王子の弟という頭の痛いお仕事 (ドラオ)
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厄日

「む、目覚めたようだな。なに、夢を見た? 赤ん坊のときの夢で、どこかのお城みたいだったと?」

 

ベッドの側に立つお父さんが一瞬の変化も見逃さずにぼくを捉える。一方でまどろみの中にいるぼくは瞬時に今までが夢だったのだと悟り、その不思議であまりにも鮮明な内容を口にした。それを聞いたお父さんの訝しげな表情を浮かべて訊き返す様を見ると、ただの夢と思っているようだ。

 

「うん。どこのお城だったんだろう」

 

その言葉を発した時に気づく、明瞭だったはずの夢は、記憶の中で既に曖昧になっていた。

 

「わはは、ねぼけているな。眠気覚ましに外にでもいって風にあたってきたらどうだ」

 

眠りから覚めきっていない体と、ぼやけてしまった夢に対するもやもやを解消するためにも、お父さんの言葉に従うべきだろうと思い、ぼくはゆっくりと立ち上がる。

 

「……そうする」

 

背伸びをしてから外に出てみると、朝日が眩しくぼくの体へ降り注ぐ。夏も近づく温暖な気候とだけあって、爽やかな空気を運んだ風はぼくの火照った体を冷まし、雑念を浄化してくれた。

 

しばらくして部屋へ戻ると、お父さんから来月の来客に備えてしばらくは食堂にも顔を出せなくなる旨を伝えられた。

 

「そういうことだから、お前は兄と仲良く食べていなさい」

 

「はい」

 

ぼくは、朝食のために食堂へ足を運ぶ。と言っても、いつもの、各国の貴族を集めてパーティを行えるほど広い食堂ではなく、召使いや料理人の使用する食事室兼台所、所謂ダイニングキッチンで食べることにした。あのだだっ広い部屋を数人だけで使うのは寂しくて仕方ないからだ。以前はもっと食卓も賑やかだったはずなのだが、お父さんは例のように忙しく、何よりもお母さんと弟が食堂まで降りてこない。お母さんは弟の方をお父さんの跡継ぎにしたいらしく、後継者として上の立場のぼくや兄ちゃんを目の敵にしている。そのため、食事の際も顔を見せることがほとんどない。

 

なぜお母さんがそれほど弟に拘るかと言うと、弟だけが彼女の実の子だからだ。義理の母であるため、影のぼくに対しての振る舞いは仕方がないのかもしれないが少々度が過ぎていると思う。

 

一方みんなの気になっているであろうぼくの本当のお母さんはというと、早くに病気で亡くなっていて、それもぼくが赤ん坊のときだったから顔もおぼえていない。いや、先程の夢に……

 

だめだ、やっぱり霞んでしまって人の顔までは読み取れない。

 

「食べなきゃ……」

 

ぼくは幾ら頭を絞っても答えは出てこないことを知ると、顔を横に何度も振って朝食に手をつけはじめる。

 

 

無言で食事を終えて立ち上がろうとしたら何かが背中でもぞもぞ動いている。なんだろうか。

 

「わっっっっっ」

 

叫んだのはぼくではなく、召使いのトムさんだった。彼は大のカエル嫌いで兄ちゃんにいつもイタズラされてる。あれ、この背中の感触、まさか……

 

「うわぁ……」

 

明らかな両生類の感触を肌に感じながら、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。こういった悪戯は日常茶飯事なのだが、未だに慣れる気がしない。それにしても、いつの間に仕込んだのやら。その技術の高さには呆れるばかりだ。

 

「ちっ、アレンの反応はあんま面白くないんだよなー」

 

「人のいやがるとこを見て喜ぶなんて意地がわるいよ!」

 

このヌルっとした気色の悪さ、味わってみないとわからないだろう。今度トムさんと協力してあの人にやり返してやろうか……

 

『いけませんよ。そんなことを考えては。』

 

ぼくの胸あたりから制止の声が掛かる。指輪だ。理由は知らないが、チェーンを潜らせて首からさげた指輪が勝手に話しかけてくる。この黄色に輝く宝玉の付いた指輪を通して誰かが語りかけてくるのか、あるいは魔物の一種なのかもしれない。

 

「えー、だって」

 

そうでもしないと被害者の気持ちは分からない、そう言おうとした。

 

『仕返しをするなどヘンリー君と程度が変わりませんよ』

 

「……わかったよ」

 

反論はせずに素直に従う。何故だか逆らえる気がしないんだ。

 

『よろしい。それでこそアレンですよ』

 

物心ついた時から首にかかっていたこの指輪。そのとても優しく包み込んでくれる声は、本当の母の温もりを知らないぼくの心を埋めてくれるものだった。同時に色々なことを教えてくれる先生でもあった。読み書きから計算、呪文や……時々マニアックなことまで教わった(スカンガルーの誕生日は袋から顔を出した日らしい)。

 

「んじゃ、トムのバク転も見れたし、オレは部屋に戻るかな」

 

兄ちゃんは頭の後ろに両手を組み、足を大袈裟に振り上げながら部屋を出ていった。

 

ぼくも無言で食器を流しに片付け、洗いも手伝った。こんな所を見られたらお父さんに何て言われるだろうか、などと考えながら帰り際に少し気になったので弟を訪ねた。

 

「あら、アレン。もうご飯は食べたの?」

 

「うん」

 

お義母さんは表面上はとても良く接してくれる。だが、時々垣間見る薄暗い感情は、ぼくに何を訴えているのだろうか。まさか……

 

いや、下らない妄想は止めにして今日は弟のデールと何かして遊ぶことにしよう。

 

ぼくはデールが朝ご飯を食べ終わるのを待ってから、お父さんにお土産として貰ったトランプというカードを持ってきて見せた。

 

「デール、トランプで遊ぼう」

 

「それなーに?」

 

「えっとね、これが……」

 

 

____________

 

 

「楽しかった?」

 

「うん!」

 

「それなら良かった。それじゃ、おばさん、デール、おやすみなさい」

 

「ふふふ、アレンは優しいし顔立ちも良いからきっと将来は、将来は男前……になるわね」

 

あれ、なんか顔怖いんですけどこの人。とりあえず握りこぶし作るのやめてもらってもいいですかね?

 

「アレンお兄ちゃん、今日はたのしかった。おやすみなさい」

 

「あ、うん」

 

デールを楽しませることができて良かった。自分の部屋に行く途中でそんなことを考えていると窓から差し込む光に視線を奪われる。夕焼けはとても綺麗だった。

 

明日も楽しく過ごせるといいなぁ……

 

 

こうして1日が呆気なく終わった。ぼくの6歳の誕生日とともに……

 

 

 

 

 

お気づきでしょうが、ぼくの名はアレンです。先日6歳の誕生日を迎えました。

そして、皆さんはご存知でしょうか、この国の覇権争いを。

 

 

ここ、ラインハット国の次期国王候補は3人。特に期待されているのが国王の長子で、ぼくの兄ちゃんでもあるヘンリーと、現王妃の息子でありぼくの弟のデールだ。どちらが王に相応しいのか、城の者ばかりでなく城下町に住む町民たちもその話題に興味津々だった。国王が元気な内にそのような話をするべきではないとの声もあったが、それは少数派であった。一体、年端も行かぬ子供に何を求めるというのだろうか……

 

 

 

特に祝ってもらえなかった誕生日から1ヶ月ほどたったある日。

 

珍しく食堂でお父さんと会うと、今日は西のサンタローズの村から訪ねてくる人がいると伝えられた。先月から準備していたのはこれのことだったようだ。

 

そう言われたものの、何か準備するべきなのか分からず、結局いつものように勉強や呪文で、指輪の相手をしているだけになってしまった。

 

 

昼になると、お父さんの言ってた通り、戦士の格好をした男の人がぼくと同じくらいの子を連れてやってきた。それに加えて猫らしき何かも連れていた。

 

あの人がパパスさんという人だ。はねた髪が特徴的で、腕や大胸筋はとてもたくましい。顔や防具のきずがどれほどの戦場を駆け抜けてきたのか物語っている。

 

2人と1匹は王座の間へ行ってしまったけど、少しすると男の子が戻ってきた。ヘンリー王子やアレン王子と遊んでもらいなさい、とのこと。

 

アベルと名乗った少年は父と旅をしている最中なのだとか。ぼくは猫のような何かをわしゃわしゃしながら話を聞きだしてみようとする。

 

「プックルが懐くなんて珍しいね」

 

話を振られたことよりも先に目に付いたをいうことは、よほど珍しいことだったのだろう。目を剥いて驚いていた。その表情は少し嬉しそうでもあったのだが、何故だかは分からない。

 

「この子プックルっていう名前なんだね」

 

「うん」

 

そんな他愛もない会話をしながら、ヘンリー兄ちゃんの部屋の前まで歩いてきた。おすすめは決して出来なかったのだけれど、兄ちゃんとも遊んでもらえといわれていたのを彼は守るつもりらしい。素直ないい子なんだなぁ……

 

「だれだお前は? あっ、わかったぞ! 親父に呼ばれて城に来たパパスとかいうヤツの息子だろう!」

 

初対面にも関わらずあいも変わらず偉そうな態度で兄ちゃんは客をもてなす。その姿を見て、ぼくはため息をひとつ漏らしてしまった。

 

「うん、アベルっていうんだ」

 

「オレはこの国の王子、ヘンリー。王さまの次にえらいんだ。オレの子分にしてやろうか?」

 

「えっ?」

 

アベルは突然の勧誘に驚いたようだったが、兄ちゃんにとってそれは当たり前の言葉で、挨拶代わりだった。

 

「気にしないで、いつもこんな調子だから」

 

ぼくがアベルに説明をしていると、兄ちゃんが急にアベルを指差して笑った。

 

「わははははっ。子分にすると思ったか? だれがお前みたいな弱そうなヤツを子分にするか! 帰れ帰れ!」

 

「え…」

 

いくらなんでも強引な兄ちゃんにぼくも少し戸惑ってしまう。もしかすると、同年代の来訪を案外喜んでいるのかもしれない。

 

少し歪んではいるが、これも良いものかなと、微笑みを送り部屋から出ようとアベルに声をかける。

 

「……いこ、アベル」

 

「う、うん」

 

部屋を出るとアベルが遠慮がちに尋ねてきた。

 

「ヘンリー王子ってああいう人なの? 王子っていうからにはもっと上品なのかと…」

 

「うっ……その言葉、けっこう僕にもダメージが来るんだけど」

 

「あっ、そういえばアレンも王子だったね」

 

2HIT!!

 

アレンは 気絶しかけた!

 

 

ぼくは城の案内をしながら、彼の旅の話を聞いた。どれも興味をそそるものばかりで、特に船旅ってどんなのかとっても気になる。ほら、ぼくって生まれてからずっと城の中で過ごしているじゃないですか。え、知らない?

 

 

一通り見てまわり、兄ちゃんの部屋前まで戻ってくると、パパスさんが困った様子で立っていた。

 

「どうしたのお父さん?」

 

「ヘンリー王子のお守りを頼まれたのだが、参ったことに嫌われてしまったらしい」

 

迷惑をかけてしまったことを兄ちゃんに代わってお詫びしなければ、と自然に思わされた。

 

「すみません……うちの兄が」

 

「歳の割にはしっかりした子だ。あなたがアレン王子ですか」

 

そういって目線をぼくと同じ高さにして頭をポンポンとなでてくれたのだけど、パパスさんはぼくを見つめたまま動きが止まってしまった。

 

「……」

 

「どうしました?」

 

「む、いや……なんでもありません」

 

虫でも付いているのだろうか。それなら言ってくれればいいのに。

 

「お父さん、ぼくがヘンリー王子のとこに行ってくるよ」

 

「おお、そうか! お前なら子供どうし友達になれるかも知れん。父さんはここで王子が出歩かないよう見張ってるから頑張ってみてくれ。頼んだぞ!」

 

ぼくは一度追い払われていることを思い出して口にする。

 

「さっきはだめだったけどね」ボソ

 

「しーーっ!」

 

そして再び兄ちゃんに緊張気味にアタックをかけるアベルだったが、兄ちゃんもアベルを実は待っていただろうし、心配はいらないと思う。

 

「なんだ、やっぱり子分になりたくて戻ってきたんだな? なら、奥の部屋の宝箱に子分のしるしがあるからそれを取ってこい! そうしたら、おまえを子分と認めるぞ」

 

今度はアベルも強引な発言に動揺せず、無言で奥の部屋へ行き、ぼくもそのあとに続く。

 

 

アベルは 宝箱を 開けた!

