テイルズ オブ ヴェスペリア ~始祖の隷長の傭兵~ (バルト・イーヴィル)
しおりを挟む

第1話【失われた筈の力】

魔導機(ブラスティア)のコアが精霊となり、科学がそれに代わり主流となろうとするテルカリュミレース。

しかし、人々が常に求めるのは利便性である。

慣れて親しんだ生活を忘れられず、明るみになった聖核(アパティア)の存在を求める者は少なくなかった。

新たに生まれる始祖の隷長(エンテレケイア)とそれを狩る者達が現れ、世界は再び破滅へと向かっていく。

彼もそんな世界の一員にして、世界の観測をする立場に居る者だった。

始祖の隷長(エンテレケイア)は、統一された姿形では無い。

というのも、皆が見た目がバラバラなのだ。

既出の始祖の隷長(エンテレケイア)の姿は、鯨や亀や馬や狐と様々だ。

彼もそれに該当し、姿形は違えども始祖の隷長(エンテレケイア)としてテルカリュミレースへと生まれた。

彼の名前はバルト・イーヴィルーー

人の形をした始祖の隷長(エンテレケイア)である。


第0章『始祖の隷長(エンテレケイア)の傭兵』

 

バルトはギルド紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)所属の傭兵だ。

 

魔導機(ブラスティア)のコアが精霊化によって失われたこの世界、テルカリュミレースーー

 

その中のひとつであるギルドの集結した町ダングレストで彼は護衛の依頼を受けていた。

 

技と呼べるものも、魔導機(ブラスティア)のコアの無いこの世界では満足に発動できず、治癒術等も奪われたこの世界に安寧は無い。

 

町から町への仕入れは困難を窮め、商業の流通を取り仕切るギルドは1度殆どのものが廃れた。

 

それでも、五大ギルドと呼ばれるギルドの象徴たるユニオンを支え続けた。

 

その結果、中小ギルドもなんとか持ちこたえることが出来ている。

 

今は五大ギルドがその中小ギルドに対して仕事を斡旋してやることが多くなった。

 

「いやぁ、ありがとうねぇ。

 

本当に助かったよ。」

 

バルトは腰に下げた愛剣を指で撫でる。

 

「いや、俺には過ぎた剣だがーーこのクラウソラスが有るからな。

 

プチプリなんざ屁でもねえさ。」

 

魔導機(ブラスティア)の存在した頃にはあり得なかったプチプリなどというザコモンスターへの苦戦が人々には強いられる。

 

こんな状態でギガントモンスターなど倒せる筈もなく、再発したギガントモンスターは触らない近寄らない怒らせないが鉄則だ。

 

エアルの異常発生の少なくなったこのテルカリュミレースでは、バルトの始祖の隷長(エンテレケイア)としての役目は殆どなく、エアルクレーネが稀に起こすエアルの暴発に立ち寄れば良い。

 

空気中には微弱過ぎるエアルが有るので、飢える事はないのだが、人と異なり、治すのにはエアルが必要なため、大きな怪我など出来よう筈もない。

 

それなのに、バルトが傭兵ギルドに所属しているのには理由が有った。

 

始祖の隷長(エンテレケイア)狩りーー

 

それを未然に防ぐためである。

 

バランサーとして存在する自分達は時としてそれを崩してしまう事がある。

 

それは、死によって落としてしまう聖核(アパティア)である。

 

聖核(アパティア)魔導機(ブラスティア)のコアの元となっており、テルカリュミレースは再び滅びの道へと片足を突っ込んでいるのだ。

 

誰かが阻止しなくては滅びは促進される。

 

既存の始祖の隷長(エンテレケイア)はバルトの知る限り、鯨型のバウルと新しくアスピオ跡地で発生された象型そしてミョルゾのクラゲ型のクレーネスだ。

 

ミョルゾのクラゲ型のクレーネスと鯨型のバウルは人と共存しており、クリティア族という耳の長い種族と仲良しだ。

 

彼らはとても穏やかで戦闘には向いていない。

 

そうなると、自分しかいないのだ。

 

今日もどこかで新しい始祖の隷長(エンテレケイア)が生まれているかもしれない。

 

何も知らない彼らはきっと無力なんだーー

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

第1章『知らない島』

 

護衛の依頼を終えて、ダングレストの紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)の拠点で次に受ける仕事の選別をする。

 

バルトが基本的に請け負うのはおおよそにして所謂いわく付きのお偉いさん方の護衛である。

 

極端に報酬の上下する長旅は、何らかの事象や事件に巻き込まれる事がある。

 

バルトはそれを狙って長旅、それもキナ臭いものを選別して請け負っていた。

 

「荷物の輸送を、こりゃ、どこのことだ?」

 

ナム孤島までと書かれた依頼書を握り、自分の書いて埋めた地図を確認する。

 

やはり、書かれていない。

 

自分の知らない新たな大地か……。

 

バルトはそれを手にカウンターへと向かう。

 

「これの受領をたのまぁ!」

 

バルトが出した紙を丁寧に受けとる女性。

 

「あんたまたこんな訳分からない仕事を受けるのかい?」

 

女性はこのギルドで受付を任されているシムカという人だ。

 

「まあ、あんたが誰も受けない仕事を消化してくれるから、こっちとしては大助かりなんだけどね?」

 

苦笑する彼女は煙草を取り出して口にくわえる。

 

火を探している彼女へとバルトはマッチを差し出した。

 

「おー、さんきゅ、気を付けて行っておいでよ?

 

このギルドにはバルボスさんも居ないんだから、あんたみたいなのまで居なくなられると本当に大変なんだからね?」

 

バルトは煙草を吹かす彼女の傍ら、今回の報酬を彼女の所へと置く。

 

「これで美味いもんでも食ってこいよシムカ。」

 

「これは、あんたが稼いだもんだろ?

 

あたしに貢いでどうすんのさ?」

 

彼女はそう言いながらも手は素直にそれを懐へと納めた。

 

「この仕事はあんた以外に3人居る。

 

他の3人は仕事の良し悪しも分かっちゃいない駆け出しの奴等ばっかりさ。

 

先方にはこっちから人数が集まったことを伝えるから、仕事は明日からだよ。」

 

シムカに背を向けて、アイテム屋へと向かう。

 

傷はエアルが無くては直せないが、命を繋ぎ止めるための薬は自分の体にも効いたからだ。

 

買うのは当然アップルグミとオレンジグミだ。

 

満足な術技が使えなくなった今では、オレンジグミはただの趣向品。

 

いわゆるお菓子でしかない。

 

とはいえ、多くのギルド員が在籍しているダングレストではこのオレンジグミの味が定着しているため、流通が止まることは無いだろう。

 

バルトもオレンジグミのぐにぐにっとした触感の懐かしさ有る味に病み付きになっている一人である。

 

買ったばかりのオレンジグミを口に転がしながら、如何にも怪しいオブジェを眺める。

 

「なんだありゃ?」

 

怪しい物には近づかないのが普通だが、バルトはそれに敢えて近付く。

 

すると、ボウンと音がし、煙で視界が真っ白になった。

 

「良くぞ正体を見破ったな!」

 

バルトはこのヘンテコな人種の事を人伝てに聞いたことが有った。

 

ワンダーシェフと呼ばれる、変装して景色に溶け込み、見破った人にレシピを押し付ける者だったか?

 

バルトは押し付けられたサンドイッチのレシピを鬱陶しそうに受けとる。

 

「では、さらばだー!」

 

ワンダーシェフの消えた場所を不思議そうに眺め、押し付けられたサンドイッチのレシピを眺める。

 

「サンドイッチくらい誰でも作れるっつうの。」

 

そう思いながらも、ひとまずレシピをバックパックへと押し込む。

 

バルトは買い物の後は決まってケーブモック大森林へと行く。

 

あそこは稀にだが、エアルの暴走が起きる場所の1つだ。

 

エアルの濃度もダングレストの比ではない。

 

とは言っても、バルトにとってはそれほど多い訳でもない。

 

そんな事を思ってダングレストからケーブモック大森林へと向かう途中、そこかしこを飛び回るチュンチュンの嘴の先に金髪の幼女が引っ掛かっていた。

 

本来チュンチュンはこの近辺には居ない筈なんだが、生態系も棲息域も近年変わりつつある。

 

弱いモンスターが増えた理由は単純に人が倒さなくなったからである。

 

いや、倒せなくなったというのが正しいのだが。

 

「と、それよりも、見てみぬ振りってなぁ出来そうにはねえよな!」

 

クラウソラスを抜いて、タイミングを伺う。

 

前は何も考えずに剣を振り回しておけばごり押しでも勝てた相手だったのだが、やはり、時代が変われば戦い方というのも変化する。

 

チュンチュンがバルトの前に来た。

 

そこですかさずガード。

 

なぜ、避けないのか?

 

それは、武醒魔導器(ボーディブラスティア)の恩恵が無いからスキルを使えないのだ。

 

かくいうバルトもバックステップやマジックガード等を使えるものならば行使したかったが、無いものはどうしようもない。

 

フリーランと呼ばれてる技法を使えば、避けることも可能なのだが、今回はチュンチュンの嘴に幼女が引っ掛かっている。

 

不測の事態が起きるかもしれないのだから、ガードを選ぶしかなかった。

 

ガードで嘴の攻撃を防ぎ、攻撃の終わったタイミングでクラウソラスでチュンチュンの嘴を下から切り上げる。

 

「これで、がら空きのボディを……なに!?」

 

すると、幼女がブラブラと揺れて、チュンチュンの体の前に入ってきた。

 

これではバルトは攻撃出来ない。

 

「くっ……予想以上にキツイな……。」

 

こればかりは仕方ないので、フリーランで距離を取って万が一のためにアップルグミを食べる。

 

「あの子ずっとプラプラしてるけど、やっぱり死んでるのか?」

 

死んでるなら助ける意味はない。

 

チュンチュンも生きる糧を得るために必死なのだろう。

 

始祖の隷長(エンテレケイア)は人も動物も魔物も同一視する者もいる。

 

自然の摂理だから仕方がないと割りきる者もいた。

 

だが、長い間、人として生き、人と関わって生きてきたバルトはその価値観には当てはまらなかった。

 

「親御さんにせめて骸ぐれぇは届けてやりてぇよな……。

 

それに、まだ死んでるって決め付けるには早いしな!」

 

気絶してるならば、ライフボトルさえ在ればまた意識を戻せる。

 

バルトは今は持っていないが、ダングレストからさほど遠くはない。

 

戻って買うことも許容出来る範囲だった。

 

チュンチュンが再び近付く。

 

今度は勢い良く突進してきた。

 

「っ……不味い!!」

 

幼女がバルトのクッションになるかのように間に入る形となる。

 

バルトは咄嗟にガードをやめてフリーランで下がった。

 

「間に合えーー!!」

 

バルトが後ろへ駆ける。

 

チュンチュンの体が空を切ると、幼女の引っ掛かりが甘くなり、下に大きくずり落ちた。

 

バルトはフリーランを解除し、振り返ると幼女を引っ張る。

 

チュンチュンが振り回される形で地面へと叩きつけられ、幼女は無事にバルトの手中へと収まった。

 

そうなれば、話は早い。

 

あとは逃げるだけである。

 

ダングレストへと逃げるバルトの後ろにはチュンチュンだけでなく、ゲコゲコ等も集まっていた。

 

とはいえ、さほど彼らは足の早い魔物ではないのでどんどんと距離を離していけた。

 

ダングレストへと逃げ切った時には後ろに魔物の姿はなかった。

 

ダングレストの宿屋と道具屋のくっついてる場所を借りて、幼女をベッドへと寝かせる。

 

幼女の腕を取り、脈拍を確認する。

 

ーー生きてる。

 

「なんだバルト?コレか?」

 

ダングレストにはもう長らく居るためか、ここの店員とは3年くらいの付き合いとなる。

 

生まれて1年目でドンに正体を見破られ天を射る矢(アルトスク)へと勧誘され、断った俺は2年目にバルボスの紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)へ入団した。

 

その翌年、つまりは今年にバルボスが行方知れずとなり、紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)は運営の危機となった。

 

まあ、それでも流しただけの血を絆とする紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)の結束は一筋縄ではなく、今もこうして存続している。

 

「んな訳あるかよ、ライフボトル貰えるか?」

 

1000ガルドを取り出して渡す。

 

物価も流通が難儀な為に上げざるを得ない。

 

ライフボトル1本でこの物価の高騰だ。

 

安いときに買い貯めしてたギルドは大儲けしてるようだ。

 

バルトは幼女の口元にライフボトルの液体を注ぐ。

 

「口移し、しないのか?」

 

こちらをおちょくってくる店員はこの際は無視だ。

 

飲んで直ぐに効果が有ったようで幼女はムクリと起き上がり、キョロキョロとした後にこちらの顔を見て言った。

 

「おお、ダーリンなのじゃ!」

 

その言葉に店員が吹き出す。

 

「なんだ、やっぱりコレじゃねえか?」

 

「おい、こら、俺はお前なんぞ知らねえぞ!?」

 

バルトはその幼女の言葉に大きく首を振る。

 

「長い黒髪、ぶっきらぼうな顔、それに、真っ黒な服……ウチの目を誤魔化そうと言うのなら、1度アンコウのように深海に潜って顔を出さぬ事じゃな。」

 

なんだこいつ?

 

「ま、まあ、起きたんだしそれは置いておくか。

 

ひとまず、お前の名前は?」

 

親御さんを探すにも金髪の幼女という情報だけでは特定も難しいからだ。

 

「記憶喪失というやつかのう?

 

ウチの愛で思い出させてやるのじゃ!」

 

バルトは頭を抱える。

 

「お前の名前は何て言うんだ?」

 

幼女は「うむ」と頷くと、両手を腰に当てて偉そうにふんぞり返る。

 

「パティじゃ。」

 

ようやく聞けた名前にホッとする。

 

「俺の名前はバルトだ。

 

お前の親御さんをちょいと探してくるからここでじっとしてな。」

 

と、宿屋から出ようとしたら、なぜか後ろにそいつはいた。

 

「ちょいと待ってろって言ったろ?」

 

「ウチも行くのじゃ!」

 

「まあ、本人が居た方が両親も探しやすいか……。」

 

納得してダングレストの町を歩き回る。

 

「この辺に住んでるのか?」

 

「うむ?ウチは船の上で暮らしているのが長かったのじゃ。

 

それからはお宝を探す旅をしてたのじゃ。」

 

つまりは、冒険ごっこや探検ごっこしてたらチュンチュンに捕まったと……。

 

しかし、船か……。

 

バルトは船と聞いて顔を曇らせる。

 

カプワノールとカプワトリムの辺りからここまで連れて来られてしまったということだろうか?

 

子供の一人旅にしてはかなりの距離がある。

 

良くも無事だったものだ。

 

とならば、ギルドまで行って迷子の依頼でも出すとするか。

 

そう思った矢先、パティが奇妙な物を落とした。

 

「ん?」

 

パティは気付いていないようだが、バルトは屈んでそれを拾う。

 

武醒魔導器(ボーディブラスティア)

 

コアの抜けた状態なら良く見る廃棄物だが、コレは違った。

 

「コアが有る?」

 

不振に思ったバルトはそれをポケットへと押し込み、さりげなくパティへと話を振る。

 

「なあ、パティはどんな冒険をしてたんだ?」

 

パティは腰に手を当ててふんぞり返る。

 

「うむ、ウチはダーリンとマンボウも羨む熱愛の冒険をしたのじゃ。」

 

そのマンボウというのが今いち分からなくさせるが、要はダーリンという何者かと冒険をしていた。

 

それで、武醒魔導器(ボーディブラスティア)が有りながらもチュンチュンに捕まったということは、コレは使おうとしなかったということ。

 

彼らは何のために。

 

パティは何のために武醒魔導器(ボーディブラスティア)を持ち歩いていた?

 

そんな事を考えていると、紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)の拠点へと到着した。

 

バルトはパティを連れて中へと入る。

 

いつもならば賑やかな居酒屋のような雰囲気なのだが、今日はバルトがパティと来場したことで雰囲気が変わった。

 

静かすぎる空間を歩き、受付に到達すると、シムカが怒りをあらわに眉根を吊り上げてカウンターを拳で叩く。

 

「あんた、そりゃ、どういうつもりなんだい?」

 

口をピクピクとさせているシムカ。

 

迷子がそんなにも珍しいでもないのにこの反応は異常である。

 

「いや、ちょいと外で迷子を拾ってな。

 

シムカ……?」

 

シムカは力が抜けたようにがっくりとカウンターに項垂れる。

 

「おい、どうしたんだよシムカ?」

 

バルトがシムカを心配する傍らでは、仲間のギルド員達がヒソヒソ話をしているが、バルトには聞こえていない。

 

「なぁ、シムカ姉さんがバルトの事好きってのマジなん?」

 

「さあな、けど、あの剣幕見たろ?

 

コブ付きかあるいは結婚してると思ったんじゃねえか?」

 

バルトは首を傾げ、シムカに事情の説明をする。

 

しかし、シムカは首を振った。

 

「あんた幾ら持ってるの?

 

今、うちらギルドに通せる依頼って幾らでやってるのか分かってるの?」

 

バルトの腹を拳でグリグリとするシムカ。

 

バルトは顔を青くして汗を流す。

 

「あんたが面倒見てあげるしかないでしょうね。

 

はぁ、さっきの依頼は先方に断りを入れておくから、あんたは、まずその子の親御さんを見付けてやんな。」

 

「わ、分かりました。」

 

依頼発行は断念。

 

そして、受けてた依頼はシムカに迷惑をかける形で放棄。

 

持ち金の怪しい中、パティの親御さんを見付けるために旅に出なくてはならないという現実がバルトを苦しめる。

 

とはいえ、パティをこのまま放置なんて出来よう筈もない。

 

バルトはパティを連れてギルドを後にすると、旅に出るために道具宿屋へと戻り、ライフボトルとアップルグミ……。

 

オレンジグミは……。

 

ポケットにしまっておいた武醒魔導器(ボーディブラスティア)を指で叩く。

 

武醒魔導器(ボーディブラスティア)のエアルの乱れなんかはバルトが力を使えばその場で0に出来る。

 

始祖の隷長(エンテレケイア)として、元々備わっている力がエアルの乱れを抑制する。

 

まあ、正しくは乱れたエアルを体内に吸引する力なのだが……。

 

パティと自分だけの旅になる。

 

ーー力は有った方が良い。

 

この武醒魔導器(ボーディブラスティア)の事は後でパティとダーリンて奴に聞くこととして、一先ずは俺が預かっておく事にしよう。

 

パティを寝室へと先に向かわせて、道具宿屋の店員にスキルが使えなくなったことでただの武器となったスキル武器を安く買うことにした。

 

この武醒魔導器(ボーディブラスティア)が有れば十全に活かせる。

 

勿論、何時でも使うわけにはいかない。

 

けれど、スキルを覚えないことには今回の旅は無謀にも思えた。

 

今売れてるのは……コンパクトソード+1!?

 

こんなの使えねえよ。

 

コンパクトソード+1のスキルは全ての攻撃が1ダメージになるという、練習用のスキルとして優秀だったものだ。

 

求めている物が無かったのは、恐らくは鍛冶ギルドの供給の不足と戦うための力を欲する需要が吊り合わなかったためだろう。

 

これは、鍛冶ギルドに直接顔を出さなければまともにスキルを覚えることも出来ないだろう。

 

バルトの持ってるクラウソラスにも2つだけスキルが有る。

 

1つはハイパーキャンセラーと言い、連携中に一度だけ、奥義から奥義への連携が可能になるというものだ。

 

けれど、技を使わなくなってしばらく経った。

 

奥義など使わないと思っていたから、思い出す為にも戦闘をこなす他無いだろう。

 

もう1つはバーストキープ。

 

バーストアーツ中はオーバーリミッツの効果時間が0にならないというものだ。

 

だが、このバーストアーツを使いこなすのは今の時代では中々に困難である。

 

バーストアーツとは、オーバーリミッツ中に奥義との連携で出せる秘奥義の1つ前の技の事である。

 

つまり、武醒魔導器(ボーディブラスティア)が無いとそもそも使えないのだ。

 

そして、オーバーリミッツだが、闘気というか、気合いというか、そういったボルテージやテンションを最高潮へと持っていき、それを一気に解放する武醒魔導器(ボーディブラスティア)を必要としない技術だ。

 

これも一応は出来るには出来るのだが、今は戦うよりも逃げろの時代だ。

 

今でも稀に使う奴等は見るが、それは余程の戦闘好きか運の無い奴等である。

 

一先ずは、出立を明日としよう。

 

何もなければ南に6時間も歩けばヘリオードへと到着する。

 

あそこは確か騎士団の駐屯所が新たに設けられたって話だったな。

 

市民は皆このダングレストに避難したという話だ。

 

まあ、無理もないか。

 

結界魔導器(シルトブラスティア)も無いのだから。

 

今やあそこは商人ギルドの仕入れの為の中継地点だ。

 

バルトはコンパクトソード+1しか無いなら仕方ないと、一先ずはそれを購入した。

 

明日からまた忙しくなる。

 

そう思い、バルトもベッドへと向かう。

 

ベッドにボスンと音を立てて倒れると、そのまま目をつむり、意識を闇の中へと手放した。

 

 

 

 




『バルト・イーヴィル』
【種族】始祖の隷長
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
クラウソラス
コンパクトソード+1
フィートシンボル
武醒魔導器
【技】
蒼破刃

『レシピ』
サンドイッチ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話【出立ダングレスト】

チュンチュンの嘴に引っ掛かっていた幼女のパティを助けた事により、パティの両親を探すため、話に聞いた船というワードからカプワノールとカプワトリムを目指す旅に出ることになった。

また、パティが落とした武醒魔導器。

それには精霊となって失われた筈のコアが付いていた。

パティの保護者と思われるダーリンの存在がコレにより見過ごせないものとなる。

始祖の隷長であるバルトはこの武醒魔導器を如何にしてダーリンとパティの手へと渡ったのか調べなくてはならない。

バルトは一先ずダングレストを出立し、ヘリオードを目指す。


第1章『弱者と強者』

 

朝、道具宿屋に起こされる。

 

目が覚めたバルトは顔を洗い、紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)の象徴とも言える紅をワンポイントに使った戦闘服へと着替える。

 

髪を後ろで纏め、赤いタオルで結ぶ。

 

胸元の大きく開いた黒のジャケット。

 

エリは立てられており、袖は赤い。

 

胸元にはフィートシンボルがぶら下がっており、申し訳程度に腹から腰にかけて意味もなくチャックが付いてる。

 

黒の皮のレギンスには、後ろのポケットに赤のスカーフが入っており、左足にだけ赤のベルトポーチが3つ結ばれている。

 

ベルトポーチには上からアップルグミ、オレンジグミ、ライフボトルがしまわれている。

 

腰に鞘を下げ、クラウソラスとコンパクトソード+1を刺し、バックパックを背負い、準備の出来たバルトはパティを起こす。

 

「起きろパティ、出掛けるぞ。」

 

パティが寝惚けて抱き付いてきたが、ここでパティがハッと我に帰り、バルトを見る。

 

「お主、誰じゃ?

 

ダーリンはどこに行ったのじゃ?」

 

バルトは頭を押さえてため息を吐き出す。

 

「あのなぁ、そのダーリンてのを探しにカプワトリムとカプワノールを見に行くって話だったじゃねえか俺と。」

 

と、タオルを外して昨日の髪型にしてやる。

 

「おお!?

 

ということはお主の言うとおりお主はダーリンではなかったのじゃな!」

 

ポンッと手を叩いて納得した様子のパティはベッドから降りる。

 

「では、バルトと呼んだ方が良いかの?」

 

バルトはそれに頷く。

 

「ああ、ダーリンとか変な名前で呼ばれるよりかは100倍良い。」

 

バルトはパティが準備を終えるまで待つと、パティへとパンを投げる。

 

「食っとけ。」

 

バルトとパティはパンを口にしながら道具宿屋を出る。

 

バルトがダングレストを出ようとすると、橋の上に見知った顔が有った。

 

「イーヴィルさん、女児誘拐ですか?」

 

赤髪を短く切り揃えた糸目の男がニコニコとしながらバルトを見ていた。

 

バルトは苦笑する。

 

「カムイ、変な冗談はよせ。

 

シムカに話は聞いてるだろ?」

 

彼の名前はカムイ。

 

シムカの弟である。

 

「姉さんから、イーヴィルさん一人では心配だから同行するようにと言われましてね。」

 

あからさまに嫌そうな顔をするカムイ。

 

「嫌なら別に来なくても良いんだぞ?」

 

「他でもない姉さんの頼みで無ければこんなボランティアは断っていますよ。

 

イーヴィルさん、貴方はなんというか、常々運の無い人だと思ってましたが、今度は迷子の親探しとは……。」

 

ため息を吐き出すカムイにパティが歩み寄る。

 

「こんにちはお嬢さん。

 

僕はカムイと申します。

 

シムカ姉さんには昨日会ったと思いますが、その弟です。」

 

カムイが自己紹介すると、パティは腰に手を当てて偉そうにふんぞり返る。

 

「ウチはパティじゃ!」

 

「よろしくお願いしますパティちゃん。」

 

と、カムイがパティの頭を撫でると、カムイがバルトの隣に肩を並べる。

 

「では、行きましょうか。」

 

カムイと共にダングレストと外との境界であるバリケードを越える。

 

結界魔導機(シルトブラスティア)の失われたこの時代の主な防御方法はこのバリケードと、テント等で使われていた魔物の嫌う匂いによる結界である。

 

バリケードの修繕のために結界として匂いを配置し、バリケードの改修工事が終わったらまたバリケードで耐えるというサイクルでダングレストは魔物からの侵攻を許さない。

 

もしも、中に入られた場合はギルドの町だけあっていつでも戦う事が出来る。

 

今、ダングレストはそういった迅速な対応込みの意味で、住みたい町ランキングの上位である。

 

そんなダングレストを出ると南に真っ直ぐ進むわけなのだが、この辺の魔物が増えているために、真っ直ぐ直進等出来よう筈もない。

 

魔物を遠目に視認すると、カムイがオウカ+1を抜いた。

 

「僕が奴の注意を引き付けますのでその間にパティちゃんと走り抜けてください。

 

離れた位置にこのテントを置いて結界としましょう。

 

そこで一旦休んでからまた出発します。」

 

と、カムイからテントが渡される。

 

見えた魔物はこの辺りではポピュラーなトータスだ。

 

大きな体を持っており、硬い甲羅に守られた亀のような魔物で、思いの外伸びる首が厄介だ。

 

昔は雑魚の一匹として数えられていたが、今ではダングレストからヘリオードまでのエリアでの中ボス扱いである。

 

「んじゃ、任せるぞカムイ。」

 

カムイはポケットからアップルグミを取り出すと、それを魔物にぶつけた。

 

「さ、お先にどうぞ!」

 

カムイへと向かっていく魔物を中心に回るように迂回して走り抜ける。

 

そして、そのまましばらく走るとカムイに言われたようにテントを張る。

 

これで、この近辺の魔物は近付いては来ないだろう。

 

日は丁度真上だから、昼頃だろうか。

 

テントの前で座るバルトの視線の先に腕を押さえて走るカムイの姿が有った。

 

カムイがテントまでたどり着くと、直ぐ様応急処置と、アップルグミを食べさせる。

 

「いやはや、トータスだけかと思って油断しておりました。

 

まさか、トータスの影にオタオタが隠れていたとは……。

 

危うく腕を落とす所でしたよ。」

 

バルトがタオルで縛り、カムイの腕を止血する。

 

「お前の言うとおり休憩してから出よう。

 

初っぱなからトータスに出くわすなんざ運が無かったな。」

 

バルトの言葉にカムイは苦笑する。

 

「僕は普通の運ですよ。

 

運が無いのはイーヴィルさんの方では?」

 

「減らず口が利けるなら大丈夫だな。」

 

と、バルトはカムイをテントで横にさせる。

 

「お気遣い頂かなくても直ぐに出発出来ますよ?」

 

カムイの言葉にバルトは首を振る。

 

「血の匂いを追われたら面倒だ。

 

その怪我を少しでも治してから出るぞ。」

 

「そうですね。

 

御迷惑をおかけします。」

 

カムイがテントで休んでいる最中、念のためにバルトは外で見張りをする。

 

パティも退屈そうにしながらバルトの側に腰かけた。

 

「パティは休まないのか?」

 

そのバルトの言葉にパティは首を振る。

 

「ウチは平気なのじゃ!」

 

気丈に振る舞うパティの頭をバルトはグリグリと撫でる。

 

子供の癖に大人に気を使ってるのだろうか?

 

そんなことを思ったバルトはそう言えばと、バックパックにしまっておいたサンドイッチのレシピを取り出す。

 

「ほら、昼飯作ってやる。」

 

レシピを見るまでもないのだが、分量まで細かに書かれていたのでそれに沿って作ってみた。

 

味見をする。

 

「まあ、たかだかサンドイッチ……え?美味い。」

 

予想を上回る美味しさがそこには有った。

 

レシピの分量通りに作ればこれほどまでに美味しさが増すのか。

 

ワンダーシェフを侮っていたことを少し反省しつつ、カムイとパティに食べさせる。

 

カムイがサンドイッチを食べて目を見開く。

 

「イーヴィルさんにこんな才能が有ったとは驚きです!」

 

「いや、たかだかサンドイッチで何を言ってるんだお前は。」

 

パティも美味しそうに食べている。

 

皆が食事を終えて一息ついた時だろうか?

 

カムイが走ってきた方向から、トータスがこちらに向けて進んできていた。

 

「カムイ、あのトータス、『結界慣れ』みたいだぞ。」

 

結界慣れーー魔物が嫌う匂いを難度も定期的に嗅ぐことで慣れてしまい、テントに近付いてくる魔物の事である。

 

「困りましたね。

 

僕はこの通り手負いですので、足手まといになるでしょう。

 

パティちゃんは僕が見てても良いのですが、トータスはまともに戦って勝てる相手では無いです。

 

フェイタルストライクを狙うにしてもあの硬い甲羅にどの程度ダメージが通ることか……。」

 

フェイタルストライクとは、同じような攻撃を加えてバランスを崩した敵を次の一撃で仕留めるというものだ。

 

トータスの硬い甲羅に自分達の技術でダメージが入るかどうか……。

 

カムイが困ったようにバルトを見ていた。

 

バルトはポケットの中の武醒魔導器(ボーディブラスティア)を触る。

 

使うしかないか……。

 

バルトはカムイに背を向ける。

 

「パティを任せるぞ!」

 

「それは、構わないのですが、何か手でも有るのですか?」

 

カムイの言葉に頷く。

 

「ああ、だから、ここでパティと大人しくしていろ。」

 

テントから離れてトータスへとコンパクトソード+1を投げて気を引く。

 

「こっちに来やがれ!」

 

クラウソラスをブンブンと振り回し、存在を主張すると、自分へ向かって来るトータス。

 

この近辺は森が多いが、そこに行くと別の魔物へ遭遇する可能性が有る。

 

撒いて逃げるにも、近場が安全である保証は無い。

 

バルトは武醒魔導器(ボーディブラスティア)を腕に装着し、念のために赤いリストバンドで隠す。

 

「さあってと、確か……。」

 

朧気な記憶を頼りに離れた位置からクラウソラスの先を地面に擦り付けて上に切り上げる。

 

「蒼破刃ーー!!」

 

地面を這うように剣の一撃がトータスに当たる。

 

久しぶりだったから自信は無かったが、どうやら簡単な技なら使えるようだ。

 

ならば、このまま離れた位置から蒼破刃をぶつけ続けるだけである。

 

この技は非常にオーソドックスで、騎士やギルド員なんかが昔使っていた。

 

今はこの技自体を見ることは無くなったのだが、この調子でどんどん削っていく事にする。

 

フリーランで離れてトータスに向て蒼破刃。

 

これをしていると、精神的に疲れてくる。

 

当然だ。

 

技の発動には集中力が必要となる。

 

そして、集中力が必要となるということは、注意力が散漫になるということだ。

 

今はトータスと自分だけだが、周りに他の敵が居ようものなら良い的になってしまう。

 

それだけに、疲労も貯まるので、その疲労を和らげてくれるのが、オレンジグミと言うわけである。

 

バルトはベルトポーチから取り出すと、口に含む。

 

慣れ親しんだ味で疲労を和らげ、トータスから距離を取りつつ、テントからは離す。

 

上手く事が運んでいるためか、心持ち少し余裕が出てきた。

 

いや、これは少し違うな……。

 

「おっと、この高揚感……久しぶりだな。」

 

テンションが少しずつ上がっていく感じが分かる。

 

「オーバーリミッツーー!!」

 

オーバーリミッツ状態の時は、簡単な技なら連続で使うことが出来る。

 

狙うのはトータスの足である。

 

蒼破刃を浴びせ続け、トータスの右前足がドサリと落ちた。

 

次は左足を中心に狙う。

 

「離れてくださいパティちゃん!」

 

カムイの声が聞こえた。

 

オーバーリミッツが切れたタイミングと重なり、そちらへと視線が向かう。

 

そこには……。

 

もう一体のトータスがいた。

 

バルトは慌ててそちらへと向かう。

 

が、バルトは今まで相手をしていたトータスの伸びた首に腕を噛まれてしまった。

 

「しまっ!」

 

引きずり回され、振り回され、地面へと叩き付けられる。

 

けれど、これはバルトにとってもチャンスで有った。

 

伸縮性が有る頭。

 

それはつまり、ある程度の柔軟性がある。

 

ようは柔らかさが有るということだ。

 

バルトは咄嗟にクラウソラスを伸びた首に叩き付ける。

 

「離しやがれ!」

 

叩き付けた剣がトータスの首を鞭打たせる。

 

それに合わせて大きく叩き付けられたバルトだったが、直ぐ様体制を立て直し、トータスの頭にクラウソラスを突き立てた。

 

大概の魔物は、頭を潰されたら流石に即死である。

 

トータスも例外ではなく、バルトの前で動かなくなった。

 

一息ついたバルトだったが、パティの事を思い出してテントの方を見る。

 

すると、思いもよらない光景がそこには有った。

 

トータスがむしろ押されぎみで、しかも、体制を崩していた。

 

まさかーー!!

 

予想は的中した。

 

体制を崩していたトータスへ向けてパティが次に行ったのはフェイタルストライク。

 

敵を一撃で仕留める大技だった。

 

「パティは一体?」

 

何者なんだ?

 

トータスが倒せるのにどうしてチュンチュンなんかに?

 

疑問は尽きなかったが、一先ずはパティの所へと走る。

 

「パティ、今のは……。」

 

カムイも呆然とパティを見ていた。

 

「なんじゃ?知らぬのか?

 

今のはフェイタルストライクと言っての?」

 

分かったことがある。

 

パティが武醒魔導器(ボーディブラスティア)を使わなかったのは、そもそもパティには必要なかったからだと……。

 

バルトはパティだけに見えるようにリストバンドをずらす。

 

パティは目を丸めて、バルトを見た。

 

「話を聞けるか?」

 

バルトの言葉にパティは頷く。

 

「うむ、ウチに分かることだけじゃがな!」

 

バルトはリストバンドで直ぐに隠す。

 

「これをどこで?」

 

パティは目を伏せる。

 

「これは遺構の門(ルーインズゲート)が発掘のときに見付けたらしいのじゃ。

 

ラーギィとか言うたかのう?

 

ウチのダーリンがそれについて調べることになって、ウチはそれの手伝いをしていたのじゃ。」

 

「遺跡か……。」

 

けれど、コアが余すこと無く精霊となった今、これが機能する状態で発見されるのはおかしな話である。

 

「それで、足取りは掴めたのか?」

 

「うむ、それなのじゃが、探している途中でダーリンとはぐれてしまったのじゃ。

 

ウチは迷子になったであろうダーリンを探したのじゃが、気が付いたら空を飛んでいたのじゃ。」

 

なるほどな。

 

そんで、チュンチュンに捕まった訳だ。

 

「となると、ダーリンてのがこれの持ち主を追いかけてる訳だ。」

 

カムイはようやく固まった状態から回復したのか、心配そうにパティへと駆け寄る。

 

「だ、大丈夫ですか!?

