化フォームとなり、その力でボスを討伐したのであった。

 

こうしてボスを倒し、映画はエンディングへと突入していき、この映画は終了した。

 

「いやぁ、最高でしたね♪」

 

映画が終了し、映画館を後にした奏夜たちであったが、亜理沙がこのような感想を言っていた。

 

「私はあまりこういうのは見ないけど、面白かったかな」

 

特撮作品をあまり見ていない雪穂であったが、ストーリーが秀逸だったみたいであり、素直に面白いと思っていた。

 

「あぁ。俺も良い気分転換になったよ」

 

奏夜は穏やかな表情で微笑みながらこう答えていた。

 

「奏夜さん、付き合ってくれてありがとうございます♪」

 

「また、3人で遊びたいです♪」

 

「あぁ、今日はありがとな」

 

奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべると、映画を見終えた亜理沙と雪穂の2人と別れていた。

 

「……」

 

亜理沙と雪穂の姿が見えなくなるまで奏夜は2人を見送っていたのだが、2人の姿が見えなくなると、奏夜は再び浮かない表情をしていた。

 

たまたま見た特撮作品の映画が、奏夜の考えを改めるきっかけになると思われたのだが、この映画を見て思うところはあっても、考えを改めるには至らなかった。

 

(あの映画は本当に面白かった……。だけど、俺はあの主人公のようなヒーローじゃないし、ヒーローにはなれない……)

 

《やれやれ……。そんなの当たり前だろう。お前さんだって今までヒーローになりたくて魔戒騎士の仕事をしていた訳じゃないだろう?》

 

(まぁ、確かにそうだけど……)

 

《今お前がどうするべきか、もうお前はわかってるハズだ。だから、よく考えてみるんだな。お前が今、何をするべきか》

 

(俺が……。すべきこと……)

 

奏夜も今のままではいられない。

 

そんなことはわかっていた。

 

しかし、奏夜は今何をするべきなのか、わからずに再び思い詰めていた。

 

そんな奏夜であるのだが、無意識ではあるのだが、自分のすべきことを察しており、まだそれに気付いていないみたいだった。

 

(あっ、そういえば魔戒剣の浄化を忘れてた。時間もあるし、行っとかないと……)

 

奏夜はロデルに魔竜の眼を奪われたことを報告した時に番犬所へ寄ったのだが、報告することで頭がいっぱいで、さらに気持ちに余裕がないからか魔戒剣の浄化を忘れていた。

 

そのため、奏夜は番犬所へ向かうことになった。

 

未だにジンガや尊士との敗戦をひきずる奏夜であったが、奏夜にとって大いなる試練の時が近付いていたのである。

 

そのことを、奏夜は知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ。お前にもいよいよこの時が来たか。今の奏夜の状態では乗り越えられるとはとても思えないが……。次回、「試練」。大いなる試練、乗り越えろ、奏夜!』

 

 




奏夜はロデルや穂乃果たちに心配をかけながらも立ち直ることはまだ出来ませんでした。

そんな奏夜ではありましたが、ラブコメ属性は消えてはいないみたいでした(笑)

そして亜理沙が特撮好きという意外な事実が明らかに。

亜理沙ってこういうのを見たらハマりそうだなと思ってこういう設定にさせてもらいました。

それは違うんじゃないの?と思う方もいるかもしれませんが、そこはご了承ください。

奏夜たちが見た仮面の戦士が活躍する映画のモデルはもちろんあれですが、どの作品がモデルかは決めていません。

どの作品をモデルにしたら1番しっくり来ますかね?それは皆様のイメージにお任せします。

さて、次回は奏夜がとある試練を受けるみたいですが、そうです。奏夜もあの試練を受けるのです。

未だに敗戦を引きずって思い詰めている奏夜ですが、無事に試練を乗り越えることが出来るのか?

それでは、次回をお楽しみに!




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第41話 「試練」

お待たせしました!第41話になります。

前回に続いて今回も投稿が遅くなってしまってすいません。

最近忙しい日が続いているため、3日に1度の投稿が厳しくなってきました。

ですが、これからもなるべく早く投稿しようと思っているのでよろしくお願いします!

さて、今回は奏夜にとある試練が訪れます。

その試練とは?そして、奏夜を待ち受けている者とは?

それでは、第41話をどうぞ!




ジンガや尊士に魔竜の眼を奪われてしまい、奏夜はそのことに対して責任を感じており、思い詰めていた。

 

それを引きずっていた奏夜は守るべき存在である穂乃果たちをも心配させてしまうという失態を犯していた。

 

そんな奏夜を気遣った穂乃果は奏夜を先に帰すことを提案し、奏夜はそれを受け入れる。

 

その道中に偶然亜理沙と雪穂の2人と会い、ひょんなことから映画を観に行くことになった。

 

映画を観た後、2人と別れた奏夜であったが、魔戒剣の浄化を忘れていた奏夜は番犬所へ向かうことにした。

 

「おや?奏夜、いったいどうしたのですか?」

 

今日は番犬所には来ないと思っていたロデルは、奏夜の訪問に驚いていた。

 

「はい。魔戒剣の浄化を忘れていまして……」

 

「なるほど、それは確かに大事なことですね」

 

ロデルが奏夜の訪問理由を理解したところで、奏夜は狼の像の前に立つと、魔戒剣を抜いた。

 

そして、狼の像の口の部分に魔戒剣を突き刺していた。

 

いつもならば、魔戒剣を抜いた瞬間に、ホラーを封印した短剣が現れるはずだったのだが……。

 

「……!?な、なんだ!?」

 

奏夜はそのまま狼の像の中に吸い込まれていってしまった。

 

「!?そ、奏夜!?」

 

奏夜が狼の像の中に吸い込まれたことにロデルは驚くのだが……。

 

「……そうか……。奏夜にもいよいよこの時が来たのですね……」

 

事情を理解したロデルは、しみじみと呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

奏夜が目を覚ますと、そこは番犬所ではなく、一面真っ白な空間にいた。

 

その空間はただ真っ白ではなく、あちらこちらに魔戒語で書かれた文章が浮かび上がっている。

 

「……ここは……いったい?」

 

奏夜はここがどこだかわからず、キョロキョロと周囲を見渡していた。

 

『なるほどな……。この間倒した素体ホラーでちょうど数を満たしたという訳か……』

 

事情を理解していない奏夜とは違い、キルバはどうやら何故奏夜がここにいるのかを理解しているみたいだった。

 

「なぁ、キルバ。数を満たしたって、いったいどういう……?」

 

キルバの言葉はかなりのヒントになっていたのだが、奏夜は未だに状況を飲み込めていなかった。

 

すると……。

 

『……よく来たな……。如月奏夜……』

 

「!?誰だ!」

 

奏夜のいる空間に謎の声が響き渡ると、奏夜は魔戒剣を取り出して、いつでも抜刀出来る状態にしておきながら周囲を警戒していた。

 

『ここは真魔界に続く内なる魔界だ。お前は、大いなる力を得る資格を得たのである』

 

「大いなる力?いったい何のことだ!」

 

奏夜は鋭い目付きで周囲を警戒していると、ガチャン!ガチャン!と金属音のような足音と共に何者かが奏夜の前に現れた。

 

その正体は……。

 

「……!?き、輝狼!?マジかよ……」

 

奏夜が受け継いだ称号であり、自らが戦いで身に纏う輝狼の鎧であった。

 

「!!数を満たす……。大いなる力……。ということはまさか……!」

 

ここで奏夜はようやく今置かれている状況を理解したようであった。

 

『どうやら察したようだな。これから何が行なわれるかを!』

 

奏夜が状況を理解したことを知った輝狼は、いきなり陽光剣を抜くと、奏夜に斬りかかってきた。

 

「ぐぅ……!!」

 

奏夜は魔戒剣を抜いて対応しようとしたが、それよりも輝狼の動きは早く、奏夜は輝狼の攻撃を受けてしまった。

 

その一撃に奏夜は表情を歪めており、痛みはあるのだが、実際に傷はついていなかった。

 

『……』

 

今のは小手調べだったのだろうが、奏夜の対応の遅さに輝狼は落胆を隠せないようであり、輝狼は陽光剣を鞘に納めていた。

 

『お前が封印したホラーは100体を越えた』

 

「!もしかして、修練場で倒した素体ホラーが100体目だったのか!」

 

奏夜はキルバの数を満たすという発言を思い出し、いつの間にか100体のホラーを封印したという事実に驚いていた。

 

『その証として、光覇(こうは)を召還する許しを与える』

 

「光覇?もしかしてそれが……」

 

『そうだ。それは魔界より生まれし大いなる力。その力が欲しくば私を倒すことだ。それが、お前に与えられた試練だ』

 

今これから行なわれることこそが、ホラーを100体封印した魔戒騎士に課せられる内なる影との試練であった。

 

その試練を乗り越えた魔戒騎士には魔導馬と呼ばれる新たな力を与えられ、それを得た魔戒騎士は名実共に一人前の魔戒騎士となったと言っても過言ではないだろう。

 

奏夜はそのような試練があることは統夜や大輝から聞いており、自分も早く魔導馬を得られる程の力を得たいと考えていた。

 

しかし……。

 

『……いや、今のお前では私を倒すことなど到底出来ないだろうな』

 

「なんだと……!?」

 

どうやら輝狼は奏夜のことを侮っているようであり、奏夜はその言葉が気に入らなかった。

 

『何故ならば私はお前の内なる影。お前のもっとも恐れる存在を具現化したもの。今の揺れているお前では私を倒すことなど出来ないだろう』

 

輝狼は、奏夜がジンガや尊士との敗戦を引きずって思い詰めていることを理解しており、それ故に今の奏夜では試練は乗り越えられないと判断していた。

 

「そんなの……やってみなければわかんないだろ!!」

 

そんな輝狼の言葉が気に入らなかった奏夜は、先ほど抜けなかった魔戒剣を抜いて、輝狼に向かっていった。

 

『愚かな……』

 

そんな奏夜に輝狼は呆れながらも迎撃体勢に入っており、奏夜の魔戒剣による一閃を軽々と受け止めていた。

 

「なっ……!?」

 

ここまで軽々と攻撃を受け止められるとは思っていなかったのか、奏夜は驚愕していた。

 

輝狼は反撃と言わんばかりに陽光剣を一閃して奏夜にダメージを与えると、蹴りを放って奏夜を吹き飛ばした。

 

「がぁっ!ぐぅぅ……!」

 

吹き飛ばされて倒れてしまった奏夜は、痛みで表情が歪みながらもゆっくりと立ち上がっていた。

 

『やはり貴様の力はその程度か……。今のままでは貴様は何も守れはしない。お前が支えているスクールアイドルとかいうくだらん存在もな』

 

輝狼は冷酷な言葉を送っており、その言葉を聞いた瞬間、奏夜の中で何かが切れてしまった。

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

輝狼の言葉に激昂した奏夜は、怒りのままに輝狼に向かっていった。

 

『この程度の挑発にすぐ乗る……。やはり愚か者だな!』

 

怒りに満ちた奏夜の攻撃は先ほどよりも単調なものであり、攻撃を受け止める前に刃の塊を放つと、奏夜はその一撃をまともに受けて吹き飛んでしまった。

 

「くっ……くそっ!」

 

奏夜は再び立ち上がると、魔戒剣を構えて輝狼を睨みつけていた。

 

『もう辞めておいた方がいい。これ以上は何度立ち向かってこようと時間の無駄だ。お前も無駄に痛みを味わいたくはないだろう?』

 

輝狼は今の奏夜に自分は倒せないと判断したからか、戦いをここで中断させようとしていた。

 

「なんだと……!?」

 

『奏夜。これは奴の言う通りにした方がいい。お前さんは試練が終わるまでいつでも相手をしてくれるのだろう?』

 

『無論だ。私はいつでもお前が来るのを待っている。今日のところは去るがよい!』

 

「……っ!くそっ……!!」

 

ジンガや尊士だけではなく、自分の内なる影にも手も足も出ず、奏夜は悔しさを滲ませながらその空間から脱出した。

 

奏夜の表情から最初の試練は失敗に終わったと察したロデルは奏夜に声をかけることはせず、奏夜はロデルに一礼をした後に番犬所を後にした。

 

この日は指令はないため、奏夜はそのまま家に帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、この日もμ'sの練習はあったのだが、今日は神田明神集合ではなく、学校の部室に集合と穂乃果から事前に連絡があった。

 

そのため奏夜は、出来る範囲でエレメントの浄化を済ませると、学校へ向かい、そのまま部室に向かっていった。

 

奏夜がアイドル研究部の部室に到着し、中に入ると、既に穂乃果たちは集まっていた。

 

しかし、いつもの練習着ではなく、制服姿であった。

 

「あっ、そーくん!やっと来たね!」

 

「そーや君!遅いにゃ!」

 

「そうよ!レディを待たせるなってあれだけ言ってたじゃない!」

 

奏夜の姿を見るなり穂乃果の表情は明るくなり、凛とにこの2人は最後に来た奏夜に文句を言っていた。

 

「お前ら……練習はしないのか?」

 

練習着ではなく制服姿のため、奏夜は驚きながらこう訪ねていた。

 

「はい。午前中はのんびりと過ごして、練習は午後から行おうと思っていたのです」

 

「午後から?だったら午後から学校に集合でも良かったんじゃないのか?」

 

海未は何故自分たちが今練習着を着ていないのかを説明しており、そのことについて奏夜はさらに追求をしていた。

 

「それはね、奏夜と話をしたいと思ったからよ」

 

「?俺と話を?」

 

絵里が思いもよらぬ言葉を言っていたため、奏夜は面食らっていた。

 

「そうやで。だって奏夜君は帰ってきてから様子がおかしいんやもん。昨日も言ったやろ?そこら辺の話は聞かせてもらうって♪」

 

「そうよ。奏夜は魔戒騎士として仕事をしていたのでしょう?教えてちょうだい。何があったのかを」

 

希と真姫は、奏夜が何故思い詰めた表情をしていたのかを聞き出そうとしていた。

 

「いや……俺は……」

 

「奏夜君……。ダメ……かな?」

 

「!?」

 

花陽は頬を赤らめ、目をウルウルさせて、上目遣いと、男が弱い三拍子を使いこなして奏夜から話を聞き出そうとしていた。

 

色々と悩んでいる奏夜といえど、これは効果は抜群のようであり、ピクピクと眉を動かしていた。

 

さらに……。

 

「そーくん♪お願い♪」

 

さらにことりがまるで脳が溶けるように甘い声でこう言うと、奏夜は根負けしてしまったようであり……。

 

「……わかった。話すよ。合宿の後、何があったのかを……」

 

奏夜は修練場に向かうことは既に話していたので、そこで何があったのかを話すことにした。

 

修練場に到着し、本当に存在した魔竜の眼を守っていたこと。

 

しかし、ジンガと尊士が現れ、応戦するものの魔竜の眼を奪われてしまったこと。

 

自分があまりにも未熟なせいで、共に戦った統夜やリンドウに迷惑をかけてしまったことも語っていた。

 

「……そんなことがあったのですね……」

 

奏夜の話を最後まで聞いた海未は、しみじみと呟いていた。

 

「あなたが思い詰めてる理由はわかったけど、起こってしまったことは仕方ないじゃない。気持ちを切り替えなさい」

 

「そうね……。私の持ってたネックレスはまだ奏夜が持ってるし、その眼だって取り返すチャンスはあるんでしょう?だったら……」

 

「あぁ、それはわかってる。わかってるんだけどな……」

 

「そーくん……」

 

奏夜自体も頭ではわかってはいたのだが、そこまで割り切ることは出来なかったのであった。

 

『ま、奏夜が思い詰めてるのはその戦いの負けだけではないがな』

 

「え?どういうことですか?キルバ」

 

キルバの言葉に海未は首を傾げていた。

 

奏夜は余計なことを言おうとしているキルバに異議を唱えようとしたのだが、すでに手遅れであった。

 

そのため、奏夜は仕方なく内なる試練のことを話そうとしていた。

 

「……実はな、俺は今まで封印したホラーが100体になったんだよ」

 

「えっ!?そうなの!?凄い!!」

 

奏夜が100体ものホラーを封印したということを知り、穂乃果は驚いていた。

 

「それで、昨日番犬所に行った時に魔戒騎士としてとある試練を受けることになったんだよ」

 

『試練?』

 

奏夜の試練という言葉に、穂乃果たちは一斉に反応をしていた。

 

「自分の内なる影との試練なんだけど、この試練を乗り越えれば、今まで思い詰めてたことも解決出来そうだなと思ったんだよ……」

 

今奏夜が受けている内なる試練は魔戒騎士にとっては大きな試練であるため、この試練の突破は今の自分の問題を解決させるものであった。

 

しかし……。

 

『奏夜は目の前に現れた内なる陽光騎士に乱されたみたいだな。今の奏夜の状態を見透かされ、結果は論外だったって訳さ』

 

奏夜にとっては最悪な状況が重なってしまい、その結果が昨日の体たらくなのである。

 

「……」

 

そのことを充分に理解している奏夜は悔しさのあまり唇を噛んでいた。

 

「なるほど。その試練の試験官は奏夜君が身につけている鎧な訳やから、奏夜君自身と言っても過言じゃない訳なんやね」

 

『まぁ、そんなところだな』

 

「……俺はどうしてもこの試練を乗り越えなきゃいけないんだ……!!今のままじゃ……弱い魔戒騎士のままじゃいられないんだ!」

 

奏夜は自分が魔戒騎士として弱いと思ってはいるものの、それを認めようとはしなかった。

 

そのため、自分は強くなりたいと思っていたのである。

 

『……』

 

そんな穂乃果の本音を聞いた穂乃果以外の全員は言葉を失っていた。

 

一方穂乃果は、奏夜の言葉に何か思うところがあるようであり、うーんと考え事をしていた。

 

「?穂乃果?いったいどうしたのですか?」

 

「ねぇ、そーくん。そーくんはそこまでして強くならなきゃいけないのかなぁ?」

 

「……当たり前だろ?みんなを守るためには力が必要なんだ……」

 

穂乃果の疑問を聞いて奏夜は少しだけイラついたからか、不機嫌そうに答えていた。

 

「だってそーくんは今までだって私たちのことを守ってくれたよねぇ?誰が相手だって怖がることなく向かっていったじゃん。それって誰にでも出来ることじゃないよ?」

 

「だけど……俺は……」

 

穂乃果の言葉は一理あるのだが、奏夜はそれを受け入れることは出来なかった。

 

「……奏夜。私も武術を嗜んでいるため、穂乃果の言いたいことは理解しています。私はあなた程ではないですが、力を持っています。その力はなんのためにあるべきだと思いますか?」

 

「……そりゃあ、誰かを守るために……。って!!」

 

「そーくん、わかってるじゃん!」

 

海未の問いかけに奏夜は思ったことを答えると、その答えに奏夜はハッとしていた。

 

その答えを聞いたことりは歓喜の声をあげていた。

 

「そうです。力というのは相手を叩きのめすためにあるべきものではありません。力なき人を守るためにあるのです。それは、魔戒騎士であるあなたにも当てはまることではないですか?」

 

「それに、私は思うんだよね。強くあろうとすることよりも、弱いと認めることの方が難しいことだって」

 

「!!」

 

『ほぉ……』

 

海未や穂乃果の言葉を聞いて、奏夜はハッとしており、キルバは穂乃果の言葉に感心していた。

 

「私たちμ'sだってランキングは上がってるけど、今でも一人前だとは思ってないよ。だからこそ頑張らないといけないんだよ!」

 

「そうね。私たちだって自分のことを未熟だと認めているわ。それを認めているから、頑張れると思うのよ」

 

穂乃果は自分たちのことを例えとして話に出しており、それに絵里が賛同していた。

 

「ま、にこはアイドルとして才能に満ち溢れているからそんなことはいちいち考えないけどね」

 

「にこちゃんは単純なんだにゃ!!」

 

「なんですって!!」

 

「まぁまぁ、2人とも、落ち着いて……」

 

にこだけは何故か自信満々なのだが、凛の言葉にムッとしており、花陽が仲裁になっていた。

 

「まったく……。私なんかよりもあなたの方が相当面倒くさいわね。奏夜」

 

「せやね。真姫ちゃんやどこかの誰かさんよりも面倒かもね♪」

 

「ちょっと希。それは誰のことを言っているのかしら?」

 

希の言葉が何故か気に入らなかったからか、絵里はジト目で希のことを見ていた。

 

「さぁ♪誰やろうね♪」

 

「あなたねぇ……!」

 

希はとぼけており、絵里は呆れながら希を見ていた。

 

「……私たちが言いたいのは、そーくんは今のそーくんのままでいいってことだよ!!だからあなたは強くいられるんだよ?」

 

「!!」

 

奏夜は穂乃果の言葉を聞いて、どうやら吹っ切れたみたいだった。

 

(……そうか……。そういうことだったんだな……。俺は最初からわかっていた。いや、わかろうとしていなかったんだ。だから……)

 

奏夜は立ち直るきっかけをもらったことにより、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「……みんな、ありがとな……。俺、おかげで目が覚めた気がするよ……」

 

自分に足りないものがなんなのか。自分が今何をすべきなのか。

 

全てを悟った奏夜は、先ほどとは打って変わって清々しい表情をしていた。

 

そんな奏夜の表情に安堵した穂乃果たちの表情は明るくなっていた。

 

「なぁ、みんな。頼みがあるんだが……」

 

「わかっているわ、奏夜。行ってきなさい」

 

皆まで言わなくても奏夜が言おうとしていることを穂乃果たちは理解しており、絵里はこのように言っていた。

 

「そうです。これはあなたにとって必要な時間です。今こそ自分の弱さと向き合ってきてください」

 

「そうやで。それが出来たなら、きっと奏夜君は試練を乗り越えられる!カードがなくてもわかるよ、それは」

 

「私たちはそーくんのことを応援してるよ!」

 

「うん!私も奏夜君のことを信じてる!」

 

「凛もそうだにゃ!そーや君!今度ラーメン奢る約束、忘れないでよね♪」

 

「そうね……。ラーメンだけじゃ物足りないかもしれないわ」

 

「うんうん!美味しいスイーツも奢りなさいよ!それくらいはしないと気が済まないわ!」

 

「アハハ……。俺の財布は持つだろうか……?」

 

どれだけのものを奢らなきゃいけないかわからないため、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「そーくん、頑張ってね!」

 

「……あぁ!」

 

奏夜は先ほどとは打って変わって清々しい表情で返事をすると、部室を離れ、学校を後にして、番犬所へと向かった。

 

……再び試練を受けるために。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

『……来たか、如月奏夜。思ったよりも早かったな』

 

内なる影との試練が行われる空間にはすでに輝狼が待っており、奏夜がここまで早く現れたことに驚いていた。

 

「まぁな……。さっそく始めようぜ!」

 

奏夜は自信に満ちた表情で魔戒剣を抜くと、輝狼を睨みつけていた。

 

『ほう……?どうやら多少は期待しても良いみたいだな……』

 

奏夜の表情の変化に気付いた輝狼は、陽光剣を構え、奏夜を迎え討つ体勢に入っていた。

 

奏夜は勢いよく輝狼に向かっていくのだが、輝狼は陽光剣を振るい、奏夜を返り討ちにしていた。

 

「くっ……!」

 

奏夜は陽光剣の一撃を受けて吹き飛んでしまうのだが、すぐに体勢を立て直していた。

 

『どうした?お前の力はそんなものなのか?』

 

「まぁまぁ、焦るなよ。まだ始まったばかりだぜ!」

 

『ふん!威勢の良い口を叩けるようにはなったみたいだな!』

 

奏夜は不敵な笑みを浮かべており、そんな軽口を叩く余裕がある奏夜に、輝狼は安堵していた。

 

奏夜は果敢に輝狼に向かっていくが、なかなか突破口を見出すことが出来ず、何度も輝狼に叩きのめされていた。

 

そんなことが20分続いていたのだが、奏夜の目は意思の強い目をしており、輝狼を倒すことをまだ諦めていなかった。

 

しかし……。

 

(やっぱり、一筋縄じゃいかないな……)

 

自分の攻撃が思うように輝狼に通らず、少しだけ焦りを見せていた。

 

しかし……。

 

(俺は絶対に諦めない!俺の今すべきことが見えているから!)

 

この時奏夜に一切の迷いはなく、ジッと輝狼のことを見据えていた。

 

(それにしても……。こんな単純なことを忘れていたなんてな……。俺ってやつは本当に馬鹿だよな……)

 

奏夜は大切なことを穂乃果たちのおかげで思い出しており、それがあまりに単純なことだったため、苦笑いをしていた。

 

(そのことに気付いた今、何があろうと俺は絶対に折れることはない)

 

単純ではあるが、大切なことに気付いた奏夜の目は、魔戒騎士としてあるべき目をしていた。

 

『……』

 

そんな奏夜の変化を感じていた輝狼は、奏夜を試すためにさらに攻撃を激しくしようとしていた。

 

奏夜は魔戒剣を構えて輝狼に向かっていくと、輝狼は先ほどよりも激しい攻撃を繰り出してきた。

 

そんな輝狼の攻撃をどうにかくぐり抜けた奏夜は、初めて懐に飛び込むことに成功し、魔戒剣を一閃した。

 

その一撃は輝狼の体をかすめるだけになってしまい、輝狼はすかさず陽光剣を振るって奏夜を吹き飛ばした。

 

「くっ……!惜しい……!もう一息だったのに!」

 

奏夜はもうちょっとで輝狼に一撃を与えることが出来たので、悔しそうにしていた。

 

(……決定的な一撃が踏み込めない。やっぱり俺はびびってるのか?)

 

奏夜は穂乃果たちのおかげで自分の中にいた負の感情を払拭出来たと思ったが、まだ目の前の相手を恐れていると思われていた。

 

しかし……。

 

(……それがどうした!そんな気持ちも振り切って、俺は進む!)

 

覚悟を決めた奏夜は輝狼に向かっていった。

 

輝狼は陽光剣を振るって刃の塊を放つのだが、奏夜はその一撃を受ける覚悟で向かっていき、刃の塊をかいくぐると、そのまま輝狼に魔戒剣を突き刺した。

 

奏夜は魔戒剣を引き抜くと、その一撃に全ての力を使っていたからか、その場で膝をついていた。

 

『……会得したようだな。如月奏夜』

 

「ハハ……。そう……なのかな?」

 

奏夜はゆっくりと立ち上がり、魔戒剣を鞘に納めるのだが、試練を乗り越えたという実感はないみたいだった。

 

『最初にも話したが、私はお前の内なる影だ。影を恐れれば影に飲み込まれる。しかし、お前は不安や恐怖を振り切って踏み込んできた。内なる影へと』

 

「あぁ、そうだな」

 

『お前は強敵たちとの敗北で自分を見失っていた。自分の弱さをわかっていながら、それを認めようとしなかったのだ』

 

「それを認めることが出来たのも、穂乃果たちのおかげだよ」

 

奏夜は穂乃果たちのおかげで、魔戒騎士としてあるべき姿を思い出すことが出来た。

 

『それを知ったお前ならこれから起こる様々な困難も切り裂くことが出来るだろう』

 

「あぁ!俺は何があっても守りし者としての本分を果たす!」

 

奏夜は内なる影との試練を乗り越えたことにより、魔戒騎士として大きく成長したのであった。

 

『進め!如月奏夜!これから何が起ころうとも、お前の黄金の刃で切り裂いていけ!』

 

「……あぁ!」

 

奏夜の力強い返事を聞いた輝狼は姿を消し、奏夜が試練を受けたこの空間は消滅していった。

 

内なる影との試練が終わり、奏夜は番犬所へと戻ってきた。

 

「……やりましたね、奏夜」

 

内なる影との試練の様子を見守っていたロデルは、奏夜の試練突破を祝福していた。

 

「ありがとうございます、ロデル様」

 

そんなロデルの言葉が嬉しかったからか、奏夜は深々とロデルに頭を下げていた。

 

「それに、いい顔つきになりましたね。昨日のあなたとは大違いだ」

 

「はい。穂乃果たちのおかげで俺は自分を取り戻すことが出来ました」

 

「そうそう。その意気です。あなたはμ'sのマネージャーでもあるんですから、そちらも頑張ってくださいよ!」

 

「はい!もちろんです!」

 

奏夜は再びロデルに一礼をすると、番犬所を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

内なる影との試練を無事に乗り越えた奏夜は、秋葉原の街を歩いていた。

 

今日の指令は今の所はないため、街の見回りを行っていたのである。

 

奏夜が街を歩いていたその時だった。

 

「あっ、そーくん!」

 

穂乃果が奏夜の姿を発見したため声をかけると、奏夜に駆け寄っていた。

 

穂乃果だけではなく、他の8人も一緒だった。

 

「あっ、みんな……」

 

「奏夜がここにいるということは……」

 

「……あぁ。無事に試練は乗り越えたよ。みんなのおかげでな」

 

奏夜が穏やかな表情でこう答えると、穂乃果たちの表情はぱぁっと明るくなっていた。

 

「俺、今日ほどμ'sのマネージャーをやってて良かったって思った日はないよ。みんながいてくれたから、俺は……」

 

奏夜は穂乃果たちの顔を見てようやく試練を乗り越えたことを実感したようであった。

 

「そう言ってもらえると、私たちも嬉しいな♪」

 

奏夜の言葉からは素直に感謝の言葉が出ており、それが穂乃果たちには嬉しかった。

 

「それに、お礼をもらうのはまだ早いよ、そーくん♪」

 

「?というと?」

 

「そーや君♪ラーメンを奢るって約束、忘れてないよね♪」

 

「も、もちろんだよ……」

 

凛がニヤリとしながらこう奏夜に問いかけると、奏夜は苦笑いをしながら答えていた。

 

「ラーメンだけじゃないっていうのも、わかってるわよね?」

 

「も、もちろん……」

 

凛やにこの言葉の意味を理解した奏夜の表情が徐々に引きつってきていた。

 

「この先に、ラーメンが美味しいって評判のファミレスがあるのよねぇ♪」

 

「お、ええなぁ♪ファミレスなら色々食べられるしなぁ♪」

 

「そういう訳で、みんなでそのファミレスに行こうよ!」

 

凛のラーメンを奢れという話がここまで飛躍しているとは思っておらず、奏夜の表情はさらに引きつっていた。

 

(……これはいくらかかることやら……)

 

奏夜は財布を取り出すと、中にいくら入っているかを確認していた。

 

こうして奏夜たちはファミレスへと向かっていった。

 

ファミレスに入ると、穂乃果たちは遠慮なく自分の食べたいものを注文していた。

 

そして、その伝票を見た奏夜は、顔を真っ青にしていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、食べた食べた♪」

 

「最高に美味しかったにゃ♪」

 

ファミレスから出て、穂乃果と凛は満足そうな表情をしていた。

 

「……ったく……。遠慮なく頼みやがって……」

 

奏夜の財布が一気に軽くなってしまい、奏夜はこのように呟いていた。

 

「ごめんね?奏夜君。こんなに奢ってもらっちゃって……」

 

花陽だけは、奏夜に奢ってもらったことを申し訳なさそうにしていた。

 

「そこを心配してくれるとは……。やっぱり花陽は天使だよ」

 

「ふぇっ!?あ、あの……////」

 

奏夜の天使発言が恥ずかしかったからか、花陽は顔を真っ赤にしていた。

 

「そ、う、や?」

 

「なっ、なんだよ!」

 

そんな奏夜の発言が気に入らなかったからか、海未は奏夜を睨みつけていた。

 

このままではお仕置きをされてしまう。

 

奏夜の中の本能がそう叫んでおり……。

 

「それはともかく、今日は帰ろうぜ。もう遅い時間だろ?」

 

奏夜は必死に話を誤魔化そうとするが、本当に夜になっていたため、このようなことを言っていたのである。

 

「まぁ……確かにそうよね」

 

「せやなぁ。ホラーが出たら大変やしなぁ」

 

「……まぁ、そうですね……」

 

本当に遅い時間になっているということもあり、海未は奏夜への追求をやめており、そのことに奏夜は安堵していた。

 

奏夜たちはこのまま解散しようとしていたのだが……。

 

『奏夜!ホラーの気配だ!ここから近いぞ!』

 

キルバがホラーの気配を探知してしまっていたのである。

 

「……っ!わかった」

 

ホラーが出たとなれば捨て置けないため、奏夜はそのままホラー討伐へ向かおうとしていたのだが……。

 

「……そーくん。大丈夫なんだよね?」

 

「あぁ。今の俺にはもう迷いはない」

 

「危険なのは承知していますが、あなたの戦いを見守らせてください」

 

「わかった……。みんなに見て欲しい。俺の戦いを」

 

『やれやれ……。仕方ないな……』

 

ホラー討伐に穂乃果たちを連れて行くことにキルバは呆れながらも、奏夜はキルバのナビゲーションを頼りにホラー捜索を開始し、穂乃果たちはそれについていった。

 

移動することおよそ5分。奏夜たちがやってきたのは、人通りの少ない広めの道であった。

 

そんな道の真ん中に、あまりに不審な巨大な塊が置かれていた。

 

「ねぇ、そーくん。まさかとは思うけど、あれがホラー……なのかなぁ?」

 

「あぁ、恐らくな」

 

目の前の巨大な塊がホラーであると予想した奏夜は、魔戒剣を抜くといつホラーが襲いかかってきても対応できるようにしていた。

 

『……奏夜!来るぞ!』

 

キルバがこのように警告をすると、巨大な塊が変化し、まるで竜のような姿をしたホラーが現れた。

 

『奏夜。こいつはホラー、ドラグーン。こいつの体はかなり硬いぞ。油断するな!』

 

「わかった。みんなは下がっててくれ!」

 

奏夜の言葉に穂乃果たちは頷くと、安全な場所へと移動し、奏夜はドラグーンに向かっていった。

 

ドラグーンは尻尾による攻撃をかわした奏夜は、ドラグーンに魔戒剣の一撃を叩き込むのだが、皮膚が硬く傷をつけることは出来なかった。

 

「キシャアアア!!」

 

ドラグーンは咆哮をあげながら再び尻尾による攻撃を放つと、奏夜はその一撃を受けて吹き飛んでしまった。

 

「くっ……!」

 

奏夜はすぐに着地をして、体勢を立て直していた。

 

「そーくん!!」

 

「大丈夫だ!心配するな!」

 

穂乃果が心配そうな声をあげる中、奏夜は穂乃果を安心させるためにこのようなことを言っていた。

 

奏夜はダメージを与えることが難しいとわかっていながらもドラグーンに向かっていった。

 

「奏夜!無茶です!そのホラーの体は硬いのでしょう!?」

 

奏夜の行動が無謀と思ったからか、海未が心配そうな声をあげていた。

 

その心配は当たってしまい、ドラグーンは奏夜に向かってパンチを放つと、その一撃を受けた奏夜は吹き飛んでしまった。

 

「くっ……!」

 

奏夜はすぐに体勢を立て直すのだが、奏夜は強固な体を持つドラグーンが相手でも、諦めようとはしていなかった。

 

「そーくん!大丈夫!?」

 

「……大丈夫だ。俺は絶対に負けない。誰が相手だろうとな」

 

「だけど、あのホラーはかなり手強いんでしょう?」

 

奏夜はドラグーン相手に勝つつもりでいたのだが、絵里は不安げな声をあげていた。

 

しかし……。

 

 

 

 

 

 

 

 

※ここからのイメージBGM

 

「CR 牙狼 炎の刻印」より 「炎の意思」

 

 

 

 

「……俺はもう迷わない。これから色んな障害が俺たちを阻むだろう。だけど、何があろうと……」

 

奏夜は魔戒剣を力強く握りしめて語っていた。

 

「俺はμ'sのみんなを守る!守ってみせる!」

 

「そーくん……」

 

「奏夜……」

 

「ただホラーを倒すだけじゃない!守りし者として……」

 

今までの奏夜は穂乃果たちを守るために力を手に入れてホラーを討ち亡ぼすことが優先だと考えていた。

 

しかし、今の奏夜は、ホラーを倒すことも大事だが、大切なものを守り抜くことが最優先だと考えていた。

 

守りし者とした大切なことを思い出した奏夜を見て、穂乃果たちは穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

『ほぉ……。奏夜の奴、ようやく気付いたか。鈍感な奴だぜ……』

 

奏夜が大切なことを思い出したことに対して、安堵していたのだが、思い出すのが遅かったからか、少しだけ呆れていた。

 

奏夜はこうするべきだということは頭ではわかっていたが、自分の弱さを認められず、力を求める姿勢がそれを忘れさせていたのである。

 

「グゥゥ……!」

 

奏夜が魔戒騎士としての決意を語る中、ドラグーンは業を煮やしたからか、奏夜に迫っていた。

 

「……貴様の陰我、俺が断ち切る!」

 

奏夜は接近してくるドラグーンに対してこのように宣言すると、魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

その円の部分のみ空間が変化し、奏夜はそこから放たれる光に包まれた。

 

その直後にドラグーンが奏夜に向かって拳を放ってきたため、奏夜は自分の描いた円目掛けてジャンプをしてドラグーンの攻撃をかわした。

 

奏夜の体が自分の描いた円を通過すると、奏夜は黄金の鎧を身に纏っていた。

 

その勢いのままドラグーンに接近した奏夜は魔戒剣が変化した陽光剣の一撃を叩き込むが、ドラグーンの体に傷をつけることは出来なかった。

 

ドラグーンは反撃と言わんばかりに尻尾と拳による攻撃を繰り出し、奏夜を吹き飛ばした。

 

「そーくん!!」

 

「まさか、鎧を召還しても攻撃が届かないなんて……」

 

「あいつ、物凄く硬すぎだにゃ!」

 

鎧を召還してもなお、奏夜の攻撃は届いておらず、穂乃果、海未、凛の3人は焦りを見せていた。

 

しかし……。

 

「奏夜君はちっとも焦ってないんやね」

 

「まさかとは思うけど、奏夜はあいつを倒す作戦を思いついたのかしら?」

 

「それか、とっておきがあるのかもね?」

 

「とっておき?それっていったい……」

 

「まぁ、私たちは見守るしかないわ。奏夜の戦いを……」

 

「うん!そうだよ!」

 

奏夜は焦りを見せてはおらず、何か策があるものと思われたが、穂乃果たちは奏夜の戦いをジッと見守っていた。

 

「やっぱり陽光剣でもダメか……」

 

どうやら陽光剣の一撃が効かないのは、想定の範囲内のようであった。

 

「だったら、さっそく使わせてもらうぜ!俺の新しい力を!」

 

奏夜は内なる影との試練を乗り越えたことによって得た力をさっそく使おうとしていた。

 

それを阻止するためにドラグーンが接近する中、奏夜は陽光剣を振るって紋章のようなものを描いていた。

 

「そーくん!危ない!!」

 

ドラグーンが奏夜に迫っており、穂乃果が声をあげるのだが、奏夜は陽光剣を一閃した。

 

その一撃はドラグーンを吹き飛ばしていた。

 

「ギィィ……!?」

 

ドラグーンはすぐに体勢を立て直すと、奏夜を睨みつけていた。

 

その視線の先にいたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄金の輝きを放つ馬に跨がる奏夜であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?き、金色の馬!?」

 

「まさか、この馬が奏夜の新しい力……ですか?」

 

「か、格好いいにゃ!」

 

「そうね……。馬に跨がる騎士……最高に格好いいわ!」

 

穂乃果と海未は奏夜が馬に乗っていることに驚いており、凛と絵里は、そんな雄々しき勇姿を見て、目を輝かせていた。

 

奏夜の跨がっているこの馬こそ、奏夜が内なる影との試練を乗り越えたことにより召還することが許された、魔導馬である光覇(こうは)である。

 

ホラーを100体封印した魔戒騎士は、内なる影との試練を乗り越えることで、魔導馬を召還する資格を得る。

 

自分の魔導馬を得ることこそ、一人前の魔戒騎士と言っても過言ではない。

 

もっとも、魔導馬を持っていなくても、実力のある魔戒騎士は多いのだが……。

 

奏夜の駆る光覇は、自分と同じ黄金の魔導馬であり、まるで一角獣のような角が頭部に存在している。

 

「……行くぞ、光覇!!」

 

奏夜の言葉に呼応するように光覇は「ヒヒーン!」と嘶いており、ドラグーンに向かっていった。

 

ドラグーンに接近した奏夜は陽光剣の一撃を放つのだが、やはり硬い体に傷をつけることは出来ず、光覇の強靭な脚によってドラグーンを吹き飛ばしていた。

 

『奏夜!陽光剣の一撃じゃ奴には傷をつけられないぞ!』

 

「わかってるさ!だったら!」

 

奏夜の声に呼応するように光覇が嘶くと、力強く前脚を地面に叩きつけていた。

 

『きゃあ!』

 

その衝撃はかなりのものであり、その余波によって穂乃果たちは吹き飛ばされそうになっていた。

 

光覇が前脚を地面に叩きつけると、奏夜の手にしていた陽光剣に変化が起こっていた。

 

その刀身が大きくなり、陽光剣が巨大な剣へとなったのである。

 

この剣は陽光斬邪剣(ようこうざんじゃけん)。魔導馬光覇の力によって陽光剣が変化した剣である。

 

その名の通り、邪を斬り裂く力を持った剣なのである。

 

陽光斬邪剣を構えた奏夜は、再びドラグーンへと向かっていった。

 

本能的に危機を感じ取ったドラグーンは、口から高温の炎を放っていた。

 

「そんな炎で……止められると思うな!!」

 

奏夜は陽光斬邪剣を振るうと、たったの一振りでドラグーンの炎を斬り裂いていった。

 

ドラグーンの炎では奏夜の歩みを止めることは出来ず、ドラグーンに接近した奏夜は陽光斬邪剣を一閃した。

 

陽光斬邪剣の刃は、強固なドラグーンの体を斬り裂くことが出来て、その体を真っ二つに斬り裂いた。

 

「ギャアァァァァァァァ!」

 

奏夜の一撃によって真っ二つに斬り裂かれたドラグーンは断末魔をあげており、その体は消滅していった。

 

ドラグーンが消滅したことを確認した奏夜は鎧を解除した。

 

奏夜は光覇に乗っているため、鎧を解除するのと同時に光覇の召還も解除され、奏夜は地面に着地をしていた。

 

そして魔戒剣を緑の鞘に納めると、魔戒剣を魔法衣の裏地にしまっていた。

 

その様子を見ていた穂乃果たちは奏夜に駆け寄っていた。

 

「そーくん、やったね♪」

 

「おう、ありがとな、ことり」

 

最初にことりが労いの言葉を送っており、奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「奏夜。もしかして先ほどの馬が?」

 

「あぁ。さっきのは魔導馬光覇。俺が内なる影との試練を乗り越えたことで手に入れた力だ」

 

「凄かったにゃ!剣も大きくなっていたし!」

 

「あれも、光覇の力だよ」

 

海未と凛に、光覇のことを説明していた。

 

「力って……。奏夜、大丈夫なの?」

 

「確かに、ちょっと心配です……」

 

奏夜が新しい力を手に入れたことに対して、絵里と花陽は少しだけ心配していた、

 

「大丈夫だ。俺は何が大切なのかハッキリとわかったから……」

 

「ま、それなら安心ね」

 

「そうやな。ウチも奏夜君のことは信じてるで」

 

奏夜は力を手に入れても、魔戒騎士として大切なことは見失っておらず、そのことを知った真姫と希は安堵していた。

 

「ま、これからは今まで以上に頑張りなさいよ。あんたは私たちμ'sのマネージャーなんだからね」

 

「わかってるさ。それに、さっきの言葉を違えることはないさ。絶対にな」

 

「ま、そういうことならわかったわ」

 

にこもまた、奏夜の覚悟は聞いていたため、これ以上は何も言わなかった。

 

奏夜はふと穂乃果の方を見ると、穂乃果は穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「おかえり……そーくん♪」

 

「おう。ただいま、穂乃果」

 

穂乃果の言葉の意味を理解した奏夜は、穏やかな表情で返していた。

 

そんな奏夜に安堵し、他のメンバーも穏やかな表情をしていた。

 

こうして、奏夜は魔戒騎士として立ち直ることに成功し、この日は穂乃果たちを家まで送り届けてから帰路についた。

 

これから奏夜を待ち受けるものは多いのだが、奏夜はきっとこれを乗り越えるだろう。

 

守りし者として……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『人間というのはこんなに騒がしいイベントが好きなんだな。俺には理解出来ないんだがな。次回、「夏祭」。これが夏の思い出ってやつか』

 

 




奏夜が無事に立ち直り、魔導馬光覇の力を得ました。

奏夜の魔導馬である光覇は、金色の銀牙(零の魔導馬)というイメージになっています。

今回の出来事により、奏夜は魔戒騎士として大きく成長したと思います。

ですが、尊士やジンガ相手にどこまで通用するのか?これからの奏夜にご期待ください!

さて、次回もまたオリジナル回となっています。

夏の定番である夏祭り回ですが、どのような夏祭りになるのか?

次回の投稿ですが、実はやりたいことがあるため、また投稿が遅くなるかもしれません。

その詳細は活動報告で書こうと思っているのでよろしくお願いします。

次回も出来るだけ早く投稿しようと思っているので、次回も楽しみにしていて下さい!



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第42話 「夏祭」

お待たせしました!第42話になります!

最近投稿が遅いのが続いてしまい、すいません。

3日に1話の投稿は厳しくなってきましたが、どれだけ遅くなっても投稿はしようと思っているのでよろしくお願いします。

さて、今回は夏の定番イベントである祭回です。

μ's9人で過ごす祭りは一体どのようなものになるのか?

それでは、第42話をどうぞ!




奏夜が内なる影との試練を乗り越え、魔導馬光覇の力を得てからおよそ10日が経過していた。

 

奏夜たちはラブライブ出場に向けて練習に励んでおり、穂乃果たちは日に日に実力をつけていった。

 

それを表すかのようにランキングは上がっていき、30位まで上がっていった。

 

ラブライブ出場が本当に見えてきたため、穂乃果たちは毎日の練習にも熱が入っていた。

 

奏夜もまた、決意を新たにしているからか、魔戒騎士としても飛躍的に成長しており、ロデルや大輝を驚かせていた。

 

そしてμ'sのマネージャーとしてもしっかりと仕事をこなし、ラブライブ出場を目指す穂乃果たちを支えていた。

 

「……ねぇねぇ!知ってる?今日の夜、隣町で花火大会があるんだって!」

 

今日の練習が終わり、奏夜たちは一休みをしていたのだが、そんな中、凛が唐突に話を切り出していた。

 

「花火大会かぁ……。いいね!」

 

「そうね!みんなで行ってみるのもいいんじゃない?」

 

凛の切り出した話に、穂乃果とにこが大いに食いついていた。

 

「花火大会ですか……」

 

「ひ、人が多いところはちょっと……」

 

花火大会といえば多くの人がその会場に集まってくるため、海未と花陽は人でごった返す会場へ行くことに抵抗があった。

 

「あんたたち、何言ってるのよ!アイドルたるもの、人が多いのは望むところじゃない!」

 

そんな海未と花陽に喝を入れるかのように、にこはこのような言葉を送っていた。

 

「それに、お祭りといったら浴衣でしょ?みんなで浴衣を着てお祭りっていうのもいいかもね♪」

 

「そうねぇ。みんなでこうやって思い出を作ることも大切なことだと思うわ」

 

そんなにこの言葉に賛同している訳ではないのだが、ことりと絵里もまた、花火大会に行くことは賛成だった。

 

「私、あまり騒がしくて人がごちゃごちゃしてるところには行きたくないのよねぇ……」

 

「あんた……。それは東京に住んでる人間が言うこと?」

 

「それに、真姫ちゃんはみんなと一緒に出かけるのが嫌なんか?」

 

「べっ、別に嫌な訳じゃないわ!」

 

「だったら問題ないよね♪」

 

真姫は花火大会に行くこと自体乗り気ではなかったのだが、希に半ば強引に言いくるめられてしまい、渋々了承していた。

 

そんな真姫を見ていた海未と花陽もまた、花火大会に行くことを了承していた。

 

「ところで、そーや君は大丈夫かにゃ?」

 

「んー、指令があれば無理だけど、多分大丈夫だと思うぞ」

 

奏夜もまた、花火大会に行きたいと思っていたからか、楽観的なことを言っていた。

 

「奏夜。この後番犬所に行くのでしょう?一応確認してみて下さい」

 

「あぁ、もちろんそのつもりだったよ」

 

「それじゃあ、今日はこのまま解散して、19時に駅に集合でいいかな?」

 

待ち合わせの時間と場所を穂乃果が設定しており、それに賛同した他のメンバーは頷いていた。

 

こうして花火大会に行くことは決定し、1度解散することになった。

 

奏夜はそのまま番犬所へと向かい、花火大会に行けるかどうかロデルに確認してみることにした。

 

「……花火大会……ですか?」

 

番犬所に到着し、魔戒剣の浄化を終えた奏夜は、ロデルに今日行われる花火大会のことを話していた。

 

「はい。夏休みももうすぐ終わりですので、穂乃果たちと思い出を作る良い機会だと思うのです」

 

「なるほど……。まぁ、今のところは指令もないですし、行ってきても良いのではないですか?」

 

「いいのですか?」

 

奏夜は本当に花火大会行きを許可してくれるとは思っていなかったからか、驚いていた。

 

「えぇ。あなたも日々の仕事で疲れているでしょうし、良い息抜きになるのではないですか?」

 

ロデルは魔戒騎士として忙しい毎日を送っている奏夜のことを気遣っていた。

 

「それに、あなたがいればμ'sのメンバーに何があっても対応できますからね」

 

それだけではなく、奏夜にμ'sのボディーガードもやってもらいたいとロデルは思っていたのである。

 

「アハハ……。もちろん、そのつもりです」

 

「ですが、あなたはμ'sのマネージャーであり、その顔は知られてる可能性は高いです。行動は慎重に行うようにして下さい」

 

「わかりました。そこは肝に銘じておきます」

 

「神官である私がこんなことを言って良いのかはわかりませんが……。奏夜、思い切り楽しんできなさい」

 

ロデルはこのようなことを言って微笑むのだが、その様子は番犬所の神官というよりかは保護者のような表情であった。

 

「ありがとうございます!……失礼します」

 

奏夜はありがたいことを言ってくれるロデルに一礼をすると、番犬所を後にした。

 

番犬所を後にした奏夜であったが、待ち合わせの時間までまだ余裕があったため、1度家に帰ることにした。

 

花火大会に出かけるため、服を着替えるためである。

 

「うーん……。何を着ていくべきか……」

 

奏夜はいくつか着る服の候補を決めていたのだが、その中から1つを選ぶことが出来ず、迷っていた。

 

2つは奏夜なりにコーディネートした私服であり、もう1つは浴衣であった。さらに甚平も置かれており、奏夜はこの4つで迷っていたのである。

 

『穂乃果たちも浴衣なんだろう?お前も浴衣でいいんじゃないのか?』

 

「それも考えたんだけど、浴衣や甚平じゃ魔法衣と似合わないからな」

 

『おいおい……。魔法衣も着ていくつもりかよ……。手で持ってれば問題ないんじゃないのか?』

 

「確かにそれなら安心か……。浴衣を着ていかないとあいつらがうるさそうだしな」

 

奏夜個人としてはお気に入りの私服を着たいと考えていたが、穂乃果たちは浴衣を着ていくと話していたため、奏夜も浴衣を着ていくことにした。

 

着替えを済ませた奏夜は、待ち合わせの時間近くまでテレビを見てのんびりとしており、待ち合わせの15分前に奏夜は先に穂むらへと向かうことにした。

 

遅刻をする可能性のある穂乃果を迎えに行くためである。

 

奏夜が家を出ようとしたその時、突然ピンポーンと、インターホンの音が聞こえてきた。

 

「はーい!」

 

誰が来たのか首を傾げながらも、奏夜は玄関へと向かっていき、扉を開けた。

 

すると、そこに立っていたのは……。

 

「エヘヘ……。そーくん、来たよ♪」

 

奏夜の家を訪れたのはなんと今から迎えに行こうと考えていた穂乃果であった。

 

穂乃果は浴衣を着ており、髪型はいつものサイドテールではなく、髪を上に集めてそれをお団子風にまとめていた。

 

「……////」

 

普段とは違う穂乃果の雰囲気にドキッとしたからか、奏夜は頬を赤らめていた。

 

「そーくん……。どうかな?穂乃果……変じゃない?」

 

「変じゃないよ。凄く似合ってる」

 

「本当!?エヘヘ……。嬉しいな♪」

 

穂乃果は奏夜に浴衣姿を褒めてもらって嬉しかったからか、頬を赤らめながら微笑んでいた。

 

そんな穂乃果を色っぽいと感じたからか、奏夜はさらにドキッとしていた。

 

「?そーくん?どうしたの?」

 

「な、なんでもない!」

 

「?」

 

奏夜が何故ここまで慌てふためいているのかわからず、穂乃果は首を傾げていた。

 

「とりあえず、行こうぜ。穂乃果」

 

「うん!」

 

こうして奏夜と穂乃果は一緒に奏夜の家を後にすると、そのまま待ち合わせの場所である駅へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜と穂乃果が待ち合わせの場所である駅に到着したのは、約束の時間の5分前であり、その時には既に全員が揃っていた。

 

「おっ、早かったですね。奏夜、穂乃果」

 

「穂乃果ちゃん、可愛いよ♪」

 

「ありがとう♪ことりちゃんも可愛いよ♪」

 

「本当?嬉しいな♪」

 

ことりと穂乃果は顔を見るなり互いを褒め合っており、互いにその言葉を聞いてニコニコしていた。

 

「それにしても、奏夜もちゃんと浴衣を着てきたのね」

 

「まぁな。俺だけ私服だと、みんなに文句を言われそうって思ったからな」

 

「わかってるじゃないの、奏夜」

 

奏夜は空気を読んで浴衣を選んでおり、その選択に、にこは笑みを浮かべていた。

 

「それにしても……。似合わないわね、あんたの浴衣姿は」

 

「うるせー!自分でもわかってるっての!」

 

真姫は自分が思っていることを正直に言っており、そのことに対して奏夜は唇を尖らせていた。

 

「まぁまぁ……」

 

そんな真姫と奏夜の様子を見た花陽は、なだめながら苦笑いをしていた。

「それにしても、みんな揃って浴衣を着て花火大会だなんて、最高に楽しいにゃ♪」

 

「そうやね。夏休みももうすぐ終わるし、いい思い出になると思うしね♪」

 

凛の言う通り、現在は奏夜を含む全員が浴衣を着ており、そんな状態で花火大会に行くということは、μ'sの絆を深めるだけではなく、夏休みの思い出になることが容易に予想出来た。

 

「それよりもだな……」

 

奏夜は絵里の浴衣姿をまじまじと眺めていた。

 

「なっ、何よ……////」

 

絵里は奏夜に自分の浴衣姿をガン見されているのが恥ずかしくなったのか、頬を赤らめていた。

 

「絵里って浴衣凄く似合ってるよな。なんて言うか、色っぽいし、イイと思うぞ」

 

「そ、そうかしら?////だけど、あなたにそう言ってもらえて、凄く嬉しいわ!」

 

絵里は奏夜に褒めてもらえたことが嬉しかったようで、満面の笑みを浮かべていた。

 

そんな絵里に奏夜はドキッとしており、2人の間にいい雰囲気が流れていた。

 

「む〜……!」

 

そんな様子が面白くなかったからか、穂乃果はぷぅっと頬を膨らませており、奏夜を睨みつけていた。

 

「とっ、とりあえず!もう電車もう来るだろ?早く行こうぜ!」

 

奏夜はこのままだと他のメンバーから追求がありそうだと予想したため、逃げるように駅の中へと入っていった。

 

「あっ!奏夜!待ちなさい!!」

 

そんな奏夜を過ごして慌てて追いかける形で、穂乃果たちも駅の中へと入っていった。

 

奏夜たちは切符を購入し、電車に乗り込むと、秋葉原から二駅離れたところで降りた。

 

この駅から歩いて数分のところから出店が並んでいたのだが、すでに多くの人で賑わっていた。

 

「うわぁ……。凄い人だねぇ……」

 

穂乃果は、人でごった返す会場を見て、驚きを隠せずにいた。

 

「まぁ、ここら辺じゃ1番盛大な花火大会みたいだしな」

 

奏夜は凛からこの花火大会の話を聞いてから携帯で調べてみたのだが、どうやら盛大な花火大会のようであった。

 

「ねぇねぇ!お店がいっぱいだよ!早く行くにゃ♪」

 

様々な出店を見て、目をキラキラと輝かせていた凛は、その出店へと向かっていった。

 

「あっ、凛ちゃん!待ってよぉ〜!!」

 

そんな凛を花陽が追いかけていき、そんな2人の様子を見て、奏夜たちは苦笑いをしていた。

 

「……俺たちも行くか」

 

「そうね。行きましょう!」

 

奏夜たちもゆっくりと凛や花陽を追いかけていき、奏夜たちは様々な出店を楽しむことにした。

 

「あっ!そーや君!リンゴ飴美味しそうだよ!」

 

「まぁ、祭の定番だしな……」

 

奏夜は出店に置かれているリンゴ飴を眺めており、凛は何かを懇願するかのように奏夜を見ていた。

 

「……リンゴ飴くらい自腹で買えよ……」

 

リンゴ飴はそこまで高い訳ではないため、そんなリンゴ飴をおねだりしている凛に、奏夜は呆れていた。

 

「えぇ?だって、他にも食べたいものがいっぱいあるんだもん!!だからお願い、そーや君!」

 

「……ったく……。仕方ないな……」

 

「本当!?そーや君、ありがとにゃ♪」

 

奏夜は渋々凛にリンゴ飴を奢ることになり、それが嬉しかった凛は、奏夜に飛びついていた。

 

「ちょっ、凛!人が多いんだから抱きつくなって!」

 

いきなり凛に抱きつかれて恥ずかしかったからか、奏夜は頬を赤らめていた。

 

「あっ!そーや君、照れてるのぉ?」

 

「そういうんじゃないっての!」

 

凛は奏夜に抱きつきながら奏夜をからかっていたのだが、奏夜はムキになって反論していた。

 

そんな奏夜の様子を見て満足したからか、凛は奏夜から離れていた。

 

「……奏夜」

 

奏夜は海未に呼ばれたため、その方を振り向くのだが、海未はドス黒いオーラを放っており、奏夜は冷や汗をかいていた。

 

「な、何だよ!」

 

「凛だけにリンゴ飴を奢るなど……。考えている訳ではないですよねぇ?」

 

「あ、当たり前だろ?ハハ、最初からみんなに奢るつもりだったさ!」

 

奏夜はその予定はなかったのだが、違うと答えるのが怖かったため、こう答えるしかなかった。

 

《やれやれ……。あからさまな嘘をよくつけるよな》

 

(うるさいよ!仕方ないだろ!?この状況じゃ断れないし)

 

そんな奏夜の嘘をキルバは見通していたのだが、奏夜はその嘘を本当にするしかなかったのである。

 

「リンゴ飴とか久しぶりだなぁ♪」

 

「奏夜、遠慮なくご馳走になるわね」

 

9人分のリンゴ飴を奢ることが決まり、ことりは久しぶりに食べるリンゴ飴にワクワクしており、真姫は遠慮なくリンゴ飴をもらうことにしていた。

 

奏夜は自分の分を含めた10人分のリンゴ飴を購入し、穂乃果たちにリンゴ飴を配っていた。

 

(さて……。今日はいくらお金を使うことになるのやら……)

 

《奏夜。明日からは節約をしないとな》

 

最近は出費が多いため、キルバはそこを心配した発言をしていた。

 

奏夜たちはリンゴ飴を食べながら出店の散策を行っており、次に目を付けたのが射的であった。

 

「……おっ、射的か」

 

「射的ってお祭りっぽくてええよね♪」

 

「せっかくだからやっていきませんか?」

 

希と海未はどうやら射的にノリノリみたいであり、奏夜たちは射的に挑戦することになった。

 

希と海未は後で行うことにして、他のメンバーが射的に挑戦していた。

 

「あーん!上手く出来ないよぉ〜!」

 

「わっ、私も……!」

 

最初にことりと花陽が挑戦したのだが、どうやら上手くいかなかったようである。

 

次に凛とにこが挑戦するのだが……。

 

「駄目だぁ!全然当たらないにゃあ!」

 

「ぐぬぬ……!にこにーの射的は正確無比なハズなのに……」

 

どうやら凛とにこも全然駄目みたいであった。

 

続いて挑戦したのは、穂乃果と絵里であった。

 

「あぁ!惜しい!あとちょっとだったのに!」

 

どうやら穂乃果はあと一息のところで失敗したみたいだった。

 

そして絵里は、全ての弾を使い切ったところで、どうにか景品を取ることが出来た。

 

「ハラショー♪やったわ♪」

 

景品を取ることに成功し、絵里はまるで子供のようにはしゃいでいた。

 

「おぉ!凄いよ!絵里ちゃん!」

 

「エヘヘ……。射的って難しいけれど、凄く楽しいのね♪」

 

どうやら景品を取ることに成功したことで気を良くしたようであり、絵里は嬉しそうにしていた。

 

続いて挑戦したのは、射的をやりたいと言っていた海未と希であった。

 

最初に挑戦したのは希だったのだが……。

 

「……よし!ここや!」

 

失敗しながら徐々に狙いを調整していき、最後の1発はその甲斐あってか狙いは完璧だった。

 

こうして、希もまた、景品をゲットすることに成功したのであった。

 

「お!希ちゃんも凄いね!」

 

「エヘヘ……。ウチのスピリチュアルな射的、完璧やったろ?」

 

希は徐々に狙いを定めて確実に目標を捉える様に穂乃果は興奮しており、希はドヤ顔をしていた。

 

こうして希が成功する中、続いて挑戦したのは、弓道部もしている海未であった。

 

「……」

 

持っているのは弓ではなく射的用の銃なのだが、海未はまるでこれから矢を放つかのように集中し、狙いを定めていた。

 

そして……。

 

(……ラブアローシュート!)

 

これを他のメンバーや奏夜に聞かれるのは恥ずかしかったため、海未は目を見開いて心の声でこう叫ぶと、海未の狙いは正確であり、1発で景品を獲得していた。

 

「……おぉ!凄いよ!海未ちゃん!」

 

「ハラショー!さすがは弓道部ね、海未は」

 

「ふふ……。これくらいは当然です!」

 

海未は自分の完璧な狙いに満足しているからか、「ふんす!」と言いながらドヤ顔をしていた。

 

「さて……まだまだ行きますよ!」

 

これで勢いづいた海未は、残りの弾を使うのだが、全て狙いが完璧であり、弾の数だけ景品を獲得したのであった。

 

「す、すげぇな海未……」

 

ここまで海未の狙いが完璧だと思わなかったからか、奏夜は唖然としていた。

 

「ふふん……これくらいは当然ですよ」

 

完璧な狙いに気を良くしたからか、海未はドヤ顔をしていた。

 

「……そのドヤ顔がなんかムカつくな……」

 

奏夜は海未のドヤ顔に少しばかりイラっとしていた。

 

「……奏夜?何か言いましたか?」

 

このように訪ねた海未は、何故か満面の笑みであった。

 

「イエ、ナニモ」

 

奏夜は何故か片言で誤魔化すのだが、海未は満面の笑みのままで奏夜の足を思い切り踏んでいた。

 

「いってぇ!!」

 

海未の踏みつけは思ったよりも効果があったようであり、奏夜は本気で痛がっていた。

 

「さぁ、奏夜は放っておくとして、次は真姫の番ですよ?」

 

「えっ、えぇ……」

 

奏夜と海未のやり取りに真姫は少しだけ引きながらも、射的を始めていた。

 

真姫も狙い自体は良かったのだが、力が足りなかったからか、命中しても、的が落ちることはなかった。

 

「むー……!!もうちょっとだったのに!!」

 

あと一息で景品をゲット出来そうだったため、悔しかったからか、真姫はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「……いてて……。よし、今度は俺だ!」

 

海未に足を踏まれて痛そうにしていた奏夜であったが、気を取り直して射的を始めることにした。

 

しかし……。

 

 

 

 

 

 

 

スカッ!スカッ!

 

 

 

 

 

 

「あ、あれ?おかしいな……こんなハズじゃ……」

 

ここまでことごとく狙いを外すとは思っていなかったからか、奏夜の表情は引きつっていた。

 

「これは……」

 

「なんていうか……」

 

「奏夜。あんた下手くそね」

 

「私たちの中で一番下手くそなんじゃないの?」

 

ことりと花陽がフォローに困る中、真姫とにこは容赦のない発言をしていた。

 

「うるせー!たまたまだよ!たまたま!見てろよ!」

 

真姫とにこの容赦のない発言に奏夜は唇を尖らせており、最後の1発に挑もうとしていた。

 

奏夜は射的用の銃を構えて狙いを定めるのだが……。

 

「奏夜。そんな適当な構えではいけませんよ」

 

海未は弓道をやっているため、奏夜の構えのダメなところをすぐに見極めていた。

 

「このように脇を締めてですね……」

 

海未は奏夜に身を寄せると、構え方のレクチャーを丁寧に行っていた。

 

「……こうするのです。わかりましたか?」

 

「おっ、おう……////」

 

海未がここまで積極的な動きを見せるとは思わなかったからか、奏夜は顔を真っ赤にしており、返事も生返事になってしまっていた。

 

それを見ていた穂乃果たちは……。

 

「……海未、さりげなく奏夜とスキンシップだなんて、やるわね」

 

「ふふっ、海未ちゃんってああいうの1番苦手そうやのに、大胆やねぇ♪」

 

「なるほど……。海未ちゃん、やりますね……!」

 

普段は奥手な海未が見せたあまりに大胆な行動に、絵里、希、花陽の3人は驚いていた。

 

一方海未とは長い付き合いである穂乃果とことりは、相手が奏夜だからこそ、このような大胆な行動が出来たのだと予想していた。

 

しかし……。

 

「「……なんか面白くないなぁ……」」

 

今度は奏夜と海未が良い雰囲気になっており、それが面白くなかったからか、穂乃果とことりはぷぅっと頬を膨らませていた。

 

奏夜は海未のレクチャーの甲斐があってか、最後の1発は見事に命中し、景品を獲得することが出来た。

 

「よっしゃ!!やったぜ!海未!」

 

「はい!お見事です!奏夜!」

 

景品を取れたことに奏夜は喜んでおり、海未とハイタッチをしていた。

 

そのハイタッチが終わったところで、海未はどうやら一気に恥ずかしくなったみたいで……。

 

「あっ……。あの、奏夜……。すいません。あんなにくっついてしまって……」

 

奏夜が弾を放った時には既に奏夜から離れていたのだが、奏夜にくっついていたのは事実であり、海未は奏夜が嫌だったらと考えてしまったため、そのことを謝罪していた。

 

「気にするなって。ちょっと照れたけど、嫌ではなかったからさ」

 

「そうですか……。それなら良かったです!」

 

奏夜が嫌ではないということがわかり、海未の表情がぱぁっと明るくなっていた。

 

「「……」」

 

やはり奏夜と海未はいい雰囲気になっており、そのことが気に入らなかった穂乃果とことりは……。

 

 

 

 

ガン!!

 

 

 

 

 

「いってぇ!」

 

奏夜の足を思い切り踏んでおり、奏夜は再び訪れた激痛に苦しんでいた。

 

「「ふん!」」

 

穂乃果とことりは膨れっ面のまま、そっぽを向いていた。

 

《奏夜。ハッキリ言って自業自得だからな。何度も踏まれてるのは》

 

(げ、解せぬ……)

 

キルバは奏夜が何故ここまで何度も足を踏まれているのかを理解しており、奏夜はそのことに納得していなかった。

 

こうして射的を終えた奏夜たちは、他の出店も見て回ることにしていた。

 

奏夜たちは目に留まった出店で足を止めつつ、そこの商品を購入し、食べながら移動をしていた。

 

そんな中、ことりが目を留めたのは、なんとお面屋さんであった。

 

「ねぇねぇ、そーくん!見て見て!色々なお面があって面白いね!」

 

お面屋さんには今流行りのヒーローのお面や、魔法少女アニメの主人公のお面。さらには動物のお面など、バラエティに富んだ種類があったため、ことりはキラキラと目を輝かせていた。

 

そんな中、ことりは自分用にお面を買いたいと思ったのか、鳥のお面を購入していた。

 

「ねぇねぇ、そーくん!見て見て!チュンチュン♪」

 

「アハハ……。ことりっぽくて良いと思うぞ」

 

「本当!?嬉しいな」

 

奏夜はことりのことを素直に褒めており、ことりはそれが何よりも嬉しかった。

 

そんな中、ことりは奏夜につけて欲しいと思っているからか、さらにとあるお面を購入していた。

 

それは……。

 

「……ひょっとこ?」

 

お祭りのお面屋さんでよく見かけるお面の1つであるひょっとこのお面であった。

 

「うん!そーくんにつけてほしいと思って買っちゃった!駄目かな?」

 

「べ、別にいいけど……」

 

奏夜はことりからひょっとこのお面を受け取ると、そのお面を実際につけてみた。

 

すると、それがおかしかったからか、穂乃果たちは揃って爆笑していた。

 

「わ、笑うなよ!」

 

「アハハ……。ごめんごめん」

 

ことりはみんなを代表して奏夜に謝っていた。

 

「まぁ、別にいいけどさ……」

 

奏夜は唇を尖らせながらもひょっとこのお面を頭の上にセットしており、ことりも同じようにしていた。

 

こうしてお面屋さんを後にした奏夜たちはさらに出店を見て回っていた。

 

出店を見て回りながら色々な食べ物を楽しんだ奏夜たちは満足したからか、出店を回るのは一度中断することにしていた。

 

「さてと……。それじゃあ、花火を見る場所を確保しましょう。人が多いから早くしないと場所がなくなってしまうわ」

 

このように絵里が仕切っており、奏夜たちは今日の本来の目的である花火を見に行くため移動をしようとした。

 

しかし、タイミングが悪かったからか、人混みの波に飲まれてしまった。

 

「ちょっ!?人が多すぎだろ!!」

 

《花火が始まるのも近いからなのか?ずいぶんと人が増えたな》

 

(感心してる場合かよ!!これじゃ穂乃果たちとはぐれるだろうが!)

 

奏夜は人混みの波に飲まれてしまったせいで、徐々に穂乃果たちの姿が遠ざかってしまった。

 

そして、その人混みがなくなると、そこに穂乃果たちの姿はなく、奏夜が1人ポツンと取り残されてしまった。

 

「あれ?……みんなは?」

 

《どうやら、さっきの人混みのせいではぐれてしまったみたいだな》

 

(だったら、携帯で連絡を……)

 

奏夜は穂乃果たちと連絡を取るために携帯を取り出そうとするのだが……。

 

(あれ?あれ!?)

 

どこを探しても携帯が見当たらず、奏夜は焦りを見せていた。

 

《おい、奏夜。お前、ギリギリまで私服にするか浴衣にするか迷っていただろ?もしかしたら、ズボンのポケットに携帯を入れっぱなしにしていたんじゃないのか?》

 

(……あっ!そうだった!)

 

奏夜は家に携帯を置きっぱなしにしていたことを思い出し、顔が真っ青になっていた。

 

(仕方ない……。とりあえずみんなを探すか……)

 

このままここに留まっていては、1人で花火を見る羽目になってしまうため、奏夜は穂乃果たちを探すことにした。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

「……参ったな……。みんなとはぐれちゃったよ……」

 

穂乃果もまた、人混みの波に飲まれてしまったせいで、奏夜だけではなく、他のメンバーともはぐれてしまっていた。

 

しかも、どうにか人混みを避けられたのは、人通りの少ない場所であったのである。

 

「早くみんなと合流しないと、花火が始まっちゃうよ……」

 

穂乃果は急いで奏夜たちと合流すべく移動を開始しようとしていたのだが……。

 

「……あれ?μ'sの高坂穂乃果じゃね?」

 

「ねぇねぇ、君ってμ'sの高坂穂乃果だよね?」

 

チャラそうな男性2人組が穂乃果の姿を見つけるなり、声をかけてきた。

 

「は、はい……。そうですけど……」

 

「俺たち、ファンなんだよねぇ。こんなところで会えるとは思わなかったよ」

 

「あっ、ありがとうございます……」

 

穂乃果は奏夜以外の男性との接し方があまりわからないからか、少しだけよそよそしい返事をしていた。

 

「ねぇねぇ。他のメンバーと来てるの?」

 

「は、はい……」

 

「ふーん。そうなんだ」

 

「ねぇねぇ。俺らと一緒に回らない?μ'sのみんなと一緒も楽しいと思うけど、それより楽しいと思うからさ!」

 

この男性2人組は、穂乃果をμ'sのメンバーと知っていて、ナンパをしようとしていた。

 

「あっ、いえ……。私、早くみんなと合流したいので。これで……」

 

これがナンパであることを察した穂乃果は、2人組の誘いを断り、その場を離れようとした。

 

しかし……。

 

「おい、ちょっと待てよ」

 

「こっちが下手に出てるからって付け上がりやがって……」

 

すぐさまその場を離れようとする穂乃果が面白くなかったからか、2人は穂乃果の腕を掴みんでいた。

 

「いっ、嫌!やめてください!」

 

穂乃果は声をあげて抵抗はするが、そんな2人の男の様相に、穂乃果は怯えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

穂乃果が2人組にナンパされそうになっているのと同時刻、奏夜は穂乃果がいるエリアの近くを捜索していた。

 

「……やっぱりいないか……」

 

奏夜は穂乃果たちを探すのだが、見つからず、焦りを見せていた。

 

(変な男にナンパとかされてなきゃいいけど……)

 

奏夜はそんなことを考えながら移動をしていた。

 

すると……。

 

「いっ、嫌!やめてください!」

 

穂乃果の声が聞こえてきたので奏夜はその方を向くと、2人組の男に腕を掴まれて抵抗している穂乃果を見つけた。

 

奏夜の嫌な予感が的中してしまったのである。

 

「!穂乃果!それに、あいつら……!」

 

穂乃果を無理やりナンパをしようとしている2人組の男に怒りを覚えた奏夜はそのまま向かっていこうとしたのだが……。

 

『……奏夜、ちょっと待て』

 

「キルバ、止めるな。穂乃果がピンチなんだぞ」

 

『そうじゃない。ロデルも言っていたろう?お前はμ'sのマネージャーとして顔が知られてるから何があったら慎重に行動しろと』

 

キルバは奏夜の行動を止める訳ではなく、冷静さを欠いた奏夜をなだめるためにこのようなことを言っていたのである。

 

『そんなお前が迂闊なことをして、マネージャーが暴力を振るったなんて話が拡散したらμ'sの立場も危うくなる。ラブライブ出場は無理だろな』

 

キルバが指摘した通り、奏夜はμ'sのマネージャーとして多少は顔が知られている。

 

そんな奏夜が2人組を返り討ちにするのは簡単だが、そのあと、μ'sのマネージャーが暴力を振るったと根も葉もない話を拡散されてしまったら、せっかくラブライブ出場目指して頑張っている穂乃果たちの努力を水の泡にしてしまう。

 

μ'sのマネージャーである奏夜としては、それは避けたいと思うところであった。

 

「じゃあ、どうすればいいんだよ……。って、そうだ!」

 

どうやら奏夜には良い策が思いついたようであり、それを実行することにした。

 

「……なぁ、これ以上騒がれたらマズイよな」

 

「そうだな。祭りなんてどうでもいいから、いつものあそこに連れ込むか」

 

「そうだな。思い切り楽しむとしようぜ」

 

どうやら2人組はこのまま穂乃果をどこかへ連れ込もうとしており、自分がこれから何かをされると察した穂乃果は顔を真っ青にしていた。

 

2人組が穂乃果をどこかへと引っ張ろうとするのだが、それより前に、どこからか紙くずのようなものが飛んできて、それが2人に当たっていた。

 

「いたっ!誰だ!ナメた真似した奴は!」

 

男の1人は紙くずのようなものが飛んできた方向を見ると、そこにいたのは、浴衣を着ており、妙なコートを手にした男性なのだが、何故かひょっとこのお面を顔につけていた。

 

そう。奏夜が考えた策というのは、ひょっとこのお面を被って正体を隠し、そのまま2人組を撃退するというものであった。

 

奏夜の身体能力があれば、お面を外されるような失態を起こす可能性は低いため、この策を実行したのである。

 

「なんだてめぇ、妙なお面しやがって」

 

奏夜のつけているひょっとこのお面を、2人は訝しげに見ていた。

 

穂乃果はこのひょっとこのお面に見覚えがあるようであり……。

 

「……あっ!そーく……」

 

穂乃果がそーくんと言おうとするのだが、奏夜は無言で人差し指を口に当てていた。

 

皆まで言うなと言うことを伝えるためである。

 

「なんだよ、だんまりかよ……。引っ込んでろ!」

 

奏夜がだんまりなことが気に入らなかったからか、男の1人は穂乃果の手を離すと、そのまま奏夜に向かっていった。

 

ホラーと戦っている奏夜が男の動きを捉えられない訳もなく、男が殴りかかろうとする前に奏夜は足を出し、男を転ばしていた。

 

「てめぇ!このやろう!」

 

もう1人の男も、穂乃果の手を離して奏夜に向かっていくが、奏夜はまるで合気道のような動きで男を吹き飛ばしていた。

 

「「こ、こいつ……!」」

 

2人組はゆっくりと立ち上がり、奏夜を睨みつけていた。

 

(やれやれ……。仕方ない。キルバ、今から俺が言うことをそのまま言ってくれ)

 

《なるほどな。お前はお面をしてるから俺が喋ってもバレないという訳か》

 

奏夜は現在お面で顔を隠しているため、ここでキルバが喋ったとしても、バレることはないため、奏夜はキルバに何かを言わせようとしていた。

 

奏夜がテレパシーでキルバに言ってもらいたい内容を話すと……。

 

『……今のはほんのご挨拶だ。これ以上この子にちょっかいをかけようと言うのなら次は容赦はしない』

 

魔導輪特有の機械じみた声は、2人組を怖がらせるには効果は抜群であった。

 

「ひっ!?な、なんだよこいつ!」

 

「お、覚えてろよ……!」

 

奏夜の圧倒的な存在感に怯えた2人組はおきまりの捨て台詞を吐くと、逃げるようにその場から立ち去っていった。

 

「やれやれ……。顔を隠してる奴に覚えてろも何もないだろうが……」

 

2人組の捨て台詞に奏夜は呆れながら、お面を外すと、そのまま穂乃果に近付いていった。

 

「そーくん……」

 

「穂乃果、大丈夫か?」

 

「う、うん。そーくんが守ってくれたから……」

 

「俺がついてながら怖い思いをさせてごめんな」

 

奏夜は穂乃果の発見が遅かったからこそ、2人組のナンパを許してしまったため、そのことを謝罪していた。

 

「大丈夫だよ!ホラーと比べたら……。全然……怖くなんか……」

 

ホラーと比べたら先ほどの2人組は怖くないというのはその通りではあるのだが、奏夜は穂乃果が強がっていることを察していた。

 

そのため、奏夜は穂乃果の頭をポンポンと優しく撫でていた。

 

「え?」

 

「穂乃果。無理するなよ。本当は怖かったよな……」

 

奏夜は優しい声でささやき、穂乃果を安心させようとしていた。

 

そんな奏夜の声に安心した穂乃果の瞳からは涙が溢れてきた。

 

そして、穂乃果は奏夜に抱きつくと、堰が切れたかのように泣いていた。

 

「怖かった!怖かったよぉ!!」

 

「ごめんな……。でも、大丈夫だからな」

 

奏夜は優しい表情で穂乃果の頭を撫でており、優しい声でなだめていた。

 

この状態がしばらく続いており、穂乃果が落ち着くまで、奏夜はずっと穂乃果の頭を撫でていたのであった。

 

「……ご、ごめんね、そーくん。浴衣がちょっと濡れちゃった……」

 

泣きやんだ穂乃果は、奏夜から離れると、申し訳なさそうにしていた。

 

「いいっていいって。これくらい」

 

しかし、奏夜は気にしてはいないようであり、おどけながらこう答えていた。

 

「それよりも、もうそろそろ花火が始まる時間だろ?早いとこみんなを探そうぜ」

 

そうこうしているうちに花火開始の時間が迫っていたため、奏夜は移動を開始しようとした。

 

しかし、穂乃果は奏夜の浴衣の袖をクイッと引っ張り、それを止めていた。

 

「?穂乃果、どうした?」

 

「あのね……。手、繋いでも……いいかな?」

 

「あぁ、構わんよ。ほれ」

 

どうやら穂乃果は奏夜と手を繋ぎたいようであり、奏夜は自分から穂乃果の手を握っていた。

 

「ふぇ?……あっ、ありがと……」

 

奏夜から手を握ってくれるとは思わなかったからか、穂乃果は頬を赤らめており、恥ずかしそうにしながらも奏夜に礼を言っていた。

 

こうして2人は他のメンバーを探すために移動を開始するのだが、どうやら穂乃果の携帯には連絡が入っていたようで、他のメンバーは先に場所の確保をしていたようであった。

 

それを頼りに2人は移動をして、どうにかみんなと合流することが出来た。

 

「……あっ、奏夜!穂乃果!」

 

「まったく……。姿が見えなくなったから心配したわよ。2人……と……も……」

 

にこは奏夜と穂乃果の姿を見て固まっていたのだが、それは2人が手を繋いでいたからである。

 

「ふ、2人とも、何で手を繋いでるのぉ!?」

 

「「あっ、これは!」」

 

奏夜と穂乃果は慌てて手を離していたのだが、他のメンバーはジト目で奏夜を睨みつけていた。

 

「そーくん、どういうことなのかなぁ?」

 

ことりは笑顔ながらもドス黒いオーラを放っており、奏夜を睨みつけていた。

 

「あっ……いや……これは……その……」

 

「これは詳しく話を聞いた方が良さそうねぇ」

 

「奏夜……。覚悟は出来ていますか?」

 

このままではお話という名のお仕置きを受けてしまう。

 

そう考えた奏夜の顔は真っ青になっていた。

 

どのようにこの場を切り抜けるか考えていたその時、花火大会開始の時間になったからか、大きな花火が打ちあがっていた。

 

「あ!始まったにゃ!!」

 

「綺麗……♪」

 

花火が始まったことにより、みんなの視線は花火の方に移っており、お話という名のお仕置きは有耶無耶になっていた。

 

そのことに奏夜は安堵しながら花火を見ていた。

 

「……ねぇ、そーくん」

 

「ん?何だ?」

 

花火が始まって間もなく、穂乃果が奏夜に話しかけていた。

 

「今日はありがとね……。穂乃果のことを守ってくれて」

 

「当然だろ?俺はみんなを守るって誓ったんだ。この言葉を違えるつもりはないよ」

 

「そーくんはいつも私たちのことを守ってくれてるんだもんね……。だから……」

 

穂乃果はゆっくりと奏夜に近付いていった。

 

そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チュッ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んな!?////」

 

穂乃果は奏夜の頬にキスをしており、あまりに突然な出来事に、奏夜の顔は真っ赤になっていた。

 

「……いつも私たちを守ってくれてありがとね♪私たちのナイトさん♪」

 

穂乃果は魔戒騎士である奏夜をナイトと称しており、少しだけ頬を赤らめながらも満面の笑みを浮かべていた。

 

そんな穂乃果を見て奏夜はドキッとしたからか、奏夜の顔は真っ赤になっていた。

 

(……俺、何でこんなにドキドキしてるんだ?もしかして、俺は……。いや、まさかな……)

 

奏夜は今自分が抱いているこの感情の正体を察してはいたのだが、その可能性を否定し、そんな気持ちに蓋をしようとしていた。

 

穂乃果は奏夜の頬にキスをした後、花火に見入っており、奏夜はそんな穂乃果の横顔を見ながら自分がどんな気持ちを抱いているのかをずっと考えていた。

 

こうして、大きな思い出となった花火大会は幕を下ろし、奏夜たちは電車に揺られて秋葉原に帰ってきた。

 

秋葉原に着いた奏夜たちはそのまま解散し、奏夜もまた、帰路についていた。

 

夏休みももうすぐ終わり、二学期が始まろうとしていた。

 

二学期が始まるということは、ラブライブ出場グループが決まる日も近くなるということだ。

 

奏夜たちにとって、ここからが正念場となるのであった……。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『ついに二学期が始まったか。これからは色々頑張っていかなきゃいけないんだがな……。次回、「教師」。まさか、あの男が教師とはな……』

 

 




穂乃果たちと過ごす夏祭り凄く楽しそうですね。

メンバーの浴衣姿を独占出来る奏夜はかなり羨ましいです(笑)

穂乃果がチャラ男にナンパされるというベタな展開もありましたが、そんなイベントがあったからこそ、穂乃果にもフラグが立ったと思います。

奏夜が羨ましすぎるぞ!コンチクショウ!(笑)

さて、次回は教師とある通り、とあるキャラクターが教師として登場します。

それは一体誰なのか?

この話を投稿する前に、FF14の追加ディスクである「紅蓮のリベレーター」の発売記念の番外編を投稿しようと思っています。

現在頑張って制作中です。

FF14を知らない人でも楽しめるような内容にはしたいと思っていますので、ご期待ください!

それでは、次回をお楽しみに!



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紅蓮のリベレーター発売記念作品 「光の騎士と光の女神たち 前編」

お待たせしました!今回は番外編となります。

今日はついにFF14の追加ディスクである「紅蓮のリベレーター」の発売日です!

すでにアーリーアクセスは始まっていて、先に始めてるプレイヤーはけっこういましたが、僕は今日から始めるので楽しみにしています。

今回はそんな紅蓮のリベレーターの発売記念の番外編を投稿しました。

FF14の話になってしまうため、わからない人は多いかと思いますが、出来るだけFF14未プレイの人でも楽しめるようにしようとは思って頑張りました。

ですが、やはりわかりにくいところはあるかもなので、そこはごめんなさい。

それでは、番外編をどうぞ!




……ここは秋葉原ではないどこか。

 

この地は秋葉原のような都市ではなく、まるで荒野のような土地であった。

 

そんな場所でとあることが起きていた。

 

それは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くん!そーくん!!起きて!!」

 

「ん?んぁ……?」

 

奏夜は穂乃果に声をかけられたため、目を開けてゆっくりと起き上がっていた。

 

すると……。

 

「ほ、穂乃果!?何だよお前!その格好は!」

 

奏夜は私服でも音ノ木坂学院の制服でもない格好をしている穂乃果を見て驚いていた。

 

何故か穂乃果は騎士のような鎧を身につけていたからである。

 

「いやぁ、私も気が付いたらこんな格好をしてたからびっくりしたよ!だってまるでゲームのキャラクターみたいなんだもん!」

 

どうやら穂乃果自身も騎士のような格好をしていることに驚いているみたいだった。

 

すると……。

 

「奏夜。目が覚めたみたいですね」

 

「良かったぁ♪」

 

続いて、海未とことりが奏夜の前に現れたのだが……。

 

「う、海未!?ことり!?お前らもか!?」

 

どうやら海未とことりもいつもとは違う格好をしており、奏夜は再び驚いていた。

 

「私、何でこのような格好をしているのでしょう?それに、弓も……」

 

「ことりも……。この本、どうやって使うんだろう?」

 

「穂乃果は剣と盾だよ!まるで魔戒騎士みたい!」

 

海未はどうやら弓使いの格好をしており、弓を持っていることに疑問を感じていた。

 

そしてことりは魔法使いのような格好であり、何故か本を持っていた。

 

穂乃果は騎士のような鎧の他に、剣と盾を装備していた。

 

「なぁ、他のみんなはどうしてるんだ?」

 

「あぁ、他のみんななら……」

 

穂乃果はとある方向を指差すと、そこには3年生組と1年生組の姿があった。

 

しかし、6人もまた、いつもとは違うまるでファンタジーのような格好をしていたのである。

 

「アハハ……。お前らもそうなのか……」

 

「うん!なんだかよくわからへんけど、カードを使うなんてウチにピッタリやろ?」

 

希もまた、魔法使いのような格好であり、謎の球体にカードのようなものを持っていた。

 

「この格好はよくわからないけれど、勉強が出来る私にはこの本はピッタリなのかもしれないわね」

 

真姫も同じように魔法使いのような格好であり、ことりと似たような本を持っていた。

 

「にっこにっこに〜♪みんなのアイドルにこにーは、みんなを笑顔にする、魔法使い始めましたぁ♪」

 

にこはどうやら正真正銘の魔法使いの格好であり、魔法使いが使う杖のようなものを持っていた。

 

「な、何で私、こんな格好をしてるのぉ……?」

 

花陽もにこと似た格好をしており、杖はにこのものと異なっていた。

 

「かよちん、可愛いにゃあ♪」

 

そして凛は、戦士のような格好をしていたのだが、武器らしいものは装備していなかった。

 

「……ウフフ♪賢い可愛いエリーチカじゃなくて、賢い格好いいエリーチカに変更しなきゃダメかしら?」

 

絵里は騎士のような格好をしており、何故か槍のようなものを持っていた。

 

『……それにしても、穂乃果たちがおかしい格好をしてるというのに、お前はいつも通りなんだな、奏夜』

 

キルバの指摘通り、穂乃果たちはいつもとは違う格好をしているのに対して、奏夜はいつもと同じ格好をしていた。

 

「確かにそうだよな……。どうやら魔戒騎士としての力は失ってないみたいなんだよ」

 

『どうやらそうみたいだな』

 

穂乃果たちに何かしらの変化が起こっている中、奏夜には変化は起こっではいなかった。

 

「なんでそーくんだけそのままなんだろう?」

 

「それに、私たちのこの格好はいったい?」

 

自分たちが何故ゲームのキャラクターのような格好をしているのかも疑問だったが、奏夜だけがそのままだということも疑問であった。

 

「それだけじゃないわ」

 

「そうやねぇ。ここは明らかに秋葉原やないやろ?ウチらはなんでこんなところにいるんやろう?」

 

奏夜たちがいた秋葉原とこの地は明らかに違っており、自分たちが何故このようなところにいるのか疑問だった。

 

「確か俺たちは穂乃果の家にいたんだよな?」

 

「そうそう!穂乃果が面白いゲームがあるって話をしていて、みんなで見に来たのよね?」

 

「アハハ……。とは言っても最近始めたばかりなんだけど……」

 

奏夜たちはどうやら穂乃果の家にいたみたいであった。

 

穂乃果がハマったゲームを見に来たためである。

 

「それって確か、ファイナルファンタジーだっけ?」

 

「そう!ファイナルファンタジー14だよ!ヒデコたちに勧められて、最近始めたんだよね」

 

「まさかとは思うけど、ここって……」

 

「いやいやいや!ゲームの世界に来てるとか、あり得ないだろ!」

 

穂乃果が最近になってオンラインゲームであるFF14を始めたと知り、真姫はとある仮説を立てようとしていたのだが、奏夜はその仮説を否定していた。

 

「だけど、穂乃果の家に行って穂乃果がそのゲームをやろうとしてたのは覚えてるけど、それ以降の記憶が曖昧なのよねぇ」

 

「……!確かにそうだけど……!」

 

絵里の言葉通り、どうやら奏夜たちの記憶は一部のみ失っているようであり、その事実が真姫の仮説を確信に変えつつあった。

 

そんな事実に奏夜たちが戸惑っていたその時だった。

 

「……来ましたか。光の騎士と光の女神たちよ。私はあなた方が来るのを待っていました」

 

そう言いながら現れたのは、フード付きのコートを着ており、顔には妙なレンズのようなものをつけている長身の男だった。

 

「……何者だ!」

 

奏夜は現れた男に警戒をしており、魔戒剣を抜こうとしていた。

 

「待ってください。私はあなた方の敵ではありません」

 

奏夜が男に対して敵視を向けていることに対して、男は焦りを見せていた。

 

『おい、奏夜。どうやらこの男からは敵意を感じないぞ』

 

「えっ?そうなのか?」

 

キルバの言葉を聞いて、奏夜は魔戒剣を抜くのをやめていた。

 

「その妙な指輪の言う通りです。私はあなたたちの敵ではないのです」

 

「あの、あなたは……?」

 

「私の名はウリエンジェ。この神々に愛された地、「エオルゼア」の救済のために動いております」

 

「エオルゼア……。それがこの世界の名前なのですね?」

 

男は自分のことをウリエンジェと名乗っており、エオルゼアというのは、今奏夜たちがいるこの世界の総称のようであった。

 

「あなた方はこのエオルゼアの人間ではない。ですのでまずは説明しましょう。このエオルゼアについてのことを……」

 

ウリエンジェはこうして語り始めた。

 

この世界……エオルゼアについての話を。

 

このエオルゼアという世界は、エーテルと呼ばれる不思議な力が存在しており、その塊であるクリスタルが存在している。

 

この世界は争いが絶えない世界のようであり、この地の東方から「ガレマール帝国」と呼ばれる国の侵攻が行われていたり、蛮族と呼ばれる者たちが「蛮神」と呼ばれる荒ぶる神を呼びおろしていたりしていた。

 

そんな脅威が多い中、ウリエンジェはそんなエオルゼアの救済のために動いており、志を共にした組織である「暁の血盟」に所属して活動していた。

 

「なるほど、帝国に蛮神か……」

 

『ずいぶんとキナ臭い話ではあるがな』

 

「この世界のことはわかりました。ですが、何故私たちがこの世界に呼ばれたのですか?」

 

「そうだよねぇ。魔戒騎士のそーくんはともかく、私たちは何の力もない一般人なのに……」

 

魔戒騎士としてホラーを討伐している奏夜ならばこの世界に呼ばれたと言っても納得なのだが、スクールアイドルではあるが何の力もない穂乃果たちまでこの世界に呼ばれたというのは疑問であった。

 

「いえ。あなた方には超える力と呼ばれる不思議な力を秘めています。我らに力を貸してくれている冒険者と、我が盟主と同じ力を……」

 

「超える力……?」

 

「別に凛たちはそんな凄い力を持ってるなんて思えないけどなぁ」

 

「!もしかして、この世界に来た影響もあるんじゃないの?」

 

「なるほどな。だとしたら納得ではあるが……」

 

「あなた方が元の世界に戻れるかはわかりませんが、私たちはそのお手伝いをさせてもらいますよ」

 

「……そうしてくれると助かる」

 

どうやらウリエンジェは奏夜たちの力を借りたいのもあるのだが、奏夜たちが元の世界に戻れるよう手助けもしてくれるみたいであった。

 

「そうであれば我が暁の血盟のアジトへと案内しましょう。すぐそこにチョコボキャリッジを用意しております」

 

「チョコボ?」

 

聞いたことのない単語に奏夜たちは首を傾げていた。

 

「案内します。どうぞこちらへ」

 

ウリエンジェがどこかへと移動を開始したため、奏夜たちはそれについていった。

 

すると、そこには一台の馬車のような乗り物が置かれており、それを牽引しているのは見たこともない生物だった。

 

「クエッ♪クエッ♪」

 

「か……可愛い♪」

 

この生物がどうやらチョコボというみたいなのだが、そんなチョコボを見たことりはキラキラと目を輝かせていた。

 

「本当ですね♪」

 

どうやら花陽もことりと同じことを考えていたようであり、ことりと花陽は2匹のチョコボと戯れていた。

 

「「クエッ♪クエッ♪」」

 

どうやら2匹のチョコボはことりと花陽に撫でられたりするのが嬉しかったようであり、2人に甘えていた。

 

「なるほど、これがチョコボっていうのか……」

 

「まるで、鳥と馬が合わさったかのような生き物ですね……」

 

奏夜と海未は、チョコボをまじまじと眺めながらこのような分析をしていた。

 

ことりと花陽がしばらくチョコボと戯れた後、奏夜たちとウリエンジェはチョコボキャリッジに乗り込んだ。

 

「……さぁ、行きましょう。まずはこの先にある「ホライズン」という町を越え、その先にある「ベスパーベイ」と呼ばれる港町に向かいます。その街に我が暁の血盟のアジトがあります」

 

こうウリエンジェが暁の血盟のアジトへの道のりを説明したところでチョコボキャリッジは動き始めた。

 

チョコボキャリッジは奏夜たちの時代にある車や電車よりも明らかに速度は遅かったものの、見たことのない景色を楽しんでいたため、そこまで苦ではなかった。

 

こうして間もなくしてホライズンに到着し、奏夜たちは秋葉原の街とは明らかに違う風景を眺めていた。

 

すると、穂乃果はとあることが気になっていた。

 

「あの……。この街では小さい子も働いていますけど、子供が働くのも当然なんですか?」

 

穂乃果は子供並に小さい人が普通に働いているのを見て、それが疑問であった。

 

「このエオルゼアには様々な人種が存在しています。おそらくあなたが見たのは「ララフェル」と呼ばれる種族でしょうね」

 

「ララフェル……」

 

「それにしても、この世界は驚くことばかりだな」

 

『よく言うよ。お前は魔戒騎士として色々あり得ないことをしてただろう?』

 

「確かにそうだけど……」

 

「あなた方の話しているその魔戒騎士というのは何なのですか?」

 

間もなくホライズンを出るというタイミングで、ウリエンジェがこのような疑問をぶつけていた。

 

『この世界にはホラーはいないみたいだし、話してもいいんじゃないか?』

 

「そうだな。あんたには話しておくよ。魔戒騎士やホラーの話を」

 

まだ目的地であるベスパーベイに到着するまでは時間があるため、奏夜は語り始めた。

 

奏夜たちの世界には、陰我という闇をゲートとして現れ、人間を喰らうホラーと呼ばれる魔獣が存在し、そんなホラーを討滅するのが奏夜のような魔戒騎士であるという話をしていた。

 

「なるほど……。人を喰らう魔獣と、それを狩る魔戒騎士ですか……。あなたたちの世界にも、厄介な魔獣が存在するのですね……」

 

「まぁな。だからこそ、俺は戦っているんだ。守りし者として……」

 

「守りし者……ですか……」

 

どうやらウリエンジェは、奏夜の言っていた守りし者という言葉に反応していた。

 

「……もしかして、あの街が?」

 

トンネルのようなものを越えると、街のような光景が見えてきた。

 

「そうです。ここが「ベスパーベイ」。この町に私たち暁の血盟のアジトがあります」

 

こうして奏夜たちはベスパーベイと呼ばれる町に到着して、奏夜たちはチョコボキャリッジから降りていった。

 

「ここまで連れてきてくれてありがとね♪」

 

「凄く楽しかったよ♪」

 

ことりと花陽は、奏夜たちをベスパーベイまで運んでくれた2匹のチョコボを労い、チョコボの頭を撫でていた。

 

「「クエッ♪」」

 

どうやら花陽とことりに撫でられたことが嬉しかったのか、チョコボたちは喜んでいた。

 

「あなたたちは先に我らのアジトである「砂の家」に向かっていて下さい。この先にある大きな建物がそうです」

 

「わかった。俺たちは先に行ってるよ。行こう、みんな」

 

奏夜たちは1度ウリエンジェと別れると、そのまま近くにある暁の血盟のアジトと思われる建物へと向かった。

 

奏夜が先頭で、その建物の中に入るのだが……。

 

「……フンフフンフフ〜ン♪すーなのこーやにおはな〜がさ〜いた〜♪」

 

ホライズンで見かけたララフェルと呼ばれる種族なのだろうか?

 

小柄な女性が、妙な歌を歌っていた。

 

奏夜たちがゾロゾロと建物の中に入ってくると、女性は気付いたようであり、歌を聞かれたことを驚いていた。

 

「なっ、なんでっすか?あなたたちは!しかも、こんなにゾロゾロと……」

 

「確か、砂の家ってここだよな?俺たち、ウリエンジェの紹介で来たんだけど……」

 

「ウリエンジェさんの紹介でっすか?」

 

この女性は、訝しげな表情で奏夜たちのことを見ていた。

 

「……嘘を言ってはいけないでっすよ。ウリエンジェさんがそんな簡単に人をこの砂の家に招くことはしないんでっすから」

 

どうやらこの女性は奏夜たちの言葉を信じていないようであり、奏夜たちはどうすればいいかわからず困っていた。

 

すると……。

 

「タタル、彼らの言葉は嘘ではありませんよ。私が招待しました」

 

ウリエンジェが現れ、奏夜たちが本当に自分の紹介だということを伝えていた。

 

「ほ、本当にウリエンジェさんの紹介だったんでっすか?失礼しました!」

 

タタルと呼ばれた女性は、ここでようやく奏夜たちの言葉が本当であると理解したようであった。

 

「私はタタルといいまっす。この暁の血盟の受付と事務を担当していまっす」

 

タタルは自己紹介をし、自分の役割も説明していた。

 

「なるほど、受付とか事務も大切な仕事だもんな」

 

「そうでっす!私はこの仕事に誇りを持っていまっす!」

 

奏夜の言葉を素直に捉えたタタルは、「ふんす!」とドヤ顔をしていた。

 

その後、奏夜たちは自己紹介をしていた。

 

「なるほど、ソウヤさんにホノカさん。ウミさんにコトリさん。ハナヨさんにリンさんにマキさん。そして、エリさんとノゾミさんとニコさんでっすね?覚えました!」

 

僅かな自己紹介であったにもかかわらず、タタルは奏夜たちの顔と名前を一致させていた。

 

「凄いな、もう名前を覚えるなんて……」

 

「受付や事務をしている私にしたらこれくらいは当然でっす!」

 

タタルは再びドヤ顔をしており、そんなタタルの様子に奏夜たちは苦笑いをしていた。

 

「さて、中に入りましょう。こちらです」

 

こうして奏夜たちはウリエンジェの案内で砂の家の中に入っていった。

 

中は意外と広々としており、奏夜たちはキョロキョロと周囲を見回しながら進むのだが、奏夜たちが案内されたのは一番奥の部屋だった。

 

「あの……ここは?」

 

「ここは暁の間と呼ばれています。ここに、我らが暁の血盟の盟主が待っております。行きましょう」

 

奏夜たちは暁の血盟の盟主が誰なのかわからないため少しだけ緊張するのだが、ウリエンジェが先頭となり暁の間に入っていったため、奏夜たちも後を追っていた。

 

暁の間に入ると、一番奥には金髪でスタイルの良い女性が立っており、それ以外にも何名かがこの暁の間に来ていた。

 

「……ミンフィリア。少しよろしいでしょうか?」

 

「あぁ、ウリエンジェさん。どうしました?」

 

「先ほどリンクシェルで話した例の10人を連れてきました」

 

「あぁ、あなたたちがそうなのね。いらっしゃい!歓迎するわ」

 

金髪の女性はミンフィリアと呼ばれており、彼女は奏夜たちのことを歓迎しているみたいであった。

 

「あの……。あなたは?」

 

「私はミンフィリア。ウリエンジェさんが話してたと思うけど、暁の血盟の盟主をしています」

 

どうやらミンフィリアがこの暁の血盟の盟主であるみたいであり、そのことに奏夜たちは驚いていた。

 

「それにしても、確かにみんなからは不思議な力を感じるわ。……特にあなた」

 

ミンフィリアは奏夜たちから不思議な力を感じていたのだが、彼女は奏夜を指していた。

 

「お、俺ですか?」

 

「あなたからは、私と同じ力の他に、別の力も感じます」

 

「別の力……。あぁ、俺は魔戒騎士でもありますから」

 

「魔戒騎士?」

 

どうやらミンフィリアは魔戒騎士という言葉を初めて聞いたみたいであり、首を傾げていた。

 

「俺たちはこの世界の人間ではありません。俺たちの世界には、人の闇をゲートに現れて人を喰らうホラーという魔獣が存在しているのですが、俺はそんなホラーを狩って人を守る魔戒騎士なんです」

 

「人の闇をゲートに現れる魔獣……」

 

「まるでアシエンみたいな存在だな……」

 

奏夜たちの話を聞いていたララフェルの男性は、難しい表情をして考え事をしていた。

 

「アシエン?」

 

「私たちの真の敵の1つよ。まぁ、その話はおいおいね」

 

どうやらアシエンと呼ばれる存在はホラーと似ているところがあるみたいなのだが、詳しい話は省略されていた。

 

「さて、話をする前に自己紹介でもしましょうか。私たちのメンバーもおおよそ揃っているし」

 

本題を切り出す前に、全員の自己紹介を行うことにしていた。

 

先に自己紹介を行うのは暁の血盟のメンバーからであった。

 

「僕はパパリモ。この暁の血盟のメンバーで、シャーレアンっていう街の賢人の1人なんだよ」

 

「賢人?」

 

「まぁ、要するに偉い人って覚えておけ」

 

「なるほど!」

 

パパリモの言っていた賢人という言葉に穂乃果は首を傾げており、奏夜は簡単に説明をしていた。

 

「あたしはイダ!パパリモの相棒ってところかな?みんな、よろしくね!」

 

続けて自己紹介をしたのは、白い帽子のようなものを被っていたのだが、金髪が見え隠れしている女性で、仮面をつけていた。

 

「あのっ、何で仮面をつけているんですか?」

 

「アハハ……。まぁ、あたしのことはいいじゃない!ほら、ヤ・シュトラ!今度はあなたが自己紹介をしなさいよ!」

 

どうやら仮面をつけている理由は触れられたくないみたいであり、つづけて白い髪で、まるで猫のような見た目の女性だった。

 

「やれやれ……。仕方ないわね」

 

猫のような女性は少しだけ呆れながら自分の自己紹介をすることにした。

 

「私の名前はヤ・シュトラ。パパリモと同じでシャーレアンの賢人の1人よ。まぁ、よろしくね」

 

この女性、ヤ・シュトラもまた、シャーレアンの賢人と呼ばれており、このように自己紹介をしていた。

 

「素敵な人ね……」

 

「なんだか真姫ちゃんみたいだにゃ♪」

 

「ヴェェ!?べ、別に私はそんなんじゃないわよ!」

 

「それにしても、ヤ・シュトラさんでしたっけ?猫みたいな感じがしますが、それって……」

 

「あぁ、私は「ミコッテ」と呼ばれる種族なの。ミコッテを見るのは珍しいかしら?」

 

ことりの指摘通り、ヤ・シュトラは人間と猫が合わさったかのような見た目をしており、ヤ・シュトラはミコッテと呼ばれる種族であった。

 

ホライズンやベスパーベイでは見かけなかったため、奏夜たちは少しだけ驚いていた。

 

「まぁ、ヤ・シュトラの自己紹介はここまでにしておいて、次は俺かな?」

 

続いて自己紹介を行おうとしているのは、白い髪の少しだけ軽そうな男であった。

 

「俺の名はサンクレッド。こんな可愛い子達と知り合えるなんて光栄だよ。親交を深めるためにも今度食事でも……」

 

サンクレッドは自己紹介をした後に穂乃果たちを口説こうとしていた。

 

「……サンクレッド。この子達に手を出したら、恐らくあの子が黙ってないと思うわよ」

 

「……」

 

穂乃果たちを口説こうとしていたサンクレッドを見て、奏夜はジト目で彼を睨みつけていた。

 

「アハハ……。冗談だって、冗談!」

 

「サンクレッドが言うと、冗談に聞こえないのよね……」

 

サンクレッドは冗談だと言っていたが、それが冗談だとは思えないヤ・シュトラは苦笑いをしていた。

 

今自己紹介したメンバーの他にミンフィリアとウリエンジェを含めたこのメンバーが、暁の血盟の主要メンバーである。

 

他にも暁の血盟の主要メンバーはいるのだが、ここには姿を現してはいないようだった。

 

こうして暁の血盟のメンバーの自己紹介が終わり、奏夜たちが自己紹介をしようとしたその時だった。

 

奏夜たちのいる暁の間の扉が開かれると、1人の青年が中に入ってきた。

 

その青年は赤の入った黒い髪で、赤いコートを羽織っていた。

「……あら、いらっしゃい。待ってたわ。トウヤ」

 

「!?」

 

ミンフィリアがこの青年のことをトウヤと呼んでいたため、奏夜は彼の顔を見たのだが、その顔を見て奏夜は驚愕していた。

 

奏夜の先輩騎士である月影統夜とそっくりだったからである。

 

「と……統夜……さん!?どうしてこんなところに!?」

 

「?君は……俺のことを知ってるのか?」

 

トウヤと呼ばれた青年は、自分のことを見て驚いている奏夜を見て、首を傾げていた。

 

「えっ……?」

 

トウヤのまるで他人のようなリアクションに、奏夜は困惑していた。

 

『奏夜、落ち着け。確かにあいつの着てる魔法衣と似ているが、奏狼の紋章はない。こいつはあの統夜と似ているだけだ』

 

「ゆ、指輪が喋った!?」

 

どうやらこの世界でもキルバのように喋る指輪は珍しいようであり、トウヤは驚いていた。

 

「アハハ……。そう……だよな……」

 

奏夜たちの目の前にいるトウヤは、奏夜たちの知っている統夜とは別人であり、そのことに奏夜は落胆していた。

 

そんな中、キルバが喋ることに驚いていたのはトウヤだけではないようであり……。

 

「へぇ、喋る指輪だなんて、珍しいわね」

 

「確かにそうね。腕の良い彫金師でもきっと作れないんじゃないかしら?」

 

ミンフィリアとヤ・シュトラは、キルバが喋るということに強い興味を示していた。

 

さらに……。

 

「それだけじゃなくて、その指輪からはエーテルのような力を感じる。1度分解して調べてみたいくらいだ」

 

パパリモは、キルバから力を感じ取っており、より強い興味を示していた。

 

『悪いが、断固お断りだ!』

 

キルバが分解されることを良しと思うハズもなく、拒否反応を示していた。

そのことに、パパリモは残念そうにしていた。

 

「あ、改めて彼を紹介するわね。彼はトウヤ・ツキカゲ。私たち暁の血盟に協力をしてくれている冒険者よ」

 

「ど、同姓同名……!?」

 

『ほう……。さすがにそれは俺も予想外だぞ』

 

奏夜たちの目の前にいるトウヤは、どうやらあの月影統夜と同姓同名であり、そのことに奏夜とキルバは驚いていた。

 

それは穂乃果たちも同様であり、目をパチクリとさせていたのだが……。

 

「トウヤ。彼らは何かしらの要因があってこのエオルゼアに迷い込んできた子達よ。あなたや私と同じ超える力を持っているみたいだわ」

 

「えっ!?そうなのか!?それは驚きだけど……」

 

トウヤがその事実に驚いており、その後は奏夜たちが自己紹介を行うことにした。

 

奏夜はトウヤにも自分が魔戒騎士であることを伝えていた。

 

他のメンバーは、スクールアイドルの活動を行っていることも話していた。

 

にこに至ってはいつも通り「にっこにっこに〜♪」をしており、トウヤや暁の血盟のメンバーを困惑させていたのだが……。

 

「……魔戒騎士にスクールアイドルか……」

 

「魔戒騎士の話はさっき聞いたけど、あなたたちはアイドルをやっているのね」

 

「それなら納得だよ!だってみんな、本当に可愛いなって思ったもん!」

 

イダは穂乃果たちの容姿のことを褒めており、それが嬉しかったからか、穂乃果たちは恥ずかしそうにしていた。

 

「それよりも、先ほど話していた超える力っていったいなんなんですか?」

 

奏夜は度々話題に出ていた超える力という言葉が気になっていた。

 

「そうね……。簡潔に言ってしまえば、超える力というのは、一部の者にのみ与えられた特別な力といったところね」

 

「特別な力……」

 

「私やトウヤは特定の人物の過去を「視る」ことが出来るの。まぁ、この力は自分では制御出来ないのが難点なんだけどね」

 

「過去を視るって、なんか凄いですね……」

 

ミンフィリアの語るスケールの大きな話に、穂乃果は驚いていた。

 

「俺たちも過去を視るなんて出来るんでしょうか?」

 

「それはわからないわ。超える力と言っても、その人によって力は異なるもの。あなたたちは、この世界に迷い込んだ影響でその力を得たのでしょうね」

 

奏夜たちに過去を視る力があるかどうかはわからなかったミンフィリアであったが、奏夜たちが何故超える力を持つようになったかは察することが出来た。

 

「……トウヤ。あなたに来てもらったのは、協力して欲しいことがあるからよ」

 

「協力して欲しいこと?」

 

ミンフィリアの言葉をオウム返しのように繰り返したトウヤは首を傾げていた。

 

「実は、正体不明の蛮神が現れたという報告が上がってきたの」

 

「正体不明の蛮神……!」

 

ミンフィリアの言葉を聞いて、トウヤは深刻そうな表情をしていた。

 

「詳しいことはまだ何もわかっていないの。だけど、蛮神であるならば放っておくわけにはいかないわ」

 

「そうだな……。とりあえず、調べてみる必要がありそうだ」

 

トウヤは正体不明の蛮神について調査をするために行動を開始することにした。

 

「あっ、俺も行くよ。この世界のことも調べておきたいし」

 

奏夜は蛮神について調査をするトウヤに同行しようとしていた。

 

「でも……」

 

「大丈夫。俺は元の世界でも戦ってたんだ。足手まといにはならないさ」

 

「トウヤ。ソウヤと一緒に調査に当たるといいわ。彼であれば、あなたの力になれるハズよ」

 

「まぁ、ミンフィリアがそう言うなら大丈夫か」

 

ミンフィリアは奏夜の醸し出す雰囲気から彼が歴戦の勇士であると感じ取り、奏夜の力も借りたいと考えていたのである。

 

「みんなはここで待っていてくれ」

 

「えぇ!?私たちだけ留守番!?」

 

奏夜は穂乃果たちに留守番するように告げたのだが、穂乃果たちは納得していなかった。

 

「その方がいいかもしれないわね。ソウヤは戦いの経験があるみたいだけど、あとのみんなは戦いの経験はないのでしょう?」

 

「っ!それはそうですが!」

 

「だったらこうしたらどうかしら?あなたたちも今は戦う力があるのだから、自分がどんなことが出来るのか練習してみたらどう?」

 

「なるほど、それなら無駄に時間を使うこともないですしね」

 

ヤ・シュトラの提案に、海未だけではなく、他のメンバーも納得したようだった。

 

「あなたたちの練習には私が付き合うわ」

 

「そうね。ヤ・シュトラ。お願い出来るかしら?」

 

穂乃果たちが自分たちの力を理解するための練習にヤ・シュトラは協力することを了承していた。

 

「僕も行こう。彼女たちの人数も多いし、こちらも人数を割いた方がいいだろう」

 

「あっ、あたしもあたしも!」

 

ヤ・シュトラだけではなく、パパリモとイダも穂乃果たちの練習に付き合うことになった。

 

「それじゃあ俺も……」

 

「サンクレッド。あなたはダメよ。あなたはこれから別件で仕事があるでしょ?」

 

「そ、そんなぁ……!」

 

どうやらサンクレッドは個人的に穂乃果たちの練習に付き合いたかったようだが、それをミンフィリアに一蹴されてしまった。

 

「それじゃあ、みんな。各自行動開始よ。トウヤとソウヤは何かわかったらすぐ私に連絡して」

 

「あぁ、わかった。行こう、ソウヤ」

 

「わかった!」

 

トウヤは暁の間を後にすると、奏夜はそれを追いかけるように暁の間を後にして、正体不明の蛮神について調査を行うことになった。

 

そして、穂乃果たちは今自分が身につけている装備を使いこなすために練習を行うことになった。

 

奏夜たちのエオルゼアでの戦いは、今始まったばかりである……。

 

 

 

 

 

 

 

……後編に続く。

 

 




本当は1話でまとめたかったのですが、ここから戦闘が多くなりそうだったので前後編にさせてもらいました。

奏夜たちがFF14の世界「エオルゼア」に迷い込み、これからそこでの戦いが行われていきます。

次回は奏夜だけではなく、穂乃果たちが戦うという貴重なシーンが見られるかも?

そこはご期待ください。

次回の番外編が終われば、また本編に戻ろうと思っています。

今回の話は完全に僕の趣味が全開なのですが、楽しんでもらえたらな幸いです。

なんだかよくわからなかったら本当にごめんなさい。

次回も続くのでご了承いただけたらと思います。

それでは、次回をお楽しみに!



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紅蓮のリベレーター発売記念作品「光の騎士と光の女神たち 後編」

大変長らくお待たせしました!

まさかここまで投稿が遅れるとは思いませんでした……。

最近は本当に忙しく、FF14も楽しんでいたので。

さて、今回は前回の続きとなっています。

エオルゼアに迷い込んだ奏夜たちを待ち受けるものとは?

それでは、番外編をどうぞ!




私立音ノ木坂学院で「μ's」というスクールアイドルグループを結成している穂乃果たちとそのマネージャーであり、魔戒騎士でもある如月奏夜は、エオルゼアと呼ばれる世界に迷い込んでいた。

 

奏夜たちは偶然にもそのエオルゼアの救済のために動いている暁の血盟のメンバーと出会い、この世界の真実を知ることになる。

 

奏夜たちは元の世界に戻るために今自分たちが出来ることを行うことにしていた。

 

そんな中、奏夜は先輩騎士である統夜と瓜二つの見た目をしている冒険者であるトウヤと共に正体不明の蛮神の調査に当たっていた。

 

現在2人は、森の都と呼ばれている都市である「グリダニア」に来ていた。

 

正体不明の蛮神についての情報を、このグリダニアのエリアを守る機関である「双蛇党」の人間が知っているため、話を聞くためである。

 

奏夜がのどかな街並みに驚いている間に、トウヤは双蛇党の人間から情報を仕入れていた。

 

トウヤは仕入れた情報をもとに、とある場所へと移動を開始し、奏夜もそんなトウヤについていった。

 

2人が訪れたのは、グリダニアの街を離れた場所にある黒衣森(こくえのもり)というエリアなのだが、その某所であった。

 

「……ここが正体不明の蛮神が出現したエリアか……」

 

2人が来ていたのが正体不明の蛮神が出現したと言われているエリアだった。

 

「特に何かがあるとは思えないんだけど……」

 

トウヤは周囲を見回すのだが、蛮神が出現したと思わせる物は何もなく、手がかりは何もないと思われていた。

 

そんな中……。

 

『……おい、奏夜。ここでゲートが開いた形跡があるぞ』

 

「!?おいおい、ここってホラーがいないんじゃなかったのかよ!」

 

奏夜たちがこの世界に迷い込んで来た時、ホラーはいないものだと思っていたが、キルバがホラーの気配を感じ取っており、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

『俺もそう思ったんだがな……。どうやらその正体不明の蛮神とやらは、ホラーの可能性がありそうだ』

 

「なぁ、確かそのホラーって、ソウヤの世界にいる魔獣だったっけ?そいつがエオルゼアに……?」

 

トウヤは奏夜と行動している時に奏夜は自分が魔戒騎士であることを話しており、ホラーのことも話していた。

 

「キルバ。ホラーの気配を追うことは出来るか?」

 

『やってみよう』

 

奏夜はキルバを前方に突きつけると、ホラーの気配がないか調べてみた。

 

しばらくその捜索を行っていると……。

 

『奏夜。ここから先から微かではあるがホラーと似た気配を感じるぞ。恐らくは例の蛮神とやらだろう』

 

「本来の蛮神とは違う気はするけどな……」

 

「?どういうことだ?」

 

トウヤの言葉の意味がわからず、奏夜は首を傾げていた。

 

「本来蛮神と呼ばれる奴らはクリスタルの中にあるエーテルの力を吸い取って具現化する。そして、蛮神はその力で自らを呼び降ろした者を自分の手下に変えてしまうんだ」

 

「!?そいつは厄介な存在だな……」

 

奏夜はここで初めて蛮神と呼ばれる者の力を知り、驚いていた。

 

「その人はテンパードと呼ばれ、もう救うことは出来ないんだ」

 

「テンパードか……。1度そうなったら救えないとか、まるでホラーみたいだな……」

 

「ホラーって怪物はそんなに厄介な存在なんだな」

 

「ホラーに憑依された時点でその者の魂はホラーに喰われてしまっている。その人を救うにはもうホラーを斬るしかないんだ」

 

「本当にテンパードになってしまった人と似てるな……」

 

ホラーに憑依された者と、蛮神の力によってテンパードにされてしまった者は似ており、そのことにトウヤだけではなく、奏夜も驚いていた。

 

「だけど、俺やミンフィリアのように超える力を持つ者はテンパードになることはないんだ」

 

「なるほど。じゃあ、俺や穂乃果たちも?」

 

「恐らくは大丈夫だと思う」

 

「そうか……。それなら、心置きなく戦えるな」

 

『とりあえずその蛮神とやらのことはわかったんだ。俺たちも行動を開始するぞ』

 

「そうだな、行こう!」

 

「わかったよ、ソウヤ」

 

こうして、奏夜とトウヤの2人は、新たな手がかりを得るために移動を開始していた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

その頃、穂乃果たちは、自分の身につけている装備を確かめるため、練習を行っていた。

 

現在穂乃果たちがいるのは、暁の血盟のアジトである砂の家の近くにある修練場である。

 

そこには「木人」と呼ばれるカカシのような置物が置かれていた。

 

この木人に攻撃を仕掛けて、技の練習を行うようだ。

 

穂乃果たちは交代でこの木人に攻撃を仕掛けて、自分の出来ることを確かめていた。

 

「えいっ!!」

 

穂乃果は一生懸命剣を振り回し、木人を攻撃していた。

 

そして、海未は弓を構え、木人に攻撃を仕掛けようとしていた。

 

「……ラブアローシュート!!」

 

海未は気合を入れるためにこのような台詞を放ち、正確な狙いで木人に攻撃をしていた。

 

「……なんなの?ウミの今の発言は……」

 

「まぁまぁ♪可愛いからいいじゃん!」

 

海未のこの言葉にヤ・シュトラは呆れ気味だったが、イダはすんなりと受け入れていた。

 

「それにしても、ウミは弓の扱いが長けてるな。とても初めてとは思えないぞ」

 

パパリモは、海未の正確な弓さばきに驚きを隠せなかった。

 

「私はスクールアイドルの他に、弓道もやっていましたから」

 

「キュードー?もしかして弓術のことかしら?」

 

「はい、そうですよ」

 

「なるほどね……。道理であそこまでの弓さばきが出来るハズだわ」

 

ヤ・シュトラも海未の弓さばきに驚いており、弓道を習っているから弓の扱いに慣れていると知り、納得していた。

 

「行っくにゃあ!!」

 

続けて凛が木人に向かっていくのだが、自慢の運動神経で、格闘攻撃をそつなくこなしていた。

 

「おぉ!リンちゃん凄いよ!あたしほどじゃないけど、モンクのセンスがあるかもね」

 

「私ほどじゃないって自分で言うなよ……」

 

そんなイダの発言に、相棒であるパパリモは呆れていた。

 

「エヘヘ……。照れるにゃ♪」

 

「褒めてる……のかなぁ?」

 

「まぁ、そう捉えてもいいんじゃない?」

 

イダが凛のことを素直に褒めてるかどうかは疑問だったからか、花陽は首を傾げており、真姫はどうでもいいと思っていたからか、適当にフォローを入れていた。

 

続けて練習を行うのは絵里であった。

 

「行くわよ!賢い格好いいエリーチカの槍さばきを見せてあげる!」

 

絵里は槍を構えると、木人に向かっていった。

 

「だからその肩書きはいったいなんなのよ……」

 

先ほど絵里の言っていた言葉にヤ・シュトラが呆れながらも、絵里の槍さばきを見守っていた。

 

絵里は槍の扱いが当然初めてなのだが、それを感じさせない槍さばきであった。

 

「……うん。これだけの動きが出来るなら十分じゃないかな?」

 

「ハラショー♪やったわ♪」

 

絵里の槍さばきをイダが褒めており、そのことに絵里は喜んでいた。

 

続けて練習を行うのはことりと真姫だった。

 

2人の持っている本のような装備は、巴術士(はじゅつし)と呼ばれる人たちが使用するもののようであった。

 

その特徴としては、ペットと呼ばれるものを召喚し、それを扱うことが出来る。

 

さらにパパリモが説明するには、ことりはどうやら攻撃に長けたペットを呼び出すことが出来て、真姫は回復に長けたペットを呼び出すことが出来るようであった。

 

2人はとりあえずペットの召喚を行ってみることにした。

 

「……行くよっ!」

 

最初にことりが挑戦するようであり、ことりは精神を集中していた。

 

「……チュンチュン!!」

 

ことりがまるで鳥のような声をあげると、ことりの手にしている本が輝き出し、そこから鳥のようなものが出現した。

 

「で、出来た……!」

 

「凄い!凄いよ!ことりちゃん!」

 

ことりがペットの召喚に成功したことに、穂乃果は歓喜の声をあげていた。

 

「ガルーダ・エギを召喚したか」

 

パパリモはことりが召喚したペットの種類をすぐに見抜いていた。

 

ことりが召喚したのは、嵐神と呼ばれるガルーダを使い魔のような存在にして、使役出来るようにしていた。

 

「エヘヘ……。これが一番私らしいと思って……」

 

「なるほど、確かにことりらしいかもしれないですね」

 

ことりが鳥のような姿をしたガルーダを呼び出したことに対して、海未はことりらしさを感じていた。

 

「それじゃあ、次は私ね!」

 

続けて、ことりと似たような本を手にしていた真姫が、ことりのようにペットの召喚を行うことにしていた。

 

真姫は目を閉じて精神を集中させており、その効果があるからか、真姫の本が輝いていた。

 

「……行くわよ!」

 

真姫は目をカッと見開くと、自らに溜めた力を解き放ち、本のようなものから妖精のようなものが出現した。

 

真姫が召喚したこの妖精のようなものはフェアリーと呼ばれており、傷を癒す力に長けている。

 

「おぉ!凄いよ、真姫ちゃん!」

 

「あ、当たり前でしょ?私を誰だと思ってるの?」

 

真姫は召喚が成功したことに対して何故かドヤ顔をしていた。

 

「だけど、持っている本は似ているのに、ことりと真姫では呼べるものが違うのですね」

 

「そうね。そこが2人の力の違いだわ」

 

「コトリ。君が呼び出せるのは攻撃に特化したエギと呼ばれるものであり、マキが呼び出せるのは癒す力に長けているフェアリーと呼ばれるものだ」

 

さらにパパリモは説明するのだが、ことりのような力を持つものは「召喚士」と呼ばれるみたいであり、真姫のような力を持つものは「学者」と呼ばれるみたいであった。

 

「ふーん……。召喚士に学者かぁ……」

 

「学者っていうのは、真姫ちゃんっぽい感じだね!」

 

「まぁ、そうかもしれないわね」

 

穂乃果は学者というのは真姫らしいと思っていたのだが、真姫は否定をしていなかった。

 

「マキ。あなたが呼び出したフェアリーを見ればわかると思うけど、あなたは癒し手としての役割を担っているわ」

 

「私が、癒し手?」

 

真姫は、このように解説をするヤ・シュトラの言葉に驚いていた。

 

「癒し手というのは、戦いにおいて非常に重要になってくるわ。ハナヨ、ノゾミ。あなたたち2人も癒し手の役割を担っているわ」

 

「わ、私も!?」

 

「なるほどなぁ」

 

どうやら、真姫だけではなく花陽と希もまた、癒し手と呼ばれるみたいだった。

 

「味方がピンチに陥った時……。いかに迅速に癒しの魔法を使うか……。それが重要になってくるわ」

 

「なるほど……」

 

真姫、花陽、希の3人は、ヤ・シュトラの講義を真剣に聞いていた。

 

「まずは私が手本を見せるわ」

 

ヤ・シュトラは木人に回復魔法を放ち、3人に手本を見せることにしていた。

 

ヤ・シュトラは精神を集中させると、魔法の詠唱を行っていた。

 

そして……。

 

「……ケアル!」

 

ヤ・シュトラは回復魔法であるケアルを唱え、木人を回復させていた。

 

……とは言っても、木人はダメージを受けても勝手に回復するのだが……。

 

「なるほど……」

 

「……さぁ、ハナヨ。あなたは私と同じ白魔導士みたいだから回復魔法を使ってみて」

 

「はっ、はい!」

 

花陽は、木人に対して回復魔法を放ち、練習を行うことにしていた。

 

「えっと……」

 

花陽は少し慌てながらも精神を集中させて、魔法の詠唱を行っていた。

 

「……け、ケアル!」

 

花陽は先ほどのヤ・シュトラのように魔法を唱え、木人に対して回復魔法を放っていた。

 

「で、出来た……!」

 

1発で回復魔法が成功し、花陽の表情はぱぁっと明るくなっていた。

 

「うん。上出来ね」

 

そんな花陽の魔法を見たヤ・シュトラはウンウンと頷いていた。

 

「わ、私もやってやるわよ!」

 

先ほどはフェアリーを召喚した真姫は、学者と呼ばれる職の人間が扱える回復の練習を行うことにしていた。

 

これは真姫だけではなく全員がそうなのだが、攻撃方法や魔法の詠唱など、自然と頭に入っていたため、練習がここまですんなりと進んでいたのである。

 

それを証明するかのように、真姫だけではなく、占星術士と呼ばれる職の格好をしている希もまた、占星術士特有の回復方法を軽々とやってのけたのであった。

 

「うんうん。マキもノゾミも回復は完璧だね!」

 

「ま、まぁ。こんなもんじゃないの?」

 

「ふふ♪ウチの希パワーにかかればざっとこんなもんや♪」

 

イダは真姫と希の回復を褒めており、2人はまんざらでもなさそうにしていた。

 

最後に練習を行うのは、魔法使いのような格好をしているにこであった。

 

「ふふふ……。見てなさい!ラブリーな魔法使い、にこにーの真の力を!」

 

「魔法使いではなくて、僕と同じ黒魔導士なんだけどな……」

 

どうやらにこは、パパリモと同じ黒魔導士と呼ばれる者であるみたいだった。

 

しかし、そんなツッコミをにこは聞いておらず、にこは精神を集中させていた。

 

「……行くわよ!このにこの魅力の炎で焼かれなさい!……ファイア!!」

 

にこは明らかにおかしい口上をしながら黒魔術の基礎的な魔法であるファイアを放っていた。

 

「そんなデタラメな詠唱で魔法が使えるのか……」

 

にこの口上は明らかに魔法の詠唱とは違うものであり、そんな口上で魔法が使えたにこに、パパリモは唖然としていた。

 

「す、凄いよ!にこちゃん!」

 

「にっこにっこに〜♪みんなのアイドルのにこにーの手にかかれば、ざっとこんなものよ♪」

 

穂乃果はそんなにこのことをべた褒めしており、にこは褒められて満更でもないようだった。

 

「アハハ!ニコ、あなたって面白いね!」

 

にこの作ったキャラを見て、イダは面白がっていた。

 

「……あんた。今面白いって言った?」

 

そんなイダのリアクションが気に入らなかったからか、にこはムスッとしていた。

 

「面白いよ!だって、凛はずっとそう思ってたもん!」

 

「あ、あんたねぇ……!」

 

凛もまた、にこに対して容赦のないことを言っており、にこは表情を引きつらせていた。

 

「何て言うか……」

 

「イダさんと凛って……」

 

「結構似てるところがあるわね」

 

どうやらイダと凛は似た者同士のところがあるようであり、穂乃果、絵里、真姫の3人はその事実に苦笑いをしていた。

 

「ん〜……。そうなのかなぁ?」

 

「凛もよくわからないけど、イダさんとは仲良くなれそうな気がするにゃ!」

 

「あっ!あたしも同じことを思ってた!」

 

どうやらイダと凛は本当に意気投合したようであり、良い雰囲気になっていた。

 

こうして、穂乃果たちは木人を使って一通り練習を行ったのであった。

 

すると……。

 

「……あっ、みなさん!やっぱりここだったんでっすね!」

 

暁の血盟の受付と事務を担当しているタタルが、トコトコとこちらに向かって来ていた。

 

「あら、タタル。いったいどうしたの?」

 

「ミンフィリアさんがお呼びでっす!どうやらトウヤさんとソウヤさんのお2人が帰ってきたみたいでっす」

 

「え?そーくん、帰ってきたんだ!」

 

「……わかったわ。タタル。すぐ向かうわね」

 

「はいでっす!」

 

穂乃果たちとヤ・シュトラたちがすぐ向かうことをしると、タタルはそのまま砂の家へと向かっていった。

 

「……私たちも行きましょうか」

 

このようにヤ・シュトラに促され、穂乃果たちはそのまま砂の家へと向かっていった。

 

砂の家に到着し、暁の間に入ると、正体不明の蛮神の調査をしていたトウヤと奏夜が来ており、サンクレッドとウリエンジェも来ていた。

 

「……これでみんな揃ったわね」

 

ミンフィリアは、穂乃果たちがやって来たのを見て、こう呟いていた。

 

「トウヤ。調査結果の報告をしてくれるかしら?」

 

「あぁ、わかった」

 

このようにミンフィリアに促され、トウヤは調査を行ってわかったことを話すことにしていた。

 

「まず結論から言うと、今回現れた蛮神は、俺たちが戦ってきた蛮神とは異なる存在だってことがわかったんだ」

 

「他の蛮神とは異なる存在?それはいったい……」

 

トウヤの簡潔な報告を聞き、ヤ・シュトラは険しい表情で考え事をしていた。

 

『蛮神とやらの痕跡を調査していたら、ホラーの気配を感じたんだ。恐らくその蛮神とやらの正体は、俺たちが戦っているホラーか、そのホラーの力を得た蛮神とやらだろう』

 

「ホラーの力を得た蛮神……。もしそれが本当にそうだとしたら、かなり厄介だわね……」

 

キルバが詳細の報告を行うと、ミンフィリアは考え事をしていた。

 

「ホラーの力を得ているのならば、ソウヤの力は必要でしょう。彼はその力を持っているのですから」

 

「もちろん、俺としては、ホラーの力を持つ者なら放ってはおけない。これも魔戒騎士の仕事だしな」

 

奏夜は、このエオルゼアにホラーが現れたのならばそれを討滅するつもりであった。

 

「ですが、我らもその蛮神討伐のお手伝いは出来るハズです」

 

「ウリエンジェさんの言う通りだよ!そーくん。私たちも協力する!」

 

「ダメだ!お前たちを戦いに巻き込む訳にはいかない」

 

ホラーから度々穂乃果たちのことを守ってきた奏夜は、穂乃果たちが戦うことには猛反対であった。

 

「今はそんなことを言っている場合じゃないわ。それに、彼女たちも今は超える力を持っている。足手まといにはならないとは思うけど?」

 

何故かヤ・シュトラは穂乃果たちに肩入れをしていた。

 

「珍しいな。ヤ・シュトラが誰かにここまで肩入れするなんてな」

 

ここまで穂乃果たちに肩入れをしていることに、サンクレッドは驚いていた。

 

「……そうかもしれないわね」

 

ヤ・シュトラは、穏やかな表情を浮かべながら、サンクレッドの言葉を肯定していた。

 

「それでは、これから正体不明の蛮神の討伐に向かいます。メンバーはソウヤを中心にして、ホノカたちには彼の援護をお願いするわ」

 

『はい!!』

 

普段は守られてばかりの自分たちが、ここでは奏夜の手伝いが出来る。

 

そのため、穂乃果たちは自然と気合が入っていた。

 

「私たち暁のメンバーも、ホノカたちのフォローに回ります。彼女たちが心置き無く戦えるように」

 

「えぇ、元よりそのつもりよ」

 

「当然だよ!任せて!」

 

「あぁ。任せてくれ!」

 

ミンフィリアの指示を聞き、ヤ・シュトラ、イダ、パパリモの3人は快諾していた。

 

「当然俺もフォローするぜ。だから、安心してくれ」

 

サンクレッドもまた、穂乃果たちをフォローする気満々のようであった。

 

「それでは、みんなの健闘を祈ります。みんな、無理はしないでね」

 

ミンフィリアは暁の血盟の代表として、この地に残り、留守を守る役割を担っていた。

 

「私も残りましょう。情報収集も必要ですしね」

 

ウリエンジェは、正体不明の蛮神について新たな情報を得るためにここに残ることにしていた。

 

「それじゃあ、みんな。例の蛮神は黒衣森の北部森林にいるみたいなんだ。案内するから行こう!」

 

こうして、奏夜たちは暁の血盟のメンバーと協力して、正体がホラーであると疑われる蛮神討伐へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

砂の家を出発した奏夜たちは、長い道のりを経て、目的地である黒衣森の北部森林のエリアに到着した。

 

「ここが黒衣森ってところなんだ……」

 

「自然が多い場所ですね……」

 

普段は秋葉原で過ごしている穂乃果たちにとって、このようなのどかな空間はただただ珍しく、周囲を見回していた。

 

「お前ら、感心してる場合じゃないぞ」

 

『奏夜の言う通りだ。邪気は確実に近くなっている。気を引き締めろよ』

 

奏夜とキルバが、穂乃果たちの気を引き締めるためにこのように言っていると、目的地付近に到着したのであった。

 

『……この先に例の蛮神とやらがいるようだ。ホラーの邪気を感じるぜ』

 

奏夜たちは目的地付近に到着し、目の前に広がる森の奥から、ホラーの気配を感じるようであった。

 

「みんな、ここから先は戦いになる。俺の側を離れるなよ」

 

奏夜は今の穂乃果たちに戦う力があるとわかっていても、穂乃果たちを守ろうと考えていた。

 

そんな奏夜の言葉に、穂乃果たちは無言で頷いていた。

 

こうして奏夜たちは、森を進んでいき、謎の蛮神がいると思われるエリアへと向かっていった。

 

深く生い茂る森も、出口が見えてきて、奏夜たちはそのまま森を出ようとしたのだが……。

 

『……お前ら、ちょっと待て!』

 

何かを感じ取ったキルバは、奏夜たちの足を止めさせていた。

 

「どうした、キルバ?」

 

『ホラーのような気配を感じる。お前ら、油断するなよ!』

 

キルバがこのような警告をすると、奏夜たちの目の前に、素体ホラーと酷似している怪物が何体も出現していた。

 

「……!ホラーか!しかもこんなにたくさん!」

 

『奴らからは人間の気配も感じる。恐らくは蛮神とやらの力によってテンパードにされた連中がそのままホラーに憑依されたのだろう』

 

「……っということは、この怪物がホラーであり、テンパードでもあるってことか……!」

 

どうやら奏夜たちの目の前にいる素体ホラーは、蛮神の力を受けてしまったテンパードでもあるようであり、2つの力を持つ存在であった。

 

「とにかく……。目の前に立ちはだかるというなら、倒すまでだ!」

 

奏夜が先頭に立って魔戒剣を抜くと、トウヤも自分の武器である剣を抜いており、他のメンバーもまた、自分の装備を構えていた。

 

「……来るぞ!!」

 

奏夜がこのように警戒をしていると、素体ホラーたちは一斉に素体たちに襲いかかってきた。

 

奏夜は魔戒剣を一閃し、迫り来る素体ホラーを斬り裂いていた。

 

「さすがは魔戒騎士とやらだな……。俺だって!」

 

一撃で素体ホラーを倒した奏夜を見て奮起したトウヤは、自分の剣を一閃すると、素体ホラーを真っ二つに斬り裂いた。

 

その一撃を受けた素体ホラーは、断末魔をあげながら消滅していた。

 

「!?素体ホラーを倒した!?」

 

「奴はホラーであってホラーではない。故にあいつでも倒せたのだろう」

 

「なるほど……」

 

キルバは何故トウヤが素体ホラーを倒せたのかを冷静に分析しており、その分析に奏夜は納得していた。

 

魔戒騎士じゃなくてもこのホラーを倒せるとわかった穂乃果たちは、迫り来る素体ホラーを相手に奮起していた。

 

「えいっ!えいっ!!」

 

穂乃果は重そうに剣を振るっており、その一撃で素体ホラーを倒すことは出来なかったものの、ダメージは与えられていた。

 

その素体ホラーは反撃と言わんばかりに穂乃果に迫ろうとするが……。

 

「穂乃果!伏せて下さい!……ラブアローシュート!!」

 

海未は穂乃果の危機を救うために矢を放ったのだが、その一撃は素体ホラーの体を貫き、素体ホラーは消滅していた。

 

「た、倒せた……!倒せました!」

 

自分たちの知っているホラーとは違うとはいえ、ホラーを倒したという事実に、海未の表情は明るくなっていた。

 

「お前ら!油断するな!まだ来るぞ!」

 

戦いに慣れている奏夜は、気が緩んでいる海未をなだめており、その言葉を聞いていた海未はハッとしていた。

 

「凛、私たちも行くわよ!」

 

「うん!行っくにゃあ!!」

 

絵里と凛もまた、迫り来る素体ホラーに向かっていき、槍や拳による攻撃で、素体ホラーを撃退していた。

 

「私も負けてられないわ!」

 

「そうね!」

 

ホラー相手に奮戦する他のメンバーを見て、にことことりも奮起していた。

 

「こいつで凍っちゃいなさい!……ブリザド!!」

 

にこは精神を集中させると、詠唱と言いにはあまりに短い言葉を放ち、氷の魔法であるブリザドを唱えていた。

 

「凄い、にこちゃん!ようし、ことりも負けないぞ!」

 

にこのブリザドによって素体ホラーはダメージを受けており、それを見ていたことりは精神を集中させていた。

 

「……おいで!ガルちゃん!」

 

ことりの手にしている本の力によって、ガルーダエギを召喚していた。

 

そして、すかさずガルーダは素体ホラーに向かっていき、素体ホラーを消滅させていた。

 

こうして奏夜たちは確実に素体ホラーを蹴散らしており、奏夜が素体ホラーの攻撃によってダメージを受けると、すかさず花陽や希が回復魔法を唱えていた。

 

真姫もまた、フェアリーを召喚すると、他のメンバーの体力も回復させていた。

 

奏夜たちだけではなく、トウヤたち暁の血盟のメンバーもまた、ホラー討伐に奮闘していたからか、素体ホラーの数は一気に減少していた。

 

しかし……。

 

「……また現れたのか!」

 

「しつこいわね!」

 

素体ホラーたちが再び出現しており、ヤ・シュトラ花眉をひそめていた。

 

「奏夜!お前は嬢ちゃんたちを連れて先へ行け!こいつらは俺たちが引き受ける!」

 

サンクレッドは、奏夜たちを先に行かせようとしており、そんな彼の言葉にヤ・シュトラ、イダ、パパリモは頷いていた。

 

「トウヤ!あなたも行って!」

 

「わかった。みんな、頼んだ!」

 

「うん!任せて!」

 

「こいつら如きは僕たちだけで充分だ。君たちは先へ行くんだ!」

 

「……みんな、行こう!」

 

奏夜は素体ホラーたちの相手をサンクレッドたちに任せて先に進むことにしており、穂乃果たちとトウヤもそれに続いていた。

 

素体ホラーたちはそんな奏夜たちを追いかけようとするのだが……。

 

「おっと!お前らの相手は俺たちだぜ!」

 

サンクレッドは無駄のない動きで剣を振るうと、奏夜たちを追いかけようとしている素体ホラーを斬り裂いていた。

 

さらにイダは拳による攻撃を素体ホラーに叩き込み、パパリモはファイアやサンダーなどの魔法を駆使して素体ホラーに攻撃をしていた。

 

ヤ・シュトラは、白魔導士が使える攻撃魔法であるストーンを放ち、素体ホラーに攻撃をしていた。

 

こうして、暁の血盟のメンバーである4人は、素体ホラーを倒しながら、奏夜たちの進軍を後押ししていた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

素体ホラーたちを突っ切った奏夜たちが辿り着いたのは、広く不気味な空間であった。

 

「キルバ……。ここか?」

 

『あぁ。とんでもない邪気を感じるぞ』

 

どうやら、ここにホラーの力を持った蛮神がいるみたいであった。

 

「なんだか、気味の悪いところだね……」

 

「えぇ、なんだか暗いしね……」

 

この場を支配している静寂が、不気味さをより際立たせており、それによって花陽と絵里は怯えていた。

 

それは2人に限った話ではなく、奏夜とトウヤ以外の全員もまた、大なり小なりはあるのだが、不気味な空間に怯えていた。

 

「大丈夫だ。みんなは俺が……」

 

俺が守る。そう言おうとしたのだが……。

 

『奏夜!来るぞ!!』

 

キルバが邪気の接近を探知しており、このように警戒すると、奏夜たちの目の前に、巨大な死神のような魔獣が出現した。

 

その手には、本物の死神のように鎌が握られていた。

 

「……こいつが……。ホラーの力を得た蛮神……!」

 

トウヤは、初めて見るタイプの蛮神を目の当たりにして、目付きが鋭くなっていた。

 

「キルバ。こいつで間違いないか?」

 

『あぁ。こいつからはホラーの気配を感じるし、それ以外の力も感じるぞ』

 

どうやら奏夜やトウヤが探していたホラーの力を持つ蛮神というのは、目の前にいる死神のような魔獣で間違いないようだった。

 

『感じる……。貴様らの中から忌々しいほどの輝きを……!』

 

ホラーの力を持った蛮神は、奏夜たちの姿を認識すると、このように呟いていた。

 

「貴様……何者だ」

 

奏夜は、鋭い目付きで死神のような魔獣を睨みつけながら、その正体を確かめようとしていた。

 

『我はハーデス。漆黒の闇と死を司る者なり』

 

どうやらホラーの力を持った蛮神は、ハーデスと呼ばれるみたいであった。

 

『ハーデスだと……!?どこかで見たことがあると思ったら、こいつ、冥府ホラーのハーデスじゃないか!』

 

どうやらキルバは、ハーデスと呼ばれるホラーの存在を知っているみたいであった。

 

『いかにも。我は蛮神と呼ばれし者でもあり、ホラーでもある存在なり』

 

このエオルゼアにも、漆黒の闇と死を司るハーデスと呼ばれる蛮神は存在するようであり、奏夜たちの世界にも、同じく闇と死を司る冥府ホラー、ハーデスが存在していた。

 

奏夜たちの目の前にいるのは、蛮神ハーデスと、冥府ホラーハーデスが合わさった存在であった。

 

『禍々しき光を感じる……。特に、貴様と貴様から……』

 

ハーデスは、その鋭い目付きで、奏夜とトウヤのことを見据えていた。

 

『数々の蛮神を打ち倒してきた忌々しき光を持つ貴様と、数々の魔獣を葬り去ってきた忌々しき光……。その輝き……。我が闇で消し去ってくれよう!』

 

ハーデスの瞳から怪しい光が放たれると、その光に奏夜とトウヤが包まれてしまった。

 

その光が消え去ると、そこにいたはずのハーデスの姿は消えており、さらには奏夜とトウヤの姿も消えていた。

 

「……!?トウヤさん!?それに、そーくん!!」

 

「き、消えたのですか!?」

 

「2人はいったいどこに!?」

 

トウヤと奏夜の姿が消えてしまい、穂乃果、海未、ことりの3人は動揺を隠せなかった。

 

それはこの3人だけではなく、他のメンバーも同様なのだが……。

 

「そーくん……。無事でいて……!」

 

穂乃果は奏夜が消えたことに動揺しながらも、奏夜の無事を祈っていた。

 

そんな中、ハーデスの放った光によってどこかへと姿を消してしまったトウヤと奏夜の2人は、ここがどこかわからない真っ暗な空間にいた。

 

「こっ、ここは……いったい?」

 

「キルバ、ここがどこだかわかるか?」

 

『まぁな。奏夜、こいつはまずいことになったぞ』

 

「?まずいこと?」

 

ここがどこだかわかっているキルバは深刻そうな声をあげていたのだが、そのことに奏夜は首を傾げていた。

 

『冥府ホラーハーデスは、輝きを放つ者を冥府の闇に落とす力を秘めており、奴は自らの闇の空間に獲物を閉じ込め、始末するみたいだ』

 

「ということは、ここは……」

 

『左様。ここは我が作りし空間だ』

 

奏夜はハーデスの特徴を聞いてこの場所を察した奏夜であったが、その前にハーデスが2人の前に姿を現していた。

 

「ハーデス……!」

 

奏夜とトウヤの前にハーデスが出現し、トウヤはハーデスのことを睨みつけていた。

 

『それを知ったところでもう遅い。我を倒さぬ限りここからは出られぬが、誰も我を倒すことは出来ぬ』

 

2人の前に立ちはだかるハーデスは、使徒ホラーと同等の力を持っているホラーであり、蛮神の力も併せ持つため、その実力は未知数であった。

 

「倒すさ……!俺は……。いや、俺たちは生きて元の世界に戻らなきゃいけないからな!」

 

「俺だってお前に負けるつもりはない!暁のメンバーとして、蛮神は倒さなきゃいけないからな!このエオルゼアのために!」

 

奏夜は全員で元の世界に帰るためにハーデスを倒そうとしており、トウヤは暁の血盟のメンバーとして、このエオルゼアを守るためにハーデスを倒そうとしていた。

 

『愚かな……。我の力で貴様らを漆黒の闇に叩き落としてくれよう!』

 

ハーデスは手にしていた鎌を構えると、奏夜とトウヤの2人を睨みつけていた。

 

そして、奏夜とトウヤは素体ホラーたちとの戦いから手にしていたそれぞれの剣を構えていた。

 

『奏夜。ここは奴の作り出した空間だから鎧の制限時間はない。だから、思い切りいけ!』

 

「そうなのか?……わかった!」

 

魔戒騎士の鎧は魔界より召還される。

 

その力を人界で使うと、99.9秒という制限時間が設けられている。

 

それを過ぎてしまうと、装着者の身に危険が及んでしまうのである。

 

しかし、魔界や、ホラーの力によって作り出された魔界に似た空間だと、鎧の制限時間はない。

 

この空間はホラーの力によって作り出された魔界に似た空間のため、鎧の制限時間を気にすることなく戦えるのである。

 

「蛮神の力を持った、冥府ホラーハーデス!貴様の陰我……俺たちが断ち切る!」

 

奏夜はハーデスに対してこのように宣言すると、魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

その部分のみ空間が変化しており、奏夜は円から放たれた光に包まれていた。

 

すると、その円の部分から黄金の鎧が出現すると、奏夜は黄金の鎧を身に纏った。

 

こうして、奏夜は陽光騎士輝狼の鎧を召還し、その鎧を身に纏ったのである。

 

「!?黄金の……騎士!?」

 

『その忌々しき輝き……。貴様、黄金騎士牙狼か!』

 

「その間違いは本当に多いんだよな……。俺は牙狼じゃない!」

 

奏夜は黄金の鎧を身に纏っているため、時々牙狼と間違われることがあるのだが、奏夜はその度に間違いを正しており、奏夜はげんなりとしていた。

 

「その鎧……。お前もまた、光の戦士なんだな……」

 

「いや、俺はそんな大それたもんじゃない。俺は人を守る魔戒騎士だ!それ以上でもそれ以下でもないさ」

 

「魔戒騎士……。だったら、光の騎士って感じかな?」

 

「光の騎士か……。悪くない!」

 

トウヤの言った光の騎士という言葉を聞き、笑みを浮かべていた。

 

μ'sが初めて9人になった時、希が奏夜のことをこのように例えていたからである。

 

こうしてトウヤと鎧を召還した奏夜は、ホラーと蛮神2つの力を持ったハーデスに向かっていった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜とトウヤの2人がハーデスに向かっていった頃、穂乃果たちは何もすることが出来ず、その場に立ち尽くしていた。

 

しばらくの間、穂乃果たちがその場に留まっていると……。

 

「……みんな!無事!?」

 

素体ホラーの大群を蹴散らしたと思われるサンクレッド、ヤ・シュトラ、イダ、パパリモの4人がやって来ていた。

 

「あれ?みんなだけ?トウヤとソウヤはどうしたの?」

 

「トウヤさんとそーくんは……」

 

「敵の力でどこかへと姿を消してしまいました……」

 

イダが周囲を見渡して首を傾げていると、穂乃果と海未の2人が事情を説明していた。

 

「敵は、ハーデスと名乗っていたわ」

 

「蛮神でもあり、ホラーでもあるって言ってたにゃ!」

 

「!?ハーデスだって!?」

 

敵の正体を絵里と凛から聞いたパパリモは、驚きを隠せなかった。

 

「昔、本で読んだことがある。冥府の闇の力で、迫り来る者を闇に包み込み、獲物を始末する蛮神がいるということを」

 

「だけど、ハーデスだなんて、ただの伝説だと思っていたわ」

 

「俺もそう思う。奴は他の蛮神と違って、蛮族が呼び降ろす訳ではないみたいだからな」

 

どうやらハーデスは、他の蛮神とは異なり蛮族がクリスタルの力を得て呼び降ろすという召喚方法ではないため、ヤ・シュトラもサンクレッドもその存在は伝説だと思っていた。

 

「だが、伝説が本当ならばトウヤもソウヤも危険だ。奴の力は相当なものだからな」

 

「そんな……!私たちに何か出来ないのでしょうか?」

 

「ハーデスの作り出した空間に飛び込む手段はないんだ。残念だが、今の僕たちに出来ることは……」

 

パパリモは悲痛な表情で対策がないことを伝えると、それを聞いたμ'sのメンバーの表情が暗くなっていた。

 

……穂乃果を除いて。

 

「?穂乃果?どうしたのですか?」

 

「みんな!あるよ!今の私たちに出来ることが!」

 

「穂乃果、それはいったい?」

 

蛮神について詳しい暁のメンバーですら対策がない中、穂乃果は何かを思いついたようであり、それを絵里が聞いていた。

 

「私たちの歌を……そーくんとトウヤさんに届けよう!」

 

穂乃果は、自分たちの歌を奏夜やトウヤに届けようと考えていた。

 

「ちょっと、穂乃果!本気なの!?」

 

「ニコの言う通りだ!だいたい、ハーデスの空間がどこにあるのかわからないのに歌を届けるだなんて」

 

「そうね。あなたたちがアイドルをしているのはわかったけれど、歌を届けるだなんて意味がないと思うのだけれど」

 

穂乃果の提案ににこは驚いており、パパリモとヤ・シュトラは、歌を届けるという行為に疑問を抱いていた。

 

「そんなことはない!私たちの気持ちが伝われば、きっとそーくんの力になる!」

 

「そうですね……。奏夜の力が高まれば、トウヤさんだってきっと……」

 

「うん!面白いと思うな!」

 

穂乃果の熱い思いに、海未とことりも共感していた。

 

「うん!やってみてもいいと思うにゃ!」

 

「私もそう思うよ!」

 

「そうね……。やってみる価値はあるんじゃない?」

 

「そうよ!何もしないで待ってるよりは遥かにましよ!」

 

「そうやね。ウチらの歌が、奏夜君の力になるのなら」

 

「やるわよ!みんな!」

 

穂乃果の歌を届けたいという提案は、他のメンバーも乗り気であり、本気でこの場で歌を歌おうとしていた。

 

「……本気なのか?」

 

「まぁまぁ、あの子達がやりたいならやらせてあげるといいよ」

 

穂乃果たちが本気で歌を歌おうとしていることにパパリモは驚いており、イダはそんなパパリモをなだめつつ、特に反対はしていなかった。

 

そんなイダの言葉にヤ・シュトラとサンクレッドも頷いており、穂乃果たちの動向を見守ることにした。

 

穂乃果たちは先ほどハーデスがいた場所まで移動すると、横一列に並んでいた。

 

すると、不思議なことが起こった。

 

先ほどまで別々だった穂乃果たちの格好が変化し、音ノ木坂学院の制服に変わったのである。

 

「!?これって……!」

 

「学校の制服……だよね?」

 

自分たちの格好が制服に変わったことに、穂乃果たちは驚いていた。

 

「みんな!やろう!これなら、私たちらしいパフォーマンスが出来るよ!」

 

戦うための装備からいつもの格好に戻り、穂乃果たちのモチベーションはさらに高まっていた。

 

「行くよ!……μ's!!」

 

『ミュージック……スタート!!』

 

穂乃果たちはいつものμ'sの掛け声をすると、どこからともなく音楽が流れてきた。

 

その曲は穂乃果たちが演奏したいと思っていた曲であり、穂乃果たちはどこからか流れた音楽に合わせて、パフォーマンスを始めていた。

 

 

 

 

 

 

使用曲→僕らのLIVE 君とのLIFE

 

 

 

 

 

 

 

 

……穂乃果たちが奏夜やトウヤに歌を届けるために歌い始めようとしていた頃、奏夜とトウヤは、ハーデスと激しい戦いを繰り広げていた。

 

しかし、ハーデスの力は強大であるため、苦戦していた。

 

「はぁっ!!」

 

奏夜は魔戒剣が変化した陽光剣を一閃するのだが、その攻撃はハーデスにかわされてしまった。

 

『フン……。愚かな!!』

 

ハーデスは反撃と言わんばかりに邪気の込もった衝撃波を放っていた。

 

「ぐぁっ……!」

 

「ソウヤ!……こいつ!!」

 

奏夜がダメージを受けるのを見ていたトウヤは、ハーデスにダメージを与えるために攻撃を仕掛けようとしていた。

 

『無駄だ!』

 

トウヤの剣がハーデスに迫る前にハーデスは衝撃波を放っており、それを受けたトウヤは吹き飛ばされてしまった。

 

「くっ……!」

 

奏夜もトウヤもハーデス相手にまともなダメージを与えることが出来ておらず、苦しい戦いになっていた。

 

『無駄だ。この空間は貴様らの力を弱め、我の力を高める。どう足掻いても貴様らに勝ち目はない』

 

ハーデスの説明通り、ここはハーデス特有の空間であるため、ここに招かれた者の力は弱まっており、ハーデスはその分力を高めている。

 

この空間のシステムを何とかしなければ、奏夜とトウヤに勝ち目はなかった。

 

そのため……。

 

「キルバ、何かないか?奴の空間の力を弱める方法は」

 

『残念ながら何もないぞ』

 

「くそっ……!万事休すか……!」

 

魔導輪であるキルバも対抗策は見つけられず、万策尽きた状態であった。

 

「諦めてたまるか……!みんなと一緒に元の世界に戻るんだ!」

 

万策尽きた状態であっても、奏夜は最後まで諦めていなかった。

 

「そうだな……。俺も、苦しい戦いはたくさん経験してきた。簡単に諦めるわけにはいかない」

 

奏夜だけではなく、トウヤもこの絶望的な状態であっても、諦めることはしなかった。

 

『愚かな……。そんな貴様らの希望、叩き斬ってくれるわ!』

 

ハーデスは、最後まで希望を捨てていない2人にトドメを刺すべく、鎌を振り下ろそうとしていた。

 

その時、どこからかわからないが、歌声が聞こえてきた。

 

「!?これは……歌?いったいどこから?」

 

「この曲は……穂乃果たちだ!」

 

奏夜やトウヤが聞いた歌は「僕らのLIVE 君とのLIFE」であったため、奏夜はこの歌がすぐ穂乃果たちが歌っていることに気付いたのであった。

 

『フン。歌が聞こえようとも、この状態に何の変化はない』

 

「……それはどうかな?」

 

『何?』

 

「みんなの歌が、俺に力をくれる!今の俺は、さっきまでの俺じゃない!」

 

穂乃果たちの歌を聞いた奏夜は、体の中から力が湧いてきていたため、先ほどよりは気合を入れていた。

 

『ハッタリを……。ならば、貴様から始末してくれるわ!』

 

ハーデスは鎌の切っ先に邪気を込めて、渾身の一撃にて奏夜を斬り裂こうとしていた。

 

しかし、奏夜はハーデスの鎌を陽光剣で受け止めるとそのままハーデスを弾き飛ばし、すかさず陽光剣を一閃して、ハーデスを斬り裂いていた。

 

『ぐぅぅ……!馬鹿な!この空間では、貴様は思うように力を発揮出来ないはず!』

 

「そうかもしれないな。だけど、今の俺たちには穂乃果たちの歌がある!だから、お前如きには負けないんだよ!」

 

奏夜は陽光剣を前方に突きつけると、ハーデスに対してこのように宣言をしていた。

 

『おのれ……!忌々しき輝きを放ちおって……!!』

 

ハーデスの力によって弱まっていたはずの奏夜とトウヤの中の光がまた大きくなっており、ハーデスは苛立ちを募らせていた。

 

「ソウヤ!俺の力を使ってくれ!光の戦士である俺と、光の騎士であるお前の力が1つに合わされば、こいつを倒せる!」

 

「わかった!お前の力を借りるぜ!トウヤ!」

 

奏夜は光の戦士と呼ばれているトウヤの力を借りることにしており、トウヤは精神を集中させた。

 

すると、トウヤの体から光が出現すると、その光は奏夜の中に入っていった。

 

「行くぞ!……光覇ぁ!!」

 

奏夜は、穂乃果たちの歌による声援によって奮起し、自身の魔導馬である光覇を呼び出し、奏夜は光覇に跨っていた。

 

その瞬間、トウヤから力をもらった影響なのか、剣は既に陽光斬邪剣に変化しており、さらに光覇の体に翼が生えていた。

 

「う、馬を呼んだ!?これがソウヤのマウントなのか?それに、翼が生えているなんて、まるでペガサスみたいだ」

 

トウヤは奏夜が呼び出した光覇を見て、驚きを隠せないようであった。

 

「蛮神の力を持ったホラー、ハーデス!!光を持った者を闇に落とそうとする貴様の陰我……俺が断ち切る!」

 

奏夜はハーデスに対してこのように宣言すると、翼の生えた光覇の力によって飛翔していた。

 

『おのれ……!これならどうだ!』

 

ハーデスは鎌を振り下ろすと、そこから邪気の塊を放っていた。

 

しかし、奏夜は飛翔する光覇をうまく乗りこなし、すべての攻撃をかわしていた。

 

『何だと!?』

 

「……この一撃で決める!」

 

奏夜は陽光斬邪剣を構えると、その切っ先に橙色の魔導火を纏わせ、烈火炎装の状態になった。

 

『させるか!』

 

迫り来る奏夜に備えて、ハーデスは邪気の塊を使って巨大なシールドを形成していた。

 

奏夜は陽光斬邪剣を振り下ろすと、その切っ先が邪気のシールドに直撃していた。

 

奏夜の陽光斬邪剣が勝つか。ハーデスのシールドが勝つか。

 

シールドの周りからは火花が飛び散っており、衝撃の激しさを物語っていた。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

奏夜はまるで獣のような咆哮をあげると、先ほどよりも、陽光斬邪剣を持つ力を強めていた。

 

すると、ハーデスの展開したシールドにヒビが出来たのであった。

 

『何!?』

 

「これで……終わりだぁ!!」

 

奏夜は陽光斬邪剣を振り下ろすと、そのままハーデスの体を真っ二つに斬り裂いたのであった。

 

『ばっ、馬鹿な……!冥府の力を持つ我が、こんな小僧に……!!』

 

ハーデスは、自分が倒されることが信じられないと言いたげな感じであり、その体は陰我と共に消滅した。

 

「よし!やったぞ!」

 

奏夜が見事にハーデスを撃破しており、トウヤは歓喜の声をあげていた。

 

奏夜は光覇をトウヤの近くまで移動させると、鎧を解除し、着地を決めた後に元に戻った魔戒剣を緑の鞘に納めていた。

 

そして、トウヤもまた、自分の剣を鞘に納めていた。

 

「……ソウヤ!やったな!」

 

「あぁ!」

 

トウヤと奏夜は互いに勝利を喜び合うと、ハイタッチをしていた。

 

すると、ハーデスの作り出したこの空間が徐々に崩壊していったのであった。

 

奏夜とトウヤは現れた空間の裂け目の中に飛び込み、仲間たちの元へと戻っていったのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

奏夜とトウヤの2人がハーデスの空間から脱出しようとしていた頃、穂乃果たちは歌を歌い終えていた。

 

ハーデスの作り出した空間で戦う2人の無事を祈って渾身の力を込めて歌った穂乃果たちは、最後まで歌い切ることにより、満足感に浸っていた。

 

「……良い歌だったわね」

 

「あぁ、そうだな」

 

「みんな、最高に可愛かったよ!」

 

「俺はもうファンになりそうだぜ!」

 

ヤ・シュトラ、パパリモは素直に穂乃果たちの歌に感心しており、イダとサンクレッドはそのパフォーマンスに魅了されていた。

 

「奏夜とトウヤさんは……大丈夫ですよね?」

 

「もちろんだよ!あの2人なら、きっと……」

 

穂乃果は奏夜とトウヤの無事を確信しており、そんな言葉に他のメンバーも無言で頷いていた。

 

すると、先ほど2人が消えたエリアから光が放たれ、その光が徐々に消えていくと、奏夜とトウヤが姿を現したのであった。

 

「……!?あれって!」

 

「トウヤさん!そーくん!」

 

奏夜とトウヤが無事に戻ってきた事実に穂乃果たちの表情は明るくなり、そのまま2人の元へと駆け出していった。

 

それは暁のメンバーも同様であり、同様に2人の元へと駆け出していったのである。

 

「奏夜!あの怪物を倒したのね!」

 

「あぁ!俺とトウヤ2人の力があったからこそ、奴を倒すことが出来たんだよ」

 

「凄いにゃ!流石はそーや君だにゃ!」

 

「うんうん。だけどウチは奏夜君なら勝つって信じてたけどね」

 

「それって、カードのお告げ?」

 

「もちろんや♪」

 

希は度々タロットカードを使って占いをしているのだが、今回も同じように占いをしていた。

 

あまりに希らしい行動だと思っていた奏夜たちは互いに笑い合っていた。

 

「……まさか、本当に伝説と呼ばれる蛮神を倒してしまうとはね……」

 

ヤ・シュトラはハーデスが実在したことに驚いていたが、奏夜やトウヤがそのハーデスを倒してしまったことを特に驚いていた。

 

「ソウヤの力添えがあったとはいえ、流石はトウヤだよな」

 

「うむ。トウヤには驚かせることばかりだよ」

 

「トウヤも今やエオルゼアの英雄だしね」

 

サンクレッド、パパリモ、イダの3人も、トウヤの偉業に驚いていた。

 

トウヤは最初は無名の冒険者だったが、様々な経験を積み、暁の血盟に加入したことで、様々な蛮神を討伐してきた。

 

そのため、暁のメンバーだけではなく、様々な人々から英雄と呼ばれるようになったのであった。

 

ここにいる全員が勝利を喜んでいたその時だった。

 

「……!あれ?これって……」

 

奏夜は自分の体に違和感を感じていたのだが、自分の体が少しずつ消えようとしていたのであった。

 

それは穂乃果たちも同様であり、穂乃果たちも困惑していた。

 

しかし、奏夜とトウヤはこれから何が起こるのかを察していた。

 

「……お前たち、戻るんだな。元の世界に」

 

「あぁ、そうみたいだ」

 

「!?それじゃあ、私たち、帰れるんだね!」

 

「でも……それって……」

 

穂乃果は元の世界に戻れることに喜んでいたのだが、それはすなわち、このエオルゼアで出会ったトウヤたちとの別れを意味していた。

 

「……みんな、そんな顔をするんじゃないわよ。ようやく自分の世界に帰れるのよ?もっと胸を張りなさい」

 

それを察した穂乃果たちは悲しそうな表情をしていたのだが、それをヤ・シュトラがなだめていた。

 

「そうだよ!自分たちの故郷に帰れるなら、胸を張って帰りなよ!それが……1番なんだから……」

 

「イダ……。お前……」

 

イダとは相棒であるパパリモは、イダの様子が少しだけおかしいことに気付いていた。

 

イダは仮面を付けているため、その表情を読み取ることは不可能だったが、その声色から、様子がおかしいことを読み取ることは可能だった。

 

「お前たちは、スクールアイドルだったっけ?それを頑張れよ!」

 

「そういうお前はこれからもエオルゼアのために戦うんだろ?お前も頑張れよ」

 

「あぁ、元気でな、ソウヤ」

 

「お前もな、トウヤ」

 

互いのことを認め合った奏夜とトウヤは固い握手を交わしていた。

 

すると、奏夜と穂乃果たちの姿が消え去り、そのまま元の世界へと戻っていった。

 

「……俺も頑張るから、頑張れよ、ソウヤ……」

 

奏夜たちの姿が消え去り、トウヤはこのように呟いていた。

 

トウヤたちは奏夜たちとの短い交流を思い出しているからか、しばらくの間、その場に立ち尽くしていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くん!そーくん!起きて!」

 

「ん?んぁ……?」

 

穂乃果が奏夜のことを起こしていたため、奏夜は目を覚ますのだが、奏夜が起き上がると、そこは穂乃果の家であった。

 

「あれ?俺は……」

 

奏夜はボケっとしながらもキョロキョロ周囲を見回すのだが、そこは穂乃果の家の1階にある居間だった。

 

「もぉ!そーくんってば、起こしても全然起きないんだもん!」

 

どうやら奏夜はずっと寝ていたようであり、なかなか起きない奏夜に穂乃果は膨れっ面になっていた。

 

(!?もしかして、さっきのは夢だっていうのか?あれだけの体験をしたっていうのに……)

 

エオルゼアでの体験は自分の見た夢なのではないか?

 

そう考えてしまったら、奏夜の顔は真っ青になっていた。

 

「ところで、他のみんなは?」

 

「みんなならもうとっくに帰っちゃったよ。そーくんもなかなか起きないし……」

 

「そっか……。悪いな、穂乃果。どうやら俺、疲れてたみたいだ」

 

奏夜はここまでうたた寝をしていたのは、μ'sのマネージャーの仕事や、魔戒騎士の仕事が忙しいからと予想し、穂乃果に謝罪をしていた。

 

「謝らなくてもいいよ!私たちも解散するまで寝ちゃってたみたいだから」

 

「そうなのか?」

 

「それにしても、おかしな夢だったなぁ。私やみんながゲームの世界で冒険してるんだもん!」

 

どうやら穂乃果もまた、エオルゼアでの体験を夢に見ていたと思われた。

 

「穂乃果もか!?実は俺もそんな夢を見てたんだよ」

 

「そーくんもなの?実は、みんなも似たような夢を見てて、不思議だねって話をしてたところなんだよね」

 

どうやら穂乃果だけではなく、他のメンバーも同じ夢を見ていたようであった。

 

(!?みんなもなのか。だとしたら、あのエオルゼアでの生活っていうのは、夢じゃないのかもしれないな)

 

奏夜はそんなことを考えながらテレビの画面を見ると、穂乃果はさっきまでゲームをしていたようであり、穂乃果が作ったと思われるゲームキャラがその場で立ち尽くしていた。

 

「なぁ、穂乃果。これって……」

 

「そうそう!ファイナルファンタジーだよ!ヒデコたちに勧められて始めたけど、けっこう面白いんだよね」

 

穂乃果はクラスメイトからの勧めでこの「ファイナルファンタジー14」を始めたようであった。

 

(……俺たちが見ていた夢の世界って……。まさかな……)

 

「?そーくん?どしたの?」

 

「いや、何でもない。なぁ、穂乃果。俺もこのゲームに興味があるから、もうちょっとプレイの様子を見せてくれないか?」

 

「うん!もちろんだよ!」

 

奏夜が目を覚ましたことにより、穂乃果はプレイを再開し、奏夜は隣でその様子を見守っていた。

 

こうして、奏夜たちは普段と同じ日常へと戻ることになったのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

……終

 

 




戦闘シーンがFF14より牙狼寄りになってしまった。

でも、その方がFF14未プレイの方もわかりやすいかなと思いまして。

細かいスキル回しを書いたとしても未プレイの方はわかりにくいですし、僕が使ってないジョブもあるので。

今回戦ったハーデスは使徒ホラー並の力があると言っていましたが、時系列は本編に沿ったものではないので、本編より奏夜が強くても不思議ではないと思います。

本編よりも早く、奏夜のパワーアップ態が登場しましたが、翼の生えた光覇を今後出すかどうかは未定です。

さて、次回はまた本編に戻りたいと思っています。

次回からはいよいよ二学期に突入するため、ストーリーは大きく動いていきます。

これから奏夜たちを待ち受けるものとは?

次回も投稿が遅くなるとは思いますが、なるべく早く投稿したいと思っていますので、次回を楽しみにしていて下さい!



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第43話 「教師」

お待たせしました!第43話になります!

喋るザルバが予約開始しましたが、皆さんは予約しましたか?

僕は牙狼ファンなので、迷わず即予約しました。

やはり人気だからか、11月分の予約はいっぱいになっちゃったみたいですが……。

さて、今回からはようやく本編に戻っていきます。

今回からいよいよ二学期がスタートします。

奏夜たちを待ち受けるものとは?

それでは、第43話をどうぞ!




……ここは全ての番犬所を総括する機関である元老院。

 

元老院の神官の間を、1人の魔戒騎士が訪れていた。

 

「……小津剣斗。呼び出しに応じ、馳せ参じました」

 

その魔戒騎士とは、修練場で教官をしていた1人であり、奏夜、統夜、リンドウと交流をした小津剣斗であった。

 

「よく来てくれましたね、剣斗。あなたの親友である玲二の件は残念でしたね……」

 

そして、剣斗を呼び出したのは元老院の神官であるグレスであった。

 

グレスが話を出していたのは、剣斗の親友であり、サバックの修練場付近の里で魔竜の眼を守っていた飯田玲二であった。

 

玲二は魔竜の眼が危険なものだと知り、秘密裏にそれを処分しようとしていたところを奏夜、統夜、リンドウ、剣斗の4人に 見つかってしまう。

 

統夜とリンドウは玲二をホラーと結託する者と疑いの目を向けていたが、奏夜と剣斗は玲二のことを信じようとしていた。

 

こうして、玲二はそのまま魔竜の眼を持ち去ろうとするのだが、その前に魔竜の眼をジンガに奪われてしまい、ジンガに殺されてしまったのであった。

 

「いえ……。私は亡き玲二の遺志を受け継ぎ、彼の分まで務めを果たそうと思っております」

 

剣斗は、親友を失ってしまい、悲しい気持ちはあったものの、その気持ちを乗り越えて前に進もうとしていた。

 

「そうですか……。それでは、剣斗。あなたはニーズヘッグ復活を阻止するために翡翠の番犬所の管轄に行ってもらいます」

 

「ハッ!小津剣斗!命を賭けて使命に挑みます」

 

「アハハ……。実直なのは結構ですが、程々に頼みましたよ……」

 

グレスは、剣斗のあまりに実直な姿勢を見て苦笑いをしていた。

 

「剣斗、翡翠の番犬所の管轄に行くにあたって、あなたにお願いしたいことがあります」

 

「ハッ!何でもお申し付け下さい!」

 

「頼もしいですね。実は……」

 

グレスは、剣斗に頼みたいと思っている話をしたのだが、その内容にさすがの剣斗も驚いていた。

 

しかし……。

 

「承知しました!この私にどこまで務まるかはわかりませんが、全力でその役目を務めます」

 

「頼みましたよ、剣斗」

 

「ハッ!直ちに翡翠の番犬所の管轄に向かいますので、失礼いたします」

 

剣斗はグレスに一礼をすると、そのまま神官の間を後にして、旅支度を整えた後に秋葉原へと向かっていった。

 

魔戒騎士としての特命を受けて……。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

奏夜が穂乃果たちと共に花火大会に行ってからさらに時間は経過し、今日は二学期の始業式であった。

 

奏夜は朝の日課であるエレメントの浄化を行っていた。

 

夏休みの間はμ'sの練習の合間に行えたが、これからはエレメントの浄化の時間も減るため、出来る範囲だけでもやろうと奏夜は決めていたのである。

 

奏夜がエレメントの浄化を終えて登校したのは、始業時間ギリギリであった。

 

「……ま、間に合った……」

 

奏夜は遅刻を覚悟していたのだが、どうにか間に合ったため、奏夜は安堵をしていた。

 

そして奏夜は教室に入るのだが……。

 

「あっ、奏夜!やっと来ましたか!」

 

「そーくん!遅いよぉ〜!」

 

奏夜がギリギリに登校したのが気に入らなかったからか、穂乃果はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「仕方ないだろ。朝からやることがあるんだから」

 

奏夜はエレメントの浄化と公言はせずにこう答えていた。

 

奏夜が魔戒騎士であることを他のクラスメイトに知られる訳にはいかないからである。

 

「なるほど、確かにそうですね」

 

事情を察した海未はどうやら納得したようであった。

 

「授業が始まるまでそーくんとお話がしたかったのに……。ねぇ、ことりちゃん?」

 

「……」

 

穂乃果はことりに同意を求めるのだが、何故かことりは浮かない表情をしていた。

 

「……ことりちゃん?」

 

「ことり?どうしましたか?」

 

浮かない表情をしていることりを見て、穂乃果と海未は首を傾げていた。

 

「おい、ことり!」

 

「ぴぃっ!?な、何?」

 

奏夜が声をかけてことりはようやく気付いたようであり、ことりは驚いていた。

 

「ったく、何?じゃないだろ?いったいどうしたんだ?朝から様子が変だぞ」

 

「エヘヘ……。そうかな?今日は寝不足なんだよねぇ。昨日はあまり寝られなかったから」

 

「寝不足って、ことりちゃん大丈夫なの?」

 

「穂乃果の言う通りです。気を付けて下さいよ。学園祭も近付いてるのですから」

 

「そうだよね。気を付けるよ」

 

ことりは苦笑いをしながら何でもないことを主張していた。

 

(ことりのやつ、どうしたんだ?)

 

《さぁな。だが、このまま放っておくわけにはいかないだろうな》

 

(そうだな……。学園祭も近いし、ことりをこのままにしていたらμ'sの活動に影響が出そうだからな)

 

奏夜はμ'sの活動に支障をきたす訳にはいかないと判断し、ことりから話を聞き出そうとしたのだが……。

 

「おい、これから始業式だぞ。お前ら、講堂に移動しろ〜」

 

その前に担任である山田先生が現れると、奏夜たちにこのようなことを言っていた。

 

それを聞いたクラスメイトたちはぞろぞろと講堂へと移動していった。

 

「……私たちも行きましょうか」

 

「……そうだな」

 

奏夜はことりから話を聞き出そうとしたが、始業式があるため、そのまま講堂へと移動することにした。

 

講堂に移動すると、奏夜は2年生が集まっている席に腰を下ろし、穂乃果たち3人もそれに続いていた。

 

全校生徒が席についたところで、始業式が開始された。

 

最初は校歌斉唱と、学校の「式」ではよくあるスタートであった。

 

音楽担当の教諭がピアノ伴奏を行っており、それに合わせて全校生徒が校歌を歌っていた。

 

……奏夜だけはクラスメイトに制止されているせいで口パクなのだが……。

 

奏夜は自身では自覚していないが、極度の音痴なのである。

 

その歌は、某猫型ロボットが活躍するアニメに登場する暴君……ではなくてガキ大将に匹敵する程のものであった。

 

その事実をクラスメイト全員が知っているため、このような場で奏夜を歌わせないよう、クラスメイトたちは必死だった。

 

奏夜はそれを知っているため、歌いたいと思っていても口を噤んでいたのである。

 

こうして、奏夜は歌うことなく、無事(?)に校歌は終了し、続いては理事長の挨拶となった。

 

この手の話というのはネバーエンディングストーリーと言っても過言ではないくらい長いものであるのだが、ことりの母親である理事長はとても美人なため、自然と苦痛と感じさせなかった。

 

しかし、やはり理事長の話は長かったのだが、奏夜は理事長の話を聞いて感じるものがあった。

 

それは……。

 

(……あれ?この学校は廃校の危機なのに、廃校の話が一切出てこないな……)

 

《お前たちμ'sが頑張ってるからな。もしかしたら廃校の話が無くなりつつあるのかもな》

 

(本当にそうなったらいいんだけどな……)

 

廃校というキーワードが一切出てこなかったことであり、夏休み前に行われたオープンキャンパスの成功により、廃校阻止の動きが進んでいるのではないか?と奏夜は微かに期待をしていたのである。

 

こうして、長い理事長の話は終了したのであった。

 

『さて……。突然ですが、本日付けで新しい先生が来ることになりました』

 

理事長は挨拶を終えると、新任の先生が来ることを話しており、それを聞いた生徒たちがざわついていた。

 

『それでは、挨拶をよろしくお願いします』

 

理事長が新しく来た先生をステージに呼ぶと、スーツを着た1人の男性がステージに上がってきた。

 

その男性は身長が高く、整った顔立ちをしており、まるでモデルのような見た目をしていた。

 

『それでは、挨拶をお願いします』

 

理事長はこの男性に挨拶をさせるために少し下がると、男性はマイクのある方へと移動していた。

 

そして……。

 

『……私が今日からこの音ノ木坂学院に赴任された、小津剣斗だ!担当は体育。教師としてはまだまだ未熟だが、みんなとはイイ関係を築きたいと思っているのでよろしく頼む!』

 

なんと、新しい先生というのは、奏夜が修練場で出会った魔戒騎士である小津剣斗であった。

 

(け……剣斗!?何でこんなところに!?)

 

《ほぉ、まさか教師として潜り込んでくるとはな……》

 

教師としてこの学校にやって来た剣斗に、奏夜とキルバは驚きを隠せないようであった。

 

そして、剣斗のモデルのような容姿を見た生徒たちは黄色い歓声をあげていた。

 

「格好いい先生だね」

 

「確かに。モデルさんみたい!」

 

穂乃果とことりもまた、剣斗のモデルのような容姿に感嘆の声をあげていた。

 

「そうですか?奏夜はどう思いますか?」

 

「……」

 

海未は穂乃果とことりの言葉に首を傾げており、奏夜に同意を求めるのだが、奏夜は目をパチクリとさせ、口をあんぐりと開けて唖然としていた。

 

「……奏夜?どうしたのですか?」

 

奏夜の様子が明らかにおかしかったため、海未は首を傾げていた。

 

こうして、剣斗の紹介は終わり、その他の連絡事項を伝えられた後に始業式は終了となった。

 

始業式が終わり、生徒たちはぞろぞろと自分の教室に戻っていき、奏夜たちも教室に戻っていった。

 

(……そういえば、元老院から魔戒騎士が派遣されるって話は聞いてはいたけど、まさかそれが剣斗だったなんて……)

 

《それに、教師として潜り込んでくるとはな……》

 

教室に戻った奏夜とキルバは、新任の教師が剣斗だとは思っていなかったからか、驚きを隠せなかった。

 

さらに、元老院から魔戒騎士が派遣されると聞いてはいたのだが、それが剣斗だとは思ってもいなかった。

 

(とりあえず、どうにか剣斗を見つけて話を聞き出さないとな)

 

奏夜は放課後にでも剣斗に会って、色々と話を聞き出そうと考えていた。

 

そんなことを考えていると、担任である山田先生が教室に入ってきた。

 

「おい、お前ら、席につけ!」

 

そんな山田先生の声を聞いたクラスメイトたちは自分の席についていった。

 

「お前ら、今日から二学期だ。学園祭も近いから、色々と決めることもあるからそのつもりでいろよ」

 

二学期になって最初の大きなイベントは学園祭のようであり、クラスメイトたちは口々に「は〜い」と返事をしていた。

 

しかし、山田先生の話はこれで終わりではなかった。

 

「お前ら、運が良かったな。噂の新任教師はこのクラスの副担任になったぞ」

 

山田先生のこの言葉に、クラスメイトたちはざわついていた。

 

(っということは……)

 

「それじゃあ、小津先生!入ってきてくれ!」

 

山田先生が教室の扉の方を向いてこのように言うと、先ほど始業式で挨拶をしていた剣斗が教室に入ってきた。

 

「まぁ、そういう訳で、小津先生。一言挨拶でもしてやってくれ」

 

「承知した。山田先生」

 

剣斗は山田先生に対して頷くと、教壇に立ち、奏夜たちに挨拶をすることになった。

 

「改めて、今日からこの学校の教師となった小津剣斗だ。このクラスの副担任だから、みんなとは関わることも多いだろう。みんなとはイイ関係を築いていきたいと思うから、よろしく頼む!」

 

(アハハ……。やっぱり熱いな、剣斗のやつ……)

 

奏夜は未だに剣斗が先生として潜り込んできたことに実感がわかず苦笑いをしていたが、それは、その苦笑いは剣斗の熱い性格に対してもであった。

 

すると、剣斗は奏夜の存在に気付いたようであり……。

 

「おぉ!奏夜ではないか!この学校にいればお前に会えると思ってはいたが、まさかこのクラスとはな!」

 

奏夜を見つけた剣斗の表情はさらに明るくなり、親しげに奏夜に話しかけていた。

 

「なんだ、如月。小津先生と知り合いか?」

 

「えっ、えぇ……まぁ……」

 

剣斗が奏夜に親しげだったのが気になった山田先生は首を傾げながらこう奏夜に問いかけており、奏夜は苦笑いをしながら答えていた。

 

「副担任として奏夜のクラスに関わることになるとは、イイ!とてもイイぞ!」

 

剣斗はさらに熱くなっているようであり、あまりに熱血な剣斗のキャラに、クラスメイトたちは少しだけ戸惑っていた。

 

「教師と生徒。立場は違えど、同じ学舎にいるのだ。これからは熱く語り合っていこうではないか!我が友よ!」

 

「ちょっ!?おまっ!」

 

新任教師が1人の生徒のことを「友」と呼んでいるのはあまりに異様であり、クラスメイトたちは様々な憶測を奏夜に向けていた。

 

「あ、アハハ……」

 

そんな目を向けられた奏夜は、もはや苦笑いをすることしか出来なかった。

 

そして奏夜はジト目になりながら剣斗に対して「後でちゃんと説明をしろ」と口パクで伝えると、剣斗は無言で頷いていた。

 

こうして、始業式とホームルームは終わり、剣斗は音ノ木坂学院の体育教師として赴任することになったのであった。

 

ホームルーム終了後は予想通りといえば予想通りなのだが、生徒たちが剣斗の前に集まり、質問攻めをしていた。

 

剣斗は生徒たちの質問に丁寧に答えており、その度に黄色い歓声があがっていた。

 

「……」

 

奏夜はそんな剣斗の様子をジト目で眺めていた。

 

「それにしても驚いたなぁ。そーくんが小津先生と知り合いだなんて」

 

「それに、友って言ってたもんね」

 

奏夜と剣斗が知り合いであり、なおかつ剣斗が奏夜のことを「友」と公言したことに穂乃果とことりは驚いていた。

 

「奏夜、小津先生とはいったいどのような関係なのですか?」

 

「あぁ、それは放課後に部室に集まった時に話すよ。あいつも呼び出すつもりだから」

 

「わかった。色々と気にはなるけど、それまでは我慢しておくね」

 

穂乃果は今にでも奏夜と剣斗の関係を知りたかったが、それは放課後の楽しみにしておくことにした。

 

「奏夜。あなたが小津先生と友人なのはわかりましたが、学内では教師と生徒。あまり馴れ馴れしい態度は良くないですよ」

 

「まぁ、わかってはいるんだけどな」

 

海未の言葉は重々理解はしているものの、奏夜は剣斗に出会った時からタメ口で話していたため、今更小津先生と呼んで他の先生と同じように振る舞うことは出来ないのであった。

 

「まぁまぁ、いいじゃんいいじゃん!私たちだって先輩禁止をしてるんだもん」

 

「そ、それはそうですが……」

 

「まぁまぁ♪もうすぐ授業も始まるし、話の続きは後にしようよ」

 

休み時間はあっという間に過ぎてしまい、間もなく授業が始まろうとしていた。

 

「確かにそうですね。それでは、詳しいことは今日の放課後にでも」

 

海未も納得したところで、授業開始の時間となり、クラスメイトたちや他のクラスの生徒たちは残念そうにそれぞれの居場所に散らばっていった。

 

その後もやはり剣斗と話す機会は得られなかったため、奏夜は剣斗を放課後アイドル研究部の部室に呼び出し、事情を話してもらうことにした。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後になり、奏夜たちはアイドル研究部の部室に集まっていた。

 

μ'sのメンバーは全員揃っており、今この場には剣斗もいた。

 

1年生組と3年生組は何故剣斗がこの場にいるのかわからず驚いていた。

 

なので、剣斗は奏夜への事情説明を兼ねて、自らの素性を明かすことにしていた。

 

奏夜は剣斗を呼び出す時に予め穂乃果たちμ'sのメンバーがホラーや魔戒騎士について知っているということも伝えていた。

 

こうして、剣斗は自分が魔戒騎士であることを穂乃果たちに伝えていた。

 

すると……。

 

「えぇ!?小津先生も魔戒騎士ダッタノォ!?」

 

新しく赴任した剣斗が魔戒騎士であると知り、花陽は驚きを隠せなかった。

 

それは他のメンバーもそうなのだが……。

 

「うむ。私は元老院という機関に所属する魔戒騎士だ。とある指令を行う奏夜たちを援護するために派遣されたのだ」

 

「それにしても、何で先生なんかになってるんだよ」

 

「確かに……。教師の仕事をしていては、魔戒騎士の仕事もままならないのでは?」

 

奏夜は何故先生としてここへやって来たのかが疑問であり、海未ももっともな疑問を投げかけていた。

 

「うむ。ただ元老院の応援として秋葉原に行くのではなく、教師として秋葉原に潜り込んだ方がいいだろうというグレス様の判断でな」

 

どうやら、剣斗が教師として音ノ木坂学院に潜り込んだのはグレスの判断であるみたいだった。

 

「それに、ジンガや尊士の動きも気になるだろう。出来る限り奏夜の側にいた方がいいという私の本音もあるのだ」

 

さらに、剣斗はこのような気持ちを抱えているからこそ、グレスの話を了承していたのである。

 

「そういう訳で、私はお前と共に戦うこともあるだろう。これからもよろしく頼んだぞ、奏夜」

 

「あぁ、こちらこそよろしく頼んだぞ、剣斗」

 

奏夜と剣斗はこれから共に戦っていく仲間として互いを歓迎し、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「奏夜、さっきからずっと気になっていたのだけれど、奏夜は小津先生に対して親しげに話しているわよね?小津先生は教師なんだからあまりよろしいとは言えないと思うのだけれど」

 

「それは私も思っていました」

 

絵里と海未は、奏夜が剣斗に対してタメ口で話していることに違和感を感じていた。

 

「まぁまぁ、そんなに気にするなよ。俺たちだって先輩禁止をしてるんだからさ」

 

「それとこれとは話が違うわ。だって小津先生は教師なんだもの。さすがに教師にタメ口は……」

 

「そこまでにしてくれ。私は教師である前に奏夜の友なのだ。だから私は気にはしていない」

 

奏夜は剣斗が自分のことを友と呼ぶ前からこのような喋り方であったのだが、剣斗が奏夜のことを友と呼んでいる今は、口調が自然と親しげになっていたのである。

 

「まぁ、小津先生が良いならいいのですが……」

 

「だけど奏夜。μ'sとして活動している時以外は小津先生のことは先生として接しなさい。わかったわね?」

 

「……まぁ、努力はするよ」

 

奏夜は改めて剣斗に敬語が使えるか微妙だったが、授業の時などは先生として接する努力はしようとしていた。

 

「まぁ、この話はこれまでにしておこう。もう1つ、みんなに話しておかなくてはならないことがあるからな」

 

「?それっていったい?」

 

「先ほど理事長から頼まれたのだが、私がアイドル研究部の顧問を引き受けることになった」

 

「へぇ、剣斗がウチの顧問に……。って!えぇ!?」

 

剣斗はサラッとアイドル研究部の顧問であることを伝えており、そのことに奏夜たちは驚きを隠せなかった。

 

「私としてはその方が動きやすいから良かったのだがな」

 

剣斗の本業は魔戒騎士であるため、アイドル研究部の顧問になれば、奏夜たちの近くにいられるため、とても都合が良かったのである。

 

「そ、そういえば私たちの部活には顧問はいなかったわよね」

 

「ですが、顧問の先生がいてくれるのは私たちにとっても活動の幅が広がりそうですしね」

 

アイドル研究部には顧問の先生はいなかったため、教師である剣斗がアイドル研究部の顧問になってくれるのは、奏夜たちにとっても都合のいい展開であった。

 

「……それよりも、奏夜。ロデル殿から聞いたのだが、お前は魔導馬の力を得たようだな」

 

「あぁ、なんとか魔導馬を得ることが出来たよ」

 

「やはりな!あれから少しだけ時間が経ったが、お前は強靭になったと思っていたのだ!」

 

剣斗は奏夜の成長を実感しており、表情は明るくなっていた。

 

「お前の佇まい1つ1つから成長を感じる!その成長こそ、奏夜が若さ溢れる何よりの証拠だ!イイぞ!ますますお前から目が離せん!」

 

「アハハ……。大げさだな……」

 

剣斗は奏夜の成長が嬉しいようであり、興奮気味に語っていたのだが、奏夜は苦笑いをしていた。

 

そして、穂乃果たちもまた、剣斗のあまりに熱い語りに若干引き気味であった。

 

「それはそうと。私はこの学校に赴任すると決まった後、ロデル殿に教えてもらいながらμ'sのことを調べたのだよ」

 

どうやら剣斗はμ'sのことを事前に調べていたようであった。

 

「それで、どうですか?私たちは」

 

穂乃果がμ'sのメンバーを代表して、剣斗の感想を聞こうとしていた。

 

すると……。

 

「……イイ!とてもイイ!!」

 

「お、小津先生……?」

 

先ほど以上に剣斗は興奮しているようであり、穂乃果たちは困惑していた。

 

「最初は3人からのスタートだったが、メンバーが増えるにつれ徐々に成長していく。まさに若さと情熱に満ちたグループだ。ロデル殿が夢中になるのも納得だ!」

 

(アハハ……。ロデル様はμ's以外のグループも好きなんだけどな……)

 

《確かにな。普通にA-RISEや他のグループの動画も見てるしな》

 

ロデルは今やμ'sの大ファンなのだが、以前からファンだったグループの動画の視聴も熱心に行っていたのである。

 

「若さと情熱って……。私たちってそんなにスポ根ドラマみたいなグループじゃないんだけど」

 

「そうよそうよ!私たちはアイドルなのよ?もっと可愛らしい評価をしてもらわないと」

 

どうやら真姫とにこは剣斗のμ'sに対する評価が気に入らないようであり、唇を尖らせていた。

 

「スポ根か……。あながち間違いじゃなさそうだよな」

 

真姫の例えを聞いた奏夜は、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「確かにそうですね。私たちはそう言ってもいいくらいの練習量と困難を乗り越えて来たのですから」

 

そんな奏夜の言葉に同意をしていた海未もまた、笑みを浮かべながらこのように答えていた。

 

「ま、そういうことよ。これからは小津先生が顧問として頑張ってくれるのだから、私たちもより一層頑張らないとね」

 

「そうだな。ラブライブのランキングだって……」

 

絵里がこのように気合を入れる中、奏夜は部室のパソコンを立ち上げ、現在のμ'sのランキングを確認していた。

 

すると……。

 

「……!!また上がってる……!」

 

数日前にもランキングはチェックしていたのだが、それよりもランキングは上がっており、奏夜は驚いていた。

 

「どれどれ……?……って!!」

 

穂乃果はパソコンの画面を覗き込むのだが、画面に映っている数字を見て驚愕していた。

 

「……に、21位……!!」

 

「!?本当ですか!?」

 

穂乃果が現在のランキングを呟くと、海未もパソコンの画面を覗き込み、他のメンバーもパソコンの画面をチェックしていた。

 

「凄い!ラブライブ出場の20位まであと少しです!」

 

「前は30位くらいだったのに、一気に上がったわね……」

 

「合宿の後に撮った動画がそれだけ反響が良かったってことやのかな?」

 

穂乃果たちは合宿終了後にもμ'sの存在をアピールするために動画を作って投稿したのだが、その動画の反響が大きいからか、ランキングも徐々に上がっていった。

 

そして今、ランキングは21位と、ラブライブ出場が現実味を帯びてきているのであった。

 

「だからこそ、今まで以上に頑張らないとね!」

 

ラブライブ出場が現実味を帯びてきたことを知り、穂乃果はより一層気合が入っていた。

 

そんな穂乃果の言葉に奏夜と剣斗以外の全員が頷いていた。

 

「その通りだ!焦らず確実に前に進んでいこうではないか!お前たちは今までだってそうしてきたのだろう?」

 

「剣斗の言う通りだ!みんな、焦らず確実に前へ進んでいこう!」

 

『うん(はい)!!』

 

剣斗と奏夜のこの言葉に、穂乃果たちは力強い返事をしていた。

 

こうして、剣斗がアイドル研究部の顧問になった経緯の話は終了したのだが、穂乃果たちにはまだ気になることがあった。

 

「ねぇ、奏夜。さっき小津先生が言ってたロデルって人は誰なの?」

 

「その人が私たちのことを小津先生に教えたんだよね?」

 

にこと花陽は、先ほど会話に出てきたロデルが何者なのかわからないため、その疑問をぶつけていた。

 

「あぁ。ロデル様は俺の所属する翡翠の番犬所の神官で、俺はロデル様から指令を受けてホラーを討伐するんだ」

 

「つまり、奏夜の上司という訳ですね?」

 

「あぁ、その例えは間違いじゃないかな」

 

番犬所の神官を会社の上司と同じ風に考えるのは奏夜としては疑問だったが、例えとしてはわかりやすかったため、特に海未の言葉を否定しなかった。

 

『それだけではなく、ロデルは番犬所の神官としてはかなりの変わり者でな。スクールアイドルにハマっているんだよ』

 

「えっ!?そうなんですか!?」

 

ロデルがスクールアイドルにハマっていると知り、花陽は驚きを隠せなかった。

 

「それに、部室に置いてあるあのDVD。「伝伝伝」……だっけ?ロデル様はそれも入手していたみたいなんだ」

 

「!?そ、それは本当ですか!?」

 

どうやらロデルが「伝伝伝」を持っているという事実に、花陽は驚愕しているみたいだった。

 

「にこは3セット持ってるけど、それを入手したってことは、本物のアイドル好きみたいね」

 

「そのロデルさんという方に1度会ってみたいです!」

 

「そうね。アイドルについて熱く語り合えそうな気がするわ」

 

「確かに……。この3人が集まったら濃いトークが出来そうだよな……」

 

花陽、にこ、ロデルの3人が集まれば、アイドルについて内容の濃いトークが出来るだろうと予想していた奏夜は苦笑いをしていた。

 

「確かに、その人には1度会ってみたいよね。そーくんがかなりお世話になってると思うし」

 

「そうですね。アイドルが好きだからこそ、合宿行きを許可してくれたりしてくれたと思うので、1度会ってお礼を言いたいです」

 

「うむ。その旨をロデル殿に伝えておこう。会えるかどうかはわからぬが、その言葉を聞いただけでロデル殿はお喜びになるだろう」

 

剣斗は、穂乃果たちがロデルに会いたがっていることを伝えようと考えていた。

 

「よし!それじゃあ、さっそく練習しようよ!」

 

「そうだな。それじゃあ、みんな。準備を終えたら屋上に集合な」

 

『うん(はい)!!』

 

こうして練習が行われることになり、穂乃果たちは練習着に着替えようとしているため、奏夜と剣斗はアイドル研究部の部室を後にして、先に屋上へ向かうことにした。

 

着替えを終えた穂乃果たちは順次屋上へと移動し、いつものように練習が行われた。

 

ラブライブ出場を目指して。

 

そのラブライブ出場グループが確定するまであと2週間とちょっとであるため、奏夜たちμ'sだけではなく、他のグループも、ラブライブを目指して躍起になっていた。

 

ラブライブに出場するため、ここからが正念場となる。

 

しかし、大きな波乱が目の前に迫っていることを、奏夜たちは知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『もうじきラブライブ出場グループが決まるか。ここからが正念場ではあるんだがな……。次回、「気合」。そして、青銅の刃が煌めく!』

 

 




修練場で登場した剣斗が音ノ木坂の先生としてやって来ました。

剣斗はかなり熱い男なので、いったいどのような授業をするのやら……。

さらに、穂乃果たちが初めてロデルのことを知り、花陽とにこが食いついていました。

この3人ならアイドルについて熱く語れそうですよね(笑)

今回は二学期初日のみでしたが、次回からラブライブ!の第11話の話になっていきます。

波乱な学園祭が迫っていますが、いったいどうなってしまうのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第44話 「気合」

お待たせしました!第44話になります!

最近毎日毎日暑いですね……。

だけど、暑さに負けず頑張っていこうと思います。

さて、今回からいよいよラブライブの第11話に突入します。

ですが、原作+オリジナルといった感じの内容になっています。

それでは、第44話をどうぞ!




二学期がスタートし、剣斗が教師として音ノ木坂学院に潜り込んでから数日が経過した。

 

二学期開始時点ではμ'sのランキングは21位であり、ラブライブ出場が現実味を帯びてきた。

 

そのため、練習にも自然と熱が入り、奏夜や絵里の指導にも熱が入っていた。

 

そして、スクールアイドルについて知識のない剣斗は、そんな奏夜たちの様子を見守ることしか出来なかった。

 

そんな感じで数日が経過していた。

 

奏夜はいつものようにエレメントの浄化を行ってから登校していた。

 

奏夜は玄関で上履きに履き替え、そのまま教室に向かおうとしたのだが…。

 

「そーくん!!」

 

穂乃果が奏夜にタックルをする勢いで、奏夜に駆け寄っていた。

 

「うぉっ!?どうしたんだよ、穂乃果。そんなに血相変えて」

 

穂乃果が興奮冷めやらぬ感じだったため、奏夜は少しばかり困惑していた。

 

海未とことりも一緒のようであり、2人は穂乃果を追いかけて、先ほどようやく追いついていた。

 

「そーくん!19位だよ!?19位!!」

 

「19位って……。もしかして、またランキングが上がったのか?」

 

「そうだよ!このままいけばラブライブだよ!ラブライブ!!」

 

どうやらμ'sのランキングが再び上がり、ラブライブ出場圏内の19位まで上がっていたようであった。

 

しかし……。

 

「穂乃果。とりあえずは落ち着け。俺はまだランキングを見てないし、これからの話は全員で話をした方がいいだろ?」

 

「……むー……!確かにそうだけどさ……!」

 

穂乃果は奏夜の冷静な話が気に入らなかったからか、ぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「だから奏夜にもその話は放課後すればいいと言っていたではありませんか」

 

どうやら海未とことりは事前にランキングのことは聞いていたようであり、海未は興奮している穂乃果をなだめていた。

 

「ことりもそう思いませんか?」

 

海未はここでことりに同意を求めるのだが……。

 

「……」

 

何故かことりは浮かない表情をして上の空になっていた。

 

「……ことり?どうしました?」

 

「ことりちゃん?」

 

ことりの様子がおかしいと感じたのか、海未と穂乃果は首を傾げながら語りかけていた。

 

「ぴぃっ!?な、何かな?」

 

「何かな?ではないですよ!ことり、最近様子が変ですが、何かあったのですか?」

 

「そ、そうかな?そんなことないと思うけど……」

 

「いや、しかし……」

 

海未はさらにことりを追求しようとしたのだが……。

 

「あっ、そうそう!ランキングの話だったよね?それは放課後に改めて話そうよ!……ほら、早く教室に行こっ!」

 

ことりは海未の追求を避けるべくまるで逃げるように教室へと向かっていった。

 

「……」

 

奏夜は険しい表情で教室へと向かうことりを見ていた。

 

(まただ……。ことりの奴、いったいどうしたっていうんだ?)

 

《ここまで続いているとはな……。ことりの奴、間違いなく何かを隠しているな》

 

(そうだな……。なるべく他のみんなには悟られないように調べないとな)

 

《それがいいだろうな》

 

奏夜はことりが教室へと向かっていくのを見守りながら、キルバとテレパシーで会話をしていた。

 

「……?奏夜?どうしましたか?」

 

「……いや、何でもない。さて、俺たちも行こうぜ」

 

ことりを追いかけるかたちで、奏夜もまた教室へと向かっていった。

 

「あっ、そーくん!待ってよぉ〜!!」

 

穂乃果と海未は慌てて奏夜を追いかけていった。

 

(ことりに何があったのかはわからない。だけど、このままにはしておけない。ことりが何かに悩んでるなら、俺が力になる。絶対に……!)

 

教室へ向かいながら、奏夜はこのように決意を固めており、表情がより険しくなっていた。

 

こうして教室に入った奏夜たちは普通に授業を受けて、放課後に上がったランキングについての話をすることにしていた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後になり、奏夜たちはアイドル研究部の部室に集まっていた。

 

顧問である剣斗も部室に来ており、共にパソコンの画面に映る「19位」という数字を眺めていた。

 

「ほ、本当に19位なんだ!このまま行けばラブライブに出られるんだ!」

 

穂乃果は朝から現在までテンションが上がりっぱなしであり、休み時間にはクラスメイトであるヒフミトリオの3人にサインをせがまれる場面もあった。

 

「凄いにゃ!!」

 

「よくやったわね……。にこ……!」

 

凛とにこは、ラブライブ出場圏内に入っているという事実に感動していた。

 

「お前ら、まだランキングは確定した訳じゃないんだ。安心するのはまだ早いぞ」

 

「奏夜の言う通りよ。見てみなさい」

 

そう言いながら絵里はパソコンを操作すると、A-RISEのページを立ち上げていた。

 

すると……。

 

「……!?な、7日間連続ライブ!?」

 

どうやらA-RISEは、7日間連続でライブを行うと告知を出しており、そのことに穂乃果は驚愕していた。

 

「そ、そんなに!?」

 

「ラブライブに出場するには、2週間後の時点で、ランキングが20位に入っていないといけない」

 

『ま、20位圏外のグループだってこのま引き下がることはしないだろう。だからこそ、最後の追い込みに必死だろうな』

 

希は改めてラブライブに出場するための条件を説明していたが、ラブライブ出場グループが決まるのは、2週間後なのである。

 

「キルバの言う通りね。今から頑張って20位以内を勝ち取ろうとするスクールアイドルもたくさんいる」

 

「つまり、ここからが本番ってことね?」

 

真姫の言葉に、奏夜と絵里は頷いていた。

 

「だからと言って今から何か特別なことをやろうとしても空振りになるだろう」

 

「そうね。だからこそ、今度の学園祭でのライブで最高のパフォーマンスを見せましょう」

 

「うむ。目の前のステージに全力を注ぐ。とてもイイと思うぞ!」

 

顧問である剣斗も、奏夜たちが学園祭に向けて頑張ろうとしている様子を見て、頷いていた。

 

「それだったら!この部長にぜひ仕事をちょうだい!」

 

目の前の学園祭に向けて頑張ると決めたにこは、何かをしたいと思い、このようなことを申し出ていた。

 

「じゃあ、にこ。うってつけの仕事があるわよ?」

 

「へ?な、何?」

 

絵里はあっさりとにこに何かさせようとしていたため、にこはポカンとしていた。

 

絵里はにこに何をさせるか語らないまま全員を連れて生徒会室へと向かったのだが、そこではとあることが行われていた。

 

それは……。

 

 

 

 

ガラガラガラ……。

 

 

 

 

 

 

商店街で良く見る福引きであった。

 

その福引きの結果であることを決めようとしており、現在とある部活の2人組がそのチャレンジをしていた。

 

その結果……。

 

 

 

 

 

カランカラン……。

 

 

 

 

 

 

当たりと思われる金色の玉が福引きを回す器械から飛び出してきた。

 

「やったやった!」

 

「部長!」

 

大当たりに喜んでいた2人組は抱き合って喜びを分かち合っていた。

 

「書道部。午後3時からの1時間。講堂の使用を許可します」

 

どうやらこの福引きは講堂の使用権を勝ち取るためのものであった。

 

「何で講堂の使用を決めるのがくじ引きなのよ……」

 

「アハハ……。昔からそういう伝統らしくって……」

 

どうやらこの福引きによる講堂の使用権を決める方法は、音ノ木坂学院の伝統のようであった。

 

《それにしても、書道部が1時間も講堂で何をするって言うんだよ……》

 

(キルバ、あえてそこはツッコまないようにしようぜ)

 

書道部が講堂を使うということに疑問はあったのだが、奏夜とキルバはあえてそこのツッコミは行わないようにしていた。

 

「にこちゃん!」

 

「っ!」

 

次は自分たちの出番のため、にこは息を飲んでいた。

 

「それでは次はアイドル研究部……。うっ!!」

 

くじ担当の2人がアイドル研究部の名前を呼ぶのだが、にこは鬼気迫る表情をしていたからか、2人はたじろいでいた。

 

「見てなさい……!」

 

「が、頑張ってくださいね!」

 

「ふん!」

 

にこは鬼気迫る表情をして大当たりを狙っており、くじ担当の生徒の言葉にも強気な態度で返していた。

 

「にこちゃん!頼んだよ!」

 

「講堂が使えるかどうかで、ライブのアピール度は大きく変わってくるわ!」

 

にこは大当たりを勝ち取るために気合を入れており、にこは福引きを回す器械のレバーを力強く握っていた。

 

そして、ガラガラガラと回し始めると、奏夜たちは一斉にその様子を眺めていた。

 

もしにこが外れを引いてしまったらその時点で講堂は使えないため、奏夜たちは固唾を飲んでその様子を見守っていた。

 

希に至ってはどこからか数珠を取り出して神頼みをする程であったのである。

 

そんな中……。

 

《……なぁ、奏夜。俺は猛烈に嫌な予感がしているのだが、気のせいだろうか?》

 

(俺は最初から嫌な予感しかしてないけど、それを言うなよ。マジでフラグになるから)

 

奏夜はこのくじを引こうとしている時から嫌な予感はしていたのだが、あえて口には出さなかった。

 

それが現実になる確率が非常に高いからである。

 

キルバがフラグになるような言葉を口走ってしまい、奏夜はジト目で事の顛末を眺めていた。

 

福引き用の器械はガラガラガラガラと回っており、そこから1つの玉が出てきたのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……。あぁ……」

 

なんと出てきたのは当たりである金色の玉ではなく、白い玉であった。

 

「ガーン……!」

 

外れを引いてしまったとわかったにこは顔を真っ青にしながら外れの玉を手にして唖然としていた。

 

「残念!アイドル研究部!講堂は使用出来ません!」

 

講堂の使用権を勝ち取ることが出来ないとわかると、奏夜と剣斗以外の全員がその場でうなだれていた。

 

(……やっぱりこうなるか……)

 

《嫌な予感が見事に的中してしまったな》

 

この展開を予想していた奏夜は、頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

「どーしよー!!」

 

講堂を勝ち取ることが出来なかった奏夜たちは現在屋上に来ており、穂乃果は講堂を使用出来ないことに頭を抱えていた。

 

「だってしょうがないじゃないの!くじ引きで決まるなんて知らなかったんだもの!」

 

「あ!開き直ったにゃ!!」

 

「うるさい!」

 

にこの開き直りに凛は異議を唱えるが、すぐににこはそんな凛の言葉を遮っていた。

 

「あぅぅ……。なんで外れちゃったのぉ……?」

 

花陽は講堂が使えないのがショックなのか、ポロポロと涙を流していた。

 

「どーしよー!!」

 

「ま、予想されたオチね」

 

「俺もそれは思ってたよ」

 

奏夜だけではなく、真姫もこの展開を予想していたようであり、冷静だった。

 

「にこっち……。信じてたんよ……」

 

希もどうやらショックのようであり、体育座りでうなだれていた。

 

「うるさいうるさいうるさーい!!悪かったわよぉ!!」

 

自分はくじを引いただけなのにここまで責められてしまい、にこは参っていた。

 

「気持ちを切り替えましょう。講堂が使えない以上、他の会場でやるしかないわ」

 

絵里もショックは隠せないものの、それを引きずろうとはせず、どこでライブを行うかを考えることにした。

 

「まず最初に思いつくのは体育館だけど、運動部が使うだろうな」

 

奏夜は体育館でのライブを考えていたのだが、運動部が体育館を占拠することが予想された。

 

「確かにそうね……。他に出来そうなところはないかしら?」

 

「ねぇねぇ、廊下とかは?」

 

「明らかに邪魔になるだろうな……」

 

穂乃果は廊下でライブを行うことを提案したのだが、人の往来が激しい廊下でライブをするのは通行の邪魔にしかならなかった。

 

「奏夜!イイ考えを思いついたぞ」

 

そんな中、顧問でもある剣斗が何かを閃いたようであった。

 

「……聞かせてもらおうか」

 

「ライブの場所がなければ作ればいい。この校舎の裏手にでも魔戒法師による結界によるドームを作り、そこに客を呼べば……」

 

「却下だ」

 

奏夜は剣斗が最後まで言い切る前にその意見をバッサリと切り捨てていた、

 

「そ、奏夜……。小津先生は教師なんだから最後まで話を聞いてあげなさいよ……」

 

教師である剣斗の意見を容赦なく切り捨てる奏夜に、絵里は少しばかり引いていた。

 

これは奏夜が剣斗のことを友であると認めているからこそ出来ることなのだが……。

 

「だって考えてもみろ。魔戒法師の力をライブのために使うなんて……。ロデル様なら許可しそうだけど、明らかに非効率だろ。魔戒法師の協力だって得られそうにないだろうし」

 

「む……。そうか……。イイ案だと思ったのだがな……」

 

自分の案を却下され、剣斗は少しだけ残念そうにしていた。

 

「だけど……。ライブの場所がないなら作ればいいか……。そこに関してはその通りだと思うよ」

 

「おぉ!そうかそうか!そこに目をつけてくれるとは、奏夜、お前はやはりイイ!とてもイイぞ!」

 

「アハハ……。大袈裟だな……」

 

奏夜が剣斗の意見の一部を受け入れたことにより、剣斗の表情は明るくなり、熱っぽく語る剣斗に、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「確かに私もそう思ったけど、会場を作るって言ってもどこでやるつもりよ?」

 

「真姫の言う通りね。そのような場所を確保することはかなり難しいと思うわ」

 

真姫と絵里はそんな奏夜の意見に異議を唱えていた。

 

学園祭ライブを成功させるためにみんなが真剣なため、シビアな意見も出てくるのである。

 

「うーん……。そうだなぁ……。確かに場所を確保するのはかなり難しいような……。ん?待てよ?」

 

奏夜は何か良い案がないか考えていたのだが、どうやら何か妙案が思いついたみたいだった。

 

「……なぁ、みんな。ここでライブをするっていうのはどうだ?」

 

「ここって……屋上でライブってことですか?」

 

「まぁな」

 

「あっ!穂乃果も屋上でライブをしたらどうかなって思ったんだよね!」

 

屋上でライブをするという提案に海未は困惑しており、穂乃果は同じことを考えていたようであった。

 

「だってこの屋上は、私たちにとって大切な場所でしょ?だからこそ、ライブをするのに相応しいと思うんだよね」

 

「それに、屋上でライブってことは野外ライブだろ?なんか雰囲気が出るとは思わないか?」

 

「野外ライブか……。格好いいにゃ♪」

 

どうやら奏夜が補足で話した野外ライブという言葉に、凛は惹かれるものがあるみたいだった。

 

「だけど、どうやってお客さんを呼ぶの?」

 

奏夜と穂乃果の案は妙案だと思われたのだが、花陽がもっともな疑問をぶつけていた。

 

「花陽の言う通りね。ここだったらたまたま通りがかることもないんじゃないの?」

 

「そこは心配ないさ。宣伝はバッチリと行わせてもらうよ」

 

「うむ!それが1番大事だろうな。私も協力しよう」

 

花陽と真姫の不安に対し、奏夜と剣斗はその分宣伝を頑張ると言い張り、2人揃ってドヤ顔をしていた。

 

「……それだけじゃない。本番は大きな声で歌おうよ!!」

 

「は?宣伝はともかくとして、そんなんで解決出来るはずが……」

 

「いや!それはイイ考えだと思うぞ!」

 

「お、小津先生……?」

 

にこの言葉を遮るかたちで剣斗は穂乃果の意見に賛同しており、にこは困惑していた。

 

「みんなの思いが込もった歌を聞けば校舎の中や外を歩いている者にもきっと聞こえるだろう。大丈夫だ。お前たちμ'sはイイスクールアイドルだ。お客さんもきっと来るだろう」

 

「小津先生の言う通りだよ!それは私も思ってたことなんだ。私たちが大きな声で歌ったら、お客さんもきっと来てくれるよ!」

 

剣斗の言葉に穂乃果はさらに乗っかり、熱い思いを語っていた。

 

「ふふ、穂乃果らしいわね」

 

穂乃果の思いを聞いた絵里は笑みを浮かべていた。

 

「ダメかな……?」

 

「……いつもそうやってやって来たのだものね……。μ'sっていうグループは」

 

「絵里ちゃん……」

 

このように語る絵里は、穏やかな表情をしていた。

 

「決まりよ!ライブは屋上にステージを作って行うことにしましょう」

 

「確かに。それが1番μ'sらしいのかもしれないね」

 

絵里は屋上でライブする決意を固めており、それに希が賛同していた。

 

それに反対する者はおらず、学園祭のライブは屋上で行うことになった。

 

こうして、頑張るべき目標が出来た奏夜たちは、学園祭ライブに向けて練習を行うことにした。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

練習を終えた奏夜は穂乃果たちと別れると、そのまま番犬所へと向かった。

 

剣斗も番犬所へ行こうとしていたのだが、教師としての仕事が残っているため、職員室へと向かっていった。

 

「……お、来ましたね、奏夜。ところで、剣斗は一緒ではないのですか?」

 

「剣斗は教師の仕事があるみたいで、俺だけ先に来ました」

 

「なるほど、教師というのはなかなか大変みたいですね」

 

剣斗は教師として翡翠の番犬所の管轄にやって来たため、ロデルは改めてその苦労を実感していた。

 

「ところで奏夜、μ'sのランキングがついに19位まで来ましたね」

 

「えぇ。今はもうじき行われる学園祭に向けて頑張っています」

 

「そうですか。この2週間はどのスクールアイドルグループも躍起になっています。ここが正念場ですよ」

 

「はい!俺も全力でみんなを支えようと思っています」

 

「頼みましたよ、奏夜。……本題に入りますが、指令です」

 

どうやら今日は指令があるようであり、ロデルの付き人の秘書官が奏夜に赤の指令書を渡していた。

 

奏夜は指令書を受け取ると、魔法衣の裏地から魔導ライターを取り出すと、魔導火を放って指令書を燃やしていた。

 

そして、そこから飛び出してきた魔戒語の文章に注目しており、その文章を音読したら、魔戒語の文章は消滅した。

 

「……わかりました。ただちにホラー討伐にあたります」

 

「頼みましたよ、奏夜。剣斗の方にも指令書は送っておきます。もし合流が出来るのなら青銅騎士剣武(ケンブ)の力、見てみると良いですよ」

 

青銅騎士剣武というのは、剣斗の魔戒騎士としての称号であり、魔戒騎士の中でも由緒ある家柄の称号なのだ。

 

「なるほど……。わかりました。その時には剣斗と協力してホラーを倒します」

 

「頼みましたよ、奏夜」

 

奏夜はロデルに一礼をすると、番犬所を後にした。

 

μ'sの練習が終わった頃には夕方になっていたため、番犬所を出た時には既に夜になろうとしていた。

 

「さて……。キルバ、さっそくホラーの捜索を始めようぜ」

 

『そうだな。奏夜、こっちだ』

 

こうして奏夜はキルバのナビゲーションを頼りに、ホラーの捜索を開始した。

 

そして、しばらく歩いていると、奏夜は秋葉原某所にある今は使われていない廃ビルの前に来ていた。

 

「……キルバ、もしかしてこの中か?」

 

『いや、奴はこの近くに潜んでいるみたいだ。奏夜、油断するなよ』

 

「あぁ、わかってる」

 

どうやらホラーは近くに潜んでいるみたいであるため、奏夜は魔法衣の裏地から魔戒剣を取り出すと、いつでも抜刀できる状態にしておいた。

 

すると……。

 

『……!奏夜!来るぞ!!』

 

キルバがこのように警告をすると、建物の陰から何者かが素早い動きで接近し、爪のようなもので奏夜を斬り裂こうとしていたため、奏夜は魔戒剣を抜いて何者かの攻撃を防いでいた。

 

さらに奏夜は魔戒剣を振るってその相手を弾き飛ばすと、そこでようやくその相手の姿を認識することが出来た。

 

奏夜の前に現れたのは、まるでネズミのような姿をしたホラーだった。

 

『奏夜。こいつはラピットマウス。そのネズミのような見た目通り、すばしっこいホラーだぞ』

 

キルバが解説する通り、このホラーはラピットマウスと呼ばれるホラーであり、素早さが特徴のホラーである。

 

このホラーには他にも特殊な能力があるのだが、どうやらキルバはその能力を知らないみたいである。

 

「明日から学園祭の準備で忙しいんだ。一気にケリをつける!!」

 

このように本音を漏らしつつ、奏夜はラピットマウスに向かっていった。

 

キルバの説明通り、ラピットマウスは素早い動きが特徴なのだが、このホラーよりも素早いホラーを知っているため、その動きは難なく捉えられた。

 

「ぎ、ギィィ……!?」

 

ここまであっさり動きを見切られるとは思っていなかったからか、ラピットマウスは驚きを隠せずにいた。

 

「お前は確かに速いよ。だけど、俺が初めて統夜さんと組んだ時に倒したタイガード程じゃない!」

 

奏夜は初めて統夜と出会い、共に倒したタイガードと呼ばれるホラーはラピットマウス以上に素早い動きのホラーであり、その時は奏夜がタイガードの機動力を奪う戦法を駆使して討伐していた。

 

あれから月日が経ち、奏夜も魔戒騎士として成長しているため、素早い動きを捉えることには慣れていた。

 

それだけではない。

 

尊士やジンガとの敗戦や魔導馬光覇の獲得。

 

様々な出来事が奏夜を大きく成長させており、奏夜は実力のある魔戒騎士へと成長していたのだ。

 

だからこそ、ラピットマウスの動きを見切るのも造作ではなかった。

 

奏夜は魔戒剣を2度、3度と振るい、ラピットマウスの体を斬り裂くと、さらに蹴りを放ってラピットマウスを吹き飛ばした。

 

「ぎ、ギィィ……!!」

 

ここまであっさりと奏夜に圧倒されてしまい、ラピットマウスは奏夜を睨みつけていた。

 

「さて、鎧を召還して一気にケリをつけてやる……!」

 

奏夜はラピットマウスを睨みつけると、そのまま鎧を召還しようとしたのだが……。

 

「ギィィィィィィィィィ!!」

 

ラピットマウスはこのように絶叫すると、周囲の空間が黒い円に変化すると、その円からラピットマウスと同個体が3体も出現し、奏夜の前に現れた。

 

「なっ!?同個体を呼び出した!?」

 

『ラピットマウスは素早さだけが特徴のホラーのハズだ!あんな空間を作って同類を呼ぶ能力など聞いたことがないぞ!』

 

このラピットマウスに秘められたこの力は、どうやらキルバも知らなかったみたいだった。

 

奏夜とキルバはラピットマウスが増えたことに驚いていたのだが、そんな奏夜の様子を遠くで見守る影であった。

 

「……ジンガ様も戯れが過ぎるな。あんな小僧如きを気にかけるとは……」

 

奏夜を遠くで見守っていたのは、何と奏夜と幾度か衝突した尊士であった。

 

「あの小僧は確かにちょっとは強くなったみたいだが、まだまだ私の敵ではない」

 

尊士は奏夜の成長を認めてはいたのだが、自分を倒せる程ではないと感じていた。

 

「ジンガ様の持たせた魔導具であのホラーと同個体を呼び寄せたのだが、奴らは知る由もないだろうな。あの小僧はこれを乗り越えることが出来るか……?」

 

どうやらラピットマウスが増えたのは、ホラーの力ではなく、ジンガがどこからか仕入れた魔導具の力によるものだった。

 

その力で擬似ゲートが開き、そこから同個体が出現したのである。

 

自分の仕事を終えた尊士は怪しい笑みを浮かべると、その場から姿を消したのであった。

 

「……4対1か……。数なんぞ関係ない!やってやろうじゃねぇか!」

 

奏夜は4対1と、明らかに不利な状況ではあるが、それを乗り越えようとしており、4体のラピットマウスを睨みつけていた。

 

そして、ラピットマウスが奏夜に迫ろうたしたのだが……。

 

「奏夜!!」

 

教師の仕事を終えた剣斗が駆け付けてきた。

 

「剣斗!仕事はもういいのか?」

 

「あぁ。仕事をしていたら指令書が来たからな。急いで仕事を終わらせてきたという訳だ」

 

「先生も大変だな……」

 

奏夜は生徒のためあまり実感はないのだが、教師の大変さに苦笑いをしていた。

 

「それよりも、同じホラーが4体もいるとはな」

 

「あぁ。何故かわからないが、ゲートのようなものが現れて、そこから3体もラピットマウスが出て来やがったんだ」

 

「なるほど。それは気になるが、まずは目の前の障害を排除することにしよう!」

 

剣斗はそう宣言すると、魔戒剣を抜き、専用の装備である盾も取り出していた。

 

「……!剣斗って、剣と盾の両方を使う魔戒騎士なんだな」

 

魔戒騎士は主に魔戒剣のみをメインの武器で戦うため、盾を装備している魔戒騎士というのは珍しかった。

 

そのため、奏夜は驚いているのである。

 

「うむ。我が青銅騎士は昔より騎士道を重んじる家系。故により騎士らしくあるために剣と盾を装備しているのだよ」

 

「なるほど……」

 

奏夜がこのように納得していると、4体のラピットマウスが同時に襲いかかってきた。

 

「……剣斗!」

 

「あぁ!」

 

奏夜と剣斗はアイコンタクトで連携を取り合うと、それぞれの魔戒剣を一閃し、2体ずつ吹き飛ばしていた。

 

「剣斗!そっちの方は任せたぜ!」

 

「あぁ、当然だ!」

 

どうやら奏夜と剣斗はそれぞれ2体のラピットマウスを倒そうとしていた。

 

「……青銅騎士の力、刮目するといい!」

 

剣斗はこう宣言すると、ガシッと魔戒剣を両手で掴んでいた。

 

その魔戒剣をそのまま高く突き上げると、円を描いた。

 

その部分のみ空間が変化し、その部分から放たれる光に剣斗は包まれていた。

 

すると、円の部分から青銅の鎧が現れると、剣斗は青銅の鎧を身に纏っていた。

 

この鎧こそ、青銅騎士剣武(ケンブ)。

 

剣斗が受け継いだ、剣斗の魔戒騎士としての名前である。

 

彼の身に纏う鎧は、その名の通り、青銅の輝きを放つ鎧なのである。

 

「これが、剣斗の鎧……」

 

剣と盾だけではなく、青銅の鎧を身に纏った剣斗のその姿は、西洋の騎士と言っても自然であるため、奏夜はその鎧に見入っていた。

 

『奏夜。見入ってる場合じゃないぞ』

 

「おっと、そうだった!」

 

奏夜は慌てて我に帰ると、魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

その部分のみ空間が変化し、奏夜はそこから放たれる光に包まれた。

 

すると、円の部分から黄金の鎧が出現すると、奏夜は黄金の鎧を身に纏っていた。

 

こうして、奏夜は陽光騎士輝狼の鎧を身に纏ったのである。

 

「ほう。これが奏夜の鎧か!あの牙狼に匹敵する輝きではないか!イイ!とてもイイぞ!」

 

剣斗もまた、奏夜の鎧を初めて見ており、輝狼の放つ黄金の輝きに見入っていた。

 

『剣斗……。お前さんも見入ってる場合じゃないぞ』

 

「おっと!そうであったな!」

 

奏夜だけではなく剣斗も同じことをキルバに注意されてハッとしていた。

 

『やれやれ……。性格は違うが、この2人は似た者同士なのかもしれないな……』

 

奏夜と剣斗が同じことで注意されたことに対して、キルバは呆れていた。

 

そうしているうちに4体のラピットマウスが奏夜たちに迫ってきた。

 

「……剣斗!」

 

「承知!」

 

奏夜と剣斗は互いの顔を見て頷くと、それぞれ2体のラピットマウスを相手にしていた。

 

「ギィィ!!」

 

まず最初に1体のラピットマウスが剣斗に迫っていた。

 

ラピットマウスはその鋭い爪で剣斗の体を貫こうとしたのだが、剣斗は盾を前に突き出すと、あっさりとラピットマウスの攻撃を防いでいた。

 

「そのような攻撃で……。我が誇り高き小津家の家紋、一角獣の紋章がついたこの盾を貫けるものか!」

 

剣斗は熱い口調でこう言い切ると、盾を押し出してラピットマウスを弾き飛ばし、魔戒剣が変化した青銅剣を一閃した。

 

その一撃によってラピットマウスの体は真っ二つに斬り裂かれ、1体のラピットマウスは消滅した。

 

「まずは1体!!」

 

鎧を召還して早々に、剣斗が1体のラピットマウスを討滅していた。

 

「流石は剣斗だな。俺だって!!」

 

剣斗の活躍に気合が入る奏夜に、2体のラピットマウスが同時に襲いかかるのだが、奏夜は無駄のない動きで2体の攻撃をかわしていた。

 

「はぁっ!!」

 

奏夜はすかさず陽光剣を一閃すると、1体のラピットマウスを真っ二つに斬り裂いた。

 

「残るは2体!」

 

奏夜もまた、ラピットマウスを1体倒したため、残るラピットマウスは2体となり、1人1体ずつ倒せば速やかに決着がつくものと思われた。

 

「「ぎ、ギィィ……!!」」

 

2人が鎧を召還し、あっという間に2体の仲間が倒されてしまい、ラピットマウスは焦ってう。

 

「「ギィィィィィィィィィ!!」」

 

2体のラピットマウスは再び増援を呼ぶためにこのように雄叫びをあげていた。

 

そんな2体の雄叫びに奏夜と剣斗は焦るのだが、先ほどのゲートは現れる気配はなく、その場は静寂に包まれていた。

 

「なるほど、増援のカラクリは理解したぞ。奏夜、どうやらもう増援は現れないみたいだ」

 

「了解。だったら、一気にケリをつけようぜ、剣斗」

 

「承知した!」

 

奏夜と剣斗は互いに背中を預ける形でそれぞれラピットマウスを睨みつけており、それぞれの剣を構えていた。

 

「「ギィィィィィィィィィ!!」」

 

増援は呼べないとわかったラピットマウスは覚悟を決めたのか、奏夜と剣斗に向かっていった。

 

「……剣斗!」

 

「承知!」

 

2体のラピットマウスは同時に奏夜と剣斗に飛びかかってきたため、2人は同時にそれぞれの剣を一閃した。

 

その一撃により、2体のラピットマウスは同時に真っ二つに斬り裂かれ、消滅した。

 

「よし……!」

 

初めて共闘するとは思えない連携を見せた奏夜と剣斗は見事にラピットマウスを全滅させたため、それぞれの鎧を解除し、元に戻った魔戒剣をそれぞれの鞘に納めていた。

 

「奏夜、流石だな。お前が戦うところは初めて見たが、私の見立て以上だったぞ!」

 

「アハハ……そうかな?」

 

剣斗はストレートに奏夜のことを褒めており、奏夜はまんざらでもなさそうだった。

 

『それにしても、お前ら、初めて共に戦うんだろ?そうとは思えないほど息がピッタリだったな』

 

「そうだろう?それは私と奏夜がイイ友である何よりの証だ!」

 

「そこは否定しないよ。不思議とそう呼ばれるのが悪くないって思えるようになってきたからさ」

 

どうやら奏夜は、剣斗に友と呼ばれることに対して悪い印象は持っていなかった。

 

「奏夜。あのホラーは最初は1体だったが、数が増えたという訳なのだな?」

 

「あぁ、そうなんだ。あのホラーが叫んだ途端、ゲートのようなものが現れてな」

 

その時の状況を奏夜が話すと、剣斗はウンウンと頷いていた。

 

「それは、魔導具の力によるもので間違いないだろうな」

 

「魔導具?そんなものがあるのか?」

 

剣斗の推測は意外なものであったため、奏夜は驚いていた。

 

「その魔導具は擬似ゲートを作り出すものなのだが、その性質上、使用は禁止され、封印されていたはずなのだがな」

 

どうやらラピットマウスの力の正体は、禁断の魔導具の力によるものであった。

 

「そんなものを持ち出して使うってことは……」

 

「恐らくはあのジンガとかいう奴の仕業と見て間違いないだろう」

 

「奴はそんな魔導具まで持ち出すなんて……」

 

ジンガが禁断の魔導具を持っていることに、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

そんな魔導具の情報を知っているのは、一部の魔戒騎士や魔戒法師のみだからである。

 

「これは私の推測だが、奴は元魔戒騎士である可能性はあるだろうな。それだけではない。魔戒法師もしくは元魔戒法師が関与している可能性もありそうだ」

 

「!?ま、まさか……そんな……。いや、あり得ない話じゃないか……」

 

奏夜は剣斗の話をあり得ないと一蹴したかったが、それは出来なかった。

 

「まぁ、そんな推測よりも、まずは目の前の問題を解決していこうではないか」

 

「そうだな……。とりあえずは帰るか。明日も早いし」

 

「それが良いだろう。さぁ、奏夜。共に帰ろうではないか!互いに熱く語り合いながらな!」

 

「アハハ……」

 

こうして、ホラーを討滅した奏夜と剣斗は一緒に帰路についたのであった。

 

学園祭も迫っていたのだが、奏夜たちに大きな危機が迫っているということを、奏夜は知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『もうすぐ学園祭か。だというのにことりの奴や穂乃果のやつ……。いったいどうしたっていうんだ?次回、「亀裂」。こいつは、まずいことになったんじゃないのか?』

 




今回初めて剣斗の鎧が登場しました。

剣斗は剣と盾を使う魔戒騎士であるため、その手の魔戒騎士はゼクスに次いで2人目になっています。

まぁ、ゼクスは暗黒騎士ですが……。

今回登場した剣武の鎧は、称号の持たない騎士の纏う「鋼」の鎧を、より西洋の騎士っぽくした感じになっています。

顔の部分は狼の顔になってはいますが。

さて、次回予告の時点で不穏な雰囲気が出ていましたが、次回はその予告通りの内容になります。

奏夜やμ'sを待ち受ける運命とは?