しかし 宝箱は からっぽだった……。

 

「……なにも入ってないけど?」

 

「あー、このパターンか……」

 

兄ちゃんの悪戯のレパートリーは数知れず、これもその内の1つだ。日々更なる悪戯の高みへと登るべく実験を進めているらしい。研究熱心なのは尊敬に値するが、その対象が悪戯なのはちょっと……

 

兄ちゃんの間違った方向への熱意に少し引きながら部屋に戻ると、予想していた通り、兄ちゃんは部屋から姿を消していた。もちろん、ただ部屋を出ただけではない。その証拠に、入り口に立っているパパスさんに聞けば通っていないことが分かるだろう。さて、兄ちゃんがどこに消えたかだが、先程座っていた椅子の下に隠し階だ……ん?

 

「あっ、階段」

 

えっ、そんなに早く見つけたらこのゲームの醍醐味が、ましてや30分かかったぼくのプライドが……

 

 

 

 

……で、そんなことを考えながら何故ぼくは連れ去られているのだろうか。

 

太い腕にホールドされて叫ぶ間もなく賊に兄ちゃんと何処かへ運ばれてしまう。

 

アレンと ヘンリーは 誘拐された!

 

______________

 

 

ガシャン!

金属音が部屋に響く、その音でぼくは目を覚ました。

 

いや違う、ここは部屋じゃない。遺跡……?

そうか、城の東には確か遺跡があったはずだ。 そしてぼくの目の前には鉄格子。どうやらここは牢屋のようだ。

 

牢屋の前にはたった今南京錠を施錠した盗賊が2人、何やら立ち話をしているようだった。

 

「よし、これで仕事は終わりだ。あとはさっきの部屋を借りて飲むぞ。しばらくは食うに困らねぇな」

 

こういった人物によくある、顔に切り傷をその男も身につけながら懐にあるらしい通貨をバンッと叩いて、にやけ顔をつくる。

 

「しっかし、王妃もひどいことをさせますね。こんな子供を殺せなんて」

 

その男に対して痩せ型の男が下手に出る所を見ると、傷顔の男は親分らしかった。

 

「実の子を国王にするためらしいな。まあ、光の教団とやらが買い取ってくれるから、殺さずに済んだ。流石に子供を殺すなんて良心が痛むからな」

 

盗賊に良心云々があるのか疑問だが、そんなことよりもお義母さんがぼく達を殺そうとしていた? そこまで憎んでいたのか……

 

「まったくですね……」

 

男達は話をしながら酒を飲みに行ったようで、話し声は段々聞こえなくなっていった。

 

 

『ひかりのきょうだん』。何のことだろう。気になることが多すぎて何を優先すべきなのかも分からない。取り敢えずここから出ることが先決か?

 

そばにはまだ気絶したままの兄ちゃんもいた。この緊急事態にも関わらず、すやすやと寝ている。なんでそんなに気持ち良さげに眠っているんだよ、とぼくは横たわっている悪戯小僧を揺り起こす。

 

「ここからはやく抜け出そう」

 

「でも、どうやるんだよ」

 

その言葉を聞いて少し考える。もう既に考えは浮かんでいたが、果たして上手くいくかどうか。

 

「メラ!」

 

ぼくの手から放たれた火の玉は鉄格子を溶かす。

 

「おお、いいぞ! これを繰り返せば…」

 

「「出れる!」」

 

______________

 

 

それから何度もメラで鉄格子を溶かしているが、中型犬なら通れそうなぐらいまでは溶かした。

 

「メラっ!……」

 

突然青ざめたぼくは、体を硬直させながら兄ちゃんの方を振り向く。

 

「MP、切れちゃった、みたい」

 

すると兄ちゃんは呆れたといった様子で足を踏み出した。

 

「だからお前は昔からもっと体を使えと言っているだろ!」

 

グイイィ…

 

熱されて柔らかくなった鉄格子は兄ちゃんが足で押すことによって曲げられていった。

 

てつごうしを やっつけた!

アレンは レベルが 上がった!

 

「よし、逃げよう!」




王妃(後の太后)の口調を多少いじっておりますが本編に影響はありませんのでご安心下さい。


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本日は晴天なり

アレンの一人称が変わっています。ご注意下さい。


俺の名はアレン。今はラインハットで王子としてのんびり平和に、もう遊んで暮らそうかなしている最中だ。爽やかな風が通り抜け、桜の花びらを散らしていく。俺がこうして優雅に紅茶を飲んでいるというのに、目の前の兄、ヘンリーがうるさい。

 

「おいアレン、なにやってんだ!その水、飲んじまったら今日の分はもうなくなるぞ」

 

え。

 

「うわぁぁーー!!」

 

兄の言葉に俺は青ざめ、叫びながら頭を抱えた。

やっちまった……

これからキツい労働が待っているというのに、水が無かったら脱水症状で死んでしまう!今世紀最大のミスだ……

 

「ったく……しょうがねえな。俺のを分けてやるよ」

 

「どうせまた、現実逃避でもしていたんだろ?これで何回目なんだよ……」

 

呆れながらも俺に水を分けてくれる兄さんとアベル。ごめん、ありがとう……

 

 

6歳の時にここへ連れ去られて以来、肉体労働を強いられる毎日だ。ここはセントベレス山という標高のとても高い所で、光の教団が神殿を作ろうとしている。まあ、作るのは俺達奴隷の仕事なわけだが、いつこの仕事が終わるのか、神殿完成がいつなのかはわからない。

 

 

ここに至るまで何があったのか経緯を話そう。

 

 

 

 

「よし、逃げよう!」

 

10年前に誘拐された時、俺達は鉄格子を苦労の末折り曲げることに成功し、遺跡から脱出をしようと勢い良く飛び出したのだが……

 

「オレは……もどるつもりはない」

 

「え?」

 

「お前はどうか知らないけど、オレはいないほうがいいんだ。王位を継ぐのはデールでいい」

 

俺はその言葉を聞いた時、手が勝手に動いていた。

 

パァン!

 

「兄ちゃんは、お父さんの気持ちを考えたことがあるのか!……もう知らない! え、親父にも殴られたことはない? あっそ!」

 

「え…」

 

俺はそう言うと走り出し、この遺跡から逃げようとした。

 

 

しかし、それを察知したかの様に魔物が現れた。深緑のローブを纏った老婆、魔法使いが3体、こちらへ敵意剥き出しで近づいてきた。俺は冷や汗を拭い、懐からナイフを取り出して構える。焦るときこそ冷静さを失わない、武器は常備しておく、どちらも指輪から教わったことだ。

 

「くっ……いくぞっ!」

 

1体ずつ焦らず……そう頭で唱えながら必死にナイフを振るった。幸い、やつらは杖でしか攻撃をしてこなかったため、1体目をすぐに倒すことが出来た。

 

俺の心に余裕ができたため、まだ牢屋の中で立ち竦んでいる兄に注意を払うことができた。

 

「兄ちゃん! 今の内に逃げて!」

 

だがこのとき、俺は片方の魔法使いに背後を取られたことに気づいていなかった。

 

「お前、後ろ!」

 

振り向くと、そいつの杖からメラが今にも放たれようとしていた。

 

(当たる……! 焼き鳥にされちゃう!)

 

俺は咄嗟に目を閉じ、焼き豚にされることを覚悟した。

 

ザシュ

 

突如、斬撃の音が魔法使いがいるはずの場所から聞こえてきた。目を開けると、アベルが魔法使いに止めを刺していた。

 

「アレン、大丈夫?」

 

その顔を見た瞬間、今までの緊張の糸が切れて一気に疲れが押し寄せてきた。

 

「あっ」

 

倒れかかった俺をアベルは支えてくれた。その間に、残りの魔法使いをパパスさんとプックルが倒してしまった。

 

「ありがとう、ごめん。もう大丈夫だから」

 

「さあ、追っ手が来ない内にここを出よう」

 

さあ、今度はぼくが焼く番だ!覚悟してろよ魔物ども!とかこの時考えてたと思う。

俺達はパパスさんの後に続き、出口へ向かった。

 

 

出口が見えてきた時、

 

「ほっほっほっ。ここから逃げだそうとはいけない子供たt……子供たちですね。この私がおしおきをしてあげましょう。さあ、いらっしゃい!」

 

「そうはさせるか!」

 

突然現れた気色悪い肌色で紫ローブ姿の野郎が俺達に襲いかかってきた。威圧感が凄まじく、立っているのがやっとだった。パパスさんは奴の攻撃を避けつつ、器用に攻撃していった。

 

(パパスさん、やっぱり強い……でもあいつ、いつまでも不気味な笑みを浮かべて余裕そうだ)

 

「小賢しいですね。ここはひとつ……いでよ、ジャミ!ゴンズ!」

 

その掛け声とともに醜き馬面野郎と、頑丈そうな鎧と盾を装備した図体のでかい獣人が姿を現した。

 

「さあ、そこの生意気な男をやっつけておしまいなさい」

 

一番先に動いたのは、アベルとプックルだった。アベルは剣、プックルは爪でゴンズに攻撃する。俺も勇気を振り絞り、それに続いてナイフを振って応戦した。魔物を焼いてやろうと考えていた少年は何処へやら。切れ味の良くない刃物を振り回していた。

 

しかし、ダメージが入っているようには見えず、奴の重い一撃を食らって俺とアベルは痛手を追ってしまった。プックルも馬面野郎に首を掴まれ、物凄い勢いで投げ飛ばされ、そのまま伸びてしまった。馬刺しにしてやりたい。

 

「アベルっ!王子っ!」

 

パパスさんは俺達がやられそうになっているのを見て、ジャミとゴンズを突き飛ばし、ホイミをかけてくれた。だが、その隙に起き上がったジャミの蹴りを食らってしまった。

 

「ぐぬぬ……この子たちにはこれ以上ちかづかせん!」

 

パパスさんはゆっくりと立ち上がると、仁王立ちの構えをとった。

 

ジャミが俺に攻撃しようとした、が、パパスさんはそれを弾き、兄さんに攻撃しようとしていたゴンズを斬った。

 

「見事な戦いぶりですね。でも、こうするとどうでしょう……」

 

ところが奴は……アベルをいつの間にか抱えていて、その喉元に鎌を当てたんだ!

 

息子を人質に取られたパパスさんはジッと我慢することしかせず、ジャミたちの攻撃をただ受けていた。

 

 

 

奴らの容赦無い攻撃を受け続け、やがて満身創痍となったパパスさんは……最後の力を振り絞って言葉を残してくれた。

 

「アベル! 気がついているか!? 実は、お前の母さんはまだ生きているはず……わしに代わって母さんを探してくれ!」

 

……

 

その後は、あまり言いたくない。

 

「ゲマ様。このキラーパンサーの子はどういたしましょう」

 

「放っておいてもやがて野生を取り戻すでしょう。捨てておきなさい」

 

ゲマ……その名前、絶対に忘れないぞ。そう誓った。

 

そして俺達はここに連れてこられ、奴隷としてこき使われている。その時からプックルとははぐれてしまい、指輪も失くしてしまった。

 

ピシャ!

 

突然、鞭の音が聞こえた。鞭で人を叩いたときの、あの嫌な音だ。

 

「オレの足の上に石を落とすとはふてえ女だ! その根性叩き直してやる!」

 

「ど……どうかおゆるしください……」

 

「いーや、だめだ。たしかおめえは奴隷になったばかりだったなあ。この際だから自分が奴隷だってことを身にしみてわからせてやる!」

 

鞭を持った男に、女性が叩かれている!

慌てて俺は助けに行こうとしたが…

 

「もう我慢できないぞ!」

 

真っ先に飛び出していたのは、兄だった。その後からアベルも戦いに加わる。

 

俺も助けに……あっ、そうだ!いいこと思いついたぞ!

 

俺は鞭野郎に気づかれないよう、後ろへ回り込んだ。そして…

 

「えいっ! やあっ!」

 

首に手刀をかましてやった。

 

 

ムチおとこたちを やっつけた!

アレンは 115ポイントの けいけんちを かくとく!