 

怪我は……してませんね。」

 

ホッとしたように息を吐き出すカムイは次にバルトを見た。

 

「やはりトータス相手ではイーヴィルさんのようになるのが普通ですよね?」

 

カムイはパティを見て苦笑する。

 

「何か訳ありなのでしょう?

 

まあ、僕はこの子の両親を探すためのお供です。

 

深くは聞かないことにしておきますね。」

 

と、パティへとカムイが微笑む。

 

「うむ、カムイはダーリン程ではないが良い男じゃな!」

 

「それはそれは、光栄の至りです。」

 

バルトはアップルグミを食べて、怪我した腕をスカーフで止血する。

 

「トータスを仕留めた。

 

使えそうな部分だけ回収して、離れた場所に捨てよう。

 

カムイはそっちのを頼めるか?」

 

カムイは頷くと立ち上がる。

 

パティの倒したトータスの亀の甲羅とトルビー水を回収した。

 

バルトが倒したトータスからも、同じ物を回収した。

 

バルトがその場で剣で解体し、カムイが捨ててくる。

 

日が暮れ始めると、カムイもバルトもテントへと戻り、パティと共に夕食を食べる。

 

「また、サンドイッチですか?」

 

カムイが不満をぶつけるようにバルトを見る。

 

「仕方ねえだろ。

 

それとも、パンをそのまま食うかよ?」

 

少なくともパンそのままよりは美味い。

 

「いえ、今後食事のレパートリーが増えることを願ってます。」

 

カムイがサンドイッチに口を付ける。

 

「味は美味しいのですけどね……。」

 

このままだといつか飽きる。

 

そう言いたげなカムイの視線を受け流す。

 

「うるせえな。

 

そんなに言うならお前も何か作るかよ?」

 

そう言うと、カムイがレシピを1つ取り出した。

 

「なんのレシピだ?」

 

開いて見る。

 

サラダ……。

 

「んなもん、レシピが無くても間違えねえよ!」

 

レシピでカムイの頭を叩く。

 

「そう言うイーヴィルさんこそサンドイッチのレシピしか持っていないじゃないですか!」

 

掴み合いの喧嘩になりそうだったが、互いに怪我をした方の腕を動かしたがためにうずくまることとなった。

 

「やめよう。

 

不毛だ。」

 

「そうですね。

 

不毛です。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

第2章『癒えない傷』

 

テントの中で朝を迎え、昨日カムイが渡してきたサラダのレシピを使って朝食を作る。

 

分量をちゃんと守れば美味しさが増すと分かっているので、きっちりとレシピ通りに作った。

 

「うん……不思議と美味いな。」

 

バルトは味見をし、完成したサラダをカムイとパティへと渡す。

 

カムイは美味しそうに食べると、こう漏らした。

 

「うん、これなら義兄さんと御呼びしても良い気がしてきました。

 

ええ、美味しいです。

 

昨日のはまぐれでは無かったということですね。

 

流石ですバルト兄さん。」

 

「なんだそりゃ?」

 

カムイとはギルドで一方的に噛み付かれてくる感じの犬猿の仲である。

 

こうも素直に誉められれば気持ち悪い。

 

「ふふ、まあ、1面では有りますが、認めたと言うことですよ。」

 

カムイの率直な反応から顔を背け、パティを見る。

 

パティもどうやら美味しそうに食べている。

 

「バルトは良いお嫁さんになれるのじゃ!」

 

お嫁さんに……。

 

その場合、相手って?

 

「僕ですか?」

 

カムイが首を傾げる。

 

「凄く不愉快です。」

 

本当に機嫌が悪そうに表情を曇らせ、普段開かない糸目が開き、バルトを睨む。

 

「分かった、分かったから落ち着け。

 

子供の戯れ言だぞ?」

 

そう言うバルトの言葉でいつもの優男のような笑顔に戻る。

 

「そうですね。

 

さて、バルト兄さんヘリオードへはいつ出発しますか?」

 

カムイがもう直ったのか、タオルを返してくる。

 

カムイの腕には瘡蓋が出来ており、治りはじめているようだ。

 

その反面バルトは瘡蓋なんて出来てない。

 

「やはり、バルト兄さんは軟弱ですから怪我の治りも遅いのですね。

 

がっかりです。」

 

カムイに呆れられたようなリアクションをされたが、これはエアルがなくては治らないからである。

 

空気中の微弱過ぎるエアルでは、傷を塞ぎきるには足りない。

 

この傷を塞ぐには、エアルクレーネへと立ち寄るか、武醒魔導器(ボーディブラスティア)を使って蒼破刃を連発するしかない。

 

そうやってエアルを乱してエアルを増やして傷を治すのだ。

 

だが、人前ですれば、自分の正体がバレてしまう可能性が有る。

 

バレてしまえば、自分もバウルやミョルゾのように狙われる危険が有る。

 

そうなれば、カムイやシムカにも危険が及ぶかもしれない。

 

それだけは見過ごせない。

 

「俺はお前と違ってデリケートなんだよ。」

 

「やれやれ、ショートケーキのいちごちゃんでは有るまいに……。

 

僕はバルト兄さんのその軟弱さは治すべきだと思いますよ。」

 

生まれもっての体質や特性を治せとは無茶が過ぎる。

 

「出来たら苦労しねえよ!」

 

悪態を付いて立ち上がる。

 

テントは消費アイテムだ。

 

使ったあとは適当に燃やしたり、埋めたりして進む。

 

バルトはバラバラに引き裂くと、適当に埋める。

 

「んじゃ、行こうぜカムイ、パティ。」

 

未だ手負いのバルトは最後尾に、先頭をカムイが進む。

 

間にパティが居るわけだが、パティがこの3人の中では一番強い可能性がある。

 

そんなことをきっとカムイも思っていたのだろう。

 

「提案が有るのですが……。」

 

前を警戒しながら足を止めるカムイ。

 

「パティさんも次からは参戦してもらえませんか?

 

先程の戦いを見た限り、僕らよりも手練れであると判断しました。

 

どうでしょう?」

 

パティはふんぞり返る。

 

「うむ、構わぬのじゃ!」

 

「ありがとうございます。

 

では、僕とバルト兄さんが敵の足止めを致しますので、機会を見て攻撃をお願いします。」

 

機会を見てということは、つまり。

 

「俺達でフェイタルストライクが出来る状況まで持っていく訳か?」

 

「そうなりますね。

 

ただ、これは敵が2体までの手段です。

 

3体以上と戦わないといけない状況になったら、機会などどうでも良いのでささっと1体を片付けて僕たちに合流してください。

 

僕たちは出来るだけパティちゃんが一対一で戦えるように引き付けるのが仕事です。」

 

なるほどな。

 

「パティにおんぶに抱っこだな。

 

なんというか、大人として情けないぜ。」

 

とはいえ、バルトはまだ生まれて3年しか経っていないのでパティよりも本来は子供である。

 

「これが一番確実だと思ったまでです。」

 

パティは納得したようで大きく頷いた。

 

「本人が良いみたいだし、それでいくか。」

 

と、そんな事を話していると、目の前をゲコゲコ1体とオタオタ2体が立ち塞がった。

 

「では、手筈通りに!

 

僕たちはオタオタを引き付けますので、パティちゃんはゲコゲコをお願いします!」

 

サラッと一番強いゲコゲコをパティに押し付ける辺り、カムイはその辺を割りきっている様だ。

 

「は!」

 

カムイがオタオタの尻尾を踏みつけ、挑発している。

 

バルトも負けじと、カムイを真似てもう一匹の尻尾を踏みつけた。

 

オタオタはちゃんとバルト達へ向かって行き、ゲコゲコかが一番弱そうに見えるパティへと向かっている。

 

「一番弱そうに見えますよね?

 

その子、僕たちより強いんです。」

 

カムイがオタオタを挑発しながら、そんな事を口走る。

 

大人としては認めたくないが、認めざるを得ない。

 

バルトも挑発をしていると、パティが早くもゲコゲコを仕留めていた。

 

「カムイ!先にこっちを片付けて良いか?」

 

「どうぞ、手負いのバルト兄さんにはキツいでしょうからね?」

 

こんにゃろと思ったが、カムイのお言葉に甘えてパティに来てもらう。

 

ひたすらに切り下ろしをする。

 

「今だーー!」

 

オタオタの体制が崩れた所で綺麗にパティのフェイタルストライクが決まった。

 

「カムイ!そっちはどうだ!」

 

バルトがカムイの方を見ると、カムイはオウカ+1でオタオタの頭を貫いていた。

 

「いえ、充分にダメージを与えられたようで、パティちゃんの出る幕は無かったようです。」

 

にっこりと微笑むカムイはオタオタの体液を振り払う。

 

「では、素材を剥ぎ取り、先に進みましょうか。」

 

オタオタからは海苔とグミの元が手に入った。

 

ゲコゲコからはサーモンとオレンジグミが手に入った。

 

「オレンジグミとか、なんでゲコゲコが持ってんだろうな?」

 

「さあ?

 

案外、ゲコゲコもオレンジグミのあの味が好きなのかもしれませんね。」

 

「オタオタの尻尾、踏みすぎたな。」

 

「本来であればこれも素材の1つなのですが、これはもう価値が無いと思われます。」

 

尻尾を踏んで挑発を繰り返した結果、オタオタの尻尾はボロボロで剥ぎ取る理由が無くなっていた。

 

「行くか。」

 

ヘリオードへと向けて再出発する。

 

このまま何も無ければ、昼頃にはヘリオードに到着するだろう。

 

先程までの戦いが嘘のようにめっきりと魔物と遭遇しなくなった。

 

カムイが顔をしかめて、カルボクラムの方角を指差した。

 

「あそこから血の匂いがします。」

 

カムイは五感が鋭く、斥候や諜報、陽動、調査を紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)の仕事では任される事が多い。

 

今回はそんなカムイの嗅覚がカルボクラムに向けて反応して見せた。

 

カルボクラムへは東に向かう必要が有る。

 

「どうしますか?」

 

カムイが訪ねてくるが、カルボクラムと言えば今は誰も住んでいない滅びた町である。

 

そんなところからする血の匂いとなれば、とても怪しい。

 

しかし、今はパティの事がある。

 

こちらを優先してヘリオードへと向かうべきでは有るのだが……。

 

「全く、貴方はお人好しですねバルト兄さん。」

 

と、カムイが進路をカルボクラムへと変更した。

 

「しゃあねえな、ちょっと様子見てくるのに付き合ってくれるかパティ?」

 

バルトが訪ねると、パティは頷いた。

 

「そうじゃな、ダーリンも『義を持って事を成せ、不義には罰を』と言っておったからの。

 

ウチもダーリンを探してくれる義に対して協力するのじゃ!」

 

なんというか、ギルドの信念のような事を言うんだなと思った。

 

進路はカルボクラム。

 

この先に果たして何が有るというのか?




『バルト・イーヴィル』
【種族】始祖の隷長
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
クラウソラス
コンパクトソード+1
フィートシンボル
武醒魔導器
【技】
蒼破刃

『カムイ・シルト』
【種族】人間
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
オウカ+1
ブーツ
【技】
挑発
察知

『パティ』
【種族】人間
【所属】ダーリン
【装備品】
クルビス
【技】
不明



『レシピ』
サンドイッチ
サラダ


『共有戦利品』
トルビー水×2
亀の甲羅×2
海苔×1
グミの元×1
サーモン×1
オレンジグミ×1


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話【カルボクラムの吸血鬼】

パティを助けたことにより、カプワノールとカプワトリムを目指す事となったバルト。

まずは一番近い町であるヘリオードを目指す事とした。

ダングレストを出る直前でシムカの弟のカムイが仲間に加わり、共にダーリンを探す事になる。

途中、トータス2体に襲われる不運も有ったが、片方をバルトが、もう片方を謎の少女パティがフェイタルストライクで倒してしまった。

バルトとカムイはパティと自分達との実力の差をこれで理解した。

ただ者ではないと理解したバルトは武醒魔導器を見せ、パティから経緯を訪ねた。

すると、遺跡の門のラーギィという人物がダーリンへと依頼して、手がかりとして入手したものだと分かった。

ダーリンならば詳しく分かるというので、一先ずはダーリンを探すという目的は変わらぬままヘリオードへと向かう。

そこからはパティの力も借りながら戦う。

順調に進んでいると思われた矢先、カムイがカルボクラムから流れてくる血の匂いを察知した。

カルボクラムは今は人の居ない滅びた町である。

そんなところから匂う血の匂い。

怪しいと感じたバルトは、始祖の隷長としてそれに首を突っ込みたくなったのを、カムイがお人好しと解釈してくれた。

パティも何やら大義な信条を語り、付いてきてくれると言う。

目的地ヘリオードから変更ーー

バルト達はカルボクラムへと向かう。


第1章『手負いの少女』

 

カルボクラムへと到着したバルトは、カムイに目配せする。

 

「付いてきてください。」

 

カムイの嗅覚を頼りに草木の生い茂る町の中を進む。

 

町の中には移動するための大掛かりな仕掛けが有るのだが、ソーサラーリングの小さなコアですら精霊となっている現代に動かす術は無い。

 

カムイが段差を軽々と飛び越え、下にロープを垂らす。

 

バルトとパティはそれに掴まり、上によじ登る。

 

カムイが目を開き、建物の1つへと目を向けた。

 

「アレのようです。」

 

建物の周りには屈強な男達が血まみれで倒れていた。

 

装いから、騎士では無いことが分かる。

 

「どうしますか?」

 

カムイが訪ねてくるが、あの男達はどう見ても手遅れというやつだ。

 

「家の中を覗いてみて、何も無ければ引き返えそう。」

 

バルトが前を行き、扉を開くと、中には扉をキッと睨む10代くらいの女の子が血まみれで壁にもたれかかっていた。

 

バルトは直ぐに駆け寄り、アップルグミを取り出し、トルビー水でタオルを濡らして血を拭き取る。

 

「何が有った……。」

 

出口を見張るカムイが、咄嗟に扉を閉めた。

 

「やられました。

 

罠のようです。」

 

そう言うカムイは扉を強く押さえながらバルトとパティ、そして少女へと無情な事実を告げる。

 

「その少女を餌に人を誘き寄せて閉じ込めるのが目的だったようです。

 

なかなか賢い魔物のようですね。」

 

カムイの言葉に少女は悔しそうにギリリと歯を噛み締める。

 

「私は魔狩りの剣に所属してるの……。

 

ボスと師匠とはぐれてしまって、あのーーリーフバットの大群に襲われたの。」

 

リーフバットと言えば、その名前の通り、草木の葉っぱに擬態して襲ってくる魔物である。

 

「俺は紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)のバルト。

 

こっちは仲間のカムイとパティだ。」

 

パティの名前を聞いて少女の顔が上がる。

 

「パティってあなた……。

 

ここに、カロルが来てるの?」

 

パティは首を振って否定する。

 

「ウチとバルトとカムイだけじゃ。」

 

少しだけ安心したように見せる少女。

 

「私はナン。

 

どう?

 

ここから出るために一旦手を組まない?」

 

ナンと名乗る少女はバルトを見据える。

 

「まあ、それは魅力的な提案だが、一先ずは手当てしてやっから、こっちに来い。」

 

バックパックから包帯を取り出してナンの負傷が目立つ頭、手、足に順番に巻いていく。

 

「あ、ありがとう……。」

 

どこか照れた様子のナンから、離れるとカムイへと目を向ける。

 

「さて、出るために手を組むわけだが、何か手は有るか?」

 

バルトの言葉にカムイは苦笑する。

 

「あの大群にまともに勝てるとは思いません。

 

ですので、確実な方法は、無いと思われます。」

 

カムイの言葉にナンの表情が曇る。

 

「勘違いしないで頂きたい。

 

確実でさえなければ手はいくつか有ります。」

 

カムイが扉を開けると、そこへ待っていたとばかり、大群が押し寄せる。

 

カムイは何体か見過ごしてから思い切り扉を閉めた。

 

「さて、6体ですか……。

 

こうやって倒せる数に分断して殲滅するというものです。

 

誰かが扉を押さえてないといけないので、この役目は僕がやらせて頂きます。」

 

リーフバットが部屋の中を飛び回り、血の匂いを嗅ぎ付けてナンへと集まる。

 

「なるほどね!」

 

ナンが机を蹴りあげて、リーフバットの1体を落とす。

 

それにすかさずパティが切りかかった。

 

バルトはカムイへと意識が向かないように自らの腕を空気に晒してクラウソラスで薄く切る。

 

流れる血の匂いを感じて、ナンとバルトへ別れたリーフバットを後ろからパティが殲滅した。

 

「カムイ、こういうのは説明してからやるもんだろ?」

 

バルトがそう言うと、カムイは口を緩める。

 

「いえ、実際に確実性に関しては、やってみた方が分かりやすいでしょう?」

 

ナンは息絶え絶えといった感じで膝を折る。

 

「おや、思ったよりも素早い身のこなしだと思ったのですが、割りと体力は無いのですね。」

 

カムイの軽口にナンは汗を拭う。

 

「私は怪我してるんだから少しくらい多目に見なさいよね……。」

 

バルトはナンへとアップルグミを投げる。

 

「食っておけ。

 

しかし、さっきはたまたま上手くいったが、あと何回これを繰り返しゃ良いんだ?」

 

率直な疑問を投げ掛けるとカムイは指折り数え始める。

 

「僕の見た限りでは約50体は居ると考えた方が良いでしょう。

 

つまり、あと44体は確実に居ます。」

 

カムイの言葉にバルトも乾いた笑いが漏れる。

 

「では、第2ラウンドと行きましょうか!」

 

カムイが同じような動作で扉を開くと、また大群が押し寄せる。

 

6体を視認するとカムイが扉を閉めようとしたが、閉まらない。

 

どうやら、リーフバットが挟まったようだ。

 

急いでバルトが駆け寄り、リーフバットを蹴り飛ばす。

 

緩んだ途端に扉が締まり、カムイとバルトがホッと一息付くが、中にはその間に入ってきたと思われるリーフバット合計10体。

 

「多いなーー!!」

 

バルトは血を振り撒き、リーフバットを引き付ける。

 

ナンも同じようにリーフバットを引き付けていたが、数に圧倒され、先回りされてしまった。

 

「大丈夫かーー!!」

 

バルトの心配をよそに、ナンは背中から飛来刃と呼ばれる武器を掴むと、それをぶん投げた。

 

「飛来刃・強襲!!」

 

ナンを囲っていたリーフバットが次々と落ちていく。

 

あの技、技術だけでやっている。

 

魔狩りの剣はその名前の通り、魔物を狩るのが生業のギルドだ。

 

体に技術が染み込む程に彼女は戦ってきたのだろう。

 

5体のリーフバットが落ちる。

 

バルトは残りの5体を引き付けていたのだが、それはパティが全て落とすことが出来た。

 

「ナン、お前、凄い強いんだな。」

 

バルトの率直な感想にナンは呆れたように腕を組む。

 

「あなたは弱いのね。」

 

「うぐっ……。」

 

そう言われると返す言葉もない。

 

次の戦いに備えて、バルトはパティとナンを見る。

 

二人とも大丈夫そうに見える。

 

カムイに目配せした。

 

開く扉と、それに、タイミングを見計らったかのように、リーフバットが扉いっぱいに雪崩れ込んできた。

 

「いやはや、これは流石に計算外です。

 

彼ら、学んでますね。」

 

カムイの苦笑にバルトは舌打ちする。

 

「呑気に言ってる場合か!

 

こうなったら、外に出て、閉じ込めるぞ!」

 

バルトがそう叫ぶと、カムイにパティとナンが続くように外に出る。

 

バルトも外へ逃れると、外には自分達を囲むようにリーフバットが20体は見えた。

 

バルトの背中に嫌な汗が流れる。

 

ナンもこれには余裕が無いのか、動揺が顔に出ていた。

 

パティはキョロキョロと、見回して、それから、バルトを見上げる。

 

いや、バルトの持っている武醒魔導器(ボーディブラスティア)を見ていた。

 

「使えってことか?」

 

パティはコクンと頷く。

 

確かに、使わなければここを乗り切るのは難しいだろう。

 

「チッーーうろ覚えだけど、しゃーねえか!」

 

バルトは詠唱を始める。

 

「ちょっと、バルト兄さん!?」

 

驚いたように振り返るカムイ。

 

「聖なる活力、集えーーファーストエイド!」

 

ナンを包み込む光。

 

ナンの傷が癒えていく。

 

「傷は俺が治してやる!

 

滅茶苦茶に暴れろ!」

 

ナンはバルトが叫ぶ前に動いていた。

 

「飛来刃・円輪ーー!」

 

真っ直ぐと飛んでいった飛来刃がリーフバットを2体落とした。

 

パティもそれを合図に動き始めており、既にナンと同じように2体仕留めていた。

 

カムイはバルトへとリーフバットが近付かないように、リーフバットへと執拗な嫌がらせを行う。

 

バルトは、バックパックから網を取り出すと、それをリーフバットへ向けて投げる。

 

網が絡まって身動きの取れないリーフバットをパティが止めを刺す。

 

立ち込める血の匂い。

 

けれど、それは人の血ばかりではない。

 

最後の1体のリーフバットへと飛来刃を構えてナンが飛びかかった。

 

「烈震斬ーー!!」

 

絶命を確認し、ナンは大きく息を吐き出した。

 

「どうしますか?

 

あなたのお仲間はどうやらこの辺りは全滅しているようです。

 

ボスと師匠とはぐれてしまったとの事ですが、行き先に心当たりは有りますか?」

 

カムイが訪ねるとナンは首を横に振った。

 

「無いわ。

 

けど、魔物を追って行った筈だから、この近くに居ると思う。」

 

ナンはそう言うと、スタスタと歩き始める。

 

「じゃあね。」

 

そう言って片手を挙げるナンへバルトが駆け寄った。

 

「これ、持っていけ。」

 

ベルトポーチからアップルグミとライフボトルを半分分けてやる。

 

「私がこんなに使うほどへまをすると思ってるの?」

 

バルトは横に首を振る。

 

「いや、けど、何も言わずに行くってことは、見なかったことにするんだろ?

 

なら、口止め料ってやつさ。」

 

ナンは息を吐き出すと、それを受け取った。

 

「じゃあ、今度こそじゃあね。」

 

ナンがカルボクラムの奥へと姿を消す。

 

バルトはそれを黙って見送った。

 

「さて、ヘリオードへと向かいましょう。

 

彼女は我々の助けがなくても良さそうですしね。」

 

「ああ。」

 

カムイに答え、パティと共にカルボクラムを後にする。

 

ヘリオードはカルボクラムから南西に有る。

 

バルトはその道中、カムイへと視線を向けた。

 

どうやら、カムイも何も聞かないらしい。

 

俺たちはその足でヘリオードへと向かった。




『バルト・イーヴィル』
【種族】始祖の隷長
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
クラウソラス
コンパクトソード+1
フィートシンボル
武醒魔導器
【技】
蒼破刃
ファーストエイド

『カムイ・シルト』
【種族】人間
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
オウカ+1
ブーツ
【技】
挑発
察知

『パティ』
【種族】人間
【所属】ダーリン
【装備品】
クルビス
【技】
不明

『ナン』
【種族】人間
【所属】魔狩りの剣
【装備品】
飛来刃
レジストリング
【技】
飛来刃・強襲
飛来刃・円輪
烈震斬



『レシピ』
サンドイッチ
サラダ


『共有戦利品』
トルビー水×2
亀の甲羅×2
海苔×1
グミの元×1
サーモン×1
オレンジグミ×1


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話【ヘリオードの騎士団】

カルボクラムで魔狩りの剣のナンと共闘をしたバルト達は、その足でヘリオードへと向かった。

幸い道中は何も無く、魔物にも遭遇することなくヘリオードへと到着することが出来た。

ナンとパティの会話でカロルという人物がパティと何らかの関係が有ると分かった。

引き続きダーリンの捜索に加え、カロルという人物にも着目することになった。

カルボクラムでリーフバットと戦ったことにより、バルトが武醒魔導器を所持していることがカムイとナンにバレた。

ナンもカムイも何も聞いては来なかったが、果たしてこのまま何も無く事が進むのだろうか?


第1章『双子の騎士』

 

ヘリオードの町に到着すると、まず最初に宿を取るため移動する。

 

すると、ヘリオードの駐屯騎士団が丁度見回りをしていたらしく、新顔であるバルトとカムイへと声をかけてきた。

 

「君達はこの辺では見ないけど、どういった経緯でここに?」

 

「俺が紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)のバルト、んで、こいつはカムイだ。

 

このパティって女の子の護衛をしてる。」

 

そう答えると、騎士は納得したように頷く。

 

「時間を取らせてすまないな。

 

近頃この近辺で怪しい動きをする者が現れていてな。」

 

そう言う彼の元へ、赤い髪の女騎士が駆けてきた。

 

「ユルギス隊長!エルヴィン副隊長がお呼びです!」

 

ユルギスと呼ばれた男は女騎士へと頷くと、バルト達を見た。

 

「シャスティル、彼らは紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)のバルト君とカムイ君と言うらしい。

 

疑っているようで悪いのだが、一応これも決まりでな。

 

シャスティル、彼らを案内してやれ。」

 

と、バルトの肩を叩くユルギス。

 

つまりは、このシャスティルという女騎士はバルト達の見張りということらしい。

 

「いや、事が起きてからじゃ遅いし、その判断は間違いじゃねえよ。」

 

バルトがそう言って答えると、ユルギスは安心したように笑い、離れていく。

 

それと立ち代わるようにシャスティルが前に出た。

 

「私はシャスティル・アイヒープよ。

 

どこに連れていってほしい?」

 

シャスティルが訪ねてくるので、バルトが答える。

 

「宿を取ろうと思ってたんだ。

 

宿屋まで案内してくれるか?」

 

シャスティルは頷くと、前を歩く。

 

付いてこいということだろう。

 

シャスティルにそのまま付いていくと、大きな宿屋へ付いた。

 

「ここがヘリオードの自慢の宿、ペテルギウスよ。

 

スイートルームは残念だけど、今は騎士団が使ってるわ。

 

けど、普通の部屋なら空いてるわよ。」

 

「いや、スイートルームなんざ取る金はねえよ。」

 

スイートルームなんて泊まる金が有ったら間違いなく武器や防具を買い揃える。

 

「他にはどこに案内しよっか?」

 

シャスティルが首を傾げている。

 

「うーん、と……。

 

騎士団が取ってるなら、スイートルームを覗いてみても良いか?」

 

そう言うと、シャスティルが首を振った。

 

「それはやめといた方が良いかな。

 

今、あの部屋は評議会の人が使ってるから、関わると面倒かもよ?」

 

シャスティルの言葉にカムイが反応する。

 

「評議会と言いますと、ザーフィアスのあの評議会ですか?」

 

ザーフィアスの評議会はなにかと胡散臭い噂が絶えない。

 

今でこそ皇帝がヨーデルに定まったが、評議会はエステリーゼとかいう世間知らずな姫を皇帝に置いて傀儡政治を行おうとした等と聞く。

 

まあ、それを知った経緯はうちのバルボスが評議会のラゴウ執政官と繋がりが有ったからなのだが……。

 

身内の恥とも言えるのだが、バルボスはあれでも頭の回る男で有る。

 

何か考えが有ったのだろうが、動かされるだけの駒だった俺たちには分かろう筈がない。

 

というか、自分が護衛の依頼で離れている間に一部始終が終わっていたので、人伝てに、主にシムカから聞いたことしか入ってない。

 

「そ、だから、やめといた方が良いよ。」

 

シャスティルはそう言うと、天井を見上げた。

 

上からは何やら重そうな物を引き摺るような音がする。

 

「悪いことは言わないからさ?」

 

シャスティルの言葉に頷き、一先ずは部屋に荷物を置いてくる事にした。

 

流石にシャスティルも部屋の中まで入ってくる事は無いようで、そこからはカムイとパティとこれからの事について話をすることとなった。

 

「出発はいつにしましょうか?」

 

カムイの言葉に、バルトは首を傾げる。

 

「一先ずは、ここでこの先の情報について調べたいところだな。

 

最近起きた事件てのも気になる。」

 

ユルギスは事件の内容については話さなかった。

 

それについては話してはならない内容であるということだ。

 

「そうですね。

 

知らないうちに巻き込まれていましたでは洒落になりませんからね。」

 

それにはカムイも頷きを返す。

 

「それに、評議会が居るってのも気になる。

 

事件が起きたなら、御偉方は逃がすものじゃないか?」

 

その言葉にカムイは顎に手を当てて考え込む。

 

「何か逃がせない理由が有る。

 

もしくは、評議会の連中が動くのを拒んでいる。

 

どうだろうか?」

 

バルトの推測をカムイは頷きで返す。

 

「充分に有り得るでしょう。

 

ですが、評議会が事件に関与している事が前提となっています。

 

僕は、別の視点からも探るべきかと思いますよ。」

 

そう言うと、カムイは服を着替えて、化粧を始めた。

 

カムイの得技の1つの諜報。

 

そのための技能である変装である。

 

カムイはこうして女装し、シャスティルと瓜二つとなった。

 

「では、騎士団の服を拝借して来ましょうかね。」

 

カムイはそう言うと、窓から外に出る。

 

カムイが外に消えてから、しばらくすると、カムイが扉から戻ってきた。

 

「分かったことが……。

 

いらっしゃるのは、ラオウ執政官というラゴウ元執政官の遠縁の親戚らしいです。」

 

ラオウ執政官ねぇ。

 

蛙の子が蛙では無いことを祈るばかりである。

 

「ラオウ執政官はラゴウ元執政官の不可解な死を悔やんでいるようで、生前の彼の事を丁寧に語ってくれました。

 

そのことから、ラゴウ元執政官を支持していたものと思われます。

 

恐らく彼の思想もラゴウ元執政官に近いものが有るのではないかというのが僕の見方です。」

 

カムイは女性騎士の制服を窓から外に投げ捨てる。

 

「さて、事件に関してですが、どうやら、このヘリオードを使って密売が行われているようです。

 

密売されていたのは魔導機(ブラスティア)のコアです。

 

調べていて正解というやつですね。」

 

と、カムイはバルトを見た。

 

カムイにはバルトが武醒魔導器(ボーディブラスティア)を所持していることがバレている。

 

それゆえの危惧だろう。

 

「要らぬ疑いをかけられるのは嫌ですし、僕にもそろそろ話を聞かせてはもらえませんか?」

 

カムイの視線はパティへと向いた。

 

パティは頷くと、バルトにした話と同じ話をした。

 

遺跡の門(ルーインズゲート)のラーギィさんからの依頼でしたか。

 

彼なら、信用出来そうですね。

 

まあ、信用出来そうな名前を偽って語っている線も拭えませんが、少なくともパティちゃんがそう言う嘘をつかない子だと信じておきますよ。」

 

カムイはバルトへと目を向ける。

 

「ヘリオードでは、なるべくそれは使わない方が良いでしょうね。

 

使えば間違いなく、有らぬ疑いを向けられる事でしょう。」

 

武醒魔導器(ボーディブラスティア)を持っていることを隠さなくてはならないのは元より承知の上だ。

 

ヘリオードに居る最中であれば、面倒事は騎士が片付けてくれるだろうし、自分が戦ったりする必要はないだろう。

 

「ないないないない!なーい!

 

ねえ、シャスティル!私の制服知らない!?」

 

何やら外が騒がしい。

 

バルトは扉を開ける。

 

「どうかしたのか?」

 

すると、そこにはシャスティルが二人いた。

 

「ん……?」

 

目をゴシゴシと擦り、もう一度見る。

 

よーく観察し、分かったことがある。

 

そう言えば、シャスティルは胸が大きい。

 

となれば、片方は別人。

 

恐らくは双子というやつだろう。

 

「シャスティル、お前の双子か?」

 

シャスティルは頷く。

 

「ヒスカよ。

 

それよりもシャスティル!

 

制服貸してくれない!?

 

私、今からラオウ執政官の所の見張りに行かなきゃなのよー!」

 

どうやら、ヒスカの制服が無いとのこと。

 

心当たりは十全に有るのだが。

 

「失礼致します。

 

バルト兄さん、おや?

 

シャスティルさんが二人……。

 

なるほど。」

どうやら、事のあらましをカムイも理解したようだ。

 

「貸してさしあげたらどうです?」

 

シャスティルは困ったようにカムイを見上げる。

 

「いや、その、ヒスカは……。

 

スリムだから私とサイズが合わないんだよね。」

 

カムイはその言葉に失笑した。

 

「ぷっ!あはははは!

 

いやはや、失礼。

 

スリムだからですか。

 

確かに、僕もピッタリで驚きましたからね。」

 

カムイがヒスカの胸元をまじまじと見ると、ヒスカとシャスティルも察したようで、胸元を手で隠してカムイから距離を取った。

 

「カムイ、セクハラで弟が捕まったってシムカに伝えなきゃならねえこっちの身にもなれ。」

 

「おや?

 

なんのことです?」

 

カムイはバルトへ視線を戻す。

 

「ずっと部屋にいた僕たちには関係ないことですし、僕たちはゆっくりと休みましょうか。」

 

と、カムイがバルトを後ろ手に引いて扉を閉めた。

 

自分がやったとは打ち明けることなく、それでいて、微塵も罪悪感を感じていないように思える。

 

カムイは今度はユルギスへと変装をして窓から飛び出す。

 

また、扉の前から声がした。

 

「ゲッ!ユルギス隊長!?」

 

「ヒスカ、探したぞ!

 

ラオウ執政官がお待ちだ、急ぎ向かうようにとのことだ。

 

なんでも、ラゴウさんの事をもっと詳しく教えてあげるとの事だ。」

 

「ヤバイヤバイヤバイヤバイ!

 

シャスティルー!」

 

「まったく、もう一回探してみたら?

 

私も探すの手伝うから……。」

 

シャスティルが扉を開ける。

 

「ごめんけど、バルト、ちょっと大人しく待っててくれる?」

 

「おー。」

 

バルトが返事を返すと、足音が離れていく。

 

そして、堂々と扉からカムイが戻ってきて変装を解いた。

 

「何してきたんだ?」

 

「いえ、単純にもとの場所に戻してきてあげたのですよ。」

 

それを知らないヒスカは今ごろ大騒ぎなんだろうなぁ。

 

バルトはヒスカを不憫に感じ、そんなことを思うのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第2章『空白の時間』

 

昨日は騒ぎの事もあり、1日大人しくしていた。

 

朝になり、軽く食事を済ませると勢い良く扉が開いた。

 

そこにはシャスティルとヒスカが騎士の制服の姿で立っており、何やら紙を持って中に入ってきた。

 

「昨日、また事件が起きたわ!

 

バルト、及びカムイには、魔導機(ブラスティア)密売の疑いがかかっているわ。

 

ごめんけど、無罪の証明のために部屋と体を確認させてもらいます。」

 

パティは寝惚けた状態で荷物を探られる。

 

「おいおい、昨日俺達が大人しくしていたのはそっちも分かっててこれか?」

 

その言葉にヒスカは申し訳なさそうに目を伏せる。

 

「その、私が制服を無くしたと勘違いしちゃったから、シャスティルが一緒に探してくれて、それで……。」

 

つまりは、シャスティルが居ない間の俺達の行動に太鼓判を押せなくなっていると?

