人と光の“絆” (フルセイバー上手くなりたい)
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Episode0 序文-プロローグ-

初投稿です。今までは読むだけだったのですがどーしても書いてみたくなったので、出してみる事にしました。何番煎じなのか分かりませんがやります。あと、豆腐メンタルなのでお手柔らかにお願いします。


「…腹減った…」

とある会社の一室で、高校生くらいの青年が空腹を訴えていた。

「2週間…前に…チュッパチャプス舐めたっきりだっけ?」

訂正、餓死寸前である。

「一樹!テレビつけ…ってお前も大丈夫かぁぁぁ⁉︎」

青年が床で転がってる中、青年と同年代のイケメン青年が入って来たと同時に絶叫した。

「そ、宗介…何か食べる物を…」

「ほい、パンとコーラで良ければ」

「ガツガツガツ‼︎」

「早えなオイ‼︎何週間食って無いんだよ⁉︎」

宗介と呼ばれた青年の言う単位もおかしい。

「に、2週間」

「よし、舞さんと柚希に報告だ」

「やめろ馬鹿‼︎舞は仕送り額の半分を俺なんかに使うし柚希はここに乗り込んでくる!2人に迷惑だろ‼︎」

この漫才をしてる2人、餓死寸前だった青年がこの部屋の主、櫻井一樹。そしてイケメン青年が櫻井宗介だ。2人の関係は従兄弟らしい。ちなみに舞とは一樹の義妹で、柚希は宗介の実妹だ。

「そういえば宗介。なんか話があったんじゃあ…」

「そうだったぁぁぁ!」

2人ともバカ疑惑急浮上である。

「一樹!テレビつけろ!」

「ん?ああ」

一樹が宗介に言われた通り、テレビのニュースをつける。そこでは一樹にとって見慣れた顔が主題に出されていた。

「…は?」

『速報です。今日の朝、世界で始めてISを扱える男子が現れました。名を…』

一樹と違い、今日高校受験を受けに行った筈の幼馴染、その名は…

『織斑一夏君です』

 

「…マジ?」

自分の見た内容が信じられなくて隣の宗介に聞く一樹。

「非常に残念ながら、現実だ」

「って事はアイツはIS学園に送られる事になるのか…かぁぁぁめんどくせえ!」

「え?何で?俺ら関係ないじゃん」

「…え?お前マジで言ってる?世界に今のとこ1人しかいないISを扱える男が現れたんだよ?ソイツに関する全てのデータを取ろうとするのが今の世界情勢だろ?」

「…ハッ!となると」

「アイツのバイト先から何まで全部調査が入るでしょうな」

「ヤバッ!」

「だからめんどくせえって言ってんだろ‼︎とにかく、総理大臣と電話だな。後、いつものメンツで世界各国のお偉いさんに電話。IS学園の校則にある『データの世界への通達』をしなくて良いように交渉してくれ」

「了解。直ぐに手配するよ」

宗介が部屋を急いで出た後、一樹は携帯を取り出し、ある番号にかけた。相手はワンコールで出た。

『もすもすひねもす〜。天才束さんです』

「…櫻井一樹です。もう要件は分かっているでしょう?」

『もちろん!いっくんの専用機でしょう?心配しなくてもこの束さんが作ってあげるよ〜』

「…いえ、コアだけ下さい。アイツの機体は『俺たち』で作る」

『うーん、他の猿達だったら断ってたんだけど他でもないかずくんの頼みだしね!分かったよ、コアだけそっちに送るね』

「ありがとうございます。では」

束との通話を終えた一樹。今度社内用電話を使う。

「…あ、マードックさん。近いうちにISコアが届くんで、今から送るデータの機体を作って下さい。お願いします」

『あいよ!任せとけ‼︎』

その数十分後、お偉いさんから出された条件に頭を抱える事になるのを、一樹はまだ知らない…




ハーメルンのシステムをちゃんと理解するまでかなり時間がかかると思いますがどうかよろしくお願いします。


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Episode1 入学-エントランス・ハイスクール-

お気に入り登録してくれた方、大変ありがとうございます。ハーメルンの取説を読みながらやってみたのですが、上手くいってるかな?


「…キツイ」

どうも、世界で始めてISを動かした男子、織斑一夏っす!…なんてハイテンションにはなれねえ…なにせ__

「俺以外みんな女子…しかも最前列、中央の席だからな…さっきから視線が辛い…俺は動物園のパンダですかっての」

せめて幼なじみの篠ノ之箒がいるだけマシ…って目をそらしやがった!裏切り者‼︎

「…りむら君、織斑君!」

「あ、はい!」

しまった!現実逃避してて先生の話聞いてなかった!

「あ、ごめんね!今自己紹介してて今“お”なの。だから自己紹介してくれませんか?」

今、俺の前で涙目になっているのは、副担任の山田真耶先生だ。しかし、先生。生徒にそんな態度で良いんですか?威厳が…

「します、しますから!」

「ほ、本当ですか?約束ですよ⁉︎」

いや、約束も何もすぐにしますから…

「織斑一夏です。よろしくお願いします」

…え?待って、何その“まだ終わりじゃないよね?”って視線。無理無理!そうだ!箒に助けを…ってまた目をそらしやがった‼︎薄情者‼︎こうなったら…

「以上です!」

ガタガタッ!

最終手段を取ったら全員ずっこけた。何故だ?

「自己紹介もろくに出来ないのか?馬鹿者が」

そこに俺にとって馴染み深い気配…いや、最後に会ったのいつだっけ?まあ良いや。ここはいつものノリで返そう。

「ゲッ⁉︎関羽‼︎」

スパンッ!

「イッテェェェェ‼︎」

「誰が三国志の英雄だ馬鹿者が」

今俺を殴ったのは出席簿か⁉︎これが『普通の人』だったらめちゃくちゃ痛いぞ‼︎ついでに親父にもぶたれたこと無いのに‼︎

「そのセリフはサ○ライズに謝っておけ。あと早く席につけ」

「はい、すみません」

頭が痛む()()をしながら自分の席に座る。

「諸君、私が織斑千冬だ。ここでは私の命令は絶対だ。良いな?良くなくても返事をしろ」

いや、そんな独裁者みたいなセリフだと皆がこわが…

『キャァァァァァァ‼︎』

りませんでした。我が姉の知名度を舐めていた様です。黄色い声で鼓膜破けそうです。マジ助けて。

「静かにせんか馬鹿ども‼︎」

千冬姉の一喝で教室がシーンとなる。おぉすげえ‼︎『あそこ』並の統率度だ‼︎

「さて!諸君にもう1人紹介せねばならない者がいる!」

「「「「え?」」」」

…え?誰?そしてなんでみんなとは別に?

「そこでマヌケ面を晒してる奴の護衛としてIS委員会が送って来た精鋭だ。皆、コイツの手を煩わせるなよ。では入ってくれ」

ガラガラッ

教室に入って来たのは…

「…今、織斑教諭に紹介された櫻井一樹です。ISを扱うことは出来ませんが、とあるバカのせいでここにいます。面倒だとは思いますが、どうかよろしくお願いします」

俺の、幼なじみの1人であり、()()でもある櫻井一樹だった。

 

「では、HRを終わる。休み時間にして良し!」

千冬が教室を出るとほぼ同時にIS学園の8割方の生徒が1年1組の教室に押し寄せてきた。ほとんどは一夏への好意的な視線だったが…

『ちょっと、あの男子…』

『織斑君の護衛としてIS学園に来たみたいだけど…』

『えぇ⁉︎()()()()が⁉︎』

『ISを使えないくせになんで護衛役なんて出来るのかしら』

『織斑君の方が強そう』

『ちょwwwwそれはwwww言ったら駄目なヤツwwwwww』

『だって事実じゃない』

一樹に対しては碌な話が無かった…「(ま、いつもの事だけどな)」

苦笑する一樹。彼は以前からこの手の噂には慣れっこなのだ。

「よ、一樹。卒業式以来だな(何で護衛の件教えてくれなかったんだ?)」

「そうだな。春休みはお前が忙しかったしな。(昨日の晩、急に依頼が来たんだよくそったれ)」

「…まあな。おかげでのびのび遊べなかったよ。(…よく受けたな。いや、俺以外の男子、しかも知り合いが来てくれたのは嬉しいけどよ)」

「…苦労してるな(あまりに急だったから料金は月に100億で交渉した)」

「これからの生活が怖いです。(高ッ⁉︎それ政府相手の定価の100倍じゃねえか‼︎)」

「大丈夫だろ、お前なら。(ま、結果は月に80億だけどな)」

「他人事だと思いやがって…(それでも充分高いと思うぞ)」

()の中は2人のアイコンタクトでの会話だ。アイコンタクトでこれだけの会話が出来る必要がある所に2人はいるのだ。

「ちょっと良いか?」

「ん?なんだ箒」

目の前にいる女の子、篠ノ之箒が話しかけてきた。“一夏”に。

「…行ってこいよ、一夏」

「あ、ああ」

護衛役とは言っても、一夏と常に一緒にいる必要はない。本来ならそうするべきなのだろうが…()()()()そこまで必要無いだろう。

数分後…

キーンコーンカーンコーン

「あ、危ねえ!」

箒と屋上へ行っていた一夏が戻って来た。全力疾走で。

「(もっと余裕持つ様にしろや…)んじゃ、一夏授業頑張れ」

「へ?一樹も授業受けるんじゃないのか?

「は?扱えないのに?」

「…」

「…」

「…そりゃねえぞ‼︎結局俺教室に1人かよ‼︎」

「…煩い。意味も無い授業を受ける気はさらさら無い。じゃあな」

一樹はそう言って教室を出ようとする。丁度タイミング良く千冬が教室に入ってくる。

「なんだ櫻井。授業が始まるぞ。まさかサボる気ではあるまい」

「サボるって言いかたが悪いな。俺は受ける必要の無い授業は教室を出て、周りの生徒に迷惑が掛からない様にしてるだ。むしろ感謝してほしいぜ」

平然と千冬の横を通り過ぎようとする一樹。当然千冬の出席簿が降りてくるが…

パシッ!←一樹が出席簿を受け止めた音。

ガッ!←そのまま千冬の右腕を掴んだ音。

ブンッ!←一樹が千冬を投げ飛ばした音。

ガッシャーン!←千冬が掃除用具入れにぶつかった音。

「…IS委員会経由で伝わってないのか?俺は知り合いからでも、敵意を感じれば容赦しないってな…」

言葉の後半あたりでは千冬だけでなく、教室全体に殺気を放出していた。殺気と言っても脅し程度のものなので殺気に慣れている?一夏と千冬は冷や汗程度で済むが、生徒達はそうでは無い様だ。ガタガタ震えている。先ほど一樹を見下していた女生徒達も…

『『『『(さ、櫻井君は怒らせちゃ駄目!絶対‼︎)』』』』

「…おら千冬。いつまで倒れてる。手加減したんだからすぐに起きれるだろうが。それとも鈍ったのか?」

「…少しなまっていた様だ。トレーニングを少し増やすことにしよう」

「そうしとけ」

それだけ言うと、一樹は教室を出て行った。

 

「ちょっとよろしくて?」

授業終わりの休み時間、一夏と一樹が話していると2人…いや、一夏に話しかける女子。金髪ブロンドの縦ロール、蒼い瞳、日本人離れした容姿に毅然とした態度。急に話しかけられたため一夏は「は?」と間抜けな声を出した。

「まあ何ですのそのお返事は?本来なら私と同じクラスになれただけで大喜びするべきですのよ?」

ピキッ、と一樹と一夏の眉間に一瞬シワが出来るが、本当に一瞬の事なので目の前の女子は分からなかったようだ。

「まあ、私は優しいですし?同じクラスになったからには相応の態度であれば話しかけるのを許してあげても良いですわよ?」

「「(貴様…優しさの意味を履き違えてはおらんか?)」」

「聞いておりますの?」

「…ああ、聞いてるよ」

「まあなんと気品に欠けた言葉だこと。ISを扱えると言うから少し期待してみれば、期待ハズレでしたわ」

「「(何様だコイツ…)」」

「悪い。俺、君が誰か知らねえんだ」

「知らないですって?このイギリス代表候補生にして入試主席のセシリア・オルコットを⁉︎」

「「(前半はともかく後半ぶっちゃけどうでも良い)」」

「おう、知らん」

「…」

一夏のあっけらかんとした言いかたに、セシリアと名乗る少女の顔が面白く変わる。一樹は先ほどから笑うのを堪えるのに必死だ。

「他の生徒は知っていましてよ⁉︎入試で唯一教官を倒したこの私を‼︎」

「へぇ…俺も倒したけど?」

「へ⁉︎私だけだと聞きましたが⁉︎」

()()()()って話なんじゃないか?」

「な、な…」

セシリアという女子が何か言おうとするが…

キーンコーンカーンコーン

授業開始のチャイムが鳴った。

「ッ⁉︎また後で来ますわ。逃げないで下さいよ!よくって⁉︎」

「逃げれるなら逃げたいんですが…悲しいけど俺、あまり身動き取れないのよね」

一夏はそう呟き、自分の席に座る。一樹は逆に教室を出ようとするが、教室に入ってきた千冬に話しかけられ、一夏の隣に椅子を置いて座り直した。

「さて、先ほどは普通に授業をしたが、この時間はクラス代表を決める」

これが、騒動の始まりだった…

 




一応書き置きはあるのですが、誤字脱字が酷すぎるので、次がいつ更新出来るかは分かりませんが、なるべく早く更新します。


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Episode2 英国代表候補生-セシリア・オルコット-

急に文字数が多くなってしまった…
このペースなのは序盤だけです。ご了承下さい。


「さて、始まる前にも言ったが、この時間はクラス代表を決める。自薦他薦は問わん。誰かいるか?」

「(俺じゃなければ誰でもいいや…)」

一夏の考えはこうだったが、現実はそんな甘くない。

「はい!織斑君を推薦します!」

「私も!」

「「「「賛成!」」」」

「ちょぉぉぉっと待てぇぇぇぇ‼︎」

一夏魂の叫び。だが、彼の姉は非情だ。

「うるさい。他薦された者に拒否権はない。選ばれた以上はやりぬけ」

「おかしいだろどう考えたって!ただ物珍しいからって厄介ごと押し付けられてたまるか‼︎」

なおも千冬に食ってかかろうとする一夏だが、急に黙った。千冬が睨みつけたのもあるが、それ以上に一樹の絶対零度の睨みが一夏にこう告げていた。

「(黙らねえと____ぞ?)」

「(ごごごごごごごごゴメンナサイ直ぐに黙りますハイ)」

冷や汗ダラダラの一夏に千冬は訝しげな視線を送るが、直ぐにそんな場合ではなくなった。

「納得出来ませんわ‼︎

先ほど一夏に話しかけて?いたセシリアと言う女子が抗議の声を上げる。

「(良かったな一夏。やりたい人が出てきたぞ)」

「(だな。余計な事言わなくて良いから『私がやります‼︎』って言ってほしい)」

「このセシリア・オルコットにそのような屈辱を1年間味わえとおっしゃるのですか⁉︎ただ物珍しいからといって極東の猿の下につけなどと⁉︎」

ブチッ×2

「(…一樹)」

「(なんだ一夏)」

「(()()()()()()()》良い?)」

「(落ち着け、あのアマをボコボコにしたいのはお前だけじゃない)」

男子2人は表情には出さないが、オーラが怒気を含んでいる。それに気づかずセシリアは続ける。

「本来、代表というものは実力で決めるべきなんです!それを物珍しいからという理由だけで決めてもらっては困りますわ‼︎」

「「(おぉ…まともな事言ってるのに最初の言葉が全てを台無しにしてるな)」

「そしてその実力で選ぶなら当然私がなるべきです‼︎このイギリス代表候補生のセシリア・オルコットが‼︎)」

「(この学園、コイツに負ける程弱いのいるの⁉︎)」

「(一樹、一応聞いておくが()()()レベルで考えてないよね?)」

「(当たり前だ)」

「(なら良いや。一応入試は俺が最後だったから全員のを別部屋で見てたけど、なんかわざと負けたみたいだぜ?)」

「(まあ、こんな性格じゃ勝っても負けてもうるさそうだけど…)」

「__であるからしてって、聞いてますの⁉︎そこのお二方‼︎」

「「って言ってるぞ一樹(一夏)」」

その瞬間、クラス中(セシリア除く)が吹いた。屈辱に顔を真っ赤にしてるセシリアに向けて、男子2人の反撃が始まる。

「島国島国って言うけどさ、その島国で作られた兵器(モノ)を学ぶために来たのは誰だよ」

「なっ…」

一夏の正論に、一気にセシリアの顔から怒りの湯気が吹き出す。

「それにさ、イギリスだって島国だろうが。世界一マズイ飯で何年覇者だよ」

「な、あなた私の祖国を侮辱しますの⁉︎」

「最初にして来たのはどっちだよ。自分が言ったことを棚に上げて人が言ったら怒んのかよ?小さい人間だな」

「一夏の言葉にさらに付け加えるなら、アンタはイギリスを代表してこの場にいるんだろ?なら……日本に喧嘩売る様な態度とって良いのかよ小娘」

「小娘⁉︎あなただって同じ年でしょ⁉︎」

「質問に答えろ」

一樹から発される殺気に、セシリアは一気に黙る。オーラだけで一樹の力量をある程度測れたらしい。少し遅いが…

「このクラスの半分はぱっと見日本人だ。そんなクラスであの言葉、いくら女尊男卑の昨今でも許される筈ねえよな?誤解が無いよう言っとくがイギリスを悪く言うつもりはねえよ。文学的にも、歴史的にも世界で類を見ないほど味のある国だからな。そんなイギリスのために言ってやる。今アンタが言った言葉そのまま日本に伝えてみろ……戦争が起こるぞ?何も知らねえ小娘のせいでな。そもそもそんなにクラス代表やりてえんなら自薦しろよ。クラスの誰かがアンタを推薦してくれると思ってんのか?あぁ?」

一樹と一夏を筆頭に、日本人から睨まれるセシリア。だが、彼女は謝る事を知らない…

「……決闘ですわ‼︎それだけ言えるという事はそうとう腕があるのでしょう⁉︎」

「ふざけんなよてめえ!まず謝るのが先「やめろ一夏」だけど‼︎」

「ここでお前が立ち上がったらその小娘の思うざまだ」

「けど落ち着いてなんて「やめろって言ってんだろうが‼︎」ッ…」

頭に血が上った一夏を黙らせるために殺気を濃くする一樹。その場の全員の顔が青ざめる程の濃度に、一夏はようやく冷静になった。

「…チッ!良いぜ、その決闘とやら受けてやるよ!ボッコボコにしてやるから覚悟しやがれ‼︎」

訂正、まだ頭は冷えきれてなかった。頭を抱えながら、一樹は千冬に話す。

「悪い千冬、ここからは仕切り直してくれ」

「分かった……決闘は一週間後、第一アリーナで行う。2人とも準備しておく様に!」

 

時は進み昼休み。一樹はグラウンドの片隅でスマホでネットを見ていた。グラウンドなら他の生徒もいそうだが、ここは砂埃がすごい。そんな所に女子が好き好んで来る場所ではない。ちなみに一樹は隅なら人1人砂埃を防げるスペースを見つけたので、そこでスマホを操作していた。

「…『山のガソリンスタンドで謎の行方不明事件!』か…」

ネットに出されたニュースの見出しに嫌な予感がした一樹。記事を詳細まで表示させる。

「学園からそんなに離れていない…今夜あたり、警戒しとかないとな…」

キーンコーンカーンコーン

「…予鈴か」

授業が始まる5分前だ。授業を受ける必要の無い一樹はあまり気にしていないが…一樹は懐から白い短剣状のアイテムを取り出して呟く。

「なあ、そろそろ教えてくれよ。俺に…何を望む?」

白いアイテム“エボルトラスター”は中央の宝石が鼓動を打つように1度光るだけだった。

 

キーンコーンカーンコーン

その日の授業が全て終わると、一夏は机に突っ伏した。

「づがれだ〜」

そんな一夏の横では、一樹が学園の警備状況を机に内蔵されているパソコンで再確認していた。

「お前、1週間後は決闘(笑)だろ?少しは練習しておけ」

「…じゃあEx-ギア借りて良い?」

「持ち出し厳禁ってのが守れるなら」

「なら学園に1台貸して」

「お前今俺が言った事聞こえなかった?持ち出し厳禁って言ったろ?」

「ねえ俺が外に簡単には出れないって分かってるよね?」

「は?だって1週間は自宅からの通学だろ?」

「…ハッ!そうだった!こうしちゃいられない‼︎早く行くぞ一樹‼︎」

「はいはい…」

「いざ出陣!エイ!エイ!お「あ、織斑君に櫻井君!」…オー?」

さあ行こうとした2人だが、廊下に出た時点で真耶に声をかけられる。

「良かった〜…2人ともいましたね。こちらが寮の鍵になります」

ン?イマセンセイナンテイッタ?リョウノカギダッテ?

「あの…確か一週間は自宅通学って話じゃありませんでした?」

「そうだったんですけど、事情が事情なので、強引に割り込んだらしいですよ。なので、調整が済むまで織斑君は女子と同室になってもらう事になります」

「…すみません。聞けたらで良いんですけど、それを指示したのは誰ですか?」

一樹が真耶に聞く。確かにそれは一夏も気になるところだ。

「日本政府です」

「「(あのご隠居がぁぁぁ‼︎普段仕事遅いくせになんでこういう時だか早いんだよぉぉぉぉ‼︎)」」

素早く一樹が携帯を操作。数度のやりとりの後…

「よし、銀座の寿司食い放題確保」

「え⁉︎いきなりどうしたんですか櫻井君⁉︎」

「気にしないでください山田先生。ちょいとお偉いさんに灸を据えただけです」

「織斑君⁉︎余計に気になるんですが⁉︎」

「先生、知らない方が世の中幸せな事もあるんですよ?」

「わ、分かりましたもうそれ以上聞きません…これが織斑君の寮の鍵になります。失くさないようお願いします」

「はい、分かりました。ところで、調整が終われば一樹は俺と同室ですよね?」

「そ、それが…」

「ん?」

一夏が一樹の部屋を聞いた途端、真耶は言いづらそうな顔になった。ま、まさか…

「織斑君の部屋の調整がついても、櫻井君が同じ部屋になることは無いと思います…」

「…ちなみに俺は何処で寝泊まりすればよろしいですか?」

「最初は教頭が屋上にさせようとしていたのですが、流石に織斑先生が止めました」

「(千冬姉ナイス‼︎)」

一夏が心の中で姉を賞賛する。だが、真耶は浮かない顔で一樹に鍵を渡す。

「私たちも出来れば織斑君と同室にしたかったのですが、結果はこの部屋です…」

真耶が渡してきた鍵にはこう書かれていた。

【学園第4整備室】

「「……」」

「本当にすみません…」

「いや、屋上じゃないだけマシです。ありがとうございます」

苦笑いを浮かべながら鍵を受け取る一樹。一夏と共に割り振られた部屋に向かう。

「じゃ、俺はこっちだから」

「おう」

途中で一夏と別れ、整備室を目指すが…

『貴様!そこに直れ‼︎』

『待て!話せば分かる‼︎』

「⁉︎」

突如聞こえた悲鳴。一樹は悲鳴の元へと全速力で向かう。

「(何があったってんだこの短時間に‼︎)」

勢いよく角を曲がろうとしたら…

「うわぁ〜篠ノ之さん大胆!」

「抜け駆け禁止だよ‼︎」

一夏が箒に迫られていた。

「…」ずこーッ‼︎

思わずずっこける一樹。どうやら()()()()やつらしい。

「…心配して損した。早く整備室行こ」

 

「うわぁ…汚いというかゴチャゴチャしてると言うか…」

第4整備室に着いたが、中を見るとそれは酷いものだった。修復不能になったISのパーツ、部屋全体が長年使われてないのか埃だらけ、空調も換気扇以外無い。

せめてもの救いは、整備する為の道具はそこそこ新しかったことと、電源が使えることだろうか。

「…掃除、頑張ろ」

 

「死ぬかと思った…」

夕食に一樹を誘うために、一夏は第4整備室に来た。扉を開けると…

「な、なんじゃこりゃあ⁉︎」

そこにあったのは埃が舞った事によって出来た粉塵だった。

「いきなりうるせえ!これでも片付いた方なんだよ‼︎」

粉塵が晴れ、一夏が見たのは片腕に回路が使い物にならなくなったIS本体、片腕に第1世代のスクラップを持った一樹だった。

「相変わらずすげえな、その腕力。それとこのパーツの数々」

「ISとしては使えないからガラクタとして置きっ放しだ」

「ガラクタぁ⁉︎まだまだ使えるじゃん!」

「ちなみに使えるパーツを集めたらIS約20機分あります」

「こんなところで税金を無駄遣いしてたのか!知りたくなかったなぁ‼︎」

「まあ、それは置いといて」

言葉と同時に両腕の荷物を床に置く一樹。

「何か用か?」

「いや、飯食いに行こうぜって言いに来たんだけど…」

「…俺、食券渡されないよ?」

「は⁉︎」

IS学園では、1日3食分の食券が渡されている。デザートや間食は別料金だが…

「何で?」

「教頭曰く、『あなたは生徒じゃないから』だって」

「…どうすんの?」

「何とかするよ。とりあえずお前は食堂行きなよ」

「…了解」

一夏を食堂に行かせ、一樹は片付けを再開した。




IS学園での食事がいつも気になるんですよね。どこからお金出てるのか…って考えた結果これにしました。どうですかね?


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Episode3 遭遇-エンカウンター-

お待たせしました。ではご覧ください。


「うし、こんな感じでとりあえず良いだろ」

片付け開始から2時間後、整備室の片付けがようやく終了した。

「一夏に写真撮って送るか…アイツ、一応心配してくれてるし」

携帯で整備室の写真を撮り、一夏に送る。

「『一応綺麗になったぞ』と…」

メールを送ったその瞬間。

ドックン

「ッ⁉︎」

懐にしまっているエボルトラスターの鼓動を感じると、表情を険しくさせて整備室から飛び出した。

 

「すげえ…あんだけゴチャゴチャしてたのに、生活スペースを確保出来たのか」

一樹から送られた画像を見て、一夏は呟く。生徒は勿論、教師ですらガラクタ扱いしていたISパーツが詰め込まれた部屋が、僅か数時間で生活スペースを確保出来たのだ。明日は使える部品を得る為にISの解体をするのだろう。

「明日は俺も手伝おうかねえ…」

「何を手伝うのだ?」

思わず出た独り言に、ルームメイトの箒が反応した。

「いや、何でもない。悪いな」

「そうか…もう時間も時間だ。私は寝るぞ」

「おう、おやすみ」

寝ようとする箒の邪魔をしないためにベランダに出る一夏。星空を見て思い出すのは、一樹といつも一緒にいた、一夏も長い付き合いの幼馴染…()()()()()()()()()が…

「一樹は…いつまで背負うつもりなんだろうな…」

一夏と一樹、そして箒は小学生時代からの顔見知りだ。小4で箒が転校するまで、同じクラスだった。しかし、『小4の夏』に起こったある事件で、箒は一樹を拒絶、また、箒がクラスメイトに話したことで、学校の皆も一樹を拒絶。箒が転校した後もそれは続き、小学校を卒業するまで一樹はずっと孤独…唯一、一樹に話しかけ続けた生徒は一夏のみだった。それでも転校などはせず、卒業までその学校に通い続けた。

「何とかしてやりたいけど…一樹の『傷』を癒せる人は、いくら考えても1人しかいないんだよな…」

一樹の『傷』を癒せるのは…

「なあ、()()。アイツを救ってやってくれよ…」

雪恵が大好きだった星空を見上げながら、一夏が呟いた。

 

「アイツに救われる資格なんて無い」

 

突如、一夏の背後で声が聞こえた。声の主は、寝た筈の箒だった…

「箒…『6年前』聞けなかった事を聞くぞ。お前がそこまで一樹を恨む理由は何だ?」

「決まっているだろう‼︎雪恵は、私の初めて出来た親友は、あんな奴が原因で()()()んだ!恨まない筈が無いだろう‼︎」

「箒…」

箒の言葉を聞き、悲痛な面持ちになる一夏。だが、()()を知らない箒に、何を言っても無駄な事は分かりきっている…

「そうか…俺は少し外を散歩してくる。窓の鍵は開けておいてくれよ」

「なに?ここは3階だぞ?」

「大丈夫だ」

そう言うと、一夏はベランダから静かに飛び降りた。

「ッ⁉︎」

慌てて下を覗き込む箒。下では一夏が呑気に手を振っていた。

「…全く。心配させるな」

 

学園の近くの森に、一樹はいた。

ドックン、ドックン

「…鼓動が早くなってる。近くにいるのか?」

エボルトラスターを見ながら、森の中を進む一樹。何かを探してる様だ。

「誰かを襲う前に、見つけないと」

 

「やっぱり、森は良いな。風が気持ち良い…」

自室を出た一夏もまた、学園の近くの森にいた。目的は一樹とは違ったが…

シュルルル…

何かが、一夏の背後に近付いていた。

「ん?」

一夏は振り向く。そこには…

キシャァァ

「ば、バケモノ⁉︎」

ナメクジの様な人間大の怪物が触手で一夏を捉えていた。

「グッ…殺られてたまるか!」

近くのガードレールに掴まって、必死で抵抗するが、怪物の力は凄まじく、徐々に引っ張られていく。その怪物は一夏を食おうとしてるのか、口らしきものを開けている。

「クソォ…もう終わりなのか…」

怪物の大口が眼前に迫り、一夏は死を覚悟する。しかし…

諦めるな‼︎

「…え?」

背後が眩く光ったと思ったら、凄まじい衝撃が来て、一夏は触手から解放された。後ろを見てみるとそこには巨大な手が怪物のいたところを潰していた。一夏は顔を上げ、巨大な手の元を見る。そこには…

「銀色の…巨人?」

一夏を救ったのは、銀色の巨人だった。

「もしかして…()()()の…」

どうやら一夏は銀色の巨人に見覚えがあるようだ。巨人はそこで一夏の方を見る。一夏はその瞳を、何故かよく知っている気がした。記憶通りなら、見たのは2回目な筈なのに…巨人は一夏を見た後、静かに消えていった…




最後の銀色の巨人って、何でしょうね?←すっとぼけ


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Episode4 機体-マシン-

早くもネクサス風のサブタイが浮かばなくなりつつある件。あと文字数の幅が激しすぎる…かなり短いです。すみません。


「おはよう、一樹」

「…おはよう」

翌日、一夏は整備室に行き、一樹を起こしに来た。しかし、一樹は一睡もしてないのか、眼の下に隈が出来てる。

「何で隈が出来てんだ?」

「…昨日ここの片付けしてたのは知ってるだろ?その後使えるパーツを集めてコイツを組み立ててたからだよ」

一樹の後ろにはISの様な灰色の機体があった。

「IS⁉︎」

「違う。ISだったら俺は扱えないだろうが。コイツはEx-ギアに武装、装甲を追加してISにも対抗出来る様にした対IS用装備《EX-アーマー》だ。設計自体は前々から出来てたんだけど、実装が決まったのは俺がここに来るって決まってからだったから遅くなっちまった…ちなみに機体名は『ストライク』」

キーボードを打ちながら一夏を見ることなく答える一樹。

「なあ、なんでこういうのが作れるのに、世間に発表しないんだ?」

「幾つか理由はある。まず、Ex-アーマーはIS以上に適正を求められる」

「どういう意味で?」

「形は確かにISに近い。けどな、ISがPICやシールドエネルギーで搭乗者を守ってるのに対し、コイツは対G性能なんて無いし、防御もシールドが無かったらPS装甲という実体弾向けの防御しか無い。鍛えてない人が扱ったら、Gで死ぬぞ」

「…他には?」

「女尊男卑が染み付いてるこの世界で、男がISに限りなく近い兵器を扱えるなんて話になったら、本当に戦争になる」

ただでさえ、今の世界のパワーバランスは不安定なのだ。EX-アーマーが普及してしまったら男性VS女性の戦争が勃発してしまうだろう。

「…でも聞いてる感じ、弱点だらけだから普及することは無いと思うけど…」

「そら当たり前だ。弱点しか説明してないし。まあ、ISより優れてる点として、量産は簡単だな」

「ああなるほど。コア必要無いもんな」

あくまでパワードスーツであるEx-アーマー。ISの様にコアを搭載しなくていい分、量産はしやすい。

「勿論各々に合わせたカスタマイズはいるだろうけど…コアが必要なISに比べりゃ簡単だろ」

「まあ確かに…操作性は?」

「Ex-ギアとほぼ一緒だ。それに武装くっ付けただけと言えば良いか?」

「つまりは搭乗者の動きにほぼ干渉しないんだな?」

「設計上は。一応、最初から戦闘することが前提として開発されてるからマグネット・コーティングも採用して、追従性も上げた。後は武装の都合上、熱核タービンエンジンの出力を上げてる…おかげで大分デリケート使用になったから余計扱いにくくなってる」

「普段はどうするんだ?ISはアクセサリーみたいに変わるらしいけど…」

一夏の問いに、一樹は行動で答える。Ex-アーマーのあるスイッチを押すと…一瞬光り、黒い腕時計に変化した。

「…これが一番開発に手こずった。不要時は今の所腕時計に変わる様にしてる。装着時だったらISと同じ様に思考で展開も出来るぞ。ま、ISと違って部分展開は出来ない」

Ex-アーマーは対IS戦用として開発されているので、展開するかしないかの2択方式を採用している。

「…と、一夏。そろそろ教室に行け。遅れるぞ」

「あ、やべ!じゃあな一樹!」

一夏を教室に向かわせると、一樹は『ストライク』を仮装着。動作テストを始めた。

「…うーん、まだ違和感があるな。マグネット・コーティングはこれ以上早いパターンは無いし…あ、忘れてた。OS触ってすらいなかった」

ストライクを外し、パソコンに繋げると高速でキーボードを叩き始める。

「キャリプレーション取りつつ、ゼロ・モーメント・ポイント及びCPGを再設定。擬似皮質の分子イオンポンプに制御モジュール直結。ニュートラルリンケージ・ネットワーク再構築。メタ運動のパラメーター更新。フィードフォワード制御再起動、伝達関数、コリオリ偏差修正…運動ルーチン接続。システムオンライン。ブーストラップ起動…これでどうかな?」

もう一度動作確認をすると、ストライクは見違えるほど早くなった。

「…現状、これ以上は弄れないな。何かあったらその都度調整しなきゃ。次は武装の…」

思考錯誤しながら、ストライクの調整を急ぐ一樹だった。




OS設定のセリフはGジェネとかでも見たから間違えてないはず…


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Episode5 決闘-デュエル-

お待たせしました。


「…さて、決闘の日だぞ」

「んー?まあ大丈夫だろ『国家代表』だったらわからないけど、あくまで『候補生』だし」

「その発言、頼むから他の人がいる時言わないでくれよ…」

ISスーツを着て準備運動をする一夏。その顔に、緊張の色は見られない。

「一応確認するが、この間俺が言った事は覚えてるか?」

「勿論」

 

『今日、千冬から専用機が渡される事は聞いたか?』

『ああ、データを取るために学園が用意するって…』

そこで不安げな顔をする一夏。モルモット扱いされるのを予想しているのだろうか。

『ここから先はオフレコな。お前の機体を作るのは『S.M.S』だから。データを取る、学園が用意する云々は建前だから安心しろ』

『あ、本当?なんかすげー安心した』

『だろうな。ただ、初期状態と第一次移行(ファースト・シフト)の設計は倉持技研がやってる。だからある種お前はハンデ持ちだ』

『…了解。ま、しょうがねえか』

 

「俺としてはオルコットをボッコボコにして貰ってここを退職したいんだけど…」

「辛勝を演出してやるから安心しろ」

「おいコラてめ話聞いてたか?」

「そっちこそ俺がわざわざ貴重な男友達を追い出させると思ってるのか?」

「…」

「…」

一瞬の静寂、そして…

「オルコットは不戦勝だ…対戦相手が消えるからな!」

「は!俺がいつまでもやられっぱなしだと思うな‼︎」

今にも戦いが始まろうとしていた…が

「あ、織斑君!専用機が届きました!」

麻耶が部屋に入って来たため、殴り合いには至らなかった。

「(次は無いぞ)」

「(次の機会があってたまるか)あ、すぐ行きます!」

 

「遅れてすいません!これが織斑君の専用機、『白式』です」

麻耶に案内され、一夏は『相棒』と向き合う。

「(よろしくな、白式)」

白式の表面をやさしく撫でる一夏。一夏の目は、とても優しい目をしていた。

「織斑、時間が無い。初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)はあちらでやれ」

「了解」

背中を預ける様にして白式を装着する一夏。

「(()()()…)」

装着してすぐに感じるのは、暖かさ。初めて装備するのに、()()()扱っている様な暖かさを感じる…ハイパーセンサーが一夏の脳波とリンク。すると、千冬や麻耶からは見えない位置で、先ほどは違って穏やかな笑みを浮かべる一樹が見えた。

『行ってこい』

言葉に出さずとも、いつものアイコンタクトを使わなくても、一樹がそう思ったのが一夏には分かった。

「…ハイパーセンサー、脳波リンク完了。各システム、シールドエネルギー異常無し」

そこで一夏は一度目を瞑る。再び目を開けたその目に宿るは、決して折れぬという強い意志。

「織斑一夏、白式。行きます‼︎」

白式が、ピットから出撃した。

 

「あら?逃げずに来ましたのね。褒めてさしあげますわ」

アリーナ中央で待ち構えていたセシリア。相変わらずの態度だ。

「当たり前だろ。戦いもせずに逃げるなんて…そんなのはゴメンだね」

言い放つ一夏。その間に白式から目の前のIS、『ブルー・ティアーズ』の名が表示される。

「(主武装は…手に持ってるスナイパーライフルかな?他はパッと見は分からない)」

「さて、ここで提案ですわ?」

「ん?」

「ここで泣いて許しを乞えば、許してやらない事も無いですわよ?」

 

敵IS、スナイパーライフルの最終セーフティを解除。ロックされました。

 

白式から警告文が発せられる。一夏はそれを頭の片隅に入れながらセシリアと対峙する。

「知ってるか?そういうのは優しさとは言わないんだぜ?」

「なら…」

セシリアは素早くスナイパーライフル、『スターライトMK-Ⅱ』を構え…

「お別れですわ!」

引き金を引いた。だが、一夏は体を横に向けるだけでそれを躱す。

「なっ⁉︎」

「おいおい、いくら俺がIS初心者でもハイパーセンサーに教えてもらえればロックされてる事くらいは分かるぜ?」

とにかく、決闘は始まった。セシリアのスナイパーライフルの攻撃を舞うように避けながら、自分の武器を呼び出そうとする一夏。だが…

「(近接ブレードだけ、だと…一樹さんや、ハンデにしても極端過ぎやしないか?)」

文句を言ってもしょうがないので、渋々近接ブレードを呼び出す一夏。そんな一夏をセシリアは鼻で笑う。

「私のブルー・ティアーズは中距離射撃型…それなのに近接ブレードで挑んでくるのは、やはり猿には『間合い』というのが分からないようですわね」

「(んなこたぁ分かってんだよ!だけど武装がこれしか無いから他のを呼びようがないんだよ!)」

近接ブレードを右手に構え、ブルー・ティアーズと対峙する一夏。

「さあ、踊りなさい!私とブルー・ティアーズの奏でるワルツで‼︎」

セシリアは4機の移動型砲台、機体名でもある『ブルー・ティアーズ』と呼ばれるビットを射出。一夏を囲んで攻撃してくる。

「悪いが、踊りは盆踊りしか分からん‼︎」

しかし一夏は初見である筈のビットの攻撃を華麗に避ける。

「なっ!初見でこのブルー・ティアーズを避けるなんて⁉︎」

 

一樹はその戦闘の様子を待機部屋で見ていた。

「(悪いが、一夏をビットで倒そうっていうなら倍以上のビットの数とスピードが必要だぜ?)」

 

「(ビットを使ってくるから少し警戒したけど、まだまだ扱いきれてないな。数は4、スピードも遅い。何よりビット制御中、アイツは動けないときた。避けるのは簡単だけど…)」

余裕の表情でビットの攻撃を避け続ける一夏。しかし、接近しなければダメージを与えられない一夏。これでは埒があかない。

「よっと!」

近くを通り過ぎようとした1機を、ブレードで斬り、残りは3機。

「ッ⁉︎」

「(しっかし、ビット操作中は動けないって何だよ。アレか、動かせれるだけでも良いって感じなのかな)」

 

「(ビットのスピードは遅いし、操作中は動けない。相手に遠距離武装があればあっという間に本体狙われて終わりだな。機械で測った適正なんてそんなもんなのかもしれないけど…)」

一樹、一夏の思うところはほとんど同じだった。それだけ、2人のレベルが高いとも言える。

「ま、初戦だったら良いチュートリアルじゃねえかな?一夏」

 

「(フォーマット、及びフィッティングは今…8割方終わってるな。せめてそれが終わるまで待つか、もう終わらせるか…どうすっかな)」

また背後に来たビットをブレードで斬り、残りは2機。

「(『人』の死角を狙って攻撃してるつもりなんだろうな。確かにハイパーセンサーがあるとは言え、どうしても死角への反応速度は落ちるからな)」

しかしそれはあくまで普通の人ではの話だ。下手な軍人以上に鍛えている一夏からすれば、大した事はない。

「ラスト!」

最後に残ったビット2機の攻撃をバック転で避けると、そのまま横薙ぎに振るってまとめて破壊した。

「クッ…」

ビットを全て破壊し、近接ブレードの切っ先をセシリアに向ける一夏。

「さて、お前のとっておきはこれで終わりか?なら__」

一夏は白式を加速させ、ブルー・ティアーズに突進する

「終いにしようぜ‼︎」

セシリアの眼前に、ブレードが迫る…が、セシリアは不敵な笑みを浮かべた。

「おあいにく様、ブルー・ティアーズは6機ございましてよ‼︎」

両腰に搭載されている高誘導型ミサイルを白式に向かって放つ。

「近距離戦闘の備えが無いとは思ってねえよ」

一夏はスラスターの向きを調整し、進みながら僅かに高度を下げた。ミサイルをギリギリのところで避けると、その場で1回転、ミサイルの信管部分を切断した。

「甘いですわよ!」

それを予想していたセシリアはスターライトMK-Ⅱでミサイルを狙撃する。

「(避け…クソッ!反応が鈍い‼︎間に合わねえ‼︎)」

 

ドォォォォンッ!!!!

 

「随分粘られましたが、まあこんなもんですね」

ミサイルが爆発し、セシリアは勝利を確信する。

 

「終わったつもりか?残念でした」

一樹は悪戯っぽく笑った。

 

「(フィィ…やぁっと終わったぜ)」

 

初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)が完了しました。確認ボタンを押してください。

 

「な⁉︎第一次移行(ファースト・シフト)ですって⁉︎今まで初期設定の機体で戦ってたというの⁉︎」

「ま、そういう事だ」

爆煙が晴れたそこには、真の姿となった白式の姿があった。

「…(若干動きにラグがあるけど、さっきよりは全然マシだな。この速さで動くなら、さっきのミサイル程度なら反応出来る)」

左手を閉じたり開いたりをして第一次移行(ファースト・シフト)した白式の反応を確認する一夏。

「近接ブレードは…なんだこれ?狙ってんのかな?」

初期状態では『近接ブレード』として登録されていた武装は『雪片弐型』へと変化していた。

「雪片…千冬姉が使ってた武装か。って事は、特製は確か」

「いつまで分析してますの⁉︎」

イラついたセシリアが狙撃してくるが、一夏はあっさり避ける。

「ああもう良いや!後でゆっくり調べよう!」

パレルロールを駆使してセシリアの攻撃を避け、すれ違うと…試合終了のブザーが鳴った。

『試合終了。勝者、織斑一夏』

 

「あー終わった終わった」

ピットに戻り、白式に解除の命令をだす。すると待機形態であるガントレットに変化し、左腕に残った。

「おかえり。白式の反応はどうだ?」

第一次移行(ファースト・シフト)したら少しマシにはなったけど、若干鈍いな。これからちょっと弄るつもり」

話しながらピットを出ようとする2人。だが___

 

『織斑、シールドエネルギーをチャージしてもう一度出ろ。相手は櫻井、お前だ』




今更ですが、作者はセシリアが嫌いな訳ではありませんよ?


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Episode6 対決-バトル-

サブタイトルが前話とほぼ同じになってしまった…
お待たせしました。今回も短いですが、お楽しみ下さい。


「俺と一樹で戦う…?」

『次の授業の時間を使わせてやる。以上だ』

「ちょっと待てよ!俺と一夏が戦う理由なんてねえだろ!」

『織斑の実力が代表候補生以上だと分かった以上、どれだけのレベルなのか我々は知っておく必要がある。そしてそれは櫻井。お前もそうだ』

「あん?」

『確かに、生身の戦いではお前の方が織斑より強いだろう。だがここはIS学園だ。仮に襲撃があった場合、敵もISである確率は高い』

「…それは俺の手札を晒せって言いたいのか?それとも、ISを使えない俺が、どうISに対抗したいのか知りたいのか?」

『両方。と言いたいところだが、どうせお前の事だ。データを取ろうにも、ウイルスの様なものを常に散布してるだろうな。だから、お前がISが敵だった場合、どう対抗するのかを見せてもらえればそれで良い。ISに対しても戦える。それを示してもらえればな』

「…分かった」

説明を聞いた一樹は一夏と向き合う。

「…という訳だ。連戦になって悪いが相手してもらうぜ」

「上等だ」

 

休み時間を挟み、一樹はBピットへ移動。腕時計の外フレームの右を押してから中央の画面を押した。『ストライク』が一瞬で装備され、更に左肩、左腕、バックパックに水色の装備が自動で接続された。接続されると同時に機体の色を灰色から青や白を基調とした鮮やかな三色(トリコロール)へと変化。PS装甲が稼働開始した証拠だ。

 

General

Unilateral

Neuro-Link

Dispersive

Autonomic

Maneuver

Synthesis System

 

OSの立ち上がりを表す表記が空間投影ディスプレイに現れる。その後、ストライクの各システムの状態が表示される。

「(PS装甲、各駆動部、オールグリーン…発進準備完了)…行くか」

カタパルトに接続し、バーニアを蒸した。

「櫻井一樹、ストライク、行きます!」

 

同時にピットから出撃した一樹と一夏。数刻前までの雰囲気は無く、どこかピリピリしていた。

「…ギャラリーが多くてうざったいな」

「本当、さっきから思ってたけど視線の重圧が凄い」

一夏へは好意、一樹へは嫌悪の視線が集中する。種類は違えど視線が集中してるのは同じ。一樹は特に視線を嫌がる傾向があるが。

「…話は変わるけど、その装備…」

「完全近接型。お前と同じだ。実力を見せるなら同じ条件にしないとな」

「…そうか」

一夏は拡張領域から雪片弐型を、一樹はバックパックに装備されているビームと実体の合体剣、『シュベルトゲーベル』を抜刀した。2人とも剣を大太刀の様に構え、始まりの時を待つ…

 

『試合、開始』

 

「「ッ‼︎」」

アナウンスが流れ、試合が始まった。2人は同時に急加速。すれ違った2人の背後では、火花が散っていた。

「初撃を防ぐたぁやるじゃねえか!」

「簡単にやられてたまるかよ!」

 

雪片とシュベルトゲーベルの鍔迫り合いは、激しいスパークを起こした。スパークの激しさに、観客席で見ている生徒、管制室で画面越しに見ている千冬と麻耶は思わず手を顔の前に出す。

「何というエネルギーのぶつかり合いだ…」

「プラズマブレード同士のぶつかり合いでもこうはなりませんよ⁉︎」

 

斬り結んでは離れ、斬り結んでは離れを繰り返す2人。

「そらよッ‼︎」

「なんのッ‼︎」

螺旋階段の重なり合いに見える2つのスラスター光。徐々にそのスピードが早くなる。

「ハアァァァァァ‼︎」

「ウオォォォォォ‼︎」

一旦距離をとる2人。

 

シールドエネルギー残量:325

 

「(鍔迫り合いするだけでも結構エネルギーが持ってかれるな…スパークの火花が原因か?)」

お互い一撃も食らっていないが、一夏のシールドエネルギーは若干減っていた。

「シールドエネルギーって概念があるお前は面倒だな」

「ストライクもバッテリー式だろ?条件は同じだ」

「…あのさ、この間話したよね?コイツ元々はEx-ギアだよ?小型熱核タービンエンジン搭載してるんだよ?エネルギーは事実上無限だよ?」

「ホワッツ⁉︎」

愕然とする一夏。

「…ま、そんな時間はかけないけどな‼︎」

「ッ‼︎」

ストライクが加速。白式も加速し、雪片を振り下ろすが、ストライクのシールドに受け止められる。

「クッ⁉︎」

すぐに雪片を引くが、それは失策だ。

「オラァッ‼︎」

ストライクの左手で白式を殴る。絶対防御が発動し、白式のシールドエネルギーが一気に減った。

 

シールドエネルギー残量:210

 

「…やっぱり一樹にゃ勝てねえか」

「わざと負けるのも考えたが、ルール無用にならざるを得ない以上、勝つしかなくなったからな。悪く思うな‼︎」

言葉の最後にシールドに内蔵されているアンカー『パンツァーアイゼン』を白式に向かって飛ばす。一夏は雪片でパンツァーアイゼンを弾き、ストライクに斬りかかる。

「そらぁッ‼︎」

「チッ!」

一樹は右手のみでシュベルトゲーベルを操り、雪片を受け流して距離をとる。

「そこだッ‼︎」

白式の背後を取った一樹。素早く左肩に装備されているビームブーメラン、『マイダスメッサー』を投げる。

「こんのッ‼︎」

一夏はセシリアとの決闘時の様にバック転でマイダスメッサーを避ける。だが、ブーメランの名の通り戻ってくるマイダスメッサー。

「クソッ‼︎」

結局雪片でマイダスメッサーを叩き落す一夏。結果…

「グッ⁉︎」

ガラ空きの背中をパンツァーアイゼンに捕らえられ、ストライクの元に引き寄せられる。

「そらよッとぉ‼︎」

すれ違い様にシュベルトゲーベルで白式の左スラスターを斬り裂いた。

「チィッ!」

少し離れたところでストライクはシュベルトゲーベルを両手で構える。

「次で終いだ…」

その言葉を聞いた一夏も雪片を構える。

「…篠ノ之流、織斑一夏」

流派を名乗り、次の一撃を全力で放つ事を示す一夏。全力には全力で応えなければならない…

「お前の覚悟、しかと受け取った…飛天御剣流、櫻井一樹」

一樹もまた、流派を名乗る。両者の空気が、張り詰められる…どこからか木の葉が飛んで来たその瞬間。

「「ッ‼︎」」

ストライクを加速させる一樹と待ち受ける一夏。同時に剣を振るい…

 

 

ドスッ!!!!

 

 

雪片がアリーナの地面に刺さった。一樹はシュベルトゲーベルで雪片の鍔を叩き、白式唯一の武装を地面に落とした。結果…

『試合終了。勝者、櫻井一樹』

攻撃手段の無くなった一夏の敗北となった。

 




戦闘描写もっと上手くなりたいな…


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Episode7 代表-リーダー-

短いですが、どうぞお楽しみ下さい。


「1組のクラス代表は織斑一夏君です。あ、1繋がりで良いですね」

「「「「イェェイ」」」」

翌日、決闘には勝ってしまった一夏がクラス代表となる事になった。

「じゃ、頑張れ一夏」

「…やだよもうめんどくさいよ変わってくれよもう…」

机に突っ伏す一夏を見て苦笑気味の一樹。彼は知っているのだ。一夏のフラグ建築士一級の腕を…騒動が起こる予感がした一樹は、珍しく教室の後ろにいた。それを不思議に思ったある女生徒が話しかけてくる。

「ん〜?かずやんがここにいるって珍しいね〜」

のんびりした話し方の女生徒(一夏曰く、『のほほんさん』らしい)の問いに、一樹は苦笑を浮かべたまま説明する。

「…一夏ってさ、昔からフラグ建築が多いんだよ。だからこういう何かある度に…」

「ありがとうもう大丈夫だから遠くを見ないで!」

普段のキャラがふっとぶのほほんさんであった。

 

()()()()、クラス代表とは各行事の度にクラスを纏めたりしなければなりません。当然、ここはIS学園ですからIS同士で戦う事もあります…ということなので、一夏さんにはわたくしがISの操縦をお教えしましょうかと…」

セシリアが顔を赤らめて一夏に言うと…

ドゴンッ!

「「「「ヒィィ!」」」」

箒が恐ろしい腕力で机を叩いていた。あまりの威力にISと同じ材質で出来ている筈の机がめり込んでいた…

「あいにくだが、一夏のコーチはもう足りている。私が()()()頼まれたからな」

直々に、を強調する箒。間に挟まれた一夏がオロオロしてるのを最後列で見てる一樹は

「(あ、いつもの光景だ)」

と思ってたのは別の話…と思ってたら

「お、俺は一樹と練習するから大丈夫だ!」

「何火にガソリン注いでんだよこのクソ馬鹿野郎‼︎」

ゆらり、と箒とセシリアの視線が一樹に向いた。静かに箒は日本刀、セシリアはISの部分展開で一樹を狙う。

「おい一夏。ISの練習にISが使えない俺は向かねえだろうが。そこは昔からISの授業を受けてる女子に聞け。プライドがああだこうだとか言うならこのことわざを思い出せ。【聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥】だ。よってそこの2人のどちらに聞いた方が…」

「練習なんだから似た様なもん使ってる一樹だって出来んじゃねえか」

「人の話を聞けぇぇぇぇ‼︎」

「やはり貴様は…」

「やはり貴方は…」

「「殺す‼︎」」

殺気だった2人が一樹に襲いかかる。

「あぁもう!気絶は許せよ千冬!」

2人の攻撃(斬撃+射撃)を回避しながら許可を求める一樹。教室の生徒達は一樹の身体能力に驚いていた。

「あぁ、構わん。やれ」

許可が下りた。

「まずは1人目!」

生身の箒の刀を両手で白刃取り。一瞬止まった箒の鳩尾に平手を入れて気絶させる。

「はい次…ってのわッ!」

セシリアは完全にISを展開、一樹にビットで容赦なく攻撃する。

「(前から思ってたけど…恋する乙女怖えぇぇぇぇ‼︎)」

生身でありながらビットを回避してく一樹。しかし、一夏がしたのと同じ様に、敢えてビットで追い詰められてる様に見せて、じわじわと接近する。そして…

「獲ったァァァァ‼︎」

ブラストショットをセシリアに撃ち、シールドエネルギーを一撃で消滅させ、驚きに固まってるセシリアの首に当て身を入れて気絶させる。

「ふぅ…恋する乙女怖えぇぇぇぇ‼︎」

大事なことなので2回言いました。

「…ご苦労だった。櫻井」

「まあ、オルコットとの模擬戦の手間省けたと思えば良いかな?」

「…生身で勝ったからな。やりようが無いだろ」

その後、2人は千冬によって地獄を見たとの噂が流れたとか流れなかったとか…真実は当事者3人しか知らない。

 

一夏達の授業を屋上で見てる一樹。ストライクの再調整をしたかったのだが…

ドックン

「…コイツが鳴ってるのに、動ける訳無いよな…」

今朝からエボルトラスターが鼓動を打ってるのだ。

ドォン!

「ッ⁉︎何だ⁉︎」

いきなり校庭で大きな音がしたので見てみると…

「あの馬鹿…」

一夏が校庭にクレーターを作っていた。

「…後片付け、手伝ってやるか」

ちなみに箒とセシリアは手伝わずにさっさと帰ったそうな。

「一夏の気を引きたいなら手伝えよ…」ポソッ

「何か言ったか?」

「んにゃ何も」

ストライクのバックパックを装備しない状態で土を運ぶ一樹、土をならす一夏。

「にしても…戦闘だと思い通りに動かせれるのに、なんで練習じゃ動かせれないんだよ…」

「言うな!俺が痛感してるわコンチクショウ‼︎」

一夏の叫びに反応したかの様に、校舎なら2つの気配が近づいて来るのを察した一樹。

「一夏、これくらいで大丈夫だ。訓練行ってこい」

「ん。サンキューな」

一夏は素直に近づいて来た2人の方へ行く。一樹はストライクをしまうと、エボルトラスターを見る。

ドックンドックンドックン

「…近いな」

IS学園の危機が、迫っているのを確認した一樹は、あるところに電話を入れる。相手は直ぐに出た。

「…すみません、束さん」




中々ウルトラマン出ない件


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Episode8 異生獣-スペースビースト-

ようやくアレが出せます。


「「「「織斑君!クラス代表就任おめでとう‼︎」」」」

夕食後の食堂では、一夏の着任式?が行われていた。メンツは一樹以外の1組+αだ。

「いやぁ〜、櫻井君も誘おうと思ったんだけどどこいるか分かんなくてさ。織斑君と同じ部屋だと思ったら違うんだもん。どこにいるのかな?」

「…アイツならきっとアイツに割り振られた部屋にいるよ」

「え?織斑君知ってるの⁉︎早く呼びに行こうよ‼︎」

クラスの女子の一部が一夏を連れて行こうとするが…

「あの人殺しを呼ぶ必要は無い‼︎」

箒が…それを拒否した。

「人殺し?」

クラスの誰かが疑問の声を上げる。

「あいつは…」

「やめろ箒‼︎」

「ッ⁉︎」

箒が何か言おうとするのを一夏が止めた。

「一樹は…人殺しなんかじゃない‼︎」

「しかし雪恵が死んだのは確実にあいつのせいだぞ‼︎」

「だからそれが違うって言ってんだよ‼︎」

珍しく2人が言い争っているのに、クラスの皆は動けなかった。なにせ、1組の中で一夏と1番仲が良い箒が一夏と言い争っているのだから。

「はぁい新聞部でえす!取材に来ました‼︎」

その場は新聞部副部長、黛薫子が来たことによって、無事明るい雰囲気に戻ったのだった。

 

ドックンドックンドックン

「…近いな…どこだ?」

IS学園の近くの森に一樹はいた。急いで何かを探してるようだ。エボルトラスターをこまめに見ながら、辺りを見回す。するとIS学園のほうで地響きがなった。

「ッ⁉︎やばい!間に合えよ‼︎」

一樹は学園に向かって走り出した。

 

「ん?なんか音しないか?」

一夏がそう言った途端、学園全土が大きく揺れた。

「ウワッ!」

「「「「キャァァ‼︎」」」」

思わず声が出た一夏と、悲鳴を上げる女子陣。学園の外には…

キィィィ!

以前一夏を襲った怪物…ペドレオンが学園に現れた。

『緊急事態発生、緊急事態発生。生徒諸君は速やかにシェルターへ避難せよ。繰り返す、生徒諸君は速やかにシェルターへ避難せよ』

機械音声が生徒達に避難指示を流すと3年生が1、2年生をシェルターまで誘導。普段のIS学園での避難訓練の賜物だ。

「皆、早く避難して!早く‼︎

一夏も学園唯一の男子として、3年生をサポート。そして3年生も先に避難させた。避難が終わったのを確認する為に辺りを見回したら窓からある光景が見えた。

「ウソ!なんでISの攻撃が効かないの⁉︎」

教師陣がISを使ってペドレオンを攻撃するが、ペドレオンは全く効いた様子を見せない。絶望した教師2人をペドレオンの触手が捕らえた。

「キャァァァァァァ‼︎」

 

一樹は森のふもとに着いた。そこで目を閉じると、IS学園の教師2人が触手に捕まっているのが見えた。一樹は目を開くとエボルトラスターを構え、鞘から引き抜く。正面に構えた後、天に掲げた。

「ハッ!」

エボルトラスターから眩い光が溢れ、一樹を包んだ。

 

もうダメだと教師2人は思った。しかし、背後に眩い光の柱が現れ、それが収まった時、一夏は驚愕する。

「あの時の…銀色の巨人?」

「シェア!」

巨人は独特のファイティングポーズを取り、飛び上がる。右手から光の鞭“セービングビュート”を出し、捕らわれていた教師2人を救出して着地。自分を見ていた一夏へその光線を出し、教師を預けると、本格的な戦闘に入る。

キィィィ!

獲物を奪われたペドレオンは巨人に向かって突進する。しかし巨人はタイミングを合わせて前蹴り。ペドレオンの突進の威力を加わり、ペドレオンは苦しそうに吠える。巨人はそのまま容赦なく右ストレートを叩き込み、後退したペドレオンにさらに右ストレートキックを当てる。

《キィィィ!》

ペドレオンも負けてたまるかと、電撃を巨人に向かって撃つ。巨人は右に側転して回避。右手で左腕の腕輪に触れたあと、ペドレオンに向かって矢じり形の光弾をお返しとばかりに撃つ。光弾は見事命中し、ペドレオンは怯む。巨人はペドレオンと組み合い、パワーでIS学園からペドレオンを引き離そうとする。するとペドレオンから濃い灰色の霧が噴き出し、巨人を弾き飛ばした。

「グァッ!」

巨人は霧から離れ、警戒して霧が晴れるのを待った。霧が晴れた時、ペドレオンは今までの軟体、不定形動物を合成させた様な姿から、円盤状に変化しており、まるで巨人から逃げるかの様に飛んでいく。巨人もそれを追う為に飛ぶ。飛びながら左腕の腕輪“アームドネクサス”を胸元の赤いY字形のクリスタル“エナジーコア”にくっつけ、離す。すると、巨人を光が包み、銀色だった巨人のすがたが赤と黒の比率が多い…まるで戦国時代の上級武士の袴を纏ったかの様な姿に変化した。巨人は右腕を左腕の腕輪にくっつけ、大きく半円を描くと、正面を飛んでるペドレオンに向かって突き出す。拳から青い光線が出て、ペドレオンを通過。ペドレオンの前で金色の壁が発生。上昇して逃げようとするペドレオンだが、壁の力で引き寄せられ、壁の中に入って行く。巨人もその壁の中に入ると、壁は消えた…

 

「お、終わったのか?」

一夏は巨人がいなくなってから数分間、動けなくなっていた。それは周りも同じだった様で、特に巨人が救出した2人の教師が目が点になっていた。

『近くに異常生命体の反応無し。警戒レベルをグリーンに下げます。各生徒はそれぞれの部屋に戻り、就寝して下さい』

山田先生の放送を聞き、各々の部屋に戻る生徒達。

「一夏、私達も帰るぞ」

「おう。ちょっと忘れ物無いか確認してから行くから先に行っててくれ」

「分かった」

一夏は箒と別れ、一樹がいるはずの整備室へ向かった。

 

IS学園から離れたある山。いきなり空に光が現れ、中から何か出てくるとすぐに消えた。近くを通った酔っ払いは

「この季節に花火か?気が早えな」

と言っていたとか。酔っ払いのすぐ後ろには先程IS学園に現れた赤い巨人がいたが、酔っ払いは気付かずにその場を去って行った。巨人は腹部の前で腕をクロスすると、胸の前で回し、光の柱の中へ消えた。光の柱が消えると、その下には一樹がいた。

「ハァ…ハァ…完全には、仕留めきれなかった」

その後、ストライクを使い、窓から整備室に入り、ストライクを解除した途端、一夏が入って来た。

「ん?どうした一夏」

「どうしたって外で何が起きたか知らないのか⁉︎」

「ああ。なんか地震が起きただけだ。ここは整備室でISの整備に大きな音が出るからか、完全防音なんだ」

「危なっかしいなオイ。さっき外にでっかい怪物が現れたんだぞ?」

「マジで?」

「マジで」

「…俺クビになれるかな?全然気付かなかったから護衛の仕事が出来ん奴はいらん。ってことで」

「それは無いな。千冬姉だぜ?」

「…早くクビにしてほしい…っと冗談はここまでにしてそろそろ帰った方が良いぞ」

「ん?…そうだな。またあした」

「おう。おやすみ」

一夏が帰ったらすぐに一樹も固い床に何も敷かずに寝た。まるで、立っているのが限界かの様に。




ここからは書き溜めを投稿するのでハイペースに出来るかもです。誤字が酷かったら分かりませんが。


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Episode9 中国代表候補生-ファン・リンイン-

UA2000突破しました!これも皆さんのおかげです!ありがとうございます!


「今日、転校生が来るって!」

「へ?」

「…やっぱりか」

翌日の1組教室、クラスの誰かが言ったのに、一夏は戸惑い、一樹はまるで問題の答え合わせが合っていた様な反応を示す。

「しかし一夏、お前はあまり気を取られてる場合では無いぞ」

「クラス別トーナメントも近いですし」

箒、セシリアが言うとクラス中が沸き立つ。

「そうそう!織斑君には勝って貰わないと!」

「勝ってくれたらクラス全員が幸せだよ!」

クラス別トーナメントで優勝すると、そのクラス全員に半年間学食デザートフリーパスが与えられるのだから、女子のやる気が上がるのは当然である。

「今年の専用機持ちって1組と4組だけだから余裕だよ!」

ある女子が興奮して一夏に話す。一樹はその話を聞きながら、窓の外を見ていた。

「(4組にも…専用機持ちはいるけど、《いない》んだよ…)」

いずれ一夏にも話さなければならないと思っていた時。

「その情報、古いよ」

教室の扉に小柄な女子が腕を組んで寄りかかっていた。

「2組のクラス代表も専用機持ちになった訳。そう簡単には勝たせないよ」

一夏はその少女を見て、驚きの声を上げ、一樹は教室からゆっくり出ようとする…が、一夏に腕を掴まれ、逃亡は出来なかった。

「か、一樹。俺の目が悪くなったのか、鈴が見えるんだが…」

「…そう思うなら確認すれば良いだろ?自分で」

「そ、そうだな…なあ、鈴、なのか?」

「そう!私は凰鈴音‼︎今日は宣戦布告に来たって訳‼︎」

一夏の予想通り、中二の終わりに転校…中国に帰った一夏のセカンド(一夏談)幼なじみ、凰鈴音がIS学園に転校して来たのだった。

「…何カッコつけてんだ?スッゲェ似合わねえぞ」

「な!何言ってんのよアンタ!」

一夏の容赦ないツッコミに、すぐに素に戻る鈴。

「…正直な話、俺もそう思ったけどさ」

小声で一夏に同意する一樹。凰は一樹に今気付いた様で…

「あ、櫻井じゃん。なんでいんの?」

一夏とは全然違う接し方だ。まあ、別に凰は一樹のことを嫌ってる訳では無い。元々一夏以外の男子への話し方は割とサバサバしてるのだ。

「…そこのアホがIS起動させたから」

「いやそれじゃ分からないけど…」

鈴が説明を求めるが、一夏が止める。

「なあ鈴。そろそろ戻った方が良いぞ」

「な!冷たくない⁉︎」

「いやだって…」

一夏は途端に無言になる。なぜなら…

「おい」

「何よ⁉︎」

スパンッ

「痛い!って千冬さん⁉︎」

後ろに鬼がいるからだ。

「織斑先生だ。早く自分のクラスへ戻れ」

「は、はい…逃げないでよ!一夏‼︎」

「気のせいかな…この間ほとんど同じ事言われた気がするよ」

 

昼休み

「待っていたわよ一夏!」

「食券買えないからさっさと退いてくれ」

「う、うるさいわね!分かってるわよ…」

一夏達はそれはそれは楽しい昼休みを過ごしていた。

「あれ?一夏、櫻井は?」

「呼ぼうと思ったら教室から消えてた。ただ、置き手紙で『感動の再会を邪魔する無粋な趣味は無い』って言ってた」

ここに本来は“俺は”の一文を入れたかったのだが、また面倒になると思い、一樹は書かなかった。

「へ、へえ…アイツもなかなか気が効いてるじゃん」

鈴の言葉の後半は小声で呟いたので、一夏には聞こえなかった。

 

「さーて、何すっかな…寝るか」

そう言って、整備室に入ろうとした一樹。だが、部屋の奥に気配を感じると表情を変え、ブラストショットを取り出す。そっと扉を開けて中を見ると、女生徒が必死で何かを作っているのが見えた。それがISだと分かった為、一樹はブラストショットをしまう。

「…本来の使い方してる人の邪魔は良くないな。別のところにでも行くか」

一樹は整備室から離れようとするが…

「あなたって…櫻井、一樹?」

整備室の中にいた女生徒が振り向いて、声を掛ける。一樹もすぐに顔を出した。

「ごめん。驚かすつもりはなかったんだ」

「…分かってる。気を使って部屋から出ようとしてるのが見えたから」

「…悪いついでに聞かせてくれると嬉しい。君の名前は日本の代表候補の更識さんじゃないかな?あのアホンダラに千冬を除いて1番迷惑被った」

「…それで合ってる。なんで分かったの?」

「気を悪くしないで欲しいんだが、今年の日本の代表候補生だけまだ専用機を持ってないって情報があったから」

「…そう」

更識家には複雑な家訓があるのは知っている為、一樹は苗字だけを調べ、名前は触れない様にした。

「あ、名前は調べて無いから安心してくれ。こんな人でなしと一緒にならなきゃいけなくなるとか無いから。君は、君が望んだ人と結ばれるべきだ」

「…本当?本当に私の名前知らない?」

「姉貴の方も党首の名前として楯無を知ってるけど、それを継ぐ前の名前は知らんよ」

「…よかった…」

「…話は変わるけどさ、それって君の専用機?」

一樹は更識さんの後ろにある機体を見て言う。

「うん。名前は“打鉄弐式”」

女生徒に近づきながら話す一樹。女生徒は驚いていた。

「(私が…人見知りしない?)」

女生徒は重度の人見知りであるが故に、初対面で会話出来ることはほとんど無い。しかし一樹とは初対面にも関わらず、会話が成立している。そんなことは今までなかったのに。

「…ねえ。データ取ったりしないからさ。OS見ても良い?」

「う、うん…」

女生徒から許可を貰った一樹は例の如く、凄まじい速度でキーボードを叩き、武装などには目もくれず、OSを開く。

「…むちゃくちゃだ!こんなOSで、これだけの機体を作ろうなんて。君の体が壊れるよ⁉︎」

「う、うん。私もそれは分かってるんだけど、調整が難しくて…」

「…俺がやろうか?」

「…良いの?」

「おう。このまま操縦して怪我でもされても後悔するし。じゃあちょっとごめんね」

問題部分を削除し、その部分のOSを作り直す。

「電磁流体ソケットへの負担が大きい…駆動系のコードもこのOSの酷さじゃ危ないな。電磁流体の形態を398から1075に変更、コードへの電圧も8759から7058へとシフト…」

一樹の言葉と共にOSがどんどん組み上がっていく。

「(すごい…OSの作成が速い…)」

「新しい粒子サブルーチン構築、訓練時のデータから反応速度を読み取り、イオンポンプの分子構造を再構築…終わり!」

「え?もう終わったの?」

「うん。元が出来てたからあんまり弄るとこは無かったしね。あ、一つ物作りのアドバイス。困った時はその専門の人に頼ると良いよ。後、更識さんの場合はあのバカを殴るなりなんなりしてストレス発散することかな。後は…お家事情に引っかかりそうだから止めよ。とにかく専門の人に頼ることを忘れずにね。頼るのは悪いことじゃないから」

「う、うん」

「じゃあ、また今度」

一樹はそう言って外に出る。ちなみにその夜、一夏の部屋では一夏が鈴と大喧嘩したとか…

「あの唐変木ゥゥゥゥ‼︎仕事増やすなァァァァ‼︎」

一夏の部屋の下、倉庫室の荷物が崩れたことにより、一樹が駆り出されたのは別の話




更識さんって誰?まだ出番が早すぎるって?大丈夫です。当分名前は出ません。


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Episode10 無人機-ゴーレム-

すみません、ハイペース出来るって言っておきながら遅くなってしまいました。いや、これも風邪が悪いんですよ、関節という関節が痛くて痛くて…え?聞いてない?デスヨネー。その分長くしたので、お楽しみ下さい。


翌日、机に一樹が突っ伏していた。昨夜は一夏が鈴との約束を違った解釈してた為に起こったことらしい…

「おはよ…ってどうした一樹?」

「この唐変木がァァァァ!お前のせいでこっちは寝てないんだゴラァ‼︎」

能天気に一樹に話しかけた一夏の胸ぐらを掴んで怒鳴る一樹。

「ちょ、どういうことだよ⁉︎」

「テメェが昨日凰と揉め事したせいでテメェの部屋の下の倉庫の荷物が崩れたんだよ‼︎それで片付けたのは用務員さんでも、教師でも無く、俺だぞ⁉︎あの馬鹿みたいな大荷物を、関係無いのに1人で片付けさせられたこっちの身にもなりやがれコンチクショウ‼︎」

あまりの早口で言っているのと、胸ぐらを掴まれたまま振り回されてるので、一夏には半分程しか理解出来なかった。

「ご、ごめん!今度何か奢るから‼︎」

「当たり前じゃボケェェェェ‼︎」

その後千冬が現れ、荷物片付けの件を聞き、教頭の嫌がらせであることが判明。一樹は「もう嫌だ!こんな仕事‼︎」と言ったのだった。ちなみに1組女子達が一樹を哀れんだのか、その後お菓子をあげていた(箒&セシリア以外)のは完全に別の話。

 

クラス別トーナメント当日、学園のほぼ全員がアリーナにいる中、一樹は必死でストライクの調整をしていた。

「PS装甲電圧575から378へ変更…電圧調整で得た残りの電圧を関節部の反応速度上昇へ使用。アリーナ材質を測定した結果、今の接地圧では危険と判断、万が一に備えて、接地圧合わせ…逃げる圧力を想定し、摩擦係数はアリーナの粒状性をマイナス09に設定…」

何故ここまで必死にしているかと言うと、こういう人が集まる時が1番敵に狙われやすいからだ。

「狙う可能性が1番高いのが…生徒の身内だしな…なお警戒しとかねえと」

 

「本当に謝る気は無いのね?」

「だからさ、理由を教えてくれなきゃ謝まろうにも謝れないって。約束ちゃんと覚えてたじゃねえか」

「だから意味が違うって言ってるでしょ‼︎」

「豚を使った沖縄料理の事か?」

「それはミミガー‼︎やっぱりアンタふざけてるでしょ‼︎」

ツッコミのキレは変わってないな鈴。

「クゥゥゥゥ!絶対許さない!」

「ま、それもこの勝負次第だ。行くぞ‼︎」

「上等よ!後で泣いて許してくださいって言っても許さないからね‼︎」

いや、まず負けたら生ゴミにされると思います。一樹に。

『試合、開始』

「これでもくらいなさい‼︎」

試合開始の合図が流れてすぐに、鈴は自らのIS、『甲龍』の主武装である『龍砲』を撃つ。最大の特徴は不可視の弾丸を撃つ事なのだが…

「おっと危ねえ!」

一夏には避けられていた。

「嘘ッ⁉︎ハイパーセンサーで認識したとしてもこの龍砲を躱すなんて⁉︎」

「今避けれたのは勘だったけど、おかげでどういう装備なのかは分かった!後はお前の視線さえ気にしとけば問題無いってね‼︎」

「クッ…でもこの龍砲を完全に把握したとは思わないことね‼︎」

対決が、始まった。

 

一夏、鈴の戦いを管制室で観ていたが…

「アリーナ上空に熱源多数!急降下してきます‼︎」

「何⁉︎織斑!凰!すぐにそこから離れろ‼︎」

 

「「え?」」

一瞬止まった2人のちょうど真ん中を一筋の極太ビームが通ったと思ったら、そこには謎のISがいた。

「な、何よアレ…」

『鈴、試合は中止だ。逃げろ』

敵に傍受されるのを恐れてか、個人回線(プライベート・チャネル)で一夏が告げる。

『何言ってんのよ一夏!アンタこそ逃げなさいよ‼︎』

『馬鹿!ここは()()に頼むんだよ‼︎』

 

ドォン!

「やっぱり来た!セキリュティもロックされてやがる!このレベルのロックが出来るのは…()()()しかいねえよな。解除するには時間がかかるな俺でも。なら…」

一樹は懐からブラストショットを取り出し、窓のシャッターを撃ち抜き、窓から飛び降りる。その勢いのままストライクを展開。装備は機動性を重視した装備、『エールストライカー』を選択する。背中に黒のベースカラーに赤いラインの入ったバックパック、左腕には『ソードストライカー』時よりひと回り大きいアンチビームコーティングシールド、右手に高出力ビームライフルを装備し、アリーナに向かって急ぐ。

 

『…本職に頼むのは分かったわ。だけど、生徒の避難時間を稼ぐのに私は残るわ』

「…」

一夏は小さく舌打ちする。彼にとって、正直鈴ですら足手まといになる確率が高い。専用ISを所持しているとはいえ、代表候補生はその国のアイドル的扱いをされている。そのため、基本荒事には関わらないのだ。

「(『荒事は俺たち男の仕事だ』って言っても、『何年前の話してんのよ!』って聞かねえだろうし…やべえな)」

と、一夏なりに考えた結果…

『一樹、聞こえるか?』

『聞こえてるが今そちらに急いでる。要件は手短に』

()()に聞くことにした。

『(Ex-アーマーがISと同じ通信が出来て助かった!)了解。今、鈴に避難するよう言ったが聞き入れなかった…』

『代表候補生への責任感には敬意を表するけど…ハァ…しゃあない。一夏、お前が出来るだけ面倒見ろ。邪魔ならいっそ動けなくして管制室に投げちまえ』

『じょ、冗談ですよね?』

『面倒見ろはマジだ。龍砲を()()()上手く使えば良いだろ』

『え?』

『こっちも相当数の敵さんの相手をしなきゃなんないんでな。通信終わり』

それを最後に一樹は通信を切った。

「(くそッ!やるしかねえ‼︎)なら鈴!俺が前衛に出るから鈴は後衛を頼む‼︎」

「やっとその気になったわね!良いわよ!やってやろうじゃない‼︎」

 

「織斑先生!私に出撃許可を!すぐに出られますわ‼︎」

「…この状況を見てみろ。アリーナでは3年生の精鋭たちが必死になって扉を開けようとしているのが分かるだろう?そしてこの管制室もそうだ。今現在、()()から出撃する事は出来ない」

「そんな!外にはまだ敵が大隊で襲ってきているのに‼︎」

「対策を取ってない訳では無い。念のため、櫻井を外側で待機させておいたからな」

「しかし!1人では!」

「うるさい奴だ。この際ハッキリ言っておこう。お前が行ったところで櫻井にとって足手まといだ」

「な⁉︎」

「ビットを使う度に動きが止まる等、戦場では格好の的だ。この間の決闘を見る限り、お前では話にならない。出せたとして織斑ぐらいだろう」

「あの方はあくまで『護衛役』なのでしょう⁉︎なのに対象である一夏さんを前線に出すなど「護衛役というのはほぼこじつけだ」…どういうことですの?」

こじつけ、という言葉にセシリアは疑問を持った。千冬は自らの冷静さを維持するためにも、セシリアに説明する。

「織斑がISを扱えると分かってすぐ、IS委員会は織斑をこの学園に入れようとした…ここまでは良いな?」

「え、ええ…」

「いくら織斑が()()でも__姉の私としても頭が痛いが__女性しかいないこの学園に1人というのは辛いであろうとお偉い方が『無駄な』気遣いをした。結果、織斑と親交のある男子を1人学園に入れようという事になった」

「……」

お偉い方の気遣い、確かに一夏にはありがたいだろうがその選ばれた友人としては迷惑に他ならない。なにせ、扱えないISの授業を受けさせられ、その後の人生は『中卒』で挑まなければならない様なものだ。セシリアがその立場だったら、入った時点で即友人関係ではいられなくなるだろう…

「…幸運にも、織斑と…いや、一夏と、私とも面識があり、高校にも進学せずに就職していた男子…それが櫻井だった。どうやら、お偉い方は櫻井とはかなり深い付き合いらしいな。入る代わりに、櫻井が動きやすいよう色々契約に入れていた…世界各国の首領の直筆サイン入りでな。結果がある程度の権限があり、織斑にとっても心強い同性の友人が『護衛』につく、となった訳だ」

一樹がISに入ってきた理由を()()知ったセシリアは、一樹への評価を若干だが上げた。

 

「あーもう邪魔だ雑魚が‼︎」

アリーナに向かおうとする一樹に、敵部隊が超高空からビームを連射する。学園に当たらないよう細心の注意を払わなければならない一樹はどうしてもシールドで受けなければならず、身動きがとれない。

「(攻撃方法は無くは無いけど、学園に若干傷があるかもしれないからな…聞いてみるしかねえな‼︎)」

すぐさま管制室に開放回線(オープン・チャネル)を使う一樹。

「こちら櫻井!管制室、聞こえるか⁉︎」

『こちら管制室だ。何だ?』

「敵の半分を吹き飛ばす!その際、学園に若干傷が入るかもしんねえが構わねえか⁉︎」

『緊急事態だ。私の名で許可しよう』

「理解が早くて助かる‼︎」

許可を得た一樹は近くの体育館へと一旦着地。飛んでくるビームをものともせず、『ストライク』の3つ目の装備へと換装する。右肩に『対空バルカン砲』、『ガンランチャー』。背中から左腕にかけての大型ビーム砲『アグニ』を装備したストライクの砲撃用装備『ランチャーストライカー』。

「じゃ、圧倒するとしましょうか」

アグニを上空に向けて構える。敵部隊が一斉にビームを撃ってくるが…

「その程度の出力かぁぁぁ⁉︎」

一樹は気にせずトリガーを引いた。砲口から放たれる超極太のビームは敵のビームを飲み込み、半分どころか大部分をまとめて撃破した。

「よし、次!」

再びエールストライカーに換装し、飛び出す一樹。体育館の屋根に残るストライクの足跡は見なかった事にした。

 

「(アリーナに突入してきた時から思ってたけど、()()()()を敵から感じない…)」

人一倍、人の気配に敏感な一夏。だが、その一夏ですら、敵ISに搭乗者の気配を感じない。

「なあ鈴。あのIS、動きが機械じみてないか?」

「こんな時に何言ってんの?ISは機械よ」

「そうじゃなくて…アレ、本当に人が乗ってる様に見えるか?」

「ハァ?ISは人が乗らないと動かないのよ?そんなの教科書の序盤に書いてあるじゃな__」

そこまで言って鈴の言葉が止まる。何か考えている様だ。

「言われてみればあのIS、私達が話してる時はあまり攻撃してこないわね…私だったら『舐められてる』って思ってボコボコにするのに」

「…」

鈴の一言に一夏は思う。『本当にコイツ、代表候補生なのか?チンピラと大差無い気がしてきた…』

「最後の言葉ともかく、色々おかしいだろ?だから…無人機として相手しねえか?」

「無人だったらなんだっていうのよ」

「今まで『対人』用で相手してたけど、『機械』が相手なら容赦なくぶった斬れる。雪片の全力を使えるからな」

一夏が自信満々に言うが、鈴は呆れのため息をつく。

「全力も何も当たらないじゃない」

「心配すんな。次は当てる」

「…へえ。大した自信ね。じゃあ絶対にあり得ないけど、アレが無人機だと仮定して攻撃しましょうか。どうするの?」

「俺が合図したら最大火力で衝撃砲を撃ってくれ」

「?良いけど、当たらないわよ?」

「良いんだよ、当たらなくて」

「分かったわ」

「よし、なら「一夏ァァァァ!男なら、その程度の相手を倒せなくてどうする⁉︎」って箒⁉︎」

今の箒の大声で無人ISは箒にあの極太ビームをぶっ放す気だ!やばい‼︎

「鈴、撃て‼︎」

「了解…って、なんで前に出るのよ⁉︎」

鈴が衝撃砲を撃とうとすると、一夏が甲龍の前に移動した。

「良いから撃て!間に合わなくなるから‼︎」

「ああもう!どうなっても知らないわよ‼︎」

衝撃砲を最大出力で撃ち、白式の背中に命中。一夏は痛みに耐えながらも、衝撃砲のエネルギーを吸収…

「グゥ…行っくぜぇぇぇぇ‼︎」

ISの操縦技術の1つ、《瞬時加速》を使い、敵ISに突っ込む。箒に狙いを集中していた敵ISは猛スピードで一夏に狙いを変え、極太ビームを撃とうとするが、若干一夏の方が速かった。雪片で敵ISを一刀両断。そのまま通り過ぎ、敵ISから離れる。すると敵ISは大爆発。爆煙が登る中、一夏は箒の元へ向かう。

「この馬鹿!危うく死ぬとこだったんだぞ⁉︎」

「わ、私は…お前に喝を入れようと思って…」

「雪恵の様になりたいのか⁉︎」

「ッ⁉︎」

一夏も箒を忘れていた…敵ISは1機だけでは無かった。突如、一夏の背後に別の敵ISが現れ、フルチャージした極太ビームをぶっ放してきた。

「一夏‼︎」

「一夏さん‼︎」

「織斑君‼︎」

「一夏‼︎」

鈴、セシリア、麻耶、千冬が叫ぶ。一夏もようやく背後の敵に気づくが…

「(今のシールドエネルギーじゃビームシールドも貼れねえ!くそこのままじゃ…)」

せめて箒だけでも守ろうとする一夏、そして____

 

ドォォォォンッ!!!!

 

ビームが消えた頃には、2人の跡形も残っていなかった。

「あ、ぁぁ…」

「そ、そんな…」

見ていた生徒が絶望に染まる…

 

 

 

 

 

 

「お前、ちょっと鈍ってんじゃねえか?無人機だって気付くのも、反射神経も」

呆れた様な声が上空から聞こえた。

 

 

 

 

 

「「「「⁉︎」」」」

皆が一斉に上空を向く。そこにいたのは…白式を掴んだストライクだった。

「か、一樹…」

「撃破時間は上々だと思うぜ?その刀ひとつであの砲撃タイプを倒した時間としては。ただ、なんか感覚面が落ちてる気がするんだよなぁ」

「い、今、どうやって…」

「ああ、単純だよ。

・篠ノ之だけでも守ろうと抱きかかえた状態を掴む。

・スラスター全開で逃げる。

・逃げ切って話す。←今ここ」

「話言葉なのに箇条書き風に説明された…」

抱えた箒を落とさないために、さりげなくお姫様抱っこする一夏。さっきから一樹を睨んでいた箒だが、今は顔が真っ赤だ。それどころじゃ無いんですけど今…

「とりあえず、篠ノ之はお前に任せる。俺は残りを片付ける」

「残りをって、結構いるけど…」

「残り時間って概念はお前程無い。それにすぐ終わるから大丈夫だ」

一夏の方を見ながら一樹は下に向けてビームライフルを撃つ。それだけで無人機『ゴーレム』は撃墜された。

「「「「は?」」」」

それを見た者達は呆然とする。特に鈴の顔が無になっていた。無理も無い。自分達があれだけ手こずった相手がたった1発のビームで堕とされたのだから。

「じゃ、続きと行きますか‼︎」

空中にまだまだいる敵ISに向かって一樹は飛び、敵からの攻撃は可能ならバレルロールで避け、避けた場合に他の人に当たったりする可能性のある物はシールドで受け止める。そして、ビーム砲を撃ち、動きが止まっている敵ISにはビームライフルでコアの部分を撃ち抜き、破壊。この流れで5体を墜とす。

「あと何機だ⁉︎」

レーダー、及び自分の勘を頼りに攻撃を避け、的確に相手の弱点をビームライフルで撃っていく一樹。シールドエネルギーがまるで無かったかの様にどんどん撃ち抜かれていく敵IS。しかも、データを残さぬ様に素早く撃ち抜く。

「(機械に負ける様じゃ、この地獄にいらんないっての!)」

並んでいた2機を、ビームサーベルで横に斬り、背後から来たビームは空中バック転で回避。逆さまの状態でライフルを撃ち、さらに撃破。遂に残ったのは1機のみとなった。

「はい、終わり‼︎」

最後はIS学園がデータを取る用に、ビームサーベルで五体のみを斬り刻み、コア等は残しとく。

「ふぃ〜。終わった終わった」




そういえば、設定集は入れた方がいいんですかね?


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Episode11 巨人-ウルトラマン-

Episode11になって漸くこのサブタイっていうね…


「…という訳で、クラス別トーナメントは中止になったって」

「…なんでそれを俺に言う?」

鈴との試合が終わった後、比較的軽傷だった一夏は保健室から出て、整備室にいた。一樹はと言うとストライクの再度調整をしていた。

「いや、なんとなく」

「そうかよ…飯食いに行かなくて良いのか?」

「まんま同じ事をお前に聞く。お前が飯食ってるとこ見たこと無いんだが?」

「安心しろ。お前が見てないとこで野草とか食ってるから」

「それは食ってるとは言わん!」

「仕方ねえだろ…だって、ゲホッゲホッゲホッ、グボア!」

いきなり咳き込んだ一樹。抑えてた掌には血が付いていた…

「ん?どうした一樹。風邪か?」

どうやら一夏には見えてないらしい。一樹は近くの水道で手を洗いながら答える。

「ん?まあちょっとばかし痰が出ただけだ」

「そっか。風邪には気をつけろよ。じゃあ俺は食堂行くから」

一夏が部屋を出た途端、一樹は片手片膝を付いてしまった。

「マグネット・コーティングでも遅いのか…」

態々防御の要であるPS装甲の電圧を下げて関節部のスピードを上げたのだが、それでも遅かった。そして、()()()内蔵にもダメージがいっていた。しかも…

ドックン

「…来やがったか…良いぜ、相手してやんよ…」

エボルトラスターの鼓動を感じ、一樹は整備室から出て行った。

 

一方一夏は、鈴と和解?をして今は箒、セシリア、鈴と夕食を食べていた。

「しかし、残念ですわね。クラス対抗トーナメントが中止になるなんて」

セシリアも半年フリーパスを欲しがっていた1人なので、とても残念そうだ。

「しかし仕方あるまい。あんな事があってはトーナメントどころでは無いからな」

鮭定食を食べながら箒が言う。フリーパスの対象には和菓子が無いので、箒はフリーパスにあまり興味が無かった。なので、別に落ち込んではいない様だ。

「アタシだってそれは分かるけどさ…やっぱりデザートいっぱい食べたかったな」

鈴はデザートなら特にこだわりは無いので、やはりフリーパスは欲しかった様だ。

「フリーパスが欲しいのも分かるけどさ、あんな襲撃者が来た中で誰一人死ななかったのは良かったじゃねえか」

一夏が尤もなことを言う。3人が話していたのは命あってこその話なのだから…その数分後、夕食を食べ終わり、各々の部屋に戻ろうとするが…

「うわ!」

「何これ⁉︎」

IS学園を地響きが襲い、外には以前現れたペドレオンが現れていた。

『緊急事態発生、生徒は至急シェルターへ避難せよ。繰り返す、生徒は至急シェルターへ避難せよ』

避難アラームが聞こえ、再び生徒達が避難していく中、一夏は白式を展開して、外に向かう。

「一夏さん!」

「一夏‼︎」

セシリア、鈴も自らの専用機を展開し、一夏の後を追う。

「せめて生徒達の避難が終わるまであのバケモノを誘導する!」

「だからって白式じゃ!」

鈴が叫ぶ。確かに白式には射撃武器が無い。誘導するにも目の前を飛ぶしか無い。

「ああ…だから2人はあの怪獣が俺の方を見る様に攻撃してくれないか?もちろん、断ってくれても良い。俺が頼んだのは、命の危険があるかもしれないからな」

「そんなことを言ってるのではありません‼︎」

「なんで稼働時間が1番短いあんたがやるのよ‼︎やるならアタシかセシリアが…」

「駄目だ!こういうのは…俺達、男の仕事だ‼︎」

気合を入れて、ペドレオンに向かって飛んでいく一夏。ペドレオンはスラスターの音で一夏に気付き、フリーゲンに変化し、一夏を追う。

「よし、やっぱり2人共逃げろ‼︎」

「ちょ、一夏!」

「待って下さい一夏さん‼︎」

2人は一夏を追おうとするが、教師陣にそれを止められた。

「駄目です!オルコットさんに凰さん!あなた達まで行かせる訳には行きません‼︎」

「離して下さい!一夏さんが…一夏さんが‼︎」

「アイツは専用機持ちで1番稼働時間が短かいのよ⁉︎やられちゃう‼︎」

 

一樹は学園に向かって走っていたが、セシリアと鈴の絶叫から一夏が囮となって学園から離してるというのが分かった。

「アイツ…無茶しやがって…」

しかし、こういう状況でそう動かなかったら一夏では無い。それが分かってる一樹は一瞬笑うとすぐに気を引き締めた。エボルトラスターを引き抜き、正面に構える。その後、縦に大きく回し、天空へ掲げた。

「ハッ!」

眩い光が一樹を包んだ…

 

「クソッ!想像以上に速え‼︎」

一夏は白式がシールドエネルギーを減らさずに出せる最大スピードで飛んでいた。しかし、フリーゲンの飛ぶスピードは白式を優に超えていた。今、一夏は体の大きさの違いを利用し、細かく曲がってなんとか避けてる状態だ。

「クソッ!まだ学園から離れ切って無い…どうすれば⁉︎」

背後に迫るフリーゲン。一夏は思わず目を閉じる。その瞬間、ハイパーセンサーが一夏の後ろに光の柱が現れ、一夏とペドレオンに間に入ったのを認識した。

「フアァァァァ…」

柱の中からあの銀色の巨人が現れた。巨人の体は赤く発光していて、左手を『止まれ』と言ってるかの様に突き出す。赤い光『オーラミラージュ』は相手の動きを止める技。それを受けてるペドレオンは動きが止まった。

「う、ウルトラマン…」

無意識の内に一夏からその言葉が出た。

「ヘェア!」

ウルトラマンは動きが止まってるペドレオンに容赦なく、右チョップを当てる。ペドレオンはその威力で地面へと叩き落された。ウルトラマンもすぐに地上に着地する。

「フッ!ヘアァァ‼︎」

左のアームドネクサスをエナジーコアにくっつけ、銀色の状態“アンファンス”から赤い形態“ジュネッス”に変化した。

「シュウ!フアァァァァ…フッ!ヘアァァ‼︎」

右手を左のアームドネクサスにくっつけ、大きく半円を描いて構えた後、右手を天空へ掲げた。すると、右手から一筋の青い光線が伸びる。ある程度の高さが行ったところからオレンジ色の光が徐々に大きく広がり、ドーム状になっていく。中に閉じ込められた形になったペドレオンはそのオレンジ色の光に火球を撃つが、効果は無い。白式もまた、ドームの範囲に入った。

「ッ!コントロールが⁉︎落ちる⁉︎」




え⁉︎オレンジ色のドームダッテェ⁉︎


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Episode12 亜空間-メタ・フィールド-

ヤバイヤバイ。ウルトラマンの戦闘描写がIS戦闘より難しい!もっと精進せねば…


「大変です織斑先生!織斑君のIS反応が消えました‼︎」

「何⁉︎怪獣は⁉︎」

「怪獣も同時にです!」

オペレーションルームでは、一夏のIS反応が消えたことにより、パニックに陥っていた。

「そこのカメラの映像を出せるか⁉︎」

「やってみます‼︎」

摩耶が学園のカメラの映像を出す。そこには…

「あの時の…巨人?」

「銀色から赤になってます!」

その後、巨人の起こしたオレンジ色のドームの中に一夏が入ったのが確認された。

「無事に帰って来てくれよ…一夏」

家族として、そう思わずにはいれなかった千冬だった。

 

「ここは…ウルトラマンが作った空間、なのか?」

荒野の様な場所に一夏はいた。

「シェア!」

《キィィィ‼︎》

「ッ⁉︎」

少し離れた場所でジュネッスとなったウルトラマンと、ペドレオンが激闘を繰り広げていた。

「ファッ!」

《キィィィ⁉︎》

ペドレオンに飛び蹴りで怯ませ、タックルを当てる。

「シュッ!」

《キィィィ⁉︎》

続けて前蹴り。更に攻撃を続けようとするウルトラマンだが、ペドレオンは腕のムチを振るった。

「グオッ⁉︎」

一瞬怯むウルトラマンだが、左のジャブ、右ストレートでペドレオンを大きく怯ませる。

《キィィィ‼︎》

「フアァァ、シェア‼︎」

ウルトラマンとペドレオンの激突で、激しい土煙が上がる。

「デェア」

ウルトラマンはペドレオンの両腕を掴むと、メタ・フィールドの岩盤にぶつける様に押し出す。

《キィィィ⁉︎》

その戦いの様子を、固唾を飲んで見守る一夏。ウルトラマンはペドレオンの両腕を離すと1回転し、強烈な右回し蹴りを放つ。

「シェア‼︎」

《キィィィ⁉︎》

続けてヘッドロックの様にペドレオンを抑え込もうとするが、振り払われる。ペドレオンは腕のムチを振るってくるが、ウルトラマンはペドレオンを飛び箱の技の様に使って回避。

「フッ!」

ペドレオンのムチを掴んで捻り、腹部にストレートキック。うずくまるペドレオンに飛び込みチョップと連続で攻める。だがペドレオンもやられっぱなしではない。掴みかかろうとしてきたウルトラマンに強烈な頭突きを喰らわせる。

「グオッ⁉︎」

ウルトラマンは一瞬怯むが、臆せずペドレオンに向かって走る。が___

《キィィィ‼︎》

「グアァァァッ⁉︎」

ペドレオンの身体がスパーク。ウルトラマンを吹き飛ばす。

「グアッ⁉︎」

背中を強打してしまうウルトラマン。ペドレオンは反撃開始と、まずはウルトラマンを投げ飛ばす。

「グアッ⁉︎」

そして、連続でウルトラマンの背中をその腕で殴打する。

「グアッ⁉︎」

だが、ウルトラマンもやられっぱなしではない。ペドレオンのムチを後転で回避し、ペドレオンの腹部に蹴りを入れる。

「ファッ!」

《キィィィ⁉︎》

ペドレオンが怯んでる隙に起き上がり、更に強烈な左ストレート。

《キィィィ⁉︎》

これには流石のペドレオンも効いたのか、数歩下がった。そんなペドレオンを掴むウルトラマンだが、その両腕にペドレオンのムチが絡まった。

「フッ⁉︎」

ウルトラマンの両腕を触手で捕まえたペドレオンは触手越しに電撃を放つ。

「グァァァ!」

だんだん劣勢となっているウルトラマン。しかし、一夏には見ることしか出来なかった。

「フッ、フオォォォォォ…ヘアッ‼︎」

ウルトラマンは気合を入れて、アームドネクサスの刃で触手を斬った。

《キィィィ⁉︎》

「フアァァ…ハッ!」

ムチから開放されたウルトラマンは力強く構えると、ダッシュ。勢いも含めたストレートキックでペドレオンを吹き飛ばす。

《キィィィ⁉︎》

吹き飛ばされ、一際大きな岩盤に激突して止まるペドレオン。

「ハァァァァ…シュアッ‼︎」

ウルトラマンはエネルギーで自らの前に巨大な竜巻を作る。そして、その竜巻をペドレオンに向かって飛ばした。

「デェアッ‼︎」

竜巻はペドレオンの半身をメタ・フィールドの大地に埋め、身動きをとれなくした。

《キィ⁉︎キィィィ⁉︎》

「フッ!シュ‼︎フアァァァァ…フンッ!デェアァァァ‼︎」

左腕を前に突き出して、さらに右腕をそれに重ね、胸の前で開く。腕と腕の間には稲妻状のエネルギーが走った後、両腕を高く上げ、体全体でYの字を作った後、L字形に組んで必殺技『オーバーレイ・シュトローム』を撃つ。オーバーレイ・シュトロームをまともに喰らったペドレオンは青い粒子となった後、完全に消滅した…

「か、勝ったのか?」

ペドレオンが完全に消滅したのを確認すると、ウルトラマンは空間を解除しながら消えていった…

 

「あ!織斑君のIS反応を確認!開放回線(オープンチャネル)で通信を求めています‼︎」

「繋げてくれ!私が出る‼︎」

『…ちら織斑、応答して下さい。こちら織斑、応答して下さい』

「こちら管制室だ。一夏…無事か?」

『(この話し方は…)ああ…ウルトラマンが助けてくれた』

「ウルトラマン?」

『さっきオレンジ色のドームを作った巨人のことだよ。何故か頭にそのフレーズが浮かんだんだ』

「そうか…詳しい事は後で聞く。ところで、そこに櫻井はいるか?」

『…いや、いない。何でだ?』

「お前がさっき整備室を出た後、1人で森に向かっていたのが学園のカメラに写っていた」

『森⁉︎大丈夫かよ⁉︎」

「…明日にならないと調査のしようが無い。明日になるまで我慢するんだ」

『くっ!了解…』

その後一夏は箒、セシリア、鈴にこってり絞られた。

 

「あああああづがれだ〜ったく、生きて帰ってこれたから良いじゃねえか」

部屋に戻りながら一夏は愚痴る。

「…貴様、まだ反省が足りない様だな」

「イエイエシテマスヨ?」

「何故喋り方がおかしいんだ?」

「おかしくなんてあらへんよ?こりゃ最近の流行りなんだってばよ」

冷や汗だらだらの状態で言い訳する一夏。そんな一夏に、どこからか取り出した竹刀を振り下ろそうとする箒。

「ッ‼︎」

一瞬だった。一夏の顔が険しくなり、箒の腕を掴んで逆関節を極めていた。

「なっ!」

「…ハッ!悪い箒!大丈夫か⁉︎」

「あ、ああ…」

すぐに戻った一夏だが、箒は一夏の変わりようが気になる。

「なあいち…」

箒は自分の疑問を口に出そうとするが、気の抜けたノックに遮られる。

「織斑君、篠ノ之さん。いますか〜?」

相変わらずおっとりした声の麻耶。止まっている箒に変わり一夏が返事をする。

「はい、います。すぐに開けるんでちょっと待ってて下さい」

一夏が扉を開けると、そこには書類と鍵を持った麻耶がいた。鍵?

「すみません、お待たせしました。部屋の調整が終わったので篠ノ之さんはお引越しです。今日から同居しなくてすみますよ」

「ま、待ってください!それは今ではないとダメですか?」

まさか箒がそう言うとは思っていなかったのか、麻耶は一瞬きょとんとする。

「それはまぁ、そうです。いつまでも同年代の男女が同じ部屋というのは問題もありますし、篠ノ之さんもくつろげないでしょう?」

至極もっともな話だ。学生寮であるとはいえ、オフの時間にのびのび出来なくてはその内疲労で倒れるだろう。()()()

「し、しかし…」

先ほどからチラチラ一夏の方を見る箒。一夏にはそれの意味を____

「箒、そんな気を遣うなよ。俺だってガキじゃないんだ。箒がいなくたってちゃんと起きれるし、歯も磨くぞ」

___理解している訳が無かった。当然…

ブチッ

「…先生、今すぐ部屋を移動します」

箒はブチ切れた。

「は、はい!」

そしてそんな箒にオドオドする麻耶であった…

箒が部屋を出て数十分後、やる事(日課の筋トレ等)を終わらせた一夏は寝ようと布団に入ったが____

コンコン

ノックの音が聞こえた。

「(んあ?もう布団に入っちまったんだけどな…)」

ドンドン!

「(って今度はノックってレベルじゃねえ!分かりましたよ、出ればいいんでしょ出れば…)」

若干げんなりしながら一夏は扉を開ける。

「はい、どちら様___」

「…遅かったな」

来客は先ほど部屋移動をした箒だった。

「何だよ箒。忘れ物か?」

「いや…」

それっきり黙ってしまう箒。

「…何か用があるなら部屋入るか?」

「いや、大丈夫だ」

「そうなのか?」

「うむ」

「…………」

「…………」

待てオイ。

「…箒、用がないなら俺もう寝たいんだけど…」

「よ、用はある!」

焦った様子で箒は言う。2、3回深呼吸をする。

「ら、来月の、学年別トーナメントで…」

「学年別トーナメントで?」

「わ、私が優勝したら付き合ってもらう‼︎」

「…はい?」

枕を持った状態できょとんとする一夏だった。

 

「ハァ、ハァ、ハァ…なんとか、倒せた…」

一樹は皆が寝静まった頃、ようやく整備室に戻ってこれた。両腕が焼ける様に痛む。

()()を呼んでも…回復は難しそうだな…諦めて寝るか…」

相変わらず硬い床の上に一樹は倒れこんだ。

 

翌日…

「ふわぁよく寝た。今朝はとりあえず整備室に行って一樹がいるかどつか見に行っとくか…」

一夏が一樹がいるか確認しに整備室にやってくると…

「ウグッ!」

一樹が激痛が走っている両腕を抑えて蹲っていた。

「おい一樹‼︎大丈夫か⁉︎待ってろ、すぐに保健室に連れてってやるから‼︎」

 

千冬は、一夏が白式に保存していたウルトラマンとペドレオンの戦闘を録画したものを見ていた。

「…奴は一体、何者なんだ…」

一方摩耶は、白式に一夏が取らせていた空間のデータを見ていた。すると、ある文字が頭の中に浮かんだ。

()()()()()()()()…」

言った後、摩耶本人が驚いた。なぜなら何処かでその言葉を聞いた訳でも無いのだから。しかし、何故かしっくり来る言葉だった。

「織斑先生、この空間のデータです。空間の物質自体は、ウルトラマンの体と同じ物質で出来ているのが確認されました」

「…という事は、奴は自らの身を削って、我々を助けてくれたと言う事か?」

「現段階ではそういう事になります」

そこに1通のメールが来た。そこには一樹が整備室にいたが、何やら苦しそうだったので、保健室で検査したとの事。そして、怪我の場所のカルテが届けられていた。

「(な、なんだコレは⁉︎)」

千冬はそれを見て驚く。それもそうだ。なぜなら…

「(なぜ…ウルトラマンが攻撃を受けた場所と櫻井の怪我の場所が一緒なんだ⁉︎)」

そう…一樹の怪我してるとこと、さっき映像で見たウルトラマンの攻撃を受けた場所が一致しているのだ。

「教室へ行きましょう織斑先生。今日は転校生も来てることですし」

「…そうですな。こっちはこっちで、また厄介なことになりそうだ…」

 

「シャルル・デュノアです。ここには僕と同じ境遇の人がいると聞きました。仲良くしてくれると嬉しいです」

今は朝のSHR。そして今のは、転校生が挨拶をしたことだ。それは良い。それは良いんだが…

「「「「男⁉︎」」」」

そう、男なのである。その後すぐに1組の教室に黄色い声が上がったのは言うまでも無い。そして、もう1人…

「ラウラ、挨拶しろ」

「はっ!教官!」

「織斑先生だ。私はもう、お前の教官では無いし、ここでは私は教師、お前は生徒だ」

「はい!ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

シーン…

「あの、以上ですか?」

「以上だ」

無愛想過ぎる…

「ッ⁉︎貴様は!」

一夏を見つけ、ずんずん近づいてくる。そして、一夏に平手打ちを放つが…

ガシッ、ブンッ!

「カハッ!」

いつの間にか間に一樹が入り、ラウラの手を受け止め、教卓に向かって投げた。ラウラは一樹の素人とは思えない動きに受身が取れず、モロにダメージが入った。しかし…

「ゲホッゲホッゲホッグボア!」

まだ完治していない身で大技を出したので、一樹自身が一番ダメージを受けていた。一夏が一樹の背中をさすりながらラウラに言う。

「…俺を攻撃したのは…第2回モンドグロッソの件か?」

「そうだ!貴様さえいなければ教官が2連覇したのは確実だった。私はお前を認めない!認めるものか‼︎」




なんかネクサスよりIS部分の方が濃ゆいですね。まあ、ネクサスのある部分からほぼネクサスだから許してください。


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Episode13 間者-スパイ-

サブタイはほとんどヤケで決めました。


「織斑、櫻井、デュノアの面倒を見てやれ。同じ男だろ?」

千冬の言葉を聞いた一樹は信じられなかった。

「(コイツ…どう見ても女だろ)」

そもそも一夏がISを操縦出来ると分かった時点で、世界中で他に男性操縦者がいないか調べられているのだ。それなのに1ヶ月近く隠せれる訳が無い。

「君達が織斑君に櫻井君だね。よろしく。僕は…」

「あー、自己紹介は後で、ここは女子が着替えるから移動しないと」

一夏はデュノアの手を取って走り出す。仕方なく、一樹も走り出すが…

「いた!あの子が噂の転校生よ‼︎」

「者ども出会え出会え‼︎」

…いつからこの学園は武家屋敷になったのだろうか?

一夏とデュノアに女子生徒が群がる中、一樹はすんなり人混みを避けれた。

「…()()()()、か…調べといた方が良さそうだ」

 

演習ではセシリア、鈴が2人がかりなのに麻耶に滅多打ちにされた。

「やっぱりなんでオルコットが入試で勝てたのか分からん」

 

「ねえ櫻井君、僕と模擬戦してくれないかな?」

授業が終わり放課後、シャルルが一樹に話しかけて来た。

「悪いな。俺の機体、今壊れてっから下手に動かせれないんだ」

適当にでっち上げ、さっさとトンズラしようとする一樹。そこに一樹の携帯が鳴る。

「おっと、すまねえ」

「うん、出て良いよ」

教室から出るつもりだったが、仕方なく電話に出る一樹。相手は宗介だ。

「おう、久しぶりだな。そっちはどうだ?こっちは2人目の男性操縦者が来てホッとしてるところ」

『(近くに本人いるのか?なら一樹の言葉は気にせず報告だけするか)ビンゴだったぜ』

「え?あの店がセール実施中⁉︎それはマジか⁉︎」

()はいたけど、()()()いなかった』

「よっしゃ、なら今まで中々手が出せなかったアレが買えるな」

『命令したのは社長夫人、バリバリの女尊男卑思考の人だ』

「いやー長かったなぁ」

『社長は今回の件は嫌々だったんだが、押し通されたそうだ。しかも社長が本当に結婚したかったのは今一樹の目の前にいる奴の母…フランソワーズさんだったんだ。会社のために止むを得ずの結婚、所謂政略結婚だな』

「え?流れてる人数多い?なら人海戦術で解決しよう!そっちも呼びかけてくれ!」

『人海戦術?ってことはデュノア社買収して黒幕潰すか?』

「そ!」

『分かった!じゃあそう手配しておくぜ』

一樹の電話が終わるのを律儀に待っていたシャルル。

「悪い!俺ちょっとこれから色んな人に電話かけなきゃいけねえからまたな!」

「あ、うん…またね」

 

その週の土曜日、一夏と一樹は土日分の外泊届けを出し、久しぶりにIS学園の外に出ていた。一夏の家の掃除をしたあと、合流したのは…

「で、ハーレム満喫してますか?お二方さん」

2人の中学の同級生、五反田弾(ごたんだだん)だ。

「弾、久しぶりに会って早々天に昇りたい様だな…」

いい笑顔(しかし目が笑ってない)の一樹がオーラを纏いながら弾に近づく。

「すいませんすいませんすいません許してくださいこのとおり!!!!」

すぐさま土下座する弾。ここは道路だとかそんな事気にしてる余裕は無さそうだ。

「一夏ならともかく、俺がIS学園生活を満喫出来ると思ってんのか?」

「…誠に申し訳ありませんでした」

中学時代の一樹の苦労を思い出し、再度頭を下げる弾。

「ったく、早く行こうぜ」

3人が向かったのはゲーセンだ。アーケードコーナーに真っ先に向かい…

「今日こそお前を倒すぞ一樹!そのためにコンボも練習したしな!」

「…マジ?俺コンボとか考えずがむしゃら押しなんだけど…」

「腹立つ腹立つ!なのに勝率8割とか腹立つ!」

「あのね?周りの方見てみ?俺以上の動きしてるからね?」

マ○ON機の周りで騒ぐ弾(二等兵)とそれを宥める一樹(上等兵)。分かる人は分かるが、本当にドングリの背比べ状態だ。一樹も身内にだけは強いが、こういうゲームはあくまでエンジョイ勢なので基本は『CPU優先』で遊んでいる。

「(マジ勢の足引っ張るのは嫌だからな…)」

そして迷惑とか考えず対人をやってボコられるのが弾だ。

「早く一樹!やるぞ」

「…お前、一夏(一等兵)にも聞けよ」

「一夏とは後でやる‼︎」

ため息をつくと、機械にカードを読ませてから100円を投入する一樹。店内対戦を選んで機体を選ぶ。

「(じゃ、いつも通りで)」

お気に入り機体に登録してあるおかげで第一に出てくる機体を選び、覚醒はE覚をチョイス。ステージ選択はランダムにしておく。

「よし!コレで行くぜ!」

弾も機体を選んだ。ステージと各々の機体が発表される…

一樹→ダブルオークアンタフルセイバー(E覚醒)

弾→ガンダムエピオン(F覚醒)

「ってまたお前はフルセイバーかよ!!!!」

「気に入ってるんだよ!!文句あっか!?」

まあ、多分に機体愛が入っている。ちなみに使いこなしきれていない。

「あの、お二方さん。騒ぎすぎてギャラリー集まってますよ?」

「「すいません初心者なのでそれは勘弁して下さい」」

対戦、スタート。礼儀として僚機には『回避』の指令を出すのを忘れない。

「まずは特射して追いかける!」

「エピオンに捕まるの怖いから逃げる!」

「あ、テメ逃げるな!それでも漢か⁉︎」

「金かけてるから簡単には負けたくねえんだよ!」

「ふざけんな!ってちょおま、ライフル連発ってああオバヒだ⁉︎」

「よっしゃサブからのBD格、下格!」

「ああああきりもみかよ!すぐ起き上がってコンボってゲロビ⁉︎」

「あ、避けるなこら!!!!」

「避けるわボケ!とにかくもうオバヒだろ!やっとコンボをって量子化⁉︎」

「氏ねやごらぁぁぁ!!!!」

「抜け覚!」

素人丸出しの図が完成、結果…

「勝ったぁぁぁ!!!!」

「負けたぁぁぁ!!!!」

一樹の勝利となった。その後、五反田食堂に移動。

「うみゃい!うみゃいよぉぉぉぉ…」

一樹が昼食として出されたカボチャ煮定食を涙を流しながら食べていた。

「…あの、一樹さんや、IS学園の飯はそんなにマズイのか?」

いつも以上に一樹のリアクションが大きいので、弾が恐る恐る聞いてくる。

「んにゃ。そもそも飯出されてないぞ」

ご飯をかっこみながら答える一樹。その言葉に呆然となる店内。

「…先ほどは重ね重ねすみませんでした」

一夏と一樹の待遇の差に、もう2度とハーレム学園と(一樹には)言わないと決めた弾だった。

「おじちゃん!ご飯と定食おかわり!」

「おう!たんと食え‼︎」

久しぶりのまともな食事に一樹は箸が止まらない。そんな所に…

ガラガラ

「ただいまー。もう部活とかめんどくさ…って一夏さん⁉︎」

弾の妹、蘭が帰ってきた。

「あ、久しぶり。邪魔してる」

「お、お久しぶりです…あの、全寮制の学校に通ってるのでは?」

「いやあ、久々にシャバの空気吸いたくてさ。家の片付けした後遊びに来たんだ」

「そ、そうですか…」

ちなみに蘭は中学時代から一樹の事は目に入った事は少ない。一夏との待遇の差に、流石の弾も注意する。

「おい蘭、今客は一夏だけじゃねえんだぞ。ちゃんと挨拶しないと品のない…」

言葉の途中で黙る弾。蘭の睨みはそれだけ凄みがあった。

「…何で言ってくれなかった」

「あ、言ってなかったか?す、すまんかった。あはは…」

「ふぅ…ご馳走様でした」

無視されるのは慣れているため、一樹は黙々と昼食を食べていた。食べ終わりの挨拶をして、漸く蘭は一樹に気づいた。

「あ、櫻井さん…お久しぶりです」

「お、久しぶり」

それだけ言うと、蘭は急いで自室へと向かった。

「…明日からまたろくに食えないって思うと泣けてくる」

「俺、行かなくて良かったな。うん」

「だろ?女子校に男子2人だけって結構しんどいぞ?力仕事は押し付けられるしトイレは少ないし、何より話す相手が少なすぎて辛い」

「まあそうだよな。一樹もずっと近くにいれる訳じゃないし」

「最近じゃ弁当が食べきれないって言う女子も増えてきたから本当たいへ「少しでも心配した俺が馬鹿だったよ‼︎」何でだよ!食べ物残すのは勿体無いって食堂の息子なのに教わってないのか⁉︎」

「オメエのはそういう次元の話じゃねえんだよ!自慢か?自慢なのか⁉︎」

「うだうだうるせえ馬鹿2人」

ゴンゴンッ!!!!

「「いってえぇぇぇ⁉︎」」

騒ぐ一夏の弾に一樹の拳骨が落ちる。漸く静かになり、食後のお茶が飲めるようになった。

「す、すみません。ここ、座っても良いですか?」

一夏の隣の椅子を指す蘭。その姿は先ほどの制服ではなく、白いワンピースとオシャレだった。

「おう、大丈夫だ。それよりその服、これから出かけるのか?」

「いえ、そういう訳では…」

その時、一樹には一夏の頭上に豆電球が見えた。

「分かった!デートだろ?」

「違います!!!!」

一夏の発言に、一樹と弾はため息をついたのだった。

 

月曜日の朝。教室に入る一夏は奇妙な視線を感じた。

「(何だろう?)」

一樹も教室の雰囲気が変なのを感じると、一夏から離れ、そこそこ話しやすいのほほんさんへと話しかけた。

「…なあ、この空気何?」

「えっとね〜学年別トーナメントで優勝すればおりむーと付き合えるって噂が流れてるんだ〜」

「…おっけー、大体把握した」

 

放課後、一夏に呼ばれた一樹は一夏の部屋にいた。理由は…

「…やっぱり、お前はスパイだったか…」

シャルル・デュノアが女だったと言うことだ。

「やっぱりって、気付いてたのかよ⁉︎」

「むしろ今まで気づかなかったことに俺は驚いてるよ‼︎なんだよこの学園‼︎」

一夏と一樹の漫才?を見て苦笑いするシャルル。

「大方予想はついてる。一夏からは世界初の男性操縦者としてのデータを盗みに、俺からはEX-アーマーのデータを盗みに、ってとこか?」

「うん。大体当たりだよ」

「俺はともかく、一樹の方のデータは何でだ?扱う人を選ぶんだぜ?」

「あのね一夏。櫻井君がいるとこは世界中のISが束になっても、多分勝てないよ」

「なんやて⁉︎」

「シールドエネルギーを一撃で消滅させ、コアごと破壊する…今、全世界で1番喧嘩売っちゃいけないとこ。って言われてるんだ…」

「お前、何者?」

「さあな」

とりあえず、データは盗まないが、とりあえず男装のままで過ごすことが決定した。その後シャルルは一樹の就寝部屋を見て、深々と土下座をしたのは別の話。

 

「ねえねえ!代表候補生同士で、模擬戦してるんだって‼︎」

「見に行こ見に行こ!」

「「ッ⁉︎」」

ある日の放課後、一夏とシャルルが校内を歩いていると、代表候補生同士が模擬戦をしているというのが聞こえ、嫌な予感がした為、見にいくことにした一夏。念のために一樹にメールを送っておいて。

「あ、あれは⁉︎」

一夏の目には、ISが解除されてもなお、セシリアと鈴を攻撃し続けているラウラがいた。

「止めろ!それ以上やったら…」

 

「ったく、なんでこの学園はこうも頭に血が上りやすい奴ばっかなんだ?」

一夏からのメールを見て、アリーナへ行こうとする一樹。しかし…

ドックン

「ッ⁉︎」

エボルトラスターの鼓動を感じると、すぐさま学園の外へ向かった。

 

「止めろォォォォ‼︎」

このままではセシリアと鈴が死んでしまう!近くにいた箒に千冬を呼ぶのを頼み、シャルルにはここにいてもらう様頼む。その後、白式を展開、ラウラの元へ全力で飛ぶ。

「フンッ!やはり素人だな。何も考えずに突っ込んで来るとは‼︎」

ラウラはそのまま、シュヴァルツェア・レーゲンに搭載されているAICを発動する。

「そんなもんに‼︎」

しかし一夏はとてもISを稼働させて1ヶ月とは思えないバレルロールで、AICの効果範囲から逃げていた。

「んなッ⁉︎」

「どけぇ‼︎」

その勢いのまま、ラウラを蹴飛ばし、セシリアと鈴から離す。2人を抱え、一夏はその場を離脱。シャルルに2人を預け、本格的にラウラと戦闘に入ろうとする…が、

『緊急事態発生、生徒は至急シェルターへ避難せよ』

またもや怪獣が現れた。




次は戦闘描写が入るので遅くなると思います。


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Episode14 攻撃-アタック-

遅くなりました。


「見つけた!」

一樹は学園の森に新たな怪獣、『バグバズン』を見つけた。一樹はエボルトラスターを鞘から引き抜こうとするが、いまだペドレオンから受けた傷が痛む。特に直接電撃を喰らった両腕がだ。

「うあァァァァ‼︎」

気合を入れてエボルトラスターを鞘から引き抜き、天空へ掲げた。眩い光が一樹を包み、一樹をウルトラマンに変身させた。

 

「シャルル、何か射撃武装貸してくれないか?なるべく威力のあるやつを」

「僕の装備で渡せる最強武装となると…スナイパーライフルくらいだけど…それで良い?」

「充分だ。ありがとう」

怪獣が出たと聞き、すぐに飛び出した一夏とシャルル。すこし離れたとこにはラウラもいた。

「あの怪獣…この間のとは違う…」

スナイパーライフルを撃ちながら、バグバズンを白式に分析させる一夏。ペドレオンがその柔らかさで攻撃を受け止めていたのに対し、バクバズンはその体皮の硬さで攻撃を跳ね返していた。

「クソ…どうすれば…」

悩む一夏、その前に光の柱が現れ…

「う、ウルトラマン…」

ウルトラマンが現れた。

「シェア!」

《グルァァァァ!》

バグバズンの突進を受け止め、押し戻すとその腹部に前蹴りを放つ。

「シェア‼︎」

《グルァァァァ⁉︎》

続けて頭部を左手で掴み、右チョップ。

「タアッ!」

チョップの威力に、バグバズンの頭部が下がると、その頭部に向けて前蹴り。怯んだバグバズンに飛びかかる。

「ファッ!」

頭を持ち上げ、空いた胴に回し蹴りを放つ。

「シェア‼︎」

続けて強烈なアッパーカットを放った。

「シェア‼︎」

《キシャァァァ⁉︎》

ここまで有利に戦闘を進めるウルトラマン。だが、バグバズンもただやられっぱなしではない。

《グルァァァァ‼︎》

走ってきたウルトラマンに、その硬い頭部をぶつけるバグバズン。

「グアッ⁉︎」

続けてその巨大な爪で仕掛けてくるが、ウルトラマンはバック転で回避。隙が出来たバグバズンの腹部にストレートパンチ。

「シュアッ‼︎」

《キシャァァァ⁉︎》

バグバズンが数歩下がる。ウルトラマンはそのバグバズンに飛び回し蹴り、ストレートキックを連続で喰らわせる。そしてバグバズンの左爪の攻撃を受け止めると、投げ飛ばした。

「デェアァァ‼︎」

《グルァァァァ⁉︎》

大地に倒れるバグバズン。ウルトラマンはゆっくりと近づくが_______

ザクッ!!!!

「グァッ⁉︎」

バグバズンは尾にあるハサミでウルトラマンの左足を挟むと、投げ飛ばした。

「ウァッ、グッ…」

左足の痛みに、すぐには立ち上がれないウルトラマン。バグバズンはそんなウルトラマンに尾に一撃を喰らわせる。

「グアッ⁉︎」

大地に倒れるウルトラマン。バグバズンはその巨体で押しつぶそうとするが、ウルトラマンは横に転がる事でそれを避ける。そして、バグバズンが起き上がる前に飛び上がり、かかと落としを放つ。

「デェアァァ‼︎」

《クルァァァァ⁉︎》

かかと落としのダメージで怯んでいるバグバズンに、ウルトラマンの回し蹴りが決まる。

「デェアッ‼︎」

《キシャァァァ⁉︎》

回し蹴りの威力に吹き飛ぶバグバズン。ウルトラマンはアームドネクサスを交差させ、高速移動の『マッハムーブ』でバグバズンの背後に回る。そして尾をハサミに気をつけながら持ち上げると、バグバズンの背中を大地に叩きつけた。慎重にバグバズンに近づくウルトラマン。

「グアッ⁉︎グアァァァ⁉︎」

だが、バグバズンとは違う方向からウルトラマンは攻撃された。

 

ウルトラマンが怪獣以外の攻撃を受けている。それに驚いた一夏が、攻撃の方向を向くと…

「レールカノンは通用する様だな。なら問題はない」

ラウラ・ボーデヴィッヒが『シュヴァルツェア・レーゲン』のレールカノンをウルトラマンに向けていた。

「お前、何をしている⁉︎」

「何をしている…だと?私は敵を攻撃しただけだ」

「俺たちを守ってくれてるウルトラマンをか⁉︎」

「逆に教えて欲しい。何の根拠があってあの巨人を味方だと判断している?いつ襲ってくるのか分からないのに」

 

ウルトラマンは意識をバグバズンに集中させる。バグバズンが突進してくるタイミングに合わせ、前蹴り、ボレーキック。蹴りが当たる度にバグバズンの体から火花が散る。

「シェアッ‼︎」

《キシャァァァ⁉︎》

距離が空いたバグバズンに、飛び蹴りを放とう飛び上がるウルトラマン。

「ハッ!」

 

「そこだ!」

飛び上がったウルトラマンの背中に、容赦無くレールカノンを撃つラウラ。

 

「グアッ⁉︎」

レールカノンの想像以上の威力に、ウルトラマンはバグバズンの前で倒れてしまう。当然バグバズンがその隙を逃す訳が無く…バクバズンのその鋭い爪がウルトラマンの左脚に刺さり…引き抜かれた。

「グッ!グアァァァァァ⁉︎」

ウルトラマンから光の血の様な物が吹き出す。

一夏、シャルルはもう黙って見てられなかった。

「やめろォォォォ!」

一夏がバクバズンの眼前でスナイパーライフルを撃つ。シャルルもリヴァイブに搭載されている射撃武装を全てバクバズンに撃つ。

《キシャァァァ⁉︎》

さすがのバクバズンも眼前にいくつもの爆発が起きたので、怯んで羽を広げて逃げようとする。ウルトラマンはそれを見て、腕を十字型に組み、必殺光線『クロスレイ・シュトローム』を撃つ。

「フッ、オォォォォ…デェア‼︎」

クロスレイ・シュトロームは見事バクバズンの片翼に当たり、バクバズンは地面に落ちた。

《キシャァァァ⁉︎》

だが、すぐに地面に潜って姿を消した。それを見たウルトラマンは力尽きたのか、すぐに消えた。

「フッ、あそこら辺に何かあるな」

レーゲンを駆り、すぐさまそのポイントへ向かうラウラ。一夏とシャルルもそれに続く。

 

「ハァ、ハァ、痛っつう…」

ペドレオン戦でのダメージが残っている上に、左脚をやられた。一樹の左脚からは血が流れている。早く止血しないと危ない。左脚を引きづりながらも学園から離れようとする一樹。だが…

「止まれ」

ラウラがレールカノンを一樹に向けていた。すぐに一夏とシャルルも現場に着く。

「え…一樹?」

「櫻井君、だよね?」

一夏はそこで一樹の左脚から血が流れてるのを見つけた。そう、先程ウルトラマンが爪で攻撃された場所だ。

「お前…まさか」

「フッ、なるほどな」

ラウラが納得した様に冷たい笑みを浮かべる。

「あの巨人の正体は…お前だな?」

「「⁉︎」」

「…もしそうだとしたら…何だってんだ?

一樹は一夏達に背中を向けたまま話す。

「決まっている…貴様を、消す‼︎」

ラウラが言ったと同時に一樹はブラストショットを構え振り向く。ラウラはレールカノンを一樹に撃とうとするが…

「やめろ‼︎」

「彼は味方なんだよ⁉︎」

撃つ瞬間に一夏、シャルルに押される。結果、砲弾は一樹から逸れて地面にぶつかり、土煙を上げた。一樹は外れたのが分かるとすぐにブラストショットを天空に向けて撃った。

「どけ‼︎」

ラウラが一夏、シャルルを突き飛ばし、すぐに一樹の心臓目掛けてレールカノンを撃つ。しかし…

「なん、だと?」

一樹の前にバリアが貼られ、レーゲンのレールカノンを受け止めていた。すぐに黒い飛行機状の石碑が空から降りてきたと思ったら凄まじいノイズが鳴り響き、3人のISが解除された。

「んな⁉︎ISが!」

「解除された⁉︎」

「この音で⁉︎」

一樹は光の球になり、その石碑の中に入った。すると石碑は白をベースとした赤いラインの入った飛行形態に入り、その場から姿を消した。

 

「そうか…あの巨人の正体は櫻井だったか…」

石碑が消えた後、一夏達は学園に戻り、千冬に報告していた。

「通りでアイツの怪我の場所とウルトラマンの攻撃を受けた場所が同じな訳だ」

「先生は分かってたんですか?」

「予想してただけだ。確証があった訳じゃない。とりあえず、ボーデヴィッヒにはこの件を黙っておくように言っておく。後、あの怪獣が現れる前に行っていた模擬戦について織斑は後で報告するように」

 

石碑『ストーンフリューゲル』の中で、一樹は体の傷を治していた。ストーンフリューゲルには搭乗者の傷を癒す能力がある上に、高速で空中を移動出来る。

「体中の傷を治すには…半日かかるか…」

ペドレオン、バクバズン、そしてラウラから受けたダメージは相当大きかったらしく、治癒にも時間がかかる様だ。

「今日の夜までに完治してくれてると良いんだが…」

そう呟くと、少しでも早く治すために、一樹は眠りに入った。




怪獣出現頻度が高いとは言われましたがすみません。これからどんどん増し増しになっていきます。具体的にはネクサスで言う魔人あたりから…


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Episode15 共闘-タッグバトル-

お待たせしました!
ではどうぞ‼︎


半日傷の治癒にあてた一樹。整備室に戻ると、そこには一夏、シャルルがいた。シャルルの顔が赤いのを見た一樹は

「(これは…落ちたな)」

天然フラグメイカーの一夏の毒牙?にかかったと判断した。しかもそれは正しい。シャルルは落ちました。

「…よう、ただいま」

「一樹、左脚見せろ」

一夏に言われるがまま、左脚を出す一樹。一夏が見ると、そこにはまさに爪痕が残されていた。

「…これくらい気にすんな。いつものことだ。私生活に影響は無い」

「そうか…」

その後、一夏から学年別トーナメントはタッグバトルで行うことを知らされた一樹。

「…それでお前はデュノアと組むと?」

「ああ。シャルルの秘密を知ってるのは俺とお前しかいないからな」

なんとなーく、一夏が断った場面が浮かんだ一樹。だが、それは今考える必要はないだろう。もう終わった事だ。

「そう言えば、シャルルはもうデュノア社の人間じゃ無いらしいぞ?なんかさっき山田先生が『経営者の中心人物のことごとくの不正が暴かれ、全員がフランス追放となったそうです。社長さんは白だったらしいんですが…』って言ってた」

「そうか…(宗介達、上手く行った様だな)」

一樹は自分の仲間達の動きの速さに、小さく笑みを浮かべる。

「ん?となるといまデュノアは代表候補生では無いってことか?」

「そうだね。そう言う事になっちゃうかな…」

「じゃあ…S.M.Sってとこの候補生やってみるか?」

「「え?」」

驚いてる2人をよそに、一樹は空間投影ディスプレイにデータを表示する。

「…もし、S.M.Sの候補生になった場合、渡すのはこれだ。『アストレイ』シリーズの内のひとつ、『アストレイ・ゴールドフレーム』だ」

白をベースとし、関節部には黄金が見える機体にシャルルは驚きを隠せない。

「これが…僕の機体に?」

「ただし、代表候補生として雇うのはお前が女だと公表してからだ。でないと、色々面倒なんでね…まあ少なくとも学年別トーナメントは自分の慣れた機体が良いだろ?」

「そ、それもそうだね」

とにかく、シャルルが女だと公表した後、S.M.Sの専属代表候補生になるのは決定した。シャルルの父親であるデュノア社長は、腹心の部下と共にS.M.Sで新しい生活を始める事を決心した。後にシャルルがデュノア氏から聞いた話によると、S.M.Sはかなりのホワイト待遇で『ここで働き始めてから、部下にも優しくなれた気がするよ』

と語ったとか。

 

そして、学年別トーナメント当日…

「やっとか…それまでずっと一夏の周りにちっこいひよこ(=シャルル)がいたから、なんか本格的にここが居辛いぜ…」

しかし、うんざりしながらも既にストライク(エール)を装備しており、何が起きても大丈夫な様にはしていた。

「頼むから…何も起こるなよ…」

 

「フッ、1回戦目で貴様らと当たるとはな…手間が省けた」

「言ってくれるじゃねえか…この間の件、たっぷり礼をさせて貰うぜ。アイツの分もな」

両者、睨み合いが続き…

『試合、開始』

「「叩き潰す‼︎」」

白式が雪片を構え、レーゲンに突っ込む。ラウラはそれをAICで止める。

「やはり単純だな…開始と同時に突っ込んでくるとは」

「単純?お前、兵法の基本を知らないのか?」

「何?グアッ!」

AICの展開に意識を集中していたため、シャルルの攻撃がレーゲンに直撃、ラウラは姿勢を崩される。ラウラの意識が外れたため、AICが解除される。その隙を逃さず、回し蹴りを叩き込む一夏。

「ISに関してはお前の言う通り、俺は素人だ。けどな…戦闘に関してはお前とほぼ同じだろうよ‼︎」

一夏のこのセリフは謙遜である。一夏の戦闘能力は既に千冬を超えている。ISに関してもすぐに千冬を超えるだろう。

「クソ!なめるな‼︎」

レールカノンをシャルルに向かって撃つラウラ。しかしシャルルもバレルロールを駆使してレールカノンを回避していく。

「よし、箒!悪いが速攻で終わらせて貰う‼︎」

「そう簡単にやられてたまるか‼︎」

ラウラとペアだった箒に一夏はスラスターを全開にして急接近、対する箒は一夏の動きに合わせる様に、待ち構える。

「(なるほど、いい判断だ。けどな、打鉄はその扱いじゃダメだ‼︎)」

日本の量産機である打鉄は他の国の量産機より遥かに防御力は高いが、旋回性能は若干悪い。打鉄の旋回速度では白式のスピードに対応出来なくなっていた。

「悪く思うな…」

一夏は白式の単一能力“零落白夜”を使い、打鉄のシールドエネルギーをゼロにした。

「くっ…ここまでか…」

悔しさに箒が愕然としてるが、今は構ってられない。一夏はすぐにラウラと戦ってるシャルルの元へ向かった。

「くっ…」

シャルルはリヴァイブの左腕にレーゲンのワイヤーが絡まっていて、逃げようにも逃げれない状態となっていた。

「少しはやれると思ったが、所詮は第二世代(アンティーク)か」

「…確かに僕じゃ無理かもね。でも…」

「俺ならどうかな⁉︎」

「んなっ⁉︎」

一夏が凄まじい速度でレーゲンとリヴァイブの間に入り、雪片でワイヤーを斬った。

「クソォォォォ!」

ラウラはレーゲンに搭載されている全てのワイヤーを射出し、一夏を狙う。一夏はハイパーセンサーと自分の勘を頼りにそのワイヤーを全て避ける。一夏のことを素人だと思ってるラウラは激昂する。

「貴様如きにいィィィィ‼︎」

「おっと、今お前を相手してるのは俺だけじゃないぜ?」

「何⁉︎グアッ‼︎」

一夏に集中していたラウラの背後で爆発が起こり、ラウラの姿勢を崩させた。その理由はシャルルがスナイパーライフルを使ってレーゲンを攻撃したのだ。

「貴様ァァァァ‼︎」

AICを使い、シャルルの動きを止め、レールカノンを撃とうとするラウラ。しかしシャルルは余裕の表情だ。

「ごめんね。僕達の勝ちだよ」

「何を言って…ッ⁉︎」

ラウラは気付いたが、もう遅い。シャルルにAICをかける為に集中していたラウラの背後で、一夏は雪片弐型のエネルギーチャージを済ませていた。

「これで終わりだァァァァ‼︎」

レーゲンのシールドエネルギーはゼロになり、一夏&シャルルの勝利となる…

 

クソッ!私はこんなところで負けるわけには…

『力を欲するか?』

何?貴様は何者だ⁉︎

『汝、力を欲するか?』

…そうだな。よこせ、アイツを倒せる…比類なき最強の『力』を‼︎

Damage Level_______D.

Mind Condition_______Uplift.

Certification_______Clear.

 

《Valkyrie Trace System》_______boot.

 

「う、ウアァァァァ‼︎」

「「ッ⁉︎」」

レーゲンが徐々に変形し、ラウラを包んで行っていた。

「(また厄介な事になりやがった!しかもあの形…)」

レーゲンだったものが変化したのは…現役時代の千冬を模した()だ。その手に握られている雪片が鈍く光る。

「……」ギリッ

怒りで頭に血が上りそうなのを、歯をくいしばって耐える一夏。

「そういえばお前、千冬姉に憧れてたっけなぁ…だけどな!」

箒やシャルルが止める間もなく、一夏は偽千冬に急接近。雪片弐型を振り下ろした。当然偽千冬はそれを受け止めるが、流れるように放たれた一夏の回し蹴りによってアリーナの壁に叩きつけられた。

「まんま複製(コピー)してんじゃねえよ‼︎それにそれは所詮機械だ!機転の良さなんてもんは生きてる人間しか出来ねえ!全部機械任せのくせに、千冬姉の形を使うんじゃねえ!!!!」

今の蹴りは結構本気でやったが、偽千冬は効いたそぶりを見せず、悠々と立ち上がった。ここで一夏は考えを変える。自分だけで撃破しようとしたが、それには少しシールドエネルギーが心許ない。だが、機械の複製したものとはいえ相手は世界最強の千冬。シャルルでは援護はあまり効果が見込めない。。そして後ろに箒という庇わなければいけない存在がいる中、一夏も暴れられない。となれば…

「(また時間を稼ぐしかないか…)」

 

「…レベルDの警戒体制を、全教員は生徒の避難を優先」

「了解しました」

千冬の指示を麻耶が全教員に伝え、アリーナのシールドレベルを引き上げた。

「…仕方ない。今の櫻井に負担を掛けたくなかったのだがな…」

千冬はそう言って通信回線を開く。

「櫻井、ボーデヴィッヒのISが暴走した。ボーデヴィッヒを救出してくれ」

『…了解した。あと千冬、少し頼みたいことがある』

「?なんだ」

『現在、座標MP24にいるドイツ軍に、お帰り願う様通信を送っておいてくれ』

「何⁉︎ドイツ軍がだと⁉︎」

千冬の叫びを聞くとすぐに麻耶がキーボードを打つ。

「ッ⁉︎櫻井君の言う通り、ポイントMP24にドイツ軍のISを30機以上を確認‼︎」

「…情報の抹殺と言うことか…了解した。一応やってみる」

『頼んだぜ』

 

「はぁ…やっぱり何かあったな」

エールストライクを駆り、アリーナへ向かって飛ぶ一樹。ラウラのISを見るとすぐに表情を変えた…

「おい一夏。アレって俺の記憶違いじゃなかったら…」

「ああ、あれは千冬姉の偽物だ」

冷静に返す一夏。一樹が来るのを待っているあいだ、深呼吸をして落ち着いたようだ。

「んじゃ、始めるか…とはいえ実質千冬が相手で中のボーデヴィッヒも救出しなきゃなんねえのはしんどいな…一夏、悪いが手伝ってくれるか?」

「おう、任せろ」

「僕も行くよ」

シャルルも一樹と一夏を手伝おうとするが、それを一夏が止める。

「悪いシャルル。今回は俺ら2人にやらせてくれないか?」

「え…」

「千冬姉の動きをコピーした機体なら、2対1が丁度良い人数だ。3人は多すぎる。シャルルは箒を安全な場所へ」

一夏がシャルルを説得しようとするが…

「なぜ貴様なんかを一夏が手伝わなくてはならない‼︎」

箒が、それを許さなかった。

「貴様は一夏の護衛役とやらでこの学園に来たのだろう⁉︎貴様一人でどうにかしてみろ‼︎この人殺し‼︎」

「ッ‼︎」

“人殺し”の言葉に一樹がピクッと反応するが、すぐに冷静さを取り戻した。

「…一夏、その2人を連れて逃げろ。ここは俺がどうにかするから」

「おい一樹!お前はまだこの間の怪我が「一夏‼︎‼︎」ッ⁉︎」

「大丈夫だから…連れて行ってくれ…頼むから…」

「…」

一夏が止まると、一樹はすぐに偽千冬に向かって突出する。ビームサーベルを抜刀し、雪片と鍔迫り合う。偽千冬が蹴りを放つも一樹はシールドで受け止め、逆に蹴り返す。2人の距離が離れ、再び接近してくる偽千冬に一樹はビームライフルを撃つ。もちろん、中のラウラを攻撃しない様気を付けて…しかし、後ろに未だ動かない一夏達がいるからか、下手に動けず、全力で戦えない一樹。

「クソッ!流石に動きが制限されてる状態じゃ千冬は辛いな」

ビームライフルでひたすら牽制し、なんとか偽千冬を近づけない様にするので手一杯な一樹を見て、一夏は…

「シャルル…箒を連れてってくれ」

「分かった」

「一夏!お前はどうするつもりだ⁉︎」

「決まってる…一樹の援護だ‼︎」

箒が何か言う前に一夏は飛び出す。シャルルが念のために牽制用のマシンガンを一夏に向かって投げる。一夏はそれを受け取り、瞬時加速で一樹に近付いた。

「一樹!大丈夫か⁉︎」

マシンガンで偽千冬を牽制する一夏。

「…一夏…お前…篠ノ之は?」

「アイツの言ったことは気にすんな‼︎俺が助けたいから助けるんだ!」

「…助かるよ。じゃあ、一緒にアレを倒すぞ」

「了解だ‼︎」

まずは一夏が突出。雪片同士で鍔迫り合い、偽千冬の動きを止めると、ニヤリと笑う。

「今だ!一樹‼︎」

「分かってるよ‼︎」

すぐさま一樹が偽千冬の後ろに回り込み、ビームサーベルで少し腹部を斬りつける。偽千冬は一樹に気づくと、両者をまとめて斬ろうとするが、なんと2人は背中合わせでバレルロールと言う離れ業でその攻撃を避けていく。

「一夏、シールドエネルギーはあとどれくらいだ?」

「さっきの試合で零落白夜を2回使っちまったから後…20%ってところだ」

バレルロールしながら会話と、2人のコンビネーションに管制室で見ていた千冬と麻耶は驚きを隠せなかった。

「な、なんという技術だ…」

「私達でもアレは出来るかどうか分かりません…」

しかし、驚くのはまだ早い。

「20%か…念のためエネルギーチャージするか。ほらよ一夏」

ストライクの背中のケーブルを、白式の背中のジョイントに繋げる。要するに、バレルロールしながら白式をストライクの熱核タービンエンジンで充電しようと言うことだ。

「ありがとな、一樹」

それを簡単にこなす2人に千冬達は言葉を無くしていた。

 

「ん、とりあえず約80%充電出来た。これなら安心して零落白夜が使える」

「あいよ」

白式のエネルギーが80%になったところで充電をやめ、まずは一樹が突出。右腰のアーマーに仕込んでいたコンバットナイフ“アーマーシュナイダー”で亀裂の入っていた偽千冬の腹部を更に攻撃。

「でぇぇぇりゃぁぁぁ‼︎」

怯み、後ろに下がったところを零落白夜を発動した一夏が両断した。

「うおぉぉぉぉぉ‼︎」

偽千冬の中からラウラを救出した。

 

「な、なんという技量だ…アイツはどこでアレを覚えたと言うのだ?」

一夏の技量に1番驚いているのは家族である千冬だった。そこに、麻耶の悲鳴があがる。

「大変です織斑先生!例のドイツ軍のIS部隊が武装してこちらに近付いてきます!」

「何だと⁉︎」

管制室の会話を開放回線(オープン・チャネル)で聞いていた一樹と一夏は顔を見合わせ…

「…今回は流石に下がってくれ一夏。ボーデヴィッヒの件の方を頼む。俺はあの分からず屋共を片付けてくるから」

「ああ…気をつけろよ?」

「…お互いにな。じゃあ行ってくる」

ストライクのスラスターを全開にし、ドイツ軍のIS部隊へ挑む一樹。飛びながら千冬に通信を送る。

「1人はそっちに蹴飛ばすから情報の引き出しを頼む」

『…了解した。相手は正規の軍人だ。気をつけてくれよ?』

「大丈夫だ。本当に強い軍人ならそもそもここに喧嘩を売りに来ない」

会話しながらライフルを乱射、IS部隊の射撃武装を次々破壊していく。が、流石に30機以上に挑んでいる為、少しずつ一樹が押されていく。その時、数機のISからミサイルが撃たれ、一樹の進路方向で上下から逃げ場の無い様にされた。

「その程度!」

一樹はその場で体全体を起こして急ブレーキをかける。ミサイルは一樹の眼前で爆発。一樹を落としたと思って油断しているIS数機をビームライフルを撃ち、シールドエネルギーをゼロにさせる。そして急降下し、海寸前のとこで、背後からのビーム攻撃を避けていく。正面に回り込んできたIS3機が、今度こそとミサイルを30発以上撃ってくるが、一樹は足で海を蹴り、人為的に波を起こす。ミサイルは波にぶつかり、一樹に当たること無く爆発、驚きに動きが止まっている3機を、ビームサーベルでシールドエネルギーをゼロにし、3人とも抱え、IS学園管制室前のトランポリンへ投げた。IS部隊は負けを悟ると撤退して行く。一樹もそれは追おうとしなかった。

「どうして…戦争の火種なんか作ったんだ…」

戦闘に勝利したのにも関わらず、一樹はしばらく動けなかったのであった…




戦闘描写ェ…


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Episode16 和解-レコンシリエーション-

発音間違ってるかもしれません。


「やっぱり、ボーデヴィッヒのISには《ヴァルキリー・トレースシステム》が積まれてたのか?」

戦闘終了後、一樹は千冬から話を聞いていた。そこには一夏もいた。

「ああ…ヴァルキリー・トレースシステムはIS条約で使用、開発、研究の全てが禁止されているんだが…」

「まあ、今回のことで近い内に委員会から強制調査が入るだろうな。後、強襲者からは?」

「ただ『上からの指示を受けた』としか言っていない」

「そうか…悪いな。面倒ごと押し付けて」

「気にするな。流石に尋問までお前に任せる気は無い。既に3回、お前は学園を命懸けで守ってくれているからな…櫻井、お前に聞きたいことがある」

「…コレのことか?」

一樹は写真でウルトラマンを見せると、千冬は頷いた。

「…このことを一夏が報告したのは千冬だけか?」

「いや、山田先生も聞いていた」

「そうか…悪いが、今は話せない」

「…分かった。何か協力出来ることがあったら遠慮なく言ってくれ」

「…悪い、助かる」

 

「負けた…か」

ラウラは保健室のベットで横になっていた。先ほど千冬が来て自分の現状を説明してくれた。そして、今回自分を止めてくれた存在を…

『今回、お前の暴走を止めたのは誰だと思う?』

『え?教師の方々ではないのですか?』

『不完全とはいえ仮にも私の複製だぞ?並みのIS乗りに止められると思うか?』

『いえ…では、誰なのでしょうか?』

『織斑と櫻井だ。アイツらがやったのでなければ、今頃お前の四肢はくっついたままではなかっただろうな』

これを見ろ、と千冬に渡されたUSB。言われた通り録画された映像を見てラウラは驚いた。

『手加減、されている?』

『気づいたようだな。私の複製を相手に、アイツらは中のお前を傷つけぬよう手加減をしていたんだ。櫻井の剣速を見てみろ。あんな速さだったら簡単に一刀両断出来たものを、お前を救出するために腹部を少し切り裂いた他は雪片を受け止めるだけ。織斑もそうだ。零落白夜の間合いを把握しなければ、お前の顔に傷がないはずがない』

実際、ラウラの体のダメージは本人の意思の外で激しい動きをしたのが原因である。一樹、一夏の攻撃は全く関係ないのだ。

『さて、どちらが素人なのか、よく考えてみる事だ。何、時間は山のようにあるぞ。なにせ3年間はこの学園に在籍しなければならんしな。その後も、まあ死ぬまで時間はある。たっぷり悩めよ、小娘』

「ふふっ、ははっ…」

相変わらず狡い人だ。言いたいことだけ言って言い逃げとは。

「自分で考えて行動する…か」

今まで自分が『強さ』を求めたのは1年前、千冬がいなくなってからが大きな理由だ。無論、()()理由もあるのだが…それで確かに1年前よりは強くなった。しかし、それでもあの2人には敵わなかった。

「完敗、だな。ははっ」

笑う度に身体中が痛むが、それすらも心地よく思えた。

「織斑一夏、か…」

ラウラの中で一夏の株が上がっていく。自分が憧れた人の弟で、更に強い…一夏の事を考えてると頬が赤くなっていくが、すぐに起き上がって身だしなみを整える。彼女には、まずやらなければならないことがあった。

 

「またトーナメント中止か…まあ、仕方ないけど」

ラーメンをすすりながらぼやく一夏。目の前ではシャルルがマカロニグラタンを食べている。

「でも、データを取りたいから1回戦だけはやるみたいだね。僕達は終わっちゃったから関係無いけど」

「そうなんだよな…」

一夏の視線にふと箒が映る。そう言えば前に約束していたなと思い出し、声をかける。

「そう言えば箒。約束の件だけど…」

「な、なんだ?」

「付き合っても良いぞ」

瞬間、食堂が揺れた。

「り、理由を聞こうか⁉︎」

「幼馴染みの頼みだしな。買い物くらい付き合うさ」

瞬間、一夏はボコボコにされた様に生徒達には見えた。実際はタイミング良く攻撃を受ける箇所に力を入れた為、大したダメージは無い。

「そんなことだろうと思ったわ‼︎」

最後にひと蹴り入れて、箒は自分の部屋へ戻った。一応ダメージを負った様に見せる為に少し腹部を抑えていると

「一夏ってたまにわざとやってるんじゃないかって思えてくるよ」

シャルルのありがた〜い言葉?を頂戴したのだった。

 

一樹が整備室で寛いでいると、扉をノックする音が聞こえた。

「?どうぞ」

一夏ならノックしないで入ってくる為、疑問に思いながらも入室を促すとそこにはラウラがいた。

「ん?ボーデヴィッヒか。怪我は大丈夫なのか?」

「ああ。打撲と打ち身程度だったからな。この程度の痛みには軍で慣れている。それより…」

ラウラはいきなり土下座をしてきた。もちろん一樹は戸惑う。

「お、おい。いきなりどうした?」

「すまなかった…」

「へ?」

「お前の背中にレールカノンを撃った件だ。本当にすまなかった」

ラウラとってやらなければならないこと。それは戦闘中のウルトラマンを攻撃した事への謝罪、つまりは一樹への謝罪だった。

「…それは俺に謝んないで、あのウルトラマンとやらに謝れよ」

「…そうだな。だが、お前に謝りたかったのも事実だ。本当、すまなかった…」

「…俺は気にしてない。ただ…次からは協力出来るかな?」

一樹は立ち上がってラウラに近づき、右手を差し出す。ラウラはそれを迷わずに握り返した。

「改めて…櫻井一樹だ。あんま接点は無いだろうが、よろしく頼む」

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。呼び方はラウラで良い。こちらこそよろしく頼む。それと、昼間はありがとう」

「…聞いたのか。ま、それが俺の仕事なんだ。俺のことは気にしなくて良いぜ」

その時、一樹の胸元でエボルトラスターの鼓動が鳴ると共に、地面が揺れる。

「この振動は⁉︎」

ラウラは近くのISに掴まり、振動にたえる。

「ラウラ!悪いが生徒の避難誘導を頼む!俺は行く‼︎」

「了解だ!こっちは任せろ‼︎」

 

「山田先生!状況は⁉︎」

千冬が急いで管制室に入ると、既に麻耶が待機していた。

「相手は前回逃したあの怪獣です。現在、教師陣がISを装備して対応しています…ですが、陣頭指揮は教頭です」

「クソッ!よりによって1番使えない奴か‼︎」

千冬の言った通り、教頭はただ年功序列で決まった形だけの教頭だ。しかし、教頭の権利を鼻にかけ、町を歩けば男に自分の食事代や交通費を出させると言う、まさに女尊男卑の典型とも言える人物だった。同じ女性からも疎まれる教頭の指示は誰一人聞かず、各々が攻撃すると言う状況だった。バクバズンはその教頭を口から伸ばした触手で捉えると捕食しようと口に近付ける。

「イヤ!来ないで‼︎誰か助けなさい‼︎」

しかし、他の教員も、触手に狙われており、下手に動けない状況だった。教頭の眼前にバクバズンの口がせまる。

「イヤァァァァ‼︎」

 

「今度こそ仕留める‼︎」

学園の屋上に着いた一樹。すぐさまエボルトラスターを鞘から引き抜き、天空へ掲げた。

「ハッ!」

光が一樹を包み、一樹をウルトラマンに変身させた。

 

教頭は目の前に口が迫り、死を覚悟した瞬間。

「ヘェアァッ‼︎」

光の鞭『セービングビュート』が教頭を救い出し、教頭をIS学園屋上へと移動させた。教頭は腰が抜け、動けなくなった。

 

「シェアッ!」

《グルルル…》

バクバズンはウルトラマンを見つけると、未だ治って無い翼の恨みとばかりに腕を振って攻撃してくる。ウルトラマンはバック転で回避し、右ストレートキックを放つ。バクバズンの腹部から火花が散り、バクバズンが2歩下がった。ウルトラマンはさらに飛び回し蹴り、回転右ストレートパンチ、左回し蹴りを喰らわし、少しずつバクバズンを学園から離していく。バクバズンはウルトラマンの連続攻撃に、されるがまま地面に転がってしまう。ウルトラマンはバクバズンを掴み、自らの頭上へ持ち上げると、更に遠く投げ飛ばす。

「シェア!」

《ギャシャアァァ⁉︎》

バクバズンが地面に転がっている間に、左のアームドネクサスをエナジーコアへくっ付け、アンファンスからジュネッスにチェンジする。

「フッ!シェア‼︎」

そこへ一夏、シャルルが到着する。一夏は既にシャルルからスナイパーライフルを借りている。

「ウルトラマン!先生達は救出した!あの空間を頼む‼︎」

「僕たちが援護するよ‼︎」

ウルトラマンは2人に頷くと右手を左のアームドネクサスへくっ付け、大きく円を描き、構えた後、天空へ掲げた。

「フッ!フアァァァァ…シュ!ヘアァ‼︎」

メタ・フィールドを展開し、バクバズンを隔離する。一夏とシャルルもそのドームの中へ入った途端、管制室からはウルトラマンもバクバズンも消えた。

「メタ・フィールドの展開を確認しました」

「よし、織斑達が戻るまではレベルDの警戒態勢を維持する」

「了解です」

 

メタ・フィールド内ではウルトラマンとバクバズンが睨み合い、円を描く様に回っていた。

「フッ!」

《グァァァァ!》

先にウルトラマンが仕掛け、バクバズンに向かって走る。バクバズンもウルトラマンに向かって走ってくる。

「デェアァァ!」

ウルトラマンは両者の勢いを利用し、バクバズンへラリアット。素早く起き上がり、バクバズンの方を向く。しかし、バクバズンは見えない。辺りに不気味な風が吹いた…次の瞬間!

《グシャァァァ‼︎」

「グオッ⁉︎」

地面からバクバズンが現れ、そのパワーでウルトラマンを放り投げた。 ウルトラマンが倒れると、バクバズンは爪を振り下ろそうとする。ウルトラマンの脳裏に左足を攻撃された場面が蘇るが…

「させるか‼︎」

「やらせないよ‼︎」

一夏がスナイパーライフル、シャルルがガトリングガンで爪を攻撃し、爪を折った。

「やれ!一樹‼︎」

「今だよ!櫻井君‼︎」

「シュ!」

爪が折られ、怯んだバクバズンの腹部へ容赦無く蹴りを入れると素早く起き上がり、右腕のエルボーカッターでバクバズンを攻撃。バクバズンから火花が散った。

「デェアッ!」

更に飛び込みチョップで前屈みにさせると。その頭を両手でつかんでニーキックを2連発。怯んだバクバズンを更に掴み、再び頭上へ上げる。

「フォォォ…ヘェアァ‼︎」

遠くへ投げ飛ばすとバクバズンと距離を取ると、両腕にエネルギーを貯める。

「フッ!シュ!フアァァァァ…フッ!ヘェアァ‼︎」

必殺、オーバーレイ・シュトロームをバクバズンへ向かって撃つ。

バクバズンはそれを受けると、青白い粒子となって消えていった。

「「やったぁ‼︎」」

一夏とシャルルがハイタッチしている姿を、ウルトラマンは優しい雰囲気で見ると、メタ・フィールドを解除しながら消えていった。

 

『こちら織斑、怪獣の消滅を確認しました。これより帰還します』

一夏からの報告を受け、千冬は警戒態勢解除の命令を出す。

「よし、警戒態勢解除。各自、部屋に戻って就寝の準備。今夜は特例として消灯時間を1時間伸ばすが、早めに就寝するように」

 

変身を解き、元の姿に戻った一樹。上を見上げると、寮に帰る2つのスラスター光が見えた。

「…ありがとな。2人とも」

 

翌日、

()()()()()()・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

「「「「えぇぇぇぇぇぇ⁉︎」」」」

「デュノア君は、デュノアさんでした…また部屋割りを考え直さないと…」

シャルル…いや、シャルロットが自らの本当の名前と性別で自己紹介をして、周りの生徒が大声をあげていた。

「(本当に気づいてなかったんだ…)」

呆然としている一樹。それとは別にクラスの女子が騒ぎ出す。

「え⁉︎デュノア君って女の子だったの⁉︎」

「おかしいと思った!だって男の子にしては声が高いもん!」

何故それを教師に言わなかったのか、小一時間ほど問いただしたい一樹。ちなみに一樹が言わなかったのは言ったところで千冬以外信じてくれないからだ。あまりの扱いに泣ける。

「って、織斑君、同室だから知らない筈は…」

軽く1週間騙されてたけどな。

「ちょっと待って!確か昨日って男子が大浴場使ってたよね⁉︎」

一樹の近くの生徒は一樹の方を向く。

「らしいな」

「らしいなって、櫻井君も入ったでしょ⁉︎」

「補足しよう。『ISを使える男子』に許可されたんだ。でなきゃ4月から俺が一夏と同室だ」

「あ、そっか…」

「だから昨日大浴場で何があったのか、俺は関知してない」

ちなみに整備室にはガスが無いので、一樹は昨日も蛇口にシャワーノズル付きのホースをつないで水浴びしたのみだ。そろそろ風邪を引いてもおかしくない。と、色々考えていると目の前で地獄絵図が始まろうとしていた。何故って?だってラウラが一夏に『お前を嫁にする、異論は認めん』って言ってるから。

「…嫁?婿じゃなくて?」

一夏よ、ツッコミどころが違うぞ。そして始まる専用機持ち+箒の一夏リンチ。

「ね、ねえ櫻井君。アレ、止めなくて良いの?」

おどおどしながら話しかけてくる鷹月静寂(たかつきしずね)、確か箒のルームメイトだったか。

「えぇ…しばらくほっといて一夏に灸を据えてやろうぜ?あの唐変木は」

「で、でも専用機持ちIS展開しちゃってるよ⁉︎危ないよ⁉︎」

「大丈夫だ。生身でもISを止める事は出来る」

「「「「それは櫻井君だけ‼︎」」」」

断言されてしまった。だが、一夏は生身でありながら攻撃のことごとくを避けている。せめてISを解除してやるか。

「はーい観戦者たち、伏せないとビームで綺麗な髪が吹っ飛ぶぞ〜」

ストライクをバックパック無しで展開。ビームライフルを構える。一樹の声を聞いてすぐさま伏せる観戦者たち。

「乱れ撃つぜ♪」

ビームライフルを乱射。それだけで全てのシールドエネルギーがなくなり、一夏への制裁は目に優しいものになった。

「はぁ…平和っていいなぁ…」

「「「「和○総本家か⁉︎」」」」




2巻ようやく終わったぜ!


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Episode17 準備-プレパーレーシャン-

3巻の内容に入ります。まだまだ序盤ですが…


「行くよ櫻井君!」

自分が女と公表したシャルロットは、約束通りにS.M.S専属となり、専用機として“ゴールドフレーム”を与えられた。普段は開発コードである“アストレイ”で呼んでいる。そして今は手に入れた新しい機体で一樹、一夏と模擬戦をしていた。しかし、2人の表情は暗い。

「(ストライクの関節が重い…)」

元々一樹の反応速度にストライクの関節はついてこれていない。それを今まで強引に動かしていたが、そのツケが回ってきていた。それは一夏も同じで

「(クソッ!白式の関節が重い‼︎)」

一樹と同じく、腕力で強引に動かさざるを得なくなっていた。当然、脳波リンクがあるためストライクよりかは動きは早い。そして一夏の反応速度は一樹より遅い。だが、それでも白式が一夏の動きについていけなくなっているのだ。

「貰ったよ‼︎」

一樹が苦労している内にシャルロットがビームサーベルを構え、接近してくる。一樹は腕力に物を言わせ、強引にストライクを動かし、シャルロットの攻撃をシールドで受け止めると、そのままシャルロットの右腕を掴み、一本背負いの容量で投げ飛ばす。姿勢が崩れているシャルロットに威力を抑えたビームライフルを2発撃ち、シールドエネルギーをゼロにした。

「うーん…やっぱりまだ慣れないなぁ…」

「じゃあちょっとごめんよ」

アストレイの空中投影キーボードを表示させ、OSを書き換える。

「リヴァイブ時のデータから反応速度を読み取り、分子イオンポンプ及び関節部の電圧変更。そのためにマグネットコーティングの設定パターンを初期設定の170から685へ変更へCPGを再設定…よし、終わり。試しに飛んでみてくれ」

「う、うん」

一樹のOS書き換えを初めて見たシャルロットはその速さに驚いていた。一樹に言われた通り、飛んでみると…

「す、凄い!僕の思い通りに動くよ‼︎何これ本当にさっきと同じ機体なの⁉︎」

感動のあまり、宙返りなど、普段のシャルロットではあり得ない程はしゃいでいる。それを見て、一樹と一夏は微笑ましく見ていた。

 

「…流石にこれ以上は()()白式じゃ反応速度はあげられねえな」

シャルロットのアストレイの試験起動を終えた後、一樹と一夏は整備室で白式のOSをいじくっていた。

「やっぱりこれ以上は無理か…束さんにやってもらうしか無いか?」

「いや、束さんも俺とOS操作技術はほぼ同じだからあまり効果は無いと思う。一応コアの技術は聞いてるからそれに合わせていつもいじくってるし」

「ちょっと待て今凄い事聞いた気がするんだけど⁉︎」

コアの技術は束の完全独占だと言われていたのだが…

「アストレイのコアは俺達が作った奴だぜ?面倒なことにならない様に束さんにハッキングでIS委員会のデータに登録して貰ってるし」

なので今、世界には実質的に468個のコアが存在している事になるのだ。

「俺の予想だけど、今度の臨海学校は日付的に束さんが来ると思うんだ」

「ああ、俺も同感だ」

一樹の予想に一夏も同意する。恐らく臨海学校で何かが起こる。

 

「〜♪〜♪〜♪」

「ご機嫌だなシャルロット」

「まあね〜♪」

自分の新しい機体がよっぽど気に入ったのか、シャルロットはずっと鼻歌を歌っている。

「リヴァイブもかなり僕向けに設定を調整してたけど、流石は第三世代だね。追従性が段違いだよ♪」

それは一樹のOS設定もあるだろうと一夏は思う。実際、ラウラはレーゲンの追従性は第一次移行(ファースト・シフト)してから数日経ってようやく今のレベルになったという。

「(俺の時、元々あの速度だったのは最初っからある程度データを入れてたってところかな。でなきゃ第一次移行(ファースト・シフト)した段階であの速度が出る筈がないし)」

それなのにもう白式は一夏についてこれてない訳だが…まあ、今それを考えてもしょうがない。

「ところで、これからシャルロットの事は何て呼べば良いんだ?」

岸本さんのフル置き勉机(本人は『フルアーマー机』と呼んでいる。フルアーマーの言葉を使うなと個人的には言いたい)を運びながらシャルロットと会話する。

「ど、どういう意味かな?」

一瞬で恋する乙女の顔になったシャルロット。一夏が気づいてないのが残念でならない…

「いやさ、前に『ふたりきりの時は名前で』って言ってたからまだしばらく男装のままでいるのかなと思ったら翌日には女の子に戻ってたからな。どうしよっかなーって」

この『ふたりきり』の意味を理解しないのが一夏クオリティ。

「そ、それはその…い、一夏には『女の子』として普段から見て欲しかったから、ふたりきりの時だけっていうのは…その…」

ライバルとの差を作るためと思ったが、その律儀な性格からそれは卑怯だと思い、自分の本当の性別を明かしたのだが、それを言える訳がないシャルロット。恋する乙女は大変だ。

「まあ、言いたくないなら良いんだ。ちょっと気になっただけだし。それに俺はシャルロットの事はちゃんと女の子だと思ってるぞ」

「ほ、本当⁉︎」

一夏の言葉に一気に顔が赤くなるシャルロットだが、ここでそれを壊すのが織斑一夏という男なのだ。

「だって、男じゃないしな」

アホー、アホーとシャルロットの中でカラスが鳴いた気がした。

「(うん、一夏はそういう人だよね…)」

しかもワザとでないからタチが悪い。昔から女の子に囲まれる事が多いからなのか、『可愛い』と言うのも抵抗がない。その度に乙女たちは心が高揚するが、すぐに急降下するのがオチなのだ。

「(本当、一夏は乙女心を勉強するべきだよ…)」

クラスの他の子にもそんななので、一夏へ好意を持つ被害者は日に日に増えている。増えすぎて一樹に『織斑一夏攻略法』を聞く者が出る始末…よって、最近の一樹は教室にいる=戦闘より疲れる状況だ。

「しっかしアレだな。せっかくの呼び名が普通になっちゃったから何か別の呼び名でも考えるか?」

「え?い、良いの?」

「シャルロットが良ければな」

「うん!お願い‼︎(や、やった!これって少なからず僕の事をす、好きってことだよね⁉︎だ、ダメだよシャルロット。にやけちゃ…えへへ〜♪)」

甘い、空間がとてつもなく甘い。

「そうだな…『シャル』なんてどうだ?呼びやすいし」

「シャル…うん、良いね‼︎」

シャルロットの周りに花が舞っている。ご機嫌のシャルロットの肩を一夏は掴んだ。

「シャル…」

「え、え⁉︎な、何?」

一夏の真剣な目にシャルロットは少し驚きながら次の言葉を待つ。

「付き合ってくれ」

「___________え?」

シャルロットの時が止まった。

 

「で、その後何故かシャルが急速に不機嫌になったんだ」

「お前、そろそろ本気でしばくぞ?」

「何ゆえ⁉︎」

放課後、整備室で話す一夏と一樹。一夏の話に一樹が本気でキレる。その背中から見えるオーラに、一夏はタジタジになる。

「そろそろお前の唐変木の後始末が面倒だ。いっそお前を消せば楽になるかな…」

「仮にも護衛役の言うセリフじゃねえ‼︎ちょ、ま、それはマジなISブレード!やめて、死んじゃう‼︎」

しばらく一夏は切っ先からの風切り音を聞くことになった。

「し、死ぬかと思った…」

「お前はいい加減唐変木を直せ。あんなに分かりやすいオーラ出てんだからさ」

「な、何の話だ?」

「……」

呆れるしか出来ない一樹だった。

 

「……」

週末のレゾナント。一夏とシャルロットの姿があった。シャルロットは不機嫌顔だが。

「お、おいシャル。可愛い顔が台無しだぞ?」

世の一般男性では到底言えないようなセリフを平然と言う一夏。その言葉にいつもなら照れるシャルロットだが、今日は違った。

「一夏」

「お、おう」

「乙女の純情を踏みにじる人は馬に蹴られて地獄に堕ちるべきだと思うんだ」

「そうだな。そういう奴は最低だよな」

「鏡見なよ」

シャルロットにそう言われると一夏は髪型を気にする。寝癖が治ってないのか?と思ったに違いない。その後ろを追う鈴とセシリア。

「ねえ…アレってデートよね…」

「そうですわね…デートですわね」

「へえ…アタシの見間違いでも、白昼夢でも、幻覚でも無く、現実か…よし、殺そう」

素早く甲龍の右肩を部分展開し、衝撃砲で一夏達を撃とうとする鈴。恋する乙女は本当に怖い…

「何をしているのだ?」

「「⁉︎」」

背後から声をかけられ驚く2人。振り返ると以前ボコボコにやられたラウラがいた。

「い、いつの間に⁉︎」

「ついさっきだ。それにそう警戒するな。お前たちに危害を加える気はない」

「し、信じられるとお思いですか⁉︎私たちは以前あなたに…!」

思い出して怒りが再燃したのか、セシリアの顔が真っ赤になる。

「まあ、あの時はすまなかったな」

あっさりそう言うラウラ。2人がポカンとしてると、スタスタと一夏とシャルロットの方へ向かおうとする。

「「ちょ、ちょっと待った‼︎」」

2人でラウラの肩を掴んで止める。

「何だ?」

「な、何しようとしてんのよ?」

「あの2人に混ざる」

当然とばかりに言うラウラを慌てて止めるセシリア。

「お、お待ちになって!未知の敵と戦うにはまず情報収集が必須ですわ!」

「ふむ、一理ある。それで?」

「ここはこっそり着いて行って2人の関係を探るのよ!」

つい先ほど容赦無く衝撃砲を撃とうとした者のセリフではないが、そこは気にしてはいけないだろう。

 

「あ、そういえば一夏。櫻井君は?」

一応一夏の護衛役である一樹がいないことを不思議に思ったシャルロットが聞く。

「昨日の放課後に誘ったんだけど『お前はそんなに俺が嫌いか?』ってよく分からんこと言って来なかった」

「あ、あはは…(ごめんね、櫻井君)」

一樹が来なかった理由を理解したシャルロットは心の中で謝罪する。

「おっと、水着売り場に着いたな。お互い、自分のを選んでここに集合な」

「う、うん。分かった」

本当は一夏に選んでほしいシャルロットだが、ひしひしと背中に感じる視線のせいでそれは言い出せなかった。

 

『つまり、あの2人はデートをしてる訳ではないんだな』

『半分当たり半分ハズレ。理由は察せれるだろ?』

尾行組の3人は、尾行しながら一樹と通信していた。

『要するに、シャルロットはデートしてるつもりだけど一夏は全くそうとは思ってないって事ね』

『さっすがセカンド幼なじみ。よくご存知で』

『でも、なぜあなたはいないんですの?外の方が護衛役が必要でしょうに』

セシリアの疑問も当たり前なのだが、一樹の立場ははっきり表記するのが難しい。超絶簡単にすれば『ただの付き添い』とも言えてしまうのだ。

『言いたいことは分かるよ…けどさ、想像してみてくれ。お前たちが今のデュノアの立場になったとしよう』

『『『ふむふむ』』』

『デートだと思ってたら、一夏は特に話さず俺を呼んでたら?』

『『『とりあえず消し炭』』』

即答だった。

『…だろ?かといって遠くから見るのは俺は吐き気がするからヤダ。というか今日くらい休ましてくれません?オルコットにラウラは知ってると思うけど最近1組では『一夏を攻略するための勉強会』とやらが出来たせいでこちとらストレスが溜まってんだ』

一樹が教室に入った瞬間「ご教授願います」なんて言う始末。下手したら女子陣の集中力は千冬の受け持つ授業並みだ。

『なるほど、理解した』

『どうやってお前らが今日一夏が出かけるという情報を得たのか知らないが、プライバシーを侵害するようなことしたら国に強制送還させるからそのつもりでいろ。今の一夏の立場は世界的にデリケートだってこと忘れんなよ』

『アンタに言われなくても分かってるわよ‼︎』

『…この間、生身の一夏に龍砲ぶっ放そうとした奴に言われてもなあ』

呆れながら一樹は通信を切った。とにかく、彼女たちは一夏自身にデートのつもりがないなら乗り込むだけだ。シャルロットに抜け駆けされないためにも。

「そこの小娘3人、さっさと出てこい」

それが鬼教官のお呼び出しでなかったなら、の話だが。

 

翌日のSHRは臨海学校のバス席を決める時間となった。一夏の隣に座るために、クラス全体(唐変木の一夏を除いて)殺気立っていた。

「一樹、バス一緒に座ろうぜ」

そんな空気を察せれずに今隣に座っている一樹に言う一夏。

「…俺は生徒じゃないから席決めは最後なんだ。とりあえずお前が座りたい場所に名前を書け」

「了解。でも、わざわざ俺の隣に座りたいなんて子はいないと思うけどな」

「(んな訳あるか!!!!)」

全力でツッコミを入れたい一樹だが、何とか抑える。一夏はバスの窓側、中央の席を選ぶ。その瞬間_____

「「「「はぁぁぁぁぁい!!!!」」」」

希望の席に座るために、女子全員が立ち上がった。凄まじいジャンケン対決になったのは言うまでもない。

 




文字数が安定しねえ…


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Episode18 敗北-ディフィート-

サブタイで内容バレるなこりゃ…

そこそこ長いです。よろしくお願いします。


「海だァァァァ!」

1組の誰かが叫ぶと、ずっと寝ていた一夏も起きて、外を見る。隣で座っていた(壮絶ジャンケン大会の勝者)シャルロットの顔が何故か赤い。

「?どうしたシャル?風邪か?」

「な、なな何でもないよ。あ、あはは…(一夏の寝顔に見惚れてたなんて、言えないよォ…)」

恐るべしイケメンパワー…ちなみに一樹は最前列で誰にも邪魔されず寝ている。

 

「今日から3日間お世話になるこの旅館の女将さんだ。皆、挨拶しろ」

『よろしくお願いします』

「あらあらこれはご丁寧に。私がこの旅館の女将です。分からない事があればなんでも私なり、従業員に聞いて下さいね」

「織斑、お前が1番迷惑を掛けるんだ。ちゃんと挨拶しろ」

「お久しぶりです。景子さん」

「あらあら、お久しぶりね一夏君」

「ん?織斑は知り合いか?」

「ええ、ちょっと」

「以前、()()()と一緒に何回か来てくれたわよね」

お友達、のワードに反応する箒と専用機持ち。

「一夏!誰と来たのだ!」

「教えて下さいまし!」

「誰と来たのよ誰と‼︎」

「一夏!教えて‼︎」

「嫁よ‼︎浮気は許さん‼︎」

若干1名、コメントがおかしいのがいたが、スルーする。

「えーと…男子多数、女子少数、だな。言っても皆は分からないから言わない」

しかし女子少数の言葉に過剰反応し、各々の武器を取り出す。

「全く、モテない男の目の前で彼女自慢するとか酷い話だぜ」

色々思うことはあるが、一緒にいた女子陣は恋人がいたというので安心したのか、武器をしまったのだった。

 

「おりむ〜。遊ぼう〜」

1組の癒し系、のほほんさんこと布仏本音に誘われた一夏。

「おう!」

動くために、邪魔なパーカーを脱ぐ一夏。

「うわぁ…織斑君鍛えてる…」

「あの腕に抱えられたい…」

「織斑君に包まれたい…」

「「「「はわぁ…」」」」

鍛えられた一夏の身体に、見惚れる生徒が続出した。

 

一方、生徒たちのいるところからひと区画ほど離れたところ。一樹はウェットスーツ、モリの装備で次々と魚を取っている。女将である景子に聞いたところ、一樹の泊まる部屋、夕食は用意されていないと申し訳なさそうな顔で言っていた。部屋がない一樹は海岸にテントを張ってそこで寝泊まりすることになっていた。

「いくら何でも警戒しすぎじゃね?それとも単なる嫌がらせ?」

 

昨日1日遊んだ翌日である今日は、ISの実習である。専用機持ちはそれぞれの追加パッケージを確認するために(一夏は拡張領域は無いのに)呼ばれた。

「よし、お前らはこれから「ちーちゃぁぁん‼︎」ハァ…」

千冬がこれから指示を出そうとすると、ウサ耳をつけた謎の変態が現れた。

「むむ!どこかで失礼なことを言われた気が束さんはするよ!」

「安心しろ。的確に当てているからな」

「ちーちゃん酷い!」

一夏、千冬、それと何故か呼ばれていた箒以外の全員が口をあんぐりと開けていた。

「あ!箒ちゃん久しぶり!」

「姉さん…お久しぶりです」

「固いなぁ!もっと和気あいあいとしようよ!唯一無二の姉妹なんだから〜。それにしても大きくなったね〜特に胸が」

その瞬間、どこからか取り出した箒の竹刀が束の眉間を捉えていた。

「殴りますよ?」

「な、殴ってから言ったぁぁ〜いっくん、箒ちゃんがいじめるよお〜」

「お、お久しぶりです束さん。あ、後で束さんに頼みたいことがあるんですけど…」

「お!なんだいなんだい!いっくんが私を頼るなんて珍しいね!さあさあこの天才束さんに相談してみな♪」

ご機嫌な束にセシリアが声をかけようとするのを、さっきまで今夜の分の魚を捕まえていた一樹が止めた。

「オルコット、やめとけ。あの人は自分と親しい人以外には冷たく当たるから」

「…え?」

「櫻井の言う通りだ。オルコット、お前の心の平穏の為にも、アイツに話しかけるのはやめとけ」

「お、織斑先生までそう言うならやめときますわ…」

なんとかセシリアの心の平穏を守った一樹達はホッと一息ついたのだった。

「あ!かずくん!頼まれてたのはコレで良いかな?」

束が一樹に気付き、話し掛けて来た。束が一樹に渡したのは小型の探知機4つだった。

「…そうです。ありがとうございます」

「良いよ良いよ。かずくん達にはいつもお世話になってるしね〜。隠れ場所とか〜(箒ちゃんのこととか)」

最後の部分は小声で話した束。箒が聞いたら絶対納得が行かないだろうから…一夏、千冬と同じく、束も『雪恵の真実』を知っている人物だった。

「じゃ、千冬。コレを学園の管制室に1つ。他は誰に渡すかは任せる」

今受け取った探知機を全て千冬に渡す一樹。

「…これは?」

「(例の怪獣“スペースビースト”が出す特殊震動波を感知するシステムだ。これである程度早く生徒の避難が出来る)」

小声で話す一樹。タイミング良く一夏にアイコンタクトして、白式のハイパーセンサーでその会話を聞かせる。シャルロットとラウラにも一夏が個人回線(プライベート・チャネル)で伝えてくれた様だ。

「あの…頼んでいた物は…」

「あ、そうだったね。さあさあ皆の衆!大空をご覧あれ!」

その言葉に生徒全員が空を見上げる。

ズズーンッ‼︎

「「ッ⁉︎」」

「「「「きゃあぁぁぁぁ⁉︎」」」」

何かが落ち、振動と砂煙が舞い上がる。一夏、一樹は振動に耐えたが、他の生徒たちは耐えられず、何人か転んでいた。砂煙が晴れたところには、銀色の箱があった。

「ストライク、ランチャーパック起動。目標、篠ノ之束」

「ちょちょちょちょちょ待ってかずくん!連絡も無しにいきなり落としたのは謝るから!流石の束さんもそれはシャレにならない‼︎」

血管が浮き出た一樹がランチャーストライクを装備し、アグニを束に構える。流石の束も、アグニは対処できないのか、慌てて謝罪していた。

「こ、コホン。気を取り直して、いざ、開封!」

箱が開いたそこには…『(あか)』があった。

「これがこの束さん自らが開発した箒ちゃんの専用機、その名も『紅椿』!全スペックが現行ISを上回るよ!さっすが私!」

子供が自分の作品を見せるように、自慢げに言う束。

「さあ箒ちゃん、初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)を済ませちゃおうか。私が補佐するからあっという間に終わるよ」

「…それでは、お願いします」

 

「あの機体、篠ノ之さんが貰えるの?身内ってだけで?」

「なんか…ずるい…」

一連の流れを見ていた一般生徒がボソボソと話しているのを一樹は聞いてしまった。

「有史以来、人が完全な平等だった事は一度もないしな」

「でも…」

納得いかない表情の生徒。それもそうだろう。身内ってだけで専用機を与えられた上に全スペックが現行ISを上回っている…いわゆる、『最強の機体』が渡されたのだ。

「…一応、篠ノ之に専用機を渡すのは多分政治家たちの考えもあるにはあるぞ」

「…え?代表候補生じゃないのに?」

データを取るために専用機を渡されるのが代表候補生。だが、箒の場合は若干異なる。

「データを取るには取るだろうけど、意味合いが変わるな。何せISコアを唯一作れる束さん作だ。得られるデータは各国が作る試作機なんか比じゃないだろうよ」

「まあ、そうだね…」

「あと、それこそさっき2人が言ったように、篠ノ之は束さんの身内だ。どこのテロ組織に狙われるか分からない。クラス別トーナメントの時で分かるようにIS学園にいるからって安心出来ないし。だから自衛の意味もあるんだろう。結局、篠ノ之は今後コアが各国で作られるようになるまで政治家たちに囲まれて生きていくんだ。少しくらい許してやれ」

「…専用機を与えられる=政治家から監視されてるってことか…専用機を与えられるからって妬んじゃだめだね。ありがとう櫻井君。教えてくれて」

「気にすんな」

そんな一樹の視線には、千冬と摩耶が軍用の手話で会話しているのが見えた。

「(また厄介な事が起きそうだな…)」

その内容に、一樹は頭を抱えるのだった。

 

「現状を説明する。現在、アメリカ、イスラエルの共同開発機『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』、以降福音とするが暴走状態となっている。福音の移動コースに最も近い我々が対処する事になった。教師陣が訓練機で周囲の海域を閉鎖するので、専用機持ち達で福音を撃破しろ」

千冬の言葉に、一樹は違和感を覚える。

「なあ、俺が出るで良くね?」

仮にも護衛役として学園に来ている一樹。軍用機が相手なら普通は一樹が出るはずだ。

「…私も櫻井に出てもらおうかと思ったのだが、そうはいかないようだ」

そう言って千冬は1枚の書類を投げてくる。その内容は…

「『本作戦は織斑、篠ノ之の両名で行うべし』…はあ⁉︎」

「コレがIS委員会から通達された。我々はそれに従う義務がある」

「よし、俺は何も見なかったし聞かなかった。福音?ソイツを倒せ?よし行ってくる」

司令室から飛び出そうとする一樹。それを止めたのは、なんと束だった。

「かずくん。ここはいっくんと箒ちゃんにやらせて」

「…何故です?」

「この作戦、箒ちゃんの紅椿なら楽勝なんだよ。わざわざかずくんの手を煩わせる必要ないくらいにね」

「…束さんの開発した機体自体はそうでしょうけど、操縦者の問題があるんじゃないですか?いくら束さんが設定したとはいえ、こういうのは経験が「貴様に心配される筋合いはない」…」

一樹の言葉を途中で遮ったのは、紅椿を受け取った本人である箒だ。相変わらずの冷たい目で一樹を睨んでいる。

「…そうか」

そう言うと、一樹は部屋の端に座る。

「…なら好きにしてくれ」

 

「箒、頼んだぞ」

「本来、女の上に男が乗るなど、私のプライドが許さないが、今回は特別だ」

箒が弾んだ声で一夏に話す。漸く一夏と並ぶ事ができ、更には作戦の要として採用されたのだ。箒にとって、一夏に自分の事をアピールするチャンスなのだ。

「なあ、ラウラ。篠ノ之、浮かれてないか?」

その隠しきれない表情に、一樹は不安が拭えない。それを感じているのは自分だけなのか確認するため、近くにいたラウラに話しかける。

「ああ、私にもそう見える。あれではとんでもないミスをしかねない」

その場の全員が思っていた様で、指揮官である千冬が個人回線で一夏に注意を促していた。一夏も感じていたらしく、すぐに頷いた。

「よし、作戦開始‼︎」

白式を纏った一夏と紅椿を纏った箒が出撃。福音の撃墜作戦が始まった。しかしその瞬間、麻耶が悲痛な叫びを上げる。

「大変です織斑先生!福音の500km後ろに大量のIS部隊が‼︎しかもこの速さは無人機です‼︎」

「何⁉︎」

「…今度は誰か指定されないだろ。俺が行く。他の人は一夏が気になって集中出来ないだろうから、1人で」

一樹が話してる間も、専用機持ちたちは画面の一夏に集中している。そもそもIS部隊が接近してる話すら聞こえていないだろう。正規の軍人であるラウラですらそうなのだ。他の専用機持ちもあてにならない。

「駄目だ!1人なんて危険すぎる‼︎」

「…他のことが気になってる人間が戦場に出ても、的になるだけだぞ。現に、今残ってる専用機持ちはもう一夏しか目に入ってないしな…」

悲しげに一樹は言う。最近忘れかけていたが、これが現実だ。一夏がこの場にいない今、わざわざ危ない場所に行こうとはしない。だって、死にたくないから…

「…確かにそうだ!だが、織斑に聞いたぞ!お前の機体の反応が鈍いと言うことを!」

「…確かに、ストライクは俺の動きについていけてない。けど、一夏も同じ条件で今戦ってる。白式の反応速度が鈍い条件でな。それに______仮に俺が死んだら()()のが大半じゃないかな?コレを見るに」

ストライクもそうだが、白式も一夏の動きに追従出来ていない。先程束が見ていたが、首を振っていたとこを見ると、白式の反応速度は上がっていない。そんな状況で命懸けの戦いに挑んでいる…そして、何より一樹のことを邪魔に思っているのが学園の大半だ。この戦いで一樹がいなくなれば、その者たちは喜ぶ事だろう…千冬はそれが理解出来た。出来てしまった。

「…織斑にも言ったがこれだけは絶対に守れ…()()()

それでも、それを言う千冬。何を言っても止まらないのなら、せめて生きて帰ってきて欲しいと、弟の初めて出来た親友を亡くしたくないと思いを込めて…一樹はそれを理解したのだろうか。敬礼をとると、静かに司令室を出る。千冬と摩耶以外の皆は、モニターの一夏に集中していて、一樹には気付かなかった。そして、他に何も出来ない千冬は悔しそうに拳を握っていた。

 

「…櫻井一樹、(エール)ストライク出るぜ」

司令室から出て、誰にも会わずに広い海岸線に出ると、一樹はストライクを装備、大量の敵IS『ジン』の部隊に単身飛んで行く。それを、束が見ていた。

「…ごめんね…箒ちゃんの心の傷を浅くする為に、あなたの心の傷を深くしちゃって…雪ちゃんがいなくなって、1番辛い筈のあなたに、1番重い荷物を背負わせて、ごめんね…」

いつものふざけた様子は無く、束は悔しそうに泣いていた…

 

「クソッ!やっぱり反応が鈍い‼︎」

福音にスピードに一夏の目、体は付いて行けても、白式自体が、一夏の動きについて行けず、さっきから攻めようにも攻められない状況が続いていた。

「私が隙を作る!その間にお前が斬れ‼︎」

「箒!待て‼︎」

一夏の制止も聞かず、箒は紅椿を福音に接近させる。一夏も文字通り重い体を腕力で強引に動かし、福音を追う。そこに、白式のハイパーセンサーがジンの部隊を補足した上に、下には謎の船が見えた。

「所属不明の船?馬鹿な!この辺りは教師達が塞いでいる筈!」

しかし、現に下にいるため、一夏は千冬に連絡を取る。

「織斑先生!下に所属不明の船を発見!密漁船と思われます!」

『何⁉︎…すぐに第二次攻撃隊を送る。お前達は攻撃隊が到着するまで、船を護衛し、到着次第、帰投しろ』

「了解!」

一夏はすぐに了承したが、箒は…

「馬鹿な!私はまだやれる‼︎」

「箒!織斑先生の指示に従え‼︎」

しかし、頭に血が上っている箒の耳には入らず、単身で福音に斬りかかる。一夏は仕方なく箒より船の護衛に集中する。福音のエネルギー弾をときには雪片で弾き、ときにはシールドで受け止める。

「密漁団など、所詮は犯罪者だ!気にしてる場合か⁉︎」

箒の言葉に思わず一夏はキレた。

「この馬鹿!犯罪者だったら命に価値が無いとでも言うのか⁉︎お前が言ったのはお前が1番嫌いな人殺しと同じ事だぞ‼︎」

「ッ⁉︎私が…人殺し?」

一夏の言葉に動揺したのか、箒は両手に持っていた刀を、思わず離し、頭を抱えた。その後ろで福音が何かを避けるが一夏には見えた。

「(何を避けたんだ?)…ッ⁉︎」

一夏の目にはエネルギーチャージが終了して、今まさにメガビームキャノンを撃ったジンが見えた。箒は気が飛んで行ってるのか、後ろのジンに気づいていない。

「くっ!間に合え‼︎」

瞬時加速を使って箒を抱えた一夏の背中に極太ビームが迫る。

 

レーダーでジンの部隊が福音と合流したことを知った一樹は、出せる最大スピードでストライクを飛ばす。そして、目に映ったのは、ジンの1機が一夏と箒に向けてメガビームキャノンを撃とうとしたところだった。

「(絶対にやらせねえぇぇぇぇ‼︎)」

 

 

当たるのを覚悟した一夏。だが、一樹のストライクがギリギリ間に合い、シールドで極太ビームを受け止めた。しかし、ビームの威力に、シールドだけでなく、左腕の装甲自体が剥がれてしまった…もう、受け止めることも庇うことも出来ない。

「一樹⁉︎」

「よう、一夏。俺が時間を稼ぐから、その内にお前たちは逃げろ」

「でもお前!腕が!」

「いいから逃げろ!」

それでも一樹はジンに急接近、右手のビームサーベルを上段から突き刺し、1機撃墜する。そこに到着したジンの部隊が一樹を囲むと、一斉にメガビームキャノンを撃つ。よけたら一夏達に当たってしまう…

「(ならこうだ)」

一樹は一夏を蹴飛ばす。そして、ビームの嵐をまともに受けた。

「一樹ィィィィ!!!!」

一夏は落ちていく一樹を見るしか出来ない。装備は全て破壊され、海に落ちるしかない一樹。しかし、一樹の体が光に包まれる。光は宇宙へと飛んで行った。ほっとする一夏。だが、ジンと福音が一夏達を包囲、メガビームキャノンを再び撃つ。

「(箒、せめてお前だけは…)」

零落白夜を使った影響であまりシールドエネルギーは残っていない。庇うことが出来ない一夏は箒をその包囲網の外へ投げ飛ばす。箒が包囲網の外に出れたのを確認した一夏は満足げに笑う。

「(ごめん千冬姉。約束、守れそうにないわ…)」

そして、一夏もビームの嵐をまともに受けた。白式が大破し、落ちて行く一夏。

「一夏!!!!」

今到着したシャルロットが落ちてきた一夏を受け止める。そして呆然としてる箒をセシリアが掴む。人を抱えているシャルロットとセシリアはラウラと鈴が牽制射撃をしている内に離脱。4人が逃げ切ったのを確認すると、ラウラ、鈴も急いで離脱するのだった。




ちょっと強引すぎでしたね。すみませんでした。


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Episode19 責任-レスポンシビリティ-

今回は短めです。そしてまさかの主人公が名前しか出ないというね…その分、次は長くなると思います。


「…総員、作戦は中止!各々の部屋に戻れ」

シャルロットが傷ついた一夏を抱えながら戻って来たのを見て、一瞬辛そうな顔をした千冬。だが、すぐに表情を引き締め、周りに指示を出した。

「…デュノア、すまんが織斑を医務室に連れて行ってくれないか?」

「は、はい…」

シャルロットが一夏を医務室へ運ぶと、すぐに担当の教師が治療を施す。

「何これ…今回受けた傷だけじゃなく、筋肉全体に損傷があるじゃない!どうやったらこうなるのよ⁉︎」

話しながらも素早く措置を施すあたり流石IS学園の教師だ。人工呼吸器が付けられた一夏の姿は、とても痛々しい…

「…そう言えば、白式の反応が鈍いって櫻井君と言ってました。OSの書き換えをしても、白式自体のスペックが一夏の反応速度に対応出来てなかったみたいで…」

「OS調整してもって、櫻井君のOS設定技術は私達IS学園の教師でも勝てないのよ⁉︎それで鈍い…ってことは!」

先生は何かを思いついたのか、白式のデータを見始めた。

「何よこれ…関節のパワーアシストの速度が織斑君の反応速度について来れてないですって⁉︎まさか…動きが遅い関節を腕力で強引に動かしてたとでも言うの⁉︎」

シャルロットは愕然とした。パワーアシストが無いとISの重量は片腕だけで30kgは越える。そんなものを腕力だけであれだけ速く動かせば筋肉が悲鳴を挙げるに決まっている…

「そうまでして…僕達を守ってくれてたの?一夏…」

 

箒は海岸線で膝を抱え込んでいた。その頬は赤く腫れていた。理由は戻って来て早々に言った言葉が原因だった。

 

「そ、そうだ…なんでアイツは来なかったんだ!アイツは一夏の護衛役なのだろ⁉︎なのになぜ来なかったんだ⁉︎」

自分の非を認めたく無いがために、一樹を責めようとする箒。そこに千冬の平手が飛ぶ。

バチンッ!

