Fleet Collection 業火が燃え広がる世界 (夜間飛行)
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全ての始まり
救助任務


皆さんこんにちは!夜間飛行です。

思い付きで書いてみた作品です。好きなゲームなのでこんな作品があったらいいななんて思いながら書いてみました。

それではお楽しみください。


2035年

 

???"鎮めるんだ心を"

 

声?

 

金剛(???)"思考を解き放て"

 

金剛さん?

 

瑞鶴(???)"嫌な思い出は消せ"

 

今度は瑞鶴?

 

北上(???)"安らぎが訪れんことを"

 

いや違う。

 

大井(???)"お前は大丈夫だ"

 

誰?

 

吹雪(???)"思い描け・・・凍てつく森を"

 

凍てつく森?

 

加賀「ん・・・」

 

目覚めるとそこは第五遊撃部隊の部屋だった。

 

加賀「何だ、夢か。」

 

寝間着は汗でじっとりと濡れていた。加賀は額の汗を拭いもう一度床に就いた。

 

加賀「変な夢だった・・・。」

 

彼女は航空母艦加賀、艦娘である。艦娘は1962年に突如出現し世界の海を瞬く間に制圧した深海棲艦に対抗できる唯一の存在である。深海棲艦には通常兵器は通じずイージス艦、原子力空母なんかはすぐに撃沈されていった。艦娘が現れると国際連合は国際統連合軍(International Allied Joint Force:通称IAJF)を組織。各国陸海空軍がこれに参加した。日本もシーレーンが壊滅的打撃を受けていたことでこれへの参加を決定した。

 

加賀「それにしても凍てつく森って何だろう・・・」

 

翌日

提督室に粕屋龍一提督と最近新設された第五遊撃部隊の面々のすがたがあった。第五遊撃部隊にとって今回が初の任務となる。そのためか作戦説明には他とは比べ物にならない緊張感が漂っていた。

 

吹雪「フィリピン?」

 

粕屋「ああそうだ。パンパンガ州にあるクラーク空軍基地に向かってほしい。ここは深海棲艦にとってフィリピンをまとめる重要な基地なんだ。そこで海軍元帥が捕虜になっている。」

 

金剛「ココをattackすればいいんデスネー?」

 

粕屋「いや、攻撃をすると元帥が殺される恐れがある。だから最初のうちは出来る限り攻撃はしないでほしい。」

 

加賀「提督、侵入方法はどうするんですか?」

 

粕屋「それについては大淀から説明がある。」

 

大淀「えー、侵入方法についてなんですが、先日拿捕した敵輸送船に装甲車両がありました。それで通過します。」

 

瑞鶴「通過するときにバレるでしょ・・・」

 

大淀「それについては問題ありません。夕張さんと明石さんが開発に成功した『第183号薬品』を服用すれば、姿、声が一時的にではありますが深海棲艦になることができます。通過の時はこの偽の許可書を渡してください。統連合軍のサイバー部隊が深海棲艦のネットワークに侵入して当日の予定を書き加えておいたので怪しまれることはあり得ません。侵入後はA班とB班に分かれてください。A班は吹雪さんと加賀さん、B班は金剛さん、瑞鶴さん、大井さん、北上さんです。」

 

加賀「それで私たちA班は管制塔を奪取して着陸する敵航空機を撃ち落とし、大混乱の中警備が手薄になっているうちに収容施設に潜入すると。」

 

北上「B班は情報センターへの侵入とA班の合流地点である格納庫の確保だね?」

 

大淀「ええ。情報センターへの侵入後は機密データを盗んできてください」

 

瑞鶴「機密データ?」

 

粕屋「つい先日インドで作戦展開中の我が軍のヘリ部隊が謎の攻撃を受けて壊滅した。B班には敵の秘密兵器について調べてきてほしい」

 

大井「ていうか私たちの最初の任務はサイバー部隊に任せればいいんじゃないの?」

 

加賀と北上が自分たちの任務を確認し大井が自分の任務に対して文句を言った。

 

大淀「ネットワークは情報センターだけ完全に独立していてアクセスするには直接行くしかありません。」

 

吹雪「合流した後はどうするんですか?」

 

大淀「山間部のポイントAに向かってください。ここに回収ポッドがありますのでこれに乗り込みドローンが回収します」

 

粕屋「説明は以上だ。質問はあるか?」

 

「それから加賀と吹雪!お前達には特に期待しているよ。アトラス社の力を見せてくれ。」

 

実は加賀と吹雪は軍属の艦娘ではない。世界最大の常設軍を誇る巨大軍事企業アトラス社からの派遣艦娘なのだ。実を言うと国際統連合軍にも多くのアトラス社兵がいるのだ。さらに加賀には他の艦娘にはない大きな特徴があった。

 

加賀の左腕は義手なのだ。吹雪は最初からアトラス社の艦娘なのだが、加賀はそうではない。加賀は最初は海軍にいた。海軍にいた頃は同じ空母艦娘である赤城と行動を共にしていたのだが、2032年に日本近海で大規模な海戦が発生。加賀は赤城と共に敵艦隊へ攻撃するのだが、加賀に敵爆撃機が接近、爆弾を投下した。赤城はそれを庇おうとして赤城に命中。爆弾は赤城の弾薬庫に命中し、忽ち大爆発を起こし大破した。爆撃機は投下直後に対空砲火に撃ち落とされたがその際、爆撃機の巨大な破片が加賀に命中し左腕を切断した。加賀はそれでも赤城を曳航しようとしたが敵の攻撃が激しく断念した。駆逐艦による雷撃処分が行われ赤城は沈没したものと判断された。この時の加賀の怪我は高速修復材を使ったとしても重大な後遺症が残ることになり、もはや艦娘としては活動できないと判断され、これにより加賀は軍属を退くことになった。

 

赤城の葬式には赤城が海軍の偉大なる英雄であったため参列者の中には上官の長門や海軍大臣などの海軍関係者、時の総理大臣、さらには天皇皇后両陛下までご参列なされた。そんな中加賀はそこである人物に声をかけられた。赤城の父親である霧岡喜一郎である。彼はアトラス社のCEOである。加賀の腕を見込んでスカウトしに来たのだ。

 

霧岡「君の腕は素晴らしい。海軍が君のような逸材を手放すとは実に嘆かわしい。そこでどうだろう。うちに来る気はないか?」

 

長門「霧岡さん。彼女は腕の怪我で軍を退役しました。彼女の腕はもう・・・。」

 

霧岡「そんな事は百も承知だ。我が社は軍より20年進んだ技術で義手を製造できる。君はその働きに見合った場所で働くべきだ。いい返事を待っているよ。」

 

霧岡は加賀に名刺を渡しその場を去っていった。加賀は赤城への恩返しも考えて、アトラス社への入社を決めた。

 

粕屋「決行は翌日!以上!」

 

二日後 フィリピン クラーク空軍基地

 

クラーク空軍基地。1919年にアメリカによってクラーク飛行場として建設された。1942年に帝国海軍が占領し、「クラーク北」「クラーク中」「クラーク南」「クラークフィールド」「マバラカット」「マルコット」「バンバン」など複数の基地を設置、運用し、フィリピン基地航空隊の中心的存在となった。1944年10月にはマバラカット飛行場から初の神風特別攻撃隊が発進した。1945年1月にアメリカ軍がルソン島に上陸した。両軍の死傷者が約35万人にのぼる激戦の後、アメリカ軍が再占領した。1971年2月アメリカ軍は深海棲艦の攻撃を受けクラークおよびフィリピン周辺の全基地の放棄を決定しフィリピン方面から完全撤退した。

 

緊急要員《滑走路B-2ニテ火災発生。滑走路B-2ヲ封鎖スル》

 

吹雪「了解。全機ヲ滑走路A-1ニ誘導スル」

 

《コチラDTA2659着陸許可ヲ求ム》

 

吹雪「了解DTA2659。現在滑走路B-2ニテ火災発生中。滑走路A-1へ着陸セヨ。」

 

《了解。滑走路A-1ニ着陸スル》

 

マイクを握った吹雪は加賀に指示を出す。

 

吹雪「加賀サン、目標ヲ捕捉シテクダサイ。」

 

加賀「了解」

 

加賀は目の前のタッチパネルを操作して防空システムを起動し目標をロックオンした。外では敵兵が騒いでいる。

 

敵兵「オイ、扉ガ閉マッテイルゾ!オイ!鍵ヲ開ケテクレ!」

 

【D.E.A.D.システム オーバーライド ターゲットヲ指定シテクダサイ】

 

加賀はターゲットを指定した。

 

【入力確認 ターゲットパラメーター承認】

 

《警報音!管制塔、D.E.A.D.システムニ捕捉サレテイル!コチラハ味方ダ!》

 

吹雪「コチラニ異常ハナイ。ソチラノ機器ノ故障ト思ワレル。」

 

吹雪「加賀サン。撃墜シテクダサイ。」

 

加賀「了解」

 

【D.E.A.D.システム攻撃開始 発射】

 

ボタンを押すとミサイルが発射される。あの世への片道切符が寸分の狂いなく輸送機に飛んでいく。

 

《着陸中止!機体ヲ上昇サセ》

 

ミサイルが命中し機体は粉々になった。突然管制塔内に警報が鳴り響き全ての画面には『WARNING』と表示される。破片の落下予測範囲内に管制塔があるからだ。

 

吹雪「伏セテクダサイ!」

 

大音響と共に破片と土煙が加賀たちを覆った。視界が晴れるとエンジンが刺さっているのがわかった。

 

吹雪「脱出シマショウ!加賀サン!」

 

加賀「ソウネ。ワカッタワ。」

 

吹雪は機銃を、加賀は対深海棲艦小銃を構えて扉へ向かった。扉が開くと4人の敵兵が外を見て騒いでいた。加賀と吹雪は4人を射殺、管制塔を出ると外は阿鼻叫喚の地獄だった。爆発で即死した兵士は幸運で不幸にも死に損なった兵士は炎に包まれながらのたうちまわっていた。緊急車両が走り回り、救命活動に兵士が奮闘しているなかを吹雪たちは収容所へ進んだ。

 

加賀たちは収容所へ侵入すると監視室へと向かった。元帥の居場所を探すためだ。

 

吹雪「金剛サン。監視室ノ占拠ニカカリマス!」

 

金剛『了解デース!』

 

吹雪「加賀サン、行キマショウ!」

 

加賀「鎧袖一触ヨ」

 

ドアを開くと2人の監視員がいたが加賀たちはヘッドショットで仕留めた。

 

吹雪「金剛サン、監視室の占拠ニ成功シまシタ。コれよリ元帥の捜索にかかります。あれ?」

 

加賀「どうやら効果が切れたみたいね。」

 

吹雪「警報システムは私が切っておきますからカメラはそっちで操作してください」

 

加賀は画面を操作し映像を切り替えていく。

 

吹雪「顔認証システムのヒット待ちです。」

 

加賀「他にも捕虜がいたなんて。元帥だけだと思ってた。」

 

吹雪「私もです」

 

そこにはありとあらゆる拷問を受ける兵士たちが映っていた。鞭で打たれ続ける者、棒で叩かれ続ける者、暴行を受ける者、じょうごを口に差し込まれ水を注がれ続ける者。敵兵が休憩しているのだろうか何もされていない兵士もいたがどれも恐怖に震えているがぐったりと虚ろな目をしていた。

 

吹雪「金剛さん、他にも捕虜がいるって知ってたんですか?」

 

金剛『助けてあげたいけれど、元帥が最優先事項デース』

 

吹雪はなんとも言えない無力感を押し殺してカメラを操作する。

 

吹雪「違います。」

 

吹雪「これじゃない」

 

吹雪「首相じゃありません」

 

さらにカメラを切り替えると馬乗りになって暴行を受けている人物が映る。

 

加賀「いた!元帥よ!」

 

元帥は兵士に連れられて部屋を出る。

 

吹雪「どこに移されるのか調べてください!」

 

加賀はカメラを切り替え元帥を追っていく。

 

加賀「これは尋問室ね。」

元帥が連れてこられ椅子に座らされる。何日も続いているのだろうかやつれているように見えた。

 

吹雪「金剛さん!元帥を確認しました!これより保護に移ります!」

 

金剛『Hey ブッキー。Timeはどうシマスカー?」

 

吹雪「2分でお願いします!」

 

金剛『2 minutesデスネー? 測っておきマース!』

 

吹雪「加賀さん!ミュートチャージをお願いします!」

 

加賀「解ったわ」

 

加賀はミュートチャージを仕掛ける。ミュートチャージとは一定の範囲内にいる人間の脳に特殊な電磁波を流し相手に気づかせないように聴覚を麻痺させる地雷型の装置である。

 

ミュートチャージを地面に置き中央のハンドルを回すと若干景色が青みがかった。これがミュートチャージが機能している証拠である。

 

吹雪と加賀はドアを思いっきり蹴破った。だがこちらを見ていなかった敵兵はこちらの存在に全く気づかない。吹雪たちはこちらの存在に気づいた敵兵から一人ずつ仕留めていった。それは殺し合いの現場だったのだが全く音がしない奇妙な空間だった。加賀たちは全員を仕留めると奥にある扉へ向かっていく。その先が尋問室だ。

 

加賀「吹雪、高周波パルスを仕掛けて。」

 

吹雪は壁に4つの小さな丸いパネルを貼った。すると中の様子が浮かび上がった。加賀は小銃で敵をマーキングする。そして2人は一斉射撃で全員を仕留めた。ドアを開け中に入っていく。

 

加賀「元帥。識別コードをお願いします」

 

元帥「チャーリー オスカー ロメオ」

 

吹雪「脱出しましょう!」

 