 

 

「え……それはさすがに……」

 

「正々堂々戦えよ……」

 

アベルたちに冷たい目で見られた。

 

そして騒ぎを聞きつけ、兵士がやって来た。

 

「なんだっ! この騒ぎは!?」

 

鞭野郎はふらつきながらも起き上がって答える。

 

「はっ! この3人が突然歯向かってきて……」

 

「この女は?」

 

「あっ、はい。この奴隷女も反抗的だったので……」

 

「……まあよい。おい、この女の手当てをしてやれ! それから、この3人は牢屋にぶち込んでおけっ!」

 

別の兵士に牢屋へ連れていかれた。

 

 

_____________

 

 

 

そして俺だけ違う牢なんだな……

向かいには兄さんとアベルがいるけれど。

 

「さて、どうしようか」

 

アベルは胡座を構きながら考えているが、兄さんは事態を大して重く受け取っていないようだ。

 

「どうしようもないな。折角だから、のんびりすることにしようぜ」

 

「まあ、鞭で打たれるよりはマシだな」

 

「でもさ、アレン。これじゃここから抜け出す方法がわからないよ」

 

「やっぱり、アベルはパパスさんの最期の言葉を信じて母親を探したいんだな」

 

「ああ。だから僕は早く外へ抜け出して……」

 

「しっ!誰か来たみたいだぞ!」

 

兵士が歩いてきて、兄さんたちの牢屋の鍵を開けた。

 

「私の名はヨシュアだ。先程は妹のマリアを助けてくれたそうで、本当に感謝している」

 

ヨシュアさんの後ろには先程の女の子が立っていた。

 

「ありがとうごさいました……」

 

「いえ、当たり前のことをしただけですよ」

 

「大したことじゃねえよ」

 

「前々から思っていたのだが、お前たちはどうも他の奴隷と違う、生きた目をしている!」

 

いやでも兄さんは死んでないけど生きてもないっしょ

 

「実はまだ噂だが、この神殿が完成すれば秘密を守るため奴隷達を皆殺しにするかも知れないのだ」

 

「えっ!うそだろ!?」

 

「ちょ、兄さん。声でかい」

 

「そう、だからお願いだ! 妹のマリアを連れて逃げてくれ! この水牢は奴隷の死体を流すためのものだが、樽に入っていればたぶん生きたまま出られるだろう。さあ、誰か来ない内に早く樽の中へ!」

 

たぶんて…

 

「あの…」

 

「どうした?」

 

「樽に入るのはいいんですが、俺はいつ牢屋から出してもらえるんですか?」

 

「っ! すまん、お前もだったのか……」

 

すっかり忘れられてました。

 

 

「ここにお前たちの荷物を用意した。一緒に入れておくぞ。」

 

兄さん、アベル、そしてマリアさんが樽に入った。

よし、俺も入るぞ…

 

「む……入りきらないな。すまないが、お前は別の樽に入ってくれ」

 

また一人か……

 

 

俺達はこうして樽に乗って新天地をめざすこととなった。

 

俺の初船旅はそれは楽しいものになりそうだ。

 

うっ、酔ってきた……




セリフカットという名のメラゾーマ
パパス「ぬわーーーーーっ」


キャラの区別をするために、ヘンリーの口調を若干口悪くしてます。



誤字訂正等ありましたら、報告していただけるとありがたいです。


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この場所は。

「おお! 目を覚ましたか! 3日間も眠ったままだったから心配したよ」

 

「え! 3日も……?」

 

「しっかし流れ着いた樽の中に人がいるだなんて思いもしなかったなあ、わはは」

 

「あの、すみません……こんなに良くして頂いて」

 

「いいってことよ。それより、あんなものに乗ってくるなんてよっぽどの事情があったんだろ?」

 

「はい……実は幼い頃から奴隷として働かされていたのですが、仲間と共にようやく逃げることに成功したんです。 ……そういえば、他のみんなはどこです?」

 

「樽に入ってたのはお前さんだけだったな……それにしても、とんでもねえとこから逃げてきたんだな。ま、しばらくはゆっくり休むといいさ」

 

「そうもしていられません……仲間とはぐれてしまったのならば、一刻も早く合流しなくては。真に勝手ですみませんが、もう出発したいと思います。お世話になりました」

 

深々とお礼をし、荷物をまとめて出ていこうとしたが、まとめる程の荷物を持っていないことに気づき、俺は苦笑する。

 

「本音を言うと、少し寂しかったんだよ。最近は海が荒れて、船も容易に出せなくてね。この港に訪れる旅人もめっきり減って、いつも妻と2人っきりなのさ」

 

なるほど外に出てみると船を泊めるための桟橋がある。ここは港だったんだな。

 

 

 

 

「それじゃあ、ありがとうございました」

 

「おう、元気でな」

 

港を出て北へ向かって歩いていると、町が見えてきた。まずは装備を何とかしたい。流石に奴隷の服とナイフでは手強い魔物にやられてしまうのが目に見えている。

しかもこのナイフって果物を切るためのものなんだよなぁ……

と考えていると、

 

まもののむれが あらわれた!

 

げっ、ドラキーとピッキーだ。

俺はすぐにナイフを構える。大丈夫。こんな貧弱な装備でも、1対ずつなら何とか……

 

ピッキーが嘴で俺を突こうと走ってきた。俺はそれを避けて奴の足を斬りつける。機動力を削いでしまおう。

 

俺はもう片方の魔物の方へ振り向く、が、ドラキーは既に俺の鼻先まで迫っていて、左肩に噛み付いてきた。

 

ひだりかたに 15ポイントの ダメージ!

 

「うぐっ」

 

左腕を押さえながら、ひとまず飛び退く。

 

どうする?一旦体制を立て直す為にホイミするか?

 

その間にも2体の魔物は俺に攻撃しようと近づいていた。

 

ピッキーが突っ込んでくる。俺はそれを躱さずに受け、渾身の力を込めてナイフを突き刺した。

 

かいしんの いちげき!

ピッキーを たおした!

 

ピッキーは流砂となって何処かへ消えてしまった。魔界だろうか……

次の瞬間、ドラキーに右肩を噛まれ、持っていたナイフを落としてしまう。しかし、俺はすかさずホイミを唱え、ナイフを拾って奴を切り裂いた。

 

まもののむれを やっつけた!

なんと ドラキーが おきあがり

なかまに なりたそうに こちらをみている!

なかまに してあげますか?

 

 

ふぅ……やはりこの装備では駄目だな。早く町に行って買うとしよう。

 

ドラキーは まわりこんだ!

なかまに なりたそうに こちらをみている!

 

「うおっ!? お前まだ生きていたのか? まあ、怪我してるだろうし俺は見逃すからさっさと帰りな」

 

なかまに なりたそうに こちらをみている!

 

俺は町へ向かって歩きだした。といっても、目と鼻の先にあるんだけどな、と苦笑して…

 

ドラキーは まわりこんだ! なかまに なりたそうに こちらをみている!

 

「……俺に恨みがあるなら恨んでもいい。でも襲い かかってきたのはお前らだからな?」

 

俺はドラキーを無視して、また歩き出す……

 

「いい加減気づけキー!」

 

え?

 

「さっきからオイラが仲間になってやろうって思って見つめていたのにそれをことごとく無視しやがって、何様だキー!」

 

「いや、今から主人にしようとしている相手に向かって言う言葉じゃないだろ……」

 

なんで、こいつ喋ってんだ?気色悪い。

 

「まあ、いいや。ついて来るなら来なよ。特に面倒みてあげようとはおもわないけどさ」

 

「ありがとうキー!」

 

 

そして町に着いた(既に目と鼻の先にあったけど)。おお、(うち)の城下町よりも大きいな、ここは。

俺は取り敢えず、商店の集う通りへ行った。うーん、どれを買おうか。

 

「すみません、鋼の剣と鉄の鎧ください」

 

「3200ゴールドです。まいどあり!さっそく装備しますか?」

 

「あ、装備はしますけど、恥ずかしいんで試着室で着替えたいんですが……」

 

「お客様wそんな恥ずかしい格好してるくせに今更なに言ってるんですかwwあっはは」バンバンバン!

 

好きでこの格好してるんじゃねーよ!

 

 

着替えながら、このドラキーにも装備を買ったほうがいいかなと思った。

 

「そういえば、お前何が装備できるんだ?」

 

「これキー」

 

「おお、木の帽子と、刃のブーメランね……っておい、なんで持ってきた」

 

「会計は後でいいって言われたキー」

 

「……一応聞くが、誰が払うんだ?」

 

「え……キー」

 

「そこ! 取ってつけたようにキーを言うんじゃない!」

 

まったく……幸い王子時代に貯めておいた貯金でなんとかなるけど、こいつ頭が弱いのでは?

 

「お前、今度何か買うときは俺に言えよ」

 

「はいキー……それとオイラのことはドラきちと呼んでほしいキー」

 

えっ、名前あったのかよ。

 

 

魔物ってこんなものなのか……俺って、ずっと城で生活してて魔物を見たことなんてほとんどなかったから、初めて魔物と戦ったときは恐怖しかなかったなぁ……でも、魔物も個性的なんだな。こいつと会ってそれを知ることが出来た。

 

「お前と、いやドラきちと出会えて良かったよ」

 

「え? 急に気持ち悪いキー。それに、その言葉は長く冒険をともにした人に言うものキー。さらに言えば、それは死亡フラグだキー」

 

「まあ、気にすんな。それと、俺の名前はアレンだ」

 

俺達は町を後にして、今度は東へ向かった。もしかしたらラインハットに行けるかもしれない。ここどこかわからんけど。

 

「あっ!」

 

「なにかあったキー?」

 

「情報を集めるの忘れてたぁぁー!」

 

「情報って何キー?」

 

「俺は今迷子なんだよ。ここがどこか知りたかったんだが……」

 

「オイラもよく知らねえキー。オイラが生まれてすぐ、親は殺されてしまって何も教われなかったキー」

 

「ふーん、でも次の町で聞けばいいかな」

 

 

だが、この決断が、2人の運命を左右するものであったことを彼らは知る由もなかった……

 

 

 

 

 

 

 

ってふざけて言おうか迷ってる内に次の村へ着いた。近かったなぁ。さて、村人さんに色々聞いて回りますか。

 

ところが、俺は衝撃の光景を目にすることとなった。町は凄惨な有様で、家屋は半壊、畑は荒らされ、所々に毒沼が湧いている。村を流れる川の水も濁っていた。

 

「ここは、こういう村キー。それでも、人間は何人か住んでいるんだキー」

 

……

 

家に入って見ると、年老いた男性が1人。

 

「はて、どちら様じゃったかのう……」

 

「え、俺を知っているのですか!?」

 

「おお! そうか、こんなに大きゅうなって……立派になったのう……」

 

 

「あの…」

 

「そういえば、お前さんの父が洞窟の中に大切なものを隠してたようじゃ。何年も経っているのでどうなってるかは知らんがきっとまだあるはず! 気をつけて調べなされよ。」

 

俺の父さんが?

俺はここに連れてきてもらったことがあった?

 

「アレン、とりあえず行ってみようキー」

 

「そうだな……」

 

村を流れる川は洞窟に繋がっていた。お爺さんは舟を使って探索するように勧めてくれたので、舟を借り、洞窟へ入っていった。洞窟内は風が微かに吹く音と、川の流れる音だけが響いて妙に静かだ。

 

しばらく進むと、川は途切れていた。代わりに、地下へと進む階段があったので陸へ上がって降りてみる。

 

すると、今度は迷路の様な空間に出た。

 

「うわー……これは大変そうだな」

 

「オイラが先に飛んでいって、見てこようかキー?」

 

「ああ、頼む」

 

ドラきちに進む先を見てもらっている間にアイテム整理でもしておこうかな。

 

ブラウニーたちが あらわれた!

 

うわっ、魔物かよ。しかも4体。だが、負ける訳にはいかない!俺は剣で1体を斬りつける。すると他のブラウニーたちは俺に大きな木槌で攻撃してくる。威力は凄まじいが、隙が大きすぎるため簡単に避けられた。1体目に止めを刺し、呪文を唱える。

 

「ベギラマ!」

 

燃え盛る火炎がブラウニーたちに襲いかかる。焼き栗の完成だ。

 

 

よし、倒したな。なぜか、呪文の伸びは早いんだよなぁ……早いに越したことはないけれど。

 

突然、ブラウニーの1体が起き上がって攻撃をしてきた。

避ける暇がない!

 

そう思った瞬間、どこからともなくブーメランが飛んできて奴に突き刺さり、そいつは塵となって消えた。

 

「アレン、階段があっちにあったキー」

 

「ああ、ありがとう」

 

__________

 

 

……!今度は亀か。

 

ガメゴンたちが あらわれた!

 

ドラきちはブーメランを飛ばして全体攻撃をする。しかし、ダメージはあまり入っていないようだ。

 

「硬い……ドラきち!ここは呪文をつかって戦おう」

 

俺はベギラマを唱える。炎に焼かれてる亀を見ながら、焼いた亀って旨いのかな?なんて考えてしまった。いかんいかん。

 

一方ドラきちはラリホーを唱えて応戦。ガメゴン1体を眠らせることに成功したようだ。

 

ガメゴンの こうげき!

 

ガメゴンは甲羅についた棘を当ててくる。痛っ!結構痛いんですけど

 

「ドラきち、気をつけろ!」

 

すると、眠りから覚めたガメゴンが寝ぼけて仲間に攻撃した。ガメゴンたちの連携が乱れた。

 

「今だ! 一気に仕留めるぞ!」

 

ザシュ

 

グサッ

 

 

 

ガメゴンたちを やっつけた!

アレンは スクルトを 覚えた!