「ッ⁉︎」

「来なかった…だと?櫻井は行ったさ!貴様が頭を抱えてる時にな!お前が呆然としてる中、お前と一夏を助ける為に敵機のビームの嵐に1人残ってな!一夏も貴様を守る為にお前を敵機に囲まれた状況から自分が囮になったんだ‼︎そもそも貴様が命令無視をしたからこんな事になってるんだろうが‼︎それでいて櫻井に責任を負わせるつもりか⁉︎ふざけるな!雪恵の真相も知らずに櫻井を“人殺し”にした挙句、恩を仇で返すなど貴様はそれでも人間か⁉︎」

悔しそうに泣きながら言い放つ千冬。あの時に雪恵の真相を話していれば、こんな事にはならなかったかもしれない。遊ぶことの楽しさを知るべき年に、孤独に生き続けた一樹を、一夏はクラスで、千冬も出来る限り支えようとしたが、クラスメイト、生徒全員、果ては学校の教師までもが一樹を否定し、“楽しい”という感情が一樹から消えてしまった…

「貴様の為を思って櫻井が自分を犠牲にしたのに!お前は!櫻井の心を潰したんだ!お前に分かるか⁉︎家族に甘えたくとも、その家族がいない、兄弟もいない!親がいない私と一夏よりも櫻井は辛い状況にいたんだ!それを離れ離れなだけで、親と再会する可能性のあるお前が!櫻井を“人殺し”呼ばわりしたから!櫻井はいつも自分を犠牲にする!お前が櫻井を傷つけたんだぞ!そして今回は一夏だ!ふざけるなァァ‼︎」

「お、織斑先生落ち着いて‼︎」

暴走しかかった千冬を山田先生を始めとした教師陣で抑える。普段抑えていた千冬の激情に、箒はただただ、聞くことしか出来なかった…

 

「……こんなもの、もういらん‼︎」

紅椿の待機状態である腕の赤い紐を海に放り投げようとする箒。だが、鈴がそれを止めた。

「ったく、何なのアンタ?わざわざ姉に専用機作ってもらって浮かれたあげく、一夏をあんなにして自分は塞ぎ込むですって?ふざけんじゃないわよ!専用機を持つってことはね!責任がそれだけ出来んのよ!今のアンタみたいに『失敗した、だからもうISは使わない』なんて言ってらんないのよ‼︎」

「…だったらどうしたらいい⁉︎敵の位置も分からないのに何と戦えと!私だって戦えるなら戦いたいさ‼︎」

「…やっとその気になったようね。なら着いて来なさい」

鈴の後ろを着いていく箒。そこでは、既にセシリア、シャルロット、ラウラが出撃準備を整えていた。

「連れて来たわよ。で、福音の場所は?」

「ここから30キロ離れた沖合上空に目標を確認した。ステルスモードを使っていたが、光学迷彩を持ってないらしくてな。衛星による目視で見つけられた」

「さすがはドイツ軍特殊部隊。やるじゃない」

「世辞はいい。お前たちの方はどうなんだ?」

甲龍(シェンロン)の攻撃特化パッケージはインストール済み。いつでも行けるわよ。で、アンタは?」

「私は…」

拳を握りしめる箒。その目に映るは、強い決意…

「行くさ…勝ってみせる。今度こそ、負けはしない!」

「…決まりね。じゃあ、行きましょうか‼︎」

 

ざぁ…ざざぁ…

「ここは…どこだ?」

目が覚めた一夏が見たのは、とても綺麗な海だった。

「綺麗な海だ…色も、音も」

そして、状況を把握するために歩いている一夏の脳裏に、声が響く。

『力を、欲しますか?』

 

「そこ!箒行って!」

「ウォォォ‼︎」

紅椿の2本の刀を構え、福音に接近する箒。福音は空中バク転で回避。そのままビーム砲を撃とうとする。

「させないよ!」

シャルロットが攻撃体制に入った福音に、マシンガンモードに切り替えたビームライフルで福音を牽制、箒を攻撃しようとしたのを防ぐ。防御姿勢になった福音に隙ができ、箒はその一瞬の隙を利用した!

「そこだァァ‼︎」

再び2本の刀で斬りかかる箒。福音はギリギリ両手でその刀を受け止めるが、それこそが箒の狙いだった。

「やれ!セシリア!ラウラ!」

「お任せを‼︎」

「言われなくても‼︎」

セシリアのビットが福音のスラスターを破壊、ラウラのレールカノンでさらにダメージを与える。福音は海に落ちた。

「やったか⁉︎」

「分からない!」

その途端、海から光の翼を広げて、福音が急浮上して来た。

「まさか…第二次移行(セカンド・シフト)⁉︎」

シャルロットの驚愕の言葉の返事とばかりに、翼からエネルギー光弾をばらまく福音。箒達はそれを避けるのに精一杯となり、またもや防戦一方となってしまった。

 




ではまた次回、お会いしましょう。


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Episode20 復活-レザレクション-

UAが5000を突破しました!ありがとうございます!これからも頑張りますのでよろしくお願いします。


『力を欲しますか?』

「…誰だ?」

海岸を歩いていた一夏の脳裏に突如響く声。当然警戒レベルを上げる一夏。

『そんなに警戒しないで良いよ。私たちはあなたの味方だから』

先ほどとは違う声。両方とも声音は優しいが、姿を見ない限り一夏は警戒するなと言われても無理だ。

「悪いな、流石に姿が見えない相手を警戒しないのは無理だ」

『なるほど。失礼しました』

『すぐ行くから待ってて』

声が告げると、一夏の目の前に2人の少女が現れた。艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、大和撫子を体現した少女と、人懐っこい笑みを浮かべる少女が…

「…初めまして、で良いのかな?」

『どういうこと?』

「あなた達の声が聞こえる前、海岸を歩いてたんだ。だけど…」

一夏は左腕をあげる。()()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()。しかも俺は福音の攻撃で歩く事も出来ない筈なんだ。なのにこうしてこの綺麗な海を眺めてる。そもそもなぜ俺は海岸にいるのか。以上の点から俺はここが『白式の意識空間かそれと類似したもの』と思っているんだけど…違うか?」

『なるほど。妙に落ち着いていると思ったらそういうことだったのですね。確かに()()白式のコアに内蔵されている意識です。普通、人の意識はここまで来れないんですよ?』

『私たちISのコアはみんな繋がってるんだけど、1()()()()()()この最深部まで来た人はいない。君は、とてもすごいことをしたんだよ?』

2人の姿に、一夏は懐かしさと温かさを感じていた。その理由が、普段自分を守ってくれているISの意識だからとは…

「そうか…コアの中は、こんな綺麗な世界が広がってたんだな…」

『綺麗、ですか…ふふ、悪い気はしませんね』

『前、この最深部に来た人も同じことを言ってたよ…()()()()()()()()()()()()()

笑みを浮かべるコアの意識たち。

「…ところで、俺は何て呼べば良いんだ?」

『私に名前はありません。強いて言うなら、機体名である白式です』

「…君が白式の意識だったのか。いつもありがとう」

白式の意識に向けて笑顔を向ける一夏。

『いえ…私のせいで、あなたは…』

「ごめんな。たしかに『反応が鈍い』なんて言われたら責めてる様に聞こえちゃうよな…アレは関節の電気伝達が問題だったんだ」

『し、しかし現に私のスペックはあなたの反応速度に…』

「俺と君は普段脳波リンクをしてるだろ?展開に問題が無い以上、君の落ち度はないよ。強いて言うならこの関節機構を採用した倉持技研にあるくらいだ。データ上は君のスペックが問題の様に映っちゃうけど…」

一樹と共に白式のOSを弄っていた際、脳波リンクには全く問題は無かった。そして、こんな緊急事態に一夏が出撃する理由も本来なら無い。関節機構の遅さで他の専用機持ちとは良いパワーバランスでもあることを理解していたから…

『そう、だったのですか…』

『白式ちゃんは結構気にしてたんだよ。マスターであるあなたの筋肉にダメージを与え続けてる事を』

「そうだったのか…ところで、君は白式の意識じゃないのか?」

最初からずっといるので、一夏は意識がふたつあると思ってたのだが…

『うん。ISのコア1つに意識は1つしか無いの。私はたまたま遊びに来てただけだよ。だからこそ、あなたに力を与えられる』

『彼女は私たちISコアの中でも特別な存在なんです』

「それで最初の話になるのか…」

『そう。あなたは、力を求める?』

そう聞いて来る少女の顔は、先ほどまでの人懐っこい笑顔ではなく、真剣そのものだった。一夏も茶化す事なく、真面目に答える。

「力か…欲しくないって言ったら嘘になるけど、身の丈以上の力はいらないな」

『…どうしてそう思うの?』

「力ってのは不思議でな。自分の心の強さと同じくらいじゃないと身を滅ぼすんだ。だから、俺に合った力は欲しい。けど、強すぎる力はいらない」

現に、箒は専用機という力を求め、それを手にした。だが、紅椿という力は箒には強すぎた。力を持った事で浮かれ、弱い者を見捨てるほどに…

『つまりあなたは、心の強さと力がイコールにならなきゃいけないって思うの?』

「ああ。心の強さと同じくらいなら、相手の力量を冷静に図ることも出来るしな」

『…そう。そう考えられるあなたなら、大丈夫かもね。この()()()()()を渡しても…』

「可能性の獣?」

『すぐに分かるよ。でも、そのためには行かなくちゃ。あなたを待ってる人がたくさんいるから…あなたに、『力』を…』

目の前の少女がそう祈るように言うと、一夏の体が光に包まれる。

「君は…」

『私は、開発者である篠ノ之博士と、マスターの意思で今は封印されてるの。当時のマスターにとって私は、君が言ったように強すぎる力だったから。でも、そろそろ私もマスターに会えるかな…』

「きっと会えるさ。君と話せるマスターなら。それと、白式」

『はい、何でしょう?』

ずっと黙って聞いていた白式の意識に話しかける一夏。

「これから、意識である君を呼ぶ時は『ハク』って呼ぶよ。いつまでも女の子に兵器の名前で呼ぶのもね…」

『ハク…ありがとうございます!素敵な名前です‼︎』

「こちらこそ、ありがとう…」

そう言って、一夏は光に包まれて消えた。

 

「おはよう…千冬姉」

「ッ⁉︎」

司令室で独断行動していた5人を見守っていた千冬の後ろから、慣れ親しんだ声が聞こえた。

「い、一夏!体は大丈夫なのか⁉︎」

「ああ…この通り傷1つ無いぜ?」

実際、その状態で片腕逆立ちをやってみせる一夏。確かに怪我は治った様だ。

「っと、千冬姉、俺に出撃許可をくれ。アイツらを…助けに行く」

「し、しかし今のお前の機体では…」

「いや、白式はやっと俺に()()()()()()

「…信じて良いんだな?」

一夏は無言で頷く。

「…今度こそ、無事に帰って来いよ、一夏」

「ああ…行ってきます!」

司令室を飛び出す一夏。対福音の最後の希望が…飛び出す。

「頼んだぞ、一夏」

旅館から飛び出し、崖の前で止まる一夏。

「…行くぞ!白式‼︎」

一夏は白い光を纏いながら、福音のいるポイントまで全力で飛んだ。

 

少し時は戻る。一樹を包んだ光は超高速で宇宙へ上がり、ピンク色の船『エターナル』へ向かっていた。

「7時の方向からすごい速さで何かが接近して来ます」

ブリッジクルーであるメイリン・ホークの言葉に、珈琲を飲んでいたエターナル副長、アンドリュー・パルトフェルドが顔を引き締める。

「モニターに出せるか?」

「すぐに出します」

エターナルのメインモニターには光に包まれた一樹が映っていた。

「これは…一樹君だ!ハッチを開け!医療班用意!大怪我を負ったボスが帰って来たぞ‼︎」

光はエターナルの格納庫に入った。ハッチが閉まり、エアーブロックが正常に作動すると光が晴れ、そこには傷だらけの一樹がいた。

「ウグッ!ハァ、ハァ、ハァ…ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ。グボア!」

咳き込み、口を手で押さえるとその手には血が付着していた。そこに医療班が到着する。

「社長!」

「大丈夫ですか⁉︎」

「あまり…ウグッ」

痛みに耐えきれず、その場で気絶し、浮かぶ一樹。医療班より早くその一樹を抱えたのは宗介だった。

「…状況は知ってる。遅くなって悪かった」

宗介が一樹に謝りながら医療班と協力して担架に乗せる。医療班は一樹をすぐに治療室へ運び、治療を開始しようとするが、筋肉への負担がかかりすぎて断絶、そしてビームを直接受けたことによる火傷など、普通の治療では手遅れな状況だ。だが、ここ『S.M.S』の医療スタッフの腕もあり、危険域は脱した。数十分後…体のあちこちに包帯を巻いた一樹がいた。すぐにどこかへ行こうとする一樹の目の前に宗介が立ちふさがる。

「宗介…」

「お前、やっぱり、行くのか?」

「ああ…」

ストライクのカメラ越しとは言え、箒を始めとした女子生徒の憎悪のこもった視線、見下す視線を宗介たちは見ていたのだ。

「お前をいないものとして扱うのがほとんどなのにか?」

「確かに、IS学園のほとんどの生徒はおれが気に食わないだろうな。けど、俺はそんな人でも…護りたい。平和な生活を送ってるみんなを…掛け替えのない日常で笑ってる人を…それが、俺に出来る『償い』だから』

静かに言う一樹だが、その目には強い意志があった。こうなると何を言っても聞かないと分かってる宗介は…

「…そうかい。なら着いてきな」

イタズラっぽく笑うと、宗介はついて来いと手招きする。一樹は素直について行くとそこには…

「コイツは…」

「最新型EX-アーマー『フリーダム』。タービンエンジンの改良によって出力が上昇。そのおかげでマグネット・コーティングに回せる電力も増えた。更に頭部装甲の取り付けで脳波を受信、関節機構に先読みさせてる事で反応速度をあげた。無論火力も上昇してるぜ。これなら…」

機体を見ただけで、一樹の中で大きく動く物があった。これなら、自分はどこまでも飛べる。そう思わせてくれると…

「一樹、俺から…いや、俺達S.M.S所属者全員の願いです。『必ず帰ってきて下さい。織斑と一緒に』と…」

S.M.Sの敬礼をした宗介に一樹も敬礼で返す。

「約束しよう。今度は怪我無しの状態で帰ってくるさ」

宗介がデッキから出ると、一樹はフリーダムを装備、スペックを確認していた。

「Nジャマーキャンセラーの小型化に成功したのか?だからタービンエンジンの出力を上げられたと。凄え…ノータッチの状態でストライクの4倍以上のパワーがある…」

徐々にフリーダム頭上のハッチが開いていく。それと同時に、フリーダムのスラスター推力を少しずつ上げていく一樹。

「頼むぜ。フリーダム」

ハッチが完全に開いた。

『一樹君、帰って来たら僕の新しいブレンドをご馳走する。早めに帰って来いよ』

「ああ。櫻井一樹、フリーダム、行きます‼︎」

フリーダムがストライクとは比べものにならないスピードで上昇、地球に向けて全速力で飛んで行った。

 

箒達は福音のオールレンジ攻撃をなんとか避けていた。

「みんな!大丈夫⁉︎」

5人の中で一番軽傷なシャルロットが心配する。理由は一樹の設定したOSにより、シャルロットの思った通りの動きが出来るタイムラグはほぼ無い為だ。他の候補生達も長く乗っている為かタイムラグは短めだが、シャルロット程では無く、所々破損していた。特にダメージが大きいのはまだ専用機を駆って間もない箒だ。その箒に、福音のオールレンジ攻撃が迫る。箒は何とか回避するが、背中のスラスターを一門破壊された。

「グァ!」

スラスターの爆発による火花で、箒の髪を束ねていたリボンが焼けてしまう。しかもスラスターが破壊されたことにより、第四世代機ならではの高速移動が不可能になった。福音のビーム砲が箒をロックオンし、チャージされていく。

「箒さん!逃げて‼︎」

「速く逃げなさいよ‼︎」

「箒!危ない‼︎」

「そのままでは死ぬぞ‼︎」

皆が声をあげるが、箒の耳には聞こえていなかった。

「(私は…死ぬのか?一夏に謝罪も出来ず、雪恵の真相も知らないままで…)」

箒の最初に出来た友人、田中雪恵はクラスで孤立していた箒に話しかけてくれた…雪恵と会ってから、箒は恋を知り、友達と過ごす素晴らしさも実感出来た…しかし、雪恵が死んだと、担任教師から聞かされた時、箒は絶望。死んだ理由を担任に問い詰めると、一樹が風景画の写真を撮ろうとするのについて行った結果、足を滑らせ、山の急斜面を転がり落ち、石に頭をぶつけたからだったと、職員室で箒は聞かされた。雪恵はクラスでも男女問わず人気であった…その雪恵の死に一樹が関係していると、箒がクラスの女子に話し、それがどんどん広まった…

「(雪恵…私も…そっちへ行くのかもしれない…)」

一夏へ謝れない事に泣きながらも、箒は福音のビーム砲で死ぬかもしれないと言うのに、恐怖はしていなかった…

…め……よ

「(?なんだ?)」

だめ…だよ

「(この声…雪恵か⁉︎)」

箒ちゃん、諦めちゃだめだよ

「(でも、もう私は…)」

助かるから…箒ちゃんは…生きれるから…だから…諦めちゃだめだよ

「(雪恵…)」

諦めなかったら…また、会えるから…私は…死んで無いから…

「(何⁉︎)」

だから…箒ちゃんも…生きて…

雪恵の声がだんだん小さくなっていく。しかし、箒は絶望から立ち直った。

「(雪恵が…生きている?なら、私はここで死ねない‼︎)」

瞳に希望を写し、福音を見据える。しかし、福音は容赦なく極太ビームを箒に撃った。

「「「「箒ィィィィ(さぁぁん)‼︎」」」」

箒の眼前に極太ビームが迫る。箒の瞳が再び絶望に染まろうとしたその瞬間。

「ウオォォォォ‼︎」

白いISが箒とビームの間に入り、X字に開いたシールドで、福音のビームを受け止めた。

「フゥゥ…間に合ったぁ…」

その場にいた5人の顔が驚愕に包まれるが、確認が出来ない。なぜならそのISは、珍しい全身装甲(フル・スキン)タイプだからだ。白いISが頭部のみを解除し、箒と向き合う。

「…お待たせ、箒、皆…」

その顔は…5人が好きな、優しい顔で、今最も見たい顔だった。

「「「「一夏‼︎」」」」

 

 




可能性の獣、一夏は乗りこなせるのか⁉︎


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Episode21 麒麟-セカンド・シフト-

連続投稿な分短いです。こんなのがデビュー戦でいいのだろうか…文才が欲しい。


「なんだよ箒、泣いてるのか?」

「な、泣いてなどいない‼︎」

箒は目元に浮かんだ涙を拭うと、一夏の機体を見る。体全体が白で統一されており、先ほどのフェイスマスクの目の部分はバイザーの様になっていて色は水色、装甲と装甲の接合部がはっきりと分かるか機体になっていて、武装は左腕に実体シールド、右手には多兵装内蔵型ビームマグナムを装備していた…

「ん?どうした箒」

「白式が…変わったのか?」

「ああ。ついさっき第二次移行したんだ。名を『白式 麒麟(きりん)』だ」

「麒麟…」

「イメージつきにくいか?確か神獣だった筈なんだけど…なら、コイツをこう呼んでくれ。『ユニコーン』ってな」

そう、一夏にとって、慣れ親しんだ名前だ…

「ん?箒、リボンが…」

「あ、ああ…さっき焼かれてしまってな」

「そっか…不謹慎かもしれないけど、丁度良かったかもしれないな」

「…え?」

一夏は箒に白いリボンを渡す。

「ハッピーバースデー、箒」

「あ、ありがとう…」

「さて、ちゃんとしたお祝いは帰ってからだ。ちょっとアイツを倒してくるな」

自信に溢れた笑みを浮かべ、一夏は白式を福音に向けて加速させる。

「空気呼んでくれてありがとよ…さあ、始めようぜ‼︎」

まるで一夏の言葉を待っていたかの様に、福音はその場で横に一回転、光の翼から光弾を広範囲に撃つ。それは一夏だけでなく、後ろにいる5人も射程に入っていた。

「甘いぜ!その程度の攻撃‼︎」

麒麟の左腕のシールドの中心の特殊ジェネレーターがX字に開く、シールドから赤い光が溢れ、その光弾を全て弾いた。

「な、なんですのあの装備は⁉︎」

「零落白夜じゃない⁉︎」

「初めて見るよあんなの⁉︎」

「あれが白式の…新しい力、なのか?」

シールドから特殊な光『Iフィールド』を放出。ビーム兵器を完全無効化させ、少しずつ福音に近づく。ある程度福音に近づいた所で、左腕に装備されているビームサーベルを抜刀。スラスターを全開にして…

「ハァァァァ‼︎」

福音の左スラスターを斬った。福音は左右のバランスが取りにくくなり、動きがふらつく。一夏はそこで急上昇、唯一麒麟の拡張領域に装備されている雪片をコールし、エネルギーチャージ。

「今度は逃さねえェェェェ‼︎」

零落白夜を発動、砂浜まで福音を追い詰め、雪片で攻撃し続ける。福音のエネルギーがゼロになり、ようやく暴走が止まった。しかし、まだ安心は出来ない。

「皆は福音を運んで旅館に戻ってくれ。あの部隊は俺が相手をする」

雪片を再度拡張領域にしまい、福音との戦いが終わるのを待っていたジンの部隊に向かって一夏はブーストを蒸す。5人も一夏の後を追う。

「お、おい!危ないから戻れって‼︎」

「うるさいわよ一夏!」

一夏に反論したのは鈴だ。

「代表候補生ってのはね!アンタが思うほど責任は軽く無いのよ‼︎それにアンタは怪我が直ったばかりじゃない!アタシ達だって条件は同じよ‼︎」

鈴の声に同意する候補生の3人、箒も

「一夏、私はお前にまだ謝っていない。だから…今度こそ私が援護する‼︎」

少女達の強い意志を持った瞳に見つめられた一夏は折れた。

「ハァ…分かったよ。けど、危ないと思ったらすぐに逃げるんだ。良いな⁉︎」

「「「「もちろん(ですわ)‼︎」」」」




『白式 麒麟』
白式がセカンド・シフトした姿。ISとしては珍しい全身装甲を採用している。全身を『サイコフレーム』と呼ばれる特殊装甲で覆われており、既存のISとは比較にならない程の機体追従性を獲得している。装着者である一夏の実力を最大限発揮するために、拡張領域から一々武装を取り出すのではなく、あらかじめ雪片弐型以外の武装を装備している。スポーツとしてのIS戦ではなく生死のかかったIS戦を意識しているため、小型熱核動力炉を搭載。事実上活動時間は無限。学園での『試合』では当然そんなシステムは許容されないので、小型熱核動力炉を使用するには、内蔵されているあるシステム使用が条件となっている。
武装も高火力の物が揃っている。
・複合兵装内蔵型ビームマグナム。
普段から右手に装備している銃型武装。3つのモードを使い分ける事で、中〜遠距離での戦闘に対応している。
『マグナムモード』
3つあるモードの中で最も火力があるモード。その一撃はISのシールドエネルギーを容易く破り、一撃で撃破する事が可能。多少狙いが外れても、量産型ISであれば破壊できる程絶大な能力を持つ。あまりの威力に一夏は学園内で使う事を自らに禁止している。
『ライフルモード』
火力、連射性のバランスが良いモード。この状態はある程度威力の調整が効くので、普段一夏はこのモードをメインに使用している。
『ガトリングモード』
1発あたりの火力は低いが、連射性は3モード中で最も優秀。発射時の反動も少ないので、ミサイル迎撃や部分展開時はこのモードを多用する。
・ビームサーベル
両腕の装甲に内蔵されているため、計2本装備している。近接戦闘での主武装。一夏自身の性格もあり、使用する機会は多い。
・頭部バルカン
麒麟の装備の中ではあまり目立たないが、れっきとした射撃武装。ビームサーベルを持っている時、敵機を牽制に使う事が多い。
・シールド
普段は白い直線の盾だが、対ビーム兵器時は中央のジェネレーターがX状に開き、Iフィールドを発動させる。Iフィールドを発動時はビーム攻撃は全て弾かれるので、ビーム兵器しか搭載していない敵機には驚異となる。無論、ビームを『弾く』特性から僚機に誤射されることもありうる。対策としてシールド自体にも対ビームコーティングを施し、『受け止める』ことも可能となっている。
見た目は完全に『ガンダムUC』主人公機のユニコーンガンダムのユニコーンモード。麒麟の名の由来は作者が『何か漢字2文字で上手く表せないか』と考えていた頃、モ○ハンのソフトがたまたま目に入り、『あ、そういえば白い一角獣いたじゃん!』となったから。


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Episode22 翼-フリーダム-

連続投稿はこれで終わりです。


地球では、一夏達がジンの大部隊と交戦していた。一夏は第二次移行(セカンド・シフト)したからか、ようやく思い通りに白式を動かせられた。ビームマグナム、ビームサーベルを駆使して次々と敵機を撃墜していく。

「まだまだ行くぜ!」

しかし、少女5人は先の戦闘でシールドエネルギーがほぼ無い。それでも各々の武器でなんとか持ち堪えていた。セシリアはジンのメガビームキャノン砲撃を避け、ジンの死角からビットで攻撃し、少しずつ倒していき、鈴はバズーカの砲弾を衝撃砲で迎撃してすぐに再度撃つことにより、バズーカ内部を爆発させ、動きが止まっているジンを双天牙月で両断する。シャルロットは持ち前の器用さを生かし、ビームサーベル、ビームライフルを的確に使い分け撃墜して行く。ラウラはAICで動きを止め、レールカノンで撃破とゴリ押し戦法でこつこつ撃墜する。問題は箒だ。空烈で一体を斬ったは良いものの、背後からバズーカで攻撃され、シールドエネルギーがごっそり奪われる。ここで専用機を持ってからの稼働時間の差が出て来た。

「クソ!そう簡単に‼︎」

 

フリーダムは地球に近づくと、シールドを体の前に出す。大気圏突入時の熱を受け流しながら、背中の青い翼を広げ、徐々に突入して行く。

 

「クソォォォォ!」

「このままでは…」

「やられる訳には行かないのよ!」

「みんな!頑張って!」

「気を抜くとすぐに落とされるぞ!」

5人は一つに固められ、ジンがメガビームキャノンの集中砲火を受けていた。

「くそッ!邪魔すんな‼︎」

一夏もジンに囲まれていて5人の救助に向かえない。箒の正面のジンがメガビームキャノンを構える…

 

ズキュウウン…ドォン‼︎

 

緑色の閃光がメガビームキャノンを通り過ぎるとメガビームキャノンが爆発。さらに高速で何かが降りて来てジンを両断する。

「「「「「…え?」」」」」

5人の目の前には蒼い翼を広げた、フリーダムの姿があった。

『こちら櫻井一樹。援護する。今の内に撤退を』

その場にいる全員に解放回線(オープン・チャネル)で伝える。皆が呆然としてるが、今は構ってられない。

一樹はフリーダムを少し上昇させ、ジンの大部隊を次々ロックオン。

「当たれぇぇぇぇ!!!!」

自らの持つ全ての射撃兵装を撃ち、次々とジンを撃墜していく。

 

管制室でそれを見ていた千冬と麻耶も…

「…凄い」

「これが…櫻井の新しい力、なのか」

 

右手で左腰のビームサーベルを抜刀。麒麟を囲んでいるジンを次々と落としていく。

「お待たせ一夏!」

「一樹、無事だったんだな!」

「何とかな!」

舞うように飛んでジンの攻撃を避ける一樹とIフィールドで受け止める一夏。高機動バックパックを搭載したジンがフリーダムを狙うが、全くついていけていない。それだけフリーダムのスピードが速すぎるのだ。フリーダムを追うジンは横から放たれた麒麟のマグナムに対応出来ず、落ちる。一樹も飛びながら一夏の後ろを狙うジンをライフルで落とす。

「一気に終わらせるぞ一夏!」

「タイミング合わせるのは任せろ‼︎」

両者、背中を合わせ、タイミングを合わせる。一樹は再び眼前のジンをマルチロックオン、一夏は麒麟のビームマグナムを構える。

「「吹き飛べぇぇぇぇ!!!!」」

2人の射撃により、ジン部隊は壊滅した…

 

作戦終了後、一樹はテントで夕食である魚を炭火で焼いていた。

「…久しぶりにまともなのが2日連続で食えるな」

IS学園の仕事についてからはずっとまともに食事をとっていなかった為、一樹の顔は笑顔だ。

「…どうしたんですか?束さん」

一樹の背後にいきなり現れた束。

「…少し話しても良いかな?」

「魚臭くても良ければ」

束は近くの岩に腰掛け、あの6人のIS待機アクセサリーを取り出して調整を始めた。

「…明日、IS学園に戦闘機を3機送るよ」

「へえ、何故ですか?」

「ウルトラマン…ううん、かずくんのサポートの為に、だよ」

「…知ってたんですか。流石ですよ」

「ねえ、そろそろ箒ちゃんに話しても良いんじゃないかな?」

束が言っているのは雪恵の真相のことを言っているのだろう。

「…俺からは話せませんよ。今の篠ノ之じゃあ、俺がでっち上げた話にしか聞こえないでしょうから…」

「そう…」

束が呟くと、しばらく静寂が訪れる。

「またいつでも電話して来てね。力になるから」

「…束さんらしく無いっすね」

「ああ〜酷い!束さんがせっかく協力してあげようって言ってるのに!」

一樹が茶化すと、すぐにノリ良く返してくる束。親しい人物には本当に優しい人だ。

「それじゃ、またね。あの子達にこれ、返して貰える?」

「了解しました」

その後ISを返すと、一夏の絶叫が聞こえた為、結局フリーダムのフルバーストでシールドエネルギーが再びゼロになった皆。

「さて、説教タイムだ。シャルロットよ」

S.M.S専属となったシャルロットはその後千冬を怒らせた以上の地獄を見たとか見なかったとか…

 

「ど、どうしたのだシャルロット?顔色が悪いぞ」

「あ、あはは…僕が今は企業代表候補生なのは知ってるよね?」

「あ、ああ…」

「実は櫻井君のいるところでさ。昨日のを『それでウチに賠償金払えって出たら払うのは誰だ?』みたいに言われて…あと少しでアストレイ取られるところだったよ…」

「うっ、耳が痛い話だな…だが、以前櫻井はそんなこと言わなかったが…」

「あの時はまだリヴァイブだったから…」

「櫻井が意外に現金なのを今知ったよ…」

「誰が現金だって?」

ビクッと2人がなり、震えながら後ろを見ると、気持ちいいくらいに笑顔な一樹がいた。

「…お前、まだ反省してないのか?ならアストレイ返せ」

「すみませんもう二度としないのでお許しをぉぉ!!!!」

しばらくシャルロットは一樹に足を向けて寝られない日々が続きそうだ。

 

「さて、間も無く期末テストだ。皆勉強はしてるか?」

千冬がそう言った途端、殆どの生徒が悲鳴を挙げた。その中に一夏は入っていない。セシリアとの決闘以降、物凄い集中力でISのことはもちろん、一般科目もそうとう勉強していた。一夏は元々頭が悪い方では無いから、すぐに追い付いた。テストの点数だけ言えば小学校、中学校共に一樹より成績が良かったのだ。一方、一樹はと言うと…

「王手」

「ゲッ!ここでそれは反則だろ⁉︎」

「ルール上問題ねえんだよ!ウダウダ言ってねえでさっさと次の手を指せ!」

余裕の一夏と将棋を指していた。

「う〜む〜、2人が羨ましいよ〜」

のほほんさんが恨めしそうに2人を見ると、その近くの女子生徒が皆頷いた。

「ん?そうか?でも実際こうなるとただでさえアウェー感半端ないのに、2割増しで居心地悪いぞ?」

「慌てたところであまり関係ないしな」

それでも4月当初よりは学園の生徒達は一樹を受け入れていた。理由の一つとして、生身でセシリアのISと対峙し、勝ったことが挙げられる。

「ねえねえ、櫻井君ってさ、普段何食べてるの?食堂で食べてるの見たこと無いからさ」

出席番号1番、相川清香が一樹に聞いてくる。一樹は顔を引きつらせ

「…相川さん、世の中には知らない方が幸せなこともあるんだよ?」

どこか遠い目で言う。何故か一樹に黒い縦線が見えた相川はすぐに質問を取り消す。

「ご、ごめん!なんかいけないこと聞いちゃった感が…」

そもそも臨海学校で1人モリで魚突いてた時点で気付こうぜ相川さんよ。

 

そして、答案返しの日。

「よっしゃぁぁぁ‼︎」

一夏が学年1位を取っていた。

「よし一夏!俺に飯奢れ。1位取ったお祝いに」

「いやおかしいだろそこは!そこは一樹が俺に…嘘ですごめんさい、お願いだからそんな空っぽの財布を俺に見せないで」

一樹の切実すぎる問題に、一夏は綺麗に土下座をしたのだった。

「さて、話は変わるが、一夏。お前の今後の予定は?」

「とりあえず家に帰るな。あとは…お見舞いかな」

お見舞いの言葉を聞き、周囲では誰が相手なのか気になるのが若干名。

「…もう嫌だ。コイツ充分強いから護衛いらないやん。マジでコイツの唐変木に付き合うの疲れた。マジ助けて」

「か、かずやんが壊れかけてるぅ!」




次からネクサス続きます。


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Episode23 魔人-ファウスト-

さあ、始めようぜ。トラウマゲームを。

ネクサスが本格化します!


夏休みが近いある日、一夏はある病院を尋ねていた。

「すいません、斎藤沙織さんの病室はどこですか?」

「はい、405号室です」

沙織の部屋を聞き、その部屋に行く一夏。

コンコン

『どうぞ』

ノックし、返事が聞こえるのを待ってからドアを開ける。

「久しぶり、沙織」

「織斑君!久しぶり!」

斎藤沙織、美術高校に通っている女生徒で、一夏との出会いは中2の夏、弾や鈴と一緒に動物園に行った時に、一夏とぶつかってしまい、一緒に沙織が描いていた絵を拾ったとこからだ。

「急に体調が悪くなったって言うから心配したよ」

「ごめんね。ただの熱だと思ってたんだけど、お医者さんが…えと、とにかく難しい病名を言ってたから入院したの。あ、症状自体は大したこと無いから近い内に退院出来るの」

「そうか。なら良いんだけど」

一夏はその後、沙織と一緒に医師の許可の元、散歩に行き、楽しい時間を過ごした。

 

「それでな、沙織は俺を見る度に微笑んでくれるんだ…可愛かったなぁ…」

「分かった!分かったから教室で惚気るのは止めてくれ‼︎教室の皆が絶望した様に机に突っ伏してるから‼︎」

一夏に好きな人がいるのを知っていた一樹はもう慣れていたが、それをこの3ヶ月間知らなかったクラスメイト達の絶望っぷりが尋常じゃない。まるで教室全体に黒い縦線が描かれた様だ。

「(好きな人が出来ても唐変木に変わりは無いのか…)」

特にヒロインズ4人の顔が酷い。目が虚になってこっちの世界にいない。

ドックン

「ッ⁉︎」

胸ポケットにしまってあるエボルトラスターの鼓動を感じた一樹はすぐに教室を飛び出した。幸せで別の世界に行ってる一夏と、絶望で別の世界に行ってる1組の生徒達は一樹に気付かなかった。

 

IS学園近くの丘に出た一樹。ブラストショットを構えながらいつ遭遇しても対応出来る様にだ。

「(千冬には一応警戒しといてくれって連絡はいれたし、出て来ないに越した事は無いんだが…)」

瞬間、後ろに殺気を感じた一樹が側転すると、一樹がいた場所を紫色の光弾が攻撃していた。一樹が後ろを見ると、死人の様な漆黒の瞳と胸の真ん中に埋め込まれた黒いクリスタル、道化の様な黒と赤の配色。中性的な体付きに、額から斜めに伸びる2本の細長い角の人型の者がいた。

「…誰だ?」

『ダーク…ファウスト』

暗くて低い男性の声で一樹に答えるファウスト。こうして対峙してるだけでも分かる…ファウストは今までのビーストとは違う。少しでも学園から離れようと一樹は走り出すが、ファウストの闇の波動弾がそれを許さない。

『逃げても無駄だ。何故なら私はお前の影なのだから』

「影だと?」

『光と影。お前が手にした光が、私という影を創り出したのだ』

「どういう意味だ」

『いずれ分かる』

一樹はこれ以上、学園から離れられないことを悟ると、胸ポケットからエボルトラスターを取り出す。

「確かに、俺の心には拭いきれない闇がある。でもそれは!」

エボルトラスターを鞘から引き抜き、正面に構える。

「お前なんかじゃねえ‼︎」

一旦胸元へ引き寄せ、エボルトラスターを天空に掲げ、ウルトラマンに変身する。ウルトラマンはすぐにアンファンスからジュネッスにチェンジすると、メタ・フィールドを展開しようと、光のドームを作る。

『貴様に有利な空間にはさせん!闇に染まれェェェ‼︎』

ファウストは胸の前に腕を突き出してクロス。そのまま右腕を右斜め上、左腕を左斜め上に広げた。その瞬間、メタ・フィールドを展開しようとした光のドームは不気味な紫色に染まり、侵食されていく。

「フッ⁉︎」

ウルトラマンは自分が作ったメタ・フィールドが侵食されていく様子に驚く。完全に侵食されると、辺りはメタ・フィールドとは異なる、光を感じさせない空間へと変貌していた。

『フフフフ…ハハハハハ!ここは無限の闇、ダーク・フィールド。光の存在である貴様に、勝ち目は無い』

ファウストの声がダーク・フィールドに響く…

 

「この特殊震動波は⁉︎」

SHRが終わった後、一夏の白式が震動波を感知した。一夏の言葉にシャルロット、ラウラも自らのISセンサーを見る。

「なんだこれは⁉︎」

「1つはウルトラマンのだけど…もう1つはまるで…」

ウルトラマンと真逆の存在…

 

「フゥゥゥ…」

『ハァァァ…』

ファウスト、ウルトラマンが互いに向かって走り出す。両者は同時に飛び上がり、飛び蹴りの体制になる。

「デェアアア‼︎」

『ファァァ‼︎』

お互いの脚がかすり、通り過ぎる。両者同時に着地すると、すぐに向かい合う。

「シュ!」

『ハァ!』

ウルトラマンはファウストに向かって走り出し、ファウストに前蹴りを放つが、ファウストは両腕でガードし、ウルトラマンの体勢を崩させる。そのままファウストはウルトラマンの腹部を殴る。ウルトラマンは一瞬怯むがすぐに立て直し、ファウストの顔目掛けてパンチを放つがファウストは両腕を振ることでそれを回避、ウルトラマンに向けてパンチを連続で放つ。ウルトラマンは両腕を巧みに使ってファウストの攻撃を受け止めるが、ファウストはウルトラマンの両腕の間をすり抜け、右手でウルトラマンの首を絞め、左手はウルトラマンの右手を抑える。

「グ、グォォ…」

『フンッ!』

ウルトラマンを腕を振り上げ、空いた胴に強烈な肘打ちを入れる。

「グァ⁉︎」

肘打ちがまともに入ったのか、ウルトラマンの動きが止まる。ファウストはウルトラマンを掴み、投げ飛ばす。ウルトラマンはなんとか着地するが、ファウストはウルトラマンに二段回し蹴りで攻撃してくる。一段、二段とまともに喰らったウルトラマンの体から火花が散り、吹き飛び、地面に体を強く打つ。

「ハッ、ハッ…フッ⁉︎」

なんとか起き上がったウルトラマンにファウストは矢じり形の光弾を打つ。

『デュア!』

ウルトラマンはバリア“サークルシールド”を貼り、その攻撃を受け止める。

「シュア!」

ファウストはそれを見ると胸の上で腕をクロスしエネルギーを貯める。そしてそのエネルギーを天空へ上げた。

『フンッ!デュア‼︎』

「フッ⁉︎」

ウルトラマンが空を見ると、ファウストが上げたエネルギー球が空中で分裂、無数のエネルギー弾となりウルトラマンを襲う。

「グッ!グァァァァァ⁉︎」

うつ伏せに倒れるウルトラマン。それを見て不気味に笑うファウスト。

『フハハハハ!』

「グッ…グゥゥゥ」

ピコン、ピコン、ピコン

胸のコアゲージが鳴り、赤く点滅する。ウルトラマンの活動時間限界が迫っているのだ。

『フハハハハ…』

笑いながらウルトラマンに近づくファウスト。ダメージの大きさにウルトラマンはまだ立ち上がれずにいる。ファウストは右手でウルトラマンの首を絞めながら、片手で持ち上げた。

『脆すぎる』

「フッ、グッ、グォ」

自らの体重でより首がしまるウルトラマンにファウストは語りかける。

『これがお前の力か?正直期待外れだな…この闇の中で息絶え、消え去るが良い!』

ファウストの余裕からか、一瞬腕の力が緩んだ。ウルトラマンはその隙を逃さず縛りを振りほどき、一本背負いの容量で地面に叩きつける。

「フッ!シェア‼︎」

『グゥ⁉︎』

思ってもいなかったウルトラマンの攻撃に、ファウストは一瞬動きを止めるがすぐに起き上がり、ウルトラマンと対峙。連続回し蹴りを放つも、ウルトラマンは時に受け止め、時に屈んでやり過ごす。ファウストの右ストレートキックが腹部に入るが、タイミング良く力を入れていたので、大したダメージにはならなかった。

「フッ!」

『ファ…』

2人の巨人は睨み合いながら円を描く様に動く。

『ファ!』

先に動いたのはファウストだ。ウルトラマンにパンチを放つがウルトラマンはその手を受け止め、ファウストに回し蹴りを放ち、続いてニーキック。エルボーカッターで斬りつけ、強烈な回し蹴りを放った。

「シュア‼︎」

『グォォ⁉︎』

回し蹴りがよほど協力だったのか、ファウストの動きはフラフラだ。それを見たウルトラマンは腕を十字に組み、クロスレイ・シュトロームを撃つ。

「フッ!シュア‼︎」

『グァァァ⁉︎』

クロスレイ・シュトロームを喰らったファウストは楽しそうに笑いながら立ち上がった。

『フフフフ…ハハハハハ。それでこそ戦う意味がある。また楽しませてくれよ』

そう言うとファウストは消えて行った。ウルトラマンもファウストが消えると同時に片膝を付き、うっすらと消えて行った。ウルトラマンが消えるとダーク・フィールドもまた消えていった…

 

「ハァ、ハァ、ハァ…ファウスト、あの黒い巨人は一体…」

変身を解いた一樹は満身創痍の状態で片膝をついていた。

「ウグッ!」

戦いのダメージの大きさにその場に倒れると、左胸ポケットからブラストショットを取り出し、天空へ向かって撃ち、ストーンフリューゲルを呼ぶと同時に気絶。その後ストーンフリューゲルが傷ついた一樹を乗せるとその場を離れた。

 

「櫻井君を乗せた飛行機が離れて行きます!」

「なんとかなった様だな。大丈夫だ山田先生。あの飛行機は櫻井の傷を癒してくれると聞いた。今は少し休ましてやれ」

「了解しました」

「さて、そこにいるんだろ?束…」

「あ、バレてたか〜」

「くだらんことはどうでも良い。何の用だ」

「いや、私もここにいることにしたからその報告だよ〜」

「何?お前がか?」

「うん。かずくんを援護するためにメタ・フィールドに突入出来るもの持ってきたんだ。いる?」

「…ああ、くれ。これ以上、櫻井だけに負担をかける訳にはいかないからな」




ここからは、心を強く持て。でなければ闇に飲み込まれるぞby一樹。


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Episode24 毒花-ラフレイア-

かなり強引設定がありますが、よろしくお願いします。


沙織は一夏と散歩した夜、自分の病室で子犬達が遊んでるいる絵を描いていた。

「♪〜♪〜♪」

ご機嫌良く鼻歌を歌いながら。

「今日は織斑君と散歩出来た♪また行けると良いな。IS学園で忙しいのは知ってるけど…また天然ジゴロ発揮して女の子を落としてないと良いなあ」

…時既に遅しです。

その時、沙織の後ろで何かが割れた音がした。沙織が振り返って見ると、一夏と写っていた写真を入れていた写真立てが落ちて割れていた…

「あ!」

沙織はそれを拾い上げる。

「痛っ!」

ガラスの破片が指に刺さった様で、右手の人差し指から血が出ていた。沙織はその指を見ると、目が虚になり、何かに引かれる様にベランダに行く沙織。その様子を、何かが見ていた…

 

「よし、今日のIS実習は模擬戦を見て貰う。織斑、用意しろ」

「あ、はい。相手は?」

「いつもの相手だ。既にお前はこの2クラスの代表候補のレベルを超えているからな」

「「「「ウグッ!」」」」

そう、白式が麒麟になってからは誰も一夏に勝てないのだ。

「分かりました。来い!白式‼︎」

麒麟を纏い、指定ポイントへ向かう。タイミング良くフリーダムもピットから出ると、その灰色の装甲を鮮やかな白をベースとした色に変わった。

「お互い、変わってからは戦ったことなかったよな」

「だな。テストとかで色々あったし」

「…言っとくが、手加減は無しだぞ?」

「それは保証しかねる。慣らし運転も兼ねてるからな。最初の内は慣らしだ」

「あ、それはオッケーだ。俺ももう少し慣らし運転したいから」

『試合開始!』

アナウンスと同時に2人は動き、一樹はフリーダムのライフル、一夏は麒麟のビームマグナム(ライフルモード)を同時に撃ち、また回って撃つ。2人は無意識に円滑運動をしていた。それはISでも射撃型のバトルスタンスなのだが、ISをマニュアル制御しなければ出来ないので、初心者はなかなか苦労する。が、一夏は最初からフルスピードで回っている。4人の代表候補でさえ、最初からフルスピードは出来ない。見ている生徒全員が口をあんぐり開けているとも知らず、2人は戦い続ける。一夏はフリーダムのレールガンを麒麟のシールドで受け止め、ビームサーベルを抜刀、スラスター推力を上げてフリーダムに接近、一樹もビームサーベルを抜刀、一夏と切り結んだ後半回転し、それぞれのビームサーベルをシールドで受け止めていた。

「チィ…」

「やるな一夏!」

2人が離れ、再び対峙した瞬間、エボルトラスターの鼓動を感じた一樹。

「一夏、悪いが今日はここまでだ」

「へ?」

急いでフリーダムを森に向かって飛ばす一樹。一樹が急ぐ理由を察した千冬はすぐに指示を出す。

「織斑!デュノア!ボーデヴィッヒ!すぐに震動波を確認しろ‼︎」

「「「ッ⁉︎」」」

3人が確認した途端、学園の外にラフレイアが出現した。

「ビースト⁉︎」

一夏が叫ぶ。すぐに避難アラームが鳴り、生徒はすぐ動く。一夏は麒麟をラフレイアに向けて飛ばす。それを見て、専用機持ちが全員飛ぶ。

「一夏!何をしている⁉︎」

「危ないですわよ⁉︎」

「早く逃げなきゃ⁉︎」

事情を知らない3人が止めようとするが、シャルロット、ラウラの態度を見て、何かを知ってると察し、ついて行く。

 

「あのビーストは…」

巨大な花弁の様な物が目立つビースト、ラフレイアを見た一樹の印象は、今までのビースト程パワーは無いが、厄介そうだと言う事だ。エボルトラスターが光り、ラフレイアの情報を一樹に流した。

「!コイツは…危険すぎる‼︎」

すぐ後ろに気配を感じ、ブラストショットを撃つ一樹。何もいなかった筈のそこにファウストがいた。ラフレイアはファウストが出た瞬間、地面に潜り姿を消した。

『フハハハハ…』

「ファウスト…何故俺につきまとう⁉︎」

『その姿では私と戦えまい…纏え光を!』

一樹はファウストから離れようとするが、ファウストは手から波動弾を出し、それを許さない。ブラストショットで対抗しようにも、ファウストは拳でそれを受け止めてしまう。

『いつまでその姿でいるつもりだ?私の作る、無限の闇がそんなに怖いか?』

「何故それほど俺との戦いを望む⁉︎」

ファウストはそれに答えず、波動弾を再び撃つ。一樹はそれを避けるとエボルトラスターを取り出す。が、引き抜くのをためらう。

「(あの闇の空間…あの中にいたら、今度こそ…)」

ファウストはそれを見て、さらに波動弾を撃つ。一樹はその爆風の中、エボルトラスターを引き抜いた。

「ッ!」

ウルトラマンに変身した一樹を見て、ファウストは満足気に笑う。

『フフフフ…それで良い。楽しませてくれよ』

「フッ!」

そこに一夏達が到着した。

「巨人が…2人?」

「ウルトラマンとその反対の震動波の巨人だね」

「何か、睨み合っている様だが…」

ウルトラマンとファウストは睨み合いながら円を描いていた。

『フンッ!』

先に動き出したのはファウストだ。ウルトラマンを掴み投げようとするが、ウルトラマンはそれを払う。さらにファウストは回し蹴りを放つが、ウルトラマンは屈んでそれを避け、飛び蹴りを放つが、ファウストは両腕でガード。着地したウルトラマンの一瞬の隙に殴りかかるが、ウルトラマンはギリギリ避けた。ファウストは続けて大振りのパンチを連続で放ってくるのを時に屈み、時に受け止めると、ファウストの腕を掴み、投げるウルトラマン。ファウストはその勢いを側転で殺し、対峙する。ウルトラマンのストレートキックをバック転で避けると、不気味に笑いながら姿を消した。

『フッフフフフ…』

「ファッ⁉︎」

ウルトラマンの背後に隠れていたラフレイアが地面から出て来た。

「ビースト⁉︎」

『総員、攻撃開始!』

「「「「了解‼︎」」」」

管制室にいる千冬の指示でラフレイアにそれぞれの射撃攻撃をするが…

「シュウ!」

ウルトラマンが攻撃とラフレイアの間に入り、アームドネクサスでそれを止めた。

「な、何でだよ⁉︎」

一夏が思わず叫ぶと管制室から通信が入る。

『そのビーストを攻撃してはダメです‼︎』

「何故ですか山田先生⁉︎」

箒が麻耶に問うと麻耶はこう答えた。

『そのビーストの花弁の中には可燃性のガスが充満しています‼︎そこで攻撃すればこの学園に被害が‼︎』

「クソッ!どうすれば⁉︎」

その時、ラフレイアが花粉を振り撒く。

「フッ⁉︎シュ!ヘェア‼︎」

それを見たウルトラマンはアンファンスからジュネッスにチェンジし、メタ・フィールドを展開する。

「シュウッ!ファァァァァ…フッ!ヘェアァ‼︎」

花粉もメタ・フィールドに送られた為、学園に被害は無かった。

「(…一樹…)」

「(櫻井君…)」

「(櫻井…)」

ウルトラマンの正体を知る者が心配する中、ある人物が通信してきた。

『もすもすひねもす〜いっくんに箒ちゃん、聞こえる〜?」

「「束(姉)さん⁉︎」」

 

「シュゥゥゥ…」

メタ・フィールド内ではウルトラマンとラフレイアが取っ組み合っていた。ウルトラマンはラフレイアを押し、メタ・フィールドの岩盤にぶつけ続け、ラフレイアにダメージを与えて行く。

「シュア!」

ラフレイアを離し、一旦距離を取ると、ストレートキック。ラフレイアの重い体を吹き飛ばした。

『フフフフ…』

メタ・フィールドの地面が歪み、そこから先程消えた筈のファウストが現れる。

「フッ⁉︎」

『フンッ!デュァァァ‼︎』

メタ・フィールドがファウストの波動に侵食され、ダーク・フィールドと化す。

「フッ!」

『デュ!』

ファウストがウルトラマンに向かって走る。右回し蹴りを放つが、ウルトラマンは両腕でガードし、逆に右ストレートキックを当てる。

「ファ!」

『グアアァァ‼︎』

更に殴りかかろうとするウルトラマンだが、ファウストはその勢いを利用し、投げる。ウルトラマンは何とか着地するが、ファウストの両手に、首を掴まれてしまう。

『フアァァァァ‼︎』

「フッ⁉︎」

そのまま振り回され、蹴飛ばされるウルトラマン。すぐに起き上がるが、横からラフレイアの花粉が飛んできて、苦悶するウルトラマン。

「グァ!ウァァ‼︎グゥ‼︎」

『フフフフ…』

 

『束さんからお得情報!何と君達がいっくんを先頭に連結すれば、ウルトラマンの作り出すメタ・フィールドに入れるよ〜』

「マジっすか⁉︎」

一夏が驚きの声をあげる。つまりはウルトラマン=一樹の援護が出来ると言う事だからだ。

『うん!もちろん指揮は先頭のいっくんだよ!指令コードは“Set into strike formation”だよ‼︎』

束の言葉と同時に、連結パターンがそれぞれのISに送られる。正直、先頭が一夏、そのすぐ後ろが箒であれば問題は無い様だ。

『この配置に文句ある人もいるかもしれないけど〜これはISの性能上、仕方ないことなんだよ!白式のバックアップは紅椿じゃなきゃダメなんだよ!まあ今の紅椿だったらあんま関係無いけど‼︎』

最後の一言に箒が愕然とする。まるで、今の自分の力が当てにならないと言われていると感じたのだ。

『まあでも、慣れる為にもそれで並んで‼︎』

「「「「了解」」」」

全員が了承すると、一夏が指示を出す。

「Set into strike formation‼︎」

まず、先頭の一夏が配置に付き、その後に箒がすぐ後ろに並ぶ。すると2機の間にレーザーポインターが走る。続けてセシリア、鈴、シャルロット、ラウラの順に並ぶと、全員のISが光り輝く。光が晴れたとこには細長い水色の戦闘機があった。

「「「「えぇぇぇぇぇ⁉︎」」」」

中でコクピットに座っている全員が驚く。そうしている内にその戦闘機が地上に墜落しそうになるのを慌てて一夏が操縦桿を握り、なんとか体制を保てた。

「な、なんじゃこりゃぁぁぁ⁉︎」

『その戦闘機の名前は『ストライクチェスター』って言うんだ。本当は3機の戦闘機『クロムチェスター』から成るんだけど、いっくん以外操縦出来ないだろうから今は強引にISに詰め込んだの!あ、拡張領域は使わず束さんのところにデータはあるから安心していいよ!』

「「『出来るか‼︎』」」

束の言葉に一夏、千冬、箒が思わずツッコミを入れていた。

 

「フッ!ハァ!」

ラフレイアの花粉からなんとか抜け出したウルトラマンはファウストに向かって矢じり型光弾“パーティクルフェザー”を撃つが、ファウストは右手でそれを弾く。

『フンッ!』

パーティクルフェザーはダーク・フィールドの端まで行くと消えて行った。

 

「ん?なんだ?」

ストライクチェスターを操縦している一夏の前に突如時空の歪みが発生し、矢じり型の光弾が飛んできた。

「危ねえ‼︎」

咄嗟に操縦桿を動かし、矢じり型光弾を避けるが、それで姿勢制御を失い、落下していく。

「ウワァァァ⁉︎」

「「「「キャァァァ‼︎」」」」

 

『フンッ!』

「ヘェア」

ファウストの前蹴りを横にすり抜け回避するウルトラマン。パンチを放とうとするが、ファウストは屈んで避け、ウルトラマンにエルボーを食らわす。

『デュア!』

「グァッ!」

そしてすぐに一回転回し蹴りを放ってくるファウストの脚をなんとか受け止めるウルトラマン。そのまま掴もうとするが、ファウストはウルトラマンが脚を掴んでるのを逆に利用し、バック転。殴りかかるがウルトラマンはそれをガード。しかしファウストはその腕を掴み、ウルトラマンの後頭部に上段回し蹴りを放つ。

『デュア!』

「グァッ!」

怯みながらもファウストの方を向くウルトラマンに容赦なくストレートキックを放つファウスト。

『デェア!』

「グッ‼︎」

腹部に入り、片膝片手をつくウルトラマン。

ピコン、ピコン、ピコン

コアゲージが鳴り、ウルトラマンの活動限界が近いことを知らせる。

『フッ!トゥオ‼︎』

そのウルトラマンに矢じり型光弾を撃つファウスト。

「ヘェアァ‼︎」

ウルトラマンは横に飛び込み、それを避けると、お返しとばかりにパーティクルフェザーを撃つ。

「フッ!ハァ!」

パーティクルフェザーは見事ファウストの右足に命中した。

『グゥゥオォォォ⁉︎』

痛みに苦悶するファウスト。

 

「痛っつう…」

墜落したストライクチェスターの中で一夏は目覚める。外は明るく、朝日が昇っていた。

「気絶して朝になっちまったのか…」

前を見てみると座っていた筈の箒がいない。モニターで後ろの座席を見ても、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラはいなかった。

「あれ?みんな?」

一夏も降り、辺りを探索する。すると、白い袖が目に入った。近づいてみると、女の人が倒れている。

「ッ⁉︎大丈夫ですか⁉︎」

急ぎ近付き、その人を起こす。すると、見慣れた顔があった。

「…沙織?」




ご都合主義万歳。
後掛け声がformationなのは仕様です。


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Episode25 突入-ストライク・フォーメーション-

「沙織!沙織‼︎」

どうして沙織がこんな所にいるのか、その時の俺は、まるで理解出来なかった。by一夏

「織斑…君?」

ゆっくりと瞼をあける沙織にホッとする一夏。

「沙織、大丈夫か、怪我は無い?」

「う、うん…」

そう言ってゆっくりと起き上がろうとする沙織。

「あ〜良かった。けどさ、なんだってこんな場所に?」

ここは一応IS学園敷地内の筈。なぜ生徒では無い沙織がここにいるのだろうか?沙織はそれに答えずに右手を見る。そこには、名前が彫られたドッグタグが握られていた。一夏がそれを確認すると、こう書かれていた。

「“ラウラ・ボーデヴィッヒ”…ラウラ?」

そこにタイミング良くラウラが現れた。

「一夏、起きたのか…ん?なぜ一般人がこんな所に?」

「さあ?ところで、ラウラ。これお前のだろ?何故か沙織…彼女が持ってたんだが…」

「ん?見せてみろ」

ラウラが一夏からドッグタグを受け取り、見ると、表情を険しくさせた。

「貴様!コレをどこで手に入れた⁉︎」

「…え?」

「答えろ!どこで手に入れた⁉︎」

いきなり沙織に怒鳴るラウラを見て、思わず間に入る一夏。

「おい、落ち着けってラウラ…痛っ!」

感情が高ぶっているのか、一夏を殴り倒すラウラ。

「お、織斑君⁉︎」

急に殴られた一夏を心配し、近付く沙織を見ながらラウラは呟く。

「会ったんだな、溝呂木に…」

 

一樹は目の前に流れてる清水を手ですくって飲む。その頭に、昨夜の戦闘が思い出されていた。

 

「フッ、フッ、フッ…」

ピコン、ピコン、ピコン

『フッ!トゥオ‼︎』

ファウストの矢じり型光弾を右に飛び込んで避ける。

「シェアッ!」

お返しとばかりにパーティクルフェザーを撃つ。パーティクルフェザーは見事ファウストの右足に命中した。

「フッ!ハッ‼︎」

『グッ⁉︎グゥゥオォォォ!?』

痛みに苦悶するファウストを見、クロスレイ・シュトロームを撃つウルトラマン。

「フッ!シェア‼︎」

ファウストは左手からバリアを張り、それを受け止める。

『まだまだ楽しませてくれると言うことか…』

そう言い残すと、ラフレイアと共にファウストは消え、ファウストが消えたことにより、ダーク・フィールドも解除された。ウルトラマンはそこで力尽きた様に消えていった…

 

「あのビーストがまだ生きてるだと?」

管制室では千冬が麻耶から報告を受けていた。

「はい、学園に設置されたレーダーがあのビーストの波形を感知しました。どうやら、櫻井君はメタ・フィールドで倒し損ねた様です。おそらく、あの黒い巨人に邪魔されたのでは無いかと…」

「フォローしなくても大丈夫だぞ山田先生。誰も櫻井を責めはしないさ」

千冬の言う通り、昨夜戦闘に出た誰一人、ウルトラマンを責めようとは思わなかった。

 

東京東武総合病院のある病室に、沙織はいた。しかし、目は虚ろで、何も見てはいなかった。ラウラはその様子を見て、どうしても納得が行かなかった。

「(何故あの場所にいたか記憶が無い…か。確かにISで心拍数を計らせても、嘘をついている様子は無かったが…教官に報告しとくか…)」

携帯電話を取り出し、『教官』と登録されている番号にかけた。数コールで相手は通話に出る。

『私だ』

「教官、話したい事があります」

『織斑先生だと「いえ、ドイツ軍時代の話が関係しているので」…何?』

「おそらく、彼女は溝呂木に会っています」

『ッ⁉︎それは本当か‼︎』

「確証はありませんが、おそらく」

『…我々も、警戒しとかねばな』

「ええ…アイツは必ず何か仕掛けてくる…そういう男ですから」

 

一方、一夏は沙織の見舞いに来ていた。

「色々、あの眼帯を付けた子に聞かれたけど、昨日部屋で絵を描いていたこと以外、何も覚えてないの…どうして私あんな所にいたの?」

沙織の疑問に一夏は応えられない。むしろ一夏もそれを知りたいのだ。

「織斑君、私…怖い」

そう呟く沙織。一夏は思わず手を握っていた。

「心配しなくて良い。俺が…ついてるから」

沙織はその一夏の肩に頭を寄せ、安心した様子で一夏に礼を言う。

「…ありがと」

「…どういたしまして」

「…ねえ、織斑君こそ、何故あそこにいたの?」

この質問に一夏は止まる。今、弱まってる沙織に話しても良いのだろうか?数秒考えるが…

「…悪い、箝口令が敷かれてるんだ」

結局、話せなかった。

「…そう。IS学園、頑張ってね」

「ああ、ありがとう」

 

「殲滅不可能…ですか?」

病院から戻ってきた一夏を含め、専用機持ち全員が指示を受けていた。何故か一夏とラウラ以外疲れ切った顔をしているが…

「はい。殲滅に成功した場合、あのビーストが含有している相当量の花粉が拡散するのは間違いありませんから」

麻耶の説明に鈴が疑問を持つ。

「あの可燃性ガスが理由ですか?」

「いえ、それだけではありません」

麻耶はコンピューターを操作し、花粉の成分をモニターに表情させた。

「付着することで、瞬時に気化し、高熱を発するんです。その温度に人の皮膚は耐えきれません」

麻耶の説明を聞き、一夏がある事に気付く。

「それが…風にのったりすれば…」

山田先生は再びコンピューターを操作し、花粉の拡散予想図を表示させる。

「密度は水素並みです。拡散速度を考えると、風下だけで済む筈がありません」

「ウルトラマンの力を借りるしか無いのか…」

箒の呟きに、麻耶は頷く。

「ええ。幸いと言って良いのかは分かりませんが、ビーストの防御力自体は低く、私達の攻撃でも倒すことは出来そうです。だからあの時ウルトラマンは攻撃を止めたんですね」

麻耶の呟きに皆納得する。確かにあの時ビーストに攻撃が当たっていれば、とんでもない事態になっただろう。

「とくれば、やはりあの戦闘機の操縦を皆が覚えるしか無いな」

千冬の言葉にギクッとなるのが若干名。箒、セシリア、鈴、シャルロットだ。

「あ、あんなのそうそう覚えきれません!」

「わたくし達は射撃を担当します‼︎」

「軍でももう戦闘機なんて扱わないのに‼︎」

「ぼ、僕達には荷が重すぎます‼︎」

先程までこの4人は千冬指導の元、束が送ってきた戦闘機、“クロムチェスター”シリーズの操縦方法を叩き込まれていたのだ。

「ほう…ボーデヴィッヒは覚えられたぞ?ドイツ軍にも、あんな戦闘機は無かったのにだ」

「「「「ウグッ!」」」」

「織斑に至っては自分の手足の様に扱っていたな」

「「「「ウググッ‼︎」」」」

「さあ、やる気の問題だ。なあ織斑」

千冬に問われた一夏は正直な事を言う。

「あのな…アレは戦闘機の中で1番操縦が覚えやすく、しやすいタイプだ。しかもありがたい事に、ISが自動で専用スーツに変形してたから、通常…あのタイプだと10Gかかるところを車と同じレベルで済んでんるだ。ありがたいと思えよ」

「「「「アレで簡単なの⁉︎」」」」

その後、千冬にみっちり操縦方法を叩き込まれ、自信が付いたセシリアが一夏に挑むが、全てにおいて圧倒された為、指揮官機であるα機には前列に箒、後ろの指揮+単独、及び合体時の攻撃+万が一の時の操縦係りに一夏、通信性能の高いβ機にセシリア、鈴。装備武装が最も多いγ機をシャルロット、ラウラが搭乗することが決定した。

 

東武病院の病室で、沙織は震えている。

「どうして…織斑君と初めて会った時のこと思い出せない」

沙織の目は虚ろになっていて、何も見ていなかった…

 

IS学園から少し離れた森でラフレイアが現れた。それはIS学園のレーダーで察知され、すぐにいつもの面々が機体に搭乗する。

「く、クロムチェスターα機、出る」

α号のメイン操縦者は箒。一夏は万が一に備え、集中力を取っておく必要があるからだ。

「クロムチェスターβ、行きますわ」

β号はセシリアがメイン操縦。鈴がモニターと睨めっこしている。

「クロムチェスターγ、行くよ」

γ号はシャルロット。持ち前の器用さを生かし、すでにγ号を一夏程では無いにしろ、扱える様になった。3機は外へ飛び出す。一般の人に見えぬ様、束が乗せたシステム(一樹提供)であるミラージュコロイドを使って現場へ急行した。

 

ラフレイアの進行方向で、一樹は待ち伏せしていた。が、一樹の表情は暗い。

「またファウストは現れる。今度あの闇に呑まれたら…いや、そんなこと考えても仕方ねえ。やるしか無いんだ」

エボルトラスターを引き抜き、天空へ掲げ、ウルトラマンへ変身する。そこへ、クロムチェスター隊が到着する。

「(一樹…)」

一夏はウルトラマンを見ると、それに変身している青年の身を案ずる。

「フッ!シェア‼︎」

アンファンスからジュネッスにチェンジし、メタ・フィールドを展開するウルトラマン。

「シュウ!ファァァァァ…フッ!ヘェアァ‼︎」

光のドームはクロムチェスター3機を避ける様に広がった。

「私達の身を案じてくれてるのか?」

「その気持ちはありがたいのですが…」

「気持ちだけ受け取っておくわ!」

 

メタ・フィールドがチェスター3機を避けるように広がるのを管制室も見ていた。

「櫻井君…あの子達の身を案じてあんな事を?」

「…アイツの気持ちを無視する様で良心が痛むな」

 

それぞれの思いを持ちながら、一夏は指令を出す。

「Set into strike formation‼︎」

「「「「了解‼︎」」」」

ストライクチェスターへ合体。急加速していく。

「ジェネレーター、コンタクト!」

箒がブースターを上げる。

「メタ・ジェネレーター、臨界まで89%…95、臨界到達」

ラウラがγ号のモニターを見て、全員に通達する。

「メタ・フィールド境界面との異層同期、開始を確認」

シャルロットがラウラに続いて報告、メタ・フィールドへの突入を開始する。数秒後…

「ぬ、抜けた!」

「ここが…メタ・フィールド、ですの?」

「なんか昔の遺跡みたいな感じね」

「同感だ」

初めてメタ・フィールドに入った面々が話している中、一夏はラフレイアと戦うウルトラマンを見つけた。

 

ウルトラマンはラフレイアの突進を受け止め、押し返すと右回し蹴りを放つ。そこでストライクチェスターに気付くと、驚いた声をあげる。

「フッ⁉︎」

しかし、すぐに気を取り直し、ラフレイアと対峙する。

『本当に楽しませてくれるな』

「フッ⁉︎」

ウルトラマンの後ろに、いつの間にかファウストがいた。

『ダメージの残る体で、自らの墓場を作るとは』

ファウストはウルトラマンをチラリと見ると、ダーク・フィールドを展開する。

『フンッ!デェアァァ‼︎』

 

「黒いウルトラマンまで⁉︎」

シャルロットが驚きの声をあげると、ラウラがモニターを見て、別の事に驚く。

「異層が書き換えられてる、だと?」

「どういうことだラウラ!説明してくれ‼︎」

一夏が切羽詰まった声で問う。この空間が危険だと直感的に分かったのだろう。

「メタ・フィールドがプラスの終局だとしたらここはマイナスの終局。黒いウルトラマンが異層情報を書き換えて自分に有利な空間にしたと言う事だ」

「つまり…ウルトラマンには不利って訳⁉︎」

「長居は無用ですわね」

セシリアの声に皆が同意する。一夏も違った意味でそれには同意した。

「(この空間に長くいれば…一樹が危ない‼︎)」

 

ファウストは大振りのパンチにキックを連発してくる。ウルトラマンは受け止めたり、屈んだりしてそれを避けると、隙を見て、強烈なフックパンチを放つ。フックパンチを喰らい、怯んだファウストに続けて回し蹴りを放つ。

「フッ!ハッ!」

『グッ⁉︎』

ラフレイアの背後にストライクチェスターが迫り、ラフレイアの至る所に一夏の視線が行き、ロックオンされていく。

「ロックオン、スパイダーミサイル、発射‼︎」

しかし、いくら発射ボタンを押してもミサイルが発射されない。

「ッ⁉︎どういうことだ!ラウラ!調べてくれ‼︎」

「エンジンが異層の変化について行けずに異常過熱している!放熱が追いつかない⁉︎」

ラウラの悲鳴混じりの報告を聞き、すぐに判断を切り替える。

「ならストライクバニッシャーだ!」

そこで機体が大きく揺れる。

「今度は何だ⁉︎」

「メタ・ジェネレーターが臨界を維持出来ない⁉︎」

今度はシャルロットが悲鳴をあげる。一夏は素早く判断、鈴に指示を送る。

「鈴!ストライクバニッシャー用のジェネレーターをそっちに回してくれ‼︎」

「わ、分かった!」

「ですが一夏さん!それではストライクバニッシャーが⁉︎」

「予備のジェネレーターに1発分チャージしてある!1発あれば充分だ‼︎」

 

ストライクチェスターでハプニングが起きてる間も、ボロボロになっているウルトラマンをラフレイアとファウストが集中攻撃、起き上がれずにラフレイア側に転がったと思えば、ファウスト側に転がったりを繰り返していた。

「グッ!グァァァァァ⁉︎」

『フフフフ…』

倒れているウルトラマンを強引に立たせると、背後から羽交い締めにし、ラフレイアを向かせる。

「グッ⁉︎グァァァァァ!?」

ピコン、ピコン、ピコン

コアゲージが鳴り響くのを見た一夏は箒に指示を出す。

「箒、操縦変わってくれ」

「あ、ああ…」

箒が操縦桿を離すと、一夏はストライクチェスターをウルトラマンのラフレイアの間を飛び、急上昇する。一瞬、一夏とウルトラマンの視線が合わさり、互いを信頼してるかの様に頷いた。ラフレイアの上空へ行くと、今度はラフレイアに向けて急降下、砲塔をラフレイアの花粉弁に向ける。

「ストライクバニッシャー!ファイア‼︎」

ストライクバニッシャーが撃たれると同時にウルトラマンはファウストに肘打ちを喰らわせ、羽交い締めから抜け出すと、ファウストをラフレイア向けて投げ、ジャンプでその場から離れる。

「シュア‼︎」

『グッ!』

ファウストはラフレイア爆発の影響をまともに受けた。

『グッ!グォォォォォ⁉︎』

ラフレイアの爆発によってダーク・フィールドは解除される。急な異層変化にストライクチェスターはついて行けず、落ちていく。

「クソッ!ダメだ!コントロールが出来ない‼︎」

「脱出システムも作動しない⁉︎」

一夏が必死でコントロールを取り戻そうとするが、機体は言う事を聞かない。ラウラが強制脱出させようにも、システムがブラックダウンしているので、作動しない。このままでは墜落する。全員が覚悟を決めた…

「…あれ?」

「何故、衝撃が来ない?」

「止まって…ます」

「っていうか、どんどん上に来てるんだけど?」

「助かってるん…だよね?」

「ああ、その様だ。右を見てみろ」

ラウラの言葉に全員が右を見ると、ウルトラマンがストライクチェスターをキャッチしていた。

「ウルトラマン!」

一夏の言葉に頷くとそっと地面にストライクチェスターを下ろし、光の球になって、空高く飛んで行った…




やっぱりかっこいいなぁ!空中キャッチ!


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Episode26 人形-マリオネット-

トラウマ回。苦手は人は注意。


彼女のあどけない笑顔、何気無い仕草、全てが愛おしかった。彼女と続く時間は永遠に続くと信じ、俺は2人の未来に…ただ光だけを見つめていた。by一夏

「もしもしお母さん?昨日はお見舞いに来てくれてありがとう。お父さんや隆も一緒で嬉しかった。でね、今度家に呼びたい人がいるんだ。そう、前にも話した織斑君。彼に私の家族を紹介するって約束したから…うん、お願いね」

東武病院の公衆電話で沙織は話していた。しかし、その公衆電話はどこにも繋がっていなかった…

 

IS学園の射撃訓練場で、ラウラが訓練をしていた。いつものラウラなら常にポイントの中心部に命中するのを、今回は今ひとつ精度が低い。

 

『ラウラ、次に会った時に交換だ。良いな?』

そう言って、ラウラに自分の名前が彫られたドッグタグを差し出す溝呂木。

『了解しました』

ラウラも自らの名前が彫られたドッグタグを溝呂木に渡した…

 

「動揺しているな…お前も」

その後ろに千冬が現れた。

「…はい。見苦しいとこをお見せしました…」

「気にするな。死んだと思ってた男が自分の目の前に現れようとしているんだ。動揺するなとは流石に言わん」

「…奴が、敵だと思われますか?」

「…今の段階では、その線がかなり濃厚だ。しかし、櫻井達を持ってしても、奴の居所は掴めん。かなり警戒してると見て間違い無いだろう」

「…昨日の戦闘を見たんですが、櫻井の動きがいつもより鈍く見えました」

かつてラウラはウルトラマンを自分のISで攻撃したことがある。それでもウルトラマンは俊敏な動きでビーストを追い詰めていた。しかし、昨夜の戦闘では、体に重しが乗っかってる様な動きだった。

「織斑にも同じ事を聞いた。恐らく、あの空間は櫻井にとって毒と同義なのだろう。あの黒い巨人に関しては、名を“ファウスト”と言うこと以外知らないらしい。現在、学園の外から調査をしてると聞いた」

「良い情報があると良いのですが…」

「…そうだな」

 

一夏は自分に割り振られた部屋で、沙織にもらったお守りを見ていた。

 

『はいこれ』

『ん?何コレ』

『私が作ったお守り、“ガンバルクイナ君”って言うんだ。今度の春からIS学園に入学でしょ?お守りに持ってて』

『ありがとう』

 

「…そんなこともあったな。あれからなんだかんだ言って3ヶ月経つんだな…」

ガンバルクイナ君を受け取った時の事を思い出し、思わず笑顔になる一夏。そこに、白式があるメッセージを受信した。

オ前ハ、大切ナ者ヲ失ウ

「大切な者を…失う⁉︎」

 

東武病院の病室で、沙織は寝ていた。しかし、視線を感じて起き上がると、窓のブラインドを開けた。そこに、若い男の声が響く。

《お前は…人形》

「誰⁉︎」

《俺が作った…美しい人形だ》

「誰⁉︎」

沙織がそこで窓を見ると、沙織の後ろにファウストが写っていた…

 

「ッ!」

一夏は謎のメッセージを見ると、慌てて飛び出そうとする。扉を開けた所には、箒がいた。

「一夏、一緒に昼食を…どうした?そんなに慌てて」

「箒!悪いが俺、行ってくる‼︎」

「お、おい一夏⁉︎」

 

「そんな…沙織が…いない⁉︎」

東武病院に一夏が駆けつけると、受付で沙織が病室から消えていると聞かされた。

「え、ええ…朝確認したら、いなくなってて」

看護師の言葉を最後まで聞かず、一夏は病院を飛び出した。

 

「ハァ、ハァ、ハァ…クソッ!ここのところ連戦で休んでらんねえ…」

一樹はあるビル街にいた。ここのところIS学園に顔を出していない。

ドックン

「…また来たか…今度こそ仕留める」

エボルトラスターの鼓動を感じると、一樹は再び動き出した。

 

「ただいま…」

沙織は自分の家にいた。奥の扉が開き、弟の隆が出迎えてくれた。

「姉ちゃん、お帰り!」

「ただいま、隆」

「父さん、母さん、姉ちゃんが帰ってきたよ!」

隆の言葉に、両親が出て来た。

「お帰り、沙織」

「思ったより早く退院出来たな」

優しい両親の顔を見て、沙織は何故か涙が出て来た。

「うん…うん」

 

シャルロットはここ数年起きた不可解な事件を調べていた。そこに、気になる事件を見つける。

「“家族4人が行方不明”?」

その記事をタップし、詳しい内容を読む。

「ッ⁉︎これは⁉︎」

そこには、斎藤沙織の名と写真があった。

 

「ところで沙織、彼氏とはどうなの?」

「最近あまり会えてないけど、元気だと思うよ」

「確か、IS学園に通ってる…織斑一夏だっけ?」

「うん、そう。今度私の家族を紹介するって言ったの」

家族と幸せそうに話す沙織。しかし、急に表情を暗くすると、とんでもない事を言う。

「織斑君って…誰だっけ?」

気づくと沙織の周りには誰もおらず、沙織は部屋に1人となっていた。

「私って…誰?」

1人の部屋に、沙織の声が響く。

「どうして一人ぼっちなの?ママは?パパは?どうして私を置いて行っちゃったの?怖い…怖いよ…」

沙織が後ろを振り向くと、鏡があり、近づくと、ファウストが写る。

「化け物⁉︎」

鏡から出て来て、沙織に近づくファウスト。後ろに下がる沙織。

「来ないで…イヤァァァァ‼︎」

 

沙織の家にバイクを走らせる一夏の前にファウストが現れる。

「…そこをどけ!」

麒麟のビームマグナムを展開し、ファウストに銃口を向ける。

『人間よ。貴様らに選択する資格は無い』

「何⁉︎」

『全て無駄なのだ。運命を受け入れ、我らに従え』

「黙れ‼︎貴様が…沙織を何処かへやったんだな⁉︎沙織を返せ‼︎」

マグナムを撃つが、ファウストは手で弾く。

『さ、お、り?その女は…もうじき消える…』

「…一体、どういう意味だ?」

『貴様も…一緒に消える‼︎』

ファウストの波動弾が一夏に迫る。一夏は思わず、腕で顔を覆う。

「止めろ‼︎」

そこに一樹が到着、一夏の頭上に向けてブラストショットを撃つ。ブラストショットから撃たれた弾丸は一夏の頭上でバリアに変わり、ファウストの波動弾を受け止めた。

「一樹!」

 

「織斑が飛び出したのは…この脅迫文が原因か…何処から出したか特定出来るか?」

「やってみます…」

一夏が飛び出したと、箒に聞いた後、千冬、麻耶は場所の特定をしていた。

「…あれ?この学園の近くに、同じ様な電波があります」

「何?」

そのポイントを見て、今まで黙っていたラウラが話す。

「教官、私が調べてみます」

「…頼んだ」

麻耶が特定した場所には、季節外れの黒いコートを羽織った青年がいた…

 

『現れたな。ウルトラマン』

一樹はファウストには答えず、一夏の方を見る。

「…行け」

「一樹⁉︎でも!」

「早くしろ。ファウストは俺が倒すべき相手だ。お前は…俺の様になるな」

そう言うと、エボルトラスターを引き抜き、ウルトラマンに変身する一樹。

『…砕け散れ』

ファウストはウルトラマンに向け破壊光弾を撃つが、ウルトラマンはアームドネクサスでそれを受け止める。

「ハッ!」

そしてジュネッスにチェンジ。

「シュウッ!」

メタ・フィールドを展開した。

「フッ!ファァァァァ…フッ!デェアァ‼︎」

一夏を巻き込まないように…

 

メタ・フィールドに入ったウルトラマン。ファウストは近くにおらず、周りを警戒する。突如、上空で爆発音が起きた。

「フッ⁉︎」

ウルトラマンが上空を見ると、最初にファウストと戦った際にファウストが使った光弾の雨が大量に降ってきた。ウルトラマンはバック転でそれを回避していくが、爆風に吹き飛ばされ、空中で動きが止まってしまう。そこにファウストの飛び蹴りがウルトラマンに直撃する。ファウストはそのままウルトラマンを掴み、地面に叩きつける。

『フンッ!』

「グァ⁉︎」

ウルトラマンを叩きつけた後、ファウストは余裕からか、ウルトラマンを離す。

『私は影…お前が存在する限り…私が消えることは無い‼︎』

 

ウルトラマンがファウストをメタ・フィールドに送ったことにより、道が開いたので、一夏は沙織の家に急ぐ。

「沙織…」

 

「グォ⁉︎」

『フハハハハ…フンッ!』

「グゥッ⁉︎」

ダメージの大きさに立ち上がれず、両手両膝をついているウルトラマンを、ファウストは容赦なく蹴り飛ばす。

『ここなら勝てると思ったか⁉︎』

そう、メタ・フィールドというウルトラマンに有利な空間の筈なのに、ウルトラマンは手も足も出ない。ファウストはそんなウルトラマンの両肩を掴み、強引に立たせると、フックパンチ。

「グッ⁉︎」

さらにウルトラマンを投げ飛ばす。

「グォッ⁉︎」

投げ飛ばされたウルトラマン。なかなか立ち上がれない様子を見たファウストは、止めを刺そうとする。

『そろそろ楽にしてやる。フンッ!デュァァァ‼︎』

ファウストは両手を突き出し、破壊光弾を撃つ。破壊光弾はウルトラマンに命中、大爆発を起こす。

『たわいない』

そのままメタ・フィールドから去ろうとするファウスト。しかし、ウルトラマンはまだ倒れてはいなかった。

「フォォォォ…ヘェア‼︎」

『何⁉︎』

なんとか立ち上がるウルトラマン。止めを刺したと思っていたファウストが驚愕の声を上げる。ウルトラマンはその隙にクロスレイ・シュトロームを撃つ。

「フッ!シェアッ‼︎」

『グゥッ⁉︎』

ファウストの左肩に命中するが、まだ倒れてはいなかった。

「フッ、フッ…」

ピコン、ピコン、ピコン

コアゲージが鳴り響く中、ファウストは消え始める。ウルトラマンは右手を伸ばすが何も出来ず、ファウストは完全に消えた。

 

「ハァ、ハァ、また…逃げられたか…ウグッ」

変身を解いた一樹。しかしダメージの大きさにしばらく立ち上がれないでいた…

 

「沙織!」

沙織の家に着いた一夏。インターホンを鳴らすが一向に出て来ず、ノブを回したらあっさり開いた。一夏はすぐさま部屋に入る。そこで見た物に一夏は驚愕する。

「これが…沙織の、絵?」

沙織が得意とする、動物達の愛らしい絵では無く、暗い、光を感じない生物。そう、まるでビーストの様な物が描かれていた。中には、頭を潰された状態の人の顔、恐怖に歪む顔が描かれた物もあった…

「嘘だ…これが沙織の絵だなんて…嘘だァァァァァァ‼︎」

一夏の絶叫が部屋に響いた。

 

「教えて…私は…誰?」

左肩を抑えながら森をさまよう沙織。

「誰なの⁉︎」

そこに声が響く。

《お前は、誰でも無い》

「え?」

《そう…お前は人形だ。何故なら、お前という存在は、とっくの昔に死んでるからな》

「…私が…死んでる…」

沙織の頭に、ある映像が流れる。巨大な爪に襲われ、体を引き裂かれる両親と弟。そして、自分に振り下ろされるその爪…

「キャァァァァァァ‼︎」

 

全ての歯車が狂い出していた。まるで、どす黒い霧に包まれたみたいに、完全に光を見失い、俺はこれから、どこへ行くべきかも分からずにいた…by一夏

 

白式に脅迫文を送ったと思われる場所へラウラが着くと、そこにある男性がいた。その男性に銃を突きつけながらラウラが言う。

「…やっぱり生きていたか…溝呂木、慎也…」

その男性は銃を突きつけられているにも関わらず、平然としていた。

「ただいま…ラウラ」




トラウマ回なのに、作者の文才が無いせいでそこまで怖くないってオチ。


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Episode27 別離-ロスト・ソウル-

前書きはいらないなコレは…


まるで…夢の中にいる気分だった。でも、朝が来ればどんな恐ろしい夢も呆気なく忘れてしまい、またいつもと変わらない日常が始まる。だから早く目覚めてくれ…俺は心の中で、何度も繰り返し叫んでいた。by一夏

 

「1年ぶりだな…ラウラ」

銃口を向けられているにも関わらず、親しい友人と再会した様に話す溝呂木。少しずつラウラに近付く。

「またこうして会えるのをずっと楽しみにしていた」

「ふざけるな‼︎」

ラウラは拳銃の最終セーフティを外す。

「…怖い目だな。まるで、あの櫻井とか言う男を初めて見た時と同じ目だ」

ラウラはそれには答えず、溝呂木に銃を向け続ける。

「俺とアイツを同じにするな。ラウラ、俺はお前の心を…」

「溝呂木」

ラウラは溝呂木に割り込む様に話し出す。

「そこで何をしている?」

ラウラに質問に、溝呂木は薄く笑うと答える。

「ゲームさ」

「ゲーム…だと?」

「そう、俺は今最高に面白い遊びをしている最中なのさ」

 

沙織の部屋にあった2人で撮った写真を見ていた一夏を、黒い影が覆っていく。一夏を影が完全に覆った瞬間、一夏の目が見開かれる。

「ウグッ!」

一夏の脳裏にある光景が浮かぶ。ビーストの巨大な爪がある一家を引き裂く光景が…

「ウワァァァ‼︎」

 

「どうした?撃たないのか?なら行くぜ」

ラウラに背を向け、何処かへ立ち去ろうとする溝呂木。ラウラはその背中目掛けて銃を撃つが、溝呂木は黒い棒状のアイテムでその弾丸を弾いた。

「それでこそ俺の仲間としてふさわしい」

「何?」

溝呂木はラウラに向かって黒い波動弾を撃つ。ラウラは右に転がりそれを避け、再び銃を向けるが、既に溝呂木は消えていた…

「クソ!逃げられた‼︎」

そこで、ラウラのISが鳴り響き、ビースト震動波を感知した…

 

一夏の白式もビースト震動波を感知していた。

「まさか…」

一夏の脳裏に、先程のビーストに襲われかけてる沙織が浮かぶ。

「沙織‼︎」

 

震動波を感知した場所の地下に、箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、そして千冬(打鉄装備)の姿があった。

「震動波を感知したのはこの辺りだ。皆、気を抜くなよ」

「「「「はい‼︎」」」」

千冬先導の元、少しずつ震動波の元へ近付く一向。そして、震動波を発している部屋に辿り着いた。

 

震動波を感知した場所へ一夏が急いでると、謎の声が一夏に語りかける。

《お前のせいで、斎藤沙織は消える》

「…誰だ?お前は誰だ⁉︎」

 

「よし、行くぞ!」

打鉄が扉を蹴破ると震動波に向けて突っ込む。

 

《お前のせいで、あの女の家族は消えた…そしてもうじき、あの女自身もな…》

「黙れ!黙りやがれ‼︎そんなの嘘だ…嘘に決まってる‼︎」

 

全員が突っ込むと、そこには震える男性がいた。

「「「「は?」」」」

「あ、あの!な、なんであなた達IS乗りが此処へ?」

男性は震えながら千冬達に聞く。

「貴様!何のつもりだ⁉︎」

千冬が胸倉を掴んで、男性を問い詰める。

「い、いや、私、昨日お酒飲みすぎちゃって、き、気付いたらここに…ほ、本当ですよ?」

「ふざけているのか⁉︎」

その時、男性の胸元から音が聞こえる。千冬がそれを取り上げると、そこには発信機が仕込まれていた。

「これは…」

「わたくし達…」

「一杯食わされた様ね」

「偽のビースト震動波に?」

箒、セシリア、鈴、シャルロットが言う中、千冬は男性に聞く。

「…誰に渡された?」

「し、知らないです!」

「思い出せ!」

再度胸倉を掴み、男性を問い詰める千冬。その途端、男性の声音が変わり薄い笑みを浮かべ、千冬、ラウラの知っている声になった。

《騙されてマジギレかい?織斑教官。そんなに俺が…怖いか?フフフフ…ハハハハハ‼︎》

「ッ⁉︎溝呂木!貴様ぁぁぁ‼︎」

「ヒィィ、ご、ごめんなさいごめんなさい」

「織斑先生!落ち着いて下さい‼︎」

シャルロットが必死になって止めると、千冬はある程度落ち着きを取り戻した。まだ肩で息をしていたが…

「奴は…なんだってこんな手の込んだイタズラを…」

その疑問に、今までずっと黙っていたラウラが答える。

「ゲームです」

「ゲーム…だと?」

「はい、溝呂木は楽しんでいるんです。私達の怒りや、恐れを」

 

バイクで山道を突っ走る一夏の眼前に、何故か止まっているマイクロバスがあった。

「…なんだ、あのマイクロバスは?」

念の為、麒麟のビームマグナムをガトリングモードで展開し、バスに乗り込む。バスの中には誰もおらず、中にはただ定期入れと思われるケースが落ちているだけだった。一夏はそれを拾い上げ、中身を見ると、家族5人が、幸せそうな顔で写っている写真が仕舞われていた。

「(まさか…)」

背後に気配を感じた一夏が、後ろを振り向くと、以前ウルトラマンが倒した筈のペドレオンの小型体がいた。

「ウォォォォォォ‼︎」

ビームマグナムを一夏は乱射した。

 

「ハァ、ハァ、ウグッ!駄目だ、一夏…怒りに支配されてしまっては…ダメだ」

ファウストとの戦いの傷が癒えないまま、一樹は森に向かって急いでいた。

 

「ビースト‼︎また誰かを犠牲にするつもりか⁉︎」

ビームマグナムを構えながら、一夏は森の奥へ向かっていく。一夏の周りには、ペドレオンが大量に発生していた。

「その前に俺が!お前達を全滅させてやる‼︎」

一夏はペドレオンに向かって銃を乱射、ペドレオンは次々とまるで風船の様に破裂していく。

「砕け散れ…この世界から消えろ‼︎」

次々と現れるペドレオンに、一夏はビームマグナムを乱射する。

「消えろ…消えろ…消えろォォォォ‼︎」

「目ぇ覚ましやがれ一夏‼︎」

一夏の前に、一樹が立ち塞がる。

「お前が戦ってるのは、全部幻だぞ‼︎」

しかし一夏は、一樹の言葉に耳を貸さない。

「なあ…邪魔すんなよ…だって俺は…人の命の為に戦ってんだからよ…」

「しっかりしやがれ‼︎闇の波動に囚われたら…2度と戻ってこれねえぞ‼︎」

「うるせえな!邪魔すんな‼︎」

普段の一夏ならば、絶対にあり得ない事が起きた。なんと一夏は一樹に向かってビームマグナムを撃ったのだ。一樹は右に飛び込んで避けると、一夏の眉間目掛け、ブラストショットを撃つ。瞬間、黒い影が一夏から飛び出し、消滅した。

「一樹…」

正気に戻った一夏に、一樹は説明する。

「ビーストの一部がお前に憑いていた…奴らは人の怒りや憎しみを吸収し、幻覚を見せる」

「幻覚?」

「ああ…恐らく、誰かがお前を狙ったんだ」

「誰かって…」

「それは分からない。ただ…」

「織斑君…」

何処から現れたのか、沙織がすぐそばにいた。

「沙織!良かった。てっきり君が誰かに殺されたんじゃないかって…」

会いたかった沙織に会えたことで、一夏は喜びながら沙織に近付き、優しく肩を掴む。しかし、沙織はその手をまるでくっついた虫を払う様に一夏の手を振り払う。

「殺されたわ…」

「…え?」

「私も…私の家族も、織斑君のせいで殺されたのよ…」

「俺の…せいで?」

すると、沙織の声が不気味に低くなり、紫色の闇に包まれていく。そして、チカチカとファウストの顔が見えた。

「さっきも言っただろ?お前のせいで私は殺された』

一夏は目の前の光景に、思わず後ずさりする。

「操り人形として、利用される為に…』

沙織の体を闇が完全に包む。そして、闇が晴れると、そこには沙織の姿は無く、等身大のファウストが立っていた。

『私はファウスト……光を飲み込む、無限の闇だ』

「嘘だ…嘘だ…」

自分の恋人がファウスト…信じたくない現実を突き出され、呆然とする一夏。その状態を見た一樹は、痛む体に鞭を打ち、左胸ポッケからエボルトラスターを取り出す。

「なら俺が……その闇を打ち払う‼︎」

そしてエボルトラスターを引き抜き、正面に構える。それを見たファウストは、黒いオーラに包まれ、巨大化していく。

「だぁっ‼︎」

一樹もエボルトラスターを天空へ掲げ、ウルトラマンに変身する。

「フッ!」

『デヤァ!』

 

その光景を、少し離れた所で溝呂木が見ていた。悪魔の様な、歪んだ笑みを浮かべて…

「始めようぜ…デスゲームを」

 

「ハッ!」

ウルトラマンはファウスト目掛けて走り、投げ技を仕掛けようと掴む。対するファウストも、ウルトラマンを掴む。

『デュア!』

ファウストはウルトラマンを投げようとするが、ウルトラマンは側転でその勢いを殺す。ファウストは続けて上段回し蹴りを放つが、ウルトラマンは屈んでそれを避けると、ファウストの左腕を掴み、ファウストの腹部に蹴りを入れる。

「シュ!」

『グォッ⁉︎』

続いてファウストの頭を掴み、投げ飛ばす。ファウストは受け身を取り損ね、地面に激突する。

「ヘェア!」

『グッ⁉︎』

その様子を見たウルトラマンは、エナジーコアにアームドネクサスを付け、ジュネッスにチェンジ、一夏を巻き込まない様、メタ・フィールドを展開する。

「フッ!フアァァァァ…シュ!ヘェア‼︎」

しかし、ファウストがダーク・フィールドを展開した。

『フンッ!デュアァァァ‼︎』

しかもウルトラマンが避けた一夏まで、ダーク・フィールドへ入っていた…

 

『ダアァァァァ‼︎』

「デェァァァァ‼︎」

2人の強烈なクロスカウンターが互いに決まった所で一夏は目を見開いた。互いに大きなダメージを受けた巨人2人は、片膝をつく。

『グゥ…ハァ‼︎』

先に立て直したファウストが、ウルトラマンを強烈なフックパンチで空中へぶっ飛ばす。

「グッ…シュ!デェァァァァ‼︎」

ウルトラマンは身を反らして体制を整え、空中からファウストに飛び蹴りを喰らわせようとするが、ファウストは側転で回避した。着地したウルトラマンはすぐにパーティクルフェザーをファウストに向けて連続で撃つ。ファウストは側転で続けて避ける。ファウストが立った瞬間を狙い、再度、パーティクルフェザーを撃とうとするウルトラマン。だが…

「フッ⁉︎」

ファウストの足元には一夏がいた為、攻撃出来なかった。

『やはり脆弱だな…フンッ‼︎』

「グアァァァ⁉︎」

ファウストはウルトラマンに闇の波動弾を撃つ。一夏に気を取られ、回避出来なかったウルトラマンはうつ伏せに倒れる。ファウストはウルトラマンを地面に押し付け、首を絞め上げる。

『今日こそ貴様を倒し、私の一部として取り込む…更に無敵となる為に…』

ファウストが言い終わると、ウルトラマンから次々光が抜け出され、ファウストに吸収されていく。

『ハハハハハ…ハッハハハハ』

「グッ⁉︎グォッ⁉︎」

『ハハハハハ』

「グアァァァァ!?」

ピコン、ピコン、ピコン

 

一夏は思い出していた。沙織と出会ってからの日々を…沙織との思い出を…

『私の絵、そんなに褒めてくれたの、織斑君が初めてだよ』

『織斑君!好きです!私と付き合って下さい‼︎』

『IS学園での生活、頑張ってね』

信じたくなかった。あの笑い声を上げてる巨人が、沙織だなんて…

「やめてくれ…ウルトラマンを…一樹を、これ以上、傷つけないでくれ…沙織‼︎」

無我夢中で、ビームマグナムをファウストに向かって撃つ一夏。ファウストの顔にそれは命中。傷こそつかなかったが、ファウストは一夏の方を向く。すると、ウルトラマンのエネルギーを吸っていたのが止まった。

 

「何をしている⁉︎早くウルトラマンの光を奪え‼︎」

 

ファウストの頭に、溝呂木の声が響くが、ファウストは聞いていなかった。思わずウルトラマンを離すファウスト。

『織…斑…君?』

 

「微かに記憶が戻ったか…ならこうするまでだ」

溝呂木が右人差し指と中指を眉間に当て念じる。

 

ダーク・フィールドにビーストが現れた。

「あのビーストは⁉︎」

一夏がビーストに取り憑かれていた時、脳裏に浮かんだビーストがそこに現れた。ビーストは一夏に近づいて行く。

「フッ⁉︎シェア‼︎」

ビーストが一夏を狙っているのに気付いたウルトラマンが、パーティクルフェザーをビーストに向かって撃つ。ビーストの爪に当たるが、大した効果は無いようだ。ウルトラマンは何とか立ち上がろうとするが、体が言うことを聞かない。その間にも、ビーストは一夏に近づく。

 

「ソイツはもう良い…消せ」

 

溝呂木の指示に従い、一夏に向かってその巨大な爪を振り下ろすビースト。

「うわっ!」

一夏も思わず腕で顔を覆う。が、いつまで経っても予測していた衝撃が来ない。

 

「何⁉︎」

溝呂木も驚く光景がそこにあった。

 

『グ、グォォ…』

ピコン、ピコン…

なんと、ファウストが身を呈して一夏を庇ったのだ。ビーストがその鋭い爪をファウストから引き抜くと、そこから光の血が吹き出す。ビーストは邪魔くさそうにファウストを蹴飛ばすと、再度一夏に爪を振り下ろそうとする。

「フッ!」

そこに何とかウルトラマンが間に合い、ビーストの両腕を掴み、一夏とファウストから離す。

「フオォォォ…ヘェア‼︎」

エルボーカッターでビーストの爪を破壊すると、そのまま横へ投げる。ビーストが一夏とファウストから充分に離れると、クロスレイ・シュトロームを放つ。

「フッ!シェアァ‼︎」

なんとかビーストを倒す。そこでダーク・フィールドは解除されて行き、ウルトラマンも片膝をつき、消えて行った…

 

ビースト震動波を察知した箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、千冬が森に着くと、一夏が少女を抱えていた…それを見て、血相を変えて一夏に飛びかかろうとする5人の前に、一樹が立ち塞がる。

「どけ‼︎」

「どいて下さい‼︎」

「どきなさいよ‼︎」

「どいて‼︎」

「どかんと撃つ‼︎」

しかし、千冬も無言で5人を止める。

「…今回は…よせ」

一樹は弱々しく言う。シャルロットが食ってかかろうとするが、ようやく一樹の状態に気付く。

「どうしたの櫻井君⁉︎身体中、血だらけだよ⁉︎」

もはや一樹の制服は、血で汚れていない所を探す方が困難な状態になっていた。しかし、一樹はその点には何も言わず…

「今回は……頼むから、下がってやれ…」

「……分かった」

背が高い千冬は後ろの惨劇が見えたのだろう。5人を引きずって、戻っていく。6人が戻って来ないと分かった途端、一樹は倒れた。

 

「沙織!死ぬな…死んじゃダメだ‼︎沙織‼︎」

沙織はゆっくりと目を開ける。

「織斑…君……私………後悔なんて……してないよ………織斑君と……出会えたこと……」

沙織は、ゆっくり、ゆっくりと一夏に手を伸ばす。一夏はその手を握る。その手は…氷の様に冷たかった…

「もっと………色んな事…………話し……たかった……な……」

「俺だって……まだまだ話足りねえ…話したい事が…一杯あるのに‼︎」

一夏の目から大粒の涙が流れる。感情はそれを否定したいのに、無駄に溜まってる知識は、それを理解しているのだ。沙織の手が、どんどん冷たくなっていくことを…

「ごめん…………………………ね…………」

沙織はそこで目を…閉じた

「沙織⁉︎沙織!沙織‼︎」

沙織の体が金色に輝き、美しい光の粒になって消えて行った…一夏の腕の中に、彼女はもういない…

「う、ウワァァァァァァァァァァァァ‼︎沙織ィィィィィィィィィィィィ‼︎」

一夏の絶叫が森に響く…

 

「ごめんな…一夏…間に合わなくて、ごめんな…」

もう少し早くビーストを止められれば、ファウストにあの爪は刺さらなかったかもしれない。あの時動けなかった自分を呪う一樹。顔が涙でぐしゃぐしゃになりながらも、ひたすら一夏に謝っていた…




…ネクサス見ながら書いたけど、やっぱりここら辺は辛いな…


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Episode28 幻覚-ハルーシネイション-

「全部お前のせいだ』

一夏の目の前で、闇に包まれていく沙織。

「嘘だ……」

「お前のせいで、私はこうなった…』

闇に完全に包まれた沙織。闇が晴れると、等身大のファウストがそこにいた…

『私はファウスト…光を飲み込む、無限の闇だ』

 

『今日こそ貴様を倒し、私の一部として取り込む…』

「グッ!グォッ‼︎」

ピコン、ピコン、ピコン

ファウストに押さえつけられ、光を奪われていくウルトラマン。

「やめろォォォ‼︎」

麒麟のビームマグナムをガトリングモードでファウストに打ち込む一夏。

『織斑…君』

 

一夏の腕の中で、金色の光の粒となって消えて行く沙織…

「う、ウワァァァァァァァァァァァァ‼︎沙織ィィィィィィィィィィィィ‼︎」

 

世の中には、自分の力だけじゃどうする事も出来ない事がある…この残酷な現実に…俺はただ立ち尽くす事しか出来なかった…だけど、この時の俺はまだ知らなかった。これが、悪魔の戯れの、ほんの始まりでしかなかった事を。by一夏

 

沙織とのデートコースだった動物園で、一夏は悲しみに暮れていた。そんな一夏の後ろに、溝呂木がいるとも知らず…

 

IS学園の管制室では、束が専用機持ち達の前に立ち、画面に新しいクロムチェスターの合体形式を発表した。

「姉さん、これが新たに開発された対巨大ビースト対策形態ですか?」

『うん!その名も“メガキャノンチェスター”だよ!β機のメガビームキャノンにγ機のメタ・ジェネレーターを直結させることで、バニッシャーの威力をストライクチェスターよりも25%もアップする事が出来るんだ』

「しかしこの様な戦車タイプですと、機動力が落ちませんか?」

そう、ストライクチェスターが高速戦闘機状態なのに対し、メガキャノンチェスターは砲台が巨大な戦車タイプなのだ。

「要は使い分けだ。ビーストが強くなっている分、こちらも攻撃の選択肢は増やしておく必要があるからな」

千冬の言葉に、皆が納得している中、鈴があることに気づく。

「あれ?一夏はどこよ?」

「そう言えば見当たらないけど…」

「織斑なら特別休暇を与えている」

千冬の言葉に皆驚きの表情を浮かべる。

「…何故ですか、教官」

「織斑先生だ。お前達にも話しただろ?斎藤沙織の件について」

沙織の名が上がった途端、皆が何とも言えない表情になる。

「…今の織斑は戦える状態では無い。心を回復させる為にも、休んだ方が良いと判断した。以上だ」

「しかし溝呂木は!そんな心の隙を狙うんですよ⁉︎」

ラウラが反論するが、千冬は冷静に返す。

「しかし、調査上では溝呂木が斎藤沙織の件に、関わっている足をつかめなかった…」

「だから一夏に直接聞きたいんです!それに、我々だって一夏を助けたいと思っています‼︎」

 

一樹は、ストーンフリューゲルでここ最近の連戦の傷を癒していた。その頭には汗が滲んでいる。まるで、悪夢を見るかの様に…

「ウグッ!クゥゥ…」

 

動物園のベンチで座りながら、沙織に貰ったお守り、ガンバルクイナ君を見つめる一夏。

『お守りだよ、ガンバルクイナ君』

「…沙織」

(さやか)ー!」

「彩!ちょっと待ちなさい‼︎」

一夏の目の前を小学生くらいの女の子が走ってきた。キリンのコーナーに着くと嬉しそうに言った。

「やった!1着‼︎」

その後ろから家族と思われる人達が女の子に近づいた。

「急がなくても動物は逃げないよ彩」

「だって全部見るんだもん!ゆっくりしてられないよ‼︎」

「よーし、写真撮るぞ。並んで並んで」

父親らしき人物がその兄妹と母親らしき人物を写真に撮ると、一夏のとこへ近づいてきた。

「すみません、写真撮ってもらえませんか?」

「…ええ」

カメラを受け取り、一家に向ける一夏。

「はい、チーズ」

カシャッ

「これで良いですか?」

「はい、ありがとうございます」

「いえいえ」

一夏がカメラを返すと、一家は礼を言い、他の動物の所へ走って行った。その姿を見ながら、一夏は沙織との会話を思い出していた。

 

『ライオンも、ゾウもキリンも、沙織が描くのは、みんな家族ばっかだよな?なんでだ?』

『うーん…学校のテーマだから。“家族の肖像画”』

『家族の肖像画…か。いつか沙織の家族を紹介してほしいなあ…』

 

沙織との会話を思い出していた一夏。

「紹介したくても出来ないの。だって…あなたのせいでみんな死んじゃったんだもの」

一夏が声の方を向くと、そこには沙織がいた。

「沙織…」

沙織は一夏の方を見るも、何も言わずに立ち去ろうとする。

「沙織‼︎」

一夏はそんな沙織を追って走り出す。

「ハア、ハア、ハア…」

動物園にある芝生広場についた一夏。一夏の正面の木から沙織が出てきて、話す。

「2年前のあの日のことよ…私達家族が殺されたのは…ここであなたと出会った日の夜、私達家族はビーストに襲われて死んだの…全部、あなたのせい」

そう言うと沙織は消えて行った。一夏は沙織がいた所に駆け寄るが、当然沙織はいない。そこに…

「織斑一夏」

悪魔がいた。

「やはり心が弱い奴ほどいたぶり甲斐があるな」

季節外れの黒いコートを着た男が、一夏に近づいてきた。

「俺は溝呂木慎也だ…お前の姉の元同僚であり、お前の仇だよ」

 

「斎藤沙織は…俺の操り人形だったのさ」

「テメエが…沙織を…」

「面白かったぞ?お前達の恋人ごっこを見てたのは」

「テメエ…ふざけるな‼︎」

一夏は溝呂木に殴りかかるが、溝呂木はあっさり避けた。

「この!」

一夏は溝呂木の胸ぐらを掴む。が溝呂木はそれを振りほどき、一夏の胴を殴る。

「ガハッ!クソ…」

もう一度溝呂木の胸ぐらを掴んだ一夏。溝呂木に殴りかかるが、溝呂木の目から放たれた闇の波動を受け、動きを止める。溝呂木はそんな一夏を掴み、別時空へ飛び込んだ。

 

「ウグッ!いってえ…」

生活感も何も無い部屋の様な場所に一夏は飛ばされた。起き上がった一夏の背後の天井には、ダーク・フィールドが広がりつつあった…

「織斑君!来てくれたんだ!嬉しい‼︎」

どこからか沙織が出てきた。一夏は何の疑問も持たずに沙織についていく。再び時空の歪みを通ると、先ほどとは違って、可愛らしい部屋へと着いた。

「ここは…」

「さっきからどうしたの織斑君。悪い夢でも見たの?」

「…夢?」

「うん、夢」

沙織の言葉に、一夏が部屋を見渡すと、沙織が描いたと思われる可愛らしい動物達の絵が飾ってあり、中には制作途中と思われる絵もあった。

「…沙織、本物なんだよな?生きてたんだ!良かった〜」

沙織の肩に触れると、納得した様に呟く一夏。沙織はそんな一夏の手を引くと、リビングと思わしき部屋に案内した。

「パパ、ママ、いつも言ってた彼だよ」

「あ、どうも」

この時、一夏が正気だったなら気付いた筈だ。沙織が両親として紹介していたのは、マネキンだったことを…

「初めまして。俺、織斑一夏と言います」

しかし、一夏は気付かず、マネキンに頭を下げていた。挨拶が終わると、沙織の方を向いて微笑む一夏。沙織も笑っていたが、突如崩れる様に消えて行った。一夏はすぐに辺りを見渡す。すると、沙織が森の中で倒れていた…

「沙織!」

倒れてる沙織に駆け寄る一夏。沙織を起こす様に抱き抱えると、沙織は左手を伸ばしてきた。一夏はそれを掴むと、沙織の顔を見る。沙織は悲しげに笑うと

「ごめん…ね…」

目を閉じた…

「沙織、沙織!嫌だよこんなの!沙織!死ぬな!沙織‼︎」

一夏の周りが、闇に染まっていく…

 

ストーンフリューゲルの中で一樹は、一夏が徐々に闇に染まっていく様子を()()

「(一夏駄目だ!闇に惑わされては駄目だ‼︎)」

 

一夏が行ったと思われる動物園に、専用機持ちの5人がいた。どうやら一夏を探しに来た様だ。

「一夏〜!」

「返事して下さいまし〜!」

「どこにいるのよ一夏!」

「一夏!返事して‼︎」

「一夏!どこにいる⁉︎」

鬼気迫る5人、それもそうだ。先ほどまであった白式の反応が、急に消えたのだから…

 

「沙織!沙織‼︎」

何も感じない空間で一夏はばらばらのマネキン人形を沙織と呼んでいた…そんな一夏の頭を誰かが掴む。

「この弱虫が!」

バキッ!

何者かに殴られた一夏。起き上がって誰かを見てみると、なんと千冬だった。千冬の後ろから、IS学園での仲間達が現れてくる。

「一夏、貴様は彼女が死んでた事に気付かなかったのか?呆れた奴だ」

「わたくしはこんな弱い人に負けたのですか?」

「アンタって相変わらず馬鹿ね」

「一夏ってそんなに馬鹿だったんだね。僕がっかりだよ」

「何故お前の様な奴に私は助けられたんだ?」

一夏を囲んで次々と一夏を攻撃する6人、更に千冬は一夏の顔を掴むと不気味に笑いながら言う。

「溝呂木も面白い遊びを考えたな。そうだろお前たち?」

「「「「「本当ですね」」」」」

 

一夏が闇の空間で追い詰められている頃、現実空間では5人が必死で一夏を探していた。そんな中、ラウラの頭にあの男の声が響く。

《やあラウラ。よく来てくれたな》

ラウラはその声がどこから発せられているのか、辺りを見渡すがどこにも溝呂木の姿は見えない。

「ラウラ?」

シャルロットが不思議そうに話しかけてくるが、ラウラは答えない。

《人間が壊れていく様を見るのは楽しいぞ、ラウラ》

「…何故一夏を?」

《俺は力を得た。悪魔…“メフィスト”の力をな…この力で、お前達全員をズタズタにしてやる》

「一体何故だ?」

ラウラの疑問に一夏は答える。

《お前の為だよ、ラウラ》

「何?私の為だと?」

《ああ。お前も早くこっちに来い》

「ふざけるな‼︎」

《ふざけてなんかいない。お前にはその資格がある。織斑一夏はお前にそれを気付かせる道具だ》

 

「俺は…駄目人間だ…誰も救えやしない…」

頭を抱える一夏の周りで仲間だった筈の皆が一夏を嘲笑う。いつの間にか一夏の周りの人達が消えると、一夏はダーク・フィールドにいた。一夏の背後から影が近づき、一夏を乗っ取ろうとする。

「ダメだ…ダメだ…俺は、ダメだ」

 

「(闇に囚われるな!一夏‼︎)」

痛む腕を伸ばし、エボルトラスターを掴む一樹。エボルトラスターは鼓動と同時に光り輝いた。

 

ダーク・フィールドに、ジュネッス形態のウルトラマンが現れた。

「シュ!シェアッ‼︎」

腕をクロスした後、その両腕を広げ、ダーク・フィールドを少しずつとは言え、光の空間であるメタ・フィールドに変換させていく。一夏を蝕みかけていた影はメタ・フィールドから発せられる光の影響か、一夏から離れていった。呆然とウルトラマンを見上げる一夏。

「光を失うな!一夏‼︎」

あと少しで一夏の元にメタ・フィールドが到達する…しかし…

《異層の干渉もそこまでだ》

溝呂木の言葉の後、広がりつつあったメタ・フィールドをダーク・フィールドが押し返すとウルトラマンも消えて行った。

 

光が一樹の元へ戻る。光が晴れると、鞘から抜かれていたエボルトラスターがあった。一樹は目を見開くと、上体を起こす。

「ハア、ハア、ハア…一夏…」

 

《フン、織斑一夏は返してやる。まだまだ遊び甲斐があるからな》

突如時空が歪み、そこから一夏が現れた。

「ウワッ!」

「「「「一夏‼︎(さん‼︎)」」」」

5人が一夏に駆け寄るが…

「ヒィィ⁉︎」

先程空間で責められた事により、5人に恐怖する一夏。

「しっかりしろ一夏!」

ラウラが一夏に平手打ち。一夏の目は漸く光を取り戻した。

「…あれ?皆?」

「一夏、お前の悲しい気持ちは分かる…だが、立ち止まっては駄目だ‼︎」

ラウラの言葉に続き、箒が話す。

「…本当に沙織とやらの事を思うなら、ビーストを憎め」

「…え?」

「その憎しみを、力に変えるんだ。良いな?」

そんな所に、ある家族が近づいて来た。

「あ、さっき写真を撮ってくれたお兄ちゃんだ。さっきはありがとう‼︎」

一夏もそれに気付くと、軽く頭を下げる。その子の両親も頭を下げると、楽しげに去っていった。

「…そうだな。あの子達の幸せを、俺達が守らなきゃな…」

その夜、ある一家の消息が絶たれた…



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Episode29 悪魔-メフィスト-

来たぞ、悪魔が…


絶望から立ち直るのに、憎しみが必要だった。でも…by一夏。

 

「先程、ビーストに襲われたと思われる乗用車に残されたカメラの写真です」

モニターに映された写真を見て、一夏は驚愕する。

「これは⁉︎」

「織斑、知ってるのか?」

「今日、たまたま動物園で会ったんです。この写真は俺が撮りました」

「そうだったんですか…その場所の監視カメラによると、ビーストはこの家族の親を殺害した後、生きたままの状態で子供達を連れ去っています」

「んな!子供達はまだ生きてるのか⁉︎」

箒は愕然とする。そして、察せられる理由をセシリアが言った。

「おそらく…人質として、ですわね」

その言葉を聞いた一夏は倒れこむ様に近くのイスに座った。

「まさか…あの家族は、俺と出会ったばかりに?」

 

兄妹を連れ去ったビーストは、別荘にいた。兄妹達はまだ眠っている。そんな別荘の外では、溝呂木が不気味な笑みを浮かべていた。

「さあ…デスゲームの第二幕だ」

 

「○○山荘に、微弱だがビースト震動波確認、状況の把握の為にまずは織斑、篠ノ之のα機のみ出撃せよ」

千冬の指示で一夏、箒はα機に乗り込み、現場へ急行した。

 

一夏達が向かってる山荘に一樹も走っていた。もうすぐで着く、そんな時に邪悪な視線を感じ、止まる。すると、物陰から闇の波動弾が一樹に向かって飛んできた。前に飛び込んでそれを回避する。木の後ろに隠れ、誰がやったか確認しようとする。そこに、声が響いた。

《何故戦う?誰にも賞賛されず、ボロボロになりながら…何の為にお前は戦う?》

再度一樹に向かって波動弾が飛んでくる。すぐさま顔を引っ込め、避けた。そんな一樹の目の前に、溝呂木が現れた。

「…そんな孤独な戦いを続けても、虚しいだけだぜ?」

「……」

 

α機が現場に到着。山荘前に着くと、一夏は白式のセンサーで確認する。

「ッ⁉︎4つある光点の内2つは人間じゃねえ‼︎子供達が危ない‼︎行くぞ箒‼︎」

「ああ‼︎」

2人が山荘に突入しようとすると、背後で爆発音が鳴る。一夏が確認すると、新たな震動波があった。

「チッ!どうすれば…」

そこに、2次部隊であるシャルロットとラウラが到着した。

「一夏、私があちらを確認する。一夏と箒はシャルロットと共に子供達の救出を」

「分かった!頼んだぜラウラ‼︎」

 

「チッ!」

背後から次々と撃たれる闇の波動弾を一樹は木から木へと移動して避ける。溝呂木は笑いながら一樹に近づく。

「お前の痛みなど誰も理解しやしない。篠ノ之箒とやらが良い例だ。お前が今助けに行こうとしてる子供達ですら、時間が経てばお前の事を忘れる」

「……」

 

一夏達が山荘に突入すると、子供達に強引に薪を食べさせようとする両親の姿があった。

「子供達を離せ‼︎」

一夏に気付くと、両親と思わしき2人は一夏達に薪を投げてきた。

「ぐっ⁉︎」

「あっ⁉︎」

「箒!シャル!」

一夏が箒とシャルロットに気を取られてる隙に、ビーストは子供を連れて山荘を脱走する。

「待ちやがれ‼︎」

 

ラウラはもう一つの震動波の場所に向かっていた。しかし、人の気配を感じ、木陰に隠れる。そこから一樹の声が聞こえた。

「…誰かに分かってもらおう、そんな事は思ってない。俺は、俺がしてきたことの『償い』と、こんな俺が得た光の意味を見つけるために…戦ってるだけだ‼︎」

懐からエボルトラスターを取り出す一樹。それを見て、不気味に笑いながら黒いアイテム『ダークエボルバー』を両手で掴む溝呂木。そして木陰に隠れていたラウラに語る。

《ラウラ、よく見ておけ。これが今の俺の姿、俺の力だ》

「ッ⁉︎」

気付かれていた事に驚いてるラウラを他所に、溝呂木はダークエボルバーを左右同時に引き、闇に包まれる。『ダークメフィスト』に変身。メフィストを視認した一樹も、エボルトラスターを鞘から引き抜き、天空へ掲げた。

「ハァ!」

ウルトラマンに変身した一樹。メフィストと対峙する。ファウストがピエロならばメフィストは悪魔。背骨や肋骨が浮き出た様な禍々しい模様がファウストより不気味さを増していた…

『ハッ!フゥゥゥ…ハッ!』

メフィストは右腕にメフィストクローを呼び出し、ウルトラマンと対峙する。

 

一夏は両親の姿をして子供達を連れ去ろうとするビーストを追っていた。

「やめて!お母さん!」

「やめてよ父さん!本当にどうしたんだよ⁉︎」

「あーうるさい!彩来い‼︎」

父親に扮したビーストは、兄である薫を放り出し、彩のみを連れて行こうとする。

「お兄ちゃん!助けて‼︎」

「彩!」

薫が美香の元へ走りだそうとするが…

「薫!うるさい‼︎」

母親に扮したビーストが薫をどつき、転ばせた。そこに一夏が到着。麒麟のビームマグナムを部分展開する。

「ビースト‼︎」

一夏の声に反応したのか、ビーストが振り向く。その顔は、歪んだ笑みを浮かべていた…

「ッ!」

威力を最小限に絞ったライフルモードを撃つが、母親に扮したビーストはそれを右手で弾いた。

「チッ!」

再度マグナムを撃とうとする一夏だが…

「やめろコイツ!」

ビーストをまだ母親だと思っている薫が一夏を止めようとする。

「離せ!アレは君の母さんなんかじゃない‼︎君の母さんも父さんも、もう死んでるんだ‼︎」

「嘘つくな!そんなことある訳無いだろ‼︎」

一夏を薫が抑えてる間に、美香を連れ去ろうとするビースト。

「助けて!お兄ちゃん‼︎」

一夏は薫を振りほどき、ビームマグナムを構える。すると、母親ビーストは右手が禍々しい爪の生えた状態になった。一夏が引き金を引くより早く、ビーストは一夏の腕を蹴り上げ、空いた胴体に更に蹴りを入れて吹き飛ばした。

「グハッ!」

 

メフィストはウルトラマンに飛び込み蹴りを放つ。が、ウルトラマンは両腕で受け止める。

『フンッ!』

ウルトラマンはすぐに一回転右回し蹴りを放とうとするが、メフィストはしゃがんで回避した。

「シェア!」

『ハッ!』

 

「織斑君達が行った現場に、黒い巨人が現れました‼︎」

麻耶の報告を聞き、千冬はすぐに指示を出す。

「よし!オルコットに凰もβ機で出撃せよ‼︎」

指示を受けた2人はすぐに機体に乗り込み、出撃した。

 

『ハッ!』

メフィストクローを突き出してくるのを、空手の要領で受け流すウルトラマン。しかし、空いた胴に、メフィストの左回し蹴りが放たれる。

「グアッ!」

更にクローを突き出してくるメフィスト。ウルトラマンは両手でそれを受け止める。メフィストは引くと見せかけて、再度クローを振り回す。

『デェア!』

が、ウルトラマンは前に飛び込んでそれを回避。メフィストに対峙するが、メフィストクローの攻撃を2回連続で喰らってしまう。

「グアッ⁉︎」

ウルトラマンの身体から火花が散り、痛みで動きが止まっている所に、メフィストのストレートキックが入る。

「グアッ⁉︎アッ…」

吹き飛ばされ、地面に背中を強く打ったウルトラマン。そこに、メフィストはクローから波動弾を撃つ。

『フンッ!ハァァァ…トゥア!』

「シェア!」

ウルトラマンはその波動弾を左に飛び込んで回避した。

 

「一夏!」

箒達は一夏と合流した。

「みんな…」

「一夏、機体に戻るぞ」

「で、でもあの子達が⁉︎」

一夏が反論しようとすると、解放回線で鈴が報告してきた。

『アタシ達もそろそろ着くわ。合流しましょう』

「「「分かった(よ)」」」

 

『フンッ!ハァァァァ…』

「ファァァァ…」

メフィストはクローでウルトラマンを斬ろうとするが、ウルトラマンは両腕でクローを受け止める。メフィストは全身の力を入れて押しきろうとするが、ウルトラマンは逆にそれを利用し、振り払うと、メフィストに前蹴り。そこに、チェスター3機が到着した。

「んな⁉︎黒い巨人は死んだ筈だ‼︎」

箒の驚きの声にシャルロットが反応する。

「よく見て箒。模様が違うよ」

 

司令室でも、千冬が驚いていると、モニターにラウラの顔が出てきた。

「…どうした?」

『教官、あの黒い巨人は…溝呂木慎也です!』

「何⁉︎溝呂木が…」

 

『ハッ!』

「シュ!」

対峙しているウルトラマンとメフィストの足元を、美香を連れ去ろうとしているビーストがいた、その後ろには薫もいた。

「お兄ちゃん!助けて!」

「彩!彩‼︎」

それに気付いたウルトラマン。

「フッ⁉︎」

兄妹を助けようと動き出すが、そこにメフィストのクロー攻撃が飛んでくる。

『デュア!』

体を反らしてその攻撃を回避したウルトラマン。

『お前の相手は俺だぜ?』

「(このクソ野朗ッ‼︎)」

メフィストクローを突き出してくるメフィストの腕を掴み、投げようとするが、メフィストは側転でその勢いを殺すと、ウルトラマンに前蹴りを放つ。

『テェア!』

「グッ!」

更にメフィストはウルトラマンの頭上を飛び越え、ウルトラマンの背後に回ると、メフィストクローで斬りつけた。

「グアッ⁉︎」

今までの戦闘のダメージが抜け切っていないウルトラマンは前のめりに倒れこんだ。

「グッ…」

それを見たメフィストは鼻で笑うと、アレを呼んだ。

『フン!()()()()()

 

地面が割れ、そこから以前ウルトラマンがダーク・フィールドで倒した筈のビースト『ノスフェル』が頭部のみを出した。ノスフェルは彩を両親ごと体内に吸収した。

「彩!彩ァァァ‼︎」

 

「あのビースト…生きてやがったか…」

ノスフェルを見た一夏の瞳からは、光が失われていた…

 

『フン!ハァ!』

メフィストクローを連続で突き出してくるメフィストの腕を蹴り、その腕を掴むウルトラマン。

「フッ!シェア‼︎」

『グォッ!』

掴んだ腕を上に上げ、空いた胴にストレートパンチを叩き込む。怯んだメフィストに、更にストレートキックを放ち、吹き飛ばした。

「シェア‼︎」

『グォッ!』

今度はノスフェルを…とノスフェルを見たウルトラマンは驚愕する。

「フッ⁉︎」

ノスフェルの額の肉片の中に、彩が閉じ込められていたのだ…

「助けてェ!助けてェ‼︎」

「ファッ⁉︎」

彩を助けようと走り出すウルトラマンだが、そこにメフィストが回し蹴りを放ってきた。

「グアッ⁉︎」

『フフフフ…』

 

『…全員聞け。黒い巨人より、ビーストの殲滅を優先する。メガキャノンフォーメーションの威力を知る良い機会だ。やれ』

「「「「了解‼︎」」」」

千冬の指示を聞き、一夏が指令を出す。

「Set into mega cannon formation‼︎」

メガキャノンチェスターに合体し、ノスフェルに近付く…

「ガンスタビライザー、オールグリーン」

「了解だ」

シャルロットの報告を聞いた一夏は砲口をノスフェルに向ける。

「お前だけは…絶対に許さねえ…」

 

『フン!』

「グアッ⁉︎」

メフィストはウルトラマンを吹き飛ばすと、眉間に手を当てた。

『フンッ』

すると、薫の視界に一夏がノスフェルを撃とうとしてるのが映った…

「やめろォ!彩がその中にいるんだ‼︎」

 

ノスフェルは徐々にチェスターに近付いて来る。一夏は照準を合わせた。

「今だ、一夏」

「ああ…」

箒の言葉に返事をすると、発射ボタンを押した…

 

「シェア!」

『グォッ⁉︎』

メフィストに飛び蹴りを喰らわせたウルトラマン。すぐにノスフェルの方を見るが、すでにバニッシャーが撃たれていた…

「フゥッ⁉︎(やめろぉぉぉぉ‼︎)」

倒れこむノスフェルに思わず手を伸ばしてしまうウルトラマン。しかし、現実は残酷で、ノスフェルは大爆発を起こした…

「彩!彩ァァァ‼︎」

 

「やった!」

仇を取れた事で喜ぶ一夏。箒もその一夏にサムズアップ。一夏もサムズアップで返した。

 

『フッフッフッフッフッ…』

不気味に笑いながら消えるメフィスト。ウルトラマンも悔しさに拳を握り締め、静かに消えて行った…

 

「一樹!見てたか?俺の活躍!」

一夜明けた翌日、現場にいた一樹に一夏は笑顔で語りかける。しかし、一樹は無言で一夏を殴る。

バキッ!

「ッ!いきなり何しやがる⁉︎」

「そういうのはアレ見てから言ってみろ‼︎」

一樹に言われ、一夏は一樹が指した方を見ると、救急車で運ばれようとしている少女がいた。

「…あの子は…」

「ノスフェル…あのビーストの額のコブに閉じ込められてたんだよ」

「そ、そんな…」

一夏は崩れる様に両膝をつく。一夏に気付いた薫は一夏に飛びかかると、マウントポジションの状態で殴りかかった。

「コイツ!どうして彩を撃ったんだ!俺はお前を許さない!一生お前を許さないからな‼︎」

一樹が薫を抑え、救急隊員に薫を任せると、一夏に言う。

「…憎しみじゃ…他の憎しみを生むだけだ」




憎しみに染まってしまったら、他のことが目につかなくなってしまう。それは危険だと、改めて分かるお話でしたね…ネクサスのEpisode14は。


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Episode30 悪夢-ナイトメア-

俺は…憎しみの激しさから、少女を傷つけてしまった。俺の憎しみは、また誰かを傷つけてしまう…そして、俺の心までも…by一夏

 

IS学園の丘で、一夏はぼーっとしていた。そんな一夏の近くに、定期報告に来ていた一樹が近づく。

「一樹?」

 

地下室では、束がキーボードを叩きながら一夏、一樹の様子を見ていた。

「…いっくんをお願いね、かずくん」

 

目の前の海を見ながら、一樹にと言う訳でもなく、一夏は語り始めた。

「沙織も…動物園で会った少女も、俺に関わった人は、皆犠牲になってしまう…一樹が、雪恵の時に感じたのも…こんな気持ちなのか?」

「…雪だけじゃねえさ。いつもそう言ってるだろ?」

「でも…俺と一樹は違う。俺は一樹みたいに…強い人間じゃねえから…」

「…そんなことはねえよ。誰にだって、忘れてしまいたい過去はある。田中雪恵…彼女は俺の心から一生拭い去れない、辛い過去だ。彼女は、幼い頃から、周りから浮いていた俺と関わってくれていた。だけど、お前も知っての通り…雪は…俺は…俺は何故あの時…ちゃんと止められなかったんだ…」

『かーくん!』

『かーくん♪』

『かーくん…』

『かーくん、ごめんね…』

「…当時、夢を何度も見た。ある森で、雪が俺に呼びかけてくる…雪が…俺を導いたんだ…俺は雪を救えなかった。けど、その雪に導かれて…」

一樹は、エボルトラスターを見つめながら語り続ける。

「この光を得た…この光の意味が何なのか…それは俺も分からない。けどな、お前を助けた時に、こう感じたんだ。“過去は変えられないけど、未来なら変える事が出来るかもしれない”ってな…」

一樹の話を聞いた一夏に、沙織との会話が思い出される。

 

『はい、お守りだよ。“ガンバルクイナ君”4月からのIS学園、頑張ってね』

 

「…無意味だ…未来を変えたって、沙織は2度と戻らない。そんなの…無意味だ」

一夏はそう言うと、寮に向かって行った。一樹はそんな一夏の後ろ姿を見ていたが…

ドックン

手元のエボルトラスターが…ビーストを感知した。

「ッ⁉︎」

一樹はすぐに、その場から走り去った。

その頃、メガキャノンチェスターによって倒された筈のノスフェルが、ある工場を襲っていた…

 

『東金工場でビースト震動波を確認したよ!クロムチェスター隊は出撃して‼︎』

束からの指示を受け、各搭乗機に向かって走る一夏達。

 

ノスフェルが暴れている工場に、一樹も向かっていた。

「(一夏、憎しみを捨てろ。憎しみじゃ何も変えられない)」

 

「(俺は力が欲しい!ビーストを倒せる力が‼︎)」

 

「(一夏、過去と向き合い、未来(いま)を生きるんだ)」

 

「(奴らが沙織を殺した…奴らが‼︎)」

日も沈みかけている中、3機のクロムチェスターが出撃して行く…

『ノスフェルの震動波は微弱だ。かなり弱っていると思われる。各自、ISを展開して探し、見つけ次第撃破せよ』

「「「「了解‼︎」」」」

 

現場に到着した一樹。そこに、悪魔が待ち構えていた。

「櫻井」

「ッ⁉︎」

一樹の正面に現れた溝呂木。

「織斑一夏を救おうったって無駄だぜ」

「溝呂木、てめえ…」

「黙って見てろよ。奴が闇の世界に

顛落(てんらく)していく様を」

「ふっざけんなぁぁぁ!!!!」

エボルトラスターを引き抜き、ウルトラマンに変身する一樹。しかし、それより早く溝呂木がダークエボルバーを左右に開き、ダークメフィストに変身した。

『ハァ。ハッ!』

先に変身完了したメフィストは、メフィストクローを地面に突き刺し、ダーク・フィールドを展開。展開しながら、闇の中に消えて行った。

『フッフッフッ…』

ダーク・フィールド内に着地したウルトラマン。辺りを見回しても、メフィストの姿は見えない。ウルトラマンは警戒しながら辺りを見渡し続ける。そこに、加速音が聞こえた。

「フッ⁉︎」

『ハァ!』

メフィストがクローを突き出しながら、急降下して来た。ウルトラマンは右に回転してメフィストの突撃を回避すると、ジュネッスにチェンジした。

「フッ!シェア‼︎」

メフィストはウルトラマンがジュネッスにチェンジしたのを見ると、楽しそうに笑いながら立ち上がった。

「テェア!」

『トゥア!』

クローを突き出して来たメフィストを飛び越えたウルトラマン。メフィストを後ろから掴み、自らの背中を軸に投げ飛ばした。

「ヘェア!」

『フンッ!』

メフィストは軟着陸し、立ち上がるが、そこにウルトラマンの強烈な回し蹴りが決まった。

「シュア‼︎」

『グゥア⁉︎』

メフィストの体から火花が散り、メフィストは吹っ飛ばされる。

 

ノスフェルがいつ出てきても良いようにと、視界確保のため各々のISを展開した状態で捜索するIS学園組。しかし、ハイパーセンサーを持ってしてもノスフェルを見つけられない。

「ッ⁉︎後ろ⁉︎」

シャルロットのアストレイのセンサーが背後のノスフェルを発見。すぐにマシンガンを撃つが、ノスフェルはその場から去って行った。

「そこ!」

シャルロットから逃走したノスフェルの次の着地点にはラウラがいた。レールカノンを撃つが、ノスフェルは怯んだ様子を見せない。後方へ瞬時加速で下がると、ラウラのいた地点にノスフェルは着地。すぐさま飛び跳ねて行った。

「チッ!」

 

「シュアァァァ…」

ウルトラマンはかなりの高度へ上がって行く。メフィストはそんなウルトラマンを見て、クローをしまった。

「フゥゥゥ…シュア‼︎」

ウルトラマンは空中で高速回転しながらカッター光線を乱射する大技、“ボードレイフェザー”を放つ。いつ撃たれるかタイミングの読めないその技をメフィストは側転で回避していく。ウルトラマンが高速回転をやめた瞬間、メフィストの右手から波動弾が撃たれ、ウルトラマンに命中する。

『フッ!ハァ‼︎』

「グゥアァァァ⁉︎」

かなりの高度から落ちたため、ウルトラマンは大きなダメージを受ける。

 

白式のセンサーが、ビースト震動波を感知した。

「ッ!そこか‼︎」

ノスフェルに向かってビームマグナムを構える一夏。だが、引き金が引けない…

《助けて!助けて‼︎》

一夏の脳裏に、救えなかった少女の悲鳴が響き、なかなか引き金が引けないのだ。

《どうして彩を撃ったんだ⁉︎僕は許さない!お前を一生許さないからな‼︎》

妹を撃たれた少年の叫びも、一夏の指を動かさないでいた…

「ハァ、ハァ、ハァ」

過呼吸気味になっている一夏に向けて、ノスフェルがその巨大な爪を振り下ろそうする…が

 

ドカァァンッ‼︎

 

5人が到着。それぞれの射撃武装でノスフェルを攻撃した。ノスフェルはその攻撃に怯み、闇の中へ姿を消した。皆がISを解除し、一夏に近寄ろうとする中、一夏は今だマグナムを構えたまま固まっていた。

「一夏、何故撃たなかった?」

箒が厳しい目で一夏に聞く。しかし、一夏は過呼吸気味に固まっていた。

「何故撃たなかったと聞いている‼︎」

頭に血が上った箒は、一夏を突き飛ばす。何の抵抗もせず、一夏は倒れたのだった。

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

フラフラながらも立ち上がったウルトラマンに、メフィストは回し蹴りを放つ。

『ハッ!』

「フッ!」

しかしウルトラマンは屈んでメフィストの回し蹴りを避けるとエルボーカッターでメフィストを斬りつけた。

「デェア‼︎」

『グゥア⁉︎』

メフィストは数歩下がって勢いを殺した後、強烈な両足飛び蹴りを放った。

『ドゥア‼︎』

「グゥアァァァ⁉︎」

まともに喰らったウルトラマンは吹き飛ばされ、地面に背中を強打する。

ピコン、ピコン、ピコン…

『フンッ』

 

「(一樹…お前の言う通り、憎しみでは何も変えられなかった…俺はどうすれば良いんだ…俺はどうするべきなのか…分からない)」




では、また次話で。


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Episode31 迷路-ラビリンス-

斎藤沙織編の終わりです!
一夏は、闇を振り払えるのか⁉︎


ピコン、ピコン、ピコン…

コアゲージが鳴り響きながらも、なんとか立ち上がったウルトラマン。

『ハァッ!』

そのウルトラマンに容赦なく前蹴りを放つメフィスト。続いて右ストレートパンチを放つが、ウルトラマンは屈んで回避。

「シェア!」

『グァッ⁉︎』

メフィストに飛び回し蹴りを食らわせ、着地後も更に蹴りを入れる。

「ハァッ!」

『グォッ⁉︎』

そして、メフィストを掴んで一回転し、メフィストを投げ飛ばす。

「シュウ!」

『グァッ⁉︎』

投げ飛ばされた衝撃からか、メフィストの動きはふらついていた。それを見たウルトラマンはエナジーコアにエネルギーを貯め、コアインパルスを放つ。

「シュ!ファァァァァァ…トゥアッ‼︎」

『グァッ!?』

コアインパルスをまともに喰らったメフィスト。

『グォッ⁉︎』

背中を強打。やはりダメージは大きかったようだ。

『ハァ、ハァ…』

その状態でメフィストはダーク・フィールドから消えた。

「ファッ、フゥ、フゥ…」

ウルトラマンも片手片膝をつく。ダーク・フィールドが解除されていくのと同時にウルトラマンも消えていった…

 

ノスフェルの襲撃から一夜明けた朝。一夏は学園の門にいた。

「…俺に…何をしろってんだ…」

そこに白式が鳴り響くが、一夏は無言で白式の待機形態であるガントレットを外すと、門から出て行った…

 

定期報告に来た一樹。

「ん?コイツは…」

白式の待機形態を見つけ、慌てて拾う。

「(なんだ…?この嫌な感じは?)」

その場で急ぎパソコンに白式を繋ぐ一樹。

「ッ⁉︎あのクソ野朗!コイツまで‼︎」

白式まで、『闇』に染まっていたのだ…

「まずはお前を助ける!絶対に‼︎」

一樹はキーボードを高速で叩き始めた。

 

「何⁉︎織斑が学園から出ただと⁉︎」

朝のSHRで、箒が報告して来た事に、千冬は驚愕した。

「朝から部屋に行っても返事が聞こえなかったので、守衛さんに頼んで開けて貰ったんです。けど、部屋の中には退学届があって…」

箒の涙を堪えながらの報告を聞き、千冬はすぐに指示を出す。

「山田先生!今の織斑を1人にしておくのは危険だ!捜索隊を出してくれ!」

「分かりました‼︎」

そして千冬は専用機持ちに限らず、心配そうな顔をしてる1組の生徒全員に言う。

「皆の気持ちは分かる…だが、アイツを信じてやれ。苦悩に打ち勝ち、再びここへ戻ってくるのをな…」

千冬の言葉に、皆は頷いた。

 

白式の『闇』を取り除いた後、千冬に白式を預けた一樹。今はストーンフリューゲルで、メフィスト戦で更に増えた傷を治癒している。

「(一夏…)」

 

束は管制室で千冬指示の元、ノスフェルの分析をしていた。

『ノスフェルの再生能力の謎が判明したよ』

モニターにノスフェルの喉元が映される。

『この口の中にある臓器だよ。本体が活動停止すると、この臓器が活発化して、急速にクローン再生を行ってたんだ』

「なるほど…だから何度倒しても生き返った訳か…」

ラウラが納得した様に呟いた。

 

一夏はどこへ向かうでも無く、森の中をさまよっていた。無気力な顔をして、焦点が合わない瞳を前に向けながら…そんな一夏の目の前に…

「よう、織斑…」

悪魔、溝呂木が現れた…

 

「お母さん、早く早く〜」

森の中、ある親子が楽しげに遊んでいた。

「はいはい、今行きますよ〜」

「お母さん遅〜い」

母親が子供と合流した瞬間、大きな吠え声が聞こえた。

「…え?」

2人は声が聞こえた方を見る。すると、ノスフェルの触手が伸びて来た。

「キャァァァ‼︎」

母親は子供を抱え、自分が盾になろうとする。そこに一樹が間に合い、ブラストショットでノスフェルの触手を攻撃。怯んだ所を更に本体を攻撃した。思わぬ攻撃にノスフェルは怯み、撤退していった。

「…大丈夫ですか?」

「あ、ありがとう…」

 

ビースト震動波を感知したIS学園から、専用機持ちを乗せたチェスター3機が出撃していった。

 

「かわいそうに…よほどひどい目に遭ったんだな」

一夏の顔を見た溝呂木の言葉に、一夏は憎々しげに答える。

「全部…お前のせいじゃねえか…」

「俺の?」

すっとぼける溝呂木に、一夏は憎悪を込めた瞳で睨みながら続ける。

「お前が沙織を殺した…だから俺は…」

「…会わせてやる」

「へ?」

溝呂木の言葉に、間抜けな声で反応した一夏。溝呂木はそんな一夏の耳元で囁く。

「沙織に俺が会わせてやる…そう言ったのさ…」

一夏の目の色が、変わった…溝呂木が一夏の目の前から退くと、そこには満面の笑みを浮かべた沙織がいた…

「沙織…」

沙織は一夏に背を向けると、走り出した。

「沙織!」

一夏も沙織を追って、駆け出した。

 

「本当にありがとうございました!」

「いえ…2人とも無事で良かったです」

「お兄ちゃん、ありがとう‼︎」

幼い子のお礼の言葉に、一樹の顔が思わず緩む。

「…どういたしまして」

そんな一樹の目に、ある場面が()()()

「ふふ…ふふ」

「沙織!沙織‼︎」

楽しげに笑う沙織を追う一夏の姿が…一樹はすぐに表情を厳しくすると、母親に顔を向けた。

「…早めにこの山から出た方が良いです。とにかく、大通りを通って」

「…分かりました。本当にありがとうございました…」

「いえ…お気をつけて」

一樹は母子(おやこ)に早く山から出る様に言うと、一夏の元へ急ぎ向かった。

 

「沙織!」

一夏が沙織を追っていると、森の中にぽつんと、白いドアがあった。ドアが開くと、可愛らしい部屋があり、その中に沙織はいた。

「織斑君、ここで私と一緒に暮らそう?何もかも忘れて、幸せに…良いでしょ?」

沙織の言葉に、一夏は…

「うん、そうしよう、沙織」

そう答えると、扉の中に入っていく一夏。そこに、一樹が到着した。一樹には、ただ森の中に白い板きれが立っていで、板きれを挟んで一夏と沙織が向かい合っているように見えた。一夏が見ている可愛らしい部屋は、幻なのだ。

「一夏‼︎」

一夏を助けようと駆け出した一樹。しかし、進路方向に向けて波動弾が撃たれた。一樹はギリギリそれを躱すと、波動弾の飛んできた方を見る。煙の奥から、溝呂木が現れた。

「邪魔するなって…野暮な奴だ」

「溝呂木ィ‼︎」

溝呂木は一樹に向かって走り出し、ダークエボルバーを突き出す。一樹はそれを空手の容量で受け流す。溝呂木は続けて下段回し蹴りを放ってくるが、腕で受け止める。更にダークエボルバーを突き出してくるが、一樹は両手でそれを抑える。両者は一瞬睨み合うが、一樹はすぐに一夏の方を向く。一夏は、確実に沙織の元へと近付いていた。

 

「沙織…」

「どうしたの織斑君」

「だって…俺のせいで沙織は…」

躊躇う一夏に、沙織は相変わらず満面の笑みを浮かべながら話す。

「言ったでしょ?もう何もかも忘れて良いって。だから…もっと近くに来て」

一夏も沙織に笑みを向け、また一歩近付いた。

 

「駄目だ一夏‼︎闇に囚われんな‼︎」

必死で一夏を止めようと叫ぶ一樹。溝呂木は一樹を一夏から自分へと向けさせ、話す。

「もう奴を楽にしてやれ」

「何?」

一夏に気を取られている一樹は、その言葉に怯んでしまう。溝呂木はその隙を逃さず、一樹の腹部にダークエボルバーを突き出した。一樹は吹き飛ばされ、近くの木に背中を強打する。

「ガッ⁉︎」

「お前は奴の中に自分の姿を見てたんだろうが、いい加減奴は苦痛から解放されたいんだよ」

「ハァ、ハァ…」

なんとか立ち上がりながら、溝呂木を睨む一樹。気にせずに溝呂木は続ける。

「愛する者の思い出に浸って、過去の中で生きる方が奴には幸せなのさ」

「そんなのは…生きてる意味がねえ‼︎」

一樹の言葉を聞くと、溝呂木は笑いながら近づいてくる。

「そう心配するな。後に残った抜け殻は俺が面倒見てやるよ。忠実な操り人形としてな」

「あいつを、てめえのオモチャなんかにしてたまるか!!!!」

素早くブラストショットを取り出し、波動弾を溝呂木に向かって撃つ一樹。溝呂木もまた、同時にダークエボルバーから波動弾を撃った。2人の波動弾がぶつかり、激しいスパークを起こした。

 

一夏の手があと少しで沙織の手に触れる…そんな時、一夏の足元で何かが割れた音がした。一夏が自分の足元を見てみると、そこには沙織から貰ったお守り、ガンバルクイナ君があり、一夏が踏んでしまったことにより、片翼が割れていた。一夏は無言でそれを拾い上げると、動きが止まる。

「織斑君?」

沙織の声にも反応せず、ただただガンバルクイナ君を見つめる一夏。

『誰かの為に頑張ってる織斑君って、きっと輝いてるに違いないもん』

いつかのデートでの沙織の言葉が一夏の脳裏に浮かぶ。更に…

『一夏、過去と向き合い、未来(いま)を生きるんだ!』

一樹の声も、一夏に聞こえた…そこに、先程とは違う、冷たい声が響く。

「何を迷っているの?全て忘れて、楽になりなさい」

周りが暗くなっていく中、一夏の頭に浮かんだのは、沙織が光の粒になる前の一言だった。

 

『ごめん…………………………ね…………』

 

「沙織は…死んだんだ…」

ガンバルクイナ君から、少しずつ光が溢れてくる。

「お前は、沙織じゃない…」

「えぇ⁉︎」

「お前は沙織じゃない!俺の前から消えろぉぉぉぉ‼︎」

ガンバルクイナ君から強い光が溢れ、偽沙織を消し去った。

「うわあああああ‼︎」

 

「「ッ⁉︎」」

離れた所でそれぞれの武器を撃ち合っていた一樹と溝呂木も、一夏の手から溢れる光に驚く。

「一夏!」

「チッ!心を取り戻しやがったか…」

 

「うわあ‼︎」

闇の空間から飛び出した一夏。既に溝呂木の姿は無く、一樹が一夏に駆け寄る。

「一夏!大丈夫かよ⁉︎」

「一樹…」

一樹が一夏に肩を貸し、立ち上がらせようとすると、近くでノスフェルの吠え声が聞こえた。

《土産を置いていくぜ。じゃあな》

溝呂木の声が消えると、一樹は一夏をすぐ近くの木に寄りかからせる。

「…お前はよくやったよ。だから少し休め。俺は行ってくる」

駆け出した一樹。何とか起き上がった一夏も、吠え声が聞こえた所へ向かう。

 

専用機持ちはISを展開し、ノスフェルを攻撃していた。確実に喉の臓器を破壊しなければ、同じ事の繰り返し…なので小回りの効かないチェスターではなく、慣れたISが今回適していたのだ。

「くらえ!」

「行きますわ!」

「当たりなさいよ!」

「当たって!」

「この!」

5人ががむしゃらに攻撃するが、肝心の口元に攻撃が当たらない。ノスフェルはその巨大な爪で地面を叩き、地煙で5人のシールドエネルギーをゼロにした。

「くそ!まだだ‼︎」

ラウラが立ち上がり、予備のバズーカでノスフェルを攻撃。しかし、ノスフェルに通用せず、口元から伸ばされた触手が5人を狙う。なんとか回避したが、皆足を捻る等して、もう動けそうに無い。

「みんな!大丈夫か⁉︎」

そこに一夏が到着した。

「「「「「一夏(さん)⁉︎」」」」」

「早く離れるぞ‼︎」

一夏が5人を運ぼうとすると、ノスフェルの右側にミサイルが命中。ノスフェルはそちらを向いた。

「…ラウラ、あそこには誰がいる?」

「あそこには…教官が⁉︎」

それを聞いた一夏は再び駆け出した。

 

「開けろ…」

射撃戦用として、ラファール・リヴァイブを装備していた千冬は、スナイパーライフルをノスフェルに向けていた。

「開けろ…」

ノスフェルが吠えた瞬間、スナイパーライフルを撃つが、緊張の為か、外してしまった千冬。そんな千冬に、ノスフェルの爪が襲いかかる。

「う、ウワァァァ‼︎」

「千冬姉ェェェ‼︎」

一夏が急いで千冬に突進。間一髪、ノスフェルの爪を回避した。

「い、一夏…」

「油断すんな千冬姉!」

ノスフェルは着実に一夏達の元に近づいていた。

 

ノスフェルの背後の崖に到着した一樹。ノスフェルの足元を見ると、一夏と千冬がいた。

「…今度は頼むぜ?一夏」

そして、ノスフェルを強い目つきで見据える。

「…今度こそ、粒子1つ残さず消しとばす!」

エボルトラスターを取り出し、鞘から引き抜いた。

「ウオォォォォ‼︎」

 

一夏達に近付くノスフェルに、空中からカッター光線が飛んで来た。ノスフェルがカッター光線が飛んで来た方向を見ると…

「デェアァァァァ‼︎」

ウルトラマンが急降下キックでノスフェルを吹き飛ばした。起き上がったノスフェルに右ストレートパンチ。

「シェア!」

その勢いで回転回し蹴りを喰らわすウルトラマン。

「テェア!」

一夏達から離そうと、ノスフェルを押すウルトラマンだが、ノスフェルの巨大な爪がウルトラマンを攻撃する。

「グァッ⁉︎」

 

「一夏、お前の専用機だ」

千冬が投げてよこしたのは、白式の待機形態であるガントレットだった。

『マスター!』

「(この声…ハクか?)」

『良かったです…すみませんでしたマスター。私が、乗っ取られたばかりに…』

「(いや、俺こそ悪かった。心配かけて…)」

『大丈夫です。こうやって、マスターが戻ってきたから…だから、今度こそアレを倒しましょう!』

「(ああ!)」

白式…ハクと再会を果たした一夏。そして、千冬は一夏にケジメをつけさせる。

「奴の弱点は口だ。口の中にある再生システムを破壊しない限り、奴は何度も蘇る。また同じ惨劇が繰り返される…」

「ああ…分かった!(行くぞ!ハク‼︎)」

『はい!マスター‼︎』

 

「シェア!ハァァァァ…」

ウルトラマンはノスフェルの(くちばし)を掴む。強引に口を開けさせ、一夏の方を向かせる。一夏は白式 麒麟を展開し、ビームマグナムをマグナムモードで構えた。

《僕は許さない!お前を一生許さないからな‼︎》

「(俺はもう逃げない。憎しみも、悲しみも、全て背負っていく)これ以上…誰かを不幸にしない為に‼︎」

ビームマグナムのトリガーを引いた一夏。極太ビームは、まっすぐノスフェルの口に命中した。大爆発を起こすノスフェルの臓器。

ウルトラマンは少し離れると、アンファンスからジュネッスにチェンジした。

「フッ!シェア‼︎」

ジュネッスにチェンジしてすぐ、オーバーレイ・シュトロームを撃つ。

「フッ!シュウ!ファァァ…フンッ!デェアァァァ‼︎」

オーバーレイ・シュトロームをまともに喰らったノスフェルは、水色の粒子となって消滅した。ウルトラマンは一夏の方を見ると、静かに消えて行った…

 

沙織とのデートコースだった動物園に、一夏はいた。しかし、前来た時の様な暗い表情では無い。手には、接着剤で直されたガンバルクイナ君があった。

「(この苦しみは…沙織と生きた証なんだ。もう俺は…迷わないで歩いて行く)」

一夏は沙織が良く座っていたベンチを見る。一夏の目には満面の笑みの沙織が見えた。

「(もう、大丈夫だよね?)」

「(ああ…沙織、俺と出会ってくれてありがとう…)」

「(こちらこそ…ありがとう…さよなら、織斑君…)」

沙織は、ゆっくりと消えて行った。

「一夏ァ!そろそろ帰ろう!」

「ああ!すぐ行くよ!」

仲間の所へ走る一夏。その瞳に、もう迷いは無かった。

「(過去を変える事は出来ないけど、未来は、変える事が出来るかもしれないから)」




次回から過去の話と、若干のオリジナルという名の他のウルトラマンの怪獣が出てきたりします。クロスオーバーじゃないけどね!


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Episode-EX1 過去-パスト-

今回から軽く追憶編入ります。




彼は生まれてからずっと戦っていた。

 

父は人間、母は異形の者。

 

そして、どちらの種族からも混血である彼は嫌われた。

 

母の種族は、忌まわしき混血である彼を消そうとした。

 

母は、彼を庇って死んだ。

 

父は、彼が生まれる前に母の種族に殺された。

 

彼は少ない仲間と旅をするしかなかった。

 

それでも刺客は彼を襲い、彼は自衛の為に刺客を倒し続けた。

 

旅の途中、託された命があった。

 

彼は守り続ける事を決意した。

 

託された者を、自分の『家族』として。

 

そして、旅を続けている内に信頼出来る仲間も増えて行った。

 

仲間たちは彼が1人でボロボロになるのが見てられず、一緒に戦う事を誓った。

 

そして旅は、『世界』を巡るものとなった。

 

彼らはもう、自分の正確な年齢は知らない。

 

『世界』ごとの役割に従うだけだった。

 

どこの世界も戦いは絶えない。

 

どこに行っても、彼は戦うことしか出来なかった。

 

彼の辛そうな顔を、『世界』に送らなければならない者はずっと見ていた。

 

「…今度は『どこ』に行けばいい?」

彼はもう何度めかも分からない旅の始まりにつく。

『今度の『世界』は、ある兵器が生み出された結果、女尊男卑に染まってしまうところです』

送る者も、その顔は悲痛なものだった。送る者ですら、その旅がいつ終わりを迎えるのか分からないからだ。

「…そうか。また面倒なところだな」

だから彼も、いつ終わるのかとは聞かない。

「じゃあ行くよ。道づくりは頼んだぜ『アイリス』」

送る者の名は『アイリス』。かつて彼と出会い、彼を救おうと心に決めた少女()()()

『はい。いってらっしゃい』

アイリスに見送られ、彼…櫻井一樹は旅を続ける。

 

「…」

次なる『世界』についた一樹。

「(口調変えなきゃいけないって面倒だな…)」

彼は今…4歳児程の大きさだった。

「(いつものがやれるか試すか)」

一樹は指をひと鳴らしした。

 

パチンッ!