それでは、次回をお楽しみに!



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第45話 「亀裂」

お待たせしました!第45話になります!

この前、ようやくFF14のメインストーリーが終わりました。

ラスボス、強いよ。ラスボス……。

だけど、これでまた色々とやりたいことも出来るな。

牙狼装備も集まってきていて、昨日打無装備をゲットしました。

小説を書きながらエオルゼアライフを楽しんでいます(笑)

さて、前置きが長くなりましたが、今回はかなり重要な回になっております。

奏夜たちに大いなる試練が訪れますが、彼らを待ち受けるものとは?

それでは、第45話をどうぞ!




学園祭のライブで講堂が使用することが出来ず、屋上でライブをすることが決まってから数日が経過した。

 

奏夜はマネージャーとして、学園祭の準備に追われていた。

 

この数日間、忙しい日々を過ごしていた奏夜であったが、1つだけ気になることがあった。

 

……ことりのことである。

 

ここ最近、ことりは1人で思い詰めていることが多く、1人になると俯きながら何か考え事をしている。

 

奏夜だけではなく、海未がことりに何があったのかを訪ねようとしても、慌てて話を誤魔化そうとしていた。

 

(……ことり、最近変だけど、いったい何があったんだ?)

 

奏夜は現在、先生に頼まれて学園祭で使う機材を運んでいたのだが、やはり最近様子のおかしいことりのことが気がかりであった。

 

奏夜が運んでいる機材はかなり重いのだが、奏夜は考え事をしているからか機材がグラグラと揺れており、その様子を見ていた他の生徒はハラハラしながら見ていた。

 

《……おい、奏夜。ことりのことが気になるのはわかるが、今は荷物に集中した方がいいんじゃないか?》

 

(……!そうだったな)

 

奏夜はようやく自分が重い物を運んでいることに気付き、体勢を直していた。

 

それを見ていた他の生徒たちは奏夜がボケっとしていないことに安堵しており、自分の仕事に集中することが出来た。

 

奏夜はこの荷物を無事に指定された場所へと運んだのであった。

 

「さて……。これで今日の仕事は終わりだし、さっさと練習に顔を出すとしますか」

 

この荷物運びが本日最後の仕事だったため、奏夜はこのまま屋上へと向かっていった。

 

その途中……。

 

「あっ、奏夜!!」

 

海未が偶然にも奏夜を見かけたため、声をかけていた。

 

「おう、海未。もしかして弓道部の練習だったか?」

 

「えぇ。これからは学園祭ライブに向けてμ'sの練習が忙しくなりますからね。やれるうちに弓道の練習もしておきたいと思いまして……」

 

どうやら海未は先程まで弓道部で練習をしていたみたいであった。

 

「なるほどな。海未も今からみんなと合流するんだろ?」

 

「えぇ。奏夜もですよね?一緒に行きませんか?」

 

「もちろん!」

 

こうして、奏夜は海未と共に屋上へ向かうことになったのだが……。

 

「……奏夜。今日の練習の後って空いてますか?」

 

「あぁ。練習の後は番犬所へ寄るつもりだけど、問題はないぞ」

 

「すいません。実は、奏夜に相談したいことがありまして……」

 

「俺に?」

 

どうやら海未は、奏夜に何かを相談があるみたいだった。

 

「あぁ、俺は構わないぞ」

 

「ありがとうございます!あと、出来れば、小津先生も一緒だとありがたいのですが……」

 

「剣斗もか?わかった、剣斗にも声をかけておくよ」

 

海未は奏夜だけではなく剣斗にも相談に乗ってほしいとのことだったため、奏夜はそれを了承していた。

 

こうして、練習終了後に会う約束をした奏夜と海未はそのまま屋上へと向かっていった。

 

昨日、学園祭ライブの冒頭で新曲をやると決まり、練習は今まで以上にハードなものとなっていた。

 

新曲の練習だけではなく、他の曲の練習もしなければならない。

 

自然と練習量も増えていたのだが、奏夜はオーバーワークにならないよう、上手い具合に練習量を調節していた。

 

最初に既存の曲のおさらいを行い、それから新曲の練習を行う。

 

この日もこんな感じで練習は行われていた。

 

練習が終わり、この日は解散となり、奏夜は海未との約束通り、剣斗と共に残り、海未の話を聞くことにしていた。

 

「……すいません、奏夜。小津先生もお忙しい中なのに……」

 

「気にするなよ」

 

「奏夜の言う通りだ!それに、生徒の悩みを聞くのもまた、教師の仕事だからな!」

 

「……ありがとうございます。奏夜、小津先生」

 

海未は奏夜と剣斗に礼を言うと、本題を切り出すことにした。

 

「……最近、ことりの様子が変なのです」

 

「海未もやっぱり感じてたか。俺もそれは感じていたんだよ」

 

奏夜だけではなく、どうやら海未もことりの異変に気付いていたようであった。

 

「やはり、奏夜もそう思っていたのですね」

 

「もしかして、俺たちに何か隠してるんじゃないか?って思ってる」

 

「私もそう感じて聞いてはいるのですが、上手くはぐらかされてしまって……」

 

海未は海未でことりの異変を調べようとしていたのだが、成果はなかったみたいだった。

 

「なるほど……。確かにそのままにはしておけない問題だな。私の方でもそれとなく聞いてみよう」

 

剣斗は教師という立場を使い、ことりから話を聞き出そうとしていた。

 

「もちろん、俺もことりから話を聞いてみるよ。ことりが何かに悩んでいるなら見逃せないからな」

 

「すいません。奏夜、小津先生。頼んでもいいですか?」

 

「あぁ、任せろ!」

 

「もちろんだ!私だってμ'sの力になってみせるさ」

 

奏夜の目はやる気に満ちており、短い時間しかμ'sと関わっていない剣斗もまた、μ'sのために動こうと考えていた。

 

海未は奏夜と剣斗に相談することで少しは肩の荷が下りたのか、穏やかな表情をしていた。

 

海未の話は終わったため、奏夜は海未と別れて番犬所へと向かい、剣斗は教師としての仕事をするため職員室へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

海未との話が終わり、番犬所へ向かった奏夜であったが、この日の指令はなかったため、奏夜は街の見回りを行うことにしていた。

 

奏夜は暗くなるまで街の見回りを行っており、その後は家に帰ろうとしていたのだが、その前に奏夜の携帯が鳴っていた。

 

どうやら電話のようであり、奏夜は携帯を取り出した。

 

「……雪穂からか。珍しいな……」

 

どうやら電話の主は穂乃果の妹である雪穂であり、そのことに驚きながらも奏夜は電話に出ていた。

 

「……はい、どうした?雪穂」

 

『あっ、奏夜さん。すいません、こんな時間に……』

 

「いいっていいって。雪穂は俺に用事があったんだろ?」

 

『はい。奏夜さんには話しておいた方がいいと思いまして……』

 

雪穂はこう前置きをしてから再び語り始めた。

 

『最近お姉ちゃん、ラブライブに向けて凄い燃えているみたいで、夜も家を抜け出して練習をしているみたいなんです』

 

穂乃果は学園祭ライブを屋上でやると決まってから今まで以上にやる気に満ちているみたいであり、練習後も、夜に練習を行っているみたいだった。

 

「あの馬鹿……。オーバーワークはダメだってあれだけ言ったのに……」

 

雪穂からの報告を聞いて、奏夜は頭を抱えていた。

 

奏夜は練習の時に、メンバー全員がラブライブ出場に向けて燃えているからこそ、必要以上の練習をしないようにと釘を刺していた。

 

メンバーの誰かが倒れてしまえば、ライブどころではないからである。

 

「……わかった。教えてくれてありがとな、雪穂。俺の方からも話はするけど、雪穂も穂乃果が無茶をしないよう見張っていてくれないか?」

 

『もちろんです。お姉ちゃんはすぐ無茶をするので、私がしっかりと見張っておきます』

 

「悪いけど、頼んだぞ、雪穂」

 

『任せてください!それじゃあ、奏夜さん、おやすみなさい』

 

「あぁ、おやすみ、雪穂」

 

雪穂と奏夜はおやすみの挨拶をしてから電話を切った。

 

「……ったく、穂乃果のやつ、あいつも何とかしないとな……」

 

奏夜はことりだけではなく、穂乃果のこともなんとかしようと決意して、帰路についた。

 

翌日の放課後、この日も屋上で練習が行われていた。

 

「あぅぅ……。もうダメ……。もう動けないよぉ〜!」

 

この日も練習がハードだったからか、にこはその場に座り込んでいた。

 

「ダメだよ、にこちゃん!もう1セットだよ!」

 

穂乃果はバテバテなにこに喝を入れ、再び練習をさせようとしていたが、にこはこれを強く拒否していた。

 

「……穂乃果。私たちはともかくとして、あなたは休むべきです」

 

「大丈夫だよ!燃えてるから!」

 

海未は穂乃果の体を気遣って休むよう告げるのだが、穂乃果は聞く耳を持っていなかった。

 

「……穂乃果。お前はもう休め」

 

「もう、そーくんも海未ちゃんも心配性だなぁ。私はまだまだ平気だよ!」

 

奏夜もまた、穂乃果に休むよう告げるのだが、やはり穂乃果は話を聞こうとはしていなかった。

 

「ダメだ。オーバーワークはダメだってあれだけきつく言っただろう?それに、雪穂から聞いたが、夜も練習しているそうじゃないか」

 

奏夜はいつもの優しい口調ではなく、低くてドスの効いた声になっていた。

 

「うっ……。だって……」

 

「ラブライブに向けて頑張るというのはわかる。だが、1人でも無茶をして倒れてしまってはその努力も無駄な努力になるとは思わないか?」

 

「……」

 

奏夜は穂乃果をなだめるようにオーバーワークをやめるように伝えており、それが腑に落ちないのか穂乃果は少しだけムスッとしていた。

 

「穂乃果。目標に向かって頑張るお前のその姿勢は嫌いではない。しかし、自分の体調を鑑みず無茶な練習をすることはイイとは言えないな」

 

「小津先生まで……」

 

剣斗もまた穂乃果が無茶な練習をしていることを感じ取っており、穂乃果をなだめる発言をしていた。

 

「これはマネージャー命令だ。お前は休め。これ以上無茶な練習をすることは絶対に許さんからな」

 

「私もアイドル研究部の顧問として、無茶な練習はするなと言っておこう」

 

μ'sのマネージャーとアイドル研究部の顧問。

 

2人が無茶な練習をするなと断言してしまうと、穂乃果は何も言うことは出来なかった。

 

「……わかった。2人がそこまで言うならペースを落とすよ」

 

穂乃果はとりあえず話を聞き入れてはいたのだが、納得はしていなかった。

 

「……みんなも今日はここまでだ。絵里、構わないな?」

 

「えっ、えぇ……。今日やるべきことはやれたと思うから」

 

絵里が練習を切り上げることを了承したことで、この日の練習はここまでとなった。

 

「ラブライブも近いからもっと頑張りたい気持ちはわかる。だけど、誰かが無理をしてしまえばそれこそ本末転倒って奴だ」

 

奏夜は真剣な表情で語っており、そんな奏夜の言葉に全員が耳を傾けていた。

 

「だからこそ、みんなにも改めて言っておく。練習した後の練習は一切禁止する。夜中にこっそり走り込みをすることも許さんからな」

 

「!?」

 

奏夜の言葉は夜にこっそり走り込みを行っている穂乃果への牽制であるため、穂乃果は奏夜の言葉に驚いていた。

 

「……なんか、奏夜にしては珍しく偉そうね」

 

「それだけにこたちのことを心配してるってことじゃないの?」

 

奏夜がここまで偉そうな態度を取っていることに真姫は驚いていたのだが、にこはその態度は奏夜の心配の表れだということであり、そこまで驚いてはいなかった。

 

こうして、この日の練習は終わり、奏夜たちは解散となった。

 

「……なぁ、ことり。ちょっといいか?話があるんだけど」

 

奏夜はことりから直接話を聞き出すために帰ろうとすることりを引き止めていた。

 

「ごめんね、今日はこの後用事があるの……」

 

ことりは奏夜が何かを感づいていると感じているからか、奏夜を避けるべくこのような発言をしていた。

 

「ふむ……。今日はダメなら、明日の練習前であれば問題はあるまい?」

 

奏夜は引き下がらずに食い下がろうとしたが、その前に剣斗が話に入ってきた。

 

「!?小津先生……」

 

「明日の放課後、生徒指導室を空けておくからそこへ来るように。無論、奏夜もな」

 

「わかった」

 

剣斗は教師という立場を上手く使ってことりから話を聞き出そうとしていた。

 

さすがのことりも教師である剣斗にそう言われてしまっては何も言えず……。

 

「はい……。わかりました……」

 

「うむ。頼んだぞ」

 

こうして剣斗はことりと話をつけると、ことりは剣斗に一礼をして、逃げるようにその場から離れていった。

 

「……悪いな、剣斗。俺1人の力だったらきっとことりに避けられていた」

 

「気にするな。私は教師という立場を使わせてもらったことだ。それに……」

 

「それに?」

 

「友のために力を尽くす。それは当たり前のことではないか?」

 

「剣斗……」

 

剣斗は奏夜のことを友だと思っており、その友のために力を尽くしているという事実が、奏夜にとっては嬉しいものであった。

 

「本当にありがとな……剣斗」

 

「ふふ、礼を言うなら彼女の問題を解決させねばな」

 

「あぁ……!」

 

剣斗が話をする場を設けてくれたため、奏夜はことりが何に悩んでいるのかをどうしても聞き出そうとしていた。

 

「私は教師の仕事に戻ることにするよ。最近は私も忙しいが、たまにはゆっくり語り合おうではないか。暖かい床を用意しておくよ」

 

「あ、アハハ……。か、考えておくよ……」

 

剣斗の語り合おう発言に奏夜は苦笑いをしていた。

 

剣斗は教師としてこの音ノ木坂学院に潜り込んでから、度々このような会話をしているため、他の生徒からは奏夜と剣斗が只ならぬ関係ではないかと噂が流れていた。

 

そんな噂には奏夜はげんなりとしており、これを他の生徒に聞かれたらまた噂が激しくなりそうなため、苦笑いをしていたのである。

 

奏夜が苦笑いをしてるとはつゆ知らず、剣斗は自分の仕事へと戻っていき、奏夜も学校を後にした。

 

その後、番犬所へと立ち寄るのだが、指令はなかったため、奏夜は街の見回りを行ってから帰路についたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後、奏夜と剣斗は一足先に生徒指導室に来ており、ことりのことを待っていた。

 

穂乃果たちには練習に顔を出すのは少しだけ遅くなることは剣斗から伝えてあった。

 

奏夜が伝えるより、教師である剣斗から伝えた方が、色々と都合が良いと剣斗が判断したからである?

 

「さて……。ことりの奴、来てくれるといいが……」

 

「来るさ。一応は教師である私が来るように言ったのだから……」

 

奏夜は本当にことりが来てくれるかどうか心配だったが、剣斗は教師という立場を使って呼び出しているため、ことりは必ず来ると信じていた。

 

そんな剣斗の自信を裏付けるように、生徒指導室の扉が開くと、ことりが中に入ってきた。

 

「……ほら、私の言う通りだっただろう?」

 

本当にことりが来てくれたため、剣斗は「ふんす!」とドヤ顔をしていた。

 

「ことり、悪いな。剣斗を使ってまで呼び出してしまって」

 

「うん……。本当は行かないでおこうって考えてたけど、やっぱりそーくんには話しておいた方がいいなと思って……」

 

ことりは剣斗の呼び出しも無視しようと考えていたが、奏夜に伝えたいことがあったため、呼び出しに応じてこうして生徒指導室へ来たのであった。

 

ことりは浮かない表情のまま、空いている席に腰を下ろしていた。

 

「話しておいた方がいいってことは、やっぱり何かを隠していたんだな」

 

この奏夜の問いかけに、ことりは無言で頷いていた。

 

「このまま黙ってる訳にはいかないし、そーくんには話しておきたいの。あと、顧問の小津先生にも」

 

「相談ならいくらでも受けよう!私は今やこの音ノ木坂学院の教師だ。生徒の悩みを聞くのは当然のことだ!」

 

「それに、ことりはこれからだってスクールアイドルを頑張っていくんだろ?だからこそ、何か悩んでるなら……」

 

「……これからなんて、もう……ないよ……」

 

「え?」

 

ことりは浮かない表情でこのように呟いており、ことりの言葉の意味を理解出来ない奏夜は困惑していた。

 

その後、ことりの放った一言は、奏夜に大きな衝撃を与えるのであった。

 

それは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私ね、“留学”しようって考えているの……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?留……学……?」

 

「……」

 

ことりの突然の告白に、奏夜は大いに困惑しており、剣斗もまた、何も言う事は出来なかった。

 

「私、ずっと前から服飾の仕事に興味を持っていたんだけど、それをお母さんに相談したら、お母さんの知り合いの人が声をかけてくれたみたいで、それで……」

 

「……なるほどな」

 

何故ことりが留学などと口にしたのか、奏夜は事情を理解したのだが、未だに戸惑っていた。

 

「ふむ……。自らの夢を追いかけるために外国へ飛ぶか……。それは確かにイイことではあるが、しかし……」

 

剣斗個人としては、ことりの夢を応援したいと思っていたが、これからのμ'sのことを考えると、複雑な心境になっていた。

 

「その学校はとても良い学校みたいなんだけど、ちょっと不安なんだよね……」

 

「……」

 

「それでも、やっぱり挑戦はしてみたいって思ってるの。そう思えたのは、μ'sとして頑張ってきたからかな?」

 

「……なぁ、ことり。その留学の話っていうのはもう決まったことなのか?」

 

奏夜は1番気になっている疑問をぶつけるのだが、ことりは首を横に振っていた。

 

「まだ返事はしてないの。学園祭当日までに決めなきゃいけなくて、もし行くのなら、学園祭から2週間後に日本を発つの」

 

ことりが留学行きを決断するまでの時間は僅かであり、もし留学に行くのならばそう遠くない未来にことりとは離ればなれになってしまうのである。

 

「ねぇ、そーくん。小津先生。私、どうすればいいのかなぁ?お母さんは自分で決めることだって言ってたけど、やっぱりまだ迷ってて……」

 

ことりは、夢を追いかけたいという気持ちが強い一方、奏夜たちと離ればなれになりたくないという気持ちも強かった。

 

だからこそ葛藤は大きく、ここ最近浮かない表情ばかり浮かべていたのである。

 

「うむ。ことりの母君のいうことはもっともだろう。これは君にとっての重要な人生の選択だ。どちらを選んでも後悔のないようにした方がいい。……曖昧な表現で申し訳ないが、私が言えるのはここまでだ」

 

剣斗の意見は、大人ならではの冷静な意見だった。

 

「そーくんは?そーくんはどう思う?」

 

「俺か?俺は……」

 

今度は奏夜がことりの問いに答える番なのだが、奏夜は唇を噛み締め、両手の拳をギュッと握っていた。

 

そして……。

 

「……行かないで欲しい……」

 

奏夜は弱々しくこのように答えるのだが、これは奏夜の心からの本音だった。

 

「そーくん……」

 

「だってそうだろう!?俺はこれからだってことりと一緒にいたいと思ってる。穂乃果や海未だって、きっと……」

 

「そーくん……。ありがとう……」

 

奏夜の心からの本音を聞き、ことりは奏夜に礼を言っていた。

 

「だけど、俺のエゴをお前に押し付ける訳にはいかない。さっき剣斗が言ってた通り、後悔のない選択をするのが1番だ」

 

『そこに関しては俺も同意見だ。お前が夢に向かって頑張るなら俺も奏夜も応援するさ』

 

「無論、私もな!」

 

「キー君……。ありがとう……」

 

『やれやれ……。本当ならその呼び方はやめて欲しいが、今は何も言うまい』

 

キルバはキー君と呼ばれるのが好きではなかったのだが、今回はそこに対して文句を言わなかった。

 

「……あっ!このことはまだみんなには話さないでね。みんな学園祭に向けて燃えてるから、それに水を差したくないから……」

 

「ことり……。お前……」

 

ことりは自分が留学するかしないかの問題を抱えてなお、μ'sの心配をしていた。

 

「……うむ。私は時が来るまで他言しないと約束しよう」

 

『俺も約束しよう。奏夜、お前はどうなんだ?』

 

「……あぁ。可能な限り約束するよ」

 

奏夜は約束すると断言することは出来ず、このような曖昧な言葉になってしまっていた。

 

「……ありがとう」

 

こうして、奏夜と剣斗はことりが抱える問題を知り、ことりは話すべき話を終えると、生徒指導室を後にした。

 

「……」

 

そんなことりの様子を見送っていた奏夜は、悲痛な表情を浮かべていた。

 

「……奏夜、わかっているとは思うが、みんなの前では普通に接するのだぞ」

 

「あぁ、わかってる……」

 

剣斗は悲痛な表情を浮かべている奏夜を見かねてフォローを入れるような発言をしていた。

 

奏夜もそこはわかっていたため、出来る限りいつも通り振る舞おうと思っていた。

 

こうして奏夜と剣斗も生徒指導室を後にすると、共に屋上へ向かい、練習を行っている穂乃果たちと合流した。

 

ことりは何事もなかったかのように練習に参加していた。

 

それは、今まで溜め込んでいた話を奏夜にすることが出来たため、少しだけ気が楽になったからだと思われる。

 

そのことに奏夜は安堵したため、自然と何事もなかったかのように練習に参加することが出来た。

 

剣斗がことりを呼び出した事は他のメンバーも知っているため、何で呼び出されたのかと勘繰られたのだが、剣斗はμ'sのことを知りたいためにことりから話を聞いていたと説明していた。

 

教師である剣斗の言葉だったため、穂乃果たちは疑うこともなく信じていた。

 

それだけではなく、他のメンバーもμ'sのことなら何でも聞いて欲しいと剣斗に迫る場面もあった。

 

こうしてこの日の練習は終わり、解散となった。

 

海未には何かわかれば教えると話していた奏夜であったが、事が事なので、正直に話すことは出来なかった。

 

しかし、剣斗が上手い具合に話を誤魔化してくれたため、海未は奏夜に追求することがなかったのが幸いであった。

 

そのため、翌日以降、ことりだけではなく、奏夜もまた、浮かない表情を浮かべるようになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

こうして奏夜はことりの留学を誰にも相談することが出来ず、時間だけが無情にも過ぎていってしまった。

 

現在は学園祭前日であり、翌日は学園祭である。

 

翌日は本番だということもあり、奏夜と剣斗はこの日の練習を早めに切り上がらせた。

 

やる気に満ちている穂乃果は納得していなかったが、奏夜と剣斗が強く釘を刺していたため、渋々それを受け入れていた。

 

現在は夜であり、外はあいにくの雨模様ではあったのだが、奏夜は街の見回りを行っていた。

 

ある程度街の見回りを終えた奏夜は、穂乃果たちとよく行っているファストフード店に来ていた。

 

「……」

 

この日も奏夜は、何かを迷っているため、何か考え事をしていた。

 

(……ことりには誰にも言うなって言ってたけど、やっぱり、俺は……)

 

留学の話は他言無用と言われてはいたものの、奏夜はそれを貫くことが出来なかった。

 

《おい、奏夜。お前、まさか……》

 

キルバは奏夜が何をしようとしているのか理解していた。

 

奏夜は携帯を取り出して、誰かに電話をかけようと思ったのだが、その前に携帯が鳴っていた。

 

どうやら海未から電話みたいである。

 

「海未?ちょうど良かったな……」

 

奏夜はどうやら海未に電話をかけるみたいだったため、すぐに電話に出たのであった。

 

「……はい。どうした、海未?」

 

『……奏夜。今、大丈夫ですか?』

 

「あぁ、どうしたんだ?」

 

電話をかけてきた海未は、心なしか元気がないように見えた。

 

『ことりのことなんですが……』

 

海未はバツが悪そうに話を切り出しており、一呼吸置いてから再び語り始めた。

 

『留学……するみたいです』

 

「……」

 

どうやら、海未はことりから直接留学の話を聞いたみたいだった。

 

『……奏夜?』

 

「海未、悪い。実は俺も聞いたんだ。留学について」

 

『そうなんですか?』

 

奏夜がこの話を知っているとは思わなかったのか、海未は驚きを隠せずにいた。

 

「いつだか、剣斗がことりを呼び出していただろ?その時に聞いたんだよ」

 

『……そうだったのですね……』

 

「ごめんな、海未。何かあったら話すって約束したのに……」

 

奏夜は今まで海未に留学のことを話せずいたため、そのことを謝っていた。

 

『奏夜、謝らないでください。ことりに口止めを頼まれたのでしょう?あの子は優しい子です。色々と気を遣わせたくなかったのでしょう』

 

「ありがとな、海未」

 

『先ほどことりから電話がかかってきて、それで留学のことを聞いたのです』

 

どうやら海未は今しがた留学の話を聞いて、すぐ奏夜に電話をしていたみたいである。

 

「ことり、まだ迷っていたか?」

 

『えぇ。それに、まだ穂乃果には話していないそうです』

 

「そっか……。穂乃果のやつ、今はラブライブに向けて一直線だからな……」

 

『そうですね……。ことりからの電話の前に穂乃果にも電話をしましたが、やはりと言いますか、ことりの異変には気付いていないみたいです』

 

「やっぱり……」

 

穂乃果はことりの異変に気付いておらず、その事実に奏夜は頭を抱えていた。

 

『奏夜が知っていたのは驚きですが、ことりのことを共有出来て本当に良かったです』

 

「俺もだよ。明日も早いんだ。海未はそろそろ寝たほうがいいぞ」

 

『えぇ、そうします。奏夜は魔戒騎士の仕事をしているのでしょう?ほどほどにして休んで下さいね』

 

「俺もそうさせてもらうよ。それじゃあ、おやすみ、海未」

 

『えぇ。おやすみなさい、奏夜』

 

互いにおやすみの挨拶を済ませると、奏夜は電話を切った。

 

「……俺も帰るとするか」

 

奏夜はそのまま家に帰ろうとしたため、携帯をポケットにしまおうとしたのだが、その前に再び携帯が鳴っていた。

 

「……?雪穂?」

 

電話をかけてきたのは雪穂であり、奏夜はすぐに電話に出ていた。

 

「もしもし、どうした?」

 

『奏夜さん、大変です!』

 

雪穂は慌てた様子だったため、奏夜は首を傾げていた。

 

『お姉ちゃんなんですけど、今日も練習に行ってるみたいなんです』

 

「!?今日も?」

 

『ごめんなさい。実はお姉ちゃん、私の目を盗んで走ってたみたいで、さっきもお母さんから聞いてわかったんです』

 

「わかった。俺は今外に出てて、帰ろうって思ってたところだからすぐに穂乃果を連れ戻すよ」

 

『すいません、お願いします。奏夜さん』

 

奏夜は穂乃果を連れ戻すことを雪穂に伝えると、そのまま電話を切り、携帯をポケットにしまった。

 

「……あの馬鹿……!オーバーワークはダメだってあれだけ言ったのに……!」

 

奏夜はトレイに入ったものをゴミ箱に入れてトレイをゴミ箱の上に置くと、ファストフード店を後にした。

 

穂乃果が走り込みをしているなら思い当たる場所があるみたいであり、奏夜はそこへと向かっていた。

 

その場所は神田明神であり、奏夜はそこで階段ダッシュを行っている穂乃果をすぐに見つけていた。

 

「ったく……。この雨だっていうのにあいつは……」

 

奏夜は雨にも関わらず走り込みをしている穂乃果に呆れながら、穂乃果の方へと向かっていった。

 

「……こんなところにいたか、穂乃果」

 

「そ、そーくん!?」

 

こんなところで奏夜に会えるとは思っていなかったからか、穂乃果は驚いていた。

 

「ったく、お前って奴は……。明日は早いんだから、さっさと帰るぞ、穂乃果」

 

『奏夜の言う通りだ。今更走り込みをしても意味などないからな』

 

奏夜とキルバは穂乃果を連れて帰るために説得を試みるのだが……。

 

「……やだよ……」

 

「……穂乃果?」

 

「やだよ!!だって、私にはまだやれることがあるんだよ!?それをしないだなんて……。絶対にやだ!」

 

穂乃果は奏夜とキルバの説得に全く応じようとはしなかった。

 

『おいおい、穂乃果。お前なぁ……』

 

そんな穂乃果にキルバは呆れ果てており、一言物申そうとしたのだが……。

 

「……ふざけたことを言うのも大概にしろよ……!」

 

奏夜は穂乃果に対して怒鳴ることはせず、ドスを利かして静かに怒っていた。

 

「そ、そーくん……?」

 

「オーバーワークはダメだとあれだけ言っただろ?それは、体を休めることも大切なことだからだ」

 

「……」

 

奏夜の口調が説教のようになっており、穂乃果は少しだけむすっとしていた。

 

「……お前のひたむきに頑張る姿勢は嫌いじゃないけど、前日に体を酷使したところで何になる。誰かが無茶をして体調を崩したら、全てが無駄になるって何でわからない!?」

 

奏夜は今自分が思っていることを穂乃果に伝えていた。

 

他のメンバーにもしつこいくらいに話していたのだが、1人の無茶がせっかく築き上げてきたライブを台無しになる可能性がある。

 

それに、前日に体を休ませずに酷使をするのは決して効率がいいとは思えなかった。

 

そのため、奏夜の発言は的を得たものであるのだが……。

 

「……そーくんにはわからないよ……」

 

「……?穂乃果?」

 

穂乃果は弱々しく呟いていたため、奏夜は聞き取ることが出来ず、首を傾げていた。

 

そして……。

 

 

「そーくんにはわからないよ!!私たちがどんな思いで頑張ってきたのかを!」

 

「そんなことはないだろ!?俺は……」

 

穂乃果の言葉に奏夜は異議を唱えようとしたのだが……。

 

「だってそーくんは……。私たちとは“住む世界が違う”んだもん!!」

 

「!!?」

 

奏夜は穂乃果の言葉を聞いて愕然としてしまった。

 

奏夜にとっては1番聞きたくなかった言葉だったからである。

 

『おい、穂乃果。さすがに今の発言は……』

 

「キルバ!いいんだ!!」

 

キルバは穂乃果の失言とも言える発言に物申そうとするが、奏夜がそれを遮っていた。

 

「あっ……」

 

穂乃果は、言ってはいけないことを言ってしまったと思ってしまったのか、逃げるようにその場を立ち去っていった。

 

「……」

 

奏夜は穂乃果から言われてしまったことが胸に突き刺さってしまったからか、悲痛な表情をしており、そんな奏夜をあざ笑うかのように雨が強まっていた。

 

『……奏夜。あいつらとは住む世界が違うなど、始めからわかっていたことだろう?あまり気にするな』

 

「……それはわかってる。わかってるけど……」

 

奏夜は両手の拳をギュッと握りしめ、唇を噛んでいた。

 

『穂乃果がワガママなのは今に始まったことではあるまい?自分のやりたいことを止められて、咄嗟に出た失言だ。だからあまり気にするな』

 

本来のキルバであれば、厳しい言葉を放って奏夜を奮い立たせるところだが、それをするとさらに奏夜が立ち直れなくなると判断したため、優しく奏夜をなだめていた。

 

「……本当にそうだろうか?」

 

『……奏夜?』

 

「魔戒騎士がどうこうとかじゃないんだ。俺はμ'sのマネージャーであって、実際にパフォーマンスをするのはみんなだ。マネージャーとパフォーマーでは住む世界が違うのは当たり前なのかもしれないな……」

 

奏夜は穂乃果の言葉が深く胸に突き刺さっているせいか、穂乃果の言葉を真に受けていたのである。

 

『ったく、お前ってやつは……。とりあえず帰るぞ、奏夜。お前まで体調を崩してしまってはあいつらも心配するだろうしな』

 

「……そうだな」

 

奏夜は未だに立ち直れてはいないのだが、どうにか気持ちを切り替えて帰ろうとしていた。

 

……その時だった。

 

「……まったく、随分とひどい言われようじゃないか。そこまで言われるとは、本当に哀れだな、お前」

 

銀髪で長身の男が、奏夜と穂乃果の一部始終を見ていたからか、煽るような発言をしていた。

 

「……ジンガ……!!何しに来た!」

 

その男の正体はジンガであるため、奏夜はジンガを睨みつけていた。

 

「おいおい、ずいぶんとつれないじゃないか。俺だってずっと拠点にこもってるのも暇でな。抜け出してきたって訳さ。まぁ、尊士はあまりいい顔はしてなかったけどな」

 

どうやらジンガは暇つぶしのために近辺をぶらついていたみたいだった。

 

「そしたら、ずいぶんと面白いもんが見れたって訳さ。あのお嬢ちゃんにちょっかいをかけてライブの邪魔をするのも一興と思ったが、その必要はないみたいだしな」

 

ジンガは奏夜をあざ笑うかのように楽しげな口調で奏夜を煽っていた。

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

そんなジンガの態度に怒りを露わにした奏夜は、魔戒剣を抜くと、ジンガに斬りかかった。

 

しかし、ジンガは魔戒剣に似た剣で奏夜の攻撃を軽々と受け止めていた。

 

「おいおい、そんなありきたりな挑発に引っかかるなよな。白けるだろ?」

 

「黙れ!ここでお前を倒して、ニーズヘッグの復活を阻止する!」

 

「へぇ、随分と強気だな。だが、お前に俺が斬れるかな?」

 

ジンガは飄々としながら奏夜を牽制しており、剣を振るって奏夜を吹き飛ばしていた。

 

「くっ……!」

 

『奏夜!今のお前では奴を倒すなど無理だ!戦おうなどと考えずさっさと逃げろ!』

 

キルバはここでジンガと戦うのは得策ではないと考えており、奏夜に逃げるように告げていた。

 

「まぁ、俺としては逃げてくれても構わないんだがな」

 

ジンガとしては、奏夜と穂乃果のすれ違う様子を見られたため、ここで奏夜を逃しても良いと思っていた。

 

「ここで尻尾を巻いて逃げるってのは魔戒騎士の名折れだろ!」

 

奏夜はここでおめおめと逃げ出すような真似はしたくないと思っていた。

 

『冷静になれ!ここでお前が死んだらあいつらはどうなる!?そんなこともわからないのか!!』

 

「っ……!?だけど、俺は……!」

 

キルバの言葉は的を得ているのだが、奏夜はやはりここで退くようなことはしたくはなかった。

 

勝てないにしても、やれるところまでは戦いたいと思っていたからである。

 

「フン、その選択……。後悔するなよ!」

 

こうして奏夜は逃げ出すチャンスを投げ出してまで、ジンガに戦いを挑むことになった。

 

「はぁっ!!」

 

奏夜は魔戒剣を一閃するのだが、それはジンガに軽々と受け止められてしまった。

 

「くっ……!」

 

「お前、だいぶ強くなったみたいだが、心が乱れまくってるな。そんなんで俺に勝てるとでも?」

 

「!?」

 

ジンガは即座に奏夜の心境を読み取っており、奏夜の心が乱れていることも即座に見切っていた。

 

自分の心境を見切られてしまい、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「だとしたら……。俺もずいぶんとナメられたもんだな!」

 

ジンガの言葉には少しだけ怒気が込められており、ジンガは渾身の力で剣を振るっていた。

 

「くっ……!」

 

その一撃で、奏夜は吹き飛ばされてしまった。

 

「どうした?まさか、その程度で俺を倒そうなどとほざいている訳じゃないよなぁ?」

 

「当たり前……だろ!」

 

奏夜は実力差が相手であるにも関わらず怯まずに向かっていった。

 

しかし、ジンガに見透かされた通り、心が乱れてしまっているため、あと一歩踏み込むことが出来なかったのだ。

 

そのため、ジンガに決定的な一撃を与えることは出来ず、ジンガもそんな奏夜を軽くあしらっていたのである。

 

「くっ……くそっ……!」

 

奏夜はジンガに決定的な一撃を与えられず、焦りを見せていた。

 

「ふん、お前がどれだけ強くなろうと、そんな状態で俺に勝とうなどとは、お笑いだぜ」

 

「黙れ!!」

 

奏夜は魔戒剣の柄を力強く握りしめると、そのままジンガへと向かっていった。

 

しかし……。

 

「……甘いな!!」

 

ジンガは手にしている剣を力強く振り降ろすと、奏夜の手にしている魔戒剣を弾き飛ばしていた。

 

「なっ……!?」

 

「じゃあな!未熟な魔戒騎士!!」

 

奏夜に狙いを定めたジンガはそのまま……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜の体に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣を突き刺したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「ぐはっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

ジンガに剣を突き刺され、奏夜は口から血を吐いてしまっていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『おい、奏夜!しっかりしろ!ここでお前が倒れたらμ'sのみんなはいったいどうなるんだ!?次回、「波乱」。波乱に満ちたライブが、今始まる!』

 

 




ついに奏夜がことりの留学を知ってしまいました。

奏夜だけではなく、剣斗や海未も知ることになったのですが。

それにしても、剣斗は奏夜にとっての良い理解者ポジになってきましたね。

奏夜を友と呼んでいるからこそだとは思いますが。

そんな剣斗の存在が、奏夜にとって多少の救いになっている思います。

そして、奏夜と穂乃果のすれ違い。

ほのキチである僕にとっては辛い展開ですが、当然ここから挽回はします。

そらにまさかのジンガとの直接対決。

奏夜も強くはなっていますが、タイミングが悪過ぎましたね。

ジンガの剣に貫かれてしまった奏夜ですが、奏夜は次回、どうなってしまうのか?

この章は学園祭までの話となっているので、次回が「波乱の学園祭編」は終わりの予定となっています。

それでは、次回をお楽しみに!



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第46話 「波乱」

大変長らくお待たせしました!第46話になります。

まさかここまで投稿が遅れてしまうとは思いませんでした……。

最近何かと忙しく、執筆に割く時間がなかなか取れなかったんですよね。

色々と展開は考えているので、どれだけ投稿は遅くなっても投稿は続けていきたいと思っていますので、これからも牙狼ライブをよろしくお願いします!

さて、今回はいよいよ学園祭です。

前回、ジンガによって剣を突き刺された奏夜を待ち受ける運命は?

それでは、第46話をどうぞ!




μ'sのランキングが19位まで上がり、奏夜たちは学園祭のライブに向けて頑張っていた。

 

そして、学園祭前日、この日は翌日のライブに備えて、練習は早めに切り上げていた。

 

そんな中、μ'sのメンバーの1人である東條希は、自宅でのんびりと過ごしていた。

 

希の家は秋葉原某所のマンションの一室であり、現在は家庭の都合で一人暮らしをしている。

 

希は趣味である占いに興じていた。

 

「……♪」

 

希はテーブルにタロットカードを並べており、これから占いを始めるところであった。

 

「明日のライブ、上手くいくといいんやけど……」

 

希はこのように呟くと、並べたタロットカードの中から、1枚のカードをめくった。

 

「……え?」

 

希はそのカードを見た瞬間、驚きのあまり目を見開いていた。

 

そのカードは物事の崩壊や終末などを意味する死神のカードの正位置だったからである。

 

「う、うそやろ?なんか縁起が悪いな……」

 

このカードを引いたということは、これから良くないことが起こると考えられるため、希の顔は真っ青になっていた。

 

「……何やろう……。これから何か良くないことが起きるんやろうか?」

 

希は、これから何が起こるのか不安だったからか、胸騒ぎを覚えていた。

 

これからそんな希の不安が的中してしまうことを、彼女は知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐはっ!!」

 

奏夜は現在、ジンガと戦っていたのだが、ジンガの剣が奏夜の体を貫いていた。

 

ジンガに突き刺され、奏夜は口から血を吐いていた。

 

それだけではなく、奏夜の身体からは、鮮血が溢れ出していた。

 

「……チッ、急所は外れたか。悪運は良いみたいだな」

 

奏夜は咄嗟に回避行動を取ったおかげで、急所を大きく外れており、致命傷は免れていた。

 

「うっ……くっ……」

 

奏夜は激痛のため、表情を歪ませており、ジンガは奏夜が首にぶら下げているネックレスの紐を引きちぎり、それを奪い取っていた。

 

「!?か、返せ……!それは……!」

 

未だに剣を突き刺されている状態ではあったが、奏夜はジンガに手を伸ばしていた。

 

それを冷酷な目で見ていたジンガは、剣を引き抜き、蹴りを放って奏夜を吹き飛ばしていた。

 

ジンガの蹴りを受けた奏夜はジンガから数メートル離れたところで倒れ込んでいた。

 

「……魔竜の牙はいただいていくぜ。手土産を持っていけば尊士も文句は言わんだろうしな」

 

「くっ、くそっ!」

 

奏夜はどうにか立ち上がろうとするが、立ち上がることは出来なかった。

 

そんな中、ジンガはゆっくりと奏夜に迫っていた。

 

「ついでだ。目障りなお前の命ももらっておこう」

 

ジンガは剣を構え、奏夜にトドメを刺そうとしていた。

 

ジンガの剣が奏夜に迫ろうとしていたその時だった。

 

「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

突然誰かの叫び声が聞こえると、どこからか赤いコートの青年……。統夜が現れると、ジンガに体当たりを繰り出してジンガを吹き飛ばしていた。

 

「くっ……!月影統夜か……!」

 

ジンガはいきなり統夜が現れたことに驚いていた。

 

「と、統夜……さん……?」

 

奏夜は、先輩騎士である統夜が自分の危機を救ってくれたことが嬉しかったのである。

 

「統夜だけじゃないぞ!!」

 

さらに魔戒法師らしき男が現れたのだが、この男は、翡翠の番犬所に所属している魔戒騎士の天宮リンドウの弟であり、布道レオの一番弟子であるアキトであった。

 

「チッ、天宮アキトもいたか……。この2人を相手にするのは面倒だな……。目的は達成したんだ。俺はこの辺で失礼させてもらうよ」

 

このまま統夜とアキトの2人を相手にするのは得策ではないと判断したジンガは、魔竜の牙という思わぬ収穫を得たため、撤退することにした。

 

「!?待て!!」

 

統夜はジンガを追撃しようとしたのだが……。

 

「統夜!まずは奏夜の怪我をなんとかするのが先だ!!」

 

アキトは冷静であり、ジンガよりも奏夜を優先させようとしていた。

 

ジンガを追いかけてしまったら、そのまま奏夜が命を落としかねないからである。

 

「……そうだな……」

 

統夜は魔戒剣を抜くことなくその場を切り抜けると、アキトと共に重傷を負った奏夜に駆け寄っていた。

 

「おい、奏夜!大丈夫か?」

 

「統夜さん……。アキトさん……。すいません。魔竜の牙がジンガの奴に……」

 

奏夜は自分の体のことではなく、魔竜の牙が奪われたことを話しており、謝っていた。

 

「気にしなくていい。もう喋るな。奪われたものはまた取り返せばいいんだ」

 

統夜はジンガに魔竜の牙が奪われた事実に驚いていたが、それよりも奏夜の体を気遣っていた。

 

「……すいません……。だけど、統夜さんとアキトさんが来てくれて……。良かった……」

 

2人が来てくれたことに安堵したからか、奏夜はそのまま目を閉じて、意識を失っていた。

 

「奏夜!?おい、奏夜!しっかりしろ!!」

 

統夜は意識を失った奏夜の体を必死に揺らしていたのだが……。

 

「統夜!落ち着け!奏夜は意識を失っただけだ」

 

統夜は奏夜の怪我に取り乱していたのだが、アキトは至って冷静だった。

 

「そ、そうか……」

 

『だが、危険な状態なのは間違いないみたいだ』

 

『キルバの言う通りだぜ、統夜。早く治療をしないと小僧が死ぬぞ』

 

キルバと統夜の魔導輪であるイルバは、奏夜が生命の危機にあることを分析していた。

 

「とりあえず番犬所に運ぼう」

 

先ほどは取り乱していた統夜であったが、どうにか冷静さを取り戻しており、このような提案をしていた。

 

「おいおい、この怪我だぞ?病院の方がいいんじゃないのか?」

 

アキトはもっともな意見をぶつけたのだが……。

 

「確かにそれが確実だ。だけど、この怪我だ。このまま病院に運んだとして、明日の学園祭に顔を出せると思うか?」

 

「そ、それは……」

 

本来であれば病院に運ぶのが得策なのだが、奏夜の傷は深く、治療を行えば、明日の学園祭に参加するのは絶望的だった。

 

そのため、病院へ運ぶことを統夜は良しとしなかった。

 

「翡翠の番犬所には多少の魔導具はある。アキト、お前ほどの魔戒法師なら治癒の法術は使えるだろう?」

 

統夜が番犬所へ運ぶことを選んだのは、アキトが治癒の法術を使えると見越していたからである。

 

「やれやれ……。俺は治癒の法術は苦手なんだよ。邪美姉や、烈花の姉御なら完璧に出来そうだけどな……」

 

アキトは治癒の法術は使えるものの、そこまで得意ではなく、師匠であるレオと同じくらい尊敬している先輩魔戒法師の邪美(じゃび)や烈花(れっか)であれば完璧な法術は使えるだろうと思っていた。

 

「だけど、今はそんなこと言ってる場合じゃねぇよな」

 

治癒の法術が苦手だからと言って、このまま何もしない訳にはいかないことはアキトは重々理解しているため、統夜の提案を受け入れていた。

 

こうして、統夜とアキトは意識を失っている奏夜を2人がかりで抱えると、そのまま番犬所へと向かっていった。

 

「……!?奏夜!?いったいどうしたのですか!?」

 

2人が番犬所に到着すると、あまりの異常事態に、ロデルは驚きを隠せずにいた。

 

「申し訳ありません。説明は後です!まずは奏夜の治療を!」

 

「そうですね。話は彼の治療をしてからにしましょう」

 

ロデルの付き人の秘書官2人が、治療用のベッドを用意すると、そこに奏夜を寝かせていた。

 

「……出血がひどいからな。急がないと本当に危ないぞ」

 

統夜は今の奏夜の状態を冷静に分析していた。

 

ジンガに刺された時に急所は外れたものの、刺されているため出血がひどく、いくら魔戒騎士といえども、このままでは血が足りなくなって命の危険がある。

 

「……アキト、頼んだ!」

 

「わかった。俺だって魔戒法師なんだ。どこまで出来るかわからないけど、絶対に奏夜を救ってみせる!」

 

アキトにとっても奏夜は大事な後輩であるため、ここで死なせるつもりはなかった。

 

アキトはロデルの付き人の秘書官が用意してくれた治癒の法術の時に使う札を受け取ると、それを奏夜の患部に貼り付けていた。

 

すると、アキトは自分の魔導筆を取り出し、精神を集中させていた。

 

そして……。

 

「……はぁっ!!」

 

アキトは魔導筆から法術を放っていた。

 

「くっ……。やっぱり、思うような効果が出せねぇ……」

 

アキトは治癒の法術があまり得意ではないからか?思った以上の効果を出せてはいなかった。

 

しかし……。

 

「奏夜、俺が絶対に救ってやる!お前が死んだら、μ'sのみんなが悲しむからな!」

 

アキトはμ'sのメンバーを悲しませないために、奏夜を救おうと決意していた。

 

それだけが理由ではなく、アキトの兄であるリンドウも奏夜のことを認めており、アキトもまた、奏夜のことを大切な後輩だと思っていた。

 

だからこそ、そんな奏夜を救いたいと思っていたのである。

 

治癒の法術は苦手なアキトではあったが、渾身の力を込めて、奏夜の治療にあたっていた。

 

「……帰ってこい、奏夜!!」

 

そんな思いを魔導筆に込め、術を放っていた。

 

アキトの思いが届いたからか、術が効いてきており、ジンガによってつけられた傷はみるみる塞がっていった。

 

「……!治ったか!」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

アキトはこの法術にかなりの力を使ったからか、息が上がっていた。

 

「……いや、とりあえず応急処置程度だ。無理をすればまた傷は広がるだろう。俺の力じゃここまでだ」

 

アキトは治癒の法術が苦手であるため、奏夜の傷を完全に癒すことは出来なかったが、応急処置にはなっていたのである。

 

「……とりあえず、奏夜の危機は救われたのですね。それは良かったです」

 

奏夜はどうにか命の危機は脱したため、ロデルは安堵をしていた。

 

その後、番犬所にリンドウと剣斗が現れ、意識を失っている奏夜に驚いていた。

 

そのため、統夜とアキトは神田明神で目撃したことを話すことにした。

 

「……奏夜がジンガと交戦したというのですか?」

 

「あぁ。それで奏夜はジンガに重傷を負わされて、魔竜の牙を奪われてしまったんだ」

 

「……なんてこった……」

 

「だが、奏夜が無事だったのは不幸中の幸いだな」

 

統夜とアキトから事の顛末を聞かされ、リンドウは頭を抱えており、剣斗は奏夜の無事に安堵していた。

 

「それにしても、奏夜は何故神田明神にいたんだ?今日は指令もないはずだろう?」

 

「ふむ……。まさかな……」

 

「剣斗……。あなたは何か知っているみたいですね?」

 

「はい。ロデル殿や皆にも話しておこう。最近のμ'sの様子を」

 

こうして、剣斗はμ'sの近況を語り始めた。

 

「……今、μ'sのみんなは明日行われる学園祭ライブに向けて頑張っているのだ。その中でも穂乃果がやる気に満ちていてな。そのやる気が悪い方へと行ってしまっているのだよ」

 

「……なるほど……」

 

奏夜からちょこちょこμ'sの近況は聞いていてはいたのだがら改めて剣斗からμ'sの近況を聞き、ロデルは驚いていた。

 

「奏夜はいつだか穂乃果が夜も練習をしていると言っていた。それを禁止するとも言っていたし、恐らく奏夜は今日も練習してる穂乃果を止めに行ったのではないか?」

 

「まぁ、そう考えるのが1番自然か……」

 

統夜は剣斗からの話を聞いただけだったが、状況的にそれが無難だと思っていた。

 

「それから何かあって穂乃果と別れ、ジンガと遭遇したのだろう」

 

「……その何かってのはわからないけどな」

 

「まぁ、それは奏夜が目を覚ましたら聞いてみたらいいんじゃないのか?」

 

リンドウは楽観的な意見を言っており、統夜たちはそんなリンドウの楽観的な意見を受け入れていた。

 

「……そうですね。とりあえず奏夜はこのままここで休んでもらいます。奏夜が目を覚ましたら、話を聞くことにしましょう」

 

「……わかりました」

 

「ま、今日のところはそれがいいだろうな」

 

剣斗は詳しい話を知らないため、後の話は奏夜から聞き出すことにした。

 

そのため、奏夜が目を覚ますまで待つことにするため、この日は解散となった。

 

リンドウはこのまま番犬所を後にして、剣斗は奏夜が心配であったが、彼の分まで動かなければいけないため、渋々帰っていった。

 

番犬所には統夜とアキトが残り、奏夜が目を覚ますのを待っていた。

 

待っている間に統夜は、梓に連絡を入れて、事の顛末を説明していた。

 

統夜は梓たちと共に、音ノ木坂の学園祭に行くために東京入りしていたのである。

 

事情を聞いた梓はそれを唯たちにも共有し、学園祭で何かあった時には協力してもらうように要請をしていた。

 

梓との電話を終えた統夜は、アキトと共に奏夜が目覚めるのを待っていた。

 

そして、奏夜が目を覚ましたのは翌日の朝であった。

 

「……う、うん……?」

 

「奏夜!」

 

「目を覚ましたか!」

 

奏夜が目を覚ましたのを確認し、統夜とアキトの表情が明るくなっていた。

 

「統夜さん……。アキトさん……。ここは?それに、俺はいったい……」

 

奏夜は統夜とアキトの顔を見たため、ゆっくりと体を起こそうとするが……。

 

「ぐっ!?」

 

まだ完全に怪我が治ってる訳ではないかるか、激痛が奏夜を襲い、奏夜は表情を歪めていた。

 

「奏夜!まだ安静にしてろ!お前はまだ完全に怪我が治った訳じゃないんだからな」

 

「そうだ。応急処置程度の術は施したが、無茶をすればまた傷が開くぞ」

 

アキトの治癒の法術は完璧ではないため、奏夜が無茶をすれば、再び傷が開く恐れがあるのであった。

 

「……統夜さん。今日って、もしかして……」

 

「あぁ、今日は学園祭当日だ」

 

「!?」

 

奏夜は今日が学園祭だと聞かされると、激痛を堪えてベッドから飛び起きていた。

 

そして、ここが番犬所の中だとわかると、そのまま番犬所を出ようとするのだが……。

 

「……奏夜!待ちなさい!」

 

その前にロデルが奏夜を制止していた。

 

「あなたはジンガに敗れ、魔竜の牙を奪われたと聞きました。その前に何があったのですか?話しなさい」

 

「……」

 

ロデルは今までにない程厳しい口調になっており、奏夜は俯きながら黙っていた。

 

「奏夜、話してくれないか?何でも1人で抱え込まないでくれよ」

 

「そうそう。だから俺たちに話してくれよ。少しは楽になると思うぜ」

 

「……わかりました」

 

こうして奏夜は、ことりの留学のことや、神田明神で穂乃果に言われた言葉について語ったのであった。

 

「……ことりが留学……ですか……」

 

ことりが留学と知り、ロデルはあからさまに落胆の色を見せていた。

 

「まぁ、それがあいつのやりたいことなら、応援はしてやりたいが……」

 

統夜はことりの留学を反対はしなかったものの、やはり寂しさは感じていた。

 

「なぁ、統夜。留学なんだけど、ムギちゃんの力でなんとかならんのか?」

 

アキトは、このままことりを留学させるのはどうかと考えており、桜ヶ丘では随一の富豪の娘である紬の力を借りるべきだと考えていた。

 

「まぁ、ことりが留学を断るなら卒業時期に合わせて他の留学先とか相談出来るかもだけど、ことりが今本気で留学を考えてるなら、それも無駄だろうな」

 

「……だよなぁ……」

 

統夜の言葉に同意していたアキトは、落胆を隠せずにいた。

 

「まぁ、ことりの問題は後で考えるとしましょう」

 

ロデルは、ことりの留学の話はここで一旦終わりにすることにしていた。

 

「……それに、「住む世界が違う」……か」

 

統夜は、奏夜が穂乃果から言われた「住む世界が違う」という言葉を繰り返していた。

 

『あのお嬢ちゃんはワガママなところがあるからな。そこから出た失言だろう。俺様はあまり気にすることはないと思うぜ』

 

『俺もそう思うのだが、奏夜はそれを真に受けてしまってな』

 

キルバが奏夜に対して言ったことを、イルバも思っていたようであり、イルバはその言葉に同意していた。

 

「……奏夜。あなたがその言葉を受けて深く傷付いているのはわかります。あなたの純粋さと優しさは長所ではありますが、致命的な弱点でもあるのです」

 

「……」

 

「あなたのその心の弱さがこのような結果を生んだのです。魔戒騎士として、その事実を深く胸に刻み込みなさい」

 

ロデルは様々なことがあって心が乱れている奏夜に優しい言葉をかけるのではなく、あえて厳しい言葉をぶつけていた。

 

そうする方が、奏夜の成長につながると確信していたからである。

 

「……っ!」

 

奏夜にとっては耳が痛い話であったからか、奏夜は両手の拳をギュッと握りしめ、唇を噛んでいた。

 

「……どうしました?返事は?」

 

「……は、はい!わかりました!あと、申し訳ありませんでした」

 

ジンガに敗れ、魔竜の牙を奪われただけではなく、瀕死の重傷を負ったのは、自分の心が弱いからだということは奏夜もわかっていた。

 

だからこそロデルの言葉は的を得たものであり、その悔しさから返事が遅くなってしまった。

 

「うっひゃあ、おっかねぇなぁ……」

 

「仕方ないさ。ロデル様は奏夜のためを思ってあぁ言ってるんだから」

 

アキトはロデルの厳しい言葉に肩をすくめるが、統夜はそんなロデルの真意をわかっていた。

 

「……俺は急いで学校へ向かいます。急がないとライブに間に合わないかもしれないので」

 

「奏夜。俺とアキトも後でライブを見に来る。だから無理はするなよ」

 

「……ありがとうございます」

 

奏夜はロデルだけではなく、統夜とアキトにも一礼をしていた。

 

奏夜は体の痛みが残っている状態だったからか、足元がふらついていたのだが、どうにか番犬所を後にして、学校へと向かうことにした。

 

奏夜は痛みを堪えながら、ゆっくりと学校へと向かっていった。

 

(ロデル様の言う通りだ……。俺の心が弱かったからジンガに魔竜の牙を奪われてしまった。これが、ニーズヘッグの復活を早めるかもしれない……)

 

移動中、奏夜はロデルの言葉について考えていた。

 

とは言っても、落ち込んでいる訳ではないみたいだが……。

 

《奏夜。だからこそこの失態を真摯に受け止め、次に繋げていかなくてはな》

 

(わかってる。それに、ことりのことは心配だけど、まずは目の前のライブの成功を祈らないと)

 

奏夜は気持ちを切り替えており、今日行われるライブの成功を祈っていた。

 

しかし……。

 

(……ひどい雨だな……。そこがちょっと心配だけどな……)

 

現在、天気は昨夜同様に土砂降りの雨であり、ライブが行えるかどうか、奏夜は心配していた。

 

奏夜がしばらく歩いていると、とある場所で人だかりが出来ていた。

 

(?なんだろう?何かあったのだろうか?)

 

《さぁな。だが、そこを気にしてる場合じゃないぞ》

 

(そうだな。みんなは今頃俺を待ってるだろうし)

 

奏夜は人だかりが気になってはいたのだが、そのままそこを通り過ぎようとしていた。

 

すると……。

 

「ねぇねぇ、聞いた?なんか、若い男の子がひったくりを捕まえようとして、その犯人に刺されたんですってね」

 

「おっかないわねぇ……。それに、刺された男の子は行かなきゃいけないところがあるって、救急車を待たずにどこかに行ったらしいじゃない」

 

「大丈夫かしらねぇ……。犯人はすぐ捕まったみたいだけど……」

 

近くにいた2人の女性が、ここで起こったであろう事件の話をしていた。

 

その話によると、ひったくり事件が発生し、1人の少年がそのひったくり犯を捕まえようとしていたらしい。

 

しかし、少年はひったくり犯に刺されてしまったのである。

 

すぐに駆けつけた警察により、犯人は逮捕されたが、少年は行かなきゃいけないところがあると言って、そのままどこかへ行ってしまったらしい。

 

(……ふーん……。ずいぶんと物騒なことが起こってんだな……)

 

今日か明日にはニュースになりそうな事件なのだが、奏夜は関心を示してはいなかった。

 

(でも、もしも俺の身に何か起こったら使えそうな話ではあるな)

 

《なるほどな。確かにそうかもしれん。ま、何もないに越したことはないがな》

 

(確かにな)

 

奏夜はキルバとテレパシーで会話をしながら人だかりのエリアを通り過ぎ、そのまま学校へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

その頃、音ノ木坂学院では学園祭が行われ、多くの人で賑わっていた。

 

そんな中、この学校のスクールアイドルグループである「μ's」のライブの時間が迫っていた。

 

現在、穂乃果たちは衣装に着替え、アイドル研究部の部室で待機していた。

 

「……そーや君、遅いね……」

 

今日はライブだというのに、なかなか顔を出さない奏夜を、凛は心配していた。

 

当然それは凛だけではないのだが……。

 

「……何かあったのかなぁ?事件とかに巻き込まれてなければいいけど……」

 

「ま、奏夜のことだし、寝坊とかではないんだろうけど」

 

花陽は凛よりも奏夜のことを案じており、真姫もまた、奏夜を心配していた。

 

「まったく……。このライブにはラブライブ出場がかかってるっていうのに、奏夜は何をやっているのよ?ねぇ、希もそう思わない?」

 

にこは、なかなか姿を現さない奏夜に文句を言っており、希に同意を求めるのだが……。

 

「……」

 

何故か希は浮かない表情をしていたのであった。

 

「……希?どうしたの?」

 

「へ?い、いや!何でもないんよ。何でも!」

 

そんな希を見て、首を傾げていた絵里は、希に声をかけると、ハッとした希は慌てた様子を見せていた。

 

「珍しいわね、希がボケっと考え事だなんて」

 

「そ、そうやね。アハハ……」

 

希は苦笑いをして話を誤魔化しており、絵里はさらに首を傾げていた。

 

(……昨日の占い、μ'sのことやと思ってたけど、まさか、奏夜君のことなんやろうか……?奏夜君……無事やったらいいけど……)

 

希は昨日の占いのことを非常に気にしており、奏夜が未だ来ていないことを心配していた。

 

海未はことりと留学についてこっそり話していたのだが、ことりはまだ迷っていた。

 

留学に行くかどうか。結論を今日中に出さなければいけないからである。

 

そんな話をしていたからか、2人とも浮かない表情をしていた。

 

それよりも問題は穂乃果であった。

 

(……そーくん……。昨日、あんなこと言っちゃったから来ないのかなぁ?)

 

穂乃果は昨日、奏夜に言った言葉が言ってはいけない言葉だということを理解しており、それが奏夜が来ない原因なのではないかと心配していた。

 

(……あ、あぅぅ……。やっぱり頭がくらくらするよ……)

 

穂乃果はオーバーワークのせいで、体調を崩しており、風邪の症状が出ていた。

 

自分が風邪だと他のメンバーにバレてしまったらライブは中止になりかねないため、穂乃果は必死に自分の風邪を隠していた。

 

アイドル研究部の部室には、ライブが目前に迫っているとは思えないほどのネガティブな空気に満ちていた。

 

すると、そんな空気を壊すかのようにアイドル研究部の部室の扉が開かれた。

 

「!?もしかして……」

 

「奏夜?」

 

穂乃果たちは奏夜がやっと来たのかと期待をしていたのだが……。

 

「……うむ、みんな、準備が出来ているみたいだな」

 

部室に入ってきたのは奏夜ではなく、剣斗であった。

 

「なんだ、小津先生か……」

 

奏夜ではないことに対して、穂乃果たちはあからさまに落胆していた。

 

「む……。そこまであからさまに落胆されると、流石の私も落ち込むのだが……」

 

穂乃果たちのリアクションを見て、剣斗はショックを隠しきれないようであった。

 

「あっ、すいません……」

 

全員を代表して、絵里が申し訳なさそうに謝罪をしていた。

 

「小津先生!奏夜君がまだ来てないんです!何か知りませんか?」

 

花陽は涙目になりながら、奏夜のことを剣斗から聞こうとしていた。

 

「うむ。奏夜であれば、先ほど学校に顔を出してな。ここへ行こうとしていたが、私が1つ仕事を頼んだところだ」

 

「仕事……ですか?」

 

「うむ。今は学園祭でどこもバタバタしているからな。何、すぐにこっちへ来るさ」

 

こう話して穂乃果たちを安心させていたのだが、これは嘘であった。

 

こうでも話しておかないと、穂乃果たちは奏夜を心配してライブどころではなくなると判断したからである。

 

しかし、先ほど統夜から連絡があり、もうすぐ来るだろうというのは本当であった。

 

それを裏付けるかのように、アイドル研究部の部室の扉が再び開かれると、今度は奏夜が中に入ってきた。

 

「……みんな、遅くなってすまない」

 

奏夜は遅れたことを謝罪すると、穂乃果たちは奏夜の名前を口々に呼んでいた。

 

「奏夜!遅いじゃない!いったい何があったの?」

 

「そうよ!大切なライブ当日に遅刻とか、あり得ないんだけど」

 

絵里は奏夜を問い詰めており、にこは不機嫌そうに奏夜に厳しい言葉を送っていた。

 

「みんな、ごめんな。心配かけて……」

 

奏夜は何故遅くなったのかは語らず、謝ることだけに徹していた。

 

「……まぁ、今は何があったのかは聞かないわ。だけど、後でちゃんと話すこと。いいわね?」

 

「あぁ、そうしてもらえると助かるよ」

 

このような絵里の提案を、奏夜はありがたく受け入れていた。

 

「……みんなもいいわね?とにかく今は、目の前のライブに集中しましょう」

 

絵里としても、奏夜に何があったのか気になっていたのだが、それを堪えてこのようなことを言っていたのである。

 

そんな絵里の気持ちを汲んだ穂乃果たちは誰も反対意見を出す者はいなかった。

 

「とりあえず、そーや君も来たことだし、本番は頑張るにゃあ!!」

 

ライブ開始時間も近付いてきたからか、凛はアイドル研究部の部室を後にして、屋上へと向かっていった。

 

「あっ、凛ちゃん!ちょっと待って!」

 

「ちょっと!1人で先に行くんじゃないわよ!」

 

花陽と真姫は、先に屋上へ向かった凛を追いかける形で屋上へと向かっていった。

 

「……私たちも行きましょうか?」

 

「そうやね。ライブの時間も近いし」

 

「そうね。このライブはラブライブに出場出来るかどうかがかかっているわ!気合を入れないと」

 

絵里と希も屋上へと向かい、にこもまた、やる気に満ちた感じで、屋上へと向かっていった。

 

アイドル研究部の部室には奏夜を含めた2年生組と、剣斗が残されていた。

 

「……あ、あのね、そーくん……」

 

「?どうした、穂乃果?」

 

「あの……。私……私は……」

 

穂乃果は奏夜に対して何かを言おうとしていた。

 

バツが悪そうな感じだったため、恐らくは昨日のことを謝るのだと思われた。

 

「穂乃果。話は後だ。まずはライブを成功させないとな」

 

「うっ、うん……」

 

奏夜はライブ開始時間が近付いているからか、穂乃果の話を後にすることにして、奏夜もまた、屋上へと向かっていった。

 

そして、それを追いかけるように穂乃果以外のメンバーも屋上へと向かったのだった。

 

この時も、奏夜は体を襲う激痛に耐えており、そのせいで、穂乃果の体調の変化に気付くことが出来なかったのである。

 

穂乃果は体調が悪いからか少しばかりフラフラしており、その顔は熱っぽいからか少しだけ赤くなっていた。

 

穂乃果は少しだけ怠そうにしてから、そんな気持ちを振り切るために首をブンブンと横に振っており、穂乃果も屋上へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

こうして奏夜たちは屋上前に到着したのだが、外は未だに土砂降りであった。

 

「あぅぅ……。雨、止まないよぉ……」

 

「本番までに弱くなればいいけど……」

 

現在も雨が振っているため、凛と花陽は心配そうに入り口から見える景色を眺めていた。

 

そんな中……。

 

(……くっ……)

 

奏夜の体の痛みがより強くなっており、奏夜は一瞬だけ表情が歪んでいた。

 

《おい、奏夜。お前、まさか……》

 

(……あぁ。どうやらちょっとではあるけど、傷が開いてきたみたいだ)

 

《やはりか……。アキトは治癒の法術は苦手だと言っていた。ある程度時間が経てば塞がった傷が広がるのも仕方ないだろう》

 

実はキルバの推測通りになっており、治癒の法術が苦手なアキトはどうにか奏夜の傷を塞いだのだが、それは一時的なものに過ぎなかった。

 

アキトの法術の効果は徐々に切れ始めており、ジンガに刺された時の出血が起こるのも時間の問題だった。

 

(だけど、アキトさんには感謝してるよ。アキトさんが応急処置をしてくれたからこそ、俺はどうにか生きながらえたんだから)

 

奏夜の言う通り、もしアキトが治癒の法術を一切使えず、応急処置が遅れていれば、奏夜は出血多量で命を落としていた可能性があった。

 

《奏夜。今からでも遅くはない。適当に理由をつけて学園祭を抜け出したらどうだ?》

 

キルバは奏夜の身を案じてこのような提案をしていた。

 

しかし……。

 

(そんなの却下に決まってんだろ。マネージャーの俺がライブを抜け出すなんて言語道断だ)

 

奏夜はそんなキルバの提案を断固拒否していた。

 

《馬鹿を言うな!下手をすれば命に関わるんだぞ。お前にもしものことがあれば、穂乃果たちはどうなる!》

 

(そんなことはわかってるさ。だけど、俺は……)

 

奏夜としても、キルバの言い分はわかっていた。

 

しかし、μ'sのマネージャーとして、素直にその言葉を受け入れることは出来なかったのである。

 

奏夜とキルバがテレパシーで会話をしていたその時であった。

 

「……そーや君、大丈夫?」

 

奏夜の様子があからさまにおかしかったため、凛は心配になって奏夜に声をかけていた。

 

「……大丈夫だ」

 

「でっ、でも!奏夜君、顔が真っ青だよ!?何かあったの?」

 

「何もないさ。心配はいらない」

 

花陽もまた、奏夜を心配していたのだが、平静を装って返していた。

 

「奏夜。明らかに何かを隠してるわね?話しなさい。何があったのか」

 

さらに、にこは奏夜が隠し事をしていると確信し、何かを聞き出そうとしていた。

 

しかし……。

 

「……俺の心配をしてる暇があるなら、目の前のライブに集中したらどうだ」

 

奏夜は険しい表情で厳しい言葉を送っており、その言葉を聞いた花陽は悲しげな表情をしていた。

 

「ちょっと!そんな言い方はないんじゃないの!?」

 

「そうよそうよ!私たちはね、あんたのことを心配して……」

 

そんな奏夜の言葉が気に入らないからか、真姫とにこが文句を言おうとしていたのだが……。

 

「……そこまでにしておきましょう」

 

絵里が間に入り、仲裁しようとしていた。

 

「え、絵里……」

 

「奏夜の言う通り、今は目の前のライブに集中するべきよ。……まぁ、言い方は気に入らないけれどね」

 

絵里は鋭い目付きで奏夜のことを睨んでおり、そんな絵里の言葉を聞いた真姫とにこはどうやら納得したようだった。

 

こうして、ライブ開始時間は近付いていき、奏夜と剣斗以外の全員は、雨が降る中、ステージへと向かっていった。

 

「……くっ……」

 

穂乃果たちが全員ステージへと向かったのを確認すると、奏夜を激痛が襲っているからか、その表情は歪んでいた。

 

「奏夜。お前、まさか……」

 

「……あぁ、そういうことだ。傷はちょっとずつだけど、開いてきてるみたいだ。出血がないのが幸いだけど……」

 

『俺は止めたんだがな。奏夜はかなりの頑固者だから、聞かなくてな』

 

剣斗は奏夜の表情が歪んだ時に全てを察しており、それを裏付けるかのように奏夜が説明をしていた。

 

「私としても、安静にして欲しいところではあるが……。それがマネージャーとしての責務だというなら私は何も言うまい」

 

「悪いな、剣斗」

 

「それに、統夜とアキトもライブに来るのだろう?何かあればすぐに対応は出来るはずだ」

 

『奏夜。今日のライブは何かが起こるかもしれない。だとしても興奮はするなよ。傷が一気に開くからな』

 

「……わかってるさ」

 

こうして、奏夜と剣斗も雨が降る中屋上へと向かっていた。

 

現在はライブ開始5分前なのだが、すでに多くのお客さんが来ており、μ'sのライブを心待ちにしていた。

 

そんな中、統夜とアキト。さらには、統夜の仲間である軽音部のメンバーもすでに屋上に来ていた。

 

「あっ、奏夜くんだ!」

 

その軽音部のメンバーである唯が奏夜の姿を見つけると、ブンブンと手を振っていた。

 

「アハハ……。どうも」

 

奏夜と剣斗はゆっくりと統夜たちのもとへ移動していた。

 

「奏夜……。大丈夫か?」

 

「えぇ、なんとか」

 

「話は統夜先輩から聞いたよ。まったく、奏夜君も無茶するんだね。そんなところは統夜先輩に似ちゃって……」

 

「アハハ……。そう言われたら何も言えないです」

 

梓の小言を聞き、奏夜は何も反論が出来なかったため、苦笑いをしていた。

 

それだけではなく、統夜も苦笑いをしていた。

 

「奏夜君、まだ傷は治りきってないんでしょ?何かあったら必ず言うんだよ」

 

「は、はい……」

 

「あずにゃん、お母さんみたいだね」

 

梓は自分の恋人である統夜の後輩である奏夜にもまるで統夜と同じようなことを言っていたため、唯はこのようなことを言っていた。

 

「ちょっと!唯先輩、変なことは言わないでくださいよ!」

 

唯の言葉が気に入らなかったようであり、梓は異議を唱えていた。

 

「えぇ?いいじゃん、別に!」

 

「アハハ……」

 

唯と梓のやり取りを見ていた奏夜は苦笑いをしていた。

 

「そういえば、あなたが剣斗さん?統夜君から話は聞いているわ」

 

どうやら統夜は事前に剣斗のことも話していたようであり、紬がその確認を行っていた。

 

「うむ。私が小津剣斗だ!君たちは統夜の友である軽音部のメンバーだろう?君たちのことも統夜から聞いているぞ」

 

剣斗もまた、軽音部のメンバーのことを統夜から事前に話を聞いていたのであった。

 

「見ているだけで君たちは深い絆で結ばれているのがわかる。イイ!とてもイイぞ!」

 

統夜たちはその場にいるだけで仲が良いということが伝わってきたからか、剣斗は軽音部のメンバーに対しても好意的であった。

 

「アハハ……。話に聞いてた通り、熱い人だな……」

 

「改めてよろしくな、剣斗!」

 

澪は剣斗の熱い性格に少々引き気味であったが、律はすんなりと受け入れていた。

 

「うむ!よろしく頼む」

 

こうして、剣斗は軽音部のメンバーとも顔を合わせることが出来たのであった。

 

奏夜たちがこのような話をしていると、気が付けばライブの開始時間となった。

 

(頼む……。何事もなく、無事に終わってくれ……)

 

奏夜は胸騒ぎがしていたため、ライブの成功を強く願っていた。

 

そんな奏夜の願いを乗せて、穂乃果たちのパフォーマンスは始まったのである。

 

 

 

 

〜使用曲→No brand girls〜

 

 

 

 

1曲目として行われたのは、学園祭に向けて用意した新曲である「No brand girls」という曲であった。

 

ロック調な感じの曲であり、とてもノリの良い曲であるため、聞いているお客さんはとても楽しげであった。

 

(……うん。いいぞいいぞ。お客さんも盛り上がってる。1曲目に新曲を持ってきたのは正解だったみたいだな)

 

奏夜は穂乃果たちのパフォーマンスが順調に行われていることに安堵をしていた。

 

ライブをやると聞いた時に、新曲をやることは決めていたが、新曲を1曲目にした方が、ラブライブに向けて好印象になる。

 

そう考えていたからこそ、この「No brand girls」を1曲目にしたのであった。

 

その狙いは見事に的中し、お客さんはノリの良い曲に、終始盛り上がっていた。

 

こうして、1曲目は無事に終わったのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ドサッ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

奏夜は盛り上がっている会場には合わない物音に戸惑いを見せていた。

 

その物音の方角を見ると、穂乃果が倒れていたからであった。

 

その後、他のお客さんもステージの異変に気付いてざわつき始めていた。

 

「ほ……穂乃果……?」

 

奏夜は今自分の瞳に映る光景が信じられないものであるからか、目を瞠っていた。

 

「穂乃果ちゃん!」

 

「ど、どうしちゃったの?」

 

突然の出来事に、梓は声をあげ、唯は困惑していた。

 

そして……。

 

「穂乃果!!」

 

奏夜は倒れた穂乃果を気遣い、その場へ駆け寄ろうとするのだが……。

 

《奏夜!あまり興奮するな!傷に障る!》

 

キルバが奏夜の体を気遣うのだが、その時には既には手遅れであった。

 

「ぐっ……。くっ!」

 

奏夜に今までにない程の激痛が襲っており、その場で膝をついてしまった。

 

「「奏夜!」」

 

そして、統夜とアキトは奏夜の異変に声をあげていた。

 

奏夜の異変により、唯たちは穂乃果を見ればいいか奏夜を見ればいいかわからず、困惑していた。

 

「統夜!アキト!私は穂乃果を見る。奏夜は任せたぞ!」

 

「わかった!」

 

「穂乃果ちゃんのことは任せたぜ!」

 

「うむ!」

 

剣斗は奏夜を統夜とアキトに任せ、自分は穂乃果に駆け寄っていた。

 

それと同時に……。

 

「お姉ちゃん!!」

 

ライブを見にきていた雪穂が、手にしていた傘を投げ捨てて、姉である穂乃果に駆け寄っていた。

 

穂乃果に駆け寄った剣斗は、すぐに穂乃果の額に手を当てるのだが……。

 

「……!?ひどい熱ではないか!この状態でライブは到底容認出来んぞ」

 

どうやら穂乃果は風邪により熱が出てしまったようであった。

 

剣斗は音ノ木坂学院の教師として、この状態を良しとはしていなかった。

 

そして、会場が突然の出来事にざわつく中……。

 

「……私は音ノ木坂学院の教師です!今、パフォーマンスを行っていた生徒にアクシデントがありました!」

 

剣斗は会場のお客さんに自分が教師であることを告げ、現状の説明を簡潔に行っていた。

 

「私は教師という立場から、これ以上のライブの続行は許可出来ません。μ'sを応援して下さった皆様には申し訳ありませんが、本日のライブは中止とさせていただきます!」

 

剣斗のライブ中止の宣告を聞き、お客さんたちは残念がったり、μ'sのことを否定することを言ったりと、様々なリアクションをしていた。

 

それだけではなく、その宣告を聞き、穂乃果以外の8人は驚きを隠せなかった。

 

そして……。

 

「ちょっと!何勝手にライブを中止にするのよ!」

 

にこは剣斗の宣告が気に入らなかったようであり、剣斗に詰め寄っていた。

 

「仕方ないだろう。私としても非常に遺憾だが、これ以上、生徒に無茶をさせる訳にはいかない」

 

「ねぇ、穂乃果。続けられるわよねぇ?最後まで諦めないわよねぇ!?」

 

にこは納得出来ないからか、未だに倒れている穂乃果にこう語りかけるのだが……。

 

「……にこっち。穂乃果ちゃんはもう、無理や……」

 

希は悲痛な表情で、このようににこのことを宥めていた。

 

このような形でライブを終わらせるなど、誰もが望んでいることではない。

 

しかし、穂乃果がこの状態では、ライブを行うなど到底出来る状態ではなかった。

 

「……せっかく……。ここまで来たのに……」

 

穂乃果は涙を流しながら、うわ言のように呟いていた。

 

こうして、穂乃果が倒れてしまったことにより、μ'sのライブは中途半端な形で中止となってしまった。

 

それと同じ頃、激痛に苦しんでいた奏夜は……。

 

「……うっ……くっ……」

 

奏夜は痛む部分を手で押さえていたのだが、すぐに違和感に気付き、患部を押さえた手を見てみた。

 

すると……。

 

「……!?嘘……だろ?」

 

どうやら本当に傷が開いてしまったようであり、奏夜の手は自分の血で真っ赤になっていたのである。

 

「奏夜!」

 

「くそっ!やっぱり俺の法術じゃ完璧に傷は塞げないか」

 

よく見たら奏夜の患部から再び出血していたため、アキトは自分の治癒の法術の弱さに舌打ちをしていた。

 

「このままだと騒ぎになるからな……。ムギ!」

 

「えぇ、わかったわ!」

 

紬は携帯を取り出すと、誰かに電話をかけ始めた。

 

「……あ、もしもし斎藤?今、音ノ木坂学園にいるのだけれど、大至急車を出して欲しいの。リムジンだと騒ぎになるから、出来れば普通の車で。……えぇ、お願いね」

 

紬が電話をかけていたのは、大学の寮から東京まで送り届けてくれた琴吹家の執事の斎藤であり、彼に車の手配をお願いしていた。

 

「とりあえず車の手配は大丈夫よ」

 

「悪いな、ムギ。さて、これからどうしたものか……」

 

剣斗がライブの中止を宣言したため、屋上からは徐々に人はいなくなっており、人は少なくなっていた。

 

しかし、これだけの傷を負った奏夜を連れ出すところを誰かに見られてしまっては、騒ぎになってしまうだろう。

 

統夜はこうなることを見越して用意していた大きめのガーゼを奏夜の患部に当てていた。

 

こんなものでは奏夜の出血は止まらないのだが、気休め程度にはなった。

 

「……とりあえず、奏夜を外に運ぶぞ」

 

「統夜先輩、大丈夫なんですか?誰かに見られたらまずいんじゃ……」

 

「問題はない。学園祭の一般公開ももう終わるだろう?人も少なくなるから大丈夫だ。万が一誰かに見つかったとしても、何とかするさ」

 

統夜の言う通り、μ'sのライブが終わる頃には一般公開が終わる感じになっているため、一般客の姿が少なくなるため、人通りの少ない場所を通れば、どうにか誰にも見つからずに進むこともなんとかなりそうだった。

 

万が一誰かに見つかっても、奏夜の出血は見せないため、どうにか誤魔化すつもりであった。

 

そうこうしているうちに屋上にいるのはμ'sの関係者だけになり、穂乃果は海未とことりに抱えられ、保健室へと向かっていった。

 

他のメンバーもそれについていったのだが、絵里と真姫だけが残っており、こちらに駆け寄ってきた。

 

「……!奏夜!!」

 

「ちょっと!これはいったいどういうことなのよ!?」

 

絵里は奏夜の状態に驚愕しており、真姫らこの事態の説明を求めていた。

 

「……今は説明をしてる暇はない。一刻を争うのでな」

 

「悪いな。事が落ち着いたらみんなにも説明するからよ」

 

奏夜の状態が危険であるため統夜は険しい表情をしていたが、アキトは絵里と真姫を安心させるために人懐こい笑みを浮かべていた。

 

そんなアキトの笑顔を見て、2人は多少は安心したみたいだった。

 

「奏夜君は西木野総合病院に搬送するわ。私たちも付き添うから、2人は穂乃果ちゃんについてあげて」

 

紬は執事である斎藤に車の手配を頼んでおり、真姫の父親が院長をしている西木野総合病院に奏夜を搬送する予定だった。

 

紬はライブ中に倒れた穂乃果のことを気遣い、このような発言をしていたのだが……。

 

「……私も行くわ。パパには私から直接話をした方がスムーズに事が進むだろうし。絵里は穂乃果をお願い」

 

真姫は紬たちについて行くことを提案しており、穂乃果のことは絵里に任せることにした。

 

「えぇ、わかったわ。今、小津先生がライブ中止の対応に当たっているから、私も手伝わないと。理事長にも事情を説明しなきゃいけないだろうし」

 

絵里としてもついて行きたい思いはあったのだが、学校に残ってやらなければいけないことがたくさんあるため、奏夜のことは真姫や統夜たちに任せることにした。

 

絵里は統夜たちに一礼をすると、そのまま屋上を後にして、ライブ中止についての対応に追われている剣斗の手伝いに向かっていった。

 

「すいません……。俺のために、ここまで……」

 

「奏夜、喋るな。傷に障る」

 

「俺たちにとってお前は大事な後輩なんだ。これくらいは当たり前だぜ」

 

統夜とアキトにとって、奏夜は大切な後輩であり、そんなアキトの言葉に統夜だけではなく、唯たちも頷いていた。

 

「奏夜。あなたに何があったのかはわからないけど、私たちにとっては大切な存在よ。だってあなたは、μ'sのマネージャーだもの」

 

「真姫……」

 

自分が大切な存在である。

 

この真姫の言葉が、奏夜にとっては何よりの救いであった。

 

「さぁ、とりあえず病院に向かうわよ。あんたには聞きたいことが山ほどあるんだからね」

 

奏夜にこのような話をした真姫は、携帯を取り出すと、真姫の父親に電話をかけた。

 

真姫の父親に現在の奏夜の状態を話しており、すぐに治療が出来るよう手配して欲しいと話をしていた。

 

事情を聞いた真姫の父親は驚いてはいたものの、先ほどの話には了承しており、医師や看護師をスタンバイさせておくと話し、真姫は電話を切った。

 

病院の受け入れ準備を整えたところで、統夜とアキトは奏夜を抱え、屋上を後にした。

 

人通りが少ないとはいえ、誰かに見つかるリスクは少なからずあったため、アキトは魔導筆を取り出すと、一時的に気配と姿を消すというステルス機能を持った法術を放ち、玄関へと向かっていった。

 

そんな法術があることに唯たちは驚きながらも、玄関へと先回りをしており、統夜たちが玄関に到着した時にはすぐ奏夜を車へ運ぶよう手筈を整えていた。

 

統夜とアキトは奏夜を抱えて移動しているため、玄関に到着するまでに時間がかかってしまったが、統夜たちが到着した頃には斎藤はすでに到着しており、学校の入り口には一台のワンボックスカーが止まっていた。

 

この時には学校の入り口に人はおらず、アキトの法術も効果が切れてしまったため、統夜とアキトは速やかに奏夜をワンボックスカーの中に乗せた。

 

その後、統夜、紬、真姫の3人がワンボックスカーに乗り込み、残りのメンバーは後から西木野総合病院で合流することになった。

 

こうして、琴吹家の執事である斎藤が運転するワンボックスカーは西木野総合病院へと向かって発車したのであった。

 

穂乃果がライブ中に倒れ、奏夜もまた、ジンガによって受けた傷が元になり、再び重傷を負ってしまったりと、学園祭ライブは波乱の展開を迎えてしまった。

 

このライブの失敗こそ、これから起こる大きな波乱の幕開けであることを奏夜たちは知る由もなかった……。

 

μ'sの崩壊という、最悪の波乱は、すぐそこまで迫っているのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

……激動の学園祭編・終

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『学園祭のライブは散々な結果だったな。まぁ、あの結果であればああなるのも仕方ないとしか言えないな。時間、「代償」。失敗の代償というのは大きいものになっちまうな』

 

 




ジンガに敗れるだけではなく、奏夜は魔竜の牙を奪われてしまいました。

通常の法術だけではなくて治癒の法術を使えるとは、さすがはアキトだな。いくら苦手だと言っても。

名前だけですが、邪美と烈花が登場しました。果たして、これから本編に登場することはあるのだろうか?

そして、学園祭ライブは原作通りの展開となってしまいましたが、穂乃果が倒れ、奏夜の傷が再び開いてしまい、波乱の幕切れとなってしまいました。

これで「激動の学園祭編」は終了となり、次回からは新章に突入します。

新章はラブライブ!一期までの話と考えております。

これからμ'sはいったいどうなってしまうのか?

そして、これから奏夜を待ち受けるものは?

それでは、次回をお楽しみに!



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崩壊と再生の絆編
第47話 「代償」


お待たせしました!第47話になります!

またまた投稿が遅くなってしまいましたが、今日は穂乃果の誕生日であるため、今日はどうしても投稿したいと思い頑張りました。

穂乃果!誕生日おめでとう!!

今日は僕を始めとして、穂乃果推しの皆様にとって特別な1日になると思います。

さて、そんな記念すべき日に新章に突入します。

タイトルは、「崩壊と再生の絆編」となっております。

この話はラブライブの12話から一期の終わりまでの予定となっております。

学園祭ライブが中止となり、これからいったいどうなってしまうのか?

それでは、第47話をどうぞ!




奏夜たちはラブライブ出場を勝ち取るために学園祭ライブを成功させようと頑張っていた。

 

そんな中、穂乃果は学園祭ライブに向けてやる気が空回りしてしまい、練習時間以外にも練習するようになる。

 

その結果、穂乃果は体調を崩してしまい、本番中に倒れてしまった。

 

その後、穂乃果はすぐに保健室へと運ばれたのだが、倒れた原因はやはりオーバーワークであった。

 

ライブが中止となったことにより、剣斗はその対応に追われ、理事長にも報告するのだが、理事長から厳しい言葉を受けることになる。

 

その結果、とあることを言い渡されてしまったのだ。

 

それは、すぐにμ'sのメンバーも知ることになる。

 

一方奏夜は、学園祭前日にオーバーワークをしている穂乃果を止めようとしたのだが、思いがけない言葉を浴びて心に深い傷がついてしまう。

 

そんな中、ジンガと遭遇してしまったのだが、そんな状態ではジンガに勝てるわけはなかった。

 

奏夜はジンガの剣によって刺されてしまい、魔竜の牙も奪われてしまう。

 

偶然その場にいた統夜やアキトのおかげで奏夜は一命を取り留めたのであった。

 

アキトが苦手な法術を使ってまで奏夜を救ったのだが、奏夜は激痛に耐えながら学校へ向かい、学園祭ライブを見届けていた。

 

その途中に穂乃果が倒れてしまい、奏夜の傷がそれとほぼ同時に再び開いてしまう。

 

出血もあり、危険な状態であったのだが、統夜やアキト。さらに唯たちの協力によって奏夜は西木野総合病院に運ばれていった。

 

それに真姫も同行しており、病院に向かう前に真姫は奏夜の症状を事前に真姫の父親に話していた。

 

西木野総合病院に到着するなり、奏夜は入り口で待機していた医師や看護師たちによってストレッチャーに移動され、そのまま処置室へ運ばれていった。

 

処置室に運ばれ、医師や看護師は奏夜の傷を見て驚いていた。

 

思っていたよりも傷が深かったからである。

 

しかし、アキトの施した法術が多少は聞いているのか、今開いている傷はジンガにつけられた時の半分になっており、ナイフで刺されたような傷になっていた。

 

しかし、深い傷であることは間違いないため、傷の縫合が行われていた。

 

他のメンバーが真姫から奏夜のことを聞かされ、病院へと駆け付けたのは、ライブが中止になって2時間後のことであった。

 

「そーや君!」

 

凛は処置室の前に到着するなり、大きな声を出していた。

 

そのため……。

 

「り、凛ちゃん!しー、だよ?」

 

ここは病院であるため、大声を出している凛を花陽がなだめていた。

 

「ご、ごめんなさいにゃあ……」

 

「それで、奏夜の容態は?」

 

凛は大きな声を出したことを素直に謝っており、絵里が奏夜の容態を確認しようとしていた。

 

「まだ処置は続いているんだが、とりあえず命に別状はないとのことだ」

現在も奏夜の治療は続いていたが、命の危機は去ったみたいだった。

 

とりあえず奏夜が無事だということがわかり、絵里たちは安堵していた。

 

「それで、いったい奏夜に何があったっていうのよ?」

 

奏夜の無事がわかったところで、にこはずっと気になっていた話を切り出してきた。

 

「……そうだな。みんなには話しておくべきだろう。奏夜の身に何が起こったのか」

 

「とりあえず、場所を変えようぜ。ここだと誰かに聞かれる可能性があるからな」

 

今統夜たちがいるのは処置室の前であり、そこで一部始終を話してしまっては他の人に聞かれる可能性があるため、場所を変えて話をしようとしていた。

 

「だったら会議室で話をしましょう」

 

「それじゃあ、私たちはここで奏夜君の治療が終わるのを待っているね」

 

紬は奏夜の治療が終わるまでここで待機することを提案しており、それに他の軽音部メンバーが同意して頷いていた。

 

「悪いな、みんな。お願い出来るか?」

 

「うん♪任せて♪」

 

「奏夜君のことは私に任せて、統夜先輩はみんなにしっかり話をしてきて下さい」

 

「あぁ、もちろんだ」

 

こうして、軽音部メンバーはここに残ることになり、他のメンバーは会議室に向かうことになった。

 

「それじゃあ、みんな。こっちよ」

 

この病院の院長の娘である真姫はこの病院の構造をよく理解しており、真姫が先導する形で会議室へと向かっていった。

 

会議室へ到着すると、統夜はμ'sのメンバーに、学園祭前日の出来事を語り始めた。

 

奏夜が夜に練習をしていた穂乃果を止めようとしていたこと。

 

その時に言われた穂乃果の言葉に奏夜が深く傷ついてしまったこと。

 

さらに、ジンガが現れてしまい、敗北。体を剣で突き刺された挙句魔竜の牙を奪われてしまったこと。

 

統夜が全ての話を終えると、絵里たちは険しい表情をしていた。

 

「……そんなことがあっただなんて……」

 

「悪いな、絵里。初めて尊士と出くわした時に俺が無理にでもネックレスを預かっていたら、このようなことにはならなかっただろうに」

 

奏夜が重傷を負ったのも、魔竜の牙を奪われたのも、自分に非があると感じていた統夜は、絵里に謝罪をしていた。

 

「謝らないでください。奏夜は私たちを守りたいという一心であのネックレスを預かってくれたんですから」

 

絵里は、ネックレスを奪われたことについては気にしていないみたいだった。

 

「……それにしても、穂乃果は奏夜に何てこと言ってんのよ」

 

「そうだよ。住む世界が違うだなんて……」

 

さらに、穂乃果が奏夜に対して言った言葉を思い出すと、にこと花陽は苛立ちを募らせていた。

 

「……みんな、あまり穂乃果を責めないで下さい」

 

「海未の言う通りよ。穂乃果の性格はみんなよくわかっているでしょう?」

 

海未と穂乃果の発言に怒るにこや花陽をなだめる発言をしており、2人の説明に納得したからか、にこと花陽はこれ以上何も言えなかった。

 

「その言葉に1番傷ついてるのは、奏夜だ。でも、あいつなら大丈夫だ。きっとこの問題を乗り越えて這い上がってくるさ」

 

アキトは、奏夜であれば自分の心の弱さを克服することが出来ると信じていた。

 

「……そうですね。私もそう信じています」

 

穏やかな表情で語る海未の言葉に、他のメンバーも無言で頷いていた。

 

「それよりも、奏夜ってば、剣で刺されたんでしょ?そんな傷を負ってたらライブどころじゃないっていうのに、無茶するんだから……」

 

このように呟くにこの表情からは怒りと心配という感情が読み取れたため、それだけ奏夜のことを心配しているということが理解出来た。

 

奏夜をここまで心配しているのはにこだけではないのだが……。

 

「……奏夜君はそのことを必死に隠してたんだね」

 

「うん。ライブ前に余計な心配をかけさせたくなかったんでしょうね。来なかったとしても私たちは心配するし、来たとして怪我のことがバレたら、私たちもライブどころじゃないでしょうしね」

 

「だからそーや君は凛たちにあんなきついことを言ったんだね」

 

1年生組の3人は、奏夜の怪我の話を聞き、奏夜の心境を推測していた。

 

そんな中……。

 

「……」

 

希は考え事をしているのか、浮かない表情をしていた。

 

「……希?どうしたの?」

 

「……い、いや!なんでもないんよ。なんでも……」

 

希は絵里に声をかけられてハッとして、どうにか話を誤魔化そうとした。

 

しかし……。

 

「なんでもないことないじゃない!あなた、学園祭の時も何か考え事をしていたわよね?」

 

希は学園祭の時もこのように考え事をしており、そのことを絵里は見抜いていた。

 

「ねぇ、いったいどうしたのか教えてくれない?この状況で隠し事はなしにして欲しいの」

 

「「……」」

 

絵里の言葉に希だけではなく、何故かことりも浮かない表情をしていた。

 

「ことり……」

 

何故ことりがそんな表情をしているのかを察した海未は、悲しげな表情を浮かべながらも何も言わなかった。

 

そうしているうちに、希は語り始めた。

 

「……ウチな、学園祭の前日、いつものように占いをしてたんよ。そしたら、死神のカードを引いてしもうてな」

 

「死神……。ずいぶんと縁起が悪いわね」

 

希が死神のカードを引いたと知り、真姫は死神というあまりの縁起の悪いカードの存在に浮かない表情をしていた。

 

「死神のカードは、何かの崩壊とかを意味するんやけど、今思えば、カードはこの結果をわかってたのかもしれなかったんよ」

 

死神のカードの意味を説明した希は、再び浮かない表情をしていた。

 

「希……」

 

「それに、あのカードを引いて、学園祭当日に奏夜君がなかなか現れなかった時、奏夜君に何かあったのかって心配になってたんよ。まさか、あんなことになってたなんて……」

 

希は自分の引いたカードがライブの失敗だけではなく、奏夜の身に起こったことまで予見していたことに驚いていた。

 

「希……」

 

何故希が浮かない表情をしていたことがわかり、絵里は心配そうに希のことを見ていた。

 

その直後、コンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。

 

突然のノックに、全員が驚きながらも「はい!」と統夜が返事をすると、1人の男性が入ってきた。

 

「うむ……。みんな、ここにいたのだな」

 

「!小津先生……」

 

会議室に入ってきたのは、ライブ中止に関しての対応に追われていた剣斗であり、剣斗がやって来たことに絵里は驚いていた。

 

「唯たちにみんなはここだと聞いてな。それよりも、遅くなってすまないな。ようやく事態が落ち着いてきたところだ」

 

「すいません、小津先生……。嫌な仕事を全て引き受けてくださって……」

 

「気にするな。私は一応教師なのでな。当然のことをしたまでだ」

 

剣斗は絵里がしなければならない仕事も全て引き受けてくれており、絵里はそのことに感謝をしていた。

 

「私がここへ来たのは、奏夜の容態を聞きたいのもあるが、理事長の意向を伝えに来たのだよ」

 

「理事長の意向……ですか?」

 

「うむ……」

 

剣斗はこのように前置きをすると、申し訳なさそうに話を続けていた。

 

「……音ノ木坂学院のスクールアイドル、μ'sのラブライブへの出場は認められないというものだ」

 

『!!?』

 

剣斗から告げられた衝撃の告白に、その場にいた全員が驚愕していた。

 

「ら、ラブライブに出られないなんて……。何でなのよ!?」

 

ラブライブの舞台を夢見ていたにこにとって、この言葉は到底受け入れられるものではなかった。

 

「理由は……。言わずともわかるだろう?」

 

「そ、それは……」

 

何故ラブライブに出れないのか?

 

剣斗の言う通り、その理由はにこもわかってた。

 

そのため言葉を詰まらせるのだが、やはり納得は出来なかった。

 

「理事長が穂乃果の話を聞いて、そのことに対して厳しい言葉をぶつけられたよ。穂乃果のオーバーワークを教師として止められなかったのかってな」

 

「そんな!?小津先生は私たちを支えてくれて、何にも悪くはないのに」

 

剣斗はこの音ノ木坂学院に来てから、μ'sのことをずっと支えてくれていたため、剣斗が理事長から厳しい言葉をぶつけられるのは納得いかなかった。

 

「いいのだ、花陽。今回のライブ中止は誰のせいでもないし、穂乃果の異変に気づけなかった全員の責任とも言える。だからこそ、私も責められて然るべきなのだよ」

 

「えぇ。小津先生の言う通りよ。今回のライブについては誰が悪いと訳じゃなくて、私たち全員の責任よ。だからこそ、気持ちを切り替えましょう」

 

絵里は剣斗の言葉に全面的に同意しており、他のメンバーをまとめる発言をしていた。

 

他のメンバーもその通りだと感じていたからか、ウンと頷くのだが……。

 

「……だけど……」

 

「奏夜君は気にするやろうね」

 

「そうね。奏夜は真面目だし、今回のことは全部自分のせいだって全部1人で抱え込もうとするのが容易に予想出来るわ」

 

「……ふーん……」

 

真姫は奏夜の心情を察する発言をしており、それを聞いた凛は、素直に感心しながら真姫のことを見ていた。

 

「?何よ、凛。私のことをジッと見て」

 

「いやぁ、真姫ちゃんって、そーや君のことをよく見てるんだなぁって感心してただけにゃ!」

 

「!?う、うるさいわね!////奏夜は仲間なんだから当然でしょ?」

 

凛に痛いところを突かれたからか、真姫は頬を赤らめながらムキになっていた。

 

「あれぇ?真姫ちゃん、照れてるのかにゃ?」

 

「照れてない!」

 

「真姫ちゃん、可愛いにゃあ♪」

 

そんな真姫を凛がからかっており、真姫はムキになって反論をしていた。

 

『やれやれ……。相変わらずあのお嬢ちゃんはツンデレだぜ……』

 

イルバは真姫のことをツンデレであるとすぐに見抜いており、会うたびにツンデレな態度に呆れていた。

 

「……は、話を続けても良いだろうか?」

 

「「す、すいません……」」

 

凛が真姫をからかったため、話がそこで止まってしまい、剣斗は申し訳なさそうに話を続けようとしていた。

 

そのため、話を中断していた凛と真姫は素直に謝っていた。

 

「……奏夜については、私に任せてくれないか?奏夜ならすぐに立ち直るだろうが、我が友の支えとなりたいのだ」

 

「……小津先生……」

 

剣斗は奏夜の力になることを願っており、そんな剣斗の姿勢に、海未は心を打たれていた。

 

「でも、先生は何でそこまで奏夜のことを買っているんですか?」

 

「そうね。いつも奏夜のことを我が友って呼んでるけど、私はそのことに違和感を感じてたのよね」

 

「確かに……。そこは私も疑問だったのよねぇ」

 

絵里、真姫、にこの3人は、何故剣斗が奏夜のことを友と呼ぶのかずっと気になっていた。

 

「知りたいか?私が何故奏夜のことを友と思っているのかを」

 

この剣斗の問いかけに、絵里たちだけではなく、統夜とアキトも頷いていた。

 

奏夜と同じく剣斗とは修練場で知り合った統夜でさえも、何故剣斗が奏夜のことを友と呼び慕っているのかは疑問であった。

 

「……ふふ、それはな……」

 

剣斗がそのことについて語り始めようとしたその時、コンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。

 

「はい!」

 

統夜がノックに反応すると、会議室の扉が開かれ、梓が中に入ってきた。

 

「統夜先輩、奏夜君の治療が終わりましたよ!」

 

梓は奏夜の治療が終わったことを報告しに来たみたいだった。

 

「そうか!それで、奏夜は?」

 

奏夜の治療が終わったことがわかり、統夜だけではなく、その場にいた全員の表情が明るくなっていた。

 

「しばらく入院が必要だとは言っていたけど、命に別状ないってお医者さんは言ってました」

 

「よ、良かったぁ……」

 

奏夜の無事がわかり、ことりは安堵しており、他のメンバーも安堵していた。

 

「今、ムギ先輩たちが入院の手続きをしてくれています」

 

現在、紬たちは入院の手続きを行ってくれていた。

 

「わかった。後のことは私たちに任せて、みんなは帰るといい。今日は色々なことがあり過ぎて疲れただろう?」

 

剣斗は絵里たちの体調を気遣い、家に帰そうとしていた。

 

「……わかりました。小津先生や統夜さんたちのご厚意に甘えさせてもらいます」

 

絵里はそんな剣斗の提案を受け入れており、他のメンバーも誰も反対はしなかった。

 

奏夜の無事もわかったところで絵里たちは帰ることになり、西木野総合病院を後にしといた。

 

絵里たちに話を終えた統夜たちは紬たちと合流し、入院の手続きを終わらせた。

 

治療は終わったものの、奏夜は未だに意識がない状態であり、いつ眼を覚ますかはわからないとのことであった。

 

唯たちは明日からいつものように大学の講義があるため、手続きが終わるなり斎藤の運転する車で東京を離れることになった。

 

統夜、アキト、剣斗の3人も1度番犬所へ戻って学園祭で起こったことをロデルに報告することにしていた。

 

番犬所へ到着した3人は、すぐさまロデルに学園祭ライブが途中で中止になったことと、穂乃果が熱で倒れ、奏夜の傷が開いて西木野総合病院へ入院したことを報告したのであった。

 

μ'sのことを応援していたロデルは残念がっていたが、奏夜から話を聞いていた時からこうなることは予想していたのである。

 

エレメントの浄化やホラー討伐は翡翠の番犬所に所属しているリンドウや大輝に行ってもらい、統夜と剣斗には奏夜のフォローを頼んでいた。

 

そして現在、元老院が全力をあげてジンガの居所を調べており、居場所が判明次第、統夜と剣斗には魔竜の眼と牙の奪還を行ってもらう予定でいた。

 

番犬所への報告を済ませた統夜と剣斗は交代で奏夜の看病を行うことにした。

 

しかし、剣斗は学校があるため、奏夜の看病は統夜がメインで行うことになったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、奏夜が目を覚ましたのは、翌日の昼であった。

 

「……う、うん……?」

 

奏夜がゆっくりと目を覚まし、最初に飛び込んできたのは、見覚えのない天井であった。

 

「……よう、奏夜。やっと目を覚ましたみたいだな」

 

統夜は穏やかな表情をしながら、奏夜が目覚めたことに喜んでいた。

 

ちなみに、奏夜が今入院しているのは個室であり、これは院長の娘である真姫の声かけのおかげでもあった。

 

「統夜さん……。俺は一体……」

 

「奏夜、お前はジンガと戦って傷を負ったろ?学園祭の時にその時の傷が開いちまったんだよ」

 

統夜は冷静に奏夜の身に起こったことを説明していた。

 

「……!そうだ!ライブは!?……っててて……」

 

奏夜はガバッと起き上がるのだが、それと同時に、奏夜に激痛が襲ったのであった。

 

「奏夜、あまりに無理するなよ。お前は病み上がりなんだから」

 

「す、すいません……」

 

統夜は急に起き上がる奏夜をなだめており、奏夜は痛みが治まったのか、そのまま起き上がっていた。

 

「ライブだが、穂乃果が倒れたのはお前も見ただろう?当然ライブは中止になったけどな」

 

「そう……でしたか……」

 

奏夜はここでライブの中止を聞いて落胆していた。

 

奏夜は剣斗のライブの中止を聞いていたハズなのだが、この時、奏夜は激痛に苦しんでいたため、ちゃんと話を聞いていなかったのである。

 

「あと、ライブの時に倒れた穂乃果だが、やはり風邪みたいで、今でも寝込んでるみたいだぞ」

 

「……」

 

穂乃果が寝込んでいると知り、奏夜は険しい表情をしていた。

 

「……奏夜。これはお前だけの責任じゃない。穂乃果の異変に気付けなかった全員の責任なんだ。だから、1人で全部背負い込むなよ」

 

「……はい。わかっています……」

 

穂乃果の問題は自分1人で背負い込むものではない。

 

それは奏夜も頭では理解していたが、やはり心の中では自分を責めていたのであった。

 

「……奏夜。もう1つ、お前に話さなきゃいけないことがある」

 

「話……ですか?」

 

「あぁ、落ち着いて話を聞いてくれよ」

 

統夜はこのように前置きをしてから本題を切り出した。

 

「……ラブライブだけどな、μ'sは出場を辞退したんだ」

 

「……え?」

 

統夜の口から告げられた言葉を聞いた奏夜は驚いており、その内容が信じられなかった。

 

「……理由として1番大きいのはやはり穂乃果のオーバーワークだろうな」

 

『ま、倒れるほどの無茶をしたんだ。そう決めるのは妥当だろうな』

 

「……何でこんなことになったのか。だいたい察することは出来るだろ?」

「……はい」

 

奏夜はμ'sがラブライブの出場を辞退した理由について、思い当たる節がいくつもあった。

 

「剣斗も理事長に色々言われたそうだが、絵里も理事長に呼び出されて色々言われたそうだ。無理をし過ぎていたのではないか?こんな結果を招くためにアイドル活動をしていたのか?ってな」

 

「……」

 

理事長の言っていることは的を得ているため、奏夜は悔しさのあまり唇を噛んでいた。

 

「それに、ラブライブの出場を辞退したと言ったろ?もうランキングにはμ'sの名前は無くなっているんだよ」

 

「……!」

 

奏夜はベッドの近くに置いてあったスマホを慌てて取り出し、スクールアイドルのサイトを開いた。

 

そしてランキングを確認するのだが、統夜の言う通り、そこには「μ's」の名前はなかった。

 

「……そう……ですよね……」

 

ライブが中止になったと知ってから、奏夜もこの展開は予想しており、奏夜は悲痛な表情を浮かべていた。

 

「奏夜、あまり気を落とすなよ。お前らの目的はラブライブに出ることじゃなくて廃校阻止なんだろ?」

 

統夜は奏夜たちμ'sの本来の目的を言って、奏夜のことをなだめていた。

 

「はい……」

 

奏夜もまた、その目的はよくわかっていたが、やはり気持ちは晴れなかった。

 

「ま、しばらくは入院することになるんだ。魔戒騎士の仕事やジンガのことは俺たちに任せてゆっくりと体を休めろよ」

 

『奏夜。とりあえず今は傷を完治させるのが急務だ。色々考えなきゃいけないことはあるだろうが、それは後回しにするんだな』

 

奏夜の相棒であるキルバもまた、奏夜のことを気遣う発言をしていた。

 

「ま、そういうわけで、俺はもう行くな。あっ、そうそう。みんなも近々お見舞いに来るって言ってたぞ」

 

このように告げると、統夜は病室を後にした。

 

「……」

 

統夜がいなくなり、奏夜は再びベッドに横になるのだが、その表情は険しいものだった。

 

『……奏夜。さっきも言ったが、今は傷を治すことだけを考えろよ。俺たちの目的はラブライブじゃなくて廃校阻止なんだからな』

 

「わかってる……。わかってるけど……」

 

奏夜は頭ではキルバや統夜の言葉を理解はしていた。

 

しかし、色々と納得出来ないところがあるみたいだった。

 

『それに、お前が思い詰めていたらあいつらは余計に心配するだろうが』

 

「……!そうだな……」

 

奏夜は夏休みに色々と思い詰めていた結果、散々穂乃果たちを心配させてしまった。

 

今、その時と同じ状況になりそうだったため、それをキルバが止めており、その言葉に奏夜は納得していた。

 

『数日は退院出来ないだろうし、今のうちに体を休めておくんだな。復帰したら色々忙しくなるからな』

 

「……あぁ。色々とやらなきゃいけないことがあるからな」

 

ラブライブには出れなかったものの、これからのμ'sの活動をどうするのかという問題や、ことりの留学問題など、解決しなければいけない問題は多いため、ここからは奏夜の手腕が問われることになる。

 

奏夜は今でも自分のせいでこのような結果になってしまったと思ってしまったため、学園祭でのマイナスを取り戻そうと考えていた。

 

それを成すためには素直に療養する必要があると感じていた奏夜は、大人しく体を休めることにした。

 

学園祭ライブが中止になり、ラブライブへの出場辞退という大きな代償を支払うことになった奏夜たちだったが、奏夜は再スタートすることを考えていた。

 

しかし、ことりの留学問題が、μ's崩壊の引き金となってしまうことを、奏夜たちは知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『奏夜が無事に復活したのはいいのだが、まさかこのようなことが起きてしまうとはな。次回、「友達」。崩壊の序曲が、今始まる!』

 

 




新章はラブライブの12話からと言いましたが、今回は学園祭ライブの後日談となってしまいました。

前作の主要キャラであるけいおん!メンバーはすっかり奏夜たちの補助役になってしまいましたね。

そんな形でも登場させられるのはありがたいことなのですが。

剣斗もまた、任務で音ノ木坂学院に潜り込んでいるハズなのですが、すっかり教師が板についているみたいです。

修練場で教官をしていた剣斗にとって教師は天職なのかもしれませんね。

これから剣斗はさらに奏夜たちと深く関わっていきますが、何故剣斗は奏夜のことを友と呼ぶようになったのか?

これは徐々に明らかになっていきます。

さて、次回はいよいよラブライブ!第12話の話に突入します。

前章の終わりからシリアスな展開が続いてきましたが、次回もさらにシリアスになっていくと思います。

次回の投稿も遅くなるとは思いますが、なるべく早く投稿したいとは思っています。

なので、次回をお楽しみに!



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第48話 「友達」

お待たせしました!第48話になります。

まだ活動報告にはあげていませんが、この小説のUAが20000を越えました。

ここまで多くの人にこの小説を読んでもらい、とても感謝しています。

記念の番外編も投稿予定ですが、その詳細は活動報告に載せようと思っていますので、そちらをご覧下さい。

さて、今回はさらにシリアスな展開になっていきます。

これから奏夜たちを待ち受けるものとは?

それでは、第48話をどうぞ!






学園祭ライブが中止となり、μ'sがラブライブ出場を辞退してから数日が経過していた。

 

この時には穂乃果の熱は完全に下がっており、学校にも復帰していた。

 

しかし、奏夜は現在も西木野総合病院に入院していた。

 

もうジンガによる傷は完治したのだが、担当医が退院を許してくれないのである。

 

あれほどの重傷だったにも関わらず治癒が早かったため、医師たちは徹底的に奏夜の検査を行っていた。

 

しかし、魔戒騎士である奏夜の体のメカニズムを医師たちが解読出来るハズはなく、検査の結果、渋々2日後の退院を許したのであった。

 

「……っという訳で、明後日には退院出来そうなんだよ」

 

現在は16時過ぎであり、現在2年生組以外の6人が見舞いに来ていた。

 

そのため奏夜は、検査の話やもうすぐ退院出来ることを絵里たちに説明していた。

 

「そう……。良かったわ。だって、もっと入院が長引くと思ったんだもの」

 

「それにしても、あれだけの傷を負ったのにもうピンピンしてるなんて、魔戒騎士はどういう体の作りをしてるのよ」

 

絵里は奏夜の退院が近いことに安堵し、にこは傷の治りが早い奏夜の体に呆れていた。

 

「パパも驚いていたわ。如月君はいったいどういう体の作りをしてるのか。本当に人間なのか?って」

 

「やれやれ……。ひどい言われようだな」

 

医師である真姫の父親は、奏夜の体のメカニズムに興味を持ってこのことを言っていたのだが、奏夜は真姫の話を聞いて肩をすくめていた。

 

「だけど、そーや君が元気そうで、安心したにゃ!」

 

「そうだね!だって、奏夜君が重傷を負ったって聞いた時は凄く心配したもん」

 

「ウチもな、学園祭前日に占いをしたら死神のカードを引いちゃって奏夜君のことを心配してたけど、何もなくて安心したわ」

 

希はここで初めて奏夜に死神のカードの話をしていたのだが、奏夜が元気だとわかり、安心していた。

 

「死神のカードか……。確かにそれは縁起が悪いな。だけど、心配すんな。俺はこうしてピンピンしてるんだ。そんな不安はすぐに吹き飛ばしてやるさ」

 

奏夜は希が引いたとされる死神のカードに一瞬たじろぐのだが、希を不安を吹き飛ばすかのように力強い言葉を送っていた。

 

その言葉に希は満足そうにしていたのだが、希の引いた死神のカードが意味していたのは学園祭ライブの失敗でも奏夜の負傷でもなく、他の出来事の予見であった。

 

しかし、そのことを奏夜たちは知る由もなかった。

 

希の話が終わったところで、コンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。

 

「はい、どうぞ」

 

奏夜がこう返事をすると、病室の扉が開かれた。

 

そして入ってきたのは、穂乃果、海未、ことりの3人。

 

さらにμ's結成当初から奏夜たちの手伝いをしてくれたヒデコ、フミコ、ミカことヒフミトリオの3人であった。

 

6人が病室に入るなり、ヒフミトリオの3人が奏夜のいるベッドに迫っていた。

 

「ちょっと奏夜君!大丈夫なの!?」

 

ヒフミトリオの中で、ポニーテールが特徴であるフミコが奏夜の身を案じていた。

 

「心配したんだよ!奏夜君がひったくり犯に刺されたって聞いた時は!」

 

「え?」

 

ヒフミトリオの中で、短いツインテールが特徴のミカが、心配そうにこのような話をしており、奏夜は面食らっていた。

 

「小津先生から聞いたの。奏夜君って学園祭当日にひったくり犯を捕まえようとして刺されたんでしょ?それで学校へ行って、その後入院したって」

 

(……なるほど、その事件は知ってたけど、剣斗は他の生徒に怪しまれないためにその事件を利用してくれたんだな)

 

奏夜の推測通り、剣斗は奏夜の入院が大きな騒ぎになると判断したため、奏夜がひったくり犯を捕まえようとして刺されてしまったと他の教師や生徒たちに説明をしていた。

 

実際ひったくり犯に刺されたのは違う人物なのだが、どうやら奏夜と歳も背丈も近かったため、どうにか誤魔化すことが出来たのであった。

 

「……まぁ、そういう訳だ。ごめんな、心配かけて」

 

「でもまぁ、奏夜君が無事で安心したよ。クラスのみんなも奏夜君のこと心配してたしさ」

 

ヒフミトリオの1人で、明るい髪が特徴のヒデコは、奏夜が予想以上に元気だったことに安堵していた。

 

それに、奏夜の心配をしていたのはクラスの全員であるとわかり、奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

 

「……そっか。そしたら、クラスのみんなに俺はもうすぐ退院だから心配いらないって伝えてくれないか?」

 

「うん!任せといて!」

 

ミカは、このように元気な返事をしており、クラスメイトたちに奏夜が無事だということを伝える仕事を引き受けていた。

 

「……奏夜。これは今日の分のノートのコピーです」

 

海未は、カバンからB4くらいの紙を何枚か取り出すと、それを奏夜に手渡した。

 

「悪いな、海未。助かるよ」

 

「いえ。私に出来ることといえば、これくらいしかありませんから」

 

奏夜は穏やかな表情で海未に礼を言っており、海未もまた、穏やかな表情でこう返していた。

 

「そーくん、これ、下着とか着替えが入ってるよ。穂乃果ちゃんのお母さんが持っていけって言ってたから」

 

ことりは手に持っていた大きめの紙袋を奏夜に手渡していた。

 

この中には男性用の下着や、シャツなど、入院で必要な物が入っていた。

 

穂乃果の母親も、奏夜の入院は聞いていたため、着替えなどを用意してくれたのである。

 

「この前小津先生が穂乃果ちゃんのお母さんに謝りに行ってね、その時にそーくんの入院を話したの」

 

奏夜が入院している間に、剣斗はμ'sを代表して穂乃果の母親へ謝りに行っていた。

 

しかし、穂乃果の母親は穂乃果が無茶をしたことを悟っており、さほど気にしている様子はなかった。

 

その時に奏夜が入院していることを知ったようだった。

 

「そうだったか……。退院したらお礼を言いに行かないとな……」

 

穂乃果の母親が入院に必要な着替えを用意してくれたことに対して、奏夜はお礼をしなければと思っていた。

 

「……」

 

ここにいる全員が奏夜に話しかける中で、穂乃果だけは俯きながらなかなか口を開こうとはしなかった。

 

「……ほーのかっ、黙っちゃってどうしたのさ?」

 

「そうだよ!奏夜君のこと、心配だったんでしょ?」

 

なかなか口を開こうとしない穂乃果を気遣い、ヒデコとフミコが穂乃果に話しかけていた。

 

「……私……。私は……」

 

穂乃果はやはり俯いており、なかなか奏夜と話をすることが出来なかった。

 

そんな穂乃果を見かねた奏夜は……。

 

「……みんな、悪い。穂乃果と2人にしてくれないか?話をしたいと思ってさ」

 

「え!?そ、そーくん!?」

 

奏夜のいきなりの提案に、穂乃果は驚いていた。

 

「そうね。その方が腹を割って話せるだろうし、私たちはここら辺でお暇しましょうか」

 

絵里が奏夜の言葉に賛同すると、他のメンバーも頷いており、先にμ'sのメンバーが病室を後にしていた。

 

それを追いかけるように、ヒフミトリオの3人も病室を後にして、病室は奏夜と穂乃果の2人だけになった。

 

「さてと……。これなら話しやすいだろ?」

 

奏夜は穂乃果が何でも話せるよう、2人きりの状態を作ったのであった。

 

「……うん」

 

穂乃果は少しだけ気が楽になったと感じたのか、少しだけ表情が明るくなった。

 

「そーくん……。あのね……?」

 

穂乃果はやはりなかなか自分の言いたいことを口に出来なかったのだが、勇気を振り絞ってある言葉を口にするのであった。

 

「……ごめんなさい!」

 

それは、奏夜に対する謝罪の言葉であった。

 

「私があの時ちゃんとそーくんの言う通りにしていたら、学園祭ライブが中止になって、ラブライブを諦めることもなかったのに……」

 

穂乃果はどうやら、自らのオーバーワークがライブの失敗やラブライブの辞退に繋がっていると考えており、責任をかんじていた。

 

「それだけじゃなくて、そーくんにあんなひどいことを……。私たちは、そーくんがいなかったらここまでは来られなかったのに……」

 

さらに穂乃果は、奏夜に対して「住む世界が違う」と言ってしまったことも後悔していた。

 

あの時は咄嗟に出てしまったのだが、奏夜には感謝しているために、穂乃果は自分の失言を申し訳ないと思っていた。

 

「……穂乃果。あまり気にするなよ」

 

「そ、そーくん……?」

 

「確かにライブの失敗は無理をした穂乃果が悪いが、穂乃果だけじゃない。止められなかった俺も悪いし、穂乃果の異変を気付けなかったみんなも悪い。これは俺たち全員の責任なんだ。だから穂乃果1人が背負うことはないんだよ」

 

奏夜はこの頃にはライブの失敗は全員の責任と割り切ることが出来ていたため、このような発言が出来たのである。

 

「それだけじゃない。あの言葉が穂乃果の本心じゃないことは知ってたさ。だけど、それを鵜呑みにしたのは俺の心が弱かっただけだ。だからこそ俺はジンガにやられて魔竜の牙を……」

 

「……その話は小津先生や海未ちゃんから聞いたよ。私があんなことを言わなきゃ、そーくんは……」

 

「だから気にするなよ。この件は穂乃果が悪いんじゃない。未熟な俺が悪いんだ」

 

「……」

 

穂乃果は奏夜の言葉を聞いてなお自分が悪いと思っているのか、俯いていた。

 

「それに、奪われたものは取り戻せばいい。それだけの話だよ」

 

奏夜は穂乃果が責任を感じないように、このように穂乃果を気遣う発言をしていた。

 

「本当にごめんね……」

 

「だから気にするなって。穂乃果が落ち込むなんてらしくないぞ。お前は呆れるくらい単純で、まっすぐなんだから」

 

「むー!褒めてるの?それ!」

 

奏夜のフォローが気に入らなかったからか、穂乃果はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「当然だ。俺はお前の太陽のような明るさに何度も救われたんだから……」

 

「そ、そう?エヘヘ……。そう言ってもらえると嬉しいな……」

 

奏夜のストレートな褒め言葉に、穂乃果は頬を赤らめていたのだが、どうやら奏夜の言葉が嬉しいみたいだった。

 

《ったく……。単純な奴だな》

 

(キルバ。間違ってもそれは言うなよ。穂乃果が膨れて面倒なことになるからな)

 

キルバはすぐに膨れっ面が治った穂乃果に呆れていたのだが、奏夜がテレパシーでそれをなだめていた。

 

「……キー君。なんか失礼なこと考えなかった?」

 

穂乃果は何かを感じ取ったからか、ジト目でキルバのことを見ていた。

 

『そ、そんな訳はないぞ!それに穂乃果!最高に格好いい俺様を変なあだ名で呼ぶな!』

 

キルバは穂乃果やことりにキー君と呼ばれるのが気に入らないみたいであり、こう呼ばれる度に訂正を求めていた。

 

(アハハ……。相変わらずだな、キルバの奴。それに穂乃果の奴、まるでエスパーみたいに読んでたな……)

 

奏夜はキルバに呆れるだけではなく、穂乃果が先ほどのテレパシーを読んでいたかのようなタイミングでキルバを追求していたことに苦笑いをしていた。

 

「……ま、とりあえずみんなも待ってるんだ。学園祭のことは仕方ないことだから、気持ちを切り替えようぜ」

 

「うん……。そうだね……」

 

こうして穂乃果との話は終わり、病室を後にしていたヒフミトリオと残りのμ'sメンバーが病室に入って来た。

 

全員とある程度話をした後に穂乃果たちは帰り、奏夜はゆっくりと体を休めるのであった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

それから2日後、奏夜はようやく退院の許可が下りたため、退院することが出来た。

 

西木野総合病院を後にした奏夜は、まっすぐ番犬所へと向かい、ロデルに傷の完治を報告したのであった。

 

「……奏夜。その様子だと、もう大丈夫そうですね」

 

奏夜の元気な姿を目の当たりにして、ロデルは安心していた。

 

ここ最近の奏夜は身も心もボロボロなことが多かったからである。

 

「ロデル様。心配をおかけしまして、申し訳ありませんでした。俺はもう大丈夫です」

 

「そうですか。それにしても、ラブライブに出場出来ないのは残念でしたね。あともう少しだったのですが」

 

「えぇ。俺もそう思います。ですが、これからはやることが色々あります。なので落ち込んでもいられません」

 

「確かにそうですね。奪われた魔竜の牙や魔竜の眼を奪い返さなければなりませんし、ことりの問題もありますしね」

 

ことりの問題。

 

ロデルがこう口にした瞬間、奏夜の表情が沈んでいた。

 

「あれから海未に聞いたのですが、ことりは先方に留学する旨を伝えたそうです」

 

「そうですか……。そのことを他のメンバーは?」

 

このロデルの問いかけに、奏夜は首を横に振っていた。

 

「このことを知っているのは俺と海未。そして剣斗だけです」

 

海未は、ことりの留学を知っている奏夜と剣斗に、ことりが留学を決めたことを話していた。

 

「他のメンバーにはまだ話していないそうです」

 

「……そうですか……。私としては残念ですが、彼女が決めたことなら仕方ないですね」

 

「えぇ。俺としても行って欲しくはないですが、ことりが決めたことなら反対は出来ないですから……」

 

奏夜としてはことりに行って欲しくはなかったが、それを強く言うことは出来なかった。

 

彼女の人生についてとやかく言う資格はないと奏夜は思っていたからである。

 

「とりあえず今日はゆっくりと体を休め、明日から魔戒騎士として使命を果たしてください」

 

「ありがとうございます、ロデル様。それでは、失礼します」

 

奏夜はロデルに一礼をすると、番犬所を後にして、そのまま家に帰っていった。

 

久しぶりに自宅へ戻った奏夜はゆっくりと体を休めていたのであった。

 

そして翌日、奏夜は朝早くに起床し、エレメントの浄化を行っていた。

 

今まで休んでた分を少しでも取り戻し、大輝やリンドウの負担を減らしたいと思っていたからである。

 

「……はぁっ!」

 

奏夜は本日3箇所目のオブジェに到着すると、そこから飛び出してきた邪気を魔戒剣の一閃で真っ二つに斬り裂いた。

 

「……よし!」

 

邪気が消滅したのを確認した奏夜は、魔戒剣を緑の鞘に納め、魔戒剣を魔法衣の裏地の中にしまった。

 

『……奏夜。あともう1箇所邪気を浄化したら学校へ向かうぞ』

 

「そうだな。復帰早々遅刻は勘弁だからな」

 

奏夜は遅刻を避けるためにもう1箇所だけ邪気を浄化してから学校へ向かうことにした。

 

キルバのナビゲーションを頼りに、その場所へ向かおうとしたのだが……。

 

「……おう、奏夜。復帰早々精が出るな」

 

「リンドウ……」

 

たまたま近くを通りがかっていたリンドウが奏夜の姿を見つけたため、奏夜に声をかけていた。

 

「ジンガに刺されて重傷を負ったって聞いた時は心配したが、元気そうで安心したぜ」

 

リンドウは奏夜の無事に安堵すると、煙草を一本取り出し、煙草を吸い始めていた。

 

「……それに、統夜や剣斗から話は聞いたが、ラブライブだったか?出られなくて残念だったな」

 

「まぁな……。だけど、俺たちはこんなところでは立ち止まれないからな」

 

「ふっ……。そうしてる方がお前さんらしいぜ」

 

奏夜は落ち込んでいる様子はなかったため、リンドウはそんな奏夜を見て笑みを浮かべていた。

 

「ところで奏夜。お前はこれから学校か?」

 

「あぁ、あと1箇所邪気を浄化したら行こうと思ってる」

 

奏夜はもう1箇所だけ邪気を浄化することをリンドウに伝えるのだが……。

 

「それは俺がやっておく。お前は早く学校に向かうんだな」

 

「え?だけど……」

 

「お前、学校に行くのも久しぶりなんだろ?早く行ってあのお嬢ちゃんたちを安心させてやれ」

 

「……すまないな、リンドウ」

 

「気にすんなって。早く行ってこい」

 

「あぁ!」

 

奏夜は残り1箇所のノルマをリンドウに任せることにして、そのまま学校へと向かっていった。

 

「……やっぱり若いな。これが青春ってやつなのか?」

 

このように呟きながら、リンドウは携帯灰皿を取り出すと、そこで煙草の火を消し、吸い殻を灰皿の中に入れていた。

 

「……さて、俺もお仕事お仕事っと」

 

リンドウは煙草の一服を終えると、そのままエレメントの浄化へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

リンドウの粋な計らいによって奏夜は予定よりも早く学校に到着した。

 

奏夜は玄関で靴を上履きに履き替えると、そのまま教室へと向かおうとしていた。

 

しかし……。

 

「……そーくん!」

 

奏夜の姿を見つけた穂乃果が声をかけ、それを聞いた奏夜は足を止めていた。

 

そこにいたのは穂乃果だけではなく、μ'sのメンバーが勢ぞろいだった。

 

恐らく、奏夜が復帰すると知っていたため、待っていたのだと思われる。

 

「……みんな。どうしたんだ?こんなところで」

 

奏夜は勢ぞろいで出迎えられると思っていなかったため、驚いていた。

 

「そーくんに重大な報告があって待ってたの」

 

「重大な報告?」

 

穂乃果は朗らかな声でこう伝えていたため、奏夜は首を傾げていた。

 

「行けばわかるよ!ほらっ、行こっ!」

 

「おい、引っ張るなって!」

 

穂乃果は奏夜の手を取ると、そのまま奏夜の手を引っ張り、どこかへと移動していった。

 

他のメンバーもまた、そんな2人の後を追いかける形でどこかへと移動していった。

 

移動すること数分。

 

穂乃果が奏夜を連れてきたのは学内にある掲示板だった。

 

そこにとある紙が貼られていたのだが、その紙の内容とは……。

 

「……えっと……。来年度入学者受付……。!?こ、これって……」

 

この紙は来年度にこの学校への入学を希望する者のための受付用紙なのだが、その紙の意味を理解した奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「そうだよ!学校……存続するんだよ!?」

 

穂乃果の声色は明るいものであり、廃校が無くなったことを誰よりも喜んでいた。

 

「そうか……。成し遂げたんだな、俺たち……」

 

この「来年度入学者受付」の紙が来たということは、奏夜たちμ'sが本気で学校を救ったことを意味しており、奏夜はμ'sが大きな事を成し遂げたことの充実感と達成感を感じていた。

 

『やったな……奏夜』

 

「あぁ、そうだな……」

 

奏夜は冷静に返事をしていたのだが、内心は学校が存続したことに対して喜びが隠せなかった。

 

それを見抜いていたキルバは……。

 

(ったく……。嬉しいなら嬉しいと言えば良いものを……)

 

素直に自分の言葉を言わない奏夜にキルバは呆れていた。

 

こうして、学校が存続したことを知った奏夜は、そのまま教室へと向かっていった。

 

奏夜が教室へ入るなり、奏夜の身を案じていたクラスメイトたちが一斉に押し寄せてきた。

 

更に色々と質問攻めを受けており、始業チャイムが鳴るまで、奏夜はその対応に追われていた。

 

こうして奏夜は普段と変わらぬ感じで授業を受けており、放課後となった。

 

実は奏夜が退院したのと、音ノ木坂学院の廃校が無くなったことがわかったのは同じ日であった。

 

そして、今日奏夜が復帰することは事前にわかっていたため、奏夜の復帰と、学校存続を祝って部室でパーティを行うことになった。

 

その直前、奏夜は海未とことりに呼び出されて屋上へ来ていた。

 

「すいません、奏夜。いきなり呼び出してしまって……」

 

「気にすんな。それで、ここへ呼び出すってことは何か話があるってことだろ?」

 

「はい。ことりの留学のことです」

 

「……」

 

海未は話のテーマを説明すると、ことりは悲しげな表情を浮かべていた。

 

「ことり、もしかしてまだ穂乃果やみんなには話してないのか?」

 

「うん……。何度も話そうと思ったんだけど、なかなか話せなくて……」

 

どうやらことりは、自分が留学するという話を穂乃果や他のメンバーに話してはいないみたいだった。

 

「私は何度も話した方がいいって言ったんです。言うのが遅れれば遅れる程辛くなるだけですから」

 

「うん……。それはわかってるんだけど……」

 

『ことり、お前はこの話をすることでみんなを傷付けるかもしれない。そう思っているのか?』

 

本当のことを話したがらないことりに業を煮やしたキルバは、このような問いかけをことりにぶつけていた。

 

「……」

 

キルバの問いかけに、ことりは答えようとしなかった。

 

『だとしたらそれは見当違いだぞ。留学したいのは自分の夢のためだろう?誰かを傷付けるかもしれないと気を遣うくらいなら始めから留学など行かない方がいいってもんだ』

 

「キルバの言葉には俺も賛成だ。だって、ことりはもうすぐ日本を経つんだろ?きちんと話をしなきゃ。これからみんなとギクシャクすることになるぞ」

 

「うん……。そうだよね……」

 

キルバや奏夜は、ことりにきちんと留学のことを話すように説得をしていた。

 

「だけど、留学を決める前に穂乃果ちゃんに相談出来てたら、何て言ってくれたのかな?って……。それを思うと、上手く言えなくて……」

 

「ことり……」

 

ことりは何故穂乃果たちに留学を打ち明けられないのかを語っていた。

 

ことりとしてはこの話を決める前に穂乃果に相談したかったのだが、それは出来なかった。

 

もし、穂乃果にも相談出来ていたらと考えると、なかなか留学の話を打ち明けられなかったのだ。

 

そんなことりの真意を理解し、奏夜は悲しげな表情を浮かべていた。

 

「……ことり、これからみんなでお祝いをするだろ?その時にちゃんとみんなに話すんだ」

 

「え?でも……」

 

「ことりの言い分はわかる。だけど、今言わなかったらいつ言うんだよ。今日を逃したら、恐らくはみんなに話を切り出すことなく日本を経つことになるぞ」

 

「……っ!」

 

奏夜の言葉は的を得ており、ことり自身が勇気を出して話さなければ、穂乃果たちに留学を告げることなく日本を経つという最悪な結末になりかねなかった。

 

そんな未来を想像してしまったことりは息を飲んでいた。

 

「奏夜の言う通りです。それに、今日はお祝いだからとことりは気を遣うのかもしれませんが、今言わなければずっと言えないですよ」

 

「うん……」

 

奏夜はこの後のお祝いで留学の話をしっかりするようにことりに告げており、それには海未も同意していた。

 

ことりは一応返事をするのだが、まだ煮えきっていなかった。

 

こうして話を終えた3人は、そのままアイドル研究部の部室へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜たち3人が部室に到着すると、剣斗以外の全員は既に揃っており、お祝いの準備はおおよそ整っていた。

 

アイドル研究部の部室はいつもとは雰囲気が変わっており、あちこち飾り付けがされており、黒板には学校存続と書かれていた。

 

剣斗は1度部室に来たのだが、まだやることがあると言い残し、どこかへと行ったみたいだった。

 

それだけではなく、自分以外が揃ったら先に始めてくれと言っていたため、奏夜たちはお祝いを始めることにした。

 

「にっこにっこに〜♪みんなぁ、グラスは持ったかなぁ?」

 

『おぉ!!』

 

にこが席を立ち、黒板の近くまでくると、このような宣言をして、それに全員が応じていた。

 

その近くにはレジャーシートが敷かれており、そこに穂乃果と奏夜。そして1年生組が座っていた。

 

そして、窓際の長椅子には海未とことりが座っており、扉側の椅子に絵里と希が座っていた。

 

「奏夜が無事に復帰して、さらに学校の存続が決まった訳だし、ここで部長のにこにーから一言挨拶をさせてもらいます!」

 

このようににこが宣言すると、奏夜たちは拍手を送っていた。

 

「奏夜のことはともかくとして、今思えば、μ'sが結成され、私が部長に選ばれてから、どれだけの月日が経っただろうか」

 

「俺の復帰はスルーかよ……」

 

『にこは自分のことを語りたいだけだろうな』

 

このお祝いは学校存続だけではなく奏夜の復帰祝いも兼ねているのだが、にこは奏夜のことをスルーしていた。

 

そんなにこに奏夜とキルバは呆れており、奏夜はジト目でにこのことをみていた。

 

「たった1人のアイドル研究部から耐えに耐え抜き、今、こうしてメンバーの前で自分の思いを語り……」

 

『かんぱーい!!』

 

「ちょっと待ちなさーい!!」

 

にこの話は長くなると判断した奏夜たちはにこの語りをスルーしてそのまま乾杯していたのだが、それに対してにこは待ったをかけていた。

 

しかし、乾杯は終わってしまったので、そのままパーティは始まってしまった。

 

お祝いと言うだけあって、何品か料理が並んでおり、凛はサンドイッチに手を伸ばしていた。

 

「お腹すいた〜。にこちゃん、早くしないとなくなっちゃうにゃ!」

 

「卑しいわね……」

 

凛はサンドイッチにがっついており、そんな凛を見て、にこは呆れていた。

 

そんな中、花陽は事前に用意していた炊飯器とにらめっこをしていた。

 

そして……。

 

「みんな!ご飯炊けたよ〜♪」

 

花陽はご飯が炊けるのを心待ちにしており、その瞬間をみんなに告げていた。

 

「ご飯、ご飯♪」

 

凛はサンドイッチを1つ食べたばかりなのだが、炊きたてのご飯に心を躍らせていた。

 

その直後、コンコンと扉をノックする音が聞こえると、扉が開いて剣斗が中に入ってきた。

 

「みんな、遅くなってすまない」

 

「先生、遅い!もう始めちゃってるよ!」

 

「そうです!そして、ちょうどご飯が炊けましたよ!」

 

凛は遅れてきた剣斗に文句を言っており、花陽はご飯が炊けたことを伝えていた。

 

「おぉ!それはちょうど良かった!美味な飯には美味なおかずが必要だろう?」

 

そう言って剣斗が奏夜たちに見せたのは、数種類のおかずであった。

 

どのおかずも湯気が立っており、出来たてであるということがすぐにわかった。

 

「ど、どれも凄く美味しそうだにゃあ……♪」

 

「もしかして、これは小津先生が?」

 

凛はおかずたちを見て目を輝かせており、絵里はこのように剣斗に問いかけていた。

 

「うむ。騎士たる者、身の回りのことは自分で出来て当然なのでな。これくらいは何てことないさ」

 

「まぁ、俺も料理や家事は一通り出来るしな」

 

剣斗は自慢気に語っていたのだが、奏夜も料理や家事は出来るため、そのことを主張していた。

 

そうは言っても、魔戒騎士や魔戒法師の全員が出来るという訳ではなく、仕事が忙しいため、家事がまったく出来ない魔戒騎士や魔戒法師も多い。

 

むしろ、奏夜や剣斗のように、家事をそつなくこなせるほうがごく少数なのである。

 

「ところで、全部出来たてみたいですけど、この料理はいったいどこで?」

 

希は出来たてのおかずを見て、抱いていた疑問を剣斗にぶつけていた。

 

「調理室を借りたのだよ。私の料理する様子を見て、料理研究会の部員たちは驚いていたぞ」

 

剣斗は放課後になるとすぐに調理室へこもり、料理研究会の部員に使用許可をもらったところでパーティ用のおかずを作っていたのであった。

 

剣斗の手際の良さに、部員たちも驚いていた。

 

「早く食べたいにゃ!!」

 

「ふふ、そう急かすな。今準備をする」

 

剣斗はすでに準備されているテーブルに、作った料理を並べ、これで完全にパーティの準備は整ったのであった。

 

「いっただきま〜す!!」

 

剣斗が料理を並べている間に凛は炊きたてのご飯をよそっており、剣斗の用意した料理もいの一番に取っていた。

 

そして凛は、さっそく剣斗の料理を頬張るのだが……。

 

「!?う、美味いにゃあ!!」

 

凛は剣斗の料理の味に驚きながらも、目をキラキラと輝かせていた。

 

「どれどれ?」

 

穂乃果、花陽、真姫もまた、剣斗の料理を皿に盛り付けて味見をするのだが……。

 

「本当だ!美味しい!」

 

「えぇ。悪くはないわね」

 

「これは……!ご飯が進みます!」

 

3人にも剣斗の料理は好評であり、花陽は剣斗の料理を食べ、すかさず炊きたてのご飯を食べていた。

 

こうして、それぞれがご飯や料理に舌鼓を打っていた。

 

「……それにしても、ホッとしたようやね。エリチも」

 

希は用意された料理を食べながら、穏やかな表情をしている絵里を見て安心していた。

 

「そうね。肩の荷が下りたって気がするわ」

 

「μ'sに入って良かったやろ?」

 

「……どうかしら。正直、私が入らなかったとしても、結果は同じだったと思うけど」

 

学校の存続はμ'sの9人と奏夜の力によるものが大きかったのだが、絵里は自分がそれほど学校存続に貢献していないと思っていたため、このような発言をしていた。

 

「いや、それは違うな!」

 

そんな絵里の言葉を否定したのは奏夜でとなく、剣斗であった。

 

「小津先生……」

 

「μ'sというグループは、9人の少女のそれぞれ違う個性が見事に調和しているのが魅力なのだ。そこがイイと言える」

 

剣斗は自分なりに感じていたμ'sの魅力を熱弁していた。

 

「そんな9人の少女とマネージャーである奏夜が1つの目標に向けてキラキラと汗を流す……。イイ!とてもイイぞ!」

 

「アハハ……。あ、ありがとうございます……」

 

剣斗のあまりにも熱いトークに絵里は引き気味になっており、苦笑いをしていた。

 

「小津先生の言う通りやよ。μ'sは9人と奏夜君がいてこそなんや。それ以上でもそれ以下でもないんよ。それは、カードも言うとることや」

 

希はμ'sは9人+奏夜がいることで未来が開けると占いで出しており、それは今でも変わらないと思っていた。

 

「……そうね……」

 

剣斗や希の言葉を聞き、絵里はμ'sに入ったことは間違いではないということを実感していたのであった。

 

奏夜もまた、炊きたてのご飯や剣斗の料理に舌鼓を打っていたのだが……。

 

(……ん?海未?ことり?)

 

海未とことりは窓際の長椅子に座っていたのだが、パーティを楽しむ様子はなく、2人とも俯いているみたいだった。

 

(ったく……。あいつらは……)

 

そんな2人を見かねた奏夜は、そのまま2人の元へと向かっていった。

 

「……2人とも」

 

「あっ、奏夜……」

 

「そーくん……」

 

「ことり、お前やっぱりあの話をする勇気が出ないのか?」

 

「うん……。やっぱり……私は……」

 

ことりはなかなか留学の話を切り出すことが出来ず、俯いていたのであった。

 

「私は何度も説得をしていたのですが、やはり……」

 

海未はこのパーティが始まってからもことりに留学の話を切り出すよう説得をしていたが、効果はないみたいだった。

 

「ったく……。仕方ないな……」

 

このままではいけない。

 

そう思った奏夜はパーティを楽しむ穂乃果たちの方を向いた。

 

そして……。

 

「……みんな、悪い。ちょっといいか?」

 

奏夜がこう話を切り出すと、全員の視線が奏夜に集中していた。

 

そんな奏夜に呼応するように海未も立ち上がり、奏夜の隣に来ていた。

 

「すいません。みんなにちょっと話があるんです」

 

奏夜1人に重荷を背負わせたくなかったからか、海未もこのように話を切り出していた。

 

奏夜と海未がこのように話を切り出してきたことに穂乃果たちは困惑していた。

 

「いきなりこんなことを言ってもみんなは戸惑うだけだと思うが……」

 

奏夜はこのように前置きをしてから再び語り始めた。

 

「……ことりが留学することになった」

 

『……え?』

 

「……」

 

奏夜の突然の告白に、剣斗以外の全員が驚きと困惑が入り混じっていた。

 

さらにことりは、悲痛な表情を浮かべていた。

 

「それで、2週間後には日本を経つことになりました」

 

奏夜1人に話させることはせず、海未も語り始めていた。

 

「うそ……」

 

「……どういうことなの?」

 

「私、前から服飾の仕事に興味を持ってて、それをお母さんに話したら、お母さんの知り合いの学校の人が来てみないか?って声をかけてくれたの」

 

ことりは何故留学することになったのか、その経緯を説明していた。

 

「……ごめんね。もっと早く話そうって思ってたんだけど……」

 

どうにか留学の経緯を説明したことりであったが、その声はどんどん弱々しくなっており、穂乃果たちは何も言えない状態になっていた。

 

『お前らは学園祭に向けてまとまっていただろう?ことりはお前らに気を遣いたくなかったんだよ』

 

「なるほど、それで最近……」

 

希はことりの様子がおかしいことに気付いており、そのことを気にしていたのだが、キルバの説明を聞いて納得したみたいだった。

 

「……行ったきり、戻ってこないのね?」

 

「うん……。恐らく、高校を卒業するまでは……」

 

絵里の問いかけに、ことりはこう答えていた。

 

それはすなわち、ことりが日本を発ってしまえば、そのまま会えなくなってしまうのだ。

 

「……」

 

穂乃果はことりが留学すると聞いた時から一言も喋らず、黙っていた。

 

そして、留学する経緯の話が一通り終わると……。

 

「……どうして言ってくれなかったの?」

 

ことりとは幼い頃から付き合いのある穂乃果は、自分に何の相談もなしに留学行きを決めたのが納得出来なかった。

 

「さっきキルバも言ってたろ?学園祭があったからだって……」

 

奏夜はゆっくりとことりに近づく穂乃果をなだめるのだが……。

 

「そーくんと海未ちゃんは知ってたんだ」

 

「……すまない。ことりの留学行きの話は私も聞いていた。ことりが悩んでるのを教師として放っておけなくてな」

 

剣斗は、自分も留学の話を聞いていたことを明かしていた。

 

穂乃果以外の全員は剣斗は教師だからもいうことで納得していた。

 

「どうして言ってくれなかったの?ライブがあったからって言うのはわかるよ。でも、私と海未ちゃんとことりちゃんはずっと……!」

 

穂乃果は自分に相談をしてくれなかったことりのことを責めていた、

 

「穂乃果、そこまでにしておけ」

 

『奏夜の言う通りだ。ことりの気持ちも考えてやれ』

 

奏夜とキルバはことりのことを責めている穂乃果のことをなだめるのだが……。

 

「わからないよ!!」

 

激しい剣幕で奏夜やキルバのことを黙らせていた。

 

「だって、いなくなっちゃうんだよ!?ずっと一緒だったのに……離ればなれになっちゃうんだよ!?なのに……」

 

「穂乃果……」

 

奏夜は穂乃果の言いたいことが理解出来るため、何て声をかけていいのかわからなかった。

 

そんな中……。

 

「……何度も言おうとしたよ?」

 

「……え?」

 

「でも、穂乃果ちゃん、学園祭のライブに夢中で……。ラブライブに夢中で……」

 

「あっ……!」

 

ことりの言葉は穂乃果に取って耳の痛い言葉であり、穂乃果は言葉を失っていた。

 

「だから、ライブが終わったら言おうと思ってた……」

 

「ことりちゃん……」

 

「相談に乗って欲しいと思ってた……!でも、あんなことになっちゃって……。聞いて欲しかったよ!?穂乃果ちゃんには1番に相談したかった!」

 

このように語ることりの瞳からは涙が溢れ出ていた。

 

「だって、穂乃果ちゃんは初めて出来た友達だよ!ずっと側にいた友達だよ!そんなの……そんなの、当たり前だよ!!」

 

ことりはこう言い放つと、涙を流しながら部室を飛び出していってしまった。

 

「こ、ことりちゃ……!」

 

穂乃果は部室を飛び出したことりを追いかけようとしていたのだが……。

 

「穂乃果。今はそっとしておけ」

 

奏夜がすかさずそんな穂乃果を止めていた。

 

「……ずっと留学に行くかどうか迷ってたみたいです。いえ、むしろ行きたがってないように見えました。ずっと穂乃果を気にしてて……」

 

海未は部室を飛び出していったことりをフォローする発言をしていた。

 

「俺は「行って欲しくない」って本音を伝えたんだけどな……。ことりは本気で服飾の仕事に興味を持ってるみたいだし、俺のエゴでことりの夢を潰すわけにはいかないから、あまり強くは言えなかったんだよ」

 

「……そんなことを話していたのですね……」

 

海未は先ほど奏夜か言った言葉は初耳だったため、驚きを隠せずにいた。

 

「……ことりは本当に学園祭が終わったらすぐに穂乃果に相談するつもりだったんです。わかってあげて下さい」

 

海未はこのようにフォローを入れるものの、ことりの留学はかなりショックだったからか、静寂がその場を支配していた。

 

その静寂からは、戸惑いの感情が伺える程だった。

 

「……」

 

特に穂乃果はショックが大きいからか、俯きながら言葉を失い、その場で立ち尽くしていた。

 

《やれやれ……。こいつは面倒なことになったな》

 

(そうだな……。このまま、ギクシャクとさせとくわけにはいかないからな。なんとかしなければ……)

 

《奏夜、あまり1人で抱え込むなよ。これはお前1人の問題じゃないんだ。どうしてもダメなら仲間を頼れよ》

 

(あぁ、わかってるよ)

 

奏夜は穂乃果とことりがギクシャクしてしまったと感じてしまい、この問題を解決せねばと思っていた。

 

(……俺はこのままμ'sを終わらせるようなことは絶対にさせない!だから、俺が絶対に救ってみせる!)

 

奏夜にとってμ'sの存在はかなり大きなものになっていたため、目の前に迫る大きな問題を解決させて、μ'sを救おうと決意していた。

 

その意思は固く、奏夜は自然と鋭い表情になっていた。

 

こうして、学校存続と奏夜の復帰を祝うパーティは、とても続けられる状態ではなかったため、中止となってしまった。

 

奏夜が予想している通り、μ'sの崩壊はすぐ目の前に迫っていた。

 

そんな中、奏夜はどのような行動をとっていくのだろうか……?

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『あんなことがあったんだ。こうなるのも仕方ないよな。だが、このままという訳にはいくまい?次回、「崩壊」。奏夜、お前はいったいどうするつもりだ?』

 

 




話を誤魔化すためとはいえ、ひったくり犯に刺されるとかそれはいったいどこのジェットマンだろうか……?

このネタがわかる人はいったいどれくらいいるだろうか?

さて、今回全員がことりの留学を知る事になりました。

その結果、穂乃果とことりがすれ違うことになってしまいましたが、この問題を奏夜はどう解決していくのか?

最近はラブライブメインの話になっているため、戦闘描写が少ないですが、どこかで牙狼要素多目の話は作りたいな……。

一期の話も終わりに近付いているので、これからさらに盛り上げていきたいと思っているので、これからも牙狼ライブをよろしくお願いします!

さて、次回でラブライブ12話は終わりの予定です。

これからさらにシリアスな展開になると思います。

μ'sは本当に崩壊してしまうのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第49話 「崩壊」

お待たせしました!第49話になります。

そういえばこの前、実装されたばかりの「CR 牙狼 GOLD STOME 翔」を打ってきました。

結果だけ言えばチョイ勝ちだったのですが、色々な演出が見れて楽しかったです。

牙狼シリーズを打ってて今まで見たことのなかった雨宮監督のプレミアも見れましたし、写メは逃しましたが(笑)

さて、今回でラブライブ!12話の話は終わりになります。

そうです。この章にも書いてある崩壊が始まっていきます。

その時、奏夜はどのような行動をとるのか?

それでは、第49話をどうぞ!




学園祭ライブは中止となり、μ'sはラブライブへの出場を辞退してしまった。

 

しかし、今までの奏夜たちの活動が認められたからか、来年度も入学者を募集することになり、学校は存続することになった。

 

奏夜たちは学校存続のお祝いをしていたのだが、その席でことりの留学を全員が知ることとなってしまった。

 

ことりと長い付き合いである穂乃果は、自分に相談もなくことりが留学を決めたことが許せなかった。

 

そのため、穂乃果とことりがギクシャクしてしまうという最悪の結末になってしまった。

 

パーティは当然中止となったのだが、その後奏夜は番犬所へ向かい、ロデルにパーティでの出来事を報告していた。

 

「……そんなことがあったのですね……」

 

ロデルはことりが留学のことを明かした結果、穂乃果と確執が出来てしまったことに驚いていた。

 

「俺としてはずっと知らなくていきなり真実を知った結果、怒る穂乃果の気持ちもわかりますが、友達を傷付けたくない故にずっと言えなかったことりの気持ちもわかるんです」

 

『奏夜にとって穂乃果とことりは大切な友達だからな。2人の気持ちが理解出来るのも当然だ』

 

「そう考えると、辛い立場ですね、奏夜……」

 

「ロデル様、お気遣い誠に痛み入ります」

 

番犬所の神官であるロデルが一介の魔戒騎士である奏夜を気遣い、奏夜はそんなロデルの言葉に感謝して、深々と頭を下げていた。

 

「ことりの留学はもう決まったことだから覆すことは出来ませんが、俺は笑顔でことりのことを見送ってやりたいです。何の迷いもなく胸を張って留学出来るように……」

 

奏夜の本音としてはことりに留学は行って欲しくなかったが、行くと決まってしまった以上、ことりが迷わないよう笑顔で見送ろうと考えていた。

 

「そのためには、穂乃果とことりがギクシャクしてるのをなんとかしたいと思っています。このまま離ればなれになるのは悲しいですし……」

 

「そうですね……。そこら辺のところはあなたのやりたいようにやるといいでしょう。ですが、後悔だけはしないようにして下さいね」

 

「ありがとうございます、ロデル様」

 

奏夜は再びロデルに深々と頭を下げていた。

 

「ホラー討伐の指令はありましたが、それはリンドウに行ってもらいました。大輝もフォローに回っているので、あなたは目下の問題に集中して下さい」

 

ロデルの言う通り、とあるゲートが開いてホラーが出現したのだが、そのホラーの討伐はリンドウが担当になった。

 

現れたホラーは1体だけだったので、大輝が町の見回りを行いつつリンドウのフォローに入っていた。

 

リンドウも大輝も実力のある魔戒騎士であるため、奏夜の出る幕はないのだ。

 

リンドウがこの翡翠の番犬所に派遣され、魔戒騎士が3人になってからはこのようなケースはよくあり、奏夜はその都度ホラーを2人に任せ、μ'sのマネージャーとしての仕事をこなしていた。

 

今回も似たようなケースであるため、奏夜はロデルの言葉を素直に受け入れていた。

 

そのため奏夜は、再びロデルに一礼をしてから番犬所を後にした。

 

その直後、奏夜の携帯が鳴り出したため、奏夜はポケットから携帯を取り出した。

 

どうやら電話のようであり、その電話は絵里からだった。

 

それを確認した奏夜は、すぐに電話に出たのであった。

 

「……はい、どうした?絵里」

 

『あっ、奏夜!良かった……。もしかして、今って忙しいかしら?』

 

「いや、今日は指令もないから時間はあるぞ」

 

『そう……良かった……』

 

電話越しであるため絵里の表情はわからなかったが、ぱぁっと表情が明るくなっているだろうと予想することは出来た。

 

『奏夜。時間があるなら今から会わない?話したい事があるの』

 

「あぁ、構わないぞ」

 

『ありがとう!それじゃあいつだかあなたや海未と話をした公園で待ち合わせをしましょう』

 

「わかった」

 

絵里が待ち合わせに指定したのは、まだ絵里がμ'sに加入する前、奏夜、海未、絵里の3人で話をした公園であった。

 

『ありがとう。それじゃあ、また後でね』

 

絵里はそう言い残すと、電話を切ったため、奏夜も電話を切り、携帯をポケットにしまった。

 

「さて、行くか……」

 

電話を終えた奏夜は、絵里との待ち合わせ場所である公園へと向かっていった。

 

その公園は番犬所から近かったため、5分とかからず到着したのだが、すでに絵里は来ており、公園のベンチを1つ確保して奏夜が来るのを待っていた。

 

「あっ、奏夜!」

 

絵里は奏夜の姿を見るなり表情が明るくなり、ブンブンと手を振っていた。

 

そんな無邪気な一面を見せる絵里に、奏夜は苦笑いをしながら早足で絵里の待つベンチへと向かっていった。

 

「絵里、ずいぶんと早かったな。もしかして、電話した時からずっとそこにいたのか?」

 

「えぇ。そういう奏夜も早かったじゃない」

 

絵里もまた、奏夜がここまで早く到着するとは思わなかったからか、驚いていた。

 

「まぁ、この公園は番犬所から近かったからな」

 

「へぇ、そうなのね」

 

この公園が番犬所から近いということを初めて知った絵里は驚いていた。

 

「それで、話っていったいなんなんだ?」

 

奏夜は絵里の隣に腰をおろしながら、本題を切り出していた。

 

「奏夜ってことりの留学のことを知ってたのよね?」

 

「……まぁな」

 

絵里の話がことりの留学についてだとわかると、奏夜の表情が少しだけ沈んでいた。

 

「その時の話を聞いておきたいと思って。ほら、奏夜はことりのことを引き止めようとしたって言ってたでしょ?」

 

「あれはただのワガママだよ。ことりの夢を俺のエゴで潰したくない。だからこそ留学の話を聞いても強く止められなかったんだよ……」

 

このように語る奏夜の表情はどこか悲しげだった?

 

「ごめんね、奏夜。海未や小津先生も話を聞いていたとはいえ、あなたにかなりの業を背負わせてしまったわね……」

 

ことりの留学を聞いていたのは奏夜だけではなく海未と剣斗も聞いていたのだが、奏夜が誰よりもこのことに責任を感じており、絵里は申し訳なさそうにしていた。

 

「気にしないでくれ、絵里。俺はμ'sのマネージャーとして、当たり前のことをしているだけだから……」

 

「そう……」

 

奏夜の瞳は憂いを帯びていたが、言葉に偽りがないからか意思の強さも感じ取れ、絵里はなんて言葉を返せばいいかわからなかった。

 

「……奏夜。実はね、話があるなんて、ただの建前で、本当はあなたの顔が見たくなっちゃったの」

 

そのため、絵里は今日奏夜と会いたいと思った本当の理由を語っていた。

 

「え?」

 

絵里からのまさかの言葉に奏夜は面食らっていた。

 

「だって、ことりが留学の話をして、穂乃果とギクシャクしちゃったでしょ?奏夜はそのことを気にしてるんじゃないかって心配で……」

 

絵里が奏夜の顔を見たいと思ったのは、奏夜のことを心から心配していた。

 

「絵里……。ありがとな、俺のことを心配してくれて」

 

奏夜は誰かが心配してくれていることが素直に嬉しかったため、穏やかな表情で微笑んでいた。

 

そんな奏夜の笑顔を見て恥ずかしくなったからか、絵里は頬を赤らめていた。

 

「……俺なら大丈夫だ。俺にはまだやらなきゃいけないことがあるからな」

 

絵里の言う通り、ことりと穂乃果がギクシャクしていることは気にしていた奏夜だったが、気落ちしている訳ではなかった。

 

「やらなきゃいけないこと?」

 

「あぁ、とりあえずはことりと穂乃果を仲直りさせなきゃいけない。すれ違ったままさよならなんて寂し過ぎるからな」

 

「奏夜の言いたいことはわかるけれど、それは難しいのではないかしら?」

 

絵里もまた、穂乃果とことりがすれ違ってしまった一部始終を知っているため、2人を仲直りさせるのは簡単なことではないと思っていた。

 

それは奏夜もわかっているハズだが、奏夜は何故か動じることもなく、冷静だった。

 

「大丈夫だ。そこに関しては俺にいい考えがあるんだ」

 

「いい考え?」

 

「あぁ、まずはことりが留学に行く前にライブを行いたいって思ってる。ことりの門出を祝うライブだ。共にライブをすれば、きっと……」

 

奏夜は9人最後となるライブを計画していた。

 

そのライブを通して、ことりと穂乃果のギクシャクした関係を改善したいというのが狙いである。

 

『俺としては嫌な予感がするがな。それに、今の穂乃果がライブをすんなりと受け入れるか?』

 

「そうね。私としては賛成だし、みんなも賛成すると思うけれど……」

 

キルバはそんな奏夜の計画がそう上手くいくはずはないと予想しており、絵里も不安な感じになっていた。

 

「俺もそこは不安だけど、大丈夫だ。俺を信じてくれ」

 

奏夜は意思の強い目をしており、そのような眼差しで絵里のことを見ていた。

 

「……そうね。あなたはこうして私たちのことを引っ張ってくれたんだものね……。私は信じるわ。奏夜のことを」

 

「絵里……ありがとう……」

 

絵里は奏夜のことを心から信じており、奏夜はそんな絵里に礼を言っていた。

 

「とりあえず、みんなにも話をするわね」

 

絵里は携帯を取り出すと、穂乃果とことりを除いた全員と連絡が取れる状態に設定をして、グループ通話を開始した。

 

そこで絵里は奏夜の提案したライブについて話をしていた。

 

ライブについては誰も反対する者はおらず、明日穂乃果やことりに話をすることで話はまとまっていた。

 

その話が終わったところで、グループ通話は終了したのであった。

 

「さてと……。とりあえずは明日だな」

 

「えぇ、そうね」

 

「話は終わったことだし、そろそろ帰るか?」

 

「ねぇ、奏夜。せっかくだから、家まで送ってくれないかしら?」

 

「え?」

 

奏夜は絵里が自分からこのようなことを言ってくるとは思っていなかったからか、驚きの表情を見せていた。

 

「……何よ。たまには2人きりで帰るのもいいでしょ?」

 

奏夜が驚いているのが気に入らなかったからか、絵里はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「まぁ、指令はないし、構わないけど……」

 

奏夜が絵里の話を承認すると、絵里の表情がぱぁっと明るくなっていた。

 

「本当?それじゃあ、行きましょうか♪」

 

奏夜と絵里はベンチから立ち上がり、そのまま公園を後にしようとするのだが……。

 

「……!?ちょ、絵里!?」

 

絵里は唐突に奏夜と腕組みをしており、そんな絵里の行動に奏夜は驚きながら頬を赤らめていた。

 

「何よ、たまにはいいでしょ?」

 

「別に嫌ではないが、誰かに見られたらまずくないか?」

 

奏夜の心配する通り、絵里はスクールアイドルであるため、このような姿を誰かに見られたら大変なことになると予想された。

 

「大丈夫よ♪ほら、行きましょっ♪」

 

こうして絵里は半ば強引に奏夜と腕を組み、絵里の家へと向かっていった。

 

《やれやれ……。絵里のやつ、ずいぶんと大胆だな》

 

キルバは絵里の大胆な行動に呆れていた。

 

その後奏夜は絵里と腕を組んでいるところを幸い誰にも見られることなく絵里の家に到着することが出来た。

 

しかし、絵里の家の前に妹である亜理沙と、たまたま遊びに来ていた穂乃果の妹である雪穂に見つかってしまい、色々と追求を受けることになるのだが、それはまた別の話である。

 

その後奏夜はげんなりとしながら帰路についたのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

翌日、朝のホームルームの時点で、ことりの留学の話がクラス全体に行き渡ってしまった。

 

クラスメイトたちはみんなことりがいなくなることをとても残念がっていた。

 

そして、クラスの中でちょっとした変化が起こっていた。

 

休み時間になると、何かと奏夜のところに来ていた穂乃果だったが、奏夜のところに行こうとせず、ただ机で突っ伏して寝ていた。

 

奏夜だけではなく、海未やことりとも話すこともなくなり、そんな関係性の変化に、クラスメイトたちは困惑していた。

 

そして昼休み、奏夜は教室を抜け出すと、屋上に来ていた。

 

昨日絵里や他のメンバーにも話した9人最後のライブの話を穂乃果やことりにするためである。

 

昨日その打ち合わせを行い、絵里が穂乃果とことりを呼び出す算段となっていた。

 

現在屋上には奏夜と海未。さらには絵里を除いた全員が待機していた。

 

「穂乃果……果たして来てくれるでしょうか?」

 

海未は本当に穂乃果が屋上に現れるか不安であるため、このように言葉を洩らしていた。

 

「来るさ。いくら穂乃果でも、絵里からの呼び出しは無下には出来んさ。クラスのみんなの目もあるからな」

 

「確かにそうですね……」

 

奏夜が自信満々で答えたからか、海未の不安は自然と消え去っていた。

 

その直後、屋上の扉が開かれると、絵里と穂乃果。そして、剣斗が屋上に入ってきた。

 

「……みんな、遅くなってすまない」

 

「ちょうど屋上へ行こうとしたら小津先生とバッタリ会ってね。一緒に来たってわけ」

 

絵里は何故剣斗と一緒に屋上に来たのかを説明していた。

 

「ところでことりは?」

 

「ごめんなさい。教室に行った時には既にいなかったの。だから穂乃果だけ呼んだわ」

 

「まぁ、いいさ。ことりには後で話をすればいいんだから」

 

「……何の用なの?屋上に呼び出して……」

 

このように本題を切り出す穂乃果は暗い表情をしており、まるで別人だった。

 

「すまんな、穂乃果。いきなり呼び出して」

 

「ほら、ことりが留学しちゃうでしょ?その前に9人でライブ出来ないかなと思ったのよ」

 

そんな穂乃果に奏夜は困惑しながらも謝っており、絵里が本題を切り出していた。

 

「おぉ!ことりの門出を祝うのが目的なのだろう?うむ、それはイイアイディアだと思うぞ!」

 

剣斗は初めてライブの話を聞いたため、自然と表情が明るくなり、ライブを行うことに賛同していた。

 

「ことりには後でその話はするつもりだよ」

 

「うむ!ことりがいなくなるのは寂しいが、いつまでも悲しむのはイイとは思えない。明るく門出を祝うとしよう!」

 

「凛もそう思うにゃ!!」

 

「……あんたたち、はしゃぎ過ぎよ」

 

剣斗と凛はライブに対してかなり前向きな意見を出しており、あまりの明るさに、にこはジト目で剣斗と凛のことを見ていた。

 

「小津先生の言う通りよ!だってこれがμ's9人の、最後のライブになるんだから」

 

「……」

 

絵里はさらに穂乃果をなだめるかのように言葉を続けるのだが、穂乃果は何も語ろうとはせず、俯いていた。

 

 

「……穂乃果。まだ落ち込んでいるのですか?」

 

海未は心配そうに穂乃果のことを見つめており、しばらく経った後に穂乃果は顔を上げた。

 

「……私がもう少し周りを見ていれば、こんなことにはならなかった」

 

穂乃果は穂乃果でライブの失敗やことりの留学。それに、ことりとのすれ違いに責任を感じているのか、このように口を開いていた。

 

「そ、そんなに自分を責めなくても!」

 

責任を1人で背負おうとしている穂乃果に、花陽は異議を唱えていた。

 

「私が余計なことをして、余計なことを言ったから、そーくんは死にそうになった!」

 

さらに、穂乃果は学園祭前日に奏夜に対して言ったことに対しても責任を感じていた。

 

「いーや。あれは穂乃果が悪い訳じゃない。その言葉を真に受けて、心に大きな隙を作った、俺の心の未熟さが招いた結果だ」

 

奏夜は自分が弱いからジンガに魔竜の牙を奪われ、重傷を負ってしまったと思っていた。

 

しかし、奏夜はそれを反省し、今後の糧にしていこうと思っているためそこまで気にしてはいなかった。

 

「自分が何もしなければこんなことにはならなかった!!」

 

穂乃果は気持ちが高ぶっているからか、少しだけ語気が強くなっていた。

 

「……本当にそう思うのか?」

 

「え?」

 

奏夜の言葉が予想外だからか、穂乃果はキョトンとしていた。

 

「確かに何もしなかったらことりの留学はなかったかもしれない。だけど、俺たちが何もしてなかったら廃校は本決まりだ。そうだとしたら俺たちがこうやって集まることはなかっただろうな」

 

「あっ……」

 

奏夜の言葉は窓を得たものだったため、穂乃果は言葉を失っていた。

 

そして、他のメンバーはまっすぐと奏夜のことを見ていた。

 

「確かにそーくんの言う通りだけど、やっぱり……」

 

穂乃果には奏夜の言葉を反論することは出来なかったのだが、それでも食い下がっていた。

 

「これまでのことはなるべくしてなったことなんだ。今更タラレバを言っても仕方ないだろ」

 

「奏夜の言う通りよ。そうやって全部自分のせいにしようとするのは傲慢よ」

 

「その通りだ。奏夜も先ほど言っていたが、ここでタラレバを言ったところで何にもならないし、何も始まらない。そんなことがとてもイイとは思えないな」

 

「……」

 

そんな奏夜の言葉に絵里と剣斗の2人が乗っかっており、その言葉を聞いて、穂乃果は再び黙ってしまった。

 

「それに、ラブライブに出られなかったのは残念だけど、きっとまた第2回が開かれるさ」

 

この頃にはすでにラブライブ本戦は終わっており、当初の予想通り、A-RISEの優勝で幕を閉じていた。

 

「そうよ!今回はダメだったけど、次があるわ!だから落ち込んでる暇なんてないわよ」

 

次のラブライブの時にはことりはいないため、9人ではなく8人で出場することになるだろうが、真姫は次のラブライブに前向きだった。

 

「その通りよ!今度こそ夢の舞台に出てやるんだから!」

 

真姫だけではなく、にこも次のラブライブに向けて燃えており、花陽と凛もウンウンと頷いていた。

 

しかし……。

 

「……出場してどうするの?」

 

穂乃果は言ってはいけない言葉を言ってしまったからか、穂乃果の言葉の後、その場の空気が凍りついていた。

 

「もう学校は存続したんだよ?だから、出たってしょうがないよ」

 

「穂乃果ちゃん……」

 

μ'sのリーダーとしてみんなを引っ張ってきた穂乃果がこのようなことを言うとは思わなかったからか、花陽は悲しげに穂乃果のことを見ていた。

 

(……あちゃあ……。やっぱり穂乃果はことりの留学のせいで、スクールアイドルに対してのモチベーションも下がっちまってたか……)

 

奏夜は穂乃果がこのようなことを言うだろうと密かに予想しており、予想通りな展開になっていることに対して奏夜は頭を抱えていた。

 

「……それに、無理だよ。私たちがどれだけ練習して努力したってA-RISEみたいにはなれっこない。時間の無駄だよ」

 

穂乃果はスラスラと失言を言っており、その度に空気が凍りついており、それと同時に奏夜たちの絆に亀裂が入る音が聞こえてくるような気がしていた。

 

そんな穂乃果の言葉をにこが許せるはずはなく、唇を噛み締めて、両手の拳をギュッと握りしめていた。

 

「……あんた。それ、本気で言ってるの?だったら許さないわよ」

 

「……」

 

μ'sのメンバーの中で誰よりもアイドルが好きで、アイドルへの思いなら誰にも負けないにこは怒りに満ちた表情でこう問いかける。

 

しかし、穂乃果は何も答えようとはしなかった。

 

「許さないって言ってるでしょ!?」

 

にこは怒りのまま穂乃果に詰め寄ろうとした。

 

しかし……。

 

「ダメ!!」

 

真姫はそんなにこに抱きつく形でにこのことを止めていた。

 

「離しなさいよ!にこはね、あんたが本気だと思ったから!本気でアイドルをやりたいんだって思ったからμ'sに入ったのよ!ここに賭けようって思ったのよ!」

 

にこは感情的に自分の思いを語っていたのだが、にこの瞳からは涙が浮かび上がっていた。

 

にこだけではなく、抱きついてにこを制止している真姫もまた、涙目になっており、花陽と凛も泣きそうな表情をしていた。

 

「それを、こんなことくらいで諦めるの!?こんなことで、やる気を無くすの!?」

 

にこはこのように問いかけるのだが、穂乃果は答えようとはしなかった。

 

(ったく……。仕方ないな……)

 

穂乃果がここまでやる気を無くしてしまったことを予想した奏夜はある行動を取ることにした。

 

その行動とは……。

 

「……穂乃果。お前の言い分はわかった」

 

奏夜がこのように口を開くと、全員の視線が奏夜に集中していた。

 

「確かに、ラブライブを制したA-RISEのパフォーマンスは凄かったよな。今の俺たちじゃA-RISEみたいなパフォーマンスは確かに出来ない」

 

「ちょっと奏夜!あんたまで何言ってるのよ!」

 

にこは奏夜が穂乃果と同じような暴言を言っていると思っているからか、怒りを露わにしていた。

 

「だが、努力してそう言うなら仕方ないが、今の穂乃果は努力を放棄している。そんなことを言う資格はないと思うがな」

 

奏夜は鋭い目付きで穂乃果を睨みつけると、穂乃果は少しだけたじろいでいた。

 

「穂乃果。お前がどうしたいのか、大体は察することは出来るけど、お前の口から聞きたい」

 

奏夜は穂乃果のことをジッと見つめており、穂乃果は未だに俯いたままだった。

 

「……答えろ、穂乃果。お前はいったいどうしたいんだ?」

 

「……」

 

奏夜はこのように問いかけるのだが、穂乃果はなかなか答えようとはしなかった。

 

しかし、穂乃果の放った一言で、その場の空気がさらに凍りつくことになる。

 

それは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……辞めます。スクールアイドル……辞めます」

 

 

 

 

 

 

 

 

この一言でその場の空気がさらに凍りつき、奏夜と剣斗以外の全員は言葉を失っていた。

 

そんな中、奏夜はその言葉を予想していたからか平静を保っており、剣斗もまた、動じることはなかった。

 

「……わかった」

 

「ちょっと、奏夜!?」

 

スクールアイドルを辞めるという穂乃果の言葉を奏夜はあっさりと承認しており、絵里は驚きを隠せなかった。

 

「確かに学校は存続された。だからと言ってここにいるみんなはスクールアイドルを続けたいと思っているんだ。そんな気持ちを持っている奴がいても正直邪魔なだけだ」

 

奏夜はスクールアイドルを辞めると言う穂乃果に対して容赦のない言葉を言っており、それを聞いた他のメンバーはハラハラしていた。

 

さらに……。

 

「穂乃果。お前が本当にスクールアイドルを辞めたいというなら私は止めはしない。だが、スクールアイドルの活動は部活としての活動なのだ。退部届を私のところまで持ってくるように」

 

剣斗はアイドル研究部の顧問として、このような発言をしていた。

 

「はい……」

 

剣斗の言葉に力無い返事をした穂乃果はそのまま屋上を後にした。

 

穂乃果がいなくなり、その場は重苦しい空気が支配していた。

 

(さてと……。ここからが本番だな)

 

穂乃果がスクールアイドルを辞めると言うことを読んでいた奏夜は、これから先どうするかを考えていた。

 

そんなことを考えていると……。

 

「奏夜、さっきのはいったいどういうつもりですか?」

 

「どういうつもりとは?」

 

海未は鋭い目付きで奏夜を睨みつけて問い詰めるのだが、奏夜はわざととぼけた返しをしていた。

 

「穂乃果ちゃんのこと、どうしてあんなにあっさりと見捨てちゃったの?あれじゃいくらなんでも……」

 

「そうよ!穂乃果があんなことを言うのは許せないけど、だからって!!」

 

海未が答える前に花陽と真姫が奏夜のことを問い詰めていた。

 

そんな2人の言葉に海未はウンウンと頷いており、にこと希は俯いていた。

 

しかし、絵里は奏夜に何か考えがあると理解していたからか、そこまで心配そうな表情はしていなかった。

 

「お前らの言いたいことはわかる。だけど、あのまま穂乃果を引き止めて何になる?それで穂乃果が考えを改めると思うのか?」

 

「そっ、それは……」

 

奏夜の言葉は的を得ているため、真姫はこれ以上の反論が出来なかった。

 

「それに、本気で穂乃果のことを見捨てるならあんなことは言わない。ただ単純に出て行けと言ってるだけだろうな」

 

奏夜は穂乃果のことを完全に見捨てた訳ではないことはしっかりと説明していた。

 

「そーや君、これからいったいどうするの?」

 

「そうだよ。穂乃果ちゃん、本気でスクールアイドルを辞めるみたいだよ?それに、ことりちゃんの留学だってあるし……」

 

奏夜が何かをしようとしていることは理解していたが、凛と花陽は不安を露わにしていた。

 

「何、心配はいらないさ。奏夜は何か考えがある。だから穂乃果を屋上に呼び出し、あのように言わせたのだろう?」

 

「ま、そんなところかな。だから、穂乃果のことは俺に任せてくれないか?これから策を実行しようと考えてるんだ」

 

奏夜に何か妙案があると知ったものの、海未たちは不安を抱いており、素直に奏夜のことを信じられなかった。

 

そんな中……。

 

「そうだな。奏夜はこの状況をなんとかする策があるのだろう?だったら、奏夜を信じてみるのが1番だとは思わないか?」

 

剣斗は奏夜のことを心から信頼しているからか、奏夜のやろうとしていることに全面的に賛成だった。

 

「それに、お前たちにとって奏夜は大切な友なのだろう?そんな友がやろうとしていることが信じられないか?」

 

「そ、それは……」

 

友人である奏夜を信じる。そんな思いで剣斗はこのように問いかけていた。

 

真姫はそんな剣斗の言葉を否定できず、言葉を詰まらせていた。

 

剣斗の言葉を否定するということは、奏夜のことは大切な友人でないと言っているのと同じだからである。

 

「……私は信じるわ、奏夜のこと」

 

そんな中、絵里はこのように口を開くのだが、その表情は凛としていた。

 

「エリチ……?」

 

「だって、奏夜はいつだって、μ'sのため、私たちのために頑張って、さらには私たちのことを守るために戦ってくれているんだもの……」

 

絵里はμ'sに加入するタイミングが遅く、奏夜とは何度も衝突したのだが、だからこそ奏夜が自分たちのために動いていることが理解出来ていた。

 

「……そうだね。確かに奏夜君はいつも私たちのために頑張ってくれた。こんな状況だからこそ、奏夜君のことを信じないと!」

 

そんな絵里の言葉に触発されるように花陽も奏夜のことを信じようとしていた。

 

「そうにゃそうにゃ!だってそーや君は大切な友達だもん!」

 

「そうだったわね。きっと奏夜なら私たちじゃ出来ないことを可能にしてくれる……」

 

「そうやね。なんたって奏夜君はウチら9人の女神を守る光の騎士やもんね♪」

 

「……仕方ないわね……。今回ばかりはあんたのことを信じるわよ、奏夜」

 

「えぇ。私としてもこのまま穂乃果やことりとギクシャクしたくはありません。だからこそ、奏夜を信じたいと思います」

 

こうして、1人、また1人と奏夜のことを心から信じることにしており、メンバー全員が奏夜のやろうとしていることに賛同していた。

 

「それは無論私もだ。私は一応この学校の教師だ。その教師の立場でやれることがあるならばなんだってやろう。例えμ'sのファンが1人もいなくなろうが、奏夜のことを信じる者が誰もいなくなろうが、私は奏夜を信じる!何故なら、奏夜は大切な友だからな!」

 

「剣斗……」

 

剣斗だけではなく、みんなが自分のことを信じてくれている。

 

奏夜にはそのことが何よりも嬉しかった。

 

『ま、俺は応援しか出来ないが、一応は信じてやるよ。なんたって俺は奏夜の相棒だからな』

 

奏夜の相棒であるキルバは、憎まれ口を叩きながらも、奏夜のことを信じていた。

 

「……みんな、本当にありがとな。この問題は俺に任せてくれ」

 

奏夜は自分を信じてくれた全員に感謝をしており、穂乃果の問題を必ず解決させることを約束していた。

 

こうして、昼休みは終わりそうになったため、解散となり、奏夜は海未と共に教室へと戻っていった。

 

(……このままμ'sを崩壊なんてさせはしないさ……。μ'sは、俺が絶対に守ってみせる!)

 

教室に戻る途中、奏夜はこのように決意を固めており、その表情は自然と凛としたものになり、目付きは鋭くなっていた。

 

奏夜にとって、本当の戦いはこれから始まるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『まったく……。μ'sがこのようなことになってしまうとはな。これからどうなるのやら。次回、「思惑」。みんなの思いが交錯する!』

 




原作通り、穂乃果がスクールアイドルを辞めると宣言してしまいました。

海未からのビンタはなかったですが……。

奏夜は何かをしようとしているのですが、いったい何をしようとしているのか?

今回は絵里の可愛い部分が見え隠れしていましたね。

さすがはKKEだ!

僕の推しは穂乃果なので、個人的には辛い展開ですが、ここから挽回していくと思います。

それにしても、剣斗は本当に良キャラですよね。

ここまで奏夜のことを信じて応援してくれるとは。

そんな剣斗の力があるからこそ、奏夜は前向きでいられるのだと思います。

剣斗のモデルとなったFF14に登場する「オルシュファン」というキャラも牙狼ライブに出てくる剣斗のようにとてもイイキャラをしています。

あまりいうとネタバレになるので言いませんが……。

興味がある方はぜひFF14をやってみてください。(布教)

さて、次回のタイトルは思惑とありますが、様々なキャラが今何を考えているのかが明らかになります。

そして、剣斗が何故奏夜のことを友と呼んでいるのか?

それも明らかになる予定なので、楽しみにしていて下さい。

それでは、次回をお楽しみに!



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第50話 「思惑」

お待たせしました!第50話になります!

この小説もようやく50話。一期の話はもうすぐ終わりますが、僕の駄文小説をここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。

最近FF14の交流サイトである「LODESTONE(ロードストーン)」というサイトにて、日記の投稿を始めました。

FF14はプレイヤーキャラの名前を奏夜の先輩騎士である統夜の名前を使っています。

日記も主に牙狼コラボについてのことを書いているので、すぐわかると思います。

ぜひ、見ていただけると嬉しいです!

さて、今回は穂乃果がスクールアイドルを辞めてしまい、他のメンバーがこれからどうするのかが明らかになります。

奏夜やμ'sはこれから一体どうなってしまうのか?

それでは、第50話をどうぞ!




ことりの留学がμ'sメンバーの全員に知れ渡り、そのことがきっかけで穂乃果とことりがギクシャクしてしまった。

 

奏夜としてはことりに留学して欲しくなかったが、その話を覆せないのなら、笑顔で見送りたいと思っていた。

 

そのため、ことりが留学する前に9人でライブをすることを奏夜は提案し、屋上にて穂乃果にもその話をした。

 

しかし、穂乃果は学校存続の時点で目的は達成したため、これ以上のアイドル活動は無意味だと思っていた。

 

そんな穂乃果の態度ににこが憤る中、穂乃果はスクールアイドルを辞めるということを宣言する。

 

その宣言を聞いた奏夜は決して止めることはせず、そのまま帰してしまった。

 

しかし、奏夜は穂乃果をそのままにするつもりはなかった。

 

奏夜は穂乃果の問題を自分の力で解決させることを提案しており、最初は海未たちは困惑していたが、剣斗の熱いひと押しのおかげで、奏夜のことを素直に信じることが出来た。

 

こうしてこの話は終わったのだが、奏夜たちのやり取りを1羽の黒い蝶が見つめていた。

 

その蝶は奏夜たちがいなくなると、どこかへ向かって飛んで行った。

 

その蝶が向かっていったのは秋葉原某所にある、今は使われてはいない廃ビルだった。

 

その廃ビルのとある一室に、魔戒法師の法衣を思わせる格好をしている女性がおり、その蝶は女性の手の平の上に止まると、その姿が消滅したのであった。

 

女性はどうやらその蝶から情報を引き出していたようであり、情報を得た女性は同じビルのとある部屋へと移動していた。

 

「……失礼します。ジンガ様」

 

その女性が向かったのは、奏夜たちが敵対しているホラーであるジンガの拠点であり、女性はそんなジンガの秘書をしているアミリという女性であった。

 

「おう、アミリか。どうしたんだ?」

 

ジンガはワインを飲みながらビルの窓から見える景色を眺めており、そんな中現れたアミリから要件を聞いていた。

 

「はい。ジンガ様のご命令通り、例のμ'sとやらの足取りを探っておりましたが、興味深い情報を入手いたしました」

 

アミリはジンガに対して頭を下げながら自分の放った蝶から得た情報を報告しようとしていた。

 

「ほう?聞かせてもらおうか」

 

「かしこまりました。……あのμ'sとかいうグループですが、どうやらそのメンバーの1人が海外へ行くことになったみたいで、そのことが引き金となり、バラバラになっているみたいです」

 

「なるほど……。そいつは面白いことになったもんだ」

 

μ'sがバラバラになりつつあるというアミリの報告を聞いたジンガは愉快そうにしており、その話を肴にワインを飲んでいた。

 

「例の魔戒騎士が何やら動こうとしているみたいですが、恐らくは無駄なことでしょう」

 

「そうかもな。μ'sの1人が海外へ行くんだろう?それが覆らないなら、奴らが1つに纏まることはないだろうな」

 

ジンガはアミリの報告を聞き、μ'sが再起する可能性はゼロに近いと思っていた。

 

しかし……。

 

「もしそのμ'sとやらが再起して、それがあの小僧の原動力になったら厄介だからな……」

 

ジンガは奏夜のことを幼く未熟な魔戒騎士だと思ってはいるものの、そこまで過小評価はしていなかった。

 

「……アミリ。お前は再び奴らの動きを探り、そのメンバーがいつ留学するのかを突きとめろ」

 

「ハッ、かしこまりました」

 

ジンガから新たなる指令を受け、アミリは深々と頭を下げていた。

 

「尊士。万が一奴らがその留学を阻止しようとする動きがあったなら、全力でそれを邪魔しろ」

 

「かしこまりました」

 

この場には尊士もおり、尊士はジンガの指令を聞き、深々と頭を下げていた。

 

「さて、貴様はどう動く?如月奏夜。せいぜい、もう1つの眼が見つかるまでの間の余興くらいにはなってくれよ」

 

ジンガは奏夜たちに訪れたこの危機を、自らの余興として利用しようとしていた。

 

ジンガがそんな企みをしていることを、奏夜たちは知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穂乃果がスクールアイドルを辞めると宣言した日の放課後、穂乃果とことりを除く全員がアイドル研究部の部室に集まっていた。

 

これからのことを話すためである。

 

「奏夜が穂乃果の問題を何とかするとは言ってたけど、これからどうするつもりなの?」

 

全員が集まり、本題を切り出してきたのは真姫だった。

 

「こんな状態じゃとてもスクールアイドルとしての活動は出来ないわ。だから、一時的に活動を休止した方がいいと思うの」

 

「俺もそうしてもらえると助かる。今のμ'sはバラバラなんだ。そんな状態でμ'sとしては活動するのは無理だ」

 

「そんな!!私は何があろうと続けるわよ!」

 

絵里と奏夜の意見に、にこが異議を唱え、自分はスクールアイドルを続けることを宣言していた。

 

「そうしたいなら残りたいメンバーだけでも残ればいいと思う」

 

「え?」

 

奏夜の言葉が予想外だったからか、にこは面食らっていた。

 

「μ'sとしての活動は無理だとは言ったけど、スクールアイドルとして活動するのは無理だとは言ってないからな。μ's再起のために練習出来る人はやっておいてもらえるとこちらとしては助かる」

 

μ'sの再起のため。

 

バラバラであるメンバーにとって、これほど勇気付られる言葉はなかった。

 

「……かよちんと真姫ちゃんはどうするの?」

 

そんな中、凛は不安げな表情のまま、花陽と真姫が今後どのような行動をとるのかを聞いていた。

 

「私もスクールアイドルは続けたい!にこちゃんも同じ気持ちだと思うけど、私もアイドルやスクールアイドルが好きだもん!」

 

花陽もまたにこと同じくらいスクールアイドルのことが好きであり、スクールアイドルに対する情熱は誰にも負けない程であった。

 

「私も続けるわよ。私はにこちゃんや花陽のような情熱はないかもしれないけど、私はスクールアイドルに出会えたおかげで音楽に向き合うことが出来たんだもの。こんな形で終わらせたくはないわ!」

 

花陽だけではなく、真姫もまたスクールアイドルの活動を続ける決意を固めていた。

 

真姫は将来は医大に進学し、医者になることで父親の跡を継ぐと考えていた。

 

その勉強のために好きな音楽は諦めるべきだと思っていたのだが、スクールアイドルと出会ったことにより、好きな音楽を続けることが出来て、音楽と向き合うことが出来た。

 

真姫は父親にスクールアイドルをすることを認めてもらうために勉強も頑張って続けており、成績は落としていない。

 

それほどの努力をするほど、真姫はスクールアイドルの魅力に惹かれていたのであった。

 

「そっか……。そうだよね!凛もスクールアイドルを続けるよ!だって、みんなと一緒に何かをするのは、すっごく楽しいんだもん!」

 

凛は他のメンバーのような確固たる動機はなかったものの、スクールアイドルの活動を続ける決意を固めていた。

 

「……ごめんなさい。私としてもみんなと続けたいのだけれど、μ'sが再起すると信じて、今のうちに生徒会の仕事をしておきたいの」

 

「そうやな。それはウチも同じ気持ちや」

 

「まぁ、2人は生徒会長と副会長だからな。それは仕方ないか」

 

絵里と希は申し訳なさそうにしながら、活動休止中にスクールアイドル活動は行わないことを告げていた。

 

2人の立場を考えると、奏夜はそれも仕方ないと思っており、それを咎める者はいなかった。

 

こうして、絵里と希はスクールアイドル活動を一時的に休止することになったのだが、1年生組とにこの4人はスクールアイドル活動を続けることにしていた。

 

そして……。

 

「……すいません。私もしばらくは弓道部の活動に専念させて下さい。大会も近いですし、気持ちを落ち着かせたいのです」

 

弓道部と掛け持ちでスクールアイドル活動をしている海未は、色々立て続けに起こった出来事によって乱れた心を落ち着かせるために少しだけスクールアイドル活動を離れる決意をしていた。

 

「ふむ……。だとしたら、絵里と希と海未の3人がひとまず活動を休止し、残りのメンバーが改めて活動を続けるということで良いのか?」

 

剣斗はこのように確認を行っており、全員は無言で頷いていた。

 

「わかった。私がアイドル研究部の顧問であることに変わりはないが、みんなのことを全力でサポートするつもりだ。全ては友である奏夜のため。そして、我が友にとってかけがえのない存在であるμ'sのためだ」

 

剣斗は引き続きアイドル研究部の顧問は続ける決意をしており、それだけではなく、奏夜やμ'sのためにサポートをしていこうと考えていた。

 

「剣斗……ありがとな」

 

そんな剣斗の姿勢を聞いた奏夜は、心から感謝をしていた。

 

「……ねぇ、小津先生。聞きたいことがあるんだけど」

 

「?何だ?真姫。私で良ければ何でも答えるぞ!」

 

真姫はずっと気になることがあるみたいであり、そのことを剣斗から聞き出そうとしていた。

 

「先生って何で奏夜のことを友だなんて呼ぶわけ?やっぱり、すごく違和感を感じるわ」

 

「確かに……。それは私も気になってたわ」

 

真姫の投げかけた疑問は、絵里だけではなく他のメンバーも気になっていたことであった。

 

「実は俺も気になってた。剣斗に友と言われるのは心地よいけど、何で俺のことを友と呼んでくれるのか?ってな」

 

実は奏夜もまた、剣斗が何故自分のことを友と呼んでいるのか疑問に思っていた。

 

「ふふ、気になるか?何故私が奏夜のこもを友と呼んでいるのか……」

 

剣斗のこのような問いかけに、全員が無言で頷いていた。

 

「だが、何故と言われてもそこまで大した理由はないのだがな……」

 

「え!?そうなんですか!?」

 

そんなにたいそうな理由はないと知り、絵里は驚いていた。

 

「奏夜、お前はこの前の修練場の時に我が友のことを最期まで信じてくれただろう?あの時から私はお前の友になりたいと思っていたのだ」

 

「剣斗……」

 

奏夜は番犬所からの指令で修練場を訪れたのだが、その時、修練場に保管されていた魔竜の眼を1人の男が持ち出してしまった。

 

その男は飯田玲二という、修練場の教官の1人だった。

 

玲二は魔竜の眼を代々管理していた里の人間だったのだが、その力の危険さを知り、里の総意として魔竜の眼を秘密裏に処分しようとしていた。

 

同じ任務に同行していた統夜とリンドウは、玲二が魔竜の眼を悪用しようとしていると疑っていたのだが、奏夜はそうは思えなかった。

 

そんな奏夜の純粋な思いに統夜とリンドウは心を打たれ、玲二のことを信じてみることにしていた。

 

結果的に玲二はジンガに殺されてしまうのだが、奏夜は玲二のことを信じ続けていた。

 

「そういえば、そんなことがあったと言っていましたね」

 

奏夜はこの話をμ'sのメンバーにもしていたため、海未たちはその時のことを思い出していた。

 

「奏夜はまっすぐで、曇りなき心を持つ男だ。そんな男だから私は友になりたいと思っていたのだよ。元老院からの指令でこの学校に来ることになり、お前と再会した時は本当に嬉しかったぞ」

 

「まさかと思うけど、その嬉しさのあまり、奏夜のことを友って呼んでた訳?」

 

「うむ。そんな感じだ」

 

剣斗が何故奏夜のことを友と呼ぶのか、その真意がわかると、奏夜以外の全員は少しだけ呆れていた。

 

「俺も最初は戸惑ったけどさ、不思議と悪い気持ちはしなかったんだ。剣斗がアイドル研究部の顧問になってくれて、共に時間を過ごしていくうちに、俺と剣斗は本当の意味で盟友になれたと思うんだ」

 

「その通りだ!お前も同じ事を思っていてくれて嬉しいぞ!」

 

奏夜は今、剣斗のことを心から友だと思うようになっており、そんな奏夜の気持ちを聞けた剣斗は喜びを隠せずにいた。

 

「私は我が友のことを最後まで信じてくれた。だからこそ私はお前の力になってやりたいと思っていたのだよ」

 

「なるほど。だから小津先生は私たちのことを積極的に応援してくれたのですね?」

 

海未のこのような問いかけに、剣斗は「うむ」と返事をしていた。

 

「だからこそ私は奏夜の曇りなき心を守ろうと思ったのだ。お前は私にとって、大切な友なのだから……」

 

剣斗はしみじみとこのように答えており、さらなる剣斗の真意が奏夜にとっては嬉しかった。

 

海未たちもまた、剣斗が何故奏夜のことを友と呼ぶのかを理解し、その友のために力を尽くしていることを理解していた。

 

そのため、海未たちもまた、そんな剣斗の姿勢が嬉しいからか、表情が穏やかになっていた。

 

「……さて、この話はもう終わりだ。これからはみんなバラバラになってしまうだろう?大丈夫だ。そうだとしても私たちの心は1つなのだから……」

 

剣斗がこのように話をまとめていたのだが、奏夜たちは穏やかな表情のまま、その話を聞いていた。

 

こうして音ノ木坂学院のスクールアイドルグループであるμ'sは、活動を一時的に休止したのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後、穂乃果は職員室にいる剣斗を訪ねていた。

 

剣斗にとあるものを手渡すためである。

 

「……穂乃果か。もしかして、退部届か?」

 

「……はい」

 

そう答えると、穂乃果はアイドル研究部。高坂穂乃果と記入された退部届を剣斗に手渡した。

 

「……穂乃果。私がこんなことを言うのはおかしいかもしれないが、本当にいいのか?お前の気持ちは察するが、何もスクールアイドルを辞めることはないと思うが……」

 

剣斗は穂乃果の意思を確認するために、あえて穂乃果のことを引き止めていた。

 

「……いいんです。元々学校を存続させるためにスクールアイドルを始めたんで。それに、今のμ'sに私の居場所はありませんから……」

 

このように語る穂乃果の表情はどこか悲しげだった。

 

(穂乃果……。あんなことを言うとはらしくないが、色々と責任を感じてる故の言葉なのだろうな……)

 

剣斗はそんな穂乃果の表情からこのようなことを感じ取っていた。

 

「……穂乃果。お前の気持ちはわかった。これは預かっておこう」

 

「ありがとうございます……。失礼します」

 

穂乃果は力無い感じで剣斗に一礼をすると、職員室を後にして、そのまま帰路についたのだった。

 

その途中、穂乃果は浮かない表情のまま家に向かって歩いていた。

 

そして、穂乃果はスクールアイドルを辞めたことについて考えていた。

 

(……私が周りを見ていなかったから、ことりちゃんの留学に気付けないどころか、ことりちゃんを傷付けた……。それに、そーくんにあんな酷いことを言って、それがきっかけでそーくんは死にそうになった……!)

 

穂乃果はやはり、自分の言動に責任を感じているみたいだった。

 

(そんな私は、もうスクールアイドルとしてはいられない……)

 

そんなことを考えていたからこそ、穂乃果はスクールアイドルを辞める決意をしたのであった。

 

(これで良かったんだ……。これで……!)

 

穂乃果は自分の選択は間違っていないと自分に言い聞かせていたのだが、やはり心には迷いがあるみたいだった。

 

こうして穂乃果はそんなことを考えながら家に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして穂乃果が家に帰っている頃、奏夜は教室の自分の席に座っていた。

 

「さて……。まずは何から始めるべきか……」

 

奏夜はこのように呟くと、何かを考え込んでいた。

 

《おい、奏夜。あいつらにあそこまでの啖呵を切っておいて何も考えてないのかよ》

 

キルバは奏夜が何も考えずにあそこまでのことを言ったと思ってしまったからか、呆れ果てていた。

 

(そんな訳はないだろ。だけど、今回のことはちょっとでも失敗すれば全てがパーだからな。だからこそ慎重に策を立てないと……)

 

奏夜としては穂乃果やことりの問題を解決させるためにある程度のビジョンが描いていたのだが、失敗は許されないため、いつも以上に慎重だったのである。

 

《ま、それならいいがな》

 

どうやら奏夜の説明を聞き、キルバは納得したようであった。

 

奏夜とキルバがテレパシーで話をしていたその時だった。

 

「あっ、奏夜君!まだ教室にいたんだ」

 

教室にヒフミトリオの3人が入ってきて、その1人である、短いツインテールが特徴のミカが奏夜に声をかけてきた。

 

「よう、ヒフミの3人」

 

「アハハ……やっぱその呼び方なんだね……」

 

奏夜はずっとこの3人のことはヒフミトリオと呼んでおり、そのことにミカは苦笑いをしていた。

 

「それよりも聞いたよ!なんだか、大変なことになってるみたいだね」

 

「まぁな。でも、大丈夫……」

 

大丈夫だ。ヒデコの問いかけにこのように返す奏夜だったが……。

 

(……ん?待てよ?)

 

それと同時に何か思いついたみたいだった。

 

しばらく考えていると……。

 

(……!繋がった!これはまさに……脳細胞がトップギアってところだな)

 

《おいおい、何言ってんだよ……》

 

奏夜は妙案を思いついたみたいなのだが、奏夜の言い方にキルバは呆れていた。

 

「なぁ、3人とも。ちょっといいか?3人に頼みたいことがあるんだ」

 

「頼みたいこと?」

 

奏夜が唐突にこのようなことを言うのが意外だったからか、フミコは首を傾げていた。

 

「私たちに出来ることなら何でも言って!」

 

ミカは、奏夜が自分たちのことを頼ってくれたのが嬉しかったからか、喜びを露わにしながら奏夜の相談に乗ろうとしていた。

 

それはヒデコとフミコも同じ気持ちだったため、ウンウンと頷いていた。

 

「すまんな。実はな……」

 

奏夜は話をする前に今のμ'sがどのような状態になっているのかを説明した。

 

3人はことりの留学のことは知っていたものの、それが引き金となって穂乃果とことりがギクシャクしてしまったことと、さらにそれがきっかけで穂乃果はμ'sを辞めることになってしまったことを奏夜は説明していた。

 

「そんなことがあったんだね……」

 

「だから最近奏夜君たちはあまり一緒にいることがなかったんだね」

 

奏夜から事情を聞いた3人は、μ'sが事実上休止状態になったことに驚いており、さらには奏夜たちのクラスでの動きを思い出し、その疑問に納得していた。

 

「それでな、3人にお願いしたいんだけど……」

 

奏夜は3人にお願いしたいことを話したのだが、話がそこまで大それた話でなかったため、面食らっていた。

 

「え、そんなんでいいの?」

 

「あぁ。これは3人じゃないと出来ないことだからな」

 

3人は奏夜のお願いに驚くのだが、奏夜はそんな3人だからこそ頼めることだったため、お願いをしていた。

 

「わかった!任せといて!」

 

「そうだね。このままμ'sがなくなっちゃうのは嫌だもんね!」

 

ミカとヒデコはやる気に満ちた感じで、奏夜のお願いを了承していた。

 

「すまんな……。本当に助かるよ」

 

「そんなに謝らないでよ。私たちだって、ずっとμ'sのお手伝いをしてたんだよ?こういう時だからこそ私たちを頼ってほしいな」

 

奏夜は心から3人に感謝をしていたのだが、フミコはそこまで申し訳なさそうにしている奏夜のことをなだめていた。

 

「……そうだな……。そうだったな……」

 

ヒフミトリオの3人もまた、μ'sのことを手伝っている。

 

そんな当たり前なことを思い出した奏夜は穏やかな表情で微笑んでいた。

 

「それじゃあ、3人とも、頼むな」

 

「任せといて!」

 

「奏夜君!これが上手くいったらみんなで遊ぼうね!」

 

「あぁ!ぜひ誘ってくれよな」

 

奏夜のこの言葉を聞いて満足したのか、ヒフミトリオの3人は笑みを浮かべながら教室を去っていった。

 

「さてと……。ここからが本番だな」

 

ヒフミトリオの3人がいなくなり、奏夜は真剣な表情を浮かべていた。

 

《おい、奏夜。あんな作戦で本当に上手くいくのか?》

 

キルバもまた、奏夜の作戦を聞いていたのだが、その作戦が上手くいくのかどうか疑問だった。

 

(上手くいくさ。きっと穂乃果は大切なことを思い出す。きっと俺たちのところに戻ってきてくれるさ)

 

《そう上手くいくとは思えないがな》

 

キルバは奏夜の作戦が上手くいくとは思えなかった。

 

(ことりの留学を阻止するのだって、鍵を握るのは穂乃果だ。あいつの力ならきっと……)

 

この作戦が上手くいけば、そのままことりの留学問題もどうにか解決出来るかもしれないと期待を寄せていた。

 

《ま、あとはお前さんたちの努力次第だ。せいぜい頑張るんだな》

 

奏夜の立てた策がどのような結果で終わろうとも、キルバは奏夜のことを応援しようとしていた。

 

(あぁ。もちろんそうするつもりさ)

 

奏夜は海未たちにこの問題を解決すると啖呵を切った以上、全力で結果を残そうと考えていた。

 

(けどまぁ、今は慌てて動く時じゃないからな……。本当に動き始めるのはこれからだ。だからこそ、俺は目の前にある騎士の使命を全うするとしよう)

 

奏夜はあることをヒフミトリオの3人に託したため、事が動くまでは魔戒騎士として使命を果たそうと考えていた。

 

そのため、席を立つと、帰り支度を整えてから番犬所へと向かっていった。

 

奏夜は番犬所に到着すると、ロデルに今のμ'sの近況と、これから自分がしようとしていることを報告していた。

 

当然ロデルはそのことに驚くのだが、μ'sのことを応援しているロデルは全力でそのことを成すよう、奏夜に告げたのである。

 

この日は指令はなかったため、奏夜はロデルに一礼をしてから番犬所を後にした。

 

こうして、μ'sは一時的に活動休止となり、事実上崩壊してしまった。

 

しかし、奏夜はまだ諦めておらず、この問題をどうにか解決させようとしていた。

 

そして、他のメンバーたちは、それぞれの思いを胸に一時的にバラバラの道を行くことになった。

 

しかし、自分たちの本当の気持ちを知っているため、穂乃果とことり以外の全員の気持ちは1つにまとまっていた。

 

そして、それと同時に本心がわからない人物が2人いた。

 

……自らスクールアイドルを辞める決意をした穂乃果と、自らの夢のために海外へ留学することになったことりである。

 

穂乃果にしてもことりにしても、それが2人の本当にやりたいことではないのではないかと奏夜は確信していた。

 

そして、奏夜はそれを確かめるために動き始める。

 

9人の女神であるμ'sを、本当の意味で再生させるために……。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『まったく……。ここまでややこしいことになるとはな。おい、奏夜。本当に上手くいくんだろうな?次回、「再生」。これがμ's再生の序章になればいいんだがな』

 

 




今回は穂乃果とことり以外のμ'sメンバーがこれからどうしていくのかが明らかになりました。

μ'sは事実上活動休止となってしまいましたが、メンバーの心は1つだと思います。

そして、何故剣斗が奏夜のことを友と呼んでいるのかが明らかになりました。

ここまで大切に思われているとは奏夜はイイ友を得ることが出来ましたよね。

そんな剣斗の存在が奏夜の力になっていると思います。

さて、次回は崩壊したμ'sを何とかするべく奏夜が動き出します。

奏夜はμ'sを救うためにどのような行動を取るのか?

そして、穂乃果はこのままスクールアイドルを辞めてしまうのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第51話 「再生」

お待たせしました!第51話になります。

僕が今夢中になっているFF14が新生してから4周年になりました。

ゲーム内でも新生を祝うイベントがあったり、新生祝いの14時間生放送があったりと大いに盛り上がりを見せています。

今は妖怪ウオッチともコラボしてますしね。

それも楽しみつつ、これからもFF14を楽しみたいと思います。

さて、今回はμ'sを再生させるために奏夜が動き始めます。

奏夜はいったいどのような行動を取るのか?

それでは、第51話をどうぞ!





