Fate/Line Frontier (ジル青髭)
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プロローグ
プロローグ


西暦2XXX年、遂に神秘は枯渇した。

いや、正確に言うのならまだ完全には枯渇はしていない。

しかし、既に魔術師の質は魔術使いが魔術師と名乗る程にまで落ちている。

 

枯渇による地球の衰退は目に見えて進行し、あと数百年もすれば地球は砂漠の星になるだろう。

それから地球が回復するまでに人類が生き残っている確率は限りなく少ない。

 

当然それらの事を人類が黙っているわけではない。

自然環境保護団体やそれに類似した団体が躍起になって活動している。

大昔からそういった活動はあったが今更手遅れである。

今や地球はその心臓を緩やかに止めているのだから。

 

魔術師達はそのことを知っている。

相次ぐ龍脈の衰退と枯渇、マナの供給されなくなった土地の荒野化。

それを防ぐべくして魔術師たちは重たい腰を上げた。

 

具体的には動きの鈍い地球の心臓に衝撃を与えて活性化させようというものである。

だからといって原爆や大量の爆弾を地球の中心に叩き込むのではない。

そんなことをしようものなら西欧財閥は勿論この地球に生きとし生ける物が黙ってはいない。

無論魔術師達もそんなことはする気はない。

現実問題そんなことをしたら地球は時期を待たずして終わる。

太陽系から消えてしまうだろう。

 

ではどうするのか?

答えは簡単だ、大量の魔力、それも一個人が一生持て余すような、それこそ根源にでも到達しゆる程の大魔力を地球のコアに叩き込むのだ。

 

極東の島国、日本。

そんな果の国で大昔に執り行われた大儀式がある。

世界に名を刻んだ者達を英霊として使い魔とし、戦わせるというものだ。

マスターとサーヴァントで二人一組として、それが七組。

無論ただ戦わせる訳じゃない。

 

その大儀式には報酬がある。

最後の一人にはどんな願いでも叶えられるのだ。

それを成し得るのが英霊だ。

 

英霊とは大魔力の塊である。

大儀式にはそれら敗れた英霊たちを焼べる為の盃がある。

聖杯、天の杯であるそれは敗れた英霊を純粋な魔力として貯蓄する。

 

本来であれば六騎を倒して又は七騎共聖杯へ焼べてする聖杯戦争を地球復活の為に使うのだ。

召喚したサーヴァントは直ちに七騎共に自害をさせる。

そうして満たされた聖杯を地球の核へと送る。

 

そうして地球の息を吹き返させる算段だった。

そう、だったのだ。

 

裏切り者の御登場である。

そいつは聖杯を私利私欲の為に求めたのだ。

結局、この崇高なる救済の大儀式は従来の聖杯戦争へと成り下がって行ったのだった。

 

男は言う。

 

「さあ、聖杯戦争の時間だ」



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プロローグ2

世界各地には知られているようで知られていない神秘が山ほどある。

それらはオカルト雑誌や番組などで紹介されるがどれもが娯楽としての域を出たものはない。

今後もそうだろう。

 

魔の三角海域、バミューダトライアングルと言うものをご存知だろうか。

オカルトに少しでも興味のある人なら知っていよう。

フロリダ半島、プエルトリコ自治連邦区、バミューダ諸島を結ぶ三角の領域をバミューダトライアングルと言う。

 

その中では船や飛行機又はその乗員乗客が消滅するという現象が起こっている。

それだけではなく、時代錯誤の飛行機がその中から現れたなどと言う証言もある。

それが人工衛星による撮影に写ってしまっているのだから否定のしようがない。

 

これらは全て現代科学では到底成し得ないものであり一個人でそれをするのは最早魔法使いの域である。

ではこのバミューダトライアングルとは何か。

それは龍脈である。

地球上でも数箇所しかない超巨大な龍脈である。

他の龍脈が束になってもそれらには及ばないだろう。

その海域一帯を潤すだけでなく超常の理までもを現象という形で引き起こすその龍脈はこんな時代になった現在でもその息吹を止める事はないのだろう。

きっと、地球(ほし)の命が途絶えるその時まで。

 

今回、聖杯戦争の舞台として選ばれたのはその魔の三角海域だった。

ただそれはバミューダトライアングルではなく。

日本近海、北太平洋に位置するドラゴントライアングルだ。

こちらも前述した海域同様のものである。

 

昔からその海域には龍が住むと言われ恐れられてきた。

そんな信仰と相まってこの海域には未だ枯れぬ龍脈が残っていた。

 

しかしそこは何度も言っているように海域である。

人が立って歩くようは道は勿論大陸もない。

そんな場所でどうやって聖杯戦争をするというのか。

答えは意外で大規模だった。

地球の存亡がかかっているだけあってやることは大掛かりだということだ。

 

人工島、それが答えだ。

一応言っておくがドラゴントライアングルの周囲には様々な島が点在している。

しかし龍脈の確保という必須事項をクリアするために人工島は必要不可欠だった。

 

青ヶ島、観光名所の一つでもあるこの島から道路を付かず離れずの距離で敷き、新宿ほどの大きさの円型人工島を作ったのだ。

名目としては観光の活性化である。

この人口島にはテーマパークやショッピングモール、住宅街、オフィス街といったビル群がある。

前述した施設はわかるが住宅街等の建物があるのが疑問に思うだろう。

 

理由は簡単だ、ここは聖杯戦争の為に用意された島であって観光など端から眼中にない。

そもそも建設途中でスポンサーが突然降りるとか不慮の事故が続いたなどと嘘の理由をついて無人にする算段なのだから。

 

結果は良好、莫大な資金による建設も時間も目的の為なら惜しみなく出せた。

既に聖遺物も七つ用意できている。

彼のアーサー・ペンドラゴンが生前失くしたとされる剣の鞘、ルーンの刻まれた耳飾り、崩れてはいるものの多少原型を留めている世界最古の蛇の脱殻の化石、赤いマントの切れ端、コルキスに保管されていた書物、世界最古に書かれた毒の調合レシピ、石斧の破片である。

 

志を同じくする魔術協会の同志も自分を含めて七人集まった。

聖堂教会にも基盤となる大聖杯と小聖杯、それらを管理監督する神父も手配済みだ。

 

準備は整った、後は島の七方向に設置したマスター用の民間の屋敷に扮した施設でサーヴァントの召喚と自害をさせるだけだった。

 

どこで道を間違えたのだろうか。

それはもう過ぎてしまった事だ、仕方がない。

仕方がないのだが、一人のマスターが裏切ったことで他のマスターも一人また一人と私利私欲に走ったのがだいぶ悲しかった。

曲がりなりにも長年共に歩んだ友たちだ、それはもう盛大に叫んだ。

 

「ざけんなよ!」

 

と。

その声もトイレと一緒に流した。

ならば一人になっても目的を遂行するまでだ。

手元に残った聖遺物、アーサー王の鞘は既に売り飛ばした。

良い金額でコレクターに渡ったよ。

 

何故そんな最上級の媒体を売ったのかと呆れる者もいるだろう。

こればかりは仕方がない。

如何せん召喚前の打ち合わせ、自身が用意した聖遺物を渡すときに召喚されるであろう英霊のリストを全員で閲覧しているのだ。

 

故に裏切った六人も既に渡した聖遺物を売り渡し新たな聖遺物を手にしたと魔術協会の協力者から報告が上がっている。

 

そして先程こちらにも聖遺物が届いた。

とある書物の切れ端である。

書かれている言語はフランス語、書かれている記述は恐怖が来るや世界が支配されるといった内容だ。

 

自分はこれに全てを賭けている。

これで召喚されるサーヴァントは間違いなく彼のアーサー王以上の働きをしてくれることだろう。

そう思い、願いながら私は召喚陣と祭壇の設置された地下室へと足を踏み入れた。



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英霊召喚

簡単にこの人工島の説明をしておこう。

円形のこの島は中心にオフィス等のビル群、その周りを囲うように右半分が住宅街、左半分がショッピングモールになっている。

島の入口を最初に入るとテーマパークとゲートがある。

その真反対には広大なグラウンドと森林区域、正面入口から右は小中高大の学校や空港、その他公共施設が点在する。

左側には工場が所狭しとあるのだ。

まあ大体はこんな感じである。

 

あ、言い忘れていたが我々マスターが拠点にする屋敷は円状にある住宅街の端に均一の間隔で七つ点在している。

しかしそれも既にもぬけの殻だろう。

既にバレている拠点など捨てて正解だ。

 