 

すると体が一瞬光り、慣れしたんだ高さ(170cm程。男子高校生の平均より少し下くらいだろうか)に変わった。

「よし、買い物はこれで問題なくいけるな。で、拠点のここは…いつも通りか」

一樹が母から受け取った洋館が、今回も地球(おか)の拠点となっていた。

「…カレンダーを見るに明日入園式か。口調は少し舌ったらずにしなきゃ…」

その入園式で、彼は運命的な出会いをするのだが、この時の彼が知るはずもなかった。

 

入園式も無事終了。後はクラス分け(?)を残すのみとなった。

「(…親がいないのは俺だけか)」

周りの子たちはみな両親と共におり、1人で座っているのは一樹だけだった。

「(…綺麗だな。みんな)」

周りの園児の、曇りのない笑顔を見て一樹はほっとする。人の暖かさを感じれる瞬間が、一樹は好きだった。

「ねえ」

早速友達作りに励んでいる子がいるようだ。子供の成長とは早いものである。

「ねえ、きこえてる?」

しかし、その子は成長が早すぎて相手の子が戸惑っているらしい。

「…ふえぇ…」

相手がスルーしてるのか、その声が湿り気を帯びていた。早く反応してやってほしい。入園初日から泣き声は聞きたくない。

「ねえってば‼︎」

「うわあビックリした!?」

耳元への叫びに驚いた一樹。叫んだ人の顔を見ようとする。

「…グスッ」

目の前には泣きそうな女の子がいた。

「(話しかけられてたの俺だったぁぁぁ‼︎い、急いで謝らねば!)ご、ごめんね。ちょっとぼーっとしてた」

「…なんどもおはなししようとしてたのに…」

涙は引いたようだが、今度は両頬を膨らませている。表情豊かな子だ。

「え、えと…おなまえ、なんていうの?」

苦し紛れに名前を聞く一樹。それが正解だったのか、ぱああと光るような笑顔を見せてきた。うん、子供はやっぱり笑顔が大事だ。

「わたしのおなまえは『たなか ゆきえ』っていうの!あなたのおなまえは?」

「…『さくらい かずき』だよ」

「かずきっていうんだ…なら『かーくん』ってよぶね!わたしとともだちになってください!」

「!?」

一樹は驚愕する。今までも何度かこの年代の体になったが、誰1人一樹とは友になろうとはしなかったからだ。

「え、えと…ぼくと?」

「うん!」

「…いいよ。ともだちになろう!」

これが、櫻井一樹(デュナミスト)田中雪恵(ナビゲーター)の出会いだった。

 

それから数年経ち、一樹と雪恵は小学校に入った。小学校に入ってからも雪恵は一樹にべったりだった。

「かーくん、あーそーぼ」

「ゆき…せっかくがっこうおやすみなんだから、あさはやくにおこすのやめてよ…」

「ダメ!せっかくかーくんと1にちじゅういれるひなんだから、いっぱいあそぶの‼︎」

一樹は日曜と言う事もあり、ゆっくり寝ていたのだが、雪恵に起こされたのだ。

「はやくはやく‼︎きょうはいちかくんとほうきちゃんとこのどうじょう?ってとこにあそびにいくんだから‼︎」

「遊ぶとこじゃねえ‼︎」

元々精神年齢は???歳の一樹。思わず普段仲間といる時の口調になってしまう時もたまにある。雪恵はもう慣れた。

 

「結局来ちまった…」

「ん?どうしたのかーくん」

「ううん、なんでもないよ」

篠ノ之道場に着いた雪恵と一樹。そこでは箒と一夏が真剣な様子で竹刀を振っていた。

「ハァ!」

「フンッ!」

竹刀と竹刀がぶつかる音を聞き、心地いいと感じてしまった一樹。

「(でも、やっぱり平和だよな…『活人剣』が普通に普及してるし)」

指導を受けているその空気は、一樹にとってはどこまでも『平和』だった。

「フゥ…ん?かずきにゆきえだ。どうしたの?」

一夏が一樹達に気付き声をかける。一樹が返事をするよりも早く雪恵が答える。

「あそびにきたの‼︎」

「「「「遊ぶとこじゃねえ‼︎」」」」

一樹と門下生が思わずツッコム。それを箒の父であり師範でもある篠ノ之柳韻は、笑ってその光景を見ていた。

 

「じゃあみんな、とるよ〜」

夕方、一樹のデジタル一眼レフの前に篠ノ之道場の人+雪恵が立っていた。一樹は下手な業者より撮るのが上手く、集合写真等は全て一樹が撮っていた。学校の集合写真等に一樹が写っていないのはそういう訳があるのだが、数年後の箒はそれを『クラス全員が拒絶したから』と言っている。

「よし、とれた。いちか、これでいい?」

「ありがとう」

「どういたしまして。じゃあぼくはかえるね。ゆきは?」

「あ、わたしもかえる〜」

 

こんな調子で…初めて平和な生活が送れていた…こんな世界が、ずっと続いて欲しいとこの時の俺は願い続けていたby一樹

 

小学校4年生の時の夏休み、自由研究の為の写真を撮りに、学校の裏山に向かっていた。雪恵と共同でして良いかと担任に聞いたら笑顔でOKを貰えたので、雪恵と共同で“空の変化”と、趣味全開でやっていた。そんなある日…

「かーくん!ここなら綺麗に空が撮れるよ‼︎」

「雪!危ないからそこで飛び跳ねるな‼︎」

雪恵がベストポジションとばかりに急斜面の上で飛び跳ねている。

「大丈夫だよ〜かーくんは心配性だ…」

その時、雪恵が足を滑らせる。一樹は全力で雪恵に向かって走り、雪恵の腕を掴む。

「こん…のぉ…」

しかし今の一樹の体は小学生だ。片手で女の子と言えど、持ち上げるのは無理だ。

「(雪には知られたくなかったけど…なるしか)」

S.M.Sにいる時の体になろうと一樹が覚悟した時…

「どうした一樹⁉︎」

一夏が到着した。

「雪が落ちかけてる!」

「クソッ!待ってろ!今千冬姉呼んでくるから‼︎」

確かに2人で掴んでも持ち上げることは不可能だ。一夏の判断は正しいと言える。

「雪!頑張れ!あと少しだ‼︎」

雪恵と自分自身に言う一樹。しかし雪恵は…

「かーくん、ごめんね…」

「ッ⁉︎」

そっと、一樹の手を離そうとする。

「やめろ‼︎」

「このままだと、2人とも落ちちゃうよ」

「んなことはさせねえ‼︎今すぐ俺が「かーくん‼︎」ッ⁉︎」

「かーくんは…平和な生活が好きでしょ?私も…平和に笑ってるかーくんが好きだから…だから」

「黙れ!雪をこのまま落とす訳には行かねえ‼︎」

しかし、運命とは残酷だ。夏と言うこともあって、雪恵を掴んでいた一樹の手が2人の汗で滑っていく。

「…ごめんね」

雪恵の手が離れ、再び落ちそうになるのを一樹は飛び込み、右手で地面を、左腕で雪恵を抱える。

「グッ…」

しかし、今度は右手に2人分の体重がかかり、右手が悲鳴をあげている。そこに…

「櫻井!大丈夫か⁉︎」

「かずくん!今助けるからね‼︎」

一夏が呼んだ千冬と束が到着。2人を引っ張ろうと駆け出す…が

 

ガラガラガラ

 

「「ッ⁉︎」」

一樹が捕まっていた所が崩れ、急斜面を転がり落ちる一樹と雪恵。一樹は少しでも雪恵が傷つかぬ様、抱きしめるしか出来なかった…

 

一夏達が坂の下に着くと、血だらけの一樹と、傷は殆どないが気絶してる雪恵がいた…すぐに救急車を呼び、2人を病院に連れて行った…




注意!
この追憶編、ネクサスの設定を知ってる方は色々ツッコミどころが現れると思います。ええ、作者もにわかですが分かりますし。ですが!それでも書く‼︎
俺は、そう託されたんだ!⇦言いたかっただけ。


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Episode-EX2 適能者-デュナミスト-

ツッコミどころ満載の番外編その2。
だけど序盤シリアス。


「…ここは?」

一樹が目覚めたのは、清潔感漂う、ほぼ白一色の部屋だった。

「…病院、なのか」

そこに雪恵の両親が入って来た。2人は一樹を見ると顔を歪ませる。

「一樹君!大丈夫か⁉︎」

「私達の事分かる⁉︎」

「え、ええ…分かりますよ。おじさん、おばさん」

2人の剣幕に一樹は少し驚きながらも応える。

「良かった…君だけでも助かって…」

雪恵の父親の小さな声を一樹の優れた聴覚は捉えてしまった。

()()()?雪は⁉︎」

しまった、と顔に出す雪恵父。

「…落ち着いて一樹君。傷口が開いちゃう」

雪恵母が一樹を落ち着かせようとするが、一樹は止まらない。

「雪はどうしたんですか⁉︎まさか…」

「大丈夫だから!雪恵ちゃんは大丈夫だから‼︎」

そこに看護婦が来て、一樹が目覚めているのを見ると、急いで医師を呼びに行った。その後、医師が一樹に色々質問をする。一樹はその意味が分かった。頭を強く打った場合の記憶能力を調べているのだ。全部をすらすら答える一樹に医者はほっとした様子を見せる。

()()大丈夫だ。もう安心して良いよ。ただ、身体中に乳酸が溜まってるから少し休みなさい。田中さんはこちらへ」

一樹をベットに寝かせると、雪恵の両親を部屋の外に出す。一樹はベットから動かず、全神経を耳に集中させた。

 

『娘さんの状態ですが…』

『はい…』

『外の損傷は彼が守っていたおかげか、傷1つありません。しかし、脳への衝撃は殺しきれなかったのでしょう…脳死状態です』

『そ、そんな…』

 

一樹は愕然とした…

「そんな…守りきれなかった…また…」

 

『現在の医療では、このままの状態で生かすことは出来ます。しかし、完治は絶望的かと…』

医者も唇を噛みながら話しているのが一樹にも分かった。雪恵の両親もそれが分かってるのか、医者を責めることはしなかった。

『生かしておくことは…出来るんですね?』

『はい…』

『しかし、コストがかかると…』

『……はい』

 

「そんな…雪が…脳死?俺が…守りきれなかったから?う、ウワァァァァァァァァァァァァ‼︎」

泣きながら絶叫する一樹。話を聞かれていたと気づいた医者が部屋に飛び込む。

「櫻井君!落ち着くんだ‼︎」

精神安定剤を一樹に打ち込むが、一樹の体にそんなものは効かない。絶望に憑かれた一樹はただひたすら雪恵の両親に謝り続ける。

「ごめんなさい…雪を…守りきれなくて…俺が…生き残っちゃって…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」

安定剤が功をなさない一樹の体は、そのまま心を潰そうとしてるかの様に、それを続けていた…そんな一樹を雪恵の母親が抱きしめる。

「謝ることは無いわ…一樹君は、私達のとこに雪恵ちゃんを連れて来てくれたのよ?私達があなたを恨む筈無いわ」

「妻の言う通りだ。本来なら形も残らない状態になっていた筈の雪恵を、外傷が無い状態で君は守ったんだ…君が責任を感じる事は無い」

しかし、そんな優しい言葉も、一樹には逆効果でしか無かった。こんな素晴らしい人達から、最愛の娘を奪ってしまったから…

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

「一樹…大丈夫か?」

あれから数日後、一樹の元に一夏が千冬と共に見舞いに来た。脳死…幼い一夏にはその意味は分からないが、死の文字があるだけで少なくとも良い話で無いのだけは分かった。

「ああ…俺は、大丈夫だよ…」

身体中包帯が巻かれている一樹。目は外を向いていたが、何も見てなかった。

「…学校の人にはこう話してくれ。『櫻井一樹が崖から落ちそうになったのを庇って代わりに落ちた』ってな」

「ッ⁉︎それでは‼︎」

千冬はすぐに察した。雪恵が落ちた理由を、自分にして、生徒達のはけ口の役を担う…一樹はそう言っているのだ…

「これで…学校の人達は恨む相手が出来る…人の精神は…はけ口が無いとやっていけないからな」

一樹は普段から学校中の生徒達が鬱陶しがられていた。雪恵という、美少女と仲が良いのがその理由だ。これで、生徒達が一樹を攻撃する絶好の理由が出来てしまうのだ。

「…少しずつでも、償っていかないと…」

「…箒には真相を話すよな?」

「いや、話さない」

「「⁉︎」」

「…俺が…平和な生活を望んじまったバチが当たったんだ…受けるさ。恨みを、全部」

結局、一夏は学校には話さなかったが、匿名の手紙が学校に届き、その話が出回ってしまう。しかも、“脳死”と書いておらずに“死亡”と書いてあったので、教師陣もそれを鵜呑みにしてしまい、生徒達に流した。それが…田中雪恵事件の真相だ。生命維持装置等の費用は一樹が慰謝料として毎月雪恵の両親の講座に送っている。入院した当日以降、一樹は雪恵の両親と顔を合わせていない…見舞いに来ても、一樹は部屋に入れなかったからだ。そして、運命の時を迎える…

 

「かーくん、こっちこっち!」

一樹の頭は、これを夢だと理解していた。が、一樹はその雪恵について行く。深い森を、どんどん奥に進んで行った。そこに、大きな遺跡があった。遺跡の中に雪恵は入っていく。一樹もそれに続くと、遺跡の壁には、無数の絵が描かれていた。しかし、絵の内容は一樹の頭には入らず、ただただ、雪恵の後を追っていった…

「これに触って」

雪恵が示したのは、石碑状態のストーンフリューゲルだった。一樹は雪恵に頷くと、ストーンフリューゲルに触れる。その途端、一樹は光に包まれ、ストーンフリューゲルに入って行った…

「ウワァァァァァァ⁉︎」

 

ストーンフリューゲルの中、何も無い空間に一樹はいた。そして、一樹の目の前に、ウルトラマン(アンファンス)が現れた。

「君は誰だ?君が俺を呼んだのか?」

ウルトラマンは頷くと、光の粒子となって、一樹の中に入って行った。

その瞬間、遺跡の外に暗雲が現れ、暗雲の中から3つの頭を持つケルベロスの様なビースト、『ガルベロス』が現れた…




見てれば分かるツッコミどころ


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Episode-EX3 遺跡-レリック-

さあ、ツッコミどころが現れるぞ。


遺跡の外にガルベロスが現れたのを、いつの間にか握られていたエボルトラスターが一樹に教えた。

「ッ⁉︎このままじゃこの遺跡が!」

ドックン

エボルトラスターの鼓動に、一樹は目を向ける。

「……分かった。コレの使い方も、そして…戦い方も」

その空間で、一樹はエボルトラスターを鞘から引き抜き、正面に掲げた。エボルトラスターから光が溢れ、一樹を包んで行った。

 

ガルベロスは少しずつ、確実に遺跡に近づいていた。あと少しで、遺跡に着いてしまう…そんな時、遺跡から赤い光の玉が飛び出し、ガルベロスに激突。ガルベロスは吹き飛ばされる。そして、光が晴れた時、そこには片膝立ちのウルトラマンがいた…ウルトラマンは立ち上がると、すぐにジュネッスに変化した。

「シュ!ハッ!」

戦いに遺跡を巻き込まないために、メタ・フィールドを展開する。

「シュウッ!ファァァァァ…フッ!デェアァァ‼︎」

 

メタ・フィールドに入ったウルトラマンとガルベロス。両者はしばしにらみ合っていた…

「シュ!」

《グルァァァァ!》

両者同時に動き出す。ウルトラマンは飛び上がった。ガルベロスに向けて飛び蹴りを放つが、ガルベロスはそれを受け流した。

「グォッ⁉︎」

《ギシャァァァァ‼︎》

なんとか着地したウルトラマン。ガルベロスはそんなウルトラマンに左右の口から火球を吐く。ウルトラマンはガルベロスを飛び越して回避。

「フッ!」

ガルベロスは右手の頭を後ろに回し、再び火球を吐いた。

「シュッ!」

今度はマッハムーブを使って火球を回避。ガルベロスの中央の頭に右回し蹴りを放つ。

「デェアッ‼︎」

回し蹴りの威力に、ガルベロスの体から火花が散る。

《ギシャァァァァ⁉︎》

怯んだガルベロスに今度は左回し蹴りを放つが、それは受け止められた。ガルベロスはすぐさま突進してくる。ウルトラマンに受け止められ、逆に中央の口にストレートパンチを喰らった。更にウルトラマンは右回し蹴りを喰らわせる。

「シェアッ!」

だが、ガルベロスも負けてはいない。その巨大な爪でウルトラマンを攻撃。

「グッ⁉︎」

更に大振りの攻撃でウルトラマンを吹き飛ばした。

「グアァァァッ⁉︎」

距離が空いたウルトラマンにガルベロスは突進。ウルトラマンはその威力を利用したストレートキックでガルベロスを怯ませると、その巨体を持ち上げ投げ飛ばした。

「フゥゥ…デェアッ‼︎」

《グルァァァァ⁉︎》

メタ・フィールドの大地に叩きつけられたガルベロス。ガルベロスが起き上がっている間に、ウルトラマンはエネルギーを貯めて『コアインパルス』を放った。

「フッ!アァァァァ…テリャァ‼︎」

コアインパルスはガルベロスに直撃。ガルベロスは大地に倒れると爆散した。

 

「…終わったか」

メタ・フィールドを解除したと同時に一樹は夢から目覚めた。上体を起こすと、右手が何かに触れた。それを取り出すと、夢の中で使っていたエボルトラスターがあり、更に一樹に割り振られている棚にはブラストショットが置かれていた。

「…俺みたいな罪人に…何を望むんだ?」

退院後、匿名の手紙の件があり、一樹は孤独に過ごす事になる…誰がその手紙を送ったのか、分からないまま…

 

数年後…

中学2年になった一樹は、一夏、鈴、弾に新宿まで付き合わされていた。

「…なんで新宿なんだ?」

「「「ノリで」」」

「アホか⁉︎」

そんな時、懐にしまってあるエボルトラスターの鼓動を感じた一樹。

「(⁉︎この数年反応しなかったのに⁉︎)」

ブラストショットを構え、一向から離れる一樹…

 

《クククク…》

新宿の地下下水道に体中に謎の突起物が出ている男が不気味な笑みを浮かべていた…そこに一樹が到着する。

「……あんたは、何者だ?」

ブラストショットを向け、その男を問い詰める。

《クククク…うん?こんな所に人間が入って来たのか?》

「…俺が人間かどうかはともかく、あんたは元々何者だ?」

経験をフル動員させて一樹は語りかける。

《…この人間の名前を聞いてんのか?有働貴文だったぜ。まあ、俺に食われちまったけどな!ギャハハハハハ‼︎》

「ッ⁉︎テメェ‼︎」

ブラストショットを有働に向けて撃つが、有働はそれを避ける。

《おっと、それは流石に喰らうとヤベエな…丁度良い。オメェに俺の力を見せてやんよ‼︎ウオォォォ‼︎》

その途端、有働の体が青く光ると、その下水道にいたヤモリ達が有働に集まり、吸収されて行く…近所のヤモリ全てを吸収した有働は…

《ギャオオオン‼︎》

後にビースト・ザ・ワンと呼ばれる姿になった…ザ・ワンは地上目掛けて跳びはねて行く。

「待ちやがれ‼︎」

 

ザ・ワンが地上へ抜けた場所は、何処かのドームだった。幸いにも休館日で、辺りに人はいなかった…ザ・ワンがそれを見て吠えていると…

「…俺は有働さんとやらの事は全く知らない」

ザ・ワンが開けた穴から一樹が出てきた。

「だけど、有働さんにだって…家族や、恋人や…大切な人がたくさんいた筈だ…その人達から有働さんを奪ったお前を…」

エボルトラスターを鞘から引き抜き、正面に構える。

「俺は許さねえ‼︎」

エボルトラスターから光が溢れ、一樹をウルトラマン(アンファンス)に変身させた…

「シェア!」

ザ・ワンはウルトラマンに突進。押し通ろうとするが、ウルトラマンは全身の力を入れて受け止める。ウルトラマンを押すことに集中しているザ・ワンにニーキックを放つウルトラマン。

「フッ!」

《グギャァァ‼︎》

ニーキックを喰らってザ・ワンは怯むが、それでもウルトラマンを執拗に攻撃する。ウルトラマンはザ・ワンが振り回してくる腕を両腕でなんとか受け止めるが、ザ・ワンのパワーに押され気味になる。

《グシャァァ!》

「グアァァァ‼︎」

ザ・ワンの巨大な爪がウルトラマンの体を斬り裂く。ウルトラマンの体から火花が散る。怯んだウルトラマンの首にザ・ワンの巨大な尾が巻き付いた。

「グ、グァァァ⁉︎」

ウルトラマンの首を絞めるザ・ワン。ウルトラマンは気を失いそうになるが、アームドネクサスのエルボーカッターでその尾を切断した。

「シェアァァ‼︎」

切断された尾はまるで命があるかの様に飛び跳ねる。ウルトラマンはセービングビュートで尾を掴み、ザ・ワンに向かって投げる。ザ・ワンは自らの尾でダメージを負う。

ピコン、ピコン、ピコン

ウルトラマンのエナジーコアが鳴るが、ウルトラマンは気にせず、クロスレイ・シュトロームを撃った。

「ハァァァァ…ヘェア‼︎」

《グ、グァァァ⁉︎》

ザ・ワンの尾を破壊するのは成功したが、ザ・ワン自体は耐え切った。ウルトラマンは力を使い切ったのか、片膝をついてしまう。ザ・ワンもフラフラになりながら穴の中に入り、逃げて行く。ウルトラマンは追おうとするが、前のめりに倒れてしまい、そのまま一樹の姿に戻った。

「く、クソ!仕留め損なった…」

なんとか立ち上がり、そのドームから出て行く。そこで、一樹のスマホが鳴る。

『おい一樹!今何処にいんだよ⁉︎』

ライン電話して来たのは一夏だった。

「いや、人混みに押されて今は…市民ドームにいるわ」

『電話しろや‼︎』

電話越しに弾の声が聞こえる。どうやらスピーカーにしてる様だ。

「いや、もしかしたら弾もそうなってるかなと…」

『どういう…あ、察した』

「『邪魔しちゃいけないかと思った』」

『な、なな何を言ってんのよ⁉︎』

電話越しに鈴が動揺してるのが分かる。

『?何を邪魔しちゃいけな『フンッ‼︎』ゴハッ!何すんだよ鈴⁉︎』

「…痴話喧嘩は良いから。あと俺はちょっと気になる事が出来たからしばらく新宿にいる。学校も休むからそのつもりで」

『『『何で(よ)⁉︎』』』

一樹はそれに答えず、通話を切ると、すぐにS.M.Sに連絡を取る。

「…ああ、頼みたい事がある。新宿地区に…」

一樹が頼んだことは…

「出せる機体をありったけ派遣してくれ」

ザ・ワンから人々を守ることだ。




…ええ、言いたいことは分かりますよ。ザ・ワンより前にガルベロスが出るとかありえないというのは。だけどやりたかったんだ!文句は言わせない‼︎


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Episode-EX4 新宿-ザ・ワン-

番外編、一旦これで終了です。


一樹が通話を切った後、一夏達は顔を見合わせていた。

「…なあ、一樹の用って、なんだと思う?」

弾の疑問に、一夏は考える。しかし、答えは出なかった。

「…別に深く考えること無いんじゃない?学校休むって言ってたけど、そもそも進学するつもり無いんだからあまり欠席日数とかも気にして無いだろうし」

鈴の見解はあまり詮索しないことだった。確かに、一樹には触れて欲しく無い事がたくさんある。一夏が知ってる以上にあるだろう。しかし、一夏は気になってしょうがなかった。

「(無茶しなきゃ良いんだけど…)」

普段、鈴やクラスの女子に言われてる自分だが、それでも思わずにはいられなかった…

 

「今用意出来るのはVF-0だけか…」

一樹(体は普通に戻した)はS.M.Sにいた。主要な機体は皆宇宙に上がっているので、コレしか陸に無いのだ。

「…一応、S型は1機、A型は2機ある…苦し紛れだけどゴーストブースターを装備するよ」

整備室では一樹と六連佑人(むつら ゆうと)が現在の戦力を確認していた。

「“フェニックス”も良い機体なんだけど…今回は相手が悪いかもな」

「カメラのハッキングで見たよ。嫌な予感がするってみんな言ってる」

佑人の言葉を聞き、どうにか出来ないかと思案する一樹。そこに、倉野和哉(くらの かずや)が駆け込んでくる。

「一樹!一夏達がロビーにいる‼︎」

「「ハァ⁉︎」」

一樹が近くのモニターを見ると、そこには確かに一夏と弾がいた。鈴は恐らく家の手伝いの為に帰ったのだろう。

「…用件は?」

「“櫻井一樹って中学生を探してくれ”が依頼内容だ」

和哉の報告に、先ほどとは違う意味で一樹は頭を抱えるのだった。

 

「…一夏、さっき依頼帳に書いたのは一樹の危険を感じたからか?」

ロビーで待ってる間に、普段の弾からは考えられない勘の良さに驚く一夏。

「…何でそう思うんだ?」

「…お前は確かにお人好しだけど、一樹が関わるとそれに拍車がかかってるからな…過去に何があった?」

またもや驚かされる一夏。しかし、それについては答えられない。

「過去の件は話せねえ…色々あったとしかな。あと、俺が一樹が関わるとってのは…きっと、心友だからだと思う」

「心友?親友じゃなくてか?」

「…アイツは…闇を背負ってるから…心から許せれる人は数えれるだけしかいないって言ってた…だから、心友なんだ」

「…S.M.Sなら見つけてくれるか?」

「世界の何でも屋なんだ。しかも代金はこっちの財布に合わせてくれる。まあ、嘘かどうか調べが入るらしいけどな」

S.M.Sが一樹を見つけてくれる事を望んで、一夏達はここへ来た。まさか一樹本人がここにいるとは夢にも思わなかった…

 

「…どうしたもんかな…」

一樹は一夏達にどう対応するか、悩んでいると、エボルトラスターの鼓動を感じた。

「…来た」

「「ッ⁉︎」」

一樹の言葉に、その場にいた佑人、和哉の顔に驚愕が走る。一樹は2人を見ると言う。

「…お前らは新宿の人達を避難させてくれ。俺は…行ってくる」

「…ああ、行ってこい」

「こっちは任せろ」

 

エボルトラスターの鼓動を一樹が感じる少し前、ザ・ワンは下水道の中で身体中を水色に光らせていた。

「来い…そして…俺の一部になれ!ウォォォォォォ‼︎」

新宿中のネズミがザ・ワンに集まり、ザ・ワンの体となっていった…

「ギャオオオン‼︎」

ザ・ワンは下水道から地上に向かって地面を掘り登って行った…

 

S.M.Sの指示で皆が避難していると、急に地面が盛り上がり、ザ・ワンが現れた。人々は恐怖し、ひたすら走る。誘導するS.M.S。しかし、誘導している中に一夏と弾もいた…

「早く!早く逃げて‼︎」

「こっちです‼︎」

中学生でありながら、冷静な状況判断であった。しかしそれを見たザ・ワンは近くのビルを壊し、一夏達向けて崩す。

「ゲッ⁉︎」

「「「「イヤァァァ‼︎」」」」

 

「「「「イヤァァァ‼︎」」」」

悲鳴が聞こえた一樹。見てみるとビルが市民の方へ崩れていた。一樹は走りながらエボルトラスターを引き抜いた。

「させるかぁぁぁ!!!!」

 

一夏達は死を覚悟した。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。目を開けてみると、眩い光が一夏達とビルの間に入っていて、一夏達を守っていた。

「…え?」

 

ザ・ワンは光がビルを抑えてるのを見て、怒る。

《俺の邪魔しようとは…さっきのガキか⁉︎》

再度、白い波動弾を撃ち、ビルの破片を攻撃。その場に大爆発が起きた。

 

爆発の中、ウルトラマンはアームドネクサスをエナジーコアにくっ付けた。

「フッ!シェアァ‼︎」

アンファンスからジュネッスにチェンジ。チェンジ時のエネルギーで、炎も鎮火した。

「シェア!」

ザ・ワンとの決着をつける為、ウルトラマンは構えた…

 

「シェア!」

『このクソガキがァァァ‼︎』

ザ・ワンに向かって走るウルトラマン。ザ・ワンもウルトラマンに向かって走る。ウルトラマンは両手をザ・ワンの頭部に振り下ろした。

「ヘェアッ‼︎」

《グシャァァ⁉︎》

続けてザ・ワンに両手のアッパーを放ち、ビル街から離そうとするウルトラマン。ザ・ワンはそれを振りほどくと、ウルトラマンから距離をとる。

「フッ!」

そこにウルトラマンはストレートキックを放つが、ザ・ワンは大して効いた素振りを見せない。ザ・ワンの両腕からの攻撃を何とか躱したウルトラマンはザ・ワンの腹部に両腕でのパンチを叩き込む。

「デェア!」

《グギャァァ⁉︎》

ザ・ワンが怯んだ所へ更に右前蹴りを放とうとするが、ザ・ワンはウルトラマンの脚を掴み、その攻撃を受け止めると同時に放り投げた。ザ・ワンはその両腕でウルトラマンを攻撃するが、ウルトラマンは必死でガード。しかし、ザ・ワンのパワーに押され気味となり、体制を崩す。そこに左腕の攻撃が来た為、ウルトラマンは吹き飛ばされる。何とか立ち上がった所に、ザ・ワンは強烈な波動弾を撃った。

《ギャァァァァ!》

「グアァ⁉︎」

ウルトラマンは波動弾に吹き飛ばされると、受け身を取る暇も無く地面に叩きつけられる。

「フッ⁉︎シェア‼︎」

『グァァァァァ‼︎』

ザ・ワンの口から波動弾が撃たれたのをウルトラマンは左に飛び込んで回避、ザ・ワンに対峙すると、ザ・ワンは更に波動弾を撃って来た。ウルトラマンは空中に飛び上がり、ザ・ワンの波動弾を回避、人に当たる可能性のあるものはアームドネクサスで受け止めた。

「シュ!シュァァァァ‼︎」

ウルトラマンが全てを受け止めたのを見たザ・ワンは、雄叫びを上げる。

《ギャオオオン‼︎》

ザ・ワンの背中が光ると、そこに新宿中のカラスが集まり、ザ・ワンの翼となった。

 

邪悪な翼を広げたザ・ワンを見た一夏はこう呟いた。

「あ、悪魔…」

 

「シェア‼︎」

ウルトラマンは巨大なカッター光線、ラムダ・スラッシャーを撃ち、ザ・ワンを攻撃する。ザ・ワンは空中で体をひねって回避すると、飛行スピードを上げた。ウルトラマンもザ・ワンを追う為スピードを上げる。2つの巨大な影は雲の中に入って行った。

「(クソッ!待ちやがれ‼︎)」

パーティクルフェザーを細かく撃ち、ザ・ワンを攻撃。ザ・ワンはそれを避けると、ウルトラマンに向けて破壊弾を連続で撃ってくる。破壊弾と破壊弾の間を潜り抜けるウルトラマン。ザ・ワンはそれを見ると苛立った声で唸る。

《(面倒くせえ…この街全てを壊してやる‼︎)》

眼下の新宿目掛けて破壊弾を連続で撃つザ・ワン。

《ギシャァァ‼︎》

「フッ⁉︎ハアァァァァ‼︎」

ウルトラマンはザ・ワンの攻撃方向に街があるのが分かると急降下、破壊弾をサークルシールドで受け止めた。

《ギシャァァ‼︎》

ザ・ワンはそれを見ると破壊弾をばら撒く様に撃つ。バリアを張ってる時間は無い…ウルトラマンは自分の体でザ・ワンの攻撃を受け止め、街を守る。

「グッ⁉︎グォッ!?」

何とか全部受け止めたウルトラマン。ウルトラマンの目の前にザ・ワンがゆっくりと降りてきた。

《邪魔ばかりしやがって…いい加減落ちろ‼︎》

破壊弾のダメージで動けないウルトラマンに、ザ・ワンは容赦なく破壊弾を連続で撃つ。

「グッ!グォォォォォ‼︎」

街を守る為に動けないウルトラマンへ、破壊弾は集中する。

「グゥゥゥ…フッ!ハアァァァァ…ヘェア‼︎」

ウルトラマンは気合を入れて破壊弾を弾くと、ザ・ワンに連続パンチ。コンボの終わりに両腕を振り下ろし、ザ・ワンを叩き落そうとする。

「シュ!ヘェア!」

《グギャァァ⁉︎》

更にザ・ワンを掴もうとするウルトラマン。しかし、ザ・ワンは横に回転する事でそれを回避、その長い尻尾でウルトラマンを捕らえると、自らに引き寄せ、羽交い締めにする。

「グッ…グァァァァァ⁉︎」

ザ・ワンは更に尾でウルトラマンのエナジーコアを強打。溢れ出た光を口で吸った。

《テメエの力…俺が使ってやる!ありがてえだろ⁉︎》

「グッ!グォッ‼︎」

尚もエナジーコアを叩き、ウルトラマンの光を奪う。両腕を押さえつけられてるウルトラマンは身動きが取れない。

ピコン、ピコン、ピコン…

ウルトラマンのコアゲージが鳴り響く。人々の顔に絶望が写ったその瞬間

「「「やめろォォォォ‼︎」」」

3機のバルキリーがザ・ワンをミサイル攻撃。S型に宗介、残りのA型2機に和哉、佑人が乗っている。ザ・ワンは3機に破壊弾を撃つが、3機はガウォーク形態に変形し、急ブレーキで破壊弾を避けると、直ぐにザ・ワンの背後に回る。3人の視線がザ・ワンの至る所に走ると、そこが次々とロックオン表示になる。

「「「喰らえェェェェ‼︎」」」

フェニックス+ゴーストブースターに搭載されているマイクロミサイルを全て撃つ。背中で起こる爆発にザ・ワンは思わずウルトラマンを離す。ウルトラマンは直ぐにザ・ワンと距離を取ると、両腕のアームドネクサスに力を込めて振り下ろす。

「フッ!シェアァ‼︎」

2本のラムダ・スラッシャーがザ・ワンの両翼を切断、両翼はカラスに戻り、ザ・ワンは落ちる。巨大な土煙を上げながらもザ・ワンは立ち上がる。しかし、超高度から落ちた事で、流石のザ・ワンもふらついていた。ザ・ワンの目の前にウルトラマンは軟着陸、持てるエネルギー全てを使ってオーバーレイ・シュトロームを撃つ。

「フッ!シュ!ファァァ…フンッ!ヘェア‼︎」

《グッ!グァァァァァ⁉︎》

ザ・ワンは光の粒子となり、消えていく…ウルトラマンはそれを見ると、片膝をついて、消えていった…

 

「ハア、ハア…俺…少しは守れたか?」

倒れそうになる一樹の腕を誰かが掴む。それは…一夏だった。

「…お前、一樹だろ?」

「…一樹?誰のことですか?」

「とぼけんな。何年の付き合いだと思ってんだ。()()変わっても直ぐに分かる」

「…」

一夏の言葉に嘘をついてる様子は無い。確かに一樹だと理解してる様だ。

「…ああ、俺は櫻井一樹だよ。どうだ?驚いたか?自由自在に体の大きさを変えれる化け物だって俺を拒絶するか?学校の皆に言うのか?」

「…俺は気にしない。どんなに体が個性的でも、お前は『櫻井一樹』っていう人間だから…ただ、ひとつ頼みたい事がある」

一夏は…一樹の体の事を知っても、心友として付き合うと言う。一樹はそれを聞き、思わず笑顔になる。笑顔のまま一夏の言葉を待つ。

「…俺と弾を…S.M.Sに入れてくれ‼︎」

この言葉をきっかけに、一夏、弾は一樹の体の特徴を知り、己の体を鍛え、下手な軍人では相手にならない程鍛え上げられた。EX-ギアの操縦もこなした為、一夏は後の基礎となったのだった…これが、一樹が光を得た経緯と、一夏の強さの証だ…




書き溜めが無くなったのでまた更新頻度は落ちます。ご了承下さい。


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Episode32 夏休暇-サマーバケーション-

短いですが書けました。夏休みの始まりです。


夏休みに入ったIS学園。一夏は整備室で悩んでいた。

「うーん…どうしたものかな…」

「さっきからどうした?」

フリーダムの整備をしていた一樹が話しかける。

「いやさ。鈴からプールのチケット貰ったんだよ。最近出来た奴の」

「ほうほう」

「でも、セシリアが何か落ち込んでたからこのチケットあげようと思ったんだけど…」

「その考えは今すぐ捨てろ。学園が血に染まる事になる」

一夏がセシリアにチケットを渡したと判明した瞬間の鈴の反応が容易に想像出来た一樹。

「…でもさ。俺、今喪中だから…」

「……そうだったな」

今の一夏は沙織の件で色恋事とは無縁で行きたいのだ。それを考慮しない鈴も悪い気がする。

「かと言ってなぁ…どうしたもんか…」

「普通に話して来るしか無いだろ。黙って渡す訳にもいかないし」

「…だな。そうするよ」

その後一夏は鈴に事情を説明。最初行けないと言う事に憤慨していた鈴だが、沙織の件を話すと、流石に理解した。が…

「じゃあ、皆で海に行くのはどうよ?」

 

「…一夏」

「なんだよ一樹」

「なんで俺まで参加になってんだ?見ろよ。篠ノ之なんか今にも刀取り出しそうな雰囲気だぞ?」

整備室で寝ていた一樹を一夏が叩き起こし、正門に連れて行ったのだ。

「だって皆で海行くんだぜ?一樹も一緒じゃなきゃ。(なにより1人だけ男は辛い)」

「…」

一樹は諦めた様に頭を抱えた。

「わあったよ。んで?移動手段は?」

「…すみません。車お願いいたします」

「おいてめ。ちょっと面貸せ」

 

2時間後…

「やったー‼︎海だぁ‼︎」

シャルロットのはしゃぎ声が海岸に響く。何より驚くのはこの季節にほぼ貸し切り状態なとこだ。

「それでは私達は着替えてくる。一夏、覗くなよ?」

「箒、俺はそんな事はしない。そして今は喪中だ」

女子陣が着替えに行った中、一夏はマイクロバスの運転席に声をかける。

「一樹、お前も行こうぜ?」

「頼む…寝させてくれ…」

「駄目だ」

「…分かったよ…」

一夏は臨海学校でも来た水着。一樹はトランクスタイプの水着に、上には薄手の青いパーカーを羽織っていた。

「…臨海学校の時はウェットスーツ着てたよな?」

「あん時は飯がかかってたからな。今回下手に潜ると刺されそうだ」

主に箒に。

「…やっぱり“残ってる”のか?」

「そういうこった。ほれ、女子陣が来たぞ」

一夏が振り向くと女子陣が走ってきた。それと同時に一樹はそっと離れる。その手には釣竿とクーラーボックスがあった。

「お待たせ一夏!」

「いや、待ってねえよ。なあかず…一樹?」

「あれ?櫻井君は?」

一夏とシャルロットが首を傾げていたら、他の女子陣も来た。

 

「…やっぱり釣りじゃあまり獲れないな…」

隣の大きな岩越しに一夏達がはしゃいでいるのが聞こえる。

「…平和で良いな。コレがずっと続けば良いんだけど…」

「一樹ぃ!泳ごうぜ‼︎」

一夏がやたら良い笑顔で一樹を呼ぶ。

「嫌だ」

「即答ッ⁉︎」

一樹も良い笑顔で断る。

「そう言わずに泳ごうぜ」

「このパーカー、防水じゃねえから嫌だ」

「だったら脱げば…ごめん」

「やっと分かったか」

一夏が漸く察したと思ったら…

「良いから早く脱ぎなさいよ‼︎」

鈴が一樹のパーカーを取ろうとしていたが、一樹はあっさり避ける。勢い余って海に落ちる鈴。

「キャアァァ‼︎」

ドボンッ‼︎

「冷たッ⁉︎」

「漫画みたいな反応する奴だな…」

瞬間、後ろに殺気を感じた一樹。すぐに逆刃刀を()()受け止めた。

「チッ!」

「おいおい…今のが俺じゃなかったらお前殺人犯になってたぞ…」

箒の日本刀の斬撃を受け止めた一樹は、呆れた口調で言うとまた釣竿とクーラーボックスを持って離れようとした。

「ねえ櫻井君。なんで泳がないの?」

シャルロットが聞いてくる。流石に黙って通り過ぎる訳にもいかず…

「…色々あんだよ。本当ならここに来るつもりも無かった」

無かった、の部分で一夏を睨む一樹。

「…理由はこれだよ」

パーカーを脱いだ一樹。その体を見た全員が驚愕する。一樹の背中は、見るのも吐き気がする程酷い火傷があった…

「…ウェットスーツ無しで泳いだら小さい子は泣くだろ?それに、俺自身がこの傷を見せたく無いのもある」

流石に全員黙っていた。あの鈴でさえ、口を開けようとはしなかった。

「…一夏、帰りは誰か呼ぶから心配すんな。俺は先に帰る」

一夏が頷くと、一樹は一旦ワゴン車に戻り、着替えると携帯で宗介を呼び、ストーンフリューゲルを呼ぼうとブラストショットを取り出そうとするが…

「待て」

箒が、一樹の後ろに現れた。

「…この間の福音戦の時、雪恵の声が聞こえた…雪恵は、生きているのか?」

「……俺が話したところで、お前は信じないだろ?」

「……」

「どうしても知りたいなら…」

一樹はあるカードを箒に投げた。箒がキャッチすると、そこには病院の名前と、住所が書かれていた。

「…一夏とそこに行くんだな」

そう言うと、車から離れ、誰も見ていないとこでストーンフリューゲルを呼び、IS学園に帰って行った。




ではまた次回


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Episode33 訪問-ビジット-

「(だ、大丈夫かな?今日は家にいるって聞いてるけど…)」

織斑家の前で金髪ショートの女の子がインターホンを押すか押すまいかと悩んでいた。

「あれ?シャル?」

「ヒギャァァ⁉︎」

いきなり後ろから声を掛けられ、乙女らしからぬ声を出すシャルロット。

「い、一夏」

「なんだよヒギャァァって…」

「そ、そこは気にしないで‼︎って一夏、その格好は何?」

一夏の今の格好は季節外れの黒い長袖の上着に、ネクタイもきちんと閉めた状態だ。それでいて汗ひとつかいてない。

「ん?ああちょっとな…」

言葉を濁す一夏。シャルロットもそれ以上は聞かなかった。

 

「ちょっと待っててくれ」

一夏はそう言うと、超高速で部屋を片付ける。

「ねえ一夏…なんで拳銃が「シャル‼︎」あ…」

「片付けるから…待っててくれ」

「…うん…」

普段見ない一夏の厳しい表情に、シャルロットは言葉を失くした…

「そう言えば、何の用なんだ?今日来るって言ってなかったから夕方にバイトがあるんだけど…」

「う、うーんと、近くを通りかかったから…(来ちゃった♪がやりたかったなんて言えないよお…)」

「だよな〜。いくら何でも喪中の俺に来ちゃった♪なんて来る人がいる訳無いもんなあ…」

「ウグッ!」

シャルロット、痛恨の一撃!HP残り10%。

ピーンポーン

「ん?誰だ?」

「(ハッ!まさか⁉︎)」

インターホンが鳴ったので一夏は部屋を出て行った。シャルロットは嫌な予感しかしない…

 

「…なんで誰一人連絡寄越さずに来たんだよ…」

「仕方あるまい。()()予定が空いて()()お前の家が近かったからな」

箒の言葉に続き、シャルロット以外の全員が同じような事をそれぞれ言っていく。

「…だよなぁ。喪中の俺に来ちゃった♪なんてやる無神経な人がいるはず無いもんなあ…」

「「「「ガハッ⁉︎」」」」

どうやら全員無神経な様です。

 

「遅えな…」

S.M.Sに一樹はいた。久々に本社に来て溜まっていた仕事を片付け、一夏、弾と訓練…の筈がいつまで経っても一夏が来ない。

「…アイツが連絡無しに2時間もいるかあ?まさかな…」

一瞬、嫌な予感がしたが、エボルトラスターの反応が無い為、溝呂木が関わっている事は無い筈だ。

「…となると…宗介、一夏の携帯に電話入れてくれ。遅れてる理由は多分アレだから」

「また?なら確認取るわ」

 

一夏の携帯が鳴ると、一夏の顔は途端に青ざめる。その様子を見た専用機持ちは…

「一夏、どうした?」

「まさか脅されてますの?」

「どうしたのよ一夏」

「一夏、悩んでるなら話してね」

「一夏、隠し事とは頂けないな。話してみろ」

それぞれ心配そうな声を出す。

「い、いや。これは明らかに俺が悪いんだ。脅されてる訳でもないし」

無理に作った笑みで通話に応じる一夏。

「も、もしもし」

『連絡し無いとは随分偉くなったなあ一夏』

「そ、宗介。いやその、これには、深い深い訳が…」

『宗介貸せ。一夏、どうせ専用機持ちが家に来てて連絡しようにも出来なかったんだろ?』

「そ、そういう事です」

一樹からの助け舟を受け、直ぐに現状を説明する一夏。

『全員が()()予定が空いて()()お前の家の近くを通りかかった…ねえ…(無神経な奴らだ)』

何故かは分からないが、電話越しに一樹達の呆れた雰囲気が伝わってくる。

「ど、どうすれば良いかな?」

『少しだけ待ってやる。どうにかして来い。学園の目を気にしないで訓練出来る機会は少ないからな』

「…だな。了解、なるべく早く行く」

 

「…面倒になる事をしてくれたな一夏」

「…本当に申し訳ない」

S.M.Sに来た一夏。来たは良いが、面倒なのも付いてきた。つまり専用機持ちだ。

「シャルロットはまだ良いとしよう。一応S.M.Sの候補生だからな。他は完全に部外者だ。今は理香子(宗介の彼女)が案内してるけどいずれお前のとこに行きたいとか言って面倒なことになるだろうが」

「…はい」

「後でEX-ギアのパワーアシストを切って格納庫を30週な」

「死んでしまう‼︎」

「あ?文句あんのか?」

「ナンデモアリマセン」

 

「…以上がここ、S.M.Sの主な仕事です。何かご質問はありますか?」

理香子が呼びかけると、シャルロットが手を挙げた。

「どうぞ」

「えと、なんで皆さんこの季節にその黒の長袖の上着を着てるんですか?」

半袖のシャルロットに丁度良い空調だが、それだと職員は暑すぎるのでは無いかと思ったのだ。

「あ、コレですか?詳しい材質は言えませんが、着てる人に常に適切な温度にしてくれているので…極論を言えば、北極や南極でも、燃え滾るマグマの上でも理論上は活動出来る様にしてくれる上着ですね」

「「「「ええ⁉︎」」」」

理香子の説明を聞いて空いた口が塞がらない一同。直ぐに立ち直ったのはセシリアだった。

「あ、あの!おいくらで売ってくれますか⁉︎」

「売りません」

「そこを何とか!言い値で買いますので‼︎」

「ですから…はあ分かりました。担当者に聞いてくるので少しお待ち下さい」

 

一樹はS.M.Sの自室で書類の作成、整理をパソコンでしていた。宗介も手伝い、各国の防衛府から寄せられたメールに返信していく。そんなとこに、理香子が入って来た。

「ごめん、今少し話出来る?」

「宗介、行っていいぞ」

「悪いな」

「いや今回は一樹なんだけど…」

「「え?」」

「オルコットさんがコレ売って欲しいって…」

コレ、の部分で自らの上着を指す理香子。

「無理」

「「ですよね」」

「…と言っても、納得しないだろうから…在庫も無く、作るのが無理って事にしといてくれ」

「「了解」」

 

S.M.S見学会が終わった為、専用機持ちはとりあえず一夏のとこに向かおうとする。が…

「すいません、ここから先は関係者以外立ち入り禁止なんです」

警備員が専用機持ちを止めた。

「私達は一夏の関係者なのですが…」

「S.M.Sの関係者では無いでしょ?彼は今面接中です」

もちろん嘘だが、ここから先には格納庫があるので通す訳には行かなかった。流石S.M.S。状況判断力がずば抜けている。

「お疲れ様っす」

「あ、しゃフガガガモガッ⁉︎」

一樹が通ろうとするので、警備員も挨拶をしようとするのを一樹が止めた。

「(今の俺はただのバイトだ。分かったか?)」

「(りょ、了解しました‼︎)」

S.M.S独自のアイコンタクトで会話を終えると、そのまま通り過ぎようとする一樹。が、殺気を感じて振り向くと、そこには各々の射撃武装を部分展開している専用機持ち(シャルロット除く)がいた。

「…何のつもりだ?」

代表してラウラが答える。

「ここ、通させろ」

顔は笑ってるが、目が笑ってない…

「無理。俺ただのバイトだからそんな権限無いし」

しかし一樹はまったく動じずに返した。

「ってか、ここはIS展開禁止だぞ?これがお前らの国にバレたら直ぐにブタ箱入りだ」

「「「「ウグッ⁉︎」」」」

「それに…」

一樹はおもむろに腕を上げると、指をひと鳴らし。壁から強烈な電撃が放たれ、ISは解除された。

「強制解除されるだけだしな」

一方、格納庫では

「ひい、ひい、こんのッ!」

一夏が宗介監視のもと、EX-ギアのパワーアシストを切ってランニングをしていたそうな。




では、また次回


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Episode34 宇宙忍者-バルタン-

サブタイ通り。ウルトラマンと言えば…の方が登場します。オリジナル戦闘なので見にくいところもあると思いますが、よろしくお願いします。


東京のある病院。IS学園での護衛の仕事の休みを取った一樹は雪恵のお見舞いに来ていた。

コンコン

「雪、入るぜ」

部屋からは返事が無い。一樹は気にせず病室に入る。その部屋には、様々な機器を付けた雪恵が眠っていた…

「…久しぶり。俺、一夏の護衛役としてIS学園にいるんだ。そこではやっぱり篠ノ之もいたよ…会って早々睨まれたけど」

返事をしない雪恵に話しかけ続ける一樹。雪恵の脳死が発覚して早6年、定期的にお見舞いに来ていた一夏と違って、一樹は不定期で来ていた。理由は、定期的に来ていたら雪恵の両親と出会ってしまうから…それとS.M.Sでの仕事の事もあった…

「…今日は気持ちいい風が吹いてるから窓を開けるな」

太陽の良い香りと気持ちいい風が雪恵の病室に入ってくる。風によって雪恵の長く、美しい髪がさらさら流れている。その光景に、思わず息を飲む一樹。

「本当なら、お前も楽しく学生として動けた筈なのに、ごめんな…ウゥゥゥ…」

静かに泣く一樹。そんな一樹の肩に優しく触れる人がいた。一樹が驚いて後ろを見ると、懐かしく、また、会う資格が無いと思ってた人がいた…

 

「…久しぶりね。一樹君」

「本当に久々だね」

「お、おばさんとおじさん…」

6年ぶりに雪恵の両親の再会したのだった…

「ど、どうして…」

「織斑君に教えて貰ったの。『一樹が今日雪恵さんのお見舞いに行くと思います』ってね」

「一夏が…そっか」

「…一樹君、久しぶりにゆっくり話そうじゃないか」

「…俺に、そんな資格はありませんよ」

雪恵の笑顔が、戦い続けて疲弊していた一樹の心を癒した。何よりも平和を実感させてくれた雪恵の笑顔を、この2人から奪ってしまった事が、一樹の心を閉ざしている。箒にされた事など、一樹から見たら償いの1つでしか無い。そんな事はもう一樹にとって当たり前だった…

「…6年前にも言ったが、一樹君が気に病むことは無い。私達は君を恨んでなどいないのだから…」

「…だからと言って、平然としていける訳もありませんよ…心配しないでください。毎月の慰謝料はちゃんと払いますんで…」

「……」

雪恵の父親は次の言葉に悩んだ。雪恵の父親が言葉を選んでいる中…

ドックン

「ッ⁉︎」

一樹の懐でエボルトラスターの鼓動が鳴った。

「…おじさん、おばさん、俺、少し行ってきます。償いに…」

そう言うと、固まっている雪恵の父親を押しのけ、病院から急いで出た。

 

「山田先生!状況は⁉︎」

「現在、ネットにこの様な動画が出されています」

摩耶はキーボードを操作。モニターに件の動画を表示させる。

『地球人達よ、我々は惑星バルタンからやって来た。君達には、我々の貴重な資源として働いてもらう』

バルタンの一方的な宣言に、一夏はキレた。

「ふざけんな!そんなの受け入れられるか‼︎」

 

一樹は病院から飛び出すとストーンフリューゲルを呼ぶ。エボルトラスターの示すポイントにバルタンの円盤を見つけると突入した。突入してきた一樹に、バルタンは驚く。

《何⁉︎何故地球人が我々の船を見つけられた⁉︎》

「…それは企業秘密だ。地球に何の用だ?」

《決まっている。此処を我らの星にする為だ。こんな美しい星は他に無い。だが、貴様ら地球人はこの美しさを理解していない》

一樹の目を惑わせるために、バルタンは分身を使って一樹を囲む。

「…」

《価値の分からない者より、我々のような価値が分かる者が管理した方が地球も幸せだとは思わないかね?》

周りをバルタンで囲まれていても、一樹は動じない。むしろしっかりとブラストショットを握った。

「…ひとつ聞いていいか?」

《いいだろう》

「美しい物の価値が分かる者に管理させた方が地球が幸せって言ったな?なら…あんたらの故郷であるバルタン星は今どうなってんだ?」

《ッ⁉︎》

バルタンの動揺を感じたのか、一樹は続ける。

「美しい物の価値が分かる者が管理させた方がいい…それは分かる。俺たち地球人が絵画を博物館に寄贈するようにな。けど、地球は星だ。星ってのは不思議でな、絶妙な位置にいるからそこに生命が芽生える。その点は地球人の俺よりあんたらの方が詳しいだろ?」

《…ああ》

「それでも、この地球のような星は少ないのは分かるさ。なにせ、この太陽系で今生命が確認されているのは地球(ここ)だけだしな。それを踏まえて聞く。あんたらが地球に目をつけたのは何だ?『美しいから』それも嘘じゃないだろうさ。けど、本当は…」

ブラストショットを構えながら一樹が言い放つ。

「あんたらの星が滅びそうになった。だからあんたらの星から1番近くて、生き物が生きていられる星がここだった…違うか?」

 

「各システム、オールグリーン。クロムチェスター隊、発進準備完了」

『クロムチェスター各機、発進準備完了しました』

IS学園では、一夏を筆頭にクロムチェスター隊が出撃の準備をしていた。

『クロムチェスター隊、このポイントに向かえ』

千冬は解放回線で空中にあるポイントを指示した。

「ここは?」

一夏の疑問の声が聞こえたのだろう。千冬は一夏、シャルロット、ラウラに個人回線を送った。

『櫻井の機体のポイントだ』

「「「ッ⁉︎」」」

『櫻井は既にバルタンの船を特定したということだ。ポイントに着いたら櫻井の指示に従え』

「「「(了解)」」」

『よし…クロムチェスター隊、出撃せよ‼︎』

 

《地球人にしては頭が回るようだな。確かに、我々の星は滅亡に向かっている。我々の技術の発展にバルタン星はついてこれなくなった…》

「それで、バルタン星の人々が住める場所を急ぎ探す必要があった…」

《そうだ。地球を初めて見た時、私は感動したよ。ぜひともこの星に住みたいと思った》

「…あんたらの技術にどういった物があるかは知らないが、地球人に化けることも出来るんじゃないか?」

《ああ、出来るな》

「それで共存すれば良かったじゃないか。それで一緒に地球をより良くした方がお互いのためだったはずだ」

《我々より知識の劣る地球人と共存しろと?しかも姿を変えてまで?》

「下につけとは言わないぜ?直接争ったらこっちが負けるのは分かり切ってるしな。だけど、元々住んでたのはこっちだ。それくらい譲歩してくれよ。後、化けてくれって言ったのはその姿はこっちの人々にとって正直怖いからだ」

《先住民であるそっちに合わせろと言うのか?ふざけるな。我々の方が格が上だ。格の劣る地球人は我々の下に着く。地球人も動物を同じように扱っているだろ?それと同じだ》

 

「一夏、このポイントに敵がいるのか?」

ポイントに到着したクロムチェスター隊。α機に乗る箒が一夏に聞いてくる。

「ああ、9割の確率でな」

「だが、姿が見えないぞ?」

「それは今見つける。セシリア、鈴。β機には光学迷彩を解くレーザーが搭載されている筈だ。やってくれ」

『『了解(ですわ)!』』

 

《…ふん、貴様の仲間がこの船を見つけたようだな。だか、ほとんどの地球人は貴様のように理性は保たない。いつ攻撃してくるかな?》

「…(一夏、絶対に攻撃すんじゃねえぞ)」

フリーダムの個人回線を使って一夏に言う一樹。

『(分かってる)』

一夏の返しも聞けた。だが…

《仲間の中には理性的な者も3人程いるようだが、他の3人はどうかな?》

 

『バルタンの船を確認しましたわ!』

「よし、攻撃するぞ‼︎」

『分かってるわよ!』

「ッ⁉︎やめろ!攻撃するな‼︎」

一夏の制止も虚しく、α機とβ機は円盤を攻撃してしまった…

 

攻撃を受けた円盤は激しく揺れた。

「ッ⁉︎」

《やはりな。所詮貴様ら地球人はそうだ。自分たちの知らない存在は滅ぼさなければ気がすまない。そちらがその気なら、こちらもそうするだけだ‼︎》

目の前のバルタンが両腕のハサミから怪光線を撃ってくる。一樹は横に飛び込んで回避。説得は無理と判断した一樹はやむを得ずブラストショットを撃つ。ブラストショットの攻撃はバルタンをすり抜けた。

《フォッフォッフォッ…》

バルタン星人は巨大化し、円盤から飛び出した。

「くそッたれぇ‼︎」

 

『なぜ攻撃した⁉︎』

千冬の怒声がクロムチェスターに響く。

「目の前に敵がいれば撃つ。当たり前ではないですか⁉︎」

箒が叫ぶ。もう既にバルタンは都市部に向かってしまった。今それを責めている時間はない。一夏は仕方なくα機の操縦権を奪い、バルタンを止めに向かう。それを察したシャルロットもγ機をα機を追う様に飛ばす。

『何をしてるセシリアに鈴⁉︎早く来い‼︎』

未だ動く気配の無いβ機にラウラが叫んだ。その言葉にハッとしたセシリアは、ようやくβ機を向かわせた。

 

都市部に向かおうとしている円盤。わざと墜落し、都市部を攻撃しようとしているのだ。一樹はコクピットでコンソールを操作しようとするが、もう操作は受け付けないよう設定されていた。

「なら!」

その場でエボルトラスターを引き抜き、一樹はウルトラマンに変身した。

「シェアッ‼︎」

ウルトラマンは円盤の下部に移動。円盤を宇宙に押し出す。

「キュアァァァッ‼︎」

 

「櫻井君が円盤を押し出しています‼︎」

「そうか!円盤を宇宙で破壊しようということか‼︎」

ウルトラマンの意図を理解した千冬は、すぐさまウルトラマンの正体を知っている3人に個人回線を送った。

「櫻井は円盤を破壊してから来る!それまでなんとしてもソイツを食い止めろ‼︎」

『『『了解!!!!』』』

 

《フォッフォッフォフォフォ…》

両手のハサミから怪光線を撃ち、都市を破壊していく。人々が悲鳴を上げながら避難していく。そして、バルタンの進行方向には、雪恵のいる病院があった…

「(何としても食い止める‼︎)」

3機が一斉にバルタン星人に攻撃する。しかし、バルタンは攻撃を喰らった瞬間、脱皮する様に攻撃を受け流した。

「変わり身の術⁉︎」

一夏が驚きの声をあげる。変わり身の術…それが、宇宙忍者と呼ばれるバルタンの得意技だ。

「クソッ!どうすれば‼︎」

 

円盤を成層圏から押し出したウルトラマンは、円盤を念力で更に遠くに飛ばす。

「シュ!」

充分に地球から離れると、クロスレイ・シュトロームを円盤に放った。

「ファァァ…デェアッ‼︎」

クロスレイ・シュトロームは円盤に直撃。大爆発を起こした。ウルトラマンは円盤が完全に破壊された事を確認し、アームドネクサスを交差。

「シュウッ‼︎」

マッハムーブを使って急ぎ地球に戻る。

 

地球ではバルタンを止めようとクロムチェスター隊が四苦八苦していた。しかし、クロムチェスターの攻撃は全く効かず、バルタンは着々と病院に近づいていた。

「くそッ‼︎止まれぇぇぇぇ!!!!」

一夏の叫びも虚しく、バルタンはそのハサミで病院を破壊しようとする…

 

「デェアァァァァ‼︎」

《フォッ⁉︎》

間一髪ウルトラマンが間に合い、飛び蹴りでバルタンを吹き飛ばした。

「「「「ウルトラマン‼︎」」」」

 

「櫻井君が間に合いました‼︎」

「よしっ!クロムチェスター隊につなげろ‼︎」

「はいッ!」

摩耶はすぐに解放回線を繋げた。

「クロムチェスター隊の火力ではバルタンは倒せない。ウルトラマンの援護に徹しろ!」

『『『『分かりました‼︎』』』』

 

ウルトラマンとバルタンは睨み合う…

《フォッ!》

先に動いたのはバルタンだ。両腕のハサミからミサイルを連発する。

「シュ!ハッ!」

ウルトラマンはそのことごとくを迎撃。後ろの病院には1発も通させなかった。

「シュウッ!」

ミサイルを迎撃しきったウルトラマンはマッハムーブでバルタンに急接近、バルタンの右ハサミと首を掴んで投げ飛ばした。

「フッ!シェアァァ‼︎」

《フォッ⁉︎》

ウルトラマンはバルタンが立ち上がろうとしてる間に、クロスレイ・シュトロームを撃つ。

「フゥゥゥ…ヘェアァ‼︎」

しかし、バルタンは分身の術でクロスレイ・シュトロームを受け止めた。

「ファッ⁉︎」

《フォッフォッフォッ…》

不気味に笑いながら、ウルトラマンを中心に回るバルタン。ウルトラマンを囲む様に複数のバルタンが現れた。

「フッ⁉︎」

《フォッ!》

ウルトラマンの後ろのバルタンがその巨大なハサミでウルトラマンを叩きつける。ウルトラマンの背中に火花が散った。

「グアッ⁉︎」

前に倒れかかるウルトラマン。そこに正面のバルタンの前蹴りが来る。

「グォッ⁉︎」

その後も四方八方からバルタンの攻撃を受けるウルトラマン。

「やめろォォォォ‼︎」

一夏のクロムチェスターαがバルタンの一体に攻撃。すると、バルタンの分身が全員怯む。バルタン達の感覚は全て共有されていたのだ。その隙を見逃さず、セービングビュートでバルタンをまとめて縛るウルトラマン。

「フッ!シェア‼︎」

《フォッ⁉︎》

バルタンは光の鞭の中で一体に戻る。ウルトラマンは右手でバルタンを抑えながら、左手をエナジーコアにくっ付け、下ろす。

「フッ!シェアッ‼︎」

光の波動がウルトラマンを包み、波動が晴れると、ウルトラマンはアンファンスからジュネッスにチェンジしていた。セービングビュートを右手から離すが、光の鞭はバルタンを縛ったままだ。ウルトラマンはメタ・フィールドを展開する。

「シュ!ファァァァ…フッ!ヘェアァ‼︎」

バルタンとウルトラマンはメタ・フィールドに移動した。それを見た一夏は指示を出す。

「Set into strike formation‼︎」

「「「「了解‼︎」」」」

ストライクチェスターに合体し、メタ・フィールドに突入する。

 

「ヘェアァ!」

《フォッ⁉︎》

メタ・フィールドを展開後、ウルトラマンは強烈なストレートキックでバルタンを蹴飛ばした。その勢いでバルタンに絡まっていた光の縄は消えた。

《フォッフォッフォッ…》

バルタンは再度分身の術を使おうとするが…

《フォッ⁉︎》

メタ・フィールドの効果によって、バルタンは分身の術が使いにくくなっていた。いつもの感覚で分身の術を使おうとしていたバルタンは、術が使えずに戸惑う。

「フッ!ハァァァァ…デェアァァ‼︎」

ウルトラマンはバルタンに向かって走り、途中で跳び上がる。右足を突き出し、強烈な飛び蹴りをバルタンに放つ。

《フォッ⁉︎》

術が発動出来ない事で止まっていたバルタンは、ウルトラマンの飛び蹴りをまともに喰らってしまう。しかし、直ぐに起き上がると両手のハサミからウルトラマンの足元へ怪光線を放つ。すると、ウルトラマンの足が凍ってしまった。

「フッ⁉︎」

足が凍って動けないウルトラマンに、バルタンはハサミを振り上げた。

《フォッ!》

「グァッ⁉︎」

氷からは逃れたが、ハサミの一撃は相当重かったらしく、ウルトラマンの動きが鈍い。そんなウルトラマンに回転ドロップキックを放つバルタン。

《フォッ‼︎》

「グアァァァッ⁉︎」

キックを喰らった衝撃でウルトラマンの体から火花が散る。更に受け身も取れず、背中をメタ・フィールドの大地に強打する。

「ガッ⁉︎」

身動きが取れないウルトラマンを連続で踏みつけるバルタン。

《フォッフォッフォッ…》

「グッ⁉︎グォッ⁉︎グァッ⁉︎」

ピコン、ピコン、ピコン

そこに、ストライクチェスターが突入してきた。

「見つけた!スパイダーミサイル、発射‼︎」

ストライクチェスターから大量のミサイルが放たれ、バルタンに命中した。

《フォッ⁉︎》

ミサイルの集中攻撃を喰らい、バルタンは怯んだ。

「シュッ‼︎」

バルタンが怯んだ隙にウルトラマンはバルタンの脚を掴んで持ち上げた。

「キュオォォォォ…」

そしてそのまま大回転。

「デェアァァァァ‼︎」

ジャイアントスイングでバルタンをメタ・フィールドの大地に叩きつけた。

《フォッ⁉︎》

バルタンは背中を強打。だが、すぐ起き上がってウルトラマンに冷凍光線を放つ。

「シュウッ‼︎」

ウルトラマンはマッハムーブで冷凍光線を回避。バルタンの背後に回り込んだ。

《フォッ⁉︎》

すぐさま振り向くバルタンに、ウルトラマンの強烈な回し蹴りが極まった。

「デェアッ‼︎」

《フォッ!?》

バルタンの体から火花が散る。ダメージの大きさに動きが止まっているバルタンをウルトラマンは頭上高くに持ち上げ…

「デェアァァァァ‼︎」

投げ飛ばした。

《フォッ!?》

そして、両腕にエネルギーを貯める。

「フッ!シュウッ‼︎ファァァァァ…フンッ‼︎デェアァァァァ!!!!」

オーバーレイ・シュトロームを放つ。オーバーレイ・シュトロームはバルタンに直撃し…爆散した。

「よっしゃぁ‼︎」

ストライクチェスターの搭乗者がそれぞれ喜ぶ。ウルトラマンはストライクチェスターにゆっくり頷くとメタ・フィールドを解除して消えていった。

 

「ハア、ハア、ハア…」

バルタンを倒した一樹だが、かなり体にきてる様だ。

「なんとか…守れた…」

そのまま壁に手をつき、ゆっくりとその場から離れようとする。しかし、手が滑り、倒れてしまう。

「…今回は、少しばかりキツイな…」

震える右手で、ブラストショットを取り出し、天空に向けて撃とうとする一樹。しかし、それを止める手があった。

「…一夏…」

「…まだ、“呼ぶ”のは待ってくれ」

そう言うと、一樹に肩を貸し、雪恵の入院してる病院へ向かう一夏。病院の前では、雪恵の両親が2人を待っていた…

「…お待たせしました」

「ありがとう一夏君。一樹君、さっき戦ってた巨人は君だろ?」

雪恵の父親が確認する様に聞く。

「…何の事ですか?」

巻き込みたく無い一心で、必死でごまかす一樹。

「ごまかさないでくれ。私達2人は君が飛行機を呼んだのを見たんだ。それに、戦っていないなら何故傷だらけの状態で一夏君の肩を借りてるんだね?」

「……」

一樹は既に正体がバレていると確信した。

「…ええ、アレは俺ですよ」

「…いつからだね?」

「…今はちょっと…一夏、そろそろ門限がやばいだろ?早く帰った方が良い」

「え、ちょ、酷くね⁉︎」

「…ここまで連れてきてもらったのは感謝するよ。けど、ここからはIS学園組にはまとめて説明したいからさ…頼むよ」

「それは理解したけどお前の帰りは⁉︎」

「“呼ぶ”から大丈夫だ」

「…分かったよ」

そう言うと、一夏は渋々IS学園に帰って行った。その後、雪恵の病室に移動して話し始める。

「…まずは『いつから』ですね。ざっくり言えば6年前です」

一夏が去った後、雪恵の両親に光を得た経緯を話した。2人とも真剣に聞いてくれていて、特に雪恵が一樹を導いた事には驚いていた。

「…そんな事が…」

「そして、2年前のザ・ワンに繋がる訳か…」

「ええ…」

ザ・ワン事件は雪恵の両親も知っていたが、まさか娘の幼なじみがウルトラマンとして戦っていたとは思わなかったろう…

「…ありがとう、話してくれて」

一樹が全て説明し終えると、雪恵の母親が一樹に礼を言った。一樹は訳が分からず、首をかしげる。

「…どうしてお礼を言われたのか、分からないんですけど…」

「あなたは雪恵ちゃんが生きてる事を証明してくれた。それだけでお礼を言うには充分よ」

雪恵が一樹に光を与えた…つまり、雪恵は()()()で必ず生きている…それを知る事が出来ただけでも、雪恵の両親には嬉しかったのだ。

「…俺の話が少しでも役に立ったなら幸いです。ではまた」

雪恵のさらさらした頭をひと撫ですると、一樹は病室から出て行こうとする。

「一樹君、一緒に夕食を食べに行かないか?」

「…お誘いはありがたいんですが、そろそろ…ヤバイんで。また次の機会に」

雪恵父の誘いを丁重にお断りすると、今度こそ病院から出る。ストーンフリューゲルを呼び、病院から去っていく一樹。だから一樹も雪恵の両親も気付かなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………かー…………く………………ん………………」




ではまた次回


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Episode35 祭-フェスティバル-

今回、一夏は序盤しか出ません。

それと、自分が好きなゲームのキャラを少し出しました。キャラはあまり掴めてませんけど。


「一樹、お前宛の封筒が来てたぞ」

「ああ、ありがとう」

一夏から封筒を受け取った一樹。

「…この字は」

「ああ。雪恵の母さんのだ」

一樹が封筒を開けると、そこには手紙が1通入っていた。

『一樹君、お元気ですか?実は、嬉しいニュースがあります。先日、織斑君に連れられて、箒ちゃんが雪恵ちゃんのお見舞いに来てくれました。彼女は雪恵ちゃんが生きている事を知って、とても喜んでくれていました』

手紙を読んでいると、とうとう箒が雪恵の真実を知った事が分かる。

「…そっか…」

『今度の日曜日に、一緒に食事でもどうですか?久々に私の腕をふるった料理を食べに来てください。主人も会いたがっています。決まり次第、下の番号に電話下さい。

○○-◇◇◇◇-△△△△

田中』

手紙を読み終えた一樹。顔を上げると、一夏が話しかけてきた。

「…行って来なよ。俺の事は気にするな。千冬姉だって、すぐに了承すると思うぜ」

「…ありがとな」

 

「…久しぶりに来ました。ここは」

「はは、これから毎日来てくれたって構わないよ?」

「将来ここで住むかもしれないしね」

「おばさん、さりげなく娘の将来を決めつけるのはやめましょうよ…」

一樹が頭を抱えながら言うも、田中夫妻は笑っていた。

「君のおかげで雪恵は生きてる。感謝しても仕切れないよ」

「…その話はやめましょう。終わりが見えないので」

「…分かった。では、たくさん食べてくれ」

その後、一樹は雪恵母の料理を食べ始める。

「やっぱり美味い…」

「良かった。一樹君に食べてもらうの久しぶりだから張り切っちゃって…たくさんあるから遠慮なく食べてね」

「ありがとうございます」

懐かしい味に、一樹の箸はしばらく止まらなかった。

「そう言えば、来週の日曜に夏祭りがあるらしいな」

「そうね…夏祭りと言えば…」

「俺も思い出しましたよ。アレを」

 

「ねえねえ雪恵、今度の日曜にお祭りがあるらしいんだけど一緒に行かない?」

小学校3年生のある休み時間、雪恵はクラスメイトの女子から誘われていた。

「ごめんね。もう約束してるの」

「えぇ〜また櫻井君?」

「うん!」

笑顔で答えると、一夏とチェスをしている一樹の元へ近づく雪恵。

「かーくん!今度の日曜にお祭りがあるんだって!行くよ‼︎」

「おいこら待て。俺の予定を聞け。あと一夏。チェック」

「げげっ⁉︎ならこれでチェック!」

「かーくんも浴衣着てね!」

「だから人の話を聞け。あとこれでチェックメイト」

「また負けた…だと?」

こんな事は日常茶飯事なので、女子は微笑ましく、男子は(一夏除く)軽い嫉妬を込めながらその光景を見ていた。

「とにかく!かーくんは私とお祭り回るの!これ決定なの‼︎」

「…ハァ…わあったよ。行けば良いんだろ行けば」

「そうそう!じゃあ19:00に私の家に迎えに来てね!」

「…19:30にしてくれねえか?」

「えー!絶対に「雪?」そうだね19:30が良いよね‼︎そうしよう‼︎」

時間に文句を言おうとした雪恵だが、一樹の満面の笑み(しかし目が笑って無い)を見てすぐに考えを改めた。

 

学校が終わると、いつも通り一緒に帰る一樹、雪恵、一夏、箒。

「一樹は日曜の祭り行くのか?」

「ああ、どっかの誰かさんが脅して来たからな」

「人聞きの悪い事言わないで‼︎」

一樹のおふざけに慣れた様に返す雪恵。箒はそれを見て、自分と一夏もこうなりたいなと思っていた。

 

そして約束の日…

ピンポーン

『はーい』

インターホンを押すと、すぐに雪恵の母親が出た。

「すいません、櫻井です」

『あら、一樹君?ちょっと待ってて』

その後家の中に通され、リビングに入った。

「ごめんなさいね。まだ雪恵ちゃんが着替え終わって無いの」

「…自分が指定した時間だったらどうなってたのやら…」

『お母さーん!助けて〜!』

「…どうやら浴衣が着れて無い様ですね…」

「…そのようね。ちょっと行ってくるからくつろいでて」

雪恵母が部屋から出るのと入れ替えに、雪恵父がリビングに入って来た。

「一樹君、いらっしゃい」

「お邪魔してます」

そこで漸く雪恵が来た。

「お、お待たせ…」

「遅えぞ雪。早くしねえと縁日終わっちまう」

「ちょ、感想は⁉︎」

「言ったろ?『遅えぞ馬鹿』って」

「欲しい感想じゃないしさっきより酷くなってる⁉︎」

「あーはいはい。ユカタニアッテルヨ」

「うわ適当‼︎」

 

その後、祭り会場に移動した2人。

「迷子になるなよ〜」

「かーくん同い年だよね⁉︎なんで私を子供扱いするの⁉︎」

いつでもこの2人は平常運転だ。

「いやだって…雪って…うん」

「言葉濁した⁉︎凄く気になるんですけど⁉︎」

「うるさいぞ雪。周りに迷惑だ」

「かーくんが大声出させてるんでしょォォォォ‼︎」

2人の仲の良さは近所でも有名なので、周りの人は微笑ましく見ていた。

「んで、どこ回る?」

「花火まではまだ時間あるから…縁日回ろう!」

「だから話を聞け。どこ回る?」

「金魚すくい‼︎」

「はいはい」

丁度目の前に屋台があった為、2人はそこに並ぶ。

「お!近所で有名のカップルだな!いらっしゃい!」

屋台のおっちゃんが結構大きい声で話す。

「か、カップルだなんて…」

雪恵は顔を赤らめているが、一樹は

「…と言われてますよ。お兄さん方」

自分の直ぐ後ろに並んでいた高校生のカップルに話していた。

「…かーくん、ワザとでしょ?」

「当たり前だ。俺は一夏と違って難聴じゃないからな」

 

誰が難聴だ‼︎

 

「…否定の声が聞こえたけど」

「…気にしたら負けだ。ほれ、早くやらないと迷惑だぞ」

「は〜い」

雪恵は代金を払ってポイを貰うと真剣な顔で水槽に向かう。一樹はその顔を首からかけていたデジタル一眼レフで撮った。

カシャ

「……」

カメラの音に慣れてる雪恵は気にせずに水槽を見て、タイミングを計っていた。

「…えいッ!」

素早くポイを入れたが、すぐに破けてしまった。

「うわぁぁん!かーくんやってぇぇ‼︎」

「……めんど「やって‼︎」せめて最後まで言わせろよ…おっちゃん、俺と賭けしない?」

「お?何だ何だ?」

「俺が一つのポイで10匹以上取れたら今の雪の代金返してくれ。それと1匹貰う。10匹取れなかったら2倍払うが金魚はいらない。どうだ?」

「よし乗った‼︎」

ああ…御愁傷様、屋台のおっちゃん。

「さてと…」

ポイを貰った一樹。周りの人達が息を飲む…

「ハッ!」

シュババババ‼︎

一樹のポイが凄まじい速度で動き、次々と宙に舞う金魚。そして一樹の籠に見事着水、見てた人達全員が口をあんぐりと開けている中、一樹は金魚を次々入れていく。

「も、もう良い。兄ちゃん勘弁してくれぇ‼︎」

「ん?あいよ」

約束通り、雪恵が払った代金が帰ってきた上に、金魚を1匹貰った2人。雪恵はその金魚を見てニコニコ笑っていた。

「〜♪〜♪」

陽気に鼻歌を歌いながら。

「雪、お前はしゃぎ過ぎ。袖濡れてるぞ」

「え⁉︎いつの間に⁉︎」

「金魚すくいの時だな。夢中になり過ぎてこうなってる」

先程撮った写真を雪恵に見せる一樹。確かに袖が水についている。

「だから子供っぽいって言うんだよ」

いや、一樹が年上過ぎるだけだから。しかし、それを知らない雪恵は

「うぅぅぅぅ…今日はやけ食いするもん‼︎行くよかーくん‼︎」

「…腹壊すなよ」

年相応に返すのだった。

 

「〜♪〜♪」

先程まで頬を膨らませていた雪恵だが、一樹が綿あめを買ってあげるとすぐご機嫌になった。

「(…単純な奴…)」

「ん?…あ!」

雪恵は少し向こうの友人を見つけた様だ。

「…雪、30分後に連絡くれ」

「え?良いの?」

「目の前でガールズトークされるより全然良い」

「…ありがと♪」

雪恵は友達のとこへ走って行った。一樹はそれを見送ると、自分の食べる物を買いに行った。

 

「おかしい…1時間経ってるのに連絡が来ない。まさか…」

一樹は近くのベンチに座ると目を閉じ、集中する。雪恵の気配を感知すると…

「ッ⁉︎」

急ぎ駆け出した。

 

「なんだ嬢ちゃん達。あんたらがぶつかったから服が汚れちまったじゃえねか」

雪恵達はどこかのチンピラ達に絡まれていた。雪恵は確かに一樹が出す殺気で慣れているが、雪恵自身はそこまで強くない。友人を庇う様に前に出ているが、実際は恐怖で足が震えそうだ。

「(かーくん…)」

「どうしてくれんだ?」

「どうもこうも小学生に絡むなんてあんたら暇か?」

「「「「あぁ⁉︎」」」」

やーさん達が後ろを向くと、そこには一樹がいた。

「なんだクソガキ。お前が責任持つのか?」

「責任?何の?」

「そこの嬢ちゃん達がした事の責任だよ‼︎」

チンピラの1人が叫ぶが、一樹は呆れた様な表情になる。

「はぁ…あんたら、馬鹿だろ」

ブチッ

「上等じゃあ‼︎」

一樹の挑発に引っかかったチンピラ達は各々ドスを構え、一樹に向かって走る。一樹はニヤリと笑うと

「正当防衛成立♪」

一瞬で移動した。

「「「「あれ?」」」」

チンピラ達は一樹を見失った。ちなみに一樹は雪恵の目の前にいたりする。

「よう雪」

一樹が小声で話しかけてきたので、雪恵も小声で話す。

「なんであの人達は見えてないの?」

「んーと…殺気で俺を認識出来ない様にしてるからだな」

「かーくんって…出来ない事ある?」

「いっぱいあるぞ…まあそれはともかく、雪も雪の友達もちょっとの間目閉じて耳塞いでいてくれ。30秒で終わらせるから」

「う、うん」

雪恵は友達に一樹の言葉を伝えると、直ぐに目を閉じ、両手で耳を塞いだ。それを確認すると、一樹は両手をパキパキ鳴らす。

「サンドバッグにしてやるから覚悟しろ」

しばらくお待ち下さい…

「つ、強すぎる…」

「なんだこのガキは…」

チンピラ達は一樹にボコボコにされていた。

「…お前ら、どこの組だ?」

「はっ!話すと思うか⁉︎」

「んにゃ、思わない。だから俺が知ってる組を一個ずつ聞く。真島組」

「「「「ッ⁉︎」」」」

「1発クリア」

「だ、だからなんだってんだよ⁉︎」

「こうする」

一樹は携帯を取り出す。目的の番号にかけると、相手はすぐ出た。

『かず坊!久しぶりやないか!どないしたんや?』

出たのは一樹の予想外の人物だったが。

「え?え?おじさん?」

『そうや。なんでそんな驚いてるんや?』

「だ、だってこれマサ兄の携帯じゃん」

『ああ、マサが相手が珍しくかず坊だって言うてな。俺が出た方が早いやろ?』

「そうだけど…大丈夫なの?おじさんのとこ順序とか厳しそうだし。って逃げるなごら」

こっそり逃げようとしていたチンピラ達に蹴りを入れる。更に雪恵達にこれ以降の場面を見せないために木陰へと蹴り転がす。

『…今『逃げるな』言うてたな?どういう意味や?』

先ほどまで一樹と気さくに話していた男の雰囲気がガラッと変わった。

「おじさん、○○神社の祭りに誰か出してる?」

『おう、何人か送っとるで』

「…おじさんだからありえないと思うけど、小学生の女の子からカツアゲさせるために?」

『…カツアゲしてたのはどんなやつや?』

一樹がチンピラ達の特徴を言って行くと、電話口で何かが割れる音が聞こえた。

『ソイツらは確かにウチのもんやな。俺が直々に行こうか?』

「いや、こんな下っ端だけを送るおじさんじゃないでしょ?絶対幹部格1人いるでしょ?その人は俺を知ってる?」

『…マサ。今日の祭りに送った人間はかず坊のこと知っとるか?』

『へい、今日行ってるのはシュウですからかず坊のことはよく知ってる筈です』

『…ということや。ソイツを向かわせる。すまんがそれまでそのゴミども見といてくれや』

「ごめん。忙しい時に」

『かず坊が気にすることやないで。今度メシ食いに来てくれや』

「うん。近いうちにご馳走になりに行くよ…だから逃げんなって言ってるだろ。消すぞ?」

懲りずに逃げようとするチンピラを叩きのめす一樹。

『マサ!急いでシュウを行かせるんや!ウチのゴミをかず坊に押し付けるんやないで‼︎』

『へい!』

男の言葉に、マサが走り出した音が聞こえた。とりあえず自分のやることを終えた一樹は携帯をしまった。

「て、てめえなんて事してやがる!」

震えながらチンピラ達のリーダーが一樹に怒鳴る。

「…おじさんの組を知ってるからだよ。おじさんの組は見た目こそ極道と変わらないけど、実際は下手な警察官よりカッコいいからな」

「んな事は聞いてねえんだよ!さっきは手加減してやったが、こうなったらてめえを東京湾に沈めてやる‼︎」

チンピラ達がナイフを一樹に振り下ろす。だが…

 

バギィィィィンッ!!!!

 

「「「「ガッ!?」」」」

一樹にナイフが当たるより速く、チンピラ達に拳が当たった。

「…ナイスタイミング。シュウ兄」

マサが向かわせたシュウとその腹心がチンピラ達を吹き飛ばしていた。

「…遅くなってしまいすいませんでした。一樹さん」

ゴツい見た目からは想像もつかない礼儀正しさのシュウ。一応歳下である一樹に深く頭を下げている点からもその律儀さは伺える。

「いや、俺こそごめん。見回りの邪魔して」

「一樹さんが気にすることではありません。本来、この見回りは市民がゴロツキにカツアゲされないためのですから…まさか身内がこんな事をするとは思いませんでしたが。一樹さんの連れの方にもお詫びしなければ」

「ストップストップ!シュウ兄はあいつらには怖すぎるから!色んな意味で‼︎」

「…そうですか。では」

シュウは財布から諭吉さんを取り出す。

「これで祭りをもう一度楽しんでください。それと、もし怪我などしていたら一樹さん経由で構いません。私の携帯に連絡を」

「お金それは流石に大きいから!小学校3年生だよ⁉︎英世さんにして!お願いだから!」

「しかし…」

「じゃあシュウ兄。ちょっと耳貸して」

「ん?はい」

シュウは一樹の背丈に合わせるために屈む。

「________」

「…分かりました。全力で用意させていただきます」

 

「さて、花火ももうすぐだな。行くぞ雪」

「うん…」

先程の事があるからか、元気がない雪恵。

「…雪、元気出せよ」

「でも…」

「なら帰るか?花火も見ないで」

「…その言い方ずるい」

「じゃあ俺はかえ「花火見る!見るからまだダメ‼︎」…最初っからそうすれば良いんだよ」

「はっ!流された⁉︎」

ようやくいつもの調子に戻った雪恵。一樹は小さく笑いながら雪恵の手を取り、秘密の場所へ向かう。

「雪、ちゃんと掴まってろよー」

「うん」

いわゆるお姫様抱っこをやり、ジャンプ。神社の屋根に着地した。

「かーくん、ありがとね」

「…どういたしまして」

花火が始まった。

「来年も…これからもずっと、一緒にいたいな…」

子供らしい願い。しかし、それに込められている意味はとても複雑だ。

「ねえ…かーくんはどう思う?」

「俺は… 」

一樹が言った事は、花火の音で消されてしまった。雪恵は泣きそうな顔になっている。それが悲しくて泣きそうなのか、嬉しくて泣きそうなのかは、2人しか分からない。

 

「泣き疲れて寝てやんの…」

今、一樹は雪恵をおぶっていた。花火大会の後、泣き疲れた雪恵は一樹の肩で寝てしまっていた。ちなみに現時刻は21:00。子供は寝てておかしく無い時間だ。

「…このままじゃ時間かかるな…よっと」

左手で雪恵を支え、携帯を取り出す一樹。そして、雪恵の父親に電話をかける。

『もしもし?』

「すみません、連絡遅れました。櫻井です」

『おお!一樹君、今どこだね?』

「それが…雪が寝てて…まだ○○公園なんです。迎えに来てもらって良いですか?」

『分かった。すぐに行くよ』

3分後…

「お待たせ、一樹君」

「すみません」

「いや、こちらこそすまない。送って行くよ」

「いえ、もう迎えは呼んであるんで、大丈夫です」

「そうか…気を付けて帰ってくれ」

雪恵の父親は雪恵を抱えると、家に向かって行った。一樹はそれを見送ると、指をひと鳴らし。本来の大きさに戻る(服はS.M.Sの制服に変わってる)と、家に帰った。

 

「そんなことがあったの!?」

「私たちは聞いてないぞ!?」

途中、雪恵とその友人がチンピラに絡まれていた事を聞いた2人は驚きの声をあげた。

「え⁉︎雪何も言ってなかったんですか⁉︎」

「え、ええ…」

「あの子は全く…」

我が子に呆れのため息をつく2人。一樹は苦笑するしかない。

「それで、そのシュウという人に頼んだのはなんだい?」

「それは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あいつらの記憶にずっと残る様な、盛大な花火を上げてもらうことですよ」




半分以上追憶でしたが、楽しんでいただけたでしょうか?ではまた次回。


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Episode36 三面怪人-ダダ-

今回もサブタイ通り、初代ウルトラマンの敵である方が登場します。バルタン戦より更に拙い戦闘描写ですが、どうぞお楽しみ下さい。


「や、やめてくれえェェェ‼︎」

ある研究所で、研究員の悲鳴が上がる。研究員の前には、謎の銃を構えた白い異星人がいた…

《ダァッダァッダァ…》

異星人、ダダは銃から怪光線を撃つ。怪光線を浴びた研究員は小さくなり、カプセルへと閉じ込められた…

 

IS学園は夏休みなのだが、学園に一夏はいた。理由は下手に家にいると、ライフラインの料金がかかり、千冬の負担が増えるからだ。

「(正直、俺の方が稼いでるんだけど…)」

そんな一夏の側にいたくて、家に帰らないのがいつもの面々。今日も皆で昼食を食べていた。そんな時、呼び出しの放送が鳴る。

『織斑は直ぐに管制室に来る様に。繰り返す、織斑は直ぐに管制室に来る様に』

 

「失礼します」

呼び出された一夏が管制室に行くと、管制室には千冬、束の他に一樹がいた。

「来たな織斑。では説明してくれ束」

「あいあいさー。単純に言うとね、ある研究所を調査して欲しいんだ〜。『S.M.S』にね」

「「ッ⁉︎」」

「S.M.S?何だそれは?」

「ちーちゃんは知らなくて良いよ。とりあえずかずくんがS.M.Sの人ってとこだけ理解して貰えれば」

「なら何故織斑を?」

「いっくんはある意味この学園の守護神でしょ?だからだよ」

千冬に説明する束。一夏はとにかく余計な事を言わないでくれと願うしか無い。

「とにかく話を戻すね〜」

束が話した事を要約すると…昨晩、日本のある研究所から防衛府にSOS信号が来たので、防衛府がIS学園に調査を依頼したとのこと。

「てな訳で、2人に調査して来て欲しいんだ。こんな危ない任務、あの子達が行ってくれる訳無いからね」

「「いや条件次第だろ」」

束の言葉に思わずツッコミを入れる一樹と千冬だった。

 

「まさかここでコレに乗る時が来るなんて…」

格納庫には束が既にVF-0Sを用意してくれていた。一樹が前部座席、一夏が後部座席に搭乗する

『進路クリア、発進いつでも良いよ』

「了解。フェニックス、出る‼︎」

フェニックスが出撃してすぐ、ヒロインズがこっそりクロムチェスターに乗ろうとするが千冬に見つかり、ごうも…教育を受けたのは別の話。

 

「ここか…」

研究所に着いた2人、一樹はブラストショットを、一夏はビームマグナム(ガトリングモード)を構え、研究所に近づく。

「一夏、二手に分かれるぞ。俺は左。お前は右だ」

「了解」

建物に入って2人は分かれると、一樹は目を閉じ、光の力で()()。安全を確認。更に研究所を探索して行くと、小さな、本当に小さな声が聞こえた。

「……す……て」

「ッ⁉︎」

声が聞こえた方へ一樹は急いだ。

 

一夏も人がいないか探していた。しかし、白式のセンサーに反応は無い。

「(ハク…ISセンサーのリミッターを解除。広範囲感知モードへ移行)」

『了解です。マスター』

白式のリミッターを外し、少しでも感知精度を上げようとする。すると、壁越しに震えてる人を察知した。

「いた!」

 

バァン!

一樹は声が聞こえた部屋に突入した。ブラストショットを構えるも、そこには誰もいなかった。

「…おかしい、確かにここから聞こえたんだが…」

もう一度()()一樹。

「たす…て……け…て…」

さっきよりはっきり聞こえる救助を求める声。確かにこの部屋だ。

「どこだ…」

部屋を見渡す一樹の目に信じられない物が映る。

「…カプセルの中に、人間?」

恐怖で歪む顔がカプセルの中にあった。一樹は手前にあったひとつを手に取り開ける。すると…

ポンっ

「た、助かりました!」

研究員が出て来た。

「…事情は後で。他の人達も助けますので手伝って下さい」

「わ、分かりました」

 

「誰か居るか?」

白式が察知した部屋に入った一夏。誰か居るなら救出しなければ…

「お、にいさん?」

「ッ⁉︎」

部屋の隅に、小学校低学年くらいの女の子が隠れていた。

「君、名前は?」

「ユミ」

「ユミちゃんか…ここから出よう」

「パパは?わたし、パパにおきがえとどけにきたら…」

思い出したのか、少女が泣きそうになる一夏は頭を撫でて落ち着かせる。

「大丈夫。ユミちゃんのパパも…パパのお友達もお兄ちゃん達が助けるから」

「おにいちゃん、たち?」

「そう、お兄ちゃん達。もう1人、ここに来てるから。さ、行こう」

ユミの手を引き、部屋から出ようとする一夏。

《ダァッ、ダァッ、ダァッ》

その一夏達の目の前にダダが光線銃を構えた状態で現れた。

「ッ⁉︎ユミちゃん伏せて‼︎」

咄嗟にユミを抱えて横に飛ぶ一夏。光線銃から撃たれた光線は、一夏の後ろにあったパソコンを小さくさせた。

「このッ!」

ガトリングをダダに向かって撃つ一夏。攻撃は見事命中。ダダは消えて行った。

「なるほど…ここの研究員達にこの光線を当てて小さくしたのか。けど、何のために?」

「恐らく、自分の星に持ち帰って標本にするつもりだったんだろう」

部屋の扉から一樹が入って来た。その後ろには研究員達もいた。

「パパ!」

「ユミ!良かった…本当に良かった‼︎」

お互い無事を確認した親子。一樹はそれを微笑ましく見ると、すぐに表情を引き締める。

「一夏、この人達を安全な場所へ」

「了解」

瞬間、気配を感じた一樹がブラストショットのバレルをスライド。普段より強力な波動弾を撃った。

《ダァッ⁉︎》

波動弾は背後にいたダダの光線銃に見事命中。光線銃を破壊した。

「これでもう縮小光線は撃てない…お前の負けだ」

再度バレルをスライド。ダダに砲口を向ける。しかし、ダダは…

《人間如きが…ほざくな‼︎》

ブラストショットを近くにあったパソコンを盾にして回避すると、ユミに向かって走り出す。ユミに触れようとした瞬間…

「させるかよ!」

麒麟の両手を展開した一夏に掴まれ、窓から放り出される。

「よし一夏!早く皆を避難させるぞ‼︎」

「おう!」

急ぎ部屋から出た一行。先頭は一夏で最後尾は一樹。

「邪魔‼︎」

先ほどとは違う顔のダダが一夏の眼前に現れる。一夏は飛び蹴りした後、腕を掴んで一樹の方へ投げる。一樹はすぐにブラストショットのバレルをスライド。波動弾を撃ち、ダダに命中。ダダは消えて行った。

「これで2体目…気ぃ抜くなよ一夏!」

「おうともさ!」

階段を全員が駆け下り、出口に向かって走る。出口の寸前で…

《ダァッ、ダァッ、ダァッ》

「「だから邪魔だっつうの‼︎」

《ダァッ⁉︎》

3体目と思われるダダが現れるが先に()()いた一樹と一夏のダブル蹴りがダダに命中。扉のガラスを突き破った。あれ?敵なのに何故か目から汗が…

「「もう一丁‼︎」」

更に一樹のブラストショット、一夏のマグナムを受け、飛距離が伸びたダダ。おお!世界記録だ!

《おのれ…人間如きがァァァ‼︎》

ダダを白い光が包み、巨大化していく。

「やべ!」

「早くみんな逃げて‼︎」

一行が走り出すが、一樹は集団から離れ、研究所の裏に回る。そしてエボルトラスターを引き抜き、天空へ掲げてウルトラマンに変身した。

 

《ダァッ、ダァッ、ダァッ》

ダダはゆっくりと歩き出す。その目は必死で逃げている研究員達を見据えていた。そんなダダと研究員の間に眩い光の柱が現れた。

《ダァッ⁉︎》

光が晴れたそこには、ウルトラマンが力強く立っていた。

 

「ウルトラマン!」

ウルトラマンの名を叫ぶ一夏。周りの研究員達は初めて見たウルトラマンに、どこか神々しさを感じていた。

「あれが…ウルトラマン」

 

「シェア‼︎」

ダダに向かって走り出すウルトラマン。起き上がったダダにラリアット。

「ヘェア!」

《ダァッ⁉︎》

素早く起き上がり、ダダを持ち上げて投げ飛ばす。

「フウゥゥゥ…デェアァァァ‼︎」

《ダァッ⁉︎》

「フッ!」

ダダに向かって走り出すウルトラマン。しかしダダは笑いながら姿を消した。

《ダァッ、ダァッ、ダァッ…》

「ファッ⁉︎」

辺りを見回すウルトラマン。そんなウルトラマンの背後に2体目のダダが現れ、ウルトラマンを蹴飛ばす。

《ダァッ!》

「グォッ⁉︎」

ウルトラマンはすぐに背後を向くが、そこには既にダダはいなかった。更に3体目のダダが現れたと思ったらウルトラマンを攻撃、すぐに消えてまた別のダダが攻撃を繰り返した。

《ダァッ!》

「グァッ⁉︎」

 

ダダがウルトラマンを攻撃しているのを見ていた一夏はある疑問が浮かんだ。

「あれ?何で一体ずつ出てくるんだ?」

あるダダが消えたらまた別のダダが現れる…しかし、一度も同時に現れた事が無いのだ。

「もしかしたら…」

一夏は研究員達にここから離れるよう言うと、麒麟を展開。ウルトラマンに接近する。

「ウルトラマン。あの星人はきっと1体のみだ!」

「フッ⁉︎」

「タイミング良く顔を変えて3体に見せてただけなんだ!だから姿を消すのを封じれれば…」

ウルトラマンは頷くと、ゆっくり立ち上がる。そんなウルトラマンの背後にダダが現れる。

「そこだ‼︎」

ビームマグナム(マグナムモード)をダダに向かって撃った一夏。見事ダダに命中。ダダが怯んでいる間にウルトラマンはアンファンスからジュネッスにチェンジする。

「フッ!ヘェア‼︎」

続いてメタ・フィールドを展開する。

「シュウ!フアァァァァ…フッ!デェア‼︎」

一夏はあえてメタ・フィールド対応範囲から出て、研究員の避難を優先させた。

 

《ダァッ⁉︎》

一夏の予想通り、ダダは1体のみだった。メタ・フィールドの効果で姿が消しにくくなっているダダは驚きの声をあげる。姿を消す前に決める…

「フッ!シェア‼︎」

ダダに強烈な右回し蹴り。ダダが怯んだ所に更に飛び込みチョップ。

「シュウ!」

『ダァッ⁉︎』

倒れたダダの脚を掴むと大回転。遠くに投げ飛ばす。

「ヘェア!」

『ダァッ⁉︎』

ダダが地面に激突したのを確認すると腕を十字に組み、クロスレイ・シュトロームを放った。

「ハァァァ…デェアッ‼︎」

《ダァッ!?》

クロスレイ・シュトロームをまともに喰らったダダは爆散した。ウルトラマンはそれを確認すると、メタ・フィールドを解除しながら消えていった。

 

「ふう…割と早く倒せたな。良かった良かった」

「一樹!」

変身を解いた一樹の元へ一夏が駆けつけた。

「一夏…研究員達は?」

「もう安全な所に避難させといた。お前がここにいるってことは…」

「ああ、仕留めたぜ」

「なら研究員達に報告して帰ろうぜ」

数日後、その研究所から2人にお礼が届いた。そのお礼は…

「「遊園地のチケット4枚?」」




ダダって実は初代さんの戦闘シーンが最も短い相手なんですね。なのにウルフェス等に出てるのはやっぱりあの見た目のインパクトですかね?


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Episode37 時の娘-レニ-

今回から数話、優しさのウルトラマンに登場した方を出します。


夏休みのある日の夜、一樹は学園の屋上で星を見ていた…

「やっぱり星を見るのは落ち着くな…」

そんな時。

ドックン

「ッ⁉︎」

エボルトラスターの鼓動を感じ、反応から距離があると判断、ブラストショットを天空に向けて撃ち、ストーンフリューゲルで現場へ向かう。

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

夜の広場で、1人の少女が『ワロガ』に追われていた。そこに、ストーンフリューゲルが到着する。

「人が…クソッ!」

ストーンフリューゲル内でエボルトラスターを引き抜き、ウルトラマンに変身する一樹。

 

「フウゥゥゥ…シェア!」

《ハアァァ…》

現れたウルトラマンに向けて左腕から波動弾を撃つワロガ。ウルトラマンもパーティクルフェザーを撃ち、相殺する。

「シェア!」

ウルトラマンはワロガに殴りかかるが、ワロガは屈んで回避。

「フッ!」

再度ワロガに対峙するが、ワロガは光の球に変わり、その場から離れて行く。ワロガが完全に見えなくなると、ウルトラマンも静かに消えていった…

 

「もしもし、大丈夫ですか?」

倒れていた少女を揺り起こそうとする一樹。少女が目を開けると、凄まじい速さで身を引き、自分の身を守る様に抱える。

「いやいやいやいや!違うから!俺はただ手当しようと…」

「あなたが、助けてくれたの?」

「まあ、一応…君は誰だ?俺は、櫻井一樹」

そこでようやく安心したのか、少し笑みを浮かべた。

「私は………あれ?」

そこで少女は頭を抑える。まるで痛みに耐える様に…

 

「記憶喪失、ですか?」

翌日IS学園の司令室で、千冬等のIS学園組と一樹が保険医の先生の説明を受けていた。

「はい。彼女は何らかの衝撃で記憶を失っています。何故あの場所にいたかもそうですが、自分の名前すら覚えて無いんです…」

「彼女は何故…宇宙生命体に狙われたのでしょうか?」

 

その日の昼、少女の部屋に適当に(花屋さんにちゃんと目的を言って)選んだ花束を持ってお見舞いに行く一樹の姿があった。保健室のブザー(一夏と一樹が入って来た事によって出来た)を鳴らし、入って問題無いか聞く。丁度検査が終わったらしく、数人の先生とすれ違った。

「あ、ゆうべの…ゆうべはありがと」

「いえ…あ、これ。花言葉とか全然知らないですけど、花屋さんに聞いたので失礼な花では無いはず…」

持ってきた花束を少女に渡す一樹。

「え?本当?ありがとう!綺麗…」

「本当はこの学園が誇るイケメンに持って来させて目の保養でもと思ったんだけど…アイツいつの間にか消えてて…ごめんね俺で」

「ううん。それに…一樹さん、だっけ?あなただってブサメンって訳じゃ無いよ?」

「うん、そこで疑問系じゃなかったら良かったな」

ゆうべ出会ったばかりなのに、長年の付き合いかの様な会話だ。

「あ、そうだ。聞こうと思ってたんだけど、『IS』って何?」

「………あ、そうか」

その後、保険医の許可のもと、屋上に行き、ISとIS学園の説明をする一樹。

「女性しか扱えないって言うなら、なんであなたとそのイケメンさんはこの学園に居るの?」

「…そのイケメン…ああ、名前は織斑一夏ね。ソイツが何故かISを扱えてしまって、そのクソッタレの護衛役として俺が派遣された…と、ざっくり言えばこういう感じ」

「…織斑君ってのは仕方ないにしろ、一樹君は完全にとばっちりね」

「……分かってたけど、人に言われるとダメージでかいな…って、そのメモは何だ?」

不意に少女がメモ書きを始めたので、気になった一樹は聞いてみた。

「あ、コレ?先生がね、思いついた事を何でも良いから書いてみろって言うから…なんか一樹って名前、なんとなく聞き覚えがあるから」

「…そっか」

「それに、さっきからこの言葉が頭を離れないの」

『時の娘』

「…時の…娘?」

「うん。どこで、何をしていたか考えると、必ずこの『時の娘』って言葉が出てくるの…何かきっと、大切な言葉なんだと思うんだ…」

 

司令室では、シャルロットがワロガの映像を見ていた。

「…どうして?」

「ん?どうしたんだデュノア」

「あ、織斑先生…いえ、どうしてこの宇宙生命体が急にいなくなったのか考えてて…あれだけ彼女を狙っていたのに、ウルトラマンが現れた途端、すぐに姿を消したのが疑問に思って…」

侵略者の立場から見て、1番厄介と言えるウルトラマン。そのウルトラマンが目の前にいるのに、そそくさ退散するとは、どうしてもシャルロットは考えられなかった…

 

「あ、櫻井君」

「…へ?俺?」

この学園で一樹を呼ぶなど、数えられるくらいの人物しか考えられないので、一瞬対応が遅れた一樹。

「うん、櫻井君。この絵、何だか分かる?例の彼女に昨夜見た夢の絵を描いて貰ったんだけど、私達には分からなくって…」

そこには、カタツムリの様な形の機械が描かれていた…

 

一樹が学園のパソコンで、少女が描いた絵と似ている物をかたっぱしから検索した。そこに…

「こ、これは…」

そこに一夏が入って来た。

「お、一樹。珍しいな、お前がここのパソコン使うなんて。あ、そういえば束さんがクロムチェスターの…」

しかし一樹は、一夏が言い終わる前に部屋を飛び出した。

「おっと…何調べてたんだアイツ」

その画面を見た途端、一夏の表情が変わった。

 

「織斑先生、これを見て下さい」

司令室のパソコンに、USBを刺し、画面に表示させる一夏。

「彼女の名前はレニ・クロサキ。宇宙ステーション開発関係の専門学校卒業後、宇宙飛行士でした。4年前までは…」

「「「「4年前?」」」」

「ああ、彼女は4年前のミッションで…死亡してるんだ」

「死んでる?いやでも一夏!彼女今現在も保健室にいるんだぞ!」

ラウラが一夏に駆け寄ろうとしたタイミングで、保険医が入って来た。

「彼女の医療データが出ました。彼女は死亡後に、何者かによって前頭部に微小なバイオ・チップを埋め込まれています」

「バイオ・チップ?」

保険医は頷くと、モニターに表示させた。確かに彼女の前頭部にはバイオ・チップらしきものが確認出来る。

「彼女は…このバイオ・チップから流れる特殊パルスで、擬似生命活動を開始したんです。それから…このチップから流れる特殊パルスは、例の宇宙生命体から流れるパルスと同じものです」

「…彼女は…あの宇宙生命体によって操られている。そういう事か」

「一夏!貴様何て言い方…」

箒が一夏に怒鳴りかけるが、一夏が拳を硬く握り締めているのを見て止めた。この場の誰より悔しがっているのは、目の前で大切な人を失った一夏だった…

「先生!チップを外して、どうにかする事は出来ないんですか⁉︎」

鈴の悲痛な叫びに、保険医は悔しそうに唇を噛み締めて言う。

「チップを外せば…恐らく数分で人間としての状態に戻るでしょう…レニは、生きてはいないんです…」

 

一樹はレニが所属していた宇宙センターにいた。4年前の話を聞く為に…

「宇宙空間では、死はあっという間に訪れます。4年前のあの時、調整中だった機密バルブの異常が確認され…」

冷静に話そうとしていたレニの元同僚も、途中から涙が流れ、ゆっくりとしか話せなかった。バルブを調整中だったレニは宇宙服も無いまま、宇宙に放り出される結果になったと…

「ステーション建設には、そういう危険があると分かっていました。それでもレニは、自分の手で『時の娘』を完成させようと…」

「『時の娘』?すみません、時の娘って何ですか?」

元同僚から、レニのメモにあった『時の娘』の言葉を聞き、その意味が気になった一樹は聞く。

「…当時の建設員達は、今の宇宙ステーションを『時の娘』と、呼んでいたのです。永い地球の歴史の中で、初めて民間人も住める様なステーションを造りたい。そんな誇りや愛情が、私たちにはあったんです」

レニの同僚は、持っていたファイルから数枚の写真を取り出した。

「これは…私達が建設クルーに選ばれた時に記念に撮ったものです。良かったら、お持ち下さい」

一樹が受け取った写真を見ると、学友や教授達と笑顔で写っているレニの姿があった。

「(レニの覚えていた唯一の言葉は、彼女が命を懸けて造ろうとしたステーションの名前だったのか…)」

 

『レニの処置はコールドスリープ。それが最終決定だ』

画面の一夏は無理に作った冷静な顔で一樹に伝える。

「そんな…レニを永久に眠らせるってことか⁉︎」

『レニは…あの宇宙生命体のバイオ・チップによって動かされている…危険な操り人形なんだ…俺たちは、これ以上危険を犯す訳にはいかない…一樹、レニは生きてはいないんだ。彼女には、医療センターで記憶回復を促す治療を受けると言ってある』

 

レニはラウラ達に連れられ、医療センターに向かう…

 

医療センターに到着したレニ。これから部屋に行く…そんな所に一樹が走って来た。

「クスッ。まるであなたが治療受けるみたいな顔してる。大丈夫だよすぐ思い出すから。自分が誰で、何してたか」

レニはそう言うと、持っていたメモ帳を一樹に渡す。

「この言葉の意味が分かったら、1番最初に教えるから…それじゃ」

レニは係の誘導に従って、部屋へ向かおうとする…

「…レニ‼︎」

一樹は素早くレニに近づく。レニの手を取り、走り出す。

「行かせん‼︎」

「行かせないわよ‼︎」

レニの連れて来たラウラと鈴が通せんぼをするが…

「邪魔だ!どけ‼︎」

2人に止められる一樹ではない。素早く2人を転ばせると、一樹が乗ってきた車にレニを乗せ、アクセル全開で飛ばす。

「ちょ、どうしたの⁉︎」

「記憶治療なんか嘘っぱちだ‼︎本当の目的は…レニ、君を永久に眠らせる事だったんだよ‼︎」

一樹はミラーを見る。後ろからISを展開した鈴とラウラが追ってくる。

「レニ!ちょっと揺れるぞ‼︎」

「え?」

ハンドルを思いっきり切ると、川に飛び込む一樹。

「ちょちょちょちょ!これ車‼︎」

しかし車は普通に走り、ここが水中だと忘れてしまいそうだ…

「これならISも入れない。少し疲れたろ?寝てて良いよ」

一樹自身疲れていたのだろう。充分に医療センターから離れると眠りについた。レニも寝ようとするが、ドアポケットの写真に目が入った。その写真を見た途端…

「私は…」

レニの…

「あの事故で…」

記憶が、戻った…




コスモスは物心ついて、最初にリアルタイムで見たウルトラマンなので、この作品にはその要素がちょくちょく出ると思います。

それと、作中で主人公とそのグループが車に乗る描写が今後も増えると思います。本来、16で車を運転することは出来ません。ですが、S.M.Sの面々には『国家特別免許』が配られています。それで車、バイク等が扱えるという設定です。作中でその説明が出来れば良かったのですが、自分の能力では上手く表現が出来ませんでしたので、この場での発表と変えさせていただきました。申し訳ありません。


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Episode38 邪悪宇宙人-ワロガ-

前編後編の後編ですので、連続投稿です。


「櫻井君、気付いてるのでしょうか…」

IS学園の保健室では、レニを診察した保険医2人が話していた。

「何を?」

「あの宇宙生命体が万が一にも倒されたら、レニの命も消えてしまうって事を…」

 

レニは一樹に頼み、レニが通っていた専門学校に来ていた。一樹が飲み物を買いに行ってる間に、レニは新聞を読んでいた。

「宇宙ステーション、完成してたんだ…」

私はここで学び、宇宙ステーション開発スタッフに選ばれて。そして…あの宇宙生命体に…

「(何もかも思い出した…けど、何のために?まだ…私を生かしておくの?)」

レニはそこで視線を感じた。辺りを見回すと黒服サングラスの男が数人程確認出来た。レニは走ってその場を去る。黒服達はレニを追う。レニが立っていた場所には、レニが大切にしていたペンダントが落とされていた…

「おーいレニ。遅くなってごめん。自販機が混んでて…あれ?」

一樹はレニがいない事に気づく。足元を見ると、ペンダントが落ちていた。それを拾い上げると強く握りしめる。

「クソッ!俺の感覚も鈍ってるってか⁉︎」

一樹は猛ダッシュでレニを探し始めた。

 

レニは黒服達から逃げ続けていた。しかし、幾ら逃げても追いかけてくる。まるで蛇の様な執念さだ。距離を測るために回りを見たレニの視界に一樹が入った。

「(ウルトラマン…)」

小声でその言葉を口にするレニ。一樹もレニを見つける。次に後ろの黒服達を見ると、レニの手を取って走り出した。2人の前に一台の車が止まり、黒服の1人が掴みかかろうとするが…

「レニ!走り抜けろ‼︎」

投げ技で黒服の1人を後ろの仲間達のとこへ吹き飛ばす一樹。そのまま黒服が乗ってきた車に飛び乗り、アクセルを全開にして逃げ切った。

 

車のGPS、隠し発信機を壊し、5キロ走った小屋で2人は休んでいた。

「ねえ、学園には戻らないつもりなの?」

レニの問いに、一樹はしばらく黙る。そして…

「俺の考えてた事は…ただの、ガキが見る夢物語みたいな物だったのかもな。女尊男卑を失くす。その為に女尊男卑の象徴とされている所にいて、ISが使える男子をサポートしようとした、なんてな…」

いつに無く弱い口調の一樹。そんな一樹を見て、レニは優しく話しかけた。

「100年前までは…宇宙ステーションの建設だって夢物語だったんだよ?」

レニはポッケから写真を取り出した。一樹に見せ、話を続ける。

「これ、私でしょ…」

「そ、それは…」

「良いの。私、後悔してない。宇宙ステーション開発スタッフになった事を…聞いて。500年前までは、地球が丸いなんて、誰も考えた事も無かったんだよ?だから…誰もが船乗り達の、大陸を探すというのを、誰もが無理だ、夢物語だなんて言ってたんだよ。100年前にライト兄弟が初めて空を飛ぼうとしたのも、初めて宇宙に行こうとしたのも、誰もが夢物語だと言った。実現するまで全部、夢物語だったんだよ…それでも、多くの名もない人達が夢物語に憧れ、命を落とし、夢を継いできた。私達が宇宙ステーションを『時の娘』って名付けたのは、自分達が、夢を継いで行く1人だって、誇りがあったなんだよ。一樹…あなたの考えも、革命家達の夢と、少し似てるでしょ?だから、あなたも夢を継いでいる1人だよ…」

「……」

ドックン。

一樹の懐でエボルトラスターが鼓動を打つと同時に、例の光の玉が地面を攻撃、地面からびっくりした様子で『ガルバス』が現れた。

《きゅい⁉︎》

キョロキョロと回りを見るガルバス。光の玉は、そんなガルバスに紫の波動を放った。

《きゅい⁉︎きゅうううう…》

波動を受けたガルバスはしばらく苦しんだが、目の色が変わり、都市部に向かって進み始めた。

 

学園ではガルバスが突如暴れ出した理由を探っていた。

「さっきの動作から見て、人に危害を加えるとは考え難い…つまり原因はあの紫の波動にあるはずだ…」

訂正、ほぼ一夏が1人で調べていた。

「…クソッ!あの怪獣の脳波が乱れてる!原因は…あの宇宙人か!!!!」

「恐らく町のタービンに向かったのだろう…近くにオルコットと凰がいた筈だ!現場に急行させろ!タービンを止めるんだ‼︎」

 

指示を受けた2人が現場に到着すると、扉のパスワードを入力しようとしてる一樹とレニがいた。咄嗟にそれぞれの射撃兵装を部分展開した2人。一樹もブラストショットを2人に向けた。

「レニさん…あなたが悪い訳では無いですが、そこを通す訳には行きません‼︎」

「…本当に悪いけど、どいてくれないかしら?」

しかしレニは、銃口を向けられているのにもかかわらず、2人の前に出た。

「私があなた達のどちらかでも、きっと同じ事をした…」

そこに、昼間逃げ切った黒服達が現れた。

「いたぞ!」

「(チッ!『暗部』まで来たか…)」

レニは黒服達を無視して続ける。

「だから…あなた達のどちらかが私でも、きっと同じ事をする筈よ…」

瞬間、セシリアと鈴は同時に攻撃した。レニの背後の扉を…

「早く行って下さい!」

「早く行って‼︎」

レニが先に入り、続いて一樹が入った。

「どういうつもりだ⁉︎」

黒服達が2人に銃を向けてくるが、2人は動じずに銃を向け返す。

「気が変わりましたの」

「気が変わったのよ」

 

タービン室に入った2人。2人とも専門家なので、阿吽の呼吸でタービン停止の動作を始める。

 

ガルバスは着々と都市部に近付く。そんなガルバスに、防衛軍が攻撃を始める。

 

『制御システム、解除しました』

一樹が持ち前のキーボード早打ちで制御システムを解除した。

「もう少し…もう少し…」

レニの方も…

『ラインに、アクセスしました。ラインに、アクセスしました』

「一樹!C2ラインをカットして!」

「ああ!」

 

ガルバスは都市部に入ろうとする。

「やめろ!そこに入ったらダメだ‼︎」

 

「一樹!メインスイッチを落として‼︎」

一樹は直ぐにメインスイッチのレバーを下ろした。

 

《きゅい?きゅい?》

タービンの電波が消えたからか、ガルバスは正気を取り戻した。ガルバスの動きが止まった事により、前に出る防衛軍。ガルバスは怯えて後ろに下がる。

「そうだ…頼む、戻ってくれ」

一夏達学園組が祈る。しかし、ガルバスの背後に光の玉が現れ、ガルバスの足元を攻撃する。まるで、早く行けとでも言う様に…

《きゅい…》

 

レニは一樹の肩を借り、現場近くの公園に移動した。到着と同時に、レニは座りこんでしまう…

「レニ…」

「行って…あの怪獣を助ける為には、あの宇宙生命体を倒すしか無い…」

「…俺には、出来ない…」

先程から、エボルトラスターがかつて無いほど強く鼓動を打っている。しかし、一樹は出来ない。あの宇宙生命体を倒せば、レニが…

「アイツを倒して、私を眠らせて…ウルトラマン…」

「………」

「あなたは優しいから、私が生きていれば、きっとアイツを倒すのを躊躇う…」

「………」

「初めて会った時から、あなたを知ってる様な気がしてた…でもそれはアイツが私に植えつけていた、偽の記憶だったんだ…」

レニの言葉を聞き、宙に浮かんでいる光の玉を見上げる一樹。

「アイツが仕掛けた、罠だったんだ…だけど、それでも私は、あなたに会えて嬉しかった…」

「レニ…」

「あなたの手で、私を人間に戻して…あの宇宙に、『時の娘』を作ろうとしてた、レニに戻して…」

一樹は無言でエボルトラスターを取り出す。その瞳から、涙が落ちた。

「ッ!!!!」

泣きながらエボルトラスターを天空へ掲げ、ウルトラマンに変身した…ウルトラマンはレニの方を向いた。レニは頷く。それを見たウルトラマンはガルバスの元へ走る。光の玉がガルバスを攻撃しようとするが、ウルトラマンはその間に入り、アームドネクサスでその攻撃を受け流した。

「ヘェアッ!」

《きゅい…》

「(ごめんな…怖かったな…もう、大丈夫だよ)」

安心した声を出すガルバスに、テレパシーで伝えるウルトラマン。そして、光の玉へパーティクルフェザーを放った。

「シェア‼︎」

パーティクルフェザーは見事命中。光の玉からワロガが出て来た。それを見て、ウルトラマンはアンファンスからジュネッスにチェンジした。

「フゥッ!シェア‼︎」

メタ・フィールドを展開しようとするが…ワロガはすうっと消えてしまった。

「フッ⁉︎」

そして、ウルトラマンの背後に現れた。

《ハアァァ…》

「フッ⁉︎」

メタ・フィールドを展開させないためだろうか。ダダを上回る速さで現れたり消えたりを繰り返しているワロガ。ウルトラマンは止むを得ず、メタ・フィールドを展開せずに戦闘することを決めた。

「ハッ!」

ワロガへと走り出すウルトラマン。先制の右ストレートを放つが、ワロガの腕に受け止められ、空いた胴を蹴られるウルトラマン。

「グァッ⁉︎」

腹部の痛みに、思わず前かがみになった背中を殴りつけられる。

「グゥッ⁉︎」

続いてラリアットを喰らい、地面に、背中を強打するウルトラマン。起き上がり、直ぐに構えるもワロガのパンチをまともに喰らってしまい、再び背中を強打した。

「グォッ⁉︎」

足を高く上げた勢いで起き上がり、構えるが、ワロガは消えていく。

「フッ⁉︎」

周囲を警戒するウルトラマン。そんなウルトラマンの背後にワロガが現れ、ウルトラマンを羽交い締めする。

「グァッ⁉︎」

ピコン、ピコン、ピコン…

コアゲージが鳴り響くが、ウルトラマンはワロガの腕を掴んで羽交い締めから逃れると、そのままワロガを投げる。ワロガは一回転して衝撃を殺すと、再び姿を消した。

「フッ⁉︎」

レニはワロガが消えた瞬間、ある一点を見つめた。そこの水面にワロガが写ったと思ったら、実体を表した。レニがバイオチップによるシンクロ能力を利用したのだ。

「許さない…」

実体を表したワロガに向けて、ウルトラマンはパーティクルフェザーを放つ。

「フッ!シェア‼︎」

パーティクルフェザーは見事ワロガに命中。怯んだワロガに両腕でのパンチを叩き込むウルトラマン。

「デェア!」

続いてストレートキック。打たれ弱いのか、ワロガはもうフラフラだった…

「フゥッ!」

必殺技の構えをしたウルトラマン。再度レニに顔を向けると、レニは頷いた。構わずにやってと言う様に…ウルトラマンも頷き返すと、エネルギーを胸に集めて、コアインパルスを放った。

「フッ!フアァァァァ…トゥアァァァァ‼︎」

コアインパルスを受けたワロガは爆散していった…

 

レニは最後、星空を見上げながら笑って消えて行く…ウルトラマンとガルバスは、静かにそれを見送った…

 

翌日、その公園に一樹は来ていた。花束を持って…

「レニ…今後の宇宙がどうなるか、ゆっくり見守ってやってくれ。レニの仲間達が、頑張る姿を」

花を供えると、一樹はその場を去っていった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ありがとう、ウルトラマン』




次回もコスモスの敵出て来ます。その後、ネクサス本編に戻ります。


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Episode39 異次元人-ギギ-

これで一旦自分の好きな話を乗っけるのは最後です。


IS学園では、一夏を筆頭にいつもの面々が集まり、新装備の説明を束から受けていた。

「は〜い、束さんが新しく開発したコレは、今までいっくん達が持ってた探知機を更に小型化、改良した物だよ。更に更に〜地球外生命体が人間に化けた場合のデジタルサーチシステムを組み込んで、より確実性を増したよ。今までかずくんの勘(?)だけで判断してきたけど、これがあればかずくん以外の人でも判断する事が出来るよ」

おぉ〜と歓喜の声を上げる面々だが、織斑姉弟は違った。

「だが束。その装備の稼働時間は?」

千冬の質問に束は固まった。

「それに、幾ら小型化しても結局はISに仕舞う…そのデータ量が大きいのはどうかと思いますが?」

一夏がさらに追い討ちをかけた。

「ちーちゃん、いっくん、勘弁して…束さんにはまだその問題点は解決出来なかったんだよ〜…」

束がortになるのを見た一夏は、ソレを入っていたアタッシュケース毎後ろに投げた。

「…出番だぜ、一樹」

「はいはい…」

結局一樹が問題点を修正、試作型なのでとりあえず麒麟に装備(一樹が外付けハードで強引に拡張領域を作った)するのだった。

 

新装備が一夏に渡された翌日、一樹と一夏は束の頼みでとある研究所に向かっていた。

「いきなり通信が切れたからって人を派遣するか?」

「それだけココは学園に必要な場所なんだろ」

一夏が運転する車の横で、一樹は懐かしげに機械を弄っていた。

「あ、それって…」

「ああ。小学校時代、自由研究で作ったレーダーだ。この間家を掃除した時に出て来たんだ」

一夏も見覚えがあったソレは、長い時間起動させてなかった事から少しホコリが溜まっていた。ホコリを落とし、何気なくスイッチを一樹が入れた途端…

ピピピッ‼︎

「止めろ一夏」

「へ?」

「止めろ‼︎」

「お、おう」

レーダーが反応。一樹は車を止めさせた。

「目に見えないシールドが貼ってある、だと…」

「へ?白式には反応無いぜ?」

「最新型より、旧型の方が優れてる事もあるって事だ」

証拠とばかりに、一樹は近くを転がっていた小石を正面に向かって投げる。小石はシールドにぶつかり弾けた。

「ウワッ⁉︎マジかよ…」

一樹はレーダーのスイッチを入れ、研究所を周り始める。

「…よし、ここからなら入れる」

「…了解」

一樹と一夏は研究所に突入した。途中、扉が開かないなどの問題が起こったが、ブラストショットでウイルスを撃ち抜いて強引に通った。そして、何かいる気配がした扉に突入する2人。だが___

「…あれ?織斑君に櫻井君じゃない。どうしたの?」

そこには3人の研究員がいた。特に怪しい所は見当たらない…()()()()()()()

「いえ、いきなり通信が切れたので調査しに来いって言われたんですよ」

「あー、ごめんなさいね。ウチの人間が間違えてスイッチを押しちゃったみたいで」

一夏が研究員と話してる中、一樹はずっと無表情だった。

「…一夏、何も問題無かったし、帰ろうぜ」

S.M.S独自のアイコンタクトで『ココ、キケン』と伝える。一夏はそれを理解するとすぐにその部屋から立ち去る。2人が立ち去った途端、3人は異次元宇宙人“ギギ”となっていた。

《ギギギギ…》

 

「大変です!織斑君に櫻井君との連絡が取れません‼︎」

麻耶の悲痛な叫びに、千冬ではなく、束が対策を言う。

「ねえ、これから言う所にメールを送ってくれない?」

 

「何が起きてんだよココは?」

「知るか。とにかくココは奴らの支配下だ…ッ⁉︎」

階段を下りる2人の前に、ギギの1体が現れた。2人は同時に射撃攻撃をするが、まるで認識がズレてるかの様に攻撃が当たらない。

「「チィ!」」

すぐさま上に上がろうとする2人。だが、階段の上に2体のギギが現れ、2人の行く手を阻む。一瞬動きが止まった2人に、ギギは手に持っていた銃から怪光線を撃った。

 

束がメールを送らせた先はS.M.Sだった。宗介、祐人と長峰 智希(ながみね ともき)が出撃。研究所の上空に到着した。

「何も無いな」

「ああ、平和なもんだ」

VF-0のD型に2人乗りしている祐人と智希がのんびりと言う。しかし

「…気に食わねえな…静か過ぎる」

宗介はそう言うと、S型のガンポッドの引き金を引いた。

「おい宗介⁉︎」

「何をして…ってアレ?」

ガンポッドの弾はシールドに弾かれた。

「心配しなくても建物は狙ってねえよ。それより、この研究所にあのレベルのシールド貼ってあったか?」

宗介の質問に2人は呆然と首を横に振った。

 

一樹に一夏は迷路の様な所にいた。

「くそ、また分岐か…一樹」

一夏に呼ばれなくとも一樹は目を閉じ、光の力で()()

「…コッチだ」

2人が行った先に、3人の研究員もいた。

「皆さん、無事だったんですね!」

「ええ…無事と言って良いかは分からないけど」

5人が合流すると…

《ギギギギ…》

あの不気味な声が頭上に響く。5人が上を向くと…ギギが3体揃って現れた。その中でも青い星の様な目をしているギギが端末を操作し、話し出した。

『我々の言葉が、理解出来るか?』

「ああ…充分にな」

代表して一夏が答える。

『我々は飛躍的に進んだ量子学を応用し、次元を移動するシステムを発明した。我々の次元は今、崩壊の危機に直面している。この次元に急いで、移住する必要がある』

「…あなた達の計画とやらを聞かせて。移住とは、何人くらいが来る予定なの?」

『移住が完了すれば、2000億人程になる』

「そんな…地球は100億人で満杯なのに…」

一夏の呟きが聞こえたのか、ギギは話す。

『心配はいらない。地球人は1/100に縮小して暮らして貰う。今回の実験の成功でそれが可能な事が分かった。今君達がいる様なモデルタウンを量産し、君達地球人はそこで暮らして貰う』

「そんな一方的な…」

研究員達が、絶望の声を挙げた。

 

「智希、どうにかしてシールドを破けないか?」

「ちょい待ち…レーザーを集中させれば、あるいは…」

「可能性があるならやる。行くぜ祐人‼︎」

「あらほらさっさーってね‼︎」

2機のバルキリーが急浮上。合流し、同時に急降下。同じ場所を狙ってレーザーを発射するも、シールドは破れなかった。

「ダメだ!破れねえ‼︎」

 

『君達の仲間が、我々の領土へ侵略を開始した。我々の解決方法は、論理的で完璧だと言うのに』

「アホ抜かせ。完璧なんてこの世にある訳ねえだろうが。な?一樹」

「ああ…一夏、コレで連絡を取ってみてくれ」

一樹が一夏に投げ渡したのは、あの古いレーダーだった。

「オッケー…こちら織斑、応答願います」

『こちら六連だ』

「祐人⁉︎ま、まあとにかく、俺達と研究員が侵略者に捕まっちまってるんだ…」

『あいよ!俺達に任せときな‼︎』

通信を切った一夏に、研究員の1人が話しかける。

「…古きを知り新しきを知る、かな?」

「ええ、なんでも最新型のこのご時世、たまには古い機械も有りでしょ?」

そんな2人の会話を見た一樹は、軽く笑うと走り出した。

「お、おい一樹⁉︎」

「脱出口を探す。心配すんな、必ず()()から」

一夏に言うと、一樹は近くの角を曲がり、エボルトラスターを引き抜いた。

 

「ウルトラマン…」

ウルトラマンの姿を見て、4人に安心が出来た。が、一夏はすぐに気を引き締め、ウルトラマンに言う。

「奴らとの交渉は、これ以上は不可能だ!」

ウルトラマンは頷くと、ギギ達に向かって構える。

「シェア!」

ギギは3体固まった。

『完璧な解決方法を捨てて、武力での解決を選ぶとは、残念だ』

そう言うと、3体のギギは合体し、巨大化した。

 

「やっと出てきやがった。攻撃するぞ‼︎」

「とっくにしてるけどな」

「けど気をつけろよ。中には一夏達もいんだから」

「分かってるよ‼︎」

2機のバルキリーの攻撃に、ギギは怯んで後ずさりするが、3つの顔全てから光線を出し、2機を牽制する。

「チッ!当たるなよ祐人‼︎」

「そっちこそ‼︎」

 

ウルトラマンは両腕のアームドネクサスをクロスし、前に伸ばす。音波の様な光線を出し、4人を救出した。

「た、助かった…あれ?櫻井君は?」

ウルトラマンの正体を知らない研究員がウルトラマンに聞く。

「一樹は先に救出してくれたのか?」

一夏がフォローを入れた。それにウルトラマンは頷く。そして、ウルトラマンの体が光に包まれ、巨大化していった。

 

「シェア‼︎」

《ギギ?》

ウルトラマンはギギに向かって走り、チョップを放とうとするが、ギギは瞬間移動の如く動いてそれを回避。ウルトラマンは突っ込む、ギギ避ける。ウルトラマン突っ込む、ギギ避ける。ギギはウルトラマンの周囲を高速回転し、ウルトラマンを惑わす。そしてウルトラマンの背後に現れると、怪光線を放った。

「グァッ⁉︎」

吹っ飛ばされたウルトラマンだが、すぐに体制を整え、再び走る。

《ギギギギ…》

次々と撃たれる3色の光線を避け、確実にギギに近づくウルトラマン。

《ギギギギ!》

今までに無いスピードで放たれた光線をサークルシールドで受け止めるウルトラマン。が、ギギはそんなウルトラマンの背後に瞬間移動し、怪光線を放った。サークルシールドを貼るのが間に合わず、ウルトラマンはまともに喰らった。

「グゥアァァァァ⁉︎」

ピコン、ピコン、ピコン…

「一樹を援護するぞ!」

「あいよ!」

「奴の頭上はガラ空きだ。祐人!さっきのをもう一度やるぞ‼︎」

「了解‼︎」

2機のバルキリーから放たれたレーザーが見事ギギの頭に命中。

《ギギギギィ⁉︎》

突然受けたダメージにギギは戸惑う。その隙にウルトラマンはアンファンスからジュネッスにチェンジした。

「シュウ!ヘェア‼︎」

チェンジ完了と同時にギギに向かって駆け出す。ギギの右パンチを右腕で受け流すと、その場で一回転し、強烈な左裏拳を決める。

「デェア!」

《ギギィ⁉︎》

更に両腕パンチを連続で決める。

「シェア!ヘェア‼︎」

《ギィ⁉︎》

最後に右回転蹴りを喰らわす。

「トゥアァ‼︎」

《ギギィ⁉︎》

殴りかかろうとするギギの腕を掴む。ギギもウルトラマンの腕を掴み、投げようとするが側転でその勢いを殺すと、右ストレートキック。

「デェア!」

《ギィ⁉︎》

前屈みになったギギの頭にかかと落とし。

「トゥアァ‼︎」

《ギィ⁉︎》

 

「あれです。あの円板状の物から奴らは現れたんです」

「あれを壊せば…」

「恐らく奴らのこの次元での存在は不安定になるわ…でも、ここには確実に壊せれる物なんて…」

研究員達は途端に暗くなるが、一夏は違った。

「皆さん、忘れてません?俺が唯一の男性IS操縦者だってこと」

「「「あ…」」」

麒麟を展開し、マグナムで撃とうとするが、研究員が止める。

「待って織斑君。出来れば形は残して欲しいの。だからその盾で殴って壊して」

「…了解しました!」

麒麟のシールドでぶっ叩き、装置を破壊した。

 

《ギギィ⁉︎ギギギギギギギギ…》

一夏が装置を破壊した途端、ギギは苦しみ出した。まるで3体に分離したかの様に見えるほど体を震わせるギギに、ウルトラマンはクロスレイ・シュトロームを放った。

「フッ!シュアァァァ…ヘェア‼︎」

《ギギギギギギ⁉︎》

クロスレイ・シュトロームをまともに喰らったギギは爆散した。ウルトラマンは光に包まれ、消えて行った…

 

「また遊びに来てね。この研究所は、あなた達のおかげで助かったから」

「いえ、俺は大した事はしてませんよ」

「ねえ織斑君」

「はい?」

その瞬間、一夏の頬に暖かい何かが触れた。

「私、今度から週1回IS学園の理科を担当する『楠 明日香(くすのき あすか)』って言うの。よろしくね!」

「え、えと…」

 

「ああー、今回は俺たちが来て良かったかもな。余計な仕事増えずに済んだし。なあ一樹」

祐人がそう呟く。祐人の言葉に、一樹は苦笑いを浮かべるしかなかった。

「さて、帰ろうぜ。皆」

「「「だな」」」

「ちょ、待ってくれよ‼︎」

S.M.Sはゆっくりとその場を後にした。

 

「んで?結局何の役にも立たなかったのか?コイツは?」

束の作ったレーダーを指して千冬は聞いてくる。

「…まあ、そうだな」

「うう〜。今度はもっと改良するよ…」

レーダーの再設計を千冬に命じられた束だった。




次回からネクサスに戻ります。

クライマックスだぜぇ!!!!


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Episode40 闇-ダークネス-

ネクサス編に戻って来ました。


ある夜中の森…

「ハァ、ハァ、ハァ!」

大学生くらいの女性が恐怖に顔を歪ませて走っていた。

「やだ…来ないで‼︎何よ…何なのよ⁉︎キャアァァァァァ‼︎」

 

「エリア11、ポイント4-3-4にビースト振動波を確認したよ!クロムチェスター隊は出撃して‼︎」

束の開放回線からの連絡を聞いた面々は急ぎ機体に乗り込み出撃した。

 

「現場部隊、作戦ポイントに到着しました」

『オッケーいっくん。ターゲットは見える?』

「いえ、まだ確認出来てません」

『気をつけてね。さっき……から……そ…エリ……』

「束さん?応答して下さい。束さん!…ダメだ。電波障害か…」

一夏と束の通信が切れただけではなく…

「一夏さん、ハイパーセンサーにも影響が出ていますわ」

「これじゃあ補足出来ないわよ…」

セシリアに鈴の報告を聞き、一同に緊張が走る。

「前にもあったよね?こんなこと」

シャルロットが言った事にラウラ以外が頷いた。

「…皆、静かに。何か聞こえるぞ」

ラウラの言葉に全員が黙ると、まるで獣の唸り声の様なものが聞こえた。

「(ビースト…)」

麒麟のマグナムを構え、警戒する一夏。唸り声が近づいてくる…すると

「ウワァァ⁉︎」

「「「「一夏⁉︎」」」」

何かが一夏を掴んで専用機持ち達から離す。専用機持ち達は直ぐに追おうとするが…

 

「このやろ…離せ‼︎」

不意打ちで専用機持ち達から離された一夏だが、直ぐに麒麟を完全に展開し、掴んできたモノを引き剥がした。それを視認した一夏は驚く。

「人間⁉︎」

そう、大学生くらいの女性だったのだ。しかし、唸り声を挙げる上に目の色が不気味に光っている。一夏は直ぐにハクに調べさせる。

「(ハク、目の前の人を調べてくれ…)」

『了解です、マスター』

数秒後、ハクからの報告に一夏は驚愕する。

『…マスター。目の前の女性は、既に生きてはいません…』

「…生きていない、だと…」

彼女の心臓は、もう動いていなかった…

「……御免なさい」

一夏はビームマグナムの弾を麻酔弾に切り替えて撃った。神経は意図的に生きていたらしく、女性は動きを止め、倒れた。

「一夏!大丈夫か⁉︎」

箒達も襲われはしたが、ラウラのおかげで何とかなったらしい。

「…何だってこの人達は、こんな目に…」

一夏が呟いてすぐ、地震が起きた。いや、この揺れは…

「一夏!アレ‼︎」

シャルロットが指差した方向には、6年前一樹が倒した筈のガルベロスが歩いていた。

《ギャオォォォン‼︎》

 

ガルベロスの背中を見つけた一樹。

「あのビーストは…確か…」

初めてウルトラマンに変身した時に戦ったビースト。一樹がそこまで思い出した時、崖の下から声が聞こえた。

「そう…お前が幻想世界で初めて戦った記念すべき相手さ…だろ?ウルトラマン」

 

「喰らえ‼︎」

一夏を筆頭に、IS学園組みがそれぞれの射撃兵装で攻撃する。

《ギャオォォォン…》

射撃の爆煙が収まった時、その場にガルベロスはいなかった。

「消えた…のか?」

「違うわよ一夏。木っ端微塵よ」

鈴が笑顔で言う。が、爆煙の左にガルベロスが再び現れた時、その笑顔は崩れた。

《ギャオォォォン‼︎》

「嘘…」

 

「奴は不死身だ。何度倒しても地獄から蘇る…」

一樹に背を向けたまま溝呂木は言う。しかし、一樹はすぐにそれを否定する。

「まやかしだ」

「…何?」

「あのビーストは人間を催眠状態に落とし、自在に操る…アイツ等はただ、幻影と戦ってるに過ぎない」

そこで一樹は一旦言葉を止めると、溝呂木を睨みながら言う。

「人の心に恐怖を植え付け弄ぶ…卑劣で薄汚い、いつものお前のやり口だ」

一樹の睨みを受けながらも溝呂木はその不遜な態度を崩さない。

「フッ、中々言ってくれるじゃねえか」

溝呂木は一樹の方を向くとダークエボルバーから波動弾を撃つ。一樹はそれを突き出したエボルトラスターのバリアで受け止める。両者の間に、不穏な風が吹いた…

「どうする?もっと俺と遊ぶか?それともあの連中に加勢するか」

一樹はすぐに答えた。

「お前と決着(ケリ)をつけるのはまたにしてやる。今はお前なんかより優先することがある」

溝呂木はダークエボルバーを下ろすと満足げに笑う。

「じゃあ行けよ。正義の味方さんよ」

一樹は溝呂木の言葉を無視。エボルトラスターを引き抜き、天空へ掲げた。

「だぁっ‼︎」

 

「シュアッ!」

ウルトラマンは着地するとすぐガルベロスの頭を掴む。

「フッ!」

そして一夏達から離す様に投げ飛ばした。

「シュアァァ‼︎」

《グシャアァァァ⁉︎》

 

「「「「ウルトラマン‼︎」」」」

一夏達はウルトラマンの姿を見ると、安心した声を出す。が、すぐに一夏は表情を変えた。

「(アイツはここ最近、連戦になってる。大丈夫なのか?いや、大丈夫であってくれ…)」

 

《ググググ…》

投げ飛ばされたガルベロスは、立ち上がると同時にウルトラマンに向けて左右の頭から連続で火球を放った。

「シュア!」

ウルトラマンはその火球を両腕でかき消す。

「フアッ!」

最後の火球をかき消すと、左のアームドネクサスをエナジーコアに当て、ジュネッスにチェンジした。

「フゥッ!シェア‼︎」

チェンジが完了すると同時に、メタ・フィールドを展開する。

「フアッ!フオォォォ…シュ!ヘェア‼︎」

 

「異相の終局を確認、メタ・フィールドだよ‼︎」

「…織斑先生」

『ああ、メタ・フィールドに突入してウルトラマンを援護しろ‼︎』

「「「「了解‼︎」」」」

シャルロットの報告後、一夏は千冬に確認を取る。そして千冬の指示で6人はメタ・フィールドに突入しようとする。

「ちーちゃん、それは正しい判断だよ。あの男が何も仕掛けてこなければね」

千冬の指示を後ろで聞きながら、束は呟いた…

 

ウルトラマンとガルベロスはメタ・フィールド内で睨み合う。

《グオォォォォ!》

「フッ!」

ウルトラマンはガルベロスに向かって駆け出すと、ガルベロスの左の頭へストレートキック。

「シェアァ!」

《グオォ⁉︎》

怯んだガルベロスに更に攻撃しようとするが、ガルベロスの頭突きをまともに喰らい、地面を転がる。ガルベロスはそんなウルトラマンを蹴飛ばす。

《ギャオォォォン》

「フゥオッ⁉︎」

追撃しようとするガルベロスだが、ウルトラマンはガルベロスの中央の頭を掴んで、殴り飛ばした。

「フッ!」

《グオォォ!》

 

「Set into strike formation‼︎」

一夏の掛け声を聞き、3機のクロムチェスターは合体、ストライクチェスターになる。

 

「シュアッ‼︎」

ウルトラマンはガルベロスの腕を掴むと、自らの背中を軸にして投げる。

《ギシャアァァァ⁉︎》

背中を地面に強打し、悲痛な声を挙げるガルベロス。起き上がってすぐにウルトラマンを投げようするが、ウルトラマンはガルベロスを軸に回っただけだった。

「フアァァァァ!」

数秒の間ウルトラマンとガルベロスは押し合っていたが、ウルトラマンはガルベロスの力を利用、巴投げを決めた。

「テェアッ‼︎」

《グシャアァァァ⁉︎》

そんなメタ・フィールドにストライクチェスターが突入を完了した。

「異相境界面、突破!」

「オッケーシャル。ラウラ、操縦任せた」

「了解だ」

モニターを睨んでいたシャルロットの報告を聞いた一夏はジェネレーターの状態を確認、問題が無いと判明した瞬間、ガルベロスに向けてストライクバニッシャーを撃つ。

《ギャオォォォン⁉︎》

突然のダメージにガルベロスが悲鳴を挙げる。ガルベロスが痛みで呻いてるうちにラウラはストライクチェスターをガルベロスから離し旋回、再度撃つ為に近付こうとする。

「よし、トドメだ!」

 

「織斑、いい気になるなよ」

メタ・フィールドの外で溝呂木が呟いた。

 

ガルベロスはストライクチェスターの方を向くと、左の頭の目を光らせる。

《グアァァァ!》

 

「な⁉︎コレは…」

一夏の目には、複数のガルベロスとウルトラマンが映り、どれが本物か分からない状態になっていた。

『何をしている一夏!早く撃て‼︎』

「あ、ああ‼︎」

ラウラの声を聞き、慌てて発射ボタンを押す一夏。その弾はガルベロスでは無く、ウルトラマンの足ギリギリのところに当たった。

「フゥッ⁉︎」

 

「ナイスショット」

溝呂木が嬉々とした表情で呟く。

 

「また幻覚か⁉︎」

一夏が外した理由を察した千冬は、怒りのあまり机に拳を叩きつけていた。

 

《グオォォォォ‼︎》

ストライクチェスターが近付いて来ないと分かったガルベロスは未だ呆然としてるウルトラマンを腹部にラリアット。

「フゥッ⁉︎」

怯んだウルトラマンに頭突きの要領で自らの背中に乗せると投げ飛ばした。

「グァッ⁉︎」

そして右腕を振り下ろそうとするが、それはウルトラマンの左腕に受け止められる。

「シュアッ!」

が、左腕も振り下ろし、それを右腕で受け止め、動きが止まったウルトラマンを再度投げ飛ばした。

「フゥアッ⁉︎」

ウルトラマンに突進するガルベロス。ウルトラマンはガルベロスの中央の頭を掴んで抑えると、首と首の間に右エルボー。

「デェアッ‼︎」

《クアァァァッ!》

エルボーを受け、怯んだガルベロスに左回し蹴りを放つ。

「フゥアッ!」

後ろに下がったガルベロスを掴むと、ガルベロスの右の頭がウルトラマンの左腕に噛み付いて来た。

「グァッ⁉︎グアァァァ!?」

 

「一夏、私がギリギリまで接近させる。よく狙って撃つんだ」

「…悪い。頼む‼︎」

「任せろ‼︎」

ラウラはガルベロスに向けてストライクチェスターを急降下させる。すると、今迄沢山見えていたガルベロスが一体のみになった。

「(これなら‼︎)ビースト!ウルトラマンを離せ‼︎」

一夏はガルベロスの頭部に向けてミサイルを撃った。

 

ミサイルは見事ガルベロスに命中。怯んだガルベロスはウルトラマンを離す。

《クアァァァ⁉︎》

ウルトラマンは距離を取るとクロスレイ・シュトロームを放った。

「フッ!ヘェア‼︎」

誰もがガルベロスに命中すると思ったその瞬間、メフィストが現れ、左腕でクロスレイ・シュトロームを受け止めた。

「フッ⁉︎」

ウルトラマンは身構えるが、メフィストはそのままガルベロスと一緒に消えて行く。メフィストが完全に消えると、ウルトラマンも左腕を抑え、片膝をついて消えていった…

 

「…いっくん達を襲った人達の死亡推定時刻は昨夜の22時から23時までの間だよ。さっき鑑識から連絡が来たよ」

「つまり…織斑達が到着した頃には既に…」

「うん、全員死んでたよ」

束の説明を聞いた一夏は、沙織に言われたある一言を思い出した。

『私も、私の家族も…』

「…溝呂木だ」

憎々しげに拳を握り締めながら一夏は言う。

「奴が彼女達を殺し、また操り人形に‼︎」

「だろうな…」

一夏の言葉に、今迄黙っていたラウラが語り出す。

「ただ…全ては1年前に始まっていたんだ」

「1年前?ラウラ、一体何が起こったんだ?」

ラウラは一夏の問いに答えず、司令室を出て行く。

「……」

事情を知っている千冬は、黙ってその背中を見送っていた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ…溝呂木、お前は何を考えてやがるんだ?」

メタ・フィールドを解除し、変身も解いた一樹は噛まれた左腕を抑えた状態で膝立ちしていた。一樹が考えているのは、先程でのメフィストの行動だ。いつもなら2対1で襲いかかってきそうなのを、クロスレイ・シュトロームを受け止めただけで消えて行ったのだ。考えるなと言う方が無理だろう。

「…ここで考えても仕方ねえな。誰かに見つかる前に『飛ぶ』か」

ブラストショットを天空に向かって撃ち、ストーンフリューゲルを召喚。高速でその場から離れて行った。

 

IS学園の敷地内にある海岸で、ラウラはあるドックタグを見つめていた。そこに書かれていたのはS()H()I()N()Y()A() ()M()I()Z()O()R()O()G()I()

 

『ラウラ、コレをお前に渡す』

そう言って自分のドックタグを差し出す溝呂木。

『次に会う時まで交換だ』

『…分かった』

ラウラもそう言って、自らのドックタグを差し出した…

 

ドックタグを見つめていたラウラ。そこに…

「ラウラ」

声が響いた。

「俺はもうとっくに返したぜ」

ラウラが声が聞こえた方を向くと…

「早く俺のも返しに来いよ」

溝呂木が右の手のひらを向けていた。

「ッ⁉︎」

ラウラがレーゲンのレールカノンを展開した時には、溝呂木は消えていた…

 

ストーンフリューゲルである程度回復した一樹は千冬と一夏に連絡。情報を集めるために学園を離れていた。そんな一樹の目に、オーロラビジョンのニュースが映り、足を止めた。

『昨夜から行方不明となっていた、○○大学の学生グループが今朝、この川の下流で遺体となって発見されました。死亡したのはカヌー部の学生で、何らかの原因で転落したものと思われています』

ニュースのあまりに事実と違った内容に、一樹は驚きを隠せない。

「…もう、とっくに人々は怪獣の事を知ってるってえの」

無意識に左腕を抑えながら、一樹は再び歩き出した。その後ろでは、オーロラビジョンがまだそのニュースを流していた。

 

千冬は1人、司令室でコーヒーを飲んでいた。その表情は何を考えているのか読み取れない。そこに、ノックの音が聞こえた。

「入れ」

入って来たのは一夏だ。

「織斑先生…いや、千冬姉」

「……なんだ?」

いつもと違う雰囲気に、千冬は呼び方の事を受け入れた。

「今朝、ラウラが言ってた事なんだけど…」

「…ああ」

「『全ては1年前に始まっていたんだ』って…一体、どういう意味なんだ?」

「……」

司令室に重い空気が流れる…

「…去年の、丁度今頃、溝呂木がまだドイツの協力軍人だった頃の話だ」

千冬は話しながらコーヒーを入れ、一夏に手渡す。

「…ありがと」

コーヒーの礼を言う一夏。千冬は頷くと、話を続ける。

「深夜、スクランブルを告げるサイレンが鳴った」

 

『未確認生命体がエリア58、ポイント5-9-6に確認された。至急調査へ』

「ラウラ、思う存分暴れてやれ。お前の力ならいける」

「はい!」

 

「奴は生身でありながらISと互角以上に戦えた。だから参謀は奴を調査チームに入れたんだ。無論、その中には私とボーデヴィッヒもいた」

 

「闇の中で何かうごめいてるようだぜ。それもひとつふたつじゃない」

千冬は参謀からそのチームの指揮官として任命されていた。

「生存者の確立は?」

「無いです。この特殊な電波は、人には出せません」

千冬の質問にISレーダーで調べていたドイツ兵が答える。が、そこに…うめき声の様なものが聞こえた…

「ならコレはなんだ⁉︎」

「そ、そんなあり得ない!現にレーダーには人の反応は…」

ドイツ兵が慌てふためく中、溝呂木は違った。

「面白そうじゃねえか。ワクワクするぜ」

言葉通り、楽しそうに笑う溝呂木に千冬は忠告する。

「これはゲームじゃない。緊張感を持て」

「分かってますよ隊長」

 

「その時、溝呂木はボーデヴィッヒと2人で突入すると言った。だが私は許可しなかった。元々の作戦プランと違うからだ」

「けど、奴は千冬姉の命令を無視した…」

「…溝呂木は私に言った。『作戦なんか関係無い』と…」

 

「作戦なんか関係無い。大事なのは、この状況で誰が冷静に行けるかだ」

「…溝呂木、我々が今行っている任務は「織斑」…何だ?」

「ラウラには軍人としての才能がある。いずれチームを引っ張って行くだけの実力がな。それをこの任務で証明したい。頼む、行かせてくれ」

「…ボーデヴィッヒ、お前の意見はどうだ?」

「……やらせて下さい。お願いします」

「…良いだろう」

 

「…何故その時許可したのか、今でも分からない」

本当に何故許可したのか、自分でも分かっていなかった…しかし…

「ただ…私の心も、あの深い闇を覗いていたのかもしれない…」

 

今だ海辺にいたラウラの脳裏には、1年前溝呂木と共に突入した任務の映像が流れていた。操られ、自分達に襲いかかってくる人達。ISで死亡を確認したとはいえ、それを容赦なく撃ち抜く溝呂木…

 

「…突入から数分後、2人と連絡が途絶えた。そして…溝呂木は紅蓮の炎の中に消え、ボーデヴィッヒ1人だけが生還した。それが…1年前の事件だ。その夜、おぞましい悪魔が生まれ落ちた」

「…悪魔…メフィスト」




では、また次回


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Episode41 黙示録-アポカリプス-

どうぞ


「現在、ボーデヴィッヒさんの所在は不明。織斑君の時と違って彼女は意識がはっきりしてる中の失踪です。理事長は『最悪の場合退学も有り得る』とおっしゃっています」

今朝、突如ラウラがIS学園から姿を消した。束が探してはいるが、流石は軍人。なかなか見つけられそうもない。

「…決定までのタイムリミットは?」

千冬の質問に麻耶は答えにくそうに…

「多く見積もって…5時間かと」

「…分かった。私が直接探す。恐らくボーデヴィッヒは溝呂木に会いに行ったんだ。あの『闇』と…再び向き合うために」

「「「「闇?」」」」

「…織斑も来い」

「了解です」

司令室を出た2人、千冬はリヴァイブを取りに行き、一夏は一樹に電話する。

「かくかくしかじかと言うわけだ」

『そうか…けど、俺はビースト探しを優先させてもらう。ラウラはお前達で探してくれ』

「ああ、分かってる」

『ひとつ確認だ。ラウラのISにメッセージが来てないか確かめられるか?』

「…束さん。どうですか?」

「なるほど。それは思いついてなかったよ。ちょっと見てみるね…」

 

『俺に会いたければ、このポイントに来てくれ』

レーゲンに突如送られたメッセージ。ラウラはそこに示されていた工場へ来ていた。その工場は、1年前任務で訪れた工場と良く似ていた…

 

『ラウラ、よく見ておけ。これが今の俺の姿…俺の力だ』

「…溝呂木、アンタと再び向き合う時が来た様だ」

 

レーゲンに送られたポイントを確認した一夏と千冬。IS学園から出撃しようとする1機の戦闘機VF-0D。操縦席に一夏、後ろに千冬が搭乗していた。

「千冬姉」

「ん?なんだ?」

発進シークエンスを行いながら、一夏は千冬に聞く。

「溝呂木って…どんな奴だったんだ?」

「優秀だったさ。正直、軍人としては私より奴の方が上手(うわて)だった」

「そんな…」

「私は溝呂木を信用していた。そしてボーデヴィッヒもな…」

くる日もくる日も訓練時間が終わっても個別トレーニングを続けていたラウラと溝呂木。溝呂木の厳しい指導もあり、ラウラは人として、軍人として着実に成長していた…

「だが私は…そんな2人の姿に、漠然とした不安を感じ始めていた…」

 

拳銃を構えながら工場を進むラウラ。その脳裏に、溝呂木との会話が思い出されていた。

 

『ラウラ。なぜこの仕事を続ける?』

『私は…生まれた時から軍属だったから…』

『そうか…』

『そういうアンタは?』

『俺は…死にたく無いからだ』

『…え?』

『俺は死ぬのが怖い。だから常に戦場にたったら殺す。だがいくら殺しても心が安らぐことは無い。むしろ不安が増すばかりだ…最近よく変な夢を見る…』

『夢?』

『ジャングルを歩いて行くと、その先に気味の悪い遺跡が現れる。そして…真っ暗な闇が、俺を飲み込もうとする…』

溝呂木はそれを思い出したのか、強く拳を握った。ラウラはそっと、その拳を包む。

『恐れることなんて無い。なぜなら…アンタは誰より強い人間だから』

 

更に奥へ進むラウラ。その正面に…

「やっと来てくれたか…」

溝呂木が現れた。ラウラは拳銃を溝呂木に向ける。気にせず溝呂木はラウラに話しかける。

「ラウラ、お前だけが俺を理解出来る…俺達は特別な存在だ。それはお前もとっくに気付いていた筈だ」

ラウラの手には、溝呂木の名が刻まれたドックタグが握られていた…

「1年前の再会の証、それを持ってこっちに来い」

「…1つ、聞いて良いか?」

「何だ?」

「あの夜、何が起きた?私を残し、闇の奥へ行った後で、アンタは何を見た?」

ラウラの質問に、溝呂木は少し間を空けて答える。

「…真実さ」

「真実、だと?」

「そうだ。あの夜、俺は本当の自分と出会ったのさ」

 

『死体が動いた…これは厄介な任務だ』

『死体とはいえ、一般人を撃つのは抵抗があるな』

『それが狙いなんだろ…ウッ⁉︎』

突如溝呂木の脳裏に、夢で見たあの遺跡が現れた。

『なぜあの夢が…』

『ん?どうした?』

『いや、なんでも…ッ⁉︎』

奥の方から唸り声が聞こえた溝呂木はラウラと一緒に物陰に隠れる。

『…俺が先に突入する』

『何?』

『2人同時に操られたら織斑達と相討ちになる。だが1人残れば最悪の状況は回避出来る』

『だったら私が先に『ダメだ‼︎』…え?』

『…俺が操られたら迷わず撃て。ラウラ、俺はお前の手で殺されるなら本望だ』

 

「あの時…もし2人同時に突入していたら、逆に俺がお前を殺していただろう…」

拳銃を向けたまま、黙ってラウラは話を聞く。

「それほどアレは素晴らしい体験だった」

 

ラウラと別れ、ライフルを構えながらゆっくり進む溝呂木。ふと背後に大きな足音が聞こえたので、振り向く。

『…誰だ?』

そこにいたのは…

《ダーク、メフィスト》

自らをメフィストと名乗る黒い巨人は、溝呂木の声を低くした様な声で話す。

『砕け散れ‼︎』

溝呂木はライフルをメフィストに向かって撃つが、メフィストには全く効いていない。

《お前は…人を殺す事を楽しんでる》

何事も無かった様に溝呂木に話しかけるメフィスト。

『…何?』

《お前らが他国の人間を攻撃するのも、他国の人間がお前らを襲うのも、全く同じだ。弱肉強食の世界に、正義も善悪も無い。あるのは…強き者が生き残ると言う結果だけ。つまり、力こそ全てに優先される真実だ》

溝呂木はメフィストの言葉を聞きつつも、ライフルを構えていた。

《戸惑う事は無い。素直に自分の心を解放しろ。そしてもっと強くなるが良い》

『貴様、何者だ⁉︎』

《私は…お前の影。溝呂木慎也…お前が望む、お前自身の姿だ》

メフィストはそう言うと、黒い雲となって溝呂木の中に入っていった…雲が入った瞬間、溝呂木の顔に邪悪な笑みが浮かぶ。

『力こそ真実、確かにそのとおりかもしれねえな…』

操られた工場の人々が溝呂木に向かって歩いてくる。

『あばよ、人間ども』

溝呂木は躊躇いなくライフルの引き金を引いた…その弾丸で工場のガスが引火、大爆発を起こしたのだった…

 

「ラウラ、こっちへ来い。そうすればお前はもっと強くなれる」

ラウラに呼びかける溝呂木。

「また一緒に戦おう。お前を理解出来るのは…俺だけだ」

ラウラはゆっくりと溝呂木に近づき始めた。そこに…

「ボーデヴィッヒ、待て‼︎」

「ラウラ止まれ‼︎」

ISを完全に展開した千冬と一夏が到着した。ラウラは振り向き、溝呂木は悪質な笑みを浮かべる。

「よう。姉弟揃ってご苦労だな」

「溝呂木…何がお前をそんな姿に変えたかは分からん。だが、ボーデヴィッヒをお前と同じ闇の世界に行かせる訳にはいかん‼︎」

溝呂木はラウラと織斑姉弟の間に入る様に動く。

「だったら力ずくで止めてみろよ」

千冬はリヴァイブのランチャーを溝呂木に向かって撃つ。だが、闇のバリアがその弾丸を受け止めた。それを見た一夏がビームマグナムを撃つが、それもバリアに受け止められてしまった。

「無駄だ。いくら足掻いてもお前達は所詮唯の人間。俺やラウラと違って、これから淘汰される卑しい存在でしか無い」

「「クッ!」」

織斑姉弟が悔しげな声をもらす。

 

 

 

「相変わらずお前の話し方はイラつくな」

 

 

 

声が聞こえたと思ったら、横から波動弾が飛んで来て、溝呂木のバリアを破壊した。全員が波動弾が飛んできた方を向くと…

「一樹…」

そこにはブラストショットを構えた一樹がいた。

「溝呂木。人の心を踏みにじるのがそんなに楽しいのか?」

溝呂木にブラストショットを向けながら一樹は言う。溝呂木は初めて表情を変えた。

「また邪魔しやがって…」

溝呂木を中心に異層を書き換えられていく…その空間は…

「ダーク・フィールド…」

一樹の声に満足げな顔をする溝呂木。

「驚いたか…?俺はこの姿でも異層を自由に操作出来る。更に」

そこで溝呂木は指をひと鳴らし。溝呂木の背後に…

「ガルベロス…」

ガルベロスまでも現れた。

「どうする?ここは光を飲み込む闇…お前に不利な空間で戦うか?」

溝呂木の挑発を受けた一樹は胸ポケットからエボルトラスターを取り出した。

「…下らない事を聞くな」

鞘から引き抜き、天空へ掲げる。ウルトラマンに変身、一回転左後ろ蹴りを決めた。

「シュウ‼︎」

《クアァァァ⁉︎》

ガルベロスは吹っ飛ぶ。ウルトラマンはそれを見るとすぐにジュネッスにチェンジした。

「フッ!シェア!」

《グアァァァ!》

ガルベロスはウルトラマンに突進。ウルトラマンはそれを受け止めるが、ガルベロスに振り払われてしまう。

 

「バカが…罠にかかりやがって」

 

ガルベロスの右頭の目が赤く光ると、ウルトラマンの左腕も光った。

「グッ!グアァァァ⁉︎」

 

「あの傷は…前回の時のか!」

一夏は原因に予想がついた。

「あの目か!あの赤い光が!」

「一夏!櫻井を援護するぞ‼︎」

「ああ‼︎」

千冬、一夏はそれぞれの射撃武器でガルベロスを攻撃するが、バリアに止められてしまう…

「ちくしょう!何で⁉︎」

「驚く事は無いさ、織斑弟。ここは俺が作り出した闇、お前達に手出しは…ッ⁉︎」

突如溝呂木の体が撃ち抜かれた。溝呂木が後ろを向くと、ラウラのレールカノンから煙が出ていた。

「ラウラ…何故お前が俺を…?」

「何故?決まってるだろう」

ラウラは持っていたドックタグを溝呂木に向かって放り投げた。

「今のアンタは…私達の敵だからだ」

ラウラはもう一度レールカノンを撃つ。溝呂木に見事命中すると…

「最高だぜ……ラウラ……」

後ろに倒れ、消えて行った。

「溝呂木が消えた…今だ‼︎」

今度は3人でガルベロスを攻撃。バリアに拒まれる事なく命中し、ガルベロスの片目は潰れた。

《グアァァァ⁉︎》

 

ガルベロスの目が潰れた事で、左腕の痛みは弱まった。念力で一時的に痛みを抑えるとウルトラマンは立ち上がり、ガルベロスに向かって構える。

「ハッ!」

ガルベロスに向かって走り、近づいたところでジャンプ。前方一回転中にエルボーカッターで斬りつけた。

「シュアッ!」

《クアァァァ⁉︎》

ウルトラマンはガルベロスに向かって再度走り出す。ガルベロスはウルトラマンの突進を受け止めるが、ウルトラマンはガルベロスの中央の頭にニーキックを決める。

「シェア!」

《クアァァァ⁉︎》

怯んだガルベロスにボレーキックを放った。

《クアァァァ⁉︎》

ガルベロスが倒れている間にエネルギーを貯めるウルトラマン。

「ファッ!シュウ‼︎フアァァァァ…フンッ!デェアァァァ‼︎」

オーバーレイ・シュトロームを放つ。ガルベロスはそれを喰らい、水色の粒子となって消えた。ウルトラマンも左腕を抑え、左膝をついて消えて行った…

「ファッ、ファッ…」

ウルトラマンが完全に消えると同時に、ダーク・フィールドも解除されていった。

 

「っ…」

左腕を抑えながら工場から離れようとする一樹。

「待ってくれ!」

一樹を制止する声が聞こえた。一樹がそちらを向くと、千冬がいた…




ではまた次回。









感想くれても、ええんやで?


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Episode42 要撃戦-クロスフェーズ・トラップ-

…彼は、いつまで戦わなければならないのだろうか。


「そんなボロボロなのに、何故自分を労わらない⁉︎」

千冬は一樹に問う。

「やるしか、無いからかな…」

左腕を抑えながら、苦笑いしながら一樹は答える。

「一樹…」

ガルベロスを倒したウルトラマン=櫻井一樹だったが、この時、彼の体は既に…

 

ある霧深い山では、登山客が謎の死を遂げていた…

 

ピピピピ‼︎

「「「「⁉︎」」」」

突如千冬のリヴァイブに通信が入る。

『織斑先生!』

「どうした山田先生」

『束さんが新しいビースト振動波を捉えました!』

「了解、クロムチェスター隊を出撃させてくれ。わたし達もすぐに合流する」

『了解‼︎』

千冬が麻耶と話している間に、一樹はボロボロの体を引きずりながらその場を離れようとする。

「待て櫻井!私たちと共に行動してくれないか⁉︎」

千冬が一樹を呼び止めるが…

「…悪いが俺は……あの学園を信じれない」

今後ろにいる者にシャルロット、摩耶に束を除いて、一樹は学園にいる人間のほとんどを信じられずにいる。

「だが!我々の戦う目的は、同じ筈だ‼︎」

()()?…なら教えてくれよ…俺に光を与えられた『理由(わけ)』を……」

「何…?」

「一樹…」

一夏の呼び止める言葉も聞こえないのか、一樹は何も答えずにストーンフリューゲルでその場を去って行った。

 

千冬達が現場に到着すると、既に箒達が調査をしていた。

「ビーストは?」

「振動波は健在です。ですが、過去に無い波形を示してます」

「どういう事だ?シャル」

一夏が質問したところで、恐ろしい吠え声が聞こえた。全員が声の方向を向くと、今までいなかった筈のビーストが突如現れた。

「各員チェスターに搭乗!」

「「「「了解‼︎」」」」

「織斑!お前はあの戦闘機に乗れ!アレは私も操縦出来ん!」

「了解‼︎」

一夏がフェニックスに搭乗した瞬間、ビーストの目の前に光の柱が現れた。

「ウルトラマン!」

 

「シュ!」

ウルトラマンは4足歩行のビーストに向けて先制の飛び込みチョップを放つ。

「フワァ!」

続けて裏拳。

「フンッ!」

ビーストもただやられるだけで無く、その自重を利用した突進を放ってきた。

「フンッ⁉︎」

何とか突進を受け止めるウルトラマン。しばらくその状況が続いたが…

「フッ⁉︎」

ビーストの口吻が伸び、ガルベロスに噛まれた部分を連続で叩きのめした。

「グッ!グァァ⁉︎」

吹き飛ばされたウルトラマン。すぐに体制を立て直そうとするが…

「シュ!グアァ…」

左腕の痛みに耐え切れず、思わず右手で押さえつけた。

 

「まさか…キズが癒えて無いのか?」

左腕を押さえるウルトラマンを見て、ラウラが呟いた。

 

「グアァ⁉︎」

《グシュウゥゥ‼︎》

素早く動けないウルトラマンを容赦なく投げ飛ばすビースト。ウルトラマンは何とか突進を受け止めるが、すぐに投げ飛ばされてしまう。

「グッ!フアァァ‼︎」

ウルトラマンのストレートキックがビーストに命中。当たりどころが悪かったのか、ビーストは怯み、ウルトラマンから離れた。

「フッ⁉︎」

突如ビーストの背中の水晶の様な物が光った。光線技と思ったウルトラマンは、光線技を出させない為に急接近、飛び込み蹴りを放つが…

「フッ⁉︎」

何故かウルトラマンはビーストを通り抜けてしまった。

「シュウ!」

ウルトラマンはアームドネクサスをエナジーコアに近づけ、アンファンスからジュネッスへとチェンジする。

 

「存在するのに攻撃出来ない…これがこの波形の正体なんだね…」

ウルトラマンとビーストの戦闘を見たシャルロットが呟いた。

 

「シュ!フアァァァァ…フッ!ヘェアァ‼︎」

ウルトラマンはビーストを確実に捉えるためにメタ・フィールドを展開する。

 

メタ・フィールドの展開を終えたウルトラマン。

「シュ!」

ウルトラマンは勢いよくスライディングし、ビーストの腹部にぶつかる。

《グシャアァァァァ⁉︎》

「フッ!シュウ!テェア‼︎」

しばらく叩きつけると、両足で思いっきり蹴り飛ばした。そしてビーストを頭を掴んで回転し、投げ飛ばす。

「フゥゥゥ…シェアッ‼︎」

メタ・フィールドの岩盤に叩きつけられたビーストが怯んだのを確認すると、オーバーレイ・シュトロームを放とうとエネルギーを貯める…

「フンッ!シュ!フアァァァァ…ガアァ⁉︎」

だが、左腕に激痛が走る。オーバーレイ・シュトロームを放てずにいるとビーストの容赦ない突進をまともにくらってしまう。

「グアァァァ⁉︎」

2度目の突進は何とか受け止めたウルトラマンだが…

ピコン、ピコン、ピコン

コアゲージが鳴り始めると同時にメタ・フィールドが解除されていく…

「グアァ、シュ!フアァァ…」

《グシャアァァァァ‼︎》

ビーストの背中の水晶が光り、とうとうメタ・フィールドを破ってしまった。ストライクチェスターでメタ・フィールドに突入しようとしていた面々が驚く。

「メタ・フィールドが…消滅した?」

ビーストはウルトラマンから逃走。ウルトラマンも追う事は出来ず、消えてしまった…

 

ふらつきながらもストーンフリューゲルはその場から離れていく。

「傷の回復が遅い…どうなってんだよ、俺の体は…ガアァ⁉︎」

 

ウルトラマンがビーストと戦っていた近くの山では、IS学園新聞部副部長の黛薫子が山の風景写真を部員と共に撮っていた。

「…あれ?今なんか落ちた?」

 

『コードネーム『ゴルゴレム』には別の異層に飛び込む力、即ち、異層間移動能力が備わっているよ』

IS学園では、一夏達専用機持ちが束の報告を受けていた。

「けど姉さん、メタ・フィールドには捕らえられていましたよ?」

「って事は…ラフレイアの時の様にウルトラマンがいないと倒せない…って事か?」

『うーん、確かにいっくんの言う通り、ウルトラマンのメタ・フィールドが確実で良いんだけど、今回はクロスフェーズ・トラップを使ってみようと思うんだ』

「クロスフェーズ・トラップ?」

『そ。幸い、ゴルゴレムの振動波は強力だからロストする心配は無いんだ。ゴルゴレムの進路上にスキャンニングパルスの増幅システムを設けて攻撃に転用するって作戦なんだ』

「「「「スキャンニングパルス?」」」」

「普段はメタ・フィールドの異層を割り出す為に使われている操作波だ」

『送電線を外した高圧電灯を増幅機に改造。ここにメガキャノンチェスターから最大出力のスキャンニングパルスを放射する。ゴルゴレムが別異層にいてもこの鉄塔の間を通過すればその異層間移動制御器官を破壊出来るよ』

「アレね。電子レンジの中で生卵が爆発する感じ」

凰が妙に庶民的な例えを出す。

「そして姿を現したゴルゴレムをメガキャノンバニッシャーで叩く…」

セシリアが作戦の締めを言うと、一夏が疑問を言う。

「けど束さん、ゴルゴレムがこの罠に引っかかる確証は無いんじゃ…」

『その点は大丈夫だよいっくん。現場から30km離れた所には温泉街があるの。つまり…』

「多くの捕食対象がいる…か」

「いつも以上に失敗は許されないって事だね…」

シャルロットの顔が一気に青ざめる。

『一つ懸念事項があって、スキャンニングパルスの放射限界時間なんだ』

「つまりはメタルジェネレーターの運用パワーの限界…ということですわね」

『その間…180秒』

「たったの180秒だと⁉︎」

 

「おっかしいなぁ…ここら辺に何か落ちたと思うんだけど…」

「副部長、どうかしましたか?」

新聞部唯一の専用機持ちである佐藤が黛に話しかける。

「いや、ここら辺に何か落ちたのを見たんだけど「副部長‼︎」どうしたの?」

「ひ、人が倒れてます‼︎」

「「ッ⁉︎」」

黛と佐藤がその場に着くと、そこに倒れていたのは…一樹だった。

「ま、まさか…」

「副部長、知り合いですか?」

「い、いや、きっと人違いね。佐藤さん、この人を旅館まで連れて行って」

「分かりました!」

専用機を展開した佐藤が一樹を抱え、IS学園新聞部一行は旅館へと移動した。

 

旅館に運ばれた一樹はIS学園新聞部によって応急処置がされた。今、部屋では黛と1年の竹本が一樹を看ていた。一樹は今、大量の汗を流しながら眠っている…

「副部長、ダメです。電話も携帯もつながらないです」

何とかして救急車を呼ぼうとしていた新聞部員だが、電話や携帯はおろか、佐藤の専用機を持ってしてもつながらなかった。

「具合、どうですか?」

「見ての通り、まだ眠ったままよ」

「そうですか…」

佐藤が一樹のジャケットを畳もうと持ち上げると、ジャケットからエボルトラスターが落ちた。

「え?何これ?」

拾おうとする佐藤に…

「…さわ、るな…」

一樹が震えながら制止していた。

「触らないでくれ…」

エボルトラスターを掴もうと左腕を伸ばす一樹だが、すぐに苦悶の表情で左腕を抑える。

「ッ⁉︎」

「ダメですよ、まだ動いちゃ。体中傷だらけなんですから」

佐藤が一樹の脂汗をタオルで拭き取る中、黛が一樹に話しかける。

「あなた…櫻井一樹さん、よね?」

黛が確認する様に話しかけるが、疲れ切ってる一樹は痛みに耐え切れずに気絶した。

「まだだめか…」

その瞬間、いきなり電灯が消えた。

「え?停電?」

 

黛達がいる旅館から30km離れたところでは、一夏達がクロスフェーズ・トラップの準備を進めていた。

「最終チェッククリア。スキャンニング・パルス、放射準備完了」

『ゴルゴレム、1500mラインを通過』

一夏とラウラの声が、妙に響く…

 

「やっぱり知ってる人だったんですね、副部長」

「いえ、この人は私の事なんか知らないわ」

「え?」

黛は、まるで思い出す様に語り始めた。

「中学3年の時の話よ…私が初めて人の写真を見て震えたのは。あんなにも力強く写真で真実を伝えられる…それを知ったのが、あるコンクールに出された写真よ。人や自然、地球から見れる宇宙の神秘…それを若干14歳の男の子が撮った…それを知った時、私の目的が見えた気がしたのよ…」

 

『ゴルゴレム、800mラインを通過…500mラインを通過』

「スキャンニング・パルス、放射しま『待て織斑!』え?」

『まだ早い…ギリギリまで待つんだ』

『400mラインを通過…止まった!ゴルゴレム、300m地点で止まりました‼︎』

「まさか…気付いたのか⁉︎」

前の箒が愕然とするが、一夏は冷静だった。

「箒、落ち着け。相手も一応生き物だ。止まる事もあるだろうよ」

 

「しかし暑いわね…今は非常用電源で電灯をつけてるからか、エアコンは動かないし…」

黛はそう言いながら窓を開けるが、風は全く吹いていない。

「風も無いし、もう最悪…」

その時、一樹の枕元でエボルトラスターが鼓動を打っていたのを、誰も気づかなかった…

 

『動き出しました!コースは変わらずに速度が上がってます‼︎…100mライン通過!…50m!…30…20…10‼︎』

『織斑‼︎』

「放射‼︎」

一夏が放射ボタンを押した事により、クロスフェーズ・トラップが動き出した。

「クロスフェーズ・トラップ、作動を確認‼︎」

その瞬間、ゴルゴレムの頭が見え始めた。

「見えました!」

『いや、まだ完全ではない‼︎』

トラップの間で苦しむゴルゴレム。

 

「何?」

「何かの鳴き声が聞こえた気がする…」

窓の近くにいた黛には山の向こうでクロスフェーズ・トラップのプラズマが見えていた。黛はいまだ眠り続ける一樹の方を向く。

「あなた…アレを撮りに来たの?」

しかし意識が無い一樹が答えられるはずもない。しかし、黛は何か決心すると自らのカメラを持って部屋を飛び出した。

「「副部長⁉︎」」

佐藤と竹本は黛を追う。

 

「放射限界まで後50秒‼︎」

スキャンニング・パルスの限界が近づいている…

 

窓から見えたプラズマに向かって全力で走る黛。

「ハア、ハア、ハア…」

 

「限界まで、後20秒‼︎…後10秒!…9…8…7…6…5…4…3…2…1」

ゼロになるその瞬間、ゴルゴレム背中の水晶が破壊された。

「よしっ!!」

『そうか!背中の破壊された箇所が制御器官だったのか!』

『ゴルゴレム、来るよ‼︎』

ゴルゴレムの身体が(いかづち)状のエネルギー派が放たれるが、一夏が咄嗟にメガキャノンチェスターを浮上させたことにより難を逃れた。

「ラウラ!メガキャノンバニッシャーが撃てるようになるまで後90秒必要なんだ!俺は攻撃に集中するから操縦頼んだ‼︎」

『任せろ‼︎』

ラウラに操縦を任せ、一夏はスパイダーミサイルでゴルゴレムを攻撃していく。

 

「あれは…」

一夏達がゴルゴレムと戦闘を開始してすぐに黛も到着した。黛の眼前にはメガキャノンチェスターがゴルゴレムの雷を避け、ミサイルで反撃していくのが見える。

「…」

無言で写真を撮り始める黛。そこに後輩の2人が追いついた。

「ッ⁉︎副部長!逃げないと‼︎」

「…あなた達だけでも逃げて」

「「でも‼︎」」

黛は2人に答えずに、独り呟く。

「櫻井君…今度は私の番、私の写真が人々に真実を伝えるの‼︎誰も知らない真実を‼︎」

 

『メタルジェネレーター、冷却完了‼︎』

『メガキャノンバニッシャー、撃てるよ一夏‼︎』

「ああ…ッ⁉︎あれは黛先輩か⁉︎」

『『『『え⁉︎』』』』

黛の存在に気付いた一夏達だが、専用機持ちでない黛には連絡が取れない。しかも彼女は必死に写真を撮っているようだ。

「くそッ‼︎ゴルゴレムを黛先輩に近づけさせる訳にはいかねえ‼︎ラウラ誘導頼んだ‼︎」

『クッ…了解だ…』

「箒は千冬姉達に連絡だ‼︎急げ‼︎」

「あ、ああ‼︎」

「セシリアはスパイダーミサイルを閃光弾に切り替えてくれ!」

『わ、分かりましたわ!』

「鈴はジェネレーターの冷却装置稼働率を最大に上げろ!帰り動かなくなってもこの際構わない‼︎」

『分かった!』

「シャルは近くに他に誰かいないか探し、いた場合はラウラに報告してくれ‼︎」

『うん、任せて‼︎』

しかし、現実は残酷でゴルゴレムは黛に気付いてしまった…

 

「み、見つかった⁉︎」

ゴルゴレムに睨まれた瞬間、黛は腰が抜け、動けなくなってしまった。

「副部長‼︎」

「逃げてぇぇぇぇ‼︎‼︎」

2人は叫ぶが、腰が抜けた黛は動けない。そんな黛にゴルゴレムの口吻がせまる。

「「「イヤぁぁぁぁ‼︎‼︎」」」




頼む一夏…今この状況では、お前だけが頼りだ。


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Episode43 追撃-クロムチェスターδ-

あまり過信しずきると、それがなくなったとき後悔する…


『『『イヤぁぁぁぁ‼︎‼︎』』』

「ッ!?」

旅館で気絶しているように眠っていた一樹だが、『光の力』で黛達の危機を察知すると飛び起きる。痛む体を強引に動かし、ジャケットとエボルトラスターを持って旅館を飛び出した。

「間に合ってくれよ…」

 

「やらせるかあぁぁぁぁ‼︎‼︎」

一夏が咄嗟に閃光弾を放った事によりゴルゴレムの動きが止まった。

「Set into strike formation‼︎」

『『『『了解‼︎‼︎』』』』

メガキャノンチェスターが分離し、3機のクロムチェスターがストライクチェスターに再度合体。ストライクバニッシャーをゴルゴレムに向かって撃つが、ゴルゴレムは口吻から火球を出し迎撃した。

「そんな⁉︎」

ゴルゴレムは再度3人を狙う。

「「「助けてぇぇぇぇ‼︎‼︎」」」

 

『『『助けてぇぇぇぇ‼︎‼︎』』』

悲鳴が聞こえた瞬間、一樹はエボルトラスターを引き抜いた。

「だぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」

 

ゴルゴレムの口吻が3人に向かって伸びる。

「「「いやッ‼︎‼︎」」」

3人は恐怖のあまり、頭を伏せる。だが、いきなり目の前が強く光り、口吻が止められた。

「シュアァァァァ…」

《ギャシャアァァ⁉︎》

ウルトラマンが両腕を使って必死に口吻を止めていた。何とか左腕一本で抑え、セービングビュートで3人を救出。

「シュッ!」

戦闘の余波が起きない所まで送った。

「ヘェア‼︎」

 

『『『「ウルトラマン⁉︎」』』』

ストライクチェスターの面々はウルトラマンがゴルゴレムを押さえつけてるのを見て、一瞬だけ安堵の表情を浮かべた。

 

「シュゥゥゥゥ…」

《ギャシャアァァ!》

黛達をウルトラマンが救出した事により、ゴルゴレムは怒り、ウルトラマンに打ち付けようと口吻を動かす。ウルトラマンは何とか耐えていたが、体中の傷が痛み、一瞬力が抜けてしまった。その隙を逃さず、ゴルゴレムは口吻をウルトラマンに叩きつけた。

「グォッ⁉︎」

続いてゴルゴレムは火球を放つ。火球はウルトラマンの左肩へ命中した。

「グアッ⁉︎」

火球が命中した衝撃で左腕の傷が開いた。思わず左腕を押さえ片膝をついたウルトラマン。

《ギャシャアァァ‼︎》

ウルトラマンの動きが止まると、ゴルゴレムは黛達の方へ向かおうとするが、ウルトラマンは飛び上がり、ゴルゴレムの正面に着地。必死に口吻とゴルゴレムを抑え、押し戻す。

「フアァァァァ…」

《ギャシャアァァ!》

ピコン、ピコン、ピコン

今まで以上に体力の消耗が激しいのか、胸のエナジーコアが鳴り始める。それでもウルトラマンは諦めずに…

「フッ!シュアァァァァ‼︎」

ゴルゴレムを投げ飛ばした。

《ギャシャアァァ⁉︎》

「ウゥッ…ハア、ハア…」

しかし、投げ飛ばされたゴルゴレム以上にウルトラマンのダメージが大きいのか、ウルトラマンは再び片膝をついてしまう。

《ギャシャアァァ‼︎》

その隙に黛達に近づこうとするゴルゴレム。

「フッ⁉︎シュアァ‼︎」

ウルトラマンはゴルゴレムの口吻目掛け、パーティクルフェザーを放った。パーティクルフェザーは見事口吻に命中。口吻は切断された。ゴルゴレムはウルトラマンに背を向ける。ウルトラマンは追う力も無く、消えていった…

 

「ゴルゴレムの進行報告へ回り込むぞ‼︎」

『一夏!温泉街にはまだ人がいる‼︎』

「なんだって!?」

 

街に入ろうとするゴルゴレム。

「やめろぉぉぉぉぉ‼︎‼︎」

効かないと分かっていても一夏はストライクバニッシャーをゴルゴレムに向かって連射した。流石のゴルゴレムも連射の威力に横転した。その瞬間、ゴルゴレムの背中の制御器官が回復、ゴルゴレムは消えていった。

『制御器官が…回復したのか?』

ラウラが呟くと、束がモニターに映った。

『ゴルゴレムは異層を移したよ。一旦戻ってきて』

「その前に束さん!なんでこの辺りに避難勧告が出てないんですか⁉︎」

『もう一度言うよいっくん、戻ってきて』

「束さ『ブツッ』クソがぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎」

一夏の怒りの叫びが、機内に響く…

 

「ゴフッ…」

一樹は吐血しながらも、黛達の安否を確認するために森を進む。

 

「束!どういう事だ‼︎何故あのエリアに人がいた‼︎」

「ゴルゴレムの進路を特定して撃破するためには、あそこの人達が必要だった…ただそれだけの事だよ」

「貴様!櫻井が命がけで我々を守ってくれているのに何て事を!!!!」

束のあんまりな言い方に、感情的になって胸ぐらを掴む千冬。

「なら!そのかずくんを追い込んだのは一体何⁉︎女尊男卑の原因であるISを作った私と違うんだよ⁉︎かずくんは世界を滅茶滅茶にしたわけでも、人を殺した訳でもない。ただ一人の女の子を守りきれなかっただけの小さな男の子を苦しめたのは何⁉︎同じ人だよね⁉︎」

「ッ⁉︎」

動きが止まらずを得なかった千冬。束はそんな千冬の手を振りほどく。

「…次は必ず成功してもらう…そのための準備があるから私は行くね」

束は一人になった瞬間…

「ごめん、ね…かずくん…あんなやり方しか出来なくて…ごめんね…」

一樹への罪悪感に、潰れそうになった…

 

「副部長…私、昨日副部長が言ってた事、分かりました」

「ああ…『写真は真実を伝えられる』って事を、櫻井一樹君の撮った写真で教わったって言った奴?」

「はい」

 

黛達が話してる少し離れた所では、一樹が左腕を抑えながら聞いていた。

「俺の…写真?」

 

「私もです。『目的が見えた』とも言ってました。私も…見つかったような気がします。専用機持ちとして…」

 

3人の言葉ひとつひとつが、一樹の胸に鋭いナイフの様に刺さっていく。

()()…」

 

「でも…2人に話しといて何だけど、私はこの写真を公表しなくて良いと思ってるの」

「「え⁉︎」」

「この写真…見たら怖がる人がいる。撮ってる時は夢中だったから分からなかったけど、私には、櫻井君の様に真実を伝える事なんて出来ない…」

「俺はあなた達が言う程凄いやつじゃない」

「「「⁉︎」」」

3人がいきなり声が聞こえた方を向くと、脂汗をかきながら必死に何かを伝えようとする一樹がいた。

「俺の写真は…そんな褒められた物じゃない。俺の写真は…たった一人の女の子の…命を奪いかけたんだ」

「「「⁉︎」」」

「そんな奴の写真に、素晴らしさなんてあるはずが無い。あるのは…自分とは真逆…綺麗で、神秘的な物を撮れば自分も綺麗になれると信じて撮った…結局は汚れた写真、なんだ。ウッ⁉︎」

一樹は左腕を抑えて崩れかける。その抑え方を見た3人の脳裏に、昨晩ウルトラマンが火球受けた時が映った。

「そういう事だったんだ…」

黛はウルトラマンの正体に気付いた。他の2人も同じだったらしく…

「あの、昨夜はありがとうございました」

3人揃って頭も下げた。一樹はそれに何も答えず、その場を去ろうとする。

「あの、頑張って下さい」

一樹は3人から充分に離れると、ストーンフリューゲルを呼んだ。

 

『これが新型機、クロムチェスターδだよ。先の戦闘で時間を稼いだおかげで、新しく開発したハイパージェネレーターを搭載出来たよ』

「それって…メタルジェネレーターより強力なんですか?」

『ストライクチェスターでは不可能だった事…つまり、スキャンニング・パルスを使った特定異層の割り出しと、フェーズシンクロナイザーを使った異層間の移動が同時に行えるよ』

「じゃあゴルゴレムを追撃出来るんですね?」

『うん。ただ、ISに合わせた調整をするための余裕が無いから、対Gシステムは無いよ。だから今の所コレを扱える人は限られるよ』

「なら、俺が乗る‼︎」

一夏はその目に、強い意志を乗せて言う。

「…そうだな。対Gシステムが無い以上、扱えるのは織斑ぐらいだろう。束、δ機を織斑に合わせてカスタマイズしてくれ」

『分かったよ』

 

『ゴルゴレムの現在位置はエリア4、ポイント815だよ。進行方向のポイント818に対する避難勧告は、混乱を避けるために行わないよ。α機、β機、γ機はメガキャノンチェスターでポイント817で待機、δ機は別異層のゴルゴレムを追撃して異層間への移動制御器官を破壊。ゴルゴレムの器官回復に要する時間は480秒。その間にメガキャノンバニッシャーで殲滅、以上が今回の作戦の概要だよ』

出撃準備をしながら聞く面々、一夏は特に念入りに機体の状態を確認した。

「(武装、及び搭載されてるシステムは全部把握…全システム、オールグリーン…)」

『よし、今度こそゴルゴレムを潰してこい!クロムチェスター隊、出撃しろ!!!!』

『了解!チェスターα、行く!!!!』

一夏がδ機に乗り換えた事で1人乗りとなった箒が先行する。

『チェスターβ、出ますわ!!!!』

『チェスターγ、行くよ!!!!』

次々と出撃していくクロムチェスター。そして…

『いっくん、かずくんをお願いね』

「分かってます。チェスターδ、織斑一夏。出るぞ!!!!」

 

ストーンフリューゲルの中で少しでも回復しようとする一樹。だが、その脳裏に映るのはゴルゴレムに追い詰められ続ける自分だった…

「ウグッ…グッ…」

 

『Set into mega cannon formation‼︎』

ラウラの掛け声により、クロムチェスターαからγの3機が合体、メガキャノンチェスターになる。一夏はそれを見ながら、自らの任務に向かう。

「チェスターδ、ゴルゴレム追跡に向かう。スキャンニング・パルス放射…ゴルゴレム確認、異層座標E29、ハイパージェネレーター、フルドライブ!行っくぜぇぇぇぇ‼︎」

δ機が、異層移動を開始した。

「頼むぞ…一夏」

千冬は、ただ祈る事しか出来ない。

 

「クソッ!座標を移された!座標F56か…フェーズシンクロナイザー、作動、座標F56との異層同期確認」

異層移動が完了した瞬間、いきなり眼前にゴルゴレムが現れた。

「ウワッ⁉︎」

すぐに操縦桿を操り、ゴルゴレムの背後に回る。すると、ゴルゴレムの背中の制御器官が光った。再び異層を移動しようとしてるのだ。

「絶対逃さねえ!クアドラブラスター、ファイア‼︎」

δ機の4門のビーム砲が火を噴き、ゴルゴレムの制御器官を破壊した。

「よっしゃあ!」

 

『来るよ‼︎』

シャルロットの言葉とほぼ同時にメガキャノンチェスターのおよそ1200m先にゴルゴレムが現れ、その頭上からδ機も現れた。

「制御器官、回復まで後400秒だ」

『任せろ!メガキャノンバニッシャー、シュート‼︎』

ラウラが発射ボタンを押した。メガキャノンバニッシャーは真っ直ぐゴルゴレムに伸びていき…強い閃光が起きた。光が晴れたそこには…ほぼ無傷のゴルゴレムがいた。

『バニッシャーが効かないのか⁉︎』

『違うわラウラ、ゴルゴレムのバリアで威力が半減されたみたいよ!』

『み、皆さん見て下さい‼︎制御器官が…』

箒達が見ると、ゴルゴレムの制御器官が回復しつつあった。

 

「前回より回復が早い⁉︎なんて適応力の高さなの⁉︎」

学園では束がキーボードを叩きながら現状を打破するための作戦を必死で探していた。

 

ゴルゴレムを上空から攻撃しようとする一夏の前にストーンフリューゲルが飛んできた。

「一樹⁉︎」

ストーンフリューゲルとδ機は一瞬すれ違った。一樹はストーンフリューゲルの中でエボルトラスターを引き抜いた。

「ウオォォォォォォォ‼︎‼︎‼︎」

 

ウルトラマンは空中でアンファンスからジュネッスにチェンジ。着地してゴルゴレムに向かって構える。

「シュ!フアァァァ…」

ウルトラマンの後方10km先には、平和に暮らす人々の街があった…

 

「副部長、どうするんですか?」

「うーん…」

 

ゴルゴレムの進行を止めようと、ひたすら突進するウルトラマン。だが、ゴルゴレムはその鋭い頭を使ってウルトラマンをなぎ払う。

「グアッ⁉︎」

2度それを繰り返したウルトラマンだが、尚も近づいてくるゴルゴレムの頭部に、渾身の回し蹴りを放った。

「シュアッ!」

《ギシャアァァァ⁉︎》

更に飛び込んでドロップキック。

「デェアッ‼︎」

《ギシャアァァァ⁉︎》

息切れしながらも、ゴルゴレムに向かって構えるウルトラマン。

「ハア、ハア、シュアッ!…ハア…」

 

「もう少し、写真を取り続けようかな。私ね、元々噂好きなのもあったけど、それ以上に写真が好きなんだ。だから、色んな人達に私の写真で勇気や感動を与えたいと思ったから新聞部に入部したのね。だから…たとえ櫻井君が暗い気持ちで撮ったものであっても、それに心を動かされた私の様に、私も人の心を動かしたいなって思うの」

「その言葉を待ってました!」

「では、IS学園新聞部、これからも…いえ、より一層頑張って、櫻井君の写真を超えてやりましょう‼︎」

「「「おぉ〜‼︎」」」

 

ゴルゴレムを持ち上げ、街とは逆方向に投げ飛ばすウルトラマン。

「デェアァァァァ‼︎」

《ギシャアァァァ⁉︎》

ゴルゴレムが転がってる内に、ウルトラマンはメタ・フィールドを展開する。

「シュ!フアァァァァ…シュ!ヘェアァァァ‼︎」

ウルトラマンとゴルゴレムはメタ・フィールドへと移動した。

 

「みんな‼︎俺達もメタ・フィールドへ行ってウルトラマンを援護するぞ‼︎‼︎‼︎」

『『『『了解‼︎‼︎‼︎』』』』

一夏の掛け声を合図に、クロムチェスターδ機とストライクチェスターがメタ・フィールドへの突入を開始する。

「『ジェネレーター、フルドライブ‼︎』」

 

「『メタ・フィールド、突入成功‼︎』」

一夏とラウラの声が妙に響く…急いでウルトラマンとゴルゴレムを探す面々。そこには…

ピコン、ピコン、ピコン

「グゥ…ファッ、アァ…」

《ギシャアァァァ‼︎》

苦しそうに胸を抑えるウルトラマンとゴルゴレムがいた。ウルトラマンはフラフラながらも、ゴルゴレムに向かって構える。だが…

「フゥ、フゥ、シュア。アァ…アァ…」

ウルトラマンは…メタ・フィールドの大地に倒れてしまう。

「そんな⁉︎」

俺は、当たり前の事に初めて気付いた。ウルトラマンと言えど、元は櫻井一樹という、俺の幼なじみなのだ。その体に、いつ限界が来てもおかしくないのだと…by一夏




どんな生き物でも、必ず限界というものは来る…それを忘れてはならない…


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Episode44 受難-サクリファイス-

敵は、ビーストや溝呂木とは限らない…


彼の孤独、彼の苦悩、彼の痛み、俺はそれを、まだ半分も理解出来てなかった…なのに____

「一樹…」

 

「フゥゥゥ…アッ…グォォ…」

何とか立ち上がろうとするウルトラマン。だが、力が入らず、中々立ち上がれない。そんな時、箒が気づいた。

「外の世界が⁉︎」

ウルトラマンがメタ・フィールドを維持出来なくなってきたのか、メタ・フィールドが破れ始め、外の世界が見えてきた。しかも、よりによって街のすぐ前に…

《ギシャアァァァ‼︎》

ゴルゴレムはメタ・フィールドの破れに気づき、外に向かおうとする。

「フッ⁉︎シュアァァァァ…アァッ」

ゴルゴレムが外に向かおうとしてるのに気づいたウルトラマンだが、体が言うことを聞かず、立ち上がれない。メタ・フィールドはなんとかゴルゴレムの進行を食い止めているが、ゴルゴレムがぶつかる度にメタ・フィールドの破れが広がっていく。

『ウルトラマンのバトルアビリティが著しく低下している⁉︎多分そのせいでメタ・フィールドの維持能力が落ちてるんだよ一夏‼︎』

『じゃあシャルロット!この空間もいつまで維持出来るか分からない訳⁉︎』

「みんな!メタ・フィールドが残ってる内に俺達でゴルゴレムを倒すぞ‼︎俺が奴の気を引くから、セシリアがバニッシャーで倒してくれ‼︎」

『わ、分かりましたわ‼︎』

一夏はクアドラブラスターを撃ち、ゴルゴレムの気を引き、ストライクチェスターとウルトラマンから離した。その隙に、フルパワーのストライクバニッシャーを放つセシリア。しかし…

《ギシャアァァァ‼︎》

ゴルゴレムは無傷だった。

『そんな!今度は確かに直撃したのに⁉︎』

『ストライクバニッシャーじゃ威力が足りないって事⁉︎』

つまり、ウルトラマンでなければゴルゴレムは倒せない…そうこう言ってる内に、再びメタ・フィールドの壁にぶつかり始めるゴルゴレム。

「ちくしょう‼︎」

 

壁に突進を続けるゴルゴレム。どんどんメタ・フィールドの破れが広がり、あと少しで完全に破れてしまう…

「フゥゥゥ…アァッ」

尚も必死に立ち上がろうとするウルトラマンだが、体が言うことを聞かない。

 

「ちくしょぉぉぉぉ‼︎」

δ機に乗る一夏はひたすらクアドラブラスターやミサイルでゴルゴレムを攻撃する。ストライクチェスターも一夏に続いて猛攻撃を開始する。が、やはりゴルゴレムは怯むだけだ。一夏達の猛攻撃に慣れたのか、ゴルゴレムは攻撃を無視して外に向かおうとする。

 

「シュ!ヘェアッ‼︎」

何とか起き上がったウルトラマンはセービングビュートでゴルゴレムを拘束。

「フゥゥゥ…」

《ギシャアァァァ⁉︎》

ゴルゴレムを引っ張るウルトラマン。ゴルゴレムは何とか耐えようとするが…

「シェアァァ‼︎‼︎」

ウルトラマンは渾身の力でゴルゴレムを引き寄せる。ゴルゴレムは大きく弧を描き、メタ・フィールドの大地に叩きつけられた。

《ギシャアァァァ⁉︎》

「フッ、フッ、フゥ…」

ふらふらながらも、何とか立ち上がったウルトラマン。ゴルゴレムは起き上がり、再度外に向かおうとする。

《ギシャアァァァ‼︎》

ウルトラマンはそれを阻止するために、両腕にエネルギーを貯める。

「フッ!シュウゥ‼︎フアァァァァ…フンッ‼︎デェアァァァァ‼︎‼︎」

残った力を全て振り絞って放ったオーバーレイ・シュトロームを受けたゴルゴレムは水色の粒子となり消滅した。ウルトラマンは一夏達に頷くとメタ・フィールドを解除しながら消えていった…

 

「ゴフッ…」

変身を解いた一樹だが、既にその体に限界が来ていた。ストーンフリューゲルを呼ぼうとブラストショットに手を伸ばすが、天に撃つ前に気絶した。そんな一樹を、一夏が見つける。

「一樹‼︎」

気絶してるのを確認すると、δ機の後部座席にそっと乗せ、IS学園に向かって飛んだ。

 

翌日…IS学園保健室で、身体中に包帯が巻かれた一樹がいた。保健医の話では、生きてる方が不思議と言うほど身体中に傷があるらしいが、一樹にとっては今更なことだ。

「一樹…大丈夫か?」

見舞いに来た一夏、シャルロット、ラウラ。ウルトラマンの正体が一樹だと知っている者達は、一樹の体が限界だと言うことを悟っていた。

「さあ…どこから大丈夫って言えば良いのか分からねえけど、何とか生きてるよ…ウグッ⁉︎」

皮肉げに笑いながら話す一樹だが、話すのですら、傷口が開くのか、脂汗が止まらない。無理も無い。ストーンフリューゲルで直しきれない傷が人間の手で完治するなら苦労はしないのだ。そこに、新たに人が入る。

「櫻井…」

「かずくん…」

千冬に束だ。2人とも、悲痛な表情を浮かべている。

「束さん、このデータを使ってください」

一樹は震える手で束にUSBメモリを渡す。

「…これは?」

「俺の…いや、ウルトラマンの必殺光線のデータです。昨晩の戦闘を見れば分かる通り、俺の体はそろそろ…そうなる前に、一応人類を守る手は打っとこうかと…まあ、簡単にやられるつもりも無いですけど」

力なく笑う一樹に、束は悲しげな顔で礼を言う。確かに、束の頭脳だけではビーストに対抗出来ないので、専門家である一樹のデータはとても重宝する…が、そんな考えしか出来ない自分を束は嫌悪した。

「…ごめんね」

ただ一言残して、束は保健室を出て行った。束が出ると同時に、一樹も傍に置いてあったエボルトラスターとブラストショットを手に取ると、ジャケットを羽織って出ようとする。

「お、おい一樹!どこに行くんだよ‼︎」

「…あの四足歩行型を倒したからって安心は出来ない。いざと言う時に対応出来る様に外に出る」

「待て櫻井!お前の体はもう限界なんだぞ⁉︎」

「だが千冬。現段階で俺以上にビーストに対抗出来る奴がいるか?」

「くっ…」

思わず黙る千冬。確かに一樹の言う通り、ISの攻撃が通用せず、唯一戦えるクロムチェスターですら、ビーストを倒す事が出来ない…

「で、でも櫻井君!君がいなくなったら悲しむ人だって「いねえよ‼︎」ッ⁉︎」

「何の罪も無い、皆のアイドルだった女の子を実質的に殺した俺がいなくなって悲しむ人だぁ?いる訳ねえよ‼︎俺が死んだら呪いが解ける様にアイツが起きるってなったら皆俺が死ぬ事を望むだろうよ‼︎ハッピーエンドなんざ絵空事だ‼︎皆が笑って終わる素敵なハッピーエンドなんざ起こらねえんだよこのくそったれな現実は‼︎」

「だ、だが、櫻井!現に一夏はお前に協力してるだろう⁉︎」

ラウラが必死に一樹を説得する。今の一樹を行かせてはならないと、本能が告げていた。

「…ああそうだな。訂正しよう。確かに全くいない訳じゃねえな」

「なら「なあ、ラウラ」…なんだ?」

「仮に、とても優しく、誰でも救おうとするヒーローがいたとしよう」

「…ああ」

「ソイツの前にはあと少しで助けられ、光の道を歩けるヒロインがいる。だが、それを邪魔しようとする敵がいる。そうなったらヒーローはどうする?」

「…敵を倒して、ヒロインを助ける」

一樹の例に出した人物に、実際に助けられたラウラはそう答えるしかなかった。

「ああ、それで良い。その選択は間違っちゃいねえよ」

一樹は、そう答えると保健室を出て、扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうね。アンタは今ここで死んだ方が人の為ね」

「!?」

一樹が声の聞こえた方を向くと、強力な空気の塊が飛んで来て、一樹を吹っ飛ばした。

「ッ!!!?」

空気の塊…衝撃砲を最大出力で撃った鈴は甲龍を完全展開、2門の衝撃砲を連続で放つ。

「ガアァァァァ⁉︎」

空気の流れを察知出来る一樹だが、今の体ではろくに回避も出来ない。されるがままの一樹を鈴は掴み、窓に向かって投げる。ISと同じ素材で出来た窓は割れはしないが、ただでさえ重症の一樹の内蔵にかなりダメージを与える。

「グゥッ⁉︎」

さらに鈴は瞬時加速を利用した両足蹴りを放つ。ISと同じ素材の窓が割れ、一樹は4階から蹴り落とされる。

「ゴッ…」

「まだまだ終わらないわよ‼︎」

空中でただでさえ動きが取れない一樹に鈴は衝撃砲を連射する。

「ガアァァァァ⁉︎」

4階から落とされる+衝撃砲2門の連続攻撃と普通の人間なら即死級の攻撃を受けても一樹は何とか生きている。だが…

「あらあら、思ったより頑丈ですわね」

動けない一樹に向かって容赦なくミサイル型ブルーティアーズを撃つセシリア。一樹は震える手でブラストショットを撃ち、ミサイルを迎撃するが…

「ブルーティアーズは全部で6機ございますのよ‼︎」

残った4機のブルーティアーズを射出、一樹を囲んで一斉射撃。重い体でなんとか致命傷は避ける一樹だが、四肢に…特に未だ完治していない左腕にビームが掠った。

「…ッ!!?!!?」

声にならない悲鳴をあげ、前に倒れこみかける一樹。だが、紅椿を纏った箒の膝蹴りが容赦なく入った。

「ガハッ⁉︎」

恐らく瞬時加速で近づいてきてきたのだろう。ISのアシストだけでは無いその威力に一樹の体はグラウンドを横断した。

「ゴホッ、ゴホッ、ガハッ…」

口元を手で抑えると、吐血してるのが分かる。

「…貴様は一夏の護衛役としてこの学園に来たはずだ」

箒が話してる間も休む暇無く一樹をビットで攻撃し続けるセシリア。しかも一樹の挙動から左腕を庇ってるのが分かると、そこを集中的に狙う。

「ッ!!?!!?」

何とか左腕はくっ付いているが、これではいつまで耐えられるか分からない。

「しかし現状は何だ?」

雨月に空裂を構え、一樹に過去最高濃度の殺気を放つ箒。

「ビーストが現れても、第一線で戦っているのは一夏を筆頭に私達とウルトラマンだ。貴様は何をしてる⁉︎」

そのウルトラマンが一樹なのだが、一樹にそれを説明する気はない。それ以前に気を失わない様に必死で、箒が何を話してるのか分からない。

「ゴフッ…」

「何か言ったらどうだ⁉︎」

雨月を勢いよく振り下ろす箒。エネルギー波が一樹に迫る…




ボロボロの彼を襲うのは、今まで自分たちを救ってくれていたのが『ウルトラマン』だから。

自分たちの想い人である一夏を前線に立たせて、自分は高みの見物を決め込んでいると思ってるから。

知らないとはいえ、彼女たちのやっていることは兵器で生身の…更に生きてるのが不思議なほど大怪我してる青年を『消す』こと。
今まで一夏に向けて何度もISで襲いかかっている彼女たち。一夏は白式が自動で絶対防御を発動していたから死ななかっただけ。ISを装備出来ない彼がそんな攻撃を受け続けていたら…


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Episode45 憤怒-デストロイモード-

本来なら『安息-キュア-』が正しいサブタイですが、どうみても安息になってないのでこのサブタイとなりました。

彼女たちは、自分たちが行った所業を自分が受けたら、どうなるのだろうか。



ドォンッ‼︎‼︎

 

紅椿から放たれたエネルギー波が大爆発を起こす。爆煙が晴れたそこには…

「……」

ジャケットも、中に着てる服も、何もかもが血に染まりながらも、一樹は生きていた。木に寄りかかりながら立つ一樹に舌打ちをする箒、セシリア、鈴。

「……まだ生きてるか」

「本当、無駄にしぶといですわね」

「さっさと逝ってくれた方がそっちも楽だってのに」

これだけ殺意の込められた攻撃を喰らっているのに、反撃すらしない。いや、しないのではなく、出来ないのだ…一樹の体は、度重なる死闘の影響でいつ死んでもおかしく無い状態なのだ。今も、もはや痛みという感覚が無い。

「(血を…流しす、ぎたな…後どれくらいかな…俺の命は…)」

自分の現状にもはや笑うしかない一樹。一樹のその笑いが3人には余裕に見えたらしい。

「そうか。そんなに死にたいか」

「ならばお望み通りに」

「吹っ飛ばしてあげる‼︎」

紅椿の雨月、ブルー・ティアーズのスターライトMK-Ⅲ、甲龍の衝撃砲がそれぞれフルパワーで放たれる。一樹は死を悟り、目を閉じる…

「(…さよなら、雪…)」

3つの攻撃が、爆発した。

 

爆煙が上がると、攻撃した3人は歓喜の笑みを浮かべた。

「やった…」

「とうとうやりましたわ!」

「護衛なんて名ばかりの奴を倒せた!」

喜ぶ3人だが、爆煙の中から突如3人に向かって極太のビームが飛んできた。

「「「⁉︎」」」

急上昇してその攻撃を回避。爆煙が晴れたそこには…

「「「……」」」

厳しい表情を浮かべた一夏がビームマグナムを構えていた。シャルロット、ラウラも己の機体を完全展開し、一樹をそっと支えていた。

「お前ら、何してんだ?」

ドスの効いた声で一夏が聞く。普段聞かない一夏の低い声に、3人は固まる。だが、それが不味かった。

「何してんだって聞いてんだよ‼︎‼︎」

麒麟の一部を朱く発光させながら、一夏がビームマグナムを乱射する。乱射とは言うものの、それは驚くほど正確に3人を狙っている。

「シャル、ラウラ、一樹を急いで医務室に連れて行ってくれ。俺はアイツらに灸を据えてくる」

「うん」

「任せてくれ」

2人が了承すると、一夏は麒麟を上昇させる。そして、秘めたるシステムを起動させる。

「(悪い、一樹…もう、抑えきれねえ‼︎)」

心の中で一樹に詫びながら、一夏はシステムを起動させる。麒麟の装甲が変形していく…いや、それはもはや“変身”と言えるだろう…

 

NT-D

起動

 

システムが起動され、麒麟の真の姿が解放される。

「デストロイモード…麒麟のリミッターを取っ払ったモードだ。今までのリミッターがかかってる状態でも勝てなかったお前らが、デストロイモードの俺に勝てるか?」

瞬間移動かと思う程の速さで移動する麒麟。サイコフレームの輝きもあり、残像が見える速さに3人は思わず動きを止めてしまった。

「まずは一人‼︎」

1番近くにいた鈴の衝撃砲をビームサーベルで両断。これで最も厄介な武装を破壊した。

「嘘ッ⁉︎こんな簡単に⁉︎」

「次!」

鈴を蹴飛ばした次に、一夏は右手をビットに向けた。

「(俺に従え‼︎)」

するとビットがセシリアのコントロールから離れた。

「な⁉︎何が起こってますの⁉︎」

「こういう事だ‼︎」

ビットを操り、セシリアと鈴を攻撃させる。シールドエネルギーがギリギリ残る程度で攻撃を止めた。

「な、何で一夏さんが私のビットを扱えますの⁉︎」

「答える必要は無い‼︎」

一夏がセシリアと鈴を片付けると、残った箒が一夏に向けて空裂を振り下ろす。が、あっさりとビームサーベルで受け止められた。

「一夏!何故私達を攻撃する⁉︎」

「胸に手を当てて考えてみな‼︎‼︎」

単純なパワー勝負であっさり負けた紅椿は後方に飛ばされる。一夏は素早く近づいてシールドで叩きつける。シールドエネルギーが守れるギリギリの強さで叩きつけたため、箒自身へのダメージは無い。

「一夏さん!急に何をするんですの⁉︎」

急に暴れ出したと思っているセシリアがスターライトMK-Ⅲで一夏を狙撃するが、それはあっさりシールドのIフィールドで打ち消された。

「は?急に?」

かつてない程の殺気を一夏から感じた事に、3人だけでなく、一樹を運んでいたシャルロットとラウラも身震いする。

「(こ、この殺気は、アイツ以上だ…)」

一樹の殺気と比べた箒の反応だが、実際一樹が全力で殺気を放てばこんなもんでは済まない。

「俺にならまだ良い…自動的に白式が絶対防御を発動するからな。だが、一樹はどうだ?アイツにはそう言う身を守る手段が無いんだぞ?」

「何を言っている!アイツもISを持っているだろう‼︎」

「勘違いすんな。現段階ではISを扱える男は世界で俺だけだ。アイツのは…ISとは違う。アイツ流に言うなら、()()()()()()()()使()()()()()()()()()なんだよ‼︎」

サイコフレームが一層緋く光り、箒達に与える圧がさらに大きくなる。過呼吸気味になる3人に、一夏は容赦なくビームマグナムを向ける。

「どうだ?こんな恐怖の中銃口を向けられる気分は?」

「な、何がお前をそう変えてしまったんだ、一夏…」

「そ、そうよ…アンタ前はもっと優しかった、じゃない…」

昔の一夏を知ってる箒と鈴が悲しげに言う。だが、一夏は首を横に振るう。

「いや、俺は変わってない。変わらずに弱いままだ。今だって感情に任せて暴れてる。前までは俺を止められる人が多かったから分からなかっただけで、根っこは変わらない。それに、春から俺を見てても分かるだろ?俺は精々背が伸びたくらいで、2人と学校に通ってた頃と全然変わってない」

実際、春から同じクラスだった箒が違和感を感じてないので、根っこの部分は変わってないのだろう。

「どうした?お前らは3対1で一樹に攻撃をしてたんだぞ?全快の一樹なら大したこと無いだろうけど、生きてるのが不思議な程の大怪我状態なら、俺達戦いの素人でもボコボコに出来るだろうな」

「何を言うんですの⁉︎あの人は大したこと無いから私達に良いようにされてたのではないですか‼︎」

セシリアの声に、一夏は呆れた顔で言う。

「なら、クラス別トーナメントの時、大量の無人ISを倒したのは誰だ?学年別トーナメントの時襲いかかって来たドイツ軍を蹴散らしたのは誰だ?特に箒!福音戦の時、俺達が生きてるのは誰のおかげだ⁉︎」

「「「⁉︎」」」

「確かに、福音自体を倒したのは俺だ。でも、その後の無人ISの大部隊を相手に囲まれた時に助けてくれたのは誰だって聞いてんだよぉぉぉぉぉ‼︎‼︎」

一夏の叫びに呼応する様にサイコフレームが緋く光る。

「やめろ一夏‼︎落ち着くんだ!!!!」

シャルロットの連絡を受けて千冬が打鉄で3人と一夏の間に入る。だが、千冬を持ってしても一夏からのプレッシャーは捌ききれない。次々と教師陣がISを纏って一夏を囲むが、サイコフレームを操る一夏には、もはや量産機程度では止められない。次々教師陣のISがコントロールを奪われて落とされる中、殺気を直接放たれてる3人は腰が抜けてしまった。

「(わ、私は…ただ一夏の為を思ってやったのに…)」

「(それが、逆効果だなんて)」

「(なんなのよ、何がアイツを変えたって言うのよ⁉︎)」

教師陣が全員落とされると、一夏はその瞳を3人に向ける。3人はもう、恐怖で動けない。すると、いきなり一夏はシールドを真横に構えた。

ドォォォンッ‼︎‼︎

シールドに何かぶつかり、初めて一夏の体制が崩れた。物体が飛んできた方に全員が向くと…

「落ち着けよ…一夏」

ボロボロになりながらも、フリーダムを纏った一樹がいた。今の攻撃はレールガンを麒麟に向けて撃っていたのだ。

「何でだよ…コイツらはお前を殺そうとしてたんだぞ」

「よく考えてみろよ…コイツらが俺を攻撃する理由を。お前の護衛役としてこの学園に来たのに、ビースト相手に前線で戦ってるのはお前なのは確かだしな」

「何言ってやがる‼︎本当の前線で戦ってるのは「お前なんだよ‼︎コイツらの反応見れば分かんだろ⁉︎」ッ⁉︎」

傷だらけの体では話すでも辛いのに、レールガンを撃ち、更にそのまま会話する一樹。既に呼吸は安定していない…

「だから、わざわざお前が、『戦う』必要は無い…んだ…」

遂に力尽きたか、一樹は空中で意識を失い落ちていく。

「一樹!!!!」

「櫻井!!!!」

「「「「櫻井君!!!!」」」」

一夏と千冬が急ぎ瞬時加速で近づく。教師陣も受け止める為に急ぐが、どう考えても量産型のISでは間に合わない。可能性があるのは一夏だけ…

「間に合えェェぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎‼︎」

必死に手を伸ばす一夏。その一夏の想いに応える様にサイコフレームが緋から緑に変わる。サイコフレームの光が一樹に伸び、一樹の落下を止める。

「今だァァぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

無意識にISの操縦技術で最高難度の連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)を繰り出し、一樹に迫る一夏。その手が一樹に触れた瞬間、サイコフレームの光は収まり、元の麒麟の姿になった。

「すみません!今すぐ医務室に急患を運びます‼︎道を開けてください‼︎」

「一夏‼︎こっち‼︎」

シャルロットが医務室の窓を開けるのを視認すると、一夏はそこに向かって一樹に極力負担を与えない様細心の注意を払いながら飛んだ。

 

「…かずくん」

一樹がIS学園にある手術室に運ばれていくのをモニターで見ながら束は呟く。

「もう…無理しなくて良いんだよ…これ以上戦い続けたら…」

先に続く言葉は束の口から出ることは無く、ただ部屋には束の嗚咽だけが響いた。

 

「ハア、ハア、ハア…」

その日の深夜、一樹は壁に手をつき体を支えながら、ゆっくりと歩いていた。

「一樹!」

そんな一樹の正面に、一夏が立ち塞がる。

「…よぉ一夏。部屋にいなくて良いのかよ?もうこんな時間だぜ?」

「その点は私が許可を出したから問題無い」

更に一樹の背後に千冬、束が来る。

「…そうか。こんな時間に用事とか大変だな」

普段と変わらない様子で話す一樹だが、壁に手をつけなければ体を支えられず、しかもその手も震えてる。一夏達には見えないが、おそらく顔は汗だらけな筈だ。

「…行かせないぞ。今回は」

「はて?俺が何処に行くってんだ?」

「とぼけんな。今のお前を戦いに出す訳にはいかない」

一夏は鋭い目で一樹を見る。一樹も気配でそれを察すると、壁を軽く押し、何とか自立する。

「はぁ?調子に乗ってんじゃねえぞクソ野郎。ちっとばかし強くなったからってお前程度で俺が止められるとでも思ってんのかぁ?」

体がボロボロであっても、放たれる威圧は昼間の一夏を超えていた。それに気圧される一夏だが、気力を振り絞り、一樹に対峙する。

「全快のお前なら全く歯が立たないだろうけどな…今のボロボロの状態なら俺でも止められる」

「…試してみるか?」

「…お前を死なせる訳にはいかないから…多少強引でもお前を止める」

麒麟のビームマグナム(ガトリングモード)を部分展開し、一樹に向ける一夏。一樹もブラストショットを一夏に向けた。

「ダメ‼︎」

そんな中、珍しく束が声を張り上げる。

「かずくんの体はかずくん自身が思ってる以上にボロボロなの‼︎本当なら身体中の神経が麻痺を起こして動けない筈なんだよ‼︎‼︎」

「……」

「もう一度戦えば…今度こそ死んじゃうかもしれない‼︎‼︎」

「……」

「だからかずくんは行っちゃダメ‼︎ここでかずくんが死んじゃったら…雪ちゃんが起きた時どうするの⁉︎」

「その心配はいらないですよ…仮に俺が死んだら、S.M.Sに所属してた人以外は俺の事を綺麗サッパリ忘れる。記憶喪失特有の喪失感も無く…ね」

まるで何度も経験したことのある様に話す一樹。だが、当然3人が納得出来る訳が無い。

「何を言っている!人が死んだら、その人を大切に想っていた人達は悲しみの檻に囚われる!それはお前が死んだ場合だってそうだ‼︎」

「…何か勘違いしてるみたいだから言うけど…俺は、命を無駄にするつもりは無い…」

「「「え?」」」

「つもりは無いけど…やらなきゃいけない事が、あるんだ」

ドックン

タイミング悪くエボルトラスターが鼓動を打つ。ビーストが現れたのだ…一樹はブラストショットをしまってエボルトラスターを取り出す。そして、力なく一夏達に笑いながら…

「それじゃ…後は、頼んだぜ…」

自分が()()()()()()時の後始末を頼んだ…

「「やめろォォぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」

「やめてェェぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

一夏達は一樹を止めようと走り出すがもう遅い。一樹は激痛の走り続ける体で、エボルトラスターを引き抜いた。

「だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」




体が限界であっても、彼は戦い続ける…

『答え』を見つけるために。


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Episode46 宿命-サティスファクション-

彼は…どうなるのか?