 

「はぁ……苦労したな。硬いのに痛いし」

 

俺はベホイミで自分たちの傷を癒やす。

 

 

_____________

 

 

「こっちに階段があったキー」

 

_____________

 

 

「次はこっちだキー」

 

俺達は魔物と戦いながら奥へ進んでいった。そして……

 

「ん?何か生活感のある場所に出たぞ」

 

狭い部屋だが、タンスや壷、机と椅子が置いてある。奥には扉があったので開けて入ってみると、そこには何かの紋章が描かれた剣、その側には手紙らしきものが置いてあった。

 

父の手紙……?

 

『アベルよ。お前がこれを読んでいるということは私はお前の側にいないのだろう。知っているかもしれんが、私は邪悪な手に攫われた妻のマーサを助けるため旅をしている。私の調べた限り、邪悪な手から妻を取り戻せるのは天空の武器、防具を身につけた勇者だけだ。私は世界中を旅して天空の剣を見つけることができた。しかし、未だ伝説の勇者は見つからぬ……。アベルよ! 残りの防具を探し出し、勇者を見つけ、我が妻マーサを助け出すのだ。頼んだぞ、アベル!』

 

アベル?

 

の、父……?

 

「パパスさんか……」

 

これは間違いなくパパスさんの手紙だ。どうやら俺は、あのお爺さんにアベルと間違われてしまったようだ。

 

「何かわかったキー?」

 

「ああ、ここはパパスさんのいた村、サンタローズの村だ。そして俺の故郷がこの東にある」

 

「それじゃ、これから向かうキーね?」

 

「ああ……」

 

そう言ってリレミトを唱える。俺達の体は出口へと飛ばされた。初めて使ったが、この呪文、慣れるまでに時間がかかりそうだ。気持ち悪い……

 

「手紙と剣は持ってこなくて良かったキー?」

 

「アベルと会った後に、また取りにくればいいと思ってな」

 

「アベルっていうのが、アレンの仲間なのかキー……」

 

「ああ、仲間思いで素直な、良い奴だよ」

 

俺達は兄さんがラインハットに戻ることをアベルに提案しているかも知れないので、そこへ向かうことにした。

 

 

次の目的地は、我が故郷ラインハットだ!!




ドラきちの語尾は小説版では「にゃー」でしたが、ここでは適応されてません。おかしいですね…
個人的にはこのドラきち、キーキーうるさくて嫌いです。

それと、主人公の設定でひとつ。
アレンは呪文に長けているのですが、覚える呪文は15個までに絞ろうかなと思っています。sfc版では大抵のキャラがそれくらいですので。

○現在覚えている呪文
1メラ   2ホイミ
3スカラ  4メラミ
5ベギラマ 6ベホイミ
7リレミト 8スクルト
9~15???


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すれ違い

前回より大分長くなってしまいました。分割する余裕なかったもので、すみません…


サンタローズを後にして、俺達はラインハットへと歩を進めた。

 

「もう行くのか。達者でな」

 

遠くからお爺さんが手を振っていた。

 

「はい! お世話になりました」

 

「人違いしてすまんかったのう。さっき、本当のパパスの息子、アベルが洞窟に入っていったわい」

 

ドラきちの鼻歌とかぶってよく聞きとれなかったが、取り敢えず俺は手を振り返した。

 

 

「ラインハットはこの方向で合ってるのか?」

 

ラインハットの西に、サンタローズがあると聞いてはいたが、それが正確な方角だとは限らない。

 

「ラインハットってどんなとこキー?」

 

「城下町は小さいけど、それなりに賑わってる国なんだ」

 

「ラインハットって国のことだったか。その城の場所なら知ってるキー」

 

「本当か! 小さい頃、俺はそこで暮らしていたんだ」

 

「その土地勘の無さに納得したキー。アレンって王子だったのか…」

 

魔物に王子という概念があるとは思わなかったな。

 

「……それで、ラインハットはどっちなんだ?」

 

「付いてくるキー!」

 

 

_____________

 

 

 

俺は途中で魔物とも戦いながら進んでいったが、川に道を阻まれてしまった。

 

「どうやらあの関所を通るしかないようだな」

 

川を越えるためには、関所を通過し、地下道を通らないといけない。

 

「オイラは飛べるから特に関係なかったキー……」

 

この関所は地下を掘り進めた時にできたもので、ラインハットの強い魔物が他の村や町へ行ってしまわないためのものだ。

 

関所に入ると兵士が地下道を塞ぐようにして立っていた。

 

「これより先はラインハットの国だ。太后様の命令で、許可証のない者は通すわけにはいかぬぞ!」

 

この見覚えのある感じ……まさか! トムさん……!

 

「トムさん! 俺です! アレンです」

 

「え? アレン……王、子……? ああ! 王子、よくご無事で!」

 

「やめてくださいよ。もう王子じゃないんですから」

 

あと、抱きつくのもやめてほしい。

 

「共にヘンリー王子に悪戯された日々、懐かしゅうございます。……ところで、ヘンリー王子は?」

 

「俺もそれを聞こうとしてたんです。けど、その様子だとまだ通っていないみたいですね。兄さんはこの間まで俺と一緒だったから無事ではあるはずですが……」

 

「そうですか……」

 

「ラインハットにずっといるということはないキー? それだったらここを通る必要もないキー」

 

「兄さんはそうするかもしれない。でもアベルは母親を探して旅に出るはず。……トムさん、他に誰か通った人はいませんでした?」

 

「私はここをずっと担当してますが、誰も通りませんねぇ…」

 

え、交代なし!?

死なないでよ、トムさん。

 

「……そうだ! オラクルベリーに行ってはどうです? 王子のことだから、そこで遊んでいるという可能性も」

 

「うーん……いないことを信じたいけど、行ってみるか」

 

「よく当たるという占い師もいるようですので、訪ねてみると良いかと」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

さっそくオラクルベリーに……

 

「あ、オラクルベリーってどっち?」

 

「…はぁ。本当に何にも知らないキーね。」

 

_____________

 

 

俺達はオラクルベリーのカジノで兄さんを探したが、何処にもいなかった。安心したというか残念というか…

 

 

「……ごめんください、1つ占ってほしいことがあるのですが」

 

入った先は、怪しげな部屋。紫に塗られた壁の棚には、趣味の悪いドクロの装飾品が置いてあって気味が悪い。

 

「何を占おうかね? 仕事、恋愛、それともお金のことかい? 」

 

「いえ、人を探しているのですが…」

 

「残念ながら指定して占うことはできないんだよ」

 

じゃあなんで聞いたんだよ

 

「手相占いがいいかい? それとも人相? タロットもあるよ」

 

「手相で」

 

「ま、どれもできないがね」

 

おい。

 

「あの…」

 

「わかっておる。既に結果も出ておる。まずは南の、修道院へ向かうのじゃ」

 

……

 

「あ、はい」

 

……

 

「終わりじゃ」

 

「……はあ」

 

途中、何この人めっちゃ仕事できるやんって思ったのに一言だけかよ! これで1000ゴールドは高いだろ。

 

あ、因みにドラきちは1コインだけ渡してカジノで遊ばせているんだが、思いの外勝ちやがって絶賛ハッスル中だ。さっさと回収して修道院に行こう。

 

「おーい、そろそろ行くぞ」

 

……って結構増えてるじゃないか!

 

「もうちょっと、もうちょっとだけ……」

 

キーは言わなくていいのか…

 

「もう行くぞ、一旦預けてまた遊びにくればいいだろ」

 

「キー……」

 

こいつは危ないな……当分、遊びには来ないようにしよう。

 

「今から修道院に行くぞ」

 

「修道院? 神の教えに目覚めたキー?」

 

「占いだよ。次にいけばいい場所だけ教えられてさ」

 

「ふーん……あっ! その前に、キメラの翼は買っておいたほうがいいキー」

 

「わかった」

 

忠告通り、道具屋でキメラの翼を買っておいた。空に向かって投げれば行きたい町や村まで一瞬らしい。

 

 

 

町を出て、暫く歩くと戦闘に入った。あと少しだったのになあ…

 

スライムナイトが あらわれた!

 

「この辺にいるなんて珍しいキーね。」

 

俺は剣を構えると、スライムナイトを斬りつける。しかし、奴はそれを躱すと反撃をしてきた。

 

「ぐっ…」

 

「大丈夫キー?」

 

「大丈夫。脇腹が致命傷だけど……ベホイミ!」

 

たちまち傷は癒えていく。隙を突かれないよう慎重にいかないと……

 

俺とそいつは、互いに剣を構えて向き合い、タイミングを伺う。

 

「メラミ!」

 

俺が先に攻撃。しかも剣を使うように見せておきながらの反則行為。続けて体制を崩した相手を斬る、1回、2回と。

 

2回目は剣で相殺されてしまったが、ダメージはいれることができた。このまま慎重さを失わず……

 

っておいベホイミ使うなよ、戦いが長くなるだろ!

 

「さっき使ってた奴が何を言うキー……」

 

ここは短期決戦といこうじゃないか。俺は剣を右手に持ち替え、ゆっくりと奴に近づいた。

 

キンッ

 

剣のぶつかり合う音が響く。すかさず俺は左手でメラ。しかし奴は難なくそれを避け、隙が出来たと思って全力で斬りかかってきた。その攻撃を俺は躱さずにタックル。左肩が死んだが、大したことではない。

 

ゼロ距離でメラミを撃って焼いてやった。

 

「大丈夫キー?」

 

「ベホイミ! ……ああ、大丈夫。奴が回復している最中に、スカラして防御高めてたから。というかお前何してたんだよ」

 

「ラリホーがなかなか効かなくて手こずったキー」

 

最後まで効いてなかったわ!

 

「アレン……さん。」

 

「うおぁっ! 生きてんの? てかなんで俺の名前……あれ?」

 

何か、思い出しそうだぞ

 

「お忘れですか?」

 

「もしかして……ピエール?」

 

「はい」

 

「なんだキー? オイラにも説明しろキー!」

 

「ああ。俺が幼い頃に……」

「アレンさんの説明は長くなりそうなんで私が。私がまだ未熟なスライムナイトだったとき、森で怪我した所をアレンさんが見つけ治療してくれました。短い間でしたが、共に遊んだ日々はとても楽しかったです」

 

「な、なんで短かったキー?」

 

「アレンさんのお父様に見つかってしまったのです。私は小舟で流されこの大陸に」

 

「大陸変わってないキーけどね」

 

「今思えば、追い出されたのは私が魔族だったからではなく、国王であるお父様の肖像画に落書きをしていたからだと思うのです」

 

「いや、後者の可能性は低いキー。どれだけ心の狭い人なんキー?」

 

「だから、こうしてアレンさんと再会出来たことが嬉しかったのです」

 

「途中本気で戦っているように見えたキーけど…」

 

「なんかもう、嬉しくなってきちゃって。私の全力をきっと受けても大丈夫だろうと思いまして」

 

「やめろよ、剣技はあまり得意じゃないんだから!」

 

「あれ、アレン話はどうしたキー?」

 

「もうとっくに終わってたわ! 聞いていれば人をサンドバッグみたいに……」

 

「まあまあ。それより、早く修道院へ行こうキー」

 

「そうだな」

 

「目の前なんですけどね…」

 

「そうだな……」

 

 

修道院に入ると、マリアさんらしき人物名を見つけた。あれ、金髪だったっけか?

 

「えっと、マリアさん……ですか?」

 

「えっ……まあ! アレンさん!」

 

本当にマリアさんだった! 金髪だったとは知らなかったなぁ。黒っぽいと思っていたのは煤か何かだったのか……?

 

 

……あの、いい加減心霊を見るような目はやめて下さい?