しかし、私は違った。

あえて動かなかった。

理由としては工房を作るのに適切だったからと言えよう。

 

そして現在、魔術協会所属の魔術師兼マスターである龍ヶ峰七星(りゅうがみねしちせい)は肌寒い地下室、その床に描かれた魔法陣の前に立っていた。

この計画が始まった当初は二十歳だった七星も今や五十を超えてしまっていた。

しかしその容姿は三十代と言っても差し支えないものだった。

それが魔術によるものなのか体質によるものなのかは誰にもわからない。

いや答えよう、それは七星の魔術礼装によるものだった。

その礼装は魔術師としての質を高める効果があり、その副産物として体の成長が著しく遅れるのだ。

 

七星は手に持った媒体を祭壇に置きに行く。

これで本当に準備が完了した。

七星は直ぐに元の場所へ戻る。

そして令呪が宿った右手を掲げる。

龍が蜷局を巻いたようなそれは正に自分にピッタリだと七星は思う。

 

七星は自身と魔法陣に集中する。

七星が狙うのはキャスターだった。

彼の預言者を召喚してちゃっかりと色々教えて貰おうとか考えている。

そしてなにより他のマスターたちより出遅れてしまったのが大きいだろう。

故に余ってそうなキャスターにしたのだ。

七星は心の準備を整えると口を開いた。

 

「祖に銀と鉄、礎には石と契約の大公」

 

そのワードを引き金に魔法陣が淡く光り始める。

 

「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

更に光は強さを増す。

既に部屋の四隅に付けられた燭台の明るさを上回っている。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すことに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

魔法陣を中心に渦巻くようなそよ風が生まれる。

 

「――――告げる」

 

そよ風はその言葉を待っていたかのように速さを増す。

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うのならば応えよ」

 

部屋は既に吹き荒れる豪風と覆い尽くさんとする光で溢れていた。

しかし触媒は飛ばされることなく祭壇に在り続けている。

 

「誓を此処に。我は常世全ての善と成る者、我は常世全ての悪を敷く者」

 

吹き荒れる豪風が更に増し、七星は飛ばされまいと右足を曲げて左足を後ろに下げる。

右手を支えるように左手で右手首を掴む。

 

あと少し、あと少しで完遂する。

その意気込みを全力で込めて最後の詠唱を言い切る。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

豪風と目を焼き尽くそうとする光りに思わず目を瞑る。

その時間が永遠にも刹那にも感じ、七星は平衡感覚すら失いそうになる体を寸でで止める。

豪風と光りは急激に収まり魔法陣の中に何者かが立っていることを視認した。

 

色白な肌、右目が水色、左目が黄色のオッドアイ。

深緑色の髪は首辺りまで伸びていて下に行くほどに黒くグラデーションになっている。

その肢体は白く細やかで、全体的にスラリとしていて美しい。

小ぶりだが確かに膨らみのある胸が女性であると示していた。

 

「問おう、汝が私のマスターか?」

 

「いや待て、何故裸なんだ?」

 

凛々しく七星に問うサーヴァントは衣類を一切身に纏っていなかったのだ。

 

「問おう、汝が私のマスターか?」

 

しかしサーヴァントはブレない。

まるでそれがどうかしたのか?といった態度である。

 

「問おう、汝が私のマスターか?」

 

このままでは進まないと思い七星は問いに答える。

 

「そうだ、私が君のマスターだ。名を七星、龍ヶ峰七星と言う。君はキャスターで相違無いか?」

 

確認は大事だ。

自分が知っている彼は確か男だったはずだが希に性別が違うことがあると事前に聞いていたので大丈夫だった。

 

「七星、私はキャスターではない」

 

しかし七星は違う理由で呆気に取られた。

 

「違う…だと?で、では君はミシェル・ド・ノストラダムスでは無いのか!?」

 

まさかの事態に七星は立ち眩みすら覚えた。

近くの壁にもたれ掛かる程だ。

落ち着け、落ち着くのだ。

キャスターでないのならそれはそれでいいことじゃないか。

もしかすると彼女はマスター殺しに特化したアサシンかもしれない。

今一度確認をするのだ。

 

「で、では君の真名とクラスは?」

 

一糸纏わぬサーヴァントは七星と目を合わせると口を開く。

普段ならその胸に目線が行ってしまいそうだったが彼女の独特な雰囲気と状況でそうはならなかった。

 

「サーヴァント・セイバー。真名はグラン・ロワ・ディフレイ。貴殿の呼びかけに応じ参上した」

 

「セイバーだと?」

 

まさか自分がセイバーを引き当てることになるとは思わなかった。

嬉しさがあるが七星はその真名に全くと言っていいほど覚えが無かった。

 

あの媒体ではてっきり著者が出てくるものと、占星術にも携わり、およそ日本での知名度は日本の武将や首相に並ぶだろう。

しかしその媒体から出てきたサーヴァントの名前を私は知らなかった。

 

「グラン・ロワ・ディフレイ…?」

 

「人は私をル・グラン・ロワ・ディフレイと呼ぶ」

 

いや、ル付けられてもなんにも変わんないから。

ちょっと大丈夫かこいつ的な表情をしないでもらいたい。

ただでさえ今の状況に混乱しているのだから。

 

「ああ、そうか、貴殿は日本人だったな。ではこう言った方が馴染みがあるだろう」

 

なんだ日本での通り名のようなものがあるのか。

少し安心した七星。

素性の知らないサーヴァントと聖杯を取れるほどこの聖杯戦争は甘くはない。

 

「そうなのか、では改めて名を教えてくれセイバー」

 

壁から離れ、七星はセイバーに向き直る。

 

「わかった。私はセイバー、この極東では恐怖の大王として親しまれている」

 

恐怖の大王?

しかし媒体を見て直ぐに思い当たった。

彼女はノストラダムスの大予言に記された恐怖の大王だと。

因みにだが別に親しまれてはいない。

 

なるほど、私は大変な人物をこの聖杯戦争に呼んでしまったようだ。

七星はとりあえず自身が来ていたスーツの上着を彼女に着せた。

 

「とりあえずセイバー、君の衣服を用意しよう」

 

「かたじけない」

 

二人は地下室を後にするのだった。

 

此処に最後のサーヴァントが召喚され、全てが揃った。

聖杯戦争の開幕である。



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第一章
開戦


とりあえず七星は寝室のクローゼットに用意してあった男物の紳士服をセイバーに着せることにした。

サイズ的にどうかと思いもしたが一番小さいサイズの紳士服がぴったりと合ったのでそれを着て貰った。

 

「そうだ、忘れていた。セイバー、君の願いはあるのか?」

 

ふと思い出して聞いてみることにした。

だがしかし、七星にはこの話題を聞いて良いものかという懸念があった。

なぜなら相手は世紀末論に名を連ねる一人なのだから。

 

「とりあえず今ある文明諸国は全て破壊する」

 

七星は手で目を覆った。

やはり彼女は世界滅亡を夢見ているようだ。

しかしそんなことをしようものなら安全装置が作動してしまうはずだ。

そんな兆しは今の所ない。

 

「七星、何か誤解をしているぞ」

 

「誤解?」

 

「私の願いは世界統一国家の誕生だ」

 

「統一国家?」

 

セイバーは壁に貼り付けてある世界地図の国境線をそっと撫でる。

 

「ああ、この世界地図にある継接ぎだらけの世界は見ていて痛々しい、壁も、柵も、人には必要ないものだ。七星、お前にはこの国境が何に見える?私には人間(どうぶつ)を閉じ込めている檻にしか見えない。だから壊し、私が統治する」

 

壮大過ぎると七星は思った。

いや、壮大さで言うのなら自分も負けてはいないだろう。

しかしその方向が違うのだ。

 

「なるほど、確かにおっかないな、流石は噂に聞く恐怖の大王様だ」

 

「それで七星の願いはなんなのだ?」

 

「私の願いは地球の延命とでも言っておこう」

 

「そうか、では我々は良い仲間となり得るだろう…」

 

それだけ言うとセイバーは棚に置いてあったこの島の見取り図を広げて見始めた。

正直なところ良い仲間というのが七星にはピンと来なかったがそれを深く考える前に七星の意識は別の物へと向けられた。

 

電話だ。

寝室から出て直ぐの所にある据え置き型の電話だ。

ダイヤル式とかなりの骨董品だが縁や各所に金の装飾が施されているので気に入っている。

それが鳴り響いたのだ。

 