 

「カムイ……。」

 

「いやはや……。」

 

バルトの手首のリストバンドがズラされ、ヒスカの手がピタリと止まる。

 

「嘘……。」

 

「逃げるぞ!!」

 

「それに限りますよね!!」

 

バルトはパティを抱えて窓から飛び降りる。

 

バルトに続いてカムイも軽々と着地して見せた。

 

ヘリオードの町から逃げるために、昇降機と南への出口と選べるのだが、昇降機には騎士が見張りに立っていた。

 

「とま、止まりなさい!」

 

シャスティルとヒスカも宿屋から出て来て追いかけてきていた。

 

「指名手配されちまうんだろうな……。」

 

「ははは、まあ、なんとかなりますよ。」

 

カムイがバックパックから何かを取り出して地面に向けて投げた。

 

「ちなみに聞くが……。」

 

「ガマの油です。」

 

「きゃあ!」

 

「ちょっと大丈夫シャスティル!?」

 

後ろで滑って少し大変な事になっているようだ。

 

「けど、ガマの油なんて……」

 

そこで、ここに来る前にゲコゲコを倒していることが思い浮かぶ。

 

「いえ、売り物にはならないレベルに体液で汚れてましたが、使い物にはなりそうでしたので……。

 

現にほら?」

 

と、振り返るカムイに釣られて振り返ると、顔を真っ赤にさせて怒るシャスティルとヒスカの顔が見えた。

 

「捕まって話を聞いた方が良かっただろうか?」

 

バルトのその言葉にカムイは首を振る。

 

「僕は今も昔もザーフィアスの統治や法律には従わないギルドの者です。

 

バルトさんは違いますか?」

 

カムイの言葉にバルトは大きくため息をついた。

 

「願わくば、指名手配書の顔が俺達に似ないことだな。」

 

そんな淡い期待を胸に、出口まであと少しとなったところで、ユルギスがナイトソードを抜いて立っていた。

 

「さて、話は動けなくしてから聞くとさせてもらおうか!」

 

こちらとこのまま話をするつもりは無いようで、いきなり斬りかかってきた。

 

バルトは咄嗟にクラウソラスでガードする。

 

その合間にカムイがバルトの武醒魔導器(ボーディブラスティア)をすり取り、ユルギスの脇からぶつかっていく。

 

「ローバーアイテムーー!」

 

ユルギスの持つナイトソードがカムイに奪われた。

 

カムイはユルギスの喉元にナイトソードを付け、バルトがユルギスを殴って気絶させる。

 

「行くぞ!カムイ!」

 

カムイと共にバルトはヘリオードを後にするのだった。




『バルト・イーヴィル』
【種族】始祖の隷長
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
クラウソラス
コンパクトソード+1
フィートシンボル
武醒魔導器
【技】
蒼破刃
ファーストエイド

『カムイ・シルト』
【種族】人間
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
オウカ+1
ナイトソード
ブーツ
【技】
挑発
察知
変装
ローバーアイテム

『パティ』
【種族】人間
【所属】ダーリン
【装備品】
クルビス
【技】
不明



『レシピ』
サンドイッチ
サラダ


『共有戦利品』
トルビー水×1
亀の甲羅×2
海苔×1
グミの元×1
サーモン×1
オレンジグミ×1


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話【カプワトリムの人食いザメ】

パティの保護者であるダーリンと、関係者と思われるカロルという人物を探しにカプワトリムとカプワノールを目指していたバルト。

その道すがら、寄らなくてはならない箇所にヘリオードという町が有るのだが、ヘリオードにはザーフィアスの評議会の御偉いさんであるラオウ執政官が滞在していた。

ヘリオードを任されていると思われるユルギス隊長が、バルト達に事件の関与を疑い、シャスティルを見張りに付けた。

カムイがバルトの持つ武醒魔導器が事件と関わりの有る可能性が有ると厄介だと考え、シャスティルへと変装して密偵を行ったのだが、それが間違いだった。

騒ぎが起き、シャスティルの双子のヒスカが制服が無いと大騒ぎしたため、シャスティルが一緒に探すと言い、扉の前を離れて空白の時間が出来てしまった。

その時間の潔白を証明するために身辺調査をされるのだが、見付かる武醒魔導器。

一も二もなくバルトは窓から飛び出し、ペテルギウスから離れるが、ユルギス隊長に先回りされていた。

カムイの臨機応変な対応で、ユルギスからナイトソードを奪い、無力化したところでバルトが気絶させる。

安全を確保したところで後ろから追いかけてくるシャスティルとヒスカから逃げ切るためにヘリオードを飛び出したのだった。


第1章『偉大な死の教鞭』

 

バルトとカムイはヘリオードを抜けて、カプワトリムへ向けて走っていた。

 

というのも、ヘリオードにあまり近いと追跡され、捕まってしまうかもしれないからだ。

 

恐らくそれは無いだろうと考えつつも、走る足は止めない。

 

なぜ、そんな事を思うのかというと、ヘリオードにはザーフィアスの評議会の御偉いさんであるラオウ執政官が居るからだ。

 

あそこを手薄になど出来よう筈もない。

 

「しばらくはヘリオードには行けねえなぁ。」

 

「僕も、姉さんにしばらくは会えない寂しさが募りますね。」

 

男2人してやったことに後悔しつつ、カプワトリムまで走る。

 

騎士団はやはり、追ってきてはいないようだ。

 

バルトとカムイは足を止めて座り込む。

 

「ったく、今度からは変装するにしても気を付けろよカムイ。」

 

「バルト兄さんこそ、危険な物は見つからないところに隠しておいてください。」

 

抱えていたパティをバルトは下ろす。

 

「2人共に減らず口が聞けるようなら大丈夫じゃな!」

 

ふんぞり返るパティの頭をカムイとバルトの手がぐしゃぐしゃに撫でる。

 

「ぬわぁぁぁぁ!

 

やめるのじゃぁぁぁ!」

 

セットされていた三ツ編みがめちゃくちゃになったところで、カムイが切り出す。

 

「ナイトソード持ってきちゃいました。」

 

「密売、脱走、職務妨害に窃盗か……。」

 

「あと、殺人ですね。」

 

「殺してねえよ!」

 

気絶させたユルギスの事を言っているのだろうが、本当に殺していたら、非常に面倒な現状がより不味くなる。

 

何が不味いかというと、極刑や永久禁固刑なんかも有り得る。

 

今の罪状だけでも充分に不味くは有るが、最悪でも懲役複数年とかだろう。

 

とかだろうと信じたい所だ。

 

「これで、全国的にバルト兄さんの名前が知れ渡りますね。」

 

「望んじゃねえよ!

 

それに、それはお前もだろうが。」

 

望まぬ知名度にバルトは顔を歪める。

 

これから名乗る都度に面倒なことになりそうだ。

 

とは言え偽名を名乗ろうとは思わない。

 

名付けられた時から、罪も善も全てを含めてバルトという名前と共に背負うと決めているのだ。

 

バルトの名付け親はベリウスだ。

 

ベリウスは自由にして良いとバルトをノードポリカへ留まらせる事は無かった。

 

まさか、ベリウスが死ぬとは思っていなかったから、当時は大きなショックを受けたものだ。

 

ドンにしても、バルボスにしてもそうだ。

 

恩人はたくさん積み上げてきた善行も悪行も全部その身1つに背負って死んでいった。

 

だから、バルトもその生き様を見習うつもりだ。

 

「バルト兄さん、カプワトリムまではあと半日も歩けば到着するかと思います。

 

そこでダーリンさんを探すんですよね?」

 

「あと、カロルってやつな。」

 

立ち上がり、カムイを見下ろす形となる。

 

「さて、行こうぜ。

 

ここでのんびりしたいところだが……。」

 

バルトがチラッと目を向けた先にはクラブマンが蠢いていた。

 

「なるほど、ここも直に危なくなりそうですね。」

 

カムイが立ち上がり、オウカ+1を抜く。

 

「戦いますか?」

 

カムイの言葉にバルトは首を振る。

 

「いや、わざわざリスクを背負う必要がねえならさっさとカプワトリムに行こうぜ。」

 

と、バルトはクラブマンを避けるように大回りする。

 

「それもそうですね。

 

怪我をすればなぜ戦ったのかと怪しまれるだけですからね。」

 

カムイはオウカ+1を下ろす。

 

「それに、戦ったら傷の1つや2つじゃ済まないこの御時世ですから、余計に……。」

 

「分かってるなら行くぞ。」

 

バルトと肩を並べてカムイは歩く。

 

「半日も歩けばということでしたが、訂正します。

 

どうやら、僕らが走ったことでかなりの距離を稼いでいたようです。」

 

カムイの視線の先にはカプワトリムが小さいが見えていた。

 

「どーせ、こっから歩いたら短くても6時間はかかるんだ。

 

見えてようがそんなに変わらねえよ。」

 

カプワトリムの姿が見えたことで少しだけ気が抜ける。

 

「のう、バルト。」

 

そんなとき、パティの声でバルトの意識がパティへと向いた。

 

「ん?どうし……た?」

 

そこには子供を背中に庇って戦っている赤髪と緑髪の女性がいた。

 

「ゴーシュ!もう保たないしー!

 

私が足止めするから行っちゃえばー?」

 

ヨタヨタとクラブマンに立ち向かう緑髪の女性が赤髪の女性へと目を向ける。

 

クラブマンはどうやら5体は居るらしく、子供達を庇いながらではこのままだと全滅かと思われる。

 

「そんなの出来るわけ無いでしょ!?

 

ドロワット!まだ、諦めるには早いわ!」

 

赤髪の女性が一喝して、緑髪の女性の隣へ立った。

 

カムイがバルトへ視線を向ける。

 

「どうしますか?」

 

カムイはオウカ+1を抜いており、戦闘準備は出来ていると言わんばかりだった。

 

「行くぞカムイ!

 

パティ!」

 

バルトはクラウソラスを抜き、女性達の前に入る。

 

「手ぇ貸すぜ!」

 

「え!?」

 

ゴーシュと呼ばれていた赤髪の女性が呆気に取られる。

 

「こんにちは、僕と彼は紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)のカムイとバルトと言います。

 

見過ごせない状況でしたので加勢に参りました。」

 

ドロワットと呼ばれていた緑髪の女性が歯を見せて笑う。

 

「千載一遇のチャンスだしー?」

 

「ありがとうございます。

 

では、1人1殺で行きましょう!」

 

そう言うが早いか、ゴーシュとドロワットは先程とはまるで違う動きとなる。

 

「なるほど、守るもんが有ったせいでまともに動けやしなかったっつうわけか。」

 

納得したバルトはクラブマンへ向けて攻撃を行う。

 

クラブマンと戦う際に注意しなくてはならないことは、彼らは硬い殻に覆われているということ、あとは横歩きと言うことである。

 

だが、横歩きから前後移動出来ないわけではなく、体を上げて2本足が地面に付いた状態でダッシュしてくるという事もある。

 

「クラブマンでしたら、硬い殻では有りますが、背後から倒すのがセオリーでしょうか?」

 

と、カムイは実際にクラブマンの背後へと回ってオウカ+1で切り付ける。

 

「硬いですね。

 

やはり、リスクは有りますが、柔らかい表を狙うべきかもしれません。」

 

と、そんなことを言っている傍らでは既にパティがクラブマンを1体仕留めていた。

 

「なんじゃ?

 

まだ倒しておらんのか?」

 

と、倒したクラブマンに腰掛けてこちらを眺めている。

 

「ったく、あのちっせえ体のどこにあんな力が有るってんだよ!」

 

バルトはクラブマンが攻撃した後の隙を突いてクラウソラスで表を切り上げる。

 

「だぁ、くっそ、かってえな! 」

 

弾かれるクラウソラスを再度同じ所へと切り上げることで殻を突き破った。

 

「よっし、こっちもいっちょあがりだ!」

 

と、バルトがゴーシュとドロワットを見ると、そっちも倒した後のようだった。

 

バルトはアップルグミを2つ取り出す。

 

「ゴーシュ!ドロワット!」

 

バルトが叫ぶと二人が顔をこちらへ向ける。

 

バルトはアップルグミを2人に向けて投げた。

 

受け取った2人はアップルグミへと視線を落とし、軽く会釈をして口に含んだ。

 

さて、カムイはどうなっただろうか?

 

そう思ってバルトが視線を向けると、カムイがナイトソードをクラブマンへ突き立てていた。

 

「やれやれ、やっと一息つけますね。」

 

カムイがナイトソードを抜いてこちらへと歩いてくる。

 

「向こうの方々もご無事なようですし、一先ずは剥ぎ取りをしてきます。」

 

と、カムイは全員が倒したクラブマンから器用に剥ぎ取りを始めた。

 

バルトはゴーシュとドロワットの元へと歩いていく。

 

「ありがとう、助かりました。」

 

ゴーシュがそう言うので頷いて返す。

 

「ああ、子供達に怪我はねえか?

 

有るなら一応手当てするが……。」

 

と、バルトが包帯を取り出すと、ドロワットが首を振る。

 

「子供達には指一本触れさせなかったしー。

 

けど、あたしたちはこのザマだけどねー?」

 

血を流す彼女達にバルトはタオルをトルビー水で濡らして渡す。

 

「それで血を拭きな。

 

それから包帯を巻いてやっからよ。」

 

バルトはタオルをゴーシュへと渡すと、バックパックからテントを取り出す。

 

「ひとまずは治療のために結界張るぞ。

 

6時間歩けばカプワトリムだが、万一を考えればここで少し休んだ方がいい。」

 

バルトがテントを張っているとゴーシュがバルトにタオルを渡す。

 

「タオルありがとう。

 

包帯を貰える?」

 

バルトはバックパックから包帯を取り出すと、ゴーシュへと渡す。

 

「ほらよ。」

 

「ありがとう。」

 

ゴーシュがドロワットの所へと駆けて行き、互いに包帯を巻き始める。

 

バルトはテントを組み立て終わると、火を起こして料理を始める。

 

まあ、料理と言ってもサンドイッチなのだが……。

 

料理をしていると子供達が寄ってきたので、一人ずつにサンドイッチを配ってやる。

 

子供は3人いた。

 

笑顔でサンドイッチを頬張る姿を見ていると、こちらの顔も緩むというものだ。

 

「バルト兄さん、素材の剥ぎ取りを終わりました。」

 

カムイが持ってきたのは……。

 

大きなハサミ5つ、トルビフィッシュ2つ、蟹の甲羅3つ、サーモン1つだった。

 

「サンドイッチ、僕も貰いますね。」

 

と、カムイがサンドイッチを2つ手に取り、1つをパティへと渡す。

 

パティとカムイがサンドイッチを食べてるのを見て、残る3つをゴーシュとドロワットに1つずつ渡してから自分も食べる。

 

「うわ、サンドイッチがチョー美味しいんだけど!?」

 

「本当、美味しい。」

 

と、感想を貰い、ワンダーシェフにまたも少し感謝する。

 

「さて、ゴーシュとドロワットは怪我してるし、ひとまずはテント貸してやるから中で休めよ。

 

パティ!お前よりは一回り小さい子供だが、一緒に遊んでやってくれるか?」

 

バルトが問いかけるとパティはふんぞり返って頷いた。

 

「カムイは俺と交代で見張りな。

 

俺が昼の見張りすっから……。」

 

「そうですね。

 

料理とかも任せますので僕が夜というのは納得です。」

 

「ゴーシュ、ドロワット。

 

アップルグミを4つやるから、一応持っとけ。」

 

ガサゴソとアップルグミを取り出すと、ゴーシュとドロワットに2つずつ渡した。

特に理由を聞くこともなく、この日は休ませる事に専念させたのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第2章『新たな仕事』

 

翌朝、子供を真ん中に守るように前後左右にバルト、カムイ、ゴーシュ、ドロワットが配置し、万が一のために子供達の真ん中にパティが居る布陣で出発した。

 

朝食はゴーシュが作ったサラダだったのだが、ゴーシュのやつが失敗したとかぬかして、なぜか焦げてるサラダを押し付けられた。

 

食えという事だろうか?

 

ドロワットも子供達も押し付けられ、皆が苦悶の表情を浮かべたのだった。

 

朝食が終わったら、まだテントの効力の有るうちに移動を始める。

 

結界の安全圏を移動し終えると、気を引き締めて歩く。

 

カムイが察知したのを皆に知らせてなるべく避けて行くのだが、いかんせん全く戦わないというわけにもいかない。

 

カプワトリムに到達するまでに、パッパカに遭遇した。

 

パッパカと言えば、鳴き声の煩いチュンチュンのようなものである。

 

この人数でかかれば対したことはなかった。

 

口ばしラッパを1つと、チキンを1つ手にいれた。

 

カプワトリムへと到着すると、まず最初にバルト達を迎えたのはバリケードだった。

 

カプワトリムもヘリオードもダングレストと同じでバリケードを結界の代用として使っている。

 

デイドン砦のような壁を作れれば一番なのだが、人手も資材も足りないので全て木材で出来ている。

 

バリケードの合間を潜って、カプワトリムの町中へとやってくると、ゴーシュとドロワットは子供達を連れて何処かへ行った。

 

「なんと言いますか、無事にここまで来られて良かったと言いますか……。」

 

「無事ってのは、指名手配されるかもしんねえことも含めてか?」

 

とはいえ、すんなり捕まってもやれなかった訳だが……。

 

「僕は今晩の宿を取ってきます。

 

バルト兄さんはどうなさいますか?」

 

バルトはパティを肩車した。

 

「ちょっくら、ダーリンとカロルの捜索してくらぁ。」

 

カムイと別れてカプワトリムの町の中を歩いて回る。

 

すると、防波堤の方から怒鳴り声が聞こえた。

 

気になって見に行けば、どのギルドでも有名な人物が屈強な男達を叱っていた。

 

その人物とは、幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)のメアリー・カウフマンである。

 

バルトがパティを肩車していたからだろうか?

 

カウフマンが視線を反らしたときにバルトとカウフマンの目が合った。

 

カウフマンはニンマリと笑うと、何やら思い付いたかのようにバルトの元へと駆けてくる。

 

「ねえ、あなたその格好傭兵ね?

 

ちょっとビジネスの話が有るんだけどどう?」

 

指を立ててこちらを伺っているカウフマンが目をパティへと向けた。

 

「あら、あなたユーリ君達と一緒に居た……。」

 

パティはバルトの頭の上で腕を組んで頷く。

 

「うむ、愛しのダーリンのパティじゃ!」

 

カウフマンはバルトへと視線を戻した。

 

きっと、パティとだと話してて疲れると思ったに違いない。

 

「メアリー・カウフマンの目は誤魔化せないみたいだな?」

 

バルトがそう言うと、カウフマンは眼鏡を手で押し上げる。

 

「俺は紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)のバルトだ。

 

内容にも寄るし、今はこのパティの保護者を探してる。

 

受けるかどうかは聞いてからだ。」

 

カウフマンは笑みを深める。

 

「それなら大丈夫よ。

 

パティちゃんのお家はあそこに見える灯台だからね。」

 

バルトはパティを見上げる。

 

どうやら、本当のようだ。

 

カウフマンがパティの事を知っているのも、御近所なら不思議ではない。

 

「そっか、パティとはここでお別れってことで良さそうだな。」

 

バルトがそう言うと、パティがバルトの耳元で呟いた。

 

「うむ、ありがとうなのじゃ!

 

それと、その武醒魔導器(ボーディブラスティア)はそのままバルトが持っておくと良いのじゃ。」

 

「良いのか?」

 

「うちはコバンザメのように、くっつく人を見る目はちゃんと有るのじゃ!」

 

バルトは薄く微笑む。

 

「そっか。」

 

手懸かりである、武醒魔導器(ボーディブラスティア)をどうするかは考えなくてはならなかった。

 

持っていて良いと言うならお言葉に甘えるとしよう。

 

バルトは肩からパティを降ろす。

 

「バイバイだな。」

 

「うむ、ありがとうなのじゃ!」

 

パティが手を振って離れていくのを見送ると、カウフマンへと向き直る。

 

「話、聞かせてもらおうか?」

 

「迷子の親探しってやつ?

 

良いねえ、そういうのアタシ好きよ?」

 

と、カウフマンが組んでいた腕を海の方へと指差した。

 

「今、カプワトリムからカプワノールまでの海域で人食いザメが頻出してるのよ。

 

あそこにいる傭兵たちに護衛の依頼をしていたんだけど全然ダメだったのよ。

 

そこにあなたが来たってわけ。」

 

なるほどな。

 

それは、本当に丁度良いタイミングってやつだ。

 

「それも、同じ五大ギルドの1つだなんてツイてる!」

 

カウフマンが、指を鳴らす。

 

「ねえ、どう?

 

やってみない?」

 

カウフマンの顔は真剣にバルトを見つめていた。

 

「俺の仲間に話をしてみ「お呼びですか?」どわぁ!?」

 

バルトの後ろからカムイがひょっこりと顔を出す。

 

「カウフマンさんとバルト兄さんが話しているのが見えたので、気になって見に来たのです。

 

それで、人食いザメでしたか?

 

僕らには荷が重くないですか?

 

なんせ、今は二人しかいないのですし……。」

 

カムイの言葉にバルトは頷く。

 

「そうなんだよなぁ。

 

なあ、そっちでもう少し頭数増やせねえか?」

 

バルトがそう言うと、カウフマンは顔を曇らせた。

 

「急ぎで届けなきゃならないものがあるのよー!

 

少しの間なら待てるから、考えてくれないかしら?」

 

「ふむ、バルト兄さん、パティちゃんはどうなさったのですか?」

 

「無事に保護者の所さ。」

 

そう言うと、カムイはホッと表情を柔らかいものへと崩した。

 

「それは、良かったです。

 

バルト兄さん、ここは誰か一緒に仕事を受けられそうな人をスカウトしてみては如何でしょうか?」

 

カムイが指を立ててそんなことを提案してきた。

 

「けどなぁ、んな簡単に手の空いてる強いやつなんか見付からねえだろ?」

 

バルトの言葉にカムイはため息を吐き出す。

 

「ゴーシュさんにドロワットさん、パティちゃんにカウフマンさんというとんでもない人材がこのカプワトリムには揃っているのですよ?

 

居ないとどうしても言い切れるんですか?」

 

「そんだけ傑物が居りゃ、町としてはもう充分だろ。」

 

一人居たら十人は居るってやつか?

 

ゴキブリじゃあるまいに……。

 

「とにかく、このままここで立ち往生するのも馬鹿馬鹿しいではないですか。

 

ひとまず、町の中を探してみましょう。」

 

バルトはため息をつくと、カムイと別れてスカウトへ赴く。

 

適当にサボろうか?

 

などと頭に過った所で、バルトは倉庫の前で泣きわめく少年を見付けた。

 

「酷いよユーリぃぃ!」

 

と、ユーリという人物に泣いて当たり散らす。

 

だが、そこには少年しかおらず、ユーリらしき人物は見当たらなかった。

 

「どうかしたのか?」

 

バルトが話しかけると、ビクッと震えてバルトを見上げた。

 

「ユーリのばかぁ!!

 

って、あれ?

 

なんか違う……。」

 

少年がいきなり体当たりしてきたのだが、直ぐに違う人物であると気が付き、顔を青くさせる。

 

「ご、ごごご、ごめんなさい!」

 

少年がバルトにヘコヘコと頭を下げている。

 

他人が見たらどう思われるだろうか?

 

「まあまあ、落ち着けって。

 

俺は構わねえよ。

 

んで、どうしたんだ?」

 

バルトが優しく問いかけると、少年は語り始める。

 

「僕が倉庫の片づけをしてたんだけど、ユーリは外で待っててくれるって言ってたのに、戻ったら居なくなってたんだ……。」

 

メソメソ、ボソボソと呟く少年が不憫に思えてきた。

 

「そ、そうか、まあ、元気出せよ。」

 

バルトが少年を慰め、話を聞いてやるという形でしばらく話した。

 

「僕はカロル・カペル。

 

お兄さんは名前なんて言うの?」

 

泣き止んだ少年が握手を求めて名乗る。

 

「俺はバルト・イーヴィルだ。

 

よろしくな。

 

さて、カロルはこれからどうすんだ?」

 

バルトが問いかけるとカロルは顔を曇らせる。

 

「どうしよ……。

 

あ、そ、そうだ!

 

バルトさんはこれから何か予定有るの?」

 

カロルに言われて、スカウトをする予定だったのを思い出した。

 

「あ、いや、まあ、なんつうか、仕事を一緒にしてくれる奴を探してる途中だったんだよ。」

 

と、そう言うと、カロルは異様な食い付きで、バルトにしがみついた。

 

「そ、それ!それ、僕がやるよ!」

 

少年には流石に無理だろう。

 

だが、パティのような前例も有る。

 

それに、他に宛も無い。

 

「ま、まあ、そんなに言うなら腕に自信が有るって事なんだろ?

 

分かった。

 

んじゃ、よろしくなカロル。」

 

バルトがカロルの手を引いて起こす。

 

「うん!よろしくバルト!」

 

少年が元気に笑っている。

 

子供は笑顔が一番だ。

 

そんなことを考えたのだった。

 

考えた矢先に思い出した。

 

カロル。

 

ナンがパティを見て言った名前だ。

 

だが、パティの友達ならカロルくらいの年だろう。

 

気にする程の事ではない。

 

それに、ナンに心配されるようなのだから、パティのように異様に強いなんてことは無いだろう。

 

まあ、パティとナンの知り合いだから、少しは期待しても良さそうだと思った。

 

しかし、カロルが少年だったとは……。

 

もしかしたら、カロルもこの武醒魔導器(ボーディブラスティア)に関しては詳しくはないのではなかろうか?

 

バルトはそう推測すると、カロルではなく、ダーリンという人物に絞って探すことにした。

 

「とりあえず、こっちに来てくれ。

 

仲間と合流すっからよ。」

 

「あ、うん!」

 

カロルと手を繋いで戻ると、カムイがニバンボシを腰に下げたクリティア族の女性と立っていた。

 

「バルト兄さん……。

 

彼は?」

 

カムイの視線が痛い。

 

それに、普段開かない目が睨み付けてきてる。

 

「僕はカロル・カペル!

 

バルトにスカウトされて、一緒に仕事をするって話になってるんだよね!」

 

どうだと言わんばかりに胸を張るカロルから、バルトへとカムイとクリティア族の女性の視線が刺さる。

 

「はぁ、僕は恥ずかしいですよバルト兄さん。」

 

あからさまに呆れて見せるカムイ。

 

まあ、気持ちは分からんでもない。

 

「こちら、暁の雲(オウラウビル)のカタハルト・シホルディアさんです。

 

丁度仕事を探していた所だと言うので、スカウトしてきました。

 

それで、バルト兄さんの方は……カロル君ですか?」

 

カロルは胸を張る。

 

「何々?ギルドの名前を名乗る感じなの?

 

なら、僕は凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)の首領をしてるカロル・カペルだよ。」

 

凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)ーー!?

 

バルトは咄嗟にカロルを何度も見た。

 

それは、至極真っ当な理由だ。

 

バルボス、ベリウス、ドン、アレクセイ、ザギ、イエガー……。

 

名だたる傑物の死と関与したというギルドだからだ。

 

「まあ、僕に任せてよ!」

 

自信満々の少年にバルト、そして、カムイも目が釘付けになったのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第3章『食うか食われるか』

 

カウフマンの元へと向かうと、カウフマンは首を振っていた。

 

「時化てきたから、今日は運行は見直しよ。

 

明日また来てくれるかしら?」

 

カタハルトとカロルとカムイを連れて共に宿屋へと向かう。

 

「カタハルトは同じ部屋で良いのか?」

 

「バルト殿、某はカタハで良い。

 

それと、部屋をもう1つ取ると出費がかさむでござるからな。

 

某としては大助かりで御座るよ。」

 

クリティア族にしては個性的な話し方のように思える。

 

「うぬ?某の顔に何か付いているでござるか?」

 

ペタペタと触って確認しているが、気になってるのは見た目ではないからそれでは分からないんだよなぁ。

 

「そういえば、バルト兄さん。

 

ここに来るまでにだいぶアイテムを消費しませんでしたか?」

 

カムイの言葉にバルトはベルトポーチを確認する。

 

本当にほとんど残ってない。

 

「ちょっと買い出しに行ってくるよ。

 

お前らは先に休んどけ。」

 

そう言って宿屋を飛び出すと、露店を探す。

 

見付けた。

 

バルトが駆け寄ると、雨が降ってきた。

 

急いで買い足して、戻らねば。

 

アップルグミを大量購入して、財布が軽くなっていくのを感じる。

 

このままではヤバイ。

 

駆け足で宿屋へと戻る途中で、犬が傷だらけで倒れているのを見付けた。

 

バルトは犬に駆け寄る。

 

「かなり弱ってるな……。」

 

バルトは犬の口にライフボトルの液体を流し込む。

 

すると、意識を取り戻した犬が警戒して唸ってきた。

 

「グルルルルルル……。」

 

バルトはそれで怯むようなことはなく、犬が怪我をしているところへ包帯を巻いていく。

 

犬は最初こそ警戒していたものの、バルトが敵意が無いことを悟ったのか、大人しくなった。

 

アップルグミを取り出して犬に食べさせる。

 

「さて、雨も酷くなってるし、お前も来るか?」

 

バルトが訪ねると、意を解したかのように立ち上がり、バルトの隣に立ち並んだ。

 

「いや、待て、ちょっと待ってな。」

 

バルトは先程の店に戻ると、マントを1つ購入した。

 

犬の所へと戻ってくると、犬にマントを被せてやる。

 

「これで、濡れないな。

 

ほら、行こうぜ。」

 

バルトの後を追いかけてくる犬。

 

宿屋へと戻ると、スタッフにタオルを借りて、犬と自分を拭く。

 

乾いたところで部屋に戻ると、カロルが犬を指差して驚いている。

 

「あああああ!!

 

バルト!

 

その犬!!」

 

カロルの知ってる所の犬だったのだろうか?

 

「ん?

 

野良犬じゃなかったのか。」

 

首輪は無いけど、賢いし、飼い犬だと言われれば納得してしまいそうではある。

 

「ビッグボスだよ!

 

元ビッグボス!!」

 

ビッグボス?

 

「どういうことだ?」

 

「何て言うのかな?

 

ラピードのライバルというか……。」

 

ラピード。

 

また新しい名前が出てきたな。

 

「お前、ビッグボスって名前なのか。」

 

バルトが歩くと、ビッグボスも歩き、バルトが立ち止まるとビッグボスも立ち止まる。

 

それを見てカタハが吹き出した。

 

「バルト殿はビッグボスに気に入られたようでござるな。

 

犬に慕われるとは、バルト殿は良い御仁ということなので御座ろう。」

 

「なんにしても、バルト兄さんは犬やら子供やら、拾ってきますけども、ビッグボスを飼うんですか?」

 

カムイの言葉に、バルトがビッグボスへと目を合わせる。

 

屈んでビッグボスの目の高さに合わせる。

 

「お前も来るか?」

 

「ガウッ。」

 

「なら、これからよろしくな。」

 

バルトがお手をするようにビッグボスと握手をする。

 

「けれど、良いのですか?

 

明日には仕事があるのですよ?」

 

その言葉にカロルが反応する。

 

「ラピードのライバルだし、犬というよりはプチウルフだから、強いと思うよ?」

 

カロルの言葉にカムイの目が薄く開く。

 

「やれやれ、世の中は分からないものですね。」

 

なんにせよ、ビッグボスもカタハ、カロルに続いて仕事仲間になったのだった。

 

翌朝、宿屋で朝を迎えたバルトは出発の仕度をする。

 

そうしていると、カムイとカタハも目覚めたらしく、カロル、ビッグボスと目覚めたようなので、カウフマンの居るであろう港に向かった。

 

すると、港にはカウフマンが予想通り待機しており、バルト達を見ると、急がせるように船に乗せた。

 

「本当は昨日には届けておきたかったのよねぇ。

 

まあ、時化たから、仕方ないとは思うんだけどね。

 

バルト君にカムイ君、それにカタハさんにカロル君。

 

カロル君は久し振りかしらね?」

 

カロルはカウフマンに問われて頷く。

 

「そうだね。

 

バウルやトクナガさんのおかげでカウフマンさんの船に乗るのは久し振りだね。

 

仕事も久しく受けてなかったから、今回は改めてよろしくね。」

 

子供だと思っていたが、どうやらカロルはパティよりかは大人と同じような目線で話が出来るらしい。

 

パティは魚やらダーリンやらを混ぜてくるからいちいち面倒だった。

 

「問題のカプワトリムの海域に出没するようになったサメなんだけど、プレデントって呼ばれてるわ。」

 

カウフマンの言葉にカロルが首を傾げる。

 

「プレデントってあの?

 

あの幽霊船にしか出ない筈なのに……。

 

やっぱり、棲息域の拡大が原因なのかな?」

 

「プレデントか……見たことねえな。」

 

バルトは見たことが無いので、どんな姿をしているのか?と、少しだけ気になった。

 

カムイがふと海面を眺めていた。

 

「どうした?」

 

「いえ、少し気になる音がしまして……。」

 

カムイの察知に引っ掛かった何か。

 

「僕達が出発してから、音が断続的に船底の方からするんです。

 

これは、もしかしなくても船底に?」

 

カウフマンがそれを聞いて積み荷のひとつを海へとバラ撒いた。

 

それは、魚の死骸のようだ。

 

すると、その死骸へと次々と群がっていく何か。

 

その、何かをカロルは指さす。

 

「プレデントだ!

 

何か投げる武器ない!?

 

海の中に居られたら僕らなんにも出来やしないよ!!」

 

カロルの言葉にカウフマンは首を振る。

 

「今から網を投げてプレデントを引き揚げるから……。」

 

「おい!

 

あんな数を引き揚げて相手しろってのか!?」

 

「まさか、今日に限ってこんなに居るなんて……。

 

けど、やらないといずれ船底に穴を空けられるかもよ?」

 

やるしかないのか……。

 

「カムイとビッグボスは撹乱!

 

カロルとカタハは殲滅!

 

俺は要人の警護だ!

 

良いか!!

 

倒さなきゃ食われるぞ!」

 

投げ網に引っ掛かったプレデントが甲板へと引き上げられる。

 

奴等は二足で立ち上がると、碇のような形をした武器を手にしていた。

 

それは、バルトも見たことがある。

 

「魚人の得物か……。

 

俺も素材は見たことがあるが、こいつが持ってるとはな……。」

 

バルトはクラウソラスを抜いた。

 

打ち上げられたプレデントは15体。

 

どう考えてもこちらが不利だ。

 

カムイは腕を薄く切り、血をプレデントへとばら蒔いた。

 

「血の臭いでなるべく引き付けます。

 

カタハさんとカロル君はなるべく急いで数を減らしてください。」

 

プレデントの合間を駆けていくカムイはプレデントのエラにオウカ+1を刺し込む。

 

「さあ、あなた方のエラをもっと開いて差し上げましょう!」

 

カムイへ向いた注意。

 

カロルはガーディアンスタンプと呼ばれるハンマーを振り回していた。

 

「へへーん!

 

どんなもんだい!」

 

次々と叩き潰されていくプレデント。

 

「つよっ!

 

カロルつよっ!」

 

人は見かけによらないとはよく言ったものだ。

 

その傍らカタハは着実に1体ずつプレデントを始末していた。

 

ニバンボシの刃から流れ落ちるプレデントの体液を振り払い、鞘に収める。

 

「ふむ、気分が乗ってきたでござるよ!

 

ーーオーバーリミッツ!!」

 

カタハは息を全て吐ききるように、柄に手を添える。

 

そして、息を止めた瞬間ニバンボシが引き抜かれ、プレデントの頭が甲板へと転がり落ちた。

 

体液を振り払い、また同じ動作でプレデントを切り倒していくカタハ。

 

バルトがカタハやカロルの戦いに気を取られていたからか、ビッグボスがバルトに向かって吠えた。

 

バルトの近くで甲板を軋ませる足音がしていた。

 

咄嗟にクラウソラスでガードすると、いつの間にやらそこにはプレデントが3体来ていた。

 

その内1体にビッグボスが噛み付き、2体がバルトへ向く。

 

バルトは、手を薄く切る。

 

血を振り撒いて2体をフリーランで引き付けた。

 

誰もの死角に入ると、剣を下から切り上げる。

 

「蒼破刃ーー!!」

 

バルトが叫ぶのと同時にビッグボスがフォローのつもりなのか、声をかきけすように吠えた。

 

「ナイスだビッグボス!」

 

魚人の得物をくわえて振り回すビッグボス。

 

バルトに迫る1体のエラに刺し込んで引き倒した。

 

残るは1体。

 

バルトはクラウソラスを横から凪いでエラに刃を立てた。

 

「食うか食われるか……。

 

俺は勿論食う側だ!!」

 

倒れるプレデント。

 

甲板に流れるプレデントの体液。

 

カロルが駆け寄ってきてピースして見せる。

 

カタハはニバンボシに付いたプレデントの体液を手拭いで拭いていた。

 

「バルト兄さん、皆さん終わったようですよ。」

 

バルトもカムイの言葉で臨戦態勢を解いた。

 

揺れる船の上でカウフマンが手を叩く。

 

「さあ!