 

「皆さん探してらしたのですよ。アベルさんや、その……ヘンリー、さん……とか」

 

様子がおかしい。兄さんの名を言う時だけモジモジしている。

 

「そうだったんですね。アベルと」

 

 

 

「ヘンリー兄さんが」

 

「わっ」ビクッ

 

ははーん……

ヘンリー、の部分だけ強調して言ってみたが、そういうことか。

 

「あ、それで兄さんたちは何処へ」

 

「わっ、 ……わかりません。オラクルベリーへ行くとは言っていましたが、もう探されたのですよね」

 

「はい……」

 

わからず、か……

俺はふと、マリアさんの手元にある本に目をやった。

 

「それは?」

 

「あ、はい。伝説の勇者様の……」

 

「伝説の勇者だって!?」

 

「は、はい……ここから南へ行くと、真実を映すという鏡が祀られている塔があります。私はとても気になったので調べていたら、この文献が」

 

「その鏡と言うのは…」

 

「ラーの鏡と言います。かつては魔王を倒すために勇者様が使ったとか」

 

「勇者のその後については、何か書かれていませんでした?」

 

「いえ、それはなんとも……」

 

「そうですか……では、俺達にその鏡を取りに行くことは出来ますか?」

 

「ええ、何かしらの試練があると聞きましたが……詳しくはシスターに聞いてみて下さい」

 

俺は手で示された方向に目をやる。

 

あの青い服の女性がシスターだな。

 

すると、その女性は俺が話かける前に、声をかけてくれた。

 

「あら、アベルさん。思いがけぬお客様だこと」

 

「いえ、アベルは友人で、俺はアレンと言います」

 

「まあ、それでは貴方がマリアの話していた……それで、何かお困りですか?」

 

「はい。南にある塔へ行きたいのですが」

 

「あの塔の入り口は、神に仕える乙女にしか開くことは出来ないのです。とはいえあの場所には魔物も多く、女が行くには危険すぎます。ですので……」

 

「私に行かせて下さい!」

 

マリアさんはそう言ってシスターの元へ駆け寄る。

 

「この方は私にとても親切にしてくれました。それに、この私にもその塔の扉を開くことが出来るのか試したいのです」

 

ん? マリアさんって神に仕えてるのか? 初耳だ……

 

「そこまで言うなら止めはしません」

 

「ありがとうごさいます。私、足手まといにならないよう気をつけます。……さあ、行きましょう!」

 

 

念のため、ピエールたちには建物内では話さないように言っておいていた。驚かれるかもしれんが、マリアさんに仲間のことを紹介しておこう。

 

「こいつらは仲間の、ドラきちとピエールです。大人しいので、心配ないですよ」

 

「よろしくキー」「よろしくお願いします」

 

「わっ、喋った…」

 

すると、ピエールが尋ねてくる。

 

「ところでアレンさん、南の塔へ行ってどうするのです?」

 

「ああ、アベルの目的はいずれ伝説の勇者を探すことになる。もしかすると、魔王とも戦うことになるかも……」

 

ピエールの頭の上で羽を休めているドラきちに何度も目をやりながら、マリアさんが納得したように答える。

 

「それで、かつて勇者様が魔王を倒すために使った鏡を取りに行くんですね」

 

「そうです。さあ、この森を抜ければ塔のはずです」

 

 

俺達は南の塔へ向けて、険しい道のりを越えていった。

 

____________

 

 

 

塔の入口へ着くと、マリアさんは跪き、神に祈った。

 

「神よ! 我らを導きたまえ!」

 

すると、重厚感のある扉がひとりでに開いていく。

 

「やりました!」

 

「さあ、ここからはマリアさんを守るぞ。ピエールは後ろ、ドラきちは上を守ってくれ」

 

「はい!」「わかったキー!」

 

 

塔の中央は吹き抜けになっていて、中は意外にも明るかった。更には中庭まであるという凝りっぷり。感服いたします。

 

と思っていたら…

 

魔物のむれが あらわれた!

 

がいこつ兵が2体とわらいぶくろか…

 

「ドラきちはマヌーサしてからラリホー。ピエールはガンガン行っちゃって」

 

俺はすぐに仲間へ指示を送る。ドラきちはマヌーサでがいこつ兵1体を幻に包み、ピエールはわらいぶくろをたたっ斬る。

 

ところが、骨野郎たちはマリアさんに向かって攻撃を仕掛けてくる。それを俺は剣で受けとめ、ベギラマで火だるまにしてやった。しかし、うち1体は怯むことなく突っ込んできた。

 

「うぐぁッ!」

 

がいこつ兵の剣が俺の脇腹を抉る。激痛のために左膝を付いてしまう。また脇やられたぜ…

 

「大丈夫ですか!」

 

ピエールが慌ててベホイミをかける。ばかやろう……

 

「お前がすべきなのは、この骨を倒すこと……だっ!」

 

俺は骨野郎を一振りでバラバラにする。

 

「自分の仕事に集中してろ。指示は俺が出すから」

 

「はい……すみません」

 

謝りながらも、ピエールは敵から目を離していない。どうやら俺の思いは伝わったようだ。

 

ピエールは残りのがいこつ兵を倒し、ラリホーで眠ったわらいぶくろをドラきちが布切れにしてしまった。

 

魔物のむれを やっつけた!

アレンは イオラを 覚えた!

 

 

 

よし。

 

「マリアさん、大丈夫でした?」

 

「ええ…」

 

目の前で戦いを見たからか、戸惑っていたものの、怪我はなさそうで安心した。他の2匹も回復は必要無さそうだ。

 

「それじゃ、次へ進もう!」

 

 

 

暫くすると、敵は徒党を組んで現れた。

 

スライムナイトたちが あらわれた!

 

魔物たちはいきなり攻撃してきたが、ピエールはそれを躱し、1体を斬りつける。ところが、隙を突かれて別のスライムナイトに斬られてしまう。

 

「いま回復するぞ!」

 

……あれ

 

「あの、どなたがピエールさんですか?」

 

「あ、本当だ。みんなそっくりだキー」

 

「私です」

 

そう言って挙がった手は5本。おいおいおい、やめろよそういうの。

 

「取り敢えずお前、違うだろ」

 

最初に攻撃躱されてピエールに斬られたやつは切り捨てた。

 

あと、怪我してないのは全て敵だな。

 

「なーんだ、意外と簡単……」

 

すると、怪我していない1体が割り込んでくる。

 

「待ってください。私は自分でベホイミして、敵に攻撃したのです。私がピエールで…」

 

バシュ

 

「え、アレン今そいつがピエールって言ってたのになんで斬ったキー!」

 

「何言ってんだ。声が全然ちがうだろ」

 

そんな気がする。

 

「よし、ガンガンいけ!」

 

ドラきちはブーメランで2体同時に攻撃。それに怯んだ所をピエールが剣で斬る。

 

「回復される前に押し切るぞ! イオラ!」

 

爆発がスライムナイトたちを巻き込む。やがて煙が晴れると中にいたのは瀕死の1体だけ。そこにドラきちのラリホーが炸裂。

 

…え、なんで今?

 

 

 

スライムナイトたちを やっつけた!

 

最後はピエールが倒してくれた。

 

「それにしても、よく声で私じゃないとわかりましたね。種族が同じだと、魔王様でも聞き分けるのは難しいのですよ」

 

「え、そうなの?」

 

わかった気がしたんだけどなぁ、あの時は。

 

____________

 

 

途中、わらいぶくろに何回か笑われたりしたが、ようやく最上階へ辿り着いた。

 

奥には鏡が祀られていたが、特に何かに守られている様子もなく取ることは容易かった。

 

ただし、床があればの話だが……

 

「なぜ床がないのでしょうか。」

 

ラーの鏡が祀られている台の手前、約5メートルまでの床が抜けている。

 

「もしや、これがマリアさんの仰っていた試練とやらでは?」

 

「確か、勇気の試練という名だったはずですが…」

 

マリアさんの言葉に俺は驚愕する。

 

「まさか、ここを跳んで越えろとでも?」

 

「いえ、書には『その者の、恐れずに一歩を踏み出す勇気が試される』と書いてありました」

 

するとドラきちが名乗りをあげた。

 

「じゃあ、オイラが渡ってみるキー」

 

そう言って、中央を通っていく。ところが、床のない部分に差し掛かると…

 

「あっ」

 

下へ落ちていってしまった。

 

「いや、飛んでんのに落ちるのはおかしいだろ!」

 

はぁ…

 

「真ん中は駄目でしたね。次は別の所を試しましょう」

 

本当に歩けるのか? 疑問しかないんだが。とはいえ、ここは勇気を出さなければ始まらない。俺は覚悟を決めた。

 

まあたぶん落ちても戻ってこれるし。

 

「よし、じゃあここの端っこを歩くぞ」

 

俺は恐る恐る一歩を踏み出す。思わず落ちる、と咄嗟に目をつぶるが、一向に落ちる気配はない。俺は少しずつ閉じていた目を開くと…

 

「あ、なんか床ある」

 

「えっ!? ……本当ですね! マリアさんもこちらへ」

 

「まあ! 不思議ね……」

 

……なんとかなったな。

 

仲間たちが楽しんでいる声を聞きながら、俺は見えない床を進み鏡の前まできた。

 

「これが、アベルの助けになるかもしれない……」

 

鏡を手に取ると、その重み、鏡面の神々しい輝きを直に感じ、畏怖の念を覚えた。真実とは一体何なのか。鏡には覗き込む自分の姿だけが、映っていた。

 

 

「きゃあっ!」

 

突然マリアさんの悲鳴がきこえる。振り向くと、下へ落ちるマリアさんとそれを助けようとして共に落ちていくピエールの姿が。

 

「まずい!」

 

無我夢中で後を追った。そしてマリアさんの腕を掴み…

 

「リっ、リレミトっ!」

 

俺達は不思議な魔力によって塔から引きずり出された。

 

「はぁ、はぁ……間に合ったか…?」

 

見ると、マリアさんもピエールも無事なようだ。俺は尻もちをついているマリアさんへ手を差し伸べる。

 

「だっ、大丈夫です! お気遣い、ありがとうございます」

 

「怪我がなくてなによりです」

 

 

いやー、本当に良かった。多少強引ではあったけど、なんとかなったぞ。

あとは、兄さんたちと合流するだけだな! 

 

 

しかし、何か忘れているような……?

 

 

 

その頃ドラきちは……

 

「ふー、やっとここまで戻って来れた。大変だったキー………あれ? みんなどこ行ったキー?」

 

(風の通り抜ける音)




このマリアさんはヘンリー一筋ですね。

さて、読んでいただき、ありがとうございました。


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真実

塔を出て、ドラきちと合流した俺達は、ひとまずラインハットに向かうことにした。

 

「ところで、何のためにラインハットへ行くのです? 帰郷ですか?」

 

そうか……まだピエールには話してなかったな。

 

「実はこの10年。色々あってさ……」

 

俺は、奴隷として10年間過ごしたこと、仲間とはぐれてしまったことを話した。

 

「そんなことが…」「知らなかったキー」

 

ドラきちも俺が奴隷になっていたことを聞いて驚いていた。

 

「ラインハットにはまだ行ってないから、あとはそこだけが望みなんだ」

 

沈黙を保っていたマリアさんが口を開く。

 

「あの……その前に修道院で泊まっていかれませんか? 皆さんお疲れでしょうし」

 

そうだな。今日は階段上りまくったし。

 

「では、お言葉に甘えて」

 

修道院の一室を借りて一晩泊まらせてもらうこととなった。

 

__________

 

 

コンコンッ!

 

戸を叩く音で、俺は目を覚ました。

 

「アレンさん、よろしいでしょうか」

 

「どうぞ」

 

マリアさんだ。部屋に入って俺の前までくるとそのまま正座をしそうだったので俺が慌てて制すと、やがて神妙な面持ちで口を開いた。

 

「私を、ラインハットまで連れて行ってください」

「わかりました」

 

「えっ……」

 

「まさかの即答? いいのかキー」

 

「もちろん」

 

すると、ピエールが不思議に思ったのかマリアさんに尋ねる。

 

「マリアさんはどうしてラインハットへ?」

 

「聞くな、ピエール」

 

マリアさんは顔を真っ赤にして俯いている。ちくしょう、ヘンリー兄さんには惜しいぜ。

 

「では、さっそく城へ向かいましょう」

 

 

元王子と魔物と修道女の奇妙な旅が始まった。そんな俺達は関所まで戻って、トムさんと再開した。

 

「アレン王子!」

 

「さっきぶりですね」

 

「お連れの方も増えてますね……あっ、そうだ! 先程、ヘンリー王子とそのお仲間がここを通ってラインハットへ向かわれましたよ」

 

それを聞いた俺は驚きのあまり大声を出してしまった。

 

「本当ですか!」

 

そうとなればラインハットで合流するだけだ。

 

「しかし、実はラインハットは大変なことに…」

 

「……なにがあったんです?」

 

「王が亡くなられてからはデール王子が王位を継いで国を治めているのですが、実権を握っているのはデール王の母、太后様なのです。その太后様はならず者を雇い、兵を集めています。聞く話によると、世界を支配するおつもりなのだとか。王子、どうか……」

 

「わかっています」

 

父さんが亡くなっていたことには驚いたが、ラインハットの実情を聞き、のんびりしていられなくなった。

 

「なぜもっと早く、あの時言ってくれなかったのです」

 

トムさんは俯いてしまう。

 

「何やら深刻そうなお顔をされていたもので…」

 

……

 

「とにかく、ありがとうございます」

 

礼を言ってから一度外へ出る。俺は袋からキメラの翼を取り出し、ラインハットまで連れて行くように強く念じて放りなげた。

 

すると、俺達の体は上空へと飛ばされ、ラインハットまで連れていかれる。

 

「うおぉ、一種のアトラクションですね、これは」

 

「よし、急ごう」

 

到着するなり俺達は、城下町を走り抜け、王座まで急いだ。しかし困ったことに、城内では入口を兵士が守っていた。

 

「私はアレン王子である。中へ入れてくれ」

 

「嘘をつけ、アレン王子は10年前に既に亡くなられている」

 

死んだことになっている……そりゃそうか。母は俺を殺すつもりだったしな。

 

「アレン、ここは任すキー! ……ラリホー!」

 

兵士は ねむってしまった!