元帥「待ってくれ!他の部下たちはどうするんだ?」

 

加賀「私達にはあなた以外の救出の命令は出されていません。」

 

元帥「鷹泉中尉はどうなる?彼は東京防衛戦の英雄だ。真っ先に見せしめとして処刑されてしまうぞ!」

 

吹雪は歯を食いしばった。そして決断する。

 

吹雪「加賀さん、鷹泉中尉の救出に向かいましょう!」

 

加賀「提督からの命令に背くというの?」

 

吹雪「彼は英雄です。いなくなれば味方の士気に関わります。救出に向かいましょう!」

 

こうして2人は任務にない救出任務に向かうこととなった。

 

 

 

『落ち着け、そしてよく狙え。これからお前は一人の男を殺すのだ』 ―エルネスト・チェ・ゲバラ




次回予告
金剛たちと脱出することになった加賀たち。吹雪は脱出しようとして山間部に向かうのだが・・・


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脱出

前回のおさらい

深海棲艦の基地に潜入した第五遊撃部隊。加賀と吹雪は目標の元帥を保護したが鷹泉中尉も保護しなければならなくなった。


尋問室を出た加賀たちはそこから2つ先のドアの前にたどり着いた。

 

元帥「よし、ここだ」

 

加賀「ドアについて。援護するわ」

 

吹雪がドアを開けると奥の方で吊るされている鷹泉仙一郎中尉が目に入った。数々の拷問を受け身体中血と汚れまみれだった。

 

吹雪「下ろしましょう!加賀さん手伝ってください!」

 

吹雪が機銃で鎖を撃つ。鷹泉は加賀にもたれかかるように倒れるがすぐに立ち上がった。

 

鷹泉「元帥!」

 

元帥「中尉」

 

吹雪「鷹泉中尉、国際統連合軍第五遊撃部隊所属特型駆逐艦1番艦吹雪です。」

 

加賀「同じく航空母艦加賀です。中尉、この先に敵の武器庫があります。敵の武器を奪い、別働隊と合流します」

 

その瞬間サイレンが鳴り響く。どうやら死体が見つかったようだった。加賀たちは部屋を出て左側のトンネルへと繋がる扉へ向かった。武器庫に向かうには敵が大勢いるトンネルを通り、その先にあるエレベーターに乗る必要があるからだ。

 

加賀「金剛さん。元帥と他1名を保護しました。」

 

金剛「What!?救出は元帥1人だったはずデース!」

 

加賀「鷹泉中尉の名前に聞き覚えはありませんか?」

 

金剛「とにかく移動してクダサイ。上で合流ネー!」

 

吹雪「この先は警備が厳重です。慎重にいきましょう」

 

加賀たちは静かに扉を開き止まっているトラックの後ろに身を隠す。加賀は小型の弓で艦載機を放った。その瞬間加賀と吹雪は攻撃を開始した。敵は燃料タンクが爆発し火だるまになったり、銃弾で鎖が切れ天井から吊るされていた土管が落ち、押しつぶされたりした。連絡を受けたのかエレベーターから敵兵が降りてきた。その敵兵を全員始末すると4人はエレベーターに乗り込んだ。

 

上昇中に上から声が聞こえてくる。

 

「銃ヲ下ロセ!サモナケレバ撃ツ!」

 

敵が先回りをし待ち伏せていた。加賀と吹雪は言う通りに銃を下ろした。

 

鷹泉「言うことを聞けば殺されるぞ!」

 

加賀「逆よ。言うことを聞かなければ殺されるわ」

 

爆発音が鳴り響く。射撃音。敵兵の断末魔が聞こえる。エレベーターが到着する頃には敵兵が全て片付き、その中によく知った顔の奴がいた。別行動をしていたB班だ。

 

金剛「遅刻デース。1分overネ」

 

大井「遅すぎます!北上さんに何かあったらどうするんですか?」

 

北上「大井っち、別にいいんじゃない?少しぐらい。」

 

加賀「あなたたちの時計が壊れてるんじゃないかしら?」

 

金剛「そんな訳ないネー!」

 

加賀「そんなことよりも目的の情報は?」

 

金剛「コレデース」

 

金剛がその辺にあった台の上にあった一気に払いのけ、携帯端末を置いた。そこには何かの設計図らしきものが写っていた。

 

吹雪「これはミサイルですか?」

 

金剛「これは確かにmissileデスケド重要なのはココデース」

 

金剛が端末を操作し、拡大する。それはタンクのようなものだと推測された。

 

大井「トリニティ。燃料気化爆弾の一種よ。飛びっきりヤバいクラスのね。今わかるのはここまでよ。あとは鎮守府に戻って詳しく解析をしないとなんとも言えないわ」

 

北上「とにかく早く脱出するよー。さっきの音でどんどん敵が押し寄せてきてるからねー」

 

大井「次の格納庫へ向かいましょう!」

 

加賀たちが現在いる格納庫から脱出ルートである橋まで格納庫をいくつか経由していく必要がある。そしてそこでは深海棲艦の厳重な防衛線が展開されていると思われた。

 

加賀と艦載機を飛ばす。艦載機が窓から侵入すると同時に格納庫の扉を破ると米軍が放棄していったものだろうか、

C-130《ハーキュリーズ》があった。加賀や大井、北上は地上を進み、金剛、瑞鶴、吹雪はタラップを登り機体の上を進む。加賀たちが格納庫を出る。

 

金剛「早く回収pointに向かってくだサーイ!enemyはmeにお任せネー!」

 

次の格納庫に入るとこれまでとは比べ物にならない猛攻が加えられた。

 

大井「今度は何!?」

 

吹雪「あれは・・・ル級改flagship!しかも2体!?」

 

北上「1体でもかなり厳しいのに2体だなんて・・・」

 

大井「手持ちの装備じゃ1体は仕留められるかもしれないけど2体はかなり厳しいです」

 

金剛「どうしマスカ、ブッキー?」

 

吹雪は考えた。考えたがどうしても一発逆転のアイデアが浮かばない。自分がここで何か思いつかなければみんな死んで全滅だ。そんな思いが焦りを増大させた。

 

そんな焦りを切り裂くかのようにある声が聞こえた。

 

加賀「吹雪さん!あれを見て!」

 

加賀の指差した方向をを見るとル級の上にミサイルを搭載したV.T.O.L.機がぶら下がっていた。加賀の意図を察した吹雪はミサイルを主砲で攻撃した。ミサイルが機体から外れ爆発すると爆発により機体はバランスを崩しル級2体の上に落下し大爆発を起こした。

 

金剛「ル級改flagshipを仕留めたネー!」

 

大井「早いとこあの甲板胸と合流するわよ!」

 

吹雪「甲板胸って・・・」

 

扉を開くと敵兵が待ち伏せていた。撃とうとしたその瞬間艦載機が敵兵を撃ち抜いた。

 

瑞鶴「ちょっと!遅刻しないでよね!結構危なかったんだから!」

 

敵車両が加賀たちへの射撃を開始した。

 

瑞鶴「あの車両は任せなさい!援護射撃を!」

 

瑞鶴が艦載機を発艦すると艦載機が敵車両を爆撃し粉々になる。

 

瑞鶴「橋に向かって!敵は私が食い止めるから!大井が先導する」

 

金剛「回収まで5 minutesデース!Hurry up!」

 

大井「急いで!付いてきなさい!回収地点は橋を越えた先よ」

 

吹雪「まだ敵が付いてきてます!」

 

大井「橋に爆薬を仕掛けたの。私たちが渡りきったら橋を落とす!だから早く敵を振り切って!」

 

空中では味方航空機と敵航空機が壮絶な空中戦を繰り広げ、地上では警備隊が待ち伏せしていた。L-ATV十数両とLAV-25数両がそれぞれM2重機関銃とM242 25mm機関砲を撃ちまくった。M1エイブラムスが出現し加賀たちに砲撃する。ギリギリで砲撃を回避した金剛はお返しとばかりに主砲を放ち鉄屑に変えた。

 

吹雪「金剛さん!敵車両が橋を封鎖してます!あの量は対応できません!」

 

金剛「Shit!仕方ないネー!大井!橋を落としてくだサイ!」

 

大井がスイッチを押すと橋は断末魔の叫びを上げて崩れ去った。敵兵も車両も全て闇のような谷底へと吸い込まれていった。

 

北上「橋無くなっちゃったね。どうするみんな?」

 

加賀「敵車両を奪ってそれで脱出しましょう。それしか方法はないと思う」

 

吹雪「別の格納庫へ向かいましょう。敵兵もいるだろうし見た所これまでの格納庫にはありませんでしたから。」

 

加賀たちは近くの別の格納庫へと向かった。そのため近くの建物への侵入を試みる。

 

加賀「電気系統へ接続します」

 

瑞鶴「気をつけて。通信室にて敵多数を確認したから」

 

加賀「五航戦に言われなくても慢心なんかしないわ。もう2度とあんな失敗(こと)は・・・」

 

瑞鶴「・・・・・」

 

加賀は赤城のことを思い出していた。瑞鶴はいつもなら悔しがるところなのだが、この日は加賀に対して同情の念を抱いていた。

 

大井「明かりを消します」

 

加賀「暗闇の中で戦えって言うの?」

 

大井「タクティカルフィールドを使ってください」

 

タクティカルフィールドとは特殊な光線をあてることによって敵の位置を表示する機能である。敵はナイトビジョンを持っていないようだった。加賀たちは敵を狙い撃ちにしていく。敵兵も撃ち返すがそれは、マズルフラッシュや発砲音を頼りに撃っているだけでほとんど当てずっぽうのような感じだった。加賀たちのワンサイドゲームだった。加賀たちは通信室を出た。

 

大井「タクティカルフィールドを停止します」

 

鷹泉「V.T.O.L機だ。このままじゃ動けないぞ」

 

敵部隊が展開し、V.T.O.L.機が飛んでいた。敵部隊だけならなんとかなるかもしれないか、V.T.O.L機もとなると厄介だ。

 

金剛「皆さん撃たないでくだサイ。アレはmeがヤルネー!」

 

金剛は主砲を放った。砲弾は翼に命中し、機体はきりもみ状態で敵部隊のど真ん中に墜落した。加賀たちはすぐさま格納庫へ向かった。

 

吹雪「回収地点はポイントBの衛星タワーに変更。回収チームにも連絡してください!」

 

階段を上ると通路に出た。通路の先は深い霧に閉ざされている。そこから物音が聞こえてくる。例えるならば鎧を着た騎士が何百人も行進してきている、そんな感じである。

 

金剛「Please be quiet, everyone.」

 

霧の中に赤い無数の光か見えた。その赤い光はどんどんと近づいてくる。

 

加賀「冗談でしょ!?」

 

その正体はまさに無数の鋼鉄の騎士(ロボット兵)だった。

 

北上「射撃開始!!」

 

金剛たちの主砲が火を吹き、加賀と瑞鶴の爆撃隊が猛爆を加える。それでもロボット兵はゾンビのごとくこちらに向かってくる。

 

加賀「格納庫の扉を開くから援護して!」

 

加賀は格納庫の扉にハッキングを仕掛け開いた。

 

瑞鶴「回収地点まで向かうわよ!」

 

吹雪たちは加賀に続いて格納庫へと逃げ込む。全員が逃げ込んだのを確認した加賀は扉を閉めた。

 

吹雪「私たちはもう大丈夫です。捕虜を解放してやってください」

 

金剛「さっきも言ったケド、優先事項じゃ・・・」

 

吹雪「そう言う問題ではありません!彼らだって人間です!」

 

吹雪は珍しく声を荒らげた。その迫力は駆逐艦でありながらまるで戦艦にも匹敵するもののようだった。金剛は金剛はこれに心を動かされた。

 

金剛「わかりマシタ。計画変更デース!ブッキーたちは中尉と元帥を連れて回収地点に向かってくだサーイ!ワタシたちB班は捕虜の救出に向かいマース!」

 

吹雪「ロボット兵はどうするんですか?」

 

瑞鶴「あいつらのことはまかしときなさい!アウトレンジで屑鉄にしてやるんだから!」

 

北上「さっ、早く脱出しなよ。私たちも後から追うから」

 

金剛たちと別れた加賀と吹雪は鷹泉中尉と元帥と共にLAV-25に乗り込んだ。ドライバーは加賀でターレットは吹雪だ。加賀はアクセルを踏み込んだ。LAV-25はシャッターを突き破り検問所を突破した。待機していたであろう敵車両とロボット兵に吹雪は射撃を加えていった。

 

加賀「V.T.O.L.よ!蜂の巣にしてやって!」

 

吹雪が引き金を引くと分速200発で放たれるAPDS弾はV.T.O.L.の装甲を貫通し、V.T.O.Lは炎に包まれた。吹雪はどんどん敵車両を廃車にしていく。加賀はハンドルを右に切って道無き道を進む。

 

吹雪「加賀さん!?何してるんですか!?」

 

加賀「こっちの方が近道よ」

 

その瞬間右から敵装甲車が飛び出してきた。

 

加賀「右から敵装甲車!片付けて!」

 

言い終えた瞬間爆発音が聞こえる

 

加賀「大した腕ね」

 

道路に出るとV.T.O.L機が出現した。吹雪は命令するよりも早く機体を撃ち落とした。

 

装甲車が急に止まってしまった。

 

吹雪「どうしましたか!?」

 

加賀「エンストしているわ!耐え切って!」

 

鷹泉「加賀さん!早く出してください!」

 

加賀「私が何をやっているように見えるの!?動いて!」

 

無数のロボット兵がこちらに向かってきている。吹雪はターレット、主砲、機銃、手榴弾、ありとあらゆる方法で敵の攻撃をしのいでいた。

 