一樹がIS学園で変身する少し前。

「かぁぁ!かったるいなおい」

「本当だな。パイプの点検たって見る所無いっての」

とある工場では、作業員2人が深夜の点検を気怠げにしていた。そんな2人の背後に近づく影…

「ん?何か変な音しないか?」

「言われてみれば…」

その瞬間、影が2人に襲いかかる。

「「うわあぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」」

 

『○○工場にビースト反応!デュノアとボーデヴィッヒはすぐに織斑と合流してISで向かえ‼︎()()はもう行った‼︎‼︎急げ‼︎‼︎‼︎‼︎』

「「⁉︎」」

千冬の焦った声にシャルロット、ラウラは驚愕する。

「櫻井君、あの体で行ったの⁉︎」

「馬鹿な‼︎歩くことすら出来ない筈だぞ‼︎」

『現に行っちゃってるんだよ‼︎急いで第4整備室に来てくれ‼︎通常のままで行っても間に合わない‼︎』

一夏の個人回線からの叫びを聞いた2人は急ぎ第4整備室に向かう。

 

「「「「うわあぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」」」」

工場では作業員達が全力で何かから逃げていた。

「何だよアレ⁉︎」

「知るか!とにかく捕まったら最後、生きてられないって事以外はな‼︎」

作業員達が逃げているのは触手だ。しかし、その触手がどこから伸びているのかは分からない。何故なら…空間に突如発生した黒い穴から伸びているからだ。その触手が、第一発見者の2人を捕らえた。

「や、やめてくれぇぇぇぇ‼︎‼︎」

「だ、誰か助けてぇぇぇぇ‼︎‼︎」

必死にもがく2人だが、触手の力から逃れられない。触手はまるで2人の恐怖を楽しんでいるかの様にゆっくり黒い穴へと引き込んでいく…そして、とうとう黒い穴に到達するというその瞬間。

「シェアッ‼︎」

ウルトラマンのセービングビュートで2人は救出された。更にウルトラマンは作業員に迫ろうとする触手をパーティクルフェザーで切断していく…

 

「「一夏‼︎‼︎」」

「来たか‼︎細かい説明は後だ。急いでコレをISに装備させてくれ‼︎」

一夏が指差すのは一樹が量産型IS用に新しく開発した『スーパーパック』だ。一夏の入学以来、急増した敵襲に対応するための装備で、エネルギー問題を解決するために小型熱核動力炉を搭載。武装としてマイクロミサイルを搭載し、重くなった機体重量をカバーするための大型バーニアで機動性も確保した、攻守共に大幅アップさせるための装備だ。量産型へ装備するのを前提として開発されているが、専用機への装備も可能。その場合、若干の不具合があるが、マイクロミサイルで気にならない程度…なのだが、現在マイクロミサイルは搭載されていない。ただの加速ブースターとしてしか運用出来ない。だが、今はそれで十分だ。急ぎスーパーパックを装備するシャルロットとラウラ。

「装備したよ一夏‼︎」

「よし!急ぐぞ‼︎ちゃんと俺について来いよ‼︎」

「ああ‼︎」

一夏は麒麟に何も装備させてないが、その必要は無い。スーパーパックが2つしか無いというのもそうだが、一夏にはコレがある。

「(急ぐぞハク!最大出力だ‼︎)」

『はい、マスター‼︎』

麒麟はデストロイモードに変身。デストロイモードとなった事で小型核動力炉と接続。ほぼ無限と化したエネルギーに物を言わせた連続瞬時加速で飛び出す。シャルロットにラウラもスーパーパックに搭載されている熱核動力炉から得られるエネルギーを使った連続瞬時加速で一夏の後に続く。夜が少しずつ明けてきた…

 

「グッ!グアァ⁉︎」

ピコン、ピコン、ピコン

ウルトラマンは作業員達を触手から守る為に懸命に戦う。しかし今までに蓄積したダメージに加え、昼間受けたダメージが動きを鈍くする。それでも何とか作業員達を守りきったウルトラマン。だが、獲物を取られた触手が縦横無尽にウルトラマンに襲いかかる。必死に迎撃するウルトラマンだが、本体がどこか分からないので、攻めようにも攻められない状態が続いていた。とうとうウルトラマンの両腕に触手が巻きつけられた。

「グアァァァァ⁉︎」

 

「「「…」」」

箒、セシリア、鈴の3人はISを没収され、懲罰房へと入れられていた。その為スクランブルの時に名前が呼ばれなかったのだ。

「私達は…」

箒の言葉に、残りの2人が首をかしげる。

「一夏のためにアイツを倒したのに、それが間違いだというのか…」

もう何度も繰り返した自問。2人も同じ事を何度も繰り返していた。

「さあ、私達には分かりません。ただ、護衛の仕事を全てサボっていた訳ではないのは…確かですわね」

「アタシ達より、箒の方がそれは分かってるんじゃない?」

そう、箒はIS学園で2度、一樹に命を助けられている。クラス代表戦と福音戦の時だ…

「アレは!…一夏に助けられただけだ」

「認めたくない気持ちは分かりますが…実際、クラス代表戦の時一夏さんごと箒さんを運んだのはあの人ですのよ」

「福音戦の時だってアンタは動揺してたからそう思ってるんだろうけどさ。最初の高出力ビーム、その直後のビームの嵐からアンタと一夏を守ったのはアイツよ」

自らも確認する様に箒に言うセシリアに鈴。箒もそれは理解出来たが、どうしても許せない事がひとつある。

「…確かに、IS関係ではアイツは仕事をしている。だが…」

「ええ、その先は分かります」

「ビーストとの戦いでは、1度もアイツを見た事が無いわね」

そう、箒達が一樹を攻撃したそもそもの理由は一樹がビーストとの戦いに参加していないと思ったからだ。

「一夏が言いかけた言葉が鍵となると思うんだが…」

「確かその言葉ってアレよね」

 

『何言ってやがる‼︎本当の前線で戦ってるのは…』

 

「この言葉が本当だとして、今までの現場にそれらしきものがありましたか?」

考える3人だが、答えが見つからない。そこに_____

「そんなに知りたいなら教えてやろうか?」

「「「⁉︎」」」

____溝呂木が空間に生まれた黒い穴から出てきた。

「アンタ、何者?」

3人を代表して鈴が問う。放たれる圧は中々のものだ。だが、溝呂木はその圧を鼻で笑う。

「なんだ?ラウラ達が言ってなかったか?溝呂木慎也だ」

溝呂木が名乗った瞬間、3人は可能な限り距離を取ろうとする…しかし所詮此処は処罰房。すぐに壁に退路を塞がれた。

「おいおい、何をそんなにビビってる」

「貴様が、斎藤沙織を殺したのか?」

箒が震える声で溝呂木に聞く。溝呂木は楽しそうにその質問に答える。

「ああ。感謝してほしいぜ。お前達の邪魔者を消してやったんだから」

「貴様あぁぁぁぁ‼︎」

激昂した3人は溝呂木に襲いかかる。だが、溝呂木はダークエボルバーから衝撃波を出し3人を気絶させると、黒い穴に3人を連れて行った…

 

『黙示録の始まりだ。ラウラ』

「ッ⁉︎」

現場に急ぐラウラのISに流れる匿名のメッセージ。だが、ラウラは相手が誰か察していた。

「(今度は何をするつもりだ⁉︎溝呂木‼︎)」

 

「さあ始めようか…地獄の饗宴を…」

溝呂木の眼前に、闇の雲が広がっていく…

 

「グアァァァァ⁉︎」

どんどん締め付ける力が強くなる触手。両腕を封じられているので引きちぎる事も出来ないウルトラマン。そこに、一夏達が到着した。

「離しやがれェェぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎‼︎」

ビームマグナムを乱射し、触手を攻撃する一夏。一夏に比べたら圧倒的火力不足のシャルロット、ラウラはウルトラマンの両腕を封じている触手一本を集中的に狙い、それぞれの射撃攻撃をする。集中攻撃とビームマグナムが効いたのか、触手がウルトラマンから離れる。

「ファッ、ハァ、ハァ…」

膝をつくウルトラマン。震えながらも立ち上がり、パーティクルフェザーを触手の大群に向かって放つ。

「シュウ!シェアァ‼︎」

ウルトラマンの攻撃が効いたのか、触手は黒い穴と共に消えていった。

「ファッ…ハア、ハア、ハア…」

しかしウルトラマンはそれを確認する前に消えてしまった…

「一樹‼︎‼︎」

「櫻井君‼︎‼︎」

「櫻井‼︎‼︎」

 

「ガハッ⁉︎ハア、ハア、ハア…」

体中に激痛が走り続けるのを感じながら一樹は歩く。辺りは、既に明るくなっていた…

『かーくん』

「この声は…」

『かーくん』

声が聞こえる方へ一樹は進む。そして…

『かーくん』

「雪…」

光を得た時と同じ様に、雪恵が一樹の前にいた。

「俺は…もう、ダメかもしれない」

幻だと分かっていても、目の前の雪恵に話しかけてしまう一樹。

「…もう、終わるんだよ。俺は…」

『かーくん、まだ終わってないよ』

「…え?」

光が一樹を包み、一樹にある映像を見せる。

「ここは…」

異形の地の映像を見せられている一樹。一樹の記憶が正しければ地球上にこんな地形の島は無い。つまり…

「ビーストが作り出した『変異空間』ってとこか…」

異形の地を見回した一樹の顔が驚愕に包まれる。

「なんでアイツらがここに⁉︎」

そう、一樹の正面の崖には箒、セシリア、鈴が気絶していた。その背後に…

《クシャァァァ‼︎》

新たなビースト、クトゥーラが現れた。クトゥーラの触手を見た一樹は工場を襲ったビーストだと気付いた。

「(クソッ!)」

クトゥーラは一樹に向かって黒い霧を吹き出した。

「う、うわぁぁぁぁぁ⁉︎」

 

「…き、一樹‼︎」

「…?」

体を揺さぶられる感覚に、一樹はゆっくり目を開ける。どうやら森の中で気絶していたらしい。

「…一夏か」

「はぁ良かった。ったく、こんなとこで寝てんじゃねえよ。今救急車呼ぶから「呼ばなくていい」はぁ⁉︎」

「俺にはまだ、やらなきゃいけない事が…ある」

そう言うとブラストショットを天空に向けて撃つ一樹。

「何でだよ…何でそんなになってまで戦いつづけるんだよ⁉︎一体何のために⁉︎」

「それは…俺にも分からない。けど、光は…こんな俺にこの力を与えた。だから、やれる事を、やるだけだ…」

「でも!そんな体で戦えばお前は死んじまうんだぞ‼︎俺達だって戦える‼︎だから!」

必死に一樹を止めようとする一夏。だが…

「行かせてやれ…」

「ラウラ⁉︎」

ラウラが悲痛な面持ちで一夏を止める。

「そいつの望む様にさせてやるべきだ…行くなら早く行った方が良い。すぐにシャルロットも来る…」

一樹はそんなラウラと一夏に力なく笑う。

「…ありがとう」

漸く来たストーンフリューゲルに吸い込まれる一樹。ストーンフリューゲルは一樹を乗せると、その場を超高速で離れていった…

 

IS学園に着いた途端、溝呂木が箒、セシリア、鈴を攫った事を聞かされた一夏達。

「あの野郎…今度こそ潰す」

「ああ」

怒りのあまり拳を握る一夏。その一夏に同意するラウラ。シャルロットも言葉にしないが、顔を怒りに歪めていた…

『…その溝呂木からのメッセージがあるよ』

「「「⁉︎」」」

束の言葉に3人は直ぐに席に着く。束もすぐに説明を始めた。

『今回襲われたビーストの件なんだけど…まったく同じパターンで数ヶ所やられてるんだ。けど、それは決して無作為ではなくて、あるメッセージが込められていたんだ』

「メッセージ?」

『暗号だよ』

束がそう言うと、地図上に襲撃されたポイントがマーカーで表される。

『襲撃されたのは6ヶ所、その全てのポイントを示す数値をゲマトリア解釈法で解釈した結果、ある一文が導き出されたんだ』

束の言葉に合わせて、モニターにある一文が表示される。

7つ目の封印が解かれし時、

深夜0時、

闇の扉は開き

終焉の地へと通じる

「終焉の地?それって何?」

シャルロットが質問する。そして、それに一夏が答える。

「黙示録に記された、最終決戦の場所だ」

「黙示録…」

『そう。眼帯の子に送られたメッセージは、ただの脅し文句ではなく、重要なヒントだったんだよ。奴は大胆にも、ビーストが潜む特殊異層への扉が開く正確な場所と時間を私達に教えてきたんだよ』

「そんな事のために…大勢の人を犠牲に…ふざけやがって…」

「それで束。7つ目の封印が解かれる場所は何処なんだ?」

千冬も険しい顔で束に聞く。

『今までの6ヶ所の襲撃ポイントは、全て黙示録に登場する7つの教会の位置と一致するんだ。つまり…残る最後の1ヶ所は…』

モニターの地図に新しく光る光点、そこは…

「新宿中央公園か⁉︎」

 

午後6時、新宿中央公園には既に一樹がいた。悪いと思いつつも、IS学園での束のデータをハッキングで入手したのだ。束も気付かない程の鮮やかな技術は相変わらずだ。

「終焉の地へと通じる…か。その終焉の意味は、どういう意味なのかね…」

 

「う、ううん…」

「ここ、どこですの?」

「何この気持ち悪い石…」

気絶させられていた3人が起きた様だ。3人とも異形の地を見て恐怖に震える。

「これは夢じゃないぜ。馬鹿ども」

怯える3人の前には、岩に腰掛ける溝呂木がいた…

 

「何かここ最近きな臭いのよね…私の噂好きの血がここを怪しいって言ってる気がする‼︎」

午後23時50分、新宿中央公園に入る一つの影…黛薫子。

 

『ゲートが開くまで、後10分だよ!』

「了解、クロムチェスター隊、出る‼︎」

箒達がいなくなったために、急遽千冬がβ号に搭乗する。α号にはラウラだ。α、β、γの3機は異相を超える為にストライクチェスターに合体し、新宿中央公園に急ぐ。

 

「きゃあああああ‼︎‼︎」

新宿中央公園の地下では黛がクトゥーラの触手に捕らえられ、黒い穴へ引き寄せられる所だった。そこに、ギリギリ一樹が間に合い、ブラストショットで触手を攻撃。怯んだ触手は黛を解放した。

「…あなたはこの前の…ここは危ない。地上に戻って下さい」

「さ、櫻井君…助けてくれたのはありがたいけど、これは私が追う事件よ。そう簡単に引き下がれ」

黛の言葉を、一樹は足元にブラストショットを撃つ事で黙らせる。

「戻ってくれ!この先には“死”しか無い‼︎もう…誰も死んでほしくない…」

一樹の奥にある悲しみを垣間見た黛は、一樹に問いかける。

「櫻井君…あなたを、そこまで駆り立てるのは何?あなたは一体、何と戦ってるの⁉︎」

「俺が戦っているもの…それは」

答えようとする一樹。だが、クトゥーラの触手が再度現れる。『こっちに来い』と誘う様に…一樹はそれを見て、覚悟を決めた…

「…宿命です」

エボルトラスターを取り出すと、触手に向かって走り出す。黛の視線を背に、エボルトラスターを引き抜いた。

「ウオォォォォォォォぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

一樹の体が光に包まれ、一樹をウルトラマンに変身させる。

「シェアッ‼︎」

黛に迫ろうとする触手をひたすら迎撃するが、触手の一本がウルトラマンを打ち付ける。

「グアァァァ⁉︎」

ほんの少しのダメージでも、激痛に変わる中、ウルトラマンは触手に攻撃を続ける。少しずつ下がる触手をマッハムーブで追い、ウルトラマンは触手と共に黒い穴へ消えた…

 

「シュウウッ‼︎」

触手を追い終焉の地へと着いたウルトラマン。それを見て、箒達の目が希望に染まる。

「「「ウルトラマン‼︎‼︎」」」

だが、溝呂木の言葉がそれを塗りつぶす。

「見ろ、アレが櫻井一樹だ」

「「「__________え?」」」

 

《クシャァァァァ‼︎》

「シュウウッ!」

ウルトラマンはクトゥーラの口から伸ばされる触手を右手で迎撃すると、飛び上がり、回転かかと落としを放つ。

「シェアァッ‼︎」

《クシャァァァァ⁉︎》

クトゥーラの背後に着地するウルトラマン。

「シュッ!」

クトゥーラに駆け寄るとクトゥーラの腕を掴み、ジャイアントスイングを決める。

「フオォォォ…シェアァッ‼︎‼︎」

《クシャァァァァ⁉︎》

ここまで有利に戦闘を進めるウルトラマンだが、既に膝をつき始めていた…

「フゥ、フゥ、フゥ…」

 

「はるか宇宙から飛来した光…奴はその光に選ばれ銀色の巨人になった。だが奴はその力の価値を分かっちゃいない…ん?俺が思った以上にダメージがあるだと?俺は動くだけで激痛が走るほどは与えさせてないんだが…」

「「「⁉︎」」」

悪魔の言葉に、3人の顔がどんどん青ざめていく。溝呂木の言葉が本当なら、あの時既に一樹の体は限界を迎えてた事になる。確かに、言われてみればあの時の一樹の左腕の抑え方はウルトラマンと同じだった…

「お前らの顔から判断するに、どうやら人間の時にISでタコ殴りしたってとこか…ははは!これは傑作だ。命の恩人でありながら、その命の恩人が敵に殺されるのを手伝ったなんてな‼︎‼︎」

「あ、ああ…」

「嘘、ですわ…」

「いや、いや…」

頭を抱えて膝から崩れ落ちる3人。溝呂木は、更に3人を絶望へと落とす。

「ほら、見ろよ!お前らが憎んでも憎んでも憎みきれない男が死にそうなんだ!泣いて喜べよ‼︎‼︎」

 

《クシャァァァァ!》

「フッ⁉︎」

クトゥーラの各部から伸ばされた3つの触手がウルトラマンの両腕、腰に巻きつけられた。

「グッ!グアァ⁉︎」

そして引き寄せられ、黒い霧を喰らった。体の各部で火花を散らすウルトラマン。

「グウゥッ⁉︎グアァァァァァァァァ‼︎‼︎⁇⁇」

ピコン、ピコン、ピコン

 

深夜0時になった。

「開け、闇の扉」

束の言葉が合図かの様に、公園の中央に巨大な黒い穴が発生した。

「開いた⁉︎」

『突入するぞ‼︎‼︎』

千冬の号令の元、ストライクチェスターとδ機は黒い穴へと突っ込んだ。

 

「グアァァァ⁉︎」

触手に身体を巻きつかれ、地面に何度も、何度も、何度も叩きつけられるウルトラマン。

「グアァァァァァァァ⁉︎」

 

「奴の戦いは終わる、櫻井一樹はその役目を終わらせたのさ。フフ、あははははは‼︎‼︎」

溝呂木が高笑いをあげる。3人はウルトラマンが何度も大地に叩きつけらるのを見せられ、心が潰れていく…

「もうやめてくれ…」

「いや…です…」

「やめてよ…もうやめてよぉ!」

「何故だ?お前達にとってあれは邪魔なんだろ?感謝してほしいな!!お前達の代わりに俺があれを殺してやるんだから!!!!いや、逆に俺が感謝したいな!おかげで余計な手間をかけることなく、あれを殺せる!!!!」

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

ドクン、ドクン、ドクン

エナジーコアの鼓動が鳴り止むと、ウルトラマンは力なく大地に倒れ、瞳の光も消えた…

 

「突入、成功‼︎」

クロムチェスター隊の面々が終焉の地へと到着。すぐにビーストを探す面々。最初に異変に気付いたのは、シャルロットだった。

『う、嘘…』

「シャル?どうした⁉︎」

『い、一夏。中央のアレ見てよ…』

その言葉に、一夏だけでなく全員が中央を見る。その瞳に映ったのは…

「嘘、だ」

『そんな…』

『まさか…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで死刑囚の様に、磔にされたウルトラマンだった…

「嘘だァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

一夏の絶叫が終焉の地に響いた…




死ぬな一樹!こんなところで死ぬような奴じゃないだろ!立ち上がってくれ…立って『未来』を切り開いてくれ!!!!櫻井一樹!!!!


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Episode47 英雄-ヒーロー-

男なら、誰かのために強くなれ。

歯を食いしばって、思いっきり守り抜け。

転んでもいい、また立ち上がれれば。

ただそれだけ出来れば、『英雄』だ!!!!


「嘘だ…ウルトラマンが…一樹が負けるなんて‼︎」

『そう取り乱すな…相変わらず女々しい奴だ』

δ機のモニターに、溝呂木が映った瞬間、一夏は顔を怒りに歪ませる。

「溝呂木‼︎」

『ウルトラマンの敗北は、これから始まる聖なる儀式のほんのプロローグにすぎない』

「お前だけは…絶対に許さねえ‼︎‼︎」

クアドラブラスターを撃とうとする一夏。だが…溝呂木の前に呆然としている箒、セシリア、鈴がまるで盾の様に立たされた。

『撃てよ。撃てるならな…』

「箒!セシリア!鈴‼︎」

発射を躊躇う一夏。その瞬間、いきなりδ機が揺れた。

「くっ⁉︎」

『一夏!うわっ⁉︎』

ストライクチェスターのラウラが心配した声を上げるが、ストライクチェスターも揺れる。原因は…

《クシャァァァァァ‼︎‼︎》

クトゥーラが触手で2機を捕らえたのだ。

『フルパワーで脱出しろ‼︎』

『ジェネレーター出力、低下!これじゃ脱出出来ません‼︎』

 

「すべてのゲストは揃った…処刑の開始だ」

「…処刑、だと?」

箒の疑問に溝呂木は言葉ではなく、行動で答える。ウルトラマンが磔にされている岩に向かってダークエボルバーを振るう。

「冥府よ…動け‼︎」

溝呂木の命令を受け、岩から闇の蔦が伸び、ウルトラマンを覆い始める。

「「「⁉︎」」」

 

「アレは…」

『闇の波動だ』

 

「あの蔦がウルトラマンの全身を覆い尽くした時、櫻井一樹の命の光は完全に消え失せる。その瞬間、奴と同化していた光はこの終焉の地に解き放たれる。俺はその光を奪い、無敵の超人となり、世界を思うままに動かしてやる…より高き者、より強き者、より完璧なる者として!フフフフ…アハハハ、アハハハハハハ‼︎‼︎」

溝呂木の笑い声に反応する様に、都心部では次々と停電状態へとなっていく…

 

「特殊振動波が、地上にまで⁉︎」

IS学園で見守る麻耶。モニターには、停電状態へとなっていく都心部が映っていた…

『…溝呂木の儀式が、本当に黙示録の実現だとしたら、秩序は確実に崩壊するだろうね。でも__________』

「でも?」

『____私の見る未来は、まだ混沌の中にある。光は、まだその輝きを失ってないってことだよ…ま、私が望んでるだけかもしれないけど。かずくんがまだやられてないってね』

 

闇の蔦が、ウルトラマンの下半身を覆ってきた…

 

『わたしのおなまえは『たなかゆきえ』っていうんだ!あなたのおなまえは?』

『かずきっていうんだ…なら、『かーくん』ってよぶね。わたしとおともだちになってください‼︎』

『かーくん!今度の日曜にお祭りがあるんだって!行くよ‼︎』

 

「ゆ………き………」

 

『かーくんは…平和な生活が好きでしょ?私も…平和に笑ってるかーくんが好きだから…だから』

『…ごめんね』

 

「ウウッ…」

 

闇の蔦が、ウルトラマンの上半身を覆い始めた…

「くそッ!」

『各機、発射可能な武器を全てビーストに集中せよ!』

「『『ええっ⁉︎』』」

『この状態での攻撃じゃ…』

『ビーストの気をそらす!それだけで良い‼︎』

「『了解‼︎‼︎』」

千冬の指示を受け、操縦桿を握っている一夏とラウラがそれぞれ攻撃。一夏はクアドラブラスターを、ラウラはストライクバニッシャーを撃つ。何発かはクトゥーラに命中するが…

《クシャァァァァ‼︎‼︎》

 

「馬鹿が…無駄な足掻きは見苦しいだけだ」

 

クトゥーラはさっきより激しく2機を振り回す。

「うわっ‼︎」

『グッ⁉︎』

ストライクチェスターが、岩盤にぶつかろうとしている…

 

「「「ああっ⁉︎」」」

「待て、まだ殺すな」

 

溝呂木の命令に、クトゥーラはストライクチェスターを岩盤から遠ざけた。だが、それは一夏の狙い通りだった。

「(頼むぞ、ラウラ!)クアドラブラスター、ファイア‼︎‼︎」

δ機のクアドラブラスターがストライクチェスターを縛る触手に命中、怯んだクトゥーラはストライクチェスターを解放する。

『ボーデヴィッヒ‼︎‼︎』

『分かってます‼︎ストライクバニッシャー、シュート‼︎‼︎』

続いてラウラがδ機を縛る触手を攻撃、δ機も解放させる。解放された瞬間、一夏は叫ぶ。

「Set into hyper strike formation‼︎‼︎」

ハイパーストライクチェスターに合体、そして、束が新たに作った新兵器をクトゥーラに向けて撃つ。名を…

「喰らえ!『ウルティメイトバニッシャー』、シュート‼︎‼︎」

一樹から与えられたデータを元に、オーバーレイ・シュトロームと理論上は同程度の威力を誇る新兵器。それをクトゥーラに命中させる。

《クシャァァァァ⁉︎》

クトゥーラは断末魔の叫びを上げながら水色の粒子となり、消えていった…

 

「やるねえ。だがやはり無駄な足掻きだ。じきに処刑は終了する」

闇の蔦は、ウルトラマンの顔以外の全てを覆っていた…

 

『かーくん…かーくん』

精神世界とでも言えようか、その世界で倒れていた一樹を呼ぶ声。一樹はゆっくりと起き上がる…そんな一樹の前に立っていたのは…

「………雪………」

案内人(ナビゲーター)である雪恵だった…

『かーくん、納得出来る写真は撮れた?』

雪恵の問いに、一樹は悲痛な面持ちで首を横に振るう。

「俺…俺は、人の生きる姿を、綺麗な空を、力強く生きる植物を、その意味を、撮りたかった。だけど俺の写真は…君を、脳死にまで追い詰めた…最低だよ」

 

「溝呂木、ゲームは終わりだ」

リヴァイブのライフルを溝呂木に向けて、千冬が言う。仲間達の元に駆け出そうとする箒、セシリア、鈴だが、溝呂木にまたもや気絶させられる。

「それはどうかな?」

溝呂木は空高く飛び上がると、ダークエボルバーから波動弾を連続で撃つ。それは箒達も狙われており、庇おうとした一夏と、避けられなかったシャルロットに命中した。

「ウグッ⁉︎」

「アアッ⁉︎」

「⁉︎溝呂木ぃぃぃ‼︎‼︎」

リヴァイブのライフルを溝呂木に向ける千冬だが、急降下した溝呂木の動きについて行けず、鳩尾にダークエボルバーを突き出されて吹っ飛ばされる。溝呂木は流れる様に背後にダークエボルバーを突き出す。それと交差する様に、ラウラのマグナムが溝呂木の喉元に突き出されていた。

「…腕を上げたな。流石は俺が見込んだ女だ」

「ふざけるな。ビーストに成り果てた男が」

「…もう一度だけ聞く。俺の仲間になる気は?」

「なら答えてやる。死んだ方がマシだ」

「…だったら死ね」

ラウラの腕を蹴飛ばし、ダークエボルバーで攻撃しようとする溝呂木。だが、急に背後から攻撃され、ラウラを攻撃するには至らなかった。溝呂木が攻撃された報告を向くと、ビームマグナムを構えた一夏がいた。

「溝呂木…てめえだけは俺がぶっ潰す‼︎‼︎」

「やってみろよ坊や。だが、頼りのウルトラマンはもういないぜ?」

ダークエボルバーを引き、ダークメフィストに変身する溝呂木。

「撃て‼︎‼︎‼︎」

千冬の号令と同時に、ラウラとシャルロットがメフィストに向けて攻撃を開始。一夏は気絶している箒達を救出しようとするが…

『フンッ!タァッ‼︎』

メフィストは矢じり形の光弾、ダークレイフェザーを放ち、それを許さない。一夏は爆風によって吹き飛ばされた。

「グハッ⁉︎」

「一夏!くそッ!篠ノ之達は後だ‼︎各員チェスターに搭乗せよ‼︎」

「「「了解‼︎‼︎」」」

 

エボルトラスターを見つめながら、懺悔の様に一樹は語る。

「俺は君に導かれ、光の力を得た。そして誰かを救うために戦い続けた…力を与えられた事…それが君を脳死に追い込んだ俺の、罰だと思ったから。ボロボロに傷つき、1人孤独に死んでいくことが、せめてもの罪滅ぼしに違いないと…でもそれも終わった」

『かーくん、その力は、罰なんかじゃないよ?』

「……え?」

エボルトラスターが優しく鼓動を打つ。その光が、あの遺跡を映す。一樹が見過ごした、遺跡の壁画を…

『あなたに与えられたその光は、長い時を越えて、多くの人達に受け継がれてきたの。その光を得た人達は、時には大切なものを失いながらも、必死に戦ってきた』

「その光が…俺に?」

『そう、かーくんは選ばれたの。その光の継承者、適能者(デュナミスト)として…』

「でも、俺にそんな資格があるのか…?だって、俺は君を…」

『かーくん、私、かーくんの撮る写真が…ううん、かーくんが好きだよ』

「…え?」

『かーくんは、私の笑顔を1番綺麗に撮ってくれた。いつも私が何かミスをした時、文句を言いながらもフォローしてくれた。私が生きる意味をくれたのは、他の誰でもないかーくんなんだよ』

「雪が、生きる意味…」

『私、かーくんと過ごす日々が、とても輝いてる。私のいる世界は、かーくんと一緒だから輝き続けていられる』

雪恵の身体が少しずつ消えていく…

「雪?」

『かーくんと出会えて本当に嬉しい。ありがとう』

「雪⁉︎」

雪恵の身体が、完全に消えた…思わず立ち上がって雪恵を追おうとする一樹。

『守ってあげて…大切な人達を、その力で…()()だよ、かーくん…』

「約束…」

一樹の脳裏に浮かぶのは、幼い頃にした2人の、永遠の約束…

()()()

 

「喰らえ‼︎」

ウルティメイトバニッシャーをメフィストに向けて撃つ一夏。

『グッ⁉︎アアッ⁉︎』

メフィストは少したじろぐが、そこまで大きいダメージは受けてない様だ。

『デェアッ!』

お返しとばかりに、ダークレイフェザーを放つメフィスト。回避が間に合わず、下部にダークレイフェザーを喰らうハイパーストライクチェスター。

『グッ!まだだ‼︎』

「絶対に、諦めるもんか‼︎‼︎」

 

手に持つエボルトラスターの鼓動が、どんどん強くなってゆく。

「俺は…今度こそ守ってみせる。この光で…それが、雪との()()で、俺の生き方だから!!!!」

エボルトラスターから放たれる光が、一樹とその空間を飲み込んだ。

 

エナジーコアを中心に、ウルトラマンの身体が光り始める。そして、その光は闇の蔦を弾く。そして__________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウルトラマンは闇の蔦から抜け出した。

『何⁉︎』

闇の蔦が弾かれた事に驚くメフィスト。

『ウルトラマンが…』

「一樹‼︎‼︎」

ウルトラマンは岩から飛び降りるが、まだその瞳の光は失われたままだった…

 

何とか起きた箒達の目には、ふらふらながらも立ち上がるウルトラマンが映っていた。

「「「ウルトラマン…」」」

 

「ハア、ハア、ファッ…」

『力とは…』

ふらふらのウルトラマンに近づくメフィスト。

『他者を支配し圧するためにある…』

ウルトラマンの首を左手で強く締める。

「グッ⁉︎」

『それに気付けぬ貴様が…俺に勝てる筈が無い‼︎』

空いた右手でウルトラマンの鳩尾を殴ると、1回転右ストレートキックをウルトラマンに放つ。キックを喰らった箇所から火花が飛び散り、吹き飛ぶウルトラマン。

『デュアッ‼︎』

「グアァァァ⁉︎」

 

『第2、第3エンジン復調‼︎』

『ハイパーエネルギー、充填完了‼︎‼︎』

『よし、織斑。ウルティメイトバニッシャー、発射』

「了解‼︎‼︎」

メフィストに向けてウルティメイトバニッシャーを放つ一夏。

『ハッ!』

だが、メフィストはダークレイフェザーでウルティメイトバニッシャーを相殺した。

『駄目!やっぱり効かない‼︎』

『次の1撃が、最後です‼︎』

「くそッ!奴の弱点に撃ち込むしか勝機がねえ…」

『束…教えてくれ。最後の1発をどこに撃てば良い?』

束から帰ってきた返事は、一夏達の度肝を抜いた。

『ウルトラマンの…エナジーコアを撃って』

「え⁉︎ウルトラマンを⁉︎」

 

「どういうことです?」

隣にいた麻耶も束に質問する。無論、ウルトラマンの正体が知り合いであるため、束が適当を言うことはない。

『ウルティメイトバニッシャーは、ウルトラマンの放つ破壊光線の光電子マトリックスを元に作られたんだよ。組成データを修正すれば、純粋なエネルギーとして還元出来る。つまり____』

 

『____ウルトラマンに力を与えられる…』

『ただ狙いは正確にね。少しでも中心を外れれば、意味が無いから』

 

「ウアアッ、ハア、ハア…」

まだウルトラマンの瞳には、光がやどっていない…

 

『修正データ受信』

『エネルギー、変換完了』

最後の1発を撃つための準備が完了した…

『一夏、この1発をお前に託す』

『一夏、頑張って』

『一夏、やれるな?』

一夏は、お守りのガンバルクイナ君を見る。そして…

「…ああ、任せろ‼︎」

照準を合わせる一夏の脳裏に移るのは、IS学園で再会してからの一樹。時には自分を救い、時には自分を導いてくれた存在…

「……」

エナジーコア、ロックオン

「立て‼︎ウルトラマン‼︎‼︎」

一夏は、発射ボタンを押した。

 

「ウウッ⁉︎グアァァァァァァァ⁉︎」

ウルトラマンにバニッシャー自体は命中した。バニッシャーの威力に、ウルトラマンは吹き飛ばされ、大地に倒れる。その手が、天に向かって伸ばされるが…

「ウウッ、アァ…」

たらりと、落とされた…

 

「そんな!」

『失敗したのか⁉︎』

一夏達の瞳に絶望が映りかけたその瞬間…

『!?一夏見て!ウルトラマンの体が…』

 

ウルトラマンの全身からエナジーコアに光が集中する。

ドクン、ドクン、ドクン…

エナジーコアは力強く鼓動を打ち…ウルトラマンの瞳に、光が戻った。静かに、だが、しっかりとウルトラマンは立ち上がる。

 

「よしっ!」

『成功だ!』

『やったね一夏‼︎』

喜ぶ3人。千冬も、声にこそ出さないが、表情は安堵の色を示していた。

 

ウルトラマンはエナジーコアに左のアームドネクサスをくっつけ、下ろした。

「フッ!シュアァ‼︎」

ウルトラマンを水色の光が包み、ウルトラマンをアンファンスからジュネッスへとチェンジさせた。

『馬鹿な⁉︎貴様の光はもう完全に消えかけていた筈だ‼︎』

メフィストはメフィストクローを呼び出し、クローから破壊光弾、ハイパーメフィストショットを連続で撃つ。

『フンッ‼︎‼︎』

対して、ウルトラマンは左のアームドネクサスでその光弾を受け止めていく。

「ハッ‼︎‼︎」

受けた闇の力を少しずつ光に変えていく。

「この力は、決して希望を捨てぬ人々のためにあるんだ‼︎それに気付けないお前が…この力に勝てる筈がねえだろ‼︎‼︎‼︎」

ウルトラマンは両腕をクロス。受け止めた闇の力を光の力に変換したスピルレイ・ジェネレードをメフィストに向かって放つ。

「フゥオォォォ…シュアァ‼︎‼︎」

その巨大なエネルギーを受けたメフィストだが、傷一つついていない。だが、ウルティメイトバニッシャー以上にダメージは負っている様だ。その証拠に、メフィストクローは消え、膝をついていた。

『希望…笑わせるな‼︎』

立ち上がり、ウルトラマンを睨むメフィスト。

『俺は無敵だ!断じて負けはしない‼︎‼︎』

「フッ⁉︎」

『ハアッ‼︎』

「シェアッ‼︎」

2人の巨人は同時に飛び上がり、空中で激しくぶつかり合う。パンチとパンチ、キックとキックがぶつかり合いながら徐々に高く上がっていく。

『フッ!』

メフィストのフックパンチをウルトラマンは下降して回避すると、上昇の力を加えたアッパーカットでメフィストを攻撃。

「テェアッ‼︎」

『グォッ⁉︎』

体制が崩れたメフィストに、更に攻撃を加える。

「キュアァァァァァァァ…」

だが、メフィストも負けてはいない。ウルトラマンの拘束から逃れると、全体重を加えた両足蹴りをウルトラマンに喰らわせる。

『デュウッ‼︎』

「グアッ⁉︎」

下を見るメフィストの視界に、呆然と自分達を見上げる箒達が映った。

『フッ!ハアッ‼︎』

ウルトラマンと箒達を狙って、メフィストはダークレイクラスターを雨の様に放つ。

「フッ⁉︎シュアァァァァァ‼︎‼︎」

闇の雨の範囲に箒達がいるのを察すると、ウルトラマンは箒達の元に急降下。箒達をサークルシールドで闇の雨から守る。

「ヘェアッ‼︎‼︎」

箒達は呆然と自分達を守るウルトラマンを見つめる。闇の雨を防ぎきったウルトラマンは箒達を見る。3人は思わず叫んだ。

「何故私達を庇った⁉︎」

「私達は…あなたを殺しかけたんですのよ⁉︎」

「そんなアタシ達を庇って、あなたに何の得があるのよ⁉︎」

3人の叫びを聞き、ウルトラマン…櫻井一樹は答える。

「それが…雪との『約束』だからだ」

 

『かーくん。かーくんにお願いがあるの?』

『お願い?』

『うん。もし、私に何かあったら、かーくんが助けてくれる?』

『当たり前だろ?絶対に助ける』

『…うん、ありがとう。あとね…』

『ん?』

『かーくんの心も、守ってほしいの。かーくんがやりたいことを、ちゃんと…』

『どういうことだ?』

『もし、絶体絶命の状況があったら、かーくんはどうする?』

『…その場の人を、全部助ける』

『そう。それを実行して。それが、私との()()…ずっと私の…全ての人の、()()()()でいて?』

悪役(ヒール)ではなく、一樹は英雄(ヒーロー)でいる…それが、一樹と雪恵の『約束』だった。

 

ウルトラマンは再び戦場へと戻る。

「フッ‼︎」

「「「……」」」

箒達は、そのウルトラマンの背中を見送ることしか出来なかった…

 

 

『櫻井を援護するぞ!全ミサイル発射‼︎‼︎』

「『『了解‼︎‼︎』』」

ハイパーストライクチェスターに搭載されている全てのミサイルをメフィストに向かって撃つ。しかし…

『ハアッ‼︎』

メフィストはダークレイクラスターで全てのミサイルを迎撃した。

「くそッ‼︎‼︎」

メフィストはハイパーストライクチェスターに向かってくる。突進してハイパーストライクチェスターを破壊する気だ。

『来るぞボーデヴィッヒ‼︎‼︎』

『はいっ‼︎‼︎』

ラウラは操縦桿を右に倒しメフィストを避けようとする。が、このままではぶつかってしまう…

『ぶつかる⁉︎』

だが_______

「シェアッ‼︎‼︎」

『グォッ⁉︎』

ウルトラマンがメフィストに突進し、メフィストをハイパーストライクチェスターから離した。

「…ありがとう、一樹」

 

『何故だ!何故貴様はそこまで人間にこだわる⁉︎人間など、守る価値も無いのに‼︎』

「それはお前がそう思ってるからだろうが‼︎俺にとっちゃ、お前の方がよっぽど救いがねえよ‼︎‼︎」

メフィストの連続ダークレイフェザーを空中で体を捻って回避するウルトラマン。回避も兼ねて、タイミング不可視のボードレイフェザーを放つ。メフィストは時に回避し、時に拳で叩き落としてそれをやり過ごす。

『ふざけるな!ISが発明される前からやれ男尊女卑だの、なんだのと言い続けていた愚か者達と俺を一緒にするな‼︎‼︎』

メフィストはウルトラマンに急接近し、その右拳を振り下ろす。

『デェアッ‼︎』

だが、ウルトラマンは左手でその拳を受け止めると、メフィストの拳を掴んだ。

「シュウッ‼︎」

拳を握り締められ、苦悶の声をあげるメフィスト。

『グォッ⁉︎オォッ⁉︎』

「分かってねえな…お前が語ってるのは人間のほんの一面に過ぎねえんだよ‼︎人間ってのは、時に俺達以上の力を発揮する…そんな生き物なんだよ‼︎‼︎」

メフィストの腕を振り上げると、空いた胴に連続で蹴りを放つウルトラマン。

「ハアァァァァァァァァ‼︎‼︎‼︎」

『グオォォォォォォォォ⁉︎』

最後に両足蹴りを勢いよく放つウルトラマン。

「ヘェアッ‼︎‼︎」

『グァッ⁉︎』

メフィストとの距離が離れると、ウルトラマンはメフィストに向かって言い放つ。

「お前が…知ったような口で人間を語ってんじゃねえよこのクソ野郎‼︎‼︎‼︎‼︎」

『ふざけるな!このクソガキがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎‼︎』

メフィストは両腕にエネルギーを溜め始める。

『フンッ!ハアァァァァ‼︎』

それを見たウルトラマンも両腕にエネルギーを溜め始める。

「フッ!シュウッ‼︎フアァァァァァァァァ…」

『ハアァァァァァァァァ‼︎』

「フンッ‼︎」

『デュアァァァァァァァァ‼︎‼︎‼︎‼︎』

「デェアァァァァァァァァ‼︎‼︎‼︎‼︎」

2人の巨人の必殺光線がぶつかる。メフィストのダークレイ・シュトロームと互角の勝負を続けるウルトラマンのオーバーレイ・シュトローム。ウルティメイトバニッシャーを遥かに超えた、本家本元の力…

『貴様如きに‼︎この俺が負けるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎』

「こっちの台詞だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

両者は同時に光線の威力を上げる。しかし、徐々にオーバーレイ・シュトロームがダークレイ・シュトロームを押していく。

 

「『『『行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎』』』」

ハイパーストライクチェスターで、一夏、千冬、ラウラ、シャルロットが叫ぶ。その叫びに応えるように、オーバーレイ・シュトロームの勢いが増す…

 

「ハアァァァァァァァァ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

『グッ!グオォォォォォォォォ!!?!!?』

オーバーレイ・シュトロームが完全にダークレイ・シュトロームを押し切り、メフィストを中心に爆発が起こる。その爆発は、ハイパーストライクチェスターをも飲み込もうとする。

「ウワッ⁉︎」

『コントロールが効かない⁉︎』

一夏、ラウラが必死に操縦桿を握るが、爆風の影響で、システムが逝ってしまっているのか、全く制御出来ない。

「くそッ‼︎どうすれば‼︎‼︎」

お前ら!しっかり掴まってろよ‼︎

突如脳裏に声が響いたと思ったら、急にハイパーストライクチェスターが安定した。一夏が上を見ると…

「う、ウルトラマン…」

ウルトラマンがハイパーストライクチェスターを両腕で支えていた。ウルトラマンは左腕でハイパーストライクチェスターを抱え直すと、右手からセービングビュートを伸ばし、終焉の地で呆然としてる3人を救出する。

「シュウッ!」

ウルトラマンはそのまま、時空を移動し、IS学園へと向かう。

 

IS学園の近くの森で、ウルトラマンはセービングビュートの3人を先に地上に下ろすと、そっとハイパーストライクチェスターを置いた。そして、光に包まれて消えていった。

「一樹‼︎」

「「櫻井‼︎」」

「櫻井君‼︎」

すぐにコクピットから降りる4人。森に一樹を探しに出る。

 

一樹は崖で海に光る月を見ていた。長時間変身した事による疲れはあるものの、怪我等は全て完治(傷跡は残っているが)していた。

「(ありがとな、雪…おかげで俺はまだ、戦える)」

エボルトラスターを見つめながら、一樹は微笑む。数年振りに心の底から笑った気がした。

「にしても、()()()か…いい言葉だよな。またねって…まだ、希望を捨てなくて良いんだよな」

精神世界での雪の別れの言葉に、一樹は月に向かって手を伸ばすと、何かを掴む様に手を握る。そこに…

「一樹!」

「…ん?」

一夏達が駆け寄ってきた。一樹も笑顔で手を振りながら駆け寄ると…いきなり一夏にヘッドロックされた。

「何故に⁉︎」

「この野郎!心配かけさせやがって‼︎なんだよあの手!失敗したかと思ったんだぞ‼︎」

「お前にはアレが演技に見えたのか⁉︎んな訳ねえだろ‼︎」

「手がたらりと落ちた時にマジで終わったと思ったんだぞ‼︎」

「お前以上に俺が思ったわ‼︎いきなり胸撃たれて普通に立っていられるかってんだ‼︎」

「そこは耐えろよ‼︎」

「無茶言ってんじゃねえ‼︎」

久しぶりに思える男2人のじゃれあいに、女性陣は少し涙が溢れてきた。そこに、ゆっくりと現れる影、箒、セシリア、鈴。

「「「……」」」

3人は静かに一樹に近づく。一樹はただ立っているだけだ。そして、3人は同時に___

「「「ごめんなさい‼︎」」」

頭を深く下げた。

「……」

「私達は、大きな間違いをしていた」

「一夏さんだけでなく、あなたはこの世界をずっと守っていた…」

「アタシは、アンタがサボる訳が無いのを知っていながら、状況証拠だけでアンタを攻撃しちゃった…」

「「「だから、ごめんなさい‼︎」」」

一夏達はそれを黙って見ていた。一樹は即死級の攻撃を受けている。だから仕返ししても3人は文句を言えない。また、3人もその覚悟はあるのだろう。証拠にさっきからずっと震えている。一夏にですら全く歯が立たなかった自分達が、一夏より強い一樹に攻撃されたら…と思っているのだろう。

「じゃあ…」

一樹が一歩踏み出す。それだけで3人はビクンッと肩を強張らせる。

「篠ノ之箒、セシリア・オルコット、凰鈴音と言ったな。俺は櫻井一樹。諸事情でヒーローなんぞをやってる者だ。よろしくな!」

「「「「へ?」」」」

突然自己紹介し始めた一樹に、一夏以外の全員が間抜けな声を上げる。一夏はそれを予想していたのか、ノーリアクションだが。

「ん?何でそんな意外そうな顔してるんだ?」

「いや…」

「その…」

「実際意外だし…」

「何だよ、まさか俺にボコボコにされるとでも思ったのか?だとしたら心外だ。俺は別にそんな鬼畜じゃないぞ」

「一樹、コイツらはそれをされてもおかしくない事をしてるんだ。それ相応の罰を与えなきゃまたやるぞ」

いつものS.M.S対応をしようとしてる一樹。だが、いくら何でも甘過ぎると判断した一夏が横から口を出す。

「じゃあ…千冬、コイツらに特別課題を出す。それを監督してくれ」

「…内容は?」

「第4整備室に大量のISがあってな?それを装着。PIC、パワーアシストを切ってグラウンドじゃなくIS学園敷地を100周」

「…甘すぎないか?」

処罰としては異常に重いが、3人のやった事は殺人未遂。その程度では甘すぎると判断する千冬。

「…前に俺は一夏に言ったんだ。『過去は変えられないけど、未来なら変えることが出来るかもしれない』ってな。そう言った俺が、いつまでも過去に囚われるのも、な…」

「…そうか。お前がそう言うなら私は止めない。貴様ら、櫻井が許しても我々は許さん。次櫻井に何かしてみろ。2度と日の出は拝めないと思え」

「「「はい…」」」

「それじゃあ…」

一樹はゆっくりと手を出す。3人は少し躊躇ったが…ゆっくりと、その手を握った。

「改めて…櫻井一樹だ。諸事情でヒーローなんぞをやってる者だ。よろしくな」

「篠ノ之箒だ。実家は剣術道場を営んでいた。こちらこそよろしく頼む」

「セシリア・オルコットです。イギリス代表候補生で、イギリスではちょっとした会社を営んでいます。よろしくお願いしますわ」

「凰鈴音よ。中国代表候補生で、両親は中華料理屋をやってたわ。よろしくね」

一樹はやっとこの3人と和解出来た。それは、1年専用機持ちの殆どと友好を持てた事を意味していた。

 

そして時は流れ、夏休みが終わった…

「いや〜、今年の夏休みは色々あったな一樹」

「ま、メフィストの件がひと段落してから遊びまくってたからな」

ぐてーとしながら一夏と会話する一樹。そう、夏休み後半から一夏達のグループに一樹が加わり、7人で遊び倒したのだ。

「おかげで俺の残高は一気に2割消えたぜ」

「おい一夏。それを大きな声で言って良いのはオルコットだけだ」

S.M.Sとしての給料がある為、あまり一夏自身のダメージは無い。しかし、毎月自分のいた孤児院に多額の仕送りをしている一樹には大問題だ。

「俺は遊びまくってた影響で貯蓄殆ど無くなりましたとさ…」

「……ごめん」

そんな会話してると、千冬が教室に入ってくる。

「全員席に着け!今日は連絡事項が山ほどあるんだ。早く終わらせたければ早く席に着け!」

その言葉にすぐさま全員が席に着く。

「さて、皆夏休みを満喫したらしいな。だが、今日から2学期が始まる。夏休みボケは早く直す様に。さて、連絡事項が…」

始業式特有の挨拶。終業式はあんなにどす黒かった景色が、とても輝いて見えた…

「さて、今日は転校生が来る。皆、仲良くしろよ」

「……ん?」

『仲良くしろよ』と言った千冬はとても優しい笑みを一樹に向けて浮かべていた。その笑みの理由が分からない一樹。

「さて、入ってくれ」

千冬に言われて教室に入る1人の女子、その顔を見た瞬間、一樹の顔が驚きと喜びが入り混じった表情になる。何故なら、入ってきた女子とは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「田中雪恵です!皆さんよろしくお願いします‼︎」

一樹がずっと守ると決めた少女、田中雪恵が教壇に上がっていた。

「え⁉︎」

「雪恵か⁉︎」

「うん!()()()()!織斑君に箒ちゃん‼︎」

雪恵はそこで、ゆっくりと一樹の方を向く。

「ゆ………き………」

「かーくん‼︎」

我慢出来ずに一樹に飛び込む雪恵。一樹は受け止めきれず、椅子から落ち、背中を強く打つが、その痛みが夢ではないと語っていた。

「かーくん!かーくんかーくん!!!!」

「本当に…雪なんだよな?」

「うん!光が私を起こしてくれたの‼︎ずっと眠ったままだったのにこんなに動ける様にしてくれたの‼︎またかーくんと一緒にいれるの‼︎」

「良かった…本当に、良かった‼︎」

優しく雪恵を抱きしめる一樹、守り続けた温もりが、そこにあった。

「おはよう、()()()()、雪」

「おはよう、()()()()!かーくん‼︎」

2人しか通じない会話は、感涙する皆の声でかき消された。当事者である2人は大泣き状態。周りの目も気にせず、大声で泣いていた…

 

 

 

 

 

『ヒーロー』と『ヒロイン』は再び出会う事が出来た。これから先、様々な苦悩が2人を襲うだろう…でも、この2人ならきっと乗り越えられる…抱き合う2人を見ながら、千冬はそう思った。




はい!雪恵さん目覚めました!!!!これでタグのオリ主×オリヒロが発揮するぞ!!!!

え?ジュネッス編最終回じゃないのかって?

まだ一樹にはやるべきことがある!それが終わるまで、彼はデュナミストなんだ!!!!


はい。まだまだジュネッスの姿で頑張ります。今までよりかはダークな話は来ないと思いますので、皆さんどうぞご気楽にお楽しみください。

次の話を書く前に…ちょっとティッシュ箱足りないよ!涙止まらないよ!雪恵さん、起きて本当に良かった!!!!


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Episode48 雪恵-ナビゲーター-

評価バーに色がついてる…だと?

ありがとうございます!!!!この色が消えないよう頑張っていきますので、どうかよろしくお願いします!!!!


「「「「雪恵ちゃん!IS学園にようこそ‼︎」」」」

「ありがとうみんな‼︎」

始業式の日の夜、食堂で雪恵の歓迎パーティーが開かれていた。この数時間で早くも友人を作ったらしい。変わらぬ雪恵に、幼馴染の3人はずっと笑顔だった。

「ねえねえ雪恵ちゃん!櫻井君の小さい頃ってどんな感じだった?」

「ブホッ⁉︎」

相川が雪恵にした質問は、近くで(というか雪恵が離れない)コーヒーを飲んでいた一樹が吹き出すには十分過ぎるものだった。

「えー?格好良かったよ〜」

体をくねくねさせながら頬を赤らめる雪恵。完全に惚気の体制だ。だが、それに対する皆の反応は__

「「「「え?格好良かった?」」」」

これである。それを聞いた雪恵は…

「ン?ドウイウイミカナ?」

話し方が片言になっていた。しかも代表候補生であるセシリア、シャルロット、更には軍人であるラウラまでカタカタ震える程の圧を放っていた。

「えーと、その、小さい頃から格好良いっていうのが分からなかっただけだよ‼︎」

慌てて鷹月がフォローする。確かに、小さい頃から格好良かったとはとても想像出来ないだろう…それを聞いた雪恵は納得した様子で頷いた。

「そっか。小さい頃から格好良い男の子なんてそんないないもんね。私はかーくんに織斑君がずっと一緒だったからさ」

「「「「ああ、ならしょうがない(櫻井君はどうでも良いけど、織斑君は昔から女の子泣かせてそう)」」」」

「「(なんだろう、凄く失礼な事思われた気がする)」」

男子2人が少し苛立っているのを察した代表候補生'sが慌てて話に入る。

「そ、それで格好良い話って何か聞かせてもらって良いかな⁉︎」

「わ、私も気になりますわ!」

「そ、そうだな!櫻井の昔の話は私も興味あるぞ‼︎」

代表候補生'sの謎の使命感(恐怖?)にキョトンとする雪恵だが、すぐに話し始める。

「まず、私が初めて会った時にはもう武術を習ってたね。ちなみに4歳だったかな?」

「「「「4歳で⁉︎」」」」

「(ごめんなさい実はその時点で何歳か分からないですマジごめんなさい)」

「それでちょっとガキ大将みたいな子達がケンカ売ってきても一撃も喰らわなかったんだよ‼︎」

「「「「一撃も⁉︎」」」」

「(違いますただ単に体が避ける習慣付いてただけなんですそんな武勇伝みたいに言わないでください雪‼︎)」

「しかも!小学校に入ってすぐに6年生のワルにケンカ売られたんだけど全く相手にしないであしらってたんだ!しかも見もしないで攻撃避けてたの‼︎」

「(違いますたかが12歳程度の攻撃じゃスローに見えたから軽く首振っただけなんですお願いだから話デカくしないで‼︎)」

「小学校3年生の時の夏祭りなんて、私と私の友達庇ってヤクザ3人組を30秒で倒したし!」

「「「「ヤクザ3人組を30秒で倒したァァ⁉︎」」」」

「(それは確かにそうだけど!相手がガキだからって油断してたのを逆刃刀で殴っただけだから‼︎)」

その後も一樹の武勇伝?を延々と語られ、一樹は物凄い罪悪感に苛まれ続けたのだった。

 

「えへへ〜」

割り振られた部屋(一時的に一夏とルームメイト)で、雪恵はある写真を見てにやけていた。

「ん?雪恵、その写真は?」

「うん、さっき撮った写真だよ」

「もう写真出来たのか…」

1組全員で撮ったその写真の中央には、笑顔でポーズをとる雪恵と、雪恵に腕を組まれて戸惑い気味に写ってる一樹がいた。この写真を撮る時の会話が…

 

『はーい新聞部でーす!新入生が来たという事で取材に来ました〜』

『え?もしかして…』

『ん〜?って櫻井君⁉︎なんでここに⁉︎』

『えーと、一応コイツの護衛役としてこの学園に入ってたんですよ』

『へ、へえ…ね、ねえ。()()の事新聞に乗っけて良い?』

『駄目に決まってるじゃないですか』

『だよね…で、転校生て誰かな?』

『はいはーい!私でーす‼︎田中雪恵!かーくんや織斑君、箒ちゃんの幼馴染でーす‼︎』

『おおー君かー!新聞に乗っけて良い?』

『嫌です』

『いきなり顔がマジになった⁉︎』

『ちょっと、家庭の事情があるので…』

『ああ…ならしょうがないか。じゃあ、記念写真撮ってあげる!』

『!お願いします‼︎』

『って動き早っ⁉︎1組全員が既に整列してるだと⁉︎』

自然とカメラのフレームから離れていた一樹。昔からの習慣なので体が勝手に動いていた。それを見た雪恵が…

『かーくんはこっち‼︎』

『え?ちょ、雪!引っ張るなって‼︎』

雪恵に引っ張られた一樹は、中央…雪恵の隣に立たされた。引っ張られた状態のままなので少し左肩が下がっている。その状態のまま黛はシャッターを切った。

 

「かーくんが写ってる写真って、私1枚も持ってないから…」

「言われてみれば俺も持ってなかったな…一樹はずっと撮る側だったから」

一樹は学校の集合写真も撮っていたので、写真に写る機会がほぼほぼ無かったのだ。一夏が知ってる中で写真に写っているのはせいぜいS.M.Sの名札くらいである。

「えへへ〜。これからは色んな所で写真が撮れるね〜」

写真に向かって語りかける雪恵。見た者全てが幸せになれそうな笑顔である。この笑顔に小学校時代、何人の男子生徒が惚れたのやら…真実は一夏と一樹しか知らない。

「(…やっと得た幸せだからか、俺の記憶のどれよりも暖かい笑顔だな…)」

人一倍感情の温度を感知出来る(しかし自分への恋心除く)一夏には、雪恵の笑顔が記憶のどれよりも暖かく感じた…

 

一方、整備室では一樹が雪恵父と電話で話をしていた。

『どうかね?驚いたかね?』

「そりゃあ驚きますよ。信じてはいても、いきなり目の前に現れるんですから…(てっきりまた案内人(ナビゲーター)として現れたかと思ったわ)」

『いや、雪恵本人の強い希望でね。一樹君達を驚かせたいと言うものだから…はっ⁉︎』

「ほう…おじさん、そこら辺詳しく教えて頂けますか?」

『い、いや。言っとくが雪恵が起きたのはほんの1週間前だぞ?千冬さんだって教えたのは昨日だったし。なにより起きたばかりなのだから少しお茶目な方がゆき「おじさん?」いや何でも無い』

「はぁ…まあそこは今回置いておくとしますよ。仕掛け人が先に泣いちゃってましたしね」

『そうか…雪恵はただ、時間が欲しかったんじゃないかと私は思ってる。お医者さんも驚いていたからな。6年間も寝ていたのに筋力に何の問題も無かったのだから』

「……」

『まあ、お医者さんがいなくなってから雪恵本人から聞いたよ。『光』がそうしてくれた、とね。何故かは知らないが雪恵は私達がウルトラマンの事を知っている事を分かっていたからな』

「…そうですか。なら良かったんですけど」

その後、二言三言雪恵父と話した後、一樹は通話を切った。

「ふぅ…あんだけマジ泣きしたのって、いつ以来かな…」

蛇口にホースを付けただけの簡易シャワーを浴びながら、一樹は呟く。

「…今度こそ、守る。絶対に」

 

翌日、1組と2組合同で実習が行われた。

「では、夏休み明け最初の実習を始める」

「「「「よろしくお願いします‼︎」」」」

「うむ、ではまず、クラス代表同士の模擬戦をしてもらおう。織斑、凰はアリーナの中央へ。他は観客席に移動しろ」

千冬の号令の元、一夏と鈴以外の生徒はアリーナ観客席に向かおうとするが、そんな中雪恵は一樹に言う。

「ねえかーくん」

「ん?何だ?」

「久々に『アレ』やってほしいな〜」

「はぁ⁉︎」

「良いじゃん良いじゃん♪やってよ〜」

瞳をキラキラさせている雪恵に、面倒になった一樹が折れた。

「あー分かったよ!やれば良いんだろやれば‼︎」

生徒達全てに加え、千冬までも何をするのか目を向ける。そんな視線を無視し、一樹は雪恵を抱える。俗に言うお姫様抱っこだ。

「「「「あ!ずるい‼︎(私も織斑君にならやってもらいたい‼︎)」」」」

「(頼むから()の中は雪に気付かれない様にしてくれ…止めるの面倒だからさ…)雪、しっかり掴まってろよ」

「うん!」

雪恵がしっかりと掴まったのを確認すると、一樹は一気にアリーナ観客席の1番上まで跳んだ。Ex-アーマーを装備もしないで…

「「「「えええええええ⁉︎」」」」

当人と一夏以外が驚きの声を上げるが、一樹はちょっと足に違和感を覚えた。

「うーん、やっぱり久々だから足に若干違和感あるな…」

「でも距離伸びてるからあまり気にしなくて良いじゃん♪私はそう思うよ♪」

一樹に抱えられたままだからか、雪恵はご機嫌だ。その様子にため息をつく一樹。

「はぁ…このままだと足に負担がかかりすぎて危ないからもうやらないように「やっぱり直そう!いや直してかーくん‼︎」早いなオイ‼︎」

「だって、かーくんのお姫様抱っこを逃すなんて私にはあり得ないよ‼︎」

とまあ、夫婦?漫才を繰り広げる2人に、もはや他の生徒は開いた口が塞がらなかった。

 

「だ、大分話が逸れたが、これよりクラス代表同士の模擬戦を開始する。織斑と凰はISを展開しろ」

千冬の指示に、一夏と鈴は麒麟と甲龍を展開、空中の指定位置に移動する。移動中の麒麟に、プライベートチャネルが入る。

『一夏、分かってると思うけどデストロイモードは禁止な』

「(分かってますって。千冬姉にもアレの解放条件は話してないし、何より解放する必要が無い)」

『じゃあ、凰にもそう伝えとく』

「頼んだ」

一樹との会話が終わり、数秒後には目の前の鈴が安堵の表情を浮かべているのが見えた。どうやらデストロイモードはトラウマらしい。無理も無いが…

『試合、開始!』

千冬の号令と同時に、2人は瞬時加速で近づき、ビームサーベルと青龍刀をぶつけ合う。

「安心しろ鈴。デストロイモードは使えないから」

「どこを安心しろってのよ!アンタが強すぎてアタシ達代表候補生の面目丸潰れよ!どうしてくれんのよ⁉︎」

「まさかの逆ギレですと⁉︎」

言い合いながらも鈴の顔は笑顔だ。いつもの口論が楽しくて仕方ないのだろう。一夏もそれを理解してるため、会話では思いっきりふざける。だが、戦闘はふざけない。鍔迫り合いをした状態から体を大きく横回転し、シールドを甲龍に叩きつけた。

「そらっ!」

「きゃっ⁉︎」

体制が崩れた甲龍に向かってライフルモードのビームマグナムを連射しながら後退していく。一撃一撃が必殺の威力であるため、鈴は必死に避ける。

「ちょ、ちょっと!攻め方がえげつないんだけど⁉︎」

「戦いなんてそんなもんだ‼︎」

鈴が回避に集中してるのを見越して瞬時加速で甲龍に近づく一夏。その右手には、エネルギーチャージが終了した雪片弐型が握られていた。

「悪いな鈴!これで終わりだ‼︎」

零落白夜を発動、容赦なく甲龍に振るった。鈴自体にはダメージが行かない様に腕から数ミリ離れたところで…相変わらず絶妙な太刀筋だった。零落白夜の効果で強制的に絶対防御が発動され、甲龍のシールドエネルギーがゼロになった。

『試合、終了』

 

「うわぁ…織斑君の戦い方えげつないね〜」

観客席で一夏vs鈴の戦いを見ていた雪恵の感想がそれだった。だが、一樹は違う。

「いや、今の一夏の攻撃は結構危なかっしい」

「え?何で?ずっと鈴ちゃんを圧倒してたじゃん」

「甲龍のスペックなら、最後の一撃にタイミングを合わせて衝撃砲を撃つ事で回避するって事が可能なんだ。出来ないのはただ鈴が諦めてただけ。アイツ自身の技量ならそれくらい出来る筈なんだ」

「…妙に鈴ちゃんを推してるね」

雪恵が少し拗ねた口調で言う。それに気付いた一樹は苦笑いを浮かべる。

「…生身でアイツの攻撃喰らったからな。自由落下の威力+衝撃砲は効いたぜ…」

「……え?ちょっと待って。生身ってどういう事?私、気になるなぁ〜」

「教える必要は無い」

「ええ〜!教えてよ〜って痛⁉︎無言で連続チョップはやめて‼︎」

「…お前に話したら翌日から凰が引きこもりになる」

「かーくんは私をどういう風に思ってるのかな⁉︎」

 

時は流れて昼休み…一夏、箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラに加えて雪恵も一緒に昼食を取っていた。

「うーん、美味しい!IS学園のご飯ってこんなに美味しいんだね‼︎」

目をキラキラさせながらシャルロットと同じマカロニグラタンを食べる雪恵。自分の好物を褒められ、シャルロットも上機嫌だ。

「だよね!僕もこの味を出そうと何回も試してるんだけど全然出せないんだよねぇ…」

「ま、そこは経験の差なんだろ」

一夏もそれに同意するが、シャルロットはその一夏を恨みがましく見る。

「食堂のおばちゃんやプロならともかく…一夏に料理でも負けるのは女の子としてショックだよ…」

一夏の女の子泣かせは家事能力にまで行っていた…

「……」チラッ

雪恵が時計を見て少し残念そうな顔を浮かべた。

「雪恵、どうしたのだ?」

箒が雪恵に聞くと雪恵は少し悲しげに笑いながら答える。

「うん、かーくんと一緒にご飯食べたかったなって思って…かーくんに聞いたら『やらなきゃいけない事が終われば合流するよ』って言うから少し期待してたんだけど…」

「……」

雪恵の言葉に、気まずそうに顔をそらす一夏。一夏は分かっているのだ。一樹が食堂に来るはずの無いことを…結局、一樹は昼休みに一夏達と顔を合わせる事は無かった。

 

「……」

一樹は先程から何か視線を感じていた。獲物を追い詰める狩人の様な視線を…

「(ったく、この学園でこんなの出来るのは1人しかいねえっつのに、何やってんだか)」

自分が誰か明かしてる様なものだが、当の本人はどうでも良いらしい。先程から遊ぶ様に気配の濃度を変えている。いい加減うざい。

「(そろそろ撒くか…)」

適当な曲がり角で曲がる一樹。

 

「(しめた!この先は行き止まり…今日こそあの装備について話して貰うわよ‼︎)」

一樹を尾行していた少女、更識楯無は急いで角を曲がる。しかし…

「嘘⁉︎撒かれた⁉︎」

行き止まりである筈の角に、一樹の姿は無かった。

「何で⁉︎」

思わず大きな声を出す楯無の首元に、刃が…

「ひっ⁉︎」

「よう、『更識楯無』さんよぉ…いきなり人を尾けるたぁどういう了見だぁ?」

いつの間にか楯無の後ろに一樹がいた。刃は逆刃刀だ。

「ど、どうやって…」

「質問に質問で返すとは常識がなってねえな…いっぺん落ちろ」

その後、楯無の姿を見た者はいなかった…

 

「いや死んでないからね‼︎」

起きて早々変な事を言う楯無。頭が逝ってるのだろうか…

「ああもう放課後じゃない‼︎もう!乙女をこんな硬い床で寝かしたままなんてどういう神経してるのよ‼︎」

ぷりぷり怒る楯無だが、寝かした当の本人の方がよっぽど硬い床で寝ている。そんな楯無の視界に…

「ん?あれは確か…織斑一夏?」




注意

しばらく楯無の扱いが雑ですが、作者は楯無は嫌いじゃありません。

むしろ割と好きなキャラです。

9巻以降のですが…


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Episode49 暗部-ダークサイド-

後書きにお知らせがあります。


「さて、今日も整備室に寄って行って…」

「ちょっとそこの君」

一夏が整備室に向かおうとすると、背後から声をかけられた。

「(まあ、いることは分かってたけどさ)はい?」

「君、織斑一夏でしょ?」

一夏の目の前に立つ少女のリボンの色は2年生の物だった。つまり、目の前の少女は(一応)一夏の先輩にあたる。

「そうですけど…」

「君の噂は聞いてるよ。1年の代表候補生を全て倒したってね」

少女が掲げる扇子には“無敗”の2文字。その文字を見て、一夏は苦笑する。

「いえ、俺はこの学園に来てから負けてばかりですよ」

「…それは護衛役の子に、って事かな?」

「まあ、そうですね」

直接戦った4月の2戦を含め、ペドレオン、バクバズン、ファウスト、ラフレイア、ノスフェル、ガルベロス、ゴルゴレム、クトゥーラ、そして…メフィスト。それらの戦いで一夏は一樹に助けられ続けていた。特に、ペドレオン、ファウスト、ノスフェル、メフィストの件で…

「…俺は、この先ずっとアイツに勝てないですよ」

一樹自身は、一夏の方が(実力ではなく、それ以外の心等の内面的な意味で)圧倒的に強いと言っている。雪恵が倒れてから、ずっと心に重しが乗っていた一樹に比べ、一夏は立ち直りが早かった。確かに沙織が死んだと分かった時は、一樹以上に絶望に陥っていた一夏。このままでは自分と同じになると思った一樹の言葉があったとは言え、絶望から立ち直れたのだ。それを後に、一樹は雪恵にこう語っている。

『アイツは、俺より格段に強い。ずっと“重し”が乗っていた俺と違って、アイツは自分の意思で“重し”をどける事が出来た…俺には、出来なかった事をな』

が、当の本人はその事を知らない。一夏は一夏で、一樹自身が気付いていない一樹の強さを認めている。結局は似た者同士なのだ。この2人は…

「…ええそうね。あなたは弱いわ」

 

「…ええそうね。あなたは弱いわ」

楯無は一夏にそう言い放つ。楯無にはある狙いがあった。

「(こういう男の子は正面から挑発されれば簡単に乗る筈。それは、強くなりたいと思えば思うほどに…)」

楯無は一夏をそう分析する。楯無は『暗部』として長く生きてきた。現状は情報収集だけの形だけの暗部だが、それでも()()()である一夏より強いという自信があった。何せ、自分は17歳にして、大国であるロシアの国家代表であるのだから…だが

「そうですね。俺は弱いですよ」

一夏は、楯無の挑発を受け流した。

「(なん…で?)」

楯無の予想とは全く逆の反応。楯無の表情の変化に一夏は苦笑しながら話す。

「…俺を挑発するなら、ブリュンヒルデを超えてから出直して下さいよ」

その発言に楯無はキレた。問答無用でIS『ミステリアス・レイディ』を展開し一夏に殴りかかる。が、一夏の方が速かった。麒麟を展開し雪片弐型でミステリアス・レイディを攻撃。シールドエネルギーがかろうじて残るミステリアス・レイディに対し、麒麟はエネルギー攻撃した分しか減っていない。2人の力量差は歴然だ。

「…いきなり攻撃とは、ロシア国家代表の名が泣きますよ?更識楯無さん」

麒麟がユニコーンにならないギリギリの濃度の殺気を放つ一夏。一夏が楯無にトドメを刺さないのは単純で、楯無を倒した後の役職が面倒だからだ。

「…あなた、今ので勝ったつもり?私のISは」

「空間にナノマシンを散布して水蒸気爆発を起こす…でしたっけ?」

「⁉︎」

「…ISのハイパーセンサーにバッチリ反応されてますよ。そして、それはあなたの意思で爆発する…一種のビットだ。だけど…」

一夏は何気なく楯無に向かって手を伸ばす。その途端、楯無の顔が驚愕に包まれる。

「(ナノマシンのコントロールが…奪われた⁉︎)」

一夏は麒麟のシステムを使い、楯無のナノマシンのコントロールを奪ったのだ。

「悪いですけど、()()にあなたの常識は通じませんよ。現IS学園最強」

赤子の手をひねるかの如く、一夏は楯無を圧倒していた。しかも、楯無のシールドエネルギーをかろうじて残る様に。

「ふざ…けないで‼︎」

ミステリアス・レイディのスラスターを全開にして楯無は一夏に向かって飛ぶ。一夏は仕方なく雪片弐型を構える。だが…

「更識楯無。これ以上は見過ごせない」

一樹がフリーダムを装備して楯無のこめかみにルプスビームライフルを押し付けた。

「…生身の人間にISで攻撃しようとしたって時点で間違いなく犯罪級だ。一夏が『少し待ってくれ』と言うから黙っててやったが、流石にやり過ぎだ。今すぐISを解除しろ」

「何であなたの命令を「いい加減にしろよ小娘」ッ⁉︎」

「人が優しく言ってる内にやめろ。でなきゃ…ゴーレムを一撃で黙らせたビームを受ける事になるぞ?」

復活した一樹の殺気(しかし半分も出していない)は、一夏が以前箒達に発した殺気を大きく上回っていた。それを間近で受けた楯無の表情が見るからに青ざめていく。そこに…

「そこまでで良いぞ櫻井」

千冬が現れる。千冬の指示を聞き、一応一樹は矛を収める。

「…チッ」

フリーダムを解除し、一樹はその場を離れていった。

 

「更識、私が頼んだのはあくまで織斑の練習相手だ…まあ、お前では相手にならなかったがな」

「ッ…」

千冬の言葉が楯無に刺さる。一夏はそれをただ見ていた。

「…結局、織斑の相手が出来るのは櫻井だけか。学園長に言ってもう少し護衛役を増やしてもらうのも検討せねばな」

「…ません」

「ん?」

「私は、あの人を認めません!護衛役って言っておきながら碌な仕事をしない人なんか「それ以上一言でも言ってみろこのクソアマ」…え?」

楯無はいきなり一夏から殺気を向けられた事に戸惑いを持つ。が、一夏はすぐに殺気を仕舞うと千冬にアイコンタクトし、食堂へ向かった。

「なんで…織斑君が殺気を放てれるの?」

楯無に、ひとつの疑問を残して…それは千冬も前々から思っていたが。

 

「「あーイライラする‼︎」」

食堂では珍しく男子2人が揃っていた。一樹はただアイスコーヒーを飲みに来ただけらしいが、他のメンツは夕食を食べにだ。

「その、2人ともどうしたのだ?」

「かーくん、オーラが怖いよ?」

一夏の隣に座る箒(激戦であったのは言うまでもない)と一樹の隣に座る雪恵(もはや定位置)が恐る恐る聞く。2人の答えは…

「「ここの生徒会長マジ腹立つ!」」

「「「「生徒会長?」」」」

更識楯無…IS学園最強の意味を持つ生徒会長であり、度々全校朝礼でスピーチしているため、雪恵以外の皆顔は覚えている。が、いきなりその人物に腹を立てている理由まではわからない。

「じゃあ俺から…俺が苛立ってるのはこの間の箒達と同じ理由だ」

「「「「…生徒会長、生きて(るか)(ます)(る)(るの)?」」」」

理由を察した箒と代表候補生組みは楯無の命を案ずる。

「安心しろ。アレは発動出来なかった。俺的にはひじょーーーーーーーーに残念だけどな」

一夏は不本意そうな顔でカツ丼を頬張る。いつもより乱暴そうだが、今は美味いものでも食わないとやってられない気分らしい。次に一夏以外の全員の視線が一樹に向けられるが一樹は一言。

「あのアマの存在が腹立つ」

「「「「それどうしようもない⁉︎」」」」

「かーくんがここまで言うなんてよっぽどだよ…」

普段、一樹はよほどの事が無い限り人の悪口は言わないが、その一樹が言うのだ。楯無よ…君に生あれ。

「…ところでかーくん。ご飯は?」

「…先に食べた」

1杯のアイスコーヒーをゆっくり飲みながら一樹は言う。だが…

「さっき食堂のおばちゃんに聞いたけど、織斑君以外の男子は来てないって…それこそ、織斑君が入学してからずっと」

今一樹が飲んでいるのも、学園で割安で売られている缶のアイスコーヒーだ。一樹自身、学園の食堂を利用した記憶は無い。

「ん?だってここ生徒用だろ?」

「職員の人もここ使ってるよ」

「……」

「……」

「…あ、俺用事が」

「「逃がさ(ないよ)(ねえよ)」」

席を立とうとする一樹を雪恵と一夏が捕まえる。力ずくで振りほどく事も出来るが、それは面倒なのか一樹は仕方なく座り直す。

「ハァ…」

「ねえかーくん。本当のところは?」

「…ストーンフリューゲルで腹を満たしてるよ」

「え?そうなのか?」

あっさり一樹の言葉を信じかける一夏だが、『案内人(ナビゲーター)』の雪恵は違う。

「かーくん、私にその嘘が通じると思う?」

「…だよな…分かった分かった。俺は4月から碌に食べてねえよ」

「「「「ブッ⁉︎」」」」

箒と代表候補生組みは思わず吹き出す。何せ今は9月頭。単純計算しても5ヶ月近く碌に食べてないのだから驚くのも当然だろう。

「…何で?間食は別だけど、3食分は学園が支給してくれる筈だけど?」

「雪、生徒手帳を“ちゃんと”読んでみろ」

ちゃんと、を強調する一樹。雪恵はそれを訝しげに思いながらも生徒手帳を開く。そこには…

「『IS学園では、学園内で健康的な生活を送ってもらうために、“生徒には”毎日3食分の食券を配布しています』…え?」

「気付いたか?」

雪恵は何かに気付いた様だが、他は違和感を感じないらしい。それのどこに問題があるのだろうか。

「…さて、ここで根本的な話をしようか」

雪恵以外の頭上に?が大量に浮かんでいるのが見えた一樹が説明する。

「まず、一夏の立場は?」

「「「「世界で初めてISを扱える男性」」」」

「…そして、俺は?」

「「「「その男性の護衛」」」」

「そう…そして、俺はISを扱えるか?」

「「「「…あ」」」」

「気付いたみてえだな。そういうこった。()()からしてみたら俺はただの護衛役でしかない。ISを扱えない奴を生徒として認めないから…」

「一樹には食券が渡されない…」

「当たり。しかも、俺がここで食事を買おうとすると割高になるんだよな。具体的には80%程」

「「「「高ッ⁉︎」」」」

「だろ?…ほんと、良い性格してるぜ教頭」

「…ねえかーくん。この中で食べたいものある?」

「んぁ?」

雪恵が差し出したメモには幾つかメニューが載っていた。一樹は深く考えずに…

「じゃあ、全部」

「ん、分かった」

「「「「…え?」」」」

 

数分後…

「…なあ、雪」

「何かーくん」

「これ、何?」

一樹の目の前には、大量の料理が置かれていた。

「え?かーくんが食べたいって言ったやつだよ?」

「聞いてんのはそこじゃねえよ!何でこうなってんのかって聞いてんだよ‼︎」

「あ、お金の事なら気にしないで。だってかーくんが送ってくれたお金から出した奴だし」

「万が一の為にとっておけよぉぉぉぉ‼︎」

「良いじゃん別に。私がしたい事をしただけだもん。それに、かーくん私が起きてからも『慰謝料』として送ってきてるでしょ?」

「……」

「だから、私がしたい様にする。食べて」

「……分かったよ」

食べ始める一樹。夏休み初頭の田中宅以来のまともな食事は、あっという間に一樹のお腹の中へ消えたのだった。




次話から更新速度をおとさせていただきます。

正直な話、ハイペース投稿を続けすぎて書き溜めが底をついたので…

大変申し訳ありません。


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Episode50 会議-コンファレンス-

何とか出来たの投稿します


「…なあ雪」

「…何?かーくん」

「…お前は、コレ賛成するの?」

「…幾らお祭りでも、コレは無いよ…」

「どこぞの第3位みたいにIS学園の広告塔にされてるな一夏」

「「……」」

一樹と雪恵が呆れ(というより疲れ?)の視線を向ける先のモニターに映っていたのは…

・織斑一夏とポッキーゲーム

「絶対にゲームで終わらないのが少なくとも5人いるな」

「5人で済むの?」

「やめろ雪。正確な数字は考えたくない」

・織斑一夏とツイスター

「…一夏のラッキースケベが狙いだろうな」

「同じ女子としてそれが狙いってどうかと思うよ…」

・織斑一夏のホストクラブ

「…一夏に接待してほしい全校の女子が集まるな…けどさ」

「私達いる意味ある?」

・織斑一夏と王様ゲーム

「「何を命令するつもり(だ)⁉︎」」

教壇に立っている一夏も口元がヒクヒク動いている。もちろん____

「全部却下」

「「「「えぇぇぇぇ⁉︎」」」」

聴力の良い一樹には地獄と言える1組女子の絶叫。ちょっと待て、何故箒とラウラまで愕然としている⁉︎

「誰が得するんだよこんなの⁉︎見世物じゃねえんだぞ‼︎」

「私は嬉しいね!断言するよ‼︎」

「先輩達が煩いんだよ!私達を助けると思って‼︎」

1組女子(雪恵以外)と口論を続ける一夏。

「雪、何か動きあったら起こして…」

「うん、分かった」

それを見ながら寝ようとする一樹。

「うおぉぉい⁉︎寝るな一樹!お前も参加しろ__ズガンッ‼︎__ヒィィ⁉︎」

突如一夏の両頬を擦り、後ろの壁に突き刺さるペーパーナイフ。投げたのは…

「お前、ケンカ売ってんのか?」

「かーくんに何させるつもり?私、気になるな〜」

呆れ顔の一樹と、笑顔(しかし目が笑ってない)の雪恵だった。

「あのな〜。仮にその4つの中から決まったとしよう。織斑一夏に接待してもらえる!wktkしてる女子生徒達。しかし出てきたのは俺だった!俺が殺されるわ‼︎」

「かーくんの意思と関係無くポッキーゲーム?ツイスター?ホストクラブ?王様ゲーム?私が全部独占し続けるよ?」

「「いや待て雪(恵)。その理屈はおかしい」」

なんでこうなったのか、それは今朝の集会が理由だった…

 

『はあい皆さん♪生徒会長の更識楯無よ』

壇上に上がって演説する楯無。この時点で一樹は嫌な予感しかしなかった。

「(そしてこの種類の俺の勘は異常な程的中するからな…)」

体育館の出入り口付近の壁に寄りかかっている一樹。視界の中央にいる一夏もまた、嫌な予感がしていた。

「(なんだろう…あのアマから悪意を感じる…)」

そんな男子2人の敵意を知ってか知らずか、楯無は続ける。

『そろそろ文化祭が近づいてきたわね?その文化祭関係の説明をさせて貰うわ。ただ文化祭をするだけじゃみんなのやる気も起きないだろうから…今年はあるサプライズがあるの』

「「(嫌な予感はコレか…)」」

表情が動く事は無いが、男子2人は心の中でため息をついた。

『学内アンケートで1位を取ったクラス・部活はなんと!織斑一夏君をそのクラス(期間限定)・部活に入れちゃいます‼︎』

楯無が宣言した瞬間、学園が揺れた。一方、当人である一夏は勿論知らない話なので…

「「「「どういう事⁉︎織斑君‼︎」」」」

クラスメイトの疑問に答える事が出来ない。ならばと1組勢の視線が一樹に向かうが…

ドゴンッッ‼︎‼︎

「あのアマ……良い度胸してるじゃねえか……」

ISと同じ材質で出来てる筈の壁が拳でぶち壊されていた。

「「「「………」」」」

静かに視線をずらす1組勢であった。

「しかもあのアマの事だ。一夏の事しか考えてねえだろうな」

「か、かーくん。どういう事?」

怒り狂う一樹に近づく雪恵。この状態の一樹とまともに会話出来るのはS.M.Sと雪恵だけだろう…

「あのアマが言ったろ?1位を取ったクラス(期間限定)・部活に一夏を入れるってな」

「う、うん。それで?」

「仮に3組が1位を取った場合、一夏が3組に行く事になる…ここまでは良いか?」

「うん」

「そうなった場合…護衛役だから自動的に俺も3組に行く事になる」

「え⁉︎だってかーくんの事は一言も…」

「ああ。俺の事を話したら途端に皆のやる気が無くなるのを知ってるからか、そもそも眼中に無いかのどちらかだろう。1組以外では、未だに俺は仕事をしないだらしない奴だと思ってるのが大半だからな」

自らがウルトラマンである事を、一樹は1組に明かした。他言無用である条件で…何とかそれで1組での()()()の環境を整えたというのに、またやり直しになるのは避けたい。

「表情を見る限り、千冬も今初めて知ったんだろ。でなきゃこんな案が通るはずが無い」

「…どうにか出来ないの?」

「あのアマは1位のクラス・部活に一夏を入れるって言った。なら、答えは簡単だ」

そこで一樹は、雪恵がぞっとする程好戦的な笑みを浮かべた。

「一夏が所属するクラス・部活を1位にするだけだ」

 

一樹の考えを雪恵がクラスに伝えたら…

『絶対に1位になってやる‼︎』

とメラメラ炎が燃え始めた。ここで冒頭に戻る。

「…なあ代表候補生’sと篠ノ之」

「「「「?」」」」

一樹はクラスメイトと激論を交わしてる一夏を一度無視し、代表候補生’sと箒に話しかける。

「…クラスの方はなんだかんだ一夏が出れば1位を取れるだろうけど、部活の問題が残ってる」

「「「「あ…」」」」

「そこで、さっき雪には話したんだが…」

一樹のいたずらっぽい笑顔を浮かべていると、自分の席で見ていた雪恵が近づいてきた。

「かーくん♪何話してるの?」

「さっき話した事だ。こればっかりは生徒の力借りなきゃいけないからな」

「あー。アレ?」

雪恵もいたずらっぽく笑う。意味が分からず、頭上に?を浮かべる箒達。

「お前たち、軽音楽部に入ってくれないか?」

一樹の提案は、箒達の度肝を抜いた。

 

とある部屋では、赤髪にバンダナを巻いた青年がギターをアンプに繋げずに弾いていた。青年の名は五反田弾。一夏、鈴、そして、一樹の中学からの友人であり、また…

「おい弾!さっきから呼んでるだろうが‼︎」

「ごめん宗介!全然聞こえなかった‼︎」

「ギター買えて嬉しいのは分かるけどさ。せめて自分を呼ぶ声には反応してくれ」

呆れ顔で弾に言う宗介。そう、弾もまた、S.M.Sの一員なのだ。

「はぁ…ほら、一樹から電話だ」

「へ?一樹から?」

携帯では無く、会社の電話にかける事から“仕事”の電話だ。だが、弾はMSも、Ex-アーマーも渡されていない。そのため、来る依頼と言えば引越し作業くらいだったのだが…

「とにかく出ろ。無い頭で難しく考えてもしょうがねえだろ」

「ちくしょう!何気に失礼な事を言われてるのに反論出来ねえ!」

宗介の言葉に泣きそうになるも、電話を受け取る弾。

「もしもし?電話変わりました」

『本当、無い頭で難しく考えてもしょうがないぞ?』

「一言目から容赦ないですね⁉︎なんの要件ですか⁉︎」

『ああ、明後日予定空けとけ。要件はそれだけだ』

「メールで充分じゃねえかよぉぉぉぉ‼︎」

『メールだとお前見たかどうか分からねえからな。とにかく、明後日はFBスタジオの前に16時に来い。良いな?』

「分かりましたよこんちくしょう!」

『あ、ちゃんと身なり整えとけよ?もしかしたらお前にも春が「どの様な服がよろしいでしょうか一樹様」って切り替え速えなオイ⁉︎普通で良いよ普通で!』

「では、明後日に。お待ちしております」

あくまで優雅に(弾的には)通話を切ると、弾は一馬の元にギターを習いに行くのだった。

 

「これで良しと…」

「…一馬じゃダメなのか?」

弾との通話を聞いていた一夏が心配気に話す。ちなみに現在地は整備室だ。

「バカかお前。お前と一馬じゃ面識が全く無いだろうが。いきなり会って気軽に話してたらお前がS.M.Sだって即バレだぞ」

「…あ、そうか」

こうして、軽音楽部創立が始まる。




次から投稿するときは0時としますので、0時頃確認してみて下さい。お願いします。


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Episode51 贈呈-プレゼント-

では、どうぞ!


そして約束の日の朝…一樹は一夏達の部屋に来ていた。

コンコン

「…誰か起きてるか?」

 

コンコン

ええ…こんな朝早くに誰?まだ眠いし、ちょっと悪いけど無視しよう…

『…誰か起きてるか?』

ガバッ←布団から勢いよく出る音。

シュタタ←服を抱えて風呂場に急ぐ音。

バタン←ドアを閉めた音

ババッ←一瞬で着替えた音

声で一樹だと判断し、ここまで僅か10秒。ドアに向かおうとしていた一夏も驚くほどの速さだ。

ガチャ

「おはようかーくん!」

 

「おはようかーくん!」

「……なんか、ごめんな」

「え?どうして?」

「…髪型」

「ふぇ?」

一樹は申し訳なさそうに雪恵の頭を指差す。雪恵が頭に手をやると、普段は綺麗に整えられている黒髪の一房が、アンテナの様に立っていた。

「……ッ!!?」

ビュンッ!と効果音が聞こえるのでないかという速さで雪恵は洗面所に戻った。苦笑いを浮かべながら、一樹はこの部屋もう1人の主に声をかける。

「入って良いか?一夏」

「おう。そろそろ来ると思って珈琲準備しておいた」

部屋に入ると机の上で美味そうな湯気を立てている珈琲に緑茶に紅茶があった。

「…じゃ、遠慮なく貰うぜ」

一樹は慣れた様に珈琲に手を伸ばす。ひと口飲み、ほっとひと息つく。

「…悪いな。こんな朝早くから」

「俺は気にしてない。どうせいつも6時には起きてるしな」

ちなみに現時刻は8時である。休日に行動を開始するにはすこし早い時間かもしれない。だが、この時間にせざるを得なかったのだ。

「(…またアイツ等が来られても面倒だからな)」

夏休みに箒達がS.M.S本社に来た時を考慮した一樹は朝から行動すると決めていた。

ガチャ…

「お、お待たせ…」

まだ顔が赤い雪恵が洗面所から出てきた。その頭に、可愛らしいヘアピンをつけて…

「…そのヘアピン、まだ持ってたんだな」

一樹は懐かしそうに雪恵に言う。そう、今雪恵がつけているヘアピンは…

「だって、コレはかーくんが初めてくれたプレゼントなんだもん…」

雪恵が6歳の誕生日の時に一樹が贈ったものだった。雪恵の名からとって、雪の結晶というシンプルなデザインで、雪恵の大のお気に入りとなったのだ。

「…ありがとな。話は変わるけど、一夏が紅茶淹れてくれたぞ」

「あ、本当だ。貰っていいの?」

「もちろん」

一夏から許可を貰った雪恵は、ミルクをひとつ入れ、美味そうに紅茶を飲む。雪恵が紅茶を飲んでいる間に、男子2人は準備を始める。一樹はIS学園の制服(冬服)を脱ぎ、ネクタイを締めてS.M.Sの上着を羽織る。

「ふぅ…やっと良い温度になった」

小声でそう呟く一樹。S.M.Sの上着の働きによって、漸く適正温度を感じられたためだ。なにせ普段は教室と食堂以外、空調とは名ばかりの整備室で過ごし、真夏日でも冬服を着せられてる(あまりの暑さにボタンは全開けだが)上に、まともな風呂も入れないのだ。これが一樹でなかったら2日目で体が壊れていただろう…

「…マジでシャワーだけでもここ使えよ」

そう一樹に提案しながら一夏もS.M.Sの上着を羽織る。今日の昼までは一夏もS.M.Sの人間として行動するのだ。

「馬鹿が。実質今教師達が夜に見回ってるのはな、俺が“生徒”の部屋で生活してないか確認するためなんだから出来る訳ねえだろうが」

新しい上着を取り出しながら一夏に言う一樹。

「ほい雪。ちょっとコレ着てくれ」

取り出すと同時に紅茶を飲み終えた雪恵に、新しい上着を渡す一樹。雪恵はIS学園の制服(夏服)の上に上着を羽織った。

「!?え?何コレ?…え?」

上着の適正温度変換機能に、雪恵が戸惑いの声を上げるが、男子2人は笑うだけだ。それに、すこし時間が押している。

「説明は着いてからしてやるよ。行くぜ」

 

校門から出た3人。一樹と一夏はすぐに携帯を操作した。雪恵が不思議そうに見るが、次の瞬間驚愕の声を上げた。理由は____

「えぇぇぇぇぇ!?」

無人のバイク2台が一樹と一夏の前に止まったからだ。

「ほい雪、メットは被ってな。俺と一夏、どっちの後ろに乗る?」

「かーくん!…っていや、まずこのバイクの説明を…」

「はいはい、とりあえず乗れって」

愛車、ビートチェイサー3000・ブルーフレームに跨る一樹。渋々と言った顔で雪恵は一樹の後ろに乗る。その後ろでは一夏もトライチェイサー2000改・ブラックヘッドに跨っていた。

「んじゃ、行くぜ」

「出発だ!!」

ビートチェイサー3000を先頭に、2台のバイクがIS学園から離れていった。

 

その頃の一夏の部屋では…

「一夏、朝食を食べに行くぞ」

箒達が一夏の部屋を訪問していた…が、当然返事がある筈が無い。不思議に思う5人だが、偶々通りがかった千冬の『織斑なら田中と朝から外出している』発言に、新たなライバル出現!?となっていたのは別の話。

 

バイクを1時間程走らせ、S.M.S本社に到着した3人。さっさと入ると、先に連絡しておいたからか、祐人が待っていた。

「おはよう2人とも。初めまして田中さん」

「な、何で私の名前を知ってるの!?」

「簡単だよ。俺が教えたから」

「教えてたんなら先に言っといてくれないかな!?」

流れる様にツッコミを入れる雪恵。面倒くさそうに一樹は頭を掻くと一言。

「S.M.Sの人間は皆が皆、雪の事を知ってる、説明終わり」

「いや、それで納得出来るわ「そうなんだ、なら自己紹介は必要ないね」…分かってた、雪恵はこういう子だって、分かってた」

どんよりと肩を落とす一夏。そんな一夏に、祐人は苦笑いを浮かべながら肩を軽く叩くのだった。

 

「今日雪に来てもらったのはあるモノを渡すためなんだ」

「…あるモノ?」

エレベーターで移動する3人、移動しながら雪恵に話す一樹。

「ああ。雪が起きたから、お祝いに束さんが専用機を作るって言い出したんだけど…」

「ちょっと待ってそれは色々まずくない!?」

「まずいな。現に代表候補生でもない篠ノ之が専用機を持ってる事で色々問題が上がってるし。まあそこら辺は知ったこっちゃねえがな」

他人の事情に首突っ込むもんじゃないし、と一樹は続ける。

「…まだ箒ちゃんの事怒ってるの?」

「いや、全然」

「…ならなんで?助けないの?」

「アイツの『ヒーロー』は俺じゃない」

「あ(察し)」

雪恵は納得したが、もう1人の搭乗者は違う様だ。

「え?箒のヒーローって誰だ?」

「「……」」

呆れを通り越して無視する一樹と雪恵。タイミング良く、目的の階に着いた様だ。

「…着いてきてくれ」

一樹の先頭に、3人はある部屋へと向かう。

「…ここだ」

エレベーターから降りて数分程歩くと、一樹はある扉の前で止まった。コンソールパネルを押し、扉を開く。

「…雪に渡すのはコレだ」

扉の奥で、雪恵を待っていたのは…

「『アストレイ・ゼロ』。シャルロットに与えた機体より先に開発されたモノだな。ストライクのバックパックが流用出来るのに加え、他にも豊富な追加装備が出来る。中々拡張性が高い機体だぜ」

「コレを…私に?」

雪恵に機体説明をする一樹。だが、一夏は機体名に驚く。

()()!?おま、雪恵になんちゅー機体渡そうとしてんの!?危なすぎだろうが!!」

「…は?」

「…は?じゃねえ!!お前以外にゼロシステムが扱える奴なんてS.M.Sでもいないだろうが!!」

「…いや、ゼロって名前はあくまで『最初の機体』って意味だから。ゼロシステムを搭載させとく訳ねえだろ。プラスそんなモノを世界に公表すると思うか?」

「…あ」

「納得してくれたようで何よりだ。さて、初期設定しちまうか雪」

「うん!!」

近くに用意しておいた更衣室に雪恵は向かう。雪恵が着替えている間に一樹は一夏に説明する。

「アストレイ・ゼロを雪の専用機にした理由はもちろん快復祝いってのもある。束さんのプレゼントってのもある。だが、1番の理由として…」

「雪恵を守るため…か?」

「…俺もガキじゃない。自分だけで守りきれるなんて思っちゃいねえしな。身を守る手段を渡したかったんだ…」

束からもプレゼントとしてコアを貰っている。問題点である所属はS.M.Sなので問題無い。ただ…

「…本当は別の機体渡したかったんだけどな…『生徒』として学園に通ってるから雪には情報公開の義務がある。だから___」

「…大した情報は無いアストレイ・ゼロにしたと?」

「…ああ」

世代的には第二世代の機体であるアストレイ・ゼロは、S.M.Sが作ったとしても所詮第二世代なのだ。あまり世界に情報公開しても意味がない。S.M.S独自の技術をあまり使っていないのも選ばれた理由だ。

2人が話していると、漸く雪恵がISスーツに着替えて戻ってきた。

「じゃ、お願いね!」

専用機を与えられて嬉しいのか、明るい笑顔でアストレイ・ゼロに背中を預ける雪恵。一樹はすぐに空中投影キーボードを高速で叩く。ものの数十秒で初期設定、第一次移行は終了した。

「…解除してみて」

一樹の言葉に、雪恵がISを解除すると、アストレイ・ゼロは右手中指の指輪になった。

「ありがとう!かーくん」

「…ああ。さて、ちょっと動かしてこい。相手は一夏だ」

「うん!」

しばらく雪恵は、一夏を相手にアストレイ・ゼロの調整をするのだった。




では、また次回。


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Episode52 開始-スタート-

なかなか5巻の話が進まない件


「アストレイ・ゼロの性能は理解出来たか?雪」

「うん!最高だね、この機体」

「換装すれば地球上で活動出来ない所はほぼ無いからな。まあとりあえず…」

アストレイ・ゼロに繋げられているパソコンを操作。アストレイ・ゼロのバックパックをM1ブースターにした。

「基本はコレで良いだろ。アストレイ・ゼロの性能とのバランスも良いし」

さらに標準装備であるビームライフル、ビームサーベル、シールドも忘れない。

「あれ?かーくん、シールドは要らないんじゃない?」

「悪いな。コレ付けとかないと安心出来ないんだわ」

IS戦闘歴よりMS戦闘歴の方が長い一樹にとって、シールドエネルギーで身を守るISであっても物理シールドは外せないのだ。

「…一応ISにはビームシールドが標準装備されてるよ?」

「アレはエネルギー喰うから多用出来ないぞ。物理シールドとビームシールドの両方持ちしとけば防御分のエネルギーが減るのは間違いないし。それに雪は右利きだろ?」

「え?うん、そうだけど?」

「両利きでもない限り、両手に武器を持って同じ様に扱うのはかなり訓練が必要だ。シールドならそこまで細かい作業を考えないで済むから持っとけ」

「かーくんがそこまで言うならそうなんだね。分かった。メインはこれでいくね」

 

アストレイ・ゼロの細かい設定を終え、雪恵と社長室に行く一樹。一夏は格納庫でマードック達と麒麟の整備に行っている。雪恵はノックもせずに扉を開ける一樹に驚く。

「ちょ、かーくん!ノックしないと!!」

「……え?何で?」

本気で分からなそうな顔をする一樹に、雪恵は叫ぶ。

「いやだって社長室だよ!?普通そんな風に入ったらクビだよ!?」

「……なあ雪。案内人(ナビゲーター)って適能者(デュナミスト)の生活を把握してるんじゃないの?」

「してないよ!!案内人(ナビゲーター)ってそこまで自由に動ける訳じゃないんだからね!!分かってるのはかーくんがデュナミストだって事とウルトラマンの能力、ストーンフリューゲルの能力、デュナミストの能力くらいだよ!!」

「…つまりウルトラマン関係のみに制約されてるんだな」

「そういうこと…って話を逸らさないで!!」

「いや、逸らしてねえよ。じゃ、改めて自己紹介だ」

「…え?」

呆然とする雪恵を置いといて、一樹は社長席の前で立ち…

「S.M.S『社長』の櫻井一樹だ。世間には学生が社長やってるって知られたら面倒だから2人いる副社長の内、年齢も上の『ジェフリー・ワイルダー』が社長って事になってる。ちなみにもう1人は…」

一樹は雪恵の後ろを指差す。雪恵が後ろを向くと、爽やかな笑顔を浮かべたイケメン青年が立っていた。

「S.M.S『副社長』の櫻井宗介。苗字が一緒なのは従兄弟だから。これからよろしく___ぐべらしゃ!?」

自己紹介中の宗介の頭にプラスチック製のハンマーが落とされた。

「バカ兄貴!また女の子口説いてんのか!!いい加減にしろ!!理香子さんがどれだけ悲しむか分かってんのか!?」

「ちょ、柚希ちゃん!宗介は口説いてないよ!!」

宗介の頭にハンマーを落とした張本人の茶髪で小柄な美少女と、その少女をなだめている黒髪ロングのこれまた美少女が雪恵の前に現れた。

「…雪、こういう光景はS.M.Sではよく見るから早めに慣れる様に」

「無理だよ!!IS学園より数多いんでしょ!?」

「心配すんな。IS学園よりずっと平和だ」

「どこが!?」

「…じゃれてる装備がピコピコハンマーとかだから」

「「「「……ごめん(なさい)」」」」

一樹の遠い目に、その場にいた全員がすぐさま頭を下げたのだった。

「き、気を取り直して!俺を呼ぶ時は一樹と混合…はしないか雪恵さんの場合。まあ、好きに呼んでくれ」

気を取り直した宗介が自己紹介を締めると、すぐに少女達も自己紹介を始めた。

「さ、櫻井柚希です。このバカ兄貴とは悲しいことに実の兄妹です」

「柚希さん?お兄ちゃんそろそろ泣いちゃうよ?」

「たはは…」

目の前で行われる兄妹のじゃれ合いに苦笑する雪恵。

「なんか…かーくんと舞ちゃんみたいだね」

一樹とその義妹のノリを思い出す雪恵。

「いや、俺と舞はこうじゃなくね?…話が逸れたな。理香子、自己紹介してやってくれ」

「う、うん。瀬川理香子です。S.M.Sでは主に事務や料理を担当しています。よろしくね」

「ちなみに俺の彼女」

宗介が宣言すると、理香子は恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「…平和だなぁ」

「平和だねぇ…」

熟年夫婦の様にお茶を飲む一樹と雪恵。タイミングまでぴったしだ。

「柚希も飲むか?」

「はい!!」

後ろのイチャつきカップルをスルーしてお茶を飲む3人。終わりの雰囲気が出てるが…

「ちょっと待って下さい!まだ私が出てませんよ!!」

「あ、舞」

「「舞ちゃん(さん)!?」」

「ここで出てこなかったら、今後出番が無いじゃ無いですか!」

「「舞(ちゃん)、メタい」」

「私は義兄さんの1番近い人間ですよ⁉︎出ないと義兄さんが動きにくいじゃないですか⁉︎」

「「だからメタいって!!」」

軽く暴走をしかけてる少女、一樹と同じ孤児院で生活する高橋舞だ。

 

「で、一樹。一夏の学園生活はどんな感じよ?」

自己紹介を終え、宗介が気になっていた事を聞く。

「…大方予想してんだろ?」

「「「あ、やっぱり?」」」

「「ハーレム築いてるよ」」

誰がハーレム野郎だ!!!!

一樹と雪恵の言葉に、どこからか反論の声が聞こえた。

「…何か聞こえたけど?」

「気にすんな。ただの幻聴だ」

「「「気にするよ(します)!!」」」

「…ここでは割と日常茶飯事だぞ」

「そうね…よくここにはいないはずの誰かが話してるわね」

宗介と理香子が遠い目で話す。そこに一樹が具体例を挙げた。

「ある『世界』の最狂とか最凶とかムッツリー二とか性別『秀吉』とかな」

あァ!?喧嘩売ってンのかァ!?

根性入れてやるからかかってこい!!

…ムッツリーニと呼ぶな!!

ワシは男じゃ!!

「「「…」」」

「な?だから慣れろ」

「「「はい…」」」

 

「さて、そろそろ時間だな。行くぞ雪、一夏」

「うん!」

「おう」

弾達との約束の時間が近づいたため、S.M.S本社から出ようとする3人。そこでS.M.Sの上着を脱ぐ一夏を見て、雪恵は不思議そうな顔をする。

「なんで織斑君は上着脱いでるの?コレ快適じゃん」

「…アイツがS.M.S隊員だって知られないためだよ。知られたら色々面倒な事になるしな」

「…あ~、納得。それじゃ私もコレ脱いだ方が良い?」

「ああ。俺もコレ脱がなきゃな」

一樹はそう言って上着を脱ぐと、嫌々IS学園冬服を羽織る。例の如く前のボタンは全開けだが…

「さて、行くか」

3人は正面玄関に向かった。

 

FBスタジオには弾以外の全員が揃っていた。

「ようみんな」

「「「「一夏!雪恵(さん)と何してたか教えなさい!!!」」」」

合流して早々修羅場る一夏。泣きそうな顔を一樹に向ける一夏だが…

『ISを使うor危険な場合以外止めん』

と、アイコンタクトで告げられてしまった。

『そんな殺生な!?』

『文句あんならとっとと潰すか誰か決めろ』

『…え?ちょっと待って。決めろって何を?』

『………』

とうとう無視を始めた一樹。数分間、一夏の修羅場は続いた。

 

「おーい一樹!お待たせ!!」

あ、初めまして。俺、五反田弾って言います。なんか追憶編以来出番無かったんですけど、一応ザ・ワン事件の後、一夏と一緒にS.M.Sに入隊してたんですよ?で、今俺は待ち合わせの30分前に待ち合わせ場所に着いたんですけど、そしたらもう一樹と一夏がいるんすよ!?やば、コレ遅刻になっちまうのかな!?

「心配すんな弾。まだ待ち合わせの30分前だ。IS学園のモノレールの都合上、この時間に来ただけだ」

俺の表情を読んだのか、一樹が説明してくれた。良かった~ん?

「げっ!?鈴!?」

「げげっ!?弾!?」

 

「「うわぁ…息ぴったし」」

弾と鈴の顔合わせの反応の見た一樹と雪恵の反応がコレだった。

「「「「(あなた達の方が息ぴったしだけど!?)」」」」

一樹と雪恵以外の全員の心がひとつになった瞬間だった。

「ま、何でも良いや。とにかく入ろうぜ」

FBスタジオに入り、受付に声をかける一樹。

「すみません、予約していた櫻井ですが…」

「櫻井様ですね。会員カードはお持ちですか?」

「はい」

一樹が会員カードを渡すと、店員の顔色が変わった。営業スマイルから、驚愕へと…

「こ、このカードは!?あの企業にしか使用できない筈の…すいません、店長を呼んできますね」

「ええ、お願いします」

苦笑いを浮かべながら促す一樹。一夏と弾もバレない程度に苦笑いを浮かべていた。すぐに店員に連れられて店長が来た。店長は一樹と一夏と弾の顔を見ると、すぐに笑顔を浮かべて近づいてきた。

「これはこれは、お久しぶりです一樹さん」

「お久しぶりです店長。今日あの部屋使えますか?」

話しながら紙に『一夏と弾が隊員なのは言わないでください』と書く一樹。店長もそれを確認するとすぐに紙を懐に入れた。

「ええ。あの部屋はS.M.S専用ですから。鍵はこちらになります」

「ありがとうございます」

こうして、軽音部としての活動が始まる!!




では、また次回。


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Episode53 対面-ファースト・コンタクト-

やっと…やっとあの子の名前が出せる…


「さて、お前らにひとつ聞く。楽器の経験はあるか?ぶっちゃけ、雪以外期待してないが」

一樹の質問に、それぞれ反論しようとする4人(ラウラは黙って聞いていた)に、雪恵が補足説明する。

「この場合の楽器っていうのはバンドによく使われているエレキギター、エレキベース、キーボード、ドラムかな。リコーダー、バイオリンとかじゃないよ?それでもかーくんに文句ある?」

「「「「すいません何でもありません」」」」

雪恵の目のハイライトが消えた瞬間、4人は直角に腰を折った。

 

「じゃあ大丈夫だと思うが、バンドがどんなものか見てもらうか。一夏、弾、準備は?」

「「いつでも!」」

「よっしゃ」

2人の準備が完了している事が分かると、一樹はドラムの椅子に座る。そして、弾はエレキギターを、一夏はエレキベースをそれぞれアンプに繋いだ。

「3、2、1、0!」

一樹の合図に、一夏と弾もそれぞれ楽器を弾く。曲はドラマの主題歌にもなった『虹』だ。ボーカルの一夏は、メロディに合わせて歌う。一番のサビまで歌い切ると、聞いていた女子6人の(主に一夏へ)惜しみのない拍手が送られた。

「ありがとう!」

「「(視線をあれだけ感じながら気づかないのか…末期だな)」」

一樹と弾が呆れるが、いつもの事なので、すぐに気持ちを切り替える。

「さて、じゃあそれぞれやりたいのを言ってみてくれ。それでやってみてセンスの良い奴を選ぶ。悪いが今回は絶対勝たなきゃならないからな。実力主義で進めさせてもらう」

 

結果…

ボーカル→田中雪恵

ギター→凰鈴音

ベース→ラウラ・ボーデヴィッヒ

キーボード→シャルロット・デュノア

ドラム→篠ノ之箒

楽器調達係→セシリア・オルコット

 

「納得いきませんわ!何故わたくしは出られませんの⁉︎」

「何故私がお前から教わらなきゃならないんだ‼︎」

「なんでアタシのコーチが弾なのよ‼︎」

と、一樹の発表したポジションに納得のいかない面々が文句を言いはじめる。箒に関しては雪恵が“笑顔”を向けたら黙ったが。

「まあ焦るな。ちゃんと説明するから」

文句を言われるのは慣れてるため、一樹は特に気にせず話し始める。

「まずオルコットが調達係にされた一番の理由。それは、財力だ」

「なんですって⁉︎」

「誤解の無いよう言っとくが、別に俺が貰おうとかそういう訳じゃないし、スタジオ代を頼んでる訳でも無い。ここまでは良いか?」

「…はい」

一樹が静かに話し始めると、落ち着いてきたのかセシリアも冷静に聞く。

「オルコットは知ってると思うが、楽器ってのは中々高い。みんな代表候補生(篠ノ之除く)として稼ぎはあるだろうけど、多分足りない」

「そんな!代表候補生の給料はそんな少なくは…」

「これは雪から聞いたんだがな。女子ってのは色々と買う物も多いそうだな?」

「…そうですわね」

「代表候補生の給料といえど、その買い物+楽器代はかなり無理があると思うんだが…ちなみに楽器の値段はこれくらいだ」

一樹が参考までにエレキギターの値段(ワザと高めのが多い物)を見せる。それを横から見たシャルロットは叫ぶ。

「無理無理無理!こんな値段するならその月他に何も買えなくなっちゃう!」

「これで本体だけの値段だからな。さらに弾くためのピックって道具や運ぶためのバックなんか入れるともっと高くなる」

「た、確かにこのお値段は代表候補生のお給料では手に余りますわね…」

セシリアもカタログを見て、調達係に納得しかけている。

「(たたむなら今だな)」

「(一夏、オルコットさんに…)」

「(え?…はぁ、よく分からんが了解だ)なあセシリア」

「は、はい!何でしょう一夏さん」

「これはセシリアにしか出来ない事なんだ。頼む!やってくれ!」

「分かりました!このセシリア・オルコット、最高の楽器を手に入れてさしあげますわ‼︎」

「「(チョロい。流石オルコットさんチョロい)」」

一夏の懇願がトドメとなり、セシリアが調達係に決定。一樹と弾もここまで上手くいくとは思ってなかったが…そして、次は…

「篠ノ之、安心しろ。お前に教えるのは俺じゃない」

「何⁉︎では一夏か⁉︎」

「いや、俺でも無いぜ。箒とシャルに教えるのは雪恵だ」

「「え?」」

意外そうな声を出す2人に、雪恵は頬を膨らませる。

「もう!私だってちゃんと教えられるんだからね!」

「いや、そこを疑ってるわけじゃ無いんだ…」

「雪恵さん、2人も受け持って大丈夫なの?」

シャルロットの疑問に、雪恵は笑顔で答える。

「うん!大丈夫だよ。キーボードは元々得意だし、ドラムもかーくんに教わったからバッチリだよ!」

サムズアップまでしてみせる雪恵。一樹が試しにドラムを叩かせると、一樹レベルではないが十分上手いと言えるレベルだった。箒達が納得したところで一樹は鈴とラウラに聞く。

「…流れは分かるな?」

「…少なくともアタシのコーチは弾なのは分かった」

「私のコーチは一夏か?」

「…いや、2人とも弾だ。一夏に誰かのコーチさせたら、残ったお前ら絶対暴れるだろ?」

「「…」」フイッ

露骨に目を逸らす鈴とラウラ。一樹はため息をつくと、弾に指示を出して、一夏と曲選びを始めるのだった。

 

それから数日後、元々隠れ蓑として一夏が入部していた軽音楽部とは別の軽音楽部に5人は入部。雪恵が全員の面倒を見る形で猛練習を続けていた。

「箒ちゃん!ドラムはただ力強く叩けば良いって事じゃないの‼︎鈴ちゃん!ピックの持ち方はこうだって何度教えれば分かるの⁉︎ラウラちゃんはラウラちゃんでそもそもベースの持ち方が違うし‼︎シャルロットちゃん!メトロームとタイミング合ってないよ‼︎」

一樹に頼まれたからか、雪恵の鬼気迫るオーラに…

「「「「いっそ殺してぇぇぇぇ‼︎」」」」

千冬以上に恐怖を感じる5人だった。

 

「麒麟の調整も済んだし、整備室にで、も…」

一夏が第4整備室の前で見たのは、どこかで見た覚えのある水色の髪の少女が整備室に入っていく所だった。

「(今は一樹がいるはず…まさか!)」

普段から制服に隠し持っている拳銃を取り出し、整備室に近づく一夏だが…

「学園でそんな物騒なモンだしてんじゃねえ馬鹿」

ゴチンッッッ‼︎

「イッテェェェェ⁉︎」

一樹の拳骨が脳天に落ちた。一瞬目の前に星が見えたが、流石は一樹、すぐに痛みは引いた。一夏は素早く拳銃をしまいながら一樹に聞く。

「なあ一樹。さっき入って行った子って…」

「お前のせいで専用機を与えられなかった子だ」

「いや、俺のせいって言われても…俺だって入りたくてここに来た訳じゃないし」

「弾が聞いたら大泣きするセリフだな…」

呆れた顔の一樹は、肩掛けバックを抱え直し、整備室に入ろうとする。

コンコン

『…誰?』

「櫻井一樹だ」

『…どうぞ』

許可が下りたので整備室に入る一樹。その後ろで申し訳なさそうに入る一夏。一夏の顔を見た少女は厳しい表情になった。

「…何しに来たの?」

「いや、俺は一樹に…」

助けを求める様に一樹を見ると、呆れた顔で一樹が話す。

「更識さん、コイツの噂聞いてる?」

「噂って…学校内での事?」

「そうそう、それそれ」

「…代表候補生を全員倒したって事ぐらいだけど…」

少女の言葉を聞くと、一樹は携帯を取り出し、ある所へ電話をかける。相手は…

「あ、黛さん。学園内の一夏関係の記事を全部集めたスクラップブックあります?それを食堂まで持ってきてくれませんか?」

 

食堂で黛から一夏関係のスクラップブックを借りた一樹。

「すみません、ありがとうございます」

「これくらい全然平気だよ。何せ櫻井君には2度も命を助けられてるんだから…」

「おっと、それはオフレコですよ」

冗談を交えて制止する一樹。苦笑しながらスクラップブックを受け取る。

「じゃあ、30分程借りますね」

「それは良いんだけど、誰に見せるの?流石に学園外の人はやめて欲しいんだけど…」

「心配いりませんよ。見せるのはこの学園の1年生ですから」

 

「……」

第4整備室で、更識は一樹から渡されたスクラップブックを見ていた。その内容は主に【織斑一夏を落とすのは誰か⁉︎】だ。しかも裏では賭けも行っているらしく、1学期末の時点では____

本命 篠ノ之箒 1.26倍

2番人気 セシリア・オルコット 1.95倍

3番人気 ラウラ・ボーデヴィッヒ 2.05倍

4番人気 シャルロット・デュノア 2.75倍

大穴 凰鈴音 5.89倍

となっていた。今までの戦いの記事を読んだ更識は一樹に一言。

「…苦労してるね」

「分かってくれるか?」

苦笑いを浮かべながら聞く一樹。

「…これからも頑張ってね」

「応援ありがとう…」

一方、何の話をしているのか全く分からない一夏。

「なあ一樹。さっきから何の話してるんだ?そしてそのスクラップブックは何だ?」

「今のお前じゃあ一生分かんねえよこの中途半端ニュータイプ」

「いきなり罵られたとな⁉︎」

その一樹と一夏の漫才?を見た水色の髪の少女は、小さく笑っていた。

 

『私には、あなたを殴る資格がある。でも、疲れるからやらない』

「…」

あの後、水色の髪の少女に言われた事を寝転びながら一夏は考えていた。

「ねえ織斑君、何か悩み事?」

ルームメイトである雪恵が一夏に聞く。どうやらいつの間にか顔を険しくさせていた様だ。

「なあ雪恵、もし、自分の専用機が誰かに割り込まれたらどう思う?」

「うーん…やっぱり、悲しいかな。しばらくは自棄になってるかも。でも、しょうがないって事で納得するかな」

雪恵の答えを聞き、やはり自分の専用機、“白式”が彼女の専用機製作に割り込んだのだろう。一樹から聞いた話では、彼女は日本の代表候補生らしい。努力してとった候補生の座なのに、たかが動かせれるだけの男(発覚当時)に、割り込まれれば、そりゃ怒るだろう。

「(だけど、白式の開発は初期も初期でS.M.Sが製作することになった。倉持技研はISを、すぐにとは言わないが1学期中には作れた筈だ。何か裏がありそうだな…調べて)」

『余計な事をするなら俺はお前を許さない』

突如一夏の脳裏に響く声。一樹が整備室からプライベートチャネルを飛ばして来たのだ。

『でも一樹!白式が彼女のIS完成を邪魔したとしても、1学期中には出来てる筈だ!白式は結局S.M.Sが製作したんだから!』

一夏もコアネットワークで口に出さずに一樹に反論する。だが、一樹には通じない。

『それ以上踏み込む権限はお前には無い。ほぼ上下関係の無いS.M.S内でも、“TOP7”があるのはお前でも知ってる筈だ』

基本的にS.M.S内の上下関係は適当だ。だが、事情報に関しては部門毎に分けられ、全てを知っているのは創設者である一樹と創設メンバーの5人の青年、そして、世間一般に発表されているトップである翁を合わせた7人だけが、全ての情報を統括している。世界各国に支社を持っていて、上下関係も適当なS.M.Sで唯一強固にされている“ルール”だ。

『嫌な言い方をすればお前はまだまだその域に達していない。お前独自の判断で外の情報を調べる事は出来ないんだよ。“防衛科”の織斑一夏』

『……』

『“情報科”ですら俺の指示、もしくは他のTOP7の内の3人の許可が無ければ外の情報を探しに行く事は出来ないんだ。防衛科のお前なら俺以外のパターンならTOP7の内5人のサインと書類がいるな。それを忘れたとは言わせねえ』

S.M.Sの情報収集方法を簡単に纏めるなら、出版社や新聞社が挙げられるだろうか。それぞれの担当する部門の記事を書き、それを編集長であるTOP7が纏める…S.M.Sの扱う情報はとてもデリケートなものが多い。実際はそう簡単なものでは無いが、大雑把に言えばこんな感じだ。そして、一夏は言うなれば情報を細かく知る必要のない“印刷係”でしかないのだ。

『今回のケースは特に個人情報が関わる。万が一の事があったら遅いんだ。お前がS.M.Sに所属してる事がバレるだけじゃない。S.M.S独自の技術が流れちまう危険性もある、何より最悪なのは…あの子の個人情報が外に出る事だ』

一樹の声はいつも以上に冷たい。だが、それだけ彼は心配なのだ。一夏の能力が、機体とのシンクロ率が外に漏れるのを…束ですら、一樹達のかけたプロテクトを破れない。だが、搭乗者本人である一夏がそのプロテクトを破ったら、何の意味も無いのだ…

 

「だから…余計な事はすんじゃねえぞ」

最後にそう言うと、一樹はプライベートチャネルを切った。

「…くそッ‼︎」

ガァァァァンッ!!!!!

壁を思いっきり殴る一樹。こんな言い方しか出来ない自分が情けない…だが、一樹には譲れない理由があった。

「…お前は、暗部の『闇』には関わらせない」

 

一樹にあれだけ強く言われた以上、S.M.Sで情報を見る事は出来ない。だが、それでもある程度は知る事が出来る。自室に元々置かれているパソコンを開き、普通にネット検索を始める。

「検索キーワードは、『今年度の日本代表候補生』…うわ、ヒット数少なッ⁉︎」

まあそのおかげで楽に検索出来るけどさ、と一夏は小声で呟く。日本政府が公表している候補生の中に、あの水色の髪の少女がいた。

「“更識 簪”、か…更識家って事は下手に下の名前を呼ばない方が良いな」

先代の更識楯無にはよく情報提供をするのにS.M.Sはコンタクトを取っており、その時祐人から____

『更識家の女性は本人の許しが無い限り、下の名前で呼んじゃいけないらしいぜ。詳しくは俺も知らねえが、由緒正しい家だとやっぱ色々あんのな』

____とざっくり説明された事があった。

「専用機名は“打鉄弐式(製作途中)”って表記されてるけど…何処で作ってるんだ?」

だが、いくら探しても製作してるのはどこなのか分からなかった。他の代表候補生の専用機の製作先はきちんと明記されている点から、いくら日本の『暗部』の家系であるとはいえ、製作先を隠すことは出来ない筈だ。これ以上調べられない事が分かると、パソコンを閉じ、塾考するための装備(質のいい煎茶が一夏のジャスティス)を準備すると、一口飲んでから思考モードに入っていった。

 

数日後、一夏が廊下を歩いていると、簪が前からこちらに歩いてきた。一夏は軽く会釈するも、少女はガン無視だった。

「何もそこまで嫌わなくても…」

「おぉ?少年、この花園でとうとうナンパを始めるおつもりかな?」

「いくら俺が気に入らないからって、会釈くらい返してくれても良いじゃん…」

「あれ?先輩を無視とはいただけないなぁ〜。今ならまだ許してあげるから返事しよっか」

「ハァ、一樹でも誘って食堂でやけ食いするか…今度こそアイツには飯食わせないと…」

「あの、織斑君?そろそろ反応してくれないとお姉さん、困るんだけど…」

「えっと、電話電話っと」

「泣くわよ?年甲斐もなく泣くわよ?こんな所で私が泣け叫んだら女尊男卑な今時、あなたが負けるわよ?それでも良いの?」

「…ハァ」

さっきから必死で無視していた対象に、漸く視線を向ける一夏。

「…何の用ですか」

「君、あの子の事調べてるみたいだね。女の子のプライベートを覗くなんて、良くないゾ?」

「…(プライベートは覗いてねえだろうが)」

表情にこそ出さないが、一夏の内心はイライラがとっくに最高潮に達していた。それでも目の前の迷惑極まりない動物は一応…一応!先輩なので仕方なく相手をする。

「…んで、そろそろ本題に入ってくれませんかこのクソアマ。これから食堂に行きたいので手早くお願いしますねこのクソアマ」

「語尾と圧が隠しきれてないわよ〜先輩にそんな態度で良いのかな〜社会に出た時大変よ?」

扇子には『無礼』の二文字があるが、先に無礼な事をしたのはどちらだろうか。

「…あの子に嫌われてる事に関しては仕方ないにしても、アンタに礼節を説かれる謂れはねえな…」

「あら?意外に短気なのかしら?短気な男の子はモテないわよ?」

「生憎、短気じゃなくてもモテない男を俺は知ってるので。ソイツ曰く、『結局必要なのは顔なんだよな…整形でもしねえ限り俺には彼女出来ないのかよチクショー‼︎』だそうですけど?」

ちなみに『』の発言は弾が中学時代に言っていた言葉だ。ちなみにこの発言の後、一樹に____

『いい奴として認識されてるだけまだ希望があると思うけど…』

____と悲しげに言われた瞬間、0.2秒の速さで綺麗な土下座を決めていたのは別の話。

「妙にリアルな発言ね…ちょっと同意しそうだから何も言えないわ」

「そうですか、ではまた」

「いや、話はまだ終わってないからね?」

「チッ…」

舌打ちすると、目線だけで楯無をさっさと話せと圧をかける。

「この間の提案、どうだったかな?」

「もう最悪も最悪。こんな人権って言葉も知らないメス猿の下にいなきゃいけないとか苦痛過ぎる」

「…流石の私もそろそろ怒るよ?」

「街に出た事あるか?こんな言葉しょっちゅう聞くぜ。お前ら女が言ってるのはもっと酷いのもあるが、聞きたいか?」

「…女尊男卑の世の中、その程度の言葉で怒るなんて大人気ない」

「…小学校4年からずっと聞かされてても、そんな事言えるか?あまり自分勝手な事してんじゃ…オゴッ⁉︎」

「へ?」

思わず間抜けな声が出る楯無。自分に強烈な怒気を向けていた男子の脳天に、拳が落ちてきたから無理もない。

「…いつまで経っても部屋に戻らねえって雪から連絡があったから探してみたら…何やってんだテメエ?」

一夏の後ろから、見るからに不機嫌そうな一樹が現れた。

「いってえ…気配消してくるのは反則だぞ?」

「…うっさい。早く食堂に行け。こちとら“クソアマ”の“勝手な”判断のせいで忙しいんだ。さっさと飯食って部屋に戻れ」

「は、はい!」

言葉の節々から感じられる一樹の怒りに、一夏は猛スピードで食堂へ向かった。

「…アンタも食堂に行った方が良いんじゃねえか?いくら生徒会長でも門限みてえなのはあんだろ?」

「そういうあなたこそ、いつも何もしてるのかしら?巡回して女子生徒を襲ったりなんかしてないでしょうね?」

あからさまに警戒心を顔に出す楯無。そんな楯無に一樹は呆れながら話す。

「防犯カメラ見てるんだろ?俺が入った事があるのは第4整備室、1-1教室、アリーナ、管制室、屋上、一夏の部屋、この4つ以外では精々男子用トイレと食堂くらいだ。何か言い忘れてる所はあんのか?」

「……」

「この数ヶ月、水のシャワーで体を洗って、クソ暑い中冬服しか着れず、洗濯もこのご時世に手洗いだ。挙げ句の果てには食堂で飯を食おうにも追加料金80%…ほぼ2倍の値段ときた。これ以上まだなんかあんのか?え?人権って言葉を辞書で引いてこいよ。これら全てを教頭と決めたIS学園最強の生徒会長さんよぉ」

憎々しげに楯無を睨むと、整備室へ帰ろうとする一樹。その一樹の背中へ…

「…ッ‼︎」

専用IS、ミステリアス・レイディを完全展開し、水の槍、碧流旋を一樹に突き刺そうと猛スピードで突進。だが________

「…」

一樹は見もしないでジャンプ。バック転で楯無の突進を避けると面倒くさそうな顔でため息をつく。

「ハァ…」

その表情のまま、指を鳴らした。

パチンッ!!!!!

指を鳴らした意味も考えずに楯無は再度突進する。一樹の体が一瞬光る。Ex-アーマー、フリーダムが装備され、背面飛行で楯無の攻撃を避けながら他に人のいないアリーナへ移動する。

「(一夏に言った言葉思い出してくださーい、生徒会長さん…)」

頭に血が上っているのか、ナノマシンは使わずに碧流旋のみで攻撃してくる楯無。アリーナ上空へ着くと、一樹もビームサーベルを抜刀。ビーム刃を出したり引っ込めたりと、あくまで防御に専念する。

「遊んでやるよ。生徒会長さん」




では、また次回お会いしましょう。


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Episode54 前兆-プレマニシュン-

はてさて、何がおこるやら。


フリーダムのビームサーベルとミステリアス・レイディの碧流旋が空中で激しくぶつかり合う。だが、フリーダムはあくまで受け止めるだけで、全く攻撃しない。

「なんで攻撃してこないのよ⁉︎」

「馬鹿なクソガキ相手に本気になるのは大人気ないだろ?」

「とことん馬鹿にして…!私はロシア代表よ‼︎本気でこなきゃ死ぬわよ‼︎」

「って言ってる割には当たる予感すらしないんだが?」

確かに、更識楯無はロシア国家代表であり、IS学園最強なのだろう。だが、それは所詮『スポーツ』という枷の中での話だ。『戦い』を想定して鍛えている一夏や、『戦い』の専門家である一樹から見れば、子供がISを扱っているのと大差無いのだ。

「なら…‼︎」

楯無はミステリアス・レイディの能力、水蒸気爆発を起こすためにナノマシンを散布する楯無。ナノマシン越しに感じる敵意でそれを感じた一樹は驚愕する。

「(ッ⁉︎この馬鹿、アリーナ毎俺を吹っ飛ばす気か⁉︎)」

 

「(クソがッ‼︎)」

楯無の行おうとしている水蒸気爆発の範囲からアリーナを外すために、一樹はフリーダムを急浮上させる。いくらIS学園のアリーナでも、この規模の水蒸気爆発では破片が飛ぶ事だってあり得る。

「(この危険性が頭から抜けてやがるのか!ふざけんな‼︎)」

 

楯無は急浮上したフリーダムをナノマシンに追わせる。

「吹き飛びなさい‼︎‼︎」

楯無の意思に従い、ナノマシンは爆発を起こす。だが、楯無の目に映ったのは…

「(嘘⁉︎爆発の範囲から急加速で避けてる⁉︎)」

時にはバック転、時には舞う様に回転しながら浮上と、それを高速で行いながらナノマシンの爆発から逃れるフリーダムの動きに、楯無は空いた口が塞がらない。しかも、一樹はそれを対G性能が無いEx-アーマーでやっているのだ。楯無が思ってる以上に、この行動を行う一樹の技量、耐久力に知ってる者は驚く事だろう。

「だあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

全ての爆発を避けきった一樹はフリーダムを急降下させ、ビームサーベルで碧流旋を破壊した。呆然としていた楯無は、爆風によって体制を崩す。

「キャァァァ⁉︎」

更に一樹は右腰に装備されているもうひとつのビームサーベルも抜刀。右手のビームサーベルを順手、左手のビームサーベルを逆手で持ち、ミステリアス・レイディの武装を全て目にも留まらぬ速さで斬り捨てた。

「アアッ⁉︎」

まだ拡張領域に武装は残っているが、絶対防御が発動された影響で、その武装が使えるだけのシールドエネルギーは残されていない。楯無の完敗だ。

「少し頭を冷やすんだな‼︎」

更に楯無の両腕を拘束すると、アリーナの外で待機していた千冬に向かって投げ捨てる。

「この馬鹿の担任に伝えとけ!こいつのしでかそうとした事の愚かさと、教育の甘さをな‼︎」

「ああ…分かっている」

楯無を受け止めた千冬が弱々しく答えると、一樹は千冬とは別の方向で心配そうに自分を見上げる雪恵の元に降り、Ex-アーマーを解除した。

「かーくん、大丈夫?」

「体は全く問題無いぜ。ただ、イライラが止まらねえ。ちょっと一夏にコーヒー淹れてもらってくれ」

「うん、連絡しとく」

一樹のイライラをひしひしと感じながら、雪恵は一夏に連絡を入れるのだった。

 

「…で、珍しく俺の部屋に来てそんなにイラついてる訳か」

「分かってんなら早くコーヒー淹れろ」

「…はいはい。こりゃ相当だな」

普段、一樹はイライラしていても人にそれを見せる事は無い。だが、今回は下手したら人命がかかっていたため、一樹自身制御が効かなくなっている(といっても見せるだけで当たる事は無いのだが)のだ。

「かーくん、今丁度チョコレートあるんだけど、食べる?」

「悪い、一個くれ」

「はい」

雪恵から渡された一口チョコレートを食べながら、一夏が淹れたコーヒーを飲む一樹。いつもより少し多めにガムシロを入れたコーヒーは、一樹の気持ちをようやく落ち着けたのだった。

「ふう…ご馳走さん、助かったよ一夏」

「まあ、あのアマがやらかした事は俺もイラつくから、お前の気持ちも分かるよ」

苦笑いを浮かべる一夏に、一樹も苦笑いで返すと、部屋を出ようと立ち上がる。

「…じゃ、学園祭まであと少しだ。頑張れよ」

「おう」

「うん!」

 

翌日、その日の準備ノルマを達成した一夏。一樹、雪恵と共にアリーナに向かおうとすると、不貞腐れた顔の簪が大きな箱を抱えて待ち構えていた。

「…コレ、あなたに渡せって、宅配業者が」

「「え?」」

雪恵と一夏は不思議そうな顔をする。一樹は不審な物を見る目になっていた。

「…重いから、早く受け取って」

「あ、ああ。ありがとう」

一夏が受け取った瞬間、箱からピッ、ピッと音が聞こえ始めた。

「ッ⁉︎一夏寄越せ‼︎」

「あ、ちょ一樹‼︎」

一樹が一夏から箱をひったくると、近くの窓から飛び降り、即座にフリーダムを装備、急浮上した瞬間____

 

ドォォォォォォォンッ!!!!

 

____大爆発が起きた。

「ッ⁉︎」

「かーくん!!!!」

咄嗟に麒麟を展開して簪と雪恵を庇う一夏。雪恵は一樹の身を案ずる。

『一夏!大丈夫か⁉︎』

フリーダムから解放回線が飛んできた。フリーダムを宇宙対応モードに切り替えていたので、全身がPS装甲で守られていたのだ。一樹の声を聞き、ほっとする面々。

「ああ、俺達は大丈夫だ!」

『よし!ならすぐに千冬に連絡しろ!俺は束さんに連絡してここ30分以内に入った奴をチェックする!』

「了解だ‼︎」

しかし、束の腕を持ってしても、簪の言う宅配業者を見つける事は出来なかった…

 

そして学園祭当日…

「お帰りなさいませ、お嬢様」

結局、1年1組は『メイド・執事喫茶』となった。一応クラスの女子は全員メイド服(ここ重要。何故ならメイド服を着る事を喜んでいた金髪ショートの子がいるからだ)を着ている。そして唯一の男子である一夏は燕尾服を着て優雅に一礼してホールスタッフをしていた。ちなみにペア写真が1枚5000円というとんでもない値段でやっているのだが、これが大盛況である。もしかしたら既に売り上げ個数で1位を獲得しているかもしれない。そんな一夏を傍目に、ある一角では大泣きしている赤毛の長髪をバンダナで後ろに流している青年と、それを面倒そうに相手する青年がいた。

「ぢぐじょう"ぅぅぅぅ!何でアイツばっかりぃぃぃぃ⁉︎」

「お前そのリアクション何年続けるんだよ…」

赤毛の青年、五反田弾と一樹は、喫茶店の中でずっといる(無論こまめに注文している)のだが、一夏がキャーキャー言われている度に弾が泣くので、いい加減一樹もうんざりしてきた。

「…もうお前一人で学園回れよ」

「そんな事してみろ!さっき門で待ってるだけでも警備員呼ばれたのに今度は警察騒ぎだ‼︎」

「自覚してんなら大人しくしやがれ‼︎こっちだって見回りしたいんだよ‼︎」

「お前は良いよなあ!信頼出来る彼女が出来てよ‼︎」

「俺が迎えに行った時生徒会の先輩と仲良くしてたのはどこのどいつでしたっけぇ⁉︎」

「あの人は迎えが来るまで怪しまれない様にって事で話し相手になってくれてただけだよこんちくしょう‼︎」

「お前もかよ!お前も一夏と同じ唐変木かよ‼︎」

「ふざけんな!誰が唐変木だ誰が‼︎」

今にも取っ組み合いそうな雰囲気に…

「坊ちゃん方、他のお嬢様方のご迷惑になりますのでお静かにお願いします」

一夏が止めに入るが…

「「出たな元祖唐変木‼︎」」

「…誰が唐変木ですか。私は気の利く執事でございます」

「「嘘ついてんじゃねえこの中途半端ニュータイプ‼︎」」

「誰が中途半端ニュータイプじゃゴラァ‼︎‼︎」

止めに入った一夏ですら取っ組み合いに参加しかける始末…そこに____

ガンッ!!

ガンッ!!

「「イッテェェェェェ‼︎⁉︎」」

「五反田君も織斑君も静かに!他のお客さんの迷惑でしょ‼︎」

雪恵がトレイで一夏と弾の頭を強めに叩いた。

「た、田中さん…流石の俺達もコレは効く…」

「雪恵…コレはシャレになんねえよ…ってか何で一樹は叩かねえんだよ…」

「え?私がかーくんを叩くと思う?」

「聞いた俺が馬鹿だった…」

軽く諦めながら一夏は接客に戻っていく。

「お待たせしました。追加注文のサンドイッチとサービスのAランチでございます」

落ち着いたところで雪恵は注文の品を置く…のだが。

「おいコラ待て雪、『サービスのAランチ』って何だソレ。そしてこのサービス品ではあり得ないこの量は何だ?」

「…それではごゆっくりどうぞ」

「ゆ〜き〜え〜さ〜ん?聞こえてるだろう〜?」

「…だってこうでもしないとかーくん食べないじゃん」

「いやいやいやいやいや!俺充分食べてるからね⁉︎」

「…どれくらいの頻度で?」

「1日1食が健康に良いって昔の偉い人が「言う訳無いでしょ‼︎」…ほら、節約のため「かーくんそんな稼ぎ少なくないでしょ‼︎」あーもう!良いじゃねえか1日1食で‼︎」

「かーくん、普通は1日に3食食べるの!」

「それは一般人だろ⁉︎俺は“体質的”に1食で充分なんだから良いだろ⁉︎」

「かーくんの財布にお金が無いのは収入の殆どを私や『アサガオ』に送ってるからでしょ⁉︎ある意味究極の浪費家じゃん‼︎」

「どっちも必要な金なんだから良いじゃねえか!」

「アサガオはともかく私にはもう大丈夫だよ!もう下手な土地と家が一括で買えるほどあるんだよ⁉︎だからこうしてかーくんの食費に戻してるの⁉︎」

「前にも『いざという時にとっとけ』って言ったよなぁ⁉︎」

「予備の程度を越えてるよ‼︎」

…何事かと思うかもしれないが、本日弾が大体5回頼んだ内の5回とも雪恵が『サービス』として一樹に食品を出しているのだ。流石にツッコミを入れた一樹と、そして一樹を案ずる雪恵の言い争い。結局このテーブルは騒がしくなる様だ…

「あ、あの…櫻井君に雪恵ちゃん?そろそろ静かにしないと他のお客さんが…」

見かねたシャルロットが止めようとするが…

「ちょっと黙っててシャルロットちゃん、今この分からず屋に食べる事の大切さを教えてるところだから」

「ちょっと黙ってろシャルロット。今この分からず屋にお金の大切さを教えてるところだ」

ほぼ同じタイミングで似たような事を主張する2人。シャルロットではもう止められない。せめてもの救いはこの2人の言い争いを周りの客達が微笑ましく見ている事だろう…結局、一夏と弾が間に入った事で一樹と雪恵はようやく止まった。




では、また次回!


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Episode55 亡国機業-ファントム・タスク-

さあ、始まるぜ!


「かーくん!私休憩時間になったから学園祭回ろ!」

「…お前、アレ見てそれ言うの?」

一樹が指差す方向を見ると、一夏の休憩時間のローテーションの話し合いが行われており、一夏の休憩時間も近くなったのが分かる。つまりは…

「俺は護衛役として、一夏から目を離さない様にしなきゃならないから友達と回ってきな」

護衛役である一樹も遠くからついていかなければならないのだ。

「えーーー⁉︎何それつまんない!」

「…俺だって出来るならアイツのデート?を尾けるみたいな真似したくねえよ」

頭を抱えながら話す一樹。一夏のデート?といえば大体トラブルが起きるのだからしょうがないとも言える。

「何もなきゃ良いんだけど…」

 

結論を言おう。何も起こらない筈が無かった。専用機持ちとのデートを終えた一夏とそれを待っていた弾は学園祭を回っていた。それについて行ってる一樹だが、既にその顔は疲労気味だ。

「…一樹、飯奢るよ」

流石の弾も今の一樹を相手にふざける気力は無かった。

「……めし、より……あまいもの、くいたい……」

「相当重症だコレ!分かったから!」

すぐさま近くの露店で何か買おうとする弾。それを駆け寄ってきた雪恵が止める。

「待って五反田君!かーくんに一番効く食べ物持ってる人連れてきたから!」

「へ?連れてきたって…あ、お久しぶりです。高橋さん」

呼ばれて後ろを見た弾の目には、雪恵に腕を引っ張られてきた舞がいた。

「え、ええ。お久しぶりです五反田君。さて、挨拶はコレくらいにして…義兄さん、頼まれてたゼリーです。どうぞ」

弾への挨拶もそこそこに、舞は持っていた小型クーラーバックからゼリー飲料入れを取り出し、一樹に渡す。軽くふらつきながらそれを受け取った一樹。ゼリーを飲んで一息つく。

「あ"あ"あ"しんどかった…ナイスタイミングだ舞」

「いえ…本当なら毎日お弁当をつくりたいのですが…」

「気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとうな。雪も、よく舞を見つけれたな。今日は来れるか微妙だったのに」

舞の頭を撫でながら不思議そうに雪恵に聞く一樹。

「いやぁ、実は私もたまたまなんだ。かーくんに何か甘い物買おうかと思って露店を回ってたら、丁度舞ちゃんが受付にいてさ。すぐに連れてきたって訳」

「私は五反田君と違って当日受付が出来ましたから…」

IS学園は元々女子校である。そのため弾は一夏の持つ招待券が無いと入れない(ちなみに一樹は生徒では無いという理由で招待券を渡されていない)のだが、比較的女性は入りやすい様だ。

「まあ、とにかく助かったよ舞。また欲しい物が出来たら連絡するわ」

「欲しい物が出来たら、ですか?」

少し悲しげに顔を俯かせる義妹に、一樹は苦笑しながら続ける。

「俺の言う『連絡』ってのは基本メールだからな。舞達とはなるべくリアルタイムで話したいから基本電話しようと思ってたん「お願いします!いつでもどこでも電話大歓迎です!なんなら今夜にでも」えぇい落ち着け!分かった、分かったから!なるべく頻繁に電話する様にするよ」

「はい!義兄さん!」

先ほどの暗い表情が嘘だったかのように明るい表情に舞に苦笑しながらクーラーバックを受け取る一樹。弾のほうを見ながら…弾は静かに頷いた。

 

「すいません、織斑一夏さん、ですよね?」

「はい、そうですが…どなたですか?」

一樹達から少し離れた所では、一夏が露店の焼きそばの列に並んでいた。無事焼きそばを購入出来たので、一樹の元へ戻ろうとすると、後ろから声をかけられた。

「私、倉持技研の倉田と申します。今回私が声をかけたのは、倉持技研で新しく「あ、そういうのいらないぜ」…どういう事でしょうか?」

話を途中で遮られたからか、若干苛立ち気味になった倉田と名乗る女。だが、一夏は動じる事も無く、淡々と続けた。

「らしくねえ演技はしなくて良いって事だよ。亡国機業(ファントム・タスク)所属のシーマさんよ!」

「チッ!!!!」

正体がバレてたと知ったシーマの行動は早かった。懐から拳銃を抜こうとするが、一夏の方が素早かった。懐に入れようとした腕を掴み、関節を極めながら地面に押し付けた。

「ガッ⁉︎」

肺から空気が一気に漏れ、シーマの意識が一瞬無くなる。

「(このガキ…ただのガキじゃねえ⁉︎情報では平和ボケした国のただの一般人だった筈だ!)」

「今のお前に、思考してる暇があんのか?」

ドスを効かせた声を出しながら、一夏はさらに関節にダメージを与える。

「クッ…」

「お前が生きる方法は一つ。知ってる事を全部話す事だ」

「誰が…話す、かよ…」

「あっそ」

一夏は容赦なくシーマの関節を極め続ける。

「ガァァァッ⁉︎」

「このままだと関節外れるな〜どうすんのかな〜シーマさん?」

「しつけえんだよクソガキ!話さねえつってんだろ‼︎」

一夏は表情を変えた。()()()両腕で押さえていたシーマの腕を、左手一本で更に締め付ける。開いた右手は、麒麟のビームサーベルを部分展開した。

「…⁉︎」

「…死にたくないなら早く答えろ。今この学園にいるテメエの仲間は何人だ?」

ビームサーベルを見て、流石のシーマも表情に恐怖が浮かび上がる。

「…アタシが知ってるのは、アタシの他に亡国機業から1人、PMCから4人だ…」

「ッ⁉︎」

PMCと聞いた一夏の顔が歪む。一樹が束ね、一夏も所属しているS.M.Sが白だとするならば、シーマの言ったPMCは真っ黒な『戦争屋』だ。戦いだけが生き甲斐の戦闘狂達が集まる場所…それがPMCだ。

「…他には?」

「…下っ端のアタシが知ってるのはこれくらいだ」

「使えねえなあ。じゃあ寝てろ」

麒麟からシーマへ電流を流すと、シーマはショックで気絶した。すると、ずっと近くで見ていた一樹が結束バンドでシーマの両親指を縛って無力化させた。

「…結束バンドにこういう使い方があるんだな」

「変に縄で結ぶよりお手軽だしな。解くつもりがないなら結束バンドで両親指を縛るだけで人間はほとんど動けなくなる」

「…縄のイメージが強いのはやっぱり漫画とかが原因かな?」

「戦国時代とかはたしかに縄で縛っていただろうが、アレは押さえつける役、縛る役と最低でも2人は必要だぞ?」

「あーなるほど」

「今回はお前がコイツを気絶させてくれたから楽な内に動けなくしておくためにも結束バンドを使っただけだ。さてと、後はコイツを…」

話しながら一樹はシーマを肩で担ぐと、ある場所に向かって投げた。

「ッ⁉︎」

その方向にいたのは、楯無だった。

「ソイツの仲間?が全部で5人いるってさ。後はお前の仕事だ」

「ふざけないで!敵を見つけるのも始末するのもあなたの仕事でしょ⁉︎」

憤慨して一樹に食ってかかる楯無。

「は?お前、何か勘違いしてねえか?」

ため息をつく一樹。渋々説明を始めた。

「俺が受けた依頼はあくまで『織斑一夏の護衛』だ。『IS学園』じゃねえんだよ。極論を言えば学園内で一夏以外が死のうが俺には関係無いんだよ」

まあ雪は例外だがなと、一樹は心の中で補足する。

「な…あなた、人の命をなんだと「それをテメエら女尊派が言えた話か?」ッ⁉︎」

「お前ら女尊派はな、表に出されてないだけでISが発明される前の男よりよっぽど非道な事やってんだよ。一般人ならともかく、『更識楯無』であるお前が知らない筈はねえよな?」

「…」

「確かに、ISが発明される以前は、常識の『じょ』の字も無いクソ野郎どもに襲われた女性はたくさんいる。それは認めるよ。けどな、ISが発明されてからは何だ?全ての女性がそうじゃないのは分かるが、植物状態にしてからトドメを刺す卑劣なやり方や、両腕両脚をISで折って何の抵抗も出来ない状態の男の脳髄を撃ち抜く…そんな事をしてるのもいるんだ。エグいよな?残酷だよな?なのにメディアは一切それを流さない。そらぁ内容が内容だから全部を言えとは言わないけど、『全く』言わないのは…どういう事なんだろうな」

「…」

「…ま、話をそらしちまって悪かった。とにかく、俺は『仕事で』一夏を、『個人的に』雪を護る。他はお前ら学園の仕事。それだけ理解してくれや」

楯無にそれだけ告げると、一樹は一夏を_______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突き飛ばして離れた。

刹那______

 

ガッシャアァァァァン!!!!

 

______一夏のいた所の窓が、撃ち抜かれた…

「伏せろ‼︎」

一樹の言葉に、すぐさま伏せる一夏と楯無。

バビュン!!!!

第二射が頭上を通過した。

「チィ!」

一樹は冬服の右袖から拳銃を出すと、狙撃者に向かって撃つ。

バンバンバン‼︎

気配から当たっていないのが分かると、一夏に目で合図し、左袖からもう一つ拳銃を取り出して一夏に投げ渡す。

「持っとけ!」

「ああ!」

そして震えている楯無の腕を掴んで物陰に運ぶ。

「ど、どうして?あなたは織斑一夏以外どうでも良いって…」

「ああ!確かにそう言った!けどな!目の前で逝っちまったら目覚めが悪すぎる‼︎」

そして右耳の無線機のスイッチを入れ…

「束さん!賊の人数は⁉︎」

『今サーチ中!だけど、どう考えても30は下らない!シーマは本当に下っ端みたいだね‼︎』

「クソッタレが!とにかく、人数サーチお願いします!俺は『いつも通り』に動く!」

『了解だよ!任せて‼︎』

周波数を切り替え、弾に繋げる。

「弾、状況は⁉︎」

『教師陣が避難誘導をしてる!勿論ISを装備してな!』

「教師陣の使用ISは⁉︎」

『打鉄‼︎』

打鉄は日本製のISであり、その攻撃力、防御力のバランスは世界トップクラスだ。一般人を護るためには最適な機体といえよう。だが…

「状況に適し切れてねえ!相手はISだけじゃねえんだぞ‼︎」

それはISだけが相手の時だ。打鉄の持つ欠点は学年別トーナメントで一夏も利用した…小回りの悪さだ。

『ッ⁉︎ヤバイ、みんなISを外せ‼︎』

「!?」

弾の焦った口調だけで一樹は察した。

「打鉄に爆弾を仕掛けやがったか‼︎一夏!『制御を奪え』‼︎」

「でもそれは…」

「人命が優先だ‼︎」

「ああ、分かった!(行くぞ、ハク‼︎)」

一樹の指示を受け、一夏は麒麟のシステムを使用した。

 

ガチャンッ

 

「え?打鉄が外れた?」

「早く離れて‼︎」

「ちょ、何する…」

装備していた打鉄が外れ、戸惑っている教員を弾は急いで打鉄から離す。次の瞬間!

 

ドォォォォンッ!!!!

 

打鉄が、爆発した…

 

 

 

「おぉおぉ、勘が鋭いこって」

打鉄の爆弾を『たった今』取り付けた男は、相手の勘の鋭さを素直に賞賛する。

「だが、こっからどうするんだ?S.M.Sさんよ」

 

 

「クソッ!スナイパーを仕留めねえ事にはこっちの戦力が減り続けるぞ‼︎」

「んなこたぁ分かってんだよ‼︎」

冬服の胸ポケットからスコープとロングバレルを取り出し、手に持っている拳銃と合体させる一樹。これにより、簡易的ではあるがスナイパーライフルが完成した。

「狙い撃つ‼︎」

狙撃があまり得意ではない一樹は、仲間内で最も狙撃が得意な友の口癖を借りる。そして放たれた2発の弾丸は…

 

 

 

ガンッ!

 

「チッ!」

 

ドォォォォンッ!!

 

一樹の撃った弾丸は、一発目はライフルの銃口を、2発目は銃身に命中。ライフルに込められていた『超小型時限爆弾』に誘爆するが、男は咄嗟にライフルを投げ捨て、学園に突入する。

「オメエら、行くぞ」

『雑魚ばっかじゃねえと良いがな』

『僕が全滅させてやるよ』

『全部消してやる』

3つの影と共に。

 

「束さん!後で打鉄の修理は頼んだ!」

弾を込めながら一樹は叫ぶ。通信回線は開いてないが、どうせ監視カメラ越しに束は見ている。気にする必要は無い。むしろ今は…

「コイツらを止める!」

正面玄関に投げ込まれた手榴弾。一樹は地面に落ちる前に手榴弾を受け止めると敵側に投げ返す。

 

ドォォォォンッ!

 

「(このやり口…KPSAの応用か⁉︎)」

爆煙の中で気配に注意しながら一樹は記憶を呼び起こす。

爆弾をつかって一気になぎ払う残忍なやり方はかつてテロ集団のKPSAが良く使っていた手だ。一夏達には話していないが、先日の宅配便に偽装した爆弾のやり口は、まさにKPSAのそれだった。

「ってことは…⁉︎」

 

ドドドドドドッ‼︎

 

爆煙に隠れながら、敵はマシンガンを撃ってきた。マシンガンの攻撃を下駄箱に隠れる事で避ける一樹。

「にゃろぉ!」

簡易スナイパーライフルにしていたパーツを外し、小回りの効く拳銃に戻すと、下駄箱の影から飛び出す。

 

ドドドドドドッ‼︎

 

再びマシンガンで狙われるが、床を蹴り、壁を蹴り、天井を蹴りと、超次元的な動きで回避。更に左袖から拳銃(2丁め)を出し、両手持ちで襲撃者に向かって撃つ。

「喰らえ!!!!」

気配に向かって撃ちまくる。

「グッ⁉︎」

「いつっ⁉︎」

「ちくしょう⁉︎」

声から3人に当たったのは分かったが、気配はまだ残っている_____

「ちぇいさぁ!」

「ッ⁉︎」

爆煙の中から赤髪の男が飛び出し、一樹に大型ブレードを振り下ろしてきた。咄嗟に拳銃の銃身で受け止める。

ガギィィン‼︎

「やっぱり戦いってのは白兵戦じゃねえとな!そうだろ?クソガキィ‼︎」

「相変わらず狂ってやがるな!アリー・アル・サーシェス‼︎」

両者は同時に離れる。サーシェスは左手に持った拳銃を乱発。一樹はそれを空中回転しながら避ける。右手の拳銃を胸ポケットにしまうと、フリーダムを装備している時の様に左腰から抜刀する動作をする。すると、先程まで影も形も無かった逆刃刀が現れた。

「ッ‼︎」

息を短く吐くと、サーシェスに瞬間移動の如く近づき、飛び蹴りを放った。

「ガッ⁉︎」

蹴りの勢いに吹き飛ばされるサーシェスに、一樹は左手に持った拳銃を撃ちまくる。

バンバンバン‼︎

「チィ‼︎」

サーシェスは重力に逆らわずに転がって銃弾を回避。

「これでぇぇ‼︎」

なぎ払う様にブレードを振るサーシェス。一樹はそれを逆刃刀で受け流す。

「その程度!」

 

一樹がサーシェスと激闘を繰り広げている中、一夏と弾は合流して一般人達をシェルターに誘導していた。

「織斑君!かーくんは⁉︎」

「…今、一樹は前線で戦ってる」

「一夏!ここは頼んだぜ!俺は一樹の援護に行く‼︎」

雪恵に一夏が説明し、弾は一樹の援護に向かおうとするが…

 

 

「みぃつけたぁ」

 

「⁉︎」

強烈な殺気を感じた一夏は麒麟のシールドを展開。次の瞬間、一夏に向けて6本の極太ビームが飛んできた。

「グッ⁉︎」

Iフィールドを使ってしまったら周りの人に被害が出るため、展開しない様に細心の注意を払いながら一夏は麒麟を完全に展開。シェルターから離れ、外に出る。

「「「「一夏(さん)⁉︎」」」」

「コイツの狙いは俺なんだ!だから俺が相手をする‼︎」

シェルターの近くでは満足に戦えない…そのため、一夏は敵を誘導する事にした。

「(レーダーに反応?…ッ⁉︎コレは⁉︎)」

 

「オラオラァ!さっきまでの勢いはどうした⁉︎」

「テメエの相手してる暇はねえって事だよ‼︎」

一樹も感じていた。学園に迫っている危機を…それの対処に行きたいところだが、そのためにはサーシェスをどうにかしなければ…

「ハッ!テメエは相変わらず甘えな!たかが『数百発のミサイル』でテメエとは『関係無い女達』が死ぬだけじゃねえか‼︎」

「ッ⁉︎」

鍔迫り合いしながらサーシェスが叫ぶ。それは、心の底から思っているのが感じられる声音であった…

「そうか…そうかよ」

「?」

一樹の雰囲気が変わり、サーシェスは訝しげな顔をする。そして…

「ッ⁉︎」

次一樹が顔を上げた時、サーシェスですらゾッとする目をしていた…

「なら、もうお前に『手加減』はしない」

虚ろになった目でサーシェスを睨むと…

 

ドドドドドドドドドドドドッ‼︎‼︎

 

「がぁぁぁぁぁぁ!!?」

飛天御剣流、九頭龍閃を全力で叩き込み、サーシェスをボコボコにした。動けなくなったサーシェスと、玄関口で倒れている3人の男の両親指を結束バンドで動けなくすると…

「…櫻井一樹、フリーダム、出るぞ‼︎」

激戦を繰り広げる一夏達の援護に向かう!




今まで何とか毎日更新をしてきましたが、とうとう書き溜めが切れてしまいました。
次話からは出来次第投稿とさせていただきます。

暇つぶしに、自分のもう1つの作品もよろしくお願いします。


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Episode56 蜘蛛-アラクネ-

お待たせしました!

何とか書けたので投稿します!