七星は地図を凝視するセイバーを置いて廊下に出る。

廊下に出ると一層電話の音が大きくなるが特に嫌ということはない。

これが目覚まし時計だったのなら叩き割っていることだろう。

 

七星は電話の上に置かれた受話器を手に取る。

電話の相手は身内かもしくは監督役の神父だろうと思っていた七星は聞こえてきた声を認識して苛立ちを覚えた。

 

「やあ七星、健在か?」

 

嗄れた声で、なんとも人を馬鹿にしたような喋り方をする男。

電話の向こうでにやけている面が目に浮かんだ。

 

「健在だと?ふざけるなよ老害、誰のせいでこうなったと思ってるんだ!」

 

電話の相手は七星を最初に裏切った男、ガーランド・ウラスベルトと言う魔術師だった。

彼は足を生まれて早くに悪くしておりずっと車椅子で過ごしている。

歳は既に百を超えて、七星と違い見た目でもわかる。

長い髪は既に白髪で青色の目も今はくすんでいる。

 

「おー怖い怖い、七星は年寄りを労わる事を知らん」

 

ふざけるのもいいかげんにしろよと言おうとして途中で言葉を遮られる。

 

「まあ待て、お前さんにプレゼントがあってな?」

 

「は!?」

 

「誕生日プレゼントじゃよ、まあ誕生日じゃなくても渡すがなハッハハ!」

 

そう言うだけ言ってガーランドは一方的に電話を切った。

それと同時に寝室からセイバーが飛び出してきた。

 

「七星敵だ!」

 

「まさか!」

 

プレゼントの意味に気がついたが既に遅かった。

次の瞬間には七星は爆発に巻き込まれていた。

 

「くっ!」

 

素早くセイバーが七星を抱えて窓から飛び降りる。

七星たちがいたのは二階だったがセイバーなら問題はなかった。

それに飛び降りた所は庭になっていて綺麗に揃えられた芝生がセイバーと七星の衝撃を吸収して緩めたのだ。

 

直様体勢を立て直したセイバーと七星は爆発により半壊した屋敷とその後方上空に姿を見せた時代錯誤な戦闘機を見た。

先端にプロペラの付いた全時代の戦闘機だ。

 

「あの中にサーヴァントの気配がある」

 

セイバーは淡々とそう言った。

その手には何時出したのか鉄で出来ているであろう何の飾り気もない西洋剣が握られていた。

 

「相手は上空にいるんだぞ、戦えるのか?」

 

既に戦闘機は旋回してこちらに向かってきている。

射程距離に入れば撃ってくるだろう。

 

「成るように成る、七星は隠れていろ」

 

「ああ、そうする。お前の力を見せつけてやれセイバー」

 

そう言うと七星は巻き込まれず、この戦況を見れる場所を探しに走っていった。

セイバーは剣を構えると何かを呟く。

途端にその無骨な剣は黄金に輝き始める。

いや、輝き始めるでは適切な表現ではない。

なぜならその剣は先程までの鉄の剣ではなく。

 

「勝利を呼ぶ王の剣だ、貴様に耐えきれるかライダー?」

 

そう言うとセイバーは剣を振り下ろした。



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日の本の戦士

垂直の尾翼に白い稲妻が描かれ、機体の横に小さな黒星が三十ほどずらりと描かれた戦闘機に搭乗していたライダーはその美しくも雄々しき光の斬撃に見とれてしまった。

そのせいか反応に遅れて回避し損ねる。

 

咄嗟に避けはしたものの左翼を根元から持って行かれて機体がバランスを崩す。

見る見る内に期待は回転をしながら先程戦闘機一機(・・・・・)を使って爆撃をした屋敷に墜落する。

 

ライダーは直ぐに機体の窓を引き剥がして外へ脱出する。

ライダーが飛び降りると同時に期待は爆発して消滅した。

煙で汚れたパイロット用のゴーグルを上にずらす。

 

セイバーは戦闘機から出てきたサーヴァントを見る。

頭には耳まで隠す帽子とゴーグル。

服は大昔、まだ日本が帝国を名乗っていた時に陸軍の航空部隊が使っていたと思われるパイロットスーツという格好だった。

左右の腕には自国を示す日の丸の国旗が貼られている。

間違い用もなく日本の英霊だ。

ライダーがセイバーを視認すると驚いた顔をする。

 

「先ほどの剣撃はあなたのような麗しい撫子が?」

 

口説いているわけではない。

ただそう思えただけだ。

今の攻撃が女子のものだったと知れば大抵のものは驚くものだ。

 

「それにしても緑の髪とは…一体何処の国だ?米か英かはたまた中か?まさか露ではあるまいな?」

 

下の方は黒くなっているので染めているのかもしれないが顔は日本人とは違うので別におかしくは思わなかった。

 

「フランスだ」

 

「仏か、生前も敵対勢力ではあったが今回もとは…」

 

「一つ訂正しておこう。私はフランスで生まれた別段フランス人というわけでもない。特に気にすることはない」

 

その言葉にライダーは首をかしげて混乱を示す。

 

「えーと、要するに?」

 

セイバーは一度溜息を吐くと剣を構える。

構えた剣は先程の聖剣ではなく最初に出した鉄の剣だった。

 

「国が違うと何か困ることでもあるのか?」

 

「ハハッ、違いない」

 

ライダーも腰にぶら下げた軍刀を引き抜く。

サムライたるものこれがなくては話にならない。

普段搭乗するときは持っていかないがこの体というやつは便利である。

欲しい時に剣が現れるのだから。

 

剣の英霊(セイバー)騎の英霊(ライダー)の俺が剣で挑むのも可笑しな話だが許してくれ。対人となるとこの軍刀か銃ぐらいしか持っていないのだ」

 

「よかろう」

 

両者が構える。

セイバーは足を開き、両手に剣を持ち、剣を右上段に構える。

ライダーは左足を後ろに引き、剣を前に構える。

両者とも間合いは同じ数メートル。

 

先に動いたのはライダーだ。

一気に走り間合いを詰める。

剣と剣がぶつかって火花が散る。

両者の剣は宝具である。

セイバーの剣は先程光りを放った者と違う故にライダーの取り出した軍刀と力を同じくしていた。

 

その光景を遠くから見ていた七星はライダーの真名について考察する。

背格好からするに日本の英霊、しかも世界大戦時代だと推測できる。

ただ七星自身そこらへんの事は詳しくないので詳細がわからない。

 

「他に手がかりになるものは…」

 

ライダーのマスター、あの老害でも近くにいたのなら攻撃でも何でも仕掛けていたのだがやつの性格上それは限りなく零である。

 

故に他の手がかりを懸命に探す。

一番の手がかりは先程の戦闘機だろうか。

七星はその形状等を思い出す。

右翼と左翼に赤い日の丸、灰色の機体、尾翼に白い稲妻の描かれていたはずだ。

 

七星が考察をしている間にもセイバー達は刃を交え続けていた。

汗一つ、顔色一つ変えないセイバーと苦戦を強いられているライダーとでは次第にその状況も変わりつつあった。



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乱入者

セイバーの剣がライダーを襲う。

既に防戦を強いられているライダーはそれを躱すか軍刀で防ぐしか手立てがなかった。

そしてついに軍刀が弾かれる。

軍刀はライダーの後方に飛び地面に突き刺さる。

 

セイバーは詰め寄って首筋に剣を突き立てる。

依然としてセイバーは汗水一つ流していない。

その涼しげな顔は真っ直ぐにライダーを捉えた。

 

「降参だ、ひと思いにやってくれ」

 

ライダーの言葉にセイバーは流石に驚きを見せる。

 

「随分と潔いんだな、願いは無いのか?」

 

セイバーの問いにライダーは空を仰ぐ。

呆れているのか悲しんでいるのかわからない表情をするライダー。

 

「願いか…存外何もないんだなこれが、生前ならあったかもしれないが今はそうでもない。ただ、一つ、どんな世界、どんな時代だろうと子供がその命が絶たれるなんてことがあっちゃいけねぇよな、そうは思わないかセイバー?」

 

「そうだな」

 

セイバーの一言にライダーは笑みを浮かべる。

 

「セイバー、お前がそういう奴でよかった」

 

ライダーは自身の両手を見る。

茶色い手袋があるだけだがライダーには血腥い手があるようにしか見えなかった。

 