加賀「お願い、動いて!」

 

その瞬間エンジンが大きく唸りを上げた。

 

加賀「やりました!出発!」

 

装甲車は猛スピードでトンネルへと突入する。すると右に装甲車が現れた。装甲車は加賀たちにぶつけてきた。加賀たちは壁に抑え付けられるように走る。

 

加賀「頭にきました」

 

加賀は急ブレーキをかけ敵の右後方に出た。加賀は思いっきり敵の右後方部分に車体をぶつけた。

 

吹雪「えっ、ちょっ、うわぁぁぁ!?」

 

装甲車は大きくバランスを崩し目の前で一回転した後、加賀たちの装甲車とトンネルの天井の間のすれすれのところを飛んでいった。吹雪は飛んでくる瞬間大きく身をかがめて助かった。

 

吹雪「何やってるんですか!!?上半身無くなるところでしたよ!?」

 

加賀「無くならなかったでしょ?それにあなたなら避けられると思ってたのよ。」

 

吹雪「・・・信頼されてるんだか雑に扱われてるんだか」

 

吹雪は加賀に聞こえないように愚痴を言った。トンネルを出るとV.T.O.L.機が襲いかかる。

 

加賀「V.T.O.L.!撃墜して!」

 

V.T.O.L.は巧みに回避しようとするが、たちまち火を吹いた。

 

ドローンオペレーター妖精『ドローンが到着する。30秒だ。着陸地点の座標を送る。』

 

金剛『カガ!追加の捕虜を確保したネー!元帥と一緒に脱出させてくだサーイ!新しい4人と一緒に衛星towerに向かいマース!』

 

加賀「わかったわ。吹雪さん!回収地点はもうすぐよ!道を外れる!」

 

加賀は猛スピードのまま回収地点である衛星タワーへと向かっていった。衛星タワーが見えてきたが、ドローンはまだ到着していない。

 

加賀「早く来すぎたようね!」

 

片方のタイヤが大岩に乗り上げ車体が大きく傾く。

 

加賀「みんな何かに捕まって!」

 

猛スピードで荒地に突っ込んだためLAV-25は数回横転してようやく止まった。

 

吹雪「うぅ・・・ん・・・か、加賀さん。だ、大丈夫ですか?」

 

加賀「え、ええ。なんとかね。肋骨が2、3本折れたみたいだけど・・・」

 

吹雪「それって大丈夫って言わないんじゃないんですか!?」

 

加賀「そんなことより早く脱出しないと」

 

吹雪「そんなことって・・・わかりました。」

 

加賀と吹雪はLAV-25から脱出し、衛星タワーへと向かった。

 

ドローンオペレーター妖精『回収ポッドが到着した。それに乗り込め。』

 

回収ポッドに到着すると元帥を乗せた。それを逃すまいとロボット兵が向かってくる。

 

加賀「吹雪さん!時間を稼いで!私が元帥と中尉を援護するから!」

 

吹雪「了解です!」

 

吹雪は主砲と機銃で時間を稼ぐ。ロボット兵は機銃で粉々になり、ストライカーICVは砲弾で爆発した。またその炎に巻き込まれて爆発をおこすロボット兵もいた。

 

加賀「元帥を守って!深海棲艦を近づかないで!」

 

吹雪「うおおおおお!」

 

吹雪は叫び声を上げて敵を撃ちまくった。それでも多勢に無勢、徐々に押されていった。

 

ドローンオペレーター妖精『ドローンが到着した。回収に備えろ』

 

加賀「今よ!早く回収ポッドに乗り込んで!」

 

吹雪「了解!今か」

 

吹雪の至近距離で爆発が起き、吹雪のみが出遅れてしまう。

 

ドローンオペレーター妖精『ドローン移動可能。回収を開始する』

 

加賀「駄目!待って!吹雪がまだ!」

 

吹雪が乗り込む前に無情にもドローンは飛び立ってしまった。

 

加賀「クソ!2分よ!2分待って!必ず戻ってくるから!」

 

その瞬間、吹雪の体が強い力で後ろに引き倒される。さっきのロボット兵だ。主砲と機銃は先ほどの爆発でどこかにいってしまった。ロボット兵に足で押さえつけられる吹雪。足を左手で殴り続ける。するとロボット兵はその左腕を掴み・・・

 

吹雪「アアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

引きちぎった。鮮血がどんどん吹き出す。足で蹴ると吹雪は両足をへし折られた。残った右腕もついでとばかりに引きちぎられた。あとは力任せに何度も吹雪の腹を殴りつけた。激烈な痛みと出血多量で意識が朦朧とし始める。

 

吹雪(加賀さん・・・どうやら・・・2分の約束は・・・守れそうにありません・・・加賀さん・・・約束して・・・ください・・・必ず・・・深海棲艦を・・・滅ぼす・・・海を・・・取り戻す・・・って)

 

最期を覚悟したその瞬間、ロボット兵は銃弾で粉々にされていた。そしてロボット兵を倒したであろう何者かがこちらに近づいているのが見えた。

 

???「大丈夫デース。しっかりしてくだサーイ」

 

吹雪は確かに聞き馴染みのある声を聞いた。だが吹雪はその声の持ち主が誰かに気づく前に意識を手放した。

 

 

 

『余ハ常ニ諸子ノ先頭ニアリ』 ―栗林忠道




次回予告
深海棲艦の攻撃で瀕死の重傷を負った吹雪。アトラス社の科学者鶴田翔はとある技術を吹雪に施す。第五遊撃部隊の新たなる戦いが始まる。


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新たなる力

前回のおさらい
元帥と鷹泉中尉の救出に成功した加賀と吹雪だったが、金剛たちと脱出を試みるも吹雪だけが脱出に失敗し瀕死の重傷を負ってしまう。彼女を助ける手立てはあるのだろうか。


提督室

 

大淀「失礼します。提督。報告があります」

 

粕屋「ああ、すでに聞いている。吹雪の怪我のことだろ?」

 

大淀「あれほどの怪我となりますと艦娘としての復帰は不可能です。少なくとも我が軍の技術力では、ですが」

 

粕屋「あとはアトラスがどこまでやれるか、ということか」

 

粕屋は立ち上がり机の上のものを力の限り薙ぎ払った。

 

粕屋「ちくしょう!俺は吹雪が大変な時だってのに!指をくわえて見てるしかできないのか!」

 

大淀「提督・・・」

 

粕屋は底なしの無力感を感じていた。それは窓の外に見える海よりも深く静かなものだった。

 

アトラス社研究室

 

1杯のコーヒーが湯気を立てる。白衣の男はこれ以上なく優雅にコーヒーをすすり報告書を読む。男の名は鶴田翔。いわゆる天才科学者というやつである。彼が世界に与えた影響は絶大だった。彼の研究によりヒューマンバイオオーグメンテーションの技術は飛躍的に進歩した。

 

ヒューマンバイオオーグメンテーションとは簡単に言えば人体に機械を組み込む技術である。実を言うと加賀の義手もヒューマンバイオオーグメンテーションによるものだ。この技術により人類が永遠の命を手に入れることも夢物語じゃなくなるのだ。

 

助手「博士、新たな依頼です」

 

鶴田「登録ID D246195314515947。名前は吹雪。吹雪か。確かアトラス所属艦娘の中で最古参だったな。両手足欠損。出血多量。内臓もぐちゃぐちゃだ。こんな状態でよく生きていたな」

 

助手「どうなさいますか?」

 

鶴田「決まってるだろ。艦娘は人類にとって貴重な戦力なんだ。ヒューマンバイオオーグメンテーションを行う」

 

助手「了解しました」

 

鶴田「・・・ちょっと待った。この際他の第五遊撃部隊隊員全員にも施すことにしよう」

 

助手「なぜです?」

 

鶴田「好奇心」

 

先ほど鶴田は天才科学者だといったが、彼は世間一般に認められるような天才ではない。彼は()()()()()マッドサイエンティストなのだ。なぜ彼が公認なのかというと彼はマッドサイエンティストだということは間違いない。皆周知の事実だ。人体実験をしているという噂もあるが証拠がない。学会追放ができない。できないが研究成果が優秀なので()()している状態なのだ。鶴田はそのことをマスコミに追及されたがこう明言した。『悪人は成果を表に出さないが、天才は表に出しても何もない。悪人と天才は紙一重だが雲泥の差が存在する』と。

 

第357号室

 

ここは吹雪の病室である。人工呼吸器につながれた吹雪。それを重い表情で取り囲む第五遊撃部隊の面々。誰も話すことなくただ果てしない沈黙が支配していた。だがその沈黙は突然破られた。突然ドアが開かれ真っ白な防護服を着た数人の研究員が入ってきた。そして吹雪をストレッチャーに乗せる。

 

瑞鶴「ちょっと!吹雪をどうするの!?」

 

突然入ってきた男たちに説明もなしに連れていかれる吹雪。そんな理解が追い付かない状況に瑞鶴、加賀、金剛、大井、北上は研究員に詰め寄った。

 

研究員「手術ですよ」

 

金剛「Unbelievable!治るンデスカー!?」

 

研究員「もちろんですよ。我が社のヒューマンバイオオーグメンテーションの技術を持ってすれば治ります」

 

加賀「それってもしかして私の義手の・・・」

 

研究員「そうです。同じ技術です」

 

大井「加賀さんは結構義手を駆使して戦果をあげてましたよね?」

 

北上「吹雪もおんなじ感じになるってこと?」

 

瑞鶴「なかなか羨ましいわね」

 

研究員「それから、あなたたちも手術を受けてもらいます。」

 

金剛「どういうことデース!?」

 

研究員「あなたたちに受けてもらうのは筋肉と筋肉の結合部分に機械を植え付け身体能力を上げる手術です。それとこちら。」

 

研究員はタブレットを見せる。それは新しい特殊スーツの計画書であった。

 

瑞鶴「特殊スーツ?」

 

研究員「ええ。まあ、スーツと言ってもカスタマイズが可能ですので見た目としては皆さんが今着ていらっしゃる服と変わりませんがね。寒暖などの体温調節はもちろん、スーツで内蔵された機械で酸素を生成し直接体内へ供給するので海にも潜れますよ。」

 

全員「!?」

 

全員が驚愕した。いうまでもなく潜水艦以外の軍艦が海の中に潜るということは撃沈されたことを意味するからだ。

 

大井「ちょ、ちょっと待ってください!艤装は?艤装のおかげで海に立ってるんですよ?」

 

研究員「皆さんの艤装とスーツを同調すれば皆さんが念じるだけで潜ることができるようになりますよ」

 

北上「だけど、提督の命令でもないのにこんな手術はねぇ・・・」

 

研究員「許可ならもらってますよ。ほら」

 

そう言って粕屋提督の署名入りの命令書を見せつける。

 

加賀「間違いなく提督の字ね」

 

瑞鶴「提督の命令である以上従わないわけにはいかないわね」

 

北上「恐いけど、海に潜れるねぇ・・・いいかもね」

 

大井「北上さんと一緒ならどんな壁でも乗り越えられます!」

 

金剛「皆サン異論は無いデスネー?」

 

全員がうなづく。

 

研究員「それでは皆さん、早速今日から入院してもらいます。これから1人ずつ精密検査をします」

 

加賀たちが研究員の後を追って病室を出ていく。

 

加賀「ところで、もしも私たちが拒否したらどうするつもりだったんですか?」

 

研究員「拒否されてたら麻酔薬を使って強制的に手術を受けさせるつもりでしたよ。博士の命令は絶対なので」

 

加賀は自分の所属企業でありながら、少しゾッとした。この人たちはその博士に死ねと命じられたら喜んで死ぬのだろう。病院の白い壁、床、制服、それらすべてがどんどん歪んでいっているように見えた。

 

その日から加賀たちの入院生活が始まった。加賀は義手の時や入渠の時に入院していたので慣れていたが、金剛たちは何もかも戸惑っていた。食事は海軍病院では普通の病院食だが、ここではなんでも食べれるという。風呂も海軍のより治りが早い。ベッドは寝るとクラシック音楽をかけてくれる。何もかもが海軍のより優れていた。

 

入院生活は検査の毎日である。血液検査、レントゲン、MRI などなど。きっと待遇が良いのもこのせいなのだろう。

 

そしてついに全員の手術の日がやってきた。病室に防護服を着た研究員が入ってくる。そして加賀達をストレッチャーに乗せてそれぞれの手術室へと向かっていった。加賀の体に麻酔が打たれる。若干の痛みを感じるが徐々に意識が遠のいていく。次目覚めるときは新たな力が手に入った時だ。加賀はそう思いながら意識を手放した。

 

手術は体に小さな穴をあけて超小型ロボットを操作して体内に遺伝子操作などで機械を植え付けていくものだ。博士が言うには普通の人間がやれば98%が壊れるという。だが艦娘のような鍛え上げられた軍人ならばその生存の確率は格段に跳ね上がるという。

 

手術は8時間にわたる大手術となった。結果は大成功。加賀たちは新たな力を手に入れた。加賀は病室で目を覚ますと全身を見渡したが特に変わった様子がない。まあ若干機会を植え付けただけなので違和感があるほうがおかしいのだろう。自分の会社とはいえアトラスの技術はすごいものだと加賀は内心感心していた。

 

翌日からリハビリが始まった。リハビリといっても操作上の問題点の修正、強化状態の筋肉とスーツへの順応、艤装を展開しての航行及び演習。いわばブートキャンプのようなものだ。リハビリは熾烈を極めたが加賀たちは見事に期待に応え順応していった。

 

 

この地球上のどこかにある黒い部屋。そこに彼らはいた。

 