穂乃果がスクールアイドルを辞めることを決意してしまったため、μ'sはバラバラになってしまった。

 

そんな中、奏夜はまず最初に穂乃果の問題を解決させるために動き出そうとしていた。

 

しかし、奏夜は自ら動こうとはしておらず、成果らしい成果はないまま数日が経過してしまった。

 

この日の放課後、奏夜は早々に学校を後にすると、町の見回りを兼ねてエレメントの浄化を行っていた。

 

「……はぁっ!!」

 

奏夜は秋葉原某所にあるオブジェに来ており、そこから飛び出してきた邪気を魔戒剣の一閃によって斬り裂いていた。

 

「さてと……」

 

邪気を斬り裂いたことを確認した奏夜は魔戒剣を緑の鞘に納めていた。

 

 

『おい、奏夜。あれから数日が経ったが、何故お前は騎士の使命ばかりで何も動こうとはしないんだ?』

 

キルバはずっと気になっていた疑問を奏夜にぶつけていた。

 

キルバの言う通り、奏夜はこの数日、魔戒騎士の仕事に専念しており、μ'sのために何かする気配は微塵も感じられなかった。

 

「焦るなよ、キルバ。俺は既に手を打ってあるんだ。事を成すってことは、何もあちこち動き回ることだけが全てじゃないだろ?」

 

『確かにそうだが……』

 

「それに、希じゃないけど、星は動き出したみたいだぜ?ほら」

 

奏夜はとある方向を見ると、偶然にもヒフミトリオと行動を共にしている穂乃果の姿を発見した。

 

すぐにヒフミトリオや穂乃果とすれ違うのだが、穂乃果は気まずそうな雰囲気を出して奏夜と目を合わせようとはしていなかった。

 

しかし、ヒフミトリオの3人は同時に奏夜とアイコンタクトを取り、奏夜に「後は任せてよ」と伝えようとしていた。

 

そんなヒフミトリオの意思を汲んだ奏夜は、無言で頷き、その場を後にしていた。

 

『なるほどな。と言いたいところだが、それがどうしたって言うんだ?あいつら、単純に遊びに行くように見えるのだが』

 

「確かにな。まぁ、問題はないさ。あの3人ならきっと穂乃果のやる気を取り戻してくれる。俺はそう信じている」

 

奏夜はμ's結成当初から協力してくれているヒフミトリオの3人だからこそ、奏夜は信頼してある事を頼んだのである。

 

『お前の考えてることはよくわからんからこそ、俺はお前に任せることにするぞ。それがμ'sのためなのだろう?』

 

「そういうことだ。ところでキルバ、他に浄化しなきゃいけないオブジェはあるのか?」

 

『いや。大輝とリンドウがほぼ終わらせていたからな。もう浄化しなきゃいけない場所はないぞ』

 

現在は時間も時間であるため、今日のエレメントの浄化はほぼ終わっており、まだ終わってないところを奏夜が浄化したのである。

 

「了解。それじゃあ、町の見回りを行うとしますか」

 

こうしてエレメントの浄化を終えた奏夜は、そのまま町の見回りを行うことにしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜がヒフミトリオの3人や穂乃果とばったり会う1時間前、そのヒフミトリオの3人は、学校の正門前にいた。

 

ヒフミトリオの3人は、奏夜に頼まれたあることを実行しようとしていたのだが、その前に穂乃果が早々に帰ってしまったため、なかなかそれを実行に移せなかったのであった。

 

「それにしても、μ'sが休止してから数日が経つけど、何だか今まで以上に気まずい空気が流れてるよね……」

 

不意にフミコが口を開くのだが、奏夜たちの関係がギクシャクしているせいでクラスの中は気まずい空気が溢れていた。

 

「今まであんなにべったりだったのにこうも離れてたらねぇ……」

 

「そうだよねぇ。ことりちゃんは留学準備で最近学校に来てないし……」

 

ヒデコの指摘通り、奏夜たち4人は休み時間になると常に一緒だったのだが、最近はクラス内で話をすることもなかった。

 

さらに、μ'sが活動休止した翌日あたりから、ことりは留学準備のために学校を休んでいたのであった。

 

「よし、奏夜君にも頼まれた訳だし、こういう時こそ私たちが頑張らないとね!」

 

ヒフミトリオの3人は自分たちだからこそ頼めると前置きをされた上で、とあることを奏夜に頼まれていた。

 

その頼みを聞くために、ヒデコは気合を入れていた。

 

すると、学校の入り口から穂乃果が姿を現していた。

 

どうやら今から帰るみたいだった。

 

それを見ていたヒフミトリオの3人は穂乃果に近付いていった。

 

「ほ〜のかっ、たまには一緒に帰らない?」

 

ヒデコはいつもと変わらない朗らかな声で穂乃果のことを誘っていた。

 

「うん、いいよ」

 

穂乃果はそれも良いと考えていたからか、ヒデコの提案をすぐに受け入れていた。

 

「穂乃果はこれからは放課後空くでしょ?だってスクールアイドルを辞めたんだし」

 

「ちょ、ちょっと!言い過ぎだよ!」

 

ヒデコの言葉には棘があったため、慌ててミカが宥めていた。

 

「気にすることないよ。だって穂乃果は学校を守るために頑張ったんだよ?」

 

「そうだけど……」

 

ヒデコの言葉はその通りであるのだが、ミカは釈然としていなかった。

 

「学校を守るためにスクールアイドルを始めて、その目的が達成されたから辞めた。何も気にすることないじゃない」

 

「う、うん……そうだよね……」

 

ことりの留学や奏夜への失言があったというのもあるが、穂乃果がスクールアイドルを辞めた1番の理由がそこであるため、穂乃果は苦笑いをしていた。

 

そして、こう答えることで、スクールアイドルを辞めたことを正当化し、これで良かったと自分に言い聞かせていた。

 

「それに、学校のみんなは穂乃果たちに感謝をしてるんだよ!」

 

「うんうん!」

 

「μ'sを見てウチの学校を知ったって人もたくさんいたみたいだし!」

 

ヒデコの言葉にはフミコが同意しており、ミカがμ'sの知名度が高くなっていることを語っていた。

 

「……ありがとう……」

 

穂乃果は笑みを浮かべるのだが、心の中に迷いがあるからか、心の底から笑ってはいなかった。

 

「ほら、穂乃果ちゃんと帰るのは久しぶりなんだから、早く行こっ!」

 

ミカは穂乃果の手を取ると、そのまま穂乃果の手を引いて移動し、ヒデコとフミコもその後をついていった。

 

 

 

 

 

 

穂乃果がヒフミトリオの3人と一緒に帰っている頃、海未は弓道部の練習に参加していた。

 

μ'sが一時的に活動休止すると決まってから、海未はスクールアイドル活動から離れて、弓道部の活動に専念していた。

 

ことりが海外へ留学し、それが引き金となり、穂乃果がスクールアイドルを辞めてしまう。

 

そのため、幼い頃からずっと一緒だった3人は大きくすれ違ってしまった。

 

そのため、海未は気持ちを落ち着かせたいがためにスクールアイドルを離れたのであった。

 

「……」

 

海未は矢を射るために精神を集中させるために弓を引くのだが、心ここにあらずだからか、完全に集中出来ずにいた。

 

そのため、狙いが若干ではあるがずれてしまい、矢は真ん中からは外れてしまった。

 

とは言ってもほぼ真ん中には命中していたのだが……。

 

「最近凄く頑張ってるね!」

 

「はい!大会が近いですから」

 

海未は弓道部の大会に出場するために練習を頑張っていた。

 

そんな海未の頑張りを、弓道部の先輩は称賛していた。

 

「それにしても、スクールアイドルはもういいの?」

 

「……」

 

海未がずっとスクールアイドルとして頑張っていたことを知っていた弓道部の先輩がこのような素朴な疑問を投げかけるのは自然なことであった。

 

しかし、海未はその質問に答えることが出来なかった。

 

それは、海未の中にまだスクールアイドルとしての未練が残っていることが予想される。

 

先輩の質問に答えることなく、海未は再び矢を射ろうとしていた。

 

海未はなかなか集中することが出来ない状況下で、どうにか弓道部の練習を行っていたのであった。

 

 

 

 

 

 

それと同じ頃、絵里と希は、生徒会室で生徒会の仕事を行っていた。

 

「……奏夜君のことはもちろん信じてるけど、本当にこれで良かったんやろうか?」

 

生徒会の仕事をしながら、希は浮かない表情を浮かべていた。

 

「そんなの、当たり前じゃない。今のこの状況を何とかしてくれるのは奏夜だけだと思うわ。それに……」

 

「それに?」

 

「9人いないとμ'sじゃないって言ったのは希でしょ?」

 

「それはそうやけど……」

 

確かに希はμ'sは9人いてこそであると言っているため、これ以上は何も言えなかった。

 

「それに、ことりの留学や穂乃果のことがなくたって、いつかはこの問題にぶつかることになっていたわ」

 

絵里は遅かれ早かれμ'sに大きな問題がぶつかるだろうと予想をしていた。

 

「1年だけど学校が存続されて、私たちは何を目標に頑張ればいいのか、考えなきゃいけない時が来たのよ」

 

穂乃果がスクールアイドルを辞めたと言ったのはことりが留学するという事実があったからかもしれないが、学校が存続され、大きな目標が無くなってしまったことが大きいのではないかと絵里は予想していた。

 

「……確かにそうやな」

 

「でも、大丈夫よ。私たちがどれだけ大きな困難が待ち受けようとも、奏夜が私たちを支えて、導いてくれるから……」

 

奏夜はμ'sがどれだけ困難にぶつかろうとも、μ'sのことを信じて支えてくれた。

 

それだけではなく、自分たちをここまでの高みまで導いてくれた。

 

そんな奏夜の活躍を理解しているからこそ、絵里は奏夜のことを心から信じていたのであった。

 

「確かにそうやね。奏夜君は9人の女神であるμ'sのことを守ってくれる騎士やからね」

 

「ふふ、そうね。だからこそ、大丈夫よ。奏夜ならきっと……」

 

そんな奏夜であるからこそ、今自分たちが抱えているこの問題を解決してくれる。

 

絵里はこのような確信を持っていたのであった。

 

「さぁ、私たちは今出来ることをやってしまいましょう!」

 

「そうやね」

 

こうして絵里と希は奏夜のことを信じながら生徒会の仕事に集中するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

ヒフミトリオのと一緒に帰ることになった穂乃果は、普通の女子高生らしく寄り道をしていた。

 

話をしながら街を歩いたり、秋葉原で人気のクレープ屋に寄り、美味しいクレープに舌鼓を打ったりしていた。

 

そんな4人がばったり奏夜とすれ違ったのは、クレープ屋に立ち寄った直後であった。

 

「……まさか、あんなところで奏夜君と会うなんてねぇ」

 

奏夜とすれ違ってすぐにフミコがこのように呟いていた。

 

「穂乃果。そんなに気まずそうにしなくてもいいのに」

 

「だって……」

 

先ほども奏夜を見て穂乃果は気まずそうにしていたため、ヒデコがなだめるのだが、穂乃果は俯いていた。

 

「そういえばさ、奏夜君って前から後輩先輩問わず人気があったけど、μ'sのマネージャーをやるようになってさらに人気になったよね」

 

「え!?そうなの!?」

 

穂乃果は奏夜が学内で人気者であることを知り、驚きを隠せずにいた。

 

「それに、奏夜君って時々何を考えてるかわからない時があるでしょ?普段の明るい奏夜君とその奏夜君とのギャップがあるから人気なんだよ」

 

「なるほど……」

 

このように解説をするフミコの説明は的を得ているところがあった。

 

奏夜が魔戒騎士であることを知っているのはμ'sの9人と剣斗だけであり、他の人たちは奏夜が魔戒騎士であることを知らない。

 

それ故に、奏夜の言動が時々ミステリアスに感じられる時があり、奇しくもそれが学内での奏夜の人気に繋がっているみたいだった。

 

「でも、μ'sのメンバーと奏夜君の絆は深いから、全員がなかなか告白までいけないのもまた事実なのよねぇ」

 

ヒデコの指摘通り、奏夜たちは先輩禁止を行ってからその絆がより一層深まり、他者が介入しにくい状況になっていた。

 

「メンバーの誰かと付き合ってるんじゃないかって噂が出ているくらいだもんね」

 

奏夜たちの仲はとても良好だったため、このような噂が流れるのも自然なことであった。

 

「ねぇねぇ、穂乃果ちゃん。奏夜君って本当に彼女がいないのかなぁ?」

 

「うっ、うん。そうだと思う。彼女がいるなんて話、聞いたことないし」

 

穂乃果は実際に奏夜に彼女がいるという話を聞いたことはなかったため、ミカの質問に正直に答えていた。

 

「……だったら、奏夜君に告白してみようかなぁ」

 

「え!?」

 

ミカの口から出た衝撃の発言に、穂乃果は驚愕していた。

 

「いやぁ、私ね、初めてクラスが一緒になった時から、奏夜君のこといいなぁって思ってたんだよねぇ……」

 

どうやらミカは奏夜に一目惚れをしているようであり、その告白が恥ずかしかったからか、頬を赤らめていた。

 

ヒデコとフミコはその話を知っているからか、そこまで驚いてはいなかった。

 

「でも、ミカって子供っぽいところがあるし、奏夜君は振り向いてくれないと思うけどな」

 

「むー……!!これから色々大きくなるんだもん!」

 

ヒデコがニヤニヤしながらミカのことをからかうと、ミカはぷぅっと頬を膨らませていた。

 

そんなやり取りの後、ヒフミトリオの3人は笑い合っていたのだが、穂乃果だけは俯いていた。

 

「……そんなの……やだよ……」

 

穂乃果は誰にも聞こえないくらい小さな声でこのように呟いていた。

 

すると……。

 

「……なんてね。確かに奏夜君のことは気になってるけど、憧れてるくらいが丁度いいって思ってるんだよね」

 

そんな穂乃果の心情を知っていたのか知らなかったのか、ミカはこのようなことを言っていた。

 

「……そうなんだ」

 

そんなミカの言葉を受けて、穂乃果は安堵したからか胸を撫で下ろしていた。

 

しかし……。

 

(……あれ?何で私、ホッとしてるんだろう……)

 

穂乃果は、何故自分がここまだ安堵しているのか疑問を抱いていた。

 

自分は確かに奏夜のことは好きだったが、μ'sがこのようなことになってしまい、奏夜が自分に振り向くことはないと思ったからである。

 

「ほらほら、奏夜君のことはともかくとして、ゲーセンでも寄ろうよ!」

 

「お、いいね!」

 

フミコはここで話題を切り替えると、ヒデコはとても乗り気であった。

 

「ほら、穂乃果ちゃん、行こっ!」

 

「うん!」

 

こうして穂乃果たち4人は近くにあるゲームセンターへと向かっていった。

 

スクールアイドルを辞めたことを後悔していないと自分に言い聞かせていた穂乃果であったが、この時から迷いが生じており、気持ちが大きく揺れていたのであった。

 

ゲームセンターに到着した穂乃果はそんな気持ちを振り切るためにクレーンゲームなど、ゲームに夢中になっていた。

 

そんな中、ヒフミトリオの3人はとあるゲームのところに移動していた。

 

「あっ……」

 

穂乃果もそのゲームのところに移動しており、そのゲームの筐体を見て反応していた。

 

そのゲームは、足を使ってリズミカルに矢印を踏んでいくダンスゲームであった。

 

「ねぇねぇ!次はこれをやろうよ!」

 

「いいねぇ!やろうやろう!」

 

ヒデコの提案にフミコはノリノリであり、最初にヒデコとフミコの2人がプレイすることになった。

 

ミカはキラキラと目を輝かせながら2人のことを応援しており、穂乃果は呆然としながらダンスゲームの様子を眺めていた。

 

そして、流れていた曲が終了すると、ダンス対決はヒデコに軍配が上がった。

 

「へへーん♪どう?」

 

「うぅ……。参った……」

 

ヒデコはダンス対決に勝利して誇らしげになっており、フミコは悔しそうにしながらも負けを認めていた。

 

2人のダンス対決は終わり、今度は穂乃果とミカの出番となった。

 

「穂乃果ちゃん、負けないよ!」

 

「あっ、うん……」

 

ミカと穂乃果はそれぞれお金を投入すると、慣れた感じで曲を選んでいた。

 

そして、選んだ曲が再生されたのだが……。

 

「……!!?」

 

ゲーム画面を見た瞬間、穂乃果の脳裏にはスクールアイドルとして努力していた日々がまるで走馬灯のように浮かび上がっていた。

 

スクールアイドルとしての穂乃果の努力は本物であり、穂乃果はスクールアイドルに対して、学校存続の手段以上の気持ちを持っていた。

 

どうやら穂乃果は、この一瞬で大切な何かを思い出したみたいだった。

 

そのため、すでに出てきている矢印に気付くことが出来なかった。

 

「穂乃果!始まってるよ?」

 

「!」

 

ヒデコに言われてようやく我に返ったのか、穂乃果は慌ててステップを踏み始めていた。

 

穂乃果がやってる難易度は「エクストラ」と難しい難易度なのだが、スクールアイドルとして努力をしてきた穂乃果は難なくステップを踏んでいた。

 

「おぉ!凄い凄い!」

 

「いい感じ!」

 

穂乃果の無駄のないステップに、ヒデコとフミコは感嘆の声をあげていた。

 

ステップを踏んでいる時の穂乃果はまるでステージの上にいるかのように明るい表情をしていた。

 

最初に思い切りミスはしたものの、最後の最後までミスはなく終えることが出来た。

 

対決したミカも頑張ってはいたのだが、ほぼノーミスの穂乃果には及ばず、バテていた。

 

「ふぅ……。スッキリした♪」

 

穂乃果は思い切り体を動かせたからか、満足そうな表情をしていた。

 

「凄い……!いつの間に練習してたの?」

 

「え?いや、全然……」

 

ヒデコは穂乃果のダンスを見て驚きを隠せなかった。

 

穂乃果がスクールアイドルを離れたことはわかっていたことなのだが、先ほどの動きはそれを感じさせないものだった。

 

「スタートでミスしてなければ凄いスコアだったんじゃない?」

 

「やっぱりずっとダンスを練習してきただけあるねぇ……」

 

フミコは穂乃果のスコアを賞賛しており、ヒデコは改めて穂乃果が今まで努力してきたことを実感していた。

 

「……」

 

穂乃果はジッと画面を見つめていたのだが、そこには「AAA」と表情されていた。

 

その画面を見た時、初めてμ'sがスクールアイドルのランキングに載ることが出来た時のことを思い出していた。

 

この時、穂乃果の心は大きく動いていたのであった。

 

こうして、ダンスゲームが終わった頃には夕方になっており、今日は解散することになった。

 

「穂乃果、じゃあね!」

 

「うん!今日はありがとう!バイバイ!」

 

「「「バイバイ!」」」

 

こうして穂乃果はヒフミトリオの3人と別れたのだが、穂乃果はしばらくの間その場に立ち尽くしていた。

 

(……そうか……。そうだったんだ……。やっぱり……私は……)

 

この時には穂乃果の気持ちは固まっており、穂乃果はとあることを決意したのであった。

 

こうして、決意を固めた穂乃果はそのまま帰路についたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、奏夜はいつものようにエレメントの浄化をある程度終えてから学校へ登校した。

 

教室に入ると最初にヒフミトリオの3人と目が合ったのだが、奏夜たちは何かを話すことはせず、アイコンタクトでコミュニケーションを取っていた。

 

奏夜はヒフミトリオの3人が動いてくれたことを理解しており、この些細なやり取りだけでヒフミトリオの3人に感謝していた。

 

ことりは今日も学校に来ておらず、穂乃果は相変わらず奏夜や海未のところに行って話をすることはなかった。

 

しかし、この日の昼休み。そのような状況に変化が訪れる。

 

昼休みになり、奏夜がコンビニで買ってきたパンを食べるために移動しようとしたその時だった。

 

「……そーくん」

 

今まで奏夜を遠ざけていた穂乃果が奏夜に話しかけてきたのである。

 

突然の出来事にヒフミトリオの3人や海未は当然驚いていたが、それだけではなく、クラスメイトたちも同様に驚いていた。

 

「……穂乃果か。どうしたんだ?」

 

奏夜は気まずそうな雰囲気は一切出さず、いつも通り穂乃果に接するよう心がけていた。

 

「……ちょっといい?そーくんに話したいことがあるの」

 

「ああ、構わないぞ。だが、ご覧の通り俺はどっかでパンを食いに行こうと考えてる。屋上でもいいか?」

 

「うん。私もその方がいいって思ってた」

 

「それじゃあ、行こうぜ。穂乃果もパンを持っていけよ。話しながら食おうぜ」

 

「あ、うん……」

 

穂乃果は急いで自分の鞄から昼食であるパンを取り出すと、奏夜と一緒に教室を後にして、屋上へと向かった。

 

その途中、校内にある自販機でジュースを購入してから屋上へと向かうのだが、自販機を離れた直後に絵里と希の2人とすれ違った。

 

穂乃果はμ'sを辞めた手前、気まずそうにしていたのだが、奏夜は一切言葉を発することはしなかった。

 

その代わり、2人に対してウインクをして、そのまま屋上へと向かっていった。

 

奏夜が動き出す。

 

先ほどのウインクを見ただけで、希と絵里はそれを理解していた。

 

そのため2人は奏夜が動き始めたことをμ'sメンバーと剣斗に伝達していた。

 

μ'sメンバーは奏夜が動き出したことを知るとようやく奏夜が動きを見せたのかと安堵しており、剣斗に至っては興奮を隠せずにいた。

 

μ'sのメンバーも剣斗も、奏夜に大きく期待していることなど知る由もなく、奏夜と穂乃果は屋上へとたどり着いた。

 

「……それで?どうしたんだ、穂乃果?改まって話だなんて……」

 

「……うん……。あのね……」

 

穂乃果はどうにか話を切り出そうとするのだが、いざ奏夜を目の前にするとなかなか話を切り出せなかった。

 

「私、気付いたことがあるの」

 

しかし、勇気を振り絞り、どうにか口を開いていた。

 

「気付いたこと?」

 

奏夜は穂乃果の言葉をおうむ返しのように繰り返していた。

 

「私ね、この学校を救うためにスクールアイドルを始めたけど、やっているうちに私は歌うことや踊ることが好きなんだなってわかったの」

 

「……」

 

穂乃果が大事なことを思い出し、奏夜は心の中では大きくガッツポーズをしていたのだが、それを表に出すことはしなかった。

 

そのため、ジッと穂乃果の話を聞いていた。

 

「学校を救いたいって気持ちはあったし、実際に学校も救えた。だけど、私はこれからも多くの人に歌を届けたい。そう思ったの!だから……!」

 

穂乃果はここで1度深呼吸をしてから再び口を開いた。

 

「……私、スクールアイドルを辞めたくない!スクールアイドルを続けたいの!」

 

「……」

 

穂乃果の本当の気持ちを知り、奏夜は心の中で大きく喜んでいたのだが、それを表に出すことはしなかった。

 

それだけではなく、奏夜は予想外の言葉を穂乃果に投げかけたのであった。

 

「……勝手だな。やったって意味はないと言ってスクールアイドルを辞めたくせに。すぐにスクールアイドルをやっぱり続けたい?そんなこと、通る訳がないだろ」

 

「……え?」

 

奏夜は自分の復帰を歓迎してくれると穂乃果は思っていたため、奏夜のまさかの言葉に驚いていた。

 

《おい、奏夜!何故そこで穂乃果を拒絶するんだ!》

 

キルバは奏夜の真意を理解していないため、思わずテレパシーを使って異議を唱えていた。

 

(黙っててくれないか?俺には俺の考えがあるんだ)

 

どうやら奏夜には何か考えがあるみたいであり、キルバの異議をシャットアウトしていた。

 

「それに、どんだけ練習したってA-RISEには追い付けないんだろ?そう言って辞めていった奴を再び入れることを俺は認めない」

 

奏夜は鋭い目付きで穂乃果を睨みつけながらこう言い放っていた。

 

「あ、あれは……!今思えば馬鹿なこと言っちゃったなって思ってる!だけど、私は本気でスクールアイドルを頑張りたいって思ってるの!」

 

「口ではそんなこと、いくらでも言える。お前がμ'sのことを裏切ったことに変わりはない。そんなんでのこのこと戻ってこられると本気で思っているのか?」

 

奏夜はぐうの音も出ない程に穂乃果を説き伏せようとしていた。

 

これは本気でそう思っている訳ではなく、穂乃果の覚悟が本物かどうか確かめるため、あえて悪役を演じていたのである。

 

生半可な覚悟であれば何も反論は出来ないが、穂乃果ならきっと自分の気持ちを伝えて反論する事が出来る。

 

奏夜はこのように信じているからこそ、あえてこのような回りくどい手段に出たのだ。

 

「……自分勝手なことを言ってるのはわかってる!今更謝ったって、許されないことをしたこともわかってる!でも!」

 

穂乃果は正論による厳しい口撃をしている奏夜に決して怯むことはなく、自分の思いを伝えようとしていた。

 

「私、本気でスクールアイドルを頑張りたいの!誰のためでもない!私がそうしたいから!だから……もう一度、私をμ'sに……入れて欲しいの……!」

 

穂乃果は心の底からスクールアイドルを続けたいようであり、自分の思いを伝えた穂乃果の瞳からは涙が溢れていた。

 

「グスッ……ヒック……。そーくん……穂乃果のこと……信じてよぉ……!!」

 

最後の最後はまるで子供のように泣きじゃくり、奏夜を説得していた。

 

「うっ……!」

 

奏夜はまさか穂乃果がここまで泣き出すとは思っていなかったからか、たじろいでしまった。

 

『……おい、奏夜。ここまでだ。流石に穂乃果がいい加減な気持ちでスクールアイドルを続けたいと言っている訳ではないだろう?』

 

穂乃果が泣き出したことを見かねて、キルバがこのように口出しをしていた。

 

「わ、わかってるよ!」

 

キルバの言っていることは奏夜はわかっていることであり、奏夜は泣いている穂乃果をなだめることにした。

 

「……穂乃果」

 

奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべると、優しく穂乃果の肩に手を置いていた。

 

「ふぇっ……?そーくん?」

 

「穂乃果。意地悪なことを言ってすまなかったな。俺は、穂乃果の覚悟がどれだけなのか確かめたかっただけなんだよ」

 

奏夜は穂乃果に自分の真意を語ると、申し訳なさそうにしていた。

 

「そーくん……。それじゃあ……」

 

奏夜の真意を理解した穂乃果は泣き止むのだが、やはり瞳には涙が浮かんでいた。

 

「ああ。俺はお前の復帰を歓迎するぜ。だけど、俺がさっき言った事実は覆ることはない。だけど、1からやり直すことが出来る」

 

「そーくん……」

 

先ほど奏夜は穂乃果に厳しいことを言ったのだが、それは全て事実であり、それは決して覆らない。

 

しかし、それを後悔するのではなく、それを受け止めてやり直すことは出来る。

 

奏夜が穂乃果に伝えたかったのはこのことなのである。

 

「だからやり直そうぜ!俺も力を貸すからさ」

 

「うん……!」

 

穂乃果は涙を流しながら満面の笑みを浮かべており、そんな穂乃果を見た奏夜はドキッとしてしまい、頬を赤らめていた。

 

「さて、話は終わりだろ?そろそろ飯にしようぜ」

 

「うん!」

 

こうして穂乃果は再びμ'sに戻る決意を固め、奏夜と穂乃果は一緒に昼食をとることになった。

 

穂乃果は先ほどまでのような暗い顔はしておらず、奏夜の前ではいつもの穂乃果に戻ったみたいだった。

 

(良かった……。どうにかなったみたいだな。ヒフミトリオの3人に穂乃果の息抜きをお願いして正解だったみたいだな)

 

奏夜がヒフミトリオに頼んだこととは、偶然を装って穂乃果と一緒に帰ってもらい、息抜きをしてもらうことだった。

 

一緒に帰るということは、必ずどこかに寄り道をするだろうとそこまで読んでのことであった。

 

ヒフミトリオの3人がどこに立ち寄り、どのような方法で穂乃果を励ましたかは、奏夜は知らなかったが、穂乃果を焚き付けることに成功したことは事実である。

 

そのため、奏夜はヒフミトリオの3人に心から感謝をしていた。

 

そのため、今度何かお礼をしよう。

 

そんなことも考えていた。

 

(さて、穂乃果のことは何とかなったけど、次はことりの問題をなんとかしないとな……)

 

穂乃果がμ'sに戻りたいと決意をしてくれたおかげで、問題を1つ解決させた奏夜であったが、まだことりの問題が残っていた。

 

《おい、奏夜。ことりは留学するんだろう?俺たちがどうこう出来る問題ではないと思うがな》

 

(わかってるさ。だけど、ことりと穂乃果を仲直りさせなきゃいけない。このままさよならは悲し過ぎるからな。それに……)

 

《それに?》

 

(穂乃果だったら、ことりの留学をなかったことに出来る。何故かわからないけどそんな気がするんだよ)

 

奏夜の言葉は全く根拠のないものであり、それを聞いたキルバは呆れ果てていた。

 

《やれやれ……。その根拠のない自信はいったいどこから来るのやら……》

 

奏夜の言っていることは絵空事のようであるため、キルバはそのことを言おうとしたのだが、奏夜は本気でそう信じたいと思っているみたいだったのであえて口をつぐんでいた。

 

こうして、穂乃果の問題を無事解決させた奏夜だったが、ことりの問題がまだ残っているため、それを何とかしたいと思っていた。

 

穂乃果がμ'sに戻り、μ'sは少しだけ再生された。

 

本当のμ'sの再生はこれから始まるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『穂乃果が無事にμ'sに戻って安心したが、ことりの問題はいったいどうするつもりなんだ?次回、「気持」。ことり、お前はいったいどうしたいんだ?』

 

 




穂乃果がμ'sに戻る決意を固めました。

原作を見てても思ったけど、ヒフミトリオの3人の功績はかなり大きいですよね。

あの3人がいなかったらμ'sが再生することはなかったでしょうし。

穂乃果がどのように復帰するかを描くのはラブライブのSSの見どころだとは思いますが、僕はこんな感じにさせてもらいました。

あえて最初は厳しいことを言ったのが奏夜らしいと思います。

さて、次回からはさらに話が進んでいきます。

一期の話が終わるのはもうすぐですが、終わりの方で牙狼要素を出していきたいと思います。

最近はラブライブ要素が強めだったので。

それでは、次回をお楽しみに!



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第52話 「気持」

お待たせしました!第52話になります!

最近仕事の方が忙しく、なかなか小説を書く時間が取れませんでした。

まぁ、小説を書く時間が取れなかったのは、FF14に夢中になってたのも1つなんですが……(笑)

さて、前回穂乃果がμ'sに復帰し、物語は一気に進んでいきます。

これからのμ'sはいったいどうなってしまうのか?

それでは、第52話をどうぞ!




μ's結成当初から奏夜たちを支えてくれたヒフミトリオの3人のおかげで穂乃果は自分の本当の気持ちに気付き、μ'sに戻る決意を固めた。

 

穂乃果は奏夜にその旨を伝えると、最初は厳しい言葉で拒絶されるものの、穂乃果の覚悟が本物だと知ると、奏夜は心から穂乃果の復帰を歓迎していた。

 

その日の放課後、奏夜は穂乃果を連れてアイドル研究部の部室を訪れていた。

 

穂乃果の復帰を報告するためである。

 

「……ね、ねぇ、そーくん……。本当に部室に行かなきゃダメかな?」

 

1度は辞めてしまった手前、穂乃果はとても気まずそうにしていた。

 

「当たり前だろ。まずはみんなに穂乃果の復帰を報告しなきゃ」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

「大丈夫だ。みんなは絶対に穂乃果の復帰を歓迎してくれる。この俺が保証するよ」

 

奏夜は不安そうにしている穂乃果を安心させるために、優しい口調で穂乃果をなだめていた。

 

それで穂乃果は少しは安心したからか、笑みが戻っていた。

 

穂乃果が安心したところで、奏夜は穂乃果を連れてアイドル研究部の部室へと入っていった。

 

「……よう、みんな。いるか?」

 

奏夜はこう挨拶をしながら部室の中に入り、穂乃果もそれに続いていた。

 

現在部室には今も活動を続けている1年生組とにこがおり、それだけではなく、絵里と希。さらには剣斗も一緒だった。

 

「待ってたわよ。奏……夜……」

 

にこは奏夜の方を見るのだが、穂乃果の姿も見えたため、思わず固まってしまった。

 

「あ……!」

 

「穂乃果ちゃん!」

 

そして、凛と花陽は戻ってきた穂乃果を見て、表情が明るくなっていた。

 

それは2人だけではなく、絵里と希の表情も明るくなっており、剣斗はウンウンと頷きながら奏夜と穂乃果を歓迎していた。

 

「あっ、あのね……。みんな……」

 

穂乃果はオドオドしながらも、自分の思いを伝えようとしていた。

 

「ごめんなさい!スクールアイドルを辞めるだなんて言っちゃって!」

 

穂乃果は素直な言葉をぶつけ、頭を下げて謝罪をしていた。

 

「言っちゃいけないことを言ったのはわかってる!許されないことをしたのもわかってる!だけど、私は自分の歌や踊りを多くの人に伝えたいの!だから、私をもう一度μ'sのメンバーにして下さい!」

 

穂乃果のまっすぐな言葉を聞き、ここにいる全員は戸惑いを見せながらも穂乃果の復帰を喜んでいた。

 

……ただ1人を除いては。

 

「信用出来ないわね。あなたはスクールアイドルを辞めたのよ。頑張ったってA-RISEには敵いっこないって言ってね」

 

花陽以上にアイドルに対して情熱と憧れを持っているにこは、鋭い目付きで穂乃果を睨みつけていた。

 

にこは穂乃果がスクールアイドルを辞めた時もその時の言葉を許せなかったため、それが尾を引いていると思われる。

 

「あんたのスクールアイドルに対する思いは適当なものじゃない。そんな奴が戻ってきても迷惑なだけなんだけど」

 

「にこちゃん!流石にそれは言い過ぎだよ!」

 

「そうよ!にこちゃんだって穂乃果に戻って来て欲しいでしょ?」

 

にこの厳しい言葉に、花陽と真姫は異議を唱えていた。

 

「にこちゃん!私は!」

 

「……穂乃果」

 

穂乃果は自分がいい加減な気持ちでμ'sに戻りたいということを伝えようとするが、奏夜になだめられていた。

 

「……にこ。言っておくが、穂乃果の覚悟は本物だぞ」

 

奏夜は穂乃果に代わって、穂乃果が本気であることを伝えていた。

 

「何で奏夜がそうだと言い切れるのよ!」

 

「俺はさっきのにこみたいなことを言って、穂乃果の覚悟を確かめたからな。穂乃果が本気だからこそ俺は穂乃果をここに連れて来たんだ」

 

「……」

 

奏夜の言葉には説得力があったのだが、にこはそれでも納得していなかった。

 

「……にこ、1度裏切られたことのあるお前が穂乃果のことを許せないのはよくわかる。だけど、穂乃果はそれを背負ってまたスクールアイドルとして頑張ろうって思っているんだ」

 

「奏夜……」

 

「だから、マネージャーである俺に免じて穂乃果の復帰を認めてくれないか?頼む!」

 

奏夜は真剣な表情でにこに語りかけると、にこに対して頭を下げていた。

 

奏夜はそこまでしてでも穂乃果をμ'sに復帰させたいと思っていたからである。

 

「あ、あんた……」

 

ここまでのものを見せられると、流石ににこの心も動いたようであり……。

 

「……仕方ないわね。あんたがそこまでのことをしたら認めざるを得ないじゃないの……」

 

「にこちゃん……!」

 

にこは渋々穂乃果の復帰を認めるような口ぶりだったが、その表情は穏やかなものであった。

 

そんなにこを見て、穂乃果は安堵の表情を浮かべていた。

 

「でも、私はまだ完全に許した訳じゃないんだからね!穂乃果が本気なのかどうか……。これからしっかり見せなさい!」

 

「うん!もちろんだよ!」

 

こうして、1番穂乃果の復帰に反対していたにこも認めたことにより、穂乃果は事実上μ'sに復帰したのであった。

 

「……ハラショー♪」

 

「これで1つ、一件落着やな♪」

 

絵里と希は大きな問題が1つ解決したことを感じ取り、安堵していた。

 

そして剣斗もまた、穂乃果が戻って来たことに喜び、笑みを浮かべていた。

 

「フッ……。だったら、こいつはもう必要あるまい?」

 

そう言いながら、剣斗は1枚の紙を取り出した。

 

その紙を見た穂乃果は、驚きのあまり目を丸くしていた。

 

「それは、私の書いた退部届!小津先生、受け取ったはずじゃ……」

 

それは穂乃果が書き、剣斗に提出した退部届の用紙であった。

 

「うむ。受け取ったぞ。厳密に言えば受け取っただけだな」

 

どうやら剣斗は退部届の用紙を穂乃果から受け取ると、そのまま自分の机の棚にしまっていたのである。

 

「私は穂乃果が戻ってきてくれると信じていたからな。だから私は穂乃果の退部届を受理しなかったのだよ」

 

「小津先生……」

 

「やれやれ……。そんなことだろうと思ったよ」

 

剣斗がこのような行動を取ることは予想していたため、奏夜は苦笑いをしていた。

 

剣斗の粋な計らいのおかげで、穂乃果はアイドル研究部を辞めた訳ではなく、休んでいた扱いとなったのであった。

 

「こんなものは、こうしてしまおう」

 

剣斗は必要なくなった退部届をビリビリと破いており、細かく破くと、近くのゴミ箱にそれを捨てていた。

 

「さて……。穂乃果、μ'sに戻ってきたお前にやってもらわなきゃいけないことがある」

 

「やってもらいたいこと?」

 

「ああ。海未やことりとの仲直りだ」

 

「……」

 

奏夜の言葉を聞いた穂乃果の表情が一気に暗くなっていた。

 

「海未とはμ'sを辞めちまった手前、気まずくなっただけだと思う。だけど、ことりとはしっかり仲直りするべきだ」

 

「でも、穂乃果は……」

 

穂乃果は海未はともかくとして、ことりに合わせる顔はないと思っていたため、表情が暗くなっていた。

 

「お膳立てはしてやる。だから、お前は自分の今の気持ちを素直に伝えればいい」

 

「う、うん……」

 

「ま、まずはサボってた分、しっかり練習しないとな」

 

こう言い残すと、奏夜は部室を後にしようとしていた。

 

「奏夜君、どこに行くの?」

 

すかさず花陽が奏夜のことを引き止めていた。

 

「実はな、この後ことりの家に行く事になってるんだ」

 

「え!?そうなの!?」

 

奏夜がこれから行こうとしている場所が意外な場所だったため、凛は驚いていた。

 

「俺もことりと話をしたいと思ってたしな。この後海未と合流して行く事になってるんだよ」

 

「そう……なんだ」

 

未だに海未やことりとギクシャクしている穂乃果は、奏夜の話を聞いて少し複雑そうにしていた。

 

「心配するな。俺は必ずお前と海未やことりと仲直りをさせてみせる。穂乃果は今やれることをやっておいてくれ」

 

「う、うん……。わかった……」

 

奏夜は穂乃果を安心させるためにこうなだめていた。

 

「さてと、海未を待たせる訳にもいかないし、俺はもう行くな」

 

「奏夜君、行ってらっしゃい!海未ちゃんやことりちゃんによろしくね」

 

「わかった」

 

こうして奏夜はアイドル研究部の部室を後にすると、そのまま校門まで移動した。

 

そこで海未と待ち合わせをしているからである。

 

「……海未!待たせたな!」

 

奏夜が校門に到着すると、すでに海未が待っていた。

 

「あっ、いえ。私も今来たところですから」

 

「そっか」

 

海未が本当に先ほど来たばかりなのかはわからなかったが、奏夜はそこを追求することはしなかった。

 

「とりあえず、行こうか」

 

「そうですね」

 

奏夜と海未は合流するなり、目的地であることりの家へと向かった。

 

奏夜と海未はことりが留学する前に1度きちんと話をしようと言っていたのだが、それが今日になってしまった。

 

ことりの家へと向かう途中、互いの近況について話をしていたが、穂乃果がμ'sに復帰した話はまだ伏せていた。

 

穂乃果との仲直りの話を持ちかける時にその話をしようと考えていたからである。

 

そして、海未もまた、奏夜から穂乃果のことを聞き出そうとしていたが、あえてそれをしなかった。

 

海未もまた、奏夜の口から穂乃果の話をしてもらいたいと考えていたからである。

 

こうして互いの近況を話しているうちに、2人はことりの家に到着したのであった。

 

奏夜がインターホンを鳴らすと、出てきたのはことりの母親でもある理事長であった。

 

「あら、いらっしゃい。ことりに会いに来てくれたのね?」

 

理事長は穏やかな表情で、奏夜と海未のことを歓迎してくれていた。

 

「えぇ。ことりはもうすぐ留学ですよね?顔を見ておきたくて」

 

「そう……。とにかく上がってちょうだたい。あの子も喜ぶわ」

 

「はい、お邪魔します」

 

「お邪魔します」

 

奏夜と海未はペコリと理事長に一礼をしてから靴を脱ぎ、そのまま家の中に入っていった。

 

海未は何度もことりの家を訪れたことがあるからか慣れた様子で階段を上がっていき、奏夜はそれについて行った。

 

階段を上がり、少し進むとことりの部屋に到着したため、海未はコンコンとドアをノックする。

 

すると、「は〜い♪」とことりの声が聞こえ、部屋の扉が開かれた。

 

「あ、海未ちゃん!そーくん!いらっしゃい!」

 

「悪いな、ことり。留学準備で忙しいところを」

 

「うぅん。もう準備は落ち着いたから大丈夫だよ。さ、入って入って♪」

 

ことりに促されながら奏夜と海未はことりの部屋に入った。

 

「「……」」

 

ことりの部屋の雰囲気は女の子らしい部屋といった感じなのだが、どこ殺風景だった。

 

留学準備をしているからかいくちもダンボールか置かれており、それがより殺風景さを際立たせていた。

 

そんなことりの部屋を見て、奏夜と海未の表情が一瞬だけ暗くなるのだった。

 

「ねぇ、最近μ'sのみんなはどうしてるの?活動を休止したって聞いたから心配で……」

 

「ああ。確かに活動は休止したけど、なんとかやってはいるよ。1年生組とにこが残って頑張ってる。絵里と希は生徒会の仕事もあるからそっちに行ってるかな」

 

奏夜はあえて穂乃果が復帰したことは話さず、μ'sの近況をザックリと説明していた。

 

《なぁ、奏夜。さっきから気になっていたのだが、何故穂乃果の復帰をそこまで隠すんだ?真っ先に話しても良いものを……》

 

(確かにそうかもな。だけど、まだ伏せておいた方がいい気がしたんだよ。なんとなくだけどな)

 

《やれやれ……。なんだそれは……》

 

奏夜が穂乃果の復帰を伏せているのはそこまで大それた理由ではないと知り、キルバは少し呆れていた。

 

「そう……なんだ……」

 

ことりは自分のせいでμ'sが活動休止になってしまったと思っているからか、申し訳なさそうな表情をしていた。

 

「それで、海未ちゃんは残らなかったんだね」

 

「はい……。スクールアイドルを続けたいという気持ちはわかります。ですが、私がスクールアイドルを始めたのは、穂乃果やことり。それに奏夜が誘ってくれたからです」

 

「……ごめんなさい……」

 

ことりは海未が自分のせいでスクールアイドルを辞めてしまったと感じてしまい、悲痛な表情で海未に謝罪していた。

 

「あっ、いえ……。誰かのせいにするつもりはないんです」

 

海未はことりの気持ちを察したからか、慌てて弁解をしていた。

 

「ことり、心配すんな。海未はただ、気持ちを整理する時間が欲しかったんだろ?それに、そう決めたのは自分の意思だもんな?」

 

「はい。奏夜の言う通りです」

 

海未が自分のせいでスクールアイドルを離れた訳ではないと知ったことりは、少しだけ安堵していた。

 

「ところでことり。あれから穂乃果とは?もうすぐ日本を発つんですよね?」

 

「……」

 

その話は触れられたくないからか、ことりは再び悲痛な表情を浮かべていた。

 

「ことり、本当に留学してしまうのですか?私は……」

 

海未は小さい頃から一緒だったことりと離ればなれになりたくはないのだが、「行かないで欲しい」と言葉を続けることは出来なかった。

 

「無理だよ、今からなんて……」

 

「そう……ですよね。ごめんなさい……」

 

ことりとしても今更留学の話を白紙にするなど出来る訳がないため、こう答えているのだが、それを聞いた海未はさらに申し訳なさそうにしていた。

 

そのため、少しばかり空気が重苦しいものになってしまった。

 

そんな中……。

 

「……ことり。お前は留学する前に穂乃果に会うべきだ」

 

奏夜は穂乃果とことりが仲直りするためのお膳立てをする為にこのような提案を持ちかけていた。

 

「そーくん……」

 

「今穂乃果に会うのは気まずいのはわかる。だが、このまま会わずに留学してしまったら、一生後悔することになると思うぞ」

 

「わかってる……。わかってるけど……」

 

奏夜の言っていることをことりは理解していた。

 

しかし、そうしようという勇気は持てなかったのである。

 

「そうか……。わかったよ」

 

奏夜もまた、ことりの心情を理解しているため、これ以上この話を延ばすことはしなかった。

 

(仕方ない……。こうなったらこの手を使うしかないか……。大きな賭けになっちまうけど……)

 

奏夜は穂乃果とことりを仲直りさせる策があるみたいなのだが、それはとても大きなリスクのあるものみたいだった。

 

《おいおい、大きな賭けって言うが、何をするつもりなんだ?》

 

(まぁ、見ててくれ。μ'sのみんなのためにも必ず成功させてみせるから)

 

奏夜はμ'sのために穂乃果とことりを仲直りさせるつもりなのだが、それ以上の何かを企んでいるみたいだった。

 

《まぁ、お前のやりそうなことだ。だいたい察することは出来るが、見守っててやるよ。俺はお前の相棒だからな》

 

(ああ。そうしてくれると助かるよ、キルバ)

 

奏夜とキルバはテレパシーにてこのような会話をしていたのであった。

 

「なぁ、ことり」

 

「何?そーくん」

 

「俺はな。やっぱりことりには行って欲しくないって思ってるんだよ」

 

「さっきも言ったけど、私は……」

 

「まぁまぁ、皆まで言うな。それはわかってるから」

 

留学の話はもう覆せないことを理解していた奏夜はこのようにことりをなだめていた。

 

「だけどな、ことりに1つ聞いておきたいことがあるんだ」

 

「聞いておきたいこと?」

 

奏夜が今更自分に何を聞きたいのか理解出来なかったことりは首を傾げていた。

 

そして……。

 

「……ことり。留学に行くっていうのは、本当にお前の本心なのか?」

 

「!?」

 

奏夜は留学行きの核心を突いた話を切り出しており、そのことにことりは驚愕していた。

 

「そ、奏夜!それは流石に本心なのでは?」

 

「だって考えてもみろ。ことりは留学のことを穂乃果に相談するつもりだったろ?だけど、あの時の穂乃果は学園祭ライブしか見てなかった。その結果、あんなことになり、ことりは穂乃果に相談出来ず渋々留学行きの決断をした」

 

「……」

 

奏夜の推測が当たっているからか、ことりは俯き、黙ってしまった。

 

「ことり。もし穂乃果が行かないでくれって言ったら、留学の話を断るつもりだったんじゃないのか?」

 

「!?」

 

奏夜の推測を聞き、ことりは再び驚いていた。

 

それは、奏夜の話が図星だからと思われる。

 

「なぁ、ことり。聞かせてくれ。お前の本心って奴を」

 

「……」

 

このように問いかけられると、ことりは何て答えていいのかわからず、俯いた状態で黙ってしまった。

 

「奏夜……ことり……」

 

そして、海未はそんな2人にかけられる言葉はなく、ただジッと2人のやり取りを見守っていた。

 

そんな中……。

 

(やっぱり奏夜は凄いです……。私じゃどうしても聞き出せないことをここまでズバズバと……。そんな奏夜の力があったからこそ、穂乃果はμ'sに戻ってきたんでしょうね……)

 

海未は、心の中でことりの本心を遠慮なく聞き出そうとしていることに驚いていた。

 

それは、自分の性格上出来ることではないからである。

 

それだけではなく、そんな奏夜の力強さが穂乃果の復帰に繋がったと確信していたのだった。

 

「……ことり……。ことりは……」

 

ことりはどうにか自分の気持ちを語ろうとしていた。

 

そして……。

 

「本当に留学したいって思ってるよ」

 

「……」

 

ことりの口から告げられた言葉に奏夜は表情を一切変えず、ことりの話をジッと聞いていた。

 

「だって私は本当に服飾の仕事をしたいって思ってるし、私の……夢だもん……」

 

このようにことりは本心を語るのだが、その時に唇が震えていることを奏夜は見逃さなかった。

 

(ことり……お前……)

 

そうではあるのだが、奏夜はことりに何て声をかければいいのかわからなかった。

 

しかし……。

 

(そうか……。そういうことだったんだな……)

 

奏夜はことりの隠している本心を感じ取り、一瞬だけ笑みを浮かべていた。

 

《?奏夜、どうしたんだ?》

 

(いや、今はこれ以上追求することは得策じゃないって思っただけだよ)

 

《なるほどな。それじゃあ、俺からも何か言ってやるとするか》

 

ここへ来てからキルバは一言も喋っていないため、キルバはことりに何かメッセージを送ることにした。

 

『ま、お前の本心はわかった。留学がお前の夢なら全力で追いかけるといい。俺は応援するぞ』

 

「キー君……」

 

『ったく……。お前って奴は……。まぁ、いいだろう』

 

本来ならばキー君という呼ばれ方は気に入らないためそれを否定するところだったが、あえてそれは伏せることにしていた。

 

「さてと……。ことりの本音も聞けたことだし、そろそろお暇させてもらおうかな」

 

「あっ、私も一緒に帰ることにします」

 

「今日は来てくれてありがとね。そーくん、海未ちゃん」

 

こうして、奏夜と海未はことりの家を後にすることになり、ことりは少しだけ儚げな笑顔でそれを見送っていた。

 

そのまま2人は帰路につこうとしたのだが……。

 

「……奏夜。この後少しいいですか?奏夜と少し話をしたいのです」

 

海未がすぐにこのような提案をしてきたのであった。

 

「奇遇だな。俺も海未と話をしたいと思っていたんだよ」

 

「そうでしたか……」

 

海未はこのように提案しても奏夜に断られるのではないかと不安になっていたが、奏夜は断るどころか自分も話をしたいと言ってくれた。

 

そのことが海未は嬉しかったからか、笑みを浮かべていた。

 

「それでは、あそこで話をしませんか?」

 

ちょうど2人は公園の近くを通り過ぎようとしていたため、その公園で話をすることにした。

 

「そうだな」

 

奏夜は断る理由がないため海未の提案を受けると、その公園の中に入り、近くにあったベンチに腰を下ろした。

 

「……あっ、あの……。奏夜……」

 

「ん?どうしたんだ?海未」

 

「本当に……穂乃果はμ'sに戻ってきたのですか?」

 

「もちろんだ。つか、あの状況で嘘なんかつけないって」

 

奏夜は苦笑いをしながらも飄々と答えていた。

 

「そうですか……」

 

「でもまぁ、俺1人の力じゃない。穂乃果を上手い具合に焚き付けてくれたヒフミの3人のおかげだよ」

 

奏夜は穂乃果が復帰した経緯は語らなかったが、ヒフミトリオの3人の活躍があったことは伝えていた。

 

「そうだったのですね……」

 

「なぁ、海未。穂乃果がスクールアイドルを辞めたのは自分にも責任があるって思ってるんだろ?だからこそ気まずくなっちまった。違うか?」

 

「……はい。奏夜の言う通りです」

 

「やっぱりな……」

 

奏夜は何故海未が一度スクールアイドルを離れて気持ちを落ち着かせたいと思ったのか疑問だったのだが、その正解を聞いて納得したみたいだった。

 

「海未。これはまだみんなにも言ってない話なんだが、明後日に講堂でライブをしようと思っている。……9人全員でな」

 

「!?奏夜!明後日と言えば、ことりの出発の日じゃ……」

 

奏夜の大それた提案に海未が驚くのも無理はなかった。

 

明後日はことりが日本を発つ日だったからである。

 

そんな状況で9人全員でライブを行うなど流石に不可能な話だと思ったからこそ、海未は驚いていたのであった。

 

「大丈夫だ。我に勝算あり!って訳じゃないが、それを可能にする策は考えている」

 

「だ、大丈夫なんですか?」

 

「心配すんな。俺を信じてくれ。だが、その前に海未には穂乃果としっかり話をして向き合って欲しいんだ」

 

「!?」

 

奏夜は本当に海未にやって欲しいことを告げると、海未は再び驚愕していた。

 

「明後日のライブ前、2人がゆっくり話が出来るようお膳立てはする。そこで、しっかりと自分の気持ちを伝えて欲しいんだ。当然穂乃果にもそうさせる」

 

「奏夜。何故明後日なのですか?こういうのは早い方がいいのでは?」

 

「……」

 

海未は奏夜が何故明後日にこだわるのかが疑問だったため、それを奏夜に投げかけるのだが、何故か奏夜はバツが悪そうな表情をしていた。

 

「……実は明日は1日学校を休むことになりそうでな」

 

「学校を?何か用事ですか?」

 

「いや、実はな……」

 

『魔戒騎士の大抵は魔導輪や魔導具と契約を結んでいる。魔導輪と契約を結んだ魔戒騎士は1月に1度、その命を魔導輪に捧げなければいけないのだ。当然奏夜も例外ではない』

 

奏夜が語ろうとするのだが、その前にキルバが魔戒騎士と魔導輪の契約についての話をしていた。

 

「!?そんなことがあるのですか!?」

 

そのような話は1度も聞いたことがなかったため、海未は驚愕していた。

 

しかし……。

 

「!だから、奏夜は月に1度、必ず学校を休んでいるのですね?」

 

「まぁ、そういうことだ」

 

海未は前々から奏夜が毎月1度は必ず学校を休むことが疑問だったのだが、その疑問がここで解決されたのであった。

 

「それで、明日がその契約の日なんだ。俺は1日家で仮死状態になってる。1日は全く動けないんだ」

 

『本来ならば明後日が契約の日なのだがな。奏夜が明日にずらせとうるさいから明日にさせてもらったのだ』

 

「そこまでしなきゃいけないことなのでしょうか?」

 

「仕方ないことだ。魔戒騎士は魔導輪の協力を得てホラー退治を行っている。命を差し出すのはギブアンドテイクってところだ」

 

『ま、そういうことだ。これは多くの魔戒騎士が辿ってきた道なんだ」

 

「……」

 

また1つ、魔戒騎士の秘密を知ることになり、海未は言葉を失っていた。

 

「だからこそ、今日出来ることは全部やっておく。大丈夫だ。俺を信じてくれ」

 

奏夜は真剣な表情で海未の顔をジッと見つめていた。

 

そんな奏夜に海未は照れてしまうが、すぐに我に返ったのであった。

 

「……わかりました。奏夜はそうやって私たちを導いてくれたんですもんね……。私はあなたのことを信じますよ」

 

海未はμ'sが結成された時から奏夜のことを心から信頼しており、それは今も変わっていなかった。

 

だからこそ、この問題を奏夜に任せようと思えたのである。

 

「おう、任せてくれ」

 

こうして、奏夜はこれからの話を海未に持ちかけたのであった。

 

「……それにしても、奏夜は凄いですね……」

 

奏夜の話が終わると、海未はこのようにしみじみと呟いていた。

 

「?何がだ?」

 

「奏夜はことりに対して遠慮なく自分の気持ちを言えるんですから。それにひきかえ、私は……」

 

奏夜はことりに対して遠慮ない言葉を用いてことりの本音を引き出そうとしていた。

 

しかし、海未はことりに気を遣っているからか、そこまでのことは言えなかったのである。

 

「別に気にすることはないと思うけどな。俺は海未らしくていいと思うよ」

 

「私らしい……ですか?」

 

「ああ。俺が遠慮なく言えるのも自分がワガママなだけさ」

 

「ワガママですか……。ふふっ、確かにそうかもしれないですね」

 

奏夜にワガママな一面がある。

 

海未はそれを認めて微笑んでいるが、奏夜はワガママだけではなく、自分の気持ちに素直なだけであると海未は感じていた。

 

「それに、海未は大切な友達であることりに気を遣って自分の気持ちを伏せてたんだろ?俺はそんな海未の優しいところ……嫌いじゃないぜ」

 

「!?////」

 

奏夜は穏やかな表情でこのようなことを言っているのだが、その言葉が恥ずかしかったからか、海未の顔が真っ赤になっていた。

 

「へっ、変なことを言わないで下さい!奏夜の馬鹿!」

 

「おいおい、ずいぶんとひどい言われようだな……」

 

海未は恥ずかしさのあまり、このようなことを言っており、そんな海未の言葉に奏夜は苦笑いをしていた。

 

海未はまだ照れているのか、ガバッと立ち上がっていた。

 

「と、とりあえず私の話は終わりです!私はそろそろ帰りますね!」

 

海未が帰ると聞き、奏夜もゆっくりと立ち上がっていた。

 

「そうか?とりあえず家まで送るけど……」

 

「いえ、大丈夫です。だって奏夜はこれからやることがあるんですもんね?そちらを優先させて下さい」

 

海未個人としてはこのまま奏夜と一緒に帰りたいと思ったのだが、奏夜にはまだやるべきことがあるため、そちらを優先させて欲しい気持ちが勝り、そんな気持ちを堪えていた。

 

「悪いな、海未。そうさせてもらうよ」

 

奏夜もまた、今日のうちにやっておきたいことがあるため、そんな海未の言葉をありがたく受け止めることにしていた。

 

「奏夜。私、信じてますからね」

 

海未は奏夜にこのような言葉を残すと、公園を後にして、自宅へと向かっていった。

 

奏夜は海未の姿が見えなくなるまで海未のことを見送っていた。

 

「さてと……」

 

海未を見送った奏夜は、携帯を取り出し、誰かに電話をかけていた。

 

「……あ、もしもし。剣斗か?実は頼みがあってな……」

 

奏夜が電話をかけたのは剣斗であるのだが、剣斗は教師として音ノ木坂学院に潜り込むため、必要だろうということで携帯の契約をしていたのである。

 

奏夜は剣斗に明後日行なおうと思っていることを説明し、その準備をお願いしていた。

 

さらに、明日がキルバとの契約の日だと話をすると、剣斗はやる気に満ちた感じで奏夜の話を了承していた。

 

奏夜はライブのことを剣斗に託すと、そのまま電話を切り、携帯をポケットにしまっていた。

 

剣斗との電話を終えた奏夜はそのまま帰路につくのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……この時、奏夜は気づいていなかった。

 

1匹の黒い蝶が先ほどの会話の一部始終を聞いていたということを……。

 

……奏夜に。そしてμ'sに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

再び波乱が迫ろうとしていたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『いよいよことりが留学してしまうが、本当に9人揃ってライブなど出来るのか?次回、「九人 前編」。新たな波乱が目前に迫る!』

 

 

 




ことりの留学が目前に迫り、物語が一気に進んできました。

奏夜は9人でのライブを狙っているみたいですが、果たしてそれは上手くいくのか?

穂乃果がμ'sに復帰し、にこは1度これを拒絶してしまいました。

にこは誰よりもスクールアイドルが好きであり、本気で向き合っているため、このような展開もありかなと思いました。

まぁ、結果的には奏夜に上手く言いくるめられたのですが……。

さて、ラブライブ!一期の話ももうすぐ終わるため、この章もクライマックスになってきました。

最近はラブライブ!パートがメインだったため、最後は牙狼要素も絶対に入れたいと思っていますのでよろしくお願いします!

ここで最近の近況なのですが、今まで放置していたTwitterのプロフを変えたりして、ちょこちょこ呟くようになりました。

まぁ、完全にFF14メインな感じになってしまっていますが……。(笑)



ナック・G
@ToyaTsukikage



もしTwitterをやってる方はフォローをしてくれると嬉しいです!



呟くのはほとんどFF関連のことだとは思いますが、小説のことも呟けたらなと思っています。

Twitterについては活動報告にも書こうと思っているのでよろしくお願いします!

さて、次回もお楽しみに!



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第53話 「九人 前編」

お待たせしました!第53話になります!

そういえば、「神ノ牙」の上映日が来年の1月に決まりましたね!

久しぶりにあの三騎士が揃うみたいですし、ぜひ見に行きたいです!

この小説にもジンガは関わっていますし(笑)

さて、今回は物語が大きく進んでいきます。

これから、奏夜たちを待ち受けるものとは?

それでは、第53話をどうぞ!




……ここは秋葉原某所にある今は使われていない廃ビルの一室。

 

その部屋に1匹の黒い蝶が現れたのだが、その蝶を黒い法衣のようなものを着た女性が捕まえていた。

 

その蝶を捕まえた女性……アミリは、自らが放った蝶が持ち帰った情報を主であるジンガに伝えようとしていた。

 

「……ジンガ様。失礼します」

 

アミリはジンガのいる部屋へと移動すると、このように挨拶をして、ジンガに頭を下げていた。

 

「おう、アミリ。どうやら、良い情報を持ってきたみたいだな」

 

「……はい。あの南ことりとかいう小娘の留学ですが、明後日だそうです。時間は言っていませんでしたが、恐らくは昼頃ではないかと」

 

「そうか……。これで、あのμ'sとやらは永遠にバラバラになりそうだな」

 

ことりが2日後に留学すると知り、ジンガは勝ち誇ったかのような笑みを浮かべていた。

 

しかし……。

 

「ジンガ様。どうやらそのμ'sとやらを脱退した小娘が何かしらのきっかけがあり、μ'sに復帰したみたいです。その結果、バラバラだった連中がまとまりそうになっております」

 

「フン。ことりとかいう小娘が留学することが決まってるというのに、無駄な足掻きを……」

 

ジンガはアミリの報告を聞いても冷静だった。

 

留学という話を簡単に覆せるとは思っていないからである。

 

「ですが、あの魔戒騎士は何かを企んでいるようです。下手をすれば、例の小娘の留学はなかったことになるのでは?」

「ふむ……。そうなったらあの小僧はきっとさらに力をつけることになるか……」

 

奏夜の強さの源は、μ'sメンバーにあると感じていたジンガは少しだけ危機感を抱いていた。

 

そこで……。

 

「尊士。お前はあの小僧の動向を探れ。万が一あの小僧が小娘の留学を阻止しようと動いたならば、それを全力で邪魔するんだ」

 

「ハッ、かしこまりました」

 

ジンガの密命を受けて、尊士はジンガに頭を下げてその命令を承認していた。

 

その命令を受けた尊士は、奏夜の動きを探るべく、どこかへと姿を消したのであった。

 

「さて……。ここからいったいどうなるのか、見ものだな……」

 

ここからは何が起こるかわからないと感じたジンガはグラスに入ったワインを飲みながら、その状況を楽しんでいたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

スクールアイドルを辞めると言っていた穂乃果が無事に復帰し、奏夜はすかさず穂乃果に海未やことりと仲直りをさせようとしていた。

 

そんな中、ことりの留学が2日後に迫る中、奏夜は海未と共にことりの家を訪れていた。

 

そこで、ことりの隠された真意を感じ取った奏夜は、とある作戦を決行しようとしていた。

 

その話を海未にした後に、奏夜は電話で剣斗にその作戦を説明していた。

 

奏夜が直接伝えればいいのだが、翌日はキルバとの契約の日であるため、奏夜は動けないのである。

 

そのため、奏夜は剣斗に様々なことを託したのであった。

 

そして翌日の放課後、剣斗は穂乃果とことりを除いたμ'sメンバー全員をアイドル研究部の部室に集めていた。

 

「うむ、皆揃ったようだな」

 

招集したメンバーが全員集まり、剣斗はウンウンと頷いていた。

 

「あれ?奏夜君と穂乃果ちゃんは?」

 

花陽は奏夜と穂乃果の姿がないことに対して首を傾げていた。

 

「うむ。奏夜については後で話すが、穂乃果はあえて呼んでいない。後から話そうと思っているのでな」

 

「そうなんですか……」

 

何故穂乃果を今呼ばないかは疑問だったのだが、花陽はあえて追求しなかった。

 

一方海未は、奏夜が気を遣ってくれたからだろうと察しており、穏やかな表情になっていた。

 

「さて、本題に入らせてもらうが、ことりが明日日本を発つことになる」

 

「ことり……。もう留学してしまうの……?」

 

ことりとの別れが迫っていると知った絵里は悲痛な表情をしており、海未以外のメンバーも悲しげな表情をしていた。

 

「そこでだ。急ではあるが明日、ライブを行なおうと思う。……“9人全員”でな!」

 

剣斗は9人全員というところを強調しつつライブを行うことを話しており、そんな剣斗の提案に、海未以外の全員が驚愕していた。

 

「ちょっと!いくらなんでも急すぎるわ!」

 

「そうよ!それに、ことりは明日留学でしょ?9人全員でライブなんて無理に決まってるじゃない!」

 

剣斗の提案があまりに無謀なものだと思ったからか、にこと真姫が異議を唱えていた。

 

「まぁ、慌てるな。これは私の提案ではない。全ては奏夜が考えたことなのだ」

 

「それで、そーや君はどうしたんだにゃ?」

 

「そうやねぇ。奏夜君が何か計画してるなら奏夜君が話すのが手っ取り早いと思うんやけど」

 

この作戦を提案したのが奏夜だと知り、凛と希は疑問をぶつけていた。

 

「うむ。奏夜もそうしたいのは山々みたいなのだが、今日はキルバとの契約があるからなのだ」

 

「「「「「「契約?」」」」」」

 

キルバとの契約という聞きなれない言葉に、海未以外の全員が首を傾げていた。

 

「うむ。魔戒騎士は大抵魔導輪や魔導具と契約をしているのだよ。そして、それらと契約した魔戒騎士は、1月に1度、その命を差し出さなければいけないのだ」

 

「い、命を……!?」

 

剣斗はサラッと話していたがあまりに話が大きいため、花陽の顔は真っ青になっていた。

 

「まぁ、そんなに気にすることはない。今日1日だけ仮死状態になるだけで、実際に死ぬ訳ではないのだからな」

 

そんな花陽をフォローするために、剣斗は説明を付け加えていた。

 

「それにしても、そんなことまでしなきゃいけないなんて……」

 

「魔戒騎士って大変やね」

 

魔導輪との契約の話を聞き、真姫と希は苦笑いをしていた。

 

「ところで、小津先生はキルバみたいな魔導輪とは契約してないんですか?」

 

「うむ。私もそうだが、代々青銅騎士剣武(ケンブ)の称号を受け継いだ先代達も魔導輪との契約はしていない」

 

「それでは、どうやってホラーを探すのですか?」

 

「心配ない。熱いパッションがあればホラーを探すなど容易なことだ」

 

「な、なるほど……」

 

剣斗が自信満々に言っているため、海未は思わず納得してしまった。

 

しかし……。

 

「まぁ、それは冗談なのだが」

 

剣斗はサラッと冗談を言っており、そのことに対して海未たちは思わずコケそうになっていた。

 

「な……何よそれ!」

 

「アハハ……。小津先生って結構お茶目なところがあるんだね……」

 

真姫はサラッと冗談を言う剣斗に文句を言っており、花陽は知られざる剣斗の一面に苦笑いをしていた。

 

「実際は魔戒法師が使っている魔針盤を使ってホラーを捜索している。我が小津家は代々から法術の心得もあるのでな」

 

剣斗はこのように説明をすると、魔戒法師がホラー捜索などに用いる魔針盤と呼ばれる魔導具や、魔導筆を取り出して海未たちに見せていた。

 

「へぇ、そんなのがあるんですね……」

 

「小津先生のことだから本当に気合でホラーを探しているのだと思ったけど……」

 

剣斗はアイドル研究部の顧問であるため、μ'sメンバーは他の生徒よりも剣斗と交流する機会は多い。

 

そのため、剣斗となら本気で気合でホラーを探しかねないと思い、絵里は苦笑いをしていた。

 

「それに、ライブをするって言っても曲はどうするのよ?今から何かを用意して練習するなんてとても無理だわ」

 

そして真姫は、ライブをするにあたって1番問題になるだろうことを指摘していた。

 

しかし、剣斗はその指摘に動じることはなく、むしろ笑みを浮かべていたのである。

 

「ふっ……。あるではないか!バラバラだったμ'sが再スタートするのに相応しい、とびきりイイ曲がな!」

 

剣斗は不敵な笑みを浮かべながらこのようなことを言っていた。

 

再スタートに相応しいと聞き、海未たちは何の曲をやるのか察したようであり、口々に「あっ!」と言っていた。

 

「まぁ、そういう訳だ。さぁ、みんな!いつでもライブが行えるよう、準備を始めるぞ!」

 

『はい!』

 

剣斗がこのように号令を出しており、海未たちは一斉に応えていた。

 

「さて、私は明日講堂が使えるように掛け合ってこよう」

 

剣斗は講堂を確保するために、どこかへと向かっていった。

 

「それじゃあ、私たちは手分けしてライブの宣伝をしましょう!」

 

絵里はライブの宣伝を提案しており、他のメンバーはそれに賛同しているからか、無言で頷いていた。

 

こうして、明日行われるライブの準備が始まったのであった。

 

このライブが、μ'sの再スタートとなることを信じて……。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、キルバと契約を行い、仮死状態になっていた奏夜が目を覚ましたのは間もなく日付が変わるといったところだった。

 

奏夜は起きてからすぐに携帯をチェックしたのだが、穂乃果とことり以外のメンバーからメールが来ていた。

 

その内容としては、いきなりライブをやることについての文句もあったのだが、ライブを必ず成功させようといった内容乃ものもあり、穂乃果とことりを絶対に連れ戻してほしいというメッセージもあった。

 

そのメールを全て確認した奏夜は、ここまで準備を進めてくれた剣斗に感謝をしていた。

 

こうして、明日はμ'sの存続がかかる1日となるため、必ずことりを連れ戻してライブを成功させると決意を固め、奏夜は再び眠りについたのであった。

 

そして翌日、この日は学校が休みのため、奏夜たちは午前中から学校へ来ていた。

 

「……そーくん!それ、本気で言ってるの!?」

 

穂乃果は奏夜からライブのことを今聞かされたようであり、驚きを隠せずにいた。

 

「そんなこと、冗談で言うもんか。俺は本気でやるつもりだぞ。……9人全員でな」

 

「9人……?でも。ことりちゃんは……」

 

「ああ。今日、日本を発つみたいだ」

 

「え?それじゃあ、9人でライブなんて無理なんじゃ……」

 

穂乃果は9人でライブをするという奏夜の提案は不可能なものではないかと感じとり、不安な表情をしていた。

 

しかし、奏夜はそんなことを気にするどころか、冷静だった。

 

「そうかもしれないな。だけど、俺はことりを連れ戻すつもりだ」

 

「連れ戻すって……。今日日本を出発するんでしょ?そんなこと……」

 

「お前の言いたいことはわかる。正直なところ、俺1人の力じゃどうにもならないからな。穂乃果、お前の力が必要なんだ」

 

「私の力……?」

 

奏夜は何故そこまで自分の力を頼るのか。

 

そこが理解出来なかった穂乃果は首を傾げていた。

 

「とりあえずそこら辺の話は後だ。ことりを連れ戻す前にお前は海未と会って仲直りをしてもらう」

 

「……うん」

 

どうやら穂乃果は穂乃果で海未に伝えたいことがあるからか、奏夜の言葉を拒否せず、真剣な表情で頷いていた。

 

「海未は今講堂でお前のことを待っているはずだ。行ってこい。そして、自分の思いを海未にぶつけてこい!」

 

「そーくん……。うん!わかった!」

 

穂乃果は決意に満ちた表情で頷くと、そのまま講堂へと向かっていった。

 

「頑張れよ、穂乃果……」

 

奏夜はこのように呟くと、これから行われるライブの準備のため、どこかへと移動したのであった。

 

そして、穂乃果は奏夜の指定通り講堂に入ると、ステージの上に海未が立っており、穂乃果が来るのを待っていた。

 

「海未ちゃん……」

 

海未の姿を認識した穂乃果は、そのままゆっくりとステージの方へ向かっていき、海未としっかりと向き合っている。

 

「穂乃果……。来てくれたのですね」

 

「うん。ごめんね、海未ちゃん。私のために時間を作ってくれて……」

 

「礼なら奏夜に言って下さい。このようにお膳立てをしてくれたのは奏夜なのですから……」

 

「うん。そうだね……」

 

ここで話は一旦途切れてしまい、少しだけ気まずい空気になっていた。

 

「あっ、海未ちゃん……。あの……あのね……」

 

穂乃果は話を切り出そうとするのだが、なかなか勇気がだせず、上手く話を切り出せなかった。

 

しかし、大切なことを伝えたいと思っていた穂乃果は、勇気を振り絞って自分の気持ちを伝えることにした。

 

「私ね、ここでファーストライブをやって、ことりちゃんや海未ちゃんと歌った時に思ったんだ。もっと歌いたいって。スクールアイドルをやっていたいって!」

 

穂乃果は1度語り始めると、止まらなくなってしまったからか、饒舌になっていた。

 

「辞めるって言ったけど、私の気持ちは変わらなかった。学校の為とか、ラブライブの為じゃなく、私は好きなの!歌うのが!これだけは譲れない……」

 

「……」

 

穂乃果の真剣な思いを聞いていた海未は相槌を打つことすら忘れて、穂乃果の話を聞いていた。

 

「私がこの気持ちに気付くことが出来たのは、そーくんのおかげなの。だから……」

 

穂乃果は一呼吸置くと、海未に頭を下げていた。

 

「ごめんなさい!」

 

「穂乃果……」

 

穂乃果はストレートな言葉で海未に対して謝罪をしていた。

 

「私、これから迷惑をかけると思うし、夢中になって、誰かが悩んでいるのに気付かなかったり、入れ込み過ぎて空回りすると思う!だって私、不器用だもん!」

 

穂乃果は今まで自分の犯した失敗を話に出して、自分の不器用さを表現していた。

 

「でも!追いかけていきたいの!ワガママなのはわかってるけど、私……!」

 

穂乃果は自分のありのままの気持ちを海未に伝えていたのだが……。

 

「……ふふっ」

 

海未は何故か急に笑い出したのであった。

 

「海未ちゃん!何で笑うの?私、真剣なんだよ!」

 

いきなり海未が笑い出したことが気に入らなかったからか、穂乃果は異議を唱えていた。

 

「ふふっ、ごめんなさい……。でもね、穂乃果。ハッキリ言いますが……」

 

一通り笑った海未は自分の思ったことを話そうとしており、穂乃果は息を飲んでいた。

 

「……穂乃果には昔からずっと迷惑かけられっぱなしですよ?」

 

「ふぇ!?」

 

海未は満面の笑みでこのように言い放つのだが、その言葉はあまりに予想外のため、穂乃果は間の抜けた声をあげてしまった。

 

「ことりや奏夜とよく話をしていました。穂乃果と一緒にいると、いつも大変なことになると。どんなに止めても、夢中になったら何でも聞こえなくて……」

 

海未はしみじみと語り出すのだが、穂乃果たち3人とは中3からの付き合いである奏夜もまた、幼馴染である海未やことりと同じ気持ちを抱いていたのである。

 

4人でつるむようになってからは、奏夜がフォローする場面が増えていたため、奏夜もそのように思うようになったのであった。

 

「だいたい、スクールアイドルだってそうです。私は本当に嫌だったんですよ?」

 

「海未ちゃん……」

 

「どうにかして辞めようと思っていましたし、奏夜に相談しようかと考えもしました。穂乃果のことを恨んだりもしたんですよ?全然気付いてないみたいでしょうけど」

 

「あ、ごめん……」

 

海未がスクールアイドルを始めた当初、本気で嫌がっていたことを知り、穂乃果は申し訳なさそうに謝罪をしていた。

 

「……ですが……。穂乃果は連れて行ってくれるんです。私やことりでは勇気がなくて行けないような凄い所に」

 

「……海未ちゃん……」

 

「それに、奏夜だってそうです。奏夜は魔戒騎士という、特殊な環境にいますが、μ'sのマネージャーとして、私たちを導いてくれました。穂乃果と奏夜。この2人が一緒なら、私たちはどこへだって飛べそうな気がするんです」

 

海未はここで穂乃果の話だけではなく、奏夜の話も出していた。

 

μ'sというスクールアイドルグループは、穂乃果がリーダーとして他のメンバーを引っ張り、奏夜がそれを支え、正しい方向へ導いていく。

 

この絶妙なバランスがあったからこそ、奏夜たちはラブライブ出場目前まで来れたのだと容易に想像が出来た。

 

「……それに、奏夜が手を回してくれたおかげでその機会を無くしていましたが、私は本気で怒っていたんですよ?」

 

「……うん」

 

「ですが、私が怒っていたのは穂乃果がことりの気持ちに気付いてあげられなかったからではなく、穂乃果が自分の気持ちに嘘をついていることがわかっているからです」

 

奏夜がすぐに話をつけて穂乃果を屋上から出て行かせたから怒らなかったのだが、そうじゃなければ、穂乃果の頬を殴っていただろうと海未は予想していた。

 

「穂乃果に振り回されるのは慣れっこですからね」

「海未ちゃん……」

 

「穂乃果。あなたがスクールアイドルを辞めたことは許すつもりです。しかし、1つだけ約束をしてください」

 

「約束?」

 

「はい。……穂乃果。奏夜と一緒に連れて行って下さい!私たちの知らない世界へ!それが穂乃果や奏夜の凄いところなんです!」

 

海未は穂乃果のことを最初から許すつもりだったのだが、これからはμ'sとして、見たことのない高みへ連れていって欲しいと約束させていた。

 

穂乃果や奏夜の力ならば、それが可能だと思っていたからである。

 

「私もことりも……。μ'sのみんなもそう思っています」

 

「……うん、わかった。約束するよ!私たちの力でどこまでいけるかはわからないけど、海未ちゃんやみんなの期待に応えられるように努力する!」

 

「……ふふっ、頼みますよ、穂乃果」

 

こうして、穂乃果と海未は互いに自分の気持ちを語り合い、仲直りをしたのであった。

 

「……それでは、穂乃果!ことりが待っています!迎えに行ってきて下さい!」

 

「えぇ!?で、でもことりちゃんは……」

 

海未がいきなりとんでもないことを言っていたため、穂乃果は困惑していた。

 

「私と一緒ですよ。ことりも引っ張っていって欲しいんです。ワガママを言ってもらいたいんです!」

 

「わっ、ワガママ!?」

 

自分がワガママなのは自覚しているつもりの穂乃果だったが、改めて言われると、面白くはなかった。

 

「そうですよ。有名なデザイナーに見込まれたのに、残れだなんて……。私や奏夜ではそこまでのことは言えません」

 

奏夜も「行かないで欲しい」というワガママは言っていたのだが、それを押し通すことは出来なかった。

 

「それが言えるのは、穂乃果。あなただけです!」

 

海未がこのように宣言すると、まるでタイミングを見計らったかのように講堂の扉が開かれ、奏夜が中に入ってきた。

 

「穂乃果!話は終わったな?早く行くぞ!」

 

「そーくん!?どうして?」

 

穂乃果はいきなり奏夜が現れたことに驚いていた。

 

「そんなに驚くことはない。海未と仲直りをした後、穂乃果と一緒にことりを連れ戻しに行くつもりだったしな」

 

奏夜は穂乃果と海未を仲直りさせた後、そのままことりが出国する空港へと向かい、ことりを連れ戻す算段だった。

 

「でっ、でも!ことりちゃんがどの空港で何時に出発するかもわからないのに……」

 

「ふっ、心配はいらんよ。ことりがどの空港から日本を発つのかは既に調査済みだ。14時に飛行機が出る予定だから、今から行けば必ず間に合うさ」

 

奏夜はことりからは直接どこの空港から出発するかや飛行機の時間は聞けなかったが、そこは既に調べていた。

 

「さ、流石は奏夜。抜け目がないですね……」

 

奏夜の行動の早さに、海未も驚いていた。

 

「とりあえず行くぞ、穂乃果。急いでことりを連れ戻すんだ!」

 

「うん!海未ちゃん、行ってくるね!」

 

「私はみんなとライブの準備を整えて待っています。必ず……ことりを連れ戻して来てください!」

 

「ああ、任せろ!」

 

こうして奏夜は穂乃果と共に講堂を飛び出し、ことりがいると思われる空港へと向かっていった。

 

「……頼みましたよ……。奏夜、穂乃果……」

 

2人がいなくなり、海未はこのように呟いていた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

穂乃果と奏夜を見送った海未は、そのままアイドル研究部の部室へと戻っていった。

 

「……あっ、海未ちゃん……」

 

海未が部室に入るなり、花陽が海未のことを見つけ、声をあげていた。

 

「海未、穂乃果と奏夜は?」

 

「はい、先ほどことりを連れ戻しに向かいました」

 

すかさず絵里は奏夜と穂乃果のことを聞いており、海未はすぐに報告していた。

 

「ここまでは奏夜の計画通りね」

 

奏夜は穂乃果以外のμ'sメンバーを早めに集合させると、今日の段取りの説明を行っていた。

 

穂乃果が部室に来るなりライブのことを話し、そのまま海未と仲直りをしてもらう。

 

そして奏夜と共に空港へ向かい、ことりを連れ戻し、それが済み次第、ライブを行うといった計画であった。

 

今のところは計画通りに進んでおり、真姫は安堵していた。

 

「だけど、大丈夫かにゃ?今日留学だっていうのに……」

 

「心配はいらないわ。奏夜と穂乃果ならきっとことりを連れ戻してくれる。私は信じているわ」

凛は不安な気持ちを露わにするのだが、絵里はそんな気持ちを吹き飛ばすくらい自信に満ちた表情で2人のことを信じていた。

 

「エリチは奏夜君や穂乃果ちゃんのこと、心から信じているんやね?」

 

「もちろんよ。だって私は、穂乃果や奏夜から大切なことを教わったもの」

 

絵里は、穂乃果や奏夜から得るものがあったからこそ2人のことを信じられるのである。

 

「……変わることを恐れないで、突き進む勇気。あの時私は……。穂乃果の手に救われたんだもの……」

 

μ'sに入る前の絵里は、生徒会長という立場からか、廃校になろうとしている学校を救わねばという使命感に駆られていた。

 

そのため、気を張りすぎており、スクールアイドルのことを認められず、奏夜たちと反発したこともあった。

 

しかし、絵里をスクールアイドルへ誘う時、穂乃果は手を差し伸べていたのだが、この時絵里は穂乃果に救われたような気持ちになっていたのであった。

 

「……わかるな、その気持ち」

 

絵里の語る思いに、花陽は大いに共感していた。

 

「凛もそう思うにゃ!そーや君と穂乃果ちゃんがいなかったら、きっと凛はμ'sに入ってなかったと思うし」

 

「ま、そこは私も同じね」

 

花陽だけではなく、凛と真姫もまた、絵里の話に共感していた。

 

「私だってそうよ。あの2人がいたからこそ、また誰かを信じてみようって思えたんだし」

 

にこは、先にスクールアイドルを始めたものの、その時いたメンバーに裏切られたという過去を持っていた。

 

そのため、中々人を信じることが出来なかったが、そんな気持ちを奏夜と穂乃果が壊してくれたのであった。

 

「……ウチもその通りやと思うよ。だって、ずっとμ'sのことを見てたんやもん」

 

そして、奏夜たちをμ'sと名前を付けた張本人であり、ずっとμ'sのことを影から支えていた希もまた、絵里の言葉に共感していた。

 

「えぇ。だからこそ2人を信じられるのです。あの2人なら、私たちをまだ見ぬ高みへと連れて行ってくれるのではないかと」

 

最後に海未は、自分の思ったことをそのまま言葉にしていた。

 

その言葉も共感出来る言葉だったからか、絵里たちはウンウンと頷いていた。

 

「なるほど……!お前たちのそんな熱い気持ちがμ'sを作ったという訳なのだな?イイ!とてもいいぞ!」

 

絵里たちの気持ちを聞いた剣斗は興奮を露わにしており、相変わらず熱い剣斗に、絵里たちは苦笑いをしていた。

 

「……さて、この話はこれでおしまいよ。いつ2人が戻ってきても良いように準備をしておきましょう!」

 

絵里がこのように話をまとめると、それ以外の全員が「うん!」と力強く返事をしていた。

 

「ふむ。私は改めてライブの宣伝をしてこよう。どうせライブを行うのなら、最高の結果にしたいからな!」

 

そう言い残し、剣斗はアイドル研究部の部室を後にして、絵里たちもまた、講堂へ向かい、ライブの準備を行うことにしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

穂乃果と海未の仲直りが済み、奏夜は穂乃果を連れて講堂を飛び出し、現在は玄関を出て、そのまま校門に向かうところであった。

 

「ほら、穂乃果。早く行くぞ!」

 

奏夜は逸る気持ちを抑えきれないからか、穂乃果のことを急かしていた。

 

「そーくん。空港に行くって言ってもどうやって空港まで行くつもりなの?」

 

穂乃果は1番重要な疑問をぶつけるのだが、それを聞いた瞬間、奏夜の動きはピタッと止まってしまい、ダラダラと冷や汗を流していた。

 

「ま、まさかそーくん……。考えてなかったの?」

 

『やれやれ……。1番重要なところをど忘れするとはな……。相変わらず詰めの甘い奴だ』

 

1番重要になってくる空港への移動方法を考えていなかった奏夜に、穂乃果とキルバは呆れ果てていた。

 

「うるせー!い、今からタクシーを捕まえるところだったんだよ!」

 

奏夜は本当に重要なことを考えていなかったことを見透かされたくなかったからか、顔を真っ赤にしてムキになっていた。

 

そして、本当にタクシーを捕まえるつもりなのか、奏夜は校門へ向かい、穂乃果はそれを追いかけていた。

 

2人が校門を出たその時、プップー!とクラクションの鳴る音が聞こえたため、2人はその方向を見た。

 

すると、1台の青い乗用車が止まっており、まもなく助手席側の窓が開かれた。

 

「……奏夜!穂乃果!乗れ!」

 

なんと車を運転していたのは奏夜の先輩騎士である月影統夜であった。

 

「!?統夜さん!?どうして?」

 

こんなところで統夜に会えると思っていなかったからか、奏夜は驚いており、穂乃果も同じように驚いていた。

 

「話は後だ!これからことりを連れ戻しに行くんだろ?」

 

どうやら統夜はこちらの事情を知っているみたいだった。

 

「……穂乃果、行くぞ!」

 

「うん!」

 

2人は急いで統夜の車の後部座席に乗り込んだ。

 

「よし、急ぐぞ!」

 

2人が乗り込んだことを確認した統夜は、そのまま車を発進させ、ことりが日本を発つ某国際空港へと向かっていった。

 

奏夜たちがことりを連れ戻すために空港へと向かう様子をジッと見ている黒い影があった。

 

それは……。

 

「……やはり動き始めたか……。ジンガ様のご命令だ。このまま奴らを行かせる訳にはいかない」

 

ジンガの命令を受けて、奏夜たちの動きを探っていた尊士であり、尊士は奏夜たちの邪魔をしようとしていた。

 

そんなことを企みながら、尊士は奏夜たちの向かっていった方向へ姿を消したのだった。

 

奏夜たちにとって最大の障害が、目の前に迫ろうとしていたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『まさか、こんなところで厄介な奴が出てきたものだ。奏夜、この壁を乗り越えないと全てが水の泡だぞ!次回、「九人 中編」。その想いや輝きと共に飛翔しろ!輝狼!』

 

 




奏夜と穂乃果はことりを連れ戻すために動き始めました!

まさか統夜が車に乗って現れるとは予想外だったと思います。

統夜はどのように免許を取ったのか。それは次回明らかにしたいと思います、

そして、忍び寄る尊士の影。

奏夜たちは無事にことりを連れ戻し、ライブを成功させることは出来るのか?

さて、次回で「崩壊と再生の絆編」は最終回となり、一期編も終わりとなります。

……と言いたいところだったのですが、文字数の都合により、前編中編後編の三部構成にさせてもらいました。

その経緯は次回投稿時に説明をしようと思っています。

この章終了後は番外編を投稿していこうと思いますが、詳細は後編終了後の後書きで書こうと思っています。

それでは、次回をお楽しみに!



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第54話 「九人 中編」

お待たせしました!第54話になります!

本来であれば、今回が「崩壊と再生の絆編」の最終回となる予定だったのですが、20000字を遥かに超えてしまったため、話を区切らせてもらい、三部構成とさせてもらいました。

前編中編後編を合わせたら40000字近くになるだろうな……。(汗)

アニメ一期編が佳境に入ったので、それだけ書きたいことがあったのです。

さて、今回は中編となってしまいましたが、今回は奏夜と穂乃果がことりを連れ戻すために空港へと向かいます。

奏夜たちに邪悪な影が忍び寄っていますが、それを乗り越えることは出来るのか?

それでは、第54話をどうぞ!




ついにことりが日本を発つ当日となってしまった。

 

そんな中、奏夜はことりを連れ戻し、9人でライブを行うことを企んでいた。

 

そのための下準備を整え、この日、その旨を穂乃果に伝え、ギクシャクしていた海未との仲直りをさせた。

 

こうして、問題が1つ解決したところで、奏夜は穂乃果と共にことりを連れ戻すために空港へと向かっていた。

 

そんな中、偶然にも車に乗る統夜に声をかけられた2人は統夜の車に乗り込み、空港へと向かうのであった。

 

そして現在、奏夜たちは空港に続く道を走っていたのである。

 

「……驚いたろ?俺がいきなり車で現れてな」

 

「はい……。だけど統夜さん、どうしてここに……?確か統夜さんは元老院に報告に行ったあと、桜ヶ丘に戻ったんですよね?」

 

奏夜が指摘する通り、統夜は学園祭でのトラブルの後、元老院に戻ってこれまでの事件の顛末を報告しており、その後桜ヶ丘に帰っていた。

 

「ああ。お前の言う通り、俺は桜ヶ丘に戻って、しばらくは紅の番犬所の管轄内で仕事をしてたさ。いつまでも戒人や幸人に負担をかけさせる訳にはいかんからな」

 

統夜の言っている戒人というのは、堅陣騎士ガイアの称号を持つ黒崎戒人(くろさきかいと)のことであり、戒人は統夜の良きライバルであり、親友である。

 

そして、幸人というのは、統夜が桜ヶ丘高校を卒業して間もなく配属された魔戒騎士である楠神幸人(くすがみゆきと)のことである。

 

幸人は統夜や戒人とは違ってソウルメタルで作られた弓矢で戦う魔戒騎士であり、とある称号を受け継ぐ魔戒騎士である。

 

幸人はエリート意識が高く、最初は統夜や戒人と度々衝突していたのだが、今では大切な盟友となったのであった。

 

「そうですか……。戒人さんも幸人さんも元気そうなんですね……」

 

奏夜は戒人だけではなく、幸人とも面識があるため、彼らのことを思い出していた。

 

「それに、大体の事情は剣斗から聞いた。だからこそ協力しようと思ってな」

 

「そうだったんですか……」

 

統夜は桜ヶ丘にいる間も、剣斗から奏夜たちの近況は聞いており、穂乃果がμ'sを辞めて再び戻ってきたことや、ことりの留学のことなど、事細かに話を聞いていた。

 

そして、今日が日本を発つ日だということも聞いており、奏夜が留学しようとしていることりを連れ戻し、ライブを行うことも聞いていた。

 

だからこそ、奏夜に協力するために再び東京にやって来たのである。

 

「それよりも統夜さん、この車はどうしたんですか?」

 

穂乃果は、1番気になっていることを統夜に聞いていた。

 

「ああ、この車か?一応は俺の車だよ。自分の金でちゃんと買ったんだぜ?……まぁ、ムギのコネは使わせてもらったけどな」

 

統夜は去年の夏頃、バイクだけではなく車の免許も必要になると感じたからか、魔戒騎士の使命の合間に自動車学校へ通い、免許を取得したのである。

 

それからまもなく、統夜は紬の紹介してくれたディーラーでこの車を購入したのだが、紬の口利きのおかげで、本来の価格より格段に安くこの車を買うことが出来た。

 

「え?この車、統夜さんが買ったんですか!?でも、車って高いんじゃ……」

 

「確かにな。だけど、一応は一括で購入したんだぜ。それなりに稼いでるしな」

 

「!!?」

 

統夜が一括でこの車を購入したと知り、穂乃果は驚愕していた。

 

「アハハ……。流石は統夜さん……」

 

統夜は20歳ながらも一流の魔戒騎士として、多くのホラーを討滅してきたため、番犬所からはかなりの額を支給されている。

 

そのため、年収で換算したらかなりの額を稼いでいる。

 

そのことを知っている奏夜は苦笑いをしていた。

 

「さて、空港までもう少しなんだ。急ぐぞ!」

 

統夜は事前に空港までのルートを下調べしており、近道もバッチリ押さえていた。

 

そのため、渋滞に巻き込まれることもなく、スムーズに進んでいた。

 

そして、急いで空港へ向かうために統夜はさらにアクセルを踏み込もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

……その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

ドン!!

 

 

 

 

 

 

 

車の屋根から衝撃が伝わってくると、車が少し揺れてしまった。

 

「きゃっ!?」

 

「うぉっ!?」

 

「くっ……!」

 

その衝撃に穂乃果と奏夜は驚き、統夜は衝撃によってブレた車の進路をハンドルを切って修正していた。

 

「な、なんだ!?」

 

奏夜は慌てて窓を開けて上を覗き込むのだが、車の上にいる存在を確認すると、息を飲んでいた。

 

「そ……尊士!!」

 

「えぇ!?何でこんなところに?」

 

どうやら現在統夜の車の上にいるのは尊士のようであり、その事実に穂乃果は驚愕していた。

 

「まさかとは思うが、俺たちが空港へ行くのを邪魔しに来たのか……?」

 

統夜はこのように分析をするのだが、何故そこまでのことをするのか理解出来なかった。

 

そして、統夜の分析通り、尊士は奏夜たちの邪魔をしに来ており、素早い動きで移動しつつ、統夜の車に飛び乗ったのである。

 

「理由はわからんが、このまま邪魔されたら間違いなくことりを連れ戻せないだろうな」

 

「そんな!?」

 

尊士による妨害は明らかにことりを連れ戻すための障害となっているため、穂乃果は悲痛な声をあげていた。

 

「奴を振り払うぞ!2人とも、しっかり掴まってろ!」

 

このように宣言するなり、統夜はハンドルを右に左にと大きく切っており、車体を大きく振らせていた。

 

「きゃあっ!!」

 

「っとと……」

 

あまりにもアクロバティックな運転になってしまったからか、穂乃果は悲鳴をあげており、奏夜は動じることなく尊士の動向を見守っていた。

 

統夜の荒々しい運転も虚しく、尊士は力強く踏ん張っているからか、振り落とすことは出来なかった。

 

「くそっ!ダメか!」

 

尊士を振り落とすことが出来ず、統夜は舌打ちをしていた。

 

『おい、統夜!このままじゃまずいぞ!奴は強引にでもこの車を止めさせるつもりだ!』

 

統夜の魔導輪であるイルバが心配するように、このまま尊士がタイヤを潰すなどの行動を起こし、車を停車させてしまっては、間違いなく間に合わなくなり、奏夜の計画が瓦解してしまう恐れがあった。

 

「そんなこと……!させるかよ……!」

 

それだけは絶対に阻止したい奏夜は、決意に満ちた表情をしていた。

 

そして……。

 

「……統夜さん。穂乃果を必ずことりの元へ送り届けて下さい」

 

「それはもちろんだけど、お前、まさか……!」

 

統夜は奏夜がこれから何をしようとしてるのかを察しており、奏夜はその答え合わせをすることなく、ニヤリと笑みを浮かべていた。

 

「そーくん、いったい何をするつもりなの?」

 

そして、奏夜が何をしようとしているのか理解出来ない穂乃果は、そんな疑問を奏夜に投げかけていた。

 

「……こうするのさ!」

 

奏夜は自分が座っている助手席側の後部座席の窓を全開にすると、そこから身を乗り出し、尊士のいる車の上へと飛んでいった。

 

「えぇ!!?」

 

奏夜の予想外な行動に、穂乃果は目を大きく見開いて驚愕していた。

 

「……!小僧、貴様……!」

 

「貴様に、穂乃果とことりの仲直りの邪魔はさせない!!」

 

奏夜はこう言い放つと、レスリング選手顔負けのタックルを尊士に仕掛け、尊士と共に車から飛び降りていった。

 

そして、2人はそのまま少し先にある土手まで落ちていった。

 

「そーくん!」

 

奏夜が体を張って尊士を追い払ったのを見て、穂乃果は思わず声をあげていた。

 

「穂乃果、行くぞ!奏夜の決死の思いを無駄には出来ないだろ?」

 

「……っ!……はい!」

 

「それじゃあ、しっかり掴まってろ!」

 

こうして邪魔者がいなくなったことを確認した統夜はアクセルを踏み込み、車の速度をあげて空港へと向かっていった。

 

そして、尊士は統夜の車が走り去るのを見送ることしか出来なかった。

 

「おのれ、小僧……!邪魔をしおって……!」

 

ジンガに与えられた命令を奏夜に妨害されてしまい、尊士は怒りを露わにしていた。

 

「それはこっちの台詞だ!これ以上、お前たちに邪魔をさせる訳にはいかない!」

 

奏夜はこのように言い放つと、魔戒剣を抜き、尊士のことを睨みながら構えていた。

 

「愚かな……。貴様のような未熟な魔戒騎士がこの私に勝てると思うな!」

 

尊士は奏夜と戦った時に常に奏夜を圧倒していたため、奏夜を見下すようなことを言っていた。

 

「俺を……。今までの俺と同じと思うな!」

奏夜はこのように言い放ち、尊士のもとへ向かっていった。

 

そして、尊士は格闘戦の構えをすると、奏夜を迎撃する準備を整えていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

奏夜が妨害をして来た尊士を抑えてくれたため、統夜と穂乃果は予定よりも早く空港に到着することが出来た。

 

「……穂乃果!俺はまたすぐ出発出来るようにここで待機してる。だから、急いでことりを連れ戻して来い!」

 

「はい!ありがとうございます、統夜さん!」

 

穂乃果はここまで自分を運んでくれた統夜に感謝の言葉を送ると、車を飛び出してことりのもとへと向かっていった。

 

「……頑張れよ、穂乃果」

 

統夜は穏やかな表情でこのように呟くと、いつでも車を出せるように待機をしていた。

 

そして、同じ頃、ことりは諸々の手続きを済ませ、現在は椅子に座り、飛行機の搭乗開始の時を待っていた。

 

(……そーくん。私と穂乃果ちゃんを会わせるって言ってたけど、無理だったんだね……)

 

奏夜はことりと穂乃果を仲直りさせるため、2人を会わせると言うことを話していたのだが、現在自分が空港にいるため、それは実現出来なかったと予想していた。

 

(……穂乃果ちゃんやみんなに会いたいなぁ……。でも、もし会っちゃったら、私は……)

 

ことり自身も奏夜たちに会いたいと思っていたし、先ほど見送りに来ていた母親にも会わなくてもいいのかと問いかけられたのだが、「会ったら泣いちゃうから」とだけ答えて会おうとしなかった。

 

(それに、私が迷ってたせいで、穂乃果ちゃんやみんなを傷つけちゃった……)

 

ことりも、少し前の穂乃果のように、自分の決断が周囲を傷つけてしまったと自責の念に駆られていた。

 

(だから……。これで良かったんだよ……。だって、服飾の仕事は本当に私の夢なんだから……)

 

ことりは自分の夢を持ち出し、このように自分を言い聞かせていた。

 

そうしなければ、後悔と自責の念に押し潰されそうになるから。

 

そんなことを考えているうちに、ことりの乗る飛行機の搭乗手続き開始のアナウンスが流れていた。

 

(……時間か。もう行かなきゃ)

 

ことりはゆっくりと椅子から立ち上がり、そのまま搭乗手続きを行うために飛行機の搭乗口に向かおうとしていた。

 

……その時だった。

 

「……ことりちゃん!!」

 

急に誰かにそう呼ばれて腕を掴まれたため、驚きながらその方向を見たのだが、その人物を見てことりはさらに驚愕していた。

 

「ほ、穂乃果……ちゃん……?」

 

その人物は、奏夜や統夜の協力によって空港までたどり着いた穂乃果であった。

 

「穂乃果ちゃん……。どうして……?」

 

穂乃果がここに来ていることに疑問を抱いていたことりだったが、そんなことを考える暇もなく、穂乃果はことりに抱き付いていた。

 

「ことりちゃん……!ごめんね!」

 

穂乃果はまず最初に色々あった出来事に対しての謝罪をしていた。

 

「私、スクールアイドルをやりたいの!ことりちゃんと一緒にやりたいの!いつか別の夢に向かっていかなきゃいけなくなることはわかってる!だけど、行かないで!」

 

穂乃果は今自分の思っている本音をことりにぶつけたのであった。

 

ことりはそんな穂乃果の本音が嬉しかったのかホッとしたのか、その瞳からは涙が溢れていた。

 

「うぅん……。私、自分の気持ち……。わかってたのに……!」

 

ことりの本音は、留学など行かず、もっともっと穂乃果やμ'sのメンバーといたいというものであった。

 

しかし、留学のことを穂乃果に相談出来ず意固地になってしまい、話がここまでこじれてしまったのである。

 

奏夜の真っ直ぐな言葉を聞いた時、ことりの心は揺れていたのだが、折れることはなかった。

 

しかし今、穂乃果から「行かないで」と言われるのはことりも望んでいたことであり、ここでようやくことりは自分の気持ちに素直になれたのであった。

 

「ことりちゃん、帰ろう。μ'sのみんなも待ってるよ!」

 

「穂乃果ちゃん……。うん!」

 

抱き合っていた穂乃果とことりは離れると、穂乃果はこのように宣言し、ことりは満面の笑みで返していた。

 

この時ことりには一切迷いはなく、本気で留学の話をなかったことにして、大切な仲間たちのもとへ帰ろうと思っていた。

 

「さぁ、ことりちゃん、行こう!これからライブをすることになってるんだ!9人揃ってね」

 

「えぇ!?これから!?」

 

これからライブをするなど予想もしていなかったからか、ことりは驚きを隠せなかった。

 

「それに今、統夜さんが車で私たちのことを待ってるよ!」

 

「統夜さんが?どうして……?」

 

「詳しい話は車の中でするよ。さぁ、急ごう!」

 

「う、うん!」

 

こうして、無事にことりを連れ戻すことに成功した穂乃果は、ことりと共に空港を出ると、そのまま統夜の車まで戻って来た。

 

2人はすかさず統夜の車に乗り込むと、統夜は車を発進させ、そのまま音ノ木坂学園へと向かっていった。

 

「……ことり、無事に戻ってきたみたいだな」

 

「はい。統夜さん、ありがとうございます」

 

「気にすんなって。それよりも急ぐぞ。これからライブが待ってんだろ?」

 

「「はい!」」

 

2人の返事を聞いた統夜はアクセルを踏み込んで車を加速させると、出来るだけ迅速に音ノ木坂に着くよう努力していた。

 

その道中、穂乃果は奏夜のおかげで大切なことを思い出したことや、ことりを連れ戻して9人でライブをすることは奏夜の作戦だということを伝えていた。

 

そして、奏夜も途中までは一緒にいたのだが、尊士の妨害を受けてしまい、穂乃果を行かせるために身を呈して尊士に向かっていったことを話していた。

 

その話が終わるタイミングを見計らって、統夜はイルバを使って奏夜と連絡を取ることにしたのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

その頃、穂乃果をことりのもとへ行かせるために尊士に向かっていった奏夜は、尊士と激しい戦いを繰り広げていた。

 

そんな中、尊士は驚きを隠せずにいた。

 

初めて戦った時は自分を相手にして手も足も出なかった未熟な魔戒騎士が、本気の自分と互角に渡り合えているからである。

 

「このぉっ!!」

 

奏夜は魔戒剣を一閃するのだが、尊士は魔戒剣に酷似した剣を抜くと、奏夜の一撃を受け止めていた。

 

「まさか……!貴様のような小僧がこの私に剣を抜かせるとはな……」

 

格闘戦の時も尊士は本気を出してはいたのだが、剣を抜くことになるとは思っていなかったからか、尊士は驚いていた。

 

「しかし……貴様など私の敵ではない!」

 

尊士は負けじと剣を力強く振るうと、奏夜を弾き飛ばしていた。

 

「くっ……!まだまだ!」

 

奏夜は間髪入れずに尊士に接近し、魔戒剣を一閃した。

 

尊士は奏夜の一撃をかわすと、剣を持っていない方の手で奏夜に鉄拳を放っていた。

 

「ぐっ……!なんの!まだだぁ!」

 

尊士の一撃を受けても奏夜は怯むことなく接近し、魔戒剣を振るっていた。

 

その一閃は確実に尊士を捉えようとしており、尊士はそんな奏夜の鋭い一撃に驚きながらも剣で奏夜の攻撃を受け止めていた。

 

そんな中、2人は互いに一歩も引かずに激しく剣を打ち合っていた。

 

そして、尊士は何度目かの剣の一閃をするのだが、奏夜はそれを魔戒剣で受け止めて、ここで鍔迫り合いの状態になっていた。

 

「何故だ!あの時未熟だった小僧が、何故私と対等に渡り合えるのだ!」

 

尊士は自分の疑問を奏夜にぶつけていた。

 

「当たり前だろ?俺には守りたいものがある。それが俺を強くするんだ。だから、今までの俺と思うな!」

 

奏夜がこう言い放つと鍔迫り合いは終わり、奏夜と尊士は後方に下がっていた。

 

そして、 再び尊士に向かっていこうとしたその時だった。

 

『……奏夜!月影統夜からだ!』

 

キルバは統夜の魔導輪であるイルバを介して連絡が来たことを伝えていた。

 

「統夜さんから?」

 

このタイミングで統夜から連絡が来ると言うことは……。

 

奏夜は淡い期待を抱いていた。

 

そして……。

 

『奏夜!生きてるか!』

 

キルバを介して統夜の声が聞こえてきた。

 

「えぇ。なんとか生き残ってますよ」

 

奏夜もまた、キルバを介して統夜に返事をしていた。

 

すると、『そーくんの声が聞こえた!?』と穂乃果とことりの声が聞こえてきた。

 

この瞬間、全ての事情を察した奏夜は、これまでにないくらいの高揚感を覚えていた。

 

『……奏夜。お前が察する通り、ことりは戻ってきたぞ。今は音ノ木坂学園に向かっている』

 

「そうですか……。良かった……」

 

ことりが留学を辞めて戻ってきてくれた。

 

今の奏夜にとって、これ以上に嬉しいことはなかった。

 

安堵をしているからか、心にゆとりが出来てしまったところを尊士は見逃さなかった。

 

「……小僧!隙だらけだぞ!」

 

そんな奏夜の隙を突こうと、尊士は剣を構えて奏夜に向かい、奏夜を始末しようとしていた。

 

しかし、奏夜は冷静であり、しっかりとした動きで魔戒剣を振るい、尊士の攻撃を受け止めていた。

 

「な、何だと!?」

 

明らかに攻撃を防ぐことは不可能だと思っていたため、奏夜が攻撃を防いだことに尊士は驚きを隠せなかった。

 

その驚きが、逆に自分に隙を作ってしまい、奏夜は蹴りを放って尊士を吹き飛ばしていた。

 

「おのれ……!未熟な魔戒騎士如きが……!」

 

まさか自分が奏夜にしてやられるとは思っていなかったからか、尊士は憤怒の込もった目で奏夜を睨みつけていた。

 

『そーくん!?大丈夫なの!?』

 

キルバを介して、ことりの声が聞こえてきた。

 

「心配はない。それよりも……。今の俺は、誰が相手だろうと負ける気がしない!」

 

μ's再生の活路が完全に見えている奏夜にとって、その事実が力を与えており、どんな強敵も倒せるといった強い気持ちになっていた。

 

そんな奏夜の言葉を尊士が許せるはずもなく、尊士は剣を手に再び奏夜に向かっていき、奏夜も応戦していた。

 

そして、互いに激しく剣を打ち合っており、その度に飛び散る火花がその激しさを物語っていた。

 

『そーくん……。ごめんね……。そーくんが言ってくれた通り、留学に行きたいっていうのは本心じゃなくて、私は自分の気持ちに嘘をついてたの……。それを、穂乃果ちゃんが気付かせてくれたんだ。だから……』

 

ことりは自分の思いをキルバを介して語っていた。

 

その声はとても弱々しく、キルバを介しても聞こえるか聞こえないかといったところだったが、激しく剣を打ち合っている奏夜の耳と心にしっかりと届いていた。

 

「ことり、何も気にすることはないぞ。お前が帰ってきてくれたんだ。これ以上、何を望むって言うんだ」

 

これもまた、奏夜の本心であり、奏夜はことりが帰ってきて、離ればなれにならずに済んだことを心から喜んでいたのだ。

 

『でも……。私は……』

 

「おっと。皆まで言うな。これからライブが待ってるんだ。まずはそれを成功させないとな!」

 

奏夜は力強く剣を振るい、尊士を弾き飛ばしながらこのように宣言をしていた。

 

『私たちはそのつもりだけど、そーくんは間に合うの?』

 

奏夜は現在、尊士と戦っており、これから穂乃果たちのライブに顔を出せる保証はない。

 

尊士の実力は目の当たりにしているため、穂乃果はそこを心配していた。

 

しかし……。

 

「大丈夫だ。俺はなるべく急いで戻ってくるさ。……尊士を倒してな!」

 

奏夜はこのように断言しており、この発言は尊士をさらに怒らせるには充分だった。

 

「調子に乗るな……!小僧!」

 

奏夜の言葉をこれ以上許すことが出来なかった尊士は、精神を集中させると、ホラーの姿へと変化した。

 

それと同時に尊士は衝撃波を放つのだが、それをまともに受けた奏夜は後方に吹き飛んでしまう。

 

「くっ……!」

 

しかし、すぐに体勢を立て直すと、再び魔戒剣を構えたのであった。

 

『奏夜!俺から言えることはたった1つだ。……尊士を倒して、絶対に生きて帰って来い!そして、μ'sの再スタートを見届けろ』

 

「統夜さん……」

 

『奏夜……やれるな?』

 

「……はい!元よりそのつもりです!」

 

統夜の投げかける問いかけに、奏夜は力強く答えていた。

 

奏夜の強い決意を感じ取った統夜は、尊士との戦いに専念出来るよう連絡を終えていた。

 

「貴様のような未熟で弱い魔戒騎士が私を倒す?冗談は大概にするんだな!」

 

奏夜は本気で尊士を倒すつもりだったのだが、尊士はそんな奏夜の態度が気に入らず、奏夜に接近して、剣による攻撃を仕掛けてきた。

 

奏夜は辛うじて尊士の動きに対応出来ており、尊士の攻撃を魔戒剣で受け止めていた。

 

(さすがにホラー態になるとスピードもパワーも上がるか……。やっぱり手強い相手だぜ。こいつは……)

 

尊士の攻撃を受け止めることで精一杯だった奏夜であったが、怯む様子は一切なかった。

 

「……尊士!あんたの言う通り、俺は魔戒騎士としては未熟だし、弱い!だけど、俺はそれを受け入れて、それを強さの糧にしてるんだ!」

 

内なる影との試練を乗り越えて、魔導馬光覇の力を得た奏夜は、自分の弱さを受け入れており、逆にそれを自分の力にしていた。

 

「それに気付けたのも、尊士!あんたにコテンパンに叩きのめされたからだ!」

 

奏夜は尊士と戦う前から自分の弱さを受け入れているつもりになっていたが、心の奥底では自分が弱いことや弱くあることを認めようとはしなかった。

 

それを受け入れ、成長の糧にしているのは、尊士との敗戦があったからであった。

 

「あんたがどういう経緯であのジンガの部下になったかは知らないけど、元は魔戒騎士だったんだろ?俺は、ホラーじゃない、騎士のあんたと出会いたかったよ!」

 

尊士と初めて戦った時、尊士は奏夜の魔戒剣を軽々と手にしていた。

 

その時から奏夜は尊士が元は魔戒騎士であったと確信をしていた。

 

だからこそ、奏夜はこのようなことが言えたのであった。

 

「くだらないことを……」

 

尊士はそんな奏夜の言葉をこのように切り捨てていた。

 

これ以上、奏夜の言葉に付き合っていられないからか、尊士は手にしていた剣を振るうのだが、奏夜はその一撃を魔戒剣で受け止めていた。

 

「あんたのおかげで、俺は自分の未熟さを実感することが出来た!勝つ事の意味を知ったんだ!」

 

奏夜は尊士に敗れたからこそ、多くのことを学べたため、敵ながらも尊士には感謝していたのであった。

 

「小僧……。いや、如月奏夜。その首、もらった!」

 

尊士は剣を力強く振り下ろして奏夜を吹き飛ばすと、すかさず奏夜の顔面に拳を叩き込んだ。

 

奏夜はその一撃をまともに受けても怯むことはなく、そのまま魔戒剣による一撃を尊士に叩き込んだのであった。

 

「ぐっ……!?き、貴様……!!」

 

奏夜の一撃をまともに受けて、尊士は表情を歪ませていた。

 

「だからこそ俺はあんたを倒す!大切なものを、守るために!」

 

尊士を倒す。

 

初めて戦った時もそれは言っていたのだが、あの時はそれを実行する実力は身につけていなかった。

 

しかし、今の奏夜なら尊士を倒すことが出来る。

 

奏夜はそんな強い自信を持っていた。

 

そして、尊士を倒し、これから行われる9人による再スタートのライブに絶対間に合わせようと考えていた。

 

尊士の実力からそれは難しいのだが、絶対にライブに間に合わせる。

 

そんな強い気持ちが奏夜を突き動かしていた。

 

奏夜が尊士に一撃を叩き込んだ後、尊士はすかさず反撃しようとしていたが、その前に奏夜は蹴りを放ち、尊士を吹き飛ばしていた。

 

「くっ……!おのれ……!」

 

「尊士!貴様の陰我、俺が断ち切る!」

 

奏夜が尊士に対してこう宣言すると、奏夜は魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

円を描いた部分の空間が変化すると、奏夜はそこから放たれる光に包まれていた。

 

奏夜の体が光に包まれていると、変化した空間から黄金の鎧が現れると、奏夜は黄金の鎧を身に纏ったのであった。

 

こうして、奏夜は陽光騎士輝狼の鎧を身に纏ったのであった。

 

「よかろう……。私も全力でお前を始末するとしよう。我が主の崇高な目的のために!」

 

尊士は先ほどの戦いでも本気は出していたものの、未だに秘めてる力を使い、確実に奏夜を葬ろうと考えていた。

 

そんなことを考えていた尊士は、精神を集中させると、背中に翼を出現させると、空高く飛翔した。

 

そして、素早い動きで奏夜を翻弄しつつ、剣による攻撃を連続で叩き込んでいた。

 

「ぐっ……!」

 

奏夜はどうにか反撃をしようとしたのだが、自身に空を飛ぶ能力はないため、尊士に一方的にやられることしか出来なかった。

 

「……もらった!」

 

奏夜は体勢を整える隙も与えられず、何度目かの斬撃を受けてしまった。

 

その一撃によって奏夜は吹き飛び、その衝撃で鎧は解除されてしまった。

 

「くっ……!」

 

ここまで一方的にやられながらも、奏夜はゆっくりと立ち上がり、どうにか魔戒剣を構えていた。

 

そして、奏夜は反撃の準備をするのかと思いきや、目を閉じて瞑想をしていた。

 

『おい、奏夜!何を考えている!それじゃやられるだけだぞ!』

 

「ふっ、いいだろう。このまま一気に楽にしてやる!」

 

尊士は奏夜にトドメを刺すべく奏夜に向かっていった。

 

(……俺は自分の中の闇を……。弱さを受け入れた。そして俺は、その思いと共に飛ぶ!μ'sのみんなを守るために!)

 

奏夜は心の中でこのような誓いを立てていたのであった。

 

「……その首、もらった!」

 

奏夜を始末する最大の好機を得た尊士は素早く飛翔し、奏夜に向かっていった。

 

尊士による凶刃が奏夜の首元に迫ろうとしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ!?」

 

奏夜の体の全身を覆うように光が放たれると、光と同時に衝撃波が放たれており、それを受けた尊士は後方に下がっていた。

 

「な、何が起きたと言うのだ……?」

 

あのまま行けば奏夜の首を切断し、その首を見せつけてμ'sメンバーに大きな絶望を与えることが出来た。

 

しかし、それが直前で妨害されてしまったのだが、突如放たれた光や謎の力に尊士は困惑していた。

 

すると、奏夜の体を包んでいた光は上空に飛翔し、ある程度の高さに来たところでその光は消滅した。

 

尊士もまた飛翔し、奏夜の体を包んでいた光の正体を確かめようとした。

 

「……!?何だと……!?」

 

自分の目の前に飛び込んできた光景に、尊士は驚きを隠せなかった。

 

尊士の目の前には輝狼の鎧を身に纏った奏夜がいたのだが、その見た目は先ほどとは大きく変わっていた。

 

輝狼の鎧は先ほどのような黄金の鎧ではなくなり、黒と金の鎧となっていたのだが、黒の割合が多くなっていた。

 

さらに、背中にはマントのような翼が生えており、奏夜はその力で飛翔しているものと思われる。

 

「……見せてやる、尊士。この、天月の力を!」

 

奏夜は魔戒剣が変化した陽光剣を構えて、このように宣言していた。

 

この姿は、天月輝狼(てんげつキロ)。

 

奏夜が自分の弱さを受け入れ、さらにμ'sのみんなを守りたいという強い思いに鎧が答え、漆黒の翼を与えた奇跡の形態である。

 

奏夜はそのまま尊士に向かっていくかと思われたのだが、何故か奏夜はどこかへ向かって飛んでいってしまった。

 

「……!?逃がさん!!」

 

奏夜の予想外の行動に尊士は驚くのだが、尊士もまた飛翔し、奏夜を追いかけていた。

 

奏夜の姿を捉えた尊士は、素早い動きで奏夜を斬りつけようとしていた。

 

しかし、奏夜は冷静に尊士の攻撃を受け流し、移動を再開していた。

 

「飛翔能力を得た時は驚いたが、臆したか、小僧!」

 

「……」

 

奏夜は尊士の挑発には一切乗らず、どこかへ移動するかのように飛翔していた。

 

「おのれ……!これならどうだ!」

 

尊士は手からエネルギー弾のようなものを何発も放ち、奏夜を叩き落そうとしていた。

 

しかし、奏夜は無駄のない動きでエネルギー弾のようなものをかわしていた。

 

すかさず尊士は剣による攻撃を叩き込むのだが、奏夜はそれを受け止めており、2人は互いに剣を打ち合いながらどこかへと向かっていった。

 

「……よし、ここら辺ならいいか」

 

鎧の制限時間が残り50秒を切っており、奏夜はどこかへ移動するのを辞めてきた。

 

「ようやく移動を辞めたか……。!?こ、これはまさか……!」

 

移動を辞めた奏夜を見て、尊士は周囲を見て驚いていた。

 

そこは、奏夜の通う音ノ木坂学園付近だったからであった。

 

「ようやく気付いたか。だが、手遅れだ!」

 

天月の力によって飛翔能力を得た奏夜は、その力を利用し、尊士を誘導しながら音ノ木坂学園へと向かっていた。

 

穂乃果たち9人のライブを確実に見届けるためである。

 

尊士と遭遇したエリアは、車で走っておよそ40分程の場所なのだが、奏夜も尊士もかなりのスピードで飛翔していたため、学校の近くまで来れたのであった。

 

「さて、一気に決着をつけさせてもらう!」

 

「小僧が……。なめるな!!」

 

尊士と向き合い、陽光剣を構える奏夜に、尊士は勢いよく向かっていった。

 

奏夜はその攻撃を受け止めており、激しく剣を打ち合いながら、反撃の隙を伺っていた。

 

そして、何度目かの攻撃で、その機会は訪れた。

 

「……!もらった!」

 

奏夜は一瞬の隙を突いて、尊士に接近し、陽光剣を一閃し、尊士の体を斬り裂こうとしていた。

 

「させん!!」

 

一瞬の隙を突かれた尊士であったが、どうにか剣で受け止めて、逆に奏夜を斬り裂こうとしていた。

 

この状況を制した者が勝者となるため、2人は激しく互いの剣を押し合っていた。

 

「私は負けん!貴様のような未熟な魔戒騎士に遅れを取ってたまるものか!」

 

尊士は自分のプライドを守るために、奏夜を斬ろうとしていた。

 

「俺は負ける訳にはいかない!守りし者として、μ'sのみんなを守るために!そして、再スタートをするμ'sを、マネージャーとして見守るためにも!」

 

そして、奏夜は魔戒騎士として、そしてμ'sのマネージャーとして、この戦いに勝とうと思っていた。

 

尊士は自分のために。奏夜は大切な仲間のために。

 

どちらの思いが強いかは一目瞭然であった。

 

そのため……。

 

「終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

奏夜はまるで獣のような咆哮をあげると、尊士の剣の切っ先を斬り裂き、そのまま尊士の体を斬り裂いたのであった。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

そして、体を斬り裂かれた尊士は断末魔をあげており、その体は陽光剣によって斬り裂かれるのと同時に爆発したのであった。

 

奏夜はこのまま尊士を本当に倒したのか確認したかったのだが……。

 

『まずいぞ、奏夜!時間がない!』

 

キルバがこのように警告するように、鎧の制限時間があと10秒になろうとしていた。

 

奏夜は尊士を討滅したかどうか確認することは出来ないまま、着地をするために急降下していた。

 

 

 

 

 

 

5……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3……

 

 

 

 

 

 

 

 

2……

 

 

 

 

 

 

 

 

1……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……になる寸前で奏夜は鎧を解除したのであった。

 

そのため、心滅獣身になることはギリギリ避けることが出来たのであった。

 

しかし、天月のスピードをもってしても完全な降下は行えず、奏夜はビルの3階分の高さから落下してしまった。

 

「……ぐぁっ!!」

 

そして、奏夜は落下先であるコンクリートにそのまま体を叩きつけられてしまった。

 

幸い、人通りの少ない場所に落下したため、騒ぎになることはなかったのだが……。

 

奏夜はゆっくりと立ち上がるのだが、尊士によるダメージと強大な力である天月を酷使したことによる身体的負担。

 

さらには先ほどコンクリートに叩きつけられたダメージがあるため、奏夜はボロボロであった。

 

「急いで学校に向かわないと……」

 

奏夜はダメージの残る体に鞭を打ち、音ノ木坂学院に向かおうとしていた。

 

……その時だった。

 

「おのれ……!如月……奏夜……!!」

 

「……!!?嘘……だろ……!?」

 

奏夜の目の前に、自分が先ほど倒したはずの尊士が現れており、そのことに奏夜は驚きと絶望が入り混じった表情をしていた。

 

先ほど尊士を斬った時、確かに手応えはあったのだが、倒し切ることが出来なかったのかと、奏夜は推測していたのである。

 

しかし、尊士もまた、ボロボロであるのだが、今の奏夜にはこれ以上戦うほどの余力は残っていなかったのである。

 

尊士が少しずつ奏夜に迫り、奏夜は息を飲むのだが、間もなくして尊士は膝をついたのであった。

 

奏夜の一撃は確実に効いていたのである。

 

「ま、まさかこの私が……。貴様のような未熟な小僧に遅れをとるとはな……」

 

尊士は自分の敗北を認めたくはなかったのだが、これ程のダメージを受けてしまったら、敗北を認めざるを得なかった。

 

「だが、この私を倒したからと言って、思い上がらないことだ……」

 

『おいおい、奏夜にやられたからと言って、負け惜しみか?』

 

尊士の捨て台詞のような言葉に、キルバは呆れ果てていた。

 

「ジンガ様の本当の実力は、私を遥かに凌駕する。貴様らがいくら力を合わせようが、ジンガ様を倒すことは出来ない……」

 

尊士は負け惜しみでこのようなことを言ってるのか事実なのかは不明だったが、ジンガの真の実力をこのように評価をしていた。

 

「それに、我が主の目的であるニーズヘッグが復活すれば、誰もジンガ様を止めることは出来ない。あの、黄金騎士牙狼だろうとな!」

 

「!?なんだと……?」

 

尊士の言葉は、最強の騎士である牙狼の存在を軽視しているようにも捉えられたため、奏夜は怒りを露わにしていた。

 

黄金騎士牙狼は全ての魔戒騎士の憧れであり、目標でもある。

 

そんな牙狼の存在を軽視されてしまっては、怒りを露わにするのももっともなことなのであるのだ。

 

「くくく……!スクールアイドルだかなんだか知らないが、せいぜい満喫するといい。その無駄な時間をな……!」

 

尊士は奏夜に言いたいことを最後まで言い切ると、その場に倒れ込んでしまった。

 

そして、陽光剣によって斬り裂かれた体は限界を迎えたからか、その体は徐々に消滅していった。

 

「……ジンガだって、絶対に倒してやるさ……。俺が、必ず……!」

 

奏夜は消えゆく尊士の姿をジッと見つめながらこう呟いていた。

 

「……みんな、今から行く。待っててくれよ……」

 

奏夜はボロボロな体に鞭を打ちながら、音ノ木坂学院に向かっていったのであった。

 

この時の奏夜に時計や携帯を見る余裕はなかったのだが、ライブ開始の時間は刻一刻と迫っているのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『最大の壁を越えたのは良かったが、ライブに間に合うのか?あいつらが待っているぞ!次回、「九人 後編」。今こそ輝け!女神たちよ!』

 

 




統夜が車を手に入れた経緯が明らかになりました(笑)

相変わらず、紬の力は凄いですねぇ。紬はディーラーにいくらの値切りをさせたのでしょうか……?(笑)

そして、本編には登場していない知らないキャラの名前が出てきました。

今回名前が挙がった楠神幸人というキャラは、僕が投稿している「牙狼×けいおん 白銀の刃」の後日談で、戒人が主役の話を書こうと考えていたのですが、そこで登場させるつもりだったキャラです。

楠神という苗字に弓使いということは……?

この幸人というキャラを登場させるかどうかは未定ですが、リクエストがあれば登場させようと思っています。

そして、今回、奏夜の鎧の強化体が出現しましたね!

天月輝狼のモデルは、「CR 牙狼 金色になれ」に登場した「真月牙狼」および、「牙狼 GOLD STOME 翔」に登場した「牙狼・闇」になっています。

僕は前者のイメージで書いていましたが、奏夜が天月になった状況を考えると、後者もしっくりくるんですよね……。

それでも、奏夜はあの尊士を倒すことが出来ました!

初対決の時は手も足も出なかったのに、奏夜はかなり成長しましたよね。

尊士をここで退場させるかさせないかは最後まで迷いましたが、今後の展開を考えて、退場させることにしました。

まだジンガが残っていますが、これからどうなっていくのか?

さて、次回こそは「崩壊と再生の絆編」の最終回で、アニメの一期編も終わりとなります。

次回はラブライブ要素がメインとなっています。

それでは、次回をお楽しみに!



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第55話 「九人 後編」

お待たせしました!第55話になります!

現在放送されている「牙狼 VANISHING LINE」ですが、かなり面白いですね!

第2話も見ましたが、面白かったです!

今作に登場しているルークの魔戒銃が最先端でいい感じですよね。

この小説に登場するアキトも魔戒銃使いですが、あそこまでの進歩はされられないと思います。

次回以降も期待です!

さらに「ラブライブ!サンシャイン!!」の二期もやってるので、楽しみが多くて困ってます(笑)

さて、今回こそこの章の最終回となります。

前回尊士を撃破した奏夜ですが、μ'sのライブに間に合わせることは出来るのか?

それでは、第55話をどうぞ!




奏夜と穂乃果は、ことりを連れ戻すために統夜の協力によって某国際空港に向かっていたのだが、尊士による妨害を受けてしまう。

 

奏夜は穂乃果をことりのもとへ行かせるために体を張って、尊士の妨害を阻止する。

 

その甲斐があったからか、穂乃果はことりを連れ戻すことに成功する。

 

そして奏夜は、尊士と激しい戦いを繰り広げており、激闘の末、尊士を撃破する。

 

その影響により、身も心もボロボロになりながら、奏夜は音ノ木坂学院へと向かっていった。

 

その頃、奏夜の計画していたライブの開始時間が目前に迫っており、μ'sのメンバーと剣斗は、講堂ステージの舞台袖で待機をしていた。

 

「穂乃果とことりは間に合うの?もう、ライブが始まっちゃうわよ!」

 

にこはライブ開始がまもなくであることに対して焦りを見せていた。

 

このままでは、9人揃ってのライブは不可能だからである。

 

「心配ない。奏夜と穂乃果はきっとことりを連れて戻ってくるさ」

 

「それはそうだけど!」

 

剣斗は奏夜たちを信じており、にこだって信じていない訳ではないが、ライブが迫っているため焦っていたのである。

 

「それよりも凛たちは制服だよ!?」

 

「ま、スクールアイドルらしいし、このままライブでもいいんじゃないの?」

 

μ'sのメンバーは全員制服のままなのだが、真姫はこのままライブをしたらどうかと提案していた。

 

「うむ!それはなかなかイイアイディアだと思うぞ!」

 

剣斗は制服のままパフォーマンスを行うことを賛成していた。

 

「それはいいんやけど、本当にもうすぐ時間になっちゃうよ!」

 

「お客さんを待たせる訳にもいかないわね……」

 

(奏夜……。穂乃果……)

 

このまま奏夜と穂乃果がことりを連れ戻して来なければ、7人でライブをせざるを得なくなる。

 

海未は2人のことを信じてはいるが、不安げに舞台袖から外に繋がっている扉を見つめていた。

 

すると、待ちに待った瞬間が訪れたのである。

 

バタン!と力強い扉が開く音が聞こえてくるのと同時に、穂乃果が入ってきた。

 

「うわぁっ!……っとっとっと!」

 

穂乃果は扉を開けて中に入った瞬間、勢いあまってバランスを崩してしまっていた。

 

そして、滑り込むように尻餅をつき、海未たちの前に現れたのである。

 

「いてて……。お待たせ!」

 

「穂乃果……!ことり!!」

 

それと同時にことりも中に入ってきており、その姿を見た海未は歓喜の声を上げていた。

 

「それに、統夜さんも!」

 

さらに、統夜も中に入ってきており、花陽は歓喜の声を上げていた。

 

しかし、ここで1つ大きな疑問が浮かび上がってきた。

 

「……あれ?奏夜は?一緒じゃなかったの?」

 

奏夜が現れる様子はないため、絵里は首を傾げていた。

 

穂乃果と奏夜がことりを連れ戻しに行ったのに、奏夜が戻ってこないのはおかしいと思ったからだ。

 

「……」

 

絵里の疑問に答えることをしなかった穂乃果は浮かない表情を浮かべていた。

 

「俺たちはことりを連れ戻すために空港に向かう途中、尊士に遭遇し、妨害を受けた」

 

そんな穂乃果に代わり、統夜がその時の状況を説明していた。

 

統夜の説明を聞き、穂乃果とことり以外の全員は驚きを隠せなかった。

 

「そ、尊士って確か、奏夜君が手も足も出なかったあの人だよね……?」

 

「そうだ。そして、奏夜は俺と穂乃果をことりの元へ行かせるために尊士を抑えてくれたんだ」

 

「奏夜……大丈夫かしら……?」

 

「そうね。1度は叩きのめされた相手だもの……。いくら奏夜でも勝てるかどうか……」

 

絵里と真姫は、奏夜が尊士に手も足も出ずに敗れてしまった様子をみているため、不安げな表情をしていた。

 

そんな中……。

 

「大丈夫だよ!そーくんはあの尊士って人をやっつけて、私たちのライブを見にきてくれるよ!」

 

「ことり……」

 

空港から学校へ向かう車内で、統夜の魔導輪であるイルバを介して奏夜の強い思いを聞いていたことりは、凛とした表情でこのように言い切っていた。

 

「そうだよ!だってそーくんは、私たちμ'sを導いてくれるマネージャーで、私たちだけじゃない。多くの人を守る「守りし者」なんだもん!」

 

そして、穂乃果もまた、自分が道を見失った時も見捨てることなくここまで引っ張り上げてくれた奏夜に心から感謝をしていた。

 

それではなく、「守りし者」というキーワードをあげており、それを聞いたμ'sのメンバーは穏やかな表情をしていた。

 

「だから、そーくんを待とうよ!ライブはそれからの方がいいもん!」

 

穂乃果は奏夜がここへ来るまではライブの開始は待ってほしいと提案するが……。

 

「……私たちもそうしたいですが、もうライブ開始の時間になります」

 

「そうね。お客さんを待たせる訳にはいかないわ」

 

海未と絵里も、奏夜を待ちたいというのが本音ではあったが、自分たちがスクールアイドルである手前、自分たちの都合でお客さんを待たせる訳にはいかないと判断していた。

 

「そんな……!」

 

穂乃果がそんな2人の言葉に肩を落とす中、統夜は笑みを浮かべていた。

 

「……だったら、奏夜が来るまで持たせれば大丈夫だよな?」

 

「それはそうですが、いったい何を……」

 

統夜は何かを企んでおり、不敵な笑みを浮かべると、剣斗のことを見ていた。

 

「……剣斗!プランBを実行するぞ!」

 

「うむ!私もちょうど同じことを考えていたところだ!」

 

統夜と剣斗は「プランB」なるものを実行に移そうとしており、剣斗はステージの方へと向かっていった。

 

「お、小津先生!」

 

海未が剣斗を引き止めるも手遅れであり、統夜は1度扉から外へ出ると、まもなくしてギターケースを手にして戻ってきた。

 

「と、統夜さん……?まさかとは思いますが……」

 

この時点で、絵里は統夜と剣斗の企みを察したのであった。

 

「ああ。これはスクールアイドルのライブだけど、前座は何でも構わないだろ?」

 

統夜はしれっと答えながら、ギターケースを開け、ギターの準備を行っていた。

 

それと同時に、剣斗がステージに現れ、観客たちは少しだけ戸惑いを見せていた。

 

『……みんな!今日はμ'sのライブに来てくれて、本当にありがとう!私は小津剣斗。μ'sが所属しているアイドル研究部の顧問をしている!』

 

剣斗はマイクを手に取ると、自分が何者なのか自己紹介をしていた。

 

剣斗がアイドル研究部の顧問であることは知れ渡っていることなので、生徒たちは驚くことはなかったのだが、戸惑いは見せていた。

 

『本来ならばこのままμ'sのライブといきたいところなのだが、ライブの準備がもう少しかかりそうなのだ!』

 

剣斗は奏夜を待っているためライブが出来ないとは話さず、まだ準備がかかりそうだと説明をしていた。

 

『そこでだ。私から1つ提案がある。……このままライブが始まるまで待つのはみんなも我らも心苦しい。μ'sのライブの前に、前座による演奏をしたいと思っているが、どうだろう?』

 

剣斗の提案に戸惑いを見せる観客たちであったが、前座がどのようなものが行われるか興味を持ったからか、大きな拍手を送っていたのであった。

 

『……みんな、ありがとう!それではさっそく行こうか!統夜!』

 

剣斗は舞台袖の方を向き、統夜の名前を呼ぶと、ギターの準備を整えた統夜がステージに現れたのであった。

 

統夜が登場したことで、「あの人誰だろう?」といった戸惑いの声や、「格好いい!」と容姿を褒める声が聞こえてきた。

 

それだけでは終わらず剣斗が10秒ほど舞台袖に下がると、まるでこの展開を読んでいたかのようにギターを持って現れたのであった。

 

剣斗がギターを弾けることを初めて知った音ノ木坂の生徒たちのテンションが最高潮になっていたのであった。

 

「小津先生ー!!」

 

「格好いい!!」

 

モデルのような容姿に、生徒思いな熱い心を持つ剣斗は生徒から絶大な人気を得ており、密かにファンクラブが存在する程だった。

 

そんな剣斗がバンドの花形であるギターを弾くというのは、生徒たちを興奮させるには十分だった。

 

「これは、上手くいきそうだな」

 

統夜は剣斗にしか聞こえないくらいの声で剣斗に語りかけていた。

 

「うむ。この調子で奏夜を待とうではないか」

 

そんな統夜の言葉を聞いた剣斗は、力強く答えていた。

 

『さぁ、μ'sに負けないパフォーマンスを見せてやろうぜ!剣斗!』

 

『うむ!そうだな、統夜!……さぁ、始めようか!』

 

剣斗がこのように宣言をすると、音響を担当しているヒデコが何かを再生し始めた。

 

剣斗は予めヒフミの3人と入念な打ち合わせをしており、穂乃果たちが遅れる場合は自分が演奏するため、ある曲を再生して欲しいと話していたのである。

 

ヒデコが何かを再生すると、ドラムスティックでリズムを刻む音が聞こえてきた。

 

それに合わせて統夜と剣斗はギターを演奏したのであった。

 

 

 

 

 

使用曲→Bright hope(統夜&剣斗デュエットver)

 

 

 

 

 

 

 

現在、統夜と剣斗が演奏している曲は、「Bright hope」という、統夜が高校時代に度々演奏していた曲であった。

 

この曲はもともと、プロを目指すミュージシャンであるSHUと呼ばれる人物が作った曲である。

 

この曲を演奏していた頃は偶然拾ったホラーの鱗をピック代わりにしており、それが効いているのか、プロデビュー目前まで来ていたのであった。

 

しかし、ホラーを探す統夜と出会い、音楽の本当の大切さに気付いたSHUは、ホラーの鱗の力に頼らず、自分の力のみで再スタートしようと誓っていた。

 

この曲はその直後に統夜のバンドである「放課後ティータイム」の曲として使って欲しいと託され、今に至る。

 

ちなみに現在SHUは、努力が実を結んだからか、売れている訳ではないが、プロデビューは果たしているのであった。

 

そんな「Bright hope」を、統夜と剣斗によるツインギター+ツインボーカルにて演奏しているのであった。

 

μ'sのライブを観に来た観客たちは、前座である統夜たちの予想以上のパフォーマンスに大いに盛り上がっていた。

 

「アハハ……。凄い盛り上がりだね……」

 

μ'sのメンバーとしても、この盛り上がりは予想外であり、ことりが苦笑いをしていた。

 

「まぁ、これなら奏夜が来るまでの時間稼ぎにはなるだろうけど……」

 

「スクールアイドルのライブなのに、ロック!?あー!もう!イミワカンナイ!」

 

絵里は2人の演奏が良い時間稼ぎになると考えていたが、スクールアイドルのライブには似つかわしくないロックな演奏に、真姫は頭を抱えていた。

 

「そーくん……。早く来て……。私たちはそーくんを待ってるんだよ……?」

 

穂乃果はまるで祈るかのように小さな声でこのように呟き、奏夜が現れるのを待っているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、奏夜が音ノ木坂学院に到着したのは、ちょうど統夜と剣斗による演奏が始まった直後であった。

 

「くっ……。急いで講堂まで行かないと……」

 

奏夜はボロボロな体に鞭を打ちながら、どうにか講堂へと向かっていった。

 

そして、どうにか講堂にたどり着いたのだが、講堂は既に異様な盛り上がりを見せており、それが外まで聞こえてきた。

 

「!?この盛り上がりは穂乃果たちの……?いや、違う。これは……!」

 

今演奏されているのがμ'sの曲ではないことにすぐ気付いた奏夜は、急いで講堂の中に入るのであった。

 

そして目に飛び込んできたのは、ギターを奏でる統夜と剣斗の姿であった。

 

「!?統夜さん……剣斗……」

 

奏夜が現れた時は、ちょうど曲の終盤であり、統夜と剣斗は、ギターを奏でながら、講堂に現れた奏夜を笑みを浮かべていた。

 

そして曲が終わり、客席からは大きな拍手と歓声があがっていた。

 

『……奏夜。ようやく来たみたいだな……』

 

ここがステージであることをまるで忘れているかのように、剣斗は普通に語りだしていた。

 

「剣斗……。俺は……!」

 

『あいつらが待ってる。早く行ってやれ』

 

奏夜は自分を待つために時間を稼いでくれた2人に感謝していたのだが、そんな言葉を統夜が遮っていた。

 

「……はい!」

 

この時の奏夜は痛みがどこかへと消え去っており、軽い足取りでステージの舞台袖へと向かっていった。

 

まもなくμ'sのライブが行われるため、統夜と剣斗はそれまでの時間稼ぎを行っていたのであった。

 

「……!奏夜!!」

 

舞台袖に奏夜が姿を現し、絵里は歓喜の声をあげていた。

 

「……悪い。遅くなった」

 

奏夜は穏やかな表情で微笑みながら自らの無事を報告するのであった。

 

「まったく……。奏夜のせいでライブが遅れてるんだからね」

 

「その通りよ。それに、いつも言ってるじゃない。レディを待たせるなって」

 

真姫とにこは奏夜の無事に安堵していたのだが、そんな本音を隠し、ツンとした態度を取っていた。

 

そんな2人の態度に、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「まったく……。よく言うわ。奏夜君のことが心配で誰よりもハラハラしてたのになぁ♪」

 

「「うっ、うるさいわね!」」

 

希はニヤニヤしながら真姫とにこのことをからかっており、2人はムキになって反論していた。

 

「アハハ……。まぁまぁ♪」

 

ムキになっている2人を、ことりが苦笑いしながらなだめていた。

 

「何かいつも通りの凛たちに戻って安心したにゃ♪」

 

「確かに……そうですね……」

 

奏夜を含めて10人揃ってこのように軽口を叩ける光景に凛と海未は安堵していたのであった。

 

「それよりも奏夜君、その傷……」

 

花陽は、全身ボロボロな奏夜のことを心配そうに見つめていた。

 

「心配はいらないさ。この程度はかすり傷だよ」

 

奏夜は花陽を心配させないために強がっていたのだが、実は体の痛みはかなりのものであり、動くのもやっとなのである。

 

「そーくん……。勝てたんだね。あの人に……」

 

「まぁな。だけどそれは俺1人の力じゃない。みんなの力があったからこそ、俺はあいつに勝てたんだよ」

 

奏夜はμ'sの存在が、今回の勝利に繋がったことを語っており、穂乃果たちにとって、そんな奏夜の言葉は何よりも嬉しかった。

 

「それはともかくだけれどね……。奏夜、その傷のこと、後でじっくり聞かせてもらうからね」

 

絵里はライブが終わった後、奏夜の傷について追求しようと考えていた。

 

「お、お手柔らかにお願いします……」

 

厳しい追求は必至であると判断した奏夜の表情は引きつっており、そのまま苦笑いをしていた。

 

「と、とりあえず!さっそくライブを始めるぞ!統夜さんと剣斗が時間稼ぎをしてるけど、それも長くは持たないからな!」

 

奏夜は話題を切り替えるために、目の前のライブの話をしていた。

 

時間稼ぎに限界があるのは本当のことであるからである。

 

「まぁ、確かにそうやね。それでは、部長のにこっちから一言」

 

「えぇ!?私!?」

 

希に無茶振りをされ、にこは動揺を露わにしていた。

 

しかし……。

 

「……なーんてね。今回はバッチリ考えてあるわ」

 

先ほどの動揺はブラフであり、本当はこのような振りが来ることを予想していたにこは、挨拶を用意していたのである。

 

それを確認した穂乃果たちは円になると、ピースをした状態の指を前に突き出し、それが合わさることで1つの形になっていた。

 

奏夜も円に加わっているため、2本の指×10人分により、形が形成されていた。

 

「……今日、みんなを1番の笑顔にするわよ!」

 

にこの宣言を聞き、奏夜たちは無言で頷いていた。

 

そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……1!」

 

「2!」

 

「3!」

 

「4!」

 

「5!」

 

「6!」

 

「7!」

 

「8!」

 

「9!」

 

穂乃果、ことり、海未、凛、花陽、真姫、にこ、希、絵里の順番で次々と数字を言っていった。

 

そして、絵里までが言い切ると、穂乃果たちは穏やかな表情で一斉に奏夜のことを見ていた。

 

そんな穂乃果たちのことを見た奏夜もまた、穏やかな表情で微笑みながら頷いていた。

 

すると……。

 

「……10!」

 

奏夜もまた、数字を言っており、この瞬間、9人の女神と1人の少年が揃ったことが確認されたのである。

 

「μ's!!」

 

『ミュージック……スタート!!』

 

奏夜たちμ'sは、心を1つにするためのかけ声を行っていた。

 

ステージからその掛け声を聞いていた剣斗は笑みを浮かべていた。

 

『さぁ、みんな!待たせたな!いよいよ音ノ木坂学院が誇るスクールアイドル、μ'sの登場だ!』

 

剣斗がこのように宣言をすると、観客の盛り上がりは最高潮になっていた。

 

そして、穂乃果たち9人はステージに1列に並ぶと、剣斗と統夜はステージから退散した。

 

「皆さん!こんにちは!私たちは、音ノ木坂学院のスクールアイドル……μ'sです!」

 

穂乃果はマイクを一切使わず、地声で挨拶を行っていた。

 

ライブの冒頭に挨拶するのは打ち合わせではなかったのだが、穂乃果は伝えたい思いがあるみたいだった。

 

「私たちμ'sの初ライブはこの講堂でした!その時、私は思ったんです!いつか……ここを満員にしてみせるって!」

 

μ'sのファーストライブは観客がほとんどいない完敗からのスタートであったが、穂乃果はその時から講堂を満員にすることを目標としていた。

 

「一生懸命頑張って、今、私たちがここにいるこの想いをいつかみんなに届けるって!」

 

穂乃果の心の中に抱いている強い想いは、μ's結成当初からくすぶることはなく、より一層強くなっていたのである。

 

「その夢が今日……。叶いました!だから、私たちはまた駆け出します!新しい夢に向かって!」

 

穂乃果は1度は活動休止をしてしまったμ'sの再スタートをここで宣言したのであった。

 

「これから歌う曲は、そんな私たちの再スタートに相応しい曲です!」

 

『聞いて下さい!』

 

μ'sの9人がこのように宣言をすると、音響を担当しているヒデコが曲の再生を始めたのであった。

 

 

 

 

 

使用曲→START:DASH(9人ver)

 

 

 

 

 

 

 

穂乃果たちがライブの曲に選んだのは、ファーストライブでも演奏した「START:DASH」だった。

 

あの時は2年生組の3人のみだったが、現在は9人。

 

人数が増えたことにより、そのパフォーマンスはさらに質の高いものとなっていた。

 

パフォーマンスの質が上がったのは、人数が増えただけではなく、穂乃果たちの今までの努力が実を結んだからこそなのである。

 

「みんな……成長したな……」

 

穂乃果たちのパフォーマンスを舞台袖で見ていた奏夜はしみじみと呟いていた。

 

奏夜はμ's結成当初から穂乃果たちのことを見守っており、その成長も挫折も目の前で見てきたのである。

 

「成長したのは穂乃果たちだけではあるまい?お前も成長したのではないか?奏夜」

 

「俺も成長?したのかな……」

 

統夜と共に舞台袖に移動した剣斗は奏夜が魔戒騎士としてだけではなく、男として成長したことを感じていた。

 

「うむ!顔付きが今まで以上に凛々しくなっている。男の顔になったと思うぞ、奏夜」

 

「俺もそう思う。お前はμ'sのマネージャーとしてだけじゃない。魔戒騎士としても大きな挫折を味わい、這い上がってきた」

 

統夜もまた、後輩騎士である奏夜の成長を実感しており、その要因を推測していた。

 

「だからこそ、お前は大きく成長出来たんだ。あの尊士を倒せる程にな」

 

「……はい!」

 

剣斗と統夜。2人から称賛の言葉を受けた奏夜は、これまでに見せたことのない凛々しい表情で返事をしていた。

 

「さぁ、奏夜。お前と共に成長したμ'sのパフォーマンスをその目に焼き付けろ。これからお前たちはさらに羽ばたいていくんだろ?」

 

「はい!」

 

奏夜はこのように答えると、μ'sのパフォーマンスに集中していた。

 

穂乃果が冒頭に言っていた通り、講堂は満員になっており、音ノ木坂学院の生徒だけではなく、一般のお客さんも来ていた。

 

穂乃果の妹である雪穂や、絵里の妹である亜理沙も来ており、それだけではなく、穂乃果の両親も駆けつけていた。

 

さらにはことりの母親である理事長もライブを見守っていた。

 

その表情は穏やかであり、娘であることりが留学に行かずに済んでホッとしたようにも見える。

 

ライブを見守っていると、真姫の母親もμ'sのライブの見学に訪れており、理事長と真姫の母親は互いの顔を見て驚きを隠せずにいた。

 

実は、理事長と真姫の母親は旧友であり、久しぶりの再会を果たしたのであった。

 

このライブは多くの人に見てもらおうという剣斗の粋な計らいによって生配信されており、μ'sのことを応援してくれた人たちはこのライブをパソコンやスマートホン越しで眺めていた。

 

統夜の大切な仲間である「放課後ティータイム」のメンバーたちも、大学の軽音部の部室で、ライブの様子を見守っていた。

 

そして、奏夜たちは知らなかった。

 

スクールアイドルの祭典であるラブライブを制し、ナンバーワンアイドルとなった「A-RISE」の3人もこのライブを見ており、穂乃果たちのパフォーマンスを見て驚いていることに。

 

こうして、多くの人に見守られながら、「START:DASH」の演奏は終了し、μ'sの再スタートのライブは終了したのであった。

 

それと同時に、スクールアイドルのサイト内では、登録が抹消されていた音ノ木坂学院のスクールアイドルグループ「μ's」が新たに登録されていたのである。

 

ライブが終了したことにより、講堂はこの日1番である大きな拍手と歓声に包まれていた。

 

それぞれの姉がパフォーマンスをしている雪穂と亜理沙は目をキラキラと輝かせており、穂乃果の母親も、娘の凛とした姿に喜んでいた。

 

穂乃果の父親に至っては、声をあげずに号泣する程感動していたのである。

 

そして、実際にパフォーマンスを行っていた穂乃果たちも、ステージ上でライブの成功を喜んでいたのであった。

 

「……皆さん、ありがとうございました!私たちμ'sはこれから、新たな夢に向かって走り出します!これからも私たちを応援、よろしくお願いします!」

 

『よろしくお願いします!』

 

穂乃果がライブ終了の挨拶をすると、それに続いて全員でこのように挨拶をして、ステージの幕は降りていった。

 

こうしてライブは終了したのだが、ステージの幕が降りても、しばらくは拍手と歓声は鳴り止まなかったのであった。

 

「みんな……。最高のライブだったぞ」

 

最高のパフォーマンスを終えた穂乃果たちを、奏夜は穏やかな表情で微笑みながら出迎えていた。

 

そんな奏夜の姿を見た穂乃果たちの表情は、ぱぁっと明るくなっていた。

 

そして……。

 

「そーくん!」

 

穂乃果は満面の笑みで奏夜に駆け寄り、そのまま奏夜に抱きついたのであった。

 

「うぉっ!?っとと……。おいおい、いきなり抱きつくなよなぁ……」

 

奏夜は穂乃果が抱きついてきたことが恥ずかしかったので頬を赤らめるのだが、それを悟られないために呆れ気味な口調になっていた。

 

「ヤダよ!だって、これからもこうやってみんな揃って活動が出来るのが嬉しいんだもん!」

 

穂乃果はこれまでにない程の高揚感を覚えており、それを奏夜にぶつける形となったため、奏夜に抱きついたのであった。

 

「ったく……。お前ってやつは……」

 

奏夜としては抱きつかれるのは恥ずかしかったのだが、満更ではなかった。

 

そんな中、海未とことりは互いに顔を見合わせると、笑みを浮かべていた。

 

そして、2人もまた奏夜の方へ向かっていくと、2人揃って奏夜に抱きつくのであった。

 

「ちょ!?お前らもかよ!」

 

「うるさいですよ!いいじゃないですか、たまにはこういうのも」

 

「そうだよ♪私もみんなとこうやっていられるのが嬉しいんだもん!」

 

海未とことりが奏夜に抱きついたのも、高揚感から来たものであった。

 

そんな状況を、残りの6人もジッと眺めていた。

 

そして、6人はアイコンタクトを取ると、奏夜に怪しげな笑みを向けていた。

 

「お前ら……まさか……」

 

奏夜は嫌な予感がしたからか顔が引きつっていた。

 

奏夜の予感は当たったのか、6人は奏夜に向かってきたのである。

 

「いぃ!?」

 

6人もまた、一斉に奏夜に抱きつくのだが、9人に抱きつかれてバランスが保てるはずもなく、奏夜はその場で倒れ込んでしまい、穂乃果たちもドミノ倒しのように倒れていった。

 

その結果、奏夜は9人に押しつぶされそうになっていた。

 

穂乃果たちはこの状況にポカーンとしていたのだが、しばからくすると、この状況がおかしいからか、笑い出していたのであった。

 

穂乃果たちが笑うのを見ていた奏夜もまた思い切り笑っており、奏夜たちは思い切り笑い合っていた。

 

そんな奏夜たちの様子を、統夜と剣斗は穏やかな表情で見守っていた。

 

特に統夜は、この光景を見て感慨深いものを感じていたからか、「ふっ……」と笑みをこぼしていた。

 

『おい、統夜。お前さんまでどうしたんだ?急に笑い出して』

 

そんな統夜を見かねたからか、相棒であるイルバが語りかけてきた。

 

「別に?ただ、高校の時のことを思い出してただけさ」

 

統夜は奏夜たちが笑い合うのを見て、高校生の頃のことを思い出していたのである。

 

『なるほどな。お前さんもこんなことがしょっちゅうあったもんな』

 

イルバもまた、当時のことを思い出し、こう呟いていた。

 

(……そうだ……。俺は、この笑顔を守りたいって思ってたんだ。俺はこれからも、みんなと、みんなの笑顔を守ってみせる。……守りし者として)

 

奏夜は心の中で、このような誓いを立てていたのであった。

 

(統夜さん。俺、やっと理解出来ました。あの時あなたが伝えたかった、守りし者とはなんなのかってことが……)

 

奏夜は初めて統夜と出会った時、統夜は守るべき大切な存在があれば守りし者とはなんなのかが理解出来ると話をしていた。

 

その当時の奏夜は魔戒騎士になったばかりだったからか、その言葉の意味を理解出来なかった。

 

しかし、μ'sというかけがえのない存在が出来た今の奏夜は、あの時の言葉をよく理解していたのである。

 

(だからこそ、俺は魔戒騎士としてもっともっと成長してみせます。……守りし者として……)

 

奏夜はこのように誓いを立てながら、統夜のことをジッと見ていた。

 

そして統夜もまた、そんな奏夜の視線を感じていたのである。

 

(……奏夜。本当に成長したな。初めてあいつと出会った時、あいつに言ったことを奏夜は理解したみたいだな)

 

統夜は、軽音部という守りたい存在があったからこそ、魔戒騎士として強くなれたし、多くの強大な敵を討滅することが出来た。

 

それを統夜は後輩である奏夜にも伝えていたが、当時はピンと来てなかったみたいだった。

 

(守りし者がなんなのか。それを理解したあいつなら、これからの試練も乗り越えることは出来るだろうさ)

 

統夜は奏夜の成長を実感しており、奏夜であればこれから訪れるであろう試練も乗り越えるられると確信していた。

 

(だからこそ、ジンガの野望は阻止しなくちゃな……。後輩である奏夜にばかり良い格好はさせない)

 

統夜は、先輩騎士として、これからの脅威となるジンガを必ず討滅することを心に誓っていた。

 

こうして、奏夜は最大の障害の1つである尊士を倒し、ことりを連れ戻したことにより、9人でのライブも大成功を収めた。

 

しかし、大きな問題が解決した訳ではない。

 

奏夜はこれからも、大切なものを守るために戦い続けるのだ。

 

……魔戒騎士として。そして、「守りし者」として……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……崩壊と再生の絆編・終

 




前作主人公である統夜がいい感じで活躍しましたね!

若干ではありますが、「けいおん!」要素も出せたと思います。

そして、剣斗もギターが弾けるという意外な事実が判明。

これは人気も出るよね。容姿が良くて生徒思いでギターも弾けてって……(笑)

そして、奏夜もなんとか間に合い、μ'sのライブも無事に終わりました!

最後は羨ましい展開となりますが、最初に言っておきます。

ハーレム展開にはしないつもりです。

個人的にハーレム展開はどうかなと思っているので。

まぁ、そんな展開は理想的といえばそうなんですけどね(笑)

そんな感じで、「崩壊と再生の絆編」は終了しました!

次回は、今更かもですが、UA20000記念作品を投稿しようと思っています。

どのような話になるのか?期待していてください!

そして、それが終了後は番外編をいくつか投稿するので、二期編スタートはしばらく先になると思います。

そこはご了承ください。

それでは、次回をお楽しみに!



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日常・番外編
UA20000記念作品 「休日 前編」


お待たせしました!番外編になります!

今回はUAが20000を越えた記念の番外編となります。

現在はUAが約24000なので今更感は否めませんが(笑)

今回の番外編は、主人公である奏夜の休日にスポットを当てています。

奏夜がどのような趣味を持っており、どのような休日を過ごすのか?

それでは、番外編をどうぞ!




音ノ木坂学院に存在するスクールアイドルグループ「μ's」のマネージャーであり、陽光騎士輝狼の称号を持つ如月奏夜は、現在静岡県の沼津市に来ていた。

 

「……ここが沼津か……。初めて来たが、いいところだな……」

 

奏夜は現在、沼津駅の前に来ており、駅前の景色をじっくりと眺めていた。

 

何故奏夜が現在沼津に来ているのか?

 

それは、今から数日前まで話は遡る……。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

奏夜が沼津を訪れる数日前、奏夜はロデルからの呼び出しを受けて、番犬所を訪れていた。

 

「奏夜。最近のあなたは魔戒騎士としての成長が著しく、次々と戦果をあげていますね。あなたの成長は、私も嬉しく思っています」

 

この頃の奏夜は魔戒騎士として一人前と言っても過言ではない程成長しており、様々な強大なホラーも討滅してきた。

 

そんな奏夜の戦果を、ロデルは心から評価していたのであった。

 

「あっ、いえ……。俺はまだまだ未熟です。憧れの統夜さんには遠く及ばないんですから……」

 

ロデルに褒められて、奏夜は満更でもなかったのだが、自分は魔戒騎士としてはまだまだ未熟だと評価をしていた。

 

自分はまだ、白銀騎士奏狼の称号を持つ、月影統夜に追い付いてはおらず、足元にも及ばないと感じていた。

 

「まぁまぁ、そんなに自分を卑下しないで下さい。あなたの活躍は、元老院も大きく評価していますよ?」

 

「元老院が……?俺を?」

 

元老院が自分を評価してくれていることに、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「高校生ながら魔戒騎士として大いに活躍しているあなたに何か褒美を与えるようにと元老院からも言われています。奏夜、あなたは何か欲しいものはありますか?」

 

ロデルは、奏夜に何か褒美を与えようと考えており、何が欲しいのか奏夜に問いかけていた。

 

「そうですね……」

 

自分は何が欲しいのか。奏夜はじっくりと考えていた。

 

そして……。

 

「それであれば、何日か休みが欲しいと思っています」

 

「なるほど……。休みですか……」

 

「はい。魔戒騎士の使命を忘れるつもりはありませんが、私は見識を深めるために少しだけ旅をしたいのです」

 

現在はスクールアイドルとしての活動も落ち着いているため、このような提案が出来るのである。

 

「なるほど……。確かにあなたは魔戒騎士にμ'sのマネージャーと忙しい日々を過ごしていますしね。時には休息も必要でしょう」

 

ロデルは、奏夜が毎日忙しくしていることを知っているため、休息の大事さを感じていた。

 

「……わかりました。それでは、数日後の◯月◯日から、3日間の休日を与えます。その3日間で体を休め、見識を広めると良いでしょう」

 

こうして、ロデルは奏夜に休日を与えたのであった。

 

翌日、奏夜は穂乃果たちに数日後、3日間の休日をもらったことを報告していた。

 

「へぇ、それじゃあそーくんはしばらく魔戒騎士の仕事はお休みするんだ!」

 

「ああ。俺もちょうと休みが欲しいって思ってたし、言ってみるもんだよな」

 

褒美を与えると言われれば、通常は高価な商品や価値のあるもの。もしくはそれなりの金銭を求めるのが通説だと思うが、奏夜は何よりも安上がりな休みを要求したのであった。

 

「ねぇねぇ、そーくん!それだけ休みがあるなら、穂乃果たちと一緒に遊ぼうよ!」

 

「それはいいにゃ!だって、そーや君は最近凛たちと遊んでくれないし……」

 

「仕方ないだろ?俺だってμ'sのマネージャーとして仕事をしながら騎士の使命を果たしていたんだからな」

 

奏夜はここ最近忙しい生活を送っていたことを愚痴っぽく語っていた。

 

「ぶー、そうだけどさぁ……」

 

「やっぱり一緒に遊びたいにゃ!」

 

奏夜が忙しくしていたことは穂乃果と凛も理解していたし、感謝もしていたが、やはり奏夜と遊びたい気持ちは強かった。

 

「仕方ないわねぇ……。奏夜には感謝をしてるし、普段から疲れてる奏夜のために、この宇宙ナンバーワンアイドルのにこにーが人肌脱いであげるわよ」

 

にこはこのように提案していたのだが、にこの本音は、奏夜と遊びたいというものであった。

 

「にこにーのラブにこパワーで奏夜の疲れなんてあっという間に吹き飛ばしてやるわよ♪」

 

にこはアイドルスマイル全開でこのように提案するが……。

 

「……悪いけど、間に合ってる」

 

「ぬわぁんでよ!!」

 

奏夜はジト目でにこの提案をスルーしており、にこはそれに異議を唱えていた。

 

奏夜は休みの日にやりたいことがあるため、それを伝えようとしたのだが……。

 

「……ねぇ、みんな。ちょっと待って!」

 

奏夜と遊びたいという話に、絵里が待ったをかけたのであった。

 

「?どうしたの?絵里ちゃん」

 

「私も奏夜と遊びたいけれど、奏夜は私たちだけではなく、多くの人のために頑張っているでしょう?だったら、数日くらいは奏夜のために時間を作っても良いと思わない?」

 

絵里は奏夜に日頃から感謝しているため、休日を自分のために使って欲しいということが言えたのであった。

 

「それは私も思っていました。奏夜にはスクールアイドルのことや魔戒騎士のことは忘れてリフレッシュする時間が必要なのだと」

 

「そうやねぇ。カードも言うとるよ。このまま根を詰めるのは災いしかない。全てを忘れるように体を休めるべしって」

 

海未は絵里の提案に賛成しており、希は占いの結果をそのまま奏夜に伝えていた。

 

「ま、いつも私たちとべったりじゃ奏夜も疲れるでしょうしね」

 

「そうだよね……。そーくんは疲れてるんだもんね……」

 

「こういう時じゃないと、感謝を伝えられないし、奏夜君にはゆっくりと体を休めてきて欲しいな!」

 

真姫は絵里の提案を妥当なものだと思っており、ことりは少しだけ残念そうにしていた。

 

それは花陽も同じ気持ちだが、奏夜に感謝をしてるからこそ、それを伝えるために絵里の言葉に賛同していた。

 

「……まぁ、俺としてはみんなと一緒に過ごしたいって気持ちはあるけど、休みを使って行きたいところがあるんだよ」

 

「へぇ、そうなんだねぇ」

 

「ところで奏夜。差し支えなければ、どこに行きたいのかを教えてくれますか?」

 

「まぁ、構わないけど」

 

奏夜としても、隠し立てすることではないからか、奏夜は海未の問いかけに平然とした表情で答えていた。

 

「……これはみんなに初めて話すことなんだが、俺は釣りが趣味でな」

 

「え!?そうなの!?」

 

奏夜の口から語られたあまりに意外な趣味に、穂乃果は驚いており、それは他のメンバーも同様だった。

 

「まぁ、魔戒騎士としての仕事やμ'sのマネージャーとしての仕事が忙しくて、最近は行けても釣り堀程度なんだけどな」

 

奏夜は毎日忙しく過ごしているため、どこかへ遠出して釣りに興じることは叶わず、近所にある小さな釣り堀で釣り気分を味わうことしか出来なかった。

 

「だからこそ、休みをもらってのんびり釣りでもしたいと思ってな」

 

「まぁ、確かに釣りに行くのなら、ウチらが付いて行っても退屈やもんね」

 

μ'sのメンバーで、奏夜同様に釣りが趣味の者はおらず、釣りに同行するという発想は持てなかったのであった。

 

「それで、釣りと行ってもどこに行くつもりなの?」

 

釣りに行くと行っても、釣りには川釣りや海釣りがあり、他にも有名な湖が釣りスポットになってることもあるため、絵里はどこまで釣りに行くのかを奏夜に尋ねていた。

 

「ああ。とりあえずは静岡の沼津に行こうと思ってるんだ」

 

「静岡……?沼津……?」

 

奏夜の口から飛び出してきた予想外の回答に、穂乃果は困惑していた。

 

「どうしてそこを選んだのよ?」

 

「そうね。釣りをするなら他にも有名なスポットがあるでしょう?」

 

にこと真姫は釣りに詳しい訳ではないが、普段あまり聞くことのない地名で釣りをすることが疑問だった。

 

「俺はそれも考えたが、有名な釣りスポットは人が多いから落ち着かないんだよ」

 

「まぁ、確かにそれは言えてるかもね」

 

奏夜が有名な釣りスポットを避けたのは、人が多いところを避けるためであり、ことりはその理由に納得していた。

 

「だからネットで調べてたんだよ。したら、沼津にある内浦って街は人も少ないし、釣りスポットもあるから、のんびり釣りをしたい人には向いているって書いてあったんだ」

 

「ふーん……。そうなんだぁ」

 

このように凛は相槌を打っていたが、あまり興味はなさそうであった。

 

「ところで奏夜。休みは3日で、その3日を使って内浦まで行くのですよね?」

 

「そういうことになるかな」

 

「その間はどこに泊まるのですか?」

 

海未は、内浦に滞在中の宿泊先の心配をしていた。

 

「本当なら釣り場にテントを張って、キャンプでもしようって思ってたけど、テントを張ってのキャンプは禁止されてるみたいなんだよ」

 

奏夜としては、キャンプをしてのんびり過ごそうと考えていたのだが、釣りスポットでのキャンプは禁止されているみたいだった。

 

「……だから、どっか旅館にでも泊まるとするよ。内浦にも旅館はあるみたいだし」

 

奏夜はネットで調べた結果、内浦に旅館があることを調べており、そこに泊まろうかと考えていた。

 

「まぁ、それなら安心ですよね」

 

どこに泊まるのかハッキリと聞いた海未は安心したみたいだった。

 

「ま、そういう訳で、俺は休みの日に釣りに行かせてもらうから」

 

「うん、わかった!そーくん、楽しんできてね!」

 

「ああ。そうさせてもらうよ」

 

こうして、奏夜は番犬所から3日間の休日をもらい、沼津へと釣りに出かけることになったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

そして現在、奏夜は沼津駅へと来ていたのである。

 

「さて……。内浦へはバスだったかな?」

 

奏夜はスマホを操作しながら、内浦への行き方を検索していた。

 

そして、その情報を元に内浦行きのバスのバス停へと到着したのだが……。

 

「……うわ、さっき出たばっかりなのか……」

 

タイミングが悪いことに、バスは数分前に出発してしまったみたいであり、次のバスまでは30分ほど待たなければいけなかった。

 

『ま、ここら辺は東京と比べたら田舎なのだろう?バスの本数が少ないのは仕方ない気がするがな』

 

「おいおい、あまりそういうこと言うなよな、キルバ……」

 

キルバの容赦ない言葉に、奏夜は少しだけ呆れていた。

 

「ま、少しは時間が出来たんだし、ここら辺を見て回るとするかな」

 

奏夜はバスを待たなきゃいけないことに落胆することはせず、街を見る時間が出来たことを喜んでいた。

 

『やれやれ。前向きな奴だ』

 

ほんな奏夜の姿勢に、キルバは少しだけ呆れていた。

 

「さて、まずはどこへ行こうかな?」

 

奏夜は沼津駅周辺の散策を始めようとしたのだが……。

 

「……ん?何だ?」

 

奏夜は気になるものを見つけたからか、足を止めていた。

 

奏夜の視線の先には、赤い髪の女の子がしゃがみこみながらうなだれていた。

 

実際の年齢はわからないが、小学生くらいだと思われる。

 

「……ったく……。仕方ないな……」

 

あの女の子の事情は知る由もないのだが、このまま放ったらかしにして観光も気がひけるため、女の子に声をかけることにした。

 

「……グスッ……ヒック……。お姉ちゃあん……」

 

その女の子は弱々しい口調で姉のことを呼び、泣いていた。

 

そこに、奏夜が近付いてきたのであった。

 

「……君、大丈夫か?」

 

「びぎぃ!!?」

 

奏夜は可能な限り優しく声をかけたのだが、女の子は奏夜の声に驚きと共に怯えており、少しだけ後ろに下がっていた。

 

「ったく……。そんなに警戒しないで……。って言っても無理か。俺はただ君の様子がおかしくて気になったから声をかけただけだから」

 

奏夜はこれ以上女の子を警戒させないために穏やかな表情で微笑みながら声をかけていた。

 

「うゆゆ……。そのぉ……ルビィは……」

 

どうやらこの女の子の名前はルビィというみたいだった。

 

「初対面の男に警戒するのは仕方ないことだけど、何か困ってることがあれば言って欲しいな」

 

「……」

 

「心配すんなって。俺は休みを利用して釣りをしに来たしがない高校生だから」

 

奏夜は女の子を安心させるために、自前の釣竿をチラッと見せて、自分の生徒手帳も見せていた。

 

魔戒騎士とはいえ、高校生の一人旅であることは間違いないため、生徒手帳を提示しなければいけない場面があると判断し、持ってきたのだ。

 

奏夜は生徒手帳がさっそく役に立つと思っていなかったため、苦笑いをしていた。

 

すると……。

 

「音ノ木坂学院の生徒さんなんですか!?」

 

先ほどの怯えきった表情とは打って変わり、目をキラキラと輝かせながら食い付いてきた。

 

「アハハ……。そんなに食い付いてくるとは……」

 

ルビィと名乗る女の子の食い付きぶりに、奏夜は苦笑いをしていた。

 

奏夜が音ノ木坂学院の生徒だとわかると、ルビィと名乗る女の子は何故か奏夜を警戒しなくなり、何があったのかを話す気になったのであった。

 

「実は……。お姉ちゃんとはぐれちゃって……。探したんだけど、見つからなくて……」

 

どうやらルビィと名乗る女の子は、迷子になったみたいだった。

 

「なるほどな……」

 

ルビィと名乗る女の子の事情を理解し、奏夜はウンウンと頷いていた。

 

「どこら辺ではぐれたのかはわかるか?」

 

「あの……。駅の広場の方なんです。そこは人が多くて……。それで……」

 

(なるほどな……。ここら辺の地理には詳しくないけど、だいたいわかったぞ)

 

奏夜はルビィと名乗る女の子を彼女の姉と再会させるために動こうとしていたのである。

 

《おい、奏夜。お人好しが過ぎるんじゃないか?人探しをしてバスに乗り遅れたらどうするんだ?》

 

キルバは、奏夜が安請け合いをしようとしていることに対して苦言を呈していた。

 

(その時はその時さ。この旅は急ぎの旅じゃないんだ。ちょっとくらいのハプニングは想定の範囲内さ)

 

《やれやれ……。まぁ、好きにしたらどうだ?》

 

奏夜は万が一バスに乗り遅れたら、その時になってどうするか考えるみたいであり、あまり気にしていなかった。

 

そんな奏夜の楽観的な態度に、キルバは呆れており、これ以上の苦言は言わなかった。

 

「とりあえず、広場の方に行ってみないか?そしたら、案外早く見つかるかもしれないぞ」

 

「それはそうなんですけど……。ルビィ、人の多いところは苦手で……」

 

(……ま、そんな気はするよな。気が弱そうなところがあるし……)

 

奏夜は、ルビィと名乗る女の子がかなり内気な性格であることを理解し、何故広場まで行こうとしないのかを理解していた。

 

「……だったら俺が付いてってやるよ。したらちょっとは安心だろ?」

 

「え?でも……」

 

「いいっていいって。俺はこれから内浦に行こうって思ってたんだけど、もうバスが出ちゃっててまだ時間があるからさ」

 

奏夜はこれから内浦に向かうということを明かし、ルビィと名乗る女の子の姉探しに行くことを伝えていた。

 

「……」

 

ルビィと名乗る女の子は、初対面の男性をここまで信用して良いものか悩んでいた。

 

しかし、このまま迷子でいるわけにもいかないと感じたからか……。

 

「……は、はい。お願いします……」

 

ルビィと名乗る女の子は、奏夜の提案を受け入れるのであった。

 

「それじゃあさっそく、広場の方に行ってみるか」

 

奏夜がこう提案すると、ルビィと名乗る女の子は無言で頷いていた。

 

そして、そのまま沼津駅の駅前にある広場に向かうことにした。

 

その広場は、今いる場所から歩いてそこまで時間はかからずに到着したのだが、それなりに人で賑わっていた。

 

「ふーん……。ここも行ってみようって思ってたけど、思ったより人が多いんだな」

 

秋葉原と沼津。比べたら秋葉原の方が人は多いのだが、この場所も予想以上に賑わっており、奏夜は驚いていた。

 

「うゆゆ……。人がいっぱい……」

 

ルビィと名乗る女の子は、人混みが苦手なのか、オドオドしながら一歩だけ奏夜の後ろに引いていた。

 

「なぁ。君のお姉さんってどんな感じの人なんだ?」

 

ルビィと名乗る女の子の姉を探すと言っても、容姿を知らなければ意味はないため、奏夜は確認作業を行っていた。

 

「あっ、はい……。背が高くて、黒くて長い髪が特徴なんです」

 

「なるほどね……」

 

ルビィと名乗る女の子から彼女のお姉さんの特徴を聞いた奏夜は、改めて周囲を見渡していた。

 

(背の高い黒髪の長髪ねぇ。けっこうそういう人は多そうな気はするんだねどな……)

 

奏夜はそんなことを考えながら周囲を見渡していたのだが、先ほど話していた特徴と酷似する少女と目が合ったのであった。

 

目が合った少女が、ルビィと名乗る女の子の姉かどうかはまだわからなかったが、確認はする必要があった。

 

しかし、少女はルビィと名乗る女の子の方を見て驚いており……。

 

「……ルビィ!」

 

「お姉ちゃん!」

 

どうやら、確認するまでもなく正解だったようであり、ルビィと名乗る女の子は、姉に駆け寄り、抱きついていた。

 

(アハハ……。まさかこうもあっさり見つかるなんて……)

 

予想以上に探し人が早く見つかり、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「どこへ行っていたの?勝手にどこかへ行ったらダメだとあれほど……」

 

「……ごめんなさい、お姉ちゃん……」

 

「まぁ、無事にルビィが見つかったから、良しとしますわ」

 

どうやら、この問題は一件落着したみたいだった。

 

(ま、これで俺はお払い箱か。再会した姉妹の間にわざわざ入ることもないだろ)

 

姉妹の再会に割って入ることを良しとしないと思った奏夜は、こっそりとその場からいなくなろうとしたのだが……。

 

「……そこのあなた!ちょっとお待ちなさい!」

 

ルビィと名乗る女の子の姉に呼び止められてしまい、奏夜は足を止めるのであった。

 

(アハハ……。呼び止められたか……。出来ればあのまま去りたかったんだけどな……)

 

引き止められてしまったため、奏夜はこのまま離れる訳にも行かず、2人の方へと向かっていった。

 

「あなたなんですの?妹をここまで連れて来てくれたのは?」

 

「まぁ、そういうことになるのかな?」

 

「何故そこまでしてくれたのです?何か見返りを求めてのことなんですの?」

 

ルビィと名乗る女の子の姉は、鋭い目付きで奏夜のことを睨みながら奏夜を警戒していた。

 

(うわぁ……。明らかに警戒してるよ……。まぁ、こんなご時世だから仕方ないけどさ……)

 

目の前にいる黒髪長髪の女性の警戒してる態度に、奏夜は苦笑いをしていた。

 

それと同時に、警戒するのも仕方ないと感じていたのである。

 

「別に?あの子をここまで連れてきたのはただの気まぐれだよ。あと、内浦行きのバスが来るまでの暇つぶし……って感じかな」

 

言葉を繕っては余計に警戒させると思ったからか、奏夜は思ったことをそのまま話していた。

 

「そ、そうなのですか……?」

 

「ま、だから気にしなくていいよ。それじゃあ」

 

ここまであっさりと答えたため、黒髪の女性は奏夜の言葉を信じていた。

 

奏夜は思ったことを正直に話してしまうタイプなのだが、そんな癖がこんなところで役に立っていたのであった。

 

見返りを求める下心がないことを伝えた奏夜はその場から離れようとしたのだが……。

 

「だからお待ちなさいな!」

 

再び黒髪の女性に呼び止められたため、その場を離れることは出来なかった。

 

「わかりました。あなたのその態度は嘘をついてる訳ではなさそうですし、信じるとしますわ」

 

「そう言ってくれるとこっちも助かるよ」

 

「理由はともあれ、迷子の妹を私と会わせてくれたのも事実。お礼も無しにこのまま返す訳にはいきませんわ」

 

「だから礼なんていいのに。全部俺の気まぐれなんだから」

 

奏夜がルビィと名乗る女の子の姉探しに付き合ったのは本当に気まぐれであるため、お礼をしてもらう筋合いはなかった。

 

「いーえ!礼はきっちりと返さねば、黒澤の名が廃りますわ」

 

ここで自分の苗字を出すということは、それなりの家元なんだなと、奏夜は感じていた。

 

「……だったら、俺は内浦の「十千万(とちまん)」って旅館に泊まるんだが、そこまで案内してくれないか?」

 

奏夜は行き方を知っていたが、この黒髪の女性は何か礼をしなければ気が済まなさそうだったため、このように提案していた。

 

「お安い御用ですわ。私たちもこれから内浦に帰る途中ですし、その旅館ならそこの前にバスは止まりますわ。そこまで案内しますわね」

 

「助かるよ。えっと……」

 

「……私の名前は黒澤ダイヤ。中学1年生ですわ」

 

黒髪の女性……黒澤ダイヤは、奏夜に簡単な自己紹介をしていた。

 

「その妹の黒澤ルビィです!」

 

ルビィと名乗っていた女の子……黒澤ルビィもまた、自己紹介をしていた。

 

「なるほど、ダイヤちゃんにルビィちゃんね」

 

奏夜は先ほど自己紹介をした2人の名前を確認していた。

 

「……俺は如月奏夜。高校2年生だ」

奏夜はあえて音ノ木坂学院のという言葉は付けず、ただ学年を名乗っていた。

 

ルビィが話すと判断したのもあるが、わざわざ自分からする話でもないと思っていたからである。

 

「奏夜さんですか……。よろしくお願いしますわ」

 

「よろしくお願いします!」

 

ここで奏夜の名前を知ったダイヤとルビィは、ペコリと頭を下げていた。

 

するとまもなく……。

 

「……ん?如月奏夜……。そのような名前、どこかで……」

 

ダイヤは、奏夜の名前を聞いたことがあるのか、「うーん」と唸って考え事をしていた。

 

ま、まぁいいじゃねぇか、そこは。もうすぐバスだってくるだろう?そこら辺はバスでゆっくり話そうぜ」

 

「?ま、まぁ。確かに、その方がいいかもしれませんわね」

 

「それじゃあ、バス停まで行こうか」

 

「ええ、案内しますわね」

 

(さっき行ったからわかるけどな……)

 

奏夜はそんなことを考えながら苦笑いをしつつ、ダイヤの案内で内浦行きのバス停へと向かっていった。

 

(それにしても危なかったな。危うく俺のことがバレるところだった)

 

奏夜は現在、μ'sのマネージャーとして、それなりに有名人になっていたため、正体がバレることを良しとはしなかった。

 

《おい、奏夜。何故μ'sのマネージャーであることを隠す?お前の顔と名前はだいぶ知れ渡ってるだろう?》

 

(確かにそうなんだけど、正体がバレて騒がれるのが面倒なんだよ。俺はのんびり釣りがしたいだけだからな)

 

《なるほど、それは一理あるかもな》

 

バス停に到着し、奏夜とキルバがテレパシーで会話をしていると、バスが到着したため、奏夜たちはバスに乗り込んだ。

 

バスに乗り込んだ奏夜は、自分の話はなるべく避け、ダイヤやルビィの話を聞くことにしていた。

 

話を聞くと、2人の家はここら辺では有名な網元であり、ダイヤはその跡取りになるからか、様々な稽古事をこなしているみたいだった。

 

(まるで海未みたいだな……)

 

奏夜がこのように思う通り、海未もまた、園田家という武道や日舞の家系の人間であり、スクールアイドルの活動の傍でそれらもこなしていた。

 

そんなところが、ダイヤと海未の似ているところではないかと奏夜は感じていたのである。

 

一方ルビィは、その内気な性格が災いしているからか、なかなか友達が出来ないと悩んでるみたいだった。

 

そんな中……。

 

「……それにしても不思議ですわね。ルビィは男の人が苦手なのでしょう?それなのに奏夜さんに付いていって私を探しに行ったとは驚きですわ」

 

ダイヤの指摘通り、ルビィは内気な性格+男性恐怖症であるため、ここまで奏夜に接することが出来ていることが驚きだった。

 

「うん。そこはルビィも思ってたんだけど、奏夜さんは不思議と怖いって思わなかったの」

 

「そうなのですか?まぁ、奏夜さんは確かに不思議な雰囲気を持ってる傍ではありますけれども」

 

「それに!奏夜さんはあの音ノ木坂学院の生徒さんなんだよ!」

 

ここでルビィは奏夜が音ノ木坂の生徒だということを明かしており、ダイヤはそれに反応していた。

 

「音ノ木坂?まさか、あのμ'sの通っているという?」

 

どうやらダイヤはμ'sのことを知っているみたいであり、キラキラと目を輝かせていた。

 

(あっ、これってもしかしてやばいパターンじゃね?)

 

《どうやら、そうみたいだな》

 

ダイヤがμ'sのことを知っているということは、奏夜がμ'sのマネージャーである事がバレるのも時間の問題であった。

 

そんな奏夜の嫌な予感をさらに確信にするように、ダイヤはハッとしていた。

 

「そういえば、μ'sには敏腕マネージャーいますが、そのマネージャーの名前も確か……」

 

ダイヤはμ'sのマネージャーである奏夜の名前を口にしようとしたその時だった。

 

『次は、十千万前。十千万前〜。お降りのお客様はブザーでお知らせください』

 

奏夜の目的地である十千万へ到着することを告げるアナウンスが鳴り、奏夜は心の中でガッツポーズをしていた。

 

そして、嬉々として停車ブザーを押したのであった。

 

「悪いな。どうやら目的地に着いたみたいだから、俺はここで失礼するよ」

 

奏夜は軽い足取りで降車の準備をすると、バスが止まったところでそのまま料金所の方へと向かっていった。

 

「あっ!ちょっと!」

 

ダイヤは今気になっていることを確認したいからか奏夜を呼び止めようとしていた。

 

奏夜は1度足を止め、2人の方を振り向くと……。

 

「……μ'sのことを知ってるっていうならきっとまた会えるさ。それじゃあ、また!」

 

このような言葉を残し、奏夜は料金を支払ってバスを降りたのであった。

 

ダイヤとルビィは、窓から見える遠ざかっていく奏夜の姿をジッと見ることしか出来なかった。

 

「……行っちゃったね、お姉ちゃん」

 

「あの方、やはり、μ'sのマネージャーの如月奏夜さんなのですね……」

「え!?そうなの!?」

 

ルビィは奏夜の正体に気付いていないからか、ダイヤの言葉を聞いて驚いていた。

 

「何故内浦に来てるかはわかりませんが、まさかの出会いですわ!」

 

「そういえば、ここには釣りをしに来たって言ってたけど……」

 

「なるほど、そうなのですね」

 

ここでダイヤは初めて奏夜が内浦を訪れた目的を聞き、少し驚きながらも納得していた。

 

(また……会えると良いのですけど……)

 

ダイヤは心の中で、奏夜との再会を望んでいたのであった。

 

その頃、バスを降りた奏夜は……。

 

「危ない危ない……。危うく面倒なことになるとこだったよ……」

 

バスが走り去ったのを確認して、このように呟いていた。

 

『まったく……。お前が気まぐれで人助けなんてするからだ。あまり人に干渉し過ぎるなといつも言ってるだろう?』

 

「わかってるって。だけど、今日からしばらくは魔戒騎士としてのことは忘れて羽を伸ばしに来たんだ。固いことは言いっこなしだぜ」

 

奏夜としても頭ではわかってはいるが、今の奏夜はただの高校生だと言い訳をしてキルバの小言をかわしていた。

 

そのまま目の前に広がる建物の中へと向かうのだが、その建物の前にはあるものがあり、奏夜は足を止めていた。

 

「……ん?」

 

足を止めてその方角を見ると、それはどうやら犬小屋のようであり、1匹の犬が繋がれていた。

 

「この犬は、この旅館の看板犬……なのかな?」

 

旅館に犬がいるとは思わなかったからか、奏夜は首を傾げていた。

 

「ま、いいか。とりあえず早く中に入ろう」

 

奏夜は先輩騎士である月影統夜とは違い、動物がかなり好きという訳ではなく、人並みに可愛いと感じる程度だった。

 

そのためその犬をスルーし、奏夜はしばらく世話になる旅館である十千万の中へと入っていった。

 

……奏夜の休日は始まったばかりである……。

 

 

 

 

 

 

 

……後編に続く。

 

 

 




本当なら1話でまとめたかったけど、前後編になってしまった……。

そうしないと文字数がえらいことになって読みづらくなるかな?と思いまして……。

奏夜の趣味が釣りだということがわかりましたが、皆さんは奏夜の趣味は意外だと思いますか?

実は、奏夜の趣味を釣りにしようと思ったのはFF14をプレイしてる時に思いついたのです。

FF14では釣りも出来るのですが、綺麗なグラフィックにて、釣りをするのが楽しくて、奏夜の趣味を釣りにさせてもらったのです(笑)

そして、奏夜は釣りをするために休みをもらったのですが、なんと内浦で釣りをすることに!

この番外編の時系列は本編とは異なりますが、一応、牙狼ライブの続編のフラグを立てたくてこのようにさせてもらいました。

そして、サンシャインから黒澤姉妹が登場しました。

僕はサンシャインではルビィ推しなので、出せて良かったと思っています。

後編ではサンシャインのキャラは何人登場するのか?

そこも楽しみにしていて下さい!

それでは、後編もお楽しみに!



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UA20000記念作品 「休日 後編」

お待たせしました!前回の続きとなっています。

僕は牙狼コラボがきっかけでFF14を始めましたが、この前、牙狼コラボのコンテンツを全て終わらせることが出来ました!

牙狼装備をコンプリートし、それで得られる称号も集め、最終的には「Master of GARO」という称号をゲットしました。

詳細が気になる方は、FF14専用サイトのロードストーンというサイトにて、日記を書いてるのでそこを参考に。


https://jp.finalfantasyxiv.com/lodestone/character/16492123/blog/



前置きが長くなりましたが、前回の続きをどうぞ!




音ノ木坂学院の生徒であり、陽光騎士輝狼の称号を持つ如月奏夜は、魔戒騎士とスクールアイドルのマネージャーという二足のわらじを履きながらもそれぞれの役割を果たしていた。

 

奏夜の残した功績は大きく、魔戒騎士としても多くの強大なホラーを討滅し、μ'sのマネージャーとしても、μ'sを一人前のスクールアイドルグループへと押し上げていった。

 

そんな奏夜の功績を翡翠の番犬所の神官であるロデルは大きく評価しており、何か奏夜に褒美を与えることにした。

 

そんな中、奏夜は休みを希望し、奏夜はその休みを利用し、趣味である釣りをするために静岡県沼津市にある内浦というか場所へと向かった。

 

奏夜は沼津駅からバスに乗り込み、そのまま宿泊する旅館である十千万の前に到着した。

 

入り口にいる看板犬に驚きつつも、奏夜は旅館の中に入るのであった。

 

(へぇ……。けっこう綺麗なところじゃん)

 

ロビーは隅々まで掃除が行き渡っており、清潔感のある感じになっており、その清潔感と、旅館独特の雰囲気に奏夜は感心していた。

 

奏夜がさっそく「すいませ〜ん」と声をかけると、「は〜い!」と返事が返ってきて、1人の女性がやって来た。

 

女性はこの旅館の跡取りなのか、10代後半から20代前半くらいの若い女性で、長くて綺麗な黒髪が特徴であった。

 

「ようこそいらっしゃいました。私はこの旅館の高海志満(たかみしま)でございます」

 

この女性……。志満のおっとりとした雰囲気にドキッとした奏夜は、「あっ、ども……」とだけ返事をしていた。

 

「今日から2泊3日で予約を入れている如月奏夜っていいます」

 

奏夜は予約確認を行うため、宿泊日数と名前を明かしていた。

 

「如月奏夜さんですね……?……はい、承っております」

 

予約は間違いなく取れていたようであり、奏夜は安心していた。

 

「電話では高校生だと聞いておりましたので、学生証の提示をお願い出来ますでしょうか?」

 

「ああ、はい。わかりました」

 

学生証が必要だと言われたため、奏夜はすぐに学生証を取り出すと、すぐにそれを提示した。

 

「……はい。確認しました」

 

志満が奏夜の学生証を確認すると、奏夜は学生証をしまったのであった。

 

「電話で聞いた時は驚いたけど、本当に高校生だったのねぇ……」

 

「えぇ……まぁ……」

 

「それも東京から来たなんてねぇ……。ここへは何をしに?」

 

志満は奏夜が東京の高校生だと知ると、都会の高校生がここまで来た理由が気になっていた。

 

「実は、釣りが趣味でして、たまにはのんびりと釣りがしたいと思ってここまで来たんです」

 

奏夜はここへ来た目的を正直に話していた。

 

隠すようなことでもないからである。

 

「まぁ!それは素敵な趣味ね!何もないところだけど、ゆっくりしていって下さいね!」

 

「ありがとうございます」

 

「それでは、お部屋の方へ案内しますね」

 

こうして、志満は奏夜を部屋まで案内しようとしたのだが……。

 

「たっだいま〜♪」

 

「お邪魔しま〜す!」

 

奏夜が入ってきた入り口から2人の女の子が入ってきた。

 

1人は橙色の髪の女の子で、もう1人はグレーの髪の女の子だった。

 

「ちょっとあなたたち!ここはお客さんが入るんだからこっから入っちゃダメって言ってるじゃない!」

 

「「ごめんなさ〜い!」」

 

志満は2人の女の子に注意をするのだが、特に悪びれる様子はなかった。

 

「……あれ?このお兄さん、お客さん?」

 

「まぁな。2泊3日で世話になるんだ」

 

橙色の髪の女の子がこのように問いかけると、奏夜はすぐに答えていた。

 

「……ごめんなさい。私の妹と、そのお友達なんです」

 

「そうなんですか?えっと……」

 

志満が話す雰囲気から身内であることは理解していたが、名前まではわからないため、奏夜は名前を聞こうとしていた。

 

「初めまして!私は高海千歌(たかみちか)っていいます!小学6年生です!」

 

「その親友の渡辺曜(わたなべよう)であります!」

 

志満の妹である千歌は元気いっぱいに自己紹介をしており、その親友である曜は、ウインクをしながら船乗りのような敬礼をしていた。

 

「千歌ちゃんに曜ちゃんね。俺は如月奏夜。音ノ木坂って高校に通ってる高校2年生だ」

 

奏夜もまた、千歌と曜に自己紹介をしていた。

 

「如月さんは東京の高校に通ってるんだけど、趣味の釣りをするためにここに来たみたいよ」

 

志満は奏夜がここへ来た目的を千歌と曜に話していた。

 

「東京から来たんですか!?」

 

「うぉっ!?」

 

奏夜が東京から来たことを知ると、千歌は思い切り食い付いてきており、そのことに奏夜は驚いていた。

 

「いいなぁ、東京……。私、憧れなんです!」

 

どうやら千歌は、都会に対してかなりの憧れがあるみたいだった。

 

「そうか?東京なんてただ人が多いだけのとこだぞ。それに、ここだっていいところじゃないか」

 

奏夜は本当にそう思っているためこう主張するのだが……。

 

「いえ!だってここなんて本当に田舎なんですもん!バスは1時間に一本だし、人は本当にいないし……」

 

千歌はこの内浦が田舎なのが不満なのか、愚痴っぽく語っていた。

 

(まぁ、俺はそれがいいと思うけどな……)

 

《都会にいれば田舎に憧れ、田舎にいれば都会に憧れる。自然な話だとは思わないか?》

 

(まぁ、確かにそうだけどさ……)

 

キルバはテレパシーを使って奏夜にこのように話しかけており、その言葉に奏夜は納得はしていた。

 

「さて、ごめんなさい、如月さん。お部屋に案内するわね」

 

千歌と曜の登場により、奏夜を部屋へ案内出来なかったため、志満は奏夜を部屋まで案内しようとしたのだが……。

 

「私も一緒に案内したい!」

 

「私も!」

 

千歌と曜は、一緒に奏夜を部屋へと案内することを申し出ていた。

 

「もう、如月さんはお客様なのよ。そんなのダメに決まってるじゃない」

 

これからちゃんとした接客を行うというのに、千歌と曜を一緒に連れていく訳にはいかなかった。

 

そんな志満の判断に千歌と曜は不満げだったのだが……。

 

「別にいいですよ。2人もついてきても」

 

奏夜としてはあまり気にしていないからか、このように答えており、そんな奏夜の言葉に千歌と曜の表情はぱぁっと明るくなった。

 

「いいんですか?」

 

「はい。2人がいた方が賑やかな気がしますしね」

 

奏夜としてはちゃんとした接客を求めてる訳ではなく、賑やかで楽しければいいと思っているため、このようなことが言えたのである。

 

「わかりました……。2人とも、如月さんに迷惑をかけたらダメよ?」

 

「「は〜い!」」

 

「それでは、改めてお部屋に案内しますね」

 

こうして奏夜は、志満、千歌、曜の3人による案内で、今日泊まる部屋へと案内されたのであった。

 

「……こちらがお部屋になります」

 

奏夜が案内された部屋は、旅館としてオーソドックスな感じの部屋であり、1人で泊まるにはやや広めな部屋だった。

 

「へぇ……。いい感じの部屋ですね」

 

どうやら奏夜は、この部屋の雰囲気が気に入ったみたいだった。

 

「ウフフ♪ありがとう♪それじゃあ、ごゆっくり♪」

 

志満はおっとりとした笑みを浮かべながら一礼すると、その場を後にした。

 

「さてと……」

 

奏夜はこのまま荷物を置き、のんびりしようと思ったのだが、ピコン!と奏夜の携帯が反応していた。

 

奏夜はポケットから携帯を取り出すと、穂乃果から「LAIN」によるメッセージだった。

 

奏夜は慣れた手つきで「LAIN」のアプリを起動させ、メッセージを確認すると……。

 

 

 

 

 

【そーくん!沼津には着いたの??】

 

 

 

 

 

という内容であった。

 

奏夜はすかさずこのように返事を出したのであった。

 

 

 

【たった今旅館に着いて、部屋を案内してもらったところだ】

 

 

 

 

どうやらこれは穂乃果のみのメッセージではなく、μ'sのメンバー全員が登録しているグループメッセージだった。

 

そのため、奏夜が旅館に着くとわかると、穂乃果を始めとしたμ'sのメンバーからのメッセージやスタンプが飛び込んできたのであった。

 

「ったく……。あいつらは……」

 

奏夜は穂乃果たちからのメッセージが嬉しかったからか、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

すると……。

 

「……もしかして、彼女さんですか?」

 

奏夜の表情が穏やかなものだったからか、曜がひょっこりと顔を出して問いかけていた。

 

「うぉっ!?お前ら、まだいたのかよ!」

 

千歌と曜は志満と共に出て行ったと思っていたため、2人が残ってることに奏夜は驚いていた。

 

「はい!お兄さんの話をもっと聞きたいって思ったので」

 

どうやらこの2人は、東京の高校生である奏夜に興味津々みたいであった。

 

「とは言っても俺はお前らが想像するような人間じゃないと思うけどな。至ってどこにでもいる高校生だよ」

 

奏夜は魔戒騎士という仕事を除けば、確かに普通の高校生であるため、2人にこのような説明をしていた。

 

「そうなんですね……」

 

「で、さっきのLAINは彼女さんですか?」

 

普通の高校生だという奏夜の言葉に納得したのかしてないのか、千歌は生返事をしており、曜は奏夜に来たLAINについてグイグイ迫っていた。

 

そんな曜の姿勢に、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「いや、彼女ではないよ。ただ……」

 

「「ただ?」」

 

「何があろうと守ってやりたい。それくらい大切に思ってる仲間だよ……」

 

奏夜は穂乃果たちと出会い、μ'sのマネージャーとして関わるようになり、穂乃果たちを心から守りたいという感情を抱いていた。

 

そのことにより、「守りし者」とは何なのかを知る事が出来たのである。

 

「へぇ!素敵ですね!」

 

何があっても守りたいと思う存在というところが響いたのか、千歌の表情はキラキラと輝いていた。

 

「ところで奏夜さん、これからどうするんですか?」

 

「そうだな……。実際釣りをするのは明日にしようと思ってるから、釣り場探しを兼ねてここら辺を見て回ろうかなと思ってる」

 

奏夜はこれからの予定を千歌や曜に説明していた。

 

「良かったら案内しますか?」

 

千歌はこの町の案内を申し出てくれたのだが……。

 

「気持ちはありがたいけど、遠慮しておくよ。1人でのんびりと歩きたいって思ってるからな」

 

「そうですか……」

 

自分の申し出を断られ、千歌は少しばかりしょんぼりとしていた。

 

「……そういう訳で行ってくるよ」

 

奏夜は自分の荷物を置くと、魔法衣だけを取り出し、部屋を後にした。

 

そこまで寒い季節ではないのに何故コートを持って出かけたのかわからず、千歌と曜は首を傾げていたのであった。

 

そのまま奏夜は旅館の入り口で志満に出かける旨を伝えると、そのまま旅館を後にした。

 

「さて、まずはどこへ向かおうか……」

 

奏夜は旅館を出たのは良いものの、目的地をどこにするかは決めていなかった。

 

『おい、奏夜。お前はどこに行くのか決めないまま出てったっていうのか?』

 

行き当たりばったりな奏夜の姿勢に、キルバは呆れていた。

 

「まぁ、そう言うなよ、キルバ。風の向くまま気の向くまま町を回るつもりさ」

奏夜が町の見回りをする時は多少は気を張っているのだが、今は騎士の使命を忘れて休んでいるため、のんびりと町を回ろうと考えていた。

 

奏夜は携帯を取り出し、地図アプリを起動させると、その地図を頼りに歩き始めた。

 

内浦の町は、完全に海の町といった感じの雰囲気であり、奏夜は滅多に見ない海に目を輝かせていた。

 

奏夜は東京の人間であるため、お台場あたりまで行けば海は見れるのだが、騎士の仕事やμ'sのマネージャーとしての仕事が忙しく、なかなかお台場まで行くことはないのである。

 

奏夜が最初に訪れたのは内浦港であった。

 

この町の港がどうなっているのか気になっていたからである。

 

それだけではなく、内浦港あたりが釣りスポットになっていると、ネットの情報に載っていたため、釣り場の下見も兼ねていた。

 

(へぇ、この辺は意外と賑わってるな)

 

内浦港は観光客も訪れるスポットらしく、奏夜の予想以上に賑わっていた。

 

近くには水族館や、海水浴場もあるみたいであり、そのことが、この盛り上がりを裏付けていた。

 

この内浦港は少し前までは釣りスポットとして有名だったのだが、釣り場として使われていた堤防が立ち入り禁止になり、ここでは釣りは行えないみたいだった。

 

奏夜は実際にその堤防を見に行ったのだが、ネットの情報通り、立ち入り禁止の立て札が置かれていた。

 

「あちゃー……。やっぱここじゃ釣りは無理なのか……」

 

奏夜は可能であればここを釣り場の候補にしていたからか、がっくりと肩を落としていた。

 

しかし……。

 

「だったら、ここの近くにある釣り場しかなさそうだな……。そこは穴場っぽいし……」

 

ここで釣りが出来ないことを予想していた奏夜は、ネットで調べた穴場の釣り場がここの近くにあることを突き止めており、そこへ行ってみることにした。

 

「……釣り場としては小さいけど、穴場としては悪くないかもな」

 

そこは釣りをするには決して大きく快適なスペースとは言い難かったのだが、のんびりと釣りをしたいと思う奏夜にはちょうど良かった。

 

しかし……。

 

「……ここが駐車場の近くじゃなかったら完璧なんだけどな……」

 

そこは駐車場の近くであるため、人通りがそれなりにあるため、落ち着いて釣りが出来るかどうかは微妙な環境であった。

 

奏夜は携帯を取り出すと、再び内浦の釣り場が他にはないか検索をしてみた。

 

調べていたら、淡島と呼ばれる場所にも釣りスポットはあるみたいなのだが、現在は閉鎖されてるみたいだった。

 

「……マジかよ、ここもダメか……」

 

淡島も釣りは厳しいことを知ると、奏夜はがっくりと肩を落としていた。

 

その結果……。

 

「明日はまたここに来よう。ここが1番釣り場としては無難みたいだしな」

 

奏夜は今いるここで釣りを行うことを決めたのであった。

 

調べ物を終えた奏夜は、携帯をポケットにしまっていた。

 

「さて……これからどうするかな……?」

 

釣りをする場所も決まり、奏夜は次の目的地をどこにするか考えていた。

 

(……ここら辺は水族館や海水浴場はあるが、そこへ行ってもなぁ……)

 

奏夜は1人で行動しているため、水族館や海水浴場へこのまま1人で行くことに若干抵抗を感じていた。

 

(とりあえず中には入らないで、外観だけ見て旅館に戻ることにするか)

 

もう少し観光してから戻れば、夕食には丁度良い時間になるため、奏夜は近くにある水族館や海水浴場を見てみることにした。

 

そして、外観をある程度見た奏夜は早々に引き上げ、そのまま旅館へと戻っていった。

 

旅館へ戻ると、ちょうど夕食の時間になろうとしていたところだったため、奏夜はそのまま夕食をいただくのであった。

 

食事は決して豪華なものとは言いがたかったが、奏夜としてはその方が良く、じっくりと味わっていた。

 

食後は温泉の用意も整ってるとのことだったので、温泉に入ることにした。

 

ここの温泉はそれなりに広く、この日はお客さんも少ないため、ほぼ貸し切り状態であったため、奏夜はのんびりと温泉に浸かり、日頃の疲れを癒していた。

 

温泉から上がり、旅館の用意した浴衣に着替えた奏夜は、明日の釣りの準備を整えると、部屋でのんびりしていた。

 

すると、奏夜の携帯が反応していた。

 

すかさず携帯を確認すると、どうやら穂乃果から「LAIN」のメッセージが来ており、μ'sのグループメッセージだった。

 

 

 

 

 

【みんなでカラオケに行ってきたよ〜☆☆】

 

 

 

 

このような内容のメッセージだったのだが、すぐにその様子の写真が送られてきた。

 

そこには、穂乃果たち9人が身を寄せ合い、仲睦まじそうにしている様子が映っていた。

 

「……ったく……。あいつらは……」

 

携帯を見ながらこのように呟く奏夜の表情はとても穏やかなものであった。

 

それから間もなく……。

 

 

 

 

 

 

【凛たちに会えなくて寂しくなってきたでしょ??】

 

 

 

 

 

 

このようなメッセージが送られてきた。

 

「何でバレてるんだよ!」

 

奏夜は、今思ってることを見透かされたことに驚いていた。

 

奏夜はその通りであることを素直に伝えると、μ'sメンバーから、メッセージが飛び交っていたのであった。

 

奏夜はそのメッセージを処理し、早々にメッセージにによる会話終わらせたのであった。

 

穂乃果たちとは会いたいが、明日は趣味である釣りを思い切り楽しむことにしよう。

 

そう考えていた奏夜は、既に敷いてある布団に潜ると、早々に眠りについたのであった。

 

普段であれば、ホラーと戦っているか、街の見回りをしている時間であるため、この時間に寝れることを珍しがりながら、奏夜は眠ったのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

翌日の早朝、奏夜は起床し、早々に釣りの準備をしていた。

 

この日は朝早く出かけることは志満に伝えているため、奏夜は朝食の準備をしている志満に一声かけてから旅館を後にしたのであった。

 

旅館を後にした奏夜は、昨日目星をつけた釣りスポットへと向かっていった。

 

旅館を出発した時は早朝だったのだが、奏夜が釣りスポットに到着した時は少しだけ明るくなっていた。

 

ここは小さい釣りスポットだからか、他に釣りをしている人はいないみたいだった。

 

「さてと……。始めますかね」

 

奏夜は釣りスポットに到着するなり、慣れた手つきで釣りの準備を行っていた。

 

座る椅子を出したり、釣竿を用意したり、釣りに使う餌を用意したりと、本当に釣りが好きだとわかるくらい、奏夜の手際は良かった。

 

そのため、すぐに準備は整っていた。

 

奏夜は準備を整えると、すぐさま釣りを始めていた。

 

「……」

 

奏夜は魚がかかるのを待っている間に携帯型の音楽プレーヤーを取り出し、イヤホンを両耳につけていた。

 

そして、再生ボタンを押すと、録音したμ'sの曲が再生されたのであった。

 

「……♪」

 

奏夜は音楽を流して気持ちを高ぶらせながら、釣りを楽しんでいた。

 

奏夜はその他にノートパソコンも持参しており、暇を持て余した時は動画でも見ようと考えていたのである。

 

釣りを始めてから10分ほど経過すると、奏夜の竿が反応した。

 

「……お、来たかな?」

 

奏夜はリールを巻きながら、慎重に魚を釣り上げようとしていた。

 

これから釣ろうとしている魚は小ぶりなものだからか、すぐに浮かび上がってきた。

 

奏夜は慣れた手つきでその魚を釣り上げると、その魚をジッと見ていた。

 

「小さい魚だな。ここには大物はいないとは書いてあったけど、贅沢は言うもんじゃないよな」

 

釣ったのが小さい魚であることに奏夜は少しだけ肩を落とすが、この場所に大物はいないことは予め調べてあったので、文句は言わないようにしていた。

 

先ほど釣った魚を水の入ったバケツに入れた奏夜は、再び竿を振り下ろし、釣りを再開した。

 

そんな感じで釣りを行い、あっという間に1時間が経過していた。

 

外は完全に明るくなり、車の通りも増えてきていた。

 

この近くの駐車場でも多少の車の出入れが発生していたが、奏夜は気にすることなく釣りを続けていた。

 

早朝から昼になるまで、奏夜はトイレに行くこと以外ではその場から離れることはせず、釣りに専念していた。

 

魚もそれなりに釣れたのだが、奏夜は釣りが終われば、魚たちを全部逃がすつもりでいた。

 

ここから東京へ持って帰っても鮮度が落ちてしまうし、旅館で調理してもらうのも迷惑をかけるだけだと判断したからである。

 

(さて、そろそろ休憩を兼ねて昼飯でも食いに行くかな?)

 

奏夜は一度釣りを中断すると、この近くで昼食を取ることにした。

 

奏夜が釣りを行っていたのは内浦港の近くであり、ここら辺にはいくつか食堂が存在していた。

 

せっかく港に来てるなら海鮮ものが食べたいと思っていた奏夜は、とある食堂に入ると、そこで海鮮丼を注文し、普段は食べない新鮮な料理に舌鼓を打っていた。

 

奏夜は昼食の後、釣り場に戻ってくると、そのまま釣りを再開した。

 

普段は魔戒騎士としてホラーと戦ったり、街の見回りをしてるだけではなく、それをしながらもμ'sのマネージャーとして奏夜は忙しく毎日を過ごしていた。

 

そんな忙しさを忘れさせてくれるほど、奏夜はのんびりと釣りを楽しんでいた。

 

しかし、奏夜は守りし者である魔戒騎士としての本分は忘れてはいない。

 

ではあるが、忙しい毎日を過ごしている奏夜には息抜きが必要であった。

 

今回の休日は息抜きをするにはちょうど良かったのである。

 

奏夜は夕方になるまで、1人でのんびりと釣りを楽しんでいた。

 

「……さて、そろそろ旅館に戻るとしますかね」

 

釣りを心から楽しんだ奏夜は、今日釣り上げた魚を全て海に逃がし、道具の片付けを始めていた。

 

片付けも慣れた手つきでこなす奏夜は、早々に片付けを終わらせると、そのまま旅館へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

「……あっ、戻りました〜」

 

奏夜は挨拶をしながら旅館に入ると、志満が出迎えてくれた。

 

「如月さん、おかえりなさい。釣りの方は楽しめましたか?」

 

「ええ。おかげさまで」

 

「……あら?今日は全然釣れなかったんですか?」

 

早朝から釣りをしていたことを知っていた志満は、奏夜の釣果がなさそうなことに首を傾げていた。

 

「いえ、魚はけっこう釣れましたよ。ですが、釣った魚は逃がすのが俺の流儀なので」

 

「あら、そうなの?持ち帰ってくれたら、その魚でお料理をしたのに」

 

「それをお願いしようと考えもしましたが、そこまで迷惑はかけられないと思いまして」

 

「あらあら♪今時の高校生にしては真面目ね」

 

お世話になってる旅館の人には迷惑をかけられないという奏夜の真面目な姿勢に、志満はクスリと笑みを浮かべていた。

 

「もうすぐ食事の用意が出来るので、荷物をお部屋に置いてくるといいですよ♪」

 

「はい、そうしますね」

 

志満との会話を終えた奏夜は、そのまま自分が泊まっている部屋へと向かい、荷物を全て置いたのであった。

 

そして、それから間もなくして夕食の時間となったので、奏夜は夕食を取り、この日も旅館の温泉に入ってのんびりしていた。

 

「それにしても、楽しい時間はあっという間に過ぎるものだな」

特別に3日という休みを番犬所からもらった奏夜であったが、明日には東京へ帰り、その後はいつもの日常へと戻るのであった。

 

『おい、奏夜。休んでた分、また忙しくなるからな。そこは覚悟しておけよ』

 

「わかってるって」

 

奏夜も休みをもらった分、忙しくなることは理解していた。

 

こうして、奏夜は布団に潜り、ゆっくりと眠りについたのであった。

 

翌日になり、奏夜は朝食を頂いてから、帰り支度を始めたのであった。

 

そこまで荷物を持ってきている訳ではないので、帰り支度はすぐに終わり、奏夜はチェックアウトをするために旅館の玄関へと向かっていった。

 

「あら、もうチェックアウトするんですか?」

 

玄関にいた志満は、荷物を持った奏夜の姿を見つけると、このように声をかけていた。

 

「はい。短い間でしたが、お世話になりました」

 

宿泊代は初日に払っておいた奏夜は、後は旅館を後にするだけなので、志満に一礼していた。

 

「良ければ、また遊びに来てくださいね♪」

 

「はい。いつになるかはわかりませんが、また絶対に来ます!」

 

奏夜はこの旅館が気に入ったため、朗らかな雰囲気でこのように答えていた。

 

こうして奏夜は「十千万」を後にすると、近くにあるバス停へと向かっていった。

 

奏夜はバスが来る時間を狙ってチェックアウトをしたため、1分と待たずにバスが到着した。

 

奏夜はそのバスに乗り込むと、沼津駅へと向かっていった。

 

バスで沼津まで戻ってきた奏夜は、沼津駅から電車に乗り込み、東京へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

東京へ戻った奏夜は、穂乃果たちに帰って来たことを報告してから、番犬所を訪れた。

 

戻ってきたことをロデルに報告するためである。

 

「おぉ、奏夜。戻ったのですね」

 

休みを使って沼津へ向かうことを予め聞いていたロデルは、戻ってきた奏夜のことを歓迎していた。

 

「はい。お休みを頂き、感謝しています。ありがとうございました」

 

奏夜は休みをもらえたことに対して、ロデルに礼を言っていた。

 

「いえ。その調子だと、休みは満喫できたみたいですね。今日は指令もありませんし、明日からは通常通り、騎士としての務めを果たしてください」

 

「わかりました。失礼します」

 

奏夜はロデルに一礼をすると、番犬所を後にした。

 

奏夜はこのまままっすぐ自宅に戻ろうとしたのだが、奏夜の家の近くである「穂むら」を通り過ぎようとした時に穂乃果に引き止められてしまい、穂乃果の家に行くことになった。

 

既にμ'sのメンバーは集まっており、奏夜の帰りを今か今かと待っていたのであった。

 

奏夜はそのまま沼津でどのように過ごしたのかを話し、盛り上がっていた。

 

こうして、奏夜の3日間である休日は幕を閉じたのであった。

 

翌日からは、またいつもの日常が始まる。

 

しかし、奏夜は魔戒騎士としての本分は忘れてはおらず、騎士としての使命を果たしながら、μ'sのマネージャーとしても頑張っていこう。

 

このように改めて誓うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

……終。

 

 

 




ちょっと駆け足気味ではありましたが、奏夜の休日をお届けしました。

今回は千歌と曜が登場しており、他のキャラも登場させようと考えましたが、そうすると文字数も増え、投稿もさらに遅れそうだったので、見合わせてもらいました。

僕は釣りをしないので、釣りスポットとかはよくわからず、Google先生の力を借りて色々調べさせてもらいました。

そして僕はまだ沼津や内浦に行ったことがないのです。

聖地巡礼したいんですけどね……。

さて、次回からはいくつか番外編を投稿したいと思っています。

次回の番外編はどのような内容になるのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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番外編① 「白夜 前編」

お待たせしました!番外編になります!

今回の番外編も、長くなりそうだったため、前後編にさせてもらいました。

タイトルを見て察した方もいるかと思いますが、そうです。

あのキャラが登場します。

そのキャラとはいったい誰なのか?

それでは、番外編をどうぞ!




奏夜が穂乃果や統夜と共に、留学をしようとすることりを連れ戻そうと空港へ向かう途中に尊士に遭遇してしまった。

 

奏夜はその障害を乗り越え、尊士を倒すだけではなく、ことりを連れ戻すことにも成功し、9人揃ってのライブは大成功を収めた。

 

その数日後、秋葉原の地に、1人の魔戒騎士が降り立っていた。

 

その魔戒騎士の名は、山刀翼(やまがたなつばさ)。

 

白夜騎士打無(びゃくやきしダン)の称号を持つ魔戒騎士であり、黄金騎士牙狼の称号を持つ冴島鋼牙や、銀牙騎士絶狼の称号を持つ涼邑零に次ぐ実力の持ち主である。

 

奏夜の先輩騎士である統夜は、魔戒騎士になりたての頃によく翼や零に鍛えられており、奏夜との接点は少ないものの、奏夜が尊敬している魔戒騎士の1人でもある。

 

そんな翼は、番犬所からとある指令を受けて、この秋葉原にやって来たのである。

 

現在、翼は秋葉原の某所に立っていたのだが……。

 

「……な、なんなんだ、ここは……?」

 

翼がいるのはメイド喫茶などが多く存在しているエリアであり、メイドさんやコスプレをしている人がちらほらいたのである。

 

「ずいぶんと面妖な格好の者が多いではないか!」

 

閑岱(かんたい)という魔戒法師の里で暮らしている翼にとって、都会の街は驚くことばかりなのだが、それよりも、メイドさんやコスプレをしている者の存在が理解出来なかった。

 

『翼よ。どうやらこのエリアはオタク文化とやらが発展してるようで、このような装いをしている者がけっこういるみたいじゃぞ』

 

翼の腕から、老人のような声が聞こえてきたのだが、今喋ったのは、翼の相棒である魔導輪のゴルバであった。

 

「オタク文化?なんだかよくわからないが、くだらないな」

 

人界の文化に興味を示していない翼は、オタク文化もこのように一蹴していた。

 

『まぁ、そう言うではない。ワシらのターゲットは、そんな文化に溶け込んでいるのじゃからな』

 

「わかっている……!」

 

翼が秋葉原へ来たのは、指令を受けてなのだが、そのターゲットは、秋葉原の文化に溶け込んでいるみたいだった。

 

「とりあえず情報を集めるぞ」

 

『うむ。それが一番みたいじゃからな』

 

こうして、翼は、ターゲットを見つけるために行動を開始したのであった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

翼が秋葉原にやって来た頃、奏夜はアイドル研究部の部室にて、パソコンとにらめっこをしていた。

 

奏夜が現在開いているのはいつも使っているスクールアイドル専用のサイトであり、奏夜はμ'sのランキングを確認していた。

 

μ'sは、様々な問題を抱えた結果、スクールアイドルとして活動を休止し、ランキングからも消滅した。

 

数日前に行われた9人によるライブの成功後、μ'sは再び音ノ木坂学院のスクールアイドルとして再登録されたのだが、ランキングは999位へとリセットされてしまった。

 

しかし、ラブライブ出場目前までランキングを上げたμ'sにはファンがまだ残っていたため、この数日でランキングは600位まで上がっていた。

 

「さて……。こっからどう巻き返していくべきか……」

 

奏夜はパソコンの画面に映る「600位」という数字とにらめっこをしながら、このように呟いていた。

 

『ま、1度落ちたランキングを戻すのは並大抵ではないな。第1回ラブライブの成功で、スクールアイドルは増えてるんだろ?』

 

キルバの指摘通り、「A- RISE」の優勝で幕を閉じた第1回ラブライブの影響はかなりのものであり、スクールアイドルの数は爆発的に増えていったのであった。

 

「確かにそうだけどよぉ……。これからは新しい生徒会役員が決まるだろう?だから絵里と希は忙しくなるだろうし、ライブを慌ててやってもな……」

 

奏夜が心配する通り、今月末には生徒会役員が一新されるのだが、そのメンバーは、現生徒会メンバーの推薦によって決められる。

 

この推薦に異議を唱える者もいるのだが、これがどうやら音ノ木坂学院の伝統らしい。

 

そのため、新メンバーの推薦や、そのメンバーへの仕事の引き継ぎなど、生徒会長と副会長である絵里と希はかなり忙しくなることが予想された。

 

さらに、数日前にライブを行ったばかりなので、焦ってライブをしても効果はないと奏夜は考えていたのである。

 

「ま、これからのことはじっくり考えるさ。ことりの留学がなくなって、μ'sは9人に戻ったし、色々とスケジュールを考えるのはマネージャーの仕事だからな」

 

奏夜は、穂乃果たちが練習に集中出来るように努めることが自分の役割だと思っていた。

 

だからこそ、現在も穂乃果たちが練習している間に、マネージャーとしての務めを果たしているのである。

 

『ま、無理はするなよ。この数日はかなり忙しかっただろう?』

 

「確かに……そうだな……」

 

奏夜は、この数日の出来事を思い出し、顔を真っ青にしていた。

 

数日前のライブ成功後は打ち上げをしてμ'sが活動再開したことを喜んでいたのだが、翌日からは忙しかった。

 

μ'sを代表して、ことりを連れ戻したことに対して理事長へ謝罪をし、その後もマネージャーとしてしなければいけない仕事が溜まっており、それに追われていた。

 

幸い、空港に預けたことりの荷物や、ことりの飛行機のキャンセルは、ライブの終了後に統夜が行ってくれたみたいだった。

 

奏夜が理事長に謝りに行った時も、ことりの留学が行かないことに対して、紬の働きかけがあったみたいであり、そこまで咎められることもなかった。

 

その代わりに、「娘を後悔させないように導くように」と約束をさせられたのである。

 

この数日のことを思い出していた奏夜は、ため息をついて机に突っ伏していた。

 

『ま、この数日、ホラーが出なかったのは幸いだったな』

 

「そうだよなぁ……。あれからジンガの動きもないみたいだし……」

 

奏夜が尊士を討伐してから、ホラーは現れておらず、ジンガもまた、大きく動いてはいなかった。

 

『ま、あいつは片腕ともいえる部下を失ったんだ。迂闊には動けんだろうさ』

 

「そうだな。きっと、ニーズヘッグ復活のための策を考えてるだろうな」

 

ジンガは、奏夜の活躍により、信頼できる部下を失ったため、今までとは違った方法で動いてくるだろう。

 

奏夜はそう考えていた。

 

奏夜がそんなことを考えていると……。

 

「あっ、そーくん。ここにいたんだ」

 

今日の練習は終わったのか、穂乃果たちが部室に入ってきて、穂乃果が奏夜に声をかけていた。

 

「まぁな。みんなはもう練習は終わりなのか?」

 

「ええ。μ'sがまた9人揃っての練習も久しぶりだし、今日は軽めのメニューにしたの」

 

絵里は、今日どのような練習だったのかを奏夜に報告していた。

 

「それに、ことりが用事があるみたいなので、それも理由なんです」

 

「用事?」

 

「うん。私、留学をやめたでしょ?それをバイト先の人に話したら、いきなりヘルプをお願いされちゃって……」

 

ことりは留学をやめたことを以前バイトしていたメイド喫茶の人間にも報告していた。

 

すると、今日1日だけでいいから、ミナリンスキーの力を借りたいとのことであり、ことりはこれからメイド喫茶に行くとのことであった。

 

「なるほどな……。事情はわかったよ」

 

「それでね、私たちもお客さんとしてメイド喫茶に行こうかって話をしてたの」

 

「奏夜はこの後時間はありますか?」

 

どうやらことり以外のメンバーもことりと共にメイド喫茶へ行くみたいであり、海未は奏夜のことも誘っていた。

 

「ああ。俺も久しぶりに伝説のメイドであるミナリンスキーを見たいって思ってたし、一緒に行かせてもらうよ」

 

「本当!?そしたら、そーくんのためにも、ことり、頑張るね♪」

 

ことりは、奏夜が来てくれるとわかると、さらにやる気を出したのであった。

 

「アハハ、期待してるぜ、ことり」

 

「うん♪」

 

ことりはとても朗らかな表情で奏夜と話をしており、彼女の頬は少しだけ赤くなっていた。

 

「「……」」

 

そんな2人の様子を見て、面白くないと感じたからか、穂乃果と海未は無言でぷぅっと膨らませていた。

 

「ふふっ……。奏夜君ってば、罪な男やね♪」

 

そんな穂乃果と海未の様子を見ていた希は、クスクスと笑みをこぼしていた。

 

「……」

 

そんな中、絵里もまた、穂乃果や海未のようにぷぅっと頬を膨らませていたのであった。

 

「……あら?エリチもヤキモチなん?」

 

「!?な、何を言ってるのよ、希!そんな訳ないじゃない!」

 

希に痛いところを突かれたからか、絵里は顔を真っ赤にしながらムキになっていた。

 

「……わかりやすいわね……」

 

にこは、あまりもわかりやすいリアクションをしている絵里を、ジト目で見ていた。

 

「まったく……。奏夜ってば、天然のタラシね」

 

そして真姫は、奏夜をこのように評価していたのだが、どこか落ち着きがないように見えた。

 

「そして真姫ちゃんは、そんなそーや君が気になるんだにゃ!」

 

「!?う、ウルサイワネ!」

 

先ほどの希のように、凛もまた、真姫のことをからかっており、真姫はムキになって反論していた。

 

「と、とりあえず、着替えて行こう?ことりちゃんも急ぐと思うから……」

 

絵里や真姫がムキになっているのを見た花陽は、このように提案をしており、それには全員が納得していた。

 

「…….ま、そうね。行きましょうか」

 

ここであーだこーだいったとしても、ことりの出勤が遅くなるので、制服に着替えてメイド喫茶へ向かうことにした。

 

そうとわかると奏夜は部室を離れ、校門前で待つことにしていた。

 

その途中…….。

 

「おぉ!奏夜ではないか!今帰るところか?」

 

サラサラの銀色の髪で整った顔立ちをしており、モデルのような体型なのだが、ジャージ姿というギャップを持つ教師である、小津剣斗が親しげに奏夜に声をかけていた。

 

しかし、教師というのは仮の姿であり、本当は奏夜と同じ魔戒騎士なのである。

 

「まあな。これから穂乃果たちとメイド喫茶に行くところなんだ」

 

「ふむ……。メイド喫茶か。大輝からよく話は聞いていたが、行ったことはないな」

 

どうやら剣斗は奏夜の先輩騎士である桐島大輝からメイド喫茶の話を聞いていたみたいであり、興味はあるみたいだった。

 

大輝は称号を持たない魔戒騎士ではあるが、魔戒騎士としての長い経験がその実力を裏付けるほどの実力者である。

 

普段は真面目で実直な大輝なのだが、とあるきっかけにより、メイド喫茶にハマってしまう。

 

現在では、魔戒騎士随一のメイド通となってしまったのである。

 

「奏夜、私も同行しても構わないだろうか?私も1度はメイド喫茶に行ってみたいと思っていたのだよ」

 

「構わないぞ。剣斗なら穂乃果たちも歓迎してくれるだろうし」

 

「うむ!そうとわかれば、私も着替えてこよう」

 

「わかった。校門前で待ってるよ」

 

こうして、剣斗もメイド喫茶についてくることになり、剣斗は服を着替えるためにどこかへ向かい、奏夜は改めて校門前で穂乃果たちや剣斗を待つことにした。

 

奏夜が校門前に到着してからおよそ5分後、魔戒騎士の普段着である魔法衣へと着替えた剣斗が奏夜と合流した。

 

それからさらに5分後、穂乃果たちとも合流した。

 

最初は剣斗がいることに驚いていたが、メイド喫茶に行ってみたいという剣斗の言葉を聞くと、剣斗のことを歓迎していた。

 

こうして、μ'sのメンバーは、奏夜や剣斗と共に、メイド喫茶へと向かうことになった。

 

この時、奏夜と剣斗は知る由もなかった……。

 

ことりが働くメイド喫茶で、意外な人物と再会することを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

学校を後にした奏夜たちは、まっすぐことりのバイト先であるメイド喫茶へとたどり着いたのであった。

 

ことりはこれからバイトなので先に向かっており、奏夜たちは奏夜たちで入店してことりを待つことにした。

 

「お帰りなさいませ♪ご主人様♪お嬢様♪」

 

メイド喫茶に入店すると、ここで働くメイドさんが満面の笑みで奏夜たちを出迎えてくれた。

 

「あっ、皆さんはミナリンスキーちゃんの!」

 

「お席までご案内いたしますね」

 

奏夜たちを出迎えてくれたメイドさんは、奏夜たちの顔を知っているみたいであり、11人が座れる広めなテーブルまで案内してくれた。

 

「ふむ…….。ここがメイド喫茶とやらか……」

 

メイドさんが案内してくれた席に着くなり、剣斗は周囲を見回し、メイドさんたちを観察していた。

 

「……皆、あまり鍛えてないからか、ひょろっとしているな。正直、そこまでそそられん……」

 

どうやら剣斗は、メイドさんには興味がないみたいであった。

 

そんな中、剣斗は「それに比べて……」と前置きをすると、奏夜の体をジッと眺めていた。

 

「うむ!奏夜はまた強くなり、鍛えてるみたいだな。お前の体のしなりのひとつひとつがそれを感じさせる!イイぞ……!ますますお前から目が離せなくなってきた!」

 

剣斗は興奮気味に奏夜の体を評価しており、そんな剣斗に、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「なんて言うか……」

 

「小津先生って……」

 

「女の人にあまり興味がないのかしら……」

 

メイド喫茶に来て、メイドさんではなく、奏夜の体に興奮する剣斗に、穂乃果、絵里、真姫の3人は引いていた。

 

「やめて欲しいんだけどね……。ただでさえ、奏夜と小津先生は変な噂になってるんだから……。μ'sの評判に関わるじゃない」

 

にこはジト目になりながら、奏夜と剣斗のことを交互に見ていた。

 

剣斗は教師として音ノ木坂学院に来てから、ずっとこのような感じであるため、奏夜と剣斗が良からぬ関係なのではないかという噂が学内で広がっていた。

 

……剣斗としては奏夜のことを友と慕っているたけなのだが、その噂が本当であることを願っている者もいるみたいだ。

 

どうやら、ここのメイドさんも、そんな空気を感じ取ったみたいであり……。

 

「……ねぇねぇ、あそこのご主人様たちってやっぱり……」

 

「そうね……。そうであって欲しいわね……」

 

「どっちが攻めでどっちが受けでも、ご飯が三杯いけそうだわ!」

 

「今度の同人誌のネタにいいかもしれないね!」

 

「燃えて……いえ、萌えてきたわぁ!」

 

腐女子と思われるメイドさん2名が、大いに盛り上がっていた。

 

(アハハ……。参ったな……。俺は別にそっちの気はないんだけどな)

 

奏夜にもそんな話は聞こえており、苦笑いをしていた。

 

剣斗はまったく気にする素振りはなかったが、他のメンバーはジト目になっており、少しだけ妙な空気になっていた。

 

すると……。

 

「ご、ご主人様、お嬢様。こちら、メニューでございます」

 

そんな空気を感じ取ったメイドさんが話題を変えるためにメニューを置いてくれたのであった。

 

「あっ、そうだね。何を頼もうか!」

 

メイドさんがメニューを置いてくれたことにより、穂乃果たちの関心はメニューへと向いていった。

 

「皆、今日は私のおごりだ。好きなものを注文するといい」

 

剣斗は穂乃果たちにこのような提案をしてくれたのだが……。

 

「え?でも、悪いですよ……」

 

「教師である私が生徒にお金を出させるものか。だから、何も遠慮することはないのだぞ」

 

剣斗の提案に花陽は申し訳なさそうにしているが、剣斗はそんなことを気にする素振りは見せなかった。

 

「剣斗。俺も半分は出すよ。お前だけに負担させるのは申し訳ないからな」

 

奏夜は魔戒騎士として、多少のお金は番犬所から支給されており、多少は稼いでいるため、剣斗だけにお金を出させることを良しとはしなかった。

 

「ふふ、気にすることはないのだぞ、奏夜。私はそれなりに稼いでいるが、お金を使うことはあまりないからな。こういう時にこそ使わせて欲しいのだよ」

 

「……わかった。そういうことなら遠慮なくご馳走になるよ」

 

穂乃果たちだけではなく、奏夜もまた、遠慮せずにメニューを注文することにした。

 

奏夜たちはメニューを吟味し、飲み物や食べ物などの注文を行っていた。

 

それが終わって間もなくして……。

 

「……みんな、ごめんね。遅くなっちゃった」

 

着替えと準備を終えたことりが、奏夜たちの席にやって来た。

 

「大丈夫だよ。こと……ミナリンスキー」

 

奏夜は思わず本名を言うところだったのだが、一応はメイドの名前でことりのことを呼んでいた。

 

すると、周囲の空気が何故かざわつき始めたのであった。

 

「なぁ、あれってミナリンスキーだよな?」

 

「間違いない……!アキバでの路上ライブ以来姿を見なかったけど、また拝めるとは……!」

 

「ミナリンスキーちゃん、接客してくれないかなぁ……?」

 

伝説のメイドと呼ばれたことりの姿を見た客たちのテンションは上がり、ざわつきが大きくなっていた。

 

「ふむ……。ことりのことは奏夜から聞いてはいたが、随分と人気者なのだな」

 

剣斗はこのざわつきぶりを見て、ミナリンスキーと呼ばれたことりの人気ぶりに驚いていた。

 

それから間もなく、1人のメイドがことりのもとにやって来た。

 

「ミナリンスキーちゃん。向こうのご主人様について欲しいんだけど、いいかな?」

 

そのメイドさんが指差した方向は店の1番奥であり、1人の男性が座っており、既に他のメイドさんが対応していた。

 

(あれ……?あの人、見覚えがあるような気がするんだけど……)

 

奏夜もその方を見るのだが、これからことりが対応しようとしている客に、どうやら見覚えがあるみたいだった。

 

すると……。

 

「あれ?そこのご主人様たちって向こうのご主人様と似た格好ですね。もしかしてお知り合いですか?」

 

奏夜と剣斗の魔法衣を見て、メイドさんはこのようなことを言っていた。

 

「俺の勘が間違ってなければ、恐らくはそうかと……」

 

「それなら、ご主人様たちもミナリンスキーちゃんと一緒に行ってみませんか?」

 

「はい。そうしてみます」

 

こうして、奏夜と剣斗は席を立つと、ことりと共に、奥の席まで移動をしていた。

 

そこで奏夜が見たものは……。

 

「……ご主人様、随分と素敵な格好をしてますね♪それは何のコスプレですか?」

 

そっけない態度の男性客に、メイドさんが必死に対応している姿だった。

 

「コス……?何のことだ?」

 

どうやら男性はコスプレのことをよく知らないみたいだった。

 

メイドさんは色々質問をするのだが、終始そっけない態度のため、対応に困っていたのである。

 

「……ご主人様♪失礼致しますね♪」

 

ことりは満面の笑みで男性に挨拶をすると、ペコリと一礼をしていた。

 

「やれやれ……。また1人増えたのか……」

 

ことりが現れたことに対して男性はげんなりしながらことりの方を向いた。

 

すると……。

 

「……!!?つ、翼さん!?何でこんなところに!?」

 

どうやら奏夜の勘は当たっていたのか、その男性客は、とある指令を受けてこの秋葉原で情報収集を行っているはずの山刀翼であった。

 

「お、お前……!確か、統夜の後輩の如月奏夜だったか?お前も指令を受けてここへ来たのか?」

 

「いえ。俺たちは友達とたまたまここへ遊びに来ただけで……」

 

翼がメイド喫茶にいる事実に驚きながら、奏夜はたまたま遊びに来たことを伝えていた。

 

「そうか……。それに、元老院所属の小津剣斗までいるとはな」

 

「うむ!私は音ノ木坂学院の教師をしているのだよ。とある指令を受けてな」

 

どうやら翼は、剣斗のことを知っているみたいであり、剣斗もまた、長期の指令を受けていることを説明していた。

 

「……そうだったか。奏夜、お前はこの管轄の魔戒騎士だったな?協力して欲しいことがある」

 

「協力ですか……?それはもちろんですが、一体何を……」

 

奏夜としては、尊敬する白夜騎士に協力するこは当然のことと考えていたが、彼がどのような指令を受けているのかは分からなかった。

 

「それは……」

 

「それはあたしから説明するよ!」

 

こう宣言しながら、1人の女性が現れた。

 

その女性を見て、奏夜たちは驚愕していた。

 

その理由は……。

 

「じゃ、邪美さん!?何でここに!?」

 

翼と同じ閑岱の魔戒法師であり、現行最強の魔戒法師と言われている邪美であったからだ。

 

それに、奏夜たちが驚いていたのはそれだけではなく……。

 

「……邪美。何だ、その格好は?」

 

邪美は何故かメイドさんの格好をしており、翼は眉間にしわを寄せていた。

 

「何か変かい?メイド喫茶といえば、メイドさんの格好かなと思ってね」

 

邪美は自分のメイド姿をまじまじと眺めながらこう問いかけていた。

 

「俺が言いたいことはそういうことではない!全く、お前は……」

翼は、邪美がこのような格好をしてるのが気に入らないからか、ブツクサと文句を言っていた。

 

「……あれ?この人たちって邪美姉のお知り合いだったんですね」

 

最初から翼に付いていたメイドさんは邪美のことを知っているみたいであり、邪美のことを「邪美姉」と呼んでいた。

 

「ま、そういうことだ。それよりも、仕事の話をしようじゃないか。……そこの2人、席を外してくれないかい?」

邪美はこれから指令についての話をしようとしているからか、最初から翼に付いていたメイドさんとことりをその場から離れさせようとしていた。

 

「か、かしこまりました……」

 

最初から翼に付いていたメイドさんは、あっさりとその場から離れており、ことりは少しだけ不安げに奏夜のことを見ていた。

 

奏夜は無言で頷くと、ことりも頷き返しており、その場から離れていった。

 

「……それにしても、久しぶりだね、奏夜」

 

「はい!お久しぶりです!邪美さん!」

 

奏夜は魔戒騎士になっておよ3年ほどなのだが、邪美とは、奏夜の先輩騎士である統夜経由で知り合ったのであった。

 

「この前見た時はまだまだ垢の抜け切れてない坊やだったのに、ちょっとは男の顔をするようになったじゃないか」

 

「そ……そうですかね……」

 

邪美は奏夜のことを素直に褒めており、恥ずかしさがあるからか、頰を赤らめていた。

 

「……それで、ミナリンスキーちゃんだっけ?あの子は奏夜の彼女なのかい?」

 

「!?ちょ!?そ、そんなんじゃなすよ!」

 

邪美の唐突な問いかけに、奏夜は顔を真っ赤にしていた。

 

「やれやれ……。そんなウブなところはまだまだ坊やって訳だね……」

 

奏夜の年相応ともいえるリアクションに、邪美は少しだけ呆れていた。

 

「……で、あんたは確か、由緒ある小津家の魔戒騎士だったね?」

 

「うむ!私は小津剣斗だ。あなたが邪美法師だな?あなたの活躍は耳にしているよ」

 

「へぇ、由緒ある青銅騎士の称号を持つ者の耳に入っているとは、光栄だね」

 

剣斗は邪美の活躍ぶりを噂で聞いており、邪美もまた、剣斗の活躍ぶりを噂で聞いていた。

 

「……それはそうと、奏夜。あんたはとんだ面倒なことに巻き込まれているみたいだね」

 

「ええ……まぁ……」

 

邪美が言っているのはジンガやニーズヘッグのことだと理解していた奏夜は、このように返事をしていた。

 

「まったく……。零や烈花といい、あんたたちといい、どうしてこうも竜絡みの事件が続くかねぇ……」

 

「!?もしかして、零さんや烈花さんも、ニーズヘッグのような魔竜と戦ったんですか?」

 

「そうらしいね。烈花の話だと、竜騎士なる者も現れて、零を苦しめたみたいだよ。……まぁ、最終的には、魔竜も竜騎士も討滅されたみたいだけどね」

 

「……そんなことがあったんですか……」

 

自分たち以外にも、竜にまつわるホラーとの戦いがあったことを知り、奏夜は険しい表情になっていた。

 

その魔竜も、恐らくは封印されているニーズヘッグと互角に近い力を持っていると簡単に予想が出来たからである。

 

「それにしても、あの統夜やリンドウが手を焼いた元魔戒騎士のホラーを倒すとは、奏夜、あんたは魔戒騎士としてもだいぶ成長したみたいだね」

 

「いえ……。尊士に勝てたのは俺1人の力じゃないです。俺にとって大切な人たちが俺に力をくれたからこそ、尊士に勝てたんです」

 

「そうか……。奏夜、お前も「守りし者」とは何なのか、わかってきたみたいだな」

 

翼は、奏夜が魔戒騎士としてどれだけ成長したかは測りかねていたが、精神的には大きく成長していることを悟り、笑みを浮かべていた。

 

「……とりあえず今回は、この街やこの街の文化に詳しい奏夜の力を借りたいって思ってるんだよ」

 

どうやら、邪美は奏夜の力を借りようと思っているらしく、そのことに奏夜は驚いていた。

 

「本当であれば、奏夜の助けを借りる必要などないのだがな。例のターゲットは俺が見つけて討滅してみせる」

 

「……そんな強がりを言ってる場合かい?奴はこの街の文化を知り尽くしてるんだよ。あんたが闇雲に探したって見つけられる訳ないよ」

 

どうやら、翼や邪美が追っている相手はホラーかどうかはわからなかったが、秋葉原の文化に精通していることだけは奏夜にも理解できた。

 

「くっ、それはそうだが……」

 

「メイド喫茶で狼狽えてるようじゃ難しいと思うけどね」

 

「俺は狼狽えてなどいない!」

 

邪美のからかうような言葉が気に入らなかったのか、翼は少しだけ声を荒げていた。

 

「翼さん、落ち着いて下さい!俺に手伝えることなんて限られてるとは思いますが、出来ることがあるならあなたたちに協力します。だって、魔戒騎士や魔戒法師は助け合ってこそナンボなんですから……」

 

魔戒騎士や魔戒法師は助け合うべきである。

 

これは、奏夜が統夜から教わったことであり、その言葉を聞いた翼と邪美は、笑みを浮かべていた。

 

「……言うようになったじゃないか」

 

「そういう訳だから、奏夜にも協力してもらうよ。あと、剣斗もね!」

 

「うむ!もちろんそのつもりだ!歴戦の勇士である白夜騎士と、邪美法師の2人との共闘……。イイぞ……!これはとても心が躍る!」

 

翼と邪美の2人と共闘出来るだろうと感じた剣斗は、興奮冷めやらぬ感じで盛り上がっており、剣斗の本性を垣間見た翼と邪美はやや引き気味であった。

 

「と、とりあえず、改めて仕事の話をさせてもらうよ」

 

気持ちを切り替えて、邪美は何故秋葉原に訪れたのか。

 

その目的と、奏夜たちに協力して欲しいことを話そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ちょうど同じ頃、奏夜たちとは離れた席で、1人の小太りな男が、ことりのことをジッと見ていたのであった。

 

「……あの子が伝説のミナリンスキーちゃんか……。デュフフ、写真よりも可愛いじゃないか……」

 

小太りな男は、怪しい笑みを浮かべており、いらやしい目付きでことりのことを見ていた。

 

「それにしても、あの2人がくるとはな……。だけど、そんなことは関係ないさ……」

 

小太りの男は、奥の席にいる翼と邪美をチラッと見ながらこう呟いていた。

 

「せっかく手に入れた力を手放したくはないしな……。デュフフ……。ミナリンスキーちゃん……。絶対俺のものにしてみせるよ……」

 

どうやらこの小太りの男は、ことりのことを狙っているみたいであった。

 

奏夜たちはこの小太りの男の目的をそう遠くないうちに知ることになる。

 

それは、そう遠くないうちに起こる、激しい戦いの序曲であることを、奏夜たちは知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……後編に続く。

 




今回の番外編で登場したのは、翼と邪美でした!

