精霊使いの剣舞~氷結の剣舞姫~ (舞翼)
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剣と学院と火猫少女
第1話 魔女との邂逅


完全な見切り発車です。
つか、また書いてしまった……。


 ――清き乙女の特権であるはずの精霊契約。

 だが、現在森を歩いている男性は、精霊契約が可能な不確定要素(イレギュラー)の存在だ。

 俺は何を解説してるのだろうか?まあいいけど。

 

「ったく、あの婆さんも人使いが粗すぎるだろ。つーか、今から行く学園って、アレイシア精霊学院だろ」

 

 姫巫女の学園とか、マジ勘弁……。

 悪態を吐いても、もう引き返せないだけどね。

 

『そうね。色々と頑張って』

 

 今俺に話しかけたのは、俺の契約精霊。イレイナ・アッシュフォード。

 おっと、俺の名前もだな。俺の名前は、アマヤ・カケルだ。

 

「頑張れって言われてもなー……はあ~」

 

『溜息ばかっり吐いてたら、幸せが逃げちゃうわよ』

 

 そう言ってから、イレイナはクスッと笑った。

 おい、笑うな。いや、いいけどさ。

 ちなみに、イレイナは高位精霊なので、人型で顕現する事が可能だ。容姿を一言で言うなら、氷の美少女ってところか。

 ともあれ、門の所まで到着しましたとさ。

 まあ、色々と面倒な事になりそうなので、懐からある手紙を取り出す。あの子に案内を頼もう。学院長室までの道解らないし。

 

「すんません。学院長に呼ばれた者なんですけど、学院長室までの案内をお願いできますか?」

 

 こちらを振り向く少女に手紙を差し出す。

 

「帝国の第一級紋章印つきの手紙……ですか」

 

 手紙を見た少女は顔を強張らせた。

 うん、その反応は予想してた。

 

「ま、まあ。今日は魔女に会いに来たんですよ、…………どうせ碌でもないことなんだろうけど」

 

 俺が内心で頭を抱えていると、少女の視線が俺の左手の甲を見る。

 ……あ、隠すの忘れてた……。

 

『バカね』

 

「(ちょ、イレイナさん。俺、泣いちゃうよ)」

 

 そう、俺の左手の甲には精霊刻印(・・・・)が刻まれてるのだ。

 すると、おずおずと少女が聞いて来る。

 

「……それって、精霊刻印ですよね。……ふ、不思議な事ではないんですけど」

 

 歴史上、姫巫女以外で精霊を行使できる男の精霊使いは存在した。

 魔王スライマン――――七十二柱の精霊を従え、大陸に破壊と混乱を齎した、男の精霊使い。まあ俺は、魔王スライマンとは一切関係ないけど。

 

「……まあ、色々と訳ありで……。あ、この事も内密にお願いします」

 

「わ、わかりました。そ、それではご案内しますね」

 

 ……この子、素直すぎでしょ。

 オレオレ詐欺に引っ掛からないか心配だわ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 学園に入り少女の案内のもと廊下を歩いているのだが、精霊の彫刻などが凄ェ……。

 俺の反応が面白かったのか、少女が俺を見て微笑した。

 

「綺麗ですよね。精霊彫刻」

 

「ああ、メッチャ綺麗。ずっと見てても飽きないかも」

 

「ずっとは言い過ぎですよ。えっと……」

 

 そういえば、自己紹介するの忘れてた。

 

「アマヤ・カケル。カケルでいいよ。敬語もなしで。えーと……」

 

「ユーナ・キャンベルです。ユーナでいいです。私も敬語なしでいいです」

 

「おう、よろしく。ユーナ」

 

「はい。よろしく、カケル君」

 

 ……まあうん、呼び捨てじゃなくて君づけなのね。

 ともあれ、学院長室前まで案内してもらいました。

 

「ここが学院長室だよ」

 

「サンキュー。俺一人だったら、十中八九迷子になってたわ」

 

 そう言って、俺はユーナと分かれた。

 俺が木製の扉をノックしようとしたら――、

 

「あいつは亡霊なんかじゃない!」

 

 突然、部屋から声が聞こえてきた。声の主は男?てか、中では何か揉めているらしい。

 ……帰っていいかな?

 

『ダメに決まってるでしょ』

 

「(で、ですよね~)」

 

 んじゃ、扉から離れて話が終わるまで待ちますか。

 数分後――、

 

「そこの男子、そろそろ入って来たらどうだ?」

 

 突然、魔女から声がかかりました。てか、マジで行きたくねぇ……。

 俺は一息吐いてから扉を開け、部屋の中に入る。 

 

「よう、魔女。久しぶり」

 

 執務室の奥に座るアッシュブロンドの髪、妖艶の笑みを浮かべた魔女へと挨拶をする。

 小さな眼鏡の下で、灰色の目が俺をじっと見つめている。黄昏の魔女(ダスク・ウィッチ)──グレイワース・シェルマイス。

 彼女は、帝国の十二騎将(ナンバーズ)に名を連ねていた歴戦の精霊騎士。

 いつまでも変わらない姿に驚くが、そこは魔女という事で解決させる。

 

「カケル。お前、刻印は隠してこなかったんだな」

 

 グレイワースは、俺の左手の甲を見てそう言った。

 

「何れバレる事だし、別にいいかと。てか、イレイナを顕現していいか?なんつーか、元素精霊界(アストラル・ゼロ)は暇らしい」

 

「別に構わん。カミトもいいか?人型精霊が見れる良い機会だしな」

 

 カミトが頷いた所で俺は左腕を掲げると、精霊刻印が蒼色に発光する。

 光が止むと、俺の隣には白いワンピースを着て、黒髪を背中まで伸ばし、蒼色の瞳が特徴の美少女が佇んでいた。

 

「ん~、やっぱり現世はいいわね」

 

 俺の精霊、イレイナ・アッシュフォードだ。

 つーか、伸びをするな。目のやり場に困るから。ほら、カミトも目を背けてるじゃん。

 

「あ、グレイワース。久しぶり」

 

「久しぶりだな。それにしても、貴様が氷結最強の精霊(・・・・・・・)だという事が今でも信じられんよ。――氷剣の女帝(アイス・エンプレスソード)

 

 イレイナの精霊魔装(エレメンタル・ヴァッフェ)は、氷結最強の長剣になる。

 一応俺は、7割程度は使いこなせるようになってる。

 

「その呼び名は止めてよね。私には、イレイナ・アッシュフォードっていう名前があるんだから」

 

 イレイナは、精霊魔装(エレメンタル・ヴァッフェ)時の名前が好きじゃないらしい。何でも、『偉そうだから嫌』ということだ。

 グレイワースも、悪かった。って言ってる事だし、良しとしよう。

 

「男の精霊使いって、俺の他にもいたのな」

 

「ああ。カミトも精霊使いだ。まあ、今は相棒(・・)がいない状況だがな」

 

「へぇー、相棒か。強いんだろ?」

 

「使い手によるな」

 

 なるほど。大体予想できた。カミトは行方不明の精霊の手掛かりを得る為に此処に来たと。

 

「俺とイレイナを呼び出した理由は?」

 

「そうか。カミトにしか教えてなかったな。――カケル。君にもアレイシア精霊学院に編入してもらう」

 

「は?何で俺。意味が解らん」

 

「君も必要だからだ。以上」

 

 魔女の言葉は唐突すぎる。まあいいや、ちょと反論して見よう。

 

「嫌だと言ったら。つーか、清らかな乙女の園なんだろ、この学院は」

 

「問題ない。私の権限で何とでもなる」

 

「問題だらけだろうが!」

 

 激昂するカミトに―――、

 

「勘違いするなよ、少年。君たちには選択の権限はないんだ」

 

 魔女はゾッとするほど冷たい声で告げた。

 カミトは息を呑んだが、俺は平然としてる。

 

「……なるほどな。本来精霊使いは、教会に管理されるものだしなぁ」

 

「でもでも、私とカケルなら、帝国の精霊騎士団を倒せると思うけど」

 

 オルデシア帝国では、精霊使いは様々な特権を享受する代わりに、協会への登録を義務付けられている。反帝国の思想を掲げるはぐれ精霊使いなどが存在すれば、国家にとって危険だからだ。

 

「無傷で。とはいくまい。帝国の精霊騎士団を甘く見るなよ。特にカミトは、今のままでは絶対に勝てん。それに―――」

 

 グレイワースは、悪魔のような笑みを浮かべた。

 

「私がうっかりバラしてしまう可能性も、なきにしもあらずだ」

 

「………なにがうっかりだ。要するに脅迫じゃないか」

 

 カミトがそう言う。

 立てつくと面倒そうだしなぁ。……穏便に済ませるか。イレイナに暴走されたら堪らんし。

 

「俺はいいや。学園に編入するよ」

 

「理解が早くて助かるよ」

 

「よくもぬけぬけと―――」

 

 カミトは苦々しく言い捨てると、魔女はさも心外そうに肩をすくめる。

 

「ふん、いったいなにが不満なんだ。お姫様が集まる乙女の学院に男が二人。酒池肉林のハーレムじゃないか」

 

「そんなことするか!」

 

「俺は興味ないわ!」

 

 俺とカミトは同時に叫ぶ。

 てか、叫ばないと俺は命が危ない。イレイナに凍らされて殺されてしまいます……。

 

「冗談だ。私にそんな権限があるわけないだろう」

 

「あんたのは冗談に聞こえないんだよ……」

 

 そう言って、肩を落とすカミト。

 

「何で今頃呼び出した?魔女、お前の思惑はなんだ?」

 

 問題なのはそこだ。

 俺に何の利用価値がある?