 

倒したプレデントを解体して頂戴!

 

素材はその場で買い取るわよ!

 

倒した数だけ報酬も上増ししてあげるわ!」

 

カウフマンがそんな気前の良いことを言ったのだが、そこからは船が襲われることはなく、カプワノールへと到着したのだった。

 

 




『バルト・イーヴィル』
【種族】始祖の隷長
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
クラウソラス
コンパクトソード+1
フィートシンボル
武醒魔導器
【技】
蒼破刃
ファーストエイド

『カムイ・シルト』
【種族】人間
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
オウカ+1
ナイトソード
ブーツ
【技】
挑発
察知
変装
ローバーアイテム

『カロル・カペル』
【種族】人間
【所属】凛々の明星
【装備品】
ガーディアンスタンプ
【技】
不明

『カタハルト・シホルディア』
【種族】クリティア族
【所属】暁の雲
【装備品】
ニバンボシ
【技】
不明

『ビッグボス』
【種族】プチウルフ
【所属】バルトのペット
【装備品】
魚人の得物
マント
【技】
不明


『レシピ』
サンドイッチ
サラダ


『共有戦利品』
亀の甲羅×2
海苔×1
グミの元×1
サーモン×2
オレンジグミ×1
大きなハサミ×5
トルビフィッシュ×2
蟹の甲羅×3
口ばしラッパ×1
チキン×1


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話【カプワノールの賞金稼ぎ】

ヘリオードから逃げたバルトはカプワトリムに向かう最中、ゴーシュとドロワットという女性達が子供を守るように戦っているのを見つけた。

バルトとカムイはパティと共に加勢し、魔物を打ち破り、共にカプワトリムへと入る。

ゴーシュとドロワットとはそこで別れ、カムイは宿を取りに、バルトはパティの親とダーリン探しに別れた。

その最中、幸福の市場のカウフマンに出会う。

そして、カウフマンにより明らかにされるパティの家。

パティとはカプワトリムでお別れとなり、カウフマンから新たに仕事を受けることとなる。

しかし、仕事をするにはバルトとカムイの2人では心もとない。

そう思った2人はスカウトに出かけ、暁の雲のカタハルトというクリティア族の女性と凛々の明星のカロルという少年を仲間に加えた。

その後、バルトになついたビッグボスというプチウルフを加え、4人と1匹でカウフマンの依頼を受けた。

カプワノールまでの海域で船を襲ってきたプレデント。

辛くもそれを打ち倒したバルト達はカプワノールへとたどり着いたのだった。


第1章『全国指名手配』

カプワノールの港に到着したカウフマンの幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)の船から船着き場へと降りる。

 

カウフマンからここまでの護衛の報酬として30万ガルドが渡された。

 

ここまで大きな報酬も珍しいと思われるかもしれないが、この御時世に5大ギルドの1つである紅の傭兵団(ブラッドアライアンス)に依頼した事となるので妥当ではある。

 

また、今後の期待と縁にと気持ちを包まれたという感じだ。

 

とはいえ、報酬をカタハとカムイとカロルとバルトで4分割しするので、手元に入るのは7万5千ガルドと少なく感じる。

 

カウフマンと荷物の警護をしながら歩いていると、船着き場から少し離れた所に有る掲示板に人だかりが出来ていた。

 

カムイが素早く割って入っていき、戻ってくる。

 

『全国指名手配バルト・イーヴィル』

『全国指名手配カムイ・シルト』

『全国指名手配パティ・フルール』

 

「へぇ、パティってフルネームこうなってんのな。

 

じゃなくて!

 

指名手配!?」

 

大きな声を出すバルトの口を咄嗟にカムイが手で覆う。

 

「気を付けてください。」

 

指名手配に書かれた顔が凄く下手くそなのが本当に救いだ。

 

「ひとまずは、宿屋に行って次の目的地を決めようぜ。」

 

沈む気をまぎらわせようと、カプワノールの宿屋であるポルックス・Nで休もうと思った矢先、カウフマンが驚きの声を上げた。

 

「はあ!?

 

ザーフィアスまでの荷物護送の騎士団がブルータルにやられた!?

 

っんとにもう!」

 

カウフマンは頭をガシガシと掻いている。

 

そして、こちらに目を向けた。

 

「ねぇ、ちょーっとビジネスの話が……。」

 

バカを言ってはいけない。

 

ブルータルと言えば、ギガントモンスターの1体だ。

 

相手にしなければならないかもしれないのに、護送なんて出来るか!

 

聞こえないふりをして、離れようとするバルトの肩をカウフマンが掴んだ。

 

「ブルータルなんざ相手に出来るわけねえだろ!?」

 

バルトのその言葉にカウフマンは首を振る。

 

「あー、違う違う。

 

ブルータルを相手にしなくても良いルートが有るのよ。」

 

カウフマンはそう言うと地図を取り出した。

 

「クオイの森って言ってね?

 

そこを通れば、ブルータルを相手にしなくても……。」

 

カウフマンが発言をしきる前にカロルが首を振る。

 

「ダメだよ。

 

あそこにもキマイラバタフライっていうギガントモンスターが居るからね。

 

カウフマンさん、安全に運ぶなら遠回りしてもオルニオン側の砂浜に船を付けて行くべきだと思うよ。」

 

カウフマンはため息を吐き出す。

 

「けど、急ぎの品なのよ。

 

エステリーゼ姫殿下が直々に取り寄せた物らしくて、出来れば急いで届けたいわけ。

 

騎士団が護送を引き受けてたのもエステリーゼ姫殿下が絡んでたからなのよ。」

 

カウフマンの言葉にカロルは顎に手を当てて深く息を吐き出す。

 

「そっか、エステルが……。

 

だったら本当に急いで届けないといけないかもね。

 

ゾフェル氷刃海からなら行けるかも……。

 

氷の状態が分からないから、運が良ければだけどね。」

 

カロルがそう言うと、カウフマンも頷いた。

 

「そうね、あそこからなら、あるいわ……。

 

けど、良いの?

 

あの辺の魔物は近場では比べ物にならないくらいに強いわよ?」

 

カロルが頷く。

 

「うん。

 

けど、キマイラバタフライやブルータルを相手にするよりかはマシだよ。

 

けど、受けるかどうかはバルト次第かな。」

 

カロルがバルトを見上げる。

 

「どうしますかバルト兄さん?」

 

横合いからカムイが訪ねてくる。

 

「そうだな……。

 

カタハはどうなんだ?」

 

バルトが訪ねると、カタハはニバンボシを叩く。

 

「某の手が必要ということで違いないでござるな?

 

ならば、是非もないでござるよ。」

 

カタハはやる気のようだ。

 

「カムイは?」

 

「僕はこれを絶好のチャンスではと考えてます。」

 

カムイがバルトの耳元に顔を近付ける。

 

「エステリーゼ姫でしたら、お近づきになれば、もしかしたら僕らの指名手配を取り消してくださるかもしれません。

 

なにせ、世間知らずとの事ですので……。」

 

カムイが邪な微笑を浮かべる。

 

「ふむ、確かに利用できるかもな。」

 

バルトも釣られて邪悪な笑みを浮かべた。

 

「よし、やろう。」

 

バルトがそう返事をすると、カウフマンがバルトの手を取って喜んだ。

 

「そうと決まれば、荷物を持ってくるわ!

 

少し待ってなさい!」

 

カウフマンが護送してきた荷物の中から1つ大きな箱を取り出した。

 

「コレよコレ!

 

さ、コレをザーフィアスのエステリーゼ姫の所にお願いね!」

 

ドサッとバルトに渡される。

 

ずっしりとした重みだ。

 

「なかなか重たいな。

 

何が入ってるんだ?」

 

箱を開けようとしたバルトの手をカウフマンが取って止める。

 

「見たらダメよ。」

 

カウフマンから冷たい声が発せられた。

 

「姫よ?

 

ザーフィアスの姫。

 

中身を傷物にしてご覧なさい?」

 

世間知らずが故に簡単に死刑とか言いそうだな。

 

「わ、分かった。」

 

それでは罪状を重ねるだけだ。

 

ここは大人しく引き下がろう。

 

宿屋に到着すると、今後のために素材を買う。

 

その最中、カタハが閃いた。

 

「サンドイッチとサラダだけというのはいささか……。」

 

カタハでも呆れるくらいだ。

 

バルトとカムイは既に飽きも来ていた。

 

流石にメニューを増やさなければ限界だ。

 

そう思ったバルトに天恵のように降り注ぐアイデア。

 

「おにぎり……。」

 

カムイから肩を叩かれた。

 

「手頃ならなんでも良い訳じゃないんですよ?」

 

そんなカムイにもアイデアが降り注ぐ。

 

「野菜炒め……。」

 

バルトがカムイの横腹を小突く。

 

「手頃ならなんでも良い訳じゃねえってのは誰の言葉だったか?」

 

バルトとカムイが睨み合いになっていると、オズオズとカロルが手を挙げた。

 

「実は新しいレシピに宛が有るんだけど……。」

 

カロルは宿屋から出るようにバルトを手招きする。

 

バルトがカロルに付いていくと、カロルはおばさんの前で立ち止まった。

 

「こんにちは!

 

アシェットの同期のユーリが海鮮丼のレシピ無くしちゃってさあ?

 

良かったらもう一回書いてもらえないかな?」

 

「ああ、それなら構わないよ。」

 

カロルに差し出される海鮮丼のレシピ。

 

「はい、次は無くさないようにって言っとくんだよ?」

 

おばさんに肩を叩かれたカロルは、はにかんで笑う。

 

そして、バルトにレシピを差し出した。

 

「はい、海鮮丼だよ。」

 

カロルに渡されたレシピを眺める。

 

カプワノールは港町だ。

 

魚介類の揃うこの町なら、海鮮丼はポピュラーな食べ物と言える。

 

「サンキュ。」

 

カロルに礼を言ってバックパックへとレシピをしまった。

 

そのとき、バルトの手が唐突に掴まれた。

 

「ん?」

 

振り返ったバルトが見たのは、変装もなにもしていないワンダーシェフだった。

 

無言で差し出されるレシピ。

 

バルトはその圧力に負けて受け取ってしまう。

 

「では、さらばだー!」

 

お決まりの文句を言って消えたワンダーシェフ。

 

バルトは手元のレシピを開く。

 

超絶・海鮮丼☆ーー!

 

開いてまず絶句した。

 

「これ、絶対材料集まらねえやつだろ……。」

 

材料に拘っており、量と種類が豊富に必要だった。

 

まさに超絶と付けるに相応しいのだが、超絶作るのが難しい。

 

「まあ、捨てるわけにもいかねえし、持っとくか。」

 

バルトはバックパックへとレシピをしまった。

 

「んじゃ、僕は休むね。」

 

「おう、俺は材料買ってくらぁ。」

 

カロルと別れ、バルトは海鮮丼のための魚介類を買い漁る。

 

そして、市場を覗いていると、奥でお爺さんがサイコロを転がしていた。

 

バルトは気になり、話しかける。

 

「おい、爺さん何してんだ?」

 

「ワシはサイコロ名人。

 

サイコロでひとつ勝負をしてみんか?」

 

バルトは賭け事等はしたことがない。

 

故に、コレも良い機会だとやってみることにした。

 

「ちっこい?おっきい?

 

ぴったんこ?はんぶんこ?

 

どっちがやりたい?」

 

分かりやすそうなのは上だな。

 

「おっきい?ちっこい?だ。

 

予想するに、ハイ&ロウみたいなもんか?」

 

賭け事はしたことはないが、仲間がやっているのを見たことがある。

 

シムカがこういうのは好きだったからな。

 

「ワシが3つのサイコロを振る。

 

10以下ならちっこい。

 

11以上ならおっきい。

 

ちなみに、ぴったんこ?はんぶんこ?じゃが……。

 

偶数が出るか奇数が出るかじゃ。

 

ぴったんこが偶数。

 

はんぶんこが奇数。

 

お前さん、こういうのは初心者か?

 

名前の響きで、ちっこい?おっきい?を選びおったろう?」

 

この爺さん良く観察してやがる。

 

そう思ったバルトは口の端を吊り上げる。

 

「初心者に負けて吠え面かくなよ?」

 

「ほほう?

 

言いおるな……。」

 

サイコロ名人がサイコロを手に包む。

 

「おっきい。」

 

バルトが宣言した後でサイコロが落とされる。

 

「4・5・3つまり、12じゃな。

 

おっきいじゃ。

 

お主中々の運じゃな?」

 

サイコロ名人がサイコロを拾って手の中で混ぜる。

 

「俺は常におっきいだ。」

 

バルトが宣言すると、サイコロ名人が手を広げた。

 

「6・6・1つまり、13じゃな。

 

おっきいじゃ。

 

ほっほっほ、次が運命の分かれ目じゃぞ?」

 

サイコロ名人がサイコロを手に包み込む。

 

「おっきいの一点張りだ!

 

俺は引かねえ!」

 

サイコロ名人がニヤリと笑う。

 

「その度胸や天晴れ!」

 

落ちるサイコロの目は、6・6・6……。

 

「面白い!

 

お前さんこそ、新・サイコロ名人に相応しい!

 

また来い。

 

次はぴったんこ?はんぶんこ?で勝負しようぞ。」

 

バルトに差し出されるサイコロ名人の手。

 

バルトは握手をするのだと思ったが、サイコロ名人の手には何かが乗っていた。

 

「アップルグミ、オレンジグミ、クジグミ?」

 

「マグログミなんてのも有るぞ?」

 

「いや、それは遠慮しておく。

 

てか、良いのか?」

 

受け取りつつも、聞いてみる。

 

「なに、良い暇つぶしになったわい。」

 

正直、ストレート勝ちだから暇つぶしはさほど出来ていないと思うのだが……。

 

「なら、次来るときまでに腕を磨いておくんだな。」

 

バルトがそう軽口を飛ばして、後ろを振り向くと、知らない女性がバルトに向けてストライクイーグルを構えていた。

 

「あんた、この手配書のバルトってのに似てるわね?」

 

女性は短く切り揃えた金の前髪を赤いヘアピンで留めると、金の双眼でバルトを睨む。

 

「答えないってことは黒ってことかしら?

 

んま、捕まえてから話を聞けばいっか。」

 

女性はストライクイーグルに矢を装填する。

 

「あたしの糧になりなさいーー!」

 

放たれる矢ーー!

 

クラウソラスを抜いて咄嗟にガードする。

 

「ヘリオードの騎士が捕まえられない程の手練れみたいだし、初撃は防がれるかもって思ってたわ!」

 

ニ矢、三矢とバルトへと襲ってくる。

 

バルトは後ろに居るサイコロ名人が気掛かりで、ガードを解くことが出来なかった。

 

確実に削られていく体力。

 

体に突き刺さる矢。

 

これに毒が塗られているようで、尚更体力が削られていく。

 

バルトは貰ったばかりのアップルグミを口に含むと、腕に突き刺さった矢を折ってから地面に捨てる。

 

「へぇ、思いの他耐えるわね?」

 

自分でもそれは意外だった。

 

どうやら、ここ数日の冒険で思った以上に成長をしていたらしい。

 

「矢もタダじゃないし、そろそろくたばれ!」

 

バルトに向かってくる矢。

 

バルトはサイコロ名人の前に居るため、避ける事は出来ない。

 

当然のようにバルトに突き刺さる矢をバルトは固い表情で防ぐ。

 

「がはっ……。」

 

腹に突き刺さった矢を引き抜き、地面に捨てる。

 

「ぐっ……。」

 

バルトが膝を折ると、その女性はバルトに向けてトドメとばかりにバトルナイフを抜いて歩み寄る。

 

「さーて、手足を切って、それで騎士団に突き出してア・ゲ・ル!」

 

振りかぶられるバトルナイフ。

 

バルトは口の端を吊り上げる。

 

「ーーオーバーリミッツ!」

 

バルトの至近距離まで近付いていた女性はバルトの解放した気のようなものに後ろに弾き飛ばされる。

 

「おわっ!?」

 

そして、女性の喉元にバルトはクラウソラスの刃を当てる。

 

女性は涙目で両手を挙げていた。

 

「サイコロ名人、あんたは無事か?」

 

バルトが振り返らずに訪ねると、サイコロ名人は頷く。

 

「ああ、お前さんのおかげでな……。

 

お前の方こそ大丈夫なのか?」

 

訪ねられたバルトはクジグミを口に含む。

 

すると、バルトの傷が無かったかのように治って見せた。

 

「運はどうやら俺に味方してるらしいな。」

 

バルトは女性の意識を蹴って奪う。

 

そして、このままにもしておけまいと担いだ。

 

「こいつは、まあ、宿屋にでも連れてって……。

 

いや、それはそれで邪魔くせえな。」

 

バルトが困っていると、サイコロ名人が咳払いをする。

 

「ここに置いておけ、話はワシがしておこう。」

 

サイコロ名人の所へと運ぶ。

 

「そんじゃ、任せるわ。」

 

バルトは宿屋へとそのまま戻る。

 

すると、カタハが恐ろしい形相で駆け寄ってきた。

 

「その血の痕は!?

 

それに、破れた服はどういうことでござるか!?」

 

それを説明すると、たぶん自分が指名手配を受けていることがバレてしまうかもしれない。

 

町中で突然襲われた等と言う話を誰がまともに聞くと言うのか?

 

故に、返せるのは沈黙だけだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第2章『広がる悪名』

 

朝、バルトは出かける仕度をする。

 

カタハには上手い言い訳が見付からず、沈黙を貫いた。

 

カタハはハッキリしないバルトに何も言わずに出ていったが、それから戻ってこなかった。

 

宿屋から出て、武器屋に顔を出したそのとき、昨日の賞金稼ぎと共に歩くカタハを見付けた。

 

バルトは咄嗟に狭い横道に隠れて様子を見る。

 

「つまり、バルト・イーヴィルってやつは、いたいけな私を蹴って気絶させたのよ。

 

無抵抗な私にきっと乱暴したに違いないわ!」

 

カタハがニバンボシに手をかけて目を細めて宿屋を睨んでいた。

 

「あい分かった。

 

では、某と貴方で悪党バルトを討つということで良いな?」

 

「ええ、あなたならそう言ってくれるって信じてたわ!」

 

宿屋へ向かって歩いていくカタハと賞金稼ぎにバルトは慌てて横道から出ると、追いかける。

 

カムイに知らせないと……。

 

だが、正面から入ろうとしているようだったので、バルトは横の扉から入店し、部屋に先回りする。

 

「カムイ!賞金稼ぎだ!

 

逃げるぞ!」

 

カウフマンから託された荷物を抱えて、カムイと共に宿屋を出る。

 

すると、ビッグボスも付いてきていた。

 

カロルはまだ眠りこけていたが、この際やむを得ない。

 

カロルを置いて、カプワノールを逃げるように後にする。

 

「カムイ!

 

ゾフェル氷刃海に行くことはカロルとカタハにはバレてる!

 

ここは、一度エフミドの丘を経由して、ハルルの町でほとぼりが冷めるのを待とう!」

 

「良いんですか?

 

ブルータルが居るという話ですが!」

 

カムイが話ながら横を走る。

 

「俺にはカムイとビッグボスが居るからな!

 

ビッグボス!

 

ヤバイ匂いが近付いてたりしたら教えてくれ!

 

カムイ!

 

お前の察知が有れば、最悪の事態は免れるだろうぜ!」

 

完全に仲間に頼りきりだが、この際だ。

 

やむを得ない。

 

プレデントを輪切りにして見せたカタハと、あの正確無比な矢のコントロールを見せた賞金稼ぎが、前後のペアとなったとしたら?

 

これ、勝てないやつだ。

 

いや、勝てる方法が有るとすればきっとそれは……。

 

と、そんなことを考えていると、カムイが立ち止まった。

 

「バルト・イーヴィル!

 

お縄につくのでアール!」

 

カムイの視線の先には騎士が4人居た。

 

「バッカモーン!

 

声が小さい!」

 

「ルブラン隊長は相変わらず声がデカいのだ。」

 

ひょろ長い背丈の有るチョビヒゲの騎士と、横に幅の有る代わりに背の低い騎士、仮面をしたまま何も言わない騎士と、ルブランと呼ばれた声のデカい騎士がナイトソードを構えていた。

 

「そこを通して貰えねえかヒョロデブコンビ?」

 

バルトはクラウソラスを構える。

 

「んな!!

 

我輩はアデコール小隊長でアール!

 

ヒョロいというのは訂正するのでアール!」

 

「いや!!

 

そこのヒョロいのはどうでもよいのだ!

 

私はボッコス小隊長なのだ!

 

デブというのを訂正するのだ!」

 

「先に我輩なのでアール!」

 

「いや、私なのだ!」

 

「バッカモーン!!」

 

彼らが訂正を求めて言い争っている間に逃げようとしていると、それに気がついたルブランが大声をあげた。

 

「何やってるんだあんたら!?

 

奴等が逃げようとしてるぞ!」

 

と、仮面の騎士が足止めするように前に立つ。

 

「おお!でかしたのでアール!

 

アシェット副隊長!」

 

アシェットと呼ばれた仮面の騎士。

 

バルトは聞き覚えが有った。

 

「アシェット……?

 

おい、ユーリって名前に聞き覚えはねえか?」

 

バルトが訪ねると、アシェットは頷いた。

 

「んお!?

 

ユーリは俺の同期だが……まさか、お前さんその口かい?」

 

アシェットは考えるように腕を組む。

 

「アデコール小隊長!

 

ボッコス小隊長!

 

ルブラン隊長!

 

こいつ、バルトではないようです!」

 

アシェットの言葉にバルトとカムイは驚いた。

 

「手配書を良く見てください。

 

ね?

 

全然違うでしょう?」

 

「た、確かに……。」

 

アシェットがバルトの脇を小突いた。

 

「ほら、今のうちだぜ。」

 

「恩に着る。」

 

バルトとカムイはアシェットに任せてエフミドの丘へ向けて走る。

 

その後ろでは、アシェットが手配書でアデコールとボッコス、ルブランを足止めしていた。

 

そして、再びバルトを止める声がした。

 

「あぁあーー!!

 

逃げられてるじゃない!!

 

この使えないヘンテコ騎士!」

 

賞金稼ぎとカタハがバルトとカムイを睨んでいた。

 

マズイ……。

 

そう思った矢先、間にカロルが転がり込んだ。

 

「懐かしいな……。

 

ユーリとも最初はこんなんだったな……。

 

バルト!

 

ここは僕に任せて!」

 

バルトの腕をカムイが引く。

 

「彼らの善意を無駄にしてはいけません。」

 

背を向けて走る。

 

ゾフェル氷刃海に向かうように見せかけて、エフミドの丘へとバルトは無事に到着することが出来た。

 

「大丈夫だろうか?」

 

バルトがボソリと呟くと、カムイは微笑を浮かべる。

 

「カロル君とアシェットさんでしょうか?」

 

バルトは首を振る。

 

「カロル、めちゃくちゃ強いぜ?

 

カタハと賞金稼ぎ……大丈夫だろうか?」

 

カムイは真顔になる。

 

「そう……でしたね。」

 

エフミドの丘は少し前に結界魔導機(シルトブラスティア)が壊れたことで、よもやなんの変鉄もない道でしかない。

 

ここを越えるといよいよ見えてくるのが、アスピオ跡地とハルルの町だ。

 

と言っても、見えるだけでかなり距離が有る。

 

「きっとカロル君は手加減する余裕も有りますよ。」

 

「カタハ、結構強かったよな?」

 

カムイは口を閉ざして、ハルルの町に指を指す。

 

「行きましょう。」

 

「まあ、そういう心配は後回しだわなぁ。」

 

バルトとカムイは歩き進める。

 

目指すはハルルの町。




『バルト・イーヴィル』
【種族】始祖の隷長
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
クラウソラス
コンパクトソード+1
フィートシンボル
武醒魔導器
【技】
蒼破刃
ファーストエイド

『カムイ・シルト』
【種族】人間
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
オウカ+1
ナイトソード
ブーツ
【技】
挑発
察知
変装
ローバーアイテム

『カロル・カペル』
【種族】人間
【所属】凛々の明星
【装備品】
ガーディアンスタンプ
【技】
不明

『カタハルト・シホルディア』
【種族】クリティア族
【所属】暁の雲
【装備品】
ニバンボシ
【技】
不明

『ビッグボス』
【種族】プチウルフ
【所属】バルトのペット
【装備品】
魚人の得物
マント
【技】
不明


『レシピ』
サンドイッチ
おにぎり
サラダ
野菜炒め
海鮮丼
超絶・海鮮丼☆


『共有戦利品』
亀の甲羅×2
海苔×1
グミの元×1
サーモン×2
オレンジグミ×1
大きなハサミ×5
トルビフィッシュ×2
蟹の甲羅×3
口ばしラッパ×1
チキン×1


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話【ハルルの町の殺戮猪・前編】

カプワノールへ無事に到着したバルト。

護衛の依頼を終えて、やっと一息つけると思った矢先、幸福の市場のカウフマンが引き渡す予定の騎士団がギガントモンスターの一角であるブルータルに壊滅させられたと言う。

ブルータルとは戦いたくないバルトは嫌がったのだが、ゾフェル氷刃海からならギガントモンスターに遭遇せずに行けるとのカロルの発言と、カムイの邪な助言の後押しで受けることを決意。

しかし、賞金稼ぎの手に指名手配書が渡っていたらしく、町中で攻撃を受けた。

賞金稼ぎから逃げるように宿屋に戻ったバルトだったが、カタハに事情を聞かれて答えを返せなかった。

翌朝、カタハと賞金稼ぎが共に居るのを目撃したバルト。

どうやら、賞金稼ぎはカタハと手を組んだらしい。

バルトは先回りしてカムイを起こすと、カプワノールを脱出した。

カプワノールを出た直後、賞金稼ぎが手を回していたのか、4名の騎士に遭遇した。

ルブラン隊長、アシェット副隊長、アデコール小隊長、ボッコス小隊長である。

カロルの話に出てきたユーリという名前を出したら、アシェットはバルトを庇って時間稼ぎをしてくれた。

お言葉に甘えて逃げるバルトに賞金稼ぎの声がしたが、そこでカロルが間に割り込む。

カムイに逃げるように促され、バルトは必死でエフミドの丘へと走ったのだった。

唯一、気掛かりなのは、カロルはめちゃくちゃ強いことである。

カタハは大丈夫だろうか?


第1章『うさんくさいおっさん』

 

エフミドの丘を抜けて、ハルルへ向かうバルト。

 

その道中は、ビッグボスとカムイが前後で警戒をしながらの慎重な行進となった。

 

カムイが飄々としているのは、近辺に危険が無い証である。

 

ハルルまでは距離が有るため、テントで一夜を明かす。

 

朝になると、同じ進行方法でバルトも細心の注意を払ってビッグボスの後を追う。

 

ビッグボスは地面の匂いを嗅いで、安全なルートを教えてくれた。

 

だが、ハルルへと後少しとなったとき、問題のブルータルが物凄い勢いでこちらに……。

 

否、ハルルへと向かっていた。

 

ハルルの町の周辺には、ダングレストと同じように木のバリケードが張り巡らされていたが、それが一撃で弾け飛ぶ。

 

次は無い。

 

そんな無慈悲をハルルに絶望の形で届ける。

 

ブルータルは助走をつけるために、後退していく。

 

バルトは直ぐ様詠唱を始める。

 

「悪い、カムイ!

 

見捨てらんねえ!」

 

バルトのその言葉に答えるように、カムイとビッグボスがバルトの援護をするようにブルータルへ向かって走っていく。

 

「 揺らめく焔、突っ込め!

 

ファイアボール!!」

 

バルトのうろ覚えの詠唱で発動した不安定なファイアボールは、横から不意打ちの形でブルータルに当たる事となり、ブルータルも術技を受けるのは久しいのか、驚いて逃げていった。

 

カムイとビッグボスは戦わずに済んだことにホッとしており、かくいうバルトもブルータルとこのまま戦ったところで勝ち目は薄いだろうと考えていた。

 

それでも、目の前でブルータルに町が壊されて、人が死んでいくというのは見過ごせなかった。

 

バリケードの向こう側から、普段ならばみっともないと言われかねない大人までもが大泣きしていた。

 

よほど怖かったのだろう。

 

武醒魔導器(ボーディブラスティア)の事は聞かずに暖かく迎え入れてくれた。

 

ハルルは昔は村だった。

 

いつから町という規模になったかというと、アスピオが崩壊したことにより、アスピオから避難民としてハルルに人が雪崩れ込んだ事が原因だ。

 

アスピオは騎士団お抱えの、魔導器(ブラスティア)の研究員が住んでいた。

 

今ではまともに動く魔導器(ブラスティア)も存在しない。

 

故に、アスピオ出身者の大半はザーフィアスで別の研究に力を注いでいる者と、ハルルでの生活水準を上げるための手助けをしている者に別れる。

 

そういえば、とバルトは思い出す。

 

「シルトのやつ元気だろうか?」

 

バルトがそう呟くとカムイが反応した。

 

「姉さんの事ですか?」

 

カムイが反応したのは仕方がない話だ。

 

なぜならば、カムイ・シルト。

 

つまりは、姉のシムカ・シルトの事を気にかけていると思ったのだろう。

 

「いや、違う違う。

 

アスピオに1人友達ってか、前に護衛した研究員が居てな……。」

 

「へぇ、僕たちと同じ名前ですか。

 

親近感が湧きますね。」

 

バルトはサクラの花びらを拾い集める女性を指差す。

 

「そうそう、あんな感じの……。」

 

「バルト?」

 

白髪に病的なまでに白い肌、目は青く、あどけなさの残る童顔。

 

細い体躯をパーカーで隠し、ハーフパンツの下に黒のタイツ、スニーカーを履いた少女。

 

彼女こそが……。

 

「シルト?」

 

バルトが訪ねると、拾い集めていた桜の花びらを投げ捨てて、バルトに抱き付いてくる。

 

「お、おい、シルト!?」

 

バルトが焦ってシルトを受け止める。

 

「久し振りの再会。

 

ブルータルのせいで、もう会えないと思ってた。」

 

少しばかり力が強い抱擁に、バルトは顔をしかめる。

 

「そうだ。

 

ブルータルなんだけど、ありゃ、また来るぜ。」

 

バルトがそう言うと、シルトは離れて頷く。

 

「分かってる。

 

だから、精霊の力で撃退する必要が有る。」

 

精霊……。

 

アスピオの天才魔導士リタ・モルディオが、コアや聖核(アパティア)から精霊を生まれ変わらせる術を持っているという。

 

「リタ・モルディオがここに居るのか?」

 

しかし、精霊の力を使うには、引き出すための精霊を使役出来る人物が必要である。

 

今のところ、リタ・モルディオ本人しか、その力を引き出す事が出来ないと聞く。

 

「居ない。

 

私が言ってるのはハルルの木の精霊のこと。

 

花びらを集めていたのは、微量な精霊の力を集約するため。

 

木は結界としての力を失った。

 

その代わり、精霊は居る……らしい。」

 

らしいというのは、きっとシルトは見たことが無いのだろう。

 

「この花びらを使うメカニズムは、ザーフィアスから来たリタの使いのおじさんから聞いた。」

 

「そのおっさんてのは?」

 

「今は町長の家にいると思う。

 

バルト、花びら集め手伝って。」

 

シルトに言われて、バルトとカムイとビッグボスも花びら集めを手伝うことになった。

 

シルトは時代が違えば天才と呼ばれたであろう魔導士である。

 

時代が違えばとは、同じ時期に変態型の天才リタと努力型の天才ウィチルが居たからである。

 

シルト・スタンダードはアスピオではNo.3……。

 

同じ天才では有るのだが、精霊を産んだリタや、フレン騎士団長の付き人のウィチルとは、とてもではないが比べる事が出来ない。

 

「バルト、さっき、ブルータルに飛んで行くファイアボールが見えた。

 

あの不格好なファイアボールはバルトでしょ?

 

どうして使えるの?」

 

シルトが花びらを手に、首を傾げる。

 

「いろいろ有ったんだよ。

 

シルト、花びら集めが終わったら、リタの使いのおっさんの所に案内して貰えるか?

 

シルトも居る事だし……、この武醒魔導器(ボーディブラスティア)が有りゃ、力になれる事も有るかも知れねえ。」

 

ブルータルの事が有ったので、間違いなくバルトが持つ、武醒魔導器(ボーディブラスティア)の存在はハルルの人なら認知したことだろう。

 

シルトも例外ではない筈だ。

 

故に、隠す意味はない。

 

「それが有るだけでかなり違うと思う。

 

私が使えば、遠くから一方的に術技で削る。」

 

シルトの言葉にバルトは苦笑する。

 

「こいつを使うってのを誰かに見られたら、シルトも危険な目に会うかもだぜ?」

 

バルトが警告するが、シルトは首を振る。

 

「大丈夫。

 

その時は一緒に逃げる。」

 

「ったく、分かったよ。

 

なら、そんときになったら渡すから、ひとまずは花びら集めを終わらせようぜ。」

 

ハルルの精霊の微弱な力を集約したとして、精霊の力をどうやって防衛に使うと言うのだろうか?

 

リタの使いというおっさんが気になる所ではあるが、バルトも花びら集めに精を出した。

 

花びら集めは屈みっぱなしのため、腰と首に疲労が蓄積した。

 

「バルト兄さん……。」

 

「言いたいことは分かる。」

 

物凄く辛い作業を終えた頃には辺りは薄暗くなっていた。

 

シルトが同じように辛そうに腰を押さえて立ち上がる。

 

「集まった。

 

これをおじさんの所に持っていく。」

 

シルトと共に町長の家にお邪魔することになる。

 

さて、おっさんはどういった対応をするのだろうか?

 

バルトが共に入ると、そこには……レイヴンが居た。

 

バルトの言うレイヴンとは、天を射る矢(アルトスク)のレイヴンの事である。

 

ドン・ホワイトホースが所属していたギルドの一員である。

 

バルトとレイヴンは共に面識が有る。

 

「おっ?

 

あんたは確か、バルボスんところのバルトじゃねえの?」

 

「そういうあんたこそ、ドンの所のレイヴンじゃねえか。」

 

共に5大ギルドの一員であり、ユニオンのメンバーである。

 

天を射る矢(アルトスク)のドンが死んだように、紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)のバルボスも死んだ。

 

そのため、部下の頭角を表すと言うと語弊が有るが、有名なメンバーは互いに顔と名前を認識していた。

 

レイヴンはダングレストに居る事が少なく、バルトもいわくつきの依頼を受ける事が主なために、会うのは久し振りだった。

 

「あんたがリタ・モルディオの使いって事で良いんだよな?」

 

バルトが言うと、レイヴンはなぜかその場でバク転し、親指を立てた。

 

「そ!

 

俺様がリタっちの使いで間違いねえよ。」

 

リタっちという愛称で言えるような間柄のようだ。

 

アスピオの天才魔導士とどういった関係なのだろうか?

 

「ハルルの花びらは集まったみたいじゃない?