イメージ的には、「魔戒列伝」の翼回をイメージしています。

メイド喫茶で狼狽える翼や、メイド姿の邪美……。本編では絶対見られない光景ですよね(笑)

そこら辺は、この小説ならではだと思っています。

そして、邪美が零や烈花の話をしていましたが、「絶狼〜Dragon Blood」の話は、牙狼ライブ!1話の時点で既に終わっていますのでよろしくお願いします!

そう考えると、竜絡みの事件が続くことになるんですよね……。

さて、次回は後編ですが、翼や邪美の活躍が見られると思います。

最後に出てきた小太りの男は何者なのか……?

それでは、後編をお楽しみに!



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番外編② 「白夜 後編」

お待たせしました!前回の続きの番外編となっています。

現在放送中の「牙狼 VANISHING LINE」に暗黒騎士が登場しましたね。

どうやら、暗黒騎士に堕ちる前の称号が白銀騎士らしく、それを初めて聞いた時は「!?」となってしまいました。

統夜の称号と被りましたが、前作を投稿したのは去年だし、時系列は全然違うので、これで良いのかなと思っています。

白銀騎士という名前が出たのは嬉しくもあり、驚きもしました。

さて、今回は翼と邪美の2人が活躍します。

2人は何故秋葉原を訪れたのか?

それでは、後編となる番外編をどうぞ!




……奏夜がメイド喫茶で翼や邪美と出会う2日前の深夜。

 

秋葉原某所にある、今は使われてはいないビルの一室に、1人の女性が閉じ込められていた。

 

この女性は、メイド喫茶で働く、それなりに人気なメイドなのだが、何者かによって拐われてしまい、ここへ閉じ込められてしまったのである。

 

「ここは……どこなの……?私は確か、仕事を終えて帰ろうとしてて、それで……」

 

女性は、拐われる前の状況を確認していた。

 

すると……。

 

「……デュフフ、目が覚めたみたいだね」

 

女性の前に現れたのは、怪しい笑みを浮かべた小太りの男だった。

 

さらに、鎖のようなものに繋がれた、20代前半くらいの女性も一緒だった。

 

「!?あなたは、いつも店に来てた……。それに、あの子は……!」

 

小太りの男は、どうやら、女性が働くメイド喫茶の常連客みたいだった。

 

……とは言っても、この1ヶ月あたりでよく見かけるようになったと言った方が正しいのだが……。

 

「確か、2週間前に行方不明になったミキちゃんじゃない!」

 

「リサ……ちゃん……」

 

鎖のようなもので繋がれた女性は、メイド喫茶で働くメイドであり、2週間前に行方をくらませていたミキであった。

 

「デュフフ。この子は文字通り、身も心も俺に捧げた玩具なんだよ」

 

「玩具……?何を言って……」

 

小太りの男の言葉があまりにも常軌を逸しているため、リサは困惑していたのだが、ミキが鎖のようなもので繋がれているのを見て、言葉を失っていた。

 

よく見てみたら、ミキの目は輝きを失っており、まるで死んだ魚のような目をしていたのである。

 

「デュフフ……。こいつは胸もでかかったし、ご奉仕は最高だったな……」

 

小太りの男が、ゲスな笑みを浮かべながらこう語ると、リサの背筋にゾクゾクっと寒気が走っていた。

 

「そして、お前も今日からは身も心も俺に捧げてもらうぞ」

 

「何を言ってるの!?そんなの、出来るわけないじゃない!気持ち悪い!」

 

リサは険しい表情になると、小太りの男に嫌悪感を露わにしていた。

 

「……ま、そういうと思ったよ。俺に逆らったらどうなるか、見せないとな。……可哀想だな、ミキちゃん。リサちゃんが強情なせいで、犠牲になっちゃうとは……」

 

「な、何を言って……!」

 

「リサちゃん……!助けて……!」

 

死んだ魚のような目をしていたミキであったが、瞳から涙を流し、リサに助けを求めていた。

 

そして……。

 

「デュフフ……。いただきます……!」

 

小太りの男の目から怪しい輝きが放たれると、その口がまるで怪物のように大きく開かれ、ミキを頭からかぶりついたのであった。

 

「!!?」

 

あまりにグロテスクな光景に、リサは言葉を失っていた。

 

頭からかぶりつかれたからか、ミキのものと思われる鮮血が飛び散るのだが、小太りの男は、そんな鮮血もすするようにミキのことを喰らっていたのであった。

 

こうして、ミキは小太りの男に文字通り喰われてしまい、その生涯を終えることになってしまった。

 

「い……いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

目の前で起こったことがあまりにもショッキングだからか、リサは顔を真っ青にして悲鳴をあげていた。

 

「あーあ……。ミキちゃんは久々の上玉だったのにな……。もったいない」

 

ミキを喰らった小太りの男は、それを気にする素振りを見せず、むしろ残念がっていた。

 

「あぁ……あぁ……!」

 

ショックがあまりにも大きすぎるからか、リサはその場でうなだれていたのであった。

 

「ミキちゃん、リサちゃんのことを恨んでるだろうなぁ……。リサちゃんが素直に俺に従っていれば、俺の餌になることはなかったのに……」

 

小太りの男は、追い討ちをかけるようなことを言っており、それによりリサの精神はボロボロになっていた。

 

「これでわかっただろ?お前は黙って俺の玩具になればいいんだ」

 

「……は、はい……」

 

この男に逆らったら殺される。

 

こう本能で感じ取ったからか、リサは男に従うしかなかった。

 

「……まずは、ここにリサちゃんのメイド服を用意したから、ここで着替えてもらおうかな」

 

小太りの男は、目の前で着替えをしろと、無茶な要求をしてきたのである。

 

「……はい」

 

恐怖で支配されているリサは、素直に命令に従い、その場で服を脱ぎだし、下着姿になっていた。

 

「うほぉ!リサちゃんの身体……。たまんねぇな!」

 

「……っ!」

 

恐怖に支配されていたも、恥ずかしさと悔しさは明らかに出ており、リサは涙を流していた。

 

こうして、リサは下着姿をまじまじと見られながらメイド服へと着替えたのであった。

 

「さて、今度は俺にキスをしてもらおうか。基本だろ?」

 

「……かしこまりました。ご主人様……」

 

小太りの男の命令に背くことは出来ず、リサは涙を流しながらキスをさせられたのであった。

 

それも、唇と唇がそっと触れ合うようなものではなく、もっと深いものだったのだ。

 

「……ふぅ、いいねいいね。夜はこれからなんだ。たっぷりリサちゃんを堪能させてもらおうかな」

 

「……」

 

「……それにしても、本当に最高だぜ。あんなろくに何もない里でずっと暮らすと考えたらゾッとするからな。おかげで、力を得たんだけどな」

 

どうやらこの小太りの男は、とある里で暮らしていたみたいだが、ひょんなことからオタク文化を知り、その里を抜け出し、この街へやって来たのである。

 

その後、何があったかはわからないが、ホラーに憑依されてしまい、先ほどのように人を喰らうこともあったのであった。

 

こうして、小太りの男は、リサを自らの玩具として弄び、その身体を堪能したのであった……。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

奏夜は穂乃果たちや剣斗と共にメイド喫茶へ行く事になったのだが、そこで、閑岱から指令を受けて秋葉原へやって来た翼と邪美の2人と遭遇する。

 

2人は、秋葉原で騎士の務めを果たす奏夜の力を借りたいと思っていたみたいであった。

 

互いに近況を語り合ったところで、邪美は指令についての説明を行っていた。

 

「……なるほど、お2人は、閑岱の里を抜け出した元魔戒法師を探しているという訳ですね?」

 

「ああ、その通りだ」

 

「そいつは、どこからかオタク文化についての情報を手に入れて、そこから自堕落になっちまったみたいなんだ」

 

「ふむ……。それで、その男は閑岱の里を飛び出し、ここへやって来たのだな?」

 

「それだけなら別に放っておいても良いのだが、奴がホラーに憑依されたという話を聞いてな」

 

どうやら、翼と邪美が追っている男は、ホラーに憑依された可能性があるみたいだった。

 

「俺たちは奴を見つけ出し、本当にホラーに憑依されているのなら討滅せよと指令を受けたのだ」

 

「でも、奴はうまい具合にこの文化に溶け込んでいるみたいでね。捜索は難航しそうなんだよ」

 

『恐らくは、ワシらの力でも、気配を追うのは難しいかもしれんのう』

 

「奴は魔戒法師の端くれだったからな。ホラーに憑依されたとしても、自らの気配を消すなど造作でもないだろう」

 

このように語る翼の表情は、険しいものとなっていた。

 

「……なるほど、それは厄介な話ですね……」

 

「うむ……。せめて奴の狙いがわかれば、ターゲットを探すのが楽になるのだがな……」

 

「オタク文化に魅入られた元魔戒法師か……」

 

奏夜は、今回探すべきターゲットの特徴を呟くと、何か手がかりはないかと考えていた。

 

すると……。

 

「……いやぁ、本当に助かったよ、ミナリンスキーちゃん」

 

「いえ。私も久しぶりにここに来れて嬉しいですし」

 

不意に、この店の店長と、ことりが話をしているのが聞こえてきた。

 

「最近、メイドさんが次々と姿をくらましちゃってね。その影響で人手が足りなくなって困ってたんだよ」

 

「そうだったんですか……」

 

店長とことりがこのように話をしていたのだが……。

 

「!!」

 

奏夜はその話を聞くと、何かピンと来たみたいだった。

 

「?奏夜?どうしたんだい?」

 

「いえ、さっきメイドさんが次々と行方不明になっているって話が聞こえまして、ホラーが絡んでる可能性があると思いまして」

 

「なるほどね……。確かにその可能性はあるかもしれないね」

 

「さっき話してた元魔戒法師が、メイドに執着するような人間だったら全てに辻褄が合うんです」

 

「さすがだな、奏夜。少ない情報でここまでの推理をするとはな」

 

「いえ、そんな大したことは……」

 

翼は、ホラーに繋がる情報を出してきた奏夜を称賛しており、奏夜は尊敬する騎士に褒められたことで少しだけ照れていた。

 

「うむ!奏夜はなかなか頭が切れるからな!この前も、バラバラだったμ'sを1つにまとめたところだしな!」

 

そして剣斗は、奏夜をこのように評価していたのであった。

 

「ミューズ?あぁ、そういえば、メイドの子達が言ってたね。そんな名前のスクールアイドルが凄く頑張ってるとか。それはあんたたちのことだったんだね」

 

「ええ……まぁ……」

 

邪美はスクールアイドルについては詳しくはないが、ここにいるメイドさんからそれなりに情報は仕入れてたみたいだった。

 

「そのスクール何とかのことはよくわからんが、奏夜、どうやってホラーを見つけるつもりだ?」

 

翼は、スクールアイドルについて興味がないからか、いきなり核心を突く話題を切り出してきた。

 

「……ホラーがメイドさんを狙うなら、メイドさんを使って誘き出すしかないですね」

 

「うむ。本来ならイイアイディアとは言えぬが、これ以上被害を出さないためだからな。仕方あるまい」

 

奏夜の出した作戦に、剣斗は渋々了承していた。

 

「確かにそれしかないかもだけど、どうやってメイドに協力してもらうつもりだたい?そう簡単には……。ん?」

 

邪美は、囮になってもらうメイドさんを見つけることは難しいと思っていたのだが、何か良い案を思いついたみたいだった。

 

「……なぁ、奏夜。さっき話してたμ'sとやらを紹介してくれないかい?ミナリンスキーも一緒にね」

 

「は、はい。わかりました」

 

何かを思いついた邪美は、奏夜にμ'sメンバーを紹介するように頼むと、そのまま穂乃果たちのところへ行こうとしていた。

 

「おい、どうするつもりだ?」

 

翼はそんな邪美を引き止め、目的を聞き出そうとしていた。

 

「あんたらはそこで談笑でもしてな!……ほら、奏夜、行くよ」

 

「は、はい」

 

こうして、邪美と奏夜は、穂乃果たちのところへと向かっていったのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

その頃、穂乃果たちは、一向に帰ってこない奏夜と剣斗のいる方角を見ていた。

 

「そーくん、戻ってこないね……」

 

「戻ってこないということは、やはりあの男の人も魔戒騎士なのでしょうか?」

 

海未は、戻ってこない奏夜と剣斗の姿を見ながら、このような推測をしていた。

 

すると……。

 

「あら?奏夜が戻ってくるわ?」

 

「メイドさんも一緒みたいやな?」

 

絵里と希は、奏夜と邪美がこちらへやってくることを確認していた。

 

「……あんたたちがμ'sだね?」

 

「は、はい。そうですけど、あなたは……?」

 

メイドさんにしては態度が大きかったため、穂乃果たちは困惑していた。

 

「みんな、紹介するよ。この人は邪美さん。管轄はここじゃないけど、魔戒法師なんだ」

「なんだい?この子たちは奏夜や剣斗が魔戒騎士だってことを知ってるんだね?」

「はい、そうです」

「だったら話は早いね……」

 

邪美は、穂乃果たちが奏夜が魔戒騎士であることを知っていることに驚きながらも、これから話す話題的には好都合だと思っていた。

 

「改めて自己紹介をさせてもらうよ。あたしは邪美。とある指令でこの秋葉原にやって来た魔戒法師さ」

 

「魔戒法師って確か、アキトさんみたいな人のことでしたよね?」

 

「なんだい、アキトとも会ったことがあるんだね。本当に話が早いよ」

 

「あの……。とある指令ってことは、ホラーなんですか?」

 

邪美の素性がわかったところで、穂乃果はおずおずと本題を切り出していた。

 

「まだそうと決まったわけじゃないけどね。それを確かめに行くのさ」

 

「それで、みんなにも協力してほしいことがあって……」

 

奏夜は、一切隠そうとはせず、穂乃果たちへ協力を要請していた。

 

すると……。

 

「……みんな、ごめん!遅くなっちゃったぁ!」

 

店長との話が終わったのか、ことりが小走り気味にこちらへやって来ていた。

 

「……あっ、そーくん。それに、今日体験バイトをしてる邪美さん……でしたっけ?」

 

「た、体験バイトぉ!!?」

 

奏夜は、邪美がこの店で体験バイトをしていることを知り、驚きを隠せずにいた。

 

「ところでそーくん。そーくんって邪美さんとは知り合いなの?」

 

「まぁな……」

「あたしは魔戒法師なのさ。だから、奏夜のことはよく知っているよ」

 

「そうなんですね……」

 

ことりは、邪美の放つ雰囲気が独特だからか、魔戒の関係者ではないかと察していた。

 

そのため、邪美が魔戒法師と知っても、驚くことはなかった。

 

「!?もしかして……。ホラーをやっつける指令か何かですか?」

 

「察しが良いね。流石はミナリンスキーだ」

 

「いえ……。そんな……」

 

ことりは邪美に褒められて嬉しかったからか、少しだけ頬を赤らめていた。

 

「さてと、さっそくだけど、仕事の話をしようか。あんたもこっちに座りな」

 

「それじゃあ……。お邪魔します……」

こうして、奏夜、邪美、ことりの3人が席についたところで、邪美はこの秋葉原へ来た経緯を話し、穂乃果たちに協力を要請しようとしていた。

 

「……なるほど、オタク文化に染まってる元魔戒法師がメイドさんを狙ってる可能性があるんですか……」

 

「それにしても、随分と物好きな魔戒法師もいるものね」

 

邪美の話を聞き、絵里は驚いていたのだが、真姫は呆れ気味であり、髪の毛の先をクルクルと回していた。

 

「まぁ、あたしの住んでる閑岱っていうのは魔戒法師の里だから、普通の人間の文化はそんなに入ってこないんだけどね」

「でも、俺や統夜さんみたいに現代の文化に馴染んでる魔戒騎士や魔戒法師はけっこういるだろうし、ひょんなことからターゲットはオタク文化を知ったんだろうな」

 

「そうなんだ……」

 

「娯楽もなくて修行三昧なんでしょう?里を抜け出した奴の気持ちもわからなくはないわね……」

 

にこは、閑岱の里の話を聞き、少しだけ顔が青くなっていた。

 

「事情はどうあれ、そいつがホラーになってる可能性があって、メイドさんが次々と消えてるんだ。放ってはおけないさ」

 

奏夜はこれ以上被害を広げたくないと思っているからか、険しい表情になっていた。

 

「そこでだ。あたしが協力をお願いしたいのはミナリンスキーなんだよ」

 

邪美は穂乃果たちに協力してほしいと思っていたが、特にことりに協力して欲しいと思っていた。

 

「え?私ですか?」

 

「奴はメイドを狙っている可能性がある。そして、あんたは伝説のメイドと呼ばれてるんだろ?だとしたら、狙わない理由はないよね」

 

「……」

 

自分がミナリンスキーである故に、ホラーに狙われる可能性があると知り、ことりは浮かない表情をしていた。

 

「邪美さん。確かに、ことりに囮になってもらうのが一番の得策ではありますが、俺はことりを危険な目や怖い目に遭わせたくないんです」

 

「そーくん……」

 

このように語るのは奏夜の本心であり、ことりはそんな奏夜の言葉が嬉しかった。

 

「やれやれ……。だとしたら、最初からこの仕事に関わらせるべきじゃなかったんじゃないかい?それはあんただってよくわかってるだろ?」

 

「!?確かに、返す言葉はないです。だけど……。俺は……!」

 

邪美の言葉は的を得ているからか、奏夜は何も反論が出来なかった。

 

「待って下さい!そーくんが魔戒騎士であるとわかって関わるのは私たちの意思なんです」

 

「そうです!確かに今でも怖いです。だけど、何も知らないままそーくんが危険な目に遭ってると聞くのはもっと怖いんです!」

 

「奏夜はμ'sのマネージャーとして、私たちのことを支えてくれました。だからこそ、私たちが支えられるところは支えたいんです!」

 

穂乃果、花陽、絵里の3人が今自分たちが思っていることを告げており、奏夜はそんな3人の言葉が嬉しかった。

 

「……なるほどね。あんたらの覚悟が本物なのはわかった。だけど、奏夜。彼女たちを囮にしないならいったいどうするつもりだい?」

 

「大丈夫です。俺にいい考えがあるんです。ただ、それを成すには、穂乃果たちの協力が必要不可欠なんです」

 

「……聞かせてもらおうか?奏夜が何をしようとしているのかをね」

 

「わかりました」

 

奏夜は、ホラーの可能性がある元魔戒法師を誘き出す策を伝えると、邪美だけではなく、穂乃果たちも驚いていた。

 

しかし、穂乃果たちの協力が必要なのは間違いないみたいだからか、穂乃果たちはその作戦に乗り気であった。

 

そのため、邪美も渋々その作戦に乗ることにして、その作戦は、ことりのバイトが終了した直後に決行することにした。

 

その下準備をするために、奏夜は伝説のメイドであるミナリンスキーが復活したという内容の書き込みをSNSで拡散したのであった。

 

それを行うことで、作戦をより確実に成功させるためである。

 

これにより、獲物が網にかかることを信じ、奏夜たちはメイド喫茶で時間を潰すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ことりのバイトが終了したのは、20時過ぎくらいであった。

 

バイトが終了し、ことりは何故かメイド服を着たまま、自宅へと向かっていた。

 

「デュフフ……!待ってたぞ……!伝説のメイドであるミナリンスキーが1人になるところを!」

 

ことりを狙っていると思われる小太りの男が、怪しい目付きで少し離れたところにいることりを見据えていた。

 

「山刀翼と邪美法師が現れたのは予想外だったけど、誰も俺の邪魔は出来ないさ。あの、青臭い魔戒騎士と、暑苦しい魔戒騎士にもな!」

 

どうやら小太りの男は、翼や邪美のことを知っているため、この男が、閑岱を抜け出した元魔戒法師であった。

 

小太りの男は、こっそりと魔導具を使うと、周囲に誰も潜んでいないことを確認した。

 

そして、ゆっくりとことりに接近すると、ことりを羽交い締めにする形で捕まえたのであった。

 

「!!?」

 

「大人しくしろ。騒いだらこの場で殺すからな!」

 

ことりは恐怖で震えているからか、無言でコクコクと頷いていた。

 

「とりあえず付いて来い。途中で逃げようとするなよ。手荒な真似をすることになるからな」

 

ことりは小太りの男の言うことを聞くしかないからか、大人しく男従い、男に付いて行ったのであった。

 

小太りの男とことりが姿を消してまもなく……。

 

「……よし、ここまでは奏夜の立てた作戦通りだな」

 

翼、邪美、剣斗の3人と、穂乃果たち8人が姿を現していた。

 

「ふむ……。あの男、魔導具を使うところを見ると、2人の探していたターゲットで間違いなさそうだな」

 

剣斗は、小太りの男が魔導具を使うところに着目し、この男こそが翼や邪美のターゲットであることを確信していた。

 

「ああ、どうやら間違いないみたいだね」

 

邪美もこのように答えていることから、この男が閑岱を抜け出した元魔戒法師であることは確実なものになったが、この男がホラーかどうかはまだ掴めずにいた。

 

ちなみに、邪美はこの時、メイド服ではなく、普段から着ている魔法衣を身に纏っていた。

 

「多少は法術の心得はあるみたいだけど、あたしの貼った結界に気付かないとは、まだまだだね。まぁ、そうだろうとは思ったけどさ」

 

邪美はこのように言っているのだが、邪美の貼った結界はかなりの効力であり、気配を消すことなど造作でもなかった。

 

邪美は一流の魔戒法師であるため、小太りの男と比べるのはおこがましいのだが……。

 

「それにしても、ことりちゃん……。大丈夫かな……」

 

「大丈夫ですよ。奏夜がきっと何とかしてくれます」

 

穂乃果はことりの身を案じており、海未は、奏夜を信じているからか、そこまで心配はしていなかった。

 

奏夜はことりを囮にすることを良しとしていないのに、何故ことりが囮になっているのか?

 

その理由は、これから明らかになっていく。

 

「……あんたたち、本当に奏夜のことを信頼してるんだね」

 

「それはもちろんだにゃ!」

 

「そうね。奏夜がいなかったら、私たちはこうやって9人集まることはなかっただろうしね……」

 

「私たちは本当に奏夜君に感謝してるんです」

 

「だからこそ、私は奏夜のことを信じられるんです」

 

「そうね。だって奏夜は……」

 

「ウチら9人の女神を守る光の騎士なんやもん。カードもそう言うとるしな」

 

1年生組と、3年生組が、奏夜のことを心から信じられる心境を語っていたのであった。

 

「なるほどね……」

 

邪美は、そんな言葉を聞き、奏夜たちの関係性を理解したみたいであった。

 

(この9人は間違いない……。大なり小なりはあるだろうけどね……。まぁ、これ以上のことを言うのは野暮ってものかな?)

 

そして、女の勘だからか、穂乃果たちの抱いている感情を読み取るのだが、あえてそれは口にしなかった。

 

「無駄話はそれまでだ。ゴルバ、キルバの気配を追ってくれ。それで奴の潜伏先を突き止める」

『うむ。心得た』

 

翼は、ゴルバに何故かキルバの気配を追うよう指示を出すと、ゴルバはキルバの気配を探るのであった。

 

そして、翼はゴルバのナビゲーションを頼りに移動を開始すると、邪美や剣斗。穂乃果たちもその後を追うのであった。

 

翼は、穂乃果たちを同行させることを良しとはしなかったが、穂乃果たちの強い意思があってのことと、生き残りがいた場合、その生き残りの保護をお願いするためである。

 

そうすることにより、翼や剣斗は心置きなく戦えるからである。

 

そして、この作戦を立てた奏夜は別行動をしているのだが、奏夜がどうしているのかはこれから明らかになっていく。

 

 

 

 

 

 

 

一方、小太りの男に連れ去られたことりは、秋葉原某所にある今は使われていない廃ビルに来ていた。

 

「デュフフ……。ついに手に入れたぞ!伝説のメイド、ミナリンスキーを!」

 

小太りの男は、悲願を達成したからか、喜びを露わにしていた。

 

「ミナリンスキーを俺の玩具に出来るなら、後の玩具は必要ない。後で俺の餌にさせてもらうか」

 

どうやらまだ生き残りはいるみたいなのだが、小太りの男は、その生き残りを1人残らず餌として食らおうと考えていたのである。

 

「ミナリンスキー。お前は今日から俺の玩具になるんだ。身も心も俺に捧げてご奉仕をしてもらうからな」

 

「……」

 

ことりは何故か顔を伏せて小太りの男に顔を見せようとはしておらず、恐怖を感じているからか小刻みに震えていた。

 

そして、無言でコクリと頷いていた。

 

「?他のメイドと比べて随分と素直だな……。でもまぁ、俺のモノになることは間違いないんだからいいか」

 

小太りの男は、ことりがやけに素直なことに驚いていたが、それ以上は気にすることはなかった。

 

「さて……。さっそく俺にご奉仕を……。ん?」

 

小太りの男は、ことりに何かを強要する前にことりは小太りの男の頬に手を当てていた。

 

そんなことりの仕草に、男は思わずドキッとしてしまっていた。

 

「ミナリンスキー……。愛おしいなぁ……。デュフフ、辛抱たまらん!」

 

ことりの仕草を見て小太りの男の理性は崩壊してしまい、そのままことりにキスをしようとしていた。

 

すると、何故かことりはニヤリと怪しい笑みを浮かべており……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこからか魔導ライターらしきものを取り出すと、それに火をつけた。

 

「!?何でミナリンスキーがそれを!?」

 

ことりが魔導ライターを持っていることに驚いていたのだが、既に手遅れであった。

 

橙色の魔導火は小太りの男の瞳を照らしており、その瞳からは怪しげな文字のようなものが浮かび上がってきた。

 

この男がホラーである何よりの証拠であった。

 

「!?お、お前、まさか、ミナリンスキーじゃない!?」

 

ここでようやく魔導火を持つことりが偽物であることを知り、驚愕していた。

 

「今気付いたの?だけど、手遅れだよ!」

 

声はことりのものなのだが、この人物はことりではなかった。

 

ことり(?)は、マスクを外す素ぶりをすると、変装用のマスクを外し、さらに着ているメイド服を脱ぎ捨てたのであった。

 

そして、姿を現したのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……き、貴様!ミナリンスキーと一緒にいた青臭い魔戒騎士か!」

 

ことりに扮していたのは奏夜であり、小太りの男は驚愕していた。

 

「まさかこんな単純な変装に気付かないとはな。魔戒法師の道を捨てただけはあるな!」

 

奏夜は自分の変装に気付かなかった小太りの男を嘲笑っていた。

 

奏夜が立てた作戦というのは、奏夜がことりに変装することにより、小太りの男をおびき出し、奏夜が囮になっている間に、翼たちが生き残りを救出するというものであった。

 

ちなみに、本物のことりは、奏夜が連れていかれて間もなく穂乃果たちと合流した。

 

これも奏夜の作戦であり、わざと合流を遅らせることで、本物のことりが狙われるリスクを避けるためであった。

 

だからか、ことりはメイド服ではなく、音ノ木坂学院の制服を着ているのである。

 

「おのれ……!小癪な真似を!こうなったら、人質を使って……」

 

小太りの男は、以前より捕らえた人間を人質に、その場を凌ごうと考えるのだが……。

 

「悪いけど、そうはいかないよ!」

 

小太りの男が移動しようとしたその時、邪美と翼が現れると、男の行く手を塞いでいた。

 

「くっ、山刀翼と邪美法師か……!」

 

翼と邪美のことを知っている小太りの男は、思わず舌打ちをしたのであった。

 

「翼さん!邪美さん!作戦は上手くいったんですね?」

 

「ああ。こいつに拉致されたメイドたちは救出したよ。穂乃果たちと剣斗がその子たちについてる」

 

「そうですか!だとしたら、心置きなくこいつを斬れるという訳ですね!」

 

奏夜は自分の立てた作戦が上手くいっていることに喜びながらも、小太りの男を睨みつけていた。

 

「うぐぐ……!おのれ!どいつもこいつも俺の桃源郷を作り上げる俺の邪魔をしやがって!」

 

「桃源郷だと……?ホラーの力を使って自分の欲望を満たしてるだけだろ……!」

 

奏夜は、実際に拉致された女の子たちを見てはいないのだが、この小太りの男が自らの欲望を満たそうとしていることは理解していたため、怒りを露わにしていた。

 

「……それで俺の桃源郷だと……?ふざ……」

 

「ふざけるんじゃないよ!!」

 

奏夜が怒りの声を出す前に、邪美が怒りの声をあげていた。

 

「じゃ、邪美さん……?」

 

邪美が先に怒りの声をあげたことに、奏夜は戸惑いを見せていた。

 

「さっき奏夜も言ってたけど、あんたはただ自分の欲望を満たしてるだけだ!魔戒法師の道を投げ出して、自堕落な生活に堕ちて……」

 

同じ里の魔戒法師だから思うところがあるのか、邪美の怒りは増すばかりであった。

 

「挙げ句の果てに女の子を拉致?女はあんたの玩具じゃないんだよ!」

 

そして、被害に遭った女の子たちのことを気遣い、同じ女として、許せなかった。

 

「ホラーに成り果てたあんたにはもう同情なんてしないよ!あんたはあたしたちが討滅する!」

 

邪美は鋭い目付きで小太りの男を睨み付けると、魔導筆を取り出し、構えていた。

 

「黙れ!あんたみたいに優秀な魔戒法師にはわからないだろう!落ちこぼれと蔑まされたこの俺の気持ちが!」

 

「なるほど……。そんな歪んだ感情こそ、貴様の陰我という訳か」

 

小太りの男の歪んだ感情を汲み取り、翼は鋭い目付きで男を睨みつけていた。

 

「優秀とか落ちこぼれとかそんなものはどうでもいい。本当に大切なのは、人を守ろうという覚悟と、それを成すための強い思いだ。どんな落ちこぼれだろうと、強い思いがあれば、実力は自ずとついてくるんだ」

 

翼は、鋭い目付きで小太りの男を睨みながら、魔戒騎士や魔戒法師として大切なことを語っていた。

 

「お前は周りの人間の言葉に踊らされ、努力を怠り、守りし者としての本分を見失ったんだ」

 

「俺は、魔戒騎士として未熟だから、あんたが言い訳をして逃げてるだけだってよくわかる」

 

さらに、奏夜は魔戒騎士として大きな挫折を味わったことを思い出しながらこのように語っていた。

 

「だからこそあんたの身勝手で、多くの人を傷付けたことが許せない!」

 

「黙れ……!黙れ黙れ黙れ黙れ!!」

 

邪美、翼、奏夜の立て続けの言葉に激昂した小太りの男は、衝撃波を放ったのであった。

 

それにより、3人は一瞬怯むのだが、その隙を突いて、小太りの男はどこかへと姿を消したのであった。

 

「くそっ!逃げたか!」

 

小太りの男が逃げてしまい、奏夜は舌打ちをしていた。

 

『奏夜!奴は上に逃げたみたいだ!』

 

「2人とも!奴を追いかけるよ!」

 

「はい!」

 

「無論だ!」

 

小太りの男は姿を消したものの、ホラーであることから、キルバはあっさりと気配を探知していた。

 

それを頼りに、奏夜たちは小太りの男の追跡を始め、階段を駆け上がり、屋上で男を追い詰めるのであった。

 

「……悪いが、これ以上は鬼ごっこに付き合っていられんぞ」

 

小太りの男の姿を捉えた翼は、ずっと手にしていた魔戒槍を構えると、普段は隠してあるソウルメタル製の刃が姿を現したのであった。

 

翼が魔戒槍を構えるのを見て、奏夜も魔戒剣を構え、邪美は魔導筆を構えるのであった。

 

「おのれ……!どいつもこいつも俺の邪魔をしやがって!誰が相手だろうと関係ねぇ!みんなまとめて喰ってやる!」

 

追い詰められたことでヤケクソになったのか、臨戦体勢に入っていた。

 

そして、口を大きく開くと、そこから巨大な口の魔獣が飛び出し、小太りの男の体はその衝撃で消滅していた。

 

巨大な魔獣は、奏夜を喰らおうと勢いよく迫ってきたのであるが……。

 

「はぁっ!!」

魔獣の牙が、奏夜の体を喰らおうとするよりも速く、奏夜は魔戒剣を大きな口に向かって叩き込んだ。

 

その一撃で怯んだからか、魔獣は奏夜と距離を取っていた。

 

どうやらこのホラーは、浮遊して移動するタイプのホラーであった。

 

「なるほどな。これが奴の本体という訳か」

 

『奏夜。こいつはホラー、ハングルード。何でも丸呑みにして喰らおうとする悪食なホラーだ!』

 

「デュフフ!確かにそうだが、俺の好物は若い女の子だけどな」

 

キルバの情報を補足するかのように、小太りの男ことハングルードは自分の嗜好を語っていた。

 

「この力を手に入れて、捨て駒な女を喰らい、本命の子を俺の玩具にするのは最高だったぜ!」

 

ハングルードは、ホラーの力を使い、己の欲望を満たしていたのであった。

 

「貴様……!本当に性根が腐ってるみたいだな……!」

 

ハングルードのあまりにゲスな態度に、奏夜は眉間にしわを寄せていた。

 

「そんな貴様の陰我、俺たちで断ち切らせてもらう」

 

「させるかよぉ!!」

 

ハングルードは翼を食らうべく、翼に向かっていくのだが、翼は、無駄のない動きで向かってくるハングルードをかわしていた。

 

「その程度か……?所詮は努力を放棄した元魔戒法師。俺たちの敵ではない」

 

「黙れ!白夜騎士だかなんだか知らないが、貴様から先に喰ってやる!」

 

翼の言葉が癪に触ったからか、ハングルードは完全に翼に狙いを定めていた。

 

『ホッホッホ!こんな簡単な挑発に乗るとはのぉ!』

 

翼の相棒であるゴルバは、簡単な挑発に乗ったハングルードのことを笑っていた。

 

『翼!白夜騎士の力を奴に思い知らせてやるのじゃ!』

 

「……無論、そのつもりだ」

 

翼は改めて魔戒槍を構えると、魔戒槍を高く突き上げると、円を描いた。

 

その部分のみ空間が変化すると、翼はその空間から放たれる光に包まれた。

 

すると、その空間から白を基調とした鎧が出現し、翼は白い鎧を身に纏うのであった。

 

この鎧は白夜騎士打無(ダン)。

 

翼が継承した、彼の魔戒騎士としての名前である。

 

翼は黄金騎士牙狼である冴島鋼牙や銀牙騎士絶狼の称号を持つ涼邑零と並ぶ力を持っており、彼ら共に、強大なホラーと戦ったりもした。

 

そんの彼の実力と経験が現れているのか、その場に立っているだけで、そのオーラを感じ取ることが出来た。

 

「凄いオーラだ……。これが白夜騎士……なのか?」

 

奏夜もまた、翼の実力を汲み取ったからか、息を飲んでいた。

 

「鎧を纏っても関係ない!鎧ごと食らってやる!」

 

「やってみろ。やれるものならな」

 

翼が再び軽い挑発を行なうと、ハングルードは翼に向かっていった。

 

すると、邪美は魔導筆を使って法術を放つと、その術はハングルードに直撃していた。

 

「グゥッ!貴様……」

 

「あたしがいることも忘れてもらっちゃこまるね!」

 

邪美は、法術を放つことにより、自らの存在をアピールしていた。

 

「翼、援護するよ!」

 

「援護などなくとも俺はやれる!」

 

「つれないこと言うんじゃないよ。あたしたちの力、奏夜に見せつけてやろうじゃないか!」

 

「……なるほど。それも一興か」

 

奏夜に自分たちの力を見せるということに共感したのか、翼は邪美の援護を受けることにした。

 

「はぁぁ……!」

 

邪美は精神を集中させていた。

 

どうやら、強力な術を放つみたいだった。

 

「させるかよぉ!!」

 

術を放つことを阻止しようとしているのか、ハングルードは邪美に狙いを変更し、邪美を喰らおうとしていた。

 

「!させない!!」

 

奏夜は魔戒剣を前方に突き付け、円を描くと、そのままその円の中に入っていった。

 

奏夜は円の中に入るのと同時に、黄金の鎧を身に纏い、円から出た時には、輝狼の鎧を身に纏っていた。

 

奏夜は邪美を守るように彼女の前に立つと、魔戒剣が変化した陽光剣を一閃し、ハングルードを追い払っていた。

 

「奏夜、すまないね!」

 

「気にしないでください。今のうちに術の用意を!」

 

「当然!!」

 

奏夜が稼いでくれた時間を無駄にしないべく、邪美は術の用意を行っていた。

 

その間、翼と奏夜はハングルードの視線を邪美から遠ざけようとしていた。

 

「おのれ……!邪魔をするな!」

 

「悪いけど、そういう訳にはいかないんでね!」

 

「奏夜の言う通りだ。お前を一気に討滅させてもらう」

 

「なめるなぁ!」

 

奏夜と翼の言葉に激昂したハングルードは、体を一回転させると、尻尾のようなものを奏夜と翼に叩きつけていた。

 

「「くっ!」」

 

奏夜は陽光剣で攻撃を受け止め、翼は魔戒槍が変化した白夜槍で攻撃を受け止めるのだが、少しだけ怯んでしまった。

 

しかし、すぐに体勢を整えた2人は、反撃に転じていた。

 

こうしてしばらくの間、奏夜と翼が時間稼ぎを行っていると……。

 

「……待たせたね!」

 

どうやら、邪美の準備は整ったみたいだった。

 

「……!奏夜!」

 

「はい!」

 

そのことを知ると、2人はハングルードを邪美の術の範囲内に誘い込むのであった。

 

ハングルードは頭に血が上りやすいからか、あっさりと2人の誘いに乗るのであった。

 

「……邪美!今だ!」

 

「任せな!」

 

囮の仕事をしっかりとこなした奏夜と翼は、術に巻き込まれないように退避をしていた。

 

「……!しまった!」

 

ハングルードはここで邪美が術を放とうとしていることに気付いたのだが、既に手遅れであった。

 

「はぁぁ……!」

 

邪美は精神を集中させると、魔導筆を用いて作った魔法陣を輝かせていた。

 

そして……。

 

「……はぁっ!!」

 

いつの間にか邪美は両手に旗のようなものを装備しており、舞を見せながら術を放つのであった。

 

すると、魔法陣から巨大な火の鳥のようなものが出現し、怒涛の勢いでハングルードに向かっていった。

 

その一撃が直撃すると、大きな爆発が発生していた。

 

その術のダメージはかなりのものなのか、ハングルードはボロボロになっていた。

 

その隙を見逃さず、翼はハングルードに接近し、白夜槍を一閃した。

 

その一撃により、ハングルードの体は真っ二つに斬り裂かれるのであった。

 

ハングルードは断末魔をあげており、その体は憑依された元魔戒法師である小太りの男の陰我と共に消滅したのであった。

 

ハングルードが消滅したことを確認した奏夜と翼はそれぞれ鎧を解除するのであった。

 

奏夜は元に戻った魔戒剣を緑の鞘に納め、翼は元に戻った魔戒槍を構えるのを辞めていた。

 

それと同時に、先端部分のソウルメタルで出来た刃は、引っ込むのであった。

 

「流石です、翼さん、邪美さん」

 

奏夜は、強大な力によりホラーを討滅した翼と邪美のことを賞賛していた。

 

「奏夜。あんたも腕をあげたみたいだね。あんたの剣がより鋭さを増したのを感じたよ」

 

「俺はそんな……。まだまだ未熟ですし……」

 

「そうだろうな。だが、今日のお前の剣は悪くなかった」

 

翼は、まだまだ奏夜が未熟であると感じながらも、奏夜のことを認めていた。

 

「お前を見ていると本当に統夜を思い出す。今のお前なら鍛えがいがありそうだ」

 

翼は、何度も統夜の修行に付き合っており、そんな経緯があるからか、まだまだ未熟な奏夜とかつての統夜を重ねていた。

 

「里に帰るのは少し延ばそう。奏夜、明日は時間を作れ。鍛えてやる」

 

どうやら翼は奏夜に稽古をつけたいと思っているからか、このような提案をしていた。

 

「アハハ……。お手柔らかにお願いします……」

 

その修行が厳しいものになると感じた奏夜は、苦笑いをしていた。

 

すると……。

 

「そーくん!」

 

戦いが終わったことを剣斗から聞いたのか、穂乃果が現れて奏夜に駆け寄っていた。

 

「穂乃果……。みんなはどうした?」

 

「捕まってたメイドさんたちと一緒に下にいるよ。小津先生もついてるし」

 

「そっか……。こっちは無事に終わったよ」

「そうなんだ……。良かった……」

 

穂乃果は奏夜が無事だとわかり、安堵していたのだが、奏夜はそんな穂乃果を見てドキッとするのであった。

 

(ほぉ……?これはこれは)

 

女の勘で何かを感じ取ったのか、邪美は怪しげな笑みを浮かべていた。

 

「さて、あんたらもよく協力してくれたね。あとはあたしらに任せて今日は帰りな。奏夜が送っていくから」

 

「え?いいんですか?」

 

奏夜が送ると聞き、穂乃果の表情は明るくなっていた。

 

「え?でも……」

 

「こっから先はあたしの仕事さ。捕まった女の子たちの記憶はしっかりと消しておくよ。あんなおぞましいものを思い出さないためにもね」

 

邪美は、捕まった女の子たちが受けたことに対して痛ましいと思ったからか、しっかりと記憶を消す作業をこなそうとしていた。

 

「わかりました。後は任せました」

 

そんな思いをするけど?汲み取ったからか、奏夜は後のことを邪美たちに託して穂乃果たちを送ることにしたのであった。

 

「あっ、そうそう。穂乃果、ちょっといいかい?」

 

「え?私……ですか?」

 

穂乃果は自分のことを指差すと、邪美は無言で頷いていた。

 

そして、穂乃果に近付くと……。

 

「……奏夜のこと、頼んだよ。あの子は人気者みたいだし、ぼやぼやしてると誰かに取られるよ」

 

このように耳打ちをしており、邪美の言葉を聞いた穂乃果は顔を真っ赤にしていた。

 

「ま、そういう訳だ。あたしは先に下に行ってるよ」

 

こう言葉を残して邪美は下にいる剣斗のもとへと向かい、翼もそれに付いていった。

 

「……なぁ、穂乃果。さっき邪美さんは穂乃果に何て言ってたんだ?」

 

会話の内容が気になったからか、奏夜はこのように問いかけるのだが……。

 

「……!な、なんでもないもん!ほら、そーくん、行こっ!」

 

「お、おい!引っ張るなって!」

 

先ほどの内容を知られたくないからか、穂乃果は奏夜の手を取り、邪美たちを追いかけるのであった。

 

下にいる剣斗やμ'sメンバー。そして、捕まった女の子たちと合流した奏夜は、後のことを邪美に任せ、穂乃果たちを家に送り届けるのであった。

 

邪美は、捕まった女の子たちのホラーに関する記憶を消し去り、警察が保護してくれるように仕向けるのであった。

 

行方不明になっていた女の子たちの保護は大々的に報道され、まだ行方不明の女の子がいることや、犯人が不明で、さらに行方不明だということも報道されるのであった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

翌日の放課後、穂乃果たちはいつものように練習を行おうとしていた。

 

しかし……。

 

「……あれ?そういえば奏夜君は?」

 

奏夜がいないことが気になった花陽がこのように話を切り出していた。

 

「奏夜なんですが、今日は学校を休んでるんです」

 

「えっ?そうなの!?」

 

奏夜が学校を休んでいると知り、凛は驚いていた。

 

「そーくんに直接聞いたんだけど、昨日会った翼さんっていう魔戒騎士の人がいたでしょ?その人がそーくんに稽古をつけてくれるみたいで、今日は学校を休むみたいだよ」

 

穂乃果は、昨日奏夜から聞いた情報をそのまま伝えていた。

 

「それじゃあ、今頃はどこかでビシバシ鍛えられてるって訳ね……」

 

絵里は穂乃果からの情報をもとに、奏夜が今何をしているのか分析していた。

 

「その翼って人、めちゃくちゃ強そうだったじゃない。奏夜、ボコボコに叩きのめされてなきゃいいけど……」

 

「そうね……。それで怪我でもして長々と休むなんてことはないわよね?心配だわ……」

 

にこと真姫は、奏夜の身を案じているからか、ソワソワしており、落ち着きがなかった。

 

そんな2人の様子を、凛と希はニヤニヤしながら眺めていた。

 

「本当に2人ともわかりやすいにゃ!」

 

「そうやねぇ。にこっちも真姫ちゃんも、それだけ奏夜が心配だって訳やね♪」

 

「「うっ、うるさいわね!」」

 

凛と希がニヤニヤしながらからかってくるのが癪なのか、にこと真姫は揃って異議を唱えていた。

 

「……」

 

穂乃果は、その光景を何故かぼうっとしながら眺めていた。

 

そして穂乃果は、昨日の邪美の言葉を思い出していた。

 

“あの子は人気者みたいだし、ぼやぼやしてると誰かに取られるよ”

 

(……海未ちゃんとことりちゃんの気持ちは知ってるけど、みんなも、そーくんのことが好きなのかなぁ……)

 

穂乃果は、海未やことりが奏夜に惚れてることを知っているが、他のメンバーも奏夜のことが好きなんではないか? と疑惑を抱いていた。

 

「……私も頑張らないとな……」

 

穂乃果は、邪美の言葉を気にしているからか、ボソッと呟いていた。

 

「?穂乃果ちゃん。何を頑張らなきゃいけないの?」

 

穂乃果の呟きが聞こえたことりは、このように問いかけ、首を傾げていた。

 

「ふぇ!?……も、もちろん!練習のことだよ!」

 

「うん!確かに練習を頑張らないとね!」

 

「はい!奏夜がいないのは残念ですが、だからと言って練習を疎かにする訳にはいきませんしね」

どうやら上手く誤魔化せたようであり、穂乃果は安堵していた。

 

「それじゃあ、練習を始めましょう!」

 

絵里の号令により、この日の練習は始まるのであった。

 

その頃、奏夜はとある場所にて、翼と邪美の2人による特訓を受けていた。

 

そこで、にこや真姫が心配する通り、ボコボコに叩きのめされながら奏夜は鍛えられたのだが、それはまた別の話である……。

 

 

 

 

 

 

……終。

 

 

 




久しぶりに牙狼らしい描写を書いた気がする(笑)

ホラーとなってしまった元魔戒法師は最後まで名前は出てきませんでしたが、かなりのクズでしたね(笑)

最初のシーンは書いてて胸くそ悪かったです(笑)

ちなみに、ハングルードですが、「魔法少女まどか☆マギカ」に出てきた魔女のシャルロッテをホラーっぽく改造した感じの見た目をイメージしています。

それも、翼や邪美の圧倒的な力の前にやられていましたが。

翼より邪美の方が目立ってる気はしましたが、この2人の活躍が書けて良かったと思っています。

さて、次回も番外編となりますが、番外編はしばらく続く予定です。

二期編の投稿は来年以降になるかなと思いますので、ご了承ください。

次回の番外編はどのような内容になるのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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番外編③ 「堅陣 前編」

お待たせしました!番外編になります!

11月に喋るザルバが届きました!

目の前でザルバが喋るのはやはりイイですね。買って良かったと思ってます。

さて、タイトルが堅陣ということで、あのキャラが登場します。

そのキャラとは一体……?

それでは、番外編をどうぞ!




翼と邪美の2人が指令を受けて秋葉原を訪れ、元魔戒法師だったホラーを討滅した数日後、奏夜は東京を離れ、桜ヶ丘という街に来ていた。

 

この桜ヶ丘は、奏夜の先輩騎士である月影統夜の故郷であり、この街を管轄としているのが「紅の番犬所」と呼ばれる番犬所である。

 

「桜ヶ丘に来るのは久しぶりだけど、変わってないなぁ……」

 

奏夜はしみじみと呟きながら、桜ヶ丘の街を歩いていた。

 

奏夜は魔戒騎士になったばかりの頃から、度々桜ヶ丘を訪れており、とある指令を受けている先輩騎士である統夜の援護に赴いたこともあった。

 

そのため、奏夜にとっては思い入れの強い街となっているのである。

 

「さて、まずは番犬所に挨拶をしないとな……」

 

『そうだな。それが最優先だろう』

 

キルバも賛同したところで、奏夜は紅の番犬所へと向かっていった。

 

そもそも、何故奏夜が桜ヶ丘を訪れることになったのか?

 

それは、翼と邪美による特訓の終了後まで遡る……。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

翼と邪美による厳しい特訓を乗り越えた奏夜は、2人と別れると、そのまま番犬所へと向かった。

 

ロデルからの呼び出しがあったからである。

 

「来ましたね、奏夜。……って、随分とボロボロですね」

 

奏夜は既にボロボロだったため、それを見たロデルは苦笑いをしていた。

 

「え、ええ……。翼さんと邪美さんの特訓が思った以上に容赦がなかったので……」

 

奏夜は何故ここまでボロボロなのかを説明していた。

 

「なるほど……。ですが、あの2人にそこまで鍛えてもらうのはあなたにとってはプラスになったのではないですか?」

 

「そうですね。そのおかげで、俺はまた強くなれたと思います」

 

修行は容赦なかったものの、それによって奏夜は自身の成長を実感していたのであった。

 

「ふふ、頼もしいですね、奏夜。そんなあなたに、行ってもらいたいところがあります」

 

「行ってもらいたいところ……。もしかして、指令ですか?」

 

奏夜の問いかけに、ロデルは無言で頷いていた。

 

「奏夜、今週末に桜ヶ丘に行ってもらいます」

 

「桜ヶ丘って、統夜さんたちがいる紅の番犬所の管轄ですよね?」

 

「ええ。そこの神官であるイレスからの要請なのです」

 

「イレス様が……ですか?」

 

「最近、桜ヶ丘郊外に強大な力を持つホラーが現れたそうなんです。並の魔戒騎士や魔戒法師ではまったく歯が立たない程の……」

 

事態の深刻さに、奏夜は険しい表情になっていた。

 

「どうやらそのホラーは強い相手を求めているようであり、現れてからそれなりに経ちますが、人的被害はありません」

「そうなんですか……?」

 

「黒崎戒人と、楠神幸人の両名ならば討滅は可能ですが、奏夜の成長のために是非にとイレスが勧めてくれたのです」

 

どうやら、紅の番犬所の神官であるイレスは、奏夜の成長を促すために、奏夜に応援を要請したのであった。

 

奏夜は、イレスがそこまで自分のことを評価してくれてることが嬉しかった。

 

そのため……。

 

「わかりました!俺じゃ戒人さんや幸人さんの足を引っ張るかもしれませんが、この指令、引き受けます!」

 

「そうですか!黒崎戒人や楠神幸人と共に戦い、魔戒騎士として大きく成長して帰ってきて下さいね」

 

「はい!これからやらなきゃいけないこともありますし、もっと強くなってみせます!」

 

奏夜は、桜ヶ丘にいる先輩騎士と共に戦うことで、魔戒騎士としてさらに成長することを誓っていた。

 

「頼みましたよ、奏夜」

 

「わかりました!」

 

この日は指令がないため、奏夜は番犬所を後にした。

 

その後、穂乃果たちに数日後に何日か桜ヶ丘へ行くことを伝えると、穂乃果たちはとても羨ましがっていた。

 

しかし、魔戒騎士の仕事であるとわかると、穂乃果たちは奏夜の身を案じながらも奏夜のことを応援していた。

 

こうして穂乃果たちにも無事に伝えることが出来た奏夜は桜ヶ丘に行くことになったのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

そして現在、奏夜は桜ヶ丘を管轄にしている紅の番犬所を訪れていた。

 

奏夜は何度かこの番犬所を訪れたことがあるのだが、ここへ来るのはかなり久しぶりであった。

 

「……おや、来ましたね、奏夜」

 

神官の間で奏夜を待っていたのは、番犬所の神官とは思えないほどの若い容姿で、美しさと知性を併せ持つような黒髪長髪の女性であった。

 

「は、はい。イレス様。ご無沙汰しています」

 

奏夜は、少しだけ緊張した面持ちでイレスに一礼をしていた。

 

「ふふ、そんなに緊張しなくても良いのですよ?」

 

奏夜が緊張しているのがバレバレだったからか、イレスは穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「それはそうと、良く来てくれましたね、奏夜」

 

「いえ……。こちらこそ、魔戒騎士として大きく成長するチャンスを与えて頂き、とても感謝しています」

 

「それは当然のことです。魔戒騎士は人を守るために鍛錬を欠かせてはいけません。今回討伐してもらいたいホラーは、かなりの手練れですので、ピッタリかなと思ったのです」

 

「そうだったんですね……」

 

『それで、そのホラーとはいったいどんなやつなんだ?』

 

手練れのホラーとは聞いたものの、ピンと来なかったからか、キルバはこのように問いかけていた。

 

「それはですね……」

 

「それは俺たちが説明するよ」

 

イレスがホラーについて説明する前に、黒いコートを着た2人の男が現れた。

 

そのコートの形は若干異なるが、2人とも黒髪であり、1人は眼鏡をかけていた。

 

「奏夜……。久しぶりだな」

 

「戒人さん!それに幸人さんも!お久しぶりです!」

 

眼鏡をかけていない男性……。黒崎戒人が親しげに奏夜に声をかけており、奏夜は明るい表情になっていた。

 

「奏夜、統夜から話は聞いている。どうやら以前会った時よりも強くなったみたいだな」

 

「いえ……。俺なんてまだまだですよ……」

 

「そこまで卑下する必要はない。お前が魔戒騎士として強くなってるのは佇まいを見ればわかる」

 

そして、眼鏡をかけた男性が、このように奏夜に声をかけていた。

 

眼鏡をかけていない男性は、黒崎戒人。堅陣騎士ガイアの称号を持つ魔戒騎士であり、奏夜の先輩騎士である統夜の親友であり、ライバルである。

 

そして、眼鏡をかけている男性は、楠神幸人。天弓騎士牙射(ガイ)の称号を持つ魔戒騎士であり、その名の通り、弓術によってホラーを射る魔戒騎士である。

 

「クスッ……。幸人も随分と丸くなりましたねぇ。ここに来たばかりはあれほどツンツンしてたのに、噓みたいです」

 

イレスは、この番犬所に配属されたばかりの頃の幸人のことを思い出し、笑みを浮かべていた。

 

幸人の家は、「楠神流」という、早撃ちの連射を得意とする弓術を扱う家系であり、魔戒騎士としては由緒ある家柄である。

 

そんな家柄の生まれ故にプライドは高く、紅の番犬所に配属されたばかりの頃は、軽音部の人間に魔戒騎士の秘密を話した統夜と、それを受け入れている戒人のことを認めていなかった。

 

彼らは幾度となく衝突したのだが、何度も衝突をする度に互いを理解していったのであった。

 

そして、統夜、戒人、幸人の3人は、とあるホラーを共に討伐したことがきっかけで、盟友となるのであった。

 

「い、イレス様!意地の悪いことを言うのはやめて頂きたい!俺だって、あの頃とは違うのだから」

 

幸人は、かつての話をしているイレスのことを必死に止めていた。

 

「クスッ、ごめんなさい……。さて、戒人、幸人。奏夜にホラーの説明を」

 

「おっと、そうだったな」

 

奏夜たちは久しぶりの再会で話を途切れさせてしまったので、戒人は改めてホラーの話をすることにした。

 

「そのホラーは、強い者を求めているホラーみたいで、今のところ一般人の被害はないみたいなんだ」

 

『ほぉ、そいつは珍しくホラーだな。現れてそれなりに経つんだろう?なのに人的被害がないとはな……』

 

討伐対象であるホラーによる人的被害はないとわかると、キルバは驚きを隠せなかった。

 

ホラーは陰我あるオブジェをゲームに出現し、人間を餌として食らう。

 

時々捕食対象が同族であるホラーである者もいるのだが、そんなホラーでも時折人間を食らうことはある。

 

ホラーによる人的被害がないことは、それだけ驚きがあることなのだ。

 

「しかし、まったく餌を食べていない訳ではないみたいだ。奴は自分が強いと認めた者を捕食の対象としているみたいなんだ」

 

「現に、そのホラーの調査を行っていたベテランの法師と連絡が途絶えました。恐らくはホラーに……」

 

どうやら、戒人や幸人が指令を受ける前にとある魔戒法師がそのホラーと接触したみたいだが、その法師は捕食されたものと推測された。

 

「そのホラーは、人馬ホラー「ロフォカレ」。その力は使徒ホラーに匹敵するものと言われている」

 

『ロフォカレだと!?』

 

戒人がホラーの名前を聞くと、キルバは驚愕していた。

 

「?キルバ、知ってるのか?」

 

『ああ。人馬ホラー、ロフォカレ……。確かに奴ならば使徒ホラー並の力はあるし、強い奴と戦うことが好きな、物好きなホラーでもある』

 

「それだけ実力のあるホラーなのか……」

 

『やれやれ……。ロフォカレが相手となると、奏夜には荷が重すぎるんじゃないか?』

 

ロフォカレが強大な力を持つホラーであることを知っているキルバは、奏夜では倒すのは難しいと思っていた。

 

「そんなことはないさ。奏夜は魔戒騎士として成長している。それに、俺たちが協力すれば倒せないホラーなどいないさ」

 

何を根拠に言っているかはわからないが、戒人は自信に満ちた表情でこのように宣言していた。

 

『その根拠はどこから来てるのか理解出来んがな……』

 

『ホッホッホ!奏夜も魔戒騎士として成長してるのじゃろう?ちょっとは奏夜を信じてみたらどうじゃ?』

 

突如戒人の腕の方から声が聞こえてきた。

 

今口を開いたのは、魔導輪トルバ。戒人の相棒である腕輪の形をした魔導輪で、老人のような声をしている。

 

『ま、あの尊士を倒したんだ。確かにいつもの奏夜とは違うといえば違うか』

 

キルバは、奏夜の成長を素直には認めていなかったが、冷静に考えると成長していることは明白だったため、そこは認めざるを得なかった。

 

「ロフォカレの力は測れんが、戒人の言う通り、俺たちが協力すれば討滅は可能だろう」

 

幸人もまた、奏夜のことを認めているからか、このような分析をしていた。

 

「幸人さん……」

 

奏夜は、幸人が自分のことを認めてくれていることを感じ取っており、そのことに喜びを噛み締めていた。

 

奏夜が初めて幸人と出会った時は、奏夜が未熟だったため、幸人は相手にもしていなかった。

 

それどころか、とあるホラーを協力して倒すという指令を受けた時には、奏夜を捨て駒にさえしようとしており、統夜や戒人と激しく反発したのであった。

 

しかし、何度か共に戦うことにより、くだらないプライドに囚われなくなった幸人は、奏夜のことを見下すことはなくなっていた。

 

「ええ。統夜もいれば、より確実にロフォカレを討滅出来ますが、統夜は例のホラーを追っているため忙しいでしょうし……」

 

「……」

 

イレスのいう例のホラーというのは、ジンガが蘇らせようとしているニーズヘッグのことであり、それを感じ取った表情は険しい表情をしていた。

 

統夜は現在、元老院からの指令で、魔竜ホラーであるニーズヘッグ復活を阻止するために動いている。

 

魔竜の牙と、魔竜の眼の1つはジンガが持っており、統夜は未だにどこにあるか判明していないもう1つの魔竜の眼を探していた。

 

統夜は未だに元老院の魔戒騎士ではなく、この紅の番犬所の魔戒騎士なのだが、この指令が終わったら、そのまま元老院付きの魔戒騎士になるのではないか?という噂が流れている。

 

「そのホラーって確か、翡翠の番犬所の管轄で復活しようとしているんだったな」

 

「それを復活させようとしてるホラーもまた、かなりの手練れみたいだな」

 

「ええ……。俺も一度は敗れ、命を落としかけました……」

 

奏夜は、学園祭前日にジンガと戦った時のことを思い出し、深刻そうな表情をしていた。

 

「そうか……」

 

「統夜も手を焼いているみたいだし、かなりの手練れなのは間違いなさそうだ」

 

幸人と戒人は、統夜からジンガの話も聞いているため、その力がかなりのものであることは感じ取っていた。

 

「奏夜も大変だとは思いますが、まずは目下のホラーに集中しましょう」

 

「はい、わかっています」

 

奏夜も今はロフォカレのことに専念しなければならないのはわかっているため、素早く気持ちを切り替えていた。

 

「奏夜、奴は夜になると、桜ヶ丘の町外れにある遺跡のようなところに身を潜めている。一度解散し、後ほどそこで落ち合おう」

 

「わかりました」

 

「頼みましたよ、戒人、幸人、奏夜」

 

「「「はい!」」」

 

こうして、人馬ホラーと呼ばれるロフォカレ討滅の指令を受けた奏夜は、一度番犬所を後にした。

 

奏夜は夜になり、戒人や幸人と合流するまで、桜ヶ丘の街を見て歩くことにした。

 

先輩騎士である統夜が青春時代を過ごしたこの街をじっくりと見て歩きたいと考えていたからである。

 

そんな奏夜が最初に訪れたのは、統夜もよく通っていた桜ヶ丘の商店街であった。

 

桜ヶ丘の街はそれなりに発展しているため、この商店街には様々な店が軒を連ねており、カラオケ店やファストフード店など、学生が足を運びやすい施設も多い。

 

そのため、学生の姿もちらほらと確認されたのであった。

 

「……あの制服、統夜さんも着ていたんだよな……」

 

奏夜が統夜と初めて出会った時は、統夜は高校3年生であり、制服を着た統夜の姿は何度も見てきた。

 

(あの人は、今の俺みたいに、高校に通いながら、守りし者として、使命を果たしてきたんだよな……。俺は、なれるんだろうか?統夜さんみたいに、揺るぎのない強さを持った魔戒騎士に……)

 

奏夜は、かつての統夜と自分の姿を重ね合わせると、統夜のような魔戒騎士になれるか?という疑問を抱き、不安げな表情を浮かべていた。

 

《ったく……。お前は……》

 

そんな奏夜に呆れているキルバは、奏夜に苦言を呈そうとするのだが……。

 

「……あれ?もしかして、奏夜くん……?」

 

「え?」

 

奏夜はいきなり声をかけられるとは思っていなかったため、驚いていた。

 

声の方を向くと、そこに立っていたのは、絵里のように綺麗な金色の長髪に、青い瞳の少女と、おかっぱのように短めの黒髪で、眼鏡をかけた少女だった。

 

「!もしかして……。菫と直なのか?」

 

奏夜はこの2人に見覚えがあるみたいで、驚きを隠せずにいた。

 

「うん!そうだよ!久しぶりだね!」

 

「奏夜、元気にしてたの?」

 

「まぁな。2人も元気そうじゃないか」

 

この2人は知り合いだからか、奏夜は親しげに話しをしていた。

 

金髪の少女は斎藤菫(さいとうすみれ)で、黒髪の少女が奥田直(おくだなお)。

 

2人とも桜ヶ丘高校に通う高校2年生であり、軽音部に所属している。

 

3年生が卒業し、部員は菫と直だけになったのだが、必死な勧誘の甲斐もあって、新入部員を3人獲得し、部として存続させることが出来たのであった。

 

ちなみに、琴吹家に仕える執事の名前も斎藤なのだが、菫は彼の娘である。

 

そのため……。

 

「ねぇ、ここに来たってことはもしかしてホラー絡みなの?」

 

直に聞かれないよう、菫は奏夜に耳打ちをして問いかけていた。

 

「ま、そんなところだな」

 

奏夜もまた、耳打ちでこのように返していた。

 

菫は1度だけホラーに襲われたことがあり、統夜に救われたことがある。

 

その時は何も知らなかったが、彼女の父親を通してホラーや魔戒騎士のことを知るようになり、統夜が魔戒騎士と知って驚いたこともあった。

 

さらに、奏夜が魔戒騎士だと知ったのは初めて会った時であり、菫は奏夜の魔法衣を見て、彼が魔戒騎士だと察したのであった。

 

「……ねぇ、今、何を話してたの?」

 

「な、なんでもないよ!なんでも!」

 

「ふーん……」

 

先ほどの耳打ちの内容を直は問いかけており、菫は慌てて誤魔化していた。

 

それ以上の追求はしなかったが、直はジト目になっていた。

 

「それよりさ!奏夜君はあのμ'sのマネージャーをしてるんだったよね?お姉ちゃんから聞いてるよ!」

 

菫の言う姉とは、統夜にとってかけがえのない仲間の1人である琴吹紬のことである。

 

菫の父親は、琴吹家に仕えているため、その関係もあってか、紬と菫はまるで姉妹のように育ったのである。

 

今は、琴吹家と斎藤家の関係を知っているため、そこまで馴れ馴れしい態度は取れないものの、時々紬のことをお姉ちゃんと言ってしまうことがあるみたいだった。

 

「お姉ちゃん?ああ、紬さんから聞いたんだな」

 

奏夜もそのことは理解しているからか、あっさりと答えていた。

 

「スクールアイドルはウチでも人気だけど、μ'sの人気は凄いよね」

 

「うんうん!ウチの学校でもスクールアイドルを始めたいって子が出てきてるみたいだしね」

 

「そうなのか……」

 

スクールアイドルは全国区であることは奏夜も理解をしていたが、桜ヶ丘でもここまで反響があるとは思わなかったため、嬉しい気持ちになっていた。

 

「だけど、みんな話してたよね。何でμ'sは一時的に活動を休止したんだろう?って……」

 

「ランキングも上がってたのに、勿体無いねって話もしてたよね」

 

「……」

 

μ'sは今でも人気はあるものの、1度は活動休止した事実は消えるものではないため、そのことを考えていた奏夜の表情は険しくなっていた。

 

「あっ、ごめんなさい……。奏夜君も奏夜君できっと大変だったんだもんね……」

 

奏夜が険しい表情をしているのを見た菫は、申し訳なさそうに奏夜に謝罪していた。

 

「いいんだ。今となっちゃμ'sはまたスタートしたんだ。俺はマネージャーとして、あいつらを導いてやるさ」

 

「うん。私たちも期待してる」

 

菫だけではなく、直もまたμ'sに期待しているからか、穏やかな表情で微笑んでいた。

 

「ねぇ、奏夜君。私たちこれからハンバーガーを食べに行くんだけど、時間があるなら一緒にどう?」

 

「構わないよ。夜までは時間はあるし、お前らとたまに話をするのも悪くはないからな」

 

菫からの誘いを奏夜は快く受け入れており、菫と直の表情はぱぁっと明るくなっていた。

 

「ちょうど良かった。実はμ'sをイメージした曲を4曲も作ってみたの。私たちは演奏しない曲だし、良ければ使って欲しい」

 

直は軽音部では作詞と作曲を担当しており、今の軽音部の曲はほぼ全て直が作っている。

 

曲を作るのがもはや趣味になっているみたいであり、このような曲を作ったりもしているみたいだった。

 

直はライブの時はPAを担当しており、臨場感のあるライブにするために工夫をしたりしているのだ。

 

ちなみに、菫はドラムを担当しており、現在ギターとベースは1年生が担当している。

 

こうして、奏夜は、菫と直の2人と共にファストフード店へ向かうことになった。

 

ファストフード店で、奏夜は菫たちの近況も聞いていた。

 

菫と直のいるバンドは「わかばガールズ」というバンド名であり、去年は統夜の彼女である梓が部長を務めていた。

 

梓たち3年生が卒業すると、このバンド名を譲り受け、今でもこのバンド名で活動しているみたいだった。

 

そして最近は、学園祭で行われたライブをどうにか成功させたとのことであった。

 

かつては統夜もいた軽音部の今を聞くことが出来て、奏夜はとても満足そうにしていた。

 

そして、直は自らが作った曲を奏夜に聞かせていた。

 

μ'sのイメージに合っていると直は豪語しており、奏夜はその曲が気に入ったみたいであった。

 

そのため奏夜は直からその曲の音源をもらい、μ'sの曲として使えないか穂乃果たちに相談してみることにしたのであった。

 

こうして、ファストフード店で良い息抜きを行えた奏夜は、そのまま菫や直と別れて、戒人や幸人との合流ポイントへ向かうのであった。

 

人馬ホラーと呼ばれた、ロフォカレを倒すために……。

 

 

 

 

 

 

 

……後編に続く。

 

 




今回はいつもと比べたら短めですが、ここまでにさせてもらいました。

次回は戦闘メイン回となるので。

奏夜が訪れたのは、前作である「牙狼×けいおん 白銀の刃」の舞台となった桜ヶ丘になっています。

そのため、けいおんの続編である「けいおん! high school」に登場した斎藤菫と奥田直も登場しました。

誰?と思った方は、ぜひ漫画版をご覧ください。

「けいおん! high school」もかなり面白いので。

そして、今回名前だけ登場したロフォカレというホラーですが、モデルが存在します。

FF14に最近追加されたダンジョンである「失われた都 ラバナスタ」というところに現れるボスの1人である「人馬王ロフォカレ」がモデルになっています。

このロフォカレは、牙狼シリーズでお馴染みの雨宮監督がデザインを考えたのです。

見た目も格好いい強敵ですが、今回はホラーとして登場となります。

そのロフォカレと、どんな戦いを繰り広げるのか?

それでは、次回の後編をお楽しみに!



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番外編④ 「堅陣 後編」

お待たせしました!番外編の後編となります。

思ったより早めに投稿することが出来ました。

今日は14時からFF14のメンテナンスが入ってしまったため、小説に割く時間を多く作ることが出来ました。

そして今回は、前回名前だけ登場したロフォカレとの直接対決となります。

奏夜たちは無事にロフォカレを倒すことは出来るのか?

それでは、番外編の後編をどうぞ!




奏夜は、紅の番犬所の神官であるイレスからの要請で、桜ヶ丘を訪れていた。

 

先輩騎士である黒崎戒人と、楠神幸人の両名と協力し、人馬ホラーと呼ばれているロフォカレというホラーを討滅せよという指令をこなすためである。

 

ロフォカレの力は強大であり、使徒ホラーと呼ばれる、強大な力を持つホラーと同等の力を有していると言われている。

 

使徒ホラーは7体存在しているが、7体全てが、黄金騎士牙狼である冴島鋼牙が討滅している。

 

そんな使徒ホラーと同等の力を持つホラーは複数存在しており、かつて天宮リンドウが心滅の状態になってまで討滅したラーヴァナも含まれている。

 

使徒ホラーたちやラーヴァナと互角の力を持つロフォカレを相手にすることになるが、本来であれば、戒人と幸人の2人ならば討滅は可能であった。

 

しかしイレスは、奏夜が魔戒騎士として大きく成長するために戦う必要のあるホラーと判断したため、桜ヶ丘へ奏夜を呼んだのである。

 

こうして桜ヶ丘へ向かって紅の番犬所で指令の話を受けた奏夜は1度番犬所を離れ、仕事が始まる時間まで時間をつぶすことにした。

 

そんな中、桜ヶ丘高校軽音部である斎藤菫と奥田直の2人と再会し、ファストフード店にて談笑するのであった。

 

そして夜になり、奏夜は戒人と幸人が待っている合流ポイントに到着したのであった。

 

「……奏夜、来たか」

 

「少しは桜ヶ丘の街を見て回れたか?」

 

「ええ、おかげさまで。懐かしい顔にも会えましたし」

 

「懐かしい顔……。まさか、あの軽音部の女教師か?」

 

戒人だけではなく、幸人もまた軽音部の顧問をしている山中さわ子と面識があるみたいであり、眉間にしわを寄せていた。

 

「アハハ……。幸人さん、さわ子先生のことが苦手ですもんね……」

 

さわ子は校内ではおしとやかな先生で通してはいるが、本性としてはデスメタルをやってるだけあって激しい一面があり、傍若無人なところがある。

 

幸人はそんなさわ子に苦手意識を持っているのであった。

 

とは言っても、そこまで頻繁に会う機会はないのだが……。

 

「さわ子先生じゃなくて、今の軽音部の2人に会いまして、ここに来るまで話をしてたんです」

 

「軽音部の2人……。菫と直の2人だな?」

 

軽音部の2人と聞いて、戒人はこのように推測をしており、奏夜は無言で頷いていた。

 

「そうか……。戦いの前に少しはリラックス出来たみたいだな」

 

番犬所にいた時は、奏夜の表情は緊張からか強張っているように見えたが、今はリラックス出来ているからか、穏やかな表情になっていた。

 

それを感じ取ったからか、戒人は安堵していた。

 

すると……。

 

『お前たち、無駄話はそこまでだ。来るぞ!』

 

キルバがロフォカレらしき気配を感じ取ったからか、このように警告しており、奏夜たちは息を飲んでいた。

 

それからまもなく、奏夜たちの前に巨大な何かが出現したのであった。

 

「……っ!こいつが……!」

 

「ああ、どうやらそうみたいだ」

 

「人馬ホラー……ロフォカレ……!」

 

奏夜たちの前に現れたのは、後ろ脚が車輪になっている馬の上に跨る騎士のような見た目をしたホラーであった。

 

「ほう……。強き者の気配を感じ取ったので来てみれば、魔戒騎士が3人か……」

 

ロフォカレはその場にいるだけて強大なオーラを放っており、自分の前にいる奏夜たちのことを眺めていた。

 

「魔戒騎士共よ!私を討滅しに来たのか?」

 

「わかってるなら話は早い!ここで、貴様の陰我を断ち切らせてもらう!」

 

戒人がこのように宣言すると、魔戒剣を構え、奏夜も同様に魔戒剣を構えた。

 

そして幸人は魔戒弓を構え、3人は臨戦体勢に入っていた。

 

「貴様ら、それなりに手練れの魔戒騎士のようだが、この私を倒せるかな?」

 

「倒すさ……!どれだけ強い力を持っていようが、ホラーは斬る!それだけだ!」

 

戦いの前の緊張はどこかに行ってしまったのか、奏夜はロフォカレに向かって強気な発言をしていた。

 

「ほう……?小僧!お前はまだまだ未熟のようだが、私に戦いを挑む程の力はあるみたいだな」

 

ロフォカレは、奏夜がまだまだ未熟な魔戒騎士であることを見抜いていたが、奏夜が魔戒騎士として大きく成長したことも見抜いていたのであった。

 

「いいだろう!貴様らの力、見せてみろ!私の糧に相応しいかどうか、試してやる!」

 

ロフォカレはどうやら噂通り強い者を求めているみたいであり、奏夜たちを迎え撃とうとしていた。

 

「行くぞ!奏夜、幸人!」

 

「はい!」

 

「俺が援護する。お前らは心置きなく奴に突っ込め!」

 

幸人は弓による遠距離攻撃が主体となるため、奏夜と戒人の援護を務めることにした。

 

そのため、奏夜と戒人は、幸人に背中を預ける形でロフォカレに向かっていった。

 

「我が楠神流の弓術の真髄、見せてやる!」

 

幸人は魔戒弓を構えると、弓を引き、ソウルメタルで作られた矢を放つのであった。

 

従来の弓道での弓術だと、ギリギリと矢を引き、しっかりと狙いを定めるのだが、幸人はその作業をかなりのスピードで行っていた。

 

それだけではなく、幸人は何本も矢を取り出すと、素早い動きで矢を放つのだった。

 

これこそが、楠神流が早撃ちの名手と言われる所以なのである。

 

幸人の放つ矢は、的確にロフォカレを射抜こうとするのだが、ロフォカレは手にしているランスのようなものを振るうことで全て弾き飛ばされてしまった。

 

攻撃を防がれることは幸人にとっても想定内であり、その隙を突いて、戒人と奏夜は魔戒剣を叩き込もうとした。

 

2人の魔戒剣の切っ先がロフォカレに迫ろうとするのだが、ロフォカレと一体化している馬が嘶きをあげており、2人に向かって突撃を仕掛けるのであった。

 

「「くっ……!」」

 

予想外の攻撃を受けた戒人と奏夜は後方に吹き飛ばされるのだが、すぐに体勢を立て直すのであった。

 

「なるほど……。闇雲に突っ込んで倒せる相手ではないみたいだな」

 

幸人は、先ほどのロフォカレの攻撃を見ながらこのように分析をしていた。

 

そんな幸人が隙だらけに見えたのか、ロフォカレはランスの先端からエネルギー弾のようなものを放っていた。

 

「っ!」

 

いきなり飛んでくる攻撃に幸人は息を飲みながらも、大きくジャンプすることでその攻撃をかわしていた。

 

そして、幸人はすかさずに矢を取り出すとその矢をロフォカレに向かって放つのであった。

 

その矢はロフォカレに直撃するのだが、その矢によってロフォカレに傷をつけることは出来なかった。

 

「愚かな……。こんなもので私を倒せると思うな!」

 

自分に刺さった矢を引き抜いたロフォカレは、幸人に狙いを定めて衝撃波を放つのであった。

 

「ぐぁっ!!」

 

その衝撃波をまともに受けた幸人は、少し離れたところにある壁に叩きつけられるのであった。

 

ロフォカレはそのまま幸人に追い討ちをかけようとするが、それは幸人にのみ敵視がいっている証拠であった。

 

「……取った!!」

 

「こいつで!!」

 

敵視が幸人に向いている隙を突いた戒人と奏夜は、ロフォカレの背後に迫り、魔戒剣を一閃するのであった。

 

「ぐっ……!」

 

どうやら多少のダメージはあるみたいであり、ロフォカレは少しだけ怯んでいた。

 

もちろん、その隙を見逃さず、奏夜と戒人は追撃しようとするのだが……。

 

「なめるな!!」

 

やられたままではいられないと思ったからか、ロフォカレはランスを力強く振り回していた。

 

奏夜と戒人はどうにか魔戒剣で受け止めるのだが、その衝撃はかなりのものであり、2人も吹き飛ばされてしまい、壁に叩きつけられるのであった。

 

「ぐぁっ!」

 

「ぐぅ……!」

 

壁に叩きつけられた2人であったが、まるで痛みを感じさせず、すぐさま体勢を整えていた。

 

「さすがは使徒ホラーと同等のホラー。そう簡単にはいかないか」

 

状況的には追い込まれているのだが、戒人は冷静であった。

 

「ええ……。ですが、倒せない相手じゃない!」

 

そして、奏夜もまた、焦りを一切見せず、冷静だった。

 

2人がここまで冷静なのは理由があった。

 

それは……。

 

「奴は人馬一体の攻撃をするのなら、こちらも同様の手を使えばいいだけです!」

 

「お前もそう思ってたか?それは俺も思っていたんだ」

 

魔導馬を使えば勝機はあると、2人は感じていたからである。

 

「俺はまだ魔導馬は呼べないが、魔導馬などなくてもお前らを援護することは出来る」

 

奏夜は内なる影との試練を乗り越え、魔導馬である光覇を呼べるようになった。

 

そして戒人もまた、魔導馬を召還出来るのだが、幸人はホラー討伐数が100体を越えてはいないため、魔導馬は呼べなかった。

 

しかし、自分の最大の武器は早撃ちの弓術であるとわかっているため、魔導馬がなくても互角に戦うことは出来ると幸人は感じていたのであった。

 

「ええ。信じてますよ、幸人さん!」

 

「ふん!まだまだ未熟なお前に心配される筋合いはないさ!」

 

幸人の言葉自体は辛辣なものではあるものの、その表情は穏やかなものであり、本当に奏夜を未熟と思って言った言葉ではなく、信頼の裏返しであった。

 

奏夜も幸人の性格を理解しているため、無言で頷いていた。

 

「フン、私も貴様らも探り合いはここまでだ!全力でかかってこい!私がそれを迎え撃とう!」

 

ロフォカレは、互いに探り合いながら戦っていたことを指摘すると、ここからが本気の戦いであることを宣言していた。

 

「奏夜、幸人!行くぞ!」

 

「はい!」

 

「任せろ!」

 

戒人がこのように号令をかけると、奏夜と戒人は同時に魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

そして、幸人は魔戒弓をまるで八の字を描くかのように回転させた。

 

すると、奏夜と戒人の上空に円が出現し、幸人の両隣にも2つの円が出現した。

 

奏夜と戒人は上空の円から放たれる光に包まれ、幸人は左右の円から放たれる光に包まれた。

 

すると、3人の描いた円からそれぞれの鎧が現れると、3人はそれぞれの鎧を身に纏った。

 

奏夜は牙狼とは違う黄金の輝きを放つ陽光騎士輝狼の鎧を身に纏い、魔戒剣は陽光剣へと姿を変えるのであった。

 

そして戒人の身に纏う紫の鎧は、堅陣騎士ガイアの鎧であり、魔戒剣は専用の剣である堅陣剣へと姿を変えるのであった。

 

さらに、幸人が身に纏う青い鎧は天弓騎士ガイの鎧であり、魔戒弓も姿を変えていた。

 

こうして、3人は鎧を召還したのであった。

 

それだけではなく……。

 

「行くぞ……!光覇!!」

 

「来い!天陣!」

 

奏夜と戒人は、それぞれの魔導馬を召還し、魔導馬に跨るのであった。

 

奏夜の魔導馬は光覇。輝狼の鎧のような黄金の輝きを放つ魔導馬である、

 

そして、戒人の魔導馬は天陣(てんじん)。戒人が内なる影との試練を乗り越えて得た魔導馬である。

 

「行くぞ、奏夜!」

 

「はい!」

 

魔導馬を召還した2人は、そのままロフォカレに向かっていった。

 

「貴様らも人馬一体という訳か。いいだろう!」

 

ロフォカレもまた、一体化している馬を走らせると、牽制し合いながら激しくぶつかっていた。

 

「俺は魔導馬を呼べないが、ド派手な一撃をお見舞いしてやる!」

 

幸人は自分の魔導ライターを取り出すと、魔戒弓に青白い魔導火を纏わせ、自分自信も青白い魔導火を纏うのであった。

 

魔導馬を召還出来ない幸人は、烈火炎装の状態になり、強力な一撃を放とうとしていた。

 

幸人は一本の矢を取り出すがその矢も魔導火に纏われていた。

 

「楠神流の真髄、見せてやる!」

 

幸人は力強く弓を引くと、魔導火に纏われた矢を放つのであった。

 

その矢はまっすぐロフォカレに向かっていき、その途中に一本から複数に分裂するのであった。

 

その矢全てはロフォカレに直撃し、矢がロフォカレに刺さった瞬間、全ての矢は爆発したのであった。

 

「ぐっ……!?」

 

その一撃は強烈であり、大抵のホラーであればこれで倒されるのだが、ロフォカレは耐えていた。

 

しかし、ダメージはあるみたいであり、ロフォカレは大きく怯んでいたのであった。

 

「……今だ!」

 

それを好機と捉えた戒人は、天陣を走らせると、堅陣剣を一閃した。

 

幸人の弓による攻撃からの立て続けの攻撃に、ロフォカレは押されていた。

 

「これで決める!」

 

奏夜がこう宣言すると、光覇は嘶きながら前脚を叩きつけると、その衝撃によって陽光剣を陽光斬邪剣に変化させた。

 

さらに、奏夜は魔導火を体に纏わせると、烈火炎装の状態になったのであった。

 

先輩2人が作ってくれたチャンスを活かし、一気にロフォカレを討滅しようと考えたのだ。

 

奏夜は光覇を走らせると、ロフォカレに接近し、陽光斬邪剣を一閃した。

 

「ぐぅぅ……!」

 

そのダメージはかなりのものではあったが、決定的な一撃とはならなかった。

 

「流石に出来るみたいだな。ならば見せてやる!私の真の力をな!」

 

どうやらロフォカレは、強力な攻撃を仕掛けようとしているみたいだった。

 

『奏夜!気を付けろ!ロフォカレの奴、何かを仕掛けて来るぞ!』

 

キルバがこのように警告するが、その時には既に手遅れであった。

 

「我が馬は天をも駆ける!行くぞ!」

 

ロフォカレがこのように宣言するように、ロフォカレが乗る馬は空高く飛翔し、奏夜たちの周囲を駆け回っていた。

 

「!?これは……!」

 

いきなり飛翔したロフォカレに警戒しながらも、奏夜は陽光斬邪剣を構えて、攻撃を防げるように構えていた。

 

「刮目せよ!これが私の真なる力だ!」

 

奏夜に狙いを定めたロフォカレは、まっすぐ奏夜に向かっていった。

 

そして……。

 

「……天将!覇道撃!!」

 

ロフォカレは必殺の一撃である天将覇道撃という名前の技を繰り出すのだった。

 

その技は、上空を駆け回りエネルギーを貯め、そのエネルギーをランスに収束させ、それを相手にぶつけるといった技であった。

 

ロフォカレの馬はかなりのスピードで奏夜に迫ったため、その威力はかなりのものであった。

 

「っ!?」

 

奏夜は陽光斬邪剣を構え、防御の体勢に入っていた。

 

攻撃はどうにか防げたものの、その技の衝撃はかなりのものであり、技を繰り出した後の衝撃波によって、奏夜は吹き飛ばされてしまった。

 

「ぐわぁっ!!」

 

奏夜は吹き飛ばされて、その衝撃で、光覇の召還は解除されてしまった。

 

そして、奏夜は壁に叩きつけられると、そのまま鎧が解除されてしまった。

 

ロフォカレの放った必殺技である天将覇道撃の衝撃は、戒人と幸人にも及んでいた。

 

「「くっ……!!」」

 

戒人と幸人は離れたところにいたからか、奏夜ほどのダメージはなかったものの、衝撃波の余波により、鎧は解除されてしまった。

 

それにより、戒人が召還した天陣もまた、召還が解除されてしまった。

 

「まだだ……!まだ、こんなところで……!」

 

奏夜の受けたダメージはかなりのものであったが、奏夜はどうにか立ち上がろうとしていた。

 

「ほう……?あの距離で私渾身の技を受けたというのに耐えるとはな……。どうやら、ただの小僧ではないみたいだ」

 

ロフォカレは、奏夜が自分の必殺技を耐えるのを見て、奏夜のことを賞賛していた。

 

しかし……。

 

「うっ、く、くそ!」

 

なんとか一瞬立ち上がるものの、すぐに倒れてしまい、そのまま立ち上がることは出来なかった。

 

「「奏夜!!」」

 

この一撃で奏夜は戦闘不能になってしまい、戒人と幸人は思わず声をあげるのであった。

 

「だろうな。離れたところにいたあの2人はダメージが少ないのはわかる。だが、あの距離で我が技を受けて死なないだけでも小僧は本当に賞賛に値するぞ!」

 

このまま奏夜が立ち上がり、反撃に転じるようなことがあればロフォカレとしては驚きだったが、奏夜は戦闘不能になったことで安堵していた。

 

しかし、この一撃で奏夜を殺せなかったのは予想外であり、奏夜のことを改めて賞賛していた。

 

「俺は……!こんなところで……!負けられねぇんだ……!!」

 

奏夜の体はボロボロであり、体のあちこちが損傷していた。

 

意識を保つことが出来てるだけでも奇跡であるほどのダメージであり、そこは、奏夜の成長が伺えるところであった。

 

「我が技を耐えた魔戒騎士よ。このロフォカレ、貴様を私の餌にはしない。1人の武人として、引導を渡してやる!」

 

強き者を自分の餌として喰らってきたロフォカレであったが、奏夜のように真に実力を認めたものは喰らわず、1人の武人として殺すのである。

 

これこそが、ロフォカレの美学なのであった。

 

「悪いが、そうはいかない!」

 

幸人は奏夜を庇うように奏夜の前に立つと、自慢の早撃ちによって矢を放った。

 

しかし、その一撃は全てロフォカレに弾かれてしまうのであった。

 

「こいつを失う訳にはいかないんだよ!そんなことをしたら、色んな奴らからどやされるんでな!」

 

そして、戒人もまた、奏夜を庇うように奏夜の前に立つのであった。

 

「戒人さん……幸人さん……」

 

「フン、そいつを庇うというのか……。いいだろう!まずは貴様らから蹴散らしてくれる!」

 

「ふっ、そう簡単に行くと思うな!」

 

「俺たちは奏夜の先輩だからな……。後輩の作ったチャンス……。無駄にはしない!」

 

先ほど、奏夜の放った陽光斬邪剣による一撃によって、ロフォカレは確実にダメージを受けているため、戒人と幸人はそれを活かそうと考えていたのだ。

 

「やれるものならやってみるといい!私は強い者との戦いに飢えているからな!」

 

ロフォカレは、果敢にも自分を倒そうとしている戒人と幸人を迎え撃とうとしていた。

 

戒人と幸人は再び鎧を召還すると、戒人は魔導馬である天陣を呼び出し、跨るのであった。

 

「人馬一体である我が技の真髄……。さらに見せてやろう!」

 

どうやら、ロフォカレはさらに技を放とうとしており、狙いを戒人と幸人に定めていた。

 

それと同時に戒人と幸人は烈火炎装の状態となり、幸人は青白い魔導火を纏い、戒人は黄緑の魔導火を纏うのであった。

 

「行くぞ!覚悟しろ、魔戒騎士どもよ!」

 

このようにロフォカレが宣言すると、ロフォカレは凄いスピードで2人に迫っていた。

 

「させるか!!」

 

幸人は、魔導火が纏われた矢を、得意の早撃ちにて連射し、その一撃によってロフォカレの勢いを削ごうとしていた。

 

そんな幸人の思惑通り、全ての矢が直撃し、爆発することによって、ロフォカレは怯み、勢いは弱まったのであった。

 

「今だ!戒人!」

 

「ああ!」

 

戒人は天陣を走らせると、勢いが弱まりながらもこちらへ向かってくるロフォカレへと向かっていった。

 

両者が激しくぶつかり合おうというところで、戒人は堅陣剣を一閃し、ロフォカレはランスを振るうのであった。

 

「「はぁぁぁぁ……!」」

 

戒人とロフォカレは激しい勢いでぶつかり合い、2つの武器も激しく鍔迫り合いを繰り広げることで、バチバチと火花を散らしていた。

 

「くっ……!」

 

両者のぶつかり合いは、体格差で勝っているロフォカレに軍配が上がろうとしていた。

 

しかし……。

 

「ぐっ!?」

 

今までのダメージが効いてきたからか、ロフォカレの体の一部にひびが発生し、馬の後脚である車輪の片方が壊れたのだ。

 

それだけではなく、ロフォカレの手にしていたランスも、折れたのである。

 

(感謝するぞ、奏夜。お前がボロボロになってまで叩き込んだ一撃は無駄じゃなかった)

 

今までの攻撃は全て効いており、奏夜がロフォカレの大技を受けながらも放った一撃が、最大のチャンスを作ったのであった。

 

戒人は、そのことを心の中で感謝していた。

 

「これで……終わりだ!!」

 

完全に動きが止まったロフォカレに戒人は向かっていき、ロフォカレの体を貫くのであった。

 

さらに戒人は堅陣剣を一閃し、ロフォカレの体を切り裂くのであった。

 

「み……見事だ、魔戒騎士よ……。この私を打ち負かすとは……」

 

先ほどの戒人の攻撃が決定打となったみたいであり、ロフォカレは自らを倒した奏夜たちのことを賞賛しながら、その体が消滅していくのであった。

 

ロフォカレが消滅したことを確認した幸人は鎧を解除し、戒人も、鎧と天陣の召還を解除した。

 

戒人は地面に着地すると、そのままひざをつくのであった。

 

「はぁ……はぁ……。どうやら、倒せたみたいだな……」

 

「人馬ホラー、ロフォカレ……。想像以上に強敵だったな……」

 

戒人と幸人は、予想以上に手強いホラーであったロフォカレを倒せたことに心から安堵していた。

 

「……!奏夜!大丈夫か。」

 

そして、奏夜が倒れていることに気付いた戒人と幸人の2人は、奏夜に駆け寄るのであった。

 

そして、2人で奏夜を抱え、どうにか立たせるのであった。

 

「うっ……。戒人さん……。幸人さん……」

 

奏夜は先程まで意識を失っていたが、今になってようやく意識を取り戻すのであった。

 

「ロフォカレは……?」

 

「心配はいらん。しっかりと討滅したぞ」

 

「良かった……」

 

奏夜はロフォカレが倒されたことに安堵したのだが、複雑そうな表情をしていた。

 

「……すいません。戒人さん、幸人さん。せっかく秋葉原から2人に協力するために来たのに、足手まといになってしまって……」

 

奏夜は悲しげな表情で、自分がロフォカレ相手に倒れてしまったことを詫びていた。

 

奏夜は尊士を討滅し、魔戒騎士としてそれなりに成長していると思っているため、ただ1人やられてしまったことがショックなのである。

 

「何馬鹿なことを言っている。奴は使徒ホラー並の力を持つホラーなんだ。生還しただけでも立派な武勲だ」

 

「幸人の言う通りだ。それに、俺や幸人じゃさっきの技をしっかり凌げたかわからないし、奏夜が全力で戦ってくれたからこそ、俺たちは少しだけ楽が出来たんだ」

 

「その通りだ。俺と戒人の2人でも討滅は出来ただろうが、苦戦は必至だっただろう」

 

幸人と戒人の2人は、奏夜を励ますつもりで言った訳ではなく、心からそう思ったことを言っていた。

 

2人は奏夜を一人前の魔戒騎士と認めているため、上辺の言葉は必要ないとわかっていたのである。

 

『ま、あのロフォカレ相手に善戦した方だと思うぞ』

 

『そうじゃのぉ。いつぞやのサバックの時は戒人に手も足も出なかった小童が立派になったもんじゃ』

 

キルバだけではなく、戒人の腕に装着されている魔導輪のトルバもまた、このように奏夜を賞賛していた。

 

奏夜は、魔戒騎士になった年に、サバックと呼ばれる魔戒騎士のための武闘大会に参加し、戒人と戦っている。

 

当時の奏夜のように魔戒騎士になったばかりの者がサバックに出るのはかなり珍しいケースなのだが、それには、そうしなければならない理由があったのである。

 

トルバは、その時の奏夜と今の奏夜を比べて、このような賞賛の言葉を送ったのである。

 

『まず今は傷を治し、穂乃果たちへの言い訳を考えておかないとな』

 

「……あぅぅ……。そうだった……」

 

自分がここまでの大怪我を負ったことを穂乃果たちが知ってしまったら、詰め寄られるのは必至であり、その光景を思い浮かべた奏夜は顔を真っ青にしていた。

 

「とりあえず、お前をこのまま番犬所へ連れて行く。イレス様に報告も必要だし、そこで少し休ませてもらうといい」

 

「わっ、わかりました……」

 

こうして、ロフォカレは討滅され、奏夜は戒人と幸人の2人に抱えられながら、番犬所へと向かうことになった。

 

イレスはボロボロになった奏夜に驚いていたが、付き人の秘書官を使い、すぐに奏夜を休ませるのであった。

 

奏夜が休んでいる間に、戒人と幸人はロフォカレを討滅したことを報告し、イレスはロフォカレがかなりの力を持ったホラーであることを改めて実感する。

 

そして、そんなロフォカレを討滅した3人を改めて賞賛するのであった。

 

イレスへの報告も終わり、戒人と幸人は番犬所を後にし、奏夜はそのまま番犬所で体を休めることになった。

 

奏夜はロフォカレとの戦いのダメージが大きいからか、そのまま深い眠りについており、目を覚ましたのは、翌日の昼前であった。

 

ゆっくりと休んだことで、奏夜の体力はそれなりに回復はしたのだが、痛々しい傷は残っていた。

 

その傷は、イレスの付き人の秘書官が処置してくれたみたいであり、体のあちこちに包帯が巻かれていた。

 

奏夜は、ここまでの対応をしてくれたイレスに感謝の言葉を送ってから番犬所を後にした。

 

奏夜は東京に帰る前に桜ヶ丘の商店街で昼食を取るのだが、奏夜の姿が痛々しいからか、チラチラと視線を浴びることになった。

 

そんなことがありながらも食事を取った奏夜は真っ直ぐと東京へ向かい、秋葉原に着いたのは夕方前であった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……。どうにか、秋葉原に着いたな」

 

奏夜は見慣れた秋葉原の街並みを眺めながら、このように呟いていた。

 

「そういえば、全然携帯をチェックしてなかったよな……」

 

桜ヶ丘に行ってから今まで、まったく携帯を見ていないことに気付いた奏夜は、ポケットから携帯を取り出すのだが……。

 

「!?なんだよ!このめちゃめちゃきてるメッセージは!」

奏夜のスマホのロック画面は穂乃果たちから来た「LAIN」の通知でいっぱいになっており、そのことに奏夜は驚愕していた。

 

慌ててLAINを開くと、穂乃果たちからメッセージがいくつも来ており、μ'sのグループチャットもかなり来ていたのであった。

 

内容はどれも奏夜の身を案じるものであり、μ'sのグループチャットでは、ホラーと戦っているであろう奏夜の身を案じる書き込みが多かった。

 

奏夜は1つ1つは返事が出来なかったため、とりあえずメッセージを読むだけ読むことにした。

 

しばらくメッセージを読んでいると……。

 

「……あれ?そーくん?」

 

偶然なのか狙って待ち伏せていたかはわからないが、穂乃果が奏夜のことを見つけていた。

 

「!?穂乃果、それにみんなも。どうしてここに?」

 

穂乃果だけではなく、他の8人も一緒であり、奏夜は驚きを隠せずにいた。

 

「私たちはさっきまで練習してて、その帰りよ」

 

「あっ、なるほどね」

 

絵里の説明により、穂乃果たちがここにいるのは本当にたまたまだとわかり、奏夜は安堵していた。

 

「それよりも奏夜。LAINのメッセージくらい返しなさいよね!」

 

「そうよ!既読すらつかないから心配したじゃない」

 

にこと真姫は、LAINの返信をしなかった奏夜に文句を言っていた。

 

「悪いな。正直、携帯を見る余裕もなかったんだよ」

 

ロフォカレの戦いで疲弊し、携帯を見る発想がなかったのは本当のことなので、奏夜は謝りながら説明していた。

 

「そーくん、その傷って……」

 

「まさか、ホラーと……?」

 

ことりと花陽は、ボロボロな奏夜を見て、心配そうな表情でこのように訪ねていた。

 

「ま、そんなところかな。桜ヶ丘で戦ったホラーはかなり強敵だったんだよ」

 

奏夜は、先輩騎士である戒人や幸人と共にロフォカレというホラーと戦ったことを説明し、そのホラーとの戦いを自分の覚えてる範囲で説明していた。

 

「……なるほどなぁ。そのホラーは本当に強かったんやなぁ」

 

「そーくんの傷は心配だけど、無事で良かったよ……」

 

希は冷静にロフォカレが強敵だったことを察して、穂乃果は奏夜が無事なことに安堵していた。

 

「だけど、あまり無茶はしないでちょうだい。奏夜は大切なμ'sの仲間なんだから……」

 

「心配かけてごめんな。だけど、俺は大丈夫だから」

 

奏夜はボロボロでありながらも、自分が元気であることをアピールしていた。

 

それには絵里だけではなく、他のメンバーもホッとしたようである。

 

「それにしても、魔戒騎士って色んな人がいるんだね!」

 

奏夜から戒人や幸人の話を聞いた凛は、驚きながらも目を輝かせていた。

 

「ええ。早撃ちの弓術を使う魔戒騎士ですか……。一度会ってみたいです!」

 

それ以上に、弓道部でも活動している海未は、弓を使う幸人に興味があるみたいであり、目を輝かせていた。

 

「確かに。海未なら幸人さんに興味を持つと思ったよ」

 

奏夜はどうやら、海未がこのようなリアクションをすることを予想していたみたいだった。

 

「奏夜君、桜ヶ丘の街は少しは見て回ったの?」

 

「ああ。ホラーが現れるのは夜だし、時間があったしな」

 

「そーや君、まさか、女の子と会ったりなんてしてないよねぇ?」

 

凛が鋭いことを聞いてきており、奏夜は一瞬だけビクンと肩をすくめていた。

 

希は、その一瞬を見逃したりはしなかった。

 

「奏夜君?まさか、本当に女の子と会ってたん?」

 

「あ、アハハ……。まさか、そんな訳はないよ」

 

実際には菫と直の2人と会っていたが、それを話すとややこしいことになると判断し、奏夜は話を誤魔化そうとした。

 

すると、ピコン!と奏夜の携帯が2回反応した。

 

どうやら、LAINのメッセージみたいだった。

 

奏夜はすぐに確認するのだが……。

 

「!?」

 

その内容に驚愕してしまった。

 

その内容とは……。

 

【奏夜君!昨日はまさか会えると思ってなかったからびっくりしたよ!だけど、会えて嬉しかった。また桜ヶ丘に遊びに来てね♪】

 

【昨日は奏夜に会えるとは思ってなかったからびっくるした。私の作った曲、良かったらμ'sの曲として使ってね】

 

このような内容となっており、差出人は菫と直からであった。

 

前から面識はあったものの、連絡先は交換しておらず、ファストフード店で連絡先を交換したのであった。

 

そのことがこんなところで仇になるとは思わなかったからか、奏夜の顔は真っ青になり、冷や汗をかいていた。

 

「ねぇ、そーくん。今の音ってLAINの通知音だよね?誰から?」

 

「あっ、その……。えっと……」

 

穂乃果は何故か笑顔のまま奏夜に追求をしており、奏夜にはそれが恐怖に感じたからか、説明に困っていた。

 

「やましいことがなければすぐに教えられるやろ?何かやましいことでもあるん?」

 

「そ、そんな訳ないだろ!俺は指令で桜ヶ丘に行ったんだから」

 

言っていることは真っ当なのだが、奏夜はテンパっているからか、説得力に欠けていた。

 

そのため、穂乃果たちはジト目で奏夜を見ていた。

 

すると、何かを思いついた凛は……。

 

「……あっ!とーやさんだにゃ!」

 

「え!?統夜さん!?」

 

凛の言葉に奏夜は素直に反応してしまい、手にしている携帯から視線を逸らしてしまった。

 

その結果……。

 

「隙ありっ!」

 

一瞬の隙を見逃さなかった凛は、奏夜から携帯を奪い取るのであった。

 

「しまった!」

 

「凛ちゃん、ナイス!」

 

奏夜は凛に騙されたと気付いた時には手遅れであり、穂乃果たちは凛の周りに集まって、先ほど来た菫と直のメッセージを確認していた。

 

『……』

 

その内容を確認した穂乃果たちは、何故か無言だった。

 

「あ、あの……。皆さん……?」

 

『あーあ……。やっちまったな……。正直に話せば良いものを……』

 

奏夜が黙っていたことにより、奏夜がとんでもない地雷を踏んでしまったことをキルバは哀れんでいた。

 

「……そう……。あなたは騎士の使命を果たしながらも、桜ヶ丘で女の子と遊んでいたって訳ね……」

 

「いや、遊んだって言ってもやましい意味じゃなくてだな……」

 

「それに、曲がどうとかってどういうことよ?」

 

「それはだな。会ってたのが軽音部の2人だったんだよ。ほら、穂乃果たちは知ってるだろ?菫と直。あの2人だよ」

 

「そうみたいだけど、それで誤魔化せると思った?」

 

奏夜は必至に言い訳を重ねるが、どうやら通用しないみたいだった。

 

「そーくん……。心配してたんだけどな……。いつの間にかそんなチャラ男になってただなんて……」

 

「奏夜君……不潔です!」

 

「いや、だから、そうじゃなくてだな!」

 

「だったら、最初からそう言えばいいじゃない?変に隠すからにこたちは怒ってるのよ」

 

「お、おっしゃる通りです……」

 

「奏夜君。これは、お仕置きを兼ねてじっくり話を聞く必要がありそうやな♪」

 

「そーや君、観念するにゃ!」

 

「奏夜……。覚悟は出来ていますね?」

 

最後にこのように迫る海未の表情はまるで悪鬼のような表情であり、奏夜はさらに顔が真っ青になって冷や汗をかいていた。

 

このままではとんでもないお仕置きを受けることになる。

 

奏夜はこの場をやり過ごすために必死に策を考えようとしていた。

 

その策とは……。

 

「……あっ!宇宙人だ!!」

 

「「「えっ、宇宙人!?どこどこ!?」」」

 

奏夜は苦し紛れに指を指しながらこのようなことを言うと、それを間に受けた凛、花陽、穂乃果の3人がその方向を見ていた。

 

「……みんな、悪く思うなよ!」

 

奏夜はそのまま逃げようとするのだが……。

 

「……奏夜?どこへ行くのですか?」

 

あっさり海未に捕まってしまい、海未は奏夜の服の襟の部分を掴んでいた。

 

「あー……えっと……」

 

「9人みんながそんなあからさまな嘘に引っかかる訳ないじゃない」

 

奏夜の苦し紛れの嘘に、にこは呆れ果てていた。

 

「お、おっしゃる通りで……」

 

「逃げようとした分、お仕置きは追加やね♪」

 

「いや、だから俺は……」

 

「言い訳なら後でたっぷり聞くわ♪」

 

「さぁ、奏夜、行くわよ!観念しなさい!」

 

「ふふふ……。奏夜、本当に覚悟していてくださいね?」

 

海未はギラギラとした笑みを浮かべながら、奏夜の首根っこを掴み、奏夜をどこかへと運ぶのであった。

 

「ちょっ!?まっ!!だ、ダレカタスケテ〜!!」

 

「チョットマ……。じゃなくて!奏夜君!覚悟してくださいね!」

 

花陽は奏夜の言葉に反応しそうになりながらもプリプリと怒っていた。

 

こうして、奏夜はとある場所へ連れられ、お仕置きと厳しい追求を受けるのだが、その場所がどのような場所で、どのようなお仕置きを受けることになるのかはまた別の話である。

 

そのため、ここでは割愛させてもらうため、これを読んでくれた人の想像に任せることにする。(笑)

 

 

 

 

 

 

 

 

……終。

 

 

 




ロフォカレはかなりの強敵でしたね……。

ロフォカレは必殺技のようなものを放っていましたが、そのような技を放つホラーは珍しいと思います。

ちなみに、ロフォカレは奏夜に放った技をFF14でも使ってきます。

このロフォカレは24人で戦うのですが、とあるギミックをこなさなかったら、24人は一瞬で全滅してしまいます。

それを耐える奏夜は凄いですよね……。

最後の最後は菫や直と会ってたことが穂乃果たちにバレて、お仕置きを受けるという、奏夜らしい展開となってしまいました(笑)

さて、次回でしばらく続いた番外編は一旦終わりにしたいと思います。

次回は新章の前日談となります。

それでは、次回をお楽しみに!



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番外編⑤ 「生徒会」

お待たせしました!番外編になります!

今日はクリスマスイブですね。とは言っても仕事だし、予定はないのですが……。

さて、今回はタイトルの通り、生徒会が話の中心となります。

そう、アニメ2期編の前日談です。

それがどのような話になっていくのか?

それでは、番外編をどうぞ!




奏夜が桜ヶ丘にて人馬ホラーと呼ばれるロフォカレを討滅してから数日が経過していた。

 

その日の放課後、絵里と希はμ'sの練習を休み、生徒会の仕事に専念していた。

 

もうじき2人の生徒会の役割は終わるのだが、新しい生徒会の役員を決めなくてはいけないのである。

 

音ノ木坂学院では、生徒会長と副会長を、現行の生徒会メンバーによる推薦で決めるのが伝統であった。

 

その他のメンバーは、立候補によって決めるのだが、推薦した者が拒否をした場合は、同様に立候補で決めることになる。

 

……推薦された者が拒否をするケースは稀であり、大抵はすんなり決まるのだが……。

 

そんな課題がある中、絵里と希は生徒会の仕事をしていた。

 

生徒会のメンバーではないが、2人の手伝いをしてる者がいた。

 

それは……。

 

「……絵里。例の資料は言われたところに運んできたぞ」

 

その人物とは奏夜であり、絵里にとある仕事を頼まれてそれをこなして生徒会室に戻ってきたところである。

 

「悪いわね、奏夜。生徒会のメンバーじゃないのに、雑用を押し付けてしまって……」

 

「気にするなって。絵里と希は色々忙しいだろ?それに、雑用など、μ'sのマネージャーをしてるんだから慣れっこさ」

 

絵里は、仕事を手伝ってくれた奏夜に申し訳ないと思っていたが、奏夜は気にしておらず、おどけながら返事をしていた。

 

「うんうん♪さすがは奏夜君、頼りになるわ♪」

 

「そう言ってもらえて光栄だね。さて、次は何を手伝えばいい?」

 

「……」

 

奏夜は絵里に次の仕事の指示を仰ごうとするが、絵里は難しい表情で何かを考えていた。

 

「……絵里?」

 

「エリチ?どうしたん?」

 

そんな絵里の様子を見た奏夜と希は首を傾げながら、このように訪ねていた。

 

「……ねぇ、奏夜。やっぱり私はあなたを生徒会長に推薦したいんだけど、どうにか受けてくれないかしら?」

 

どうやら絵里は、奏夜が次期生徒会長に相応しいと思っているみたいであり、推薦しようとするのだが、ことごとく断られてしまっていたのである。

 

「またその話か……。だから言ったろ?俺は生徒会長になる気はないって」

 

絵里のお願いは1度や2度ではなかったため、奏夜は少しだけげんなりしながらその話を断っていた。

 

「それにしても、何でそこまで生徒会長になるのが嫌なん?μ'sのマネージャーや生徒会の手伝いを時々してくれた奏夜君なら生徒会長にうってつけやと思うんやけど」

 

「μ'sのマネージャーといっても所詮は裏方。そんな奴が生徒会長なんて絶対あり得ないよ」

 

μ'sのマネージャーの仕事は完全に裏方であることを理解している奏夜は、生徒の代表である生徒会長には相応しくないと思っていた。

 

「確かにそうかもしれないけど……」

 

「ウチらのために動いてくれた奏夜君なら、生徒の手本になり得ると思うんやけどな」

 

希も奏夜が生徒会長に相応しいと思っているからか、絵里に加勢して奏夜を説得していた。

 

しかし、奏夜が頑なに生徒会長になることを拒むのにはもう一つ理由があった。

 

「それにだ。俺は人知れずホラーを狩る魔戒騎士だ。いつ指令があるかもわからないのに、生徒会長だなんてとても出来ないよ」

 

奏夜はこの学院の生徒である前にこの街を守る魔戒騎士であり、ジンガの問題を抱えている今、生徒会長をしている余裕など、奏夜には持ち合わせていなかったのである。

 

「……そう……。そういうことなら、仕方ないわよね……」

 

絵里は奏夜の事情を理解したからか、生徒会長への推薦は諦めたが、がっくりと肩を落としていた。

 

「絵里、そんなに落ち込まないでくれよ。俺には俺の事情があるんだからさ」

 

「それはわかってるわよ。だけど、他に生徒会長に相応しい人を探さなきゃいけないのよ?次の生徒会長を今の生徒会長が推薦するのがこの学校の伝統だもの。出来ればそれは守りたいのよ……」

 

推薦を断られ、立候補によって生徒会長を決めたことは過去に何度もあったものの、この学校の伝統が推薦によるものであるからか、絵里は立候補によって生徒会長を決めることは避けたいと思っていた。

 

「生徒会長に相応しい人ねぇ……」

 

生徒会長に相応しい人物とはいったい誰なのか、奏夜は考えていた。

 

(やっぱり生徒の代表なんだし、カリスマ性はあった方がいいよな?それで、みんなを引っ張っていける……)

 

《……おい、奏夜。そんな人物に1人心当たりがあるんだが》

 

(奇遇だな、キルバ。俺も同じ事を考えていた。きっと同じ意見だと思うぜ)

 

奏夜は生徒会長に相応しい人物像を考えていると、どうやら思い当たる人物が1人だけいるみたいだった。

 

それに関して、奏夜とキルバの意見は一致していたのである。

 

「……なぁ、絵里。俺なんかよりも生徒会長に向いている奴はいると思うけどな」

 

「奏夜、それはいったい誰なの?」

 

「それは自分で考えて探してくれ。ちょっと考えればわかるはずだからさ」

奏夜は、その人物を絵里に見つけさせようと思ってあえてはっきり教えることはしなかった。

 

「何よ……。教えてくれてもいいじゃない」

 

奏夜が素直に教えてくれないことが不満なのか、絵里はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「絵里、そんなにむくれないでくれよ。俺は意地悪で言ってるんじゃないんだからさ」

 

「奏夜君の言う通りやで、エリチ。これは生徒会の問題やからな。答えは奏夜君に頼らずに決めるべきなんや」

 

「それはわかってるけど……。やっぱり意地悪だわ」

 

奏夜や希の言い分はわかっているのだが、絵里はやはり納得していなかった。

 

「あ、そうだ!生徒会の仕事がひと段落したらどっか行かないか?奢るからさ」

 

自分の言動が絵里に苦労を強いることになると判断し、それが申し訳ないと思っていた奏夜はこのような提案をする。

 

奢るという言葉に反応した絵里は表情がぱぁっと明るくなっていた。

 

「本当!?それじゃあ、最近出来たカフェに行ってみない?私、ずっと行きたいなあって思ってたのよ!」

 

どうやら絵里は行きたいところがあるみたいであり、興奮気味になっていた。

 

「ねぇ、希。希も行くわよね?」

 

「……いや、ウチは生徒会の仕事が終わったら帰らせてもらうわ。神社でのバイトもあるしな」

 

希は神田明神で巫女のバイトがあるため、生徒会の仕事が終わったら帰るつもりだった。

 

「それに、奏夜君と2人でデートやん。チャンスやで、エリチ♪」

 

「ふぇ!?でっ……!?////」

希はこのように絵里に耳打ちをしており、それを聞いた絵里の顔は真っ赤になっていた。

 

「?どうしたんだ?2人とも」

 

「ふふっ、何でもないんよ。ほら、早く仕事を終わらせないとカフェも行けないで♪」

 

「そっ、そうだな」

 

希に上手く話をはぐらかされた奏夜は、絵里や希の仕事を手伝い、手早く今日の分の仕事を終わらせるのであった。

 

生徒会の仕事が終わると、希は早々に神田明神へと向かい、奏夜と絵里は、絵里が行きたいというカフェに向かっていた。

 

「……なぁ、絵里。その店に行くのは本当に2人でいいのか?穂乃果たちも呼んだらついて来そうだけど」

 

「……何よ、私と2人きりは不満なの?」

 

奏夜の2人きりを躊躇する発言が気に入らなかったからか、絵里はむすっとしていた。

 

「いや、そう言う訳じゃなくてだな……」

 

「ふふっ、たまにはいいじゃない。こうやって2人きりで出かけるのも」

 

絵里は本気で怒っている訳ではないみたいであり、無邪気な笑みを浮かべていた。

 

「まぁ、確かにそうだが、2人きりで出かけるなんてデートみたいじゃないか。そこはスクールアイドルとして大丈夫なのか?」

 

「こんなこと言ったら、にこが怒るかもしれないけど、変な噂が流れたらその時はその時よ♪」

 

奏夜は、スクールアイドルである絵里によからぬ噂が流れないか心配していたが、絵里は特に気にする素振りはなかった。

 

「だって私はスクールアイドルである前に普通の女の子だもの♪出来るなら恋愛だってしたいわよ」

 

『……お前のその言い振りは彼氏がいたことあるみたいな感じだったが?』

 

「まぁ、そうは言っても彼氏はいたことはないのだけれどね」

 

「意外だな……。絵里って美人だし、彼氏の1人くらいいてもおかしくはないんだけどな」

 

「び、美人!?////」

 

奏夜は無自覚で絵里のことを美人と言ったみたいであり、絵里は恥ずかしいからか、顔を真っ赤にしていた。

 

奏夜が無意識に絵里のことを美人だと言ったことに気付いたのは、絵里の顔が真っ赤になって数秒後のことであった。

 

「あ、いや。美人と言っても口説いてる訳じゃなくて、えっとだな……」

 

『やれやれ……。お前の思ったことを口に出す癖が仇になったな。これを穂乃果たちにバラしたらどんなことになるか……』

 

「ヤメロ!そんなことしちゃいけない!」

 

穂乃果たちのお仕置きを恐れた奏夜は、このようなキルバの発言を必死に止めようとしていた。

 

そんな奏夜の必死さを見て、絵里はクスクスと笑みをこぼすのである。

 

「……まぁ、さっきのことは忘れてあげるわ」

 

「本当か!?」

 

どうやら絵里はキルバのように穂乃果たちに先ほどの奏夜の発言をバラそうという気持ちはないみたいであった。

 

「その代わり……」

 

このように前置きをすると、絵里は奏夜の腕を組み、身を寄せるのであった。

 

「ちょっ、絵里!?////」

 

突然の出来事に奏夜は驚きを隠せないようであり、顔を真っ赤にしていた。

 

「ふふっ、たまにはいいじゃない、こういうのも。……ほら、行くわよ」

 

このように強引に話を通すと、そのまま絵里が行きたがっていたカフェへと向かっていった。

 

絵里はここまで大胆なん行動を取ったにも関わらず、平然としていた。

 

しかし、心の中では……。

 

(……あぁ!思わずやってしまったわ!ちょっと大胆過ぎたかしら?恥ずかしいわ……)

 

あまりに大胆な行動をした自覚はあるみたいであり、顔には出さなかったものの、恥ずかしがっていた。

 

そして、奏夜は……。

 

(え、絵里のやつ、最近スキンシップが多いような気がするが、俺のことを……?いやいや!それは有り得ないだろ!)

 

絵里が自分のことが好きなのでは?という疑念を抱くのだが、それをすぐに払拭していた。

 

(仮にそうだとしたとしても、付き合うなんて出来ないよ。だって、俺は……)

 

奏夜は、自分が魔戒騎士であり、いつ命を落としてもおかしくないことをよく理解しているため、誰かと付き合うということは考えられなかった。

 

そのため、奏夜は一瞬だけ悲痛な表情を浮かべていた。

 

2人はそれぞれこのような思いを抱きながら、カフェへと向かうのであった。

 

……そんな2人を、遠くから見ている影があった。

 

「……ふぅん、あれが例の元魔戒騎士のホラーを倒した魔戒騎士なんだ。案外普通な感じなのね」

 

奏夜と絵里の様子を見ていたのは、奏夜とそこまで歳が離れていないおかっぱ風の短い茶髪の少女であり、妙な法衣のようなものを着ていた。

 

「私1人じゃあれを守り抜くことは出来ないけど、魔戒騎士は口だけで頼りにならない奴ばっかなのよねぇ」

 

どうやらこの少女は魔戒法師みたいなのだが、何かを守っているみたいだった。

 

しかし、魔戒騎士のことをそこまで信用している訳ではないみたいだった。

 

彼女が知り合った魔戒騎士がたまたま実力の乏しい魔戒騎士ばかりであり、魔戒騎士自体を毛嫌いしてる訳ではないみたいだが……。

 

「あれを例のホラーに奪われるようなことがあれば、とんでもないことになるからねぇ……。とりあえず、様子を見させてもらうわ」

 

どうやらこの魔戒法師の少女はゆっくりと奏夜の力を見定めようとしているみたいであり、それを決心すると、どこかへと姿を消すのであった。

 

誰かに見られていることなど奏夜は気付いておらず、そのまま絵里が行きたがっていたカフェへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

奏夜と絵里は、目的地であるカフェにたどり着いたのだが、すでに多くのお客さんで賑わっていた。

 

2人が訪れたカフェは、秋葉原某所に最近出来た店であり、ネットや口コミでも評価の高い、今注目の店なのである。

 

席はだいたい埋まっていたが、どうにか2人で座れる場所を確保することが出来た。

 

「それにしても、随分と客がいるみたいだな」

 

「そうみたいね。この店は口コミでもかなり評価が高いみたいだから来てみたけど、どうやらその口コミ通りの人気みたいね」

 

絵里はネットによる情報を見てここへ来たいと思うようになったのだが、本当に人気があるみたいであり、驚いていた。

 

そうこうしているうちに店員がやって来て、水とメニュー表を持ってきてくれたため、2人はメニューを吟味したうえで注文を済ませるのであった。

 

「……まったく……。次の生徒会長だけど、誰を推薦すればいいのかしら?今週中には推薦者を決めないといけないのに……」

 

注文を聞いた店員がいなくなると、絵里は真剣な表情で考え事をしていた。

 

(ったく、仕方ない……。ヒントくらいはあげるか……)

 

そんな絵里を見かねた奏夜は、絵里が自分で答えを見つけられるようにヒントを出そうとしていた。

 

「なぁ、絵里。生徒会長ってどんな人間が相応しいと思う?」

 

「え?そうねぇ……」

 

奏夜からの思わぬ質問に絵里は面食らうのだが、真剣に考えていた。

 

「やっぱり、生徒の代表なんだから、生徒の手本となれる人がいいわよねぇ……」

 

絵里の答えは漠然としているものの、それこそが生徒会長の理想像であった。

 

「それで、カリスマ性があって、みんなを引っ張ってくれる人だとなおいいのだけれど……」

 

さらに理想像を語る絵里であったが……。

 

「……あれ?もしかして……」

 

ここまで語ったところで、どうやら気付いたみたいだった。

 

「……ま、そういうことだ」

 

「確かに、穂乃果なら学校をいい方向に引っ張ってくれると思うわ……!それにしても、何で気づかなかったのかしら……」

 

奏夜が生徒会長に相応しいと思ってた絵里に取って、穂乃果は盲点であったからか、奏夜がヒントを出すまで気付くことが出来なかった。

 

そのため、そのことに対して頭を抱えるのである。

 

「明日、さっそく穂乃果に相談してみるわ」

 

「ああ、それがいいよ」

 

生徒会長候補が思いついたところで、絵里は出来るだけ早く行動を起こそうと考えていた。

 

「あのね、奏夜。1つ相談があるのだけれど……」

 

「?どうしたんだ?絵里」

 

絵里は少しだけ言いにくそうに話を切り出していたため、奏夜は首を傾げていた。

 

「もし穂乃果が生徒会長の話を受けてくれたら、あなたに副会長をお願いしたいの。副会長だったら問題ないはずでしょ?」

 

奏夜に生徒会長になってもらうのは無理と判断した絵里は、副会長になってもらいたいことを告げるのであった。

 

「まぁ、それなら構わないけど、穂乃果が生徒会長になってくれるなら手伝うつもりだったし……」

 

奏夜は穂乃果が生徒会長になった場合は、役職がなくても生徒会の手伝いをしようと考えていた。

 

それに、副会長であれば生徒会長に比べて負担はないため、断る理由もなかったのである。

 

それを聞いた絵里の表情はぱぁっと明るくなっていた。

 

「本当!?それじゃあ、その時は是非お願いね!」

 

「ああ、わかったよ」

 

奏夜がこの話を受けたところで注文していた品が出てきたため、奏夜と絵里は頼んだものを携帯のカメラで撮影しながら楽しんでいた。

 

この店は料理の見栄えや味もかなりなものであり、それが人気を裏付けているのだ。

 

こうして、人気のあるカフェでのんびりとした時間を過ごした奏夜と絵里は、会計を済ませて店を後にした。

 

奏夜は絵里に奢ると宣言していたため、食事代は全額奏夜が支払っていた。

 

店を後にしたところで、奏夜は絵里を家まで送り届け、魔戒騎士の仕事を行うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後、絵里はさっそく穂乃果を生徒会室に呼び出すのであった。

 

「……ごめんね、穂乃果。いきなりこんなところに呼び出して」

 

「うぅん。気にしないで、絵里ちゃん」

 

「ところで絵里、穂乃果にいったいどのような用事なのですか?」

 

絵里は穂乃果を呼び出したのだが、その時、海未とことりも付いてきていた。

 

さらには奏夜も生徒会室に来ていたのだが、絵里と希から先に来て欲しいと言われ、穂乃果たちを待っていたのである。

 

「あのね、穂乃果。私はあなたにお願いしたいことがあってあなたをここに呼んだの」

 

「?お願い?」

 

絵里は改まってお願いをしようとしていたため、穂乃果は首を傾げていた。

 

そして……。

 

「……高坂穂乃果さん。あなたに、次期生徒会長になってほしいの」

「……え!?」

 

「「えぇ!?」」

 

絵里からのお願いに穂乃果は困惑しており、海未とことりは驚きを隠せなかった。

 

そして希はこの展開を予想していたからか、笑みを浮かべており、事情を知っている奏夜はジッと事の顛末を見守っていた。

 

「私が……生徒会長?」

 

穂乃果はそう言われても実感がわかないみたいであり、呆然としていた。

 

「絵里、何故穂乃果を生徒会長に推薦するのですか?」

 

海未もまた、穂乃果が生徒会長と言われてもピンと来なかったため、真意を絵里から聞こうとしていた。

 

「私ね、誰が生徒会長に相応しいか考えたの。穂乃果はμ'sを始めて、みんなのことを引っ張ってくれたでしょ?そんな穂乃果だからこそ、生徒の代表である生徒会長に相応しいと思ったのよ」

「絵里ちゃん……」

 

自分が生徒会長に相応しい。

 

実感はわかないものの、そう言われることは穂乃果としては嬉しかった。

 

「……穂乃果、その話、受けてみたらどうだ?」

 

「そーくん……」

 

「ああ言われたら悪い気はしないだろ?それに、お前がこの話を受けるなら、俺は手伝いをするつもりだぜ」

 

自分は生徒会長の話を断った奏夜であったが、生徒会の仕事は手伝うことは伝えていた。

 

「絵里がその話をした時は驚きましたが、そういうことなら私もお手伝いさせていただきます」

 

「うんうん♪ことりもそーくんや海未ちゃんと同じ気持ちだよ♪」

 

「海未ちゃん……ことりちゃん……」

 

奏夜だけではなく、海未とことりも手伝ってくれることがわかり、穂乃果はその事実に勇気付けられていた。

 

そして……。

 

「……わかったよ、絵里ちゃん。私なんかが生徒会長に向いてるかはわからないけど、精一杯やってみる!」

 

穂乃果は次の生徒会長になる覚悟を決めたみたいであり、それを知った絵里の表情はぱぁっと明るくなっていた。

 

「ありがとう!そう言ってくれて、すごく嬉しいわ!」

 

「そうやね♪それに、おおよその生徒会メンバーも決まったみたいやしな♪」

 

奏夜、海未、ことりの3人が生徒会の仕事を手伝うと言ってくれたため、この3人は生徒会のメンバーとして内定したようなものだった。

 

「そうとわかれば、こうしてはいられないわ!」

次期生徒会長も決まったため、やる気が出てきた絵里は、1枚の紙を取り出すと、記入を始めるのであった。

 

「絵里、希。μ'sの練習には来れそうですか?」

「ごめんなさい。次期生徒会長が正式に決まるまではあまり練習に顔を出せないかもしれないわ」

 

「……俺も練習の合間に手伝うから安心してくれ」

 

奏夜は、μ'sの練習を見ながらも生徒会の仕事を手伝おうと考えていた。

 

「悪いけど、そうしてもらえると助かるわ」

 

「わかった。それじゃあ、そーくん。私たちは先に部室に行ってるからね!」

 

「ああ。俺もすぐ行くからいつでも練習できるようにしておいてくれ」

 

こうして穂乃果、海未、ことりの3人は生徒会室を後にすると、アイドル研究部の部室に向かうのであった。

 

次期生徒会長が穂乃果に決まり、絵里と希は引き続きのために忙しく動き回ることになったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その頃……。

 

「……まさか、あの尊士がやられるとはな……」

 

秋葉原某所にあるジンガのアジトである廃ビルの一室で、ジンガはワインを飲みながらこのように呟くのであった。

 

「俺はどうやらあの小僧の力を侮っていたみたいだな……。右腕を失った今、色々策を練り直さなきゃな……」

 

ジンガとしても、戦力的マイナスを感じているだけではなく、忠実な部下の1人を失ったことがショックなのであった。

 

そんな憂いを帯びたジンガのことを、アミリは心配そうに眺めていた。

 

(……ジンガ様……。ジンガ様は右腕である尊士様を失って心を痛めておられる……)

 

アミリは、今のジンガの気持ちをこのように汲み取っており、悲しげな表情を浮かべていた。

 

(とは言っても、今の私の力では、ジンガ様の力にはなれない。もっと強大な力が必要になる……。例え、人間であることを捨てようとも!)

 

アミリは、己の命を使ってでもジンガの力になりたいと考えていた。

 

そのため……。

 

「ジンガ様!」

 

「おう、どうしたんだ?アミリ」

 

体が勝手にジンガのもとへと向かっていたのである。

 

「ジンガ様……。私に力をお授けくださいませ!あなた様の力になるために……」

 

「アミリ……お前……」

 

アミリからの意外な申し出に、ジンガは驚きを隠せなかった。

 

「俺としては、お前が側にいてくれるだけでも充分なんだがな……」

 

アミリは自分に良く仕えてくれているため、戦うための存在とはジンガは考えていなかったのである。

 

「だが、本当にいいのか?力を与えるということは、人間であることを捨てるということになるが……」

 

どうやらアミリは、ジンガや尊士のようにホラーになった訳ではないみたいだった。

 

「はい!私はあの時あなたに拾っていただかなかったら、命を落としていたでしょう。ですから、この命、我が主人であるジンガ様の崇高な目的のために使いたいのです!」

 

どうやらアミリのジンガに対する忠誠心は本物みたいであり、ジンガのためならば命を使うことすら辞さないほどであった。

 

「アミリ……。ありがとな。お前の俺に対するその忠誠心、決して無駄にはしないぜ!」

 

尊士を失っても、自分にはここまで慕って仕えてくれる者がいることが、ジンガには何よりも喜ばしいことであった。

 

「ジンガ様……!それでは……!」

 

「ああ、そこまで言うのなら、お前に与えてやるよ。偉大なる闇の力をな……!」

 

こうして、ジンガはアミリに魔戒騎士とも戦える力を与えるのであった。

 

ジンガがアミリに対して、どのような方法で力を与えたのかはまだわからない。

 

しかし、奏夜たちは知る由もなかった……。

 

力を手に入れたアミリの存在が、後々大きな波紋を呼ぶことを……。

 

そして、これから、戦いはより激しさを増していくことになる。

 

このことも、奏夜たちは知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……終。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『まさか、あれがまた行われることになるとはな。これはいったいどうなることやら……。次回、「再来」。おいおい、それは本気で言ってるのか?』

 

 




やっぱりKKE!

推しは穂乃果ですが、絵里も好きなんです!

絵里役の南條さんは、FF14のラジオもやってますし、それを聞いてるうちに南條さんのファンになってしまいました。

絵里もいいと思うのはそこもあるかもしれません。

そして、ジンガから力をもらったアミリはこれからどう話に絡んでくるのか?

ちなみに今作のジンガとアミリの関係は、「炎の刻印」のメンドーサとオクタヴィアに酷似しています。

なので、「GOLD STOME 翔」とは違った感じになるのでご了承ください。

さて、次回はいよいよ2期編に突入します!

ここまで長かった……。

2期編は大きく物語を動かしていこうと思っていますので、期待していただけると嬉しいです。

次回の投稿はなるべく早くしようとは思いますが、年明けになっちゃうかもしれません。

すいませんが、よろしくお願いします!

それでは、次回をお楽しみに!



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蒼哭の竜詩編
第56話 「再来」


あけましておめでとうございます!第56話になります!

いよいよ2018年ですね!

この牙狼ライブも、来月で投稿して1年になります。

最近は色々忙しくて投稿は遅れてますが、どんなに遅くなっても完結まで続けるつもりなのでよろしくお願いします!

さて、今回から新章に突入します。

新章のタイトルは、「蒼哭の竜詩編」となっています。

ここからはラブライブの二期編ですが、蒼哭は、牙狼の劇場版である「蒼哭ノ魔竜」から取りました。

竜詩は、ジンガが復活させようとしているニーズヘッグをイメージして付けてみました。

ここから物語はさらに進むと思うのでよろしくお願いします!

では、第56話をどうぞ!




学園祭でのライブ失敗や、ことりの留学など、奏夜たちは大きな問題を抱えていた。

 

そのため、μ'sは一時的にバラバラになるのだが、奏夜の決死の活躍によってμ'sは再び結成され、ことりもまた、留学を思い留まるのであった。

 

そんな中、奏夜は最大の強敵である尊士を倒すことに成功する。

 

その後も魔戒騎士として試練があったのだが、奏夜はそれを乗り越えていった。

 

そして、気が付けば、μ's再結成から1ヶ月が経とうとしていた。

 

この日は全校集会が行われており、音ノ木坂学院の生徒たちは全員講堂に集められていた。

 

『音ノ木坂学院は、入学希望者が予想を上回る結果になったため、来年度も生徒を募集することになりました』

 

現在は理事長の挨拶が行われているのだが、廃校の危機が免れたことを改めて報告していた。

 

『3年生は、残りの学園生活を悔いのないように過ごして下さい。実りのある生活を送っていただきたいと思います』

 

そして、理事長は卒業する3年生にメッセージを送っていた。

 

『そして1年生、2年生は、入学してくる後輩たちのお手本となるよう、気持ちを新たに前進していって下さい』

 

続けて、在校生である1、2年生に対するメッセージを送ったところで、理事長の挨拶は終了した。

 

『理事長、ありがとうございました』

 

理事長は、講堂の舞台で挨拶を行っており、少し離れたところに、全校集会の司会が座っていた。

 

その司会とは、なんとヒフミトリオの3人であった。

 

『続きまして、生徒会長、挨拶。生徒会長、よろしくお願いします!』

 

ヒデコがこのように進行をすると、講堂の客席に座っていた絵里が立ち上がったのであった。

 

他の生徒たちは生徒会長であるはずの絵里が何故このようなところにいるのかわからず、さらに、いきなり立ち上がったことに困惑していた。

 

そして、絵里はパチパチパチと拍手を送ると、舞台袖にスポットライトが当たっていた。

 

そんな中、舞台袖から出てきたのは、なんと穂乃果であった。

 

穂乃果が舞台袖から現れると、絵里やμ'sのメンバーを筆頭に、生徒たちから大きな拍手が起こっていた。

 

奏夜、海未、ことりの3人は舞台袖で待機しており、穂乃果のことを見守っていた。

 

『……皆さん、こんにちは!』

 

穂乃果はこのように挨拶をすると、それだけで生徒たちから拍手か送られていた。

 

穂乃果はμ'sのリーダーであることはほとんどの生徒に認知されているため、この大きな拍手はそこから来ていたのである。

 

『この度、新生徒会長になりました!スクールアイドルでおなじみ!』

 

このように宣言すると、穂乃果はマイクパフォーマンスを行おうとしているのか、マイクを手に取り、手にしているマイクを上空へ放り投げていた。

 

そして、綺麗に一回転すると、その落ちてきたマイクをキャッチして、こう宣言する。

 

『高坂穂乃果と申します!』

 

穂乃果のマイクパフォーマンスは効果的だったからか、客席からは生徒たちの拍手だけではなく、歓声も起こっていた。

 

《……おい、奏夜。生徒会長の挨拶であのくだりは必要なのか?》

 

奏夜の指にはめられているキルバは、穂乃果の挨拶で行ったパフォーマンスが疑問だったからか、呆れながら奏夜にテレパシーで語りかけていた。

 

(確かに俺はそう思ったが、穂乃果があれをやりたがってたんだよ……)

 

どうやらこのパフォーマンスは、穂乃果たっての希望であり、奏夜は強く止めることはしなかったのだ。

 

《穂乃果のやつ、パフォーマンスに夢中で挨拶を忘れなきゃいいが……》

 

(アハハ……。さすがにそれは……)

 

穂乃果は挨拶の内容をど忘れすることはないだろう。

 

奏夜はそう思っていたのだが……。

 

『……あ〜っ……。え〜っ……』

 

どうやら穂乃果は本気で挨拶の内容を忘れたみたいであり、言葉に詰まっていた。

 

それを見ていたことりは心配そうに穂乃果を見守っており、奏夜と海未は呆れながら頭を抱えるのであった。

 

「あの馬鹿……。まさか本気で挨拶を忘れやがるとは……」

 

《やれやれ……。穂乃果らしいと言えばらしいんだがな……》

 

2人だけではなく、キルバも呆れており、ジト目になっていた。

 

《ところで奏夜。こっからどう穂乃果をフォローするつもりなんだ?》

 

(心配するな。こんなこともあろうかと思ってな……)

 

どうやら奏夜は、最悪のケースを想定して、何かしらの対策を立てているみたいだった。

 

すると、穂乃果は本気で困り果てているからか、舞台袖の方を向き、奏夜に目で助けを求めていた。

 

奏夜は穂乃果に何かを伝えるように、ブレザーのポケットを叩いていた。

 

穂乃果は首を傾げながらブレザーのポケットを調べると、1枚の紙が入っていた。

 

「……!」

 

それを開くと、中身は生徒会長挨拶の例文であり、それを見た穂乃果は驚いていた。

 

それと同時に救われた穂乃果は、その紙の内容を参考にスピーチを始めるのであった。

「良かったぁ……。穂乃果ちゃん、挨拶を再開出来たよ!」

 

「えぇ。私も安心しました」

 

穂乃果が再び喋り始めたことに、ことりと海未は安堵するのであった。

 

「やれやれ……。こっそり忍ばせといたカンペがあんなところで役に立つとは……」

 

どうやら穂乃果の持っている紙に書かれた文章は奏夜が書いたものであり、実際に使うことになったことに驚いていた。

 

「奏夜。穂乃果の持っているあの紙はもしかして……」

 

「お察しの通りだ。穂乃果が挨拶をど忘れする可能性を考慮して、カンペをこっそりとポケットに忍ばせておいたんだ」

 

「アハハ……。さすがそーくん。抜け目がないね……」

 

奏夜のあまりの抜け目のなさに、ことりは苦笑いしていた。

 

こうして、穂乃果はピンチを乗り越えて、どうにか無事に生徒会長の挨拶を終えることが出来たのであった。

 

 

 

※※※

 

 

 

 

全校集会が終わり、放課後となった。

 

奏夜、穂乃果、海未、ことりの4人は生徒会室に来ていた。

 

「はうぅ……。疲れたぁ……」

 

全校集会での挨拶で肝を冷やした穂乃果は、力無い感じでテーブルに突っ伏していた。

 

「穂乃果ちゃん、お疲れ様♪」

 

ことりは、そんな穂乃果に労いの言葉を送っていた。

 

「生徒会長挨拶って、ライブとは全然違うんだねぇ……。緊張しっぱなしだったよ!」

 

「アハハ……。ま、そんなもんだろ」

 

「そうかもね。だけど、穂乃果ちゃんらしくて良かったと思うよ♪」

 

どうやら穂乃果は生徒会長挨拶でかなり緊張していたみたいであり、2人はそんな穂乃果をフォローする言葉を送っていた。

 

そんな中……。

 

「どこが良かったんですか!せっかく昨日4人で挨拶文を考えたというのに……」

 

海未は、穂乃果が途中で挨拶の内容をど忘れしてしまったことに異議を唱えていた。

 

「アハハ……。ごめん……」

 

「まったく……。あの時奏夜が機転を利かせてくれなかったらどうなっていたことか……」

 

「そーくん、ありがとう!本当に助かったよぉ!」

 

「ったく……。もしものためにカンペを忍ばせといたけど、まさか本当に使うことになるとは思わなかったぞ」

 

『穂乃果。お前はただの挨拶で張り切り過ぎだ。だから挨拶をど忘れしたんじゃないのか?』

 

「むぅ……!だって、あのパフォーマンスはやりたかったんだもん……」

 

奏夜は穂乃果の挨拶を思い出して苦笑いしており、キルバは挨拶でのパフォーマンスについて追求していた。

 

それが面白くなかったのか、穂乃果はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「その話はもういいでしょう。とりあえず……!」

 

海未は手にしていた書類の山を、ボン!と穂乃果の前に置くのであった。

 

「今日はこれを片付けてから帰ってもらいます」

 

「えぇ!?こんなに!?」

 

目の前にある仕事はかなりのものであり、穂乃果は顔を真っ青にしていた。

 

「それと、これも!」

 

どうやらまだ 仕事はあるみたいで、海未は1枚の紙を穂乃果に手渡すのであった。

 

「どれどれ……。学食のカレーがまずい……。アルパカが私に懐かない……。学園祭に有名人を……。って、何これ?」

 

『どうやら、一般生徒からの要望みたいだな』

 

「ええ、キルバの言うとおりです」

 

穂乃果が先ほど読み上げたのは、生徒からの要望書の一部であった。

 

「ん?どれどれ……?」

 

奏夜は穂乃果からその要望書を受け取ると、他の内容も読み上げるのであった。

 

「男子が少なくて肩身が狭いです……。うんうん、俺もわかるが仕方ないよな……」

 

最初に読み上げた内容に、奏夜は強い共感を覚えるのであった。

 

「他には……?パソコン室でゲームが出来るようにして欲しい……。男子が少ないっていうのに女の子にモテません!……校内のリア充を殲滅して欲しい……」

 

奏夜はさらに文章を読み上げると、次第にジト目になっていった。

 

そして……。

 

「知らんがな!!」

 

このような奏夜のツッコミが空を切るのであった。

 

『これは要望というよりはただの不満のはけ口だな……』

 

要望書の内容とは思えない文章たちに、キルバは呆れ果てていた。

 

「それはともかくとして、そーくんと海未ちゃんも手伝ってくれてもいいじゃん!2人とも副会長なんだし!」

 

穂乃果の言う通り、副会長は奏夜だけではなく、海未もその役を受けたのであった。

 

海未は、魔戒騎士であり、μ'sのマネージャーである奏夜の負担を少しでも減らそうと考えた結果、副会長の仕事を引き受けたのであった。

 

 

「私と奏夜はすでに目を通してあります」

 

「まぁ、俺は絵里や希の手伝いをしてたし、これくらいはな」

 

どうやら海未と奏夜は、穂乃果のやるべき仕事に目を通していたみたいであった。

 

「じゃあ、2人ともやってよぉ〜!」

 

穂乃果は手伝いをしてくれない奏夜と海未に不満をぶちまけていた。

 

「あのなぁ……。生徒会の仕事はそれだけじゃないんだぞ」

 

「奏夜の言うとおりです!あっちには校内に溜まりに溜まった忘れ傘の放置!各クラブの活動記録も放ったらかし!そこのロッカーの中にも3年生からの引き継ぎのファイルが残っています」

「まぁ、引き継ぎのファイルに関しては、面倒そうなのは終わらせたんだけどな……」

 

奏夜は、絵里や希の手伝いをしていたため、引き継ぎに関しては面倒そうなものだけは先に終わらせていたのであった。

 

「本来であればそれも穂乃果にやってほしかったのです」

 

どうやら海未としては、ちょっとでも奏夜が先に仕事に手を付けたことが不満のようだった。

 

「生徒会長である以上、この学校のことは誰よりも詳しくなくてはいけません」

 

「で、でも、4人いるんだし、手分けした方が……」

 

「ことりは穂乃果に甘すぎます!」

ことりは穂乃果に助け舟を出そうとするものの、それは海未に一刀両断されてしまった。

 

「ったく……。仕方ないな……」

 

奏夜は、やれる範囲で穂乃果の仕事を手伝おうと考えていたのだが……。

 

「奏夜、いくら穂乃果が泣きついてきても、穂乃果のやるべき仕事も一緒にやってしまおうなどと思わないようにしてください」

 

「!?」

 

どうやら海未は、奏夜の考えはお見通しのようであり、痛いところを突かれた奏夜は、驚きを隠せなかった。

 

それだけではなく、穂乃果も奏夜をアテにしていたようであり、海未の言葉を聞いて、同じように驚いていた。

 

「奏夜も穂乃果には甘いですからね。私が釘を刺しておかないと、なんでも仕事をやってしまいそうですから」

 

『ま、確かに、海未の言う通りだろうな』

 

キルバもまた、奏夜なら穂乃果を甘やかすだろうと予想していたため、海未の言葉に同意していた。

 

「奏夜。もし穂乃果を甘やかしたら……わかってますね?」

 

「も、もちろんわかってるよ!穂乃果、自分のやるべき仕事はしっかりやってくれよ!後は俺らでやるから」

 

海未は険しい表情で奏夜を睨みつけており、それにたじろいだ奏夜は、素直に海未の言うことを聞くしかなかった。

 

「はうぅ……。生徒会長って大変なんだねぇ……」

 

いざという時に奏夜を頼れないとわかり、穂乃果は涙目になっていた。

 

すると……。

 

「……わかってくれた?」

 

先ほどの話を聞いていたのか聞こえただけなのか。絵里が生徒会室に入りながらこう言っていた。

 

「あ、絵里ちゃん!」

 

「みんな、頑張っとるん?」

 

「希ちゃんも!」

 

絵里だけではなく、希も一緒みたいであった。

 

さらに……。

 

「うむ、さっそく大変そうだな、穂乃果」

 

「剣斗!お前も一緒だったんだな!」

 

奏夜と同じ魔戒騎士であり、今は音ノ木坂学院の教師でもある小津剣斗も絵里や希と一緒に生徒会室に入ってきた。

 

「私はお前たちの様子を見にきたのだが、どうやら絵里と希も同様だったみたいでな」

 

「大丈夫?挨拶、ちょっと拙い感じだったわよ」

 

絵里は、生徒会長挨拶でつまり、カンペを使ってどうにか乗り切った穂乃果のことを心配していた。

 

「えへへ……ごめんなさい。絵里ちゃんと希ちゃんも小津先生みたいに様子を見に来てくれたの?」

 

「まあ、そんなところね。私が穂乃果を生徒会長に推薦した手前、心配でね」

 

「奏夜君もいてくれるし、大丈夫だとは思うけどなぁ」

 

「アハハ、そう言ってもらえると光栄だよ」

 

絵里は自分が穂乃果を生徒会長に推薦したからか、色々と心配していたのだが、希は奏夜が副会長としていてくれているため、そこまでは心配していなかった。

 

「それに、明日からはみっちりとダンスレッスンもあるからね」

 

μ'sが再始動し、練習はしっかり行っているのだが、毎日がみっちりとダンスレッスンを行うということは出来ず、生徒会長も決まり落ち着いたため、明日から本格的にダンスレッスンを行う予定であった。

 

「カードによると、穂乃果ちゃんは生徒会長としてかなり苦労するみたいやで♪」

 

「うぇぇ!?」

 

「それに、奏夜君も、かなり苦労するみたいやで」

 

希は穂乃果だけではなく、奏夜のことも占っていたみたいであり、そのことを報告していた。

 

「かなり苦労……。そうかもしれないな。尊士はどうにか倒したけど、まだジンガが残ってる。あいつを倒さないと……」

 

奏夜は副会長の仕事だけではなく、魔戒騎士としても苦労することは奏夜自身もわかっていた。

 

倒すべき敵のことを思い浮かべ、奏夜の表情は自然と険しくなっていた。

 

「そーくん……」

 

奏夜の顔が先ほどの穏やかな顔から魔戒騎士の顔に変わり、穂乃果は心配そうに奏夜のことを見ていた。

 

「奏夜、生徒会の仕事が落ち着いたら少しいいか?そこら辺のことで話があってな」

 

「ああ、わかったよ」

 

どうやら剣斗は奏夜に話があるみたいであり、このように約束を取り付けていた。

 

「奏夜、色々と大変だとは思うけど、よろしく頼むわね」

 

「任せとけ。仕事はきっちりとこなすさ」

 

魔戒騎士とμ'sのマネージャー。

 

それだけではなく生徒会副会長と三足のわらじを履くことになった奏夜なのだが、その状況を作ってしまった絵里は申し訳なさそうにしていた。

 

しかし、奏夜は気にしておらず、与えられた仕事はきっちりとこなすつもりでいた。

 

「海未ちゃんとことりちゃんもそんな2人のサポート、お願いね♪」

 

「気にかけてくれてありがとう♪」

 

「いえいえ♪何か困ったことがあれば言ってね。力になるから」

 

「うん!ありがとう!」

 

「絵里や希だけではなく、何かあれば私にも相談するといい。教師の立場で力になれることもあるだろうからな」

 

「小津先生もありがとう!」

 

こうして、激励にきた絵里、希、剣斗の3人は生徒会室を離れ、残った奏夜たちは生徒会の仕事を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会の仕事がひと段落ついた奏夜は、剣斗と話をするためにアイドル研究部の部室に来ていた。

 

「おお、奏夜。仕事はひと段落したのか?」

 

「まぁな。俺のやるべき仕事は終わらせてきたよ」

 

奏夜が。仕事を終わらせたと聞き、剣斗は笑みを浮かべていた。

 

「お前は本当に真摯に働くな。そんなお前だからこそ、多くの者が奏夜を信頼しているのだろう」

 

剣斗は、そんな奏夜に労いを兼ねた称賛を送っていた。

 

「アハハ……。それで、話って?」

 

「うむ。そうだったな」

 

奏夜は本題を切り出してきたことにより、剣斗は奏夜にあることを伝えるために語り始めるのであった。

 

「少し前に統夜から連絡があったのだが、未だに魔竜の眼の足取りは掴めないみたいだ」

 

剣斗の話というのは、魔竜ホラーと呼ばれているニーズヘッグ復活に必要な魔竜の眼の行方のことである。

 

ニーズヘッグ復活には、魔竜の牙と、2つの魔竜の眼が必要なのだが、魔竜の牙と魔竜の眼の片割れは、ジンガの手に渡っている。

 

統夜は、紅の番犬所の魔戒騎士であるが、元老院からの指令で、ニーズヘッグ復活を阻止しようと動いている。

そして、奏夜たちの宿敵であるジンガは、魔竜ホラーであるニーズヘッグを復活させようと動いている。

ニーズヘッグを復活させるのもそれを阻止するのにも未だに行方の掴めない魔竜の眼の力が必要になるのである。

 

しかし、現在は未だにもう1つの魔竜の眼は見つかっていない。

 

「ジンガは魔竜の眼を手に入れただろ?あいつはその力を使ってもう1つの眼を探すことはしてないんだろうか?」

「ふむ……。それは一理あるな」

 

『ジンガも恐らくは眼の力を使ってもう1つの眼を探そうとはしただろう。だが、今もなお見つかってないところを見ると、奴も魔竜の眼は見つけられてないのだろう』

 

「これは俺の推測だけど、もう1つの魔竜の眼はどっかで守られてるんじゃないかな。特殊な結界みたいなもので」

 

奏夜は、何故魔竜の眼の片割れを持つジンガが未だにもう1つの眼を見つけられないのか、このような推察をしていた。

「それはあるかもしれないな。それならばジンガが魔竜の眼を見つけられてないことに説明がつくし、統夜も未だに足取りを掴めないことも納得だからな!」

 

剣斗は、奏夜の推測を全面的に肯定していた。

 

『その可能性は大きいが、それはきっとジンガの奴も気付いているだろうな』

 

「ああ。今は尊士を失ったばかりだから大人しいんだろうが、近いうちに奴は仕掛けてくるだろうな……!」

 

奏夜は、ジンガが本気を出せば、魔竜の眼が見つかるのは時間の問題だと考えていたからか、深刻な表情をしていた。

 

『奏夜。そこまで気負うことはないと思うがな』

 

「うむ!キルバの言う通りだ!お前には仲間がいるではないか!共にホラーと戦う最高にイイ仲間がな!」

 

ジンガの力を計り知れない奏夜は不安になっていたのだが、それを吹き飛ばすように、剣斗が励ましの言葉を送っていた。

 

「……そうだな。俺は1人で戦ってる訳じゃないんだもんな……」

 

奏夜は共に戦う仲間がいることを思い出し、穏やかな表情になっていた。

 

「なぁ、剣斗。ありが……」

 

ありがとな。

 

奏夜がこう言おうとしたその時、バタン!と部室の扉が開かれ、穂乃果たち9人が一斉に中に入ってきた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……。良かった、奏夜はここにいたわね」

 

かなり慌てた様子で中に入ってきたからか、にこは息が上がっている様子だった。

 

「どうしたんだ?お前ら、そんなに慌てて」

 

主ににこと花陽が何かに対して慌ててる様子があり、奏夜は首を傾げていた。

 

「あんたたち……。のんびり話してる場合じゃないわよ!」

 

「そうです!もう1回行われることになったんです!」

 

「もう1回?」

 

にこと花陽は慌てながらも興奮した様子であり、そんな花陽の言葉をおうむ返しのように繰り返した奏夜は首を傾げていた。

 

「もう1回ねぇ……。まさか、ラブライブがもう1回行われるとか?」

 

奏夜の口にした「ラブライブ 」とは、スクールアイドルの祭典と呼ばれる大会であり、以前、第1回大会が行われたばかりであった。

 

「そうです!A- RISEの優勝で幕を閉じたラブライブがまた行われるんです!」

 

「へぇ、ラブライブねぇ……。そいつはなかなか……。って!なんだと!?」

 

奏夜は本気でラブライブが二人行われると思っていなかったため、反応が遅れてしまい、驚いていた。

 

「しかも!今回のラブライブは前回を上回る大会規模で、会場の広さも数倍。ネット配信の他、ライブビューイングも計画されています!」

 

「す、凄いわね……」

 

「いつかは第2回が来るとは思ってたが、こんなにも早く来るとはな……」

 

スクールアイドルは今や全国区であり、スクールアイドルの甲子園とも言えるラブライブが再び行われることは奏夜も予想していた。

 

しかし、ここまで早く第2回が来るのは予想外であり、奏夜は驚いていた。

 

「しかも!ここからが重要になってきます!」

 

興奮冷めやらぬ中、花陽はパソコンのところへ移動し、パソコンを起動させると、ラブライブの特設サイトを開いていた。

 

「大会規模が大きくなったことで、今回のラブライブは前回のランキング形式ではなく、各地で予選が行われ、各地区で代表になったチームが本戦に進むことになりました!」

 

「ほぉ……?」

 

前回のようにランキング形式ではなくなったことを知り、奏夜は不敵な笑みを浮かべていた。

 

『なるほどな。ということは、今までのランキングは関係なくなるということだな』

 

「その通りです!これはまさしくアイドル下克上!ランキング下位のチームでも、予選のパフォーマンス次第では本戦に進めるんです!」

 

「それって、私たちにもチャンスがあるってことよね?」

 

「凄い!凄いにゃ!」

 

「やらない手はないわね!」

 

今度のラブライブの大会形式を聞き、希、凛、真姫の3人は興奮を隠せなかった。

 

「ふふ、並みいる強豪を押しのけ、王者への道を進んでいくということか……。イイ!とてもイイ!」

 

それだけではなく、剣斗もまた、興奮を隠せなかった。

 

「ま、まぁ、言ってることは合ってるけど……」

 

剣斗の言葉は的を得ているのだが、あまりにも熱い剣斗に、にこは引き気味であった。

 

『予選形式なのはいいのだが、1つだけ大きな問題がある』

 

「大きな問題……?あっ!」

 

ことりはキルバの言葉の意味を察して、顔が青くなっていた。

 

「地区予選があるってことは……。私たちはあの「A- RISE」とぶつかるってことよね?」

 

第1回ラブライブを制した「A- RISE」の学校であるUTX学園は、秋葉原にあるため、音ノ木坂学院と同じ地区に当たる。

 

本戦に進むためには「A- RISE」を退けなければいけないのであった。

 

その事実を知った花陽たちは……。

 

「お、終わりました……」

 

「ダメだぁ……!」

 

「あのA- RISEに勝たなきゃいけないなんて……」

「それはいくらなんでも……」

 

「無理よ……」

 

一気に絶望感が支配してしまったからか、一気に空気が暗くなってしまった。

 

(ったく……。お前らは……)

 

A- RISEとぶつかるとわかって気落ちする花陽たちに、奏夜は呆れていた。

 

そして……。

 

「じゃあ……いっそのこと、出るのをやめるか?」

 

「はぁ!?何言ってるのよ!」

 

「そうです!せっかくのチャンスなんです!」

 

奏夜の言葉に、にこと花陽が異議を唱えていた。

 

「だが、A- RISE相手に諦めムードだろ。そんな状態で出ても無意味だと思うがな」

 

「「そ、それは……」」

 

この絶望感は、最初から負けると決め付けているからであるため、にこと花陽は奏夜にこれ以上の反論は出来なかった。

 

「出る出ないはみんなに任せるつもりだけど、むしろこれはチャンスだとは思わないのか?あのA- RISEに勝てれば、ってさ……」

 

「でも!相手は前回の王者なのよ!?そんな相手に勝とうだなんて……」

 

「ふむ……。俺はみんなの努力次第ではA- RISEに届くと思ってたけど、俺の見当違いだったか?」

 

奏夜のこの言葉に、場の空気は一気に凍りつく。

 

「うむ。私もそれは思っていた。確かにA- RISEは絶対王者に相応しい実力者だ。しかし、皆は様々な修羅場を乗り越えてきただろう?私は今のμ'sはA- RISEと遜色はないと思うのだがな」

 

奏夜が厳しい言葉を言ったことや剣斗がそれに同意したのは、2人がそれだけμ'sの実力を評価しているからであった。

 

「奏夜……小津先生……」

 

絵里はそんな2人の気持ちを汲み取るのであった。

 

「そうですね。A- RISEとぶつかるのはとても厳しいことです。ですが、諦めるのは早いと思います」

 

ネガティブな空気が流れる中、この海未の言葉が、その空気を切り裂くことになった。

 

「確かに……。やる前から諦めてたら、何も始まらないわよね……」

 

「それもそうね」

 

「エントリーするのは自由なんやし、やってみてもいいんやない?」

 

海未の言葉を聞き、絵里は前向きなことを言っており、それに真姫と希も同意していた。

 

「た、確かにそうだね!厳しいとは思うけど、私は参加したい!」

 

A- RISEとぶつかると知って最初に絶望していた花陽であったが、ラブライブへの思いは強いため、参加したいという意思を伝えていた。

 

「じゃあ、ラブライブに出場するってことでいいわね?」

 

先ほどの暗い空気からうって変わり、ラブライブ出場へ前向きな感じになっていた。

 

そんな中、奏夜は1つだけ気になることがあった。

 

(……何で穂乃果はさっきからだんまりなんだ?)

 

《確かにな。本当なら真っ先に出ると言いそうなものだが……》

 

ラブライブの話をしているにもかかわらず、穂乃果は一切話に参加しておらず、そのことに奏夜とキルバは疑問に思っていた。

 

そのため……。

 

「……なぁ、穂乃果。穂乃果はどう思うんだ?」

 

『お前が1番ラブライブに出たいんじゃないのか?』

 

奏夜とキルバはこのように穂乃果に問いかけるのだが、穂乃果はズズズとお茶をすすりながらのんびりしていた。

 

そして、この後穂乃果の言い放つ言葉が、奏夜たちに大きな衝撃を与えることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……出なくてもいいんじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

「ラブライブ、出なくてもいいと思う!」

 

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?』

 

穂乃果のまさかの発言に奏夜たちが驚きの声を上げる中、穂乃果は満面の笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『穂乃果のやつ、まさか出ないと言いやがるとはな……。まぁ、何か事情があってのことだろうが……。次回、「息抜」。たまにはこんな日があってもいいよな』

 

 




いよいよ始まりました、二期編!

ラブライブの二期は、穂乃果が可愛いシーンが結構あるので好きなんですよね。

当然一期でも穂乃果は可愛いですが(*^_^*)

新章は、ジンガとのバトルも見どころですが、奏夜の恋愛事情も見どころにしようと思っているのでご期待ください!

話は変わりますが、「ラブライブ!サンシャイン!!」の二期が終わってしまいましたね。

個人的にはあの終わり方はありかなと思いますが、ニコ生は荒れてましたね(笑)

劇場版も楽しみです!

牙狼の方も、もうすぐ「神ノ牙」が公開になります。

今作でも宿敵のジンガが活躍するので楽しみです!

それだけではなく、「闇を照らす者」の三騎士が揃うので期待しかしてないです(笑)

地元近辺では公開しないので、遠出して見に行こうと思ってます。

さて、今回の終わりで穂乃果はラブライブに出なくていいと宣言しましたが、次回はいったいどうなってしまうのか?



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第57話 「息抜」

お待たせしました!第57話になります!

年末年始はリアルでの用事で忙しく、小説も書けず、FF14もあまりプレイ出来ませんでした。

そんな中ではありますが、「牙狼 神ノ牙」を見てきました!

感想は言わずもがなかもですが、最高でした。

やはり1番イイと思ったのは闇照の三騎士が再び集結するところですよね。

GOLD STOME翔にも魔戒列伝にもアグリやタケルは出てこなかったので、今回の登場は本当に嬉しかったです。

さて、前回からラブライブの二期編が始まりましたが、前回は穂乃果のとんでもない発言で終わってしまいました。

ここからいったいどうなってしまうのか?

それでは、第57話をどうぞ!




穂乃果が新しい生徒会長となり、奏夜たちは新たなる一歩を踏み出していた。

 

そんな中、奏夜たちはラブライブが再び開催されることを知る。

 

今度のラブライブは、予選を勝ち抜いて本戦へ進む形式であり、再スタートしたことによってランキングが下位になってしまったμ'sでも本戦へ進むチャンスがある。

 

しかし、予選でラブライブ前回王者のA- RISEとぶつかることが判明し、一時は絶望ムードが漂う中、一度は目指したラブライブへ出場したいという思いを募らせていく。

 

そんな中、穂乃果はラブライブに出なくても良いのではないかという衝撃的な発言をするのであった。

 

「……穂乃果!ちょっとこっちに来なさい!」

 

「え?ちょっと、にこちゃん!?」

 

にこは穂乃果を部室の隣である広い部屋に連れていくと、穂乃果を鏡の前に置かれた椅子に座らせていた。

 

「穂乃果、自分の顔が見える!?」

 

「そ、そりゃ、見えてるけど……」

 

にこは穂乃果がおかしくなってると判断したからかこのようなことを言っており、穂乃果は困惑していた。

 

「鏡の中の自分は何て言ってますか!?」

 

「え?何って……」

 

海未もこのように問いかけるからか、穂乃果の動揺はさらに強くなっていた。

 

「だって穂乃果……」

 

「ラブライブに出ないって……」

 

「ありえないわよ!穂乃果なら真っ先に出ようって言いそうじゃない!」

 

穂乃果は今までラブライブに向けて真っ直ぐ突き進んでいたため、再びラブライブが行われるのなら積極的な姿勢を見せると思っていた。

 

なので、穂乃果かここまで消極的な姿勢を見せるのは、にこだけではなく他のメンバーも驚きなのである。

 

「穂乃果……。ひょっとして、何かあったの?」

 

「べ、別に何もないけど……」

 

「だったらどうして?」

 

絵里は、真っ先に穂乃果が何か事情があってラブライブ に出なくても良いと言っていると予想したが、それは違うみたいだった。

 

「それは私も思ってました。何故、出なくても良いと思ったのですか?」

 

穂乃果とは幼い頃からの付き合いである海未でさえ、穂乃果の真意はわからなかったのであった。

 

「わ、私は……。みんなと歌って踊れればそれでいいかなって思って……」

 

(……なるほどな。そういうことか)

 

《お?お前にしてはあっさりと事の要因がわかったんじゃないのか?》

 

(まぁ、俺だってμ'sのマネージャーとして修羅場をくぐってきたし、これくらいはな)

 

奏夜は穂乃果が何を思ってラブライブに出ないと言ったのかを察しており、ここからも奏夜の成長を伺うことが出来た。

 

「今まで、ラブライブを目標にして頑張って頑張ってきたじゃない!違うの?」

 

「い、いやぁ、それは……」

 

にこはラブライブに出場しないという穂乃果の言葉が納得できないからか、このように穂乃果に詰め寄っていた。

 

「……まぁ、みんな落ち着けって」

 

穂乃果がにこに詰め寄られて困っていたため、奏夜はこのように助け船を出すのであった。

 

「ちょっと奏夜!あんたは何でラブライブに出ないと言われて冷静でいられるのよ!」

 

奏夜があまりにも冷静にたしなめてきたため、にこは詰め寄る矛先を奏夜に変えるのであった。

 

「そりゃあ、俺だって驚いてるさ。だが、出る出ないは自由なんだし、穂乃果がそう言うのを責める権利はないだろ?」

 

「あんたねぇ……。さっきはあんなに偉そうなことを言ってたのに何で手のひらを返したようなことを言うのよ?」

 

「まぁ、俺はマネージャーだし、出る出ないはみんなの判断に任せるつもりだったからな」

 

「なんかずるい言い訳だにゃ……」

 

このような奏夜の弁解が納得出来ないのか、凛は唇を尖らせていた。

 

「だけど、穂乃果ちゃんらしくないっていうか……」

 

「やっぱり、挑戦してみてもいいと思うの!」

 

「あ〜……えっと……」

 

にこだけではなく、ことりと花陽もまた、穂乃果の言葉に納得出来ないからか、このように迫っており、穂乃果は返答に困っていた。

 

すると、タイミングが良いのか悪いのか。ぐぅ〜っと穂乃果の腹の虫が鳴きだすのであった。

 

「あ、そうだ!明日からまたレッスンも大変になるんだし、今日は寄り道していかない?」

 

穂乃果はこの話を強制終了させるために、このようなことを提案するのであった。

 

「え?でも……」

 

穂乃果のこの提案に、花陽は困惑しており、他のメンバーも困惑していた。

 

「……ま、たまにはいいんじゃないか?」

 

「はぁ!?奏夜!あんたまで何を言ってるのよ!」

 

「μ'sが再結成してからというもの、みんなそれぞれ忙しくてなかなか遊んだりも出来なかっただろ?ラブライブに出るにせよ出ないにせよ息抜きは必要だろ」

「そうだよ!そーくんの言う通りだよ!だから行こっ!」

 

こうして、穂乃果はラブライブに出ないという話を終わらせて、全員で遊びに行くことになった。

 

ちなみに剣斗も行きたがっていたのだが、教師としての仕事が残ってるため、学校に残らざるを得なかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

今日は練習を行わず、遊びに行くことになった奏夜たちは、まず最初にクレープ屋に立ち寄ることになった。

 

ここで奏夜は、全員分のクレープを奢ることになり、奏夜たちはクレープを食べながら通りを歩いていた。

 

「……ま、この出費は想定の範囲内か……」

 

奏夜はクレープをペロリと平らげると、財布の中身を確認していた。

 

「奏夜君、いつもごめんね。奢ってもらっちゃって……」

 

花陽は度々奏夜に奢ってもらうのが申し訳ないと思っていたからか、控えめにお礼を言っていた。

 

「気にするなって。俺は魔戒騎士なんだし、多少は稼いでるんだからさ」

 

奏夜は花陽を安心させるためにこう言っているのだが、それは事実なのである。

 

魔戒騎士として多くのホラーを討滅してきた奏夜は、番犬所から現金の支給も受けている。

 

最近はその支給額は上がってきたのだが、それでも奏夜は一般サラリーマン並には稼いでいる。

 

「それはわかるけど、いつもいつも奢ってもらうのは悪いよ……」

 

花陽は申し訳ないと思っているからか、少しだけ後ろめたさを感じていた。

 

「ふふっ、ありがとな、花陽」

 

そんな花陽の控えめな態度に、奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべるのであった。

 

「ふぇ!?////……あっ、うん……////」

 

奏夜の笑顔にドキッとしたからか、花陽は頬を赤らめてドギマギしていた。

 

奏夜はそんな花陽に首を傾げながらも、先ほど出していた財布をしまうのであった。

 

クレープを食べながら移動していた奏夜たちは、穂乃果の提案により、ゲームセンターへと行くことになった。

 

ゲームセンターに到着すると、各自で遊びたいゲームを遊ぶことになり、穂乃果、凛は絵里を連れてプリクラコーナーへと向かっていった。

 

奏夜も2人に誘われたのだが、やりたいゲームがあるとのことで、きっぱりと2人の誘いを断っていた。

 

その結果、2人は膨れっ面になってしまうのだが……。

 

「……よし、来たぞ……」

 

穂乃果と凛の誘いを断ってまで、奏夜がプレイしようとしているゲームとは、なんと、ガンシューティングゲームであった。

 

銃の形をしたコントローラーを扱い、画面に現れる敵を狙い撃つというゲームであり、そのジャンルの最新作であった。

 

『おい、奏夜。お前はまたこのゲームをやるのか?よく飽きないな……』

どうやら奏夜はこのゲームを度々プレイしているみたいであり、それを知っているキルバは、少しだけ呆れていた。

 

「当たり前だろ?このゲームは結構難しいけど、魔戒騎士として、反射神経を鍛えるのにいいんだよ」

 

どうやら奏夜は、ゲームで遊びながら、魔戒騎士として鍛錬もするみたいであった。

 

『おいおい。遊びと鍛錬を一緒にするなよな……』

 

遊びながらも鍛錬を行うという奏夜の姿勢に、キルバはさらに呆れていた。

 

奏夜は100円を投入し、ゲームを始めようとしたのだが……。

 

「あ、奏夜。ここにいたんですね」

 

「よう、海未。どうしたんだ?」

 

「いえ。歩いてたら奏夜を見かけたので声をかけたのです」

 

海未は何かゲームをする訳ではなく店内を歩いていたのだが、奏夜の姿を見つけたので、こちらへやってきたのだ。

 

「俺は今からこのゲームをやろうと思ってたんだよ」

 

「銃を使うゲームなんですね……。「バンバンシューティング」?」

 

奏夜が今からしようとしているゲームは、「バンバンシューティング」と呼ばれるタイトルだった。

 

「そうそう。このゲームは、近未来の都市を舞台に、迫り来る敵を銃で倒すシューティングゲームみたいだぜ」

「こんなゲームがあったんですね……」

 

「このゲームは最近置かれるようになったんだけど、敵の隊長を倒さないと敵がどんどん湧き出てくるみたいで、かなり難易度が高いゲームみたいなんだよ」

 

奏夜の説明通り、このバンバンシューティングは、設置直後からそれなりに人気のあるゲームとなったのだが、あまりに難易度が高く、本当にクリア出来るのかと疑問視する声がある程である。

 

「難しそうですね……」

 

「まぁ、やってみるから見てな」

 

そう言いながら奏夜は100円を投入し、ゲームを開始した。

 

『バンバン!シューティング!!』

 

ゲームのタイトルが宣言され、ゲームは始まっていくのだが……。

 

『このタイトルコール……。聞けば聞くほど月影統夜の魔導輪に聞こえるのだが……』

 

「ああ、イルバか?確かに、言われてみればそうかもな」

 

タイトルコールの声と、統夜の魔導輪であるイルバの声がとても似ており、キルバはそこに反応していた。

 

奏夜は苦笑いをしながら銃のコントローラーを手に取り、敵が迫り来ることに備えていた。

 

すると、さっそく最初のステージが始まり、敵が出現するのだが……。

 

「!?これ、本当に最初のステージなんですか?」

 

最初のステージというのは、敵の数は少なく、チュートリアル的な内容なのがセオリーなはずなのだが、最初のステージとは思えない程敵がたくさん出てきており、海未は驚いていた。

 

この難易度こそが、このバンバンシューティングの魅力であり、ここをクリアしてからが本当の戦いなのである。

 

開始十数秒でやられ、そのまま全ライフを失ってゲームオーバーになるというのもよくある話であり、一部のプレイヤーからはクリア出来ないクソゲーと言われているのであった。

 

「……なんの!これくらい!」

 

奏夜は何度もプレイしているから慣れているのか、手際良く狙いを定めて敵を倒していった。

 

しかも、その射撃は正確であり、全ての攻撃が「HIT!」と表示されていた。

 

「す、凄い……!」

 

海未は、奏夜のあまりの神プレイに言葉を失うのであった。

 

そんな中、手こずることなく雑魚敵を倒していった奏夜は、ボスである隊長を見つけ出し、ボスと対戦。

 

ボスとの対戦中も、迫り来る雑魚敵を手際よく倒しながらボスの体力を削っていく。

 

その結果、奏夜は1度もやられることはなく、ボスを撃破するのであった。

 

「さてと……」

 

奏夜は最初のステージをクリアしたことに満足することなく、すぐに次のステージに備えていた。

 

そして、次のステージなのだが、先ほどのステージ以上に難易度が上がっており、敵の数もかなり増えていた。

 

それだけではなく、このステージからは敵が奇襲を仕掛けてくることもあるため、それも対応しないと、大きく自分のライフを削られる結果になってしまう。

 

奏夜は冷静に状況を見極めながら敵を倒していっていた。

 

奏夜のプレイが凄いからか、ギャラリーが増えていき、あっという間に人だかりが出来るのであった。

 

海未はこの状況に驚くが、奏夜はそれも視界に入っていないのか、ゲームに集中していた。

 

ゲーム開始からおよそ40分。まだラストステージには到達していないのだが、奏夜はあるステージをクリアすると、携帯を取り出して時間を確認した。

 

「……今日はこの辺にしておくか」

 

奏夜的には続けたい気持ちはあったものの、このまま続けたら明らかに他のメンバーを待たせることになりそうだったので、ここでゲームを辞めることにした。

 

奏夜が操作を辞めた途端、プレイヤーキャラのライフがゴリゴリ削られていき、あっという間にライフはゼロになるのであった。

 

奏夜はコンティニューしなかったため、そのままゲームオーバーとなり、ゲームは終了した。

 

「ふぅ……」

 

奏夜は一息ついてから後ろを振り向くのだが、いつの間にか人だかりが出来ており、驚愕していた。

 

奏夜が人だかりに気付いたのと同時に、ギャラリーたちは一斉に拍手していた。

 

「あんた、このゲームをここまでプレイ出来るなんて凄いな!」

 

「あそこで辞めてなかったらクリア出来たんじゃないのか?」

 

「あのプレイング……。もしかしたら、噂の天才ゲーマーMとタメをはれるかもな!」

 

ギャラリーたちは奏夜のプレイをここまで絶賛していた。

 

そんな中、奏夜は天才ゲーマーMというキーワードに首を傾げるのであった。

 

その天才ゲーマーMというのは、その名の通り、天才的なプレイスキルを持つゲーマーであり、様々なゲームの大会で優勝している、生ける伝説と呼ばれるゲーマーである。

 

「奏夜……。そのMとかいう人は、スクールアイドルでいうところのA- RISEのような立ち位置の人なんでしょうか?」

 

「どうやら、そうみたいだな」

 

ギャラリーたちの言っている天才ゲーマーMという人物がどれだけ凄いのかはわからなかったが、A- RISEに例えたことにより、少しは凄さを理解したみたいだった。

 

ギャラリーたちは奏夜のプレイを賞賛し、あっという間に人だかりはなくなるのであった。

 

「やれやれ……。悪いけど、ちょっと外の空気を吸ってくるよ」

 

人だかりにげんなりした奏夜は、気分を落ち着かせるために一度外に出ることにした。

 

「わかりました。私はみんなを探して合流しますね」

 

奏夜は海未にこう伝えてからゲームセンターの入り口の方に向かっていき、海未は店内に残る他のメンバーを探し始めた。

 

「ふぃ〜……。疲れたっと……」

 

バンバンシューティングの難易度が高く、それなりに良い鍛錬が出来た奏夜は、大きく伸びをしていた。

 

すると、ゲームセンターから見ることが出来るUTX高校のモニターを眺める穂乃果の姿があった。

 

「……?穂乃果?」

 

「……あ、そーくんだ!どうしたの?」

 

穂乃果は何か考えてる様子だったが、奏夜の存在に気付き、いつものように人なつっこい笑みを浮かべていた。

 

「俺はさっきまでゲームしてたからな。休憩と思ってな」

 

「もう!せっかくそーくんとプリクラ撮りたかったのに、断ってどっか行っちゃうんだもん!」

 

穂乃果は未だにプリクラを断られたのが不満だったのか、ぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「悪い悪い。魔戒騎士の鍛錬を兼ねてシューティングゲームをしてたからさ」

 

『ったく、お前ってやつは、魔戒騎士の鍛錬をなんだと思ってるんだよ……』

 

そんな奏夜に、キルバはただただ呆れるばかりだった。

 

「……それはそうと、穂乃果はこんなところで何をしていたんだ?」

 

「希ちゃんにジュースを渡そうと思って外まで探してたの。もう希ちゃんは店の中に入ったんだけど」

 

「そっか」

 

奏夜はあっさりと答えると、これ以上何も追求はしてこなかった。

 

穂乃果は、さらにしつこく何かを聞かれると思っていたため、少しだけ拍子抜けしていた。

 

「……ねぇ、そーくん。聞かないの?穂乃果がラブライブに出なくていいって思ってるのかを」

 

「そりゃ、聞きたいに決まってるさ。だが、それを聞いて素直に教えてくれるか?」

 

「そ、それは……」

 

「……ま、そういうことだ」

 

奏夜は、穂乃果の口から直接ラブライブに出なくても良いと思っている理由を聞き出したいと思っていた。

 

しかし、奏夜は穂乃果の気持ちを察しており、聞いたところで答えないと考えたため、追求はしなかったのである。

 

「……そーくんは、やっぱりラブライブに出たいって思う?」

 

「んー……。出るといっても俺は直接パフォーマンスをする訳じゃないしな。だからこそ、みんなの意思を尊重したいと思ったんだ」

 

「そーくん……」

 

奏夜は奏夜なりに気を遣っており、それを感じることが出来た穂乃果はただただ嬉しい気持ちでいっぱいになるのであった。

 

「ただ、これだけは頭に入れておいてくれ。ラブライブは来年の3月に行われる。3月には3年生は卒業し、4月には雪穂や亜理沙は音ノ木坂に通わなかったとしても高校生になる」

 

「……!」

 

「その意味は……わかるよな?」

 

「……」

穂乃果は奏夜の言葉の意味を考えているのか、何も語ることなく俯いてしまった。

 

奏夜は穂乃果に考える時間を与えるため、そのままゲームセンターの中に入ろうとしたのだが……。

 

「……奏夜、穂乃果。ここにいたのですね」

 

海未は他のμ'sメンバーと共に外に出て、奏夜や穂乃果と合流したのであった。

 

「ああ、悪い悪い。もうちょっとしたら店に戻ろうと思ってたところだったんだよ」

 

「私も……。まぁ、そんな感じかな?」

 

「だいぶ暗くなってきたし、そろそろ帰らない?」

 

「あ、うん。そうだね」

 

花陽は今日は解散しようと提案しており、穂乃果はそれに乗ることにした。

 

そのため、そのまま解散になると思われたのだが……。

 

『……おい、奏夜。残念ながら指令のようだ。ロデルの鳩がこちらに向かっているぞ』

 

キルバは、指令書を運んでいるロデルの使い魔である鳩の存在を察知し、それを奏夜に伝えていた。

 

「そうみたいだな……」

 

鳩の姿は遠くて見えにくいものの、奏夜は鳩の存在を目視していた。

 

「みんな、悪い。どうやら指令が来たみたいだから、俺はこれで……」

 

「そーや君、またお仕事なんだね……」

 

奏夜がこれからホラーと戦いに行くことを知り、凛は悲しそうな表情をしていた。

 

「凛、そんな表情はするなって。明日学校で会えるさ。信じて待っててくれ」

 

「うん……。凛はそーや君のこと、信じてるからね!」

 

命を落としてもおかしくないホラーとの戦いではあったが、奏夜は凛を安心させる言葉を送っており、その言葉に、凛だけではなく他のメンバーも頷いていた。

 

「それじゃあ、みんな。また明日な」

 

“また明日”

 

この言葉は、穂乃果たち安心させるにはかなり効果的な言葉であり、そんな言葉を残しつつ、奏夜は穂乃果たちと別れるのであった。

 

そしてすぐにロデルの使い魔である鳩から赤の指令書を受け取ると、その鳩は番犬所に向かって飛んで行くのであった。

 

奏夜は魔導ライターを取り出すと、指令所を燃やし、魔戒語の文章を浮かび上がらせることで、指令の内容を確認するのだった。

 

「……銃に魅入られしホラーが出現し、人を襲っている。ただちに殲滅せよ。……か」

 

『ホラー、ガンホードか。ホラーのくせに飛び道具の武器が好きで、最近は銃に魅入られてる変わり者のホラーだ』

 

「銃に魅入られたホラー……か」

 

キルバのホラー解説を聞いた奏夜は、何故かニヤリと笑みを浮かべていた。

 

『?どうしたんだ?奏夜』

 

「キルバ。さっき俺はゲームで特訓しただろ?それが無駄じゃなかったってことを証明してやるよ」

どうやら奏夜は、先ほどの特訓の成果をキルバに見せつけようと考えていた。

 

『ったく……。勝手にしろ』

 

そんな奏夜にキルバは呆れながらも、ホラーの捜索を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜がホラー捜索を始めてからおよそ1時間が経過していた。

 

外は既に暗くなっており、ホラーが行動を開始する時間帯となるのであった。

 

そんな中、秋葉原某所にある今は使われていない廃工場にて、銃を持った男同志の物騒な争いが行われようとしていた。

 

男の1人がその銃を発砲しようとするのだが、その前にもう1人の男が素早い動きで接近し、男をなぎ倒すのであった。

 

男は、そのまま気絶し、手にしていた銃は床に転がり落ちるのだが、もう1人の男がその銃を拾うのであった。

 

「グヘヘ……。なかなかいい銃じゃねぇか……」

 

先ほど倒した人間から奪った銃を眺めながら、男はうっとりとするのであった。

 

「やっぱり拳銃はこうでなくちゃな……。早く試し撃ちがしてぇ!」

 

どうやらこの男は銃に魅入られているようであり、それだけでは飽き足らず、その銃の性能も確かめようとしていた。

 

「こいつの頭をぶち抜けばいいか。それで食っちまえば証拠は残らねぇ。まさに一石二鳥だな」

 

男は奪った銃を使って気絶している男を射殺し、食らおうと物騒なことを口走っていた。

 

そんな中、男は銃を構えてそのまま銃を発砲しようとするのだが……。

 

「……それはちょっと待った方がいいな」

 

「あぁん?なんだぁ?」

 

いきなり声が聞こえてきたため、男はその方を向くと、茶色のロングコートを着た少年が立っていた。

 

その手にはライターが握られており、少年はそのライターから火を放つのであった。

 

その火は男の瞳を照らすのだが、男の瞳からは不気味な文字のようなものが浮かび上がってきた。

 

「……ったく……。銃が好きで、試し撃ちがしたいだなんて、あまりに趣味が悪過ぎるよ……」

 

この茶色のロングコートを着ている少年は奏夜であり、奏夜はホラーの気配を追って、ここまでたどり着いたのである。

 

「それに、ずいぶんとひどいことを……。って言いたいところだけど、この人も銃を持ってた訳だし、いいお灸にはなったのかな?」

現在気絶している男は、明らかに暴力団系の男であり、奏夜はそこまで気絶している男に同情はしなかった。

 

「てめぇ……!魔戒騎士か!ちょうどいい!!てめぇ相手に銃の試し撃ちをさせてもらうぜ!」

 

男は銃口を奏夜に向けると、すかさず銃を発砲した。

 

奏夜は至近距離であるにもかかわらずその銃撃を回避し、すぐに蹴りを放って男を吹き飛ばすのであった。

 

「て、てめぇ……!よくもかわしやがったな!」

 

男は、奏夜が銃による砲撃をかわすとは思っていなかったため、驚きを隠せなかった。

 

「ふふん……。来いよ!」

 

「てめぇ!ぶっ殺す!」

 

奏夜はあからさまな挑発を行っていたのだが、男はそれを受けて怒りを露わにしており、銃を連続で発砲するのであった。

 

奏夜は魔戒剣を抜くと、2度3度と魔戒剣を振るい、全ての銃撃を防ぐのであった。

 

「何!?てめぇ……!」

 

「わかりやすい軌道だな。こりゃ、ゲームの敵の方が狙いがややこしかったぜ」

 

バンバンシューティングに登場する雑魚敵も、普通に銃による攻撃を仕掛けてくるため、奏夜はこのようなことを言っていた。

 

「このガキが、調子に乗りやがって……。ぶっ殺してやる!」

 

奏夜の余裕な態度に激昂した男は、その姿を徐々に変えていき、ホラーの姿へ変わるのであった。

 

『奏夜!こいつがガンホードだ!油断するなよ!』

 

「ああ、わかってる!」

 

奏夜は改めて魔戒剣を構えると、ガンホードを睨みつけていた。

 

「生意気なガキめ……!てめぇの体にいくつも風穴を開けてやるぜ!」

 

ガンホードの両手はそれぞれ銃の形になっているのだが、奏夜を仕留めるためにそれらを交互に発砲するのであった。

 

奏夜は魔戒剣を振るったり、横に飛んだりしながらガンホードの攻撃を全てかわすのであった。

 

「チッ……。ちょこまかと……。だったら、こいつはどうだ!」

 

ガンホードは奪った銃を呼び出し、それによる攻撃を仕掛けることが可能なのだが、二丁の銃を奏夜の背後に設置し、それを発砲した。

 

「……!」

 

奏夜はどうやら背後の銃の気配に気付いていたのか、足を数歩ずらすことで二丁の銃の弾をかわすのであった。

 

「嘘だろ!?明らかにてめぇの背後を狙ってたのに……」

 

「銃による奇襲攻撃はあのゲームでもよくある手だからな……。むしろそっちの方が軌道が読めなくて厄介だぜ」

 

奏夜はガンホードの攻撃パターンが単調であることを推測しており、背後から攻撃が来ることを予想していたのであった。

 

「くそっ……!!だったら、こいつでどうだ!」

 

ガンホードは自分の近くに今まで奪ってきた銃を全て呼び出すのであった。

 

銃は拳銃だけではなく、軍や自衛隊が使うようなライフル銃や、ミニガンのような重火器も存在していた。

 

「ひぃ……ふぅ……みぃ……っと。やれやれ、ずいぶんと集めたもんだな……」

 

奏夜はガンホードが集めた銃の種類に少し驚きながらも、銃への異常な執着ぶりに少しだけ呆れていた。

 

「生意気な魔戒騎士のガキ!今度こそ風穴を開けてやるぜ!」

 

「悪いけど、そうはいかないな!」

 

奏夜がこのように啖呵を切ると、ガンホードは呼び出した銃を一斉に放つのであった。

 

さすがに全てを防げるわけではない奏夜は、横っ飛びで回避をすると、近くにあった物陰に隠れるのであった。

 

しかし、奏夜の隠れている場所も、銃弾によってゴリゴリ削られており、ここに隠れられるのも僅かであった。

 

「この銃弾の嵐は意外と厄介だな……。だけど!」

 

銃弾の嵐が止まない中、奏夜は魔戒剣を前方に突きつけると、そのまま円を描いた。

 

その部分のみ空間が変化し、奏夜は一瞬の隙を突いてその円に向かっていった。

 

円の中に入った奏夜は一瞬で黄金の輝きを放つ輝狼の鎧を身に纏うのであった。

 

しかし、その直後にガンホードの放つ銃弾が着弾し、奏夜は鎧を纏った状態ではあるものの、ガンホードの銃撃にさらされるのであった。

 

「ハハハハハ!!鎧を召還しようとしたみたいだが、所詮は小僧。俺の敵じゃねぇよ!」

 

激しい銃撃により、煙が立ち込めて奏夜の姿は見えなくなったのだが、ガンホードは勝ち誇っていたのであった。

 

しかし……。

 

「……それはどうかな?」

 

「!?何!?」

 

立ち込める煙から奏夜の声が聞こえ、ガンホードは驚愕するのであった。

 

やがて煙が晴れると、魔法衣を身に纏った奏夜の姿はそこにはなかったのだが、黄金の鎧に身を纏う奏夜の姿があるのであった。

 

「……!!馬鹿な……!あれだけの攻撃を受けて無傷だと!?」

 

鎧を纏ってから、銃弾の嵐を浴びたにもかかわらず、輝狼の鎧に傷1つついておらず、ガンホードは驚愕していた。

 

「この鎧はソウルメタルで出来てるんだ。そんな攻撃で傷を付けられると思うな!」

 

ガンホードの呼び出した銃は普通の銃であるため、ソウルメタルで作られた輝狼の鎧にダメージを与えることは出来ないのである。

 

「てめぇ……!鎧を纏ったからなんだって言うんだ!てめぇの体に風穴を開けてやるよ!」

 

奏夜の体に傷1つ付けられなかったガンホードは焦りを見せながらも、先ほど呼び出した銃を再び放つのであった。

 

奏夜はガンホードの放つ銃弾を受けながらもゆっくりとガンホードに接近するのであった。

 

「……くそ!何でビクともしねぇんだ!くそっ!くそぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

徐々に弾幕は激しくなるのだが、奏夜は歩みを止めなかった。

 

「……ホラー、ガンホード!銃に取り憑かれた貴様の陰我、俺が断ち切る!」

 

奏夜はガンホードの攻撃を全て受け止めながら接近すると、魔戒剣が変化した陽光剣を構えるのであった。

 

ガンホードが使っているのは銃であり、それを無計画に放っているため、すぐに弾切れを起こすのであった。

 

「くっ!弾切れか!」

 

弾切れによってガンホードは隙だらけになるのだが、奏夜はそこを見逃さなかった。

 

ガンホードへ一気に距離を詰めると、陽光剣を一閃し、ガンホードの体を真っ二つに切り裂くのであった。

 

「この俺が……こんな、小僧に……!」

 

奏夜のことを小僧と侮っていたガンホードは、このような言葉を残しながら消滅するのであった。

 

ガンホードが消滅したことを確認した奏夜は、鎧を解除すると、魔戒剣を緑の鞘に納めるのであった。

 

「……キルバ、今日の特訓は無駄になってないだろ?」

 

『確かにそうかもしれないが、最後は鎧でごり押ししただけだろ……』

 

難易度の高いゲームでの特訓により、奏夜はガンホードの攻撃全てを完璧に見切っていたのだが、最後は鎧で敵の攻撃を防いでおり、そのことにキルバは呆れていた。

 

「まぁまぁ。とりあえずは仕事は終わったんだ。帰るぞ、キルバ」

 

『ま、そうだな』

 

こうして、ホラー、ガンホードを討滅した奏夜は、そのまま帰路につくのであった。

 

しかし、穂乃果はラブライブに出ないことを表明しているが、他のメンバーは納得していなかった。

 

このままラブライブには出場しないのか?

 

またはこれから出場することになっていくのか?

 

全員が納得する形で事が収まるのは、もう少し先の話である……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ……。穂乃果以外の全員はラブライブに出たいみたいだな。奏夜、穂乃果。どうするつもりだ?次回、「太陽」その輝きは、闇をも照らす!』

 




唐突に現れた仮面ライダーエグゼイド要素(笑)

原作では「バンバンシューティング」は難易度が高くて製品化には至ってないみたいですが、今作では一部の店舗にのみ置かれた高難度のゲームという設定にさせてもらっています。

何故いきなり仮面ライダーネタを入れたかと言うと、来月でこの牙狼ライブは投稿開始から1年が経過します。

それを記念して前々からやりたいと思っていた仮面ライダーとのコラボをやろうと考えています。

内容についての詳細については活動報告で触れようと思っているのでそこを参照ください。

今回現れたホラーは、銃に取り憑かれたホラーですが、このホラーは、漫画版の「牙狼 魔戒ノ花」や、この作品の前作である白銀の刃に登場したヴェイケンナというホラーの銃バージョンというイメージになっています。

ヴェイケンナは、刃物の武器に取り憑かれたホラーであり、雷牙や統夜にあっさりと倒されたホラーでした。

このホラーも、奏夜にあっさりと倒されてしまいましたが……。

さて、次回はいよいよ二期の1話の終わりまで行きます。

太陽というタイトルは、1話を見た人なら「あっ……」と思うはずです(笑)

ここから先の展開と、来月投稿予定の1周年記念の番外編を是非たのしみにしていてください。

それでは、次回をお楽しみに!




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第58話 「太陽」

お待たせしました!第58話になります!

僕が現在ハマっているFF14と牙狼がコラボして、1年になります。

それを記念して、牙狼装備でとあるダンジョンに行くというイベントがあったのですが、それに参加させてもらいました。

絶狼の装備で参加しましたが、かなりやられまくりましたね(笑)でも楽しかったです!

この作品にも出てきたロフォカレとも戦いました。その前に集合写真も撮りましたが(笑)

詳細はFF14のサイトの日記に書いてますので、こちらをご参照ください。

https://jp.finalfantasyxiv.com/lodestone/character/16492123/blog/3690836/

さて、前置きがかなり長くなりましたが、奏夜たちは果たしてラブライブに出るのか?それとも出ないのか?

それでは、第58話をどうぞ!





穂乃果は来年行われる第2回ラブライブへ出場しなくても良いとメンバーに告げていた。

 

他のメンバーはそんな穂乃果に戸惑いながらも、穂乃果は遊びに行くことを提案する。

 

奏夜は何故穂乃果がラブライブに出ないことを言い出したのかを察していたが、あえて追求することはしなかった。

 

μ'sメンバーで遊んでいたのだが、解散前にホラー討滅の指令が来る。

 

奏夜はその指令によって、ホラー、ガンホードを討滅するのであった。

 

そして翌日、奏夜はいつものように学校へと通っていた。

 

その日の昼休み、昼食を食べ終えた奏夜は、外の空気を吸うために屋上に来ていた。

 

奏夜は休み時間や昼休みに屋上に来ることは度々あり、考え事がある時は大抵ここへ来ている。

 

奏夜が屋上で休暇をしていたその時であった。

 

「……奏夜君、ここにいたんやね」

 

屋上にやってきた希が奏夜を見つけて声をかけてきた。

 

どうやら、奏夜を探していたみたいだった。

 

「……ん?どうしたんだ?希」

 

「奏夜君に話があってな探していたんよ」

 

「俺に話……?」

 

「奏夜君、穂乃果ちゃんはラブライブに出ないって言ってたやろ?」

 

どうやら、希の話というのは、穂乃果に関してのことみたいだった。

 

「奏夜君なら何か知ってるかと思ってな」

 

「なるほどな……。とは言っても俺も穂乃果の真意はわかってないけどな」

 

奏夜は穂乃果が何を考えているのかを察しているものの、わかっていないというのは本当だったため、このような返答をしたのであった。

 

「そうなんや……。奏夜君は穂乃果ちゃんと仲がいいから、何か知っとると思ったんやけどな……」

 

奏夜が自分の求めている情報を持っていないとわかり、希は落胆を隠せずにいた。

 

「……なぁ、希。希もやっぱりラブライブには出たいって思うか?」

 

「……そうやね。ウチら3年生にとっては最後のチャンスやし、エリチもにこっちも出たいって思っとるよ」

 

「……やっぱり、そうだよな」

 

奏夜がホラー、ガンホードと戦っている間、奏夜と穂乃果以外の全員は、LAINのグループ通話で、本当にラブライブに出なくて良いのかということを話し合っていた。

 

そんな中、にこはメンバーの中で1番ラブライブへの思いが強く、参加の意思を強く表明するのであった。

 

「……確かに穂乃果はラブライブに出ないとは言ってはいるが、俺は心配はいらないと思ってるけどな」

 

「え?」

 

奏夜の言葉は意外なものであったからか、希は驚きを隠せなかった。

 

「だって俺たちは今まで色んな困難に向かってきただろ?この問題もすぐに解決するさ。……ほんのちょっとのきっかけがあればな」

 

奏夜は穂乃果の事情を察しているため、その気になればすぐにこの問題を解決出来るのだが、それだとμ'sのためにならないと判断したため、積極的に動かないのである。

 

「なるほどなぁ……。確かにそうかもしれないね」

 

奏夜の言葉を聞いた希は、少しだけ気が楽になったからか、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

「それに、にこはラブライブへの思いが強いだろ?きっとそう遠くないうちに動き出すだろうさ」

 

奏夜は、自らが手を下さなくても、この問題はμ'sメンバーだけで解決出来ると確信していた。

 

これもまた、奏夜がこの問題に積極的に関わらない理由なのである。

 

「……どうやら、そうみたいやね。カードもそう言うとるみたいやし」

希はすかさずタロットカードを1枚取り出すのだが、そのカードを見て、ウンウンと頷いていた。

 

「やっぱり奏夜君に相談して正解やったわ♪それじゃあ、放課後は生徒会の仕事、頑張ってな♪」

 

希は清々しい表情で奏夜に礼を言うと、そのまま屋上を後にするのであった。

 

「……」

 

奏夜はそんな希を穏やかな表情で微笑みながら見送っていた。

 

『……おい、奏夜。穂乃果が何故ラブライブに出ないと言ったのか、希に教えなくても良かったのか?』

 

「いいんだよ。この問題は俺の口出しするべき問題じゃない。あいつらが穂乃果の気持ちに気付いて決断を下す必要があるのさ」

 

『ほう……?お前のことだから何でもかんでも介入すると思っていたが、随分と冷静なんだな』

 

「まぁ、少し前の俺なら余計なお節介をしてたかもな。だけど、なんでもかんでも介入するのがみんなのためにはならないって気付いたんだよ」

 

『ま、それが気付けただけでもお前の成長が窺えるな』

 

キルバは奏夜が魔戒騎士としてだけではなく、1人の人間として大きく成長してきたことを実感するのであった。

 

「珍しいな、キルバが素直に俺のことを褒めるなんてな」

 

『ま、俺もたまにはな』

 

奏夜はキルバが素直に自分のことを認めてくれたことに驚くのだが、キルバは奏夜の成長を素直に認めているからこそ、いつもの厳しい言葉ではなく、このような言葉を送ったのである。

 

「それはともかくとして、頑張れよ、みんな……」

 

奏夜はキルバにも聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟くと、そのまま屋上を後にして、教室に戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後、奏夜は生徒会の仕事を行うため、生徒会室に来ていた。

 

副会長としての仕事はまだまだあるため、奏夜は真剣な表情で書類と格闘しているのであった。

 

「う〜ん……」

 

奏夜は次々と書類をこなしていくのだが、とあるタイミングでペンが止まり、何かを考えているみたいだった。

 

『おい、奏夜。それって穂乃果がやるべき仕事なんだろ?そんなところまで手を出していいのか?』

 

「確かにそれはそうなんだけどな。穂乃果の仕事が溜まってるし、多少は手伝おうと思ってな」

 

『やれやれ……。海未にどやされても知らないぞ』

 

「そこはわかってるって」

 

奏夜は海未にどやされるとわかっていながらも、多少は穂乃果がやるべき仕事を手伝おうと考えていたのであった。

 

すると……。

 

「……あれ?奏夜1人だけですか?」

 

別の仕事をしていた海未とことりが生徒会室に入ってくると、海未は奏夜しかいないことに驚いていた。

 

「奏夜君、穂乃果ちゃんはどこに行ったか知らない?」

 

「さぁな。昨日の書類を職員室にまで出しに行ったが、どこで油を売ってるのやら……」

 

奏夜が1人になる15分程前に、穂乃果は昨日の書類を職員室に持って行ったのだが、それっきり帰ってきていない。

 

「全く……。まだやらなければいけない仕事はあるというのに……」

今日からμ'sの練習は始まるのだが、その前に奏夜たちは少しでも仕事を終わらせようと早めに生徒会の仕事をしていたこである。

 

穂乃果は何かあって遅れてるのかサボってるのかはわからないが、今穂乃果がいないことに、海未は怒っていた。

 

「……それに奏夜!あなた、穂乃果のやるべき仕事にまで手を伸ばしてますね?」

海未は奏夜の方をチラッと見て、何枚かの書類を見ただけで、奏夜が余計な仕事をしているとわかったのであった。

 

「えっ、えっと……」

奏夜は海未にどやされるとわかっていながらも、言い訳を必死に考えていた。

 

すると……。

 

「……お前たち、ここにいたのだな」

 

奏夜たちに用事があるのか、剣斗が生徒会室に入ってきたのであった。

 

「剣斗、どうしたんだ?」

 

「さっき穂乃果とにこが玄関にいるのを見かけてな。お前たちはこれから練習ではなかったのか?」

 

剣斗は、玄関で見たことをすぐ奏夜たちに報告するのであった。

 

「穂乃果とにこが?いったいどこへ行こうと言うのですか?」

 

「わからないが、にこが穂乃果を連れ出したんだろう。ラブライブのことで話をしたくてな」

 

「確かに、にこちゃんは1番ラブライブに出たがってはいたけど……」

 

「うむ。それならば確かめてきたら良いのではないか?他のメンバーは既に向かっているぞ」

 

どうやら剣斗は、μ'sメンバーにこのことを伝えていたようであり、奏夜たちが最後であった。

 

「ですが、生徒会の仕事が……」

 

「どちらにせよ、ラブライブに出る出ないはハッキリさけておかないとな。それに、穂乃果がいないと生徒会の仕事もままならないだろ?」

海未は生徒会の仕事が残っていることを心配していたが、奏夜はこのように海未を説得していた。

 

「そうですね……。奏夜、ことり!行きましょう!」

 

「そうだね!」

 

「もちろんだ!」

 

「ここの片付けは私がしておこう。だから行ってくるといいぞ」

 

「悪いな、剣斗。頼んだ!」

 

穂乃果やにこを追いかけるにも生徒会室をこのままには出来なかったが、片付けは剣斗がしてくれるとのことだったので、奏夜たちは生徒会室を後にして、穂乃果やにこを探すのであった。

 

「……どちらを選ぶにせよ、後悔のないようにするのだぞ……」

 

奏夜たちを見送る剣斗は、このように呟くのであった。

 

学校を出る前に、玄関で他のメンバーと合流した奏夜たちは、2人が行きそうな場所と判断し、神田明神へ向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜たちは神田明神へ到着すると、既に穂乃果とにこは来ていた。

 

「お前たち、こんなところにいたんだな……」

 

「!そーくん、みんな……」

 

穂乃果は、奏夜たちもこの場へ駆けつけてきたことに驚いていた。

 

「にこ、お前はこれから何かをしようって言うんだな?」

 

「そうよ。だから邪魔しないでくれる?」

 

にこは奏夜に止められると思ったのか少しだけ警戒するのであった。

 

「俺は別に邪魔するつもりはないけどな」

 

「え?」

 

奏夜の言葉が思いがけないものだったからか、にこは驚きを隠せなかった。

 

「ただ……。うまくやれよ」

 

奏夜はにこにこう言い残すと、階段を上り、上からにこと穂乃果のやり取りを見守ることにした。

 

「あっ、奏夜!」

 

海未はそんな奏夜を慌てて追いかけ、他のメンバーもそれに続いた。

 

『どうやらにこの奴、ラブライブに出ないと言う穂乃果を焚き付けるためにここへ呼び出したみたいだな』

 

「そうらしいな。おそらくにこの奴は、ここの石段ダッシュのレースでもするつもりなんだろう。自分が勝ったらラブライブに出るって条件を付けてな」

 

キルバと奏夜は、にこが何故穂乃果をこの神田明神へ呼び出したのか、目的を察していた。

 

「穂乃果ちゃんをやる気にさせたいのはわかるけど……」

 

「強引ですね……」

 

奏夜と共に穂乃果やにこのやり取りを見守っていることりと海未は心配そうな表情で呟いていた。

 

「……ま、遅かれ早かれにこの奴は動くと思ったが、思ったよりも早かったな」

 

「奏夜君、今日の昼休みに、ちょっとのきっかけがあればなんとかなるって言ってたけど、にこっちがこんなことをするってわかってたん?」

 

「まぁな……。昼の時も言ったが、にこはラブライブに対して特別な思いを持ってるだろ?だから、ラブライブに出ないと聞いてそのまま引き下がる訳はないと思ったんだよ」

 

奏夜は今回の問題を静観していたのは、穂乃果たちだけの力でこの問題を解決して欲しいという思いも当然あったのだが、自分が動かなくても自然と解決へ向かっていくことをわかっていたからである。

 

「なるほど……。今回の問題に積極的に関わらないのは何故かと思ってましたが……」

 

「そうね。私も奏夜らしくはないと思っていたわ。ま、話を聞いてしまえばやっぱり奏夜らしいと思ったけどね」

 

海未と真姫は穂乃果がラブライブに出ないと言っても冷静だった奏夜が不可解だったのだが、先ほどの話を聞き、納得したみたいだった。

 

「……お、始まったみたいだぞ」

 

どうやらにこと穂乃果は本当に神田明神の石段を使って競争を始めており、にこがフライング気味にスタートしていた。

 

(ったく……。にこのやつ、そこまでしてでもラブライブに出たいんだな……。その気持ちをしっかり伝えれれば、きっと……)

 

奏夜はこのようなことを考えながら、2人の競争の行方を見守っていた。

 

そんな中、にこはつまずいてしまったのか、途中で転んでしまうのであった。

 

穂乃果は競争しているということを忘れ、にこに駆け寄るのであった。

 

その結果、競争はうやむやとなってしまったのである。

 

タイミングが悪く雨が降ってきたので、奏夜たちは雨宿りをしながら話をすることにした。

 

「ねぇ、昨日そーくんから聞いたんだけど、次のラブライブって、来年の3月なんだよねぇ……?」

 

「穂乃果の言う通りよ。ラブライブが行われるのは来年の3月。3月には私たち3年生は卒業しちゃうから、こうしていられるのもあと半年なのよ」

 

「……」

 

ラブライブに出る出ないに関わらず、このメンバーで活動できるのはあと僅かなのである。

 

奏夜は、このメンバーでの活動に終わりが見えてきたことに対して悲痛な表情を浮かべていた。

 

「それに、スクールアイドルでいられるのは、在学中だけ」

 

「そんな……」

 

絵里と希の言葉を聞いたことにより、改めてこのメンバーでの活動に終わりが見えてきたことを感じた穂乃果は、言葉を失っていた。

 

『ここまで聞いたらお前も察しただろ?ラブライブに出る出ないは勝手だが、出ないとなったら、このメンバーで何かに取り組むということはもう出来ないだろうな』

 

「キルバの言う通りよ。本音としてはずっと続けたいって思うわ。実際に卒業したからもプロを目指す人だっているくらいだもの。ただ、この9人でラブライブ に出られるのは今回が最後なの」

 

絵里の言葉通り、スクールアイドルを卒業した後も、プロのアイドルを目指して活動しているグループはたくさんあり、実際にプロとして活躍しているグループも少なくない。

 

しかし、絵里たち3年生がそのようにアイドルを続けたとしても、この9人でライブをするということは叶わないのである。

 

「やっぱり……。みんな……」

 

「私たちも同じ気持ちだよ!たとえ予選で落ちちゃったとしても、この9人で頑張ったっていう足跡を残したい!」

 

「凛もそう思うにゃ!」

 

「やってみても、いいんじゃないの?」

 

3年生組だけではなく、1年生組もまた、ラブライブに出たいという思いを穂乃果に伝えていた。

 

「……ことりちゃんと海未ちゃんは?」

「私は、穂乃果ちゃんが選んだ道なら、どこへでも♪」

 

「ええ!私も同じ気持ちです!」

 

ことりと海未は、ラブライブに出たいとハッキリとは言わなかったが、穂乃果の決断に従うことを伝えていた。

 

「……そーくん。そーくんは、どうなの?」

 

そして穂乃果は、μ'sのマネージャーである奏夜にも、ラブライブに出たいかどうかを聞こうとしていた。

 

(……ま、そろそろ俺も口を出してもいいよな?)

 

今までラブライブに対しての明言を避けてきた奏夜であったが、ここでようやく自分の考えてることを話すことにしたのである。

 

「……穂乃果。お前の考えてる事はお見通しだ。どうせ、また自分のせいでみんなに迷惑をかけたくないって思ってんだろ?」

 

「!?」

 

奏夜の指摘が図星だったからか、穂乃果は驚きを隠せなかった。

 

「ラブライブに夢中で周りが見えなくなって、生徒会長として、みんなに迷惑をかけるようなことはあってはならないってところか?」

 

穂乃果はかつて、ラブライブしか見えてなくて、自分の体調を鑑みることはなく、ことりの真意にも気づけなかった。

 

そんな大きな失敗を体験したからこそ、穂乃果はラブライブに対して慎重になっていると奏夜は推測したのであった。

 

「アハハ……。さすがそーくん。お見通しだったか……」

 

どうやら奏夜の推測は当たっているみたいであり、穂乃果は苦笑いをしていた。

 

「始めたばかりの頃は、何も考えないで出来たのに、今は何をやるべきかわからなくなる時があるんだ……」

 

『それはな、お前も少しは周りが見えるようになってきた証拠だ。お前も少しは大人になったってことだな』

 

「エヘヘ……。そうかな?」

 

キルバに素直な言葉で褒められ、穂乃果は少しだけ照れ臭そうに笑っていた。

 

「それでも、やっぱり1度は夢見た舞台だもん!やっぱり私だって出たい!生徒会長をやりながらだから、またみんなに迷惑をかけるかもだけど、本当はものすごく出たいよ!」

 

これこそが、穂乃果が今まで隠してきたまごうことなき本音であった。

 

「……ったく……。やっと本音を言ってくれたな……」

 

奏夜は穂乃果の真意を察してはいたものの、ここで初めて本音を聞いたため、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

奏夜が笑みを浮かべていると、穂乃果以外のメンバーが穂乃果の前に1列に並ぶのであった。

 

「みんな、どうしたの?」

 

「穂乃果、忘れたのですか?」

 

「え……?」

 

海未の言葉に穂乃果が戸惑っていたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『♪だって、可能性、感じたんだ。そうだ、進め〜』

 

「!?」

 

「ほう……」

 

穂乃果と奏夜以外の8人が急に歌い出し、穂乃果は驚き、奏夜は笑みを浮かべていた。

 

『♪後悔したくない、目の前に〜』

 

「♪僕らの道がある〜♪」

 

8人の思いを受け取る形で、穂乃果は1人でこのフレーズのみを歌うのであった。

 

そして、8人は、穂乃果に対して「やろう!」と伝えていた。

 

「よぉし!やろう!ラブライブに出よう!!」

 

穂乃果のやる気スイッチが入り、気合が入ったからか、穂乃果は雨宿りをしている場合から離れるのであった。

 

未だに雨は降っており、雨の一粒一粒が穂乃果の体に当たってゆく。

 

「ほ、穂乃果……?」

 

進んで雨に打たれる穂乃果に、奏夜だけではなく、他のメンバーも困惑していた。

 

そして……。

 

「雨やめえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

穂乃果は大きく息を吸い込むと、このように叫ぶのであった。

 

『やれやれ……。何をやってるんだか……』

 

「そうだよな。そんなんで雨がやめば苦労は……」

 

苦労はない。

 

奏夜がそのように断言しようとしたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?う、嘘だろ……!?」

 

先程まで空を包んでいた雨雲がどこかへと移動し、青空が顔を出すのであった。

 

まさか本当に雨が止むとは思っていなかったため、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

それは他のメンバーも同様なのだが……。

 

「本当に止んだ!人間その気になれば、なんだって出来るんだよ!!」

 

本当に雨が止むとは思わなかったからか、穂乃果も驚きを隠せずにいたが、本当に雨が止んだという事実に、朗らかな表情になっていた。

 

「んなアホな……」

 

『天候を操るとか、魔戒法師かよ……』

 

穂乃果のこの強気な発言に、奏夜とキルバは呆れるのであった。

 

「ただラブライブに出場するだけじゃもったいない!この9人で残せる最高の結果……。優勝を目指そう!」

 

穂乃果は、天を指差しながらとんでもないことを宣言するのであった。

 

「優勝!!?」

 

「そこまで行っちゃうの!?」

 

「大きく出たわね!」

 

穂乃果の宣言があまりにもとんでもないものだったため、海未、凛、にこの3人は驚きの声をあげていた。

 

「面白そうやん♪」

 

希もまた、穂乃果の宣言に驚いてはいたものの、全力でその話に乗ろうとしていたのであった。

 

そんな穂乃果の宣言に、奏夜も当然驚いていたのだが……。

 

「……くくくく……。ハハハハハ!ハハハハハ!」

 

奏夜にとって何かおかしいと思うところがあったからか、奏夜は今まで誰にも見せたことのない感じで大きく笑うのであった。

 

「そ、そーくん!?何で笑うの?私は真剣に言ってるのに!」

 

「ハハ……。別に馬鹿にはしてないさ。だが、それでこそ、μ'sのリーダーの高坂穂乃果だなと思ってな……」

 

ここまで無謀とも言える宣言を言ってのけるのは穂乃果らしいと思ったからこそ、奏夜はおかしくなり、笑っていたのである。

 

「ラブライブで優勝ってことは、あのA- RISEでさえも蹴落として優勝を目指すことになる。当然、練習は大変になるが、生徒会長をしながらそれをこなす覚悟はあるか?」

 

穂乃果の決意は確固たるものだと奏夜はわかっていたが、あえてこのような問いかけをぶつけるのであった。

 

「もちろんだよ!確かに大変なのはわかってる!ラブライブの、あの大きな会場で精一杯歌って、私たち、1番になろう!!」

 

「だったら……。俺からとやかく言うことはあまりないな……」

 

改めて穂乃果が本気でラブライブの優勝を目指していることを知り、奏夜は反対意見を出すことはしなかった。

 

そして……。

 

「……みんなが本気でラブライブ優勝を目指そうとしてるのはわかった。だったら、俺も覚悟を決めさせてもらうよ」

 

「そーくん……」

 

「奏夜……」

 

奏夜の覚悟を決めるという発言に、穂乃果と絵里は息を飲んでおり、他のメンバーも、ジッと奏夜のことを見るのであった。

 

奏夜は穂乃果たちから少しだけ離れた場所へと移動した。

 

そして……。

 

「俺は誓うぜ!μ'sのマネージャーとして、そして、輝狼の称号を持つ魔戒騎士として、お前たちを絶対にラブライブ 優勝という高みへ導いていくってな!」

 

「奏夜……」

 

「そーくん♪」

 

奏夜の宣誓に、海未はじっと耳を傾けており、ことりは笑みを浮かべていた。

 

「大きな夢に向かって進むお前らの邪魔は誰にもさせはしない。邪魔する者が現れるなら……」

 

奏夜のいう邪魔をする者というのは、ホラーのことであった。

 

穂乃果は何度かホラーに襲われ、それを奏夜に救われたため、これからもそのようなことがあると思ったからである。

 

そんな中、奏夜は魔戒剣を抜くと、それを上空に突き付けるのであった。

 

「……この剣で斬り裂いてやるさ!俺は何があろうと俺は絶対にみんなを守ってやる!安心してラブライブに専念してくれ!」

 

奏夜は、穂乃果たちの夢を、ホラーに潰させないために、このような誓いを立てたのであった。

 

「奏夜君……!」

 

「そーや君♪」

 

「奏夜!」

 

奏夜の立てた誓いは少し照れ臭かったものの、その言葉は何よりも嬉しいものであり、1年生組は歓喜の声をあげていた。

 

「だからこそ、ラブライブに出よう!みんなの力で優勝を勝ち取るんだ!」

 

「「奏夜!」」

 

「奏夜君!」

 

奏夜の口からラブライブに出ることを告げられ、3年生組の表情も明るくなっていた。

 

自分の覚悟を伝えた奏夜は魔戒剣を鞘に納め、魔法衣の裏地の中にしまうのであった。

 

「そーくん……。一緒に頑張ろう!ラブライブ優勝に向けて頑張るから、私たちのことを支えてね♪」

 

「もちろんだ!だから、一緒に頑張ろうな!」

 

「うん!」

 

こうして、奏夜たちの気持ちは1つとなり、ラブライブへ出場する意思を固めるのであった。

 

優勝という、遥かなる高みを目指して……。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜たちが音ノ木坂学院のスクールアイドル、μ'sのメンバーとして、ラブライブへ出場することを決意し、奏夜そのまま神田明神を後にして、学校へと向かっていた。

 

「……ん?」

 

その途中、奏夜は何かを感じ取ったからからか、足を止めるのであった。

 

「そーくん、どうしたの?」

 

いきなり奏夜が足を止めたため、穂乃果は首を傾げていた。

 

「悪い。1つだけ用事があったのを思い出してな。先に学校に戻っててくれないか?」

 

「それは構わないのですが……。その用事とは?」

 

「別に大した用事ではないさ。すぐに済ませて合流するから、先に行っててくれ」

 

海未は奏夜の用事というのが気になっていたが、奏夜はそれを語ろうとはしなかった。

 

「わ、わかったよ。そーくん、なるべく早く来てね」

 

「そうよ。マネージャーのあんたがいないと何も始まらないんだからね」

 

「わかってるって。あ、それと、学校に戻ったら、剣斗にもラブライブに出ることを伝えておいてくれないか?」

 

「ま、そのつもりだったしね。構わないわ」

 

奏夜は、今この場にいない剣斗にも、ラブライブへ出ることを伝えたかったのだが、その役目を穂乃果たちにお願いするのであった。

 

真姫が全員を代表してその話受けており、髪の先端をクルクルと回しながら答えるのであった。

 

「きっと、小津先生のことだから……」

 

「……イイ!とてもイイ!……って言いそうだにゃ♪」

 

「あのなぁ……」

 

凛は全力で剣斗のモノマネをしており、それを見た奏夜は苦笑いをしながら呆れていた。

 

「とりあえず、私たちは先に行ってるわね」

 

「奏夜君、また後でなぁ♪」

 

絵里と希が奏夜に別れの挨拶をすると、学校へ向かって歩いていき、他のメンバーもそれに続くのであった。

 

「……さてと……」

 

穂乃果たちがいなくなったのを確認すると、奏夜は周囲を見回していた。

 

そして……。

 

「……そろそろコソコソしないで出てきたらどうだ?これ以上隠れてても無駄だぞ」

 

実は奏夜は、昨日ホラーを討滅したあたりから誰かに見られてるような感覚を感じていた。

 

何者かが自分を見張っていることはわかっていたのだが、あえて泳がせていたのである。

 

奏夜は気配を感じ取った方角を向くと、そちらに殺気立った視線を向けていた。

 

すると……。

 

「アハハ……。さすが魔戒騎士だね。バレバレだったか」

 

苦笑いをしながら姿を現したのは、奏夜とそこまで年の離れていない少女だった。

 

その出で立ちは魔戒法師の着る法衣に似ているため、魔戒法師と思われる。

 

「お前、魔戒法師みたいだけど、何者だ?」

 

この魔戒法師の少女は、奏夜のことを遠く監視のようなことを行っていたため、奏夜は警戒という形で、少女に敵意を向けていた。

 

「アハハ……。そんなに怖い顔しないでよ。少なくても私はあなたの敵じゃないんだから」

 

この少女は自分は敵ではないことをアピールするのだが……。

 

「悪いけど、遠くからコソコソと監視のようなことをする奴の言葉を信用出来るか」

 

「それは本当にごめん!私、あなたの力を見たかったの!私はあるものを守らなきゃいけないんだけど、そのあなたがそれを守れるほどの力があるかどうか……」

 

どうやらこの少女は、奏夜のことを見ていたのも事情があってのことのようだった。

 

『奏夜。このお嬢ちゃんからは敵意は感じない。話くらいは聞いてみてもいいんじゃないのか?』

 

「ったく……。キルバがそう言うなら話くらいは聞いてやるよ」

 

普段から冷静沈着なキルバがこのように言っていたため、奏夜は少女の話を聞いてから敵かどうかを判断しようとしていた。

 

「やったぁ♪そこの魔導輪が話がわかるから助かるよ♪」

 

少女は、奏夜が話を聞いてくれるとわかり、ピョンピョンと跳ねながら喜んでいた。

 

その様子は年相応の少女であり、奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「あなたは確か如月奏夜だったよね?陽光騎士輝狼の」

 

「!?何で俺のことを」

 

少女は奏夜のことを知っているようであり、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「だってあなたはそれなりに有名だよ。スクールアイドルとかのマネージャーをしてる魔戒騎士で、最近頭角を現してる魔戒騎士だって」

 

少女の言う通り、奏夜がμ'sのマネージャーをしてるのは噂などで魔戒騎士や魔戒法師に広まっており、そんな奏夜の活動を奇妙に感じていた。

 

しかし、尊士を倒した実力は評価されており、その勇名が魔戒騎士や魔戒法師の間に広まっていったのである。

 

「そうだったのか……。それで、君は?」

 

「あ、そう言えば名前を言ってなかったね。私の名前はララ。見ての通り、魔戒法師だよ♪」

 

この少女…ララはこのように自己紹介をするのであった。

 

「なぁ、ところで、ララは何かを守ってるって言ってたが、それはいったいなんなんだ?」

 

奏夜は、ララが何かを守っていると聞いた時から、それの正体がずっと気になっていた。

 

「まぁ、詳しい話は番犬所でしようよ。どっちにしても、遅かれ早かれ番犬所に協力はしてもらわないとって思ってたし」

 

「そうだな……。とりあえず番犬所へ向かうぞ」

 

「うん!」

 

こうして奏夜は、ララから詳しい話を聞き出すために、番犬所へと向かうことになった。

 

如月奏夜と魔戒法師のララ。

 

この2人の出会いこそが、これから始まる激闘の序章になることを、奏夜は知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『あのお嬢ちゃん……。ララとか言ったか?まさか、そんな秘密を持っているとはな……。次回、「法師」。やれやれ。この展開は俺も予想外だぞ……』

 

 




雨を止ませるあのシーンは何回見ても凄いですよね(笑)

ちなみに穂乃果は「雨やめー!」ですが、「牙狼 VANITHING LINE」のルークは逆に「雨降れー!」ですよね(笑)

まぁ、ルークは人為的にやってはいますが(笑)

そして、まさかのララ登場だったと思います。

このララのモデルは、間違いなく「炎の刻印」に登場したあのララになっています。

魔戒法師になっているため、最初は名前を変えようと思いましたが、思いつかなかったので、そのまま使わせてもらいました(笑)

ララは今後のキーパーソンになっていくと思います。

これからどのように奏夜たちと関わっていくのか、楽しみにしていて下さい。

そして次回は、ラブライブ二期の2話に入る前に、オリジナルの話を入れようと思います。

そして、牙狼ライブ投稿1周年記念に仮面ライダーとのコラボを書くと活動報告でも書きましたが、まだアンケートは受け付けています。

良ければご協力いただけるとかなり嬉しいです(*^_^*)

それでは、次回をお楽しみに!