 

「本当に話しが早くて助かるよ。実は二ヶ月後に、元素精霊界(アストラル・ゼロ)精霊剣舞祭(ブレイドダンス)が開催される。カミトにはそれに出場してもらう。――カケル、お前にはカミトを一から鍛えてやって欲しいんだ。今の腑抜けたままじゃどうしようもならんからな。何なら、お前も精霊剣舞祭(ブレイドダンス)に出場してもらっても構わない」

 

 ―――精霊剣舞祭(ブレイドダンス)

 数年に一度、元素精霊界(アストラル・ゼロ)で行われる最大規模の神楽。

 大陸中から精霊使いが集い、五大精霊王(エレメンタル・ロード)に剣舞を奉納する祭典。

 優勝チームが所属する国には、数年にわたって精霊王の加護が与えられ、国土の繁栄を約束される。大会の優勝者には、――望み(願い)を一つだけ叶えることができる。

 

「優勝しろ、カミト。カケルに鍛えてもらってな」

 

「俺は―――、俺は二度と精霊剣舞祭(ブレイドダンス)には出ないと決めたんだ。」

 

 カミトは、両手を握り締めてそう言った。

 だが、魔女は不敵に笑う。

 

「いや、お前は出場するさ。出場してもらわなければ困る。――君じゃなければ、あの最強の剣舞姫(ブレイドダンサー)には勝てんからな」

 

「な……に……!?」

 

 その名を聞いた途端、カミトの顔が凍りついた。

 最強――その称号で呼ばれる精霊使いは、現在、大陸にたった一人しかいない。

 三年前、僅か十三歳にして精霊剣舞祭(ブレイドダンス)の個人戦を制覇した少女。

 

「そうだ。彼女が戻ってきたんだよ。最強の剣舞姫(ブレイドダンサー)――レン・アッシュベルが、な」

 

 この時、俺は相槌を打っていた。

 

「(ふーん、なるほどねぇ。三年前の少女の正体はカミトだったと。でも、かつての名は捨ててるのに、レン・アッシュベルを騙る者が出て来た。で、カミトに優勝させる為、鍛える奴を呼び出したって所か。……やべっ、かなり興味が出てきたんだけど)」

 

「(ねぇねぇ、カケル。私たちも出場しちゃう?何か面白そう♪)」

 

 たしかに、面白いものには目がない俺とイレイナだしな。

 よし!決めた。俺も精霊剣舞祭(ブレイドダンス)に出場しよう。

 ともあれ、これが俺と魔女の会合だった――。




原作知識ないに等しいんですよね。
だからまぁ、続くのかな?わからんとです。


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第2話 学院案内

ま、まさかの続いた。


 現在、俺とカミトは、魔女から支給された制服に袖を通し、揺れるポニーテールの後を追っていた。

 制服は、魔女が用意した特注品。

 

「教師棟と学生棟は二階の廊下で繋がっている。食堂は一階だ」

 

 校舎を案内してくれてるのは、エリス・ファーレンガルト。

 何でも、アレイシア精霊学院の騎士団長だとか。てことは、強いのか?

 

『カケルの方が強いわ。てゆうか、この学院ではほぼトップじゃないかしら』

 

「(そうなのか?そんな実感はないが?)」

 

 ちなみに、イレイナは元素精霊界(アストラル・ゼロ)に戻った。いや、実際には俺が頼んだ。

 いやね、ほとぼりが冷めない内の顕現はマズイと思ったからね。イレイナは、『ぶーぶー』と頬を膨らませてたけど。

 

『私を7割使いこなせるんだから、カケルの方が強いわよ』

 

 まあそうかもしれない。イレイナ・アッシュフォードは氷結最強の精霊だ。

 7割使いこなせていれば結構強いかもしれん。

 

「(……つっても、俺はイレイナを完全には使いこなせてないんだ。……まだまだ未熟ってことだよ)」

 

『だけどカケルは、歴代の誰よりも使いこなすのが早いわよ。自信を持ちなさい。あとね、私とあなたはどこまでも一緒よ』

 

「(お、おう。サンキューな)」

 

 どこまでもってどういう意味ですかね?イレイナさんや?

 そんな時、騎士団長が足を止める。

 

「君たち、聞いているのか?君たちの為に説明してるんだぞ」

 

 騎士団長は険しい顔をしながら、腰に手を当てそう言った。

 

「……ああ、悪い。ちょっと考え事をしてたんだ」

 

 カミトがそう言った。おそらくカミトの考え事は、精霊剣舞祭(ブレイドダンス)に出てくるであろう、レン・アッシュベルの事だと思う。

 つーか、剣を振り回すな。カミトは全部避けてるけど。

 

「む、君もだぞ」

 

 ま、俺もこうなるよな。

 んじゃ――、

 

氷結の絶壁(アイス・ウォール)

 

 俺は氷の壁を展開させ、ファーレンガルトが振り下ろす剣を弾く。

 氷の障壁に剣が弾かれ、目を丸くするファーレンガルト。

 

「なっ!精霊魔術!?」

 

「まあそんなとこだ。次は、剣を凍らせるぞ」

 

 俺は内心で、はぁー。と盛大に溜息を吐く。

 おそらく、男に免疫がないのだろう。精霊と交感できるのは清らかな乙女だけ。その乙女たちは、清らかさを保つため、幼い頃から男を徹底的に遠ざけた環境で教育される。つまり、超がつく箱入りお姫様。という事だ。

 

「い、いいか、勘違いするな!私は決して君たちを認めた訳ではないからなっ。学院長のご命令だから、仕方なく君たちを案内しているだからな!」

 

 踵を返すと、ファーレンガルトはすたすたと歩き出してしまった。

 

「まったく、なぜ学院長はこんな男共を編入させたのか……」

 

 カミトが生活する場所を聞いたら、ファーレンガルトが窓から指を差す。

 その先にあったのは、馬小屋の隣にあるオンボロの小屋だ。ちょっとの風で吹き飛ばされそう。てか、風呂、トイレも馬と共有らしい。

 カミトは口論をしていたが、

 

「(まあ俺は十分だ。風呂はイレイナの清めの水があるしな。……俺の感覚は麻痺してるのか?あんなので大丈夫って思えるなんてな)」

 

『そうかもしれないわ。私たち、いつもと言っていいほど野宿だったし』

 

「(だよなぁ……)」

 

 がっくりと肩を落とす俺。

 ちなみに、イレイナもこっちの世界で野宿をしてた。何故かわからんけど。

 

「宿舎のことはひとまずは置いておこう。で、オレたちの教室はどこなんだ?」

 

 カミトがファーレンガルトに聞く。

 

「君たちの教室は、優秀な問題児たちが集められたレイブン教室だ。君たちにお似合いの教室だな」

 

「「優秀な問題児?」」

 

「言葉通りの意味だ。……君は、なぜ苦い顔をする?」

 

 どうやら、カミトには問題児に思う節があるらしい。

 ファーレンガルトもレイブン教室じゃね。校内で剣を振り回す奴は、問題児以外の何者でもないと思うが。

 

「てことは、ファーレンガルトもレイブン教室か?」

 

 顔を真っ赤にするファーレンガルト。だから何で?

 

「なんでそうなるっ、私は最優のヴィーゼル教室だっ!」

 

 アレイシア精霊学院の教室は、各階ごとに離れて配置してるらしい。教室同士が近いと、決闘騒ぎになるとか。

 

「だが、学院に通う学院生は、全員が名のある貴族の娘だからな。規則では学院内での私闘を禁じているが、日頃から決闘沙汰は絶えない」

 

 嘆息しながら、ファーレンガルトは拳を強く握りしめた。

 

「それを仲裁して平穏な学院を守るのが、私たち風王騎士団の仕事なんだ」

 

 そう言ったファーレンガルトの顔は真剣だった。彼女は、騎士団の仕事にプライドを持っているのだろう。

 存在するだけで学院に波乱を呼びかねない、男の精霊使い。なので、風紀を守る騎士団長の立場で、認められるはずがない。

 

「(……なるほどなぁ。根は真っ直ぐでいい()だけど。思い込みで先走りしすぎると)」

 

 何はともあれ、騎士団長の案内を聞く、俺とカミトであった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 講堂のような教室を覗くと、中には誰もいなかった。おそらく。全員外に出払ってる時間帯で、外で実技の訓練をしてるのかもしれない。

 ファーレンガルトは案内を終えると、すぐさま立ち去ってしまった。てか、カミト。火猫少女に絡まれてるけど。お前何かしたの?