 

「よし、王座まで行くぞ」

 

「王様に会う気かキー?」

 

「ああ。デールと話をしようと思う。あいつは俺の弟なんだ」

 

 

ようやく王座の間へ着いたが、デールはおらず、大臣が慌てているだけだった。

 

「なんだお前たちは? だが今はそれどころではないのだ。王がどこかから太后様を連れ出し、なんと太后様が2人になってしまったのだ!」

 

なんだって……?

 

「母さ……太后様はどちらに?」

 

「その階段を上がった所だ」

 

親切にありがとう。

 

階段を上がると1つの部屋があった。ここは元々王と王妃の部屋だった所だ。

 

「デール!」

 

「え!? 兄ちゃ……いえ兄上!」

 

「久しぶりだな」

 

「……まさか10年も前に死んでいたと言われた兄が生きていたなんて……しかも2人とも!」

 

抱きつきそうになり、慌てて手を取るだけに留めたデールに俺は優しい言葉を掛ける。

 

「よしよし……辛かったろう、国王という重荷を背負って。ずっと母さんの言いなりで」

 

「はい。うっ…う……」

 

「アレンさん、あれを見てください」

 

ピエールの声に現実へと引き戻される。

 

「どうした? ああ、母さんが2人ねぇ……」

 

さて、どうしたものか……

 

「果たしてどちらが本物なのでしょうか……」

 

ピエールの言葉に気付かされる。

 

「ん? そうか、本物。……真実」

 

つまり、こうすればいいんだな?

 

俺はラーの鏡を取り出し、2人の太后に向かって掲げる。すると、一方の太后が苦しみ出し、顔を押える。その体からは魔力のようなものが抜け出し、プスプスと音をたてながら醜い魔物の姿があらわとなった。

 

こいつが…

 

「母さん、デール、マリアさん、離れてて!」

 

剣を構える俺とピエール。偽太后は計画が崩されたことに憤りを隠せないようで、烈火の如く怒っている。

 

「ようやくここまで来たというのに、お前らのせいでっ! 許さんぞ!」

 

奴は何やらぶつぶつと唱えると、両手を上に向け叫んだ。

 

「我が下僕よ! ここに集い、我と共に戦うのだ!」

 

すると、奴と同じ醜い顔の魔物が召喚された。

 

ピエールが召喚された魔物を見て言う。

 

「エンプーサですね……単体ではあまり強くありませんが、群れをなすと厄介です」

 

俺達は湧いて出てきたエンプーサに囲まれてしまった。1、2、3……全部で8体か。これは厳しいな……

 

「アレンっ!」

 

バシュッ

 

突然、何者かによってエンプーサの1体が切り刻まれる。

 

「兄さん! アベル!」

 

「いやー、苦労したぜ。お前を探しにいったのにもういないからさ」

 

「ヘンリー、話は後にしよう。今はこっちが先だよ」

 

「よし、アレン! 雑魚は俺達に任せて親玉を叩け!」

 

「ありがとう、兄さん!」

 

俺は偽太后に向き直す。2体のエンプーサがそれを守るようにして立っている。

 

「ドラきちはブーメラン、ピエールは剣で攻撃しろ! ……イオラ!」

 

爆発が巻き起こり、エンプーサたちに襲いかかる。そこにドラきちがブーメランで追い打ちをかける。エンプーサたちは爆裂によってボロボロになった体を引き裂かれる。

 

「ええい、小癪な! はぁぁ…」

 

奴はまたもやエンプーサを召喚し、守りにつかせる。さらに続けて、火炎の息を吐いてきた。燃え盛る炎が俺達を包み込む。

 

「熱っ。みんな大丈夫か?」

 

自分にベホイミをかけながら2人を見る。

 

まずい、ドラきちが瀕死だ。

 

「ピエール! ドラきちを回復してくれ。仲間の命を大事に、だ!」

 

エンプーサたちはドラきちに任せておき、俺は偽太后に斬りかかる。だが、奴は怯まずに、仕返しに炎を吐いてくる。

 

くっ……近距離でくらい過ぎた。ぼーっとする……

 

「ベホイミっ!」

 

すぐにピエールが回復して助けてくる。さらにドラきちのブーメランがエンプーサを塵へと変える。

 

「よし、たたみかけるぞ! 集中攻撃だ。ガンガン行けっ!」

 

俺とピエールは奴に突撃、ドラきちも後ろから援護する。だが、敵も必死に火炎の息で反撃してくる。

 

今だ!

 

俺は襲いかかる炎に耐えながら、その口目掛けて剣を突き刺した。

 

「アガッ……」

 

奴は目を剥いて体を痙攣させると、やがて力なく腕を垂れ、白い灰へとなってしまった。

 

ニセたいこうを やっつけた!

ドラきちは ラナルータを 覚えた!

 

 

……ふぅ。色んな意味で熱い戦いだったな。

 

「アレン、よくやったな!」「見てたよ」

 

兄さんとアベルが駆け寄ってくる。

 

「2人とも、ありがとう! ……え、見てたって?」

 

「ああ、あんな雑魚を倒すのに時間がかかるわけないだろっ」

「アレンたちの活躍、後ろでしっかり見てたよ」

 

見てたなら手伝ってくれよ……

まあ、倒せたしいいかな。

 

 

 

それはそうと、魔物によって掻き回されたこの国の体制を直していくために、これからは俺達兄弟が協力して二度とこのような惨事を招かないように尽力するつもりだ。

 

 

「で、俺達を呼び出してどうした?」

 

落ち着いた頃に、デールに兄弟3人で話したいと呼び出されていたので、デールの部屋に来た。

 

「単純に、兄弟3人での話を久しぶりにしたいとも思うんだけど、実は兄上に」

「普通に呼びなよ。部屋の中でくらいは」

 

「うん、そうだね。アレン兄ちゃん」

 

兄ちゃんて……

 

 

「実は、父上が亡くなる直前にアレン兄ちゃんの話をされたんだ」

 

「俺の?」

 

「うん。兄ちゃん、驚かないで聞いてね。実は……兄ちゃんは本当の息子ではないんだ」

 

「知ってるよ。本当の母さんは俺が生まれてすぐ死んだって」

 

そのため血の繋がらない母親に育てられたわけだが、あの頃は大変だったな……

今は収まったが、昔は実の子の王位継承の邪魔という理由で義母さんに殺意を向けられたこともあったなぁ……

 

「そうじゃなくて、父上の子じゃないんだ。父上が言うには、兄ちゃんは赤ん坊の頃、船乗りに瀕死の状態の兵士と一緒に連れて来られたらしいんだ」

 

「兵士と船乗りと赤ん坊? よくわからない組み合わせだな」

 

兄さんが口を挟む。

 

同感だ。どういう状況なんだ?

 

「うん。その船乗りの話によると、海上で溺れかけていた2人を助けたんだけど、兵士が城へ連れていってください、と何度も言ってきたらしくて」

 

「それでラインハットに連れてきた訳か」

 

「そう。でも父上は、その兵士が言っていた城というのはグランバニア城のことだろうと気づいた。だからすぐに兵士を送って赤ん坊を届けようとしたんだ。グランバニアで起きている事件を知るまではね」

 

「事件って?」

 

「僕も詳しくは教えてもらえなかった……その事件のせいで、兄ちゃんを送るわけにもいかなくなり、仕方なく育てることにしたって」

 

「……そうだったのか」

 

俺はラインハットの子ではなかったのか……

 

「アレン、グランバニアに行けば何か分かるかも知れないぜ?」

 

「簡単に言わないでよ。父上から聞いた話では、グランバニアは山を越えた先にあって、魔物も多い。容易には辿りつけないんだ。兵を送ることを躊躇した理由の1つはそれだって」

 

「……そうか。でもアレン、この国のことは別に気にしなくていい。お前が好きなようにしたらいいからな」

 

「少し、考えさせてほしい」

 

「しっかし、俺達3人とも義のつく兄弟だったなんてなあ……」

 

「そうだね……あっ、兄ちゃん。どこ行くの?」

 

「部屋だよ。悪いけど、ひとりにしてくれ」

 

 

部屋を1つ空けておいてもらった。以前俺が使っていた部屋だ。何もかもがあの頃のままという訳ではないので、雰囲気だけ懐かしんだ。

 

「懐かしいな…」

 

俺はベッドに横になって目を瞑る。先程の言葉が頭の中によみがえってきた。

 

『兄ちゃんは本当の息子じゃないんだ』

 

誰かの実子ではないことには、母親のときにとっくに慣れていたはずだった。だが、母だけでなく父も、自分と血が繋がっていなかったなんて…

 

やはり、グランバニアに行くべきなのだろうか……

 

コンコンッ!

 

戸が叩かれる。

 

「……どうぞ」

 

このドアの叩き方、聞き覚えがある。もしかして…

 

「失礼しますわ」

 

「マリアさん、どうしました?」

 

「無理を言ってここまで連れてこさせてしまい、すみませんでした」

 

頭を下げるマリアさんに、俺は慌ててしまう。

 

「いえ、お気になさらないでください。マリアさんがいなければラーの鏡を手に入れることはできなかったのですから」

 

そして、母さんの偽物の正体を暴くことも……

 

「はい。……いえ、本当はそんなことを言うために入ったのではありません。とても悩んだお顔をなさって部屋に入られたものですから気になって…」

 

……

 

「何か困りごとでしたら話だけでも……いえ、厚かましいことですわ。失礼しま」

「待ってください。誰かに相談しようか迷っていて……でも兄弟にはこれ以上悩んでもらうわけにもいかず……」

 

マリアさんは微笑み、椅子に座る。

 

「聞きましょう。私にお力になることができるかわかりませんが」

 

息を整えて俺は話をし始める。

 

自分のことを話すのが……こんなにも辛いなんて。

 

「……俺は、父の本当の子ではなかったんです。俺が生まれたと思われるグランバニアに行けば真実がわかると言われましたがどうするべきか……」

 

机に置いたラーの鏡さえも、お前はラインハットの子ではないと睨んでいるように思えた。

 

「……グランバニア。私の生まれ故郷です。少し私の話をさせて下さい。」

 

俺は黙って頷く。

 

「私と兄はグランバニアで生まれ、何一つ不自由なく育ちました。いえ、母が、父親のいない分、困らないように育ててくれたのです。父は城の兵士だったのですが、私がお腹の中にいるときに行方不明に」

 

「そんな……」

 

「それでも母は女手一つで私に不自由ないよう尽くしてくれていました。幼い頃から母の苦労を知っていた私は光の教団へ……母を助けたい一心だったのに……」

 

「そうだったんですね…」

 

「……話が逸れてしまいました。……私は父に育てられたことはありません。ですが、貴方は違います。お父上の愛情を受けて育った、その方がたとえ本当の父親でなかったとしても。そう思えば血が繋がっているかどうかなど大したことではありません」

 

「……そうですね。父さんは、間違いなく俺の父なんだ」

 

「真実を知るかどうかはあなたが決めることです。……と、偉そうなことをすみません」

 

「い、いえ! …ありがとうございます。おかげで悩みは消えました」

 

俺の言葉にマリアさんは嬉しそうに両手をパンッと合わせる

 

「まあ! それは良かったです。それと、もしグランバニアへ行くというのでしたらアベルさんと一緒に旅に出てはいかがでしょうか?」

 

「アベルと?」

 

「はい。アベルさんは明日、伝説の勇者様を探す旅に出ると」

 

そうか、サンタローズにはもう行っていたんだな。

 

「ならば、俺も行きます」ガタッ

 

勢い良く立ち上がる俺をマリアさんが止める。

 

「ま、まだ夜ですので、今日はゆっくり休んでください」

 

マリアさんはお休みなさい、と言って部屋を出ていった。

 

「逃げるように帰っていってしまったな…」

 

ひとり呟き、再びベッドに横になると強い眠気に襲われた。

 

 

 

その晩、10年ぶりに深い眠りについた。




サブタイトル没案:2人はタイキュア!

主人公の出生の秘密については何話か後に書こうかと思っております。


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巡り会い

毎話の文字数安定しなくてごめんなさい……


「それじゃ、兄さん、デール、行ってくるよ」

 

「元気でね」「いつでも帰ってこいよ」

 

城の外へ出迎えてくれる家族のみんなやマリアさん。俺はアベルと共に旅をすることを決め、今まさに出発しようとしている所だ。

 

「アレン、行くよ」

 

「あっ、ちょっまっ」

 

アベルを駆け足で追いながら振り返って手を振る。次戻ってくるのはいつになるだろうか……

 

 

城下町の外に出てみるとアベルが馬車の整備をしていた。

 

「それ、アベルの?」

 

「うん。モンスター爺さんから魔物を仲間にしたかったら馬車を買えって言われたから」

 

モンスター爺さん……?