ライダーが召喚されたのはなんの飾り気もない白い壁と床がある部屋だった。

目の前には自分を召喚したであろう魔術師。

名前をガーランド・ウラスベルト(Garland Urasbelt)

白髪の老人で、足が悪いのか車椅子に座っていた。

その右手の甲にはマスターの証である花の様にも、竜巻の様にも見える令呪があった。

 

ライダーは召喚されたからには懸命に、命をかけてでもマスターに聖杯をもたらそうと宣言した。

その意気込みにはマスターであるガーランドも喜ばしかった。

その悪巧みをする子供の様な笑みを浮かべる老人はライダーについて来いと言うと部屋を出る。

 

廊下も無機質で召喚された部屋を何ら変わらなかった。

しばらく歩いていると先ほどの部屋と同じ作りの扉の前に到着する。

まあ、どの部屋も同じ作りなのだが。

違いとしては他より扉が大きいぐらいか。

 

扉が開くとガーランドに引きつられて部屋に入る。

そこには元気良く食事をする子供たちが大勢いた。

綺麗な洋服に豪勢な食事。

ライダーはそんな光景を見て顔を綻ばせる。

 

確かに星は死に近づいているが悪くない時代かも知れないと思えた。

ガーランドは言った、中東や欧米諸国、勿論日本などの様々な国の身寄りもない子供たちを引き取ってこの場に集めたと。

 

ライダーは聞く、しかし何故こんな戦場に連れてきたのかと。ここは危ない、今は安全かもしれないがいずれはここも戦場になってしまうだろう。

 

ガーランドは笑った。

それはまるで悪魔の如き笑みを浮かべて。

 

「ライダーよ、この部屋にいる子供を敵機(・・)として殺せ」

 

「なに?」

 

急激にライダーの表情から感情が消える。

冷め切った表情でガーランドを見るライダーはまるで復讐に身を焦がす復讐者のようだった。

 

「今、なんと?」

 

今だ絶やさす笑みを浮かべるのは子供たちの光景を見てか、この後起こるであろう惨劇を想像してか。

ガーランドはライダーに向き直る。

 

「ライダー、君のステータスは突出して目の見張るものは無かった。それもそうじゃろうて、君は近代寄りのサーヴァント。何か奇跡を見たわけでも起こしたわけでも何でもない。じゃが貴様の宝具に面白いものを見た。本当はこの子等は君の魔力としてかき集めたものじゃったが話が変わった。ライダー殺せ、何を今更躊躇うことがある。大戦で多くの人を殺したのだろう?」

 

「外道が!」

 

鬼気迫る表情でガーランドを罵倒するライダーは部屋を出ようとする。

 

「どこへ行こうというのだねライダー」

 

「貴様と聖杯を競うのは御免だ」

 

「令呪によって命じる。ライダー、この部屋の子供等を敵機として…殺せ」

 

ライダーが振り返る。

その表情は最早鬼だ。

力強く床を叩きながら歩く。

ライダーの抵抗は虚しく、ガーランドは嘲笑う。

ガーランドの横を通り際にライダーは。

 

「屑が!」

 

次の瞬間、ガーランドの目の前には戦闘機が現れた。

床や壁を壊しながら現れた戦闘機に驚く子供たち。

 

「ファイヤー!」

 

ガーランドの邪悪な掛け声と共に銃声が鳴り響く。

一瞬にして団欒とした部屋は地獄になった。

戦闘機には黒い星がここにいた子供の数と同じ(・・・・・・・)だけ浮かび上がった。

戦闘機が消えるとライダーは部屋を出て行こうとする。

 

「命令じゃライダー、ここへ襲撃してこい」

 

一枚の紙を受け取るとライダーは部屋を出ていった。

 

「セイバー、俺はマスターの命令でここへ来たわけじゃない。死にに来たんだ。どうせだったらまともなやつに殺されたい。お前は十分だ」

 

だから殺してくれとライダーは言った。

 

「良いだろう、もとより私は貴様を殺す気で戦った。そこに変わりはない」

 

セイバーが剣を振りかざす。

 

「ありがとう」

 

ライダーは目を瞑る。

そしてセイバーは剣を振り下ろした。

 

「残念ながらそれはできない」

 

ライダーが目を開けるとそこには一人の男がいた。

銀色の髪を後ろに上げて、黒いコートに黒い革のズボン、銀製のピアスや指輪などをふんだんにつけた男。

男はライダーに背を向けて右手で剣を掴んで止めていた。

 

その光景に驚く二人。

セイバーもライダーも知らない男がそこにはいた。

 

いや、素性ならわかった。

ライダーは剣を掴んだ右手の甲に注目した。

令呪だメイスの様な模様をした令呪がそこにはあった。

既に一画無くなってはいるが間違いなく令呪だった。

 

男は左拳をセイバーに叩き込んだ。

効くわけがない。

相手はサーヴァント、如何に聖杯戦争に参加しているマスターと言えどもサーヴァントには敵わない。

 

しかしセイバーは後方に吹き飛んだ。

それを見届けると直ぐに男はこちらに振り向く。

 

「誰だ、お前は」

 

しかし返事の代わりと男はライダーの腹を殴って気絶させる。

そのまま倒れるライダーを肩に担ぎ、男はセイバーの方を向く。

 

「マスターによろしくな!」

 

男は地面を蹴って高く飛ぶと何処かへ消えていった。



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ライダーの真名

セイバーとライダーの戦闘に割り込んだ男はライダーをそのマスターであるガーランドの所へと運んだ。

 

「すまないのぅ陸沼(くがぬま)の坊主」

 

陸沼と呼ばれた男、陸沼齊弌郎(くがぬませいいちろう)はライダーを床に下ろすとガーランドへ向き直る。

 

「坊主は止めてくれ、これでも二年前に成人してるんでね」

 

「おお、すまんな」

 

不敵な笑みを浮かべながらガーランドは車椅子をライダーの下へ近寄らせる。

齊弌郎は聖杯戦争が始まってから疑問だったことをガーランドへ尋ねる。

 

「なあ、ガーランドの爺さん。俺の召喚したバーサーカーは確かに強いけどよ、こいつの触媒もそこのライダーの触媒もあんたが持ってきたもんだろ?」

 

「それがどうかしたのか?」

 

「どう考えたってバーサーカーはあんたが召喚したほうが良かったんじゃないかって」

 

「なんじゃ、今更不満か坊主」

 

「不満なんかねぇよ、バーサーカーのおかげで俺の願いはもう叶ってんだ、不服なもんか…って坊主はよせって」

 

「すまんすまん、そうじゃのうこのライダーを選んだ理由か、そりゃもちろん面白そうじゃからかのう」

 

ガーランドはそう言うと笑いながら部屋を出ていった。

 

焼け落ちてしまった館を後にした七星とセイバーは新たな拠点として居住区にある日本家屋に来ていた。

門を抜けるとそう広くはないが整えられた庭があり、直ぐそこには玄関がある。

中に入ると段差がありここで靴を脱ぐようになっている。

入って直ぐの所は廊下と居間でその奥にも他の部屋へと通じる廊下がある。

 

七星はとりあえず居間にあるテーブルに先程調達した資料を取り出した。

そこには日本が戦争していた時に使用した戦闘機の写真などがあった。

 

「セイバーこれを見てくれ」

 

セイバーもテーブルについてその写真を眺める。

それは先程セイバーが戦っていたライダーが使っていたものと酷似していた。

細部は違うが概ねそれだろう。

 

「わかったのか?」

 

セイバーの問いに七星は頷く。

正直な話しそれに行き着くのはそう難しくはなかった。

というよりは呆気ないほど容易だった。

 

「あれは間違いなく宝具だったよなセイバー?」

 

「ああ、真名開放こそしてはいなかったが間違いなく宝具だった」

 

それを聞いて確信した七星。

操縦席側面の黒星、垂直尾翼の稲妻、大日本帝国陸軍のパイロットスーツ。

尾翼に稲妻を描いていたのは飛行第11戦隊、通称稲妻部隊。

そしてなにより機体に黒星を描いていたのは篠原弘道(しのはらこうどう)というパイロットだけだったようだ。

 

「東洋の悪魔か」

 

セイバーはその戦闘機の写真をじっと見据える。

白黒で、しかも色褪せているがそこに写っているのは紛れもなく先の戦闘でセイバーが撃墜したライダーの宝具にほかならない。

 

「真名が判明したのなら問題はない。次は無いだろう」

 