 

ご苦労さん!」

 

と、軽い感じでシルトの肩を叩くレイヴン。

 

こんなに軽い反応が故にうさんくさく感じてしまう。

 

「で、本当にこれで大丈夫なのか?」

 

バルトが訪ねると、レイヴンが手招きして、バルトだけを呼ぶ。

 

「なんだよ?」

 

バルトが歩み寄ると、レイヴンはバルトの肩に腕を回してコソコソと話し出す。

 

「ぶっちゃけるけど、リタっちの使いっての嘘なんだわ。

 

ハルルの花びら集めはこの町の奴等の心を折らせないためのもんで……。

 

ようは、まじないというか、気休めというか……。」

 

「マジかよ……。」

 

花びら集めは徒労だったと聞いて、無駄に疲れたと落胆する。

 

「ものは相談なんだが……。

 

おまえさんが武醒魔導器(ボーディブラスティア)持ってるって噂を聞いたんだけど、それをブルータル討伐のために使ってくんないかねえ?」

 

隠す意味は無いと、リストバンドをズラす。

 

「……。

 

どって、あんちゃんがそれ持ってんの!?」

 

持ってる噂を聞いてるには大袈裟過ぎるリアクションだ。

 

「何を驚いてんだよ。

 

持ってるの知ってて話に出した癖によ……。」

 

「え、あぁ、いや、まぁいっか。

 

っかしいな……。

 

確かあれは青年が持ってたハズ……。」

 

最後のは聞き取れなかったが、納得した様子のレイヴンがバルトの両肩に手を置いて揺さぶる。

 

「まあ、紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)頼りの絆(ラストリゾート)さんが手を貸してくれるってことで良いなら、俺様も手を貸すけど?」

 

天を射る矢(アルトスク)のレイヴンが手を貸すというのはとても有り難い事だ。

 

「構わねえよ。

 

断ったらハルルが壊滅しちまうだろうしな。」

 

しかし、頼りの絆(ラストリゾート)とは、言ってくれるものだ。

 

本来なら誰も受けないようないわくつきの仕事を一手に引き受けていたせいで、そんな通り名も付いてしまった。

 

目的は依頼ではなく、寄ってくる『いわく』の方であるので、そう呼ばれるのは不本意である。

 

なので、ここは仕返しとばかりにバルトはレイヴンに言う。

 

「シュバーンが手を貸してくれって言ってくれてるんだから、光栄だよな?」

 

レイヴンは顔をしかめる。

 

してやったりとニヤっと笑うバルト。

 

「俺様はレイヴン以外の何者でもねえよ。」

 

「俺もただのバルトっつうことさ。」

 

ブルータルが次にいつ来るかは分からないが、その時に倒すか深手を負わせなければハルルという町は無かったことになるだろう。

 

「んで、これは俺様とあんちゃんの秘密ってことで……。」

 

花びらを指差してレイヴンが言っている。

 

まあ、きっとカムイには聞こえてるだろうが、言わなくてもいいか。

 

カムイが面白そうに笑ってるので、これは隠しても無駄というやつだろう。

 

「しかし、集めた花びらを何かしらの形にしねえと納得されねえよなぁ。」

 

レイヴンは顎に手を当てて、考えると、閃いたとばかりに手を叩いた。

 

「俺様の矢にくっ付けて飛ばすか!」

 

「いや、あの枚数の矢を準備出来るのか?」

 

「1本に全ての力を集約したとかで、とどめに使えば良いんじゃねえの?」

 

軽い感じで言われるが、ブルータルにとどめを刺すということは、そこまで自分達で弱らせる必要が有るということである。

 

「マジかよ……。」

 

バルトは目の前のブルータルという巨大な壁に、頭を抱えるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第2章『一矢報いるために』

 

ハルルの宿屋に泊まる事にし、部屋を借りたのだが、シルトも同じ部屋が良いと言う。

 

カムイが構わないというので、バルトも気にしないようにするのだが、カムイと泊まるつもりで部屋を取ったので、ベッドが2つしかない。

 

カムイと一緒に寝るのはゴメンだが、シルトと共に寝るのも色々と不味い。

 

そう考えたバルトはビッグボスを枕にして床で眠るのだった。

 

朝、目覚めたバルトは顔を洗い、宿屋の調理場を借りて、カプワノールで貰った海鮮丼のレシピを参考に料理をする。

 

と言っても、魚介類を切り分けて、炊きたてのご飯に乗せるだけなのだが……。

 

出来上がった物をお盆に乗せて、部屋に戻ると、シルトとカムイも起きていた。

 

部屋のテーブルにお盆を置いて、イスを引く。

 

そこに腰かけて背もたれに体重をかけると、足を組んでお椀を手に持つ。

 

レンゲで海鮮丼を程よくかき混ぜる。

 

シルトも寝惚けた状態で向かいの席に座り、お椀を手にする。

 

レンゲでひと掬いし、口に運ばれた海鮮丼。

 

「ふぉふぃふぃ……。」

 

「そうか、飲んでから喋れ。」

 

美味しそうに食べるシルトにバルトの頬が緩む。

 

カムイも海鮮丼を食べて微笑んだ。

 

「醤油とわさびはお好みでかけろよ。」

 

バルトはレンゲに醤油を入れ、わさびを投入すると、箸でかき混ぜる。

 

そして、わさび醤油となったものを海鮮丼へとかけた。

 

「あー、うめえな。」

 

ワンダーシェフのレシピではないが、ちゃんと受け継がれてきた技というか、伝統というか、そういう味だ。

 

ビッグボスには魚の切り身を皿に乗せてやる。

 

「ほら、たんと食え。」

 

ガツガツと食べるビッグボス。

 

犬の感情も言葉も分からないが、美味そうに食べていた。

 

「ところでバルト兄さん。

 

今日はどうしましょうか?」

 

カムイが空のお椀を置いてバルトを見る。

 

「レイヴンの話をお前は聞いてたよな?」

 

「ええ、頼りの絆(ラストリゾート)のバルト兄さんの話ですよね?」

 

クスクスと笑っているカムイのおでこに醤油の付いたレンゲでグリグリする。

 

「その呼び名は不本意だ。」

 

「良いではありませんか。

 

指名手配よりかはずっと。」

 

それはそうだが、頼りの絆(ラストリゾート)など、自分には過ぎた呼び名だと思っている。

 

「おや、不服ですか?

 

うさんくさい依頼が故に誰も受けてくれない仕事……。

 

バルト兄さん宛に、バルト兄さん頼りに、バルト兄さんが最後の希望とまで言われてますが?

 

シムカ姉さんはバルト兄さん宛ての依頼を結構な頻度で貰ってるそうですよ。

 

うさんくさい依頼者の間では、バルト兄さんは英雄扱いです。」

 

うさんくさい依頼者など言っているが、ほとんどが依頼内容がちょっと長かったりする普通の人たちである。

 

依頼の勝手の分からない依頼を出す初心者が主なのだ。

 

うさんくさい等と呼んでは可哀想ではないか。

 

「誰でも初心者の時期ってのは有るだろうが?

 

うさんくさいとか言ってやるなよ。」

 

バルトがため息を吐き出すと、カムイは肩をすくめる。

 

「うさんくさいものはうさんくさいですよ。

 

で?

 

話は聞いていましたよ。

 

はい、聞こえてましたよ。

 

正直言いましょう。

 

勝てませんよ?」

 

カムイが捲し立てるように言うが、これはカムイが正論だ。

 

ギガントモンスターは相手にしてはならない。

 

これは今の時代の常識である。

 

「けど、やらねえと、ハルルは壊滅しちまうだろうよ。」

 

リストバンドをズラしたバルト。

 

それを見たカムイは苦笑する。

 

「それがありきの時代でも敬遠されていたのがギガントモンスターですよ?

 

一人がそれを使えたとして、戦況に微々たる変化が有るだけでしょうね。」

 

それを聞いてシルトが首を振る。

 

「大丈夫。

 

ハルルの花びらは集めた。

 

あのおじさんがなんとかしてくれる。」

 

事情を知らないシルトはのんきに言ってくれるが、花びらには効果はない事はレイヴン直々に聞かされている。

 

だが、内密にということなので、わざわざ広める必要もない話である。

 

「まあ……。」

 

バルトが言葉に困っていると、カムイが立ち上がった。

 

「では、戦いに備えて、戦力の確認をして来ます。

 

ハルルの残存兵力がどれだけなのか……。

 

期待はしない方が良さそうですけどね。」

 

カムイが部屋から出ると、カムイに付いていくビッグボス。

 

部屋にはバルトとシルトだけが残された。

 

バルトは武醒魔導器(ボーディブラスティア)を外してシルトに差し出す。

 

「お前の術技が頼りだ。」

 

シルトは受けとると、頷いて返す。

 

「うん。」

 

バルトは席を立ち上がり、お盆に空のお椀を乗せていく。

 

「バルト。

 

教えてあげたシャープネスやリカバーはまだ使える?」

 

「あぁ、お前が使えない癖に、俺になんとなくで教えたら出来たやつだろ?

 

まあ、うろ覚えで良いなら出来るけどよ……。」

 

以前、護衛したときに、暇つぶしがてら教えて貰ったのだ。

 

「私の集中力も無限じゃない。

 

だから、バルトにこれを返すことになると思う。

 

その時は私も前に出て戦うから、シャープネスをかけてほしい。」

 

シルトが前に出て戦う?

 

魔導士タイプのシルトが前に出る?

 

バルトはシルトのおでこを指で弾く。

 

「そうならねえためのハルルの花びらだろうが!」

 

痛そうにおでこをさするシルト。

 

「それに、俺とカムイ、ビッグボスとレイヴンまで居るんだ……。

 

お前が前に出なきゃなんねえなんてことにしてやるもんかよ。」

 

部屋を出ようとするバルトの袖をシルトが掴んだ。

 

「不安か?」

 

バルトが訪ねると、シルトが頷く。

 

「まあ、そうだろうな。

 

確か、前に護衛したときにもおんなじような事言ったよな?」

 

確か、あれはシャイコス遺跡での護衛の時だったか?

 

ソーサラーリングを使ったギミックにより、ゴーレムに囲まれた時だった筈だ。

 

「不安な時は自分を信じろ。

 

けど、それでも不安な時は俺を信じろ。ってな?」

 

あのときは、本気で死ぬかと思った。

 

しかし、エアルが暴走気味だったがために、体の修復に時間はあまりかからなかった。

 

「俺が大層な器じゃねえのは理解してる。

 

上手くいかなかったときはお前の全不満を俺にぶつけていいから、全てが失敗するその時まで俺を信じろ。

 

失敗したら、全部俺のせいにしちまえ。

 

死んでから愚痴を1000回聞いてやらぁ。」

 

それだけ言うと、バルトは部屋を出た。

 

「このバルトの名が全部の悪も善も背負ってやらぁ。」

 

 




『バルト・イーヴィル』
【種族】始祖の隷長
【所属】紅の絆傭兵団
【通り名】《頼りの絆:ラストリゾート》
【装備品】
クラウソラス
コンパクトソード+1
フィートシンボル
武醒魔導器
【通常技】
飛行
エアル吸引
【術技】
蒼破刃
ファーストエイド
ファイアボール
リカバー
シャープネス


『カムイ・シルト』
【種族】人間
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
オウカ+1
ナイトソード
ブーツ
【通常技】
挑発
察知
変装
【術技】
ローバーアイテム

『シルト・スタンダード』
【種族】人間
【所属】アスピオ研究員
【装備品】
スターロッド
ネコガード
ミスティマーク
【通常技】
不明
【術技】
ファイアボール
ストーンブラスト
シャンパーニュ
スプレッドゼロ

『ビッグボス』
【種族】プチウルフ
【所属】バルト
【装備品】
魚人の得物
マント
【通常技】
追跡
【術技】
不明


『レシピ』
サンドイッチ
おにぎり
サラダ
野菜炒め
海鮮丼
超絶・海鮮丼☆


『共有戦利品』
亀の甲羅×2
海苔×1
グミの元×1
サーモン×2
オレンジグミ×1
大きなハサミ×5
トルビフィッシュ×2
蟹の甲羅×3
口ばしラッパ×1
チキン×1


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話【ハルルの町の殺戮猪・後編】

ハルルの町へ到着する目前で、ブルータルと遭遇したバルトはハルルを救うためにうろ覚えのファイアボールを使用。

これにより、ハルルの町の人間には、バルトが武醒魔導器を所持していることが明るみになる。

しかし、ハルルを一時的とはいえ救ったことにより、多くを訪ねられることなく、暖かく迎え入れられた。

ハルルでは、ブルータル撃退のために使者が訪れていると元アスピオ研究員のシルトが言う。

案内され、その使者を見ると、天を射る矢のレイヴンだった。

レイヴンとは顔見知りのバルトは、相変わらずのうさんくささに撃退の案を心配していると、案の定無意味だと知る。

レイヴンがバルトへ武醒魔導器での助力を願い、バルトも目の前でハルルが滅びるのを見過ごすことが出来ず、助力をすることにした。

ブルータルを倒すために力を貸すことになったバルトだったが、果たしてこの先の戦いでハルルはどれだけの犠牲の上に勝利を得られるのだろうか?




第3章『残された者達』

 

宿屋から出たバルトが見たのは、木刀を振る子供や気丈に振る舞う老人。

 

怪我で苦しみながらも、バリケードの修復に勤しむ駐屯騎士達。

 

滞在中のギルド員はカムイとレイヴンに集められており、見た限りでは年齢も実力も不揃いのようだ。

 

カムイがレイヴンと肩を並べて話している。

 

それを眺めるバルトに気が付いたカムイがバルトに駆け寄る。

 

「残存戦力の確認が出来ました。

 

どうやら、中小ギルドが12名と駐屯騎士が34名。

 

駐屯騎士はどうやら、エステリーゼ姫の荷物護送班の取り残された者達のようです。

 

先程、負傷したエルリック・カンディライト隊長とお話しをしてきました。

 

僕達が指名手配犯であることは向こうも承知で助力を請われました。

 

助力の暁には隊長直々に罪の取り消しをエステリーゼ姫並びにヨーデル皇帝陛下に直訴してくださるそうです。」

 

協力要請が無くともバルトは手を貸していただろう。

 

それが、成功の暁には罪の帳消しの直訴とは有りがたい限りだ。

 

とはいえ、ブルータル相手に勝てる目処は立っていない。

 

「エルリックさんから聞いた話によれば、ブルータルと言えば、特に強いとされる3体のサイノッサスを連れていると拝聴しました。

 

また、その3体が死ぬと更に別にサイノッサスを新たに呼び出すようです。」

 

昨日はブルータルだけのようだったが、次もそうとは限らないということだろう。

 

「よっ、あんちゃん、暗い顔してどったの?」

 

そこにレイヴンが混ざってきた。

 

「騎士の奴らと中小ギルドとは話を付けてきたぜ。

 

あいつらがなんとかサイノッサスを引き付けてくれるらしいから、俺様とあんちゃん等とシルト嬢ちゃんとエルリック隊長でブルータルを相手にするってな。」

 

バク転して親指を立てるレイヴン。

 

なぜそこでバク転するんだ。

 

「この作戦の肝は武醒魔導器(ボーディブラスティア)の使い回しだな。

 

レイヴンは弓で牽制、カムイとビッグボスが足止め、俺とシルトが交代で武醒魔導器(ボーディブラスティア)を使う。

 

エルリック隊長ってのは何が得意なんだ?」

 

レイヴンは顎に手を当てる。

 

「エルリック隊長は剣が得意で光魔法が出来るらしい。」

 

「エルリック隊長なんて聞いたことねえな。」

 

バルトが呟くと、レイヴンがヘラヘラと笑う。

 

「そりゃ、キュモール隊で燻ってたからな。

 

キュモールの奴と思想が合わなくて、あんまり表に出ることが無かったのさ。

 

フレン騎士団長の近衛隊であるソディア隊長が元々はキュモール隊の所属だったってのは知ってるかい?

 

隊長が死んで後釜が居ないからって、次期隊長をエルリックにしてはどうかとソディア隊長が進言したんだとよ。」

 

キュモールと言えば、聞いたことが有る。

 

なんというか、貴族であることを鼻にかけ、平民を虐げる圧政を独断で行ったとかなんとか……。

 

「ザーフィアスはアレクセイと言い、キュモールと言い、シュバーンと言いまともなやつは居ねえのかよ?」

 

シュバーンの名前が出てレイヴンの眉がピクリと動く。

 

「生真面目な青年フレンが居るじゃねえの?」

 

「それしか居ねえのが問題だろうが……。」

 

こんなことだからザーフィアスが信用できないと、信念を持った人間がダングレストやノードポリカに行くのだ。

 

「エルリックさんは今しがたバリケードの修復に勤しんでおられました。

 

共に戦う相手でもありますので、ご挨拶に伺われてはいかがですか?

 

ここは、レイヴンさんと僕でご挨拶を済ませておきますので……。」

 

「そうだな。

 

騎士っつったら頭のお堅い連中だし、挨拶ぐれえはしねえとだろうな。」

 

バルトはカムイに背を向けてバリケードの有る町の最前線へと向かった。

 

そこでは、腕に包帯を巻いた女性騎士が現場指揮を取り、バリケードの補強を行っていた。

 

「そこの木の策はもう使い物にならないな、土嚢を後ろに積み上げて耐久を強化しろ!

 

真ん中はブルータルに壊されたから最優先で石を運べ!

 

石の隙間は泥で固めろ!」

 

「石ですが、町の中にはもう、石すらも……。」

 

「無いと言うのか?

 

無いならば家を壊して、それを材料にバリケードを補強せよ!

 

やらねば死ぬのだ!」

 

「し、しかし!」

 

「しかし?

 

なんだ?

 

このエルリックの言葉が聞けないのか!」

 

どうやら、あの女性がエルリック隊長ということらしい。

 

赤い髪を後ろで纏め、シニョンにしている。

 

顔は凛々しく、その目には迷いがない。

 

良く通る声を耳にしていると、彼女の意思はきっと真っ直ぐなのではないだろうかと思えた。

 

天を射る矢(アルトスク)のレイヴン殿のご助力と紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)のバルト殿がご助力を約束された!

 

また、天才魔導士の助言でハルルの矢も完成した!

 

とはいえ、敵はブルータルだけとは限らない!

 

サイノッサスも引き連れて来る可能性がある!

 

そうなったとき、誰が町へと進むサイノッサスを止められるのか!」

 

どこまでも真っ直ぐに感じる彼女の声に迷っていた者達が頷く。

 

「そのためのバリケードというわけだ!

 

良いか!

 

家はまた建てればいい!

 

だが、失った命は2度と戻ることは無いのだ!」

 

エルリックの力強い演説のような説得は、町の人間を突き動かし、建物を破壊し、バリケードの補強へと当てていく。

 

エルリックは満足そうにそれを見ると、バルトの方へと目を向けた。

 

バルトが右手を挙げると、エルリックが会釈し、バルトの元へと歩み寄ってくる。

 

「良い演説だったな。

 

町の奴らが突き動かされたのがその証だ。」

 

バルトの言葉にエルリックは首を振る。

 

「この状況だからな。

 

カムイ殿から話は伺っている。

 

その黒の長髪と胸元のフィートシンボル、赤の散りばめられた服飾……。

 

バルト殿とお見受けする。」

 

バルトは頷く。

 

「ああ、俺がバルトっつうわけだ。

 

今回のブルータルの件だが、よろしくたのまぁっつう挨拶に来たわけだが……。

 

その怪我であんたは剣が振れるのか?」

 

包帯を巻いた腕をエルリックは軽く動かすが、顔は痛みで歪んでいた。

 

「利き腕はこの様だ。

 

左手でも触れない事はないが、今回は盾役と考えてもらえれば結構だ。

 

足りない道具など有れば言うが良い。

 

騎士の経費で買い与えよう。」

 

「足りないのはブルータルを倒せるだけの可能性だな。」

 

エルリックは苦笑する。

 

どれだけの道具を揃えても、ブルータル相手にするならば微々たるパーセンテージの上昇しか見込めないと分かっているからだ。

 

「私は、見積もっても30%と考えている。」

 

実際の所はそれも希望的観測に過ぎない。

 

本来はもっと少ないだろう。

 

「残りの70%を埋めるには、ハルルの矢が機能するかどうかだな。」

 

なるほど、どうやらエルリックも機能しないことは知らないらしい。

 

「機能するさ。

 

現に、ハルルの矢は生きてる奴らの希望……。

 

生きる意思を助力してるんだ。

 

機能しないわけがない。

 

いや、機能しないわけにはいかない。」

 

「そうだな。

 

こうして話していてみて、君の人格が少し見えた気がする。

 

君は罪を犯すような人間ではない。

 

約束は果たそう。」

 

そのためには、ブルータルを倒すこと。

 

そして、エルリックの生存が不可欠だ。

 

「俺も罪で裁かれたくないんでね。

 

出来る限りはお前さんを守るさ。」

 

エルリックは頬を掻く。

 

「あぁ、いや、保身とかのつもりで言ったのではないんだ。

 

そこは勘違いしないでくれ。

 

私も粉骨砕身の心構えで戦いに挑むつもりだ。

 

立場は君達と同じ、一人の戦士だ。」

 

差し出されるエルリックの左手に、バルトは左手を重ねる。

 

「なら、容赦なく盾にしてやるよ。」

 

「おいおい、少しは遠慮してくれ。」

 

互いに手を離し、バリケードへと目をやる。

 

「良ければバルトもバリケードの補強と補修を手伝ってくれないか?」

 

勝ち目を少しでも上げるために、断れないと知っていての発言に失笑する。

 

「ハッハッハッハッ!

 

まぁ、こき使ってくれて良いぜ!

 

俺も死にたくねえからな!」

 

「そうか、助かる。」

 

エルリックの指揮の元、バルトもバリケードの補強作業を勤しむのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第4章『理不尽な殺戮』

 

バリケードの修繕に精を出すバルト。

 

「この瓦礫はここで良いのか?」

 

表側に回り、瓦礫を置いたその時だった。

 

「グオオオオオーーン!!」

 

遠くから響く何かの声。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

そして、次いでバリケードの中から悲鳴が聞こえた。

 

バルトは何が会ったのかと、バリケードの中へと目をやる。

 

すると、中ではどこから入り込んだのか、3体のサイノッサスが暴れていた。

 

「救援を!

 

レイヴン殿をお呼びしてくるのだ!」

 

エルリックが叫び、中では3体のサイノッサスを囲うようにして戦っていた。

 

自分もそれに加わろうと思った矢先、突如としてバルトに落雷が落ちたかのようなビリビリとした痺れが走る。

 

「うぐっ……!?」

 

何が?

 

それを理解する間も無く、答えがバルトの体を空に打ち上げた。

 

「がっ……!!」

 

空からバルトはその答えを知る。

 

根本は青く、先になるにつれて白くなる双角。

 

全体的に灰色の体毛が毛先は青く、それが電流を纏っていた。

 

体が自由が効かない。

 

このままでは……。

 

自らの正体を明かす可能性のある技だけに、使いたくなかったが、バルトは空中で滞空してみせた。

 

そのまま痺れが切れるのを待ち、アップルグミを食べる。

 

充分に回復出来たと判断したバルトは、滑るように離れた位置へと着地して見せる。

 

グシオスとベリウス以外の始祖の隷長(エンテレケイア)は空中移動が使える。

 

現にフェローやバウル、クローネスが空に浮いる。

 

バルトもそれに違わずして、空中移動が出来る。

 

ただし、人に目撃されると、正体が危ぶまれるので、滅多には使わない。

 

ブルータルという特例で無ければ、バルトもこの力を使うことは無かっただろう。

 

他にも何か隠してるんじゃ無いかと言われれば、ベリウスが僅かながらも育て親だったので、ベリウス直伝の分身が出来るくらいである。

 

「今回は特別に奮発して俺の奥の手見せてやるよ!」

 

2人となるバルト。

 

空気中のエアルで作り出した幻影だ。

 

今の時代はエアルが非常に薄いため、一撃でも受ければ分身は直ぐに霧散してしまうだろう。

 

そのため、バルトは空中へと分身と共に浮かび上がり、交互に切りつける事とした。

 

叩き付けられるクラウソラスにビクともしないブルータル。

 

「ガチのベリウスとやったときを思い出すぜ……。」

 

ノードポリカの頂点であるベリウス。

 

そのベリウスに拾われ、名を与えられたバルト。

 

「今、俺はあのときのベリウスを越えようとしてるんだな。」

 

振り回す剣は時間稼ぎを目的にしたものだ。

 

分身の剣はやはり、薄いエアルでは威力に乏しいらしく、ブルータル自身もどちらが本物なのかは気が付いているようだ。

 

長くは保たない。

 

そう思った時、分身が消し飛ばされ、バルトは弾き飛ばされた。

 

「しくじった……。」

 

ブルータルもオーバーリミッツが使えた。

 

ブルータルと戦ったことの無いバルトには分からなかったことだ。

 

そのまま2発、3発、4発と前へ前へと突進され、気が付けば、巨大な角に体を貫かれ、バリケードに縫い付けられていた。

 

「うぐっ……。」

 

揺れるバリケード。

 

頑丈に作った事が仇となり、更に深く角が侵入してくる。

 

バルトの血液がバリケードから地面へと流れ落ち、バルトの意識が遠退いていく。

 

だが、痛みで意識が引き戻されるという繰り返しだった。

 

バルトは抜け出すことも出来ず、アップルグミを鷲掴みにし、口に含む。

 

命を食い止めるべく、食い繋ぐ。

 

アップルグミで回復したとしても、流れた血は元には戻らない。

 

流れてくる電流と、押し込まれる角により、バルトの意識がついに途切れたーー。

 

静寂と闇が自分を包み込む……。

 

何も見えない。

 

何も聞こえない。

 

何もーー。

 

何も無いはずの空間、何も聞こえないはずの空間。

 

そこに、揺れが加わった。

 

「起きろバカ野郎!

 

姉さんを泣かせるつもりか!

 

ライフボトルを早く!」

 

体の中を冷たいものが駆け巡る。

 

地震のように体全体が揺れる。

 

「こ、こら、揺らしてやるな!

 

聖なる活力、此処にーーファーストエイド!」

 

バルトの視界が闇から白へと移ろう。

 

「やべぇ、やべぇ!

 

やっこさん、マジになりやがった!

 

エルリック!

 

あんちゃんはまだ起きねえのかい!?」

 

「治癒術はかけた!

 

あとは、今意識が戻るかどうかは彼次第だ!」

 

「いけね!

 

そっちへ行ったぞ!」

 

大きな揺れが近付いてくる。

 

視界いっぱいに広がった白は次第に色を帯びる。

 

「僕が足止めします!」

 

「ガウッ!」

 

視界に映る色に色が増えていく。

 

そして、目一杯にシルトの顔が有った。

 

「……。」

 

「……。」

 

互いに目が合い、固まる。

 

「起きれる?」

 

シルトが立ち上がり、バルトへと手を差し伸べる。

 

バルトは手を持ち上げ、シルトに手を重ねた。

 

引き起こされるバルト。

 

視界に映ったのは満身創痍で戦うカムイ。

 

キズだらけで睨むビッグボス。

 

苦しそうな顔で胸を押さえるレイヴン。

 

盾を構えて皆の盾となるが、容易に弾き飛ばされるエルリック。

 

そして、火傷だらけの体でバルトの手を引いたシルトの姿だった。

 

シルトは武醒魔導器(ボーディブラスティア)をバルトへと差し出している。

 

「私はもう、戦えないから、お願い……。」

 

バルトへと渡すと、シルトが倒れる。

 

「シルト……?」

 

倒れたシルトの後ろにはブルータルの姿が有った。

 

エルリックは地面に倒れており、カムイも動けないのかその場にうずくまっていた。

 

バルトの隣にレイヴンが駆け寄り、バトルナイフでブルータルの角を弾く。

 

「ぼさっとしてんじゃねえよ!

 

お前さんを守ってくれた奴らを見殺しにすんのか!?

 

おら!お前のその剣は飾りじゃねえだろ?」

 

レイヴンへと向かっていくブルータル。

 

「チッーー!

 

そろそろ倒れてくれても良いでないの!?

 

俺様のキャラじゃねえが……。

 

ーーオーバーリミッツ!」

 

一瞬、怯んだブルータルの隙を見て、バルトの所まで下がると、バルトの持つ武醒魔導器(ボーディブラスティア)へと触る。

 

「あんちゃん、少し離れてな!」

 

バルトは動かない思考の中、レイヴンの指示に従い、シルトを抱えて共に離れる。

 

シルトを地面に置いたバルトはレイヴンの技に目を見開く。

 

「回る回る景色!

 

からのーー天涙の雨!

 

まだまだ!

 

驟雨の乱!

 

ーー目にもの見せてやろうかね?

 

ブラストハート!!」

 

小太刀とバトルナイフで何度も切りつけ、ブルータルをコマのように回す。

 

その直後、小太刀で切り上げ飛び上がり、仰け反った敵を追撃する。

 

息つく暇なく、矢の束を空へと打ち上げ、雨のように拡散させてブルータルを全体から攻撃。

 

最後に左胸からエアルの揺らぎを感じた。

 

揺らぐエアルのエネルギーを放出し、ブルータルを吹き飛ばした。

 

流れるような技の繋ぎ。

 

そして、最後に放たれた謎の技により、ブルータルが大きく後ろへと下がった。

 

だが、それと同じくしてレイヴンが苦しそうに胸を押さえる。

 

「ちょいと……無理し過ぎたかね?」

 

あまりの凄い技に目が奪われていたバルトは気が付かなかった。

 

レイヴンが全く動こうとしないことに……。

 

目前まで迫るブルータル。

 

あれだけ動けたのだ、レイヴンのそれは間合いに誘い込んでいるようにも見えた。

 

だが、それは違った。

 

ブルータルに角で凪ぎ払われ、無抵抗に倒れる。

 

「へへっ、後は任せるぜ……青年。」

 

バルトへ親指を立てるレイヴン。

 

その傍らには武醒魔導器(ボーディブラスティア)が転がっていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第5章『ハルルの矢』

 

ブルータルを前にして、戦えるのは自分だけ。

 

嫌な冗談である。

 

レイヴンがブルータルに大ダメージを与えたらしく、勝ち筋は完全に切れてはいない。

 

しかし、勝つための武醒魔導器(ボーディブラスティア)は倒れたレイヴンの側に転がっている。

 

最優先で確保しなくてはならないのは、武醒魔導器(ボーディブラスティア)である。

 

その次に、仲間の確保。

 

自分だけでブルータルを相手に出来るなどという傲りはない。

 

そのためのライフボトルはーーある。

 

バルトは分身を作り、分身へライフボトルを持たせる。

 

そして、自分はクラウソラスを抜き、ブルータルへと構えた。

 

分身ではなく、自らを囮にし、仲間の回復へと向かわせる。

 

先ずは最も近くに倒れているシルトへ分身がライフボトルを飲ませた所でブルータルがバルトへと襲いかかってきた。

 

「この際だ、見られちゃ困るが……。

 

死にたくねえから使うしかねえ!」

 

空へと浮かび上がり、ブルータルの眉間へとクラウソラスを突き立てる。

 

その間に分身がシルトを抱えて飛び上がり、レイヴンへと向かう。

 

「……バルト?」

 

シルトが目覚めた。

 

分身を喋らせるだけの技量は自分にはない。

 

無言でライフボトルをシルトに持たせて、分身には武醒魔導器(ボーディブラスティア)の回収をさせた。

 

分身がバルトへと向かい、飛んで来る。

 

バルトの上空から武醒魔導器(ボーディブラスティア)を投げ、バルトはそれを受け取った。

 

「シルト、先ずはその火傷を……。

 

卑しき闇よ、飛んで行けーーリカバー!」

 

シルトの火傷が回復していく。

 

「まだだ!

 

聖なる活力、集えーーファーストエイド!」

 

傷付いたシルト回復させる。

 

「ブルータル!

 

お前の相手は俺達だ!」

 

分身と重なり、詠唱する。

 

「刃よ宿れ、更なる高みへーーシャープネス!」

 

自身の攻撃力を強化し、分身と共にブルータルの周囲を飛び回り、切りつける。

 

「今の俺は、まだ、ブルータルには及ばない。

 

だからーー!」

 

バルトが分身を残して離れる。

 

「手を貸してくれ!」

 

バルトが更に詠唱を始めたとき、ブルータルは囲まれていた。

 

誰にーー?

 

「青年は何者なのよ?」

 

レイヴンが矢を放ち……。

 

「いやはや、バルト兄さんにはいつも驚かされてばかりです。」

 

カムイがブルータルの足を切りつけ……。

 

「ガウッ!ガウッ!アオオォォーン! 」

 

ビッグボスがブルータルの毛を引っ張り……。

 

「さあ、私が盾となる!

 

存分に使え!」

 

エルリックが盾を構えてブルータルの角を弾き……。

 

「みんな助けてきた。」

 

シルトが親指を立てる。

 

「揺らめけ焔、突っ込めーーファイアボール!」

 

不格好なファイアボールがブルータルの横顔を殴る。

 

すると、レイヴンがピンク色の矢をつがえていた。

 

「やっこさん、バランスを崩してんぜ?

 

この隙を逃す俺様じゃねえよ!

 

貫け、ハルルの矢ーー!

 

ーーフェイタルストライク!」

 

ブルータルの頭を貫通し、矢が地面へと突き刺さる。

 

ブルータルの動きが止まり、誰もが固唾を飲んで見ている中で、ブルータルの足が折れた。

 

横に倒れるブルータル。

 

動く気配はない。

 

静寂が支配する。

 

そして、腹の底から沸き上がってくる感情に声が爆発する。

 

「ウオオオオオオオオオーー!!」

 

「やりました!

 

やりました!

 

本当にやりましたよ!」

 

「ガウッ!ガウッ!アオオォォーン!」

 

「やったのだな!?

 

我々は倒したのだな!?」

 

シルトは座り込み、安堵から泣き出す。

 

レイヴンも余程疲れたらしく、大の字に倒れて大きなため息を吐き出した。

 

「エルリック!