 

「よ、よ、よくも逃げてくれたわねっ。わ、わたしの契約精霊なくせに!」

 

「く、クレアちゃん。編入生の首を締めあげるのはよくないよ」

 

 俺は、セミロングの黒髪をした少女に見覚えがある。

 てか、今朝の女の子だし。

 

「ユーナか?」

 

 俺を見て、目を丸くするユーナ。

 

「か、カケル君。ど、どうしてここに?」

 

「いや、俺はレイブン教室だからだけど」

 

「そ、そうなんだ。よろしく」

 

「よろしくな。ユーナがレイブン教室とか意外だな。真面目そうなのに」

 

 ユーナの顔が真っ赤になる。何でも、些細な揉め事を起こした時に、精霊魔装(エレメンタル・ヴァッフェ)を使って校舎を破壊したとか。

 ……人は見かけによらないっていうけど、ホントなのかもしれん。

 

「カケル君は、精霊剣舞祭(ブレイドダンス)に出場するの?」

 

「まあ一応そのつもり。なんか、面白そうだし」

 

 面白そうだけの理由で精霊剣舞祭(ブレイドダンス)に参加するのはどうかと思うけど。叶えたい願いもないし。

 つーか、カミト。お前は火猫お姫様を弄りすぎだ。てか、壁ドンはないだろ。壁ドンは。顎も持ちあげてるし。この光景を見て、ユーナの顔が真っ赤だし。

 今はともかく、この場を収めるのが先決だ。ということなので――、

 

「おーい、カミト。後ろ後ろ」

 

 カミトが振り向くと、そこには穏やかな笑みを浮かべた女性が立っている。

 年齢は20代半ば程。伸ばした黒髪に、黒縁の眼鏡をかけている。

 ダークグレーのスーツの上に羽織っているのは、裾の長い白衣だ。

 

「神聖なるアレイシア精霊学院の学舎で、何をしてるのかな君は、ん?」

 

 貼り付いたような笑みを浮かべたまま、その女性は名乗る。

 

「私は、レイブン教室担当のフレイヤ・グランドル。君たちのことは学院長から聞いているよ。学院始まって以来、初の男の精霊使い」

 

 だが、目は笑っていなかった。

 

「で、なにうちのお姫様を泣かしてるんだ、テメェは?」

 

 俺は内心で溜息を吐く。

 

「(……はあ、この学院は退屈しなそうだわ)」

 

『つまらないよりはいいじゃない♪』

 

 おい、人ごとだな。イレイナさんや。

 まあいいか。何かなる。と思う俺だった。




原作一巻は書ききりたい。
も、文字数は2500字位かなぁ。


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第3話 自己紹介

連投です。



 教壇に上がると、俺たちに視線が集中する。男の精霊使いが編入してくる、という噂は既に広まっていて、滅多に触れ合う機会のない同年代の俺たちに、不安と好奇心が隠せないらしい。動物園のパンダになった気分だわ……。

 

「あれが男の精霊使い……」

 

「目つきが悪いわ。人を殺してそう」

 

「てゆうか、あの子は女の子に見えるのは気のせいかしら?」

 

 ……後半一人、俺の心を抉らないでくれ。

 俺は列記とした男だからね。てか、女装した時の事を思い出すじゃんかよ……。

 

『また女装する?』

 

「(しないわっ!あの時は緊急時で、仕方なくだ!)」

 

『そ。可愛いと思うんだけど』

 

「(男に可愛い言うな!アホ精霊!)」

 

『むっ。学院に秘蔵写真バラまいちゃおうかしら』

 

「(……それだけはやめてくれ。いや、やめてください)」

 

『ん、よろしい』

 

 どうやら、回避する事ができたらしい。マジ助かった。

 回りを見回すと、生徒の数は14、5人程度。全員が育ちのいいお姫様だ。興味津々な視線を向ける人もいれば、本気で怯えてる人もいた。

 男の精霊使いで真っ先に思い浮かべるのは、かつて大陸に破壊と混沌を齎した男の精霊使い。魔王の名前なのだ。こうなるのも致し方ない。

 

「あー、さえずるな。静かにしろ。単位減らすぞ」

 

 フレイヤ・グランドルが名簿で机を叩くと、教室がしんと静まり返った。

 

「ほら、お前らもとっとと自己紹介しろ」

 

 眼鏡をかけた理知的な容姿の美女だが、口を開けばこんな感じである。

 

「カゼハヤ・カミト、16歳。見ての通り男の精霊使いなんだが……その、あんまり怖がらずに仲良くしてくれるとありがたい」

 

「えー、アマヤ・カケル、16歳。同じく男の精霊使い。よろしく」

 

 かなりシンプルな自己紹介である。

 てか、語る事なんてないし。

 

「なんか、ふつーだね」

 

「うん、ふつー。あんまり魔王っぽくないし」

 

 なんつーか、もっと怖がられると思ったんだが、そんな事はなかったらしい。

 まあその方がありがたいけど。

 

「あ、あの、質問いいですか」

 

 と、1人の女の子が手を挙げる。

 

「う、うん、なんだ?」

 

「ん、なに?」

 

「え、えーっと、す、好きな食べ物は、なんですか?」

 

 この質問。お見合いで話題がなくなった時にするもんだよな。

 見合いなんかした事ないけど。

 

「え?まあ、何でも……強いて言えば、グラタンかな」

 

「俺は、シチューでいいわ。何でも食えるし」

 

 さて、お姫様の反応は――、

 

「ふつーよ!」

 

「ふつーだわ!」

 

「女盛りとか答えると思ったのに!」

 

「可愛い!」

 

 その女の子を皮切りに、つぎつぎと質問が浴びせられた。

 

「故郷はどこなの?」

 

「お、お風呂ではどこから洗うの?」

 

「スリーサイズは?」

 

 いやいや、質問してる方が顔を赤くするってどうよ?

 てか、ほぼセクハラ発言だぞ。

 

「チームはもう決まっているの?」

 

「「チーム?」」

 

「決まっているでしょ、今度の精霊剣舞祭(ブレイドダンス)のチームよ」

 

 え、嘘だろ。個人じゃなかったの?チーム戦とか聞いてないわ。てか、魔女から聞くのを忘れただけなんだけどね。

 参加するにしても、マジでどうすっか……。

 

『1人は、ユーナでいいじゃないかしら』

 

「(そだな。それ採用で。つっても、チームが決まってたら勧誘もできないし。……前途多難だ)」

 

 まあ何とかなるだろう。カミトもいるし。

 

「カケル……君。でいいのかな。氷結最強の精霊と契約してるって聞いたんだけど……本当?」

 

 情報早いな。流石、噂話が大好きな女子って所か。

 

「ん、まあ一応。完璧に使いこなせてはいないんだけどね」

 

「じゃあじゃあ、人型の高位精霊なんでしょ!?」

 

「ま、まあそうだけど」

 

 え、何。見てみたい。的な視線は。

 俺が担任先生に目を向けると、コクリと頷いた。顕現してもいいって事だ。

 という事なので、俺は左腕を挙げ、精霊刻印が蒼く発光すると、イレイナがアレイシア精霊学院の制服を着て俺の隣に顕現する。

 ちなみに、イレイナの制服は予備にあったものらしい。

 

「えーと、カケルの契約精霊。イレイナ・アッシュフォード。よろしくね♪」

 

 きゃーー。と凄まじい歓声。

 まあでも、先生の一言で静まったけど。

 

「カミト君は、あの誰も契約出来なかった、剣の封印精霊を手懐けたって、本当?」

 

「ええ、そうよ。そしてその精霊を手懐けたカミトを手懐けているのがわたし!」

 

 声に反応して立ち上がったのは、先程の火猫の少女だ。それを聞き、お姫様たちは色めき立った。

 

「カミト君とクレアってどんな関係なの?」

 

「ご主人様と奴隷精霊の関係よ!」

 

「そんなわけあるか!っていうかお前が答えるな!」

 

「なによ、生意気な奴隷精霊ね」

 

「誰が、いつ、お前の奴隷になった!」

 

 二人のやりとりを見て、ますます興奮する少女たち。収拾がつかなくなってきた所で、先生がバンッと机を叩いた。静まり返る教室。

 

「お前らいい加減にしろ。お前らも、とっとと好きな席に座れ」

 

「は、はい!」

 

「了解」

 

「はーい」

 

 カミトは一番後ろの席を目指して歩き出すが、首に鞭が巻き付いた。そして、クレアと呼ばれた少女の方へと引き戻される。

「カミト、死ぬなよ」

 

「頑張って、カミト君」

 

 と言ってから、俺は見知った少女の隣に座る。 

 カミトが助けを求めたが……まあ頑張れ。

 

「よ、ユーナ」

 

「ユーナちゃん、よろしく~」

 

「よ、よろしく。カケル君、イレイナさん」

 

 オドオドと答えるユーナ。

 人型精霊を見たのは初めてだと思うし、仕方ないだろう。

 

「そ、そういえば、カケル君とイレイナさんの宿舎はどこなの?」

 

「ん、俺たちか?」

 

「馬小屋だよー」

 

「の近くの場所な。まあ、宿舎もほぼ馬小屋に近いけど」

 

 え、本当に?と言いたい表情で目を丸くするユーナ。

 いや、マジです。てか、馬小屋でも問題ない俺だけど。

 

「じゃ、じゃあ、時間が空いたら遊びに行っていいかな?」

 

 顔を赤くして答えるユーナ。何でそこで赤くなるの。と思ったが、ユーナも箱入りお姫様なのだ。こうなるのも仕方ない。

 

「いいけど」

 

「カモンカモンだよ。ユーナちゃん」

 

「そ、そっか。何か作ってくね」

 

 どうやら、今日は飯を作らなくてよさそうだ。てか、カミト。既にかなりの女子に囲まれてるとか、何処ぞのラノベの主人公だな。

 とまあ、アレイシア精霊学院での一日が始まったのだった。




次回も頑張っぺ!