年老いた魔物ってことだろうか。俺は白い髭を生やしたスライムを想像してみる。おじいさん……グランドファザー……スライム。グランスラ……

「そういえば、アレンも魔物の仲間がいるけど馬車は?」

 

「馬車なんかないけど……」

 

「えっ!? ないのに仲間にできたの?」

 

「え……まあ、こいつらは仲間っていうより連れだしな」

 

ドラきちに至っては勝手に付いてきてるし……

 

「そういう問題?」

 

アベルに驚かれながらも、俺は中で休んでて良いと許可をもらったので颯爽と馬車に乗り込むと、青い何かと目が合った。

 

「あっ、こんにちは! ボク、スラリン!」

 

「ああ……こんにちは」

 

なんだ、スライムか。アベルの仲間だろう。

 

ジェル状の体が跳ねたりぷるぷると揺れている。触ってみると餅のように柔らかく、手にひっついてくる。ひんやりとして気持ちいい。

 

すると、馬車が揺れだした。いよいよ旅の始まりだな。その揺れに呼応するようにスラリンも体を震わせている……いや、元からか。

 

「なあアレン。これからどこに行くキー?」

 

馬車の上にとまっていたドラきちが覗き込んで聞いてくる。

 

「ビスタの港から船で西の大陸まで行くってさ」

 

ビスタはここから西にある小さな港で、船が一度に1隻しか停泊できないほどだが、他の大陸とこの大陸を結ぶ重要な拠点でもある。

 

それを聞いていたピエールも馬車の外から忠告する。

 

「船の上でも魔物は襲ってくるうえに、戦いづらいので皆さん気をつけましょう」

 

「ああ、わかった」

 

ピエールの言葉を何となく聞きつつ、スラリンを枕にして寝てみた。爆睡できそうだ。

 

だが、俺の野望はすぐに打ち砕かれた。

 

「みんな、港にもうすぐ着くよ」

 

アベルの声に、馬車から外を見てみると、ピエールががいこつ兵に止めを刺していた。よく聞いていないと馬車の中じゃ戦闘中か分かりづらいみたいだ。

 

反省しつつ俺は馬車を降りて船着場まで歩い……ん?

 

「おい、みんな! 船がもう出るみたいだぞ、走れ!」

 

「わっ、ほんとだ」

 

俺達は慌てて船の所まで走った。

 

「すみませんっ! 俺達も乗せて下さい」

 

息を荒げながら人数分の切符を購入する。

 

「おっ、まだ客がいたか。1人300ゴールドだ。馬も頭数に入れてくれ」

 

「はい、お願いします」

 

俺は財布から1800ゴールドを出して渡す。

 

「確かに」

 

急ぎ足で乗り込むと、俺達に船乗りが声をかけてきた。

 

「あんたらで最後みたいだな。よし、錨を上げろ! 帆を下ろせ! 出港だー!」

 

船乗りたちの威勢のいい声に気を引き締める。これから新しい冒険が待っていると思うと、家の周りもろくに探検出来なかった俺は胸が高鳴ってしまう。

 

ひとまず部屋に荷物を置いてからデッキに行き、手すりに寄りかかって海を眺める。次第に遠ざかっていく慣れ親しんだ大陸と城を見ていると、幼い頃の思い出が蘇ってきた。

 

 

 

 

============

 

 

 

4歳の誕生日を迎えて何週間か経ったある日、ぼくは突然指輪に話しかけられた。

 

『こんにちは、アレン』

 

「えっ、誰? どこ?」

 

辺りを見回すが、誰もいないからとても不思議だ。本当に誰もいないから心霊現象とでも思ってしまうくらいだ。

 

『ここです』

 

その声は明らかに、チェーンを通して首から下げている指輪から聞こえてきた。

 

「うそ……」

 

ぼくは自分の目と耳を疑ったが、紛れもなく指輪の声は本物だ。頭がやられたことや夢の可能性も考えた。前者の否定は出来ないけど、さっき驚いたときに足の小指をテーブルの脚にぶつけてめちゃくちゃ痛かったのでこれは夢ではないはず。

 

『そう、私です。いきなりですが、授業を始めましょう。あなたには教えなければいけないことがたくさんありますので』

 

「じゅぎょう……?」

 

4歳の頭で一生懸命理解しようとするけど、突然話をされても分かるはずもなくぼくはただのオウムと化した。

 

『そうですね……。あ、私はあなたのお父様から色んなことを教えるように頼まれているのです。ですので、これから私が教えることはしっかり覚えるのですよ』

 

後々考えてみるとすごく怪しい。まるで思いついたようにお父さんから頼まれたと言っていたし……

 

でもまあ、変なことは一切教ってないから、大丈夫だろうけど。たぶん。

 

 

その日、初めて教わったのは言葉の勉強だった。文字の読み方を主に、少しだけ書く練習もした。ちなみに教材は兄の部屋からこっそりと持ち出してきた。結構前に買われたはずのものなのに、大半が空欄のままで、ぼくには丁度良い教材だった。

 

……うん。

 

『……よくできました。この調子で明日も頑張りましょう』

 

(明日も教えてもらえるのか……)

 

ガチャ

 

突然部屋のドアが開いたので反射的に体を跳ねさせてしまう。

 

「おいアレン、……あれ? アレンの話し声が聞こえたから来てみたけど他に誰もいないじゃないか。ひとりごとも大概にしろよ」

 

入ってくるなり、ひとこと言って出ていった兄のヘンリー。

そうそうこの指輪の声、ぼく以外の誰にも聞こえてないみたいなんだよね。もちろんお父さんにも!

だから、最初に言ったこと絶対嘘じゃないか。

 

……それは良いとして、基本的な読みが大体できるようになってからは計算の勉強だった。

 

『……では、12×12は?』

 

「えーっとね……12のにじょうだから、144!」

 

……

 

うん、流石にそれは話を盛りすぎた。

 

九九ができるようになると、次は呪文の唱え方を教わった。説明は簡単、イメージと唱えることの2つが出来れば良いらしい。ただし、言うは易しということを忘れずに。

 

『体の内にある魔力を感じて手のひらに集めるのです』

 

「……こう?」

 

魔力って一体どんなものか想像もつかないので完全に手探り状態。もっと具体的に言ってくれとお願いしたけど、イメージを固定してしまうと却って呪文マスターから遠ざかると言われてしまった。

 

……え、ぼく呪文マスター目指してんの?

 

『惜しいです。もっと体全体から魔力を集めるのです』

 

そうは言われても魔力の感覚が分からないので、集められるものはみんな集めてみる。

 

「ぐっ……うぅ」

 

『そう力んではいけません。魔力は精神、心のエネルギーです。もっとリラックスして……』

 

力を抜けば良いのかな?

 

「む……」

 

『そうです。そして唱えるのです』

 

「メラっ!」

 

手から放たれた火球が壁に当たって消える。

 

『出来ましたね。より高度な呪文は戦って経験を積んでいくことで、覚えていくでしょう』

 

戦いなんてしないけどな……

 

一応出来たけどなんて難しいのか。イメージを忘れずに、感覚の分からない魔力を全身から集め、挙句の果てには体に力が入ってはいけないなんて。今放ったメラだって実は米粒サイズだったんだ。

 

『ホイミもやってみましょうか。先程もいったように、呪文はイメージが大切です。癒しのイメージを持って魔力を操るのです』

 

癒しのイメージってなんだ……? ねこでも思い浮かべてみよう。

 

「ふふ」

 

撫でられて気持ち良さそうにしているねこを想像したら笑みがこぼれてしまった。雑念が入り混じっている! とか言われそうだったけど、特になかった。

 

『そうです。そして呪文の名を唱えれば、発動します。……おっといけない、今日はこれで終わりです』

 

時々慌てて授業を終えることもあった。指輪も多忙らしい……?

 

 

毎朝3時間、朝食の後に授業をして、それ以外の時間はご飯と風呂と指輪が出す課題に費やした。毎日暇だったので、大量の課題も問題なく進められた。兄弟と違ってぼくが王族の仕事を何一つ教えてもらえないのは不思議だったけど、好都合かな。

 

そんな日々を繰り返して、6歳になった。今目の前には騎士の人形? が乗ったぷるぷるした緑色の物体が怪我して横たわっている。どうしてこうなった。

 

 

 

この日、ぼくは一度も行ったことがなかった城の外にどうしても行きたくなった。そして親や召使いの目を盗んで抜け出して森まで探検しに来たとき、この不思議な生命体と出くわしてしまったんだ。

 

「だ、大丈夫? あっ、そうだ」

 

ねこのイメージ、ねこの……

 

「ホイミっ!」

 

するとたちまち傷が塞がって、その子は下半身? の弾性力を利用してぼくの身長を軽く越せるくらい跳ねるほど、元気になった。

 

「ありがとうごさいます! 僕はピエールと言います」

 

行動に伴って自己紹介には勢いがあった。

 

「ぼくはアレン、よろしくね。ところでどうして怪我してたの?」

 

「ちょっと転んだんだけど、場所が悪くて……」

 

確かに、この辺は倒木も多くて転んだら枝とか危ないかもしれない。

 

「そうなんだ……あっ、良かったらうちにおいでよ」

 

一度友達を連れ込んでみたかったんだよね。まだ友達じゃないけど。

 

「え、でもあっちには人間がたくさんいるって聞きましたよ」

 

ピエールがあまりに当然のことを言ってくるので反応に困ってしまった。きっと城の人間に見つかることを恐れているに違いない。

 

「そりゃあいるでしょ。大丈夫だって、忍びこんで部屋まで戻るから」

 

一般人が城にいたとなると大問題だ。

 

 

 

ぼくたちは城の隠し通路を抜けて部屋まで戻ってきた。行きと同じ通路だ。地下水路と呼べるその空間はカビが至るところに生えていて、生ごみのような臭いが嗅覚をおかしくする。まるで魔物も出そうな雰囲気だ。

 

「ふぅー、何とか帰ってこれたね」

 

「ここは?」

 

「ぼくの部屋。ここで寝たり勉強したり……色々」

 

指輪の話をしても変に思われるだけなので適当に説明しといた。

 

「何して遊ぶ?」

 

問題はどうやってこの時間を過ごすか。友達とすることといったら遊ぶことだと思うんだけど何をしよう。

 

「遊びなんて知らないんです。僕はいつも剣を鍛えさせられてるだけなので……」

 

「剣ねぇ……あんまり楽しくはないかな」

 

剣の鍛錬はいつも指輪にさせられる練習で足りてる。ぼくは遊びを考えながら目を色々な場所へ向けていると、壁の絵に目が止まった。

 

「あっ! 似顔絵書いてあげるよ。ちょっと待っててね」

 

「えっ……」

 

折角なのでぼくの腕前を見てもらうことにした。紙と鉛筆を手に取って座る。

 

「あんまり動かないでね」

 

「はい……」

 

うーん、全体のバランスが取りづらいな……

 

 

10分程ピエールを見て、描いてを繰り返してようやく完成した。途中、遊びになってないことに気がついたけど、もう遅かった。

 

「できた! はい」

 

「すごい、意外と上手ですね!」

 

意外と……?

 

ピエールは小刻みに震えながら言う。足……が痺れちゃったのかな。

 

「……まあ、他にすることないからね」

 

指輪に、表現力は呪文を唱えるのに必要だからと絵を描かされたなぁ……今でもたまに課題出されるけど。

表現力の関係で料理やピアノもさせられる。指輪はとにかく呪文推しだ。

 

「長い間立たせてごめん……次は2人でできるものをしよう」

 

とはいったけど、何があるかなぁ……

 

ガサゴソ、とタンスの引き出しを漁ってみる。中身を全てひっくり返して探したところ、ようやく遊べそうな物が見つかった。

 

「あっ、これがあった」

 

トランプを取り出してピエールに見せる。

 

「カード……? これでどうやって遊ぶんですか?」

 

「それが……知らないんだよね。使い方とか教わってないから」

 

「ふーん。あっ、何か紙が入ってましたよ。これは何でしょう?」

 

ピエールは、ぼくにトランプの箱に入っていた紙を見せてくる。

 

「説明書だ。遊び方が書いてあるよ! どれからやろうか」

 

それからルールが簡単そうなものから単純そうなものまで……6歳でも出来そうなものを遊んだ。

 

「わーい、ぼくの勝ち!」

 

「次は負けませんよ」

 

ピエールも楽しそうにしてくれていたので良かった。

 

「よーし、いくぞー」

 

「ちょっと、今度は僕の番ですよ」

 

「あ、ごめん」

 

 

 

 

何回かトランプで遊んでいるうちに日も大分傾いてきたので、ピエールを家まで送らないといけない。

 

「あっ、もうこんな時間。外まで送るね」

 

「はい」

 

城の外まで行くと、ぼくはふと疑問に思ったことをピエールに尋ねてみる。

 

「そういえば、ピエールの住んでる所ってどこ?」

 

「森の奥です」

 

「小屋でも建ててあるの?」

 

「まさか。大木があれば雨は凌げるし、そんな大層なものはありませんよ」

 

へぇ……ずいぶんとワイルドな生活をしてるなぁ

 

「それはすごいね」

 

「普通だと思いますが……」

 

ピエールはたまに変なこと言うな……

 

家まで送らなくても良いと言うので、城の外でお別れをした。

 

「またね」

 

「はい」

 

ぼくたちは明日もここで会う約束をして別れた。

 

 

それからぼくは、指輪の授業を終えてからピエールと落ち合い、トランプで遊んだ。時々料理を振る舞ったり、ピアノを演奏して聴かせたりもして過ごした。遊びに時間が取られるお陰で課題を進めるのに時短が求められるようになった。毎日が楽しいからそんなことは気にならないけど。

 

しかしそんな忙しくも楽しい日々も長くは続かなかった。ある日、お父さんの肖像画に落書きをして遊んでいたところ、お父さんに見つかってしまった。

 

「な、魔物!? アレン離れるんだっ!」

 

魔物? 一体どこに?