 

このブルータルはどうするんだ?」

 

バルトがブルータルの頭を蹴って問い掛ける。

 

「勝利の祝杯だ。

 

その肉を食らい、散っていった仲間を弔うぞ。」

 

散っていった仲間……。

 

その言葉に、バルトはようやくハルルへと目が向いた。

 

バリケードは完全に破壊されており、中には倒れた3体のサイノッサスと動く気配のまるでない人達。

 

「こんなの勝利じゃねえよ……。」

 

バルトの口から漏れた言葉に、レイヴンが答える。

 

「確かに……。

 

勝利じゃねえよ。

 

けど、町の奴等には俺達が勝ったってことにした方が都合がいい。

 

これから生きていくためにはなーー?」

 

レイヴンが立ち上がり、バク転をして、バルト達に親指を立てる。

 

「さあ、行こうぜあんちゃん等……。

 

この大敗を勝利にするための凱旋だ。」

 

バルトは町の中へと歩いていく。

 

ハルルは町としては存続することが出来た。

 

しかし、大敗を勝利とするために、沈む気持ちを胸に押し込めてハルルの町へとブルータルの骸を引きずって帰るのだった。

 

 

 

 




『バルト・イーヴィル』
【種族】始祖の隷長
【所属】紅の絆傭兵団
【通り名】《頼りの絆:ラストリゾート》
【装備品】
クラウソラス
コンパクトソード+1
フィートシンボル
武醒魔導器
【通常技】
飛行
エアル吸引
分身
【術技】
蒼破刃
ファーストエイド
ファイアボール
リカバー
シャープネス


『カムイ・シルト』
【種族】人間
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
オウカ+1
ナイトソード
ブーツ
【通常技】
挑発
察知
変装
【術技】
ローバーアイテム

『シルト・スタンダード』
【種族】人間
【所属】アスピオ研究員
【装備品】
スターロッド
ネコガード
ミスティマーク
【通常技】
不明
【術技】
ファイアボール
ストーンブラスト
シャンパーニュ
スプレッドゼロ

『ビッグボス』
【種族】プチウルフ
【所属】バルト
【装備品】
魚人の得物
マント
【通常技】
追跡
マーキング
【術技】
不明

『レイヴン』
【種族】人間
【所属】天を射る矢
【装備品】
デス・スリンガー
バトルナイフ
【通常技】
不明
【術技】
回る回る景色
天涙の雨
驟雨の乱
ブラストハート


『エルリック・カンディライト』
【種族】人間
【所属】騎士団
【装備品】
ナイトソード・リアル
ナイトシールド
【通常技】
不明
【術技】
フォトン
ファーストエイド
魔神剣


『レシピ』
サンドイッチ
おにぎり
サラダ
野菜炒め
海鮮丼
超絶・海鮮丼☆


『共有戦利品』
亀の甲羅×2
海苔×1
グミの元×1
サーモン×2
オレンジグミ×1
大きなハサミ×5
トルビフィッシュ×2
蟹の甲羅×3
口ばしラッパ×1
チキン×1


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話【封鎖されたデイドン砦】

ブルータルとの壮絶なる戦い。

単独での時間稼ぎにより、意識を奪われたバルトは仲間によって死の淵より助け出された。

だが、一難去ってまた一難。

次々とブルータルの前に倒れていく仲間達。

敗北を目の前にして、レイヴンが足掻きとばかりに秘奥義を行った。

左胸から外に向けて放出される攻撃的なエアル。

それにより、ブルータルの体力を大きく削ぐ事に成功した。

勝機を見付けたバルトは、仲間を起こしに分身に走り回らせ、バルトはブルータルと対した。

覚えている魔法を総動入し、空を飛び回っての戦い。

そして、起きたレイヴンがバルトのファイアボールで体制の崩れたブルータルへとフェイタルストライクを決める。

ハルルの矢で行われた一矢は無事にブルータルを打ち倒した。

だが、その過程で人間には到底真似できない分身と飛行をしてしまった。

始祖の隷長であることがバレる事を危惧するのだった。


第1章『大敗を勝利に』

 

ブルータルを倒したバルト達はハルルの人達にとって英雄のようなものだった。

 

特にハルルの矢でトドメを刺したレイヴンはエルリックに誉めちぎられていた。

 

そのため、町長を始め、町の人間はレイヴンの活躍を聞きたがった。

 

レイヴンに比べればバルトはそれほどまで人が集まらなかったが、バルトはこれで良いと仕度を始める。

 

罪はエルリックが直訴してくれるし、エルリックにカウフマンからの荷物を渡せば依頼は終わる。

 

次の旅に備えるためのショップはこの状況では開いてはおらず、アイテムに少し不安は有るが、バルトはハルルを後にする。

 

「どこに向かわれるのですか?」

 

バルトの後ろから声がかけられた。

 

「バルト兄さん。

 

僕もご一緒します。」

 

カムイがバルトの隣へ並ぶ。

 

「あの分身や飛行の事をお前は見てどう思った?」

 

始祖の隷長(エンテレケイア)であるとバレたかどうかは分からないが、人ではないことはバレたと思われる。

 

「いやはや、武醒魔導器(ボーディブラスティア)は凄いですね。

 

あれはきっとその力なんです。

 

そういうことにしておいてあげます。」

 

カムイがバルトの前を歩く。

 

「折角罪が帳消しになるのですし、ザーフィアスへ行ってみませんか?

 

もともとそこに行くつもりだったわけですしね?」

 

カムイがバルトへ振り返る。

 

「ほら、ビッグボスも来るつもりのようですよ。」

 

カムイがそう言うと、バルトの足元へとビッグボスがすり寄ってきた。

 

「こんな訳の分からねえ奴と居て良いのかよ?」

 

「訳の分からない人なんて世の中にはたくさん居ますよ。

 

その中のたった一人があなたなのです。

 

一人ぐらい、許容出来ますとも。

 

ドンやバルボスのようなものです。」

 

「そうかよ。」

 

バルトはそれだけ答えると、カムイと肩を並べて歩き出す。

 

「先ずはデイドン砦を目指しましょう。

 

あそこは帝都ザーフィアスとハルルとを繋ぐ場所です。

 

ブルータルの居なくなった今なら通れるかもしれません。」

 

「通れなかったら?」

 

バルトの言葉にカムイは苦笑する。

 

「その時は、カプワノールからザーフィアス行きの船に乗りましょう。」

 

「この道を引き返すのか……。」

 

頭の痛い話である。

 

「カムイ、ビッグボスーーありがとな。」

 

「礼には及びません。

 

僕は姉さんにバルト兄さんの事を任されていますからね。」

 

「ガウッ!」

 

辺りは真っ暗だ。

 

ハルルの灯りが遠くに見える。

 

皆が宴を楽しんでいるのだろう。

 

賑やかな声が離れたこの位置まで聞こえてきていた。

 

「エルリックさんからちゃんと報酬は頂いています。

 

ほら……。」

 

カムイの手にはアップルグミやオレンジグミが包まれた物があった。

 

「お金はハルルの復興に必要みたいでしたので、現物支給とのことです。」

 

「まあ、そうだろうな。」

 

あれだけの被害を被って、持ち直すには長い時間とガルドがかかるのは分かりきったことだ。

 

バルトとカムイがデイドン砦へ向けて歩いていると、テントが2つと荷馬車が並んでいた。

 

「んだ?

 

ここがさっきまでブルータルの被害に有っていたの知らねえって訳がねえよな?」

 

そう思って近寄ると、外で焚き火を前に座っている男性を見付ける。

 

「なあ、あんたは、ここがブルータルの居る地域だってんのは知ってて居るのか?」

 

バルトがそう声をかけると、男性はバルトに目を向けて立ち上がる。

 

「結界を使ってるから大丈夫だよ。

 

それより、君達は旅人かな?

 

どうだい?

 

旅の宿屋、冒険王を使っていかないない?

 

1日500ガルドだよ。

 

前は50ガルドでやってたんだけど、今じゃめっきり人に会わなくなったからね。」

 

カムイはバルトへと目配せする。

 

「良いのではありませんか?

 

僕もバルト兄さんも怪我は完治してはおりませんし、急ぎの出発だったわけですし、せめて疲れぐらいは癒して行かれては?」

 

バルトは怪我の場所を触る。

 

ブルータルに貫かれたのは腹である。

 

傷口は治癒術で塞がってはいるものの、失っただけの血は戻ってはいない。

 

そう考えると、不思議と立ちくらみがしてきた。

 

「そうだな、分かった。

 

利用させてもらう。」

 

バルトは頷き、冒険王に厄介になることにした。

 

500ガルドを支払い、テントの中へと入れてもらう。

 

思えばダングレストからここまで遠くへと来たものだ。

 

今までの仕事もそんなことが多かったが、長い旅をしているとふと思うことがある。

 

故郷のノードポリカや拠点のダングレストへの軽いホームシックのようなものだ。

 

たまに帰りたくなる。

 

ノードポリカへはベリウスが死んだと報せを承けてから、しばらく帰っていない。

 

バルトの帰りを待つ者はもう居ない。

 

バルトの存在を知る者は居るが育ての親すら居ないノードポリカの何処へ帰れと言うのか?

 

ワンダー記者より、ベリウスを殺したのはザーフィアスのエステリーゼ姫であると聞いている。

 

どのようにして殺したのかは知らないが、実際にこの目で見てみたいと思ったことは1度や2度ではない。

 

そして、叶うならば殺したいと願ったことすら有る。

 

けれど、今、それをすると人々へ大きな混乱が起こるだろう。

 

それに、ようやく信頼を回復しつつある紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)へと多大なる迷惑をかけてしまうこととなる。

 

今や人と人とが手を取り合う時代だ。

 

混乱はなるべく起こしてはならない。

 

「休まれないのですか?」

 

バルトがいつまでたっても横にならないためか、カムイが声をかけてきた。

 

「いや、俺ももう寝るさ。」

 

カムイにそれだけ答えて横になると、目を瞑る。

 

「僕は少し目がさえたので冒険王の男性の方とお話しをしてきますね。」

 

と、カムイが出ていく。

 

バルトは目を閉じたままベリウスの姿を脳裏に思い描く。

 

殺されて精霊になったと聞いた。

 

ベリウスは恨んでないのかもしれない。

 

けれど、本人は恨んでないので有っても、バルト自身は違った。

 

「エステリーゼ・シデス・ヒュラッセイン……。」

 

それだけ呟くと、意識が段々と闇に飲まれていった。

 

朝となると、バルトは目を疑った。

 

焚き火を前にエルリックとシルトがカムイと談笑していたからだ。

 

「あ、バルト兄さんお早うございます。」

 

「カムイ、この状況はなんだ?」

 

思わず警戒の構えとなるバルトをエルリックが手で制する。

 

「いやいや、少し待ってくれ。

 

実はだな?

 

エステリーゼ様宛の荷物を私に渡されても困るのだ。

 

なぜならば、我々は荷物を護衛するだけの戦力が足りてない。

 

あのまま我々騎士が全員ハルルから立ち行く訳にも行くまい?

 

再興のためには警備も必要なのだからな。」

 

バルトは警戒したまま話の先を促す。

 

「続けろ。」

 

「だから、私とシルトが代表で君達と共に荷物を運ぶこととなった。

 

カムイから聞いたぞ?

 

観光がてら、帝都へと向かうのだとな。

 

カウフマンより依頼を受けたのは君達だ。

 

私もエステリーゼ姫より荷物護送の命令を受けているので、同行しよう。

 

あと、我々より先に帝都へ行ってどうするのだ?

 

私が直訴する前に帝都へとたどり着いたとしよう。

 

罪人のまま帝都に入るつもりか?」

 

「それは……。

 

その通りだな。」

 

エルリックよりも先にザーフィアスへ到着したならば、最悪の場合は判決後、刑執行後なんてことも有り得る。

 

「よって、私が同行をするのは当然のことだ。」

 

理屈は分かるのだが……。

 

「なぜ、ここが分かった?」

 

「昨夜にカムイに案内されたからだが?」

 

「お前か……。」

 

バルトがカムイを見ると、カムイはニコニコと微笑んでいた。

 

「いえ、大敗を勝利とするわけですので出ていくにもそれなりの口実が必要なのです。

 

バルト兄さんはレイヴンさんと共にブルータルを打ち倒した一人として数えられているのですから当たり前でしょう?

 

エステリーゼ姫への贈り物をエルリックさんと共に護送する。

 

今、これ以上の大義名分を用意できますか?

 

大敗を勝利とするために、バルト兄さんにもここは心を鬼にして耐えて頂く必要があります。」

 

「そういうことだ。」

 

エルリックも腕を組んで頷いている。

 

それは分かった。

 

納得したからそれは了解しよう。

 

「なら、シルトはなんで来たんだ?」

 

「アスピオの研究員として、ブルータルを打ち倒したハルルの矢の事を進言しなくてはならない。

 

在中の研究員の中では私が一番優秀らしい。

 

説得力も有るとか言われた。

 

おじさんに。」

 

レイヴンに言われたのか。

 

「なるほどな。

 

分かった。

 

同行をするのは認める。

 

けど、良いのか?」

 

バルトが再度訪ねる。

 

それは、自分が人ではない何かで有るが良いのか?

 

そういう意図を込めた問いだった。

 

「悪くないならばそれはきっと良い事だ。

 

普通の事だったりするかもしれないが、その普通の事が良い事なのだ。

 

だから、そういうことだ。

 

我々は君の存在を良い事として受け入れる。」

 

バルトは空を見上げる。

 

「俺を敵に回すよりかは賢明な判断だよ。」

 

空を飛べて、分身出来て、武醒魔導器(ボーディブラスティア)を所持している。

 

「今はそういうことにしておくのも良いだろう。

 

君がいつか我々のこの答えを素直に受け止める事の出来ることを我々は待っている。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第2章『蒼き獣と黒い男』

 

帝都ザーフィアスまでの旅路の途中、デイドン砦を中継する必要がある。

 

のだが……。

 

「おい、扉が閉まっちまってやがんぜ?」

 

バルトがコンコンと吊り扉を叩く。

 

「おーい!

 

エルリックだ!

 

エステリーゼ様宛ての荷物護送の途中なのだが、開けてもらえないか!」

 

エルリックが叫ぶが、反応が無い。

 

「全く、なんだというのだ?」

 

「ねえ、空飛んだら?」

 

シルトの発案により、バルトへと視線が向かう。

 

「おいこら、なんで俺が飛ばなかったのか分かってて言ってるのか?」

 

人目に付きそうなデイドン砦で使う訳にはいかない。

 

「グルルルルル……。」

 

ビッグボスは扉の向こうに唸っているが、ビッグボスの通訳は誰も居ないので、ビッグボスが警戒する何かが有るぐらいしか分からない。

 

「あんまり重てぇのは持てねえから、運べんのは……ビッグボスぐれぇだな。」

 

ここで待ってても何も始まらない。

 

そう思ったバルトはフワリと浮かび上がった。

 

「ビッグボス、来るか?」

 

バルトが訪ねると、ビッグボスがバルトの腕の中に飛び込んでくる。

 

「うおっと、んじゃ、おめえらはここで待ってろよ。」

 

デイドン砦の上から顔を出す。

 

よじ登るようにして、屋上から町中を見る。

 

「ん?」

 

町の真ん中に真っ黒な服を着た長髪の男が立っていた。

 

その男は、腕に武醒魔導器(ボーディブラスティア)……。

 

それも、コアの有る物を付けていた。

 

その男の傍らには、蒼の毛をした犬が連れ添うように歩いていた。

 

バルトは砦から飛び降りる。

 

「待ちやがれ!」

 

バルトが手を伸ばして叫ぶと、その長髪の男が振り返る。

 

「あん?」

 

バルトはその男へと駆け寄る。

 

「お前、その武醒魔導器(ボーディブラスティア)はどうしてコアが有るんだ?」

 

バルトがそれを訪ねると、長髪の男は後頭部を掻く。

 

「っやべ、忘れてた。

 

見られたからには仕方がねえ、見なかったことにしてくれや。」

 

と、手を挙げて立ち去ろうとする。

 

だが、見過ごすわけにはいかない。

 

バルトの旅をする目的は始祖の隷長(エンテレケイア)を守ることに有る。

 

コアが有るということは、目の前の男が殺した訳ではないにしろ、始祖の隷長(エンテレケイア)がどこかで殺されたということである。

 

彼の証言から辿っていき、根元を断つことが今のバルトがやらなければならないことである。

 

「そう言うわけにいくわけねえだろ!」

 

バルトがクラウソラスを抜く。

 

すると、長髪の男は振り向き様に剣を抜いた。

 

「幻狼斬ーー!」

 

素早い一撃が見えたかと思えば、一瞬でバルトの後ろへと回った。

 

「ぐぁーー!」

 

その一撃もかなりの重さが有り、咄嗟にガード出来たから良かったものの、ガードが間に合わければ、大変な事態となっていたことだろう。

 

「テメェは、暗闇の灯籠(カオスキャンドル)か?」

 

暗闇の灯籠(カオスキャンドル)ーー?

 

バルトはそのようなのは聞いたことがなかった。

 

「はあ?

 

知らねえよ。」

 

バルトが答えると、長髪の男は手元で剣をくるくると回す。

 

バルトはそれをフリーランで回避して見せた。

 

「今度はこっちの番だぜ!」

 

下からの切り上げ。

 

しかし、それは、その男がガードするまでもなく、何かに阻まれた。

 

その男の側に居た犬がバルトのクラウソラスを口にくわえていた。

 

「まさか、ローバーアイテム?

 

ってことは、この犬も……。」

 

バルトがそれを理解した直後に、バルトの体が上に殴り上げられる。

 

「双牙掌ーー!」

 

「ぐぁーー!」

 

顎の下を殴られ、首が鞭打つ。

 

視界が360度回り、戻ってきた首に剣を突き付けられる。

 

「良く考えりゃ、さっきまで誰も居なかった筈のデイドン砦にテメェが居んのもおかしな話だわなぁ?

 

とくりゃ、テメェは何処に居たっつう事になるんだ?」

 

答えなければ殺される。

 

そう言う意思の込められた暗く冷たい瞳。

 

そちらがそのつもりならばこちらも足掻くだけである。

 

分身が長髪の男の髪を引っ張る。

 

「んな!?

 

もう一人いやがっ……同じ野郎だと!?」

 

分身にコンパクトソード+1を投げ渡す。

 

バルトは空へと飛び上がり、クラウソラスをくわえている犬へと目掛けて詠唱を始めた。

 

「テメェも術技が使えんのか!

 

俺たち以外で使えるってんなら、そりゃ、暗闇の灯籠(カオスキャンドル)と何らかの関わりが有るってこったよな?

 

やっと尻尾を掴んだぜーー!」

 

「揺らめけ焔、突っ込めーーファイアボール!」

 

犬の足元を狙ったファイアボールは土煙を巻き上げる。

 

長髪の男は分身を相手させているので、バルトは犬へとファイアボールを続けて何度も撃ち込んだ。

 

「ラピード!」

 

ラピード?

 

バルトはその名前に聞き覚えがあった。

 

バルトは咄嗟にファイアボールの詠唱をやめる。

 

「ラピードって、まさかその犬の名前か?」

 

バルトがファイアボールをやめてまで訪ねると、長髪の男は剣を担いで待機の構えとなる。

 

「あ?

 

だったらどうした?」

 

「いや、お前は……カロルを知ってるか?」

 

バルトがその名前を口にすると、長髪の男の目が鋭くなる。

 

「どうしてテメェがカロルの事を知ってやがる?」

 

「そりゃ、本人から聞いたからな。」

 

バルトの解答に長髪の男は剣をバルトへと向けた。

 

「降りて来い。」

 

「バカ言ってんじゃねえよ。

 

誰が降りるかよ。」

 

バルトの目下にいる長髪の男は間違いなくバルトよりも実力が上である。

 

地上戦に勝ち目はない。

 

「このテメェのクラウソラスと引き換えっつったら?」

 

「武器はまた買えば良い。

 

命は代えが効かない。」

 

バルトは止めていた詠唱を再度始める。

 

「敵が空ならジュディさえ居りゃあな……。

 

しゃーねえ、俺たちじゃ部が悪い、逃げるぞラピード!」

 

「ガウッ!」

 

ラピードと長髪の男がクラウソラスを遠くへと投げ捨てて逃げていく。

 

バルトは追いかけない。

 

追い掛けても勝ち目が低いからである。

 

暗闇の灯籠(カオスキャンドル)という情報を聞き出せただけで今回は良しとしよう。

 

バルトは投げ飛ばされたクラウソラスを拾いに行くと、吊り扉の仕組みを見てみる。

 

あの長髪の証言が正しければデイドン砦には誰も居ない事になる。

 

となれば、他の奴等が入ってくるには、この吊り扉をなんとかして開く必要がある。

 

バルトは鎖に手をかけたり、レバーを引いたりと試す。

 

すると、ガコンという音がしてから、吊り扉が上がっていくのだった。

 

 

 




『バルト・イーヴィル』
【種族】始祖の隷長
【所属】紅の絆傭兵団
【通り名】《頼りの絆:ラストリゾート》
【装備品】
クラウソラス
コンパクトソード+1
フィートシンボル
武醒魔導器
【通常技】
飛行
エアル吸引
分身
【術技】
蒼破刃
ファーストエイド
ファイアボール
リカバー
シャープネス


『カムイ・シルト』
【種族】人間
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
オウカ+1
ナイトソード
ブーツ
【通常技】
挑発
察知
変装
【術技】
ローバーアイテム

『シルト・スタンダード』
【種族】人間
【所属】アスピオ研究員
【装備品】
スターロッド
ネコガード
ミスティマーク
【通常技】
不明
【術技】
ファイアボール
ストーンブラスト
シャンパーニュ
スプレッドゼロ

『ビッグボス』
【種族】プチウルフ
【所属】バルト
【装備品】
魚人の得物
マント
【通常技】
追跡
マーキング
【術技】
不明

『エルリック・カンディライト』
【種族】人間
【所属】騎士団
【装備品】
ナイトソード・リアル
ナイトシールド
【通常技】
不明
【術技】
フォトン
ファーストエイド
魔神剣


『レシピ』
サンドイッチ
おにぎり
サラダ
野菜炒め
海鮮丼
超絶・海鮮丼☆


『共有戦利品』
亀の甲羅×2
海苔×1
グミの元×1
サーモン×2
オレンジグミ×1
大きなハサミ×5
トルビフィッシュ×2
蟹の甲羅×3
口ばしラッパ×1
チキン×1


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話【帝都ザーフィアス・貴族の街】

人ではない何かであるということを悟られたバルト。

しかし、カムイはそんなバルトを受け入れた。

その道中、冒険王という旅の宿屋と遭遇する。

ハルルにて、満足に休むことなく出立したバルトは疲れを癒すべく滞在することにした。

だが、目覚めるとバルトを待ち構えるようにエルリックとシルトが居た。

エルリックは荷物護衛のための同行、シルトはハルルの矢を進言するための同行ということだった。

共に歩き、たどり着いたデイドン砦は封鎖されており、もぬけの殻だった。

良く観察してみると、黒の髪を長くした男と連れ添うように歩く蒼毛の犬が居た。

黒髪の男は腕にコアのある武醒魔導器をしていた。

すかさず飛び出したバルトはその男と接触、しかし、互いの考えがぶつかり合い、戦いになった。

直ぐに自分よりも上の実力者であると分かったバルトは、惜しげもなく始祖の隷長の力を解放し、なんとか互角の戦いに持ち込んだ。

しかし、不利と考えた黒髪の男は撤退する。

バルトも深追いはせずに仲間が入れるようにデイドン砦の扉を開くのだった。


第1章『もぬけの殻』

 

バルトが開く事になったデイドン砦の扉。

 

合流することが出来たのだが、皆で砦の中を探してみても、結局誰にも出会う事が叶わなかった。

 

バルトが出会ったあの黒い長髪の男は何者なのか?

 

暗闇の灯籠(カオスキャンドル)とは何なのか?

 

砦では何も出来る事は無いようなので、そのまま帝都ザーフィアスを目指すことにすることになった。

 

「争った形跡も見当たりませんでした。

 

また、人が隠れているという気配もありません。」

 

「ガウッ!」

 

ビッグボスとカムイをもってしても見付からないとなれば、本当に居ないということなのだろう。

 

「撤退命令が出たということなのだろう。

 

このデイドン砦に関しては、駐屯しているのはソディア隊長だ。

 

フレン騎士団長からの命令だと思われる。」

 

「って、エルリックは言ってるが、カムイはどう思う?」

 

バルトの言葉にカムイは肩をすくめる。

 

「現状、ここデイドン砦を撤退するだけの理由が存在しません。

 

デイドン砦はギガントモンスターすらも阻むだけの力を持っています。

 

ここを放棄しなくてはならないということは阻むことの出来ない……内側からの何らかの脅威ではないでしょうか?」

 

「内側からの脅威とは、なんだというのだ?」

 

エルリックがカムイへと訪ねる。

 

「内部分裂とか。」

 

シルトが呟く。

 

しかし、エルリックは首を振った。

 

「有り得ない。

 

今の騎士団はフレン隊長の知り合いで固められている。

 

ユルギス隊のユルギス隊長、エルヴィン副隊長、シャスティル小隊長、ヒスカ小隊長。

 

ルブラン隊のルブラン隊長、アシェット副隊長、アデコール小隊長、ボッコス小隊長。

 

フレン騎士団長直属の近衛隊であるソディア隊のソディア隊長。

 

それに、私も含めてだ。

 

内部分裂をするとは思えない。」

 

エルリックの言葉にシルトは再度思考する。

 

「それは、騎士団だけでの話。

 

評議会は別。」

 

「し、しかし、評議会は……。

 

いや、否定は出来ないな。

 

騎士団は大きく変わったが、評議会はラゴウ執政官の死の他に変化は生じてはいない。

 

腐った内情は未だに変化は無いと考えて良いだろう。」

 

そんな話をしていると、カムイが手を上げる。

 

「と、推測ではいくらでも仮説が立てられますね。

 

どうです?

 

お話は更なる情報の取得をしてからということにしては?

 

帝都ザーフィアスも目前に迫っております。

 

悪い提案では無いかと……。」

 

カムイの提案にエルリックが頷く。

 

「うむ、そうだな。

 

少ない情報では無限大の思考に陥るだけだ。

 

進もうバルト。」

 

そう言って、エルリックが荷物を抱える。

 

「だな。」

 

更なる情報の取得を目的に含めて帝都ザーフィアスを目指して歩くのだった。

 

帝都ザーフィアスの周辺には強い魔物が少ない。

 

というのも、定期的に騎士団が魔物を狩りに出掛けているからである。

 

バルトは帝都ザーフィアスに近付くギリギリの橋の上で立ち止まる。

 

「俺たち、エルリックが罪を消してくれんの待ったほうが良いよな?」

 

「そうですね。

 

どこで待ちましょうか?」

 

バルトとカムイが考えていると、エルリックが頷く。

 

「それなのだが、我が屋敷へと招待しようと思っている。

 

私は貴族の端くれでな?

 

この魔物が出るかもしれないような場所で待っているのも辛いだろ?

 

それに、それは私も心苦しいからな。」

 

バルトとカムイは頷く。

 

「まあ、それで良いなら俺は構わないが、貴族街は警備が厳しいんじゃないか?」

 

貴族街にはバルトはあまり入ったことはないが、騎士が巡回をしていたりした筈だ。

 

「ふふっ、砦が開くまでの間にカムイと話をしていてな?

 

カムイは変装が得意と言うではないか?

 

バルトとカムイが変装すれば何の問題もない。」

 

カムイが変装の道具を取り出す。

 

「さて、では、しばしお待ちください。」

 

カムイに待たされ、しばらくしてからカムイがバルトの肩を叩く。

 

「出来ましたよ。」

 

その姿は果たして……。

 

カムイから手鏡を渡される。

 

「おい……。」

 

「どうされました?」

 

ニコニコしているカムイの腕を掴む。

 

「これ、不味いだろ。」

 

バルトの姿は、レイヴン。

 

もとい、シュバーン隊長そのものだった。

 

「エルリックさんがシュバーン隊長のファンだということで、記憶に有るシュバーンさんで作ってみたのですが……。」

 

「大丈夫なのか?」

 

バルトがエルリックへと目を移すと、親指を立てられた。

 

……大丈夫らしい。

 

「じゃ、じゃあ、行くか。

 

ちなみに、カムイは誰に変装するんだ?」

 

バルトがカムイへと目を移すと、変装を始めていた。

 

そして、目の前でフレン騎士団長へと変わっていく。

 

「ストーップ!

 

ダメだろ!

 

それはやっちゃダメだろ!」

 

カムイが「なぜです?」と聞きたそうに首を傾げる。

 

「仕方ないですね……。

 

では、僕はレイヴンさんにしておきます。」

 

と、レイヴンの姿となるカムイ。

 

それも正直どうかと思ったが、フレン騎士団長の格好をされるよりかは遥かにマシだ。

 

レイヴンとシュバーンを引き連れたエルリックというなかなかにシュールな光景となっている。

 

なぜならば、シュバーンもレイヴンも同一人物であり、一緒に行動するなど有り得ないからだ。

 

「口調も真似なくてはですよ。

 

なので、俺様はこういう風に話すつもりだけど、あんちゃんはどうすんの?」

 

凄く声が似ていた。

 

どことなく雰囲気も似せているらしく、バク転からの親指を立てる仕草はレイヴンそのものと遜色が無い。

 

「シュバーンとかあまり知らねえよ。

 

まあ、言葉少なにさせてもらわぁ。」

 

あんまり喋らなければボロは出ないはずだ。

 

バルトはそう願い、エルリックの後に続くようにザーフィアスの貴族街側から入った。

 

入った途端、シュバーンとエルリックへと視線が集まる。

 

「やっぱり、逆のが良かったかも……。」

 

「バク転たくさんしないとですよ?」

 

それは嫌だな。

 

「このままでいい。」

 

我慢をして、エルリックへとついていくと、赤い屋根の豪邸に到着した。

 

灰色の煉瓦作りの古めの館だ。

 

エルリックが扉をノックすると、燕尾服にモノクルをした白髪のお爺さんが出てきた。

 

「はい、どなた……おお、エルリック様ではございませんか。

 

お帰りなさいませ。」

 

エルリックは片手を挙げる。

 

「うむ、こちら客人をお連れした。

 

存じておるだろう?

 

シュバーン元隊長と天を射る矢(アルトスク)のレイヴン様だ。

 

後ろに控えてらっしゃるのは元アスピオ研究員のシルトという。

 

長旅でお疲れだ。

 

疲れを癒すのに是非我が家にと招待したのだ。」

 

「おお、かしこまりました。」

 

うやうやしく頭を垂れる執事。

 

「すまない。

 

世話になる。」

 

と、シュバーンぽさが出せていれば良いが、言葉少なでも挨拶はしておく。

 

「俺様もお世話になっちゃっうけどいきなり悪いね!」

 

快活に笑うカムイ。

 

物凄くレイヴンぽい。

 

「いえいえ、滅相も御座いません。

 

では、こちらにお越し下さいませ。」

 

館に入ると階段を登っていき、一番手前の部屋へと通される。

 

「どうぞこちらで御休みになられてください。」

 

エルリックがお爺さんに言う。

 

「私はエステリーゼ姫にお届けものが有る。

 

故にその間ゆっくり休んでくれ。

 

では、行ってくる。」

 

部屋のベッドへと倒れ込み、ふかふかを堪能する。

 

「では、お言葉に甘えて休みましょうか。」

 

布団の中で意識が暗転する。

 

目が覚めたら無罪となっていれば良いのだが……。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第2章『親の仇』

 

そこは確かな足場の無い、空の上でのことだ。

 

バルトは生まれたときは空に居た。

 

世の理など何も知らないバルトは、生まれたままの姿でノードポリカの戦士の殿堂(パレストラーレ)の闘技場に降り立った。

 

運が良く、満月の夜だったこともあり、闘技場には人が居らず騒ぎにはならなかったが、そこでバルトは運命的な出会いをする事になる。

 

夜の闘技場に降り立ったバルトはそこからどの様に飛び回ったかは定かではない。

 

気が付いたら目の前に巨大な狐が居た。

 

月明かりに照らされる巨大な狐と交わした言葉、教えられたこの世の摂理と条理。

 

これが、ベリウスとバルトの最初の邂逅だった。

 

ーー目が覚める。

 

懐かしい夢を見た。

 

柔らかい布団から起き上がると、隣のベッドでカムイがまだ眠っていた。

 

あくびをして、バルトは体を鳴らす。

 

パキパキと首や腰が鳴る。

 

「はぁ……。」

 

窓の外に満月が見える。

 

長らく眠っていたらしい。

 

エルリックはもう戻っただろうか?

 

話でも聞こうかと思ったが、夜に向かうのも悪い。

 

部屋で大人しくしておこうかと思った矢先、胸のうちに謎の焦燥が駆け巡る。

 

この感覚は一体?

 

不安のような何かがずっと胸の内に有る。

 

この感覚はなんだ?

 

バルトは苦悶の表情を浮かべ、この状況が変化すれば程度の気持ちで部屋の外へと出た。

 

すると、何やら階段の下から話し声が聞こえた。

 

「エステリーゼ様が直々にお会いしたいだなどと……。

 

いや、しかし、私の立場上断れないが……。

 

いや、けれど彼らは……。

 

どうしたら良いのだ。」

 

満月を眺めるエルリックが憂いを顔に浮かべていた。

 

普段はシニョンになっている髪の毛は下ろされており、月明かりに照らされる彼女の髪はオレンジ色に輝いて見えた。

 

騎士の鎧で覆われていたため、分からなかったが、はっきりと主張し、そこに山と谷を作り上げた胸が、薄く透け透けの寝巻きを持ち上げていた。

 

ヘソが完全に出ており、あれでは下手をすれば風邪をひいてしまうのではないかと思えた。

 

「私がすべきは命令に殉じる事で……。

 

だが、罪の取り消しの条件としてそれはあまりにも彼らの身を保証できーー。」

 

「エルリック、お前、寝巻き薄すぎないか?」

 

バルトがエルリックの後ろから肩に手を置く。

 

「ひゃ!?きゃぁぁぁあ!!」

 

思いの外乙女な反応を受けた。

 

手を捕まれ、担ぎ上げられ、流れるように窓へと体が飛んで行く。

 

ーーバルトは窓の外に投げられていた。

 

「へ!?うわぁぁぁあ!!」

 

背中に冷や汗が流れた。

 

地面に叩き付けられる前に浮遊する。

 

「あ、危ないだろエルリック!」

 

文句を窓の外からエルリックへと訴える。

 

「す、すまない!

 

いきなりだったから、つい!」

 

ついで投げられ、地面に叩き付けられるのは勘弁願いたい。

 

「で、身の保証がどうとか言ってたけど?」

 

エルリックが気まずそうな顔をする。

 

「聞いていたのか……。

 

今日、直訴してきたのだが、罪の取り消しをする代わりに君達を連れてきて欲しいと頼まれてしまった。

 

共にブルータルを倒したということと、荷を届けてくれたこと等色々と話した。

 

明日、エステリーゼ様にお会いしてはもらえないだろうか?」

 

エステリーゼ。

 

その名前を聞いたとき、バルトはどのような顔をしていたのだろうか?

 

エルリックが顔を強ばらせ、バルトの二の句を待つように冷や汗を額に浮かべていた。

 

「っ……。」

 

エルリックの顔を見て、自分の失態に気が付いた。

 

満月を見て、深呼吸をする。

 

「ビビらせちまって悪かったな。

 

分かった。

 

明日だな。」

 

明日、エステリーゼに顔を見せる。

 

積年の恨みと言うほどの時間は立っていないが、時間が立っていないからこそ、恨みがまだ新しく、記憶に残っている。

 

「……。

 

今、私は君をエステリーゼ様に会わせるべきでは無いと思ってしまった。

 

バルトに聞きたい。

 

エステリーゼ様と何かあったのか?」

 

エルリックの問いに首を振る。

 

「無いよ。

 

俺とは何にもな……。」

 

自分に関係ないところで、自分が深く傷付く結果に結び付いたというそれだけの関係だ。

 

「そう……か。

 

明日はなるべく大人しくしていてもらえないか?