?「アレノ準備ハデキタカ?」

 

ヲ級「ハイ。プレゼントハコチラノ無線デ合図ヲ送レバスグニデモ我ガ同胞ガソレゾレノ配達場所ニ向カイ行動ヲ開始シマス。」

 

?「長カッタナ。戦争ガ始マッテ100年。ヤハリ人類ガ支配スルニハコノ地球ハ広スギル。人類ニ思イ知ラセル時ガ来タ。我々深海棲艦コソガコノ地球ノ真ノ支配者ナノダト。合図ハ?」

 

ヲ級「『パンドラ』デス」

 

彼は目の前の無線のスイッチを押した。そして静かで冷たい声で話す。

 

?「各員、聴イテイルカ?」

 

深海棲艦兵A『問題アリマセン』

 

深海棲艦兵R『電波状況良好』

 

深海棲艦兵F『作戦ノ指示ヲ』

 

?「ナニカ言イ残ス事ハナイカ?」

 

全深海棲艦兵『天ヨ!我等ガゴライアスノ名ヲ讃エヨ!世ニ光ヲ齎サンコトヲ!』

 

ゴライアス「全深海棲艦ニ代ワッテ感謝スル。コレヨリ人類殲滅作戦ヲ開始スル。『パンドラ』」

 

 

 

『戦争は破壊の科学である』 ー アボット




次回予告
家族旅行でロンドンを訪れたとある一家。父親がカメラで妻と娘の姿を撮っていると隣に一台のトラックが停まる。新たな悲劇の幕が上がる。


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Der totale Krieg
悲劇


前回のおさらい

ヒューマンバイオオーグメンテーションの技術で新たな力を手に入れた第五遊撃部隊。だがその頃世界では人類殲滅の狼煙が上がる。


2065年

イギリス ロンドン

 

●REC

娘『お父さん、見て!ビックベンだよ!』

 

父親『ああそうだな』

 

母親『思ってたより大きいのね』

 

彼らはスコットランドに住む弁護士一家だ。この日は休暇を取って家族旅行でロンドンに来ていた。

 

娘『わぁ!鳥さんだ!』

 

少女は鳩の群れを見つけると走り寄っていく。鳩はその走り寄ってきた少女に驚いて一気に飛び去った。それは戦争とは無縁な平和な様子を体現したかのようだった。

 

鳩が平和の象徴とされるのは旧約聖書の『創世記』に登場する『ノアの箱舟』に由来するとされている。

人間の堕落を憂えた神は大洪水を起こして人類を滅ぼすことを計画する。ただそんな中、唯一信心深かったノアという男にだけはそのことを伝えた。

そして、「方舟を作り、家族とつがいの動物を乗せなさい」と告げた。ノアは神のお告げ通りにし、大洪水に備えた。

そして神は宣言通り大洪水をおこし、方舟に乗せたノアの家族と動物以外を滅ぼした。

 

方舟はアララト山の上に停まり、40日後ノアは鳩を放った。地表が出ているかどうかの確認をさせるためである。鳩はオリーブの葉を持って帰り、再び地表が現れたことを伝えた。そして方舟は地表へたどり着き、再び人類と動物は繁栄したという物語である。

 

この逸話により鳩が平和の象徴とみなされるようになった。

 

その認識がさらに高まったのは20世紀の画家パブロ・ピカソの影響もあるという。1949年パリで第1回平和擁護世界大会が行われた。その会議のポスターを手掛けたのがピカソだった。そこにはオリーブの葉を咥えた鳩が描かれた。これにより鳩が平和の象徴であるという認識が世界中に広まったのである。

 

日本では逆に鳩は戦神八幡大菩薩の神使として扱われた。軍記物には出陣に際して、勝利の瑞鳥として現れる話が数多く残されている。平安時代には平家物語にも登場する熊谷直実が軍功により源頼朝から「向かい鳩」の家紋を下賜されるなど、武家の家紋にも採用されるほどだったという。

このように日本と西洋との鳩の認識は全く逆だったのである。

 

話を戻そう。

 

父親『こらこら、危ないぞ』

 

母親『そんなに走ると転んじゃうわよ?』

 

娘『早く早く!』

 

父親『ハハッ、わかったよ』

 

母親『ごめんなさい、あなた。あんなに忙しい時期なのに』

 

父親『いいんだよ。家族サービスってやつさ』

 

その時、すぐ隣を1台のトラックがゆっくりと通過し、十数メートル先で停まった。父親は気が付きはしたが娘を撮るのに夢中になっていたので特に気にしてはいなかった。その後カメラは捉えた。停車した後逃げるように運転席から降りトラックから離れる男2人組の姿を。そして次の瞬間トラックは爆発した。

 

爆発したトラックの荷台から緑色の気体が溢れ出した。デイビス一家は爆発により全員が即死していたので吸い込むことはなかったが、吸い込んだ人間は次々と倒れていった。

 

 

横須賀鎮守府内のとある場所

 

薄暗い部屋。普段は静かで若干の話し声とキーボードをたたく音だけが聞こえるのだが、今は怒号が飛び交っている。ここは国際統連合軍情報統制部である。横須賀鎮守府にはもちろん場所は言えないが設計図には載っていない部屋が存在する。この場所を知っているのは提督、任務娘である大淀、秘書艦である長門、情報艦である青葉のみである。

 

BBC《グリニッジ標準時午後1時20分頃、深海棲艦による大規模なヨーロッパ同時攻撃が行われ・・・》

 

ARD《毒ガスによりベルリンは死体の山と化しており・・・》

 

HTV《現在官庁街より半径3km圏内は軍により完全に封鎖されており…》

 

RAI《これに対し政府は国家非常事態宣言を発令し・・・》

 

粕屋「状況を報告せよ!」

 

大淀「提督!深海棲艦の攻撃目標はパリ、ベルリン、ローマ、ロンドン、モスクワ・・・」

 

青葉「提督!GIGNより通信!画面に出します!」

 

GIGN隊長『こちらGIGN本部!部下が死んでいく!ゴホッゴホッ、私も吸い込んでしまった!』

 

青葉「KSK、GIS、SAS、スぺツナズからも緊急通信です!」

 

ドイツ海軍『こちらヴィルヘルムスハーフェン海軍基地!深海棲艦の攻撃を受けている!』

 

粕屋「深海棲艦による毒ガス攻撃の報告は受けている。直ちに中和部隊を送る」

 

ドイツ海軍『違う!深海棲艦の大艦隊だ!猛攻を受けている!上陸部隊もいるぞ!』

 

粕屋「繰り返せ、ヴィルヘルムスハーフェン。深海棲艦が?」

 

ドイツ海軍「深海棲艦の総攻撃だ!直ちに援軍をよこせ!」

 

粕屋「了解した。直ちに艦隊を派遣する。半日だ。半日持ちこたえてくれ」

 

鎮守府内に警報が鳴り響く。いつもは作戦会議室で命令を出すのだが直ちに出動しなければならないときはこのように警報が鳴り響き館内放送で作戦を伝える。

 

粕屋『提督の粕屋だ。ドイツ ヴィルヘルムスハーフェン海軍基地から連絡があり、現在同基地は深海棲艦の艦砲射撃を受けているとのことだ。我々はこれに対し艦隊を派遣を決定した。全艦出撃せよ。幸運を祈る。』

 

艦娘「了解!」

 

艦娘たちは全員敬礼をすると急いでドックへ、ではなく飛行場へと向かった。艦娘専用フライトスーツを着ると格納庫の輸送機に飛び乗る。

 

パイロット妖精「管制塔。こちらFGC-1。全員の座乗を確認。離陸許可を求む」

 

管制塔「了解FGC-1。離陸を許可します」

 

数十機の輸送機が順番に牽引車に引かれて誘導路に出て行く。

エンジンが唸りを上げて機体がゆっくりと滑走を始めた。長門は全機につながる無線を手に取った。

 

長門「今回の任務はドイツ近海の深海棲艦の撃滅である!今回の攻撃はこれまでのものとは比べ物にならない程激しいものだ。私のような戦艦にも轟沈艦が出るだろう。しかし!私は貴様達の日々の訓練に対する努力を知っている!貴様達は再び祖国の土を踏むことができるだろう!この作戦が失敗すれば敵はヨーロッパ全土を支配下に置く。これは言うまでもないがヨーロッパ諸国民の運命は偏に貴様達の双肩にかかっている!獅子奮迅の活躍を期待する!暁の水平線に勝利を刻み込むのだ!以上をもって私の訓示とする」

 

その瞬間艦娘たちは鳥になった。彼女達は今西へ飛んでいる。夜に飛び立ったが西に進むにつれて西の空が白み始める。それはまるで太陽が彼女達を歓迎しているかのようだっだ。

 

粕屋は艦娘たちに任務を伝えた後、もう1か所に無線を繋げた。

 

加賀《何でしょうか提督》

 

粕屋「全員聞いているな?」

 

全員《はい》

 

粕屋「内容は言わなくてもわかるだろう?」

 

吹雪《深海棲艦のヨーロッパ大規模同時攻撃ですね?》

 

粕屋「そうだ」

 

金剛《meたちにも出撃しろってことデスネー?》

 

粕屋「そうなんだがお前たちにはもう一つ別の任務についてもらう」

 

加賀《別の任務?》

 

粕屋「攻撃を受けた同時刻にハンブルクで深海棲艦が会議中だった各国首脳たちを人質にしている。目的はわからないが安全確保の為に助けてやってほしい」

 

吹雪《待ってください。それだけの理由じゃないですよね?今回の会議には日本の首脳は参加してないですしわざわざ日本から出向く必要がないのではないですか?》

 

粕屋「さすが吹雪だな。今回の会議には首脳の他に参加者がいたんだ」

 

瑞鶴《参加者?なんかとんでもない人のような気がするんだけど》

 

粕屋「『灰色の男たち(グレイメン)』と呼ばれる7人の男たちだ。世界経済を牛耳るほどの権力を持っている」

 

大井《世界経済って・・・滅茶苦茶とんでもない人たちじゃないですか!?》

 

粕屋「実はわが軍がこうして活動できるのも彼らの資金面での支援が大きい。ここで灰色の男たちを失うということは軍が立ちいかなくなるということを意味する。だから絶対に彼らを無事に救出しなければならない」

 

加賀《了解しました。直ちにハンブルクに向かいます》

 

粕屋「ついでに言っておくがこの任務の指揮はアトラス(そっち)に一任することになっている。そちらの指揮官に従うように」

 

全員《了解!》

 

アトラス社

 

アトラス社にいた加賀たちは提督からの命令を受けアトラス社内の格納庫にある輸送機の中にいた。ウィングスーツを着込みヘルメットをかぶりすでに準備万端だった。

 

加賀「任務の再確認をするわね。毒ガス攻撃と同時にハンブルク市内で行われていた会議が深海棲艦の襲撃を受けた。参加していたEU各国首脳たちと灰色の男たちが人質になっているわ」

 

加賀に対し吹雪がヘルメットの濃色シールドを挙げて答える。

 

吹雪「今回の任務は首脳と灰色の男たちの保護」

 

加賀「ええ、そうよ。首脳と灰色の男たちの安全が確保でき次第私たちもヴィルヘルムスハーフェンに向かう」

 

金剛「いよいnew第五遊撃部隊の出番ネー!」

 

北上「じゃあみんな準備はいい?」

 

大井「はい!北上さん!」

 

北上は無線機を手に取った。

 

北上「じゃあ発進しちゃってください」

 

北上がそう言うとエンジン始動とともに機体が小刻みに揺れ始める。

 

金剛「今までsecretにしてマシタケド、実は飛行機苦手なんデース。特にlandingが恐くて」

 

吹雪「だ、大丈夫ですよ金剛さん!ち、着陸よりもりり、離陸の方がき、危険らしいですから・・・」

 

金剛「ブッキー!不安を煽るような事を言うのはやめてくだサイ!!」

 

北上「ハハハ・・・」

 

大井「金剛さんやっぱり飛行機苦手だったんだ。だから降下の訓練の時欠席が多かったんですね」

 

それぞれが思い思いの事を話す中、加賀だけただ一人ずっと考え事をしていた。

 

加賀(いよいよ深海棲艦も本気を出してきたってとこかしら。だけど首相や灰色の男たちを人質にするためにこんな大事を起こすのだろうか?何か別の目的が?それに今回の攻撃。裏に巨大な何かが動いているような気がする。案外他に隠し玉があるのかもしれないわね)

 

加賀は色々と思案を巡らせた。ただ加賀のこの考えが現実のものになるのはまだ後の話である。

 

窓はないので外の様子はわからないが機体が進んでいるのだけはわかった。徐々にスピードは上がっていき機体が傾いていく。下に重力を感じる。離陸すると輸送機は高度1万メートル以上を飛行する。敵の視認圏外であり攻撃を避けるためだ。作戦はこうだ。各国空挺及び艦娘部隊と合流。ドイツ上空に到達後ウィングスーツで降下。ベルリン上空では敵艦載機による激しい攻撃が予想されるため超低空飛行を行い高層ビル群を楯に目標へと接近する。閣僚達の安全を確保でき次第、基地へと向かう。大まかに言えばこんな感じである。

 

鉄の鳥は夜空へ舞い上がり矢の如く遠いドイツを目指す。地獄への一方通行。それを彼女達は神妙な面持ちで感じていた。

 

 

 

『平和を思うのに死にに行く。それが異常だと気づけない』 ー藤原寛治




次回予告

灰色の男たちと各国首脳らの救助に向かった第五遊撃部隊。だがそこで深海棲艦の真の目的を知ることになる。地獄の扉はまだ開いたばかりである。


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地獄

前回のおさらい

深海棲艦によるヨーロッパ同時テロ攻撃が開始された。ヨーロッパ中が大混乱に陥る中ドイツの海軍基地から深海棲艦の総攻撃を受けているという報告が届く。これに対し各国軍は艦隊の派遣を決定した。