 

「おい、こいつを殺せ」

 

驚いたことに、ビエールを殺そうとしている。ぼくは兵士に命令をするお父さんを必死になって止めた。

 

「待って、ピエールは魔物じゃないよ! 大切な友達なんだ!」

 

でも、頭に血が上っているお父さんは、ぼくの言葉が全く通じなかった。

 

「なんだって? おい、お前。アレンに何を吹き込んだ」

 

「な、何のことです?」

 

「ええい、もうよい。殺してしまえ!」

 

どうしても殺すつもりらしい。なんで……

 

「やめて、お父さん! それだけは、殺すのだけは……」

 

ぼくはお父さんの腕にしがみついて泣きながら止めた。

 

「むう……そこまで言うならば、殺すことは止めよう。……こいつを海辺まで運べ! 舟で遠くの大陸まで流してしまうのだ!」

 

どうにか思いとどまってくれたお父さんだったけど、ピエールは海まで連れていかれ、ついに小舟で流されてしまった。

 

唯一の友人だったピエールとの別れだと思った。でも、永遠の別れではないと、生きていさえすればまた会えると、暗くなる心をなんとか立ち直らせて見送った。

 

 

「ピエールぅぅーーーっ!」

 

潮も涙も流れを止めることを知らず、ただただぼくらを冷たく濡らしていくだけだった。

 

さよなら、友よ。

 

 

 

============

 

 

 

……悲しいことを思い出してしまった。

 

「何を泣いているんです?」

 

いつの間にかピエールが俺の横にいた。俺はあまりに無防備だったようだ。

 

「いや、懐かしい思い出が蘇ってきてさ。ピエールと遊んだ時の」

 

ビエールも懐かしそうに空を見上げている。

 

「ああ、色々ありましたね」

 

「……そういえば、ピエールは流されたあと何をしてたんだ?」

 

「私は、オラクルベリーのモンスター爺さんの所にお世話になっていました」

 

出た! 謎のモンスター爺さん。一体何者なんだ? やはり魔物か……?

 

「モンスター爺さんの所業には驚かされるばかりでした。人間でありながら魔物を手懐ける、まるでアレンさんのようでした」

 

人間なのかよ……

 

「私はモンスター爺さんからたくさんの知識を得ました。魔物の知識から、魔物の知識まで……あっ、基本的な教育はモンスター爺さんに」

 

ほぼ魔物の知識じゃねえか! 教育はおまけなのね……

 

すると、船内に魔物の気配が。それにいち早く気づいたピエールが叫ぶ。

 

「っ皆さん気をつけて! 痺れクラゲです」

 

しびれくらげたちが あらわれた!

 

2匹の触手野郎が船に飛び乗ってきていた。小柄で真珠色したそのクラゲは柔らかく、すぐに倒せそうに思えた。

 

俺は剣を握りクラゲに斬りかかる。だが、剣が奴の触手に触れた途端、激しい電撃が俺の体まで走ってきた。突然目の前が真っ暗になり、体の自由も利かない、まさに絶体絶命。

 

「がっ……あぁっ」

 

「アレンさんっ! くっ……皆さん、むやみに敵に近づかないで」

 

「わかったキー!」

 

ドラきちがブーメランを投げる、続いてスラリンもブーメラン。それらに付いた刃がクラゲたちに傷をつけていく。

 

「バギマ!」

 

追い打ちをかけるように、アベルの呪文によって生み出された人間大の竜巻が、クラゲたちを切り裂く。奴らは分子レベルまで細分化され、プランクトンの餌になった。ってピエールが説明してくれた。

 

しびれくらげたちを やっつけた!

ドラきちは ふしぎなおどりを 覚えた!

 

「アレンさん、大丈夫ですか?」

 

「ああ、まだ少し痺れるけど……」

 

海が灰色に見えるが視力は回復してきた。だが、まだ指先の感覚が戻ってきていない。

 

「無理しないでよ。アレンはそういう所あるから」

 

アベルが心配そうに俺の顔を覗く。本当に申し訳ない。

 

「うん、ごめん……」

 

「あっ、そうだ。まだ到着まで時間があるから旅の話を聞かせてよ」

 

「うん、ありがとう……」

 

申し訳なさのあまり、感謝の言葉がつい。

 

 

部屋に入るなりアベルは剣を取り出して机におく。紛れもなくあの時見た紋章と同じものだ。

 

「実は、アレンに装備してほしいものがあって……」

 

「それは天空の剣!」

 

「えっ、なんで知ってるの?」

 

「サンタローズの洞窟に入ったんだ。パパスさんの手紙も読んだ。勝手にごめん」

 

謝るべき相手はパパスさんだったか……?

 

「そう、気にしないで。手紙を読んだなら話がはやい。装備してみてよ」

 

俺は頷いて、天空の剣を手に取ってみる。

 

「うわっ」

 

剣を持ち上げた瞬間、俺の体は弾き飛ばされ、壁にぶつかる。天空の剣が俺を受け付けていないとでも言うのだろうか。

 

「いてて……」

 

「わっ、大丈夫?」

 

「ん……ああ。でも、俺は伝説の勇者じゃなかったみたいだな。デールの話を聞いて、もしかしたらって思ったんだけどな」

 

大して痛くなかったのでなんともないという仕草を手で示しながら、アベルの顔を見る。

 

「そっか、僕もアレンには期待していたんだけど……」

 

アベルはとても残念そうだ。

 

「まあ、天空の防具も見つける必要があるから、勇者を見つけるのはもう少しあとでもいいだろ? それより、旅の話をしよう」

 

少々苦しいがアベルを慰めて、話題を変えてみた。

 

「うん、そうだね」

 

俺はドラきちやピエールとの出会い、塔での話をした。逆の立場だったらドラきちの話なんか興味ないと思うんだが、アベルは身を乗り出して聞いてくれた。

 

「へぇ……そんなことが」

 

「アベルはどんなだった?」

 

「僕たちは修道院に流れついたあと、ヘンリーと2人でオラクルベリーに行ったんだ。僕が馬車を調達している間にヘンリーはカジノで遊んでたけどね」

 

やはり人間三つ子の魂百までなんだなと思う。

 

「兄さん、やっぱり……。息抜きは大事だ、とか言ってそう」

 

「うん、まさにそう。意外と勝ってて驚いたけどね。それで、そのコインは全部僕にくれたから、ドラきち君の分も合わせれば結構な額になるんじゃないかな?」

 

ここで、前言撤回せざるを得ない事象が。

 

「兄さんが人に物をあげるなんて……」

 

珍しい。でも最近はそうでもないか。奴隷生活を経て大分丸くなったよな……やっばり人間変わろうと思えば変われるのな。

 

「コインで交換できるのはほぼ戦闘に関するアイテムだったからね。それなら、僕が持っていたほうがいいんじゃないかって」

 

……前言撤回。

 

「その後町を出ると、スライムが現れて……馬車を買って初めて戦ったのがスラリンだったんだ」

 

あのスライムね。アベルの弟子みたいに後をついて回るから結構可愛げがあると思ってしまう。まあ、ただでさえ人間にとって魔物の中で一番の人気を誇る種族なわけだが。

 

「その後は大変だったよ。サンタローズのお爺さんにはアベルとよく似た人が先に入ったって言うから急いで行ってみたけどいないし、ラーの鏡を取りに行こうとしたらアレンがすでに取っていると言われるし、もうすれ違いまくりで……」

 

「えっ! そうだったのか……」

 

じゃあ、待ってたらすぐ会えたし、俺がラーの鏡をわざわざ取りに行く必要もなかったのか……

 

「そうだったのか……」

 

ショックのあまり同じ言葉を繰り返してしまった。

 

でも、アベルの負担が減ったと思えばそれで……

「アベル! もうすぐ港に着くって!」

 

スラリンが俺達を呼びに、跳ねながらやってきた。

 

「うん。わかった」

 

荷物を持って外へ出る。

ついに西の大陸か……

 

部屋を出て心地よい潮風を体全体で感じていると、横を歩……跳ねるスラリンが俺の目を見て言う。

 

「アレンって、アベルとおんなじで不思議な目をしてるね!」

 

「そうなのか?」

 

「うん。2人の目を見てると、心が清められるような気がするんだ!」

 

不思議な目、ねぇ……親や兄弟にもそんなことを言われた記憶がある。

 

「よーし、錨を下ろすぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

さて、いよいよポートセルミに到着だ。ここはビスタと違って随分と賑わっている。船が何隻も停まれるし、漁船だってある。

 

 

船を降りたら、アベルは武器や防具を買いに、俺は宿の予約に、別行動をとることになった。

 

「アレン、何か要望はある?」

 

「武器は重くないやつで、動きやすい防具をお願い。身軽な方が俺はいいかな」

 

「わかった」

 

俺はアベルと一旦別れて、宿屋に入る。ここのは酒場と一緒になっていて、かなり大きな建物になっている。使われている木材は年季が入っていると感じさせられるが、手入れが行き届いていてまるで老舗のような高級感がある。

 

アベルに聞くと、取り敢えずここを拠点にして動く、とのこと。

 

「すみません。今夜泊まりたいん……」

 

ガシャン

 

何やら割れる音が酒場のほうから聞こえる。

 

「そんじゃ、俺らに払う金はねぇってのか!」

 

見ると、胸ぐらを掴まれている男がいた。

 

「ひぇぇ……お助けを」

 

慌てて俺はその男の元へ駆けつける。

 

「どうしたんです?」

 

「あぁん? なんだテメーは。喧嘩売ってんのか?」

 

強面の男がいきなりナイフを飛ばしてきた。

 

山賊たちが 喧嘩を売ってきた!

 

全部で3人、明らかに親分っぽいのが1人。

 

「ドラきちもピエールも客に攻撃を当てないよう気をつけて!」

 

俺は片手で剣を持ち、1人に斬りかかる。

 

キンッ

 

金属のぶつかり合う音が響く。

 

「メラっ!」

 

火の玉を奴の足に当ててやる。これでこいつはもう自由に動けないはずだ。

 

そしてピエールたちも、もう1人を剣やらで殴って戦闘不能まで追いやった。

 

「どうする? 仲間を連れて逃げるなら、今のうちだぞ」

 

「くっ、覚えてやがれ!」

 

俺が催促すると、親分は負け惜しみを言って一目散に逃げていった。

 

「あんた、見かけによらず強えんだな。助かっただよ」

 

先程胸ぐらを掴まれていた男が話しかけてきた。作業服に麦わら帽子という、いかにもアレな格好。

 

「一体何があったんです?」

 

「実は、おらたちの村では最近魔物が悪さするようになってとても困ってるんだ。それで、おらは魔物退治をしてくれる人を探してただが、山賊にはやっぱり任せられねえと断ったらああいうふうに……」

 

「なるほど」

 

「あんたらのその腕っぷしを見込んでのおねがいだ! おらの村を救ってくれ。報酬なら出す。これはその半分だ」

 

俺は1500ゴールドを無理矢理持たされる。

 

「残りの半分は問題を解決した後に渡す。それと、おらたちの村はここから南西に行ったところだ。それじゃ頼んだだよ!」

 

「あっ、ちょっと!」

 

行ってしまった。やれやれ、アベルになんて説明しようか。

 

「ん? 何だこれ」

 

足元にメダルのようなものが落ちている。おそらく山賊たちが落としていったものだろう。俺はそれを拾い上げて袋へしまった。

 

 

下へ向けていた顔を上げると、俺から皆逃げるようにして去ったので、人が全くいなくなっていた。

 

酒場には俺達だけが取り残されて、通り抜ける冷たい風が俺達を嘲笑っていった……




ゲスト出演:グランスライムさん
アレンの妄想の中での偶然の出演。なおこの物語には登場致しません。


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