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第59話 「法師」

大変長らくお待たせしました!第59話になります!

僕が投稿しているこの牙狼ライブは、2月6日をもって、投稿してから1年が経ちました!

この1年は、FF14と共にあった1年でもあったため、あっという間な1年でした。

1年経っても文章力の成長はありませんが(笑)

こんな感じではありますが、これからも牙狼ライブをよろしくお願いします!

牙狼ライブ1周年記念作品も、現在ネタを詰めてるところです(笑)

さて、今回はララが何故秋葉原に来たのか明らかになります。

それでは、第59話をどうぞ!




来年の3月に第2回ラブライブが行われることになったのだが、穂乃果はそれに出なくても良いと言うのであった。

 

そんな穂乃果の真意がわからず、μ'sメンバーは戸惑うのであった。

 

そんな中、ラブライブへの思いを断ち切れないにこは、穂乃果を神田明神に呼び出し、とある勝負を申し出る。

 

その勝負は有耶無耶になったのだが、奏夜たちはラブライブへの思いを語り合うことで、穂乃果もラブライブへ出たいという本音を告白する。

 

それだけではなく、ラブライブに優勝するというあまりに大きな目標を掲げるのであった。

 

その直後、奏夜はララという少女と出会う。

 

この少女は魔戒法師であり、前から奏夜のことを遠くから監視をしていたのであった。

 

奏夜は初めは敵意を向けていたのだが、ララの年相応で無垢な対応に、キルバはララに敵意がないことをすぐに感じ取るのであった。

 

こうして奏夜は、ララと共に番犬所へ向かい、そこで話をすることになった。

 

「……お、来ましたね、奏夜」

 

2人が番犬所の中にある神官の間に入ると、ロデルは奏夜の姿を見つけて、すぐに声をかけるのであった。

 

「はい、ロデル様」

 

奏夜はロデルに声をかけられたため、深々と頭を下げるのであった。

 

ララもそれにつられて頭を下げる。

 

「奏夜、ラブライブが再び行われることは知っていますね?」

 

「はい。μ'sも参加するということを確認したところです」

 

ラブライブ出場を決めるまでは色々あったのだが、奏夜はあえてそこは伏せることにしたのであった。

 

「おぉ!それは楽しみです!A- RISEとの直接対決は厳しいでしょうが、私はそれを楽しみにしているのです!」

 

「はい。俺も、厳しいとは思ってますが、みんながA- RISEに負けないパフォーマンスが出来るよう、見守って行くつもりです」

 

「期待してますよ。……ところで奏夜。彼女は?見たところ魔戒法師のようですが……」

 

ロデルはここでようやく、ララの存在を認識するのであった。

 

「翡翠の番犬所の神官であるロデル様。お目にかかれて光栄です。私はララ。蒼哭の里から来た魔戒法師です」

 

ララは丁寧にロデルに挨拶をしており、改めて頭を下げるのであった。

 

「蒼哭の里……。確か、魔戒道を使わなければ行けない人里離れた場所に存在する集落でしたね?」

 

「はい。私は、その里に眠るとある物を守る使命を受けているのです」

 

「とある物?それはいったい……」

 

ロデルは、ララが守ろうとしているものの正体がわからず、首を傾げていた。

 

「……竜の眼……。この言葉に心当たりがあるのではないですか?」

 

「!?まさか、竜の眼って……!」

 

竜の眼というキーワードに奏夜は驚きを隠せないようであり、顔の色が青くなっていた。

 

「ええ、そうよ。私の里で守っているのは、とあるホラーが封じられた眼なの。そのホラー、ニーズヘッグを蘇らせようとしてるホラーがいるということを聞いたわ」

 

「まさか、もう1つの魔竜の眼がそんなところに隠されていたとはな……」

 

『道理で俺たちやジンガが血眼になって探しても見つからない訳だ』

 

ここで魔竜の眼に関する手がかりを掴めるとは思わなかったので、奏夜は驚いていた。

 

「そうかもね。それで、この里に魔竜の眼が眠ってることがバレるのも時間の問題だと思って、先手を取って眼を守ることにしたの」

 

どうやらララの守っているものというのは、奏夜たちが復活を阻止しようしている、ニーズヘッグの眼のようであった。

 

ララは、どこからか、何かしらの封印が施されている小型のケージのようなものを取り出すのであった。

 

「!もしかして、この中に……?」

 

「ええ。魔竜の眼が封印されているわ」

 

『やれやれ……。まさか、お嬢ちゃんが直接持っているとはな。その里に置いておいた方が安全ではないのか?』

 

「少し前まではそうだったからそうしてたわ。だけど、眼の存在がバレるのは時間の問題。里に魔竜の眼があると知られたら、里は危機に晒されることになる」

 

「もしかして、あなたは里を守るためにここへ来たというのですか?」

 

このロデルの問いかけに、ララは無言で頷くのであった。

 

「これは、蒼哭の里の長老から私に課せられた使命なんです。だからこそ私は里とこの眼を守らないと……」

 

ララは、故郷である蒼哭の里と、魔竜の眼を守るという重い使命を受けて、この秋葉原へとやってきたのである。

 

「まぁ、外の世界を見てみたいっていう気持ちもあったんだけどね♪」

 

それだけではなく、ララは里の外の世界のことを話でしか聞いていなかったため、外の世界にとても興味があったのであった。

 

だからこそ、この使命を受けることを了承したのである。

 

「ララの事情はわかるけど、蒼哭の里だって魔戒騎士や魔戒法師はいるだろ?彼らと協力して里を守るって発想はなかったのか?」

 

奏夜は、ララの話を聞いて疑問に感じたことをぶつけていた。

 

「確かにそうなんだけどね。蒼哭の里の人たちって、この里さえ助かれば他はどうでもいいって考えの人ばかりでね。だからこそ人里離れたところにあるんだけど……」

 

『お前は、そんな奴らのために利用されているという訳か』

 

キルバのこの追求に、ララは無言で頷いていた。

 

「それで、魔戒法師としては若い私がこっちへ行く事になってね。他の魔戒騎士や魔戒法師は里から出る訳にはいかず、里を守ってるって訳」

 

「何だよ、それ……!確かに、故郷を守ることは大事だとは思うけど、ララ1人に重い責任を押し付けることはないだろ……」

 

ララから蒼哭の里の体制について聞かされた奏夜は、怒りを露わにするのであった。

 

「なんで奏夜がそんなに怒るの?これは里の体制の話なんだし」

 

「それはわかってるけど……!」

 

『やれやれ……。これが奏夜の性格なんだよ』

 

「……ふーん……」

 

ララは、誰かのために怒ったり出来る奏夜の性格を知り、少しだけ頬を赤らめながら話を流していた。

 

「私はそんな里の体制を見ちゃってるから、魔戒騎士をあまり信用出来ないんだよねぇ」

 

『だとしたら、何故番犬所へ来たんだ?信用出来ない魔戒騎士に助けを求める理由はないだろう?』

 

「確かにね。だけど、信用出来ないからって協力しないなんて言ってられる状況じゃないんだよ。それに……」

 

「それに?」

 

「……奏夜だったら信用出来るかもって思えたんだ。だって、奏夜は誰かのために一生懸命になれる人でしょ?私、あなたのことを見てたけど、それは感じたんだ」

 

魔戒騎士だけではなく、μ'sのマネージャーをしている奏夜は、自分以外の誰かのために動ける人間であり、ララはそれを感じ取っていた。

 

「だからこそ、私は近いうちにあなたにコンタクトを取って、協力して欲しいと思ったの。……まぁ、バレちゃったけどね♪」

 

ララは蒼哭の里から離れて降り立ったこの秋葉原の地で、初めて奏夜を見たのは、絵里と一緒にカフェへ向かっているところであった。

 

奏夜の話は風の噂で聞いていたのであった。

 

若い魔戒騎士が、元魔戒騎士のホラーを討滅したということを。

 

絵里と行動を共にする奏夜を見て、ララは故郷である蒼哭の里の魔戒騎士とは違う雰囲気を持っていることをすぐに感じ取っていた。

 

だからこそ、それ以来奏夜のことを監視するようになったのだが、奏夜にすぐバレてしまったのであった。

 

「とりあえず、この翡翠の番犬所としては、あなたに協力を惜しまないつもりです。魔竜の眼を奪われる訳にはいきませんからね」

 

「ロデル様。ご協力、ありがとうございます」

 

番犬所が力を貸してくれると知り、ララは深々と頭を下げていた。

「急いで統夜やリンドウ。それに大輝と剣斗を呼び出して下さい。今後についての話をしたいと思っています」

 

「ハッ!かしこまりました!」

 

ロデルの付き人の秘書官2人は、統夜たちを呼び出す準備を行うのであった。

統夜たちの到着を待っているその時であった。

 

「……あれ?電話だ……」

 

奏夜の携帯が突如鳴り出したので、奏夜は携帯を取り出すのだが……。

 

「げっ!う、海未!?」

 

電話の相手は、なんと海未であった。

 

「ろ、ロデル様。失礼します」

 

奏夜はロデルに詫びの言葉を入れると、すぐに電話に出るのであった。

 

「も、もしも……」

 

奏夜はおそるおそるもしもしと言おうとするのだが……。

 

『奏夜!!あなたはいったいどこをほっつき歩いているのですか!?もう練習を始めようとしてるのですよ!?』

 

奏夜がいつまでも来ないからか、海未の怒鳴り声が響き渡っており、奏夜は思わず携帯を離すのであった。

 

「わ、悪い!今番犬所に来てるんだよ。急な呼び出しがあってな……」

 

本当は呼び出されたのではなく、ララと一緒にここへ来たのだが、咄嗟にこのように答えたのである。

 

『魔戒騎士の仕事があるのはわかりますが、それならばそうと私たちに連絡をくれれば良いではないですか!まったく、奏夜は……』

 

ここから海未の説教が始まっていき、奏夜は顔を真っ青にするのであった。

 

その直後、「そーくんにも事情があるんだし、そこまでにしてもいいんじゃ……」と、ことりのフォローが聞こえてきた。

 

『ことりは奏夜に甘すぎます!』

 

このようにことりのフォローを、海未は一蹴するのであった。

 

(まずいぞ、こうなったら、海未の話は長いんだよなぁ……)

 

奏夜は今回みたいに海未から説教を受けることは何度もあり、その度に話が長いので、今回も長くなるだろうと奏夜はげんなりするのであった。

 

それを見かねたロデルは、今座っている神官のための椅子から立ち上がると、そのまま奏夜に近付いていくのであった。

 

「奏夜、電話を代わって下さい」

 

「あ、はい……」

 

奏夜は海未の説教を聞き流しながらロデルの言葉に返事をするのであった。

 

『ちょっと奏夜!聞いてるんですか!?』

 

と、海未からは怒りの言葉が飛び交うのだが……。

 

「海未、悪い!ちょっとだけ待ってくれ!」

 

奏夜は海未の話を遮ると、そのまま携帯をロデルに手渡すのであった。

 

「……もしもし。μ'sの園田海未さんですね?」

 

『あっ……。はい……。あの、あなたは?』

 

突然奏夜の声ではなくなった為、海未は戸惑いを見せるのであった。

 

「ご紹介が遅れました。私はロデル。奏夜が所属している翡翠の番犬所の神官です」

 

『ま、まさか……!あなたが!?』

 

「ええ。あなた方μ'sの活躍は奏夜から聞いてますよ。それに、私個人としても応援してましてね」

 

『そうだったのですか……』

 

「非常に申し訳ないのですが、奏夜を呼び出したのは、今後についての大事な話をするためなのです。ですので、μ'sの貴重な練習時間ではあるでしょうが、我々に奏夜の時間を頂けるでしょうか?」

 

ロデルは丁寧に事情を説明し、海未に納得してもらおうとしていた。

 

『あっ、はい……。わかりました……』

 

海未は唖然としながらも、納得せざるを得なかったからか、このように返していた。

 

「わかって頂き、恐縮です。μ'sの皆さんとはゆっくり話をしたいものです。それでは、失礼します」

 

ロデルはこのように話を終わらせると、そのまま電話を切り、携帯を奏夜に返すのであった。

 

「ろ、ロデル様。ありがとうございました!」

 

「構いませんよ。このようなフォローも、私の仕事と心得てますし、μ'sのメンバーと話せたのも嬉しいですしね♪」

 

ロデルはポロっと本音をさらけ出しながら、再び自分のいるべき場所へ戻るのであった。

 

こうして、ロデルの助力によって、奏夜は海未の説教を回避するのであった。

 

そうこうしているうちに統夜たちが到着したため、全員揃ったところで、ロデルはララのことを話すのであった。

 

「……!?そこのララって魔戒法師が未だに見つけられない魔竜の眼を持っているって本当なんですか!?」

 

『なるほどな。通りで、これだけ血眼になって探しても見つからない訳だぜ……』

 

統夜は魔竜の眼の手がかりを得たことに驚いており、イルバは度重なる捜索を行っても、魔竜の眼が見つからなかったことに納得していた。

 

「早い話が、お嬢ちゃんの持ってる眼を守ればいいってことなんだな?」

 

ロデルから話を聞いたリンドウは、これから自分たちが何をなすべきなのかを察していた。

 

「そうです。さらには、もう1つの魔竜の眼と魔竜の牙を奪ったジンガの拠点を突き止め、これらの奪還を行うのが目下の目標です」

 

「なるほどな。ニーズヘッグ復活に必要なものを揃えておけば、後々封印するのに役に立つだろうからな」

 

「うむ!ニーズヘッグを復活させる訳にはいかないからな!」

 

これから自分たちが何をすべきか見えてきたからか、剣斗はやる気に満ちた表情を浮かべるのであった。

 

「……ララとか言ったな。ニーズヘッグの復活を阻止するためにも、俺たちは協力を惜しまないつもりだ」

 

「だからこそ、俺たちを頼ってくれよな」

 

「うむ!これだけ腕の立つ魔戒騎士が揃っているのだ。大船に乗った気持ちでいるといい!」

 

「……」

 

大輝、リンドウ、剣斗の3人の力強い言葉に、ララは呆然としていた。

 

「……ララ?どうしたんだ?」

 

「魔戒騎士って、こんなにも誰かのために頑張ろうとすることが出来る人たちなんだね……」

 

「誰かのために頑張る……。当たり前だろ?俺たちは守りし者なんだから……」

 

ララの言葉に、統夜は怪訝な表情を浮かべるのであった。

 

「お前の里にだって魔戒騎士はいるんだろ?」

 

「ええ、蒼哭の里にも魔戒騎士はいるわ。だけど、実力もないのにプライドだけ高くて、守るのは人じゃなくて己の体裁だけ……。だからこそ私は魔戒騎士を信用出来なかったの。……ここに来るまでは」

 

「そうだったのか……」

 

ララの言葉の真意を理解した統夜は、ララの心情を察するのであった。

 

「ま、プライドが高くて体裁を守ろうとする魔戒騎士はお前の里だけにいる訳じゃない」

 

「そういう魔戒騎士が多いのもまた事実だからなぁ」

 

魔戒騎士として、多くの経験を積んできた大輝とリンドウは、全員が守りし者としての本分をわきまえている訳ではないことをよく理解していた。

 

「里の魔戒騎士は信用出来ないけど、あなたたちなら信用出来る。お願い、私に力を貸して!」

 

「……当然だ。俺たちはララと、魔竜の眼を必ず守ってやるさ」

 

「……ありがとう」

 

こうして、使命を受けて里を離れたララは、協力者と巡り合うことが出来たのであった。

 

「ララ、魔竜の眼に施してある封印は、あなたにしか解けないのですね?」

 

「はい。このケージには、私が封印の術を施しました。私以外には誰だろうと封印は解けません」

 

ロデルは、魔竜の眼がどのように封印されているのか確認を取っていた。

 

「……わかりました。ララ、あなたは必要な時以外は極力その眼を出さないようにしてください。敵に存在がバレる可能性がありますから」

 

「わかりました!」

 

「そしてあなたは、ニーズヘッグ復活を阻止するために派遣された魔戒法師として扱わせてもらいます。それが、元老院や蒼哭の里と軋轢を起こさない良策かと思いましてね」

 

「ロデル様、お気遣い、感謝いたします」

 

ロデルが咄嗟にこのような対応をしてくれたことに、ララは心から感謝していた。

 

「統夜、あなたはジンガたちに悟られないよう、引き続き魔竜の眼を探す役割を継続してください」

 

「わかりました」

 

「他の皆さんは、今まで通り、魔戒騎士としての使命を果たして下さい。……あと、可能であればジンガの拠点の捜索もお願いします」

 

ロデルは的確に指示を出していき、奏夜たちはそれに頷いていた。

 

「魔竜ニーズヘッグ復活を阻止するために、みんなで力を合わせましょう!」

 

『はい!』

 

こうして、今後についての話は終わり、奏夜たちは解散となるのだが……。

 

「ララ、あなたは少しだけ残って下さい。これからについての話をしておきたいのです」

 

「わかりました」

 

ララはロデルに呼び出されたため残ることになり、他のメンバーは番犬所を離れるのであった。

 

番犬所を後にした奏夜は、大急ぎで学校へと戻るのであった。

 

奏夜が屋上に到着した時には既に柔軟などの基礎練習が終わったところであり、奏夜は遅れたことを改めて謝罪していた。

 

穂乃果たちはそれを許し、練習を再開するのだが、全員にクレープを奢らなければならなくなったのはまた別の話である……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、奏夜は朝の日課であるエレメントの浄化を行ってから登校するのであった。

 

学校に到着し、教室の中に入ると……。

 

「あっ、そーくん!おはよう!」

 

「おう、穂乃果。おはよう」

 

「奏夜、おはようございます」

 

「そーくん、おはよぉ♪」

 

「海未、ことり。おはよう」

 

穂乃果、海未、ことりの3人が挨拶をしてくれたため、奏夜は3人に挨拶を返すのであった。

 

「みんな、昨日はごめんな。さっさと戻るつもりが遅くなっちまって」

 

「うぅん。そーくんも事情があるんだもん。仕方ないよ」

 

「ええ、その通りです。その分、奏夜には然るべき対応をしてもらいましたし」

 

「……まあ、おかげさまで俺の財布はかなり寒くなったけどな……」

 

奏夜は昨日、番犬所に呼ばれてすぐに合流出来なかったことを改めて謝罪するのであった。

 

練習終了後、奏夜は9人全員にクレープを奢ることになり、その分、経済的打撃は受けたのだが……。

 

「昨日はご馳走さま♪美味しかったよ♪」

 

「……まぁ、みんなが喜んでくれたならそれで良いんだけど……」

 

「そーくんも忙しくしてるんだもんね……。あまり無理はしないでね」

 

「気遣い、ありがとな。だけど、これからはラブライブも目指すんだ。気合はいれないとな」

 

奏夜は、封印された魔竜の眼を持つララを守り、ラブライブ優勝を目指す穂乃果たちを導かなければいけないため、かなり忙しくなることが予想される。

 

しかし、奏夜に休む暇はないのである。

 

そのような話をしていたらその時である。

 

「お前ら、席についてくれ!」

 

始業チャイムが鳴り、剣斗が教室に入ってきた。

 

剣斗の言葉を聞き、生徒たちは次々と自分の席に座り、奏夜たちも同様に自分の席に座るのであった。

 

副担任である剣斗が教室にやってきたことを奏夜は疑問に思っていたが、どうやら担任である山田先生が今日は風邪で休むみたいなので、副担任の剣斗が来たみたいである。

 

そして、そのまま朝のホームルームが始まるのだが……。

 

「みんな!今日は朝からとびきりイイ知らせがある!なんと、このクラスに新しい仲間が増えることになったぞ!」

 

剣斗の唐突な言葉に、クラスメイトたちはざわついていた。

 

(転校生ねぇ……。なんでまたこんな時期に……)

 

転校生が来ること自体珍しいイベントなのだが、秋になろうとしているこの時期に転校生ということに奏夜は驚きを隠せないのであった。

 

「剣斗せんせーい!!その人って男の子ですか?女の子ですか?」

 

奏夜がそんなことを考えていると、ヒフミトリオの1人であるミカが、剣斗にこのような質問をしていた。

 

「ふふ、まあ、慌てるな。……では、入って来てくれ!」

剣斗は扉の方を向いて転校生を呼ぶと、教室の扉は開かれて転校生は現れた。

 

どうやら転校生は女の子みたいであり、クラスメイトたちは新たなクラスメイトとなる女の子のことをジッと見ていた。

 

そんな中、奏夜だけは転校生の女の子を見て、驚きを隠せずにいたのである。

 

その理由は……。

 

「……うむ!自己紹介を頼めるだろうか」

 

「はい!……皆さん、初めまして!私は蒼井ララと言います。気軽にララって呼んで下さい!親の仕事の都合でこっちへ引っ越すことになりました!仲良くして下さい!よろしくお願いします!」

 

(!!?ら、ララ!?何でここに!?)

 

《ほぉ、こいつは驚いたな。まさか転校生として現れるとはな》

 

転校生の正体は、なんと蒼哭の里からこの街へやってきたララであり、音ノ木坂学院の制服を着ているララを見て、奏夜は驚きを隠せずにいたのであった。

 

「可愛い子だね♪」

 

「はい。元気いっぱいな感じが好印象です」

 

ことりと海未は、初めてララを見て、このような印象を受けていた。

 

「ララちゃんかぁ。仲良くなれると、いいよね、そーくん!」

 

穂乃果は自分の言葉を同意してもらおうと奏夜の方を振り向くのだが、奏夜は冷や汗をかきながら、顔を真っ青にしていたのである。

 

「……?そーくん?」

 

奏夜の様子がおかしいことに、穂乃果は首を傾げるのであった。

 

ララは、そんな奏夜の姿を見つけると、満面の笑みを見せるのであった。

 

剣斗はララに空いている席に座るよう話をすると、ララはその席まで移動するのだが、なんと奏夜の隣の席であった。

 

「うむ!このクラスに新しい仲間が増えたのだ。みんな、仲良くしてやってくれ!」

 

剣斗のこの言葉に、クラスメイトたちは「はーい!」と返事をしたところで、朝のショートホームルームは終了するのであった。

 

「……おい、ララ。これはいったいどういうことだよ」

 

奏夜はすかさず、ララに事情の説明を求めるのだった。

 

「ふふっ、やっぱり驚いてる♪私がここに来た理由は後でちゃんと話すからね♪」

 

ララは奏夜が予想通りのリアクションをしていたからか、満足そうに微笑んでいた。

 

(昨日ロデル様に残るように言われてたけど、まさか……!)

 

《そう考えるのが自然だが、後で直接本人から聞くしかなさそうだな》

 

本来ならばすぐにでも話を聞きたいと思っていた奏夜であったが、教室で魔戒騎士や魔戒法師についての話をするわけにはいかないため、時間を作ってじっくりと話を聞くことにしたのであった。

 

休み時間になると、あっという間にクラスメイトたちはララのところに集まり、質問攻めが始まるのであった。

 

「……あはは、凄いね。みんな、ララちゃんのところに集まってる」

 

クラスメイトたちから質問攻めを受けているララを見て、ことりは苦笑いをするのであった。

 

「ところで奏夜。さっきから様子がおかしいですが、大丈夫ですか?」

 

「……ああ、問題ない」

「ねぇねぇ、そーくん。さっきララちゃんとコソコソ話をしてたよねぇ?もしかして、ララちゃんとは知り合いなの?」

 

「……まあ、そんなところだ」

 

奏夜は穂乃果たちにも話すつもりだったので、知り合いだということは隠すつもりはなかった。

 

奏夜とララが知り合いであると偶然近くで聞いていたフミコは……。

 

「ねえ、ララちゃん。今、奏夜君と知り合いだって聞いたけど、本当なの?」

 

「うん。本当だよ」

 

ララもそこは否定しなかったため、クラスメイトたちはざわつき始めた。

 

そして……。

 

「まさか……。2人は付き合ってるとか?」

 

「「「!!」」」

 

ヒデコはニヤニヤしながらこう問いかけると、そんなヒデコの言葉に、穂乃果、海未、ことりの3人は過剰に反応していた。

 

「アハハ、そんなんじゃないって!」

 

ララは照れる様子を見せることなく、ヒデコの言葉を否定するのであった。

 

「なぁんだ。つまんないな……」

 

奏夜とララの関係が期待していたものではなかったため、ヒデコは唇を尖らせていた。

 

「ただ……」

 

ララはこのように前置きをして立ち上がると、穂乃果の席のところにいる奏夜に向かっていった。

 

そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チュッ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んな!?////」

 

ララは奏夜の頬にキスをしており、唐突な展開に奏夜は顔を真っ赤にするのであった。

 

「今からそういう関係になってもいいかなって思ってるけどね♪」

 

ララは、少しだけ頬を赤らめなが、大胆なことを言ってのけたのだ。

 

このララの宣言に、クラスメイトたちは大きな歓声をあげている。

 

そんな中……。

 

「「「……」」」

 

穂乃果、海未、ことりの3人はドス黒いオーラを放って奏夜を睨みつけるのであった。

 

「そーくん……?これはいったいどういうことかなぁ……?」

 

「あ、いや、その……」

 

「本当に奏夜は見境がないですね……。知り合いだという転校生も口説こうとは……」

 

「もう、そーくんはことりのおやつにしちゃってもいいよね?」

 

穂乃果、海未、ことりの3人はジリジリと奏夜に迫っており、奏夜の顔は真っ青になっていた。

 

「奏夜。少しお話をしましょうか……?」

 

「おい、海未!ちょっと待て!もう授業が始まっちまうぞ!」

 

「心配ないよ♪そーくんは具合が悪くなって保健室へ行ったって伝えとくから♪」

 

「海未ちゃんが付き添ってるともね♪」

 

「まさかの連携プレー!?」

 

もうすぐ授業は始まるので、海未からの説教は回避できると思ったが、穂乃果とことりが協力することにより、避けることは出来なくなってしまった。

 

その結果……。

 

「奏夜!こっちへ来なさい!」

 

「ちょ!?引っ張るなって!だ、ダレカタスケテ〜!」

 

海未は奏夜の首根っこを掴みながら何処かへと向かっていき、奏夜はこのように叫びながら引きずられるのであった。

 

奏夜がこのように叫んだことに対して、遠く離れたところにいる花陽が反応するのだが、それはまた別の話である。

奏夜は、次の授業を受けることは出来ず、海未から説教を受けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後……。

 

「……へぇ、そんなことがあったのね……」

 

現在、アイドル研究部の部室には剣斗を含む全員が揃っているのだが、ララもアイドル研究部の部室に来ていた。

 

そして、海未の口から朝の顛末が語られるのであった。

 

「アハハ……。だから奏夜君、放心状態なんだね……」

 

花陽は、まるで抜け殻のような奏夜を見て、苦笑いをするのであった。

 

「それにしても、本当に見境がないわね、奏夜は」

 

「まったくだわ。奏夜ってば本当に天然フラグメーカーよね……」

 

海未の話を聞いて、真姫とにこは呆れ果てていたのであった。

 

「おいおい、人聞きの悪いことを言わないでくれよな……」

 

天然フラグメーカーと言われたことに対して、奏夜はジト目で異議を唱えるのであった。

 

「いえ。そう言われても仕方ないですよ。ねぇ、奏夜?」

 

「ひっ!?だから、散々説明しただろうが!知り合いなのは間違いないけど、ララは魔戒法師だって!」

 

奏夜は朝に説教されたことを思い出して顔を真っ青にしながらもララが魔戒法師であることを説明していた。

 

「えぇ!?魔戒法師だったのぉ!?」

 

ララが魔戒法師だと知り、花陽は驚きを隠せなかった。

 

「うむ!私も話を聞いた時は驚いたがな」

 

どうやら剣斗は事情を知っているみたいであった。

 

「なぁ、ララ。何でこの学校に来るようになったのかを教えてくれよ」

 

奏夜は未だにララから事情を聞くことが出来なかったため、改めてララから話を聞こうとしていた。

 

「そうだね。私もそのつもりでここへ来たんだし♪」

 

ララは何故音ノ木坂学院に転校生として現れたのかを語り始めた。

 

「……これは、ロデル様からの提案なの」

 

「え?ロデル様から?」

 

ララの思いがけない言葉に、奏夜は驚いていた。

 

「魔竜の眼を守るのであれば、奏夜や剣斗の近くにいた方がいいからって」

 

『なるほどな。確かに俺たちの近くにいれば、何かあればすぐに対応出来るからな』

 

「それだけじゃなくて、ロデル様は外の世界を知らない私に見聞を広めて欲しいという思いから、転校生としてここへ来る手続きを整えてくださったの」

 

故郷である蒼哭の里しか知らず、外の世界のことをわかっていないララのことを、ロデルは気にかけていた。

 

学校へ行くことで、外の世界が良いものであることを教えるために、ララを転校生としてここへ派遣したのであった。

 

「そうだったのか……」

 

「私としてはロデル様に感謝してるわ。憧れだった学校っていうのに通えるんだもん♪」

 

ララは普通の女子高生としての生き方も見せてくれたロデルに感謝をしていた。

 

「そういう訳だからさ、これからもよろしくね、奏夜。剣斗!」

 

「わかったよ。俺もここに通って色々学ばさせてもらったからな。改めてよろしくな、ララ!」

 

「うむ!ここでの経験が守りし者としての務めに活きてくる。とてもイイことだと思うぞ!」

 

ララがここへ来た真意を知り、奏夜と剣斗はララのことを歓迎するのであった。

 

「……仕方ありませんね。ララが魔戒法師だと知った以上、朝のことは許す事にします」

 

「海未……ありがとな!」

 

「ただし、奏夜がまた見境ない行動をしたその時は……。わかってますね?」

 

「わ、わかってるよ!」

 

どうにか海未も奏夜のことを許したみたいであり、自体はこのまま落ち着くと思われたが……。

 

「ねぇ、ララちゃん!もし良かったらなんだけど、このアイドル研究部に入らない?」

 

「え?ちょっと、穂乃果!?」

 

穂乃果がまさかの提案を出してきたため、海未は驚いていた。

 

「実は私も勧誘しようと思っていたわ。奏夜や小津先生の側になるべくいるべきなのなら、それが1番だと思うの」

 

「そうやね。それに、カードも言うとるんよ。……新しい風がμ'sに幸福をもたらすって」

 

絵里は穂乃果同様にララを勧誘しようと考えており、希は占いの結果、穂乃果や絵里の提案に賛同していた。

 

「μ'sの新メンバーだにゃ!」

 

「でも、いいのかなぁ?これからラブライブを目指すのに、メンバーを増やそうだなんて」

 

「花陽の言う通りね。今からメンバーを増やしたら、フォーメーションを変えるのが大変よ」

 

「そこにはにこも同じ意見よ」

 

「それは確かにそうだけどさ……」

 

花陽、真姫、にこの3人が反対意見を出したことに、穂乃果は唇を尖らせていた。

 

「誘ってくれてありがとう。でも私はμ's……だっけ?そのメンバーになるつもりはないわ」

 

「そっか……」

 

ララは穂乃果の誘いを断っており、穂乃果は落胆の色を見せていた。

 

しかし……。

 

「……まぁ、そのアイドル研究部の部員として、みんなのお手伝いをするのは構わないけどね」

 

ララは、1人の部員として、μ'sの手伝いをすることは反対していなかった。

 

ここでララの真意を知り、穂乃果の表情はぱぁっと明るくなっていた。

 

「うん!これからよろしくね!ララちゃん!」

 

「こちらこそ、よろしくね♪」

 

「私たちのところは先輩後輩をなくしてるから、気軽に仲良くしてね♪」

 

ことりはララに、先輩禁止を行っていることを説明するのであった。

 

「わかったわ。みんな、私のことはララでいいわ。よろしくね!」

 

「……ハラショー♪」

 

「ララちゃん、これからよろしくね♪」

 

「にこたちのサポート、しっかり頼むわよ」

 

「ララちゃん、よろしく!歓迎します!」

 

「よろしくだにゃあ!!」

 

「……ま、よろしくね」

 

ララがアイドル研究部に入ることになり、3年生組と1年生組は、ララのことを歓迎していた。

 

「よろしくね!ララちゃん!」

 

「これからよろしくお願いしますね、ララ!」

 

「ララちゃん、よろしく!!」

 

そして2年生組も、ララのことを歓迎していた。

 

「……こういうのも、悪くないね……」

 

ララは何かをするのにここまで歓迎されたのは初めてだったからか、心の中が暖かくなっていた。

 

「みんな、これからもよろしくね!」

 

ララはそんな気持ちがあるからか、満面の笑みを浮かべるのであった。

 

奏夜たちは改めて自己紹介を行い、ララはμ'sの新たなる仲間となったのである。

 

ララがμ'sの手伝いをするようになり、これからどのようなことが奏夜たちを待ち受けるのか……。

 

それは、奏夜たちにはまだわからないことであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『ラブライブに出場するのは決まったが、まさかこのような問題があるとはな。次回、「課題」。さて、これからいったいどうなることやら……』

 

 

 




ララ、可愛いよ、ララ。

ララは炎の刻印の中でも好きなキャラでした。

あの展開をリアルタイムで見ましたが、あの展開に戸惑い、呆然としたことを思い出しました。

あのED詐欺は許されない……(笑)

牙狼ライブのララはμ'sの手伝いをすることで、どう奏夜たちと関わっていくのか?

穂乃果たちの新たなライバルとなるのか?(笑)

ちなみに、ララの故郷である、蒼哭の里は、牙狼でよく登場する類の里ではありますが、その里の体制については、FF14に登場する都市である「イシュガルド」を参考にさせてもらっています。

どのように参加にしたかはネタバレになるので伏せておきますが……。

気になる方は、ぜひエオルゼアに降り立って下さい!(布教)

僕は「Zeromus」というサーバーで遊んでるので、FF14を始めようと考えてる方は是非「Zeromus」に!(さらに布教)

前書きでも牙狼ライブ1周年記念作品のネタを詰めてるか考えてますが、コラボするライダーを、エグゼイドかキバのどちらかにすることにしました。

上手くまとまれば両方もありかなと思っています(笑)

1周年記念作品の投稿はいつになるかは未定ですが、気長にお待ち下さい。

さて、次回はラブライブ二期の第2話に突入します。

ですが、現在とは少しだけ展開を変えようと思っています。

どのように展開が変わるのか?

また次回も投稿が遅くなるかもしれませんが、少しずつでも執筆して、投稿は続けていこうと思っているので、よろしくお願いします!

それでは、次回をお楽しみに!





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第60話 「課題」

お待たせしました!第60話になります!

まさか、ここまで投稿が遅れるとは……(>_<)

仕事だけではなく、プライベートの用事(FF14じゃないよ)でバタバタしてて、なかなか小説が書けませんでした。

その間に、この小説のUAが30000を越えました。

それに伴って、番外編も作りたいですが、以前話した仮面ライダーとのコラボもまだ制作中なため、いつになるかはまだ未定になっています。

そして、話はラブライブ2期の2話に突入します!

タイトルに書いてある奏夜たちの課題とは?

それでは、第60話をどうぞ!




奏夜たちは3月に行われるラブライブに出場することになり、そんな中、奏夜は蒼哭の里からここへ来たララという魔戒法師と出会うのであった。

 

ララの暮らす蒼哭の里には、魔竜の眼が眠っていたのだが、この魔竜の眼が狙われていることを知り、里を守るためにララが眼と共にこの街へやってきたのであった。

 

奏夜は、自分たちだけが助かればいいという蒼哭の里の体制に怒るのだが、ララは誰かのために親身になることが出来る奏夜に惹かれるのであった。

 

魔竜の眼についての話を統夜たちにも行い、この管轄にいる全員が一丸となって魔竜の眼を守ることになったのであった。

 

その翌日、ララはロデルの計らいによって転校生として音ノ木坂学院に通うようになり、奏夜を驚かせる。

 

穂乃果たちにも事情を説明し、ララはμ'sのメンバーにはならなかったが、アイドル研究部の部員として、μ'sの手伝いをすることになったのであった。

 

その数日後、奏夜たちはアイドル研究部の部室でラブライブの予選で行う曲について考えていたのだが……。

 

「ええ!?その話、本当なの!?花陽ちゃん!」

 

穂乃果は、花陽からある話を聞き、驚きを隠せなかった。

 

その内容とは……。

 

「そうなんです!今回の予選で使用する曲は、今まで未発表の曲に限るそうなんです!」

 

「そ、それじゃあ、今までの曲は全部使えないってことなの?」

 

『それはそうだろう……。お前、ちゃんと花陽の話を聞いてたのか?』

 

「むー!意地悪なこと言わないでよ!キー君!」

 

キルバは呆れながらこのような言葉を穂乃果に向けるのだが、穂乃果はぷぅっと頬を膨らませ、反論していた。

 

『だから!最高に格好いい俺に変なあだ名を付けるな!』

 

「あんた……。この中で1番ナルシストよね……」

 

キルバは自分の容姿が優れていると日頃から豪語しており、それをよくわかっているにこは、ジト目で呆れていた。

 

「でもさぁ、本戦じゃなくて予選なんでしょ?何で新曲限定になっちゃうの?」

 

ララは最近スクールアイドルのことを知ったため、詳しくはないのだが、予選の曲が新曲限定だということに疑問を持っていたため、それを聞いてみるのであった。

 

「どうやら、参加希望のチームが予想以上に多いみたいで……。中には、プロのアイドルをコピーしているグループもいるみたいで……」

 

「この段階でふるいにかけようって訳やね?」

 

「どうやら、そうらしいな。だが、ただ真似をするだけのグループが上に行けるとも思えんがな」

 

今回のラブライブは、ランキングが関係ないということもあるからか、参加希望のグループが予想を遥かに上回る結果となったのであった。

 

参加希望のグループの中には、プロのアイドルをコピーしただけというオリジナリティのないグループも多数存在するのもまた事実なのである。

 

ラブライブの質を上げるために、運営委員会は、まだどこにも発表していない新曲を披露するのが予選の参加条件であることを明言したのであった。

 

それは、予選を勝ち上がった本戦にも、言えることなのだが……。

 

「奏夜の言うことはわかります。ただ、中には私たちみたいに作詞や作曲が出来る人がおらず、コピーを使ってでも勝ちたいと思ってるグループもいると思うのです」

 

「それはわかってるさ」

 

「うむ!選ばれた者たちだけが、予選と言う熱き舞台で、己の技を披露し、高みを目指す……。イイぞ……!ラブライブ予選、なかなかそそる内容になってきたではないか!!」

 

新曲限定と聞き、剣斗はラブライブは予選から熱いものになると感じ取り、興奮を隠せなかった。

 

「……アハハ……。剣斗って本当に熱いんだね……」

 

ララは、剣斗のあまりに熱い一面を垣間見たため、苦笑いをしていた。

 

「それにしても、これは由々しき問題ね……。だって、あと1ヶ月でなんとかしないと予選に出られないんだもの」

 

絵里の言う通り、ラブライブの予選が行われるのは1ヶ月後であり、この課題をクリアしなければ予選には出場出来ないのだ。

 

「そんなぁ〜……!なんとかしないと!」

 

新曲を用意することは最優先事項であり、穂乃果は焦りを見せていた。

 

「こうなったら……。作るしかないわね……!」

 

「?絵里、作るって、どうやってですか?」

 

絵里は何かを思いついたみたいなのだが、海未はそれが何かをわからず、首を傾げながら絵里に問いかけていた。

 

「……真姫!」

 

「絵里……。まさかとは思うけど……」

 

「そう……。合宿よ!!」

 

絵里は、新曲を作るために合宿を行うことを提案するのであった。

 

そんな絵里の提案に、奏夜たちは驚きを隠せなかった。

 

しかし……。

 

「……絵里。非常に言いにくいのだけれど……」

 

「?真姫……?」

 

「ウチの別荘はこの前のところともう一ヶ所あるのだけれど……。最近は、パパの知り合いの人たちが論文を作る研究会に別荘を使ってて、どっちもしばらくは別荘が使えない状態なのよ……」

 

どうやら、真姫の別荘は、真姫の父親の知り合いの医師たちが使うみたいであるため、合宿で使うのは不可能みたいだった。

 

「そんなぁ〜……!せっかくのアイディアだと思ったのだけれど……」

 

自分のアイディアが事実上不可能と知り、絵里はがっくりとうなだれていた。

 

「絵里のアイディアはとても良いのですが、真姫の別荘が使えないとなると、やはり厳しいですよね……」

 

「ねぇ、海未ちゃん。紬さんの別荘って借りられないのかなぁ?」

 

「それだよ!ことりちゃん!」

 

ことりは、奏夜の先輩騎士である統夜の大切な仲間である琴吹紬に、別荘が借りられないか提案してみた。

 

紬の家は桜ヶ丘で随一の富豪であり、統夜たちは何度も紬の別荘で合宿を行っていたのであった。

 

「それは難しそうだけどな。だって、紬さんの別荘を借りるには前もって言っておかなきゃいけないんだろ?」

 

「そうですね。新曲作りは急を要しますし、借りられるのを待ってる時間はないですよね……」

 

紬の別荘もまた、様々な人が使うみたいであり、使うには前もって行っておかなければならない。

 

そのため、紬の別荘が空くまで待っていては、新曲作りが間に合わなくなる可能性があった。

 

「じゃあ、曲作りはどうすんのよ!」

 

「そうやねぇ……。なるべくお金はかけたくないしね……」

 

合宿を行って曲作りをすることは難しくなり、にこと希は頭を抱えるのであった。

 

その結果、アイドル研究部の部室全体に暗い空気が漂い始めるのだが……。

 

「ふむ……。だとしたら、合宿が行える場所が用意出来れば良いのだな?」

 

「それはそうだけど、剣斗、アテがあるのか?」

 

「うむ。μ'sの合宿を行うための場所を借りられるよう、父上に掛け合ってみよう」

 

「小津先生!それって本当かにゃ?」

 

「うむ!確約は出来ないが、任せて欲しい」

 

どうやら、剣斗が合宿場所を確保するべく、父親に相談してみることにしたのだ。

 

「あれ?小津先生のお父さんも魔戒騎士だったんでしょ?」

 

「うむ!父上は先代の剣武であったのだが、病にて足を悪くされてしまってな。若いうちに魔戒騎士を引退され、私が剣武の称号を受け継いだのだ」

 

「そうだったんだな……」

 

奏夜は初めて剣斗の父親の話を聞き、驚きを隠せなかった。

 

「ねぇ、小津先生。あんたのお父さんって、まさか、あの小津財閥の?」

 

「おお、知っているのか!いかにも、私の父上は、魔戒騎士を引退し、小津財閥の会長となられたのだ!」

 

「ねぇ、真姫ちゃん。小津財閥ってなぁに?」

 

穂乃果は真姫が問いかけたことを初めて聞いたため、そのことを真姫に聞くのであった。

 

「え!?知らないの!?秋葉原ではないけれど、東京にある有名な財閥じゃない!あちこちで経営に手を伸ばしている……」

 

「エヘヘ……。そうなんだ。知らなかったや……」

 

「小津財閥って私ですら名前くらいは聞いたことがあるわよ……」

 

穂乃果は剣斗の家の凄さを知り、苦笑をしていたのだが、にこも、財閥の名前だけは聞いたことがあった。

 

「小津財閥の会長さんは、パパと親交があるから良く話は聞いてたのよ。まさか、元魔戒騎士だとは思わなかったけれど」

 

真姫は病院を経営している父親と繋がりがあるから小津財閥のことはよく知っていたが、それが剣斗の父親だということは知らなかった。

 

「ということは、小津先生は財閥の御曹司さん!?」

 

「凄いにゃあ!お金持ちだにゃあ!」

 

剣斗の家の実情が明らかになり、花陽と凛は驚いていた。

 

驚きを隠せないのは、全員そうなのだが……。

 

「よしてくれ。私は魔戒騎士なのだから、財閥の経営とかはよくわからないのだ。財閥の運営は、父上と兄上がやっているのでな」

 

「へぇ、小津先生ってお兄さんがいたんですね!」

 

「あれ?でも、お兄さんがいるなら、何で剣斗が剣武の称号を継ぐことになったんだ?」

 

奏夜は剣斗に兄がいると聞き、すぐにこの疑問を抱くのであった。

 

魔戒騎士の称号は一子相伝であるため、大抵は長男が称号を継ぐのがほとんどである。

 

しかし、誰に称号を継がせるか決めるのは称号を持つ者のため、何か諸事情がある場合は、長男以外の人間が称号を受け継ぐこともあるのである。

 

「うむ。兄上は生まれつき体が弱くてな。魔戒騎士としての修業を行えなかったのだ。だからこそ、次男である私と三男の弟が修業を積み、私が剣武の称号を受け継いだのだ」

 

「なるほどな……。そういうことなら納得だよ」

 

『ま、必ずしも長男が称号を継ぐ訳ではないからな』

 

「そういうものなのですか?」

 

「ああ。長男が魔戒騎士として才能がないと判断されたら次男が継ぐというのもよく聞く話ではあるんだよ」

 

「魔戒騎士もやっぱり大変やなぁ……」

 

「ねぇねぇ、そーくんも魔戒騎士ってことは、お父さんから称号をもらったってことだよね?」

 

穂乃果がこの質問をした瞬間、奏夜の表情が一気に暗いものになってしまった。

 

「……今はそんな話をしてる場合じゃないだろ?」

 

「奏夜。夏休みの合宿の後も、過去を話してくれると言ってましたが、結局は話してくれませんでしたよね?」

 

「奏夜。教えて欲しいわ。あなたがどのようにして魔戒騎士になったのか……」

 

奏夜は今まで自分の過去を話そうとはせず、いずれ話すということも有耶無耶になっていた。

 

だからこそ、奏夜の過去を聞き出そうとするのだが……。

 

「そんな話をしてる場合じゃないって言ってるだろ!!」

 

奏夜は両手で机をバン!!と叩くと、激しい剣幕でこのようにまくし立てるのであった。

 

奏夜の剣幕に、剣斗とララ以外はビクっと肩をすくめ、悲しげな表情を浮かべるのであった。

 

穂乃果たちの顔を見た瞬間、奏夜はハッとするのであった。

 

「……悪い。怒鳴っちまって……」

 

「いえ……。こちらこそ、すいません。奏夜にとっては話したくないことなんですものね?」

 

奏夜はすぐに謝罪するのだが、重苦しい空気がアイドル研究部の部室を包んでいた。

 

「……ちょっと外の空気を吸ってくる。後は頼んだぞ」

 

「え?ちょっと、奏夜?」

 

奏夜は海未の制止を聞くこともなく、部室を飛び出していってしまった。

 

「そーくん……」

 

奏夜が部室を飛び出し、穂乃果は心配そうに部室の入り口方向を見つめるのであった。

 

「……みんな、気にすることはないわ。これは魔戒騎士に限った話じゃないけど、触れられたくない話の1つや2つはあるでしょう?奏夜にとってのそれが過去の話なのよ」

 

重苦しい空気が耐えられないからか、ララはこのような言葉でフォローをするのであった。

 

「うむ。奏夜のことは私に任せて欲しい。私はこれから父上のところに行ってくる。奏夜も一緒に連れていこう。頭を冷やす時間も必要だからな」

 

「私も行く!私は練習で手伝えることはないし、そういう仕事の方が性に合ってるもの」

 

「私も行くわ。小津財閥の会長さんとは私も顔見知りだし、練習場所を借りるならμ'sメンバーもいた方がいいでしょう?」

 

剣斗はこれから父親に会いに行くために家に向かおうとしてるのだが、奏夜も同行させるつもりだった。

 

それだけではなく、ララと真姫も同行を申し出るのであった。

 

「うむ。確かにその通りだな。ララと真姫は出かける準備をしてくれ。私は奏夜を探してこよう」

 

「では、残りのメンバーは練習を行うので、屋上へ集合してください」

 

すかさず海未がこのような指示を出すと、真姫とララ以外の全員が頷いていた。

 

こうして、それぞれが今自分に出来ることを行うべく、行動を開始するのであった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

その頃、アイドル研究部の部室を飛び出した奏夜は、中庭に来ており、ベンチをベッドのようにして寝転がっていた。

 

「……ったく……。何やってんだよ、俺は……」

 

奏夜としては、自分の過去は知られたくないものではあるのだが、感情に任せて穂乃果たちに怒鳴ってしまったことに自己嫌悪を抱いていたのだ。

 

そんな気持ちが読み取れるように、奏夜は左手を額に当て、右手で髪をクシャクシャっとしていた。

 

『なぁ、奏夜。あの男のことは別に穂乃果たちに話してもいいんじゃないのか?』

 

「そうかもしれないけど、俺は話したくないんだよ……」

 

キルバとしては奏夜の過去を語っても問題はないと思うのだが、奏夜がそれを良しとしなかった。

 

『ったく、面倒くさいやつだな、お前は……』

 

自分の出自を明かそうとしない奏夜にキルバは呆れるのであった。

 

すると……。

 

「……奏夜、ここにいたのだな」

 

「……剣斗か」

 

剣斗はベンチで寝転がってる奏夜の姿を見つけて、顔を覗き込んでおり、それに気付いた奏夜はゆっくりと起き上がり、ベンチに腰掛けていた。

 

「……奏夜。私はこれから父上のところへ行って、合宿の場所を提供してもらえるよう掛け合うつもりだ」

 

「……そうか」

 

「ララと真姫も同行するのだが、マネージャーであるお前にも同行して欲しいのだ」

 

剣斗は、父親のところへ向かうため、奏夜にも同行を求めていた。

 

ララと真姫も同行すると聞いても、奏夜は顔色ひとつ変えなかった。

 

「……そうだな。これも、マネージャーの仕事だもんな……」

 

奏夜は特に拒否する様子は見せず、すぐに剣斗の父親のところへ行く話を了承するのであった。

 

「……なぁ、剣斗。俺……」

 

奏夜は、先ほど穂乃果たちを怒鳴ってしまったことに自己嫌悪を抱いており、その気持ちを伝えようとしたのだが……。

 

「……奏夜。何も言わなくてもいい。私はもちろんだが、みんなもお前の気持ちは察しているはずだ」

 

「剣斗……」

 

「私もお前の過去には興味はある。だが、あえて聞くことはやめておこう。それは、みんなも同様だとは思うぞ」

 

自分の出自を語りたくない奏夜の気持ちを剣斗だけではなく、穂乃果たちも察しており、それ故に奏夜が気に病むことがないよう、剣斗は言葉を紡ぐのである。

 

「でも……俺は……」

 

「人は誰しも感情的になってしまうことはある。それがどんなに優秀な人物でもな。だから、気にするな。そこまで気に病んでいては、余計に穂乃果たちが心配するぞ」

 

「剣斗……」

「奏夜。先ほどのことを気にしているのならば、気持ちを切り替えて、明日からは何事もなかったかのように接すればいい」

 

「……」

 

剣斗の放った言葉があまりにも予想外だったからか、奏夜は驚きながらも呆けていた。

 

「……そうだな。今はウジウジと悩んでる場合じゃない。ラブライブ優勝に向かって、前進して行かないとな……」

 

「うむ!それでこそ奏夜だ!イイ顔付きに戻ってきたぞ、奏夜!」

 

「ありがとな、剣斗。お前のおかげで、気持ちが楽になったよ」

 

奏夜にとって、剣斗の言葉はとても優しく、とても力強いものであるため、奏夜はそんな剣斗の言葉に励まされていた。

 

「気にすることはないさ。お前はμ'sを導く者。そんなお前でも立ち止まることはある。そんな時は、私が道しるべとなろう。何故なら、お前はかけがえのない友なのだからな」

 

剣斗は、大切な友である奏夜のためだからこそ、奏夜を支えようとしていたのである。

 

「……そうだな。お前にそう言ってもらえるのはとても体が暖まるのを感じるよ」

 

「うむ!そう言ってもらえるとはとてもイイ!!では、さっそく真姫やララと合流しようではないか!」

「ああ!」

こうして、剣斗の励ましによって、自己嫌悪な気持ちを吹き飛ばした奏夜は、剣斗と共に玄関にいるララや真姫と合流するのであった。

 

「……あ、剣斗、奏夜」

 

「まったく……。遅かったじゃないの、2人とも」

 

先に玄関で待っていたララと真姫は、それぞれの反応をするのであった。

 

「はは、すまないな。遅くなってしまった」

 

「……」

 

剣斗はいつものように接するのだが、奏夜はバツが悪そうにしており、少しだけ俯いていた。

 

「あ、あのさ……。俺……」

 

「奏夜。皆まで言わなくてもいいわ。みんなあなたの気持ちは察してるから」

 

「え?」

 

「いいから、さっさと行くわよ!」

 

真姫は頬を赤らめて恥ずかしそうにしながらも奏夜の手を引っ張り、そのまま外へと移動しようとしていた。

 

「ふふっ、奏夜ってみんなに大切に思われてるんだね」

 

「それはそうだろうな。奏夜がいたからこそ、今のμ'sがあるのだから……」

 

ララとしては、奏夜がμ'sのみんなにとって大切に思われているのが驚いていたのだが、剣斗は奏夜たちが逆境を乗り越えてきたのを見てきたため、奏夜が存在となっていることがよくわかっていた。

 

そのようなやり取りをしながらも、剣斗とララも外へ移動し、校門前で奏夜たちと合流するのであった。

奏夜たちはそのまま移動を開始するのだが、剣斗がすぐにタクシーを拾うのであった。

 

奏夜、真姫、ララの3人が後部座席に座り、剣斗は助手席に座るのであった。

 

剣斗が目的地を伝えると、タクシーの運転手は、その場所へと車を走らせるのであった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

タクシーを走らせることおよそ30分。

 

タクシーを降りた奏夜たちがたどり着いたのは、秋葉原ではないが、東京某所にある、かなり大きな家であった。

 

「ほえ〜……!ずいぶんとでかいわね……」

 

「そうだな……。本当に剣斗の家は金持ちだったんだな……」

 

剣斗の家を見て、ララと奏夜は驚いているのだが、真姫は顔色ひとつ変えることはなかった。

 

「あれ?真姫は何でこんなでっかい家を見てそんなに冷静でいられるのよ!」

 

「別に?私の住んでる家と同じくらいだから、驚くようなことはないわ」

 

「ぐぬぬぬ……!そういえば、真姫の家も金持ちって言ってたわね……!」

 

『何故悔しそうにしてるんだよ……』

 

ララは、真姫が父親が病院を経営しているため、別荘を複数所有する程の金持ちであるという話を思い出しており、何故か悔しそうにしていた。

 

すかさずキルバが呆れながらツッコミを入れるのだが……。

 

「ふふ、とりあえず入るぞ」

 

剣斗は家の方へと進んでいき、奏夜たちはそれに続くのであった。

 

家の門に到着すると、剣斗はすぐにインターホンを鳴らすのであった。

 

するとすぐに、『はい』と壮年の男性の声が聞こえてきた。

 

「小津剣斗だ。少し前に電話で通り、父上に会いに来た!お目通りを願いたい!」

 

『けっ、剣斗様!?かしこまりました!少々お待ちくださいませ!』

 

剣斗はここへ来る前に、自分の家に連絡を取って、このような用件で父親に会いに行く旨を伝えていた。

スムーズに話を行うためである。

 

それから間もなくして、閉ざされていた門が開き、剣斗はそのまま家の中へと向かっていき、それに奏夜たちが続いた。

 

奏夜たちが剣斗の家の中に入ると……。

 

「おかえりなさいませ、剣斗様!」

 

この家の執事らしき人が出迎えてくれて、剣斗に深々と頭を下げるのであった。

 

「うむ!久しぶりに帰ったが、変わらないな、ここは」

 

「あれ?剣斗ってここから学校に通ってた訳じゃないのか?」

 

「私は音ノ木坂学院の教師をしているだろう?だから今は番犬所が用意してくれた住まいが学校の近くにあるので、そこから通わせてもらっているのだ」

 

「そうだったのか……」

 

奏夜としては、剣斗がどこに寝泊まりしているのか疑問だったのだが、ここでようやく真実を知り、驚きを隠せなかった。

 

「魔戒騎士の指令とはいえ、剣斗様が教師をなさっているのは存じ上げております。立派な仕事をなさっていることに、ご主人様もお喜びになられておりました」

 

どうやら剣斗が教師をしていることは、この家の人間にも知れ渡っているようであり、このように語る執事は誇らしげだった。

 

「先ほど話したとおり、父上にお目通りに来た。父上はおられるか?」

 

「はい!ただ今、お部屋でお待ちになられております。ご案内いたします」

 

執事は、奏夜たちを剣斗の父親のいる部屋まで案内してくれるとのことなので、執事について行くのであった。

 

執事が案内したのは、玄関からそこまで遠くない部屋であった。

 

部屋の前に到着するなり、執事はドアをノックするのであった。

 

「ご主人様、失礼いたします。剣斗様とそのお連れ様がお見えになられました」

 

「うむ。入ってもらってくれ」

 

「かしこまりました。……さぁ、皆様、どうぞ」

 

執事は部屋の扉を開けると、奏夜たちは剣斗を先頭に中へと入っていくのであった。

 

奏夜たちの入った部屋は、応接室のような部屋であり、とても広い部屋であった。

 

その部屋の奥にデスクがあるのだが、その席に、60代前半くらいの壮年の男性が座っていた。

 

「……父上!小津剣斗!ただ今戻りました!」

 

剣斗は父親に深々と頭を下げ、帰還の挨拶をするのであった。

 

「剣斗、よく戻ったな。お前の活躍は耳にしているよ」

 

「ハッ、ありがとうございます!」

 

「それで、今日戻ったのは私に用事があるのだろう?」

 

「はい!本日は、父上にお話したいことがございまして、こちらの3名と共に参りました」

 

剣斗は簡単に奏夜たち3人の紹介をすると、3人はペコリと一礼をするのであった。

 

「おじ様、ご無沙汰しています」

 

そんな中、剣斗の父親と顔見知りである真姫が剣斗の父親に笑みを浮かべながら挨拶をするのであった。

 

「おお、君は西木野院長のご令嬢ではないか。君が来るとは思わなかったよ」

 

「はい。私は今、学校でスクールアイドルとして活動してるのですが、おじ様にお願いしたいことがあるのです」

 

「うむ。君がスクールアイドルをやっていることは西木野院長から聞いているよ。色々あったみたいだが、頑張ってるみたいだね」

 

剣斗の父親は、まるで孫娘の活躍を褒めるかの如く、優しい表情を浮かべていた。

 

「はい!私たちはラブライブ優勝に向けて頑張っているんです」

 

「ほぉ……。それはなかなか大きく出たものだな。ちょうど、我が財閥はラブライブへ出資を行う予定でな。スクールアイドルの話は色々と耳にしていたのだよ」

 

「そうなのですか!?父上!」

 

自分の家である小津財閥が、ラブライブ に関わっていくことになることを知り、剣斗は驚きを隠せなかった。

 

「それに、普段から世話になっている西木野院長の娘さんの頼みならば無下には出来ないのでな」

 

「ありがとうございます!おじ様!」

 

真姫は剣斗の父親に礼を言うと、ラブライブに向けて新曲作りをするために合宿を行おうとしていることと、自分の父親の都合で別荘が使えないことを話すのであった。

 

「なるほど……。そういえば、西木野院長は論文作りで忙しいと言っていましたな」

 

剣斗の父親は、真姫から話を聞き、事情を察するのであった。

 

「父上!私たちが今日ここへ来たのは、合宿を行うために、どこか別荘を借りられないかお願いするために来たのです!」

 

剣斗はここで改めて、ここへ来た目的を父親に話すのであった。

 

「そうであったか……。わかった。別荘が使えるように手配をしておくとしよう」

 

剣斗の父親は、ほぼ二つ返事で別荘を貸すことを許可し、それを聞いた奏夜たちの表情が明るくなっていた。

 

「父上、ありがとうございます!」

 

「構わぬさ。先ほども言ったが、普段から世話になっている西木野院長の娘さんの頼みは無下に出来ぬからな」

 

「助かります。本当にありがとうございます、おじ様!」

 

「うむ。君も頑張るのだよ!」

 

こうして、剣斗の父親が別荘の貸し出しを許可してくれたことにより、新曲作りのための合宿の実現が現実味を帯びてきたのであった。

 

「それはそうと、君はこの2人がどのようなことをしてるのか、ご存知かな?」

 

剣斗の父親は、奏夜とララを見ながらこのように真姫に問いかける。

 

「はい。奏夜は魔戒騎士だし、ララは魔戒法師なんです」

 

「ふむ……。やはり君は魔戒騎士や魔戒法師のことを知ってたみたいなのだな」

剣斗の父親は、剣斗だけではなく、奏夜とララも一緒だったことから、真姫がホラーに関することを知っているのをすぐに察するのであった。

 

「そして君があの如月奏夜君か。君の噂は耳にしているよ」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

「それに、我が息子の盟友であると聞いているぞ」

 

「はい、父上!奏夜は私にとってかけがえのない友なのです」

 

「俺も、剣斗は大切な盟友だと思っています」

 

奏夜は、剣斗が自分の友であることをしっかりと認めており、それを聞いた剣斗の表情が明るくなっていた。

 

「奏夜君。これからも、剣斗と共に精進し、魔戒騎士として高みを目指してくれ」

 

「はい!頑張ります!」

 

ここで奏夜の話は終わり、ララも簡潔に自己紹介をしたところで、奏夜たちは剣斗の家を後にするのであった。

 

その後、奏夜は穂乃果たちと連絡を取り、合宿が出来そうである旨を報告する。

 

それを聞いたことにより、合宿をいつ行うか話し合いが行われることになり、今度の週末に合宿を行うことにしたのであった。

 

奏夜は合宿の旨をロデルに報告すると、ロデルはすぐに合宿行きを許可するのであった。

 

それだけではなく、剣斗とララの同行も許可するのであった。

 

現在、この番犬所には正式に所属している大輝とリンドウもおり、違う番犬所の所属ではあるが、統夜も応援に駆けつけられる状態であり、人手は足りているからである。

 

こうして、奏夜、剣斗、ララの3人は合宿に参加することが可能となり、週末に行われる合宿に備えるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ。合宿に行けるのはいいのだが、まさかこのような問題に直面するとはな……。次回、「不調」。奏夜、いったいどうするつもりだ?』

 

 




2話に突入したって言ったけど、ほとんどがオリジナル展開になってしまった……。

真姫の別荘が使えず、剣斗の家の別荘を借りる展開になったのは、ここら辺で剣斗の家の話を書きたいと思ったからです。

剣斗の家族構成の話がありましたが、父親、長男、三男のモデルは、FF14に登場するキャラクターになっています。

わかる人はわかると思いますが、フォルタン家の人々です。

剣斗の父親は、剣斗のような熱い人間ではないですが、話のわかる良い人物になっています。

そして、また見えてきた奏夜の心の闇。

剣斗が初登場する回にて、修練場での仕事が終わったら奏夜の過去を話すといいながら明らかになりませんでした。

話したがらないのは、話したくなかったからという理由だった訳です。

その後もバタバタは続いたため、他のメンバーも話を聞くのを忘れていたという訳で。

奏夜の父親はどのような人物なのか?

そして、奏夜の過去がどのようなものなのか気になると思います。

奏夜の過去は少しずつ明らかにしていこうかなとは思っています。

奏夜は、統夜とは違う苦労を乗り越えて魔戒騎士になれたとだけは言っておきます。

そして、次回からは合宿が本格的に始まります。

奏夜たちの曲作りは上手くいくのか?

また投稿が遅くなるかもですが、ちょっとずつでも書いていこうとは思ってますので、次回をお楽しみに!



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第61話 「不調」

お待たせしました!第61話になります!

最近最新話の投稿が2週間から3週間に1度くらいのペースになっちゃってるな……。

リアルが忙しいせいで、なかなか小説を書く暇がないのです。

べ、別にFFが忙しいからって訳じゃないんだからね!(笑)

それはともかくとして、今回は奏夜たちが合宿へと向かいます。

原作とは違い、真姫の別荘は使えませんが、いったいどうなって行くのか?

それでは、第61話をどうぞ!




奏夜たちは、ラブライブ優勝に向けて動き始めるのだが、とある問題に直面することになってしまう。

 

予選で使える曲が、今まで未発表の新曲に限られるというのだ。

 

そのため、ラブライブに出場するために新曲を作らなくてはいけない。

 

そんな中、絵里は合宿を行うことを提案する。

 

しかし、真姫の別荘は、父親の都合によって使うことが出来ないことが判明してしまった。

 

すると、剣斗が父親に頼んでみると提案をする。

 

剣斗は、奏夜、ララ、真姫と共に家へと赴き、父親に別荘を使わせてもらえないか頼んでみる。

 

すると、真姫のことを知っている剣斗の父親は、二つ返事でこれを承諾するのであった。

 

奏夜たちは番犬所から許可も貰い、合宿へ参加出来ることになった。

 

そして、合宿当日、奏夜たちは電車に揺られながら都会とはかけ離れた、のどかな無人駅へと向かうのであった。

 

「なぁ、剣斗。けっこう長いこと電車に乗ってきたけど、別荘はこの駅の近くなのか?」

 

奏夜は周囲の景色があまりにのどかなのが気になっからか、少しだけ心配そうに訪ねるのであった。

 

「うむ!既に話はしたとは思うが、これから行く場所は山の近くなのだよ」

 

「なるほどな……。そういうことなら納得だよ」

 

「他の別荘も使えたのだが、空気の綺麗なのどかな場所の方が曲作りもはかどるだろうと父上が配慮してくださったのだよ」

 

「そこまで考えてくれてるなんて、後でおじさまにお礼を言わないとね……」

 

剣斗の父親と面識のある真姫は、誰よりも彼の配慮に感謝しており、改めてお礼を言いに行こうと決意するのであった。

 

「小津先生、先生の家の別荘はこの駅からけっこう歩くんですか?」

 

「うむ、そこに関しては心配はない。まずは駅から出るとしよう」

 

剣斗は海未の質問に答えると、そのまま改札を出て、駅の入り口に向かうのだった。

 

他のメンバーもそれに続くのだが、奏夜は足を止め、周囲を見渡すのであった。

 

「あれ?そーくん、行かないの?」

 

「もちろん行くけど、みんなちゃんと降りてきたかどうか確認してるんだよ」

 

足を止めた奏夜を見た穂乃果が奏夜に声をかけると、奏夜はこのように答えるのであった。

 

「……うん、みんな揃ってるな」

 

誰も電車に残ってないことを確認し、奏夜は安堵していた。

 

「特に穂乃果。お前は電車の中で寝てそのまま乗り過ごすんじゃないかと心配だったんだよ」

 

「むー……!そんなにドジなことはしないよぉ〜!」

 

奏夜の言葉が心外だったからか、穂乃果はぷぅっと頬を膨らませていた。

「悪い悪い。俺が心配性なのだけだったよ」

膨れっ面の穂乃果を見て、奏夜は素直に謝罪をしていた。

 

「ほら、みんな待ってるから行くぞ」

 

「うん!」

 

奏夜と穂乃果も、他のメンバーについて行き、駅の入り口に向かうのであった。

 

そこで奏夜たちを待ち受けていたのは……。

 

「……剣斗様にμ'sの皆様ですね?お待ちしておりました」

 

20代中頃くらいの正装の男性が奏夜たちを待っており、その姿を見るなり深々と一礼をするのであった。

 

「小津家の別荘まではこちらのバスでご案内致します。お荷物も積み込みますのでお預かりいたします」

 

男性の近くには1台の大型バスが止まっており、別荘へはこのバスを使って移動するみたいだった。

 

「うむ。そういうことだ。この駅から別荘まではやや距離があるのでな。父上がバスを用意してくださったのだ」

 

奏夜たちはバスが用意されていることに驚きながらもバスのトランクに荷物を積み込み、バスに乗り込むのであった。

 

奏夜はバスの真ん中あたりの席に移動して、窓側の席に座るのだが……。

 

「そーくんの隣に座わろっと♪」

 

すかさず穂乃果が奏夜の隣に座るのであった。

 

「あっ、穂乃果ちゃんずるい!!」

 

穂乃果が速攻で奏夜の隣に座るのを見て、ことりはぷぅっと頬を膨らませるのであった。

 

「凛もそーや君の隣が良かったにゃ!」

 

「あのなぁ……。こんだけ席があるんだから、こんなにみんな集合しなくてもいいだろ?」

 

このバスはそれなりに大きく、席も余裕があるのだが、みんなは奏夜の周りに自然に集合しており、奏夜はそのことに呆れていた。

 

「まぁ、良いではないか、みんな、奏夜の近くがイイと言うわけなのだから」

 

剣斗が微笑みながらこう言葉を返すと、穂乃果たちは頬を赤らめ、少しだけ恥ずかしそうにしていた。

 

「……ま、別にいいけどさ」

 

奏夜としても悪い気はしなかったため、このように言葉を返すのであった。

 

「皆さま、お待たせ致しました!それでは、出発いたします!」

 

全員が乗り込んだことを確認した男性は、バスの自動ドアを閉めると、バスを小津家の別荘に向けて走らせるのであった。

 

バスで走ることおよそ15分、奏夜たちは合宿を行う小津家の別荘に到着するのであった。

 

『おぉ〜!』

 

荷物を降ろし、別荘の前に降り立った奏夜たちは、別荘の建物の大きさに驚くのであった。

 

「流石は小津財閥の別荘。なかなか大きいわね……」

 

自分の家の別荘よりも大きいからか、真姫は驚きを隠せなかった。

 

「真姫ちゃんの別荘も凄かったけど、こっちの別荘も凄いにゃ!」

 

凛は、別荘を見た率直な感想を述べており、それを聞いた花陽はウンウンと頷いていた。

 

「後は私が皆を案内する。ここまですまなかったな」

 

「いえ、皆様のお役に立てて何よりでございます。……皆様が帰る時間帯にお迎えに参りますので、よろしくお願いいたします」

 

剣斗は、自分たちをここまで連れてきてくれた男性に感謝の言葉を送ると、男性は深々と一礼し、バスに乗り込んでその場を離れるのであった。

 

「さて、ここからは私が案内するとしよう。みんな、付いてきてくれ」

 

剣斗は先頭となって別荘の中へと向かっていき、奏夜たちはそれについて行くのであった。

 

別荘の中に入ると、玄関から既に広く、奏夜たちを驚かせていた。

 

最初に案内されたのは、リビングであるのだが、その部屋にはピアノが置かれていた。

 

「へぇ、いいピアノじゃない。流石は小津財閥の別荘ね」

 

真姫は、置かれているピアノがとても良いピアノであるとすぐに感じ取り、感心するのであった。

 

「うむ!作曲をしたい時はここを使ってくれ。ピアノだが、調律もしてあるので問題はないはずだ」

 

「ええ、わかったわ」

 

こうしてリビングの案内は終わり、次に案内されたのは、奏夜たちがここで多くの時間を過ごすことになると思われる談話室なのだが……。

 

「おお、凄い!ここも凄く広いよ!」

 

穂乃果は広々とした部屋を見渡しながら目を輝かせるのであった。

 

「それに見てみて!暖炉もあるよ!」

 

穂乃果は、古き良き時代を思い出させるシックな作りをしている暖炉を見つけるのであった。

 

「凄いにゃ!初めて暖炉見たにゃ!」

 

凛は初めて見る暖炉に感動しているのか、穂乃果同様にキラキラと目を輝かせていた。

 

「うむ!この暖炉は父上のこだわりが詰まっていてな。団欒といえば暖炉だろうということで、凝った作りになっているのだ!」

 

剣斗は自分の父親のこだわりを、まるで自分のことのように誇らしげに主張していた。

 

「なるほど……。なんか安らげそうな雰囲気を感じたけど、そういうことだったんだな」

 

奏夜はこの部屋の雰囲気を気に入っており、この部屋のこだわりに納得したみたいだった。

 

「ま、こんな感じじゃないけど、私の里には似たようなものはあったから見慣れてるけどね」

 

「そういえば、ララは魔戒法師の里から来たと言ってましたもんね」

 

ララがアイドル研究部の一員になってからそれなりに経っているため、穂乃果たちはララから彼女の出自を聞いていた。

 

だからこそ海未は、ララの言葉に納得したのである。

 

「当然暖炉だから火は付けられるぞ!実際に付けてみるか?」

 

「え?本当にいいの?」

 

「小津先生もそう言ってるし、遠慮なく火を……」

 

凛と穂乃果は、嬉々として剣斗の提案を受けようとしたのだが……。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 

何故か真姫が慌てて止めに入るのであった。

 

「?真姫ちゃん?」

 

何故部屋を暖めるのを止めるのかが理解出来ず、凛は首を傾げるのであった。

 

「まだそんなに寒くないじゃない!それに、冬になる前に煙突を汚しちゃったらサンタさんが来てくれないじゃない!パパが言ってたわ」

 

「……え?」

 

真姫の口からサンタという言葉が飛んでくるとは思わなかったからか、奏夜は唖然としていた。

 

「パパ……」

 

「サンタ……さん?」

 

それは奏夜だけではなく、穂乃果と凛もポカンとするのであった。

 

「素敵!」

 

「優しいお父さんですね」

 

そんな中、真姫の言葉にことりは歓喜の声をあげており、海未は穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「今回使えなかった別荘にもこんな暖炉や煙突はあるんだけど、それは私が毎回綺麗に手入れをしているの。今までサンタさんが来てくれなかったことはなかったんだから」

 

真姫はこのような話を誇らしげに話しており、表情も心なしかキラキラしていた。

 

「それに、毎年毎年サンタさんへのメッセージはバッチリ書いてるんだから♪」

 

真姫は頬を少しだけ赤らめながら語るのだが、やはりどこか誇らしげだった。

 

そんな中……。

 

「ぷぷ……あんた……」

 

にこは真姫がサンタを信じていることがおかしく、笑いを堪えていた。

 

「真姫が……サンタ……」

 

にこは笑いを堪えながらサンタの真実を話そうとしていた。

 

すると……。

 

「にこちゃん!」

 

「それはダメよ!!」

 

花陽と絵里が慌ててにこに詰め寄り、これ以上の言葉を阻止するのであった。

 

「痛い痛い!何よぉ!」

 

花陽と絵里が急に詰め寄ってきたため、にこは異議を唱えるのであった。

 

「ダメだよ!それ以上言ったら重罪だよ!」

 

「そうにゃ!真姫ちゃんの人生を左右する一言になるにゃ!」

 

穂乃果と凛もまた、必死ににこを止めるのであった。

 

「だってあの真姫よ?あの真姫が……」

 

「ダメー!!」

 

にこは目に涙をためながら笑っており、サンタの真実を話そうとするが、穂乃果が必死に止めるのであった。

 

そんな中、真姫は何がなんだか理解出来ないからか、キョトンとしながら首を傾げるのであった。

 

『やれやれ……。真姫のやつ、高校生にもなってサンタとはな……』

 

キルバは、真姫が未だにサンタを信じていると知り、呆れるのであった。

 

「……キルバ。次余計なことを言ったらハンマーを召還するからな」

 

奏夜は真姫の純粋な気持ちを尊重しており、無粋な言葉を呟くキルバをジト目で見るのであった。

 

『俺はハンマー如きではビクともしないがやめてくれ!』

 

キルバはソウルメタル製なので、ハンマーで叩かれても砕け散ることはないのだが、キルバは嫌がるのであった。

 

こうして、談話室の見学を終えた奏夜たちは、荷物を個室へしまうと、練習の準備を始めるのであった。

 

この合宿はあくまでも新曲を作るためのものであり、作曲担当の真姫と歌詞担当の海未。そして衣装担当のことりは別行動となるのだが……。

 

早々に準備を終えた奏夜とララは、集合場所である別荘入り口近くにある自然豊かな広場で待機をしていた。

 

しばらく待っていると、いつもの練習着を着た穂乃果たちが合流し、別行動している海未たちに部屋を案内していた剣斗もすぐに合流するのであった。

 

「……あっ、小津先生。海未ちゃんたちは?」

 

剣斗の姿を見るなり、穂乃果はこう訪ねるのであった。

 

「うむ!3人はそれぞれの部屋に案内したぞ。皆、それぞれの作業を開始した頃だろう」

 

「だからこそ、私たちは私たちでしっかり練習しないとね」

 

海未たちが新曲作りに動き出したと知り、絵里はこのように話をすると、練習を開始するのであった。

 

「さて、今は基礎の練習がメインになるだろうし、これからどうするか……」

 

練習は始まったものの最初はストレッチや、基礎のトレーニングがメインになってくるため、奏夜の出る幕はあまりないのである。

 

そのため、これからどうするか、奏夜は悩んでいたのであった。

 

「奏夜、それならば私と共に鍛錬を行わないか?」

 

「そうだな。それは俺も考えてたし、剣斗と2人ならいいトレーニングが出来そうだしな」

 

奏夜は、魔戒騎士としての鍛錬をしたいとも考えていたため、剣斗の提案を受け入れるのであった。

 

「私は曲作りをしてる3人の様子を見てくるわ。私はそれくらいのことしか出来ないしね」

 

そしてララは、別行動をしている3人の様子を見に行くために1度別荘の中へ戻ることにした。

 

「……みんな!俺らは俺らで別行動するから、何かあれば呼んでくれ!」

 

「ええ、わかったわ。練習は私たちだけでやるから任せて!」

 

奏夜の言葉を絵里はすぐに聞き入れており、ララは別荘へと戻っていった。

 

そして奏夜と剣斗は、鍛錬を行うために今いる場所からさらに離れた場所へと移動するのであった。

 

「さて……。ここならばみんなの練習の邪魔にはなるまい」

 

鍛錬に良さげな場所へと移動すると、剣斗はこのように呟くのであった。

 

すると、剣斗は自らの武器である魔戒剣と盾を取り出す。

 

それを見た奏夜も呼応するように魔戒剣を抜くのであった。

 

『おい、お前ら!何を考えている!魔戒騎士同士の私闘は禁じられているだろう?』

 

2人が魔戒剣を取り出したのを見て、キルバは慌てて止めるのであった。

 

「キルバ、お前は何を勘違いしてるんだ?」

 

「うむ!これはあくまでも鍛錬なのだ。限りなく実践に近いがな」

 

「これくらいしないと、鍛錬にならんだろ」

 

奏夜と剣斗は、真剣勝負の形式でぶつかることによって、より実践的な鍛錬を行おうと考えていたのである。

 

「キルバ、これが私闘ではなく、鍛錬であれば問題はあるまい?」

 

『ま、まあ、そういうことならばいいのだが……』

 

今から行うのは鍛錬と知り、キルバは納得せざるを得なかった。

 

「そういう訳だ!奏夜!お前の全てを私に見せてくれ!」

 

「ああ!全力で行くぜ、剣斗!お前もそうしてくれよな!」

 

「ふっ……無論だ!」

 

2人は魔戒剣を構えると、まるで真剣勝負のような雰囲気で対峙するのであった。

 

そして、2人は同時に駆け出すと、同時に魔戒剣を一閃し、互いに激しく剣を打ち合うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

「……とりあえず、ここまでにして、少し休憩するとしよう」

 

奏夜と剣斗は、40分ほど激しく戦いを続けており、剣斗がキリの良いところで戦いを終わらせるのであった。

 

「ああ、そうだな」

 

奏夜も少し休みたいと思ったからか、魔戒剣を鞘に納め、剣斗もまた、魔戒剣を鞘に納めて剣と盾をしまうのであった。

 

「奏夜、また腕を上げたな。剣のキレが前にも増して良くなっているぞ」

 

「剣斗もやっぱり強いな。おかげでいい練習になったよ」

 

真剣勝負の形式で鍛錬を行った2人は、互いのことを称賛するのであった。

 

「うむ!魔戒騎士同士が汗を輝かせ、互いに学び切磋琢磨をする……。イイ!とてもイイぞ!」

 

剣斗は奏夜と真剣にぶつかれたのが嬉しかったからか、興奮冷めやらぬ感じであった。

 

「アハハ……」

 

そんな剣斗の熱さに、奏夜は苦笑いをするのであった。

 

「さてと……。俺は1回みんなの様子を見てくるよ。そろそろ練習も落ち着いた頃だろうし」

 

自分の鍛錬を終えた奏夜は、練習を行っている穂乃果たちの様子を見に行こうとしていた。

 

「うむ!私は少しだけ休んでから別荘に戻るとしよう」

 

「ああ、わかった」

 

奏夜は剣斗と一旦別れると、そのまま穂乃果たちのところへ向かうのであった。

 

奏夜が穂乃果たちのところにたどり着くと、練習はひと段落して、休憩をしているみたいであった。

 

すると……。

 

「あっ、奏夜!ちょっと来て!」

 

奏夜の姿を見るなり、にこが奏夜を呼び出すので、奏夜はにこの方へと向かっていった。

 

「?にこ、どうしたんだ?」

 

「あれなんだけど……」

 

にこが指差したのは、急斜面になっているところに落ちている自分のリストバンドであった。

 

「なるほど、何かあってそこに落としたんだな」

 

「そういうことよ。手を伸ばしても届かないし、危ないし……」

 

にこのリストバンドは、手を伸ばしても微妙に届かない場所にあり、無理に手を伸ばせばこの先にある崖へ落ちる危険性があった。

 

「わかったよ。ちょっと待ってな」

 

奏夜は魔戒剣を取り出すと、リストバンドを鞘の先端部分にくぐらせ、あっという間にリストバンドを回収するのであった。

 

「ほら、今度は落とすなよ」

 

奏夜はすぐにリストバンドを渡すのであった。

 

「あっ、ありがと……」

 

にこは、頬を赤らめ、しおらしい感じで奏夜に礼を言うのであった。

 

「?にこ、どうしたんだ?珍しくしおらしい感じじゃないか」

 

「う、うるさいわね!ふん!」

 

奏夜の言葉が気に入らなかったからか、にこは膨れっ面になりながらそっぽを向くのであった。

 

「やれやれ……」

 

そんなにこを見て、奏夜は苦笑いをすると、魔戒剣を魔法衣の裏地の中にしまうのであった。

 

「奏夜、私たちが練習してる間にどこに行ってたの?」

 

「ああ、ちょっと前まで剣斗と鍛錬をしてたんだよ。実践形式ではあるけどな」

 

絵里がこのように聞いてきたため、奏夜は正直に答えるのであった。

 

「じ、実践って……。怪我はしなかったの!?」

 

剣斗と実践形式の鍛錬を行ったと聞き、心配になった花陽は、奏夜に詰め寄るのであった。

 

「あ、ああ……。別に怪我をするほどのことはしてないから大丈夫だけど……」

 

花陽が詰め寄ってきたため、奏夜は一歩下がり、苦笑いしながら答えていた。

 

「そうなんだね、良かった……」

 

花陽は本気で奏夜の身を案じており、奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「剣斗は少し休んでから別荘に戻るって言ってたから、今頃は別荘に戻ってるはずだ」

 

「私たちの練習もひと段落したし、一度戻りましょうか」

 

「そうだね!海未ちゃんたちの様子も気になるし!」

 

絵里は1度別荘に戻ることを提案し、そのことに誰も反対はしなかった。

 

そのため、奏夜たちは1度別荘に戻ることになった。

 

「……あっ、みんな!おかえりなさい!」

 

奏夜たちが別荘に入ると、ララが出迎えてくれた。

 

「みんな、練習の方はもういいの?」

 

「うん!練習も落ち着いたから、海未ちゃんたちの様子を見に来たんだ!」

 

「へ、へぇ……。そうなんだ……」

 

海未たちの様子を見に来たという穂乃果の言葉を聞き、何故かララは焦り始めていた。

 

「なぁ、ララ。みんなの曲作りは順調なのか?様子を見てたんだろ?」

 

「あ〜……。それが……」

 

何故かララはバツが悪そうにしており、それを見た奏夜たちは首を傾げていた。

 

ララは口で話をするより実際に見てもらった方が早いと感じたからか、奏夜たちをある場所へ案内することにした。

 

そんなララについていくことにした奏夜たちは再び外へ出ると、ララに案内されて、別荘の敷地内のとある場所へと移動するのであった。

 

すると、そこで奏夜たちが見たのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ……」

 

 

 

 

「……はぁ……」

 

 

 

 

 

「……はぁ……」

 

 

 

 

 

 

俯き、体育座りをしながらため息をつく真姫、海未、ことりがいたのであった。

 

「……え?こ、これって……?」

 

そんな3人の様子に、奏夜は戸惑いを隠せなかった。

 

「まぁ、これを見たら何となく察してくれたとは思うけど、詳しくは中で話をしましょう」

 

このようにララが話を促してきたため、奏夜たちは真姫たち3人を連れて、別荘の団欒室で話をすることにした。

 

剣斗も合流したところで、奏夜たちが練習している間に何があったのか、ララは語り始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

『スランプぅ!?』

 

ララから最後の結論を聞かされた奏夜たちは口を揃えて驚くのであった。

 

「私が別荘に戻ってきてからも曲作りが芳しくないみたいでね。とりあえず息抜きに外へ連れ出したらずっとあんな感じだったって訳」

 

ララは別荘に戻り、曲作りをしている3人の様子を見に行ったのだが、その時からすでに曲作りが上手くいかず、3人は塞ぎ込んでいた。

 

それを見かねたララは、3人を先ほどの場所へ連れ出し、気分転換をしてもらおうと考えていたのだが、効果はなく、ため息ばかりついてしまう展開となってしまったのであった。

 

「3人とも、今までより強いプレッシャーがかかっているということね」

 

「はい……。気にしないようにしてはいたのですが……」

 

「上手くいかなくて、予選敗退しちゃったらって思うと……」

 

海未とことりは、自分の作った詩や衣装が芳しくなく、そのせいで予選敗退してしまったらと考えるようになってしまい、思うように作業が進まなかったみたいであった。

 

「わ、私はそんなの関係なく進んでいたけどね!」

 

「その割には譜面が真っ白にゃ!」

 

「ちょっと!勝手に見ないで!」

 

真姫はこのように強がっていたのだが、それを凛にあっさり見抜かれてしまい、自分も不調であることがバレてしまった。

 

「ふむ……。確かに、私たちは3人に頼りきりだったかもしれないな。それはとてもイイとは言えないことだからなぁ」

 

「剣斗の言う通りだな。俺たちは、すっかり3人に甘えて頼ってばかりだからだったかもな」

 

作詞は海未。作曲は真姫。そして衣装はことりが担当しており、それらの作業は1人で行っていた。

 

今回に限ってはプレッシャーが相当なものであり、今まで通りということが出来ないのであった。

 

「だったら話は簡単じゃない。みんなで協力すればいいんだよ!」

 

「ララの言う通りね……。私たちにだって何かは出来るだろうし、みんなで力を合わせれば何とかなると思うわ」

 

ララは3人に頼り切るのではなく、全員で曲作りをすることを提案しており、それに絵里が賛同していた。

 

「仕方ないわねぇ……。それなら私の作詞した「にこにーにこちゃん」に曲をつけるとして……」

 

「……なんて話をしてたら決まらないよ?」

 

にこの話をスルーしながら、希は全員で作業を行うことの欠点をで指摘するのであった。

 

しかし……。

 

「だったら話は単純だ。これだけ人数がいるんだから、3つの班に分けりゃいい」

 

「うむ!それがいい!!日本のことわざにも、3人揃えばなんとやらとあるからな!」

 

『剣斗……。お前は一応教師だろうが……』

 

剣斗は班分けすることを、ことわざに例えるのだが、教師とは思えない誤魔化し方に、キルバは呆れていた。

 

「まずはμ'sの9人で班分けをして、それから私たち3人がどこに入るか決めましょう」

 

「そうだな。俺もそれがいいって思ってた」

 

ララは班分けに関して詳細な案を出しており、それに奏夜は賛同していた。

 

「班分けはくじ引きがいいと思うけど、ちょっと待ってて」

 

ララはくじ引きで班分けをすることを提案すると、ビー玉サイズの玉を9つ取り出すと、それを地面に置いた。

 

すると、ララは魔導筆を取り出すと、9つの玉にとある術を施すのであった。

 

「?ララちゃん、いったい何をするつもりなの?」

 

ララの行動の真意が理解出来ないため、穂乃果は首を傾げるのであった。

 

「まぁ、それはすぐにわかるよ♪みんな、適当に玉を一個手に取って!」

 

ララはこれから何をするのか明かさず、そのまま穂乃果たちに指示を出すのであった。

 

穂乃果たち9人は、よくわからないまま、適当に玉を1つ選び、手に取るのであった。

 

「みんな、玉は持ったね?じゃ、行くよ!」

 

ララは再び魔導筆を構えると、地面に向かって法術を放つのであった。

 

すると、穂乃果たちの持っている玉が赤、青、黄色のいずれかに光るのであった。

 

「うん!これで班分けは終わったね!」

 

穂乃果たちの持っている玉は、赤、青、黄色に光っていたのだが、どの色も3つずつ光っているため、これにより、班分けは終了するのであった。

 

「ララちゃん凄い!いったい何をしたの!?」

 

玉が3色に光ったことに穂乃果は驚き、キラキラと目を輝かせるのであった。

 

「ああ、今やったのは、私の故郷の蒼哭の里でよく使われる術で、今みたいに何人かに分かれなきゃいけない時に使ってたのよ。余計ないざこざを起こさないためにもね」

 

『意図は理解したが、ずいぶんと回りくどいな……』

 

「まあ、私の里は良くも悪くも合理性を求めるところがあるからね……」

 

ララは、蒼哭の里にまつわる話を少しだけしており、苦笑いをしていた。

 

「とりあえず、自分と同じ色を持ってる人が同じ班ね」

 

こうして、班分けの作業は終わり、このように分かれるのであった。

 

 

 

赤……ことり、穂乃果、花陽

 

青……海未、希、凛

 

黄色……真姫、絵里、にこ

 

 

 

「なぁ、今ふと思ったんだけど、今のやり方だったら、海未とことりと真姫の3人が同じ班になる可能性もあったんじゃないのか?」

 

奏夜は気になる疑問を指摘したのだが、ララは動じてはいなかった。

 

「ああ、そこは心配ないわ。だって私、その3人が同じ班にならないように細工は施してたから」

 

「アハハ……。なるほどな……」

 

今回の班分けのトリックがわかり、奏夜は苦笑いをするのであった。

 

「それで、私たち3人はどうする?それぞれが別々の班に行くのだろう?」

 

そして、剣斗の指摘通り、続いては奏夜たち3人をどこの班に分けるかを決める必要があった。

 

「私は真姫たちの班に行くわ。作曲は出来ないけど、興味はあるからね」

 

「うむ!ならば私は海未たちの班に行くとしよう」

 

「……そうなると、俺はことりたちの班に行くってことになるな」

 

ララと剣斗があっさりと候補を言い、奏夜も否定しなかったため、班分けはあっさりと決まるのであった。

 

「エヘヘ……♪よろしくね、そーくん♪」

 

「俺はあまり力にはなれないかもだけど、よろしく頼むよ」

 

奏夜が同じ班になったとわかり、ことりは嬉しそうにするのであった。

 

「ララ、よろしくね。一緒に作業をすることで、あなたともっと交流出来たらいいなと思ってたわ」

 

「それは私も同じ気持ち。だから、よろしくね♪」

 

絵里は、最近仲間となったララともっと交流したいと思っており、それが実現出来そうな予感がしたからか、嬉しそうにしていた。

 

「小津先生。色々とご迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします」

 

「うむ!私に出来ることは限られているが、出来る範囲で力になろう」

 

「小津先生、頼もしいにゃ♪」

 

「そうやね♪小津先生は年長者やしね♪」

 

「む……。そう言われるのはあまりイイとは言えないが、まあ、いいだろう」

 

剣斗はその熱さから生徒と同じ目線で接することが出来るのだが、自分が年長者という自覚が足りないこともあり、年長者と呼ばれるのは良しとしていなかった。

 

しかし、年上として頼られている以上、そんな気持ちは飲み込む剣斗なのであった。

 

「それじゃあ、それそれの班に分かれて、作業を開始しようぜ!何かあったら互いに連絡が取り合えるようにはしよう」

 

「そうね。わかったわ」

 

こうして、班分けが決まった奏夜たちは、それぞれの班に分かれて、行動を開始したのだが……。

 

『……なあ、奏夜』

 

「ん?どうした、キルバ」

 

『海未のやつなんだが、合宿先が山だとわかった途端に張り切り出しただろ?嫌な予感しかしないのだが……』

 

「そうだな。だけど、剣斗が一緒なんだ。何かあっても大丈夫だと思うぞ」

 

『……だといいがな』

 

キルバは、自分が感じている嫌な予感を奏夜に伝えるのだが、それは奏夜も感じていることだった。

 

しかし、海未たちには剣斗がついているという理由があるからか、そこまで大きな心配はしていないのであった。

 

奏夜が立ち止まってキルバと話をしていると……。

 

「そーくん!何をやってるのぉ?早く行こうよぉ!」

 

それを見かねた穂乃果が、急かすように奏夜へ声かけをするのであった。

 

「わかってる!今行くよ!」

 

ちょうど話も終わったため、奏夜は急いで穂乃果たちと合流し、行動を開始するのであった。

 

こうして、ラブライブ予選で使用する新曲を作るための作業が幕を開けたのである……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ……。あいつらが不調なのはわかったが、まさかこうなるとはな……。次回、「班分」。班分けは本当にこれで大丈夫なんだろうな……?』

 




今回登場した剣斗の別荘ですが、アニメ2期に登場した真姫の別荘と似た作りとなっています。

それにしても、ことごとくフラグを回避していく……。

ここまでフラグをかわすのもなかなかないと思うのでそれはそれで良いのかな?(笑)

そして次回は原作同様三班に分かれての活動が開始されます。

そこに奏夜たちが加わる訳ですが、どうなっていくのか?

そして、ラブライブ予選に向けた新曲は出来上がるのか?

次回も投稿が遅くなるかもしれませんが、なるべく早めに投稿したいと思っているのでよろしくお願いします!

それでは、次回をお楽しみに!



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第62話 「班分」

大変長らくお待たせしました!第62話になります。

3月中にもう1話投稿したかったけど、4月になってしまいました(>_<)

色々と忙しいのもありますが、執筆のモチベーションが下がってしまいまして……(>_<)

なので、ガッツリペースが落ちて投稿が遅くなってしまいました(>_<)

ですが、今後のネタは考えているので、時間はかかっても投稿はしていきますし、完結もさせたいと思っているので、よろしくお願いします。

さて、今回は班分けによる曲作りがスタートします。

なので、場面がコロコロ変わるので多少読みにくいかもですが、ご了承ください。

もっと文章力が欲しい……。

そ、それはともかくとして、第62話をどうぞ!





奏夜たちは、ラブライブ予選に出場するため、新曲を作らなければいけなくなった。

 

本来ならば真姫の別荘を借りて行う予定だったのだが、真姫の父親の都合で使えないことがわかり、その代わりに、剣斗の別荘を使って合宿を行うことになった。

 

当日になり、奏夜たちは剣斗の別荘に到着したのだが、とある問題に直面する。

 

海未、ことり、真姫の3人がいつも以上のプレッシャーに襲われた結果、スランプとなってしまったのだ。

 

曲作りをこの3人に一任していたことに奏夜は責任を感じながら、全員で曲作りを行うことがララから提案される。

 

さらに、作詞班、作曲班、衣装班の3つに分かれて、別行動をとる事になったのであった。

 

 

 

 

作曲を担当することになった真姫、絵里、にこ、ララの4人は、別荘から程近い場所を陣取り、そこへテントを立てるのであった。

 

「……って!どうして別荘があるのに外でテントを張らなきゃならないのよ!」

 

テントを張った場所が別荘から近いこともあるからか、にこは異議を唱えるのであった。

 

「少しは距離を取らないと三班に分けた意味がないでしょ?ちょうど別荘にテントもあったしね」

 

ここに張ったテントは、誰かが持参したものではなく、この別荘に置いてあるものであった。

 

それなりのサイズのテントが3つあったため、1班に1つずつテントがあたり、別行動をするのに役立てることにしたのである。

 

「こんなんで本当に作曲なんて出来るのぉ!?」

 

「大丈夫だよ。みんなで協力するんだから、きっとなんとかなるわ」

 

「そうね、ララの言う通りだわ」

 

「それに、私はどうせ後でピアノのところに戻るしね」

 

にこはこのようなテントで曲作りが出来るか不安になっていたが、そんな気持ちをララが吹き飛ばしていた。

 

「ふふ、それじゃあ食事でも作りましょうか。真姫が少しでも集中できるように」

 

「あっ、私も手伝うよ!こう見えても料理は得意なんだから!」

 

「仕方ないわねぇ……」

 

絵里は食事作りを提案すると、そのまま準備を始めようとしており、それにララとにこが続くのであった。

 

こうして作曲班は、それぞれ動き始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

その頃、奏夜、穂乃果、ことり、花陽の4人の衣装班は、川のほとりに陣取っていた。

 

奏夜が手際よくテントを張ると、テントの中でことりは黙々と衣装のアイディアとなるデッサンを描いているのであった。

 

そんな中、花陽は衣装作りの参考になるものがないかを探しに、周囲を散策しに行くのであった。

 

「さてと……。俺はこれからどうするかな?」

 

奏夜はそう呟きながらも、何故か楽しそうに自前の釣り道具を取り出し、釣りの準備を始めるのであった。

 

『ったく、お前は……。釣りをする気満々じゃないか……』

 

奏夜は明らかに趣味である釣りを楽しもうとしており、それを察したキルバは呆れ果てるのであった。

 

「べっ、別にただ釣りがしたいだけじゃないぞ!衣装作りのアイディアなんて思いつかないし、せめて夕飯の魚を釣り上げようと思ってだな!」

 

自分の目論見を見抜かれた奏夜は必死に弁解をするのであった。

 

『よく言うぜ。ここにテントを張ったのだって、釣りをしたいからだろう?』

 

これ以上弁解しても意味がないと判断したからか、奏夜は素直に頷くのであった。

 

『ったく……。お前ってやつは……』

 

「べ、別にいいだろ!どのみち別荘から離れなきゃだし、川沿いなら雰囲気もいいし!」

 

『開き直るなよな……』

 

奏夜は毅然とした態度で開き直るのだが、キルバはそんな奏夜に呆れていた。

 

「どっちにしても俺に出来ることはないし、剣斗が話してた大物を狙うのもありかと思ってな」

 

奏夜は釣り道具の準備を整えると、不敵な笑みを浮かべていた。

 

三班に分かれて行動する前、奏夜の趣味が釣りだと知っている剣斗がここら辺の川に生息する大物の魚の情報を奏夜に与えていたのであった。

 

「豪快な魚を釣り上げれば何か衣装のヒントになるかもって思ってな」

 

『いや、それはないだろ……』

 

奏夜のめちゃくちゃな理論に、キルバは呆れていた。

 

「そういう訳で……」

 

奏夜はテントから少しだけ離れたところに移動すると、釣竿を振り下ろし、釣りを開始するのであった。

 

ちなみに奏夜はルアーを使用しているのだが、このルアーは自前のルアーであり、釣具店で購入したそれなりに高価なルアーであった。

 

こうして、奏夜は本格的に釣りを開始するのであった。

 

奏夜は剣斗から話を聞いていた大物を狙っていたのだが、釣れるのは小ぶりの魚ばかりであり、大物がいる気配は感じ取れなかった。

 

「むむ……!」

 

奏夜は思うような釣果をあげられていないからか、釣り糸を垂らしながらしかめっ面になっていた。

 

『奏夜。今日はそれなりに釣れてる方じゃないか。何故そこまでしかめっ面になる必要がある?』

 

釣りをする時の釣果はその時により、全く魚が釣れない日があることもある。

 

今回は小ぶりの魚がそれなりに釣れているため、釣果はそれほど悪いとは言いがたい。

 

そんな状況を不満がっている奏夜がキルバには理解出来なかった。

 

「だってよぉ!その釣り場1の大物を釣り上げないと、釣り冥利に尽きないだろ?」

 

『はいはい。そういうことか』

 

奏夜は数より質を求めており、それを理解したキルバは、ジト目で奏夜のことを見ていた。

 

奏夜が垂らしている釣り糸とにらめっこをしていると……。

 

「……あ、奏夜君。ここにいたんだね」

 

奏夜が釣りを始める前にどこかへ散策をしていた花陽が奏夜の姿を見かけてひょこっと顔を出すのであった。

 

「ああ。俺はことりに良いアイディアを出してもらうために環境作りをするので精一杯だからな。だからこそ趣味の釣りをさせてもらってるんだよ」

 

『いよいよ包み隠さずぶっちゃけやがったな……』

 

奏夜は一切悪びれることなく本音を吐露しており、そのことにキルバは呆れていた。

 

「アハハ……。そうなんだ……」

 

そうとわかった花陽は苦笑いをするのであった。

 

「それで、花陽はどこに行ってたんだ?」

 

「あ、うん。ことりちゃんの衣装作りの参考になるものがないか散策してたらお花畑を見つけたんだ。それでね……」

 

花陽はこのように前置きをすると、小さなカゴいっぱいに、白い花を摘んでおり、それを奏夜に見せていた。

 

「へぇ、綺麗な花じゃないか!よくこんなに集められたな」

 

「そ、そうかな……。////だけど、私も綺麗だなって思って、衣装に使えないかなって思ったから摘んできたの」

 

奏夜は花を多く摘んできた花陽に感心しており、花陽は気恥ずかしいからか頬を赤らめていた。

 

「さっそくことりに見せてやれよ。きっと喜んでくれると思うぜ!」

 

「うん!さっそくことりちゃんに見せてくるね!」

 

花陽は奏夜に満面の笑みを見せると、そのままことりがいるテントの方へ向かっていった。

 

そんな花陽の笑顔を見て、奏夜はドキッとしたからか、頬を赤らめるのであった。

 

「……なんで俺、こんなにドキッとしてるんだ……?」

 

奏夜は未だにドキドキが治らず、見慣れたはずの花陽の笑顔でどうしてこうなったのかが疑問であった。

 

(やれやれ……。あの月影統夜なみにフラグを積み立てていくな、奏夜のやつ……)

 

キルバは、今の奏夜に思うところがあるからか、声には出すことなく呆れているのであった。

 

「と、とにかく!大物を釣り上げないと!穂乃果たちとの合流はそれからだ!」

 

奏夜は気持ちを切り替えて、自分の目的を果たそうとしていた。

 

「……それよりも、海未たちの班だけど、山の方に向かって行ってたよな」

 

『そういえばそうだったな』

 

奏夜は剣斗から大物の話を聞いた後に、海未たちが山の方へ向かっていくのを目撃していたのであった。

 

『あの4人は本気で登山でもするつもりか?嫌な予感しかしないんだが……』

 

「そうだとしても、剣斗が一緒なんだから大丈夫だろ」

 

『……だといいがな』

 

奏夜は剣斗のことを信用しているため、そこまで心配はしていなかったが、キルバは過剰に心配するのであった。

 

そんなキルバの憂いなど意に返さず、奏夜は釣り糸とにらめっこをするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

キルバが心配していた海未たちは現在……。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「凛!手を離してはいけません!死にますよ!」

どうやら海未たちは本当に登山を行っており、現在は難所である崖を越えようとしていた。

 

先導する海未が凛の手を取り、希と剣斗は下から凛を支えるのであった。

 

「なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだにゃあ!!」

 

凛はべそをかきながら、この現状を嘆くのであった。

 

「ファイトが足りんよ!」

 

「うむ!凛!熱いパッションがあればこのような崖など造作でもないぞ!」

 

「言ってることがめちゃくちゃだにゃあ!!」

 

凛はこのような状況でも、剣斗の言葉にツッコミを入れるのであった。

 

そして、どうにか崖を越え、山頂へ続く道が見えてきたのだが……。

 

「……残念やけど、雲がかかってきたね……」

 

「うむ!これ以上進むのは危険だろう」

 

剣斗たちは山頂が目視出来るポイントに到着したのだが、雲がかかっており、天候の変化の可能性があったため、剣斗はこれ以上進むことを良しとはしなかった。

 

「そんな……!ここまで来たのに……!」

 

海未はその事実に顔を真っ青にしており、悔しそうにするのであった。

 

そんな中、凛は登山が乗り気ではなかったからか、グスグスとベソをかくのであった。

 

「ひどいにゃ!凛はこんなところ全然来たくなかったのに!」

 

そして凛は涙目で海未に抗議をするのだが……。

 

「仕方ありません……。ここで天候の回復を待って、翌日アタックをかけます。山頂アタックです!」

 

海未は凛の話をスルーするだけではなく、山頂にたどり着きたい思いからか、翌日に山頂に向かうことを提案するのであった。

 

「まだ行くのぉ!?」

 

「当然です!何をしにここへ来たと思ってるんですか?」

 

「作詞に来たはずにゃあ!」

 

ここへ来た目的を問われた凛は真っ当な答えを返すのだが、その答えに海未はハッとするのであった。

 

「まさか忘れてたのぉ!?」

 

「そんなことはありません!成し遂げたという達成感が創作の源になると思いまして……」

 

海未は本当に忘れていたからか、必死に弁解をしようとしていた。

 

すると……。

 

「……海未。今日はここまでにしておいた方がいい」

 

「そうやね。ウチも小津先生と同じこと思ってたわ」

 

「ですが……!」

 

剣斗と希が登山の中止を提案すると、海未は異議を唱えようとしていた。

 

「海未。山にチャレンジしようとするその勇気はとてもイイと思う。だが、途中で諦めるということも勇気がいることだとは思わないか?」

 

「……」

 

「海未ちゃん。そういうことや。だから下山の準備を始めるよ。晩ご飯はラーメンにしよう」

 

「本当!?」

 

ようやく下山出来るということと、大好物のラーメンが食べられるということもあり、凛の表情はぱぁっと明るくなっていた。

 

「下に食べられる草がいっぱい生えてたよ。手伝って」

 

「うむ!たしかにいっぱいあったな。手伝うとしよう」

 

希と剣斗は、食事の時に使える野草を採取するために移動を開始するのであった。

 

「希も小津先生もそんなことまで詳しいんですね……」

 

「なんか謎にゃあ」

 

希と剣斗は野草のことも詳しいようであり、そんな2人に海未と凛は首を傾げるのであった。

 

こうして、海未たちは頂上へ向かう登山を断念し、下山しようとしていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、テントの近くにある川で奏夜は釣りを行っていたのだが、目当ての大物は釣ることが出来なかった。

 

奏夜はことりたちの様子も気になったため、釣り上げた魚を全て逃すと、そこで釣りを終えるのであった。

 

釣り道具を片付け、奏夜はそのままテントに向かうのであった。

 

「みんな、作業の方は順調か?」

 

このように声をかけながら、奏夜はテントの中に入っていくのだが……。

 

「「「すぅ……すぅ……すぅ……」」」

 

そこで奏夜が目にしたのは、すやすやと寝息をたてながらうたた寝をしている穂乃果、ことり、花陽の姿であった。

 

「なっ……!こ、これは……!」

 

『ったく……。真面目に作業をしてるかと思えば、のんきな奴らだな』

 

奏夜はこの光景に驚いており、キルバはこの光景に呆れるのであった。

 

(……それにしても、何故だろう……。この3人の寝顔を見てたら、凄く心が和むというか、癒されるというか……。なんとも言えない気持ちになるんだが……)

 

奏夜は穂乃果たちの寝顔をジッと見ていたのだが、頬を赤らめながら、なんとも言えない気持ちを抱くのであった。

 

『……おい、奏夜。言っておくが、寝てるからってこいつらを襲うなよ。色々と面倒なことになるからな』

 

「襲わないっての!」

 

キルバの放った唐突な言葉を、奏夜はすぐに否定するのだが……。

 

「ん……」

 

奏夜の声が大きかったからか、ことりが一瞬だけ反応するのであった。

 

「っと、いけないいけない」

 

穂乃果たちを起こすのは申し訳ないと思っていたからか、ことりが起きなかったことに奏夜は安堵するのであった。

 

『奏夜、あまり大きな声をあげたらこいつらが起きるぞ。気を付けろよな』

 

「わかってるって」

 

キルバは大声を出した奏夜にクギを刺すのだが、奏夜はそこを理解しているようであった。

 

「……やれやれ。仕方ないな……」

 

すやすやと眠る穂乃果たちを見て、穏やかな表情で笑みを浮かべるのであった。

 

そして、奏夜はそのままテントを出るのであった。

 

『奏夜、これからどうするつもりだ?』

 

「3人とも寝てるしな。だったら、食事の準備でもしておこうと思ってな」

 

どうやら奏夜はこれから夕食を作ろうとしているみたいだった。

 

『奏夜、食事を作るのはいいが、食材はどうする?魚は全部逃しただろう?』

 

「大丈夫だ。1回別荘に戻って、厨房にある食材を分けてもらおうと思ってな。剣斗の許可はもらってるし」

 

『なるほどな。それなら問題はないか』

 

こうして、奏夜は1度別荘へ戻り、厨房にて食材を調達しに行くのであった。

 

厨房には食材が揃っており、奏夜はどれをもらうか悩んでいたのだが、今日の献立を決めた奏夜は、次々と食材を調達するのであった。

 

そして、先ほどのテントに戻ってくると、夕食の支度を始めて、穂乃果たちが起きてくるのを待つのであった。

 

奏夜が夕食を作り終えるか終えないかのタイミングで、穂乃果たちは目を覚ますのである。

 

そして、たちこめる美味しそうな匂いにつられてテントを出ると、奏夜が料理を作っていたのであった。

 

「ったく……。ようやくお目覚めか」

 

言葉だけを聞けば呆れているようだが、奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「エヘヘ……。居心地が良くて、つい……」

 

いの1番に眠ってしまった穂乃果は、照れ隠しに笑っていた。

 

「それよりもそーくん、この料理って、全部そーくんが?」

 

「まあな。今の俺に出来る事と言えばこれくらいだしな」

 

「奏夜君、ごめんね。これだけの料理を1人で作らせちゃって……」

 

ことりは並んでいる料理が奏夜1人で作ったことに驚いており、花陽は、そのことが申し訳ないと思っていた。

 

「気にするなって。ほら、もうすぐ全部終わるから、こっち来て座るといいよ」

 

「あっ、うん……」

 

奏夜が最後の仕上げをしている間に、穂乃果たちは奏夜が用意した椅子に座るのであった。

 

その後、穂乃果たちは奏夜が作った料理に舌鼓を打つのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

奏夜たちが食事を取っている頃、ララたち作曲班も夕食を取っていたのであった。

 

食事が終わった頃には夜になっており、ララたち4人はテントの近くに焚き火を用意し、4人は焚き火を囲うように座っていた。

 

「……ねぇ、真姫。作曲の方は順調なの?」

 

三班に分かれて行動するようになってから、ララたち3人は、真姫の作曲の進捗状況を聞かなかったのだが、ララはここで聞いてみることにしたのであった。

 

「正直言っていまひとつね。イメージはなんとなくあるんだけど、なかなかまとまらなくて……」

 

「……そうなんだ」

 

真姫から作曲の進捗状況を聞いたララは、どこからか1本の横笛を取り出すのであった。

 

「……?ララ、その笛は?」

 

「参考になるかはわからないけどさ。聞いてみてよ」

 

いきなり横笛を取り出したことに真姫は首を傾げるのだが、そんなことなどお構いなしでララは横笛でとある曲を奏でるのであった。

 

 

 

 

※曲のモデル→Dragon Song(FF14 蒼天のイシュガルドより)

 

 

 

 

「綺麗な曲……」

 

「ええ……」

 

「そうね……」

 

真姫、絵里、にこの3人は、ララが奏でる笛の音に聞き入っていたのであった。

 

「……ふぅ、どうだった?」

 

「ねぇ、ララ。今の曲は?」

 

「とても綺麗な曲だったわよ」

 

真姫は先ほどの曲について問いかけており、絵里は素直に曲の感想を述べていた。

 

「ありがと。さっきの曲は私の里に伝わる鎮魂の曲よ。私の里の周辺でもホラーとの戦いはあるし、戦いで命を落とした魔戒騎士や魔戒法師の魂を鎮めるためにって伝えられた曲なの」

 

「魂を鎮める曲……」

 

「とてもいい曲だったわよ」

 

にこは穏やかな表情で笑みを浮かべながら素直に感想を述べるのであった。

 

「……ねぇ、真姫。間違ってたら謝るけどさ、卒業する3年生のためにって考えてない?」

 

「っ!?」

 

ララから飛び交ってきた言葉は図星だったからか、真姫は息を飲むのであった。

 

「まったく……。そんなことじゃないかと思ったわよ」

 

どうやらにこもまた、真姫がスランプに陥った原因を察していたようであった。

 

「3年生のためにいい曲を作って、3年生のために勝ちたい……。それじゃダメだと思うのよ」

 

「ララの言う通りよ。曲はいつだって、みんなのためじゃないと」

 

「そうね……。気遣いは嬉しいけれど、みんなの想いが込もった曲じゃないと意味がないもの」

 

「私が伝えたいのはそういうことだよ」

 

「みんなのための曲……」

 

ララだけではなく、にこと絵里の言葉も聞き、真姫の肩の荷は降りたようであり、少しだけ穏やかな表情をしていた。

 

「……みんな、ありがと……」

 

そして、真姫は頬を赤らめながら素直に礼を言うのであった。

 

「あれあれ?珍しいわね♪真姫が素直に礼を言うなんて♪」

 

「う、うるさいわね!」

 

にこはニヤニヤしながら真姫をからかっており、真姫はムキになって反論するのであった。

 

そんな2人の様子を、ララと絵里はクスクスと笑いながら見守っているのであった。

 

「……あ、そうだ。ララ、あなたのいた里についての話を聞かせて欲しいの」

 

「別に構わないけど、面白い話はないよ」

 

「そこは気にしてないわ。私が聞きたいって思ってるんだもの」

 

「ええ、わかったわ」

 

「あ、その前にちょっとだけ待ってて!」

 

周囲をキョロキョロと見渡しながら何故か不安げになっている絵里は、慌ててテントに戻ると、テントの中に設置しているランタンに灯りを灯すのであった。

 

そのことにより、絵里が暗いのが苦手とわかったからか、絵里以外の3人は笑みを浮かべるのであった。

 

こうして、ララは真姫たちに自分のいた蒼哭の里についての話をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその頃、下山の準備をしつつある程度のところまで降りてきた剣斗たちは、テントを設置し、夕食を済ませるのであった。

 

「……綺麗な星だにゃ♪」

 

夕食を終えた後、凛、海未、希の3人はテントの入り口で寝転がりながら星を眺めており、剣斗は少し離れたところで座りながら星を眺めていた。

 

「うむ!私もこのように綺麗な星を見るのは久しぶりだよ。このような絶景を拝められるとは、とてもイイぞ!」

 

剣斗は、星空を眺めながら、興奮冷めやらぬ感じで語るのであった。

 

「……ところで海未。作詞の方はどうにかなりそうか?」

 

剣斗は星空を眺めながら、作詞の進捗状況を問いかけるのであった。

 

「……正直なところ、思うように進んでません……。気にしないようにはしていますが、やはり、色んな思いが頭をよぎってしまいまして……」

 

「海未ちゃん……」

 

海未は、スランプの原因を自覚はしているものの、それを乗り越えることは出来ていなかった。

 

「ふむ……。海未、今から作ろうとしている曲に限った話ではないが、μ'sの曲は誰のためにあるべきだと思う?」

 

「それはもちろん!μ's全員のために決まっているではないですか!」

 

「ふふ……。わかっているではないか」

「小津先生……」

 

「こんな言葉を送っても気休めにもならんとは思うが、あえて言わせてもらおう」

剣斗は穏やかな表情で笑みを浮かべながら前置きをしており、ゆっくりと語り始めた。

 

「……何も気負うことはなく、自分の感じたものをそのまま形にするといい。そうは言っても、迷ったり、立ち止まったりもするだろう。だからこそ、私や奏夜。それにララがいるのだ」

 

剣斗は教師としてでも魔戒騎士としてでもなく、1人の男として、言葉を紡いでいくのであった。

 

「そんな時は私たちが皆を支え、道を示していこう。迷って立ち止まったとしても、誰かが背中を押してくれる。道とはそうして切り開いていくものなのだよ」

 

「……流石は小津先生やな。ウチは何も言うことがなくなってしまったわ」

 

希は、色々と迷っている海未を励まそうとしていたものの、良いところを全て剣斗に持っていかれてしまい、苦笑いをするのであった。

 

「小津先生、凄いにゃあ!」

 

「……小津先生、ありがとうございます。先生の言葉で、少しは気が楽になりました」

 

「うむ!それは良かった!あとは自分の思ったものをそのまま形にするといい。大丈夫だ、きっと出来るさ。とびきりにイイ曲がな」

 

「はい!」

 

剣斗の励ましの言葉により、海未は不安な気持ちを吹き飛ばし、曲作りへの意欲をさらに高めるのであった。

 

海未は自分の頭の中のイメージをまとめるためにジッと星空を眺めており、剣斗たちもまた、星空を眺めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

そしてその頃、川のほとりでテントを張っていた奏夜たちもまた、夕食を済ませると、星空を眺めていた。

「なんか……綺麗だね……」

 

「うん!空気も澄んでるし、なんか癒されるよね♪」

 

都会から離れた山の麓であるため、空気は澄んでおり、満天の星空はより輝きが綺麗に感じる事が出来た。

 

そのことに、花陽とことりは満足そうであった。

 

「なんか、また寝ちゃいそうだねぇ」

 

「おいおい……。さっきまで散々寝てただろうが……」

 

どうやら穂乃果はまた寝ようとしており、そのことに奏夜は呆れていた。

 

「それにしても、他のみんなは作業は進んでいるのかなぁ?」

 

そんな中、花陽は自分たち以外の班の動向が気になるからか、このように呟いていた。

 

「大丈夫だよ!だって、私たち9人だけじゃなくて、そーくんたち3人もいるんだから!」

 

すると、すかさず穂乃果が自信満々に答えるのであった。

 

「そうだな。俺もそう思うよ」

 

そんな穂乃果の言葉に、奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべながらそれを肯定するのであった。

 

「俺はさ、こんなことをしなくたって、曲作りはなんとかなるだろうって思ってたんだ」

 

「そーくん……」

 

「俺たちは、今までだって色んな問題にぶつかりながらもそれを乗り越えてきたんだ。みんなで力を合わせてな。だからこそ、曲作りだってきっとなんとかなるって思ったんだよ」

 

奏夜は新曲作りが必要になると聞いても、そこまで驚いたり焦ったりすることはなかったのだが、それはμ'sのことを信じているからこそなのである。

 

「ま、今回みたいに班分けをして作業をするのも新鮮でいいなと思ったよ。迷ったり悩んだりしたって構わない。だって、俺たちは1人じゃないんだからさ」

 

「そうだよ!だからこそ、新曲だって、きっとなんとかなるよ!」

 

奏夜の言葉を穂乃果は全面的に受け入れており、力強く奏夜の言葉を肯定するのであった。

 

「……ありがとう、そーくん。なんか、そんな話を聞いたら、本当になんとかなりそうな気がしてきたよ♪」

 

「……そっか。それなら良かったよ」

 

ことりは奏夜の自信に満ちた態度を見て、今まで抱えていた不安な気持ちを一気に吹き飛ばす事が出来たのであった。

 

こうしてことりもまた、スランプから抜け出せそうな予感を感じながら、奏夜たちと共にしばらくの間、星を眺めるのであった。

 

その後、穂乃果、ことり、花陽の3人は、ここの近くに露天風呂があると聞くと、そこへ向かうことになり、その間、奏夜は別行動をとることにした。

 

奏夜は先ほどまでいた川のほとりから離れた場所へ移動すると、そこで星を眺めていた。

 

「……みんながいるからなんとかなる……か」

 

奏夜は先ほどことりたちと話した内容を思い出すと、穏やかな表情で笑みを浮かべるのであった。

 

『おい、奏夜。いったいどうしたんだ?』

 

「なぁ、キルバ。俺たちはジンガを倒してニーズヘッグの復活を阻止しなきゃいけないけど、きっと勝てるよな?」

 

『おいおい、いきなり何を聞くかと思えば……』

 

奏夜はことりたちのことを励ましたばかりではあるものの、魔戒騎士としての不安を口にしており、そのことにキルバは呆れるのであった。

 

『ま、まだまだ未熟なお前1人の力ではどうにもならんだろう。だが、お前には仲間がいる。そうだろう?』

 

「……そうだな……。みんなと力を合わせれば、きっとジンガを倒せる……!俺は絶対に勝ってみせるさ。そして、ラブライブに出るみんなの行く末を見守るんだ」

 

『ま、やらなきゃいけないことがあるんだ。だからこそ、生きてそれを実現させないとな』

 

「……ああ!」

 

奏夜は星空を眺めながら、改めて迫り来る脅威を払っていこうと強く誓うのであった。

 

そう誓うことでスイッチが入ってしまったからか、奏夜は魔戒剣を抜くと、その場で素振りを行い、鍛錬を始めるのであった。

 

2時間ほど鍛錬を行った奏夜は、今日泊まる予定のテントに戻る前に別荘の様子を見ることにしたのであった。

 

奏夜たちはバラバラになって行動をしているため、誰もいなくてもおかしくはなかったのだが、誰かいるみたいであり、明かりがついているのが確認された。

 

それからまもなくして、ピアノの音が聞こえるのであった。

 

「……真姫、どうやら見えたみたいだな……」

 

真姫はスランプを乗り越えて作曲を行っていると推測されるため、それを知った奏夜は笑みを浮かべるのであった。

 

それからしばらくすると、ことりと海未が別荘の入り口に現れると、そのまま別荘の中へと入っていくのであった。

 

「……どうやら、曲作りの方はなんとかなるみたいだな……」

 

『……ああ、そうみたいだな』

 

「これから忙しくなるな……」

 

『奏夜、お前も覚悟をしておかないとな』

 

「わかってるって」

 

真姫、ことり、海未の3人が別荘で作業をしているのを見届けた奏夜は、そのままその場を後にして、川のほとりへ戻るのであった。

 

奏夜が戻ると、穂乃果と花陽はすでに寝ていると思われたため、奏夜はテントの中へは入らず、テントの近くに別荘から持ってきた足を伸ばせるキャンプ用の長椅子をテントの近くに設置すると、そこに座り、足を伸ばした。

 

奏夜は魔法衣を布団代わりにして、そのまま眠りにつくのであった。

 

翌日、真姫、海未、ことり以外の全員は自然と集まっていた。

 

奏夜は事情を知っているのだが、3人がいなくなっていると気付いたからである。

 

事情を知っている奏夜は他のメンバーを連れて別荘へ向かうのであった。

 

そのまま別荘の中へ入り、ピアノが置いてあるリビングに入るのだが、そこで奏夜たちが見たのは、すやすやと眠りについている真姫、海未、ことりの3人の姿であった。

 

3人は班分けを行い、それぞれ行動することによって何かを掴んだからか、自然と別荘に集まって、作業を行っていたのだ。

 

3人は夜通しで作業を行い、どうにか曲を完成させることが出来たのであった。

 

その証拠に、歌詞と衣装。そして、楽譜全てが揃っていたからである。

 

それを見た奏夜たちの表情はぱぁっと明るくなっていた。

 

「さて……。これから忙しくなるぞ……」

 

奏夜は穏やかな表情でこのように呟くと、タオルケットを用意すると、それを3人にかけて3人をそのまま休ませることにしたのであった。

 

それに穂乃果たちは反対せず、3人が起きるまでは各自休憩を取ることになった。

 

その後、奏夜たちはラブライブ出場へ向けて練習を開始するのであった。

 

この日はみっちり練習を行い、翌日に東京へと帰るのである。

 

ここから、更なる波乱が待ち受けていることを、奏夜たちは知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『ラブライブの予選ではあのA-RISEが最大の壁になるな。さて、これからどうなることやら……。次回、「王者」。スクールアイドルの覇者、ここに降臨!!』

 

 

 




今回はラブライブの本編寄りの話になりましたが、剣斗やララの存在を際立たせてみました。

だからか、穂乃果は本編で言ってた台詞を剣斗に取られちゃいましたし(笑)

そして今回、ララが笛による演奏をしていましたが、笛は烈花が使っていた笛と同じ物というイメージで書いています。

曲は、FF14蒼天のイシュガルドで使われたDragon songをモデルにしていますが、この曲、蒼天のイシュガルドの世界観に合っててかなり神曲なのです。

蒼天のイシュガルドも、牙狼ライブのこの章も「竜」にまつわる話になっていると思いますし。

それにしても、あの3ユニットの中では、「Printemps」を推してる僕としては、すやすやと眠る3人を眺められた奏夜が羨ましいのです(笑)

寝顔を見てるだけで癒しの効果が半端ない気がする(笑)

さて、次回はお待たせしました!奏夜たちがあのグループと初邂逅します。

あのグループはいったい奏夜たちとどのように絡んでいくのか?

次回の投稿も遅くなるかもですが、なるべく早めに投稿したいと思っているので、次回を楽しみにしていて下さい!



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第63話 「王者」

お待たせしました!第63話になります!

牙狼VLが終わり、神ノ牙のテレビ版が放映されるかと思いきや、情報も出てないし、まだ放映されてないみたいです。

もしかして、放映されるのは夏頃になるのかな?

こちらは首を長くして待ちたいと思います。

さて、今回から2期の3話に突入します。

ラブライブ予選に向けて動き出す奏夜たちですが、彼らを待ち受けるものとは?

それでは、第63話をどうぞ!




ラブライブ予選出場へ向けて新曲を用意しなければならない奏夜たちは、新曲を作るために剣斗の別荘で合宿を行うことになった。

 

しかし、今までとは違うプレッシャーが、真姫、海未、ことりの3人を襲い、3人はスランプに陥ってしまう。

 

そんな中、三班に分かれて行動する奏夜たち。

 

それぞれの時間を過ごし、そのことで何かを掴んだ真姫、海未、ことりは無事に曲を完成させるのであった。

 

合宿から帰ってきた奏夜は、すぐに番犬所へ向かい、ロデルに曲が出来たことを報告する。

 

そのことに喜ぶロデルであったが、すぐにホラー討滅の指令を奏夜に与え、奏夜はホラー討滅に動き始めた。

 

そして現在……。

 

「……はぁ、はぁ、はぁ……。あのガキ、本当にしつこいぜ!」

 

「逃すかよ……!ホラー!」

 

1人の男が奏夜から逃げていたのだが、その男こそ、指令の対象であるホラーであり、その正体を見抜くと、男は逃走。

 

奏夜は現在進行形で追いかけていたのであった。

 

あと一歩のところで追い詰められる状況になったその時であった。

 

「……きゃっ!」

 

ホラーである男は、たまたま飛び出してきてしまった少女とぶつかってしまい、その少女を突き飛ばしてしまうのであった。

 

そんな少女を見つけた男は何かを思いついたのか、ニヤリと笑みを浮かべるのであった。

 

そして、奏夜が追いついたその時であった。

 

「……動くな!魔戒騎士の小僧!」

 

男は先ほど突き飛ばしてしまった少女を捕まえると、ナイフを手にして少女に突きつけるのであった。

 

「グヘヘ……!動くんじゃねぇぞ……。一歩でも動いたら、この女を殺してやるからな」

 

「くっ……!卑怯な手をつかいやがって……」

 

魔戒騎士は人を守る存在であるため、守るべき人が人質に取られていては、迂闊な動きは出来ないのである。

 

そのため、奏夜は男の言う通り、動く事が出来ないのであった。

 

しかし、周囲を見渡して、何か男の注意をそらせるものがないか探してはいた。

 

「まさか盾として使える餌まで手に入るとはな……。魔戒騎士をまいたらさっさとこの女を食らうとするか」

 

男は、少女を人質にしたまま逃走を図ろうとしており、その後、この少女を喰らおうと画策していた。

 

「じゃあな!愚かな魔戒騎士のガキ!」

 

男は奏夜が動けないのをいいことに、そのまま逃げ出そうとしていた。

 

その時である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこからか銃声が聞こえてくると、男の体に1発の銃弾らしきものが着弾するのであった。

 

その衝撃で、男は手に持っていたナイフを落とす。

 

「ぐぁっ!!ちくしょう!今のはどこから来やがった!」

 

男は撃たれたことにより、周りをキョロキョロと見渡すのだが、それにより大きな隙が出来てしまった。

 

「……今だ!」

 

奏夜はその隙を突いて男に接近すると、男に蹴りを叩き込み、男を吹き飛ばすのであった。

 

「……君、大丈夫か?早くここから逃げるんだ!」

 

奏夜は少女のことを気遣いながらも、逃げるよう促していた。

 

不思議なことに、少女は恐怖に怯えた様子はなく、逆に不敵な笑みを浮かべるのであった。

 

「……ありがと、ナイトさん♪」

少女は微笑みながら奏夜に礼を言うと、駆け足でその場から立ち去るのであった。

 

「くそっ!逃げられたか!……誰だ!俺の邪魔をしたやつは!」

 

奏夜に蹴られた男はゆっくりと立ち上がると、周囲を見渡しながらこう叫ぶのであった。

 

すると……。

 

「それはな、俺だよ。俺」

 

こう言いながら現れたのは、銃らしきものを持った魔戒法師であった。

 

「アキトさん!」

 

その魔戒法師は、布道レオの1番弟子であり、魔戒騎士の天宮リンドウの弟であるアキトであった。

 

「おう、奏夜!久しぶりだな!」

 

アキトは久しぶりにこの秋葉原を訪れていたため、奏夜との久しぶりの再会を喜んでいた。

 

「ったく……。女の子を人質にするだなんて、お前、不粋すぎるぜ」

 

アキトは魔戒銃をクルクルと回しながら、人質を使うホラーの男に呆れるのであった。

 

「うるさい!うるさいうるさい!こうなったら、貴様らまとめて殺してやる!」

 

人質を取って逃れる作戦が失敗したことで激昂した男は、ホラー態へと姿を変えるのであった。

 

「おいでなすったか……。奏夜!援護するぜ!一気に決めるぞ!」

 

「はい!」

 

奏夜は魔戒剣を構えて臨戦体勢に入ると、アキトは魔戒銃を発砲し、ホラーの動きを止めるのであった。

 

それと同時に奏夜は魔戒剣を前方に突きつけ、円を描くと、自らその円の中に入っていった。

 

奏夜が円から出てくるのと同時に円は消滅し、その時には奏夜は黄金の輝きを放つ輝狼の鎧を身に纏うのであった。

 

そして、アキトが作った隙を見逃さなかった奏夜は、ホラーに接近すると、陽光剣を一閃するのであった。

 

その一撃によって、ホラーの体は真っ二つに切り裂かれると、ホラーは断末魔をあげながら消滅するのであった。

 

ホラーが消滅したことを確認した奏夜は、鎧を解除すると、魔戒剣を緑の鞘に納める。

 

そして、奏夜は何か気になることがあるからか、先ほど助けた少女が逃げた方向を見つめるのであった。

 

『……おい、奏夜。いったいどうしたんだ?』

 

「いや、さっき助けた女の子なんだけどな。どっかで見たことがある気がするんだよ」

 

先ほど助けた少女は顔見知りではないが、どこかで見かけたことがあるため、奏夜はそれが気になっていた。

 

「お?奏夜、お前って奴は色んな女の子に声をかけまくってんのか?このこの、にくいねぇ♪」

 

「ちょ!?そんなことはないですって!」

 

「ふふん♪どうだかな♪」

 

アキトはニヤニヤしながら奏夜のことをからかっており、奏夜はすぐにアキトの言葉を否定するのであった。

 

「それはそうと、アキトさんはどうして秋葉原に?」

 

「ああ。俺は兄貴に用事があってな。したらたまたまお前がホラーと戦ってるのに出くわした訳で、助太刀したって訳よ」

 

「そうだったんですね……」

 

アキトがここへ来た目的を聞いた奏夜は素直に納得するのであった。

 

「それじゃあ、俺は兄貴のところに行くな」

 

「ありがとうございます、アキトさん。助かりました」

 

奏夜は助太刀してくれたアキトに礼を言うのであった。

 

「あ、そうだ、奏夜!」

 

アキトはこの場を離れる前に奏夜に伝えることがあるみたいだった。

 

「ラブライブ、また出るんだろ?頑張れよ、応援してるぜ!」

 

どこからか奏夜たちが再びラブライブに出ることを聞いたアキトは、奏夜にエールを送るのであった。

 

「はい!アキトさん、ありがとうございます!」

 

「おう。それじゃあな!」

 

奏夜にエールを送ったアキトは、その場を離れ、兄であるリンドウを探すのであった。

 

『……とりあえず俺たちも帰るぞ』

 

「そうだな……」

 

ホラー討滅を終えた奏夜は、そのまま帰路につくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、この日はいつも通り練習を行うのだが、1つだけ問題を抱えていた。

 

ラブライブは予選会場以外の場所にてライブ中継を行うことも可能であり、奏夜たちもそうしようとしていたのだが、どこでライブをするのかを決めかねていたのである。

 

学校ということも考えたが、ほとんどの場所をライブで使用しており、目新しさはなくなっているのである。

 

そのため、どこでライブを行うのかを決める必要があった。

 

穂乃果たちはその話し合いをする中、奏夜は別行動を取っており、校内にある某教室で作業を行っていた。

 

奏夜はμ'sの練習が始まる前に生徒会の仕事をしており、ある程度仕事を進めると、穂乃果たちを練習に向かわせるのであった。

 

その後、キリの良いところまで仕事を終わらせた奏夜は穂乃果たちと合流しようとしていたが、タイミングが悪く担任である山田先生に捕まってしまい、仕事を押し付けられてしまったのである。

 

「ったく……。山田先生め、面倒な仕事を押し付けやがって……」

 

奏夜は某教室で作業をしながらブツクサと文句を呟くのであった。

 

『文句を言ってても仕方ないだろ。さっさと終わらせて穂乃果たちと合流しないと後でうるさく言われるぞ』

 

「わかってるって」

 

奏夜はジト目になりながらもテキパキと作業を行っていたその時であった。

 

『あー、皆さん、こんにちは!』

 

「ん?なんだ?」

 

いきなり穂乃果の声が聞こえてきたため、奏夜は作業の手を止め、スピーカーの方を見るのであった。

 

『私、生徒会長の……。じゃないや、μ'sのリーダーをやってます、高坂穂乃果です!……それはもう、みんな知ってるよね?』

 

「穂乃果のやつ、いったい何やってんだよ……」

 

『おそらく、校内放送でμ'sの宣伝をするつもりなんじゃないのか?』

 

「まぁ、それは俺も考えてはいたけど、まさか本当にやるとはな……」

 

ラブライブ出場が決まり、奏夜は校内の生徒に応援してもらえるように校内放送を使って宣伝することを考えていた。

 

しかし、自分が提案する前に先に行動に移されており、少しだけ驚いていた。

 

『実は私たち、またライブをやるんです!今度こそラブライブに出場して、優勝を目指します!』

 

「ふっ……。まさか、全校生徒に向かってこんな発言をするとはな」

 

奏夜は穂乃果のあまりに強気な発言を聞き、不敵な笑みを浮かべるのであった。

 

『みんなの力が私たちには必要なんです!ライブ、ぜひ見てください!一生懸命頑張りますので!』

 

全校生徒に応援をお願いする発言を聞きながら、奏夜は残った仕事を片付けるのであった。

 

『あっ、それと、そーくん!これを聞いてたら速やかに放送室に来てよね!みんな待ってるんだから!』

 

「わかってるけど、宣伝ついでに業務連絡をするなよな……」

 

奏夜としても早く仕事を終わらせて穂乃果たちと合流するつもりだったが、予定よりも遅くなっていた。

 

そのため穂乃果は宣伝ついでに奏夜を呼び出しており、そんな穂乃果に奏夜は呆れるのであった。

 

『と、とりあえず以上!高坂穂乃果でした!』

 

穂乃果によるライブの宣伝と、奏夜の呼び出しは終わり、ここで放送は終わるかと思われたのだが……。

 

『続いて、他のメンバーを紹介したいと思います!……って、あれ?』

 

穂乃果以外のメンバーにも挨拶をさせるつもりみたいなのだが、ここで放送が途切れてしまった。

 

「……まさかとは思うが……」

 

『……おい、奏夜』

 

「キルバ、皆まで言うな。状況は大体察することは出来るからな」

 

奏夜は放送室で起こってるであろう状況を察していたため、苦笑いをしていた。

 

そして、仕事はもう少しで終わるため、放送が途切れている隙に仕事のペースを上げて、どうにか仕事を終わらせるのであった。

 

仕事を終わらせ、奏夜が某教室を出たのと同時に放送は再開されたのだが……。

 

『あ、あの……。そ、園田海未役をしております……。園田……海未と申します』

 

海未がいきなりとんでもないことを言いだすため、奏夜はその場でズッコケそうになった。

 

「おいおい……。緊張してるのはわかるが、それが変な方へ行ってるじゃねぇか……」

 

海未は緊張のあまり、自分で本人役を自称しているため、その発言のおかしさに奏夜はジト目になっていた。

 

そしてここで海未の挨拶は終わり、次の人物へ移ることになった。

 

その人物は……。

 

『……あ、あの……。μ'sのメンバーの……。小泉……花陽です……。えっと……好きな食べ物は、ご飯です……』

 

続いて挨拶をしたのは花陽なのだが、まるでクラスの自己紹介のようなものになっていた。

 

「それにしても、クラスの自己紹介じゃないんだから……」

 

《好きなものをご飯と豪語するところは花陽らしいがな》

 

(確かに……)

 

今の自己紹介自体が花陽らしいことを理解しており、奏夜は苦笑いをしていた。

 

その後も花陽の挨拶は聞こえるのだが……。

 

(……全然聞こえないな……)

 

花陽の声が明らかに小さいからか、全然聞き取ることが出来なかった。

 

花陽も相当緊張しているからか、自然と声が小さくなっていた。

 

すぐさま誰かがマイクのボリュームを上げたのか、なんとか聞こえるようにはなった。

 

そのことに奏夜が安堵したその時だった。

 

『イェーイ!!そんな訳で皆さん、μ'sをよろしく!!』

 

ボリュームが上がったままの状態で、いきなり穂乃果が大きな声を出したため、あちこちでハウリングが響き渡るのであった。

 

「あ、あの馬鹿……」

 

奏夜はあまりの騒音に耳を塞ぎながら、穂乃果の行動に呆れるのであった。

 

奏夜は耳を塞ぎながら急ぎ放送室へ向かうのであった。

 

そして、奏夜は放送室へと到着するのであった。

 

「……お前ら……」

 

奏夜は呆れた表情が隠しきれない感じで放送室に顔を出すと、そこにいる全員が奏夜に注目するのであった。

 

そこにはμ'sの9人と剣斗、ララの他、協力してくれている放送部員らしき生徒の姿もあった。

 

「あっ、そーくん!」

 

「あっ、そーくん!じゃないっての!放送を使うのはいいけど、もっとちゃんと考えてやれよ!μ'sの評判が悪くなるだろうが!」

 

放送による宣伝は効果的とは言っても、あまりに行き当たりばったりなため、奏夜はそこを注意するのであった。

 

「えぇ?だって……」

 

「だってもへったくれもあるか!ったく、お前らは……」

 

奏夜は呆れながら、少しの間穂乃果たちに小言を繰り返すのであった。

 

それが終わったタイミングで校内放送を使った宣伝は終了し、奏夜たちは1度部室へ戻るのであった。

 

その後、改めてラブライブ予選のライブをどこでやるのか話し合いが行われるのであった。

 

奏夜が1人別行動をして仕事をする中、穂乃果たちは回るべき場所を回ったらしく、校内でのライブは新鮮味に欠けるという結論に至ってしまうのであった。

 

そこで、奏夜たちはどこでライブを行うのかを決めるために、校内を離れ、ライブに相応しい場所を探すことになり、まずは秋葉原の街中へたどり着く。

 

「ま、やっぱりアキバのどっかでライブってのは真っ先に頭に浮かぶよな……」

 

「うむ!人の多そうな場所を選べば尚のことイイと思うぞ!」

 

奏夜と剣斗は、人通りの多いところをライブ場所にすることを提案する。

 

「2人とも!その考えは浅はかよ!」

 

「そうだよね。やっぱりアキバはA- RISEのお膝元だし……」

「下手に使うと、喧嘩売ってるように思われるわよ」

 

2人の意見に、にこと花陽は待ったをかけるのであった。

 

「それの何が悪いんだ?A- RISEはこれからぶつかるライバルなんだ。戦線布告みたいな感じも悪くないと思うけどな」

 

「私は、にこや花陽が反対するのもわかるけどね」

 

奏夜はにこや花陽が反対する理由が理解出来なかったが、ララは2人の意見に賛同するのであった。

 

「まったく……。奏夜!あんたは何もわかってないわ!」

 

「にこちゃんの言う通りです!前回のラブライブを制したA- RISEに喧嘩を売るのがどういうことなのかわかってるんですか?」

 

「私たちみたいな弱小グループは、叩かれてあっという間に潰されちゃうわよ!」

 

「ふむ……。そういうものなのだろうか?」

 

「小津先生も奏夜も!ネットの怖さをわかってないからそんなことが言えるのよ!」

 

「まぁまぁ、にこ、落ち着いて」

 

花陽とにこは興奮冷めやらぬ感じであるのだが、それを見かねた絵里がなだめていく。

 

「2人の言うこともわかるわ。だからこそ、そう思われないためにもライブの場所は慎重に決めなきゃいけないわ」

 

「ふむ……」

 

絵里になだめられた奏夜は、真剣な表情で考え事をするのであった。

 

すると、何かを思い出したのか、奏夜はハッとしていた。

 

「なぁ、アキバはアキバでも、A-RISEと関係なさそうなところなら問題はないよな?」

 

「それはもちろんだけど、奏夜、何か心当たりがあるの?」

 

にこがこのように問いかけると、奏夜は無言て頷く。

 

「俺、魔戒騎士になったばかりの時に統夜さんと初めて出会ったんだけど、その時にとあるビルの屋上で修行をさせてもらったんだ」

 

「!?奏夜、それってもしかして……」

 

奏夜の話を聞いて海未は何かを思い出したのか、ハッとするのであった。

 

「ああ、紬さんの親父さんが所有しているビルだ」

 

奏夜の先輩騎士である統夜と同じ軽音部にいた琴吹紬の父親は、桜ヶ丘随一の富豪であり、桜ヶ丘だけではなく、東京にもいくつかビルを所有している。

 

秋葉原にあるビルはその一部であり、奏夜は初めて統夜と出会った時にそのビルの屋上を使わせてもらって修行をしていたのであった。

 

「そういえば、私たちが軽音部の皆さんが初めて出会った時にそーくんは統夜さんと初めて出会ったって言ってたもんね」

 

穂乃果が思い出した通り、奏夜が統夜に出会う前、穂乃果、海未、ことりの3人はひょんなことで出会った統夜と再会し、その時一緒にいた軽音部のメンバーと出会ったのである。

 

それからは互いに親交を深めていき、今に至る。

 

「うむ!その話は奏夜から聞いていた。それに、琴吹財閥のビルを使わせてもらえるのは大きなアピールにもなる。とてもイイと思うぞ!」

 

父親が財閥の長である剣斗は、紬の家のことも理解しており、それ故、奏夜の提案を強く支持するのであった。

 

「まあ、そのためにはまず紬さんに連絡を取って、使わせてもらえるように掛け合わなきゃだけどな」

 

「ま、ダメならまた考えればいいんだし、今はそれでいいんじゃない?」

 

「凛もそう思うにゃ!」

 

「ウチもそれに賛成!」

 

「ええ、私も賛成よ!」

 

奏夜の提案はそこまで不都合がないとわかると、真姫、凛、希、絵里の4人は賛成する。

 

「私も賛成だよ!」

 

「私も♪」

 

「ええ!とてもいいと思います!」

 

「私も反対する理由はないし、いいと思うわ」

 

穂乃果、ことり、海未、ララからも賛成の意見が出るのであった。

 

「……そこが大きなアピールに繋がるなら……」

 

「反対する理由はないわね」

 

花陽とにこも賛成してくれたため、紬の協力が得られれば、ライブの場所はほぼ決まったようなものであった。

 

「わかった。それじゃあ、さっそく紬さんに連絡するな」

 

奏夜は携帯を取り出し、紬に連絡を取ろうとするのだが……。

 

「あ、そーくん!ちょっと待って!」

 

「?どうした、穂乃果?」

 

紬への連絡を穂乃果に制止され、奏夜は首を傾げるのであった。

 

「その前にさ、行きたいところがあるんだ」

 

「まあ、連絡ばすぐ出来るし、構わないけど」

 

「本当?それじゃあ、行こう!」

 

奏夜の言葉を聞いた穂乃果はどこかへと向かっていき、奏夜たちはそれを追いかける。

 

そんな感じで奏夜たちが向かった場所とは……。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

『UTX高校へようこそ!』

 

スクールアイドルグループ「A- RISE」が通っているUTX高校であった。

 

「穂乃果、行きたいところってこのUTXなのか?」

 

「エヘヘ……。なんとなく行きたい気分になっちゃって……」

 

「うむ!これは敵情視察というやつだな?それはなかなかイイではないか!」

 

「そんな大げさな感じじゃないんだけど……」

 

穂乃果は敵情視察でここへ行きたいと話した訳ではなく、本当に理由もなく、立ち寄りたいと思っていたのだ。

 

奏夜たちはA- RISEの3人が映る大型スクリーンを見ていると……。

 

『ついに新曲が出来ました!今度の曲は、今までで1番盛り上がる曲だと思います!ぜひ、聞いてくださいね!』

 

A-RISEのリーダーである綺羅ツバサが新曲が完成したと宣言すると、それを聞いていたギャラリーたちが大きな歓声を上げるのであった。

 

その盛り上がりぶりに、奏夜たちは驚くのであった。

 

この盛り上がりこそが、A-RISEがスクールアイドルの頂点であることを証明しているようなものであるのだ。

 

今回のラブライブの地区予選は、各地区の4組が決勝へと駒へ進めるのである。

 

この盛り上がりと、知名度、人気から、その1枠にA-RISEが入ってくるのは決まったようなものであった。

 

「これがA-RISE……。話は花陽から聞いてたし、動画も見たけど、本当に凄いね……」

 

「うむ!あの堂々とした姿は、絶対王者と言っても過言ではないだろうな」

 

奏夜やμ'sのメンバーと比べて、スクールアイドルの知識が乏しいララと剣斗は、A-RISEの人気を目の当たりにして、驚きを隠せずにいた。

 

「本当に凄いね……」

 

「はい。堂々としています……」

 

ことりと海未もまた、A-RISEの画面上でもわかるほどの王者たる堂々とした風格に、気圧されていた。

 

この関東地区でもスクールアイドルとしてラブライブを目指すグループは多いが、絶対王者であるA-RISEの存在があるため、敵うわけがないという理由でラブライブを諦めるグループも少なくはなかった。

 

そんな中、穂乃果は……。

 

「……負けないぞ……」

 

相手が誰であろうと、一歩も引かない姿勢を見せるのであった。

 

そんな穂乃果を見た奏夜は、穏やかな表情で笑みを浮かべるのであった。

 

「……そうだな。諦めない心さえあれば、俺たちは負けないさ」

 

奏夜は今のμ'sであれば、A-RISEと遜色のないパフォーマンスが出来ると確信しているため、負けたくない気持ちが強ければ勝てる可能性はあると信じていた。

 

奏夜と穂乃果はジッと画面を見つめていると、2人の目の前に1人の少女が現れるのであった。

 

その少女は、今2人が見ているA-RISEのリーダーである綺羅ツバサと似ていたのであった。

 

「……高坂さん、如月くん♪」

 

その少女は穂乃果と奏夜のことを知っており、そのことに2人は驚きを隠せなかった。

 

そのため、2人は少女のことを凝視するのだが、よく見てみると、その正体はすぐにわかり、2人は驚きを隠せずにいた。

 

何故なら……。

 

《……おい、奏夜。こいつは確か……》

 

(ああ……。A-RISEのリーダー、綺羅ツバサだよ……)

 

2人の目の前に現れたのは、ラブライブを制した絶対王者であるA-RISEのリーダー、綺羅ツバサだったからである。

 

「……!あ、あら……」

 

穂乃果もそのことに驚き、名前を言おうとするのだが、その前にツバサは穂乃果の手を取るのであった。

 

「しっ!来て!」

 

ツバサはそのまま穂乃果の手を引っ張り、走り出していった。

 

「お、おい!ちょっと!」

 

それを見た奏夜は慌てて追いかけて、海未やことり。それに、近くにいた剣斗とララもそれに続くのであった。

 

他のメンバーは奏夜たちとは離れたところで大型スクリーンの画面を見ていたのだが、奏夜たちが走ってUTX高校の中に入ろうとしているのを見つけ、慌てて後を追うのであった。

 

アイドルが好きなにこと花陽は、穂乃果の手を引いて走っている少女が綺羅ツバサであることをすぐに見抜いていた。

 

こうして、綺羅ツバサに導かれるように奏夜たちはUTX高校の中に入るのであった。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

いきなり校内まで走ることになり、穂乃果は息を上げるのであった。

 

「……初めまして♪」

 

そんな中、ツバサは息ひとつ切らすことなく、笑顔で奏夜たちに挨拶をするのであった。

 

「は、初めまして……」

 

穂乃果は今の状況が飲み込めず、訳の分からないと言いたげな感じで挨拶をするのであった。

 

「一度、挨拶をしておきたいと思ったのよね。μ'sの高坂穂乃果さん」

 

「え?」

 

「それに……」

 

ツバサは穂乃果たちμ'sに挨拶をしたいという目的で奏夜たちをここへ導くのであった。

 

さらに、ツバサは奏夜の顔をジッと見ると、ニコっと笑みを浮かべるのである。

 

それと同時に全員が合流するのだが、この後ツバサの放った一言に、奏夜たちは驚愕することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……昨日は助けてくれてありがとね♪ナイトさん♪」

 

「……え?」

 

奏夜はその言葉の意味をすぐには理解出来なかったのだが……。

 

『えぇぇぇぇぇぇぇ!?』

 

奏夜が思い出して驚きを隠せずにいるのと、穂乃果たちが驚きの声をあげるのは同時であった。

 

ツバサの言っているナイトというのが魔戒騎士のことを指しているのを理解したからである。

 

「もしかして、お前は、昨日の……!」

 

奏夜が事情を察してくれたのが嬉しかったのか、ツバサは再びニコっと笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

μ'sとA-RISE。

 

 

同じ関東地区で活動するスクールアイドルグループは今ここに邂逅するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『まさか、あのA-RISEと出くわすことになるとはな……。それにこんな提案を出してくるとは、どうなることやら……。次回、「夢扉」。その扉、こじ開けるぞ!お前たち!』

 

 




久しぶりのアキト登場!

そして、A-RISEのメンバーも初登場しました!

それだけではなく、奏夜がホラーから助けた少女は、ツバサだったのです。

A-RISEのメンバーも奏夜の秘密を知るという展開は考えていました。

ここからA-RISEのメンバーたちは奏夜たちとどう絡んでいくのか?

次回はA-RISEのメンバーとの交流と、予選の様子が描かれます。

次回のタイトルも漢字ですが、読み方は「ユメノトビラ」となっています。

今回も投稿は遅くなってしまいましたが、できるだけ早めに投稿したいとは思っていますので、次回をお楽しみに!



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第64話 「夢扉」

お待たせしました!

第64話になります!

スクフェスが5周年ということで、無料で11連が5日も出来ることに惹かれて復帰してしまいました(笑)

久々にやってみたけど、やっぱり下手になってた(笑)

まぁ、11連でURの穂乃果をゲット出来てそこは満足しましたが(^ ^)

さて、前回A-RISEのメンバーと邂逅した奏夜たちですが、ここからいったいどうなるのか。

それでは、第64話をどうぞ!




ラブライブ予選が近付き、奏夜たちはどこでライブを行うか決めかねていた。

 

そんな中、奏夜が良い案を思いついたのだが、奏夜たちはUTX高校を訪れる。

 

そこで、A-RISEの絶対的な人気を実感するのだが、そんな中、奏夜と穂乃果の前にA-RISEのリーダー、綺羅ツバサが現れる。

 

奏夜たちはツバサに導かれるようにUTX高校の中へと入り、改めて綺羅ツバサと邂逅する。

 

その後、優木あんじゅ、統堂英玲奈の2人も合流し、奏夜たちはUTX高校内のとある場所へ招かれる。

 

そこは、食堂のような場所なのだが、かなりの広さであり、さらにその奥にあるVIPルームのような場所だった。

 

「改めて、UTX高校へようこそ♪もう知ってるとは思うけど、私は綺羅ツバサよ」

 

「統堂英玲奈だ」

 

「優木あんじゅよ。よろしくね♪」

 

A-RISEの3人は、改めて自己紹介を行うのであった。

 

「ほ、本物のA-RISEに会えるなんて……!」

 

「感激です!」

 

アイドルが好きなにこと花陽は、サイン色紙のようなものを大事に抱えながらキラキラと目を輝かせるのであった。

 

実は、ここへ移動する前に、花陽とにこはA-RISEの3人からサインをもらっていたのである。

 

《ったく……。言ってしまえばここは敵地だと言うのに、花陽もにこもはしゃいでいるな……》

 

(まぁ、確かにそうだけどさ、そこまで構えなくてもいいと思うけどな)

 

A-RISEのサインをもらってはしゃぐ2人にキルバは呆れていたのだが、奏夜はそんなキルバをなだめるのであった。

 

「ゆっくりくつろいでね。ここはこの学校のカフェスペースだから。遠慮なく」

 

「は、はぁ……」

 

この場所に到着し、紅茶も出されたのだが、穂乃果たちは緊張のあまり、くつろげる状態ではなかった。

 

奏夜、剣斗、ララの3人はいつも通り振舞っているのだが……。

 

「あなたたちもスクールアイドルなのでしょう?しかも、同じ地区」

 

あんじゅは髪の先端をクルクルと回しながら話を切り出すのであった。

 

そんなあんじゅの言葉にハッとした奏夜たちは一斉にあんじゅの方を見る。

 

話を切り出したあんじゅは、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「1度挨拶をしたいと思っていたのよ。高坂穂乃果さん」

 

「え?」

 

「下で見かけた時、すぐあなただとわかったわ。映像で見るより、本物の方が遥かに魅力的ね♪」

 

「人を惹きつける魅力……。カリスマ性とでも言えばいいのだろうか?9人いてもなお、より輝いている」

 

「は、はぁ……」

 

ツバサと英玲奈は穂乃果のことを絶賛しており、そのことに穂乃果はキョトンとしていた。

 

「私たちね、あなたたちのことをずっと注目していたの」

 

ツバサのこの言葉に、穂乃果たちは驚きを隠せずにいた。

 

スクールアイドルの頂点に立ったツバサが自分たちのことを気にかけてくれているなど、夢にも思わなかったからだ。

 

「実は、前のラブライブでも、1番のライバルになるんじゃないかって思ったのよ」

 

(まぁ、前のラブライブは出れなかったもんな……)

 

あんじゅのこの言葉に、奏夜は前回ラブライブの時のことを思い出していた。

 

この時期は色々なことがあり、ラブライブ出場に必要なランキング圏外になってしまったため、ラブライブの出場は出来なかったのである。

 

しかし、前回王者のA-RISEがここまで言ってくれるのは、奏夜にとっても喜ばしいことだった。

 

「へぇ、あの天下のA-RISEに注目されるとは光栄だな」

 

奏夜はツバサの言葉に驚きながらも、その言葉が嬉しかったからか、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「ちょ、ちょっと奏夜!確かに嬉しいけど、そんなに強気な態度をしなくても」

 

絵里は不敵な態度を取っている奏夜をなだめるのであった。

 

「あら、そんなに謙遜することはないわ。だって、私はあなたも注目してるもの」

 

「え?」

 

「絢瀬絵里。ロシアでは常にバレエコンクールの上位だったと聞いている」

 

「そして西木野真姫は、作曲の才能が素晴らしく、園田海未の素直な詩ととてもマッチしている」

 

英玲奈とあんじゅは次々とμ'sのメンバーの評価を始めており、そのことに穂乃果たちは驚きと戸惑いを隠せなかった。

 

「星空凛のバネと運動神経は、スクールアイドルとして全国レベルだし、小泉花陽の歌声は個性の強いメンバーの歌に見事な調和を与えている」

 

《こいつら……。ずいぶんとμ'sのことを調べたんだな》

 

(まぁ、それこそが、俺たちを注目してたっていう何よりの証拠だろうな)

 

キルバと奏夜もまた、A-RISEの3人によるμ'sメンバーの評価に驚いていたが、思ったことをテレパシーで会話をしながらそれを聞いていた。

 

「牽引する穂乃果の対になる存在として、9人を包み込む包容力を持った東條希」

 

「アキバの元カリスマメイドや、アイドルには欠かせない小悪魔キャラもいるみたいだしね」

 

「あの……その……」

 

「はぅぅ……!にこが、小悪魔♪」

 

ことりは自らがカリスマメイドだったことがバレて恥ずかしそうにしており、にこはツバサから小悪魔キャラだと言ってもらい、嬉しそうにしていた。

 

「リーダーである高坂さんがこれだけ個性の強いメンバーをまとめられるのは凄いけど、それは、あなたたちの存在があってのことでしょうね」

 

ツバサはここでようやく奏夜、剣斗、ララのことを見るのであった。

 

「そこのあなたは最近μ'sの手伝いをしているのかしら?見たことはないけれど」

 

「そうね。私、音ノ木坂に転入したばかりだから」

 

ララはニーズヘッグ復活の鍵となる魔竜の眼を守るために音ノ木坂学院の転入生を名乗っているため、このように答えていた。

 

「そしてそこにいるのは、自らが持つ熱さと優しさで生徒を導いている、音ノ木坂のカリスマ教師である小津剣斗教諭ですね?あなたの評判はウチの学校にも轟いていますよ」

 

「ふむ……。そう言ってもらえるとはな。教師冥利に尽きるというものだな」

 

剣斗もまた、ニーズヘッグ復活の阻止という指令を受けて教師として音ノ木坂学院に潜り込んだのだが、普通の教師よりも教師らしいと生徒からの評判は高い。

 

その評価は、音ノ木坂学院だけではなく、このUTX高校にまで届いており、剣斗がこの学校に来て欲しいという声すらある状態なのだ。

 

剣斗はそんな話を聞き、満足そうにしていた。

 

「それよりも私たちはあなたに1番注目していたわ。……如月奏夜君」

 

「ん?俺をか?」

 

ツバサは今まで見せなかった真剣な表情で奏夜を見ると、奏夜はキョトンとしながら自分を指指していた。

 

「あなたは高坂さんにも負けない程のカリスマ性を持っているわ。それだけじゃない。あなたのマネージャーとしての智力と手腕。それがあったからこそ、μ'sはここまで飛躍することが出来たのだと思うわ」

 

「それに、星空凛を凌ぐほどの運動神経を持ち、その身体能力を活かしたダンスは圧巻そのもの……。あなたなら、良いスクールアイドルになれたかもしれないわね」

 

「ま、スクールアイドルは女性しかやってないし、俺は男だけど、そう言ってもらえるのは光栄だよ」

 

ツバサに続いてあんじゅは奏夜のダンスや運動神経について評価をしていた。

 

(まぁ、俺は魔戒騎士だし、運動神経については自信はあるしな)

 

奏夜は魔戒騎士として厳しい修行を積んできたため、運動神経が秀でているのは当然だと自分でも思っていた。

 

「その秀でた能力とカリスマ性があるからこそ、μ'sの輝きはより強みを増しているのだろう」

 

さらに英玲奈は奏夜をこのように評価していた。

 

「それに……」

 

ツバサはこのように前置きをすると、奏夜の顔をジッと見るのであった。

 

すると、ツバサは笑みを浮かべて、こう言い放つ。

 

「……あなたがまさか、都市伝説に出てたナイトさんだったとはね♪」

 

ツバサのこの一言により、その場の空気が一気に凍りつくのであった。

 

「ナイトっていうけど、一体なんのことなんだ?」

 

奏夜はこの時点で全ての事情を察していたのだが、あえて話を誤魔化そうとしていた。

 

「別に隠す必要はないわ。だって、私、見ちゃったもの。あなたが金色の鎧を着て、奇妙な怪物を倒すところを」

 

「!!?」

 

『えぇぇぇぇぇぇぇ!?』

 

ツバサはどうやら奏夜がホラーを斬る瞬間を見ていたようであり、これにはさすがの奏夜も驚きを隠せず、穂乃果たちも驚きの声をあげていた。

 

「ちょっと!そーくん!さっきから気になってたけど、一体どういうことなの!?」

 

奏夜が魔戒騎士であることを知っている穂乃果は、奏夜に詰め寄るのであった。

 

「まさか、あの時逃げたと思ったのに見てたのか……」

 

奏夜は昨日、ホラーを追い詰めた時、たまたまその場に居合わせていたツバサはそのまま逃げたと思っていた。

 

しかし、あの後、こっそりと奏夜の戦いを見ており、μ'sのマネージャーの如月奏夜が妙な怪物と戦っていることを知って驚く。

 

魔戒騎士とホラーの戦いは、ネットでは都市伝説としてあげられており、それを信じるものは極少数なのだが、ツバサはそれを信じざるを得なかったのである。

 

「それに、私たちさ、あなたが都市伝説に出てきた黄金の狼の騎士だって、知ってたのよね」

 

「!?それは、いったいどういうことなんだ?」

 

「確か……。西木野さんのお父さんの病院にファビアンとかいう医者が現れたことがあったでしょ?その時、私たち3人はたまたま見かけちゃったのよ。あなたが妙な化け物と戦ってるところを」

 

「!!?」

 

A-RISEの3人は、奏夜が魔戒騎士であることを前から知っており、その時の話を聞いた奏夜は目を大きく見開いて驚いていた。

 

「……あなたたちもその場にいた訳だし、奏夜君の秘密を知ってるんでしょう?」

 

ツバサのこの問いかけに、穂乃果たちは驚きながらも、無言で頷くのであった。

 

「……まぁ、安心して。私たちはあなたのことを誰かに話すつもりはないわ。あなたがμ'sのマネージャーとして頑張ってるのは本当のことだってわかるしね」

 

ツバサは奏夜が魔戒騎士としてだけではなく、μ'sのマネージャーとして、しっかりと動いていることを知っているため、奏夜の秘密を広めようとは思っていなかった。

 

(それは良かった……。そうじゃなかったら多少手荒な真似をしてでも記憶を消さないといけないし……)

 

《確かにその通りだな》

 

ツバサが秘密を広めようとはしていないことを知り、奏夜は安堵するのであった。

 

「あなたにそんな顔があるのはともかくとして、これまでのメンバーが揃っているチームはそうはいないわ。だから注目もしていたし、応援もしていた。そして何より……」

 

ツバサはこのように前置きをすると、再び真剣な表情を浮かべるのであった。

 

「……負けたくないと思ってる」

 

ツバサのこの一言に奏夜たちは驚きを隠せなかった。

 

μ'sに負けたくないということは、A-RISEの3人は明らかにμ'sの存在を意識しており、対等な存在であると告げているようなものであるからだ。

 

それを理解した奏夜は穏やかな表情で笑みを浮かべるのであった。

 

「みんなは驚いてるみたいだけど、光栄だね。だってA-RISEといえば、全国1位だろ?」

 

「それはもう過去の話よ」

 

「私たちはただ純数に今この時、1番お客さんを喜ばせる存在でありたい。ただ、それだけ」

 

「……ふっ、そうか」

 

A-RISEの3人は、ラブライブの覇者という過去の栄光など関係ないと思っており、新たに栄光を掴むための努力は惜しまないみたいだった。

 

そんなA-RISEの姿勢を垣間見た奏夜は、穏やかな表情で笑みを浮かべるのであった。

 

「μ'sの皆さん、お互い頑張りましょう。そして、私たちは負けませんから」

 

 

 

 

 

これは明らかな戦線布告である。

 

そんなA-RISEの戦線布告に、穂乃果たちは息を呑み、奏夜は平静を保って笑みを浮かべている。

 

対等な立場でA-RISEとぶつかることが出来る。

 

そのことが、奏夜にとっては何よりも嬉しかった。

 

戦線布告を終えたツバサは立ち上がり、あんじゅと英玲奈もそれに続くと、その場を離れようとしていた。

 

(このまま誰も何も言い返せないようなら、μ'sは所詮その程度のグループってことだ)

 

本当なら奏夜自身がA-RISEの3人を引き止めようと考えるのだが、それは穂乃果たちのためにならないと考え、あえて黙っていることにした。

 

(でも、大丈夫。穂乃果なら、きっと……)

 

奏夜は黙っていることに不安はなかった。

 

それは、すぐに証明されることになる。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待って下さい!」

 

穂乃果はすかさずA-RISEの3人を引き止めると、そのまま立ち上がるのであった。

 

そんな穂乃果に呼応するかのように他のメンバーも立ち上がり、奏夜たちも立ち上がる。

 

「……A-RISEの皆さん」

 

穂乃果は真剣な表情でツバサのことをジッと見つめており、それを見たツバサは、同じく真剣な表情で穂乃果のことを見ていた。

 

「……私たちも負けません!」

 

「っ!?」

 

「ふっ……。よく言ったな、穂乃果……」

 

穂乃果の発言は予想外だったからか、ツバサは驚きを隠せないようであり、そんなツバサの顔を見た奏夜は、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

以前は、前回王者のA-RISEとμ'sでは立場が違うのだが、今は対等な立場にある。

 

そのため、今は互いにラブライブ優勝を目指して切磋琢磨するライバルとも言える。

 

穂乃果の言葉はそれを感じさせるものであり、驚いていたツバサはすぐに笑みを浮かべるのであった。

 

「ふふ、やっぱり如月君もあなたも面白いわね♪」

 

「え?」

 

「……そんなに面白いのか?俺って……」

 

ツバサが急に笑みを浮かべたことに、穂乃果はキョトンとしており、奏夜は実感がないからか首を傾げるのであった。

 

「ねぇ、もし歌う場所が決まってないなら、うちの学校でライブをやらない?」

 

ツバサの提案は思いがけないものであり、奏夜たちは驚きを隠せなかった。

 

(……これは予想外だな。だけど、これは……)

 

《おい、奏夜。まさか、この話、受けるつもりじゃないだろうな?》

 

(紬さんの家のビルも良いとは思うけど、A-RISEと同じ舞台っていうのは、最大のアピールになると思うんだよ)

 

奏夜はこのツバサの提案に対した前向きな考えをしていた。

 

まだ紬に連絡を取っていないため、ここでOKを出しても問題はないからである。

 

「屋上にライブステージを作る予定なの。もし良かったら、ぜひ。1日考えてみて」

 

ツバサは奏夜たちに考える猶予を与えてくれたのだが……。

 

「……やります!」

 

『えぇ!?』

 

穂乃果はA-RISEと同じ舞台に立てるのが嬉しいと思ったからか、誰とも相談せず、ツバサの話を受け入れるのであった。

 

そのことに、他のメンバーは驚きを隠せない。

 

しかし……。

 

「ま、穂乃果ならそう言ってくれると思ったよ」

 

奏夜はこの展開を予想しており、苦笑いをするのであった。

 

こうして、ライブ場所も決まり、A-RISEの3人と別れた奏夜たちはそのままUTX高校を後にするのであった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

UTX高校を後にした奏夜たちは、そのまま解散となったため、奏夜、剣斗、ララの3人はそのまま番犬所へと向かうことになった。

 

そのまま奏夜は昨日ホラーを討滅したため、狼の像の口に魔戒剣を突き刺し、魔戒剣を浄化する。

 

そして、そのことによって現れた短剣を、ロデルの付き人の秘書官に渡すのであった。

 

「奏夜、すいませんでしたね。合宿から戻ってきて早々に指令とは」

 

「いえ 。俺としては、合宿行きを許可して頂けただけでも感謝していますので」

 

「ラブライブを目指しての合宿ですからね。μ'sを応援している私としては当然許可しますよ」

 

穂乃果たちがスクールアイドルを始める前からスクールアイドルにハマっていたロデルは、奏夜たちのことを応援しており、合宿などでこの街を離れるのもあっさりと容認していたのであった。

 

「ところで、ラブライブ予選は、会場ではない場所でもライブが出来ますが、どこでライブをするのか決めましたか?」

 

「あ〜……。実はですね……」

 

「?」

 

奏夜は少しだけバツが悪そうにしており、そのことにロデルは首を傾げていた。

 

奏夜は、先ほどA-RISEのメンバーと邂逅したことや、UTX高校内へ招かれたこと。

 

さらにはA-RISEと同じ舞台でライブをすることになったことを報告するのだが……。

 

「!?奏夜、それは本当ですか!?」

 

「は、はい……」

 

「まさか、ラブライブ前回王者のA-RISEと話をするとは、なんと羨ましい!」

 

「アハハ、相変わらずだな、ロデル様は」

 

「ロデル様って、にこや花陽に負けないレベルのアイドル好きなんだね……」

 

剣斗はアイドル好きなロデルの一面に苦笑いをしており、ララは初めて垣間見るロデルの一面に唖然としていた。

 

「それだけではなく、UTXでライブとは!私もここを抜け出してライブを見に行きたいくらいです!」

 

「ロデル様!それはいけません!あなたはこの番犬所の神官なのですから」

 

ロデルの発言を聞いた付き人の秘書官は、慌ててロデルを止めるのであった。

 

「1度くらいいいではないですか!あのイレスだって、何度も抜け出してるのでしょう?」

 

「イレス様はグレス様の娘である故、多少の無茶が通用したのです。お自分のお立場を考えて下さい!」

 

ロデルは負けじと桜ヶ丘にある紅の番犬所の神官、イレスの話を持ち出して反論しており、2人は激しい言い争いを行うのであった。

 

そんな2人のやり取りを、奏夜たちは苦笑いしながら見守るのであった。

 

そのやり取りが終わったところで、この日は指令がないため、奏夜たちはそのまま番犬所を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

そして、時間はあっという間に流れていき、ラブライブ予選当日を迎えた。

 

奏夜たちはライブを行うUTX高校に来ており、穂乃果たちメンバーは、控え室にて衣装への着替えや準備を行っていた。

 

その間、奏夜と剣斗はUTX高校の屋上にて待機をしていた。

 

2人が別行動をしているのは、2人が男だからである。

 

「……奏夜、いよいよだな」

 

「そうだな……。だけど、みんななら、A-RISEに負けないパフォーマンスをしてくれるさ。それよりも……」

 

「……奏夜?」

 

奏夜は屋上から見える景色を眺めながら憂いに満ちた表情をしていたため、剣斗は首を傾げていた。

 

「尊士を倒した後、ジンガが何も動きを見せないのが気になるんだ。あいつのことだから、魔竜の眼の行方を探るために何かしらの方法でこっちに接触を図ろうとしてるんじゃないかと思ってな」

 

「奏夜……」

 

奏夜の抱えている不安を知り、剣斗はジッと奏夜の顔を見るのであった。

 

「あいつの力は未知数だ。1度負けた俺が勝てるかどうか……」

 

奏夜は1度ジンガと戦ったことがあり、敗れたことがある。

 

あの時は奏夜の心が乱れていたとはいえ、その時のことを思い出した奏夜は大きな不安に襲われていた。

 

そんな奏夜を見た剣斗は、穏やかな表情で奏夜を見るのであった。

 

「……奏夜、大丈夫だ。私たちにそんな心配は無用だ」

 

「剣斗……」

 

「奏夜、お前は1人ではない。統夜やリンドウがいる。大輝やララだって」

 

剣斗は奏夜の不安を吹き飛ばすため、力強い言葉で奏夜を励まそうとしていた。

 

「そして何より……。盟友である私がいる!」

 

「!」

 

剣斗の言葉に、奏夜はハッとするのであった。

 

「私たちが力を合わせれば倒せない敵などいないさ。それが、どのようなホラーであろうとな」

 

「剣斗……」

 

自分のことを盟友だと思ってくれる者がいる。

 

今の奏夜には、これほど有り難く、頼もしいと思える存在はいなかった。

 

「それに、今日はラブライブ予選という大切な日だ。マネージャーであるお前がそんな顔をしていたら、みんなが不安になるだけだぞ?」

 

「……そうだったな……。剣斗、ありがとな」

 

「ふふ、私はお前の友として当然のことをしたまでさ」

 

剣斗の言葉によって不安な感情を吹き飛ばした奏夜は、心から剣斗に感謝していた。

 

すると……。

 

「あら、あなたたち、ここにいたのね」

 

奏夜と剣斗は声の聞こえた方に振り向くと、そこにはライブの衣装を着たA-RISEの3人がそこにいたのであった。

 

「A-RISEの3人か。そっちは準備は整ったみたいだな」

 

「まぁね。それよりも高坂さんがあなたのことを探していたわよ」

 

「うむ!どうやら穂乃果たちも準備は出来たみたいだな」

 

「ありがとな、教えてくれて」

 

奏夜はツバサに礼を言うと、そのまま屋上を後にしようとしたのだが……。

 

「……ねぇ、ちょっと待って!」

 

ツバサが奏夜たちのことを呼び止めたため、2人は足を止めて、ツバサを見る。

 

「?どうしたんだ?」

 

奏夜は何故引き止められたのかわからず、首を傾げていた。

 

「ねぇ、如月君……。いや、奏夜君。あなた、A-RISEのマネージャーにならないかしら?」

 

「……え?」

 

「ほほう……」

 

ツバサから来た意外な申し出に、奏夜は驚きを隠せず、剣斗はそのことに驚きながらも感嘆の声をあげていた。

 

「あなたはμ'sをあそこまでのグループに成長させた。あなたが私たちを導いてくれたら私たちは更なる高みに行くことが出来る」

 

ツバサはμ'sを立派なスクールアイドルグループに育て上げた奏夜の手腕を高く評価しているからこそ、奏夜をA-RISEのマネージャーにしたいと考えていたのである。

 

「だけど、お前たちの実力は誰もが認めるものだ。俺の力なんていらないと思うけどな」

 

A-RISEは名実ともに絶対王者に相応しい実力者であり、奏夜の力など必要ないと思われた。

 

しかし……。

 

「あら、そんなことはないわよ」

 

「前にも言ったはずだ。私たちはただ純数に今この時、1番お客さんを喜ばせる存在でありたい。ただ、それだけだと」

 

A-RISEの3人は、お客さんを喜ばせる存在であり続けるために、更なる高みを目指そうとしていたのである。

 

「……光栄だね。あのA-RISEの3人にそこまで言ってもらえて」

 

奏夜はA-RISEの3人が本気で自分をスカウトしようとしているのがわかり、それが光栄だと思った奏夜は笑みを浮かべていた。

 

「だったら……!」

 

「だけど、俺はその話は受けることは出来ない」

 

奏夜はA-RISEの3人からスカウトを受けた時からこの話を断るつもりであり、断られた3人は驚きを隠せなかった。

 

「ふっ、お前ならそう言うと思っていたぞ、奏夜」

 

剣斗は、奏夜がこのスカウトを受けるはずはないと予想していたため、笑みを浮かべていた。

 

「ど、どうして?」

 

「確かにA-RISEのマネージャーっていうのは誰でもなれるものでもないし、光栄だと思っている。だけど、俺には責任があるんだ。マネージャーとして、μ'sを遥かな高みに連れて行く責任が」

 

奏夜がμ'sのマネージャーになったのも、スクールアイドルを始めた穂乃果たちを支えて導いていくためであり、他のスクールアイドルのマネージャーになるつもりはないのである。

 

「……やっぱりダメだったか……」

 

驚きを隠せなかったツバサであったが、奏夜の答えを予想しており、ガクッと肩を落としていた、

 

「あなたが本気でウチのマネージャーになってくれたら心強かったのに……」

 

「でも、私たちは今まで3人で様々な困難を乗り越えてきたわ」

 

「だからこそ、私たちは絶対に負けない!」

 

A-RISEとしては、奏夜という優秀な逸材を得られなかったのは残念ではあるが、自分たちの力だけで最高のパフォーマンスを見せることを奏夜に宣言するのであった。

 

「望むところだ。μ'sはスクールアイドルとしてさらに飛躍している。そっちも楽しみにしててくれよな」

 

自分は直接パフォーマンスに参加する訳ではないが、強気な言葉をA-RISEの3人に送るのであった。

 

「ええ、楽しみにしているわ」

 

それだけ言い残すと、A-RISEの3人は屋上を後にするのであった。

 

「さてと……」

 

A-RISEのマネージャーという大きな話を断り、奏夜は大きく伸びをしていた。

 

そして……。

 

「……穂乃果、そこにいるんだろ?隠れる必要はないぞ」

 

奏夜は穂乃果が隠れていたことを見抜いており、奏夜の言葉を聞いた穂乃果はすぐに現れるのであった。

 

「あっ……。そーくん……」

 

「ったく……。こっそり覗き見とか、趣味が悪すぎるっての」

 

「でも……そーくん……」

 

穂乃果は、奏夜がA-RISEのマネージャーにスカウトされる一部始終を見ていたからか、バツが悪そうにしていた。

 

「気にすんな。何があっても俺が力を貸すのはμ'sだけ。それはお前らがスクールアイドルを始めた時から変わらんよ」

 

奏夜にとってμ'sの存在はかけがえのないものであり、他のスクールアイドルに協力するつもりは最初からないのである。

 

「そーくん……」

 

「出来ればさっきの話はみんなには内緒にしてくれよな。花陽やにこが知ったら何言われるかわからんしな。

 

「う、うん……」

 

「それよりも、みんなの準備は整ったのか?」

「うん。それでそーくんと小津先生を探してて……」

 

「わかった。それじゃあ、穂乃果。みんなのところに行くぞ」

 

「あ、うん……」

 

こうして奏夜と剣斗は、穂乃果と共に控え室へと向かい、これから行われるライブに備えるのであった。

 

 

 

 

 

ちょうど同じ頃……。

 

「……予想はしていたけど、本当に断られるとはね……」

 

A-RISEの3人は、屋上を後にすると、μ'sとは別に用意された控え室へと向かっていた。

 

「ねぇ、ツバサ。もっとグイグイ行けば上手く口説けそうだったけど、本当に良かったの?」

 

「それに、あの男は裏の顔があるだろう?それを上手く使えば、きっとマネージャーの話も……」

 

「まぁね。だけど、それじゃあダメなのよ」

 

あんじゅと英玲奈は、奏夜の説得にあっさりと引き下がったツバサに思うところがあるからか、このように進言するが、それには乗り気ではなかった。

 

「確かに英玲奈の言う通り、彼が都市伝説のナイトだってバラすって話せばマネージャーでも何でもやってくれそうだけど、私たちのやり方に反するし、そんなやり方で彼を従えても嬉しくはないわ」

 

「ま、お前ならそう言うと思っていたよ、ツバサ」

 

「それに、私たちは3人で様々な困難を乗り越えてきたでしょ?それはこれからも変わらないわ」

 

「そうね……。彼の力がなくたって、私たちは今までやってこれたんだもの。それはこれからも変わらないわね」

 

A-RISEの3人は、奏夜の魅力的な能力に惹かれ、彼をマネージャーにしようと画策したものの、奏夜の力がなくてもA-RISEは十分にやって来られていると判断したのであった。

 

だからこそ、奏夜をマネージャーにしようということは諦めたのだが……。

 

「……絶対に負けないわよ。μ's……」

 

奏夜がいるμ'sに対して、ツバサは大きな闘志を燃やすのであった。

 

そのため、ライブに向けてより奮い立った状態で控え室へ戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

それから時間が経過し、ライブ開始の時間となった。

 

奏夜たちμ'sとツバサたちA-RISEのメンバーはそれぞれライブ会場である屋上へ集まっており、さらにはUTX高校の生徒らしき10数名がギャラリーとして屋上へ来ていた。

それ以外にも、UTX高校の入り口にある大型モニターの前には大勢のお客さんが集まっており、A-RISEのパフォーマンスを今か今かと心待ちにしていた。

 

ここにいる観客たちは、μ'sも同じ会場でパフォーマンスをすることは知っていたものの、目的はA-RISEであるため、あまりμ'sを注目していなかった。

 

今回のライブは先にA-RISEがライブを行い、その後、μ'sがライブを行うという流れになっている。

 

この場に来られなかったスクールアイドルのファンたちも、これから行われるライブを今か今かと心待ちにしていた。

 

穂乃果の妹である雪穂と、絵里の妹である亜理沙は、穂乃果の家である穂むらの居間にノートパソコンを持ち込んでその様子を眺めていた。

 

「あぅぅ……。お姉ちゃんたち、大丈夫かなぁ?」

 

A-RISEと同じ舞台でライブを行うため、亜理沙は不安になっていた。

 

「大丈夫だよ!だってお姉ちゃんたちには奏夜さんが付いてるんだもん!」

 

雪穂は、奏夜の存在がμ'sにとってかなり大きいものであることを理解しているため、不安はなかったのである。

 

「それに……」

 

雪穂は居間にかけられた穂乃果の練習着をジッと見つめるのであった。

 

その練習着は洗っても汚れが残っており、激しい練習を積み重ねてきたことを物語っていた。

 

それを見た亜理沙も不安はなくなり、雪穂と共にこれから行われるライブを見守るのであった。

 

 

 

 

そして、場所は離れてN女子大学の中にある軽音部の部室。

 

そこには、統夜と同じ桜ヶ丘高校の軽音部であった唯、律、澪、紬、梓の5人が集まっており、ノートパソコンを持ち込んで、これから行われるライブの様子を眺めるのであった。

 

「いよいよだね……」

 

「ああ。穂乃果たちがもう1回ラブライブに出ることは統夜から聞いてはいたけど……」

 

「大丈夫なんだろうか?」

 

「そうね……。前回優勝したA-RISEと同じステージでライブですものね……」

 

「私なら絶対無理だ……!」

 

唯たちは、奏夜たちがラブライブに出ることも、今回の予選はA-RISEと同じステージでライブをすることも事前に話を聞いていた。

 

澪は桜ヶ丘高校にいた時からかなりの恥ずかしがり屋であり、大学に入って多少は克服されたものの、その場でパフォーマンスをする穂乃果たちの心情を察して、顔が真っ青になっていた。

 

「そうだよなぁ。さすがのあたしも無理だわ」

 

律は澪をからかうことはせず、同意しており、同じように顔を真っ青にしていた。

 

すると……。

 

「大丈夫ですよ!穂乃果ちゃんたちならきっといつも通りのパフォーマンスができます!」

 

「「梓……」」

 

「梓ちゃん……」

 

「あずにゃん……」

 

梓は大舞台でライブをする心境を察して不安になっていた先輩たちを力強く励ますのだった。

 

「それに、μ'sのみんなには、奏夜くんがついてます!だからきっと……」

 

「……そうね。梓ちゃんの言う通りだわ」

 

「よっしゃあ!みんなで精一杯応援しようぜ!穂乃果たちがしっかりとパフォーマンスが出来るようにさ」

 

律のこの言葉に、4人は無言で頷き、真剣な表情でパソコンの画面を見つめるのであった。

 

 

 

 

 

 

そしてその頃、奏夜の先輩騎士である月影統夜は、秋葉原の街を歩いていた。

 

ニーズヘッグ復活を企んでいるジンガの拠点を探すためである。

 

しかし、この日もめぼしい成果を得ることは出来なかった。

 

「……そろそろ時間か」

 

そんな中、統夜はラブライブの予選開始時間が迫っていることを感じ取ると、ポケットからスマホを取り出し、穂乃果たちのライブを見るためにラブライブ専用サイトを開くのであった。

 

『おい、統夜。ジンガの拠点を探し出す仕事はどうしたんだ?』

 

統夜の相棒であるイルバは、統夜がいきなりスマホを取り出したため、声をかけるのであった。

 

「それも大事なことだけど、今は穂乃果たちのライブを見守りたいんだよ」

 

『そういえば今日だと言っていたな。しかし、あいつらは大丈夫なのか?』

 

「心配ない。穂乃果たちには奏夜がついてるんだ。あいつならきっと……」

 

統夜は、魔戒騎士の後輩である奏夜の実力を評価しており、マネージャーとしての実力も評価していた。

 

『……それはわかった。ところで統夜、今回のライブ、梓たちと見たいと思ってただろ?』

 

「そりゃそうさ。指令がなければみんなのところまで行ってたからな」

 

統夜は大事な指令があるから1人で行動していたが、それがなければ梓たちと一緒にライブを見守りたいと強く思っていた。

 

「だから残念だけど、近いうちにみんなのところには顔を出すさ」

 

『やれやれ……。お前さんは相変わらずだな』

 

統夜の本音を聞いたイルバは呆れており、統夜はそれをスルーしながらスマホの画面に集中するのであった。

 

 

 

 

その頃、翡翠の番犬所の神官であるロデルは番犬所の中でライブを見守っており、奏夜と同じ翡翠の番犬所の魔戒騎士である桐島大輝と天宮リンドウは、大輝行きつけのメイド喫茶にて、ライブを見守っていた。

 

 

 

 

多くの人がライブの様子を見守る中、いよいよラブライブ予選がスタートする。

 

 

 

 

 

何組ものグループがパフォーマンスを行い、UTX高校でライブを行うA-RISEとμ'sが順番にライブを行うことになった。

 

 

最初に、前回ラブライブを制したA-RISEのパフォーマンスが始まる。

 

 

 

 

A-RISEの3人は、ラブライブ前回王者の名に相応しいパフォーマンスを見せていた。

 

いや、見せつけていた。

 

パフォーマンスを通して、今の自分たちはこれだけのものを出せるんだぞと、奏夜たちに……いや、ラブライブに出場する全てのスクールアイドルに見せつけていたのである。

 

穂乃果たちは、生で見るA-RISEのライブに圧倒されるのであった。

 

(……参ったな……。これがA-RISEのライブか……。圧巻の一言に尽きるな……)

 

そして、奏夜もまた、A-RISEのパフォーマンスが相当なものであることを認めざるを得なかった。

 

《おいおい、奏夜。まさか、勝てないとか思ってないだろうな?》

 

(まさか……!確かにA-RISEは凄いさ。だけど、みんなだって……)

 

《ふっ、それならいい》

 

キルバは、奏夜がA-RISEのパフォーマンスを見て、怖気付くようであれば、喝を入れるところであったが、奏夜は怖気付くどころか、不敵な笑みを浮かべており、キルバの心配は杞憂に終わるのであった。

 

しかし、穂乃果たち9人はそうではなかった。

 

「……直で見るライブ……」

 

「全然違う……。やっぱり、A-RISEのライブには、私たち……」

 

「敵わない……!」

 

「認めざるを得ません……」

 

A-RISEの圧倒的なパフォーマンスを目の当たりにして、その戦意が今にも喪失しそうになっていた。

 

自分たちも今日のライブに向けて努力をしてきたが、A-RISEのパフォーマンスはそれを凌駕している。

 

普段弱気な態度を取る事があまりない希でさえ、不安を隠せない様子であった。

 

そして、絵里はかつて、A-RISEのパフォーマンスも素人同然だと思っていた時期もあったが、そう思っていた自分のことを心から恥じていた。

 

これだけのパフォーマンスを見せられるのは、決して素人ではない。

 

誰よりも努力を重ね、これだけのパフォーマンスを披露出来るほどになったということが理解出来るからである。

 

A-RISEの完璧と言えるパフォーマンスはあっという間に終了し、奏夜たち以外は大きな盛り上がりを見せていた。

 

ちなみに、この場に剣斗とララの姿はなかった。

 

μ'sのライブの前にやる事があり、それを成すために今は席を外していたのだ。

 

(……それにしても、予想はしてたが、やっぱりみんなの戦意は削がれそうだな……)

 

奏夜は、A-RISEのパフォーマンスを見た瞬間、みんなの戦意が削がれるのではないかと心配もしていたのだが、それが現実となってしまった。

 

(ここは俺の出番かな……)

 

奏夜は待ってましたと言わんばかりにフォローに入ろうとするのだが……。

 

「そんなことない!」

 

奏夜よりも早く、穂乃果がメンバーを励ますために言葉を紡ぐのであった。

 

穂乃果の言葉に、奏夜を含めた全員が穂乃果の方を見る。

 

「A-RISEが凄いのは当たり前だよ!せっかくのチャンスを無駄にしないよう、私たちも続こう!」

 

「やれやれ……。言いたいこと、ほとんど言われちまったよ……」

 

奏夜は自分が言いたかった台詞を取られてしまい、苦笑いをしていた。

 

「A-RISEが凄いのは俺も認めざるを得ない。だけど、お前らには俺がいる。剣斗やララだって。俺たちが支える限り、お前たちの心は折らせたりしない!」

 

穂乃果に続く形で紡がれる奏夜の言葉に、不安に支配されていたメンバーたちの心は晴れつつあった。

 

そして、穂乃果たちは円陣を組み、いつものようにピースの形をした手を前に出し、星を描いていた。

 

その円陣の中には、奏夜も入っていた。

 

「さっきそーくんも言ってたけど、やっぱりA-RISEは凄いよ!こんな凄い人とライブが出来るなんて。自分たちも思いっきり頑張ろう!」

 

「ああ、その意気だ!何も恐れることはない。お前らは今の自分たちに出来る最高のパフォーマンスを見せつけてやれ!A-RISEのメンバーだけじゃない。俺たちμ'sをA-RISEの前座だと思ってる奴らにも!」

 

μ'sもスクールアイドルとしてはそれなりに人気があるのだが、やはりA-RISEの人気には敵わず、UTX高校でライブをやると知ったファンたちは、μ'sの存在を所詮はA-RISEの前座だと見くびっていた。

 

だからこそ、ここでA-RISEに負けないパフォーマンスが出来れば、そんな人たちも黙らせることが出来る。

 

奏夜はそんな思いを込めて、穂乃果たちにエールを送るのであった。

 

「みんな、行くよ!μ's!ミュージック……」

 

μ'sの気持ちが1つになり、穂乃果がいつもの掛け声をしようとしたその時だった。

 

「穂乃果〜!!」

 

誰かが穂乃果を呼んだため、その声の方を見ると、ヒデコ、フミコ、ミカの3人を始めとした、音ノ木坂学院の生徒の有志が集まっていた。

 

さらにその場には、先ほどまで姿を見せなかった剣斗とララの姿もあった。

 

「みんな、どうして……」

 

「手伝いに来たよ!」

 

「小津先生やララちゃんが事前に声をかけてくれたんだよね。私たちの力がμ'sに力をくれるって!」

 

「私たちはμ'sを応援してるもん!これくらいは当然だよ!」

 

ミカ、フミコ、ヒデコの3人はここへ来た経緯を説明し、μ'sのために駆けつけてくれたことを語るのであった。

 

「小津先生……ララちゃん……」

 

自分たちのために剣斗とララが動いてくれたことを知り、穂乃果たちはそのことが何よりも嬉しかった。

 

「えへへ♪」

 

ララは満面の笑みを穂乃果たちに向けると、無邪気にピースを向けるのであった。

 

「うむ!私たちは奏夜と違って直接皆をを支えることは出来ない。私たちに出来るのはこれくらいだからな」

 

剣斗はアイドル研究部の顧問ではあるが、今まであまり顧問らしいことが出来ていないと感じており、それを気にしていた。

 

しかし、自分もμ'sのために何かをしたいと感じたため、μ'sを応援してくれている有志を集めたのであった。

 

剣斗は事前に音ノ木坂の生徒を中に入れるよう、UTX高校の職員に話を通しており、それがあったからこそ、ヒデコたちはスムーズにここまで来れたのである。

 

「さて、みんな!さっさと準備を始めるぞ!」

「うむ!A-RISEだけではない。他のみんなに見せつけてやるといい!μ'sが最高にイイ!スクールアイドルであることを!」

 

『はい!!』

 

剣斗の言葉に穂乃果たちは応え、奏夜たちはライブの準備を始めるのであった。

 

そして、μ'sのライブは始まる。

 

 

 

 

 

〜使用曲→ユメノトビラ〜

 

 

 

 

 

 

 

「……穂乃果たち、輝いてるね」

 

「うむ!みんなの努力が直接伝わってくる!イイ!とてもイイぞ!!」

 

穂乃果たちは、奏夜たちの存在があるからか、大きくリラックスすることが出来た結果、思いきりパフォーマンスを行う事が出来ていた。

 

そんな穂乃果たちのライブを見て、剣斗は興奮を隠せずにいた。

 

そんな剣斗の様子に、ララは苦笑いをしている。

 

穂乃果たちのライブに興奮しているのは剣斗だけではなく、ヒフミトリオの3人を始めとした、音ノ木坂の生徒の有志たちも興奮を隠せずにいた。

 

そして、A-RISEの3人は、μ'sの予想以上のパフォーマンスに驚きを隠せなかった。

 

「……まさか、ここまでのパフォーマンスを見せてくれるとはね……」

 

自分たちも全力のパフォーマンスを見せたのだが、μ'sはそれに匹敵するものを見せており、ツバサは驚きを隠せなかった。

 

「……如月奏夜……か」

 

ツバサは離れたところにいる奏夜の顔をジッと見ていた。

 

真剣な表情でライブを見守る奏夜の顔を見て、ツバサの頬は少し赤くなる。

 

「……ふふ、やっぱり欲しいわね。ウチのマネージャーに」

 

奏夜をA-RISEのマネージャーにすることは一度諦めたのだが、やはり諦めきれない様子のツバサであった。

 

そこには、パフォーマンスは抜きにしたある理由があってのことである。

 

 

 

 

ツバサに目を付けられているとは気付いていない奏夜は、穂乃果のパフォーマンスに見入っていた。

 

「……みんな、より一層成長したな……」

 

μ'sのパフォーマンスは、先ほど行われたA-RISEにも負けておらず、奏夜は、穂乃果たちの成長が何よりも嬉しかった。

 

(……俺はそんなみんなをこれからも守っていく……。守りし者として……)

 

奏夜は、穂乃果たちのパフォーマンスを見ながら、どんな障害が待ち受けようとも穂乃果たちを守る決意を固めるのであった。

 

こうして、穂乃果たちのライブは大成功で幕を閉じるのである。

 

ライブ終了後、ヒフミトリオを始めとした音ノ木坂学院の生徒たちは、穂乃果たちに駆け寄り、そのパフォーマンスを称賛するのであった。

 

「みんな!本当に最高のライブだったよ!」

「うむ!とても熱いものを見せてもらった!先ほどのライブ……とてもイイ!」

 

ララと剣斗も穂乃果たちのもとへ向かい、称賛の言葉を送っていた。

 

そして……。

 

「みんな、お疲れさん」

 

奏夜も穂乃果たちのもとへ向かい、労いの言葉を送っていた。

 

「そして、最高のライブだったぜ」

 

奏夜は簡単であるが称賛の言葉を送る。

 

穂乃果たちにとってそれがなにより嬉しい言葉であるため、その表情は自然と明るくなっていた。

 

すると……。

 

「μ'sの皆さん、今日はお疲れ様」

 

同じステージでライブを行ったA-RISEの3人が穂乃果たちのもとへやってくると、労いの言葉を送るのであった。

 

「あっ、ありがとうございます!」

 

「今のμ'sを見させてもらった。とても良いライブだったぞ」

 

「結果発表がどうなるか、今から楽しみね♪」

 

英玲奈はμ'sのパフォーマンスを称賛しており、あんじゅはこの先の展開を心待ちにしていた。

 

「……μ'sのライブ、なかなかのものだっただろ?」

 

「そうね。そこは素直に認めるわ」

 

μ'sに負けたくないと宣言したツバサは、μ'sの実力を認めざるを得なかった。

 

「それよりもね……」

 

ツバサはこのように前置きをすると、奏夜にゆっくりと近付くのである。

 

そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チュッ……。

 

 

 

 

 

 

 

「んな!?////」

 

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?』

 

 

 

 

 

なんとツバサは奏夜の頬にキスをしており、そのことに奏夜は驚きながら顔を真っ赤にしていた。

 

そして、その場にいた穂乃果たちも驚きの声をあげる。

 

「……奏夜君♪また会いましょう♪それと、あなたをマネージャーにって言ったけど、まだ諦めてないからね♪」

 

『えぇ!?』

 

「ちょっ!おまっ!」

 

ツバサはペロッと舌を出し、小悪魔のような笑みを浮かべながらその場を離れるのであった。

それにあんじゅと英玲奈も続き、穂乃果たちはツバサの言葉に驚き、奏夜は焦りを見せていた。

 

すると……。

 

「ちょっと、奏夜君!これは一体どういうことなんですか!?」

 

「説明しなさいよ!マネージャーって何のことよ!?」

 

いの一番に花陽とにこが奏夜に詰め寄るのだが、その表情は鬼気迫るものだった。

 

「あ〜……。えっと……」

 

奏夜は必死に言い訳を考えるのであった。

 

「奏夜、あなたもしかして、あの綺羅ツバサさんまで口説いたのですか?」

 

「そーや君、相変わらず見境いないにゃあ!」

 

「さっきのキス、どういうことなのよ!?」

 

「そーくん、やっぱりことりのおやつにしよう。うん、そうしよう」

 

「奏夜君、これはきっちりとお仕置きが必要そうやね♪」

 

「奏夜、覚悟はいいわね?」

 

さらに穂乃果以外のメンバーが奏夜に詰め寄ってくる。

 

このままではお仕置きを受けてしまう。

 

そう本能的に感じ取った奏夜は、顔を真っ青にする。

 

そして……。

 

「ほ、穂乃果……!助けて……!」

 

奏夜は、自分がA-RISEにスカウトされたことを知っている穂乃果に助けを求めていた。

 

「そーくん♪」

 

穂乃果は穏やかな笑みを奏夜に向けるのであった。

 

「穂乃果……」

 

穂乃果は自分の味方になってくれる。

 

そう感じて安堵していたのだが……。

 

「……天誅、だよ♪」

 

「ヴェ!?ホノカザァン!?ナゼディス!?」

 

穂乃果もまた、奏夜にお仕置きをしようとしていたため、奏夜は驚きのあまり、滑舌がおかしいことになっていた。

 

「とりあえずここはUTX高校だし、ここから出たらお仕置きね♪」

 

「そーくん、覚悟してね♪」

 

穂乃果は、A-RISEのマネージャーに関しての話のみだったら奏夜を助けるつもりだったが、頬にキスまでされては、助ける気持ちはなくなってしまった。

 

「ホノカザァン!オンドゥルルラギッタンディスカ!?」

 

奏夜は焦りのあまり、さらに滑舌がおかしなことになっていた。

 

その後、穂乃果たちは、奏夜の首根っこを掴みながら、UTX高校を後にするのであった。

 

「ちくしょおぉぉぉぉぉ!あの野郎ぉぉぉぉぉ!!」

 

奏夜は、いきなり小悪魔的な態度を取って、余計なことをカミングアウトしたツバサに恨み節な感じで叫ぶのであった。

 

こうして、ラブライブの地区予選は終了したのだが、奏夜が穂乃果たちにお仕置きを受けるのは、また別の話である……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ。地区予選が終わったのはいいが、にこのやつの様子が変だな。面倒なことにならなければいいが。次回、「姉妹」。おお、これはこれは』

 

 

 

 

 




思ったより文字数が長くなってしまった……。

今回の話なのですが、前後編にしようか迷ったけど、このまま押し切ってしまいました。

それにしても、A-RISEにマネージャーとしてスカウトされるとは、奏夜はそれだけマネージャーとして有能なんですね。

そして、ツバサにもフラグが立ってしまった……。

奏夜がどんどんラノベの主人公のようになっていく(笑)

ここで2期の3話は終わりで、次回から4話の話になっていきます。

タイトルでも察することは出来ると思いますが、あのキャラが登場するかも?

それでは、次回をお楽しみに!



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第65話 「姉妹」

お待たせしました!第65話です!

GWも終わってしまいましたが、僕は休みはあまりなく仕事でした。

そのため、あまり執筆の時間は取れず、遅くなってしまいました(-_-;)

まぁ、FFもやってましたが(笑)

さて、今回から2期の4話に突入します。

前回ラブライブ地区予選でパフォーマンスを見せたμ'sは予選を突破できたのか?

それでは、第65話をどうぞ!





奏夜たちは、ラブライブの地区予選をUTX高校を舞台とすることになった。

 

そこで、A-RISEのパフォーマンスを目の当たりにして、それに圧倒されるものの、穂乃果たちは、自分の出せる最高のパフォーマンスを行うことができた。

 

そんなラブライブ予選が終了してから数日が経った。

 

この日はラブライブ予選の結果が出る日であり、予選の決勝に進むグループが発表となる。

 

そんな大事な日ではあったが、奏夜は学校には姿を現さなかった。

 

この日は月に1度あるキルバとの契約の日であり、奏夜はキルバに1日分の命を差し出さなくてはならない。

 

そのため、奏夜は学校を休み、仮死状態で眠りにつくのであった。

 

そんな奏夜が目を覚ましたのは、この日の日付けが変わろうとしている時間帯であった。

 

『……奏夜、目が覚めたか』

 

「ああ。今月の契約も無事終わったってことだろ?」

 

『そういうことだ。お前が眠ってる間にラブライブの予選の結果が出だみたいだぞ』

 

「そうだったな……」

 

奏夜はすぐに携帯を取り出すと、ラブライブのページを開いて、結果を確認していた。

 

「ラブライブ関東地区、最終予選に進むことの出来るグループ……。やっぱりA-RISEが最初に来たか」

 

関東地区で最終予選に進める最初のグループはA-RISEであり、ここは奏夜も予想していた結果であった。

 

2チーム目は「EAST HEART」、3チーム目は「Midnight Cats」と、関東地区では実力派のグループが、最終予選へ駒を進めるのである。

 

残る枠はあと1つ。

 

ここでμ'sの名前がなかったら、奏夜たちの予選敗退が決定する。

 

果たして、ラブライブ最終予選へ進める最後のグループは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!?み……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「μ's……か!」

 

 

 

最終予選へ進める最後のグループは、奏夜たちμ'sであった。

 

地区予選を突破したことが決まり、奏夜は安堵するのであった。

 

『おい、奏夜。最終予選に進めたからって油断はするなよ。本選に進むためには、あのA-RISEに勝たなきゃいけないんだからな』

 

「ああ、わかってるさ。だからこそ、練習は今まで以上に厳しくしていかないと……」

 

奏夜は、ラブライブ優勝という目標のため、より一層気を引き締めていた。

 

得たい情報を入手した奏夜は再び横になろうとしたのだが、それより先にLAINの着信が来たのであった。

 

「ったく……。こんな時間に誰だ?」

 

現在時間帯としては深夜であり、こんな時間に電話をしてくる相手に呆れながら、奏夜は電話の相手を確認する。

 

「穂乃果か……」

 

どうやら電話をしてきたのは穂乃果のようであるため、奏夜はすぐに電話に出るのだった。

 

『あっ、そーくん。良かったぁ、出てくれた!』

 

「……穂乃果か。どうしたんだ?こんな時間に」

 

『だって……。そーくんは今日キー君との契約の日だって言ってたし、この時間ならラブライブの予選結果も知ったかなって思ったんだもん……』

 

奏夜が目を覚ましてからμ'sのメンバーからの着信やメッセージは来ていなかった。

 

予めキルバとの契約があるから学校を休むと連絡しているからか、気を遣って連絡をしなかったのだと予想出来る。

 

「ああ、今しがた結果は確認した。これはキルバとも話したけど、今まで以上に厳しくなるぞ。なんせ、本選に進むためには、あのA-RISEでさえ退けなきゃいけないんだからな」

 

『うん!わかってるよ!ラブライブの最終予選は12月でしょ?それでね、これからは朝練の時間を1時間早くして、日曜日に基礎のおさらいをしようって海未ちゃんと絵里ちゃんが提案してたんだよね』

 

どうやら奏夜がいない中でも、穂乃果たちはA-RISEとの直接対決に備えようとしており、練習量を増やそうとしていた。

 

「やれやれ……。マネージャーとしては異論はないけど、魔戒騎士としては、エレメントの浄化の時間がなくなっちまうな」

 

奏夜は毎朝、μ'sの朝練を行う時間より早く起き、可能な範囲でエレメントの浄化を行ってきた。

 

不足分は大輝やリンドウがフォローしているのだが、これは、学校へ行きながらも魔戒騎士の仕事を全うしようという奏夜なりのけじめである。

 

これは、先輩騎士であり、同じように高校に通いながら魔戒騎士の仕事を全うしてきた統夜も通った道であるため、奏夜はそれが当たり前だと感じていた。

 

『あ、そーくん。そーくんは無理をしないで、自分のやるべき仕事をこなしてから合流して欲しいってみんな言ってたよ』

 

「それは有難いけど、いいのか?」

 

『当たり前だよ!だって、そーくんにこれ以上無理を強いて体を壊して欲しくないって思ってるもん!』

 

穂乃果たちは、魔戒騎士とμ'sのマネージャーという2つの顔を持っている奏夜に気を遣って、このような提案を9人全員が賛成したうえで行っていた。

 

「……ありがとな、穂乃果」

 

『うぅん、気にしないで。あと、そーくん。実は1つだけ気になることが出来たんだよね』

 

「?それは?」

 

『実はね、ラブライブの最終予選進出が決まってみんな燃えてるのに、にこちゃんが急に練習を休んだんだよね』

 

穂乃果は今日あった出来事を奏夜に報告すると、奏夜は驚きを隠せずにいた。

 

「なるほどな。あのにこのことだ。1番やる気を見せるはずだろうし、確かに妙だな」

 

『それでね、明日も練習を休むようなことがあれば、尾行をしてにこちゃんの様子を観察したいと思ってて』

 

「……わかった。その時は俺や剣斗。ララも同行しよう。その手のことは慣れてるからな」

 

奏夜は魔戒騎士という仕事柄、ホラーと思われる人物について調べることもしているため、探偵並の尾行能力や調査能力を持っている。

 

にこの秘密を探るために、それを使おうと考えていたのである。

 

『ありがとう、そーくん!』

 

「ほら、明日も練習は早いだろ?早く寝ないと寝坊するぞ」

 

『あっ、そうだね……。おやすみ、そーくん』

 

「おう、おやすみ」

 

ここで穂乃果は通話を終了させたため、奏夜も通話を終了させ、そのまま携帯の充電を始めた。

 

穂乃果との電話の後、奏夜はシャワーを浴びてから眠りにつくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後、にこはこの日も練習を休んだため、奏夜は先行してにこの尾行を行っていた。

 

《ったく……。こんなことをしてもあまり意味はないと思うんだがな》

 

(そう言うなって。これもマネージャーの仕事の一貫さ)

 

メンバーの抱えている問題を解決に導くのもマネージャーとしての責務だと思っていた奏夜は、キルバをなだめながらにこの尾行を行っていた。

 

奏夜は手慣れてるからか、にこに気付かれる様子はなく、にこはとある場所に向かおうとしていた。

 

奏夜はにこの向かう場所を理解した上で別行動をしている穂乃果たちに連絡を取り、その場所へと向かわせるのであった。

 

にこが向かおうとしているのはスーパーなのだが、奏夜は直接スーパーに向かおうとはしなかった。

 

どうやら、奏夜は何か考えがあるようであり、それを実行しようとするためである。

 

『おい、奏夜。にこはスーパーに向かってるんだろ?行かなくていいのか?』

 

「いいんだよ。そっちは穂乃果たちに任せてるし、にこが尾行に気付いて逃げる可能性も考えてるって訳だよ」

 

『お前はそういうところでは抜け目がないな……』

 

奏夜はにこの様子を探るために色々考えているようであり、そんな奏夜の様子にキルバは感心せざるを得なかった。

 

「それに、穂乃果たちには剣斗とララがついてる。だからこそ俺は俺の作戦を実行できるって訳さ」

 

奏夜がこのように別行動出来ているのも、剣斗とララも同行し、穂乃果たちのフォローに回っているからである。

 

奏夜は色々な可能性を想定してにこを待ち伏せしようと考えており、移動をしていたその時、穂乃果から電話が来たのであった。

 

「……どうした、穂乃果?」

 

『ごめん、そーくん!にこちゃんに見つかっちゃって、そのまま逃げられちゃったの!』

 

「おいおい! 随分と早いな!」

 

ここまで早くにこに見つかるのは奏夜も想定外であり、驚きを隠せなかった。

 

奏夜も完全ににこを捕まえる準備は整っていなかったため、焦りも見せていた。

 

「仕方ない……。とりあえずみんなはにこを追ってくれ!俺はどうにか先回りをしてみせるから」

 

『う、うん!わかった!』

 

奏夜は穂乃果に指示を出すと、そのまま電話を切る。

 

「さて……。こっちに逃げてるかわからんけど、とりあえず行ってみるか……」

 

自分の作戦が早くも瓦解してしまった今、あとは自分の勘に頼らざるを得ないため、直感で移動をしていた。

 

そんな中、奏夜がたどり着いたのは、近くにあった有料の駐車場だった。

 

停められる車の数は少ないが、すでに全ての駐車スペースに車が駐車されていた。

 

奏夜が到着してからまもなく、にこがこちらの方へ逃げてきており、それを希が追いかけていた。

 

「げっ!?奏夜!?」

 

にこはここで奏夜と出くわすのは予想外であり、顔を真っ青にしていた。

 

「奏夜君、ナイスタイミングやん♪」

 

奏夜の現れたタイミングが絶妙だったからか、希は笑みを浮かべていた。

 

「ええい!」

 

意を決したにこは、全力で駆け出すと、駐車場の中へ入り、車と車の狭いスペースの中を入っていった。

 

すかさず希がそれを追いかけ、奏夜も続こうとしたのだが……。

 

「……あれ?」

 

希は何故か進めなかったので見てみると、自分の胸が引っかかってしまい、通ることが出来なかったのだ。

 

この光景は、魔戒騎士である前に年相応の少年である奏夜には刺激が強すぎたみたいで……。

 

「ちょ……ちょっと待ってくれ……!鼻血が……!」

 

突如奏夜の鼻から多量の鼻血が吹き出してしまい、奏夜は必死に鼻を抑えていた。

 

「……あっ!そーくんたちいた!」

 

すると、にこを追いかけていた穂乃果たちが奏夜たちと合流するのであった。

 

そこには剣斗とララも一緒だった。

 

「……?奏夜、どうして鼻血が出てるんだ?」

 

奏夜が鼻血を出してその場で止まっているのが気になった剣斗は首を傾げていた。

 

「な、なんでもない!なんでも……」

 

奏夜は空いている片方の手を使ってポケットティッシュを取り出すと、そのティッシュで未だに鼻血が出続けている鼻を抑えていた。

 

「……なんか、今のそーくんは使いものにならないみたいだね……」

 

穂乃果は状況はわからないながらも奏夜がまともに動けないのは察しており、ジト目で奏夜を見ていた。

 

「そうなると……」

 

希は、自分が通れなかったこの道を通れそうな人物を探すために奏夜たちを見渡していた。

 

すると、希が目を付けたのは、凛とララの2人であった。

 

「……頼むで!凛ちゃん、ララちゃん!」

 

こうして、希に推薦された凛とララが、狭い車と車の間を通ることになったのだが……。

 

「なんか不本意だにゃあ!!」

 

「まったくだよぉ!!」

 

自分たちが選ばれた理由を察した凛とララは、嘆きながら狭い道を通っていくのであった。

 

そして、2人は駐車場を抜け出したのだが……。

 

「いないにゃあ!」

 

その先は二手に分かれており、すでににこの姿はなかった。

 

「二手に分かれて追いかければ捕まえられるかもしれないけど、追いかけるのはやめた方がいいかもね。……奏夜もあんな状態だから……」

 

「……確かに、そうかもしれないにゃ」

 

ララは、にこの追跡中止を提案し、凛はそれに賛成していた。

 

そして、未だに鼻血が止まらず苦しんでいるであろう奏夜を想像し、ジト目で呆れるのであった。

 

一方、駐車場で待機している他のメンバーも、奏夜の様子に呆れ果てていた。

 

《……ったく……。このむっつりスケベが……!》

 

(追い詰められてるこの状況で言うことかよ、それ!)