セイバーは席を立つと霊体となって消える。

しかし気がかりである。

あの老害がわざわざ真名の目立つ様な真似をするだろうか。

七星は罠である可能性も含めて仮眠を取ることにした。



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必殺の宝具

翌日、膨大な魔力の爆発による地震で七星はたたき起こされた。

直様居間に駆けつけたセイバーと共に外へと出る。

空を見ると島の後方、森林の方から煙が上がっていた。

ここからは大分距離があるのでセイバーを先に行かせて自身は近くに置いてある車で行くことにした。

 

聖杯戦争に参加したマスターとサーヴァント間に備わる念話によって逸早く戦況を確認したセイバーから情報が伝わる。

 

どうやら漢服に身を包んだアーチャーらしきサーヴァントと目をぎらつかせ、猟奇的な表情をする紳士服に身を包んだサーヴァントが戦っているとのことだ。

男はひたすらに悪魔召喚の呪文や敵を弱体化させる呪詛を唱え続けているのでキャスターであると見受けられる。

 

これでセイバー、ライダー、アーチャー、キャスターが出揃ったというわけだ。

特に気がかりなのは昨日現れた七星の知らないマスターだ。

ライダーを助けた事からガーランドの協力者か同盟関係にあると推測している。

しばらくして七星もセイバーが居る森林の入口に到着する。

 

「どうなってる?」

 

「キャスターの召喚する低級の悪魔をアーチャーが弓で屠り続けている」

 

確かに未だ遠くから聞こえる戦闘音とチラホラと見える薙ぎ倒された木々を見るに現在進行形で戦っているとわかる。

 

「優勢なのは?」

 

「アーチャーだな…七星?」

 

セイバーの訝しげな顔を他所に七星は言葉を続ける。

 

「アーチャーの援護をしろ、私はアーチャーのマスターを探す」

 

そう言うと七星はセイバーの返事も聞かずに森林内へ走っていく。

単純な話だ、三大騎士であるアーチャーを仲間にすることができれば有利にできる。

ここでアーチャーを手助けすればお互いが残るまでの共闘ぐらいは契約できるかもしれない。

 

森林内を走っていると意外なことに向こうから接触してきた。

糸目に短く切り揃えられた黒髪、灰色の拳法家が着るような漢服を着る男。

歳は七星と同じぐらいだったと認知している。

しかし七星と違い全くと言っていいほど老いを感じさせない。

 

「こんにちわ、七星さん」

 

「久しぶりだな劉威燕(りゅういえん)

 

中国出身の魔術師、苗字を劉、名を威燕。

既に衰退しきった現代でも数少ないまともな魔術行使ができる正真正銘の魔術師だ。

軽い口調だが本人も武術の心得があり護身に長けていると聞く。

 

「さっきから見てたらどうやら私を探しているみたいだったのでこちらから出向いてみました。何か御用で?」

 

「単刀直入で悪いんだが手を組みたい、同盟だ」

 

「ホントに単刀直入ですね七星さん」

 

威燕はそう言いながら近くの木にもたれ掛かる。

 

「そうは言いますけど今自分戦闘中なんですよ?相手は底無しって思えるほどわんさか悪魔を出す生粋の召喚魔術師(サモナー)、難儀してるんです」

 

「知っている。だから来たんだ。今私のセイバーが君のアーチャーの援護に向かっている」

 

「ほう、セイバーを引き当てたんですか、なるほど…」

 

威燕はしばらく黙ると七星に向き直る。

どうやら自身にサーヴァントと会話をしていたようだ。

 

「七星さん、とりあえずアーチャーにはセイバーは増援だから攻撃するなとは言っておきました。それで同盟の件でしたね」

 

以前として変わらぬ態度をとる威燕、これは出会ってから一度も変わらなかった。

これが彼を自信より若く見てしまう要因なのだろう。

 

「ああ、受けてくれるか?」

 

「ええ、受けましょう。受けましょうとも…これなら鬼に金棒ってやつですよね?」

 

「そ、そうだな」

 

「じゃあ早く今後の方針なんかも話したいんで今の戦闘も終わらせんといけませんね」

 

そう言うと威燕は七星にも聞こえるようにアーチャーとの会話を口にする。

 

「あ、アーチャー?予定が変わったからもう片付けて良いよ。そう、ちゃちゃっと宝具で潰しちゃって…それじゃあ何処か話せる場所に行こ」

 

威燕が七星を少し通り過ぎてから振り向く。

 

「あっ、言い忘れてた」

 

「なんだ?」

 

「衝撃に気をつけて」

 

その言葉と同時に木々を全て薙ぎ倒し、吹き飛ばす衝撃が森林区域に駆け巡った。

七星は咄嗟のことに反応が遅れてしまった。

吹き荒れ巻き荒れる木々が目の前に迫る。

流石の七星も死を覚悟する。

しかし寸ででセイバーが駆けつけて木を弾き飛ばす。

 

数分後には森林区域を駆け巡った暴力も収まっていた。

地肌の剥がれたこの一帯は無残な姿になっていた。

所々に融解した痕跡も見られる。

これがアーチャーの宝具の威力なのだと身を持って知ったのだった。

 

「おめでとう七星さん、合格合格、いや、今ので死ぬようなら同盟は無理だと思ったんで、でもそのセイバーはあそこから一気にここまで来て七星さんを助けた。実力も十分だし申し分無いね。じゃあ行こか」

 

どんどん進む威燕、呆然とする七星にセイバーが耳打ちする。

今のでキャスターは消し飛んだと。

 

七星は今更ながらとんでもない奴を仲間にしたのだと思った。




キャスターは可哀想なことに出て直ぐに退場しましたね。
真名は次か次の次あたりに開示します。
ヒントは『19世紀』『二面相』『悪魔』『貴族』です!


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襲撃

七星たちが案内されたのは住宅街にある一つの家だった。

住宅街と言っても誰かが住んでいるわけではないが。

 

威燕はリビング入る。

赤い絨毯に背の低い長テーブルとそれを挟むように革のソファが二つ。

それとキッチンが奥にあった。

 

威燕は壁際のソファに腰を下ろすと反対側に座るように七星を促す。

 

「アーチャー、お客さんにお茶出して」

 

「私がか?生憎と弓以外はお世辞にも上手いとは言えないのだぞ?」

 

「いいからいいから」

 

現界したアーチャーをキッチンに向かわせる威燕。

七星もソファに座る。

それを見た威燕がその隣で立っているセイバーに顔を向ける。

 

「君も座ったら?」

 

「私はここで良い」

 

「そうなの?まあいいか」

 

威燕は七星に向き直ると同盟について話し始める。

 

「まず同盟の有効期限だけどこれは他のサーヴァントととマスターが敗れた時で大丈夫?」

 

無論である。

そこに付け加える条件も、異論を唱えることも無い。

七星は頷く。

 

「じゃあ次ね、同盟中は互に協力し合う。効率重視で行こう」

 

「と、言うと?」

 

「常にお互いが近くに居るってことさ、戦う時も生活する時もね。これなら奇襲されても対処できるし場合によっては有利に運べる」

 

七星は思考する。

確かにその言葉に偽りはなく理にかなっている。

サーヴァント戦でも一対一ではなく二対一の方が有利である。

注意すべきは敵の宝具が対軍又は対城等の広範囲に効果を及ぼすことだろうか。

 

「それでいこう」

 

「お茶が入ったぞ」

 

そこへアーチャーが湯呑を四つ運んでくる。

漢服に身を包んだ黒髪を後ろで纏めた男。

その凛とした佇まいに女性が見ればそれだけで虜になってしまうだろう。

 

「ありがとう」

 

七星は湯呑を受け取って口にする。

…まずい。

が、一応飲めるので我慢する。

 

「やっぱり不味かったか」

 

威燕がニヤニヤとしているのが腹立たしい。

 

「すまない」

 

「いや、君は悪くない」

 

「すいませんね、まあ大体はそんな感じで行きましょうか。何となく友好も深まったことだし…」

 

突然威燕の糸目が開き鋭い目つきに変わる。

七星も急激な悪寒に何が起きたのか察知する。

凄く嫌な感覚が全身を駆け巡る。

まるで体中を舐められているかのようだ。

 

「これは来てますね」

 

アーチャーが玄関の方を見て言う。

するとインターホンが鳴った。

そして扉を叩く音。

 

宅配かと普段なら、普通なら思うだろうがこの人工島には余人はいない。

閑静というか無音の住宅街のこの家をピンポイントで訪れるものなど敵意外ありはしなかった。

 

しかしどうだろうか、今だにインターホンを鳴らす敵。

こちらが出向かなければ延々としているつもりなのだろうか。

 

「行ってみましょうか七星さん」

 

「大丈夫か?」

 

「二人に任せれば問題はないですよ」

 

そう言うと立ち上がって玄関に向かう。

玄関に着くとうっすらと扉の前に人影が見える。

敵は一人だ。

威燕はアーチャーに扉を開けるように支持する。

 

「はいはい今開けますよ」

 

扉に向かって声を出す威燕。

ドアノブが回される。

セイバーは既に鉄の剣を出していた。

 

ゆっくりと扉は開いていく。

そして、扉の前にはファーストフード店の従業員のような格好をした男が一人。

しかし男の手には何もない。

男は目を見開き口元を大きく開けて高らかに宣言する。

 

我が家の台所へようこそ!(ウェルカム・ギャロウェイズ・キッチン!)