 

バルトがどのような事情を抱えているかは知らないが、恐らくは良くない感情を持っているのではと感じた。」

 

監視ということだろう。

 

「ああ、その方が俺としても安心だ。」

 

「指名手配は一時的に取り消しになっているから、普段の君の姿で町を歩いて大丈夫だ。

 

さて、私ももう寝るとしよう。

 

バルトも寝るといい。」

 

エルリックが階段を登っていく。

 

「……エステリーゼ。」

 

気が付けば拳をキツく握りしめていた。

 

手から力を抜くと、僅かばかり痺れる。

 

「さっきまで寝てたし、寝れやしねえな……。

 

うし、カムイ起こして話し相手にでもするか。」

 

こうして、バルトは朝を迎えたのだった。

 

 




『バルト・イーヴィル』
【種族】始祖の隷長
【所属】紅の絆傭兵団
【通り名】《頼りの絆:ラストリゾート》
【装備品】
クラウソラス
コンパクトソード+1
フィートシンボル
武醒魔導器
【通常技】
飛行
エアル吸引
分身
【術技】
蒼破刃
ファーストエイド
ファイアボール
リカバー
シャープネス


『カムイ・シルト』
【種族】人間
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
オウカ+1
ナイトソード
ブーツ
【通常技】
挑発
察知
変装
【術技】
ローバーアイテム

『シルト・スタンダード』
【種族】人間
【所属】アスピオ研究員
【装備品】
スターロッド
ネコガード
ミスティマーク
【通常技】
不明
【術技】
ファイアボール
ストーンブラスト
シャンパーニュ
スプレッドゼロ

『ビッグボス』
【種族】プチウルフ
【所属】バルト
【装備品】
魚人の得物
マント
【通常技】
追跡
マーキング
【術技】
不明

『エルリック・カンディライト』
【種族】人間
【所属】騎士団
【装備品】
ナイトソード・リアル
ナイトシールド
【通常技】
不明
【術技】
フォトン
ファーストエイド
魔神剣


『レシピ』
サンドイッチ
おにぎり
サラダ
野菜炒め
海鮮丼
超絶・海鮮丼☆


『共有戦利品』
亀の甲羅×2
海苔×1
グミの元×1
サーモン×2
オレンジグミ×1
大きなハサミ×5
トルビフィッシュ×2
蟹の甲羅×3
口ばしラッパ×1
チキン×1


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第A話【オリジナル登場人物紹介】

ここで紹介するのは、主要キャラクターのみです。

ヴェスペリアで言うところのユーリ、ラピード、エステル、カロル、リタ、レイヴン、ジュディス、フレン、パティのようなものです。

ちなみにですが、この物語に出てくる上記キャラクターは現段階ではLv,50~75くらいです。

アンノウンやハードではなく、ノーマルくらいの全クリ基準のステータスだと思って貰えればと思います。




第1名『バルト・イーヴィル』

この物語の第1期主人公。

 

頼りの絆(ラストリゾート)という通り名を持っている。

 

人の形をした始祖の隷長(エンテレケイア)であり、姿形は成人か青年くらい。

 

髪の毛は黒の長髪で、オフの時は下ろしている。

 

仕事の時はタオルで纏めており、服装は赤色を袖や襟などのワンポイント程度に使われた物を着用する。

 

オフの時は真っ黒な私服を愛用している。

 

紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)としての正装として、バルボスがいつも着用していた真っ赤なジャケットを持ってはいるが、ユニオンでの集まりぐらいでしか着ていない。

 

生まれてからまだ3年しか生きていない。

 

1年目にベリウスに拾われ、ドンと出会い天を射る矢(アルトスク)へ誘われる。

 

2年目にバルボスと出会い、紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)へ入団するも、その年にバルボスが行方不明となる。

 

3年目が現在、魔導機(ブラスティア)の失われた世界で、始祖の隷長(エンテレケイア)を守るために世界を旅している。

 

短期とはいえ、ベリウスに育てられたバルトは、ベリウス直伝の【分身】が使える。

 

また、始祖の隷長(エンテレケイア)としてもともと生まれながらに持っている【飛行】と【エアル吸収】が出来る。

 

他にも有るか?と聞かれれば、バルボス直伝の……。

 

となっていくわけだが、それは物語を読み進めて楽しんでもらえればと隠しておこうと思います。

 

メイン武器はクラウソラス。

 

クラウソラスは下町の希望で手に入る武器だけれども、ハンクスいわく、傭兵の忘れ物だとか……。

 

なら、傭兵の手にと考え、バルトのメイン武器にすることにした。

 

生まれてからそれほど日数も経過していないので、実力は高いわけではない。

 

それゆえ、術技は特技や下級術が主。

 

始祖の隷長(エンテレケイア)としての人と異なる特性を持っている。

 

特出して何か強い個性が有るわけではないので、火力としては期待出来ない器用貧乏キャラクター。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第2名『シムカ・シルト』

紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)の受け付け嬢。

 

赤い長髪を後ろで纏めており、鋭い赤い目と、茶色い肌をしている。

 

衣服は黒が多く、モデルのような体型。

 

常に煙草を常備しており、煙草よりも火種を切らす事の方が多い。

 

姉御肌で面倒見が良く、それゆえに仲間内での評価等はシムカの耳に入りやすい。

 

そんなシムカの耳に良く入ってくるのは変わり者のバルトの話題だったりする。

 

誰も受けたがらないような依頼を消化していってくれるうえに、クライアントが常連となることもしばしば。

 

興味を持ったシムカから接触していき、互いに話すようになった。

 

そのバルトは長期の依頼に出るのが主なため、さほど会う事もないのだが、それゆえに心配になったりする。

 

バルボスが行方不明となった年。

 

ギルドが経営不振に陥った。

 

いつも通り変わり者のバルトが同じような依頼を受けて、新規雇用主とのやり取りをこなし、ギルドの信用を支えていたと考えている。

 

弟のカムイにも見習うようにと言ったのだが、そこからカムイとバルトの仲違いが始まることとなる。

 

メイン武器はクイーンウィップ。

 

彼女自身があまり依頼を受ける立場に無いが、面倒見の良さ故に新人の依頼に付き添ったりする。

 

鞭を使った中距離サポートキャラクター。

 

敵を拘束したり、足止めをして、サポートする。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第3名『カムイ・シルト』

紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)に所属しているシムカの弟。

 

主に諜報、斥候、陽動、間者、工作員をこなす。

 

変装が得意で、また、五感が鋭い。

 

赤い髪を短く切り揃え、もみ上げを耳にかけている。

 

感情の波が人より穏やか。

 

普段は糸目のように目を細めているが、感情が揺さぶられると、目が開かれる。

 

姉が大好きで、姉の指示には必ず従うが、バルトの事を見習うようにと言われ、それをきっかけに姉に気にかけられているバルトを嫌いになる。

 

だが、姉の指示で共に旅をすることになり、バルトの新たな一面を知り、姉を任せても良いかと思い、兄さんと呼ぶようになった。

 

武器はオウカ+1。

 

ローバーアイテムや挑発を用いて、戦場を撹乱するキャラクター。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第4名『カタハルト・シホルディア』

暁の雲(オウラウビル)所属のクリティア族の女性。

 

和風の服装を好んで着用する。

 

ゲライオス文明から現在まで、研究熱心とされてきたクリティア族故に、彼女も例外無く研究をしている。

 

あの癖の有る話し方は、古い文献を読んで人社会を学んだため。

 

だったのだが、時代遅れと知り、その後カタハは前向きに自分の個性として使い続けることにした。

 

武器はニバンボシ。

 

高い近接火力を持つ代わりにコンボ数の稼げないキャラクター。

 

術技にも癖が有り、奥義からしか使えない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第5名『シルト・スタンダード』

元アスピオ研究員の女性。

 

白髪のショートヘアで、雪のように白い肌をしている。

 

背は低く、感情の起伏に乏しい話し方をする。

 

また、感情を顔に出しにくい。

 

リタやウィチルとは顔見知りでは、有るが、2人からは記憶されては居ないだろう。

 

生まれる時代さえ違えばアスピオの天才魔導士と呼ばれても良さそうな能力は所持していた。

 

魔導機(ブラスティア)の失われた現代となっては、ハルルで化学物質の発明等をしていた。

 

武器はスターロッド。

 

完全なる魔導士タイプ故に近接戦闘は苦手とする。

 

多様な属性を使いこなす事が出来る。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第6名『エルリック・カンディライト』

帝都ザーフィアスの騎士で、キュモールの穴埋めとして着任しているエルリック隊の隊長。

 

フレン騎士団長の近衛隊であるソディア隊長の推薦により、隊長の席を与えられた。

 

もともとはソディアと共にキュモール隊に所属していたが、思想が合わずに燻っていた。

 

そのため、知名度は各隊長陣の中で最も低い。

 

貴族の端くれではあるが、貴族であることを誇ることを甘えと考えており、貴族に与えられているロングネームは名乗らない。

 

そうした彼女の意思を慮って、周りは騎士として彼女を扱う。

 

赤い髪の毛をシニョンにして纏めており、凛々しい顔立ちをしている。

 

鎧で覆われているため、分からないが、胸が大きく、胸から腰までの起伏に富んでいるグラビア体型。

 

武器はナイトソード・リアル。

 

防御力が高く、攻撃力も高く、治癒術も使えるが移動スピードの遅いキャラクター。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第7名『???』

賞金稼ぎの女性。

 

金髪のショートヘアで赤いヘアピンで前髪を避けている。

 

金の猫目で、童顔で八重歯が特徴的。

 

胸が大きく、露出の目立つ軽装をしている。

 

武器はストライクイーグルとバトルナイフ。

 

思い込みの強い性格と、場所を弁えない大胆さを持っている。

 

誰が相手でも容赦はせず、人質も使う。

 

後先は考えておらず、目の前の獲物を捕らえる事だけに集中する。

 

遠距離攻撃を主体とし、状態異常等のサポートに優れた器用な半面、防御力が低いキャラクター。

 

 




※イメージだけれども、目安程度にステータス※

バルトのステータスはデュークの半分位。

シムカのステータスはローグ位。

カムイのステータスはジュゲム位。

カタハのステータスはウォーリアー位。

シルトのステータスはアイユ位。

エルリックのステータスは追憶のフレンの半分位。

???のステータスはエタン位。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話【帝都ザーフィアス・城】

帝都ザーフィアスへと到着したバルトは、エルリックの招待を受けてカンディライト家の邸へお世話になることになった。

休息するバルトだったが、懐かしい夢を見て、過去に浸る。

また、寝起きに謎の胸騒ぎがし、再び眠ることも出来なかった。

そのため、気分転換に少し歩くことにした。

すると、薄着でエルリックが呟いており、バルトはその話を聞くこととなる。

なんでも、エステリーゼ姫がバルト達と会って話がしたいのだとか。

バルトとしては、ベリウスを殺した憎い相手故に、複雑な心境だった。

それでも、罪の帳消しをしてもらうための条件ならばと会うことを承諾し、バルトは城へと赴くのだった。


第1章『託された物』

 

朝となり、城に招かれるということで、紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)としての正装をする。

 

淵に白を使っている真っ赤なジャケット、黒い長袖のインナーシャツ、シャツの上から巻いた白のベルト、白のパンツと黒のシューズ。

 

バルボスはこれを普段着として使っていたが、それはボスだからである。

 

細く筋肉質なバルトにとってはジャケットが鬱陶しいと感じるため、ユニオンでの集まりぐらいでしか着ていない。

 

「これを着用するとバルボスさんを思い出しますね。」

 

カムイが懐かしそうに呟く。

 

「ああ、パンパンの服が印象的だったな。」

 

ぴっちりと肌に張り付いて隙間無い腰の部分とか、よく破れないもんだと思ったりもした。

 

「あれ?

 

バルト兄さんはベルトを上に巻くんですね。」

 

カムイはインナーシャツの下に巻いていた。

 

「バルボスにこう着ろって教わらなかったのか?」

 

「言われたのですが、姉さんから、こう着た方が格好いいと言われたので……。」

 

シムカから吹き込まれたらしい。

 

「バルト兄さんも僕と同じにしませんか?」

 

カムイとバルトで着こなしが違うのも変だろうと思い、バルトもカムイと同様の位置にベルトを巻いた。

 

「二人とも似合ってる。」

 

アスピオのフード付きローブを着用したシルトが歩み寄る。

 

「シルトさんこそお似合いですよ。

 

おや、エルリックさんも準備出来たみたいですよ。」

 

エルリックは、騎士の格好をしていた。

 

「ビッグボスには今回は留守番して貰わねばならない。

 

その間は爺やに面倒を見てもらえるように頼んでおいた。

 

さて、君達も正装をしたようだし、行くとしようではないか。」

 

エルリックに案内される形で城へと案内される。

 

「こんな間近に見たことは有りませんね。」

 

「待て、柱に何をするつもりなんだ!」

 

カムイが記念にと城に名前を掘ろうとしているのをエルリックが止める。

 

「カムイ、折角来たんだ。

 

何か記念になるもの貰って帰ろうぜ。」

 

「待て、その壺はやめろ!」

 

バルトがペシペシと壺を叩くと、エルリックが青い顔でバルトの手を取る。

 

「大人しくしていてくれないだろうか?」

 

ぎりぎりと力を込められ、カムイとバルトは痛みに呻く。

 

「うぐぉ、分かった!

 

分かったから!」

 

「いっ、痛いです!

 

分かりましたから!」

 

二人で根をあげて、大人しくエルリックに引率される。

 

「カレーの臭いがする。」

 

言葉少なに、シルトが食堂と思われる場所の扉へと消えていく。

 

「待て!

 

くっ、バルトとカムイはここで大人しくしているように!」

 

と、念押しされ、エルリックが扉の中に消えていくと、引きずるようにシルトを連れてきた。

 

「後で食べさせてやるから、まずは用事を済ませるぞシルト。」

 

こころなしか落ち込んでいるように見えなくもない。

 

「分かった。」

 

城を進んでいると、昨日から感じていた胸騒ぎがどんどん強くなっていった。

 

大人しくさせられ、歩いて行き着いたのは白い扉の前だった。

 

扉の先にこの胸騒ぎの正体が有る。

 

なぜかは分からないが、そんな気がした。

 

エアル暴走の時に近いようなそんな嫌な予感。

 

エルリックがノックをして先に入る。

 

「失礼致します。」

 

エルリックの姿が消えてから、しばらくして、ピンクの髪をした女性が現れた。

 

バルトの心臓がドクンと跳ねる。

 

「っ……!?」

 

バルトの背筋に嫌な汗が流れ、身体中の毛穴が警戒するかのように開き、鳥肌が立つ。

 

この女は危険だと、バルトの体が拒絶していた。

 

「お越しくださりありがとうございます。

 

私がエステリーゼ・シデス・ヒュラッセインです。

 

あなた方がエルリックの言うバルト・イーヴィルとカムイ・シルトにお間違いないです?」

 

こいつが、話に聞いたエステリーゼ・シデス・ヒュラッセイン。

 

ベリウスを殺した女。

 

そして、先程からバルトの危険信号が全力で警鐘している存在。

 

「バルト、エステリーゼ様の問いに答えろ。」

 

バルトが険しい面持ちでいると、エルリックがエステリーゼの後ろから出て来てバルトに話すようにと促す。

 

「あ……あぁ、俺がバルト・イーヴィルで間違いない。」

 

「僕もカムイ・シルトで間違いないですよ。」

 

バルトとカムイが答える。

 

「この度はあなた方のご活躍をエルリックから拝聴いたしました。

 

また、届け物の中にパティとカロル、それにカウフマンさんからの手紙も入ってました。

 

あなた方の無罪をパティの手紙が証明していました。

 

この度は騎士団がご迷惑をおかけしたことを心よりお詫び申し上げます。」

 

エステリーゼは目を閉じてバルトの手を取り、頭を下げる。

 

バルトの体がこれ以上無いくらいに危険信号を発する。

 

バルトは咄嗟にエステリーゼの手を払った。

 

「俺に触んな!」

 

バルトが手を払った直後、弾かれたようにエステリーゼが床に尻餅をつき、間にエルリックが割って入って背に庇う。

 

「何をするかバルト!

 

大丈夫ですか?

 

エステリーゼ様。」

 

エルリックがエステリーゼへと手を伸ばし、エステリーゼを引き起こす。

 

「大丈夫です。

 

今回の指名手配は取り消しとさせて頂きました。

 

それでサヨナラとしても良かったのですけど……。

 

ほぼ騎士団の誤解から指名手配をしていましたので、ご迷惑をおかけしておいてそれだけでは示しがつかないのではないかとリタに言われたので……。

 

そこで、あなた方にリタからの発明品を1つお渡しいたします。」

 

そう言ってエステリーゼはバルトの前に1つの剣と銃が合わさった物を差し出した。

 

「これはソードピストルと言って、剣としての機能と自動拳銃としての機能の弾丸の装塡や発射、空薬莢の排出が引き金を引くだけで自動的に行われる……です。

 

また、試験段階ではありますが、精霊の力を活用できる黒匣(ジン)という技術が組み込まれています。

 

リタやウィチルとアスピオの研究員達が魔導機(ブラスティア)に代わる力として共同開発し立証し組み込んだ試験サンプルです。

 

運んでもらっていたあの箱はその試験サンプルを積めた物でした。

 

これにより、理論上ではリタでなくとも精霊の力を引用できるのだそうです。」

 

黒匣(ジン)というソードピストルをバルトは受け取る。

 

「これは、武醒魔導器(ボーディブラスティア)を秘密裏に作っている組織に対抗するための術として用意してもらったものです。

 

パティから預けられているそれは、暗闇の灯籠(カオスキャンドル)という組織が作ったものです。

 

それを持つことで絶大な力を得られますが、パティからそれを託されたということは恐らく、バルトさんは暗闇の灯篭(カオスキャンドル)に対抗するために必要だと考えたのでしょう。」

 

パティがそんな事を考えるとは到底思えない。

 

というか、詳しい事情はダーリンが知ってるとかいう程に他人任せだった気がする。

 

「パティちゃんはそんなことを考える子でしょうか?」

 

バルトの疑問を復唱するようにカムイが呟く。

 

「パティから、詳しい事情はダーリンが知ってるって言ってた。

 

ダーリンてのに記憶はねえか?」

 

バルトが訪ねるとエステリーゼは頷く。

 

「はい。

 

ユーリの事だと思います。

 

ユーリは暗闇の灯篭(カオスキャンドル)を捕らえるために、走り回ってて、私は何処に居るかまでは把握してません。」

 

ユーリ……。

 

確かカロルと出会ったときそんな名前を聞いたな。

 

「ユーリも暗闇の灯篭(カオスキャンドル)から入手した武醒魔導器(ボーディブラスティア)を持っています。

 

もしよろしければ、この黒匣(ジン)を届けて貰えませんか?」

 

エステリーゼが差し出したのは、もう一本のソードピストルだった。

 

「ユーリにも力が必要です。

 

私はこの城から動くことは出来ません。

 

ですから、私の代わりに届けて貰えませんか?」

 

ユーリという人物は暗闇の灯篭(カオスキャンドル)を捕らえるために走り回っている。

 

つまりは、バルトの始祖の隷長(エンテレケイア)を守るということに貢献していることになる。

 

ならば、断る事もないだろうと、バルトは承諾した。

 

「分かった。

 

これをユーリという人物に届ければ良いんだな?」

 

「ありがとうございます。

 

私からの用件と、お話は以上です。」

 

エステリーゼがペコリと頭を下げると、エルリックがエステリーゼを部屋へと促し、扉を閉めて大きく息を吐き出した。

 

「お前が手を払ったとき、私は気が気では無かったぞ……。」

 

バルトの警鐘信号が、エステリーゼが部屋に戻ったことで薄れていく。

 

「俺も気が気ではなかったからな。」

 

普段の自分ならば有り得ない対応に、自分自身が一番驚いていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第2章『味覚音痴』

 

城の騎士用の食事スペースへとエルリックに案内される。

 

シルトが言っていたカレーを約束通り食べさせてやるためなんだとか。

 

ハルルの矢の事も報告しないといけないということで、シルトはこのまま残るのだそうだ。

 

バルトはユーリという人物にソードピストルを届けるという用件が有る。

 

だが、ユーリが行方不明なので、急ぐこともないと一緒に食事をさせてもらおうと、カムイも連れて騎士食堂へと入った。

 

すると、金髪碧眼の好青年が奇妙なカレーと思われる物を食べており、満面の笑みで「美味しい。」と感想を漏らしていた。

 

その好青年を見た途端にエルリックが顔をひきつらせる。

 

「うっ、フレン騎士団長……。

 

まさか、このカレーは騎士団長が?」

 

この好青年こそがフレン騎士団長。

 

バルトも顔を見たことがある。

 

向こうは知らないだろうが……。

 

そんなことよりも、カレーの鼻孔を擽るスパイシーな香りがバルトの食欲を駆り立てる。

 

食べなくても飢えない。

 

けど、美味い物は食べたい。

 

食欲には逆らえず、カレーの鍋に手を伸ばすシルト。

 

皿に盛り付け、食べようとする様をエルリックが顔を真っ青にして慌てている。

 

「シルト!

 

ダメだ、それを食べては……!」

 

シルトがカレーを口にし、無言で机に突っ伏した。

 

口の端からカレーが滴っている。

 

「気絶するほど美味いというやつか?」

 

バルトが首を傾げる。

 

すると、エルリックが額に手を当てて深く溜め息を吐き出した。

 

「本当にそうならどれ程良かった事か……。」

 

この様子はただ事では無さそうだ。

 

カムイを見ると、カムイはカレーの鍋を流しに蹴り倒していた。

 

「僕の嗅覚を侮らないで頂きたい。

 

このカレーからは生臭い磯の香りがしました。

 

色も若干おかしいです。

 

これは、犬の餌と言っても過言ではありません。

 

いえ、犬の餌を食べた方がましでしょうね。」

 

五感の鋭いカムイが言うのだから間違いないだろう。

 

エルリックの反応、シルトの反応から統合して、目の前のフレン騎士団長に当てはまる単語が浮かび上がる。

 

「味覚音痴?」

 

「音痴など生易しい。

 

騎士団長は味覚馬鹿だ。」

 

エルリックからも酷い言われようである。

 

すると、フレン騎士団長がエルリックを見る。

 

「やあ、エルリック隊長。

 

僕は旅をしていたころを思い出してね。

 

久しぶりにカレーが食べたいと思ったんだ。

 

ユーリの作ってくれたコロッケや、カロルの作ってくれたオムライスも美味しかったけど、たまにはってね?

 

良かったら君も一緒にどうかな?」

 

フレンが気を効かせてカレーを出そうとして、カムイに気が付いた。

 

「なっ!?

 

君は何をしている!

 

そのカレーは僕が作ったものだ!

 

食べ物を粗末にするんじゃない!」

 

カムイはカレーを空にすると、鍋を濯ぎ始める。

 

「粗末にしたのはあなたです。

 

アレは人の食べる物ではありませんよ。

 

本当の料理というのを教えて差し上げますよ。

 

バルト兄さんが……。」

 

と、カムイがバルトを指名すると、フレンがバルトを見た。

 

「彼がかい?

 

見たところ、料理人という訳ではなさそうだけど……。

 

まあ、そこまで言うのなら、教えて貰おうかな。」

 

フレンが顎に手を当てて、バルトを訝しげに眺めている。

 

「エルリック、この味覚馬鹿には何を食べさせても美味いって言うんじゃねえか?」

 

バルトの言葉にエルリックが頷く。

 

「ああ、その通りだが、食材も貴重なんだ、あまり無駄になるようなことはやめてくれ。

 

作るなら、皆が食べられる物にしてくれると助かる。」

 

エルリックから念押しされたので、所有しているレシピを眺めながら、手持ちの材料と相談しているとエルリックが厨房の倉を開き、食材を見せてくれた。

 

「この中の物を自由に使ってくれて構わない。

 

ただ、恐らくは私も食べる流れになるかもしれないから、くれぐれも……。」

 

「しつけぇ。」

 

エルリックの額を指で弾き、食材を眺めて、とあることに気が付いた。

 

超絶・海鮮丼☆の食材が揃っている事に。

 

良く考えなくても、ここは帝都ザーフィアス。

 

そして、騎士だけでなく、姫や皇帝も住まう場所である。

 

となれば、食材もそれに合わせてピンからキリまで用意されていたとしても不思議ではない。

 

「決めた。

 

作ろう。」

 

超絶・海鮮丼☆を作ることに決めたバルトが材料を豪快に捌いていき、分量通りに作っていく。

 

そして、出来たものをエルリックとシルトとカムイとフレンの前に置いた。

 

盛り付けられた魚介類が視覚から美味い。

 

磯の香りが空腹を誘発して嗅覚から美味い。

 

箸が触れた食材から新鮮さが伝わり触覚から美味い。

 

皆の腹が鳴り早く食べさせろと聴覚から美味い。

 

心の底から食べたいと心から感じるの感覚から美味い。

 

そして、口に入れた途端に広がる幸福感で味覚から美味い。

 

ようは、六感全てが美味いに違いないと認めるそれが超絶・海鮮丼☆というわけだ。

 

無論、そんな物がおいそれと作れる訳ではないのは作ってみてバルトが一番良く理解した。

 

「やっぱり食材揃えるの無理なやつだったわ。」

 

カムイは鋭すぎる五感故に涙を流すほどに満足そうにしている。

 

また、感情を顔に出しにくいシルトも満足そうにしていた。

 

エルリックも大興奮していた。

 

フレンだが、彼も美味しそうに食べている。

 

「あ、美味しい。

 

うん、美味しいな。

 

これは確かに教えられたかもしれないな。

 

良ければレシピを書き写させてもらえないかな?」

 

フレンの提案にバルトは首を振る。

 

「いや、やめた方が良いと思うぜ。

 

兵糧が今ので海産物結構使ったから、こんなの続けてたら食料難に陥るってもんだ。」

 

バルトが倉を指差すと、エルリックが顔を覗かせて顔を真っ青にしていた。

 

「というわけだ。」

 

 

 

 

 

 

 




『バルト・イーヴィル』
【種族】始祖の隷長
【所属】紅の絆傭兵団
【通り名】《頼りの絆:ラストリゾート》
【装備品】
クラウソラス
コンパクトソード+1
ソードピストル・試作黒匣
フィートシンボル
武醒魔導器
【通常技】
飛行
エアル吸引
分身
【術技】
蒼破刃
ファーストエイド
ファイアボール
リカバー
シャープネス


『カムイ・シルト』
【種族】人間
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
オウカ+1
ナイトソード
ブーツ
【通常技】
挑発
察知
変装
【術技】
ローバーアイテム

『シルト・スタンダード』
【種族】人間
【所属】アスピオ研究員
【装備品】
スターロッド
ネコガード
ミスティマーク
【通常技】
不明
【術技】
ファイアボール
ストーンブラスト
シャンパーニュ
スプレッドゼロ

『ビッグボス』
【種族】プチウルフ
【所属】バルト
【装備品】
魚人の得物
マント
【通常技】
追跡
マーキング
【術技】
不明

『エルリック・カンディライト』
【種族】人間
【所属】騎士団
【装備品】
ナイトソード・リアル
ナイトシールド
【通常技】
不明
【術技】
フォトン
ファーストエイド
魔神剣


『レシピ』
サンドイッチ
おにぎり
サラダ
野菜炒め
海鮮丼
超絶・海鮮丼☆


『共有戦利品』
亀の甲羅×2
海苔×1
グミの元×1
サーモン×2
オレンジグミ×1
大きなハサミ×5
トルビフィッシュ×2
蟹の甲羅×3
口ばしラッパ×1
チキン×1

『貴重品』
ソードピストル・試作黒匣×2
武醒魔導器×1


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話【帝都ザーフィアス・市民街】

城でエステリーゼと謁見したバルトとカムイ。

バルトはエステリーゼを目前に、胸騒ぎが激化した。

触れられたとき、身体中の危険信号がバルトを動かし、エステリーゼの手を払ってしまう。

無意識に行われた行為。

憤慨するエルリック。

だが、エステリーゼは寛容にその行いを許した。

また、指名手配の詫びと称してソードピストル・試作黒匣を差し出す。

天才魔導士リタ・モルディオでなくとも、精霊の力を引き出せる物だという。

そして、ダーリンの名前が明らかとなる。

ダーリン、もといユーリという者にもう1本のソードピストル・試作黒匣を渡すようにとエステリーゼから頼まれた。

バルトがそれを了承したことで、新たな冒険が幕を開けようとしていた。


第1章『本を読み聞かせる者』

 

エルリックとシルトだけ城に残して、バルトとカムイは市民街の観光をすることにした。

 

エルリックは食料庫の始末書をフレンに、シルトはハルルの矢の報告のために残ったからである。

 

ビッグボスはエルリックの家に預けられているので、カムイとバルトが2人で居ることになる。

 

紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)の制服は赤色でとても街では目立った。

 

「帝都はさすがに治安が良さそうですね。

 

まあ、どんな街にも闇は有るでしょがね。」

 

と、カムイが身なりの悪い少年を見ていた。

 

何日も洗ってなさそうな布の服を着用した緑髪の少年だ。

 

「どんな街だろうと貧困てなぁ有る。

 

それに、今のご時世には魔物に対する力がねえ。

 

儲かる仕事は必然、命懸けになるだろうよ。」

 

命を失うリスクの少ない仕事など、きっとその日の食事すら買えない事だろう。

 

「おや、バルト兄さん?

 

その手に持った物はなんですか?」

 

バルトは手にカウフマンから貰った多額のガルドを持っていた。

 

「俺はこういうのは必要とはしねえんだ。

 

なら、必要なやつに渡すもんだろ?」

 

バルトその言葉にカムイが苦笑する。

 

「そんなことが彼のためになるとでも?

 

あのくらいの子供はギルドでは当たり前のように働いている年頃です。

 

お金がなく、学も無い……。

 

それでも、動くかどうかなんですよ。

 

動かない者は貧困ならざるを得ない。

 

そんな存在に同情など不要でしょうに。」

 

カムイの言葉を聞いていたのか、少年がカムイとバルトの方を見ていた。

 

「あら?

 

どうしたの?」

 

すると、身なりの良さそうな女性がその少年の視線に釣られてバルトとカムイに向いた。

 

「あ、うん。

 

なんでも……。」

 

カムイが眉をひそめる。

 

「あまりにもミスマッチですね。

 

あの女性と少年の関係性が謎です。

 

というか、あの女性の周りにはどうしてあんなに子供が集まっているのでしょうか?」

 

カムイが顎に手を当てて考えていると、女性が本を開いて読み始めた。

 

カムイはガテンがいったとばかりに指を弾く。

 

「なるほど、偽善者ですね。」

 

その言葉に子供達の多くが批難の目をカムイへと向ける。

 

「おや?

 

彼女は子供達の暇潰しに尽力しており、どうみてもその行為はお金にはなりません。

 

この時間を使って働けば目の前の子供達にお菓子を配ることも、良い服を買い与えることも出来るでしょう。

 

なのに、そうしないというのはあまりにも偽善……。

 

そもそも、身なりも良いので、良いことをしている自分を世にアピールしているみたいで気に入りません。」

 

カムイの辛辣な評価についに子供達が立ち上がった。

 

しかし、バルトもこの評価には大いに賛成だった。

 

貧困に喘ぐ子供を眼前に知識をひけらかす愚か者。

 

貧困が求めるのは一時の快楽なのか、長期の安寧か……。

 

貧困にはそれらを求めることすら出来ない場合がある。

 

その選択肢を与えてやれるのは裕福な奴等である。

 

金を与えてやれば、装備を買って狩りが出来る。

 

金を与えてやれば、食事を買ってその日を生き繋げる。

 

そうやって仕事という概念を教えて、生きるための方法を教えてやるのも裕福な人間である。

 

貧困にはそれを実行するだけの余裕すらないのだから。

 

「リュネさんを悪く言うな!」

 

「そうだそうだ!

 

余所者は引っ込め!」

 

「お姉さんは良い人だもん!」

 

カムイは肩をすくめる。

 

「洗脳されきってますね。

 

愚の骨頂です。

 

帝都だからこそ、そんな甘えた考えが通用するのです。

 

自分で状況を変えるだけの努力も行動も起こさない者を救ってあげる義理なんてありませんよバルト兄さん。」

 

そこまで言われては、バルトもガルドをしまうしかなかった。

 

「おい、そこの兄ちゃんたち!」

 

騎士の格好をした者から、身なりの良さそうな者から、一般的な格好をした者や独創的な格好をした者達が怒りを顔に浮かべて後ろに居た。

 

「おやおや、言い返せないから数で脅迫ですか?

 

力の無い者達の脅迫など無意味に等しいですよ。

 

帝都の騎士はレベルが低いと有名ですからね。」

 

諜報を得意とするカムイだからこそ知り得る情報だ。

 

バルトは騎士が弱い等とは聞いたことがない。

 

「子供が貧困に喘ぐ時代を作ったのは今を生きる大人達です。

 

それを変えることが出来るのも大人達なのですよ?

 

それをしないのもあなた方なのです。」

 

カムイがそう言うと、バルトの手を引く。

 

「行きましょう。

 

彼らには何を言っても無駄でしょうしね。

 

救われるだけの理由もないただの愚者に話をして、時間的損をしました。」

 

カムイの挑発に我慢の限界だったのか、騎士が掴みかかろうとする。

 

しかし、カムイはその手を掴むと、足を払った。

 

頭を踏みつけて、腕を捻りあげる。

 

「いっ、いだぁぁぁあ!!」

 

絶叫する騎士と、カムイの早業に周りの大人達は躊躇いを顔に浮かべた。

 

カムイの行動に恐れをなしたということだろう。

 

「帝都に居る騎士はレベルが低いですからね。

 

こんなことをして偽善に浸るより、生活水準を向上させて偽善に浸りなさい。

 

どうせ、子供達の笑顔が嬉しかっただなどという浅い理由の行動なのでしょう?

 

しょせんは自己満足なんですよ。

 

どうせ満足するなら、相手をとことん救って差し上げてはいかがです?

 

子供達の笑顔に救われるだけの価値があなた方には無い。」

 

カムイは手を離すと、騎士を蹴り飛ばす。

 

「さて、今度こそ行きましょうか。」

 

カムイの後ろに付いて歩き、狭い路地へと入る。

 

「こんなものでデモンストレーションとしては上出来ではないでしょうか?」

 

カムイが何をもってして、このような行いをしたのか?

 

それは、表で騒ぎを起こして自分達の価値を見せていたということだ。

 

どういうことか分からないかもしれないが、要するに、騎士だらけの町で傭兵が雇われるための手法として、騎士よりも強いことを示したということだ。

 

また、騎士とは対角線に居る、またはそういった仕事でも受けるという意思表示にもなる。

 

最後に、人目の少ない狭い路地へと入ったのはそんな自分達に用の有る人物を誘い出すためである。

 

「いや、ありゃ余計な敵まで増やしたんじゃねえか?」

 

町を歩く度に白い目で見られそうである。

 

「いえ、なぜかこちらを品定めというか、そういった視線を感じましたのでね。」

 

カムイの察知に引っ掛かったというわけである。

 

路地へと入ってきたのはクリティア族のようだ。

 

「僕らに用が有るのでしょう?

 

お仕事ですか?」

 

「ああ、是非ともお願いしたいことが有る。」

 

そのクリティア族は女性のようだ。

 

「何を求めますか?」

 

「某が求めるのは貴様らの命でござる。」

 

某……。

 

この個性的な一人称にバルトは目をしかめる。

 

「おい、カムイ……。」

 

「時として余計なものが連れるのがこのデモンストレーションの悪いところですね。

 

はぁ、新しいお仕事を見繕おうと思っていたのに……カタハさん。

 

あなたはどうして僕たちの命を?」

 

カタハはニバンボシの鞘に左手を当て、右手で柄を持つ。

 

「なに、私は見定めようと思ったまでだ。

 

指名手配の取り下げが有り、本当に君達が取り下げられるべき者なのかとな?」

 

「カムイ……。

 

どうすんだよこいつ?」

 

カタハの実力はカプワトリムでプレデントとの戦闘の際に嫌と言うほどに見た。

 

「やれやれ、カタハさん、あなたはギルドをなんだとお思いですか?」

 

「志を同じくする者達の集いだ。」

 

それを聞いてカムイは頷く。

 

「つまり、我々は正義の味方なんかでは無いのですよ。

 

汚れ仕事でさえも互いの利益となるならば行うのが我々です。

 

あなたのギルドが僕らと同じとは言いません。

 

ですが、存じておいていただきたい。」

 

カムイは口の端を吊り上げて笑う。

 

「我々紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)は流した血だけ深い絆を示すその反面、実益が兼ねない場合は容赦なく手を切るギルドです。

 

まあ、バルト兄さんは例外かもしれませんがね。」

 

カムイがバルトを見る。

 

バルトが受ける仕事は実益が乏しい物だ。

 

なぜなら、長期の仕事を1つ受けるよりも、短期の仕事を何度もした方が儲かるからだ。

 

「まあ、けれど、バルト兄さんはその仕事を受けるだけのメリットがきっと有るのでしょう。

 

さて、僕は実益のためのデモンストレーションを行うのはやぶさかではありません。

 

カタハさん、僕たちが何者かに見られているのはお気付きですか?」

 

バルトが視線をさ迷わせる。

 

「カタハ意外にも居るってのか!?」

 

バルトがキョロキョロと視線を動かしていると、カタハの後ろから一人現れた。

 

そいつはローブを着用しており、腕捲りをする。

 

その腕には青い火を灯した蝋燭が描かれていた。

 

「某はそのような戯言に踊らされはせぬ!

 

お主らを見損なったぞ……。

 

某も正義の味方などではない……だが、自ら邪道に踏み込む貴様らを見ていると、刀を抜かずしてはいられない!