 

奏夜は何枚目かのティッシュで鼻を抑えながら、キルバの苦言に反論していた。

 

《あの程度のことで動揺するとは、色気で迫ってくるホラーが相手だったらどうするつもりだ?》

 

(どうもこうもないさ。相手がホラーだってわかってれば俺だって……)

 

《どうだかな……》

 

奏夜は、これまで、色気を使って人間を魅了しているホラーとは遭遇も交戦経験もないため、そのようなホラーと遭遇した場合、奏夜がちゃんと戦えるのかキルバは心配になっていた。

 

奏夜は戦えると豪語するものの、キルバはそれを信じてはいなかった。

 

「奏夜君……。えっちやな……」

 

奏夜が鼻血を出した原因を察していた希は頬を赤らめながらジト目で奏夜を見ていた。

 

このような状況の後、凛とララが戻ってきたため、ここで1度にこの追跡を諦めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

にこの捜索を諦めた奏夜たちは、先ほどの場所からそう離れてはいない、川が見える橋のところへと移動していた。

 

休憩をしながらこれからのことを話し合うためである。

 

奏夜の鼻血はこの頃には落ち着いていたのだが、ティッシュを鼻に詰め込むというあまりにも間の抜けた感じになっていた。

 

「結局逃げられちゃったかぁ……」

 

「まったく……。あんだけ自信満々だった奏夜があの体たらくなんだもの」

 

穂乃果はにこに逃げられたことにがっかりしており、真姫は本来の能力を活かしきれなかった奏夜に呆れていた。

 

「……か、返す言葉もない……」

 

本当だったらムキになって反論するところだったが、それをしてしまうと、希の胸をまじまじと眺めてしまったことがバレてしまうため、口をつぐんでいた。

 

「それにしても、何故あそこまで必死に逃げるのでしょうか?」

 

「にこちゃん、意地っ張りで相談とかほとんどしないから」

 

「それは真姫ちゃんにも言えることだけどね♪それに、奏夜君も」

 

「うっ、うるさいわね!」

 

「俺は返す言葉はないけど……」

 

にこの性格のことを真姫が語ると、希がこのようにからかってきたため、真姫はムキになって反論するが、奏夜は認めているからか、苦笑いをしていた。

 

「家、行ってみようか?」

 

にこから練習を休む理由を聞き出すために、穂乃果は直接にこの家に乗り込むことを提案するが……。

 

「押しかけるんですか?」

 

「だって、そうでもしないと話してくれそうにないし……」

 

「そうは言っても、私も希もにこの家はわからないわよ」

 

同級生である絵里と希もにこの家はわからないため、にこの家を探し出すのは難しいと思われた。

 

しかし……。

 

「……?待てよ……?」

 

奏夜は何かを思い出したのか、考える仕草をしていた。

 

「そーくん!もしかして、にこちゃんの家の住所わかるの!?」

 

「にこがホラーに襲われた時、俺はにこを家まで送ったんだよ。近くまで送っただけで家の前には行ってないけどな」

 

奏夜はにこを家まで送ったことがあるのだが、それでも直接どの家なのかまではわからなかった。

 

「俺の記憶が間違ってなかったら、にこの家はこの近くだったと思うんだ。確か、近くに大きなマンションがあったと思うけど……」

 

「!!それ、凄い手がかりじゃない!」

 

奏夜はにこの家の近くまでは朧げに覚えているようであり、その情報に絵里は歓喜の声をあげていた。

 

『だが、直接的な手がかりを得た訳ではないぞ。仮に奏夜の言ってたマンションがにこの家だったとしても、部屋を特定は出来ないからな』

 

「確かに、キルバの言う通りやね」

 

「でも、手がかりはないんだし、行くだけ行ってみても……」

 

にこの家の場所は確かになってはいないものの、少ない手がかりを活かすために奏夜の話していたマンションへ向かおうとするのだが……。

 

「あぁぁぁぁ!!」

 

花陽は何かを見つけたのか、いきなり大きな声を出すのであった。

 

「?どうしたんだ?花陽」

 

「あ、あれ……!」

 

花陽が指差す方向に全員が向くのだが、橋の向こう側から1人の女の子がこちらへ歩いてきた。

 

その女の子とは……。

 

「に、にこちゃん!?」

 

「でも、小さくないですか?」

 

にこととても似ている女の子だったのだが、背格好が異なっていた。

 

「服も髪も違うし、他人の空似ってやつだろうな」

 

「それは気のせいじゃないかにゃ?だって、にこちゃんは3年生の割に小さ……。小さいにゃあ!!」

 

凛はこの女の子がにこだと豪語しようとするものの、こちらを通り過ぎようとしている女の子がにこよりも小さかったため、驚きでこのような声を上げる。

 

側で大きい声を出されては、誰でも反応はするため、女の子は奏夜たちの方を見る。

 

「あの、何か?」

 

その声に反応した女の子は少しだけ訝しげな表情でこちらを見ていた。

 

「ああ、いや、ごめんな。君が俺たちの知り合いに似てただけだからさ」

 

「……あら?あなた方はもしかして、μ'sの皆さんではないですか?」

 

女の子の口からμ'sという言葉が出るとは思わなかったからか、奏夜たちは驚きを隠せなかった。

 

「そうだけど、君はμ'sのことを知っているのか?」

 

「はい!お姉様がいつもお世話になってます!妹の矢澤こころです!」

 

『えぇぇぇぇぇぇぇ!?』

 

目の前のこの女の子がにこの妹であることを知り、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「まさか、にこっちに妹がいたなんて……」

 

「ああ、俺も知らなかったぞ……」

 

「しかも礼儀正しい……」

 

「まるで正反対だにゃ」

 

にこに妹がいたことが衝撃的であったが、さらにその性格もにことは異なる性格であり、それも驚きの対象であった。

 

にこの妹であるこころと遭遇した奏夜たちは、何故かこころと共に近くの駐車場に移動することになった。

 

そして、奏夜たちは何故か車が止まっているところで隠れていた。

 

「あの、こころちゃん?私たち、何でこんなところに隠れなきゃ……」

 

「静かに!誰もいませんね?」

 

こころは周囲を警戒しており、奏夜たちもまた、周囲を警戒していた。

 

「そっちはどうです?」

 

「こっちには人はいないみたいだけど……」

 

「よく見てください!相手はプロですよ?どこに隠れてるかわかりませんから」

 

「プロ?」

 

こころの言っているプロという言葉の意味が理解出来ず、穂乃果は首を傾げていた。

 

《……おい、奏夜》

 

(ああ、あの子の言ってるプロってのは多分そういうことなんだろうな)

 

キルバと奏夜はこころの言葉の意味を理解しており、そのことに苦笑いをしていた。

 

「……こころちゃん。心配するな。相手がプロなのは承知のうえさ。今のところ動きはないみたいだから安心しな」

 

奏夜はこころの言葉の意味を理解したうえで、彼女を安心させる言葉を放つのであった。

 

「どうやらそう見たいですね……。合図したら一斉にダッシュです!」

 

「何で?」

 

「まぁ、いいじゃねぇか。とりあえずはこころちゃんの指示に従おうぜ」

 

「助かります。……それでは、行きますよ!」

 

こころは奏夜たちに合図を送ると、勢いよく飛び出していった。

 

「あっ、ちょっと!」

 

「とりあえず付いていくぞ。したら、にこが休んでた理由もわかるかもしれないからな」

 

「あっ!そーくんも!待ってよぉ!」

 

奏夜は迷うことなくこころの後を追いかけ、穂乃果たちはさらにそんな奏夜の後を追いかけるのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな奏夜たちがたどり着いたのは、奏夜が話をしており、これから行こうと考えていたマンションであった。

 

「……どうやら、大丈夫みたいですね……」

 

マンションのエントランスにたどり着くと、こころは周囲を警戒し、何もないことを確認していた。

 

「一体なんなんですか?」

 

「もしかしてにこちゃん、殺し屋に狙われてるとか?」

 

「……おいおい、その発想はぶっ飛び過ぎだろ……」

 

花陽の例えがあまりに現実離れ過ぎているため、奏夜はジト目で花陽を見ていた。

 

《まったくだ。これがホラーに狙われてるとかでも同じリアクションをしてたぞ……》

 

(仮にそうだとしても、妹であるこころちゃんがあそこまで必死な理由が説明出来ないからな)

 

さらにキルバは殺し屋ではなく、ホラーに狙われてるという発想をするも、すぐに否定をする。

 

奏夜もそれに同意しており、苦笑いをしていた。

 

「……何を言ってるんですか。マスコミに決まってるじゃないですか」

 

「え?」

 

どうやらこころが気にしていたのはマスコミみたいであり、思いがけない言葉に穂乃果たちはキョトンとしていた。

 

「やっぱり……。そういうことか……」

 

奏夜は何となくではあるが事情を察したようであり、頭を抱えていた。

 

「こころちゃん、要するにパパラッチに警戒してたって訳だよな?」

 

「その通りです!特にバックダンサーの皆さんは顔が知られてるんですから、来られるなら事前に連絡を下さい!」

 

「バック……」

 

「ダンサー……?」

 

「誰がよ……」

 

こころの放った言葉に、穂乃果たちは更に困惑しており、パチクリと目を見開いていた。

 

「皆さんはスーパーアイドル矢澤にこのバックダンサー、μ'sですよね?お姉様からお話は聞いています。今、お姉様か、指導を受けて、アイドルを目指していられるんですよね?」

 

(あの馬鹿……。何妹に適当なことを吹き込んでるんだよ……)

 

どうやらにこはμ'sのことをバックダンサーと妹に話していたみたいであり、奏夜はその事実にただ呆れるのだった。

 

「そしてあなたは、マネージャーの如月奏夜さんですよね?」

 

「ん?まぁ、そうだけど……」

 

「あなたのご高名はお姉様より聞いています。スーパーアイドルであるお姉様に相応しい敏腕マネージャーであるとか。いつもお姉様がお世話になっております」

 

「アハハ……。敏腕マネージャーねぇ……」

 

マネージャーであるということは変わりないのだが、μ'sのではなく、にこのマネージャーという扱いになっており、奏夜は苦笑いをしていた。

 

「それにあなたは、お姉様が通われてる学校の先生でしたよね?生徒からも信頼されている素晴らしい教師だと話は聞いています」

 

「うむ!そう言われると少し照れるが、嬉しいではないか!」

 

どうやら剣斗は普通に先生として紹介されていたらしく、その高い評価に、剣斗はまんざらでもなさそうだった。

 

「あなたの話もお姉様から聞いてます!確か、お姉様に憧れて、お姉様の付き人をなさってるんですよね?」

 

「ちょっと!付き人っていったい何のことなの?」

 

「ちょっとララ、落ち着けって!」

 

ララだけは設定がおかしくなっており、こころに異議を唱えようとするも、奏夜がすぐになだめていた。

 

「頑張って下さいね!ダメはダメなりに8人集まればなんとかデビューくらいは出来るんじゃないかって、お姉様も言ってましたから!」

 

「ちょっと!何がダメはダメなりよ!」

 

にこが言った言葉ではあるが、こころの言葉が気にいらないからか、真姫は不満げな声をあげる。

「アハハ……。気持ちはわかるが、落ちつけって……」

 

「奏夜さんの言う通り、そんな顔はいけません!スーパーアイドルであるお姉様を見習って、いつもにっこにっこに〜!ですよ!」

 

真姫の不満げな言葉にこころは怯えるどころか堂々とした態度を取っており、にこのお家芸である「にっこにっこに〜!」を行っていた。

 

「……ねぇ、こころちゃん」

 

「はい?」

 

「ちょっと電話させてくれる?」

 

「はい!」

 

絵里の言葉にこころは素直に答えており、絵里はにこに電話することになった。

 

絵里は自分の携帯を取り出すと、にこに電話をかけて、奏夜たちは近くで聞き耳を立てていた。

 

その間、こころは1人で「にっこにっこに〜」を繰り返していた。

 

絵里は電話をかけるもののにこには繋がらず、にこの声で留守番電話にメッセージを入れるようにということが伝えられた。

 

ピー!という発信音の後に、絵里は……。

 

「もしもし、わたくし、あなたの“バックダンサー”を務めさせて頂いている絢瀬絵里と申します」

 

絵里は、バックダンサーと話されたことが面白くなかったからか、その言葉を特に強調する。

 

「もし聞いていたら……すぐに出なさい!」

 

「出なさいよ、にこちゃん!」

 

「バックダンサーってどういうことですか!?」

 

「私が付き人って納得いかないんだけど!」

 

「説明するにゃあ!!」

 

絵里の言葉に呼応する形で、真姫、花陽、ララ、凛の3人もメッセージを残していた。

 

「やれやれ……」

 

「?」

 

奏夜は話をややこしくしているにこに呆れており、こころは状況が飲み込めないのか首を傾げていた。

 

「なぁ、こころちゃん。家でにこが帰ってくるのを待たせてもらってもいいかな?」

 

「はい!もちろんです!お家にご案内しますね、奏夜さん!皆さん!」

 

こうして、奏夜たちはこころの案内によってにこの家に入ることを許されたため

、そのままこころに付いていき、にこの家へ入るのであった。

 

にこは何故μ'sのことをバックダンサーと妹に伝えているのか?

 

それは、これから明らかになっていく……。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ……。にこがμ'sのことをバックダンサーなどと言っていたとはな。だが、そんな理由があったとは……。次回、「宇宙」。宇宙No.1アイドルとはまた大げさだけどな……』

 

 

 




にこの妹登場!

ここの話も面白かったですよね(*^_^*)

それにしても、希のあのシーンでドキッとした人は多いんじゃないでしょうか?

まぁ、僕もその1人なんですが(笑)

奏夜もまた、年頃の少年なんだなと改めて感じたと思います(笑)

それしにても、最近戦闘シーンが少ない気がする……。

そろそろオリ回も入れたいけど、どうしようかな……。

まあ、それはともかく、次回は何故にこがμ'sをバックダンサーと言っていたのか明らかになっていきます。

次回も投稿が遅くなるかもしれませんが、なるべく早めに投稿したいと思うのでよろしくお願いします!

それでは、次回をお楽しみに!



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第66話 「宇宙」

お待たせしました!第66話になります!

ギリギリ5月中に投稿は出来たものの、遅くなってしまった……。

仕事も忙しいのですが、FF14では、最新パッチのアプデがあり、それの攻略もしていたので(-_-;)

おかげさまで、難易度の高いボスを倒せましたし!

さて、前回の話でμ'sがにこのバックダンサーという話になっていましたが、その真意とは?

それでは、第66話をどうぞ!




奏夜たちμ'sは、見事ラブライブの地区予選に合格し、最終予選に出場する権利を得た。

 

ラブライブ優勝に向けてより練習に励まなければいけない中、にこが練習を休むようになる。

 

奏夜たちはにこを尾行してその理由を突き止めようとするも、上手く逃げられてしまった。

 

これからどうするか考えていると、奏夜たちはにこの妹である矢澤こころに出会う。

 

そんなこころの案内で、奏夜たちはにこの家へと招かれたのである。

 

「……ここがにこちゃんの家……」

 

奏夜たちは初めてにこの家を訪れることになるからか、穂乃果はキョロキョロと周囲を見渡していた。

 

(……まぁ、普通の家って感じだよな……)

 

奏夜もまた、周囲を見渡していたのだが、にこの家はごくありふれた普通の家であり、それ以上の印象を抱くことはなかった。

 

奏夜たちは居間に通されると、4〜5歳くらいの男の子が何かで遊んでいた。

 

それは、モグラ叩きのおもちゃに似ていたが、モグラではなく、μ'sのメンバーのイラストが描かれていた。

 

「弟の虎太郎です」

 

どうやらこの弟は、にこの弟みたいであった。

 

「……ばっくだんさ〜……」

 

にこの弟である虎太郎は、鼻水を垂らしながら、穂乃果たちのことを指差していた。

 

「アハハ……こんにちは……」

 

ことりは苦笑いをしながら、虎太郎に挨拶をしていた。

 

そして、虎太郎は、奏夜、剣斗、ララの3人の姿を見るのだが……。

 

「……ばっくだんさ〜……」

 

と、穂乃果たちに対してと同じことを言っていた。

 

「俺たちは踊ってる訳じゃないんだけどなぁ……」

 

虎太郎はあまり言葉の意味を理解してないのか、穂乃果たちと奏夜たちを一緒にしており、そのことに奏夜は苦笑いをしていた。

 

「虎太郎。この方はお姉様のマネージャーと学校の先生ですよ」

 

こころは虎太郎に奏夜と剣斗のことをしっかり紹介するのであった。

 

「……まね〜じゃ〜……。せんせい……」

 

今度はちゃんと奏夜たちのことをしっかり把握しており、そのことに奏夜は苦笑いをしていた。

 

「そしてこの方は、お姉様の付き人ですよ」

 

「つきびと〜」

 

「ちょっと!だから付き人って何よ!」

 

ララは付き人扱いされるのが気に入らないからか、異議を唱えていた。

 

「ララ、落ち着け。気持ちはわかるけど、話がややこしくなる」

 

奏夜はそんなララのことをなだめるのであった。

 

「……お姉様は普段は、事務所が用意したウォーターフロントのマンションを使ってるんですが、夜だけはここに帰ってくるんです」

 

「ウォーターフロントって、どこよ……」

 

にこの話したであろう話があまりにも おかしなものであったため、真姫は呆れ果てていた。

 

「それはもちろん秘密です!マスコミに知られると大変ですから!」

 

こころは真姫の問いかけに答えることはなく、奏夜たちのお茶の準備をしていた。

 

(ったく……。にこのやつ、どんだけ話を盛れば気が済むんだよ……)

 

《確かにな。これは俺も驚きだぞ》

 

にこの話の盛り方は予想以上であり、奏夜とキルバは呆れ果てていた。

 

そして、奏夜はあることが気になっていた。

 

「……それにしても、何でこの子たちはあんなににこの話を信じ切ってるんだろうか?」

 

「確かにそうですね……。μ'sの写真や動画を見れば、私たちがバックダンサーではないのがすぐわかると思うのですが……」

 

もしこころや虎太郎がμ'sの写真や動画を見ているならば、にこの言っていることが嘘であると、子供ながら理解出来ると思ったからである。

 

この奏夜の疑問には、他のメンバーもその通りだと感じており……。

 

「ねぇ、虎太郎くん。お姉ちゃんが歌ったり踊ったりしてるところって見たことあるの?」

 

「あれ〜」

 

ことりが虎太郎に語りかけると、虎太郎は近くに貼ってあるポスターを指していた。

 

「……あっ!μ'sのポスターだ!」

 

どうやらそのポスターはμ'sのポスターのようなのだが……。

 

「いや、なんか違う」

 

真姫はこのポスターの異変をすぐに見抜くのであった。

 

奏夜たちはポスターを凝視し……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『!?合成!?』

 

この写真は、中央に映っているはずの穂乃果とにこの顔が入れ替わっており、それに気付いた奏夜たちは驚きの声をあげていた。

 

どうやらにこは、自分の存在をアピールするために、自分の写真を中央に映っているメンバーの写真に変えたみたいだった。

 

写真の合成はここだけではないようであり……。

 

「こっちもにゃ〜!」

 

凛はどうやらにこの部屋に移動したみたいであり、にこの部屋のポスターも、合成が行われていたみたいであった。

 

「これ……私の顔と入れ替えてあるわ……」

 

ほとんどは穂乃果と顔を入れ替えてるみたいなのだが、絵里と入れ替えられてるポスターも存在していた。

 

「おいおい……。ポスターをいじるにしては、ずいぶんとお粗末だろ……」

 

奏夜は、合成されたポスターをジト目で眺めながら苦笑いをしていた。

 

「ふむ……。だが、にこが家族の前ではイイアイドルでありたいことは伝わってくるがな」

 

「確かに。なんか涙ぐましいし……」

 

剣斗と穂乃果は、にこの努力を感じ取っていた。

 

奏夜たちが合成されたポスターを眺めていると、ガチャっと扉の音が聞こえてきた。

 

「あ、あんたたち……」

 

どうやらにこが帰ってきたみたいであり、奏夜たちの姿を見たにこの表情は引きつっていた。

 

「お姉様、おかえりなさい!バックダンサーの方々が、お姉様にお話があると!」

 

「そ、そう……」

 

「申し訳ありません。すぐ済むのでよろしいでしょうか……?」

 

海未は最初は穏やかな表情で微笑んでいたが、すぐに険しい表情になっており、その表情に、にこだけではなく何故か奏夜も気圧されていた。

 

《おいおい……。なんでお前まで海未にびびってるんだよ……》

 

(ハッ!体が勝手に反応してしまった!)

 

奏夜は度々海未に怒られているからか、このような表情はよく見ていたため、本能的に反応してしまったようだった。

 

「あぁ……えっと……」

 

にこは海未の迫力に圧倒されてしまい、返答に困っていた。

 

迷った末、にこの行った行動は……。

 

「こ、こころ!悪いけど、私、今日は仕事で向こうのマンションに行かないといけなくなっちゃったから……。それじゃ!!」

 

にこは適当な言い訳をすると、そのまま逃げ出すのであった。

 

「あ、逃げた!」

 

にこが逃げ出したのを見て、絵里と希は玄関を飛び出し、にこを追いかけていった。

 

「そーくん!そーくんも早く追いかけて!」

 

「わかってるって!」

 

絵里と希が飛び出して行ったのを見て、奏夜もそれを追いかける形でにこを追いかけることになった。

 

(さて……俺は下に降りて先回りをするか?)

 

この先はエレベーターであり、このままではにこにエレベーターに乗られて逃げられる可能性があるため、奏夜はどこからか飛び降りて先回りをしようかと考えていた。

 

しかし、にこを追いかける絵里と希の動きが止まったため、奏夜も足を止める。

 

奏夜たちが目にしたのは、小学生くらいの女の子に捕まるにこの姿であった。

 

「これは……。どうなってるんだ?」

 

「この子も、にこの妹さんみたい」

 

「アハハ……。まだ妹がいたんだな」

 

まだにこに妹がいたことを知り、奏夜は苦笑いをしていた。

 

こうして、にこを捕まえられた奏夜たちは、にこの家で話(尋問)を行おうとするのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

「……大変申し訳ありません。私、矢澤にこ、嘘をついておりました」

 

にこの家のリビングで話をすることになったのだが、色々とバレたことがわかると、にこはすぐに謝罪を行うのであった。

 

「ちゃんと頭を上げて説明しなさい」

 

奏夜たちは険しい表情をしながら、にこの事を見る。

 

ちなみに、話をしている間、妹たちの気を紛らわせるために、剣斗とララが遊び相手になっていた。

 

「や、やだなぁ。みんな、怖い顔をして。アイドルは笑顔が大切でしょ?さぁ、みんなご一緒に、にっこにっこに〜!」

 

「にこっち?」

 

「うっ……!」

 

「ふざけてても……ええんかな?」

 

「……はい」

 

にこはふざけて誤魔化そうとするも、それも不可能だとわかったため、渋々事情を話すことにしたのであった。

 

「……出張?」

 

「そう、それで、2週間ほど妹たちの面倒を見なきゃいけなくなったの」

 

どうやらにこの母親が仕事で出張に行くことになり、家族の面倒を見るために、練習を休んでいたみたいであった。

 

「ったく……。そうならそうとはっきり言えよな。そうしたら、色々対策も出来るのに……」

 

「わ、悪かったわよ……。だけど、これは家の問題なんだし、仕方ないでしょ?」

 

どうやらにこは奏夜たちに相談することも脳裏に入れていたみたいではあるが、それをしなかったみたいだった。

 

「それはともかくとして、どうして私たちがバックダンサーということになっているのですか?」

 

「そうね。むしろ問題はそっちよ」

 

「それに、ララは付き人って設定にされたことが納得出来ないみたいだしな」

 

海未と絵里は、何故μ'sがにこのバックダンサーだと話をしたのかを聞こうとしており、奏夜はついでにララが付き人扱いされてることも聞こうとしていた。

 

「そ、それは……」

 

「それは?」

 

「にっ、にっこにっこに……」

 

「それは禁止やよ」

 

「ちゃんと話してください」

 

にこは、その話をしたくないからか、どうにか誤魔化そうとするも、それを希と海未に阻止されてしまった。

 

これ以上は誤魔化しきれないと判断したからか、にこは重い口を開くのである。

 

「……元からよ」

「元から?」

 

「……家ではそういうことになってるのよ。別に、私の家で私がどう言おうが、勝手でしょ?」

 

しかし、にこの言葉の意味を穂乃果たちは理解することが出来なかったが、にこの言葉は的を得ているため、これ以上の追求は出来なかった。

 

(なるほど……。そういうことか……)

 

《おい、奏夜。にこが何を言いたいのかわかったのか?》

 

(まぁな。アスモディとの戦いでにこの本音を聞けたし、さっきのにこの話を合わせたら、にこの事情ってやつを察したよ)

 

《……!なるほど、そういうことか!》

 

奏夜はにこがμ'sに加入する前に、ホラー、アスモディと戦い、そこでにこの本音を知るのであった。

 

さらに、にこの家を見て、話を聞いただけで矢澤家の家庭環境を察して、にこが言おうとしていることをいの一番に察したのであった。

 

そんな奏夜の言葉に、キルバもにこの真意に気付く。

 

それ以外のメンバーは、まだピンと来てはいないみたいだった。

 

「……お願いだから、今日は帰って……」

 

「……そうだな。悪かったよ。大勢で押しかけちまってさ」

「!?そーくん?」

 

にこの帰って欲しいという言葉に奏夜は即座に反応しており、そのことに穂乃果は驚いていた。

 

「いいから、とりあえず帰るぞ」

 

奏夜は穂乃果たちと共に、にこの家を後にする事にしたのであった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

「……まったく、困ったものね」

 

奏夜たちはにこの家を後にしてから、来た道を戻るように歩いているのだが、最初に口を開いたのは真姫であった。

 

「……だけど、元からってどういうことなんだろう?」

 

「にこちゃんの家では、元から私たちはバックダンサーってこと?」

 

ことりと穂乃果は、にこの言っていたμ'sがバックダンサーであるということの真意が理解出来なかった。

 

そのため、にこが何を考えているのか必至に考えていた。

 

「……にこはスクールアイドルをやった時からスーパーアイドルだったんだろうな」

 

「そうやね……。ウチもそうやないかって思ってたわ」

 

奏夜だけではなく、希もまた、にこの言葉の真意を察していたのであった。

 

「?そーくん、希ちゃん。いったいどういうことなの?」

 

「お前ら、にこが1年生の時に、スクールアイドルをやったことは知ってるな?そして、ダメになったことも」

 

「……!!まさか……!」

 

「そのまさかやね。にこっちは家族に話してたんやろうね。アイドルになったって」

 

「でも、1人になっちまってアイドルがダメになっちまっても、にこは家族に本当のことは言い出せなかった」

 

奏夜と希の言葉は、あくまでも推測であり、確固たる証拠のない言葉ではあったが、的は得ている言葉であった。

 

「にこっちは、あの家では、スーパーアイドル、矢澤にこでい続けたいと思っていると思うんよ」

 

「確かに、ありそうな話ですね……」

 

奏夜と希の的の得た推測に、海未は納得していた。

 

「もう、にこちゃんってば、どれだけプライドが高いのよ!」

 

「真姫ちゃんと同じだにゃ!」

 

「茶化さないの!」

 

「……だけど、本当にプライドが高いだけなのかなぁ?」

 

「え?」

 

「……アイドルに凄い憧れてたんじゃないかな。本当にアイドルでいたかったんだよ……。私も、ずっと憧れてたからわかるんだ」

 

花陽は、にこに負けないくらいアイドルやスクールアイドルが好きであるため、にこの気持ちに共感出来る部分があった。

 

「……!そういえば、私が1年の時、にこがスクールアイドルのチラシを配ってるのを見た事があるわ。その頃、私は生徒会もあったし、アイドルに興味はなかったのだけど……」

 

そして、にこと同級生である絵里は、にこがスクールアイドルとして活動している様子を見た事があり、そのことを思い出していた。

 

「あの時、私が話しかけていれば……」

 

「絵里、気にすんなって。当時はアイドルに興味なかったんだろ?それに、こんなことになるなんて予想も出来ないしさ。だから絵里が気に病むことはないんだよ」

 

「そうだけど……」

 

絵里はにこがμ'sに入るまで苦労をしていたのは自分にも責任があると感じていたのだが、奏夜がそれを否定してなだめていた。

 

「なぁ、みんな。この状況、このままにはしておけないだろ?」

 

「そうだけど、そーくん、何か考えがあるの?」

 

「ああ。それには、みんなの協力が必要だけどな」

 

奏夜は、話をややこしくしないで、μ'sがバックダンサーではないことを証明する策があるみたいだった。

 

協力が必要と聞いた穂乃果たちは首を傾げるのだが、奏夜はやろうとしていることを説明すると、納得したみたいであった。

 

こうして、奏夜たちはそのまま動き出すのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、この日もにこは、練習を休んで帰ろうとしていた。

 

すると……。

 

「……にこ、帰るのか?」

 

奏夜は校門前でにこを待ち構えており、見つけるなり声をかける。

 

「……奏夜、何の用なの?言っとくけど、練習には出られない……って、ええ!?」

 

にこは練習に出られないと奏夜を突っぱねてそのまま帰ろうとするが、奏夜の後ろからこころ、ここあ、虎太郎の3人がひょっこりと顔を出していた。

 

そのため、にこは驚きを隠せない。

 

「お前が妹たちの面倒を見なきゃいけないのは百も承知さ。なら、妹たちをこっちに連れてくれば何の問題もないだろ?」

 

「お姉様!」

 

「お姉ちゃん!」

 

「がっこう〜」

 

「ちょっと待って!さっき学校終わったばかりでしょ!?どうやって3人を連れてきたのよ!」

 

奏夜が魔戒騎士だからといって、学校が終わった直後にこころたちをここへ連れて行くことは難しいため、その疑問を奏夜にぶつける。

 

「ああ、午後から剣斗に許可をもらって早退したんだよ。昼からの授業は、剣斗の力で出席扱いにさせてもらったけどな」

 

「!小津先生の力を使うとか、ずるいわよ!」

 

「それに、この3人は見たがってるみたいだぞ?スーパーアイドル矢澤にこのステージをさ」

 

「ステージ?何のことよ?」

 

「いいから行くぞ、みんなが待ってるからさ」

 

奏夜はにこを半ば強引に連れ出すと、そのまま屋上へと向かっていった。

 

その前に、玄関で剣斗が待っていたおかげで、こころ、ここあ、虎太郎の3人はスムーズに校内に入ることが出来た。

 

こころたち3人は、奏夜、剣斗、ララ乃3人に案内され、屋上に作られたステージで、にこが現れるのを待っていた。

 

そして、にこは、絵里と希から渡された衣装を身に纏うのである。

 

「……!これって……!」

にこの着ている衣装はまるで天使のような衣装であるその衣装のクオリティの高さに、にこは驚いていた。

 

「にこにピッタリな衣装を、私と希で考えてみたの。衣装作りは、ララも手伝ってくれたのよ」

 

「ふふっ、やっぱり、にこっちには、可愛い衣装が良く似合う♪スーパーアイドル、にこちゃん♪」

 

「希……」

 

奏夜の考えた提案こそ、にこの妹たちに、スーパーアイドルであるにこのステージを見てもらうことであった。

 

そのことにより、にこは素直になって、μ'sがバックダンサーではないことを説明するだろうと、奏夜はそこまで計算していた。

 

「……ま、これを考えたのは奏夜君なんやけどね」

 

「まったく……。奏夜には敵わないわね……」

 

これが奏夜の提案だとわかると、にこは奏夜の変わらない手際の良さに、驚きながらも苦笑いをしていた。

 

「今、扉の向こうには、あなた1人だけのライブを心待ちにしている最高のファンがいるわ」

 

「……絵里……」

 

「……さぁ!みんな待ってるわよ!」

 

にこは、奏夜が企画し、みんなが自分のためのライブを用意してくれたことに心を打たれていた。

 

この瞬間、にこは妹たちに伝えなければならないと決意する。

 

μ'sが、本当はバックダンサーではないということを。

 

にこは、そのようなことはわかっていたが、言え出せなかった。

 

大切な仲間たちに背中を押されたにこは、屋上の扉を開くと、自分を待っているファンのいるステージへと向かうのであった。

 

その頃、奏夜、剣斗、ララの3人は、こころ、ここあ、虎太郎の3人と共に、屋上に作られたステージの観客席にてにこが現れるのを待っていた。

 

「ここが、お姉様のステージですか?」

 

「誰もいないよ!」

 

「おくじょ〜」

 

「……そうだな。だけど、心配することはないぞ」

 

「そうよ。このライブは、私たちだけがいればいいのよ」

 

「うむ!これから始まるのは、3人のために行われる、とてもイイ!ライブなのだからな!」

 

「は、はぁ……」

 

奏夜たちは、このようなフォローを行うも、こころたちはよくわかっていなかった。

 

すると、にこがステージに現れるのであった。

 

スーパーアイドル、矢澤にこに相応しい衣装を身に纏ったにこに、こころたちは魅入るのである。

 

「あ……!」

 

「お姉様……!」

 

「アイドル……!」

 

こころたちがにこに見入っていると、にこを中心に、穂乃果たちμ'sのメンバーも姿を現わすのであった。

 

「……こころ、ここあ、虎太郎。歌う前に話しがあるの」

 

「「「え?」」」

 

「実はね……。スーパーアイドルにこは、今日でおしまいなの!」

 

にこから告げられた告白に、こころたちは驚きを隠せなかった。

 

「えぇ!?アイドル……辞めちゃうの……?」

 

このように認識をしたこころは、悲しげな表情をする。

 

「うぅん、辞めないよ。これからは、ここにいるμ'sのメンバーとアイドルをやっていくの!」

 

「でも、皆さんは、アイドルを目指している……」

 

「ばっくだんさ〜……」

 

「……そう思ってた。けど、違ったの!これからは、もっと新しい自分に変わっていきたい。この9人でいられる時が、1番輝けるの!……1人でいる時よりも……ずっと……」

 

ここでにこは、こころたちに、μ'sがバックダンサーではないことを告げるのである。

 

「私の夢は、宇宙ナンバーワンアイドルとして、宇宙ナンバーワンユニットのμ'sと一緒に、より輝いていくこと!……それが、1番大切な夢、私のやりたいことなの!」

 

「にこ……。よく言ったな……」

 

にこの心からの本音を聞いた奏夜は、嬉しい気持ちになったからか、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「……こころ、ここあ、虎太郎。よく聞いてくれ」

 

奏夜のこの前置きに、3人は無言で頷いていた。

 

「俺は、そんなにこの夢を叶えてやりたい。いや、必ず叶えられるように導いていく。なんたって俺は、μ'sのマネージャーだからな……!」

 

「奏夜……」

 

「うむ!私だって、音ノ木坂の教師として、μ'sのことを精一杯サポートしていくつもりだ!なんと言っても、μ'sはスクールアイドルの中でも、とびきり、イイ!スクールアイドルなのだから……」

 

「小津先生……」

 

「私はにこの付き人じゃないけど、私もμ'sのことを全力でサポートするつもりだよ。だって、μ'sは私の大切な仲間だもん!」

 

「ララ……」

 

奏夜、剣斗、ララの3人は、μ'sのメンバーではないが、それぞれの立場で、μ'sを支えていく決意を改めて表明する。

 

その力強い言葉が、にこには嬉しいものであった。

 

「……これから歌う曲は、私が1人で歌う、最後の曲……」

 

にこがこのように宣言すると、穂乃果たちはステージから撤収し、ステージにはにこ1人となった。

 

「みんな!行っくよぉ!!」

 

今、このステージには、宇宙ナンバーワンアイドルであるにこが満面の笑みでパフォーマンスを行おうとしていた。

 

そして、この言葉が、屋上に響き渡るのであった。

 

 

 

 

 

“にっこにっこに〜!!”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『邪竜ホラー、ニーズヘッグ。奴の力は強大だが、厄介なのはその力だけじゃない。次回、「眷属」。迫り来る、漆黒の影!』

 

 

 




少しだけ短めになりましたが、これくらいの方が読みやすいのだろうか?

1話平均が1万文字くらいなのですが、長いですかね?

凄く今更な問いですが(笑)

今回は、にこの真意を察した奏夜が起点を利かせるという形で、μ'sがバックダンサーではないことを証明しました。

そこはさすがは奏夜だと言わしめるものですよね。

本当ならそのまま二期の5話に突入させる予定ですが、そろそろ牙狼サイドの話を進めたいと思い、次回は牙狼メインの話とさせてもらいました。

次回予告にあったニーズヘッグの眷属とは、いったいどのような存在なのか?

そして、未だジンガに知られていないもう1つの魔竜の眼の存在を隠し通すことは出来るのだろうか?

次回の話は意外なキャラを登場させようと思っています。

そのキャラとは誰なのか?ぜひご期待ください!

次回の投稿も遅くなるかもしれませんが、なるべく早めに投稿したいと思っています。

それでは、次回をお楽しみに!



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第67話 「眷属」

大変長らくお待たせしました!第67話です!

まさか、ここまで1ヶ月以上間隔が空いてしまうとは(>_<)

6月は色々と忙しく、なかなか小説執筆に時間を割けませんでした。

こんな感じで、最近はかなり更新が遅くなると思いますが、完結まで自分のペースで頑張っていくのでよろしくお願いします!

さて、今回の話は久しぶりの牙狼メインの話となります。

奏夜たちに待ち受けるものとは?

それでは、第67話をどうぞ!




ラブライブ最終予選に駒を進めることになった奏夜たちであったが、にこは家庭の事情にて練習を休まざるを得ない状況となってしまった。

 

それだけではなく、にこは妹たちにμ'sのことをバックダンサーと話していたのだ。

 

それも、奏夜の起点によって解決され、μ'sは再び動き始めた。

 

それから何日も経たないうちに、秋葉原某所にある今は使われていないビルでは……。

 

「……もう1つの魔竜の眼はなかなか見つからないもんだな……」

 

ニーズヘッグ復活を企んでいるジンガは、ワインを飲みながらこのように呟いていた。

 

「申し訳ありません、ジンガ様。何のお役にも立てず……」

 

「構わんさ。お前は手に入れた力を定着させるためにもう少し時間が必要になってくるからな」

 

ジンガが今まで表立った動きをしなかったのは、力を与えたアミリの力が馴染むのを待っていたからである。

 

「それからは、お前には働いてもらうさ。嫌というほどにな」

 

「はっ!かしこまりました!」

 

「……それにしても、最近は妙な魔戒法師がうろうろしてるだけじゃなく、あの小僧と行動をしてるみたいだな。なかなか尻尾を見せようとはしないが」

 

ジンガは、ララが最近奏夜と行動してることは突き止めていたものの、ララのいた里のことや、魔竜の眼についてはわからないみたいだった。

 

「……ジンガ様、いかがいたしますか?その魔戒法師が何かしらの秘密を握っているのは間違いないみたいでしょうが」

 

「まあ、慌てるな。俺は策を用意してるんだからな」

 

ジンガは、ララの正体を突き止めるために、何かを行おうとしていた。

 

「なあ、アミリ、知ってるか?ニーズヘッグの力は強大なものだが、そんな奴に従う、奴の眷属ともいえるホラーが存在することを」

 

「いえ、初めて知りましたが……」

 

「ククク……。その眷属の力を上手く利用して、例の魔戒法師の秘密、探ってやろうじゃないか!」

 

ジンガは、何かしらの方法でニーズヘッグの眷属と呼ばれているホラーを呼び出し、ララの秘密を探ろうと画策していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

ジンガがそのような策を講じているとは知る由もなく、奏夜、剣斗、ララの3人は、番犬所からの呼び出しがあったため、番犬所を訪れていた。

 

「……来ましたね。奏夜、剣斗、ララ」

 

「はい、ロデル様」

 

奏夜、剣斗、ララの3人は、ロデルに一礼をし、挨拶をしていた。

 

「もしかして、指令ですか?」

 

「はい。あなたたち3人はもうじき修学旅行で忙しいとは思いますが、その前にこの仕事を片付けて欲しいのです」

 

ロデルの言う通り、奏夜とララはもうじき修学旅行に行く事になっており、剣斗は教師として同じく修学旅行に行く事になっているのだ。

 

ロデルは奏夜たちの修学旅行行きを許可しており、その間、統夜にフォロー役をお願いしていた。

 

「わかりました!修学旅行行きを許可して頂けただけでもありがたいことです。なので、目の前の仕事を全力で挑みます」

 

「いえ、いいんですよ。あなた方には、普通の人間の生活も味わって欲しいですしね。それに、フォロー役の統夜は凄く張り切っていましてね」

 

奏夜の先輩騎士である統夜は、高校時代、学校行事や部活のイベントがある度に、番犬所から許可をもらい、それらを行う事が出来た。

 

そのため、今高校に通っている奏夜にも、自分のように楽しんでもらいたい気持ちが強いため、奏夜たちのフォロー役を快く引き受けたのだ。

 

「おっと、話がそれてしまいましたね。それで、今回の指令ですが……」

 

ロデルは、今回は奏夜たちに指令書を渡さず、口頭で指令を伝えるみたいだった。

 

「最近、秋葉原の外れにある今は使われていない廃ビルに、複数の陰我で満ちているとの報告を受けました」

 

「複数の陰我……。まさか、ジンガの本拠地……?」

 

「そこまではわかりません。もし、その場所が本当にジンガのアジトであるならば迂闊に攻め込みはせず、こちらへ報告を。もし、それが異なり、ただのホラーの巣窟であれば、ただちにその陰我を断ち切って下さい」

 

「うむ!なかなか厄介な仕事になりそうだな。だが、私たち3人ならば、問題はあるまい!」

 

剣斗は、ロデルから指令を出す聞くと、その内容に怯むことなく高揚感を抱いていた。

 

「そうね。今の私たちなら、問題はないわ!」

 

「ああ、相手が誰であろうと、やってやろうじゃないか!」

 

奏夜、剣斗、ララの3人は、共にμ'sを支えるという役割をこなしており、それにより、ホラーとの実戦は少なくともチームワークを高めていた。

 

この3人の強気な発言は、ここから来ていたのである。

 

「ふふ、それは頼もしいですね。頼みましたよ」

 

「「「はい!!」」」

 

こうして、奏夜たちは番犬所を後にすると、キルバのナビゲーションを頼りに、ロデルの話していた廃ビルへと向かった。

 

「……キルバ、ここか?」

 

『ああ、このビルから、とんでもない陰我を感じるぞ』

 

「まさか、ジンガがこのビルに?」

 

『いや、奴はここにはいないようだ。奴の巨大な陰我は感じ取れないからな』

 

キルバはビルの中にいるであろうホラーの気配を探知していたのだが、ジンガらしきホラーの気配は探知出来なかった。

 

「どうやら、ここはジンガの本拠地ではないみたいね」

 

「うむ。だがしかし、これだけ陰我に満ちた場所を捨て置くわけにはいかないだろうな」

 

このビルは、ジンガの本拠地ではないにしても、どれだけのホラーが潜んでいるかはわからないため、奏夜たちはこの中に入って調査をする必要があった。

 

「とりあえず、中に入ってみよう」

 

『お前たち、この中はどうなってるのかはまだわかってない。気を抜くんじゃないぞ』

 

「うむ!心得た!」

 

「ええ、わかってるわ!」

 

こうして奏夜、剣斗、ララの3人は、廃ビルの中へ入っていった。

 

ビルに入るなり、奏夜と剣斗は魔戒剣を構え、ララは魔導筆を用意し、どこからホラーの襲撃があっても対応できる形を整えていた。

 

さらに周囲を警戒しているからかゆっくりと進んでいた。

 

奏夜たちはしばらく歩き、広めのスペースにたどり着いたその時であった。

 

『……!奏夜!来るぞ!!』

 

キルバはホラーの気配を探知したのか、このように警戒をすると、奏夜は周囲を見渡す。

 

すると、どこからか6体の素体ホラーが奏夜たちの前に現れるのであった。

 

「……っ!いきなり6体も出やがったか!」

 

複数のホラーと遭遇することは覚悟していたものの、いきなり6体もホラーが現れるのは、奏夜も予想外だったため、驚いている。

 

「他のホラーがどっから出て来るか予想も出来ないからな……。一気に蹴散らさせてもらう!」

 

6体のホラーが迫り来る中、奏夜は魔戒剣を前方に突き付け、円を描いた。

 

奏夜はその円の中に入ると、黄金の輝きを放つ輝狼の鎧を身に纏う。

 

6体のホラーは鎧を纏った奏夜を取り囲むのだが、奏夜は魔戒剣が変化した陽光剣を構え、回転しながらそれを振るうのであった?

 

陽光剣の回転斬りにより、6体のホラーは一斉に切り裂かれ、全て消滅する。

 

奏夜は6体のホラーが消滅したのを確認すると、鎧を解除した。

 

しかし、奏夜は元に戻った魔戒剣を構えたまま、まだ気を抜いてはいない。

 

まだホラーが現れる可能性があるからだ。

 

そんな中、再び素体ホラーが現れると、奏夜に向かっていった。

 

奏夜は魔戒剣を構えて迎撃しようとするが、それより早く剣斗が素体ホラーに接近し、魔戒剣による一閃で素体ホラーを切り裂く。

 

「悪いな、剣斗」

 

「気にするな。お前ばかりに仕事をさせるわけにはいかないと判断したまでさ」

 

奏夜の力であれば先ほどの奇襲は対応出来たのだが、剣斗は奏夜にばかり負担をかけさせるわけにはいかないと判断したため、助太刀をしたのだ。

 

すると……。

 

『……奏夜!どうやら事態は思った以上に深刻みたいだぞ』

 

「?キルバ、どういうことなんだ?」

 

『どうやら、このビル自体が陰我のあるオブジェとなっているみたいだ。放っておいたら巨大なゲートが出来てしまうぞ』

 

「!?そいつは厄介だな……」

 

キルバから聞かされた話は由々しき事態となり得る話であるため、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「1度ビルを出よう。こいつは作戦を立てる必要がありそうだ」

 

「うむ!闇雲にホラーを蹴散らしていくのはイイとは言えないからな」

 

「そうだね……」

 

まだまだホラーの気配は残っており、このまま闇雲に戦い続けるのは得策ではないと、全員が同じ事を思っていた。

 

そのため、奏夜たちは1度ビルを出る事にしたのだ。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

「さて……これからどうするか……」

 

再びビルの入り口に戻ってきたのだが、奏夜はあまりに巨大なオブジェをどのように浄化するのか考えていた。

 

魔戒騎士の日課であるエレメントの浄化は欠かせてはいないが、ビル1つ分というここまで巨大なオブジェの対処はやった事がないからである。

 

「このビルが巨大なゲートになろうとしているのなら、このビルを破壊するしかないが、町外れとはいえ、騒ぎになるのは必至だろうな」

 

「そうだね……。ビル自体を闇雲に壊したって、オブジェの邪気を消し去ることにはならないでしょうし……」

 

ララの指摘通り、騒ぎなどを気にせずにビルを壊したところで、それがオブジェの邪気を消し去ることにはならず、むしろ邪気が広がる危険性もあるため、勧められる方法ではないのである。

 

「……!だったら……!あのビルごと魔界に送り返せれば、確実に邪気は消し去されるはず!」

 

「そんなこと、可能なのか?」

 

「私1人の力じゃ難しいかもだけど、やるしかないでしょ?」

 

ララは、自分の力量で、この巨大なビルを魔界に送り返すということが出来るかわからないが、それでも魔戒法師の役割を果たそうとしていた。

 

すると……。

 

「……よう、どうやら苦戦してるみたいだな」

 

奏夜の先輩騎士である統夜と、翡翠の番犬所に所属している天宮リンドウの弟である魔戒法師のアキトが3人の前に現れたのであった。

 

「!?統夜さん、アキトさん、どうして……?」

 

統夜とアキトが現れるとは思わず、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「話はロデル様から聞いた。それで、たまたまこっちに来てたアキトと一緒に応援に来たって訳さ」

「そうだったんですね……」

 

統夜から事情を聞いた奏夜は、納得はしたものの、まだ驚いていた。

 

「なぁ、やっぱりあのビル自体が巨大なオブジェになってたのか?」

 

「はい。それで、これからどうするかを話し合っていたのです」

 

「私は、魔戒法師の力で、ビルごと魔界に送り返すのがいいと思ったのだけと……」

 

「……それが1番得策だと思うぜ」

 

ララが行おうとしている行動を、アキトはおおいに絶賛していた。

 

「あれだけのビルを1人の力で魔界に送り返すのは難しいと思うが、俺の力があれば、なんとかなるさ」

 

アキトは、「ふんす!」とドヤ顔をしながら、自分の存在をアピールしていた。

 

「うむ!アキトとララの力が合わされば確かになんとかなりそうだな」

 

「へへっ、まず最初に……」

 

アキトは魔導筆を取り出すと、とある法術を放つのであった。

 

アキトの魔導筆から6つの光の玉が出現したのだが、その光はビルの中へと入っていった。

 

「さてと、次は奏夜たちに動いてもらうぜ」

 

そう言いながら、アキトは黒い札のようなものを奏夜、統夜、剣斗の3人に2枚ずつ手渡す。

 

「この札を、光ってるところに貼ってきてくれ」

 

「ああ、わかったよ」

 

「わかりました!」

 

「うむ!心得た!」

 

アキトからの指示を聞いた統夜、奏夜、剣斗の3人は、札を手にした状態で、再びビルの中へと入っていった。

 

「……俺は真ん中の方へ行く。左右はお前たちに任せたぞ」

 

「はい!わかりました!」

 

「統夜、気を付けろよ。このビルはホラーがうようよ湧いてるのでな」

 

「お前たちも気を付けてな。それじゃあ、行くぜ!」

 

「はい!」

 

「心得た!」

 

こうして奏夜たちは行動を開始した。

 

統夜は、宣言通り真ん中の方角へ向かっていき、奏夜と剣斗はアイコンタクトをしただけで、奏夜は左、剣斗は右の方へと向かっていった。

 

奏夜たちの行く手には、多数の素体ホラーが待ち構えており、奏夜たちは素体ホラーを蹴散らしながら目的のポイントへと向かっていった。

 

1番最初に目的のポイントへ向かっていった統夜が目的のポイントへ1番で到着し、壁の上の方に設置された光の玉に、アキトから預かっていた札を貼っていく。

 

もう1つのポイントもすぐ近くだったため、統夜は早々に自分の仕事を終わらせて、アキトとララの2人と合流するため、出口へと向かっていった。

 

そして、奏夜と剣斗はほぼ同時のタイミングで1つめのポイントにたどり着き、それぞれが光の玉に札を貼っていく。

 

剣斗は次のポイントが近く、すぐに札を貼れたのだが、奏夜は次のポイントが遠かったため、移動に手間取っていた。

 

休む間もなく襲ってくる素体ホラーを蹴散らしながらも、奏夜はどうにか目的のポイントへたどり着き、光の玉に札を貼るのだった。

 

奏夜がビルの出口を目指そうとしていたその時だった。

 

 

 

 

 

__グスッ……ヒック……

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

どこからか、女の子の泣き声のような声が聞こえてきたため、奏夜は足を止める。

 

『おい、奏夜。何をしている。早くこのビルを出るぞ!』

 

「それはわかってるんだけど、今、女の子の泣き声が聞こえたような気がして……」

 

奏夜は女の子の泣き声らしき声の正体が気になっており、そこへ向かいたいと思っていたのだが……。

 

『ここはホラーの巣窟だ。普通の人間がこんなところに迷い込むなどあり得ない。急ぐぞ!事態は一刻を争うんだ』

 

「……わかったよ……」

 

奏夜は心にモヤモヤを残したまま、ビルから脱出し、先に戻っていた統夜と剣斗、そしてアキトとララと合流する。

 

「……奏夜、遅かったな」

 

「すいません、統夜さん。目的のポイントが思ったよりも遠くて」

 

「あらら、どうやら、奏夜は1番大変な場所を引き当てちまったみたいだな」

 

アキトの放った光の玉はランダムに散らばったものの、奏夜の割り振られた部分が大変だったとわかり、アキトは苦笑いをしていた。

 

「とりあえず、これでこのビルを魔界に送る。ララ、手伝ってくれよな!」

 

「ええ!わかったわ!」

 

巨大なゲートとなろうとしているこのビルを魔界に送るため、アキトとララは同時に魔導筆を構え、同時に同じ術を放つのであった。

 

このまま2人の力によってこのビルを魔界に送れれば、今日の仕事は終了する。

 

そう思っていたその時だった。

 

「……!?まさか、あれって……!人の影か!?」

 

奏夜はビルの窓から、人影のようなものを見つけたため、驚きを隠せなかった。

 

「おいおい!それが本当だったら、やばいぞ、これは!」

 

「くそっ!あの時、俺がちゃんと確認を行っていれば……!」

 

奏夜はビルから離れる前に女の子の泣き声のようなものを聞いており、確認をしないでビルを離れたことを後悔し、舌打ちをする。

 

そのため、奏夜は再びビルの中へと入ろうとするのだが……。

 

「奏夜!待て!ホラーの罠って可能性もあり得るんだ。だから無茶はやめてるんだ」

 

「確かにそうかもしれません……。だけど!罠だろうと、女の子1人救えないようじゃ、守りし者は名乗れません!」

 

統夜は冷静な判断で奏夜を制止するものの、奏夜はそれを聞かず、ビルの中へと入っていた。

 

「うむ!よく言った!それでこそ私が認めた友だ!援護するぞ!」

 

奏夜の言葉に感銘を受けた剣斗は、奏夜を援護するために、同じくビルの中へと入っていった。

 

「ったく……」

 

『あいつら、まだまだ子供だな。あまりにも直情過ぎるぜ』

 

統夜の相棒である、魔導輪イルバは、奏夜の無鉄砲とも言える行動に呆れていた。

 

「ま、それがあいつのいいところでもあるんだけどな。これが若さって奴かな?」

 

『おいおい、お前も十分若いだろうが……』

 

「……アキト、ララ!このビル、どれくらいまで抑え込められる?」

 

「今からララと2人で協力してこのビルを抑え込む。とは言っても10分くらいが限界だと思うぞ」

 

「そんだけありゃ、十分だ!」

 

アキトたちが術を抑え込める制限時間を聞いた統夜は、先にビルに入った奏夜と剣斗のフォローを行うためにビルの中へと入っていった。

 

奏夜たちがビルの中に入っていくのを見たアキトとララは、同時に魔導筆から法術を放つと、魔導筆から光の線のようなものが伸びていき、それは大きなビルを包み込んで枷のようなものになっていった。

 

「ララ、出来るだけ長く持たせるぞ!」

 

「そうね。本当に人が取り残されたのなら大変だから」

 

アキトとララは、奏夜の直感を信じていたため、大変な術を放っている途中ではあったものの、ビルに枷を付ける法術を放つのであった。

 

さらに自分たちへ負担をかけることはわかってはいたが、それを嫌がることはなかったのである。

 

(……お前ら……急げよ……!)

 

アキトは奏夜たちのことを信じていたが、心の中で、なるべく急ぐように呟いていた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

自分が聞いた女の子の泣き声らしき声の正体を確かめるために奏夜がビルの中へ入った頃、そのビルのとある部屋に、小学校6年生くらいの女の子がいたのであった。

 

そう、奏夜の予想は当たっていたのである。

 

「ぐすっ……ひっく……。ここ、どこなの?怖いよぉ……!」

 

女の子のいる部屋だけではなく、このビル全体が電気はついていないので薄暗く、恐怖を感じるのには十分であった。

 

この女の子は、ピアノを習っており、作曲をやったりもしているのだが、曲のイメージを膨らませるために探検をしており、偶然にもこのビルに来てしまったのだ。

 

このビルを歩き回っている間に、この部屋にたどり着き、疲れてうたた寝をしてしまい、今に至る。

 

目を覚ましたのは先ほどであり、昼間とは明らかに雰囲気が変わっていたため、女の子は恐怖で泣いていたのであった。

 

「ぐすっ……。お母さん……!」

 

女の子は泣きながら母親を呼ぶのだが、このビルはホラーを除けば誰もいないビルであるため、反応がないのは当然であった。

 

こんな所にいても家には帰れない。

 

そう考えた女の子は、ゆっくりとした足取りで立ち上がり、このビルを出るために部屋を出ようとするのだが……。

 

「キシャアアアアアア!!」

 

部屋の近くにはたまたま1匹の素体ホラーが徘徊しており、女の子の姿を見つけてしまったホラーは、咆哮をあげ、女の子に近づくとのであった。

 

「!?きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

女の子はこの世のものとは思えない怪物を見たせいか、悲鳴をあげてしまい、その場に座り込んでしまった。

 

どうやら、腰を抜かしてしまったみたいである。

 

素体ホラーは女の子を餌にしようと考えているからか、ゆっくりと女の子に近付いていく。

 

「いや……!来ないで……!来ないでよ!」

 

女の子は徐々に迫ってくる素体ホラーに、恐怖を感じてしまい、目に涙を浮かべていた。

 

そして、心の中で助けを求めるが、このようなところで助けが来るとは思えず、絶望感が女の子を支配していた。

 

目の前の女の子を捕食しようと、素体ホラーが女の子の近くにたどり着こうとしたその時であった。

 

「……!!グゥゥ!!」

 

何者かが素体ホラーの背後に現れると、ホラーを蹴り飛ばしており、それにより吹き飛ばされたホラーは、部屋の壁に叩きつけられた。

 

「ふぇ……?」

 

女の子は、ふと、顔を見上げると、茶色のロングコートを羽織り、手には剣のようなものを持つ少年……奏夜が立っていた。

 

「ぎ、ギィィ……!グゥっ!!」

 

素体ホラーは、ゆっくりと体勢を立て直そうとするのだが、それよりも速く奏夜が接近し、魔戒剣を突き刺すのであった。

 

それによって急所を貫かれた素体ホラーは消滅するのであった。

 

「……大丈夫か?」

 

「ひうっ!あっ、あの……」

 

「心配すんな。必ずここから出してやるからな!」

 

この世のものとは思えない怪物を倒してしまった奏夜を、女の子は恐れてしまうのだが、奏夜は優しい表情を浮かべて女の子を安心させようとしていた。

 

そんな奏夜の優しい表情に、女の子が安堵したその時であった。

 

「奏夜!無事か?」

 

奏夜より少し遅れてビルの中へ入ってきた剣斗が、奏夜と合流するのであった。

 

そして、奏夜の側にいる女の子を見た剣斗は……。

 

「……うむ。奏夜が感じたのは間違いなかったみたいだな。良かった、あのままこのビルを魔界に送ってたらと思うとゾッとするぞ」

 

このビルに本当に人がいたことに剣斗は驚いており、あのままビルを魔界に送り込んでだらと想像した剣斗は、顔を真っ青にしていた。

 

「そうだよな。間に合って本当に良かったよ……」

そんな剣斗の想像に同意した奏夜は、無事にこの女の子を助けられたことに安堵していた。

 

「とりあえずここから脱出しよう。えっと……」

 

「……梨子。桜内……梨子、です……」

 

「梨子ちゃんね。俺は如月奏夜。よろしくな」

 

「私は小津剣斗だ!よろしく頼む」

 

「は、はい……」

 

この女の子の名前は、桜内梨子という名前であり、梨子の名前を聞いた奏夜と剣斗は簡単に自己紹介を行った。

 

「とりあえず脱出する!梨子ちゃん、俺の側を離れるなよ!」

 

「は、はい……!」

 

梨子の顔からは恐怖は抜けていなかったが、奏夜と剣斗が本気で自分のことを救おうとしていることは理解したため、この2人を信じて付いて行くことにした。

 

奏夜たちは今いる部屋を抜け出すのだが……。

 

『キシャアアア!!』

 

既に多数の素体ホラーが待ち構えており、奏夜たちを包囲していた。

 

それだけではなく、近くの壁からゲートのようなものが複数出現すると、素体ホラーがそこから現れるのであった。

 

「きゃあっ!」

 

この世のものとは思えない怪物の群れに恐怖した梨子は、奏夜に身を寄せるのであった。

 

奏夜は片手で魔戒剣を構えて、片手で梨子を抱え、守る体勢に入っていた。

 

「くそっ!ホラーはこうやって増えてるって訳か……!」

 

このビルの素体ホラーの数が減らない原因がわかり、奏夜は舌打ちをする。

 

『奏夜!今このビルは魔界に入ろうとしている。だから、下から脱出するのは不可能だ!』

 

キルバの指摘通り、奏夜が梨子を保護した時には既にこのビルは魔界へと入ろうとしていた。

 

アキトとララが術によって枷を付けたことにより、その進行を押さえ込んではいるものの、完全に押さえることは不可能だったため、このビルはゆっくりと魔界に入ろうとしていたのだ。

 

「?この声、どこから……?」

 

梨子は、どこから声が聞こえてきたのかわからず、首を傾げていた。

 

「ま、アキトさんやララに無理を言って抑え込んでもらってるからな……」

 

奏夜はアキトとララにかけてる負担を理解しており、梨子を救うという目的があったにせよ、申し訳ない気持ちになっていた。

 

「奏夜!お前たちの後ろは私が守る!お前は振り返らずに屋上へ向かってくれ!そこから脱出を図ろうではないか!」

 

「ああ!わかった!」

 

奏夜は剣斗のことを心から信用しているため、そんな剣斗に背中を預け、素体ホラーの群れに向かっていった。

 

「はぁっ!」

 

奏夜は魔戒剣を振るって素体ホラーを切り裂きながら、屋上へ向かって強行突破をしていった。

 

「きゃあっ!!」

 

梨子は戦いの様子に恐怖しており、目をぎゅっと瞑りながら、奏夜にしがみついていた。

 

そして、剣斗は、奏夜たちの進路上の素体ホラーを蹴散らしながらも、背後から迫り来るホラーの対処もしており、確実に奏夜の背中を守っていた。

 

(くっ……!こんな感じで戦うのはなかなか戦いづらいな……)

 

普段であれば、全身を活用し、思う存分戦っているのだが、今回は梨子を文字通り守っている。

 

そのため、普段よりも戦いづらい状況になっているのである。

 

しかし、奏夜は守りし者としての本分を果たすため、梨子を守りながら素体ホラーを切り裂き、屋上へと向かっていった。

 

奏夜たちが屋上に到着した時、ビルは法術によって開かれたゲートの中に入ろうとしており、ビルの半分はゲートの中に入ってしまっていた。

 

その分ビルは低くなったのだが、アキトとララが必死に抑えていても、これが精一杯なのである。

 

奏夜は梨子を守りながら屋上の1番奥へと移動し、すぐさま剣斗も合流した。

 

それだけではなく、多数の素体ホラーも、奏夜たちを追ってここまで来ていたのである。

 

「っ……!まだこんなにいやがるのか……」

 

奏夜は、目の前にいる多数の素体ホラーを見て、苛立ちを募らせていた。

 

倒しても倒してもきりがなく、このままでは梨子を守るどころではないからである。

 

「……こっから、飛び降りるしかないか……」

 

奏夜は、梨子を抱えてこのまま下まで飛び降りることを考えていた。

 

さらにビルが魔界へと入っていっているからか、ビルは低くなっていた。

 

そうでなくても奏夜の身体能力であれば、飛び降りることは問題ないのだが、梨子にはかなりの恐怖を強いることになる。

 

それが良いのかと奏夜は迷っていたのだが、その迷いが隙を作ってしまった。

 

1体の素体ホラーが、奏夜めがけて襲いかかってきたのだ。

 

「……!?くっ……!」

 

素体ホラーの勢いはかなりのものであり、迎撃自体は可能だが、このままこのホラーを斬り捨てては、梨子にホラーの返り血がついてしまう可能性がある。

 

そのため、どうにか攻撃を受け止めようと奏夜が魔戒剣を構えたその時であった。

 

「……!ぎ、ギィィ……!」

 

素体ホラーは、奏夜に接近する前に剣のようなもので体を貫かれてしまったのだ。

 

その一撃は的確に急所を突いており、その一撃で、素体ホラーは消滅する。

 

「……奏夜。まさか、本当にビルに取り残された人がいたとはな……」

 

奏夜の代わりに素体ホラーを倒したのは、遅れてビルの中に入った統夜であった。

 

「統夜さん!どうして……!」

 

「俺はただ、無茶なことをするお前のフォローに来ただけさ」

 

『ま、そこは似ちまったんだろうな。高校時代のお前さんに』

 

「……イルバ、格好よく決めようとしてる時に茶々を入れないでくれよ……」

 

イルバの言葉が的を得ているものだったからか、統夜はジト目で苦笑いをするしかなかった。

 

統夜もまた、高校時代は、魔戒騎士としてかなり無茶をしており、その度に仲間たちをヒヤヒヤさせていたのである。

 

「それはともかく、もう時間がない。お前はその子を連れてさっさと脱出しろ。殿は俺が務めてやる」

 

「うむ!奏夜、急ぐのだ!私も統夜を手伝い、お前の道を切り開く!」

 

「……すいません、統夜さん!剣斗、あとは頼んだぞ!」

 

「ああ!」

 

「うむ!任されたぞ!」

 

統夜と剣斗は、奏夜を一刻も早く脱出させるために、自ら一歩前へ出るのであった。

 

そんな2人の姿勢を見て、奏夜の迷いは消え去っていた。

 

「……梨子ちゃん!ここから飛び降りるぞ!」

 

「え?飛び降りるって……」

 

奏夜の唐突な言葉に、梨子は戸惑いを見せていた。

 

しかし、奏夜はそんなことなどお構いなしで……。

 

「いいから!しっかり俺に捕まってろ!」

 

「は、はい!」

 

梨子は戸惑いながらも、言われるがままに奏夜にギュッと捕まるのであった。

 

それを確認した奏夜は、梨子をお姫様抱っこのような形で抱き抱えると、そのままビルから飛び降りるのであった。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

このビルが通常よりも低くなっているとはいえ、飛び降りる恐怖はかなりのものであり、梨子は目をギュッと瞑りながら悲鳴をあげていた。

 

奏夜はビルを飛び降りたことで、そのまま下に着地し、アキトやララと合流した。

 

多数の素体ホラーたちは、そんな奏夜を追いかけようとするが……。

 

「……おっと!ちょっと待ってもらおうか!」

 

「その通りだ!ここから先へは行かせないぜ!」

 

剣斗と統夜が素体ホラーたちの前へと立ちはだかり、2人は魔戒剣を構えるのであった。

 

そして、素体ホラーたちは、一斉に2人に襲いかかるのであった。

 

「……剣斗!」

 

「応っ!」

 

統夜と剣斗はアイコンタクトをしただけで、これから何をやろうとするのかを理解していた。

 

統夜は魔戒剣を高く突き上げ、剣斗は、魔戒剣を両手でガシッと掴んだ後に魔戒剣を高く突き上げていた。

 

2人は同時に円を描くと、円を描いた空間が変化し、2人はそれぞれが描いた円から放たれる光に包まれた。

 

光に包まれた統夜は、白銀の輝きを放つ鎧を身に纏い、剣斗は、銅の輝きを放つ鎧を身に纏っていた。

 

統夜の手にしていた魔戒剣は、皇輝剣に変化し、剣斗の手にしていた魔戒剣は、青銅剣へと変化していた。

 

こうして、統夜は白銀騎士奏狼の鎧を身に纏い、剣斗は青銅騎士剣武の鎧を身に纏うのであった。

 

剣斗は、鎧を召還するなり、剣と共に装備していた盾をホラー目掛けて投げつけていた。

 

剣斗の盾は、ブーメランのような動きをしており、弧を描きながら、多数のホラーの動きを撹乱していた。

 

その隙を突き、統夜は赤の魔導火を全身に纏い、烈火炎装の状態となった。

 

「……統夜!今だ!」

 

「了解!」

 

戻ってきた盾を剣斗が回収するのと同時に、剣斗は統夜に号令をかけ、統夜はそれを聞いて多数のホラーへと向かっていった。

 

統夜は2度3度と皇輝剣を振るうと、皇輝剣の切っ先から赤い炎の刃を放つのであった。

 

統夜の放った炎の刃は、全ての素体ホラーを捉えており、その場にいるホラーたちは、統夜の一撃によって全滅する。

 

「剣斗!俺たちも脱出するぞ!」

 

「うむ!心得た!」

 

ホラーの姿が消えた今が好機と考えた統夜と剣斗は、そのままビルを飛び降り、下で待っている奏夜たちと合流した。

 

統夜と剣斗は、地面に着地をするのと同時に鎧を解除するのであった。

 

「……アキト!ララ!今だ!!」

 

「おぉ!待ってたぜ!」

 

「そうね……!もう、限界だったわ……!」

 

全員の脱出を確認した統夜が号令をかけると、ビルを抑えていたアキトとララは歓喜の声をあげるのであった。

 

「さて、行くぜ!ララ!」

 

「ええ!わかったわ!」

 

アキトとララは、同時に魔導筆を振り下ろすと、ビルを抑え込むために放った、法術による枷を外した。

 

枷が外されたことにより、ビルは一気にゲートを通過していき、巨大なゲートとなろうとしていたビルは、魔界へと強制送還されるのであった。

 

「ふぅ……」

 

「なかなか……きついね、これ……」

 

2人は法術でかなりの力を使ったからか、息が上がっている様子だった。

 

「アキト、お疲れさん」

 

「ララも、ありがとな」

 

統夜はアキトに労いの言葉を送り、奏夜はララに労いの言葉を送っていた。

 

「おう、サンキュー♪」

 

「奏夜も、ありがとね♪」

 

そんな労いの言葉に、アキトとララは笑顔で返していた。

 

「さて、あとはこの子を安全なところへと送り届けないとな……」

 

どうにか大きな仕事は終わったため、奏夜は梨子を安全な場所へと移動させようと考えていたのだが……。

 

『……!奏夜!どうやらそれはもう少し後の話になりそうだぞ!』

 

『統夜!ホラーの気配だ!それもかなり大きな邪気がこっちに向かってるぞ!』

 

キルバとイルバがホラーの気配を探知し、その気配がこちらへ向かっているため、交戦は避けられない状況であった。

 

「それは厄介だな……。梨子ちゃん。安全なところまで下がっててくれ」

 

「は、はい!」

 

状況をいまいち飲み込めていない梨子であったが、また先ほどのような化け物が来ることは察したため、奏夜の言う通り、少し離れた安全な場所へと避難したのであった。

 

『来るぞ!気を付けろ!!』

 

キルバがこう警告をすると、奏夜たちの目の前に竜の姿をしたホラーが出現するのであった。

 

竜の姿をしたホラーは、漆黒の竜であり、その巨体で、奏夜たちを見下ろしていた。

 

『こいつは厄介なホラーが来やがったぞ……!』

 

『統夜!こいつはダークスケイル。魔竜ホラー、ニーズヘッグの眷属と呼ばれているホラーだ!』

 

イルバは、目の前に現れたホラー、ダークスケイルがどのようなホラーかを説明すると、奏夜たちは驚きを隠せずにいた。

 

『強大な邪気を感じてきてみれば、まさかこのような収穫があるとはな……』

 

このダークスケイルは以前より何かしらの陰我をゲートに出現したみたいであり、ビルに溜まった邪気を感じ取ってここへ来たみたいだった。

 

すると、ダークスケイルは、ララをジッと睨みつける。

 

『感じる……感じるぞ!そこの小娘から、我が父祖たるニーズヘッグの気配を!』

 

どうやらダークスケイルはララがニーズヘッグの眼を隠し持っていることを見抜いていたのであった。

 

「!?」

 

そのことにララは驚きを隠せず、咄嗟に一歩下がり、魔竜の眼を守ろうする体勢に入る。

 

ダークスケイルはララが魔竜の眼を隠し持っているのはわかっていたが、これだと、ララが魔竜の眼を持っているということは、誰が見ても明らかであった。

 

ここは、奏夜たちと安全なところに下がった梨子しかいなかったが、奏夜たちは知らなかった。

 

この戦いを見守っている、1匹の蝶がいたことに……。

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『ニーズヘッグの眷属、ダークスケイル……。眷属とはいえ、奴の力は強大なものだぞ。奏夜たちは奴に勝てるのか?次回、「漆黒」。邪龍に仕えしホラーの陰我、斬り裂いてやれ!』

 

 




本当ならこのダークスケイルとのバトルまで行きたかったですが、そこまで行ったら文字数が凄いことになりそうなので、ここで話を区切らせてもらいました。

ちなみに、今回登場したダークスケイルは、実際にFF14に登場するモンスターで、ニーズヘッグの眷属だというのも実際の設定なのです。

そして、今回は巨大なビルを魔界に送り込むという、「GOLD STOME翔」4話の話と酷似した内容となりました。

ビルの中にいたのはキンコメの今野ではなく、まさかの梨子でしたが。

梨子は、内浦に来るまでは東京にいたということなので、このまさかの登場は実現出来ました。

ここで梨子を登場させるのは予想外だったと思います。

これは、この作品の次回作と考えている「牙狼ライブ!サンシャイン!!」の伏線と考えています。

次回作はいつになるかわかりませんが(笑)

さて、次回は奏夜たちとダークスケイルとの直接対決になります。

奏夜たちはダークスケイルを撃退することが出来るのか?

次回も投稿は遅くなるかもしれませんが、可能な限り早めに投稿したいと思っています。

それでは、次回をお楽しみに!



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第68話 「漆黒」

皆さん、お久しぶりです、ナック・Gです。

最後の投稿から気付いたら3ヶ月以上経ってしまいました(>_<)

夏にまた投稿しようと思ったらもう秋になってしまった。

仕事にプライベートにと色々ありまして、なかなか小説を投稿する時間がなかったのです。

どうにか時間を作って、どうにか最新話の投稿が出来ました。

さて、今回は前回登場したホラー、ダークスケイルとの直接対決になります。

奏夜たちはダークスケイルを無事に討滅することは出来るのか?

それでは、第68話をどうぞ!?




奏夜、剣斗、ララの3人は、間もなく行われる修学旅行で東京を離れる前に、巨大な陰我の正体を探る指令を与えられる。

 

奏夜たちはその場所へと向かうのだが、その廃ビルは、ホラーの巣窟となっており、このまま放っておけば、巨大なゲートが出現するという厄介なものであった。

 

奏夜たちは早急に対策をしようとする中、月影統夜と、天宮アキトが助太刀に入り、魔戒騎士と魔戒法師の力を活かして、この巨大なオブジェをビルごと魔界に送り返すという計画を実行する。

 

その作戦の最中、偶然にも桜内梨子という少女がこのビルに迷い込んでしまったみたいで、奏夜たちは梨子を救出したうえで、ビルを魔界に送り返すのであった。

 

これでこの問題は解決したと思われたが、まだ梨子を無事に帰す前に、漆黒の竜の姿をしたホラー、ダークスケイルが現れる。

 

ダークスケイルは、ビルに溜まった巨大な邪気に引かれてこの地へ現れたのだが、ララが自らの父祖であるニーズヘッグの眼を持っていると見抜くのであった。

 

「私からニーズヘッグの気配を感じる?いったいどういうことよ?」

 

『とぼける必要はない。小娘、貴様が我が父祖であるニーズヘッグの眼を隠し持っているのはわかっているのでな』

 

「仮にそうだとして、お前はその眼をどうするつもりだ!?」

 

ここまで来たら隠し通すことは難しいと判断した統夜は、鋭い目付きでダークスケイルを睨みつけていた。

 

『愚問だな……。我が父祖をこの地に降臨させ、その怒りの業火にて全てを焼き払うのだ!』

 

「くっ!目的自体はお前もジンガと同じってことか……!」

 

ダークスケイルの目的を聞き、奏夜は眉をひそめる。

 

『ジンガ……?ああ、我がこの地に降り立った時、我が父祖の情報をくれた、ホラーの若造か。あの男も、我が父祖に負けない程の怒りを抱いておる』

 

「!?ジンガが……?」

 

ジンガがニーズヘッグを蘇らせ、この世界を灰にしようとするのには何か理由があるとは思っていたものの、何か怒りの感情がジンガを突き動かしてると知り、奏夜たちは驚いていた。

 

『無駄な戯言もここまで……!貴様らを皆殺しにし、我が父祖の眼、いただくぞ!!』

 

奏夜たちに狙いを定めたダークスケイルは、巨大な咆哮を放つのであった。

 

「くっ……!これが、邪龍の眷属の咆哮……。なかなかだな!」

 

「そうだな……!だけど、どうする!!」

 

「そうですよね、ここで戦ったら、街にどれだけの被害が出るか……」

 

奏夜たちがいた場所は秋葉原の町外れではあるものの、これだけ巨大な竜と一戦交えるとなれば、街への被害は避けられなかった。

 

「ったく……。仕方ねぇなぁ。ララ、行くぞ!」

 

「ええ!わかったわ!」

 

巨大なビルを魔界に送り込み、力を消耗していたアキトとララであったが、どうにか立ち上がり、魔導筆を構える。

 

そして……。

 

「「……はぁっ!!」」

 

2人は同時に法術のようなものを放つと、ゲートのようなものが出現し、奏夜たちはその中へと吸い込まれていった。

 

「……!?き、消えた……?」

 

いきなり奏夜たちとダークスケイルが姿を消し、梨子は驚きを隠せずに立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……結界か……。脆弱な魔戒法師風情が小癪な……』

 

そして、現在の場所が町外れから異空間へと変わっても、ダークスケイルは一切動じることはなかった。

 

「……ここなら、被害を気にせず戦えそうだな!」

 

先ほどの場所では、戦いによる被害を考慮しなければいけなかったが、ここなら全力を出せる。

 

奏夜は不敵な笑みを浮かべながら、魔戒剣を構えるのであった。

 

「悪い……!連続で大きな術を使ったからか、あまり力が残ってないんだよ。だから、こいつの相手は頼んだぜ……!」

 

「わ、私も限界……!」

 

アキトとララは、ビルを魔界に送り返し、大きな結界を作ったりと、力を使い果たしてしまったため、戦いには参加出来ず、奏夜たちに託すのであった。

 

「任せろ、アキト、ララ。お前たちの頑張りを絶対無駄にはしない!」

 

統夜は、ここまで全力で仕事をこなしてくれたアキトとララの分まで戦うことを決意しているため、力強く魔戒剣を構えていた。

 

「うむ!私も同じ気持ちだ!私も戦えぬ2人の分まで力を振るおうではないか!」

 

そしてそれは剣斗も同じ気持ちであるため、魔戒剣と自分の専用装備である小津家の紋章が入った盾を構え、自らを奮い立たせている。

 

もちろん奏夜もそのつもりなのか、統夜や剣斗の言葉に頷いていた。

 

『愚かな魔戒騎士共よ……!貴様ら如きがこの私を倒せると思うな!!』

 

奏夜たちは自分を倒そうとしている。

 

そのことが気に入らなかったダークスケイルは、まるで奏夜たちに自らの威厳を示すかのように咆哮をあげる。

 

「くっ……!これがニーズヘッグの眷属、ダークスケイルの咆哮か……!」

 

その咆哮は、ニーズヘッグの眷属と呼ぶに相応しいものであり、奏夜はたじろぐのであった。

 

「だが、負ける訳にはいかない!俺たちの力でこいつを倒すぞ!」

 

「っ!はい!!」

 

「うむ!無論だ!」

 

統夜はダークスケイルの咆哮に動じる様子はなく、鋭い目つきでダークスケイルを睨みつけていた。

 

そんな統夜の力強さに、奏夜も奮起し、剣斗も統夜の言葉に応える。

 

『これでも身の程をわきまえないのか……。良かろう、我が力、身をもって貴様らに見せつけてやろう!』

 

自分の咆哮を見ても、動じることのない奏夜たちに苛立ちを覚えたダークスケイルは、全力をもって奏夜たちを屠ろうと画策している。

 

その意思の表れなのか、ダークスケイルは息を大きく吸い込み、口から炎を放つのであった。

 

「させん!」

 

剣斗は魔戒剣を前方に突き付け、円を描くと、その円の中に入っていった。

 

それと同時に自らの鎧である剣武の鎧を身に纏った剣斗は、小津家の勲章である一角獣の紋章が描かれた盾を突き出し、ダークスケイルの炎を防ぐ。

 

「「剣斗!!」」

 

たった1人でダークスケイルの炎を防ごうとする剣斗のあまりに無茶な行動に、奏夜と統夜は声をあげるのであった。

 

「心配はいらん!私はこの盾で、お前たちを妨げるものを防いでみせる!お前たちはダークスケイルを叩いてくれ!」

 

剣斗は、奏夜と統夜に攻撃を託すために、自ら進んで盾になるのであった。

 

「奏夜、行くぞ!剣斗の決死の思い、無駄には出来ない!」

 

「もちろんです!俺たちでダークスケイルを叩く!」

 

剣斗がダークスケイルの炎を防いでくれている間に、奏夜と統夜は左右に展開し、魔戒剣を手に、ダークスケイルに接近する。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

奏夜と統夜は同時に魔戒剣を振るい、ダークスケイルを斬り裂こうとするのだが……。

 

 

 

 

 

「!?」

 

2人の魔戒剣がダークスケイルに迫ろうとする直前に、ダークスケイルは炎による攻撃をやめ、尻尾による攻撃で2人を薙ぎ払うのであった。

 

「「くっ……!」」

 

先制攻撃はダークスケイルの機転によって出鼻を挫かれてしまい、2人は吹き飛ばされて体勢を立て直すものの、渋い表情をしていた。

 

「奏夜!統夜!」

 

炎による攻撃から解放された剣斗は、そのダメージを感じさせることなく、ダークスケイルに接近する。

 

『ほぉ、我が炎を防ぎきるとは……。やるではないか!』

 

ダークスケイルは、剣斗に自らの炎を完全に防がれたことに驚きを隠せなかった。

 

「ふっ、無論だ!小津家の紋章が刻まれし、この盾は、そう簡単に砕けはしないのだ!」

 

剣斗は、小津の人間である証の盾の強固さに、絶対的な自信を抱いていた。

 

『だが、それだけでは我は倒せん!!』

 

ダークスケイルに接近した剣斗は、魔戒剣が変化した青銅剣を一閃しようとするが、それよりも素早い動きで、ダークスケイルは爪による攻撃を繰り出し、剣斗はその一撃を受けてしまう。

 

「ぐぅ……!」

 

剣斗はダークスケイルの攻撃によって吹き飛ばされ、その衝撃で鎧が解除されてしまった。

 

すぐに体勢を立て直すものの、攻撃のダメージが残っているからか、膝をつくのであった。

 

「「剣斗!!」」

 

「心配ない!これしき、なんてことはない!」

 

剣斗は苦い表情を浮かべながらも、ゆっくりと立ち上がるのであった。

 

『愚かな魔戒騎士共が……。貴様ら如きが我を倒せると思うな!』

 

ダークスケイルは、奏夜たちに自らの力を示すかのように、再び咆哮をあげる。

 

奏夜たちはその咆哮に一瞬たじろぐが、すぐに体勢を整える。

 

「いや……さっきの攻撃で、お前の動きは見切らせてもらった。悪いが、さっきのようにはいかないぜ!」

 

統夜は最初から全力を出すのではなく、ダークスケイルの放つであろう攻撃パターンや、傾向を探るために、あえて手加減をしていた。

 

「!?そうなんですか!?」

 

そんな統夜とは違い、奏夜は最初から全力を出してダークスケイルにぶつかろうとしていた。

 

結果は返り討ちにあってしまったが、先輩である統夜が心に余裕を持ちながら戦っていることを知り、驚きを隠せない。

 

それと同時に、自分も負けてられないと自分をさらに奮い立たせるきっかけにもなった。

 

「ふっ……。それでこそ統夜だな!奏夜!そんな統夜に負けてはいられまい?」

 

「ああ、当然だ!だからこそ、俺は俺の全力を見せつけてやるんだ!」

 

「……2人をこれだけ焚き付けられたんだ。負ける気がしないな」

 

自分の放った言葉がきっかけとはいえ、奏夜と剣斗の2人を焚き付けることが出来、統夜は笑みを浮かべていた。

 

『身の程を知らぬ愚かな魔戒騎士共が……!貴様らを完膚なきまで叩き潰し、格の違いを思い知らせてやる!』

 

自分の力を見せつけたにもかかわらず、奏夜たち……特に統夜の飄々とした態度が癇に障ったのか、ダークスケイルは、怒りを込めた咆哮を放つ。

 

「……へっ、そんだけ吼えてりゃ、嫌でも慣れるっての!」

 

統夜は魔戒剣を構えながら、苦笑いを浮かべる。

 

奏夜と剣斗も同様なのか、ダークスケイルの咆哮をものともしていなかった。

 

「奏夜!剣斗!小手調べはここまでだ!ここからは全力で奴を迎え撃つ!やれるな?」

 

「はい!もちろんです!」

 

「ふっ、無論だ!」

 

統夜の掛け声に奏夜と剣斗が呼応し、3人は同時に魔戒剣を構える。

 

「……貴様の陰我、俺たちが断ち切る!」

 

統夜がこのように宣言すると、魔戒剣を高く突き上げ、円を描く。

 

それに合わせるように奏夜と剣斗も魔戒剣を高く突き上げ、円を描いていた。

 

3人の描いた円は、それぞれそこだけ空間が変化し、3人はそこから放たれる光に包まれる。

 

その光から、それぞれの鎧が降り立つと、3人は自分の鎧を身に纏うのであった。

 

剣斗が身につけた鎧は、青銅騎士剣武。騎士道精神を重んじる由緒ある魔戒騎士の家系である小津家に受け継がれし鎧である。

 

そして、奏夜が身につけた鎧は、陽光騎士輝狼。

 

黄金騎士牙狼とは系譜が異なるが、同じように黄金の輝きを放つ鎧である。

 

最後に、統夜が身につけた鎧は、白銀騎士奏狼。

 

その名の通り、白銀の輝きを放っており、統夜が様々な試練を乗り越えてきたことがわかるように、白銀の鎧はより輝いていた。

 

「……奏夜、剣斗!行くぞ!」

 

「はい!」

 

「応!!」

 

鎧を召還した3人は、変化したそれぞれの武器を構え、ダークスケイルに向かっていった。

 

『鎧を纏ったとしても同じことだ!我が力、思い知らせてくれるわ!』

 

奏夜たちが迫ってくるのを見たダークスケイルは、3人を迎え撃つために、口から炎を放ち、爪による攻撃を繰り出す。

 

奏夜たちは散開することでダークスケイルの炎をかわし、振り下ろされる爪が奏夜と剣斗に迫るが、奏夜は陽光剣を構えて爪を防ぎ、剣斗は小津家に伝わる盾を用いて爪の攻撃を防ぐ。

 

「統夜さん!」

 

「今だ!」

 

「ああ!!」

 

奏夜と剣斗がダークスケイルを抑えることで、隙が出来たのを統夜は見逃さなかった。

 

素早い動きでダークスケイルに接近するのだが……?

 

『おのれ……!調子に乗るな!』

 

ダークスケイルは迫り来る統夜を噛み砕こうとするが、統夜はそれをかわすと、魔戒剣が変化した皇輝剣の一閃を叩き込む。

 

その一撃は決して致命傷ではないが、ダメージを与えることは出来ていた。

 

『おのれ……!愚かな魔戒騎士風情が!!』

 

統夜に一撃を与えられたことにより激昂したダークスケイルは、自らの巨体による体当たりをすることで、奏夜たちを同時に吹き飛ばし、追い討ちをかけるように尻尾による攻撃を放つ。

 

「「「ぐっ……!」」」

 

その一撃により、3人は同時に吹き飛ばされてしまうのであった。

 

「!!統夜!剣斗!」

 

「奏夜!」

 

3人が吹き飛ばされるのを見て、アキトとララは思わず声を上げる。

 

しかし、3人は吹き飛ばされながらもすぐに体勢を立て直すのであった。

 

そして……。

 

「来い!白皇!!」

 

「行くぞ、光覇!!」

 

統夜と奏夜は、同時にそれぞれの魔導馬を召還するのであった。

 

統夜が呼び出した魔導馬は、白皇。

 

奏狼の鎧と同様に、白銀の輝きを放っている魔導馬である。

 

そして、奏夜が呼び出した魔導馬は、光覇。

 

輝狼の鎧と同様に、黄金の輝きを放っている。

 

「行くぞ、奏夜!」

 

「はい!統夜さん!」

 

統夜と奏夜の2人は、それぞれの魔導馬を走らせ、ダークスケイルへと向かっていった。

 

『何度来ても同じことだ!』

 

1度だけではなく、2度奏夜たちを退けてきたダークスケイルは、再び奏夜たちを退けるために、口から炎を放つのであった。

 

「やらせん!!」

 

2人が魔導馬を呼び出したタイミングで体勢を立て直していた剣斗は、自身の盾により、ダークスケイルの炎を防いでいた?

 

「奏夜!統夜!今だ!」

 

「よし、行くぞ、奏夜!」

 

「はい!」

 

剣斗がダークスケイルを抑え込んでいる間に、統夜と奏夜はダークスケイルへと向かっていった。

 

その間に、統夜は白皇の力によって、皇輝剣を皇輝斬魔剣へと変化させ、奏夜も同じように、光覇の力で陽光剣を陽光斬邪剣へ変化させる。

 

ダークスケイルへ接近した2人だったが、何故かダークスケイルを素通りし、背後へと移動する。

 

『!?貴様ら……!』

 

そんな2人の意図を理解したダークスケイルは、慌てて炎による攻撃を止めるが、既に手遅れだった。

 

「「はあっ!!」」

 

統夜と奏夜は同時にそれぞれの剣を振るうのであった。

 

その狙いは、度々自分たちを退けてきた尻尾である。

 

そこを叩き、そのまま本体を殲滅するのが統夜の狙いであり、奏夜もそこは理解していた。

 

『ぐぁぁっ!!魔戒騎士共め……!!』

 

尻尾を斬り裂かれたダークスケイルは、2人の方を向くと、即座に口から炎を放つ。

 

「「くっ……!」」

 

ダークスケイルの動きが予想以上に早く、奏夜と統夜はそれぞれの剣を盾がわりにしてダークスケイルの炎を防いでいた。

 

『我が怒りの炎で、まずは貴様らから灰にしてくれるわ!!』

 

「悪いが……!俺たちはやられる訳にはいかないんだよ……!」

 

「俺は……!俺たちは!負けない!負けてたまるか……!!」

 

ダークスケイルの炎は先程よりも勢いを増しており、2人はどうにか防いでいるが、ダメージは着実に残っている。

 

そのため、2人の顔は鎧で見えないものの、苦悶の表情を浮かべていた。

 

このままいけば、統夜と奏夜が焼き尽くされるのは時間の問題である。

 

しかし、ダークスケイルは1つだけ大きなミスを犯すのであった。

 

それを証明するかのように、ダークスケイルの背後から剣が突き刺され、ダークスケイルの体は貫かれる。

 

『グゥっ……!!』

 

「……尻尾を破壊した奏夜たちに気を取られ、私の存在を忘れていたみたいだな」

 

炎による攻撃から解放され、完全にフリーになっていた剣斗が、素早くダークスケイルの背後に乗り込むと、魔戒剣が変化した青銅剣をダークスケイルに突き刺したのであった。

 

そのことにより、ダークスケイルの攻撃は収まり、2人は解放される。

 

「奏夜!統夜!今がチャンスだぞ!」

 

剣斗はダークスケイルに突き刺した青銅剣を引き抜くと、ジャンプをすることにより、ダークスケイルから離れるのであった。

 

「奏夜!決めるぞ!」

 

「はい!」

 

統夜と奏夜はそれぞれの剣を構えると、未だに動きを止めているダークスケイルに、それぞれの剣を振り下ろすのであった。

 

2人の剣はダークスケイルの体を斬り裂き、ダークスケイルはX線上に斬り裂かれる。

 

『馬鹿な……!この我が……!偉大なるニーズヘッグの眷属であるこの我が……!たかが魔戒騎士如きに……!』

 

「お前は確かにそこら辺のホラーよりも手強かったよ。だけど、その敗因はお前のその驕りだ!」

 

『ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

統夜の力強い言葉を聞いたダークスケイルは、断末魔をあげており、その体は爆発と共に消滅するのであった。

 

ダークスケイルが消滅したのを確認した3人は、それぞれの鎧を解除すると、自分の魔戒剣を鞘に納める。

 

「統夜、奏夜!やったな!」

自分の武器を魔法衣の裏地にしまった3人は、何も言わずに集合しており、剣斗が一足早く口を開く。

 

それに呼応するかのように、疲弊して戦闘に参加出来なかったアキトとララも、ゆっくりではあるが、奏夜たちと合流するのであった。

 

「なかなか手強いホラーみたいだったが、お前らなら倒せるって信じてたぜ!」

 

「うん!私も、3人ならきっと倒せると信じてたよ!」

 

今日は強力な法術を使うことで力を使い果たしたアキトとララであったが、ニーズヘッグの眷属と呼ばれたホラーを倒した奏夜たちの健闘を称えていた。

 

「あのホラー、さすがに俺1人じゃやばかったかもしれないけど、剣斗と奏夜のおかげでどうにか勝てたと思うぜ」

 

3人が倒したダークスケイルは、強大な力を持ったニーズヘッグの眷属と呼ばれたホラーである。

 

その力は並のホラーとは比べ物にならない程の力であるため、統夜程の実力者であっても、単独であったら今以上の苦戦は免れなかった。

 

しかし、魔戒騎士としての実力者である剣斗と、着実に一流の魔戒騎士に成長しようとしている奏夜の力が合わさった結果、苦戦はしたものの、どうにか討滅に成功したのだった。

 

統夜は、奏夜と剣斗の協力に心から感謝していた。

 

「お礼を言うのは俺たちの方です!本来あのホラーは、俺と剣斗で倒さなきゃいけないホラーだったんですから」

 

統夜は偶然秋葉原を訪れて、アキトと共に奏夜たちの手伝いをしただけであって、2人が現れなければ、奏夜と剣斗がダークスケイルと戦うことになっており、そうだとしたら、倒せたかどうかも怪しい程なのだ。

 

「うむ!あれほど手強いホラーだ。私たち3人の実力が絡み合ったからこそ、倒せたホラーということだな!」

 

「……そうだな」

 

3人の協力で手強いホラーを倒した。

 

その事実を改めて噛み締めた奏夜は、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

『……おい、奏夜。お前は何をにやけているんだ?』

 

「べっ!別ににやけてなんか……!」

 

『まぁ、小僧のことだ。少しでも統夜に追いつけたと思ってニヤニヤしてたんじゃないのか?』

 

「ちょっ!イルバ!変なこと言うなよ!」

 

統夜の魔導輪であるイルバは、カチカチと小気味良い音を出しながら口を開いており、その小気味良いリズムで奏夜のことをからかっていた。

 

それが図星だった奏夜は慌てて弁解するが、それを見ていた統夜たちは笑みを浮かべていた。

 

「……とりあえずそこら辺の話は後だ。アキト、ララ。結界の解除は出来るか?」

 

「当然!」

 

「そのために、力を残していたんだもの!」

 

アキトとララは、無理をすれば奏夜たちに加勢出来たが、結界を維持する力は残さなきゃいけなかったため、戦いに参加出来なかったのだ。

 

それだけではなく、戦いを奏夜たちに託したおかげで、アキトとララは、少しではあるが、体力を回復させることが出来たのである。

 

そんな2人は魔導筆を構えると、同時に同じ法術を放つのであった。

 

その術によって結果は解除され、奏夜たちは元いた場所へと戻る。

 

その場所は、邪気の溜まった巨大なゲートになろうとしていたビルの前であり、そのビルは、アキトとララによって魔界に送られたため、ビルのあった場所は、何もない広い空き地のような状態になっていた。

 

「!?お兄さんたち……!!」

 

アキトとララが結界を解除したことによって、奏夜たちが再び姿を現したことにより、未だその場に留まっていた梨子は驚きを隠せない。

 

梨子は奏夜たちが結界によって姿を消してから、その場を退散するのは容易であるものの、奏夜たちが気になり、その場に残っていたのだ。

 

「……!!梨子ちゃん、まだ残ってたのか……」

 

奏夜は、梨子が未だにこの場に留まっていたことに驚きを隠せなかった。

 

「お兄さんたち……。あのビルの化け物場はなんなんですか?それに、あの大っきな竜は……」

 

梨子にとって、ホラーの存在は、あまりにも非現実的な存在であり、恐怖の象徴であると共に信じられない存在であった。

 

それ故気になっていたからこそ、その場から離れることなく、残っていたのだ。

 

しかし、奏夜たちは当然その秘密を話すわけにはいかなかった。

 

そのため……。

 

「……梨子ちゃん……」

 

「はい……」

 

「ごめんね」

 

「えっ……?」

 

梨子は、何故奏夜がいきなり謝るのかが理解出来なかった。

 

彼女にその理由を考えさせる暇を与えさせず、奏夜は魔法衣の裏地から1枚の札を取り出すと、それを梨子の額に貼るのであった。

 

その瞬間、その札が輝き出すと、梨子はその場で気を失ってしまい、倒れてしまう。

 

奏夜はそんな梨子を優しく抱き抱える。

 

「……ごめんな。ホラーや魔戒騎士については極秘事項なんだ。それに、君みたいな子には、ホラーと関わりのある生活を送ってほしくないんだよ」

 

このように語る奏夜の表情は、梨子のホラーや魔戒騎士に対する記憶を消さざるを得ない申し訳なさや、彼女に普通の人間として生活しては欲しいと願う優しさを感じ取ることが出来た。

 

『奏夜、魔戒騎士として、それは当然の行為だ。本来であれば、穂乃果たちの記憶も消すべきなんだがな』

 

「それはそうだけど、今さら穂乃果たちの記憶は消せないよ……」

 

「ま、それを言ったら俺もそうなるさ。俺だって、梓たちの記憶を消せなかったが、今は梓たちは一応普通の生活を送ってるんだ」

 

「統夜さん……」

 

「今俺たちに出来ることは、ホラーを倒し、そんな当たり前な生活を守ることだよ」

 

『ま、統夜が甘いのは今も昔も変わらないみたいだな』

 

奏夜の先輩騎士である統夜もまた、ホラーとの戦いに巻き込まれた梓たちの記憶を消せず、そんな統夜のことを側で見てきたイルバはただ呆れるばかりであった。

 

「それより奏夜、この子をどうするつもりだ?」

 

「少し行ったところに広場みたいなところがあったろ?あそこなら誰かが気付いて保護してくれるさ」

 

ホラーに関する記憶を消してしまった手前、保護する訳にもいかないため、後は一般人もしくは警察に保護してもらおうと奏夜は考えていた。

 

『まぁ、それが賢明だろうな』

 

そんな奏夜の意見に、キルバは賛成していた。

 

「とりあえず、この子を保護しやすい場所へ連れてって、俺たちは退散しようぜ」

 

「うむ!それが良いだろうな」

 

こうして、奏夜たちは梨子を広場のような場所へ置いていくと、そのままその場から姿を消して、番犬所へ向かい、事の顛末を報告する。

 

その後に解散するのであった。

 

そんな中、奏夜たちは知る由もなかった。

 

これまでの戦いの一部始終を、1羽の奇妙な蝶が見ていたことを。

 

奏夜たちの戦いを見届けた蝶は、どこかへと姿を消すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

奏夜たちの戦いを見ていた蝶がたどり着いたのは、秋葉原某所にある、今は使われていない廃ビルであった。

 

その一室に美しい黒髪の長髪女性が立っており、その蝶の姿を見つけると、その蝶は女性の手に吸い込まれていく。

 

女性はその蝶を握り潰すと、そこから放たれる粒子に触れ、この蝶が持ち帰った情報を整理するのであった。

 

「ウフフ……。やはり、そういうことだったのね……。これは、ジンガ様に良い報告が出来るわ!」

 

その女性とは、なんと、ホラーニーズヘッグ復活を企むジンガに使える女性……アミリであった。

 

アミリは、蝶から得た情報を一刻も早くジンガに伝えるために、彼のもとへ向かう。

 

「……ジンガ様!朗報がございます」

 

アミリは同じビル内のとある部屋に移動すると、ビルから見える景色を眺めながらワインを飲むジンガのいる部屋に入った。

 

「おお、アミリじゃないか。それに、朗報だと?」

 

「はい。ジンガ様がご所望の、魔竜の眼の在り処がわかったのです」

 

「ほう、やるじゃないか、さすがはアミリだぜ!」

 

「お褒めのお言葉……。光栄でございます!」

 

アミリはジンガからの言葉を受け、深々と頭を下げる。

 

褒められるだけでここまでジンガを敬っていることから、彼女のジンガへの忠誠心が見て取れる。

 

「それで?その眼の在り処はどこなんだ?」

 

「はっ……!以前から姿を見せていたあの妙な女魔戒法師がいると思うのですが、その女が魔竜の眼を隠し持っているみたいです。邪竜の眷属であるダークスケイルが見抜いていたので、間違いないかと」

 

アミリの放った蝶は、ダークスケイルがララの隠し持つ魔竜の眼の存在を見抜いたところもしっかりと見ていた。

 

そのため、ララが魔竜の眼を持っていることを知られてしまったのである。

 

「そうか……!あの魔戒法師が何か鍵を握ってると思ったが、まさか眼を隠し持ってるとはな……」

 

ジンガは、アミリからの話に驚きを隠せなかったが、自分の得たかった情報を得て、不敵な笑みを浮かべる。

 

「ジンガ様、いかがいたしますか?可及的速やかにあの女を捕獲いたしますか?」

 

「いや、まだその必要はない」

 

ジンガは、ララが魔竜の眼を隠し持っていると知っても、動く気配はなかった。

 

「それに、お前の力もまだ馴染めてないからな。あの女を捕らえる策を練るのはそれからでも遅くはないさ」

 

「はっ……。出過ぎたことを申し上げてしまい、申し訳ございません……」

 

「なぁに、気にすんなよ」

 

アミリはジンガに心から謝罪の言葉を送るが、ジンガは気にする素振りをしていなかった。

 

「ククク……。ここからが本番だな……。さて、ここからどうするか……!」

 

ジンガは、ニーズヘッグ復活の策を練っており、その瞬間を思い浮かべて邪な笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

翌日、奏夜はいつも通りに学校に通い、放課後は剣斗と共にアイドル研究部の部室へと赴く。

 

このまま、μ`sとしての活動を開始しようとしたのだが、奏夜たちのもとへ意外な訪問者が現れるのであった。

 

「……よっ、みんな。どうやら揃ってるみたいだな」

 

「!?統夜さん!?それに……」

 

「梓さん!」

 

アイドル研究部の部室を訪れたのは、奏夜の先輩騎士である月影統夜と、そんな統夜の彼女であり、N女子大学に通っている中野梓であった。

 

「みんな、ごめんね。ラブライブに向けて忙しい時に……」

 

アイドル研究部の部室を訪れた梓は、申し訳なさそうにしていた。

 

「いえ、お2人が来てくれて嬉しいです!」

 

「はい!統夜さんたちならいつだって大歓迎ですよ!」

 

穂乃果は統夜たちの来訪を喜んでおり、奏夜は統夜たちの来訪を歓迎する。

 

「ありがとう!そう言ってもらえると私も嬉しいよ!」

 

自分たちが歓迎されると知り、梓の表情が朗らかになっていった。

 

「今日俺たちが来たのは、μ'sに依頼したいことがあってな」

 

梓の笑顔を横目に、統夜は今日ここへ来た目的を告げる。

 

「μ'sに依頼……ですか?」

 

「あっ、統夜先輩。それは私から話しますよ!」

 

どうやら話を持ってきたのは統夜ではなく、梓であった。

 

「実はね、私のお父さんの知り合いがね、桜ヶ丘のスタジオでカメラマンをやってるの」

 

「あ、それってもしかして、「Photo studio Never」とかいうスタジオでしたよね?梓さんと統夜さんが花嫁花婿の写真を撮ったとか」

 

「あ……。うん……。そうなんだよね……」

 

穂乃果が言っていた通り、梓は統夜が卒業する前に、知り合いのカメラマンから花嫁花婿のモデルになって欲しいと依頼を受けて2人で写真を撮ったことがあった。

 

その時の話を穂乃果たちは聞いており、ウェディングドレスに憧れがあったため、その話を鮮明に覚えていた。

 

当時を思い出したからか、梓の顔は真っ赤になる。

 

「俺たちを撮った写真が思ったより評判が良かったらしくて、「Photo studio Never」の表情も上がったらしく、最近秋葉原にも支店を建てたみたいなんだ」

 

梓が顔を赤くしてもじもじしていたため、統夜が再び説明を始める。

 

「そうだったんですね……」

 

「それにしても、「Photo studio Never」なんて、聞いたことないけどね」

 

統夜と梓の写真を撮った後、その写真がなんとコンテストで入賞という予想以上の反響を呼び、「Photo studio Never」の利用客は増大し、桜ヶ丘にはなくてはならないスタジオとなった。

 

そのスタジオのオーナーは、予てから東京出店を夢見ており、最近になって秋葉原に支店を建てたのだ。

 

それ故にこちらでの知名度は低く、真姫が知らないと話すのも納得出来る。

 

「まぁな。だけど、カメラマンの腕は確かなもんでな、さっそく大きな仕事を持って来たんだよ」

 

「ほう、それはいったい?」

 

「10日後に秋葉原でファッションショーをやるんだが、「Photo studio Never」がその専属カメラマンに任命されたみたいなんだよ」

 

「!!凄いわ!ファッションショーの専属カメラマンだなんて!」

 

「カメラマン冥利に尽きるってもんやな♪」

 

統夜から聞いた話に、絵里と希は驚きと共に興奮を隠せずにいた。

 

「それでな、今話題のスクールアイドル1組をそのファッションショーに招待して、パフォーマンスを行って欲しいとのことなんだ」

 

「μ'sはこの前、あのA-RISEと同じ舞台でパフォーマンスをしたでしょ?私がμ'sの知り合いだって知ってたみたいで、μ'sのみんなにそのファッションショーに出演出来ないかお願いしに来たの」

 

どうやら本題となる話というのは、再来週に行われるファッションショーにて、パフォーマンスを行って欲しいというものであった。

 

「凄い!本当ですか!?」

 

「ファッションショーでパフォーマンスなんて、凄く光栄なことだね!」

 

統夜の本題を聞いた穂乃果とことりは乗り気なのか、キラキラと表情を輝かせる。

 

しかし、1つだけ気がかりなことがあった。

 

「……!10日後って、私たちが修学旅行から戻ってきた次の日じゃないですか!」

 

海未はスマホを使ってスケジュールのチェックを行うのだが、どうやらファッションショーが行われるのは、奏夜たちが修学旅行から戻ってきた次の日であることが判明する。

 

「厳しいかもしれないけど、なんとかなるだろ」

 

「うむ!このような話が来るのは、μ'sにとってもまたとないチャンスだと思うがな」

 

「そうね。やってみてもいいんじゃない?」

 

ファッションショーが修学旅行の翌日とわかり、海未は不安がっているものの、奏夜、剣斗、ララの3人は前向きだった。

 

2年生組が修学旅行に行っていたとしても、残された人間がやるべきことをやればいい。

 

そんなことを考えていたからだ。

 

「……確かに、3人の言うことはもっともかもしれないですね……」

 

海未は、奏夜たちの意見に納得をしていたからか、これ以上は反対意見を出すことはなかった。

 

「で、でも……!ファッションショーだなんて、恥ずかしいですぅ……」

 

「色んなところでパフォーマンスしてるのに、今更何言ってるのよ……」

 

そんな中、花陽はファッションショーという名前に名前負けしているからか、恥ずかしがっており、そんな花陽に、真姫はジト目で呆れていた。

 

「でもでも!面白そうだにゃ!」

 

「そうやね♪スクールアイドルをやってるなら、良い機会になると思う♪」

 

「ええ!私も賛成だわ!」

 

「ふっふっふ……。ファッションショー……。この宇宙ナンバーワンアイドルであるにこにーの魅力を最大限に伝えるチャンスだわ……」

 

凛、希、絵里、にこは賛成のようなのだが、にこだけはずれた考えをしており、笑みを浮かべていた。

 

「いやいや、いくらファッションショーといっても、需要はなさそうだけどな……」

 

「ぬぁんでよ!!」

 

にこのずれた考えに、奏夜は呆れていたが、そんな奏夜ににこは異議を唱える。

 

にこは奏夜をポカポカと叩こうとするものの、奏夜は指でにこの額を抑えると、にこは身動きがとれず、両手をブンブンと振り回していた。

 

「あはは……」

 

「やれやれ……」

 

そんなにこと奏夜のやり取りに、梓と統夜は苦笑いをしていた。

 

こうして、奏夜たちは10日後に行われるファッションショーに出演することになったのだが、ここでさらなる問題が浮上する。

 

「目下の目標としては、そのファッションショーだけど、奏夜たち2年生組と小津先生は修学旅行に行っちゃうでしょ?」

 

「む、そうだな。絵里がいるからダンスのコーチングはなんとかなるだろうが、俺たちがいない間、どうするべきか……」

 

自分がいない間、ファッションショーでのパフォーマンスをどのように進めていくか、奏夜は考えていた。

 

なんとかなるだろうと思っていても、ある程度の指針は出さなければ行けない。

 

奏夜はそう考えていたのであった。

 

その時である。

 

「心配すんな。奏夜がいない間、俺がμ'sのマネージャーになるさ」

 

『えぇぇぇぇぇぇぇ!?』

 

統夜はさらっと大胆な宣言をしており、そのことに奏夜たちは驚きの声を上げていた。

 

その後、梓も大学が休みの時は顔を出すと話してくれており、統夜と2人で奏夜の代わりをやろうとしていたのだ。

 

こうして、統夜が臨時のマネージャーとなり、修学旅行も迫る中、ファッションショーに向けての準備が始まっていくのである。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ……。奏夜たちは修学旅行だというのに、こんなことをやろうとはな。それに、凛の様子がおかしいみたいだが、本当に大丈夫か?次回、「劣等」。ま、そんなこと、気にする必要はないと思うがな』

 




今回登場したダークスケイルは、僕がやっているFF14に登場するモンスターをモデルにしています。

ゲーム内でも1人で倒すのは難しく、仲間と協力しないと倒すのが困難な相手なのです。

それを体現するかのように、奏夜、統夜、剣斗の3人の見事な連携でダークスケイルを倒すことが出来ました。

そして、ジンガとアミリに知られてしまった魔竜の眼の在り処。

これからいったいどうなってしまうのか?

さらに、最後の方の話は、ラブライブ!二期の第5話の前日譚となっています。

そして名前が出てきた「Photo studio NEVER」。

このスタジオは、前作の「牙狼×けいおん 白銀の刃」の後半で登場した、スタジオで、とあるキャラクターが出てきた場所なのです。

なので、次回もしくはその次あたりでそのキャラが出てくるかも?

次回の投稿もまた遅くなるかもしれませんが、なるべく早めに投稿したいと思っています。

それでは、次回をお楽しみに!



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第69話 「劣等」

お待たせしました!第69話になります!

相変わらず更新は遅くなってしまいましたが、執筆はどうにか時間を見つけて頑張っています。

そして、今回からいよいよ二期の5話に突入します!

奏夜たちは修学旅行へ行き、凛メインの話になっていくと思います。

そういえば、投稿が遅れてる間に、「神ノ牙 JINGA」が始まりましたね(^ ^)

映画からあの展開に驚き、様々な状況に驚きながら楽しんでいます。(地元では放送されてないので、1週遅れではありますがw)

神ノ牙の今後に期待しつつ、第69話をどうぞ!




修学旅行を間近に控えた奏夜、剣斗、ララの3人は、偶然助太刀をしてくれた統夜とアキトと共に、巨大なゲートになろうとしていたビルの封印に成功する。

 

しかし、そんな奏夜たちの目の前に、魔竜ホラーニーズヘッグの眷属であるダークスケイルが出現するのであった。

 

奏夜たちは、どうにか強大な力を持つダークスケイルを討滅する。

 

その結果、ララが魔竜の眼を隠し持っていることをジンガやアミリに知られてしまったことなど、知る由もなく……。

 

それから間もなくして、奏夜たち2年生組は、修学旅行のため、沖縄へと向かうのであった。

 

 

 

 

そしてその頃……。

 

「……はぁっ!!」

 

現在午後2時半になろうとしている時間帯、赤いロングコートを着た青年……月影統夜は、魔戒騎士の日課であるエレメントの浄化を行っていた。

 

翡翠の番犬所の管轄である奏夜が離れており、他にも桐島大輝と天宮リンドウという実力者はいるものの、統夜は奏夜の代わりを務めるために張り切ってエレメントの浄化を行っていたのである。

 

その背景としては、彼も高校時代、部活や行事などがある時に仲間たちに協力してもらったことにより、それらを楽しみ、心から高校生活を楽しむ事が出来た。

 

だからこそ、後輩である奏夜にも高校生活を楽しんでもらいたい。

 

そんな気持ちがあるのである。

 

オブジェから飛び出してきた邪気の塊を魔戒剣で斬り裂いた統夜は、魔戒剣を青い鞘に納めた。

 

「イルバ、浄化するべき場所はこれで全部か?」

 

『ああ、元々あの小僧がいなくても、大輝やリンドウもいるんだ。お前さんの出る幕はないくらいだぜ』

 

統夜の相棒である、魔導輪のイルバは、カチカチと音を鳴らしながら小気味よく笑う。

 

「……ま、ジンガの件もあるからか、今は比較的に人手は足りてるからな」

 

自分の仕事は終わったと感じた統夜は、魔戒剣を自分の魔法衣の裏地の中にしまう。

 

魔法衣の裏地は特殊な性質であり、特別な空間に魔戒剣などの武器をしまうことが出来るのであるのだ。

 

『それよりも統夜、そろそろあの学校に行く時間じゃないのか?』

 

「……おっと、そうだった!ああ言った手前、俺が奏夜の代わりにμ'sのマネージャーを務めないとな」

 

統夜は、梓の知り合いが持ってきた依頼を引き受けてもらう手前もあり、奏夜が修学旅行でいなくなるのもあるからか、その間だけ、μ'sのマネージャーを引き受けることになったのだ。

 

『梓は講義やバイトがあるから前日でなければ来れないのだろう?本当に大丈夫なのか?』

 

「心配すんなって、なんとかなるさ」

 

『やれやれ……。その根拠のない自信はどこから来るのやら……』

 

イルバは、奏夜の代わりを自信満々で務めようとする統夜に呆れていたのであった。

 

こうして、エレメントの浄化を終えた統夜は、そのまま音ノ木坂学院に向かっていく。

 

統夜は、奏夜たちがスクールアイドルを始めた時から度々この学校を訪れているからか、職員に顔と名前が知られるようになり、この頃にはほぼ顔パスで入れるようになっていたのである。

 

慣れた感じで入校の手続きを終えた統夜は、すれ違う教師に挨拶をし、挨拶をしてくれる生徒に挨拶を返しながらアイドル研究部の部室へと向かう。

 

「……よお、みんな、やってるか?」

 

統夜が部室に入ると、2年生組を除く全員が集まっており、どうやら何か話し合いをしているみたいだった。

 

「あ!とーやさんだにゃ!!」

 

「統夜さん!ちょうど良かったです!」

 

統夜が姿を見せるなり、凛と絵里の表情がぱぁっと明るくなる。

 

「……あれ?そういえば、梓さんは一緒じゃなかったんですか?」

 

今この部屋を訪れたのは統夜だけであるため、希は首を傾げていた。

 

「ああ、梓は週末のファッションショーにしっかり参加するために、大学に戻って講義やバイトを頑張ってるよ」

 

「なんか、大変そうですね……」

 

「そういえば、梓さんは女子大生だものね……」

 

花陽と真姫は、梓が大学生であることを改めて認識することで、忙しそうに過ごしている梓に驚いていた。

 

「で、奏夜たちが戻ってくるまではあんたがマネージャーをするんでしょう?大丈夫なの?」

 

「に、にこちゃん!統夜さんに失礼だよぉ!!」

 

にこは奏夜の先輩である統夜に対しても強気な態度を取っており、それを見かねた花陽は慌てながらもにこをなだめる。

 

「まあ、気にすんなよ。俺は気にしてないからさ」

 

統夜はにこの性格をよく知っているため、気にする素振りを見せることなく平然としていた。

 

「それで?今何かを相談してたんだろ?」

 

「あ、はい……。実は、昨日修学旅行に行ってる穂乃果や奏夜と電話で相談してたんです。穂乃果や奏夜がいない今、代理のリーダーを立てるべきじゃないか?って」

 

「なるほどな……。そういえば昨日奏夜から連絡来て、あっちは雨だから暇だってボヤいてたな」

 

現在、奏夜たちは沖縄にて修学旅行真っ只中なのだが、生憎沖縄は台風の接近に伴って悪天候であり、とても海で遊べる状態ではなかったのである。

 

そんな中、絵里は穂乃果や奏夜とこれからの相談をしていた。

 

そした、奏夜は統夜に現状報告も欠かさなかったのである。

 

「リーダーねぇ……。確かに、質のある練習のためには必要かもしれないな」

 

臨時のリーダーを決める。

 

そのことに対して、統夜は賛成していた。

 

すると……。

 

『やれやれ……。軽音部で率先してダラダラしてたお前さんが良く言うぜ……』

 

「ちょ!?茶々を入れるなよ、イルバ」

 

イルバは、当時の軽音部のことを話していたからか、統夜は焦ってイルバをなだめていた。

 

「……あんたたち、どんだけ部活でだらけてたのよ……」

 

軽音部ではティータイムが主であり、練習が疎かになりがちなのはμ's全員が知っており、そのことに対してにこは呆れていた。

 

「それはともかく!一体誰をリーダーにするつもりなんだ?」

 

統夜は軽音部の話を逸らすために、本題を切り出す。

 

すると……。

 

「とーやさん!みんな、凛がリーダーにって言ってるんだけど、凛がリーダーって変だよねぇ!?」

 

どうやら、臨時のリーダーは凛に決まりそうになっており、凛は統夜に詰め寄っていた。

 

「凛!あなたまだそんなこと言ってるの!?」

 

どうやら根気よく説得をしてるところだったからか、凛の言葉に真姫が反応する。

 

「だって……。凛にリーダーなんて向いてないよ……」

 

『ほう、こいつは意外だな。お前さんなら、結果がどうなるとか気にせず飛びつくと思ったんだがな』

 

「それは私も思ってたのよ……」

 

どうやらにこはイルバとまったく同じことを考えていたようで、そのことに驚きながらも賛同する。

 

「でも……凛は……」

 

「……」

 

本当に自分にリーダーは向いていないと俯く凛を見ながら、統夜は首を傾げながら考え事をしていた。

 

「……?統夜さん?」

 

そんな統夜を見て、絵里もつられて首を傾げている。

 

「……本当にお前にリーダーの素質はないのだろうか……?」

 

「え?」

 

統夜が投げかける疑問に、凛はポカンとしてるからか、目を丸くしている。

 

しかし、そんな統夜の疑問を否定するかのようにブンブンと首を横に降るのであった。

 

「さっきからそう言ってるじゃん!凛にリーダーは向いてないよ!」

 

「だけどさ、そんなに難しく考える必要はないんじゃないのか?リーダーと言っても、穂乃果が戻ってくる間だけなんだろ?」

 

「そうだけど……」

 

「それにさ、リーダーの素質があるとかないとかは、決めるのは自分じゃない。他の奴らなんだ。みんな、凛がリーダーに相応しいって思ってるんだからさ、やってみたらどうだ?俺やみんなも出来る限りサポートするからさ」

 

統夜は優しい表情で凛のことを諭すと、凛以外の全員は無言で頷いていた。

 

「……わかった。とーやさんがそこまで言うなら、ちょっと頑張ってみようかな」

 

奏夜の代わりに、やったことのないマネージャーを引き受けてくれた統夜に応える形で、凛は一時的にμ'sのリーダーになることを了承する。

 

「ハラショー♪」

 

「さすがは統夜さん♪年長者なだけあるなぁ♪」

 

「はい!頼り甲斐のあるお兄さんです!」

 

絵里、希、花陽の3人は、笑みを浮かべながら、統夜のことを称賛する。

 

「それに……」

 

「それに?」

 

「……あのガサツでいい加減な律が3年間部長を務めあげたんだ!なんら問題はないさ!」

 

統夜は軽音部の仲間であり、部長を務めていた律を話の引き合いに出すと、「ふんす!」と言いながらドヤ顔をしていた。

 

「……最後の余計な一言がなければ完璧だったんだけどね……」

 

「しかも今の言葉、この部の部長であるにこへの当てつけにも聞こえるんですけど……」

 

統夜の言葉に、真姫とにこはジト目になるのだが、真姫は統夜に呆れており、にこは少しだけ怒りを露わにしていた。

 

「とりあえずこれから練習だろ?そろそろ始めなくてもいいのか?」

 

統夜はそんな真姫とにこの視線に気付いているのかいないのか、練習の話を出すのである。

 

「そうだったわね!私と希は、生徒会の仕事を片付けなきゃいけないから、みんなは先に練習に行ってください!」

 

「統夜さんはマネージャーのお仕事やね♪」

 

「ああ、わかったよ」

 

「そうだね!みんな、さっそく練習……行っくにゃあ!!」

 

こうして、凛は部室を飛び出して屋上へと向かっていき、花陽、真姫、にこがそれを追いかける。

 

「やれやれ……。さてと、マネージャーの仕事は何から始めればいいのやら……」

 

「あ、統夜さん!このメモを奏夜から預かっていたんです。自分の代わりをしてくれる統夜さんに渡してほしいって」

 

部室に取り残された絵里は、制服の胸ポケットから1枚のメモ用紙を取り出し、統夜に手渡す。

 

「おお!ありがたい。それを参考にさっそく仕事を……」

 

絵里からメモを受け取った統夜は、そのメモの中身をみるのだが……。

 

「……!!?おいおい!奏夜は毎日これだけのことをやってるのかよ!?」

 

そのメモには、奏夜がマネージャーとして毎日やっている内容がびっしりと書いてあり、その内容を見た統夜の顔が真っ青になる。

 

「私も見させてもらいましたが、これだけのことを統夜さんに強いるのは、と渡すのを迷ってたんですけどね……」

 

スクールアイドルのマネージャーなどやったこともなく、スクールアイドルのこともつい最近知るようになった統夜としてはきついであろう仕事に、絵里は申し訳なさそうにしていた。

 

「だ、大丈夫だ!奏夜に出来たんだ!俺にだってきっとできるさ!」

 

『やれやれ。見えすいた強がりだな……』

 

統夜は顔を引きつらせながら苦笑いをしており、そんな統夜の強がりに、イルバは呆れ果てる。

 

こうして統夜は、絵里から受け取ったメモを参考にして、マネージャーとしての仕事を始めるのであった。

 

(そ、奏夜のやつ……。魔戒騎士の仕事をこなしながらこれだけの仕事をやって来たっていうのか!?)

 

奏夜が普段行っているマネージャーとしての仕事は統夜の想像を遥かに超えており、統夜は驚きを隠せない。

 

《ま、あの小僧は魔戒騎士としてはまだまだ未熟だが、そこだけは認めざるを得ないな》

 

イルバは奏夜のことを完全に認めている訳ではなかったが、奏夜の普段の仕事量を知り、その凄さを認めざるを得なかったのだ。

 

(完璧には無理だろうけど、俺に出来ることはやってやるさ!)

 

《ま、それしかないだろうな》

 

統夜の抱いていた根拠のない自信は打ち砕かれたのだが、後輩である奏夜が気兼ねなく修学旅行を楽しめるよう、統夜は全力を尽くすのであった。

 

統夜がある程度の仕事を終わらし、練習が行われている屋上にたどり着いたのは、基礎練習が終わり、新曲に向けてのステップを練習している時であった。

 

「……おっ、どうやら頑張ってるみたいだな」

 

真剣に練習を行う風景に、統夜はただ感心するだけだった。

 

しかし、真姫とにことの間で、ステップをどうするかで揉め始め、少しだけ不穏な空気に包まれる。

 

(まあ、俺はどっちがいいかはわからんが、ここら辺は重要だからこその衝突だよな、うん)

 

統夜は、にこと真姫の衝突を止めるでもなく、ただ事の動向を見守ることに徹していた。

 

すると……。

 

「……ねぇ、リーダーはどう思うの?」

 

ここで、リーダーである凛に白羽の矢が立ち、ステップをどうするか白黒はっきりつけさせようとしていた。

 

自分が大事な決断をしなくてはいけないこともあり、凛は戸惑う。

 

しかし、統夜はそれを偲びないと思いながらも口出しを行おうとはせず、動向を見守っていた。

 

「……ほ、穂乃果ちゃんかそーや君に聞いた方が……」

 

「それじゃ間に合わないじゃない!」

 

凛は自分では判断出来ないと感じたからか、穂乃果や奏夜の意見を仰ぎたかったが、2人が戻るのはイベント前日であり、それから練習をするのでは間に合わない。

 

真姫の指摘はもっともであった。

 

「えっと……。あ!とーやさん!とーやさんはどっちがいいと思う?」

 

「え!?俺か!?」

 

『やれやれ……。予想はしてたが、まさか本当に統夜に聞いてくるとはな』

 

イルバは凛が統夜にも意見を求めようとすることを予想しており、予想通りの結果に呆れていた。

 

「どっちと言われても、俺はダンスに関しては素人だからな……」

 

統夜は凛を突っぱねる訳ではなく、本当に判断出来ないからか、このように口ごもる。

 

「凛」

 

「な、何?」

 

そんな凛を見かねたにこは真剣な眼差しで凛に話しかけると、凛は少しだけオドオドしながら答える。

 

「統夜さんは臨時のマネージャーとはいえ、素人なのよ。そこに頼るのはお門違いだと思うわ」

 

「……」

 

「それに、今のリーダーはあなたなのよ?あなたが決めなさい!」

 

にこは仮に自分の意見が通らなかったとしても、ステップをどうするかはリーダーである凛の判断に委ねることにした。

 

そうすることで、リーダーの自覚が芽生えるのではないかと考えていたからである。

 

「……」

 

そうは言っても、元々リーダーは乗り気ではなかった凛は、俯いて返事に困っていた。

 

すると……。

 

「まぁまぁ、この辺にしておいたらどうだ?」

 

そんな凛を見かねた統夜は、ここで助け舟を出すのであった。

 

「統夜さん、さっきも言ったけど、臨時のマネージャーとはいえ、あなたは素人なのよ?だからこっちの話に口を挟まないでもらえるかしら?」

 

「に、にこちゃん!そんな言い方は……」

 

にこの棘のある言葉に、花陽は慌ててにこをなだめる。

 

「ま、そこは自覚してるさ。だけど、俺が言いたいのはステップがどうこうじゃないんだよ」

 

「?どういうことなの?」

 

統夜が何を言いたいのか理解出来ず、真姫は首を傾げる。

 

「確かに、リーダーとしての自覚を持たせるために凛に意見を出させたいのはわかる。だけど、凛は戸惑ってるだろ?そんな状態で無理に意見を求めてちゃんとした意見が出せると思うか?」

 

「そ、それは……」

 

統夜の言葉は的を得ているからか、にこは何も言い返せなかった。

 

統夜がこう言うのも、凛に味方している訳ではなく……。

 

「凛、穂乃果が戻ってくるまでとはいえ、一度はリーダーを引き受けたんだろ?だったら、今のステップのところをどうするべきか、一晩考えて結論を出してみたらどうだ?」

 

「えっ……?」

 

統夜からの言葉が思いがけないものだったからか、凛はさらに戸惑いを見せる。

 

「ま、多少ではあるけどイベントまではまだ時間はあるんだ。慌てて結論を急ぐよりは、じっくり考える時間だって今の凛には必要だろ?」

 

「そ、そうだよね……。結論を急がせるのも、凛ちゃんにとって負担でしかないもんね……」

 

「ま、そういうことなら納得するしかないわね。にこちゃんもそれでいいでしょ?」

 

「そうね……。私もそれで異論はないわ」

 

どうやら、統夜の提案に、真姫もにこも反対はしていなかった。

 

「……わ、わかったよ……。明日までに考えてみるね……」

 

こうして、ダンスのステップをどうするべきかは凛が検討して後日決定することで話は落ち着いた。

 

(ったく……。俺ってやつは、お節介が過ぎたか?)

 

《まったくもってその通りだな。ま、今のあいつらには必要だったのかもしれないがな》

 

統夜は思わず口を出してしまったのだが、イルバはそのことに呆れながらも、結果的には必要なことだと納得していた。

 

こうして、ステップの件は落ち着き、再び練習が再開され、統夜は練習の様子を見守るのである。

 

その後は問題のステップ以外の部分の練習を徹底して行ったところでちょうど日も暮れてきたので、練習は終了となり、解散となった。

 

統夜は残ったマネージャーの仕事を片付け、ようやく音ノ木坂学院を後にするのであった。

 

「あ〜……疲れた……」

 

今までやったことのないスクールアイドルのマネージャーという仕事をどうにかこなした統夜は、誰が見ても明らかなくらいに疲れを露わにしながら歩いている。

 

『やれやれ……。統夜、疲れてる暇はないぜ。もしかしたらホラーが現れるかもしれないんだからな』

 

「わかってるよ。俺としてはそっちが本業なんだからそこは弁えてるさ」

 

疲れを露わにしている統夜ではあったが、魔戒騎士の使命を忘れている訳ではなかった。

 

「それにしても、奏夜は魔戒騎士の中でもかなり忙しい魔戒騎士なんだなぁ。正直感心したよ」

 

『そこは俺様も認めざるを得ないな。魔戒騎士としてはまだまだ未熟だが、ここまで忙しい魔戒騎士はそうもいないからな』

 

イルバは、奏夜の魔戒騎士としての技量はまだ認めていないものの、その仕事ぶりは認めざるを得なかった。

 

「さて、街の見回りをする前に番犬所に寄るか……」

 

統夜は、番犬所に向かい、魔戒騎士としての仕事を始めようとしたのだが……。

 

『……おい、統夜。あの3人、μ'sの1年生組じゃないのか?』

 

「……あ、本当だ」

 

イルバが偶然にも花陽、凛、真姫の3人が歩いているのを発見し、統夜もすぐに気付く。

 

見かけてスルーするのも気分が悪いと感じたからか、統夜は近くに行って声をかけようとしたのだが……。

 

「〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

距離が離れているため、聞き取ることは出来なかったが、凛が何か叫んでおり、そのままその場を走り去っていったのだ。

 

「凛のやつ、いったいどうしたんだ?」

 

『さあな。だが、凛のやつは臨時のリーダーになることを嫌がってたからな。そのことじゃないか?』

 

「やっぱそうだよな……」

 

何となく事情は察したものの、詳細が気になっている統夜はゆっくりと花陽と真姫に近付いていく。

 

すると……。

 

「……凛ちゃん、ずっと男の子みたいって言われてて……」

 

「!?」

 

花陽が真姫に対して凛の過去を語り始めると、統夜は花陽と真姫の側でさっと身を隠し、話に聞き耳を立てていた。

 

《おい、統夜。凛の話を聞くのにそんなにこそこそする必要はないだろう?》

 

(いや、何となく体が勝手に動いちまってな。これも、魔戒騎士の性ってやつかね?)

 

《なんだよ、それは……》

 

統夜は現在μ'sの臨時マネージャーとしてメンバーに関わっているため、凛に関する情報ならばこそこそせずとも得られるのだが、色々な話を聞き出すために、あえて身を隠して話をこっそりと聞いていたのだ。

 

そんな統夜の姿勢に、イルバは呆れて果てている。

 

そうこうしている内にも話は続いており、凛は小学生の頃も短い髪のせいか男の子みたいとからかわれており、そんなある日、スカートを履いて登校した時に、男子児童にからかわれてしまったのだ。

 

それがどうやら、凛にはトラウマになっており、自分は女らしくないと植えつけている要因になっているみたいだった。

 

「そういえば、私服でスカートを見たことはないわね」

 

そんな花陽の話を聞き、真姫はなるほどと言わんばかりに頷いている。

 

「……もう、気にしてないと思ってたんだけどな……」

 

そのような話も過去の話であるため、凛は既にその話を気にしていないかと思っていた花陽であったが、どうやら女の子らしくないと思い込む凛の心の闇は思ったよりも深いみたいだった。

 

そんな話を終えた後、花陽と真姫は再び歩き出し、帰路につく。

 

「……なるほどな、そういうことか」

 

花陽と真姫がいなくなったのを確認したところで、統夜はしみじみと呟くのであった。

 

『凛のコンプレックスは思ったよりも深いみたいだな。統夜、なるべく気にかけておけよ。凛のコンプレックスは、十分陰我になり得るし、陰我を引きつけかねないからな』

 

「そうだな……」

 

統夜は魔戒騎士として様々な事例を見てきたため、凛の抱えるコンプレックスが陰我になり得ることは十分理解出来ていた。

 

そのため、奏夜の留守中に悲劇を起こさせる訳にはいかない。

 

統夜はそんな気持ちでいっぱいになるのであった。

 

そのような決意を固めたところで統夜は1度番犬所に立ち寄り、その後、街の見回りを行う。

 

その途中に梓から連絡があり、明後日には講義もバイトもひと段落つきそうなため、こちらに顔を出すと話があった。

 

その時に、先方が希望している衣装を持ってくるとのこと。

 

その話を了承したところで梓からの連絡が終わり、統夜は現在宿泊をしている某所へと戻ろうとしたのだが……。

 

「……ん?梓のやつ、連絡忘れてたことがあったか?」

 

再び統夜の携帯が鳴ったため、また梓からの連絡かと思い、携帯を取り出すのだが……。

 

「……!奏夜か……!」

 

どうやら次に連絡が来たのは、現在沖縄にいる奏夜からであった。

 

「……おお、奏夜か」

 

『はい、統夜さん。絵里から聞いたのですが、すいません。俺の仕事を代わりにやってもらって……』

 

奏夜は開口一番で、自分の代わりを引き受けてくれた統夜に申し訳ないという気持ちを露わにしていた。

 

「気にするなって、仕事が思ったより多くて焦ったが、あれだけの仕事をこなすお前に感心してたところなんだぜ」

 

『いや、そんな……。俺は……』

 

奏夜は謙遜から照れを出しているのだが、声色からは満更でもないということざ伝わってくる。

 

「それに、ちょうど良かったよ。お前に話しておきたいことがあったからな」

 

『そうなんですか?実は俺も、話しておかなきゃいけないことがあって……』

 

統夜も話があったのだが、奏夜もどうやら話があったみたいだった。

 

その声色から、それも深刻そうな話であることは予想出来た。

 

そのため、統夜は自分の話から始めようと思ったからか、先ほどの凛の話を始める。

 

統夜からの報告を聞いた奏夜は「う〜ん……」と考え込んでいる。

 

『確かにそこは俺も気になっていました。凛がリーダーが気乗りじゃないって穂乃果から聞いた時は驚いていたので』

 

「凛は自分に自信がないだけじゃなくて、自分が女の子らしくないって思い込んでいる。そんな気持ちは陰我になりかねないから、気を付けて見るつもりだ」

 

統夜は花陽が話していた情報から凛の心境を分析し、それを奏夜に報告する。

 

『やっぱりそういうことか……。凛はあんなに元気いっぱいなのに、どこか一歩引いてるところが気になっていたんです。俺がもっと早く気付いていれば、わざわざ統夜さんの手を煩わせることもなかったのに……』

 

奏夜は統夜よりも凛と過ごしていた時間は長かったため、そんなコンプレックスの兆候は感じ取っていた。

 

しかし、確証もなく聞き出せなかったということもあり、奏夜はその部分を悔やみ、統夜に詫びをいれる。

 

「気にするなって。そんなことは誰も予想出来ないし、俺だって少しはお前らの役に立てそうだしさ」

 

統夜は奏夜みたいにダンスが出来る訳ではなく、メンバーの指導やマネージャーらしいことはあまり出来ないが、年長者として凛の問題を解決させ、陰我を芽生えさせないようにすることは出来ると考えていたのだ。

 

『統夜さん、ありがとうございます!凛のことはよろしくお願いします!』

 

「おう、任せときな。それで、奏夜の話は何なんだ?」

 

『はい。実は……』

 

奏夜はバツが悪そうにしているのが電話越しでも伝わってきたため、統夜は首を傾げるのであった。

 

『統夜さん、沖縄の方は天気が良くないことは話しましたよね?』

 

「ああ、お前もボヤいてたもんな」

 

『なかなか天気が良くならないんです。むしろ悪くなってるような……』

 

「なあ、奏夜。まさかとは思うけど……」

 

奏夜の話を聞き、事情を察した統夜は驚きを隠せずにいた。

 

『はい。もしかしたら近いうちに先生から話が出るかもしれませんが……』

 

奏夜は今後の修学旅行はこうなるかもしれないことを統夜に打ち明ける。

 

統夜は予想はしてたものの、やはり驚いていた。

 

『もし、その話が本当になったとしたら改めて報告するので……』

 

「そうだな……。奏夜、頼むな」

 

『はい。統夜さんも、μ'sのみんなをよろしくお願いします!』

 

奏夜はこのようにμ'sのことを統夜に託したうえで電話を切り、統夜はそれを確認すると携帯をポケットにしまって立ち尽くしていた。

 

「……これは……。なかなか面倒なことが起きそうだな……」

 

これから起こるであろう事態に、統夜は頭を抱えていた。

 

奏夜が予想していた嫌な予感は的中することになり、それが他のメンバーに伝達されるのは、梓が訪れる2日後の話であった……。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『凛のやつ、どうやら色々思い詰めてるみたいだな。お前は自惚れてるわけでもないのだから、そこまで気にする必要はないのだがな。次回、「変身」。女ってのはみんな等しく綺麗になれると俺は確信してるぞ』

 

 

 




凛メイン回と見せかけて、統夜メイン回となってしまったww

前作の「白銀の刃」では、軽音部としてダラダラ過ごしていた統夜が、臨時のマネージャーに!

そして四苦八苦してるのを見ると、奏夜がマネージャーをこなしながら魔戒騎士をやれてるのがかなり凄いと感じられると思いますww

そして次回も5話の話ではありますが、一部オリジナル要素を入れたいと考えています。

さらに、前作にも登場したあのキャラも登場するかも?

果たして、どのようなキャラが出てくるのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第70話 「変身 前編」

お待たせしました!第70話になります!

タイトルを見て気付いた方もいるとは思いますが、本来1話予定だった話を、今回は前後編にさせてもらいました。

とある話を書きたかったため、1話でまとめきれなかったのです。

後編の方も鋭意執筆中ですので、よろしくお願いします!

と、前後編になった事情を説明したところで、

今回もまた、凛+統夜のメイン回になっています。

μ'sの臨時マネージャーとなった統夜がどのようなもの活躍を見せるのか?

それでは、第70話をどうぞ!




奏夜たち2年生組が修学旅行へ出かけ、残されたメンバーは、奏夜の先輩騎士である統夜を臨時のマネージャーに迎え入れ、出演が決まっている、ファッションショーの準備のため、動いていた。

 

リーダーである穂乃果が不在のため、その代理として、凛が選ばれる。

 

自分に対して自信を持てない凛は最初は臨時のリーダーになることを拒否していたが、統夜の説得を受けて、渋々とその任を受けることになる。

 

しかし、凛は思うようにメンバーを引っ張ることは出来ず、戸惑いを見せていた。

 

その日の帰り道、統夜は偶然にも花陽と真姫の話を遠くからではあるが聞くことができ、凛の心の中に抱えている闇に警戒していた。

 

それからまもなく奏夜から連絡が入り、統夜はそのことを報告するのだが、奏夜の口から最悪の報告がされることになる。

 

それがμ'sのメンバーに伝達されたのは、その日から2日後である。

 

その時には、統夜の恋人であり、今回μ'sにファッションショーでのパフォーマンスの仕事を持ってきた中野梓も来ていた。

 

「ええ!?帰れない!?」

 

統夜から話を聞いた凛は、驚きを隠せないからか、声をあげていた。

 

「ああ、奏夜から連絡があってな。今沖縄の方は台風が酷いらしく、飛行機が出せる状態じゃないらしい」

 

奏夜が統夜にしていた話というのはこのことであり、この時はまだ飛行機が出せないと確定していた訳ではなかったが、奏夜は最悪の事態を想定して統夜へ報告していたのである。

 

「そうなると、奏夜たちが戻ってくるのは厳しいから、今度のライブは6人でやるしかないわね……」

 

「うん、先方の方には私から話をしておくね。事情が事情だし、仕方ないから……」

 

「梓さん、よろしくお願いします」

 

奏夜たちが戻れないということは、9人でのライブは不可能になる。

 

絵里は、断腸の思いではあるが、6人でライブを行うことを話し、梓はその旨をファッションショーの関係者に話すことにした。

 

「あっ、それでね……」

 

梓が今日、μ'sのメンバーのもとを訪ねたのは、統夜の手伝いをするだけではなく、当日の衣装の話をするためであった。

 

前置きをした梓は、先方から預かっていた衣装を取り出す。

 

この衣装は、まるでウェディングドレスを彷彿とさせる衣装であり、凛以外の全員が「おお!」と声をあげていた。

 

「今回センターで歌う人はこれを着てほしいって先方から話があったんだよね」

 

「こ、これを着て歌うの……?凛が……?」

 

穂乃果がいない現在、臨時でμ'sのリーダーをしているのは凛である。

 

リーダーがセンターを担当する故、この衣装を着るのは穂乃果ではなく、凛ということになる。

 

その事実を知った凛は、顔を真っ青にするのであった。

 

どうやら凛は全ての女の子の憧れであるウェディングドレス風の衣装を着るという現実から逃避したいからか……。

 

「シャーーー!!」

 

まるで猫のように近くにいたにこのことを威嚇するのであった。

 

「り、凛が壊れた!!」

 

『おいおい、何やってるんだか……』

 

そんな凛に、イルバは呆れており、一瞬の隙を突いた凛はその場から逃げ出そうとした。

 

しかし……。

 

「……あ、あれ?何で鍵が!?」

 

凛は部室の扉を開けようとするも、鍵がかかっており、逃げられないことに凛は焦りを見せる。

 

そんな中……。

 

「……なんでだと思う?」

 

にこが凛の背後に現れると、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「さ、さあ……?」

 

「それは……散々あんたらに逃げられてるからよ!!」

 

「うに"ゃーーー!!」

 

逃げ場を失った凛を、にこはすぐ確保に入った。

 

凛は抵抗するものの、逃げられないとわかったからか、凛はすぐに観念するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり、凛には似合わないよ」

 

逃げることは辞めた凛ではあったが、センターが着なくてはいけないウェディングドレス風の衣装を着ることを頑なに拒否するのであった。

 

「μ'sのためにも、凛じゃない方がいい!」

 

凛は、自分に自信がないからか、この衣装を着るべきではないとさえ考えていたのだ。

 

「凛ちゃん、そんなことは……」

 

「梓」

 

梓はすぐにそんな凛のことをなだめようとするのだが、凛が女の子らしい衣装は似合わないという事情を偶然にも知った統夜は梓の肩に手を置き、首を横に振る。

 

「統夜先輩……」

 

「梓、ここは俺に任せてくれないか?」

 

統夜は他のメンバーに聞こえないように、梓に耳打ちをすると、梓は無言で頷くのであった。

 

《やれやれ……。本当は凛だって着たいだろうに、自分の気持ちを押し殺しやがって……》

 

(それがわかってるからこそ、今は何も言うべきではないんだよ。今上辺の言葉で説得したって凛に届くわけはないんだからな)

 

統夜は、凛の心境を察しているからこそ、必要以上のことを言うべきではないと判断したのだ。

 

梓は、そんな統夜のことを心から信頼しているため、統夜の言葉に従ったのだ。

 

「ま、どっちにせよ、この衣装は元々穂乃果に合わせてるから、手直しをする必要はあるけどな」

 

この衣装は、穂乃果が着る予定で話が通っており、衣装も穂乃果に合わせて作られていた。

 

なので、凛が着るにせよ他の誰かが着るにせよ、手直しは必要なのである。

 

「そうですね……。この6人の中で、1番穂乃果に近いとなれば……」

 

「うーん……。花陽ちゃん?」

 

穂乃果と体型が似ているのが誰か絵里と希は考えており、希は花陽が1番穂乃果に近いのではないかと考えていた。

 

「え!?私!?」

 

まさか自分に白羽の矢が立つと思ってなかったからか、花陽は驚きを隠せない。

 

すると……。

 

「うん!かよちんがいいにゃ!!」

 

凛はこの衣装を着たくないからか、花陽が候補に挙がると、ここぞとばかりに花陽を推薦する。

 

「で、でも……」

 

「かよちん可愛いし、絶対に似合うにゃ!!」

 

凛のこの言葉は、自分がこの衣装を着たくないというだけではなく、心の底から似合うと本気で思ってたからである。

 

「凛ちゃん……いいの?」

 

「いいに決まってるにゃ!!」

 

「……」

 

花陽は、凛の心情を察しているからか、これ以上は何も言うことは出来ず、このまま、リーダー代理を凛から代わることになり、衣装も花陽が着ることになった。

 

花陽がこの衣装を着るにしても、直しは必要であるため、その作業を行おうとするのだが、その前に、絵里は穂乃果に連絡を入れる。

 

センターが凛ではなく、花陽になったことを報告するためだ。

 

それと同時に、統夜は奏夜に電話をかける。

 

報告する内容は同じなのだが、現在奏夜は、穂乃果たちとは離れていると考えられたため、別個に報告をしているのだ。

 

奏夜が電話に出るなり、奏夜たちが帰れない旨をメンバーに伝えたことや、センターが凛ではなく花陽に変更になったことを報告した。

 

『花陽がセンター……ですか?』

 

「ああ、本当なら凛が着る予定だったんだが、自分には似合わんって渋っちまってな」

 

『そうでしたか……』

 

唐突にセンターが変わったというのに、奏夜は冷静であり、そのことに統夜は首を傾げる。

 

「奏夜、ずいぶんと冷静なんだな」

 

『はい。どちらにせよ俺たちはイベントに出れなくなったから、そこに対してとやかくは言えないんです。それに……』

 

「それに?」

 

『統夜さんなら、今の迷った凛を導ける……。俺はそう信じてるからです!』

 

「やれやれ……。とんでもなく重いものを背負わされた気分だぜ……」

 

自分はマネージャーとしてまともな仕事は出来ていない。

 

しかし、奏夜は軽音部のメンバーを導いてきた統夜を心から信頼していたのだ。

 

「……ま、このまま終わらせるつもりはないしな。この件は俺に任せてくれ」

 

『はい……!統夜さん、よろしくお願いします!』

 

こうして、奏夜は間近に迫ったイベントを統夜に託して、電話を切るのであった。

 

それと同時に絵里の電話も終わったみたいであり、統夜が電話を終えて部室に戻った時には、花陽は既に衣装に着替えていた。

 

「……おお、なかなか似合うじゃないか」

 

花嫁風の衣装を着た花陽を見て、統夜はこのように褒め言葉を送っていた。

 

「そ、そう……ですかね……」

 

異性に褒められるということに慣れていないのか、花陽は頬を赤らめて照れていた。

 

すると……。

 

「……統夜先輩。鼻の下、伸びてますよ……」

 

統夜の微妙な変化を見逃さなかった梓は、ジト目で統夜を睨みつける。

 

「ちっ、違うっての!」

 

「嘘言わないで下さい!統夜先輩は鈍感なくせに、可愛い女の子に弱いとこがあるんだもん……!」

 

梓は、統夜が花陽を見てデレていると思ったからか、焼きもちを焼いて頬を膨らませていた。

 

「だから違うって!俺はな、花陽の衣装を見て、梓と一緒に撮った写真のことを思い出したんだよ」

 

「!?そ、そうなんですか……?////そういうことだったら……。ゴニョゴニョ……////」

 

統夜の言葉を聞いた梓は、顔を真っ赤にして恥ずかしがっており、その様子はまさしく恋する乙女そのものだった。

 

「あー、はいはい。イチャイチャするなら他所でやってよねぇ」

 

そんな統夜と梓を見かねたのか、にこがジト目で統夜と梓を睨みつける。

 

「あっ、ご、ごめんね!」

 

ここでようやく我を取り戻した梓は、にこに謝罪をする。

 

「花陽ちゃん、大体はピッタリなんだけど、部分的に合ってないところがあるから、そこを修正するからね」

 

「あっ、はい……」

 

我に返った梓は、衣装の細かい直しを始め、絵里と希がそれを手伝っていた。

 

そんな中、凛は部室を出て練習に向かおうとしたのだが……。

 

「……」

 

凛は、花陽の着る花嫁風の衣装をジッと眺めていた。

 

本当はその衣装を着てみたいと心で物語っているかのように……。

 

花陽はそんな凛が見ていることに気付いて目が合うのだが、凛は苦笑いをしながら、部室を後にした。

 

「凛ちゃん……」

 

「……」

 

花陽はこの瞬間、凛の本音を理解しており、真姫もまた、先ほどの凛を見て、思うところがあった。

 

(やれやれ……。思ったより、凛の抱えている闇は深そうだな……)

 

《統夜。今日は街の見回りを重点的にやっておけよ。なんか嫌な予感がするからな……》

 

(わかってるって)

 

イルバは、先ほどの凛を見て、今夜は何かが起きそうな予感を感じていた。

 

それは統夜も同じ気持ちであるからこそ、それに同意したのだ。

 

この日は、花陽の衣装合わせを行い、その後6人でのフォーメーションを合わせ、練習は終了となった。

 

練習後、統夜は番犬所へと立ち寄ってから、街の見回りを行う。

 

梓も統夜の見回りに同行しており、現在は2人で行動していた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

統夜が街の見回りを行っている頃、凛は気晴らしに家の近くを歩いていた。

 

その少し前に、自分が着たいと思っていたワンピースを着ようとするも、やはり似合わないと自己嫌悪してしまい、そんな気持ちを紛らわすために歩いていた。

 

しかし、それでも気持ちは晴れることはなく……。

 

(……やっぱり……。凛には女の子らしい服は似合わないよ……)

 

凛は、小学生の頃に、女の子らしくないとからかわれたのがトラウマになってしまい、女の子らしい服を着ることに抵抗を感じるようになった。

 

そして、今回出場するイベントで着る予定だったウェディングドレス風の衣装も、本音を言えば着てみたいと思っていたのだ。

 

ウェディングドレスは、女の子の憧れでもあるため、凛がそのような気持ちになるのも至極当然なことである。

 

しかし、自分には似合わない。

 

この言葉が邪魔をしてしまい、どうしても一歩引いてしまったのだ。

 

そんなことを考えながら道を歩いていたその時、凛は1人の女性とぶつかってしまった。

 

「あっ、ごめんなさい……」

 

凛は謝りながらその女性を見るのだが……。

 

「……」

 

その女性は、只ならぬ気配を出しながら凛のことを睨みつけていた。

 

「あ、あの……」

 

そんな女性の気配に気圧され、凛は少し怯えていた。

 

すると……。

 

「……どうして……」

 

「え……?」

 

「どうしてあなたはそこまで女の子らしいのよ……!控えめで、しおらしくて、私の持ってないものを持っている……!」

 

この女性は、どうやら凛が女の子らしいということを一瞬で見抜いたのだ。

 

しかし……。

 

「そ、そんな!凛なんて全然女の子らしくないです!」

 

「嘘よ!その謙虚な姿勢も女の子らしいじゃない……」

 

女性は、凛に対して妬みの感情を持っているのか、凛のことを悪鬼のような表情で睨みつけていた。

 

「許せない……。許せない!許せない!許せない!!」

 

女性の狂気に満ちた言動に、身の危険を感じた凛はその場から逃げようとした。

 

しかし……。

 

「!?」

 

「逃がさないわよ!あなたみたいない女の子らしい子は許せない!私の餌にしてやるわ!」

 

「!?あ、あなた……!!」

 

凛はこの女性に捕まってしまうのだが、この瞬間、凛は気付いてしまったのだ。

 

この女性がホラーだということに。

 

凛は慌てて逃げようとするものの、ホラーである女性を振り切ることは出来なかった。

 

(凛……。女の子らしくないから、ホラーに狙われちゃったのかな……?)

 

ホラーが凛に対して抱いている印象とは違う印象を、凛は自分で感じてしまい、自己嫌悪に近い感情になっていた。

 

凛はネガティブな感情に支配されそうになっていたその時である……!!

 

「……凛!!しっかりしろ!!」

 

「!!?」

 

どこからか自分を叱責する声が飛び交い、凛はハッと我に返る。

 

「!?だ、誰なの!?」

 

ホラーである女性も、謎の声に戸惑うのだが、それが大きな隙を作ってしまい、凛は女性の手を振りほどいて女性から離れるのであった。

 

それを確認するかのように現れたのは……。

 

「……!とーやさん!梓さんも!」

 

凛たちの前に現れたのは、街の見回りを行っていた統夜と梓であった。

 

偶然近くを歩いていた統夜たちは、イルバが感じた邪気を辿り、この場所へとたどり着いたのだ。

 

「……凛ちゃん!こっち!」

 

梓はすぐに凛を誘導すると、凛は即座に2人のもとへ駆け寄る。

 

「イルバ、こいつがホラーだな?」

 

『ああ。あれだけの邪気を出してたら、ホラーだとバレバレだぜ。魔導火を使うまでもなかったな』

 

女性の抱える陰我はそれだけ根深いのか、凛に対して妬みの感情を出していた時にかなりの邪気を出しており、そのおかげでイルバは早々に気配を探知出来たのだ。

 

「おのれ……!魔戒騎士!私の狩りの邪魔をするな!私は、誰よりも女の子らしい存在が憎くて仕方ないのよ!!」

 

イルバにあっさりとホラーと見抜かれた女性の顔は、血色が悪いなり、悪鬼のような表情で統夜を睨みつけるのが、不気味さをより引き立たせていた。

 

「やれやれ……。ホラーに言われるのは癪かもしれんが、あのホラー、わかってるじゃないか……」

 

ホラーの狙いを理解した統夜は、苦笑いをしながらも魔戒剣を引き抜く。

 

「……梓、凛を頼んだぞ!」

 

「はい!」

 

凛を梓に託した統夜は、魔戒剣を構え、ホラーである女性へと向かっていく。

 

女性は先手必勝と言わんばかりに攻撃を仕掛けようとするが、あっさりと統夜に攻撃をかわされてしまい、反撃である魔戒剣の一太刀を受けてしまう。

 

「……凛!これだけは覚えておけ!」

 

統夜はホラーである女性と交戦しつつも、凛にメッセージを送ろうとしていた。

 

「このホラーが認めているからという訳じゃないけどな……。お前は誰よりも女の子らしいぞ!自分に自信を持て!」

 

「!!!」

 

統夜からの言葉が思いがけないものだったからか、凛は驚きを隠せない。

 

しかし、そんな気持ちを否定するかのようにすぐ俯いてしまい、首をブンブン横に振っていた。

 

「違うにゃ!凛は……凛は!女の子らしくなんてないにゃ!」

 

「だったら、なんであの時あの衣装を羨ましそうに見てたんだ?」

 

「そ、それは……」

 

「花嫁衣装に憧れるのは、当然のことなんだ。それに、お前はスクールアイドルとして、堂々としたパフォーマンスをしてるじゃないか!」

 

統夜は凛と話をしながらも、その太刀筋を曇らせることはなく、統夜の圧倒的な力に、女性は苦戦する。

 

「だって……。ステージではみんながいるし……」

 

「そうだ。お前は1人じゃないし、今のお前は、かつて男の子っぽいってからかわれてたお前じゃない!!」

 

「!!」

 

凛はμ'sのメンバーとして活動することで、多くの仲間を得て、様々な困難を乗り越えてきた。

 

そんな凛が成長していることは統夜はわかっているためこのような言葉を送っていたのだが、その言葉に凛はハッとする。

 

「お前にはμ'sのみんながいる。奏夜と剣斗。それに、ララもな」

 

「統夜先輩と私たちだっているよ!だから凛ちゃん、自分の憧れに遠慮することなんてないよ!だって、私たちは女の子なんだもん!可愛い服を着たいのは当然だよ!」

 

「とーやさん……梓さん……」

 

「やれやれ……。最後は梓にいいところを持ってかれちまったな……」

 

統夜は最後まで言い切って、凛を説得しよとしたが、最後のいいところは梓が持っていってしまい、苦笑いをする。

 

しかし、この言葉は同性から送られるからこそ、効果はあったのだと予想される。

 

そんな中……。

 

「おのれ……!いつまでもごちゃごちゃと!!私を馬鹿にするのもいい加減にしろ!!」

 

統夜の舐めプともいえる戦い方に激昂した女性は、人間の姿から、この世のものとは思えないおぞましい怪物……ホラーへと姿を変えた。

 

『統夜。こいつはホラー、エンヴル。憑依した人間の妬みを増幅させ、妬んだものを食らうタチの悪いホラーだ』

 

「なるほど、妬みね」

 

イルバのホラー解説を聞いた統夜は納得したからか、苦笑いをしていた。

 

そんな中、エンヴルは統夜に接近すると、その爪で統夜を切り裂こうとするのだが……。

 

「……悪いな。俺はそう簡単にやられる訳にはいかないんだよ。大切な恋人と大切な後輩が見てるんでね!」

 

統夜は魔戒剣でエンヴルの爪を抑えると、大胆な言葉を言い放つ。

 

そんな統夜の言葉に、梓と凛は頬を赤らめる。

 

「?2人とも、何で顔が赤くなってるんだ?」

 

『やれやれ……。お前さんの鈍感は相変わらずってところだな……』

 

統夜は梓という恋人が出来ても鈍感な様子に変わりはなく、そんな相棒に、イルバは呆れているのである。

 

「悪いけど、一気にケリをつけさせてもらう!」

 

頬を赤らめる梓と凛を見ながらも、統夜は魔戒剣を奮ってエンヴルを弾き飛ばし、蹴りを放ってエンヴルを吹き飛ばした。

 

「……貴様の陰我、俺が断ち切る!!」

 

統夜は魔戒剣をエンヴルに突き付けてこう宣言すると、魔戒剣を高く突き上げる。

 

そのまま円を描くのだが、その部分のみ空間が変化し、そこから放たれる光に統夜の体は包まれるのであった。

 

すると、空間が変化した場所から白銀の鎧が舞い降り、統夜はその鎧を身に纏う。

 

その鎧は、まるで闇を照らすような輝きを放つ白銀の鎧であり、様々な試練を乗り越えてきたからか、その輝きはより増していたのだ。

 

この鎧は、白銀騎士奏狼(ソロ)。

 

統夜が受け継いだ、統夜の魔戒騎士としての名前である。

 

そして、統夜は、20歳という若さではあるが、最強と言われた黄金騎士牙狼と互角の力を持っていると言われる騎士なのだ。

 

「!?その銀の鎧……!!貴様……!まさか……!」

 

白銀騎士奏狼の名前は、ホラーの間にも伝わっているのか、白銀に輝く鎧を見て、エンヴルはたじろぐ。

 

「俺と零さん、どっちを連想してるかはわからんが、まあ、そこはいいだろう」

 

統夜は、自分と同じような白銀の鎧を身に纏う魔戒騎士である、涼邑零のことを思い出し、苦笑いをする。

 

「ええい!!鎧を召還したからなんだというのだ!貴様を殺し、妬ましいそこの女を喰うのだ!」

 

「悪いけど、そうはさせるか!」

 

統夜は魔戒剣が変化した皇輝剣を構え、迫り来るエンヴルに備えていた。

 

エンヴルは爪による攻撃でソロの鎧を切り裂こうとするのだが、爪による攻撃では、ソウルメタルで出来たソロの鎧に傷を付けることは出来なかった。

 

「!?なんだと!?」

 

「悪いな。その程度の攻撃で、ソロの鎧が貫けると思うな!」

 

エンヴルの攻撃をあえて受けた統夜は、そのままエンヴルを殴り飛ばすと、すかさず追撃を与えるべく接近する。

 

統夜は皇輝剣を一閃すると、その刃は、エンヴルの体を真っ二つに切り裂く。

 

「つ、強すぎる……!その力も……!妬ましい……!!」

 

エンヴルは、統夜の圧倒的な力に妬みの感情を抱きながら消滅するのであった。

 

「あんたもまた、女らしい人だったんだろうな……。だけど、あんたのその妬みが、陰我となって、ホラーを引きつけちまったんだ……」

 

統夜は鎧を解除し、魔戒剣を青い鞘に納めるのだが、その表情は女性の心情を察してなのか、悲痛そうであった。

 

「統夜先輩……」

 

そんな統夜を心配そうに見つめる梓であったが、統夜は梓と凛のもとへと歩み寄る。

 

「……悪い。けど、心配はいらない。事情はどうあれ、ホラーは斬る。それだけなんだから……」

 

「はい、そこは私もわかってますから」

 

自分は何の力もないため、統夜と共に戦えないが、統夜を支えることは出来る。

 

梓は、そのような考え方で統夜を支えていこうと考えており、それを今も実行している。

 

そして……。

 

「あ、あの……。とーやさん……」

 

偶然にもホラーに襲われてしまった凛が、恐る恐る統夜に声をかける。

 

「……凛。何の心配もいらないさ。お前がまだ迷いを振り切れてないとしても、お前にはたくさんの仲間がいる。それだけは覚えておいてくれ」

 

「……はい!」

 

凛はこのように返すのだが、迷いは完全には晴れていない様子であった。

 

しかし、悩んでいた頃と比べたら、その表情は明らかに晴れやかになっていたのである。

 

「……とりあえず、今日は帰ろう。俺たちで送るからさ」

 

「……はい。そうさせてもらうにゃ!」

 

こうして、ホラーエンヴルを倒し、凛を救った統夜は、梓と共に凛を家まで送り届ける。

 

その後、2人が宿泊しているホテルへと向かっていたのだが……。

 

「……統夜先輩」

 

「ん?どうした?」

 

「凛ちゃんなんですけど、大丈夫ですかね……?」

 

梓は、自分に自信を持てない凛のことを心配しており、不安気に統夜に尋ねたのである。

 

そんな中、統夜の答えは……。

 

「……心配はいらないさ。まだ完全には吹っ切れてないみたいだが、もうひと押しあれば、なんとかなるさ」

 

「そんなもんですかね……?」

 

「ああ!」

 

統夜は凛の問題は解決出来ると自信満々だったからか、穏やかな表情で笑みを浮かべる。

 

そんな統夜の顔を見たら、梓は統夜のことを信じることが出来た。

 

統夜は、かつて軽音部のために色々と動いていたこともあり、今回はその矛先がμ'sに向いていた。

 

そんな統夜の手腕を理解している梓だからこそ、統夜のことを信じられるのだ。

 

2人の話が終わり、ホテルへと向かっていたその時だった。

 

「……お?花陽からか……」

 

統夜の携帯が反応したのだが、電話をかけてきたのはなんと花陽であった。

 

「……どうしたんだ?花陽」

 

統夜はすぐに電話に出て、このように花陽から用事を聞き出そうとしている。

 

『統夜さん、すいません……。こんな遅い時間に……』

 

「気にすんなって。それで、どうしたんだ?」

 

『はい。実は、今度のイベントのことなんですが……』

 

花陽は、イベントでのパフォーマンスについて、思うところがあるようであり、それを統夜に報告していた。

 

すると……。

 

「……奇遇だな。俺もまったく同じことを提案しようと思ってたんだ」

 

花陽の話を聞いた統夜は、驚きながらも、自分がやりたいと思ってたことと同じだったため、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

「?統夜先輩?」

 

そんな統夜を見ていた梓は、首を傾げるのであった。

 

統夜は電話にて花陽と打ち合わせを行い、細かい話し合いは明日行うと話したところで電話は終了し、電話を切る。

 

「統夜先輩、もしかして……」

 

「ま、そういうことだ。凛の件だが、なんとかなりそうだぞ」

 

統夜は梓にこう宣言すると、「ふんす!」と強気な笑みを浮かべる。

 

ファッションショーでのパフォーマンスまでもうすぐなのだが、統夜と花陽はいったい何を企んでいるのか?

 

それは、これから明らかになっていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『いよいよこの日がやってきたか。統夜と花陽が何を企んでるかはわからんが、信用するしかあるまい。次回、「変身 後編」。輝く花よ!凛として咲け!』

 




今回は、統夜の戦闘シーンを書きたかったが故に前後編になってしまったのですww

本当であれば、今回とあるキャラを登場させる予定でしたが、次回にずれ込んでしまいました(滝汗)

ですが、成長した統夜の強さが顕著に出ていたのかな?と思っております。

そして、梓という恋人がいながらも、統夜は相変わらずな朴念仁となっているのですww

さて、次回はいよいよ二期第5話の大きな山場の話になっております。

それと同時に、とあるキャラを登場させようと思っております。

それがいったいどのようなキャラなのか?

それは、次回をぜひ楽しみにしていてください!

それでは、次回をお楽しみに!



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第71話 「変身 後編」

大変長らくお待たせしました!第71話です!

まさか、後編の投稿が新年を跨ぐだけじゃなくて2月に差し掛かってしまうとは……(滝汗)

ある程度ネタは詰めてたのに、まとめるのに時間がかかってしまいました(>_<)

そんな感じでの最新話ですが、今回は意外なとあるキャラが登場します。

そのキャラとはいったいどんなキャラなのか?

それでは、第71話をどうぞ!




μ'sが、ファッションショーにてパフォーマンスを行うことが決まり、奏夜たち2年生組は、修学旅行で沖縄へと向かっていった。

 

そんな中、奏夜たちのいる沖縄に台風が直撃してしまった影響で、2年生組はイベントに参加出来ないことを知る。

 

そんな中、臨時のリーダーを引き受けている凛が、花嫁風の衣装を着てパフォーマンスをしなければいけないのだが、それを拒否。

 

最終的には花陽が衣装を着ることとなった。

 

そんな中、凛は自分のコンプレックスを克服出来ず、気晴らしに街を歩いていたところをホラーに襲われ、統夜に救われる。

 

その時の言葉が、凛の心を少しだけ軽くしたのだが、完全に自分の気持ちに素直になり、コンプレックスを克服するまでには至らなかった。

 

そんな中、統夜と花陽がある作戦を企てていたのだ。

 

その作戦が進行する中、いよいよファッションショー当日を迎えた。

 

「これが、ファッションショーの会場……」

 

現在、μ'sの6人と統夜、梓が会場入りしたのだが、統夜たちが目にしたのは、これから行われるファッションショーの準備に奔走するスタッフたち。

 

そして、そのファッションショーにモデルとして参加するであろう華々しい女性たちであった。

 

「……みんな、凄く綺麗ね……」

 

「うん……。なんか、気後れちゃうな……」

 

絵里と花陽は、モデルさんたちを見ると、自分たちは場違いなのではないか?と不安な気持ちになっていたのだ。

 

「ま、ファッションショーなんだもの。こんなもんなんじゃないの?」

 

「あんたねぇ……。なんでこうも冷静でいられるのよ!」

 

そんな中、真姫はモデルたちを見ても一切動じることはなく、そんな冷静な真姫を、にこはジト目で見ていた。

 

「気にすることはないよ!これはスタジオの人から話を聞いたんだけど、今日出るモデルさんも、μ'sのパフォーマンスを楽しみにしてるみたいだよ!」

 

梓がこのような言葉を告げるのは、真実であるのだが、それ以上に、気後れしているμ'sメンバーを励ますためであった。

 

そんな梓の言葉を証明するように……。

 

「……ねぇ、見てみて。あの子たちってあの噂のμ'sじゃない?」

 

「そうそう。あのA-RISEと同じステージでパフォーマンスをしたっていう!」

 

「あれ?人数が少ないね?今日は9人じゃないんだ……」

 

「でも、今日のステージ、楽しみだね!」

 

統夜たちとすれ違うモデルたちが、口々にμ'sを評価する言葉を述べるのであった。

 

「……ほらね?」

 

「モデルさんたちも楽しみにしてるなら、ウチらも気合入れんといかんね!」

 

「う、うん……。そうだね……」

 

ファッションショーに出演するモデルたちも、自分たちのパフォーマンスを期待していると知り、絵里と花陽は胸をなでおろし、希は他のメンバーに喝を入れる。

 

しかし、凛はまだ気圧されてるのか、少しだけ引き気味に返事をするのであった。

 

すると……。

 

「……おお!あんたらが今日出演してくれるμ'sだな?」

 

突如誰かに声をかけられ、統夜たちは足を止める。

 

そこにいたのは、ファッションショーのスタッフとは思えないほど、筋骨隆々な男性であり、「Photo studio NEVER」と背中にプリントしてある革ジャンを羽織り、頭にはバンダナを巻いていた。

 

「だ、誰なの……?この、ファッションショーにはあまりに似つかわしくないこの暑苦しい人は……」

 

「ま、真姫ちゃん、失礼だよぉ〜」

 

真姫はこの男のあまりにガチムチな体型を見て呆れており、花陽が慌てて小声でなだめる。

 

「はい。本日お世話になります、音ノ木坂学院のスクールアイドル、μ'sです!」

 

そんな中、つい最近まで生徒会長であった絵里が、生徒代表として相応しい挨拶を行う。

 

「堂本剛三(どうもとごうぞう)だ。今回このファッションショーの撮影を担当する「Photo studio NEVER」のカメラマンで、秋葉原支店の専属カメラマンをしている」

 

この男性……堂本剛三は、名刺を取り出すと、それを絵里に手渡す。

 

「は、はぁ……」

 

絵里もどうやら剛三がカメラマンだということが予想外だからか、唖然としながら名刺を受け取るのであった。

 

「同じ秋葉原に住む者として、あんたらの活躍はよく知ってるよ。まぁ、話は梓ちゃんから聞いたが、6人での出場というのが残念だけどな」

 

剛三は、今回このファッションショーに出演してもらうからか、μ'sの活躍は知っていたのである。

 

「でも、この6人は、いない3人の分までしっかりとパフォーマンスをしますよ」

 

ここで、統夜はメンバーが全員揃っていないことへのフォローをかける。

 

「ま、月影の坊主の言う通りなんだろうな。期待しているよ」

 

「つ、月影の坊主って……」

 

自分たちより年上である統夜が坊主と呼ばれていることに驚いているのか、絵里は再び唖然としている。

 

その時であった。

 

「……あら!梓ちゃんと統夜ちゃんじゃない!!」

 

高めの男性の声が聞こえてくると、その声の主である、またしてもガタイの良い男性が、こちらへやって来る。

 

「あ、京水さん!お久しぶりです!」

 

「久しぶりねぇ、梓ちゃん!それよりも聞いたわよ!女子大生になったんですって?ちょっと大人っぽくなったんじゃない?」

 

「エヘヘ……。そうかな……」

 

京水と呼ばれた男性の言葉に照れながらも、梓は嬉しそうに笑みを浮かべている。

 

そのような光景が、μ'sの6人にはあまりに異様な光景だからか、6人揃って唖然としている。

 

「統夜ちゃんも久しぶりじゃない!まさかこんなところで会えるなんて、これも何かのご縁だわ!」

 

「は、はぁ……」

 

京水と呼ばれた男は、続けて統夜の方を見ると、目を輝かせながら統夜に迫り、統夜は少しだけたじろぐ。

 

「それに、さらにイケメン度が増しているのね♪嫌いじゃないわ!嫌いじゃないわ!」

 

《このオカマはどうやら相変わらずみたいだな……》

 

(まあ、イルバ。そう言うなって……)

 

イルバはこの京水と呼ばれた男に嫌悪感を出すが、統夜は苦笑いをしながらテレパシーでイルバをなだめていた。

 

「それに、あなたたちが梓ちゃんの言ってたμ'sね!私ほどじゃないけれど、可愛いじゃないの!」

 

「むっ……!いったい何なのよ!このオカマは!ずいぶんと上からじゃない!」

 

「まっ!あなたこそ何よ!生意気な嬢ちゃんね!」

 

どうやら真姫も、京水と呼ばれる男に対して嫌悪感を抱いており、彼の言葉が気に入らないからか、このように反論している。

 

「ま、真姫ちゃん!落ち着いて!」

 

「おい京水!お前も落ち着けって!」

 

花陽は真姫のことをなだめており、剛三が、京水のことをなだめる。

 

「みんな、この人は泉京水(いずみきょうすい)さん。桜ヶ丘にある、スタジオNEVERのカメラマンで、私の両親とも親交がある人なの」

 

「そういえば、梓さんのご両親って、ジャズの演奏家でしたっけ?」

 

希がこう訪ねる通り、梓の両親はジャズの演奏家であり、梓はその影響でギターを始めたのだ。

 

それを説明するかのように、梓は無言で頷く。

 

「そう!私は泉京水よ!カメラの腕ならそこの剛三にも負けない乙女なのよ!」

 

「えぇ……」

 

「おい、京水!今のは聞き捨てならねぇな!」

 

京水の言葉に、真姫はドン引きしており、剛三は過剰に反応する。

 

そんな中、京水は真姫の胸をふと眺め、「ふっ」と真姫のことを鼻で笑う。

 

「そこのツンツンのお嬢ちゃん……。どうやら私の方が1枚上手のようね!」

 

「はぁ?何が言いたいのよ」

 

「私の方が……おっぱい大きいもの!!」

 

厳密に言えば、京水のは鍛えられた胸囲なのだが、それをここぞとばかりに見せつけるからか、梓や統夜を含む全員が引き気味であった。

 

「なっ……!何変なこと言ってるのよ!この変態!!」

 

相手が男とは言え、自分と他人との胸のサイズを比べられて恥ずかしくなったのか、真姫はさっと手と腕を使って胸を隠して恥ずかしそうにしていた。

 

それと同時に京水を睨みつける。

 

「京水!お前、黙っててくれ!頼むから!」

 

そんな京水に呆れた剛三は、このように、京水の発言をシャットアウトしようとする。

 

「ムッキーーーーー!!」

 

京水は目をカッと見開いてムッとしているのを表現するが、そんな京水に、統夜たちは唖然とする。

 

そんな中……。

 

「……おい、そこまでにしておけ。彼女らはこれから準備があるんだ」

 

続けて現れたのは、京水や剛三のようなガタイの良い男性ではなく、スラっとした体型で、派手な髪型と髪色をしており、どちらかと言うとビジュアル系バンドのメンバーにいそうな男性であった。

 

「あっ!克己ちゃん!」

 

「お前たちがμ'sのメンバーだな?うちのカメラマンが迷惑をかけたみたいだな」

 

「あっ、いえ……」

 

この男性の雰囲気が京水や剛三とは異なる雰囲気だったからか、それに気圧された真姫は、いつの間にか京水に対しての嫌悪感が消え去っていたのだ。

 

「あの、あなたは?」

 

「俺は大道克己(だいどうかつみ)。桜ヶ丘や秋葉原に店を構える「Photo studio NEVER」のオーナーだ」

 

この男性、大道克己は、38歳という若さで、桜ヶ丘と秋葉原に店を構えている「Photo studio NEVER」のオーナーを務めている人物である。

 

2年前、統夜と梓の花嫁写真を撮ったのだが、その企画を提案したのは克己であり、秋葉原に支店を置くにあたり、このファッションショーの専属カメラマンという大役を勝ち取ったのも、オーナーの克己であった。

 

「Photo studio NEVER」は、この克己の手腕があって、今日の経営が成り立っているといっても過言ではないのだ。

 

「そ、その若さでオーナーさんなんですね。凄いです!」

 

「まぁ、俺はただ自分のやりたいことをやってるだけなんだがな」

 

克己は幼い頃から写真が好きであり、その好きが興じて自身もカメラマンをやっており、数年前に桜ヶ丘に「Photo studio NEVER」を開設しら今に至る。

 

「京水。お前、撮影の準備がまだ途中だっただろ?こんなところにいてもいいのか?」

 

「あ!おっしゃる通りだわぁ!行ってきま〜す!!」

 

どうやら京水は仕事の途中だったようであり、克己の言葉でそれを思い出した京水は、そのまま仕事に戻るのである。

 

「……ここでお前たちを引き止めるのも悪いからな。今度、写真を撮りにNEVERに来い。まぁ、その時は写真という名の飽くなき地獄を楽しむんだな」

 

『は、はぁ……』

 

克己の言葉が独特だったからか、統夜たちはリアクションに困るのであった。

 

このように統夜たちが戸惑うのもお構いなく、克己と剛三もまた、自分たちの仕事へと戻っていく。

 

「とりあえず控え室に行かないとな。みんな、準備を頼むな」

 

「はい!わかりました!」

 

こうして、統夜を除いた全員が控え室へと移動すると、統夜はその場に待機する。

 

(さて……。こっからどう転ぶか……)

 

《とりあえずは梓からの連絡待ちだろ?なんとかなるんじゃないのか?》

 

(そうだな。とりあえずはのんびりと出番を待つさ)

 

統夜は、自分の出番はまだ先であることを知っているため、梓からの連絡を待つことにしていた。

 

そんな中、統夜を除いた全員が控え室に入ると、荷物を控え室に置いていた。

 

そして、その後は衣装の準備なのだが……。

 

「みんな、衣装は私が準備しとくから、統夜先輩と合流して!もうちょっとでファッションショーは始まると思うから」

 

「すいません、梓さん。それでは、よろしくお願いします」

 

「うん!任せて!」

 

絵里は申し訳なさそうに梓に衣装のことをお願いすると、梓は二つ返事で答える。

 

「ようし、じゃあ、さっそくとーやさんと合流して、ファッションショーを見るにゃあ!!」

 

こうして、凛が先導して控え室を後にすると、他のメンバーもそれを追うように出て行く。

 

梓は全員がいなくなるまで見送っており、この控え室には梓1人が残された。

 

「……さてと……」

 

梓はこれから行われるライブで行われる衣装の準備を行おうとしていた。

 

しかし、何か企みがあるようで、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

そんな中、梓は衣装の準備を始めるのであった。

 

梓が一体何を企んでいるのか?

 

それは、すぐに明らかになる。

 

梓が衣装の準備を行っている間に、絵里たちμ'sのメンバーは統夜と合流。

 

自分たちの出番が近くなるまでファッションショーを見学することになっていたため、会場に移動する。

 

その移動の最中に、統夜の携帯が反応した。

 

統夜は携帯を確認すると、梓からLAINのメッセージが来ていたらしく……。

 

 

 

 

【統夜先輩!衣装の準備は予定通り完了しました!】

 

 

 

 

という内容のものであった。

 

統夜は手筈通りに事が運んでいることに対して笑みを浮かべそうになるが、誰にも悟られないように、ぐっとその感情を咬み殺す。

 

それから、 その後も計画通りに行く旨を梓に伝える形で返信すると、そのまま何事もなかったかのように携帯をポケットにしまう。

 

その後、統夜はμ'sのメンバーと共にファッションショーの舞台裏に移動し、ショーを見学するのであった。

 

統夜たちはファッションショーを見るのは初めてだったため、堂々とランウェイを歩くモデルさんたちに見入っていた。

 

「こ、これがファッションショー……」

 

「これは、凄いわね……」

 

花陽と真姫の2人は、目を大きく見開きながら、ファッションショーに見入っている。

 

「ファッションショーなんて、ニュースの映像くらいしか見た事ないけど、こんな感じなんだな……」

 

「そうですね……」

 

ファッションショーが始まる頃には、梓も合流しており、統夜たちと一緒に堂々とランウェイを歩くモデルさんたちに圧巻されていた。

 

《……それにしても……》

 

(ん?どうした、イルバ?)

 

《あのオカマとあのマッチョだが……。ランウェイを歩くモデルより目が行ってしまうのだが……》

 

(……俺もそれは思ってた……。あの2人、存在感ありすぎなんだよなぁ……)

 

カメラ担当である京水と剛三は、プロのカメラマンに相応しい仕事をしてはいたのだが、その見た目が屈強過ぎるせいでモデルさんより目立つ場面が多々見られている。

 

そんな様子に統夜も気付いており、苦笑いしながらイルバとテレパシーでやり取りをしていた。

 

《それに、絵里のやつはモデルにスカウトされてるみたいだしな》

 

(まぁ、絵里ならここのモデルさんに負けず劣らずだろうけどさ……)

 

絵里も一緒に統夜たちとファッションショーを見学してるかと思いきや、その直前に多くのモデルを擁する事務所の人間が、絵里をモデルにスカウトしていたのだ。

 

絵里はスクールアイドルをやっており、モデルには興味がなかったため、その話を断っていた。

 

しかし、その事務所の人間は、絵里のプロポーションの良さを評価しており、諦めきれないと言いたげに勧誘を続けている。

 

(……ったく、仕方ないな……)

 

絵里は困惑しながら断り続けていたのだが、それを見かねた統夜は……。

 

「……さて、凛。もうすぐ出番だし、そろそろ準備しないとな」

 

「わかったにゃ!」

 

現在μ'sのリーダー代理である凛は、ライブの準備を始めるために、他のメンバーと共に控え室へ向かい、それを見た絵里もまた、改めてモデルの話を断って控え室へと向かっていく。

 

そんなメンバーを手伝うために梓も同行するのだが……。

 

「……♪」

 

梓は言葉を発しなかったものの、「あとは私に任せて」と言わんばかりにウインクをして、μ'sのメンバーについて行った。

 

(さてと……。ここからが正念場だな……)

梓によるお膳立ては終わっており、統夜はこれから何かを行おうとしていた。

 

(大丈夫。あいつならきっと……)

 

統夜は自信に満ちた表情をしており、舞台裏からファッションショーを見学しながら、事の顛末を見守ろうとしていた。

 

そんな中、統夜が何か企んでいることなど知らない凛は、控え室に到着するなり、全員に衣装を着て踊りの確認をするよう指示を出す。

 

「凛ちゃん、凛ちゃんの衣装はそっちだからね」

 

「わかったにゃ!」

 

他のメンバーが衣装に着替え始める中、凛もまた、衣装に着替えるために、着替えボックスのカーテンを開ける。

 

「……あれ?」

 

凛はその中に入っている衣装を見て驚きながら困惑していた。

 

本来であれば、自分は執事風の衣装を着る予定なのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

そこにあったのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花陽が着る予定のウエディングドレス風の衣装だった。

 

 

 

「……ね、ねぇ、かよちん。これ、間違って……」

 

「間違ってないよ」

 

花陽の言葉に凛は振り向くのだが、凛はさらに驚くことになる。

 

凛以外のメンバーは既に着替えを終えており、執事風の衣装を身に纏っていたのだ。

 

「……あなたがそれを着るのよ、凛」

 

「な、何言ってるの?センターはかよちんで決まったでしょ?練習だってそれで……」

 

真姫の言葉に、凛が困惑するのも無理はない。

 

センターが花陽に決まってから、そのように練習を積み重ねており、本番も同様に行うものだと思っていたからだ。

 

しかし……。

 

「大丈夫よ。ちゃんと今朝、みんなで合わせて来たから。凛がセンターで歌うように」

 

「そ、そんな……」

 

「それに、衣装も凛ちゃんにピッタリに合わせてあるよ!」

 

絵里は、今日の朝に凛がセンターでの練習を済ませていることを告げ、梓は、衣装を凛に合わせていることをそれぞれ告白する。

 

最初は凛を欺くために花陽がセンターだということで衣装を用意していたのだが、梓は控え室に1人残された後、凛の衣装と花陽の衣装をすり替えておいたのだ。

 

さらに、梓は前もって衣装のサイズ調整を行っており、衣装のすり替えのみで事が運ぶように仕込んでいたのだ。

 

そんな中、梓はしたり顔で笑みを浮かべつつ、Vサインを凛に見せつける。

 

「み、みんな、冗談はやめてよぉ!」

 

「冗談で言ってると思う?」

 

にこの声のトーンは低く、冗談ではないことは凛にはすぐ理解出来た。

 

しかし、自分が花嫁衣装を着るなど到底受け入れられることではなかった。

 

自分には女の子らしい衣装は似合わない。

 

そんな気持ちが凛の気持ちを押し殺しているからだ。

 

そんな中……。

 

「凛ちゃん。私ね、凛ちゃんの気持ち考えて、困っているだろうなと思って引き受けたの……。でも、思い出したよ! 私がμ'sに入った時のこと」

 

センターが花陽だと決まった時、花陽は凛に全ての負担をかけさせたくないという気持ちからセンターを引き受けた。

 

しかし、花陽は思い出したのだ。

 

自分が何故μ'sに入ったのかを。

 

自分のやりたいことは素直にやるべきだ。

 

そう言って花陽の背中を押してくれたのは凛であった。

 

だからこそ、このような気持ちが芽生えたのである。

 

「今度は私の番」

 

こう言いながら、花陽は優しく凛の手を握るのであった。

 

凛は今、自分のやりたい事、自分の気持ちを必死に押し殺している。

 

そんな感情を消し去り、凛が前に進めるように彼女の背中を押すために……。

 

「凛ちゃん……。凛ちゃんは、可愛いよ!」

 

「えぇ!?」

 

「みんな言ってたわよ。μ'sで1番女の子らしいのは凛かもしれないって」

 

「それに、凛ちゃんが女の子らしかったから、それを妬んでたホラーに狙われたんだよ」

 

梓は凛がホラーに襲われていた時に、統夜と行動を共にしていたため、その時のことを改めて語るのであった。

 

「そ、そんなことないよ、だって凛は……」

 

自分は女の子らしくない。

 

そう言って、再び自分の殻に閉じこもろうとする凛であったが……。

 

「そんなことある!だって、私が可愛いって思ってるんだもん!抱きしめちゃいたいって思ってるくらい、可愛いって思ってるもん!!」

 

「!?」

 

「あ、その……」

 

花陽は感情に任せて自分の思いを告げるのだが、その言葉に凛は赤面し、花陽もまた、恥ずかしいことを言っている自覚があったため、顔を赤らめる。

 

「花陽の言いたいこともわかるわ」

 

そんな中、花陽や凛とは同級生である真姫が、穏やかな表情をしながら話に入ってくる。

 

「それに、見てみなさいよ、あの衣装……」

 

真姫は凛が着る予定であるウエディングドレス風の衣装に目を向けると、凛も同じように目を向ける。

 

「……1番似合うわよ、凛が」

 

「……」

 

1番似合う。

 

真姫のその言葉を聞いた凛は、ジッとウエディングドレス風の衣装を眺めるのであった。

 

しかし……。

 

「でも、やっぱり凛は……」

 

花陽や真姫の力強い説得も功を奏さず、拒絶の言葉を告げようとするのだが……。

 

「……ったく……。凛、お前もいい加減素直になれよな」

 

この言葉と共に突如現れたのは、なんと舞台裏で待機していると思われていた統夜であった。

 

「!!?とーやさん!?どうしてここに!?」

 

統夜がここに現れると予想していなかった凛は、驚きを隠せなかった。

 

「あ、それはね。統夜先輩にも状況がわかるように、通話を繋ぎっぱなしにしてたの」

 

「!?そうなんですか!?」

 

「ま、そういうことだ。俺は男だし、勝手にここに入る訳にはいかないだろ?だから、梓からのゴーサインを待ってたって訳だよ」

 

「な、なるほど……」

 

どうやら凛は事情を理解したようだが、やはり驚きは隠せない。

 

すると……。

 

「凛、お前、本当はあの衣装着たいんじゃないのか?」

 

「!?ち、違うにゃ!それは……」

 

統夜の言葉が図星なのか、凛はどうにか言い訳をしようとする。

 

しかし……。

 

「それは、自分が女の子らしくなくて、自分には似合わないからか?」

 

「!!?」

 

「ったく……。凛よ、お前は本当に馬鹿だな……」

 

「む……!馬鹿は余計だにゃ!!」

 

凛は自分の気持ちを統夜に見透かされるが、統夜の言葉が気に入らず、異議を唱える。

 

「お前はこの衣装を似合わないと思ってるかもしれない。だけどな、ここにいるみんなは、この衣装は凛が1番似合ってる。そう確信してるぜ」

 

統夜のこの言葉に、凛以外の全員が無言で頷く。

 

「凛、お前は女の子なんだ。女の子らしい格好をして何が悪い。それを馬鹿にする奴がいたとしても、それはそいつらの見る目がないだけさ」

 

「……」

 

「凛、まずは自分の気持ちに素直になれよ。自信なんて後からいくらでも付いてくるんだからさ」

 

「自分の気持ちに……?」

 

「そうだ。凛、お前は本当はどうしたいんだ?お前が本当にやりたいことなら、みんなは背中を押してくれるさ」

 

「……」

 

統夜の言葉に、凛は黙り込む。

 

自分が本当はどうしたいのか。

 

そんなことは最初からわかっていた。

 

だが、過去のトラウマから自分の心に蓋をして、自分の本音を隠してしまっていたのである。

 

しかし、今、凛は1人ではない。

 

かけがえのない仲間たちがいる。

 

凛は、ホラーとの戦いで統夜が送ったこの言葉を思い出し、自分の本当の気持ちを伝えるために動き出すのであった。

 

「……凛は、この衣装を着たい!凛だって女の子だもん!可愛い服だって、もっともっと着たいにゃ!」

 

凛の本音を聞いた花陽と真姫は、2人で凛の背中を押す。

 

凛は2人に背中を押されて衣装の前に立つのだが、驚きながら花陽と真姫を見る。

 

花陽と真姫は穏やかな表情で笑みを浮かべるが、何を語る訳でもない。

 

2人が背中を押してくれた。

 

この事実により、凛の迷いは完全に消え去るのであった。

 

「……こっから先は俺たちの出る幕はなさそうだな。梓、行くぞ」

 

「あ、統夜先輩!待って下さいよぉ!!」

 

統夜は笑みを浮かべながら控え室を後にすると、梓はそんな統夜を追いかけるように控え室を後にする。

 

そんな2人を見送った後、凛は眼前に広がる花嫁衣装をジッと見つめていた。

 

その後、仲間たちの言葉に背中を押されたからか、凛は真剣な表情で頷く。

 

その様子から、凛が覚悟を決めたことは容易に察することが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そして、μ'sのパフォーマンスが始まる時間となった。

 

ステージの照明が一度消えると、舞台袖より誰かが登場し、その人物にスポットライトが当てられる。

 

その人物とは、花嫁衣装に身を包んだ凛であった。

 

凛は恥ずかしがることはなく、堂々と歩き、ステージの中央へと移動する。

 

『は、初めまして!音ノ木坂学院のスクールアイドルμ'sです!』

 

凛が自己紹介をするなり、客席から大きな歓声が聞こえてきた。

 

凛の花嫁衣装は1番似合っている。

 

まるでそれを証明するかのように、「可愛い!」や「綺麗!」など、凛を褒める言葉があちこちから聞こえてきたのだ。

 

『そ、そんな……。アハハ……』

 

そんな褒め言葉に慣れないのと嬉しいのがごちゃ混ぜになり、凛は苦笑いをしていた。

 

「……ハラショー……」

 

「可愛いよ、凛ちゃん♪」

 

現在統夜たちは舞台袖で待機しているのだが、絵里と花陽は歓喜の声をあげる。

 

「……うんうん。悪くないじゃないか」

 

統夜もまた、凛の晴れ姿を見て、満足気に頷いていたのだ。

 

すると……。

 

「……統夜先輩?」

 

それを面白くないと思った梓がジト目で統夜を睨みつける。

 

「な、なんだよ!俺はただ、ステージ上の凛を褒めてるだけだろ?」

 

「ふん、もういいもん!統夜先輩なんて知らない!」

 

「おい、梓。拗ねるなって」

 

梓はぷぅっと頬を膨らませながらそっぽを向くと、統夜は慌てた様子で梓をなだめていたのだ。

 

2人がこのようなやり取りをしてるが、すでに本番は始まっている。

 

『……あ、メンバーは元々9人なんですけど、本日は都合により、6人で歌わせてもらいます』

 

凛のこの言葉を聞き、他のメンバー5人がステージに移動し、凛の隣に並ぶのであった。

『でも、他の3人の思いも、うぅん。それだけじゃない。私たちのことをずっと支えてくれた人たちの思いも……。全部込めて歌います!』

 

「梓ちゃん……」

 

「ふっ、良く言ったな……」

 

梓は凛に見とれる統夜に焼きもちを焼いていたが、凛の言葉に心を打たれ、統夜は穏やかな表情で笑みを浮かべる。

 

『……それでは!1番可愛い私たちを、見ていってください!』

 

この凛の宣言と共に音楽が再生されると、6人のパフォーマンスは始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

〜使用BGM→Love wing bell〜

 

 

 

 

 

この曲は、今回のファッションショーで披露するために用意された曲であり、女の子は誰でも可愛くなれるという、全ての女の子に向けた楽曲となっている。

 

自分は女の子らしくない。だけど、今はこんなに可愛い衣装を着ている。

 

自分に自信のなかった凛が歌うことにより、この曲にいっそうの説得力が付き、多くの人がこの曲に聞き入っていたのだ。

 

「……凛の奴、どうにか吹っ切れたみたいだな……」

 

凛のパフォーマンスを見て、統夜は嬉しいという気持ちもあったのだが、その瞳は憂いを帯びており、心の底から喜んでるようには見えなかったのだ。

 

「?統夜先輩?どうしました?」

 

「ん?いやな、スクールアイドルに関してはど素人な俺が悩む凛を導く。奏夜のやつから大きな仕事をもらっちまったが、俺はやりとげられたのかと思ってな」

 

「……統夜先輩……」

 

統夜は、自分の力で凛の悩みを吹っ切らせることが出来たのかが疑問だった。

 

別に自分が介入せずとも、この問題はμ'sだけで解決出来たのではないか?

 

そんなことを思うと、統夜は心の底から喜べなかったのだ。

 

「……もぉ、統夜先輩ってば、本当に馬鹿ですね」

 

「おいおい、いきなりひどい事言うなよなぁ」

 

梓の言葉が予想外だったため、統夜は苦笑いを浮かべる。

 

「確かに、凛ちゃんが吹っ切れたのはμ'sの力ですが、そのきっかけを作ってくれたのは統夜先輩なんですよ」

 

「そう……なのかな……?」

 

「はい!それに、絵里ちゃんも言ってました。統夜先輩は、スクールアイドルに関しては素人のはずなのに、奏夜くん並に頑張ってるって。だからこそ安心して仕事を任せられたって!」

 

「そっか……」

 

統夜は統夜なりに後輩である奏夜の代わりを全うできた。

 

それを知った統夜の表情は、安堵に満ちた表情であった。

 

その後、統夜は梓と共にμ'sのパフォーマンスを見守り、このパフォーマンスは大成功で終わるのであった。

 

「とーやさん!梓さん!大成功だにゃ!」

 

「ああ!バッチリ見てたぜ!お前たちの飛びきりの晴れ舞台をな!」

 

「うん!凛ちゃんもみんなも凄く良かったよ!」

 

統夜と梓は素直に感じている感想を凛に伝えると、その言葉に凛の表情は明るくなる。

 

すると、花陽が満面の笑みで凛に駆け寄ってきた。

 

「やったね、凛ちゃん!大成功だよ!」

 

「かよちん!」

 

パフォーマンスの成功に、凛と花陽は両手を繋いで喜び合い、さらには抱き合い、喜びを噛み締める。

 

すると、μ'sのパフォーマンスを心から称賛するように、舞台裏にいたモデルたちやスタッフたちから惜しみない拍手が送られるのであった。

 

そんな拍手を聞き、凛や花陽はもちろんとして、他のメンバーたちも、満たされた表情になっていたのだ。

 

統夜もまた、穏やかな表情で最高のパフォーマンスを見せてくれたμ'sに大きな拍手を送る。

 

μ'sのパフォーマンスが終わり、ファッションショーも無事に閉幕を迎える事が出来た。

 

最後に、このファッションショーの撮影を担当した「Photo studio NEVER」の粋な計らいによって、参加者全員で集合写真を撮ることになった。

 

裏方である統夜と梓はその写真の中には入らず、自分の携帯でその写真を撮影し、それを沖縄にいる奏夜たちに送ろうと考えていたのだ。

 

そんな中、カメラを率先して引き受けた京水は統夜にも写真に写ってもらいたかったが、統夜はそれを丁重にお断りする。

 

偶然にも、統屋は京水の隣で写真を撮る事になったのだが……。

 

「あぁん!!イケメンな統夜ちゃんの隣で撮影が出来るなんて、みなぎってきたわぁ!!」

 

(アハハ……。撮影に集中出来ねぇ……)

 

統夜は携帯のカメラを構えていたのだが、京水のあまりの暑苦しさに苦笑いしながらカメラを構えていたため、イマイチ集中出来なかったのだ。

 

そんな中だったが……。

 

「はい!撮るわよ!!」

 

こうして、写真撮影はどうにか無事に終了し、京水の暑苦しさに集中力を削がれていた統夜も、どうにか写真を撮ることが出来た。

 

撮影後、統夜はこの写真を今いるメンバーと梓に共有し、凛が代表して沖縄にいる奏夜たちにこの写真を送るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

【大成功にゃ!!】

 

 

 

 

 

 

 

凛だけではなく、他のメンバーたちの笑顔に満ちたこの集合写真を。

 

沖縄にいる奏夜たちはこの写真を見たことによってパフォーマンスの成功を知り、互いに喜び合う。

 

それだけではなく、自分の代わりを務めてくれた統夜にお礼のメッセージを送るのであった。

 

それから数日が経過し、修学旅行へ行っていた奏夜たち2年生組も無事に戻ってきた。

 

そして、この日はμ'sのメンバーが全員揃って行える久しぶりの練習。

 

そんな中、他のメンバーと比べて少し遅れて凛が現れるのだが、彼女に大きな変化がある。

 

以前までは練習着もズボンだったのだが、今は女の子らしいスカートをはいている。

 

これは、自分は女の子らしくなく、自分に自信がなかった凛にとって大きな変化だったのだ。

 

それだけではなく、ファッションショーのパフォーマンスにて自信を得た凛は、今まで着たいと思っていても遠慮していたスカートやワンピースなどを好んで着るようになり、これも変化の現れと言える。

 

そんな凛の変化に、奏夜たちは笑みを浮かべるのだが、その中でも、花陽と真姫は満ち足りた表情を浮かべていたのであった。

 

凛は、変わることの出来た自分に満ち足りた表情を浮かべ、μ'sのメンバーにこう宣言する。

 

「さあ!今日も練習!行っくにゃあ!!」

 

こう、満面の笑みの笑みを浮かべながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな凛の変化を察したのか、統夜は音ノ木坂学院の入り口に立っており、ジッと屋上の方を見つめていた。

 

『……おい、統夜。せっかく来たんだろう?あいつらのとこに顔を出さなくてもいいのか?』

 

「いいんだよ。奏夜の代役としての俺の役目は終わったんだ。今は奏夜がいる。俺は、普通の魔戒騎士として使命を果たすさ」

 

統夜には、魔竜ホラーであるニーズヘッグの眼の片割れと牙を持っている、ジンガのアジトを突き止めるために動いている。

 

ララがもう1つの眼を持っているとわかり、それを守るためにも統夜はジンガのアジトをどうにか探そうとしていたのだ。

 

無論それは、奏夜の代理をしていた時も行ってはいたのだが……。

 

「……凛、頑張れよ……」

 

統夜は穏やかな表情で笑みを浮かべると、そのまま音ノ木坂学院を離れ、どこかへと向かっていった。

 

魔戒騎士として。守りし者として。

 

統夜は自分の果たすべき使命を果たすのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『どうやら月影統夜たちは色々大変だったらしいな。まあ、沖縄にいた俺たちだって、大変な状況だったのだがな。次回、「沖縄」。奏夜たちの修学旅行が、今明かされる!』

 

 

 




ファッションショー当日の件だけでまさか10000字を越えるとは……(汗)

だけど、前作である「白銀の刃」にも登場させた京水は出したかったのですww

それだけではなく、原作ではメタルドーパントだったあの人と克己ちゃんまで出てくるとはww

ダブル本編に出てたネバーのメンバーは、克己がオーナーをしているフォトスタジオのスタッフになっております。

そして、克己ちゃんは当然エターナルには変身しませんww

変身というのはそういうことではないのでww

今回変身したのは凛なのです!

今回の話は、凛メインだけではなく、統夜の存在感も大きく出せた話だと思っています。

さて、次回からは沖縄に行ってた奏夜たちの話になります。

この数話で、沖縄にいる奏夜たちのシーンをあまり入れなかったのは、1話でまとめるためだったのです。

沖縄で奏夜たちを待ち受けているものとは?

次回の投稿はいつになるかは未定ですが、なるべく早めに投稿したいとは思っています。

それでは、次回をお楽しみに!!



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第72話 「沖縄」

大変長らくお待たせしました!第72話になります!

前回の話を投稿してから約4ヶ月……(滝汗)

まさかここまで時間がかかるとは思わなかった(^_^;)

もうすぐ、FF14の新しい拡張版の「漆黒のヴィランズ」が始まるから、余計に執筆する時間ががががが(>_<)

それでも、どんだけ時間がかかっても、完結はさせるのでよろしくお願いします!

そして今回は、沖縄へ行っている奏夜たちのお話になっております。

果たして、奏夜たちはどのような修学旅行を送っていたのか?

それでは、第72話をどうぞ!




奏夜、剣斗、ララの3人は、修学旅行の前に、とある指令を受ける。

 

その指令を月影統夜や天宮アキトの協力を得てどうにかこなした直後に、魔竜ホラー、ニーズヘッグの眷属であるダークスケイルというホラーと遭遇した。

 

そのホラーは、ニーズヘッグの眷属と呼ぶに相応しい力の持ち主であったが、どうにか迎撃に成功する。

 

その後、とあるファッションショーにて、パフォーマンスを行って欲しいとμ'sに依頼が来る。

 

奏夜たち2年生組が修学旅行に行くが、そのショーの前に戻るため、その話を引き受け、奏夜が修学旅行に行っている間、奏夜の先輩騎士である統夜がμ'sのマネージャーを引き受けることとなった。

 

そして、奏夜たち2年生組は、修学旅行先である沖縄へと飛び立っていったのだ。

 

「……海だ!海だ!!海だあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

現在の沖縄は快晴であり、奏夜、穂乃果、海未、ことり、ララは海に遊びに来ているのだ。

 

海に遊びに来ているため、全員水着を着ている。

 

「もう!人の名前を何度も呼ばないで下さい!」

 

穂乃果の嬉々とした声を聞き、海未は勘違いをしたのか、このように反論する。

 

「おいおい。この場合はお前じゃなくて、この海のことだろうが……」

 

海未の勘違いに、奏夜は苦笑いを浮かべながらツッコミを入れていた。

 

「それにしても、綺麗だね!」

 

「うんうん!これが南国の海……!私、海を見ること自体初めてだから、ワックワクだよ♪」

 

ララは、人里離れた里の出身であるからか、海を見た事はなく、海を見るのを楽しみにしていたのだ。

 

飛行機の窓から海は見えていたものの、しっかりと見ていたわけではないし、目の前に広がる大海原が、ララの心を高揚させている。

 

「確かにな……。沖縄の海なんて、テレビでしか見た事ないし……」

 

それは奏夜も同じ気持ちであり、魔戒騎士として殺伐とした毎日を過ごす奏夜にとっては、目の前に広がる大海原は、癒しを与えるものであった。

 

「ま、色々と気になることはあるけどさ、せっかくの修学旅行なんだ。思い切り楽しもうぜ!」

 

「「「うん!!」」」

 

「ええ!!」

 

こうして、奏夜たちは沖縄の海を堪能するのであった。

 

そのため、奏夜たちの修学旅行は順風満帆に進むのかと思われたのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……って!!何で雨なの!?」

 

修学旅行初日の日中は天候に恵まれていたものの、台風接近の影響もあってか、天気は徐々に荒れていき、現在は外の天候は大荒れであった。

 

穂乃果は、この悪天候を涙目で嘆いている。

 

「台風、直撃かもだって……」

 

ことりは、スマホで沖縄の天気の情報を見ていたのだが、台風が接近しており、台風が直撃する可能性が高いとの予報であった。

 

「えぇ!?それじゃあ、海は!?真夏の太陽は!?」

 

「諦めるしかないですね……」

 

「嫌だよ!!だって修学旅行だよ!?一生に一度なんだよ!?」

 

穂乃果は諦めきれないのか、涙目になりながら、どうにもならないこの状況に異議を唱えている。

 

すると、穂乃果は何を思ったのか……。

 

「……逸れろ〜!逸れろ〜!」

 

と、まるで祈祷を行うかのように、窓に映る景色に念を送ろうとしていた。

 

「それじゃあ、無理ですよ……」

 

「あ、そっか!」

 

海未は呆れながら穂乃果をなだめ、穂乃果は納得したのかと思ったのだが……。

 

「……逸れろぉ〜!!」

 

穂乃果は、ことりのスマホに映る台風レーダーに向かって、先ほどのような念を送ろうとしている。

 

「何やってるんですか……」

 

そんな穂乃果に海未が呆れていたその時、穂乃果の携帯が反応したため、穂乃果はすぐにスマホをチェックする。

 

「……あ!絵里ちゃんからだ!」

 

どうやら絵里から電話が来たみたいなので、穂乃果はすぐに電話に出るのであった。

 

「……もしもし、絵里ちゃん、どうしたの?」

 

『どう?穂乃果?そっちは楽しんでる?』

 

「それって嫌味?」

 

『?何のこと?』

 

穂乃果から返ってきた言葉が予想外だったからか、絵里はキョトンとしていた。

 

「もういいよ。で、どうしたの?」

 

『今週末のイベントの件で話があってね。希とも話してたんだけど、代理でリーダーを決めたらどうかなって思ってたの』

 

「へぇ、いいと思う!それで、誰にするかは考えてあるの?」

 

『これも希と話してたんだけどね……。凛にお願いしたいなって思うの』

 

「へぇ、凛ちゃんに?」

 

『私や希は生徒会の方で忙しいし、これからのことを考えて、1年生にお願いしたいなと思っていたのよ』

 

絵里や希は、これからのμ'sのことも考えて、1年生である凛にリーダーをお願いしたいと考えたみたいだ。

 

「それはいいと思うよ!そーくんたちにそのこと伝えておく?」

 

『大丈夫よ。私が電話する前に、希が奏夜に電話しててね。奏夜や小津先生にララもこの話は了承してくれてるわ』

 

「アハハ……。さすが希ちゃん……。抜け目ないね……」

 

希の行動の早さに驚いているのか、穂乃果は苦笑いを浮かべる。

 

『そういう訳だから、穂乃果たちが戻るまでは凛がリーダーってことで話を進めておくわね』

 

「ありがとう、絵里ちゃん!それから、そーくんの代わりにマネージャーの仕事をしてくれてる統夜さんにも、よろしく伝えておいてね!」

 

『ええ、わかったわ!それじゃあ、修学旅行楽しんでね!』

 

そう話を終わらせた絵里は電話を切り、穂乃果は携帯をテーブルの上に置く。

 

その後は、やることがないため、穂乃果たちは部屋でのんびりと過ごすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

絵里が穂乃果へ連絡を取る少し前、奏夜たちは……。

 

「……ねぇ!!何で雨なのさぁ!!」

 

穂乃果たちとは別の部屋で、ララが穂乃果と同じように、涙目で嘆いていた。

 

「……仕方ないだろ、台風が近付いてんだから」

 

「うむ、この天気は遺憾ではあるが、この天気ではホラーも迂闊には動けまい。のんびりと体を休められるのではないか?」

 

今、ララがいる部屋は、奏夜と剣斗の部屋であり、剣斗が教師としての権利を使って奏夜と相部屋にしてもらい、そこにララが転がり込んできたという訳である。

 

奏夜以外にも男子生徒はいるが、この3人が一緒のほうが、ホラーが万が一現れた時に動きやすいという剣斗の判断もあってのことであった。

 

ララが悪天候に嘆く中、奏夜と剣斗は何故か将棋を指しており、2人がララに答える度に、パチッ!と駒を置く音が響き渡っている。

 

「ねぇねぇ!海は!?真夏の太陽は!?私、綺麗な海で海水浴をするの楽しみにしてたんだから!」

 

「流石に諦めるしかないだろ。俺だってせっかくの沖縄なのに残念だと思ってるのにさ」

 

奏夜は淡々と答えながら、再びパチッと音を立てて駒を動かしている。

 

「嫌だよ!!だって、私たち魔戒騎士や魔戒法師には滅多に行けない南国バカンスなのに!!」

 

奏夜が淡々と答えるのが気に入らなかったのか、ララはこのように涙目で奏夜に訴えかけていた。

 

「そうは言っても仕方あるまい。この状況は嘆かわしいが、1分でも早く、この天気が治まることを祈ろうではないか!」

 

奏夜と違い、剣斗はララに対してフォローの言葉を入れながら、自分の駒を動かしていた。

 

ここで、ララがずっと疑問に思っていたことをぶつけていく。

 

「ねぇ、あんたたち、なんで将棋指してるのよ!魔戒騎士なら魔戒騎士らしく、バルチャスでもやりなさいよ!」

 

奏夜と剣斗がなぜか将棋を指していることが気になり、このように指摘をしていた。

 

ちなみに、バルチャスというのは、魔界に伝わる遊戯である。

 

しかし、魔戒騎士としての技量も問われるものであり、バルチャスを制するものは、最強の魔戒騎士になる素質があると言われている。

 

『バルチャスの盤や駒など、このようなホテルに置いている訳がないだろう?』

 

ここは普通のホテルであるため、ここにバルチャスに必要なものが置いている訳はないので、キルバはこのように指摘をする。

 

「それに、仮にバルチャスの道具を持ってきてたとしても、バルチャスはかなり力を使うからな。バルチャスをしてる様子を誰かに見られる訳にもいかないだろう?」

 

「それはそうだけどさ……」

 

奏夜と剣斗が、将棋ではなくバルチャスを選ばなかった理由に納得はしたものの、腑に落ちない感じは残っていた。

 

ここで話は終わり、奏夜と剣斗は再び対局に集中するのだが……。

 

「……ん?電話か?」

 

奏夜が駒を進めた瞬間に携帯が反応したため、すぐさま携帯をチェックする。

 

「……お、希からか」

 

どうやら希からの電話みたいだったため、奏夜はすぐに電話に出た。

 

「……おう、希。どうしたんだ?」

 

『奏夜くん、どうや?そっちは?沖縄、楽しんどるん?』

 

「もちろん!と言いたいところだけど、外はあいにくの雨でな。みんなげんなりしてるよ」

 

奏夜は「げんなり」という言葉を自然と強調しており、奏夜自身もこの状況に落胆していることは察することが出来た。

 

この雨は初日の夕方あたりからひどくなっており、奏夜は統夜に近況報告を兼ねつつ、この現状を嘆いていたりもしたのであった。

 

『アハハ……。それは災難やね』

 

希もそこは理解しており、苦笑いを浮かべる。

 

「ところで、どうしたんだ?修学旅行の進捗を聞きに来たわけじゃないだろう?」

 

『さすがは、奏夜くん!鋭いなぁ♪ウチが電話したのはな、今度のイベントのことや』

 

「もしかして、今後に向けて何かの相談なのか?」

 

『その通りや。奏夜くんたちは沖縄やろ?それで、奏夜くんたちが帰ってくるまで、臨時のリーダーを決めたらどうかなと思ったんや』

 

「まぁ、確かに。その方が練習も捗るとは思うな……」

 

奏夜は「う〜ん……」と考える仕草をしながらも、希の意見を全面的に支持していた。

 

「だけど、肝心のリーダーは誰にするつもりなんだ?希か絵里あたりがやる感じなのか?」

 

『そうしたいのは山々やけど、ウチとエリチは生徒会の仕事をやらんといかんからなぁ』

 

「俺たちがいない間、生徒会の仕事をしてくれて、本当に助かってるよ」

 

現在の生徒会メンバーは、奏夜たち2年生組であるため、修学旅行中は生徒会の仕事を行える者がいない。

 

そのため、前生徒会メンバーである絵里と希が、奏夜たちの代わりに生徒会の仕事を受け持っていたのだ。

 

『それに、今後のμ'sのことを考えたら、1年生の誰かにリーダーを任せたいと思ってるんよ』

 

「なるほど、それは一理あるな」

 

希が提案したのは、μ'sの今後を考えてのこともあったからか、奏夜はそれに同意しており、感心したかのように頷く。

 

「だけど、3人のうち、誰にリーダーをお願いするべきか……」

 

『それなんやけどな、ウチは凛ちゃんが適任なんやかないかな?って思ってるんよ。奏夜くんが了承してくれるなら、エリチにも話して、穂乃果ちゃんたちにも相談しようかなと思って』

 

「凛か……。確かに凛ならやってくれそうな気はするな。どのみち帰ってくるまでは練習はみんなでやってもらうんだから、そこら辺は希や絵里に一任するよ」

 

『了解や♪また何かあったら連絡するね♪』

 

こうして、臨時リーダーの件は希に任せることになり、奏夜は電話を切り、携帯を自分の足元に置く。

 

「奏夜、希から電話だったのだろう?いったい何だったのだ?」

 

「ああ、俺たちがいない間に臨時のリーダーを決めたらどうかって話をしてたんだよ」

 

「おお!それはイイ!今後のμ'sのことを鑑みれば、その体験ば決して無駄なものにはならないだろう!」

 

「私もそう思うな。それが自身に繋がればいいんだけどね」

 

奏夜は希からの話を簡潔に伝えると、剣斗もララも、その話には大いに賛成していたのだ。

 

「ところで、誰が臨時リーダーをやることになったの?」

 

「ああ、希は凛を推薦してたよ。俺も特に反対する理由はないし、そこは希や絵里の判断に任せることにしたんだ」

 

「凛がリーダーかぁ。あの子、元気いっぱいだし、リーダーに向いてるんじゃないかな?」

 

「うむ!凛はその持ち前の明るさとひたむきさがあれば、μ'sをイイ方向へ導いてくれるだろう!」

 

ララと剣斗は、凛がリーダーということに大いに賛成しており、期待もしているのであった。

 

凛本人が、リーダーには向いていないと思い悩んでいくことなど、知る由もなく……。

 

剣斗は、凛がリーダーであることに賛同する言葉と共に、駒を進めるのだが、その一手を見た奏夜は、ニヤリとほくそ笑むのであった。

 

「剣斗……本当にそこでいいのか?」

 

「?……あっ!」

 

奏夜の言葉の意味がわからず、剣斗は首を傾げていたのだが、奏夜の言葉を理解した瞬間、その表情がみるみるうちに青くなる。

 

剣斗の放った一手は、明らかな失着であり、そのポカによって、勝敗が決してしまう可能性がある程のものであった。

 

「そ、奏夜!友としての情けだ!ここはひとつ穏便に話を進めようではないか!」

 

剣斗はしどろもどろになりながら、どうにか待ったをかけるべく、奏夜を説得している。

 

「待った」という言葉は使っていないものの、剣斗の狼狽えぶりから、そんな言葉などなくても、剣斗が待ったを所望していることは理解出来るのだ。

 

しかし……。

 

「……問答無用♪……王手♪」

 

奏夜はニヤニヤと笑みを浮かべながら、剣斗の王を詰もうと、王手を放つのであった。

 

剣斗は、自分の王将が逃げる道を探すのだが、どこへ逃げようとも、王将に逃げ道はなく、完全に詰んでしまった。

 

勝敗が決し、剣斗はガクッと肩を落とすのである。

 

こうして、奏夜たちは外が雨の中、このように過ごしていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も雨は一向に良くならなかった。

 

そのため、奏夜は飛行機が欠航になり、東京に戻れないのでは?という危惧を統夜に伝えるのだが、そのことが現実になってしまった。

 

台風も直撃しており、雨もいっこうに治まる気配がないのだ。

 

そうなることは理解していたものの、奏夜は頭を抱えていた。

 

しかし、この状況をなんとかすることは不可能であるため、東京に残っている6人にパフォーマンスを行うイベントを託すしかなかった。

 

こうして、雨はなかなか治まらず、奏夜たちはホテルでの待機を余儀なくされたまま、時間だけが過ぎていく。

 

そんな中、奏夜には1つだけ気がかりなことがあった。

 

それは、凛のことである。

 

凛は、自分がリーダーには向いていないと、自分に自身のない様子があると統夜から話を聞き、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

奏夜の目から見た凛は元気いっぱいで、心に闇を抱えているようには見えなかったからである。

 

凛が臨時のリーダーのままファッションショーのパフォーマンスの準備は進んでいくのだが、奏夜たちが戻れなくなり、凛がセンターとして専用の衣装を着ることになった途端、凛はその役割を激しく拒否する。

 

そのため、花陽が凛の代理を引き受けることになったのだ。

 

その話を統夜から聞き、奏夜はさらに驚きを隠せなかったのだが、統夜が凛の側についているのならば、きっとなんとかなる。

 

そんな確信があったため、奏夜は改めて自分の代わりを統夜に託したのだった。

 

統夜からその話を聞いた日の夜、奏夜はホテルの屋上にいた。

 

この日の夜あたりから台風が去っていっているからか雨は治まっており、奏夜は外の空気を吸うために屋上へ来たのである。

 

「……」

 

奏夜はぼぉっと空を見上げるのだが、まだ完全に天気は回復してないからか、空は曇り空であり、綺麗な星は一切見ることは出来なかった。

 

『……おい、奏夜。どうしたんだ?そんな辛気臭い顔をして』

 

奏夜の様子がおかしいことを感じ取ったキルバは、奏夜に声をかける。

 

「わかるか?」

 

『当たり前だろう?俺はお前の相棒なんだ。戦いから離れて、腑抜けるんじゃないのか?』

 

「ったく……。相変わらず手厳しいな」

キルバの容赦ない言葉に、奏夜は苦笑いを浮かべる。

 

『それで?どうしたんだ?』

 

「ああ……」

 

奏夜は一息ついたところで、ゆっくりと語り始める。

 

「なんか、情けねぇなぁって思ってな」

 

『?どういうことだ?東京に戻れないのは、台風の影響もあるのだから、仕方あるまい?』

 

「それもあるんだけど、俺が気にしてるのはそのことじゃないんだよ」

 

『そのことじゃない?もしかして、凛のことか?』

 

キルバの問いかけに、奏夜は無言で頷く。

 

「俺さ、μ'sのマネージャーなのに、凛が自分に自信がないだなんて理解出来てなかった。それが情けなくてな。今まで、凛の何を見ていたんだろうな」

 

統夜であれば、凛を導くことが出来る。そのために先輩騎士である統夜に凛のことを託す。

 

それは奏夜の本音で間違いないのだが、凛の抱えている悩みやコンプレックスを理解出来なかった自分が許せないのだ。

 

『お前はμ'sのマネージャーとしてよくやっている。だが、どれだけ親しい者だろうと、そいつの心の奥底に隠したものなどわかるわけないだろう』

 

「それは、わかってる!わかってるけど……!」

 

キルバの言葉はもっともな事であることは奏夜も十分に理解していた。

 

だが、凛のコンプレックスを理解出来なかったというのもまた事実であり、そのことが、奏夜の気持ちをモヤモヤさせ、どのような正論でも納得がいかないのだ。

 

奏夜の表情は一段と暗くなり、心が晴れないまま、再び曇った夜空を見ようとしていたのだが……。

 

「そーくんは情けなくなんかないよ!」

 

「!?穂乃果……」

 

いきなり穂乃果が姿を現したことに、奏夜は驚いていた。

 

「そーくんは私たちのために、いつも一生懸命じゃん!ただでさえ魔戒騎士のお仕事で忙しいのに、しっかりマネージャーとしての仕事もしてくれてるし!」

 

「そりゃ、そうだよ。だって、俺はお前たちを支えるって決めてやってることなんだから」

 

「それに、凛ちゃんのことだって、私も気付かなかったよ。それをそーくんが気にするのもわかる。だけどね」

 

「?」

 

穂乃果もまた、凛が自分に自信がないことを知らないため、μ'sのために一生懸命やってきた奏夜だからこそ、そのことが許せないことも理解していた。

 

そのうえでとあるコトを話そうとしていたのだが、皆目検討のつかない奏夜は首を傾げている。

 

「凛ちゃんには、親友の花陽ちゃんがついてるんだもん!それに、そーくんの代わりを頑張ってくれてる統夜さんだって!」

 

「……」

 

「実はさっきね、花陽ちゃんから電話があったんだ。凛ちゃんの代わりにセンターを引き受けたことを、気にしてたみたいなんだ」

 

「そうか、花陽のやつも思うところはあるよな……」

 

「それでね、花陽ちゃんは花陽ちゃんで考えてることがあるみたいなの。それは多分、統夜さんも考えてるんじゃないかな?」

 

「それはわかったけど、お前は何が言いたいんだ?」

 

凛が自分に自信が持てないことについて、統夜が何か動こうとしていたのは知っていたし、花陽は凛とは小さい頃からの付き合いであるため、なんとかしてあげたい気持ちは理解出来た。

 

だが、穂乃果乃言葉の真意が理解出来ず、奏夜は首を傾げる。

 

「ここは、統夜さんや花陽ちゃんに任せようよ。 そーくんは何でも自分で抱え込み過ぎるんだもん!みんなのコンプレックスさえも何とかしたいそーくんの気持ちはわかるよ?でも、自分の力だけで解決しようとしないで、誰かに任せてみてもいいんじゃないかな?」

 

「!!」

 

奏夜は、穂乃果の言葉に、思い当たる節があるからか、ハッとしながら穂乃果の顔をジッと見つめていた。

 

(そうだよ……。確かに俺は、μ'sのためにがむしゃらに頑張ってきた。だからこそ、俺の力でなんとかすることにこだわり過ぎてたのかもしれないな……)

 

《やれやれ、やっと気付いたのか?μ'sのマネージャーに限った話ではなく、お前は自分の力だけでなんとかしようとし過ぎなんだよ。それで色々と余計なことでクヨクヨしちまうんだ》

 

穂乃果の言っていたことは、予てからキルバが思っていたことでもあったため、穂乃果の言葉を補足するかのように、テレパシーで伝えていた。

 

「穂乃果、ありがとな。俺、色々と考え過ぎてたみたいだよ」

 

「うん♪天気は最悪だけど、せっかくの修学旅行なんだもん!楽しまないと損だよ♪」

 

「そうだな……。ファッションショーのことは残ってるみんなに任せるとして、残りの修学旅行も楽しもうな♪」

 

「うん!」

 

穂乃果の言葉で吹っ切ることが出来た奏夜は、しばらくこの場に留まっており、穂乃果もそれに付き合う形で、2人で屋上にいたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ファッションショー当日、台風が離れていった影響もあるからか、外は快晴であった。

 

台風によって修学旅行のプランは大幅に変更されてしまい、本日は班によって分けられた自由行動の日になっており、翌日東京に帰る予定となっている。

 

奏夜の班には、穂乃果、海未、ことり、ララも一緒であり、5人で沖縄の町を回ることになった。

 

剣斗も奏夜たちについていきたい気持ちはあったが、剣斗は教師であるため、生徒たちに何かあった時にすぐ対応出来るよう、ホテルへ待機することを余儀なくされている。

 

剣斗としては遺憾なのだが、奏夜たちだけに時間を割くわけにいかないので、すぐに納得したのだ。

 

午前中、奏夜たちは沖縄の海にて、海水浴を行っていた。

 

初日の日中に少しだけ海を堪能出来たとはいえ、台風の影響で海を楽しめなかったので、もう一度海で遊ぼうという話になったからだ。

 

それを現すかのように、バナナボートに乗ったりなどして、楽しんでいたのであった。

 

午前中いっぱい海水浴を楽しんだ後は、奏夜たちは昼食を済ませ、近くの水族館を訪れていた。

 

「ねぇねぇ、そーくん!見てみて!綺麗だねぇ♪」

 

「ああ、そうだな」

 

水槽の中を悠々と泳ぐ魚たちを、穂乃果と奏夜は楽しげに眺めており、ことり、海未、ララの3人も近くで水槽の魚を眺めていた。

 

「それにしても、水族館って綺麗なところだね♪私、初めて来たけれど」

 

「そうなんだ!!」

 

ララは初めての水族館に胸を躍らせており、それを聞いたことりは驚きの声をあげる。

 

「私、翡翠の番犬所を頼って本当に良かった♪里にいたら絶対に体験出来ない高校生活を堪能出来てるし、こうして旅行を楽しめたり出来たんだから♪」

 

「……そうだな。ララがそこまでワクワクさせるその気持ち、俺にも理解出来るよ」

 

奏夜もまた、魔戒騎士となり、穂乃果たちと出会うまではこのような当たり前の生活は体験したことはなかった。

 

そのため、ララが心から楽しめていることも理解しているのだ。

 

「あっ、もちろん、魔竜の目を守るって使命は忘れてないよ。ニーズヘッグが復活したら、私の故郷の蒼哭の里だけじゃない。この世界が怒りの業火に包まれるんだもん……」

 

ララは、高校生活を楽しむ中でも、自らに課せられた使命を忘れることはなかった。

 

「だが、それは絶対にさせない。ジンガの目論見はわからないけど、ニーズヘッグは復活させないし、復活したとしても、必ず俺が倒す」

 

使命を忘れていないのは奏夜も同じ気持ちであるため、先ほどまで穏やかだった表情は一気に険しくなる。

 

「そーくん……」

 

そんな奏夜を、穂乃果は不安そうに見つめるのだが、その視線に気付いてすぐに表情は戻る。

 

「おっと、悪い悪い。今は修学旅行中なんだ。天気も戻ったんだから、思い切り楽しまないとな」

 

「うん!」

 

奏夜の表情が戻ったとわかり、穂乃果は満面の笑みを浮かべ、海未やことり、ララの表情も穏やかになる。

 

こうして、奏夜たちは水族館の見学を再開するのであった。

 

水族館を後にした奏夜たちは、各地を回りながらお土産を買うため、色々な店に寄るのであった。

 

「……ね、ねぇ、海未ちゃん……。少し休もうよ……」

 

何軒目かの店を後にした後、穂乃果は疲れを見せながら海未に訴えかける。

 

色々な店でお土産を買ったからか、穂乃果たちの手には、いくつかの紙袋があった。

 

「何を言ってるんです?時間も限られてますし、まだまだ行かなきゃいけないところがあるんですよ♪」

 

「えぇ……」

 

海未は疲れを一切見せず、ノリノリであり、そんな海未を見て、穂乃果はげんなりとしていた。

 

そんな中、奏夜は……。

 

(……そろそろファッションショーは終わる頃だよな?ライブの方は上手くいってるのだろうか……)

 

東京で行われているファッションショーのことが気になっており、考え込む表情を浮かべている。

 

「?そーくん、どうしたの?」

 

そんな奏夜を見て、ことりが首を傾げながら問いかける。

 

「いや、そろそろファッションショーも終わる時間だろ?だから、気になっちまってな」

 

「そういえば、もうそんな時間なんだね!」

 

「奏夜、心配しなくとも、みんななら大丈夫ですよ」

 

「そうだよ!だって……」

 

穂乃果がなにかを言おうとしたその時だった。

 

穂乃果の携帯が反応したのである。

 

「……!凛ちゃんからだ!」

 

どうやら、凛からメッセージが送られてきたようであり、穂乃果はすぐ確認をした。

 

「!みんな、見てみて!!」

 

穂乃果は、凛から送られてきたメッセージを奏夜たちに見せる。

 

それを見た奏夜たちは、穏やかな笑みを浮かべるのであった。

 

そのメッセージには、写真と共にこのような言葉が送られていた。

 

 

 

 

 

【大成功にゃ!】

 

 

 

 

このメッセージと共に送られてきた写真は、μ'sの6人とファッションショーに出演していたモデルたちとの集合写真であり、そこに映っている凛は、まるで迷いを振り切ったかのような満面の笑みを浮かべている。

 

「凛のやつ……似合うじゃねぇか……」

 

この時の凛は、先方から指定された花嫁風の衣装を着ており、凛が迷いを振り切れたことを奏夜は悟る。

 

そのため、嬉しさがこみ上げており、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「ほらね?心配しなくても、みんななら大丈夫だよ!」

 

奏夜の心配が杞憂に終わったとわかった穂乃果は、不敵な笑みを浮かべている。

 

「……そうだよな……」

 

奏夜は苦笑いをしながらも、穂乃果の携帯の画面に映る写真を眺めていた。

 

すると……。

 

「……お、統夜さんからだ」

 

今度は奏夜の携帯が反応したのだが、それを確認すると、統夜からメッセージが送られていた。

 

【奏夜、ファッションショーは上手くいったぞ。凛も迷いを振り切れたみたいだし、もう大丈夫だ!】

 

「統夜さん……」

 

統夜から改めてファッションショー成功の報告を受け、奏夜は嬉しさを隠しきれないまま、メッセージを返信する。

 

【統夜さん、本当にありがとうございます!俺、凛がここまで思いつめてるとは知らなかったですが、迷いを振り切れたのなら、それは統夜さんのおかげです!】

 

奏夜は感謝の言葉を送り、すぐに統夜から返事がくる。

 

【俺は大したことはしちゃいないさ。凛が迷いを振り切れたのは、あいつ自身の決意だし、何より花陽や真姫があいつの背中を押してくれたからさ】

 

凛が迷いを振り切れたのは、確かに花陽や真姫が背中を押してのことなのだが、統夜のさらなるひと声があったからこそなのである。

 

しかし、統夜は大したことはしてないと謙遜してるからか、そこは話さなかったのだ。

 

【それでも、本当にありがとうございました!】

 

【いいんだよ。それに、まだ修学旅行は続くんだろ?楽しんでこいよ!】

 

【はい!ありがとうございます!】

 

ここで、統夜とのメッセージのやり取りは終わり、奏夜は携帯をズボンのポケットにしまう。

 

「……さて!これで心配事がひとつなくなった訳だし、思い切り修学旅行を楽しもうぜ!」

 

奏夜は先ほど以上に朗らかな表情になっており、それを見た穂乃果たちは、クスクスと笑いながら頷く。

 

凛からのメッセージを見たのが良い休憩になったからか、奏夜たちは再び動き始めるのであった。

 

……こうして、奏夜たちの修学旅行は無事に幕を降ろすのである。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

奏夜たちが東京に戻ってすぐは、少しばかり忙しかった。

 

奏夜は番犬所へ戻りの報告をした上で、そのまま魔戒騎士の仕事を再開し、登校日には、絵里や希が行ってくれた生徒会の仕事の報告を受ける。

 

生徒会の仕事がけっこう残っていたことに、絵里はジト目で文句を言っていたのだが、奏夜は沖縄でのお土産を渡しながら詫びを入れていた。

 

そんな中、希はお土産でもらった置物を大事そうに抱えて笑みを浮かべている。

 

その日の放課後、奏夜たちは練習に合流し、久しぶりに全員揃っての練習となったのだ。

 

その時、凛にとある変化があった。

 

普段は練習着もズボンだったのだが、凛は普段履くことのなかったスカートを着ていたのだ。

 

凛は、ファッションショーでの成功で自分に自信が持てるようになったからか、外出の時にも、お気に入りのワンピースを着て、出かけたりもしていた。

 

些細な変化ではあるものの、凛の変化は大きいものであり、穂乃果たちは、それを見て満面の笑みを浮かべる。

 

特に、花陽と真姫の2人は、親友の変化に満足しているからか、満ち足りた表情をみせていたのだ。

 

「……おお!凛ちゃん!似合ってるね♪」

 

「うむ!話は聞いていたぞ!迷いを断ち切って自信を取り戻してのことだったな!イイ!!とてもイイぞ!!」

 

「エヘヘ……。ありがとなのにゃ!」

 

ララは普通に凛のことを褒めていたのだが、剣斗はやや大げさに褒めていたため、凛は少しだけ照れ臭そうにしていた。

 

(凛……良かったな……。これで、お前はまたひとつ大きくなれた。間違いなく、今までのお前じゃない。その変化が、μ'sのみんなにもいい変化をもたらしてくれるはずだ)

 

奏夜もまた、凛が自分に自信が持てないことを気付けず、そのことに苦悩するが、自信に満ちた凛を見て、満足気にもしていたのだ。

 

「そーや君、ど、どう?似合う……かなぁ?」

 

「ああ、もちろん似合ってるぞ!」

 

「!エヘヘ……良かったのにゃ……!」

 

奏夜からの言葉が欲しかったからか、凛は奏夜からの素直な感想を聞き、満足気に笑みを浮かべる。

 

凛はそうしながらも、自分に自信を持てたことへの満足感を持っており、穏やかな表情で空を眺める。

 

そして満面の笑みを笑みを浮かべながら、凛の放つ言葉が、屋上へ響き渡るのであった。

 

 

 

 

「……さあ!今日も練習!行っくにゃあ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ、世間はハロウィンとやらで賑わっているみたいだな。そんな中、また一波乱がありそうな予感がするぞ。次回、「変化 前編」。μ'sの変化か、果たしてどうなることやら……』

 

 

 




皆さん期待してたであろうトランプの件はカットしてしまいました(滝汗)

メインを奏夜サイドにしたかったので、泣く泣くカットしたのです(>_<)

そんな中、普通に将棋を指している奏夜と剣斗(笑)

奏夜は魔戒騎士の中でもかなりの頭脳派なので、将棋やチェスはめっちゃ強いです!