麒麟を纏った一夏と、敵ISはIS学園から離れる様に飛んでいた。

「オイオイオイ!逃げてばっかりだなぁ!それでも男かぁ!?」

「…テロリストと戦うのに、関係ない人を巻き込めるかよ」

「あっそ、なら____」

敵ISはその蜘蛛の様な装甲脚に膨大なエネルギーを込める。

「____消し飛びな」

「ッ!?」

 

「ミサイルの数が多すぎる!」

「でも諦められないよ!」

学園に迫る大量のミサイルをラウラ、シャルロットは迎撃していた。だが、2人の武装では手に負えない。

「シャルロットちゃん!ラウラちゃん!」

そこに、アストレイ・ゼロを纏った雪恵が飛んできた。

「雪恵!?ここは危険だ!下がれ!」

雪恵の稼働時間を考慮したラウラは、雪恵を下がらせようとするが…

「ううん!絶対引かない!私も一緒に戦う‼︎」

「でも雪恵!このミサイルの数は…」

「私だって、ただ守られてるばかりじゃない‼︎ランチャーパックに換装するよ‼︎」

雪恵の指示に、アストレイ・ゼロのバックパックがM1ブースターから、かつて一樹が扱っていたランチャーストライカーに換装された。

「「その装備は!?」」

「そう!これはかーくんが使ってた装備。これなら…」

雪恵は、ミサイルの大群の中心にアグニをぶっ放した。

「これくらい出来る!!」

アグニの一撃で、学園に迫るミサイルはある程度迎撃出来た。

「距離が出来た!」

「これなら!」

ミサイルとの距離が出来たので、再度迎撃に移ろうとする2人。しかし…

「おいおい、こっちは無視かよ」

「随分と余裕ですね」

「落ちな」

「「「!?」」」

3人に襲いかかる薄緑、黒、濃緑の機体。かろうじてその攻撃を避けるが、3人の顔には驚愕が浮かんでいた。なぜなら____

「なんで男の人の声が!?」

____その搭乗者の声が『男』だったのだ。

 

「落ちろ落ちろ落ちろぉぉぉぉ!!!!」

薄緑の機体、『カラミティ』はシールドに内蔵されているビームマシンガンで執拗にラウラを狙う。バレルロールで何とか回避するラウラ。

「ッ!?この出力は…!?ISのシールドエネルギーなどたやすく破ってしまう…こんなの喰らう訳にはいかない…」

 

「ハァァァ!滅殺‼︎」

黒い機体、レイダーは左手の鉄球でゴールドフレームを狙う。

「クッ!」

シャルロットの優れた反射神経、ゴールドフレームの機動性があって何とか回避出来ているが、いつ当たってもおかしくない状況だ。

「ミサイルだけでも厄介なのに!」

 

「ああああああちょこまかとウザい!!!!」

濃緑の機体、フォビドゥンは背中のバックパックから極太のビームを撃ってきた。

「ッ!?」

それを雪恵は避けた…はずだった。

「アアッ!?」

ビームは曲がって雪恵に迫る…

「(ごめんかーくん…アストレイ・ゼロ、壊しちゃうよ…)」

雪恵は死を悟って目を瞑る…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

バヂィィィィンッ!!!!

 

ギリギリ雪恵とビームの間にフリーダムが入り、フォビドゥンのビームをシールドで受け止めた。

「かーくん…」

「チッ!」

フォビドゥンの搭乗者は舌打ちすると、近接武器である『ニーズヘグ』を構えた。

「おまえ、サーシェスが殺したはずだけど?」

「あ?まだ生きてたのか?」

「ヒーロー気取りですかね?」

フォビドゥンの言葉に続き、戦闘中であるはずのカラミティにレイダーもフリーダムを見る。そして____

「ッ!!!!」

____ノーモーションでフルバーストを放った。

「「「なっ!?」」」

カラミティ達は慌てて回避運動を取る。だが、フリーダムの狙いはカラミティ達ではない。

 

ドドドドドドドッ!!!!

 

その後ろのミサイル群だ。たった一度のフルバーストで視界にある全てのミサイルを迎撃しきったフリーダムに、3機は驚愕する。

「かーくん…」

「________は良いか?」

雪恵の方は向かず、カラミティ達にとんでもない濃度の殺気を放つ一樹。

「「ッ!!?」」

「ああ!?なんて言ったんだよ!?」

レイダーとフォビドゥンはその殺気に怯え、カラミティは精一杯虚勢をはる。

「せっかく手に入れたオモチャが…スクラップになる覚悟は良いかって聞いたんだよ‼︎クソ野朗共がぁぁぁぁ!!!!」

 

「吹き飛べや!織斑一夏!!!!」

敵IS、『アラクネ』の極太ビームが麒麟に迫る…

 

「あははは!どうだ!これで織斑一夏も終わり____」

アラクネの搭乗者、オータムの言葉は途中で終わる。理由は…

「でぇあぁぁぁぁ!!」

デストロイモードを起動した麒麟が迫ってきたからだ。

「報告にあったシステムか⁉︎」

アラクネの全ての装甲脚のビームサーベルを起動。麒麟を迎え撃つ。

「ここから…」

しかし、オータムの予想を上回る速さで麒麟は動く。バックパックからビームサーベルを抜刀し…

「ッ!?」

「出て行けぇぇぇぇ!!!!」

装甲脚の1つが切断された。

「グッ!?」

「お前の相手をしてる暇は無いんだ!さっさと出て行け!!」

麒麟は更にビームサーベルを振るってくるのを、アラクネは2本のビームサーベルで受け止める。

バヂィィィィンッ!!!!

「なかなかやるじゃねえかクソガキ!」

「アンタに褒められても全く嬉しく無いね!!!!」

アラクネの腹部を蹴り、距離を取る麒麟。

「逃すかよ!!!!」

残った5本のビーム砲を収束させ、麒麟に向かって撃つアラクネ。

「誰が逃げるかよ!!!!」

ビームマグナム(マグナムモード)を撃って、アラクネのビームを相殺する。2機の中央に大爆発が起こり、2機の距離が更に離れた。

「クッ!」

「このクソガキッ!」

 

「お前、ウザいんだよ!!」

「抹殺!!」

「落ちな!!」

カラミティ、レイダー、フォビドゥンはそれぞれ最も高火力なビームを放つ。それらは途中で収束し、一本の極太ビームとなる。

 

「櫻井!」

「櫻井君!」

ラウラ、シャルロットが一樹の前に出ようとするのを、雪恵が止めた。

「駄目!今かーくんの近くに行ったら邪魔になるよ!!」

「しかし!」

「幾ら櫻井君でもアレは避けられないよ!」

ラウラとシャルロットの言葉に、雪恵はあっさり頷く。

「そうだね。かーくんが避けちゃったら、学園にダメージが行くね」

「「だったら!」」

「でもね。()()()事が出来なくても、()()するのはかーくんなら余裕だよ?」

 

極太ビームがフリーダムに迫る…

「____ッ!!」

フリーダムの両翼に装備されているビーム砲、バラエーナプラズマ収束ビーム砲を同時に撃つ。フリーダムのビームも途中で収束。カラミティ達の撃ったビームと正面からぶつかる。

 

 

ドォォォォォォォォォ!!!!

 

 

その場にいた全員がその音を聞いたであろう。高エネルギー同士のぶつかり合いで起こった爆発に、まだ学園に向かおうとしていたミサイルまでも爆発し、辺りは爆煙で見えにくくなった…だが。

バヂンバヂンバヂンッ!!

この爆発を起こした4機は違うらしい。爆煙の中で所々サーベルのぶつかり合いによって起こるスパークが、その戦闘の激しさを伝えた。

「クッ…ハイパーセンサーでも追いつけん…」

「僕達じゃ足手まといになる…」

「私たちはミサイルの迎撃に集中しよう!でないとかーくんの邪魔に…」

すぐさま学園の防衛に移ろうと提案する雪恵。その背後に迫る、鎌…

「背中がガラ空き」

「ッ!?」

雪恵が反応するが、フォビドゥンは既に鎌、ニーズヘグを振り下ろしていた…

「背中がガラ空きなのはお前の方だ」

突如ニーズヘグが持ち手から切断され、ニーズヘグの刃は逆にフォビドゥンに襲いかかる。

「チッ!?」

フォビドゥンはシールドを前面に展開し、ニーズヘグの刃をやり過ごす。

「終わりだ」

だが、それはフリーダムに狙われていた。フリーダムのビームサーベルによりフォビドゥンの武装は全て切断された。

「シャニ!?テメエ!よくも!!」

カラミティが仲間の敵討ちとばかりに胸部ビーム砲を撃つ。

「周りの状況を確認してから撃つんだな!」

フリーダムはシールドの角度を調整。カラミティのビームをシールドで反射させ、フリーダムを鉄球で攻撃しようとしていたレイダーに当てた。

「ウワアァぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「クロト!?」

「さて、残るはお前だけだ。味方の推進力が無くなり、孤立した状態でその砲撃型…覚悟は良いか?」

ビームサーベルを構え、フリーダムはカラミティに突進する。

「答えは聞かないけどな!!!!」

カラミティの武装は全て切断された。浮力を無くした3機を、PMCの無人型ディンが抱え、去っていった。

「かーくん!まだミサイルが!」

雪恵が叫ぶ。一樹は学園に向かう残りのミサイルを見て…

()()

たった一言告げた。それだけで…

 

ドドドドドドドドドドドドドッ!!!!

 

残った全てのミサイルが迎撃された。

「何!?」

「何で!?」

「何が起こったの!?」

女子3人の言葉に、一樹が答える。

「…そもそもミサイルは学園を東西から挟むように撃たれた。それを、学園の真上に陣取って迎撃してた奴がいるって事だよ」

「で、でも一夏以外の全専用機持ちは東西に分かれてたんだよ!?学園の真上には誰もいなかったし…」

ちなみに、箒、セシリア、鈴は西側。シャルロット達がいたのは東側だ。

()I()S()()な」

「「「まさか…」」」

一樹の言葉の意味を理解してきた3人の顔に、驚きが走る。

「そう、学園の真上に陣取っていた機体はISじゃない。俺と同じE()x()-()()()()()だ」

 

「ふぅ…初陣がかなり破天荒だったな。『ノワール』」

真上に陣取っていた機体、『ストライクノワール』を装備していた『S.M.S防衛科所属、五反田弾少尉』はひと仕事終えて汗を拭った。

 

「さて、ノワール。俺は一夏の援護に行くぞ。付いてくるか?」

『ああ…俺は一応ここに残るわ。まだミサイル来るかもしれないし』

「了解…なら、ここは頼んだ!」

『任せろ!!』

弾との通信を終え、一樹はフリーダムを急浮上させる。

「先に言っておく。1年専用機持ちたち、付いて来るなよ。邪魔になるから」

『『『『なっ!?』』』』

一樹に言われなかったら浮上していたであろう雪恵以外の専用機持ちたちの動きが止まった。

「相手は殺すことを全く躊躇わない奴だ。お前らが来たらかえって一夏の邪魔になる。ラウラ、お前ならこの意味、分かるな?」

『……了解』

軍人であるラウラは、命がけの戦闘に素人がいることによって起こりうる問題を理解した。渋々ながら一樹の言葉に了承すると、学園の防衛に移った。

「…雪、悪いけど」

『分かってるよ。誰もそっちには行かせないから』

「…ありがとう」

雪恵に監視を頼むと、一樹はフリーダムを麒麟とアラクネの元へと急浮上させる。

 

「……」

生徒会長、それはこのIS学園では『最強』の肩書きを意味する。そして現生徒会長である自分は、この学園に所属する生徒の中で『最強』である…はずだった。

しかし実際はどうだ?ISを動かして数ヶ月の男子に負け、その護衛役としてきた男子にも負けた。護衛役の男子の装備はISでもないのに、だ。

「これでロシア国家代表だなんて、笑っちゃうわね」

自嘲気味に呟く。自分の無能さ加減に笑えて来る。

「『あなたは無能でいなさい』だなんて、よくもまあ言えたわ」

自分が家の長となった時、最愛の妹に言った言葉がそれだ。その時は全ての『闇』を背負う覚悟だったはずなのに…

「それが実際に『闇』に遭遇したら、動けなくなるなんて…」

しかもその自分を助けたのは、私を負かした男子2人だ。自分なんかよりずっと『闇』を知ってるようだった…

「形だけの暗部、か…」

自分のいる更識家は、日本に古くからある『暗部』だ。日本政府を裏から支えていた家系…しかし、近年は精々日本政府の情報収集係となりつつあった。前頭首である父の方針で。結果、更識家は『闇』から離れて行くことが出来ていた。しかし、どうしても情報収集などをしていると見てしまうのだ。人が死んでいる姿や、嬉々として他者を殺す人物のデータ等を…

それが『闇』…の一部。

「一部を知っただけで全部知った気になるから、こうなるのよ…」

これで妹を守れると思っていたのだから、驚きだ。実際、守っていたのは自分ではなく、あの男子2人のような人たちなのだろう。

「私は、『簪ちゃん』の好きなヒーローには、なれなかったのね…」

『『それは違う!!』』

悲観にくれていると、個人回線でその男子2人が話しかけてきた。

『更識楯無。確かにあなたは『闇』を知ったかぶって、俺たちを批判した。でも、それは『護るため』だった筈だ!』

「護る、ため…?」

『あなたは妹さんをその『闇』に染まらせないよう頑張った!確かにあの言動は褒められたものじゃない。けど、その信念は決して捨てちゃダメだ!!』

「でも、私は…」

『ある歌手が歌の中でこう言った。『男なら、誰かの為に強くなれ』って!』

「私…女なん『この歌には続きがあるんだ!』…続き?」

『それは、『女もそうだ。見てるだけじゃ始まらない』って!『コレが正しいって言える勇気があればいい。ただそれだけ出来れば…』』

「出来れば…?」

『『()()だ』ってな!!だから妹のために頑張ってきたあなたも…英雄なんだ!ヒーローなんだ!!』

「ッ!?」

『会長…会長も人なんです。失敗もする。当たり前じゃないですか。人は弱くて、不完全なんだから…でも、それを次に繋いでいけば良いんですよ!繋いで、歩き続けるんです!どんなに辛くて苦しい道であっても!!』

戦闘中である2人が、ここまで自分に語ってくれる。あれほど酷い事を言った自分を…

『酷い事を言ったのはお互いさまです。けど、もしあなただけではどうしようもなくなったときは…』

「…ときは?」

『俺が2()()()()護ってあげますよ!!』

その男子…織斑一夏の言葉に、胸が苦しくなる。ああ、コレが…

 

 

 

恋というやつなのか…

 

 

「……なあ雪。そろそろ俺、過労で倒れるかも」

一夏の言葉を聞いた一樹は、雪恵に個人回線で嘆いていた。

『ちょっとかーくん!?まだ敵に近づいてないよね!?何が起きたの!?』

「……一夏の餌食に、会長が…」

『え!?織斑君が会長を堕としたぁ⁉︎』

『『『『な、なんですと!?』』』』

アストレイ・ゼロのスピーカー越しに聞いていたであろう1組生徒たちの叫びが聞こえる…一樹の顔はもう泣きそうだ。

「ああああああああ!!もう我慢の限界だ!!!!」

一樹はアラクネに向けてブースターを全開にした。

 

「戦闘中に女口説くたぁ余裕だな!!!!」

残った装甲脚全てのビームサーベルを構えて、オータムはアラクネを飛ばした。

「終わりだ!織斑一夏ァァァァ‼︎」

麒麟もビームサーベルを構える…が

 

ズバババババババババッ!!!!

 

黒いオーラを発したフリーダムがアラクネの装甲脚を全て切断。戦闘不能へと追い込んだ。

「ッ!?」

フリーダムから発せられる黒いオーラに、流石のオータムも冷や汗を流す。そして、その場から緊急離脱した。

「ハア、ハア、ハア…逃げてんなよ!!もっとかかってこいよぉぉぉぉ‼︎‼︎」

ストレス発散の相手がいなくなった一樹は、しばらく叫んでいた。

 

「…今回、割と緊急事態だったはずなんだが…」

戦闘終了後、一樹から報告を受けた千冬は頭を抱えていた。頭を上げたその先に…

「ああクッソ!またかよ!また増えるのかよ!ふざけんな!!もう対処しきれねえんだよぉぉぉぉ!!」

「お、落ち着いてかーくん!」

「落ち着いて下さい櫻井君!」

狂い気味の一樹を必死で止めている雪恵と麻耶がいた。一樹が本気で暴れたらこの学園の誰1人止められない。しかもその一樹が狂い気味になっている理由が自分の弟であるために、千冬は本気で土下座しかけた。流石にそれは麻耶に止められたが。

「千冬!」

「な、なんだ?」

「家庭科室とそこにある食材少しくれ!」

「か、構わんがどうする気だ?」

義妹(いもうと)に何か甘いもの作ってもらう。それで落ち着くまで俺は一夏の顔を見れん」

半狂乱状態で一夏の顔を見ようものなら、本気で一夏を消しかねない…それを理解した教師は凄まじい速度で(珍しく教頭も)首を振っていた。

 

「今までの無礼な発言、行動、全てに謝罪します。すみませんでした」

一樹が舞と雪恵にデザートを作ってもらっていた頃、一夏は楯無から深々と頭を下げられていた。

「いえ…俺も結構言ってたから。すみませんでした」

一夏も楯無に対して『クソアマ』と言ってしまった事に対して謝罪した。

「ううん…それはいいの。私は君の自由も縛ろうとしてたから」

「…俺はもう良いんで、気にしないで下さい」

「でも…」

楯無は申し訳なさのあまり、何かをしたいのだと察した一夏は、ひとつだけ頼みごとをする。

「なら…一樹の生活環境を少し変えて下さい。アレはあまりに酷すぎです」

「うっ!が、頑張ってみる…」

そこに、両手一杯にゼリーパックを持った一樹が来た。それに気づいた楯無が一夏と同じように謝る。

「…別に気にしなくて良い。今後のあなたの方が苦労するだろうし」

「え?それはどういう…」

「一つ目、妹さんと仲直り」

「グハッ!?」

一つ目で既に楯無に大ダメージが入った。

「二つ目、今後大量に出される生徒会への苦情」

「ガフッ!?」

二つ目で楯無は膝をついた。

「(後は恋の行方)」

「ッ!?」

最後に顔が真っ赤になった楯無は、大急ぎで教室から出ていったのだった。




展開早いかもな…

それとヒロイン増えた事によって半狂乱となる一樹君。
折角カッコいい事言ったのに全部一夏に持っていかれるというね…


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Episode57 影-シャドウ-

勢いで書き上げたぜ!

ウルトラマンに、新たな敵が…


「さ〜て()()()♪放課後、お姉さんとデートしようか♪」

「ちょ、楯無さん!?」

「「「「一夏!覚悟!!」」」」

楯無と和解してから1週間が経った。自分の恋心を自覚した楯無の猛アピールにタジタジになる一夏と、それに激昂する一年専用機持ちたち。そして____

ドンッ!!

「「「「ひっ!?」」」」

「オマエラ、イイカゲンニシロヨ?」

それを止める?半狂乱気味の一樹。この1週間の1組の光景だ。

「お、おい一樹!落ち着けって!」

「誰が原因だと思ってんだごらぁ!!」

一樹は一夏と取っ組み合いになるが…

 

ドックン

 

「「ッ!?」」

エボルトラスターが鼓動を打った。それを感じた一樹と雪恵の顔が厳しくなる。一樹は一夏を突き飛ばして教室から出て行った。

「おい一樹!?まさか…」

一夏達専用機持ちも急いで一樹の後を追う。

「おい織斑たち。これから授業だぞ「今一樹が飛び出したんだ!」何!?」

 

エボルトラスターの示すポイントに駆け込んだ一樹。そこにいたのは…

「…あんたは誰だ?」

フードを深く被った()だった。

『溝呂木を倒した程度で良い気になるなよ。ウルトラマン』

「その声…ファウストか!?」

ファウストと同じ暗くて低い男の声で話しかけてくるフードの人物。ファウスト…斎藤沙織を救えなかった記憶が、右手のブラストショットを強く握らせる。

『残念だったな。私はファウストではない。斎藤沙織を救えるなどとは思わない事だ』

「斎藤沙織さんは死んだ…俺の目の前で一夏を庇ってな。だから救えるなんて思ってない」

『…つまらん。少しは動揺するかと思ったんだがな』

「背負うと俺らは決めたからな…それでも!」

ブラストショットからエボルトラスターに持ち替え、目の前のフードに突きつける。

「お前を雪や一夏の前に出す訳にはいかない!」

『それはお前次第だ』

フードが取り出したのは…黒いエボルトラスターだった。

「ッ!?」

『“継承者”がいるのが『光』だけだと思うな。無論、『闇』にも受け継ぐ者はいるさ』

そして、フードは黒いエボルトラスターを引き抜き、変身した。黒いウルトラマンに…アンファンスの銀の部分が黒に染まり、黒の部分は白。瞳は赤黒かった…つまり、アンファンスとは対になる色だった。

『我が名は“シャドウ”…さあ、なれ!光の継承者よ!』

「…ッ!」

一樹もエボルトラスターを引き抜き、ウルトラマンに変身する。

「シェアッ!」

『ハッ!』

 

『学園のすぐ裏にビースト振動波確認!チェスター早く出撃して!また闇の巨人が出てる!』

「「「「ッ!?」」」」

『急げ!闇の巨人はビーストとは比較にならん強さだ!またアイツがボロボロになる前に倒すぞ!!』

「了解!チェスターδ、出るぞ!!」

「箒ちゃん!操縦貰うよ!チェスターα、行きます!!」

一夏の操るδ機、雪恵の操るα機が先行出撃した。

 

「シュアァァァァ!!」

『ハァァァァァァ!!』

ウルトラマンとシャドウの高速蹴りが空中でぶつかり合う。

「ハッ!」

『フンッ!』

両者離れ、構える。

「フッ!」

『デュアッ!』

先に動いたのはシャドウだ。ウルトラマンに駆け寄り、勢いを乗せた前蹴りを放つ。

『フンッ!』

右に飛び込んで避けるウルトラマン。起き上がりと同時にパーティクルフェザーを放った。

「シェアッ!」

『デュ!」

シャドウは腕輪でパーティクルフェザーを受け止めると、ダークフラッシャーを放った。

『ハッ!』

「グアァァァ!?」

ダークフラッシャーをまともにくらったウルトラマンの体から火花が散り、吹き飛ぶ。

「グッ!?」

背中を強打するウルトラマン。そんなウルトラマンに、シャドウはダークフェザーを降らした。

『フンッ!デュアァァァァ!!』

「フッ!?」

かろうじてダークフェザーを避けるウルトラマンだが、起き上がりに、首を掴まれた。

「グッ!?グァッ!?」

『良い事を教えてやろう…私は確かにお前と対を成す存在だ。故に私の能力を考えて動いていたのだろうが、私はファウストやメフィストの技も使える。つまり、お前より使える技は豊富だと言う事だ!!』

「グッ!?」

そこに、クロムチェスター隊が到着した。

「かーくんが捕まってる!?」

「すぐに離させる!クアドラブラスター!ファイア!!」

シャドウの背中にクアドラブラスターを撃つ一夏。だが…

『フンッ』

シャドウは鼻で笑うと…クアドラブラスターをウルトラマンを盾にして受け止めた。

「グアァァァ!?」

「ッ!?」

今までの闇の巨人より卑劣な行動に、一夏達の動きを止める。

『フンッ。貴様ら人間がこの戦いに関与出来る訳が無いだろう。身の程を知れ愚か者供』

空いている左手からダークフラッシャーを放つシャドウ。

『フンッ!』

「「「「ッ!?」」」」

かろうじてダークフラッシャーを避けるチェスター隊。

「シュアッ!」

『グッ!?』

シャドウの意識がチェスター隊に向いた隙に、ウルトラマンはシャドウの腹部に前蹴りを放つ。腹部の痛みに、シャドウはウルトラマンを解放する。ウルトラマンはシャドウの腕と頭を掴み、投げ飛ばした。

「ハッ!」

『ガッ!?』

更にマッハムーブで近づく。空中に蹴り上げ、連続で蹴りを放つ。

「ハァァァァァァ!」

『ガアァァァァァ!?』

最後に両脚蹴りで蹴り上げた。

「シェアッ!」

『グゥッ!?』

充分に距離が離れた所で、クロスレイ・シュトロームを放つ。

「フッ!デェアッ!!」

シャドウも逆十字に構えてダーククロスレイ・シュトロームを撃つ。両者の光線がぶつかり、激しい爆発を起こす。

ピコン、ピコン、ピコン

両者のエナジーコアが鳴り響く。

「ハア、ハア、ハア…」

『グッ…これほどとはな…だが!』

シャドウはウルトラマンへ急降下。右腕と首を掴むと、地面に叩きつけた。

『デュアッ!』

「グゥッ!?」

更にダークセービングビュートでウルトラマンを拘束し、対面の地面に叩きつけた。

『ダァァァッ!!』

「グァッ!?」

『確かにお前は思ったよりやる…だが!』

ウルトラマンを寄せて、防御ができないウルトラマンにフックパンチ。

『フンッ!』

「グッ!?」

ダークセービングビュートを解き、回転の威力を加えたストレートキックでウルトラマンを吹き飛ばした。

『デュアァッ!』

「グアァァァッ!?」

フラフラのウルトラマンに、ダークレイ・ジャビロームを叩き込むシャドウ。

『フンッ!デュアァァァァ!!』

「グアァァァァァァァ!?」

『ハア、ハア…どうだ!?』

爆煙でウルトラマンの姿は見えない。一夏達も激しすぎる攻防に援護が出来ない。

『終わったようだな…』

立ち去ろうとするシャドウの背中に、クロスレイ・シュトロームが命中した。

『グォォォォ!?』

「ハア、ハア、ハア…」

爆煙が晴れると、腕を十字に組んだウルトラマンがいた。

『おのれ…』

両者ともフラフラ…次の一撃で決まる。

「フゥゥゥ…シェアッ!!」

『ハァァァ…デュアッ!!』

両者の光線が再びぶつかる。そして接近…

「ハアッ!」

『グオッ!?』

ウルトラマンが一瞬早く光線の威力を上げ、シャドウを吹き飛ばした。すぐにトドメの一撃を撃つウルトラマン。

「ハァァァ…シェアッ!!」

だが、シャドウは闇に包まれ消えた。

『ハッ!』

「フッ!?」

そして、ウルトラマンの背後に回り、ダークレイ・ジャビロームを放った

『デュアァァァァ!!』

「グアァァァァァァァ!?」

ウルトラマンは吹き飛ばされ、消えてしまった…

『グッ…今回はこれで終いにしてやる。だが、次は必ず殺しやる…』

シャドウも闇に包まれ、消えていった。

 

「ハア、ハア…シャドウとか言いやがったなアイツ。メフィストなんか目じゃない強さだった…」

しかし疑問もある。自分はダメージの大きさに何度も動きが止まった。何故その隙に『変わる』事をしなかったのだろう。

「それを考える前に…休むか」

意識を集中して、適能者(デュナミスト)案内人(ナビゲーター)の繋がりを利用する。

「…雪、聞こえるか?」

『かーくん!?大丈夫なの!?』

「あまり…だから少し俺は休む。千冬への報告は頼んだ」

『…分かった。ゆっくり休んでて』

「悪いな…」

雪との念話を終わらせ、ブラストショットを天空に向けて撃つ。現れたストーンフリューゲルは一樹を乗せると、その場を超高速で離れていった。

 

「“シャドウ”…奴はそう名乗ったんだな?」

学園に戻った雪恵は、一樹が休む事と、シャドウについて千冬に報告した。

「はい…自分はウルトラマンとは対になる存在だと…」

「対になる存在、か…確かに見た目もウルトラマンとは真逆だしな」

「…かーくんは休みながらその点を考えるそうです。だから…」

「分かっている。ゆっくり休むように伝えといてくれ」

「…ありがとうございます、千冬さん」

報告を終えた雪恵は、続いて束の部屋へと向かった。

コンコン

『…誰?』

「田中雪恵です」

『雪ちゃん!?今開けるよ!』

雪恵と分かると嬉しそうに部屋に入れる束。

「そういえばまだ挨拶がまだだったね。退院、おめでとう!」

「ありがとうございます。かーくんのおかげで何とかなりました」

「うんうん。雪ちゃんが起きて嬉しかったのはご両親を除いたらかずくんが一番じゃないかな。ところで…束さんに何か用かな?」

「…実はお願いがあって。それは____」

「____?それは今の世界的に難しいし、かずくんもあまり賛成はしないんじゃないかな?」

「そうだと思います。けど、かずくんを守るためなんです。本当は私が守りたいけど…私には、力が無いから」

「…この間、かずくんがあの生徒会長に言ってた言葉があるんだけど、聞く?」

「かーくんが会長に?」

束からヘッドホンを受け取った雪恵は、一樹が楯無に叫んだ言葉を聞く。それを聞いた雪恵は、無意識のうちに涙を流していた。

「気付いた?かずくんはね、『誰かのために頑張る人はみんなその誰かのヒーローだ』って言ってるの。それは戦うだけじゃない。誰かを支えたいと思うことが出来る人も、誰かのヒーローなんだってこと。だから、雪ちゃんはかずくんのヒーローなんだよ?」

「ヒーローですか…出来ればヒロインでいたかったなあ…」

なんて言うものの、雪恵の顔はとても嬉しそうだ。

「…でも、雪ちゃんの想いは分かった。頼まれた件は全力で何とかするよ!」

「ありがとうございます、束さん」




雪恵が束に頼んだこととは、一体…


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Episode58 簪-シスター-

お待たせしました!

このサブタイと言うことは、まさか!?


一樹のいない第4整備室。そこでは楯無の妹、簪が今日も『打鉄弍式』の制作を続けていた。

「(…駆動系の問題は櫻井君に解決してもらったから後は簡単だと思ったけど、エネルギー効率が難しい…これでもOSでかなり解決はされてるけど、やっぱり武装とのリンクが必要だから完全じゃないし)」

心が折れそうになるも、姉はほとんど1人で自分の専用機を組み立てた。なら、自分もやるだけだ。

「(…私は、無能じゃない)」

 

プシュー

 

「かーくんいるー?」

整備室に誰かが入ってきた。普段ここで暮らしている者を探しにきたのだろう。

「…櫻井君なら、今はいない」

「あ、ごめんなさい。邪魔しちゃった?」

「…大丈夫。ここは私だけの整備室じゃないから」

とはいえ、IS学園にいくつかある整備室の中でも端にあるので、基本簪と一樹の専用部屋となりつつあるが。

「わあ!これあなたのIS?かっこいい‼︎」

「…別に。あなたの専用機程じゃない」

「私の事知ってるの?」

「…櫻井君と感動の再会を果たした女の子って事で、1年生の中では有名」

簪の言葉に、目の前の女子は『たはは』と苦笑する。

「それもそっか…改めて自己紹介するね。私は田中雪恵。一応S.M.Sってところの代表候補生だよ」

あそこに代表候補生も何も無いけどね、と雪恵は続ける。

「…更識簪。一応日本の代表候補生。いつそれを解かれるか分からないけど…」

「…もしかして、それが理由?」

雪恵が目の前のISを指さす。

「そう…」

「…私に何か手伝える事ある?」

「…え?」

「こう見えて私、中々機械強いんだよ!」

「…櫻井君に教えてもらったの?」

「それもあるけど、かーくんのを見てる内に大体覚えた。流石にOSを作るのは無理だけど…」

「…それは普通専門家がやるから…」

改めて一樹の凄さを再認識した2人。

「そういえば、かーくんが褒めてた女の子って簪ちゃんなのかな?」

「…褒めてた?」

「うん。『姉に酷い事言われても腐らずに努力してて、自分を普通に受け入れてくれた子』って」

一夏の入学当初。一樹に向けられる女生徒達の視線がほぼ嫌悪しかない中、簪は割と一樹を受け入れていた。そのため、一樹の簪に対する評価は正直姉の楯無より高い。それを簪に告げると…

「…櫻井君は、私を1人の『更識簪』として見てくれたから…」

「(あれ?これフラグ?ま、まさかの私にライバルが⁉︎かーくんを認めてくれる人が増えるのは嬉しいけど…ああもうなんか複雑!!)」

雪恵が1人じたばたしていると、簪は困ったように笑う。

「…安心(?)して。私は櫻井君を頼りになる友人としか思ってないから」

「簪ちゃんありがどー!」

「キャッ⁉︎」

急に抱きついてきた雪恵に戸惑う簪。

「かーくんを『友人』として認めてくれてありがとう!!」

S.M.Sや()()以外の女子は一樹を一夏との恋路の邪魔者扱いするのが多かったため、一樹を『友人』と認めてくれる簪は貴重だ。

 

コンコン

 

雪恵と簪がじゃれていると、整備室の扉を誰かがノックした。

「はーい、どなたですかー?」

『櫻井一樹だ』

「かーくん?入って大丈夫だよー」

雪恵の言葉を聞き、一樹が整備室に入ってきた。

「かーくん、何でノックしたの?」

「一夏がこの学園に来てから、何度もノックをしないで大変な事になってるからな…」

遠い目をしながら答える一樹。

「…整備ってのは油まみれになったりするだろ?だからここで作業着に着替えてることだってあるかもしれないし」

「あーなるほど」

実際、雪恵の後ろに立つ簪は作業着を着ている。一樹の判断は正しいと言えよう。

「っと、更識さん。経過は順調?」

「…正直、微妙。どんなに急いでも、今度のキャノンボール・ファストには間に合わなさそう」

「…アレは数百時間は扱ってるのが前提だからな」

「何でかーくんがキャノンボール・ファストについて知ってるの?」

ISを扱えない一樹には関係ないはずなのだが…

「キャノンボール・ファストもどきをやった事があるんだよ。コイツで」

自身の左腕につけている腕時計を指しながら一樹は答える。

「…最高速度で?」

「最高速度で」

S.M.Sのノリを大分理解したと思っていた雪恵だが、まだまだS.M.Sのノリは理解しきれないようだ。

「みんなレースだと思ってはしゃいでたからな。楽しかったぜ?」

「やっぱりみんな男の子だよね…」

お祭り等のイベント大好き。それがS.M.S。

「…何か手伝おうか?」

「…ありがとう。気持ちだけ受け取っておく」

「そっか。何かあったら教えてくれ。できるだけ手伝うから」

「…じゃあ」

 

週末、一樹と雪恵、そして簪は整備に必要な部品の買い出しに来ていた。

「…よっと。コレで全部か?」

「多分…ごめんね?荷物持ちさせて」

「気にすんな。ウインドウショッピングに待たされるのじゃなければ全然良い」

「かーくん、ああいうの嫌いだもんね…」

「買い物なんか目的の物探すだけで充分じゃねえか。俺はいつもスーパーの見切り品と財布の中身で戦ってるんだぞ。服に何万もかけられるか」

「前半はかーくんだけだと思うな!」

相変わらずの一樹にツッコミを入れる雪恵。なんてことは無い。学生の普通の休日だ。

 

ドックン

 

「「!?」」

「…どうしたの?」

一樹と雪恵が急に厳しい顔になったので、簪は不思議そうな顔をする。

「雪、更識さんを頼んだ!先に行っててくれ!避難場所で落ち合おう!!」

簪の目の前で変身する訳にはいかないため、雪恵に先に避難するよう言う一樹。ベンチにパーツを置き、駆け出した。

「ちょ、櫻井君!?」

「ごめん簪ちゃん!」

雪恵はアストレイ・ゼロを展開。買ったパーツと簪を抱えて飛ぶ。

「え、ちょ、雪恵?」

「喋らないで!舌噛むよ!!」

 

《ギャオォォォォ‼︎》

エボルトラスターが示すポイントに着いた一樹が見たのは、ダーク・フィールドで倒した筈のガルベロスだ。

「…またお前か。けど、油断はしない!」

エボルトラスターを引き抜き、正面に構えた後、天空に掲げた。

「ハッ!」

眩い光が一樹を包み、ウルトラマンに変身した。

「シェアッ!」

 

『ビースト反応を確認!クロムチェスター出撃して!』

走ってそれぞれの機体に乗り込もうとする面々。

「一夏君!」

「楯無さん⁉︎」

「お願い、私も連れて行って!」

「でも生徒会長が残らなかったら何かあった時「簪ちゃんがビーストの出現ポイントにいるの!」ッ⁉︎」

『織斑!何をしている!早く出撃しろ!』

「…楯無さん!後ろに乗って‼︎」

「ありがとう!一夏君!」

 

「シュアッ‼︎」

《グシャァァァァァ⁉︎》

ウルトラマンはガルベロスの突進の威力を利用して大地に叩きつけた。

《ギャオォォォォ‼︎》

起き上がり、その大きな腕を振り下ろしてくるガルベロス。

「フッ!」

それを両腕で受け止め、空いた胴に回し蹴りを放つウルトラマン。

「テェアッ‼︎」

《ウギャッ⁉︎》

怯んだガルベロスを投げた。

「デェアァァ‼︎」

《グシャァァァァァ⁉︎》

 

「ふん、ガルベロスをものともしないか。だが、そうでなくてはつまらん」

ウルトラマンとガルベロスの戦闘を見ていたフードの人物。フードは黒いエボルトラスターを取り出し、引き抜いた。

「ふっ!」

黒いエボルトラスターから闇が溢れ、シャドウへと変身した。

 

『デュアァァァァ!!』

「グァッ!?」

ガルベロスに向かって走るウルトラマンに、シャドウの飛び蹴りが命中した。

 

「黒いウルトラマンまで!?」

戦闘の余波が来ないところまで避難した雪恵達。1対2となった状況に、危機感を感じずにはいられない。

「あの怪獣だけでも厄介そうなのに…」

簪も震えながら分析する。

「(お願い、早く来て…みんな)」

一夏達が間に合うのを祈るしかない雪恵。

 

『デュ!』

「シェアッ!」

シャドウの回し蹴りをウルトラマンは右脚で受け止める。

《ギャオォォォォ‼︎》

「テェアッ!」

ガルベロスの攻撃を捌き、ガルベロスの重量を利用して大地に叩きつける。

《ギシャァァァァ⁉︎》

『ハッ!』

倒れたガルベロスを飛び越えて、シャドウが蹴りを放ってくるのを何とか受け流すウルトラマン。

「シュウッ!」

《ギャオォォォォ‼︎》

背後からガルベロスが襲いかかってくるが、ウルトラマンは突進を捌き、ガラ空きの背中に拳を叩き込んだ。

「デェアッ‼︎」

《グシャァァァァァ⁉︎》

ガルベロスは倒れる。そんなガルベロスを踏み台に、シャドウはドロップキックを放った。

『デュアッ‼︎』

「グアッ⁉︎」

 

「楯無さん、着きました!妹さんのところに急いで!」

「ありがとう一夏君!」

ハッチを開け、楯無を降ろす。楯無が簪達のところへ向かったのを見ると、一夏は指示を出した。

「Set into hyper strike formation‼︎‼︎」

 

「簪ちゃん!」

「お姉ちゃん⁉︎何でここに⁉︎」

「たった1人の妹が危ないって言うのに、じっとしてられる訳無いじゃない‼︎」

簪が戸惑っているが、今はそれどころではない。

「2人とも!話は後にして今は離れるよ!」

 

『フンッ‼︎』

「グアッ⁉︎」

ウルトラマンはガルベロスに羽交い締めにされ、シャドウにサンドバッグのように殴られていた。

『ハハハハハ…デュアッ‼︎』

「グオッ⁉︎」

 

そこに、ハイパーストライクチェスターが到着した。

「…シャル、ハイパーストライクバニッシャーの準備を」

『了解だよ』

ウルティメイトバニッシャーだけではすぐエネルギー切れを起こしてしまう。その問題を改善するために、ウルティメイトバニッシャーより出力を抑えたハイパーストライクバニッシャーと変更が出来るように束と一樹によって調整された。

『準備完了!』

「了解!ハイパーストライクバニッシャー…発射‼︎」

 

ハイパーストライクバニッシャーはシャドウの背中に直撃した。

『グゥッ!?』

シャドウはハイパーストライクチェスターの方を向くと飛びかかる。

『デュワッ‼︎』

だが、何とかガルベロスの拘束を振りほどいたウルトラマンがシャドウを抑えた。

「テェアッ‼︎」

『グゥッ⁉︎』

ウルトラマンはシャドウを地面に押さえつけると一夏に向かって頷いた。

 

一夏はウルトラマンに頷き返す。

「鈴!エネルギーチャージは⁉︎」

『もう終わってる!いつでもいけるわよ‼︎』

「分かった!喰らえ!ウルティメイトバニッシャー!!」

ウルティメイトバニッシャーの一撃は、ガルベロスを消滅させた。

《グシャァァァァァ⁉︎》

 

『フンッ!』

「ハッ!」

シャドウの連続して放たれる攻撃を受け止めるウルトラマン。

「フッ!テェアッ‼︎」

『グッ⁉︎』

シャドウの大振りの一撃を受け止めると、シャドウの腕を掴んで背負い投げ。

『デュアッ!』

起き上がったシャドウの怒涛の連続攻撃を捌くウルトラマン。

『ハァッ!』

「シュアッ‼︎」

シャドウがウルトラマンを投げようとするが、ウルトラマンはその勢いを側転で殺す。

「デェアッ‼︎」

『フンッ‼︎』

未だ掴まれたままの腕を利用し、シャドウを投げようとするが、シャドウもその勢いを側転で殺した。

「ハッ‼︎」

『グゥッ⁉︎』

起き上がったシャドウに、ウルトラマンは体重を乗せた両拳を叩き込んだ。

「フッ!シェアッ‼︎」

シャドウとの距離が離れた所で、アンファンスからジュネッスにチェンジした。

『デュ!』

「ヘェアッ‼︎」

ジュネッスにチェンジしたウルトラマンに怯まずに襲いかかるシャドウ。だが、その攻撃のことごとくを受け止められる。

「デェアッ‼︎」

『グオッ⁉︎』

隙が出来たシャドウに、ウルトラマンの拳が叩き込まれた。

『フンッ!』

「フッ!」

シャドウの回し蹴りは、ウルトラマンの左脚で受け止められる。

「フッ!デェア‼︎」

『グッ⁉︎グアッ⁉︎』

隙が出来たシャドウに、ウルトラマンの連続回し蹴りが命中する。

「テェアッ‼︎」

『グオッ⁉︎』

突進してきたシャドウの勢いを利用、合気道の要領で投げる。

「ヘェアッ!」

起き上がり、掴みかかってくるシャドウを自らの背を軸に投げようとするが、シャドウは何とか着地。

『ハァァァァァァ!!』

ウルトラマンに向かって高速バック転で攻撃を仕掛けるが、ウルトラマンは後ろにマッハムーブで移動して避ける。

「シェアァッ!!」

今度はウルトラマンがシャドウにマッハムーブで突進するが、シャドウは高速回転したまま避けた。

『フッフッフッ…』

ウルトラマンを見て不敵に笑うシャドウ。

「フッ!」

ウルトラマンは空中に浮かぶと高速乱回転してシャドウに接近。

『ヌッ⁉︎』

攻撃してくるタイミングが読めない動きに、シャドウの動きが止まった。

「デェアァァ!!!!」

『グオッ!?』

その隙を逃さず、飛び蹴りを叩き込んだウルトラマン。

ピコン、ピコン、ピコン…

『ヌッ⁉︎』

ウルトラマンのコアゲージ、シャドウのエナジーコアが鳴り始める。

「フンッ!ハァァァァァァ…フッ!デェアァァ!!!!」

戸惑っているシャドウに、ウルトラマンは三日月状のカッター光線、ネオ・ラムダスラッシャーを放った。

『グッ!?ウガアァァァァ!!?』

「シュ!フアァァァァ…テェアァァ!!!!」

ネオ・ラムダスラッシャーを喰らって動きが止まったシャドウに、ウルトラマンはコアインパルスを放った。

『グアァァァァァァァ!!?!!?』

シャドウは断末魔の叫びをあげ、消えていった…

 

「勝った…ウルトラマンが勝った!!」

「やったよ簪ちゃん!!」

「うん!やったね雪恵!!」

ウルトラマンの勝利を喜ぶ雪恵と簪。ウルトラマンはそんな2人を見てサムズアップをしてみせた。

「フッ!」

2人は笑顔でサムズアップを返す。

「シェアッ‼︎」

ウルトラマンは2人に頷くと、大空へと飛び上がった。

 

「…カッコよかった。アレが、本当のヒーロー…」

ヒーローが大好きな簪はしばらくウルトラマンの飛び去った大空を眺めていた。

「おおーい!2人共無事か!?」

一樹が手を大きく振りながら簪達のところへ駆けてきた。

「櫻井君⁉︎今までどこに⁉︎」

「ショッピングモールの人たちを避難させてた。それで避難させたところに2人がいなかったから探しに来たんだけど…」

「ああ、避難した先が違ったのね」

先ほどから軽く存在を忘れられていた楯無が会話に参加する。

「…あれ?お姉ちゃん、いたの?」

「簪ちゃん酷い〜!お姉ちゃん、簪ちゃんの事が心配で来たのに〜!」

目の前で行われる姉妹の会話に、一樹と雪恵は苦笑するしかなかった。

「(仲直りするなら、今じゃないですか?)」

ミステリアス・レイディに個人回線を送り、楯無を促す。

『…そうね。悪いんだけど、しばらく2人だけにさせて貰える?』

「『(了解)』」

一樹と雪恵は簪に気づかれないよう、そっとその場を離れた。

 

「あ、いたいた。おーいかず…ガフッ!?」

空気を読まずに大声を出そうとする中途半端ニュータイプ。それを一瞬で黙らせる一樹。目で文句を言ってくる他の専用機持ちに、目で後ろを指す。それを見て一樹の行動を理解した専用機持ちたちは…

 

グッ!!!!

 

力強いサムズアップを全員が見せた。こういう時まで一夏の唐変木が発動してしまう事は、彼女達が身をもって知っているからだ。そんな彼女達に一樹は苦笑しながら敬礼をしてみせた。

 

「…あのね、簪ちゃん」

「…何?」

急に雰囲気が変わった姉に、簪は警戒しながら続きを促す。

「…ごめんなさい!!!!」

そんな簪が見たのは、直角に腰を折る姉の姿だった。

「あの時、酷い事を言ってごめんなさい。私は、あの時『闇』にあなたを巻き込みたくなかった…そのためにとはいえ、あんな事を言ってごめんなさい…」

「…」

簪の言葉は無い。それも当然か。『無能でいなさい』と強く言っておきながら、今更なかったことにするなど、出来るはずがない…

「……私は____」

どんな罵詈雑言も受け入れよう。それをされるだけの事を自分はしたのだから…

「____お姉ちゃんにとって、いらない子なの?」

「…え?」

「私は、お姉ちゃんとずっと仲良しでいたかった。内気な私と遊んでくれてた優しいお姉ちゃんは、嘘だったの…?」

楯無が頭を上げたそこには、目に涙を浮かべた最愛の妹がいた。

「『無能でいなさい』って言った時のお姉ちゃん、怖かった…私の好きなお姉ちゃんは、もういなくなったのかと思った!!」

ずっと溜め込んでいたであろう、妹の激情。楯無は…いや、更識簪の姉である『更識刀奈(かたな)』は、泣きじゃくる妹を、そっと抱きしめた。

「私…無能じゃないよ…?お姉ちゃんの、足手まといにならないよう、頑張って日本の代表候補生になったんだよ?」

「うん…うん!」

「だから________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________これからもお姉ちゃんの妹でいて良い?」

「うん…うん!簪ちゃんは…世界でたった1人の私の妹だよ…」

抱き合う2人は、今世界で一番輝いていた。

 

「…なあ一樹。俺、何かお前を怒らせるようなことしたか?」

気絶から目覚めた一夏が真っ先に聞いたのがそれだった。

「…今、現在進行形で色んな人の怒りを買ってると思うぞ。感動の場面を潰したってことでな」

「感動の場面?どゆこと?」

「…更識姉妹は和解したそうだ」

「そっか…うん、やっぱり()()は仲良しでないと。なあ一樹?」

「…そうだな」

一樹と一夏、2人とも一般的に幸せな家庭ではないだろう。しかし、それでも2人にとって、護りたいものである事は変わらない。

「…これからも頼むぜ。嫌われ者(ヒーロー)

「…ああ、よろしくな。唐変木(ニュータイプ)




彼女達は、お互い相手を想うがあまりすれ違ってしまった。それを解消したのは2人の男子。唐変木のニュータイプと、嫌われ者のヒーロー。とはいえ、2人が作ったのは『きっかけ』だけ。
人は…『きっかけ』で生きてるかもしれない。
『きっかけ』で傷つき、
『きっかけ』で直る。

その『きっかけ』で起こった選択を、間違えないように生きててほしいと、2人は願っているのかもしれない。


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Episode59 獅子-レオ-

遅くなってしまってごめんなさい!


初のゲストウルトラマン!誰が出るのかはサブタイ通り!!

これが、自分の出来るゲストの出し方だぁぁぁぁぁ!!


「かーくん、最近整備室にあまりいないよね」

「姉妹の時間を邪魔する趣味はねえよ…」

食堂でコーヒーをゆっくり飲む一樹。最近の第4整備室は、和解した更識姉妹によるIS制作の空間となっており、一樹にとってとても居心地が悪い所となっていた。

「お、一樹。お前がここにいるのは珍しいな」

コーヒーのお代わりをした一樹達の所に、一夏がやって来た。

「自分でもそう思ってるよ…」

「頼むから否定してくれ。ボケを受け入れられると反応に困る」

相変わらずの一樹に苦笑する一夏。

「で、俺に何の用だ?」

「ああ、()()から手紙が来てさ。今帰ってきてるらしい。俺は顔を出そうと思ってるんだけど、お前もどうだ?」

「マジ⁉︎行く行く!雪はどうする?」

「織斑君の師匠かぁ…会ってみたいし、行こうかな」

「了解。今度の日曜、空けといてくれ」

 

そして日曜。一樹と雪恵、そして一夏は山を登っていた。

「こんな山奥に織斑君の師匠がいるの?」

「ああ」

登り始めてから早1時間、かなり奥まで来たが、全く人の気配が無い。

「ねえかーくん、本当にこの道で良いの?」

「ああ。滝の音が聞こえるだろ?滝の近くに一夏の師匠はいるんだ」

一樹の言葉に、雪恵が耳を済ませると確かに滝がある。

「じゃ一樹、雪恵。俺が先に行くぜ」

「あいよ」

更に道が細く、険しくなるので一夏が先頭で歩き始める。

「雪、一夏の後に続いてくれ。転びそうになったら支えるから」

「分かった」

 

険しい道を抜けた先は広く、右に寺の様な建物、左手に大きな滝があった。

「…急に広くなったなぁ」

「雪、あそこにいる人が一夏に武道を教えた人だ」

一樹の指差す方向には、左手の薬指に獅子の彫刻が施された指輪をつけた僧がいた。

「…久しぶりです。『ゲン』さん」

「お久しぶりです。師匠」

一樹と一夏がそれぞれ挨拶すると、僧…『おおとりゲン』が顔を上げた。

「一樹君に一夏か…よく来たな。茶でも出そう」

「あ、俺がやりますよ」

「そうか?なら頼もうかな。配置は覚えてるか?」

「はい」

厨房へと向かった一夏。一樹は持っていた袋を見せる。

「一応御茶請けは持って来たんですけど…ゲンさん、何か食べられないのありました?」

「いや、大丈夫だ」

ここまでの一樹達との会話を聞き、とても一夏の言っていた『厳しい師匠』の意味が分からない雪恵。

「常に厳しい顔してたらお互い疲れるだろうが」

「ねえかーくん本人の前で言うのはやめてくれないかな!!」

そんな一樹達の会話を笑顔で見るゲン。

「はっはっは。一夏は俺の事が厳しいと言ってたのか?」

「え、ええ…まあ」

「すまん雪恵。普段はめっちゃ優しいおじいちゃんなんだ。それが武道の事となると鬼のような顔をするけど」

「一夏、お前一言多いぞ。誰がおじいちゃんだ」

「ゲンさん、ツッコミどころ違うと思う」

 

一夏と雪恵が近くの川で釣りに行った後、一樹はゲンに聞いた。

()()()()()は、どうですか?」

「…君が命懸けで守っているのがよく分かるよ。俺が()()で戦っていた時より、怪獣が出た形跡が少ない」

一樹の曖昧な言葉の意味を汲み取ったゲンは答える。

「ゲンさんから見てそうなら、体を張ってメタ・フィールドを展開してる甲斐がありますよ」

ゲンに笑顔を向ける一樹。だが、一方で辛い報告もしなければならない。

「ゲンさん…俺、救えなかった命があるんです」

「…話してくれるか?」

一樹は語った。溝呂木に殺され、操り人形とされた斎藤沙織を救えなかったこと、そして…ワロガに利用されたレニを救えなかったことを…

「…俺は、この事をちゃんと背負っていきますよ。あなたが、やっているように」

「…君は、強いな」

「ウルトラマンは、神では無いですから。出来ないことも、ありますよ…それに、ゲンさんが一夏に言ってたでしょ?だから、泣いてなんかいられないですよ」

一樹の脳裏に浮かぶのは、小学5年の一夏の修行風景…

 

『もう無理です師匠、俺には出来ません!!』

泣きながらゲンに言う一夏。この頃の一夏は、篠ノ之道場より厳しいゲンの修行に着いて行けなかった。

『…一夏、お前が俺の門下に入った理由は何だ?『姉や自分の周りの大切な人を守る』では無かったか?』

『…はい』

『ならばその顔は何だ?その目は、その涙は何だ⁉︎お前の涙で大切な人を救えるのか…?』

それを見守っていた一樹。当時、雪恵を脳死に追いやってしまった一樹にとって、その言葉はとても響いた…

 

「修行を見てやった一夏より、君の方が成長しているとは…」

「あはは…アイツも、ゲンさんのおかげで強くはなりましたよ。目標にしてた姉を超えるくらいには。まあ、鍛えたのがゲンさんだからってのもあるでしょうけど」

 

ゲンと話してから早数日。学園は…平和だった。

「一夏!」

「一夏さん!」

「一夏!」

「一夏!」

「一夏!」

「一夏君!」

普通の生徒は…だが。

「…あははは、賑やかだなあ、一夏一夏うるさいなぁ…もう疲れたよ、パトラッシュ」

「かーくんの目が死んでいくぅ⁉︎」

一夏の相変わらずの唐変木を見てる一樹の目が凄まじい速さで濁っていく。というか、お迎えが来かけてる。そんな1組の日常。

「…櫻井君、お菓子食べる?」

「お茶もあるよ?」

「かずやん、お話しよ」

最近、一夏が専用機持ち達を次々と堕としていくのを見て、一樹の長年の苦労が分かったのだろう。1組の生徒とは大分打ち解けた一樹。

「…ああ、もらうよ…」

そんな平和な生活が…

 

ドックン

 

「ッ!?」

空気を読まない輩に潰されようとしていた。

「悪い!やっぱり俺いらない!!」

廊下を駆け出す一樹。一樹が駆け出す理由をもう察せれる1組の生徒達。代表して静寂が一夏に言う。

「織斑君!櫻井君が!!?」

静寂の焦ったような顔を見た一夏達は頷くと、ハンガーに向かって走り出した。

 

『やれ!ブラックギラスにレッドギラス!』

IS学園からほど近い海上に、サーベル暴君、マグマ星人とその配下である双子怪獣、ブラックギラスとレッドギラスが出現。IS学園に向かって進行していく。

 

マグマ星人達を視認した一樹。その脳裏に、ゲンの言葉が走る。

 

『俺が地球で最初に戦った相手は、日本列島を海に沈めようとした奴だった。そいつらから俺は黒潮島の人々を守れなかった…これは俺が決して忘れてはならないことだ』

 

「…この学園は、沈めさせない!」

決意を胸に、エボルトラスターを引き抜いた。

「シェアッ‼︎」

 

ウルトラマンがマグマ星人達と戦い始めるのを、ゲンは離れた場所から見ていた。

「…3対1。しかも足場は水場。一樹君、君はその卑怯者を相手にどう戦うのだ?」

 

『やれ!』

《《ギシャァァァァ‼︎》》

「シェアッ!」

マグマ星人は配下の双子怪獣を突撃させる。

「ハッ!」

ウルトラマンは正面から2体の怪獣の突進を受け止める。

《グルァァァァ‼︎》

《ギャオォォォ‼︎》

「グアッ⁉︎」

双子怪獣は邪魔くさそうにウルトラマンを薙ぎ払う。そして怪光線を学園に向かって放った。

《《ギャオォォォォ‼︎》》

「フッ⁉︎ハッ‼︎」

ウルトラマンはマッハムーブで先回りすると、サークルシールドで怪光線を受け止めた。

『なかなかやる…ならば!』

マグマ星人は右手のサーベルからレーザー光線を放った。レーザー光線はサークルシールドの隙間から入り、ウルトラマンに命中した。

「グアッ⁉︎」

『やれ』

体制が崩れたウルトラマンに、双子怪獣は追撃する。足場が不安定な水場での戦闘に、ウルトラマンは防戦一方となってしまう。

《ギャオォォォォ⁉︎》

《グルァァァァァ⁉︎》

双子怪獣の背中がチェスター隊に攻撃された。意識してなかったところから攻撃された事により、双子怪獣は怯んだ。

「デェアッ!!」

その隙を逃すウルトラマンでは無い。双子怪獣の腹部にパンチを放ち、更に学園から離す為に蹴りを入れる。

「フッ!シェアッ!!」

素早くジュネッスにチェンジすると、双子怪獣をマグマ星人に向かって蹴り飛ばした。

「ハッ!デェアッ!!」

《ギシャァァァァ⁉︎》

《ギャオォォォォ⁉︎》

学園から双子怪獣が十分に離れさせる。ゲンから双子怪獣が津波を起こす能力があると聞かされているため、それを阻止するためにメタ・フィールドを展開しようとする。

「シュ!ファァァァァ…」

だが____

『止まれ、ウルトラマン。コレがどうなってもいいなら別だがな』

____マグマ星人の左手は鎖を持っていた。そしてその鎖は、いつの間にか合体していたハイパーストライクチェスターを捕らえていた。

「フッ⁉︎」

 

「クソッ!離せ離せぇぇ!!」

『ダメだ!振り切れない!?』

エンジン出力を最大にして何とか鎖から逃れようとするが、鎖は余計に絡まるだけだった…

 

『この雑魚共を見捨てられる貴様ではなかろう?安心しろ。貴様が動かなければ命は保証してやる』

「…」

ウルトラマンは悔しそうに固く拳を握る。

『…ブラックギラス、レッドギラス。そいつを殺せ』

《《ギシャァァァァ‼︎》》

命令を受けた双子怪獣が、ウルトラマンに迫る…

 

ゲンは被っていた笠を投げると、左手を突き出して叫んだ。

「レオぉぉぉぉ!!!!!!!!」

 

「イヤアァッ!!」

『何!?レオだと!?』

ゲンが変身した巨人、『ウルトラマンレオ』はマグマ星人の右手のサーベルを抑える。

「フッ!?ハァッ!!」

それを見たウルトラマンは2体の怪獣を転ばせ、マッハムーブで接近。鎖を引きちぎった。

「シェアァッ!!!!」

 

『今だ!一夏!!』

「言われなくてもぉぉぉぉ!!!!」

鎖が引きちぎれた事によって解放されたハイパーストライクチェスター。すぐさまその場から離脱。ようやく現れたレオを認識出来た。

「別の…ウルトラマン?」

 

「(ゲンさん!こいつらをメタ・フィールドに送ります!!)」

「(分かった!君はその空間を作れ!!その間は俺がこいつらを相手する!!)」

「(お願いします!!)」

テレパシーで会話した2人。ウルトラマンはメタ・フィールドを展開する。

「フッ!ファァァァァ…フンッ!デェアァァァァ!!」

メタ・フィールドの範囲から逃げようとするマグマ星人だが、レオがそれを許さない。

「ダァッ!!」

『おのれ!』

 

メタ・フィールドで激しくぶつかり合うウルトラマンとギラス達。

「シェアッ!!」

《ギャシャアァァ⁉︎》

手前にいたブラックギラスに素早い足払いをかけ、転ばせる。そんなブラックギラスにつまづき転ぶレッドギラス。

《グギャ⁉︎》

「フッ!ハァァァ…デェアァァァァ‼︎」

レッドギラスの尾を掴み、ジャイアントスイング。ブラックギラスにぶつける。

《《グギャァァァァ⁉︎》》

 

『ハッ!』

「ヌッ!」

マグマ星人はレオにサーベルを振るうが、レオはエネルギーを込めた手刀で受け止める。

「ハァァァッ!!」

『グッ⁉︎』

マグマ星人の胴部にレオの突きが入る。拳法の達人であるレオの一撃に、打たれ弱いマグマ星人は大きく怯んだ。

 

ウルトラマンは双子怪獣を一方向にまとめる。

「ハァァァ…デェアッ!!!!」

クロスレイ・シュトロームで纏めて倒すと、マグマ星人と戦うレオに加勢する。レオに向かって振り下ろされたサーベルをアームドネクサスで受け止め、マグマ星人にニーキック。

「シェアッ!」

『ガァッ⁉︎』

怯んで下がったマグマ星人に、レオのハンドスライサーが決まる。

「ファァァァァ!!」

『グヌッ⁉︎』

今度はウルトラマンがマグマ星人を持ち上げ、投げ飛ばした。

「テェアァァ!!」

『ガッ⁉︎』

距離が出来た所で、ウルトラマンは胸に、レオは両腕にエネルギーをそれぞれため、コアインパルスとシューティングビームをマグマ星人に放った。

「シュ!ファァァァァ…デェアァァ‼︎」

「ダァァァ‼︎」

2つの光線が直撃したマグマ星人は、爆散した。

 

「俺の仲間を助けてくれて、ありがとうございます‼︎」

「礼を言われるほどの事でもないさ」

戦闘終了後、ゲンに深く頭を下げる一樹の姿があった。

「あの時、ゲンさんが来てくれなかったら俺は死んでました。だからありがとうございます‼︎」

「…いや、こちらも色々勉強になった。ありがとう」

一樹に向かって微笑むゲン。そして、一樹の肩を軽く叩く。

「またしばらく留守にする。俺がいない間、君に託すぞ。俺の()()を…」

「…はい!!!!」

「頼んだぞ、一樹君」

夕日を背に、一樹とゲンは硬い握手を交わしたのだった。




誰が一夏の武道の師匠がゲンだと予想出来たかな?

同じ篠ノ之流だと思う人がほとんどだと思います。

ただ、一夏はそれを超えるための修行=ウルトラ並みの修行をしてきたのだ!









よく生きてたな、一夏…記憶が正しければ真冬に滝を切れとか言われてると思うけど…


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Episode60 唐変木-インセンシティブ-

…反省はしてる。



どうしてこうなった…


「ねえ、織斑君の唐変木エピソードってどれくらいあるの?」

ある日の放課後、いつも通り一夏達専用機持ちのじゃれ合いを見ていた相川がふと気になった事を一樹と雪恵に聞いてくる…一夏の唐変木エピソードを。

「…なあ相川。『恋』が何か分かったのはいくつだ?」

「え?えーと…小学校3年生くらい?」

「まあ妥当だろう。小学校3年生ぐらいになるとそれぞれ『あの子可愛い』とか『あの人カッコいい』ってのがあるだろ?」

「「「「うんうん」」」」

どこからかプロジェクターを取り出した一樹。そして雪恵がSDカードをセット。専用機持ち以外の生徒の連携は素晴らしく、いつの間にか教室の机が全て下げられ、イスだけが前に出された。

「…プロジェクター出した俺も俺だけど、何その連携?」

「「「「櫻井君と雪恵ちゃん見て覚えた」」」」

「うんうん、着々とレベルが上がってるね。でも、修行を怠らないこと!」

「「「「はい!師匠!!」」」」

「原因お前だったのか雪!?」

「このIS学園…かーくんと連携を取れるようになれば、下手な候補生なんて相手にならないようになるから頑張ること!」

「「「「はい!!」」」」

「ねえそれIS操縦の事だよね?実生活で俺と連携して何の意味があるんだよ⁉︎」

「「「「苦労男子の気持ちが分かります!!」」」」

「誰得だよ!?」

「私得!!」

「雪だけじゃねえか!!!」

一樹のツッコミ役が定着してきたところで、話は戻る。

「コホン、とにかく小学校3年生くらいになれば『恋愛』ってのが出てくる」

プロジェクターに接続しているパソコンを操作。小学校3年生時代の一夏と箒、雪恵を写した。

「「「「おおー!」」」」

「ちょ、やめろ一樹!」

「わ、私も写ってるのか!?」

「あはは!箒ちゃんが髪短くしてた時だね」

写っている3人がそれぞれ反応する。いつの間にか伊達メガネと指揮棒を持った一樹は授業風に話し始める。

「ここに写ってるのはみんな予想している通り、小学校3年生時代の一夏だ。そんな彼の普段の生活を写した映像がコレだ」

パソコンを操作し、一樹が映すのは…

『死ねやゴラァ!』

『当たんないね!!』

阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

「「「「何これぇぇぇぇ!?」」」」

「しまった!これ上の学年に絡まれた時の動画だ!!ってか誰だよこれ撮ったのは!?」

「あ、私。警察に渡せば証拠になるかなって」

一樹の言葉に胸を張る雪恵。得意げな顔が憎たらしい。

「お前かぁぁぁぁ!!?」

急いで画面を切り替える一樹。

 

『あーテステス。よし、撮れてる。一夏、本番行くぞー』

『本番って言うけど全く練習してないよな?』

『気にするな』

『ったく…あー織斑一夏です。なんの需要があるのか知らないですけど、俺の生活を記録します』

気だるげに画面に向かって言う幼い一夏がいた。

「「いつ撮ったの!?」」

箒、雪恵もびっくりしてるが…

「ヒント、3学期。以上」

一樹はそれしか言わなかった。

 

事の発端…ある日の放課後の光景。

「はい織斑君!」

「織斑君…これ、貰って」

「別にあなたのために作った訳じゃないんだからね!!」

典型的なツンデレも混じっているこの状況。何が起きてるかと説明するならば…黒板に書かれている日付を見ていただければ、皆さん方には分かっていただけるだろう…

 

2月14日

 

そう、この日付なのだ。朝から一夏の周りに女子生徒が群がり、チョコを渡している。

「ちぇ、また一夏かよ…」

「やっぱり顔面偏差値か…」

「逆に考えようぜ?来月は全く出費を気にしなくていいんだから」

「「悲しい事言うのやめろよお前」」

一夏以外の男子はどこか悲壮感を感じられた。

「なあみんな。ここにいても居心地悪いからサッカーやりに行かね?」

『何度』小学生をやったか分からない一樹は、言葉程気にしてないようだ。

「…サッカーか…よし、みんなやろうか」

「「「「賛成!!」」」」

一樹の提案に、一夏以外の男子が教室を出ようとする。

「あ、俺も行く!」

一夏も席を立とうとするが…

「あー、一夏。お前は当分来れないと思うぜ」

「は?なんでだよ」

一樹の言葉に疑問を持つ一夏。

「なんでって…」

一樹が廊下を見ると…

「はいはい!織斑君にチョコあげる人は並んで!押さないで!みんなちゃんと順番は回るから!!」

雪恵が3、4、5、6年の女子生徒達を整列させていた。

「あと4学年分あるからな」

「「「「いつの間に堕としたんだあの女たらしは!?」」」」

 

「…織斑君、小学生からアレだったんだ」

動画を撮る理由を語っている一樹。まだ話の途中だが、その頃から一樹達が苦労してるのが分かる話だ。

「その時はまだISが出てないからな。純粋にアイツが堕とした訳だ」

「「「「恐ろしい…」」」」

「さて、話の続きだ。確かに、俺らが通ってた小学校はあまり児童数はない。けど、4学年分ものお返しとなると尋常じゃない量になる訳だ。結果、当時の女子生徒は何故か俺にこう言ってきた」

 

「ねえ櫻井」

「んぁ?」

3月の頭、女子達の代表が一樹に話しかけてきた。

「そろそろホワイトデーよね」

「らしいな。で、それが?」

「織斑君、アレだけ貰ってたでしょ?それ全部にお返しさせるのは無理だと思うの」

「ひとクラス分でも小学校3年生が出せる金額じゃ足りねえけどな」

「…櫻井、写真得意だよね?」

「…おい、まさか…」

「そのまさか。織斑君の爽やか写真+織斑君の生活を写したビデオ作って下さい!!」

「…俺に何の得が?俺出費しかないんだけど?」

「流石に写真代とビデオ代は出すよ…」

「ならまだ良いか。なら数を1枚の書類に纏めてくれ。写真は1人あたり種類×3で充分だろ」

「「「「ありがとうございます!」」」」

 

「それで、撮ったのがこのビデオと…」

「写真も残ってるぞ」

一樹が出すのは、バスケをしていて汗を拭う一夏、サッカーのドリフトで次々と相手選手を抜く一夏、爽やかな笑顔を見せる一夏…etc

「「「「櫻井君!3枚ずつ買います!!」」」」

財布を取り出す1組生徒達。その中にはいつの間にか専用機持ちもいた。

「櫻井!私もだ!!」

「櫻井さん!私は各10枚欲しいですわ!!」

「櫻井!アタシは各5枚!!」

「櫻井君!僕にも売って!!」

「櫻井!私は各10枚だ!!」

「櫻井君!お姉さんにも各10枚!!」

いつの間に楯無がいたのかは突っ込まない一樹。疲れるのはいやだから。

「まあ落ち着け。まだ続きがあるから。ってか篠ノ之は当時買っただろうが!!」

「買える時に買っておかなければ死ぬ程後悔する!」

「死なねえよ!!とにかく話の続きだ!!」

 

時は流れ、中学2年生となった一夏と一樹。弾という友人もでき、楽しく学校生活を送っていた…のだが。

「なあ一樹、アイツしばいてきて良い?」

「諦めろ。あそこまでいくともう笑うしかない」

やはり2月14日、一夏のバックはチョコでパンパンになっていた。

「3学年全女子から渡されるって何者なのアイツ?」

「今朝は近くの高校生3学年にも貰ってたぞ」

「…マジ?」

「ああ。ただ悲しいことに、その意味を理解してないんだよアイツ」

 

「なあ一夏。お前、何でバレンタインでみんなチョコ渡したんだと思う?」

「あん?ウチの家庭事情を知ってたから気を使ってくれたんだろ?」

一瞬だった。鈴が一夏の胸倉を掴んだのは。

「一夏ァ!チョコに頭ぶつけて死ね!!施しな訳あるかい!!」

「り、鈴さん?」

そんな2人の会話を聞きながら、一樹はパソコンを操作。画面に映った写真は…

野球でバッターボックスに立つ一夏、家庭科室で菓子をつくる一夏…etc。

「まあとにかくあんなだった訳だが、ホワイトデーの時期に凰が言ってきた。『一夏のカッコいい写真を撮って寄越しなさい!』ってな」

態々録音した音声を流す一樹。

「ぎゃーぎゃー!やめて櫻井!何!?イジメ!?」

「…この間の仕返しだ」

「待ってそれ言われたら何もできな「ねえ鈴ちゃん。かーくんに何したの?」本当にすみませんでしたぁぁぁぁぁ!!」

雪恵のハイライトオフな目で見られた鈴は秒の速さで土下座した。ちなみに、その後ろには箒とセシリアもいたのだが、それはどうでもいいだろう。

「…話は戻って、中学の時のホワイトデーは俺の技術も上がってもうワンランク上のも作れたんだ。それが…」

一樹が取り出したのは、『織斑一夏と添い寝CD〜お前は俺の女〜』と書かれたCDケースだ。取り出した瞬間…

「「「「3ダース買います!!!!」」」」

1組全員立ち上がった。

「…相変わらずなんでこんな人気なのか分かんねえや。なんだかんだ楽しかったから録音したけど」

普通なら黒歴史になるようなモノなのに、一夏は特に気にしていない。

「声だけは自信があるからな。後はお察しだ」

「おい専用機持ちたち、生身ならコイツボコるの許可するぞ」

「「「「ラジャー!」」」」

「何でだ!?」

とは言うものの、ゲンに鍛えられた一夏が生身の人間にやられるはずがない。その程度にやられたら、とっくにジープに轢かれていたことだろう。

「希望者はプラス500円で名前を呼んでもらえるぞ」

「「「「お願いします!!」」」」

いつの間にか1学年のほぼ全員から注文が来てたらしく、雪恵が注文書をまとめていた…

 

「思った以上に一夏の添い寝CDが売れてる件」

『アレ、そんなに人気なのか?』

夜、一樹は弾と電話で話していた。添い寝CDのアイデアを出したのは弾なのだ。

「ちなみに凰が写真を3ダース買ってた」

『買いすぎだろ!?』

「一夏が勢いよく3パターン録音したおかげで俺の収益も中々だ。久々に財布に英世さんを見た」

『…ちなみに一夏は?』

「諭吉さんが溜まってた」

『…まあ出演者の方が多いのは当然だけどさ、一樹はもう少しもらってもいいと思うぞ?』

「おこぼれに預かれるだけ上々だよ」

弾と話しながら、一樹はパソコンにデータを入力していった。

 

数日後…

「…櫻井君。生徒達が乙女がしてはいけない程にやけてる理由、知ってます?」

「…これかな?」

件のCDを見せる一樹。

「それが理由か…休み時間はにやけてるが授業の時の集中力は増してる。あまりうるさく言えないのが面倒だ…」

意外なところで問題点が発覚した『織斑一夏と添い寝CD〜お前は俺の女〜』だった。




俺、声だけは自信あるんだby一夏

こんなふざけたこという幼馴染ですみませんでしたby一樹


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Episode61 宇宙恐竜-ゼットン-

UA15000&お気に入り50を突破!!!
本当にありがとうございます!!
期待に応えられるよう頑張って行きますのでよろしくお願いします!!!!


今回はあの宇宙恐竜が登場です!


そして、奴が…


CDが出回って早1週間、生徒達の顔が日に日にだらしなくなっていた…が、小テストや実技では驚く程成長してるので教師達は何も言えないのが現状だった。

「ねえかーくん。あのCD、ドーパミンでも抽出させてるのかな?」

「…かもしれないな」

「…ちなみにCDの内容は?」

一樹は無言で雪恵にパソコンに繋いだイヤホンを渡す。聴き終わった雪恵の反応は…

「かーくん、これかーくんの声で録音して!!!!」

「しねえよ!!!!」

 

その日の夜、一樹は海辺を何気なく歩いていた。IS学園の海辺は、余計な光が無いからか、星がとても綺麗に見えるのだ。

「……」

無言で星を見上げる一樹。星々の優しい光を感じられるこの場所が、一樹は大好きだ。

「…宇宙は、こんなに綺麗なのにな」

地球も宇宙から見れば、青く美しい星である。それゆえに、バルタンを始めとした侵略宇宙人に狙われている。だが、地球は今悲鳴を上げてる。女尊男卑だけでなく、環境面も…

「ッ!?」

背後から殺気を感じた一樹。咄嗟にブラストショットを撃つ。ブラストショットから放たれた波動弾は、何かにぶつかって相殺された。

『貴様相手に奇襲をかける事は無理な様だな』

夜の闇に隠れてるため、敵の姿は見えない。だが、その声だけで充分だ。

「…生きてやがったか、シャドウ!!」

『無論…と言いたいところだが、かろうじてが正しいな。おかげで今は変身が出来ない』

「…だったら今のうちに仕留めてやりてえな」

油断なく辺りを見回す一樹。シャドウが近くにいるのは分かっているが、その薄い気配の数が多すぎる。これが昼間だったなら簡単に本体に攻撃できたのだが、シャドウは闇夜を利用して一樹から攻撃される事を回避していた。だが、先の攻撃で分かる通り一樹に奇襲は通じない…

『フン。人間態で決着をつけようとするほど私は愚かではない。だが、貴様に面白い物を見せてやろう』

「『面白い物』だぁ?『趣味悪いオモチャ』の間違いだろうが」

『それは見てのお楽しみだ』

 

パチンッ!!!!

 

どこからか指を鳴らした音が聞こえた。その時、空間が歪んだ。歪みから現れたのは…

「…()()()()

かつて初代ウルトラマンを倒し、それ以降も様々なウルトラ戦士を苦しめてきた怪獣、『ゼットン』が現れた。だが…

《…?》

目の前に現れたゼットンが見せたのは、戸惑いだった。

「(どういう事だ?)」

一樹がゲンを始めとした()()()()()()()()()()()()()()()()に聞いた話と違う…その疑問に、シャドウが答える。

『あのゼットンは他の個体よりも高い戦闘能力を持ちながら、バット星人に捨てられた。何故だか分かるか?』

「…強すぎて管理出来なくなったから、じゃなさそうだな。バット星人にとって、役に立ちそうになかった…か?」

『そうだ。奴は強い力を持ちながら他の生物を襲う事を躊躇った。侵略に使おうとしたバット星人からしたら、ただの不良品だ。結果、奴は宇宙に捨てられた。それを拾ったのがこの私だ』

「…あのゼットンは無差別に他の生物を襲おうとはしない」

『そうだな。だが、これならどうだ?』

突如、紫の光がゼットンの中へと入った。その瞬間…

《!?》

数秒、ゼットンは苦しむ…が__

《ゼェットォン》

雰囲気が変わり、学園に向けて進み始めた。

「何をした!?」

ゼットンの変わり様に、一樹の顔に驚愕が映る。そして、一樹の疑問に淡々と答えるシャドウ。

『何、あのゼットンにビースト細胞を送っただけだ。ビースト細胞によって奴の思考はビーストと同じになった…この意味、分かるか?』

「ッ!!?」

人間(エサ)を求めて、行動を開始する…

『ここにいていいのか?ウルトラマン』

「…ちくしょうが!!!!」

一樹はゼットンを追うために走り出した。

 

《ゼェットォォン…》

ゼットンは火球を連続で吐き、学園を攻撃しようとする。

「シェアッ!!」

だが、光の柱がゼットンの火球を受け止める。光が晴れたそこには、ウルトラマンがいた。

「フッ!シェアッ!!」

ゼットンの危険性を理解しているウルトラマンは急ぎジュネッスにチェンジすると、メタ・フィールドを展開する。

「シュウ!ファァァァァ…フッ!デェアァァ!!」

 

《ゼェェットォン…》

「グアッ!?」

メタ・フィールド内であってもその能力は凶悪なゼットン。自らに有利な筈のメタ・フィールドで、ウルトラマンは手も足も出ない…

「フッ!ハッ!!」

距離を取って放ったセービングビュートを、ゼットンはテレポートで避けると、ウルトラマンの背後に現れた。

「フッ!?グァァァァ!?」

零距離から放たれた火球に吹き飛ばされるウルトラマン。

《ゼェェットォン…》

ゼットンはウルトラマンにゆっくり近くと、その手でウルトラマンの首を掴んだ。

「グッ!?グアッ!?」

そのままウルトラマンを持ち上げるゼットン。

ピコン、ピコン、ピコン…

コアゲージが鳴り響く…そして、その点滅を見たゼットンが…

《!?ゼェッ!?》

突如苦しみだした。実はウルトラマンに、最初からゼットンを倒すつもりはなかった。メタ・フィールドの相手を弱体化する効果に、目の前のゼットンの優しさが目覚めるのを賭けたのだ。

「(頼む!目を覚ませ!!ビースト細胞なんかに負けんな!!)」

《!?!!!?》

しばらく苦しむゼットン…そして。

《(ウルトラマン…私を、殺して…)》

「フッ!?」

《(私は…他の生き物を、殺したくない…でも、今の私は、この空間のおかげで何とか心を保ってるだけ…だから、私が私であるうちに…)》

ゼットンの願いを聞いたウルトラマン。

「…シュウッ!」

右腕にエネルギーを集中させて突き出す。ゼットンに向けて金色の光線、『ゴルドレイ・シュトローム』を放つ。

「ハアァァァァァァ…デェアァァァァ!!!!」

ゴルドレイ・シュトロームを受けたゼットン…そして_______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼットンの体からビースト細胞が抜かれ、倒れた。

《ゼェェットォン…》

ゼットンから離れたビースト細胞は新たな姿へと変わった…禍々しい光を発するゼットンに…名を『マガゼットン』。

「シェアッ!」

マガゼットンに向かって走るウルトラマン。マガゼットンはテレポートでウルトラマンの背後に現れるが…

「デェアッ!!」

《!!?》

ウルトラマンは肘打ちでマガゼットンを怯ませる。

「シュウッ!」

更に連続で回し蹴りを放ち、マガゼットンを追い詰めていく。

「ハッ!!」

全体重を乗せたウルトラマンの手刀は、マガゼットンの角を叩き切った。負けてられるかと振り下ろされたマガゼットンの腕を掴むと、背負い投げを決める。

「デェアッ!!」

起き上がったマガゼットンに、強烈な回し蹴りで蹴り飛ばす。

《ゼェェットォン…》

マガゼットンはウルトラマンの猛攻撃に、動きが鈍くなっている。その隙を逃すウルトラマンではない。

「フッ!シュウッ‼︎フアァァァァ…フンッ‼︎デェアァァァァ!!!!」

オーバーレイ・シュトロームを放ち、マガゼットンを倒したウルトラマン。倒れているゼットンに近づくと、優しく頭を撫でる。

「……」

ウルトラマンはゼットンに優しい光を浴びせてからメタ・フィールドを解除した。

 

海辺で変身を解いた一樹に、()()が抱きついた。

「おっと…上手く小さくでき…た…」

言葉の途中で止まる一樹。何故なら…

「…助けてくれて…ありがとう、ウルトラマン」

ゼットンが可愛らしい女の子へとなっていたのだ!?

「いやいやいやちょっと待て!!俺ただ小さくしただけだぞ!?何で人間の姿に!?」

しかも鈴が見たらort状態になるのは確実であろう程スタイルが良い。出るとこは出てて、引っ込む所は引っ込む。弾に言わせれば『男の理想形』とでも言いそうだ。

…ちなみに雪恵はこれに、女子にしては高身長というハイスペックを誇っている。目覚めて一樹も驚いていたのは内緒だ。弾の様に騒いだりではなく、純粋に寝たきりなのに女性らしくなってることに、だ。

「な、なあ。理由が分かってるなら教えてくれるか?」

そんな女性らしい体の少女に抱きつかれているのに、一樹はその点に関しては動じていない。まるで子供に抱きつかれた親のようだ。

「私…元々変身できるから」

「あ、納得」

宇宙人理屈で納得した一樹。ゲンも元々は『ウルトラマンレオ』が地球人の姿に変身しているのを知ってるからだ。

「…私、あなたと一緒にいたい。一緒にいても、良い?」

「うーん…確かに下手なところ行けないだろうからな…とりあえず今夜は整備室に行こうか」

 

翌朝

「で、ゼットンって宇宙怪獣を助けたらこういう可愛い子になってたって事?」

ゼットンの人間態の頭を撫でながら雪恵が聞いてくる。

「ああ。宇宙に離す訳にもいかないし、ウチで面倒を見ようと思ってる」

…これが一夏ならば、可愛い子を連れてくることで専用機持ちに追いかけ回される事になっていただろう。一樹を全面に信頼してる雪恵だからこそ、冷静に会話が成立しているのだ。

「私…ウルトラマンと一緒にいたい」

少女は上目遣いで一樹を見てくる。一樹と雪恵は微笑ましく思い、優しく少女の頭を撫でる。

「あまり他の人に、俺がウルトラマンだって言わないでくれよ?なんだかんだこの学園で知ってるのは30人くらいいるけど。俺の名前は櫻井一樹だ。よろしくな」

「私は田中雪恵。よろしくね」

「カズキ、ユキエ…うん、覚えた。私はゼットン」

少女の名を聞いて、ピシリと一樹と雪恵が固まった。

「…かーくん。この子の名前、どうしよう…?」

「うーん…」

まさか他の人がいるところで『ゼットン』と呼ぶ訳にもいかない。2人は頭を悩ます。

「…単純で悪いけど、『セリー』ってのはどうだ?」

「セリー…うん、私はセリー」

一樹の付けた名を気に入ったらしく、ニコニコと笑うセリー。こうして、一樹と雪恵の頼もしい仲間に、セリーが加わったのだった。




ネクサスは必ず敵怪獣を倒すと誰が決めた?
嘘ですごめんなさい。既にガルバスを助けてました。

はい、まさかのゼットンが味方になりました。
リアルの友人に『ウルトラ擬人化計画』の事を聞き、あまり興味はなかったのですが、ゼットンの擬人化だけは惚れました。見た目しか知らないのでほぼオリキャラ状態ですので、漫画の方を知ってる方には違和感しかないと思いますが、どうかよろしくお願いします。
セリーのデザインは大熊先生を参考にお願いします。

シャドウ…やはり生きていたか。
次回からIS6巻に行きます。中々内容に入らないかも知れませんけど。
またしばらくウルトラマンはお休みかな?








その前に一夏達とセリーの対面か…


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Episode62 紹介-セリー-

セリーを1組に紹介します。


さて、何が起こるやら…


「おい一樹!!お前体は大丈夫か!?」

雪恵と共に教室に入った一樹に詰め寄る一夏。

「朝っぱらからなんて質問だよ…とりあえず落ち着け」

そして、呆れ顔で一夏を宥める一樹。興奮してる一夏に変わって説明する少女が。

「昨晩、かずやんが1人でフィールドに行ったからみんな心配したんだよ〜」

相変わらずのほほんとした話し方の『布仏本音』に、一樹は苦笑しながら話す。

「普通、あんな深夜に起きてると思うか?被害を出さないためってのもあるけど、なにより騒音をなるべく出さないために昨日フィールド貼ったのに…」

「そのおかげで昨晩雪恵は発狂したんだけど!?」

一夏の言葉に、聞き捨てならない事が含まれた。一樹が凄まじい速度で雪恵を見ると、雪恵は一樹の袖を掴んで、頬を膨らませていた。

「…だって、かーくんがメタ・フィールド内で消えちゃうかと思ったんだもん…」

だから朝、寮から出れる時間になってすぐに飛び出したのだ。そしたらセリーの件を話され、問い詰める瞬間を逃し、今に至る。

「…ああ。それ言われると弱い」

実際にゴルゴレムとの決着の時、メタ・フィールドの消滅と同時に消えてしまうのではないかと一樹も思ったのだ。実際にメタ・フィールドを扱う一樹でさえこれなのだ。仕組みを知ってる()()の雪恵の不安は計り知れない。

「…悪かったよ」

頭を掻きながら雪恵に謝る一樹。だが、雪恵の機嫌はそれでは直らなかった。

「今度の週末、デートしてくれなきゃ嫌だ」

「……行くのは良いが、俺に奢れるだけの財布の余裕はないぞ?ただの付き添いになるぞ?それでも良いのか?」

「うんッ!!!!」

IS学園に来てから1番の笑顔を見せる雪恵。専用機持ち(雪恵もだが)に隠れて分からないが、雪恵も恋する乙女なのだ。それも成就した、だ。成就したコツを後に専用機持ちが聞いたら『素直になる事…かな?私たち、幼馴染なのに過ごした時間は短いから…』と、後半の重すぎる内容に直角に頭を下げたのだ。そもそも、前半をやれたら一樹が半狂乱になることはないだろう…

「楽しそうでなによりだ」

「ッ!」

バシンッ!!!!

雪恵に向かって振り下ろされた出席簿を一樹が受け止めた。

「…雪、ちょっと待ってろ。コイツに話が出来た」

「かーくんストップ!!!!織斑先生の顔が青ざめてるから!!!!セリーちゃんもかーくんを補佐しようとしなくて良いから!!!!」

 

「…あ、改めて今日からこのクラスに転入…違うな。櫻井が保護したやつだ。自己紹介しろ」

「……」

千冬の指示を聞いても動かないセリーに、目の前に座ってる一樹は苦笑いを浮かべながら促す。

「ほら、みんなに挨拶しな?」

妹に話しかける兄のような優しさのこもった声に、セリーは頷くと話す。

「…私の名前はセリー。『田中セリー』。よろしく」

それだけ言うと、一樹の膝にちょこんと座るセリー。何故セリーが『田中』性を名乗ってるかと言うと、雪恵の両親がセリーを引き取ったのだ。一樹が引き取っても良いのだが、書類等の関係上、田中家を頼らざるを得なかった。一樹が雪恵の父、『田中秋斗』に頼んだ時、「喜んで協力しよう」との事でこうなった。

「…田中セリーは諸事情があって櫻井や田中と行動する。みんな頼んだぞ」

「「「「はーい」」」」

一樹と雪恵の名前が出たところで、大体の事情を察した1組生徒たちだった。

 

休み時間、セリーの周りには人だかりが出来ていた。当の本人であるセリーは一樹に頭を撫でてもらうのが気持ちいいのか、ウトウトと船を漕ぎ始めた。

「「「「可愛い…」」」」

セリーのマスコット的可愛さに、皆が微笑ましく思っていた。

「セリー?眠いのか?」

「ん…ねむくない」

「目がトロトロじゃねえか。どうせ授業の時は俺も外に出るし、一緒に屋上でも行くか?」

「ん…いく」

一樹の手を引いて、教室を出ようとするセリー。早く屋上で寝たそうだ。

「こらこらセリー。まだみんなの事覚えてないだろ?覚えなきゃ」

「ん、わかった」

セリーが皆の方を向くと、それぞれが自己紹介を始めた。一通り終わり…一夏の順番になった。

「やあ、俺の名前は織斑一夏。よろしくな、セリー」

一夏もセリーの頭を撫でようとするが…

「お前の匂い、嫌い」

セリーに払われてしまった。

「「「え?」」」

これに驚くのは一樹、雪恵、一夏だ。セリーは一夏から離れ、一樹の後ろに回る。

「ど、どうしたセリー?」

「コイツ、色んな匂いが混ざって嫌い」

「な!?毎日ちゃんと体洗ってるぞ!!?」

セリーの言葉に、一夏は自分の袖の辺りを嗅ぐ。

「…おい一夏。セリーは『色んな匂いが混ざってる』って言ったんだ。『汗臭い』とは言ってねえよ」

「あ、そっか…でもなんだ?シャンプー?石鹸?それとも洗剤か…?」

一夏が混ざってるであろう匂いを上げていく。一樹はテレパシーでセリーに聞く事にした。

「(セリー、どんな匂いがするんだ?)」

「(色んな女の頭を撫でてる匂いがする)」

「あぁ、納得」

セリーの言葉に、一樹が辺りを見回すと、一夏に頭を撫でられた事がある女子が大半だった。しかし、疑問が残る。

「(何で俺は平気なんだ?俺も孤児院で義妹(いもうと)たちの頭撫でてるから結構な人数になるんだけど…)」

「(カズキの手はシャンプー?の匂いがあまり混ざってないけど、コイツのは色々混ざりすぎて気持ち悪い)」

「ああ…」

孤児院では1人1人にシャンプーを用意することは出来ない。精々男女で分けるので限界だ。一樹が使ってるシャンプー+孤児院女子のシャンプー+雪恵の使ってるシャンプー程度ならセリーも大丈夫なのだろう。それに対し、一夏は撫でた女子全員が違うシャンプーを使ってる事もありうる。少なくとも一樹の何倍も混ざってるだろう。セリーが一夏の手を嫌う理由は分かった。

「ねえセリーちゃん、私にも教えて」

セリーに耳を寄せて聞く雪恵。セリーは一樹に語ったのと同じ理由を雪恵に説明する。一樹の背後で雪恵が苦笑しているのが分かった。

「…聞くと『ああ、納得』ってなるだろ?」

「…だね」

一樹と雪恵は苦笑し合う。そこで予鈴が鳴り、雪恵を含む生徒たちは席につく。…一夏はセリーに『匂いが嫌い』と言われたのにショックを受けていたが…

 

授業が始まると、一樹はセリーをおぶってある所に向かった。

「カズキ、どこに行ってるの?」

「ん?今地球を騒がしてる元凶に会いにいくんだ」

「…それ、カズキの敵?」

セリーの目が冷たくなっていく。それに気付いた一樹は片手でセリーを支えると、空いた片手でセリーの頭を撫でる。

「…大丈夫だよセリー。これから会う人は、俺と雪の味方だよ」

「…ん、分かった」

セリーを落ち着かせると、一樹は束の部屋のブザーを鳴らした。

『入って良いよ〜』

許可が出たので部屋にはいる。

「やあやあかずくん!随分久しぶりな気がするね!」

「…束さんがここに篭ってるからでしょうが」

「おやおや?背中の子が噂のゼットンかなかな?」

「…セリー、死なない程度に燃やしていいぞ」

「ん、分かった」

「ごめんふざけすぎた。だからそれはやめて」

束のおふざけに、割と本気で燃やそうと思ったが、直角に腰を折る束にアホらしくなった。セリーを止めると本題を促す。

「で、俺をここに呼んだ理由は?」

「…これを渡しとこうと思ってね」

束が一樹に渡したのは、西洋の剣の首飾りだった。まるで仮面○イダーク○ガのタイ○ンソードだ。違うのは色合いで、あちらが紫をベースにしているのに対し、こちらは銀をベースにいており、中央の宝石の色は青だった。

「…俺、これでも日本刀使いなんですけど…」

逆刃刀という特殊な刀だが。

「いや、言いたいことは分かるよ?でも、それをデザインしたのは雪ちゃんなんだよ」

「雪が?」

「なんでも、『日本刀はあの独特の曲がりが難しいよ〜(泣)』だって」

容易にその場面が想像出来る一樹とセリーだった。

「…まあ、分かりました。これを首にかけとけば良いんですね?」

「うん」

束に言われ、一樹は慣れないアクセサリーを首につけようとする。

「つけられねえ…セリー、悪いんだけどつけてくれね?」

「ん」

セリーにつけてもらった途端。

 

 

マスター……

 

 

「ッ!?」

()が聞こえた。

「…カズキ?どうしたの?」

いきなり表情が険しくなった一樹に、心配そうな目を向けるセリー。

「…束さん。コイツは…」

「多分君が考えている通りの物だよ。昔君が束さんに預けた物。もう、解放しても良いかなって」

「…そうですか」

「どういうこと?」

一樹と束の会話の内容に着いていけないセリーは首を傾げる。そんなセリーに、一樹はこう答えた。

「時が来れば分かるよ」

その顔は、何を表しているのか、セリーには分からなかった…

 




ま、まさかの一夏嫌いなセリーちゃん。

やったね一樹!仕事増えないですんだよ!!

一樹が束から受け取った首飾り。

アレは一体、何なのだろうか?


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Episode63 情報-インフォメーション-

セリー書くの超楽しい!




「え⁉︎一夏の誕生日って今月なの!?」

「あ、ああ。そうだけど?」

いつもの面々と夕食を食べていたら、シャルロットが急に立ち上がった。セリーに言われたショックからようやく抜け出せた一夏は、らしくないシャルロットの慌てっぷりに疑問符を浮かべる。

「い、いつ⁉︎」

「9月27日だよ。とりあえず落ち着けって」

「う、うん…日曜だよね⁉︎」

「に、日曜だぞ」

「そっか…うん!」

つぶやきながら何度も頷くシャルロットを不思議そうに見る一夏。

「何お前。誕生日みんなに教えてなかったの?」

珍しく夕食時に食堂にいる一樹。膝には当然のようにセリーを乗せている。

「いや、そんな大事なことじゃないだろ?」

「…そう思ってるのは織斑君だけだよ」

呆れながら一夏を見る雪恵。

「いやだって、俺たちってそんな誕生日祝おうって感じではないじゃん?」

「……」

「一樹さん?そんな冷たい目しないでください。メチャ怖いです」

「……」

「セリーさん?そんなに殺気を向けないでください。冷や汗が止まらないです」

確かにS.M.Sではあまり誕生日会などはやらない。が、あくまで【S.M.Sでは】の話だ。長い間一夏と過ごしてきた一樹の目が冷たくなるのはしょうがないことだろう。セリーは単純に、一樹が一夏を睨むから自分もそうするというだけだ。

「…一夏、周りを見てみな」

一樹に言われて周りを見回す一夏。すると純白の革手帳にぐりぐりと二重丸を描くセシリア。一夏の誕生日を知っていた箒と鈴を問い詰めるラウラ…と、それに便乗する楯無がいた。

「楯無さんいつの間に⁉︎」

「ついさっきよ〜♪」

相変わらずつかめない楯無に戸惑う一夏。

「…カズキ?食べないの?」

そんな一夏を無視して、一樹に声をかけるセリー。

「ん?食べてるぜ?ほら」

そう言ってゼリー飲料のパックを出す一樹。

「…だめ。ちゃんと食べないと」

「俺がここで食うと余計な金かかるんだよ。これで勘弁してくれ」

「…ユキエ」

「セリーちゃんも思うよね?」

こっちはこっちで女子同士のため息が聞こえる。

「かーくん。セリーちゃんの教育にも悪いからちゃんと食べて」

「ん。私と分ける?」

「別に良い…だあわかったよ!食うよ!買ってくるからセリーは一回降りてくれ」

「ん」

セリーを膝から降ろして渋々財布を取り出す一樹を雪恵が止める。

「かーくんどこに行くの?」

「どこって、飯買ってくるんだよ」

「私が行くよ。その方が安いし」

「…じゃあコレで買ってきて」

雪恵に行かせるのは心が痛むが、約半分の値段になるので、一樹は素直に雪恵にお金を渡す。

「良いよ。私が出す」

「それは本当にやめろ!」

「どうせ将来は私がお金の管理するし。かーくんが管理したらかーくん餓死するし」

…世間一般の考えとは真逆の考えで雪恵が財布を管理するようだ。

「「「「将来ィィィ!!?」」」」

雪恵の言葉に驚愕する専用機持ちたち。何を今更。

「???何を驚いてるの?」

「「「「驚くわ!!」」」」

そんな女性陣の会話に頭を抱える一樹だった。

 

夕食後、一樹は整備室にいた。一夏と個人回線を使って話しながら、先ほどS.M.Sから届いたメールを確認する。

『一夏。つい先ほど北アメリカの軍事拠点が亡国機業に襲撃されたそうだ』

『!?マジか!?』

『ああ。狙いは臨海学校の時の機体…覚えてるか?』

『福音だろ?でも、アレは俺が…』

『あくまでシールドエネルギーを無くしただけだろ。機体自体は修復して返したんだよ。元々あっちの物だしな』

メールを見ながら説明する一樹。

『…襲撃した機体は?』

恐らく次はここに来る。それを理解した一夏は敵ISの特徴を問う。

『…不確定情報で良ければあるが』

『それで良いぜ。当たってたらラッキー程度で』

『あいよ』

メールをスクロールして敵ISと思われる機体名を告げる。

『襲撃した機体は…イギリスのBT2号機の【サイレント・ゼフィルス】らしい』

『イギリス…?』

『オルコットが使ってる【ブルー・ティアーズ】の姉妹機だな。オルコットのが1号機で、今回のが2号機』

『…違いは?』

一樹は傍らに置いていたパソコンでイギリスの公式情報を見る。

『公式情報では、《IS学園で得られたデータから、よりBT兵器の実戦仕様を前提としたビット搭載型》らしいな』

『あまり悪く言いたくないが、()()で?』

一夏の言うアレとは、セシリアのビットの扱い方だろう。未だにビット制御時に動きが止まるセシリアに、一夏は何度麒麟のシステムで動かしそうになったか分からない。

『おいニュータイプ。誰でもお前たちみたいにサイコミュ兵器を扱えると思うな。現に弾はビットを放出することすら出来ないんだから』

『サイコミュとISは似てるようで違うんですけど…』

『それは出来る者からの話だ。【思考展開】なんて、知らない奴からしたらサイコミュ扱ってるのと変わらない訳だし』

『それはそうだけど…っと、もう部屋だ。一旦切るぜ?』

『ああ』

一夏との通信を切った一樹は、慣れた動きで蛇口にホースを付ける。

「…カズキ。私もシャワー浴びたい」

セリーの言葉に一樹はピシッと固まる。諸事情でセリーも整備室暮らしとなってしまったのだが、流石に女の子(その正体は宇宙恐竜だが)に冷水シャワーを浴びせる訳にいかない。

「…セリー。ちょっと待っててくれ」

一樹は急いで携帯を取り出した。

 

「…ふぅ。お待たせ雪恵。部屋入ろうぜ」

「あ、うん。かーくんとのお話終わった?」

「おう」

雪恵に返事をして、一夏が部屋の鍵を開ける…

 

「あ、お帰りなさい」

 

バタン

すぐさま扉を閉める一夏。そして扉の表札を確認する。

「…うん、1025室だよな。雪恵、俺の目おかしくなってないよな?」

「…大丈夫。私も1025室に見える」

「よし、今のは聞き間違いだよな。俺と雪恵の部屋に楯無さんがいる訳が…」

ガチャ

「おかえりー」

「やっぱりいやがったァァ!!!!」

「もう一夏くん。そんな乱暴な言葉遣いはいけませんよ」

「誰が原因だと思ってるんですか誰が」

「まあまあ落ち着いて一夏くん」

「落ち着けませんよ!雪恵も何か言って…」

一夏が雪恵の方を向くと…

「うんうん、分かった。これからセリーちゃんを連れて来て。今まだどっちも入ってないから」

一樹と電話してる雪恵がいた…

「あらあら雪恵ちゃーん?旦那様と電話中かな?」

獲物を見つけたとばかりに、目を光らせて雪恵に詰め寄る楯無。

「あ、はい」

それに対して雪恵の答え方はあまりにアッサリしていた。

「あ、あれ?」

思ってたリアクションではなく、楯無も反応に困っていた。

「…楯無さん。雪恵相手にその手のからかいは通じませんよ」

「そ、そうなんだ…と、ここに来た目的果たさなきゃ。一夏くん。非公式な情報なんだけど、例の亡国機業がアメリカの軍事施設を襲撃したわ」

楯無は、先ほど一樹から聞いた情報を話してくる。確かに、一夏がS.M.Sに所属してることを知らない以上、自衛のために情報を提供するのはおかしくない。おかしくないのだが…

「(情報量少ないよ…)」

襲撃した機体等は話してくれないのだ。これでは『ただ警戒しろ』と言われただけに思ってしまう。

「…情報ありがとうございます。次来た奴は必ず生け捕りしますから」

当然そんなことを思ってるのは表情には出さずに、楯無に礼を言う一夏。

「いやいや生け捕りとか気にしなくて良いから。私としては…一夏君より櫻井君の方が心配」

「「は?」」

楯無の口から予想外の言葉が出た事に驚く一夏と雪恵。

「おふざけと真面目なの、2つあるんだけど、どっちから聞きたい」

「…じゃあ、おふざけからで」

疲れた顔で促す一夏。

「うん、まずはおふざけね。また亡国機業がこの学園に襲撃した場合、バーサーカーにならないか心配」

「「あぁ〜」」

納得してしまう2人。確かに最近の一樹は時々バーサーカーになっているので、その予想は分からなくはない。

「…ちなみに織斑君、何でかーくんがバーサーカーになってるか知ってる?」

「んにゃ全く」

即答する一夏にため息をつく雪恵と楯無。

「…私が言うのもなんだけど、櫻井君がキレるのもしょうがないわね…これじゃ」

「でしょ?なのであまりかーくんの前で箒ちゃんたちを煽るようなことはやめてくれます?」

「…私も命は惜しいから、今度から気をつけるわ。と、次は真面目な話ね」

真面目な話、と聞いて一夏と雪恵は姿勢を正す。

「私が心配なのは…亡国機業の狙いが櫻井君になること」




楯無の心配とは…



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Episode64 理由-リーズン-

お待たせしました!


「セリー、雪の部屋に行くぞ」

「…なんで?」

「このシャワーじゃセリーには合わないからだよ。ちゃんとしたシャワー浴びれるから、雪と一夏の部屋に行くぞ」

「…わかった」

セリーは洗面用具を持つと、一樹と一緒に1025室へ向かう。

 

「俺じゃなく、一樹が狙いになる…ですか?」

「そう。一夏くんも決して弱くは無いわよ?それでも…櫻井君と比べると…」

「大丈夫です。自覚はあります。現に俺は一度もアイツに勝ててないですから」

苦笑いを浮かべながら話す一夏。

「…そう。話を戻すけど、一夏くんをターゲットとした場合、遅かれ早かれ櫻井君が援護に行くわよね?」

「まあ、そうですね」

「つまり、一夏くんを狙う=櫻井君と合流されて連携で大ダメージを喰らう…これが今までの流れ。けど、最初っから櫻井君がターゲットの場合、誰も援護には行けないわ」

「「なっ!?」」

「一夏くん。仮にも櫻井君は【護衛役】なの。護衛役(櫻井君)が囲まれたからって、護衛対象(一夏くん)が援護に行くのはおかしいのよ」

辛そうに話す楯無。IS学園最強である楯無でさえ、一夏の足元にも及ばなかったのだ。他の生徒が行ったところで、足手まといにしかならないだろう。

「…学園は、一樹を見捨てるってことですか…?」

「…そうなる確率が高いわね」

この前までの自分だったらすぐにそうするだろう。だが、妹の簪に話を聞いてから楯無の考えは変わった。

 

『櫻井君はね、哀しい人なの』

『哀しい人?』

簪のISである【打鉄弐式】の製作中、打鉄弐式に搭載されている高性能OSを見た楯無。そのOSを開発した者の名を簪から聞いた時、楯無は驚きを隠せなかった。人見知りする簪が、何故一樹にOS設定を許したのか聞いたところ、簪はそう答えたのだ。

『私みたいな人見知りで、内気な子にも視線を合わせて話してくれるのに、誰にも認められない人…お姉ちゃんも、この間までは櫻井君の事を認めてなかったでしょ?』

『え、ええ…』

『お姉ちゃんだけじゃない。この学園のほとんどが、櫻井君を認めてないと思う。だって、たまに廊下で見るから。織斑一夏がいない時に、みんなが櫻井君を見る目を…』

『…どんな目なの?』

『邪魔者のように見る目、ゴミを見るような目、存在を否定する目…挙げだしたらキリがないよ』

思い出すだけでも体が震えている簪。直接その視線を受けてない簪ですらこうなのだ。実際にその視線を受けている一樹の【痛み】は計り知れない。

『最近、1組の人はそんな事ないんだけどね…織斑一夏以外のみんながその目で見てた時、櫻井君が整備室に来る時は顔色が悪い時がほとんどだったよ』

誰もいないと思って整備室に入った時、一樹の顔色はあまりいいものではなかった。

『誰よりも優しくて、強い人なのに…誰よりも哀しくて、弱い人なんだよ。櫻井君は』

 

「…一夏くんを直接狙っても、すぐに連携で崩される。けど、櫻井君だけを集中して狙えば…」

「生徒ではないかーくんを、教頭達は見捨てる。生徒の保護を口上に」

「実際、生徒の中で最強の一夏くん(護衛対象)を援護に出す訳には行かないから、櫻井君は孤立する…」

楯無、雪恵の予想に、一夏は拳を固く握りしめる。

「なんでだよ…なんでそこまで⁉︎」

「…それが、今の世界情勢なの。それに何度も言ってるけど、櫻井君は生徒としてでも、係員でも、ましてや教師でもなんでもない。各国の偉い人の命令で入っているの。IS学園の教師のほとんどはそれに反対したけど、各国首領陣のサインには勝てなかったから…」

辛そうに説明する楯無。だが、一夏は怒りを抑えきれずに叫ぶ。

「だから、一樹を排斥するためなら亡国機業に手を貸す形になっても良いと?ふざけんな!いままでこの学園を…世界を守って来たのは誰だと思ってんだ!」

「織斑君…楯無さんに当たってもしょうがないよ…」

興奮気味の一夏を落ち着かせる雪恵。

「あ…すみません」

「いいのよ。私もついこの間までは、それに関して見て見ぬフリをしてたんだから…とにかく、その事を頭に入れておいてね」

「「分かりました」」

「うん…おやすみ」

そう言うと、楯無は部屋から出て行った。

 

「(次に亡国機業が攻めて来たら、私が必ず食い止める…今度は2人だけには背負わせない)」

楯無が決意を固めていると、一樹がセリーを連れて来た。

「あれ?更識楯無じゃねえか。どうしたんだ?」

「…何してたの?」

「あ、櫻井君にセリーちゃん。ちょっと一夏くんとお話をね…2人は?」

表情はいつも通りに、2人と話す楯無。

「俺はセリーをこの部屋に連れて来ただけ。流石に女の子に冷水シャワー浴びせるわけにはいかねえからな」

「……ごめんなさい」

一樹を整備室に住ませると決めた1人である楯無は深く腰を折った。

「別にもう良い…ただ、セリーだけは許してくれよ」

「え、ええ。それはもちろん。セリーちゃんは大浴場使っても良いし」

「あ、なるほど。その手もあったか。じゃあ次から雪と一緒に入ってもらうわ。とりあえずセリー、部屋に入ってシャワー浴びてこい。終わったら迎えに来るから」

「ん、分かった」

セリーは扉をノックし、部屋に入った。

「……で、一夏にどんな話をしたのか聞かせてくれるか?亡国機業関係だったらなおさらな」

「…あなたはもう知ってると思うけど、先ほど亡国機業がアメリカの軍事施設を襲撃したわ。幸いISを奪われる事は無かったけど、襲撃者の腕はかなりのものだったらしいわ」

「ISを奪われなかった、ってのは聞けてよかったぜ。で、襲撃者のISの名は?」

「イギリスから強奪された【サイレント・ゼフィルス】だそうよ」

「オッケー。こっちの情報とも合ってるから裏付けは取れた。情報収集出来る人が2人以上いると助かるぜ」

「…ありがとう」

「気にすんな。更識家にはこれからもお世話になりますぜ?情報関連はお宅の方が良い場合もあるしな」

「…そのかわり、荒事は未経験なのよね、私。暗部が聞いて呆れるでしょ?」

自虐気味に話す楯無に、一樹は苦笑する。

「んにゃ全然。荒事は()の仕事なんだ。暗部だからって命をかける事は無いさ。その命は、大切なものを守るための命なんだから」

「…櫻井君」

楯無は、一夏に向けるのはまた別種の感情を一樹に向けていた。一夏に向けている感情の名は【恋】。一夏の隣に、立ちたい…そんな気持ち。そして、一樹に向けている感情の名は【憧れ】。どれだけ走っても、彼の進む速さにはついていけない。だからせめて、視界に入れられるくらいの位置を維持したい。彼の大きくて、小さな背中が見える位置を。一夏と共に…追いかけたい。

「(私も…あなたのように強くなれるかしら?)」

まるで父親を見るような目で、楯無は一樹を見送った。

 

「かーくん、セリーちゃん終わったよ」

「ん、気持ちよかった」

「そりゃ良かった」

シャワーを浴びてほっこり顔のセリー。一樹も楯無との会話を終えて冷水シャワーを浴びたので髪が少し濡れている。

「じゃ雪。ありがとな」

「ユキエ、ばいばい」

「ばいばいセリーちゃん。明日は一緒にお風呂行こうね」

雪恵に礼を言い、整備室へと戻る一樹とセリー。

「カズキの手、冷たい」

一樹の手を握ったセリーが呟く。

「悪い悪い。なら手離すか?」

「ん…このままでいい」

「あいよ」

整備室に着き、セリーに寝袋を渡す一樹。

「これ使ってくれ」

「ありがとう…」

よっぽど眠かったのか、寝袋に入ったセリーはすぐ寝てしまった。

「おやすみ、セリー」

 

一夏と雪恵も就寝の準備をしていた。すると、ノックの音が聞こえた。

『一夏に雪恵ちゃん。今大丈夫かな?』

「シャル?入ってきていいぞ」

「鍵は開いてるからね〜」

客はシャルロットだった。

「どうしたんだシャル?こんな時間に…」

「えっと…その…」

言いづらそうなシャルロットを見て、雪恵は苦笑する。

「…あ、ちょっとセリーちゃんに渡すものがあったんだ。ちょっとかーくんとこ行ってくるね」

「あ、ああ」

一夏にそう言うと、雪恵は部屋を出て行った。

「あ、あのさ一夏」

「ん?」

「こ、今度の週末、遊びに行かない!?」

 

「ってことで、多分今頃シャルロットちゃんが織斑君を誘ってるんじゃないかな?」

「…そうか」

セリーを起こさないために廊下に出た一樹と会話する雪恵。

「一夏の誕生日プレゼントを買うのが口実かな?」

「そうだと思うよ」

窓から見える星空をぼーっと眺める一樹。そんな一樹に、雪恵はずっと気になっていた事を聞く。

「ねえかーくん」

「ん?」

「…カメラ、どうしたの?」

「…」

昔はずっと首にかけていたデジタル一眼レフ。しかし、雪恵がIS学園に来てからはその姿を見ない。

「…学園には持って来てるの?」

「いや…家に封印してるよ。たまに帰った時は手入れをしてるけど」

「どうして?昔はずっと持ってたのに」

「…中2の終わり時…3月末頃にさ」

一樹は、カメラを持たなくなった理由を語り始めた。

「小4のあの事件以降、俺には心の支えが必要だった。だから、ひたすら『綺麗なもの』を撮り続けたんだ。青空や星空、夕日、海、森、力強く生きる動物たち…けど、中学で出来た友人____この間会った五反田弾な____に勧められたんだ。『そんなに写真撮ってるならコンクールに出してみたらどうだ?』ってな」

「うん…」

「一夏も勧めてくれたんだ。アイツも、結構写真を撮ってるからな。それで、あまりに勧めるもんだから、とりあえず俺のお気に入りを何枚か送ったんだ」

 

『なんの勉強もしてない素人の写真が通るわけねえだろ…一次審査で落ちると思うぜ?』

『何言ってんだ!お前の写真は下手な写真家より上手いんだぞ!』

『おい弾。写真で生活してる人たちに謝れ』

弾の発言にツッコミを入れる一樹。

『でも一樹。実際お前の写真を見てると落ち着くんだ。弾の言う事もあながち間違いじゃないぜ?』

自身も写真を撮ることがある一夏がそう言う。

『…そう言うお前はどうするんだよ。コンクール出さないのか?』

『俺は思い出写真ってことで、誰かしらが必ず写ってるからな。出すわけにはいかねえよ』

『風景画撮れば良い話じゃね?』

『流石にそれは無いな。それこそコンクールを侮辱してる事になる』

『まあ、分からなくはないけど』

そして一次審査の結果が届いた。

『『どうだった?』』

本人以上にワクワクしている一夏と弾。一樹は無言で通知を渡す。

『どれどれ…!?』

『送った写真…全部通ってやがる!?』

コンクールを勧めた2人が驚いている。

『…ちなみにお前らの予想は何だったんだ?』

『送った何枚かの内』

『2枚は通ると思った』

 

「もしかして、その2枚って…」

「お前が()()()()に撮った奴だよ…」

 

二次審査は広い会場に展示された各写真を見た一般客による投票だった。一樹は他の参加者の写真を見るために、会場へと来ていた。そして____

『何だよ…コレは…』

____自分の写真の『汚さ』が見えてしまった…

『何で…こんな写真が…ここにいれるんだよ…』

端から見れば、確かに自然の美しさが撮れているだろう。しかし、写真を通して撮った者の意思が見えるとしたら…

『なんて…きたないしゃしんだよ…』

しかも、その写真が賞を取ってしまい、一樹はその後カメラを持てなくなってしまった…

 

「今は持つ事は何とか…けど、写真を撮る事は、無理だな…」

「そう…」

しばらく、2人の間を重い空気が流れる…

「…よし!今度の週末、どこに行こっか?」

雪恵は、重い空気を吹き飛ばす様に笑顔を見せる。一樹はそれに、少し救われるのだった。




次はデートに行けるのかな…?

頑張ろう…


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Episode65 買い物-ショッピング-

大変お待たせしました。



けど、デートになってないです。


大変申し訳ない…


週末の未明、一樹は学園の外に出ようとモノレールまで来ていた。が、流石にこの時間は動いていなかった。

「…ついてないな」

フリーダムを展開。できるだけ静かに飛んだ。

「俺、雪、セリーが一緒に行くとなるとバイクじゃ無理だし、車取ってこなきゃ」

 

PiPiPiPiPi‼︎

「ふぁ…」

いつもより少し早めに目覚ましをセットしていた雪恵。何とか起き上がって身だしなみを整えると、台所へ向かう。

「えーと、私にかーくんにセリーちゃんの朝ごはんと昼ごはんを用意するから…」

花嫁修行として、早くから母親である『田中 夏子』に料理の仕方を、家庭の味として、一樹の義妹(いもうと)である舞から一樹好みの味付けを仕込まれている雪恵。そんな2人に教わっているのだから、家事レベルは高い。

「お、雪恵。今日は早いな」

日課のトレーニングを終えた一夏が部屋に戻ってきた。

「まあね!今日は思いっきり楽しむんだ‼︎」

「そっか。あ、一樹から手紙が来てるぞ」

「え?何々?」

「『車取りに行ってるから、セリーと一緒に対岸の駅まで来てくれ』ってさ」

「あ、そっか。今日はバイクで行くわけにいかないもんね」

「バイクで3人乗りは無理だしな…と、雪恵が台所に立つって珍しいな」

「今日くらいはね〜。舞ちゃん程じゃないけど、少しは作れるし」

「…いや、高橋さんのは作る量が尋常じゃないから」

ちなみに、舞が一食に作る量は単純に40人前程だろうか?

…普通、1人で作る量ではない。

「…ん、コレで良し。じゃあね!織斑君‼︎」

「おう、楽しんでこいよ」

「うん!」

輝くような笑顔で部屋を出て行く雪恵。それを見送った一夏も、出かける準備を始めた。

 

「おはよう!かーくん!」

「…おはよう。カズキ」

「おう、おはよう」

まだ眠たげなセリーを連れて、駅に着いた雪恵。一樹は車の近くで待っていた。

「じゃ、行こうか。セリーは後ろで」

「ん…」

一樹がドアを開けると、セリーはゆっくりと乗った。シートベルトを締めて、シートを倒すとすぐに寝に落ちた。

「じゃ雪。ナビよろしく」

「了解であります!」

雪恵を助手席に乗せると、一樹は車を発進させる。

「あ、かーくん。朝ごはんにコレ」

「ん?ありがとな」

朝食用に作ったおにぎりを一樹に渡す雪恵。一樹はそれを受け取り、右手でハンドル操作、左手でおにぎりを持ちながらシフトレバーを操作と、器用な事をしていた。

「お、中身鮭じゃん。塩加減も良いし、美味いぞコレ」

「えへへ、やったね。なにせ師匠が凄いからね〜」

「…舞のことか?」

「うん、そうだよ」

「なるほどな。ってことは、もう一個はタレ付き昆布か?」

「正解♪流石だね!」

「舞によく握ってもらったからな…懐かしいぜ」

「ふふ、そっか。舞ちゃんと同じくらいに出来て良かった!」

 

所変わってシャルロットは、集合時間の1時間前から一夏を待っていた。

「(髪型、大丈夫かな?変じゃないかな?)」

手鏡で自分の髪型を気にするシャルロット。これで12回目のチェックだ。そんな変わらないだろと言いたくなるが、想い人には最高の自分を見せたい…そんな恋する乙女なのだから仕方がない。

「(今日はデートなんだから。頑張らなくっちゃ!)」

誕生日プレゼントを選ぶため、と一夏に説明していたが、シャルロットにとってはデートである。デートと言ったらデートである。いくら一夏にその気がなくても。とにかく気合いを入れているシャルロットは、周りから見て、とても輝いていた。だから…

「ねえ、お姉ちゃん。もしかして暇ー?」

「俺たちと遊ぼうぜ?」

身の程知らずに話しかけられるのも仕方がないのかもしれない。

「…いえ、友人を待っているので」

さっきまでのとろけ顔はどこへやら、鋭い目つきでチンピラ男の2人を睨むシャルロット。

「えー?良いじゃん良いじゃん。どうせ来ないって〜」

「あっちに俺の車あるからさ〜。フランス製の良い車」

フランス、の言葉にシャルロットがピクリと反応する。

「日本の公道で、燃費の悪いフランスの車ですか…」

拒絶度100%の顔に、チンピラ男たちは若干たじろぐ。しかし、彼らにとってシャルロットは滅多に見れない上物。諦める訳にいかない。

「そ、そんなこと言わないでさぁ〜」

さりげなくシャルロットの肩に手を回そうとするが、シャルロットはその手を避ける。そして、そのチンピラ男Aの関節を極める。

「触らないでくれます?その香水のキツイ匂いが移ったら困るんで」

「ッ!テメエ、人が下手に出てたら」

チンピラ男Bがシャルロットに殴りかかる。シャルロットが反応するより前に…

 

バキッ!!!!

 

見事なストレートが男の顔面に命中した。

「…俺のツレに、何してんだ?」

ストレートを決めたのは、シャルロットの待ち人である一夏だった。

「一夏!」

シャルロットの目には、一夏が白馬に乗った王子様に見えていた…

いや、それは行き過ぎではないか?そもそも日本人に白馬は似合うのか?なんてのは、無粋なツッコミだろう。

「て、テメエ…いきなり出てきてヒーロー気取りですかぁ?舐めてんじゃねえぞ‼︎」

「「(生憎、本当に命懸けで戦ってるヒーローを知ってます)」」

夏休みに本当に死にかけたとある青年の顔が浮かんだ一夏とシャルロットだった。

「「この野郎ォ!!」」

今度は2人同時に一夏に殴りかかる。一夏が迎撃の体制に入るが…

「「はい上げてー」」

いきなり2人の体が宙に浮かんだ。

「「な、なんだよコレ⁉︎」」

動揺する2人。無論それはスルーして…

「「はい落とす!」」

宙に浮いていたチンピラ2人は、地面に急降下。受け身も取れずに、2人は悶える。

「い、痛い…」

「な、内臓が…」

「「はい上げてー」」

またチンピラ2人の体が浮かび…

「「はい落とす!」」

また叩きつけられる。一夏が周囲を見回すと…

「「はい上げてー」」

両手をチンピラに向けるセリーと、セリーに指示を出す一樹と雪恵の姿があった。セリーの念動力で、チンピラ2人を叩きつけていたのだ。

「「はい落とす!」」

「プギャッ⁉︎」

「もう勘弁…ガッ⁉︎」

容赦無く何度も叩きつけられるチンピラに、流石の一夏も同情するのだった。

 

チンピラ2人を警官に引き渡し、一樹は車を進めようとする。が____

「お、待ってくれよ一樹」

____空気を読めない唐変木が話しかけてきた。

「…ハァ」

「人の顔見て第一声がため息ってどうなんですかね?」

「…ハァ」

「雪恵さん?あなたも人の顔見てため息つくのはどうかと思いますよ?」

「帰れ」

「セリーさんは随分ストレートですね!!?そろそろ俺泣いちゃうよ!!?」

セリーの冷たい一言に、頭を抱える一夏。頭を抱えたいのは一樹たちの方だ。

「…一夏、お前シャルロットとデートだろ?早く行けよ」

「いやデートじゃねえよ。ただ買い物に行くんだよ」

今度こそ頭を抱える一樹。一夏をスルーしてギアをローに入れて走ろうとするが…

「待って待って!俺たちも乗せて!」

一夏に正面に立たれてしまった。

「…シャルロットちゃん、良いの?」

雪恵がシャルロットの方を向くと、シャルロットは諦めた顔で言う。

「……うん。もう、良いよ……櫻井君、乗せて…?」

「…雪は良いのか?」

「…ダメとは言えないよ」

「…だよな。しゃあない、一夏にデュノアは3列目に乗れ」

「「了解」」

一夏とシャルロットがシートベルトを締めたのを確認すると、一樹は改めて車を走らせた。

「…女子2人がいるからひとつ頼んで良いか?」

「「なに?」」

「セリーの日用品買うの手伝ってあげてくれないか?俺はそういうの分かんないからな。それぞれの目的終えてからで良いから」

「「了解」」

雪恵とシャルロットの了承を得て、ほっとした一樹だった。

 

「セリーちゃん!次はこれを着て!」

シャルロットに頼んだのは失敗だったかもしれない、一樹がそう思ったのは、セリーに次々と服を試着させるシャルロットの目を見てからだ。

「…かーくん、目がどんどん死んでるよ」

「…正直、人選ミスだったと思ってる」

ウインドウショッピングが嫌いな一樹としては、日用品だけを頼むつもりだった。だが、セリーの服が制服しかないことをシャルロットに気づかれ、今に至る。

「…お前も舞もさっさと買い物終えてくれてたから、買い物に付き合うのも、それほど苦じゃなかったんだけど…これはしんどい」

「私も舞ちゃんも、服を見ると言ってもすぐに終わるからね…」

模様をざっと見て、気に入りそうな服があったら試着、良ければ買う。雪恵も舞も、その判断が早い。しかし、一般的な女子であるシャルロットは…

・服屋に入ったら端から端までじっくり見る。

・似たような(一樹から見て)模様の服を何着もキープ。

・それを全部試着していく。

項目にすると、大したことでは無いが、ひとつひとつにかかる時間が長い。

「…勘弁してくれ」

「…ほい一樹、差し入れ」

近くのカフェで買ったコーヒーを一樹に渡す一夏。一夏も、シャルロットの買い物にかかる時間がしんどいようだ。

「…お前は女子と結構買い物に来てたと思ったけどな」

主に鈴と。

「鈴とは結構来てたけどさ。アイツはそこまで時間かからなかったから…」

「…ああ、なるほど」

さばさばしてる鈴のことだ。服を選ぶのも即断即決なのだろう。

「…カズキ。私、疲れた」

漸くシャルロットから解放されたセリーが、ふらふらと一樹にもたれかかった。

「…頑張れセリー。あと数時間もすれば昼食の時間だ」

午前中、セリーはシャルロットに着せ替え人形にされ続けたのだった。




みなさんどうやってデート書いてるんだろう…

シリアス(笑)の方が書きやすいや…


では、また次回。


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Episode66 磁力怪獣-アントラー-

前半シリアス

後半がメイン。


メインの方が少ないのはご愛嬌ってことで…だめですかね?


「そ、そろそろ飯にしないか?」

まもなく正午という時間帯になったところで、一夏が言う。その隣ではグロッキーになった一樹とセリーがいた。

「うーん、そうだね。時間も時間だし、どこかに入ろうか」

シャルロットも一夏に同意し、店を探し始める。

「あ、なら解散になるかな。私たちお弁当あるし」

「え?」

雪恵の言葉に驚くシャルロット。

「あ、そっか…じゃあさ、俺たちはどこかでテイクアウトを取ろうぜ。な?シャル…シャル?」

「あ、うん…そうしよっか」

力なく頷くシャルロット。一樹は呆れのため息をつく。そんな一樹にセリーが耳打ちする。

「…ずっとコレなの?」

「…ああ」

「…大変だね」

「ありがとう、セリー」

そんな会話がされている事はつゆ知らず、どこか適当な店を探し始める一夏だった。

 

 

「ゆ、雪恵ちゃん…料理、出来たの?」

一夏が適当な店を探してるうちに、シャルロットは雪恵に聞く。

「うん。料理だけじゃなくて、家事全般出来るよ?舞ちゃんに教わってるしね」

シャルロットは祈る。雪恵がライバルにならないことを。ただでさえ箒と鈴という幼馴染ライバルがいるのに、雪恵まで出てきてしまったらシャルロット達欧米組みに勝ち目はない。しかも今までの幼馴染2人にそれぞれシャルロットが勝っている部分は…

 

・気配り(箒が気が利かないというわけでなく、照れが勝って行動しない分シャルロットの方が上)

 

・スタイル(少なくとも鈴よりはシャルロットの方が上だと自負している)

 

それぞれになんとか勝っている部分があるのに、雪恵が出てしまったらその部分を大差をつけられて負けてしまう…なにせ

 

雪恵

・さりげない気配り(一夏の訓練に付き合った一樹に、タオルを渡すタイミングが適格だ)

・スタイル(シャルロット以上に出るとこは出てて、引っ込むとこは引っ込んでいる)

・家事(一度しか見たこと無いが、舞の尋常ではない家事能力を見ているため、その彼女から教わってる時点でかなりの能力を持っているとして間違いない)

・素直(一夏の周りにいる女子陣の中で最も素直。これが一番ライバルになってほしくない理由)

 

 

「(だ、駄目…勝てる部分が見つからない…)」

仮定しただけでがっくしと肩を落とすシャルロット。雪恵が一夏に惚れない事を祈るしかない。

「ん?どうしたんだシャル。急に肩を落として」

「な、なんでもないよ…あはは」

考えれば考える程その考えが頭に浮かんでしまう。正直、シャルロットから見たら、一樹の取り柄はウルトラマンである部分しか思いつかないのだ。それこそ、一樹に失礼なのは重々承知だが。

「…デュノア、お前の考えてる事が男子皆分からないと思ったら大間違いだぞコラ」

考えてる内容に気づいたのか、一樹から殺気が放たれる。

「ごごごごごごごめんなさい‼︎」

ガタガタ震えながら謝るシャルロット。

「まあ気持ちは分からないでも無いがな。()()()()()()()、確実に雪が勝つだろうしな。普段のお前ら見てると」

「ううっ…」

自覚があるだけに言い返せないシャルロット。そんなシャルロットの耳元に雪恵が近づく。

「…大丈夫だよシャルロットちゃん。私にとって、織斑君はあくまで親友だから」

「…それだっていつ変わるか分からないじゃん。今は雪恵ちゃんが一夏と同室だし、いつ一夏に堕とされるか僕たちは気が気じゃないんだよ…」

女子たちが話しやすくなるように、一樹は一夏とセリーを連れて早歩きをする。

「な、なんだよ一樹?」

「お前は黙って進め。でないと俺とセリーがお前を焼く」

「了解です!!!!」

すぐさま一夏は前を向いて進み始めた。一夏の背中では、セリーが手を鉄砲の様に構えて一夏に向けていた。相変わらず一樹に忠実なセリーだった。

 

 

「…シャルロットちゃん?私もそろそろ怒るよ?シャルロットちゃんは確かに織斑君が好きかもしれない。織斑君に惚れてる女の子は多いかもしれない。けど、私が好きなのは『櫻井 一樹』っていう人間なの。これはかーくんがウルトラマンだからじゃない。私のずっと昔からの想いなの。かーくんの事を()()()()()()好きになってとは言わないけど、()()()()()も認めないの?シャルロットちゃんは」

「そ、そんなことは!」

「でも今シャルロットちゃんが言ってるのはそういうことだよ?この世界には織斑君以外の男の人もいるし、その人の事が好きな人もいるの。織斑君は好き。それ以外の人は何言っても良いなんて、そんな事は無いんだよ?あまり言わないようにしてたけど、学園の人たちはそれが出過ぎだよ。織斑君以上に、望まないところに入らされて、嫌悪しか向けられないなんて、シャルロットちゃんがその立場だったら耐えられる?」

「そ、それは…」

「かーくんはシャルロットちゃんの事を認めてたよ?恋愛じゃなくて、友人として付き合ってたよ?ウルトラマンの正体を知られた時に、織斑君と一緒に『彼は味方だ』って言ってくれた事を、かーくんは感謝してたんだよ?」

「……」

確かにシャルロットは、ラウラに撃たれそうになった一樹を一度庇った事があった。一夏と雪恵を除いた専用機持ちの中では、唯一シャルロットだけが一樹に危害を加えてなかった。

「…織斑君を除いたら、シャルロットちゃんだけがかーくんを最初から認めた人なんだよ?そのシャルロットちゃんが、そんな事を言うなんて、かーくんは悲しむと思うな」

「…うん、ごめんね。どうかしてた」

目に涙を浮かべながら、雪恵に謝るシャルロット。

「いいよ。それが【恋】だから。それ以外の事が頭から抜けがちになるのは分かるよ。けど、お願いだから…」

今度は雪恵が泣きそうになった。いや、泣いていた…

「かーくんの存在を、認めてあげて…」

「うん…」

 

 

「…なあ一樹」

「あん?」

雪恵がシャルロットと話している間、一夏が何気なく一樹に話しかけてきた。

「…お前さ、俺を恨んだ事はあるか?」

「また唐突な質問だな…何でその質問を?」

「だってさ、俺がISを動かしたばっかりに、お前はあの学園に来させられて、まともな生活すら送らせてもらえないんだぞ?俺がお前の立ち位置だったら、その原因を恨むね」

「…恨んでほしいのか?」

一樹の質問に、一夏は遠くを見つめながら答える。

「さあ…最近になって、少し思うんだ。何故俺がISを使えるんだ?俺以上に、ISを使って世界を変えたいって思う人は一杯にいるのに、何故俺なんだ?って…」

「…前者は今、世界中の研究者が解明しようとしてる。後者は…お前のISにでも聞け。案外人間より、ISの方が答えを持ってるかもな。それと…」

一樹は一夏に、ずっと思っていた事を伝えた。とても、優しい笑顔で…

「お前を本当の意味で恨んだ事は一度もねえよ。冗談交じりに言ったことはあるけど、ずっと一緒に過ごしてきた親友(ダチ)を、俺が恨める訳ねえだろ」

「一樹…」

「雪が倒れてから、俺に居場所は無かった。学校に行けば他の生徒から『何でお前が生き残ったんだ?何でお前が死ななかったんだ⁉︎』と言われ続け、教師には『君が田中さんを殺したんだ。この人殺しが』と怒鳴られ、どこに行こうとも【人殺し】と言われてた俺と、お前は一緒に行動してくれた。それがどれだけ救われたことか。どれだけありがたかったことか」

「…」

そして、一樹は一夏に向けて、深く頭を下げた。

「お、おい一樹?」

「こんなに汚れた俺を、庇ってくれてありがとう。救ってくれてありがとう。俺を…幼馴染と認めてくれてありがとう」

居場所をくれてありがとう。心を保たせてくれてありがとう。あげだしたらきりがない。一樹の一夏に対する感謝は、あげだしたらキリがない。なにより…

「俺…【櫻井 一樹】という存在を、認めてくれてありがとう」

 

 

「カズキカズキ、そこに美味しそうなアイス屋さんがあった」

興奮気味のセリーを宥める一樹。

「おいおい、まだ昼飯食って無いんだぞ?デザートは飯を食べてからな」

「うぅ〜…分かった」

「よしよし。偉いぞセリー」

「うにゃ〜♪」

まるで親子のような会話に、一夏が微笑ましく見ていると、雪恵達も合流した。

「お待たせかーくん。どこかいい店見つけた?」

「男子目線なら見つけた」

「え?どゆこと?」

「一夏はそこのマ○クで良いってさ。ただ、ほら…あそこは」

「あー。カロリーか」

「…デュノアは気にするだろうと思ってさ。どうする?」

「僕なら大丈夫だよ。マ○クにもサラダ売ってるし」

「んじゃ、そこで…っと」

早速買いに行こうとする一夏に、誰かがぶつかった。

「す、すいません!前を見てなくて…」

ぶつかったのは、首から紐で吊った青く光る石をぶら下げた女性だった。

「い、いえ大丈夫です。そちらにお怪我は?」

「いえ、あなたが受け止めてくれたおかげで私はなんとも…」

「それは良かったです…ところで、その青い石は?サファイアとは違うようですが…?」

「そんな上等なものじゃないですよ。我が家のお守りというところです。随分昔からあるみたいで…」

たった今知り合った女性と仲良く話す一夏。さっきまでのシリアスな空気を返して欲しい。

「「「「(またか…)」」」」

一樹達が呆れているのを余所に、一夏と女性は話し込んでいた。

「へえ!その石にそんな歴史が?」

「あくまで伝承ですけどね。こんなちっちゃい石が()()()()()()()なんて」

怪獣を封印した、の言葉に反応したのは一樹だ。

「お話中失礼!その封印された怪獣の名前って、分かります?」

突然入ってきた一樹に驚きながら、女性は教えてくれた。

「え、えと…文献では【アントラー】と書かれていましたけど…」

「アントラー…」

女性が告げた名に、嫌な予感がする一樹。そして、それを裏付けるかの様に…

 

ドックン

 

懐のエボルトラスターが反応した。それと同じタイミングで…

 

ドドドドドドドドドドドドドッ!!!!

 

体の芯まで響く大きな音と、振動がショッピングモールを襲った。

「「「ッ!!?」」」

「「「「キャアァァァァ!!?」」」」

セリーを除いて、悲鳴をあげる女性陣。振動の中、一樹はセリーと雪恵の手を掴み叫ぶ。

「みんなセリーの周りに集まれ!!!!でなきゃ大怪我するぞ!!!!」

一樹の叫びに、我に帰った4人がセリーの周りに集まった。

「セリー!頼む!!」

一樹の叫びに、セリーは頷くと、自身の周りに【ゼットンバリア】を貼る。それにより、次々と落ちてくるガラスはバリアーに弾かれた。

 

 

外では巨大なアリジゴクが発生、次々と車が飲み込まれていった…そのアリジゴクの中央から、巨大な顎が現れる。

《キシャアァァァァ!》

 

 

揺れがひと段落したところで、セリーはバリアを解除した。

「…サンキュー、セリー」

「セリーちゃん、ありがとう」

「…これくらい、任せて」

セリーの頼もしい言葉に、一樹は安心する。そして、次の指示を出す。

「セリーは3人を連れて安全な場所まで避難してくれ。俺と一夏は、避難し損ねた人がいないか確認してくる」

「2人だけじゃ危ないよ!僕たちも」

シャルロットが進言するが、一樹はそれを否定する。

「いや、お前たちはセリーと一緒にいるべきだ」

「どうして⁉︎僕たちはISを持ってるのに!」

「なら聞くが!お前のISの稼働時間は無限なのか⁉︎」

「ッ…」

「違うよな?さらに言うならこの中で一番火力が低いのもデュノア、お前だ。ISの中では一夏が火力が最も高い。そして、俺は一夏より火力も高くて、稼働時間もほぼ無限だ。お前は、避難した先で人々を守れ。ただ前線に立つだけが戦いじゃないんだ!」

「…わかった」

ようやく納得したシャルロット。そして、一樹は今度は雪恵を見る。

「雪は避難した先で怪我人の手当てだ。瓦礫はセリーがぶっ壊せるけど、怪我人の治療は出来ないしな。救急隊員が来るまでに、応急処置はしといてくれ」

「うん!分かった!気をつけてね‼︎」

「「お互いにな‼︎」」

お互いの動きを確認すると、一樹と一夏はそれぞれ機体を展開し、上空へ飛ぶ。

「一夏!今回はエネルギーを気にしてる暇は無い!最初っから()()()行け‼︎」

「了解だ!(ハク、デストロイモード起動!小型核動力炉に直結しろ‼︎)」

『了解です、マスター。デストロイモード起動、小型核動力炉を直結』

麒麟をデストロイモードに変え、ほぼ無限となったシールドエネルギーに物を言わせた連続瞬時加速でショッピングモールから飛び出す。

 

《キシャアァァァァ!》

ついに全身を表した磁力怪獣・アントラー。そこに、ストライクチェスターが駆けつけた。

「ストライクバニッシャーで一気に決めるぞ‼︎」

『『『了解‼︎』』』

ラウラの指示に従い、すぐさまストライクバニッシャーを撃とうとするが…

《キュアァァァァ‼︎》

アントラーは口から磁力光線をストライクチェスターに向かって撃った。

 

バンバンバンバンッ!!

 

ストライクチェスターの各部から火花が散る。

『ッ⁉︎コントロールシステムをやられたわ‼︎』

『機体の制御が、出来ません‼︎』

「不時着する!全員衝撃に備えろ‼︎」

なんとか操縦桿を握り、不時着させようとするが、操縦桿のシステムも逝ってしまい、垂直降下していく。

『『『「ッ⁉︎」』』』

 

ショッピングモールの外で着陸と同時に機体を解除し、人々の避難誘導をしていた一樹と一夏。

「一樹!アレ‼︎」

一夏が指差す方向には、垂直降下していくストライクチェスターがあった。

「クソッ!一夏後は頼んだ‼︎」

「分かった‼︎」

一夏に後のことを任せると、一樹はエボルトラスターを引き抜いた。

 

『『『「うわぁぁぁぁぁぁ⁉︎」』』』

目の前に迫る地面に、4人が硬く目を瞑る…

 

ドォンッ!!

 

間一髪、ウルトラマンがストライクチェスターをキャッチ。そっと地面に置いた。

 

「あ!ウルトラマンだ!!」

どこかの子供がそう言うと、人々の顔に希望が映る。

「頼む!ウルトラマン!」

 

「シェアッ!」

《キシャアァァァァ‼︎》

アントラーに向かって構えるウルトラマン。アントラーもその大顎を開閉して、威嚇する。

「ハッ!」

アントラーに向かって駆け出し、ジャンプ。急降下キックでアントラーの体制を崩す。

「デェア!」

《キュアァァァァ⁉︎》

アントラーに突進し、人々から離させようとする。だが、アントラーも持ち前の怪力でウルトラマンを転ばせる。

《キシャアァァァァ!》

「グアッ⁉︎」

そして、アントラーは目の前の建物に向かって進み始める。そこには…

 

「病院が⁉︎」

病院にはまだ避難が終わってない人がたくさんいる。一夏は病院に向かって駆け出す。そして、仲間たちに解放回線で連絡する。

「来れる人は病院に来てくれ!あそこにはまだ人がいいるんだ‼︎」

『『『『なっ⁉︎』』』』

 

「フッ⁉︎」

アントラーの進行方向に病院があることに気づいたウルトラマン。

「テェアッ‼︎」

《キシャアァァァァ⁉︎》

アントラーに飛びかかり、地面を転がる。

「フゥゥゥゥ…デェアァァ‼︎」

なんとかアントラーを持ち上げ、病院とは逆方向に投げ飛ばす。

《ギシャァァァ⁉︎》

 

ウルトラマンがアントラーを抑えている間に、一夏達は合流。病院の人々を避難させ、重病人はISを使って機材ごと運んだ。

 

「フッ!シェアッ‼︎」

アントラーが転がっている内にジュネッスへとチェンジ。メタ・フィールドを展開しようとする。

「シュウッ!フアァァァァ…フンッ!デェアァァ‼︎」

水色の光線が天に向かって伸びるが…

《キシャアァァァァ‼︎》

アントラーの磁力光線によって、霧散した。

「フッ⁉︎」

 

「メタ・フィールドが貼れないだと⁉︎」

 

《キシャアァァァァ!》

アントラーはアリジゴクの中へと姿を消した。ウルトラマンは全神経を集中させてアントラーを探す…

「フッ⁉︎」

ウルトラマンの足元が崩れ、アリジゴクへと変わってしまった。ウルトラマンの半身が沈み、身動きが取れなくなってしまう。

《キシャアァァァァ!》

「フッ⁉︎」

更にアントラーの巨大な顎がウルトラマンを捕らえようとする。ウルトラマンはアームドネクサスでなんとか大顎を受け止める。

「フアァァァァ…!」

《キシャアァァァァ‼︎》

 

ウルトラマンのピンチに、ただ見ることしか出来ない一夏。

「…どいて」

その横を、セリーが凄い速さで駆け抜けていった。

「お、おいセリー!そっちは危ないぞ‼︎」

慌てて止めようとする一夏は、セリーは無表情で告げた。

「…私が、ゼットンだって事を忘れた?私なら、カズキを助けられる」

両腕を組んで【変身】しようとするセリーを、雪恵が止めた。

「ダメセリーちゃん!」

「…けど、このままじゃカズキが」

「分かってる!けど、今変身しちゃダメ‼︎()()が私たちを見張ってる気がするの‼︎」

何か、の言葉に、セリーは全神経を探知に使うが、その存在を感知出来ない。

「…分かった」

それでも、セリーは雪恵の言うことを信じる。しかし、このままではウルトラマンが危ないのもまた事実。

「…どうすれば良いの?」

「セリーちゃん、火球を撃った後って動かす事は出来る?」

「…?出来るけど…」

「なら…織斑君にセシリアちゃん!力を貸して‼︎」

 

 

「フアァァァ⁉︎」

《キシャアァァァァ‼︎》

 

ギギギギギギ…

 

ウルトラマンの両腕から嫌な音が響く。だが、力を抜いたら最後、砂の中へと取り込まれてしまう…

 

ドォンドォンドォン!!

 

突如アントラーの口元から連続で火花が散る。それにより、アントラーの力が緩む。その隙を逃すウルトラマンではない。

「シュウッ‼︎」

両手をクロスして、体を高速回転。アリジゴクから抜け出した。

 

 

「やった!成功だ‼︎」

麒麟を再度展開していた一夏が喜ぶ。

雪恵の作戦とは、

・セシリアがブルー・ティアーズを放出する。

・一夏が麒麟のシステムでブルー・ティアーズの制御を行う。

・セリーが火球をアントラーの口元に向かって放つ。

・同じところを一夏がブルー・ティアーズで狙う。

だった。火球+ブルー・ティアーズ4機分の攻撃により、流石のアントラーも怯んだのだった。

「アリジゴクからは抜け出せたけど、まだ奴を倒す手がかりが無い…どうしたものか」

 

 

《キシャアァァァァ‼︎》

アントラーもアリジゴクから抜け出し、再度ウルトラマンと対峙する。

「フッ!」

《キシャアァァァァ‼︎》

アントラーはウルトラマンに向かって突進。ウルトラマンはそれをなんとか受け止めるが…大顎に挟まれてしまった。

「グッ⁉︎グアッ⁉︎」

《キシャアァァァァ‼︎》

「グアァァァァァァァ!!?」

ピコン、ピコン、ピコン

コアゲージが鳴り響く。その間も、アントラーの大顎はウルトラマンの体に食い込んでいく。

「グアァァァァァァァ!!?」

 

 

「クソッ!どうすれば…」

一夏達が打開策を考えていると…

「あの、これを使ってください」

先ほど一夏とぶつかった女性がいた。女性は首からかけていた青い石を一夏に渡す。

「これを使えば、アントラーの能力を使えなくさせる事が出来るはずです」

「どうやってこれを使うんですか?」

「文献通りなら、レンズの様に使うそうですが…」

「なら…」

一夏は麒麟の先端に、特殊なアタッチメントを取り付ける。そして、その中に件の青い石を入れる。

「(ハク、石にあった出力にビームマグナムを調整してくれ)」

『お任せ下さい!マスター‼︎』

ビームマグナムを構える一夏。

「ウルトラマン!アントラーを動かさないでくれ‼︎」

 

 

一夏が何をしようとしているのか、ウルトラマンは察すると、痛みに耐えてアントラーの体を押さえつける。

「フゥゥゥゥ…‼︎」

《キシャアァァァァ‼︎》

 

 

「よし…喰らえぇぇぇぇ‼︎」

一夏は引き金を弾く。その青いエネルギーは、アントラーに直撃した。

 

 

《キシャアァァァァ⁉︎キシャアァァァァ!!?》

青いエネルギーが全身に回り、苦しむアントラー。ウルトラマンはその隙に離れると、アントラーの大顎に向かってラムダ・スラッシャーを放った。

「シェアッ‼︎」

エネルギーに苦しむアントラーは磁力光線を撃つ事も、ラムダ・スラッシャーを避ける事もせずに喰らう。アントラーの右の大顎が切断され、落ちた。

「フッ!シュウッ‼︎フアァァァァ…フンッ!!デェアァァァァ!!!!」

必殺のオーバーレイ・シュトロームがアントラーに命中。

《キシャアァァァァ!!?》

断末魔の叫びを上げ、アントラーは爆散した。ウルトラマンはアントラーが爆散したのを確認すると、光に包まれ消えていった。

 

 

「痛たた!」

その夜、IS学園の一夏の部屋では一樹が治療を受けていた。

「あーあ、背中にばっちり跡が出来ちゃってるな…」

ただでさえ火傷等がある一樹の背中でも、今回の傷はハッキリと見えてしまうほどのものだった。

「一応軟膏は塗っておくけど、あまり効果を期待しないでくれよ」

「分かってるよ…気休め程度だってのは…ッ‼︎」

「骨まで響いてるかもしれないな。病院行った方が良いぞ」

「病院って言われてもな…俺を受け入れるところは…」

「S.M.Sの病院か…」

「成海にまた怒られるのは勘弁だ。あそこ行くと寝れないんだよ。説教が長くて」

「…ふうん」

突如一樹の背後から冷気を感じる。一樹の正面に座る一夏の顔が物凄く青ざめていく。一樹がゆっくりと後ろを向くと…黒いオーラを纏った雪恵がいた。

「怒られるほどの大怪我をしてるんだぁ…知らなかったなぁ…治療は終わってるのかなかな?」

「どこのホラー映画だっ!!?」

「人を幽霊みたいに言うな‼︎」

「そんなヤンデレ顔されたら誰だってそう言うわ‼︎」

「失礼な!私はヤンデレじゃありませんー‼︎」

「「(素質はあると思うな…)」」

「織斑君にセリーちゃん。後でO☆HA☆NA☆SHIする?」

「全力で遠慮します‼︎」

「カズキ、早く帰ろう」

一樹の手を握って退散しようとするセリー。

「ちょ、セリー置いてかないで‼︎」

一夏の叫びも虚しく、セリーは一樹とともに部屋を退散した。

「う、裏切り者!ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

一夏の断末魔の叫びが、寮中に響いたのだった…

 

 

「…カズキ。本当に大丈夫?」

整備室に戻った2人。背中と両腕を気にする一樹に、セリーが話しかける。

「…ちょっとしんどい。セリー、一晩留守にするけど良いか?」

「ん、大丈夫。だから怪我治してきて?」

「あいよ。じゃあまた明日な」

セリーを寝かしつけると、一樹はブラストショットを天空に向けて撃ち、ストーンフリューゲルを呼ぶ。ストーンフリューゲルで怪我の治療をしながら、一晩過ごすのだった。




こんなに長いのは雪恵が起きて以来じゃないですかね?

割と書きやすかった…


地球産怪獣!今後の敵は、地球産もあり得ます。この意味は…分かるかな?

次回はどうなることやら…


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Episode67 思い出の先生-メモリーズ・ティーチャー-

ゲストウルトラマン2人目!


けど、戦ってはない?


誰かはサブタイで分かるな?


それは、ある日のHRだった。

「今日から1週間、特別教員が来る。その教員は道徳を担当するが、くれぐれも失礼のないように。では、お願いします」

千冬に言われて、入ってきたのは1人の男性、ダンディな印象を持つ人が多いだろう。しかし、その人の顔を見た一樹は…

「ブッ!!!?」

血を作るために、こまめに水分補給していたのが仇となった。一夏に向かって思いっきり麦茶を吹き出してしまった。

「な、なしてこうなる⁉︎」

「ゲホゲホッ!すまん…ケホッ」

雪恵から受け取ったタオルで口元を拭う一樹。自前のタオルで顔を拭く一夏は、その人物に気づく。

「え?()()()()?」

かつて一夏たちの通ってた中学で、担任を務めた男、『矢的猛』が教壇に立っていた。

「驚かせてしまったようだね櫻井君。話は後でゆっくりするとして…初めまして、矢的猛です。モットーは『一所懸命』。1週間という短い期間ですが、皆さんとは仲良くしたいと思っています」

 

 

「えぇ⁉︎矢的先生が学園に来たぁ!?」

昼休みの食堂では、鈴が驚きのあまり立ち上がっていた。

「ああ。それで一樹もびっくりしてたよ」

 

 

昼休み、一樹は屋上で1人ゼリー飲料を飲んでいた。ふと後ろを見ると、水筒の蓋が飛んできた。慌ててキャッチする一樹。

「ははは、良い動きだ」

「矢的さん…」

「こらこら、ここでは先生だろ」

「すいません…」

「どうした?レオ兄さんに聞いたが、最近は元気を取り戻したそうじゃないか。ウルトラの兄弟たちも喜んでいるぞ?『自分たちの息子』が元気を取り戻したとな」

「そっちこそゲンさんの本名言ってるじゃないですか…『エイティ』さん」

「ははは、そうだな。『ネクサス』君」

「…この地球では俺はウルトラマンです。ネクサスなんて名は、知りませんね」

「そう言うな。その呼び方だとハヤタ兄さんと被るからな」

「だから…はあ…もう良いや」

「どうした?疲れたのか?私特製のコーヒーでもどうだ?」

「…いただきます」

 

「…それにしても、今日はよく遅刻しませんでしたね?矢的先生といえば『遅刻』が代名詞なのに」

中学時代、生徒たちの遅刻合計数より矢的1人の遅刻回数が多かったのを思い出した一樹。そんな一樹に、矢的は笑って答える。

「おいおい、これでも教師をやってるんだ。大事な日くらいちゃんと来るさ」

「…本当は?」

「実は数分遅れた…はっ⁉︎」

やはり矢的は矢的だった。そこに、どこか安心している一樹だった。

「…矢的先生が言ってた学校、近いうちに統廃合で取り壊されるらしいですよ」

「…そうか」

かれこれ30年は経つだろうか。矢的が教師として、最初に赴任した学校から去ったのは…

「同窓会、行かないんですか?」

「…正直なところね」

屋上の手すりに寄りかかるようにしながら、矢的は話す。

「私は、どんな顔をして会いに行けば良いのか、分からないんだ」

「……」

「私は、生徒たちに何も告げずに去ってしまった。確かに理由はある。怪獣の出現頻度が急激に上がったというね…しかし、それでも思うんだ。何か言えたのではないかと、私を慕ってくれていた生徒たちに、何か残すことが出来たのではないかとね…」

「……」

一樹には分からない、矢的だけの想いがそこにはあるのだろう。

「…生徒さん達は、」

それでも、一樹は言う。

「生徒さん達は、先生に会いたいと思いますよ?確かに先生は遅刻の多い、お世辞にも模範的とは言えない先生でしたけど…」

一樹は思い出す。中学1年のとき、矢的がクラス担任だった時を。

「…誰よりも、()()だったから。クラスの1人1人に声をかけて、悩みがあるなら聞く。言葉では簡単でも、それを実際にするのがどれだけ難しいか…それでも、先生はそれをやってくれた」

「……」

今度は矢的が無言になる番だった。

「学校の『思い出』って、大事だと思います。楽しい中学生活を送らせてもらえた先生って、後の人生に大きなきっかけをくれると思いますよ?」

「…そうかなぁ。私は、先生らしいことはひとつも…」

「…だったら、無意識にやってるんですよ。『人に教える』ってことを」

「……」

「…同窓会は1週間後です。それまでゆっくり、ゆっくりと考えても、バチは当たりませんよ。コーヒー、ご馳走さまでした」

一樹は矢的に蓋を返すと、屋上を後にした。矢的はしばらく、屋上から空を眺めていたのだった。

 

 

それから1週間、何事もなく過ごしていたのだが…最悪な事が起ころうとしていた。

 

ドックン

 

「ッ⁉︎」

エボルトラスターが、怪獣の出現を教える。その出現ポイントがなお問題だった。教室を飛び出そうとする一樹を、矢的が注意する。

「こらこら櫻井君、まだ授業中だぞ?」

「俺はここの生徒じゃねえ‼︎…ってそれどころじゃねえんだよ‼︎」

思わず強い口調で言ってしまう一樹。すぐに、緊急放送が流れて専用機持ち達が呼ばれる。

「矢的先生!すいません‼︎」

専用機持ち達が次々と教室を出て行く。のを、呆然と見ている矢的。気を利かせた静寂が矢的に説明してくれている。

「ああもうアレを呼んでる暇ねえ!一夏、後ろに乗せろ‼︎」

「一切承知‼︎」

男子2人は全力で走り、δ機に乗り込むと、先行出撃した。

 

 

時は少し遡る。取り壊しが決まった桜ヶ丘中学校の屋上では、矢的が初担任を務めた1年E組の生徒達の同窓会が行われようとしていた。

「…先生、来るかな?」

誰かが何気なく言うと、それが広がって行く。

「来てくれると良いな」

「先生がいてこその1年E組だからな」

同窓会の準備を進めていたその時だった…

 

怪獣、『ホー』が現れたのは。

 

δ機は現場に到着。ホーに先制のクアドラブラスターを放つ。しかし、攻撃はホーの身体をすり抜けた。

「なっ!!?」

一夏が驚愕してる間にも、ホーは桜ヶ丘中学校へと近づいていく…

「チッ!」

一樹は脱出レバーを引いてδ機から飛び出ると、エボルトラスターを引き抜いた。

 

「デェアァァァァ!!」

《グオォォォォォ!!?》

桜ヶ丘中学校に迫るホーに、ウルトラマンの飛び蹴りが命中した。

《グオォォォォォ!!》

「…シェアッ!」

どこか物悲しさを感じる鳴き声のホー。ウルトラマンはそれを感じながらも、桜ヶ丘中学校を守るために構える。

 

 

「お、おいあの怪獣は…」

「中野、またお前が…」

「ち、違う違う!俺じゃない‼︎」

「じ、じゃあ何が原因で…」

 

 

「グアッ⁉︎」

《グオォォォォォ‼︎》

ホーの怪力に、ウルトラマンは投げ飛ばされる。更にホーはボディプレスを仕掛けるが、ウルトラマンは横に転がることでそれを回避。

「シュウッ!」

起き上がったホーに、ダッシュの勢いを乗せた前蹴り。怯んだホーを投げ飛ばした。

「デェアァァァァ‼︎」

《グオォォォォォ⁉︎》

ホーが倒れている間に、ジュネッスへとチェンジするウルトラマン。

「フッ!シェアッ‼︎」

 

遅れて出撃したストライクチェスターも、δ機と合流した。

「織斑君、何で援護しないの?」

『したいのは山々なんだけど…さっき攻撃した時、怪獣の体をすり抜けたんだ。下手に攻撃すると周りに被害が出る』

 

「フッ!」

《グオォォ!》

メタ・フィールドを展開するためにも、ホーを桜ヶ丘中学校から離したいウルトラマン。だが、ホーは何故か桜ヶ丘中学校に固執している。両者は取っ組み合い、膠着状態になる。

 

 

「あのウルトラマン…この学校を守ろうとしてくれてる?」

「ウルトラマンはいつも守ってくれてるよ?」

「いや、そうじゃなくて…まるで、この学校を知り合いの宝物のように感じてるような…」

 

 

《グオォォォォォ!!》

「グアァァァァァァァ!!?」

取っ組み合いに勝ったのはホーだった。ウルトラマンを投げ飛ばすと、ウルトラマンにのしかかった。

《グゥオォォォォォォ!!!!》

そして、その瞳から硫酸の涙を流してウルトラマンを攻撃する。まるで、駄々っ子のように…

「グッ⁉︎グアァァァァァァァ!?」

その硫酸の涙に苦しむウルトラマン。しかし、ウルトラマンは確かに感じた。その、涙の意味を…

 

 

『矢的先生!ここなんですけど…』

『それはね…』

ある時の放課後、今より若い矢的に質問している生徒達…

 

『先生遅いね〜』

『流石はこのクラスの遅刻魔!』

『『『『あははははは!』』』』

『こらぁ!誰が遅刻魔だ!』

『げっ!先生!』

『同じ言うなら遅刻先生と言いなさい!』

『『『『それもだめでしょ!?』』』』

かなりの頻度で遅刻する矢的を慕う、優しい生徒達…

 

『先生、俺…』

『君は頑張ったじゃないか。それは先生も、クラスのみんなも知ってる』

『けど、俺のせいで…』

『人は失敗を恐れる。けど、もっと怖いものがある』

『…怖いもの?』

『それは孤独だよ。成功は勿論、失敗も分かち合える仲間がいないこと、それが1番怖いことだ。君には、失敗を分かち合える仲間がいるじゃないか』

ある時は、怪獣を生み出してしまった生徒に、優しく語る矢的の姿…

 

《グオォォォォォ!!!!》

「グゥッ⁉︎」

ホーが流す涙からは、1年E組の生徒達と矢的の思い出が溢れてきていた。それを、体を張って受け止めるウルトラマン。

 

「…グスッ」

そして、ウルトラマン=一樹と()()()()()()雪恵にも、生徒達と矢的の思い出が流れていた。

「…雪恵?」

前部座席に座る箒が、急に泣き出した雪恵を心配げな瞳で見る。

「…大丈夫。きっと、大丈夫だから…」

誰に言ってるのか雪恵自身も分らなかったが、雪恵はそう言い続けた…

 

《グオォォォォォ!》

「…シェアッ!」

しばらくホーから流れる涙を受け止めていたウルトラマンだが、止むを得ずホーを投げ飛ばした。これ以上、硫酸の涙を受ける訳にいかない…

《グオォォォォォ!!》

「…フッ」

尚も泣き続けるホーに、止まる様に右手を伸ばすウルトラマン。

《グオォォォォォ!!》

しかしホーは、それを気にせずに進む。

「…シュ」

ウルトラマンは、ホーを止めるために構えた______が、ウルトラマンの隣に光の柱が立った。

「…」

光の柱を見たウルトラマンは構えを解く。

《?》

ホーも止まり、光の柱を見る。

「…シュアッ!」

光の柱から現れたのは…ウルトラ先生こと、ウルトラマンエイティだった。エイティを見た準備、ホーはおとなしくなった。

「…マイナスエネルギーから生まれた怪獣なら、私が倒す」

エイティは隣に立つウルトラマンに言う。ウルトラマンは、ただ静かに頷いた。

「シュアッ!」

エイティはバックルビームを放った。ホーはそれを受け、静かに消えていった…

「先生ー!」

ホーが消えたと同時に聞こえる、先生と呼ぶ声。誰を指しているかは明白だった。

「矢的先生ー!」

エイティが学校の屋上を見ると、1年E組の生徒達が、自分に向けて手を大きく振っていた。

「僕は今ー!先生と同じ教師をやっていまーす!!」

「私はもう結婚して!今は3人のお母さんでーす!」

「僕は!大学の研究員をやってまーす!!」

「自分は!信用金庫に勤めてまーす!!」

「俺は!実家のスーパー継いで頑張ってまーす!!」

矢的に会ったら、必ず伝えると決めたことを、それぞれが叫ぶ。全ての生徒の言葉を聞いたエイティは…

「…シュアッ!!」

空へと、飛び上がった。それを見送ったウルトラマンも、光に包まれて消えた…

 

 

「…君や、生徒には教えられたよ」

桜ヶ丘中学校の門で、一樹は矢的に話しかけられた。

「…矢的さん」

「ずっと、申し訳ないと思っていた。もっと彼ら、彼女らと学びたいと思っていた」

「……」

「…あの子達と過ごした時間は短かったが、楽しかった」

「……」

「私の、自慢の生徒達だ」

「…会って、あげて下さい。みんな、まだまだ話し足りないと思いますよ」

微笑みを浮かべて、一樹は矢的を送る。矢的もまた、微笑みを浮かべ…

「会ってくるよ…私の生徒に、私の、子供達に…」

矢的が門を越えた、それだけで。

「「「「矢的先生ー!!」」」」

暖かい声が、屋上から聞こえる。一樹はそれを見送ると、その場をゆっくりと離れていった。ここは、彼らの思い出の場所だ。思い出を語る時に、第三者がいるのは無粋だろう。それに、一樹には…

 

「おーい!一樹ー!!」

「一緒に帰ろー!!」

 

一樹の、帰る場所がある。

 

 

 

 

「あの怪獣は、きっと桜ヶ丘中学が呼んだんだ」

「学校が?」

学園に着いてから、一樹と一夏、雪恵とセリーは屋上で星を眺めていた。

「学校が、生徒と矢的先生を会わせたいと願ったから…あの怪獣は現れた。だから近くに矢的先生がいると分かったとき、戦うのをやめて、もう1人のウルトラマンの攻撃を素直に受けて消えていったんだ。もう、役目は終わったってね」

「……そっか」

一夏とセリーが、夕食のために屋上を去っていった。雪恵も行こうとすると、一樹に呼び止められる。

「なあ、雪」

「ん?なに?」

「…これからも、俺と【思い出】を作ってくれるか?」

一瞬、キョトンとした雪恵だが、すぐに満面の笑みを浮かべて言う。

「当然だよ!!!!」

 

 

雪恵も食堂に行き、1人になった一樹。何気なく空を見上げると、そこには…

「……気にしなくて良いのに」

ありがとう、という意味のウルトラサインが一樹にだけ見えるように輝いていた…




途中の「矢的先生ー!」の言葉が違う場合、作者の記憶が悪いですごめんなさい。


レオ=ゲンは一夏の武道の師匠。

エイティ=矢的は一夏達の中学時代の担任!?

我ながらぶっ飛んだ世界線だ。


普通に羨ましいぜちきしょう!自分も矢的先生のクラスで学びたかった!!!!


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Episode68 練習-プラクティス-

難産だ…




キャノンボール・ファストも近い今日(こんにち)、IS学園の実習は当然それに向けた練習なのだが…

「へへーん!追いつけるもんなら追いついてみな‼︎」

「にゃろ…絶対落とす‼︎」

「絶対に叩っ斬る‼︎」

「必ず倒してみせますわ!」

「あの件があるけど、今回はちゃんと装備してるし、手加減しないわよ!」

「僕とアストレイなら、やれる!」

「奴を追い抜くぞ!レーゲン‼︎」

「ちょ、かーくん早すぎ⁉︎」

フリーダムを纏った一樹を追う1年専用機持ちがいた…一応コースは守っているはずだが、次々と起こる爆煙によって判断がつかない。

「ヤッフー!!」

そんな中、わざとコースの上空に上がって思いっきり空を飛ぶ一樹。

「やっぱ空を飛ぶって最高に気持ちいいぜ!」

無邪気な顔で、バレルロールなんてしている。更に悪戯っぽく笑うと、急降下。

「雪、一緒に飛ぼうぜ!」

「え、ちょ、待っ…」

ビリの雪恵の手を掴むと、他の専用機持ちの間を縫うように飛ぶ。そして再びトップに。

「ヤッホー!!」

「いやぁぁぁぁ!!?」

呑気に飛ぶ一樹だが、雪恵は後ろからくる攻撃に冷や汗が止まらない。一樹が当たらないようにしてると分かっていても、やはり怖いものは怖い。

『何をしている!?櫻井は瞬時加速をしていないんだぞ!櫻井を抜かなければ貴様らは放課後補習だ!!』

「「「「嫌だぁぁぁぁ!!!!」」」」

鬼(千冬)の補習を受けたくない専用機持ちたちは、必死で一樹を追うが、周回遅れのまま授業は終わってしまった。

 

 

「特別補習を行う!このバカ共が‼︎」

「いやだって織斑先生!」

「櫻井君はプロなんですよ⁉︎」

一夏、シャルロットが文句を言うが、千冬の一喝に黙る。

「やかましい!戦闘ならともかく、櫻井からの反撃無しの状態で周回遅れなど言語道断だ!みっちり鍛えなおしてやるから覚悟しろ!」

「「「「いやぁぁぁぁ!!!!」」」」

専用機持ちたちが悲痛な叫びをあげる。ふと、一夏が気づく。

「…あれ?雪恵は?」

「「「「逃げたか!!?」」」」

「田中は稼働時間が短い事から今は櫻井が特別コーチをしている!馬鹿な事を考える暇があったら少しでもISをいじれ‼︎」

「「「「は、はいィィィィ‼︎」」」」

 

 

「いやぁ!楽しかった!!」

「…かーくん、凄い笑顔だね」

所変わって第一アリーナ。少年の様な笑顔を見せる一樹と、げっそりとした雪恵の2人がいた。

「空を飛ぶってのは、俺に許された数少ない娯楽だからな」

「…いつも飛んでるじゃん」

「ばっかお前。アレは戦闘中だぞ?飛んでるって楽しんでる場合じゃないぞ?」

「…今日のアレは何だったのかな?後ろから凄く攻撃が来てたけど?」

「あの程度は攻撃に入らねえよ」

「かーくんはね!!」

雪恵にとって、アレは命がいくつあっても足りない。それだけ心臓に悪かった。

「後ろから織斑君の高出力ビームが、箒ちゃんの斬撃が、セシリアちゃんの狙撃が、鈴ちゃんの衝撃砲の音が、シャルロットちゃんのビームが、ラウラちゃんのレールカノンが、全部襲ってくるんだよ⁉︎怖かったんだから‼︎」

「おいおい、本番はもっと攻撃が激しいんだぞ?しかもお前が狙われる形で」

「…私、ビリでも良い?」

「【櫻井 一樹】としても、【S.M.S】としても、それは別に構わない」

IS部門で、特に他の人間にアピールする必要はないS.M.S。

「自分で言っといてなんだけど、本当に良いの?」

「はっ!キャノンボール・ファストでビリだって程度で無くなる信用じゃねえよ」

元々S.M.Sは何でも屋だ。IS部門で信頼を得ずとも、他の部門で皆食べていける。むしろISは一夏、雪恵のために作ったので、他の企業の評価はいらない。

「…かーくん達って、結局何が専門なの?」

「最初は傭兵モドキをやってたんだ。だからそれが一番強い部門だな。ほら、フリーダムだって軍事部門の開発した奴だし」

傭兵モドキとは言うものの、S.M.Sはむやみに命を奪わない。そのため、S.M.Sが参加した戦いは敵陣営の軍事力は壊滅しても、死者はほぼいないのだ。

「っと、そういう訳だから雪はのんびり飛んでくれて構わない。けど、このままじゃ授業についていけなくなるから、練習はしような」

「ううっ…(既に実技はやばいなんて、言えない)」

「千冬から実技が遅れてるって聞いてるからな。まずは基本からやっていくぞ」

「千冬さんの馬鹿ぁぁぁぁぁ‼︎」

「おいおい…千冬から教科書は借りてるから、それを俺なりに教えていく。ちなみに、今回はセリーにも手伝ってもらう」

「ん、よろしく」

「よろしくね。セリーちゃん」

「じゃあ雪。アストレイ・ゼロを展開してくれ」

言われた通り、アストレイ・ゼロを展開する雪恵。

「うん、展開速度に問題は無いな。セリー、頼む」

「ん」

セリーは手から火球を出して宙に浮かべた。

「まずは歩行からいこうか。雪、この火球を追って歩いてくれ」

「うん」

セリーが火球を動かし、雪恵はそれを追う。ISが開発されてから、女性は小学生の頃からこの授業をやるようになった。が、雪恵はISが開発されるより前に脳死状態となったため、基礎の授業を受けていないのだ。

…よくそれで亡国企業の襲撃を乗りきったものである。

「一応織斑君から教えてもらってたから、ここまではなんとか…」

「俺はISを扱えないから、操縦方が違うと思ってたんだが…教科書を見る限り、そんなに違いはなさそうだな」

「かーくんのも思考で動かすタイプだしね」

「そこのフレーム構造は大分違うが…ま、扱う分には関係ない。セリー、こんどはゆっくりと火球を上昇させてくれ」

「分かった」

一樹の指示通り、セリーは火球を上昇させる。

「そこで一旦ストップ。雪、今度は飛ぶ練習だ。火球を目標にゆっくり上昇してくれ」

雪恵はアストレイ・ゼロを上昇させようとするが…

「あ、あれ?浮かない?」

いつもならすぐに浮かび上がるのに、アストレイ・ゼロはその場でジャンプを続けるだけだった。

「…?」

不思議に思った一樹がアストレイ・ゼロのデータを見ると…

「…雪、もしかして設定いじった?」

「え?え?どゆこと?」

「設定がマニュアルになってる…」

「…あ。この間間違えて触っちゃったかも…」

「とりあえず直しとくよ…」

と、のんびりやっていった。

そして、とうとうその日がやってくる…




子供のように無邪気な一樹は、どうですか?


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Episode69 競争-キャノンボール・ファスト-

今回は割と筆が乗った。


久々の1万字越え!
ごゆっくりお楽しみください!


ついにこの日がやってきた。一夏達が控え室に向かっているのを、一樹は観客席の屋根から見ていた。

「…さて、どうなるやら」

 

 

「あぁ、緊張するぅ…」

先ほどから、痛いほど心臓が鳴っている雪恵。いくら順位を気にしなくて良いとはいえ、出るからにはそれなりに活躍はしたい。

…というか、雪恵の目標はまずコースアウトしないことだが。

「バックパックを【エールストライカー】に変えるぐらいしか、アストレイ・ゼロはいじれないし…ねえ織斑君、麒麟には何か追加装備あるの?」

「…ない」

「…え?」

「だから…ない」

「第三世代機なのに!?」

単純に必要ないからなのだが…それでも、最新鋭機の麒麟に何も無いというのは、一樹たちS.M.Sがとことんキャノンボール・ファストに無頓着なのが現れていた。

 

 

「で?わざわざ正規の方法でここに来た訳を聞こうか?亡国機業(ファントム・タスク)実働部隊のリーダー、『スコール・ミューゼル』さんや」

「あら?気づいた上で私を中に入れたの?あなたってそんな馬鹿だった?」

「…気づいてても、どっかの自信家さんがうるさいんでね。『テロリストが、堂々と学園に来る訳無いでしょ。だからあなたは邪魔』っていうこの学園のNo.2がな」

「ああ、道理で…不甲斐ない上司を持つと苦労するわね。お互い」

「あんたとは()()()()さえなければ、美味い酒が飲めたかもな…」

「ええ、本当に…」

世間話をのんびりとしている2人。とても、敵対してる者同士の会話とは思えない…

「…今回、私が来た理由は、組織の命令から外れた連中の監視よ」

「あん?あんたが指揮すんじゃねえのかよ」

「亡国機業だって一枚岩じゃないのよ。だから今回は、あくまで『スコール』としてこの場にいるの」

「あーあ、どこもかしこも面倒だなおい」

「むしろ、あなたのところがおかしいのよ…社員の満足度が9割越えるなんて…」

「せっかくウチに来てくれたんだ。それ相応の待遇にするのは当たり前だろ?」

「…それに、あなたは入ってるのかしら?」

「……」

一樹がIS学園から受けている待遇も調べたスコールは、吐き気がした。仮にも自分たちを守っている者の扱いでは無いのだから…

「…私達はあなたを招待するわよ?亡国機業に」

「はっ!寝言は寝て言え。俺は亡国機業(お前ら)とは組まない。分かりきったことだろうが」

「……そうね。やっぱり、私達とあなた達は水と油」

一瞬だった、一樹の逆刃刀がスコールのレイピアを弾いたのは。

「…ここなら他の人に被害は来ないわよ。全力で来たらどう?」

「…」

スコールの挑発を受け流す一樹。スコールも、この程度の挑発で一樹が乗るとは思っていない。

スコールは一樹に向かって踏み込むと、レイピアを突き出す。一樹はそれを逆刃刀で軌道をずらして避ける。流れるように放たれたスコールの蹴りも、側転で避ける。そして、スコールの胴に向けて逆刃刀を薙ぐように振るうが、それはISのPICを部分展開した事によって避けられた。

「…やめましょう」

いきなりレイピアをしまうスコール。一樹も逆刃刀を鞘に収めるが、左手は鞘に触れたままだった。

「そんな警戒しなくても、抜刀術を得意とするあなた相手に不意打ちはしないわよ。負けるのが目に見えてるもの。それに…」

素早くサイレンサー付きの拳銃を撃ってくるスコール。一樹は左手の腕時計で弾丸を弾いた。

「拳銃だって通用しない相手に、生身なんてアホらしいし。ならISを展開しろって話だけど、これでも私は民間人を巻き込みたくない派なのよ」

そう言うと、スコールは一樹に背を向けて歩き出す。

「一応忠告しておくわ。あなた達の相手をしてるのは、私達亡国機業()()()()()()わよ」

「…忠告、感謝するよ」

 

 

「ええと…Fの45はと」

その頃、一夏から貰ったチケットで学園に来ていた蘭は、自分の座席を探すのに必死だった。先ほどから人にぶつかりそうになっていてて危ない。

「おい蘭、席を探すのが大変なのは分かるけど、周りにも気をつけろよ」

「うっさいお兄…なんでお兄も来ることになってんだか」

「一樹の彼女さんからチケット貰ったからな」

「お兄はこの間の学園祭行ったでしょ⁉︎別に来なくて良いじゃん!お兄の分のチケットが勿体無いよ‼︎」

「ひでえ言われようだぜ…」

肩をすくめる弾。その左手には、黒塗りの腕時計が巻かれていた。弾は席を探す妹の背中を見ながら思う。

「(お前の恋した相手は、ライバルが着々と増えてるみたいだぜ。頑張れよ…お前の答えが出るまでは、俺が守ってやるからよ)」

家族内ヒエラルキーが一番下の弾。しかし、彼は立派な【兄】なのだ。兄として、妹の恋路を応援していく弾の背中は、一樹達から見てもカッコイイものだった…

 

 

『それでは、全員位置についてください』

とうとう1年生専用機持ちの順番になった。

『マスター!絶対に勝ちましょうね‼︎』

「(気合い入ってるなぁハク。まあ、のんびり飛ぼうぜ)」

『のんびり飛んでいたら1位はとれません!私とマスターなら、楽勝なのですから1位以外認めません!』

「(とはいえ…キャノンボール・ファストまで勝っちゃったら、みんなやる気無くすんじゃないかと思うとな…)」

『その時はその時です。一樹さんに相手してもらいましょう!そろそろ一樹さんに勝ちたいですし』

麒麟はもちろん、他の専用機も一樹のフリーダムに勝てたことは無い。一樹もかなり手加減しているのだが、一夏とラウラ、楯無くらいしかフリーダムのスピードに脳の処理速度がついていかないのだ。

「(確かに、そろそろ一樹に勝ちたいな…よし、まずはこのレースで1位を取るか。ユニコーンモードの状態で)」

『マスターなら楽勝です♪完膚なきまでにぶっちぎってやりましょう‼︎』

「(たまに思うんだけどさ、ハクって結構暴れん坊?)」

ハクと会話しながら、スタートラインに並ぶ一夏。

「みんな…」

「「「「?」」」」

横に並ぶ対戦相手に、一夏は言う。

「…負けないからな!」

「「「「こっちこそ!」」」」

「え、えと?頑張ってね?」

とまどう雪恵を他所に、レースが始まろうとしている。

 

 

「あったあった!Fの45!」

蘭は自分の座席を無事見つけると、一夏のISを探す…

「…あれ?どれが一夏さんのIS?」

「ほら、あの真っ白な奴」

弾の指差す方向に、全員真っ白な相手があった。

全身装甲(フル・スキン)タイプぅ⁉︎それじゃ一夏さんの顔が見れないじゃん‼︎」

「けど、理由を聞いたらお前も納得すると思うぞ」

「理由ぅ?」

胡散臭そうに弾を見る蘭。そんな妹に、弾は苦笑しながら話す。

「なんでも、全身を装甲で覆わないと一夏の動きについていけないらしいぜ」

「えぇ?全身を装甲で覆った方が邪魔だと思うけど?」

「分かりやすく言うならインターネット回線だ。蘭、無線と有線、どっちが電波が早くて安定してる?」

「そんなの有線に決まってるじゃん。無線は電波を飛ばしてる分ラグが起きやすいって…」

「それだよ。普通のISだと、シールドエネルギーで守られてるからあまり装甲はいらない。そして、搭乗者の思考を伝えるのに使ってるのは、インターネットで言う無線回線。まあ無線回線って言っても、パソコンなんか目じゃ無いほど速いんだけどさ。んで、全身装甲(フル・スキン)の利点は何より反応速度が速いこと。普通はあまりの反応速度に人がついていけないけど、一夏はアレじゃないとダメってことなんだよ」

細かく言うと、全身装甲でも遅いためにサイコフレームを使っているのだが、流石にそこまで説明する必要は無いだろう。

「…つまり、装甲が回線で言うケーブルの役目を果たしてるって言いたいの?」

「そういうこった」

「…一夏さんがそれだけ凄いのは分かったけどさ」

「ん?」

「…何でお兄が、そんなにISに詳しいの?」

蘭の目が、今度は何かを探るように細められる。

「ウチにあるだろ?ISのゲーム」

「…うん、あるね。それで?」

「アレで全身装甲が少ない理由を知りたくてさ。ネットで調べたら色々出てきたんだよ」

「…ふうん」

納得してなさそうな蘭だが、レースの始まりを告げるアナウンスが聞こえたため、今は一夏のレースを見ることにした。

 

 

3……2……1……ゴー!!

レースが始まった。当然の様に突出した一夏を、セシリアと鈴が追う。

「悪いが、容赦はしねえぜ!」

ガトリングモードのビームを後ろにばらまく一夏。そのビームを警戒し、セシリアと鈴は下がる。

「甘いな」

「ごめんね」

しかし、ビームの嵐をバレルロールで避けながらラウラとシャルロットが詰めてきた。

「ごめんね一夏!僕負けないから!」

「嫁と言えど、容赦はしないぞ!」

追加スラスターをつけたレーゲンと、I.W.S.Pを搭載したアストレイ・ゴールドフレームがそれぞれ攻撃してくる。

「(一樹の野郎、シャルには新装備渡してたじゃねえか!雪恵が泣くぞ!)」

ちなみに、最初I.W.S.Pは雪恵に渡されたが、雪恵にはまだ早いという事でシャルロットに渡された。なので、一夏の心配は杞憂だ。

「「お先!」」

そうこう考えている内に、レーゲンとゴールドフレームに抜かれてしまった。

「ありゃ?抜かれちった」

『呑気に言ってる場合ですか⁉︎早く抜き返してください‼︎』

「分かって…ッ⁉︎」

殺気を感じた一夏。咄嗟にシールドを構える…

 

ドォォォォォンッ!!!!