ドイツ ヴィルヘルムスハーフェン海軍基地

 

「クソ!レインゲン中佐が戦死!」

 

「あのくそったれ戦車野郎に特大のカウンターパンチをお見舞いしてやれ!」

 

海軍基地ではドイツ海軍及び陸軍の応援部隊が深海棲艦と必至の抵抗を続けていた。

 

「ちくしょう!艦隊はまだか!?」

 

「もうそろそろ来るはずです!」

 

「格納庫、弾薬庫、司令室は何としても死守しろ!」

 

「了解!」

 

ドイツ上空 米海軍部隊

 

「降下開始ポイントまであと3分!」

 

機内ではすでに多くの艦娘および兵士が降下準備を終えていた。それを確認した旗艦アイオワが全員の前に立ち声を出す。

 

アイオワ「この場に臆病者はいますか!?」

 

全員「いるわけがありません!!」

 

アイオワがボタンを押すとブザー音が鳴り響き後部ハッチが開いていく。そこから強風が機内に吹き込み彼女のヘルメットからはみ出たブロンドの髪が靡く。

 

アイオワ「Are you ready?Semper(常に)!」

 

全員「Fi(忠誠を)!」

 

アイオワ「Go,Go,Go,Go,Go!」

 

彼女の号令とともに艦娘と兵士が大空へと飛び出す。アイオワは全員が飛び出したのを確認すると上を見上げた。

 

STAY ALERT, STAY ALIVE.(警戒せよ。生き残れ。)

 

後部ハッチの上にペンキで書かれている言葉だ。このペンキ文字は彼女が出撃前に出撃する艦娘や兵士たちに向けて書いた文字なのだ。まさに海兵隊と艦娘の精神を体現したような言葉である。アイオワはノーフォークにいたのだが2056年2月にノーフォークは深海棲艦の襲撃を受けた。大破状態の彼女は随伴艦の捨て身の援護によって基地を脱出できたが助かったのは彼女だけだった。その後いつ襲われるかもわからない海域を命がけで進み400㎞離れたフィラデルフィアまで奇跡的に脱出することができたのだ。あの時にもっと私に力があったならば。彼女はいつもそのように悔やんでいた。そして今度仲間がやられそうになっていたら私が捨て身ででも助けよう。そのようににも思っていた。もうあんな思いはしたくない。だからみんな死ぬな。生き残れ。そんな願いを込めて彼女は文字を書いたのである。

 

アイオワ「OK. Let’s go!」

 

そんな考えを振り払い、彼女は目の前の任務をただ遂行することだけを考えることにした。再度機内を確認すると整備員が声をかける。

 

整備員「神の御加護を!」

 

アイオワはそっと微笑み敬礼をした。そして彼女も仲間の後を追った。

 

日本海軍部隊

 

一方長門たち日本軍部隊はすでに降下を開始していてそれぞれの部隊に分かれ基地を目指していた。基地はもうすでに見えている。あちこちから真っ黒な煙が立ち上がっていて味方は奮戦しているようだが早くしないと限界を迎えてしまう。だが神はあまりにも非情だった。

 

陸奥《長門!敵機後方より接近!》

 

長門《もう少しだというのに!》

 

長門(この高速移動のなか主砲を撃つのは危険すぎる。そして機銃を撃とうにも照準を合わせるのが難しい。仕方ない)

 

長門《あそこで振り切るぞ!》

 

長門は目の前の高層ビル群を示した。

 

全員《了解!》

 

ビル群に突入すると姿勢制御や急旋回で敵機を振り切ろうとするが敵もなかなかの手練れでぴったりとついてきた。街は深海棲艦機の襲撃を受けたのだろうか所々建物が崩れ荒廃し人っ子一人いない状態だった。長門たちはそんな街の空を猛スピードで飛びまわっている。敵の攻撃を避けながら飛んでいるとある程度形を保ちながら目の前の通りをふさぐように倒れているビルが目に入った。そしてそのがれきの間にはわずかにすき間が空いている。

 

長門「全員!針に糸を通せ!」

 

全員が驚愕した。確かにすき間はあるが問題は高さだ。高さは人が一人立てるぐらいしかない。だがもう後には引き返せない。全員が覚悟を決めすき間へ接近した。小さな穴だがまるで死神が大きく口を開けているように見えた。死神の口へと突入する。一瞬の恐怖感が通り過ぎる。危なかったが全員無事に突破できた。ちなみに敵機はビルを避けようと急上昇するも間にあわずビルに激突した。

 

秋月《敵機墜落!墜落を確認!》

 

長門《ようやく振り切れたか。全員無事だな。基地へ向かうぞ!》

 

基地の沖合へと急ぐ。どんどん高度を下げていき基地の上空を通り過ぎる。敵兵の黒い血と味方の赤い血があちこちに落ちており血の海の中に無数の骸が転がっていた。轟音がしたと思えば敵戦車が吹き飛び無残な残骸を晒す。味方はとうに限界を越えていた。

 

ドイツ海軍

 

沖合では激しい海戦が行われていた。味方の航空支援はあるものの徐々に押されていきドイツ海軍はもう壊滅寸前だった。

 

ビスマルク「プリンツ!こちらの損害は!?」

 

プリンツ「ティルピッツ姉様、シャルンホルスト姉様、私とリュッツオウが大破・・・ヘッセンとメクレンブルク、グラーフが大破寄りの中破状態です。全艦弾薬、燃料共にギリギリです・・・他はもう・・・いません」

 

ビスマルク「なんてことだ。我が栄光あるドイツ海軍が・・・!!プリンツ!避けろ!!」

 

プリンツ「きゃあ!!」

 

万雷のような砲撃が聞こえ、プリンツの周りに水柱が乱立する。

 

プリンツ「あ・・・アア・・・ああ・・・」

 

水柱が消えるとそこには艤装がボロボロになり血まみれで倒れているプリンツがいた。

 

ビスマルク「プリンツ!!」

 

プリンツ「・・・お・・・おえ・・あ」

 

言語不明瞭になっていてかなり危険な状態だった。ビスマルクはタ級を睨み付けた。ビスマルクの艤装は射撃可能な砲塔は2番砲塔だけだった。しかもその2番砲塔も2本あるうちの1本が破壊されていた。

 

ビスマルク「主砲射撃用意!」

 

副艦長妖精「ビスマルクさん!この状態では艤装が射撃の衝撃に耐え切れません!」

 

ビスマルク「構うもんか!私の命の一つや二つぐらい仲間を救えるならくれてやる!」

 

副艦長妖精「艦長!艦長も止めてください!」

 

艦長妖精「・・・射撃用意」

 

副艦長妖精「艦長!!」

 

ビスマルク「ありがとう・・・艦長」

 

射撃要員妖精「・・・砲弾装填完了」

 

ビスマルク「目標正面タ級!Feuer!」

 

砲弾は打ち出されたものの砲身が耐え切れず衝撃で折れてしまった。その衝撃でビスマルクは大破し航行不能状態に陥ってしまった。砲弾もタ級に命中したが大した効果は得られなかった。タ級はビスマルクを先に葬ろうと全砲門を彼女に向けた。

 

ビスマルク「ごめんなさいプリンツ・・・先にヴァルハラで待ってるから・・・」

 

タ級の砲門が火を噴く。キーンという直撃コースにある砲弾独特の甲高い金属音が響き渡る。ビスマルクは今生の別れを覚悟して目を閉じた。だが代わりに聞こえたのは砲弾が空を切る音とはるか後ろで炸裂する音だった。ビスマルクはゆっくり目を開けると両手、両足、水面に映る自分の顔の順番に見て状況を整理しようとした。

 

タ級「アア・・アアア・・・アア・・・・ア」

 

声のした方向を見るとタ級が悶え苦しんでいた。左手で抑えた左目から黒い血が溢れ、右手は肘から先がなかった。足も血で真っ黒に染まっていた。

 

???「ギリギリ間に合ったか」

 

ビスマルクは声のした方向を見た。

 

ビスマルク「長門!!」

 

長門「大丈夫か?手酷くやられたものだな」

 

ビスマルク「私のことはどうでもいい!早くプリンツを!」

 

長門「長良と由良はビスマルクとプリンツの曳航を、第六駆逐隊はその護衛を頼む!他はそれぞれ敵を撃破せよ!」

 

長良・由良・第六「了解!」

 

長良達はビスマルク、プリンツをつれて戦線を後退した。

 

長門「さてと・・・私は・・・・」

 

長門はタ級を見た。その目は日本刀のように鋭く野獣のように血に飢えていた。

 

長門「目標正面タ級!全砲門斉射!」

 

最強の41cm砲が吼える。

 

ハンブルク

 

加賀たちは渡り廊下にいた。超小型ドローンを飛ばし監禁されているホテル内を調べるためだ。

 

瑞鶴「ホテルへの侵入に成功。調査を開始するわ」

 

ドローンが目標の部屋へ進んでいく間に顔認証システムが超高速で敵兵の顔をデータベースに記録していく。

 

目標の部屋に到達すると換気口から中に入った。そこには敵兵4人と真っ黒なフードを被り、フェイスガードで顔を覆った謎の人物がいた。拳銃を所持しており、目の前にはドイツのラルシュタイン首相の秘書が座っていた。彼はどうやら負傷しているようだった。謎の人物が変声機で喋り始める。

 

???「人間トイうのハ皆いツか死ぬ。罪のアル者、ない者。要ハいツドう死ヌかそレだケよ」

 

ラルシュタイン「我々は皆神に生かされている!殺しても何の意味もないぞ!」

 

???「分カッていマせンネ」

 

その人物は秘書に拳銃を向け、頭を撃ち抜いた。

 

???「大キナ意味がアリまス」

 

 

加賀「人質が殺されました。突入を開始します」

 

アトラス指揮官《了解。司令部よりビデオリンクを受信》

 

霧岡『アトラスの力を見せつけてやれ。これ以上深海棲艦をのさばらせておくわけにはいかない。今がたたく時だ。彼らを救助すれば資金面でのバックアップが期待できるし、この地域への介入が可能になる。まあ気楽にしてればいい』

 

加賀「お任せください」

 

霧岡《期待しているぞ》

 

階段を登っていき突き当たりの鉄製のドアを蹴破った。ドアはグニャリと変形し吹き飛んだ。外ではごく少数ではあるが陸軍による降伏勧告が行われていた。大通りの上の配管に登り目標のホテルへ向かう。飛び降りるにはかなりの高さがあったが、手術のおかげで問題なく着地することができた。そこからさらに階段で降りると目の前に壁が立ちはだかった。建物内部に侵入するには屋上まで登る必要があった。

 

加賀「全員!マググリップ起動!」

 

マグクリップは強力な電磁石の手袋で壁を登るなど様々な用途がある。

 

屋上にたどり着くと侵入地点に行った。

 

金剛「mute chargeを仕掛けてくだサーイ!」

 

北上が持ってきたミュートチャージを仕掛けた。起動すると一帯が静寂に包まれる。すると今度は大井が同じような装置を侵入ポイントに仕掛けた。これはレーザー破壊装置である。文字通りレーザーによって遮蔽物を焼き切って破壊する装置だ。起動するとハンドルの部分がせり上がりレーザーが円形状にコンクリートの床に放たれる。ひび割れが起き崩落が始まったその瞬間、加賀たちは穴に飛び込んだ。

 

勝負は一瞬だった。敵兵は内部に7~8人いたが全員が気づかないままか応戦しようとするも間に合わなかったかで臓腑や脳漿をぶちまけて死亡した。

 

瑞鶴「人質は100m先よ」

 

ミュートチャージの効果が切れると瑞鶴はみんなに言った。

 

加賀「これより目標に向かいます」

 

アトラス指揮官《了解》

 

部屋を出てまっすぐ進んだところに目標の部屋がある。加賀たちはそこまで慎重かつ迅速に進んだ。

 

金剛「Clear.さあ高周波pulseを仕掛けて下サイ」

 

加賀たちは壁にパネルを置き映し出された映像の敵兵の反応があった影にマーキングした。

 

金剛「Fire!」

 

一斉に放たれた銃弾は敵兵を見事にとらえた。加賀たちは部屋に突入すると囚われていた人質の拘束を解いた。倒れている敵兵の顔を順番にのぞき込む加賀。どうやらあの映像に移っていた謎の仮面の人物はとっくに逃げた後だったようだ。加賀は顔を上げあたりを見回した。各国首脳と灰色の男たちは全員無事なようだ。

 

加賀は異変に気が付いた。各国首脳と灰色の男たちは()()無事?つまり、深海棲艦の目的は最初から首脳たちや灰色の男たちではなかった?この瞬間にラルシュタイン首相の口から加賀の仮説を裏付けるような言葉が放たれた。

 

ラルシュタイン「人質が連れ去られた!技術者たちだ!奴らの狙いは彼らだ!」

 

加賀「なんですって!?吹雪さん!アトラスに連絡!すぐにこの建物から出た不審車両を調べて!」

 

吹雪「もう連絡しました!今データを受信中です!・・・出ました!白のバンです!場所はB447号線を南東方面に逃走中です!今から向かいましょう!」

 

この時まだ加賀たちは知る由もなかった。この任務が後々世界中を巻き込むとんでもない大事件を引き起こすことになるとは・・・。

 

 

 