そして、バルチャスの方もなかなかの実力があると思われます。

統夜サイドでは、平然としてた奏夜も、実は色々思い詰めていたりと、ここじゃないとわからない心情も入れてみました。

今回の件で、奏夜も含めてμ'sメンバーはさらに成長したと思います。

さて、次はようやく二期の6話の話になります。

6話はメンバーのコスプレ回。

色々と変えようとは思っているのでご期待ください。

次回更新も遅くなるとは思いますが、なるべく早く投稿出来るように頑張りたいと思います!

それでは、次回をお楽しみに!



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第73話 「変化 前編」

お久しぶりです。ナック・Gです!

前回の投稿から1年以上が経ってしまいました()

色々と忙しいのもありましたが、創作のモチベもなかなか上がらず……。

そんな中でもちょっとずつ執筆を行い、ようやく最新話の投稿を行うことが出来ます。

今回からはアニメ第2期の第6話の話になります。

変化とタイトルがありますが、奏夜たちは、どのような変化をしようというのか?

それでは、第73話をどうぞ!




2年生組が修学旅行の中、ファッションショーの出演依頼がμ'sに来る。

 

しかし、2年生組が台風の影響で当日参加出来ないというアクシデントに見舞われながらも、サポート役としてμ'sを支えていた統夜や梓の起点もあり、ファッションショーでのパフォーマンスを無事に成功させたのであった。

 

それから1週間後、奏夜はいつものように、エレメントの浄化を行っていた。

 

「はぁっ!!」

 

奏夜は魔戒剣を一閃し、飛び出してきていた邪気の塊を斬り裂く。

 

邪気の塊を斬り裂いた奏夜は、魔戒剣を鞘に納め、そのままそれを魔法衣の中にしまう。

 

「キルバ、あと浄化しなきゃいけないところはあるか?」

 

『いや、今日やるべき分は終わったぞ。だからほそろそろ学校へ向かった方がいいんじゃないか?』

 

「そうだな。とりあえず学校に向かうとしますか」

 

エレメントの浄化の仕事を終えた奏夜は、そのまま学校へと向かい歩き出した。

 

しばらく歩いていた奏夜だったが、とある風景が気になったのか、不意に足を止める。

 

『?おい、奏夜。いったいどうしたんだ?』

 

「ああ、いや……。もうすぐハロウィンなんだなぁって思ってさ」

 

奏夜の目に止まったのは、あちこちに散りばめられたカボチャやお化けのオブジェなど、ハロウィンに関する装飾であった。

 

奏夜のいう通り、ハロウィンが間近に迫っており、この秋葉原の雰囲気も、ハロウィン一色となっている。

 

『ああ。確か街の奴らがコスプレやらなんやらして盛り上がるやつだろ?あいつら、本当のハロウィンの目的も知らず、ただ騒ぎたいだけだろうに……』

 

キルバのいう通り、本来ハロウィンというのは、ただコスプレをして盛り上がるだけではなく、欧米諸国にて広まった由緒あるお祭りなのである。

 

この日本でハロウィンだと大いに盛り上がってるのはここ最近なのだが、キルバはこの現状を良しと思っておらず、悪態をついている。

 

「あはは、まあまあ。確かに本来のハロウィンとはちょっと違うかもだけど、こういう行事は多い方が楽しいじゃんか」

 

『やれやれ。奏夜、お前もか……』

 

奏夜もまた実際の文化はどうあれ楽しもうという考え方であり、キルバはそこに大いに呆れている。

 

2人はそんなやり取りをしながら、学校へ向かうのであった。

 

そして放課後、現在は全員でミーティングを行っているのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり大事なのはインパクトなんだよ!!」

 

「はあ?いきなり、なんだよ……」

 

穂乃果のこの発言に面食らった奏夜は、訝しげに穂乃果を見る。

 

「ああ、そういえば、そーくん、最近魔戒騎士のお仕事で忙しかったから、あんまこっちは顔を出せなかったもんね?」

 

ことりの言う通り、奏夜は修学旅行から戻ると、長い時間魔戒騎士の仕事から離れていたということもあり、最終予選の準備もしなきゃいけないことは重々わかった上で、魔戒騎士の使命を優先させていた。

 

そのため、しばらくはμ'sの練習にも顔を出せなかったため、穂乃果の言葉は余計に意味がわからないものだったのだ。

 

「そうなんだよ。最終予選が控えてるこの状況で悪いと思ってはいるんだけどさ」

 

「まったくよ!奏夜ってば、最近なかなか顔を出さないんだもの」

 

にこも奏夜の使命のことはわかってはいるのだが、それでも納得はしてないのか、少しだけ不機嫌そうにしていた。

 

「にこ、落ち着いて?確かに奏夜や剣斗はなかなか顔を出せなかったけど、その分私がサポートに徹してたからさ」

 

ララのいう通り、奏夜だけではなく、剣斗もまた、魔戒騎士の使命を優先しており、それだけではなく、剣斗には教師としての業務もあったため、奏夜以上に顔を出しづらい状況だったのだ。

 

「うむ!だからこそ、ララには感謝しているぞ!おかげで私や奏夜は使命に専念出来るのだからな」

 

「2人は私よりもやるべき事が多いからね?これくらいはなんてことないわよ」

 

ララは、奏夜や剣斗のサポートという仕事を誇らしげにやり遂げていたのであった。

 

「ああ、話がそれちまったな。それで?なんでインパクトが大事なんだ?」

 

「それはね……」

 

こう前置きをした上で、絵里がゆっくりと語り出す。

 

どうやらハロウィンの日に、大きなイベントがあるらしく、最終日には、地元のスクールアイドルであるμ'sやA‐RISEにパフォーマンスの依頼が来たのであった。

 

昨日はμ'sやA‐RISEが出演するというPRがあったのだが、PR勝負はA‐RISEの圧勝であり、μ'sはインパクトでも完全にA‐RISEに負けていたとのことである。

 

「なるほどな。それでインパクトか……」

 

絵里の話を聞き、奏夜は険しい表情になって思案に耽っていた。

 

「ふむぅ、確かにインパクトを求めるのはイイと私も思う。だが、そこまで無理をしてそのインパクトを求めるべきなのか?」

 

「俺もそこは思ってた。無理な路線変更ってのは良くないと俺は思ってるからな。上手くいくハズがないし」

 

奏夜は、穂乃果たちがやろうとしていることを察した上で、そのことに対して苦言を呈すのであった。

 

しかし……。

 

「そこの2人、甘いわよ!もう勝負は始まってるんだから!」

 

「にこちゃんの言う通りです!お客さんの印象に残った方が多く取り上げられるだろうし、みんなの記憶にも残るんです!」

 

奏夜の苦言に思うところがあるからか、すかさずにこと花陽が待ったをかけて、インパクトの大切さを捲し上げる。

 

「その言い分は理解出来るんだがな……」

 

奏夜は、理屈ではその通りと感じながらも、どこか引っかかるところがあった。

 

「でも!あの時にこちゃんがにこにーしようとするから、見向きもされなかったじゃん!」

 

「やりたかったけど、結局出来なかったわよ!穂乃果だって、本来の目的を忘れて普通に答えてたじゃない!」

 

穂乃果は、PRに失敗したのは、にこに原因があると指摘するも、それににこはすぐに反論する。

 

「アハハ……お前らは……」

 

その時の状況が容易に想像出来た奏夜は苦笑いをしていた。

 

「でも。ちゃんとPR出来たとしても、A‐RISEには完敗だにゃあ!」

 

凛は冷静に自分たちとA‐RISEのパフォーマンスの違いを分析していた。

 

「……なるほどな」

 

奏夜は小さな声で呟くと、神妙な面持ちで考え事を始める。

 

「どのみち、PRの件は残念ではあるが、切り替えて、これからどうするかを考えるべきだろう」

 

「そうね。剣斗の言う通りだわ」

 

剣斗がこのようにアドバイスを行い、それにララが同意する。

 

「だからこそ、インパクトが必要なんだよ!」

 

ここで穂乃果は、本題であるインパクトの話を持ち出した。

 

「とは言っても、変に路線変更はするべきじゃないんじゃないか?」

 

神妙な面持ちで考え事をしていた奏夜は、インパクトが必要だということに違和感を感じていた。

 

「そこは私も思ってました」

 

どうやら海未もまた奏夜と同じ考えだったからか、奏夜に同意する。

 

「インパクトってことは、今までにない新しさってことだよねぇ?」

 

「奏夜君の言い分はもっともやけど、やってみるのもええんやないかな?」

 

「希ちゃんの言う通りにゃ!ダメならダメで、また何かを考えればいいんだし!」

 

「ふむ……。まぁ、確かに一理はあるか」

 

奏夜はインパクトを強くすることには反対だったものの、希の意見が理にかなうと判断したからか、これ以上の反対意見は出さなかった。

 

「ねぇ、それならいっそのこと、空気を変えることから始めてみない?」

 

「空気を?」

 

絵里の提案に、穂乃果は首を傾げる。

 

「要するに、μ'sの雰囲気ってのを変えてみるってことだろ?」

 

「ええ。そして、どうせやるなら思い切って変えてみるのもありだと思うの」

 

「絵里もそう思ってましたか!実は私もそう思っていたのです」

 

「??ねぇ、どういうことよ?」

 

奏夜と海未は絵里がやろうと考えていることを察しているものの、他のメンバーはピンと来ないようであり、真姫がこのように問いかけた。

 

「えっと、それはね……」

 

絵里が具体的な例をあげようとしたその時、コンコンと部室の扉をノックする音が聞こえてきた。

 

「はい!」

 

そのノックに絵里が反応すると、部室の扉が開かれた。

 

「よう、みんな。話し合い中に悪いな」

 

「と、統夜さん!?どうしたんですか?」

 

部室を訪れたのは、奏夜の先輩騎士でもある月影統夜であり、大きめのキャリーバッグを手にしている。

 

「それに、その荷物、旅行にでも行くんですか?」

 

「いや、今回はさわ子先生に頼まれて来たんだよ」

 

「え!?師匠から!?」

 

統夜の言葉に、ことりは即座に反応していた。

 

「この前のイベントの後、用事があって桜ヶ丘に戻ってな。その時に学校にも遊びに行ったんだよ。その時にさわ子先生にこれを奏夜たちに届けてくれと頼まれたんだよ」

 

「?俺たちにさわ子先生がですか?」

 

「ああ。なんたってもうすぐハロウィンだろ?今回もさわ子先生は色々衣装を作ったみたいなんだけど、色々着てみて、衣装の参考にして欲しいんだとさ」

 

「そうなんですか!師匠が!!」

 

統夜の手にしているキャリーバッグの中にはさわ子お手製の衣装が入っているとわかり、ことりは目を輝かせる。

 

「これは、グッドタイミングだわ!!」

 

「?絵里?」

 

「この衣装がきっと、私たちの空気を変えるいいきっかけになると思うわ!」

 

絵里もまた、目をキラキラと輝かせながら、統夜の持ってきたキャリーバッグの中身を確認するのであった。

 

衣装をひと通り確認した穂乃果たちは、衣装を試着してみることにしたのである。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

そして、場所は変わって、奏夜たちはグラウンドにいた。

 

そして……。

 

 

 

 

 

「あなたの想いをリターンエース!高坂穂乃果です!」

 

まず最初に現れたのは、何故かテニスウェアを身にまとい、ラケットを手に現れた穂乃果であった。

 

「誘惑リボンで狂わせるわ!西木野真姫!」

 

続いて現れたのが、新体操選手が着る衣装を身にまとい、リボンを手にした真姫である。

 

「剥かないで!まだまだ私は青い果実!小泉花陽!」

 

そして、何故か花陽はミカンの着ぐるみを着て、ゴロゴロしている。

 

ここら辺から、奏夜の顔は引きつり、統夜、剣斗、ララは苦笑いをしていた。

 

「スピリチュアル東洋の魔女!東條希!」

 

次に現れたのは、バレー選手の衣装を身にまとい、バレーボールを手にした希であった。

 

「恋愛未満の化学式、園田海未です!」

 

海未は何故か白衣を身にまとい、眼鏡をかけている。

 

「私のシュートで、ハートマークを付けちゃうぞ!南ことり!」

 

ことりは、ラクロスのユニフォームを身にまとい、ラクロスで使用するラケットを手にしている。

 

「きゅーっとスプラッシュ!星空凛!」

 

凛は競泳水着を付けており、

 

「必殺のピンクポンポン!絢瀬絵里よ!」

 

絵里はチアガールの格好をしており、文字通り両手にピンクのポンポンを持っていた。

 

そして……。

 

「そして私!不動のセンター!矢澤にこ!」

 

にこに関しては何故か剣道の防具を付けており、顔はまったく見えていなかった。

 

この時には、その様子を見ていた奏夜たちの目が点になっている。

 

『私たち!部活系アイドル!μ'sです!!』

 

穂乃果たちは、このように声を揃えてバッチリ決めるのであった。

 

しかし……。

 

『……これは、どこからツッコめばいいのやら……』

 

『奇遇だな。俺様も同じことを考えていたぜ』

 

いの一番に戸惑いの声をあげたのは、魔導輪であるキルバとイルバであった。

 

「俺に聞かないでくれよ…」

 

統夜もまた、リアクションに困ったからか、苦笑いをしている。

 

「これは、なんというか、まぁ……」

 

「うむ……」

 

「……なんか違うんだよなぁ」

 

剣斗とララは戸惑いの声をあげるなか、奏夜はジト目で穂乃果たちを見ていた。

 

「ちょっと待ちなさいよ!私だけ顔が見えないじゃない!」

 

にこは、自分だけ顔が見えない剣道の防具を付けていることに異議を唱える。

 

「いつもと違って新鮮やね!」

 

「スクールアイドルってことを考えると、色んな服を着るというコンセプトは悪くないわね」

 

「だよねだよね!」

 

絵里は色んなな部活の衣装を着るというコンセプトに前向きな気持ちを持っており、それに穂乃果も同意している。

 

ちなみに、剣道の防具以外は全てさわ子お手製の衣装であり、道具に関しては、様々な部活借りたものを使用していた。

 

「そう言われると確かにコンセプト的には悪くはないとは思うがな……」

 

そんな中、剣斗は悪くはないと思いながらも、言葉を濁らせていた。

 

「悪いけど、これだとふざけてるようにしか見えないんだよな。俺がそう感じてしまっているしな」

 

奏夜は、自分の思って意見をハッキリ言って、この衣装は良くないことを伝えていた。

 

「そんなことはないよ!」

 

「なんでそう言いきれる?」

 

「そ、それは……」

 

穂乃果は奏夜の反対意見に異議を唱えようとするも、違うと言い切るだけの理由を見い出せず、言葉を詰まらせる。

 

「少なくとも、ふざけてるって感じてるのがここにいるんだ。本当にふざけてないっていうのなら、そう思われないために、色々工夫をしていく必要があるぞ。本場まで時間はないけど、そこまで出来るのか?」

 

『……』

 

奏夜の言葉は正論だったからか、穂乃果たちはこれ以上何も言うことは出来なかった。

 

「別に責めてる訳ではないぞ?それに、せっかくさわ子先生が色々衣装を用意してくれたんだから、色々試してみたらどうだ?」

 

「そうそう。せっかくさわ子先生が色々衣装を用意したんだ。じゃないと、俺がここまで来た意味がないってもんだぜ」

 

「そうだよね……。よーし!色々試してみようよ!」

 

『おお!!』

 

奏夜だけではなく、統夜からの言葉もあったからか、穂乃果たちは、さわ子が用意した衣装を試着して、μ'sにインパクトを与えるための模索を行っていた。

 

そんな中、穂乃果たちが最後に試着したのが……。

 

「おお!なんかこれ、魔戒法師っぽい衣装だよ!」

 

穂乃果が今着てる衣装は、魔戒法師の魔法衣のレプリカであり、以前さわ子が作った衣装をμ's用にカスタマイズしたものであった。

 

そのため、前は5着しかなかった衣装も、μ'sに合わせているからか、4着増えて、計9着用意されている。

 

それも、全て異なる種類のものだ。

 

「うむ!皆、なかなか似合うではないか!どの衣装もとてもイイ!!」

 

剣斗は、魔戒法師の衣装のクオリティの高さに、感嘆の声をあげる。

 

「そうね。素材はさすがに違うけれども、それでもパッと見は魔法衣そのもだわ」

 

そして、魔戒法師でもあるララも、さわ子お手製の衣装のクオリティの高さには驚かされていた。

 

「驚いたな…。魔戒法師の衣装のレプリカのことは知ってたけど、まさか数が増えているとは……」

 

統夜は高校2年生の学園祭の時に、さわ子が魔戒法師の衣装のレプリカを作っていたことは実物を見ていたので知っていたが、あれから数年経ち、それが増えていたのは予想外だったのである。

 

『ああ。それに、新しく増えたやつも、相変わらずクオリティが高いよな。これには俺様も驚きだぜ』

 

イルバは、新しく増えた衣装の出来の良さを賞賛しており、それに統夜も同意してるのか、無言で頷いていた。

 

「これなら、ふざけてるわけでもないし、イメージを変えるのにはいいかも!」

 

穂乃果は魔戒法師のレプリカの衣装への手応えを感じているのか、この衣装でやっていくことを前向きに考えていた。

 

しかし……。

 

「確かに悪くはないんだけど、なんか違うんだよなぁ……」

 

奏夜は衣装のクオリティには驚いていたものの、この衣装でパフォーマンスすることは違和感を感じていたため、首を傾げる。

 

『確かにな。それに、この衣装を表向きに出すのもまずいかもしれん。こういうきっかけで魔戒騎士や魔戒法師の存在が表向きになる可能性もあるしな』

 

「キルバがそういうなら、この衣装でパフォーマンスっていうのは厳しいかもしれないわね」

 

「そういうことなら仕方ないねぇ」

 

キルバの話を聞いた絵里と希は、この衣装でパフォーマンスすることを断念することを話、受け入れられた。

 

「まぁまぁ。またみんなで色々考えてみようよ!」

 

そこで、ことりがすかさずフォローに入る。

 

「うん。そうだね。色々考えてみようよ!」

 

魔戒法師の衣装のレプリカを含め、さわ子の持ってきた衣装をひと通り試着しても、これだというものはなかったため、改めてどうしていくのか話し合うことになった。

 

「そういえば、俺たちの時はそこまでのことは考えなかったよなぁ」

 

『まぁ、俺たちの時はまだそこまでスマホも普及してなかったしな。それに、すぐに却下になったから俺様も何も言わなかったんだ』

 

「なるほど…」

 

自分たちの時とは事情が違うことに納得したからか、統夜はうんうんと頷いていた。

 

インパクトを与える衣装というのが思いつかなかった穂乃果たちは、屋上へ向かうと、インパクトを変えるにはどうするのか、とある方法を実践することにした。

 

この時には、統夜はさわ子の衣装を持ち帰り、音ノ木坂学院を後にする。

 

こうして、穂乃果たちが行ったのは……。

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございま〜す!……あっ、ごきげんよう」

 

穂乃果は何故か海未の練習着を着ており、仕草も海未の真似をしていた。

 

「海未、ハラショー」

 

「絵里、早いですね」

 

今度は、ことりが絵里の練習着を着ており、仕草も絵里を真似ている。

 

「「…そして凛も!!」」

 

「うっ、うぅ……」

 

凛の練習着を着ているのは海未であり、海未は凛の仕草を真似るのが恥ずかしいのか、モジモジとはしていた。

 

「無理です!!」

 

そして、海未は速攻でギブアップ宣言をするのだが……。

 

「ダメですよ、海未!ちゃんと凛になり切って下さい!あなたが言い出したのでしょう?空気を変えてみた方がいいと!」

 

穂乃果は、海未の口調のまま、海未に凛になりきるよう促す。

 

その言葉は正論だったからか、海未は反論出来なかった。

 

「さあ!凛!」

 

「うっ、うぅ…」

 

海未は、自分の格好をした穂乃果に迫られ、追い詰められていた。

 

ここは、自分もやらなければ先に進まない。

 

そう考えた海未は覚悟を決めたのか……。

 

「……にゃぁぁぁぁぁぁ!さあ!今日も練習、いっくにゃあ!!」

 

海未は恥ずかしさを振り切り、全力で凛になり切ろうとしていた。

 

「ナニソレ、イミワカンナイ」

 

続けて現れたのは凛なのだが、真姫の格好をしており、仕草や表情など、完璧に真姫になり切っていた。

 

「真姫、そんな話し方はいけません!」

 

「面倒な人」

 

凛は真姫になり切ったまま、ぷいっとそっぽを向く。

 

「ちょっと凛!それ私の真似でしょ?やめて!」

 

自分のなり切りが気に入らないのか、希の格好をした真姫が、凛に詰め寄るのであった。

 

「オコトワリシマス」

 

間髪入れずに自分になり切る凛に、真姫は思わずたじろいでしまう。

 

「おはようございます。希?」

 

「う、うえぇ……」

 

海未になり切った穂乃果は、希という名詞を強調してるからか、真姫は再びたじろいでしまった。

 

「あー!喋らないのはずるいにゃ!」

 

「そうよ。みんなで決めたでしょ?」

 

凛になり切った海未は、まるで本人が乗り移ったかのように真姫に抱きついており、絵里になり切ったことりは、正論で真姫を説得する。

 

「べっ、別に、そんなこと……。言った覚えは…ないやん?」

 

真姫は照れた様子をみせながらも、少しでも希になり切ろうと本人の喋り方を真似ていた。

 

それを聞いていた穂乃果たちの表情は明るくなる。

 

「おお!希、さすがです!」

 

海未になり切っている穂乃果は、このように真姫に対して賞賛の声をあげる。

 

すかさず屋上の扉が開かれるのだが、次に現れたのが……。

 

「にっこにっこに〜♪あなたのハートににこにこに〜♪笑顔届ける矢澤にこにこ〜♪青空も〜、にこっ!」

 

次に現れたのは花陽なのだが、完璧ににこになり切っており、本人お得意の自己紹介も完璧にこなしていた。

 

「ハラショー!にこは、思ったよりもにこっぽいです!」

 

「にこっ♪」

 

絵里になり切ったことりに賞賛され、花陽は満足そうにしていた。

 

すると……。

 

「にこちゃ〜ん。にこはそんなんじゃないよぉ〜?」

 

次に現れたのはことりになり切ったにこなのだが、先ほどの花陽の名乗りに異議を唱えようとしていた。

 

「いやぁ〜、今日もパンが美味い!」

 

それから間隔を置かずに希が現れたのだが、穂乃果になり切っているのか、パンを美味しそうに頬張っていた。

 

「穂乃果、また遅刻よ」

 

「ごめぇん」

 

「わ、私って、こんな?」

 

「ええ」

 

穂乃果は、普段の自分がこんなのかと思い知らされたのか、思わず素に戻ってしまっていた。

 

こうして、9人中8人が別人になり切っていたのだが……。

 

「大変です!」

 

最後の1人である絵里が現れたのであった。

 

絵里は花陽になり切っており、普段はあまり出すことのない高い声になっているからか、完璧に花陽になり切っていた。

 

「みんなが……みんながぁ〜!!……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……変よ」

 

花陽になり切っていた絵里は、すぐさまいつもの絵里に戻ると、ジト目で現状の違和感を訴えていた。

 

『…まぁ、もっともだな』

 

心の中では色々思うところがあったキルバではあったが、全員が終わるまではあえて口を開かなかったのだ。

 

「正直、これはなんのコントなのかと思っちゃったわ……」

 

奏夜、剣斗、ララの3人は別人になりきるのには参加しておらず、ララは先ほどの穂乃果たちのなり切りをこのようにコメントしつつ、苦笑いをする。

 

「私としては、これはこれで面白いと思うのだがな」

 

「まぁなぁ。だけど、こんなのすぐにボロが出るし、パフォーマンスには向かないよなぁ」

 

「うむ。その通りだな」

 

奏夜と剣斗はこのアイデアを否定はしなかったものの、冷静にパフォーマンス向きではないと判断していた。

 

「奏夜。私たちもちょっとやってみるか?」

 

「おいおい、剣斗。何を言って……」

 

剣斗の唐突な言葉に、奏夜は苦笑いをするのだが…。

 

「そうじゃないだろ?剣斗」

 

剣斗はさっそく奏夜になり切っているのか、奏夜のことを剣斗と呼ぶのであった。

 

「やれやれ……」

 

奏夜は苦笑いをしながらも、剣斗に合わせることにした。

 

「…うむ!自分ではない者になり切る!イイ!!とてもイイ……!!」

 

奏夜は目をカッと見開いて、全力で剣斗になり切っていた。

 

それを見た穂乃果たちは思わず苦笑いをする。

 

「これは……」

 

「なんというべきか……」

 

「……やっぱり変ね」

 

ララと海未がコメントに困る中、絵里は先ほどのようにジト目で評価していた。

 

奏夜と剣斗もそれは実感しているのか、互いに顔を見合わせて苦笑いをする。

 

こうして、別人になり切るという案はダメだということがわかり、パフォーマンスにインパクトを与えるのにはどうするべきか再び考えなければならなくなったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃……。

 

「…ジンガ様。あなた様より授かりし力、だいぶ定着してきました」

 

秋葉原某所に潜伏しているジンガの拠点にて、アミリはこのような報告をジンガに行っていた。

 

「そうか。こちらとしても、だいたいの準備は整ったところだぜ」

 

ジンガは、アミリからのこの報告を心待ちにしていたからか、表情が明るくなった。

 

アミリにとある力を与えたジンガは、その力が定着するのを待ちつつ、ララが持っていると判明している魔竜の眼をどのように奪うかの策を考えていたのである。

 

「!そ、それでは……!」

 

「ああ。いつぞやかお前が報告してくれた、あの魔戒法師の小娘から竜の眼を奪い、ニーズヘッグを復活させる!」

 

ジンガによるこの宣言は、ニーズヘッグ復活のために動き始めるというものであった。

 

「アミリ。その前哨戦って訳じゃないが、お前にはさっそくひと働きしてもらうぜ」

 

「はっ!なんなりとお申し付け下さい!」

 

ジンガに心からの忠誠を誓うアミリは、ジンガからの命令ならば、どんなことであろうとこなす覚悟を持っていた。

 

「ふっ、頼もしいな。頼むぜ、アミリ」

 

そのようなアミリという存在にジンガは頼もしさを感じており、さっそくアミリにとある指令を出すのであった。

 

この時、奏夜たちは知る由もなかった……。

 

これからそう遠くない未来にジンガが動くということを……。

 

そして、かつてない程の激闘が待ち受けているということも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ……。奏夜たちは色々と迷走しているようだな。そんな中でも、暗躍する影があるとはな……。次回、「変化 後編」!その暗雲、輝く刃で斬り裂いてやれ!』

 




今回はハロウィン回ですが、けっこう話を飛ばしてるところがあったと思います。

その理由としては、次回の後編は、本編だけではなくオリジナルの話も入れようと考えているからです。

それがどうなるのかは次回を楽しみにしていて下さい!

そして今作にも現れたさわちゃんのハイクオリティな衣装!

前作では、放課後ティータイムのメンバーが魔戒法師の格好をしていましたが、今回は穂乃果たちが魔戒法師の格好を!

新たに4人の魔戒法師の衣装が追加されましたが、前回の分も合わせて誰の衣装が追加されたかはあえて伏せておきたいと思います。

μ'sのメンバーがどのような魔戒法師の格好をしているかは、皆さんの想像にお任せすることにします。

さて、次回ではオリジナルの話を入れると書きましたが、動き出すジンガとアミリ。

奏夜たちを待ち受けるものとは?

次回の投稿はいつになるかわかりませんが、なるべくモチベーションを上げて、早めに投稿したいと考えています。(毎度言っているが、徐々に亀投稿に)

それでは、次回をお楽しみに!



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第74話 「変化 後編」

お待たせしました!第75話になります!

前回投稿からはかなりの時間が空いてしまいましたが、今回は思ったより早く投稿が出来ました。

前回、A‐RISEに対抗するために色々と模索する奏夜たちであったが、突破口を見出すことは出来るのか?

それでは、第74話をどうぞ!




奏夜たちμ'sは、ハロウィンでパフォーマンスをすることになったのだが、A-RISEに対抗するために、いつもとは違うインパクトを求めて試行錯誤を重ねていた。

 

しかし、妙案が浮かぶどころか全てが空回りに終わり、インパクトを求めるということは迷走している。

 

それでも、ハロウィンでのパフォーマンスに向けて、曲や衣装などの準備は進めていた。

 

その頃、秋葉原某所では……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、はぁ、はぁ……」

 

OLなのだろうか、ビジネススーツを身にまとった女性が、長い黒髪をなびかせながら全力で駆け出していた。

 

まるで、何かから逃げるように……。

 

この女性は、ジンガに仕えているアミリに雰囲気か似ている女性であった。

 

すると、必死に何かから逃げる女性に、1つの影が迫る。

 

「くくく……。逃がしませんよ?あなたを始末するのが、この私の仕事ですからね」

 

女性に迫っているのは、ビジネススーツを身にまとい、メガネをかけている、いかにもビジネスマンといった雰囲気を出す男性だった。

 

女性を追う男性の眼が怪しく輝いており、この男性がホラーであり、この女性を標的にしている。

 

「…どうして……っ!こんなことに……」

 

未知の怪物に追われている女性は、この状況に絶望しながらも、必死に逃げ惑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

女性がホラーに襲われる少し前、奏夜は偶然にも見回りでその付近を歩いていた。

 

「……」

 

奏夜は何か考え事をしているのか、険しい表情で歩を進めている。

 

『…おい、奏夜。どうしたんだ?そんな難しい顔をして』

 

「……あぁ」

 

そんな奏夜を訝しげに思ったのか、キルバが声をかけるが、奏夜は生返事を返していた。

 

『もしかして、焦っているのか?一刻も早くジンガの拠点を見つけて、ニーズヘッグ復活を阻止しないととか思ってるんじゃないだろうな?』

 

「…そりゃ、それも大事な使命だし、それもちょっとは考えてはいたさ」

 

『ということは、穂乃果たちの言っていたインパクトとやらか?』

 

「……ま、そういうことだ」

 

相棒であるキルバに見透かされていることを予想していたのか、奏夜は苦笑いを浮かべながら返事をしていた。

 

「…あれからずっと考えていたんだ。確かに、あのA‐RISEに対抗するためには、インパクトのある何かを表現しなきゃいけないかもしれない。だけどさ……」

 

『む?』

 

「そもそもの話なんだが、μ'sって、性格も個性もバラバラな9人が1つになって、大きなものを作っていく。それだけでも充分インパクトがあるんじゃないかと思ったんだよ」

 

『…なるほどな。まぁ、お前の言い分は理解出来るさ』

 

奏夜は色々考えを巡らせていた中で、このような結論に至っており、それにキルバも納得していた。

 

「穂乃果たちもそのことにきっと気付けるさ。俺はそう信じている」

 

奏夜のこの発言は、穂乃果たちがスクールアイドルとして多くの苦境を乗り越えてきたことを目の前で見てきたからこそ出た言葉である。

 

『ま、確かにそうかもしれんな。あいつらはあいつらでそれなりに成長してるからな』

 

穂乃果たちがスクールアイドルとして成長しているのはキルバも感じており、そこはキルバも認めていた。

 

「このハロウィンのパフォーマンスでそれに気付けた時、穂乃果たちはまた大きく成長する。あのA‐RISEに匹敵する実力を付けつつあるしな」

 

奏夜は、今度のパフォーマンスで穂乃果たちが更なる成長を遂げてくれることを大いに期待していたのであった。

 

その時である……!

 

『…!奏夜!ホラーの気配だ!ここから近いぞ!』

 

「!!行くぞ、キルバ!」

 

キルバがホラーの気配を探知したため、奏夜はキルバのナビゲーションを頼りに、現場へ急行することになった。

 

 

 

 

 

 

そんな中でも女性は必死にホラーである男性から逃げ惑っていたものの、運悪く近くの石につまづいてしまい、転倒してしまう。

 

「…あぁ……!!」

 

転倒してしまったことにより、ホラーである男性に追いつかれてしまい、女性は恐怖で顔をひきつらせるのであった。

 

「くくく、ようやく追い詰めましたよ。まったく……。思った以上に手こずらせてもらいましたね」

 

逃げ惑う女性が逃げられない状況になっているのを見たホラーの男性はニヤリと怪しい笑みを浮かべながら、女性に迫る。

 

「これが私の仕事ですので、悪く思わないでくださいね?」

 

この男はホラーに憑依される前はビジネスマンだったのか、獲物の捕食を仕事と称して正当化しようとしていた。

 

男性の手が女性に伸びようとしていたその時である。

 

「……そこまでだ!」

 

キルバのナビゲーションで、ホラーのいる場所へと向かっていた奏夜が現れたのであった。

 

「ん?何ですか?君は?」

 

男性はホラーの姿にはなっておらず、人間の姿のままだったため、とぼけてその場をやり過ごそうとしていた。

 

しかし、奏夜はすぐさま魔導ライターを取り出すと、橙色の魔導火を灯す。

 

魔導火は男性の瞳を照らすのだが、男性の眼からは怪しい紋章のようなものが現れた。

 

この男性がホラーである何よりの証である。

 

「やれやれ、魔戒騎士ですか……。私の仕事の邪魔をしないで貰いたいのですがねぇ」

 

突然現れた魔戒騎士である奏夜の登場に、男性はうんざりしたかのように肩を落とすのだが、そこから間髪入れずに奏夜に拳による攻撃を繰り出す。

 

奏夜はその動きを見切っていたからか、無駄のない動きで攻撃をかわし、逆に反撃と言わんばかりの蹴りを放って男性を女性から遠ざけようとしていた。

 

「……今のうちに逃げろ!」

 

「はっ、はい!!」

 

突然の出来事に戸惑いを隠せないのか、キョトンとした表情のまま、奏夜に言われるがまま逃げるようにその場を離れたのであった。

 

しかし、この時奏夜は気付かなかった。

 

女性が逃げた直後に、蝶のようなものが奏夜の魔法衣に紛れるかのように中に入っていったのを……。

 

「……仕方ないですね。魔戒騎士、相手をしてあげますよ」

 

獲物である女性に逃げられしまったため、男性は目の前の障害である奏夜を倒すことにしたのであった。

 

「……悪いが、俺は最初からお前を斬るつもりだったぜ」

 

奏夜はゆっくりと魔戒剣を抜くと、剣を構えて男性をじっと見据える。

 

お互いその場に留まり、相手の動向を伺っていたのだが、先に動いたのは、男性の方であった。

 

男性は手のひらから植物の蔦のような触手を出すと、それを奏夜に向かって放つ。

 

奏夜は冷静にその動きを見極めており、魔戒剣を振るうことで、男性から放たれた触手を斬り裂いていく。

 

「この程度は序の口ですよね。だったら、これならどうですか?」

 

先ほどは片手のみ触手を出していたのだが、今度は反対の手も突き出し、両手から放たれる触手が奏夜に襲いかかる。

 

「……っ!」

 

奏夜は後ろに後退しながら魔戒剣を振るい、触手を斬り裂いていくが、男性は何度も触手を放ち、奏夜はそれを切り裂き続け、なかなか反撃するチャンスを掴めずにいた。

 

「こいつ……!なかなかやるな…!」

 

『おい、奏夜!このままじゃキリがないぞ!まずはあの触手をなんとかしなければ!』

 

「そうだな……!斬っても斬ってもキリがないなら、攻撃を避けながら反撃の機会を伺うまでだ!」

 

奏夜は再び魔戒剣を振るって触手を切り裂くと、続けて迫り来る触手は、軽やかな身のこなしで避けていた。

 

「ほう……?作戦を変えて来ましたか?ですが、いつまで持ちますかな?」

 

男性は、奏夜が自分の攻撃をかわしながら接近しようとしていることは読めていたため、それを阻止するために、攻撃を激しくしていた。

 

「くっ……!こいつ……!!」

 

男性がなかなか反撃の機会を与えないことに奏夜はやや焦りを覚えるものの、突破法が見いだせないため、どうにか攻撃を避け続けていた。

 

「おやおや、あの尊師様を退けた魔戒騎士の実力とは、この程度なのですか?」

 

「へっ、言ってくれるじゃねぇか……!」

 

男性は奏夜に対して挑発ともとれる言葉を放つものの、奏夜はニヤリと笑みをこぼしながらその言葉を受け流していた。

 

(仕方ねぇ……!こうなったら、鎧を召還して一気に距離を詰めるか?いや、ダメだ!鎧の召還だって制限時間があるんだから……!)

 

奏夜は突破口を開くために鎧の召還を行おうと考えるものの、男性がまだホラーの姿を晒していないこともあるため、今はそのタイミングではないと判断していた。

 

(だが、このままだとジリ貧なのも事実。一か八かだが、前に出るしかないか!)

 

奏夜は意を決して男性に接近しようと試みようとしたその時であった。

 

どこからか現れた何者かが剣を振るうと、男性の触手を斬り裂いていった。

 

「!?何者だ!!」

 

男性は突然の乱入者に驚き、攻撃の手を止めてしまった。

 

男性と奏夜の間に現れたのは……。

 

「よう、奏夜。ずいぶんと手こずってるみたいだな」

 

「!リンドウ!すまない、助かったよ」

 

奏夜と同じ翡翠の番犬所所属の魔戒騎士であり、様々な修羅場をくぐり抜けてきた魔戒騎士でもある、天宮リンドウであった。

 

「魔戒騎士がもう1人現れましたか!ですが、何人来ようと私の敵ではありません!あなた方など、一気に蹴散らしてみせましょう」

 

リンドウの出現に男性は平静を装いながらも、焦りは隠しきれず、二人を見一気に倒すために、ホラーの姿へと変わったのであった。

 

『奏夜。奴はホラー、ヘデラ。あの姿になったら触手の攻撃はより激しくなるぞ!気を引き締めろ!』

 

「ああ、わかってるさ!」

 

ギルバがこのように説明するのは正しいのか、ホラーの姿へと変わったヘデラは、植物のような見た目のホラーであり、先ほどのように植物の蔦のような触手を放って攻撃してきた。

 

奏夜とリンドウはそれぞれ魔戒剣を振るって触手を切り裂くが、その攻撃は激しさを増していく。

 

「やれやれ……。煙草を吸う暇すら与えてくれないか……!」

 

リンドウはホラーとの戦闘中でも煙草を吸うほどの愛煙家であるものの、ヘデラはそんなチャンスを与えてはくれないほど攻撃が激しかった。

 

『リンドウ!今は戦闘中ですよ!もっと集中してください!』

 

リンドウの相棒の魔導輪であるレンが軽口を放つリンドウのことをたしなめる。

 

「へいへい。わぁってるよ!」

 

そんなレンの小言を流しながらも、リンドウは魔戒剣を振るい続けていた。

 

「……!待てよ…?奴は植物のホラーならば、もしかして……」

 

奏夜は魔戒剣にてヘデラの攻撃をしのぎつつも、何かを思い付いたようであった。

 

「キルバ!あいつに向かって魔導火を放ってくれ!」

 

『なるほど、そういうことか!!』

 

奏夜の意図をキルバが理解したところで、奏夜は行動に出る。

 

奏夜は片手でヘデラの触手の攻撃をしのぎつつ、キルバを嵌めている左手をヘデラの方へ突きつけた。

 

「……っ!キルバ!今だ!!」

 

『ああ!!』

 

奏夜の合図と共に、キルバは口から魔導火を放つのであった。

 

「!?」

 

キルバから放たれた魔導火を恐れているのか、ヘデラは攻撃の手を止めて一歩後ろへ下がってしまう。

 

「なるほど。奴さんは植物のホラーなら火に弱いって訳か」

 

リンドウはホラーの特性を戦いながら見抜き、突破口を見出した奏夜に対して称賛の目を向けていた。

 

『奏夜、今だ!』

 

『リンドウ!今がチャンスです!』

 

「ああ!」

 

「わかってるって!」

 

このチャンスを逃すまいと、奏夜は魔戒剣を上空へ突き出し、リンドウは魔戒剣を前方へ突き出した。

 

奏夜は上空で魔戒剣を円に描き、リンドウは八の字を描く。

 

奏夜は自ら描いた円から放たれた光に包まれ、リンドウは描いた八の字が円の形になった後にその円からの光に包まれる。

 

それぞれが放った円から鎧が現れると、2人はそれぞれの鎧を身にまとった。

 

奏夜が身にまとっている鎧は、陽光騎士輝狼。牙狼とは異なる黄金の輝きを放つ鎧である。

 

一方、リンドウが身にまとっている鎧は、神食騎士狼武(ロウム)。その鎧は漆黒の鎧であるものの、闇は感じず、雄々しさを放っていた。

 

鎧を召還したことで、奏夜の魔戒剣は陽光剣へと姿を変え、リンドウの魔戒剣は、先ほどよりも形が大きくなり、ノコギリのような刃が特徴の機神剣へと姿を変化させる。

 

「しまった……!思わず怯んでしまいました……。ですが、鎧を召還したところで!」

 

ヘデラは、自らが与えてしまった隙により、奏夜とリンドウに鎧の召還を許してしまったが、それでもこの2人を倒すつもりでいた。

 

しかし……。

 

「悪いな……!一瞬でも隙を作ったこと、それがお前の敗因なんだよ!」

 

「ええい、ほざくな!!」

 

奏夜の言葉に激昴してしまったヘデラは、先ほどよりも攻撃の勢いを激しくしていた。

 

「これ以上、お前を暴れされるかよ!一気に決める!」

 

奏夜は、ヘデラの攻撃を避けながらも、自らの魔導火である橙色の魔導火を身にまとい、烈火炎装の状態となる。

 

それとタイミングを同じくして、リンドウは自らの魔導火である青紫色の魔導火を身にまとい、同様に烈火炎装の状態となった。

 

「奏夜!決めるぞ!」

 

「ああ!!」

 

奏夜とリンドウは同時に魔戒剣を振るうと、それぞれの魔導火の刃が飛び出し、同じタイミングでそれをヘデラに向かって放つ。

 

ヘデラは触手による攻撃でどうにか凌ごうとするも、魔導火の刃が迫り来るスピードは速く、為す術もなくその身体が切り裂かれてしまった。

 

「ばっ、馬鹿な……!この私が……!ですが、これでいいのです……。私は、しっかりと仕事は果たしたのですからね……」

 

「!?どういうことだ!」

 

ヘデラの放つ意味深な言葉を奏夜は問い詰めようとするものの、ヘデラはそれに答える間もなく身体が消滅していき、その陰我と共に消えていった。

 

「……あのホラーの言ってたことは、いったいなんだったんだ……?」

 

奏夜は、ヘデラの言葉に戸惑いながらも、鎧を解除し、魔戒剣を鞘に納めた。

 

「さぁな。あのホラーが暴れてるのも、ジンガの策略のひとつなんだろうさ」

 

リンドウもまた、鎧を解除し、魔戒剣を鞘に納めながら、このような推察をする。

 

「もうすぐあいつも動き出すってことか……」

 

『奏夜、リンドウ。気を引き締めろよ?もしジンガが動くということは、俺たちに竜の眼が渡っていることを知っている可能性が高いということだからな』

 

「そうだな……」

 

戦いを終えたばかりではあるが、今後激闘が繰り広げられるだろうと予想しているからか、奏夜の表情は険しくなっていた。

 

ヘデラを討滅した奏夜とリンドウは、このことを番犬所へ報告するために、そのまま番犬所へ向かうのであった。

 

その事実を知ったロデルは、奏夜たちに今まで以上に警戒を務め、可及的速やかにジンガの拠点を見つけるよう指令を出すのである。

 

しかし、その後はジンガが動く様子はみられず、そのままハロウィン当日となってしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

ハロウィン当日、街はカボチャのオブジェやらオレンジや黒の風船やらなどで装飾されており、この日がハロウィンであるということがよくわかる街並みだった。

 

それだけではなく、この日はハロウィンということもあり、人々もまた、仮装を楽しんでいる様子もあった。

 

「……うぅ、いよいよライブ……。緊張するね……」

 

奏夜たちはパフォーマンスが行われる会場へ向かっていたのだが、穂乃果が不安そうな表情で奏夜に話しかけていた。

 

「まぁ、今の俺たちにやれることはやったんだ。気負いせず楽しんでいこうぜ」

 

奏夜がリンドウと共にヘデラを討滅した次の日以降もパフォーマンスにインパクトを出す方法を思案していたが、いいアイデアは浮かばず、本番用の衣装と曲の練習を最優先事項としていたのである。

 

その中でも、奏夜たちは自分たちに与えられた役割をそれぞれこなしていき、どうにか本番である今日を迎えたのであった。

 

「そうね。だから、楽しんでいきましょう」

 

奏夜の言葉に絵里も同意しており、穂乃果をリラックスさせるために声をかけるのである。

 

「それに、みんなはほら、楽しそうよ」

 

そう言いながら絵里は後ろを歩いている他のメンバーに視線を移し、奏夜と穂乃果も同様に眺めていた。

 

すると……。

 

「ねぇ、見てみて!おっきなカボチャだにゃあ!」

 

「本当だ!凄いねぇ!こんな大きなカボチャ、私見たことないよ!」

 

凛とララが、大きなカボチャのオブジェを目を輝かせながら眺めており、他のメンバーはそんな2人の様子を見守っていた。

 

「そうだねぇ。……凛ちゃん、ララちゃん。撮るよ〜」

 

そんな2人の言葉に、花陽はスマホを構えながら同意しており、凛とララのことを写真に撮る。

 

その楽しげな様子に、他のメンバーは笑みを浮かべていた。

 

しかし、穂乃果だけはその様子を見て何かを感じ取ったのか、目を大きく見開いてその様子を眺めていた。

 

「……?穂乃果?どうしたの?」

 

「え?ううん、なんでもないよ!」

 

絵里に声をかけられて穂乃果はハッとするが、少し間を置いてから、話を切り出した。

 

「……ねぇ、絵里ちゃん。そーくん」

 

「ん?」

 

「どうした?」

 

「私、このままでいいと思うんだ」

 

「ほう……?」

 

穂乃果の言葉に、絵里は驚くことなくジッと聞いており、奏夜はその言葉を待っていたからか、少しばかり笑みを浮かべていた。

 

「A‐RISEが凄くて、私たちもなんとか新しくなろうと頑張ってきたけど、私たちはきっと今のままが一番いいんだよ」

 

「……そうだな。実は俺はそのことを薄々勘づいていたんだよ」

 

「そーくん……」

 

「確かに、新しい風を吹かせようとすることは悪いことじゃない。だけど、無理にそれをしようとすることで、俺たちらしさを殺してしまってたのかもしれないな……」

 

奏夜は、自分なりのμ'sのあり方をゆっくりと語り始める。

 

「よく考えてみろ。みんなそのままでも十分個性的だと思わないか?」

 

「うん!それは私も思ってたよ!」

 

「普通の高校生だったら、似た者同士が集まるだろうけどさ、俺たちは違うだろ?」

 

「そうだね!時間をかけてお互いのことを知って、お互いのことを受け入れ合って、ここまで来られた……」

 

「ああ。それこそが俺たちμ'sの一番の特徴だし、どのスクールアイドルもけっして真似出来ない個性でもあると思う」

 

「うん!だから、私はそんなμ'sが好き!」

 

「ええ、そうね。私もそうよ」

 

奏夜と穂乃果の思っていることは同じであり、そんな2人の言葉を聞いた絵里は優しく微笑んでいた。

 

「うむ!その意見には私も同意だぞ!」

 

すると、奏夜たちの話を聞いていた剣斗が話に入ってきた。

 

「普通ならば、ここまでバラバラな9人がひとつになることは難しいだろう。だが、μ'sはそんなバラバラな9人がひとつとなり、大きなものを作っていく。それがμ'sの最大の武器ではないか……!イイぞ……!そんなμ'sの活躍からますます目が離せん!!」

 

剣斗が興奮しながらμ'sの魅力を語っており、それを聞いていた奏夜たちは苦笑いをしていた。

 

「そういう訳だから、難しいことは何も考えなくていい。お前たちはそのままの自分を表現すればいい。それこそが、μ'sのことを最大限に魅せることの出来る、何よりの“インパクト“なんだからな」

 

奏夜たちは、A‐RISEに負けないようなインパクトを求めて迷走していたため、奏夜はインパクトという言葉を強調することで、綺麗にこの問題を解決させようとしていた。

 

そんな言葉に穂乃果たちは頷いており、自分たちがどのようなパフォーマンスをしていけば良いのかが見えてきたようである。

 

「さ、行こうぜ!そしてみんなに見せつけてやるんだ。誰も真似出来ない、お前らならではのインパクトってやつをさ!」

 

奏夜の言葉に穂乃果たちは頷き、そのままパフォーマンスを行う会場へと向かっていった。

 

そして、穂乃果たちμ'sのパフォーマンスは始まった。

 

 

 

 

 

 

~使用曲→ Dancing stars on me!~

 

 

 

 

今回の曲の衣装はハロウィンということもあり、ハロウィンに合わせたところがあるのだが、9人それぞれに合わせた色や形をしており、それだけでもひとりひとりが個性的であることがわかる。

 

しかし、パフォーマンスを行うことで、個性的な9人がひとつになり、その様子に多くの観客たちが魅力されていた。

 

(穂乃果たち、またひとつ成長したな……)

 

穂乃果たちのパフォーマンスを眺めていた奏夜は、心の中で穂乃果たちのパフォーマンスを大きく評価する。

 

(ちょっとずつではあるけど、あのA‐RISEに近付きつつある。このまま行けば、A‐RISEを破ってラブライブ優勝だって有り得ない話じゃかいかもしれない……)

 

奏夜は、今のμ'sはA‐RISEに近くなってきていると感じているからか、このような評価なのである。

 

(だからこそだ……。あのジンガが何かしてくるかもしれない。あいつらの夢を守るためにも、ジンガは必ず俺が討滅する。そして、ニーズヘッグだって復活はさせない)

 

奏夜は、穂乃果たちのパフォーマンスを眺めながら、心の中でこのような誓いを立てるのであった。

 

こうしてハロウィンでのパフォーマンスは大成功に終わり、奏夜たちはパフォーマンスの成功を労いながら帰り支度をしていたのだが……。

 

「……あのぉ、μ'sの皆さん、ですよね?」

 

「は、はい。そうですけど……」

 

突然1人の女性が穂乃果たちに話しかけてきたのだが、突然の出来事に穂乃果たちは驚いていた。

 

そして、奏夜はその女性を見て、さらに驚きが隠せない様子なのだが、その理由は……。

 

「……あなた、μ'sのマネージャーさんだったのですね?この前は、危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました」

 

「あなたは、やっぱり、あの時の……!」

 

穂乃果たちに話しかけてきた女性はなんと、理由はわからないものの、ホラーヘデラに襲われていた女性であったのだ。

 

「?そーくん、お知り合い?」

 

「…ああ、まぁ…」

 

奏夜は穂乃果の問いかけに言葉を濁すのだが、キルバをチラッと見せることで、言葉に出すことなくホラーに襲われていたのを助けたことがあることを伝えたのである。

 

「……ああ、ご紹介が遅れましたね。私、月間電撃G'sという会社で記者をしております、御影アミリと申します」

 

そういうと、女性は、御影アミリと名乗り、名刺を奏夜へと手渡した。

 

「!!電撃G'sといえば、スクールアイドルの雑誌を出してる大手の会社じゃない!」

 

「はい!まさか電撃G'sの記者さんと出会えるとは!」

 

μ'sを始める前からスクールアイドルが好きだったにこと花陽は、アミリの言っていた会社名を聞き、目を輝かせていた。

 

「あなたたちは以前あのA‐RISEと同じところでパフォーマンスをしてましたよね?それで、あなた方のことは注目していたのです」

 

「まさか、電撃G'sの記者さんがそこまで私たちのことを注目してくれてるなんて……!」

 

「ふっふっふ……。にこにーの時代が来るのもきっと時間の問題ね」

 

花陽は変わらず目を輝かせており、にこは不敵な笑みを浮かべるのだが……。

 

「…いや、そんな時代はきっと来ないと思うのだが……」

 

「ぬわぁんでよ!!」

 

にこは、奏夜の冷静なツッコミが気に入らないのか、異議を唱えていた。

 

「うふふ、今日は時間がないのだけれど、近いうちにそちらの学校へお邪魔します。μ'sの話をいっぱい聞かせてくださいね」

 

アミリはそう言いながら奏夜たちに一礼をすると、その場を離れていった。

 

奏夜たちが出会ったこの御影アミリこそ、あのジンガに仕えているアミリ本人なのだが、この時奏夜たちはその事に気付くことはなかった。

 

(……ジンガ様。作戦は滞りなく進んでおります。ここまま、しっかりと使命を果たさせて頂きます)

 

その場を離れながら、アミリは一瞬ではあるが、ニヤリと笑みを浮かべるのであった。

 

(……あの女、一瞬だが妙な気配がしたような気がしたのだが……。俺の気のせいか?今はあの女からは何も感じない……。俺の考え過ぎならいいのだが……)

 

キルバは、一瞬ではあるが、邪気を感知したような気がしたのだが、あまりにもそれが微弱だったからか、魔導輪の力をもってしても、アミリの正体を探知することは出来なかった。

 

この出来事が、後ほど大きな波乱を巻き起こすことを、奏夜たちはまだ知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その頃……。

 

「……アミリのやつ、順調に仕事をしてるみたいだな」

 

ジンガは、自分の拠点にてワインを飲みながら、自分の作戦が進んでいることを感じていた。

 

「あのヘデラのやつ、もうちょっと粘るかと思ったが、まぁいい。おかげでアミリはあいつらに接触出来たし、怪しまれる要素もないからな……」

 

これこそが、ジンガの作戦であった。

 

ヘデラにあえてアミリを襲わせることで、奏夜たち魔戒騎士に助けさせる。

 

これで奏夜が助けにくれば、一番都合が良く、あとはスクールアイドルの関係者と名乗って近付けば、奏夜たちには絶対に怪しまれない。

 

そこを突いて魔竜の眼を奪うために行動を起こす予定なのだ。

 

万が一作戦が悟られたとしても、奏夜たちは番犬所に顔を出していることもあり、番犬所の居所はアミリを通してジンガにも知られているため、番犬所襲撃もジンガの想定には入っている。

 

「さぁて、こっからが見ものだな……。待ってろよ、ニーズヘッグ……。もうすぐだ。もうすぐお前の怒りを外にぶつけさせてやるよ……」

 

ジンガは、決意に満ちた眼をしながらワインを嗜むのであった。

 

こうして、奏夜たちへ迫る暗雲は、もう目前と迫っていることに奏夜たちは知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ……。これはしてやられたぜ……。まさか、ここまで策が巧妙に動いているとはな……。次回、「暗雲」。漆黒の闇が牙をむく!』

 




今回の話はオリジナル+本編後編となってしまいました。

バトルシーンを入れたいがために、本編のシーンは大幅カットになっております。

今回現れたヘデラは、GOLD STOME翔の第11話に登場したサラリーマン風の男か変化したホラーで、攻撃も本編に忠実に再現出来ていたと思います。

そして、久しぶりのリンドウ登場。

最近は奏夜の相棒ポジションを剣斗に持っていかれているため、ここで登場させました。

こうして、奏夜とアミリが初邂逅を果たしましたが、これから奏夜たちに待ち受けるものとは?

次回からはオリジナルの話が続くのでよろしくお願いします。

それでは、次回をお楽しみに!


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第75話 「暗雲」

お待たせしました!第75話になります。

ここからしばらくオリジナルの話が続くのですが、どんな展開にしようかと悩んでいたため、なかなか執筆が進まない状況でした。

どうにか思い付いた話をまとめ、今回の話の投稿に至りました!

さて、今回、奏夜たちにどんな暗雲が迫るのか?

それでは、第75話をどうぞ!!




奏夜たちは、ハロウィンイベントでA‐RISEに対抗するために、インパクトのある何かを追い求めていた。

 

しかし、どれも上手くいかずにどれも徒労に終わってしまう。

 

そんな中でハロウィン当日を迎えるものの、穂乃果と奏夜は気付いたのだ。

 

μ'sはこのままで良いということに。

 

それに気付いた穂乃果たちは、それを自分たちのインパクトとして、パフォーマンスを行い、それは大成功に終わった。

 

その後、電撃G'sというスクールアイドルを取り扱う雑誌の記者と名乗る御影アミリという女性が奏夜たちに接触。

 

近いうちに会いにいくとのことでその日は解散になった。

 

しかし、その女性こそ、奏夜たちが倒そうとしているジンガの腹心であるアミリだったのだ。

 

奏夜たちは、その事に気付くことはなかった。

 

そして、ハロウィンイベントから数日が経過した……。

 

 

 

 

 

 

 

「1・2・3・4!1・2・3・4!!」

 

現在、ダンスの練習を行っており、海未の合図にて、穂乃果たち8人がステップを踏んでいた。

 

「……」

 

そんな中、奏夜は練習を見学をしてはいるのだが、険しい表情をしており、明らかに練習以外の何かを考えている様子であった。

 

「……?奏夜、どうしたんだ?難しい顔をしているが」

 

奏夜の隣に立っていた剣斗が、それを見かねてか声をかける。

 

剣斗の声を聞いてハッとしたのか、奏夜は顔を上げた。

 

「…あっ、悪い。ちょっと気になることがあってな……」

 

「……もしかして、この前お前が倒したホラーが言っていたと話していたことか?」

 

剣斗の問いかけに、奏夜は無言で頷く。

 

「あのホラーは倒される間際に自分の仕事は果たしたって言っていた。きっとあのホラーはジンガの差し金で、ジンガが何かを企んでいると思うんだよ」

 

「うむ。そう考えるのが自然だろうな」

 

奏夜は、ヘデラが最期に放った言葉がずっと気がかりになっており、剣斗はそんな奏夜に賛同する。

 

「これは俺の勘だけど、ジンガの奴が何かしらの方法で俺たちに接触してくる可能性が高いと思うんだ」

 

「もしかして、ジンガが直接私の持つ竜の眼を奪いに来るっていうの?」

 

「その可能性も有り得なくはないだろうな。だけど、あのジンガって奴は相当狡猾で頭の切れる奴だ。そんな力ずくな行動はしてこないと思う」

 

『俺としては、なんとなくだが、お前が助けたあの女が怪しいと思うのだがな』

 

「それは俺も考えたさ。だけど、もしその女性がジンガの協力者だとしても、俺が必ず助けに来る保証もないのに、わざわざ命をホラーに狙わせてまでおびき寄せる利点もないも思うんだよ」

 

奏夜は、ハロウィンイベント後にアミリと出会ってからというものの、彼女がジンガの協力者ではないか?という疑惑はあったのだが、色々と不自然なことが多いと判断したのか、彼女のことを完全に疑うことは出来なかったのである。

 

「だが、ジンガが人を使って私たちに接触する可能性も有り得るからな、私たちに接触する人物には最大限に注意するしかないだろうな」

 

「そうね。私も剣斗の意見に賛成だわ」

 

剣斗は、今まで以上に警戒を強めるべきと考えており、それにララは同意し、奏夜もまた、無言で頷いて同意の意思を示した。

 

奏夜、剣斗、ララの3人は真剣な表情で話し合いをしていたのだが……。

 

「……あのぉ、すいませんが……」

 

練習を行っていたはずの海未が申し訳なさそうに奏夜たちに声をかけた。

 

「ん?どうした?」

 

「ん?どうした?じゃないわよ!大事な話をしてるのはわかるけどさ、そんな真面目に話し合いなんかやられたら練習に集中出来ないじゃないの!」

 

奏夜は何故声をかけられたのかわからなかったのだが、にこが怒りながら説明を行う。

 

「あ、悪い悪い」

 

「まったく……。そういう話をするなら、もうちょっと離れた場所でするとか気を遣いなさいよねぇ」

 

怒りながら説明するにこに賛同するかたちで、真姫は呆れながら代替案を提示する。

 

「みんな、すまなかったな。話は終わったからもう大丈夫だぞ」

 

ちょうど話し合いは終わったところではあるのだが、穂乃果たちは呆れながら苦笑いを浮かべる。

 

奏夜たちの話し合いに気を取られて練習が中断してしまったため、ここで再び練習を再開させようとするのだが……。

 

「…おっ、皆さん、精が出ますね」

 

屋上に1人の女性が現れて奏夜たちに声をかけるのだが、その女性を見て、奏夜たちは驚きを隠せずにいた。

 

「あっ、あなたは…!ハロウィンイベントの後に声をかけてくれた、御影さん……ですよね?」

 

奏夜たちが驚いていたのは、現れた女性が、ハロウィンイベント時に奏夜たちに接触してきたアミリだったからだ。

 

「ええ。あの時に近いうちにそちらの学校へお邪魔しますと言いましたが、さっそく来ちゃいました」

 

「ということは、私たちの取材に来たのですか?」

 

この学校へ来た目的を海未が問いかけるのだが、アミリは無言で頷く。

 

「私たちは、あなたたちのことをずっと注目していたのです。最近ではあのA‐RISEと同じ舞台でパフォーマンスを行い、その存在感を見せつけてましたしね」

 

「あっ、ありがとうございます…」

 

アミリだけではなく、アミリのいる月間G'sの人も自分たちを評価してると思ったのか、穂乃果は喜びを露わにしながらも照れ隠しに微笑んでいた。

 

「そこで、あなたたちのお話をじっくり聞かせていただけないかしら?」

 

「はい!もちろんです!」

 

アミリからのこの提案に、穂乃果は間髪入れずに了承する。

 

「ここで話をするのもあれですので、部室でお話するのは大丈夫でしょうか?」

 

「ええ。もちろんですよ。ただ、時間の都合もあって、9人みんなにお話を聞けないんです。ですので、μ'sに最初からいたあなたたち3人からお話をしていただけないですか?」

 

「わかりました!」

 

「ぐぬぬ……!せっかくの電撃G'sの取材なのに、なんでにこにーは選ばれないのよ…!」

 

取材の対象が穂乃果たち3人とわかり、にこは悔しそうな表情をしていた。

 

そんな中……。

 

(取材か……。この人があのジンガの協力者の可能性は0じゃないから、穂乃果たちだけを行かせるわけには行かないよな……)

 

«ああ、それが賢明だろうな»

 

奏夜はいつどこでジンガが動き出すかわからなかったため、電撃G'sの記者を名乗るアミリにさえ警戒感を露わにしていたのだ。

 

そう考えていたのは剣斗やララも同様なようであり……。

 

「それなら私も同席させて頂きます。こう見えてもこのスクールアイドル部の顧問を務めてとおりますので」

 

教師という立場を上手く使い、剣斗が穂乃果たちと同席しようと考えるが……。

 

『…小津先生、小津先生。至急職員室までお願いします』

 

ピンポンパンポンとチャイムの音が鳴り、校内放送が流れたのだが、それは剣斗を呼び出すものであった。

 

「む……。こんな時に……。申し訳ないですが、行ってきますね」

 

剣斗は無念さを露わにしながらも、屋上を後にして、職員室へと向かっていく。

 

(それなら、俺が同席するか。俺はマネージャーだし、μ's結成当時からいたからな)

 

剣斗が穂乃果たちと同席出来ないことがわかり、代わりに奏夜が同席しようと考えていた。

 

しかし……。

 

«…!!奏夜、どうやらそうも言ってられなくなったぞ!!»

 

(!?どうした、キルバ?)

 

«学校の入り口あたりから妙な邪気を感じるんだ»

 

(邪気って…。あのあたりは浄化するポイントはないし、ホラーだとしても、今は昼間だぜ?)

 

奏夜は、キルバが邪気を探知したことに驚きを隠せなかった。

 

ホラーが現れ、活動を開始するのは夜からであり、日中から活動しているホラーはほぼ存在しないからである。

 

«あのジンガだって、ホラーのくせに日中に動いたりしているだろう?ホラーでも、日中に動けるやつが稀に存在するんだ»

 

キルバの言う通り、奏夜たちはジンガと遭遇し時は夜ではない時もあり、一部のホラーは日中でも活動出来るものが存在するのだ。

 

(だけど、邪気が探知されたなら、行かない訳にはいかないよな……。だが、ララを同行させるのも危険かもしれないぞ……!)

 

奏夜は今すぐにでも邪気の原因を調べに行きたかったが、封印された魔竜の眼を持っているララを同席させるのはリスクが大きいと判断し、動きたくても動けない状況になっていた。

 

ララは、そんな現状を察したからか、このような提案をする。

 

「なら、私が穂乃果たちと一緒に行くよ」

 

「!?ララ、しかしだなぁ……」

 

ララが穂乃果たちについて行くことを提案するも、奏夜はそれを反対しようとしていた。

 

この御影アミリという女性がジンガの手先ならば、ララの持つ魔竜の目を狙い、穂乃果たちに対して何らかの被害を与えかねないからだ。

 

だが……。

 

«奏夜。ここはララに任せるしかあるまい。ホラーがいる可能性があるんだ。まずは魔戒騎士としての使命を果たさねばな»

 

キルバとしてもこの状況を良しとはしていないが、ホラーの可能性がある以上、穂乃果たちのことをララに任せるしかなかった。

 

そんなキルバがテレパシーで発した言葉を察したのか、ララはうんうんと頷いている。

 

「…わかった。ララ、穂乃果たちを頼むな。俺はちょっと用事があるから少し離れる」

 

「え!?ちょっと、そーくん!?」

 

穂乃果が声をかけるのを聞かずに奏夜は屋上を後にしていた。

 

奏夜が何か慌てている様子があったからか、穂乃果たちは心配そうに奏夜が出ていった屋上の入り口を見つめる。

 

「……えっと、御影さん、でしたよね?とりあえず行きましょうか」

 

「ええ、お願いしますね」

 

ララがこのように促すと、穂乃果たち2年生組とララは、アミリと共に屋上を後にして、部室へと向かうのであった。

 

「……ねぇ、みんな。さっき奏夜たちは深刻そうに話をしてたじゃない?」

 

「そうね。そして、タイミングが良いのかわるいのか奏夜と小津先生は出ていっちゃうしね」

 

ララたちがいなくなってしばらくは静寂がその場を支配していたが、絵里がおずおずと話を切り出し、それに真紀が続く。

 

「ウチとしても考えたくはないけど、あの御影さんって人、ホラーなんじゃ…?」

 

「!?ちょっと!!そうだとしたら、色々とヤバいじゃないの!!」

 

希の言葉を聞いたにこの顔が真っ青になる。

 

「でもでも!それを確かめるにも証拠がないと……」

 

「だけど、ここで正体を明らかにしようとしたらそれこそ大騒ぎになっちゃうにゃ…」

 

「そうやね。だとしたら、御影さんが本当に月刊G'sの記者さんかどうかも怪しいな」

 

「月刊G'sといえば、スクールアイドルを扱う大手よ!?そんな身分を偽った人が入れるとは思えないけど……」

 

スクールアイドルのことを誰よりも愛してやまないにこだからこそ、アミリが身分を偽っているというのも信じられないのである。

 

それは、にこの言葉通り、月刊G'sはスクールアイドルを取り扱うようになってからは売り上げを大いに伸ばし、スクールアイドルを扱う雑誌の大手となっているのだ。

 

「直接月刊G'sに問い合わせても、個人情報もあるし、きっと教えてはくれないよね…」

 

個人情報の取り扱いが慎重になっている現代社会故に、御影アミリという社員が実在するか問い合わせるのは難しい可能性が高く、花陽がそれを示唆した話をする。

 

「これからいったいどうなっちゃうの……?」

 

「そうやね。カードもこれから暗雲が来ると出てるし……」

 

希は心配になってタロットで占いを行うも、結果は芳しいものではなく、それが余計に不安をかき立てるのである。

 

しかし、絵里たちに何か出来るわけではないため、その場に立ち尽くすしか出来なかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、キルバの案内のもと、邪気の正体を調べに来た奏夜であったが、学校の入り口に明らかに挙動不審な動きをする男性を発見した。

 

(……キルバ、もしかしてあいつが?)

 

«ああ、ホラーだな。恐らくは俺たちを引きつけるのが目的だろう»

 

現在の時間は放課後であり、今も多くの生徒が下校しているため、奏夜とキルバはテレパシーで会話をしているのである。

 

その生徒たちの目には、この男性は不審者に見えるのだろう。訝しげな目を男性に向けつつ足早にその場を離れている。

 

(弱ったな……。いくらホラーとはいえ、学校の目の前で戦うわけにはいかないし……)

 

«そうだな。こんなところで戦っていては、どれだけの人物に見られるかわからんからな»

 

奏夜はこの現状をどう打破するか大いに悩んでいた。

 

人通りがそれなりにあるこの場所で戦うだけでも大きな騒ぎになるのは必至であり、そうなるとホラーを見た人間のホラーに関する記憶を消すことが困難になるからである。

 

(魔戒剣を出さないにしても、普通に戦うだけで、傍から見たら喧嘩か傷害事件にしか見えないからな……)

 

«恐らくはジンガの差し金だろうが、奴め、巧妙な手を使ってくるな…»

 

(ああ。どうにか人気の少ないところに誘導出来ればいいんだけど……)

 

«そうだな。あのアミリという女のこともある。モタモタもしていられんぞ»

 

(それはわかってるんだけど……)

 

奏夜は現状を打開する策を考えていた。

 

すると……。

 

(…!待てよ?この方法なら安全に奴をこの場から引き離すことが出来るかもしれないぞ)

 

«ほぉ、流石は奏夜だな。今は時間もない。一か八かやるしかないだろうな»

 

可及的速やかに穂乃果たちのもとへと行きたいと思ってる奏夜だからこそ、キルバは奏夜の思いついた打開策について何も聞かず、奏夜に任せることにした。

 

動き始めた奏夜は男性に近付くのだが……。

 

「……あれ?もしかして、おじさん!?久しぶりじゃん!どうしたのさ!こんなところで!!」

 

「!?あ……えっ……??」

 

男性は、魔戒騎士と思われる風貌の少年がいきなり親しげに話しかけてきたことに驚きを隠せず、戸惑いを見せていた。

 

「とりあえずここじゃあれだし、向こうで話をしようよ!」

 

奏夜はそう言うと、男性の手を取り、そのままどこかへと移動していった。

 

「お、おい!」

 

突然の出来事に男性は戸惑いを見せていたが、そんなことなどお構い無しで奏夜は近くの人目に付きにくい場所へと移動した。

 

「おい、お前!いったい何なんだよ!?」

 

奏夜が足を止めたところで、男性は奏夜に詰めよる。

 

「…さて、ここなら問題ないな」

 

「はぁ!?お前、何を言って……」

 

男性は奏夜の言葉に首を傾げるが、奏夜は素早く魔導ライターを取り出すと、魔導火を放ち、男性の目を照らす。

 

すると、男性の目から不気味な文字のようなものが浮かびあがり、この男性がホラーであることが証明された。

 

「魔戒騎士か!くそっ、やられた!あそこに陣取ってれば貴様らはまともに動けないはずだったのに」

 

「恐らくはジンガの入れ知恵だろうが、そんな挙動不審だと、怪しいのがバレバレだっての」

 

奏夜はそれだけいうと、男性に対して蹴りを放ち、男性を吹き飛ばす。

 

「ぐっ…!おのれ、小僧!小癪な真似を!」

 

『やれやれ。小癪なのはどっちなんだか……』

 

「まったくだ……」

 

ホラーである男性の言葉に奏夜は呆れながらも、魔戒剣を抜き、構える。

 

「こちとら時間がないんだ。一気に決着を付けさせてもらう」

 

奏夜は鋭い目つきで男性を睨みつけると、そのまま男性へと向かっていった。

 

そのことに危機感を覚えた男性は、すぐさま本来の姿へ戻り、奏夜を迎え撃とうとする。

 

「…はぁっ!!」

 

奏夜は魔戒剣を振るうが、ホラーの身体は強固なものであり、その攻撃は弾き飛ばされてしまった。

 

すかさずホラーは奏夜を殴り飛ばし、反撃する。

 

「…くっ、厄介だな。ここまで硬いホラーとは…」

 

『ああ。奴はアーマーロ。奴の頑丈さはなかなかのものだぞ』

 

奏夜が相対しているホラーはアーマーロという見た目だけならアルマジロを模したホラーなのだが、その身体は甲冑のような鎧に包まれているため、ホラーの中でも頑丈な部類に入る。

 

『頑丈なホラーをよこしてきたということは、ジンガの奴は最初からこいつで俺たちの足止めをするつもりなんだろうな』

 

「ああ。だが、そんなことはさせないぜ!」

 

奏夜は一気に決着を付けるために鎧を召還しようとするも、その狙いを察したアーマーロは身体から針のようなものを奏夜に向けて放つ。

 

「!?」

 

奏夜は横回転をしながら攻撃を回避し、すかさず魔戒剣を前方に突き付け、円を描く。

 

「させん!!」

 

攻撃回避のタイミングで鎧の召還をしようとしている奏夜の狙いはバレており、アーマーロは再び針による攻撃を繰り出す。

 

しかし、それよりも鎧の召還の方が早く、アーマーロの針が奏夜に直撃する前に、奏夜は黄金の輝きを放つ輝狼の鎧に身を纏った。

 

アーマーロの針ではソウルメタルの鎧を貫くことは出来ず、その針は輝狼の鎧に弾かれ、その場へと落ちていく。

 

「悪いが、時間がないんだ。一気に決める!」

 

奏夜はアーマーロに接近するのだが、その時に魔戒剣が変化した陽光剣に橙色の魔導火を纏わせ、烈火炎装の状態になる。

 

「!?なんだと!?」

 

ここまで素早い動きで烈火炎装を使ってくるのは予想外なのかアーマーロは驚きを隠せなかったが、奏夜の動きは止まることなく魔導火を纏った陽光剣の一閃にてアーマーロの体を斬り裂いていく。

 

ホラーの中でも頑丈な部類に入るといっても、魔戒騎士として成長した奏夜の烈火炎装による一撃には耐えられず、その身体は真っ二つに斬り裂かれる。

 

「つ、強すぎる……!この小僧、ジンガ様の報告以上に……!」

 

アーマーロはジンガから事前に奏夜のことは聞いていたものの、その実力は聞いていた以上のものであり、驚きを隠せなかった。

 

「やっぱりジンガの差し金か。だがな、俺は魔戒騎士として強くなってるんだ!ジンガが相手でも負けはしない!」

 

「くくく…!だが、貴様如きジンガ様の敵ではない……。間もなく身の程を思い知ることになるだろう……」

 

アーマーロはこのように最期の言葉を残すと、断末魔をあげながらその身体が爆散し、その身体は陰我と共に消滅した。

 

アーマーロの討滅を確認した奏夜は、鎧を解除すると、魔戒剣を緑の鞘へと納めた。

 

「…急いで戻るぞ、キルバ!」

 

『ああ、奏夜急げ!校内から邪気を感じる!』

 

「くっ!やっぱりか……!」

 

奏夜はジンガの策に乗らざるを得ない状況となってしまったことに悔しさを顕にするが、すぐに我に返ると、急いで学校へと戻るのであった。

 

奏夜が部室に戻るのだが、その光景に奏夜は息を飲む。

 

「…!?こ、これは……!!」

 

部室は何者かに荒らされた形跡があり、穂乃果、海未、ことりの3人が呆然とその場に座り込んでいた。

 

奏夜が駆けつける前に絵里たち6人と教師としての仕事を終えた剣斗も来ており、穂乃果たちを介抱していた。

 

「…あっ、そーくん……」

 

「奏夜、すまん…。私が駆けつけた時にはもう既に手遅れだった……!」

 

剣斗は悔しそうな表情を浮かべながら、奏夜に話しかける。

 

「…なぁ、一体何があったんだ?それに、ララは!?」

 

奏夜は周囲を見渡すが、そこにララの姿はなかった。

 

「ララは、さらわれてしまいました……」

 

海未は弱々しい声で伝えると、奏夜はそのことに息を呑む。

 

「部室では、何事もなくアミリさんのインタビューを受けてたの……。すると、いきなりあのジンガって人が現れて……」

 

穂乃果はポツポツと、ここで何があったのかを語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜がホラーを発見し、どう対応するか検討していた頃、穂乃果たちはアミリからのインタビューを受けていた。

 

そこに関しては特に怪しいところはなかったのだが、突如としてジンガが現れることで、自体は一変する。

 

突如現れたジンガは、穂乃果を羽交い締めにした状態で捕まえていたのだ。

 

「!?お前は……!ジンガ!」

 

「よう、やっと会えたな……。奇妙な魔戒法師さんよ!」

 

ジンガは穂乃果を捕まえながら、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

「は、放して……!」

 

穂乃果はジタバタと暴れて抵抗しようとするも、ジンガの力は強くどうすることも出来なかった。

 

「穂乃果を放しなさい!」

 

ララは魔導筆を取り出して法術を放とうとするが……。

 

「…そこまでよ!」

 

「!?」

 

アミリの声に、ララは驚きを隠せずそちらを向くと、アミリは海未とことりを捕まえており、その喉元にナイフのようなものを突きつけていた。

 

「ちょっとでも抵抗したらこの子たちの命はないわよ」

 

「!?あなた……!やっぱりジンガの…!」

 

「ま、そういうことだ」

 

「私はアミリ。ジンガ様に忠誠を誓うものよ!」

 

ここでアミリは本性を露わにしており、妖しげな笑みを浮かべていた。

 

「おい、お前。俺が出向いたってことはどういうことかわかってるよな……?」

 

「……っ」

 

自分の持っている魔竜の眼の存在はジンガに知られており、ララは息を呑む。

 

「大人しく竜の眼を渡しなさい。さもなくば、わかるわよね……?」

 

アミリはジンガに代わってララに魔竜の眼を要求していた。

 

断れば穂乃果たちが殺される。この状況にララは唇を噛み締める。

 

「卑怯な……!!」

 

ララは怒りの眼差しでジンガとアミリを睨みつけるが、この状況をどう打開するか考えていた。

 

しかし……。

 

「言っとくが、時間稼ぎをしようとしても無駄だぜ?そんな素振りを見せたら、俺たちは容赦なくこいつらを殺す」

 

ジンガは、ララが魔竜の眼を渡すふりをして奏夜や剣斗が来るまでの時間稼ぎをしようとしていることを見抜いており、少しでもその素振りを見せようとするならば、容赦なく穂乃果たちを殺すつもりだった。

 

「…くっ、わかったわ……」

 

穂乃果たちの命には代えられないため、ララは隠し持っていた魔竜の眼を取り出し、ジンガたちに見せる。

 

「…どうやら本物のようだな。ま、偽物を突きつけようとしたら、どうなるかはわかってたか」

 

ジンガは、ララが偽物の魔竜の眼を出させない状況に追い込んでおり、今ララが出したものが本物であることを今所持している魔竜の眼から感じ取っていた。

 

「…さ、そいつをこっちへ渡してもらおうか」

 

「これはあなたたちに渡すわ。だから、まずは彼女たちを解放しなさい!」

 

「おっと、そうはいかんな。お前が変なことをしないとも限らんしな。まずはお前の持ってるその眼をそこのアミリに渡してもらおうか。さもなくば、わかってるよな…?」

 

ジンガは、先に人質を解放することを良しとはせず、先に魔竜の眼を渡す事を要求した。

 

断ることの出来ない状況に、ララは唇を噛み締める。

 

「わかったわ…」

 

ララはやむを得ず、魔竜の眼をアミリに渡した。

 

それを受け取ったアミリは、ジンガからのアイコンタクトを受けて、海未とことりを解放したのであった。

 

アミリから解放された海未とことりはすぐさまララの背後へと移動する。

 

「…さあ!眼は渡したわ!穂乃果もすぐに解放しなさい!」

 

ララは穂乃果の解放も要求するのだが……。

 

「そうはいかないな。この眼は厳重な封印が施されている。封印を解除するまではこいつを返す訳にはいかないな」

 

ジンガは、魔竜の眼が封印されていることを眼の入っているケージを見て察しているため、穂乃果を解放することはしなかった。

 

「だったら私が人質になるわ。どのみち、封印を解くためには解除の術を使わなきゃいけないし。すぐに封印を解けるものでもないのよ」

 

ララの言っていることは本当のことであり、この魔竜の眼は特別な法術にて封印されているため、封印を解くためには解除の術を行わなくてはいけない。

 

それは時間のかかる術であるのは間違いないため、ここで封印解除を行えば、その間に奏夜や剣斗が駆けつけることになる。

 

「…どうやら、それは本当のようだな」

 

ジンガは、ララの言葉に嘘偽りはないことを判断しており、このままだと奏夜と剣斗が現れ、余計に面倒なことになることは予想出来た。

 

「わかった。この小娘は返してやるが、代わりにお前に来てもらおうか。お前には封印解除という仕事もあるしな」

 

本来ならば、穂乃果もそのまま人質として残すつもりだったが、奏夜と剣斗が現れるのも時間の問題だと判断したからか、ララの提案に乗ることにした。

 

「それに、奴らはまだ俺たちのアジトを見つけられてないしな。時間ならあるしな」

 

さらに、奏夜たちが自分たちのアジトを見つけられていないことも、ララの提案に乗ることにした理由のひとつであった。

 

ジンガは捕まえていた穂乃果を突き飛ばすかたちで解放すると、今度は手からツタのようなものを放ってララを捕縛する。

 

「お前たち。この魔戒法師に感謝することだな。ま、せいぜい頑張れよ!スクールアイドルのμ'sさんよ!」

 

ジンガはこのように捨て台詞を放つと、衝撃波のようなものを放ちながら、その姿を消し、アミリも同時に姿を消した。

 

部室が荒らされているようになっているのは、この時の衝撃波が原因である。

 

そして、剣斗や絵里たちが駆けつけたのは、それから間もなくであったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ジンガのやつ、姑息な真似を……!」

 

抵抗を許さないジンガの狡猾さに、奏夜は怒りを露わにしていた。

 

『だが、結果的には穂乃果たちについていったのがララで良かったかもな。もしこれが奏夜や剣斗だったら、穂乃果たちがそのまま人質として連れていかれていただろうしな』

 

「そうかもしれないな……」

 

もし自分か剣斗が穂乃果たちに同行し、穂乃果たちがジンガの人質されたら、どんな目に遭うか。

 

それを想像しただけで奏夜の顔は真っ青になっていた。

 

それは穂乃果たち3人も同様なのか顔を真っ青にしながら震えていた。

 

「……こうなった以上、ララを救出するために作戦を練らないといけないな……」

 

奏夜がそんなことを考えていたその時だ。

 

「おいおい、どうしたんだ?これは、大きな音がここから聞こえたから来てみたんだが……」

 

音ノ木坂学院の教師で、奏夜たちの担任でもある山田先生が部室に入ると、現状に驚いていた。

 

(!そっか、ジンガの去り際に放ったってやつのせいでちょっとした騒ぎになってる訳か……)

 

奏夜はこの状況を冷静に分析していたのだが……。

 

「山田先生、お騒がせして申し訳ありません。実は今、部室の大掃除をしていまして。その時に棚の上にあったものが一斉に落ちてしまったようです」

 

剣斗はこのように弁解するのだが、実際に部室の棚に展示されていた荷物がいくつも落ちていたため、何も知らない人物が聞いたらそうだと感じるのも無理はない。

 

「ふむ、そういうことだったのか。掃除も結構だが、あまり騒がしくしないでくれよ?」

 

「はい、すいませんでした」

 

奏夜が山田先生に謝罪すると、納得したのか山田先生はその場を後にする。

 

「とりあえずは番犬所に行かないとな……。現状を報告して対策を練らないと行けないし」

 

「うむ。まずはそれが優先だろう」

 

「絵里、悪いけどここは任せてもいいか?」

 

「ええ、わかったわ。穂乃果たちを休ませなきゃいけないし、部室も本当に掃除しないとだしね」

 

奏夜は、絵里たちに部室のことを託すと、剣斗と共に部室を後にして、そのまま番犬所へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

番犬所へ到着した奏夜と剣斗は、先ほど起こった出来事をありのままにロデルへ報告した。

 

状況が思わしくないことを感じ取ったロデルは、すぐさま統夜、大輝、リンドウを呼び出し、今後のことを話し合うことになった。

 

3人はロデルからの呼び出しを受けてすぐに番犬所へ駆けつける。

 

そして、奏夜や剣斗から事の顛末を聞いたのだが……。

 

「……なんてこった……。眼が奪われただけでなくあのお嬢ちゃんも捕まるとはな……」

 

リンドウは、奏夜から話を聞き、思わしくない現状に頭を抱えていた。

 

「あの嬢ちゃんだけが封印解除の術を使えるから、すぐに殺されることはないだろうが……」

 

「そうですね。だからこそ急がないと……」

 

封印された魔竜の眼を解除出来るのは封印したララだけであるため、それが済むまではジンガには利用価値があるため、殺されることはないと大輝は推測する。

 

しかし、それが終われば用済みになり、殺されるか人質として使われるかされる可能性があるため、可及的速やかにララを奪還する必要があった。

 

「うむ。そうしたいところではあるが、我々は奴の居所をまだ掴めていない。いったいどこに潜伏しているのか……」

 

「そうだよな。そこがわからんと、助けたくても作戦を立てられないし……」

 

ララを助けようにも、ジンガのアジトがわからなければそれも不可能である。

 

そんな状況に奏夜は頭を抱えるのだが……。

 

「…そのことなんだが、奴の拠点らしき場所の目星はついたんだ」

 

「統夜……。それは本当ですか!?」

 

統夜の言葉に奏夜たちだけではなく、ロデルも驚きを隠せなかった。

 

「はい。実は、初めてララと出会った時に、彼女に許可をもらって、発信機代わりの小さな魔導具も付けさせてもらったんです。ジンガの奴に眼の存在がバレてララが捕らわれた時に、すぐに居所を掴めるようにと」

 

統夜は、ララと出会った時からこの自体を想定しており、盟友であるアキトの力も借りて発信機としての機能をもつ小型の魔導具を密かに設置していたのである。

 

そして、ロデルから呼び出しがされる少し前にその発信機を元にジンガのアジトの場所の目星がついたのであった。

 

「流石は統夜さん。ここまで見通してたなんて……」

 

奏夜は、統夜の行っていたことに驚きを隠せずにいたと同時に、その先見の明に敬意を表していた。

 

「ロデル様を始め、他のみんなに黙っていたのは申し訳ありません。最悪の場面を想定した時にジンガに発信機となる魔導具の存在を知られる訳にはいきませんでしたので、これらは秘密裏に行わさせていただきました」

 

統夜は、秘密裏に保険をかけていたことに対して謝罪していた。

 

「いえ、統夜。むしろお手柄ですよ。あなたが機転を利かせてくれたからこそ、ジンガに気取られることなく、アジトの目星を付けられたのですから」

 

魔竜の眼を奪われ、ララまで捕まり、ジンガのアジトの場所すらわからなかった現状だったが、統夜の活躍により、そこに光明が差し込んできたのだ。

 

「突入してララを救出するためにも、奴の拠点の視察は必要だと思います。またアキトの手を借りて、奴のアジトの内部を探ろうと思います。ララを助ける策を考えるのはそれからでも遅くはないかと」

 

「そうですね。正式に元老院にアキトの協力を要請させてもらいます。時々アキトの助力はありましたが、正式な指令ではありませんでしたしね」

 

アキトは度々奏夜たちのピンチを救ってくれたが、あくまでも用事のついでであり、元老院から正式な指令が来ていた訳ではなかった。

 

魔戒法師であるララが捕まった今、魔戒法師であるアキトの力が必要になると判断したロデルは、元老院に申告し、アキトの応援を正式にお願いするつもりなのだ。

 

「それならば私も行こう」

 

剣斗もまた、ジンガのアジトの視察へ行くことを申し出たのである。

 

「他の皆はこれから来たる戦いに備えて体を休めて欲しい。奴のアジトに突入するのだ。戦いは避けられないだろうからな」

 

「わかりました。統夜、剣斗にアキトの3人でジンガのアジトの視察を行っていただきます。他の者は今後の動きに備えて待機。体を休めてもらいます」

 

ロデルは、正式にこのような指令を出し、ララ救出のために動き出すことにした。

 

魔竜の眼が奪われ、ララが捕らわれたことで、大いなる暗雲が立ち込める状態となったものの、これはこれから起こる激闘の始まりに過ぎないことを、奏夜たちは知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

─次回予告─

 

『こいつはまた面倒なことになったな。だが、この危機を乗り越えないと、邪竜復活を許すだけだぞ!次回、「盟友」。その騎士道、その盾に込めて!!』

 

 




今回一気に物語が動いた気がします。

未だに封印されているとはいえ、奪われた魔竜の眼に、さらわれたララ…。

そして統夜の手によって突き止められるジンガのアジト。

次回はさらに物語が大きく動いていく予定になっています。

奏夜たちは無事にララを救い出すことは出来るのか!?

そして、ジンガから奪われた魔竜の眼を取り戻すことは出来るのか!?

次回も更新に時間はかかるとは思いますが、気長にお待ちください!

それでは、次回をお楽しみに!!



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第76話 「盟友」

お待たせしました!だけ76話になります!

今回は以前より待たせることはなく最新話を投稿出来ました。

前回さらわれてしまったララでずが、奏夜たちは無事に取り戻すことは出来るのか!?

それでは、第76話をどうぞ!




ハロウィンイベントが無事終わってまもなく、そのイベント出会った、月間G'sの記者を名乗るアミリが奏夜たちに接触するため、音ノ木坂学院を訪れる。

 

アミリは穂乃果たち2年生組と部室にて話をしようとするも、それはジンガの巧妙な罠であった。

 

穂乃果たちは突如現れたジンガに捕まってしまうのである。

 

ジンガは穂乃果たちと一緒にいたララに魔竜の眼を渡す事を要求。ララはやむを得ず魔竜の眼を渡してしまう。

 

しかし、魔竜の眼は厳重に封印されていたため、ジンガはその封印が解かれない限りは穂乃果を解放しないつもりであった。

 

しかし、その封印解除が出来るララが自ら人質にと名乗りをあげ、そのことで穂乃果は解放されるも、ララが人質になってしまう。

 

その後、ジンガの策によって離れていた奏夜と、教師の仕事で離れていた剣斗が駆けつけるも、既に手遅れだった。

 

奏夜たちはララ救出の策を練るために番犬所へ赴くも、ジンガのアジトの場所はわからなかった。

 

しかし、統夜が事前に用意していた保険によって、アジトの場所に目処をつけていたのである。

 

ララを救出するために、ロデルはアキトに協力して貰えるよう正式に元老院に働きかけをすることを決めたのであった。

 

統夜はアキトと共にジンガのアジトへ偵察を兼ねた下見を行うのだが、そこに剣斗も同行したいと申し出があり、3人でジンガのアジトの調査を行うことになった。

 

アキトは元老院からの要請を受け、奏夜たちに協力することとなり、統夜や剣斗と現地で合流して事にあたることになる。

 

「…どうやら、ここが奴らの拠点のようだな…」

 

統夜たちが訪れたのは、秋葉原某所にある現在は使われていない廃ビルだった。

 

『そうらしいな。ビルの中から、とんでもない邪気を感じるぜ…!』

 

「だけど、このビルの辺りは以前も調査はしてたんだがな。まさか、ここがジンガのアジトだなんて……」

 

統夜がジンガの拠点探しを始めてそれなりに時間が経っていることもあり、捜索可能な範囲はくまなく探していたのだが、その足取りさえ掴めずにいた。

 

現在地もまた、一度は調査した場所なのである。

 

『どうやらジンガの奴には魔戒法師の協力者がいるみたいだな。以前は強力な結界が貼ってあったんだろうな。俺様やどんな魔戒法師でも探知出来ない程のな……』

 

「そう考えるのが無難みたいだな」

 

イルバの冷静な分析に、アキトはウンウンと頷く。

 

「恐らくは、あのアミリとかいう女だろうな。穂乃果たちから聞いた話だと、アミリという女はジンガに忠誠を誓っていると言っていたらしい」

 

「元魔戒法師って訳か……。闇に堕ちた魔戒法師なのか、それとも……」

 

統夜は、母親が元闇斬師という闇に堕ちた魔戒騎士や魔戒法師を討伐する者だったこともあり、ホラーであるジンガに協力しているアミリが闇に堕ちているのでは?と推測をしていた。

 

『その可能性は低そうだがな。お前さんの父親である龍夜と共に闇に堕ちた魔戒騎士や魔戒法師とも戦ったことはあるが、奴らのような邪気は感じていない。あの女が自分の意思でジンガに協力してるんだろうな』

 

イルバもまた、統夜の父親である月影龍夜(つきかげたつや)と契約していた時に闇に堕ちた者との交戦経験があったため、このような推測が行えた。

 

「闇に堕ちてないなら、なんでそこまでジンガの奴に協力してるんだろうな…」

 

『さぁな。直接問いただしたところで答えてくれるかどうか……』

 

「気になるところはたくさんあるが、今はそれどころじゃないな」

 

「うむ。統夜のいう通りだな」

 

アミリが何故ジンガに協力するのか?

 

そこは最大の謎ではあるものの、目の前の問題を解決することにした。

 

「この辺りは以前にも調査はしたことはあるが、確か……」

 

統夜は以前の調査の時のことを思い出し、ビルのどこから潜入すべきかルートを考えていた。

 

『正面突破は得策ではないだろうな。奴がどれだけホラーを従えてるのかもわからないしな』

 

ジンガが何体ものホラーを従え、奏夜たちに立ち向かわせていた。

 

そんなホラーは他にもいると推測されているため、正面突破は難しいのでは?とイルバは推測する。

 

「そこは俺も考えた。確かこのビルには地下からも入れるルートはあったはずだけど、きっとそっちもジンガの奴は抑えているに違いない」

 

統夜は地下からも入るルートがあることを思い出すが、この場所を拠点としているジンガがそれを知らないというのは考えにくいと推測される。

 

「統夜、他にはルートはないのか?」

 

「ああ。このビルはどっかのビルと繋がってるって訳でもないからな。正面突破するか、地下から潜入するか……」

 

「とりあえず侵入すべきルートがわかったのなら一度番犬所へ戻ろうではないか。そこで策を練った方が確実であろう」

 

「そうだな……。一度番犬所へ戻ろうか」

 

こうして、ジンガのアジトを見つけ、ある程度の侵入ルートを導き出せたため、統夜たちは一度番犬所へ戻ることにしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ジンガに捕らわれたララは、拠点であるビルのとある部屋へ幽閉されていた。

 

この部屋に連れられてすぐ、ジンガから封印解除の術を行うよう迫られるが、ララはそれを拒否。

 

その度にジンガやアミリはララを殴る蹴るなど物理的に痛めつけるのだが、ララは封印解除を行おうとはしなかったのである。

 

「……おい、お前、そろそろ俺たちに協力してくれる気になったか?」

 

「……」

 

ジンガはしばらくララの幽閉されている部屋から離れていたのだが、ララはジンガの言葉を聞くことはなく、沈黙を貫いていた。

 

「……申し訳ありません。この女、なかなか強情で、変わらず拒否の姿勢を貫いております」

 

ジンガが離れている間も、アミリはララに封印解除を迫り、拒否や沈黙のたびに無理にでも協力させようと殴る蹴るなどを行うが、状況は変わらなかった。

 

この部屋に連れられてどれだけの時間が経ったのだろう。

 

それからジンガやアミリに痛めつけられていたこともあり、ララの体は既にボロボロであった。

 

「……やれやれ……」

 

ジンガは変わらずの状況に呆れながらゆっくりとララに近付いていく。

 

そして、ララの前で立ち止まると、その長い脚を活かした蹴りをララの顔面に向けて放つ。

 

「……っ!」

 

ララの表情は痛みで歪むのだが、すぐにジンガを睨みつける。

 

「まったく……。あの小娘の代わりにお前が人質になったというのに、これじゃ、あの小娘を開放した意味がなかったな……。お前のやる気を出させる為にあの小娘も連れて帰るべきだったぜ……」

 

ジンガは、素直にララがついて来るとわかったため穂乃果を開放したが、そのことを後悔していた。

 

「本当ならお前のその手を切り落として封印解除といきたいところだが、それじゃあ、この封印は解けないだろうな」

 

ララの手をかざすだけで封印が解除されるのであれば、ジンガがララの手を切り落とすなどすれば容易いのだが、この封印は複雑な法術を用いてのものであることを理解していたため、それはしなかったのだ。

 

「このまま手をこまねいていたら、いつあいつらが来るかもわからないしな……」

 

ジンガは、統夜が仕掛けた発信機代わりの魔導具の存在には気付いていなかったが、奏夜たちが踏み込んでくるのは時間の問題だということは予想していた。

 

「……こうなったら仕方ないな……。無理にでもお前さんのやる気を引き出さないとなぁ」

 

「…!?一体何をするつもりなの!?」

 

「お前の故郷ってのは、蒼哭の里だろ?かつては魔竜の眼が封印されていたという」

 

「!?」

 

ララはジンガに自分の故郷のことは話していないにも関わらず、故郷がバレており、驚きを隠せず目を丸くする。

 

「くくく……。その顔、なんでわかったんだ?って顔してんなぁ?そりゃそうだよなぁ。お前は故郷のことは隠し通してたんだもんなぁ?」

 

ジンガはまるで全てを見透かしているかのように不敵な笑みを浮かべており、ララは訝しげな目でジンガを睨みつけていた。

 

「まぁ、俺がお前の故郷を知ったのはお前をここへ連れてきてからだけどな?まさか、人知れず魔竜の眼を封印していた里があったなんてなぁ」

 

「…っ!」

 

「これも全ては、魔戒法師だったアミリのおかげだぜ」

 

「ハッ、ジンガのお力になれて、光栄でございます」

 

「あなた…!やっぱり元魔戒法師だったのね……!」

 

「ええ。あなたを一目見たときに、もしやと思ったわあなたの着てる魔法衣に刻まれた紋章……。まさか、あの蒼哭の里に竜の眼が隠されていたなんてね!」

 

どうやら、アミリはララの着ている魔法衣に刻まれた紋章を見て、ララの故郷を見抜いたのだ。

 

「あなた、まさか蒼哭の里を訪れたことがあるの?」

 

「ええ、そうよ。いや、厳密にいえば、入る前に門前払いをくらったってところなんだけどね?」

 

「それってどういう……?」

 

「おっと、無駄なおしゃべりはそこまでだ。お前は、自分の里を守るためにここへ現れ、ここの魔戒騎士たちを利用したってことなんだろ?それにしても酷い話だよなぁ。自分の里を守るために、利用出来るものは利用するなんてなぁ」

 

ジンガはララの目的も見透かしており、まるで煽るような言葉を投げかけており、それを聞いたララは唇を噛み締める。

 

「そこについてどうこう言うつもりはないさ。だが、自分の里を守るために竜の眼を持ち出したというのに、帰る場所が無くなるのは本末転倒だろう?」

 

「っ!?あなた、まさか……!!」

 

「俺が言いたいのは最悪のことは起こしたくないだろう?ってことさ」

 

ジンガは、ララに竜の眼の封印を解除させるために、ララの故郷でもある蒼哭の里を滅ぼすことも辞さないことをほのめかしていた。

 

「くっ……!」

 

「もっとも、お前が協力しないのならば、そこだけじゃ済まないかもしれないがな」

 

ジンガは、ララの協力を促すために、さらに言葉を続ける。

 

「あの小娘共は、ラブライブとやらを目指しているのだろう?そのラブライブとやらが中止にせざるを得ないことになればどうなるだろうなぁ?可哀想になぁ……。せっかく大きな舞台でのパフォーマンスを夢見てたのに、お前のせいでその夢が断たれるんだもんなぁ」

 

「……くっ……!!」

 

ジンガは、ララの故郷だけではなく、大切な仲間である穂乃果たちの夢さえも人質に取ろうとしていたのだ。

 

「…さて、どうする?俺としてはどちらでも構わないんだがな?」

 

ジンガは、ララに必ず協力させるために卑劣な手を使っていた。

 

ララは、悔しさを露わにしながらも、魔導筆を取り出し、魔竜の眼の封印解除を始めるのであった。

 

「そうそう。最初からそうしてれば良かったんだよ」

 

ようやくララが協力してくれたため、ジンガはウンウンと頷いていた。

 

「…それにしても、あの時お前を助けたことがこんなところで役に立つなんてなぁ」

 

「私の故郷はホラーに滅ぼされ、深手を負った私は蒼哭の里に助けを求めました。ですが、あの里の人間は余所の人間を入れることを拒み、私を門前払いしたのです。私の命は本来あそこで尽きているハズでした。だからこそ、あなたに救われたあの時から、貴方へ忠誠を違うことを決めたのです」

 

アミリは、かつてとある里の魔戒法師であったが、その里はホラーの襲撃を受けて壊滅。

 

その際に深手を負いながらもどうにか蒼哭の里にたどり着き、助けを求めるも、蒼哭の里は、かつてより自分の里を守ることのみを考えていたため、余所の里の人間であるアミリを助けることを良しとはしなかった。

 

蒼哭の里に見捨てられたアミリは、里を滅ぼしたホラーに襲われ、危うくホラーに喰われるところだったが、たまたま通りかかったジンガによって救われたのである。

 

「ま、あの時はただの気まぐれだがな。俺は餌であるホラーを探していたしな。それに、お前を見た時にホラーになる前の頃の自分を思い出してなぁ?それでお前を拾ったって訳だ」

 

「いかなる事情であれ、私はジンガ様のためにこの命を捧げるつもりです」

 

「ふっ、期待しているぜ。アミリ」

 

「はっ!」

 

アミリは深々と頭を下げて、ジンガへの忠誠を改めて露わにする。

 

「さてと、あの女の見張りは任せたぜ」

 

ジンガは、ララが封印の術をちゃんと行うかの見張りをアミリに任せてその場を離れようとしていた。

 

「かしこまりました」

 

「俺は、もうじき来るであろう客人をもてなす準備でもしてくるさ」

 

ジンガは、もうじき奏夜たちが踏み込んでくると予想していたため、その対策を行うための準備を行うことにしたのだ。

 

ララが捕われている部屋を後にしたジンガは、そのままどこかへと移動するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ジンガの拠点の下見を終えた統夜たちが番犬所へ戻ってきたため、ララ救出のための作戦会議を行うことにしたのだ。

 

「…とまぁ、さっき報告した通り、そこにジンガたちは潜んでいる。イルバもホラーの邪気を探知してたから間違いはないさ」

 

「それにしても、そのアミリとかいう女が魔戒法師だなんてなぁ」

 

「ああ。それに、結界まで貼ってあったとは、厄介な協力者だな」

 

統夜からの報告を聞いたリンドウと大輝は、今までジンガの拠点を見つけられなかったことに合点はいったものの、アミリの存在に脅威を感じていた。

 

「だが、アミリがどんな力を持っていようと関係ない。あいつがジンガに力を貸すというのなら斬る。ホラーに手を貸してるということは、闇に堕ちているのと変わりはないからな」

 

奏夜は、アミリを斬ることに躊躇う様子を見せておらず、そんな奏夜の言葉に統夜たちも頷いている。

 

「うむ。ララを救出し、そのままジンガも倒す。その為に我々はここにいるのだから…」

 

剣斗が翡翠の番犬所に滞在しているのも、ジンガが企むニーズヘッグ復活阻止のためであり、そのためにもジンガを討滅するという決意を改めて露わにしていた。

 

「とりあえず、奴の拠点にしているビルへの侵入経路はふたつ。正面からのルートと、地下からのルートだ」

 

統夜は改めて、ジンガの拠点に侵入するルートの確認を行っていた。

 

「……恐らくジンガは俺たちがこれから踏み込んでくると予想して、両方のルートにホラーを配備する可能性が高いと思います」

 

奏夜は、侵入経路の話を聞いて、そう簡単に侵入は出来ないことを予想していた。

 

「片方に戦力を集中させる作戦もありかもしれませんが、それだともう片方にいると思われるホラーが挟撃してくる可能性もありますし、真正面からジンガへ向かっても、ララを盾にされてしまったら手が出せなくなると思います」

 

「そうなっちまったらせっかくララを助けに行こうってのに意味がないからな……」

 

奏夜の考える懸念に、アキトは大いに賛成しており、ウンウンと頷く。

 

「そこで、戦力を2つに分けて、正面から突破し、ジンガを目指すルートと、地下から侵入し、ララを救出するルートで行くことを提案します」

 

「うむ!その作戦で行くのが良さそうだな!さすがは奏夜だ!」

 

剣斗は奏夜の作戦を称賛しつつ、それを全力で支持する。

 

「俺もその作戦には賛成だ。ジンガを抑えるのとララの救出。同時に行うことでよりその作戦の成功率は上がると思うからな」

 

統夜もまた、奏夜の立てた作戦を支持しており、この作戦に反対意見を出すものはいなかった。

 

「地下から侵入するルートは私が行こう。奏夜たちが心置きなくジンガと戦えるようララを救出してみせる!」

 

「それなら、俺も地下ルートへ行くぜ。正面突破は若い連中に任せるぜ」

 

「む……となると、俺も地下ルートになる訳だな」

 

正面突破は若い連中というリンドウの言葉に、釈然としない気持ちがありながらも、大輝もまた、地下ルートのメンバーになることを了承する。

 

「ということは、正面から突入するのは、俺とアキト。それに奏夜の3人。剣斗、リンドウ、大輝さんは地下から侵入だな」

 

「はい。それで行きましょう!恐らくどちらのルートにもホラーはいると思います。ホラーを倒しつつ、ジンガを抑えながらもララを救出する」

 

「これは私の勘ですが、ジンガはもう既にララに封印の法術を行わせていると考えた方がいいでしょう。だとすれば、一刻の猶予もありません。なので、即刻ジンガのアジトへ突入し、作戦を行って下さい」

 

これまで奏夜たちの作戦を聞くだけだったロデルは、話がまとまったことを確認すると、改めて神官として指令を下す。

 

そんなロデルの言葉に、奏夜たちは無言で頷くのであった。

 

「ララもまた、私たちの大切な仲間だ。絶対に救い出そうではないか!」

 

「ああ!もちろんだ!」

 

「奏夜!私はこの一角獣の紋章が入った盾に誓おう。どれだけお前たちの夢を阻むものたちが現れようと、この盾で抑えてみせると!」

 

「剣斗……」

 

「これは、魔戒騎士としてだけではない。お前の友としての言葉でもあるさ」

 

剣斗は、小津の家紋が刻印されている盾を掲げ、このように奏夜へ誓いを立てる。

 

魔戒騎士としてだけではなく、奏夜を1人の盟友として道を切り開いて欲しいという思いを込めて。

 

「さあ、みんな急ぐぞ!どうやら一刻の猶予も無さそうだからな」

 

統夜の言葉にここにいる全員が頷き、番犬所を後にする。

 

そして、ララを救出するために、ジンガのアジトへと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジンガのアジトへ到着した統夜たちは、予め決めておいたチームに分かれ、それぞれのルートから侵入するのであった。

 

「…どうやら、結界は解除してあるみたいだな…」

 

統夜たちが偵察した時も結界は解除してあったのだが、現在もまた結界は解除されたままであった。

 

「恐らくは俺たちが踏み込んで来る事はわかってて、おもてなしするためにわざと結界はしてないんだろ」

 

「ええ。そう考えるのが無難かもしれませんね」

 

ジンガがどのような意図で結界を解除してるかは不明だが、それでも奏夜たちは足を止めることはせず、正面からビルに入るのであった。

 

『……どうやら、本当にこの先にジンガはいるみたいだな』

 

『ああ。奥からとんでもない邪気を感じるぜ』

 

魔導輪であるキルバとイルバは、このビル内に漂う強大な邪気を即座に探知していた。

 

「となると、油断は出来ないな…!」

 

統夜と奏夜は同時に魔戒剣を抜き、どこからホラーが現れてもいいように対応していた。

 

すると……。

 

『……!統夜!来るぞ!』

 

『奏夜!油断するな!』

 

イルバとキルバが、迫り来る邪気の存在をそれぞれのパートナーに告げるのと同時に、複数の素体ホラーが現れるのであった。

 

「どうやら、おもてなしの準備はバッチリらしいな……」

 

「ああ。とっととこいつらを蹴散らして先に行くぞ!」

 

「ああ!」 「はい!!」

 

統夜たちは迫り来る複数の素体ホラーに対して攻撃を仕掛けるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それと同時刻、ララは魔竜の眼の封印解除の術を現在も行っているのだが、あと少しで封印が解けるといったところまで来ていた。

 

「…アミリ、首尾はどうだ?」

 

奏夜たち迎撃の準備をしていたジンガが戻ってくると、現在の状況をアミリから聞く。

 

「はっ!封印解除の術は佳境のようで、眼の封印が解けるのも、時間の問題かと」

 

「そうか。それはちょうど良かったぜ。どうやら今しがた、奴らが現れたみたいだしな」

 

「!?あいつら、もう来たのか……!」

 

アミリは、奏夜たちがここまで早く踏み込んでくるとは思わなかったからか、驚きを隠せずにいた。

 

「そんなに驚くことはないさ。むしろ想定の範囲内だ。その為にわざと結界を解いてやったんだならな」

 

ジンガは、奏夜たちがこのタイミングで踏み込んで来る事も予想していたため、動じることはなく至って冷静であった。

 

「ここから入れるルートは2つ。奴らは戦力を分けてその2つから来るだろうな」

 

なんと、ジンガは奏夜が立てた作戦さえも予想していたのである。

 

「恐らくは、眼の封印が解けて間もなくこの小娘の救出しに地下からの奴らが来るだろう。地下からならここからは近いからな」

 

ジンガは、奏夜たちがこのビルのルートを把握していることも想定していたのであった。

 

「そこでだ。俺にいい考えがある。確実に奴らの戦力を削る策だ」

 

ジンガはこのように前置きをすると、アミリにその作戦を伝える。

 

「あの小僧は恐らく正面から来るだろう。だが、今日が奴の命日になるさ……!」

 

どうやらジンガは奏夜を狙っており、その作戦もまた、奏夜を葬るためのものであったのだ。

 

「俺は客人をもてなす準備をする。お前は眼の封印が解け次第、さっきの指示通り動いてくれ」

 

「はっ!かしこまりました!」

 

「くくく……!俺の足元には及ばないが、お前のその知力は目障りだからな。如月奏夜……!」

 

ジンガは、奏夜が魔戒騎士の中でも頭が切れることを感じており、それを多少なりとも驚異に感じていた。

 

こうしてジンガは再び今の部屋を後にして、どこかへと移動を開始したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジンガが秘密裏に作戦を立てていることなど知る由もなく、地下からビルへの侵入を試みた剣斗たちは、すぐさま素体ホラーたちの妨害を受けるが、その数は多いわけではなかったため、速やかにホラーたちを殲滅する。

 

「……おかしい……」

 

「ん?どうした?剣斗」

 

「恐らく、正面から入った奏夜たちもホラーと戦ってはいるだろうが、こちらの警備が明らかに手薄だとは思わないか?」

 

「それは一理あるかもな。本気で俺たちを中に入れたくないのなら、ホラーの数を増やすなり、手練を用意するなりやるだろうしな」

 

剣斗は、今迎撃したホラーが予想より遥かに少ないことに違和感を感じており、それに大輝も同意をする。

 

「奴さんが罠を仕掛けてるとでもいうのか?」

 

『その可能性はあるかもしれませんね。ですが、僕たちは足を止めてる場合ではありません』

 

ジンガが何か仕掛けていることは予想出来たものの、それを確かめる時間がないことを、リンドウの魔導輪であるレンが忠告混じりで伝えた。

 

「うむ。理由はともあれ、まずはララを救出しないとな」

 

こうして、立ちはだかるホラーたちを蹴散らした剣斗たちは、そのままビルへと侵入し、ララが捕われている部屋を探すのであった。

 

ララは魔竜の眼の封印解除の術を行っていたため、その大きな力を魔導輪であるレンが探知していたため、ララが捕われている部屋を探しあてるのに、そこまで時間はかからなかった。

 

「…ララ!無事か!?」

 

剣斗は施錠されている扉を蹴破って中に侵入すると、魔導筆を手にへたりこんでいるララを発見した。

 

「剣斗……。それにリンドウに大輝さんも……」

 

今まではジンガに捕われていたため、見知った顔を見てララは少しだけ安心していた。

 

「…その顔、だいぶ奴らから歓迎を受けたらしいな」

 

大輝は、ララの顔のあちこちに出来ている傷や痣を見て、どんな目にあったのかを察する。

 

「それで、魔竜の眼はどうなった?」

 

『ここにはそれらしき気配はありません。ということは……』

 

レンは、既に魔竜の眼の封印が解除されてしまったことを予想し、そんなレンの言葉に、ララは無言で頷く。

 

「くっ、間に合わなかったか……!」

 

魔竜の眼の封印が解かれてしまったことを知り、剣斗は悔しさを露わにする。

 

「いや、あのジンガって奴はこれも計算の範囲なんだろうな」

 

『ええ。リンドウの言う通りです。恐らく、わざと結界を解除していたのも、私たちを誘い出すだけではなく、私たちがララを救出する頃には魔竜の眼の封印は解除出来ると踏んでいたのでしょう』

 

レンはこのような予想をしていたのだが、そんなレンの言葉を聞き、ララはハッとしたのか目を丸くする。

 

「…?ララ、どうしたんだ?」

 

「みんな!奏夜たちはもしかして正面から入ってジンガを?」

 

「ああ。そういう作戦だからな」

 

「!?このままじゃ、奏夜が危ない!!」

 

ララの穏やかではない言葉を聞き、剣斗たちは驚きを隠せなかった。

 

「奏夜が危ないって、どういうことだ?」

 

「説明してる暇はないわ!早くみんなと合流しましょう!」

 

「了解したが、ララは大丈夫なのか?」

 

「大丈夫ではないけれど、今はそんなこと言ってる場合じゃないわ」

 

ララの鬼気迫る表情を見て、今はララを気遣っている場合ではないことを察した剣斗たちは、ララと共にこの部屋を後にして、奏夜たちと合流するために動き始めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、素体ホラーたちの襲撃を受けた奏夜たちであったが、その脅威を払った後であった。

 

「…どうやら、素体ホラーたちはこれで全部らしいな」

 

『ああ。それにしても、なかなかのホラーを配置してやがったな。奴さんもそう簡単には中に入れてくれないらしいな』

 

『そのようだな。地下から侵入してる剣斗たちも、同じようにホラーの妨害を受けてると思っていいだろう』

 

キルバはこのような推測をするが、地下の方はホラーの数がこちらより手薄なことは知る由もなかった。

 

『統夜!奴さんは屋上にいるみたいだぞ!』

 

「どうやら、そこで奴は俺たちを迎え撃つみたいだな」

 

「そうですね…。何か罠を仕掛けてる可能性もありますが、それでも行かないと!」

 

「そうだな……」

 

イルバがジンガの位置を探知するのだが、奏夜はジンガが何かを仕掛けようとしていたことは予想していた。

 

しかし、ララを救出してジンガを討滅するために、奏夜たちはジンガのいる屋上へと向かうのであった。

 

屋上へ向かう際にも素体ホラーが妨害してくるのだが、その数は多いとはいえない数であったため、奏夜たちは奏夜ホラーを倒しつつながら移動し、屋上へ到着するのであった。

 

「……よう、お前ら。思ったより遅かったじゃないか!」

 

「ジンガ……!!」

 

ジンガの姿を発見すると、奏夜は怒りに満ちた眼でジンガを睨みつける。

 

ララをさらったのは当然ながらも、そのために穂乃果たちを人質にしようとしたことも奏夜には許せなかったのである。

 

「…おいお前!ララは無事なんだろうな!?」

 

「さあな。お前ら、戦力を分けて来たんだろ?今頃お前のお仲間が助けた頃なんじゃないのか?」

 

「くっ…!やはり俺たちの作戦を予想してたか!」

 

奏夜は、ジンガが自分たちがふたつのルートを使って侵入することを想定してると予想していたため、その予想があたっていたことはやはりといったところではあるものの、悔しさを滲ませていた。

 

『お前さん、随分と余裕そうだな。まさか……!』

 

「ああ!そのまさかさ!」

 

イルバの言葉にジンガは頷くと、どこからか魔竜の眼を取り出したのであった。

 

その首には奏夜から奪った魔竜の牙がネックレスのようにかけられており、両手にはそれぞれ魔竜の眼を手にしていた。

 

「くっ、ニーズヘッグ復活のための素材が揃っちまったか…!」

 

統夜は元々ニーズヘッグ復活を阻止するために動いていたため、ジンガがニーズヘッグ復活に必要なものを全て手にしているのを確認し、唇を噛み締める。

 

「その通りだ!これでニーズヘッグ封印の道具は揃った!後はニーズヘッグを復活させるだけさ!」

 

「そんなこと、させるものか!!」

 

奏夜は魔戒剣を構えると、鋭い目付きでジンガを睨みつける。

 

「お前たちはこいつを取り戻したいんだろ?だったら……!力ずくで奪いに来いよ!」

 

ジンガは奏夜たちを挑発しており、まるで自分を狙ってこいと言っているようだった。

 

「言われるまでもない!お前を倒し、それらは改めて封印するさ!!」

 

「ああ!行くぞ、奏夜!アキト!」

 

「はい!」 「おうよ!!」

 

統夜の掛け声と共に、奏夜、統夜、アキトの3人はジンガに向かっていった。

 

それを見ていたジンガはニヤリと笑みを浮かべており……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぐっ!?」

 

突如奏夜たちの前に何者かが現れたかと思うと、奏夜たちは突然現れた乱入者の攻撃を受けて吹き飛ばされてしまう。

 

奏夜たちはすぐさま立ち上がるのだが、乱入者は女性のような体型であるものの、漆黒の鎧を身にまとっていた。

 

『!?こいつは、魔獣装甲か!?』

 

イルバが驚いている通り、この乱入者は魔獣装甲と呼ばれる鎧を身にまとっていた。

 

魔獣装甲というのは、魔戒騎士が身に纏う鎧とは異なるものであり、鍛錬さえ積めば魔戒騎士でなくても装着出来る。

 

かつて、冴島鋼牙と戦った東の番犬所の神官たちを守るコダマや、その三神官の真の姿であるガルムが装着したこともあるものであった。

 

しかし、魔獣装甲は誰でも装着出来るものではなく、強大な力を得られるものの、鎧に体が耐えられずその肉体を食われるケースもある。

 

そういったケースもあることから、魔獣装甲は禁忌の力の1つであるのだ。

 

「魔獣装甲って、確か……!」

 

統夜もまた、かつて黄金騎士牙狼の称号を持つ冴島鋼牙が戦った相手のことを思い出していたが、その間もなく魔獣装甲を纏った乱入者は衝撃波を放ち、3人を吹き飛ばす。

 

3人はそれぞれ別方向に吹き飛ばされるのだが、魔獣装甲を纏った乱入者は、奏夜に狙いを定めていた。

 

「…如月奏夜!その命もらった!!」

 

魔獣装甲を纏った乱入者は、その手から光の槍のようなものを呼び出すと、それを手に奏夜へと向かっていった。

 

「…!?まずい!」

 

統夜はすぐに立ち上がり体勢を立て直そうとするものの、ダメージがあることと、奏夜から少し距離がらあることから助けようにも間に合わない距離であった。

 

「させるかよ!」

 

アキトは魔戒銃を構えて発砲し、乱入者を奏夜から遠ざけようとしていた。

 

しかし、それは読まれていたのか、乱入者は手にしていた槍をアキト目掛けて放つと、的確に魔戒銃を貫き、破壊した。

 

アキトは咄嗟に手を離していたため、軽い出血程度で済んだが、あのまま魔戒銃を持ったままだったら、その手も一緒に吹き飛ばされていただろう。

 

「ぐっ…!」

 

それを証明するかのように、アキトは痛みによって表情が歪んでいた。

 

「アキトさん!」

 

奏夜は立ち上がって迎撃しようとするも、統夜同様にダメージがあるからか、すぐに立ち上がることは出来なかった。

 

そんな中、乱入者は再び光の槍を呼び出して構える。

 

「…如月奏夜。これで終わりだ!」

 

乱入者は奏夜にとどめを刺すために向かっていった。

 

しかし……。

 

「…!?奏夜!!」

 

屋上に現れた剣斗が魔戒剣を前方に突きつけて円を描き、その円の中に入るかたちで、自らの鎧である剣武(ケンブ)の鎧を身に纏うと、奏夜を守るために駆け出し、盾を突き出す。

 

その盾は、間一髪のところで間に合い、乱入者の光の槍は剣斗の盾を貫こうとしていた。

 

「…!?剣斗……!」

 

間一髪のところで剣斗に救われた奏夜は、自分を必死に守ろうとしている剣斗を見守りながらも援護するためにどうにか立ち上がろうとしていた。

 

しかし、体が思うように動かず、立ち上がるのに時間がかかっていた。

 

剣斗の盾と乱入者の光の槍。

 

両者の力は拮抗しており、奏夜たちだけではなく、剣斗と共に屋上へやってきたリンドウ、大輝、ララの3人もこの様子を見守ることしか出来なかった。

 

だが、それも束の間であり、乱入者の光の槍が徐々に剣斗の盾を貫こうとしており、少しずつその盾にヒビが入っていく。

 

「…まずい!」

 

このままでは剣斗が危ない。

 

そう感じた統夜は立ち上がり、剣斗を助けるために動き始める。

 

それだけではなく、大輝とリンドウもまた、剣斗を援護するために向かう。

 

しかし、それらは全て遅すぎたのであった。

 

乱入者の光の槍は、剣斗の盾を貫き……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そのまま剣斗の身体も貫くのであった。

 

「がはっ!!」

 

その身体が貫かれたことにより、鎧は解除されてしまい、剣斗は口から血を吐き出す。

 

「!!?」

 

「そ、そんな……!!」

 

目の前に広がる光景が信じられず、統夜、リンドウ、大輝は足を止めてしまう。

 

そして、自分の目の前で体を貫かれてしまった剣斗の姿を、奏夜は呆然と見つめることしか出来なかった。

 

「……狙いは外したか。まぁ、いい」

 

乱入者はこう吐き捨てると、光の槍を手放し、軽い身のこなしでジャンプして、ジンガのそばへと移動した。

 

光の槍は消滅したことにより、剣斗の身体から大量の出血が起こっており、剣斗はその場に倒れてしまった。

 

「剣斗!!!」

 

自分を守って倒れた剣斗を見た奏夜の慟哭が、この空まで響いていた。

 

そんな中、乱入者は魔獣装甲の鎧を解除すると、その正体を露わにしたのである。

 

「……!?貴様は……!」

 

奏夜たちは乱入者の正体に驚きを隠せずにいた。

 

その正体とはなんと、ジンガに忠誠を誓う魔戒法師のアミリだったのだ。

 

何故アミリが魔獣装甲を身にまとっているのか?

 

その謎を明らかにしたいところではあっのだが……。

 

「アミリ、行くぞ。ニーズヘッグを復活させないとな」

 

「はっ!かしこまりました!」

 

目的を果たしたジンガは、アミリと共にどこかへと姿を消すのであった。

 

「てめぇ、よくも剣斗を!!」

 

剣斗の体を貫いたアミリに怒りを露わにする統夜であったが……。

 

「待て、統夜!今から追いかけても無駄だ!」

 

既にジンガとアミリは姿を消していたため、追撃は不可能だった。

 

アキトの言葉にハッとした統夜は剣斗のもとへ駆け寄り、その体を抱きかかえた。

 

それに奏夜たちも続き、奏夜たちは剣斗を囲むように駆け寄っていた。

 

「……くっ!これじゃ、治癒の法術を使っても……!」

 

アキトは、すぐに剣斗の傷の具合を確認するが、アミリの光の槍は、剣斗の体を完全に貫いており、治癒の法術を使っても助かる見込みのない程であった。

 

以前、奏夜がジンガに体を貫かれた時は、ここまで傷が深くはなく、急所を外れていたからこそ、治癒の法術で応急処置が行えた。

 

今回の場合は、剣斗の急所となる臓器も的確に貫かれているため、どれだけ治癒の法術に長けた魔戒法師でも、傷を癒すことなど不可能であろう。

 

そんな状況に、アキトは唇を噛み締めて悔しさを露わにしていた。

 

「……剣斗……っ!」

 

奏夜は、悲しげな表情を剣斗に向けていた。

 

そんな中、剣斗はゆっくりと奏夜の方を向き……。

 

「そ、奏夜……。無事…だったようだな……。良かった……」

 

剣斗は、奏夜を無事を確認すると、安堵の笑みを浮かべていた。

 

「全然良くねぇよ!!どうして、俺を……!」

 

「当然だ……。お前は、私たち……だけではない……。μ'sの……希望なんだ……。お前を…死なせる訳には……いかないからな……」

 

「だからって!!お前がいなかったら俺は…!」

 

剣斗はもう助からない。

 

奏夜はそれがわかってるからこそ、感情が爆発し、剣斗の手を強く握りしめていた。

 

「……お前は……μ'sを導く……灯台のような男だ……。お前に……そんな顔は……似合わんぞ……」

 

「……え?」

 

「…お前の……笑顔は……とてもイイ……!」

 

「……」

 

奏夜の表情は悲しみに満ちていたが、自分の笑顔がいいと言ってくれた剣斗のために、精一杯の笑顔を剣斗に向けていた。

 

笑顔ではあるものの、悲しみは隠しきれてはいなかったが、剣斗は奏夜の笑顔を見て、満足したのか、穏やかな表情になり、ゆっくりと目を閉じていった。

 

そして、剣斗の力がゆっくりと抜けていき、そのまま息を引き取ってしまった。

 

「……剣斗……!」

 

「……馬鹿野郎が……!使命を果たすために、死んだら……ダメだろうがよ……」

 

「ああ……。死ぬのは俺みたいな魔戒騎士でいいはずだ。それなのに……!」

 

「……」

 

剣斗の最期を見届けていたアキト、リンドウ、大輝、ララはそれぞれ反応は異なるものの、リンドウの死を悲しんでいた。

 

「……くっ……!」

 

統夜もまた、穏やかな顔をしている剣斗から目を背け、涙を堪える。

 

「……けん、と……!」

 

そして奏夜は、目に涙を溜めたまま、剣斗の手を強く握りしめる。

 

こうして、今回の戦いは、ジンガの手に魔竜の眼が渡っただけではなく、剣斗を失う結果となってしまい、奏夜たちの完全なる敗北に終わってしまった。

 

しかし、ジンガはニーズヘッグをすぐにでも復活させようとしているため、足を止める訳にはいかない。

 

これからさらに激しい戦いが待ち受けていることは奏夜たちにも予想は出来たが、今はただ、大切な盟友の死を前に、悲しみにくれていたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

──次回予告──

 

『まさか、ここで剣斗を失ってしまうとはな……。おい、奏夜。ここで足を止めてる場合じゃないぞ!次回、「鎮魂」!英霊の魂よ、安らかに眠れ!』

 

 




ここで剣斗が退場というかたちになってしまいました。

この展開は皆さんは予想出来なかったとは思いますが、実は僕は剣斗を初登場させた時からこんな展開にしようと考えてはいました。

そして、まさかアミリが魔獣装甲を付けて現れるとは。

この辺も牙狼本編とは明らかに異なるため、予想外だったと思います。

アミリは何故魔獣装甲を身に纏うようになったのか?

それは次回以降で明らかになっていきます。

今作でアミリ初登場時にも触れましたが、今作のジンガとアミリの関係は、炎の刻印のメンドーサとオクタヴィアに似てるようなもので、この展開も考えていました。

魔獣装甲を付けたアミリ…。かなりの強敵なのは予想出来ると思います。

次回は、剣斗を失ってしまった奏夜たちがいったいどう動くのか?

そして、ニーズヘッグ復活の準備をしようとするジンガやアミリの行方は?

それでは、次回をお楽しみに!!



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第77話 「鎮魂」

お待たせしました!第77話になります!

前回の話で、まさかの剣斗が退場となってしまいましたが、今回はそんな剣斗を追悼する回となっております。

奏夜たちは、大切な仲間を失った悲しみから立ち直ることは出来るのか?

それでは、第77話をどうぞ!




ジンガの魔の手により、ララがさらわれてしまった。

 

奏夜たちは、ララを救い、魔竜の眼を取り戻すために、ジンガのアジトへ突入する。

 

しかし、ジンガは卑劣な手段を用いてララに封印解除の法術を使わざるを得ない状況に追い込み、ララは魔竜の眼の封印を解除してしまった。

 

そんな中、奏夜、統夜、アキトの3人は封印解除された魔竜の眼を手にしたジンガと遭遇。

 

魔竜の眼を取り戻すためにジンガに戦いを挑もうとするが、魔獣装甲を身にまとったアミリの奇襲を受けてしまう。

 

アミリの狙いは奏夜であり、奏夜の命を奪おうとするのだが、駆けつけた剣斗が奏夜の盾となる。

 

その結果、アミリの放つ光の槍は、剣斗の盾を貫き、体も貫かれてしまった剣斗はその命を落としてしまった。

 

その後、番犬所への報告を大輝、リンドウ、アキトの3人に任せ、他のメンバーは一度音ノ木坂学院へ戻る。

 

「……あっ!そーくん!それに、ララちゃん!」

 

穂乃果たちは、部室にて待機していたのだが、部室に奏夜たちが入ってくるのを見て、奏夜たちのもとに駆け寄る。

 

「良かった!無事だったのですね!?」

 

「うん。心配かけてごめんね?魔竜の眼はジンガに取られちゃったし、封印も解除しちゃったんだけどね…」

 

ララは自分が無事なことを穂乃果たちに伝えるが、自分のしたことを思い出し、その表情は曇っていた。

 

「封印を解除って……。そうなったら大変なことになるんじゃないの?」

 

真姫は、ララの持っていた魔竜の眼の封印が解除されるかどうなるか話を聞いていたため、不安げな表情を見せていた。

 

「……あなたたちの夢を、守るためよ」

 

「…え?」

 

ララの言葉に、穂乃果たちは首を傾げる。

 

「ジンガは、封印を解除しなければ私の故郷を潰すだけじゃない。みんなの目指すラブライブを中止させようとしてたわ。私のしたことは、魔戒法師としては間違ってたかもしれない……。だけど、私の一存でみんなの夢を潰したく無かったのよ……」

 

「ララちゃん……」

 

ララが、どのような思いで魔竜の眼の封印を解除したのか知り、これ以上は何も言うことが出来なかった。

 

『蒼哭の里を潰すことも、ラブライブを何らかの方法で中止させることも、ジンガのやつならばやりかねないだろうな……』

 

「ああ、あいつ、卑怯な手をつかいやがって……!」

 

イルバの分析に統夜は同意しつつも、ジンガに対して怒りを露わにしていた。

 

「……ところで、小津先生は一緒ではなかったのですか?」

 

奏夜たちは戻ってきたが、剣斗の姿はなかったため、海未は剣斗の所在を訪ねる。

 

その言葉を聞いた奏夜たちの表情は曇り、顔を伏せていた。

 

「……?小津先生は……どうしたの?」

 

「まさかとは思うけど、何かあったの…?」

 

剣斗のことを聞いた瞬間に奏夜たちの様子が変わったのを見たにこと絵里は、嫌な予感がしながらも、奏夜たちに訪ねる。

 

「……俺たちは、ジンガと対峙したのだが、その途中にあの女、アミリの奇襲を受けたんだ」

 

「!?やっぱり、あの女の人はホラーだったの!?」

 

『厳密に言えば違うが、今はその説明は省かせてもらう』

 

「奴らは俺の命を狙ってたんだ。そんな俺をかばって……剣斗は……っ!」

 

奏夜は顔を伏せてここで言葉を止めるが、穂乃果たちはその意味を理解したため、その顔がみるみると真っ青になっていく。

 

「そんな……小津先生が……!」

 

剣斗が命を落とした。

 

奏夜たちですらその事実を受け止めきれてないため、穂乃果たちがその事実を信じられないというのは当然である。

 

しかし、奏夜たちが嘘を言っていないことも理解していたため、たちまち部室は悲しみの空気に包まれる。

 

「……剣斗は、俺がμ'sにとって必要な存在だってことで、自らを犠牲にしてまで、俺を守ってくれたんだ……」

 

「そーくん……」

 

「俺はいつだってそうだ。誰かの犠牲によって生かされてる……。あの時、テツさんの犠牲で生き延びた時から、俺は何も変わっちゃいない……!」

 

「奏夜……」

 

奏夜が魔戒騎士になったばかりの頃、元魔戒法師のアスハは、全ての魔戒騎士を滅ぼすために、とある兵器を用いて魔戒騎士狩りを敢行する。

 

その際、奏夜もまたその兵器によって危機を迎えるのだが、その時奏夜の面倒を見ていた魔戒騎士テツが奏夜を逃がし、魔戒騎士狩りの秘密を番犬所に伝えるよう託した。

 

その結果、テツは命を落としてしまうのだが、その時の感情を奏夜は思い出していたのである。

 

『おい、奏夜。お前はいつまで剣斗の死を引きずっている?魔戒騎士の戦いはいつも死と隣り合わせなんだ。それはお前も覚悟のうえだろう?気持ちを切り替えなければ、次に死ぬのはお前だぞ!』

 

暗い表情の奏夜に、キルバは厳しい言葉を投げかけて叱咤激励をする。

 

しかし……。

 

「キー君!いくらなんでもそれは酷いよ!」

 

「そうだよ!魔戒騎士は命懸けなのはわかるけど、その言葉は今言うべきじゃないよ!」

 

キルバのあまりに厳しい言葉に、ことりと穂乃果が異議を唱える。

 

「確かに…。キルバの言ってることは間違ってないな」

 

「統夜さんまで!」

 

統夜は、キルバの言葉に賛同してると知り、海未が統夜に異議を唱えた。

 

「だがな。理解はしててもそう簡単に納得出来るものじゃないよ。剣斗の死を受け止めて、前に進む力にするのには少し時間がかかるってもんさ」

 

『やれやれ。お前も相変わらず甘いな、統夜。そんな悠長なことを言ってられる状況じゃないのはお前さんもわかっているだろう?』

 

「そうかもしれないけど、ジンガを止めなきゃいけないからこそ、その時間は必要だと思うわ。ジンガに捕らわれた私が言えたことじゃないかもしれないけど……」

 

「…ねぇ、奏夜。これからどうするつもりなの?」

 

剣斗が命を落としたのは理解したが、今後どうするかを知るために絵里が訪ねる。

 

「…とりあえずは剣斗の親父さんに今回のことを報告する。その上でお願いもあるからな」

 

「…俺も一緒に行くぜ。お前一人に負担はかけさせんさ」

 

「私も行く。こんな状況だからこそ、何かをしたいもの」

 

奏夜は剣斗の父親に会いに行こうとしており、それに統夜とララも同行することを告げる。

 

それだけではなく……。

 

「私も一緒に行くわ。おじ様に会いに行くのなら、私も何か力になれるかもしれないもの」

 

「私も、同行させてもらうわ、私じゃ何も出来ないかもしれないけれどもね」

 

真姫だけではなく、絵里も奏夜たちに同行する旨を伝え、奏夜は無言で頷くことでそれを了承する。

 

「ララ。お前の気持ちは理解しているけれど、とりあえず今は休んでてくれ。ダメージも残ってるだろうし、疲れもあるだろうしな」

 

「ごめん……。そうさせてもらうわ……」

 

ララとしても、剣斗の父親に今回のことを報告したい気持ちはあったものの、先の一件でのダメージや疲れは相当なものであることから、報告は奏夜たちに任せることにした。

 

こうして、奏夜たちは剣斗の父親に剣斗の訃報を報告するために、剣斗の家に向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜たちが剣斗の家を訪れたのは、新曲を作るために合宿を行った以来であり、以前のようにタクシーを使用して剣斗の家に向かっていた。

 

統夜は一応自家用車を所持しているが、現在はこちらに車を持ってきていないため、今回はタクシーになったのである。

 

既に剣斗のことは番犬所から話が入っていたのか、奏夜がインターホンを鳴らして名乗ると、すぐに執事の男性が出迎えてくれ、剣斗の父親のもとへ案内された。

 

奏夜たちが案内されたのは、以前剣斗の父親と対面した時と同じ部屋であり、奏夜たちが訪室した時、奏夜たちに背を向けており、顔を見せようとはしなかった。

 

「…あのっ、おじ様…!」

 

父親経由で剣斗の父親とは面識のある真姫が話を切り出そうとするが、奏夜がそれを制止する。

 

今回のことは自分の口で報告すべきだ。

 

そう判断したからである。

 

「……あっ、あの……!」

 

奏夜は剣斗のことを伝えようとするも、なかなかその言葉を口にすることは出来なかった。

 

剣斗は死んでしまった。それも自分をかばってしまった結果に。

 

そんな経緯があるからこそ、余計に言いにくかったのである。

 

「……何も言わなくてもいい」

 

剣斗の父親は、そんな奏夜の気持ちを汲み取っているのかいないのかは不明だが、ゆっくりと口を開く。

 

しかし、背を向けたままなのは変わらず、その表情は読み取れなかった。

 

「……剣斗は、自分の…そして、μ'sにとって希望である君をかばって命を落としたのだ。それこそ、人を守る魔戒騎士としてだけではない、誰よりも騎士道を重んじる小津家の人間として誇らしき行動なのだ…。だから、今はどうか……沈黙をもって弔って欲しいのだよ…」

 

剣斗の父親は全て承知のうえで奏夜にこう告げるのだが、悲しみの感情を隠し切ることは出来ず、その声は震えていた。

 

「……」

 

そんな剣斗の父親の言葉に、奏夜は胸を締め付けられる思いであったが、その思いを汲み取って、ゆっくりと頷いた。

 

「……おじ様、小津先生は私たちμ'sにとってだけじゃない。音ノ木坂学院にとっても素晴らしい先生だったのです」

 

「…ああ。理事長から話は聞いていたよ。生徒に慕われていた素晴らしい教師だと。だからこそ、剣斗の葬儀の手配は行っている。魔戒騎士としてだけではなく、音ノ木坂学院の教師としてな……」

 

魔戒騎士や魔戒法師が亡くなった場合は、その遺体は番犬所や元老院に収容され、葬儀に代わる追悼の儀を行うのが通例とされている。

 

しかし、剣斗は魔戒騎士としてだけではなく、音ノ木坂学院の教師としても誰からも慕われていたこともあり、剣斗の父親は、魔戒騎士としてだけではなく、小津剣斗としても音ノ木坂学院の生徒たちに最後のお別れをする機会を設けようと決意していたのだ。

 

「……そのお心遣い、大変痛み入ります…」

 

絵里としても、その提案をしたいとは考えていたものの、なかなか厳しいと判断したため話を切り出せなかったが、剣斗の父親の気持ちを汲み取り、深々と頭を下げた。

 

「……報告は番犬所から受けているが、ジンガというホラーは、強大なホラーを蘇らせようとしているのだろう?剣斗の心も連れて、どうかそれを阻止して欲しい……!息子の愛したこの街を…世界を…守ってやってくれ!」

 

剣斗の父親は、剣斗の訃報を聞いた時に、現在の状況も簡潔に聞いていたため、元魔戒騎士として、このように奏夜や統夜に託したのであった。

 

「……お任せ下さい…!俺たちは、これからも剣斗の心と共に戦っていきます……!剣斗の思いと共に、俺たちは前に進んでいきます……!」

 

統夜もまた、剣斗のことを大切な友であると思っていたため、彼を失ったことによる悲しみはあったが、魔戒騎士として使命を果たすため、声を震わせながらもこう告げる。

 

そんな統夜の言葉を聞いた剣斗の父親は、まるで今まで溜め込んでいたものを吐き出すかのようにその場で泣き崩れていた。

 

息子を失った剣斗の父親の慟哭に、真姫と絵里はもらい泣きしそうになっているのか目に涙を貯めており、奏夜と統夜は、顔を伏せて俯いていた。

 

「……みんな、とりあえず行こう」

 

統夜が声を震わせながらこう促すと、奏夜たちはそのまま剣斗の家を後にして、音ノ木坂学院へ戻った。

 

そして、部室に残っていた穂乃果に現状を報告し、その日は解散する。

 

現状はラブライブに向けての練習をしている場合ではないという判断からである。

 

穂乃果たちが帰路につく中、奏夜、統夜、ララの3人は番犬所へ戻ると、改めて剣斗のことを報告。さらに、剣斗の家の出来事を報告していた。

 

「……剣斗のことは先程大輝やリンドウから報告は受けました。とても残念です……」

 

「はい……。剣斗は、俺をかばったせいで……!」

 

「奏夜。自分を責めてはいけません。今はそのことを後悔し、苦しむ場合ではないのですから……」

 

ロデルは奏夜を気遣いながらも、最悪な状況になった現状を鑑みていた。

 

「…番犬所としてもジンガの足取りを追ってはいるのですが、今のところは有力なものはありません」

 

「あいつの手には二つの魔竜の眼と魔竜の牙が揃いましたが、すぐにニーズヘッグが復活することはないでしょう。それらを用いて復活の儀式を行うハズです」

 

『それを行う場所を奴さんも探しているはずだ。もうあの場所へ戻ることは出来ないからな』

 

イルバの推測通り、今回の作戦で奏夜たちは、ジンガのアジトを突き止めて踏み込んだ。

 

新たな潜伏先を探していると考えるのが自然であろう。

 

「ニーズヘッグ復活の儀式だって、すぐに行えるものではないはずです。他のホラーの復活の時だって……!」

 

統夜は、魔戒騎士として、強大な力を持つホラーとの交戦経験を思い出しながら、その時の経験から、すぐにニーズヘッグが復活することはないと推測していた。

 

そのことには大輝やリンドウも同感なのか、無言で頷いている。

 

「そうですね…。だからと言って予断は許される状況ではありませんが、何か動きがあれば、すぐに報告します。皆さんはこれから起こるであろう激闘に備えて、体を休めて下さい」

 

現在は最悪な状況ではあるものの、ニーズヘッグ復活には猶予がある。

 

そのため、ロデルは奏夜たちを休ませる判断を下し、奏夜たちはそんなロデルの言葉を聞いて、解散。体を休めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、この日は登校日であるため、奏夜はいつも通り登校した。

 

しかし、登校後すぐに、全校生徒たちは講堂へ集められた。

 

奏夜たちはどうして講堂へ集められたのか察していたのだが、他の生徒はいきなり講堂へ来るなど予想もしていなかったため、困惑していた。

 

全校生徒が講堂に集まったため、ステージに理事長であることりの母親が現れ、挨拶を始めた。

 

『本日皆さんに集まって頂いたのは、皆さんにとってとても残念なお知らせをしなくてはならないからです』

 

理事長はそのような前置きの後に顔を伏せるのだが、すぐに顔を上げて話を続けた。

 

『我が学院の体育教師として皆さんにも慕われていた小津剣斗先生ですが、昨日交通事故に遭い、亡くなられました』

 

理事長の口によって剣斗の死が伝えられると、生徒たちは驚きと信じられない気持ちが交差しており、講堂内はざわついていた。

 

剣斗が交通事故で亡くなったことになっていることに奏夜たちは驚いていたが、これは剣斗の父親や番犬所の計らいである。

 

剣斗が魔戒騎士であることを知っているのは奏夜たちだけであるため、戦いによって命を落とした等言うことは出来なかったため、そのように口実を作ったのであった。

 

『…本日は通夜があり、明日は小津先生の葬儀が行われますが、葬儀に関しては希望する生徒は参列しても良いと先生のご家族様からお話がありました。参加を希望される方は、後ほど自分のクラスの担任の先生にその旨をお伝えください』

 

剣斗の死後、剣斗の父親が速やかに対応を行ったからか、本日通夜で翌日には葬儀を行うことが出来た。

 

剣斗の訃報を伝える目的だった集会は終わり、生徒たちは自分の教室へと戻っていった。

 

その後は剣斗の葬儀の参列の有無の確認後は普段通りの授業が行われれたのである。

剣斗は教師として本当に慕われていたのか、ほとんどの生徒が翌日の葬儀に参列することとなった。

 

この日は、普段通りの授業が行われていたものの、剣斗の死を受け入れられない生徒が多く、とてもまともに授業が出来る状態ではなかった。

 

普段であれば、休み時間や昼休み、放課後は生徒たちの楽しげな話し声が飛び交うのだが、今日はあまりに衝撃的なニュースがあったため、剣斗の死を悼む声や、その事実に泣いている生徒が多いと、悲しみに包まれていた。

 

それは、奏夜たちのクラスも同様であり……。

 

「……ねぇ、奏夜くん」

 

放課後になりすぐに、奏夜たちが日頃からお世話になっている、ヒデコ、フミコ、ミカの3人が奏夜に話しかけてきた。

 

「小津先生のことなんだけど……事故で亡くなるなんて、嘘だよね…?あんないい先生他にいないのに……」

 

「急にごめんね?奏夜くんは小津先生と親しかったでしょう?それで、何か知らないかなってさ…」

 

ヒデコとミカが奏夜におずおずと訪ねる通り、奏夜と剣斗が教師と生徒という立場を越えた友人だということは、音ノ木坂学院の生徒や教師ならばほとんどが知る話であった。

 

「……信じられないよな…?俺だって、信じられないよ……」

 

奏夜としては、剣斗が何故死んだのかを理解していたが、それを正直に話すことは出来ず、こう答えるのが精一杯なのである。

 

悲しみを誤魔化すため、奏夜は顔を伏せてその顔を見せないようにしていた。

 

「……!」

 

そんな奏夜の表情を見て、剣斗の訃報に嘘はないと改めて実感したのだろう。

 

フミコは声をあげずに涙を流していた。

 

そして、それに呼応するかのように、ヒデコとミカも涙を流し、3人は抱き合いながら泣いていたのだ。

 

「……」

 

そんな状況を見てられなかったのか、奏夜は教室を飛び出した。

 

「……そーくん……」

 

このやり取りの一部始終を見ていた穂乃果は、心配そうな目をしながら奏夜が出ていった方角を眺めていた。

 

「今は、そっとしておいてあげましょう。小津先生のことで、一番辛いのは奏夜なのですから…」

 

奏夜から剣斗の死の事実を聞いている海未はこのように穂乃果に声をかける。

 

「そう、だよね……」

 

「昨日話し合いをした通り、こんな状態では練習にならないと思いますので、今日は帰りましょう。本格的な練習は、明日以降になると思います」

 

「これから……どうなっちゃうんだろうね……?」

 

剣斗の死により、今後の活動に支障が出るのではないかと心配になったことりは、悲しげな表情でこのように呟いていた。

 

先程の海未の話の通り、今日は練習を行える状況ではないため、穂乃果たちは帰路に付き、学年の異なる他の6人もまた、奏夜のことを心配しつつも帰路に付いた。

 

「……」

 

その頃、教室を飛び出した奏夜は、屋上に来ており、そこから見える景色を眺めていた。

 

『……おい、奏夜。お前はいつまでそうしているつもりだ?』

 

奏夜が未だに剣斗の死から立ち直れていないと判断したのか、キルバは奏夜が1人になったこのタイミングで声をかける。

 

『剣斗がお前にとって大事な盟友だったのは承知している。だが、魔戒騎士の戦いはいつ命を落としてもおかしくない状況だ。あの時剣斗が飛び出して来なければ、命を落としていたのはお前だったんだ。それはお前もわかっているだろう?』

 

「……わかっているさ。わかってるからこそ、剣斗を救えなかった俺は……っ!!」

 

奏夜は両手をギュッと握りしめ、唇を噛み締める。

 

自分は本来あそこで命を落としていただろう。

 

しかし、剣斗がかばってくれたおかげで生きながらえることが出来たのだ。

 

奏夜としても、μ'sのために死ぬ訳にはいかないのは承知している。

 

だが、これ以上誰かの犠牲によって生きながらえることは、奏夜には耐えられない苦痛なのであった。

 

『お前の気持ちは承知しているさ。お前は魔戒騎士として多少は強くなったが、まだまだ未熟者だ。そんなんで戦いなぞしたら、お前は確実に死ぬだけだぞ。そんなことになったら、剣斗の犠牲が無駄になるということが何故わからない!?』

 

「…!」

 

キルバの的を得た叱責に奏夜は一瞬ハッとするも、何も答えることは出来なかった。

 

奏夜は悔しさや悲しみの感情を抱きながら、しばらく屋上で景色を眺めていた。

 

その後、奏夜は番犬所を訪れるが、ジンガは未だ動きを見せてない状態だったため、街の見回りは大輝とリンドウに任せ、奏夜は体を休めることになった。

 

そして翌日、剣斗の葬儀が始まった。

 

剣斗は小津財閥の会長の次男ということもあってか、多くの人が参列していた。

 

音ノ木坂学院の生徒はほぼ全員が参列していたが、全員が入れる程会場である場所の広さはなかったため、生徒会のメンバーである穂乃果たちが会場に入ることは許されたが、他の生徒は外で剣斗とお別れをすることになる。

 

剣斗の葬儀には、統夜だけではなく、統夜から今回の訃報を聞いた梓たちも参列していた。

 

特に紬は、父親経由で剣斗の父親と交流があったため、紬の父親と共に参列していたため、統夜たちとは別行動だったのだ。

 

葬儀の開始時間となり、会場となったお寺の住職がお経を唱え始め、そのお経はスピーカーを通して外にいる音ノ木坂学院の生徒たちにも聞こえるようになっていた。

 

お経を聞いていた生徒たちの中には、剣斗の死を受け入れられず、他の生徒と抱き合いながら涙を流す者や、目に涙を溜めたままお経を聞いている生徒など様々であった。

 

奏夜、穂乃果、海未、ことり以外の他のメンバーは外でお経を聞いており、全員が俯いており、剣斗の死を悲しんでいた。

 

それは、会場内にいる穂乃果たちも同様の様子である。

 

「………」

 

そんな中、奏夜は未だに剣斗の死から立ち直れておらず、自分の無力さを呪いながらお経を聞いていた。

 

(奏夜のやつ、相当思いつめてるみたいだな……)

 

そんな奏夜の様子を、統夜は遠くで眺めており、心配そうな視線を送る。

 

«まぁ、無理もないだろうな。あの小僧にとって剣斗は大切な盟友。しかも、自分をかばって死んだのだからな»

 

(そうだよな……。だが、俺だって本当のところは……)

 

統夜にとっても剣斗は大切な盟友の1人であったのだが、統夜は魔戒騎士になってから、仲間の死を何度も見てはいるものの、盟友と呼べる存在を失ったのは初めてであった。

 

統夜が魔戒騎士になる前の修練場では、ホラーの襲撃にあい、共に魔戒騎士を目指していた仲間を失った過去はあるのだが、統夜はまるでその時のような感情を抱いていたのだ。

 

«やれやれ……。お前さんもまだまだ甘いな。だが、あの小僧みたいに思いつめてる訳じゃないし、俺からはこれ以上は何も言うまい»

 

統夜の魔導輪であるイルバは、統夜に対して厳しい言葉をかけようとしていたが、統夜の今の心境を理解していたため、何も言うことはなかった。

 

こうして、参列した誰もが剣斗の死を悼みながら、葬儀は終了したのである。

 

出棺からは剣斗の親族のみで行われることとなっていたため、音ノ木坂学院の生徒たちはここで解散となる。

 

奏夜たちは会場となったお寺を出て、そのまま帰路につこうとしていたのだが……。

 

「……穂乃果さん、奏夜君」

 

穂乃果と奏夜にとある人物が声をかけたのだが、その人物に2人は驚きを隠せなかった。

 

何故なら、その人物とは……。

 

「つ、ツバサさん……。それに……」

 

穂乃果と奏夜に声をかけたのは、A‐RISEの綺羅ツバサであり、後ろには、統堂英玲奈と優木あんじゅの2人もいた。

 

その格好は、UTXの制服である白い制服ではなく、黒を基調とした私服であった。

 

「小津先生のことを聞いて私たちもいてもたってもいられなくなったの…。残念だったわね…」

 

「ツバサさん、お気遣いありがとうございます…」

 

「ツバサだけじゃない。英玲奈とあんじゅも、来てくれてありがとな」

 

「いえ、気にしないでいいのよ?」

 

「小津先生の高名はUTXにも轟いていた。スクールアイドルであることを抜きにしても、惜しい先生を亡くされたと思っている」

 

「だからこそ、せめて葬儀だけでもと思ってね……」

 

A‐RISEの3人は、自らがスクールアイドルであることを抜きにして、剣斗のことを尊敬していたため、そんな剣斗に哀悼の意を表するために今回訪れたのだ。

 

「その言葉、剣斗もきっと喜んでくれてるさ」

 

音ノ木坂学院だけではなく、UTXにまで好評が伝わっていることを実感した奏夜は苦笑いを浮かべながらツバサたちに答える。

 

「今はとても辛いでしょうけど……」

 

「μ'sのみんなならば、それも乗り越えて素晴らしいパフォーマンスをしてくれると信じてる」

 

「それがきっと、小津先生への供養にもなると思うわ」

 

A‐RISEの3人は、今度は個人としての言葉ではなく、スクールアイドルとしての言葉を奏夜たちに送っていた。

 

「はい。ありがとうございます」

 

穂乃果はそんなA‐RISEの言葉に嬉しいと感じたからか、一礼をして気持ちを返した。

 

「それじゃあ、私たちは失礼するわね。また会いましょう」

 

2人に挨拶したところで、A‐RISEの3人はその場を後にした。

 

それとタイミングを同じくして……。

 

「…なぁ、お前ら」

 

統夜が奏夜たちに声をかけるのだが、そこには梓たちだけではなく、他の6人も合流していた。

 

父親と行動していた紬もまた、今は統夜たちと合流していたのだ。

 

「統夜さん……」

 

「今、この6人には話したんだが、スクールアイドルのμ'sとして、剣斗を追悼しようとは思わないか?」

 

「え?」

 

統夜からのまさかの言葉に、奏夜たちは驚きを隠せなかった。

 

「実はな、この前に魔戒騎士や魔戒法師を追悼するために曲を作ったんだ。もし、お前たちにその意思があるのならば、俺はこの曲をお前たちに提供しようと思っている」

 

統夜はかつて魔戒騎士としての最強を決めるサバックに参加したことがあるのだが、その時に先の魔戒騎士狩りで命を落とした魔戒騎士たちを弔うために曲を披露したことがあった。

 

それとは違う曲なのだが、穂乃果たちがμ'sとして剣斗を弔う気持ちがあれば、その曲を穂乃果たちに使ってもらいたいと考えていたのである。

 

「私たちとしては賛成なんだけど、あなたたちはどう思う?」

 

穂乃果たち以外である6人は、全員剣斗を弔う気持ちがあった。

 

そんな中、穂乃果は……。

 

「やりたい!曲があってもなくても、それはやりたいよ!だって、小津先生はスクールアイドル部の顧問で、μ'sの仲間なんだもん!」

 

「それに関しては私も同意見です!」

 

「私も!」

 

絵里の問いに間髪入れずに穂乃果たちは答えていた。

 

実は、μ'sとして剣斗の弔いをしようと穂乃果も考えていたからである。

 

「……俺も、みんなと同じ気持ちだよ」

 

それは奏夜も同様であるため、奏夜も賛成していた。

 

「わかった。そしたら、これを渡しておく」

 

統夜は、穂乃果に自分が作った曲の音源と歌詞が書かれた紙を手渡した。

 

「俺たちもやらなきゃいけないことがあるからな…。今日の夜にでも剣斗の弔いをやろう」

 

剣斗の追悼に使用する曲を穂乃果に託した統夜は、踵を返してその場を後にし、それに梓たちも続く。

 

「……とりあえず、学校に行きましょうか。私たちに今出来ることをやりましょう」

 

「そうね。そうしましょう」

 

海未の提案に最初に絵里が賛同しており、他のメンバーも頷く。

 

こうして、奏夜たちは音ノ木坂学院に向かい、部室で統夜から託された曲の練習をすることになった。

 

その頃、とある場所へ向かっていた統夜であったのだが、顔を伏せており、今自分がどのような表情をしているのか、梓たちに見せないようにしていた。

 

「……統夜先輩!待ってください!」

 

そんな統夜にいち早く気付いた梓は統夜を引き止めると、顔を伏せている統夜の顔を強引に上げさせる。

 

「……やっぱり……」

 

統夜は梓たちに気付かれないように涙を流しており、それを見透かしていた梓は呆れていた。

 

「……剣斗を失って、俺だって辛いさ。だが、今はそんなことは言ってられないんだよ。今は大事な使命を果たすため、前を向かなきゃ……」

 

統夜は慌てて流れている涙をぬぐうと、魔戒騎士として気丈な振る舞いをする。

 

「……統夜、お前は相変わらず水くさいなぁ……」

 

統夜は、自分の本音を隠すことがよくあるのだが、そのことをよく知る律は苦笑いを浮かべる。

 

「これは何度も言ってることだが、私たちの前では無理しなくてもいいんだぞ?」

 

「そうだよ!そりゃ、今のやーくんはあの頃よりも大変かもしれないけど、私たちの前でくらいそのままのやーくんでいてよ!」

 

「澪ちゃんや唯ちゃんの言う通りよ。統夜くん、本当に辛かったわね……」

 

「…っ!」

 

大切な仲間たちからの暖かい言葉に、統夜の目から再び涙が流れそうになるのだが、統夜は強がりの姿勢を崩さず、目を背ける。

 

そんな統夜を、梓が優しく抱きしめるのであった。

 

「…統夜先輩…。私たちの前では強がらなくていいんですよ。私たちは、人を守る重い使命を持つあなたがありのままでいられるようにしたいんです…」

 

「…梓…みんな…」

 

そして、統夜を抱きしめる梓を4人が囲むようなかたちになり、4人もまた、統夜と梓を抱きしめる。

 

「……っ!」

 

梓たちが自分のためにここまでしてくれる。

 

そのことに胸を打たれた統夜の目からは涙が溢れ、まるで堰を切ったかのように涙を流していた。

 

「……うわあぁぁぁぁ!!剣斗……!けんとぉ…!!」

 

大切な盟友を失い、悲しいのは奏夜だけではなく、統夜もそうなのである。

 

しかし、自分は奏夜の先輩騎士であるし、ニーズヘッグ復活を阻止しなければいけないため泣いてはいられない。

 

そんなことを考えていたのだが、梓たちの優しさに触れ、剣斗の死を悲しんでいたのだ。

 

そんな統夜を、梓たちは優しく受け止めるのだが、統夜にもらい泣きをしたのか、一緒になって涙を流していたのである。

 

こうして、統夜は梓たちのおかげでありのままに悲しむことが出来たため、その後は奏夜たちがやろうとしている剣斗の追悼の準備のために動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして夜になり、奏夜たちは音ノ木坂学院の裏手にある今は誰も立ち入ることのない裏山に来ていた。

 

ここで剣斗の追悼を行うためである。

 

場所をここにしようと提案したのは奏夜たちであり、その連絡を受けて、統夜たちも駆けつけていた。

 

それだけではなく、ララ、リンドウ、大輝もその場にいたのである。

 

アキトも本来であれば来る予定だったのだが、調べ物があるため、剣斗のことを報告してすぐに元老院の手前にある魔導図書館へ向かったのであった。

 

「……とりあえず、俺たちの準備は整ってるぜ」

 

統夜はそう言いながら、ビデオカメラを用意していた。

 

これこそ、統夜が提案したことであり、剣斗追悼のために曲を披露し、それをμ'sの動画として流す。

 

これはμ'sとして名前を残すためではなく、あくまでも剣斗のためであり、剣斗のことを知る1人でも多くの人にこの動画を見てもらいたいという思いがあってのことであった。

 

「私たちも準備は出来ています!」

 

穂乃果たちは、音ノ木坂学院に戻った後は統夜から預かった音源を元に歌の練習を行っていたのである。

 

今回は剣斗を弔うための歌を披露するだけなので、振り付けはなしなのだが。

 

自分たちなりに剣斗の弔いをしたいという思いが強かった穂乃果たちは、半日足らずで曲をマスターし、今に至る。

 

「…わかった。それじゃあ、さっそく始めようか」

 

統夜はそう言うとビデオカメラを回し始め、動画を撮り始めた。

 

動画自体は曲を含めて10分程度のものであったのだが、録画終了後は奏夜たちが編集を行い、翌日の朝にこの動画を投稿したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~剣斗追悼の動画~

 

『……皆さん、こんばんは。私たちは、音ノ木坂学院のスクールアイドル、μ'sです』

 

穂乃果が最初にμ'sであることをなのるのだが、いつものように明るい感じではなく、憂いを帯びた表情をしていた。

 

『……今日は、皆さんに悲しい報告があるため、この動画を撮っております』

 

『私たちμ'sは、音ノ木坂学院のスクールアイドル部として活動しているのですが、その顧問をしてくれていた小津剣斗先生が交通事故で亡くなりました…』

 

海未が最初に前置きをした後、ことりが剣斗の死を報告する。

 

『小津先生は、いつも優しく、そして時には熱く……』

 

『私たちの活動を見守ってくれていました』

 

『そんな小津先生は、私たちだけではなく、多くの生徒からも慕われていました』

 

続いて、花陽、凛、真姫が剣斗の人柄の良さをこのように伝えていた。

 

『μ'sは一時期解散の危機もありましたが』

 

『そんな状況でも、小津先生は優しく私たちを見守り、再スタートをした時は誰よりも喜んでくれました』

 

そして、にこと希が、かつてのμ'sの危機を簡潔に語り、剣斗の存在の大きさを伝えていた。

 

『そんな小津先生の訃報を聞き、私たちはとても悲しいです。しかし、私たちはそれを乗り越えて前に進みます。それは、きっと小津先生も望んでいることだから……』

 

絵里が自分たちの心情を吐露すると共に、活動休止することなく改めて前へ進むことを宣言していた。

 

『小津先生には、心からご冥福をお祈りします』

 

穂乃果がこのように挨拶をすると、穂乃果たちは深々と頭を下げる。

 

『最後になりますが、そんな私たちの思いを、歌にして伝えたいと思っています』

 

『私たちの思いが、小津先生にも伝わるように……』

 

そして、海未とことりが統夜から託された曲を披露することを伝えた。

 

『この曲は、日頃から私たちを応援してくれているとある方が提供してくれました』

 

絵里が、今から披露する曲が自分たちが作詞作曲した曲ではなく、第三者から提供された曲であることを明かした。

 

さすがに、統夜の存在までは明かせないのだが……。

 

『……それでは、聞いてください』

 

 

 

 

 

 

 

『……十六夜の送り歌』

 

穂乃果たちが全員揃って曲名を披露したところで、統夜が用意していた音源を再生し、曲は始まった。

 

 

 

 

 

~使用曲…十六夜の送り歌~

 

 

 

 

この曲は、統夜が作詞作曲した曲なのだが、本来は統夜がホラーとの戦いで命を落とした魔戒騎士や魔戒法師を追悼するために用意した曲であった。

 

とは言っても、この曲をどこかで披露する予定はなかったというのも、今回穂乃果たちにこの曲を提供した理由になっているのだが。

 

統夜はこの曲を作詞作曲するにあたり、指令で立ち寄ったとある魔戒法師の里に伝わる鎮魂歌を参考にしていた。

 

その鎮魂歌が、統夜にとって心を打たれたからである。

 

そんな思いがあって完成したこの曲を、穂乃果たちが剣斗を弔うために歌っている。

 

スクールアイドルとして発表する曲ではないため、振り付けはなく、その場に立ち、心を込めて歌っていた。

 

歌っている間に穂乃果たちは剣斗のことを思い出していたからか、自然と目から涙が溢れており、それが相まって、フレーズひとつひとつに心が込められていたのである。

 

そんな穂乃果たちの歌を、撮影時、奏夜たちは剣斗のことを思いながら見守っていた。

 

こうして、穂乃果たちによる曲の披露は終わった。

 

『……小津先生。私たちはこれからも頑張ります。なので、見守っていてください…!』

 

穂乃果のこの言葉を最後に、この動画は終了したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動画撮影終了後、奏夜たちは解散となったのだが、奏夜はその場に留まっていた。

 

それを見ていた穂乃果たちは一緒に残ろうと考えていたのだが、絵里が今は一人にした方がいいと提案したため、穂乃果たちは奏夜をそこに残して帰路についたのだった。

 

しかし……。

 

「……そーくん」

 

それからおよそ20分後に、穂乃果は戻ってきたのである。

 

「穂乃果……。帰ったんじゃないのか?」

 

「そうなんだけどさ……。どうしても、そーくんのことがほっとけなくて……」

 

「そっか……」

 

穂乃果がまた戻ってきたことに奏夜は驚くが、すぐにまた顔を伏せる。

 

「そーくん……」

 

穂乃果自身も、今の奏夜の心情は理解しているつもりなのだが、それでも奏夜を1人にすることを良しとはしていなかったため、奏夜の隣に腰を下ろす。

 

「……」

 

奏夜はそんな穂乃果に一瞬だけ驚いたような表情を見せるものの、すぐにまた顔を伏せる。

 

「……穂乃果。悪いけど、1人にしてくれないか……?」

 

そして、奏夜は穂乃果の顔を見ずにこう伝えるのだが……。

 

「ヤダ」

 

「え?」

 

この答えは予想外だったのだろう。奏夜は顔を上げ、驚いた表情を穂乃果に見せていた。

 

「ヤダよ!そりゃ、そーくんが今1人になりたい気持ちはわかるよ?だけど、私はそんなそーくんのことがほっとけないんだよ……」

 

「穂乃果……」

 

「だからね?そーくん……」

 

穂乃果はこのように前置きをすると、奏夜を優しく抱きしめるのであった。

 

「ほの…か?」

 

「そーくん、辛かったね……。私の前では……うぅん。私たちの前では、無理しなくても…いいんだからね?」

 

穂乃果は奏夜をこのように諭すと、その頭を優しく撫でていた。

 

「そーくんはどんなに自分が辛い時でも私たちのことを支えてくれたんだもん。だからこそ、私は、そーくんを支えたいんだよ……」

 

「…!」

 

「……だからね?今は…今だけは…我慢しなくても、いいんだからね?」

 

「……っ!」

 

穂乃果の優しい言葉を受け、奏夜の目からは涙が溢れており、何を言う訳でもなく、穂乃果を抱きしめる。

 

「……悪い。しばらくの間だけでいいから……。このままでいさせてくれ……!」

 

奏夜はこう穂乃果に伝えると、堰を切ったかのように涙を流していた。

 

「うん、もちろんだよ」

 

穂乃果は優しい表情のまま奏夜を受け入れると、涙を流す奏夜を優しく受け止めていた。

 

「……ごめん……。ごめんな、剣斗……!俺の……俺のせいで……!!」

 

「うん。辛かったね……」

 

穂乃果は、奏夜の言葉を一切否定することはなく、優しく声をかける。

 

「……っ!!」

 

奏夜はその後も、剣斗を失った悲しみから、涙を流しており、穂乃果は奏夜が泣き止むまで、優しく奏夜を受け止めていたのであった。

 

そして翌日に剣斗追悼の動画は投稿されたのだが、その動画は瞬く間に再生数が伸びていき、剣斗を追悼するコメントや、μ'sを応援するコメントで溢れていた。

 

顧問である剣斗の死により、μ'sはさらに有名になることになったのである。

 

とは言っても、顧問の死という同情のみの気持ちも少なくはなかったが、A‐RISEと同じ舞台でのパフォーマンスや、ハロウィンでのパフォーマンスなど、剣斗のことがなくても、μ'sという存在は少しずつではあるが有名になったのであった。

 

こうして、奏夜たちは、剣斗の死という悲しい現実を受け止め、前へ進んでいくことを心に誓うのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

──次回予告──

 

『まさか…あのジンガという男の抱える闇がここまで深いものだったとはな……。次回、「憤怒」。これが、奴の抱える怒りなのか…?」

 




今回は、奏夜だけではなく、前作主人公である統夜も弱さを見せた回となりました。

統夜もまた、過去に失ったものは多いものの、剣斗の死には相当堪えていた1人なのです。

今回、剣斗の追悼に使われた曲は、劇場版の牙狼 神ノ牙の挿入歌で使用された曲です。

実は、ここの曲の候補は他にもあったのですが、この曲があまりにイメージにピッタリだったため、今回採用となりました。

剣斗の死亡は、まさかのかたちでμ'sを有名にさせてはいますが、現在の知名度はアニメ二期の原作と同じくらいになっております。

そして、次回はジンガの過去が明かされます。

ジンガがどのようにしてホラーになったのか?

何故ニーズヘッグを復活させ、世界を滅ぼそうとしているのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第78話 「憤怒」

お待たせしました!第78話になります!

最近は時間を見つけてちょいちょい執筆が出来ているからか、2週間くらいで更新が出来ているため、この調子でなるべく短い期間で更新出来たらなと思っております。

さて、今回はジンガが何故ニーズヘッグを復活させようとしているのか?

その謎が明らかになります。

ジンガはどのような過去を持っているのか?

それでは、第78話をどうぞ!




ジンガの姑息な策略により、奏夜たちは大事な仲間である剣斗を失うことになってしまった。

 

奏夜たちが、そんな剣斗を追悼しようと動いていた頃、アキトは1人、元老院の近くにある魔導図書館を訪れていた。

 

ここは、元老院付きの魔戒騎士や魔戒法師のみが入ることの許されている場所であり、魔戒騎士や魔戒法師の系譜やホラーの情報など、だいたいの情報はここに集まっている。

 

かつてアキトは、魔戒騎士狩りを行っていた元魔戒法師アスハの真意を確かめるためにここを訪れ、過去の研究の失敗を機に魔戒騎士を恨むようになった経緯を知ることが出来た。

 

今回アキトは、その当時の実績を活かし、ジンガの過去に何があり、何故ニーズヘッグを蘇らせようとしているのか。

 

その動機の手がかりを得るために魔導図書館を訪れていたのだ。

 

(ごめんな、剣斗……。俺もお前の弔いをしたかったぜ。だけど、俺は俺にしか出来ない戦いをするさ。それがお前への弔いになるだろうしな)

 

アキトは心の中でこのような誓いを立てながら、ジンガに関する資料を探していた。

 

以前魔戒法師アスハの過去を調べた時のように、魔戒騎士や魔戒法師のデータベースがある場所へ向かい、ジンガについての情報をしらみ潰しに探し始める。

 

何冊かの本を選んだアキトは、その本を読み始めた。

 

「…流石は魔導図書館だな……。あの時の事件のことが最早ここまで正確に記録されてるなんてな…」

 

アキトは、最近起こった事象について書かれた本を読んでいたのだが、最近のことが書かれた項目には、数年前に魔戒法師アスハが起こした魔戒騎士狩りのことが記録されていた。

 

その事件は、奏夜が魔戒騎士になったばかりの頃に起きた事件であり、魔戒騎士に強い恨みを持つようになった元魔戒法師のアスハが、とある兵器を用いて多くの魔戒騎士の命を奪ったのだ。

 

その事件は、白銀騎士奏狼(ソロ)の称号を持つ月影統夜が、魔導人機と呼ばれたアスハの開発した魔導具と共に討伐され、解決されたと記述されている。

 

その裏では、統夜の恋人でもある梓の活躍があったのだが、その辺りは記録には書かれていなかった。

 

(ま、元魔戒法師の起こした事件の解決に一般人が関与したなんて記録は書けるわけがないからな。この記録は妥当なところだろ)

 

アキトは当時のことを思い出しながら、ウンウンと頷きつつ記録を眺めていた。

 

その事件についての記録を読み終えたアキトは、本来の目的であるジンガについての情報を探し始める。

 

(そういえば、あのアミリって女は自分の里がホラーに滅ぼされて蒼哭の里に助けを求めたものの、門前払いをくらったという話をしてたとララが言ってたな…。その記録を見つけられれば、ジンガについて何か足取りを掴めるんじゃないか?)

 

アキトは、ララから聞いた話を参考にしつつ、過去にホラーによって滅ぼされた里について調べ始めた。

 

記録を読み始めておよそ20分後には、大きな手がかりを見付けることが出来た。

 

(……!もしかして、これのことか?)

 

アキトが見付けた記録には、蒼哭の里の近くに、「桜花の里」と呼ばれる魔戒法師の里があったのだが、ホラーの襲撃を受けて壊滅。

 

里の住人は全滅したと記録されていた。

 

(なるほどな。蒼哭の里自体が人里からかなり離れたところにある場所なんだ。そこから近い里なんてここくらいなんだろうな。それを考えたら、1人生き残ったアミリが蒼哭の里に門前払いをくらい、ジンガに拾われて消息を絶ったとなれば説明はつく)

 

アキトは、今見ているこの記録の事件こそが、アミリとジンガが出会った事件だろうと確信する。

 

(それなら、もう少し過去を遡れば何か手がかりがあるはず…!)

 

もう少しでジンガについての何かしらの情報が得られるハズ。

 

そう感じたアキトは、さらに記録を読み、情報わや集める。

 

しかし、思ったような情報は得られず、何冊かの本を読んでも手がかりは得られなかった。

 

(……ダメだ。それっぽい事件が全然見つからねぇ……。だったら、こっちを調べてみるか)

 

アキトは、先程までは、魔戒騎士や魔戒法師が関与した事件などについて調べていたのだが、今度は魔戒騎士のデータベースを調べ、ジンガらしき魔戒騎士はいないか調べてみることにした。

 

その記録を読み始めると、統夜のことが既に記録されており、サバック準優勝した旨の記録も書かれていた。

 

その記録にアキトは興味を示すが、今はジンガのことを調べることに集中する。

 

調べ初めておよそ10分後……。

 

(……まさかと思うけど、こいつなのか?)

 

アキトが見付けたページに記録されていたのは、「御影神牙(みかげじんが)」と呼ばれる魔戒騎士についての記録であった。

 

御影神牙は、影煌騎士狼是(えいこうきしローゼ)の称号を持つ魔戒騎士であり、その卓越した剣の腕から、当時の魔戒騎士や魔戒法師たちからは「神の牙」と呼ばれる程の実力を持つ魔戒騎士であった。

 

(神の牙ねぇ……。それだけ実力のある魔戒騎士なら有名な魔戒騎士のハズなんだが、初めて聞く名前なんだよなぁ……)

 

その記録から見ても、ホラーになる前と思われるジンガは、魔戒騎士の時からかなりの実力者であることが伺えるのだが、その名を知る魔戒騎士はかなり少ないと思われた。

 

(俺だって今初めて知ったし、鋼牙さんや零さん。それに、師匠だって知ってるかどうか…)

 

御影神牙という名前の魔戒騎士の存在はアキトは知らなかったのだが、牙狼の称号を持つ冴島鋼牙や、牙狼に次ぐ実力の騎士である絶狼の称号を持つ涼邑零。

 

それに、アキトの師匠である布道レオでさえもこの御影神牙という名前の魔戒騎士については知らないのでは?と推察していた。

 

そんなことを考えながら、アキトは記録を読み続けていたのだが……。

 

(……!!なるほど、そういうことだったのか)

 

アキトは、最後まで記録を読んだことにより、決定的な情報を得ることに成功したのである。

 

そしてその後にハッとしたアキトは、先程まで読んでいた資料を読み返し、御影神牙の記録と、とある事件の記録を照らし合わせていた。

 

(……やっぱり……。こういうことなら、ジンガのやつがこの世界に強い怒りや憎しみを抱くのもわかるし、その感情の権化ともいえるニーズヘッグを蘇らせようとしてるのも合点がいく)

 

アキトは、魔導図書館にある記録を調べることにより、ジンガの過去と、何故ジンガがニーズヘッグを蘇らせようとしているのか。

 

その動機に繋がる情報を手に入れることに成功したのである。

 

アキトは、さらなる裏付けを得るために、さらに記録を読み始めるのであった。

 

ちょうどその頃、そのジンガがニーズヘッグを蘇らせるために、とある場所を拠点としていたのだが、ニーズヘッグ復活の儀式の準備をしながら思い出していた。

 

かつての自分のことを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ジンガの過去~

 

ジンガこと御影神牙は、影煌騎士狼是の称号を持つ魔戒騎士であるのだが、どこか番犬所に所属している訳ではなく、様々な場所を転々としつつホラーを討伐していた。

 

魔戒騎士は基本的にどこかの番犬所に所属していることがほとんどなのだが、どこの番犬所にも属さない流れ者の魔戒騎士の数も決して少なくはなく、その魔戒騎士たちは、主に人里離れた場所に出没するホラーを討伐しつつ各所を転々とするのが主なのだ。

 

神牙もまた、ホラーを討伐しながら里から里へ転々としており、その類まれなる剣さばきから、神の牙という異名さえ付いていたのである。

 

そんな神牙は、ホラーを討伐後にとある里に立ち寄ったのだが、そこで莉渚(りお)と呼ばれる魔戒法師に出会い、共にホラー討伐を行うようになる。

 

そうしているうちに神牙と莉渚は互いに惹かれ合い、2人は夫婦になる。

 

やがて莉渚は子供を身篭るのだが、とある里にて休息を取った時に悲劇は起きたのだ。

 

神牙が立ち寄った里は、「炎安(えんあん)の里」と呼ばれる小さな村なのだが、ホラーに立ち向かえる魔戒騎士や魔戒法師は存在せず、日々ホラーの脅威に怯える毎日を送る里なのであった。

 

神牙は、この里がホラーに襲われていたところを偶然救ったことがきっかけで、莉渚が子供を出産するまでは休息を兼ねてこの里へ留まることを決意したのだ。

 

その決断が、全ての悲劇の始まりであることなど知る由もなく……。

 

神牙が炎安の里に留まるようになって1ヶ月が経過した頃、ホラーが里の近くに出現したため、神牙がその討伐へ赴く。

 

そのホラーを神牙が討滅し、炎安の里へ戻った時に事件は起こった。

 

里に戻ってすぐ、神牙の目に移ったのは、信じられない光景であった。

 

「…!?莉渚!!」

 

里の中心部の辺りにて、縛りあげられて柱に括り付けられている莉渚の姿を見付け、神牙は駆け寄る。

 

しかし、莉渚の身体にはあちこち武器のようなもので貫かれた跡がいくつもあり、お腹の中にいる子供共々既に亡くなっていた。

 

「…莉渚…っ!どうして……っ!」

 

何故自分の妻と子供が死ななければならないのか。

 

それが理解出来ず絶望していた神牙は、その場に崩れ落ちていた。

 

すると、この里の住民たちがゾロゾロと現れ始める。

 

「……旅の魔戒騎士よ。どうか、悪く思わないでおくれ」

 

「……悪く思うな……だと…?」

 

最初に口を開いたのはこの里の長老だったが、その言葉が信じられないものであったため、神牙は怒りの目を長老に向けていた。

 

「貴公も知っての通り、この地に魔戒騎士や魔戒法師はいない。だが、日々ホラーの脅威に晒されている。貴公には申し訳ないとは思ったのだが、ホラー避けの儀式のため、彼女には犠牲になってもらったのだよ」

 

この里には、かつてこの地を拠点とする魔戒法師はいたのだが、ホラーを討滅することは出来ず、追い返すのが手一杯だった。

 

そんな中、ホラーの脅威からこの里を守るために、今まで里を守ってきた魔戒法師の命を奪い、柱に括り付けることによるホラー避けの儀式という決して許されざる行為が行われていた。

 

何人もの魔戒法師がこの儀式の犠牲になった結果、この里には魔戒騎士や魔戒法師は誰もいなくなったのである。

 

ホラー避けの儀式を行った後は不思議なことに里へのホラー襲撃はなかったのだが、ここ最近は儀式の効果も薄まり、里の壊滅も時間の問題であった。

 

そんな時に神牙と莉渚がこの里に現れたのである。

 

この里を守ってくれた神牙には申し訳ないと思いつつも、2人は休息を終えたらこの里を離れることになる。

 

そうなると、この里は近いうちにホラーの標的になるだろう。

 

このように危惧した長老は、莉渚をホラー避けの儀式の生贄にしたのであった。

 

「貴公に守りたい者があるように、私はこの里に住む者たちを守らなければならぬのだ!この村のしきたりということで、わかって欲しい」

 

長老は、村のしきたりという言葉を使い、莉渚の犠牲を正当化しようとしていたのだ。

 

「……ふざけるな……」

 

そんな長老の言葉に、ついに神牙の怒りは爆発してしまう。

 

「ふざけるな!そんなことのために莉渚は犠牲になったっていうのか!?俺は、この里を守るために戦ってきたというのに!」

 

神牙にしてみれば、ホラーの脅威から人を守るという魔戒騎士としては当然のことをしていただけなのに、その守るべき人によって愛する妻とお腹の子供を奪われてしまった。

 

これ以上に理不尽なことはないだろう。

 

「ホラーからこの里を守ってくれたことには感謝しているが、それはこちらから頼んだことじゃない」

 

続けて、この里に住む1人の若者から放たれた信じられない言葉は、さらに神牙の怒りを買うことになる。

 

「そうだそうだ!俺たちにはあんたらみたいにホラーと戦う力はないんだ!」

 

「だから、仕方ないだろ!?」

 

それだけではなく、里の人間たちは自分の都合のみを語り始めたのであった。

 

すると……。

 

「……ふざけるなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

怒りの衝動を抑えられなくなった神牙は、魔戒剣を抜くと、近くにいた若者を斬り殺してしまった。

 

それと同時に、あちこちから悲鳴が轟くと、里の人間たちは神牙から逃れようと散り散りになっていった。

 

しかし、この小さな村から逃げ切れる訳もなく、神牙は次々と村の人間を惨殺していった。

 

魔戒騎士は人間を斬ってはならない。

 

そのことはジンガもよくわかっていた。

 

だが、自分の守った人間によって愛する者たちが奪われたその怒りと憎しみは抑えようのない程のものなのであった。

 

こうして、神牙はこの里に住む人間を一人残らず皆殺しにしてしまったのである。

 

年寄りや、女子供も躊躇うこともなく……。

 

気がつけば里のあちこちには神牙が惨殺した死体の山が転がっていた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

神牙の握る魔戒剣は多くの人間の血に染まってしまった。

 

「……俺は……。俺は!いったい何のために戦ってきたんだ!!」

 

魔戒騎士は人を守るもの。

 

そんなことは今の神牙でもわかっている。

 

しかし、その守るべき人に、家族を奪われたのである。

 

その事実に、神牙はこれまで通り使命を守って人間を守るべきなのか?と自問自答するのだが……。

 

「……いや……!この世界の人間どもに生きる資格などない……!滅ぼしてやる……!この俺が!」

 

莉渚の命を奪った里の人間は皆殺しにしたものの、そのことによって神牙の心は歪んでしまい、人間を滅ぼすという魔戒騎士としてはあるまじき邪心を抱いてしまった。

 

それは、当然陰我となるもので……。

 

─くくく……。魔戒騎士よ、いいザマだな!

 

ジンガの魔戒剣から、ホラーと思われる声が聞こえてきた。

 

少し前に討滅したホラーが魔戒剣に封印されているのもあるのだが、この里から最寄りの番犬所まではかなりの距離があるため、神牙は剣の浄化を行えていなかった。

 

そのため、魔戒剣にも邪気がたまっていたのである。

 

─それほどまで人間や世界を憎むのなら、我と共に滅ぼそうではないか!

 

ホラーは神牙に対してこのように囁く。

 

すると、神牙は……。

 

「……そうだな。今の俺には最早何も残ってない。全ての人間を滅ぼすために、あえてお前を受け入れるのもいいかもしれないな」

 

なんと神牙は、ホラーの力を受けいれ、今まさにホラーになろうとしていた。

 

─潔いな、魔戒騎士よ!ならば!!

 

すると、邪気のたまった魔戒剣がゲートになり、黒い帯のようなものが神牙の中に入っていった。

 

神牙は抵抗する様子もなく、それを受けいれる。

 

こうして、ホラーに取り憑かれたことにより、神牙はジンガとなってしまったのだ。

 

ジンガのホラー態は、かつて自分が身にまとっていた狼是の鎧がそのままホラー化したかのような姿になっている。

 

こうして、ジンガは炎安の里を滅ぼした後はどこかへと姿を消した。

 

その後は、様々な里を襲撃して人間を惨殺するだけではなく、同胞であるはずのホラーを喰らうことで力を蓄えていったのだ。

 

そんな中、当時魔戒騎士であった尊師がジンガの討伐に向かうものの、ジンガに敗北。

 

その力を買われたのかホラーとなり、それ以降、尊師はジンガの右腕となった。

 

それから間もなく、桜花の里は滅び、そこで生き残ったアミリをジンガは気まぐれで救い、それがきっかけでアミリはジンガに忠誠を誓うようになったのであった。

 

ジンガがニーズヘッグの存在を知ったのは、アミリを救った後のことであり、とある里を滅ぼした時にニーズヘッグと呼ばれるホラーが怒りの炎により、人界を灰燼に帰すホラーであるという情報を得る。

 

自分が抱える怒りのことを思い出したジンガは、ニーズヘッグを復活させ、その力で人間を滅ぼそうと画策するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜過去編終わり~

 

「……あれから、ずいぶん経ったもんだ」

 

ホラーになる前の記憶は残っているからか、それを振り返りつつジンガはぼそりと呟いた。

 

「…?ジンガ様、いかがなさいましたか?」

 

「いや?なんでもないさ。ただ、昔のことを思い出していただけだ。俺が人間共を根絶やしにしてやろうと決意したあの時のことをな」

 

ホラーに憑依されてしまったこのジンガには、かつての御影神牙の記憶や意識は残っていない。

 

しかし、ホラーは憑依した人間の記憶を引き継いでいるため、過去のことを思い出すこと自体は不自然なことではないのだ。

 

「……あの時のお話ですね?本当に人間というのは自分の保身しか考えない愚かな存在です」

 

「その通りだ。だからこそ、俺はニーズヘッグを復活させる。奴はかつて、人間に力を貸していたホラーの一体ではあるが、人間共の姑息な裏切りにより、大切な友を失ったと聞いている。その事が、かつての俺と重なるのさ」

 

ジンガがこのように語ったことは事実であり、ニーズヘッグは人間により裏切りや、友を失ったことにより怒りや憎しみの権化と化し、その怒りの業火で様々な場所を灰に変えてしまったのである。

 

そんなニーズヘッグもまた、勇敢な魔戒法師たちの手によって封印され、魔竜の牙と2つの魔竜の眼に分けられたのであった。

 

「もうすぐ、ニーズヘッグは復活する…!その怒りの業火で、まずはこの街を灰に変えてやるさ。最早誰にも止めることは出来ない!あの無能な魔戒騎士共にもな!」

 

ジンガは、自身が拠点にしていたこの街を、ニーズヘッグの最初の標的にしようと企んでいた。

 

もしそれが現実になってしまえば、その被害は甚大なものになり、多くの死傷者を出してしまうことだろう。

 

それだけではない。

 

穂乃果たちが目指していたラブライブも、とても開催出来る状況ではなくなってしまう。

 

「…私はさらに力を磨いておきます。今度こそ、如月奏夜を始末してみせます!」

 

「…くくく…!期待しているぜ、アミリ!」

 

「はっ!」

 

こうして、ジンガとアミリは現在の拠点にて、ニーズヘッグ復活の準備にとりかかるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔導図書館にて、ジンガの過去や、ニーズヘッグについての情報を仕入れたアキトは、そのまま翡翠の番犬所へ帰還し、ロデルだけではなく、待機していた統夜たちにも情報共有を行っていた。

 

「…なるほど…。ジンガにはそのような過去があったのですね…」

 

「それにしても、ホラー避けの儀式とは、ずいぶんやり方がエグいもんだぜ」

 

「ああ。あいつが怒るのも無理はないぜ。とは言っても、人を斬るという魔戒騎士の禁忌を犯したあいつは許される訳がないけどな」

 

ジンガの思いもよらぬ過去を知り、統夜たちは驚きを隠せずにいた。

 

「ですが、ジンガが何故ニーズヘッグを蘇らせようとしたのか、納得しました。自分の抱えた怒りを、かつてのニーズヘッグに重ね、その怒りの力によって人間を駆逐しようと考えてるのでしょう」

 

「そんなこと、絶対に許すわけにはいかないな」

 

「ええ!ニーズヘッグにこの街を絶対に焼かせたりはしません!」

 

ロデルの推測に、大輝や奏夜はその阻止を全力で決意しており、それに他のメンバーも頷く。

 

「私としても、全力でジンガの野望を阻止するわ。私には、魔竜の眼の封印を解いてしまった責任があるんですもの」

 

ララは、いくら穂乃果たちの夢を守るためとはいえ、魔竜の眼の封印を解いてしまったことにより、そのことに責任を感じていた。

 

これは奏夜たちには話していないが、この命をかけてもジンガの野望を阻止する。

 

このように決意している程である。

 

「……ジンガが今どこに拠点を置いているのか、その場所の目処もたちました。今夜にでもその拠点へ突撃。ジンガの野望を阻止します」

 

ロデルは、番犬所の使者を使ってジンガがどこにいるのかを探しあてており、作戦を練ったうえでジンガの拠点へ突入する計画を立てていた。

 

現在は剣斗の弔いを終えた翌日の早朝であり、計画が遂行されるのがこの日の夜なのである。

 

「……作戦については俺とアキトで立てる。だから、大輝さんとリンドウは、夜までにエレメントの浄化をお願いしたい」

 

「おう、任せろ!」

 

「ああ、こちらとしては、体を動かす仕事の方がありがたい」

 

統夜は、大輝とリンドウに魔戒騎士の仕事であるエレメントの浄化を頼み、2人はそれを了承する。

 

「統夜さん、俺もジンガの拠点へ攻め込む作戦を一緒に考えます!」

 

奏夜はこのように申し出をするのだが……。

 

「いや、お前は作戦が始まるまで、μ'sのみんなの傍にいてやれ」

 

「それがいいな。その方が、お前もいざって時に力が発揮出来んだろ」

 

統夜はこのような提案をし、アキトがそれを支持する。

 

「いや、でも……」

 

奏夜が2人の提案を素直に聞けないと思ったのは、今が非常時であり、ジンガとの決戦が迫ってるからこそである。

 

自分としても、穂乃果たちとの時間が欲しい気持ちはあるが、今は魔戒騎士としての使命が最優先だと考えているからなのだ。

 

「お前の心配はわかっている。だけどな?決戦が近いからこそ、日常ってのは大切なんだよ。それが間違いなくお前の力になるはずだぜ」

 

統夜もかつて、暗黒騎士ゼクスことディオスとの決戦の時は、作戦決行の時まで軽音部の部室にてのんびり過ごしていた。

 

そのことが、統夜にとって大きな力になったことがあったため、統夜はその時のことを思い出しながら奏夜に語りかける。

 

「なるほど…」

 

「ララ、お前も奏夜と一緒にμ'sのみんなの傍にいてやれ。お前だってお手伝いとはいえ、μ'sの一員みたいなもんだろ?」

 

「…っ!でも!」

 

「言っておくが、魔竜の眼の封印を解いてしまったことの不始末は自分だけでケリを付けようだなんて考えるなよ?」

 

「!?」

 

アキトに自分の気持ちを見透かされてしまったからか、ララは驚きを隠せずに目を大きく見開いている。

 

「あの状況はどうしようもなかったさ。だからこそ、1人でケリをつけるのではなく、みんなでケリを付けるんだ。俺たちは、仲間だろ?」

 

「仲間…」

 

「ララ。お前は俺にとってだけじゃない。μ'sのみんなにとっても大事な仲間なんだ。だからこそ、戦いの前に少し気持ちを落ち着かせる時間が必要だと思うんだよ」

 

「……」

 

統夜だけではなく、奏夜からも説得を受けたことにより、ララは無言でコクリと頷き、奏夜と共に穂乃果たちに会いに行くことにしたのである。

 

「作戦決行の時には、指令書を使い魔の鳩に持たせて渡します。2人はそれを受け取った後に、直接現地へ向かって下さい」

 

「「わかりました!」」

 

「みんな。この戦い、絶対に勝とう。いや、勝てるさ。俺たちならな…!」

 

統夜がここにいる全員を焚き付けるためにこのように言葉を送ると、ここにいる全員は力強く頷いていた。

 

こうして、ジンガはニーズヘッグを復活させようとしている中、それを阻止しようとする動きも始まったのであった。

 

…決戦の時は刻一刻と迫っているのである…!

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

──次回予告──

 

『マズイな…。ニーズヘッグ復活の時が近付いてきているぞ。奏夜、それは絶対に阻止するぞ!次回、「征戦」。盟友の思いと共に進むぞ、奏夜!』

 

 




ジンガの壮絶な過去が明らかになりました。

牙狼 GOLD STOME翔では、ジンガの妻はご存知アミリで、息子を失った悲しみと怒りがホラー化の引き金となったのですが、今作のジンガこと神牙は、妻とお腹の中にいる赤ん坊諸共失うという、さらに凄惨な結果になってしまいました。

ちなみに、今作の神牙の妻である莉渚のモデルですが、莉杏になっております。

そして、ニーズヘッグもまた、人間の裏切りから大切なものを失うという怒りを抱えるホラーであることも判明しました。

次回からは、現在の章のクライマックスに突入していきます。

奏夜たちは、ジンガの野望を食い止めることは出来るのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第79話 「征戦」

お待たせしました!第79話になります!

今回からジンガとの決戦に向けて話が進んでいきます。

奏夜たちはジンガやアミリを倒し、ニーズヘッグ復活を阻止できるのか?

それでは、第79話をどうぞ!




魔竜の牙と2つの魔竜の眼を手に入れたジンガは、とある場所に拠点を構え、そこでニーズヘッグを復活させようとしていた。

 

そんな中、奏夜たちは番犬所の調査によってジンガの拠点を突き止めることが出来たため、突入の時までにそれぞれが動き始める。

 

アキトからジンガの過去やニーズヘッグというホラーについての情報を得た奏夜は、打ち合わせが終わると、ララと共にいつも通り登校していた。

 

昨日は剣斗の葬儀があったものの、悲しみを残しながらも日常がまた始まっていくのである。

 

しかし、音ノ木坂学院の生徒たちは、未だに剣斗の訃報のショックが大きいのか、暗い雰囲気な状況が多くみられていた。

 

そして放課後になり、奏夜とララは、部室にて穂乃果たちと過ごしていた。

 

顧問である剣斗がいなくなり、今後どのように活動していくか話し合うためである。

 

穂乃果たちとしても、剣斗の死は受け入れ難いものではあるものの、それも乗り越えて前へ進んで行こうと話し合いにて決めていた。

 

「それにしても、今更かもしれませんが、奏夜とララは今ここにいても大丈夫なのですか?」

 

話し合いがひと段落ついたところで、海未が不意に口を開く。

 

「凄い力のホラーが蘇りそうなのよね?私たちとしては、2人の顔を見れて嬉しいけれど、それどころではなかったんじゃないの?」

 

海未の疑問に絵里も同感だったからか、不安そうに訪ねる。

 

「確かに、状況は切迫してるけど、だからこそみんなの顔を見ときたいと思ったんだよ」

 

「そーくん……」

 

奏夜の言葉を聞き、穂乃果が不安そうな顔をしながら奏夜のことを見ていた。

 

「ちょっと奏夜!あんた、まさかと思うけど、みんなと会えるのはこれが最後だなんて言わないでしょうね!?」

 

穂乃果の不安な感情はにこも感じており、にこはそれを代弁するかのように問いかける。

 

「…まぁ、その可能性も決して0ではないかな」

 

奏夜の言葉に、穂乃果たちは顔を真っ青にしながら息を呑む。

 

「勘違いしないでくれよ?俺は死なない。絶対にみんなのところに帰ってくるさ。俺は、みんなの活動を最後まで見届けなきゃいけないんだから…」

 

「…そーくん…」

 

「ウチはその言葉、信じてるで。奏夜くん」

 

「そうだよ!そーやくん、絶対に帰ってこないとダメなのにゃ!」

 

「私たちは、奏夜くんが帰って来るって信じてるからね?」

 

奏夜の言葉を聞き、希、凛、花陽がこのように声をかける。

 

「奏夜。必ず、帰ってくるのよ…」

 

「あんたは私たちのマネージャーなんだからね?勝手にいなくなるなんて、絶対に許さないんだから!」

 

続けて真姫とにこが奏夜に声かけを行う。

 

「奏夜。これだけは忘れないで下さい。あなたには私たちがついています」

 

「海未の言う通りよ。戦いで辛いこともあるとは思うけれど、そんな時は私たちのことを思い出して欲しいの」

 

そして、海未と絵里は奏夜を励ますかのような言葉を送る。

 

「…そーくん、絶対に帰ってきてね?」

 

「そーくんが私たちのことを応援してくれたように、今度は私たちがそーくんを応援するから!」

 

「みんな……」

 

最後にことりと穂乃果からの言葉を聞き、これだけの人間に支えられているということを、奏夜は改めて認識することになった。

 

「奏夜、これは何があっても生きて帰るしかないわね」

 

「ああ、もちろんだよ」

 

ララは苦笑いしながらこう語りかけるのだが、奏夜も苦笑いしながら返す。

 

(もしもの時は、この命をかけてでも奏夜を守ってみせるわ……。あの時、剣斗がそうしたように…!)

 

ララは、自分の命をかけてでも奏夜を守ろうと心で誓うのだが、それを言葉にはしなかった。

 

それを言ってしまうと、奏夜だけではなく穂乃果たちにも余計な心配をかけさせてしまうことをわかっていたからだ。

 

そのような会話をしていると、コンコンと部室のドアをノックする音が聞こえてきた。

 

奏夜が「はい!」と返事をすると、山田先生が入ってきた。

 

「良かった、ここにいたな」

 

山田先生は奏夜の顔を見ながらこう言っていたため、どうやら奏夜に用事があるみたいだった。

 

「?山田先生、どうしたんです?」

 

「如月、お前にお客さんだよ」

 

山田先生がこのように前置きをすると、部室に2人の男性が入ってきたのだが、その人物を見て奏夜は驚きを隠せずにいた。

 

「…!あなたは、剣斗の……」

 

なんと、奏夜を訪ねてきたのは剣斗の父親と、剣斗の兄である小津或斗(あると)であったからだ。

 

「小津財閥の会長がお前に何の用事があるかはわからんが、失礼のないようにな?」

 

山田先生は奏夜にこう耳打ちをすると、部室を後にした。

 

「奏夜くん、急にすまなかったな。番犬所に聞いたら、奏夜くんは音ノ木坂学院にいると聞いてな」

 

「いえ……。それよりも、いったいどうしたんですか?」

 

奏夜は、何故このタイミングで剣斗の父親が訪ねてきたのかわからず戸惑いを見せていた。

 

「君に、受け取って欲しいものがあるのだよ」

 

「?それは…?」

 

「或斗、奏夜くんに例のものを」

 

「はい」

 

剣斗の兄である或斗の手には大型のアタッシュケースが握られており、或斗は奏夜の前に移動すると、そのケースの中身を開けた。

 

「……!?これってもしかして……」

 

アタッシュケースの中に入っていたのは、なんと、剣斗が愛用していた一角獣の紋章が描かれた盾であったのだ。

 

「うむ。この盾は、我が小津家に伝わりし一角獣の紋章が入った盾。これを君に託したい」

 

「!?お、お気持ちは嬉しいのですが、この盾は、剣武の称号を持つ騎士しか使えないのでは?」

 

「その心配は無用だ。この盾はホラーの攻撃を防ぐようソウルメタルで作られている。だが、この盾はいくつか作られているのだよ。我が小津家には、剣武の称号を継いだ騎士が心から盟友と認めた者に同じ盾を渡すという習わしがあってね」

 

「小津家にそのような習わしが…」

 

或斗から受けた説明は初めて聞いたことだったので奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「君に託したいと思っているこの盾も、元々は剣斗が君のために用意していた盾なのだ。だから、何も気にせず受け取って欲しい」

 

「!剣斗が……」

 

奏夜は剣斗の思いが込められている盾をジッと見つめると、ゆっくりとその盾を手に取る。

 

「…うむ。その盾には剣斗の心が込められている。息子の魂と共に、ジンガの野望を打ち砕いて欲しい!」

 

「……」

 

剣斗の父親の言葉を聞き、奏夜は再び自分が手にした盾をジッと見つめる。

 

「…本当ならば私が直接君に協力出来ればいいのだが、私は生まれつき体が弱くてね。ソウルメタルはなんとか扱えるが、戦いとなると厳しいのだよ」

 

「そうだったんですね……」

 

「剣斗が亡くなった今、次の剣武の称号を継ぐのは三男の瑛斗(えいと)になるだろう。だが、今すぐ戦えるという訳でもない。君の直接力になれないのは、私も瑛斗も悔しい限りなのだよ…」

 

或斗は、剣武の称号を継ぐであろう者を奏夜に話すことで奏夜を安心させようとしていたが、迫りくる決戦に力を貸せないことに歯がゆさは感じていた。

 

「気にしないで下さい。俺は、戦います。剣斗だけじゃない。小津家の皆さんの思いも背負って……!」

 

「……ありがとう、奏夜くん。その言葉こそ、剣斗への何よりの供養になるし、私たちも救われるよ」

 

奏夜の力強い言葉を聞いた剣斗の父親の表情は穏やかなものになっていた。

 

その時である。

 

『……!奏夜、どうやら時間のようだ』

 

何かを感じ取ったキルバがこのように声をかけると、ロデルの使い魔である鳩がこちらに飛んできたのだ。

 

奏夜は部室の窓を開けると、使い魔から指令書を受け取り、仕事を終えた使い魔は番犬所へと戻っていった。

 

その指令書はいつもの赤い指令書ではなく、拒否することは許されない黒の指令書であった。

 

奏夜が黒の指令書を受け取ったのは、魔戒騎士になったばかりの頃の魔戒騎士狩りがあった時以来だったが、事態が事態故に冷静だったのだ。

 

奏夜は魔導ライターを取り出すと、指令書を燃やして中身を確認する。

 

「……強大なる邪気が蘇ろうとする兆しあり。ただちにこれを殲滅せよ」

 

奏夜が指令書の内容を確認すると、魔戒語で書かれた文章は消滅した。

 

「…そーくん…」

 

改めて決戦の指令が届いたことにより、穂乃果は不安そうな顔を奏夜に向ける。

 

「……心配するな。俺は必ず戻る。信じて待っていてくれ」

 

奏夜の力強い言葉に、穂乃果だけではなく、他の8人もまた無言で頷く。

 

「…ララ、行こう!」

 

「ええ!」

 

こうして、奏夜とララはμ'sの9人だけではなく、剣斗の父親と或斗に見守られながら部室を後にして、ジンガの拠点と思われる場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜とララが訪れたこの場所は、かつてグレゴルと呼ばれる強大なホラーが封印されていた遺跡であった。

 

奏夜が魔戒騎士になる前に、古の人型魔導具である阿号がグレゴルが封印されていた腕をこの遺跡から奪ってしまったのだが、結果的にグレゴルは復活してしまう。

 

それを討滅したのが統夜であった。

 

その後この場所は誰も立ち入ることのない場所となったのだが、そこをジンガに付け入られ、ジンガはここを拠点としたのである。

 

「……まさか、ここに奴がいるとはな……」

 

『お前が魔戒騎士になる前にグレゴルが封印されていた場所だからな。ホラーを蘇らせようとするのにはうってつけの場所なんだろう』

 

キルバは冷静に分析をしており、奏夜はそれに賛同しているからか、無言で頷く。

 

そのような話をしていると、統夜、リンドウ、大輝、アキトが現れて奏夜たちと合流する。

 

「統夜さん、作戦は固まったんですか?」

 

「ああ、一応な」

 

「しっかしまぁ、ジンガのやつ、まさかここを拠点にするなんてなぁ。統夜と初めて会った時のことを思い出すぜ」

 

アキトは、この時の事件をきっかけに統夜と出会い、盟友となったため、かつて統夜とこの地を訪れたことを思い出していた。

 

「そうだな…」

 

統夜はこのように呟きながら、かつて戦った阿号やグレゴルのことを思い出していた。

 

「俺たちが行った時は既にグレゴルが封印されていた腕は持っていかれてたからな。きちんとこの遺跡の調査はしていないんだが、どうやらグレゴルの腕が封印されていた場所のさらに奥には、地下に通じる道があるらしいんだ」

 

「当然ホラーの妨害はあるだろうが、それを蹴散らして地下に行く。きっとジンガのやつはそこでニーズヘッグを蘇らせようとしているだろうしな」

 

統夜とアキトはかつてこの地を訪れたことはあったのだが、ジンガが拠点としている場所へは踏み入ったことはなかった。

 

それを理解した上で、このような作戦を立てるのである。

 

「確かに…。ニーズヘッグ復活のためにきっとジンガは大量のホラーを用意してるでしょうね。俺もその作戦には賛成です」

 

奏夜は統夜とアキトの立てた作戦に賛同しており、ララも無言で頷く。

 

「……とりあえず急ごう。かつてグレゴルの腕が封印されていたのはこの先だ」

 

統夜とアキトは、かつての記憶をたよりに移動を開始しようとしたのだが……。

 

『……どうやら、お出迎えが来たようだぜ』

 

『奏夜、気を付けろ!』

 

『リンドウも油断しないで下さい!』

 

最初に統夜の魔導輪であるイルバが邪気を探知したのだが、間髪入れずにキルバとレンも相棒に警告をする。

 

それと同時に現れたのは、多数の素体ホラーであった。

 

「やれやれ…。手厚い歓迎なこって」

 

リンドウは苦笑いをしながらも咥えていたタバコに火を付ける。

 

「まずはこいつらを蹴散らさないと先には進めなさそうだな」

 

「そういうことなら、とっとと蹴散らしてしまおうぜ!」

 

アキトの言葉に奏夜たちは頷くと、全員がそれぞれの武器を構える。

 

「……行くぜ!」

 

統夜のかけ声と共に、奏夜たちは素体ホラーの群れに向かっていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃……。

 

「……ジンガ様。奴らが現れました」

 

「ああ、どうやらそうらしいな」

 

アミリはジンガに奏夜たちが現れたことを報告する。

 

現在、ジンガはニーズヘッグ復活の準備を完全に終えたところであり、これからニーズヘッグを復活させようとしていたところであった。

 

「…私の命に代えても奴らを足止めします。ジンガ様はニーズヘッグの復活を」

 

「ああ、頼りにしてるぜ、アミリ」

 

「はっ!」

 

アミリは、奏夜たちを足止めするために、その場を離れるのであった。

 

「……力を感じるぜ、ニーズヘッグ。もうすぐだ……!お前の復活は近いぜ……!」

 

ニーズヘッグの牙と2つの魔竜の眼が互いに共鳴を始め、それを核にしてニーズヘッグは蘇ろうとしていた。

 

ニーズヘッグ復活に必要なものたちが共鳴することで、ニーズヘッグの持つ強大な力を、ジンガは感じ取ったのである。

 

「俺もお前も、人間に対して怒りを抱えている。一緒にこのくだらない世界を蹴散らそうぜ!」

 

ジンガは共鳴している竜の牙と竜の眼を眺めつつ、ニーズヘッグ復活の時を今か今かと待ち構えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニーズヘッグ復活が始まろうとしている中、奏夜たちは立ちはだかる素体ホラーたちを次々と蹴散らしていった。

 

「……剣斗。俺に力を貸してくれ!」

 

奏夜は剣斗の父親から託された盾をさっそく使用しており、ホラーからの攻撃をこの盾で防いでいた。

 

「その盾……。そういうことか」

 

小津家の習わしについて以前から知っていたからか、統夜は奏夜の持つ盾を見ながら笑みを浮かべる。

 

『奏夜!お前は盾を使っての戦闘には慣れていないはずだ。無茶はするなよ』

 

「大丈夫だ。確かに慣れてはいないが、剣斗の思いがそこをカバーしてくれてる!」

 

奏夜は盾を防御に使うだけではなく、ソウルメタルで出来ているこの盾をホラーに向けて投擲することで、まるでブーメランのように盾を駆使していた。

 

ソウルメタルで出来た盾を受けた素体ホラーの体は真っ二つとなり、再び奏夜の手に戻っていく。

 

「それにしても、とんでもない数だぜ、こいつは」

 

アキトは、魔戒銃を放ち、法術を放つというのを繰り返しながら素体ホラーを倒していっているのだが、なかなかホラーの数が減らないことに驚いていた。

 

「以前の拠点にもホラーを従えていたが、まさかここまでのホラーを従えているとはな…!」

 

大輝はホラーを倒しながらも、多くのホラーを使役しているジンガの存在を脅威に感じていた。

 

単独ではなく、複数のホラーを使役しているホラーは存在するものの、ここまでのホラーを従えているケースはあまりに稀だからである。

 

「ここって確か強いホラーが封印されてたんだろ?その陰我に引っ張られて出てきてる奴らもいるんじゃないのか?」

 

リンドウがこのように推測する通り、この地はかつてグレゴルと呼ばれる強大なホラーが封印されていたということもあり、そのホラーはいない現在でも、邪気はなくなった訳ではない。

 

それだけではなく、ニーズヘッグが復活しようとしていることで陰我が集まり、あちこちでゲートが開いて素体ホラーが現れているのだ。

 

『このまま戦っててもジリ貧ですね……!』

 

そのことをレンも分析しているため、このままでは必然的にこちらが不利になると判断していた。

 

「……奏夜。そして統夜!お前たちは先に行け!」

 

「ララ、お前もな!」

 

リンドウとアキトがこのような提案をするのだが、先に行けと提案された3人はそれぞれ驚いていた。

 

『このまま奴らの時間稼ぎを受けては、ニーズヘッグが復活してしまいます。ここはリンドウと大輝。そしてアキトの3人で抑えますから!』

 

『奏夜。この先から強大な邪気を感じる。迷ってる暇はないぞ』

 

『統夜!まずはニーズヘッグ復活を阻止するぞ!』

 

キルバとイルバがニーズヘッグのものと思われる邪気を探知したことにより、先に進む決心を固める。

 

「…奏夜、ララ!行くぞ!!ニーズヘッグ復活を阻止するんだ!」

 

「はい!」 「ええ!」

 

統夜のかけ声に奏夜とララが頷くと、迫り来るホラーを倒しながら、先に進む事にした。

 

ホラーたちはそんな奏夜たちを追いかけようとしたのだが……。

 

「おっと!こっから先は通行止めだぜ!」

 

アキトはとある弾を装填した魔戒銃を発砲すると、奏夜たちを追おうとしていたホラーたちに着弾し、それと同時に爆発を起こした。

 

それを受けたホラーたちは消滅していく。

 

その隙を見逃さず、奏夜たちはかつてグレゴルの腕が封印されて場所へと急ぐ。

 

「ここを通りたかったらな…」

 

「俺たちを倒してからにしな!」

 

大輝とリンドウがホラーたちの前に立ちはだかり、そのままホラーたちと戦闘を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキト、大輝、リンドウの3人のおかげで先に進む事の出来た奏夜たちは、グレゴルの腕が封印されていた場所へと辿り着いた。

 

「…ここに、グレゴルが封印されてたんだな…」

 

奏夜は、自分が魔戒騎士になる前にここにホラーが封印されていたことを実感しつつ、周囲を見渡す。

 

「…どうやら、あの奥から地下へ行けるみたいだな」

 

今いる場所の奥に通路があり、そこから地下へ通じる道が存在した。

 

「それなら、急ぎましょう。時間がないわ」

 

 

ララの言葉に奏夜と統夜は頷き、そのまま進もうとしていたのだが……。

 

『奏夜、待て!』

 

『どうやら、そう簡単には先に進ませては貰えないみたいだぜ!』

 

キルバが奏夜たちを引き止めるのだが、その後に何者かが接近してくることをイルバが感じ取っていた。

 

すると、奏夜たちの前に1人の女性……アミリが立ちはだかっていた。

 

「お前は…!」

 

「アミリ……!」

 

「こいつが剣斗を…!」

 

アミリは剣斗の命を奪った仇敵であり、奏夜たちは怒りの表情をアミリに向ける。

 

「お前たちをここから先に通す訳にはいかない……!」

 

アミリは、奏夜たちのことを鋭い目で睨み返すと、精神を集中させ、その身体に漆黒の鎧を纏った。

 

魔獣装甲を身にまとったアミリが立ちはだかりり、奏夜と統夜は魔戒剣を構え、ララは魔導筆を構えていた。

 

アミリを倒さなければこの先にいるジンガの元へは進めない。

 

だが、ニーズヘッグはまもなく復活しようとしている。

 

それは3人とも感じ取っており……。

 

「…統夜さん、ララ。2人は先に行って下さい。こいつは、俺が倒します」

 

奏夜は、自分より実力のある統夜をジンガのもとへ向かわせた方がいいと考えたからか、自分がアミリと戦う意思を伝えた。

 

「奏夜……」

 

「それに、俺はこいつの奇襲を受けたことでそれを庇った剣斗が命を落としたんです。だから…」

 

奏夜はそれだけではなく、剣斗の命を落としたのは自分にも非があると考えていたため、自分の命を狙ってきたアミリをこの手で倒したいと考えていた。

 

しかし……。

 

「…奏夜。悪いが、それは聞けないな。こいつは、俺が倒す」

 

「!?何を言ってるんですか!ジンガはかなりの力を持つホラーです!だからこそあなたが…!」

 

「心配するな。とっととこいつを蹴散らしてすぐにお前らと合流するさ」

 

「…っ!でも!」

 

統夜がアミリを倒すと宣言したのだが、いくら尊敬する先輩騎士とはいえ、それは聞けないと思っていた。

 

しかし……。

 

「……剣斗を盟友だと思ってたのはお前だけじゃないんだ」

 

「え?」

 

「俺にとっても、剣斗は盟友なんだ。そんな剣斗の命を奪ったこいつを倒す。いくら奏夜とはいえ、これは譲らねぇよ?」

 

「統夜さん…」

 

統夜もまた、剣斗のことを大切な友だと思っており、アミリを倒したいという気持ちは奏夜と同じくらい持っていた。

 

しかし、これだけは譲れないということを鋭い目付きで強調する。

 

「お前ら2人はさっさとジンガのところに行け!俺もすぐに追いつく!!」

 

「分かりました!統夜さん…お願いします!こいつを倒して下さい!」

 

奏夜は、自分がアミリを倒したいという思いはあったものの、今は統夜に託して使命を果たそうと判断した。

 

そのため、ララと共に先に進むことを決心する。

 

「頼むぜ、奏夜!ララ!!」

 

統夜はアミリに突撃し、魔戒剣を振るうのだが、頑丈な腕にてそれを受け止める。

 

その隙を見逃さなかった奏夜とララは、全力で駆け出して、地下にいるジンガの元へと向かう。

 

「…っ!しまった!」

 

「逃がさねぇよ!」

 

アミリはすぐに奏夜とララを追いかけようとするが、すぐに統夜に邪魔をされる。

 

「おのれ…!月影統夜!こうなったら、貴様から始末してくれる!」

 

「悪いが、俺はやられる訳にはいかない。お前を倒さないといけないからな!」

 

統夜は鋭い目付きでアミリを睨みつけると、再びアミリに魔戒剣を振るう。

 

こうして、奏夜たちはそれぞれの場所で戦いを始めた。

 

こうしている間にも、ニーズヘッグは蘇ろうとしている。

 

果たして、奏夜たちはニーズヘッグ復活を阻止出来るのか…?

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──次回予告──

 

『やれやれ、こうも敵の妨害が激しいとはな。だが俺たちはそれを跳ね除けて前へ進むしかないな!次回、「熾烈」それぞれの戦いが激化する!!』




奏夜が剣斗の使っていた盾を託され、戦闘スタイルがやや変化しました。

盾を装備するようになり、奏夜はこれからどのような戦いを繰り広げていくのか?

そして、次回は戦いがさらに激化していきます。

統夜とアミリの直接対決が始まりますが、統夜はアミリを倒すことは出来るのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第80話 「熾烈」

お待たせしました!第80話になります!

前回、ニーズヘッグ復活を阻止するために戦いを始めた奏夜たち。この戦いに勝利し、ニーズヘッグ復活を阻止する事は出来るのか?

それでは、第80話をどうぞ!




奏夜たちは、ニーズヘッグ復活を阻止するために、ジンガが現在拠点にしているとある遺跡に来ていた。

 

ここは、かつてグレゴルと呼ばれる強大な力を持つホラーが封印されていた場所であったが、その封印が解かれて以降は誰も立ち入ることのない場所であった。

 

ジンガはそこを利用してここを拠点にしたのである。

 

奏夜たちが訪れると、それを予想していたジンガは従えていたホラーを差し向ける。

 

素体ホラーの群れはアキト、大輝、リンドウが引き受ける形で奏夜、統夜、ララは先に進む。

 

ジンガのもとまであと少しというところまでたどり着くも、魔獣装甲を纏ったアミリが現れ、奏夜たちの道を阻んだ。

 

そんな中、統夜がアミリの相手を引き受けることになり、奏夜とララは先に進む。

 

こうして、それぞれの戦いは始まっていったのだ。

 

その頃、音ノ木坂学院では…。

 

「…そーくん、大丈夫かなぁ…?」

 

穂乃果たちはアイドル研究部の部室にいるのだが、穂乃果は窓から見える景色を眺めながら不安そうな表情をしていた。

 

「確かに、心配だよね……」

 

「ええ。状況から察するに、私たちが見た時とは比べ物にならないほどの戦いになるのは間違いないと思います」

 

穂乃果の不安げな表情を察したことりと海未がそれぞれ不安そうに言葉を紡ぐ。

 

「大丈夫だよ!奏夜君なら絶対に帰ってくるよ!」

 

「かよちんの言う通りにゃ!それに、そーや君だけじゃない。とーやさんだっているんだよ?」

 

「そうね。それに、奏夜は必ず戻ると約束してくれたもの。私は信じているわ」

 

花陽が不安げな穂乃果、海未、ことりを励ますような言葉を放つと、それに凛と真姫も賛同する。

 

「そうよ!奏夜にはこれからμ'sのマネージャーとして、もっともっと頑張ってもらわなきゃいけないんだもの」

 

「ええ。今は信じて待ちましょう?」

 

にこはにこなりに奏夜を信じていると感じさせる事を言っており、絵里が優しく穂乃果たちに語りかける。

 

そんな中、希が愛用しているタロットカードから1枚のカードを引く。

 

引き当てたカードを、希は真剣な表情で見つめていた。

 

「…?希ちゃん?」

 

「今引いたカードはなんなのですか?」

 

「まさか、不吉なものじゃないよねぇ?」

 

希の真剣な表情を見た穂乃果たちは、不安そうに希にカードの中身を聞いていた。

 

「…この状況が大きく変化するって意味のカードなんよ」

 

希が引き当てたのは、運命の輪という名前のカードであり、希が説明したのは、それが正位置だった場合の意味である。

 

「状況が大きく変化する…ですか?」

 

「それだと、良いのか悪いのかわからないじゃない!」

 

希の説明に海未は首を傾げ、にこは異議を唱える。

 

状況が大きく変化するというだけでは、良い意味としても捉えられるし、悪い意味としても捉えられるからだ。

 

「確かにそうやね。だけどこのカードが正位置ということは、悪い意味じゃなくて良い意味であると思うんやけどね…」

 

「大丈夫よ。状況が大きく変化するということは、奏夜が勝ってこの戦いは終わるわよ!」

 

絵里は希の引いたカードを前向きに捉えることで、不安な気持ちを払拭しようもしていた。

 

「そうだね!確かに、そーくんのことが心配だけど、信じて待とう!そーくんは絶対に帰ってくるよ!」

 

穂乃果がさらに自分だけではなく周りを奮い立たせる言葉を放ち、その言葉に他の8人は力強く頷く。

 

(そーくん…私たちは信じているからね…?)