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第4話 砕け散る宿舎

いやー、以外に続くものですね。


 あれから数時間後、俺とカミト、イレイナは学院の中庭を歩いている。

 他の学院生はともかく、俺たちは講義を受ける予定がない。編入したばかりなので、カリキュラムができていないのだ。

 取り敢えず、俺たちは用意された宿舎の前に到着し、軋んだドアを開けて内部に入って行く。

 

「ちゃんとしてるんだな」

 

「私たちにとっては、かなりの宿だね」

 

 まあ確かに、俺とイレイナがちゃんとした屋根の下で眠れるのは、約数週間ぶりである。

 その間は、洞窟で雨を凌いで休んだりとか、ほぼ壊れかけた小屋で休息したりとかだったのだ。それに比べ此処には、藁葺(わらぶ)きのベット、テーブル、椅子、タンスなどの家具が備え付けられている。

 

「……カケルとイレイナさんは、どんな生活をしてたんだ」

 

 カミトが藁のベットに座りながらそう聞いてくる。

 俺とイレイナは椅子に座り、

 

「旅人生活」

 

「サバイバル生活かな」

 

 カミトは顔を引き攣らせた。

 

「……そ、そうか。大変だったんだな」

 

「まあでも、それなりに楽しかったぞ」

 

「私も楽しかったなぁー。冒険してるみたいで」

 

 まあ俺は、コイツと居られれば何処でも大丈夫って感じだ。

 決して、恋愛っていう意味じゃないからな。固い絆って言えばいいのか、そんな感じだ。

 

 ――閑話休題。

 

 まずは精霊剣舞祭(ブレイドダンス)のチームメイトを探さなければならない。精霊剣舞祭(ブレイドダンス)の出場に求められるのは、五人のチームである。

 

「(それにしても、誰がレン・アッシュベルの名を騙ってるんだ?)」

 

 レン・アッシュベルは、もうこの世に存在しない(・・・・・・・・・・・)のだ。てか、レン・アッシュベルの名を語っていたのは、カミトだし。

 そんな時、腹の虫の音が聞こえてきた。どうやら、カミトのらしい。

 俺が聞いた話だと、《精霊の森》を彷徨っていた今朝から、何も食べてないらしい。学園には一応、学生が利用するレストランがあるが、その値段がかなり高い。スープ一杯で、俺が数週間食ってける賃金とか、マジか、的な感じだ。流石、お姫様学院と言った所だ。

 まあいいや。俺も腹が減ってきた所だ。調理器具もある事だし、何か作るか。火種とかは、《精霊の森》で火属性の低位精霊を捕まえてくればいいし。

 

「カミト、イレイナ。精霊の森でキノコでも採りに行くか?兎とかも捕れそうだしな」

 

 高位精霊のイレイナが着いているのだ。《精霊の森》で迷う事はないだろう。

 

「お、いいね。久しぶりのお肉だ♪」

 

「カケルの案に賛成だ。オレは、腹が減って仕方がない」

 

 その時だった。何処からか旨そうな匂いが漂ってきたのだ。

 匂いは、半開きになったドアの隙間から入り込んできてるようだ。カミトが立ち上がりドアを開けると、そこには白い湯気がたつ鍋が置いてあった。

 たっぷりのタマネギと骨抜きの鶏肉が入った、旨そうなスープだ。

 カミトが鍋に手を伸ばすが、ひょいと取り上げられる。もう一度手を伸ばすが、またしても取り上げられる。

 

「(鍋、結構重いのに頑張るなぁ)」

 

 と、俺は身も蓋もない事を思っていたのだった。

 

「カゼハヤ・カミト。アマヤ・カケル。イレイナ・アッシュフォード。お腹は減っていないかしら?」

 

「俺はいいや。それはカミトに上げてやれ」

 

「私たちは、《精霊の森》で食材を捕ってくるね」

 

 ということなので、《精霊の森》に行って食材を捕ってこよう。俺はそう思いながら椅子から立ち上がった。次いで、イレイナも立ち上がる。

 

「んじゃ、行きますか。イレイナさんや」

 

「OK。出発進行―」

 

 とまあ、ドアから出て行く俺とイレイナ。

 外に出るとそこには、プラチナブランドの髪をしたお姫様。たしか、……リンスレット・ローレンフロストだっけか?

 

 『ちょ、待ちなさい』を背にして、歩き出す俺とイレイナ。

 歩いていると、見知ったお姫様が目に入る。大き目のバスケットを持った、ユーナ・キャンベルだ。

 

「あ、カケル君。サンドイッチ作ってきたんだけど。食べる?」

 

 あー、そうだった。今夜は飯を作らなくても大丈夫だったんだっけ。

 

「悪いな、頂くよ。腹減ってて」

 

「ユーナちゃん。私も私も」

 

 そう言って、バスケットからサンドイッチを摂り、口の中に運ぶ俺とイレイナ。

 かなり旨い。俺が旅をしてた時の非常食より旨い。……いや、当たり前だけどさ。でもまあ、市販のより旨いのは確かだ。イレイナも、俺と同じ感想だろう。まあ立ち食いになっちゃうけど。

 

 ――閑話休題。

 

 三人分あるという事は、あと一つはカミトの分だ。ユーナと共に宿に戻ろうとしたのだが、その手前でクレア・ルージュと、リンスレット・ローレンフロストが対峙してた。

 

「……何やってんの。あの二人は」

 

「うーん、クレアちゃんとリンスレットさんは仲がいいんだけど。それがこんな形になっちゃうんだ」

 

「なるほどねぇ。二人の友情表現が、決闘的な感じに出てるということ?」

 

 その通りだと思いますよ、イレイナさん。まあ、喧嘩する程仲がいいってことかな。つーか、精霊を召喚するな。

 そう、リンスレットは契約精霊の魔氷精霊(フィンリル)。クレアは契約精霊の灼熱の火猫(スカーレット)を召喚しているのだ。

 精霊の格としては、中位精霊(Bランク)以上だろう。かなりレベルの高い精霊である。で、その火精霊と魔氷精霊が同時に跳び、空中で激突し、激しい嵐となって吹き荒れる。

 

「……かなり嫌な予感がするんだが」

 

 まあそれは当たってしまい、火精霊の火の粉が飛んで、小屋に燃え移ったのだ。

 んで、小屋は火に包まれていく。

 

『凍てつく氷牙よ、穿て――魔氷の矢弾(フリージング・アロー)!』

 

 リンスレットが精霊魔装(エレメンタルヴァッフェ)を展開させ、氷の矢をつがえ放つ。

 矢弾は無数の氷の欠片となって降り注ぎ、燃え盛る炎を一瞬で消化する。まあ、結果として小屋は砕け散る(・・・・・・・・)だが。

 ……うん、ちょっとイラッとした。……ちょっと脅しちゃうか。

 

「――氷結の全てを司る女帝よ。汝、我の矛になる為、我に力を与えた給え」

 

 イレイナが発光し、俺の左手に綺麗な長剣が、そう、透き通るような氷の剣が握られていく。

 

「我は命ずる、汝、我を導き剣と成れ――氷剣の女帝(アイス・エンプレスソード)

 

 そして詠唱が完了すると、俺の左手に美しい氷の長剣が握られた。

 最強を冠する氷結精霊。イレイナ・アッシュフォードの精霊魔装(エレメンタルヴァッフェ)だ。隣に立つユーナは『……綺麗』と言い、イレイナの精霊魔装(エレメンタルヴァッフェ)に目を奪われている。

 まあ、かなり美しい氷結の長剣だしね。

 

「おーい、君たち。その辺で止めようか。俺も参加しちゃうよ」

 

 俺の言葉で、ビクッと肩を震わせるクレアとリンスレット。

 まあ、イレイナは最強の精霊だし、こうなるのも無理もない。精霊魔装(エレメンタルヴァッフェ)となれば尚更だ。

 

「まああれだ。精霊を元素精霊界(アストラル・ゼロ)に還そうか」

 

「「……はい」」

 

「よろしい」

 

 そう言ってから、俺も精霊魔装(エレメンタルヴァッフェ)を解除する。

 すると、俺の隣にイレイナが姿を現す。それとほぼ同時に、中庭の方から足音が聞こえてくる。




感想待ってます!
次回も頑張るぜ!