 

突如、上空から放たれた攻撃が、トップのラウラとシャルロットを撃ち落とした。

「シャル!ラウラ!」

『マスター!来ます!』

ハクの言葉に、一夏は麒麟を動かす。麒麟が浮上した途端、麒麟がいたところにレーザーが飛んできた。

「あの機体は…」

一夏の後ろでは、襲撃者の機体を見て愕然としているセシリアがいた。一夏も、改めて敵機を見据える。その機体は、蝶の羽を思わせるスラスターが特徴的なBT装備2号機…

()()()()()()()()()()()‼︎」

機体名を呟いたセシリアは、ギリっと歯ぎしりをすると飛び出した。

「ッ⁉︎セシリア!戻れ‼︎」

「すみません一夏さん…この機体の相手は、私が!」

サイレント・ゼフィルスと戦闘を開始するセシリアのブルー・ティアーズ。すぐさま助けに行こうとする一夏だが…

『マスター!箒さん達が⁉︎』

「なっ⁉︎」

 

 

「くっ⁉︎」

「当たって!」

雨月と空裂の二刀流で、なんとか攻撃を捌いていく箒。そして、その後ろから雪恵がI.W.S.Pに搭載されたレールガンで敵を狙うが…

「ギャハハ!遅えぞ嬢ちゃん‼︎」

血の様に赤く塗られた機体、【ソードカラミティ】を駆るアリー・アル・サーシェスにあっさり躱される。両手に持ったビームブレードを振り下ろし、紅椿に斬りかかる。ISのパワーアシストがあるとはいえ、箒は押され気味だ。

「なぜ…貴様がISを扱える⁉︎」

「あぁ?じゃあなんであのクソガキに使えるのか説明出来んのか嬢ちゃん!」

容赦無く紅椿を蹴り飛ばして、胸部ビーム砲を放つサーシェス。

「ぐっ⁉︎」

ビームが箒に迫るが、雪恵が前に出て、なんとかシールドで受け止めた。

「こんのッ!」

更に角度を調整し、サイレント・ゼフィルスに向ける。

 

「チッ…」

サイレント・ゼフィルスはシールドビットを操作し、ビームを受け流した。

「余所見してる暇はないですわ!」

インターセプターを展開し、サイレント・ゼフィルスに斬りかかるセシリア。しかし、あっさりナイフで受け止められ、蹴り飛ばされる。

「邪魔だ」

ゼロ距離で連続射撃を喰らい、みるみるシールドエネルギーが減っていく。

「(まだ、負けられませんわ!)」

高起動パッケージであるストライク・ガンナーをパージし、ビットを射出する。

「たかが4機程度で、私に対抗出来るとでも?」

サイレント・ゼフィルスもビットを射出する。その数、6機。

「なっ⁉︎」

「死ね」

ビットを射出しても、サイレント・ゼフィルスの動きが止まることはなく、セシリアに迫る…

 

 

しかし、そんな時に現れるから、彼はヒーローなのだ。

「セシリアから離れろぉぉぉぉ‼︎」

麒麟の飛び蹴りがサイレント・ゼフィルスに命中、姿勢を崩した。その隙に、セシリアを抱えて一旦箒達と合流。箒達の後ろには、スラスターを破壊されたシャルロットとラウラが援護射撃をしていた。なんとか全員合流した途端、ソードカラミティ、サイレント・ゼフィルスの他にも、大量のビームが放たれた。シールドを展開する余裕もなく、一夏はシールドエネルギーを犠牲にその攻撃から皆を守る。

「くそがァァぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「「「「一夏(さん)!!?」」」」

「織斑君!!?」

いくら麒麟のシールドエネルギーが大量にあっても、限界はある。麒麟のままでは、負ける…

「ギャハハ!どうしたよ織斑一夏!てめえのお友達は来てくれねえみたいだな!とうとう逃げ出したんじゃねえの⁉︎」

サーシェスがその野太い声で叫ぶ。

「ふざけるな…あいつを、お前らと一緒にするな‼︎」

「だが、現にやつはここに来ない。お前らを見捨てたと考えた方が合理的…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰が見捨てたって?寝言は寝て言えよ、馬鹿ども」

一夏達が声の聞こえた元を探していると、超上空からフルバーストが放たれた。それにより、亡国企業量産機部隊の一部のスラスターは破壊され、数がそこそこ減った。

そして、太陽の光を背に、それは急降下してきた。

「ぐっ⁉︎」

「ガッ⁉︎」

そしてすれ違いざまにサイレント・ゼフィルスのナイフを蹴り落とし、ソードカラミティのフラッシュエッジを斬り落とした。

「一樹…」

「かーくん…」

フリーダムはその蒼い翼を広げる…スラスター光が、どこか神々しさを感じさせた。

「さあ…かかってこいよ」

 

 

「一夏さん、大丈夫かな?」

避難誘導に従って、五反田兄妹はシェルターへと移動している。

「大丈夫だろ。一夏なら」

妹に比べて、兄の方は呑気だ。これも、一夏の実力を知ってるからこそなのだが…

「…すみません、このシェルターにはあと1人しか入れないんです」

シェルターの前で止められる2人。申し訳なさそうに言う係員。

「なら、妹をお願いします」

「え、ちょ、お兄は⁉︎」

蘭の抗議をスルーして、蘭の背中を押す弾。

「じゃあお願いします」

「…すみません」

最後まで係員は、頭を下げ続けていた。泣きそうな顔の蘭に手を振って、シェルターに向かうエレベーターを見送ると、アリーナに向かって駆け出した。

「結果オーライって奴だな!」

 

 

フリーダムが空中を舞う様に飛び、攻撃をことごとく回避しているのを、スコールは観客席で見ていた。

「相変わらず凄い動きね。しかもそれを対G性能がない機体でやってるのだから、IS乗りの面目丸つぶれよ。エム、あまり深追いしたら大怪我するわよ」

『いらん心配だ』

サイレント・ゼフィルスの装着者、エムの返答にスコールはため息をつく。

「中間管理職の人って、大変っすね」

「⁉︎」

スコールに気配を感じさせずに近づいてきた青年に、スコールは驚く。

「あなたは…?」

「…この上着で判断をどうぞ」

青年…五反田弾は、サイレンサー付きの拳銃をスコールに向けていた。

「あなた…S.M.Sの人間ね。私に気配を感じさせないってことは、それなりの立ち場なんじゃないかしら?」

「立ち場ねえ…あそこに立ち場なんてあってないようなもんだよ。あんたらには分からないだろうけどな」

蘭や家族の知る、どこか抜けてる顔ではない。その顔は、とても厳しく、勇ましい。スコールですら、その表情に少し見惚れた程だ。

「…羨ましいわ。職員みんなが仲良いなんて。特にこのご時世ではね」

「…世間話をしにきたわけじゃない。あんたら亡国機業の目的を話してもらおうか」

「あら、言うわけないじゃない。あなた程度に言ったところで、世界に効果はなさそうだし。せめて、あなた達のボスを連れてきなさいよ。S.M.S社長の、『ジェフリー・ワイルダー』を」

弾はため息をつきかけた。ワイルダーは確かにS.M.S内では中々の権力があるが、それはN()o().()2()としてだ。情報統制をしてるとはいえ、本当の社長の名が裏の人間にも気づかれていないとは…

「おいおい、ご老人を動かすなんて無茶言うなよ…まあ理屈は分かる。なら()()()()()より、()()()()殿に話してもらうかな。お願いします」

弾はいつの間にか後ろにいた楯無に、顔を向けずに告げる。

「…ええ、任せてちょうだい」

楯無は弾の横に並ぶと、スコールと対峙する。

「IS『モスクワの深い霧(グストーイ・トウマン・モスクヴエ)』だったかしら?あなたの機体は」

「それは昔の名ね。今は『ミステリアス・レイディ』という名よ」

「あら、そう」

小手調べとでも言うのか、スコールはノーモーションで楯無に向けてナイフを投げる。弾がそれを撃ち落そうとするが…

「ありがとう。大丈夫よ」

素早くISを展開した楯無は、その槍『碧流旋』で叩き落とすと、意向返しのガトリングガンを放つ。スコールは自らのISを腕部部分展開して受け止める。

「射線が直線過ぎるわよ。そんなお子様の喧嘩レベルで、『闇』の住人である私を倒せると思わない方がいいわよ」

「…ッ」

楯無が小さく歯ぎしりする。覚悟を決めたとはいえ、長年闇の中にいるスコールの相手は無理なのか。

「なら…」

今まで黙ってた弾が口を開く。

「俺が相手だったら満足か?」

左手をちらつかせ、弾が前に出る。

「うーん、ギリギリ落第かしら?私の相手をしたいなら…」

スコールは、アリーナ上空でおぞましい数の敵と撃ち合う蒼い機体を見て言う。

「フリーダムレベルになってから出直しなさい」

そして部分展開した腕部から、火球を撃ち出す。

「「ッ!!?」」

楯無が機体で、弾が左手の腕時計からバリアを張って火球を受け止めている間にスコールは逃走した。

「くそッ!!」

 

 

「ちょこまかと動きやがって!」

わざわざ自動or脳波コントロールが出来る量産機30機を連れて突入したのに、たった1機のフリーダムすら落とせないことに、サーシェスはイラついていた。

「行けよ!()()()()!!」

量産機、『ファング』でフリーダムを囲って一斉射させる。だが、フリーダムは針を縫うような細かな動きで30機分のビームを避ける。

「やれ」

今度はエムのビットも加わるが、フリーダムはその尋常でない機動性を活かして回避する。

 

「邪魔くせえな!」

ビームライフルでファングの1機を撃破するが、まだまだ数は減らない。一樹はファングの攻撃を回避しながら、少しずつ学園から離れる。たとえそれが、援護を期待出来なくなる状況になろうとも。

 

 

「(ハク!どうにかして動けないか⁉︎)」

『動けなくはないですが、シールドエネルギーを消費し過ぎです!それに、こちらに全く攻撃が来てない訳では無いんですから!』

麒麟は先ほど仲間達を庇った影響で、過去に無いほどシールドエネルギーを消費していた。デストロイモードになろうにも、ここでは箒達の目もある。あまり簡単にデストロイモードになれるところを見せられない。

「(ちくしょう!)」

ファングの相手をしながら、一夏は愚痴った。

 

 

箒は、他の専用機持ちと共にファング数体と戦っていた。そして、そのシールドエネルギーは枯渇寸前だった。

「グゥッ⁉︎」

ファングに押し負け、アリーナに叩きつけられる箒。

「こんなところで…」

箒の目に映るのは、同じくシールドエネルギーが枯渇寸前の状態で、敵機の攻撃を避ける一夏の姿だ。専用機を得てから、箒は一夏に良いところを見せられていない。なにより…

「(一夏の足手まといになっている…)」

そもそも専用機を得たいと思ったのは、一夏の力になりたいという想いからだ。なのに、念願の専用機を得てしたことは、福音戦で力に溺れ、一夏の親友を殺しかけと、碌なことに使っていない。

「(私は、確かに碌なことにお前を使ってなかったな、紅椿。けど…)」

今度こそ、今度こそ間違えない。

「(私に、力を貸してくれ!紅椿‼︎)」

そんな箒の願いが届いたのか、紅椿の空間投影ディスプレイが様々な情報を表示していく。

 

搭乗者の感情エネルギーが一定値に到達、シンクロ制限解除。

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー) 【絢爛舞踏】発動

展開装甲とのエネルギーバイパス構築……完了

 

項目は、紅椿のワンオフ・アビリティーの詳細を表していた。

その名は【絢爛舞踏】

絢爛舞踏が発動し、紅椿のシールドエネルギーがみるみる回復していく。

「私は…まだ、戦える!」

箒は一夏の元へと飛ぶ。

「お、おい箒!ここは危な…」

「一夏!これを受け取れ‼︎」

「…え?」

箒は一夏の手を取ると、絢爛舞踏を再発動。麒麟のシールドエネルギーを回復させた。

「こ、これは…」

『シールドエネルギーが…回復しました!』

一夏、ハクも驚く。だが、シールドエネルギーが回復したのは事実…今はそれだけ分かれば良い。すぐさま雪片弐型を展開、零落白夜を発動し、ファングを切断していく。

「…よし、箒!みんなのシールドエネルギーも回復させてくれ!俺は、行く‼︎」

「ああ!任せろ‼︎」

 

 

「こんの…」

フリーダムはファング、ビットの攻撃を舞うように避け、可能な限りビームライフルで破壊した。だが、あまりに頭数が違いすぎる。

「学園からは…まだ離れきってない…」

フリーダムが全力を出したら、学園に確実に被害が出てしまう。そのために、一樹はひたすら学園から離れようとしていたのだ。

「アハギャハ!逃げてばかりじゃどうにもならねえぞ‼︎」

「(んなことは、分かってんだよ!)」

サーシェスの挑発を聞き流し、ビームはビームサーベルで弾く。

「お前の能力はこの程度なのか?」

「ッ⁉︎」

エムがビームブレードを展開し、フリーダムを両断しようと斬りかかってきた。それを弧を描くように避け、逆に斬りかかる。

「チッ…!」

エムが下がると、再びビームの嵐が襲ってくる。

『かーくん!私達も…』

「絶対来るな!死ぬぞ‼︎」

雪恵が駆け込んで来ようとするのを、強い言葉で制する。

『だけど…!』

「なら聞くが!お前以外に進んで来てくれる奴はいるのか⁉︎」

『……』

ビームの嵐を避け、ファングを撃ち落としながら、一樹は叫ぶように訴える。

「頼むから…お前は()()()()来ないでくれ‼︎」

 

 

「やっぱり…」

楯無が危惧した通り、一樹が亡国機業のターゲットにされてしまった。更に最悪な事に…

「『生徒諸君は、直ちに撤退し、待機せよ IS学園教頭』…本当に、最悪の事態ね」

()()()()()()()()()()()()()()

「…え?」

楯無が後ろを向くと、先ほど共にスコールに挑んだ青年がいた。

「…あなたは?」

青年は姿勢を正して敬礼すると、自己紹介をする。

「S.M.S防衛科所属、五反田弾少尉です。自分はこれから、我が同胞を救出するために出陣します…どうか、お許しください。生徒会長殿」

その強い瞳に、楯無は希望を感じた。そして、敬礼を返す。

「…IS学園生徒会長、更識楯無です。櫻井一樹援護の件、私の名で許可します…どうか、お気をつけて」

「…お気遣い、感謝します」

弾は駆け出し、アリーナの客席から飛び出す。

「…五反田弾、『ストライクノワール』出るぞ‼︎」

 

 

弾が出撃したのを、一夏はハイパーセンサーで視認した。

「(なら…!)」

一夏は、周りのファングを一掃するために、【変身】した。

目の前で変身する麒麟の姿に、箒、セシリア、鈴は軽く震える。だが、なによりも…頼もしさを感じた。

()()()()()()()()()()()()()()()

一夏の叫びに答えるように、サイコフレームが赤く輝く。

「さっさと片付けてやるよ!」

 

 

フルバーストで視界にいるファングを一掃。そしてビームブレードを振り下ろしてくるサーシェスを回し蹴りで迎撃。スラスターを破壊しようとライフルを構えるが、エムのビットに邪魔をされる。

「ッ⁉︎」

再び網を貼るようにファングが、ビットが攻撃してくるのを避けたり、シールドで受け止めるなどをしてやり過ごす。

「もらったァァ!」

「ッ!!?」

背後からビームブレードを展開したエムが襲いかかってくる。フリーダムはスラスターを全開にしてブレードの斬撃から逃れると、両腰のレールガンでエムを攻撃。

「チィ!」

蝶の羽のようなスラスターを巧みに使い、それを避けるエム。今度はサーシェスが胸部からビームを撃ってくる。

「そんなもんに!」

ここで一樹は離れ業をする。ビームサーベルを持った右手を突き出し、ビームに向かってドリル回転しながら突進した。見事サーシェスのビームは霧散し、サーシェスに突っ込む。

「クソガキが!」

サーシェスはファングの1機を盾にし、その場を逃れた。そこに、弾のノワールが到着する。

「一樹!」

「弾⁉︎お前なんでこっちに⁉︎」

「あっちはほぼ片付いた。後はコイツらだけだ‼︎」

「あいよ‼︎」

弾は両手のビームライフルショーティを乱射。次々ファングを撃破していく。

「落ちろ!」

ファングが一気に減り、一樹はサーシェスに集中的に斬りかかる。

「お前が扱ってる機体…ISじゃねえな!何故お前がそれを持っている⁉︎」

「テメエの許可なんざ求めてねえんだよ!!」

一方、エムは弾を相手にビットとレーザーで戦っていた。

「誰だか知らないが、死ね」

「嫌なこった!」

弾はエムの攻撃をクルクル回りながら回避。更に回転しながらエムに向けてビームライフルショーティを連射する。

「回転しながら連射だと⁉︎」

咄嗟にシールドビットで受け止めるエム。その背中に、ビームマグナムの攻撃が命中した。

「ガッ⁉︎」

「ナイスサポートだぜ一夏!」

両肩のビームブレードを抜刀すると、弾はエムに斬りかかる。エムは、羽を使ってなんとか弾の斬撃を避けていた。

『エム、時間切れよ。下がりなさい』

「だが!」

『もうあなたのシールドエネルギーも枯渇寸前でしょ?その人たち相手に長居し過ぎよ。下がりなさい』

確かに、エムのシールドエネルギーは瞬時加速の使い過ぎで枯渇寸前だった。

「…了解」

エムは渋々了承すると、弾に背を向けて撤退していった。

「…ケッ!今日はここまでにしといてやる」

サーシェスも退き時だと悟ったのか、残り僅かなファングと共に撤退していった。

「…助かったよ。弾」

「お役に立てて何よりだ」

2機が完全に見えなくなると、一樹と弾もIS学園へと戻っていった。




次は、我らが唐変木のバースデーパーティー+弾君に春が⁉︎



乞うご期待!









P.S.期待はほどほどにな。
俺との約束だぞby一樹


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Episode70 誕生日-バースデー-

お待たせしました。

では、どうぞ!


「せーの!」

「「「「一夏!誕生日おめでとう‼︎」」」」

シャルロットの合図に、ぱぁんぱぁんっとクラッカーが鳴り響く。

「お、おう。ありがとな」

時刻は夕方、午後5時半。それはいいのだが…

「何この人数…?」

いつもの面々である箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、楯無に加えてクラスメイトの本音、何故かその姉の布仏虚に新聞部のエースの黛薫子。そして五反田兄妹と雪恵にセリー。

「…あれ?一樹がいない」

雪恵に聞いてみるも、どこにいるか知らないらしい。どこに行ったのだろうか?

「…ったく、こういう時くらい気にせずに食べてけってんだ」

「…お前、そんなに燃やされたい?」

「あなたは変わりませんねセリーさん!結構です‼︎」

「そ、そうですよ!というかあなた誰ですか⁉︎」

セリーの事を初めて見た蘭が、セリーに詰め寄る。

「…田中セリー。別にコイツに興味はない」

「な、なら何でここに?」

「ユキエと一緒に来たから」

蘭がセリーに詰め寄るのを、鈴が止める。

「あーはいはい。セリーはあんたが思ってるタイプじゃないから安心しなさい。むしろコイツは櫻井派よ」

「…え"」

信じられない、という目でセリーを見る蘭。当然セリーの怒りを買い…

「…そんなに燃やされたい?」

手のひらから火球を出して、蘭を睨むセリー。虚と談笑していた雪恵が慌てて止める。

「ちょっと落ち着いてセリーちゃん!ほら、ここにお菓子あるから!」

「…ん。分かった」

雪恵の膝に、素直に座るセリー。蘭は膝がガクガクしていたが、知ったことではない。

「こ、怖かった…」

「あー、うん。多分学園では色んな人集めた中で、No.2の強さだしね」

普段ぶつかり合っているである鈴ですら、蘭に同情する。ちなみに、鈴の中での強いランキングは…

1位 一樹

2位 セリー

3位 一夏

4位 千冬

5位 麻耶

となっている。参考までに、怒らせたら怖いランキングでは…

1位 一樹

2位 一夏

同率3位 雪恵・セリー

5位 千冬

なのを補足しておく。

「…ほら、早く一夏にそのケーキ渡しなさいよ」

普段なら絶対譲らないが、今日だけは蘭の背中を押してやる鈴。

「は、はい…一夏さん!このケーキどうぞ!」

「お、ありがとな。手作りか?」

「は、はい」

「蘭1人で?」

「は、はい」

「凄えじゃん!」

そして蘭特製のケーキを食べる一夏。

「…うん、美味い!蘭は良い嫁さんになれるぞ」

「そ、そそそそそそんなお嫁さんだなんててて」

イラっと来た鈴はラーメンの丼を一夏に押し付けた。激アツの。

「アッチイィィィィ!!?何しやがんだ鈴!!」

「ほら食べなさいよ一夏。できたてだから美味しいわよ。何せ麺から手作りだからね」

花嫁修業の成果を見せてやることにした。

 

 

一樹が気配を消しながら一夏の家に着くと、一夏へのプレゼント合戦が行われていた。

「……」

見なかったことにして、何か食べられる物を探すも、どれもこれも手間がかかってそうな物だった。

「(流石にこれは食べれないな…)」

なんとか見つけた市販のポテトチップスに手を伸ばすと、雪恵とセリーが一樹に気づいた。

「あ、かーくんやっと来たぁ」

「カズキ、こっちこっち」

「ああ」

雪恵とセリーの間に座ると、雪恵がコップにコーラを入れてくれた。

「(相変わらず、気配り上手だな)」

礼を言いながら受け取り、口をつける。炭酸が、疲れた体に染み渡る。

「カズキ、これなら食べられる」

某おじいさんチェーンの骨つきチキンを差し出すセリー。

「ありがと、セリー。怪我は無いのか?」

「私、整備室で留守番してたから大丈夫」

「それは何より」

ちょこちょこと食べていると、弾の姿が無いのに気づく。

「…あれ?弾は?」

「五反田君ならあっち」

「あん?」

雪恵が指す方向を見ると…

 

「ま、また会えましたね」

「そ、そうね」

「……」

「……」

「「あの」」

「そ、そちらからどうぞ」

「い、いえ。そちらから…」

 

初々しい2人がいた。

「(ああ、布仏姉妹の姉の方か…そういえば学園祭の時、俺が迎えに行くまで生徒会の人が相手してくれてたって言ってたけど、まさかあの人とは…)」

それにしても…

「…何だろう?見てて微笑ましく思うのは俺だけ?」

「「私もそう思う」」

雪恵、セリーも弾と虚の会話を温かい目で見ていた。

「それは多分、櫻井君がアレしか見たことが無いからじゃない?」

ちゃっかり一樹の正面に座った黛が、一夏の方を指差す。一樹達がそちらを向くと…

 

「う、受け取れ!」

「のわぁぁぁぁ⁉︎」

 

一夏に軍用ナイフを突き出すラウラの姿があった。

「…ハァ」

疲れのため息をつく一樹。

「ね?」

「…ええ。そうですね」

「私もね、虚があんな恋する乙女やるとは思ってなかったよ。流石にアレは記事に出来ないなぁ〜」

誕生日会に参加したのも、学園新聞のネタがあるからかと思ったかららしい。

「…平和で良いな」

「それを守ってるのは、絶対に櫻井君だよ」

「…さあ、どうでしょうね」

「謙遜しなくてもいいのに。今日だって凄い数の敵と戦ってたじゃん」

「…仕事ですから」

 

「お?売り切れは無いな」

「何で自販機で買い足すんだよ?もうちょっと歩けば百均あるじゃん」

「あそこ、今改装工事やってるぞ?」

「なん…だと…?」

何故主役が買い出ししてるのかというと、一夏本人が志願したからだ。一夏曰く、『俺は今日何もしてないからな』とのこと。

「えーと、楯無さんが缶コーヒーで箒が緑茶、鈴が烏龍茶でシャルがオレンジジュース、ラウラはスポーツ飲料、セシリアは紅茶、蘭がミルクティー…後は?」

「雪とセリーがカル○ス、黛さんがモ○スターエ○ジー、布仏姉妹がレモンティー…後はお前と弾だ」

「お前は?」

「コーラかサイダーなんだけど…サイダーで良いや」

「ん。面倒だから男はそれで良いな」

計15本のジュースを買い、家に戻ろうとする2人。

「…一夏」

「ああ、分かってる」

街灯の光が当たらない絶妙な位置に、気配を感じる…

「いるのは分かってる。出てこいよ」

「ほお?平和ボケした国に住んでる割には、気配に敏感だな…これでも気配を消してたつもりなんだがな」

その人物はゆっくりと光の中へと入ってくる。

「………」

その人物は少女だった。しかも、見覚えのある顔をしている。

いや、一夏にとっては()()()()()()()()()()()()()()()

「…千冬姉?」

15、6歳ほどの少女。しかし、その顔は昔の千冬に異常に似ていた。

()()

少女が口を開く。その顔には浮かぶのは、闇を感じさせる笑み…

()()()()()()()()()()

「……」

対峙して分かった事がある。目の前の少女は、強い…!

「…今日は世話になったな。フリーダム」

少女は、一夏の隣にいる一樹に殺気を込めた目で睨む。

「あぁ?泣きべそかいて帰ったんじゃねえのかよ」

その目で睨まれるも、一樹は動じない。飄々と少女からの殺気を流していた。

「ほざけ。あのまま続いていれば、私が貴様を殺していたさ」

「負け犬ほどよく吠えやがるな…お前はお呼びじゃねえんだよ。さっさと帰れ」

ここでようやく、一夏は目の前の少女が今日の襲撃者の1人である事に気づいた。

「お前…サイレント・ゼフィルスの…?」

「そうだ」

一樹から一夏へと視線を移し、少女はまた一歩近づく。

「そして私の名は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()

 

そして、すばやく拳銃を撃つ。

 

キィン!

 

しかしそれは、一樹の腕時計に弾かれる。

「いきなりご挨拶だな!」

持っていたジュースを一旦空中に放り投げ、隠し持っていた拳銃でマドカの手を撃つ。

「グッ…」

撃たれた手から、拳銃が落ちる。その隙を逃さず、前蹴りをマドカの腹部に決める一樹。

「ガッ⁉︎」

これ以上の追撃はせず、マドカの拳銃を回収して一夏の隣に戻る。

「貴様が、生身の戦闘も出来るとはな…誤算だった」

「元々そっちが本業なんでね」

でなければ、とっくに溝呂木に殺されていたことだろう。

「んで?どうすんの?」

奪ったマドカの拳銃を、クルクル回して遊ぶ一樹。そこに隙は無い。

「無様に背中を見せて逃げるか、捕まって情報を吐き出されるか、好きな方を選べ」

「…クッ」

マドカはISを展開し、背を向ける。

「覚えていろよ…次に会った時は、必ず殺してやる…!」

「はいはい、やれるもんならどうぞ」

最後まで一樹を睨んだまま、マドカは夜の闇へと消えていった。

 

「…一夏」

「…?なんだ?」

「気をつけろ。俺たちの人間側の敵は、亡国機業だけじゃないらしい」

「…分かった。気をつける」




次から7巻だ!(もう若干入ってる)



あの子の出番が本格的に増えるぞ!


…あれ?つまりは一樹完全に狂っちゃう?

恐ろしや…


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Episode71 退去-リセッション-

7巻に入った!


それと超・展・開‼︎


「「「「襲われたぁ⁉︎」」」」

「ああ、昨日の夜にな」

月曜日、夕食の席で一夏は昨日の出来事を皆に話した。織斑マドカの名は伏せて。

「け、怪我はない?」

シャルロットが心配そうに聞いてくる。

「ああ、大丈夫だ。一樹が対象してくれたしな」

「流石カズキ。こいつなんか見捨てればいいのに」

「セリーさん。一樹を上げるついでに俺を口撃するのやめていただけませんか⁉︎」

相変わらず一夏には冷たいセリー。一夏の抗議をスルーして、一樹の膝上でオムライスを頬張る。

「かーくんは怪我してない?」

今度は雪恵が一樹に聞く。ちなみに雪恵の夕食はカルボナーラだ。

「…ああ。一撃もくらってないよ」

少し間が空いた一樹の体を、雪恵はペタペタ触り出す。

「…何やってんの?」

「かーくんが実は大怪我してるのを隠してるのか確認してるの」

「信用ねえな…」

ボソッと呟いた一樹を、一夏は見逃さなかった。

「それはお前が悪いぞ一樹。無茶ばっかりやってるお前がな」

「そうだな。櫻井の日頃の行いが悪い」

「雪恵さんの気持ちも考えた方がいいですわ」

「アンタが無茶ばっかりやってるのが悪いのよ」

「1人で色々やってるからね、櫻井君は」

「まったく、少しは周りを頼れ」

ここぞとばかりに一樹に詰め寄る専用機持ち達。普段負けっぱなしな事への仕返しのつもりだろうか。

「…カズキが助けを求めても、どうせ助けない人達が何を言ってるの?」

オムライスを食べ終えたセリーが、冷たい目で専用機持ちたちを睨む。

「…どうせ、そこのバカのいるところしか動かないくせに、何を言ってるの?」

「「「「うっ…」」」」

図星を指された5人は、目をそらした。

「…セリー、言いすぎだぞ」

「でも本当の事だよ」

「それでもだ。謝りなさい」

「いくらカズキの言葉でも、これは譲れない」

「セリーちゃん…」

雪恵も思う事があるのか、セリーに強く言えない。実際、セリーの言ってる事は言葉が悪いだけで、的を得ているのだ。

「…セリー、ちょっと移動するぞ。雪、悪いな」

空気が悪くなってしまい、一樹はセリーと一緒に席を立つ。

「…セリーが悪かったな」

一夏たちに謝ると、セリーの手を引き食堂を出て行った。

 

 

「…ごめんなさい、カズキ」

「セリーが俺を思って言ってくれたのは分かるけど、少し言い方がキツかったな」

整備室に入ってすぐ、セリーは一樹に謝った。

「だって…あいつら無責任なんだもん」

「…それでも、援護はしてくれる」

「それはあのバカに良いところを見せたいから…!」

「…そうだな」

セリーは、雪恵を除く専用機持ちたちが嫌いだ。一樹が体を、命をかけて守っているのを理解しない専用機持ちが。

「…カズキがクラスからいなくなれば、どうせあいつら喜ぶもん!ユキエのことも考えずに!」

「……」

セリーは、泣きながら一樹に抱きつく。一樹は、優しくセリーの頭を撫でる。

「あいつらの汚い心が嫌だよぉ…私を捨てた奴らと同じ目のあいつらが嫌だよぉ…!」

「……」

セリーは、1度捨てられている。目的の役に立たないという理由で。その優しさが理由で。

「…大丈夫だよ。俺は、雪は、セリーを捨てない。絶対にだ」

子供の様に震えるセリーを、一樹は優しく撫で続けた。

 

 

整備室の扉の前で、雪恵を筆頭に専用機持ちたちが立ちすくんでいた。

「「「「……」」」」

皆、無言だった。最初に口を開いたのは、雪恵だった。

「…織斑君以外のみんなは、かーくんがいなくなってほしい?」

他の面々に背を向けたまま、抑揚のない声で問う雪恵。

「「「「……」」」」

誰も言葉を発しない。それが、全てを語っていた。

「………そう」

悲しそうに、雪恵は言うと、自室へと戻る。今にも泣きそうなその顔を、一樹に見せないために。

「……結局、変わってないんだな」

雪恵が去るのを待ってたかの様に、一樹が整備室から出てきた。その後ろでは、泣き疲れたセリーが寝袋で寝ていた。

「……一樹」

ずっと黙っていた一夏が口を開くが、一樹はそれを制する。

「……そんなに嫌なら、睨むとか攻撃する前に、職員に文句を言えば良かったじゃねえかよ。『コイツがいなくても、織斑一夏は大丈夫です』ってさ。何で言わなかった?それだけで俺は荷物を纏めさせられただろうに…この整備室から、学園から、いなくなったのに」

「「「「……」」」」

「今はお前ら女の言うことなら、ほぼ通用すんだろ?ましてやここはIS学園だ。俺を追い出すなんて簡単だったんじゃねえのか?千冬とかに言わなければよう」

事情を知っている千冬や麻耶以外の教員に言ってしまえば、今も退去を命じられることだろう。

「……何か言ったらどうだ?」

さっきから黙りっぱなしの面々を促す一樹。睨むでも凄んでるわけでもない、ただ見てるだけの一樹。何も言えない面々。

「…えば」

「あん?」

「…言えば、お前はここから出て行ったのか?」

ようやく口を開いたのは、箒だった。

「私たちが文句を言ったら、お前はここからいなくなったのか?」

「俺の意思がここに通じるって思ってんの?聞くまでもないと思うけど。まともな部屋じゃないここに住んでる時点で」

「なら、何故自分から消えなかったんですの⁉︎」

箒が言い出したことで、セシリアも口を開く。

「だからさぁ…俺が1度でも『ここに残りたい』って言ったかよ?一夏や雪、セリー以外にはゴミのように見られる中で、残りたいって言うと思ってんの?お前らが俺の立ち位置に立ったと仮定して考えてみろよ」

淡々と返す一樹を、一夏が止めにはいる。

「もうやめてくれよ一樹…頼むから」

「俺は別に事実を言ってるだけなんだが…」

「俺は、一樹が来たって聞いて嬉しかったんだぜ?自分以外女子しかいないって思ってたなかで、親友が来てくれたことがどれだけ嬉しかったか…」

()()()()

その一言で、一夏は黙る。

「誤解のないようもう一度言うが、俺はお前を恨んでなんかいない。ただ疑問に思った事を言ってるだけだ」

()()()()()恨むほど、一樹の感情は潤っていなかったのだ…

自分に向けられる嫌悪の視線が増えた程度、一樹にはさして気にすることではない。

「実際、お前の強さなら俺はいらなくね?って思うしな。一次形態時ならともかく、今なら問題ないだろうし」

「「「……」」」

「で、さっきから一言も喋らない3人はどうなの?」

「「「……」」」

「今は()()があるから、俺はここにいろとでも言いたそうな顔だな」

懐からエボルトラスターを取り出す一樹。無言で目を逸らす鈴、シャルロット、ラウラ。

「(一夏がこの場にいなければ、即答してたろうな…)そんなに話しにくいなら」

一樹は個人回線を使って、一夏以外に聞いた。

専用機持ちの答えは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……櫻井は昨日をもって、織斑の護衛役ではなくなった。今日、田中セリーと共に、学園を去ることになった」

翌日のSHR。千冬が淡々と伝えたことに、クラスは衝撃が走る。

「ど、どういう事だよ千冬姉!」

「織斑先生と呼べ…言葉のままの意味だ」

「ッ⁉︎」

たまらず雪恵が教室を飛び出した。

「お、おい雪恵!!」

それを追い、一夏も教室を飛び出す。

「お、織斑君!田中さん!」

「行かせてやれ、山田先生」

「し、しかし!」

「…田中の事を思うとな。流石の私も、怒れん。それに、櫻井が解雇される意味が理解できないのは山田先生もなはずだ」

「…ですが」

「教師も人間だ。非情になれないこともあるさ」

 

 

「かーくん!」

整備室に駆け込んだ雪恵。しかし、そこにあったはずの荷物は無い。

「雪恵!いたか⁉︎」

「いない!」

「ならモノレールに急ぐぞ!始発がそろそろ出る!」

「うん!」

 

 

「カズキ…ユキエに言わなくて良いの?」

「別に今生の別れじゃないんだ。S.M.S本社にいるし、今は携帯で連絡も取れるしな」

そうは言うものの、一樹は拳を強く握りしめていた。それに込められた想いは、怒りなのか悔しさなのか。

「…カズキ、誰かが走ってくる」

「のようだな」

大して物の入ってないエナメルバッグを下ろし、人を待つ。駆け込んできた雪恵と一夏を…

「はあ、はあ、はあ…かーくん!なんでいなくなっちゃうの⁉︎」

「クビにされた、以上」

「何でだよ!お前は何ひとつ悪いことしてねえじゃねえかよ!」

「さあ?この理不尽な世の中で、男にとって最も理不尽な職場なのに、ここまで続いた方が俺は驚きだよ」

「それは…そうだけど…」

「それに…」

一樹は目の前で涙を浮かべる雪恵の頭を撫でながら、優しく言う。

「この学園からは出るけど、別にこの国から出るわけじゃない。連絡も簡単に取れるしな。休日はS.M.S本社に来いよ。話は通しておくから」

「う、うん…わがっだ」

泣きながら雪恵は頷く。やっと同じところで生活出来ると、喜んでたらコレだ。どこまで世界は、一樹を否定すれば気がすむのだろう。

「…俺は諦めないぞ。お前は絶対、ここに戻ってくるってな」

「……俺はそれにどうリアクションを取れば良いんだ?」

「…カズキ、ユキエのところに戻れるとだけ思えば良いんだよ」

「…お、おう。と、そろそろ時間だ。またな、雪、一夏」

「バイバイ、ユキエ」

「またね、かーくん、セリーちゃん」

「あ、あれ?セリーさん?俺は?」

最後まで一夏のことをスルーしたセリーを連れて、一樹はモノレールに乗って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでやっとゴミがいなくなったわね。学園が綺麗になって清々しいわ」

一樹を追い出したくて仕方がなかった教頭が、念願を叶えられたことで喜んでいた。その背後に、黒いオーラを放ったうさ耳が…

「ここまで恩知らずだとはな」

「ヒッ⁉︎」

教頭が後ろを向くと、底冷えするほど冷たい目をした束がいた。

「し、篠ノ之博士⁉︎」

「何度かずくんがこの学園を、生徒を守ったのかも忘れ、追い出すとかお前本当に人間?」

「な、何を言ってるのですか。今までの襲撃者、及び怪物を退かせたのは織斑一夏ではないですか。各国の政府への報告書にもそのように…」

「あの程度の情報改竄が、この私に通じるとでも?それに、各国の政府もあんな嘘だらけな報告を鵜呑みするほどバカじゃない。()()()()()()()()I()S()()()()()()()()()言ってるのがその証拠だ。政府にはちーちゃんと私が真実を送ってるのもあるだろうけど」

「そ、そんな!学園から発せられたメール等は全部私が…」

サーバーを管理している教頭の顔が、驚愕に染まる。しかし、凡人が作ったサーバーを通すなど、()()がするはずがない。

「何でお前ら凡人が作ったサーバーを通さなきゃならない。私が使うのは私が作ったサーバーか、かずくん達が作ったサーバーだけだ…お前なんかでも、かずくんは救ったというのに、お前は…!」

教頭は、1度バクバズンに捕食されかかっている。それを助けたのは、ウルトラマンのセービングビュートだ。

束は、そのことを言っているのだろう。

「お前はもう終わりだ。かずくんを…ゆきちゃんを泣かせた罪は、万死に値する!」

「ヒッ…⁉︎」

その後、教頭…元IS学園教頭がどうなったのか、知ってる者はいない…

「必ず、かずくんはここに帰す。ゆきちゃんのために、この天災が一肌脱ぎますか!」

 




やっと教頭がいなくなった…


スコールが言った亡国機業以外の敵その1
IS学園の人間
文字通り命がけで守っていることから目を逸らして、一樹を追い出そうと働く連中。1年1組の生徒も一部いるらしい。


解雇された一樹はセリーを連れてある寄り道をする。それは…













どうでも良い話ですが、今回の本文、4444文字でした。


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Episode72 特訓-トレーニング-

まさかの、準レギュラー?にあのお方が!



ではどうぞ!


「セリー、腹減らないか?」

「ん…少し」

「朝飯時に食いそびれたもんな…ちょっと寄り道するか。あと何人か呼んで車で帰ろう」

メールを送った後、セリーを連れて一樹が向かったのは、ハワイアンな雰囲気のレストランだ。

 

カランカラン

 

「いらっしゃ…おお、一樹君じゃないか!久しぶりだな」

「お久しぶりです。ダンさん」

親しげに話しかけてきたのは【モロボシ・ダン】

このハワイアンレストランの店長にして、なんとゲンの師匠でもある。

「後からもう1人来るので、4人がけの席をお願い出来ますか?」

「分かった」

ダンの案内に従い、席に着く2人。

「…カズキ、あの人はもしかして()()()?」

セリーの疑問に、一樹は苦笑しながら返す。

「思っても、すぐに口に出しちゃダメだぞ、セリー」

「あ…ごめんなさい」

「何の話をしてるんだ?」

お冷を持ってきたダンに、一樹は苦笑するしかない。

「いえ…」

「そうか?」

すると、セリーが周りを確認してから踏み込んだ。

「あなたは…セブン?」

「ぶっ⁉︎」

念を押して安心しきっていた一樹は、口に含んでいた水を派手に吹き出す。すぐさまお手拭きを持ってきたダン。礼を言ってから、セリーを軽く睨む一樹。

「おいセリー」

「周りに人がいないのは確認した」

「だからって…すみません、ダンさん。汚しちゃって…」

「いや、そっちは別に構わないのだが…どこでそれを知ったのだ?」

もう諦めた一樹は、ダンに説明する。

「ダンさんの目の前にいる女の子、セリーの正体はゼットンです」

「なっ…⁉︎」

「…うん、私はゼットン」

「バット星人に捨てられ、操られてたのを助けたら、懐かれて…」

「なるほど…君は、暴れるのが好きではないのだな?」

セリーの目をじっと見るダン。セリーは、目を逸らさずに肯定する。

「ん。暴れるより、カズキ達といた方が何倍も楽しい」

「そうか…一樹君は知っての通り、無茶をする。支えてやってくれ」

「ん、任せて」

「(無茶って、滝を切れとかジープで追いかけたりとかさせてた人には言われたくねえ…)」

一樹が心の中で反論していると…

 

カランカラン

 

「どうも〜」

仲間が来た。

「お、来た来た。宗介、ここだ」

「いらっしゃい」

ダンがお冷を取りに行ってる間に、IS学園を追い出された件を話す一樹。話が進んでいくにつれて、宗介の顔がみるみる険しくなる。

「…ちょっとIS学園行って来る」

「落ち着け宗介。もう関係ないんだから。IS学園の仕事が無くても充分やっていけるしな」

「いや、そうでもない」

「…あん?」

「俺が本部を出る直前に、メールが来たんだ。『護衛役を寄越せ』って内容のな」

「「はぁ⁉︎」」

一樹とセリーも、呆れるしかない。どの口が言ってるのだろうか。

「わざわざご丁寧に、お前以外を希望してる。まだその話は知らなかったから、てっきり増員希望かと思ったんだけど…そういうことかよ」

「正直、一夏に追加パッケージ渡すだけで充分な気はするけど、上手くいかねえなぁ…」

「追加パッケージって、【フルアーマープラン】か?一夏とだ…五反田がノリと勢いで作ったけど、整備要項は満たしてるっていうアレ?」

近くにダンがいるために、弾の事を苗字で呼ぶ宗介。

「見た本人達が1番驚いてるアレな…」

「お待ちどう。セリーちゃんはグァバジュース。2人はハワイアンコーヒーだな。あとはお任せと」

「「「ありがとうございます」」」

 

「ダンさん、ひとつ聞きたいんですけど…」

「ん?」

食後、ダンに話しかける一樹。

「____」

「…本気で言ってるのか?」

「今の俺に、『切り札』といえるものがないんで…」

「…理論だけ教える。後は自分でなんとかしてみろ」

「…ありがとうございます。ダンさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっつう……」

S.M.S本社のある部屋で、一樹は灼熱地獄の中にいた。

鉄が溶ける温度まで熱せられた部屋で…

「セリー、頼む」

「カズキ、やめようよこんなの…」

「悪いが、これからの事を考えるとやっておく必要があるんだ」

「……いつか、ユキエにも話してよね」

「ああ、分かってる」

説得を諦めたセリーは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。一樹はそれをエボルトラスターから放たれた光で受け止めると、その炎を全身に纏う。

「行っくぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

そもそも、鉄が溶ける温度はおよそ1500度以上。室内をその温度にする技術があることも驚きだが、その中に一樹は、半袖短パンの状態でいるのだ。どういう理屈で生きて、どういう仕組みで作られた服なことやら…

ともかく、炎を纏うと、人型にされたタングステン目掛けて突っ込む。ちなみにタングステンとは、地球上で最も融点が高い金属で、その温度はなんと3422度。沸点は5555度にまでなる。一樹は纏った炎をエネルギーでその5555度まで上げ、目の前の人形に体当たり。

 

ドォォォォォン!!!!

 

急に沸点に達した金属は大爆発を起こす。

「ゴッ!!?」

「カズキ!!?」

心配気に駆け寄るセリー。セリーは元々一兆度の炎を吐く宇宙恐竜だ。自らがその温度でやられては元も子もない。それに今は例のS.M.S制服を着ているために、快適な状況だ。しかし一樹はそうではない。以前、ウルトラマンの姿でその攻撃を受けたが、光の力で回復力を高めていたがためになんとか生きていたにすぎない。

「…はあ、はあ、はあ!まだだ!頼むセリー!協力してくれ!」

「…うん」

何かに没頭しなければ、流石の一樹も辛いのか、修行に全神経を働かせる。結局、午前中一杯を一樹はその修行をして過ごすのだった。




全身を炎で包む…

この意味は、分かるかな?




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Episode73 零世代-ミオ-

新キャラどーん!



一樹との関係やいかに!!?



敵なのか、味方なのか…!!?




午後12時、一樹は灼熱の部屋のヒーターを切り、窓を全開にした。

「ひゃー!涼しいなオイ!」

「カズキ、これ使って」

「お、ありがとうな」

普通なら、あまりの温度変化に体がついていけない。一樹の体が、いかに異端かがよく分かる。セリーからタオルを受け取り、急噴き出していた汗を拭く。

「スポーツドリンクもある」

更に受け取ったドリンクを飲み、水分を補給する。一気に飲まずに、ゆっくりと。

「…随分ゆっくり飲むね」

「一夏の健康志向が移った訳じゃねえけど、一気に飲んだら危ないしな」

しばらく開けれる窓全てを開けて熱を逃がしていると、一馬が制服を腰に巻いてやって来た。

「おーいかず…って暑うぅ!!?」

「あ、一馬じゃねえか。今この部屋70度くらいあるから、上着ちゃんと着た方が良いぞ」

「言われなくてもそうするわ!」

腰で結んでいたS.M.S制服を慌てて着る一馬。

「ったく、今度は何をしようとしてんだ?」

「久々に時間が取れたから、ちょっと新技を作ろうかと…」

「それがどうしてこんな高温で修行になるんだ!」

最もなツッコミだが、一樹はそれをスルーする。

「で、そっちは何の用だ?」

「ああ、IS学園からの依頼が来てるってのは宗介から聞いてるな?」

一樹とセリーが頷くのを見て、一馬は続ける。

「その件に、ワイルダーのおやっさんが()をするために、今度学園に行くそうだ」

「…いつ?」

「なんて言ったかな?確か…」

 

 

「『全学年専用機持ちタッグマッチ』…ですか?」

IS学園では、一夏達が千冬から話を聞いていた。

「ああ。専用機を持った者同士でペアを組み、トーナメント形式で戦うものだ」

「その名のまんまですね…」

「当日は様々な企業が見に来る。将来にも関わるので、専用機を持つ者は全員参加だ」

「「えぇ…」」

別に企業にアピールする必要の無い一夏と雪恵の嫌そうな声が、妙に響く。

「田中はともかく、織斑、お前はまだ卒業後の進路が決まってないだろうが」

「(え?そうなの織斑君?)」

「まあ、そうですけど…(いや、一応卒業後もS.M.Sにいるつもりだぜ?)」

「というか、何故雪恵ちゃんはともかくなんですかぁ?」

相川が我慢出来ずに聞くが、その顔はニヤニヤしている。それを理解した千冬は、呆れながら答える。

「…昨日までの田中と櫻井の会話を見て、察せないのか?」

「「「「あー…」」」」

「あ、あはは…一応、卒業後はかーくんのところ、S.M.Sに行くつもりです」

はにかみながら答える雪恵。クラスメイトはそれより、雪恵の言った企業に注目した。

「S.M.Sって、今時珍しい超ホワイト企業だよね⁉︎基本残業はなしで、あっても残業代はちゃんと出るし、休日もしっかりしてるっていう!」

「しかもイケメン揃いって噂だよ!」

「な、なんですと⁉︎」

「宇宙開発から引っ越しまで、なんでもござれのチート企業!」

「良いなぁ…私も行きたいなぁ」

「でも、S.M.Sは美人しかとらないとか…」

「「「「嘘だドンドコドーン⁉︎」」」」

クラスメイト達が勝手に話を進めているが、中身を知っている雪恵は苦笑いを浮かべる。

「(かーくんが見た目で決める訳無いんだけど…確かにS.M.Sはイケメンと美人だらけなんだよね…不思議な事に)」

S.M.Sトップである一樹の性格的に、そんな下らない理由で決めてる筈がない。勿論、一見するとあまり顔が整っていないものもいる。ただ、内から溢れるオーラがカッコいいために、イケメンに見えているのだ。

「(基本彼氏彼女持ちだから、やっぱり一樹は中身で見てるんだよなぁ…でも、何故にあそこまで顔面偏差値が高くなるのやら)」

自分たちもその顔面偏差値が高い人なのだが、それを思わないのが2人の美点だろう。

「あれ?でも櫻井君って顔は普通だよね?やってる事はイケメンだから分かりにくいけど」

「つまり、中身美人になれば私も入社出来る⁉︎」

どんどん話が広がっていくが、千冬の一喝で静かになる。

「静かにしろ馬鹿ども!S.M.SはISを専門としていない。貴様らなんのためにここに来たのか、考えてから物を言え‼︎」

大変ご最もな話である。

 

 

「全学年専用機持ちタッグマッチの時に、ワイルダーのおやっさんと宗介が学園に行って()をする、ねえ…」

スポーツドリンクを飲みながら、一馬の話を聞いた一樹。その顔は、なんとも言えない表情をしていた。

「あと、今さっき入った情報なんだが、IS学園の教頭が消えたそうだ。戸籍も何もかもな」

「…多分原因はあの人だな」

「しか居ないだろ?こんな荒技が出来るのなんて」

 

 

IS学園のある部屋では、束が10枚以上の空間投影ディスプレイを表示させていた。

「さて、これであのゴミの情報は消えたし、かずくんが戻ってこれる理由は何か無いかな?ついでに誰か補佐をつけさせれば、バッチリでしょ♪」

普通、護衛役とは複数人いるものだ。今まで一樹1人でこなして来たのは、正気の沙汰ではない。

「んー、TOP7の誰かを呼ぶにしても…誰にしようかな〜」

まるで少女のような笑みを浮かべながら、束はキーボードを叩くのだった。

 

 

「ハア、ハア、ハア!」

昼食後、再び灼熱の部屋で修行している一樹。今、一樹が身につけているのは半袖短パン、そして雪恵のデザインした剣の首飾りだ。

「まだ、まだ…!」

セリーは今、S.M.S女性陣と共に買い物に出ている。午前中の様に炎を纏う事は出来ない分、部屋の温度を3000度まで上げている。その中で基本的な筋トレをしているのだが、当然体が悲鳴を上げている。元々、一樹の体は火傷が全身を覆ってる様なものだ。そんな状態で灼熱地獄にいればどうなるか、考えるまでもない…

「ハア、ハア、ハア…」

意識が薄れていく中、なんとかヒーターを切り、窓を開ける。特別性のこの部屋は、すぐに平常温度まで下がっていく様に先ほど一馬に設定された。

「くっそ…まだ、足りない…こんなんじゃ、()()()は発動すら無理だ…ちきしょう…」

床に転がり、悔しがる一樹。日頃の疲労も相まって、意識はゆっくりと落ちていった…

 

 

ザザーン…ザザーン…

「……ん?ここは…?」

一樹が目を覚ますと、そこはエメラルドグリーンの海と、青空。南国に行ってもそうそう縁のない、美しい世界だった…

「……人気が無い。けど、()()()()()()()()()…」

知識ではなく、体がその場の空気を知っていた。仕事柄、南国にも行ったことはあるが、綺麗な海などを満喫したことはない一樹。しかし、今いる砂浜は、なぜか心が落ち着く気がした…

「…歩いてみるか」

ここでボーッとしていても仕方がないと、一樹は歩き出す。奇しくも、それは以前の一夏が体験したのと同じだった。

 

 

………す……た……

 

 

「…声?」

空耳かと思ったが、どこか懐かしく感じる声、しかも一樹はこれと似た様な声を、()()()()()()()()()()()()()()()()

「…って事は」

そして、一樹は周りを見回してその名を呼ぶ。

「いるんだろ…?()()

名を呼んだ瞬間、一樹の正面に光が集まる。その光は、人の形、少女の形へと変わっていき…

『…やっと呼んでくれたね、マスター』

人懐っこい笑みを浮かべる少女へとなった。

「ああ…6年ぶりかな?」

『丁度それくらいだね。マスターが小学4年性の秋以来だから』

髪は焦げ茶色のセミロング。整った顔立ちで、女性らしい体つきに白いワンピースが、絹のような肌によく似合っている。少女の名は『ミオ』。かつて一樹と束の手によって作られた、最初にして最強の第零世代型ISコアに宿る意識だ…

「…久しぶりに()()に来たけど、相変わらず綺麗だな。ここは」

『…やっぱり似てる』

「ん?」

『今年の夏に、白式の意識空間に来た男の子もそう言ってたんだ。マスターが小さい頃に褒めてくれたここをね…』

「そっか…アイツも、ここまで来たんだな」

『うん。白式を第二次移行させたのも私なんだ』

「…だからか。俺たちが作った第二形態より高性能だったのは」

『うん』

本来、一樹たちが制作した白式の第二形態は、フリーダムと似ていた。その姿は、別世界で『Hi-ν』と呼ばれていると言えばイメージがつくだろうか。

「…で、俺をここに呼んだ理由は何だ?確かにミオと再会出来て嬉しいけど、何か理由があるんだろ?」

ミオは、束と一樹が全能力を使って開発しただけあって、とても優秀だ。会いたいから、確かにそれもあるだろう。しかし、何かしら他の理由があるのだと一樹は判断した。

『マスターに会いたかったから、っていうのが1番の理由。2番目は…マスターの体が危なくなったから』

「…あの修業でか?」

灼熱地獄の中のトレーニングが真っ先に思い浮かんだ一樹に、ミオは小さく頷く。

『そう。後は…マスターの機体が、マスターの反応速度に着いてこれないことだね。マスターの記憶を通して【ストライク】に【フリーダム】のスペックを見たんだけど、マスターの反応速度に追従出来てないんだよね』

「……関節はすんなり動いてるぞ?」

『うん、ストライクの時よりはね。フリーダムの性能も全然低くないし、凄く改造してるのも分かる。けど、マスターは本気を出せてない…でしょ?』

「……」

ミオの言葉に、一樹は何も返せない。実際、一樹はフリーダムを装着してる時は意識して動きを鈍くしている。でなければ、キャノンボール・ファスト時にあそこまで良いように遊ばれない筈なのだ。

『6年前のマスターに、確かに私は強すぎる力だったのかもしれない。けど、今は私じゃないと…ううん、私たち【IS】とマスター達が作った【Ex-アーマー】、両方の利点が合わさった機体じゃないと、マスターの体に合わないんじゃないかな?』

「けど、俺にIS適正は無いぞ?実際、一夏が動かしてすぐに検査を受けたけど、反応しなかったしな」

S.M.Sとて例外なくIS適正を測られた。しかし、一夏以外は誰もISを動かす事が出来なかったのだ。それを聞いたミオは、途端に拗ねた様な表情を見せる。

『当たり前じゃん。だって…』

「だって?」

一樹が問うと、今度は指をツンツンして、頰を赤らめながらミオは答える。

『私以外のIS()に、マスターを取られたくなかったんだもん』

「…そっか」

一樹はミオに微笑みかけると、優しくその頭を撫でる。6年ぶりのその手に、ミオは安らぎを感じた。

『マスターの手、やっぱり優しくて、暖かい。雪恵(義姉さん)とセリーちゃん達がコレを好きなのも分かるよ…』

「はは、物好きな奴だな。一夏の方が撫でるテクニックは上だぞ」

『私たちには、これが良いの。マスターの手が良いの。分からない人に、わざわざ教えなくて良いの』

「…ありがとう、ミオ。戻ったら、宇宙(そら)に連絡を入れるよ。ミオの器を作らせるためにね」

『…うん!』

6年間、一樹を想い続けたミオは、満面の笑みを浮かべた。想い人の、力になれることを喜んで…

 

 

「けど、あの修業は続けるぞ」

『…え?』

「セリーに話した通り、変身した俺には切り札が無い。だから…」

『…分かったよ。私も協力する』

「…ありがとな。ミオがいてくれたら、百人力だ」

『おだてても、何も出ませんよーだ』

「あはは…口説かんぞ」

『そこは口説いてよ⁉︎プリーズ口説き!』

「口説きを要求する女子は初めて見たぜ…」

一樹には、一夏の様に自然と口説くのは無理だと言うのが改めて分かった瞬間だった。




実はミオさん、前にも出たことあるんですけど、覚えてますかね?



一樹の機体が変わるフラグ!



何の機体でしょうね?(すっとぼけ)




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Episode74 依頼-リクエスト-

展開が中々進まねえ!


やったるでぇ!


…頑張りますはい。


一樹が学園を去ってから早数日、俺と箒は黛さんから話を聞いていた。

「雑誌のインタビュー…?」

「そうそう。あれ?2人はこういうの初めて?」

「「はい」」

息を揃えて頷く俺たち。箒の顔が赤くなってる。何故だ?

「そっかー。専用機持ちっていうのは結構モデルとかやる人が多いんだよね〜」

「へえ。ってことはセシリアとか鈴とかやってるのか?」

何気なく後ろにいるセシリアと鈴に聞いてみる。箒は気付いてなかったのか、ギョッとしていた。おいおい、気配を感じただろ?

「当然ですわ!」

腰に手を当てるお約束のポーズが決まっている。

「私ほどの者になれば…」

うんたらから

「…というわけでして…」

うんたらから

「長いよ⁉︎『やったことがある』の一言で良いじゃん!男の子は長話する人は嫌いなんだよ⁉︎」

雪恵が渾身のツッコミを入れた。いやまあ、確かにあまりにも長い話は嫌いだけどさ。雪恵のソレは一樹のじゃないか?アイツは射程以外、長すぎるのは嫌いだったような気が…

「ッ⁉︎し、失礼しましたわ!」

雪恵の言葉を聞いた途端、セシリアは話すのをやめた。すごいな雪恵。

「まあ、セシリアの話が無駄に長いのは置いといて」

「無駄⁉︎無駄とおっしゃいましたね鈴さん!」

鈴の言葉が聞き捨てならなかったのか、セシリアが大きな声を上げる。そんな大声出すと喉に悪いぞ?

「代表候補生ってのは、その国、企業のアイドル的扱いになってたりするからね。アタシもやったことあるし」

「へー。シャルは無理だったとして、ラウラは?」

「わ、私は一度だけ雑誌のグラビアを飾ったぐらいだ…」

恥ずかしがながら言うラウラ。そんなに嫌だったのか?

「ねえ一夏。僕は無理だって、どういう意味なのかなかな?」

はっ⁉︎シャルの顔から黒いオーラが!笑ってるのに笑ってない⁉︎

「い、いやだって、シャルは非公式のパイロットだって言ってたし、あの時は男装してたみたいだし…」

理由を必死に説明する俺を、雪恵は冷たい目で見てくる。俺にMっ気はないぞ⁉︎

「今のは織斑君の言い方が悪いよ」

「大変申し訳ありませんでした」

自分が悪いと思ったら謝るのは大事だよな、うん。

…あれ?さっきのシャルのオーラって、確か雪恵にも…ハッ⁉︎

「……」ニコッ

元祖来たぁぁぁぁぁ⁉︎こ、怖い…マジギレした時の一樹並みに怖い…

「…次は無いよ?」

「イエス、マム」

専用機持ちの中で、実は雪恵が1番強いのではないかと思う今日この頃。

「それは織斑君だよ?私むしろ1番弱いよ」

どの口が言ってるんですか!

…というかさっきから思考が読まれてる件。

「なんか、こうして見てると雪恵ちゃんってお母さんみたいだよね」

ふと思ったのか、シャルが言ってくる。

「シャルロットちゃん程じゃないよ。女手一つで13年間も子供を育てたシャルロットちゃん程じゃ」

「ねえちょっと待って!それ僕じゃないから!僕まだ高校生、分かる⁉︎」

「えーっと、どこかにクリーム色の長髪を、尻尾の様に肩に掛けてる男子生徒が…」

「一夏もノらないで⁉︎」

「そういえばシャルロット。アンタいつからブロンドだったっけ?茶髪じゃなかった?」

「鈴まで⁉︎」

シャルがみんなからいじられていると、痺れを切らした黛さん。

「あのー、そろそろ本題に戻っていただけると…」

「あ、すみません!雑誌のインタビューですよね?」

「そう!放課後にまた聞くから、少し考えといて。あと…」

黛さんは声量を落とすと、俺と雪恵に小さく聞いて来た。

「…櫻井君のことで、何かわかったら連絡するね。今、楯無(たっちゃん)が調べてるところらしいから」

「「⁉︎」」

俺と雪恵の顔に、驚愕が走る。つまり…

「櫻井君がいなくなったのが、あまりにも急すぎるから…誰か、裏工作をしてるのかもしれない。2人は特に櫻井君と親しかったから、気をつけて」

「「お気遣い、感謝します」」

 

 

「___って訳だ。地球(こっち)より、宇宙(そっち)の方が適任だろ?」

『了解、完成したら報告するよ』

一樹はS.M.S社長室から、宇宙にいる祐人と通信で会話をしていた。ほぼタイムラグが無いのが不思議で仕方ない。

『にしても、フリーダムもダメだったとなると相当シビアな反応速度になるぞ?』

「むしろそれが丁度良いよ。俺には」

『それもそうか。じゃ、こっちは作業に移るな』

「ああ、頼んだ」

祐人との通信を切ると、一樹はトレーニングウェアに着替え、灼熱地獄へ向かおうとする。

『マスター、今日はダメ。昨日のダメージが残りすぎてる』

先日、再会を果たしたミオが一樹を止める。

「……」

『ちょマスター⁉︎なんで無言で首飾りを外そうとしてるの⁉︎』

「…協力してくれるんじゃないのか?」

『それはそれ、これはこれ』

しれっと言い放つミオ。一樹はコアである首飾りを外すと、部屋へと向かう。

『ああマスター⁉︎置いてかないで‼︎』

 

 

放課後、部活に向かおうとする箒に俺は話しかけた。

「なあ箒。さっき黛さんに言われた件、どうする?」

「当然断る。見世物など、私の主義に反するからな」

「ま、そうだよな。俺もそういうの苦手だし」

良かった、箒も断るみたいだ。俺がほっとしていると、その黛さんがやってきた。

「やっほー、お待たせ〜。それでね、取材の件なんだけど」

「ああ、すみませんけど…」

俺が断ろうとしたところを、黛さんの言葉に遮られる。

「じゃん!この豪華一流ホテルのディナー招待券が報酬よ。もちろん、ペアで」

そう言って、黛さんはホテルのパンフレットを俺と箒に渡してきた。

…うわ、このホテルかよ。一樹と宗介と行って、『バーの雰囲気は良いけど、レストランはダメ』の共通認識のところじゃねえか!余計行きたくね…

「受けましょう」

おいコラちょっと待て

「え?ほんとに?篠ノ之さん、こういうのイヤかなーって思ったのに」

「何事も経験ですから」

だから…

「そっかぁ。じゃあ決まりね。織斑君もそれで良いよね?じゃあ明後日の日曜日に取材だから、この住所にお昼の2時までに来てね」

そう言って、黛さんは去っていった。

…俺の意思を聞かずに。

「…おい箒」

「何だ?」

「主義はどうした」

「わ、私は柔軟な思考を持っているのだ!」

そう言って目をそらす箒。なんだそりゃ…

「い、一夏!」

「ん?」

「こ、このディナー、一緒に行かないか⁉︎」

うーん…正直あまり乗り気じゃないんだけど…断るのも悪いし。何より折角の高級店のタダ飯だ。行かないと勿体無いな。

「おう、強制的に受けさせられるんだ。これで報酬も貰えないなんて言ったら怒るぞ」

まあ、少しくらい皮肉を入れても良いだろう。

 

「(よし…よし!一夏と高級ホテルのディナーだ!)」

恋する乙女には、一夏の皮肉が聞こえていなかった。なんとも都合のいい思考回路である。

 

 

「はぁ…面倒くせえ…」

「いやまあ、気持ちは分かるけどさ?箒ちゃんの前でそれはやめてあげてね?」

その日の夜、夕食を取り終えた俺と雪恵は部屋でくつろいでいた。取材の件を話すと、雪恵は苦笑いを浮かべる。

「隠し通さなきゃいけないのも大変だね?織斑君」

「一応、在学中はどこにも所属してないって事にしておかないと、面倒だからな」

しかし、S.M.S以上の企業から声が来るわけないしなぁ…俺的にはもうバラしても良いと思うけどな。

「かーくんが頑張ってるんだから、織斑君も頑張らないと」

「そこなんだよなぁ…」

俺以上にこの学園、この世界に振り回されている一樹に比べれば、全然楽なんだけど…俺が喋らなければ良い話だし。

「…あれ?セリーちゃんから電話だ」

雪恵が視線で俺に出て良いか聞いてくる。

「出てやれよ。セリーも寂しがってるだろうしな」

「…ありがと」

雪恵が電話をするために、少し離れると…

 

コンコン

 

扉がノックされた。誰だろうな、こんな時間に。

「はーい、どなた…」

「こんばんは♪」

扇子を持った水色の髪を見た瞬間、俺は扉を閉め、鍵を閉め、チェーンロックもかけた。

「ちょ、フル締め出し⁉︎流石のお姉さんも泣くわよ⁉︎」

「はぁ…」

渋々扉を開けると、泣きそうな顔の楯無さんがいた。

その手に握られている扇子には、『鬼畜』の文字。あなた最近メンタル弱すぎませんか…?

「うぅ…折角櫻井君の情報が入手出来たのにぃ…」

「何やってるんですか楯無さん、早く入ってください。あ、お茶淹れますか?」

「いっそ清々しい程の手の平返しね⁉︎」

何言ってるのやら?お客にお茶を出すのは当たり前でしょ?

 

 

『グスン、グスン…』

「いつまで泣いてるんだよ…」

本日の修行を終えた一樹は、タオルで汗を拭きながらミオに話しかけていた。

『だって…だって、再会してすぐに放置プレイって…マスターの鬼!鬼畜!ドS‼︎』

「ひどい言われようだ…」

改めて剣の首飾りをかけると、猛抗議してくるミオ。

『ふんだ。こんな事するんならもう協力してあげないもん!』

「そうか。ならフリーダムのままで何とかするだけだな」

『ごめんなさいお許しをぉぉぉぉ‼︎』

「素直でよろしい」

一樹の手にかかれば、最強のISコアと言えど、子供と同じだった。

『うぅ…これでも私は篠ノ之博士の最高傑作なんだよ?』

「知ってる」

『それを扱えるってことをもっと考えてさ…』

「最強のISコアだからって萎縮してたら、お前を乗りこなす事なんて出来ねえだろうが」

『…あ、ちょっと今のキュンって来た』

「ああそうかい」

 

S.M.S本社に戻ってから毎日、一樹は暖かい風呂に浸かっている。暖かい風呂がどれだけ贅沢なのか、この数日で改めて実感した。

「あ"あ"あ"あ"生き返るぅ〜」

『もう、マスターったらおじいちゃんみたい』

「…お前は俺の実年齢知ってるはずだが?」

『そうなんだけどね。マスターの動きとか見てるとそうは思えないんだよ』

「まあ、俺自身そんな気はしてないしな。ふとした瞬間に『そういえば俺、何歳だっけ?』と思うけど」

『ふうん』

 

 

「つまり、一樹がいなくなったのは教頭の独断であって、生徒からの訴えではないんですね?」

「うん。櫻井君は極力他者と関わらないようにしてたから、クレームが来るはずが無いんだ。あったとしても、1()()()()()()()1()()1()()()()だね」

「…ん?1学期だけ?」

一樹が退去する前日は含まれてないのだろうか?

「私もそう思ったんだけど、()()()()()2()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の。なんだかんだ、櫻井君のことを認めてるみたいね」

「…ってことは」

「うん。櫻井君がいなくなったのは教頭の独断」

「じゃあ、かーくんは戻ってこれるんですか⁉︎」

興奮気味に楯無さんに聞く雪恵。

まあ確かに、一樹がいなくなって1番悲しんだのは雪恵だしな。

「…分からない」

しかし、楯無さんの答えは疑問だった。

「独断とはいえ、櫻井君は1度追い出されたのよ?『こちらの判断ミスだったので戻ってくれ』って言われて、戻って来ると思う?」

「「……」」

確かに、普通は戻ってこないよな…

「私も、櫻井君はこの学園に必要不可欠だと思うの。だけど、戻ってきてもらうには、何かが足りない…今はそんな状態なの」

ただ、希望があるというだけ気持ちは楽になった。俺は楯無さんに礼を言う。

「ありがとうございます、楯無さん」

「ありがとうございます、楯無先輩」

「ううん。私は櫻井君に恩を返したいだけだから…ところで、話は変わるのだけれど」

「「はい?」」

「『全学年専用機持ちタッグマッチ』が行われることは、もう知ってるわよね?」

「ええ、まあ」

そういえば、そろそろ組む相手を決めないとな…と、俺が考えていると、楯無さんは両手を合わせて頼んできた。

「お願い一夏くん!私の妹、簪ちゃんと組んで!」

「「…は?」」

 




はてさて、どうなることやら。


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Episode75 経過-プログレス-

技が完成するまで、彼は鍛え続ける…!





一夏が楯無から依頼を受けてる頃、一樹はセリーとダンのレストランで遅めの夕食を食べていた。

「カズキ、美味しいね」

「だな。やっぱりダンさんの料理は美味い」

「はは。そう言ってくれると、作った甲斐があるよ」

ダンが笑顔でそう言う。

「…?」

ふと、一樹の首元から火傷が見えた。それだけで、一樹がどんなことをしているのか、分かってしまう。

「……本当にやってるんだな」

「ええ、まあ…」

「俺たちがあまり動けないがために、君には苦労させてしまう…すまない」

「謝らないでくださいよ。その分、ダンさん達には私生活を支えてもらってますから」

 

 

「…どうするの?織斑君」

楯無さんが帰ってすぐ、雪恵が俺に聞いてきた。楯無さんの依頼を受けるのかどうかと。

「んー…まだ分かんねえな」

「そう…」

「雪恵はどうしてほしいんだ?」

「んー…こればっかりは簪ちゃんの気持ちもあるからなぁ…」

「そう、そこなんだよ。しかも俺は嫌われてるから、余計にな」

「…多分そこは何とかなると思うよ。フラグ乱立者(織斑君)なら」

ん?今何か変なルビを振られた気がしたぞ?。

「ちょっと待つんだ雪恵。今、変なルビ振らなかったか?」

「ううん、全く」

 

 

『…と、言うわけなんだ』

一夏から、電話で楯無からの依頼を受けようか迷ってることを聞いた一樹。

「…で?何が聞きたいんだ?」

『いや、その…』

「やりたいならやれば良いし、やりたくないならやんなきゃ良い。簡単な話じゃねえか。わざわざ人のまったりタイム潰しやがって」

そう、一樹は珍しく暖かい風呂(2回目)に入り、マッサージチェアを使っていたのだ。微睡んでるところに電話が来たと思ったらコレだ。

『これ、俺個人で考えて良いのか?』

「おう、好きにしてくれ。別にそれの結果でS.M.S所属だって知られる訳じゃないしな」

サイダーを飲んで喉を潤すと、更に続ける。

「別にそこまで気にしなくても良いぜ?『俺はS.M.S所属です』って言わなきゃ、そうそうバレないさ…束さんが口を滑らせなければ」

『一気に不安になったんだが⁉︎』

「こればっかりは仕方ない。まあ、普段束さんは引きこもってくれてるから大丈夫だと思うけど。とにかく、それに関してはお前の好きに動いてくれ。不安なら、雪を通して俺に連絡すればいい。雪ははっきりS.M.S所属だって言ってるから、教室で俺に電話しても問題ないし」

『あ、そっか。その手があったか』

「ひとつだけ。基本最初にはセリーが出ると思う。それを伝えておいてくれ」

『了解、悪かったな』

通話を切ると、一樹は再びマッサージチェアに身を預ける。

「はぁ…極楽極楽」

「はいカズキ。コーヒー牛乳」

「お、サンキューセリー。ちゃんと自分のも選んだか?」

「うん、オレンジジュース貰った」

「なら良し」

セリーからコーヒー牛乳とお釣りを受け取り、マッサージをゆったりと受ける一樹。

『マスターがどんどんジジくさくなってる…私は悲しいよ』

最強のISコアは、嘘泣きも出来る様だ。

「じゃあミオはどんどんおばさんになつてくんだな。時が経つのは早いぜ」

『酷い!マスターは女心を分かってると思ってたのに!』

「え?女心は分からんぞ。分かってるのは、ミオがたまに俺にいじめられてる場面を想ぞ『わーわーわー!そんな訳ないじゃん(なんで知ってるの!?)!!』

「本音が漏れてるぞ。俺にバレるの知っててやってると思ってたんだけど?」

「カズキ、ちょっとそのアクセサリー貸して。一回焼く」

『セリーちゃん許して!』

「ダメ。ユキエに許可無くそんなことした罰」

『そこを何とか!』

何故ミオとセリーが会話出来てるのかと言うと…ミオは非戦闘時、意識が実体化してるのだ。

…一樹が許可し、一樹から半径3メートル以内と制約はあるが。

「『最強のISコアはなんとドMだった…』って束さんに教えたらなんて返ってくるかな?」

『ドMじゃないよ!マスターに弄られるのがちょっと気持ちいいとか考えてないよ!』

「…カズキ。私そろそろ泣くよ?」

「大丈夫だ。今俺が泣きたい」

『ああああああああああしまったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

ミオがどんどん変態扱いされてる件。

『うう…ただ私はマスターに甘えたいだけなのに、何でこんな目に…』

「なんだ、それならそうと早く言えよ」

『へ?』

一樹はマッサージチェアを止めて、ミオを膝上に乗せる。

『ヘァッ⁉︎』

変身した一樹の様な声を出すミオ。その顔は真っ赤だ。

『ちょ、マスター⁉︎』

「6歳児が変な遠慮するなよ。甘えたい時はそう言え」

『6歳児じゃないし!知能指数は華の女子高生だし!』

「なら降りる?」

『降りない!』

真っ赤な顔でプイッと首を振るミオ。しかし、その手は一樹の腕を掴んで離さず、むしろ自分を包ませた。それを、一樹とセリーは微笑ましく見てるのであった。

 

 

翌日、一樹はエネルギーを炎に変える特訓をしていた。

「一応、体は熱に耐えられる様にはなった。次は自分だけで炎を起こせる様にならないと…まずはイメージを掴まないとな」

座禅を組み、自分が炎を発するイメージをする。イメージ自体は割と直ぐに固まった。何故分かるかと言うと…

『流石マスター!イメージに余計なノイズが無いね!』

思考の()()を認識できるミオがいるためだ。ミオの協力もあり、かなり順調に修行は進んでいる。

「っし!」

 

ゴオッ!!!!!!!!

 

一樹の体を炎が包む。

だが…

「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

発火は出来ても、耐火は出来てなかったらしい。だが、コレで発火が任意に出来る事が分かると、何度も何度も炎を纏う一樹。

あの技を、自分のものにするために。




いきなり豆知識!

一樹がそれぞれどう思ってるのか

雪恵
護るべき者であり、大切な人。
たとえ自分がどんなに蔑まれても、雪恵が幸せならそれで良い…
一樹の『嫁』である。異論は認めない。

作者は一応『1番』のパートナーとして書いてるつもりである。

セリー
蔑まれ続けてる自分を慕ってくれている、大切な『家族』
捨てられた彼女が、2度と悲しまない事を祈っている。
一樹にとっては可愛い妹分。

作者は一応『対人外』のパートナーとして書いてるつもりである。


ミオ
たくさんいるIS適正者のなかで、自分を選んでくれた大切な『仲間』。一樹にとっては可愛い妹分。

作者は一応『対人間時』のパートナーとして書いてるつもりである。



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Episode76 極悪宇宙人-テンペラー-

お待たせしました!


ゲストのご登場です!


この時期だ、あの人しかいねえ!




『______って事があったの』

「一夏にしては、はっきし言ったな…」

簪にペア要請をしたが、その度に他の専用機持ちに邪魔されてるらしいと、一樹は雪恵から聞いていた。

『かーくん、ちゃんとご飯食べてる?ちゃんと寝てる?無茶してない?』

「お前は俺のお袋か…」

『ううん、彼女だよ♪』

いつの間にか、雪恵が変な技を覚えていた。

「…雪、怒らないから言ってみ?誰にそれ教わった?」

『か、かーくん?声が低いよ?』

「いいから」

『楯無さんだけど…』

あのアマ、いつかぶっ飛ばす。

そう心に決めた一樹だった。

『にしても、ミオちゃんか…早く会いたいな』

「ミオもお前と話したがってたぞ。『早く義姉さんと会いたい』ってさ」

『…()()()()?』

「なんでも、俺が兄貴代わりになるらしく、『だったら雪恵さんは将来の義姉さんだね!』だそうだ」

態々録音してた音声データを雪恵の携帯に送る一樹。

『ギャー⁉︎マスター何やってるのぉぉ⁉︎』

脳にミオの抗議の声が響くが、完全にスルーする。

『そっか…そうなんだ…えへへ』

電話越しでも分かる。雪恵がふにゃっと笑ってることが。

「ま、元気でやれてるのが分かって安心したよ。おやすみ」

『かーくんもね。おやすみ』

 

 

「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

翌日も、自身の体を炎で包む一樹。発火と耐火、両方が出来なければこの技は完成しない。

「カズキ…もうやめようよ…」

『このままではマスターの体を壊すだけです!』

「壊すだけにしないためにも…やんなきゃなんねえんだ!!」

 

 

カランカラン

「いらっしゃ…来たか」

「お待たせしました。()()()

一樹が修行を続けていた頃、ダンの店に、 1人の青年が現れた。

「その姿は…確か」

「はい、僕と一体化してた人のを借りてます」

「そうか…早速で悪いんだが、一樹君のところに向かってくれ。今の彼には、お前が必要だ」

「一樹君がどうかしたんですか?」

「お前の技…【ウルトラダイナマイト】を取得しようとしている。そのために、今全身大火傷状態だ」

「なっ!?あの技は僕らウルトラ戦士でもかなり危険な技!変身時のダメージも残る彼に何故教えたのですか!?」

「そんな事は分かってる!だが、お前も分かる筈だ。大切なものを守るために、何としても力をつけなければならない者の気持ちが…」

「それは、そうですが…」

「頼む。一樹君のブレーキ役をやってくれ。彼は、自分が傷つく事を厭わないからな」

「はい!すぐに行きます‼︎」

「頼んだぞ、()()()

 

 

「ハア、ハア、ハア!」

発火と耐火を同時にやるためには、普段からある程度耐火力を上げれば良いのではないか。

そう考えた一樹は、部屋の温度を4000度まで上げ、過酷なトレーニングを続けた。

『一樹、お客様が来たぞ』

部屋のモニターに、和哉の顔が映る。

「ハア、ハア…誰だ?」

『会えば分かる。いや、会ってくれ』

敢えて誰か言わずに、会わせようとする和哉。

「…分かった。どこに行けば良い?」

『第1応接室だ』

「あいよ」

和哉の顔を見て、よほど重大な人と判断した一樹。ヒーターを切り、急いで身だしなみを整えると、第1応接室に向かった。

 

 

「すみません、お待たせしました。櫻井一樹で…」

一樹の言葉は途中で止まる。無理もない、目の前にいる人物から、光の力を感じるのだ…そして、その人物は…

「一樹君、久しぶり!」

「…久しぶり?」

一樹に気さくに笑いかけるのだ。

「(え?ちょっと待って、俺とこの人は会った事無いはず。でも久しぶりってことは、ある程度親しくしてもらってるって事だし…)」

一樹の脳が高速で回転していく。一樹は基本、自分と関わりのあった人物の顔は覚える主義だ。そして、悲しい事に()()()してる人物はそこまで多くない。なので忘れる筈が無いのだが…

「…大変すみません。お名前をお伺いしてもよろしいですか?」

「え?僕だよ、()()()だよ!」

「……何いいいいいいいい!!?」

「あはは、そこまで驚かれるとは思わなかったよ。けど、僕が敵性宇宙人だったらどうするんだい?早くに見破らないと」

うんうんと頷きながら言うタロウと名乗る青年。

 

ブチッ

 

「…ブチッ?」

青年が一樹の方を向くと…

「安心しろ、敵だったら容赦なく撃ち抜く」

青年に向けてブラストショットを構える一樹がいた。その額には怒りマークが出ていた。

「あ、あれ?怒ってる?」

「勝手に人の本拠地来てんじゃねえあんたそれでも教官かぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

しばらく青年は、怒りの波動弾を必死に避けるのだった。

 

その後、ダンのレストランへと移動した一樹と青年…【東 光太郎】

光太郎の体からぷすぷす煙が出てるのは見なかった事にした。

「…ダンさん、俺の記憶が間違ってなければ、タロウさんは今お宅の星の教官で、一体化していた人物と分離してから、全く人間態にはなってなかったと記憶してますが?」

「あ、ああ。だから地球人に紛れるために青年の姿に…「少なくともゲンさんと同じくらいの年齢じゃないとおかしいだろうがよ!あんたその点をまず指摘するべきだろ!!?」本当にすまなかった」

…怒り心頭の一樹をなだめるのに、ダンは苦労するのだった。

「え、えと…改めて、【東 光太郎】です。呼び方はご自由に…」

「オイ」

「はい」

「まず言う事があるだろうが」

「事前連絡をしなかったことを、心よりお詫びします」

「…はあ、次から気をつけて下さいよ、光太郎さん。人間の感覚だと、ダンさんと親子程離れてる様に見えますから」

「はい、以後気をつけます」

「…で?なんで光太郎さんレベルが地球に?光太郎さんは『マント持ち』でしょ?ダンさんもだけど」

マント持ち、とはウルトラ戦士の中でも、上級者の証とだけ言っておく。

「…そのことなんだけど」

光太郎は、一樹を正面から見据えて言う。

「一樹君、1度光の国に来てくれないか?」

「……」

「君が会得しようとしている技は、我々の中でも一部の戦士しか使えない。更には、会得には膨大なエネルギーを使う。ここで会得するのは…」

「お気遣い、感謝します。けど、俺は地球(ここ)を離れませんよ」

「しかし…!」

「それに、俺が長期間ここを離れたら、ここを守るのは誰ですか?お宅も今は人手不足でしょ?」

「……」

光太郎は黙る。実際、一樹の言う通りなのだ。光の国の人手は、全て何かしらの案件を抱えている。ダンも、近いうちに光の国に戻らなければならないのだ。

「それに…俺が光の国に行っても戸惑うだけだと思いますよ?【宇宙警備隊】の人たちは別として、他の人たちはほとんど知りませんから。ケンさんやマリーさんに迷惑をかけるのは…」

「それは気にしなくて良いんだ。だってこれは大隊長に銀十字軍隊長…父さんと母さんが言い出したことだから」

「……」

 

ドックン

 

「ッ!?」

胸ポケットのエボルトラスターの鼓動を感じると、一樹は店を飛び出した。

「一樹君⁉︎」

「光太郎!行くんだ!恐らく彼は敵を()()()()()‼︎」

「ッ⁉︎分かりました‼︎」

 

 

「ッ⁉︎」

学園でも、雪恵がエボルトラスターの鼓動を感じた。

「田中?どうした」

「千冬さん…かーくんを助けないと!」

「…すまないが、それは出来ない」

「何でですか!!?」

「今、チェスターは整備中なんだ…」

「こんな時に⁉︎」

 

 

『ここにいるウルトラ戦士に告ぐ!我々と戦え!さもなければこの星を破壊する‼︎』

現れたのは2体の極悪宇宙人、テンペラー星人。その力は、1人でウルトラ兄弟と対峙出来る程と言われている…

「…ならお望み通り、俺が遊んでやるよ」

一樹はエボルトラスターを引き抜いた。

 

光の柱からウルトラマンが現れた。

『よく来たな、この星のウルトラマンよ』

『逃げずに来たその勇気、敬意を表するぞ』

「……」

油断せずに構えるウルトラマン。

『では、始めるぞ!!!!』

テンペラーは両手のハサミから稲妻のようなムチを振り回す。

「シュッ!」

それをバック転で避けるウルトラマン。だが、回避先をもう1人のテンペラーに読まれ、ロケット弾を撃ち込まれた。

『フンッ!』

「グアァァァッ⁉︎」

 

 

「テンペラー星人⁉︎奴はあんな卑怯な手は使わないはず…」

テンペラー星人は、正面からウルトラ戦士を倒すことを生き甲斐としている。それが光太郎たちウルトラ戦士の認識だった。だが、目の前のテンペラーは2対1でウルトラマンを攻撃している。

「…個体の性格の違いか!」

 

 

「グアァァァ!!?」

『『ハッハッハッハッハ…』』

 

ピコン、ピコン、ピコン

 

修行のダメージが残っているウルトラマンは、早くもエナジーコアを鳴らしていた。そんなウルトラマンを、テンペラー星人はムチで滅多打ちにしていた。

『『ハッハッハッハッ‼︎』』

「グアァァァ!!?」

 

 

「これ以上は彼が危ない!」

光太郎は、左袖に輝く【ウルトラバッジ】を取り外すと、天に掲げて叫んだ。

「タロォォォォォォォ!!!!」

 

 

「ヤァッ!!」

『グッ⁉︎』

ウルトラマンタロウのスワローキックが、2体のテンペラー星人に命中。その隙に、ウルトラマンは前転して拘束から逃れる。

「トゥオッ‼︎」

2体のテンペラー星人を投げ飛ばすと、ウルトラマンに駆け寄り、右手からエネルギーを出した。

「シュッ‼︎」

タロウからエネルギーを分けられた事により、エナジーコアの点滅が止まった。力強く立ち上がるウルトラマン。

「フッ!シェアッ‼︎」

ジュネッスにチェンジすると、隣のタロウに頷く。2人の戦士はテンペラー星人に向かって側転からのバック転で近づき、後ろ蹴り。

「デェアッ!」

「ヤァッ!」

2対2となった事で、ウルトラマン達が押していく。

『おのれ!』

『調子に乗るな!』

2体のテンペラー星人は両手からロケット弾を連発する。それを、連続バック転で避ける2人。

「ハッ!」

「トゥオッ!」

パーティクルフェザー、レッド手裏剣ビームをそれぞれ撃ち、テンペラーを怯ませる。

「デェヤッ!」

「シュッ!」

突如タロウはウルトラマンに向かって飛び込んでくる。ウルトラマンはタロウの腕を掴むと高速回転、タロウをブーメランの様に投げ飛ばした。

「シェアッ‼︎」

『グッ⁉︎』

『ゴッ⁉︎』

行きと帰り、両方の攻撃を喰らったテンペラー。

「タロウスパウト!」

タロウはそう叫ぶと、今度は立ったまま体を高速回転、竜巻で2体のテンペラー星人を空中に浮かべる。

「フッ!シュウッ!フアァァァァァァ…フンッ!デェアァァ‼︎」

「ストリウム光線‼︎」

空中に浮かんだ星人に、2人のそれぞれの必殺技、オーバーレイ・シュトロームとストリウム光線が決まり、爆散した。

 

 

「…エネルギー、ありがとうございました。本当に助かりました」

「いやいや、気にしないでくれ。たまたま僕が近くにいただけだから」

ウルトラの星へ帰るため、光太郎は一樹とS.M.S本社屋上へと来ていた。

「ケンさんとマリーさんに、よろしくお伝え下さい」

「うん、伝えとくよ」

右手を差し出す光太郎。一樹がその手を握ると…

「…ッ⁉︎」

【ウルトラダイナマイト】のコツが流れ込んだ。

「…光太郎さん」

「僕と君は握手しただけだ。君は何か感じたようだが、僕は知らない」

悪戯っぽい笑顔を浮かべる光太郎。一樹も笑顔を返す。

「それじゃ…またね!」

光太郎は光に包まれ、夕焼けの空へと消えていった。

「…ありがとございました。タロウさん」




…思わず勢いで書いちゃったけど、タロウのアレは分離したと考えて良いですよね?



間違えてたら独自設定ということでオナシャス!!


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Episode77 要請-デマンド-

簪にタッグマッチで組むことを頼みにいく一夏と、コツを教えてもらった事によって技の完成が近づく一樹。



つまり、あまり進んでないという事ですはい。



すみません…


楯無さんからの依頼を受ける事にした俺は、昼休みに4組に行くことにした。

「さて、行きますか」

「一夏、一緒に食堂行こう?」

いつもの優しい笑顔で話しかけてくれたシャルには申し訳ない。俺は手を合わせて謝る。

「悪いシャル。今日はちょっと用事があるんだ」

「そ、そう?じゃあどうしようかな…」

「でゅっちー、私たちと行こうよ〜。ゆっきーも一緒だよ〜」

シャルを誘ったのは意外や意外、のほほんさんたちのグループだった。

相変わらず、長すぎる袖をだらりとたらしたまま、その腕をぶんぶんと振っている。あ、雪恵が袖を避けた。やっぱり危ないよな…

「でゅ、でゅっちー?」

「本音ちゃん流のあだ名らしいよ…」

雪恵が苦笑いしてる。一樹がいなくなってから、あまり雪恵がちゃんと笑ってるのを見てない気がする。

まあ、仕方ないか…

「行こうよー。えへへ〜」

無茶苦茶遅い動きで、のほほんさんはシャルの腕に腕を回す。

それを避けないのに、シャルはやっぱり良いやつなんだと思う。この間の雪恵の問いに答えられなかったのは、きっと戸惑ってたからだ。そうに違いない、そうであってくれ…やばい、だんだん自信なくなってきた。

「と、そろそろ行かないと昼休みなくなるな」

楯無さんからの情報だと、妹の簪さんは教室でパン食らしい。なので、俺も今日はパン食だ。

「(早く行かないと、他の専用機持ちと組むことになっちゃうからな…)」

俺が教室を出ると…

「待ってたわよ一夏!」

鈴に会ってしまった。ちくしょお…ついてないぜ…

「アンタ、あたしと組みなさい」

「悪いな鈴。先約があるんだ」

「は?先約?まさか雪恵⁉︎やめときなさいアンタ!櫻井に消されるわよ‼︎」

お前は俺と一樹をどう思ってるんだ…

まあ、同じ部屋だし、頼みやすいのは確かだな。結構俺たち、男の考え分かってくれるし。

「いや、雪恵じゃない」

「じゃあ…シャルロットじゃないでしょうね!!?」

…は?何故シャルが出て来るんだ?

「くぅ〜。前も組んだからって程度で先越されてたまるもんですか…」

「ん?なんだって?」

「な、なんでもない!で、先約って誰よ?代わってもらうから、言いなさい」

うわぁ…相変わらず無茶苦茶な理論だな…こういう時は…

「す」

「す?」

「すまん!」

三十六計、逃げるにしかず。

「あ、待ちなさいよ!」

鈴も代表候補生として鍛えてるんだろうけど、こちとらジープから全力で逃げさせられた事もあるんだ。そう簡単に捕まってたまるか。

 

捕まったら重しを付けて俺と模擬戦だ。

 

今なんか師匠の恐ろしい声が聞こえた気がする!絶対に逃げ切らなければ死ぬ!死んでしまう‼︎

「待なさーい!」

「断固断る!」

わざと遠回りをして鈴を振り切ると、

目的の4組にたどり着いた。

「あ、1組の織斑君だ!」

「な、何ですと⁉︎」

「生きてて良かった!」

「あ、あの!4組に何かご用でしょうか⁉︎」

熱烈歓迎されてしまった。何故…?

「あの、更識さんいる?」

「え?更識さんって…」

()()?」

4組の子達が気まずそうに、クラスの窓側の1番後ろの席に彼女はいた。

「……」

カタカタ、と購買で買ったであろうパンを端に置いて、ひたすらキーボードを叩いていた。

「その、久しぶり?更識さん」

「…前にも言った。私には、あなたを殴る権利がある。けど、疲れるからやらないって」

ウグッ、それを言われると弱い…思わず白式はS.M.Sが開発したんだと言いかけたが、今更言ったところで彼女の専用機が完成するわけではないんだよな…

「…で、要件は?」

「えーっと、今度の専用機持ちタッグマッチに一緒に出てくれないかと…」

「イヤ」

うわ、即答だ。

「…お姉ちゃんに何言われたか知らないけど、私には関わらないで。手伝ってくれる人もいる…」

あれ?既にバレてる?

「えと、俺もこう見えて整備には強いんだ。協力するぜ?」

「櫻井君にほとんどやってもらってたのに…?」

ググッ⁉︎よく見てらっしゃる…

「あ、あれはOSだから…それ以外なら」

「私は、櫻井君になら協力してもらってた。けど、何故か彼はいなくなった。理由は知ってる?」

「い、いや…」

教頭が追い出したって事は知ってるけど、そういう事じゃないんだよな…

「…とにかく、あなたとは組まない。それに、あなたは組む相手に困ってない」

…まあ、普段の俺たち見てたらそうだよな。

「実はみんな…」

決まってて、と言おうとしたところに…

「見つけたわよ一夏!」

ゲェッ!関羽⁉︎

…な訳無いか、鈴でした。

「アンタ、4組で何してんのよ!来るなら2組に来なさいよね!」

「イデデデ⁉︎耳を引っ張るな!更識さん、またね!」

更識さんは無反応で、ひたすらキーボードを叩いていた。グスン。

 

 

その頃、一樹は光太郎から教わったコツをミオにまとめてもらっていた。

『えーっと、考え方としては、体全体にバリアを張って、そこから発火するんだって』

ありがたいことに、空中投影ディスプレイに表示して説明してくれている。すごく分かりやすい。

『マスターも、変身時は光線を撃ったりするけど、その熱は感じたりしないでしょ?』

「ああ。多分無意識のうちに、薄っすらとバリアを張ってるのかもな」

すると、首飾りが光って、白衣に黒縁メガネ装備のミオが実体化した。

『えへへ、この格好どう?』

「さて、修行に戻るか」

『ねえマスター、照れなくても良いじゃん♪感想言ってみ?』

「…はあ」

呆れのため息をつき、一樹はミオを見る。ミオはお披露目とばかりに、白衣の裾を持ってクルクル回っている。更にはメガネの縁を持って流し目までしてきた。

『マスター、今ならマスター限定の撮影会もアリだよー♪どうする?どうするどうする?』

「6歳児が背伸びするな」

『バッサリ切った⁉︎男の子はこういう格好が好きだってネットに書いてあったのに⁉︎』

「うーん…似合ってるとは思うんだけど、子供が背伸びしてる様にしか思えない」

『前半だけ言えば良いのに!何で余計な捕捉説明いれちゃうの⁉︎』

今日も一樹に弄られるミオ(セリーはこれを絶好調と呼ぶ)である。

『わ、私は雪恵さんが出来ない格好もマスターのためならやるよ!ほら、リクエストプリーズ!』

「…お前は俺をどう思ってるんだ?」

話の趣旨がズレてきてることに、一樹は頭を抱える…

「ハクイニアッテルヨ、ダカラハナシヲモドソウネ」

滅茶苦茶棒読みで褒めてみると…

『えへへ〜マスターに褒められた〜』

両頬に手を当ててイヤンイヤンしている相棒の姿が…

「(ミオとのコンビを考え直した方が良いかと考える今日この頃)」

『さーて!マスターに褒められたところで、このミオ、張り切っちゃいますよー!』

「モウソレデイイカラ、ハヤクワザノカンセイヲシヨウナ」

 

 

『助けてくれ〜雪…』

「かーくんどうしたの⁉︎」

夜の恒例、一樹と雪恵の電話。急に雪恵に助けを求め始めた一樹。何だ何だ?

『実は…』

かくかくしかじか

「…それのどこが嫌なんだ?弾が聞いたら怒るぞ」

『よーし一夏、例え話をしてやろう。お前の周りの専用機持ちが、いきなり黒縁メガネと白衣を着始めたらどうする』

「似合ってたら褒める」

当たり前だろ。

『お前に聞いた俺が馬鹿だった』

「えと…かーくん、今度その格好してあげようか?」

『お願いだから雪は変な知識を持たないでくれ…俺の癒しをなくさないで…』

「えへへ…癒しかあ…」

あ、雪恵が落ちた。一樹の野郎、人にはフラグ乱立者とか言ってるくせに、自分の方が雪恵にセリーにミオ?を落としてるじゃねえか。

『おい一夏、今度対戦しようぜ。逆刃刀と真剣で』

「全力で遠慮させていただきます!」

そんな事をした日にゃ俺の体がボロボロになっちまうわ!

「うん、うん。じゃあね、おやすみ」

一樹との通話をしてる雪恵の顔は、終始笑顔だ。だけど、電話を切った途端、その表情が曇る。早くなんとかしないとな。

 

「一夏、タッグマッチは私と組むのだろう。これが申請書だ。早くサインをしろ」

「悪いラウラ。先約があるんだ」

 

「一夏さん!タッグマッチを…」

「悪いセシリア。先約があるんだ」

 

「い、一夏!タッグマッチの件なんだが…」

「悪い箒。先約があるんだ」

 

『って感じで断り続けてるの』

「……流石に言葉を無くすんだが」

一夏の断る姿が容易に浮かぶ一樹。しかし、簪が許可しなかったらどうするつもりなのだろうか。

『その時は私が組むよ。それが1番平和だと思うし』

「…どう転がっても一波乱起こると思うけどな」

『しょうがないよ、織斑君だし。ところでかーくん、この前出た星人は大丈夫だったの?』

「ああ、別のウルトラマンが助けてくれたからな。名前は【タロウ】だ」

『ん、分かった。今度会ったらお礼しないと。これで3人目だね。ゲンさんに矢的先生にタロウさん』

「…多分雪が会うことは無いと思うけどな。じゃあ、頑張れよ」

『かーくんもね』




次回…次回こそ展開を進めたい!


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Episode78 結成-フォーメーション-

よしよし、今のところ順調だぞ!


「…ダメ。今日は調子が悪い。帰ってアニメでも見よ…」

簪の趣味、古今を問わないアニメ鑑賞。

ジャンルは決まってヒーロー・バトルもの。悪の軍団を主人公が打ち倒す。そのシンプルさがたまらない。

…決してこの前まで本物のヒーローがいただろとか、なんで気づかなかった?などと言ってはいけない。

「今日は、何を見ようかな…」

帰ってからの楽しみに、思いを馳せる簪。そして、たまに思い出すのが…

「カッコよかったな…あの時のウルトラマン」

自分達に向けてサムズアップをしてくれたウルトラマン。アニメでしか見た事がないような場面を、自分が経験するとは…

 

「よっ!」

「…」

一樹のいなくなった今、簪の専用部屋となりつつある第4整備室から出ると、そこには一夏がいた。

その手には、缶ジュースを持っている。

「緑茶とぶどうジュース、どっちがいい?」

「……」

そんな一夏を無視して、整備室を去る簪。その後を一夏は追ってくる。

「なあ」

「……」

「なあって」

「……」

「更識さーん」

ピタッ

「…苗字で呼ばないで」

「え、えと、簪さん」

「名前でも呼ばないで」

「じゃあ_____」

なんて呼べば良い?と続くであろう一夏を無視して、簪は歩く。

「私に、構わないで」

そう言い放つと、簪は歩き出す。

その半歩後ろを、一夏が追う。

「とりあえず、ジュースだけでももらってくれないか?俺2本は飲めないからさ」

「…なら、ぶどうジュースで」

「ああ、助かるよ」

それだけで、笑顔を見せる一夏。

「(ほんと、お人好し)」

 

『なあ更識さん、仲良くとは言わないが、一夏を認めてやってくれないか?』

2学期が始まってすぐの頃だろうか、一樹がそう言ってきたのは。

『…どうして?』

普段、あまりそういうのに関わらない一樹。その一樹がそう言うのが不思議で、簪は理由を問う。

『アイツさ、結構お人好しなんだ』

『それは、知ってる』

男装してまで近づいてきたシャルロットを助けた時点で、それは察せれる。

『だからさ…アイツ自身に悪気が無くても、アイツは自分が悪いって思うクチなんだ。自分じゃどうしようもない事でもな。きっと、幼い頃から千冬と比べられた事が影響してるんだと思う』

『……』

出来のいい姉と比べられる、それは簪にも経験がある。織斑一夏も、やはりそうだったのか。

『ま、アイツの場合はすぐ比べられることは無くなったけどな』

自嘲気味に笑う一樹。簪はそれだけで察した。一樹が今、学園で受けてる視線が、幼い頃から続いてることに。

『…アイツは比べられることは無くなったけど、きっと自分の中でずっと燻ってたんだと思う。千冬と自分との、出来の違いに』

ゲンに弟子入りした頃の一夏は、見てて痛々しかった。千冬との差を埋めるために、焦っていたあの頃は…

『それは、なんとなく分かる』

簪も、そうだから。

『俺は孤児だから…家族とか、兄弟とかは辞書的な意味でしか知らない。家族内で、比べられる辛さを知らない』

『…うん』

『だから…同じ姉を持つ者同士、一夏を認めてやってくれないか?』

自分の方がよっぽど辛いだろうに、一樹は一夏の事を心配してるのだった。

 

 

「(…櫻井君が言いたいことは分かる。けど、私はやっぱり、織斑一夏を認められないよ)」

たくさん自分を助けてくれた一樹の、たったひとつの願いを叶えられないことに、簪は罪悪感を覚える。

「…更識さんはさ」

「…?」

今までとは雰囲気が変わったことに、不思議に思った簪は、一夏に目を向ける。

「一樹に、戻ってきて欲しいか?」

「…どうしてそれを私に聞くの?」

それを聞くべきなのは、雪恵だと思う簪。

「一樹がいなくなる前日にさ、俺と雪恵以外の専用機持ちにセリーが言ったんだ。『一樹が助けを求めても、どうせ助けない人』ってな」

「……」

セリーとはあまり接点はないが、その評価は妥当だと思った。たまに食堂で見る一夏たちは、基本一夏を目当てに集まっている。そして、時折一樹に邪魔そうな視線を浴びせているのを見かける。

「…ねえ」

「ん?」

初めて、簪から一夏に声をかける。

「…夏休みに櫻井君が死にかけたって、本当?」

「……ああ、本当だよ」

「なんで?」

「ある事情で…体がボロボロの一樹を、箒やセシリア、鈴がISで攻撃したんだ」

「ッ!?」

「…それで一樹は1度死にかけたんだ」

「そん、なのって…」

簪が愕然とする。その反応を見ただけで、一夏は心の底でホッとしていた。

「(やっぱり、簪さんは優しい子だ)」

 

 

「ぶえっくしょん!」

『マスター、風邪ですか?』

「カズキ、熱計ってみて」

「ちょっと鼻がムズムズしただけだよ。そう簡単に風邪は引かねえよ」

そうは言うものの、最近の一樹の生活は温度差が激しいなんてものじゃない。灼熱の地獄の中で特訓をしたあとは、20度前後の本部内を歩き回ってるのだ。

『簡単にって言うけど、マスターじゃなかったら焼け死んでるからね?』

「私でも少し暑かった」

セリーですら暑く感じるのだ。一樹がどんな熱を感じたのかは、想像に難くない。

「んな事は良いよ。やぁっと技が完成したんだ。風呂に入りに行ってくるよ」

「カズキ、私も入りたい」

『マスターったら、私と入りたいなんて、大胆なんだから♪』

一樹は無言で首飾りを机の引き出しにしまい、セリーを女湯まで連れて行く。

『ちょ!マスター!置いてかないでえ!!』

あれ?デジャビュ?

「…なら黙ってついてこい」

『あい…』

 

 

「てな訳でさ…少しでも一樹を認めてくれる人がいると、俺も嬉しいんだ」

「…そう」

一樹に関する事は分かった。なら…

「なんで…そんなに私と組みたがるの?」

「え?えと、それは…」

しばらく悩む様子を見せる一夏。

2秒後、ぴこんと頭の電球が点灯した。

「簪さんの専用機を見てみたいから!」

「ッ!」

 

バシンッ!

 

「…へ?」

「……」

呆然とする一夏を置いて、今度こそ簪は去っていった。

 

 

「なんであの子は怒ったのか、分からない件」

「ねえ織斑君、そんなに私とゆーっくりO☆HA☆NA☆SHIしたいの?」

「全力で遠慮させていただきます!」

考えろ…考えろ!でなきゃ地獄を見るぞ…!

「織斑君が私をどう思ってるのか、ちょっと問いただしたい件」

「一樹の彼女」

「絶対他にも思ってるよね?」

なん…だと…雪恵が、ふにゃけない⁉︎

まさか、隠れヤンデレとか考えてるのがバレ…ハッ!

「お〜り〜む〜ら〜くぅぅぅぅぅん‼︎」

「ま、待って⁉︎落ち着い…ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

教訓、やはり雪恵は恐ろしい。怒らせないよう細心の注意をすべし。

俺、織斑一夏との約束だぞ。

とほほ…

 

 

簪は部屋でルームメイトの邪魔にならないよう、布団を頭で被って携帯端末のテレビを見ていた。

画面の中では今日もヒーローが悪の怪獣を倒している。

その画面を見つめる簪の顔は無表情だが、これでも本人は楽しんで見ている。

そう、普段なら。

「(殴っちゃった…)」

最初に会った時には耐えられた。けど、今回は無理だった。

「(私…彼に甘えてるの?)」

他人に能動的な行動をするのは、簪にとって甘えだった。

けれど、最近は他人に(簪的には)甘えることが多くなったように思える。

一樹にOSを調整してもらい、雪恵には組み立てを手伝ってもらい、最近は姉とも和解した…

「それでも、これは自分で完成させなきゃ」

思わず声に出してしまい、簪は慌てる。幸い、ルームメイトは起きた様子はない。

「(危なかった…気をつけなきゃ)」

それから終始、専用機の事を考えると、織斑一夏の事が何故か思い浮かび、顔を赤らめる簪であった。

 

 

「かーくぅん…助けてよぉ…」

『今度はお前か…何があった?』

「織斑君に断られた専用機持ちたちが怖いよ…」

一樹は一瞬、ハイライトオフ状態のお前の方が怖えよと言いかけたが、すんでのところで止まった。

『まあ…何とかなるだろ!頑張れ!』

「他人事だと思って…かーくんの鬼!鬼畜!ドS!」

『お前もそれを言うか⁉︎』

やはり仲の良い2人だった。

 

 

「更識さん、一緒に食堂に行こうぜ」

とある情報筋から、今日は購買の業者が来れないことを知った俺は、更識さんの手を握った。

「奢るからさ」

「い、いや…」

そうも怯えた子ウサギのように身を縮まらせると罪悪感が…

けど、これ以上はもう引けない。何せ〆切は今日の5時なんだ。

…決して雪恵が怖いからとかじゃないぞ。イチカウソツカナイ。

俺は多少_____どころか、かなり強引に更識さんを連れて行く事にした。

「きゃああっ⁉︎」

更識さんをお姫様抱っこ。よし、これで逃げられないぞ。

「更識さん、軽いなあ…ちゃんと食べてるのか?」

「う、うるさいっ…お、下ろして……」

「じゃあ、掴まってろよ!」

「⁉︎⁉︎⁉︎」

 

「到着!」

無事食堂に着いたぜ…って痛い痛い!

 

バシッ!バシッ!バシッ!

 

と更識さんに何度も繰り返し頭を叩かれる。

しかも、そのうちに脚まで暴れさせはじめた…ってゴッ⁉︎い、今顎に入ったぞ⁉︎

「わ、ばか、こら。暴れるなって」

「ふーっ…!ふーっ…!」

猫のような威嚇をしてくる更識さん。うーむ、仕方ない。

「そんなに暴れるとパンツ見えるぞ」

「⁉︎」

俺の指摘に、ようやく自分の行動に気付いたのか、更識さんは大人しくなった。

「…さない…許さない…許さない…!」

その代わりに、呪詛のような事を呟かれ続けたが。とほほ…

 

「更識さん、さっきのは俺が悪かったから、その瓶を下ろすんだ」

更識さんの手には、一味唐辛子の入った瓶。そしてその目は、俺の白米に向けられていた!

「…自業自得♪」

そして容赦無く、俺の真っ白だった白米は、真っ赤な赤飯へと化した。

「ノォォォォォォォォォォォ!!?」

「ふふ…」

 

「…で、あるからしてISの対空制御は」

時は進んで5限目、簪は久々に()()()()()昼食を思い出し、微かに笑っていた。

「(あんなに楽しいと思ったご飯は、久々かも…)」

正直、一夏に対する嫌悪は既に無くなっていた。それどころか、一夏と話していると胸が熱くなり、とてもドキドキする始末…

「(わ、分からない…一夏が、分からない…)」

もっと分からないのは、自分の気持ち。一体自分は、何をしたいのだろうか。

「(こんなこと、初めてで…自分が、分からない…何がしたいのか、分からない…)」

『分かんないなら、やってみれば良いじゃねえか』

「(えっ…?)」

聞こえたのは一夏の声。顔を上げると、いつもより凛々しく見える一夏の姿があった。

 

『俺と組もうぜ、更識さん』

い、いや…

『どうしてだ?』

だ、だって…分からないから。私は…分からないものは、いやだから…

『でも、そのままじゃわかんないままだぞ?』

そう…だけど…

『怖いことなんかないさ。俺に任せてくれ』

あ…ぅ…

 

いつも見ているヒーローアニメに出てきそうな言い回し。けれどそれが、何より心地よく感じた。

「な、俺と組もうぜ。更識さん」

「う、うん!」

いつになく興奮してるらしく、目の前の一夏の手を掴むと同時に立ち上がっていた。

「(…あれ?)」

ふと気づく。

目の前の一夏が消えないこと、そして外からはオレンジ色の夕日が差し込んでいた。

「…あれ?」

「やったぁぁ!組むって言ったな!早速登録しに行こうぜ!あと雪恵にも連絡しなきゃ!」

「…あれ?」

簪の意識が戻ったのは、タッグマッチの登録を終わらせ、第4整備室で待ち合わせをした後だった。




とうとうタッグを組むことになった一夏と簪!


一樹が知ったらどうなるかな…ガクブル











P.S感想はどの話に対しても大歓迎です!
読み直した結果、コレはこの伏線だったのか!と答え合わせとして使って下さい(笑)



いやほんと感想下さい切実に(泣)


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Episode79 打鉄弐式-パーソナル・マシン-

タッグを組むことにした2人。まずやることは打鉄弐式の完成!

一樹もちゃんと出るよ!


「おし、じゃあ更識さんの機体を見せてくれないか?」

「…で…い」

「うん?」

「簪で…いい。苗字は、あまり好きじゃないから」

えーっと、この場合は相手から許可を貰ったから良いんだよな。

「分かった。簪さん」

「さんもいらない…同い年だし、呼び捨てで良い」

「ん、分かった」

 

 

「あれ?機体自体は完成してるのか?」

簪の展開した機体、【打鉄弐式】は一見完成してるように見えた。

「武装が、まだ…出来てない」

「ちなみにどんな武装なんだ?」

「マルチロックオン高誘導ミサイルと、荷電粒子砲…」

あれ?これすぐ終わるんじゃね?

「簪、ちょっとシュミレーターに付き合ってくれ」

「…?良いけど…」

俺は部屋から持ってきたパソコンと、簪の携帯用ディスプレイを繋げる。

「ほいほいっとな」

「…一夏、コレ…何?」

「これはな、最近、L.A.Iって会社が作った視線ロックオンシステムなんだ。反射神経が良ければ良い程ロックオン速度が上がるタイプ」

ちなみに、俺がメインで乗ってるδ機にも搭載されている。α機にも前は積んでたんだが、俺しか使えないってことでそのままδ機に来た。

…ちなみに、一樹にも当然扱えるのだが、ストライクもフリーダムもミサイルを搭載してないために、不採用となっている。

「じゃあ、これから始めるから。簪は動き回る点をどんどん捉えていってくれ」

「う、うん。やってみる」

簪がシュミレートをしてる間、俺は一樹に急いでメールを打つ。

 

 

PiPiPiPi!

「…?カズキぃ、メールが来てるよぉ」

珍しく昼寝をしていた一樹とセリー。突如一樹のプライベート用携帯が鳴った為に、セリーは目を擦りながら一樹に携帯を渡す。

「うぅん…だれから?」

安心しきってるのか、いつもより深く寝ていた一樹。その目は、まだトロンとしている。

「あのバカ」

セリーの言葉で誰からか分かり、とりあえずメールを開く。

『簪の機体作りを手伝う事になった。それで、L.A.I社製のロックオンシステムの他に何を使えば良いと思う?』

「…アイツ、とうとう更識さんも落としたのか…」

もはや呆れを通り越して感心する一樹。

「……」

ポチポチ、とメールを打つと、再び夢の世界へと向かった。

「ふあぁぁ…」

 

 

ピロリン

「お、来た来た」

一夏がメールを開くと…

『そもそも何の武装なのか分からんから、サポートのしようがない』

「…ごもっともです」

 

PiPiPiPi!

「……今日は速いな」

いつもなら夜にならないと返ってこないので、もう一度寝かけてたのだが…

とりあえず、セリーを起こさないようにしながら廊下に出る。

『荷電粒子砲』

「…うーんと、確かコイツにアグニとビームマグナムのデータのコピーが…お、あったあった。コイツをちょちょいといじって…送信っと」

 

 

ピロリン

「お、来たな…なるほど、アグニとビームマグナムの出力を調整したのか。なになに?『後はそっちで調節してくれ』か。了解っと」

「い、一夏。シュミレーター、終わったよ」

「あいよ…適正A、問題なく使えるな。じゃあこれを打鉄弐式にインストールして…」

「…あとは、荷電粒子砲」

「それも、とりあえずのシステムは作った。細かい調整はアリーナでやろうぜ」

 

第六アリーナに移動した俺たちは、すぐにISを展開した。

『マスター、随分この子に肩入れしますね』

「そう言われれば…何でだろ」

ハクに言われて初めて気付く。きっと、楯無さんから言われたから、だけじゃ無いはずだ。

「多分、同じ優秀な姉を持つ者同士、だからなんだよな…」

箒と話すようになったのも、それからだし。

「ハク、俺は外側からしか分からないから、もし打鉄弐式がおかしな感じしたらすぐ言ってくれ」

『了解です、マスター』

ハクのサポートも得られるところで、先導して俺が飛ぶ。

「じゃ、ここまで来てくれ」

簪は頷くと、コンソールを叩きながら浮上してきた。

飛行システムは完成したみたいだな。

「ハク、どうだ?」

『今の所、問題点が出た時点で修正されています。大丈夫でしょう』

「オッケー」

それでも注意は怠らず、簪の浮上を見守る。

無事に俺と同じ高度に来たところで、今度は下降をやる。今度は俺も並んでだ。

「ゆっくり降りような」

「…分かってる」

簪はコンソールを操作しながらゆっくり降りていく。だが…

 

ドンッ!!

 

「「ッ⁉︎」」

突如簪のスラスターが破裂した。動揺し、バランスが崩れる簪。

「チッ!」

俺は簪の元へ急降下。このままでは危険なため、一旦両方のスラスターをビームサーベルで切断。落ちないよう簪を抱える。

「スラスター関係がまだだな。システムとの同調に気をつけながら調整していこうぜ」

「う、うん…その…」

「ん?どうした?」

急に顔が赤くなる簪。熱でもあるのだろうか。

『時々、マスターがワザとやってるのではないかと思う時があります』

心なしか、ハクが冷たい目をしてる気がする…気にしないでおこう。

何とかアリーナの地面に着地すると、簪をそっと下ろす。

「じゃあ、調整を始めようぜ」

「え、えと。私たちが下手に弄らない方が良いと思う」

「え?どうしてだ?」

「ここら辺は、私も難しくて…櫻井君にやってもらってたの」

「じゃあ、ご本人に調整してもらおうぜ」

 

「Zzzzzzzz…」

廊下のソファで、携帯を持ったまま一樹は寝に入っていた。ここはS.M.Sの役員区画。一樹の味方しかいないために、安心して休むことが出来るのだ。

整備室では常に敵襲を警戒してたために、碌な睡眠がとれなかった。

PiPiPiPi!

「…アイツ、俺に恨みでもあるのか?」

ぼやきながらメールを開くと、システム調整をしてくれとの依頼だった。

「ああ、なるほど。これはあの2人には無理だわ」

簪の反応速度、機体のスペック等々を確認しながらシステムを修正していく。

 

カタカタカタカタカタカタカタ

 

相変わらず凄い速さでキーボードを叩いていく。

「うし、これで良いだろ。後は…ミオ」

『あいあい』

「麒麟との直視映像(ダイレクト・ビュー)を使いたいんだが…この距離で出来るか?」

『モーマンタイ!なにせ私は元最強のISコアで、現在はそれすら超越してますから!』

「…それは頼もしいけどさ、麒麟はどーなのよ」

『それは私が何とかするから、マスターは気にしないで』

ミオの言葉を信じる事にして、一樹は一夏に電話する。

 

 

PiPiPiPi!

「ん?一樹から電話だ」

「…え?」

なんだろうな、とにかく出てみるか。

「ほいほーい、どした?」

『一夏、驚くなよ。これからダイレクト・ビューを使いたいから、チャンネル合わせてくれ』

「……」

はい?ダイレクト・ビューはISにしか使えないはず…

『今度S.M.Sに来た時に諸々説明してやるから。とりあえずチャンネル525で合わせてくれ』

「…了解」

まあ確かに、一樹も見れるならそれに越した事はないけどさ。

 

「…よし、繋がってる。じゃあ、飛んでもらってくれ」

『了解』

簪が飛び始めると、再びキーボードを叩く一樹。逐一変わるデータに、簪専用のシステムを作り始めるのだった。

 

 

『オッケ。大体データは取れた。明日までにお前のパソコンに送る』

「ん、頼むな」

一樹との通信を切った俺は、簪と一緒にピットにいた。ちなみに、俺もあまり麒麟をいじってなかったので試しにやってみたら、燃費が15%、機動性が25%も良くなった。やったぜ。

『まるで私が大飯食らいかのような言い方はやめてください』

いや、そんなことは思ってないからね?

『ふん、どうですかね』

ハクが拗ねてしまった…何が悪いんだよ…

『それが分からないのが、マスターがマスターたる所以ですね』

なんなんだよもう…

「…い、一夏…」

「ん?どうした簪」

「えと、その…ありがとう」

「え?」

「スラスターが変になった時、助けてくれてありがとう」

「なんだ、気にすんなよ。当たり前の事しただけだしな」

これくらいはやっぱりやらないとな。

「…格好いい」

「ん?なんか言ったか?」

ちょっと小声過ぎて聞こえなかったんだが…

「な、なんでもない!」

「お、おう。そうか」

テンションの上げ下げが激しいな…

 

 

カタカタカタカタカタカタカタ

「稼働時のデータと理論値との差異合わせ、スラスター推力を反応速度に合わせるために配列パターンを1805から1482に…」

普段よりOSを調整する目に力がある。たっぷり休息と栄養を取れたからだろうか。

 

ガチャ

 

「さーて続き続き…って一樹⁉︎お前休んでて良いって」

一樹の次に、社長室に長くいる宗介が書類を片付けようと入って来た。

「ん?書類はお前らに頼むよ。コレはIS学園の生徒から頼まれた事」

「…あ?どのツラ下げてそんな事言ってんだ?」

声にドスがかかる宗介。学園でこんなオーラを出したら、千冬ですら震えが止まらないことだろう。流石S.M.Sのナンバー2だ。

「別にIS学園全ての生徒が敵だった訳じゃない。今回、頼まれた人はむしろ俺を受け入れてた子だ」

「よし手を貸そう。何を用意すればいい?」

「…態度変わるの早えな」

「一樹の味方は俺たちの味方、一樹の敵は俺たちの敵ってね。これはS.M.S創設時から変わんねえよ」

「…ありがとな。じゃあちょっとコレでコーヒー買ってくれ。お前のも買っていいから」

財布から500円硬貨を取り出し、宗介に差し出す。

「別にそれくらい奢るよ。気にすんな」

舞たちが住む孤児院に、毎月多額のお金を送っている一樹。役職的には一樹の方が給料は上だが、自由に使える金額としては宗介達TOP7の方が圧倒的に上だ。

…ちなみに、一樹は一夏や弾より自由に使える金額が少ないことを補足しておく。

「いや、でも…」

「ついでに飯も買ってくるよ。奢るから好きなの言ってくれ。何が良い?」

「…じゃあ、もりそば」

もりそば←S.M.S食堂で最も安いもの。

「オッケ。鰻丼な」

鰻丼←S.M.S食堂で最も高いもの。

「おいコラ待て」

「じゃあ行ってくるから。後は適当にお菓子とか買ってくれば良いだろ」

「だから…」

「セリーの分もちゃんと買ってくるから安心しろ」

「話を…」

「さて、食堂が混む前に買いに行きますかね」

「聞いて…」

最後まで一樹の話を聞かずに、宗介は部屋を出てしまった。

既にお気づきかもしれないが、一樹は極力自分にかかる費用を減らす傾向がある。

食事もそうで、適当に腹が膨れれば良いの方針の元、そこらの雑草等で済ませることもしばしば…とても大企業の社長とは思えない。

なのでS.M.Sの一樹を除くTOP7は、一樹と一緒にいる時は必ず奢るという暗黙の掟があったりする。そうでもしないと一樹がまともに食べも飲みもしないから。

 

 

「奢ってくれるのは助かるけどさ…鰻丼はやめて?俺のメンタル的にも。だからそっちのかけうどんくれ」

「これ、セリーのリクエストなんだ」

宗介がセリーの前に、うどんが乗ってるお盆を置く。

「ありがとう、ソースケ」

「おう!」

「セリーのリクエストがかけうどんなのは分かったから、そのお盆に乗ってる牛丼くれ」

「俺、最近牛丼がマイブームなんだ」

「嘘つけ!」

 




順調に毎日投稿出来てるぞ。よしよし。



これからも頑張ります!


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Episode80 遊戯場-ゲームセンター-

今回は休日の話!


といっても世間一般では平日なんですけど!


一樹とセリーはどう過ごすのか!


「おし、これで良いだろ」

時刻は午後9時。頼まれたシステム作成を終えた一樹。

「後は明日、送るだけだ」

『マスターにこんな特技があるなんて…』

「あれ?お前知らなかった?」

『うん、知らなかった』

「おかしいな…」

『何が?』

「だって、お前のOS作ったの…俺だよ?」

『…えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?』

 

 

翌朝、一夏のパソコンに、システムのデータが送られていた。

「お、流石一樹。早い早い」

「んぅ?かーくんがどうしたの?」

目を眠たげに擦りながら、雪恵が近づいてきた。

「簪のシステム、一樹が作った奴だから一樹に調整してもらった」

「…かーくん、いつの間に簪ちゃんのシステム作ってたの?」

「簪いわく、鈴が転校してきたのと同じ時期だそうだ」

「…すごい前だね」

「その時はすごい穴だらけのシステムだったらしくてな、プロ精神というか、お人好しというか、一樹が基本ソフトだけとりあえず作ったらしい」

「流石に詳細設定は入れられないもんね…入れたらかーくんと『話し合い』しなきゃいけないところだよ」

詳細設定には、女性のスリーサイズの入力が必要なのだ。当然一樹が入れられる訳がない。

「今回のソフトも詳細設定の部分だけ空欄なんだ。後で簪に渡しとかないと」

 

 

「…なあ」

「一樹は休んでろ」

書類仕事をしようとしたら、宗介とその彼女、理香子に仕事を取られた一樹。

「宗介の言う通りだよ。IS学園にいる間中働いてたもんなんだから、しばらく休んでて良いよ」

「理香子さんや、そうもいかないだろ。他の奴らに示しがつかないから…」

俺がやる、と言いかけたら社員の1人が一樹を見つけ、慌てて止めに来た。

「か、一樹さんは休んでてください!これくらい僕たちに任せて」

「いや、それはお前達の負担が…」

「大丈夫です!なあみんな!」

「「「「まっかせて下さい一樹社長‼︎」」」」

「一樹さん、ずっとサービス残業やってたものなんだから、しばらく休んでてくださいよ。具体的には20年ほど」

「お前、俺に社長を辞任しろってか?」

呆れ笑いでツッコム一樹。それを慌てて否定する社員。

「ちちち違います!S.M.Sの社長は一樹さん以外ありえません!」

「じゃあなんで?」

「一樹さん、最後にタイムカード押したのいつですか?」

「………あれ?いつだっけ?」

「「「「休め‼︎」」」」

近くのTOP7全員(宗介、智希、和哉、一馬)にツッコまれ、流石の一樹もたじたじになる。

「わ、わーったよ。じゃあ何か問題があったら呼「俺に報告するように!良いなお前ら!」おいコラ」

「「「「はい!宗介副社長!」」」」

「お前ら話を聞け!」

こんな感じで、和気あいあいとした職場です。

 

「カズキ♪カズキ♪」

久々にゆっくり出来るからか、セリーは一樹の膝上でご機嫌だ。

「…何するか」

普段、仕事をやってる時以外は食うか寝るかしかない一樹にとって、何年振りかの休日は何をしたら良いか分からない。

「雪がいたら、すぐ決まっただろうけど…セリーは何がしたい?」

「…ユキエに会いたい」

セリーの要望に、一樹はどうしようもなく悔しくなった。

「…ごめんな。俺と一緒に出ることになっちまって」

「カズキは悪くない…それに、学園に残っても、今度はカズキに会いたくなるもん」

「…ありがと」

せめて、今だけは。自分に懐いてくれてるセリーの暖かさを感じていよう…心に潤いが戻る、その時までは。いつか宇宙に、帰りたいと言うかもしれなくても。

「…私の居場所はここ。ユキエとカズキがいる、この星だから」

だんだん一樹の表情を読めるようになったのか、そんな事を優しい笑みで言うセリー。

「(いつの間にか、守りたいって思えるものが増えたな…)」

雪恵やセリーはもちろん、宗介達S.M.Sの仲間、舞たち『アサガオ』の家族…

一人ぼっちだった頃には、とても考えられなかった大切なもの。

「(この居場所は…守りたいな…命に代えても、絶対に…)」

 

 

「すごい…一晩で、これだけのシステムを作るなんて」

放課後、一樹から送られたシステムデータを簪に渡すと、簪は目を丸くして驚いていた。

「当然詳細設定はされてないから、それだけは入力してくれってさ」

「うん、分かってる」

されてたら怖いよ、と続けて言う簪。

確かにな。

『これがマスターなら、勝手に見て勝手に入力してるでしょうね』

ハクさんや、君は俺を何だと思ってるんだい?

『デリカシーの無い唐変木、ですね』

ねえ、昨日のことまだ怒ってるの?

『いえ、全く。ヤンデレと呼ばれた時の雪恵さんくらいには怒ってません』

大・激・怒!!?

『さあ…どうでしょうね』

相棒が怖いよぉ…

 

 

とりあえずセリーを連れてレゾナントに来た一樹。

「来たは良いものの…何をすれば良いんだ?」

「服屋はやだよ」

「心配すんな。俺もやだ」

ついこの間、散々見て回ったのだ。もう当分行きたくない。

「とりあえずゲーセンでも行くか」

「賛成」

 

ゲーセンに着いた2人。まず目に着いたのは…

 

パイロットを体験!マニュアルモードはGまで完全再現!君に扱いきれるか⁉︎

 

戦闘機の体験ゲームがあった。

「…これ、良いのか?」

「見て。『オートマチック操作ではGもかからず、安全にお楽しみいただけます。基本はこれでどうぞ』だって」

「その分、動きが単調になります…か」

「カズキ!」

セリーの目が一樹に訴える。が、何を訴えているのかは分からない。

「…やりたいのか?」

とりあえず1番高確率なことを聞いてみる。これで肯定の返事なら、必ずオートマチック操作にさせるのだが…

「ううん」

セリーは首を振ると、目をキラキラさせながら言う。

「カズキがマニュアルモードで無双して!」

…一応その道で食べてる人間が、それをやったら反則ではないか?

一樹はそう思う。

「大丈夫、オートマチック操作の人はみんな早い」

そのコーナー中央のターミナルを指すセリー。確かにみなオートマチックで、スピードだけなら7Gは行ってるレベルだ。ただ、あまりに動きが単調すぎる。

「(…ん?)」

端の方で、1人マニュアルモードでプレイしてる人物がいた。スピードは遅いが、その分テクニックで攻撃を回避している。

「(マニュアルモードはスピードが出せないのか?)」

改めて説明書きを読むと、マニュアルモードは本当に戦闘機の動きが出来るらしく、スピードも自分で調整するようだ。

つまり、その人物はスピードをわざと遅くしてるか、アレが耐えられる限界スピードなのだろう。

「…セリー、ゲーセンってのはな?みんなで楽しくやるものなんだ。パワーバランスがおかしくなるようなら、やらない方が良いぞ。実力で分けてくれるオンライン対戦じゃないんだから」

「ぶー」

セリーを説得しようとする一樹。だが…

「聞き捨てならねえな兄ちゃん」

「「?」」

後ろから声をかけられた。一樹が後ろを向くと、服越しでも分かるほど鍛えられた肉体を持つ男がいた。

「まるでテメエがやったら楽勝みたいな言い方じゃねえか」

「だってカズキは…ふがっ」

セリーが余計なことを言う前に口を塞ぐ一樹。

「いえ、自分のような初心者がしゃしゃり出たら、チームを組まされた方の迷惑になると思って言っただけですよ?」

あくまで自分が初心者だと言い張る一樹。目の前の男は胡散臭げな目をする。

「あぁ?さっきの嬢ちゃんの言い方だとマニュアルモードで余裕の様な言い方じゃねえか。おかしくねえか」

「この子、対人戦のゲームの深さを知らないんですよ。家庭版ゲームの身内戦しかね」

「ほお…確かにゲーセンのレベルと家庭版のレベルは遥かに違うからな。兄ちゃんの言う事は理解出来んでもない」

「ありがとうございます」

「ふががもがっ」

セリーが文句を言いたげな目をしてるが、この場を平穏に済ませたい一樹はそれをさせない。

「では、自分達はお邪魔のようなのでこの辺で」

そそくさと退散しようとするが、男に進路を阻まれた。

「だが、テメエみたいなナヨナヨした奴にその子は勿体ねえ」

ピクッ

一樹のこめかみが一瞬動いた。が、男は気付かずに続ける。

「大人しくその子をこっちに渡すってんなら逃してやる。だが、それが出来ないってんなら…」

後ろのゲーム機を指して言う。

「あのゲームのマニュアルモードで俺を倒してみな」

「……」

一樹は小さく舌打ちする。面倒な事になった。この手の輩は自分が負ける事を考えない。負けたら騒ぎが大きくなり、面倒になる。かと言って勝負に応じなくても面倒。となれば…

「…良いですよ。その勝負、受けます」

()()()()()()()()()()()

 

「このゲームの面白いところはな、戦闘機が変形するんだ。見てみろよ」

ターミナルを指す男。その画面に映るのは、戦闘機の状態から手足が出る中間状態と、完全な人型への変形。

「戦闘機の状態が【ファイター】、そこから手足が出た状態が【ガウォーク】、そして完全な人型の状態が【バトロイド】っていうんだ。このゲームをやる上で、この三形態を知らなきゃそもそも始まんねえ」

もう勝った気でいる男。一樹はそれが哀れに思うも、決して顔には出さない。

「ま、操作方法はコイツが教えてくれるからそれでやってみな。言っとくがオートマチックでやってきたらその時点でテメエの負けだからな」

そう言うと、男は一樹を球体の中へと誘導する。

「…分かってますよ」

「ふん、今のうちに言い訳を考えとくんだな」

男が隣の球体に入る。その隙に一樹は高速でメールを打った。

 

「こんなにレパートリーあんのかよ…」

マニュアルモードを選択したあと、機体選択の画面に移行した。自動でシートベルトが閉められるのを気にせず、一樹は機体を選ぶ。

「(…VF-0のA型、ゴーストブースターを装備。これで充分だろ)」

 

戦いが始まった。まずは手加減してあまりブースト蒸さず、飛行が出来る最小限のブーストで飛ぶ。

「(…アイツはSV-51γのツインブースター装備か)」

一樹の背後を取り、マシンガンを斉射してくる。とりあえずブーストを一段階増やして回避。

「(Gを完全再現とは言うものの…これで?)」

一樹は、通常ならこの時点で5Gはかかる状態だ。それが今は高速道路を走る普通車と変わらない状態だ。

「(ま、本当に忠実にしたら誰もやらないか)」

速度があがる度に若干ベルトが締めてくるが、一樹は全く気にせずに飛ぶ。

 

セリーはターミナルで一樹と男の戦いを見ていた。

「おい、すげえぞ。マニュアルモード対マニュアルモードだ」

「マジかよ⁉︎基本オートマチックモードのこのゲームで⁉︎」

やはりマニュアルモード同士の戦いは珍しいのか、ギャラリーが増えてくる。

「(カズキ、遊んでる…)」

一見すると、一樹のVF-0が追い詰められているように見える。

背後をとられ、マシンガンを斉射されているのだ。

「おいおい。VF-0追い詰められてるじゃん。素人か?」

ギャラリーの1人がそう言うが、別のギャラリーがそれを否定した。

「いや違う!よく見ろ、VF-0の方は一撃も喰らってないぞ⁉︎」

「はぁ⁉︎」

言われたギャラリーがすぐに画面のHPゲージを見ると、VF-0のゲージは1ドットも動いてなかった。

「嘘だろ⁉︎レーザーならともかく、マシンガンだぞ⁉︎連続で放たれる弾丸全部を避けてるってのか⁉︎」

 

「(クソ!クソ‼︎どうして当たらねえんだよ‼︎)」

男はイラついていた。開始早々背後を取ったこの戦いは、男の圧勝の筈だった。

だが実際はどうだ。マニュアルモード故の細かいスラスター方向の制御で、マシンガンが1発も当たっていない。

それに加えこのスピードだ。男がここまでスピードを出した場合、肉を抉るようにベルトが入り込むのは間違いない。オートマチックモードにしてるかとも思ったが、HPゲージの隣にはちゃんとマニュアルモードである事が表示されている。

「(ちくしょうが!)」

 

「あ!VF-0が動いた!」

「嘘だろ⁉︎更にスピードを上げただと⁉︎」

VF-0は更にブーストを蒸し、SV-51γを引き離すと、速度を落とさずにガウォークに変形。脚のスラスターを反らせ、弧を描くように飛ぶ。つまり…

「今度はVF-0が背後を取った⁉︎」

一瞬で攻勢が変わった。

対してSV-51γはツインブースターを装備してる都合上、変形が出来ない。この状況を覆すためには、ツインブースターをパージしなければならないのだ。

「あ!SV-51γがパージした!」

「しかも搭載されてたミサイル全部を後ろのVF-0に撃ったぞ⁉︎」

「あれじゃVF-0も避けらんねえな…これで終わりかな?」

ギャラリーのほとんどが、VF-0が負けると信じて疑わなかった。だが…

「「「「ッ⁉︎」」」」

VF-0はバトロイド形態に変形、手に持ったマシンガンでミサイル群を迎撃してみせた。

「「「「す、凄え!!!!」」」」

ギャラリーの反応に、セリーは満面の笑みを浮かべていた。

「やっちゃえ!カズキ‼︎」

 

「(じゃあ、時間もアレだし、終わりにしますか)」

もう充分に時間を稼いだ一樹は、再度ファイター形態に変形。ゴーストブースターに搭載されている全てのミサイルを撃ち、相手のSV-51γをあっさりと落とした。

 

「…俺の勝ちですね」

「んな筈はねえ!あんな動きが、テメエみたいなガキ出来る筈がねえ!インチキだ!」

「言いがかりはやめてくださいよ。そんな短時間で、インチキを実践出来る訳ないでしょ」

「うるせえ!あんな動き、オートマチックモードでしかありえねえ!」

「画面に映ってたでしょ。マニュアルモードって。そうですよね皆さん」

一樹が周りに同意を求めると、ギャラリーの全てが頷いた。

「じゃあそういう事なんで、俺とセリーは帰りますね」

一樹はセリーを連れてその場を去ろうとする。

「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

激昂した男が、一樹に殴りかかってくる______

 

バキッ!!!!

 

「ガッ!!?」

殴られたのは男の方だ。ちなみに一樹もセリーも全く動いていない。やったのは…

「ありがと。シュウ兄」

真島組幹部の一人、シュウだった。

「なんか、前にも似たようなことがあった気がするよ」

「そうですね…しかし、コイツはウチが探していた連中の1人です。協力、感謝します」

それだけ言うと、シュウは男を連れて去っていった。

 

「…ん?メールが来てる」

ゲームセンターを出た一樹達。スマホを見ると、メールが1通…それを確認する一樹。

「…セリー、お前は宇宙に行けるか?」

「ん?私は全然平気だけど…」

「そっか、なら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機体が完成した。本社に戻り次第、宇宙に上がるぞ」




便利な真島組

覚えてた人いるかな?


さてさて、次はタッグマッチかな?




来るぜ…アレがな!!!!

楽しみに待ってろよ!!!!

待っててくださいね。


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Episode81 剣-ストライクフリーダム-

待たせたな!


サブタイ通りだ!

暴れるぜ!!!!


ちなみに【vestige-ヴェスティージ-】を聞きながら読むとさらに楽しめるぞ!
↑曲頼りかい


「お、来た来た。一応聞くけど、メールは見た?」

本社に戻ると、フロントで宗介が待っていた。一樹が肯定すると、格納庫へと移動した。

「あ、そうそう。宇宙に行ったらついでに【メサイア】も1機(おか)に乗って来てくれ」

「出来たらな。確か今日はタッグマッチの日だろ?」

「ああ、ワイルダーのおやっさんと俺がたぁっぷりと『話』をしてきてやるよ」

「…雪を巻き込んでみろ。その時はいくらお前でも…」

「わあってる。何があろうとも雪恵さんは最優先で守るよ。他は手が届く範囲で助ける」

「…ああ、頼んだ」

ノーマルスーツを着て、大気圏離脱用のシャトルに乗る。セリーにしっかりベルトを付けさせると、一樹は操縦席へと座った。

「ちょっとGがキツイけど…耐えてくれな」

「大丈夫。人間が耐えられるなら、私には余裕」

違いない、と一樹は笑った。それにつられ、セリーも笑う。

『一樹、カウント5で行くぞ』

管制室の一馬から通信が入る。

「了解、いつでも良いぜ」

操縦桿を握り、発信準備完了。

『5…4…3…2…1』

カウントが進むごとに、ゆっくり出力を上げていく…

『0!』

「出るぞ!」

ブーストを一気に蒸すと、大気圏を離脱する…!

 

その頃、一樹とセリーの目的地である【エターナル】は、亡国機業の無人機、【ザクウォーリア】と【グフイグナイテッド】に襲撃されていた。

「弾幕もっとはれ!敵に取りつかれるぞ!主砲照準、前方敵戦艦、撃てぇ‼︎」

エターナルを預かる【アンドリュー・パルトフェルド】の怒号がブリッジに響き渡る。

「祐人くん!面舵十だ!」

「了解!」

祐人がハンドルを若干右に倒すと、ギリギリで敵のビームを回避出来た。

「連装ミサイル、撃てぇ!!」

周囲に群れる敵機に向かって連装ミサイルを放つが、敵はそれを華麗に避ける。

「下に取りつかれるぞ!」

祐人が何とか死守しようとするが、サイズが違いすぎる。

「落とされる訳にはいかない…一樹君と宗介君に、()()を届けるまでは…!」

パルトフェルドの意思虚しく、ザクの一機がブリッジに狙いを定める…

「「「「ッ!!?」」」」

全員が覚悟を決める…

 

ドォンッ!!!!

 

「なっ…⁉︎」

突如ザクの武装がビームによって破壊された。しかし、エターナルから撃たれたビームではない。

「何が起こっている⁉︎」

「ぱ、パルトフェルドさん!地球からシャトルが…」

「何⁉︎モニターに出せ‼︎」

「はい!」

メインモニターに映ったのは、一樹とセリーが乗るシャトルだった。

 

「ったく、無事に大気圏を抜けたと思ったら戦闘中かよ。セリー、揺れるぞ」

「大丈夫。私の事は気にしないで暴れて」

「ああ、そうさせてもらうぜ!」

一樹は操縦桿とペダルを駆使して、減速することなく敵のビーム網を抜ける。

「貰った!」

正面に取ったグフにビーム砲を撃つが、あっさり避けられた。

「チッ!やっぱり速えな!」

何とか敵の攻撃をかいくぐっていると、エターナルから通信が入った。

『一樹君!今すぐ着艦してくれ!この場を切り抜けるには、それしかない!』

「どうやらそのようだな!緊急着艦フェーズに移行する!エターナル、頼むぞ‼︎」

 

『緊急着艦フェーズに移行する!各員、衝撃に備えよ!繰り返す、各員衝撃に備えよ‼︎』

エターナル内に響くクルーの声に、整備スタッフは全員壁に寄る。

 

『準備、完了!いつでもどうぞ‼︎』

「行っくぜぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

致命傷となる攻撃以外を無視し、エターナルの射出口に向かってブーストを全開にする一樹。

「ぐぅ…!!?」

あまりのGに、流石のセリーも呻く。

「あと少しだ!頑張れセリー!!!!」

苦し紛れのフレアを焚いて、敵のビームを曲げる。その隙にエターナルの射出口へと突入。特殊ゴムチューブにより、何とか機体は受け止められた。

 

「射出口閉じろ!一樹君の調整が終わるまでは何としても持ちこたえろ!それさえ終わればこちらに勝機がある!」

「勝機があるじゃねえ!こっちの勝ちだぜパルトフェルドさん‼︎」

祐人の訂正に、パルトフェルドは力強く頷く。

「そうだな!みんな、あと少しだ!頑張ってくれ‼︎」

「「「「はい!!!!」」」」

 

「一樹さん、こちらです!」

整備兵の案内に従い、一樹は進む。

そして…

「これが、一樹さんの新しい【(つるぎ)】です!!」

灰色の機体が、今か今かと装着者(一樹)を待っていた。

「ミオ!時間が無い!さっさと調整を終わらせるぞ!!!!」

『了解だよマスター!!!!』

ノーマルスーツを素早く脱ぎ、いつものS.M.Sスタイルになると、背中を預けるように機体に乗る。

『同調、開始!!!!』

 

General

Unilateral

Neuro-Link

Dispersive

Autonomic

Maneuver

 

Synthesis System

 

システムが立ち上がり、コアであるミオと同調を開始する。

『同調完了まであと55…80…97…同調完了!マスター、あとはお願い!!!!』

「ああ!!」

同調が完了すると、一樹による最終調整が行われる。空中浮遊キーボードを高速で叩き、本当の意味で一樹の機体として完成させる。

「CPC設定完了。

ニューラルリンケージ、イオン濃度正常。

メタ運動野パラメータ更新。

原子炉臨界。

パワーフロー正常。

全システムオールグリーン…」

OS設定を終わらせ、待ちわびた機体を起動させる。名を、かつて一樹が纏った機体名を合わせた…

「【ストライクフリーダム】、システム起動!!!!」

 

「一樹君の調整、終わりました!」

ブリッジクルーの報告に、皆の顔に生気が宿る。

「よし!直ちに発進シークエンスに移行!!奴らに【自由の剣】の凄さを味わせてやれ!!!!」

 

『X2OA、ストライクフリーダム発進どうぞ!!!!』

「櫻井一樹、フリーダム出るぞ!!!!」

『行きます!!!!』

一樹の纏ったストライクフリーダムがエターナルから出撃、PS装甲の発展型であるVPS装甲が鮮やか色へと変わり、関節には黄金の輝き。その輝きは、フリーダム以上に神々しさを感じさせた。その蒼翼を広げ、自由の剣が飛び出す。

ストライクフリーダムに気付いたザクの数機がビームライフルとミサイルランチャーで攻撃してくる。

ビームは新たに装備されたビームシールドで受け止め、ミサイルは二丁となった高エネルギービームライフルでエターナルに被弾しない絶妙な位置で撃ち抜く。

「コイツ…俺に着いてくる!思った通りに動かせれる!」

『S.M.SのEx-アーマーの高火力、機動性にIS()の追従性、反応速度が加わった!これこそマスターの能力を完全に活かせる機体!!!!』

ビームサーベルを抜刀、並んでいたザク2機を戦闘不能にすると、今度は背後のグフがビームマシンガンを乱射してきた。

それを針を縫うような細かな動きで避けると、グフに急接近。すれ違いざまにグフの右腕を根元から切断。

『マスター!!』

素早くビームライフルに持ち替え、左右を囲むように近づいてきた4機のザクとグフを撃ち抜く。

グフ達は無人機とはいえ、遠隔操作してる者の意地なのか、ストライクフリーダムの右脚、左腕をスレイヤーウィップで捕らえる。

「……」

一樹は冷静にバックパックのスーパードラグーンを射出。2機のグフを撃ち抜くと急浮上し、次々とロックオン。フリーダムの時には考えもつかない数の射線に、ザクとグフは全滅した。

 

エターナルを襲撃していたナスカ艦隊を指揮していた亡国機業の幹部は、腰が抜ける思いだった。

「2分…?たった2分で、25機のザクとグフが…全滅したと言うの…⁉︎」

 

ザクとグフを全滅させたストライクフリーダムは、艦隊に向かって飛ぶ。

「行くぜ」

『安心して、命までは取らないよ』

 

「て、敵機、こちらに向かって来ます!!?」

部下の報告に、我に返った幹部は叫ぶように命令する。

「ぜ、全砲門開け!何としてもアレを撃ち落としてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「まともに狙いも定まってないような射撃が、俺に当たるとでも?」

戦艦の極太ビームを相手に、一樹は全く怯まず機体を動かす。黄金の輝きもあって、残像が見えるその動きに、ナスカ艦隊は狙いを定められずにいた。

「そこッ!」

両腰の高初速レールガンを撃ち、ナスカ級のエンジンを直撃。更にスーパードラグーンを射出…

「『当たれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』」

スーパードラグーンの攻撃は、ナスカ艦隊の武装、エンジンを次々と破壊するが、決してブリッジには当たらなかった。

 

「す、スラスター破損!航行出来ません!!!!」

「う、嘘よ…そんなことが…」

 

「……」

ナスカ艦隊を戦闘不能にした一樹は、エターナルへと帰還する。

「どうだった?一樹」

帰還した一樹を、セリーと祐人が迎える。

「反応速度、機動性、火力。全部理想通りだ。これで関節を痛めなくて済むぜ」

笑顔で報告しながら、機体を解除。待機形態である首飾りへとなった。

「カズキ、お疲れ様」

「ありがとな、セリー…さて、パルトフェルドさんのコーヒーでも久しぶりに飲むかな。新しいブレンド出来てるだろうし」

セリーを連れて、ブリッジに向かおうとする一樹。だが、祐人が止めた。

「一樹。悪いがまた出撃だ」

「あ?ナスカ艦隊は戦闘不能にしたぞ」

宇宙(こっち)じゃないんだ。来て早々悪いけど、(おか)から通信が来たんだ」

祐人の話を要約すると、再び亡国機業がIS学園に攻め入ったらしい。

「ふーん…分かった、すぐ行くわ。ミオは大丈夫だよな?」

『当然!大気圏突入もなんのその、だよ!』

ミオの頼もしい言葉を聞き、再びハッチに向かおうとする一樹。だが、また祐人が止める。

「待ってくれ一樹。実は一樹にそれを作ってくれって依頼された後、宗介にも頼まれたんだ。『俺の相棒もヨロシク』ってさ。それを届けてくれないか?」

「別に構わねえが…どうやって?」

「ん」

すっと手を挙げるセリー。

「…まさか」

「ん、私が着ていく」

 

『APUオンライン、システムオールグリーン。セリーちゃん、気をつけてね』

「うん。田中セリー、行くよ」

セリーが纏った機体はエターナルを飛び出すと、灰色の装甲がマゼンタ色へと変わる。そして、先に出撃していたストライクフリーダムと合流した。

「セリー、行くぞ」

「うん」

機体越しとはいえ、しっかりと手を繋ぐ一樹とセリー。

「うし、行くぜ‼︎」

セリーの手を引きながら、IS学園へ向かう。




次回は、IS学園回!!?


学園は一体どうなっている!!?


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Episode82 因縁-カルマ-

学園回!


今回はちょっと長いぞ!
具体的には前回の2倍超え。

どうぞお楽しみください!!!!


タッグマッチ当日。

俺と簪、雪恵はトーナメント表を見に来ていた。

「えーっと…俺と簪の相手は…ゲッ」

1回戦の相手は、箒と楯無さんのタッグだった。

「いきなり学園最強が相手…私が、足を引っ張っちゃうかも」

簪が俯きながらそう言う。い、いかん。ネガティヴモードになってる。こう言う時は俺が男を見せなきゃ。

「だ、大丈夫だよ簪!一体一ならともかく、今回はタッグマッチなんだ。上手く二対一に出来れば…」

「それはまるで私には楽勝とでも言いたげだな、一夏」

ゲッ、この底冷えする冷たい声は…

俺がゆっくりと後ろを向くと、鬼の形相の箒がいた。

…ん?何だろう、箒から()()()が…

「絢爛舞踏が使える今、そう簡単に勝てるとは思うなよ」

あ、そう言えば紅椿の能力があるのか。面倒だな…()()()()だと。

「…なら、お前の武装を全部ぶった斬れば良い。そうすればシールドエネルギーの有無に関係なくお前の負けだ」

実際、他の代表候補生と模擬戦した時も全武装を破壊することで勝ってるしな。シールドエネルギーを無くすだけがISバトルではないのだよ。

「ふっ、やれるものならな」

いつになく自信たっぷりの箒が去ると、雪恵が訝しげな顔をする。

「箒ちゃん、何か変じゃなかった?」

雪恵も違和感を感じてたか。となると、やっぱり今日の箒はどこか変だ。

…何だろう、どこかであの空気を感じた事がある気がする。どこだったっけ?

「…ん?」

思い出そうとするも、携帯の通知に我に返る。どうやら電話の様だ。誰だろ?

「…ん?宗介?」

「え?宗介君から?」

俺は頷くと、簪に断って電話に出る。

「もしもし?」

『おう一夏。今大丈夫か?』

「ああ、あまり長くなければ」

もうそろそろピットに案内されるだろうからな。

『了解、一応言っとこうと思ってな。変に肩に力入れんなよ?別にド派手な活躍しないで良いからさ』

「…一樹も言ってたけど、それで本当に良いのか?」

『まあな。極端な話、1回戦目でボロクソに負けてもお前に対する評価は変わんねえよ。なにせ色々と枷をかけてるのはこっちだしな』

それにあの一樹がその程度で評価を落とす訳がないだろ?と宗介は笑う。

流石は一樹の相棒、理解度が違うぜ。

『で、1回戦の相手は?』

「楯無さんと箒」

特に考えずに告げると、一瞬で宗介のオーラが変わった。怖っ⁉︎携帯越しなのに怖っ!!?

『前言撤回だ。篠ノ之箒は何があろうとボッコボコにしろ。勝敗なんざどうでも良いが、コレは絶対だ』

多分、一樹を追い出した事に関して怒ってるんだよな…

「あのな、宗介。ちょっとした報告なんだけど…」

『あん?話してみ』

俺は楯無さんから聞いた事をそのまま話す。すると…

『ああ、多分お前勘違いしてるよ。俺が言ってるのはその件じゃない』

…へ?

『俺らS.M.Sがキレてんのは、夏の時の話だ。その篠ノ之箒にセシリア・オルコット、凰鈴音が特にな。アイツが幾ら正体を隠してたとはいえ、生身で無抵抗のアイツをISで攻撃してたのを()()が許すと思ってんのか?』

「……」

S.M.Sの中でも特に一樹との絆が深いメンバー…宗介、智希、和哉、祐人、一馬が動かないのは、一樹に止められてるからであって、今も怒りが収まってないってことか…

『アイツの制止がなかったら、今すぐにでもぶっ潰したいんだよ。例え、国家の代表候補生であっても…天災の妹であってもな』

「…」

『例えお前の幼馴染であってもだ。それとなく脅しておけ。お前らはいつ俺たちの逆鱗に触れるか分からないんだぜ、ってな』

「…了解」

俺の返事を聞くと、携帯越しに感じていた圧が消えた。とりあえず冷静になったらしい。

『あ、あとお前に確認してもらいたい事がある』

「俺に?」

『ああ。実は…』

宗介の言葉は最後まで続かなかった。

突如学園を襲う振動。避難警報が鳴り響き、学園が襲撃された事が知らされる。

「宗介!相手は誰か分かるか⁉︎」

『目視できる限りだと、亡国機業の有人ISが2機、PMCのEx-アーマーもどきが1機、無人機多数だ』

「分かった!ありがとな‼︎」

『一応言っておくが、俺たちは()()動けないから。頑張れ』

「ああ!分かってる!!」

宗介との通話を切ると、麒麟を完全展開。後ろの簪と雪恵も機体を展開し、着いて来る。シールドが張られるギリギリのタイミングで通り抜け、襲撃者たちと対峙した。

 

「あーあ、やっぱり襲撃されたな」

廊下で、一夏達の激戦を観察している宗介。彼にとって、1年専用機持ち(一夏と雪恵以外)がどうなっても知ったことではない。自業自得だとすら思っている。

「でも…アイツは優しいからな。その優しさに免じて、()()()()は見逃してやるよ」

言ってて自分で笑ってしまう。

今回だけ?

それを()()()()()()()()にしてるくせに、と。

「俺も、一樹と同じくらいお人好しなのかもな…」

でなければ、こんなにも『長い』付き合いでいられなかっただろう。とりあえず、宗介は今の自分に出来ることをするだけだ。

「よお智希、()()頼むわ」

『はぁ?雪恵さんが危ないのか?』

「ああ、雪恵さんの()()()()がやばくなる」

自分の周りで友人達が傷ついたら、一樹と同じく優しい雪恵の事だ。自分の事のように悲しむだろう。そしてその雪恵を見て、一樹も哀しむ。なら、彼らにとってやることは…

『…了解。すぐに宇宙に連絡する』

自分たちの憤りなど、この際どうでも良い。自分たちの信じるリーダーの【大切な人】が悲しまないで済むために、最大限出来ることをやろう。

仕返しは、平和になってからでも出来る。

「さて、ワイルダーのおやっさんのことだ。そろそろ連絡が…」

そう呟いた瞬間、宗介のスマホが鳴る。画面に映るのは、『完全勝利』の文字。つまりは…

「…舞台は完成した。後は主演(お前)だけだぜ、一樹」

 

 

無人機の大群に、俺は攻めあぐねていた。

「コイツ…以前学園を襲った奴らよりパワーアップしてやがる!」

零落白夜で切断しようとするも、敵機【ゴーレムIII】は左腕で受け止めてしまう。シールドエネルギーではなく、左腕でだ。

「雪片が使えないなら!」

雪片弐型を拡張領域にしまい、左腕のビームサーベルを抜刀する。

「これでどうだ‼︎」

単純な切れ味だけなら、雪片弐型以上のビームサーベル。その切れ味は、ゴーレムIIIの装甲を簡単に切断した。よし、効いてる!

「逃すか!」

俺は離脱しようとしているゴーレムIIIの肩部を掴むと、ビームマグナムを零距離でぶっ放した。

 

ズギュゥゥゥン!!!!

 

シールドエネルギーなど無かったかの様にゴーレムIIIを貫通、すぐさまゴーレムIIIを蹴飛ばして後方に瞬時加速…

 

ドォォォォォン!!!!

 

ゴーレムIIIが派手な花火へと変わった。

「他のみんなは!!?」

周りを見回すと、みんな苦戦していた。無理もないか、どの機体も麒麟の様な火力は無いし…

「くそッ!数が多すぎる!」

こうなったら、エネルギーを気にせずに済むアレを使いたい。

『一夏、俺が許可するから()()

俺の動きで察してくれたのか、宗介が許可を出してくれた。助かるぜ!

行くぜハク!!!!

『はい!マスター!!!!』

俺の脳波を受信した白式が、麒麟からユニコーンへと変わっていく。頭部の一角が開き、現れたガンダムフェイス。

「暴れるぜ!!!!」

 

 

簪は完成したばかりの打鉄弐式でゴーレムIIIと戦っていた。

「は、速い…」

幾ら一樹がメインシステムを作成したとはいえ、これが初陣。まだ機体が簪に適応しきってなく、ゴーレムIIIの動きに機体が対応出来てなかった。

そんな簪に、ゴーレムIIIの巨大ブレードが迫る。

「ッ!」

なんとか近接戦用の超振動薙刀『夢現』で受け止める簪。だが、パワーで押し負けてしまい、アリーナの大地に叩きつけられる。

「グッ⁉︎」

いつもなら絶対防御でダメージを感じないはずなのに、衝撃がダイレクトに伝わり、簪の脳が揺れる。

「まさか…絶対防御をジャミングしてる⁉︎」

目の前のゴーレムIIIは幾ら叩きつけられようが、機械が活きてる限り動き続ける。だが、簪たち人間はそうもいかない。今の衝撃も、簪が鍛えてるが故に気絶しなかっただけだ。

「私が…戦わないと…!」

まだ生徒の避難が完了していない。せめて避難が終わるまでは、前線にいようとする簪。そんな簪を、ゴーレムIIIは容赦無く叩きのめす。

「アガッ⁉︎」

打鉄弐式が警報を鳴らすも、簪は決して引かなかった。

「私はまだ…やれる!」

周囲を囲むゴーレムIIIに視線ロックオン。

「『山嵐』、行って!!!!」

打鉄弐式に搭載された高誘導八連装ミサイルランチャー、山嵐を撃つ。視線ロックオンシステムによってロックされたゴーレムIIIに向かって、ミサイルは飛ぶ。回避しきれないと判断したゴーレムIIIは、左腕の高出力ビームでミサイルを迎撃する。

 

ドォォォォォン!!

 

ミサイルが迎撃された事で、当たりが爆煙に染まる。それこそが、簪の狙いだった。

「…ッ!!」

瞬時加速を駆使し、ゴーレムIIIに夢現を突き刺す。夢現が貫通した瞬間、簪はゴーレムIIIを踏み台にして瞬時加速。

ゴーレムは簪の背後で爆発した。

「よし…この調子で…」

簪の言葉は最後まで続かなかった。下から放たれたビームによって、打鉄弐式のスラスターが破壊された。

「ッ!!?」

「戦いってのは上下左右何でも有りなんだぜ嬢ちゃん!!」

粗野な声が聞こえたと思ったら、簪の正面には赤いモノアイの機体がビームアックスを振り下ろそうとしていた。

「ッ!」

咄嗟に夢現で受け止めるも、赤い機体は流れる様に回し蹴りを放ってきた。

「アアッ⁉︎」

絶対防御が効かない今、その衝撃が簪を襲う。

「ちぇいさぁ!!」

更に赤い機体はシールドで打鉄弐式を地面に叩きつけると、ビームアックスで簪を突き刺そうとする。

「い、イヤ…!」

「あばよ!嬢ちゃん!」

赤い機体はブーストを蒸し、涙を浮かべる簪に向かって急降下する。

「簪ちゃん!!!!」

間一髪楯無が間に合い、赤い機体の攻撃を碧流旋で受け止めた。

「お、お姉ちゃん…?」

「ごめんね遅くなって!大丈夫⁉︎」

「な、何とか…」

簪の無事を知り、ホッとする楯無。

こんな事で最愛の妹を失うわけにはいかない…

「おしゃべりたぁ余裕だな!!」

赤い機体の狙いは楯無へと移った。重たい筈のビームアックスを難なく振るい、楯無のガードを崩し始める。

「ッ!!?」

「おいおい!そんなもんかよIS学園最強!こんなんじゃ戦いとは言わねえぜ!!?」

型も何もない敵の攻撃。一見乱雑に感じるが、実際は違う。

「(実戦の中で組み立てられた、本格的なもの…むしろ武道の型がないからこそ、読み辛い…!)」

しかも攻撃の種類も多く、ビームアックスを振るったかと思えば殴ってくる。それを何とか避ければ、空いた胴に回し蹴りが入ってしまう。

「ガッ!!?」

「お姉ちゃん!!?」

赤い機体の攻撃をまともに喰らった楯無は呼吸困難に陥る。だが、簪を守りたいという想いが彼女を奮い立たせる。

「絶対に…負けない!」

震える手で碧流旋を握り、赤い機体に挑む。

「遅え!遅すぎんぞ嬢ちゃんや!!」

そんな楯無に、赤い機体は遊ぶように物理攻撃を繰り返す。どんなに殴られ、どんなに蹴られようとも、楯無は決して倒れなかった。自分にとって、最も大切なものを守るために。

「ハア、ハア、ハア!」

その息は荒く、あまりのダメージに碧流旋を握る手から力が抜けていく。そして…

「おらよぉ!!」

赤い機体の前蹴りを咄嗟に両手でガードした楯無。

 

ボギィィィィィィッ!!!!!!!!

 

簪の耳に、不快な音が響く。その音は…自分を庇い続けていた姉の両腕が、折れた音だった。

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

力なく倒れてくる姉を受け止める。姉の綺麗な筈の顔は、殴られ続けた事によって痣だらけだった。

「今度こそ終いだ、嬢ちゃんよぉ」

赤い機体はビームアックスを構え、2人に近づく。

 

「かん、ざしちゃん…にげて…」

こんな状態になっても、楯無は簪の身を優先した。

「いや…いやだよ、おねえちゃん」

やっと誤解が解けたのに、やっと元の姉妹に戻れたのに、こんなことで無駄にしたく無い。

「(…け…て…)」

大好きなヒーローなら、こんな時に来てくれる。絶望しかないこんな状況を、覆してくれる。

「(たす…け……か……)」

現実に、そんなヒーローなんていないと思ってた。自分達がどんなに苦しくても、助けてるヒーローなんかいないと思ってた。

「別れの挨拶は済ませたかぁ!!」

「逃げて!簪ちゃん!!!!」

自分達に向かって振り下ろされるビームアックスへの恐怖に、簪は心の中で叫んだ。

「(助けて、一夏!!!!)」

 

 

「2人から離れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

視界に楯無さんと簪の危機が映った瞬間、俺はユニコーンの最大スピードで赤い機体に蹴りを入れて吹っ飛ばした。

「チッ!」

最大スピードで放った蹴りを受けた筈の敵は、吹っ飛んだ先で姿勢制御を取り戻した。

「大丈夫か2人とも!」

敵に注意を払いつつ、後ろの2人の状態を確認する。

「いち…か…?」

今にも泣きそうな顔の簪が、ユニコーンを見て呆然としている。確かに簪は初めて見ただろうが、今は構ってられない。

「そうだ一夏だ!大丈夫か簪!!?」

「わ、私は、なんとか…でも、お姉ちゃんの腕が…」

横目で確認すると、楯無さんの腕があらぬ方向へと曲がっていた。

「…このゲス野郎」

ビームサーベルを握る手に力が入る。怒りのあまり、我を忘れそうだ。

「…簪、楯無さんを連れて後方に下がるんだ。コイツは俺に任せろ」

「そ、そんな!1人じゃ無茶だよ!」

「大丈夫だ。だから早く!」

「…絶対、生きて帰って来てね」

「当然」

まさか、俺がその台詞を言われる時がくるとはな…

「…ぶった斬る」

簪が飛び立つのを確認すると、赤い機体に向かって突っ込む。

 

ユニコーンのビームサーベルと赤い機体のビームアックスがぶつかり、激しいスパークが起こる。

「この殺気…この空気!これだから戦いはやめられねえんだ!」

赤い機体…【シナンジュカスタム】から発せられる声に、一夏は聞き覚えがあった。

「その声…KPSAのサーシェスだな!!?」

「へっ!だったらどうした!!?」

サーシェスの声に、一夏は学園祭の前、爆弾を送って来た者が誰か分かった。

「この間の爆弾を仕掛けてきたのはお前か!!何故あんな事を!!?」

「俺は傭兵だぜぇ⁉︎それにな!!!」

ぶつかっていたビームアックスを一旦引くと、上段から振り下ろしてきた。かろうじてそれを受け止める一夏。再び両者の間に、激しいスパークが起こる。

「野郎のIS操縦者の登場に、女共が反発すんのはあたりめえじゃねえか!!!!」

「関係ない簪まで巻き込みやがって!!!!」

「テメエがそもそもの原因じゃねえか…【男性初のIS操縦者】さんよぉ!!!!」

「…咎は受けるさ。テメエをぶった斬った後でなぁ!!!!」

左手にもビームサーベルを持ち、シナンジュに振るう。だが、シナンジュは急浮上することによってそれを避けた。

 

 

一夏と更識姉妹を除く専用機持ちは、連携してゴーレムIIIと対峙していた。

「行くよ!箒ちゃん‼︎」

「ああ!」

エールストライカーに換装した雪恵と箒が突出し、ゴーレムIIIの注意を引く。

「鈴さん!合わせてください‼︎」

「アタシに命令すんな!やるけどさ‼︎」

「行くぞ!」

後衛組のセシリア、鈴、ラウラがゴーレムIIIへのダメージソースだ。雪恵達に気を取られていたゴーレムIIIの1体が撃破される。

今度はセシリア達がゴーレムIIIに狙われるが、それはI.W.S.Pを装備したシャルロットのガトリングガンによって落とされた。

「僕がいるのを忘れないで欲しいな!」

器用なシャルロットらしく、遊撃手として飛び回っていた。

「ッ!!?」

そんなシャルロットを狙い、サイレント・ゼフィルスのビットが攻撃してきた。直射はI.W.S.Pの機動性を活かして回避するも、そのレーザーがシャルロットを囲むように曲がる。

「偏向射撃!!?」

何とか左手の物理シールドで受け止めるが、その衝撃に後方へ吹き飛ばされた。

「くっ…」

連携のための陣が崩れ、ゴーレムIIIやビットは箒達を囲み、一斉射撃をする。

「このぉぉぉぉぉ!!」

ラウラが左目の封印を解き、動体視力の底上げを行なうと、プラズマブレードでビットの攻撃を弾く。

「雪恵!」

「うん!」

ラウラの合図に、雪恵はソードストライカーに換装。シュベルトゲーベルを投げて、ラウラに突っ込んで来るゴーレムIIIを撃破した。

「いい狙いだ‼︎」

雪恵の援護により、ラウラがAICをかける準備が出来た。

「消し飛べぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

レールカノンでゴーレムIIIの1体を撃破するが…

「ッ⁉︎」

サイレント・ゼフィルスのビットが再び襲ってくる。かろうじてビットの攻撃を避けるラウラだが、主武装のレールカノンが破壊された。

「グゥッ⁉︎」

衝撃に苦悶の声をあげるラウラ。

「終わりだ」

いつの間にか接近していたサイレント・ゼフィルス…エムがプラズマブレードを振り下ろしてきた。

「ラウラ!」

その斬撃は、シャルロットのビームサーベルに受け止められる。

「まだ動けたか。案外しぶといな」

「この機体のおかげでね!」

ゴールドフレームの機動性を使いこなすシャルロットだからこそ、先の攻撃を凌ぐ事が出来た。

「僕たちは、負けない!」

 

ビームマグナムをシナンジュに向けて乱射するユニコーン。

「絶対に許さねえ‼︎」

すれ違う度に、ビームサーベルとビームアックスがぶつかるスパークが起こる。

「テメエは…戦いを生み出す権化だ!!!!」

2機の剣がぶつかり、押し合う。

「喚いてろ!!同じ穴のムジナが!!!!」

「テメエと一緒にすんじゃねえ!!!!」

左拳を叩き込もうとするユニコーン。だが、シナンジュは体を横にすることでそれを回避。続けて放たれた蹴りはシールドで受け止め、再度距離を取る。

「逝っちまいな!ファングゥ!!!!」

シナンジュはリアスカートの中に隠し持っていた遠近両距離対応型ビット、ファングを6機射出し、ユニコーンを狙う。

「その程度に!!」

両手にビームサーベルを持ち、迫り来るファングを破壊していくユニコーン。背後に迫ったファングも、その二刀で破壊する。

「じゃあコレはどうだぁ!!?」

残った2機のファングを射出。それは、ユニコーンではなく…雪恵を狙っていた。

「ッ!!?雪恵!!逃げろぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「…え?」

ゴーレムIIIと戦闘を繰り広げていた雪恵の背後に、ファングが迫る…

 

 

「お、織斑先生!大気圏を高速で突入してくる反応が有ります!」

「何⁉︎こんな時に隕石か!!?」

「いえ、突入角が完璧すぎます!コレは…IS?いや、速すぎる!!?」

 

 

ストライクフリーダムを操る一樹は、セリーが装着しているマゼンタ色の機体の手をしっかり握りながら、大気圏を突入した。

「……ッ」

突入を成功させてすぐ、一樹の優れた視力とハイパーセンサーがアストレイ・ゼロに迫るファングを視認した。

手を離して華麗に舞うと、両腰の高初速レールガンを撃つ。

 

ドォォォォォンッ!!!!

 

「きゃあぁぁぁぁ!!?」

自分のすぐ後ろで起こった爆発に、雪恵は悲鳴をあげて吹っ飛ぶ。

「何だ!?」

「今のはどこから!?」

「まさか新手!?」

「ち、違う!みんな空を見て!」

「やったのはアイツだ!」

 

ストライクフリーダムは二刀のビームサーベルを抜刀、呆然としているシナンジュに斬りかかる。

「チッ!」

すぐさま下がり、その斬撃を避けるシナンジュ。

「フリーダムだと⁉︎奴はここからいなくなったんじゃねえのか!!?」

 

 

「一樹…一樹なんだな⁉︎」

目の前の蒼い翼に、俺は叫んだ。

『セリー、宗介のところへ行くんだ』

『分かった。気をつけてね』

一樹はセリーを宗介のところへ向かわせると、俺に言った。

『コイツは俺が引き受ける。お前は無人機の方を!』

「ああ!分かった!!」

 

一夏の返答を聞くと、ストライクフリーダムはハイマットモードとなり、シナンジュに向かって飛ぶ。

「この野郎がぁぁぁぁ!!!!」

すれ違った瞬間、激しいスパークが起こった。

 

 

「おーいセリー!ここだここ‼︎」

上空のマゼンタ色の機体に宗介は叫ぶ。あちらも宗介を見つけたのか、ゆっくりと近づいてきた。

 

 

シナンジュの大振りな攻撃を、最小の動きで避け続けるストライクフリーダム。

「このやろ!ちょこまかと逃げやがって!!!!」

「…」

ストライクフリーダムは、両手に持っていたビームライフルを上空へと放り投げた。

そしてビームシールドを展開しながら、シナンジュのビームアックスを…白刃取りした。

 

バヂィィィンッ!!!!

 

「なっ!!?」

驚いてるシナンジュに、零距離でレールガンを放つ。

 

ドォォォォォンッ!!!!!!!!

 

「ゴッ!!?」

装甲に守られたからか、衝撃だけですんだサーシェス。ストライクフリーダムは奪ったビームアックスを素早く海へと捨てた。

「これがビームだったら…」

アックスを失い、残った武装であるビームライフルを構えるシナンジュ。

一方ストライクフリーダムは、落ちてきたライフルを見事キャッチ。シナンジュと対峙する。

「もう終わってるって…」

ストライクフリーダム、シナンジュに共通して言えることは、実体弾には鉄壁といえる防御力がある。だが、ビーム兵器にはとことん弱いということだ…

「……」

「そう言いてえのか!!?テメエは!!!!」

シナンジュはスラスターを全開にし、ストライクフリーダムの背後を取ろうと飛ぶ。そのスラスターを撃ち落そうとする一樹だが、下手に撃つと一夏たちに当たってしまうために、中々ライフルが撃てない。

「チッ!」

 

「だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ユニコーンはアストレイ・ゼロの周りに群れているゴーレムIIIを、両手に持ったビームサーベルで次々切断していく。

「大丈夫か雪恵、みんな!!!!」

「う、うん!」

「ああ!」

「大丈夫ですわ!」

「これくらい平気よ!」

「大丈夫だよ一夏!」

「遅いぞ一夏!」

それぞれの返事を聞き、ホッとしている一夏と仲間たちのところに、極太のビームが飛んできた。

「ッ!!?」

何とか、ビームを避ける一夏たち。

「見つけたぞ織斑一夏ぁぁぁぁ!!!!」

「今度こそ殺す!!!!」

一夏を目掛けてやって来たのは、オータムが纏うアラクネに、エムのサイレント・ゼフィルス。亡国機業のISが、一夏を狙いに集まる。

 

「ごめんソースケ、私に合わせるように設定されちゃって…」

「いや、運んでくれて助かる!大気圏突入なんて無茶をしてくれたんだ。調整くらい大した手間じゃねえ!!!!」

セリーから、マゼンタ色の機体が変わった腕時計を受け取る宗介。すぐさま左腕に巻くと、高速で空中投影キーボードを叩く。セリーに合わせて設定された機体を、宗介専用に書き直すためだ。

 

 

撃っては離れ、撃っては離れを繰り返すストライクフリーダムとシナンジュ。シナンジュの放ったビームを、軌道を変える事で避けるストライクフリーダム。

「何で落ちねえんだ!落ちろや!!!!」

ストライクフリーダムに向けて、ビームライフルを連射するシナンジュ。ストライクフリーダムはそれを基本的には避け、学園に被害が出るものはビームシールドで受け止めた。

「(チッ!ライフルだけじゃコイツは落とせねえな…一旦帰投するか、ちくしょう!!!!)」

シナンジュは一旦補給のために帰投する。

「……」

一樹はそれを分かっていても、追わなかった。すぐさま機体を、大量の無人機が暴れる学園へと飛ばした。




こんだけ文字数があって、まさかの次回へ。こんなの初めてだ!!!!

まだまだマゼンタ色の機体は引っ張るという…

まあもうバレてると思うけどね!!!!


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Episode83 相棒-インフィニットジャスティス-

お待ちかね?の相棒登場!!!!





ストライクフリーダムが学園に入ると、代表候補生たちがゴーレムIIIに囲まれていた。

「…ミオ、まだ行けるな」

『私を誰だと思ってるの?余裕だよ‼︎』

「よし」

牽制のビームライフルを放つと、ゴーレムIIIたちの狙いがフリーダムに集中する。

次々と放たれる熱戦を避け、ビームサーベルを抜刀。

「フッ!」

ペアを組んでいたゴーレムIIIをすれ違いざまに行動不能にする。

「かーくん!」

雪恵の嬉しそうな声に、応えてやりたいのは山々だが、今は出来ない。

右の順手、左の逆手持ちの二刀流となると、鬼神の如く暴れまわる。

「お前らがあの時より強くなってようが、俺はその何倍も先にいるんだよ、ポンコツども」

ストライクの時には出来なかったマルチロックオンを使って、周囲のゴーレムIIIを一掃する。

『マスター!織斑一夏のところに、有人ISが2機いるよ!!』

「了解、すぐに飛ぶ」

 

アラクネの装甲脚の攻撃を、ひたすらビームサーベルで弾くユニコーン。

「どうしたどうしたどうしたぁ!!?前の勢いはどこに行ったんだぁ!!?」

オータムが狂った叫びをあげるが、一夏はそれを気にしてる余裕はない。確かに、オータムとの一対一なら一夏が勝てるだろう。だが、今一夏が相手しているのはオータムだけではない。エムもいるのだ。

「落ちろやぁぁ!!!!」

装甲脚6本のうち2本を外すと、ビーム刃を展開させて、ブーメランのように投げて来た。

「チッ!」

何とか避ける一夏。ビームマグナムを撃とうとするが、エムのビットに邪魔をされる。

「ふん」

「グゥッ!!?」

何とかシールドで受け止めるが、衝撃が左腕まで響く。

 

グキッ!!!!

 

「(マズイ!捻ったか!!?)」

一樹がいなくなってから、本人も知らないところで疲労が溜まっていたのだろう…一樹がしんどいながらも、IS学園でなるべく一夏とは関わろうとしていたのは、一夏の精神面も関係していたのだ。

「じゃあな!!織斑一夏ぁぁ!!!!」

「死ね」

2機のISの照準が、一夏に合わさる…

が、横から飛んで来たビームに回避を余儀なくされたことにより、一夏は助かった。

 

「その翼…フリーダムか!!?」

ストライクフリーダム…一樹を見たオータムは、激昂して一樹に襲いかかる。

「あの時の借り、返してやるよ!!」

「はっ!んなのいらねえよ!!強いて言うなら今すぐ帰りやがれ!!!!」

「お断りだ!!!!」

 

バヂンバヂンバヂンッ!!!!

 

一樹はビームサーベルの二刀流で、オータムの六刀を見事に捌く。

「へえ!少しはやるじゃねえか!前は不意打ちで落とされたからよお…大した腕じゃないと思ってたぜ!!!!」

「二対一でしか一夏と渡り合えないような奴が、俺に勝てるだなんて甘いんだよ!!!!」

 

「命拾いしたようだが、次はない。確実に殺す」

「物騒な言葉を言えば、俺が怯むとでも思ってるのか!!?」

エムのプラズマブレードをビームサーベルで受け止める。そしてシールドで殴ろうとするが、エムは後ろに瞬時加速する事で回避。

「行け」

ビットを再び射出、一夏を囲むとビームを一斉射。

「ッ!!」

いつものように乗っとるには、左腕の痛みが邪魔をする。止むを得ず回避し、ビームマグナムのライフルモードでビットを破壊しようとするが…

「(くっ…射線上にはみんなが…)」

ビットを貫通してしまうほどの威力なら、絶対防御が発動出来ない以上、仲間達が危険になってしまう。

「やはり甘いな」

それを見越して、エムはビットを展開していた。

「ちくしょう!」

 

一樹は両手のライフルを連結させ、ロングライフルとしてオータムに向かって撃つ。

「チッ!」

装甲脚からビームシールドを張ってその攻撃に対応するオータム。

「グゥッ⁉︎」

しかし、その威力によって吹き飛ばされ、体制が崩れる。一樹は追撃しようと、オータムに向かってブーストを蒸す。

「この野郎!!」

オータムは体制が崩れているのを逆に利用し、全装甲脚を収束させてビームを放つ。

「……」

一樹はその極太ビームを、胸部ビーム砲、【スキュラ】を撃つことで対応。ふたつの極太ビームがぶつかり、爆発を起こした。

 

「痛…」

先ほどからビットの攻撃を受け止めるたびに、一夏の左腕が軋む。あまりの痛みに、脂汗が止まらない。

『マスター!これ以上は危険です!下がりましょう!』

ハクの制止も耳に入らないほど、一夏の意識は朦朧としていた。このままでは本当に危ないと判断したハクは、最終手段を使う事にした。

 

『マスター!白式から緊急連絡が来たよ!』

「…簡潔に説明しろ」

アラクネから放たれる無数のビームを舞うように回避しながら、一樹は先を促す。

『織斑一夏の意識が朦朧としてて、このままじゃ危ないって!』

ミオの報告を聞いた一樹は、即行動した。アラクネのビームをシールドで受け止めると、両手のビームライフルをサイレント・ゼフィルスに向かって撃つ。

「ッ⁉︎」

すぐに勘付かれ、避けられてしまう。そもそも当たると思ってないので、そこは問題ではない。重要なのは、アラクネとサイレント・ゼフィルスの意識をこちらに向けさせ続けることだ。

「…ついてこいよ」

2機に牽制の射撃を繰り返しながら、学園から離れるストライクフリーダム。

 

 

「…おし、コレで終わり!」

ようやく設定が終了した宗介。

「…ソースケ。カズキを、お願い」

セリーの目に移るのは、純粋に一樹を心配する【家族】の目だった。

「ああ、任せろ。セリーは安全な場所へ行っててくれ」

「…うん」

セリーがテレポートで移動したのを見届けると、宗介は腕時計の盤面を叩くように押す。それによって、宗介の体が一瞬光る。

「…おし、問題無し」

光が晴れたそこには、ストライクフリーダムの相棒と言える機体があった。

その名は、【インフィニットジャスティス】…装甲の色はマゼンタに変わり、バックパックの【ファトゥム-01】が目立つ。

「櫻井宗介、ジャスティス出る!!」

一気に急浮上し、苦戦する雪恵の周りのゴーレムIIIを腰から抜刀したビームサーベルで斬り刻む。

「だ、誰?」

雪恵の戸惑いの声が聞こえる。

そういえば今は全身装甲状態だったなと、宗介は呑気に考える。

「驚かせてごめん雪恵さん、櫻井宗介だよ」

「そ、宗介君⁉︎来てくれてたの⁉︎」

そんな嬉しそうな声を出してもらうと、援護に来た甲斐がある。

とりあえず雪恵だけに説明すれば良いかと宗介は判断すると、他の専用機持ちを無視してゴーレムIIIと対峙する。

そんな宗介の視界の端に、四肢をだらりと下げた状態で宙に浮いている麒麟の姿が見えた。

「ッ!!?」

進路上にあるゴーレムIIIを斬り捨てると、急ぎ麒麟へと近づく。

「おい一夏!しっかりしろ!!!!」

麒麟の肩を掴み、軽く揺する。

「う、うぅ…」

苦しそうな呻き声が聞こえた。とりあえず生きてる事が分かり、ホッとする宗介。

「ってことは…!」

一夏が相手していた機体は、一樹が相手してるはずだ。その証拠に、離れたところではビームが飛び交っているのが見える。

「無人機は…全部片付いたみたいだな」

一樹が鬼神の如く暴れたからか、宗介が斬り捨てたあとは雪恵たちで倒し切ったようだ。

「…雪恵さん、一夏を頼む」

「え!織斑君どうしたの!!?」

「…気を失ってる。無茶し過ぎたんだろ…俺は一樹の援護に行く」

「…かーくんを、お願いね」

セリー以上に、一樹を想う雪恵。本当は自分が行きたいのだろうが、却って足手まといになってしまうのが分かっているから…

「ああ、俺に任せてくれ」

雪恵に対して優しい声で告げると、飛び出そうとする宗介。

「待て!」

それを、箒が止めた。

「お前は…私たちの味方なのか?」

その問いに、宗介は雪恵にかけた時には考えられない殺気を放ちながら答える。

「…学園の味方ではあるが、テメエらの味方じゃねえよ」

「…どういう事ですの?」

宗介にビットの照準を合わせて、セシリアが聞く。

「あーあ、何でこんな奴らを一樹は庇うのかね…俺には理解出来ん」

「「「「ッ!!?」」」」

一樹の名が出たところで、雪恵以外の専用機持ちの体が震える。

「どれだけ命を助けられたかも忘れられ、勝手なワガママに振り回され続けるのって、どんな気分だろぉなぁ。振り回してる自覚はあんのかねえ…」

宗介の一言一言が、鋭いナイフのように刺さっているはずだ。専用機持ちが黙ると、宗介は警告する。

「…一樹が何も言わないからって、良い気になってんじゃねえぞ。一樹に仲間がいないとでも思ってたのか?ふざけんな。テメエらの安っぽい友情よりも深い絆が、アイツにはいっぱいあるんだよ」

「「「「……」」」」

「お前らが今、何の罪にも問われてないのは、一樹が俺たちに頼み込んで来たからだ。でなきゃ…お前らとっくに消えてるよ」

ガタガタ震えだす専用機持ち。とりあえず警告はした。

「…ごめん雪恵さん、怖がらせちゃって」

雪恵に謝ると、今度こそ宗介は飛び出した。

 

「チィッ!さっさと落ちろや!」

アラクネとサイレント・ゼフィルスの2機を相手している一樹のストライクフリーダム。

ビームを撃っては離れ、ビームを撃っては離れを繰り返す。アラクネがビームを連射してくるが、軌道を変えることで避ける。

「終わりだ」

「ッ…⁉︎」

そんなストライクフリーダムの背後を、サイレント・ゼフィルスがビットで狙う。

バック転でその攻撃を避けると、正面からレーザーを撃ってくる。それを上昇して躱すと、三度ビットからレーザーを撃ってきた。それを針を縫うような繊細なブーストで避ける。

『マスター!新たな敵影が!』

ミオの悲痛な叫びが脳に響く。それと同時に殺気を感じた一樹は、背後にビームシールドを張る。

 

バヂィィィンッ!!!!