『我は死なり。世界の破壊者なり』 ージュリアス・ロバート・オッペンハイマー




次回予告

技術者たちの救助に向かった加賀たち。一方長門たちのいる海域に影が忍び寄る。


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Wolfsrudeltaktik

前回のおさらい
ドイツで深海棲艦との死闘が繰り広げられる中、ハンブルクにいる深海棲艦の目的は灰色の男たちではなくその会議に参加していた技術者たちだったということが判明する。第五遊撃部隊は技術者たちを奪還するため追跡を開始した。


深海棲艦基地

 

ゴライアス「フフ作戦ハウマクイッテルヨウダナ」

 

ヲ級「エエ。艦隊ニ若干ノ被害ガアリマスガ許容範囲内デス」

 

ゴライアス「新兵器ノ到着ハマダナノカ?」

 

ヲ級「通信ニヨリマスト現在イギリス海峡ヲ通過中トノコトデス」

 

ゴライアス「深海兵タチニハ頑張ッテモラワナイトナ。シカシマダ海域ノ制圧ハ出来ナイノカ?主要海軍基地ヲ叩クニハアノ海域ガ最適ダトイウノニ」

 

ヲ級「ソノ為ニ更ナル改修ヲ加エタノデハアリマセンカ。敵ノ攻撃モ問題アリマセン。ソノタメニ今回ハカ級、ヨ級ラヲ大量ニ動員シタノデハアリマセンカ。コレデ人類殲滅ハヤリヤスクナリマス」

 

ゴライアス「ソウダナ。ソレヨリ『皇帝陛下』ノ御機嫌ハドウダ?」

 

ヲ級「相変ワラズ御機嫌斜メダソウデス」

 

ゴライアス「何トカ御機嫌ヲ取ッテ間ニ合ワセルヨウニシロ」

 

ヲ級「了解シマシタ」

 

 

 

ドイツ ハンブルク

 

加賀たちはビルから出ると会議から連れ出された技術者たちを救出に向かった。道路を渡り向かいのホテルのロビーを通り抜ける。ヨーロッパ中が大混乱に陥っているせいか人はあまりおらず、残っていた人も急いで逃げようとしていた。ホテル前のロータリーに出るとそこは地方へ脱出しようとする車両と人でごった返していた。

 

瑞鶴「ここを通り抜けるのはなかなか骨が折れそうね」

 

金剛「Everyone!早くEnemyを追うネー!」

 

加賀「IAJFです!皆さん道を開けてください!」

 

加賀はそう言いながら人込みをかき分けて進む。吹雪たちも加賀の後を追う。中央の噴水に差し掛かろうとした瞬間向かいのビルから白煙が伸びてきた。

 

吹雪「RPG!伏せてください!」

 

吹雪がそう叫ぶとたちまち爆炎が出現し阿鼻叫喚の地獄が出現した。爆発で自動車が舞い上がりほかの自動車や一般人の上に落ちてまた爆発が起きた。加賀たちは噴水に飛び込み敵への応戦を開始する。

 

加賀「大井さん、北上さんは負傷者の手当てを!金剛さん、吹雪さんは私と一緒に敵を撃って!」

 

幸いにも前方には非戦闘員はおらず気兼ねなく撃つことができた。加賀と吹雪は2人いたRPG兵をほぼ同時に2人とも仕留めた。

 

敵兵の死体の山が積み上がっていく。ある者はガラス越しに撃たれ、ある者は車の爆発に巻き込まれ火だるまになり、またある者は急所は外れたもののバランスを崩してビルから落ち首の骨を折って絶命した。

 

金剛「Hey!Look at that!」

 

見ると上の高架からロープが垂れている。そこから敵兵が降りてきた。

 

大井「敵兵!撃て!撃て!」

 

ラペリング中の敵兵を撃つ。一発が止め具に当たりロープが切れ降下不可能に陥る。上には2人残され、その場で射撃を開始するも先に逝った者たちと同じ運命をたどった。

 

吹雪「どうするんですか加賀さん?これじゃ取り逃がしちゃいますよ?」

 

大井「敵の数はかなり多いです!増援もまだ来ます!」

 

金剛「この先のbattleも考えると、もう無駄遣いはできナイネー」

 

加賀たちは一生懸命、この状況を打開する策を考えた。北上は吹雪が目に入ると何かひらめいた。

 

北上「吹雪!加賀さん!『火産霊(ホムスビ)』を使ってみるのはどう?」

 

『火産霊』

強力な遠赤外線を照射し、対象物(車両や可燃物など)の温度を上昇させ爆破する機能である。

 

加賀「周辺の非戦闘員の避難は?」

 

瑞鶴「終わってるみたいね。気兼ねなく実行できるわ!」

 

加賀「吹雪!あなたはあの通路のタンクローリーを狙って!上手くやれば通路を封鎖できるかも!私は目の前のをやる!」

 

吹雪「了解!」

 

加賀「いい?まずは吹雪から爆破して。丸焼けになりたくないでしょ?」

 

吹雪は壁から少しだけ身を出し、手を前に出す。

 

吹雪「ターゲットロック。照射!」

 

照射は1秒にも満たない。吹雪は終了するとすぐに身をかがめた。そして数秒の後、タンクローリーは爆発。勢いは凄まじく150m以上離れていても凄まじい熱風が届く。

 

吹雪「加賀さん!」

 

加賀「ターゲットロック。照射」

 

同じように身をかがめると万雷の轟音が鳴り響く。先ほどの熱風もすごかったが今回のはさらに近距離で爆発したためさらに強烈な熱風が届いた。爆発で引火したのだろうか何回か爆発が起こる。

 

金剛「Enemyはいますカー?」

 

敵兵は爆発により消し炭と化すか生き残った者でも全身に大火傷を負い苦しみながら死んでいった。

 

瑞鶴「敵兵はいないわ。さっきの爆発で壊滅したみたいね」

 

吹雪「早く行きましょう!逃げられてしまいます!」

 

加賀たちは道路を渡り幹線道路へと急ぐ。

 

アトラス指揮官《目標のトラックは移動中。南500mだ》

 

十字路に出ると再び敵と会敵した。吹雪、金剛、瑞鶴が店の中に入り迂回し、加賀、北上、大井が正面から突破を図る。向かい側の店の敵兵を撃ちながら瑞鶴はこんなことを口にした。

 

瑞鶴「あの連れ去られた技術者ってどういう分野の人たちだったっけ」

 

吹雪「たしか、下のほうに書いてあったような……なんでしたっけ?で、で、でんし何とかだったような……」

 

金剛「Hey!ズイズイ!ブッキー!Storeのenemyはいないみたいデース!」

 

瑞鶴「ほんとだ!金剛さん!吹雪進むわよ!」

 

隙を見て向かいの店にはいる。

 

「クソ!何トシテモ時間ヲ稼ゲ!」

 

加賀たちは前進し、右前方の建物に射撃を加える。

 

吹雪「きゃあっ!」

 

吹雪が被弾した。

 

瑞鶴「吹雪!大丈夫!?」

 

吹雪「っ!カスダメです!まだまだやれます!」

 

そこへ敵車両が走りこんできた。加賀はこれ以上時間はかけられないと考え、磁気吸着手榴弾を投げつけた。爆発により車体は浮き上がり、横転した。北上は運転席の2人を前方からうち、大井は車体に飛び乗るとドアを開け後部座席の6人を撃ち殺した。

 

瑞鶴「ここからどう行けばいいの吹雪」

 

吹雪「えーと、あっこうだ。えーとですね、まずそこの扉を開けて、次の丁字路で右に曲がってください。建物の中庭をすすんでいくと市場に出ます。市場の壁を越えて道路を渡れば目標の道路に出ます」

 

大井「急ぎましょう!北上さん!」

 

北上「そうだね!大井っちー!ほら早く行くよみんなも?」

 

金剛「ワタシがdoorをkickシマース!皆サーン離れていてくだサイネー!Burning Looove!」

 

金剛が蹴るとドアが変形しガキンと鍵が折れる音が聞こえ10mほど先まで吹っ飛ばされた。すると向こうからまた敵車両が突っ込んでくる。タレットを撃ちまくりながら。先ほどの手榴弾を使おうにもドアが鉄でできているためそれに引き寄せられてしまう。加賀たちは全速力で突っ走って丁字路を曲がり建物に入った。車両はかなりのスピードを出していたので曲がれずひしゃげた扉に引っかかり横転し数回回ってようやく止まった。

 

建物内でも若干の抵抗はあったが、加賀たちは制圧していった。市場に抜けると先ほどのとは別のタレットが撃ってきた。

 

吹雪「タレットです!あの扉に逃げましょう!」

 

加賀たちは扉へと逃げ込む。その部屋はクリーニング屋だった。洗濯機が十台ほどおいてあった。そしてそのまえには大きな窓があり、市場を見渡せるようになっていた。

 

「マダアイツ等ハ通過シナイノカ!?」

 

「モウスグノハズデス!」

 

「何トシテデモ突破サセルナ!!」

 

瑞鶴「吹雪。あそこにあるタレット始末できる?ここからじゃ手榴弾狙いにくいのよ」

 

吹雪「わかりました!行ってきます!」

 

吹雪はクリーニング屋を出て野菜売りの屋台に身を隠した。敵兵が撃ってきたので吹雪も撃ち返す。トマトが銃弾で破裂し降りかかる。トマトは吹雪を血のような色で染めていった。

 

「ウォォォォォ!!!」

 

吹雪「!?」

 

前方に集中しすぎていた。拳銃?イヤ、ナイフか?イヤ、どちらも間に合わない。吹雪の中ではこれまでの思い出が走馬灯のように見えた。だがそれは発砲音でかき消された。敵兵の黒い血が降りかかる。後ろを振り返った。

 

北上「おいていかないでよね」

 

大井「水雷戦隊には軽巡が必要でしょ?」

 

吹雪「大井さん。北上さん」

 

北上「あのタレットを早く黙らせないと。何か策はある?」

 

吹雪「タレットの後ろの建物に入り、後ろから射撃主を射殺。乗り込んで広場を制圧します」

 

大井「わかったわ。北上さん、吹雪、行きましょう!」

 

吹雪たちが建物内へと侵入する。どうやら気づいていないようだ。吹雪は慎重に照準を合わせ引き金を引いた。発砲音に気づいたドライバーが吹雪に銃を向けるが北上と大井がそれを許さなかった。タレットに乗り込むと、広場の掃討を始めた。毎分3000発の銃弾が敵兵を物言わぬ血と肉片に変えていく。

 

吹雪「広場の掃討完了です!」

 

金剛「ブッキー!よくやったネー!!」

 

加賀「大井、北上、あなた達もよくやったわ。」

 

大井「それよりも早く追わないと!」

 

加賀「そうね。この壁を登らないと」

 

加賀たちはマググリップを起動し3mはある壁を登っていく。精錬されたその動きは壁を越えるのに5秒もかからなかった。

 

全員が壁を越え、道路に出ると中央分離帯とその向こうに敵兵が布陣していた。加賀たちは車を盾にして進んでいく。中央分離帯を制圧するともう一つの陣地を攻撃した。対岸にたどり着くと、吹雪はあることに気がついた。

 

吹雪「なんでこの高速道路は普通の状態なんでしょうか?」

 

瑞鶴「おそらくだけど、深海棲艦が信号なんかをハッキングして交通量を操作してるんだと思う。普通通りにしているのは民間人がいることによって攻撃をされにくくしてると思うの」

 

吹雪は迷った。このまま攻撃を敢行すればおそらく民間人に被害が出る。だがその迷いを断ち切ったのは加賀の言葉だった。

 

加賀「吹雪さん。迷わないで。すでに大きな被害が出ている。だけどここで技術者たちを逃せばさらに大きな被害が出る思う。だけどそれは絶対に避けなければいけない。迷っていればいるほどその確率が高くなっていく。戦場ではその一瞬の迷いが命取りになるのよ。だからもう一度言うわ。迷わないで」

 

吹雪(逃せばさらに大きな被害が……。それだけは何としても!!)

 

吹雪は決意を固めた。

 

吹雪「作戦を続行。敵車両を止めます」

 

フェンスを外すと目標の白のバンが通り過ぎた。そしてそのすぐ後に大型バスが来る。

 

吹雪「飛び乗ってください!」

 

全員が合図とともにバスの上に飛び乗った。

 

大井「後方より敵車両!北上さん!」

 

北上「りょーかい!大井っち!」

 

主砲を撃ち、ボンネットに穴が開く。車体が歪みガードレールに衝突した。

 

金剛「Motor coachが見えてきマシタ!飛び乗ってくだサーイ!」

 

飛び乗るとまた敵車両が2台近づいてきた。吹雪は主砲と機銃を使い、運転席を撃ち抜いた。フロントガラスは砕け散り、車内は血に染まった。着弾の衝撃で車軸が外れたのだろうか一台はゆっくりとスピードを落としていき、もう一台は大きなクラクションを鳴らしながら横転した。

 

加賀「バスよ!みんな乗って!」

 

飛び乗った瞬間敵装甲車が体当たりしてきた。その衝撃で吹雪が外に振り出された。吹雪はすぐにマググリップを起動し車体に張り付いた。加賀たちも攻撃しようとしたのだが、動きが激しいうえに至近距離なので自分たちも爆発に巻き込まれる可能性があったので攻撃できないでいた。

 

吹雪(このままじゃ……どうすれば……!)