 

突然の大声に怯んでしまった。

 

「行け、セイバー!」

 

七星はセイバーに指示を出すが既にそこには誰も居らず。

セイバーの剣が空を切るだけだった。

 

敵は去った?

いや、あの気味の悪い感覚はなくなるどころか増している。

警戒は怠れない。

 

「威燕、今のは宝具だ」

 

「やっぱりか、七星さんもう自分等は敵の術中ですよ」

 

「そうみたいだな、この気分が悪くなるのが宝具の効果なのかなんなのか…」

 

「七星、今のは間違いなくサーヴァントだ」

 

「しかしもう気配が無い」

 

セイバーの言葉をアーチャーが続ける。

気配を感じさせないサーヴァントなどひとつだけだ。

殺の英霊(アサシン)、中東の暗殺教団の長である山の翁がそれに該当する。

名をハサン・サッバーハ、その歴代の誰かが呼ばれると聞く。

その姿は黒衣に身を包み、皆が髑髏の仮面をつけていると。

しかし今の男は黒衣も髑髏の仮面のつけてはいなかった。

 

「とりあえず外へ出ましょう。そのほうが何かと動きやすですから」

 

七星たちは外へと出た。

正体不明のアサシンと対決するために。



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二戦目

三十代後半と思われる男は森林内を何かから逃げるようにして走る。

そのせいで服には小枝や葉が所々に付き、解れている所まである。

新調したワイシャツとセーターは既にボロボロだ。

しかし足は止められない。

 

アサシンに出会したのは先日の深夜のことだ、隠れられる工房を作ろうと森林区へ入った時に奇襲されたのだ。

間一髪、キャスターの召喚した護衛用の悪魔が身代わりとなって助かったのだ。

 

直ちに戦闘態勢に入るキャスター。

相手はアサシンとだけあって気配が掴めない。

キャスターは更に無数の悪魔を召喚して捜索する。

すると後方に向かった悪魔の反応が消えた。

 

男は殺られる前に振り向いた。

しかしそこにいたのは食事をするアサシンだった。

食っている。

召喚した悪魔の右足に齧り付く姿がそこにあった。

 

髭は短く切り揃えられ、髪は少し長いぐらい。

服装は軽装で身軽な格好、腰には包丁がいくつもぶら下がっていた。

 

アサシンは残った足の骨を捨てると一言。

 

「まあまあだな」

 

そして視線を男へと向ける。

それは紛れもない殺人鬼の目だ。

顔には笑顔を貼り付けている辺り狂気に満ちている。

 

「次はお前を頂こう。キャスターのマスター」

 

殺し(かいたい)にかかるアサシン。

当然男も黙ってはいない。

男の横で呪文を唱えるキャスターが召喚した悪魔で反撃する。

 

アサシンは両手に包丁を持って応戦する。

なんとも変わった戦闘スタイルだ。

まるでここが厨房か何かに思えてくる。

包丁を空中で自在に操り次々と捌いていく。

そして食す。

心臓を、脳を、肺を、腸を、眼球を、舌を。

 

「食い飽きた」

 

「舐めるな食人鬼!」

 

更なる悪魔の投入。

このサーヴァント・キャスターは神秘は浅いが生前に有した能力だけは神代に引けを取らないものだった。

キャスターの宝具は自ら魔力を精製して永久機関の如く活動し続ける。

強いて欠点を言うならばその用途が悪魔召喚か呪詛に限定されることだろうか。

 

いくら捌こうと数で勝り続けるこちらに負けは無かった。

そう、無かったのだ。

邪魔が入った。

 

朝日が差し込み始めた頃。

アサシンも幾らか疲労を見せ始めた。

そこに一気に悪魔を送り込んだのだ。

しかし悪魔達は全て射殺された。

 

そう、新手のサーヴァントである。

矢を使ったので紛れもなくアーチャーであろう。

 

「くそ!余計なことを!」

 

組んでいるのかいないのかは不明だが邪魔をされたことには変わらない。

そのせいでアサシンが姿を晦ましてしまった。

仕方がないので相手をサーヴァント・アーチャーに変更する。

 

無数に召喚する悪魔はその尽くが矢によって打ち抜かれていった。

十放てば十射られる。五十放てば五十射られると、その繰り返し。

挙句の果てには更なる邪魔が入った。

サーヴァント・セイバーだ。

アーチャーを援護しているのかこちらにばかり攻撃してきた。

 

「キャスター!」

 

「なんだマスター?」

 

詠唱を中断したキャスターがその人相の悪い顔を向ける。

 

「奴らに目に物を見せてやるぞ!」

 

男がやじろべえの様な模様をした令呪が宿る右手を掲げる。

 

「――――令呪を持って命じる。――特大級の悪魔を召喚して邪魔者を排除しろ――!」

 

その言葉を紡ぐと同時に一画が消える。

既に一度使っているので残っているのは一画だけだ。

 

本来上級の悪魔は召喚できないが令呪による行使でそれを無理やり実行させる。

キャスターはその強行にニヤリと笑うだけで先ほどとは全く違った詠唱を唱え始める。

 

その光景を遠くから見ていたアーチャーはその協力な千里眼でキャスターの本質を見ていた。

 

「成る程、そこに付いているのが(ほうぐ)か」

 

そう言ったアーチャーは不意に一度上を見上げると視線を元に戻す。

 

「セイバーよ、どうやら手を組むようだ」

 

「そうか」

 

「では茶番を終わらせよう。あれでは本体が可哀想だ」

 

アーチャーが弓を力強く引き絞る。

その力を一身に受けるのは予め作っておいた普通の矢だ。

しかし一度アーチャーが放てばそれは神獣をも殺すであろう。

 

アーチャーは狙いをキャスターに定める。

強大な魔力の収束に息を呑むセイバー。

そしてアーチャーはその真価を口にする。

 

■代九■射■(■■■だいく■■しゃ■■)

 

あまりの防風が巻き起こりその真価を聞きそびれたセイバー。

だが、そんなことは問題ではない。

今、暴力とでも言うべき力の奔流が森林区を破壊して過ぎ去った。

何の冗談か、慈悲なのか、アーチャーはマスターは攻撃せずにいた。

 

暴力が過ぎ去ればそこにキャスターの姿はなく。

薙ぎ倒された木々が無残な姿を晒していただけだった。

 

「これが彼にとって救済となるでしょう。行きましょうかセイバー」

 

そうしてアーチャーはセイバーと共に各々のマスターの下へ戻って行った。

 

サーヴァントを無くした男に最早勝ち残る術は無いに等しい。

 

逃げる。

悪態をつきながら。

 

「くそ!キャスターめ!わざわざ令呪で主人格を封印してやったのに負けやがって!」

 

そう、キャスターであるエドワード・モードレイクは本来紳士の中の紳士と言っても過言ではないほど誠実で志のある男だった。

しかしエドワードにはある問題があった。

それは後頭部にあるもう一つの顔だった。

 

この顔は夜な夜な呪詛と悪魔を召喚する呪文を唱えるエドワードとは正反対のものだった。

悪魔の顔と人々は言った。

結局、生まれながらに二面を宿したエドワードはその生涯を自ら命を絶つことで終わらせた。

 

男は逃げる。

今一度召喚を行う為に(・・・・・・・・・・)

 

「何処へ逃げようというのだね?」

 

目の前に突然現れたのは。

 

「お前はアサ――!」

 

解体一族(ビーンズ・リッパー)

 