 

正義の味方に代わり某が成敗いたす!」

 

カタハは姿勢を低くし、バルト達へと駆けて行く。

 

狙いはカムイのようだ。

 

カムイは肩を竦めてカタハへと駆けていく。

 

「覚悟!」

 

ーー刹那。

 

カタハのニバンボシが一閃される。

 

煌めく刃が切ったのは虚空。

 

すなわち、カムイにカタハの攻撃が当たることはなかったのだ。

 

カタハの目が見開かれる。

 

スタッとカムイの着地音がした。

 

カムイはカタハの背後に着地した。

 

何があったのかバルトには見えていた。

 

故に、カムイがカタハの後ろを取った瞬間、クラウソラスを向ける。

 

抜き放たれたニバンボシを咄嗟にガードに使うが、背後からカムイがカタハの首を刃で撫でる。

 

「武器を捨てて貰いましょうか?」

 

カムイの言葉にカタハは悔しそうに歯噛みすると、ニバンボシを地面に置いた。

 

「くっ……。」

 

バルトは落ちたニバンボシを拾う。

 

「お前一人で俺達に勝てるわけがないだろう?」

 

「バルト、お前は共に旅した短い期間でも悪人ではないと思えたでござる。

 

カロルに慕われていた君がよもやカムイと同じくした考えの持ち主だと思うと残念でござるよ。」

 

カタハの手足をバルトが縛ると、カムイが地面に転がした。

 

あのとき、カムイが何をしたのかは明白だ。

 

単純に飛び越えたのだ。

 

カタハの攻撃をジャンプで回避し、背後に回った。

 

ただ、それだけのことだ。

 

「さて、お話が有るのでは有りませんか?」

 

カムイが目を向けるとローブの人間がバルトとカムイへと近付いてくる。

 

「仕事をやろう。

 

目的地はマンタイク……。

 

我々と共に来るが良い。

 

ーーバルト・イーヴィル。

 

ーーカムイ・シルト。」

 

バルトはカムイを見る。

 

カムイは頷いた。

 

「十中八九例の案件かと……。」

 

暗闇の灯籠(カオスキャンドル)の事だと自覚しているようだ。

 

だが、根絶するには目の前の人物を倒すよりも、奴等の拠点を潰す方が確実である。

 

そうなれば答えは1つだ。

 

「おもしれぇ、やってやろうじゃねえか!」

 

「明日の朝に下町に来い。」

 

そう言ってローブの人間が路地から消えていく。

 

残されたカムイとバルトは地面に転がしたカタハへと視線を向けた。

 

「さて、カタハさんをどうしましょうか?

 

余計なことを話されても面倒ですし、始末しますか?」

 

カムイの言葉にカタハが息を飲む。

 

「まあ、待てよカムイ。

 

カタハにはこっちの事情を説明しても良いんじゃねえか?

 

こいつの命を取るよりも利用できるならした方が何倍も良いだろうよ?」

 

バルトの言葉にカムイが溜め息を吐き出す。

 

「また、お節介ですかバルト兄さん。

 

偽善もほどほどにしないと、余計に苦しませる結果になるやもしれませんよ?」

 

カムイの言葉を受けて、それでもカタハの命は奪いたくはなかった。

 

「可能性の芽まで摘む必要はねえだろ?

 

カタハだってきっと信じてくれるさ。」

 

「甘いですよバルト兄さんは……。

 

では、説明してみてあげてください。

 

その反応如何にして、処遇を決めましょう。

 

全く……あなたという人は全く……。」

 

 

 

 




『バルト・イーヴィル』
【種族】始祖の隷長
【所属】紅の絆傭兵団
【通り名】《頼りの絆:ラストリゾート》
【装備品】
クラウソラス
コンパクトソード+1
ソードピストル・試作黒匣
フィートシンボル
武醒魔導器
【通常技】
飛行
エアル吸引
分身
【術技】
蒼破刃
ファーストエイド
ファイアボール
リカバー
シャープネス


『カムイ・シルト』
【種族】人間
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
オウカ+1
ナイトソード
ブーツ
【通常技】
挑発
察知
変装
【術技】
ローバーアイテム

『カタハルト・シホルディア』
【種族】クリティア族
【所属】暁の雲
【装備品】
ニバンボシ
【技】
不明

『レシピ』
サンドイッチ
おにぎり
サラダ
野菜炒め
海鮮丼
超絶・海鮮丼☆


『共有戦利品』
亀の甲羅×2
海苔×1
グミの元×1
サーモン×2
オレンジグミ×1
大きなハサミ×5
トルビフィッシュ×2
蟹の甲羅×3
口ばしラッパ×1
チキン×1

『貴重品』
ソードピストル・試作黒匣×2
武醒魔導器×1


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話【帝都ザーフィアス・下町】

市民街にてリュネという身なりの良い女性の行いを偽善と称して力を示して見せたカムイ。

そのデモンストレーションに釣られてやってきたのは予定外の客人、カタハだった。

けれど、カタハを2人がかりであっさりと倒すと、それを見た本命がバルト達に依頼を持ちかける。

暗闇の灯籠と思われる、腕に青い炎の灯った蝋燭の刺青をした者がマンタイクまでの護衛をしないかとバルトとカムイに提案。

悪名の広がっていたバルトとカムイだからこそ近付いて来たのだろう。

この依頼の先に聖核を狙う組織の根源が有る筈だ。

そして、預かっているソードピストルをユーリという人物に渡すことも、同じ敵を求めている限りはいつか叶うだろう。


第1章『晴れる疑い』

バルトから事情を聞いたカタハは信じるものかと言うので、いっそのこと全てを知る相手であり、カタハが疑うことの出来ない立場の人間に引き合わせる事にした。

 

城まで連れていくのも面倒だと思ったのか、カムイが路地から出ると、少ししてからフレンがこちらに歩いてきた。

 

「やあ、カムイからここに来るように言われたんだ。

 

君とカムイの無実の証明をしてほしいってね。

 

僕が認めるよ。

 

それでも不満かい?」

 

フレンに言われ、ポカンと口を開けるカタハ。

 

「彼らはエステリーゼ様、また、ヨーデル皇帝陛下、リタ、エルリック隊長、そして、この僕フレン・シーフォが無罪を認めるよ。

 

名だたるザーフィアスの要人の証言でもまだ不服かい?」

 

バルトが歩み寄り、フレンへと声をかける。

 

「おいこら、カムーー。」

 

「うん?

 

バルト、君は少しは落ち着いたらどうだい?」

 

絶対にカムイだ。

 

そう思ったバルトは脱力するのだが、カタハは逆に緊張で顔が強張っていた。

 

絶対にフレンだと思ったのだろう。

 

「まあ、と言うわけだ。

 

彼等が何かすることが有ればそれは、エステリーゼ様からのご依頼によるものということになる。

 

つまり、正義を豪語していた君よりもよっぽど正義だったんだよ彼らはね。」

 

冷や汗をじんわりと浮かべて苦悶の表情のカタハが気の毒になってきた。

 

そろそろやめてやれよと思うのだが、カムイは楽しくなってきたのか、口の端を吊り上げていた。

 

「さて、その正義の邪魔をした君には罰を与えなくてはならない。

 

けれど、カムイからのお願いでね?

 

彼等の旅に協力し、同行するというのなら見なかったことにしてあげてもいい。」

 

きっと、町のフレンの知り合いは脅迫するこの姿を見たら幻滅することだろう。

 

「も、もちろんでござる。」

 

汗が地面にじんわりと染み込んでいる。

 

カタハは生命与奪を目前にしている気分なのだろう。

 

実際は全然そんな事はないのだが……。

 

「では、彼等に誓うと良い。

 

君は彼等のなんだい?」

 

「私は彼等の協力者です!」

 

「聞こえないよ。」

 

「私は彼等の協力者です!」

 

「本当にやる気はあるのかい?」

 

「私は彼等の協力者です!」

 

「おい、可哀想だろ。

 

そろそろやめてやれよ。」

 

バルトがフレンの肩を叩くと、フレンが肩を竦めて呟く。

 

「これからが楽しいところでしたのに、バルト兄さんはいけずですねぇ?」

 

やっぱりカムイだった。

 

カタハの縄をほどいてやる前にカムイが路地を出ていき、元の姿になって戻ってきた。

 

「おや?

 

僕たちの邪魔をしたカタハさんではありませんか?」

 

カムイの言葉にバルトはいよいよクラウソラスを抜く。

 

「冗談ですよバルト兄さん。」

 

バルトはカタハの縄をほどく。

 

すると、汗で縄がなかなかほどけなくなっていた。

 

「カムイ……切るしかねえな。」

 

その言葉にカタハはバルトを見て懇願する。

 

「そ、某を切るのでござるか!?

 

某はもう協力者でござろう!?」

 

「勘違いすんな、縄を切るんだよ。」

 

バルトが縄にクラウソラスの刃を突き立てる。

 

カタハを切らないように慎重にだ。

 

カタハは涙目でバルトを見上げている。

 

「さすが、直ぐに切らずに焦らして弄ぶ人間のクズですね!」

 

「人聞きの悪いこと言うんじゃねえよ!」

 

慎重に切っていき、ようやく縄が切れた。

 

「はぁ、動けるか?」

 

バルトが訪ねると、カタハが立ち上がり、袴が落ちた。

 

「へぇ……。

 

さすが、ですね。

 

縄どころか袴の紐までもなんとなしに切っておく変態のクズですね!」

 

「だから、人聞きの悪いこと言うんじゃねえよ!

 

わざとじゃねえよ!」

 

本当にわざとじゃないので、カムイの言い分には反論せざるをえなかった。

 

「しかし、どうするのです?

 

カタハさんは代えの履き物は有るのですか?」

 

カタハは落ちた袴を見てボーゼンとしていた。

 

バルトがカムイを見る。

 

「お前なら持ってるだろ。」

 

「いえ、あれはボディペイントですよ。」

 

「……あー、カタハ。

 

……。

 

その袴を手で押さえて歩くしか無さそうだ。」

 

カタハを晒し者にして歩く事数分でカンディライトの家に到着する。

 

そこで、爺やと呼ばれていたお爺さんにカタハを任せ、バルト達は割り振られた部屋へとお邪魔する。

 

「いやはや、カタハさんに出会ったということで、あの金髪の女性も居るのかと思いましたが、流石に指名手配が解除された今、敵対する意味も無いということでしょうね。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第2章『異端者達の警護』

 

翌朝、帝都の下町へと訪れたバルト。

 

その後ろにはカムイとカタハ、ビッグボスが控えていた。

 

下町は一種のスラム街となっていた。

 

金と学の無い老若男女が最低限の人間らし生活をしている。

 

表向きは助け合っているように見えるが、それは一部だけだ。

 

カムイが路地の奥を指差すと、迷路のようになっており、そこの曲がり角には最低限の生活すらままならない子供達が居た。

 

結界魔導器(シルトブラスティア)の無き帝都の人間は、騎士に守られている反面、将来は騎士以外の選択をするのが難しい。

 

ダングレストであれば、自分の好みに合わせてギルドを選ぶ自由が有るのだが……。

 

噂ではフレンの影響か、出生を気にせずに騎士になれるようだが、この路地に居る子供にはそのような未来すらも危ぶまれる。

 

なにせ、その目に映る全てにへりくだり、正しさという学もなく、生きるために牙をむくのだから。

 

子供達がバルトに向かって歩いていく。

 

それを見て、カムイとバルトは互いに武器を手にした。

 

世の中は綺麗なようでいて、とても汚い。

 

良い面しか見ない人間は実に愚かだ。

 

綺麗な事が行われる半面、不正を行った不正の概念すら知らない純粋な子供達がこうして切り捨てられるのだから。

 

血を払い、件の護衛の相手を探す。

 

殺人は勿論罪とされるが、それは目撃者が居る場合だ。

 

それに、この場合は正当防衛となる。

 

カタハも目をつむっており、やるせないように下唇を噛んでいた。

 

「我々のこの行いは彼らへの救いとなるでしょう。

 

まともにすら生きられなかった苦しみから解放してさしあげたのです。」

 

すると、カムイの言葉の後に、カタハが続いた。

 

「無知故に悪を知らずして行った者は果たして地獄か、天の国かどちらにむかうのでござろうな?」

 

その問いかけのような言葉にバルトは長く息を吐いて答える。

 

「死後に、もしも世界が有るってんなら、生きてるやつらは死ぬのを嫌がったりしねえだろうよ。」

 

そんなことを話していると、シーブズマントを着用した男達が腕捲りをした。

 

青い火の灯った蝋燭。

 

「マンタイクへの警護だが、商品と我々の護衛ということとなる。」

 

その傍らには金髪の女性が居た。

 

というか、カプワ・ノールで襲ってきた賞金稼ぎがそこに居た。

 

カタハが咄嗟に反応する。

 

「パルチ、お主もこの仕事を請け負うのか?」

 

パルチと呼ばれて女性は頷く。

 

「まあね。

 

めぼしい賞金首もこんな場所には居ないだろうし、仕事を探してたんだよね。

 

まあ、そんなとき、ノコノコ路地に入っていくあんたたちを見て、美味しい話を聞いちゃったのよね。」

 

口に手を当てて嫌らしく笑う彼女にカタハは手を差し出す。

 

「この度もよろしく頼むぞパルチ・レジス。」

 

「ええ、よろしくね。

 

カタハ。

 

それに、バルトとカムイとワンちゃんもね。」

 

と、カタハの手を取り、ウインクするパルチ。

 

黒のローブを目深に被った者は5名居る。

 

そんな怪しい者達が下町の外へと向かっていると、やはり人目を集めるのか、また、バルトとカムイの格好も相まって良い意味での目立ち方ではなかった。

 

けれど、誰も声をかけ無かったのだが、一人の年老いた男がバルトを見て指を指した。

 

「なっ!?

 

なぜ、あんたがここに!?」

 

バルトは自分を指差すとその年配の男が頷く。

 

「すまんが、あんたが忘れていった剣はユーリに……。」

 

そこまで話して、バルトのクラウソラスを見て目を見開く。

 

「なんじゃ、お前さんもうユーリに会っておったんか。

 

お前さんが忘れていった剣を勝手に譲ってしまって悪かったわい。

 

しかし、お前さん若いまんまじゃのう?

 

かれこれ20年は経つというのに……。」

 

その爺さんはバルトを知っていると言うが、バルトは生まれて3年目である。

 

他人のそら似と割りきっても良かったが、気にならないでもない。

 

「どうされましたバルト兄さん。」

 

カムイの言葉にその爺さんはバルトの肩を叩く。

 

「ワシも年を取ったから分からんかもしれんが、ほれ、ハンクスじゃ。

 

わからんかのう?」

 

言われて顎に手を当てるが、ハンクスという雇用主は今まで居なかった。

 

「悪いな爺さん。」

 

そう言ってバルトは肩の手を剥がすと、手を振って別れるのだった。




『バルト・イーヴィル』
【種族】始祖の隷長
【所属】紅の絆傭兵団
【通り名】《頼りの絆:ラストリゾート》
【装備品】
クラウソラス
コンパクトソード+1
ソードピストル・試作黒匣
フィートシンボル
武醒魔導器
【通常技】
飛行
エアル吸引
分身
【術技】
蒼破刃
ファーストエイド
ファイアボール
リカバー
シャープネス


『カムイ・シルト』
【種族】人間
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
オウカ+1
ナイトソード
ブーツ
【通常技】
挑発
察知
変装
【術技】
ローバーアイテム

『カタハルト・シホルディア』
【種族】クリティア族
【所属】暁の雲
【装備品】
ニバンボシ
【技】
不明

『ビッグボス』
【種族】プチウルフ
【所属】バルト
【装備品】
魚人の得物
マント
【通常技】
追跡
マーキング
【術技】
不明

『パルチ・レジス』
【種族】人間
【所属】なし
【装備品】
ストライクイーグル
バトルナイフ
【通常技】

人質
【術技】
不明

『レシピ』
サンドイッチ
おにぎり
サラダ
野菜炒め
海鮮丼
超絶・海鮮丼☆


『共有戦利品』
亀の甲羅×2
海苔×1
グミの元×1
サーモン×2
オレンジグミ×1
大きなハサミ×5
トルビフィッシュ×2
蟹の甲羅×3
口ばしラッパ×1
チキン×1

『貴重品』
ソードピストル・試作黒匣×2
武醒魔導器×1


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話【クオイの森の殺戮虫・前編】

カタハに詰め寄られ、袴ごとロープを切るバルト。

まさに鬼畜の所業!!

「わざとじゃねーよ、やめろ人聞きの悪い」

フレンに変装し、カタハに無実を主張し同行を促すカムイ。

これぞ鬼畜の所業!!

「騙される方が悪いんです」

青い炎の灯った蝋燭の刺青の人物にマンタイクまでの護衛を依頼され、バルト、カムイ、ビッグボス、カタハに加え、パルチが同行する運びとなり、いよいよ武醒魔導器《ボーディブラスティア》の謎に探りを入れる事になった。

しかし、暗闇の灯籠《カオスキャンドル》のしていることは武醒魔導器《ボーディブラスティア》の密売。

故に通れる所は公のルートではなく、ゾフェル氷刃海かクオイの森の二択。

どちらにもギガントモンスターが居り、気乗りしないバルトだった。

しかし、いざとなったときパルチの発案でエッグベアーを利用しようという安易な策で、クオイの森に行くことに決まった。





第1章『非正規ルート』

 

デイドン砦には騎士が居なかったが、エルリックが同行していて、それを報告していない筈がない。

 

つまり、何らかの改善はされていると見て良いだろう。

 

そうなったときのルートとして俺達が出せるのはゾフェル氷刃海だった。

 

しかし、それにパルチとカタハが首を振る。

 

「あの寒さはこんな貧弱な装備じゃ凍え死ぬわよ。

 

それに、魔物が強いんだから、護衛しながら戦うなんてまっぴら御免よ。

 

だから、クオイの森に行きましょ。」

 

パルチが立案すると、カタハが首を振る。

 

「あの呪いの森を進むと言うので御座るか!?」

 

呪いの森と聞いてカムイもピンと来たようで、カムイは思案顔で頷く。

 

「あそこはカロル君いわく、キマイラバタフライなるギガントモンスターが居た筈では?」

 

その言葉にバルトは息を飲む。

 

ブルータルの時でさえ皆が一丸となってようやく倒せたのだ。

 

情報の無いキマイラバタフライと戦うなんて馬鹿馬鹿しい。

 

「ギガントモンスターと戦うなんて俺は真っ平ごめんだぜ?」

 

バルトの言葉にパルチは指を立てて舌を鳴らす。

 

「チッチッチッ、甘いぜ坊や。」

 

確かに坊やと言われて遜色ないが、見た目だけならパルチよりかはバルトの方が年上に見える。

 

「エッグベアって知ってる?」

 

エッグベアと言えば、パナシーアボトルの材料となる爪を所持しているのは有名だ。

 

「ああ、そいつがどうかしたか?」

 

エッグベアと言えばパナシーアボトルを作るのに見会わないくらい強かった気がするが……。

 

「そのエッグベアはニアの実で釣れるのよ。

 

それで、キマイラバタフライにそのやってきたエッグベアを対峙させて、その隙にってのはどう?」

 

言われて考えるが、エッグベアがギガントモンスターに勝てるわけがない。

 

エッグベアとて、敵前逃亡待ったなしだろう。

 

「エッグベアだって馬鹿じゃねえだろ?」

 

そのバルトの言葉にパルチはため息を吐き出す。

 

「なら、ゾフェル氷刃海とデイドン砦とクオイの森に代わるルートでも有るの?」

 

そう言われるとバルトも黙るしかない。

 

「それに、ゾフェル氷刃海だって、フェンリルっていうギガントモンスターが出るんだからね!?」

 

そう言われるとまだ対抗手段の出せるクオイの森で決まりそうな雰囲気となる。

 

カタハは目をつむり、ニバンボシを抜いた。

 

「いざとなれば、そのキマイラバタフライとやらを倒してしまえば良いのでござろう?」

 

スッと見開かれる殺意の籠ったカタハの目。

 

バルトはブルータルの時の悲惨な映像が脳裏にフラッシュバックする。

 

「では、クオイの森を進もう。」

 

と、クライアントがそうと決めてしまえばバルト達は従うしかない。

 

バルトは不安を胸にクオイへと向かう事となった。

 

クオイの森に入るや否や、バルト達の前に倒れた魔導機械が有った。

 

クオイの森にこんな物が有るなど聞いたことはないが、これをカタハが興味深そうに見ていた。

 

「こんなところになぜ?」

 

カムイはそんな事よりも、近付いてくる気配に警戒していた。

 

パルチも目を細めてストライクイーグルを構えていた。

 

アックスビークが来ていた。

 

だが、こちらに近付くよりも早くパルチが矢を放つ。

 

それは放物線を描き、アックスビークの首を貫いた。

 

呻き声を1つあげて倒れるアックスビーク。

 

「この程度の魔物なら、余裕余裕。」

 

パルチの手際にバルトとカムイは息を飲む。

 

「けど、私のメインがストライクイーグルだけに、矢が尽きたらバトルナイフだけになっちゃうから、なるべく私抜きで戦うのが好ましいかな?」

 

と、催促するようにバルトとカムイを見る。

 

バルトとカムイは互いの顔を見て頷く。

 

「まあ、そうなるわな。」

 

「ですね。」

 

戦いの後には毎度の様に軽食を食べる。

 

理由は体力の回復と、極度の緊張感から来る疲労の回復などと様々だが、大概の理由としては料理には様々な力があるからだ。

 

実際、サンドイッチでもおにぎりでも食べておけば次の戦いで有利となる事がある。

 

だが、このクオイの森では道が獣道であり、そこには獣が居る事が大前提だ。

 

故に何度も戦闘をする事となり、仲間達は疲弊を重ねる。

 

返り血と泥だらけの手で食事に有りつくのだが、その時だけは事が違った。

 

「なんですかこれは?」

 

犬用の器に盛り付けられた雑多な食材達。

 

カムイの引くつく眉が不快に歪む。

 

「これは人の食い物じゃねえな」

 

料理は交代で作っていた。

 

バルト、カムイ、カタハと来て、次はパルチだったはずだ。

 

彼女は口笛を吹いて誤魔化そうとしている。

 

「おい」

 

両手を鳴らすとパルチも冷や汗を垂らして愛想笑いを浮かべる。

 

「ワンちゃんが私の料理を興味深げに見てたから〜」

 

「ビッグボスが?」

 

「ワン!」

 

鳴き声の後に一匹美味そうにいぬごはんを貪るマジモンの犬。

 

「……次は無いですよ?」

 

満足そうなビッグボスに呆気に取られたのか、カムイは肩を透かしていぬごはんをつまむ。

 

「うわぁ……」

 

嫌だと顔に書かれているカムイも中々に珍しい。

 

バルトは人ではない。

 

だが、だからといって犬のご飯を食べた事があるわけではない。

 

一口食べた後に、人との味覚のズレを感じて、味わうものではないと直感で理解し、味を感じる前にかきこみ全て飲み込んだ。

 

本当に微々たる回復をした気がする。

 

不快感には抗えなかったらしく、ビッグボス以外の人間はカムイ同様に嫌そうに食べきった。

 

クオイの森を進んで1つ分かったことがある。

 

どうやら、この森はどこかで道が塞がれたようである。

 

そもそもこの森が通れるという事を知っているのはそんなに多くない。

 

塞がれてしばらく経過している様子であり、一見すると一体どこから塞がれているのか分からない。

 

すると、ビッグボスが地面を嗅ぎ始め、ひと鳴きした。

 

茂みに鼻先を近づけ、前足でここだと言わんばかりに彫り始めた。

 

「どれどれ?」

 

すると、確かに人為的に塞いだと思われる折れた枝が混ざっていた。

 

「お手柄だぞビッグボス!」

 

頭をワシャワシャと撫でてやる。

 

「グルルルル」

 

なぜか低く威嚇するかのように唸られている。

 

そこで返り血と泥だらけの手だということを思い出した。

 

「あ、わり」

 

手を退けて茂みに突っ込むと、そこには隠された道があった。

 

「誰がこんな事を?」

 

なんにせよ、これで進む事が出来る。

 

そう思っていると、今度は自然に生えてきたと思われる茂みがあった。

 

これは術技でも使えなければ通れないだろう。

 

「バルト兄さんの出番ですね」

 

「……冗談だろ?」

 

だが、術技を大勢の目の前で使う訳にもいかない。

 

ましてや、『暗闇の灯籠《カオスキャンドル》』の目の前では。

 

故に、取れる選択はあまりにも少なく、クラウソラスで地道に刈り取るのも難しい程に幹が太い。

 

「ソーサラーリングさえありゃな」

 

そうバルトが溢した時だった。

 

障害物の先に何か大きな姿が過ぎった。

 

あれは一体?

 

それが何かを理解するよりも本能的に姿勢を低くして姿を隠す。

 

それはバルトだけでなく、護衛で同行していたカムイ、カタハ、パルチまでもがである。

 

しかし、ここには戦闘の素人が混ざっていた。

 

その野生とも言える空気感を知らぬ者が居る。

 

護衛対象である青い炎の灯った蝋燭の刺青を持つ者だ。

 

冷や汗が溢れる。

 

気が付かないでくれと切に願う。

 

同時に空気を読めとも護衛対象に思った。

 

アレは生きた殺意。

 

歩く恐怖。

 

その凄みは、強さの差。

 

奴とは敵対してはいけない。

 

誰よりも先にビッグボスとカムイが咳払いした。

 

もういいぞ……ということだろう。

 

「はぁ……はぁ……」

 

どっぷりと汗を流し、茂みの向こうを見やる。

 

「さっきのが?」

 

「ええ、恐らくは……この森のギガントモンスター」

 

「キマイラバタフライでござるな」

 

 




『バルト・イーヴィル』
【種族】始祖の隷長
【所属】紅の絆傭兵団
【通り名】《頼りの絆:ラストリゾート》
【装備品】
クラウソラス
コンパクトソード+1
ソードピストル・試作黒匣
フィートシンボル
武醒魔導器
【通常技】
飛行
エアル吸引
分身
【術技】
蒼破刃
ファーストエイド
ファイアボール
リカバー
シャープネス


『カムイ・シルト』
【種族】人間
【所属】紅の絆傭兵団
【装備品】
オウカ+1
ナイトソード
ブーツ
【通常技】
挑発
察知
変装
【術技】
ローバーアイテム

『カタハルト・シホルディア』
【種族】クリティア族
【所属】暁の雲
【装備品】
ニバンボシ
【技】
不明

『ビッグボス』
【種族】プチウルフ
【所属】バルト
【装備品】
魚人の得物
マント
【通常技】
追跡
マーキング
【術技】
不明

『パルチ・レジス』
【種族】人間
【所属】なし
【装備品】
ストライクイーグル
バトルナイフ
【通常技】

人質
【術技】
不明

『レシピ』
サンドイッチ
おにぎり
サラダ
野菜炒め
海鮮丼
超絶・海鮮丼☆


『共有戦利品』
亀の甲羅×2
海苔×1
グミの元×1
サーモン×2
オレンジグミ×1
大きなハサミ×5
トルビフィッシュ×2
蟹の甲羅×3
口ばしラッパ×1
チキン×1

『貴重品』
ソードピストル・試作黒匣×2
武醒魔導器×1

ーーー『令和4年の5年後から、続きを届けに戻ってきました』ーーー


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話【クオイの森の殺戮虫・中編】

編集中


第2章『殺意の片鱗』

 

まるで死に戦をしたかのような疲弊。

 

キマイラバタフライの姿をハッキリと視認した訳でもないのに、その影を見ただけで本能的に理解させられた。

 

アレは敵対してはいけない歩く兇器、歩く殺意、害悪と害意の塊なのだと分からされた。

 

ギガントモンスターへの戦意など元々無かったが、これで確実に皆の意思が統一されただろう。

 

絶対に戦わない……と。

 

極度の緊張感からの開放は全員の呼吸と筋肉に負担をかけていたらしく、カタハに至っては全身を震わせていた。

 

否、彼女は分かるのだろう。

 

クリティア族特有の『ナギーク』の力によって。

 

「大丈夫か?」

 

近寄って背に触れると冷たく感じるほどに濡れていた。

 

「アイツは通り過ぎたぞ」

 

「ヤツとは戦ってはいけない」

 

奥歯をカチカチと鳴らしながら、まだ緊張したままらしく立ち上がれない様子だ。

 

「ああ、同感だ」

 

カムイは肩を透かし、語るまでもなく同意の様だ。

 

パルチも必死で手を振り、あんなのの相手は御免だと言わんばかりだ。

 

だが、そこでクライアントである護衛対象。

 

暗闇の灯籠《カオスキャンドル》が間の抜けた事を言い出した。

 

「ついでだ、アレを倒して行こう」

 

こいつは何を言っているんだ?

 

思わず思考が理解を放棄していた。

 

この人物はあの殺意の塊を理解していなかった。

 

「馬鹿な事を抜かしてんじゃねえ!」

 

バルトが立ち上がり、その人物の胸ぐらを掴む。

 

すると、フードが捲れて中の顔が分かった。

 

煤汚れた灰色の髪と目の年配の男性だ。

 

死んだ魚の様な目をしている。

 

掴んだだけで、男が宙に浮いたため、体付きは筋肉質ではなく、脂肪の塊でもないということが分かる。

 

「馬鹿な事ではない、大義だろう?」

 

薄ら笑みを浮かべる彼に、バルトは笑みがひくついた。

 

この人物に付いていき、武醒魔導器《ボーディブラスティア》の流通の根源に探りを入れる予定が、ここで依頼解消となっては元も子もない。

 

ようやく掴んだ情報の糸口を自ら失いにいくのは憚られた。

 

しかし、ここでバルトが戦う事を選べば、カムイもビッグボスもカタハも巻き込む事になるだろう。

 

パルチは絶対に見捨てて逃げると思う。

 

自分だけならばいざ知らず、他人を巻き込む訳にもいかない。

 

ギリと奥歯を噛み締め、考えあぐねていると、パルチが手を子招いていた。

 

「……なんだってんだ……こんな時に」

 

バルトが手を離してパルチの元へと寄ると、パルチがバルトの肩を叩いて交代だと言わんばかりに依頼者の前に歩み寄る。

 

「ギガントモンスター相手ってなると後払いじゃ割に合わないんだよねー。

 

だからさ、料金交渉といかない?」

 

そう言って手もみしながらニヤついていた。

 

こんな時にブレない奴だと思っていると、次いで鈍い音がした。

 

「ヨイショー!!!」

 

そこには、依頼者の腹に蹴りを入れているパルチの姿があった。

 

「え、お前何やってんの?」

 

「こいつは夢を見てたのよ!」

 

頭を蹴り飛ばし、完全に伸びたのを確認すると、その男を指差す。

 

「……なるほどな」

 

バルトもカムイも笑みを浮かべる。

 

「これは夢ですね」

 

「何も見なかったし、そもそも何も無かった」

 

伸びた依頼者をバルトが背負う。

 

「そんじゃ、クオイの森を抜けようじゃねえか」

 

背中に感じる男の呼吸と体温。

 

この男はなぜ暗闇の灯籠《カオスキャンドル》に属したと言うのか。

 

自分が始祖の隷長《エンテレケイア》だからこその複雑な胸中で、クオイの森を奥へ奥へと進んでいく。

 

すると、何故か前方から人の声が聞こえてきた。

 

同じように公のルートを通れない者が居るという事だろうか。

 

そんなことを勘ぐっていると、その姿が次第にハッキリとしてきた。

 

フードの様なヘアキャップを目深に被った白髪で顔に真一門の傷のある男だった。

 

バルトはその男を知っている。

 

「魔物を取り逃した上に毒まで貰っちまった……俺様も……これまでか……」

 

「何弱気になってるの師匠!」

 

そして、その傍らにナンが居た。

 

「良いか……全ての魔物は俺に……俺『達』に殴られるために居る……」

 

「っ……誰か解毒を……」

 

だが、彼らの所属するギルドは魔狩りの剣《まがりのつるぎ》という魔物を殺す事を最優先とする。

 

魔物が逃げたと言うことは弱っていたのだろう。

 

その魔物を取り逃す者達ではない。

 

つまり、魔物を追っていったため、通りがかったバルト達しかそこには居ない。

 

カムイがどうすべきかバルトに顔を向けた所で、バルトは背に負った男をカムイに引き渡す。

 

苦笑するカムイを背に右手を挙げると、駆け寄っていく。

 

「弟子を残して一人で逝くつもりか?

 

魔狩りの剣のティソンが……だらしないな」

 

そこで目線を上げたティソン。

 

「……誰かと思えば……俺様の死に際を嘲笑いに来たのか?」

 

弱りつつも立ち上がり、睨みつけてくる。

 

ティソンとバルトは互いを知ってはいるが、それは互いに味方としての認識ではない。

 

ティソンは魔物であると認識した始祖の隷長《エンテレケイア》を守る魔物側の人間としてバルトを認識し、それに対してバルトは反対に無害である始祖の隷長《エンテレケイア》を殺そうとする悪虐な人間として認識していた。

 

だからといって死んで良いとは思っては居らず、静かに弱ったティソンにアップルグミとライフボトルが入ったベルトポーチを投げ渡した。

 

「これだけ有ればザーフィアスは無理でも、ハルルの街までは保つ筈だ」

 

そのベルトポーチを不格好に地面へと落とし、咳き込みながらもバルトを睨む。

 

「必要ない……」

 

「んな訳あるか!」

 

ティソンの頭を掴み、地面へと引き倒す。

 

「くっ」

 

落としたベルトポーチを開いてアップルグミを無理やりティソンの口に押し込む。

 

「万全のお前なら俺より断然強いだろうに、今のお前はこんなにも俺より弱いんだ……弱さとは奪われる罪だとお前は俺に教えてくれただろう?」

 

この場合、ティソンが奪われたのはプライドというものだろう。

 

誇りを穢したとも言える。

 

「つまらない事で意地になるなよ、1つも2つも変わらないだろ?」

 

そうして手を離すと、ティソンはバルトを憎々しげに地面から見上げていた。

 

 

「今のティソンならナンでも御せる筈だ」

 

ベルトポーチをナンへと渡し、先へと進もうとする。

 

「待って!」

 

引き止めるナンに「お前もか」と内心思いながらも振り返ると、ティソンに肩を貸してバルトの後ろに立っていた。

 

「ハルル方面に行くのよね?」

 

「だったらどうした?」

 

生唾を飲み込む音がした。

 

それだけ緊張させているのかもしれない。

 

「キマイラバタフライは逃げたのはそっちよ」

 

バルトの額に嫌な汗が流れる。

 

「ハルルまでしかグミが保たないなら、私も一緒に連れてってくれない?

 

どの道同じ方向なら、二人でいくよりも断然あんた達と居た方が安全そうだから」

 

ナンとティソンを加えて、クオイの森を進む中で依頼主が何度も目覚めそうになるが、それを妨げるのがパルチがその都度意識を刈り取る。

 

事情を知らないティソンとナンからすれば、この非効率なやり取りについて気になったのだろう。

 

「どうしてそんな事を?」

 

その問いに、パルチが肩を透かして言う。

 

「キマイラバタフライをなんでか知らないけど倒そうなんて言うからよ」

 

「魔物を狩るのは当たり前だろう」

 

「あんた達と一緒にしないでよ、私はお金の絡まない仕事はやんないし、契約以上の事なんてお断りだし、ギガントモンスターなんていうのは手の混んだ自殺でしかないわよ!」

 

手の混んだ自殺というのに思わずカムイが吹き出していた。

 

「何か言いたいことがあるみたいだな」

 

自らブルータルへ絡みに行ったバルトの事を思い出したのだろう。

 

「いえ、なにも……」

 

笑いながら言われても説得力の欠片もない。

 

笑みが凍り付く。

 

これ程的確な表現も無いだろう。

 

皆に最初にカムイとビッグボスの表情に緊張が走り、次いでパルチとカタハ、ナンとバルトが気が付いた。

 

そこには足跡がある。

 

引っ掻いたかのような生々しい傷跡があり、根刮ぎ木を倒していた。

 

「どうやったらこんな事になるんだ」

 

「キマイラバタフライには鋭い鎌がある」

 

ナンが木の断面を指でなぞった。

 

その断面は非常に真っ直ぐ滑らかである。

 

「切られたら死に直結するぞこりゃ……」




編集中

ーー『令和4年の5年後から続きを書きに戻ってきました』ーー


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。