 

そこに、黄色いビームが飛んできた。

「相変わらず良い勘してんじゃねえかクソガキ!!!!」

「サーシェス…もう戻ってきやがったか」

憎々しげに呟く一樹。ここまで補給が早く終わるとは…

「そういうわけだ…だからさっさと死にな!!!!」

ビームアックスを抜刀、ストライクフリーダムに斬りかかってくる。

「ッ…」

今のストライクフリーダムに、武装を持ち替えてる暇は無い。ひらすら避けるしかなく、徐々に追い詰められていく。

「オラァ!!」

アラクネが6本のビームサーベルを構えて、接近してくる。それを急浮上して躱すが、それをサイレント・ゼフィルスに狙われていた。

「死ね」

全てのビットを集中させ、収束したビームを放ってくる。更にアラクネ、シナンジュのビームまで加わる。

「ッ…」

回避は間に合わないと判断した一樹は、その攻撃をビームシールドで受け止めた。

「ウッ、グゥゥ…」

しかし、そのあまりの威力に弾かれ、姿勢制御を奪われた。

「手柄はくれてやる、オータム」

「礼は言わねえぞ!!!!」

アラクネのビーム砲が、ストライクフリーダムに向けられる。

「させるかぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「ッ!!?」

突如飛んでくるビームブーメラン。オータムはそれをビームシールドで受け止めるが、あまりの反動に腕を振り切られる。そこに、インフィニットジャスティスが突進してきた。

「だりゃあ!」

「チッ!」

その隙に、姿勢制御を取り戻すストライクフリーダム。

「宗介、助かったわ…」

「いや、遅くなって悪かったな」

「なら、これからの動きで挽回してくれ」

「チャンスくれてありがとうよ!」

S.M.S最強タッグが、現れた。




まだまだ引っ張る戦闘回!

ここでみんなにお知らせ!

雪恵「私がパーソナリティを務める後書き雑談会!メタネタ大歓迎のこのコーナー!ゲストのリクエストや、質問をどしどし送ってね!」



まあ、第一回はあの人です。
質問、どしどし下さいね。

ちなみに、来なかったらコーナー自体が無くなります。
メタネタは大歓迎ですが、ネタバレはご遠慮ください。


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Episode84 怨念-マリス-

ついに、動き出すぞ…

奴が!!!!


宗介のジャスティスが加わった事により、一樹の心に余裕が出来た。

ジャスティスが2本のビームサーベルを連結させたのを確認すると、フリーダムが突出する。

2対3という、不利な状況には変わりない。それでも2人の元々の地力もあって、五分以上の戦いを繰り広げていた。

「ちぇいさぁ!」

「ッ!」

フリーダムの援護に向かおうとするジャスティスに、シナンジュのビームアックスが襲いくる。それを、左腕のビームシールドで受け止めるジャスティス。

「赤い機体同士、仲良くやろうぜ!!」

「全力でお断りだ!!」

ビームサーベルを横薙ぎに振るうが、シナンジュは急浮上してそれを避けた。

 

フリーダムを狙って、アラクネとサイレント・ゼフィルスはビームを乱射する。それを、重力を無視した動きで避けるフリーダム。そして、ジャスティスを狙うシナンジュに向けてビームサーベルを振るった。

「チッ!」

止むを得ずビームアックスで受け止めるシナンジュ。

「背中がガラ空きだ!」

今度はフリーダムの背後をアラクネが狙うが、加速の勢いがついたジャスティスの蹴りで阻止される。

「グッ⁉︎」

苦し紛れに装甲脚をブーメランのように投げるアラクネ。だがジャスティスは、それをシールドに内蔵されているビームサーベルと脚のビームブレードで弾く。

「なっ…」

それに驚いているアラクネとジャスティスの間に、サイレント・ゼフィルスが入る。すかさずジャスティスに向かってビームを連射するが、それはビームシールドに受け止められる。

「ッ…!」

ジャスティスに2機が集中してるのを見たフリーダム。シナンジュを回し蹴りで蹴り飛ばすと、二丁のビームライフルから牽制射撃を撃つ。

「「チッ!」」

すぐさま距離を取る2機。更にビームを連射するフリーダム。2機はそれぞれのシールドで受け止める。

 

「俺を忘れんじゃねえぞ!」

再び戻ってきたシナンジュの前に、ジャスティスが立ち塞がる。

「お前を忘れられたら、どんなに気が楽か」

お互い背後を取ろうと動き回る。そして、お互いの剣がそれぞれのシールドで受け止められる。

「チッ…」

「良いねぇ!もっと俺を楽しませろや!!」

「お前と楽しむなんてやだね」

「じゃあ死ねや!!」

ジャスティスから一旦距離をとったシナンジュ。スラスターを全開にしてジャスティスに肉薄する。

「それはもっとごめんだね!!!!」

ジャスティスもスラスターを蒸す。シナンジュはビームアックスを、ジャスティスは脚のビームブレードをそれぞれ振るう。

 

ドォンッ!!!!

 

「なっ⁉︎」

シナンジュのビームアックスが破壊された。ジャスティスは素早くファトゥムからビームを撃ち、シナンジュの武装を全て撃ち抜いた。

「…逃げるなら今だぜ?」

「チッ!!!!」

シナンジュはすぐさまジャスティスから離れていった。

 

「…シールドエネルギーも限界か。戻るぞ、オータム」

「チッ!また殺せなかったか…!」

シールドエネルギーが枯渇寸前になった2機も撤退していく。フリーダムはそれを追わなかった。

『追わないの?』

「無理言うな…俺も結構…限界…」

フリーダムを受け取ってから、激戦が続いていた一樹。元々ダイナマイトの特訓でダメージがあったため、後半は必死だった。

「…悪いミオ。俺、落ちる…」

『え、ちょ、マスター!!?』

意識を失い、海へと落ちていくフリーダム。

「一樹!!!!」

それに気づいたジャスティスがフリーダムを掴み、陸に向かって飛ぶ。

 

 

「…白い、天井?」

確か俺は…サイレント・ゼフィルスと戦ってて…ッ!!?

「敵は!」

布団からガバッと起き上がると、左腕に激痛が走る。

「グッ!」

「起きて早々無茶をするな。馬鹿者が」

カーテンを引いて現れた千冬姉。左腕を抑える俺を見て、苦笑を浮かべている。

「ち、千冬姉!敵は⁉︎」

「有人の方は撤退した。無人機の方は櫻井がバッサバッサと斬ってくれたぞ」

それを聞き、ホッとする俺。良かったぁ…

「…一樹たちは?」

「戦闘が終わったらすぐに消えていた。おかげで礼も言えていない」

苦笑を浮かべる千冬姉。そうか、帰っちまったか…

「…ッ!!?」

急に背筋に寒気がした。自分を守る様に肩を抱えていると、千冬姉が医務室の扉を開けていた。

「一夏、無事か⁉︎」

「一夏さん、大丈夫ですか⁉︎」

「一夏、どうしたのよ⁉︎」

「一夏、怪我の様子はどう?」

「お前が被弾するとは、珍しいな」

入ってきたのは、いつもの専用機持ちたち。なのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…て……れ」

子供の様に震えながら、俺は叫んだ。

「近寄らないでくれ!く、来るな!!!!」

俺の言葉に、驚愕するみんな。

「い、一夏?」

1番近くにいた箒が、俺に手を伸ばす。

「や、やめろ!来るな!!俺に触るな!!!!」

俺の尋常でない雰囲気に、千冬姉が専用機持ちのみんなを部屋から追い出した。

「ハア、ハア、ハア!」

「一体どうした?いつものお前からは、考えられない口調だったぞ」

震える俺の背中をさすりながら、千冬姉が聞いてくる。

「あ、アイツらから…」

「うむ」

「急にアイツらから、【膨らみすぎた怨念】を感じたんだ…」

 

「全く、見舞いに行ってやったのになんて奴だ」

医務室を追い出された専用機持ちは、食堂へと向かっていた。

フードを深く被った人物の横を通り過ぎて…

『…良い感じに溜まったな。そろそろ頃合いか』

 

 

「しばらく安静にさせてあげてね、セリーちゃん」

戦闘終了後、宗介によってS.M.S付属の病院に運ばれた一樹。人工呼吸機をつけられ、体のあちこちには電極が貼られている。その姿は、とても痛々しい…

「…うん。ありがとうハルカ」

一樹の担当医師であり、この病院の院長である成海遥香に礼を言うセリー。

「ううん、気にしないで。一樹君には返しきれない恩があるし、何より大切な友達だもん」

S.M.S関係者の大多数は、『あなた実年齢いくつなんだ』とツッコミたくなるほど皆若々しい。遥香もその礼に漏れず、今IS学園の制服を着たら、そのまま生徒で通るほど若々しい。

「…今度こそ、一樹君には休んでてもらおうか。ちょっと無理をしすぎたんだよ、一樹君は」

「それには同意」

今でこそ大人しく寝ているが、学園にいた頃はセリーに寝袋を渡したあと、碌に寝れてなかった。いつ襲撃が来るかも分からない、そんな緊張感と1人で向き合い、更にはウルトラマンとしても戦っているのだ。かなり無理をしてるのが分かる。

「基本一樹君は大人しく寝てれば良いだけだから、食べ物とかは特に制限ないよ。むしろどんどん食べていいから」

「ん、分かった」

「何かあったらナースコールを押してね。それじゃ、お大事に」

一礼し、遥香は病室から出て行く。それと入れ替わるように、宗介が入ってきた。

「よ!一樹の調子はどうだ?」

「疲労が溜まってたのと、例の特訓のダメージが重なってるんだって」

「それでアイツらと対峙してたのか…フリーダムの性能があるとはいえ、無茶しやがる」

椅子を近づけて座る宗介。

「で、何か制限はあるのか?」

「外に出る時は車椅子推奨、食べ物は特に制限なし」

遥香に言われた事をそのまま宗介に伝えるセリー。

「ふうん…じゃあ、その過剰な装置は?」

「電極は疲労回復のためので、呼吸機は弱めの睡眠ガスを流してたって。今は普通の呼吸機だけど」

あと少しで目が覚めるんじゃないかな?というセリーの言葉に、宗介は頷く。

そして、財布から千円札を出すとセリーに渡す。

「なら、コレでサイダー2本買ってきてくれ。お釣りで好きなお菓子とか買って良いから」

「ん、分かった」

素直に頷くセリー。お金を落とさないようしっかりと握って、病室を出た。

「……そう、すけ?」

「お、起きたか」

弱々しく宗介を呼ぶ一樹。

「俺、今どういう状況?」

「成海の病院で入院中だ」

「そうか…」

「特に制限はないけど、動く時は車椅子推奨だとよ」

「1日もすれば治る。その状況にはならないだろうよ」

「お前の疲労が、たった1日で抜ける訳ないだろうが」

「……だな」

「俺のことは気にしないで良いから、もう少し寝てろ。これ以上、雪恵さんやセリーに心配をかけたくなかったらな」

「…ん、そうさせてもらう」

少年のような、穏やかな顔で眠る一樹。自分の信頼する人物が近くにいないと、まともに寝られない体は、宗介が病室にいる間、ぐっすりと眠るのだった。

 

一夏のお見舞いに行こうとする雪恵と簪。

「一夏…大丈夫かな?」

「先生の話だと、左腕を捻っただけで済んでるみたいだよ?」

一夏の状態を気にする簪に、雪恵は苦笑気味に話す。

「(今かーくんが帰ってきたら、バーサーカーになっちゃうな…)」

そう考えてるのはおくびにも出さずに、簪と会話する雪恵。

「それより楯無さんの方が重症じゃない?」

「お姉ちゃんは、今医療用ナノマシンを打って寝てる…明日お見舞いに行くつもり」

「ちゃんと行ってあげてね。でないと楯無さん、泣いちゃうよ?」

「…だね」

談笑する2人の側を、フードを深く被った人物が通り過ぎた。

「ッ!!?」

雪恵が後ろを向くが、既にその人物の姿はどこにもなかった。

「…雪恵?」

簪の声も耳に入らず、全身から冷や汗が止まらない。

「…まさか」

医務室に向かって駆け出す雪恵。

「え、ちょ、雪恵!!?」

急に走り出した雪恵を、慌てて追う簪。

 

バァンッ!!!!

 

「織斑君!!!!」

「うわぁビックリした!!?なんだなんだ!!?」

医務室に駆け込んだ雪恵。そこでは、のんびり本を読んでいる一夏がいた。

「今、ここに誰かいなかった?」

「えっと、さっきまで千冬姉がいたけど…」

「(じゃあ、今の寒気は何⁉︎何が起ころうとしてるの⁉︎)」

 

夕食を食べていた専用機持ちに、フードの人物が近づく。

『一緒に来てもらおうか』

「…誰だ?」

いきなり話しかけて来た人物に、ラウラが問う。

『来れば分かるさ』

フードがそう告げると、5人は意識を失った。

 

「う、うぅ…ここは?」

気絶から1番早く復活したのは、やはり軍で鍛えているラウラだった。

光を感じさせない闇の中に、ラウラ達5人はいた。

『お早いお目覚めだな』

「ッ!!?」

音もなく現れたフードに、ラウラは殴りかかろうとする。だが、全身を縄で縛られており、身動きが取れなかった。

「(ISは…当然取り上げられてるな)私達をこんなところに纏めて、どうするつもりだ…?」

『そう慌てるな。全員が目覚めたら説明するさ。出来れば1回で済ませたいんでね』

 

 

宗介と変わった智希は、一樹が起きた時のために林檎を持って来ていた。これでも喫茶店をたまに手伝っているため、林檎の皮を剥くくらいは出来るのだ。

「しっかし、本当に寝れてなかったんだな。目の下のクマが尋常じゃねえぞ」

「IS学園では、ゆっくりと寝れてなかったみたいだから…」

セリーの説明を聞いて納得する智希。1人で24時間警戒しなければならないのもそうだが、一樹は信頼出来る人間が多くそばにいないと寝れない体質だ。片手で足りる数しかいないIS学園で、ゆっくり休めるわけもない。

「ちょっと飲み物買ってくるけど、セリーは何が飲みたい?」

「んー、ぶどうのジュースが飲みたい」

「了解」

この病院の一階には、24時間営業のコンビニがある。そこに買いに行く智希。

「…ちょっとトイレ行こ」

セリーも、読んでいた本を置いてトイレに向かった、そんな時だった。

 

ドックン

 

エボルトラスターが、鼓動を打ったのは。

 

 

「全員起きたぞ。説明してもらおうか」

『そうだな。説明してやろう』

気絶していた箒たちが全員目覚めると、フードの人物が話し始めた。

『簡潔に済ませよう。お前たちの【怨念】を頂く』

「「「「…は?」」」」

フードの言葉に、全員が疑問を持つ。

「怨念を頂く、だと?」

『そうだ。貴様らが櫻井一樹に向けていた怨念を頂く』

「…何を言ってるのか、理解出来ませんが?」

『順を追って説明してやる。私は1度、櫻井一樹に負けた』

一樹に負けた…その言葉で目の前の人物が、【シャドウ】である事に気付く箒たち。

『その時、私は粒子レベルまで分解されてしまった。私は、この人間の体を形成するのがやっとだったが、あることに気付いた。あの時、戦闘が繰り広げていた付近にいた人間に、私の粒子が入っているのではないか、とな』

「「「「ッ!!?」」」」

シャドウの言葉に、箒たちの顔に驚愕が走る。その言葉が正しいのなら、今自分たちの体には…

『私の予想は当たっていた。耐性のある櫻井一樹に田中雪恵、織斑一夏を除いて、あの場にいた全人物に、私の粒子が入り込んでいた。それは、その人物が櫻井一樹に怒りや嫉妬などの、人間で言うところの悪感情とやらを抱いたことのある人物に入り込んでいた事が』

怒りや嫉妬、憎悪などの悪感情。その言葉を聞いて、震えだしたのは箒、セシリア、鈴だった。

『お前たちは奴と和解していたが、そんなのは関係ない。1度でも抱いた思いは、そう簡単には消えないからな。そして、私の粒子によってお前たちの中にある悪感情エネルギーを増長させ、いつか私に取り込む事にした。奴を攻撃していたそこの3人、特に篠ノ之箒には感謝するぞ。長年奴に向けていた悪感情エネルギーは、本当に素晴らしいものだ』

「ふざ、けるな…誰が貴様なんぞに」

『奴が退去させられた時に気づかなかったのか?自分の中で、大きく動くものがあった筈だ』

「……」

箒は黙る。夏の一件以来、一樹とはあくまで雪恵を介してしか話していない。だが、一樹が退去する前日、箒は自分が何を言っていたのかすら()()()()()()

『後は教頭もだな。消える寸前までに、なかなかの悪感情エネルギーを集めさせてもらった。これは粒子がお前たちに定着したと分かってから、私の意識で教頭に若干のビースト細胞を入れてみた。そしたらどうだ、どんどん集まった。おかげで今はあの時くらいには力が戻っている。お前たちから返してもらえば、私は奴を越えられる!』

 

 

「…あ、セリー。どこ行ってたんだ?」

「ちょっと、トイレに…」

「なーる。ほれ、ぶどうジュース」

智希とセリーは廊下で合流。談笑しながら病室に戻る。

「まだ寝てるだろうから、静かにな」

「ん、分かってる」

「セリーは素直で助かるよ」

笑顔を浮かべながら智希が扉を開ける。

そこには…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脱ぎ捨てられた病院着と剣の首飾りが、ベッドの上に置いてあるだけだった。

「ッ!!?」

「カズキ、もしかしてまた!!?」

 

 

『さて、説明は終わりだ。そろそろお前たちの悪感情エネルギーを貰うことにしよう』

シャドウは、黒いエボルトラスター…ブラックエボルトラスターを前に突き出す。ブラックエボルトラスターが怪しく光り、箒たちから悪感情エネルギーを吸い取り出す。

「「「「あぁぁぁぁぁぁ!!?」」」」

ある意味教頭は幸せだった。この痛みを知る前に、束に廃人へとされたのだから。シャルロットにラウラは数秒で済んだが、他の3人は長かった。

「「「あぁぁぁぁぁぁ!!?」」」

『あはは!思った通りだ!1度奴に強い憎しみを持ったお前たちは、悪感情エネルギーの量が正に桁違いだ!これだけあれば、新たな怪獣を生み出すことだって簡単に出来る!さあもっとだ!もっと悪感情エネルギーを寄越せ!』

 

 

病院を抜け出した一樹は、必死に走り回っていた。

「どこだ…どこにいやがる!!」

エボルトラスターで、シャドウが現れたことだけは分かった一樹は、呼吸機を外し、電極を引っこ抜き、置いてあったジーンズと白シャツ、紺のパーカーを羽織って窓から飛び出したのだ。

「いっつう…」

本来、彼はまだ入院してなければならない身、探すのに走ることですら、体を痛めているのだ。

「早く見つけねえと…!」

普段の彼なら、ストーンフリューゲルを呼ぶことを真っ先に思い浮かぶだろう。それができないほど、彼は焦っていた。

「もう…誰かが利用されてるのを見るのはごめんだ」

 

「「「あぁぁぁぁぁぁ!!?」」」

『まだまだ来るか!元の数値が高い分、とんでもない数値になっていたようだな!増長した甲斐があったと言うものだ!!』

 

 

「束!篠ノ之たちの行方はまだ掴めないのか!!?」

「今探してるよ!ちょっと黙ってて!!」

学園でも、突如攫われた5人を探していた。だが、あくまで科学に精通している束では、今の箒たちを見つけることは出来ない…

「…俺が、探しに行く」

「一夏!?だが、お前は今体が…」

「あの感覚…何で知ってるのかやっと分かった…似てるんだよ、あの時と…」

「「あの時?」」

一夏の言うあの時、それは…

「沙織が目の前でファウストになった、あの時と」

「「!!?」」

「だから、科学の力で探しても見つからない。自分で、行かないと…」

「だったら尚更行かせる訳にはいかん!お前がまた、あの時と同じにならないとは限らないのだぞ⁉︎」

千冬の悲痛な叫びが、部屋に響く。

「だとしても、このまま待ってるなんて、俺には出来ない。もう、沙織のような人を出さないためにも。それに、あの感覚が分かるのは俺と一樹だけだ。アイツも、今頃探してるだろうさ…自分がどんな状態であっても」

 

 

「ハア、ハア、ハア…」

科学的な方法で見つけられたら、どんなに楽か。今頼りに出来るのは、エボルトラスターの反応と、自分の勘しかない。

「いそ…がないと…」

 

「あ、ああ…」

最後まで残っていた箒から、悪感情エネルギーを吸い取ったシャドウ。

『ははは…あはははははははははははははははははははははははは!!!!最高の気分だ!これが人間!これが人間の本質!私は今、最強となったのだ!!!』

両手を広げて、狂ったように笑うシャドウ。ブラックエボルトラスターを遊ぶように振るい、自分の体に闇を走らせる。

『これだけの怨念があるのなら、奴を呼び寄せてみるか…来い!【タイラント】!!』

ブラックエボルトラスターから放たれたエネルギーが、怪獣の形となる。かつてウルトラ6兄弟を苦しめた暴君、タイラントの形へと…

《ギャオォォォォ!!》

『まずは小手調べだ…お前はコイツをどうする?櫻井一樹。見せてみろ…お前の光の力を!はあっはっはっはっはっは!!!!』




一樹はタイラント相手に、どう戦うのか…
次回をお楽しみに!!!!


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Episode85 暴君-タイラント-

タイラントを相手に、彼はどう戦うのだろうか…


ドックン

「ッ!見つけた!」

漸く懐のエボルトラスターが反応を示した。反応の元へと駆け出す一樹。

 

 

その頃、学園のレーダーにも反応があった。

「…行くか」

格納庫へ向かって駆け出す一夏。

「一夏⁉︎」

「いっくん⁉︎」

 

『さあ!暴れろタイラント‼︎本能の赴くままになぁ!!』

とあるビルの屋上でブラックエボルトラスターを振るい、タイラントを呼び出すシャドウ。

《ギャオォォォォ!!!!》

右手の鎌、左手の鉄球を振り回して暴れるタイラント。

『ははは!良いぞ良いぞ!その調子で暴れて、奴を呼び出せ!』

嬉しそうに叫ぶシャドウの背中を、縛られたままの箒たちが見ていた。

「狂っている…!」

憎々しげに呟くラウラ。それを耳ざとく聞いていたシャドウ。

『忘れたか⁉︎あのタイラントは、お前たちの悪感情エネルギーから生まれたということを‼︎』

「「「「ッ!!」」」」

シャドウの言葉に、箒たちの体が震える。自分たちの悪感情が、アレを生み出したということに。

『さて、そろそろ奴が来る…』

シャドウの言葉は最後まで続かなかった。突如屋上の扉が吹っ飛び、シャドウへ激突した。

『グッ!!?』

土煙の中から放たれる6発の波動弾。シャドウはそれを避けるが、箒たちには全員1発ずつ命中。箒たちの中に潜んでいたシャドウの粒子を消滅させた。

『いきなりご挨拶だな、ウルトラマン』

マントに付いた土埃をはたきながら、シャドウは土煙を方を向く。

「ハア、ハア、ハア!」

土煙が晴れたそこには…息を切らし、壁に寄りかかった状態でブラストショットを構える一樹の姿があった。

「…どうやって、俺に気付かせずに出来た」

ブラストショットを構えたまま、一樹は聞いた。

一夏ならともかく、一樹にはエボルトラスターがあるのだ。シャドウの粒子なら、エボルトラスターが感知した筈なのだ。

『正直なところ、私もそれが分かっていない。ひとつの可能性としては、あくまで私の粒子であって、ビースト細胞では無かったから…というくらいか』

「屁理屈、と言いたいが…こっちにも否定する材料が無い。だが、あそこまで怨念を増幅する以上、お前の力が必要な筈だ」

『なにも常に増幅させているわけではない。貴様が以前私を倒してから、何度ウルトラマンとして戦った?』

その回数、5回。

「…まさか」

『そうだ。貴様らが戦っている時は、私の力を使ったところでビースト反応に差は無い。貴様が戦っていた戦闘の回数分、怨念の数値を2倍にしていただけだ』

つまり、2の5乗…

「32倍か…」

『そうだ!それだけ倍増させても、大した数値にならなかったのも2人いたが、他はいい具合に増えてくれたよ!おかげで私は、タイラントを呼び出して尚、力が有り余っている!!』

「……」

一樹にとって最悪のタイミングで、タイラントは現れた。こうしてる今も、タイラントは街を破壊している。

『貴様に対する怨念が集まった怪獣だ。今まで戦って来たどの怪獣よりも、貴様に対しては過去最強に凶暴で、凶悪だ!貴様はアレに勝てるかな?楽しませてもらうぞ!!』

そう言って、シャドウは闇に包まれて消えていった。

「……」

とりあえず、一樹は持ってた十得ナイフで箒たちの縄を切り始める。

「その…櫻井」

「…どうした」

悪感情エネルギーを吸い取られたダメージが残っているのか、弱々しく箒が話しかけて来た。

「すまない…私たちのせいで…」

「シャドウの粒子に気付けなかったのは俺だ。お前たちが気にする必要は無い」

「です、けど…」

「宗介に何言われたかは知らないけど、夏の件はお互い謝った。今回俺が追い出されたのは、お前らのせいじゃない」

あの時、個人回線で聞いた時、5人の言葉は共通していた。

『出て行けと思わなかった、と言えば嘘になるが、今はそこまででもない』

と…いくら一夏と言えど、自分の他に全く男子がいないと精神的に参ってしまう。

それに、専用機持ちたちは見ていたのだ。一樹とふざけている時の、一夏の満面の笑みを。自分たちでもそれを出すことは出来るだろう。だが、同性同士だから出来る話がある。出来る遊びがある。思春期の大切な時期に、それは大切な宝物になる。

「アタシたちは…なにをすれば良い?」

「何もしなくていい。強いて言うなら、安全なところへ逃げろ。その体じゃ、まともにチェスターも操縦出来ないだろうしな」

十得ナイフでは縄を切るのに時間がかかる。しかも下手に引っ張ると彼女たちの肌に痕が出来てしまう。それを気にする一樹の、何気ない優しさ…

「ありがとう…櫻井、君…」

「すまない、櫻井…」

他の3人に比べて、比較的意識ははっきりしているシャルロットとラウラ。

「…どういたしまして」

縄を切りながら、一樹はそう返したのだった。

 

《ギャオォォォォ!!》

街で暴れるタイラント。そこに、δ機が飛んで来た。

「…これ以上は行かせねえよ」

クアドラブラスターを放ち、タイラントを怯ませる。

《ギャオォォォォ!》

タイラントは数歩下がると、δ機に向かって炎を吐いた。

「ッ!」

咄嗟に操縦桿を横に倒して、火炎放射を避ける一夏。

 

 

ブチッ!

「よし、やっと切れた。あと少し待っててくれよ…っと」

結び目が切れた縄を5人から外す一樹。そして、落ちていた待機アクセサリーを渡す。

「すまない…」

ラウラが頭を下げるのを、一樹は止める。

「もう謝罪は良い。それより…」

一樹は後ろを向く。そこには、暴れるタイラントを止めようと奮闘するδ機の姿が…

「アイツを止めないと、な」

 

《ギャオォォォォ!!》

タイラントは、一樹たちのいるビルに向かって、鉄球からムチを飛ばした。

 

「「「「アアッ!!?」」」」

目の前にムチが迫り、思わず頭を抱える5人。一樹は、ムチを見据えながらエボルトラスターを引き抜いた。

 

「デェアッ!」

《ギャオォォォォ⁉︎》

光に包まれたウルトラマンが現れ、タイラントに突進。タイラントは吹き飛ばされ、大地に転がる。

ウルトラマンは握っていた右手を地面に近づけて、ゆっくり開いた。その手から、気絶していた5人が降ろされた。

 

「一樹…みんな」

δ機からそれを見ていた一夏。

「今は…コイツを止めないと」

 

《ギャオォォォォ!》

ウルトラマンを見つけたタイラントが、ムチを振り下ろして来た。

「シュッ!」

それを前に飛び込んで回避するウルトラマン。そのまま、タイラントの腹部に蹴りを入れる。

《ギャオォォォォ!》

しかしタイラントはビクともせず、逆にウルトラマンを蹴り飛ばした。

「グアッ⁉︎」

 

「簪ちゃん、無理しない方が…」

「大丈夫…私も、戦う…!」

γ機に搭乗しようとする簪を、雪恵は心配する。しかし、搭乗者が少ないのも事実なのだ。

『なら、最初からストライクチェスターで行く?』

「「それだ!」」

束の意見に、雪恵と千冬が賛同した。

 

「グッ、グゥッ⁉︎」

ピコン、ピコン、ピコン

いつになく、エナジーコアが鳴り始めるのが早い。一樹の体力が、それだけ消費されているという事だ。

タイラントのムチが首に絡まり、呼吸が出来ない…

《ギャオォォ!》

「グアッ!!?」

そんな状態のウルトラマンを、タイラントは鎌で殴り続ける。何度も、何度も。

《ギャオォォォォ!!!!》

「グアァァァァァァァ!!?」

最後に殴り飛ばすタイラント。だが、ムチはウルトラマンの首に絡まったままだ…

「ちくしょう!」

δ機も懸命にタイラントを攻撃するが、タイラントは全く意に返さない。δ機だけでは、火力が足りないのだ…

「どうすれば…」

一夏が戸惑っていると…

『織斑君!お待たせ!』

ストライクチェスターが飛んで来た。

「ナイスタイミングだ!すぐに合体するぞ!!!!」

『分かってる!』

ハイパーストライクチェスターとなって、タイラントに狙いを定める。

「喰らえ!」

ウルティメイトバニッシャーをタイラントに向けて撃つ一夏。それはタイラントに直撃したように見えたが…

「うそ、だろ…?」

タイラントは、腹部にある口でウルティメイトバニッシャーを吸収した。

《ギャオォォォォ!!!!》

 

『ははははは!良いぞタイラント!その調子でどんどん暴れろ!!!!』

少し離れた丘から、シャドウは戦いの様子を見ていた。

予想以上に暴れてくれるタイラントに、笑みを浮かべながら。

 

《ギシャァァァァ!!》

「フッ⁉︎」

タイラントは吸収したウルティメイトバニッシャーを自分の技として分析したのか、口から熱線を吐き出した。

「グアァァァァァァァ!!?」

強力な熱線をまともに喰らい、ウルトラマンは膝をついた。

 

『熱っ!!?』

「どうした⁉︎雪恵!」

 

「アッ、アァ…」

《ギャオォォォォ!!》

もはや力尽きようとしているウルトラマン。タイラントは、そんなウルトラマンを容赦なく叩きつける。

「グゥッ⁉︎」

エナジーコアの音が、どんどん早くなっている。

せめて一矢報いろうと、パーティクルフェザーでムチを切断した。

「シェアッ!」

《ギャオォォォォ!!?》

そして首からそれを振りほどき、念力で槍に変換、腹部の口に突き刺した。

「デェアッ!!」

《ギャオォォォォ!!?》

そして距離を取り、クロスレイ・シュトロームを放つ。

「シュアッ!!」

タイラントの腹部から爆発がおこる。

だが…

《ギャオォォォォ!!!!》

タイラントは、倒れていなかった。

「フッ、シュ…」

何とか立ち上がろうとするウルトラマンだが、体に力が入らない…

《ギャオォォォォ!!!!》

そんなウルトラマンに、タイラントは突進してくる。

「グアァァァァァァァ!!?」

その突進をまともに喰らったウルトラマン。吹き飛ばされてる中で、消えてしまった。

《ギャオォォォォ!》

『タイラント、一旦引くぞ』

シャドウの指示に従い、タイラントは闇の中へと消えた。

 

「ぐっ…ああっ…」

街にある小川に、一樹はいた。

体に力が入らず、うつ伏せに倒れてしまう。懐から、エボルトラスターが出て、川に流れていってしまった…




一樹の体はまたボロボロになっていく。

それでも、彼は逃げない。

大切なものを、守るために。


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Episode86 協力-コウポレーション-

昨日はすみませんでした!

切り時が分からなかったんです!

今回は色々な要素をぶっ込みました!

だから長い!一万文字以上あるよ!

お楽しみ下さい!




あれ…俺、どうしたんだっけ…?

ああそうだ。タイラントに負けたんだ…

それで川に倒れて…ん?おかしいぞ。

俺は確かに川で倒れたんだ。

なのに…なんでこんな温かいんだ?

 

 

「かーくん…」

雪恵は、病院のベッドで眠る一樹の手を握っていた。

「また…無茶してたんだね…」

セリーから聞かされた、一樹の過酷な特訓。実際、智希と和哉の手で病院着に着替えさせられてる一樹の体は、真新しい火傷があった…

「……バカ」

 

 

小川をどんどん流れていくエボルトラスター。

それは、魚を取ろうと網を張っていた少年に拾われる。

「…?何だこれ?」

「サトル兄ちゃん、どうしたの?」

「あ、ミナ…なんか、川をこれが流れてきたんだ」

エボルトラスターを不思議そうに眺めるサトル。

「ねえねえサトル兄ちゃん!この部分とかウルトラマンのに似てない?」

エボルトラスターの中心部の宝石を指すミナ。

「あ、本当だ…じゃあ、これはウルトラマンの大切な物なのかな…?」

 

 

「…ウッ…グッ…」

「かーくん…」

魘されている一樹の顔は、汗だらけだ。

雪恵は、ただ側でその汗を拭うことしか出来ない。

「……ゆ……き……」

「?」

「そっちは……危ない、ぞ……」

「……」

一樹が見てるのは、あの時の悪夢…

「大丈夫…私は、ここにいるから」

 

 

『ふむ…苦し紛れに放った技が、まさか腹部を使えなくしていたとはな。相変わらず楽しませてくれる』

シャドウは、タイラントが受けた傷を調べていた。

『まあ良い。これくらいなら、簡単に直せる。タイラントはまだまだ体力がある事だしな』

 

 

「……ん?ここ、は……」

一樹が目を覚ますと、そこは病院だった。

「…誰かが、見つけてくれたのかな?」

ゆっくり起き上がろうとすると、左手を握られてることに気づく。

「…ん?」

ふと横を見ると、雪恵が寝ていた。その顔に、涙の跡が…

「…また、泣かせちゃったか…」

空いていた右手で、ゆっくりと雪恵の頭を撫でる一樹。

「う、ううん…」

パチッ、と擬音が付くのではないかと思う程、勢いよく雪恵の目が開いた。

「…かーくん?」

「おはよう、雪」

「かーくん!」

凄い勢いで抱きついてくる雪恵。

 

ズキッ…

 

「(ッ…今回は、随分派手にやられたみたいだな…)」

雪恵に抱きつかれ、全身の傷が痛む。

だが、そんなことはおくびにも出さず、雪恵の頭を撫で続ける一樹。

「なあ、雪。お前が俺をここまで運んでくれたのか?」

気になっていたことを聞く一樹。

雪恵はその問いに首を振った。

「ううん、私じゃないよ」

「じゃあ誰が…」

「看護師さんの話だと、()()()()()()()()()()()()()()()らしいよ」

「…あー、とりあえず誰かは分かった」

一樹の知り合いに、その特徴が当てはまるのは1人しかいない。

 

 

「…という訳で、一樹君を病院に連れて行きました」

「そうか。やはり彼の体はボロボロだったか…」

ダンの店に、一樹を病院まで運んだ男がいた。その男の名は、【北斗星司】

ダンや光太郎と同じ、『マント持ち』だ。

「タイラントは、僕達が戦った時よりも、強力でした」

「アレは恐らく、()()()()()()()絶大な力を持っている」

「というと…?」

「以前我々が戦ったタイラントは、『ウルトラ戦士達に対する怪獣達の怨念』が集まって生まれた…これは分かるな」

「え、ええ…」

ダンの説明に、戸惑いながらも耳を傾ける北斗。

「対して今回のタイラントは、『一樹君に対する怨念』が集まって生まれたのだろう…」

「なっ!!?一樹君が誰かの怨念を受ける筈が…」

「私だってそう思いたい!だが…彼には怨念を受けるような事があったという事だ」

「ま、まさか…」

「そうだ。彼にとって最も大切な人…田中雪恵の脳死事件だ」

 

 

「……ッ⁉︎」

何気なく自分の荷物入れを見た一樹は、体に走る痛みを無視して棚を漁る。

「…かーくん?」

背中に雪恵の声が聞こえるが、一樹はそれどころではない。

「無い…無い…どこにも無い!」

「か、かーくん?ミオちゃんならここに」

ミオの待機形態である首飾りを見せる雪恵。

「あ、ありがとう…って違う!確かにそれが無くなっても困るけど違う!」

『ちょっとマスター⁉︎違うってどういう事⁉︎』

「アレが無えんだ…エボルトラスターが無えんだよ!!!!」

『「!!?」』

それがどれだけ大事なものか、理解してる2人は事の重大さに気づく。

「雪にミオ!悪いけど一緒に探してくれ!!!!」

「う、うん!」

『分かったよマスター!』

雪恵と実体化したミオも、一緒に探すが、病室のどこにもエボルトラスターは見つからなかった。

「…ミオ、一旦戻れ」

『うん…』

ミオが首飾りの中に戻ると、一樹は病院着から私服に着替え始める。

「ちょ、かーくんダメだよ行っちゃ!」

「何としてもアレは見つけなきゃなんねえ…まずはダンさんの店に行かなきゃ」

扉を開ける一樹。

「駄目だよ一樹君、まだ寝てなきゃ」

一樹が抜け出すことを予想していた遥香に立ち塞がれた。その近くには宗介に智希までいる。

「そうだそうだ、寝てろ寝てろ」

「心配しなくたって、仕事は終わらせてやるからさ」

「今はそんな呑気なこと言ってらんねえんだ!どいてくれ!」

「「やなこった」」

一樹は内心舌打ちする。これが一夏や弾だったら、今の体でも気絶させるくらいは出来た。だが、目の前にいるのはS.M.Sでもトップクラスの宗介に智希なのだ。この体では、押し通る事は出来ない…

「かーくん、戻って…?」

「……なら、宗介に智希。ひとつ頼みがある」

後ろから聞こえる雪恵の声に、一樹は折れた。ただ、物が物なだけに宗介たちに探してもらうことにした。

「ここを通せ、とかじゃなければ聞いてやるぜ?」

「右に同じく」

「分かってるよ…頼みってのは、この写真のやつを探してくれ」

「「ん?」」

一樹がスマホで、エボルトラスターの写真を見せる。

「「!!?」」

「分かってくれたか?」

「分かった!すぐに探し始める!」

「お前はそこで寝てろ!」

宗介と智希が走り出す。

「ちょ、2人とも!病院は走らない!」

遥香のツッコミをスルーして、2人は病院を飛び出していった。

「…さて、一樹君?」

「わあってるよ。ここで大人しくしてればいいんだろ」

「よろしい。監視役は雪恵ちゃんにセリーちゃんだからね。気絶させようとも思わないでしょ?」

「…お前、いつの間にそんな黒くなったんだ?」

「知恵がついたって言って欲しいな…ま、動かなければ特に制限は無いから。ごゆっくり」

「ねえ、仮にも医者が『ごゆっくり』なんて言っちゃダメだと思うんだ」

一樹のツッコミをスルーして、遥香は病室を出て行った。

 

 

「シャドウに、お前らの中の悪感情エネルギーを利用された、か…」

「信じてくれるの?」

学園の医務室で、俺は比較的軽症なシャルとラウラから話を聞いていた。

「…ああいった奴に常識は通用しないのは、身をもって知ってるからな」

「…そうだな」

自嘲気味に笑う俺に、ラウラも笑ってくれた。

「とにかく、そんな訳だから私たちはしばらく動けない…櫻井が助けてくれなかったら、死んでたくらいには」

「……」

「あの時、縄は切れてた。けど、僕たちは腰が抜けて動けなかったんだ」

「…それを、一樹が助けてくれたのか?」

「ああ」

 

 

「恐らく、今の一樹君はまともに動けない。いざという時のために、待機しててくれ」

「はい、分かってます」

北斗が店を出ようと席を立った時、店の扉が開いた。

 

カランカラン

 

「いらっしゃい…ん?君達か」

ダンが接客しようと出入り口に向かうが、そこにいたのは、一馬と和哉だった。

「ハア、ハア、ハア!すみません、北斗さんはいますか⁉︎」

先に息を整えた和哉が聞く。ダンは頷くと、北斗のところへと案内する。

「お、星野一馬君に倉野和哉君だったかな?僕に何の用だい?」

「実は…」

かくかくしかじか

「何!!?一樹君のアレが無くなっただと!!?」

「そうなんです。流石にあの体で動かす訳にもいかないんで、俺たちが探してるんですけど…北斗さん、何か知りません?」

説明したあと、和哉が北斗に聞いてみるが、北斗は首を横に振った。

「…すまない。僕は見ていないんだ…」

「ああいえ、気にしないで下さい。一樹を助けてくれたのが北斗さんなので、1番に話を聞きに来ただけなので」

頭を下げる北斗に、慌てて一馬が言う。

「となれば…北斗さん、一樹を見つけた川を教えてくれませんか?」

「あそこは…町外れの小川だ」

「それだけでも充分な収穫です!ありがとうございます!」

再び店を飛び出そうとする2人を、ダンが止めた。

「君達、これを持って行きなさい」

ダンが渡したのは、クラブサンドだった。

「その調子だとまともに昼も食べてないのだろう?他の人の分もあるから、持って行きなさい」

「ありがとうございますダンさん!お会計は…」

財布を取り出す一馬を、北斗が制する。

「ここは僕が払うよ。だから君達は行くんだ」

「「すみません!」」

2人に礼を言うと、一馬に和哉は店を飛び出した。

 

 

「…なあ雪」

病室では、一樹がベッドに寝そべった状態で、林檎の皮を剥く雪恵に話しかけた。

「何かな?」

「お前…怒ってるのか?」

雪恵の手が止まる。そして、一樹の方を向く。

「…怒ってて欲しいの?」

逆に問い返すと、一樹は肩をすくめる。

「分かんない、ってのが本音だ」

「そう…怒ってるよ、勿論」

「……」

声音はいつも通りに、雪恵は告げた。

「私に黙ってあんな修行をしてたことも、入院してなきゃいけないのに無茶したことも」

だけど、と雪恵は一旦言葉を止めた。

「…?」

「1番怒ってるのは、そんなかーくんを止められなかった自分自身にかな」

「……」

「それは多分、セリーちゃんにミオちゃんもそうなんじゃないかな?だって…あの子たちにとって、かーくんは唯一のお兄ちゃんだもん」

『聞き捨てなりません雪恵さん、私はマスターならいつだって「ミオちゃん?」イエイエナンデモアリマセンシツレイシマス』

一瞬、わざわざ首飾りから声を発したミオだったが、雪恵からの圧に負けた。それで良いのか最強のコアよ。

「……」

「はあ…かーくんがウルトラマンとして頑張ってるのは分かってるよ?けどさ…全部自分だけで背負ってるのは、やっぱり嫌だな」

「……」

一樹は答えない。雪恵も気持ちも分かるが、こればっかりは譲れない。たとえ…雪恵が自分から離れることになっても。

「ねえかーくん。私たちって…そんなに頼りない?」

 

 

「お兄ちゃん、それどうする?」

エボルトラスターを家に持ち帰っていたサトルとミナ兄妹。

エボルトラスターを今後どうするか兄妹会議中だ。

「ううん…1番はウルトラマンに届けることなんだけど」

「どうやって?」

「それなんだよな…」

怪獣が現れたらいつの間にか現れ、怪獣を倒した途端に消えるのだ。

どこにいるのか、検討もつかない。

「普通に考えたら、警察だけど…」

「警察がウルトラマンに届けられると思うの?」

「んにゃ全く」

警察は対人間の組織だ。対人外のウルトラマンが、警察の誰かと知り合いとは思えない。

「じゃあ…IS学園かS.M.S!」

「そのどっちかだよね…」

サトル少年とミナは頭を悩ませていた…

 

 

「カズキ、これ」

「…んぅ」

熱っぽくなった一樹は、大人しく寝ていた。時折、セリーがスポーツドリンクを飲ませてくれるのがありがたい。

雪恵も水で濡らしたタオルを頭の上に置いてくれる。

そんな時だった。

一樹に、タイラントが暴れるのが『視えた』のは。

「ッ!!?」

「…かーくん?」

「カズキ?」

『マスター?』

ガバッと起き上がった一樹を訝しげに見る雪恵たち。

「来る…奴が、また!!」

 

 

『もう傷も塞がった頃だろう…行け、タイラント!!』

ブラックエボルトラスターを振るい、タイラントを呼び出すシャドウ。

《ギャオォォォォ!!!!》

 

 

「来たか!」

IS学園でも、タイラントの出現を察知した。

「タイラントは正面から攻撃してもダメだ。背後に回り、確実に仕留めるぞ!」

「「「「了解!!」」」」

回復した一夏、シャルロット、ラウラに簪がそれぞれ機体に乗り込み、出撃した。

 

 

タイラントが暴れているのを、遠くで北斗は見ていた。

「まだだ…まだ僕が出るわけにはいかない…!」

自分はあくまで最後の切り札。この世界を守るのは、あくまでこの世界の人物であるべきなのだ。今の北斗に出来るのは、住民の避難を誘導するぐらいだった…

 

 

「お兄ちゃん!早く逃げなきゃ!!」

「分かってる!」

サトルとミナは避難しようと走っていた。だが、サトルはいきなり立ち止まる。

「…お兄ちゃん?」

「ミナ、お前は先に逃げるんだ」

「え⁉︎お兄ちゃんは!!?」

「今、あそこに行けばIS学園かS.M.Sの人がいる筈だ!その人に、これを渡せば…!」

「でも危ないよ!一緒に逃げよう!」

ミナがサトルの手を引こうとするが、サトルはそれを振り払った。

「行け!ミナ!!」

「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁん!!!!」

慌ててサトルの後を追うミナ。

 

 

一樹は、サトルとミナがタイラントに向かって走るのを『視た』

「そっちは危ねえぞ!」

もう体の痛みなど気にしてられない。病院着を脱ぎ捨て、素早くS.M.Sスタイルに着替えると、唯一残ったブラストショットを持って駆け出そうとする。

「かーくん…」

「止まって、カズキ」

だが、出入り口に雪恵とセリーが立ち塞がった。

「…頼む、どいてくれ。お前らに、手荒な事はしたくない」

一樹の目は、決して引かないと告げていた。

「……なら、約束して」

「……何だ?」

雪恵は、小指を伸ばして一樹に言う。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って」

ただそれだけ、一樹に言う雪恵。その顔は、今にも泣きそうだ。

「…ああ、()()だ」

雪恵の小指に、自身の傷だらけの小指を絡めて、約束する一樹。

「……ユキエは私が守るから、カズキは、()()を守って」

セリーの力強い言葉に、一樹は頷く。

「じゃあ、行って来る…」

「うん…」

雪恵とセリーが扉から退くと、一樹は走り出した。

 

 

「クソッ!背後に回れねえ!!」

火力的に合体せざるを得ないチェスターでは、タイラントの背後から攻撃出来ない。

『一夏!一旦分離して…』

「ダメだ!それじゃ攻撃を加える事は出来ても、倒す前にこっちが負ける!」

『しかし、このままでは…』

ラウラの言う通りだ。このままでは、どっちにしても負ける…

そんな時だった。

『昔、贅沢三昧の王妃様は言いました。【パンが無いなら、ケーキを食べれば良いじゃない】と。だから…』

『火力が足りないなら…』

『機体の数を増やせば良いんです』

新たな機体が2機、援護に来た。その機体は、ついさっき宇宙から届いたS.M.Sの翼…VF25シリーズ(トルネードパック装備)だった。

「宗介、和哉、智希!!?」

F型に乗る宗介、A型に乗る和哉と智希の名を叫ぶ一夏。

『S.M.Sの櫻井宗介に倉野和哉、長峰智希。内閣防衛府からの要請により、この戦闘に参加する』

代表して宗介が、IS学園に通信を入れた。

『サポート、感謝する!』

千冬の歓喜の声が、それぞれの機体に響いた。

『俺たちが気を引くから、そちらで奴の背後を攻撃してくれ』

「了解!!!!」

ハイパーストライクチェスターが上昇し、場所を譲る。

『んじゃ、行くぜ!』

『『おう!!!!』』

牽制のガトリングガンを撃つバルキリー2機。タイラントがバルキリーに向かって熱戦を撃とうとするが…

「そこだ!!!!」

ガラ空きのタイラントの背中を、ウルティメイトバニッシャーで攻撃する。

《ギャオォォォォ!!?》

「よっしゃあ!!」

漸く、タイラントに攻撃が当たった瞬間だった。

 

 

「急がなきゃ!」

「待ってよお兄ちゃん!」

誰か必ずいる筈…と人を探すサトルとミナ。その2人を、一樹が止める。

「君達!こっから先は危険だ!」

サトルとミナは、一樹の着てる上着を見て、目的の人物だと分かった。

「S.M.Sだよお兄ちゃん!」

「そうだなミナ!やっと見つけた!」

「見つけた…?」

訝しげに2人を見る一樹。サトルはそんな一樹に、ポケットから出したエボルトラスターを渡す。

「⁉︎」

「あの、これをウルトラマンに渡してくれませんか?きっと大切な物なんです」

サトルからエボルトラスターを受け取った一樹は、それを力強く握りしめる。

「…分かった。これは兄ちゃんが絶対ウルトラマンに渡す」

「本当にお願いしますよ、お兄さん」

確認するようにミナが言ってくるのを、一樹は笑顔で頷く。

「約束するよ。だから君達は早く安全な場所へ行くんだ」

「はい!行こうミナ」

「うん!」

その兄妹は、仲良く手を繋いで走っていった。

「ありがとな、確かに受け取ったよ」

そんな兄妹の背中に、ウルトラマン(一樹)は礼を言うのだった。

 

 

「放熱が追いつかねえ!簪頼む!」

『任せて…!』

γ機に乗る簪が、タイラントの背中を次々視線ロックオン、スパイダーミサイルでタイラントの背中を攻撃した。

《ギャオォォォォ!!?》

 

 

一樹は周りに人がいないのを確認すると、エボルトラスターを引き抜く。一旦胸元に引き寄せると、天空へと掲げた。

「はっ!」

エボルトラスターが眩い光が溢れ、一樹をウルトラマンへと変身させた。

 

 

「デェアァァァァッ!!!!」

《ギャオォォォォ!!?》

ウルトラマンの跳び蹴りに、タイラントは吹き飛ぶ。その隙にウルトラマンは着地し、力強く構える。

「シェアッ!!」

 

 

「あ!ウルトラマンだ!」

「やったねお兄ちゃん!」

サトルとミナ兄妹の目に、力強くウルトラマンが映った。

 

 

「来たか!一樹君!」

北斗もまた、ウルトラマンの登場を喜んだ。

 

 

「見つけられたのか、アレを!」

宗介が何気なく呟くと、智希から通信が入る。

『じゃあさっさと終わらせようぜ!アイツがまた寝込む前に!』

「ああ!そうだな!」

 

 

「フッ!」

《ギャオォォォォ!!》

ウルトラマンはタイラントに向かって駆け出す。タイラントは左手の鉄球で殴りかかるが、それはウルトラマンの右腕によって捌かれ、逆に胴に回し蹴りを喰らう。

「デェアッ!」

《ギャオッ!!?》

だが、タイラントも負けていない。右手の鎌で、ウルトラマンの腹部を殴りつける。

「グアッ!?」

思わず蹲るウルトラマンに向かって突進するタイラント。ウルトラマンはタイラントの背中を転がるようにしてそれを回避。振り向いたタイラントの頭を掴むとニーキックに2連発し、投げ飛ばした。

「シェアッ!!」

《ギャオォォォォ!!?》

以前より明らかに強くなってるウルトラマン。

タイラントはそんなウルトラマンに向けて熱戦を放つ。

「フッ!ハッ!」

それを華麗に舞うように避けるウルトラマン。

連続で放たれる熱戦を避けきると、飛び上がり、タイラントの背後に回る。

「シェアッ!」

素早くパーティクルフェザーを放つが、タイラントの腹部に吸収される。

 

 

『『『「隙ありゃァァ!!!!」』』』

戦闘機に乗る男子が、タイラントのガラ空きの背中にそれぞれの光線を撃つ。

 

 

《ギャオォォォォ!!?》

背中に強力な熱光線を受けたタイラントが、大きく仰け反る。

「フッ⁉︎シェアッ!!」

その隙を逃さず、クロスレイ・シュトロームを放つウルトラマン。

《ギャオォォォォ!!?》

見事にタイラントの腹部に直撃。もうタイラントは光線の吸収が出来ない。

《ギャオォォォォ!!!!》

タイラント怒りの熱戦。ウルトラマンはそれを気にせずに突っ込む。熱戦は、ウルトラマンが回避するのを前提としていたのか、中々当たらない。

《ギャオォォォォ!!!!》

業を煮やしたタイラントは、ウルトラマンへ直撃させるコースへ熱戦を吐いた。

「シュアッ!」

それを飛び込み前転で避けるウルトラマンだが、起き上がりに熱戦を喰らった。

「グアァァァァァァァ!!?」

後ろに吹き飛ばされるウルトラマン。

しかし、今度はバルキリー2機とハイパーストライクチェスターの攻撃がタイラントに命中した。

《ギャオォォォォ!!?》

タイラントは3機に向けて熱戦を吐く。

3機はそれを散開することで避けた。

「フッ!シェア!」

起き上がったウルトラマンは素早くジャンプ。かかと落としをタイラントの頭部に決めた。

《ギャオォォォォ!!?》

「フッ!?」

着地したウルトラマンを、タイラントの長い尾が捕らえた。

「グアァァァァァァァ!!?」

捕らえたウルトラマンに、鉄球で殴りかかるタイラント。かろうじてそれを避けるが、尾の鋭い先端がウルトラマンのエナジーコアに突き刺さり、エネルギーを吸い取ろうとしてくる。

「グアァァァァァァァ!!?」

ピコン、ピコン、ピコン

 

 

「離しやがれ!!!!」

一夏たちのハイパーストライクチェスター、宗介たちのバルキリーがそれぞれタイラントを攻撃しようとするが、タイラントは口から熱戦を吐き、それを許さない。

「くそッ!!!」

 

 

そんなウルトラマンと一夏たちのピンチを見た北斗は、ついに動くことにした。

「待ってろ…今行くぞ!!!!」

両腕を大きく回した後、胸の前で両中指の【ウルトラリング】を合わせた。

「フンッ!!!!」

ウルトラリングから光が溢れ、北斗を【ウルトラマンエース】へと変身させた。

 

 

「ハッ!」

着地したエースは、得意技の【ウルトラギロチン】で、ウルトラマンを捕らえるタイラントの尾を切断した。

「フンッ!!」

《ギャオォォォォ!!?》

尾から解放されたウルトラマンは、切断された尾でタイラントを思いっきり打ちのめした。

「デェアッ!!」

《ギャオッ!!?》

ドロップキックで距離を取ると、ジュネッスにチェンジする。

「フッ!シェア!!」

ウルトラマンがジュネッスにチェンジしている間に、エースがタイラントに肉薄。飛び込みチョップを放つ。

「ハァッ!」

《ギャオッ!!?》

流れるように放たれた後ろ回し蹴りに、タイラントは数歩下がる。そこに、ウルトラマンの跳び蹴りがタイラントの頭部に命中する。

「シェアッ!」

大きく仰け反るタイラントの腹部に、2人のウルトラマンの回し蹴りが放たれる。

「シェアッ!」

「ハァッ!」

《ギャオォォォォ!!?》

蹲るタイラントの頭部を掴み、投げ飛ばすエース。

「フンッ!」

《ギャオォォォォ!!?》

地面に転がるタイラントの腹部に、ウルトラマンの回転かかと落としが決まった。

「シェアッ!」

《ギャオッ…》

その一撃に、タイラントは気絶。ウルトラマンは気絶したタイラントを頭上に持ち上げると、右隣のエース、左のチェスターとバルキリーに頷く。

全員が頷き返すと、大空へと飛び立つ。

「シェアッ!」

「ダァッ!」

その後を追うチェスターとバルキリー2機。

タイラントの内に秘めるエネルギーが爆発した場合、周囲に尋常ではない被害が起こるのは間違いない。その上タイラントの外皮は恐ろしく強固だ。

そのため、ウルトラマンは周りのエース、チェスターとバルキリーに協力を仰いだのだ。

街から充分離れると、ウルトラマンはタイラントを天高く放り投げる。

タイラントが落ちてくるまでに、2人のウルトラマンはエネルギーは溜める。

「シュッ!ハアァァァァァァ…」

「フンッ!」

そして、落下してきたタイラントに、それぞれ攻撃する。

「デェアァァァァ!!!!」

「デュアァァァァ!!!!」

ウルトラマンのコアインパルス、エースのメタリウム光線、チェスターのウルティメイトバニッシャー、バルキリーの強力レーザーの集中攻撃に、タイラントは大爆発を起こした。

「フッ!」

「ダァッ!」

2人のウルトラマンはチェスターとバルキリーにサムズアップ。それぞれに搭乗する人物も、満面の笑み(ヒーロー好きの簪は特に)でサムズアップを返す。

「シェアッ!」

「デュアッ!」

2人のウルトラマンはそれを見ると、大空へと飛び立っていった。

 

 

「北斗さん!」

地球を去ろうとする北斗に、一樹は声をかけた。

「ん?なんだい?」

父親が息子に向けるような笑みを見せる北斗に、一樹も笑顔で駆け寄る。

「2度も俺を助けてくれて、ありがとうございます!」

「いや、気にしないでくれ。僕はそういうのが好きだからね。ただ…」

北斗は真剣な顔になり、一樹に()()()()を送る。

「君の、その優しさを忘れないでくれ。1度仲違いになった人とでも、友達でいようとする気持ちを忘れないでくれ。それが、私が君に望む唯一の事だ」

「…はい!北斗さん!」

「頑張ってくれよ、一樹君」

そう言うと、北斗は大きく手を振りながら、光となって大空へと消えていった。

 

 

タイラントを倒してから数日後、ようやく回復した箒、セシリアが教室に戻ってきた。鈴も勿論、2組の教室に戻っている。

「箒ちゃん、セシリアちゃん、体は大丈夫?」

「ああ、大分楽になったよ。少しばかり、体が軽くなった気がする」

「シャドウの粒子が、完全に体から抜けたからでしょうね」

雪恵の問いに、笑顔で答える2人。そんなところに、千冬が入ってきた。

「おい、早く座れ。今日重大な連絡事項があるんだ」

千冬の指示に、1組の生徒達は流れるように自分の席に着く。素晴らしい統率力だ。

「さて、皆元気そうで何よりだ。突然だが、このクラスに()()が出来た。皆、仲良くしろよ。では、入ってくれ」

千冬の指示に、その人物達が入ってくる。その人物達に、クラスが一瞬で引き込まれる。何故なら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「櫻井一樹です。一応また【護衛役】って名目で来ました。()()()してくださいね」

「田中セリー、またよろしく」

このクラスのヒーローの1人、櫻井一樹と皆のマスコットキャラ、田中セリーが入って来たのだから。

「さて、かたっ苦しい挨拶はこれくらいで…な、セリー」

「うん、言おうね」

2人は大きく息を吸い、呆然としてる1組のみんなに向かって叫ぶ。

「「ただいま!!!!!!!!」」

その言葉に、ハッとした1組にいる一樹とセリー以外の()()が叫び返す。

「「「「おかえりなさい!!!!!!!!」」」」

 




一樹、セリー、おかえりなさい!!!!!!!!


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Episode87 告白-コンフェッション-

うん。いつも通り。


一樹がIS学園に帰って来た。ということもあってその晩は食堂で【櫻井一樹・田中セリー おかえりなさいパーティ】が行われていた。その中心で行われているのは…

「ウノ!」

「「「「早ッ!!?」」」」

ご存知、テーブルカードゲームである。

メンバーは一樹、雪恵、セリー、一夏、本音、薫子、清香である。

そして平均所持枚数が4枚な時点で、ウノ発言したのは一樹である。相変わらず勝負事は尋常じゃないほど強い。

え?何故専用機持ちが参加してないのかって?

それは…

「5のツーペアだ!」

「でしたら7のペアですわ!」

「ちょ、7はアタシが出そうと思ってたのに!パスよパス!」

「僕はJのペア」

「私はKのペアだ」

一夏のマッサージ権をかけた大貧民を行なっているためだ。

「はい上がり!」

「嘘でしょかーくん!!?」

「いんちきだ〜!いんちきだ〜!」

「「そうだそうだ!」」

雪恵が驚き、本音が言いがかりをつけてくる。それに便乗する黛に清香。

「ほう…布仏に相川、変な言いがかりつけてくるなら今度の実技の時間、覚悟しろよ」

とんでもなく良い笑顔で告げると、慌てて訂正する本音と清香。

「人を疑うのは良くないよね本音」

「そうだね〜」

一樹が実技の相手をする=地獄。

それを理解してる2人はすぐに引いた。

「ふふん、私には何も出来ないでしょう?勝った」

そこそこな胸を張る黛。しかし、甘い。

「ふーん…なら今後新聞部のカメラの整備はやらない方向で」

「ごめんなさい私が悪かったからそれはやめてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「…最近、一樹がIS学園を制圧してるのではないかと思う俺」

一樹の勝負事の尋常じゃない強さを昔から知ってる一夏は、そう言うことしか出来なかった。

「カズキ、一緒にやろ?」

今現在、最も手札の多いセリーが一樹の膝に座る。一夏にとって、久々に見る光景だ。

「あ、ズルイよセリーちゃん!かーくんの膝たまには譲ってよ!」

雪恵が見当違いなところに闘志を燃やしていた。

「ユキエ、ここは私の特等席」

「違うもん!私のだもん!」

『違うよ!私のだよ!』

セリー、雪恵、ミオが口論してると、一樹から冷たいオーラが出る。

「…お前ら、俺が黙ってるからっていい気になってるんじゃねえだろうな?」

「ユキエ、早い者勝ちってことでどう?」

「仕方ないからそれで良いよ」

冷や汗を流しながらすぐにルールを決める雪恵とセリー。だが…

『ふふん、それなら私はいつでもオッケーだね。なにせいつでも実体化出来るし』

「「な!!?」」

ミオの発言に、雪恵とセリーが憤慨する。

それも、一樹の一言で収まる。

「心配すんな。ミオは勝手に実体化出来ないから」

「かーくん、ミオちゃんは1年くらい実体化させなくて良いと思う」

『雪恵さん!!?それは酷すぎない!!?』

「そうだよユキエ」

『そうだそうだ!セリーちゃんもっと言ってやって!』

セリーから助け舟が出たと思ったミオが、セリーに同調するが…

「1年じゃ短すぎるよ。そこは10年くらい実体化しなくて良いと思う」

『もっと酷かった!!?』

雪恵以上にセリーは厳しかった。

 

 

「あ、あのさ一樹…」

「あん?何だよ」

俺は、今日1日ずっと気になってた事を一樹に聞くことにした。

「ミオって……誰?」

「「「…あ」」」

 

 

「説明すっかり忘れてたわ…ミオ、出てこい」

『あいあい。今回の格好はなんと!鈴ちゃんと同じ…』

「それはやめてやれ。凰のメンタル的な意味で」

「ちょ!どう言う意味よ櫻井!」

「ごめん鈴ちゃん、私もそう思う」

「だから何で!!?」

鈴が聞き捨てならないとばかりに突っかかってくる。

「とにかく、普通の格好でな」

『普通って何ですか〜?』

ふて腐れたミオが投げやり気味に反論してくる。

 

ブチッ

 

『…ブチッ?』

一樹は無言で空中投影キーボードを出すと、ミオのデータを弄ろうとする。

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!許してマスター!!!!』

意識空間の中で土下座しているであろうミオ。実際、一樹の脳裏に土下座しているミオが映っている。

「…普通の格好で来い」

『…あい。雪恵さんと同じで良い?』

「おう、それが妥当だろ」

一樹の許可を得て、ミオが実体化する。それを見た鈴は…

「う……そ……」

両手両膝をついたのだった。無理もない。自分より女性らしい体つきなのだから。

『マスター…櫻井一樹がいつもお世話になってます。私の名はミオ、よろしくお願いします』

「「「「あ、ご丁寧にどうも」」」」

一周回って冷静になった面々。

一樹なら何があっても不思議じゃない、と言ったところか。

『マスターに敵対する人物は、今後コアネットワークを使って社会的に抹殺しますので、よろしくお願いします』

「「「「は、はいぃぃぃぃ!!」」」」

()()()()で告げるミオに怯えるパーティ参加者。

『ふふん、マスター褒めて褒めて♪』

今度は小動物の様に一樹に駆け寄るミオ。そのギャップに、更に恐怖を覚える1組生徒たち。

『マスターマスター♪』

「……」

ちょいちょい、とミオを呼び寄せる一樹。嬉しそうに小走りで一樹に近づくミオ…

 

ぐーりぐり…

 

『痛い痛い!!?マスターそれ痛い痛い痛い!!?』

「なぁ〜に皆を怯えさせてくれちゃってんの?お前そんなドMなの?そんな仕置き喰らいたいの?」

『マスター限定だよ♪って圧縮ぅぅぅぅぅ!!?』

地雷を踏み抜くミオに、一樹のぐりぐり攻撃が…

「次余計な事をしてみろ。2度と実体化させねえぞ」

『ごめんなさーーーーい!!!!』

こうして、賑やかにパーティは進むのだった。

 

 

「いやあ、盛り上がったな…」

「うん…やっぱり、櫻井君がいると楽しい」

「お、簪もそう言ってくれるのか?」

「私のヒーロー談義についてきてくれる人は、そうそういない」

「…さ、流石だな」

簪、ヒーローの話をする時は目がキラキラしてるんだよな。

「あ、そういえば楯無さんの具合はどうだ?」

「お姉ちゃんは、しばらく医務室で経過観察…」

つまりは入院って事か。何か差し入れ持って行ってやろうかな。

「楯無さんって、趣味は何だ?」

「えっと…将棋、かな?」

「渋いなオイ」

まあ、俺も一樹とたまにやるけど。

十何年間か一緒に過ごしてて、一度も勝ててないんだよな…いつかは勝ちたいぜ。

「き、気になるの?」

心なしか、簪が緊張してる気がする。何でだろ」

「いや、差し入れにどうしよっかな〜って思ってさ」

「あ、そういう…けん玉で良いと思う。お姉ちゃん、昔からそればっかりやってるから」

「なるほど…あれ?両手骨折してなかったか?」

今更ながら、楯無さんの容体を思い出す。

「骨折自体はナノマシンで治したから…今はリハビリがてら、良いと思う」

「…ナノマシンって、すごいな。じゃあ後は編み物セットでも…」

「お姉ちゃん、編み物下手。私よりも」

「…ほほう。それは良い事聞いた」

いつも遊ばれてるお礼に、編み物セットを持って行ってやろう。

「一夏、悪い顔してる」

「簪もな」

お互い、悪い顔で笑っていると、急にもじもじしだした簪。

「い、一夏!これ…」

「ん?コレって…アニメのBlu-ray?」

「私のオススメ…見て?」

「おう!楽しみだ」

相変わらずヒーロー物だな…

そうだ、ちょっと聞いてみよう。

「(ヒーロー物が)好きなのか?」

「ッ!!?……うん、好き、大好き!!!!」

 

 

「かーくんとセリーちゃん落ち着いて!今行ったら簪ちゃん恥ずかしさで死んじゃう!」

「離せ雪!今回ばかりはアイツにトドメをさす!」

「離してユキエ!アイツを焼かなきゃいけないの!」

少し離れたところでは、雪恵が必死に2人を止めていたのだった…




頑張れ雪恵!

死者を出さないために!


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Episode88 火鳥-バードン-

来るぞ…
地球種最強と言われる奴が!!


『タイラントはやられたが、別に手がない訳ではない』

夜の大熊山に、シャドウはいた。

火口付近の洞窟に躊躇わず入り、ずんずん進んでいく。

『…ふむ、ここら辺か』

洞窟のあるところで止まると、ブラックエボルトラスターを振るった。

ブラックエボルトラスターから放たれた闇が、しばらくその一帯を飛び回る。

そして…

『さあ、現れろ!【バードン】よ!』

闇はある一点で集中し、怪獣の姿へとなる。

《クゥゥゥアァァァ!!》

かつてウルトラマンタロウとゾフィーを一度死まで追い詰めた怪獣、バードンへとなった…

『タロウやゾフィーを倒した個体より、更に毒を強力にしてやった…ウルトラマン、お前はコイツと、どう戦うのかな?楽しませてもらうぞ』

 

 

「王手」

「ッ…強いわね」

IS学園の医務室で、一樹と楯無は将棋を打っていた。

「ってか、楯無も十分強いぞ?大会とかで賞取った?」

「小さい頃に、町内会の大会に出たくらいかしら…?」

「ふうん…王手、詰み」

「あぁっ!!?」

「楯無さんでも勝てなかったか…」

「お姉ちゃんに勝った人…初めて見た」

観戦者の一夏と簪が苦笑している。

「もう一回!もう一回やりましょう!」

「別に俺は良いけど…そろそろ夕食の時間だぞ?」

「嘘ッ!!?」

一樹の言葉に、楯無が慌てて時計を見ると、いつもなら夕食を食べている頃だ。

「じ、時間が経つのが早い…」

「将棋が数分で終わる訳ないだろ…なんだかんだ30分は経つぞ。明日、また来るからさ」

「絶対よ!明日は絶対勝つんだから!」

「言ってろ」

じゃ、お大事に。

一樹達はそう言って、医務室を出た。

 

 

「この学園、蕎麦も美味いんだな!」

夕食を、ようやく()()()食堂で食べれるようになった一樹。

…無意識に安そうな物を食べるのはいつも通りだ。

「和食も洋食も、中華も全部美味いんだぜ。この味は俺には出せねえな…」

チキン南蛮定食を食べながら言う一夏。

「お前は家庭料理としては充分だろうがよ…普通職人でもない男がおせち作れるかってんだ」

「いや、レシピを見ながらだと結構簡単だぞ?」

「だとよオルコット。ちゃんとレシピ見ながら作って味見をしろ」

「な、何で私を見るんですの!!?」

急に話を振られたセシリアが憤慨する。

「赤色が足りないからって理由でタバスコ入れるようなやつが文句言ってんじゃねえ!」

食に関しては人一倍うるさい一樹の圧に、セシリアはおろおろするだけだ。周りの専用機持ちとしては、『櫻井、もっと言ってやれ』といったところだろうか。

「カズキ、お蕎麦一口ちょうだい。私のも一口あげるから」

「お、良いなそれ。雪も参加するか?」

「うん!」

セリーのナポリタン、雪恵のエビグラタンをそれぞれ一口ずつ交換する。

「うん、ナポリタンはケチャップが濃すぎない絶妙なバランスだし、グラタンもホワイトソースがマカロニと上手く絡まってて美味い!」

少年のような笑顔を見せる一樹。相変わらずそのギャップが凄い。

「一樹、俺とも交換しようぜ」

「ん?なら残ってる肉全部と蕎麦一口分交換な」

「俺だけレートが違いすぎませんかね⁉︎」

「俺と千冬はお前に対して厳しくいくことにしてるんだ」

「関係ないよね!!?それはレート関係ないよね!!?」

「お前は割と思った通りにこの学園動かせれるだろうが」

「どこが!!?めちゃくちゃ振り回されてますけど!!?」

「お前周り見てみ?『そんな馬鹿な』って顔で見られてるから」

「それこそ馬鹿な!!?」

一夏が見た途端、凄い速さで視線を逸らす女子多数。

「なん…だと…?」

「順調にハーレム築いてるからな。卒業する頃にゃほぼ全ての生徒がお前の彼女かもな」

「んな訳あるか!!ってかハーレム築いてねえし!!!!」

「どの口が言ってんじゃごらぁ!!」

「ええ!?そこでお前がキレるの!!?おかしいでしょ!!?」

「上等だ…今すぐ表出ろやごらぁ!!!!」

「ああもうやけくそだ!!!!やってやるよ!!!!」

ちゃっかり食べ終わっていた一樹と一夏が立ち上がる。

『ちょ、マスター!!?そんなことしたら近所迷惑だよ!!?』

『2人が全力出したらここが消えちゃいますよ!!?』

2人の機体がそれぞれ悲鳴をあげるが、興奮気味の男子には聞こえていない。周りの生徒も興味深々と言った顔で2人を見る。

…というよりも、誰1人止められないというのが本音だが。

 

ドックン

 

「ッ!!?」

懐のエボルトラスターが反応した一樹は、急に顔を厳しくする。

「…一夏」

「…了解」

一夏も察すると、2人同時に駆け出した。

「雪!セリー!みんなを部屋に行かせろ!」

「うん!」

「気をつけてねカズキ!」

 

 

格納庫では、束がチェスターの整備をしていた。そこに、一樹と一夏が駆け込んできた。

「ど、どうしたの2人とも?」

「束!チェスターは動かせれるのか⁉︎」

興奮してるあまり、束を呼び捨てしてる一樹。

「え、えと…δ機だけは…」

「無いよりマシです!一樹は後ろに…」

「いや!俺はバルキリーに乗る!」

一樹の『足』として新たに学園に運ばれたVF-25Fのトルネードパック装備型…それに飛び乗る一樹。

「いつの間に!?」

「飛びながら説明してやるよ!櫻井一樹、出るぞ!」

「ちゃんと説明してくれよ⁉︎織斑一夏、行きます!」

その後駆け込んできた者達は、チェスターの整備中が理由により出撃出来なかった。

 

 

『で?何でそのバルキリーが学園に?』

「フェニックスだとジェネレーター出力の都合上、ビーム兵器の威力が期待出来ない…のは分かるよな?」

『まあ、実際乗ってるし』

「で、だ。俺は移動の度に()()()()けど、コイツを使ったほうが早いって結論になったんだ…それに、コレに乗ってれば俺も戦ってるって証になるだろ?」

『…なるほど』

「お喋りはここまでだ。来るぞ」

一樹が言った通りだった。δ機のレーダーが、高速で近づく敵を捕捉した。

《クゥゥゥオォォォォ!!》

バードンを捕捉し、射程に入った瞬間、2機の攻撃が始まる。

《クゥゥゥアァァァァ!!》

バードンは2機の攻撃をものともせずに火球を吐いてきた。

「ッ⁉︎避けろ一夏!」

『分かってる!』

2機が火球を回避してる間に、バードンは学園へと向かっていった。

 

 

《クゥゥゥアァァァァ!!》

バードンは着地すると、人間(エサ)を求めて暴れる。流石のIS学園といえど、怪獣の攻撃に長く耐えれるとは思えない。

「急げ急げ急げ!間に合わなくなるぞ!」

『分かってるよ!』

それを理解してるからこそ、一樹と一夏は自らにかかるGを無視してブーストを全開にしているのだ。

「見えた!」

『タイミング外すなよ一樹!』

「誰に対して言ってやがる!」

一樹のバルキリーが連装ビーム砲、一夏のδ機がクアドラブラスターをそれぞれ撃つ。

《クゥゥゥアァァァァ!!》

バードンの背中に見事命中、注意を2機に向ける事に成功した。

「こっちだ…ついてこいよ」

牽制のミサイルをバードンの足元へ撃つ一樹。変身して戦ったとしても、学園の近くで相手するのにバードンは()()()()()

『…ッ⁉︎一樹!あそこに人が!』

「あんだと⁉︎」

 

 

「みんなダメ!今行ったらかーくん達の邪魔になるよ!」

「わざわざ死にに行く気⁉︎」

雪恵とセリーが必死に止めようとするが、代表候補生達は出撃準備を止めようとはしない。

「…安心しろ雪恵。あの怪獣と戦う訳じゃない」

「じゃあ何で⁉︎」

箒は、紅椿のスラスター推力を調整しながら雪恵に答える。

「無論この準備が無駄に済めば良いのだが…もし逃げ遅れた人がいた場合、私達が囮になるしかあるまい?」

「…ならそれは私がやる。あなた達人間は下がってて」

セリーがその役をやろうとするが、セシリアが首を振る。

「いえ、セリーさんは最後の切り札です。雪恵さんと一緒に学園にいてくださいな」

「…見くびらないで。機体なんかなくても、私はあなた達より強い」

「けど、今のアンタは下手に動けないんじゃない?櫻井がアンタを戦わせたくないってのをあるだろうけどさ。アンタの存在を敵に知られたくないってのもあるんじゃない?」

「……」

鈴の言う通りだ。セリーは以前シャドウに操られて以降、ゼットンへと戻るのを一樹と雪恵に禁じられている。

またいつ、敵性宇宙人に捕まるか分からないから…

そんな時、一樹から通信が入る。

『誰かすぐに飛べる専用機持ちはいるか!とにかく速いやつ!』

すぐさまラウラが答えた。

「1年専用機持ちは全員いつでも動けるぞ!何があった⁉︎」

『体育館前に逃げ遅れてる生徒がいるんだよ!!』

「「「「なっ!!?」」」」

 

 

「いや…いや!」

なんでこうなったんだろう…

佐々木綾音はバードンから必死に逃げながら思っていた。

部活動が終わってからも、自主的に練習を続けていたのが悪かったというのか?確かに夢中になり過ぎて、夕食の時間になってしまっていたが、そんなのはいつもの事だった。

バードンの襲撃さえ、無ければ…

「いやだ…死にたくない、死にたくない!」

 

 

『頼む!誰か救助に行ってくれないか⁉︎俺達で何としてもコイツを引きつけるから!』

「それなら私が行く!細かい場所を教えてくれ‼︎」

一樹の頼みに、箒が立候補した。確かに、今残ってる専用機持ちの中で1番速く飛べるのは、第四世代機の紅椿を駆る箒だろう。

『体育館と本館を繋ぐ連絡通路のところだ!頼むぞ箒!』

「分かった!任せろ!」

一夏から場所を聞いた箒は、スラスターを全開にして飛び出した。

「なら、私とセシリアが援護に回る!」

「それが1番ですわね!鈴さんにシャルロットさん!ここはお願いしますわ!」

「任せない!」

「ここは任せて!」

ラウラとセシリアが箒の後を追い、役割分担が成立した。

 

 

「つう訳だ…絶対に通すんじゃねえぞ一夏!」

『ああ!分かってる‼︎』

バードンにひたすら攻撃する一樹と一夏。

《クゥゥゥアァァァァ!!》

自分を周りをうろちょろ飛び回る2機に苛つくバードン。

その口から、火球が連続して放たれる。

『「チッ!」』

それをバレルロールを駆使して避ける2人。

 

 

「怖い…怖いよ…」

恐怖のあまり、頭を抱える綾音。無理もない。10代半ばの少女が、死線を経験してる方が異常なのだから。

「誰か…助けて…」

 

 

《クゥゥゥ…?》

バードンは突然2機から視線を外し、()()()()()()()()歩き出した。

「なっ⁉︎」

『そっちには⁉︎』

 

 

『バードン、そっちに進めばお前のエサがある。恐怖に震える小娘がな…』

学園から遠く離れたところで、バードンに指示を出していたシャドウ。

『さて、救助が先か、バードンに喰われるのが先か…実に面白いと思わないか?ウルトラマン』

 

 

「間に合え…間に合え!」

箒は出せる全力で紅椿を飛ばしていた。

その目に、恐怖に震える少女が映った。

「ッ!見えた!」

 

 

《クゥゥゥアァァァァ!!》

バードンも、体育館に近付いていた。その翼が、連絡橋に向かって振り下ろされた…

崩れる連絡橋、崩れる瓦礫の中で、涙を流す少女…

「ちくしょうがぁぁぁぁ!!!!」

一樹は少女を救うため、エボルトラスターを引き抜いた。

 

 

ああ…私…死ぬんだ……せめて、死ぬ前にもう一度、話したかったな。()()()()

綾音の目から、涙が溢れる。しかしその涙は、あれだけ恐れた死が訪れる事より、一夏と話せなくなる事だった。

「(さようなら、みんな…さようなら、織斑くん)」

死を察した綾音が、ゆっくりと瞼を閉じる…

「シェアッ!」

だが、地面と激突する前にセービングビュートで綾音は救出された。

 

 

ウルトラマンは綾音を救出すると、箒に向かって綾音を預ける。

「(そいつを頼む)」

テレパシーで箒に告げると、箒は力強く頷いた。

《クゥゥゥアァァァァ!!》

「フッ⁉︎」

目の前で獲物を奪われたバードンは、怒り狂ってウルトラマンに襲いかかる。

「シュッ!」

バードンの突進を受け止め、ウルトラマンは学園とは逆方向に投げ飛ばした。

 

 

「う、うう…」

「気がついたか⁉︎」

気絶していた綾音が目を覚ますと、いつも一夏の周りにいる黒髪ポニーテールの少女がいた。

「確か…篠ノ之さん?」

「ああそうだ!怪我は無いか?」

「う、うん…多分。ねえ、私を助けてくれたのって、篠ノ之さん?」

「いや、私では間に合わなかった。あなたを助けたのはウルトラマンだ」

「ウル、トラマン?」

 

 

《クゥゥゥアァァァァ!!》

「フゥッ!」

バードンの頭突きを受け流し、その胴に回し蹴りを放つ。数歩下がったバードンに、渾身のストレートキック。

「ハッ!」

《クゥゥゥオォォォ!?》

学園から上手く引き離せてこれたため、ウルトラマンはジュネッスへとチェンジする。

「フゥッ!シェアッ‼︎」

 

 

『ふむ…バードンの危険性をどうやら知っているようだな。さっさとメタ・フィールドに送るつもりなんだろうが、そうはいくか』

シャドウの目が、フード越しに不気味に光った…

 

 

「……ッ」

「…どうした?」

突如綾音の目が不気味に光ると、綾音を支えていた箒の手を振り払った。

「ッ!止まってくれ!」

箒の制止も虚しく、綾音は窓から飛び出し、ウルトラマンとバードンの戦場へと走り出した。

 

 

「シュウッ!ハアァァァァァァ…フッ!デェアァァァァ‼︎」

ウルトラマンはバードンを確実に隔離するために、メタ・フィールドを展開した。

そして綾音は、その光のドームへと飛び込んでしまった…

 

 

「メタ・フィールドの展開を確認…織斑先生、突入許可を!」

『ああ!だが、今行けるのはお前だけだ…くれぐれも、無茶をするなよ!』

「了解!ジェネレーター、フルドラ…」

『待ってくれ一夏!』

メタ・フィールドに突入しようとした一夏に、箒からのプライベート・チャネルが飛んでくる。

「何だよ箒」

『メタ・フィールドに行く前にひとつ報告だ…今、救出した生徒が突然暴れて、メタ・フィールドへ突っ込んでいったんだ』

「何だと!!?」

『理由は分からない…だが、メタ・フィールドに入ったらその事を頭に入れといてくれ…』

「了解だ…箒、ひとつ教えてくれ。その生徒が暴れる前に、何か変わった事は無いか?どんな事でもいい…」

『……私の見間違いかもしれないが』

「ああ」

『その生徒の目が、不気味に光った気がしたんだ』

「なっ!!?」

 

 

メタ・フィールド内で、ウルトラマンとバードンは睨み合っていた。

《クゥゥゥ…》

「シュウッ…」

そして、両者は同時に動き出した。

《クゥゥゥアァァァァ!!》

「ハッ!!」

ウルトラマンはダッシュの勢いが加わった飛び蹴りを喰らわせてバードンを怯ませると、そこから怒涛の連続攻撃。バードンの喉元にパンチを放ち、仰け反ったバードンに、回し蹴り。連続攻撃の最後に、強烈なアッパーカットを喰らわせた。

「シェアッ!!」

《クァァァァ!!?》

起き上がったバードンは、火球を連続して放つ。それを、ウルトラマンはアームドネクサスで迎撃する。

「フッ!シュ!ハァッ!」

火球を迎撃しきると、パーティクルフェザーをバードンに放つ。

「ハッ!」

パーティクルフェザーはバードンの腹部に見事命中した。

《クァァァァ!!?》

パーティクルフェザーのダメージに怯むバードン。

「フッ!シェアッ!」

そんなバードンの背後に、マッハムーブで移動すると、ボレーキックでバードンを蹴り飛ばした。

「デェアッ!!」

 

 

「メタ・フィールド、突入成功!」

よし、次は箒が言っていた生徒を探してと…

あ、いたいた…って、あれ?あの顔は…

「……綾音?」

 

 

「フゥゥゥゥ…デェアァァァァ!!!」

頭上高く持ち上げたバードンを、ウルトラマンはメタ・フィールドの大地に叩きつけた。

《クゥゥゥアァァァァ…》

 

 

「……ここは、どこ?私、何でこんなところに……?」

綾音が意識を取り戻すと、そこは見覚えのない空間だった。

「フッ!ハッ!」

《クァァァァ!!?》

少し離れたところでは、いつの間にか赤い姿に変わったウルトラマンと怪獣が激突していた。

「ってことは…ここはウルトラマンが作った、戦いのためのフィールド?」

 

 

《クァァァァ…》

ウルトラマンのストレートキックで蹴り飛ばされたバードン。ウルトラマンはトドメを刺そうと、両腕にエネルギーを溜め始める。

「フッ!シュウッ!フアァァァァ…」

 

 

「ッ!!?ダメだ一樹!怪獣の近くには、人がいるんだ!!!!」

 

 

「フッ!!?」

一夏の叫びに、ウルトラマンは動きを止める。バードンはその隙を逃さず、火球を放った。

《クゥゥゥアァァァァ!!》

「グアァァァァァァァ!!?」

人がいるということに動揺していたウルトラマンは、その火球をまともに喰らってしまい、メタ・フィールドの大地に背中を強打する。

「グゥッ!!?」

ウルトラマンが転がっている間に、バードンは綾音を捕食しようと歩き出す。

 

 

「い、いや…」

綾音はどこかに隠れようとするが、そもそもメタ・フィールドはウルトラマンが全力を出すために作った空間。人が隠れるようには出来ていない。

「こ、来ないで…」

さらには何かにつまづき、転んでしまう。

「きゃっ!」

 

 

「綾音に近付くな!!!!」

バードンに向かってクアドラブラスターを連射する一夏。

そんな一夏に、バードンは火球を放った。

「ッ!!?」

一夏は何とか回避するが、その隙にバードンは綾音に近付いてしまう…

 

 

「いや…来ないでぇぇぇぇ!!!!」

《クゥゥゥアァァァァ!》

綾音の悲鳴も虚しく、バードンの鋭い嘴が、綾音に迫る…

 

 

「フッ!!?シェアッ!!!!」

何とか起き上がったウルトラマンは、マッハムーブを使って何とか綾音を救おうとする。

 

 

「いやぁぁぁぁぁ!!?」

思わず顔を覆う綾音。しかし、いつまで経っても衝撃が来ない。綾音がゆっくりと顔を上げてみると…

ピコン、ピコン、ピコン…

「グッ、グゥッ…」

綾音とバードンの間に、ウルトラマンがいた。その背中に、バードンの嘴が突き刺さっていた…

「たす、けてくれたの?」

だが、そんなウルトラマンに怒ったバードンが、連続で嘴を突き出す。

《クゥゥゥアァァァァ!!!!》

 

ドスッ、ドスッ、ドスッ

 

「グッ⁉︎グオッ!?グアァァァァァァァ!!?」

しかし、どれだけ刺されようとも、ウルトラマンはそこを動かなかった。

 

 

「やめろ!やめろやめろやめろぉぉぉぉぉ!!!!」

ひたすらバードンの背中を攻撃する一夏。

「こんなところで!ソイツを殺させてたまるか!!!!」

 

 

ウルトラマンの力が弱まってるからか、メタ・フィールドが消滅していく。

それは、学園で見ることが出来るほどに…

ドクン

「ッ!!?」

「ユキエ⁉︎」

いきなり胸を押さえて蹲る雪恵に戸惑うセリー。

「どうしたのよ雪恵!」

「雪恵ちゃん、大丈夫⁉︎」

鈴とシャルロットが雪恵に駆け寄る。

「痛いよぉ…苦しいよぉ…」

 

 

メタ・フィールドが消滅し、箒達の目にバードンに背中を攻撃されてるウルトラマンの姿が映った。

「奴の注意を引くぞ!」

ラウラの指示により、3人はバードンの目を集中的に攻撃した。

《クゥゥゥアァァァァ!!?》

流石のバードンも、目を攻撃されたことにより怯んだ。

その隙に、ウルトラマンは両手で綾音を包むように持つと、学園のシェルター前に寝かせた。そして、ふらふらながらも立ち上がり、バードンを見据える。

《クゥゥゥオォォォォ!!》

そんなウルトラマンに向かって吠えるバードン。

「シュウッ!フアァァァァ……フンッ!デェアァァァァ!!!!」

ウルトラマンはボロボロの体で出せる最大の技、ネオ・ラムダスラッシャーをバードンに向けて放つ。

《クゥゥゥアァァァァ!!?》

ネオ・ラムダスラッシャーはバードンに直撃。バードンはその翼を羽ばたかせ、逃走した。

ウルトラマンはそれを追うことが出来ず、膝をついて消えていった。

 

 

「ゴボッ…」

変身を解いた一樹の体は、異常な程痙攣を起こしていた。

「一樹!」

そんな一樹を医務室へ運ぼうとする一夏。

「今カズキを下手に動かすな!!!!」

そんな一夏に、珍しく大きな声を上げて止めるセリー。

「どういうことだよ!!?」

「見て分かんないの⁉︎カズキは今、毒に苦しんでるんだよ!!下手に動かしたら全身に毒が回って死ぬよ!!!!」

「ッ!!?」

「ユキエが急に蹲ったから嫌な予感がしてたんだ…お前は何してたんだ!!?」

一夏の胸倉を掴み、かつてないほど冷たい目で睨むセリー。

「やめ、ろセリー…ゴボッ⁉︎」

そんなセリーを、一樹が止める。

「カズキ!!?」

一夏を突き飛ばし、一樹に駆け寄るセリー。

「今、雪恵との繋がりを切った…だから、アイツは大丈夫だ…」

「カズキ!今無理に喋っちゃダメ!毒が全身に回っちゃう!!」

必死に一樹に声をかけるセリー。それを、一夏は呆然と見ていた…

 




まずはひとつ。

遅れてすんませんでした!!

多分次も遅れます…

気長にお待ちください…


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Episode89 毒-ポイズン-

お待たせしました。

では、どうぞ!


セリーのテレポートを使って特別医務室に移動した一樹。今、その中にいるのは一樹と束だけだ。

「ゴボッ!!?」

「もう少しだから!頑張ってかずくん!」

かつてないほど神経を使って、一樹の体からバードンの毒を抜いていく束。

「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

「完全には抜けない…ごめんね、かずくん」

 

 

数時間後、何とか一命をとりとめた一樹は、普通の医務室へと移動させられた。

「…今、束さんが必死で薬を作ってるよ」

雪恵が、一樹にそう説明する。

「…そうか。なあ、お前の体は大丈夫か?」

「うん、私は実際に毒を受けた訳じゃないから」

「なら良かった…」

ホッとする一樹。これで雪恵が毒の影響を受けていたら、一樹は自分を許せなかっただろう。

「箒ちゃんが、『ごめんね』だって」

「ああ、そういえばあの生徒は無事なのか?」

「うん。織斑君の話だと、中学の同級生らしいんだけど…」

「…はぁ!!?」

 

 

「まさかお前もIS学園にいるなんて…言ってくれても良かったじゃないか。綾音」

「…恥ずかしかったんだもん」

「いやいや、女子からしたらIS学園に来るのって凄い大変らしいじゃん。代表候補とかじゃないとはいえ、実力で受かるのって凄いと思うぜ」

「…いっつもそうやって女の子を落とすんだから」

「訳わかりませんが!!?」

 

 

「……うん、あのやり取りをやるのは一夏と佐々木だ」

「……織斑君、幼馴染の私や箒ちゃん、鈴ちゃんと話す時みたいな感じだね」

「……いつも通りだろ?」

「…そうだったね」

遠い目をする雪恵に、苦笑する一樹。

「さて、とりあえず…雪、アレ取って」

「はい」

雪恵からブラストショットを受け取ると、一樹は一夏と話している綾音に向けて撃った。

「きゃっ⁉︎」

「おい一樹⁉︎いきなりはダメだろ⁉︎」

 

 

『ほう…私の粒子が埋め込まれてるのに気付かれたか。まあ良い、どうやらあの女は大してアイツに対して悪感情を持ってないようだしな。問題は…』

大熊山で傷を癒すのに集中しているバードンを見て、シャドウは呟く。

『この傷だらけのバードンだな。ここまでボコボコにやられるとは、正直想定外だ。面白くはなったがな…』

 

 

「綾音はやっぱりバスケ部なのか?」

「うん。これでもエースなんだよ」

中学時代と変わらず仲の良い2人、一樹は見慣れていたが、面白くないのは医務室のもう1人の住人だ。

「むぅぅ…一夏くん!私もかまいなさい!」

「あ、いたんですか楯無さん」

「さすがに酷すぎない⁉︎」

あまりの扱いに泣きそうになる楯無。

そんな一夏たちをスルーして、一樹は毒の激痛を耐えていた。

「かーくん、1週間は絶対安静だって。束さんが言ってたよ」

「…1週間」

絶対その前に動くことになるだろうな

一樹がそう読んでいたのを、雪恵は知らない。

 

 

数日後、大熊山からバードンが飛び出したとの連絡を受け、一夏たちは集合していた。

「良いか?今回はなんとしても我々で奴を倒さねばならん。しかし、奴の体内に毒があり、下手なところで爆破する訳にはいかないのも事実だ。そこで…」

中央のディスプレイに、地図が表示され、大熊山とIS学園を結ぶ線から少し逸れた島が映し出された。

「この島で奴を倒す。幸い、この島に人はいないからな。あまり気にせず奴を倒す事が出来る」

「しかし織斑先生、奴にはδ機の攻撃すら通用しなかったんですよ?」

実際に戦った一夏の言葉に、千冬は軽く頷く。

「確かにそうだ。その点は、開発者である束に直接エンジンを弄らせた。それで一応攻撃の威力と機動性を上げる事は出来たらしい…だが、かなりデリケート仕様になってしまったらしく、そんな長くは最大出力を出せないらしい」

「つまり…短期決戦って事か」

 

 

『ちーちゃんから聞いてると思うけど、今回の作戦はδ機であの怪獣の引き寄せた後、ウルティメイトバニッシャーでトドメ…かずくんは今動かせられないから、今回は絶対に成功させなきゃいけない…それを忘れないでね』

「「「「了解」」」」

出撃前の最終調整を行う一夏たち。

「織斑くん!」

「ん?綾音?どうした?」

δ機に乗り込もうとしていた一夏を呼び止める綾音。

「その…私は、前線に出れないから、無責任になっちゃうかもしれないけど…頑張ってね!!」

「…ああ、行ってくるよ」

 

 

学園から、チェスター4機が出撃する。

『Set into strike formation‼︎』

ラウラの指示で、一夏の乗るδ機以外が合体、ストライクチェスターとなる。

「…雪恵、体は大丈夫なのか?」

α機の後部座席に座る雪恵に、一夏は聞く。

『私は大丈夫。ありがとね織斑君』

一樹が早めに『繋がり』を切ったおかげで、雪恵はそこまで衝撃を受けずに済んだ。だが、大分軽減されていると分かってても、あの衝撃は辛いものだった。一樹が『繫がり』を切るのがもう少し遅かったら、雪恵はショック死してたかもしれない…

「…無理はするなよ」

『織斑君もね』

「…ああ、そうだな」

『一夏、私達は島上空へと移動する…頑張ってくれ』

「了解。ラウラ、みんなを頼むな」

『任せろ』

ストライクチェスターが進路を変え、δ機と別れる。

一夏は、無意識のうちに操縦桿を強く握っていた。

「…俺たちが、倒すんだ」

前方に、バードンの反応があった。

「今度は逃さねえぞ…」

学園に向かおうとするバードンに向けて、強化されたクアドラブラスターを撃った。

《クゥゥゥアァァァァ!!?》

怒ったバードンはδ機に向けて火球を放つ。

「当たるかッ!」

素早く操縦桿を倒して回避すると、ストライクチェスターの待つ無人島に向けてバードンを誘導する。

《クゥゥゥアァァァァ!!》

「そうだ!こっちに来い!」

δ機を追うように、バードンは飛ぶ。

《クゥゥゥアァァァァ!》

時折火球を吐いてくるが、一夏はそれを紙一重で避けていく。

「無駄に進路を変えられない…何としてもみんなと合流しないと!」

ブースターの出力を上げ、近付いてきたバードンと距離を取ろうとするが、バードンは更にスピードを上げてきた。

「ッ!!?」

『一夏あと少しだ!頑張れ!!』

ラウラから通信が入ってくる。だが、今の一夏にそれは聞こえなかった。それだけ、バードンが肉薄してきたのだ。

「(こいつが、こんなに速かったなんて…!!?)」

 

 

「かずくん、気休めかもしれないけど、痛み止め持って、きた…」

束は愕然としていた。何故なら…

寝ている筈のベッドに、一樹がいなかったのだから。

「かずくん!!?まさか!!」

 

 

「くそぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」

『『『『一夏ぁぁぁぁぁぁ!!』』』』

もうδ機のすぐ背後にバードンは迫っていた。今にもその口からδ機に向かって、火球を吐き出そうとしている。

そんなバードンのすぐ上に、高速で飛んでくる物体…ストーンフリューゲル。

その中で、一樹はエボルトラスターを引き抜いた。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

「シェアッ‼︎」

《クァッ!?》

ウルトラマンは現れると同時に、バードンの首に足を巻きつけた。

《クゥゥゥアァァァァ!!?》

バードンはいきなり現れたウルトラマンの重量によって進路を変えさせられ、一夏に火球を放つまでは行かなかった。

 

 

「一樹!!?アイツまた無茶しやがって!!!!」

『一夏!急いで合体だ!!!!』

「分かってる!Set into hyper strike formation!!!!」

 

 

「シュウゥゥゥゥ…!」

《クゥゥゥアァァァァ!》

ウルトラマンとバードンは空中で取っ組み合い、無人島に飛び込むように着地した。

ピコン、ピコン、ピコン…

「グゥッ…」

既にウルトラマンのエナジーコアが鳴り響いてる。まだ毒が抜けきってないのだ。その証拠に、胸元を抑えて苦しんでいる。

 

 

「すぐに終わらせる!ウルティメイトバニッシャー、シュート!!!!」

戦闘を早く終わらせようと、一夏はウルティメイトバニッシャーを放つ。だが…

《クゥゥゥオォォォ!!》

バードンの放った火球に、相殺されてしまった…

「なっ!!?」

 

 

《クゥゥゥアァァァァ!!》

「フッ⁉︎グッ!?」

バードンは翼を羽ばたかせ、ウルトラマンに向かって強風を送る。

毒が抜けきっていないウルトラマンは、その強風に耐えられずに吹き飛ぶ。

「グアァァァァァァ!!?」

背中を強打したウルトラマンに向かって、バードンはその毒の嘴を振り下ろしてくる。

 

ドンッ!ドンッ!!ドンッ!!!

 

何とか首を動かしてそれを回避するウルトラマン。しかし、このままではジリ貧だ。

 

 

「かーくん!!」

雪恵が、ウルトラマンを援護しようとバードンの背中にスパイダーミサイルを撃つ。

 

 

《クゥゥゥアァァァァ!!?》

背中にスパイダーミサイルが命中したことにより、バードンは怯んだ。

その隙に、ウルトラマンはバードンから離れてパーティクルフェザーを放つ。

「フッ!ハッ!」

バードンの喉元に見事命中するが、バードンはお返しとばかりに火球を連続で吐いてきた。

《クゥゥゥアァァァァ!!》

ウルトラマンはそれを両手を顔の前でクロスすることで受け止める。だが…

「グッ⁉︎グゥッ!?グアァァァ!!?」

3発目の火球に耐えきれずに、吹き飛ばされる。

《クゥゥゥオォォォ!!》

バードンは空中に上がり、急降下の勢いを乗せてウルトラマンに突進しようとする。

「フッ⁉︎シュアッ!!」

それに気付いたウルトラマンは、嘴を掴み、何とかバードンの突進に耐える。

「シュウゥゥゥゥ…デェアァァ!!」

そのまま大きく振り回し、バードンを投げ飛ばした。

《クゥゥゥオォォォ!!?》

そしてウルトラマンは、パーティクルフェザーをバードンの翼に向かって連射した。

「フッ!ハッ!シェアッ!」

《クゥゥゥアァァァァ!!?》

パーティクルフェザーの連発により、バードンの翼に切れ目が入り、飛べなくなった。

「シュウッ!ハァァァァァァァァァァァァァ……!!!!」

ウルトラマンは両手を胸の前でクロスし、ゆっくりと広げる。

すると、ウルトラマンの全身が赤く光り、超高温の炎がその身を包み始めた。

 

 

「かーくん!その技はダメェェェェェェェェェェェェ!!!!」

セリーから、その技の特性を聞かされていた雪恵が必死で叫ぶ…

 

 

「アァァァァァァァァ……!!!!」

ウルトラマンを包む炎が、あまりの温度に赤を通り越して白くなる。

《クゥッ!!?》

流石のバードンも、全身に炎を纏うウルトラマンを見て数歩下がる。

その手を、来るなと言わんばかりに振るう…

「シュウッ!!デェアァァァァァァァァァァ!!!!」

ウルトラマンは、全身に炎を纏ったままバードンに向かって突進。そして…

 

ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!

 

かつてないほどの、大爆発が起きた。

あまりの爆発に、ハイパーストライクチェスターが大きく揺れる。

「クソッ!シャル!姿勢制御に全スラスターを使ってくれ!!!!」

『分かった!』

どうにかしてその爆発をやり過ごすと、そこには()()()()()()()()()()()

「ッ!!?アイツは…!!?」

『一夏!前方十時の方向を見て!!』

鈴の言葉に、一夏がそこを見ると、光の粒子がゆっくりと集まり出し、ウルトラマンの姿となった。

「ファッ、フッ、フッ…」

しかしウルトラマンは膝をついて、倒れこむようにして消えてしまった。

「ッ!!?みんな!着陸してアイツを探すぞ!!」

『『『『了解!!』』』』

 

 

「ウグッ…あぁ…」

一樹はウルトラダイナマイトを使った影響により、その体に大ダメージを負ってしまった。

「ミオを連れてこなくて、正解だったな…ゲホッゲホッ、ガハッ!」

しかし、ウルトラダイナマイトの熱量によって、体内のバードンの毒はどうにか吹き飛ばせた。

一樹にも、一か八かの賭けだった。

「(これで毒は消えてませんでしたってなったら…どうしようも無かったからな…)」

……ず……い

「(ん?)」

か……く……ん

声がうっすらと聞こえる。恐らく一夏達が自分を探してるのだろうと一樹は判断したが、返事をする気力が無い。

「(ごめん……俺、落ちるわ……)」

ウルトラダイナマイトは一樹の想像以上にダメージが大きかった。

そして疲労も大きく、一樹は意識を手放したのだった…




参考までに、
一樹のウルトラダイナマイトは、タロウやメビウス以上に危険です。
下手したら1発やっただけで死にます。

だからあくまで切り札なのです。


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Episode90 回復-リカバリー-

まだまだ続くウルトラマン関係!


……く……ん……

か……き……

……す……た……

声が、聞こえる。

恐らく自分を呼んでいるであろう声が。

しかし、彼の意識は深い闇の中へと落ちようとしていた。

帰ってこれるか分からない、闇の中へと。

 

 

「心拍数がどんどん弱くなってる!C24を投与して!」

「はい!」

バードンとの戦いの後、雪恵に発見された一樹。だが、意識は無く、素人目にも危険なのが分かる程だ。雪恵は急いで千冬に連絡してセリーを呼ぶと、テレポート能力で一樹をIS学園の緊急治療室へと搬送した。

今、急遽セリーがS.M.Sに行って呼び出した一樹の主治医、遥香によって一樹の手術が行われている。雪恵やセリー、ミオはそれが成功するのを祈ることしか出来ない…

「かーくん…」

 

 

「クソッ!!!!!!!!」

 

ガァァァァァァンッ!!!!!!!!

 

格納庫では、一夏が悔しそうに壁を殴っていた。

出撃する前は、確かに自分達でバードンを倒すと決めていた。だが結局は、一樹1人に負担をかけることになってしまった。それが、悔しくて仕方ない。

「ちくしょう…ちくしょう…」

それを、陰で見ることしか出来ない専用機持ちたち。彼女たちも、今回はかなり悔しかった。今までの贖罪として、自分達でバードンを倒すつもりだったのが、一樹の援護すらまともに出来なかったのだから…

「…貴様が泣いたところで、アイツの負担が無くなるのか?」

悔しさのあまり、一夏の目に涙が浮かんでいた。

だが、千冬が一夏にかけた言葉は、慰めではなかった。

一夏の胸倉を掴んで、更に叫ぶ。

「泣くのが許されるのは、田中たちだけだ!貴様が泣いたところで、そんなのクソの役にも立たん!」

「お、織斑先生!それは幾ら何でも…」

見かねた麻耶が、千冬を止めようとするが、千冬の眼光に気圧されてしまう。

「今貴様が出来るのは、自分の不甲斐なさを戒めることだろうが!でなければ貴様は今まで櫻井を支えようだなんて言ってたのはただの戯言になると、何故気付かん!!」

「……るせえよ」

今まで黙っていた一夏が、千冬の手を掴み返して叫ぶ。

「うるせえんだよ!!!!じゃあどうしろってんだ!!?俺がアイツの代わりになれるんならなってやりたいさ!!!!でもそれが出来ねえんだよ!!俺はただ、ISが動かせれるだけのちっぽけな人間なんだよ!!!!アイツみたいな特別な力がある訳じゃねえんだ!!!!ちっぽけな人間の俺に、何を求めてんだよ!!!?」

一夏は激昂して叫ぶが、その顔に千冬の全力の拳が叩き込まれる。

 

バギィィィィィィ!!!!!!!!

 

「ガッ!!?」

千冬の拳によって、一夏の体は数メートル吹っ飛ぶ。

「特別な力、だと?それこそふざけるな!お前は私よりアイツの事を理解してると思ってたが、どうやら買い被りすぎたようだな!!」

「何が言いてえんだよ!!?」

「お前は…櫻井が特別な力が無ければ戦わないとでも言うつもりか?違うだろう!!?アイツが理由を言うとしたら、ただひとつだ。『自分に出来る事を、全力でやってるだけだ』とな!それに対してお前は何だ!!?お前はあの怪獣に対して、対策を練るような事をしたのか!!?何か弱点はないかと探したのか!!?ただアイツが戦ってるのをボケーっと見てただけでは無いのか!!?」

「「「「ッ!!?」」」」

その言葉は、一夏を見守る専用機持ち達の心にも響いた。

先のバードンの戦いだって、自分達から進んで援護したのは雪恵だけ。

自分達は、一夏の指示が無ければ動かなかった…いや、()()()()()()と言うべきか。

「悔しがってる暇があるなら、少しでもチェスターを強くする方法を考えろ!!でないと奴が来たら、お前などすぐに消し炭だ!!!!」

 

 

『ふふふ…まさかあんな切り札を持っていたとはな…そろそろ、私の相手をしてもらうとしようか』

夜の森に、シャドウの声が響く…

 

 

遥香や医師団の尽力によって、なんとか一命を取り留めた一樹。目覚めて最初の一言…

「うん、あの技はもうやめよう」

「「『当たり前でしょ!!?』」」

雪恵、セリー、ミオに詰め寄られるのも無理ない話だ。

それだけ、命の危険があったのだから。

「とりあえず、後は寝てるうちに治るだろ。後で一夏にも言っとかないと」

だと言うのに、一樹は呑気だ。

…実際は、内臓が焼けるように痛んでいるのだが、そこは無視している。

「かーくん、私たちは怒っています」

「『ます』」

「…あん?」

一樹のベッドの前で仁王立ちする雪恵とセリーとミオ。

「かーくんは、罰を受けるべきだと思います」

「『ます』」

「…とりあえず、セリーとミオが雪側なのは分かった。で?何をしろと?」

苦笑いを浮かべながら先を促す一樹。

「耳掃除です」

「……は?」

 

 

「おーい一樹、見舞いに来た、ぞ…」

チェスターの強化案を考えながら、一夏が一樹の病室に入ると、そこでは…

「…よお、一夏」

雪恵に膝枕されて、耳掃除をされている一樹がいた。

「…どんな状況?」

「…俺に対する罰なんだそうだ」

「…マジで?」

「…コイツらは大マジ」

一樹も、何故コレが罰になるのか分かっていないらしい。そりゃそうだ。弾が見たらコレを『何イチャついてんだゴラァ!!』と言うに違いないのだから…

「…あーあ、かーくん耳綺麗にしすぎ。掃除するところ無いよ…」

「あのさ、俺こんなんでも戦闘要員なんだぜ?結構音には気を使ってんだよ」

「…むう」

「…さて、一夏が来たからそろそろ終わりに「駄目」何で?」

「かーくんは今日、私の膝から降りてはいけません」

「お前飯とかどうすんの?」

「かーくんは今日の夜まで、私の膝から降りてはいけません」

一樹にツッコまれて、訂正する雪恵。

「…俺はそのままで良いから、話を聞いてもらえるか?」

「…なんか、すまん…」

「謝るなよ。でさ、相談なんだけど…」

「おう」

ここに来るまでに考えていたことを、一樹に相談する一夏。

「ウルティメイトバニッシャーのエネルギーを、ミサイルに積み込むことって…不可能かな?」

 

 

「…雪、悪いがここまでだ」

「…しょうがないね」

一夏の提案に、一樹の顔が真剣になる。それを察した雪恵の手を借りながら、ゆっくりと起き上がる。

「あ、無理すんなよ。寝ながらで良いから」

「…セリー、クッションを俺の背中に合わせてくれないか?」

「はい」

セリーの協力により、何とか座った姿勢を保てれる様になった一樹。

「…これで大丈夫だ。さて一夏。どうしてそれが浮かんだのか、教えてくれるか?」

一夏は、チェスターを強化する事になった事と、具体的な強化プランを考えなければならなくなった事を伝えた。

「…なるほどな。お前らにも心配かけたな。もうあの技は使わないよ。思った以上に負担がデカイ」

「そうしてくれ。目の前で自爆されるのは、良い気がしない」

違いない、と一樹が苦笑する。

「で、あのエネルギーをミサイルに詰められないか、だったな…理論上は可能だと思う」

「本当か!!?」

「ただ…出来れば避けたい…」

「何で!!?」

思わず一樹に詰め寄る一夏だが、セリーの念動力によって止められた。

「カズキが怪我人だって、忘れたのか…!」

「ご、ごめん!」

セリーから向けられる本気の殺気に、冷や汗が止まらない一夏。

「落ち着け、セリー」

痛む体に鞭を打ち、一樹はセリーを抱き寄せてその頭を撫でる。それだけで、セリーからの殺気は消えた。

「…で、何で避けたいか、だけど…一夏、ダイナマイトの歴史って知ってるか?」

「えーっと、ノーベルが発明した爆弾で、ノーベル自身は鉱山業が豊かになるために発明したのに、軍部によって戦争の道具にされてしまった…だっけ?」

「大体そんな感じだ。俺があのエネルギーをミサイルに詰め込むのを避けたいのは、ダイナマイトの歴史と同じになってほしくないからだ」

「…というと?」

「ビーム砲として撃つのには、束さん(と俺たち)以外には開発出来ないレベルのジェネレーター出力がいる…ここまでは良いか?」

「「「『うん』」」」

一樹の説明に、一夏だけでなく雪恵達まで真剣に聞いている。

「だけど…実弾の中に詰め込むとしたら、ジェネレーター出力なんか関係無くなるだろ?」

「まあ…俺が出来ないか?って思ったのも、それが理由だし。少しでも多くバニッシャーが撃てる様になるに越したことはないからさ」

「それ」

「「え?」」

一樹の発言に、呆然とする一夏と雪恵。対してセリーとミオは、一樹が言いたい事が分かった様だ。特にミオは、()()()()()()()()()()もあって…

「ミサイルにすればジェネレーター出力を気にしなくて良くなる…逆に言えば、今世界にある()()()()()()()問題無いことになっちまう」

「それが…」

「どうしたの?」

まだ理解出来ない一夏と雪恵。

「…ISが元々、何を目的に作られたか分かるか?」

「宇宙開発のためだろ?いつからかそれが軍事力に…あ」

「まさか…」

ここに来て漸く理解した2人。

「そう、元々は宇宙空間を自由に動けるようにするためにISは開発された。だが、政治家のクソ共はその事から目を逸らし、その戦闘能力だけを注目した結果が今の世界情勢だ。俺があの光線のデータをお前や千冬にすら渡さず、束さんだけに渡したのは訳がある…お前や千冬だと、世界に報告する義務が出来ちまう。けど、束さんはそんな義務なんてなんのその。それに一度データを見た後、すぐに塵すら残らずに消してくれたからな。あのデータは今、俺と束さんの頭の中にしか無いってことだ」

「「……」」

「だが、ミサイルに詰め込むとなるとそのデータをある程度流さなきゃいけなくなる。俺はそれが悪用されることが、何より怖いんだ…」

それは、強力な力を使っている者故の恐怖だった…

 

 

一夏のチェスター強化案の相談を受けてから、早1週間。

「…おし、体の調子も戻ってきた」

雪恵達の看護もあり、一樹の体の調子も戻ってきた。

「早く宗介と交代してやりますか」

一樹が動けない間、代理として宗介が一夏の護衛についていた。

…と言っても放課後は一樹の病室(個室)で一樹に宗介、一夏はモンハン大会をやっていたのだが…

それで良いのか護衛役たち。

「おーっす。体の調子はどうだ?」

「あ、宗介。おかげさまで、ここまで回復したよ」

片手逆立ちをしてみせる一樹。

相変わらず凄い回復力だ。

「よし、なら遠慮なく…」

「ん?」

ズンズン、と宗介は一樹に近づき…

 

ゴチンッ!!!!!!!!

 

拳骨を落とした…

さっきから一樹の後ろに隠れていた一夏の頭に。

「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

頭を抑えてゴロゴロ転がる一夏。そんな一夏の背中を鍛え抜かれた足で押さえつける宗介。

「よお一夏。お前何隠れてんのかな〜?そんなに俺にやましい事したのかな〜?ん?んぅ?」

顔は満面の笑みなのだが、目が全く笑っていない。

一樹はそれを苦笑しながら見るしかない。

「し、シテナイ」

此の期に及んでまだシラを切る一夏。

「ほぉ…」

左手一本で一夏の左腕を極める宗介。

「ぎゃあぁぁぁ!!?ギブギブ!!!」

「じゃあ説明してもらおうか…何で俺に理香子から『…浮気してるの?(泣)』って電話が来たのかを!!!!」

「お前そんな電話来てたのか!!?」

S.M.S内カップルの中で、最も付き合いが長い2人が、どうしてそんな状況になっているのだろうか。

しかも一樹は知っている。宗介と理香子は、暇さえあればイチャついてる事を!

「お、俺はただ!理香子さん「あぁん?()()()()()?」ヒィッ!?瀬川さんから聞かれた事に答えてただけなんですぅぅぅぅ!!!!」

「おい、一夏。そのメール見せろ」

宗介の剣幕にビクビクしながら、一夏は一樹に携帯を見せる。

 

 

理香子『宗介は学園ではどう?』

一夏『こんな感じです』

宗介がクラスのみんなに微笑みかける画像。

 

理香子『クラスの人と喧嘩してない?』

一夏『無事に会話出来てますよ』

 

 

「オカンか!!?」

理香子の宗介に対する心配が、母親のソレなのに驚く一樹。更に続きを見ていくと…

 

 

理香子『ね、ねえ…宗介と仲が良い人、誰かいる?』

一夏『大体隣にいますよ』

 

 

「これかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!!?」

「どれだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!!?」

ひと通り一夏にプロレス技をかけた宗介が、凄い速さで画面を覗き込む。

「…お前、一応聞くけどさ。この1週間で隣にいたのは主に誰?」

「7割一夏、残りは雪恵さんとセリーだぜ」

「…となると、この質問の答えは」

「…一夏(コイツ)って事だよな…」

「「……」」

無言で顔を見合わせる一樹と宗介。

「あ、あの…ご理解頂けたでしょうか?」

「「一夏」」

「は、はい!!!!」

「「これでも喰らえやゴラァぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」」

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!ブーメランが連続で飛んでくるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!?!!?」

どこからか取り出したブーメランを、一夏に向かって連続で投げる一樹と宗介。一夏は悲鳴をあげながら何とかそれを叩き落とす。ゲンとの修行の成果が、こんなところで生きようとは…

その後、一夏が土下座する勢いで理香子に電話をし、何とか誤解は解けました。

 

 

「雪、お前と一緒にこの学園にいれて本当に良かったよ…」

「い、いきなりどうしたのかーくん!?ま、まあ嬉しいけどさ…」

後半はボソボソッと呟く雪恵。

宗介が帰った日の昼時、一樹は食堂で雪恵を膝上に座らせて夕食を取っていた。

「くっ…今日は負けた…」

そんな一樹の隣で悔しそうに座っているセリー。ミオにいたっては…

『いいもんいいもん…どうせ私は放置プレイ慣れてるもん…グスッ』

意識空間で地面に【の】の字を書いていた…暗い、暗すぎる。

「さ、櫻井君ってあんな風に甘えるんだね…」

新たにグループに加わった簪が驚いた顔をしている。

それは一夏以外の専用機持ちも同じだ。

「ね、ねえかーくん。急にどうしたの?」

「今日の昼間にさ…」

かくかくしかじか

宗介に起こった騒動を説明すると、皆納得した顔になった。

「た、確かに一夏に聞いたらとんでもない誤解が生まれるね…」

シャルロットも苦笑いを浮かべる程だ。対する一夏はブスッとした表情を崩さない。

「俺は聞かれた事を答えただけなのに」

「雪、ちょっと降りてくれ…今すぐ表出ろやゴラァ!!!!!!!!」

「上等だゴラァ!!!!!!!!いつまでも俺がやられっぱなしだと思うんじゃねえぞ!!!!!!!!」

いつぞやと同じ流れをする2人。

『いいぞ〜やれやれ』

『ミオさん!!?出番が欲しいからって煽らないでください!!!!』

今度は止めずに、逆に煽るミオ。ツッコミ役は、ハク1人に一任された。

『ああもう!学園のツートップへのツッコミが私だけってどんなイジメですかぁぁぁ!!?』

ハクの叫びが虚しく響く。

「ッ!!?」

そんな時、一樹が背後に向けてブラストショットを放った。

ブラストショットから放たれた波動弾は、何かに相殺された。

『久しぶりだな、櫻井一樹』

「…何の用だ、シャドウ」

一夏たちを下がらせて前に出る一樹。セリーも、いつでもバリアを張れるよう構える。

『なに、久しぶりに()()()貰おうと思ってな…こうして来た訳だ』

「お前と遊ぶのなんかまっぴらだぜ…」

『そう言うな。わざわざお前の体が回復するのを待ってやったんだからな』

「……」

『近々、やりあう事になる…その時を待っているんだな…』

それだけ告げると、シャドウは闇に包まれ消えていった…

 




予定としては、
1年生時がジュネッス。
2年生の頃からジュネッスブルーの予定ですので、ブルーファンの方はそれまで御付き合いください。

よろしくお願いします。


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Episode91 進化-エボリューション-

遂に、奴が動き出す…


シャドウの予告から数日、恐れていた事が起ころうとしていた。

 

ドックン

 

「ッ…来る」

エボルトラスターの反応に、一樹は全速力で格納庫を目指す。途中で、一夏達と合流する。

「場所は!!?」

「学園と協力してる研究所のひとつ!」

「ちくしょうが!!」

それぞれの機体に乗り込み、出撃する…

 

 

『さて…そろそろか』

シャドウは遠くからチェスター達が近づいて来るのを視認すると、ブラックエボルトラスターを引き抜いた。

 

 

「見つけた…!」

変身したシャドウを見つけ、一樹はすぐにエボルトラスターを取り出す…

『待ってくれ一樹!』

だが、一夏に止められた。

「何で!!?」

『そんなすぐに変身(なっ)たら、バルキリーで出た意味無いだろうが!!』

一夏の言う事は正しい…そんなすぐに変身したら、折角バルキリーで出撃しても意味がない…

 

 

『出てこないのか?なら…出て来る理由を作ってやろう』

シャドウはそう言うと、ダークフラッシャーをチェスターに向けて連発した。

 

 

「「「「ッ!!?」」」」

それぞれが操縦桿を動かして、シャドウの攻撃を避ける。

だが、ここ最近一夏やラウラに操縦を依存していたために、α機とβ機が被弾してしまう…

「「「「あぁぁぁ!!?」」」」

「やめろ!やめろやめろやめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

一樹と一夏がそれぞれシャドウに向かって攻撃するが、シャドウは左手からバリアを張ってその攻撃を受け止める。

更にはその攻撃を利用、ワープさせて残りの3機も堕とした。

「「くそッ!!?」」

 

 

『まだ来ないのか?なら、ここを破壊するまでだ』

シャドウはゆっくりと、研究所に近付く…

 

 

「…かーくん」

「大丈夫か雪!篠ノ之!」

「ああ…すまない…」

墜落されたα機から、雪恵と箒を救出する一樹。少し離れた所では、一夏にラウラ、シャルロットがセシリアと鈴を救出していた。

「…良かった。全員無事だ」

一夏がホッとしている。一樹もそれには同意だが、今はホッとしてる場合ではない。

「…一夏。研究所の中にいる人達を避難させろ」

「…お前はどうすんだよ?」

「決まってるだろ…アイツの、相手をしてくんだよ」

「かーくん…」

悲しげに一樹を見る雪恵。そんな雪恵に、一樹は笑顔で話す。

「心配すんな。アレは使わないから」

「…うん」

雪恵が頷くと、一樹はシャドウに向かって駆け出す。

「…みんな、俺達は研究所の人達を避難させるぞ!それから一樹の援護だ!!」

「ああ!」

「ええ!」

「分かってるわよ!」

「うん!」

「分かった!」

5人がそれぞれ頷く、最後に雪恵が…

「…行こう。かーくんの頑張りを、無駄にしないためにも!」

 

 

シャドウの背中に向けてブラストショットを撃つ一樹。

『…?』

無論大したダメージは与えられない。だが、シャドウの意識をこちらに向けるのは成功した。

「…お前の目的は俺だろ?こっちに来い」

ゆっくりと研究所から離れるように動く一樹。シャドウもゆっくり歩き出す。だが、遂に痺れを切らし…

『いつまでその姿でいるつもりだ!』

ダークレイフェザーを連発してくる。

「ッ!!?」

なんとかその攻撃から逃れる一樹。

しばらくそれを避け続けたが、とうとう崖に追い込まれる。

「チッ!!」

そんな一樹に向けて、ダークフラッシャーを放つシャドウ。

『フンッ!!』

ダークフラッシャーにより、崖に爆発が起こる…

 

ドォォォォォンッ!!!!

 

「シェアッ!!」

爆発の中から現れるウルトラマン。

シャドウの背後に着地すると素早くジュネッスにチェンジする。

「フゥッ!シュアッ‼︎」

そんなウルトラマンを見て、シャドウは愉しそうに笑う。

『ハッハッハ…それで良い。愉しませてくれ』

「ハッ!」

『デュッ!』

2人の巨人が、今またぶつかろうとしていた。

 

 

「ああまどろっこしい!!!!」

ひしゃげた扉を慎重に開けようとしていたが、研究員達に端に寄ってもらうと、麒麟で扉を蹴飛ばす一夏。

 

バァァァァンッ!!!!

 

「「「「おぉ〜」」」」

こんな状況だというのも一旦忘れ、あまりに綺麗に扉のみを壊した一夏に拍手を送る6人。

「さあ!早く逃げましょう!」

「あ、ありがとう!」

「ま、待って!せめてデータとアレだけは持っていかないと…」

データ書類を持ち出そうとする研究員の1人に、一夏が怒鳴る。

「命とデータ、どっちが大切なんだ!!?言うまでも無いだろうが!!」

この間16歳になったばかりとは思えない一夏の迫力に、研究員の呼吸が一瞬止まる。

「そ、そうね…で、でも、お願いだから…アレだけは…【ソアッグ鉱石】だけは回収させて…」

「ソアッグ鉱石?」

聞き慣れない鉱石の名に、ラウラが訝し気な目を向ける。

「月でしか取れない特殊な鉱石よ。篠ノ之博士曰く、『ウルトラマンの手助けになるかもしれない』鉱石だそうよ」

「「「「ッ!!?」」」」

 

 

『デュアッ!!』

「シュッ!!」

シャドウの上段回し蹴りを受け止め、急接近。エルボーを喰らわせるウルトラマン。

『グゥッ!?』

腹部を抑えて蹲るシャドウの頭を掴み、研究所とは反対の方向へと投げ飛ばす。

「シュアッ!」

その勢いをシャドウは側転で殺すと、ウルトラマンに向かって跳び蹴りを放つ。

『フンッ!』

「グアッ!?」

ウルトラマンは蹴り飛ばされた勢いを前転で何とか殺す。起き上がったウルトラマンに向かって、シャドウはダークレイフェザーを放ってきた。

『フンッ、トゥオッ!!』

ウルトラマンはそれを両手で受け止めると、逆にシャドウに向けて投げ返した。

「フッ!ハッ!」

『グッ!?』

 

 

「…分かりました。ソアッグ鉱石だけは持っていきましょう」

「ありがとう織斑君!」

「ただ、取りに行くのは自分1人で行きます。場所を教えてください」

「…分かったわ」

研究員からソアッグ鉱石の場所を聞いた一夏は、研究員達の事を他の専用機持ちに任せて走り出した。

 

 

「ハッ!」

『デュッ!』

ウルトラマンとシャドウは同時に飛び上がり、空中で激しくぶつかり合う。

シャドウの拳を横に回り込んで避けると、ガラ空きの背中に回し蹴りを叩き込むウルトラマン。

「デェアッ!」

『グッ!?』

蹴り飛ばされながらも、シャドウはウルトラマンに向けてダーククラスターを打ち出した。

『デュアッ!!』

ウルトラマンはその弾丸の隙間を縫うように飛んで避け、シャドウに急接近していく。だが、弾丸の1発に当たり、スピードが落ちてしまう。

「グアッ!?」

その隙を逃すシャドウでは無い。ウルトラマンに全体重を加えた跳び蹴りを喰らわせた。

『デュッ!!』

「グオッ!?」

跳び蹴りの威力にウルトラマンは急速に下降していくが、セービングビュートをシャドウの腰に巻きつけ、大地に叩きつける。

「デェアァァァァッ!!」

『グアァァァァァッ!!?』

そんなシャドウを追い、ウルトラマンも着地し、構える。

「シェアッ!」

 

 

「…あった!コレだ!」

蒼く輝くソアッグ鉱石を無事見つけた一夏。慎重にケースに仕舞ってから持ち上げ、研究所を脱出する。

「一夏!こっちだ!」

箒たちと研究員も無事に避難出来たようだ。

「(よし!こっちは大丈夫だ!後はお前だけだぜ、一樹!!!!)」

 

 

『ハアァァァァ!!!!』

「フッ!?」

シャドウは両手を頭上に向けて伸ばし、巨大な闇のエネルギー球を作る。

充分な大きさになったところで、ウルトラマンに向かって投げ飛ばした。

『デュアァァァァァァァァ!!!!』

ウルトラマンは、全身に力を入れてその攻撃を受け止めようとする。

「シュアァァァァァァァァ!!!!」

かなり後ろにさがりながらも何とか受け止め、シャドウに向かって投げ返した。

「デェアァァァァァァァァ!!!!」

『グゥッ!!?』

自らの破壊エネルギーに、シャドウは苦しむ。

その隙に、両手にエネルギーを溜めるウルトラマン。

「フッ!シュウッ‼︎ハアァァァァァァ…フンッ!!デェアァァァァ!!!!!」

必殺のオーバーレイ・シュトロームをシャドウに決めた。

 

 

「よしっ!」

「ウルトラマンの勝ちだ!!」

ウルトラマンの勝利を確信する一夏達は、気付かなかった。

()()()()()()()()()に…

 

 

「フッ!!?」

シャドウの消滅を待っていたウルトラマンが、その影に気付いた。だが、もう遅かった。

その影が、シャドウとぶつかる。消えかかっていたシャドウが、禍々しく光る。その光が晴れたそこには…

『ハァァァァ…』

進化したシャドウがいた。

先の姿がウルトラマンのアンファンスの対になる姿だとしたら、今のシャドウの姿はジュネッスと対になると姿だ。その胸元では黒縁のコアゲージが黄色く光り、全体的な模様もジュネッスとよく似ている。ただ…ウルトラマンのジュネッスが力強さを感じる赤なのに対し、シャドウのそれは血をイメージさせる禍々しい赤…名を、【シャドウ・デビル】…

文字通り、悪魔の様な存在だ…

『ハッハッハ!!』

溢れてくる力に、高笑いを上げるシャドウに向かって、ウルトラマンは構える。だが…

ピコン、ピコン、ピコン…

「フッ!?」

ウルトラマンのコアゲージが鳴り響く。

もう長くは戦えない…

「ハッ!」

『デュッ!』

2人の巨人がぶつかり合う。

果たして、この戦いの勝者は…




強化されたシャドウ。


ウルトラマンは果たして勝てるのか!!?


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Episode92 悪鬼-シャドウ・デビル-

さあ、進化したシャドウとの戦いだ…


ウルトラマンと進化したシャドウ・デビルは同時に飛び上がり、蹴りの体制に入る。

「デェアァァァァ!!!!」

『デュアァァァァ!!!!』

その蹴りは同時に当たった…筈だった。

「グアァァァァァ!!?」

しかし吹き飛んだのはウルトラマンのみで、シャドウは難なく着地した。

『デュッ!』

背中を強打したことで、動けないウルトラマン目掛けて、拳を振り落とすシャドウ。

「フゥアッ!」

間一髪、右に転がる事で何とかその拳を避けるウルトラマン。

起き上がってすぐ、パーティクルフェザーを放った。

「ハッ!」

シャドウはそれをダークフラッシャーで迎撃、そのままウルトラマンを攻撃した。

『フンッ!』

「グオッ!?」

ダークフラッシャーを喰らい、大きく仰け反るウルトラマンに、シャドウの飛び込み蹴りが来る。

『デュアッ!!』

「グゥッ!!?」

更にシャドウは、ウルトラマンの首を掴んで投げ飛ばした。

『ハァッ!』

「グアッ!?」

バック転でウルトラマンから距離を取ると、シャドウはネオ・ダークラムダスラッシャーを放ってきた。

『デュアァァァァ!!』

「グゥッ!!?」

更には右拳を突き出し、ウルトラマンのゴルドレイ・シュトロームと対になる技…シャドーレイ・シュトロームを撃つシャドウ。

『ハアァァァァ…デュアァァァァァァァァ!!!!!!!!』

「グアァァァァァ!!?!!?」

シャドーレイ・シュトロームはウルトラマンに直撃、ウルトラマンは大地に倒れ、消えていった…

 

 

「かーくん!!?」

雪恵がウルトラマンが消えた場所に向かって走ろうとするのを、一夏が止めた。

「ダメだ雪恵!今下手に動いたら!」

「でも!かーくんが!!」

「分かってる!」

何とか雪恵と共に物陰に隠れる一夏。

『フンッ』

シャドウは興味無さげに一夏達を見ると、研究所に向けて右手から波動弾を撃つ。

 

ドォォォォォンッ!!!!!!!!

 

研究所は木っ端微塵になる。研究所を破壊するとシャドウは闇に包まれ、空高く飛んでいった。

 

 

「一樹!!!!!!!!」

「かーくん!!!!!!!!」

シャドウがいなくなってすぐに、一夏と雪恵は一樹を探しに走り出した。

 

 

もう何度目だろうか。病室に運ばれた一樹の体が、包帯に包まれているのを見るのは。人工呼吸機を付けられた、痛々しい姿を見るのは。

「…一樹君はまた無茶をしたの?」

遥香の質問に、一夏は首を振る。

「いや、今回は違う。捨て身の攻撃をした訳じゃないんだ。ただ、相手が強くなってた」

「そう…無茶した訳じゃないんだ…不謹慎かもしれないけど、少し安心した」

「…え?」

一夏の戸惑いに、遥香は苦笑いしながら話す。

「だって…自分の命も大切にしてくれたってことだよね…?」

「…あ」

この間までの一樹なら、あんな状況になったら再び例の自爆技を使っていたことだろう。一樹はそういう男だ。

「ってことは…」

「うん。雪恵ちゃんにセリーちゃんと()()したのが大きいんじゃないかな?一樹君、約束事は絶対に守ろうとするから…」

 

 

「雪…俺、アレは使わなかったぞ…」

「うん…うん…」

弱々しく伸ばされた一樹の手を握りながら、雪恵は一樹の汗を拭っていた。

「研究所の…人は…無事か?」

「うん…誰も死んでないよ…」

「…良かった。なあ、雪」

「何…?」

「お粥…作ってくれないか?卵入りの」

「…うん!待っててね!」

珍しく一樹に頼られた雪恵は、満面の笑みで病室を去っていった。

「……入って良いぞ。一夏」

雪恵が病室を出てからしばらくして、一夏が病室に入ってきた。

「よお…体は大丈夫か?」

「世間一般で言う大怪我状態だが、大丈夫だぜ」

「それは大丈夫とは言わねえ!!!!」

「…いや、痛みには慣れた」

「慣れってなんだよ…まあ、いつものことか。とりあえず報告だ。束さんがソアッグ鉱石のエネルギーを使うらしい。これは人には無害だけど、シャドウの嫌うであろうエネルギーの波長なんだって」

()()()()()()?」

「何でも、どんな生物でも得意不得意な物質があって、それぞれが微弱なエネルギーを発してるんだと。で、それには法則があって、それに当てはめた結果、シャドウの嫌うエネルギーはソアッグ鉱石が発してる…らしいぜ」

「聞いた事ねえ法則だな」

「束さんが最近見つけたんだって。まあ、まだ『絶対』とは言えないって事も言ってたな」

「…つまり、ただやられてる訳にも行かないって奴か」

「そういうこと」

一樹はゆっくり起き上がろうとする。

 

ズキッ!!!!

 

「ッ!!?」

腕に力を入れた途端、激痛が走った。

「無理すんなよ…」

一夏の手を借りて、ゆっくり起き上がる一樹。

「…全治何週間だ?」

「普通の人なら3ヶ月、お前なら2週間ってところだそうだ」

「2週間…長いな」

こうしてる間も、いつシャドウが来るか分からないのだ。全治とは行かなくとも、動けれる様にはなっておきたい。

「…雪が作ってくれてるお粥を食ったら、アレ呼ぼうかな」

「普段なら止めるところだけど、今回ばかりは賛成だ」

どういう風の吹きまわしか、ストーンフリューゲルを呼ぶのに賛成の一夏。

「…どういう風の吹きまわしだ?」

「…正直なこと言うとな。今の俺たちは束さんの研究次第なんだ。だから、シャドウを倒すには圧倒的に力が足りない。けど、お前1人でもシャドウを倒すのは難しい…なら、答えは簡単だろ?」

「…俺が少しでも早く回復するのと、束さんの研究をお前が手伝う…か?」

「ご名答…ま、俺が束さんにしてやれることなんて限られてるけどな」

「…無理させなきゃ良いさ」

「お前が言っても説得力が全然ねえ」

違いない、と一樹は苦笑する。

丁度そこに、雪恵とセリーがお粥を持ってやって来た。

鍋はセリーが()()()持っている。

「「鍋つかみ使えぇぇぇぇ!!」」

一樹と一夏のツッコミがシンクロした瞬間だった。当のセリーはキョトンとしているが。

「…え?だって熱くないし」

「いやいやいや!メッチャぐつぐつって音してる!」

「火傷しちゃうだろ!?取り敢えずこの鍋敷きに…」

慌てる男子2人に、雪恵が苦笑しながら諭す。

「ねえ、2人とも」

「「何だ!?」」

「セリーちゃんがゼットンだって…忘れた?」

「「………あ」」

普通の女の子だと思っていた一樹と一夏。一樹に関しては完全に舞達義妹と同じ接し方だ…それもかなり幼い方の。

「…私を普通の女の子として扱ってくれるのは、正直嬉しい。けど、私はこんな姿をしてても宇宙恐竜、だから…」

「いや、セリーは俺の妹分だ。異論は認めん」

「かーくん…病院着でそんな真面目な顔しても、あまり響かないよ…」

セリーの言葉を途中で止める一樹。顔と言葉だけなら立派なのだが、いかんせん格好が…

「ふふ…ありがと、カズキ」

それでも、セリーは笑ってくれたのだった。

「ほんと、2人は仲良いな〜」

鍋を置いてから一樹に引っ付くセリーを見て、雪恵は微笑む。

「あの…すごく無粋な事を聞くけど、雪恵は心配じゃないのか?」

「何が?」

一夏の問いに、雪恵は首を傾げる。

「いや、一樹とセリーがくっついてるのに…」

「うーん…もう私たちにとってセリーちゃんは家族だから。家族が仲良いのは良い事じゃない?」

雪恵にとって、セリーは大切な家族。だから一樹とセリーがいくら引っ付いていおうと、微笑ましく思うのだ。

「こ、これが…正妻の余裕、なのか…!」

雪恵の大人な対応に、軽く感動すら覚える一夏。

「…ねえ織斑君」

だからだろうか。雪恵の声が少し低くなったことに気付かなかったのは。

「なんだい雪恵」

「正妻って、どういう意味?」

「そりゃ一樹の正妻が雪恵って…」

流石の一夏も気付いた。雪恵が微笑んでいること(ヤンデレモードになっていること)に。

「私が正妻ってことは…側室がいるってことかなかな?かーくんはそういう人じゃないよ〜?」

「ゆ、雪恵さん!落ち着いて!そういう意味じゃ…あ、アレは嫌だぁぁぁ!?助けて一樹ぃぃぃ!!?」

必死に一樹に助けを求める一夏だが、一樹はと言うと…

「お、卵が良い感じに混ざってる。流石だな雪。美味い美味い」

完全スルーして雪恵作のお粥を食べていた。セリーはその隣で一樹の肩に寄りかかり、音楽を聞きながら寝入っていた。

「慈悲が無い!!?」

「サアオリムラクン、O☆HA☆NA☆SHI☆シヨウネ」

「ちょ、雪恵落ち着い…ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!!?」

 

 

雪恵に誤解を招く様な台詞は厳禁です。良い子は真似するなよ?俺、織斑一夏との約束だ。トホホ…

 

 

「ふぅ…食った食った。雪、ありがとな…って、どうして一夏は真っ白になってるんだ?」

お粥を食べ終えた一樹の視界に映った一夏は、某ボクシング漫画最終回の様に真っ白になっていた。

「かーくんは気にしなくて良いよ♪」

太陽の様な笑みを見せる雪恵に、一樹は不思議そうな顔をするが、特に追求することはなかった。

「あ、そうだ雪」

「ん?なぁに?」

「俺、しばらくストーンフリューゲルに籠る「ダメ」…何故に?あっちの方が回復早いのに?」

「私がかーくんに会えないからです」

「わお。予想しなかった訳では無いけど、まさか大穴の理由が来るとは」

「それに、ストーンフリューゲルに入ったらかーくんすぐ変身して、あの自爆技使いそう」

「俺はコンボを覚えたばかりの子供かい」

「何より遥香ちゃんにかーくんは静養を命じられてます」

「静養なんてここ何年も命じられてるよ。今更だ」

「それはそれで聞き捨てならないけど、とにかくストーンフリューゲルに籠るのはダメです」

「うーん…じゃあ、今晩だけ。少なくとも傷口は塞ぎたい」

「むぅ…」

このままでは平行線だ。一樹の最大限の譲歩に、雪恵は悩む。

確かに、傷口を塞ぐくらいは早く済ませた方が良いだろう。包帯の消費量を考えても。

「…じゃあ、夕飯時まで」

「了解。近づいたら()()()くれよな」

「うん、分かった」

雪恵の許可を得た一樹は、そっとセリーを寝かせると、病室の窓からブラストショットを撃ってストーンフリューゲルを呼んだ。

 

 

IS学園のある部屋で、束はソアッグ鉱石のエネルギーを解析していた。

「上手くいけば…かずくんの手助けになるかもしれない。頑張らないと」

夏の時の様に、一樹が1人で戦う事がないように、束はキーボードを叩き続けるのだった。

 

 

それから数日、学園は平和だった。

取り敢えず傷口は塞がった一樹は、病室でゆっくり本を読んでいた。

『もう護衛役だからだとか気にしなくていい。怪我を治す事に集中してくれ』

あの教頭がいなくなった今、千冬と摩耶の計らいにより、一樹はIS学園でもそこまで気張る必要は無くなった。元々一夏自身が強いのもあるが、何より1年1組の生徒全員が一樹の…ウルトラマンの正体を知っているのもあるだろう。

『マスター、傷口は大丈夫?』

雪恵や一夏が授業中の今、一樹の話し相手を出来る人物は限られる。ミオとセリーだけが、この時間、一樹が気楽に会話出来る相手だった。そしてセリーは一樹の隣でぐっすりと寝ている。自動的に、一樹と話せれるのはミオだけとなった。

「取り敢えずは塞がった状態だ」

『って事は、ちょっと飛んでみたとしたら…』

「多分また開くな」

『…開けないでね?』

「こればかりは俺の意思ではどうしようもない」

流石の一樹も、自分の回復力を自由に上下させることはできないようだ。

「…ミオ、今何時だ?」

『11時55分』

「あと少しでアイツらは昼休みか…そろそろセリー起こさないと」

『チャイムが鳴るまでは寝かせてあげよう?こんなに気持ち良さそうだもの』

「…だな」

自分の隣で気持ち良さそうに寝るセリーの頭を優しく撫でる一樹。

セリーの顔は、とても嬉しそうだ。

「…ミオ、ちょっと来てくれるか?」

『ん?良いよー』

久しぶりに実体化したミオ、今日の服装は医務室という事もあるのか、女医の服装だった。

「…ツッコまんぞ?」

『え〜。少しは意識してよ〜』

「そんなに置いていかれたいか。困ったドMだ」

『嘘ですごめんなさい!』

もう置いてけぼりは嫌なのか、ミオが直角に腰を折る。

『…で、何で私を実体化させたの?』

「普通に顔見ながら話したかっただけ」

『あ、なるほど』

チャイムが鳴るまでの間、ミオとのんびり話すつもりでいた一樹。

だが…

 

ドックン

 

「ッ!?」

奴が、来た。

『…マスター』

一樹の表情が固まったのを、ミオは見逃さなかった。

「…カズキ?」

セリーも、眠たげに目を擦りながら一樹に話しかけて来た。

「…セリー。俺、行かなくちゃ」

「……そう」

それだけで、察するセリー。

「なら、ミオを連れて行って?そうすれば、もしもの時にユキエが見つけやすいから」

どうせ言っても一樹は止められない。なら、『もしも』の時のために備えてもらうしかない…

「ああ、分かった…ミオ、行こう」

『…うん』

首飾りに戻ったミオ。一樹はそれをちゃんと付けてから、エボルトラスターを持って駆け出した。

 

 

『さて…そろそろトドメを刺してやるとするかな…』

学園敷地内に現れたシャドウ・デビル。

迎撃に現れたチェスター達の攻撃を物ともせずに、その歩を進める。

 

 

「これ以上…アイツの負担を増やしてたまるか」

δ機の操縦桿を握る一夏の目には、強い意思が映っていた。

『人間が出しゃばるな』

そんな一夏の決意を鼻で笑うシャドウ。遊ぶ様にダーククラスターを打ち出した。

『フンッ!』

チェスター達は必死にそれを避けるが、シャドウの回し蹴りによって全て叩き落とされてしまう。

「「「「くっ!!?」」」」

 

 

昇降口にたどり着いた一樹。チェスター達のピンチに、気合いを入れてエボルトラスターを引き抜いた。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

「シェアッ!!!!」

『グオッ!!?』

変身の勢いを利用した突進に、流石のシャドウも吹っ飛ぶ。着地したウルトラマンは、その隙にジュネッスにチェンジした。

「フゥッ!シェアッ‼︎」

ウルトラマンがジュネッスにチェンジすると同時に、シャドウは跳び蹴りを放って来た。

『デュアァァァ!!』

ウルトラマンはそれを側転で回避し、シャドウの着地の硬直を狙ってパーティクルフェザーを放った。

「ハッ!」

だが、シャドウはそれをマッハムーブで避けると、ウルトラマンの背後に回り、ハイキック。

『フンッ!』

「グアッ!?」

ガードが間に合わなかったウルトラマンは、シャドウのハイキックをまともに喰らってしまう。

数歩下がったウルトラマンに、シャドウのボレーキックが決まる。

『デュオッ!』

「グッ!?」

一撃一撃が重く、ウルトラマンはガードを崩されがちだ。

『そんなものか?貴様の力は…』

倒れているウルトラマンの肩を掴んで強引に立たせると、クルリと回転。勢いのあるエルボーをウルトラマンの腹部に決めるシャドウ。

『ハァッ!』

「グゥオッ!?」

更にストレートキックでウルトラマンを蹴り飛ばす。

『デュアァァァァ!!』

「グアァァァァァ!?」

背中を強打するウルトラマン。だが、何とか立ち上がり、構える。

「シュウッ」

立ち上がるウルトラマンを見て、シャドウな満足げに笑う。

『それで良い…まだまだ楽しませてくれよ』

かかってこいとばかりに、手のひらを見せるシャドウに向かって、ウルトラマンは駆け出す。回し蹴り、前蹴りを連続で放つが、シャドウはそれをバック転で避け続ける。

「シェアッ!!」

ウルトラマンの踏み込みストレートキックも、シャドウは飛び上がる事で難なく躱す。

『フンッ!ハァッ!』

「グッ⁉︎グオッ!?」

ウルトラマンの首を左手で掴みながら、ウルトラマンの腹部を連続で殴る。

『デュアァァァァ!!!!』

「グアァァァァァ!!?」

そしてウルトラマンを投げ飛ばすと、ウルトラマンに向かって連続でバック転。何とか立ち上がったウルトラマンの首に両脚を巻きつける。

「グゥッ!?」

『フンッ!!』

そして、ウルトラマンの首を脚で掴んだ状態で今度は前転する。

「グアッ!!?」

ウルトラマンは、背中を強打してしまう…

ピコン、ピコン、ピコン…

ウルトラマンのコアゲージが鳴り響くと、シャドウはウルトラマンの右腕と首を掴んで強引に立たせると、連続で一本背負いを決める。

『フンッ!デュアッ!!』

「グッ⁉︎グアッ!!?」

 

 

ウルトラマンのピンチに何も出来ない自分に、一夏は歯ぎしりする。

「ちくしょう!」

それは、他の専用機持ちもそうだ。全員が悔しげに拳を握っていた。

「いっくん!箒ちゃん!ゆきちゃん!」

そんな専用機持ちのところへ、束が駆け込んでくる。

「束さん!?何故ここに!!?」

「出来たの!ソアッグ鉱石のエネルギーを凝縮させたエネルギー弾の試作型が!!」

「「「「なっ!!?」」」」

「ただ…出来たのはこの1発だけ」

「つまり…」

「チャンスは1度っきり…」

束は、エネルギー弾を込めたスナイパーライフルを一夏に手渡す。

「これを外したら、私たちの勝利は離れる…お願いいっくん!絶対に当てて!」

「……」

 

 

シャドウはウルトラマンの首を両手で絞めると、地面に叩きつける。

『フンッ!!』

「グオッ!!?」

地面に叩きつけられ、蹲るウルトラマンを、シャドウは容赦なく蹴飛ばした。

『デュッ!!』

「グアァァァァァァァ!!?」

 

 

「…任せて下さい。絶対に当てます」

スナイパーライフルを構える一夏。狙うのは、こちらの存在を忘れてるシャドウだ。

『織斑、準備は良いか?』

「…ええ」

『よし…撃て!!!!』

「喰らえ!!!!」

スナイパーライフルから放たれたエネルギー弾は…見事シャドウに命中した。

 

 

『グゥッ!!?グゥオォォォォォォォォ!!!!?』

エネルギー弾を喰らったシャドウは、凝縮されたソアッグ鉱石のエネルギーに苦しむ。

「シュウゥゥゥゥ……」

その隙に、何とか立ち上がったウルトラマン。両手に、エネルギーを溜める。

「フッ!シュウッ!フアァァァァァァァ…フンッ!デェアァァァァ!!!!」

オーバーレイ・シュトロームがシャドウに命中。

『グアァァァァァァァァァァァ!!?』

シャドウは弾ける様に消えたのだった。

「ファッ、フッ、フッ…」

だが、ウルトラマンも力尽きた様に消えていった…

 

 

数十分後、一夏の肩を借りながら歩く一樹の姿があった。

「今回は何とか退けられたけど…アイツはまた来るぞ」

「…分かってる」

一樹の言葉に頷く一夏。

「だから…俺たちは強くならなきゃいけないんだ…」

「…頼むぜ」

 




ここからは、一樹イコールウルトラマンと一夏達が協力しなければ、奴に勝つことは出来ない…


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Episode93 授業-レッスン-

千冬から一樹にある依頼が来る…

それは…


「…悪い千冬。今なんて言ったのか、もう一度言ってもらって良い?」

千冬から告げられた事に、一樹は耳を疑った。

「だから…生徒の模擬戦に付き合ってやってくれ」

非常に頼みにくそうに千冬が言う。

「あの…今の俺、一夏の肩を借りながら歩いてる身なんですけど…」

シャドウ・デビルとの戦いの傷は、まだ治っていない…

「それは充分承知の上だ…」

「こんな状態で、専用機持ちと戦うのは…やれなくは無いけどさ…」

「ん?ああ説明が足りなかった。相手してほしいのは訓練機の方だ」

「…はい?」

千冬の説明はこうだ。最近、学園を襲撃されるのがもはや当たり前となってきている。何かイベントが起こる度に、だ。専用機持ちだけで対応出来るならそれが一番だが、学園の自衛のためにも一般生徒が強くなった方が良い…と。

「…なーる。その案には賛成」

「決してお前がいなくなるためって訳では無いぞ?」

「わーってるよ。で、機体の数は?」

「25機だ」

「…は?」

「だから、25機だ」

あれ?デジャビュ?

「(…なあミオ。俺たちの初陣って何機が相手だったっけ?)」

『……25機、だよ』

ミオも同じ事を思ったのか、何とも言えない表情をしていた。

 

 

「ま、まさか私たちが櫻井君に相手してもらえるなんて!」

「あのカッコいい機体が間近で見れるなんて!」

「「「「生きてて良かった!」」」」

実習の時間になった。千冬の指示で、それぞれ機体を纏った1組の生徒たちに、雪恵は苦笑を隠せない。

「あの…かーくんが相手って意味を、正しく理解してる?」

「「「「…私たち何分保つと思う?」」」」

さっきまでのテンションはどこへやら、一気にお通夜の様になる生徒たち。

「…まあ、1分保てば上々じゃないか?」

「「「「秒殺の可能性!!?」」」」

一夏の回答に、生徒たちに黒い波線が現れる。

「今回の貴様らの目標は、櫻井相手に1分保つことだ。出来なかったら…」

「「「「出来なかったら?」」」」

「私が直々に補習を行ってやろう」

「「「「地獄しかない!!?」」」」

 

 

「全部聞こえてるんだけど…」

ピットのベンチで一樹は苦笑する。

『マスター、手加減してあげるの?』

「…出来ればな」

今、一樹のコンディションは最悪に近い。現に、このピットに来るまでセリーの肩を借りた程だ。

「手加減しなくても…今全力出したら普段の手加減になるんじゃね?幾らお前の性能があっても」

『マスター…』

「ま、なるようになるさ」

フリーダムを展開し、カタパルトと接続する。

「とりあえず、楽しもうぜミオ」

『…うん!』

 

 

カタパルトから出撃したフリーダム。華麗に舞う様に飛びながら、VPS装甲を起動させる。

「来たァァァァ!!」

「やっぱりカッコいいよあの機体!」

フリーダムを待ち望んでいた生徒達。中には関節部の輝きに、眩しそうに手をかざす生徒もいた。

「…本当に25機だ」

『あの時のまんま戦っちゃう?』

「それだと…何分?」

『あの時は2分掛かったよ』

「なら、丁度良いか」

作戦?を決めた一樹とミオ。

「あ、ミオ。ちょっと話したい事があるから回線つないでくれ」

『良いけど…誰と?』

「一夏」

 

 

「セシリア、一樹がよく見ておけだってさ」

一旦一夏を経由して、セシリアに言う一樹。

「え、えっと…何故私ですの?」

「かーくんが使う武装が、セシリアちゃんの参考になれば、だと思うよ」

一通りフリーダムの武装を知っている一夏と雪恵は、何か企む様な顔をしている。

「ふむ。何か櫻井には考えがあるようだな…ちゃんと学習しろよ、オルコット」

「は、はい…」

 

 

開始の合図を待つ一樹と生徒達…

 

試合、開始!

 

麻耶のアナウンスを聞いて、最初に動いたのはラファールを纏った生徒達だ。

搭載されているマイクロミサイルを、牽制の意味を込めてフリーダムに向かって撃つ。

「行くぜ、ミオ」

『うん!』

フリーダムはそのミサイルを物ともせずに、隙間を縫う様に飛ぶ。

「「「なっ!!?」」」

ミサイルを難なく避けたフリーダムに、ラファール達が愕然としている。

左腰のビームサーベルを抜刀すると、固まっていた2機のラファールをすれ違い様に戦闘不能にする。

「せめて1発は当てる!!!!」

今度は打鉄の部隊がガトリングガンを一斉射してくる。

「甘い甘い」

弾丸の嵐を避けながら、打鉄部隊のガトリングガンを切断。

「囲むよ!」

誰かがそう叫ぶと、4機が一樹を囲む様に動くが、それは持ち替えた2丁のビームライフルによって迎撃される。

「なんのぉ!!」

「コレでぇ!!」

フリーダムの動きを止めようと、迎撃されたラファールの2機が、ワイヤーを射出。フリーダムの左脚、右腕を捕らえた。

…あれ?デジャビュ?

「今だよ!みんな!」

フリーダムの動きを完全に制止したと思ったのか、一斉に攻撃してくる。

「見てろよオルコット。ビットってのはな、こう使うんだ」

翼のスーパードラグーンを射出し、まずはワイヤーを破壊。次に飛んで来た実体弾達を破壊する。

「「「「嘘ぉぉ!!?」」」」

 

 

「う、嘘ですわ…8機ものビットを、同時に動かすなんて」

同時に動かすのは、4機が限界のセシリアには、その場面は衝撃すぎた。

「しかも射出してからも、高速で動いてるしな」

一夏が少年の様な笑みを浮かべながら言う。普段、一樹が機体を展開する時は、自分か襲撃者の相手をする時だけだ。

それが、第三者の視点で見るとここまで楽しいとは…

一夏も男子である。ロボットが戦う姿を見るというのは、心にくる物がある。それは、自分がそのロボットを扱う側に立っても変わらない。

 

 

ドラグーンを操作しながら、フリーダムはビームサーベルを振り回して暴れる。数の上では有利な筈の生徒達が、防戦一方になるくらいには。

フリーダムの斬撃からどうにかして逃れようと下がれば、そこはドラグーンが狙っている。

「「「「もうイヤ!!!!櫻井君の鬼!鬼畜!ドS‼︎」」」」

『マスターを理解する女の子が着実に増えてるね』

「…そこまで言うならもう終わらせるよ」

練習に付き合わされた挙句、そんな事を言われるとは…一樹は呆れながら、フリーダムを急上昇させてマルチロックオン。

「…はい、お終い」

「「「「イヤァァァァ!!?」」」」

 

 

「…丁度1分。櫻井め、遊んでたな」

「いやあ!第三者の目で見ると楽し…一樹?」

ゆっくりと下降してきたフリーダム。そして解除した途端、一樹は膝を付いた。

「ハア、ハア、ハア…」

その額からは大量の汗、制服に少し血が滲んでいる…血?

「「セリィィィ!!急患だぁぁぁ!!!!」」

織斑姉弟の声が、アリーナ中に響いたのだった。

 

 

「ねえカズキ。何で戦っても無いのに傷口開いてるの?」

「フリーダム動かすのに夢中で、怪我の事を忘れてた」

相変わらずの一樹に、セリーは頭を抱えるのだった…




8巻行っくぞぉぉぉぉ!!!!


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Episode94 整備-メンテナンス-

8巻と言えば…
白式の整備でしょ!!!!




え?違うの?


「なあ一夏。今度の休みに、S.M.Sに来てくれないか?勿論1人か俺たちとで」

「え?それは別に良いけど、何で?」

一夏の肩を借りながら、セリーとの共同部屋(一夏達と同じ設備で、未だに一樹は落ち着かない)に帰って来た一樹。

「いや、麒麟の整備を一度しっかりやってほしいからさ。前やったのは雪のついでみたいなとこあったから」

「…なるほど」

「悪いな、折角の休日なのに」

「いや、大丈夫だ。みんなにはISのメンテナンスだって言えば良いからさ」

そう言いながら、一夏は部屋に兼ね備えられている簡易キッチンに向かう。

シャドウとの戦いの後、一樹の食事を用意するのは、一夏と雪恵(&セリー)が交代でやっている。無論専用機持ちはそれを知ってるので、昼間教室で一樹を見ると、何とも言えない表情をされる。

「…本当、手間掛けて悪いな」

「気にすんな。たまには料理しないと、感覚を忘れる」

忘れた方が彼女たちには良いのではないか、一樹はそう思った。

 

 

「あの…みんな顔が凄い事になってるよ?」

「ユキエ、今更じゃない?」

所変わって食堂。最近、一夏と食事が取れないことに理性では納得しても、感情が納得出来ていない雪恵と簪以外の専用機持ち。

「さ、櫻井君の今の怪我は尋常じゃないから、しょうがないと思うよ?」

「アンタは強いわね…簪」

鈴は生気の飛んでいる顔で簪を賞賛する。

「怪我の治療が必要なのは…昔から叩き込まれてるから」

更識家で育った簪は、人一倍怪我の治療の重要さが分かっているのだ。

「カンザシ…で良い?」

普段一夏の周りにいる者には話しかけないセリーが、珍しく簪に話しかけた。

「な、何…?」

「カンザシは、カズキの事をどう思ってるの?」

セリーの瞳からは、何も読み取れない。しかし、彼女にとって重要な事を聞いてるのは確かだ。

「櫻井君は…恩人かな?」

「恩人?」

「うん。私、この間のタッグマッチの頃まで専用機が完成してなかったの」

簪はセリーに語った。春の終わりに初めて整備室で出会い、打鉄弐式の製作を手伝ってもらったことを…

「だから、私にとって櫻井君は恩人だよ…コレで良い?」

「ん。カンザシは敵じゃないって事が分かった」

「敵って…この学園を守ってくれてるのに、敵とは思わないよ」

「カンザシはね…なあお前ら」

後半はドスの効いた声で専用機持ちに言うセリー。凄い速さで顔を逸らす面々。

「い、今は違うぞ!?」

「そ、そうですわ!彼には感謝してます!」

「こ、この間も助けられたしね!」

「さ、櫻井君は僕にとっても恩人だよ!」

「うむ!櫻井は大切な仲間だ!」

もの凄い速さでまくし立てる5人。セリーのジト目に、しばらく怯えてるのだった。

 

 

「一夏、悪いけど背中拭いてくれね?」

一夏作の夕食を食べ終わった後、一樹は一夏に背中を拭く事を依頼した。

「あいよ」

お湯で濡らしたタオルで、一樹の背中を拭く一夏。

「…コレ、雪恵とセリーにも頼んでるのか?」

「な訳無いだろ…こんなの、あの2人には見せられないっての」

「…そうだな」

一樹は、真夏でも薄手の長袖長ズボンを必ず着る。病院着であってもだ。その理由が、体中に残っている火傷等を人々に見せないためだ。一夏もS.M.Sの大浴場で、初めてそれを見た時は気絶した程だ。

「この背中は、お前が人間を守ってきた証なんだよな…」

「…そんな大層なモンじゃねえよ。そろそろセリーが帰ってくる。ちとペース上げてくれ」

「了解」

一樹の背中を拭き終わり、服を着終わった所でセリーが帰ってきた。

「ただいま、カズキ」

「おう、おかえりセリー」

「じゃあ、セリーも帰ってきた事だし、俺も帰るわ」

「…ありがとな、一夏」

「お大事に。じゃあなセリー」

「……それじゃ」

最近、セリーは少しずつだが一夏を認め始めた。一樹の世話を、自分から進んでやっている事が、セリーの中で評価を上げたのだろう。

「カズキ、調子はどう?」

「…ぼちぼち?」

「何故疑問形?」

「歩こうと思えば歩けるけど、すぐ転ぶし…けど痛みはそれほどでも無いし…」

「…それ、神経がやられてるんじゃ」

「いや、多分俺が痛みに慣れすぎてるからだな。動かす事はできるし」

「カズキのバカ…」

最近、セリーのジト目が雪恵に似てきてることを知った一樹は、苦笑するしかなかった。

 

 

週末、一夏はモノレールで対岸の岸にいた。

「くぅぅ〜!さて、久しぶりに顔出しに行きますか!」

一樹経由で言われた、麒麟の整備のためにS.M.Sへと向かう一夏。

他の専用機持ちもそれぞれ機体の製作元に戻ったりしてるらしい。シャルロットに雪恵は、別の日に整備士がIS学園に来て終わらせていた。

流石に麒麟の本整備をするための機材は持ち運び出来ないらしく、一夏のみ顔を出せとの事だ。

「しっかし、一樹と一緒に行かないのって本当久しぶりだな」

 

 

「で、一夏は白式のメンテナンスのために出かけたということだな」

わざわざ一夏の所在を聞くために、一樹の部屋を訪れた箒たち。

「おう。ってか一夏から聞いてないのかよ?」

椅子に寄りかかるように座っている一樹と、その側に寄り添うように座る雪恵とセリー。

「織斑君から聞いてはいたよ?ただ、細かい日にちは聞いてなかったの」

「そういうことか…」

 

 

「お、来た来た。お疲れさん」

「一馬、お疲れ」

無事にS.M.Sへとたどり着いた一夏を出迎えたのは、一馬だった。

「じゃあ、知ってると思うけど今日の流れな。白式の本整備をするのがメインで、ついでに()()がやれるかの試し」

「え?()()を採用したの?」

「一応整備要項はクリアしてるからな。試しにやってみる」

「…で、オッケーだったら?」

「ん?オッケーなんだなで終わり」

「何故に!?」

「だって学園内に()()を持ってくの超絶面倒だから。それに、流石に()()を外でやるのは…」

「あ、そっか…俺がS.M.S所属って知られちゃうのか」

納得してくれた様で何よりだ

と一馬が言うと、一夏と共にメンテナンスルームへと移動する。

「…一夏」

「ん?どうした一馬」

「最近、学園内でアイツはどうだ?俺達は防衛府の指示が無いと動けなくてさ…」

「だからか…宗介達があまり来れないのは」

怪獣達と戦うのに、宗介達は防衛府の指示が無いと動けない。それは、S.M.Sが動くと世界のパワーバランスが簡単に崩れると思っているからなのだろうか。

「だから精々、住民の避難くらいしか出来なくてさ…お前と雪恵さんには、苦労かけて悪いな…」

「いや…俺も雪恵も、そこは気にして無いから良いんだけど…問題は」

「一樹、だろ?」

「ああ。3日前まで、一樹は誰かの肩を借りないとまともに移動出来ない状態だったんだ」

「ちょっと待てそれは初耳だぞ!!?」

遥香からも、そこまで酷いとは聞かされていない一馬達。それもそうだ。シャドウ・デビルとの2戦目の後は遥香も来れてないのだから。

「マジか…今度宗介や一馬達のケータイ番号を雪恵に教えた方が良さそうだな」

「ちょっと待ってろ今全員に確認するから」

一馬からのメールの結果、数分後にはその案が採用されることになるのは別の話…

 

 

「…おし。全快とまではいかないけど、自分で動ける程度には治った」

腕をグルグル回し、自分の体の状態を確認する一樹。

「逆立ち出来る?片手で」

「セリーちゃん、いくらかーくんでも片手逆立ちは「よっと!」出来てるぅぅぅぅぅ!!?」

「じゃあ、あまり暴れなければ問題無さそうだね」

「おう、雪もセリーもありがとな。すげえ助かった」

雪恵のリアクションを軽くスルーしながら礼を言う一樹。

「それは良いんだけどさ。かーくん最近怪我多くない?」

「それだけ敵が強くなってるって事だ」

俺の回復力が落ちてるのもあるかもな…

その言葉が口にされる事はなく、ミオだけがその言葉を聞いたのだった。

『…マスター』

 

 

「おい一夏、お前ちゃんと整備してるのか?自動回復に任せっきりだろ?」

「うっ、確かに一樹にばっか頼ってました…」

メンテナンスルームで麒麟を展開した一夏は、整備士たちの説教されていた。

『本当ですよマスター。いつも私の事を放ったらかしにして。女の子はデリケートなんですよ?』

「返す言葉もございません…」

ハクにも怒られ、一夏はうなだれるのだった。

 

 

「……」

『マスターどうしたの?急に黙って』

「悪いミオ、少し静かにしててくれ」

『う、うん…』

雪恵とセリーが昼食を食べに行ってすぐ、一樹は()()を感じていた。

「……」

左手を逆刃刀に添えて、廊下を注意深く進む一樹。

 

ビー!ビー!ビー!

 

「やっぱりか!」

IS学園全体に、警報が鳴り響く。

それは、またもや学園が襲撃された事を意味していた。

 

 

IS学園地下にあるオペレーションルームに、男子2人を除く1年専用機持ちとセリー、楯無が集められていた。

「…と、言うわけだ。そのために、電脳ダイブで対応するために、お前達専用機持ちが集められたのだ。質問は?」

「はい」

手を上げたのは、ラウラだった。

「電脳ダイブをするのは良いのですが、その間我々は無防備になります…その問題はどうなるのでしょうか?」

「この場に、ある人物がいないのに気付かないか?」

雪恵とセリー以外が周りを見て、漸く気付く。

「ま、まさか櫻井1人に対応させるつもりですか⁉︎危険すぎます!」

実戦経験のあるラウラが意見するも、千冬にバッサリ切られる。

「かと言って、お前らが行っても櫻井の邪魔だ。何せ、今回の襲撃された場合、ISでは不向きな学園内の戦闘だ。生身の戦闘に貴様らがいたら、人質になるのがオチだ」

「なら私が行きます!私は実戦経験も…」

「それは1対多数の戦闘か?」

「ならばAICを…」

「背後の攻撃に対応出来ないのにか?」

「くっ…」

ラウラ以外は黙っていた。精々訓練を受けた事がある程度で、その世界に身を置く一樹の援護が出来る筈もないのだから。

「…最後の砦として、田中セリーをここに置く。構わないか?雪恵」

セリーの保護者である雪恵に、最終確認を取る千冬。

「…セリーちゃんが良いのなら、私から言う事はありません」

「ん、大丈夫。雪恵と、カンザシのついでにみんな守るから」

ついで、の言葉に身を縮ませる5人。

楯無は苦笑していたが。

「よし、ダイブするのは篠ノ之、オルコット、凰、デュノア、ボーデヴィッヒに田中だ。サポート役として、更識妹と束をつける。束がいる時点で、ダイブ先が危険になったら戻ってこれる安心にはなるだろう?」

「この天災がいる限り、少なくとも死ぬことはないよ〜」

「不安になるような事を言うな馬鹿者」

 

ゴチンッ!!!!!!!!

 

あまりにも鈍い音が、オペレーションルームに響いた。

「痛いよちーちゃん!!?これが私じゃなかったら頭蓋骨割れてるよ!!?」

「更識姉、お前のISなら櫻井の援護も可能だろ?行ってやってくれ」

「はい!勿論です!」

「華麗なスルー!!?」

 

 

「う、撃て!相手は所詮生身のガキだ!これだけの数の銃口を向けられれば…ギャアァァァァ!!?」

一樹は銃口に臆することなく、むしろ加速して襲撃者達を逆刃刀で戦闘不能にしていた。

「…無駄に数が多いな」

『マスター、そこを右に曲がった所に、逃げ遅れた生徒がいるよ』

「了解」

学園全体のマップをインストールしたミオも、一樹をサポートする。

『最優先は敵の殲滅じゃなく、生徒の人命優先っていうのがマスターらしいよね』

「余計なお喋りは今はヤメろ。生徒のサーチに集中するんだ」

『りょーかい♪』

 

 

「よし、麒麟とのリンクも確認したし、少し休憩するか…」

予定されていた事を全て終わらせた一夏は、休憩しようと自販機に向かおうとするが、ハクが学園の危機を感知した。

『マスター、学園が傭兵部隊に襲われているそうです。更にシステムクラックもされてる模様』

「システムクラックは束さんがいるから大丈夫だろ。後傭兵部隊ねえ…傭兵ィ!!?

お約束のノリを見せる一夏に呆れながら、ハクは続けた。

『現在、一樹さんが傭兵部隊の相手を…おや、楯無さんも加わった様ですね。システムクラックの件は、どうやら篠ノ之博士はあくまでサポートで、電脳ダイブで事態に当たっているようです』

「何故に束さんサポート!!?」

『恐らくですが、篠ノ之博士が学園にいるという事が公になることを恐れているのではないかと…』

「何を今更!!?」

本当に今更な話だが、その可能性は高そうだ。

『どうしますマスター?』

「そんなの決まってんだろ?」

一夏はカタパルトに向かって走り出した。

「全速力で学園に戻る!」

走りながら宗介に連絡し、カタパルトのひとつを空けてもらう。

「宗介!かくかくしかじかだからカタパルト空けてくれ!」

『全く説明してないけど、大体分かった。第2カタパルトに向かえ』

「理解が早くて助かる!!ありがとな宗介!!」

 

 

『カタパルトとの接続OK。射出タイミングを、織斑一夏に譲渡します』

オペレーターの理香子の案内に従い、麒麟(ユニコーン)を纏った状態でカタパルトと接続した一夏。

「ありがとう理香子さん!」

『うん、頑張ってね。後一樹君と雪恵ちゃんによろしく』

「ああ!織斑一夏、ユニコーン、行きます!!!!」

S.M.S本部から出撃した一夏。

瞬時加速を駆使して、IS学園に急ぐ…




何気に、一夏のちゃんとした出撃を書いたのはセシリアとの決闘以来じゃないですかね?


懐かしいな…



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Episode95 銃弾-バレット-

【人と光の“絆”】
祝!100話達成!!!!

ここまで続いてるのも、読者の皆さんからの温かい応援のおかげです!

いつも感想を書いていただき、ありがとうございます!
とても励みになります!

これからもよろしくお願いします!


「さて、この学園を狙った目的は何かしら?」

楯無は一樹とは別の方向で、襲撃者と対峙していた。

ほとんどの襲撃者をミステリアス・レイディの水蒸気爆発で気絶させ、残った1人に対して尋問をしているところだ。

「へっ!傭兵は依頼さえ有ればギャラ次第でどこにも着くんだよ。目的なんざ知らねえ」

「…あなた、捨て駒にされてるのに疑問は無いの?」

「捨て駒ぁ?何言ってんだ。上手くやりゃあ一生遊んでいける金が手に入るが失敗すれば死ぬ。そんだけの話だろ?まあ、お前達女に良いようにされてんのが気に食わねえのが1番の理由だけどよぉ」

楯無は目の前の男に嫌悪感を持つ。最近は一夏に恋をし、一樹に憧れた事から忘れがちになっていたが、楯無は本来暗部に身を置く人間。こんな男の情報ばかり見せられていては、男嫌いにもなるであろう。

「それに…」

「?」

「アンタ、俺たちを全滅させた気になってないか?」

「ッ!?」

 

ダダダダダダダダダダダッ!!!!

 

楯無を狙って別部隊がマシンガンを一斉射して来た。楯無はミステリアス・レイディのアクア・ナノマシンでその銃弾を受け止める。

両腕を顔を守る様に交差させたのは無意識のうちでやっていた。そのおかげで、残酷なモノ…目の前の男だったモノの最後を認識しないで済んだ…

「更識楯無!そのまま動くな!」

生徒の避難をさせていた一樹がマシンガン部隊を蹴散らし、指示通りじっとしている楯無を小脇に抱えてその場を高速で駆けて離れる。

「悪い遅くなった!怪我は無いか⁉︎」

「え、ええ…ありがとう…けどこの運び方は…」

「一夏以外に抱えられたく無いだろうけどしょうがないだろ!それに、俺に姫様抱っこされたらお前ら吐くだろ!?」

「流石にそれは自虐が酷すぎるわよ櫻井君!!?」

一樹がこういうのを言うのは訳がある。今、楯無がハイパーセンサーを感知に回したら、彼女にとんでもないトラウマを植え付けてしまう事になる…

 

先程まで目の前にいた男の肉片が飛び散る、地獄絵図を。

 

「(お前は、そんなの見なくていい。そういうのを、知らなくて良いんだ)」

こんな死に方を、実際にその目で見る必要はない…

「…櫻井君?どうしたの?」

「いや、別に…ッ!揺れるぞ!」

「え?キャア!?」

 

ドドドドドドドドッ!!!!!!!!

 

逃げてた先に、また別の部隊がいた。しかも先程の部隊の装備より殺傷力が高そうだ。

それを一樹は、楯無を抱えてたまま壁と天井を走って避けてすれ違いざまに逆刃刀で殴る。

 

ドカッバキッゴスッ!!!!!!!!

 

「「「「オゴッ!!?」」」」

逆刃刀なのもあるが、何より一樹の絶妙な手加減によって襲撃者達は死なずに済んでいる。

「目の前の野郎を撃て!!アイツさえいなくなれば後はただの女共だ!簡単に殺せるぞ!!!!」

「そんなこと!絶対にさせるかぁぁぁぁぁぁ!!!!」

そこで楯無を離して身軽になると、ふざけた指示を出した司令官に肉薄し…

 

ボゴォォォォッ!!!!!!!!

 

「ガフッ!!?」

逆刃刀を思いっきり薙いだ。

「撃ちまくれ!弾幕を張れば奴と言えど…」

「させないわ!」

一樹を集中放火しようとする傭兵たちに、楯無はアクア・ナノマシンで銃を濡らして使えなくさせる。

「ッ!?このクソアマがぁぁぁ!!」

激昂した傭兵の1人が楯無に斬りかかる…

 

キィンッ!!

 

しかしそれは、一樹の逆刃刀に受け止められた。

「お前らの方が、よっぽど屑だ」

逆刃刀を振り上げて傭兵の姿勢を崩すと、一気に踏み込む。

 

ズドンッ!!!!

 

「かっ、はっ…」

腹部に強烈な一撃が入り、傭兵は気絶。

「「「「死ねぇぇぇぇ!!!!」」」」

残った傭兵が一斉に一樹に襲いかかるが、一樹は大きく後方に飛んでそれを避け…

「後は任せた」

「お任せあれ♪」

傭兵たちはアクア・ナノマシンの爆発に囲まれ、戦闘不能となった。

 

 

「…ナイス援護」

逆刃刀をとりあえず鞘に収める一樹。だが、その眼はまだ戦闘態勢である事を表していた。

「まあ、これくらいはね。さあて次は…」

対する楯無はハイパーセンサーで辺りに敵がいないのを確認して、ミステリアス・レイディを解除した。してしまった。

「…ッ!!?楯無避けろ!!!!」

「え……」

楯無は一樹の左手によって突き飛ばされた。その瞬間…

 

ズガンッ!!!!!!!!

 

「……え?」

一樹の左肩が、撃ち抜かれた。

「ッ…!!?」

左肩から血が流れるも、一樹は呆然としている楯無を再び抱えて物陰に隠れる。

 

ヒュンヒュン!!

 

2人の頭部を狙って放たれた銃弾を、ギリギリ避ける事が出来た。

「さ、櫻井君…」

漸く脳の処理が追いついてきた楯無が、一樹の左肩に手を伸ばそうとする…

「触るな!毒に感染するぞ!」

しかし、一樹がその手を払った。

「ど、毒?」

「しかもかなりタチの悪いタイプのだ…だろ?サーシェス!!」

「ッ!!?」

一樹の叫んだ名に、楯無は無意識のうちに体を守る様に抱えた。

「ギャハハ!その通りだぜクソガキ!俺らの目的はここのISの強奪…が他の野郎には説明されてたが、実際はテメエにこの弾丸を当てる事だったんだよ!!」

つまり、まんまと罠に掛かってしまったということだ…

「ごめんなさい、ごめんなさい…」

震えながら謝罪する楯無。彼女にとって、サーシェスの存在はもはやトラウマ級だ。一方的に両腕を折られたのに加え、今回の銃弾…

「気に、すんな…俺のミス、なんだからな…」

左肩を抑えながら、力無い笑顔を楯無に見せる一樹。それが余計に、楯無の心を痛めつける。

「一夏がそろそろ着く…アイツを、オペレーションルームに案内してやってくれ…」

それを知ってか知らずか、一樹は壁に寄りかかりながら立ち上がり、一夏の所に行かせようとする。

「で、でもそれは…」

「良いから」

動こうとしない楯無の腕を引き、左腕をダラリと下げた状態で進もうとする。

「おいおい、行かせるわきゃあねえだろうが」

見てなくても分かる。サーシェスが自らの機体を纏った事を…

「…悪い」

小さく楯無に謝ると、楯無を窓から放り投げた。

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!?!!?」

窓から放り投げられた楯無の悲鳴が響く。一樹の事で動転していたため、ISを纏う事が出来ない。

地面に落ちる恐怖に目を瞑るが、いつまで経っても落ちる感覚が来ない。

むしろ…心が安らぐ気がした。楯無がゆっくりと目を開けるとそこには________

「ったく、無茶させんなよ一樹」

想い人の、凛々しい顔があった。

 

 

一樹は、一夏から左肩が見えないよう注意しながら、サーシェスを警戒する。

「…一夏、楯無の案内に従ってオペレーションルームに行け」

「…お前は?」

「もう少しアイツの相手をする」

一夏の方へ顔を向けないのは、物陰からサーシェスを警戒してるため。

…額に浮かぶ、脂汗を見せないため。

「…だから、行け」

「けど一樹…」

「行け!!!!」

「……」

一夏は悔しそうな顔を見せたあと、楯無の手当のためにもと、オペレーションルームに向かって飛ぶ。

 

 

「……行ったか」

一夏が完全に見えなくなったのを確認すると、一樹は物陰から出てサーシェスと対峙する。

サーシェスは、既に己の機体であるシナンジュを展開していた。

「ずっと気になっていたけど、今やっと分かったよ。お前のその装備、EOSを異常な程改造したものだな?」

「ご明察」

賞賛の意を込めて拍手を送るシナンジュ。

「…確かに、ISだったら俺は扱えねえ。だがEOSにはコアを使ってない以上、適性だとかそんなもんは大して関係ないからな」

「だが…」

左肩を抑えながら、一樹はサーシェスから情報を引き出そうとする。

「EOSは関節系が尋常じゃない程遅い上に、稼働時間は30分程しかない…しかも歩行のみと仮定して、な。だからEOSじゃない【何か】だと思ってた」

「あん?じゃあ何で分かったんだよ」

「動力炉に電気信号」

一樹はサーシェスや、その同業達が纏ってきた機体を思い出しながら語る。

「お前らの機体は、特徴として大きなバックパックがあるのが多かった。それが動力炉だと仮定したら、色々繋がったんだよ。まず、EOS最大の弱点である稼働時間がクリア出来る。次に反応速度だけど、イカれたお前らの事だ。()()()()()()()()()()()()戦ってるんじゃないのか?」

そして、シナンジュはその動力炉の小型化に成功したのだろう。あまりバックパックは大きくない。

「ヒュウー♪正解だぜ。といっても、電極は意識しても分からないくらい超極細タイプだ。でなきゃ戦ってる途中アタマがダメになっちまうからなあ…さて、くっだらないお喋りもここまでだ」

シナンジュはシールドからビームアックスの持ち手を抜くと、一樹に突きつける。

「俺の生き甲斐は【戦い】なんだ。グダグダくっちゃべる事じゃねんだよ」

「……」

一樹は左肩を抑えて黙っている。

いや、神経を集中させている。

シナンジュの攻撃に、いつでも対応出来るように…

「そんじゃぁ…行くぜ!!!!!!!」

シナンジュがスラスターを蒸し、一樹に向かって突進する…

「ミオ!!!!!!!!」

『行くよ!!!!!!!!』

一樹もフリーダムを展開、シナンジュの両腕を何とか抑えると、窓から外に飛び出す。

戦いの場所を、変えるために…




100話なのに!