言い終わる前に男は精肉店に並ぶ豚や牛や鶏のようにバラバラにされていた。

 

アサシンは地面に転がる眼球を一つ摘むと口に入れて咀嚼する。

 

「大変美味である」

 

アサシンは解体した肉を袋に入れると闇の中へと消えていった。




サーヴァントの真名が判明しました。

真名┓
エドワード・モードレイク

属性┓
秩序・善

ステータス┓
筋力:E 耐久:D 敏捷:E 魔力:C+ 幸運:D 宝具:B+

クラス別能力┓
陣地作成:E 道具作成:E

保有スキル┓
悪魔憑き:B 
※悪魔にどの程度体を乗っ取られているか。
 エドワードの場合乗っ取られている割合は少ないが頭部なのでこのランクである。
黄金率:C
※出自が名門貴族であるためお金に関しては不自由はない。

宝具┓
対人┓
魔を呼ぶ鬼の顔(ディアブロス・サモンフェイス)B+
※常時発動型宝具、無数の悪魔を召喚し続けるもうひとつの顔、延々と悪魔召喚の呪文を言い続ける、この宝具は意思を持っている。

笑顔呼ぶ麗しの顔(ユーモラス・ノーフェイス)B
※普段もうひとつの宝具を封印している宝具、頭に布を巻く。


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ギャロウェイの殺人鬼

家の前で剣を構えるセイバー。

感覚を研ぎ澄まして襲撃に備える。

アーチャーは一人屋根に上がり周囲を弓で警戒する。

 

「それにしても嫌な感覚だなこれは」

 

七星は辺りに充満する血のような鉄のような匂いに顔を雲らせる。

視界もどことなく霞んでいるのか遠くに行くほど見えづらい。

 

「そもそも奴はどうしてあんな真似をしたんだ?」

 

七星の疑問にはここにいる全員が思っているところだった。

アサシンとは文字通り暗殺を得意とするサーヴァント。

それなのに件のアサシンはあろう事か玄関から、正面から現れたのだ。

 

そしてなにより、事前に聞かされていた風貌とも異なり、今回のアサシンはハサン・サッバーハではない確率が増えていた。

もしかすると変装が得意だったとかそういう能力である可能性もある。

現に昔に行われた聖杯戦争では人格の数だけ増えたと言う話だ。

今回もそのハサン・サッバーハかもしれない。

 

「いやいや、それはないでしょ?」

 

七星の様子を伺っていた威燕が笑いながら否定してきた。

 

「七星さん、今考えたことは間違いですよ…相手は言ってたじゃないですか」

 

「言っていた?何を?」

 

「もう忘れたんですか?宝具ですよ」

 

それを聞いて七星はハッとする。

そうだ相手は宝具の名前を言っていたのだ。

あまりにとっさのことだったのですっかり見落としていた。

奴はなんと言っていただろうか?

 

「ギャロウェイズとは何だ?」

 

「イギリス等で見られる苗字ですね…他には地名にもあった気がします」

 

七星の疑問に威燕が答える。

しかしそれだけだ。

他に調べる手立てがない。

とりあえず七星は手元に有る携帯電話を取り出す。

どこにでもあるようなタッチパネル式の携帯だ。

しかしあろう事か圏外と表記されていた。

 

「調べられないか…」

 

これも奴の宝具の効果で間違いないだろう。

 

「稀に見る結界宝具ですかね」

 

と、そこへ屋根に上がっていたアーチャーが声を飛ばしてきた。

 

「話の途中ですまないが件のアサシンを見つけた。ここから二時の方角だ来るぞ!」

 

その言葉の通り、アサシンはまた正面から現れた。

両手に肉切り包丁を携え一瞬でセイバーに間合いを詰めて襲いかかる。

真正面から来ているので無論セイバーは遅れなく応擊する。

 

「ハハハッ、お相手願おうぞセイバー!」

 

「ハァッ!」

 

腕力で負けるはずもなく弾き返す。

 

七星はこのアサシンのアサシンらしからぬ行動に違和感を覚えていた。

このサーヴァントのマスターは誰だ?

七星の脳裏に元同胞の顔が浮かび上がる。

こんな真似をするやつが検討もつかない。

ガーランドは既にライダーのマスターとわかっているので本当にわからなかった。

 

そして、七星たちを困惑させる一言がアサシンから放たれた。

それは宝具による大打撃よりも強い衝撃だった。

 

「聞けセイバー達よ、我が名はアレキサンダー!アレキサンダー・ソーニー・ビーンだ!」

 

最後にアサシンは「覚えたか!」と、言い放った。



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アーチャーの証言

七星は思考が一瞬止まってしまった。

いや、七星だけではない、この場にいる聖杯戦争を知っているものならば誰しもがそうなることだろう。

 

このサーヴァントはあろう事か己の真名を喋ったのだ。

しかも更に七星たちを驚かせたのが次の行動だ。

 

アサシンはあろう事かそれだけ言うとその場からいなくなってしまったのだ。

周囲に立ち込めていた雰囲気もいつの間にか消え、七星達も完全にいなくなったのだと確信した。

 

威燕が念のためとアーチャーを森林区域を中心に索敵と警戒に出した。

その間に七星達は少し場所を変えて身を隠すことになった。

そこは先ほどの民家から数メートルだけ離れた別の民家の地下だった。

六畳ほどしかないが四人が隠れるのであれば十分と言える。

家具類は照明と椅子しか無く正直くつろげるとは思わなかった。

 

「とりあえず七星さん、残るサーヴァントは四騎で良いかな?」

 

「私のセイバー、威燕のアーチャー、先程現れた食人鬼のアサシン、大日本帝国のライダー、キャスターは消滅したからまだ現れていないランサーとバーサーカーを含めると四騎だな」

 

「先程七星さんが言っていた謎のマスターだけど生身でサーヴァント、しかもセイバーの剣を防げるとは到底思えない。何かしら魔術的な強化を受けるにしても限度がある。ライダーを気絶させたこともその後の身体能力の事も含めてサーヴァントが関係しているのは確かだろうね」

 

「ああ、ランサーかバーサーカーか、どっちかだろう…」

 

「私はバーサーカーだと思うね」

 

「そうか?私はランサーだと思うのだが…」

 

「理由を聞いても?」

 

「ああ、昔、初期の聖杯戦争が行われた時や何処ぞの機関が行った英霊召喚では魔術を匠に操る槍兵が召喚されたと聞いたものでな」

 

「成程ね、私の意見としてはバーサーカーと言っても狂化が薄く、理性を保った魔術師が魔力のみ狂化されて召喚されているって感じかな」

 

「仮にそうだった場合、バーサーカーは動けないでいると見える。現にあの場に他のサーヴァントの気配は無かった。そうだろセイバー?」

 

突然話を振られたセイバーがこちらを見る。

セイバーはこの部屋に入るなり扉の隣の壁にずっともたれかかっていた。

 

「いや、気配はあったぞ」

 

「なに?」

 

「そこんところ、詳しく聞いても?」

 

威燕がセイバーに真剣な眼差しで聞く。

 

「あの時、私の剣を掴んだあの男の周りには確かにサーヴァントの気配があった、いや、この場合は男を包んでいたと言った方が適切だろう」

 

「霊体化したサーヴァントでは現界したサーヴァントに関与できないだろう」

 

「その逆もね」

 

七星と威燕が互いに考察する。

そのまましばらく時間が経った。

 

「戻ったぞマスター」

 

その静寂を破ったのは周囲を警戒していたアーチャーだった。

目立った外傷は無く、どうやら無事のようだ。

七星はスマホの時計を確認する。

いつの間にか夜と言ってもいい時間になっていた。

 

「いやぁ驚いた驚いた、マスター、報告だ。そこの二人も聞いてくれ」

 

どうやら何か成果を持ってきたようだ。

普段のアーチャーからは想像できない程で、本当に驚いた様子で話しかけてくる。

直ぐにいつもの冷静な様子に戻る。

 

「先刻、二騎のサーヴァントと戦ってきた」

 

その言葉を聞いて七星も威燕も目を見開く。

アーチャーが持ってきた情報は多大に重要だ。

しかし七星はそれと他に恐ろしくも想う。

二騎を相手にこのアーチャーは単騎で戦い、こうして無事に帰ってきたことに。

 

「アーチャー、どうだった?」

 

「ああ、真に可笑しな気分だった」

 

「可笑しい?」

 

「そうともマスター、私は二騎、ランサーとアーチャー(・・・・・)と対峙してきたのだからな」

 