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第5話 決闘騒ぎ

連投です。


 やって来たのは、エリス・ファーレンガルト。学院の風紀を守る騎士団長だった。その後ろに、同じ恰好をした少女が二人。

 

「学院の内で私闘は禁じて……なっ!?」

 

 ファーレンガルドは、瓦礫となった宿を見つめる。

 

「こ、これは、いったいどういうことだ!」

 

 ファーレンガルトは、怒気を含んだ声音でそう言った。

 

「わ、私の作った家が気に入らないとか、そういうことか?抗議行動なのか!?」

 

「これはだな、ファーレンガルト。お姫様たちがちょっとな」

 

 クレアとリンスレットは、お互いに指を差し合った。

 

「このバカ犬が粉々に吹き飛ばしたのよ」

 

「その前に、この残念胸が燃やしたんですわ!」

 

 ファーレンガルトは納得したように溜息を吐く。

 

「……なるほど。いつものお前たちの仕業ということか」

 

「あら、いつものとは、随分な御挨拶ですわね、騎士団長」

 

「いつもの、だろう?レイブン教室の問題児」

 

 ファーレンガルトが、キッとリンスレットを睨み返す。

 騎士団の少女たちも、後から追い付いて来た。

 三つ編みにした茶色い髪の少女と、黒髪の少年っぽい髪形の女の子だ。

 クレアたちの顔を見ると、苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

「……火猫のクレア!それに、氷魔のリンスレット!」

 

「また何かやらかしたのか?劣等(・・)なレイブン教室が」

 

 少女たちの目には、あからさまな侮蔑の色が浮かんでいた。

 

「……なんですって?」

 

「今、なんとおっしゃいまして?」

 

 クレアとリンスレットが同時に二人を睨みつける。

 だが、少女たちの目は、クレアとリンスレットを無視して、編入してきた俺とカミトへ向いた。

 

「あんたたちか。学院に編入してきたっていう、例の男の精霊使いは」

 

「へぇ、悪くないわね。結構カッコイイし、可愛いじゃない」

 

「ちょっと、コイツらはわたしが見つけた奴らよ!」

 

「二人は、私の下僕にする予定ですわ!」

 

 いや、ならねーからな。と俺は内心で突っ込む。

 三つ編みの少女は鼻で笑い、

 

「あら、誰もチームを組んでもらえないからって、色仕掛けで編入生をたぶらかすなんて、辺境の田舎貴族はやることがせこいわね」

 

「へ、辺境の田舎貴族ですって……」

 

 リンスレットの顔が引き攣った。

 これは、かなりの地雷発言らしい。

 

「そうよ。ローレンフロスト家なんて、家柄だけがご自慢の田舎貴族じゃない」

 

「な、なな、な――」

 

「お、お嬢様。落ち着いて――」

 

「ふ、ふふ、ふ、わたくしは落ち着いてますよ、キャロル」

 

 リンスレットはにっこりと笑った。……お姫様なのにかなりの形相である。

 もう一人の少女がクレアの方を向き、嘲笑うように言った。

 

「クレア・ルージュに至っては、貴族どころか反逆者の妹じゃないか。まったく、学院はどうしてこんな奴の入学を認めたのだか」

 

 クレアの表情がきつくなり、鞭で地面を打ち据えた。

 

「――黙りなさい。消し炭にするわよ」

 

 声が震え、紅い瞳は静かな焔にたたえ、押し殺した声で呻く。

 

「(クレアが反逆者の妹……。まあいいや、今はそれはどうでもいい……)」

 

 刹那、――凄まじい吹雪(・・・・・・)がこの場に吹き荒れる。イレイナと俺の吹雪だ。カミトたちと騎士団が、俺とイレイナの吹雪を見て目を丸くする。

 

「……おい、テメェら。言い過ぎじゃねぇか。言っていい事と悪い事があるって、親から教わらなかったのか……」

 

「……ここで貴女たちを凍らせちゃおうかしら。私、今かなり怒ってるの……」

 

 俺たちの怒りに呼応して、周りの木々が所々に凍っていく。

 温度が劇的に下がり、後ずさる騎士団。

 これを止めたのは、俺の隣に立っていたユーナだった。ユーナは俺に腰に手を回す。

 

「落ち着いて、カケル君。決闘で白黒をつければいい話だよ。その方が穏便に事を済ますことができるから。ね、イレイナさんも」

 

「………………わかった」

 

「………………今回はユーナちゃんに免じて見逃してあげる。……次はないと思って」

 

 徐々に収まっていく吹雪。

 周囲の温度も、徐々に戻ってきていた。

 

「あ、ああ。――クレア・ルージュ、リンスレット・ローレンフロスト。貴様らもそれで構わないか?決闘形式は、そちらで決めるがいい」

 

「……そうね、一対一(ワン・オン・ワン)は面倒ね。三人制(スリーマンセル)でどう?」

 

「いいだろう」

 

 そう言って、踵を返して去っていく騎士団。

 彼女たちの背中を見ながら、クレアが毒づいた。

 

「ふん、後悔させてやるわ!特に、あの髪の短い奴は絶対に許さない!」

 

「いい機会ですわ。騎士団の連中は前から気に入らなかったんですの」

 

「リンスレット、足でまといにはならないでよ」

 

「あら、誰に言っているんですの?」

 

「……お前らな、小屋を破壊した後は決闘騒ぎか?勘弁してくれよ」

 

 カミトは深い溜息を吐いた。

 

「ま、そんなわけだから」

 

 クレアは腰に手を当て、カミトを指差した。

 

「さっそく、あんたの力を見せてもらうわよ、奴隷精霊!」

 

「……オレかよ。カケルとキャンベルがいるじゃんか」

 

「は?あんたバカじゃない。カケルの力は今見たでしょ。あれじゃ決闘にならないわよ。騎士団が蹂躙されるだけよ。それに、ユーナ・キャンベルは部外者」

 

「そうですわね。決闘を見届ける第三者ということでどうでしょうか?証人がいれば、私たちが勝った確実性がでますので」

 

 決闘は、元素精霊界(アストラル・ゼロ)で行うらしい。時刻は、深夜二時に(ゲート)の前に集合だ。

 

「そうね。ナイスアイディアよ、リンスレット。そういうことなので、奴隷精霊、絶対勝つわよ!」

 

 マジか……。と言い、瓦礫の家の前でカミトはうんざりと肩を落とした。

 俺とイレイナ、ユーナは、頑張れと内心で言う事しかできなかった。




もうすぐ戦闘描写だ。
上手くか書けるか、メチャクチャ不安です(-_-;)


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第6話 これからの寝床

今回で、話が結構?進みます。


 俺とカミト、イレイナは、学院の石畳をとぼとぼ歩きながら、紅いツインテールの少女と黒髪のセミロングの少女の後を歩いていた。

 リンスレットは、決闘の用事がありますので!と言い、一足先に宿舎に戻った。

 

「……なあカミト、イレイナ。今日どうする?」

 

「どうするもなにも、今日は野宿じゃないか」

 

「私は野宿でも構わないけど、カケルとほぼ毎日だったし」

 

 クレアが振り向くと、びしっと指を突き付けた。

 

「あ、あんたら、まだぶつぶつ言ってるの!」

 

「オレたちの家」

 

「放火魔」

 

「えーと、犯罪者?」

 

 俺たちが矢次にそう言うと、クレアは明後日の方向を見て、うっ。と呻いた。

 そんな時、こちらを振り向き、顔を真っ赤に染めて口を開いたのはユーナだ。

 

「あ、あの……、わ、私の部屋、今はルームメイトがいないの。よかったら、……来ますか」

 

 …………えーと、何で俺を見るのかな。ユーナさん?てか、イレイナはニヤニヤ笑うな。

 嬉しい提案でもあるが、男女が一つ屋根の下はちょっとな。って感じだ。色々とマズイ気もするし……。

 だが、俺の考えはクレアの意見によって掻き消される事になる。

 

「……そそ、そうね。し、仕方ないわ。わ、わたしもルームメイトはいないのよ。ど、奴隷精霊はわたしのものだし、わたしが面倒を見るわ!」

 

「「……ちょっと待てお前ら」」

 

 俺とカミトの言葉が重なった。

 やはり思ってる事は、同じだろう。女子寮に住み込むのはマズイ。という事だ。

 

「まあまあ、2人共。今日はお言葉に甘えようよ。これからの事は明日考えればいいでしょ。もうそろそろ、日が落ちちゃうし」

 

 まあ確かに、目の前に泊まる場所があるのだ。これを見逃すのも惜しい。

 俺とカミトは苦渋の決断の上、この提案に賛同したのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 現在俺たちは、女子寮の前に到着していた。

 寮といっても普通の建物じゃない。大貴族の邸宅のような瀟洒(しょうしゃ)な館だ。

 

「…………これ、マジで寮なの。豪邸じゃないの?」

 

「…………私たちここで寝れるの?」

 

 前の生活から考えるに、これは180度ものごとが変わった感じだ。

 なんつーか、入るのに躊躇いがあるな……。

 

「それじゃあ、クレアちゃん。私は、カケル君とイレイナさんをお部屋に連れてくね」

 

「そう、わかったわ。決闘の時間には遅れないように」

 

「ん、わかってる」

 