 

穂乃果は不安は完全に拭いされないものの、奏夜を信じて、奏夜の帰りを待つことにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、奏夜、統夜、ララの3人を行かせるために、大量の素体ホラーたちを相手取るリンドウ、大輝、アキトは、疲労を見せることなく、ホラーを倒していった。

 

「……やれやれ……。ちょっとは休憩させてくれよ……。煙草を吸う暇もないじゃねぇか」

 

リンドウは1体の素体ホラーを斬り裂いた後に、ぼやくように呟く。

 

『リンドウ!そんな暇はないですよ!ホラーは完全に全滅させた訳じゃないんですから』

 

「まぁ、リンドウがぼやきたくなる気持ちはわかるがな!」

 

大輝もまた、リンドウの言葉に賛同しつつ素体ホラーを斬り裂いていく。

 

「泣き言は言ってられないぜ!リンドウ!大輝のおっさん!」

 

「…だからおっさんはやめろ」

 

アキトは魔戒銃を放ち、ホラーを倒しつつ2人を激励するが、大輝は自身のおっさん発言を良しとしておらず呆れていた。

 

「とにかく、今の俺たちに出来るのは、こいつらを抑えて奏夜たちが心置き無くジンガと戦えるようお膳立てをすることだ!」

 

「そうだな!あいつらならきっと勝てるさ!だからこそ踏ん張らないとな!」

 

リンドウはぼやきが思わず出ながらも、奏夜たちの勝利を信じており、己を奮い立たせていた。

 

「当然!こっからが正念場だぜ!」

 

それは大輝やアキトも同様であり、3人は次々もホラーを蹴散らしていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、奏夜とララを先にジンガのもとへと行かせた統夜は、目の前に立ちはだかる漆黒の鎧…アミリを鋭い目付きで睨みつけていた。

 

「…月影統夜……。貴様の実力はジンガ様も一目置いていた。だからこそ、貴様をここで始末する!」

 

ジンガに忠誠を誓っているアミリは、統夜の話をよくジンガから聞いており、その実力を驚異と感じていた。

 

「それに、如月奏夜如きの力では、ジンガ様には絶対に勝てない。それなのに、奴を行かせたのは悪手だったな」

 

アミリは、ジンガの絶対的な力を信じているため、奏夜ではジンガを倒すことは出来ないと感じていた。

 

しかし…。

 

「……ふっ、それはどうかな?」

 

「……なんだと?」

 

統夜は飄々と笑みを浮かべており、そんな統夜の態度に苛立ちを感じているのか、訝しげな目で統夜を睨みつける。

 

「お前をこの手で倒すために奏夜を先に行かせたが、今の奏夜ならジンガを倒せると信じてるから俺はあいつを行かせたんだぜ」

 

剣斗の命を奪ったアミリを倒す。

 

それも統夜の本音ではあったが、自分の力がなくても今の奏夜ならジンガに勝てる。

 

統夜はそう確信していたからこそ、自分のやりたいことを優先させることが出来たのである。

 

「あの小僧がジンガ様を倒せるだと…。寝言も大概にするのだな!」

 

統夜の言葉を良しとしなかったのか、アミリは右手の甲に剣のような刃を展開すると、統夜に向かっていった。

 

統夜はアミリを攻撃をかわそうとするのではなく、魔戒剣で受け止め、正面から向かっていったのである。

 

「そんなんで、俺を斬れると思うな!」

 

アミリは魔獣装甲にて強化されているとはいえ、剣術のイロハのない魔戒法師であるため、統夜に簡単に動きを見切られてしまい、攻撃を弾かれた隙を付かれてしまい、統夜の放った蹴りによって吹き飛ばされる。

 

「ぐぅ…!おのれ…!」

 

アミリはすぐに体勢を立て直すが、怒りに満ちた目を統夜に向ける。

 

『統夜!魔獣装甲の力は未知数だ!油断はするなよ!』

 

「ああ。あれがあいつの全てだとは思ってないさ」

 

統夜は先制攻撃を制したものの、どのような攻撃を繰り出してくるかわからないアミリに最大限に警戒はしていた。

 

「おのれ…!これならばどうだ!」

 

アミリは先程の刃を振り下ろすと、それはまるで蛇腹剣のようにうねりのある刃に変わり、それをまるで鞭のように統夜へ向けて放つ。

 

「っ!」

 

統夜は横に動いてアミリの攻撃をかわすが、アミリの攻撃は激しさを増しており、近付く隙はなかった。

 

『まさか、あの刃にあんなギミックが隠されてるなんてな…』

 

「イルバ!感心してる場合じゃないっての!」

 

統夜は攻撃をかわしながらアミリの刃のまるで蛇腹剣のようなギミックに感心しているイルバをたしなめる。

 

(さて、どうする…?どうにかあれを無効化出来ればチャンスはあるが…)

 

統夜は攻撃をかわしながら、反撃の糸口をみつけようとしていた。

 

(…!これなら多分行けるぞ!)

 

統夜は何か策を思い付いたのか、アミリの攻撃を回避した直後に接近を試みる。

 

「愚かな…!これで貴様に引導を渡す!」

 

アミリは近付いてくる統夜にとどめを刺そうと剣を統夜に向けて振り下ろす。

 

統夜はそれを見てニヤリと笑みを浮かべながら…。

 

「こいつで!!」

 

統夜は自身の魔戒剣の鞘をアミリに向かって投げつける。

 

「!?」

 

魔戒剣の鞘はアミリの刃に直撃し、それはまるでブーメランのように統夜の手元へと戻っていく。

 

一方、アミリの刃は、放たれた鞘の衝撃にて照準が大きくずれてしまい、大きな隙が出来てしまう。

 

「そこだ!!」

 

統夜はその隙を見逃さずにアミリに接近すると、魔戒剣をアミリの刃目掛けて振り下ろした。

 

蛇腹剣のようになっている刃のワイヤー部分の根元を狙っていたため、簡単に刃は切り落とされてしまう。

 

「しまった!?だが、まだだ!」

 

アミリはすぐに体勢を整えると、

 

左手を統夜に突き出し、まるで銃のようになっている砲身を統夜に向けた。

 

「この距離ならば!」

 

攻撃直後で統夜に隙があると判断したのか、アミリは統夜に対して砲撃を行う。

 

しかし、統夜はその前には体勢を整えており、魔戒剣と鞘を合わせてそれを盾代わりにアミリの攻撃を防いでいた。

 

それでも完全に攻撃を凌げた訳ではなく、統夜は後ろずさってしまう。

 

「馬鹿な…!あの距離での砲撃を凌ぐだと!?」

 

今の攻撃を防がれたのはアミリも想定外だったのか、驚きを隠せずにいた。

 

「この鞘も使わなかったらさすがにやばかったけどな」

 

統夜は魔戒騎士になったばかりの頃に、銀牙騎士絶狼の称号を持つ涼邑零から修行を受けており、その時に鞘を用いた二刀流の技術を習得していた。

 

魔戒剣と鞘。この2つを巧みに使い分ける戦い方により、統夜は何度も危機を脱することが出来ていたのである。

 

「おのれ!!これならば!!」

 

アミリは左手の砲身から砲撃を何度も放つも、統夜は魔戒剣と鞘を巧みに使い、その攻撃を凌いでいた。

 

「くっ…!おのれ…!」

 

アミリの攻撃は激しいものであるが、それを難なく凌がれてしまい、アミリは焦っていた。

 

しかし、焦りは隙を作るものであり、統夜はその隙を見逃さなかった。

 

統夜は素早くアミリに接近すると、左手の砲身を真っ二つに切り裂き、砲撃による攻撃を無力化する。

 

すかさず魔戒剣を振り下ろし、アミリ本体に攻撃を仕掛けるが、アミリは両腕を使って統夜の攻撃を受け止める。

 

「これ以上貴様の好き勝手にはさせんぞ!そんなもので私を斬れると思うな!」

 

アミリは統夜の攻撃を防ぐと、すぐさま統夜に向かって蹴りを放ち、統夜を吹き飛ばす。

 

「くっ……!」

 

統夜はすぐに体勢を立て直すが、アミリは再び接近し、格闘戦を仕掛けてくる。

 

統夜は魔戒剣の鞘を魔法衣の裏地にしまい、魔戒剣は手にしたまま、アミリと真っ向からぶつかっていった。

 

最初はアミリの猛攻に統夜は防戦一方だったが、攻撃を防いでいる間にアミリの攻撃を見極め、その隙をついて反撃する。

 

「ぐっ、貴様は鎧を召還していないのに、魔獣装甲の私が押されているだと…!?」

 

「お前の魔獣装甲の力は確かに凄い。だが、俺はそれ以上の敵とも戦ってきてるんだ!」

 

統夜は現在20歳という魔戒騎士としてはまだまだ若手ながらも、様々な強大なホラーを討滅しており、その経験が統夜の何よりの強さであった。

 

統夜は拳による一撃をアミリに叩き込むと、すぐさま蹴りを放ち、アミリを吹き飛ばす。

 

「アミリ!貴様の陰我、俺が断ち切る!」

 

統夜は魔戒剣を上空に突き上げると、円を描く。

 

その部分のみ空間が変化し、そこから放たれる光に統夜は包まれる。

 

すると、その空間から白銀の鎧が現れると、統夜はその鎧を身に纏う。

 

こうして、統夜は白銀騎士奏狼(ソロ)の鎧を身にまとったのであった。

 

統夜の手にしていた魔戒剣は、専用の剣である皇輝剣へと変化する。

 

「鎧を召還したか…!ならば私も、全力をもって貴様を討つ!!」

 

統夜が鎧を召還したのを確認したアミリは、精神を集中させると光の槍のようなものを呼び出して構える。

 

『…!統夜!気を付けろ!!あいつは!!』

 

「ああ…!あれが剣斗を……!」

 

アミリは光の槍のようなもので奏夜を殺そうとするのだが、奏夜を守ろうとした剣斗を貫いたものであった。

 

その時の出来事を鮮明に思い出し、統夜は鋭い目付きでアミリを睨み付ける。

 

「俺は、負ける訳にはいかないんだよ!俺自身のためだけじゃない。本当ならこの場にいたかった奏夜のためにも!!」

 

奏夜は、自分以上に剣斗のことを盟友だと思っていた。

 

そのことはわかっていたが、自分の気持ちを優先させて奏夜にジンガのもとへ向かわせた。

 

だからこそ、自分はあの光の槍に負ける訳にはいかない。

 

統夜はそう強く心に誓っていた。

 

「貴様もこいつの威力は知っているだろう?ソウルメタルでさえ貫くこの槍の力…思い知れ!!」

 

アミリは統夜に向かって光の槍を放った。

 

それと同時に統夜は自身の魔導火である赤の魔導火を全身に纏い、烈火炎装の状態になる。

 

迫り来る光の槍を、統夜は赤の魔導火で纏われた皇輝剣で受け止める。

 

「ぐぅ……!!」

 

光の槍はソウルメタルを貫くほどの威力であるということもあり、統夜の表情は歪みながらもどうにか光の槍を受け止めていた。

 

「無駄だ!貴様がどれだけ頑張ろうと、そいつを防ぐことは出来ない!」

 

アミリは、ソウルメタルで出来た剣斗の盾を剣斗もろとも貫いたことがあることから、統夜にこの攻撃を防ぐことは出来ないと確信していた。

 

しかし、統夜はそうは思っておらず…。

 

「ま、負けて…たまるかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

統夜はまるで獣のような咆哮をあげると、そんな統夜の言葉に呼応したのか、皇輝剣に纏われた赤い魔導火がさらに激しく燃え盛るのであった。

 

「何!?」

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

統夜は再び獣のような咆哮をあげると、普段以上に燃え盛る魔導火の力もあり、光の槍を真っ二つに切り裂く。

 

「ば、馬鹿な!?」

 

アミリはまさかの出来事に狼狽しつつも、再び光の槍を呼び出す。

 

統夜は勢いを止めることなくアミリに接近すると、皇輝剣を振り下ろすが、アミリは光の槍にてそれを受け止める。

 

「貴様の執念がここまでとは……。だが!私もジンガ様のために負ける訳にはいかない!!」

 

アミリは、自分が信じているジンガのために自らを奮い立たせていた。

 

「悪いな。俺だって負ける訳にはいかないんだよ!剣斗の事云々じゃない。お前たちを倒し、ニーズヘッグの驚異から多くの人を守るために!」

 

しかし、統夜もまた、守りし者としてここで負ける訳にはいかないという強い気持ちをもっており、それが統夜自身を後押しする。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

統夜は獣のような咆哮をあげながら皇輝剣を振り下ろす。

 

アミリはどうにか受け止めていたのだが、統夜の力は徐々に強くなっており、どうにか耐えていた。

 

しかし、すぐに限界は訪れてしまい、統夜は力強く皇輝剣を振り下ろすと、光の槍を再び真っ二つに切り裂き、今度は光の槍だけではなく、アミリの体も切り裂く。

 

「ぐあぁぁぁ!!」

 

烈火炎装による攻撃のダメージはかなりのものなのか、統夜の切り裂いた部分の傷は残っており、らアミリは痛みで苦悶の表情を浮かべる。

 

しかし、魔獣装甲の力はかなりのものなのか、これでもまだ鎧を破壊するには至らなかった。

 

しかし……。

 

「これで……終わりだ!」

 

統夜の烈火炎装の状態はまだ続いており、皇輝剣を横に一閃すると、そのままアミリの体を再び切り裂いたのだ。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

この一撃により、アミリの身にまとっていた鎧は粉々に砕け、人間の姿に戻ったアミリはその場に倒れるのであった。

 

それと同時に統夜は鎧を解除するのだが、魔戒剣は納刀することなく、未だに構えており、警戒は怠っていない。

 

「こ、これが…月影統夜の力……。ジンガ様が警戒するのも頷ける……!」

 

アミリは、統夜と戦うことにより、改めてその強さを思い知ることになってしまった。

 

「ジンガ様…。それでも貴方はこいつらに負けるハズがないと信じております……!貴方の崇高な目的が果たされるのを……。私は心から祈っておりま……す……」

 

アミリはこう言葉を残すとそのまま息絶えるのだが、魔獣装甲の力に飲み込まれたしまったアミリはホラーのような存在になってしまったため、その体は少しずつ消滅していったのである。

 

「……あんたは信じるものさえ間違えなければ、きっと誰よりも優れた魔戒法師になっていただろうな……」

 

統夜は、アキトから聞かされたアミリの過去を思い浮かべつつ、彼女に黙祷を捧げる。

 

『…統夜、急ぐぞ!あの小僧がどれだけジンガを抑えられてるか分からんからな!』

 

「そうだな、行こう!」

 

統夜は感傷に浸る暇もなく、奏夜やララと合流するために先に進むのであった。

 

(剣斗……。お前の仇は取ったぜ……。ジンガの野望も俺と奏夜で必ず阻止する。だから、ゆっくり休んでくれよ……)

 

統夜は心の中で亡き剣斗にアミリ討伐を報告し、追悼の意を表していたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

統夜がアミリと戦っている頃、奏夜とララはジンガのもとへ向かうために先に進んでおり、突き当たりにあったエレベーターのような装置を使用し、ジンガがいるであろう地下へと向かっていた。

 

「…統夜、大丈夫かな…?」

 

ララは、1人でアミリと戦っている統夜の身を案じていた。

 

それも無理はない。

 

魔獣装甲という未知の力だけではなく、剣斗の命を奪った光の槍という切り札もある。

 

ララ自身、統夜の力はよくわかっていたものの、それでも心配なのであった。

 

しかし……。

 

「……大丈夫。統夜さんならすぐに俺たちに追いつくさ」

 

統夜のことを心から信頼している奏夜は、統夜が必ず勝つと確信していた。

 

『そうだな。あの男ならきっとな……』

 

「本当なら俺がアミリを倒したかったけど、そんな俺の思いを統夜さんは受け取ってくれた。だから大丈夫だと信じられるんだよ」

 

「…そうね。私たちは私たちに出来ることをしましょう!」

 

「ああ!!」

 

奏夜とララはジンガを必ず止めると決意をしたところでエレベーターのような装置は止まり、地下へと到着した。

 

2人はそのまま先を急ぐのだが、たどり着いたのは、吹き抜けになっている広場のような場所であった。

 

そこの奥には祭壇があり、そこに魔竜の牙と、2つの魔竜の眼が置かれ、現在、そこに力が注ぎ込まれているところだった。

 

そして……。

 

「……よう、お前ら。思った以上に早かったじゃないか!」

 

ニーズヘッグ復活の儀式を行っていたジンガが、奏夜とララの前に立ちはだかる。

 

「ジンガ……!!」

 

奏夜にとってはジンガは因縁の相手であり、鋭い目付きでジンガを睨み付ける。

 

「やれやれ。そんな目をしやがって……。ま、俺に殺されかけたんだからな。そうなるのも当然か」

 

奏夜は学園祭直前にジンガと戦ったのだが、周りが見えていなかった穂乃果のある発言で動揺してしまい、そのことが原因でジンガに敗北。危うく命を落としそうになる。

 

「そんなことはどうでもいい!お前を倒し、ニーズヘッグ復活の儀式は阻止させてもらう!」

 

「ふん!出来るかな?お前如き未熟な魔戒騎士が!」

 

「ああ!俺は、あの時の俺とは違う!!」

 

ジンガは奏夜を挑発し、冷静さを奪おうとするが、奏夜は一切動じることはなかった。

 

「家族を理不尽に殺されたお前の気持ちはわかる。だけど、その怒りを世界にぶつけようとしているお前は、間違っている!」

 

アキトからジンガの過去を聞かされていたため、そこには同情はするものの、ニーズヘッグの力により、世界を壊そうとするジンガの思想を奏夜は否定する。

 

すると……。

 

「貴様のようなガキに何がわかるっていうんだ!!」

 

奏夜の言葉が気に入らなかったのか、ジンガは初めて奏夜に感情的な一面を見せる。

 

「この世界は理不尽に満ちているんだよ…!だからこそ俺はこんな世界は許せないんだ!!だからこそ、壊してやるんだよ!!」

 

「そんなこと、絶対にさせない!!」

 

奏夜は魔戒剣を構えて、鋭い目付きでジンガを睨み付ける。

 

「お前はニーズヘッグの復活を阻止したいんだろ?だったら!!力づくで止めてみな!!」

 

「ああ!最初からそのつもりだ!!」

 

ジンガもまた剣を構えており、奏夜を睨み付ける。

 

そして、奏夜はジンガのもとへと向かっていき、魔戒剣を振るう。

 

ジンガもまた剣を振るい、それを迎え撃つ。

 

こうして、奏夜とジンガとの戦いは幕を開けたのだ。

 

奏夜はジンガを倒し、ニーズヘッグ復活を阻止することは出来るのだろうか?

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

──次回予告──

 

『ジンガのやつ、やはり手強い相手だな。だが、奏夜。お前だっていつまでも負けてられないだろ?次回、「邪竜」、怒りに満ちた邪気が目覚めようとしている!!』

 




タロット占いのところはめっちゃ難しかった!

希がタロットのカードを見るところは、実際のタロット占いのカードをググりながらそれらしいものを発見しました。

もしかしたら若干意味合いは変わっている可能性はありますが、そこはご了承ください。

そして、今回は統夜vsアミリがメインでした。

魔獣装甲アミリの外見はおおよそはオクタヴィアをモチーフにしていますが、鎧は漆黒で、使用武器も違います。

まさかのガリアンソードのような武器を使っていましたが、難なく統夜に防がれてしまいました。

久しぶりに鞘を用いた二刀流を披露しつつ、アミリを撃破した統夜でしたが、今回は統夜の強さがより顕著に出ていた回だと思います。

そして、次回は奏夜vsジンガがメインになってくるとは思いますが、奏夜はかつて敗北したジンガを相手に勝つことは出来るのか?

今まさに甦ろうとしているニーズヘッグの復活は阻止出来るのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第81話 「邪竜」

お待たせしました!第81話になります!

前回は統夜とアミリの直接対決ですが、今回は奏夜とジンガの直接対決になります。

奏夜はジンガを倒すことは出来るのか?

そして、今まさに封印が解かれようとしているニーズヘッグの復活は阻止出来るのか?

それでは、第81話をどうぞ!




ニーズヘッグ復活を阻止するため、奏夜たちはジンガの拠点へと乗り込む。

 

リンドウ、大輝、アキトの3人は入り口にてホラーの大群を相手取り、統夜もまた、奏夜やララを先に行かせるために魔獣装甲を身に纏うアミリと対峙する。

 

そして、統夜はアミリを討伐し、奏夜やララと合流するために動き始める。

 

そんな中、ジンガのもとへたどり着いた奏夜とララであった。

 

今まさにニーズヘッグは蘇ろうとしており、それを阻止するために、奏夜はジンガへ戦いを挑む。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

奏夜はジンガに向かって魔戒剣を振るい、ジンガはその攻撃を自身の剣で受け止める。

 

ジンガはすかさず反撃と言わんばかりに奏夜の攻撃を弾き飛ばし、剣を振るうも、奏夜はジンガの攻撃を受け止めた。

 

その後は互いに激しく剣を打ち合うのであった。

 

「お前…少し見ないうちに強くなったみたいだなぁ?」

 

「…それはどうも!!」

 

ジンガは軽口で奏夜を挑発するも、奏夜はそんなジンガの言葉を受け流せるほど冷静であった。

 

「だが…まだ甘い!!」

 

ジンガは奏夜の一瞬の隙をついて、奏夜を斬ろうとする。

 

しかし、奏夜はそんなジンガの動きを読んでいたのか、バク転のような動きで後ろに下がって、攻撃を回避する。

 

ジンガはすかさず追撃をかけるが、奏夜は攻撃を剣や盾で受け止めず、最低限のみ体を動かしたり、足を上げたりしてジンガの攻撃を回避していた。

 

「凄い…!まるで踊っているみたい……」

 

ララは、奏夜の滑らかな動きに驚きを隠せなかった。

 

その動きがまるで踊っているように見えたからだ。

 

そんなララは、奏夜とジンガの戦いが始まってすぐに加勢しようとするも、奏夜から「手を出すな」と言われてしまい、戦いを見守っている。

 

(奏夜がジンガと戦って注意を引いてくれている…。だったら、私に出来ることは…!)

 

ララは魔導筆を取り出すと、現在魔竜の牙と魔竜の眼が置かれている祭壇に向かって法術を放つ。

 

しかし、力がだいぶ満ちてきているのか、邪気がまるでバリアのような役割をして、ララの法術を防ぐ。

 

「ふっ、無駄だ!ここまで力が貯まれば、最早ニーズヘッグ復活は時間の問題なんだよ!」

 

「だったら…!お前を斬ってさっさと封印を解かさせてもらうぞ!」

 

「そいつは無理な相談だな!お前じゃ…俺には勝てない!」

 

ジンガは辺りを包む邪気にて力を蓄えているのか、まるでそれを解き放つかのように衝撃波を放つ。

 

「くっ……!」

 

奏夜はその一撃で吹き飛ばされるものの、すぐに体勢を立て直す。

 

しかし、同様に吹き飛ばされてしまったララは、壁に体を叩きつけられてしまい、その場に倒れてしまう。

 

その衝撃によって、ララは気を失ってしまったのであった。

 

「ララ!!」

 

奏夜はララの身を案じ、視線がララの方を向いてしまうのだが……。

 

「ふん!よそ見をしてる場合か!?」

 

奏夜に出来た大きな隙をジンガは見逃さず、奏夜に接近。

 

奏夜の体に剣を突き刺そうとした。

 

しかし……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何!?」

 

奏夜は自分の体を守るように魔戒剣を咄嗟に動かしており、それによって奏夜はジンガの突きによって傷を負うことはなかった。

 

「悪いけど、今までの俺と…一緒だと思うな!!」

 

奏夜は魔戒剣を横に振るってジンガの攻撃を弾き飛ばすと、そのまま魔戒剣を振るい、ジンガの体を斬り裂く。

 

続けて蹴りを放ち、ジンガを吹き飛ばすのであった。

 

「……やるじゃねぇか……!!この俺に傷を付けるとはな……!」

 

かつて奏夜と戦った時、穂乃果とのゴタゴタによって心が乱れていたのもあって、奏夜は自分の敵ではなかった。

 

しかし、今目の前に対峙している奏夜は、自分と互角に近い力を見せ、現在自分に一撃を与えた。

 

歯牙にもかけていない相手の成長を感じ取り、ジンガは笑みを浮かべる。

 

「いいねぇ!俺と互角に戦えるのは月影統夜だけだと思ったが…。お前もやるじゃないか、如月奏夜!」

 

「今までの俺とは違う…。そう言ったはずだ!」

 

奏夜は魔戒剣を力強く握りしめ、ジンガを睨み付ける。

 

「どうやら、そうらしいな。お前もこの俺を楽しませてみせろ!!俺を倒してニーズヘッグ復活を阻止したいんだろ!?」

 

ジンガはニヤリと怪しい笑みを浮かべながら、奏夜を挑発する。

 

それを聞いた奏夜は……。

 

「お前を楽しませる気はない。だが、お前は斬る!!」

 

「ほう……。だったら斬ってみな!如月奏夜!!」

 

ジンガは奏夜に宣戦布告を行うと同時に、人間の姿から、ホラーの姿へと変化した。

 

「……貴様の陰我、俺が断ち切る!!」

 

ジンガがホラーの姿になったのを確認した奏夜は、魔戒剣を上空に向けて高く突き上げ、円を描く。

 

その部分のみ空間が変化すると、奏夜はそこから放たれる光に包まれた。

 

すると、円の中から牙狼とは異なる金色の鎧が現れ、奏夜はその鎧を纏っていく。

 

こうして、奏夜は輝狼(キロ)の鎧を装着するのであった。

 

それと同時にジンガは奏夜に向かって急速に接近し、剣を振るう。

 

しかし、奏夜はすぐにその一撃を魔戒剣が変化した陽光剣で受け止める。

 

「それにしても、お前がここまで強くなるとはな…。それだけが予想外だったぜ!」

 

「俺には守るべきものがある!だからこそ、そう簡単にお前に負けるわけにはいかないんだよ!」

 

「あの小娘共のことか…!ラブライブとかいったか?あんなちっぽけなもののために必死になるとは本当に滑稽だぜ」

 

これはジンガが心から思っていることでもあるのだが、奏夜を煽るために放った言葉であった。

 

真剣にスクールアイドルを頑張っている穂乃果たちのことを貶すことで奏夜は激昂する。

 

そう予想してのことだったのだが……!

 

「悪いが、お前の挑発には乗らない!!」

 

奏夜は陽光剣を力強く振り抜いてジンガの攻撃を弾き飛ばすと、すかさずに陽光剣による一撃を放つ。

 

「っ!なめるな!!」

 

ジンガは咄嗟に回避行動をとったからか、直撃は免れ、わずかに掠ってしまう程度であった。

 

その後すぐに衝撃波を放ち、奏夜を吹き飛ばす。

 

「お前らの目指す夢などくだらんものだ。そんなもの、俺やニーズヘッグの怒りで破壊してやるよ!」

 

ジンガは力強くこう宣言すると、精神を集中させることにより、背中に羽根を生やす。

 

ホラーになったことにより、飛行能力を有するようになったからである。

 

ジンガは飛翔するのだが、この場所自体が吹き抜けのようになっているからか飛行による移動をしても問題のない広さとなっている。

 

その地形を利用し、ジンガは急降下。奏夜に向かって剣を振るう。

 

奏夜はその攻撃を避けられず、その一撃を受けたことでわずかに怯み、鎧で顔は隠れているが、その表情は歪んでいた。

 

『奏夜!奴は空を飛べる!このままだとまずいぞ!!』

 

「そうだよな…。だからこそ…!」

 

奏夜には何か秘策があるのか、精神を集中させる。

 

「ふん、させるかよ!」

 

奏夜の企みを阻止するためにジンガが再び奏夜に接近するが、それよりも早く奏夜の体は光に包まれた。

 

「ぐっ…!」

 

その光に怯んだジンガは後退して距離をとる。

 

光が収まると、輝狼の鎧は金色だけではなく、黒の割合が多くなり、背中にはマントのような羽根が生えた。

 

そう。奏夜は、かつてジンガの部下である尊師を倒した時に変化した姿でもある 「天月輝狼」に再び変化したのである。

 

尊師の時と異なるのは、剣斗から託された盾を装備しているということだ。

 

鎧召還時も盾はそのままであり、この形態になっても、盾の形態は変わっていなかった。

 

「こいつか、あの尊師を倒したっていうのは…。面白い!!」

 

ジンガはかつて自分の部下を倒したと言われている力を目の当たりにし、それを粉砕しようと気持ちが昂っていた。

 

天月の力によって飛行能力を得た奏夜は、空中にてジンガとぶつかるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

上空で奏夜とジンガが激しい戦いを繰り広げる中、ジンガの衝撃波によって気を失っていたララが目を覚ましたのである。

 

「…ん…!」

 

目を覚ましてすぐに、激しく剣と剣がぶつかる音が聞こえてきたため、ララは上を見ると、鎧を着た奏夜とジンガが交戦していたのだ。

 

「そっか…。私、ジンガの攻撃で今まで…」

 

ララは、先ほどまで気を失っていたことに気付くのだが、それと同時に、自分の無力さを思い知る。

 

「ニーズヘッグの復活は私が阻止しないといけないのに、私は何も出来ない…!このままニーズヘッグが蘇るのを見てなきゃいけないの…?」

 

ニーズヘッグ復活の儀式は佳境に入っているからか、祭壇は強大な邪気にて守られており、並の攻撃では儀式の阻止は不可能だった。

 

接近して攻撃を試みるという選択肢もあるが、強大な邪気に包まれた結果、自身に何かが起こる可能性もある。

 

そのため、何もすることは出来ず、ララは立ち尽くすことしか出来なかったのだ。

 

その時である。

 

「ララ!無事か!!」

 

アミリを討滅した統夜が現れ、ララと合流する。

 

「あっ、統夜…。ということはアミリは?」

 

「ああ、この手で倒した」

 

「そっか……」

 

統夜の口からアミリが倒されたことを知るが、現状は予断を許さないのは変わらないため、安堵はしていなかった。

 

『統夜!こいつはまずいことになったぞ!』

 

「?どうしたんだ、イルバ?」

 

『俺たちはひと足遅かったようだ。ここまで儀式が進んじまったら、もう止める方法はないぜ!』

 

「俺たちは間に合わなかったのか…!」

 

ニーズヘッグ復活はほぼ確定だと知り、統夜は悔しさを滲ませる。

 

「…そして、奏夜はジンガと戦ってるか」

 

『どうやら、そろそろ決着がつきそうだな』

 

「そうらしい。その時は俺がすぐにフォローに入る」

 

統夜はいつでも奏夜の援護に入れるように準備を行っていた。

 

(それにしても、お前は自分の弱さという闇を受け入れることであの力を得たんだな。今の奏夜なら、きっと使いこなせるさ)

 

統夜もまた、様々な強敵を相手にした時に自分の鎧が様々な状態に変化したことがあった。

 

奏夜の天月の力もその一環だとわかっており、奏夜ならば力に飲まれることはないと確信していたのだ。

 

 

 

 

 

 

統夜がララと合流した頃、イルバの宣言通り、2人の戦いは決着がつこうとしていた。

 

「まさか、お前がここまでやるとは、楽しいねえ!如月奏夜!!」

 

「悪いが、俺はお前と違って戦いを楽しんでる訳じゃない」

 

奏夜はジンガの言葉に流されることもなく、毅然と言葉を返す。

 

「どうだかな。魔戒騎士は人間を守るために戦うみたいだが、そんなものは建前で、ただ純粋に戦いを楽しんでるだけだろう?」

 

「そんな魔戒騎士も確かにいるかもしれない。だが、俺は大切なものを守るために戦ってるんだ。誰かにとってはちっぽけなものなのかもしれない。それでも!俺はそれを守るために戦っているんだ!守りし者として!」

 

奏夜はジンガの言葉を否定するだけではなく、自分の本音を毅然とジンガに言い放つ。

 

「そんな綺麗事を!!」

 

魔戒騎士としての奏夜の言葉をジンガは全力で否定したいと思っているのか、怒りに満ちた表情で剣を振るう。

 

だが、そんなジンガの攻撃を奏夜は軽々と受け止める。

 

「何だと…?」

 

「少し前の俺だったら、きっとここまでのことは言えなかったし、お前の口車に乗ってただろうな。だが、俺は負けるわけにはいかないんだよ!多くの人を守るだけじゃない。穂乃果たちの大きな夢を守るために、ニーズヘッグは復活させる訳にはいかないんだからな!」

 

奏夜は度重なる強敵との敗北や、大切な盟友との死別を乗り越えてきたことで、魔戒騎士として大きな成長を遂げた。

 

ジンガの言葉に揺さぶられず、毅然とした態度をとれるのはその証拠でもあるだろう。

 

奏夜はジンガの攻撃を弾き飛ばすと、陽光剣でジンガを切り裂き、蹴りによる一撃でジンガを吹き飛ばした。

 

「ジンガ!これで終わりだ!!」

 

すかさず奏夜はジンガにトドメを刺すために、全身に橙色の魔導火を纏い、烈火炎装の状態となった。

 

「貴様ごときに負ける俺ではないわ!!」

 

ジンガは体勢を整えると、剣の切っ先に漆黒の炎を包ませていた。

 

ホラーになったことにより魔戒騎士の力は失われてはいるものの、それに近い力は残っていたため、ジンガは烈火炎装ではないが、剣に炎を纏わせることくらいは出来たのであった。

 

奏夜は素早い動きで陽光剣を一閃し、ジンガはそれを受け止める。

 

黒い炎と橙の炎は激しくぶつかり合い、2つの力は拮抗していた。

 

「ぐっ……!」

 

ジンガはホラーとしてはかなりの力を持っており、この一撃にはそれが込められていた。

 

そのため、奏夜はそんなジンガに押されそうになっていたものの、どうにか自身の全力にてそれを受け止めている。

 

「…!?奏夜とジンガの力は、互角!?」

 

上空にて、2人の攻撃が拮抗しているのを眺めていたララは驚きの表情を見せていた。

 

しかし、統夜は……。

 

「……いや、もう決着はつくさ。奏夜の勝利でな」

 

驚く素振りは一切見せず、奏夜が勝つことを統夜は確信する。

 

そんな2人が見守る中、奏夜とジンガの鍔迫り合いは今も続いていた。

 

「ぐぅぅ……!!」

 

「どうした!その程度か!?如月奏夜ぁ!!」

 

ジンガは渾身の力を込め、奏夜にトドメを刺そうとする。

 

しかし、そんなジンガに押されながらも、奏夜も負けてはいない。

 

「俺は…!絶対にお前を倒す!!穂乃果たちのためだけじゃない!!俺のために命をかけてくれた人たちのためにも!!」

 

奏夜は先輩騎士のテツや盟友の剣斗と、自分のために命をかけてくれた人がいたからこそこの場に立っている。

 

そのことを負い目に感じたりもしていたが、そのことこそが奏夜にとって大きな力をくれたのであった。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

奏夜はまるで獣のような咆哮をあげると、ジンガの攻撃を抑えるのに精一杯だった状況をひっくり返し、逆にジンガに迫る。

 

「ばっ、馬鹿な!!こいつ、ここまでの力を!?」

 

自分が奏夜に競り負けることが予想外だったのか、ジンガは驚きを隠せずにいた。

 

その驚きが大きな隙を作ってしまったのか、奏夜は陽光剣をそのまま振り下ろし、ジンガの体を切り裂く。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

奏夜によって切り裂かれたジンガが断末魔をあげると、そのままニーズヘッグ復活のための祭壇の近くへと墜落した。

 

奏夜はその近くへ着地すると、鎧を解除する。

 

「…奏夜!」

 

戦いの決着を見届けたララと統夜が奏夜に駆け寄る。

 

「やったな、奏夜。ついにジンガのやつに一矢報いることが出来たじゃないか」

 

奏夜にとっては自分が敵わなかった相手と戦っての勝利だったため、統夜はそこを祝福する。

 

「ええ、そうですね…。そして、統夜さん。あいつは…」

 

「ああ、もちろんだ。お前の気持ちも受け取ってたんだ。何があろうと負けるわけにはいかんからな」

 

奏夜は、統夜が今ここにいる意味を察しており、統夜は簡単にアミリを倒したことを報告した。

 

『お前たち、ゆっくり話をしてる場合じゃなさそうだぞ』

 

『ああ!まだ終わりじゃないぜ!!』

 

キルバとイルバがそれぞれの相棒に警戒するよう促すと、ジンガが墜落したことによって発生していた煙が晴れてきた。

 

そこから姿を見せたのは、未だに無傷の祭壇と、奏夜の一撃を受けてボロボロになった、人間態のジンガだった。

 

「こいつ…!まだ生きていたか!!」

 

奏夜としては、ジンガを斬った時に手応えは感じていたため、ボロボロでありながらもジンガが生きていたことに驚きを隠せなかった。

 

「俺は、そう簡単には死なんさ…!俺の怒りは、そんな簡単に消えるものじゃないからな……!!」

 

ボロボロのジンガをここまで突き動かしていたのは、家族を奪われたことにより、この世界に対して向けられた止めどのない怒りである。

 

「まさか、俺がお前如きに遅れを取ることだけは予想外だったがな…!それでも、まだ俺の想定内だぜ…!」

 

「なんだと…!?」

 

ジンガの放った言葉がただの強がりに見えなかったからか、統夜は鋭い目付きでジンガを睨み付ける。

 

「俺が復活させようとしているニーズヘッグを突き動かしているのは怒りなんだよ…。俺もこの世界に対して怒りを抱いている。俺自身がニーズヘッグ復活の核となることで、ニーズヘッグは完全に復活するんだよ…!!」

 

なんと、ジンガは自らの身体を差し出すことによって、ニーズヘッグを完全に復活させようとしていたのだ。

 

『そうか…!確かに、ニーズヘッグの核となるのは、怒りの陰我が満ちたゲート。奴がそのゲートとなることで、完全な形でニーズヘッグを蘇らせるつもりなんだ!』

 

イルバが、ニーズヘッグ完全復活のための仕組みを説明したことで、奏夜たちは驚きを隠せずにいた。

 

「なるほどな、怒りの権化とも言われているほどのホラーだ。怒りの感情がゲートになるというのは合点がいくぞ」

 

「そうですね…」

 

統夜と奏夜は、驚きながらも、ニーズヘッグ復活の仕組みを冷静に解釈する。

 

「そして今!!全ての準備が整った!!俺がこいつと一体化し、ニーズヘッグは復活するのだ!」

 

どうやら、祭壇には完全に力が蓄えられてしまったようであり、今まさにジンガはニーズヘッグを蘇らせようとしていた。

 

「っ!?させるかよ!!」

 

統夜はジンガを祭壇へ近付けないように接近するのだが、ジンガは祭壇のすぐ近くにいたため、間に合わなかった。

 

ジンガが力の蓄えられた祭壇に触れると、そこに奉られていた2つの魔竜の眼と魔竜の牙がジンガの体内へと吸い込まれる。

 

すると、ジンガの体を包み込むかのように魔法陣が現れると、ジンガはその魔法陣の中に吸い込まれていった。

 

『奏夜!その魔法陣は真魔界へ繋がっている!その中へ入り、ニーズヘッグを止めるぞ!!』

 

『統夜!もうニーズヘッグは復活したも同然だ!キルバの言う通り、中に入って直接奴を叩くしかないぜ!』

 

ニーズヘッグが完全に復活しようとしている今、直接ニーズヘッグを討滅するしか方法がないため、キルバとイルバはこのようにそれぞれの相棒へ伝える。

 

「この魔法陣は真魔界へ繋がってるっていうなら、私がこいつを抑えるわ!だから、2人はニーズヘッグを!!」

 

「ありがたい!頼んだぞ、ララ!」

 

「任せといて!これが私の今やるべきことなのだから!」

 

「ララ!こいつを片付けて音ノ木坂に戻ろう!穂乃果たちのこれからを見守るために!」

 

「当然!だからこそ、必ず生きて帰るのよ、奏夜!!」

 

こうして、ララが真魔界へ繋がる魔法陣が閉じないよう努め、その隙に奏夜と統夜が真魔界へ乗り込むことになった。

 

「奏夜行くぞ!ニーズヘッグを倒すんだ!」

 

「はい!統夜さん!!」

 

統夜と奏夜は同時に魔法陣の中へ入り、その身体は吸い込まれる形で真魔界へと入っていった。

 

「さあ!頼んだわよ、2人とも!私はこの命を賭けてもあなたたちの退路を守ってみせるわ!それこそ、魔竜の眼を渡して封印を解いてしまった私の贖罪だもの!!」

 

ララはララで覚悟を決めており、魔法陣を閉じさせないように法術にてこの魔法陣を強制的に開いたままの状態にする。

 

これから徐々に魔法陣は閉じようとするため、その時にララにかかる負担はかなりのものになるだろう。

 

しかし、ここの魔法陣が閉じられてしまえば、統夜と奏夜は真魔界から出られなくなってしまう。

 

ララは、自分が魔竜の眼の封印を解いたことも気にすることなく、自分を信じてくれた奏夜や統夜のために力を使う。

 

それがララ自身を奮い立たせていたのだ。

 

奏夜と統夜が魔法陣の中に入り、真魔界へ突入してすぐのことであった。

 

力を蓄えた2つの魔竜の眼と魔竜の牙をその身に宿したジンガであったのだが、ジンガの身体から禍々しいほどの邪気が放たれると、ジンガはその邪気に包まれていった。

 

そして、その邪気は大きな身体へと姿を変えており、漆黒の竜へとその姿を変えていた。

 

この竜こそが、怒りの権化とも言われている邪竜ホラー、ニーズヘッグの真の姿であったのだ。

 

『感じる…感じるぞ……!我の眠りを覚ました、このホラーの若造の底の見えない怒りが…!そうだ…!この感じだ……!!』

 

禍々しいほどの邪気を放つ漆黒の邪竜は、自らが取り込んだジンガの怒りの感情を感知し、その怒りに同調していた。

 

ニーズヘッグはかつては今の魔導輪のように人間に力を貸していたホラーの一体であったのだ。

 

しかし、ニーズヘッグをここまでの怒りの権化へと変えたのは、自身が力を貸すと決め、信じた人間の裏切りがあったからだ。

 

ニーズヘッグには、かつて友と呼べる竜のホラーがいたのだが、当時の魔戒騎士や魔戒法師は、卑劣な策略によってそのホラーを消滅させてしまう。

 

信じていたものに裏切られ、大切なものを失う。

 

そのことに絶望したニーズヘッグは憎しみに支配され、怒りの権化と呼ばれるほどの邪気を持つホラーとなってしまったのだ。

 

ジンガの怒りに触れたニーズヘッグは、その時の感情を思い出し、人間に対して更なる憎悪を抱いていた。

 

こうして、ニーズヘッグは真魔界にて復活を果たし、奏夜と統夜は、そんなニーズヘッグを迎え撃とうとしていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

──次回予告──

 

『怒りに満ちた漆黒の邪竜。だが、その怒りを金と銀の輝きで包み込む。次回、「聖光」! その怒りの邪気、切り裂く刃となれ!!』

 




奏夜は魔戒騎士としてかなり成長したことがわかる回となりました。

過去に交戦経験はあるものの、手も足も出なかったジンガ相手に互角の戦いをみせるほどだし。

ジンガの飛翔態と天月輝狼の対決となりましたが、ここは取り入れようと考えていました。

そんな中、ついに復活してしまったニーズヘッグ。

統夜と奏夜の2人が相対することになりますが、怒りの権化とも呼ばれる強大なホラーを2人は倒すことは出来るのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第82話 「聖光」

お待たせしました!第83話になります!

前回、初めてジンガを打ち負かした奏夜でしたが、ニーズヘッグは復活してしまいました。

奏夜と統夜は無事にニーズヘッグを倒すことは出来るのか?

それでは、第82話をどうぞ!




怒りの権化と言われている邪竜ホラー、ニーズヘッグの復活を阻止するため、奏夜はジンガに戦いを挑んだ。

 

奏夜はジンガに何度か戦いを挑むも、全く歯が立たなかった。

 

しかし現在は、魔戒騎士として大きく成長した奏夜は、そんなジンガと互角の戦いを繰り広げる。

 

飛行能力を持つジンガに対して、奏夜はかつて尊師を倒した力である天月輝狼(キロ)の力にてジンガに致命傷ともいえる一撃を与えることに成功する。

 

だが、ジンガは既にニーズヘッグ復活の準備を完全に整えていた。

 

自らの身体を核とし、ニーズヘッグを復活させようとしていたのだ。

 

祭壇から現れた魔法陣から真魔界へ移動したジンガは、強大な邪気に包まれると、その体が変化し、その姿はニーズヘッグへとなったのである。

 

「……これが、真魔界……!!」

 

奏夜は真魔界に入るのは初めてだったため、何もないながらも独特な空気を出している空間に、身が引き締まる思いであった。

 

「ここは、本当に何もないところだな…」

 

統夜はかつて、メシアの腕と呼ばれたグォルブと呼ばれたホラーを討滅した時に真魔界へ初めて足を踏み入れており、その時と変わらない雰囲気を感じとる。

 

『統夜!とんでもない邪気か迫ってくるぜ!』

 

「そうらしいな。ホラーを探知出来ない俺ですら、それを感じるぜ…」

 

ニーズヘッグの邪気はかなりのものだったからか、統夜はそれを肌で感じており、額から冷や汗が滲み出ている。

 

それはどうやら奏夜も同様であり……。

 

「この感じ……。今まで戦ってきたホラーたちとはまるで違うぞ……!」

 

『そういうことだ。奏夜、油断するなよ!!』

 

キルバが、強大な邪気に戦慄している奏夜を奮い立たせる言葉を放ったのと同時に、ニーズヘッグがその姿を現す。

 

その身体は、かつて戦ったニーズヘッグの眷属であったダークスケイルよりも遥かに大きく、鋭い牙と、両方の眼からは、禍々しい邪気を放っていた。

 

『ふん…!目障りな気を感じると思って来てみれば…。魔戒騎士か……』

 

「お前がニーズヘッグってわけか…!」

 

『いかにも!!我は、依代となったホラーの若造の怒りに触れて甦った!今度こそ、我が怒りの炎で人間どもの住処を焼き払うために』

 

『どうやら、情報通りのホラーのようだな。怒りに心が支配されているぜ!』

 

統夜と共にニーズヘッグのことを調べていたイルバは、ニーズヘッグの放つ怒りの感情に、収集した情報が間違っていないことを確認する。

 

「ニーズヘッグ!!あんたは人間に裏切られて大切な仲間を失ったんだろ!?あんたの怒りはよくわかる!だが、お前が憎む人間ってのは、そんな奴らばかりじゃないんだ!お前はかつて、キルバやイルバみたいに、人間に力を貸していたこともあるんだろう!?だったら、俺たちがこうして戦う必要はないはずだ!」

 

奏夜はアキトから得た情報にて、ニーズヘッグがどうして怒りの権化と呼ばれる程の怒りを抱えているのかを知った。

 

だからこそ、そこを汲み取り、歩み寄ろうとするのだが…。

 

『奏夜、無駄だ!奴にそんな陳腐な言葉は通用しないぞ!』

 

『そこの魔導輪の言う通りだ…!知ったような口を聞きおって……!』

 

奏夜の歩み寄ろうとする気持ちが、かえってニーズヘッグの怒りに触れてしまったようであり、それを表現するかのように2人に向かって怒りの咆哮を放つ。

 

「ぐっ…!これがニーズヘッグの咆哮か……!」

 

「さすがってところだな…!まさか、ここまで怯まされるとは……!」

 

ニーズヘッグの咆哮はかなりのものであり、奏夜と統夜はそれを肌で感じつつも、怯んでしまう。

 

「だが、こんなところで負けちゃいられない。そうだろ?奏夜!!」

 

「はい、統夜さん!!俺たちでこいつを倒しましょう!」

 

それでも、負けじとニーズヘッグを睨み付け、2人は魔戒剣を構える。

 

『我を倒すだと…?脆弱な魔戒騎士如きが図に乗るな!』

 

奏夜と統夜は自分を倒すつもりだという言葉が気にいらず、ニーズヘッグはそれをぶつけるかのように口から炎を放つ。

 

2人は左右に散らばり、難なくそれを回避するのだが…。

 

「今のは小手調べってところだろうが、なかなかな威力だな…!」

 

「ええ…!ですが、ここで負けてはいられません!」

 

「ああ!その意気だぜ!奏夜!!」

 

ニーズヘッグからの先制攻撃をかわし、2人は反撃に転じようとしていた。

 

『奏夜!真魔界では鎧の制限時間はない。思い切りいくぞ!』

 

「そうみたいだな、わかった!!」

 

魔戒騎士の鎧は魔界から召還される。

 

地上でその鎧を使う時には99.9秒というタイムリミットがあるのだが、真魔界で鎧を召還する時は、その制限時間はなく、99.9秒を過ぎても心滅獣身の状態になることはない。

 

その話は統夜から聞いていたのか、奏夜はすぐにキルバの言葉を受け入れていた。

 

奏夜と統夜は同時に魔戒剣を上空へ突き上げ、円を描く。

 

その部分のみ空間が変化し、2人はそこから放たれる光に包まれる。

 

すると、その空間から黄金の鎧と白銀の鎧が現れ、その鎧は奏夜と統夜の身体に装着されていく。

 

奏夜は、牙狼とは異なる黄金の輝きを放つ陽光騎士輝狼(キロ)の鎧を身にまとう。

 

そして、統夜は白銀の輝きを放つ、白銀騎士奏狼(ソロ)の鎧を身にまとった。

 

「全力で行くぜ!…来い、白皇!!」

 

「行くぞ!光覇!!」

 

統夜と奏夜は、それぞれの魔導馬の名前を呼ぶと、その場に自分の魔導馬を召還した。

 

奏夜の跨る魔導馬は光覇。輝狼の鎧と同じく、黄金の輝きを放つ魔導馬である。

 

そして、統夜の跨る魔導馬は白皇(びゃくおう)。白銀の輝きを放つ魔導馬だ。

 

2人は魔導馬に乗った状態で、ニーズヘッグへと向かっていった。

 

『魔導馬を呼んだところで無駄だ!我が力を思い知るがいい!!』

 

ニーズヘッグは迫り来る奏夜と統夜に対して尻尾による攻撃を放つが、2人はそれを難なく回避する。

 

しかし、これはニーズヘッグの想定内だった。

 

『!?統夜!来るぞ!!』

 

『奏夜も、油断するな!!』

 

すかさずニーズヘッグからの攻撃が来ると感じたイルバとキルバは、それぞれの相棒に警戒するように促す。

 

ニーズヘッグの両方の翼が紅蓮の炎を纏ったのである。

 

「!?あれって、まさか烈火炎装なのか!?」

 

「いや、違うみたいだが、気を付けろよ、奏夜!」

 

体の部分に炎を纏わせるところが烈火炎装とにていたが、ニーズヘッグは魔導火を使う訳ではないため、烈火炎装は使えない。

 

自身の炎を翼に纏わせ、攻撃に転用しているのだ。

 

ニーズヘッグは炎の翼を2人に向かって放つ。

 

「「っ!!」」

 

2人は、それぞれの魔導馬の力により、陽光剣を陽光斬邪剣に。皇輝剣を皇輝斬魔剣へと変化させた。

 

それぞれの剣を構え、巨大な刃を盾のように扱うことで、どうにかニーズヘッグの攻撃を凌ぐのであった。

 

「さぁ、反撃行くぜ!」

 

「はい!!」

 

ニーズヘッグの攻撃を防いだ統夜と奏夜は、そのままニーズヘッグに接近し、それぞれの剣を振るう。

 

ニーズヘッグはその攻撃を受けてしまうが、ダメージはほとんどなかった。

 

『おのれ…。調子に乗るな!』

 

ニーズヘッグは2人の攻撃を許してしまったことに激昂し、今度は尻尾に炎を纏わせ、間髪入れずに放つ。

 

「ぐぁっ!」

 

「ぐっ…!」

 

炎の尻尾によって奏夜と統夜はなぎ払われ、その衝撃で白皇と光覇の召還は解除されてしまった。

 

それぞれの魔導馬がいなくなったことにより、2人の剣は陽光剣と皇輝剣に戻ってしまう。

 

「さすがはニーズヘッグ…!一筋縄じゃ行かないか…!」

 

「ですね…!だが、まだ負けた訳じゃない!!」

 

「ああ!もちろんだぜ!!」

 

先ほどの一撃によって魔導馬の召還が解除されながらも、統夜と奏夜は動じることはなく、体勢を整える。

 

『愚かな魔戒騎士共め……!』

 

ニーズヘッグは、諦めずに自分に向かおうとしている奏夜と統夜を忌々しげに睨み付けていた。

 

「統夜さん!俺が奴を引き付けます!その隙に魔導馬を呼んで、一気に決めてください!」

 

「わかった!お前を信じるぜ!奏夜!」

 

奏夜はニーズヘッグの注意を引き、その隙に統夜が強力な一撃をニーズヘッグに叩き込んで撃破しようと作戦を立てる。

 

『愚かな。そのような策を弄したところで!!』

 

ニーズヘッグは何か策があるのか、あえて奏夜の思惑に乗り、奏夜へと視線を向ける。

 

『統夜!今だ!』

 

「ああ!来い!白お……」

 

統夜はすかさず白皇を召還しようとするのだが……。

 

『させんわ!!』

 

ニーズヘッグは精神を集中させると、統夜が魔導馬を召還するよりも早くに漆黒の玉を統夜に纏わせた。

 

「っ…!こいつは…!動けねぇ!!」

 

どうやら、先ほど放った技は、対象者の動きを拘束する技のようだった。

 

「統夜さん!」

 

奏夜は自分の作戦を中断し、統夜の救出を行おうとするが……。

 

『そのまま行かせると思うか!?』

 

ニーズヘッグは奏夜に接近すると、爪による一撃を放つ。

 

「くっ!!」

 

奏夜はどうにかニーズヘッグの攻撃を防ぐものの、相手は狙いを定めているため、どうにか攻撃をかいくぐって統夜を救出させようとするのを妨害される。

 

『統夜!どうにかそこから脱出しないとまずいぞ!!』

 

「そうみたいだな…。俺は、こんなところで死ぬわけにはいかないからな…!!」

 

統夜は身動きが取れない状態ながらも、どうにか自身を包む黒い玉を破壊しようと試みる。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

統夜はまるで獣のような咆哮をあげると、身動きが取れない状態ながらも烈火炎装の状態となり、黒い玉を破壊することで、脱出した。

 

「!統夜さん!」

 

『あれを自力で抜けるか!面白い!!』

 

ニーズヘッグは再び尻尾に炎を纏わせると、近くにいた奏夜をなぎ払う。

 

「ぐぁっ!」

 

奏夜は吹き飛ばされながらも体勢を整えるのと、ニーズヘッグが烈火炎装の状態の統夜へ向かっていくのは同じタイミングであった。

 

そして、統夜もまた、ニーズヘッグへと向かっており…。

 

「こいつで!!」

 

統夜は魔導火を纏った皇輝剣でニーズヘッグを切り裂こうとするが……。

 

『そんなもので!』

 

ニーズヘッグはすかさず自身の翼に炎を纏わせると、その翼を統夜に向かって放つ。

 

「っ!!」

 

統夜は皇輝剣を振るうことでどうにかニーズヘッグの攻撃を防ぐのだが、ニーズヘッグの力はかなりのものだからか、そのまま弾き飛ばされてしまう。

 

「ぐぁぁぁ!!」

 

統夜は先ほどの一撃でダメージを受けるものの、鎧の召還は解除される程ではなく、どうにか体勢を整える。

 

『ほう。貴様はどうやら愚かな魔戒騎士の中でも骨がありそうだな』

 

「へっ、そりゃどうも」

 

統夜はニーズヘッグの称賛を真に受けることはなく、おどけながら聞き流していた。

 

「このぉ!!」

 

奏夜は統夜にダメージを与えたニーズヘッグに反撃するために陽光剣を振るう。

 

それにより、ニーズヘッグの体は少しだけ切り裂かれ、若干ながらもダメージを与えることに成功する。

 

『貴様……!調子に乗るな!!』

 

奏夜の一撃に激昂したニーズヘッグは、反撃と言わんばかりに炎を纏った翼による攻撃を奏夜に放つ。

 

「ぐっ!」

 

奏夜はそれをモロに受けてしまうが、どうにか体勢を整え、鎧の召還は解除されることはなかった。

 

『まずは貴様に思い知らせやろう。我の怒りがどれほどのものかをな…!』

 

どうやら、ニーズヘッグは奏夜に何かを仕掛けようとしていた。

 

『!?この邪気……奏夜!!こいつはまずいぞ!!』

 

『ああ!とんでもない攻撃が飛んでくるぜ!統夜、小僧のフォローをするんだ!』

 

「わかってる!」

 

統夜は奏夜の救援のために動き出そうとするのだが……。

 

『させん!』

 

ニーズヘッグは咆哮を放つと、どこからか素体ホラーが3体ほど現れ、統夜へ向かっていった。

 

「ちっ…!足止めするつもりか!」

 

統夜は素体ホラーに行く手を阻まれ、そのホラーを相手にせざるを得ない状況になっていた。

 

そんな中、ニーズヘッグは精神を集中させると、自身の口から巨大な炎が集まってきていた。

 

「その攻撃が来る前に!!」

 

統夜が素体ホラーと相手をしている今、ニーズヘッグの攻撃を止められるのは自分だけのため、奏夜はニーズヘッグへ接近し、攻撃を止めようと試みる。

 

しかし、ジンガの怒りに触れたニーズヘッグが怒りの炎の力を貯めるのは早く……。

 

『これが我が怒りの炎だ!!』

 

ニーズヘッグは口から巨大な炎を吐き出し、その炎は奏夜に向けて放たれる。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「奏夜!」

 

奏夜は為す術もなく炎に飲み込まれてしまい、素体ホラーを相手取る統夜は声をあげる。

 

「こいつら…。邪魔だ!!」

 

統夜は皇輝剣を振るうことで3体の素体ホラーを消滅させるが、奏夜の体はニーズヘッグの炎にて焼き払われそうになっていた。

 

(これが……。ニーズヘッグの怒りの力……。こいつがこれ程の怒りを抱えているなんて……)

 

奏夜は咄嗟に剣斗から託された盾で攻撃を防ごうとしていたからか、その身は炎に包まれながらも致命傷はどうにか免れていた。

 

(今なら、わかる気がするよ。あいつの怒りってやつが……)

 

奏夜は、ニーズヘッグの全力の攻撃を受けたことにより、ニーズヘッグの怒りの感情に改めて触れる。

 

(だからこそ、これだけの怒りを持つあいつに、勝てる訳がないよ……。穂乃果……みんな、ごめんな……。俺は……)

 

奏夜は圧倒的な力を持つニーズヘッグの力に屈しようとしており、その身体が完全に炎で燃え尽きようとしていた。

 

その時である。

 

奏夜が託された剣斗の盾が輝きだしたのである。

 

そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

«奏夜……。奏夜……!»

 

 

 

 

 

(あれ…?俺は、確か、ニーズヘッグの炎に包まれて……)

 

自分は今まさにニーズヘッグの炎を受けていたハズだったのだが、今自分がいたのは真魔界ではなく、何もない無の空間であった。

 

(それにこの声…どこかで……)

 

奏夜は自分に対して呼びかけている声に聞き覚えがあった。

 

その時だった。

 

«…奏夜…»

 

「…!?け、けん…と…?」

 

奏夜の目の前に現れたのは、なんと、自らを庇って命を落としたはずの剣斗であったのだ。

 

«ふふっ、奏夜…。今のお前はイイとは言えないぞ?どんな奴が相手でも決して諦めない。それがお前のイイところじゃなかったのか?»

 

目の前にいるのが幻なのか、霊なのかはわからないが、奏夜の目の前にいる剣斗は穏やかな笑みで微笑みながら奏夜に語りかける。

 

「だけど!!俺は奴の怒りの感情に触れた!あいつは同じなんだよ。剣斗だけじゃない。テツさんだってそうだ。俺は、誰かの犠牲で生き延びただけなんだよ!そんな無力さを感じている俺は、ニーズヘッグと……」

 

ニーズヘッグはかつて、人間の裏切りによった友を失い、奏夜は自身の無力さで仲間を犠牲にした。

 

背景は違うが、奏夜は自分がニーズヘッグと似ていると確信を持っていたのである。

 

「俺は確かに強くなったのかもしれない…。でも!それでも剣斗を救うことは出来なかったんだ!!」

 

奏夜は、自分が魔戒騎士として成長していることは認識しつつも、完全に強くなれた訳ではなく、今も剣斗やテツの死が尾を引いている。

 

奏夜の慟哭は、そんな心情が読み取れるものであった。

 

«そうか…。私の死が、お前をそこまで追い込んでいたのだな……»

 

剣斗は、自分の死後に奏夜がどんな気持ちだったのかを知ることになる。

 

しかし……。

 

«奏夜。お前は今こそ、私の死を乗り越えて前へ進まなければならない。お前が前を向いていないと、穂乃果たちをしっかりと導くことなど出来ないだろう?»

 

「!?剣斗……」

 

«大丈夫だ。お前は1人ではない。お前には仲間がいる。そして、私はいつでもお前を見守っているさ»

 

剣斗は再び穏やかな表情で微笑むと、奏夜の不安を取り除こうとしていた。

 

«それに、そう思っているのは私だけではないぞ?»

 

剣斗がこう言ってすぐ、とある人物が奏夜の目の前に現れた。

 

その人物とは……。

 

«……奏夜、しばらくみないうちにデカくなったじゃねぇか。人間としてだけじゃない。魔戒騎士としてもな…!»

 

「!?て、テツさん…!?」

 

奏夜の目の前に現れたのは、奏夜が魔戒騎士になったばかりの頃、奏夜にとある事を託したことで命を落とした、奏夜の先輩騎士だったテツであった。

 

«お前は魔戒騎士として立派になったじゃねぇか。あの時、お前を生き残らせるために動いたことは間違いじゃなかったってことだよ»

 

「…!」

 

奏夜はテツからの思いがけない言葉に驚きを隠せなかった。

 

«奏夜…。お前は魔戒騎士として、これからも目の前の誰かを救えないこともあるだろうし、仲間の命で救われることもあるだろう。だが、そこで足を止めてはいけない。救えなかった命を受け取り、守りし者としてのその思いを繋いでいくためにもな!»

 

「!そうか……そういうことなのか……」

 

続いて放たれた剣斗からの言葉を受けて、奏夜は何かを感じ取ったようである。

 

「テツさん…剣斗…。俺はあなたたちを救えなかったどころか、その犠牲で今まで生き残ってきた……。そのことをずっと負い目に感じていたけど、違うんだな…?」

 

奏夜の言葉に、テツと剣斗は穏やかな表情で微笑みながら頷く。

 

「2人の思いを受け取った俺は、2人から思いという力をもらったんだ」

 

奏夜は右手を力強く握りしめると、それを自分の胸に置いた。

 

「これから先もまた、俺は誰かの犠牲で生き延びるかもしれない。それか、俺が誰かのために犠牲になる可能性だって…!だけど……!!」

 

何かを決意した奏夜は先ほどとは目付きが変わっており、どこかへと向かって歩き出す。

 

そんな奏夜をテツと剣斗は見守りながら、消滅していったのだ。

 

「俺は、これからも戦っていく!犠牲になった仲間たちが守れなかった分、多くの人間たちを……!そして、守りし者としてのこの思いを、これからも繋いでいくんだ!」

 

奏夜の決意は、これから魔戒騎士として、守りし者としてどうあるべきかを示すものである。

 

今や英霊となったテツと剣斗が、奏夜にそのことを教えてくれたのであったのだ。

 

「ニーズヘッグの怒りは確かに理解出来る。だけど、これ以上の怒りを……憎しみを……増やす訳にはいかないんだ!!」

 

ニーズヘッグが人界へ現れ、その炎で多くの人間を焼き払ってしまえば、大切なものを失った人たちの怒りや憎しみの感情から、陰我が広がっていくだろう。

 

奏夜はそうさせないためにもニーズヘッグを倒す。

 

こう決意を固めていた。

 

「だからこそ、俺はこんなところで負ける訳にはいかないんだ!!」

 

奏夜がこう宣言したその時である。

 

消滅したハズの剣斗とテツが光の玉となり、奏夜の体の中へ入っていったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が名は……。

 

 

 

 

 

 

我が名は輝狼……!

 

 

 

 

 

 

 

 

……陽光騎士だ!!!」

 

 

 

 

 

自分が何者なのか。

 

奏夜がこう宣言した瞬間、奏夜のいたこの無の空間は消滅したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くっ、奏夜……!!」

 

その頃、奏夜がニーズヘッグの炎にて焼き尽くされてしまったと思っている統夜は、そんな状況に絶望していた。

 

「あいつらに…穂乃果たちに、なんて言えばいいんだよ……!!」

 

魔戒騎士として戦う以上、いつ命を落としてもおかしくはない。

 

目の前に対峙するニーズヘッグのような強大なホラーであれば尚更だ。

 

そこは理解しているものの、統夜は後輩騎士を失ったことに絶望している。

 

ニーズヘッグの吐いた炎が収まろうしていたその時である。

 

奏夜がいた場所から大きな光が放たれたのだ。

 

 

『!!?なんだ…!?この光は……!!』

 

ニーズヘッグは、まさかの展開に、驚きが隠せずにいる。

 

「この感じ……まさか……!」

 

『ああ!あの小僧は死んじゃいないみたいだぜ!!』

 

「奏夜…!」

 

奏夜が生きているとわかり、絶望していた統夜は安堵する。

 

放たれた光が収まると、そこにいたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

輝狼の鎧を纏う奏夜であったのだが、その鎧の状態は大きく変わっていた。

 

鎧は金と白の鎧に変わっており、金よりも白の割合が多くなっている。

 

それだけではなく、その背中には純白の羽根が生えており、奏夜はその翼で飛翔していた。

 

この姿は、「聖光剣身(せいこうけんしん)輝狼」。

 

奏夜が、剣斗やテツの守りし者としての思いを受け取り、それに鎧が応えたことによってその形状を変化させた奇跡の形態なのである。

 

『…!?馬鹿な……!鎧が変化しただと……!?』

 

先ほどまで対峙していた鎧とは大きく異なる姿に、ニーズヘッグは驚きを隠せなかった。

 

「…こいつは…。そういうことか!」

 

統夜もまた、様々な強敵との戦いで何度か鎧の形状が変化したことがあり、それが奏夜にも当てはまっているとすぐに理解する。

 

そして……。

 

「行け、奏夜!!お前のその力なら、あいつを倒せる!!」

 

統夜はこのように力強い言葉を送る。

 

統夜はかつてメシアの腕と呼ばれるグォルブと戦った時、梓たちの音楽が聞こえたのだが、その時、統夜の思いに鎧が応え、翔翼騎士奏狼へと形状が変化した。

 

その時、共に戦った黄金騎士牙狼である冴島鋼牙より送られた言葉と同じ言葉だったのだ。

 

「はい!俺がこいつを倒してみせます!」

 

そんな統夜の言葉に奏夜は頷き、ニーズヘッグを睨み付ける。

 

『おのれ……!なめるな!!』

 

ニーズヘッグは鎧の形が変わった奏夜に驚きながらも、今度こそ奏夜を仕留めるために、飛翔して奏夜へと向かっていった。

 

奏夜もまた、それを迎撃せんと向かっていく。

 

『我が怒りの炎…思い知れ!!』

 

ニーズヘッグは再び奏夜に向けて炎を吐き出すのだが、奏夜は盾に念を込めると、盾はニーズヘッグに向かっていった。

 

その盾から光が放たれると、それは大きな盾となり、ニーズヘッグの炎を難なく防いでいく。

 

『!?なんだと!?』

 

自分の攻撃がここまで簡単に防がれると思っていなかったのか、ニーズヘッグは驚きを隠せない。

 

それどころか、目の前の敵の未知なる力に恐怖すら感じていた。

 

ニーズヘッグの炎を防いだ盾から光が消えると、そのまま奏夜のもとへと戻っていった。

 

『貴様がどんな力を持とうが関係ない!我が名はニーズヘッグ!我は誰よりも雄々しく…誰よりも猛々しい漆黒の翼ぞ!』

 

奏夜に対して抱いている恐怖を払拭するかのようにニーズヘッグは名乗り、咆哮をあげる。

 

『我が怒りの全て…貴様にぶつけようぞ!!』

 

こう宣言すると、ニーズヘッグは再び咆哮をあげ、口から炎を放つ。

 

その炎は奏夜に向けてではなく、自身に向けられており、ニーズヘッグは自らの炎に包まれた。

 

すると、ニーズヘッグの体は先程までの黒い身体から、炎を纏った紅蓮の体へと変化したのだ。

 

「これが、ニーズヘッグの真の姿……」

 

ニーズヘッグのことを調べていた統夜は、ここまでの情報は得ていなかったからか、驚きを隠せずにいた。

 

『あれは恐らく、取り込んだジンガの怒りが合わさってあんな姿になったのだろう。奴の怒りの込められた邪気を感じるぜ!』

 

「なるほどな…」

 

キルバの分析に納得出来たのか、統夜はゆっくりと頷く。

 

「だけど、大丈夫だ。今の奏夜なら……」

 

統夜は紅蓮の炎を纏ったニーズヘッグと、それに対峙する奏夜を見つめながらこう呟いていた。

 

『小賢しい魔戒騎士め……!これならどうだ!』

 

ニーズヘッグは炎を纏った翼を奏夜に向かって放つ。

 

新たな姿となり、先程より遠くの敵を狙えるようになった翼が奏夜に迫る。

 

しかし……!

 

「なんの!!」

 

奏夜は念を込めると、どこからか2本の魔戒剣が現れ、ニーズヘッグの炎の翼の攻撃を防いでいる。

 

「!?あれはもしかして、剣斗の魔戒剣か!?」

 

『それだけではない。もう1つの魔戒剣は、かつてあの小僧を生かすために命を落としたと言ってた魔戒騎士のものだろう』

 

突如現れた2本の魔戒剣に統夜は驚きながらも誰の使ってた魔戒剣はすぐにわかったのだ。

 

『おのれ、まだ何か隠し持っていたか…!』

 

ニーズヘッグは突然現れた2本の魔戒剣に驚くことはないが、怒りを向けている。

 

奏夜はさらに念を込めることで、2本の魔戒剣を遠隔で操り、炎に纏われた翼を切り裂く。

 

その一撃により飛行能力は失われてはいないものの、ニーズヘッグは痛みによって苦悶の咆哮をあげていた。

 

しかし、ニーズヘッグは負けじと炎に纏われた尻尾を奏夜に向けて放った。

 

奏夜は念を込めることで、2本の魔戒剣を操り、ニーズヘッグの尻尾を受けとめる。

 

「…こいつで!!」

 

奏夜は陽光剣を一閃し、2本の魔戒剣を駆使したことによって抑えこんでいた、ニーズヘッグの尻尾を切り裂く。

 

『があぁぁぁぁ!!おのれ……!!』

 

奏夜が聖光剣身の力を得てからは、終始ニーズヘッグを圧倒していた。

 

『我が…貴様のような小僧に遅れをとるなど…有り得ん…!!』

 

「ニーズヘッグ!お前の抱える怒りは理解出来る。だけど!俺は多くの思いを託されている。そう簡単に負けるわけにはいかないんだよ!」

 

奏夜は毅然とした態度でニーズヘッグへ言い放ち、臨戦態勢は崩さずにニーズヘッグを睨みつける。

 

『貴様の思いなど…!!我の怒りの炎にて焼き払ってくれようぞ!!』

 

ニーズヘッグは口から炎を放つのだが、その炎は奏夜へ向けられることはなく、自らの体を炎で包んでいた。

 

現在ニーズヘッグは紅蓮の炎に身を纏っているのだが、さらに自分の炎を纏わせることにより、先ほどまで以上に強大な力を奏夜にぶつけようとしていたのだ。

 

『…!奏夜!!奴はこの一帯ごとお前を焼き払おうとしているぞ!!』

 

キルバはニーズヘッグから放たれる炎を見て、このような警告を入れる。

 

「そうらしいな…。だけど!俺は負けない!!」

 

奏夜は陽光剣を構えると、精神を集中させる。

 

それによって奏夜は2本の魔戒剣を操作するのだが、その魔戒剣が光の玉へと変化し、陽光剣の中に入っていく。

 

すると、陽光剣は陽光斬邪剣へと姿を変える。

 

本来陽光斬邪剣への変化は輝狼の魔導馬である光覇の力によってもたらされるものであるが、奏夜が聖光剣身の力によって操作している2本の魔戒剣の力が合わさったことによって、光覇の力がなくともこの姿へと変化出来たのだ。

 

しかも、この陽光斬邪剣は光覇の力によって変化した時よりも刃が大きくなっていたのだ。

 

奏夜は再び精神を集中させると、陽光斬邪剣の切っ先に橙色の魔導火を纏わせる。

 

そう、強力になった陽光斬邪剣に烈火炎装の力を合わせることによって、さらに強大な力へと変化しているのだ。

 

『…我が真の怒りをここに!!』

 

ニーズヘッグは全身を紅蓮の炎に包んだ状態で、奏夜目掛けて突撃してきた。

 

そのスピードはかなりのものであり、ニーズヘッグが通り過ぎていった場所は炎に包まれていたのである。

 

これこそが、怒りの炎によって人界を灰に変えてしまうと言われているニーズヘッグ本来の力の所以でもあるのだ。

 

「…させるか!!」

 

奏夜は陽光斬邪剣を振るい、突撃してきたニーズヘッグの動きを止める。

 

陽光斬邪剣と炎を纏ったニーズヘッグ。

 

2つの強大な力が拮抗していた。

 

「ぐっ、ぐうぅ……!」

 

奏夜は全身全霊の力でニーズヘッグの突撃を受け止めているのだが、ニーズヘッグの怒りの力は強大なものであり、聖光剣身の力をもってしても、ニーズヘッグに競り負けそうになっていた。

 

『奏夜!気合を入れろ!ここでお前が負けたら、月影統夜共々灰になってしまうぞ!』

 

「わかっ…てるよ!!」

 

奏夜としては、本当に自分の出すべき力は出している。

 

しかし、ニーズヘッグの真の怒りの力はそれを凌駕しようとしていたのだ。

 

『おい、統夜!このままじゃあの小僧だけじゃない。俺たちも危険だぞ!!』

 

「ああ、そうみたいだな…!」

 

奏夜の強力な奇跡の形態であってもニーズヘッグの一撃に押されているのを統夜は感じていた。

 

「…奏夜!負けるなよ!俺の力も受け取れ!!」

 

統夜は自身の魔導火である赤の魔導火を全身に纏い、烈火炎装の状態になった。

 

その魔導火を全て皇輝剣の切っ先に集中させ、それを統夜の力として奏夜に向かって放つ。

 

赤い炎の刃は奏夜へ向かっていくと、奏夜はその赤い炎を受け取り、奏夜の体は橙色だけではなく、赤の魔導火に包まれたのである。

 

「感じるぞ…!統夜さんの力…!!これなら!!」

 

自分が心から尊敬する先輩騎士の力を借りたことにより、奏夜の力は更に高まる。

 

その結果、先ほどまでは押されつつあった状況が改善され、陽光斬邪剣の刃がニーズヘッグにあと少しのところまで迫ろうとしていた。

 

『おのれ…!魔戒騎士如きの力など…!!』

 

ニーズヘッグは先ほどより強くなった奏夜の力に一瞬だけ焦りを見せるのだが…。

 

『我の怒りはこの紅蓮の炎だ。しかし!我の依代となったホラーの若造の怒りは、何よりも底の深い闇なのだ!!この2つが合わさった時、貴様に勝ち目はない!!』

 

ニーズヘッグは自らの力たけではなく、取り込んだジンガの力も使おうとしていた。

 

これこそが、ニーズヘッグの隠し持っていた切り札であった。

 

自分がここまで押されるとは予想していなかったが、もしもの時の保険として、ジンガの力は使わないようにしていたのだ。

 

「何!?まさか……!」

 

『奏夜!まずいぞ!!』

 

キルバは最大限の警告をするのだが、この状態で動けるはずはない。

 

『我が紅蓮の怒りと、漆黒の闇の怒り…。2つの怒りがここに!!』

 

ニーズヘッグがこう宣言すると、その体から漆黒の衝撃波が放たれた。

 

この技は、かつてジンガが奏夜たちと相対した時にジンガの右腕であった尊師と共に放った闇の力を解き放ったものであった。

 

その闇の衝撃が奏夜へ迫る。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

その一撃は相当なものであり、奏夜は苦しみの断末魔を上げながらも、その力を緩めはしなかった。

 

『この一撃を受けても耐えるとは…。だが、いつまでもつかな?』

 

奏夜は力を緩めていないとは言うものの、先ほどのダメージによって僅かに隙が出来てしまい、ニーズヘッグの紅蓮の巨体が奏夜に迫ろうとしていた。

 

「負けるか…!負けてたまるか…!絶対に!!俺は!!こんなところで倒れる訳にはいかないんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

奏夜の体は既に限界を迎えていたが、ここで負ける訳にはいかないという強い思いが奏夜を突き動かしている。

 

『フン!これで終わりだ!!』

 

ニーズヘッグは先ほどの漆黒の衝撃波を再び放ち、その勢いのまま奏夜を葬ろうとしていた。

 

「ぐぁぁ…!ま、まだだ…!!」

 

奏夜は最後まで諦めない姿勢を貫いてしまったが、同じ攻撃を2度受けてしまったことにより、ニーズヘッグを受け止めていた力が緩まってしまった。

 

そのままニーズヘッグの巨体が奏夜に迫ろうとしていたが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!?」

 

ふと奏夜の手を取る2つの手が現れると、その手はまるで奏夜を後押しするかのように奏夜に力を貸していた。

 

その2つの手とは……。

 

「……剣斗…テツさん…」

 

奏夜がこの姿になる前に、幻の空間で出会った剣斗とテツであった。

 

2人の魂が英霊として、奏夜に力を貸しているのである。

 

剣斗とテツは無言で頷くと、今奏夜の手を取っているのだが、さらにそこに力を込めた。

 

そんな力強い後押しを受けた奏夜は先ほどまでのダメージが嘘のように力を取り戻しており、再び力強く陽光斬邪剣を握りしめる。

 

「ニーズヘッグ!これこそが、怒りや闇をも凌ぐ…。英霊たちの思いの力だ!!」

 

奏夜は、統夜の力だけではなく、剣斗やテツの思いの力を受け取ることによってさらに陽光斬邪剣を握る力も強くなっていた。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

奏夜は渾身の力を込めて陽光斬邪剣を振り下ろすと、ニーズヘッグを包んでいた炎を切り裂いた。

 

その振り下ろした力はかなりのものであり、その勢いのまま、ニーズヘッグの体は地面に叩きつけられてしまう。

 

『ぐぁっ!!馬鹿な…!思いなどと薄っぺらい力が我が怒りを凌ぐというのか…!』

 

ニーズヘッグは、自分の怒りの力が競り負けるなどとは思っていなかったため、驚きを隠せなかった。

 

「これで……終わりだ!!」

 

地面に叩きつけられたことによってニーズヘッグはすぐに動けなかったのだが、奏夜はそれを見逃さなかった。

 

奏夜は陽光斬邪剣を一閃すると、ニーズヘッグの体は真っ二つに切り裂かれた。

 

『ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

自身の怒りや闇の力を越える思いの込められた刃を受けて、ニーズヘッグは断末魔をあげる。

 

『…そうか…。これが…人の思いというやつなのか……!人間が全て貴様のような奴であれば…我はここまで怒りに捉われることもなかったであろうな……!』

 

ニーズヘッグは奏夜の刃を受けたことにより、思いの力の大きさをその身を持って知ることが出来た。

 

その結果、最期の瞬間はあれ程抱えていた怒りは全て消え去ったのである。

 

その怒りを浄化するかのように、ニーズヘッグの体は爆発し、その身体は怒りという名の陰我と共に消滅した。

 

“奏夜!お前の最後まで諦めない強い思い…とてもイイ戦いだったぞ!!“

 

“まったくだ。最早、俺の知るあのひよっこな魔戒騎士はここにはいないみたいだぜ。……本当に、強くなったな。奏夜…“

 

“私たちはいつでも見守っている。お前の…お前たちの戦いを!だから、お前は1人ではない。それだけは、忘れないでくれ…“

 

奏夜が鎧を解除する瞬間、穏やかな表情で微笑む剣斗とテツが、奏夜に向けてメッセージを送っていた。

 

鎧が解除されたのと同時に、2人はそれを見届けるかのように消滅していった。

 

「……はぁ……はぁ……はぁ……」

 

奏夜はニーズヘッグとの戦いで自分の持てる力を全て使い果たしていたため、息があがっていたのである。

 

(剣斗……テツさん……本当にありがとう……。俺、これからも生きて、この思いを繋ぎながら戦っていくよ……。守りし者として……!)

 

体力を使い果たした奏夜は言葉を発するのも難しい様子であったが、心の中で剣斗やテツへの感謝と決意を独白していたのだ。

 

「…!奏夜!!」

 

ニーズヘッグとの戦いを見届けた統夜は、鎧を解除すると、そのまま奏夜へ駆け寄っていった。

 

「奏夜、立てるか…?」

 

「と、統夜さん…」

 

奏夜は力を使い果たしたからか、立つのも難しい様子があったため、統夜は肩を貸してどうにか奏夜は立ち上がることが出来た。

 

「…あの……俺……」

 

奏夜は息絶えだえながらも、統夜に何かを言おうとしていたのだが…。

 

「奏夜。今は何も言うな。お前はよくやったよ。とりあえずは早くこの真魔界から脱出しないとな」

 

『統夜、急げよ!俺たちが通ってきた門だが、閉じてしまうのも時間の問題だぜ!』

 

「わかっているさ。ララに必要以上の負担をかけさせる訳にはいかないからな」

 

統夜は奏夜と共に自分たちが通ってきたゲートを目指し、真魔界へ脱出するのである。

 

奏夜の活躍により、ニーズヘッグは真魔界から人界へ現れることなく討伐された。

 

しかし、統夜たちが入った時よりも遥かに小さくなっているゲートをくぐって真魔界を脱出したその直後、その様子を見つめる黒い影があった。

 

ニーズヘッグが倒されたことにより、この戦いは幕を下ろしたと思われていたのだが、まだ戦いは終わっていなかったのである…!

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

─次回予告──

 

『これでこの戦いは終わったと思ったが、まだ波乱があるとはな…。奏夜、お前はまだ戦えるか?次回、「雌雄」。その刃で、全てを終わらせてやれ!!』

 




ニーズヘッグとの決戦はなかなかの激闘だったからかけっこう長文になってしまった。

ちなみに、奏夜が変化した 聖光剣身は、「牙狼 DIVINE FLAME」で登場した天剣煌身牙狼をモデルにしているのですが、

牙狼剣ファンネルや超巨大な牙狼斬馬剣みたいなチートな機能はないですが、剣斗やテツの力を借りているので2人の魔戒剣や剣斗の盾を遠隔操作しながら戦っていました。

本来なら鎧の形状が変化した後は終始ニーズヘッグを圧倒して終わらせることも考えましたが、それだとジンガを取り込んだ意味がないなと感じてしまい、それなりに苦戦させてみました。

かつて奏夜たちがジンガと戦った時に受けた漆黒の衝撃波を2発受けても耐えられることが、この鎧の強さを表現出来たかな?と思っております。

今回で決着かと思いきや、次回が本当に決着になります。

真魔界を脱出した奏夜たちを見ていた黒い影の正体とは?

そして、奏夜たちはこのまま無事に帰還することは出来るのか?

それでは、次回をお楽しみに!!



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第83話 「雌雄」

お待たせしました!第83話になります!

最近色々と忙しい日々だったため、なかなか更新が出来ませんでした。

前回、剣斗やテツの思いを受け取り、ニーズヘッグを討滅した奏夜。

そんな奏夜たちの前に再び暗雲がたちこめるが、その正体とは?

それでは、第83話をどうぞ!




真魔界へ突入した奏夜と統夜は、そこでジンガの怒りを依り代として復活したニーズヘッグと対峙する。

 

2人はニーズヘッグに戦いを挑むが、その激しい怒りの業火に、奏夜は焼き尽くされそうになっていた。

 

そんな時、剣斗とテツの英霊が奏夜に力を貸したことにより、輝狼の鎧が変化。聖光剣身という奇跡の形態となる。

 

奏夜は、2人の英霊の力を使いこなし、見事にニーズヘッグを撃破する。

 

そしてそのまま真魔界から脱出したのだ。

 

奏夜たちが真魔界でニーズヘッグと戦っている頃、ララは法術を用いて今まさに閉じようとしている真魔界のゲートを開いた状態の維持に努めていた。

 

「くっ……。なんて力なの……!!」

 

ニーズヘッグ復活の時に開かれたこのゲートは今まさに閉じようとしていたのだが、その勢いはかなりのものであり、ララが法術にて抑えてなければあっという間に閉じていただろう。

 

そんなゲートを、ララは必死に抑えていたのだ。

 

「…こんなところで負ける訳にはいかないわ!奏夜と統夜は、私なんかよりも遥かに厳しい戦いを今まさにしてるんだもの!!」

 

真魔界へ突入するということは、脱出の策がなければ人界へ帰ってこられる保証はない。

 

そんな状態でも奏夜と統夜は自分を信じて真魔界へ突入したのだ。

 

この命をかけてでもこのゲートを抑える。

 

そんな気持ちが今のララを突き動かしていたのである。

 

しかし、ララを突き動かしているのはそれだけではない。

 

「…私は、仲間の夢を守る名目で、眼の封印を解いてニーズヘッグ復活のきっかけを作ってしまった…。ここで死んでもこのゲートを守りきるのは、私の贖罪でもあるの!」

 

今この場にはララしかいないのだが、ララは自らを奮い立たせるために、あえて今の思いを言葉にしていたのだ。

 

「くっ…!くうぅ…!」

 

現在、ララの体にはかなりの負荷がかかっているのだが、ララは強い思いによって自らを奮い立たせることにより、どうにか耐えることが出来ていた。

 

しかし、そんな状態のララに危機が迫る。

 

「キシャアァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

どこからか現れた一体の素体ホラーが雄叫びをあげながらララの方へ向かってきたのだ。

 

「…っ!?」

 

ララは迎撃したくても、今それを行えばこのゲートはあっという間に閉じてしまう。

 

かと言ってこのまま素体ホラーの攻撃を受けてしまったらそれでもゲートは閉じてしまう。

 

絶体絶命の危機に、ララは息を飲む。

 

素体ホラーの爪がララに迫ろうとしていたその時である。

 

その爪が振り下ろされそうになった直後にどこからか銃弾が飛んでくると、それは素体ホラーの手を貫く。

 

痛みに断末魔をあげながら素体ホラーはその方向を向くと、そこに立っていたのは…!

 

「…ララ!よく持ちこたえたな!」

 

「!アキト!それに、リンドウと大輝さんも!」

 

入り口で大量の素体ホラーを相手取っていたアキト、リンドウ、大輝がここへ現れたのである。

 

素体ホラーはララを狙っていたが、爪を貫かれた怒りをぶつけるかのように3人の方へ向かっていった。

 

「へっ、させるかよ!」

 

リンドウは前方に八の字を描くと、その円から現れた鎧を身に纏うことによって、漆黒の竜のような鎧である、神食騎士狼武(しんしょくきしロウム)の鎧を召還した。

 

そして、魔戒剣が変化したまるでノコギリのような切っ先をしている機神剣(きじんけん)を一閃する。

 

その一撃によって素体ホラーは真っ二つに切り裂かれ、消滅した。

 

素体ホラーの消滅を確認したリンドウは、鎧を解除する。

 

「ララ、こっから先は俺も手伝うぜ!状況から察するに、奏夜と統夜はそこを通ってニーズヘッグと戦ってるんだろ?」

 

アキトは既にニーズヘッグは復活しており、奏夜と統夜が戦っていることを察してララに助け舟を出そうとする。

 

魔導筆を構え、法術を放とうとするのだが…。

 

「…ダメ!これは私の戦いだもの!誰の手も借りる訳にはいかないわ!!」

 

ララはアキトの手助けを拒否し、自分の力のみでなんとかしようとした。

 

「ララ!そんなこと言ってる場合か!?お前が失敗してしまったら、奏夜と統夜が二度と帰って来られないのだろう!?」

 

ララが抑えているこのゲートが真魔界に繋がっていることを大輝は知らないものの、状況は察せられたため、アキトの手助けを拒否したララを説得しようとする。

 

しかし……。

 

「…なるほど、それがお前の覚悟って訳だな!」

 

アキトはララの思いを汲み取り、ララの手助けは行わないことにした。

 

「ああ、それが良さそうだな。その覚悟を見届けるのも仲間のすべきことだしな」

 

リンドウはそれに賛同しており、ウンウンと頷きながらタバコを取り出し、それに火を付けてタバコを吸い始めていた。

 

『リンドウ!まだ戦いは終わった訳じゃないんですから!気を引き締めてください!』

 

「わぁってるって!だが、ホラーの大群が思ったより多かったせいでまともにタバコも吸わせてくれなかったしな。一服くらいさせてくれよ…」

 

自らの魔導輪であるレンからの小言にうんざりしながらも、リンドウはタバコを吸っていた。

 

「…アキト、いよいよの時はお前も力を貸せよ」

 

「わかってるって!大輝のおっさん!」

 

「お前は…。おっさんはやめろと何度言えば…」

 

アキトは大輝のことを度々おっさんと呼んでおり、大輝はそのことにうんざりしていた。

 

そのため、今回も頭を抱えながら呆れている。

 

「だからよ、ララ。お前はお前の覚悟を見せてやれ!」

 

「ええ!」

 

仲間たちからの励ましによってさらに自らを奮い立たせたララは、ゲートを抑えこみ、奏夜たちの帰りを待っていた。

 

それからしばらくすると…。

 

「…!?統夜!奏夜!!」

 

ゲートから無事に統夜と奏夜が帰還したのである。

 

「ララ!今だ!!」

 

「うん!!」

 

2人の脱出を確認したララは、アキトの声かけに呼応し、ゲートを拘束していた術を解除する。

 

それと同時にゲートはあっという間に閉じてしまい、そのまま消滅したのであった。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

ララもまた、力を使い果たしたからか、その場に座り込んでしまった。

 

そんなララを見た統夜は、奏夜と共にララの元へ向かう。

 

「…ララ、俺たちの帰る場所を死守してくれてありがとな」

 

統夜は穏やかな表情でララに感謝の言葉を送った。

 

「私はたいしたことはしてないよ。ニーズヘッグと戦った2人に比べたら」

 

ララはゆっくりと立ち上がり、統夜と奏夜の顔を交互に見る。

 

「…お前ら、無事にニーズヘッグを倒したみたいだな」

 

アキト、リンドウ、大輝もまた側へと駆け寄り、アキトが声をかける。

 

「俺はたいしたことはしてないさ。奏夜の誰よりも強い思いの力が、ニーズヘッグに打ち勝ったんだよ」

 

「そんな…。俺はそんなに…っ!」

 

統夜の肩を借りてここまで脱出した奏夜であったが、統夜からの言葉に反応して統夜から離れると、そのままその場に座り込んでしまった。

 

「っとと。奏夜、あまり無理すんなよ。お前は力を消耗してるんだからさ」

 

「はい、ありがとうございます…」

 

奏夜はニーズヘッグを倒した時よりは多少は体力は回復したものの、まだまともに体を動かせる状態ではなかったのだ。

 

「それにしても、奏夜があのニーズヘッグを倒すとはな」

 

「たいしたもんだ!流石は俺が見込んだ男だぜ!」

 

大輝とリンドウは、奏夜の全身全霊の力にてニーズヘッグを倒せたこの結果に対して高く評価をしていた。

 

「俺の力じゃないよ…。だって、あの時俺は…」

 

奏夜はニーズヘッグの怒りの炎を浴び、諦めかけていた時に剣斗とテツの英霊に救われた話をしようしたが…。

 

「ま、その辺の話は後でじっくり聞かせてくれよ!」

 

「そうだな、奏夜とララが消耗してるもんな」

 

「番犬所にも報告せねばいけないから、早くここから離れようか」

 

「そうですね。そうしましょうか」

 

こうして、戦いは終わり、統夜たちはその場を後にしようとした。

 

しかし……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

«まだだ……!まだ、終わりじゃねぇぞ……!»

 

どこからか、くぐもった声が聞こえてきた。

 

『…!どうやら、戦いはまだ終わってはいないみたいだな』

 

『そうらしい。統夜、油断するな!!』

 

先ほど聞こえてきた声から邪気を感じ取ったのか、キルバとイルバが統夜たちに警告する。

 

すると、統夜たちの目の前に現れたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自らを核にして、ニーズヘッグと共に消滅したと思われていたジンガであった。

 

「!?ジンガ…!?う、嘘だろ……?」

 

奏夜は、ニーズヘッグと共にジンガは消滅したと信じていたからか、目の前に立ちはだかるジンガの存在が信じられず、戦慄していた。

 

「お前、ニーズヘッグと共に消滅したんじゃなかったのか?」

 

そんな中、統夜が鋭い視線でジンガを睨み付けながら、抱いていた疑問をぶつける。

 

「残念ながら俺はニーズヘッグの身体が消滅するギリギリのところで脱出出来たんだよ!」

 

『…!?そうか!あの時の奏夜の一撃でニーズヘッグの怒りも切り裂かれた。だから、それと同時に核となってたお前との融合も解かれていたという訳か!』

 

「くくく…!ご名答だぜ!!」

 

キルバの推測は正しかったようであり、ジンガは怪しげな笑みを浮かべる。

 

しかし、そんなジンガの表情もすぐに怒りの表情へと変化する。

 

「ニーズヘッグは如月奏夜の攻撃で怒りは消えたみたいだがな…。俺の抱いた怒りは、そんなもので消え去るほど浅いもんじゃねぇんだよ!!」

 

ジンガは、放浪の旅の中、立ち寄ったとある里にてその里の風習によって妻とそのお腹の中にいた子供を失ってしまった。

 

その時に抱いた莫大な怒りや恨みの感情が陰我となり、ホラーに憑依されてしまったのだ。

 

「ニーズヘッグはお前らに倒されるとは思わなかったぜ……。この戦いも俺の負けみたいだ」

 

「おいおい、そこまでわかってるなら、素直に負けを認めたらどうなんだ?」

 

ジンガは、ニーズヘッグが討たれた時点で敗北を感じていたものの、往生際の悪さにリンドウは呆れている。

 

「そうはいかないさ。このままじゃ死んでも死にきれないんだよ。…如月奏夜!お前にも俺の抱いた怒りがどれほどのもんが思い知らせてやるよ」

 

ジンガが奏夜たちの前に現れたのは、とあることをしようとしていたからであった。

 

それは……。

 

「……お前の大切な存在であるスクールアイドルのμ's…だったか?あいつらを皆殺しにしてやるよ」

 

「!!?」

 

穂乃果たちを殺し、奏夜に自分の抱いた怒りを身をもって思い知らせるためだったのだ。

 

「…そんなこと…!!させる…かよ!!」

 

ジンガの企みを阻止するために、奏夜はどうにか立ち上がろうとしていたが、ニーズヘッグとの戦いで力を使い果たしてしまったため、立ち上がることが出来なかった。

 

「そんなんで俺を止めるつもりか?そのまま黙って見てるんだな!お前の大切な物が失う瞬間をな!」

 

力を使い果たした今の奏夜であれば、ジンガは簡単に始末出来るものの、今のジンガの目的は奏夜の始末ではないため、とことん絶望を与えるつもりだったのだ。

 

「…くっ!」

 

奏夜は無理をしてでも立ち上がろうとしたその時だった。

 

「……奏夜。お前は無理をするな」

 

統夜が前に出て、ジンガと対峙したのである。

 

「!?統夜…さん!ジンガは、穂乃果たちを殺そうとしてるんです…!だから、俺が…!」

 

奏夜は穂乃果たちを守るために自分がジンガと戦おうとしていた。

 

しかし……。

 

「そんな状態のお前に何が出来る」

 

統夜は普段の穏やかな声ではなく、引くドスの効いた声で奏夜を睨み付ける。

 

「…!?そ、それは…」

 

「俺にとっても、μ'sのみんなは大切な仲間だ。だからこそ、ここは俺に任せてくれ」

 

統夜はすぐに穏やかな表情で奏夜を諭しながら、魔戒剣を構えた。

 

「…す、すいません、統夜さん…。あいつは…頼みます…!」

 

「ああ、任せておけ!」

 

こうして、力を使い果たした奏夜は、ジンガの相手を統夜に委ねることにした。

 

「…フン、どのみちお前らとも戦わないと目的は達成出来ないと思ってたからな。望むところだぜ…!」

 

奏夜とララが戦えない現状でも、それ以外のメンバーは戦える状態だったので、ここで統夜たちを倒すつもりではあったのだ。

 

「それに…。お前とも剣を交えたいと思っていたんだぜ!月影統夜!!」

 

「悪いが、お前との縁もここまでだ。ここでお前を斬るからな…!」

 

「ふっ、それはどうかな!!」

 

統夜の宣言を受けても一切動じていないジンガは剣を手にした状態で統夜に接近し、剣を振るう。

 

しかし、統夜はそれを魔戒剣で受け止めた。

 

統夜は力強く魔戒剣を振り下ろすと、そのままジンガを弾き飛ばし、すかさず魔戒剣を振るう。

 

しかし、ジンガは統夜の攻撃をかわし、避けきれない攻撃は剣で受け止めていた。

 

ジンガもまた負けじと統夜の攻撃を受け止めた後に剣を振るうが、統夜はジンガの剣を後ろに下がって回避する。

 

『こいつ…!ニーズヘッグと同化したからか、あの小僧と戦った時よりも邪気が増えてるし、強くなってやがる…!』

 

どうやらジンガは、奏夜が天月輝狼(キロ)の力で倒した時よりもニーズヘッグと同化した効果なのか強くなっていたのだ。

 

「それは当たり前だ!さっきも言ったが、俺の怒りや憎しみは、それだけ深いんだからな…!!」

 

ジンガは自分の怒りや憎しみの深さを思い知らせるかのように衝撃波を放った。

 

「くっ…!」

 

統夜はそれを魔戒剣で受け止めるが、多少のダメージはあったみたいで、その顔が苦悶に歪む。

 

「この世界は理不尽に満ちてるんだよ…。だからこそ俺は、そんな理不尽をぶち壊してやるよ!!」

 

ニーズヘッグは倒されたものの、ジンガはその怒りによって、人界を滅ぼす。

 

そう思わせる程にこの世界に対する怒りや憎しみは深いのだ。

 

「…確かに、この世界は理不尽に満ちてる。だけどな!人はどんな理不尽があろうとそれを乗り越えていける力があるんだ!!だからこそ俺は人を守る!」

 

「そんなものはただの綺麗事だ!!貴様如きに俺のこの怒りはわからないさ!」

 

「ああ、わからないね。だが、これだけはハッキリとわかる。……お前のその傲慢に満ちた陰我は今すぐに断ち切らなきゃならないってことがな!!」

 

統夜としても、ジンガの壮絶な過去には同情の余地はあった。

 

しかし、ジンガは怒りに我を忘れ、魔戒騎士としての禁忌を犯してしまったのだ。

 

そこは、同じ魔戒騎士として受け入れる訳にはいかない事実なのだ。

 

「そうかよ!俺をそこまで否定するなら、斬ってみな!!やれるものならな!!」

 

ジンガはこう強気な宣言をすると、ホラー態へと変わっていった。

 

しかし、その姿はニーズヘッグと同化した影響なのか変わっており、以前よりもその体はまるで闇が深まったかのように漆黒の体になっており、背中には漆黒の羽根が生えており、飛翔能力も向上していたのだ。

 

その出で立ちは、まるで、かつてジンガの身にまとっていた狼是(ローゼ)の鎧が暗黒騎士の鎧になったかのようであった。

 

『!?こいつは驚いたな…。まさか、陰我が深まることで見た目まで強化されるとはな…』

 

ジンガは戦闘能力が向上しただけではなく、ホラー態も以前とは異なっていたため、イルバは驚きを隠せなかった。

 

「俺はこの力でこの世界を破壊してやるよ…!お前ら如きに止められる訳がない!!」

 

「それは…どうかな?」

 

ジンガがホラーとして強化されているにも関わらず、統夜は驚くこともなく、至って冷静だった。

 

「余裕でいられるのも、それまでだ!!」

 

統夜の冷静な態度が気に入らなかったのか、ジンガは背中の羽根を使って飛翔し、勢いよく統夜に迫る。

 

しかし、統夜はジンガの動きを見極めて、ジンガの攻撃を受け止めるのであった。

 

「…なんだと!?」

 

自分の攻撃が簡単に受け止められるとは思っていなかったのか、ジンガは驚きを隠せなかった。

 

「お前がどれだけ力をつけようとも、お前は怒りに支配されている。そんなお前の剣は、簡単に見切れるさ」

 

統夜は、魔戒騎士として様々な修羅場を乗り越えてきた経験からか、ジンガの攻撃を既に見切っていたのであったのだ。

 

「減らず口を…!これならどうだ!!」

 

ジンガは一度後方に下がって統夜と距離を取ると、手にしていた剣を振るい、そこから漆黒の刃のようなものが統夜めがけて放たれる。

 

「……」

 

統夜は精神を集中させて魔戒剣を振るうと、ジンガの放った刃を真っ二つに切り裂いたのであった。

 

切り裂かれた刃はそのまま左右の壁に激突し、爆発する。

 

「なっ…!?」

 

「これでわかっただろ?今のお前じゃ俺には勝てない」

 

「てめぇ…!!」

 

統夜とジンガの力の差は歴然であり、ジンガは怒りの目を統夜に向けていた。

 

(流石は統夜さんだ…!かつてあの黄金騎士牙狼と互角の戦いを繰り広げただけはあるよ…。俺だったらあのジンガを相手に倒せるかどうか…?)

 

奏夜は、魔戒騎士として揺るぎない力を持つ統夜に驚きを隠せなかった。

 

「ジンガ!貴様の陰我…俺が断ち切る!!」

 

統夜はジンガにこう宣言すると、魔戒剣を高く上空へ突き上げ、円を描く。

 

その部分のみ空間が変化すると、統夜はそこから放たれた光に包まれた。

 

そこから白銀の鎧が現れるのだが、統夜はその鎧を身に纏う。

 

統夜が身に纏ったこの鎧は、白銀騎士奏狼(ソロ)。

 

その名の通り鎧からは白銀に輝いており、この鎧は薄暗いこの空間を照らす光となっていたのだ。

 

「なめるな!俺の持つ怒りと闇はかなり深い!貴様如きに負けはしない!!」

 

統夜に圧倒されてる現状ではあるものの、ジンガは統夜相手に負けるわけはないと信じていた。

 

ジンガは漆黒の翼で飛翔し、猛スピードで統夜に迫る。

 

そして、その勢いのまま剣を振り下ろそうとするのだが…。

 

「…無駄だ!!」

 

統夜はギリギリまでジンガを引き付けると、魔戒剣が変化した皇輝剣を一閃。

 

ジンガの刃は統夜に届くことはなく、ジンガは皇輝剣の刃を受けたのであった。

 

「ぐっ…!」

 

自分の攻撃が届かず、統夜の攻撃を受けるとは思っていなかったジンガは、驚きと共に苦悶の表情を浮かべる。

 

「統夜のやつ!飛んでる奴相手でただでさえ不利だっていうのに、それをものともしてないじゃねぇか!」

 

「おお!統夜の奴もやるじゃないか!」

 

「あいつ、さらに強くなってるみたいだな…」

 

統夜が飛んでいるジンガに難なく一撃を入れたことに対して、アキト、リンドウ、大輝が驚きと歓喜の声をあげる。

 

(これが、統夜さんの本当の力…。本当に凄い…)

 

ニーズヘッグと戦った時、奏夜の思いの力によって勝利したこともあり、統夜の力を最大限まで引き出されてはいなかった。

 

ジンガの側近であるアミリを難なく倒しただけではなく、ニーズヘッグの怒りの邪気を受けて強化されたジンガをも圧倒している。

 

奏夜はそんな統夜の力に驚きながらも、尊敬し目標としている先輩騎士という名の壁が更に厚くなるのを感じていた。

 

(いくらニーズヘッグを倒せたとはいえ…。俺の力なんて、統夜さんとは程遠いよな…)

 

«当たり前だ。お前は魔戒騎士としてはまだ未熟だからな。あの男と互角になりたいのならもっと精進することだ»

 

(ああ、わかってるよ)

 

奏夜は統夜との実力差は理解しているため、キルバの叱咤激励を受け止めていた。

 

「まさか、この俺がここまで押されるとは、お前の力は俺の思っていた以上のようだな…。月影統夜!!」

 

「当たり前だ。俺は今まで多くの試練を乗り越えてきたんだ。お前如きに遅れを取りはしない!」

 

ジンガの皮肉の込められた言葉を聞いた統夜は、動じることもなく毅然と言葉を返す。

 

「ふっ、すましやがって…。余裕でいられるのも今のうちだ!!」

 

ジンガは再び飛翔し、統夜と距離を取ると、精神を集中させて邪気を高めていた。

 

「俺の何よりも深い闇や、怒りは…。底が見えない程なんだ!それを、貴様に思い知らせてやるぜ!!」

 

ジンガの高められた邪気は、その手にしている剣の切っ先に集められ、ジンガの体もまた、漆黒の邪気に包まれる。

 

その姿はまさに、闇の烈火炎装とも言えるような様相であった。

 

「ジンガの奴、とんでもない邪気を出してやがる…!」

 

「ああ、嫌でも肌に感じるぜ!」

 

「だけど、統夜ならきっと大丈夫だよね?」

 

ジンガのこの様相を見た大輝とリンドウは驚いており、ララは不安そうに現状を眺めている。

 

「心配ないさ!あいつは今までだって、ジンガ以上に手強い奴と何度も戦ってるんだ。あんな攻撃、なんてことはないぜ!」

 

統夜の盟友として、度々共闘していたアキトは、統夜の力を信じているからか、いくらジンガが強大な力を見せようが、全く心配はしていなかった。

 

(そうだよ…。俺だって、統夜さんの揺るぎない力を信じている。いくらジンガが邪気や怒りを高めようと、統夜さんなら…)

 

奏夜もまた、自らが目標としている魔戒騎士がここで負ける訳はないと心の底から信じていた。

 

『おい、統夜!あれをまともに受けたらひとたまりもないぜ!』

 

そんな中、統夜の相棒の魔導輪であるイルバは、ジンガが放とうとしている攻撃に対して警戒を促す。

 

「みたいだな。だからこそ、俺も全力で迎え撃つさ!」

 

そこは統夜もわかっており、統夜は自らの身体に赤の魔導火を纏わせ、烈火炎装の状態となった。

 

「これこそが、深淵の闇に包まれた、俺の怒りの一撃だ!!」

 

ジンガは邪気を纏った状態のまま、統夜めがけて突撃する。

 

統夜もまた、それを迎え撃つべく接近し、皇輝剣を振るってジンガの攻撃を受け止める。

 

「くっ……!!」

 

ジンガの一撃は、統夜の想像を遥かに越えていたからか、ジンガに押されそうになっていた。

 

「どうだ!!お前も思い知っただろう!?俺の闇や、怒りがな!!」

 

「わかっているさ!だけどな、お前がどれだけ闇や怒りの力を蓄えようと、俺は負ける訳にはいかないんだよ!俺は今、死力を尽くして戦った後輩の意思を受け取って戦ってるからな!」

 

「…!統夜さん……」

 

統夜から放たれた言葉は思いがけないものだと感じていたからか、奏夜は嬉しさからか、胸の高鳴りを感じていた。

 

「それに、俺には守らなきゃいけない人が、場所があるんだ!!こんなところで…止まってられないんだよ!!」

 

こう言い放つ統夜の脳裏には、自分の恋人である梓や、大切な人たちである放課後ティータイムのみんなの顔が浮かび上がっている。

 

それが統夜に更なる力を与えたのか、赤の魔導火は更に燃え上がったのだ。

 

「…!?な、なんだと!?」

 

統夜の力が先ほどよりも跳ね上がっているのを感じたからか、ジンガは驚きを隠せずにいた。

 

「…ジンガ!!元魔戒騎士でありながら復讐心に支配され、世界を焼き払おうとする貴様の陰我…俺が断ち切る!!」

 

統夜の皇輝剣を握る力は更に強くなっており、渾身の力を込めて皇輝剣を振るった。

 

ジンガは統夜の攻撃を抑えきれず、自らか纏った邪気ごと切り裂かれてしまったのである。

 

その結果、ジンガはそのまま地面へと落下し、この統夜の一撃によってジンガの強化された姿は消滅し、通常のホラー態へと戻った。

 

「…闇に還れ!ジンガ!!」

 

統夜はその勢いのまま地面目掛けて降りており、そのまま皇輝剣を振り下ろす。

 

その一閃により、ジンガの身体は真っ二つに切り裂かれたのである。

 

ジンガは致命傷を受けたことにより膝をつき、そのままホラー態から人間態へと戻ったのだ。

 

「…まさか…この俺が遅れをとるとはな……」

 

ジンガは敗北するとは思っていなかったからか、驚きを隠せなかった。

 

「だが、俺の抱える闇や怒りはお前らに断ち切れるものじゃねぇんだよ…!!俺はまた、人間の陰我に引き寄せられて、再び地上に舞い戻るだろうよ……!」

 

『やれやれ、往生際の悪いやつだぜ』

 

『まったくだ。まぁ、ホラーは封印して魔界に戻したところで、その通りではあるがな』

 

ジンガの再び復活する宣言にイルバは呆れており、キルバはそれが実現可能であることを冷静に分析する。

 

魔戒騎士がホラーを倒すのはあくまでも剣にホラーを封印し、それを浄化することで短剣に変化させて魔界へ強制送還する。

 

しかし、人間の陰我がある限り、ホラーは再びどこかのゲートから現れ、違う依代へ憑依することで再び人界へ舞い戻るというのはよくある話なのであった。

 

「お前が何度復活しようが、俺が倒してやるさ…。いや、今度は奏夜がお前に引導を渡すだろうさ」

 

「…はい…!次こそは…俺が、お前を倒す!!」

 

奏夜はニーズヘッグとの戦いで力を使い果たしており、今回はジンガとの戦いを統夜に託す形になってしまったが、再び戦うことがあれば、自分が決着をつけるつもりでいた。

 

「…くくく…。いつになるかは、わからないが、その時を楽しみにしてるぜ…!」

 

ジンガは邪悪な笑みを浮かべ、再び復活すると宣言する。

 

「…またな、魔戒騎士共…!」

 

ジンガはゆっくりと立ち上がり、別れの挨拶を済ませると、その身体はゆっくりと消滅していった。

 

ジンガが消滅したのを確認した統夜は鎧を解除し、皇輝剣から戻った魔戒剣を青の鞘に納める。

 

「…流石だな、統夜。あのジンガを難なく倒すとは…」

 

「お前さんの力は、本当に底が見えないぜ…」

 

大輝はジンガを倒したことを労い、リンドウは統夜の魔戒騎士としての力に驚きながらもタバコを取り出して一服を始める。

 

「…俺はお前が負ける訳ないとわかってたけどな!」

 

アキトは統夜の勝利を確信してたこともあり、「ふんす!」と息巻きながらドヤ顔をしていた。

 

『おいおい、なんでお前さんがそこまで誇らしげなんだよ…』

 

アキトのドヤ顔はあたかもアキトがジンガを倒したような感じに見えてしまったからか、イルバは苦笑いを浮かべる。

 

「…これで、全て終わったのね……」

 

「……ああ、そうだな……」

 

この頃にはどうにか自分で立つことが出来るくらいには体力が回復したからか、奏夜はゆっくりと立ち上がり、ララの言葉に頷く。

 

魔竜の眼と魔竜の牙によって復活したニーズヘッグは倒され、それを目論んでいたジンガも倒された。

 

それは、この壮絶なる戦いが終結したということである。

 

「…とりあえず番犬所へ報告しないとな」

 

戦いに決着がついたため、大輝は番犬所へそのことを報告しようとしていた。

 

「…奏夜。お前さんはそのまま帰って体を休めるといいぜ。報告ならみんないなくても問題ないからな」

 

リンドウは、奏夜が力を使い果たしていることを考慮して、そのまま奏夜を帰らせようと提案する。

 

「ありがとう、リンドウ…。そうさせてもらうよ…」

 

奏夜としては、一秒でも早く体を休めたいと思っていたため、リンドウの申し出をありがたく受けることにした。

 

「私も番犬所へ報告をするわ。これからのことを相談したいと思ってたしね」

 

ララは、ジンガが狙っていた魔竜の眼を守るために蒼哭の里からここへやって来た。

 

結果的にニーズヘッグは復活してしまったものの、そのニーズヘッグは討滅されたことでララの使命は完了したのである。

 

このまま里に戻るにしても、これからどうするかをロデルと相談するつもりなのだ。

 

「…番犬所への報告は任せた。俺は元老院にこのことを報告しないといけないからな」

 

「統夜!それには俺もついて行くぜ!」

 

統夜は、ニーズヘッグ復活の阻止を元老院から指令を受けていたこともあったので、このまま元老院へ向かい、報告しようと考える。

 

それに元老院付きの魔戒法師であるアキトも同行しようと提案したのだ。

 

こうして、ニーズヘッグを巡る壮絶な戦いは幕を閉じた。

 

その結果の犠牲は決して小さいものではなかったが、それでも奏夜たちの魔戒騎士としての戦いは終わることはない。

 

人間の邪心がある限り、陰我は産まれ、ホラーは人界へと現れる。

 

それ故に、魔戒騎士の戦いには終わりがないのだ。

 

その陰我を断ち切り、多くの人を守るために…。

 

奏夜たちはそのことを噛み締めながら、解散したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──次回予告──

 

『戦いは決着がついたみたいだな。だが、俺たちは立ち止まっている暇はないんだぞ!次回、「再動」俺たちは再び歩き出す!』

 




ニーズヘッグは倒されたものの、再び現れるジンガ。

このしつこさこそ、ジンガらしいのかな?と思い、ここで登場させるのは前々から決めていました。

今回、そんなジンガと決着を付けたのは奏夜ではなく、統夜でした。

この辺の話を考えるにあたり、ここはギリギリまで迷いました。

前回の話で死力を尽くしてニーズヘッグを倒した後にジンガを奏夜が倒す展開も考えましたが、奏夜はまだまだ発展途上の魔戒騎士であるということと、ニーズヘッグとの決着の時はほぼ出番のなかった統夜の活躍を作りたいという気持ちから今回の展開になりました。

統夜は鋼牙に引けを取らないレベルに成長していることがわかった回になったと思います。

次回は、この章のエピローグ的な話になっております。

大きな戦いが終わり、奏夜たちはこれからどのように歩みを進めていくのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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第84話 「再動」

お待たせしました!第84話になります!

今回はこの章のエピローグ的な話となっております。

ジンガやニーズヘッグとの戦いに決着がつき、奏夜たちはこれからどうするのか?

それでは、第84話をどうぞ!!




奏夜や統夜の奮戦により、怒りの権化と呼ばれたニーズヘッグは倒された。

 

しかし、自らニーズヘッグの核となったジンガはどうにか生き延び、再び奏夜たちの前に立ちはだかる。

 

奏夜は自分がジンガと決着を付けようとするも、ニーズヘッグとの戦いで力を使い果たしていたため、そんな奏夜に代わってジンガと対峙したのは統夜であった。

 

ジンガはニーズヘッグの核となったことにより邪気を高めて力を高めていたのだが、統夜は魔戒騎士としての揺るぎない強さを見せ、ジンガを撃破する。

 

こうして、ニーズヘッグを巡る一連の戦いは幕を閉じたのであった。

 

「…そうですか。ニーズヘッグの復活は許してしまいましたが、ニーズヘッグを倒し、それを企むジンガなる元魔戒騎士のホラーも討滅されたのですね?」

 

ここは全ての番犬所を統括する最高機関である元老院。

 

統夜とアキトは、元老院の神官であるグレスにニーズヘッグとジンガを討滅したことを報告し終えたことであった。

 

「…統夜、あなたとしては管轄の違う番犬所での仕事でしたが、よくやってくれました」

 

「ありがとうございます。身に余るお言葉を頂き、光栄です」

 

グレスから称賛を受けた統夜は、深々とグレスに頭を下げる。

 

「今回の仕事を経て、あなたは魔戒騎士として更に力を付けたみたいですね。そんなあなたをこのままずっと1つの番犬所所属の魔戒騎士としておくのは本当に勿体ないと思っております」

 

「ということはまさか…?」

 

アキトはこれからグレスが何を言おうとしていたのかを察していたからか、この後に紡がれる言葉に期待を抱いていた。

 

「…月影統夜。いや、白銀騎士奏狼(ソロ)よ!先の戦いの功績を評価し、あなたはこれから元老院付きの魔戒騎士として、励んでもらいます」

 

「!?俺が元老院に…?」

 

グレスから告げられたのは、統夜にしてみたら思いがけないものだったからか、驚きを隠せなかった。

 

「あなたの実力は前から評価しておりました。あなたの元老院入りの話は、そこにいるアキトだけではなく、冴島鋼牙も推薦していましたからね」

 

統夜は若年ながら魔戒騎士として多大な成果をあげており、前々から元老院入りは推薦されていた。

 

今回は、さらに魔戒騎士としての力を知らしめたことにより、グレス自らが統夜の元老院入りを勧めた結果、このように命じたのだ。

 

「…ありがとうございます…!元老院付きの話、謹んでお受けいたします…!」

 

統夜はグレスに跪くと、元老院行きの話を受け入れた。

 

統夜としては、思い出の深い桜ヶ丘から離れたくない気持ちはあったものの、魔戒騎士として、ひとつの場所に拘らず、多くの人を守っていきたいという気持ちも強かったのだ。

 

そして、元老院の神官であるグレス直々の申し出を反故に出来る魔戒騎士や魔戒法師はいないだろう。

 

「…統夜、期待しておりますよ」

 

「はい!!」

 

こうして、統夜は紅の番犬所の魔戒騎士から、元老院付きの魔戒騎士となった。

 

統夜の実績ならもっと早く元老院付きの魔戒騎士になれただろうが、統夜は桜ヶ丘に強い思い入れがあったのだ。

 

それに、20歳という若さで元老院付きの魔戒騎士へ抜擢されるのは、以前のサバックでベスト4の成績を残した鷹山宗牙以来の快挙なのである。

 

こうして、ニーズヘッグ討滅の報告を終え、元老院付きの話が統夜に舞い込んだところで統夜とアキトはグレスに一礼をし、その場を後にした。

 

「…それにしても、お前もついに元老院付きの魔戒騎士になったんだな!」

 

元老院内の通路を歩いてすぐ、アキトが口を開く。

 

「まぁな」

 

「だけどよぉ、お前は桜ヶ丘にこだわりが強かったのに…。どういう風の吹き回しなんだ?まぁ、グレス様直々の申し出じゃ断れないのもわかるけどさ」

 

統夜の盟友であるアキトは、統夜が桜ヶ丘への思い入れが強いことをよく知っていたため、その疑問を統夜にぶつけていた。

 

「…そりゃあ、その気持ちに変わりはないさ。だけど、俺が魔戒騎士として多くの人を守っていくならば、そんな考えのままじゃダメだと思っていた訳なんだよ。次誰かから推薦があった場合は引き受けるつもりだったんだ」

 

統夜は自分の今抱えている本音をそのままアキトへとぶつける。

 

「…なんだよ!それなら、俺がいくらでも推薦したのに!」

 

今の統夜が元老院付きの話が来たら受け入れるつもりだったという話を聞き、前々から元老院へ推薦していたアキトは面白くないと思ったのか、唇を尖らせていた。

 

「…あはは、悪い悪い」

 

そんなアキトに苦笑いをしながら、統夜は謝罪を入れる。

 

『ま、俺様はそう遠くないうちにこうなるだろうとは思っていたぜ。今のお前は、父親である龍夜以上に魔戒騎士として成果をあげていたんだからな』

 

統夜の父親である月影龍夜もまた、先代の輝狼(キロ)として、多くの成果をあげ、元老院付きの魔戒騎士になった経緯があったが、統夜程の成果をあげた訳ではなかったのだ。

 

「俺はそれでも父さんを越えたなんて思っていないさ。俺はこれからも精進を怠ることはしない」

 

統夜はイルバの称賛を真に受けることなく、これからも魔戒騎士としての使命を果たしていく決意を固めていたのだ。

 

「…それにしても、お前が元老院付きの魔戒騎士になったと聞いたら、戒人の奴がより1層奮い立ちそうだよな」

 

「そうだな…。戒人だけじゃない。幸人だって元老院付きの魔戒騎士になれる力はあると思っている。あいつらも精進を重ねていくだろうさ」

 

「…ま、そうだろうな」

 

統夜のライバルである黒崎戒人は、統夜の元老院付きの話を聞いたらどう感じるかはまだわからないが、それを悲観することなく、変わらずに統夜をライバルと見据えてこれからも魔戒騎士として統夜と共に精進していくだろう。

 

盟友である統夜とアキトはそう信じていた。

 

こうして、統夜とアキトはそのまま元老院を後にしたのである。

 

そこでアキトと別れ、統夜は桜ヶ丘へと向かう。

 

グレスから受けた話を、紅の番犬所の神官であるイレスに報告し、元老院付きの魔戒騎士になるために色々準備をしなければいけないからだ。

 

こうして、統夜は、魔戒騎士として新たな一歩を踏み出すことになったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニーズヘッグとの激闘を終えた奏夜とララは、そのまま音ノ木坂学院へと向かっていた。

 

本来なら早く体を休めたいところであったが、穂乃果たちに一秒でも早く無事を報告したかったからだ。

 

「…あ!そーくん!!それに、ララちゃん!!」

 

穂乃果たちは、奏夜たちが戦っている間、部室にて待機し、奏夜たちの無事の帰還を祈っていた。

 

奏夜たちの姿を見かけて、穂乃果たちは奏夜とララに駆け寄る。

 

「…穂乃果…。みんな…ただいま…!!」

 

「奏夜…!終わったのですね!?」

 

「そーくん!おかえりなさい!!」

 

奏夜は帰還の報告を軽く済ませると、海未とことりが歓喜の声をあげる。

 

「まぁ、奏夜もララもボロボロだけどね…」

 

「そんだけ凄い戦いだったってことだよ!」

 

「だ、大丈夫!?奏夜君、ララちゃん!」

 

奏夜とララが戦いによって消耗しているのは穂乃果たちが見ても明らかだったため、花陽は心配そうに声をかける。

 

「大丈夫かと言われたら、決して大丈夫ではないがな…」

 

「私は問題ないわ。単純に力を使いすぎただけだからね…」

 

奏夜はいくら今は多少体力が回復しているとはいえ、消耗しているのは事実だったため、正直に報告していた。

 

「だけど、2人とも無事に戻ってきてくれただけでも良かったよ!!」

 

「そうね……!奏夜、ララ!本当にお疲れ様!!」

 

奏夜の無事を希は満面の笑みで喜んでおり、絵里は穏やかな表情で奏夜とララを労う。

 

「まったく…。あんたたちはいつも無茶するんだから…。心配させないでちょうだい…!」

 

にこは本気で奏夜たちのことを心配していたのか、不機嫌そうに呟く。

 

「にこ…。ごめんな、心配かけて」

 

「心配するのは当たり前じゃない!!小津先生だけじゃなくて、あんたたちまで失ったら、私たちはどうすればいいのよ!!」

 

にこは剣斗だけではなく、奏夜とララまで命を落としたらと最悪なことを考えてしまい、不安で押しつぶされそうになっていたのだ。

 

「…そうだよな…。俺も死ぬ訳にはいかないと思って戦っていたよ…。だけど、ニーズヘッグの怒りの力は俺の想像を遥かに越えるものだったんだ。奴の怒りの炎を受けて、俺は死を覚悟したくらいだよ…」

 

奏夜はニーズヘッグとの戦いで起きたことを軽く話すと、奏夜の不穏な言葉に穂乃果たちの顔が真っ青になる。

 

「だけど、そんな俺を救ってくれたのが剣斗だったんだよ…」

 

「…小津先生が、そーくんを?」

 

「ですが、小津先生は…」

 

命を落とした剣斗が奏夜を助けられるわけがない。

 

そう思っていたことりは首を傾げ、海未はその疑問をぶつける。

 

「厳密に言えば剣斗の英霊が俺に力を貸してくれたんだ。剣斗だけじゃない。俺が魔戒騎士になったばかりの時、俺を助けるために命を落とした先輩の英霊も…」

 

「私は信じるよ!だって、小津先生はそーくんの友達だもん!命を落としたとしても、そーくんを救ってくれたんだね!」

 

穂乃果は奏夜の言葉を信じており、そんな穂乃果の言葉に奏夜は無言で頷く。

 

「その力のおかげで、ニーズヘッグを倒す事が出来たんだ…」

 

「やっぱり命懸けだったんじゃない…」

 

剣斗やテツの英霊の力添えがなければ奏夜は命を落としていたと知り、にこはさらに不機嫌になってそっぽを向くのだった。

 

「そうだな。それに関しては返す言葉もないよ。だけど俺は絶対にみんなの元に帰ると決めてたんだ。生きて、これからもμ'sを見守っていくためにも!!」

 

奏夜のまっすぐな言葉を聞いてドキッとしたのか、にこは頬を赤らめる。

 

「ま、まぁ!!本当なら許せないけど、あんた

たちが無事に帰ってきたことに免じて特別に許してあげるわ!」

 

「ありがとう、にこ…」

 

こうして、奏夜とララは戦いが終わり、自身の無事を報告出来たのであった。

 

「確かにニーズヘッグは倒されて、ジンガの野望は砕いた。だけど、魔戒騎士としての俺の戦いは終わった訳じゃない。俺は、ホラーから人を守るのが使命だから……」

 

そして、ニーズヘッグとの決着が、魔戒騎士としての戦いの終わりでないこともすぐに伝えていく。

 

「わかってるよ!だけど、これからもμ'sのマネージャーとして、私たちを支えてね!」

 

「もちろんだ!そこに関しても頑張るつもりだ!」

 

それだけではなく、これからもμ'sのマネージャーを続けることも、改めて報告する。

 

奏夜はこのように決意するのだが……。

 

「……ごめん。私はこれ以上、みんなと一緒にはいられないわ」

 

ララは言いにくそうにしながらもこのように告げる。

 

その言葉に穂乃果たちだけではなく、奏夜も驚きを隠せなかった。

 

「ええ!?何で!?」

 

「私がここに来たのも、魔竜の眼を守るためだったからね。その役目は終わったわ。いや、いくら理由があるとはいえ、私は魔竜の眼の封印を解いてしまい、ニーズヘッグの復活を許してしまった。この罪は消えることはないわ。だから私は故郷に帰って、その罪を償わなきゃいけないの」

 

『その過程はあったが、ニーズヘッグは倒されたんだ。お前が罪に問われることもないと思うがな』

 

確かにララはニーズヘッグ復活のきっかけを作ってしまったが、キルバの言う通り、ニーズヘッグは倒されたのだ。

 

その事実を聞いても、ララは首を横に振る。

 

「ううん。いくらニーズヘッグは倒されたとしても、ニーズヘッグ復活によって里を危険に晒す可能性があったのも事実だもの。私は使命を果たせなかった魔戒法師として、きっと罰を受けることになると思うわ」

 

「そんなの、馬鹿げてるわよ!」

 

「真姫の言う通りだ!蒼哭の里の連中は里を守るためだけにその責務をララに押し付けたんだろ?それなのに、ララが罰を受けるなんて…!!」

 

蒼哭の里の話はララから聞いていたが、ララが罰を受けるかもしれないと聞き、奏夜と真姫は怒りを露わにする。

 

「…ありがとう。私のために怒ってくれて…」

 

奏夜は初めてララと会った時も蒼哭の里のあり方に怒っていたが、今回も同様に怒ってくれたのが嬉しかったのか、ララは穏やかな表情で微笑む。

 

「私ね、今回のことできっと里から追放される可能性は高いと思うの。だから、その時は旅に出ようと思う」

 

「…え?こっちには戻ってこないん?」

 

ララからの思わぬ言葉に、希は首を傾げながら訪ねる。

 

「うん。各地を旅しながら、魔戒法師として力を付けていくつもり。例え離れていたって、私はいつでもμ'sのことを応援しているから…!」

 

「ララちゃん……」

 

ララの決意を聞き、穂乃果たちは何も言うことは出来なかった。

 

「…ララ、また会えるよな?」

 

「もちろん!だって、私たちは仲間でしょ?」

 

「ああ!」

 

「だけど、私はひとつだけやらなきゃいけないことがあるの」

 

ララはそれだけ言うと部室を後にしたため、穂乃果たちはララを追いかける。

 

ララが向かったのは、屋上であった。

 

「…ララちゃん?どうするつもりなの?」

 

「私がこの学校にいたというみんなの記憶を消すの。私はいつここに戻ってこられるかもわからないし、もしかしたら戻ってこられないかも知れないからね」

 

「!?そんな!そこまでしなくても!!」

 

穂乃果は自身の存在の記憶を消そうとするララに異議を唱えようとするが……。

 

「その方がいいかもしれないな…」

 

「そーくんまで!!」

 

『ララは転校生として潜り込んでたからな。急にいなくなるのも不自然だろう。だったら、最初からいないことにした方が余計な混乱も起きないだろう』

 

「…うん、キルバのいう通りだよ」

 

ララがやろうとしてることの意図をキルバはわかっており、そのことに対してララは苦笑いをする。

 

「私としても、この学校は好きだからこうしたくないけれど、これが余計な混乱を起こさせない最良の手段だから…」

 

ララは魔導筆を取り出すと、精神を集中させ、上空に向かって法術を放った。

 

その術は雲に到達すると、その雨は雨雲へと変化し、唐突に雨が降り始めたのだ。

 

「大丈夫。μ'sのみんなは私の記憶は消さないつもりだよ。だってみんなは、私の仲間だもの…」

 

「ララちゃん……」

 

「……さようなら。ラブライブ、頑張ってね!離れてたって、私はみんなのことを見守ってるから…!!」

 

ララは穂乃果たちに別れの挨拶をすると、法術を放って、どこかへと姿を消した。

 

ララの姿が消えたと同時に、雨は止み、太陽が再び顔を出すのだった。

 

(ララ…頑張れよ…!俺は必ず、穂乃果たちを高みへ連れていくから、見守っててくれよな…!)

 

奏夜は心の中でララに別れの言葉をかわし、このように誓いを立てる。

 

ララがいなくなってすぐに奏夜は戦いで消耗した体を休ませるために音ノ木坂学院を後にし、穂乃果たちは奏夜抜きで練習を行うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日、奏夜は昨日の激闘で消耗してたのもあったのかぐっすりと眠ってしまい、遅刻ギリギリの登校となってしまったのだ。

 

「…おはよう!なんとか間に合った!」

 

奏夜はクラスメイトたちに挨拶をすると、自分の席に座る。

 

それと同時にチャイムが鳴り、担任の山田先生が教室に入ってきた。

 

「お、如月。珍しく遅刻ギリギリじゃないか。寝坊でもしたのか?」

 

「アハハ…、まぁそんなところです」

 

寝坊したのは事実だったため、奏夜は苦笑いしながらこう答えると、あちこちから笑い声が聞こえてきた。

 

「ま、次からは気を付けろよ。それじゃあ、朝のホームルーム始めるぞ〜」

 

こうして、朝のホームルームが始まった。

 

そこでは特に変わったことはなかったのだが、出欠確認の時、ララの名前は呼ばれることはなかった。

 

それだけではなく……。

 

「…あれ?なんか机がひとり分多くないか?誰かが転校してくるとも聞いてないが…」

 

山田先生はララの座ってた席を見て首を傾げていた。

 

そう。まるでララは最初から存在しなかったかのような扱いだったのだ。

 

「先生!そこは蒼井ララさんの席ですよ!」

 

それを見かねた穂乃果が山田先生にこう指摘するのだが…。

 

「……蒼井ララ??初めて聞く名前だが……」

 

山田先生は穂乃果の言葉を不思議そうに聞いており、改めて出席簿を確認するも、そんな名前が載っている形跡はなかった。

 

「…あっ……。すいません……」

 

穂乃果は、ララが自分たち以外の記憶を消したことをここで思い出したのか、ここで口を閉じる。

 

「…まぁ、いい。後でそこの机片付けておいてくれ。これでホームルーム終わるぞ〜」

 

こうして、ララの存在が消されていることを再認識したところで朝のホームルームは終了したのだった。

 

「……ねぇ、穂乃果、大丈夫?」

 

穂乃果が変なことを言っていると思ったのか、ヒデコ、フミコ、ミカの3人が穂乃果の席にやって来て、ヒデコが声をかける。

 

「アハハ、ごめん。私、変な夢見ちゃってたかも…」

 

穂乃果は苦笑いしながら、このように話を誤魔化していた。

 

ここでララがいたことを説明しようとするも、余計に混乱させるだけだと判断したからだ。

 

「穂乃果たち、ラブライブに向けて頑張ってるんだもん!そりゃ疲れも出るよねぇ!」

 

「う、うん…。そうなんだ…」

 

穂乃果の言葉を疑うことはなく、フミコは普段頑張ってる穂乃果に労いの言葉を送っていた。

 

そんな中……。

 

「だけど、何でだろうね?不思議なんだけど、確かにあの席に誰かいたような気がするんだよね。気のせいだとは思うけど」

 

ミカがララの席を見ながら不思議そうに呟いていた。

 

「ミカもそう思ってた?実は私もそれは思ってたんだ…」

 

「私も……」

 

穂乃果たち以外はララに関する記憶は消えているのだが、うっすらとララの存在の形跡を感じていたようであった。

 

「でもまぁ、後でその机も片付けておかないとね…」

 

ヒフミトリオの3人は、ララの席を不思議そうに見つめながら自分の席に戻っていった。

 

「…みんな、本当にララのことを忘れてしまっているのですね…」

 

朝のホームルームと、先ほどのヒフミトリオとのやり取りを見ていた海未は、寂しそうに呟いていた。

 

「そうだね……」

 

「そのおかげで、混乱もないみたいだし、これからも頑張っていかないとな……」

 

「…うん、そうだよね…!」

 

「そうですね。ララはこれからの私たちを見守ってるんですから」

 

「そうだよ!頑張ろうね!」

 

これからのμ'sの活動は剣斗だけではなく、ララもいない状態となる。

 

しかし、穂乃果たちはそんな状態だろうと、ラブライブ優勝という大きな目標に変わりはないのだ。

 

奏夜たちはこのように自分たちを奮い立たせる言葉をしたのと同時にチャイムが鳴り、授業は始まった。

 

こうして、ニーズヘッグとジンガは討滅されたが、穂乃果たちの日常は変わることはなく過ぎていくのであった。

 

そして放課後、奏夜は穂乃果たちに許可を貰い、番犬所へと向かった。

 

自分の口で改めてニーズヘッグとの戦いについての報告を行うためである。

 

「奏夜…。あなたの活躍は既に報告を受けています。本当に、よく頑張りましたね…」

 

奏夜から改めて報告を受けたロデルは穏やかな表情で微笑むと、奏夜に労いの言葉を送る。

 

「身に余るお言葉…。恐縮です」

 

番犬所の神官であるロデルの言葉を聞き、奏夜は深々と頭を下げた。

 

「今回の激闘を乗り越えたことで、あなたは魔戒騎士としてさらに成長を遂げたことでしょう。ですが、それに満足してはいけません。魔戒騎士として多くの人を守るため、さらに精進を続けてくださいね?」

 

「はい!俺はもっともっと強くなります!俺には、越えたいと思う、尊敬する魔戒騎士がいますから…」

 

こう決意を固める奏夜の脳裏に浮かんでいたのは、先輩騎士である統夜であった。

 

確かに自分は全力でニーズヘッグを倒すことが出来た。

 

しかし、その後現れたジンガを相手取る程の力は残っておらず、統夜にジンガの相手を託すことになったのだ。

 

そんな統夜は、邪気を高めて力をつけたジンガを難なく撃破してみせた。

 

だからこそ、まだまだ統夜とは実力の差があるのは歴然であるため、そんな統夜のような魔戒騎士になりたいと心に決めていたのだ。

 

「頼みましたよ、奏夜。そして、魔戒騎士としてだけではなく、ラブライブも気合を入れなければいけませんね?」

 

「…はい!」

 

番犬所の神官としての顔ではなく、1人のスクールアイドルのファンの顔を見せていたロデルは、μ'sを応援しており、次なる最終予選に向けて奏夜へ激励の言葉を送るのであった。

 

こうして、ロデルへ今回の戦いの報告を終えた奏夜は、魔戒剣の浄化を済ませてから番犬所を後にする。

 

ジンガを倒したことにより、1つの大きな戦いは幕を閉じた。

 

しかし、これが奏夜にとって最後の戦いではない。

 

人間の心に邪心があるかぎり、陰我は生まれ、ホラーは出現する。

 

それ故に、奏夜たち魔戒騎士の戦いには終わりはないのだ。

 

しかし、それでも奏夜は戦い続けるだろう。

 

魔戒騎士として、守りし者として…。

 

それだけではない。

 

奏夜はμ'sのマネージャーとして、これからもμ'sを支えていくことだろう。

 

それこそが、奏夜にとって大きな力になるのだから…。

 

陽光騎士である奏夜の戦いは、まだ終わらないのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

……蒼哭の竜詞編・終

 

 

 

 

 

 

 

 

──次回予告──

 

『やれやれ…。プライドの高い奴ほど、それが打ち砕かれた時、何をしでかすかわからんな。それこそが陰我に繋がるんだ!次回、「自尊」 その傲慢な陰我、断ち切らないとな!』

 




この章が終わり、この小説の牙狼サイドの話はひとつの区切りを迎えました。

前作小説にて、元老院入りの話を断っていた統夜でしたが、今回は元老院付きの魔戒騎士となる決意を固めました。

統夜にとって桜ヶ丘は大切な場所なのは間違いありませんが、この辺で統夜を元老院付きの魔戒騎士にしたいなと考えていたのです。

そして、ララは「炎の刻印」みたいに命を落とすことはありませんでしたが、里へ戻るという形での退場となりました。

今作のララをどうするか。

ここは大分悩みました。

ニーズヘッグとの戦いで命を落とすっていう展開も考えましたし、生存させてそのままμ'sのお手伝いをさせるという展開も考えました。

ですが、今回は生存はしたものの離脱という形での退場と決めたのです。

今後ララを再登場させるかどうかは未定ですが、おそらくは再登場はしないと思います。

次回からは再びラブライブの話が始まっていきますが、新章に入る前に番外編の話を投稿しようと考えています。

番外編はどのような話になるのか?

それでは、次回をお楽しみに!



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スーパースター放映記念 「懐旧」

お待たせしました!最新話は新章ではなく、番外編になります!

本当ならそのまま新章に行くことも考えましたが、この前まで放送をやっていた ラブライブ!スーパースター!! の1話を見て感じたものがあり、この「蒼哭の竜詩編」が完結したらこの話を投稿しようと、1話が放送された7月頃よりネタを暖めて執筆しておりました。

スーパースターの放送は終わり、二期はまだ先の話なので、今更感はあるかもですが、楽しんでいただけたら幸いです!

それでは、番外編をどうぞ!




……ここは、日本の首都東京。

 

今日もまた、多くの人が行き交い、賑わいを見せている。

 

そんな中、茶色のロングコートを羽織った青年が原宿の某所を歩いていた。

 

青年は町外れのとある場所に辿り着くと、コートから剣のようなものを取り出し、それを抜刀する。

 

そして青年は、剣のようなものを地面へ突き刺した。

 

すると、そこから黒い塊のようなものが飛び出してくる。

 

それを、青年は剣のようなものを振り下ろすことで真っ二つに切り裂き、黒い塊のようなものは消滅する。

 

青年は剣のようなものを緑の鞘に納めると、それをコートの裏地へしまった。

 

「…キルバ、浄化はこれで終わりか?」

 

青年は左手に嵌めている指輪へ語りかける。

 

すると……。

 

『ああ、これで終わりみたいだぞ』

 

指輪がカチカチと音を鳴らしながら、くぐもった男性の声を発していた。

 

この青年…如月奏夜は、陰我をゲートに現れ人間を食らう魔獣であるホラーを狩る魔戒騎士である。

 

そんな奏夜の相棒が、左手に嵌められている指輪…魔導輪キルバなのだ。

 

「それにしても、ここは管轄外だけど、エレメントの浄化を頼まれるなんてな」

 

奏夜は、秋葉原と神田と神保町あたりを管轄としている翡翠の番犬所に所属している魔戒騎士なのだが、管轄外であるこの原宿でエレメントの浄化を行っていたのだ。

 

『仕方あるまい。この管轄の騎士がホラーとの戦いでみんな重傷を負ってしまったのだ。復帰するまでは近くの管轄である俺たちがフォローしなければなるまい』

 

どうやらこの管轄の魔戒騎士は、ホラーとの戦いによって重傷を負ってしまったとのことで、しばらくの間はエレメントの浄化を行える者はいないのである。

 

そこで、奏夜にここの管轄でのエレメントの浄化の仕事を番犬所から受けることになった。

 

奏夜がこの仕事を引き受けたのには理由もあるのだが……。

 

「…まぁ、確かにそうだな。こういう時こそ助け合わないとな」

 

奏夜もまた、そのことを理解していたため、受けた仕事は確実にこなそうと考えていた。

 

その時である。

 

 

 

 

 

 

「〜〜〜♪♪♪」

 

 

 

 

 

 

オレンジのような明るいセミロングの髪の少女が、ヘッドホンを装着した状態で歌っていたのだ。

 

そのまま通り過ぎてしまったため、奏夜がその様子を見ていたことには気付いていない。

 

「へぇ、あの子……」

 

奏夜は通り過ぎていった少女を見て何かを感じ取ったのか、穏やかな表情で笑みを浮かべる。

 

『おい、奏夜。いったいどうしたんだ?』

 

「ああ、さっき女の子が通り過ぎていっただろ?それを見てたらなんか懐かしい気持ちになってな」

 

『なるほどな…髪の色も似てたし、“あいつ“のことでも思い出していたって訳か』

 

「…ま、そんなところだ」

 

キルバはとある人物のことを、あえてあいつと呼称していたことに奏夜は苦笑いをしていた。

 

『さ、とりあえずはやることはやったんだ。行くぞ、奏夜』

 

「そうだな」

 

やるべき仕事を片付けた奏夜は、どこかへと移動していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、原宿にある結ヶ丘女子高等学校にて、スクールアイドルが生まれようとしていた。

 

スクールアイドルとは、その字の如く、校内にてアイドル活動を行う者たちのことであり、そのスクールアイドルの甲子園ともいえる大会、「ラブライブ」が開催されて以降は爆発的人気を誇っている。

 

それを証拠付けるように、様々な学校でスクールアイドルが誕生し、まさにスクールアイドルの戦国時代と言っても過言ではない状態になってきているのだ。

 

そんな中、上海から結ヶ丘高校へ入った唐可可(タン・クゥクゥ)は、スクールアイドルへの憧れからスクールアイドルを始めようとしており、今まさに、同級生で自分に協力してくれている澁谷かのんを勧誘していた。

 

「…かのんさん!やっぱり…やっぱりやってみませんか?スクールアイドル」

 

「え?」

 

かのんは可可からのこの提案に困惑する。

 

昨日もかのんは可可からスクールアイドルの勧誘を受けたのだが、小学生の頃から舞台の上では歌えずそれを今も引きずっている過去があるためにスクールアイドルは無理だということを可可本人に伝えていたからだ。

 

「迷惑かと思って、言うかどうか迷っていたのですが…」

 

可可もそこは百も承知であり、再び勧誘すべきかしまいか迷っていた。

 

しかし……。

 

「…可可どうしても……どうしてもかのんさんと一緒にスクールアイドルがしたい!!」

 

可可は偶然かのんの歌声を聞き、その瞬間にこの人とスクールアイドルがしたいという思いが強くなっており、その強い思いを直接かのんにぶつける。

 

そんな可可の熱い言葉にかのんは一瞬ハッとするものの、すぐに表情を沈ませて……。

 

「…だからそれは…昨日も言ったでしょ?私、歌えないから。一緒に歌えないんじゃいるだけ迷惑になっちゃうよ」

 

すぐに可可に断りを入れる。

 

スクールアイドルというのは、踊るだけではなく歌も重要になってくる。

 

舞台の上で歌えないというのは、スクールアイドルとしては致命的だからだ。

 

だからこそかのんは、可可のサポートなら引き受けようと思っていたものの、自分がスクールアイドルになろうとは考えられなかったのである。

 

「かのんさんは歌が好きです。歌が好きな人を心から応援してくれます。可可はそんな人とスクールアイドルをしたい!」

 

それでも可可が諦めきれなかったのは、かのんが純粋に歌うことが好きだということがわかっていたからなのだ。

 

「お願いします!」

 

だからこそ、可可の勧誘はやや強引になっているのか、かのんに詰めよる。

 

「無理だって…」

 

「そんなことありません!」

 

「あるよ!!」

 

かのんは思わず感情を爆発させてしまったからか、可可の手にしていたチラシの山を叩き落としてしまった。

 

「…ご、ごめん…」

 

床に落ちたチラシたちを見てかのんはハッと我に返ったのか、申し訳なさそうに目を伏せている。

 

「がっかりするんだよ…。いざって時に歌えないと。周りのみんなもがっかりさせちゃうし、何より自分にがっかりする!そういうのはもう嫌なの!」

 

かのんは目に涙を溜めながら、自分の今抱えている気持ちをありのままにぶつけるのであった。

 

そんなかのんを見て、可可はなんて言葉をかけて良いのか一瞬わからなくなるが…。

 

「…応援します。かのんさんが歌えるようになるまで諦めないって約束します!だから、試してくれませんか?可可と、もう一度だけ始めてくれませんか?」

 

このように毅然とした態度で改めてかのんを勧誘する。

 

かのんはそんな可可の問いに答えることなく、顔を伏せたままヘッドホンを装着してそのまま踵を返して歩き出してしまった。

 

そんなかのんの背中を見守り、可可は寂しげな表情を浮かべながら床に落ちたチラシたちを拾い上げる。

 

(……いいの?私の歌を大好きって言ってくれる人がいて、一緒に歌いたいって言ってくれる人がいて…。なのに……)

 

かのんは心の中で葛藤していた。

 

可可が自分の歌声が好きで、一緒にスクールアイドルがしたいという強い思いは理解している。

 

だが、自分は人前では歌えない。

 

そんな自分はスクールアイドルをするのは無理である。

 

だからこそこれでいいのだ。

 

このように、かのんは割り切って自分の本当の気持ちに蓋をしようとしていたのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、本当にこれでいいのか?」

 

誰かに声をかけられてハッとしたのか、かのんは顔を上げて声のする方へ振り向いた。

 

そこにいたのは、茶色のロングコートを着た青年だったのである。

 

「……あなた、誰なんですか?」

 

女子校である結ヶ丘に男性がいるということもあったからか、かのんは目を細めて青年のことを警戒していた。

 

「…たいした者じゃない。俺は通りすがりのスクールアイドルのファンってやつさ」

 

その青年…奏夜は名前を名乗ることはなく、このようにおどけていた。

 

「たまたま君の歌声を聞かせてもらったんだがな。あの時、歌っている君はとてもキラキラと輝いていた。その姿はまるで、俺の知ってるとあるスクールアイドルのように……」

 

奏夜は懐かしそうにしみじみと語りつつ、かのんの歌声を評価する。

 

「あの、それって……」

 

そのスクールアイドルとは誰のことを言っているのか?

 

かのんはその疑問をぶつけようとするが、それを遮るかのように奏夜は再び語り出す。

 

「…俺が言いたいのはただひとつ。やるだけやってみたらいいんじゃないのか?だって君は……歌が好きなんだろう?」

 

そんな奏夜の言葉にかのんはハッとしていた。

 

人前で歌えないのは変えられない事実だ。

 

だが、自分は歌うことが嫌いではない。

 

むしろ好きではないか。

 

その気持ちを思い出したからである。

 

かのんは奏夜に一礼すると、ヘッドホンを外して踵を返すと、可可のいたところまで駆け出していったのであった。

 

「……」

 

奏夜は夢に向かって駆け出そうとしているかのんの背中を見て、かつて自分が関わっていたスクールアイドルのことを思い出していた。

 

今もなお、伝説として語り継がれているグループ。「μ's」のことを…。

 

『……おい、奏夜。お前、あの時のことを思い出してるのか?』

 

「……まぁな。あんな背中を見せられちゃ、どうしても思い出しちゃうだろ、あれは…」

 

奏夜は当時のことを思い出していたからか、穏やかな表情をしていたのだが、その瞳からはうっすらと涙が滲んでいた。

 

しかし、その涙をすぐに拭うと……。

 

「……頑張れよ……。君たちならきっと、新しい伝説ってやつを作ってくれるさ……」

 

かのんの背中に、当時のμ'sの片鱗を感じていたからか、奏夜はかのんにこのようなエールを送り、その場から姿を消したのであった。

 

それと同時に、かのんは可可のところへと戻ってきた。

 

「…はぁ…はぁ…はぁ…」

 

先ほどのところからここまで全力で駆け出したからか、かのんは息を切らしていた。

 

「かのんさん…」

 

可可はかのんが戻ってくるとは思わなかったからか、驚きを隠せずにいた。

 

(……小さい頃から、ずっと思ってた。私は歌が好き。ずっと歌っていたい。歌っていれば、遠い空をずっと飛んでいける。暗い悩みも、荒んだ気持ちも全部…力に変えて、前向きになれる。いつだって、歌っていたい……)

 

かのんが心の中でこのようなことを考えていたその時、不思議なことが起こった。

 

上空から1枚の白い羽根が降りてきたのだが、その羽根はかのんのリュックのポケットに収まったのだ。

 

そのことにかのんは気付いていないのだが…。

 

「……やっぱり私……」

 

かのんはこのように前置きをすると、自分の本当の気持ちを言葉として紡ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……歌が好きだ!!」

 

自分は歌が好き。

 

その感情を爆発させたかのんは、そのまま歌い出すのであった。

 

 

 

 

 

 

使用曲 ~未来予報ハレルヤ~

 

 

 

 

 

この場で歌を歌っていたのだが、かのんはその後どこかへと移動し、可可はそれを追いかける。

 

その場所とはなんと、人通りの多い街中であった。

 

かのんは今から歌おうとしていたのだが、いつの間にかギャラリーが出来上がっていた。

 

しかし、かのんはそのことなど気にすることなく再び歌い始める。

 

その歌は短いフレーズではあったものの、かのんの透き通った歌声に、ギャラリーから大きな拍手と歓声が起こる。

 

「…かのんさん…!素晴らしいです…!」

 

「……もしかして私……歌えた!!?」

 

かのんは、今まさに、ギャラリーのいる中歌えたことに驚きを隠せずにいた。

 

それ以上に、歌えたという事実に喜び、気持ちは高揚していたのであった。

 

そんなかのんを、奏夜は遠くから見守っていた。

 

「…俺の目には狂いはなさそうだな…」

 

奏夜はこう呟くと、近くにあったとある店へと入っていった。

 

その店の名前は……。

 

 

 

 

 

「COFFEE HONOKA」

 

 

 

 

と書かれた店であった……。

 

 

 

 

 

「いらっしゃいま……あ!そーくんだ!!」

 

「よう!今日も繁盛してるな!」

 

奏夜とこの店の店主は顔見知りなのか、お互い親しげに話をしていた。

 

「そういえば、今日面白いものを見てな……」

 

そして、奏夜は店主に今日見かけて、これからスクールアイドルとして動き出すだろうかのんの話を始めるのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

奏夜が近くの喫茶店に入って間もなく、かのんは可可にスクールアイドルを始める旨を伝え、この日は一緒に帰ることにした。

 

「…そういえば、かのんさん。どうして急にスクールアイドルをやろうと決意してくれたのですか?」

 

可可としては嬉しい限りなのだが、その前は強く断られていたこともあり、かのんがどのような心境の変化でスクールアイドルをやろうと決意してくれたのか知りたかったのだ。

 

「……通りすがりのスクールアイドル好きの人に背中を押されてね。私は歌が好きなんだってのを気付かせてくれたの」

 

「通りすがりの人ですか…」

 

可可は解せないと感じたからか、首を傾げている。

 

「あの人、茶色のロングコートなんて珍しい格好してたけど、いったい誰なんだろう…?」

 

「ちゃ、茶色のロングコートですか!?」

 

かのんの言った茶色のロングコートというのに心当たりがあるのか、可可は驚きを隠せずにいた。

 

「?可可ちゃん?」

 

「前に雑誌で読んだことがあります…!無名だったとあるスクールアイドルをラブライブ制覇まで導いた伝説のマネージャーがいたということを…!その人は茶色のロングコートを良く着ているということも書いてありました!」

 

「!?え?まさか、あの人、そんなに凄い人だったの!?」

 

「その人の名前は……」

 

可可は、スクールアイドルのマネージャーとしては有名人となっていた奏夜の名前を口にしていた。

 

こうして、新たなるスクールアイドルの物語が幕を開けるのだが、この物語を語るのは、まだずっと先である……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……終。

 




番外編なので話的には短めでした。

今回の話で奏夜が登場しましたが、この牙狼ライブの物語が終わってから10年後という設定になっております。

まだこの小説が完結していないので、色々伏せている部分は多いですが。

そして、奏夜は歌えずに悩むかのんを導く役として再登場しました。

牙狼ライブ スーパースターをやるのであれば奏夜は登場するのでしょうか?

まだ、牙狼ライブ サンシャインすら始まっていませんが 

今回は番外編というカテゴリーで出しているので、その辺の細かいところは気にせず楽しんでいただけたら幸いです。

ちなみに、次回も番外編を投稿し、その後に新章投稿予定です。

それでは、次回もお楽しみに!



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栄光への旅路編
暁月のフィナーレ発売記念 「狩猟」


お待たせしました!再び番外編となります。

今回の番外編は、12月7日実装された 「FF14 暁月のフィナーレ」の発売を記念した話となっております。

以前、「紅蓮のリベレーター」という拡張が発売された時にも番外編を出しましたが、その時は奏夜や穂乃果たちがFF14の舞台であるエオルゼアに迷い込み、そこで冒険をするという内容でした。

その次の拡張である「漆黒のヴィランズ」の実装の時は番外編は投稿出来なかったので、今回は番外編を投稿しようと思い立ったところです。

果たして、奏夜に待ち受けるものとはなんなのか?

こちらの作品は、FF14未プレイだとわからない単語が多く出てきますが、そういうもんだと思って楽しんでいただければ幸いです。

そして、プレイしてる人は、漆黒のヴィランズのパッチ5.5までのネタバレが含まれているので、これからその辺のストーリーを楽しむ予定の方はご注意ください。

それでは、番外編をどうぞ!





……ここは、日本の首都である東京。

 

日本一であるこの地は今日も多くの人が行き交い、賑わっている。

 

そんな東京にある秋葉原は、電気街という一面だけではなく、オタク文化も栄えており、それを象徴するお店も多々存在している。

 

コスプレをして街を歩いている者もいるのだが、そんな秋葉原の街に、まるでコスプレのような格好をした1人の男が立っていた。

 

「……ここは、いったいどこなんだ……?」

 

男は明るい長髪をなびかせながら周囲を見渡すが、東京の街並みに違和感を感じているようであった。

 

「…どうやら、ここはエオルゼアではないらしいな。なんらかの手違いでこの世界へ転移したのだろう」

 

男はどうやらエオルゼアと呼ばれる世界から来ており、世界を渡り歩く力があるようなのだが、何かの手違いにてこの地へと迷い込んでしまったようであった。

 

「……人は多いようだがどいつもこいつも脆弱そうな者ばかりだ…。狩りのしがいがない……」

 

この男はどうやら、エオルゼアと呼ばれる世界では狩りと称して殺戮を楽しんでいるようなのだが、終戦から戦争とは無縁である日本人を見ても興味を示すことはなかった。

 

そんな中……。

 

「……ほう?よくわからんが、狩るに相応しい獲物がいるみたいだな……」

 

男は何かを感じ取ったのか、どこかへと移動を始めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、翡翠の番犬所の魔戒騎士である桐島大輝は、指令にてとあるホラーと対峙しており、今現在交戦していた。

 

「…はぁっ!!」

 

そのホラーとはどうやら素体ホラーなのだが、大輝は魔戒剣を一閃し、素体ホラーを切り裂き、すかさず蹴りを放って吹き飛ばす。

 

「…!ぎ、ギィィ……!!」

 

素体ホラーは、魔戒騎士としてベテランである大輝に手も足も出ず、そのまま追い詰められてしまっていたのだった。

 

「…悪いが、一気に決着をつけさせてもらう!」

 

大輝は鎧を召還し、素体ホラーを倒そうとした。

 

 

 

……その時である。

 

 

 

 

 

 

「…!?グギィ……!!」

 

素体ホラーは突如現れた何者かの振り下ろした刀によってその身体を貫かれていた。

 

「……フン、この世界にもこのような魔物が跋扈していたか……。だが、たいしたことはないな……」

 

その人物とは、先ほどエオルゼアという世界からやって来た謎の男であり、その男が素体ホラーを刀で突き刺したのである。

 

男は刀を引き抜いたと思ったら再び素体ホラー目掛けて刀を突き刺し、素体ホラーはそのまま消滅してしまう。

 

「…貴様、いったい何者だ?まさか、魔戒騎士なのか?」

 

大輝からしてみたら、突然現れた刀を持つ男が難なく素体ホラーを倒したこの現実は青天の霹靂であり、警戒していた。

 

「…魔戒騎士?そんなものは知らないな」

 

「!?ホラーは魔戒騎士か魔戒法師にしか倒せないハズだ。それなのに、お前は何故ホラーを倒せたんだ!!」

 

大輝は驚きを隠せなかった。

 

魔戒騎士でもなければ魔戒法師でもない人物がホラーを倒せる訳はないのだから。

 

そのため、難なく素体ホラーを倒したこの男の正体を確かめるために、大輝は男へ剣を突き付けた。

 

「…俺はこの世界のことはよくわからんが…!貴様は騎士というならば、剣で問うのだな!!」

 

男は大輝に向かっていき、剣を振るうが、大輝は男の斬撃を魔戒剣で受け止める。

 

「…!?こいつの剣…!ただ者じゃないぞ…!!」

 

男の剣撃は想像以上に重かったからか、大輝は驚きを隠せなかった。

 

「…だが、こいつがホラーではなく人間だと言うならば…!」

 

大輝は男が仕掛けてきたために攻撃を受け止めたものの、男がただの人間である可能性があることから、反撃することが出来なかった。

 

魔戒騎士が斬れるのはホラーだけ。

 

これは魔戒騎士としての鉄の掟だからだ。

 

ただし、闇に堕ちた魔戒騎士や魔戒法師はホラーと同様の扱いになり、さらにはホラーの返り血を浴びた人間もまた、ホラーを引き寄せる存在のため斬らなければいけない。

 

このような例外は存在するのだが…。

 

「…どうした?反撃してこないのか?」

 

「本当ならそうしたいところだが…。お前がただの人間ならば、斬るわけにはいかん。それが魔戒騎士の掟だからな!」

 

大輝はこのように語ると、男はため息をつく。

 

「つまらん…。実につまらん…!攻撃してこない獲物など、狩りのしがいがないではないか…!」

 

大輝が反撃してこないと知ると、男はあからさまに肩を落としながら刀を振り下ろし、大輝を吹き飛ばす。

 

「…くっ……!」

 

「……牙をもちながらそれを向けない腑抜けなど……。消えろ……!!」

 

男は刀を地面に突き刺すと、そこから衝撃波を放った。

 

大輝はそれをかわそうとするも、その衝撃波の範囲は広く、かわすことは出来ずに受けてしまう。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

その衝撃波を受けた大輝の体は吹き飛ばされ、その攻撃により、倒れてしまう。

 

「…実につまらん……」

 

男としてみたら、魔戒騎士という未知の存在と遭遇だったが、その魔戒騎士が一切攻撃してこないことに激しく失望していた。

 

「ぐっ…!貴様……魔戒騎士でもホラーでもないのなら…。いったい何者なんだ……!」

 

大輝は男の攻撃を受けてもなお生きており、息が絶え絶えながらも男の正体を探ろうとする。

 

「…貴様ごとき、力を持っているのにそれを向けない者に語る舌はない。それに……」

 

男は刀を手にした状態でゆっくりと大輝に近付いていく。

 

「……貴様はここで死ぬのだから、俺の名前など知る必要はあるまい?」

 

男は大輝にとどめを刺そうとしていた。

 

しかし……。

 

「……大輝さん!!」

 

たまたま近くを巡回していた奏夜が、先ほど放たれた衝撃波を探知したため、こちらへと急行してきたのであった。

 

「…そ、奏夜…!気を付けろ……!そいつは…普通じゃない……!」

 

奏夜が大輝の前に立ち、魔戒剣を構えるのだが、男の存在を奏夜に警戒すると、大輝の意識はそこで途絶えてしまった。

 

「大輝さん!」

 

『奏夜、心配ない!大輝は気を失っているだけだ!』

 

男によってかなりのダメージを受けているものの、大輝は今すぐ命の危機という訳ではなかったのだ。

 

「…そうや……?“我が友“と名前が似ているが、どうやら別人らしい……」

 

「我が友…?なんのことだ!!」

 

「さてな…。貴様もそこの男と同じ、魔戒騎士とやらなのか…?」

 

「貴様が、大輝さんを…!!」

 

大輝は魔戒騎士としては、ベテランの実力者であり、その大輝を倒した男に畏怖の感情を抱く。

 

『奏夜。こいつはホラーではないが、ただの人間でもないみたいだ』

 

「!?どういうことだ?」

 

『さぁな…。だが、こいつがホラー以上に危険な存在なのは間違いなさそうだ…』

 

キルバは男から妙な気配を感じ取っていたのだが、ホラーでもなければただの人間でもないという不可解な解答だった。

 

「そこの指輪のいう通り、俺は普通の人間ではない…!だからこそ、思い切ってかかってこい!!貴様も騎士を名乗るのなら、その剣で俺を満足させてみせろ!!」

 

『…奏夜!そいつのいうことは真に受けずにここは退け!戦闘が長引けば、お前だけではなく大輝も危険だ……!!』

 

男が奏夜にも牙を向けようとするが、キルバは奏夜に撤退するように促す。

 

「…ああ、相手をしてやりたいところだが、今は大輝さんを助けるのが最優先だな…!」

 

奏夜はキルバの意見に賛同し、大輝を救出しようとしていた。

 

「…どうやら、その男がいたら貴様はまともに戦えないとみた」

 

男は奏夜と戦えないと知ると、刀を鞘に納める。

 

「…一日だけ待ってやろう。明日の夜、またここに来い。来ないのならば、不本意ではあるが、そこら辺の人間を狩ることにさせてもらおう…」

 

大輝から魔戒騎士は人間を斬らないと聞いていたため、このような発言をすれば、奏夜が逃げないと確信していたからだ。

 

「…貴様は何者だ!」

 

奏夜は踵を返して姿を消そうとする男に問いかける。

 

「…我が名はゼノス・イェー・ガルヴァス。世界の強き者を狩ることを生きがいにしている者だ…!」

 

「ゼノス…!!」

 

『やれやれ…。とんでもなく狂ってやがる…!』

 

ゼノスが戦いを求めていることを知り、キルバはそんなゼノスの狂気に呆れる。

 

「…また会おう…!我が友と似た名前を持つ男よ…!」

 

こう言葉を残すと、ゼノスはどこかへと姿を消すのであった。

 

「ゼノス…。とんでもない奴だな…」

 

『そうだな…。とりあえずは大輝を番犬所まで運ばないとな』

 

「ああ、わかってる」

 

奏夜は倒れている大輝を介抱し、そのまま番犬所へと向かうのであった。

 

「…奏夜。このような時間にここへ来るとは珍しいですね。…って、大輝!?いったいどうしたというのです!?」

 

奏夜が大輝と共に番犬所に入ると、それを見つけたロデルは驚きを隠せなかった。

 

大輝は既にボロボロだったからである。

 

「すいません。詳しい話は後にします。まずは大輝さんの治療を!」

 

「そ、そうですね!」

 

大輝の現状を見たロデルの付き人たちはすぐにベッドを用意すると、奏夜はそこに大輝を寝かせる。

 

そして、付き人たちは大輝に治癒の法術を放つのであった。

 

そうしている間に、奏夜はゼノスという男と遭遇したことを報告したのであった。

 

「…なるほど…。どうやらその男は危険な存在みたいですね…」

 

「はい…。あの男は俺が現れなければ、躊躇なく罪のない人たちの命を奪うでしょう」

 

『奴はホラーでもただの人間でもないのが不可解なところではあるがな…』

 

奏夜の報告を聞いて、ゼノスの問題は捨て置けないものであるとロデルは判断する。

 

「……そうですね……。その男が人間に危害を加える可能性があるのなら、ホラーと同様に危険な存在です…。奏夜、その男を討伐するのです」

 

「…わかりました。俺が奴を倒してみせます…!」

 

『やれやれ…。それにしても、ジンガやニーズヘッグのゴタゴタが終わってまだそんなに日が経っていないのに、面倒な相手が現れるとはな……』

 

キルバがため息をついていたが、ジンガとの戦いが終わり、ララが姿を消してからそこまで日が経っていなかったのである。

 

「…そうだな…。こっちとしても、穂乃果や花陽のダイエット計画で忙しいってのに……」

 

奏夜もこのようにぼやいていたのだが、ララと別れてから間もなく、穂乃果の妹である雪穂が穂乃果の最近の身体測定の結果を見付けてしまう。

 

そこで、穂乃果の体重が増加していることが判明してしまったのだが、そこから間もなく花陽もまた体重が増加していることが発覚。

 

そのため、海未が主導で2人のダイエットプランが始まったのであった。

 

奏夜もまた、μ'sのマネージャーとしてそれに協力している時に今回の事件が起きたのである。

 

「…それを聞いたら尚更、この件は迅速に片付けねばなりませんね……」

 

μ'sのファンでもあるロデルは、穂乃果たちの問題を解決してもらいたいために、このようなことを言っていた。

 

「その男がそれだけの手練であるならば、リンドウにも話をしておきます。…奏夜、頼みましたよ」

 

「はい!わかりました!」

 

こうして、奏夜は番犬所を後にし、この日は帰宅する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、奏夜は学校へはいつも通り登校していたが、穂乃果や花陽のダイエットの監督は海未や絵里に任せてこの後に迫る戦いに備えていた。

 

そして、約束の時間。奏夜が昨日訪れた場所へ行くと……。

 

「…来たか。時間通りだな」

 

ゼノスは既に来ており、奏夜を待ち構えていたのだ。

 

「ゼノス…!」

 

「待っていたぞ…!我が友と似た名前を持つ男よ…!」

 

「そんな変な呼び方をするな!俺は如月奏夜だ!!」

 

奏夜を妙な呼び方で呼ぶゼノスに苛立ちをおぼえた奏夜は改めて自分の名前を名乗る。

 

「…まぁ、貴様が何者だろうとどうでもいい…。貴様も騎士を名乗るのならば、その剣で俺を満足させてみろ!」

 

こう宣言したゼノスは、素早い動きで刀を抜き、そのまま奏夜に向かっていく。

 

「!?こいつ、速い…!」

 

ゼノスの素早い動きに奏夜は驚きながらも、すぐさま魔戒剣を抜き、ゼノスから振るわれる斬撃を受け止める。

 

「…くっ…!!こいつ……!!」

 

ゼノスの刀は想像以上に重く、奏夜は表情を歪ませる。

 

「…だが…!お前なんかに負ける訳にはいかないんだよ!!」

 

奏夜は激闘を乗り越えたばかりであったからか、眼前に現れた強敵が相手だろうと負ける訳にはいかない。

 

そんな強い思いが奏夜を突き動かさしていた。

 

奏夜は魔戒剣を力強く振るい、ゼノスの攻撃を弾き飛ばすと、そのまま蹴りを放ってゼノスを吹き飛ばす。

 

「…くくく…!いいぞ…!思った以上に冴えた剣じゃないか…!!これは狩りのしがいがあるというものだ…!」

 

ゼノスは奏夜の蹴りを受けて後ずさるが、すぐに体勢を整えており、笑みを浮かべる。

 

「だが、まだ我が友程の冴えはないが、この私を楽しませてみせろ!」

 

ゼノスはこう宣言すると、刀を地面に突き刺し、何かを行なおうとしていた。

 

『奏夜!気を付けろ!奴の刀から強大な力を感じる!』

 

「そうらしいな……。ならば!!」

 

奏夜は魔法衣の裏地から盾を取り出すと、それを前方に向けた。

 

奏夜はジンガとの決戦後も剣斗から託されたこの盾を使用しており、剣と盾を両方使用する戦闘スタイルに変わっていった。

 

奏夜自身、この戦闘スタイルに変わっての戦闘経験がまだ浅いため、まだまだ鍛錬が必要にはなってくるのだが。

 

奏夜が盾を構えたのと同時に、ゼノスの刀から衝撃波が放たれた。

 

「ぐっ……!!」

 

盾によりどうにか衝撃波を凌ぐことは出来たものの、強大な力であることはかわりないため、奏夜は表情を歪ませる。

 

「…ほう、これを耐えるか。そうでなくてはな!」

 

「なめるな!俺は、そう簡単に負ける訳にはいかないんだ!!」

 

奏夜はゼノスの攻撃を防いですぐにゼノスへ接近。

 

反撃を行うために魔戒剣を振るった。

 

ゼノスは奏夜の攻撃を後方に大きくジャンプすることで回避する。

 

「…なっ!かわされた!?」

 

攻撃をかわされるとは思っていなかったのか、奏夜は驚きを隠せなかった。

 

「次はこいつで遊んでやろう!」

 

ゼノスは手にしていた刀を納刀すると、次は違う刀を抜いた。

 

ゼノスの鞘は、3つの刀が納められる大きさになっており、回転するギミックがあるために、すぐに目当ての刀を取り出すことが出来るのだ。

 

ゼノスの抜いた刀の切っ先からは、雷を帯びていたのだ。

 

「この攻撃…かわせるかな?」

 

ゼノスが刀を振るうと、切っ先から帯びていた雷が奏夜へと向かって行く。

 

「…っ!」

 

奏夜はその雷の動きをギリギリまで見極めると、雷を回避し、そのままゼノスへと向かっていく。

 

「ほう…?やるではないか…。だが!!」

 

ゼノスは奏夜が接近してくる前に雷を帯びた刀を納めると、すぐさま違う刀を抜いた。

 

奏夜がゼノスに接近し、魔戒剣を振るおうとする前にゼノスは刀を振るうと、そこから突風が吹き荒れる。

 

「ぐっ…!」

 

奏夜はその突風によって吹き飛ばされてしまうが、すぐに体勢を立て直した。

 

「…なかなかやるではないか…!我が友ほど剣の冴えはないにせよ、俺を奮い立たせるに足る力を持っている…。だが、それがお前の本気ではあるまい?」

 

ゼノスは奏夜の実力を素直に認めていたものの、奏夜はまだ本気を出していないことをすぐに見抜いていたのである。

 

「…まぁな。だけど、小手調べはここまでだ!!」

 

奏夜はゼノスに押されているようにも見えたが、まだ本気は出しておらず、ゼノスの実力を見極めていたのだ。

 

「…そう来なくてはな!!全力でかかってこい!そして、最高に愉悦な殺し合いをしようではないか!」

 

『この男、とんでもない戦闘狂みたいだな…』

 

ゼノスは戦いそのものを楽しんでいる様子があったため、それを見抜いたキルバは呆れていた。

 

「そうだな…。お前みたいなやつをこのまま野放しには出来ない!お前は俺が斬る!」

 

「そうだ!その調子だ…!見せてみろ、貴様の本気を!!」

 

「…貴様の陰我、俺が断ち切る!!」

 

奏夜は魔戒剣を上空へと高く突き上げると、そのまま円を描いた。

 

その部分のみ空間が変化し、奏夜はその空間から放たれた光に包まれていく。

 

その空間から金色の鎧が現れると、その鎧は奏夜の身体に装着されていった。

 

こうして奏夜は、輝狼(キロ)の鎧を身にまとったのだ。

 

「ほう、金色の狼か…。これはより一層狩りのしがいがあるというものだ!!」

 

ゼノスは今手にしている刀を納めると、最初に手にしていた刀を抜き、そのまま奏夜に接近する。

 

すかさず刀を振るうのだが、奏夜は魔戒剣が変化した陽光剣を振るい、それを受け止める。

 

奏夜はそのまま陽光剣を力強く振り抜くと、ゼノスの攻撃を弾き飛ばし、すかさず陽光剣を再び一閃する。

 

ゼノスは咄嗟に後退り攻撃をかわそうとするが、陽光剣の刃はゼノスの体をかすめており、僅かながらゼノスにダメージを与えることが出来たのだ。

 

「…ほう。かすっただけでこれほどとはな…!なかなかの剣の冴えではないか!!」

 

ゼノスは痛みを感じていないどころか、奏夜の掠めた一閃に喜びさえ感じていた。

 

「お前が本気を出すならば、俺も本気を出すとしよう。簡単に倒れてくれるなよ?」

 

ゼノスはこう宣言をすると、精神を集中させる。

 

すると、今手にしている刀以外の鞘に納まっていた2本の刀が飛び出し、2本の刀は奏夜を挟むように地面に突き刺さった。

 

飛び出した刀は雷の刀と風の刀のようであり、それぞれの力が刀に蓄えられていた。

 

『奏夜!その刀をなんとかするんだ!奴はどうやらとんでもない攻撃をしようとしているらしい!』

 

「そうらしいな。だったら!!」

 

奏夜は魔導ライターを取り出すと、橙色の魔導火を陽光剣の切っ先に纏わせる。

 

そして、その魔導火は陽光剣だけではなく奏夜の身体にも纏われ、烈火炎装の状態になった。

 

奏夜は体を一回転させつつ剣を振るうと、魔導火を帯びた斬撃が2本の刀を一撃で吹き飛ばす。

 

吹き飛ばされた刀はそのままゼノスの鞘に納まり、ゼノスは先程以上に素早い動きで奏夜に接近。何度も斬撃を繰り出していた。

 

「くっ…!」

 

奏夜は咄嗟に盾を使って防御しようとするも、それ以上にゼノスの動きは早く、攻撃を防ぐことは出来なかった。

 

「…思い知れ!超越者たる力を!!」

 

両目から怪しい輝きが放たれた後にゼノスは奏夜に再び接近すると、妖気を纏った刀を力強く振るい、地面に叩き付ける。

 

刀が地面に触れた瞬間にそこから大きな衝撃波が放たれるのだが、あまりにも距離が近かったため、奏夜はそれを防ぐことは出来ずにそれをモロに受けてしまう。

 

「ぐあぁぁぁ!!」

 

その衝撃波によって奏夜は吹き飛ばされてしまうのだが、その一撃によって鎧が解除されることはなく、烈火炎装の状態が解除されるだけであった。

 

「くっ…!こいつ……!!」

 

奏夜は相当なダメージを受けながらもどうにか立ち上がり、陽光剣を構える。

 

「…ほお、これを耐えたか…。今の技は、かつてアラミゴの地にて我が友と相見えた時よりも技に磨きがかかっていたんだがな…」

 

ゼノスは聞きなれない地名と共にこのように呟いていた。

 

「…まだだ!まだ終わりじゃない!!」

 

奏夜は再び烈火炎装の状態になると、ゼノスへと接近。陽光剣を力強く振るう。

 

しかし、ゼノスはそんな奏夜の一撃を軽く受け止めるのであった。

 

「なっ…!?」

 

奏夜にとっては渾身の一撃だったのだが、それをいとも簡単に防がれてしまい、奏夜は戸惑いと驚きをみせていた。

 

「お前は確かに強い。以前の俺だったならば、簡単に蹂躙されていただろうな…」

 

どうやらゼノスは様々な戦いを経て今の力を得たみたいであった。

 

「だが、それが貴様の本気ならば、俺の敵ではない!!」

 

ゼノスは刀を振り抜くと、奏夜の手にしていた陽光剣を弾き飛ばした。

 

「終わりだ…!!」

 

ゼノスはトドメと言わんばかりに刀に妖気を纏わせてそれを奏夜に放つ。

 

奏夜はまだ手にしていた盾によってどうにか直撃は避けたものの、刀から放たれる妖気は凄まじいものであり、奏夜はそのまま吹き飛ばされてしまった。

 

「ぐあぁぁぁ!」

 

その衝撃によって地面に叩き付けられてしまった奏夜は、鎧が解除されてしまい、その場に倒れ込んでしまう。

 

「思った以上には楽しかったぞ…!俺の敵ではないものの、俺が狩るに足る男だ…!」

 

ゼノスはこう語りながら、奏夜の息の根を止めるべくゆっくりと近付いていく。

 

「こんな世界ではあるが、貴様のような男と戦えて楽しかったぞ…!」

 

「くっ…!!」

 

今の自分には戦う力は残っておらず、どうにか立ち上がろうとするも、立ち上がることは出来なかった。

 

(ここまでか…。くそっ…!ニーズヘッグとの戦いが終わったばかりだっていうのに…!)

 

この戦いは、ジンガやニーズヘッグとの決戦からそれ程時間は経っていないこともあり、奏夜はそれにも関わらず目の前の敵に殺されそうになっていることに悔しさを覚えていた。

 

「こんなところで…!負けてられるかよ……!!μ'sのみんなのために、俺は!死ねない!!」

 

奏夜は穂乃果たちを守るために死ねないという強い思いに突き動かされ、ゆっくりと立ち上がる。

 

「…ほう?まだ戦う力は残っていたか…。だが…」

 

ゼノスはとある方向に視線を向けると、そこには地面に落ちている奏夜の魔戒剣があった。

 

ゼノスの一撃で鎧が解除された時に、魔戒剣へと戻っていたのである。

 

(…どうする?さっきの攻撃で盾も吹き飛ばされてる。丸腰の状態でゼノスに接近しつつ、魔戒剣を回収する。それが俺に出来るだろうか…?)

 

先程の一撃で吹き飛ばされた際に盾も吹き飛ばされていたため、奏夜は現在丸腰である。

 

しかも、魔戒剣を回収するためにはゼノスの攻撃を掻い潜る必要があったのだ。

 

(無茶だとしても、やるしかない…!)

 

奏夜は覚悟を決めてゼノスに接近しようとした。

 

その時である。

 

「奏夜!無事か!?」

 

奏夜の先輩騎士であり、元老院へ先の事件の報告をしていたはずの統夜が駆けつけてきたのである。

 

それだけではなく、同じ番犬所所属のリンドウも一緒であった。

 

「リンドウ!それに…統夜さん!?元老院へ行ったのでは…?」

 

「詳しい話は後だが、ちょうど翡翠の番犬所に挨拶をと思って立ち寄ったんだ。そこでホラーじゃない妙な奴と奏夜が戦ってるから援護を頼むとロデル様から頼まれたんだ」

 

「まぁ、そういうこった。今のお前さんでも手を焼くとは、なかなかの手練みたいだな」

 

統夜は今ここにいる経緯を軽く説明すると、リンドウと共に魔戒剣を構えるのであった。

 

すると、ゼノスは統夜の姿を見て目を大きく見開いていたのだ。

 

「…おお…!!まさか、こんなところで相見えるとはな…!我が友よ…!!」

 

ゼノスは統夜に向かって“我が友“と言っており、その発言に統夜だけではなく、奏夜とリンドウも戸惑いを見せる。

 

「我が友?いったい何のことだ!」

 

『統夜、お前にこんな友達はいたか?』

 

「そんな訳ないだろ…」

 

「だろうな。どちらかというとお近付きになりたくないタイプだぜ」

 

統夜はゼノスの発言に面食らいながら拒否を示しており、それにリンドウも賛同していた。

 

「…トウヤ・ツキカゲ…。エオルゼアの英雄にして、俺と対等に戦える我が友だ……」

 

『どうやら、そいつはこいつとは別人みたいだが、同姓同名で顔まで似てるとはな…』

 

ゼノスのいうトウヤと統夜は別人なのは明らかなのだが、同姓同名かつ名前が同じことにイルバは苦笑いをする。

 

「…そのエオルゼアってのがなんなのかはよくわからないけど、俺は英雄なんかじゃない!我が名は奏狼(ソロ)。白銀騎士だ!!」

 

統夜は自分がゼノスのいう友ではないことを実証するために、魔戒騎士としての名前を高らかに宣言する。

 

「…確かに。顔は同じだが、違うらしい。俺とした事が、かの英雄と同じ顔の男を見て、少しばかり気分が高ぶってしまったようだ」

 

このようにゼノスは淡々と語っていたため、とても気持ちが高ぶっているようには見えなかった。

 

『やれやれ。それで気持ちが高ぶっているのかよ…』

 

「まったくだぜ…」

 

イルバとリンドウはそこを指摘し、呆れていた。

 

「我が友と同じ名前の男だけじゃない。そこにいる貴様も、相当な手練のようだな」

 

そして、ゼノスは統夜だけではなくリンドウにも注目していた。

 

「まぁ、そういうこった」

 

『リンドウ気を付けて下さい!今の奏夜が苦戦している相手です。相当手強いですよ!』

 

『そういうことだ。だから統夜も油断するな!』

 

リンドウの魔導輪であるレンが最初に警告を入れており、それをイルバも同調する。

 

「ああ、わかってる!」

 

「そうだな…!」

 

その警告に、2人は頷きながらゼノスを睨み付ける。

 

「…2人まとめてかかってこい…!俺をもっと楽しませてくれ…!!」

 

こう宣言したゼノスは統夜とリンドウに攻撃をしようとするのだが、それよりも早く、黒い靄のようなものがゼノスの前に現れる。

 

すると、黒いローブを着た青年がゼノスの前に現れたのであった。

 

「ああ!殿下!!こんなところにおられたのですね!?鍛錬されるのは結構ですが、勝手に違う世界に飛ばないで下さい!しかも、エーテルの存在しない異世界ではないですか…!」

 

黒いローブの青年は少しばかり大げさな口調で、ゼノスに話しかけていた。

 

「…ファダニエルか…」

 

この黒いローブの青年は、どうやらファダニエルと呼ばれているみたいだった。

 

「…おや?」

 

ファダニエルは、現在ゼノスと対峙している奏夜たちの姿を確認する。

 

「殿下の遊び相手としては不足のない強そうな方ばかりではないですか!!」

 

少し顔を見ただけだが、ファダニエルは奏夜たちが実力者であることをすぐに見抜いていた。

 

そして、統夜の顔をジッと眺めていたのだが……。

 

「…おや?おやおやおやおや?」

 

ファダニエルは、統夜の顔を見ると、何故かニヤニヤしだすのであった。

 

「そこのあなた!!かのエオルゼアの英雄であるトウヤさんではあ〜りませんか!!まさか、こんなエーテルのない世界でお会いするなんて!!」

 

ニヤニヤしながらも大げさな感じで、ファダニエルは統夜のことを先程ゼノスが行っていたエオルゼアという世界の英雄と勘違いをしていた。

 

「そこの男も同じようなことを言っていたが、俺はそのエオルゼアとやらの英雄なんかじゃない!!」

 

統夜は「またか」とげんなりしながらも先程と同様に釈明をする。

 

「…どうやら、そうみたいですねぇ。いくら様々な世界を冒険している英雄殿でも、さすがにエーテルのない世界を冒険なんてしてないでしょうからねぇ。…いや、彼はあの第一世界を冒険してたんですから、有り得ない話ではないですがね……」

 

ファダニエルは先程とは打って変わって至って冷静に統夜が自分の知っている人物とは別人だと判断していた。

 

そして、奏夜たちには聞き慣れない単語を連ねながらブツブツと呟いている。

 

『それにしても、そのエオルゼアとやらやエーテルとかはなんなんだ?俺様も初めて聞く言葉だぜ』

 

イルバは、ゼノスやファダニエルが話していた言葉の意味がわからなかったため、興味本位にその意味を聞いてみた。

 

「あなた方がそれを知る必要はないでしょうが、私たちはあなた方のいる世界とは別の世界の人間です。とはいえ、原初世界でもなければ鏡像世界でもない並行世界に殿下が飛ばれるとは思いませんでしたがね」

 

「俺も何故ここへ来たのかはわからん。獲物を求めて世界を飛んでいたのは間違いないがな」

 

ファダニエルやゼノスから放たれる言葉は奏夜たちには到底理解出来るような内容ではなかった。

 

「殿下、かのエオルゼアの英雄とそっくりさんと戦いたい気持ちはよ〜くわかりますが、そろそろ戻っていただかないと。我々テロフォロイの計画に多大な支障が出てしまいます!」

 

どうやらファダニエルはゼノスに加勢するのではなく、ゼノスを連れ戻すためにこちらへ来たみたいだった。

 

「…良かろう。思った以上に俺も力を使わされたからな…」

 

「おや!まさか、殿下をそこまで本気にさせるなんて!もしかして、そこのボロボロの少年ですか?」

 

ゼノスは渋々ファダニエルの言葉に従うのだが、ファダニエルはゼノスをある程度消耗させた奏夜に注目していた。

 

「あなたみたいな子供が、殿下と渡り合うとは!!ちょっとだけこの世界に興味がわいてきましたよ!!」

 

こう宣言するファダニエルは高笑いをするのだが、それは狂気に満ちたものであった。

 

「…とはいえ、こんな世界でのんびりしてる場合ではないですからねぇ。我らの崇高な目的を成し遂げるために、名残惜しいですが、この辺で失礼させてもらうとしましょう」

 

先程まで高笑いをしてりとは思えない程に冷静になったファダニエルは先程出現した時に現れた黒い靄を出していた。

 

そして、ゼノスもその靄の中へと入っていく。

 

「…金色の狼の鎧との戦い…。なかなか愉悦だったぞ…!是非ともまた、全力で殺し合いたいものだ。そして、そこの2人とも…な」

 

ゼノスは奏夜の戦いぶりを称賛すると、そのままファダニエルと共に姿を消し、自分たちのいる世界へと帰っていった。

 

『…なんだか、よくわからない奴らだったな……』

 

『そうだな…。そんな異世界のことを話したところで番犬所も信じられないだろう』

 

『そうですね。番犬所には、対象は異世界から迷い込んでいたが、奏夜と戦った後に元の世界へ戻ったと報告するのが無難でしょう』

 

ゼノスやファダニエルからの言葉はとてもそのまま番犬所に報告するのははばかれるものだったため、レンはこのように提案する。

 

「それが良さそうだな」

 

「ああ。とりあえず番犬所に戻ろう。俺としても、ロデル様への挨拶が中途半端になっちまったしな」

 

リンドウはレンの提案に賛成し、統夜は番犬所へ戻ることを提案するが、奏夜はその場で立ち止まり、拳を力強く握りしめて俯いていた。

 

「…あの男はああ言ってたけど、リンドウや統夜さんが来てくれなかったら、きっと俺は殺されていた…。俺は、あの男に勝てなかった……」

 

『……奏夜、確かに奴には勝てなかったが、奴はホラーではない。それに、奴らには奴らの目的があるみたいだから、こちらの世界へ干渉してくることもないだろう。だから、その敗北は気にするな』

 

キルバは、ゼノスとの再戦はないと判断したため、このように奏夜に励ましの言葉を送っていた。

 

「…ニーズヘッグとの戦いを経て、俺は強くなったと思った。…いや、そう思い込んでいただけなのかもな…」

 

奏夜としては、大きな戦いを終えた直後にこのような敗戦をしたことがショックみたいだった。

 

「奏夜、奴さんは異世界の人間なんだ。ホラーとは違う強さがあるのは仕方ないことだと思うぜ?むしろ、そんな奴相手に持ち堪えて生き延びたことだって十分な武勲だと俺は思うぜ!」

 

「リンドウのいう通りだな。確かに、あの男の狂気は捨ておけないが、俺たちは魔戒騎士だ。ホラーを狩り、人間を守るのが使命なんだ。だからこそ、気持ちを切り替えないとな」

 

『それに、お前さんがまたしょぼくれてると、お嬢ちゃんたちが心配するぜ?』

 

「…!!」

 

リンドウと統夜もまた奏夜に励ましの言葉を送るのだが、その後のいる場の言葉に奏夜はハッとする。

 

「…そうだよな…。あいつに勝てなかったのは事実かもしれない。だけど、ここで俺が足を止めてたら、みんなが心配するよな。せっかくまたラブライブに向けて頑張ってるところなのに…!」

 

「そうそう。その調子だぜ、奏夜!」

 

先ほどまで落胆していた奏夜が気を持ち直したのを見て、統夜は頷きながらも穏やかな表情を浮かべていた。

 

そして、奏夜は床に落ちた魔戒剣と盾を回収した後に、リンドウや統夜と共に番犬所へ戻り、ゼノスの一件を報告した。

 

とは言っても、先程レンの提案した通りの簡潔な報告にはなったのだが。

 

それでもロデルはその報告を聞き、奏夜に労いの言葉を送るのであった。

 

こうして、異世界から現れた妙な男との戦いは終わった。

 

ゼノスやファダニエルのいた「エオルゼア」とはいったいどのような世界なのか?

 

そして、彼らの組織であると思われる「テロフォロイ」の目的とはいったいなんなのか?

 

それを、今の奏夜たちが知る術はない。

 

だが、それがこの世界に直接の被害をもたらす事はないだろう。

 

しかし、その「エオルゼア」と呼ばれる世界には暗雲が立ち込めていた。

 

その暗雲に立ち向かう者の中心にいる者こそが、ゼノスやファダニエルが統夜を見てそっくりだと言っていた、英雄と呼ばれし男、トウヤ・ツキカゲなのである。

 

光の加護を受けし彼は、ゼノスやファダニエルと対峙することになるだろう。

 

だが、それはまた、別の物語である……。

 

 

 

 

 

 

 

……終

 

 




前回の番外編の時は奏夜たちがエオルゼアに迷い込む話でしたが、今回は逆の展開となりました。

FF14に登場するゼノスというキャラクターが大いに暴れた回となりました。

この番外編は何気に話が繋がっており、ジンガやニーズヘッグとの戦いが終わってまもなくという時系列になっており、何気にアニメ二期の7話の話も既に始まっている状態です。

7話関連の話は次回触れる予定になっています。

それにしても、ニーズヘッグとの決戦を経て成長した奏夜を負かしたため、ゼノスはそれほどの実力者であると御理解ください。

僕はFF14を統夜の名前で遊んでいるため、この話にもそれを投影しておりました。

そのため、本来は統夜vsゼノスにする予定でしたが、奏夜のピンチに統夜が駆け付けるという展開に変更しました。

その方が上手く話を繋げるかな?と思ったので。

今回は思いきりFF14の内容の詰まった回となってしまいましたが、僕自身が楽しんでるのもあったため、今回みたいな話は書きたいと思っていました。

とはいえ、わからない人も多いとは思うのでそこはすいません。

さて、次回はいよいよ新章突入となります。

改めてジンガやニーズヘッグとの決戦が終わり、奏夜たちはこれからどのように過ごしていくのか?

それでは、次回をお楽しみに!!



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第85話 「自尊」

お待たせしました!第85話になります!

早めに新章の投稿しようと思ったら、年が明けてしまいました。

今年もよろしくお願いします!

今年中にこの作品完結させられたらいいのですが…。

新章は「栄光への旅路編」となっております。

このタイトル通り、μ'sは栄光へと辿り着くことは出来るのか?

そして、今回の話は二期の7話の話も混ぜつつもオリジナルの話となっております。

ジンガやニーズヘッグの事件を解決させた奏夜たちを待ち受けるものとは?

それでは、第85話をどうぞ!!




……ここは、元老院の某所にあるとある牢獄。

 

ここでは、罪を犯した魔戒騎士や魔戒法師が投獄されている。

 

その罪状としては、魔戒騎士や魔戒法師でありながら守るべき人間に危害を加えたり、欲にまみれ罪を犯した者。さらには闇に堕ちそうな傾向のある者など、様々な者がいた。

 

そんな牢獄に、1人の魔戒騎士が投獄されていたのだが……。

 

「…はぁ…はぁ…はぁ…」

 

その魔戒騎士は、看守を殺害し、牢獄に貼られている結界をも突破して元老院から脱獄をしたのである。

 

「ふざけるなよ…!この俺が、サバックであんな小僧に負けただけじゃなくてあんなところに閉じ込められるなんて……!!」

 

その魔戒騎士…タクトはベテランの魔戒騎士であり、そのプライドの高さもあって、他の魔戒騎士を見下す傾向のあった魔戒騎士であった。

 

そんな彼が牢獄へ入れてられてしまったのは、今から2年前に行われたサバックがきっかけなのである。

 

タクトはサバックの2回線にて統夜と対決するのだが、自分より年下で経験の浅い統夜に圧倒され、ただ負けるだけならと魔導筆を用いた法術を使ってしまう。

 

その時のサバックより、魔導筆を用いた法術は禁止されていると明言されているのにである。

 

そのままタクトは反則負けになるところだったが、統夜がそれに異議を唱える。

 

それに、サバックを統括する朱雀という元老院の議長が容認し、試合は続行。

 

魔導筆を使ってもなお統夜には勝てず、タクトは神聖なるサバックでの戦いを汚した魔戒騎士として、牢獄に入れられていたのである。

 

それから2年経った今も牢獄にいたため、それだけ罪深いことをタクトはしていたのだ。

 

「…今の元老院は何もわかっちゃいない…!そんな元老院なんか、俺がぶっ潰してやるよ…!」

 

タクトは自らの罪を悔い改めるどころか、自分をこのようなところに閉じ込めた元老院に対して逆恨みという名の激しい憎悪を抱いていた。

 

「その前に、あの小僧だ…!奴のせいで俺の栄光はめちゃくちゃになったんだからな…!!」

 

それだけではなく、タクトはサバックの試合で敗れた統夜に対しても逆恨みの感情を抱いていたのだ。

 

ここまで憎悪が深ければ、それは強い陰我に繋がるのは必然であり……。

 

──そうだ、力ある魔戒騎士よ…。お前、全てを壊す程の力は欲しいと思わないか?

 

「……ホラーか。今の俺には何もない。お前らを受け入れ、俺を認めなかった愚か者共を叩き潰すのも悪くはないかもな……」

 

──よく言ったぞ!魔戒騎士よ!では、その身体を頂くぞ!!

 

タクトの脳裏にホラーの声が響き渡っていたのだが、彼の手にしていたハルバードのような形の魔戒剣がゲートとなってしまい、そこから現れた黒い帯状のものがタクトの中へと入っていく。

 

これが何かを理解していたタクトは声を発することもなく、ホラーを受け入れる。

 

こうして、元魔戒騎士のタクトは、ホラーに憑依されてしまったのだ。

 

「…くくく…まずは……」

 

タクトはこう呟くと、何処かへと姿を消すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜たちの活躍により、ニーズヘッグが倒され、世界の破壊を目論んでいた元魔戒騎士のホラーであるジンガの野望を阻止してから、1週間程が経過していた。

 

この頃になると、秋が深まっており、冬の到来も近付いていた。

 

現在は放課後なのだが、奏夜、穂乃果、花陽の3人が街中をジョギングしていた。

 

何故この3人だけでジョギングなのか?

 

それは、ジンガとの決戦が終わり、ララと別れてまもなくまで時間は遡る。

 

穂乃果の妹である雪穂が偶然にも以前行われた身体測定の結果が書かれた紙を発見したのだ。

 

そこには、前回の身体測定よりも体重が増加している事実が書かれており、雪穂はそれを由々しき事態だと母親に報告。

 

まもなくしてμ's全員にまでこの行き渡ってしまったのだ。

 

最初は穂乃果だけによるダイエット計画が始まるのだが、それからまもなくして、花陽もまた同様に体重が増加している事が発覚。2人でダイエット計画が行われることになった。

 

そして現在に話が戻るが、そのダイエット計画のプランの一つとして、ジョギングが組み込まれており、今まさにそれが行われているのである。

 

「…ほら、もっとしっかり体を動かせ!じゃないとジョギングの意味がないぞ!」

 

穂乃果と花陽を先導している奏夜が、2人を叱咤激励する。

 

「…はぁ…はぁ…そんなこと……言ったって……」

 

花陽は既に体力を使い切っているのか、息を切らせながらも奏夜に反論した。

 

「それに…。なんで2人でジョギングしてたのに、そーくんも一緒なのさ!」

 

本来ジョギングは穂乃果と花陽の2人だけで行われていたが、今は奏夜も一緒にジョギングに参加していたのだ。

 

「そりゃ、仕方ないだろ?あんなことしてたのがバレたんだからさ」

 

『むしろ、今よりきついメニューにされないだけ奏夜に感謝したらどうだ?』

 

「「うぐっ…!それは…!」」

 

奏夜とキルバの指摘が的を得ているのか、2人はすぐに口ごもる。

 

奏夜のいうあんなことだが、最初は2人でジョギングを行っていた穂乃果と花陽だったのだが、その道中にご飯屋さんを偶然見つけてしまう。

 

穂乃果はその誘惑に負けて花陽も道連れにしようとするも、花陽は最初はその誘惑と戦っていた。

 

しかし、どうしても誘惑には勝てず、しばらくの間はジョギングの途中にこの店へ寄るようになった。

 

それが海未にバレてしまい、こってりと絞られてしまう。

 

本来ならメニューの強化をすべきところを、奏夜が見張りとして付くという条件でその話はなかったこととなったのだ。

 

「…それに、俺としてもダイエットではないが、体は鍛えたいからな」

 

奏夜の体を鍛えたいというのは、日夜ホラーと戦う魔戒騎士としては当然のことのように思えるが、別の理由がある。

 

それは、突如現れた異世界の男と戦うことになった奏夜は全力で戦うも敗れてしまう。

 

そのことでトドメを刺されそうになったが、統夜とリンドウの救援があったのと、男の仲間が迎えに来たことによって戦いは中断。

 

男は元の世界へと戻っていったからだ。

 

一時的に敗北のショックにより自分を見失いそうになるがすぐに立ち直る。

 

だが、さらなる鍛錬が必要だと思った奏夜は、穂乃果や花陽の見張りついでに自分も鍛えようと考えていたのだ。

 

「えぇ!?そーくんは十分に強いと思うけど…」

 

「そんなことはないさ。確かに、大きな試練は乗り越えたかもしれないけど、魔戒騎士としてはまだまだ未熟だ。多くの人を守るために鍛錬は欠かせないんだよ」

 

『ま、そういうことだ。奏夜が現状に満足していい程の力を付けているとは思えんからな』

 

「アハハ…キルバは相変わらず奏夜君に厳しいね…」

 

キルバは奏夜が力を付けていることは認めているものの、魔戒騎士としてはまだ発展途上であると思っての発言であった。

 

それが厳しいと感じた花陽は苦笑いを浮かべる。

 

「ほら、俺のことよりも、まずはお前らのダイエットを頑張らないとな!」

 

「えぇ…!休憩したいし、ご飯が食べたいよぉ〜」

 

「私も…!」

 

奏夜は話を切り上げ、再び穂乃果と花陽にジョギングを頑張ってもらうべく発破をかける。

 

しかし、穂乃果と花陽は既にヘトヘトであったが、奏夜は途中で休憩させることはなく、ジョギングのノルマを終わらせた。

 

ゴールは神田明神であり、3人はそこに到着するのだが、それは穂乃果と花陽がジョギングをしている間に他のメンバーは体力作りのトレーニングをしようという海未の提案からだったのだ。

 

2人のジョギング終了後は学校へ戻ってダンスの練習を行う予定となっている。

 

2人の休憩が終わって奏夜たちはそのまま音ノ木坂学院へと向かおうとするのだが……。

 

『…奏夜。番犬所から緊急の呼び出しだ。至急来るようにとのことだ』

 

「!ジンガの件が終わり、ホラーの動きも活発ではないと思ったんだけどな……」

 

ジンガとの決戦が終わってからまだ日が経っていないにと関わらず緊急の呼び出しがかかったことに、奏夜は驚きを隠せずにいた。

 

「…悪い、そういうことだから、俺はここで失礼するよ」

 

「それなら仕方ないわね。後のことは私や海未に任せて、奏夜は魔戒騎士の使命に集中して?」

 

奏夜が急に呼び出されたのだが、絵里はこのように毅然と奏夜を送り出そうとする。

 

そんな絵里の様子に他のメンバーは少し驚きながらも、絵里の言葉に無言で頷いて了承していた。

 

「みんな、ありがとな!それじゃあ、行ってくる!」

 

こうして奏夜は穂乃果たちと別れて、そのまま番犬所へと向かった。

 

「……お、奏夜。来ましたね」

 

「はい、ロデル様。遅くなって申し訳ありません」

 

奏夜が番犬所を訪れると、既に大輝とリンドウが来ており、遅れてこちらへ訪れたことをロデルに謝罪する。

 

「気にしないで下さい。奏夜はμ'sのマネージャーでもありますからね。今も、練習を行っていたところなのでしょう?」

 

「はい、そうなのです」

 

ロデルは奏夜の事情を把握していたからか、少し遅れたからといっても特に気にする様子はなかった。

 

それは、大輝やリンドウも同様の様子である。

 

『それで、全員呼び出しとはどうしたんだ?ジンガやニーズヘッグの件はもう片付いただろう?』

 

「いえ、今回はその件は関係ありません。ですが、可及的速やかに解決せねばいけない問題が起きたのです」

 

キルバが呼びたしの理由を問うのだが、ロデルはこのように話を切り出す。

 

「皆さんは前回のサバックの時に、魔戒騎士らしからぬ振る舞いにてサバックの試合を汚して牢へ入れられたタクトという魔戒騎士をご存知ですか?」

 

「知ってるも何も、俺と奏夜はその時の試合を見ているからな」

 

「そうですね。統夜さんに勝てなかっただけではなく、禁止されている魔導筆による術を使ってましたもんね」

 

大輝と奏夜はその時のサバックに参加していたため、ロデルの話していたタクトの試合は目の当たりにしていた。

 

その時の印象は強かったからか、2人共忘れることなく記憶に残っていたのだ。

 

「俺はちょうど別任務があってサバックには参加出来なかったなぁ。だが、その辺の話は他の魔戒騎士やアキトから聞いていたぜ」

 

リンドウもその当時は魔戒騎士として活動していたのだが、指令があったため、サバックに参加は出来なかった。

 

しかし、サバックという魔戒騎士しては至高の舞台を汚したタクトの悪名はサバックに参加していない魔戒騎士たちにも知れ渡る程だったのだ。

 

「そのタクトですが、昨日元老院から脱獄したと報告が入りました」

 

「…っ!」

 

ロデルから聞かされたタクトの脱獄という事実に、奏夜は驚きを隠せずにいた。

 

「やれやれ…。なんで脱獄なんて馬鹿な真似をしたのかねぇ。そんなことをしたら、魔戒騎士としての資格を剥奪される可能性もあるだろうに」

 

リンドウもその事実に驚くも、それよりも脱獄という愚行行ったことに対して呆れている。

 

「まったくだ…。だが、奴の目的はなんとなく察しがつくがな」

 

リンドウの言葉に大輝は賛同するのと同時に、タクトが何故脱獄をしたのか、その目的がなんとなくわかっていた。

 

「…というと?」

 

「あの男はプライドだけは相当高いからな。奴が自分より年下の魔戒騎士に負けるなど相当に奴のプライドに傷がついただろう。奴は恐らくだが、統夜に対して相当な逆恨みをしているだろうな」

 

『やれやれ…。プライドが高いだけではなく逆恨みとは、つくづく救えないやつだぜ……』

 

『まったくです。ですが、そうなると、タクトの目的は統夜でしょうね』

 

大輝の推測にキルバとレンは賛同しており、それと同時にタクトの狙いも理解出来たのだ。

 

「そう考えるのが妥当でしょうね。統夜の所属していた紅の番犬所の管轄でも相当に警戒はしているでしょう。ですが、統夜は先日、こちらへ訪れていますし、今は元老院所属の魔戒騎士です」

 

「…そうか…!タクトがもしその情報を持っていたとしたら、紅の番犬所のある桜ヶ丘じゃなくて、こちらへやってくる可能性は十分にありますね…」

 

ロデルの話す通り、統夜は今となっては元老院に所属する魔戒騎士ではあるが、こちらを訪れたという事実があるために、この管轄内も警戒を強める必要があることを奏夜は推測していた。

 

「ええ。ですので、街の巡視を強化しつつ、タクトを発見したら、捕縛して下さい。ただし、脱獄した彼が闇に堕ちてしまった可能性も考えられます。その際は討伐ということになるであろうことを頭に入れておいて下さい」

 

「…っ!わ、わかりました!」

 

タクトが統夜に対して逆恨みの感情があるということは、その感情が陰我に繋がりかねないため、ホラーに憑依される危険もあれば、闇に堕ちてしまう可能性も否定は出来ない。

 

ロデルの言葉はそこをふまえてのものであった。

 

こうして、ロデルから指令を受けた奏夜たちは、そのまま解散し、手分けして街の巡視を行い、タクトの捜索を行っていた。

 

特に異常はみられず、気付けば夜になっていた。

 

「…それらしい人物はいないな…」

 

『そうだな。奴が現れたという報告は受けていないし、他の管轄でも現れたという報告は受けていない』

 

「そうか……」

 

キルバからの報告を受けた奏夜は、不安げな表情を浮かべていた。

 

『…奏夜。どうしたんだ?』

 

「タクトの狙いは統夜さんだろ?そのために、梓さんたちを人質にとる可能性もあるんじゃないかってふと思ってしまってな……」

 

『…なるほど。その可能性も有り得なくはないだろう。まぁ、それは月影統夜自身もわかっているハズだろうし、対策をしている可能性もあるんじゃないか?』

 

「…そうだよな…。もし狙われてるのが俺だったとしたら、大切な人たちを狙わせないように策を立てるだろうからな」

 

タクトが統夜のことを逆恨みしているため、統夜を仕留めるためになりふり構わない行動に出ることを奏夜は心配する。

 

しかし、キルバのいう通り、統夜が何かしらの対策を立てている可能性は高かったため、奏夜の心配は杞憂に終わっていた。

 

そんな時だった。

 

『…!奏夜!ホラーの気配だ!!こっから近いぞ!』

 

「!?こんな時に…!」

 

タクト捜索の途中ではあったが、キルバはホラーを探知したため、その事に対して奏夜は舌打ちをする。

 

「だが、ホラーと聞いては捨ておけないな。キルバ、行こう!」

 

『ああ!』

 

こうして奏夜はキルバのナビゲーションのもと、ホラーがいると思われる場所へと急行したのであった。

 

そして、現場に到着した奏夜の目に映っていたのは、ハルバードを手に佇む、妙な男の姿であった。

 

この日本では理由なく刃物や銃を所持しているだけで法律に反するため、警察に逮捕されてしまう。

 

そんな中でハルバードという殺傷能力の高い武器を所持しているのだ。

 

目の前の人物が一般人ではないのは明らかであった。

 

しかし、奏夜はその人物の顔を見た瞬間驚きを隠せなかったのだ。

 

何故ならば……。

 

「…あんたまさか…!元老院から脱獄したタクト…なのか?」

 

「…あ?ガキ、お前も魔戒騎士か。貴様のようなガキに呼び捨てにされる筋合いはない」

 

その男こそ、元老院から脱獄したタクトだったからである。

 

しかし、奏夜からタクトと呼び捨てにされたのが気に入らなかったのか、眉間に皺を寄せて奏夜を睨み付ける。

 

『…奏夜!気を付けろ!!そいつから…』

 

キルバはタクトの現状を伝えようとするが、奏夜は察しがついていたからか、魔導ライターを取り出し、魔導火を放ってタクトの瞳を照らす。

 

すると、タクトの瞳から不気味な文字のようなものが浮かび上がってきたのだ。

 

それこそ、タクトが魔戒騎士でありながらもホラーに憑依されてしまったということへの証明へなってしまった。

 

その事実を知り、奏夜は悲痛の表情を浮かべる。

 

「…どうして…!!」

 

ジンガもそうだったが、タクトもまた、人を守る魔戒騎士でありながらホラーに憑依されてしまう。

 

その事実に胸を痛めており、タクトの胸の内を問おうとする。

 

「…どうしてだ?そんなもん決まっている。俺は、俺のことをコケにしてくれた奴を皆殺しにしてやるんだよ。特に、サバックで俺の華々しい経歴に傷を付けやがったあのガキ…月影統夜だけは絶対にこの手で殺してやる……!!」

 

キルバが推測した通り、タクトはサバックでの敗北によって統夜に対して逆恨みの感情を抱いて憎悪していた。

 

その気持ちから産まれた陰我はかなりのものであったため、ホラーに憑依されてしまったのだ。

 

「…月影統夜がここを訪れたと聞いたが、どうやらこの街にはいないらしい。だったら、ここでお前を殺して月影統夜をおびき出すために奴の大切なものでも襲うとするさ」

 

そして、奏夜が先ほどまさに危惧していたことを、タクトは行おうとしていたのである。

 

「…あんた…。人を守る魔戒騎士だろ!?統夜さんを狙ってるなら、直接狙えよ!あんたに魔戒騎士としてのプライドはないのか!?」

 

タクトの身勝手な発言に奏夜は怒りの感情を抱き、その気持ちをタクトにぶつける。

 

しかし……。

 

「うるせえ!!黙れ!!」

 

そんな奏夜の言葉を癪に感じたのか、タクトはハルバードを振るう。

 

奏夜は咄嗟に魔戒剣を抜いてタクトの攻撃を防ぐのだが、その力はかなりのものであり、後退ってしまった。

 

「くっ……!!」

 

「魔戒騎士としてのプライドだぁ!?そんなもん、牢屋に入れられたあの時からとうに無くしてるに決まってんだろ!?なんせ、俺の崇高な経歴をあのガキが潰してくれやがったんだからな!」

 

ホラーに憑依されているせいもあるのだろうか、タクトは魔戒騎士としてのプライドなど微塵も持っておらず、その頭にあったのは統夜への復讐というあまりに身勝手なものであったのだ。

 

「あんたは…!もう魔戒騎士としてのあんたは死んだということだな……。だとしたら、容赦はしない!!」

 

目の前にいる男は魔戒騎士ではない。ホラーである。

 

改めてその事実を認識した奏夜は、魔戒剣を構えてタクトを睨み付ける。

 

「ホラーを狩るのは魔戒騎士の使命とはいえ、俺とやろうっていうのか。お前は確か、あの月影統夜の舎弟みたいなもんだろ?お前みたいなガキに俺が倒せると思うのか…?」

 

「ああ…!倒せるさ!!それに、あんたが本気で統夜さんを倒そうと思ってるなら、俺如き軽く蹴散らせないとな…!」

 

奏夜は魔戒騎士としてはベテランだったタクトが相手だとしても、勝つことの出来る自信があった。

 

それだけではなく、タクトにこのような挑発を投げる程の余裕はあったのだ。

 

「このガキが…!!調子に乗るな!!」

 

奏夜の簡単な挑発に乗ってしまったタクトは、奏夜へと向かっていった。

 

『やれやれ……。プライドが高いだけあって、簡単な挑発に引っかかってくれてるじゃないか……』

 

奏夜の挑発に激昂しているタクトを見て、キルバは呆れていた。

 

タクトは素早い動きで奏夜に接近すると、ハルバードを思い切り振り下ろす。

 

その威力によって奏夜を蹂躙しようとしていたが、奏夜はその攻撃を軽く回避した。

 

「悪いけど…!そんな短調な動きで俺を捉えられると思うな!!」

 

「このガキ…!今のはほんの小手調べだ!」

 

タクトは再びハルバードを振るうが、奏夜はそれも難なく回避する。

 

そして、その勢いのまま、タクトに接近する。

 

ハルバードによる攻撃は範囲が広いのはいいが、どうしても大きく体を動かして振るう必要があったため、接近することでハルバードを思うように振るえなくする。

 

奏夜はそこまで計算してタクトへ接近したのだ。

 

「甘いんだよ!!」

 

タクトは右手でハルバードを持っていたが、空いていた左手を奏夜に当てると、そのまま法術を放った。

 

タクトは法術の心得があるからか、魔導筆による法術を使えたが、ホラーに憑依されたことにより、魔導筆を使わずとも法術を使えるようになったのだ。

 

「ぐぅ…っ!!」

 

タクトの法術をモロに受けてしまった奏夜は後方へ吹き飛ばされてしまうが、すぐに体勢を立て直す。

 

「…そうだった…。こいつ、法術を使えるんだもんな…」

 

『だが、ホラーの力も混ざっている。魔導筆を使わずとも術を使えていたみたいだからな』

 

「そこの魔導輪の言う通りだ…!!俺は、ホラーの力を得たことにより、さらに力を付けた!!月影統夜如きに遅れをとっていたあの時の俺ではないぞ!!」

 

奏夜に一撃を与えたことにより気を良くしたのか、タクトは不敵な笑みを浮かべる。

 

「確かにあんたは元魔戒騎士のホラーなのかもしれない……。だけどな、俺はお前なんかよりずっとずっと強い奴がいることを知っている。お前なんかに負けはしないんだよ!!」

 

毅然にこう言い放つ奏夜の脳裏に浮かんでいたのは、かつて手も足も出ないほどに敗北したことがあるものの弱さを受け入れたことによって撃破した尊師と、怒りの権化と言われたニーズヘッグ以上の怒りを抱えていたジンガであった。

 

この2人と渡り合った自分なら負けるハズはない。

 

これは決して不遜な感情ではなく、試練を乗り越えたことによる自信であったのだ。

 

「ガキが、調子に乗りやがって…!お前如き、俺が軽くひねり潰してやるよ!!」

 

奏夜の毅然な態度に苛立っていたタクトは、その体を元の人間の体から、ホラーの姿へと変化させたのであった。

 

その身体は2倍ほどの大きさへと変化し、顔は人間の顔から牛のような異形へと変貌する。

 

『…奏夜!こいつはミノタウロス!!奴のパワーは相当なものだぞ!油断するな!』

 

元魔戒騎士であるタクトは、ミノタウロスという名のホラーへ憑依され、その力を得たのであった。

 

「ミノタウロスって、ギリシャ神話とかにも出てくるよな?まさか、同名のホラーがいたなんて…」

 

『その神話に出てくる奴がホラーだったという過去の記録が確かあったハズだが…』

 

奏夜はミノタウロスという名前に聞き覚えがあったのだが、キルバはそんな奏夜の認識は間違っていないことを伝える。

 

「なるほど…」

 

キルバの解説に奏夜は納得しながらも魔戒剣を構えていた。

 

「そんなくだらない話をしてんじゃねぇ!!」

 

奏夜とキルバの話に苛立ちを募らせたミノタウロスことタクトは、力強くハルバードを振るっていた。

 

奏夜はそんなタクトの動きを見切っていたからか、無駄のない動きでその攻撃を回避する。

 

「こいつ…!これならどうだ!!」

 

攻撃を回避されたことで奏夜と距離を取られてしまったため、タクトは再びハルバードを力強く振るい、衝撃波を放った。

 

奏夜はそれを回避しようとする様子はなく、ギリギリまで攻撃を引き付けていた。

 

そして……。

 

「…!!」

 

奏夜は魔法衣の裏地から素早く剣斗から託された盾を取り出すと、それを前方に突き出して、衝撃波を防ぐ。

 

「このガキ…!盾なんか隠し持ってやがったか!!しかもその盾…力もないくせに偉そうなだけな小津の人間の盾じゃねぇか!!」

 

衝撃波を防がれたことにタクトは苛立ちを露わにするのと同時に、元魔戒騎士なだけはあったのか、奏夜の手にしていた盾がどんな盾なのかは理解していた。

 

「……」

 

そんなタクトの言葉に、奏夜は言葉を発してはいないものの、その瞳からは怒りの感情が露わになっていたのだ。

 

奏夜は素早い動きでタクトに接近すると、何度も魔戒剣を振るってタクトの身体を切り裂く。

 

とはいえ、ホラー態であるタクトに決定打を与える程ではないが、動きを止める攻撃としては充分だった。

 

そして、追い打ちをかけるかの如く、奏夜は盾を前方に突き出してタクトへ突進。

 

自分の倍以上の体格のタクトを軽々と吹き飛ばした。

 

「…ぐっ!このガキ…!どっからそんな力が……」

 

そんな奏夜の怒涛の攻撃にタクトは驚きを隠せない。

 

「…この盾にはな、俺を友と認めてくれた剣斗の熱い想いが…魂が込められているんだ!何も知らないアンタに貶されていいものなんかじゃない!!」

 

奏夜は鋭い目付きでタクトを睨みつけながらこう言い放つ。

 

剣斗の父親からこの盾を託されたあの時から、奏夜は剣斗の魂と共に戦っているようなものだった。

 

そのため、軽い言葉で小津の名を貶したタクトが許せなかったのだ。

 

「魔戒騎士になったばかりのガキが偉そうに……!!」

 

そんな奏夜の毅然とした態度や言葉がタクトは気に入らなかったのか、苛立ちを込めた目で奏夜を睨みつける。

 

「…あんたのそのくだらないプライドが陰我となってホラーを引き寄せたんだ。いくら元魔戒騎士といえど、相手がホラーならば容赦はしない!」

 

奏夜は魔戒剣を構え、そのまま鎧を召還しようと考えた。

 

「そんな貴様の傲慢に満ちた陰我。俺が──」

 

俺が断ち切る。

 

そう断言しようとしたその時だった。

 

赤いコートを着た青年が、奏夜とタクトの間に入るかのように現れたのだ。

 

「…!?と、統夜さん…!?」

 

その青年こそ、タクトが恨みを持っていた月影統夜本人であった。

 

「…奏夜、悪いな。今のお前ならこんな奴は敵じゃないとは思うが、奴の狙いは俺だからな。俺がケリをつけようと思ったんだよ」

 

統夜がここへ現れたのは、元老院から脱走したタクトと直接対峙するためだったのだが…。

 

「統夜さんは桜ヶ丘の方で奴を迎え撃つのかと思ってましたよ」

 

「向こうの管轄は戒人と幸人に託してきた。そして、ここへ戻ってきた矢先にイルバがホラーの気配を探知してくれたんだよ」

 

「そうだったんですね…」

 

統夜がここへ現れた経緯を知り、奏夜はそれに納得していた。

 

そして……。

 

「まさか、貴様から現れてくれるとはな……。月影統夜ぁ!!」

 

タクトは忌むべき敵である統夜に対して怨嗟の込められた言葉と共に統夜を睨みつける。

 

「あんたが脱獄したことは聞いている。まさか、俺への逆恨みが度を越してホラーに憑依されるなんて思いもしなかったけどな」

 

『まったくだぜ。奴のプライドの高さは知っていたが、統夜に負けたことに対して逆恨みとは、つくづく救えない奴だぜ』

 

統夜はタクトがホラーに憑依されていることに驚いており、イルバはそんなタクトに呆れていた。

 

「黙れ!!貴様に何がわかるんだ!!」

 

そんなイルバの言葉に激昂したタクトはハルバードを振り下ろして統夜を叩き潰そうとしたが、統夜は魔戒剣1本でタクトの攻撃を受け止める。

 

「なっ…!?」

 

「そんな力任せの攻撃、防げるに決まってるだろ?むしろ、サバックで戦った時の方が、あんたの刃は冴えていたぜ」

 

統夜は魔戒剣を振るってタクトを弾き飛ばすと、すかさず何度も魔戒剣による斬撃を繰り出し、手にしていたハルバードをバラバラに切り裂くのであった。

 

「!?また俺の武器をバラバラにしやがっただと……!?」

 

サバックの時同様に自分の武器を破壊され、タクトは驚きを隠せなかった。

 

「…奏夜。奴を倒す気満々なところ悪いが、こいつは俺に譲ってくれないか?こいつがホラーになったのは俺への恨み故ならば、俺がその陰我を断ち切りたいんだよ」

 

統夜は魔戒剣を構えながら、タクト討伐を自分に任せて欲しいと宣言。

 

サバックの試合も見学しており、その背景を良く知っていた奏夜は…。

 

「もちろんです。統夜さんが今来なかったら、俺が決着を付けようと思いましたが、統夜さんがそう言うのならば、あなたに託します」

 

奏夜としては断る理由などないため、魔戒剣を鞘に納めると、後ろに下がり、タクト討伐を統夜へ委ねることにした。

 

「ありがとな、奏夜。お礼に今度何か奢るぜ」

 

統夜は笑みを浮かべながら奏夜へ感謝の言葉を送ると、再びタクトの方を見る。

 

「…お前の傲慢に満ちたその陰我……。俺が断ち切る!!」

 

統夜は力強くこう宣言すると、魔戒剣を上空へ高く突き上げると、そのまま円を描く。

 

その部分のみ空間が変化すると、そこから光が放たれ、統夜はその光に包まれる。

 

その変化した空間は真魔界へと繋がっており、そこから白銀の鎧が出現。

 

その鎧は統夜の身体へ装着された。

 

こうして統夜は、白銀騎士奏狼(ソロ)の鎧を身にまとったのであった。

 

「よ、鎧を召還したって関係ねぇ!!俺にはこの力があるんだ!」

 

タクトは両手を前方に突きつけると、そこから光の玉のようなものを統夜目がけて放った。

 

本来魔導筆で放っていた術を直接繰り出しているのだ。

 

統夜はゆっくりとタクトへ向かっていきながら、タクトの攻撃全てを受ける。

 

その攻撃で統夜の動きは止まることはないだけではなく、白銀の鎧に傷ひとつ付いていないのだ。

 

「なっ…!?効いてないだと……!?」

 

タクトは自分の攻撃が統夜に効いていないことに驚きを隠せなかった。

 

統夜はタクトへの接近に成功すると、魔戒剣から変化した皇輝剣を一閃。

 

タクトの両手を瞬時に切り落とした。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

両手を切り落とされた痛みで、タクトは断末魔をあげる。

 

「…これで終わりだ!!」

 

しかし、ここで統夜の攻撃は終わらない。

 

皇輝剣を再び横に振るうと、今度はタクトの身体を上下に真っ二つに切り裂いた。

 

「があぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

さらに身体を切り裂かれたタクトは再び断末魔をあげる。

 

「…こ、こいつここまで強く……。俺じゃ……勝てねえ……」

 

タクトは最期になってようやく統夜との実力の差を痛感したようであり、ミノタウロスに憑依されたタクトの身体は、その陰我と共に消滅したのであった。

 

統夜はタクトが消滅したのを確認すると、鎧の召還を解除し、鎧はそのまま真魔界へと還っていった。

 

その後統夜は、元に戻った魔戒剣を青の鞘に納めて、魔戒剣を魔法衣の裏地の中にしまう。

 

「……あんたも、そんなプライドを捨てて、人を守るために切磋琢磨出来ていれば、俺や奏夜だって尊敬出来る魔戒騎士になっただろうにな…」

 

ホラーに憑依されてしまったとはいえ、魔戒騎士だったタクトに対して統夜は哀悼の意を表する。

 

「そうですね……」

 

そんな統夜の言葉に奏夜も賛同しており、同様に哀悼の意を表していた。

 

「……さて、目的も達成されたことだし、一緒に番犬所へ報告しに行こうぜ。その後に俺は元老院に報告するからさ」

 

「はい!わかりました!」

 

こうして、指令を終えた奏夜と統夜は、共に翡翠の番犬所へ向かい、ミノタウロスに憑依されたタクトを討伐した旨を報告するのであった。

 

奏夜は尊師やジンガに引き続き元魔戒騎士であるタクトの討伐に関わることとなってしまい、複雑な心境を抱えることとなってしまった。

 

しかし、奏夜は歩みを止めない。

 

誰であろうとホラーは斬る。

 

それこそが人間を守るということに繋がるのだから。

 

それだけではない。

 

もうすぐラブライブの最終予選も始まろうとしている。

 

μ'sの夢を支えながら、その大きな夢を守るために戦う。

 

これもまた、奏夜の戦う動力源となっているのだから……。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

──次回予告──

 

『穂乃果たちの人気はだいぶ出てきてるみたいで何よりだな。それに、生徒会の仕事も頑張ってるみたいだしな。次回、「人気」。大変だが、それも乗り越えていかなければな』

 




今回登場したのは、前作の「白銀の刃」にて、統夜とサバックで試合をし、反則したにも関わらず統夜に敗れたタクトでした。

実は、タクトが統夜へ逆恨みしてホラーに憑依される話は考えていたのですが、ジンガやニーズヘッグとの戦いが終わるまでは暖めておこうと思っていました。

今回こうして暖めていた話を投稿出来たのです。

ただ、タクトをそのまま奏夜に倒させ、成長した奏夜の実力を見せつけようと考えましたが、タクトが恨んでいるのは統夜なので、統夜に決着を付けさせました。

新章はラブライブ本編の話がメインとなりますが、奏夜の魔戒騎士としての活躍回もどこかに入れたいと考えております。

ニーズヘッグ撃破以来、奏夜の活躍の場がない気がするので…。

そして、今回の話以降は統夜の出番は少なくなるかな?と思っています。

このままだと主人公の座を奪いそうな勢いなので(滝汗)

この作品の主人公はあくまでも奏夜ですからね。

そして、次回は7話の話を入れつつ、今のμ'sがどれだけ人気なのかがわかる回にする予定です。

展開はオリジナルが入るのかな?とは思いますが、いったいどうなるのか?

それでは、次回をお楽しみに!!



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