その証言に、その場が凍りついた。




サーヴァントの真名が判明しました。

真名┓
アレキサンダー・ソーニー・ビーン

属性┓
混沌・悪

ステータス┓
筋力:E 耐久:E 敏捷:C 魔力:E 幸運:A 宝具:A+

クラス別能力┓
気配遮断:A

保有スキル┓
カニバリズム:A
※同族の肉体をどの程度食するかの割合。
 このスキルは同族の肉を食べることで魔力を回復することができる。
情報抹消:C
※戦闘離脱時に自身の情報を消すことが出来るスキル。
人体解剖:A+
※人の体を解体する技術。

宝具┓
対人┓
解体一族(ビーンズ・リッパー)A+
※対象を余す所無く解体する宝具。

結界┓
我が家の台所へようこそ!(ウェルカム・ギャロウェイズ・キッチン!)C+
※一定の範囲を狩場とする結界宝具。


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金色のアーチャー

アーチャーの話はこうだった。

アーチャーが森林区とその周辺を見て回っていたときだった。

遠くの校舎と思われる建物の上から殺気を放つ気配があったので高い木の上に上がりその正体を確かめたのだ。

 

「そこに二騎のサーヴァントがいたのか?」

 

七星の質問にアーチャーは首を振る。

 

「いや、そこに居たのは真っ黒な全身鎧を着たサーヴァントだった」

 

黒いサーヴァントがそこには居たのだ。

手には鎧と同じく黒い槍、腰には黒い剣がぶら下がっていたと。

 

「漆黒のランサー…ね」

 

何か心当たりがあるのか威燕がソファに深く沈む。

 

無論アーチャーは警戒しながらもランサーに近づいた。

相手も殺気こそ放つが攻撃はしてこなかった。

距離が遠いせいだろうと思ったアーチャーは話せて、それでいて相手の間合いに入らないギリギリの所で足を止めるとランサーに話しかけた。

 

「君はランサーか?」

 

ランサーは無言で頷いた。

そして一気に間合いを詰めてアーチャーに攻撃してきたのだ。

アーチャー咄嗟に右手につけている弓懸を防御に使って槍の軌道をずらした。

そのまま学校の校庭に落ちる二人。

 

「存外硬いのだなその篭手は」

 

「生憎とその程度で傷つくほど安い代物でもないのでね。次は宝具でも仕掛けるかい?」

 

「意外と好戦的なのだなアーチャー」

 

「そうだな、最初に戦った相手が英雄とは真逆の相手だったからだろうか?真の英雄を相手にすることができるのが少し嬉しいと思っている」

 

その時だった。

アーチャーがもう一騎のアーチャーに出会ったのは。

流石のアーチャーも驚いた様子でそれを見た。

 

校舎の上、屋上の端に現界した金色の英霊。

胸や胴には鎧は無く、腕や足を覆う金色の防具。

方の装甲からは紅い織物が垂れていた。

腰のところからも紅く、デザインがされた織物が垂れている。

紅い瞳に金の長髪を後ろに逆立たせ荒々しい。

 

それが自分たちを見下ろしていた。

 

「アーチャー、出てこないんじゃなかったのか?」

 

「アーチャー?」

 

漆黒のランサーの言葉に自身がアーチャーであると認識している翡翠色の手のアーチャーは驚く。

 

「いやなに、我もそのつもりだったのだがそこな男が良い物を持っているのでな、是非とも我が蔵に欲しいと思うてな」

 

アーチャーは理解した。

目の前の男はその身に神の血を有していると、この自分と同じように。

 

「もしかしてだが、この弓懸のことを言っているのか偽のアーチャー?」

 

「確かに我はどちらかといえば魔術師よりではあるが偽とは随分な言い方よ、お前が神代の出でなければこの場で殺しているぞ」

 

明確な殺意をあらわにする金色のアーチャー。

 

「気に障ったのならばすまない、今後は金色のアーチャーとでも呼ぼう」

 

「好きにするが良い、それで、その弓懸を譲る気はあるか?」

 

「申し訳ないがそれはできない。一応宝具でもあるのでな」

 

「謝る必要は無い、お前の答えは最もなのだからな。ただ、王である我の申し出は絶対である。その宝、力尽くで奪うとしよう。ランサーよ手伝うが良い」

 

「気乗りはしないんだがな、そういう理由だと…」

 

そう言いながらも渋々と槍を構えるランサー。

こうして翡翠のアーチャーと金色のアーチャーと漆黒のランサーの戦闘が始まった。



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漆黒のランサー

金色のアーチャーは意外にも剣で攻撃をしてきたのだ。

二振りの金色の剣を持ち斬りかかる。

当然翡翠のアーチャーは避けて矢を放つ。

 

しかしそれだけで殺られるという事はなく素早く動いて追撃する。

それに合わせるかのように漆黒のランサーもその手に持った黒槍を振るう。

黒槍は上に躱す翡翠のアーチャーには当たらずに空を切る。

しかしそこへ金色のアーチャーが双剣にて斬りつける。

流石にダメージは免れないと誰しもが思ったが翡翠のアーチャーはその右手に付けられた弓懸を防具として使い剣を防いだ。

 

「傷物にしてくれるなよ!」

 

「承諾しかねませんね!」

 

翡翠のアーチャーは剣の勢いを使ってそのまま後方に飛ぶ。

一気に距離が開くが漆黒のランサーが追いかけてくる。

 

「止まれ、ランサー!」

 

が、金色のアーチャーの一言によって漆黒のランサーの動きがピタリと止まる。

訝しむ漆黒のランサーは金色のアーチャーを見据える。

 

「なぜ止める?」

 

「見て分からぬか」

 

「なに?」

 

漆黒のランサーは翡翠のアーチャーを見る。

そこで言っていることがわかった。

魔力が上がっている。

少しずつ、少しずつ、分からないように。

 

「おや、バレてしまいましたか」

 

細心の注意を払って見ればその魔力が上がっているのがわかるのだが戦闘中ともなるとそれも鈍くなってしまう。

 

「何時からだ?」

 

「最初からですよ」

 

漆黒のランサーの問いにさも当然のように答えるアーチャー。

 

「見た目に騙されてはならんぞランサー、奴は善人振ってはいるが別段善人というわけではない、言われたことを言われたままやるただの掃除屋だ。心して掛かれ」

 

忠告を聞き、漆黒のランサーも先程以上に気を引き締めたようだ。

 

「来い、なんなら宝具を使え、一度矛先を向けた以上俺は引くことはねぇ」

 

「そうですか、では」

 

翡翠のアーチャーは何かを呟いた。

恐らく宝具の真名を口にしたのだろう。

ここからではその名は聞き取れないが呟いた途端右手を覆う翡翠の弓懸が急激に魔力量を膨張させた。

 

「美しい、その輝き正に神造!」

 

翡翠のアーチャーが弓の弦に矢をかける。

弦は音を立てて後方に引かれていく。

弓は大きくしなりその力の出撃を今か今かと待っている。

 

「それではお二方、これに耐えたらまた逢いましょう」

 

そう言うと翡翠のアーチャーは手を離した。

一度解放された矢は二人に目掛けて飛んでいく。

漆黒のランサーもその黒槍に魔力を込めて真名を叫んだ。

両者の技がぶつかり辺りに衝撃が走っていく。

 

「逃げたか」

 

漆黒のランサーは眼前から消えてしまった翡翠のアーチャーが既に気配すら無いことを確認する。

現在漆黒のランサーを中心に大きなクレーターが出来ていた。

それを見て金色のアーチャーは笑みを浮かべる。

 

「存外貴様もしぶといのだな漆黒のランサー、今のは威力としては中の上だが貴様を屠るのには十分だったはずだ」

 

「手を抜かれたって言いたいのか?」

 

「そうではない、これは出自…出典の問題だ。大層な偉業でも示さない限りお前のような近代よりのサーヴァントは神代(かみよ)のサーヴァントにはどうしても出力の面で劣る。現にボロボロであろう貴様」

 

確かに漆黒のランサーの鎧は所々に綻びや亀裂が入っている。

宝具で相殺してもこれなのだ。

敵の凄さが見て取れよう。

 

「でも、こうして生きてんだ、次はそうはいかないさ」

 

「期待など余りせんが失望はさせるなよ」

 

そう言うと二人は霊体化して消える。

 

七星は自身が考えている以上にまずいことが起こっているのではないのかと思い始めたのだった。



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