 寮に入り階段を上り、少し歩いた場所にユーナの部屋はあった。

 ユーナがドアを開け、その後ろにイレイナと俺が続く。電気がつけられ回りを見回すと、身の回りの物は綺麗に整理された。また、女の子特有の甘い香りと言えばいいのか。それが鼻腔を擽る。……俺は変態じゃないからね。

 

「と、とりあえず、座ってて。お茶入れてくるから」

 

 ユーナはそう言って、キッチンに消えて行ってしまった。

 まあそういう事なので、近場のソファーに腰を下ろす。……かなりもふもふして気持ちいいんですが。これがお姫様の力か。

 

「お待たせ。お茶だよ」

 

 俺とイレイナは、ユーナがお盆に乗せたカップを手にして、それを確認してからユーナも向かいのソファー腰を下ろす。

 お茶を一口飲んだが、かなり高い茶葉だと思われた。……これ、マジで幾らの茶葉だ。

 俺は目の前のテーブルの上にカップを置き、一息吐いてから口を開く。

 

「最近のお姫様は危機感ってものを持ち合わせてないのか。一応、俺男だぞ」

 

「カケル君なら大丈夫だって思うんだ。今日話してみて、悪い人じゃない事もわかってるしね」

 

「それは何て言うか、ありがとうって言えばいいのか?」

 

「うん、そうかも。それに、あの時怒ってくれてありがとう。私にはできない事だったから」

 

「そうか」

 

 差別する人間が気に入らないっていう俺の私情がかなり占めているんだが。

 俺とイレイナは、差別が大嫌いだしね。

 そう思っていると、イレイナが俺の袖を掴んだ。

 

「もういっそ、カケルとユーナちゃんは一緒に住んじゃえば。あれだったら、私は元素精霊界(アストラル・ゼロ)に戻るけど」

 

「アホ。話が飛躍しすぎだ!」

 

 俺はイレイナの頭にチョップをかます。で、ジト目で俺を見るイレイナ。

 ほら、ユーナは茹でダコ見たいに顔が真っ赤じゃん。10代で同棲?は色々アレだしなぁ。まあ、明日からは安全に野宿できる場所を探そう。

 

「え、えっとね。カケル君とイレイナさんは、今後どうするのかな?」

 

「ん、寝床のことか?」

 

 コクコクと頷くユーナ。

 

「んー、まあ野宿だな。やっぱ、学院内がいいかもなぁ」

 

「そ、そんなのダメ!野宿なんてダメだよ!」

 

「うおっ!ビックリした……」

 

 てか、ユーナさん。何で若干涙目?

 

「わ、私決めた!――――カケル君!私と一緒に住んでください!」

 

 いやいや、意味がわからん。てか、どうしてそうなった。イレイナも、『ひゅー、ユーナちゃん大胆!』って言うな。

 

「……え、えーと、野宿は許さないから一緒に住めってこと?」

 

「……うん、そう」

 

 暫しの沈黙が流れる。

 ……何か我慢比べになってるんだけど。

 結果は――、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……俺の負けだよ。ここに住ませて下さい」

 

 ユーナはにっこり笑い、

 

「もちろんOKだよ。これからよろしくね」

 

「ああ、よろしく」

 

 俺は、女子に弱い事が解った瞬間だった。

 女の子は、イレイナとしか関わってなかったからなぁ……。

 

「カケル君は精霊剣舞祭(ブレイドダンス)に参加するんだよね?」

 

「一応そのつもりかな。てか、メンバーが集まるか、かなり不安でもある」

 

「じゃ、じゃあ、メンバー第1号になっていいかな」

 

 マジか、まだユーナはチームが決まってなかったのか。

 やったね、メンバーゲットだぜ。……これ、某アニメのセリフだよね。

 

「そういえば、ユーナの契約精霊ってどんな奴なんだ?」

 

「うーん、そうだね。一言で言えば、火の鳥かな」

 

 なるほど。火の鳥=鳳凰って所か。てか、精霊魔装(エレメンタルヴァッフェ)がかなり気になるな。

 まあ、近々見る機会があるだろう。

 

「そうそう。カケル君とイレイナさんは、ここに来るまで色々な街を点々としてたんだよね」

 

「まあそうだ」

 

「それでね。街で昼食を食べてる時に手紙が届けられて、ここに来たって所かな」

 

「そうなんだ。旅のお話とか聞きたいんだけど、いいかな?」

 

 ユーナは首を傾げてそう聞いてくる。

 

「あんまり面白くないぞ」

 

「いいのいいの。私が聞きたいの」

 

「じゃあ、私から話すね。最初の街はね――」

 

 俺、イレイナ、ユーナは、刻限が近くなるまで話に更けているのだった。




次回は戦闘か……。
上手く書けるかな……不安です。


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第7話 真夜中の剣舞

文字数が予定より多くなっちゃいました。


 深夜二時。学院生が眠りに就き、森の精霊たちがざわめき始める時間帯。

 月明かりの照らす石畳の道を、俺とイレイナは、ユーナの後ろを歩いていた。

 

「精霊たちが活発化してるな。野宿の時を思い出す」

 

 俺は精霊の住まう森で野宿をした時を思い出し、肩を震わせた。

 あの時は襲われたしな。まあ、撃退したけどさ。

 

「私の精霊魔装(エレメンタルヴァッフェ)が一歩遅かったら、やばかったもだし」

 

「複数で襲ってくるとか、想定外もいいところだぞ。てか、一度や二度の体験じゃないしな」

 

「た、大変だったんだね」

 

 ユーナさん。何で若干引き気味なの?

 普通じゃ有り得ない体験だけどさ。

 

「で、でも、その話も聞きたいかな。私、カケル君の事をもっと知りたいんだ」

 

 ……ユーナさん。ある意味告白に近い言葉ですよ。

 まあ、俺の偏見かも知れんが。

 

「構わないけど。んじゃ、ユーナの事も教えてくれよ」

 

「ん、いいよ」

 

 俺とユーナが歩いていると、目的地に到着した。カミトたちが立っている場所は、巨大な石の円環(ストーンサークル)の目の前だ。そして、地面はぼんやりと青白く発光している。

 足を踏み入れ、クレアが精霊語で開門の呪文を唱えると、地面の青い光が輝きを増す。

 途端、視界が白い閃光に満たされる。

 全身を襲う目眩のような感覚、目を開けると、そこは異世界の風景が広がっていた。

 捻じれた木々と屹立する、深い闇の森。夜に煌々と輝く紅い月。辺りは、薄く紫がかった霧が立ち込めている。

 ――元素精霊界(アストラル・ゼロ)。精霊たちが住まう、もう一つの世界。

 

 元素精霊界(アストラル・ゼロ)では、契約精霊をより純粋な神威(カムイ)の塊として使役する事ができる。

 そうした場合、神威(カムイ)を宿す人間の肉体は精霊と同様として扱われ、物理的なダメージは殆んどないのだ。

 だけどまあ、絶対に安全とは言えない。痛みは普通に感じるし、肉体にダメージを受けない代わりに精神に同等のダメージを被る。

 最悪の場合、重度の記憶障害や精神が破壊され、二度と意識を取り戻せないという可能性もある。

 

「――炎よ、照らせ」

 

「――焔よ、我が手に力を」

 

 クレアとユーナが精霊魔術を唱えると、手の平に小さな火球が、森の中に開かれた細い道を照らし出した。

 歩いていると、決闘の話となった。勝算については、まあカミトの実力が大きいらしい。

 

「それじゃあ、私とカケル君は離れた所から見てるね」

 

「んじゃ、頑張れよ」

 

 目的地に到着した俺とユーナは、スタジアムの石段を上った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「やっぱ、短期決戦になりそうだな」

 

「そうかも。長期戦は、クレアちゃんたちには分が悪い感じだしね。気になったんだけど、カケル君はイレイナさんを無詠唱で展開できるの?」

 

「まあ一応」

 

「最初の頃は、かなり苦戦してたけどねー」

 

 無詠唱展開はかなりの技術が必要になる。

 またこれは、精霊との関係も重視される事でもあるのだ。

 

「そうなんだ。私もできるようにしないと」

 

「意気込むだけじゃできないぞ。精霊との対話が重要になってくるしな」

 

「大雑把にいえば、精霊と仲良くなるのがコツかな」

 

 ねっ。って同意を求めるな、イレイナさんや。仲がいいのは否定しないけどさ。

 ユーナも、そうなんだ。と同意してくれたし、この話はここまでにしよう。

 てか、カミトの精霊魔装(エレメンタルヴァッフェ)だが、あの短剣なの?剣の封印精霊なのに?