 

瑞鶴「吹雪!避けて!」

 

再び敵は体当たりしてきた。吹雪のところに。吹雪は腹筋を使い体を思いっきりひねりぎりぎりで避けた。そして吹雪は思いついた。敵装甲車がまた体当たりしようと近づく。

 

吹雪「はぁっ!!」

 

吹雪は車体を蹴り敵装甲車に飛び乗った。飛び乗るとすぐに体勢を整えこぶしを振り上げた。

 

吹雪「せぃやぁ!!」

 

フロント部分を覆う金属製の板を殴りゆがませると力任せに引き外した。そしてドライバーの首根っこを掴むと外へ放り投げた。放り投げたドライバーはそのままの勢いで行先案内板のポールに激突し死亡した。吹雪はドライバーを放り投げると、バスへジャンプしマググリップで張り付きみんなのもとへ戻った。

 

瑞鶴「すごいじゃない!吹雪!まさかあんな方法で敵を止めるなんてねぇ」

 

金剛「ブッキー!Respectしちゃいマース!」

 

加賀「みんな!ほめるのはあと!大型トラックに飛び乗って!」

 

トラックに飛び乗ると今度はヘリが一機近づいてきた。トラックの上は当然ながら隠れる場所がないので当たらないのを祈って先に当てるしかない。加賀は機関銃を向け撃ちまくった。射撃主が落ち銃弾はパイロットも撃ち抜いた。死体は操縦桿にもたれかかり機体は右に旋回して建物に激突した。

 

吹雪「見えてきました!目標です!私が合図したら全員で車体に飛び移ってください!」

 

橋へと差し掛かりトラックが目標に近づいていく。

 

吹雪「飛べ!」

 

マググリップを起動し車体に飛び移った。金剛、大井、北上、瑞鶴、が荷台部分に、加賀と吹雪がドア部分に張り付いた。前に進もうとサイドミラーを掴んだがすぐに折れてしまった。運転席の窓に手をかけ、もう片方の手で拳銃を抜き、運転手2人を射殺した。死体が倒れ、ハンドルを切って手すりを突き破った。

 

吹雪「ふわぁぁぁあああああ!?」

 

北上「わぁぁぁぁああああああ!!」

 

大井「きゃあああああああああ!!」

 

金剛「Nooooooooooooooooooo!!」

 

瑞鶴「うそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

加賀「くっ……!」

 

湖の中に落ちると、一瞬動揺したがすぐに冷静さを取り戻し、酸素の供給を開始。潜っていって荷台の扉をこじ開けた。技術者たちが浮かび上がってくる。全員を捕まえ浮上する。

 

吹雪「プハァ、身体能力が上がってるとはいえ、大人1人を抱えて泳ぐのは大変だなぁ」

 

愚痴をこぼしながら吹雪は浅瀬に上がった。

 

瑞鶴「吹雪。大丈夫?」

 

吹雪「えぇ。なんとか。それよりもみんなと他の技術者たちは?」

 

瑞鶴「みんな無事よ。技術者たちも息があるわ。あの人は?」

 

吹雪「……よかった。大量の水を飲んだようですが、今は大丈夫です。」

 

加賀「プロフィット。目標の保護に成功しました。回収願います」

 

アトラス指揮官「了解。回収ドローンが間も無く到着する。回収ドローンに乗ってそのまま当該海域に向かってくれ」

 

 

ヴィルヘルムスハーフェン海軍基地

 

天龍「クソ、潜水艦が多いな。チビども、爆雷はもうないのか?」

 

夕立「私と睦月ちゃんと、時雨ちゃんが残ってるっぽい」

 

天龍「第六は?途中で戻ってきただろ?」

 

暁「暁たちももうないわ!そうよね?」

 

響「Правильно 」

 

雷「私ももうないわ」

 

電「電もさっき使い切っちゃったのです」

 

木曾「俺ももうないぜ。みらい。アスロックはもうないのか?」

 

みらい「うん。1本もない。姉さんたちも全部使ったって」

 

あすか「こんごうとあたごが少し残ってるみたいだけど」

 

長門「うむ、アメリカ艦隊はどうなんだ?みらい確認をとってくれ。」

 

みらい「了解」

 

----------

 

通信士妖精「日本艦隊より入電!『Do you have depth Charge or ASROC?(爆雷かアスロックはまだあるか?)』」

 

アイオワ「depth charge と ASROC?ちょっと!ASROC持ってるのは?」

 

ロングビーチ「Ah,私とベルナップとシカゴは何本か残ってるわ。他にも何人かいるみたいだけどちょっとそこまではわからないわね」

 

アイオワ「hedgehogを持ってるのは?」

 

ギアリング「私だけです。他はもう全員使い切りました」

 

アイオワ「日本艦隊に打電!」

 

----------

 

みらい「アメリカ艦隊より入電!あっちもこちらと同じ状況みたいですね」

 

天龍「くそ、まずいな」

 

比較的練度は高いが、潜水艦に対して対潜装備がないというのは非常にまずい。天龍がそう考えているとゆきなみから報告が入った。

 

ゆきなみ「排水音を探知!距離2000!8時の方向!これは……実体化した潜水艦です!」

 

 

 

『俺は死ぬ。降伏など降伏などするものか。許せ、祖国よ。1941年7月20日』

 

ーブレスト要塞の壁に書き残されたソ連兵の言葉




次回予告

深海棲艦の潜水艦が接近する。吹雪はそのことを知りある作戦を提案する。それはまさに乾坤一擲の大博打の作戦だった。


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Hunter Killer

前回のあらすじ
深海棲艦の真の目的が灰色の男たちではなく技術者であったことを突き止めた加賀たち。その目的を阻むことに成功するが、一方長門たちには新たなる脅威である潜水艦が迫っていた。


ドイツ ヴィルヘルムスハーフェン海軍基地

 

加賀「酷い状況ね……」

吹雪「まさかここまでとは……」

 

ドローンの開いた扉から戦況を確認する加賀たち。戦況は徐々に押されつつあった。

 

ドローンオペレーター妖精《超低空飛行はほんの一瞬しかしません!ですからすぐに降りてください!超低空飛行まで5分!》

 

金剛「I'm not afraid.(怖くない) I'm not afraid.(怖くない) I'm not afraid.(怖くない) I just get off.(降りるだけ) I just get off.(降りるだけ) I just get off.(降りるだけ)……」

瑞鶴「金剛さん、本当に大丈夫?」

 

金剛は真っ青な顔で自己暗示をかけ続け、瑞鶴は金剛を心配し背中をさすっていた。

 

北上「2人とも、外の様子はどう?」

加賀「あちこちから煙が上がってる。外は地獄よ。文字通り血の海ね」

吹雪「みんなまだ戦ってますが、このままじゃ負けるのは時間の問題です」

 

ドローンオペレーター妖精《海上に出ます!》

 

一度海上に出るドローン。砲声交じりの潮騒が聞こえる。白い航跡が戦場には似合わない美しい弧を描く。だが突然水柱が立ったかと思うとその航跡は波間に消える。そんな光景が延々と繰り返されていく。そこで吹雪は長門たちを見つけた。

 

吹雪「長門さんたちです!……ん?何かあったんでしょうか」

加賀「あれは……対潜行動!」

吹雪「でも行動していない子もいます」

加賀「きっと対潜装備を使い果たしてるのよ!早くいかないと!吹雪さん、北上さん、大井さん!対潜装備は?」

北上「一応、三式を持ってきてるけどね」

大井「私は九四式です」

吹雪「私も三式を持ってきてます。ちょっと待ってください。その前に長門さんたちに連絡を取りましょう!何かつかんでるかもしれないですし」

 

一方の長門たちは焦っていた。アスロックもほぼ使い果たし、爆雷も全く効かないようだ。そんな時に吹雪から連絡が入った。

 

吹雪《長門さん!》

長門「吹雪!今どこにいる!?」

吹雪《長門さんたちがいる海域の上空です!もうすぐ合流します!》

長門「出来る限り急いでくれ!潜水艦がいる!アスロックも特殊な電波で進路が乱され役に立たない!」

 

吹雪が本題をきりだす

 

吹雪《長門さん。敵の正体はなんですか?》

長門「潜行音を照合したら、ハスキー級原子力潜水艦だと判明した!さらに解析すると巡航ミサイルを搭載している可能性が高い!」

 

吹雪「了解!直ちに合流します!」

 

無線を切る吹雪。加賀たちはすぐに問い詰めた。

 

瑞鶴「どうだった?」

吹雪「ハスキー級原子力潜水艦がいるとのことです。しかもアスロックも役に立たないそうです。しかも巡航ミサイルを搭載している可能性が高いそうです」

金剛「Cruise missile……」

大井「アスロックでも役に立たないなんて」

加賀「吹雪さん、何か方法は思いつかない?」

 

加賀は問いかける。だが吹雪は答えない。巡航ミサイル……潜水艦……様々な単語が頭の中を飛び交う。冷や汗がたらりと垂れる。だがその汗が地面に落ちた瞬間吹雪はひらめいた。

 

吹雪「大井さん。ハンブルクで突入の時に使ったレーザー破壊装置ってまだ持ってますか?」

大井「え、ええ。回収して持ってきてるわよ」

吹雪「それって水中でも使えますか?」

大井「確か使えたはずよ。でもそんなの何に使う気なの?」

金剛「ブッキー!何かひらめいたンデスカー?」

吹雪「はい!この方法ですと、潜水艦の撃沈は出来ませんが行動不能にできます。そしてうまくやれば長門さんたちを撤退させることができます!」

加賀「それで?どんな方法?」

 

吹雪は説明を始めた。時間がないので極めて簡潔にではあるが。

 

吹雪「……という作戦なんですけど」

大井「そう簡単にうまくいくかしら」

金剛「differentデス」

北上「でもそれ以上にいい作戦があるかな」

瑞鶴「うーん現時点じゃそれが最善策のようね」

加賀「今何もしなければみんな仲良く轟沈(海の底)よ。それに時間もない。決定ね。その作戦でいきましょう」

 

吹雪は自分の考えた作戦がうまくいけばいいと考えていた。だが第61代イギリス首相ウィンストン・チャーチルは言った。『犠牲なくして勝利なし』と。勝利には必ずそれ相応の犠牲が伴うのだ。

 

ドローンオペレーター妖精「まもなく超低空飛行に入ります!皆さんは素早く降りてください!」

 

海面が近づくにつれてどんどん青くなっていく金剛。そんな金剛を心配してか加賀と吹雪が一緒に飛ぶことになった。

 

機銃が飛び交う中を飛んでいく。降下中にできることといえばただ当たらないことを祈るだけである。ガン、ゴンと何かが機体にあたる音が響くたびに一抹の恐怖が生まれる。

 

ドローンオペレーター妖精「自動操縦装置(オートパイロット)起動!超低空飛行開始!」

 

海面から10数mのところを飛ぶ。若干の水飛沫が顔にかかる。

 

北上『じゃあ、先行くね』

大井『あっ北上さん!待って!』

 

北上と大井が先に飛んだ。金剛たちの番になるのだが金剛が若干ひるんでしまった。

 

吹雪「何やってるんですか!早く飛ばないと!」

金剛「でも!怖いものは怖いデース!」

 

 

 

 

ボンッ

 

 

 

嫌な音が聞こえた。聞き違いであってほしい。だがその淡い期待は薄紙のように破られた。

 

ドローンオペレーター妖精「被弾!エンジン出力低下!墜落します!」

 

その声と同時に、黒い煙が一筋流れ出した。そして、機体もそっちの方へ向けて傾き出す。

 

加賀「失礼します」

 

かなりの激情家でもある加賀。考えるよりも先に行動に移す。

 

金剛「へ?ウェッ!?w, Wait……」

 

加賀は金剛を持ち上げ、肩に担ぎ、出口に向かって走り出す。

 

金剛「Waaaaaaaait!」

 

金剛が叫ぶと同時に加賀たちは飛び出した。加賀と吹雪はすぐに艤装を展開したが、金剛は動揺しているせいか、艤装を展開するのが遅れた。金剛が展開したのは加賀が着水してから、10秒ほど経ってからだった。

 

吹雪「早く行きましょう!長門さんたちの元へ!」

金剛「ワ、ワカリマシタ……」

 

金剛は青い顔をしながら吹雪たちの後を追った。

 

 

初月「長門さん!航空機1機超低空にて接近!」

長門「吹雪たちが乗っているやつだろう。総員攻撃するな。」

摩耶「おい、エンジンが煙を吐いたぞ!高度も下がってる!ヤバいぞ!」

 

加賀たちの機体が墜落すると、一部の艦娘は救助に向かおうとした。が、長門がそれを許さなかった。

 

陽炎「長門さん!救助に行かせてください!」

川内「吹雪たちが沈んでもいいと言うんですか!?」

長門「落ち着け!ここには潜水艦がいるのだぞ。不用意に動けば格好の的だ。それに加賀たちはそう簡単にくたばる連中ではないだろう?」

 

長門のこの言葉を聞いて川内たちはそれぞれの持ち場へと戻っていった。

 

吹雪「長門さん!」

長門「吹雪!加賀たちも無事だったか!」

加賀「ええ、墜落の直前になんとか脱出できました。そんなことより潜水艦は?」

 

長門「みらいたちのレーダーで捕捉は出来ているのだが、攻撃が全くといっていいほど効かないのだ。」

吹雪「長門さん、一応作戦があるんですが。」

長門「どんな作戦だ?」

吹雪「ただこの作戦は加賀さんたちにはもう言ったんですが撃沈するのではなく、行動不能にする作戦です。それでもいいのならばですが」

長門「構わない。まずはこの状況を切り抜けることが大切だ」

 

吹雪は事細かに説明した。すると長門の表情が驚愕の色に変わっていった。

 