 

「……勝負あった感じに見えるのは俺の気のせいか」

 

 あの短剣じゃ、リーチが短すぎる。敵に一太刀入れるのは困難を極めるだろう。

 

「……だ、大丈夫だよ。凄い能力があるかも知れないんだし」

 

「私の見た手じゃ、もっと強力な精霊のはずなんだけど……」

 

「てことは、上手く回路(パス)が繋がってないって事か」

 

 それが原因なら、納得がいく。

 つーか、クレア。鞭を振り回すな。カミトが痛そうだぞ。

 まあ、リンスレットも華麗な登場をしました。キャロルもいるし、何処からか取り出した旗を振ってるしね。

 それと同時に、劇場の上に騎士団も姿を現した。……ここまでタイミングが良いという事は、カッコよく出てくるタイミングでも見計らっていたのだろう。

 

「決闘開始か。見ものだな」

 

 特にカミトがだが。

 元は、レン・アッシュベルだった訳だし。三年のブランクはかなりのものだと思うが。

 そして、巨大な大鷲が紅い夜空に姿を現した。おそらく、エリス・ファーレンガルトの契約精霊だろう。

 風を纏う大鷲は咆哮を上げ、急降下しカミトたちが立つ場所にダイブした。

 これにより、石畳が剥がれ、大量の砂が舞い上がる。

 

「挨拶代わりの一撃ってところかな」

 

「だろうな」

 

 でもまあ、クレアは中距離からの直接援護。リンスレットは遠距離攻撃による後方支援にすぐに移る。

 だが、ファーレンガルトの精霊制御は完璧だ。んで、三つ編みの少女と短髪の少女は中の下といった所か。

 でもまあ、ファーレンガルトの指揮が上手く嵌まってる。騎士団長を名乗るだけあり、ファーレンガルトは指揮能力も高い。

 てか、支援役のリンスレットは何であんなに目立つ所から狙撃してんの?的になるだけだぞ。

 それでも決闘は続いて行き、カミトがファーレンガルトの隙を突いた――、

 

『凍てつく氷河よ、穿て――魔氷の矢弾(フリージング・アロー)!』

 

『舞え、破滅を呼ぶ紅蓮の炎よ――炎王の息吹(ヘルブレイズ)!』

 

 ……タイミングは完璧なんだが、放たれた氷河と獄炎は衝突した。

 これはあれだ。互いの攻撃が衝突し、勝利を手放してしまった。という所だ。

 

「(……個々の能力は高いが、チームワークがバラバラだな)」

 

 だが、この直後、俺とイレイナは気付いた。

 刹那、空の裂け目から、それ(・・)は現れた。それは虚空に浮かぶ巨大な顎。

 頭部も胴体も尻尾も存在しない。ただ、ズラリと歯の並んだ不気味な顎だけが、ガチガチと音を鳴らしていた。

 

 ――魔精霊。

 それは、その精神構造の在り方が人間と異なる故に、精霊使いが決して手懐ける事のできない異形の精霊。

 おそらく、ここに現れた魔精霊は魔人級に匹敵するだろう。

 

「イレイナ!」

 

「りょうかいよ!」

 

 俺は立ち上がり、無詠唱で氷剣の女帝(アイス・エンプレスソード)を左手に展開させる。大技で決める事はできるが、ここでは被害が大きすぎてカミトたちを巻き込んでしまう恐れがある。ならば、顎野郎と接近戦だ。

 また、ユーナの契約精霊ならば、皆を乗せて飛ぶ事ができるはず。

 俺は、ユーナを一瞥した。

 

「召喚がしたら私も行く」

 

「ああ、頼んだ」

 

 俺はこの場から跳び下りた。

 そして、後方からは詠唱が聞こえる。

 

 ――業火を纏いし不死鳥よ、守護を司る神獣よ!

 ――今こそ血の契約に従い、我が下へ馳せ参じ給え!

 

 現れたのは、神々しい鳳凰だ。おそらく、精霊の格も学院ではトップクラスだろう。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 虚空に浮かぶ顎は森の木々を薙ぎ倒し、古代の遺跡を粉々に噛み砕き、砕け散った破片が頭上に降り注ぐ。

 あの精霊は契約精霊のように純化形態で召喚されてる訳ではない。

 あの歯で噛み砕かれれば、人間は体など紙屑同然だろう。

 

「お前らは避難しろ。あれはお前たちが手に負える相手じゃない」

 

 精霊との戦闘は、精霊使いとの戦闘とは全く異なる。無論、学院の生徒は魔精霊の相手など皆無だろう。

 

「な、なにを言ってる。ここは騎士団長の私が殿(しんがり)を務める」

 

「アホか!ここで虚勢を張っても意味がない!それに、精霊との戦闘経験がないお前らは死ぬぞ!」

 

「……カケル。殿(しんがり)はわたしがやるわ」

 

 クレアの言葉に目を見開く俺。

 クレアは鞭を鳴らし、契約精霊を呼び出した。

 

「クレア、さっきの俺の言葉を聞いて言ってんのか?冗談抜きで死ぬぞ」

 

「…………」

 

 クレアの瞳は、暴風の如く荒れ狂う魔精霊に釘付けになっていた。そう、まるで魅入られたように(・・・・・・・・)

 カミトが、ハッと何かに気付いた。

 

「……お前、まさかあの魔精霊を――契約精霊にするつもりか!?」

 

「…………」

 

 クレアは何も答えない。ただ、じっと魔精霊を見続けている。

 

「無茶だ!あれは魔精霊だぞ!しかも狂乱してる!」

 

 カミトが叫ぶと、クレアはやっと振り向いた。

 

「…………これは、千載一隅のチャンスなのよ」

 

 唇を噛み、思いつめたような表情で呟く。

 

「精霊の森で、あれほどの精霊と遭遇する事なんてまずないわ。それに、過去に魔精霊と契約した精霊使いがいなかったわけじゃない」

 

「グレイワースのことか?あいつは魔女だ」

 

「わたしにも、魔女の素質があるかもしれないわ」

 

「バカなことを言うのはやめろ、カケルの言う通り死ぬぞ」

 

 カミトは、今にも駆け出そうとするクレアの腕を掴んだ。

 クレアは、キッとカミトを睨みつける。

 

「……う、うるさいわねっ、離して!弱いあんたは黙ってて!」

 

 クレアは、カミトの腕を振り払い叫ぶ。カミトを睨む紅玉(ルビー)の双眸には怒りが浮かんでいた。

 

「わたしの封印精霊、横取りしたくせに!あんな弱い精霊魔装(エレメンタルヴァッフェ)しか使えないあんたに、わたしに何かを言う資格があるの!?」

 

「それは──」

 

 カミトが俯く。クレアが苛立つのも仕方ないのかもしれない。封印精霊クラスの精霊と契約しているのに、その力を全く引き出すことができないのだから。

 

「……なによ、ちょっとは期待してたのに」

 

 クレアは目を逸らした。

 

「あれはわたし一人でやるわ。あんたたちは早く逃げなさい。……できれば考えたくないけれど、もしわたしが……」

 

 クレアはそこから先を口にしなかった。そして、

 

「──スカーレット!」

 

 相棒の精霊の名を叫ぶと、森を食い荒らす魔精霊に向かって走り出す。

 

「クレアッ!」

 

「待て、クレアッ!」

 

 俺とカミトが慌てて手を伸ばすが、その瞬間、魔精霊が咆哮した。

 叩きつけられる衝撃の塊。辺りの木々が根こそぎ吹き飛ぶ。

 

「風よ、我らに加護の手を――風絶障壁(ウインドウォール)!」

 

「氷結よ、全てを凍らせ給え――吹雪の息吹(アイスブレイズ)!」

 

 エリスと俺が精霊魔術を唱え、エリスが風の障壁で暴風から俺たちを守り、俺が放つ凍気が、此方に飛んでくる遮蔽物を凍らせる。

 その時――、

 

「皆、早くフェニックスの背に乗って」

 

 風の障壁の後ろに、鳳凰の背に乗ったユーナが到着した。

 ファーレンガルト、リンスレット、気絶した二人と背に乗っていくが、カミトだけは前を見据えていた。

 

「カミト、早くお前も乗れ。クレアは俺に任せろ」

 

「……いや、その役目は俺がやる」

 

「……お前は、満足に精霊魔装(エレメンタルヴァッフェ)もできないのに行く気なのか」

 

「……ああ、次は絶対に成功させる。それにオレは――あいつの契約精霊(・・・・)だ!」

 

 俺は盛大に溜息を吐いた。

 

「……行って来い。援護はしてやる」

 

 それを聞くと、カミトは風の障壁から出て走り出した。

 

「おおおおおおおっ!」

 

 雄叫びを上げながら、カミトは魔精霊に向かって突進する。その時、カミトの右手に刻まれた精霊刻印が青白い輝きを放つ。

 カミトの手に光の粒子が生まれ、剣の形に変化する。その手に握られていたのは短剣ではなく、ひと振りの長剣。――魔王殺しの聖剣(デモン・スレイヤー)だ。

 カミトの接近に気付いた魔精霊は、カミトを狙って複数の触手を伸ばしてくる。

 

「氷結よ、剣に宿りて悪を絶て。――吹雪の嵐(ブリザードストーム)!」

 

 剣から吹雪いた風が、カミトに向かってくる触手を完全に凍らせた。全部凍らせて終わりにしたいが、まあヒーローの出番を残して於かないと。

 そして、カミトが地を蹴って高く飛び上がった。刹那、カミトが握る魔王殺しの聖剣(デモン・スレイヤー)が振り下ろされる。

 

「──消え失せろ、顎野郎!」

 

 振り下ろされた聖剣が、魔精霊を真っ二つに切り裂いた。

 それを確認してから、俺は精霊魔装(エレメンタルヴァッフェ)を解いた。

 

「(クレアちゃんの心はカミト君のものだね)」

 

「(アホ。こんな時に何言ってんだ、お前は)」

 

 緊張感の欠片もない精霊である。

 まあ、これがイレイナの良い所でもあるんだけど。極度の緊張を解して、体の力を抜けさせてくれるしね。

 つーか、カミトさん。意識を失わないで。

 

神威(カムイ)を根こそぎ奪われたんだろうな」

 

「今の一撃、かなりのものだったしね。ま、私の方が凄いけど」

 

「……そんな所で対抗心を燃やすなよ……」

 

 ともあれ、この事件は一件落着した。




次回は、銀髪の子かな。

感想よろしく!(切実)


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第8話 剣精霊と氷結精霊

投稿が遅れてすいません……。
では、どうぞ。


 俺は昨日の騒ぎの後、シャワーを浴びベットで眠りに就いた。数時間休息を取り、目を覚ますと眩しい朝日が斜めに差し込んでいる。

 俺は上体を起こし、大きく伸びをした。……てか、今思った。この部屋のベットは一つだけしかなかったような……。

 

「……まあそうなるよね」

 

 俺の隣には、部屋着姿のユーナが眠っていました。

 とにかく、俺は朝の鍛錬をする為女子寮を出る。カミトにも参加してもらいたいが、昨日の今日じゃ体力等は、完全に回復してないだろう。

 中庭に出た所で、俺は無詠唱で氷剣の女帝(アイス・エンプレスソード)を展開させる。

 ちなみに今の俺は、VネックTシャツに黒の短パンとラフな真っ黒装備である。

 

「やりますか」

 

『カケルって、ホントに剣術が好きよね。子供の頃もだったかしら?』

 

「そうかもな。物心ついた時から、剣を振ってたし。だから、イレイナと契約ができたのかもな」

 

『そうかしら?私は、将来この子と契約するんだろうなぁ。って想ってたけど』

 

 そんな事を話しながら、素振りをする俺。

 それにしても、何故、元素精霊界(アストラル・ゼロ)に魔精霊が現れたんだ?まあ、考えても答えが出る気がしないけど。

 ――鍛練を始めて数時間後。左右を見回しながら、制服を着たユーナが姿を現す。

 ユーナは俺の元まで歩み寄り、

 

「中庭に居たんだ、探したよ」

 

「悪いな。いつもの習慣で、素振りをちょっと」

 

「そうなんだ。見ててもいいかな?」

 

「楽しいもんじゃないぞ」

 

 野郎が汗を流してるだけだしね。

 ユーナが、いいよ。って言ってる事だし、まあいいか。てか、気を利かせてスポーツドリンクとタオルを用意してくれるとか。ユーナさん、嫁スキル高くね?

 

「そういえばね、カケル君。カミト君が女の子を部屋に連れ込んだ話って知ってる」

 

「いや、知らんが」

 

 ユーナが言うには、カミトがベットに連れ込んだのは銀髪美少女らしい。

 俺が思うに、その美少女の正体は、――――だと思うんだが。

 ともあれ、鍛練を終え、部屋でシャワーを浴びてから制服に着替え、入口でユーナと合流し並んで歩き校舎へ向かう。ちなみに、イレイナもアレイシア精霊学院の制服を着て、現実世界に顕現してる。

 

「よう、カミト」

 

「ああ、カケルか」

 

 校舎へ向かっている途中で、俺はカミトと遭遇し、ユーナとイレイナはカミトの隣に居た銀髪美少女と先に校舎へ向かった。

 カミトは、怪我も大した事なそうだし神威(カムイ)も回復してると見える。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「あの子の正体が剣の封印精霊、魔王殺しの聖剣(デモン・スレイヤー)だったわけだ」

 

「オレも驚いたんだ。知らない子が一緒にベットに寝てたんだからな」

 

「人型精霊は、人間とほぼ同じだしな。解らなくても、当然といったら当然かもな」

 

「ああ、そっか。イレイナさんは氷結精霊なんだよな」

 

 まあ確かに、イレイナを知らない人が見た場合、その人たちは人間と勘違いするだろう。つっても、俺はイレイナを精霊でもあり、人間でもあるって見てるけど。……何か、矛盾してる気がするが気にしない方向で。

 

「まあな。自慢の精霊(相棒)だ」

 

 それにしても、周りから「見て、変態よ……いや、淫獣たち(・・)が歩いてるわ」「ホントだわ、淫獣たちよ」「淫獣だわ」「女の子の敵ね……」「既に、手をつけた女の子もいるらしいわよ」

 ざわざわざわと、と心に響く声が聞こえる。いや、何。俺のハートをブレイクしようとしてるの。……俺、泣いちゃうよ……。マジで泣いちゃうよ……。

 

「カミトは淫獣なんですか?」

 

「カケルは、淫獣になるまでの甲斐性はないと思うけどなぁ」

 

「わ、私は、カケル君が淫獣でも今まで通りだよ……」

 

 更に、俺たちに元へ歩み寄った、精霊と同居人が心を折りにくる。いや、マジで心が痛いです……。

 つーか、カミトは後ろから襲われるように、騎士団長様から殺気を当てられていた。ご丁寧に、鞘から抜いた剣が首筋に当てられている。

 

「か、カゼハヤ・カミト。き、貴様という男は!そのようないたいけな少女を、て、手籠にしてるとは!」

 

「……あ、あのな。こいつは、俺の契約精霊だよ。て、てか、カケルはいいのかよ?」

 

 おいこら。俺まで巻き込もうとするな。

 

「あ、アマヤ・カケルの精霊は、そ、そこに立っているイレイナ・アッシュフォードだろう。人型精霊で美少女でも、な、何も問題ないはずだ。――カゼハヤ・カミト!私は、貴様の隣にいるいたいけな少女の事を言っているのだ!」

 

 が、その瞬間。フェーレンガルトの目が驚愕に見開かれた。

 首筋に突き付けていた剣が、ぐにゃぐにゃに折れ曲がったからだ。

 

「な、何だ。これは!?」

 

属性共鳴(ハリング)。剣精霊である私は、あらゆる刀剣類に自在に干渉することができます。信じて戴けましたか?」

 

 ファーレンガルトは目を丸くして、折れ曲がった剣を見つめていた。

 精霊魔術でも似たような現象を引き起こす事もできるが、銀髪少女のように、指先を動かすやってのけるのは高位精霊しか考えられない。

 

「なるほど……疑ってすまなかった」

 

 元に戻った剣を収め、ファーレンガルトは謝罪する。

 それからは、昨日の決闘の話になり状況を教えてくれた。

 決闘に参加していた、ラッカと呼ばれる者とレイシアと呼ばれる者は暫く休養らしい。何でも、カミトたちの精霊魔装(エレメンタルヴァフェ)が相当効いたらしい。

 

「そうだ、エリス。クレアの居場所を知らないか?」

 

 カミトが、ファーレンガルトにそう聞いた。

 

「クレア・ルージュなら、まだ部屋に引き籠ってるのではないか?契約精霊を失ったのが、ショックのようだったからな」

 

「それが、もう部屋に居ないらしいんだ。ファーレンガルトは、クレアの行く場所に心当たりはないか?」

 

 ファーレンガルトは、考え込むように顎に手を当てる。

 

「そういえば、今日の午後、学園都市で《軍用精霊》の契約式典(セレモニー)があったな」

 

 《軍用精霊》との契約は、要するにスカウトだ。

 オルデシア騎士団が強力な《軍用精霊》を提供する代わりに、学院側は学院生を差し出す。

 以後は、《軍用精霊》と契約した学院生は軍属とされ、代償として要請があった場合には従わなければならないのだ。

 だが、強力な精霊と契約できる機会なので、志願者は多いらしい。確かに、アレイシア精霊学院では、精霊騎士を目指して入学した者も多いのだ。

 契約者を決める内容も、当然――精霊剣舞(ブレイドダンス)だ。

 精霊剣舞(ブレイドダンス)は精霊使いが入り乱れた無制限戦闘(バトルロアイヤル)。市民へのデモンストレーションも兼ねているので、元素精霊界(アストラル・ゼロ)ではなく、学園都市の闘技場で開催されるらしい。

 クレアの性格、行動からして――参加(エントリー)していない。とは言い切る事はできない。

 契約精霊なしで剣舞を舞う。それは自殺行為でしかない。今のクレアには契約精霊が居ないのだ。

 

「……なあユーナ。式典の場所って何処か解るか?」

 

「う、うん。確か、学院都市のオンビリ通りを真っ直ぐ行った所だよ」

 

「……そうか、解った。――イレイナ」

 

「――いつでもOKよ」

 

 俺たちは、式典へ向かう為走り出した。

 カミトも俺と同じ事を思ったのだろう。カミトもエストと呼ばれる精霊の手を引いて走り出している。後ろでは、ファーレンガルトとユーナが何かを叫んでいたが、俺とカミトは気にせず走る。……つっても、責任感が強いユーナは追いかけて来るだろうなぁ……。まあその時はその時だ。てか、彼女の力量からして心配は無用かもしれない。




一巻も、終盤に差し掛かってきましたね。

ではでは、感想お願いします!!


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