長門「なっ……そんな作戦成功するのか!?」

吹雪「……正直にいうとわかりません。ですが!ここでこの作戦をやらなければ全滅します!」

長門「しかし!敵陣のど真ん中に乗り込むというのは」

吹雪「これしかないんです!お願いします長門さん!作戦の許可を!」

長門「……わかった。とりあえず吹雪お前の指示があるまでは対潜行動を続け、そのあとはその周辺の敵を叩き続ければいいんだな?」

吹雪「はい!本社に連絡して撤退に使う機体は用意してもらいました。それに乗り込んで撤退してください」

 

長門は了解し他の艦娘たちに指示を出した。まだ邪念を振り払えていなかったが、すぐに切り捨てた。迷いは次の判断を鈍らせる。そうなると人は他人に判断を任せようとする。そうなればあとは死ぬだけだからだ。

 

 

吹雪「長門さんに伝えました。始めましょう」

加賀「提督!合流に成功しました。ただいまよりそちらの指揮下に入ります」

粕屋《わかった!》

加賀「提督、さっそくお願いがあります。今ここの海域にいるハスキー級潜水艦の艦内見取り図を送ってください。今すぐに!」

粕屋《少し待ってくれ。今そちらのHUDに送る》

 

吹雪たちは水中に潜り、敵潜を目指した。仲間が爆雷を投下している。それだけは気をつけなければ。史実の戦艦陸奥の爆沈は駆逐艦潮が投下した爆雷によるものだという話もある。爆雷の威力は馬鹿にできないのだ。

 

 

ゴーヤ「あ!加賀さんたちが来たでち!」

イク「スゴイ!本当に潜ってるのね!」

加賀「敵潜はどこ?」

ゴーヤ「アレでち」

 

ゴーヤは指を差した。その先にはスクリューと舵が見える。そしてその先に119mの巨体が悠々と泳いでいた。

 

一方、艦内では深海兵たちが敵に痛烈な一撃を食らわそうと躍起になっていた。

 

艦長「我々ノ作戦ハ今海上デ戦ッテイル同志達ニ比ベレバサホド苦労ノナイ作戦ダ!ダガコノ作戦ガ上手クイクノハ散ッテイッタ多クノ同志達、今も戦ッテイル同志達ノ上ニ成リ立ッテイル!コノ18発ノ魔弾ハ敵ノ心臓ヲ撃チ抜キ敵ニ痛烈ナ一撃ヲ与エルダロウ!メインタンクブロー!発射深度マデ浮上!」

 

気泡が勢いよく噴き出し、船体は浮上し始めた。大井はレーザー破壊装置のパネルを操作し、レーザー発射部分の部品を3つ取り出し、加賀たちに渡した。加賀たちは急ぎ潜水艦にそれぞれの舵の部分に近づき、本体とその部品を設置した。

 

深海兵「艦長!異音確認!」

艦長「方角ハ?」

深海兵「ソレガ……後方ノカナリ至近距離デス。オソラク舵ノ辺リカト」

艦長「何ダト!?」

 

この瞬間吹雪たちは破壊装置を起動した。レーザーが水泡を出しながら舵を焼き切っていく。完全に焼き切ると自動的に爆発。舵は中に溜まっていた空気を吐き出しながら脱落していった。

 

艦内ではブザー音が鳴り響く。

 

艦長「状況ヲ報告セヨ!」

深海兵「艦長!舵ガ効キマセン!制御不能!」

艦長「一旦浮上セヨ!状況確認!」

 

長門は砲撃を繰り返していた。そこへみらいから連絡が入る。

 

みらい「敵潜水艦急速浮上!方位045!海面に出ます!」

 

艦首が急角度で出現し、艦首を海面に叩きつけ大波が発生した。

 

長門「まさにモビー・ディックだな」

 

長門は大きな水飛沫を上げて浮上したその姿にハーマン・メルヴィルの『白鯨』を重ねていた。

 

長門「総員聞け!すでに伝えた通り敵艦への攻撃は厳禁とする!繰り返す敵艦への攻撃は厳禁だ!」

陸奥「ねぇ長門、吹雪たち5人だけで大丈夫かしら?私たちも突入したほうがいいんじゃ」

長門「ダメだ。外にもまだ敵が多い。今は敵の増援を寄せ付けないことが大切だ。ここはエイハブ船長(加賀)達に全てを任せてみようじゃないか」

 

その頃加賀たちは潜水艦に甲板に上がっていた。状況確認のためにハッチが開かれそこから出てきた深海兵を撃ち殺し、艦内へ突入した。大井と北上は見張りのために外に残った。潜水艦発射ミサイルというのはすぐに打てるものではない。現在位置の確認し、その座標と目標の座標をメインコンピューターに入力。目標までの飛行コースプログラムを作成し、ミサイルの搭載誘導コンピューターにデータを転送。ミサイルの射手は発射ボタンのカギを差し込み予定時刻に発射ボタンを押す。本来だったら、もうとっくに飛行コースプログラムの作成ができていたのだが、吹雪たちの攻撃により予定よりも早い場所で浮上することになったので飛行コースプログラムの作成を一からしなければならなくなったのだ。吹雪の作戦はこれに付け込んだものであった。

 

加賀「いい?私たち以外は全員敵よ。」

吹雪、金剛「了解(デース)!」

加賀「下の階で合流して」

 

水密扉のハンドルに手をかける。そして鉄の扉がゆっくりと開かれる。

 

深海兵「敵ガ艦内ニ侵入シタゾ!」

深海兵「撃テ!撃テ!」

 

兵員区画に入ると敵兵が射撃を開始した。メモ用紙や枕、毛布の羽毛なんかが発砲音とともに舞い上がる。ロッカーを盾に身を隠したがいかんせん時間がない。吹雪は撃ちまくりながら前進する。区画を抜け吹雪が階段を降りると別ルートで向かった加賀と深海兵が現れた。深海兵を壁にたたきつけ鉛弾を撃ち込む。それでもまだ息のあった深海兵は起き上がってくるが、加賀はとどめとばかりに顔面に蹴りを入れた。

 

加賀「階段クリア。こっちよ」

 

サイレンが鳴り響く中を進んでいく。機関室にたどり着くと爆発の衝撃のせいか下は水浸しで、配管からも水が噴き出していた。深海兵は修理に追われていたが加賀たちを見つけるとすぐさま戦闘行動に移った。

 

深海兵「敵ハタッタ4人ダゾ!艦カラ叩キ出シテヤレ!!」

吹雪「瑞鶴さん左!左にいます!」

瑞鶴「わかったわ!これでもくらえ!」

 

4人はそれぞれ敵を見つけ次第撃っていった。瑞鶴はガラス越しに敵を撃つ。ガラスが砕け散るその様は戦場には似合わないが美しかった。機関室の出口にたどり着くと入ってくる敵を撃った。わずかながらに時間があるので加賀たちは弾倉の交換をした。大量の水を浴びながら進んで階段を上がるとほどんど明かりのないサイレンの明かりだけの部屋にたどり着いた。太いパイプが十何本かありそれをパイプごとにコンピューターが取り付けられている。加賀たちは直感で分かった。

 

加賀「これが巡航ミサイルね。」

吹雪「これがすべて発射されたら…」

瑞鶴「奴らのことだから、きっと基地を中心的に狙うはずよ。イギリスやイタリアはともかくドイツ、フランス当たりの国は迎撃が間に合わないかも」

金剛「何をしてるデスカ!!もう時間がないデース!!早く進むネ!!」

 

タクティカルフィールドを起動し通路上の敵を排除しながら進む。吹雪はどんどん進んでいく。深海兵が発射管の陰から吹雪に襲い掛かったが、吹雪はその瞬間その相手の顔面にパンチを入れた。深海兵はその衝撃で吹き飛び反対側の壁に激突して果てた。

 

吹雪「ドアを確保してください!」

 

加賀たちは何とか艦橋へとたどり着いた。

 

瑞鶴「金剛さん!思いっきりやっちゃってください!」

金剛「Ok!Everyone!Burning Looove!!」

 

金剛が思いっきりけりを入れると、水密扉を支えていた板と扉の接合部分が折れ吹き飛ぶ。その瞬間加賀たちは一斉に射撃し全員を射殺した。

 

加賀「制圧完了ね。」

吹雪「提督!敵潜水艦制圧完了です!」

粕屋《了解した。吹雪、みんなご苦労だった!》

吹雪「私は発射コースプログラムの書き換えをします!皆さんは安全装置の鍵を探してください!」

金剛「ワカッタネー!」

加賀「鍵はどこかしら」

 

瑞鶴は館長と思しき死体を発見した。そして死体を探っていると鍵を見つけた。

 

瑞鶴「見つけた!!」

金剛「0h!ズイカク!でかしたネー!!」

加賀「吹雪さん、プログラムのほうは?」

吹雪「あともう少しで……出来ました!転送も完了です!発射してください!」

瑞鶴「金剛さん!」

 

金剛は2つあるカギの1つを受け取った。ミサイルの安全装置は2人同時にカギを回すことによって解除されるのだ。

 

金剛「Are you ready?3,2,1,turn!」

 

瑞鶴たちはカギを同時に回した。するとけたたましくブザー音が鳴り響く。

 

加賀「脱出するわよ!」

 

加賀たちは梯子を登り外に出た。そして連絡を受けた大井たちと合流し海面へと飛び降りた。その横ではVLSがゆっくりと開き、白煙を上げてミサイルを打ち出す。周りの深海棲艦はついに攻撃が始まったのだと歓喜の声を上げた。が、勿論ミサイルは基地に向かうことなく深海棲艦に着弾した。加賀たちは爆発による熱風と波しぶきを体中に浴びながら待機中の輸送機を目指した。

 

加賀「陣形とか気にしないで!各自速力一杯で輸送機を目指して!」

大井「吹雪!こうなることは想定してたの!?結構ヤバいんだけど!?」

吹雪「ちょっと想定外です……」

 

ネ級や生き残ったタ級が攻撃を仕掛けてくるが、艦載機を発艦し、爆撃、雷撃し海の藻屑へと変えていく。

 

瑞鶴「吹雪!左!」

吹雪「え?きゃあっ!」

 

吹雪にコルベット艦が体当たりしてきた。金剛が叫ぶ。

 

金剛「ブッキー!しゃがんでくだサイ!」

 

金剛は吹雪がしゃがんだ瞬間に副砲でコルベット艦を打ち抜いた。コルベット艦は爆発により艦が真っ二つに折れ轟沈した。

 

金剛「ブッキー!ケガはないですカー?」

吹雪「はい、おかげさまで!」

北上「みんな!もうすぐ輸送機が見えてくるはずだよ!」

 

 

-------------

 

一方の長門たちは輸送機を護衛しながら加賀たちを待っていた。

 

川内「長門さん!吹雪たちはまだ来ないんですか!?弾薬が尽きかけてるんですけど!!」

長門「もう少し待ってくれ!もうそろそろ来るはずだ!」

神通「長門さん!加賀さんたちが戻ってきました!」

 

神通が指さす先には加賀たちがいた。

 

長門「総員!輸送機に乗り込め!」

全員「了解!」

 

各自輸送機に乗り込んだ後、加賀たちも追いつき輸送機に乗り込んだ。

 

長門「吹雪!よくやってくれた!」

吹雪「しかし、結果的には深海棲艦を追い返すことはできませんでした」

長門「気にするな。生きて帰れば大勝利だ。生きていれば奴らと戦うことができる。今回は残念だがわれわれはまたここに戻ってくる。そのと」

ドローンオペレーター妖精「大変です!」

長門「何だ!?」

ドローンオペレーター妖精「敵水雷戦隊が本機の進路上に布陣しています!このままでは衝突します!」

全員「えぇー!?」

 

全員が驚愕する中、一人の艦娘が動き出し、輸送機から飛び降りた。そして長門がその艦娘の名を叫ぶ。

 

長門「飛龍!!」

飛龍「二航戦!攻撃隊、発艦!」

 

飛龍は飛び降り艦載機を発艦し水雷戦隊を全艦撃沈した。輸送機はそのまま浮かび上がっていく。

 

蒼龍「飛龍!」

陸奥「止めなさい!!」

 

飛び降りようとする蒼龍を陸奥が引き留める。

 

蒼龍「離してください!今行かないと飛龍が!飛龍が……っ!」

 

涙を流して蹲る蒼龍に声を掛けられるものは誰もいなかった。そんな悲壮な蒼龍の思いを乗せて輸送機は水平線の彼方へと消えていった。

 

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―飛龍side―

 

私は気が付くとどこかの港だろうか見知らぬ場所にいた。自分は助かったのか?そう思ったが手を後ろに回され手錠と猿轡をされているのでそれはない。私は捕虜になったんだ。それにしてもこいつ等は誰だろうか。一人は身なりからしてかなり上、おそらくこちらでいうところの提督や将校にあたる奴だろう。2人目は顔の左目の部分が深海棲艦の黒いアレで覆われている。顔立ちからして優秀そうだ。参謀だろうか?そして3人目。こいつが一番謎だ。仮面で顔を覆いフードをかぶり、変声期で声を変えている。体つきからして女か?

 

?「オ目覚メカネ?」

飛龍「んー!んー!」

?「君ガ言イタイコトハワカッテイル。君ヲドウスルツモリカダロウ?君ニハ収容所デ我々ノ資源採掘ニ従事シテモラウ。言エルコトハコレダケダ。連レテ行ケ」

女「待ッて」

 

深海兵が連れて行こうとしているとその女が私に声をかけてきた。そして私の耳元に口を寄せた。

 

女「――――――?――――――。」

飛龍「!?んんーー!!んんーーーーっ!!!」

女「連れて行って」

深海兵「ハッ!!」

 

飛龍は袋をかぶせられ、頭を殴られて意識は途切れた。




次回予告

3年前、加賀が赤城を失ったころのこと。
極北、極寒の地での死闘が始まる。


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