大して文字数いってない!

ごめんなさい!


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Episode96 中学–ジュニアハイスクール–

最初に言っておく!

俺にあの甘さは無理だ!!!!

それでも頑張った、頑張ったんだよ!!!!


「楯無さん、大丈夫ですか?」

「ええ…私は大丈夫よ」

そうは言うものの、楯無の顔色は悪い。何かあったと考えるのが妥当だろう。

「(まさか、あの地獄絵図を見ちまったのか!!!?)」

一樹達と合流する前、一夏はある地獄絵図を見つけていた。

アレを間近で見ていたとしたら、こうなるのも理解出来る。理解は出来るのだが…

「(でも…一樹が、そんなのさせるとは思えない)」

そんな地獄絵図を楯無に見せる一樹ではない。それを長い付き合いである一夏は自信を持って言える。となると…

「(何か別の理由があるのか?)」

とはいえ、聞いても楯無は答えてくれないだろう。今は目の前の事に集中しようと、一夏は決めた。

 

 

「……何か来る」

出入り口で見張っていたセリー。気配を感じたため、警戒レベルを引き上げる。

「ふぅ…」

大きく深呼吸をして、手のひらから火球を出す準備をしておく。

「…何だ、アイツか」

部屋に飛び込んで来たのは、麒麟を纏った状態で楯無を抱えている一夏だった。

「セリー!みんなは⁉︎」

近くに来た簪に、楯無を預けるとセリーに状況を聞く。

「電脳世界で頑張ってる。お前も早く行け」

「分かった!けどどうやって…」

一夏の意識は、セリーの当て身によって奪われたのだった。

 

 

「流石に酷くないかセリー!!?ってあれ?」

一夏が目覚めた所は、6つの扉がある広場だった。

『い、一夏。大丈夫?』

「簪か…とりあえずは大丈夫だ。それで?俺は何をすれば良い」

『えと、6個の扉それぞれにみんなが入って行ったんだけど、そこから誰1人帰って来てないの…だから、一夏には5人を助けて欲しい』

「はぁ?何で5人なんだ?入ったのは6人なんだろ?」

『それはねぇ〜!』

こんな状況なのに、酷く楽しそうな束の声が響く。

『この扉の向こうの世界に関係するんだ〜』

「説明になってねえ!!?」

『まあぶっちゃけると、いっくんには5人しか救えないって事だよ。特に時間制限は無いから、そこは気にしなくて良いからね〜』

「時間制限が無いのは良いですけど、5人しか救えないと言うのはどういう意味なんですか!!?」

興奮気味に束を問い詰める一夏に対し、束の返答は随分あっさりしていた。

『いやだって、残った1人って…雪ちゃんだよ?』

「全て理解しました」

雪恵を救いに行くのは自分ではなく、一樹であるべきだと一夏は理解した。

『なら宜しい…ちなみに、左端が雪ちゃんだから』

「じゃあそれ以外に行きます」

だから早く来いよ、ヒーロー。

一夏はそう思った。しかし、どの扉から行くか少し悩みだしたのは少しカッコ悪かった。さっきまでのカッコ良さは何処へ?

 

 

一方そのヒーローである一樹は、フリーダムを展開し、左肩の激痛に耐えながらシナンジュに向けて両手のビームライフルを連射していた。

「ぐぅっ…!!?」

しかしその射撃に、いつもの様に正確さは無い…フリーダムが動くだけで、左肩の傷口が痛むためだ。そのためか、シナンジュには遊ぶ様に避けられる始末。

「肩の具合はぁ…」

ビームアックスを抜刀したシナンジュの重い一撃を、両手ともビームサーベルに持ち替えて受け止める。

「ウグゥゥゥゥゥッ!!?」

更にシナンジュは、叩きつける様にビームアックスを振り下ろしてくる。

「どうだい!!?!!?」

「ぐぅぅぅぅぅぅっ!!?!!?」

シナンジュの連撃を何とか受け止めるが、その度に左肩に響く。

「ちぇいさぁ!!」

「ゴッ!!?」

シナンジュの前蹴りをまともに喰らい、フリーダムは後方に飛ばされてしまう。

「ファングゥ!!!!」

それは、今の一樹にとって地獄でしかない。

専用機持ちタッグマッチの時よりファングの数が2機増えているのもそうだが、何より迎撃のライフルが中々当たらない。何とかファング2機を破壊したその時…

「隙ありぃ!!!!」

シナンジュの左爪先が、フリーダムに迫る。そこからは、黄色いビームの刃が。

「ッ!!?」

何とか避けると、すぐさまビームサーベルでシナンジュの左爪先のビーム刃発生部を切断した。

「チッ!」

追撃を避けるために、シナンジュはファングでフリーダムを牽制しながら上昇した。

 

 

「あの体であの動き…野郎どうなってやがるんだ!!?」

牽制のファングを操作し、ビームライフルを撃ちながら、サーシェスが愚痴る。

無論、それに答えてはくれる者はいないのだが。

 

 

「ハア、ハア、ハア!」

脂汗が止まらない中、一樹の目はファングを追うのに必死だった…

『マスター!後ろ!』

「ッ!?」

ミオの叫びに、急ぎ進路を少し下げる。すると、先程まで背中があった所をファングが通り過ぎていった。

 

 

「……ここは」

鈴が気付くと、そこは見覚えのある教室。少し古くさい、どこにでもある机と椅子、黒板のある教室。

「教室…?しかも、中学の」

鈴が一夏と通った、中学の教室だった。

「何で中学?」

ポカンとしていたので、自らの服装が変わっていたのに気付くのが遅れた。

「これ…中学のときのセーラー服じゃない…いつの間に?」

限りなく黒に近い紺色のセーラー服。通っていた頃は野暮ったくて好きじゃなかったが、今はそれが懐かしい。

「とりあえず、辺りを見回しとくか」

妙にリアルだった。

湿度に温度、その空間の匂いまで再現されている。

更にISを呼び出そうにも、大気形態であるブレスレットが無くなっていた。

「これは…罠ね」

罠と分かったのなら長居する必要は無い。教室をずんずん進み、教室のドアに向かう。

 

ガラッ

 

「え?」

鈴が開けるより早く、誰かにドアを開けられた。それは…

「よお、鈴」

「い、一夏⁉︎」

学ラン姿の、一夏だった。

 

 

「ねえ、タバネ」

「何だいセリーちゃん」

「アイツら、いっそこのまま起きなくても良いんじゃない?見ててムカつく」

セリーの冷たすぎる言葉に、流石の束も苦笑した。

…あの他人に興味を見せず、知り合い以外が滅んでも良いと言っていた人物と、同じだとは思えない光景だ。

「となると…雪ちゃんも起きない事になっちゃうよ?」

「チッ…でもユキエは、こんなのに惑わされない」

こんなの、とセリーが言うのには訳がある。今、専用機持ち達が見てる光景を束達はモニタリングしてるのだが、その光景が…初心な簪の顔が赤くなってる時点でご察しである。

「ん?分からないよ?実はかずくんが超俺様キャラになって、雪ちゃんに迫ってるかもよ?」

「そ、それでも…あり、えない…」

段々語気が弱くなっていくセリー。その顔が、少し赤味を帯びてきた。

「…想像しちゃったの?かずくんの俺様キャラ」

「す、少し興味がある」

おいセリー、正気を取り戻せ。

 

 

「い、一夏…?」

夕暮れの教室、校庭からは野球部の声が聞こえるが、教室には今鈴と一夏しかいない。

「どうした?鈴」

 

________あれ?何か忘れてる気がする。

 

「えーっと…」

駄目だ。思い出せない。

思い出せないのなら、大した事では無いのだろうと判断した鈴。

「本当どうしたんだよ、せっかく2人きりなのにさ」

「う、うん…」

夕暮れの教室に、男女が2人きり。そんな青春の1ページのような事を、まさか自分が経験するとは…

「(やっぱり、2人きりだと緊張しちゃう!)」

付き合っているとはいえ…

付き合っている?

誰と誰が?

鈴と…大好きな、一夏が。

「(そ、そうよね。何当たり前な事を忘れてるんだろ?アタシ…)」

ドキドキと、心臓が痛い。

「なあ、鈴…」

「な、何?」

急に雰囲気の変わった一夏が、鈴に近付いてくる。そして、鈴の顎を人差し指で少し上げる。

「(こ、こここここここれは!ま、まさかの顎クイ!?)」

「鈴…」

一夏の顔が、少しずつ近付いてくる…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラッ!

「やべ!忘れ物しちまっ…」

慌てた様子の弾が、凄い勢いでドアを開けた。そして、今の鈴と一夏の距離を見て固まる。

「「「……」」」

3人が、固まった。1番早くフリーズから立ち直ったのは、弾だった。

スタスタと忘れ物を取ると…

「…すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

全速力で教室から走り去った。

「待てやゴラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

それを鬼の形相で追う鈴。そんな鈴を止めるべく慌てて追う一夏。

弾は過去に無い程早く走り、下駄箱に向かった。

「あ、遅えぞ弾。何して…」

下駄箱で弾を待っていたのだろう。相変わらず学ランの前ボタンを全開けしている一樹が文句を言おうとしたが、後ろから鬼の形相で追ってくる鈴を見てやめた。

「逃げるぞ一樹!!!!捕まったら死ぬぞ!!!!!!!!」

「お前今度は何やらかしたってんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?!!?」

「鈴と一夏の営みを邪魔しちゃったんだよぉぉぉぉ!!!!!!!!」

「誤解を招く発言すんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

とばっちりを喰らったらたまらないとばかりに一樹も走り出す。弾はそんな一樹に追いつこうと走る。鈴は見られた事と知られた事の制裁を加えるべく追う。

きっとこれも、何かの青春の1ページ。

 

 

「あははははははははははははははははははははは!!!!あーおかしい!!お腹痛い!!」

束は床を転がりながら大爆笑していた。笑いすぎてその目に涙が浮かんでいる。

「だ、ダメ…笑ったら…ぶふっ」

簪は笑いを堪えようとしていたが、堪えきれずに笑ってしまっていた。一方、セリーはと言うと…

「カズキのあの格好、何?」

学ランを不思議そうに見ていた。束が簡単に説明すると、セリーは頷きながら…

「なんか…コレにネクタイつけたら、S.M.Sの時と似てる気がする」

そんな事を言う程度には、冷静だった。

 

 

「フー、フー、フー!」

鈴の前には、ボロ雑巾の様にされた弾が倒れていた。

…ちなみに、一夏の制止が無ければもっと酷い状況になっていたかもしれない。

「あとは…」

ギョロ!

という効果音が聞こえる程恐ろしい形相で辺りを見回す鈴。

…次の目標は一樹の様だ。

「(いつも飄々と逃げられてるけど、今日はそうはいかないわよ!)」

「なあ鈴。流石に一樹はやめといた方が良いぞ。アイツ、師匠並みに強いし」

最近の一夏は、鈴が家の都合で夕方以降空いてない時に、あるお寺に行ってるのは鈴も知っている。

「一夏は恥ずかしくないの⁉︎」

「いや、一樹には見られてないし。アイツ言いふらすタイプじゃないし」

鈴以上に付き合いの長い一樹に、全幅の信頼を寄せている一夏。男同士の友情だと分かってはいるが、鈴は少し嫉妬しまう。

「(でも、付き合うきっかけをくれたのは櫻井だったわね…)」

あれは、夏から秋に変わる頃の話だったか。

 

『なあ一樹…俺、最近鈴の事が気になるんだけど、これって何かな?』

『やっとか!やっとお前もそれを感じる様になってくれたか!俺は嬉しいぞ!』

『何でそんなに泣いてるんだよ…』

『そりゃお前…毎年毎年バレンタインの時にチョコを渡す人の行列を整えたり、誕生日の時、『織斑君の好きな物は何か教えて』って何百人も聞きにくる生活が、やっと終わると思うと!』

『何百人は言い過ぎだろ…せいぜい10人ちょっとってとこだろ?』

『お前、ある意味幸せ者だよ…で、凰が気になるって話だっけ?』

『あ、ああ…最近、鈴を見てるとこう、ドキドキすると言うか…鈴がお前とか弾と話してるのを見るのは、何か嫌だったり…』

『よし一夏、途中にあった凰と俺が話してたというのがいつの話だって言うのは置いといて』

一樹の記憶では、鈴とまともに会話したのは彼女が中国から転校して来た時、通訳したくらいまで遡るのだが…

『まあ、本当はその感情の名に自分で気付いた方が良いんだけど、お前だし。しゃあねえから教えてやるよ。その感情の名前は…【恋】だ』

まるで父親が子供に告げる様に、優しい顔で一樹は言った。

『【恋】、か…俺はどうすれば良い?』

『んなの決まってんだろ?当たってこい!』

 

 

「(あの時、一夏に屋上に呼び出されて告白された時は、嬉しかったなあ…)しょ、しょうがないわね!櫻井は見逃してあげるわ!」

「ああ、ありがとうな」

苦笑しながら礼を言う一夏の姿に、見惚れる鈴…

 

『ワールド・パージ、完了』

 

何か頭の中に響いた気がした…しかし鈴の中では、そんな事よりも一夏とのこれからに意識が向いていった…

 

 

シナンジュに向けて両手のビームライフルを連射するフリーダム。

「チッ…調子に乗りやがって…」

それを避け続けるシナンジュ。

そんな時だった。シナンジュのセンサーが、人影を捉えたのは…

「コイツは…」

使える。

サーシェスはシナンジュを人影の方へと飛ばす。

センサーが示した場所、IS学園の3階廊下にいたのは…流れる様な銀髪の少女と、ダボっとした制服を着ている生徒だった。

「ヒッ…!」

銀髪の少女が軽く悲鳴を上げると、生徒が少女を守ろうと前に出る。

そんな2人に向けて、シナンジュのビームアックスを向けるサーシェス。

フリーダムはそれを見て動きを止めた。

「ハハッ!コイツは人質って奴だ。手出しは無用だ…」

サーシェスの言葉は最後まで続かなかった。

 

バキィィィィィィィッ!!!!!!!!

 

フリーダムが一瞬でシナンジュに接近し、シナンジュを蹴飛ばしたのだ。

「ッ!?ファングゥ!!」

残っていた8機のファングを全て射出するシナンジュ。

フリーダムはその攻撃の隙間を潜り抜けると、両手のビームライフルと胸部のスキュラを最大出力で撃った。

 

ドォォォォォォォンッ!!!!!!!!

 

その一撃で、射出されたファングは全て破壊される。

フリーダムは再度ビームサーベルを両手に持ってシナンジュに急接近、()()ビームサーベルでシナンジュのビームアックスを破壊した。

「エェェェェェイッ!!!!」

苛立ちの声をあげながら、シナンジュは腰につけているライフルを取り出そうとするが、フリーダムの方が速かった。

シナンジュのビームライフル、ファング射出口、右爪先のビーム刃発生部にビームサーベルを突き刺して破壊。

「でぇぇぇぇぇぇい!!!!!!!!」

トドメのビームサーベルを、シナンジュは外装パーツを投げる事で対応すると、全力でスラスターを蒸して離脱した。

 

 

「ハア、ハア、ハア!」

シナンジュをまたもや逃してしまったフリーダム。だが、フリーダムの装着者である一樹の方も既に限界だった。

シナンジュが人質を取ろうとした時には、一種のトランス状態となっていた程だ。撃退出来ただけでも、上々と言えるところだろう。

『マスター…大丈夫?』

「ハア、ハア、ハア…肩が焼ける様に痛い。一瞬、堕ちかけた…」

ミオはISコアだ。ISは、本来なら搭乗者保護機能があり、余程の事がない限り気絶する事は無い。しかし、ミオの場合は違う。一樹の反応速度に追いつくために、そういう機能は全て一樹によって排除されている…だから、ストライクフリーダムにも対G性能は無い。

そのため…飛ぶだけでも左肩へ尋常ではない衝撃が来ていたのだ。

「とりあえず…今の子たちの、安全を確認しに行くか…」

『うん…』

ゆっくり、敵意が無い事を表しながら3階廊下まで近付くフリーダム。

「…ん?あの制服って、布仏か?」

今の一樹は、痛みのあまり視界がぼやけている。なので頼りはハイパーセンサーで見ているミオだ。

『そうだね…もう1人は何というか…』

「どうした?」

『…ラウラちゃんに似てる気がする』

「ッ!?」

一樹は激痛に耐えながら、急いで2人のところへ飛ぶ。

「お〜い、かずや〜ん!」

相変わらずダボっとした袖を振り回す本音。だが、今はそのおかげで場所が分かりやすいのでありがたい。

「…よお布仏、怪我は無いか?」

「ん〜。かずやんのおかげでね〜」

ある程度近付いたところで機体を解除。

「か、かずやん?」

「あ?どうした?」

「その…左腕だけ展開してるのは、何でなのかな?」

普段一樹が部分展開を使わないのを、本音はよく知っている。だから、今の一樹が酷く不自然に見えるのだ。

「…ちょっとな。あまり気にしないでくれ」

傷口を見せないための部分展開だ。多少不恰好なのはしょうがない。

「それより、布仏と誰か一緒にいたろ?その子は?」

「あ〜。この子だよ〜」

本音の後ろで、両耳を抑えて身を縮ませている銀髪の少女がいた。一樹はゆっくりと、その震えてる肩に右手で触れる。

「…もう、大丈夫だぜ」

頑なにこっちを向かない少女の頭を優しく撫でる一樹。

「この手…もしかして」

ゆっくりと少女がこちらを向く。

「…もう大丈夫だ。アイツは逃げて行ったよ、【クロエ】」

「かずき…さま?」

「様付けはやめてくれ…俺はそんなガラじゃない…っと」

相手が一樹だと分かると、クロエと呼ばれた少女は一樹へと飛び込む様に抱きついた。

「怖かった…怖かったよお…」

「大丈夫だ…すぐにお前を、束さんのとこに連れて行ってやるからさ」

 

 

あの後、(ボロ雑巾)を放置した状態で、鈴の家である中華料理屋、【鈴音】に来た鈴と一夏。

「あーあ、今日は疲れたわ…」

セーラー服から着替えるのも面倒なのか、ソファへと倒れこむ鈴。

「おいおい、制服にシワが出来るぞ?」

「良いわよ別に」

「いや良くは無いだろ…」

呆れた様に笑う一夏。その顔すら、愛おしく思えるのは惚れた弱みか。

「とにかく、着替えてこいよ。俺はここで待ってるから」

「…それで覗くの?」

「覗かねえよ!!!!」

それはそれで悲しくなる鈴。

「(何よ…男だったら、襲うくらいしなさいよ)」

自分に魅力を感じないのかと思ってしまうのもしばしば。大切にされてる事は分かるが、たまには…

「鈴」

「あによ」

思わず不機嫌な声が出てしまい、更に自己嫌悪に陥る鈴。

「怒るなよ」

「別に怒ってないわよ」

「嘘つけ」

だからだろうか、徐々に近付いてくる一夏に気付けなかった。

「…り〜ん」

「ひゃわぁ!!?」

いきなり耳元で囁かれ、背筋に電流が走る鈴。

「い、いきなり何よ?」

「鈴、耳元が弱いのか?」

「し、知らない!」

一夏から視線を逸らし、苦し紛れの抵抗を見せる鈴。

「鈴、こっちを向いてくれよ…」

想い人にそう囁かれては、いくら鈴でも抵抗が出来ない。

顔を真っ赤にしながら、一夏の方を向く。

「鈴…」

そして、一夏の顔が近付いてくる…

 

「テンメエぇぇ!鈴に何してやがるぅぅぅぅぅ!!?」

 

バタンッ!と音が鳴る程強く開けられた扉。

そこから入って来たのは…

「え…え?一夏?」

見たことの無い、白い制服を着た一夏がいた。

()()()()()()()

いや違う。アレは…IS学園の制服だ。

「(え?で、でも一夏はアタシの目の前にいて、アタシの彼氏で…)」

 

『ワールド・パージ、異物混入確認、排除開始』

 

そんな電子音声が頭に響く。刹那______

「キャアァァァァ!!?」

鈴の頭に、激痛が走る。

痛くて痛くて、死んでしまいそうな程に。

「痛い、痛いよお…」

鈴が頭を抑えてる間に、白い制服の一夏が学ラン一夏を殴り飛ばした。

『異物確認、排除開始』

学ラン一夏から、そんな機械じみた言葉が聞こえる。

「異物だあ?それはそっちの事だろうが!」

そんな学ラン一夏に向けて構える白制服一夏。右掌を突き出し、左手は引き締めて胸の前に置く…師匠、ゲンから教わった構えだ。

「そんなニセモノ(お前)が…」

素早く学ラン一夏に踏み込み、その顔を鷲掴み…

本物()に勝てる訳ないだろうが!!!!」

フローリングに思いっきり叩きつけた。

『修復…不能…修復…不能…』

学ラン一夏が、壊れた機械の様に告げると、【世界】が崩れ始める。

「ッ!!?逃げるぞ鈴!!!!」

頭痛に苦しむ鈴を抱えて、一夏は走り出した。

 

ああ、この優しさ、暖かさ…

これが、一夏だ。

分かる。

頭じゃなく。

体でも。

心でもない。

魂で、分かる。

だから、言ってやるんだ。

遅いわよ、一夏

って…




…うん、一樹が肩を撃たれた状態で戦ってるというのに、お前ら何してるんだコラ!

元凶


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Episode97 執事-バトラー-

…甘いのすら書けない。

いや、まだだ。まだ焦るタイミングじゃない。
彼女達は言わば練習台なんだ。

だからこれも練習なんだ!⇦錯乱


「鈴、大丈夫か?」

何とかあの特殊空間から抜け出した一夏と鈴。

鈴は少し頭を抱えている。

「…ちょっと痛いわね。思ってたよりダメージが大きいみたい」

「なら、早く離脱した方が良い。束さんがいるからって、絶対じゃないんだからさ」

「…なんか、言葉に力があるじゃない。どうしたのよ?」

「…夏休みの時の四足歩行型のビーストは覚えてるか?」

「え、えと、そりゃあ、まあ…」

夏休みと聞いて、鈴は自らの罪の事を思い出す。しかし、四足歩行型のビーストはそれより少し前の時だ。

「その時にさ、メタ・フィールドでウルトラマンが倒れただろ?」

【外】で簪が聞いてる事を考え、一夏はウルトラマンと呼ぶ。

「……」

「その時にさ、思ったんだ。どんなに完璧に思える生き物にも、どこかで壊れちまうってさ。だから束さんが壊れちまう確率を、少しでも低くしとこうぜ?今、束さんが学園からいなくなったら困るのも事実だろ?」

「…分かったわよ。大人しく戻るわ」

「そうしてくれ」

 

 

一樹に本音、クロエはゆっくり廊下を進んでいた。

「ねえかずやん」

「ん?どうした布仏」

「何で遠回りしてるの〜?」

しかも一樹は、わざと遠回りしている。それが本音には不思議でならない。

「…今、隔壁が降りててな。これでも近道なんだ」

本当は、本音たちに地獄絵図を見せないためなのだが…

本音は、一樹の雰囲気から何かを察したのか、それ以上は何も言わなかった。

 

 

わたくしはセシリア・オルコット。

イギリスでも屈指の名企業、オルコット社を束ねる若き美人総帥ですわ!

「ふう…」

本日の業務は全て終了、 わたくしは特別製の小さなプラチナ・ベルを鳴らした。

 

チリリン…

 

きっかり3秒後、燕尾服に身を包んだ青年が入って来た。

「お呼びでしょうか代表」

恭しく頭を下げるその青年の名は、昔からわたくしに仕えてくれる____織斑一夏。

彼が入ってきたことで、顔が嬉しさのあまりにやけそうになるけれど、ここはぐっと堪える。

「…わたくし、今日の業務は全て終わらせましたの」

「失礼しました。お嬢様」

再び恭しくお辞儀をする一夏さん。

でも、違う。そうじゃない。

「もう…2人きりですのよ?」

「はは、ごめんなセシリア」

幼なじみである彼はたまに、こういうイジワルをしてくる。

けれど、それすら嬉しく思ってしまうのは惚れた弱み…ですわね。

 

『ワールド・パージ、開始』

 

「…?一夏さん、何か言いまして?」

「ん?何も言ってないけど」

一夏さんがそういうのならそうなのでしょうけども…何でしょう、この違和感。

「それより良いのか?そろそろ夕食の時間だぞ?」

「急いで行きますわ!」

決まった時間に食べなければ、太る原因になってしまう…

一夏さんとの今後のためにも、わたくしはこのスタイルを維持しますわ!

 

『ワールド・パージ、完了』

 

「じゃあ行こうかセシリア。今日も腕によりをかけて作るからな」

「ふふ、楽しみにしてますわ」

ああ…一夏さんとの時間、幸せですわ!

 

 

「か、簪…この扉、開かないぞ?」

先ほどから何度もノブを回しているのだが、一向に開く気配が無い。

『多分、セキュリティレベルが上げられたんだと思う。織斑一夏が、2人いるって事が無いように』

「【俺】がまたこの先にいるのは確定なのね…で、どうすれば良い?」

『変装』

「…はい?」

『変装すれば、織斑一夏という認識ではなくなる筈』

「(うん…対人だったらそうかもしれないけど、相手はコンピュータだっていうのは無粋なツッコミかな?)」

一夏が心の中でそんなツッコミを入れていると、突如一夏の体が光った。

「ん?これは…」

光が収まると、一夏の服装が制服から全身黒ずくめ+ガスマスク状態となった。

肩からはぶらんと自動小銃がぶら下がっている。

「どっかの国の特殊部隊か?」

『うん。英国特殊部隊SASのミッション・ドレス。こっちから衣装データをインストールした』

それだけで、次に入る扉が誰なのか分かった一夏。

「次はセシリアか…しかしこの格好は映画みたいだな」

『…かっこいい』

「ん?何か言ったか簪?」

『何でもない!』

急に大声を上げる簪に戸惑う一夏。

一方現実世界では、セリーが冷たい目で一夏に向けて火球を放とうとしてるのを束が止めているのだが、それは別の話。

『気をつけて…またニセ一夏が出て、戦うことになると思うから』

「大丈夫だ。今回は武器がある」

肩にぶら下がっている自動小銃を構えて、笑ってみせる一夏。

『…実銃、撃ったことあるの?』

「……」

思わず「ある」と言いかけた一夏。

しかし、そう答える訳にはいかない。

「……男はいつだって1発勝負だ」

苦し紛れにそう言う一夏。

『無いんだ』

とりあえず簪の反応からごまかせた事が分かると、逃げる様に扉を開けた。

 

 

夕食を食べた後、わたくしは一夏さんとの2人きりの時間を堪能している。

「肩凝ってるなあセシリア」

「あふう…良いですわあ」

一夏さんのマッサージは最高に気持ち良い…このマッサージをしてもらえるのは、世界でわたくしだけ…

「…ハッ!」

いけない。このまま寝てしまっては折角の2人きりの時間を無駄にしてしまう。

「それだけは何としても…」

「何が?」

「一夏さんとの2人きりを堪能したい、です、わ…」

「ん?どうした?」

途中から声に出してしまっていたらしい。目の前の一夏さんの顔が、獲物を見つけた狩人の目をしていた…

「し、知りませんわ!」

あまりの恥ずかしさに、ヘソを曲げてしまう。

素直になれない自分が、心底嫌になる…

「セーシリア」

「なんです、の…」

不機嫌顔で振り向いてみれば、一夏さんの顔が間近にあった。

「綺麗だよ、セシリア」

「と、とととととと当然ですわ!なにせ、わたくしはセシリア・オルコットですもの!」

ああああああどもり過ぎですわー!これでは一夏さんの思惑通りに…

「セシリア…」

ああ、そんな凛々しい顔を近づけないで、抗えなく、なる…

 

「だからお前()は何やってんだよぉぉぉぉ!」

 

そんな叫び声と共に、特殊部隊装備の男が、一夏さんを突き飛ばす。

「い、一夏さん!?」

『ワールド・パージ、異物を確認。排除開始』

一夏さんがその様な事を呟いたと思ったら、頭部に激痛が走った。

「あああああああ!!?」

痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!?!!?

頭が、焼ける様に痛い…

『排除、はい…』

「感情も篭ってねえ奴に負ける程落ちぶれちゃいねえよ!」

特殊部隊の人物は、機械じみてきた一夏さんに向けて飛び蹴りを放った。

『はい…じょ…はい…』

「いやぁぁぁ一夏さぁぁぁん!!?」

「いや待てセシリア!一夏は俺だ!気配で分かれよバカ!」

「バカ!?バカとおっしゃいましたね!!?このイギリス代表候補生、セシリア・オルコットに向かって…」

イギリス代表候補生?

……そうだ、わたくしは…

そこまで考えた時、【世界】が崩壊を始める…

「逃げるぞセシリア!」

特殊装備の人物は、マスクを放り投げるとわたくしを抱えて走り出す。

そのマスクの下の顔に、わたくしは納得する…

 

彼こそ、わたくしの心を惑わすいけない(ひと)、織斑一夏なのだと。

 

「遅いですわよ、一夏さん…」




どーしてもこの辺りの話は、一樹の出番が減ってしまう…


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Episode98 女中-メイド-

駄目だ…原作の甘さを超えられない!


「全く!酷い目に合いましたわ!」

【世界】から抜け出して、すぐの言葉がコレだった。

「あはは…頭痛は収まったか?」

「え、ええ。おかげさまで…」

「良かった。それなら、現実(あっち)に戻って待機しててくれるか?一樹が外の奴相手してるけど、アイツもその内あの扉進まなきゃいけないし」

雪恵が入ったと説明を受けた扉を指しながら、一夏は苦笑する。

「…そうですわね。やはり、雪恵さんの騎士は櫻井さんでないといけませんわ」

そう言って微笑むと、セシリアは現実世界へと戻っていく。

…ダジャレのつもりは無いよな、きっと。

「…簪、次は?」

『待って…今衣装データをインストールするから』

 

 

僕の名前はシャルロット・デュノア。

IS学園に通う____

 

『ワールド・パージ、完了』

 

____豪商、織斑家に仕えるメイド。

でも、それもあと1週間で終わり。何でかと言うと…

「…シャルロット♪」

「ひにゃあ⁉︎」

耳元で囁かれて、思わず大きな声が出てしまう。

「ご、ご主人様!イタズラはやめてください!」

落としそうになった掃除用具を慌てて掴み直し、ご主人様を睨む。

「はは、良いじゃないか少しくらい。それに、ご主人様はそろそろやめてくれないか?」

「で、でも…まだメイドですし」

お母さんが死んで、孤児となった僕を雇ってくれた先代党首は昨年引退、今年はご主人様____織斑一夏が党首の座に就いている。

その一夏が党首になってすぐに宣言したのが『メイドのシャルロットを妻として迎える』だった。

幼い頃からずっと一緒にいた一夏とは本来、結ばれない立場…そんな僕を、一夏は妻にすると言ってくれたのはとても嬉しかった。

1週間後の結婚式で、僕と一夏は結ばれる。

「ふうん…なら、ご主人様の命令は絶対なんだ?」

「そ、それは…もちろん」

「なら命令だ。シャルロット、今から俺の部屋に行くぞ」

「…えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?!!?」

ただ、一夏は…スイッチが入ったら凄いです。ナニが、とは言えないけど。

「さあ行くぞ!善は急げだ!」

「それ使い所間違ってますぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!」

 

 

「…うん、これを私達が見てるって知った時の反応が楽しみだね」

悪い笑顔を見せる束とは反対に、セリーは退屈そうだ。

「…アホらし」

「おっとセリーちゃん。なら今度かずくんとこういうのが出来るメカ作ってあげようか?」

「何それ最高早く作れ」

「い、いっそ清々しい反応だね」

予想以上に早いセリーの反応に、流石の束もドン引きだ。

 

 

「と〜うちゃく♪」

僕を抱えたまま、一夏は嬉しそうに扉を開けた。

ああ…また明日の朝までナニするのか…

べ、別に嫌では無いけど。

「シャルロット…」

ベッドに寝かされた僕の上に乗る一夏。

その顔がだんだん近付いてくる…

 

「だから!お前は何やってんだよ‼︎」

 

ドアを蹴り飛ばして、奇妙な格好の人物が入ってきた。

入ってくるなり、見事なハイキックを一夏に決めた。

格好はというと、なんというか…変な仮面にマント、ブーツ、手袋と【怪盗】だった。

「何だお前は!?」

「お前こそ何だ!?」

「い、一夏!」

押さえ込まれてる一夏を助けようと、僕は部屋にあったサーベルを怪盗風の人物に向けて振り下ろす。

「うおっ!?危ねえ!」

紙一重でその斬撃を躱す怪盗に、僕は更に踏み込む。

「逃げるな!」

「無茶言うなよシャル!正気に戻れ!」

「気安く呼ぶなぁ!」

____あれ?

「助かったよ、シャルロット」

____あれれ?

「(僕、ぼくは…シャルロット…でも、……誰かにだけ、特別に……シャルって呼ばれて……)」

 

『ワールド・パージ、強制介入』

 

「ああっ!!?」

急激な頭痛に襲われる。

「シャル!ちょっと待ってろよ!」

怪盗は仮面を剥ぎ取って、素顔を見せる。

そうだ…僕が好きなのは…

「シャルって呼ばれる事!!」

持っていたサーベルを、ニセ一夏に向かって振り下ろそうとする。

けど、頭痛が激しくて途中で止まってしまった。

「シャル!借りるぞ!」

本物の一夏が僕からサーベルを受け取ると、見事な太刀捌きでニセ一夏を両断した。

『ワールド・パージ…強制、かいにゅ…』

そんな音声と共に、ニセ一夏は消えた。

それと同時に、【世界】が崩れ始める。

「逃げるぞシャル!」

「うん!」

手を引かれた僕は、一夏と一緒にその空間を脱出した。

 

 

「おー。ここまでは順調だね〜」

「…はい、ここまでは」

束と簪が画面に張り付いている中、セリーはとうとう面倒になったのか寝転がっていた。

「あーあ、つまんない」

ゴロゴロ転がっていたセリー。

だが、急にガバッと起き上がると扉に向かって駆け出した。

「「「?」」」

既に現実世界に戻っていた鈴とセシリア、そして楯無が不思議そうな顔をしていると、扉が開いた。

「…今、どういう状況ってうおッ!?」

「カズキ!お帰り!」

入って来たのは一樹たちだった。セリーは入ってきた一樹に飛び込む。何とかセリーを受け止めた一樹だが…

 

ズキッ!!!!

 

「ッ…」

その衝撃が左肩に走り、苦悶の表情を浮かべる。

『あの、セリーちゃん。離れてあげて?』

ミオがセリーに離れる様に促す。

「…何で?」

『…マスター、撃たれてるから』

「「「「!!?」」」」

楯無以外の顔に、驚愕が走る。

「…本当?カズキ」

「ああ…束さん、痛み止めください」

「…うん、分かった。怪我の度合いは?」

一樹はここで、フリーダムを完全に解除。

白かった制服が、もはや赤黒くなっていた…

「カズキ、また無茶を…」

「それは違うわセリーちゃん」

制服を破り、消毒をするセリーに、楯無が話しかける。

「櫻井君は、私を庇って…」

「狙われてたのは俺だ。楯無が気に病むことじゃない」

「でも!」

「はいストップ」

尚も自分が悪いと主張しようとする楯無を、セリーが止めた。

「カズキはそういう人だから、あなたはあまり気にしなくて大丈夫。ただ、その命は大切にしてね」

「…ええ、分かったわ」

セリーの言葉に、楯無は素直に頷く。それを、ホッとした様子で見る一樹。

「その、櫻井君…」

簪が遠慮気味に一樹に話しかけて来た。

「ん?どうした?」

「その…肩に怪我してるところ悪いけど、電脳世界に行ってもらえないかな?」

「…電脳世界?」

キョトンとする一樹に、束が説明する…

「…でもそれはIS操縦者、しかも専用機持ちの話でしょ?俺はそもそもISを扱えないんですよ?」

「ちょいちょいかずくん。君が今扱ってる機体は「黙れ」はいすみません」

束がツッコミを入れようとするが、一樹の殺気を受けて止まる。

「…でも、雪恵を助けに行けるのは櫻井君だけだよ?」

天災を圧倒している一樹に驚きながら、簪が告げる。

「…別に行かないとは言ってない。おい天災、デバイス作れ」

「イエッサー」

一樹の睨みにビクビクしながら、束はデバイスを作り始めた。

 




雪恵の話をキリ良い数字、100にしたいので、ラウラと箒はミックスさせます!



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Episode99 家族-ファミリー-

大変お待たせしました!

それと、結局ラウラだけです!

では、どうぞ!


「いやー、怖かったぜ」

「何が怖かったの?一夏」

「色々だ」

まさか本人を相手に、『サーベルを振り回すシャルロットの顔が怖かった』と言える訳がない。

「さて、俺はまた扉に行かなきゃ…」

残りは、ラウラと箒だ。

一夏はとてつもなく逃げたくなったが…謎の殺気×2を感じ、渋々扉の前に立つ一夏。

「い、一夏。何で泣いてるの?」

「いや、泣いてないぞシャル。これは目から汗が出ただけだ」

「それを泣いてるって言うんじゃ…」

シャルロットのツッコミをスルーして、一夏は衣装データが変わると同時に扉を開けた。

…ヤケクソ気味に。

 

 

私の名はラウラ・ボーデヴィッヒ。

ドイツ軍所属、IS配備特殊部隊【シュヴァルツェ・ハーゼ】の隊長で現在は____

 

『ワールド・パージ、完了』

 

____現在は新婚2ヶ月目の【嫁】を愛する【新郎】だ。

「ラウラ、朝食出来たぞ」

「うむ、今行く」

軍からの給付金で買った一軒家が、私達の愛の巣だ。2人で住むには広すぎる気もするが、将来のことを考えると丁度良いくらいだろう。

「今日は和食にしてみたんだ」

「お前の料理なら何でも良い」

全く、本当によく出来た嫁だ。

嫁____織斑一夏は家事良し、器量良し、更に顔も良いという最高の嫁だ。

む?欲しいだと?誰にもやらん!

「ラウラ、今日も仕事かい?」

「いや、今日は特別休暇を貰ったぞ」

「つまりは1日中2人っきりってことなのか⁉︎」

嫁がガタタッと音を立てながら立ち上がる。

むう…ここ最近、確かに忙しかったからな。寂しい思いをさせてしまっていたかもしれん。

「ならラウラ!頼みたい事があるんだ!」

「な、なんだ?一応言っておくが、ゴスロリはもう着ないからな⁉︎」

「分かってるよ」

アレは恥ずかしかった…2度と着たくない。

「わ、分かってるのなら良い…」

ホッとしたところで、嫁で淹れてくれたココアを飲もうとするが…

「ラウラの裸エプロンが見たいなあ」

「ぶうぅぅぅぅぅ!!?」

吹き出した。それはもう盛大に。

その後嫁にCQCを決めるべく、飛び込んだのは言うまでもない。

 

 

「デバイスを作ってみたけど…」

束が渡してきたのは、簪が使っている眼鏡型デバイスとよく似ていた。

「…コレじゃあ、入れないな」

一樹はひと目見ただけで、そのデバイスが使えない事を見抜いた。

「うん…電脳ダイブはそもそも、ISのコア・ネットワークを使ってやるのが前提だから…」

束の言葉に、ミオが疑問を持つ。

『ねえマスター。私がいるよ?』

「(悪い…今回、学園のサーバーにお前の存在を送る訳にはいかないんだ。コアナンバー0のISコアの存在を記録する訳にはな)」

今更無駄かもしれない。

そんなことは百も承知だ。

だが…戦闘ならともかく、データに少しでも残るかもしれない電脳ダイブは危険すぎる。

そして、一樹が正攻法で電脳ダイブをするという事は、一樹に関するデータを集められるはずだ。そうなると…

 

人間の脳では、間違いなく【破裂】してしまう。

 

「(折角…雪は暗闇から抜けれたんだ。また闇に送る確率は、なるべく下げたいんだ…)」

『…そう』

ミオが納得したところで、一樹は束に向き直る。

「…ちょっと試したい事がある。束さん、サーバールームに案内してくれませんか?」

「え?うん」

 

 

「ハア、ハア、ハア…」

「そんな涙目にならなくても…」

自分を守る様に、私は嫁から距離を取った。

コイツ…いつの間にか私のCQCを受け流す技術を持っていた。解せぬ。

「い、嫌だからな!わ、私が裸エプロンなど…恥ずかしくて死ねる!」

「何言ってんのさ。夜はもっと凄いことしてるのに」

「言うなぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ふ、夫婦の生活を持ち出すのは卑怯だぞ!!?

「夜のラウラは凄いよな〜。俺何度気絶させられかけたことか…」

「だから言うなぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

束の案内により、サーバールームに入る一樹。不思議に思ったのか、簪も付いてきた。

「……」

サーバールームに入ってすぐ、一樹はキーボードを操作し始めた。

「かずくん?」

「櫻井君?」

一樹は2人の言葉を無視し、サーバー情報を開く。

「……コイツは調整に時間がかかるな」

どこからかゴーグルを2つ取り出し、ひとつを束に渡す。

「ここからはスパークが激しくなる。更識さんは外でアイツらと一緒に待機しててくれないか?」

「え?でも…」

「悪い、ゴーグルが2つしか無いんだ」

「…分かった」

素直に出てくれた簪に、ホッとする一樹。束は漸く、一樹のしようとする事が分かった様だ。

「かずくん、もしかして…」

「イレギュラーに対して、イレギュラーで対応するのは当たり前でしょ?」

「…まあね」

一樹は立ち上がり、エボルトラスターを取り出す。

「…雪が寝たきりになるのは、もうこりごりなんで」

「…うん、分かってる」

 

ドックン…

 

一樹の手の中で、小さく鼓動を打つエボルトラスター。それが意味するのは…

「…この先は、俺の領域(テリトリー)なんで。束さんは他の人が入ってこないようにして下さい」

束は静かに頷いた。一樹はそれを見ると、エボルトラスターを引き抜く。

光が一樹を包むと、そのままサーバーマシンへと入っていった。

「…雪ちゃんをお願いね、かずくん」

 

 

「くぅ…まさか負けるとは…」

「ラウラはカウンターに弱いよね。相変わらず」

「う、うるさいうるさい!」

あの後、嫁のカウンターを貰い、数分気絶してしまった…

その隙に着替えさせられた事は一生忘れん。

「ラウラ…」

「ち、近付くな!近付くと酷いぞ!」

もはや自分でも何を言ってるのか分からない。しかし、このままでは嫁に()()()()しまう。それだけは…

…ん?別に良いのではないか?

と思った矢先だった。

 

「だからっ!何でみんなこんな夢ばっかり見てんだよ!!?」

 

何者かがばしーんとドアを開けて入ってきた。

全身をみっちりと銀色の甲冑(かっちゅう)で包んだ、不審者だった。

「何者だ貴様!」

手に届く場所にあった出刃包丁を、甲冑男に向けて投擲した…が。

「はっ!」

甲冑男は峰の部分を叩く事で、出刃包丁を落とした。

「やっぱりラウラは厄介だな…けど!コレはこの間感覚を思い出したばかりなんだよ!!」

「訳わからん事を言うな!」

落ちた出刃包丁を拾って、甲冑男に向かって踏み込む。

「悪いラウラ!少し寝ててくれ!」

私の刺突攻撃を、甲冑男は腕を掴む事で阻止すると、足払いで私を転ばせる。

「ガッ!?」

背中を叩きつけられ、肺から空気が強制的に吐き出される。

「がんばれ、ラウラ」

嫁の声援を受け、私は立ち上がる。私は、負ける訳にはいかない!

両手に包丁を持って甲冑男に斬り込む。

「テメエは…」

私の攻撃を両腕で受け止めながら、甲冑男が叫んだ。

「テメエは…ラウラに戦わせて自分は高みの見物か!?ふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

甲冑男は私の横を通り過ぎ、一夏に向かって駆け出す。

「せえりゃあぁぁ!!」

いつ私から出刃包丁を奪っていたのか、両手に出刃包丁を持って一夏に飛びかかる。

「がんばれ、ラウラ」

「黙れぇぇぇぇ!!!!」

甲冑男の斬撃が、一夏に決まる。

その一撃は確実に決まっているのに、血が一滴も出ていない。

それどころか…

「がんばれ、ラウラ」

壊れたラジオの様に…

「がんばれ、ラウラ。がんばれ、ラウラ」

同じ台詞を繰り返す…

「がんばれ、ラウラ。がんばれ、ラウラ。がんばれ、ラウラ」

何度も、何度も。

「がんばれ、ラウラ。がんばれ、ラウラ。がんばれ、ラウラ。がんばれ、ラウラ…」

がんばれ、がやがて『戦え』に聞こえてくる…

「(わ、私は…戦うために、生まれたのか…)」

「ラウラ!正気に戻れ!お前は人間だ!世界でたった一人しかいない!ラウラ・ボーデヴィッヒだろうが!!こんな人形の戯言なんか聞くんじゃねえ!!」

甲冑男が、その兜を脱ぎ捨てる。

そこには、見慣れた顔があって…

「戦いなんて!無くなっちまえば良いんだよ!そうすれば!お前がお前でいれる!その世界を…」

甲冑を着た状態で飛び上がると、ニセ一夏に向かって右足を突き出す。

「一緒に見に行こうぜ!ラウラ!!」

ニセ一夏は、本物の一夏の攻撃で、跡形もなく崩れて行った…

 

 

サーバーを進むウルトラマン。

だが、束にひとつ説明していないことがあった。

今回の戦場はウルトラマンの作ったメタ・フィールドでも、メフィスト達が作り出したダーク・フィールドでもない。

電脳世界なのだ。

負けたら…帰ってこれない。

だから、失敗は許されない。

「…シュウッ!」

心なしか、先ほどより飛ぶスピードが上がったウルトラマンだった。

 

 

「にしても…何でみんなの夢に俺が出てくるんだ?」

『それはね〜』

ラウラを夢世界から救出した一夏が呟くと、束が説明してくれた。

『多分だけど、対象者の精神に直接アクセスして、その人の願望…まあ、願いだね。それを見せる事で外界と遮断してるんだよ〜。まだ意図は分からないけどね!』

「願いを見せる…か」

『そうだよ〜。()()()()()()

「…どういう意味ですか?」

『だから〜。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…?」

『まあそれは、かずくんの方が分かってるみたいだけどね!そろそろそっちに着く…』

束の声は、途中で途切れた。

一夏の前方に、強い光が現れたためだ。一夏が目を凝らしてみると…

「…ウルトラマン?」

光に包まれた、等身大のウルトラマンがいた。

「ハアァァァァァ…」

ウルトラマンは両手を頭上でクロスし、ゆっくり下ろす。

光が晴れたそこには、見慣れたS.M.Sの制服を着た一樹がいた。

「…ふう」

「一樹?」

「よお一夏。お前がここにいるって事は、俺も上手く潜り込めたって事だな」

「え?だってISのコア・ネットワークを使ってるんじゃ…」

「色々事情があってな。俺だけ()()を使わせてもらった」

裏技、の言葉と同時にエボルトラスターを見せる一樹。

「そっか…」

「で、雪が入った扉はどれだ?」

「その端っこの奴」

一夏が指した扉の前に立つ一樹。

「…お前も、あとひとつ頑張れよ」

「ああ、分かってる」

そして、お互い(一夏は変装して)ドアを開けた…




次回、Episode100!

箒?ダレソレ?
状態です!
箒ファンの方はすいません。
…自分の作品を読んでる方でいるのなら、ですけど。

雪恵オンリー!
やってやるぜぇぇぇぇ!!!!


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Episode100 夢幻魔獣-インキュラス-

雪恵(を助ける一樹)回!!!!


これが!
Episode100じゃあぁぁぁぁぁ!!!!


『ゆき、おたんじょうびおめでとう』

『うわあ…ありがとうかーくん!』

扉を開けた一樹の目に映ったのは、昔自分が雪恵に髪飾りを渡している場面だった。

「…なんて顔してるんだか」

自分が渡したプレゼントに、年相応の笑みを見せる雪恵に、一樹は微笑ましく思う。

「さて、思い出に浸るのは雪を起こしてからだな…ん?」

突如【世界】が切り替わる。

「…」

気を引き締める一樹。切り替わった所は…

『ねえ』

雪恵と初めて出会った、あの時だった。

『…』

この時の一樹は、確か自分に声をかけられているとは思ってなかった筈だ。

『ねえ、きこえてる?』

『…』

「(自分で言うのも何だけど、あそこまで近付かれて気付かないって…悪意を感じなかったからか?)」

雪恵の声に気付く様子の無い過去の自分に、呆れるしか無い一樹。

『ねえってば‼︎』

『うわあびっくりした!?』

「(これが、アイツとの初会話なんだよな…)」

 

 

時は少し遡る。

電脳ダイブをした雪恵は、いつの間にか浴衣を着ていた。

「…あれ?いつの間に着替えたのかな?」

自分の体を調べてみるも、素人目には異常は見当たらない。

「とりあえず、辺りを歩いてみるかな」

雪恵が一歩踏み出そうとしたその時。

 

カランカラン

 

後ろから、妙に響く下駄の音がした。

「…?」

雪恵がゆっくり後ろに振り向くと、そこには…

「…私?」

幼き頃の自分がいた。

『かーくん、早く早く!お祭り始まってるよ!』

『誰のせいで遅くなってるか分かってんのか?』

『えー?知らなーい』

『こんにゃろ…』

更にその後ろには、やはり幼い一樹もいる。自分に手を引かれながら走る一樹の目は、機嫌が悪そうだ。

「(あはは…確か、この時は私が浴衣を着るのに時間がかかったからだっけ)」

過去の自分に苦笑する雪恵。

「(…ん?)」

そんな雪恵の視界に、ピンク色の羊がいた。

 

『ワールド・パージ、完了』

 

羊がそんなことを言った瞬間、雪恵の意識は遠くに行った…

 

 

一樹はこの【世界】に驚愕していた。

いや、一樹や一夏、雪恵に箒が同じ小学校に通っているのは全く問題無い。だが、その学年が問題だった。

 

【5年1組】

 

「(おかしい…!アイツが脳死判定されたのは、4年の夏だぞ⁉︎なんで5年生になってるんだ!?)」

目の前の光景は…一夏を箒と鈴が取り合っていて、それを自分と雪恵が苦笑しながら見ている。

これがIS学園だったら、何の問題も無かった…いや、問題はあるがこれ程では無い。

「どうなってるんだ…」

 

『これは、彼女が望んでいた日常』

 

「ッ!?」

一樹に突如向けられる殺気。

ブラストショットを構え、周囲を警戒する…

『彼女が欲しがったもの、それがこの世界だ』

「……」

ただでさえここは、自分にとってアウェー空間。ブラストショットを握る一樹に、緊張が走る…

『貴様が奪った、彼女の日々だ』

「ッ…」

『彼女からかけがえのない日々を奪った貴様が、よくもまあぬけぬけと彼女と過ごしていれるものだ』

「…それと、お前が雪を昏睡状態にするのは関係無い」

敵の言葉に、胸をナイフで刺される気持ちになりながら、一樹は告げる。

【世界】では、雪恵達は中学生になっていた。

『彼女のヒーローのつもりか?彼女から6年という長い期間を奪った貴様が…』

「…何が言いたい」

姿の見えない敵と、一樹は冷や汗を流しながら会話する…

『貴様は英雄(ヒーロー)なんかではなく、悪魔(ヒール)側だという事だ。特に彼女に対してはな…』

一樹の目の前に、ピンク色の羊が現れた。その顔はとても愛らしいが、逆にそれが一樹に危機感を募らせた。

羊に向かってブラストショットを構える一樹。

だが、また【世界】が書き換えられ、羊は消えてしまった。

『暗いよお…怖いよお…!』

「ッ!?」

声の聞こえた方へ駆け出す一樹。

暗く、何も無い空間で1人泣く幼い雪恵…

「雪!」

泣いている雪恵に駆け寄る一樹だが、一樹が近寄ると同時に雪恵の姿が消えた。

「……(このパターンは)」

一樹はこの精神攻撃に覚えがあった。

夏休み前に、溝呂木が一夏に仕掛けた精神攻撃と、酷似していた。

「…嫌な趣味してやがる」

【世界】が変わり、今度は泣き叫ぶ幼い雪恵を、今の雪恵が慰めていた。

『うええん!』

『うん…本当は、謝りたかったんだよね。かーくんの言うことを聞かずに、崖から落ちちゃった事を』

『う”ん…』

『自分のせいでかーくんが…イジメられてるのを』

『うん…』

『見せてくれないけど、体中に傷があるのを』

『うん…』

その言葉に、一樹は驚く。

雪恵が崖から落ち、脳死判定された後イジメられていたのを知っていた事に。

…体中に、見るのも悍ましい傷があるのを知っていた事に。

『かーくんは気にしてないって言うだろうけど、心の傷を掘り起こすのが怖かったんだよね』

『うん…』

一夏たちが話したとは思えない。

雪恵が起きてすぐ、一夏たちには固く口止めをした。

だから雪恵が知る筈が無いのだ。

誰も話してないと思っていたから。

なのに何故、雪恵はそれを知ったのだろうか。

いや、今はそんな事を考えてる場合ではない。

『かーくんと一緒に居て良いのか、分からなかったんだよね』

『うん…わたしのせいで、かーくんはひとりぼっちになっちゃったから。げんいんのわたしが、いっしょにいちゃ、だめだとおもったから』

『でも、どうしても一緒に居たかったから、案内人(ナビゲーター)になることを選んだんだよね』

『かーくんの、ちからになりたかったから。でもそれが、かーくんをくるしめてるなんて、しらなくて…!』

再び泣き出す幼い雪恵の頭を、優しく撫でながら抱きしめる今の雪恵。

「……ありがとう、雪」

自分の事を、ここまで想ってくれていたことに、自然と感謝の言葉が出た一樹。

また、【世界】が書き換えられる…

 

 

「……戻った、のか?」

書き変わった先は、中学の教室だった。

『どうだ?彼女の本心を見た気持ちは?さぞ貴様の事を恨んでいたことだろう』

またあの声が、脳に響く。

どうやら、雪恵の本心を見せる事で一樹の精神が崩壊するのを狙っていたらしい。

「くくく…」

それが分かった一樹は、たまらず笑い出した。

「あはははははははは!!!!」

『な、何がおかしい!!?』

「何が、だって?おかしくてたまらねえよ!お前、雪の本心を()()()()()()()()()()()()?」

本心を知っていたのなら、一樹にそれを見せる事はしなかったはずだ。

アレを見せられた一樹は、逆に闘志が湧き上がっている。

『な!?私は彼女の心を代弁して…』

「だったら、お得意の幻覚で雪のニセモノをでっちあげれば良かったじゃねえか。確かに客観的に見れば、俺はアイツの6年という時間を奪ったヤツなのかもしれない。けど!」

いつの間にか現れたピンクの羊に、一樹はブラストショットを向けながら言い放つ。

「アイツは…雪は!俺を責めなんかしなかった!こんな俺を、想ってくれた!それだけで…俺がお前と戦うには充分すぎる理由だ!!!!」

『貴様ぁぁぁぁぁ!!!!!!!!』

ピンクの羊の愛らしい顔が禍々しく歪み、一樹に飛びかかる。

一樹は躊躇なくブラストショットを撃つ。

その弾丸は羊に命中したかに見えた…だが、またもや【世界】が変わる。

「…ここは?」

一樹が辺りを見回すと、子供の描いた様な城があった。その頂上にいたのは…

「ッ!?雪!!!!」

檻の中で、囚われの雪恵がいた。

更に背後に気配を感じた一樹が振り返ると、先ほどまで1頭だけだったピンクの羊が、数えるのも億劫になるほどいた。

それらが集結し…

《グルルルル…!》

夢幻魔獣、インキュラスへとなった。

「ッ!!」

一樹はすぐさまエボルトラスターを引き抜き、天空へ掲げた。

眩い光が一樹を包み、ウルトラマンへと変身した。

「シェアッ!」

 

 

ウルトラマンとインキュラスは、お互い睨み合う。

《グルルルル…》

「フッ!?」

突如インキュラスの姿が消えた。

ウルトラマンは全神経を集中させ、辺りを注意深く見回す。

「……」

そんなウルトラマンを嘲笑うように、インキュラスはウルトラマンの正面に現れると強烈なアッパーをウルトラマンに決めた。

「グアッ!?」

ウルトラマンはその威力に吹き飛ばされる。

《グルルルル…》

何とか起き上がったウルトラマンの背後に現れるインキュラス。

「シュウッ!」

インキュラスの攻撃を、ウルトラマンは両手で受け流し、ガラ空きの胴にストレートキック。

インキュラスは蹴飛ばされるも、その途中で再び姿を消した。

「グオッ!?」

すぐにウルトラマンの目の前に現れ、前蹴りを放って来た。

腹部に入り、蹲るウルトラマンの首を掴みながら、2連続で蹴りつける。

「グッ!?グアッ!?」

更にインキュラスはウルトラマンを投げ飛ばした。

「グアァァァァァァァ!!?」

 

ピコン、ピコン、ピコン…

 

エナジーコアが鳴り響き、中々立ち上がれないウルトラマン。

「フゥゥ…アアッ…」

インキュラスは、そんなウルトラマンの周囲に、虹色のカーテンを作った。

「フッ⁉︎」

何とか起き上がったウルトラマンは、虹色のカーテンに突進するが…

 

バチバチバチバチバチッ!!!!

 

「グアッ!!?」

見た目の綺麗さからは考えられないほど、ウルトラマンを苦しめる…

「グアァァァァァァァァァァァ!!?」

 

 

「あれ…?私…」

私の目の前で、虹色のカーテンに閉じ込められている巨人…

私は何故か、その巨人の事をよく知っている気がした。

ううん、知ってるなんてものじゃない。ずっと、側にいたいと思う。

「……く……」

あの巨人を見て、うっすらと頭に浮かぶのは、同い年と思われる男の子の姿。いくら周りから嫌われているとしても、いくら周りから攻撃されてるとしても、側にいたいと思える人…

「か……ん」

自分が傷つくのを躊躇わずに、ただひたすら守ろうとするその男の子に名前を、私は呼ぶ。

「か……く……」

何で忘れてたのだろう、こんなにも大切で、愛しい人の名前を。その呼び方を。

「かーくん!!!!」

私はかーくんから貰ったアストレイ・ゼロを展開。ビームライフルを最大出力で虹色のカーテンに向かって撃つ。

 

 

アストレイ・ゼロから放たれたビームが、虹色のカーテンに命中。見事カーテンが砕け散った。

「フッ⁉︎」

《グルッ⁉︎》

いきなり虹色のカーテンが砕けた事に驚くウルトラマンとインキュラス。

ふとウルトラマンが城の方を向くと、アストレイ・ゼロを完全に展開した雪恵が、ウルトラマンに向かって頷いていた。

「……」

ウルトラマンも頷き返すと、インキュラスと向き直り、アンファンスからジュネッスへとチェンジした。

「フゥッ!シェアッ‼︎」

ジュネッスへのチェンジが完了すると、インキュラスに向かって構えるウルトラマン。

「シュウッ!」

《グルルルル…》

しばらく両者は睨み合う…

「シェアッ!」

先に動いたのはウルトラマンだ。数歩走った後、飛び上がるとマッハムーブで移動。怒涛の高速連続蹴りをインキュラスに決める。

「フッ!シュッ!デェアッ!!」

インキュラスが蹴りの勢いに吹き飛び、動きが鈍くなってる隙に、ウルトラマンはエネルギーを溜める。

「シュッ!ハアァァァァァァ…デェアァァァァ!!!!」

必殺のコアインパルスがインキュラスに命中。

《グルアァァァァ…》

インキュラスは断末魔の叫びを上げ、消滅した。

インキュラスが倒された事で、空間に光が待っていく。

【世界】が完全に崩壊する前に、ウルトラマンは電脳世界を脱出した。

 

 

「う、ううん…」

最後まで電脳ダイブをしていた雪恵がゆっくりと目を開けると…

「…おはよう、眠り姫」

想い人の、笑顔がそこにあった。

「…かーくん!!!!」

ガバッと起き上がった雪恵は、かつてないほどの力で一樹に抱きつく。

「…どうした?」

「怖い夢を、見た気がするの…」

今の雪恵に、他の専用機持ちや千冬、麻耶、束の視線など気にしていられない。

ただ、大人しく抱かれている一樹だけが、今の雪恵の【世界】だ。

「…大丈夫だ。お前は、ちゃんと起きれたよ…」

しばらく雪恵は、一樹の温かさを感じ続けた。帰ってきた、という実感を得るために…




遂にEpisodeも100行きました!

それでもまだ彼の戦いは終わらない!

これからもよろしくお願いします!


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Episode101 花-キュリア-

たまには、こんな話も良いのかな?

中々スポットライトの当たらない彼に、ライトを当ててあげましょう…


ワールド・パージ事件の影響により、IS学園の集中メンテナンスが行われる事になった。

日本人で、実家が近い生徒は家に帰り、その他の生徒は海外の生徒と共に、学園が用意したホテルで生活をしていた。

そして一樹はと言うと…雪恵、セリー、一夏と共にS.M.S内で生活していた。

これは、そんなS.M.S内で生活してた頃の出来事。

 

 

「……ふっ」

携帯のメールを眺めながらニヤける弾。

「おい弾、いつまでニヤけてるんだよ」

そんな弾に、呆れながら話しかける一夏。

「べ、べべべ別にニヤけてなんかねえよ!」

「顔真っ赤にしてたら説得力ねえぞ…どうせ布仏姉とのメールを眺めてたんだろうけど」

一樹もまた、苦笑しながら予想する。

それにすごく分かりやすく反応する弾。

「な、なななな何で分かったし!?」

「カマかけただけなんだが…当たりみたいだな」

「ハッ!?しまった!!」

そんな弾の姿を見て、悪い笑顔を浮かべるのが若干名。

「「きい〜ちゃった♪」」

「ハッ!この寒気は…」

逃げようとした弾だが、それよりも早く左右を2人の上司…一馬と祐人に抑えられる。

「あの【良い人】止まりの弾君が…」

「とうとう春を迎えるなんてね〜」

弾は冷や汗が止まらない。止まらなすぎて、顔が青くなる程だ。

「さあ…お相手は誰なのかな〜?」

「じっくりと聞きたいね〜?」

逃げれない、と弾は理屈でなく、本能で理解した。何せ、両肩を自分より強い2人に抑えられているのだから。

弾が喋らない限り、決してそれは解かれない…

「た、助けて一樹…」

自分ではどうしようも出来ないのなら、この2人をどうにか出来る一樹に頼るしかない…のだが。

「…ほどほどにな、お前ら」

「「イエッサーボス!」」

「この世に神はいないのか!?」

数分後…

「ほーん、布仏虚さんねえ」

「あの布仏さんが、コイツをね…」

結局、全てを吐かされた弾。

「あれ?2人は布仏先輩を知ってるのか?」

学園に入ったことのない一馬と祐人が、虚の事を知っていた事に驚く一夏。

「まあ…」

「色々と…」

どう説明すれば良いのか分からなそうな2人に、一夏は首を傾げてた。

 

 

ここは、霧隠山。

霧隠山に咲いている花から放たれる花粉…その花粉は、異常な程ピンク色に光っていた。

「ッ…」

そんな中に駆け込む、1人の老人。

「うっ、くぅ…」

老人の体が光ると、花粉を吸収し始める。その顔は、とても苦しそうだ…

「うっ、ぐぅっ…ああぁぁぁぁぁ!!」

老人は、宇宙人…キュリア星人の姿になると巨大化し、暴れ始める。

 

 

布仏虚は、楯無の命で、霧隠山を調査していた。

「確か…この辺よね」

楯無の話によると、この付近で、特殊なエネルギーを感知したらしい。

それで虚が派遣されたのだ。

…最初は本音に任せようと思ったのだが、相変わらずだらけているのを見て、絶対迷子になると楯無が思ったのは別の話。

「うーん…お嬢様のISレーダーならともかく、私の手持ちレーダーでは反応が無いわね…」

無駄足だったかしら

そう虚が言った瞬間だった。

《ウ、ウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!》

キュリア星人が、巨大化したのは。

 

 

PiPiPiPi!!

「あん…?」

一夏や雪恵、それにやたらげっそりした弾と昼食を取っていた一樹の腕時計が鳴り響いた。

「かーくん、何それ?」

「うん?S.M.Sメンバーだけが使える通信機みたいなもんだ」

「「俺、持ってないんだけど?」」

一夏と弾の言葉をスルーして、一樹はスイッチを入れる。

「どうした?」

『一樹君!霧隠山に、地球外生命体が現れたの!!』

通信機越しに、理香子の慌てた声が響く。

「分かった。すぐに…弾、どうした?」

「霧隠山…虚さん!!!!」

いつになく険しい顔で、弾が駆け出した。

「ッ!まさか布仏姉も…」

「霧隠山にいるのか!」

そう判断した一樹達の動きは速かった。

宗介達に留守を頼み、一樹はVF-25F、一夏と雪恵がVF-25Aと、それぞれトルネード装備で出撃した。

 

 

「虚さーん!!!!」

VF-0Dで飛び出した弾は、一足先に霧隠山に到着。

必死の形相で虚を探す。

山を登っていくと、見たことも無い花が辺りに咲いていた。

「…何だコレ?こんな花、見たことねえぞ…っと!虚さーん!!!!」

花への疑問はすぐに消え、弾は虚を探し始めた。

「…ッ!?これは…」

虚の携帯が落ちてるのを見つけた弾は、その携帯を握りしめながら探し続ける。

 

 

遅れて霧隠山に到着した一樹たちの目の前には、巨大化したキュリア星人がいた。

「近くには村がある。引き離してから本格的に戦闘に入るぞ」

『『了解!』』

「よし…威嚇攻撃、開始!」

2機のバルキリーは、キュリア星人の足元に向けて攻撃を開始。

《ウグアァァァァァァァァ!!?》

「…?一夏、雪。コイツ、苦しんでる様に見えないか?」

『ああ、俺にもそう見える』

『私もだよ』

「それに攻撃もしてこないし…」

そんな会話をしていたら、キュリア星人から煙が出て、消えてしまった…

『…消えた?』

「…」

すぐさま一樹はバルキリーのカメラで辺りを見回す。

「…見つけた」

バルキリーを降下させる一樹。

『お、おい一樹!』

一夏も慌ててバルキリーを降下させた。

 

 

《ウグッ、アアッ…》

フラフラながらも、一樹達から逃げようとする等身大のキュリア星人。

「待て!!!!」

そんなキュリア星人に向けて、ブラストショットで牽制する一樹。

《ウアァッ…》

なおも逃げようとするキュリア星人…

「逃すか!!!!」

横からキュリア星人に飛びかかる弾。

《ウウッ!?》

弾とキュリア星人はしばらく地面を転がるが、何とか起き上がったキュリア星人に突き飛ばされる弾。

「ガッ!?」

「弾!しっかりしろ!」

追いついた一樹達が弾を助け起こす。そんな面々の前で、キュリア星人は膝をついた。

《アアッ、はあ、はあ、はあ…」

キュリア星人の体が光り、1人の老人へと変わった。

「このやろ…虚さんをどうした!?テメエが何かしたんだろ!!」

そんな老人の胸倉を掴んで問い詰める弾。

「弾!落ち着け!」

「これが落ち着いていられるか!」

一夏の制止を振り払う弾。尚も老人に詰め寄るが…

 

「先生!」

 

霧隠村の村人たちが、老人を先生と呼び、弾の手を離させた。

「離してあげてください!」

「全部説明しますから!」

「虚さん…メガネをかけた女性は、村で保護してますから!」

老人を庇う村人たちに、首を傾げる一樹と雪恵。

「ありがとう、みんな。大丈夫だから」

老人は、そんな村人たちを宥めたのだった。

 

 

「「「この村で一緒に暮らしてるぅ!!?」」」

「ええ。もう、随分昔から」

その後、山野と名乗った老人と村人たちから話を聞いている一樹達。

弾は虚の近くで、意識が戻るのを待っている。

「もう先生は、何年も前から私達を守ってくれているのです」

()()?」

一夏が首を傾げると、すぐに説明してくれた。

「大昔に落ちた隕石と共にやってきた花があるんですけど、それがこの時期になると地球に害のある花粉を撒き散らすんです」

「それを、先生が定期的に吸収してくれてるんですよ」

村人たちの話を聞きながら、雪恵がふと思った事を口に出す。

「あの〜、そんなに危ない花なら、燃やしちゃえば良いのでは?」

「燃やすと、より強力な毒を撒き散らすらしいんですよ」

「(なるほど…一応、その話が合ってるか確かめに行くか)」

村人たちの説明を一通り聞いた一樹は、花が咲いてる辺りへと歩きだした。

 

 

「どうだ?セリー」

『ん、村人たちが言ってるのは嘘じゃない』

花の写真をS.M.Sに送り、セリーに確認してもらった一樹。

『その花は、宇宙でも名の知れたヤツだけど、コレの出す毒素への抗体を持ってるのは【キュリア星人】だけ』

「…花粉を吸って、力を蓄えてるって事は無いのか?」

『それは無い。キュリア星人はあくまで抗体を持ってるってだけで、その毒素が効かないわけじゃ無いから』

セリーの説明に淀みは無い。

これでひとつの懸念事項は解決した。

「…ありがとな、セリー」

『ん、じゃあね』

 

 

「うっ、ううん…」

「虚さん!?」

村の病院で、目を覚ます虚。弾はホッとするのだが…

()()()()()?」

虚は、弾の顔を見てキョトンとしていた。

「え?…じょ、冗談ですよね?俺ですよ?」

「おれ…?えっと」

そこで虚は、決定的と言える事を言う…

()()()()()()()()?」

 

 

病院の前をウロウロウロウロする弾。

「…落ち着けよ、弾」

「まだ記憶が無くなったって決まった訳じゃ無いだろ?」

とは言うものの、一樹も一夏も、弾の気持ちは痛い程分かるために、あまり強くは言えない。

「覚えてないって!覚えてないって‼︎」

「だから落ち着けって」

一樹達が弾を宥めていると、山野が病院から出てきた。

「せ、先生!彼女の容体は…」

山野が説明するより早く、虚が出てきた。

「あの…私、記憶喪失みたいです」

弾の絶叫が、霧隠山に響いた。

 

 

「五反田君、御飯もいらないって…」

「そんだけショックだったんだろ…無理も無いさ」

1人佇む弾を、遠くから見守る雪恵と一夏。

 

 

《ウグッ⁉︎アアッ!!?》

夜の霧隠山で、花粉を吸収するキュリア星人。

何とか吸収しきると同時に、山野の姿に戻って倒れた。

「はあ、はあ、はあ…」

そこに、山野を探しに一樹が現れた。

「ッ⁉︎山野さん!大丈夫ですか!?」

「あ、ああ。大丈夫だ」

「とてもそうは見えませんけど…」

一樹の手を借りながら起き上がる山野。

その顔は、汗だらけだ。

「ひとつ…頼んでも良いかな?」

「俺に…ですか?」

「違う、()()1()()()()()だ!」

一瞬、一樹の眉がピクッと動く。

「…分かるんですか?」

「ああ…共に地球を愛する、異星人だからね」

「あはは…みんなには、内緒にして下さい。それで…頼みって?」

「実は…あの花粉を吸収するのは、限界が近いんだ…」

数百年間、吸い続けた花粉も、とうとう限界が近付きつつあったのだ。

「この姿を維持するのも辛い…本来の姿も、安定しなくなっている」

「だから、昼間巨大化して暴れたんですか?」

山野は頷くと、自身の震える手を見ながら話す。

「僕は…村の人々を傷つけたくない。異星人である僕に、優しくしてくれたみんなに、暴れて悲しませたく無いんだ」

そして、決意を込めた目で一樹を見ながら、頼む。

「だから…次暴走したら、僕を…」

「そんな頼み聞けません!」

山野は一樹の肩を掴み、必死に頼んでくる。

「頼む!それが出来るのは、君しかいないんだよ!」

「この力は、そんな事に使う物じゃない!体に溜まった毒素を抜く方法が、きっとあるはずです!」

「……」

山野は、しばらく呆然としていたのだった。

 

 

「ううっ…ああっ!!」

翌日も、山野は花粉を吸収していた。

何とか吸収しきり、ホッとした山野だが、突如苦しみ出す。

「うぐっ、アアァァァァァァァ!!?》

キュリア星人の姿へとなり、巨大化してしまう…

《アアァァァァァァァァ!!!!》

 

 

「ああっ!!?先生が!!」

「お願いします!先生を助けて下さい!」

「分かってます!とにかく、皆さんは安全な所に逃げて下さい!」

一夏が皆を落ち着かせて、避難するよう促す。

「雪、村人たちを頼んだ」

「了解!」

「なら俺がバルキリーで山野さんを村から引き離す!一樹は地上から援護を頼む!」

いつでも一樹が変身出来るように、一夏が提案する。

「よし、それで行こう!」

それを察した一樹。一夏に頷いて、キュリア星人に向かって駆け出す。

 

 

VF-25Aを、キュリア星人の前に向かわせる一夏。

「…村から、離れてもらいます」

ガトリングガンを、キュリア星人の足元に撃つ。

《アアァァァァァァァァ!!!!》

暴走するキュリア星人は、その両手からピンク色の光弾を放ってくる。

「ッ!?」

それを、何とか避ける一夏。

 

 

「虚さん!こっちです!早く逃げましょう!」

虚の手を引いて、必死に避難する弾。

「ッ⁉︎伏せて!!」

咄嗟に虚を抱えて飛び込む弾。

次の瞬間______

 

ドォォォォォォンッ!!!!!!!!

 

______キュリア星人の光弾が、近くに着弾した。

「…よし、逃げましょう!」

起き上がった弾は、再び虚の手を引き、走る。

「どうして…?どうしてあなたは、私を守ってくれるの?」

「記憶が無いなんて関係ない!惚れた女を守れないで、何が男だ!!」

それが、弾の決意だった。

 

 

キュリア星人の光弾を、必死に避けるバルキリーを見て、一樹はエボルトラスターを取り出す。

「(セリーを助けられたアレなら、彼も助けられる筈だ!)」

そして、エボルトラスターを引き抜いた。

 

 

村人たちに迫る、1発の光弾…

「ッ!!?伏せてぇぇ!!」

雪恵の叫びに、前に飛び込む村人たち…

「シェアッ!」

そんな村人たちに向かう光弾を、ウルトラマンが振り落とす。

「かー…ウルトラマン」

思わず変身者の名を呼びかける雪恵。すぐに呼び直したのと、状況のおかげで、雪恵の言葉を聞いた者はいなかった。

 

 

「シェア!」

キュリア星人と対峙するウルトラマン。

《ウアァァァァァァァァ!!》

理性を失っているキュリア星人はウルトラマンに向かって駆け出す。

「フッ!シュウッ!」

キュリア星人の攻撃をことごとく受け流すウルトラマン。

だが、キュリア星人のがむしゃらな前蹴りを、腹部に受けてしまう。

「グッ!?」

《ウアァァァァァァァァ!!》

更にウルトラマンを投げ飛ばすと、光弾を連続で放つキュリア星人。

「グッ!?グアァァァァァァァ!!?」

 

 

「一樹!!?」

援護のために、レーザー砲を撃つ一夏。

《ウアァァァァァァァァ!!!!》

レーザー砲を物ともせず、光弾を連発するキュリア星人。

「チッ!?」

それを避ける一夏。またもや防戦一方となってしまった。

 

 

走っていた虚が、突然止まった。

「止まっちゃダメです!走らないと!」

弾がその手を引くが、虚は動かない。

「…虚さん?」

不思議に思った弾が、虚の目を覗き込む。

「私…あなたを…」

そんな2人の近くに、キュリア星人の光弾が飛んでくる。

 

ドォォォォォォンッ!!!!!!!!

 

「うわっ⁉︎」

「きゃっ⁉︎」

吹き飛ばされながらも、弾が下になったことでクッションになり、虚に怪我は無い。

 

『あの…IS学園の招待券はお持ちですか?』

『ははははははい!こ、コレです!』

『…はい、確認しました。織斑一夏君のご招待ですね。織斑君と待ち合わせですか?』

『そ、そうです。校門で待ち合わせって言われたので。そろそろ一夏か一樹が来るはずなんですけど…』

『なるほど…それは災難でしたね』

『ご迷惑をおかけします…』

『いえ…織斑君か櫻井君が来るまでの間、私とお話しませんか?』

『良いんですか!?」

『うふふ…はい、大丈夫ですよ。私は布仏虚です。お名前を教えて頂けますか?』

『お、俺の名前は______』

 

「ごたんだ…くん?」

「虚さん…記憶が戻ったんですか?」

虚は今の自分達の状況を見ると一言。

「あの…私たち、近すぎない?」

弾と虚はこの状況なのに、思わず笑ってしまった。

 

 

「フゥッ!シェアッ!!」

ウルトラマンはアンファンスからジュネッスへとチェンジ。キュリア星人に向かって構える。

「ハッ!」

《ウアァァァァァァァァ!!》

キュリア星人の連続蹴りを、連続バック転で避ける。

大きく飛び上がってキュリア星人の背後に回ると、裏拳を決めた。

「デェアッ!」

《ウゥッ!?》

数歩下がるキュリア星人に、前蹴りを放つ。

「ハッ!」

地面に転がるキュリア星人に向けて構えなおすウルトラマン。

《ウアァァァァァァァァ!!!!》

そんなウルトラマンに向かって駆け出すキュリア星人。

「シュッ!」

キュリア星人の拳を受け止めると、その腕と胴体を掴んで放り投げた。

「デェアァァッ!!」

キュリア星人との距離が出来ると、ウルトラマンは胸の前で両腕をクロス。

「シュッ!ハアァァァァァァ…」

両腕を広げる様に回し、右拳にエネルギーを溜めると、前に突き出した。

「デェアァァァァァァァァ!!!!」

ゴルドレイ・シュトロームをキュリア星人に放つ。

《ウアァァァァァァァァ!!?》

キュリア星人に見事命中。キュリア星人は数秒苦しむが…

《ウゥッ?》

体から金色の粒子が放出すると、理性を取り戻した。

ウルトラマンは頷くと、今度は霧隠山と対峙。再び両腕を胸の前でクロス。

「シュッ!ハアァァァァァ…ハアッ!」

ゴルドレイ・シュトロームの粒子を霧隠山に撒いた。

キュリア星人を苦しめていた花から、金色の粒子が放出され、宇宙へと飛んでいく…

 

 

「ウルトラマンは…地球に害のある部分だけを、消滅させたんだ!」

雪恵のはしゃぎ声は、村人たちにも広がっていく。

「ってことは…」

「もう先生が吸収する必要も無くなったんだ!」

「やったぞ!」

「ありがとう!ウルトラマン!!」

 

 

ウルトラマンは村人たちに頷くと、天空へと飛び立った。

「シェアッ!!」

 

 

「ありがとう…君のおかげで、ここは今まで以上に平和になったよ」

毒素が抜けた山野の顔は、とても明るかった。

満面の笑みで、一樹に礼を言う山野。

「…また、遊びに来ます」

一樹の返しに、山野は笑顔のまま頷いた。

「ああ!いつでも歓迎するよ!」

 

 

「ああどうしようどうしようどうしようどうしよう…」

海辺の展望台で虚と待ち合わせしている弾。先程から緊張のあまり動こうとしない。

「大丈夫だよ五反田君!君ならやれる!」

「男なら、逃げんなよ!」

そんな弾を勇気付けようとする雪恵と一夏。

「よし、行ってこい!」

そして弾の背中を押す一樹。

「よし…やっぱり無理ぃぃぃぃ!!」

「「ええ加減にせえ!!」」

すぐさま戻ってきた弾を蹴飛ばす一樹と一夏。

 

 

「う、虚さん!」

「あ、五反田君!今日は誘ってくれてありがとう!」

満面の笑みの虚に、弾は緊張のあまり固まる。

「えと、その…」

「五反田君?」

「お……と……」

「音?音がどうしたの?」

ブンブン首を振る弾。

虚は首を傾げる。

「えと、えと…こんなこと、言われても、迷惑かもしれませんが…その」

「さっきからどうしたの?五反田君。安心して、私はちゃんと聞くから」

虚に促されて、弾は深呼吸…

「お、俺と…」

「うん」

「俺と…俺と、つつつつつつつつつ付き合って下さい!!!!」

弾決死の告白を聞いた虚の目に、涙が浮かぶ…

「……はい、喜んで」

涙を拭きながら、弾の告白に答える虚。

「…ぃぃぃぃいよっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!ありがとうございます虚さん!!!!これからよろしくお願いします!!!!!!!!」

「ええ、こちらこそ。お願いします」

 

 

弾の告白が成功したのを見て、自分のことの様に喜こぶ一樹たち。

「やった!アイツとうとうやったぞ!」

「五反田君にも、春が来たんだね!」

「良かった!本当に良かった!」

3人肩を組んで飛び回る。

しばらく回って満足したのか、一夏が提案する。

「成功の祝いに、アイツ胴上げしてやろうぜ!」

言うが早いか、隠れてるところから飛び出そうとする一夏。

それを必死で止める一樹と雪恵。

「お、まえは!空気を読むことを知らないのか!?」

「今!五反田君たちの邪魔はさせないよ!この唐変木!」

「酷い!お前らそろいもそろって酷すぎる!でも良かった!」

弾に無事春が来たことは、瞬く間にS.M.Sに広がった。後日、お祝いパーティーが行われたのは、別のお話…




こんな話も、たまには良いでしょ?


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Episode102 洗脳-バット-

今回、サブタイを見れば大雑把な内容がバレてるのではないかと思う件


「カズキ、お出かけしたい」

「また唐突だな…」

S.M.Sの一樹の部屋で、寝起きの一樹に言うセリー。

「ユキエは機体の整備で動けないって言うし、暇だから」

「俺が暇じゃないんですが?」

「ソースケ達に『アイツは休みだ。いや、休みにするから行ってこい』って言われた」

「…手が早いですね。まあ良いや。どこかに出かけるか」

「わーい♪」

子供の様にはしゃぐセリーを、一樹は微笑ましく思う。

 

 

まずは腹ごしらえ、という事でダンの店に来た2人。

「…ふう、食った食った」

「ん、美味しかった」

腹が膨れて、大満足の2人。

「今日はどこか行くのかい?」

「ええ。セリーが遊びに行きたいって言うので…」

「そうか。楽しんでこい」

「ありがとうございます、ダンさん」

 

 

「で、どこに行きたいんだ?」

ショッピング嫌いの2人がしてるのは、散歩。

それだけでもセリーは楽しそうだ。

「んー、このまま歩いてるだけでも楽しい」

「んじゃ、気になる店とかあったら寄る感じで」

「ん、それで行こう」

しばらく歩き、店に入ったり、入らなかったり。

2人ならの、楽しみ方で過ごした…

 

 

「ふん、相変わらず面倒だな。ISのメンテナンスの度にやるのは」

ここは、亡国機業のアジト。そして、エムの専用整備室である。

「まあ、そう言わないでくれ。君に必要な調整をするためなのだから」

エムの四肢に電気信号を読み取る機器をつけながら話す老人。

名を【ジェームズ・ミューゼル】、あのスコールとの関係は不明だ。

「それじゃ、サイレント・ゼフィルスを預かるよ」

エムから、サイレント・ゼフィルスの待機アクセリーを取った途端______

 

「ここ…どこ?」

 

______先程までの強気な瞳ではなく、オドオドと周囲を見回す()()()()()の姿があった。

「いや…怖いよぉ…助けて…()()()()()()()

その後何度も何度も『姉さん、兄さん』と繰り返すマドカを無視しながら、ジェームズは調整を続ける。

「ふん…ISの脳波システムを応用して、洗脳措置を施すのがここまで簡単だとはな…何故誰もやらないのか、理解に苦しむね」

ジェームズの瞳には、【狂気】しか映っていなかった…

「いや!離してぇ!姉さん!兄さん!助けてよお!!!!」

「今日はいつにも増して騒がしいね。まあ良いさ。ここ最近得られるデータには目を見張るものがある。これもあの2機との戦いが影響してるのだろうな」

一樹のストライクフリーダム、一夏のユニコーンとの戦いのデータは、エムに新たな機体を与えるか一考するには充分すぎた。

「イタリアから奪ったこの機体、これをぶつけたら…また面白いデータが取れることだろうな…この【バンシィ】のデータがね」

 

 

「何だかんだで、結構買ったな」

「うん。学園用のシャンプーとか少なくなってたから、丁度良かったね」

一樹とセリーの手には、学園で使う日用品の詰め替え品が大量にあった。

「にしても、セリーは本当に俺と同じので良いのか?」

普段、セリーは一樹と同じ洗剤を使っている。

…一樹のひたすら安いシャンプーを、セリーに使わせているのが、一樹は胸が痛むのだ。

「ん?別に気にしてない」

「いやさ、雪と同じのにしても良いんだぜ?」

「うーん…私自身シャンプーにこだわりはないから…」

「とは言うものの…アレそこまで品質良くないからさ。セリーに使わせるのは心が痛むんだよ…」

「カズキって…過保護だよね」

「そうか?」

「うん、そうだよ」

「…度合いが分からないからな。たまに宗介とか和哉を見て勉強してるんだけどな」

だから舞の方が下には厳しいかもしれない。

と、一樹は苦笑しながら話す。

「マイって、一樹の妹なの?」

「義理の、な」

「ふうん…」

 

『楽しそうですね〜、ウルトラマンにゼットン』

 

「「ッ!?」」

楽しい時間は、一瞬で崩壊した。

一樹とセリーの正面に現れるワープホール。そこから出てきたのは…

「…バット星人」

「あ、ああ…」

震えるセリーを庇う様に、一樹は前に出る。

『おや?我々の事をご存知なのですか?それは光栄です』

「…何の用だ。地球に観光しに来た、ってんなら案内くらいするんだけどな」

『ふむ、それはそれで楽しそうですが、今回は残念ながら違うのですよ』

大袈裟な仕草で残念がるバット星人。

一樹の表情がどんどん厳しくなる。

「…セリー、今すぐテレポートで逃げろ」

「で、でも…」

「良いから!」

バット星人はゼットンの養殖にかけては宇宙一の一族だ。つまり、ゼットンの事は知り尽くしている。

そんなバット星人の前に、セリーを置いておくのは危険だ。

『何故そのゼットンを庇うのか、理解出来ませんね。元々そのゼットンはあなたを殺そうとしたのですよ?』

「(コイツ…セリーがシャドウに操られていた事を知ってやがる…!?)」

一樹の袖を握るセリーの手が、尋常でない程震えている…それが意味するのは…

『私が捨てた時より、随分可愛らしくなってる様ですが…まさかあなたの女にでもなったのですかな?』

「今すぐその薄汚い口を閉じろ。死にたくないならな」

かつてない程、一樹は怒っている。

あまりの怒りに、一周回って冷静だった。

『お〜怖い。流石は歴戦の勇者、殺気の濃度が尋常でないですね』

しかし、やり様はあるんですよ…

そう言ったバット星人の手に握られていたのは、リモコンだった…

「ッ!セリー逃げろ!!!!」

一樹が気付いた時には、もう遅かった…

『ポチッと♪』

バット星人がリモコンのスイッチを入れた瞬間、セリーの目の色が変わった。

「セリー!しっかりしろ!セリー!!」

一樹が必死でセリーに呼びかけるも、セリーは荒々しくその手を振り払う。

『さて、ゼットン。そのお方に、今までお世話になったお礼をして差し上げなさい』

バット星人の命に、セリーが一樹に向かって右掌を伸ばす。

 

ドォンッ!!!!!!!!

 

瞬間、衝撃波が一樹を襲う。

「ごっ!!?!!?」

くの字になりながら吹き飛ぶ一樹。

 

ガラガラガラガラッ!!!!!!!!

 

ショッピングモールの観葉植物を巻き込んで、ようやく止まる。

「ゲホッ!ゲホッ!」

なんとか観葉植物をどかして立ち上がり、バット星人を睨む一樹。

「てめえ…セリーに何をした!!?」

『何、簡単に説明すると洗脳したのですよ。このリモコンでね』

心底楽しくて仕方ない、という風にバット星人は説明する。

『元々、このゼットンの戦闘力は目を見張るものがありました。しかし何故か甘い性格へとなってしまいましてね。我々の目的には使えないという事で1度捨てたのですよ』

バット星人の言葉に、一樹はギリッと歯ぎしりする。それを知ってか知らずか、バット星人は続ける。

『しかし、このゼットンが宇宙でどういう行いをするのか気になった私は、このゼットンに発信機をつけておきました。するとどうでしょう?あの闇の巨人によって、我々が望む以上の残忍さを手に入れた!後は隙を見てコイツを回収するだけ…だったのに!』

先程までの態度はどこへやら、一樹に向かって殺気を放つバット星人。

『あなたが余計な事をしてくれた!浄化だかなんだか知りませんがね!発信機も破壊され、探すのに苦労しましたよ!まさか人間として生活してるとはね!』

「…そうか、ああそうか。よおく分かったよ…てめえだけは絶対許せないって事がなあ!!!!」

素早くブラストショットを取り出し、バット星人に向かって駆け出す一樹。

『無駄です。ゼットン』

バット星人の命を受けて、セリーが再び一樹に向かって手を伸ばす。

「ぐっ⁉︎」

セリーの念動力によって、一樹の動きは押さえつけられる。

ゆっくりと空中へ上げると、思いっきり突き飛ばされた。

 

ドォンッ!!!!!!!!

 

「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!!?」

吹き飛ばされながらも、一樹はブラストショットをバット星人のリモコンに向かって撃つ。

 

バリィィンッ!!!!

 

見事リモコンを破壊したが、セリーが止まる様子はない。

「なっ!!?」

『残念でしたねウルトラマン!このリモコンはあくまでスイッチを入れるだけ…後はこのゼットンが死ぬまで止まる事はありませんよ!さあ暴れなさいゼットン!この星の生態系を壊すほどに!』

セリーの体が光り、巨大化する…

《ゼェェットォン…》

セリーは再び、ゼットンへとなってしまった。

「セリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!」

『ハハハハハ!!これこそゼットンのあるべき姿です!!!!』

「ふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

一樹はエボルトラスターを取り出して、鞘から引き抜いた。

 

 

「ハッ!」

ゼットンを後ろから抑えようとするウルトラマン。

《ゼェェットォン…》

ゼットンは邪魔くさそうにウルトラマンを投げ飛ばした。

「グアッ!?」

更にテレポートで近付くと、まだ起き上がっていないウルトラマンに向かって前蹴り。

「グゥッ!?」

更に連続で火球を撃ってきた。

「グッ⁉︎グゥッ!?グアァッ!!?」

火球をまともに喰らい、吹き飛ぶウルトラマン。更に______

『キェェェェイッ!!!!』

______バット星人も巨大化し、ウルトラマンに向かって剣を振るってくる。

「フッ⁉︎ハッ!」

それを何とか屈んで避けるウルトラマン。

「シェアッ!」

『オゴッ!?』

バット星人のガラ空きの胴に、ストレートキックを放つ。

追撃しようとするウルトラマンの背中に、ゼットンの火球が命中する。

《ゼェェットォン…》

「グアッ!!?」

起き上がってすぐに、ゼットンの左手が振り下ろされるのを、両手をクロスして受け止めるウルトラマン。

「シュウッ!」

しかし、間髪入れずに右手が振られた。

「グオッ!?」

腹部を殴られ、蹲るウルトラマンの頭を掴み、ゼットンはウルトラマンを投げ飛ばした。

「グアァァァァァァァァ!!?」

地面に倒れるウルトラマンに、剣を突き刺そうとするバット星人。

『ハアッ!』

「フッ⁉︎」

それを何とか横に転がって回避し、起き上がる。

『ハアッ!フンッ!』

「フッ!シュッ!」

連続で剣を振るってくるバット星人。ウルトラマンはそれを避けるかアームドネクサスで受け止めていたが…

《ゼェェットォン…》

「フッ!?」

ゼットンに、羽交い締めされてしまう。

『ハハハハハ…フンッ!』

「グアッ!?」

ウルトラマンが動けないのをいい事に、バット星人は何度もその剣で斬りつける。

『気分は、どうですかッ!?自分が救った者に、押さえつけられている気分は!!?』

「グッ⁉︎グオッ!?」

バット星人に斬りつける旅に、ウルトラマンの体から火花が散る…

 

ピコン、ピコン、ピコン…

 

ウルトラマンのエナジーコアが鳴り響く…

『ハアッ!』

「グアァァァァァァァァ!!?」

最後に思いっきり斬りあげられたウルトラマン。大きく吹き飛び、大地にうつ伏せに倒れてしまう…

そんなウルトラマンに、バットは剣の切っ先を突きつける。

『その命、預けておきますよ。精々、残った僅かな時間を楽しんで下さい。ハハハハハハハハハハ!!!!!!!!』

「フッ!グッ!」

高笑いを上げながら、バット星人はゼットンと共に消えていく。

ウルトラマンは懸命に手を伸ばすも、届かない…

「…シェアァァァァ!!!!」

悔しそうに大地を叩くと、ウルトラマンは消えていった…




セリーは、どうなってしまうのだろうか…


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Episode103 救出-レスキュー-

大変お待たせしましたぁぁぁぁ!!

ではどうぞ!!!!


「ちくしょう!ちくしょう!ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

何度も悔しげに地面を叩く一樹。

その目から、涙が溢れる…

「ううっ…ぐうぅ…ぢぐじょう"」

自分の不甲斐なさに崩れる一樹の背後に、近付く影…

「…誰だ?」

警戒心が最大まで上がり、一樹がゆっくりと背後に振り返る。

そこにいたのは…

「…大丈夫か?一樹君」

「ご、郷さん…」

マント持ちの1人、郷秀樹だった。

 

 

「はい、姐さん(あねさん)。アストレイ・ゼロの整備、終わりやした」

S.M.Sの整備室では、雪恵が整備士達と共にアストレイ・ゼロの整備をしていた。

「あ、ありがとうございます…けど、姐さんっていうのは…?」

「ボスの女ですから、【姐さん】なんです」

「ううっ…かーくんの彼女って言うのは間違ってないけど…私、そんな怖く見えますか?」

涙目の雪恵に、整備士は慌てて否定します。

「ち、違います違います!すいません…自分、元々そっち系の出なもので…」

「え、そうなんですか?見た目は普通ですけど…」

雪恵と話している整備士は、クラスに1人はいる体育会系という印象だった。

「昔は虎刈りにしてたのですが…ボスにボコボコにやられてから、真島の叔父貴に預けられたので…そこで叩き直されました」

「えっと、そっち系の出って事は、組の報復とか大変だったんじゃ…」

「と思いますよね、やっぱり…それが、組が無くなったんですよ」

「…え"?」

「今じゃみんな、真島の叔父貴のところで働いてますよ」

「そ、そうなんですか…ちなみに、組が無くなった理由って、何ですか?」

「えっと、真島の叔父貴のところにいた頃の話だと…『叔父貴より怖いガキ達にやられた』って聞きやした」

「それって…」

「十中八九、ボスや宗介のアニキ達でしょうね」

ヤクザすら圧倒する一樹達の絵が、容易に想像出来る雪恵達。

「あれ?でも何で1人だけこっちに?」

「ある日、叔父貴に聞かれたんです」

 

 

『オマエ、何かやりたい事は無いんか?』

『やりたい事…ですか?』

『そうや。オマエはまだ若い。学校に行きたいって言うんなら金の支援はするし、やってみたい仕事があるって言うんならそれ関係の職場に連絡したる』

 

 

「真島さんって、優しいんですね」

「怒らせなければ、ですけど」

整備士の言葉に、苦笑する雪恵。

「かーくんと似てますね…」

「ボスが叔父貴の影響を受けたんじゃないかと…結果、叔父貴すら『かず坊をキレさせたらアカン…命が幾つあっても足らん』って言うレベルになってますし」

「あ、あはは…」

整備士は知らない、その一樹の影響を、雪恵が受けている事を。

雪恵がキレた時、S.M.Sで鍛えた一夏や弾ですら腰が抜ける程怖い事を…

「で、俺は叔父貴に言ったんです」

 

 

『俺…実は機械関係に進みたいんです』

『機械やて?』

『はい。まだまともだった時は、整備士を志していたんで…』

『ふうん…なら、良いところがあるで』

『良いところ?』

『オマエをボコボコにしたかず坊のところ、S.M.Sや』

 

 

「最初聞いた時は『マジか⁉︎』って思いましたね。自分をボコボコにしたとはいえ、ガキが経営する会社だなんて」

当時を思い出したのか、苦笑いを浮かべる整備士。

「でも、叔父貴が勧めてくれたところだから、とりあえず行ってみようと思いましてね。面接に行ったら、ボスなんて言ったと思います?」

「え?普通に『志望動機は?』かな?」

「いえ。『じゃあ、それをマニュアル通りやってくれ。それで配属部署を決める』ですよ」

「採用前提!?」

「なんでも、丁度機械関係の人材が欲しかったらしいですよ」

「へえ…」

そんな事を話していると、雪恵の携帯が鳴った。

 

PiPiPiPiPiPi!

 

「あ、かーくんからだ」

「出て大丈夫ですよ」

「すみません」

軽く頭を下げてから通話ボタンを押す雪恵。

「はいはーい、どしたの?」

『雪、今から言う事はドッキリでも何でもない。落ち着いて聞いてくれ』

「…?分かった」

『セリーが、攫われた』

雪恵の時が、止まった。

 

 

「ごめん…ごめん…」

背中を郷にさすられながら、一樹は雪恵に謝り続けた。

『…かーくんは、どうするつもりなの?』

責めるでも、慰めるでもなく、雪恵がしたのは質問だった。

「…しばらく帰らない。セリーを助け出す。絶対にな」

涙を拭ったその目には、力があった…

『…そう。止めても、無駄なんでしょ?』

「流石、よく分かってるじゃねえか」

『だったら…私達の家族、セリーちゃんを必ず連れ戻してね』

「ああ…分かってる」

通話を切り、郷の方を向く一樹。

「…すみません、郷さん」

「なに、電話するように言ったのは僕だからね。気にしてないよ」

「…すまないついでに、聞きたい事があるんですけど、良いですか?」

「僕に答えられる事なら」

「…バット星人の、アジトの見つけ方について」

 

 

『ふふ…今日は気分が良い。ここまで上手くいくとは、思ってませんでしたからね』

バット星人は、自分の円盤にいた。

ワイングラスをくねらせながら、バット星人は1()()()笑う。

『本当ならゼットンにワインを()がせるところですが…まあ、仕方ないでしょう。この素晴らしい時間に、他人は不要…』

バットの言葉は最後まで続かなかった。

 

バァァァァンッ!!!!!!!!

 

『オゴッ!?』

突如凄まじい勢いで扉が吹き飛び、バット星人に命中した。

「へえ、セリーは今いねえのか…なら丁度良いや」

手をブラブラさせながら現れたのは、S.M.Sスタイルの一樹だった。

『な、何故ここが!?いや、それよりも…ゼッ』

セリーを呼ぼうとするバット星人に肉薄すると、一樹はその喉元を掴んで床に叩きつけた。

『ガッ!?』

「てめえには幾つか聞かなきゃなんねえ事があるからな…円盤なら油断しきってると思って入ってみれば…案の定、レーダーだけに頼ってるっていうな」

更に足で肺と思わしき部分を思いっきり踏みつける一樹。

『ゴッ!?』

「さて、色々喋ってもらうぞ…てめえに拒否権は無い。さっさと喋れば楽に終わらせてやるから…さっさと喋ろよ?」

声音はいつも通りに、しかしその眼光はとても鋭い。

『グッ…何故、です?』

「あ?」

一樹の足に押さえつけられながら、バット星人は話し出す。

『あなたはウルトラマン…こんな、力ずくの方法は、取らない筈…』

「勝手に俺を判断すんじゃねえよ」

一樹の目は、酷く冷たい…

「確かに、()()()()だったらここまではやらねえ。だが、てめえみたいな()()()には話は別だ…俺の家族に手を出した奴はな」

『グッ!?』

話しながら踏みつける力を強める一樹。

「さて…後はてめえが喋るだけだ。話してもらうぜ?ゼットンの洗脳の仕組みについてな…」

『誰が話す…もんですか』

一樹はため息をつくと、押さえつけていた足を離し、勢いを乗せた蹴りを放つ。

その姿、サッカーのシュートの如し。

『ガッ!?』

円盤の壁に叩きつけられたバット星人。更に一樹の重い拳がバット星人の腹部に決まる。

 

ズドンッ!!!!!!!!

 

『ガフッ…』

バット星人を壁に押さえつけ、ブラストショットを突きつける。

「…もう一度だけ聞く。ゼットンの洗脳の仕組みについて話せ」

ブラストショットの銃口に集まるエネルギーを見て、バット星人は冷や汗を流す。

『ゼットンの頭には…』

死にたくない一心で、バット星人は語り出す。

『我々バット星人に逆らわないために、特殊なマイクロチップを埋め込んでいるんです…』

「取り除けば、セリーの洗脳は解かれるんだな?」

『理屈では…ですが、不可能です』

「ああ?」

『マイクロチップは…脳にかなり近い部分に埋め込まれています…チップだけを破壊する等、あなたでも出来ませんよ…』

「お前らなら出来んのかよ」

『さあ?取り除く必要がありませんからね…やってみたこともありません』

「屑が…」

『それより…』

「ん?」

ここで初めて、バット星人は勝ち誇った笑みを浮かべる。

『あなた、ここにいて良いんですか?』

 

 

IS学園の()()が終わったとの連絡を受け、雪恵と一夏は学園に戻ってきた。

「お、おい雪恵。元気出せって。アイツならすぐにセリーを連れてくるよ」

「そうだけど…」

セリーが攫われたと聞かされてから、雪恵の元気が無い。一夏は懸命に励まそうとするも、全て効果無しだった。

そんな時だった。

《ゼェェットォン…》

ゼットンが、学園を襲撃したのは。

 

 

『今頃、あのゼットンはIS学園とやらにいることでしょう。良いのですか?こんなところにいて』

「チッ!」

荒々しくバット星人を突き飛ばす一樹。

「…教えてくれてありがとうよ。おかげで探す手間が省けた」

バット星人に形だけの礼を言うとエボルトラスターを引き抜いた。

 

 

《ゼェェットォン…》

着々と学園に近付くゼットン。

そんなゼットンと学園の間に現れる、光の柱…

「ハアァァァァァァ…」

光の柱から、ウルトラマンが現れた。

 

 

「答えを見つけたのかい?一樹君」

離れたところで様子を伺っている郷。

()()()()()()()()()()様に、準備していたのだ。

「…む?」

そんな郷の目に、バット星人の円盤が移った。

「……」

 

 

《ゼェェットォン…》

「……」

ゼットンに静かに近付くウルトラマン。

ゼットンはそんなウルトラマンに連続で火球を放つが、ウルトラマンは全てアームドネクサスで火球を弾く。

「フッ、シェアッ」

着々とゼットンに近付くウルトラマン。ゼットンは近付いてきたウルトラマンの首を、その両手で絞める。

「グッ!?」

 

なあセリー、聞こえるか?

 

《……》

ゼットンの頭に、ウルトラマン…一樹の声が響く。

 

多分、お前は頭の痛みを抑えるために戦ってる…だから、その原因を俺に取り除かせてくれないか?

 

《……》

「ウッ、グゥッ⁉︎」

ゼットンは動かない。

ウルトラマンはひたすら、テレパシーを送り続ける。

 

また俺や雪と一緒にいれるために…やらせてくれ。

俺を…信じてくれ。

 

《…ゼェェットォン》

「フッ?」

ゼットンの手が、ウルトラマンの首から離された。

 

ピコン、ピコン、ピコン…

 

いつの間にか鳴っていたエナジーコア。

ウルトラマンはゼットンに頷くと、ジュネッスへとチェンジする。

「フッ!ヘェアッ‼︎」

そして、両手を胸の前でクロス。

「シュッ!ハアァァァァァァ…」

《……》

静かに待つゼットンに向けて、ゴルドレイ・シュトロームを放った。

「デェアァァァァァァァァ!!!!」

しかもただのゴルドレイ・シュトロームではない。ゼットン頭部の小さなマイクロチップのみを狙ったピンポイントバージョンだ。

そして…

《…ありがとう》

…ゼットンは、正気を取り戻した。

ゼットンの体が光り、小さくなる。

「ありがとう、カズキ」

そして、セリーの姿へと戻った。

疲労が溜まっているのか、倒れた状態でウルトラマンに礼を言うセリー。ウルトラマンは優しく頷いた。

 

『中々やりますね。ウルトラマン』

 

「フッ!?」

上空から様子を伺っていたバット星人。

『しかし、甘い』

そして、円盤からウルトラマンに向けて攻撃を開始した。

「グアッ!?」

 

 

「……」

バット星人の攻撃を必死で捌くウルトラマンの姿を見た郷。

右手を高く掲げ、【ウルトラマンジャック】へと変身する。

 

 

「ハア、ハア、ハア…」

『ハハハハハハ!!あなたはもう限界でしょう!しかしまだトドメは刺しませんよ。あなたには絶望していただかなければ!こういう風にね!!』

円盤から、学園に向けて光弾が放たれる…

 

「シェアッ!」

 

その光弾を、ジャックが受け止めた。

「フッ!?」

驚くウルトラマンに向かって、ジャックは頷いた。

ウルトラマンは頷き返すと、円盤を狙ってネオ・ラムダスラッシャーを放つ。

「シュッ!ハアァァァァァァ…フンッ!デェアァァァァァァァァ!!!!」

ジャックもまた、円盤に向かってスペシウム光線を放った。

「シェアッ!」

 

ドォォォォォォォンッ!!!!!!!!

 

2人のウルトラマンの攻撃が円盤に命中。円盤は爆発した。

『のわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!!?』

その爆発に吹き飛ばされたバット星人は、ウルトラマンの目の前に倒れる。

「……」

手首のスナップを効かせ、某携帯ライダーの様に近付くウルトラマン。

『わ、私はこんなところで!』

前回の戦闘でも使った剣を呼び出し、ウルトラマンに斬りかかる。

が、最小の動きでその斬撃を避けるウルトラマン。

『負ける訳には、いかないのです!』

尚も大振りの斬撃を繰り出すバット星人の腹部に、ウルトラマンの強烈なカウンターが決まる。

「シェアッ!!」

『ガフッ!?』

そこからはワンサイドゲームだった。

蹲るバット星人の頭部にウルトラマンの回し蹴りが決まり、地面に転がったと思えば、ジャイアントスイング。更には岩盤に頭をぶつけるオマケ付き。

頭を強く打ってゴロゴロ転がっているバット星人に容赦なく拳を落とし、蹴り上げる。

バット星人の進路先にマッハムーブで先回りしては蹴る、蹴る、蹴る!

最後に両拳を振り下ろして三度大地に叩きつける。

あまりの暴れっぷりに、楯無が簪の視界を両手で塞いだ程だ。

事情を知っている雪恵を筆頭に1組勢+鈴は、ウルトラマンの技が決まる度に大盛り上がりだったが。

『も、もう…勘弁…して…下さい…』

息も絶え絶えに、バット星人が願うが、ウルトラマンは全く聞く耳を持たない。

尚もバット星人を殴りつけようとするのを、ジャックがウルトラマンの腕を掴む事で止めた。

「(か、一樹君、そろそろ止めようか?でないとあの子達が怯えるぞ?)」

郷の姿のままだったら、冷や汗をかいていたであろう。

それだけウルトラマンの暴れっぷりは激しかった。

『今がチャンス!!!!』

ここぞとばかりに飛び出すバット星人。当然ウルトラマンが見逃す筈も無く…

「シェアッ!!」

セービングビュートでバット星人を捕らえると…

「フッ!ハァァァァ…デェアッ!」

クロスレイ・シュトロームに…

「シュッ!フアァァァァァァ…デェアァァ!!」

コアインパルスに…

「フッ!シュウッ!!キュアァァァァァァァァ…フンッ!デェアァァァァァァァァ!!!!!!!!」

トドメに最大出力のオーバーレイ・シュトローム。

『ウガァァァァァァァァ!!?!!?』

断末魔をあげるバット星人に背を向けるウルトラマン。そして_______

 

ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!

 

かつてない程の大爆発が、空中で起こった。

「シェアッ!!」

爆発が収まると、ジャックは空へと飛び立ち、ウルトラマンは静かに消えていった…

 

 

「凄いオーバーキルだな…」

3つの必殺技を放ったウルトラマンを見て、一夏が呆然としている。

「セリーちゃんを攫ったんだから、あれくらい受けて当然だよっ!」

倒れてるセリーの手当てをしながら、雪恵がうんうん頷いている。

それに、一夏はやはりこの一家を怒らせたら怖いということを肌で感じたのだった。

「ユキエ…」

弱々しく雪恵を呼ぶセリー。

「どうしたの?セリーちゃん」

優しくセリーの頭を撫でながら、穏やかな笑みを見せる雪恵。

「心配させて…ごめんなさい」

「…本当だよ。セリーちゃんは私と一緒に、かーくんを止める側なのに」

そっとセリーを抱きしめる雪恵。

一夏はそれを邪魔しないために、そっと離れるのだった。

 

 

「止めてくれてありがとうございます。あのままだったらアイツらにトラウマもんのゴミを見せる所でした」

「あ、あはは…もう遅かったかな?」

苦笑いを浮かべる郷。

一樹はそんな郷に笑顔を見せる。

「大丈夫です。それを吹き飛ばす意味も込めて最後の技3連発ですから」

「…アレは派手だった」

「印象深いアッチで、それまでの場面なんか忘れてますよ」

朗らかな笑みを浮かべる一樹に、郷は冷や汗が止まらない。

「(帰ったら兄弟達に伝えておこう…一樹君を怒らせたら、危険だと言うことを。既にタロウが受けてるみたいだが、今後のためにも言っておかなければ)」

郷が帰った後の行動を決めているのを、一樹はキョトンと見ていた。

「…んん。さて、僕はそろそろ帰るよ」

「道中、お気をつけ下さい」

「ありがとう。君も、頑張れよ」

「…はい」

 

 

「カズキ!カズキカズキ!」

元に戻ってから、今まで以上に一樹と雪恵に甘えるようになったセリー。今は一樹に雪恵、セリーで散歩してるところだ。

「ねえかーくん」

「…ん?」

「家庭を持つって、素晴らしいね!」

雪恵の満面の笑みに、一樹も笑って返す。

「ああ、そうだな」

「カズキー!早く来てよー!」

「ああ!今いくよ!」

一樹に雪恵にセリー、その3人の微笑ましい姿が、無事に戻ってきた。

それを、これからずっと続けていきたいと、一樹は思った。




うーむ…ゲストウルトラマンの出し方が難しい…

もっと精進せねば…


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Episode104 後始末-クリーンアップ-

ちょっと息抜き?で。

お気楽にどうぞ。


「クロエ、本当にS.M.Sで良いのか?」

「はい。世界のどこを探しても、ここ以上に安全な場所はないでしょうから」

「世界で1番危なっかしいと思うんだけどな…」

束からクロエをS.M.Sで雇ってくれないかと言われた一樹は、クロエに最終確認をしているところだ。

「とりあえず…クロエは事務係として入ってもらうよ。ただ、あくまで仮にだから、クロエに合った部署が分かればすぐに移動になる。だからしばらくは色々やってもらうことになるよ」

「はい、大丈夫です。家事以外ならやります」

「…家事は長い目で見る必要があるから、当分頼まないよ。安心してくれ」

束にクロエがどうやって生きていたのか気になる一樹。

「ところで…」

「どうしました?一樹様」

「だから様はやめろって…ボーデヴィッヒとはなるべく顔を合わせない方向で良いのか?」

非常に聞きにくそうにする一樹。しかし、それは聞いておかなければならない事なのだ。いつ一夏がS.M.S所属だとバレても良いように。

「…そうですね。なるべく、会いたくないです」

「了解…とりあえず、今人手が足りてないのは…」

自分専用のパソコン(生体認証システム完備)をカタカタ操作する一樹。

「……クロエ」

「なんでしょう?」

「……宇宙に、興味はあるか?」

「………はい?」

 

 

夕食を食べに、食堂に来た一夏を待ち構えていたのは…

「「「「……」」」」

ここ数日、避けていた専用機持ちたちだった。

「あ、部屋に忘れ物したんだった」

クルリと反転、食堂を出ようとするが、5つの手が止める。

「待て」

「お待ちなさい」

「待ちなさいよ」

「待って」

「待たないか」

一夏、逃亡失敗。

「…あのさあ、茶番を出入り口でやるのやめてくれないか?邪魔だから」

心底嫌そうに言う一樹。しかし5人にその言葉は聞こえていないらしい。証拠に、「忘れろと言った」と言い合っている。

「………」

イライラしながらも茶番の終わりを待つ一樹。

…ちなみに黛が面白そうだとカメラを構えるも、一樹の不機嫌MAXの顔を見て慌てて退散していた。

 

ブチッ

 

そしてとうとう、一樹の血管がキレた。

「ガッ⁉︎」

ガシッと一夏の首根っこを掴むと…

「出入り口で邪魔だって言ってんだろうがぁぁぁぁ!!!!!!!!」

廊下に向かって思いっきり投げ飛ばした。

「何で俺ぇぇぇぇ!!?!!?」

だんだん一夏の声が小さくなっていく。それだけ遠くに投げられたという事だ。

「……」

ゆらり、と今度は専用機持ちたちに照準を合わせる一樹。

「「「「あ、あわわ…」」」」

一樹の目の光が失われているのを見た専用機持ちたちがガタガタ震える。

「…次は誰だ?」

「さ、さて夕食を食べに行かなければ」

「そ、そうですわね!早くしないと時間が…」

「しょ、食堂は時間が決まってるしね!」

「早く買いに行こ!」

「うむ!早く行かねば!」

慌てて食券を買いに行こうとする専用機持ち。

しかし反転したそこには…

「ねえ…何でかーくんを無視したのかなぁ?教えてくれるカナカナ?」

「…焼き尽くす」

黒いオーラを纏った雪恵とセリーがいた。

「「「「ヒィィ!!?!!?」」」」

前後を囲まれた専用機持ち。その晩、彼女達が食券を買う姿を見た者はいない…

 

 

ある生徒の目撃情報によると…

『櫻井君がマジギレすると、部屋の温度が10度下がった』

『雪恵ちゃん達と合流すると、まだ残暑厳しい時期なのに真冬の様に寒かった』

『当事者じゃないのに、生きた心地がしなかった』

等と語っているとか。




一体、彼女達はナニを見たんでしょうね…


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Episode105 真名-ネーム-

9巻行っくぞぉぉぉぉ!


ワールド・パージ事件で精神に乱れが生じた楯無は、大事を取って入院していた。

そんな楯無を世話しているのが…

「はい楯無さん。今回は自信作です」

「い、一夏くん?世話してくれるのはありがたいのだけれど…」

そう、一夏なのである。

想い人に世話されて、楯無は最初こそ喜んでいた。

が、一夏の家事能力のハイスペック振りに自信を打ち砕かれてる今日この頃。

 

 

「さて、校内とはいえISの無断展開は禁止だと何度言えばお前らは分かるんだ?」

PICの部分展開で一夏と楯無を窓から覗こうとする面々と対峙する一樹。

…ちなみにPICを展開せずに壁に立っていることに、理屈で理解しようとしてはいけない。魂で感じるのだ。

「お前ら、いっそ代表候補から外れろよ。その方がこの学園は平和だ。ってかデュノア、お前本当そろそろいい加減にしろ」

「僕だけ!?」

「当たり前だ。お前があまりに酷くゴールドフレームを扱うなら、没収が視野に入る事を忘れんな。お前1人のために、S.M.S所属の人全員が路頭に迷わされるなんざごめんなんでな。他は知らない。各国の刑務所に入れられようが、俺は関知しない。一夏に詰め寄るんなら、ゴールドフレームを返してもらおうか。いつゴールドフレームで攻撃するか、分かったもんじゃないからな」

「だ、大丈夫!一夏にゴールドフレームで飛びかかったりしないから!だからそこを通して!」

必死に頼むシャルロット。

他の専用機持ちはその隙に通れば良いものの、一樹に隙が全く見えない。

「…というか」

そこで一樹は呆れ笑いを見せると一言。

「俺、覗くなとは言ってないよね?」

「「「「……あ」」」」

全員すぐさま降りて、扉の隙間から覗いたとさ。

 

 

「あ、あなたのせいで!」

一夏との時間を専用機持ちに邪魔された楯無は、一樹をポカポカ殴る。

全く痛くないのだが、いい加減ウザい。

「(雪、セリー、ミオ、助けて)」

アイコンタクトと脳波会話で自身の家族に助けを求める一樹。

すると雪恵が、無言で自身の左肩を指した。

「『(中々エグいことを思いつく⁉︎)』」

一樹とミオの心がシンクロした瞬間だった。

雪恵の案とは、ワールド・パージ事件の時、楯無を庇って撃ち抜かれた左肩を使うことだ。

…本当にエグい作戦である。

「アア、ヒダリカタノキズグチガヒライチマウ」

あまりにエグすぎるので、棒読みで冗談にしようと言ってみる一樹。

ピタリ、と楯無の動きが止まり…

「ごめん、なさい…」

マジ泣きしてしまった。

「「『(嘘ぉぉぉぉぉぉぉ!!?)」」』

裏の荒事に慣れてないとはいえ、楯無は暗部の長だ。

そんな楯無が、棒読みに気づけないのはかなりの問題…今回は特に…である。

一樹にセリー、ミオがあたふたしてると雪恵が楯無に近付く…

「泣いても、かーくんの左肩は治りませんよ?」

それなりに修羅場をくぐっていると自負しているセリーですら、今の雪恵は怖かった。

「確かにかーくんは気にするなと言ったかもしれません。けど、忘れて良い訳ではないんですよ?」

「はい…」

「それに…」

クドクドと楯無(2年生)に説教する雪恵(1年生)。

しかも楯無はこれでも学園最強の生徒会長である。とてもそうは見えないが…

「か、カズキ。ユキエを止めて」

『ま、マスター。雪恵さんを止めないと』

「…まあ、そろそろ説教も頃合いだろうしな。けど、どうやって止めるか…」

『マスターがドSモードになって雪恵さんの耳元で『俺を無視するとは良い度胸だな(イケボ)』って言えば良いと思いますはい』

鼻息を荒くして提案するミオ。

「…それはお前の願望じゃねえのか?」

ジト目で剣の首飾りを見る一樹。

『な、何を言いますか!セリーちゃんだって期待してるはずだよ!』

恐らく真っ赤になりながらセリーを巻き込むミオ。

「…セリー?」

どうか違ってくれという願いを込めながら、セリーの方を向く一樹。

「……」

凄い速さで目を逸らされた。

「マジかよ…」

頭を抱える一樹。

ここぞとばかりに詰め寄るミオ。

『さあマスター!今こそ雪恵さんを堕とす時です!』

「なあミオ。その字は俺らの業界的には不吉だからやめてくれない?本当マジでさ」

堕とすなど、本当に縁起が悪い…

『あ、それはごめんなさい。じゃあ…雪恵さんを口説く時ですよ!』

「言葉を変える気遣いをしてくれるなら、そもそも雪を止めるのを手伝ってくれよ…」

『いや…マスターじゃないと雪恵さんは止められないよ。うん』

「…本音は?」

『マスターが口説いた後の雪恵さんのふにゃけ顔が見たい!』

「……今度()()()に行った時に縄で縛ってそのままにするぞコラ」

ドスを効かせて脅す一樹。

しかし、ミオは…

『え?その、それは…困る…』

満更でもなさそうだった。

「…」

相棒がドM過ぎて困る

それで短編小説が書けるのではないかと一樹は思った。やらないけど。

「はあ…やるか」

まだ楯無を正座させて説教している雪恵に近付き、耳元で囁く。

「…おい」

「ひゃいっ!」

少し低めの声で囁くと、雪恵はビシッと固まった。

「俺をスルーするとは、良い度胸だな」

「ひゅ、ひゅみまひぇん…」

「…そろそろ、やめろ。良いな?」

「ひゃい…」

一樹は大きく息を吐いた。

疲れた、過去にない程。

妙に色っぽく座る雪恵をスルーして、楯無に向き直る。

「…おい、そんなに泣いてると一夏がドン引くぞ」

「ッ!」

効果はバツグンだった。

一瞬で楯無は泣き止んだ。

「(まあ、あの女たらしなら普通に慰めるだろって話だけどな)」

『それには同感』

ミオも冷めた声で同意した。

「ね、ねえ櫻井君。一夏くんに私を意識させるには、どうすれば良いと思う?」

一夏との付き合いが1番長い(下手したら千冬より実質的な時間は長いかもしれない)一樹に縋り付く楯無。

「…アレ、やれば?」

後ろで未だに色っぽく座っている雪恵を指す一樹。

「やったわよもう!雪恵ちゃんがいない時に水着エプロンを!」

「「「『あんたヘタレだったと思ったら結構グイグイ行くな!!?』」」」

一樹ファミリーのツッコミに憤慨する楯無。

「な!?私のどこがヘタレなのよ!?」

「「「妹への接し方」」」

「ガフッ!!?」

簪とずっと仲違いしていたのを知っている一樹に雪恵、セリーに言われて一撃で沈む楯無。

一樹は頭をガシガシ掻きながら考える。

「まあ、それはそれとして…アイツに楯無を意識させる、ねえ。そもそも俺はお前を知らねえから助言のしようが…」

ピタリ、と一樹の動きが止まった。

自分は今、なんと言った?

楯無を意識させる?

楯無とはどんな名だ?

【更識家当主】の名だ。

では、当主になる前は…

「…なあ更識楯無」

「きゅ、急にどうしたの櫻井君?フルネームで呼ぶなんて」

「…あの一夏に、女を意識させるのは正直ISで大気圏突入しろって言うくらい難しいことだ」

「それ、実質不可能ってことよね!?」

ミオが『出来ますよ!舐めないで下さい!』と一樹にだけ聞こえる声で怒る。

まあまあ、と心の声でなだめながら一樹は続ける。

「実質ってことは、理論上は可能ってことだろ?それに、お前には他の女子には無い武器がある」

ここで、一樹が言わんとしている事に気付いたのは、ミオだけだった。

『あー、なるほどね』

他の面々はまだ分かってないらしく、キョトンとしている。

「私にしかない武器?姉ってことかしら?一夏くんの周りって、下かひとりっ子が多いような…」

「それIS学園内の話な。近くの公立校とかだったら、下に妹なり弟なりいる一夏ファンはごまんといるよ」

遠い目をして告げる一樹。

「聞きたく無い情報ありがとうね!」

ヤケクソ気味に礼を言う楯無。

「いやだって、考えてみろよ。篠ノ之に凰はIS学園に来る前からアイツに惚れてるんだぜ?それを考えたら、ねえ?」

「…ちなみに、人数は?」

「雪、説明よろしく」

「あいあい、私が知ってるのはまあ小学3年生時代に…3年、4年、5年、6年の女子生徒の9割強は織斑君に惚れてたかな」

「ブゥッ!!?」

「ウチの学校がひとクラス30人ちょっと、内女子は半分と仮定して15人。それが3クラスで45人、それが4学年分だから…約180人。誤差ももちろんあるけど、小学生でコレだぜ?」

「ハーレムなんてもんじゃないわよ!!?」

「中学2年の時はすごかったぞ。中学にいる女子の殆どが織斑教に入ってて…ひとクラスに女子が20人くらいいたから…それに3クラスと3学年をかけて…後は近隣の高校数校が加わって…それも3学年分…」

数える旅に一樹の目が死んでいく。

同じように楯無の目も死んでいく。

「かーくんストップ!それ以上数えたらだめ!」

『け、桁が違いすぎる!!?試算したら千の位がうっすら見え…』

「ミオ黙って。ユキエが止めてる意味がなくなる」

 

 

「まあ、大分話が逸れたけど。とにかく、この世でお前にしかない武器を使うのが一番じゃないか?」

「私にしかない武器…何かしら?」

「それはお前自身が気付かなきゃ」

楯無は考える。ひたすら考える。

「…ヒント、お前は誰だ?」

「え…?更識楯無だけど」

「その名の意味を、よく考えてみろ」

 

私の名の意味?

私は更識楯無。

更識家の当主。

楯無とは当主が代々襲名する名で…

 

「…あ」

「分かったか?楯無」

「ええ、私の名の意味…なるほど、これは私にしかない武器だわ」

楯無は理解したが、雪恵にセリーはまだ分かってないようだ。

「ねえかーくん。結局、楯無さんだけの武器って何?」

「カズキ、教えて」

「説明って言っても…楯無には2つ名前があるってだけだよ」

「「はい?」」

一樹は楯無の方を向く。

その意を察した楯無が説明を始める。

「私の名前…楯無はね。更識家の当主が代々襲名する決まりなの。だから私の本当の名前は別にあるのよ」

「へえ…だからかーくんが名前で呼んでたんだ」

「そ。更識さんとの区別ってのもあるけど、当主としての名なら別に問題ないしな」

「…今ので気になったのだけれど、櫻井君は基本苗字で女の子を呼ぶわよね?何で?」

楯無の質問に、一樹は苦笑いを浮かべながら答える。

「今はどうか知らないけど…小学校の時にさ、一夏以外に名前を呼ばれるのは嫌だっていう女子の流れがあったんだ。だから俺は家族と雪(それとS.M.Sの彼氏持ち)以外、苗字で呼ぶと決めたんだわ」

何より、一樹が名前で呼ぶと嫌悪を向けたからなのだが…雪恵の手前、そこまで言う必要は無いだろう。

「なるほどね…」

楯無が納得したところで、一樹が補足する。

「これはあくまで俺が勝手に思った事だから…そっちのお家事情は加味してない。そこは忘れないでくれよ?」

「ええ、分かってる」

 

 

楯無が気合をいれて部屋を出ると、雪恵が一樹に後ろから抱きついた。

「…どうした?」

「…さっきのドSモードは、やらないの?」

「やるか!」

「そんな!少しときめいた私の気持ち返して!」

「頼むから!雪までMキャラにならないで!それはミオだけで手一杯だから!」

『ちょ、聞き捨て出来ない言葉が聞こえたよマスター!』

「お前黙ってろよマジで!」

「ねえカズキ、私にもさっきのやって?」

「「セリー(ちゃん)にはまだ早い!」」

保護者2人のツッコミに、セリーは憤慨するのだった。

 

 

「い、一夏くん!」

「あ、楯無さん。どうしたんですか?」

楯無は一夏の部屋へと向かった。

が、緊張で何も言えない。

「え、えと、その…」

「楯無さん?」

不思議そうに楯無を見る一夏。

そんな顔すら良く見えてしまうのは、惚れた弱みか。

「その…ね?私の名前、楯無が更識家当主が代々襲名している名っていうのは前に話したわよね?」

「ええ、まあ」

「私の本当の名前は…更識、刀奈。一夏くんには、知っててほしいな」

穏やかな笑みを浮かべて話す楯無…いや、刀奈。

「あの、大丈夫なんですか?俺に教えちゃって」

S.M.Sで更識家についてざっくり説明を受けてる一夏。

だから刀奈の行動に疑問を持つ。

「うん、良いの。()()()()()()

恐らく、刀奈が本当の名前を教える意味を、一夏は理解していない。

でも、それで良い。

今はまだ、この関係を続けていたい…それが、更識刀奈の願いだった。




次は運動会?かな?

はてさて、どうなるかな…


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Episode106 運動会-アスレチック・ミート-

本っっっっ当にお待たせしました!

上手く文字に出来なくて…こんなに間が空いてしまいました。

申し訳ない…


「さて、楯無。言い訳を聞こうか」

「楯無さん、私に何の説明もなく実行した言い訳を聞かせてほしいな♪」

「…焼かれる前に早く答えろ」

「ちょ、みんな冷静になって!お願いだから!」

一樹ファミリーに詰め寄られている楯無。

事の発端は今朝、朝礼で楯無が発表した事にあった。

なんと、【1年生対抗一夏争奪代表候補生ヴァーサス・マッチ大運動会】の開催を発表したのだ。

賞品である一夏とルームメイトになる資格を懸けた、乙女たちの仁義なき戦いを開催すると!

…現ルームメイトの雪恵の断りなく。

それを知った一樹と雪恵、セリーが生徒会室に乗り込んだのだ。

「最近はマシになったと思えば…またボコボコにされたいのか?」

「学園祭をきっかけにマシになったと思ったのに…失望しました」

「ねえ、焼かれるのと呼吸困難、どっちが良い?」

「お願いします理由を話すので落ち着いて下さい!後セリーちゃんのはどっちを選んでも死んじゃうわよ!!?」

命の危機を感じた楯無が、必死で説得しようとしてる側では…

「あ、弾君からメールが…」

「あ〜、お茶が美味しい〜」

「おいおいのほほんさん、袖に溢れるぞ…」

最近出来た恋人からのメールを見る虚に、我関せずの本音に…現実からひたすら目を逸らす一夏がいた。

「お願いだから誰か助けてよ!後虚ちゃんに抜け駆けされてた!!?」

「…弾君をお嬢様の様な害悪に近付ける訳には、いきませんから」

「ねえ虚ちゃん、あなた仮にも私の従者よね?」

「うるさいです。このヘタレなんちゃって最強」

「ガハッ!?」

「悔しかったら織斑君や櫻井君に一撃喰らわせて下さいよ…その日がお嬢様の命日になるでしょうけど」

「笑えない冗談はやめて!!?」

「…茶番は終わりか?」

「逃げれると思った?」

虚にツッコミを入れながら、ゆっくり一樹達から離れようとしていた楯無。

だが、その肩を()()()掴む一樹とセリー。

「……」

ダラダラ汗をかく楯無。

「「喋れ」」

「話して下さい」

「…はい」

 

 

「要約すると、代表候補生の面々が一夏のマネージャー的なのになりたいと言い出し、それを黙らせるために今回の案を出した。雪には後で何か土産を持って謝罪するつもりだった…か?」

「大体そんな感じです…」

「オッケ分かった。ちょっと更識さん以外の候補生シバいてくる。セリー手伝ってくれ」

「ラジャー」

袖まくりをしながら生徒会室を出ようとする一樹とセリーを慌てて止める楯無。

「お、落ち着いて櫻井君にセリーちゃん!」

流石に見過ごせなくなったのか、一夏も止めに入る。

「か、一樹!お前のシバくはシャレにならんから!落ち着け!」

 

ブチッ

 

「…ブチッ?」

「そもそも…」

ガシッ、と一夏を掴む一樹。

阿吽の呼吸で窓を開ける雪恵。

「テメエが唐変木だからだろうがぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「え、ちょっ!?」

一夏を持ち上げ、窓際に寄ると…

「ウルトラハリケェェェェェェェェェェェェンッ!!!!!!!!」

「おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!!?」

高速回転させながら、窓から放り投げた。

あまりの回転に、竜巻が起こる。

更にセリーから火球を受け取り、大きく腕を引いて…

「ガァルネイトォ…」

熱線に変えて突き出す!!

「バス、タァァァァ!!!!!!!!」

「「「嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」」」

ギャグ漫画のノリで撃ち出された熱線は、空中でコマの様に回る一夏に見事命中。一夏は弾けた。

慌てて窓に駆け寄る楯無と布仏姉妹。

「ちょ!?櫻井君!!?そんな事したら一夏くんが!!?!!?」

「心配すんな。5秒待て」

5…

4…

3…

2…

1…

 

ガラッ

 

「あぁ!!死ぬかと思った!!!!」

生徒会室の扉を開けた黒コゲの一夏を見て、楯無と布仏姉妹がずっこけた。

「な、なんなのコレ!?」

「「「『これぞライトノベル主人公(的な男を含む)が持つ【ギャグ漫画属性】だ!!』」」」

「一夏くんは確かにラノベ主人公(二重の意味で)だけども!ギャグ属性は無かったわよね!?」

楯無のツッコミが、悲しく響いた…

 

 

そして、大会当日…

「それでは!これより1年生による代表候補生ヴァーサス・マッチ大運動会を開催します!選手宣誓は織斑一夏!」

「俺ぇぇぇぇ!!?」

ズビシ!と楯無に指名された一夏。

事前に聞いてなかったので、当然反論しようとするが…

「ぐだぐたうるせえさっさと行けやこの唐変木!!!!」

「おわぁぁぁぁ!!?」

例によって大運動会の準備の手伝いをさせられた一樹の、怒りの砲丸ならぬ一夏投げで壇上へとあげられた。

「え、えーと…」

仕方なくやろうと振り返る一夏。

「うっ…」

IS学園の体操着はブルマである。

故に、女子生徒達のすらっとした美脚やヒップラインが目に入ってしまい、流石の一夏も言葉が止まる。

「せ、宣誓!お、俺達は!スポーツマンシップに則って!正々堂々戦う事を誓います!」

それでも…顔を真っ赤にしながらも、何とか選手宣誓を終えた一夏。

ドッ!と拍手が起こり、一夏を讃える声の数々。

そして運営席に戻り、相変わらず黒地の長袖長ズボンのジャージを着た一樹の隣に座る一夏。

「まあ、運動会の宣誓としては充分じゃねえか?」

「他人事だと思いやがって…」

「実際他人事だし…ってか、お前まさかのブルマ好きなの?」

「違う!」

「じゃあ姉系女子が好き?」

ガタッ!と近くで音がした。

「お前の聞き方には悪意を感じるぞ⁉︎否定もしないけどな!」

近くで嬉しそうな息遣いひとつと、ため息ひとつが一樹には聞こえた。

「…じゃあ、妹系女子は?」

ガタタッ!と選手控え場所から物音が聞こえた。

「うーん…俺自身が下の子だからな。相性は悪いんじゃないか?」

ズゥーン…と、何処かのテンションがダダ下がりした。

黒髪ポニーテールと、水髪セミロング辺りが。

「…お前も上の子下の子の相性とか気にするのか?」

「それなりには。まあ…そんな相性とか気にして人を好きになる訳じゃないだろう?」

パアァッと黒髪ポニーテールと水髪セミロングの雰囲気が明るくなった気配を、一樹は感じた。

「…お嬢様系は?」

ガタッ

「…正直、苦手だ」

ドサッ

…どこかで人が倒れ、「衛生兵!衛生兵を呼んで!」と叫ぶ声がした。

「お嬢様系って、バリバリの女尊男卑が多いじゃん?だから苦手だ」

どこかで「AEDを!AEDを誰か持って来て!」と叫び声がする。

「…じゃあ、女尊男卑思考じゃないと仮定したら?」

「うーん…価値観の違いでダメになる様な気がする」

どこかで「レスキュー隊を呼んで!」と阿鼻叫喚になっている声が聞こえる。

「けど、そんな身分を越えて恋愛出来たら、凄えと思うな」

シャキーン!と何かが復活した効果音がした。

「…現段階のお前の好みは?」

「何より暴力を振らないこと!」

ズゥゥゥゥゥンッ!

一気に空気が重くなった。

それを横目に、更に一樹は質問する。

「性格は?」

「気楽に話せる人が良いよな」

「…スタイルは?」

「良いに越した事はないよな」

ズゥゥゥン…

3人程トドメを刺しただろうか?

「料理は?」

「出来てくれた方が嬉しい。一緒に作ったりとかな」

「…聞けば聞くほどさ」

「ああ」

「姉って部分以外だと、佐々木が当てはまるんだけど?」

視線が一気にある一点に向かった気配がする…

「綾音?まあ、確かにアイツと話してると楽しいけど…恋愛にはならないかな」

「それはそれで失礼な気がする」

どこからか「織斑君のバカー!!」との叫びが聞こえた一樹。

「(まあ、これから頑張れ。スタイルの件は…すまなかった)」

「「「謝るな!惨めになる!」」」

 

 

第1競技、短距離走。

「どきなさーい!」

持ち前の運動神経で他の走者をぶっちぎった鈴。

「おおっと!いきなり凰鈴音率いる桃組がポイント先取!」

「相変わらず身軽ですね、アイツは」

実況は新聞部エースの黛薫子と、何故か座らされた一樹が担当している。

「さて、一夏感想言ってやれ」

「え?えーと…鈴は身軽だし、いいんじゃないでしょうか?」

「それじゃ櫻井君と同じじゃん!もっと熱いの頼むよー、主役なんだから!」

そんなこと言われても…と一夏は項垂れる。

「(とりあえず褒めとけ。でないと今日は話にならないっぽいし)」

マイクに拾われないよう、小声で話す一樹。そんな男子2人の距離感を見て、一部の女子の鼻息が荒くなったが、モード発動の雪恵のO☆HA☆NA☆SHIを喰らい、セリーに焼かれていた。

「えっと…可愛くて良いと思います」

何とか捻り出した言葉に、女子達のテンションは100上がり、スーパーハイテンション状態となった。

…ちなみに褒められた当の本人は、ボフンッ!と煙を出して赤くなっていた。

「…よし!紅組の2番手は私自ら行こう!」

紅組団長の箒がハチマキを強く締めながらスタート位置に移動しようとする。

「あー!篠ノ之さん、自分も褒められようとしてるでしょー?」

「なっ…!?わ、私は点差を広げないためにだな…!」

「またまた〜!」

数人の友人にツンツンされている箒の側では、蒼組団長のセシリアが入念なストレッチをしていた。

「わたくしには勝利こそが華、わたくしという華には勝利こそがふさわしいのですわ!」

それを見て、一樹ファミリーがうわあ…と顔を引きつかせていたのは目に入っていない。恋する乙女は、いつだってただ一点しか見ていないのだ。

…成就してない者は、と注釈が付くが。

「僕だって負けないよ!」

そのまた隣では、金組団長のシャルロットが大きく手を伸ばして背筋をほぐしていた。

「ぷはっ」

息を吐いた所で、形の良い胸がぷるんと震えた。

「おおっと!金組団長シャルロット・デュノア!いきなり色仕掛けか⁉︎」

それを目ざとく見つけた黛が囃し立てる。

「え⁉︎ち、違う!僕は…!」

「抜け目ない!流石抜け目ない!元フランス代表候補生であり現企業代表候補生のシャルロット・デュノア!」

「違うのに〜!」

必死で否定しながらシャルロットが一夏を見ると…

 

「「スピー、ド!!」」

 

中々競技が進まなくて退屈していたのか、同じく退屈していた一樹とスピードをしていた。

見てないのは見てないのでむっとくるのが乙女心である。

「ちょっ!男子2人揃って何やってんの!?ちゃっかりマイクの電源切ってスピードやらないで!!?」

漸く2人の様子に気付いた黛がツッコミを入れる。

「すみません今話しかけないでください!接戦なんです!」シュバババ!

「中々競技が始まらないのが悪い!それに安心しろ…すぐに」シュババババ!

目にも止まらぬ速さでカードを置いていく2人…いや、若干一樹の方が速い。

「あがるから!」バンッ!

「ああ!?また負けた!!?」

二重の意味でスピード決着した。

「ああもう!始めるわよ!オン・ユア・マーク…セット、ゴー!!」

ヤケクソ気味に開始宣言をする黛。

ジッとその時を待っていた箒とセシリアは猛ダッシュ。

「は?え?ちょっ!」

完全に出遅れたシャルロットが慌てて走りだそうとするも、足が絡まって転んでしまう…

 

ビタンッ!!!!

 

「いったぁ…」

はるか前方では既に箒とセシリアがゴールしていた。

しかも、膝に擦り傷を作ってしまった。

そんなこんなで気持ちが沈んでいるシャルロットに、一夏が近付いた。

「シャル、大丈夫か?凄い音したけど…怪我はしてないか?」

「え、えっと…」

「あー、擦りむいてるなこりゃ。救護室まで運ぶから背中に乗ってくれ」

そう言ってしゃがみ、シャルロットに背中を見せる一夏。

「え?乗っていいの?」

「おう。その怪我じゃ、足が痛むだろ?」

「じ、じゃあ…お言葉に甘えて」

ドキドキしながら一夏の背に乗るシャルロット。

「(えへへ…結果オーライだね♪)」

1位を取ったのに褒められなかった箒は地団駄を踏み、華を失ったセシリアは濁った目でシャルロットを睨んでいた。

「ふむ…アレが効果的なのか」

「…アレは、是非やってもらいたい…ジーっとしてても、ドーにもならねえ」

簪、君がそれを言うのは色々マズイ。

何か思案顔でスタートラインに並んだ。

『ゴー!』

ピストルの破裂音と同時に飛び出す女子一同。

しかし…ラウラと簪はわざと転んだ。

「衛生兵!衛生兵はどこだ!?」

「いたいよー」

一夏に運んでもらおうと必死でアピールする2人。

だが、一夏は動かない。何故なら…

「…そんなに怪我したいなら、手伝ってあげる」

顔を怒りに歪ませたセリーの念力によって、2人があちこちに投げられているからだ。

「セリー、しつけをするのは大事だけど、投げる場所は考えてやれよ?」

隣で冷や汗を流しながらセリーに言う一樹。

「…本当はあの木に投げてやろうと思ったんだけど、カズキがそう言うならやめる」

「(あっぶね⁉︎間に合って良かった!)」

セリーが指す木は、とても鋭利だ。

そんな木に投げられたら、一樹はともかく2人は…考えるだけで恐ろしい。

「(ちょっと雪とセリーの育て方を相談するべきだな…ミオ、連絡よろ)」

『さ、流石にコレは危ないからね…冗談であってほしいけど…セリーちゃんのことだから、きっと本気だよね…』

緊急会議を行う事を決めた一樹とミオ。

結局、第1競技である短距離走は鈴の桃組が1位をマークした。

 

以下、大雑把な流れを…

 

第2競技、玉撃ち落とし。

自動射出機から撃ち出される玉をひたすらISで撃ち抜く競技だ。

尚、小さければ小さい程点数が良い模様。

しばらくは雪恵を除く代表候補生’sで競っていた。そして、点数がほぼ平坦になった所で…

『はい!ここで妨害入ります!機体を展開した櫻井君が攻撃した玉の点数分、全チームの獲得点数が減っていきます!もちろん!マイナスになる事もあるから、ひたすら玉を撃ちまくれ!』

と楯無が言った瞬間、フルバーストで舞っていた全ての玉が撃ち落とされた。

…今まで貯めてきた点数が一気にマイナスになったことで、代表候補生’sが発狂しかけた。

『…ちなみに、櫻井君を倒せたら、今まで奪われた点数が纏まって1チームに行くわよ?』

楯無がそう言った瞬間、フリーダム目掛けて射線が集中する。

無論あっさり避けられ、代表候補生’sは一樹のストレス発散のために振るわれたビームサーベルで全滅した。

結果、全チームの持ち点数はとんでもないマイナス数値まで落ちる事になった。

 

 

第3競技、軍事障害物走。

『読んで字の如く!まずは櫻井君にお手本を見せてもらいましょう!』

『おいコラ待て。せめて大雑把に説明してくれないと見本を見せようにも出来ねえよ』

『あ…アナウンスに合わせて走ってくれると助かるわ』

『へいへい』

そんな声がスピーカーから聞こえると、本部テントから気だるげに一樹が出てきた。

『まずは分解されたアサルトライフルを組み立て「終わったぞ」って早すぎよ⁉︎せめて説明が終わるまで待って!?』

一瞬でライフルの組み立てを終えた一樹にツッコミを入れる楯無。

一樹はため息を吐くとテクテクと次の場所に向かった。

『く、組み立てが終わったらそのライフルを持ちながら3メートルのはしごを登ります。櫻井君?』

「ほい」

ライフルを左手に持ち、右手ではしごの1段を掴んだと思ったら…ひと飛びではしごを登りきった。

1組の生徒はもっと凄いものを見ていたために、平静を保てられたが、初めて見た楯無は無理だった。

『……つ、次はバランスを取りながら5メートルの鉄骨を歩きます!』

「よっと」

特に助走も付けずに鉄骨を飛び越えた一樹。

『…もうお手本もへったくれも無いけど!ポールで落下します!』

これは特にアクションをする事も無く、一応右手をポールに添えると、そのまま飛び降りた一樹。

『着地したら匍匐前進で網を抜けます!勿論ライフルは両手で抱えてね!』

普通なら数十秒かかるものを、僅か数秒で終わらせた一樹。

『さ、最後に実弾射撃です。弾は1発だけ!外すとまた取りに行かなくてはなりません!』

「…」

拳銃と同じように構えて、的の中心を撃ち抜いた一樹。

『後は…ゴールまで走るだけです…』

スタスタとゴールまで歩くと、麻耶にライフルを返し、本部テントに戻った一樹。

『…以上がこの競技の流れです。みなさん分かったわね?お願いだから櫻井君の真似はしないでね?怪我するから』

「「「「出来るか!!」」」」

 

 

第4競技、騎馬戦。

確かに運動会の定番競技だが、女子がやるものではない。

「ふっふっふ…見てろよ一夏!私の軍隊仕込みの連携で…」

「おいアホ兎。その手に握ってるナイフは没収だ」

不敵な笑みを浮かべるラウラの手から、一樹はナイフを回収した。

「ああっ⁉︎私の武器が⁉︎」

「ふふん!ざまあないわねラウラ!

「お前もだアホ。騎馬役の子の影に隠してる青龍刀は没収だ」

ラウラが武器を取られたのを鼻で笑う鈴から、青龍刀を回収する一樹。

「ああっ⁉︎見つからないと思ったのに!」

「ふんっ!汚い手で勝とうとするからだ!」

「その言葉はまんまブーメランだよ馬鹿」

これまた騎馬役の女子に隠していた日本刀を回収する一樹。

「き、貴様!武士の魂を…」

箒の言葉は最後まで続かなかった。満面の笑みを浮かべるセリーの掌が、眼前にあったから。

「…カズキに、何か用?」

ブンブン首を振る箒。

そのまま反発したら、魂どころか命が奪われかねない。

「もう!みんなダメだよ!」

「……」

「…ごめんなさい」

シャルロットに関しては、一樹の無言の圧を受け、自分から隠し持っていた円月輪(チャクラム)を渡した。

「さて…おいオルコット。いい加減隠し持ってる狙撃銃を渡せ」

ギクッ

…始まる前から、騎馬戦は一樹の胃を痛めるのだった。

 

 

昼休みは、謎の胸騒ぎがしたために一樹は一夏の誘いを断り、雪恵とセリーと平和に「ぎゃあぁぁぁ!!?」…平和に過ごした。

 

 

午後の部、コスプレ競争。

『言葉のままよ!けどコース内容を見てもらいたいからある人にコスプレをしてもらって走ってもらいたいのだけど…』

チラリ、と楯無が本部テントを見る。

「セリー…そっとだぞ、そっと」

「もう、少し…」

「ああ!それ取ったら崩れちゃう⁉︎」

…一樹ファミリーはジェンガをしていた。

それはもう、楯無がかつて見た事が無い程高く積まれている。もはやどこまで高く行くかを協力して目指している程だ。

『なんかコスプレ競争よりこっちの方が気になる!』

「「「阿保言ってないで早く競技始めろ!」」」

 

 

最終結果…

『えー…非常に白熱した本大会、優勝したのは…』

ドクンドクン、と生徒たちの心臓の音が響く。

楯無の発表は…

『…いません』

「「「「…は?」」」」

『だから、優勝したチームはありません。どのチームも点数がマイナスのままなので…しかも同点』

…まるで一樹が玉撃ち落としの時、こうなるのが分かっていたかと思うほど、点数は綺麗に並んでいた。

『だから…同じクラスに、ルームメイトになる資格も、全部無しです…まあ、みんな平等ってことで、ね?』

「「「「そんな馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!!?」」」」




じ、次回はなるべく早く上げたいなぁ…

頑張ります、はい。


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Episode107 葛藤-コンフリクト-

ま、まずまずの速さかな?


それは、突然の事だった。

休日を自室で雪恵、セリー、一夏とゲームをして過ごしていた一樹の携帯に、1通のメールが来た。

「…ん?」

何気なくメールを見た一樹。その顔が、どんどん険しくなっていく…

「どうしたの?かーくん」

そんな一樹の顔を見て、雪恵が声をかける。一樹は携帯をしまうと一言。

「…仕事」

部屋の鍵をセリーに預けると、部屋を出て行った。

 

 

「…ミオ、場所はそこで問題無いな?」

『うん。丁度数十キロ進んだ所から、救難信号が出てる』

メールの内容は、米海軍からの救難信号をS.M.Sが受け取ったとの事だった。

「日本にIS専用動力炉の設計図を渡そうと来た極秘艦が、襲撃されてると…」

『衛生から見たけど、あれは確かに米海軍の船だね。独特の形をしてるよ』

ミオの性能を持ってすれば、この程度の事は造作もない。

流石は束と一樹の最高傑作である。

「…依頼内容は襲撃された船の船員の救出。表向きはコレだけだけど…多分動力炉の方を優先にしたいんだろうな。お偉いさんとしては。にしても…」

一樹はため息を吐くと足元の小石を拾って、後ろに放り投げる。

 

ゴンッッッ!!!!

 

「イッテぇぇぇぇぇぇぇ!!?!!?」

物陰に隠れていた一夏に、見事命中した。

「…一応聞くけど、何でいるの?」

「お前1人に無茶させないために」

頭に出来たコブをさすりながら、一夏は間を空けずに答える。

「…お前には、雪とセリーを頼みたかったんだけど?」

「それ本気で言ってる?雪恵ならともかく、セリーは俺より強いぜ?」

僻みなどではなく、ただ真実として告げる一夏。

自身の強さを正確に理解するのは、戦士としてかなり大事だ。

「…お前が出ても、問題の解決が早くなるわけじゃ無いんだが?」

「それを言われると痛いけど、1人より2人の方が楽だろ?」

「……」

一樹はため息を吐く。こうなったら一夏は止められないことは、長い付き合いでよく知っている。

「着いてくるのなら勝手にしろ…数十キロ泳ぐ覚悟があるならな」

「あいよ、そうさせてもらう」

常人なら数十キロ泳ぐと聞いた時点で辞めるが、そこはゲンに鍛えられている一夏だ。とくに躊躇することなく頷いた。

「…じゃ、行くぜ」

「おう」

 

 

「思ってたより海水が冷たかったな。まあ、流れは穏やかだから良かったけど」

数十キロ泳ぎ、極秘艦をよじ登ろうとする一樹に、一夏は小声で話す。

「…」

静かに頷く一樹。無言で上を指す。一夏が見上げると、窓が開いていた。

「…あそこは?」

「アメリカから受け取った図面によると、あそこは調理室の換気用の窓らしい。中には柵があるが、それを静かに外して潜入するぞ」

「…了解」

 

 

「…」

S.M.S独自の手信号で一夏に指示を出す一樹。

「…」

一夏はそれを理解、二手に分かれた。

 

 

カタカタカタカタカタカタ

「……」

空母の薄暗い部屋の中、スコール・ミューゼルは米軍の極秘情報…IS専用動力炉の設計図をコピーしていた。

「(これで良いのよね?ジェームズ…)」

既にこの船は無力化しており、スコールしかいない。

元々乗っていた米兵は、スコールの手によって海にへと放り投げられた。脱出用の船も一緒に落としてやったので、死ぬことは無い筈だ。

「(これで…()()()の無念が晴れるのよね?)」

その目に映るのは、葛藤。

本当にこれで良いのか。

これで()()()は喜ぶのか。

これで…ジェームズは、満足するのか。

自分が悪い事をしているのは重々承知している。

しかし彼女には、たとえ悪業を働いたとしても、やらなければならない事があった。

 

女尊男卑の、撤廃を

 

スコールは女性でありながら、女尊男卑を嫌っている。

人は生まれにして平等。

世界にはオスとメスしかいない。

オスとメスがいなければ…次の世代が現れることもない。

確かに、ISは国を守るのに大切なのかもしれない。

しかし、あくまでISは機械。それを操る者の心が汚れていれば、当然ISも汚れた所業に使われてしまう。

ただでさえ、本来の目的からかけ離れた扱いをされているというのに…

スコールは政治家が嫌いだ。

ISの本来の目的など気にせず、その性能を国防力に使う政治家たちが。

そして何より…スコールは自分が嫌いだ。

ISや無人機を使ってテロを起こす、亡国機業に所属している自分が。

…そんな亡国機業の創設メンバーの1人である、自分が。

「……コレで、全部ね」

設計図のコピーは終えた。後はこの船を出るだけだ…

「…まさか、アンタとここで会うことになるなんてな。スコール・ミューゼル」

スコールが振り返ったそこには、悲しげに立つ一樹の姿があった。

「…櫻井、一樹」

「…大人しくそのデータを返してくれ。不要な戦いは出来るだけ避けたいんだ」

「そう…私も一緒よ。不要な戦いは避けたい。けど、分かっているでしょう?」

スコールは専用機、【ゴールデン・ドーン】を展開する。

メイン武装である鞭、プロミネンスを構えて一樹と対峙する。

「私たちがここで会ったということは、お互い本気でぶつからないとならないということ…それを理解出来ないあなたじゃないでしょう?」

「……」

首飾りをギュッと握る一樹。その顔は、とても苦しそうだ。

『マスター…』

「…行くぞ、ミオ」

『…うん』

静かに機体を展開、灰色のディアクティブモードのフリーダムが現れる。

「…どうしてもやらなきゃいけないのか?」

「あなたはコレを取り戻さなければならない。けど私は渡す気は無い…答えは決まってると思うけど?」

手に持ったUSBメモリを軽く振り、無表情でスコールは告げる。

「……」

VPS装甲を起動、ストライクフリーダム、完全戦闘態勢に移行。

左腰のグリップを引き抜き、静かに浮かぶ。

「…ここじゃ島の人達も巻き込んじまう。場所を変えるぞ」

「ええ、ご自由にどうぞ」

 

 

一樹と分かれた一夏も、戦艦の中を静かに進んでいた。

「(…幾ら何でも静かすぎる)」

泳いでる時に、船員は全員避難したと言うのは確認した。

とはいえ、それならそれで亡国機業の人間が動き回っている筈だ。

「(…罠と考えるのが妥当だな)」

麒麟のガトリングを部分展開し、更に警戒レベルを上げて進む一夏。

そんな一夏に、ハクが報告する。

『マスター、一樹さんが船から飛び出しました。恐らく戦闘の被害を最小限に抑えるためでしょう』

「(細かい位置データを表示してくれ!急いで援護に…)」

一樹の援護に行こうと、一夏はハクに指示を出す。

が、突如背後に強烈な殺気を感じると、咄嗟に横に飛び込む。

刹那、一夏の体があったところを、 無数のレーザーが通り過ぎる。

「チッ…相変わらず良い勘してやがる」

「…オータム」

アラクネを展開したオータムが、一夏に狙いを定めていた…

「いい加減、お前じゃ俺に勝てないって分かれよ」

一夏も麒麟を完全に展開。攻撃のタイミングを見計らう。

「はっ!フリーダムがいなきゃ駄目駄目なお前が何言ってやがる」

痛いところを突かれた。

昔から一樹に頼ってばかりなのは自覚している。

だが…

「…確かに、俺は一樹に頼ってばかりだ。けど…そんな俺だけど、少なくともお前には勝てる」

「言ってくれるじゃねえか!!」

一夏自身が鍛えてないわけではない。

オータム程度に、負ける気がしない…

 

 

空中で激しくぶつかり合うフリーダムとゴールデン・ドーン。

「どうしたの?そんなんじゃ私は落ちないわよ?」

フリーダムのビームサーベルをプロミネンスで受け止め、スコールは一樹に話しかけてくる。

「今、私を止められるのはあなただけ…あなたしか、この後の混乱を抑えるのは出来ないのよ?」

「混乱…だと?」

「そう」

プロミネンスを一旦引き、フリーダムに向けて振り下ろす。難なくビームサーベルで受け止めるフリーダム。

両者の間に、再び激しいスパークが起こる。

「私がこのデータを持ち帰れば…全部とはいかなくとも、かなりの数のISのエネルギーが無限になるわ。そうすれば…世界は亡国機業のテロに屈せざるをえなくなるでしょうね!」

フリーダムを蹴飛ばし、左手から火球を連発する。

「それが分かってながら!」

火球と火球の間を縫うように飛んで避け、急接近。ゴールデン・ドーンに向かってビームサーベルを振るう。

「何でこんな事を!」

ビームサーベルを右手のクローで受け止め、フリーダムの腹部を殴りつける。

「テロリストにやる事の意味を問うのは…」

その拳を左手で払い、流れる様に放たれた火球を避けるフリーダム。

「ナンセンスじゃないかしら!?」

火球の攻撃をかいくぐり、ビームライフルを連射するフリーダム。

「無駄よ!」

しかし、フリーダムのビームはゴールデン・ドーンの前で曲がった。

「【プロミネンス・コート】…いくらあなたの機体と言えど、そう簡単には攻撃出来ないわよ!」

 

 

麒麟目掛け、アラクネは6本の装甲脚で殴りかかってくる。

「オラオラオラオラ!!」

しかし、麒麟は両手両足を器用に使い、その攻撃を受け流す。

武装を使う様子を見せない一夏に、オータムは苛だたしげに舌打ちする。

「クソッ!何で武装を使わねえんだよ!」

「さあ?考えてみろよ」

装甲で見えないが、恐らく一夏は笑っているのだろう。

オータムもそれを感じたのか、尚攻撃が荒々しくなる。

それが、一夏の狙い通りだと気付かずに。

 

 

プロミネンス・コートでライフルの攻撃が弾かれると分かってから、フリーダムはひたすら近接戦を挑む。

右手のクローでビームサーベルを受け止めながら、スコールは呆れた様な声を出す。

「この熱…ISのシールドエネルギー越しでもかなりの熱量の筈なのだけど?」

「大気圏突入する時の暑さに比べりゃ、大した暑さじゃねえよ!」

更に一樹は、学園を追い出されてる間にウルトラダイナマイトの習得の為に、過酷なトレーニングをしている。この程度の熱は、問題じゃない。

「じゃあ…コレはどう!?」

ゴールデン・ドーン第3の腕と言えるテイルクローから、ビーム刃を放出しながら振り下ろす。

「ッ!」

それを予想していたフリーダムは、左のビームシールドでそのビームクローを受け流し、ゴールデン・ドーンを蹴り飛ばす。

「ッ…やっぱり強いわね!」

蹴り飛ばされながらも、火球を連発してくるゴールデン・ドーン。フリーダムの追撃を阻止する為の攻撃なのだろうが…

「なっ…!?」

フリーダムはその火球を斬り裂き、ゴールデン・ドーンに急接近。背後に回り、最も厄介なテイルクローを切断した。

「ッ…」

薙ぎ払う様に放たれた拳を頭を下げる事で避けると、鋭い拳を叩き込んだ。

「がっ…!?」

流れる様に回し蹴りを放ち、ゴールデン・ドーンを海へと蹴り落とす。

 

ザバァァァァァァァンッ!!!!

 

高い水柱が上がり、ゴールデン・ドーンのプロミネンス・コートが一時的とはいえ無くなった。

その隙を逃さず、両腰のレールガンを放つ。

「くっ…」

両肩の両肩プロミネンスを破壊され、ゴールデン・ドーンはボロボロだ。

「…最後通告だ。データを、寄越せ」

ビームサーベルの切っ先をスコールの喉元に突き出す。

「…それは、出来ないわ」

それでも、スコールはデータを渡す事を躊躇う。

「…何故?」

「確かに私は…世界をこれ以上壊したくないわ。けど、それでも」

スコールはその目に涙を浮かべながら、叫ぶ。

「こうしなきゃ、()()()は浮かばれないのよ!!!!」

 

 

「ハア、ハア、ハア!」

攻撃のことごとくを受け流され、アラクネは動きが鈍くなっていた。

「ほっ!」

そんなアラクネを蹴飛ばして、距離を取る麒麟。ここで初めて、拡張領域から雪片弐型を取り出し、エネルギーチャージ。

「これで終わりだ!!」

瞬時加速で近づき、アラクネにトドメを刺そうと振り下ろす。

「ッ!!!?」

アラクネは咄嗟に、外せる装甲脚全てを外して雪片の攻撃を捌くと、ゴールデン・ドーンに向かって瞬時加速した。

 

 

()()()?」

スコールの言葉に、フリーダムの動きが一瞬止まった。

「スコール!!!!」

「ッ!!?」

その瞬間、アラクネが瞬時加速で攻撃してきた。

咄嗟に後方へ飛んでアラクネの攻撃を避けるフリーダム。

その隙に、アラクネがゴールデン・ドーンの腕を掴んで連続瞬時加速。

ゴールデン・ドーンもまた、連続瞬時加速でその場を離脱。

いくらフリーダムでも、2機分の瞬時加速を上回るスピードは出ない。

「……逃げられた、か」

苦し紛れにビームライフルを連射するも、ゴールデン・ドーンのプロミネンス・コートによって弾かれてしまい、追撃は出来なかった。

「…悪い一樹。俺が、アイツを逃さなければ」

「いや…俺もスコールにトドメを刺し損ねたからな…お前だけが悪いわけじゃない。とにかく、船員の救出の依頼は達した。学園に帰るぞ」

「…ああ」




IS専用動力炉…

コレが亡国機業に渡ったという事で、彼らに降りかかる試練とは?


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Episode108 報告-レポート-

あ、あれ?オールシリアスで書いたつもりが、結構ふざけてるぞ?

何でだ?


「あ、かーくんに織斑君おかえり。遅かったね」

「…ちょっとニンニク臭い?」

門限ギリギリに帰ってきた2人を、雪恵とセリーが迎えた。

「ああ、久々にラーメン食べてきた」

「せっかく外に出たしな」

気分転換に、久々にニンニクが効いたラーメンを食べた2人。

IS学園の食堂にもラーメンはあるが、女子校という事もあって、とてもあっさりしている。

やはり男子としては、たまには分厚いチャーシューの乗ったこってりラーメンを食べたいものである。

「…ズルイ」

以前、宗介にこってりラーメンを奢ってもらってから、セリーもその味の虜になってしまっていた。

「カズキだけズルイ…」

頬をぷくっと膨らませて拗ねるセリー。

「ん?何だったら今から食いに行くか?」

「行く!!」

「いやいや!かーくん何言ってるの!?もう門限過ぎてるんだよ!?」

「それは生徒の門限だ…俺とセリーに門限は通用しねえ!」

「どこのメルヘンホスト!!?」

「分かった分かった。雪も行きたいんだろ?それならそうと早く言えよ…」

「否定はしないけど!そうじゃなくて…」

「セリー、雪も一緒にテレポート頼む」

「いえっさー」

尚もツッコミ続ける雪恵と一樹の腕を掴むセリー。

「ちょ!かーくんにセリーちゃん⁉︎まだ話の途中…」

雪恵のツッコミ虚しく、セリーはテレポートを使った。

その後、ヤケクソとばかりに雪恵はラーメンをすすったそうな。

 

 

「…なあ雪、機嫌直せって」

「ユキエ、機嫌直して」

「つーん」

翌日の1組教室、一樹(&セリー)と雪恵が喧嘩してるという、珍しすぎる光景があった。

「お、織斑君。一体何があったの⁉︎」

あまりの珍しさに、クラス中の女子生徒が一夏に問う。

「あー…ざっくり言うとな」

「「「「うんうん」」」」

「門限過ぎた時間に一樹とセリーがラーメン食べに行こうとして、止めようとした雪恵も一緒に連れていかれた」

「「「「…はい?」」」」

ツッコミどころが満載の内容に、女子達が呆然とする。

「門限過ぎた時間に食べに行こうとするって…」

「命知らずな…」

「雪恵ちゃんは良いとばっちりなんじゃ…」

「しかもラーメンって…こってりしたタイプのでしょ?雪恵ちゃん、可哀想」

「おっと、それに関しては大丈夫じゃないか?雪恵、昔っから結構食べて「オリムラクン?ナニヲイオウトシテルノカナカナ?」何でもありません!!」

雪恵が昔から一樹と一緒に色々食べ歩いていた事を知っている一夏。それを言おうとした瞬間、雪恵から背筋が凍る程冷たい声を出されてすぐに止めた。

「あ、あの織斑君が震えてる…」

「ターゲットにされてないのに、私達まで寒気がしたよ…」

「櫻井君と言い、雪恵ちゃんと言い…怒ると怖すぎるよ…」

「雪恵ちゃんを怒らせちゃダメ、ゼッタイ」

クラスの人間がガタガタ震えてるのを見て、一樹はため息を吐く。

未だに頬を膨らませてそっぽを向く雪恵の頭に、そっと手を置く。

「…何?私これでも怒ってるんだけど?」

「知ってる」

答えながら、優しく頭を撫で続ける一樹。雪恵はそっぽを向きつつも、その手を払いのけようとはしなかった。むしろ、半歩一樹に近付いた。

「大体かーくんはさぁ…」

いつの間にか一樹の膝に座り、ブツブツ文句を言う雪恵。

「自分はとても危ない事をしてるくせに、私や舞ちゃんがちょっとふざけただけで止めてきてさぁ…」

「うん」

「説得力無いったらありゃしないのに、『わざわざそんな危ない事をするな!』って怒ってくるのはズルイよ。しかも本気で凄んでくるから、私達が何も言えないのを良い事にさぁ」

「…俺の頑丈さと、お前らを一緒に出来るわきゃねえだろ?」

側から見たら、娘の文句を聞く父親だ。しかし、そのおかげで雪恵のオーラは収まり、女子達はホッとしている。

一夏に箒が微笑ましく見てることから、昔からこれが2人の仲直りの仕方なのだろう。

「…だから、今度からかーくんも無茶をしないこと!良い!?」

「善処する」

「約束しなさい!」

「善処する」

「や・く・そ・く!!!!」

「善処する」

「カズキ、約束して?」

『マスター、約束してね?』

「…善処する」

「「『約束!』」」

「…………善処する」

無茶をするなと言われても…一樹には約束出来ない。

何せ、無茶をしなければ、今まで生きてこれなかったのだから…

尚も詰め寄る雪恵、セリーにミオを流していると、千冬と麻耶が教室に入ってきた。

「お?SHRが始まるぞ?戻りなよ雪、セリー、ミオ」

ここぞとばかりに話を逸らす一樹。

「むう…かーくん、逃げられると思わないでよね」

「カズキ、逃さないからね?」

『ふふふ…マスター?雪恵さんやセリーちゃんならともかく、この私から逃れるなんて思わ…あ、待ってやめて!無言で首飾りを外そうとしないで!』

ミオを物理的?に黙らせると、自らも一夏の隣に座る。

「…昨日、門限過ぎに外に出た奴がいるそうだ。知ってる奴はいるか?自白でも良いぞ?」

明らかに一樹を見ながら言う千冬。それに対し一樹は涼しい顔だ。

「…ふむ。知ってて隠してる奴には特別補習を「一樹です」「櫻井です」「櫻井さんですわ」「櫻井君です」「教官、櫻井です」「織斑先生、かーくんです」…だ、そうだが?」

代表候補生’sにバラされるも、一樹は涼しい顔を崩さない。

「この学園の食堂のラーメンがあっさりしか無いのが悪い!!」

むしろ食堂のメニューに対して訴えていた。

「「それには同感!!」」

一夏とセリーも同意している事に、千冬はため息を吐く。

「確かに、お前は生徒ではないがな…あまりバレる様に動くなよ?後始末が大変なんだ」

「部屋の中からテレポートしたんだから、普通バレる筈ないんだけど?」

「…ウチには今、天災がいるのを忘れてないか?アイツにプライバシーを守る頭は無いぞ?」

『ふっふっふ…その通りだよかずくん!特に対策がない部屋は、全てこの束さんの監視下にあるのだぁ〜!』

1組の教室に響く束の声。妹である箒は頭を抱えている。

『この束さんにかかれば、全女子のスリーサイズを知る事だってお茶の子さいさい!』

「おい千冬。アレはいくら何でも酷すぎないか?」

「…言うな」

『ちなみに雪ちゃんは〜「わー!わー!束さん何言おうとしてるんですか⁉︎」え〜?良いじゃん別に〜』

顔を真っ赤にして叫ぶ雪恵。

『最近、また大きくなったみたいじゃん!何が、とは言わないけど!』

「おい千冬、ちょっと席外すぞ。あのクソ兎の生体電気を逆流させに行ってくるから」

「うむ、行ってこい」

先ほどの雪恵を大きく上回るオーラを発しながら立ち上がる一樹とセリー。

「ねえカズキ?どれくらいの温度が良い?」

「5555度くらいなら耐えられるだろう。あの兎なら」

『束さんはタングステンじゃないよ⁉︎』

「それは調整が難しいから1兆度で良い?」

「空に向かって撃ち出すなら良いぞ」

『良くないよ!!?全く良くないよ!!?』

スピーカーでうるさい束をスルーして、一樹は満面の笑み(例の如く目が怖い)で箒を見る。

「殺って良い?」

そんな顔で見られた箒は、震えながらブンブン首を振る。

『妹に裏切られた!!?』

今にも教室を出ようとする一樹とセリーを、千冬が止める。

「落ち着け櫻井」

『ありがとうちーちゃん。流石私の親ゆ「連絡事項が終わってから殺りに行け」この世に神はいないのか!!?』

束の叫びをスルーして、一樹とセリーは舌打ちしながら席に座った。

「…さて、急遽このクラスに2人増える事になった。入れ」

千冬の指示に、入ってきたのは…

「やっほー、一夏」

「い、一夏…よろしく」

鈴と簪だった。

「…山田先生、説明を」

もう既に一樹の顔が引きつっている事から目を逸らし、千冬は麻耶に説明を促した。

元々根が臆病な麻耶は、一樹の顔に恐怖を感じながら説明を始めた。

「は、はい…このたび、1年生の専用機持ちは全て1組に集める事にしました。それもこれも先日の大運動会での結果を、生徒会長なりに判断した、結果と…」

説明が進むごとに一樹のオーラが大きくなり、麻耶は涙目だ。

ある意味、一夏の隣争奪戦をしている雪恵以外の代表候補生’sは幸せ者だ。

「あ、アハハハハハハハハハハハハハハハハ…そっかそっか、まぁたアイツか…ブ・チ・コ・ロ・シ・カ・ク・テ・イだなァ…」

色々ありすぎてキャラ崩壊が起こった一樹。ゆらり、と立ち上がり、まずは一夏の隣争奪戦をしている代表候補生達に近づく。

「……アイテルセキニスワレ」

「「「「Yes.sir‼︎」」」」

片言で喋って終わらせると、ゆっくり扉を開け…全力で駆け出した。

「あぁぁぁぁのクソアマぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

数秒後、IS学園に絶叫が響いたのは言うまでもない。

 

 

「…で、言い訳は?」

「「誠に申し訳ございません」」

生徒会室で一樹に土下座している束と楯無。

「クソ兎、今すぐ全女子のプライベートなデータを消せ」

「か、かずくんは雪ちゃんがどれだけのサイズか気になら「消せ」はい」

「おい馬鹿、こんな事をした理由を話せ」

「お、面白そうだったから「後始末もお前がやるんだな?」誠に申し訳ございませんでした」

…とても天災と暗部の家の当主とは思えない光景だ。

「…次は無いからな?」

「「Yes.sir‼︎」」

ズビシッ!と敬礼をする2人を見て、一樹はとりあえず怒りのオーラをしまう。

「…ハア、2人に頼みごとしようと思ったらコレだよ」

「「頼みごと?」」

「そ。まずは報告からだな」

昨日、亡国機業に動力炉の設計図が運ばれてしまった事を2人に説明する一樹。

「…束、動力炉に使うパーツはコレに書いてある通りだ。アンタなら昨日からどれだけ減ったか調べられるのに加え、亡国機業に渡す事も阻止できるだろ?」

「それくらいお茶の子さいさいだよ!この天災にまっかせなさーい!」

意気揚々と部屋を出た束。

今度は楯無の方を向く。

「…多分、既にかなりの動力炉が作られてる筈だ。だから誰が動力炉付きのISを操るのか、調べてくれないか?勿論俺たちS.M.Sも調べてるけど…今は少しでも、情報が欲しいんだ」

「ええ、分かった。なるべく人手をそれに回しましょう」

事の大きさを理解した楯無も、いつものおちゃらけ顔をやめ、真剣な表情で頷いたのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある闇の中、フードを深く被った人物は1枚の写真を見つめていた。

そこに写っていたのは、小学4年の時の雪恵だった。

「もうすぐだ…もうすぐで、あなたを助け出せる』

そして、雪恵の隣に写る幼い頃の一樹の顔に向かって…

 

ドスッ!ドスッ!ドスッ!!

 

何度も、何度もナイフを突き刺す。

「…待っててね、雪恵さん』

そして後ろを向き、手をかざす。

その手から放たれた闇が、人の形となっていく…

「…お前も使ってやるよ。精々働けよ』

その闇が作ったものは…

 




ふざけてたところから、かなり怖い場面に。


…そろそろ、奴のフードを剥がす時かな?


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Episode109 正体-トルー・キャラクター-

サブタイ通りだ。


奴の正体、それは…


「毎回凄い量になるから勘弁してほしいぜ…」

「なら、洗濯板で洗えば?」

「それ、割とマジで考えてる」

IS学園のランドリーで大量の洗濯物を持つ一夏と、あまり無い洗濯物を持つ一樹。

「…なあ一樹、お前の洗濯物がそんなに少ないのは何でだ?」

「ん?セリーに持って行って貰ってるからだけど?」

「貴様卑怯だぞ!!?」

「いやだって、セリーから言ってきたから…お言葉に甘えてる。シャツとかだけな」

「流石に下着は無いか…ん?それは良いのか?」

「俺も気になったんだけど…セリーに『カズキは気にしすぎ』って言われた。実際、セリーは寝巻きに俺のシャツ使ってたりするからな」

「お前は1回弾にシバかれろ!」

「ところがどっこい!その弾も今や彼女持ちだ!」

「ああそうだった!畜生!もうこのネタ使えないのか!!?」

「…いや、でも弾のキャラってそんなもんじゃないか?」

「…否定はしない」

洗濯に乾燥を終え、一樹が衣服を部屋の洋服タンスにしまっていたその時。

 

ドックン

 

「ッ!!?」

エボルトラスターが、鼓動を打った。

「どうしたの?カズキ」

ゴロゴロ寛いでいたセリーの言葉も耳に入らず、一樹は駆け出した。

「ッ!カズキ!」

セリーが部屋を出た時には、一樹の姿は見えなくなっていた。

「大変!ユキエに知らせないと…!」

すぐ隣の扉を開けて、セリーは駆け込む。

 

バンッッッ!!!!!!!!

 

「ん?どうしたんだセ「邪魔!」ガフッ⁉︎」

やはり洋服タンスに服をしまっていた一夏を突き飛ばし、雑誌を呼んでいた雪恵に駆け寄るセリー。

「ユキエ!」

「ん?どうしたのセリーちゃん?」

「今カズキが飛び出したの!」

「「え!!?」」

 

 

エボルトラスターの示すポイントに駆け込んだ一樹。

そこにいたのは…

「…今度は何が狙いだ?シャドウ」

相変わらずフードを深く被ったシャドウだった。

『貴様に面白いモノを見せてやろうと思ってな…いい加減、この小芝居も飽きてきたしな」

「ッ!!?!!?」

いつもの暗くて低い声から、一樹の聞き知っている声へと変わった。

いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

「改めて、久しぶりだな…櫻井一樹」

フードを取ったその顔はとても整っており、一夏とはまた別種のイケメンと言えるだろう。だが、その顔に隠された本性を一樹は知っている。

 

何せ…一樹の体の火傷の8割は、この青年に付けられたのだから。

 

「…まさかお前がシャドウだったとはな…【藤原 修斗(ふじわら しゅうと)】!!」

 

 

「クソッ!反応が見つけられない!」

「ミオちゃんを見つける事も出来ないよ⁉︎」

一樹が飛び出したと聞いて、簪以外の1年専用機持ちが集まった。

今は様々な方法で一樹を見つけようとしているのだが、学園を飛び出してからの一樹の姿を捉える事が出来ない。

バードンとの戦闘以来、【繋がり】を切られているため、雪恵も一樹が()()生きている事しか分からない。

「いっくん!雪ちゃん!私も捜索に…」

見かねた束が、捜索入りしようとするが、千冬が止める。

「駄目だ!お前は例のソアッグ鉱石のエネルギーをチェスターに乗せておけ!詰めるだけな!」

千冬は今回の敵がシャドウであると予測し、束に例のエネルギーを準備させるように言った。

 

 

「やっとあの面倒な声やめれる…それにフードが外せるのが嬉しいね。この暑苦しい中、結構しんどかったんだぜ?」

飄々と語る藤原。

一樹はその本心を読み取れず、普段以上に警戒する。

「…正体をバラすのが、そんな下らない理由なのか?」

「まさか。一応お前の心理的トラウマが掘り起こせるかと思ったんだよ。なのにそういう反応はナシ。相変わらずつまんねえ奴だ」

「……」

確かに、常人ならトラウマ級の事を、一樹はこの男とその手下から受けている。

「…一応、トラウマ級の事をしていた自覚はあったんだな」

「はッ!お前にそんな気遣いなんかするかよ!僕の好きな雪恵さんを傷つけたお前なんかにな!」

そう、藤原は雪恵に惚れていた。クラスの女子達も、『修斗君が雪恵ちゃんの相手なら納得なのに』と言う程見た目も良く、教師達にも信頼されていた。

「…織斑のクソ野郎が真実を黙ってたおかげで、馬鹿な連中にはお前が雪恵さんを殺したって思わせる事が出来た。更に教師共にもマインドコントロールをしてお前を追い詰める様にした!学校全体でだ!なのにお前は耐えた!雪恵さんの大切な時間を奪ったお前が!平然とな!」

藤原が一樹に向ける視線は、昔から変わらない。嫌悪から始まり、憎悪や殺意…悪感情と分類される感情全てを、一樹に向けている。

「…今やっと分かったよ。雪が脳死じゃなくて、死んだと誰が言ったのか。一夏じゃないのは分かってた。どう言った経緯で知ったのかは置いておく。マインドコントロールって言葉から察するに、お前がシャドウの力を得たのは俺とほぼ同時期…雪が脳死した時期だな」

「お前が気安く雪恵さんの名を呼ぶな!雪恵さんから6年という時間を奪ったお前が!」

「……」

整っている顔を、憎悪に歪ませながら藤原は怒鳴る。

そして、右手を高く上げて指を鳴らした。

 

パチンッッ!!!!!!!!

 

藤原を中心に、空間が書き換えられる。

そこは、光を感じさせない無限の闇…

「…ダーク・フィールドか」

「今日こそ、お前を殺す。ただ死ぬだけじゃ足りない…殺した後、この世の人全てからお前の記憶を奪う。お前という存在を誰1人覚えて無くしてやる…お前みたいな汚れた存在など、最初から無かったように惨めに死んでいけ!!」

それぞれの変身アイテムを引き抜き、ダーク・フィールドでの戦闘を開始した。

 

 

ひたすら、探した。

ひたすら、試した。

ひたすら…祈り続けた。

 

ピピピピピピピピピピ!!!!!!!!

 

「ッ!!?見つけた!!!!」

雪恵のレーダーが、漸く振動波を感知。

「この反応…なんか、メタ・フィールドと逆みたいなんだけど…」

「「「「ッ!!?!!?」」」」

メタ・フィールドと逆…そんな雪恵の言葉に、ダーク・フィールドを知る面々の顔が険しくなる。

「千冬姉!」

「ああ!行け!今のアイツにあの空間は危険すぎる!」

ただでさえ、学園前で戦った時の例があるのだ。更に戦闘力を落とされるダーク・フィールドで戦うということは…

 

 

『デュアッ!』

「フゥッ⁉︎」

シャドウ・デビルとジュネッス形態のウルトラマンはダーク・フィールドで激しくぶつかり合う。

シャドウの重いハイキックを何とかガードするウルトラマン。だが、そのあまりの威力にガードは崩され、後方に大きく飛ばされてしまう。

『フンッ!』

「グオッ!?」

ガードが崩れたウルトラマンの隙を見逃さず、ストレートパンチをウルトラマンの顔面に決めるシャドウ。

「フッ!シェアッ‼︎」

『グゥッ!?』

だが、ウルトラマンもただやられっぱなしではない。

更に踏み込んで殴りかかってくるシャドウの腕を掴み、一本背負い。

更に起き上がったシャドウに、強烈な回し蹴りを決めた。

「ハァッ!」

『グオッ!?』

シャドウの体から火花が散り、後方に大きく吹き飛ぶ。

 

 

『対シャドウ用のエネルギーは、ジェネレーター出力の都合上1発撃ったら次弾を撃つためのチャージがかなりかかるから…基本1発しか撃てないつもりでいてね』

苦しそうに言う束に、チェスターに乗る面々は頷いた。

「……」

雪恵は、いつになく不安げにα機の後部座席に座っていた。

「…雪恵、怖いなら無理に行かなくても良いのだぞ?櫻井も、そんな雪恵を攻めたりはしないさ」

前部座席に座る箒が、そんな雪恵に声をかける。

「…ありがとう、箒ちゃん。でもね、違うの。確かに、今私はすごく怖い…けどね、それは戦いの場所に行く事じゃないの」

「…というと?」

「…なんていうのかな。()()()()()()()()()()()()()()()()っていう感じに近いかも。この怖さは」

ガタガタ震えながら語る雪恵。

『…雪恵、今回お前は待ってろ。そんな恐怖を感じてるお前を、あそこに行かせる訳にはいかない』

一夏も降りる様言う。

このままでは一夏達の足手まといになると思った雪恵は、素直に降りた。

「うん…ごめんね織斑君。かーくんをお願いね」

『おう、任せろ!』

 

 

『フンッ!トゥオッ‼︎』

「フッ⁉︎」

シャドウは巨大なエネルギー弾を空中高く上げると、大量の闇の雨を降らせる。

「シュッ!」

それを側転&マッハムーブで避けるウルトラマン。

更にマッハムーブで急接近し、ストレートパンチをシャドウに決めた。

「ハッ!」

『グッ⁉︎』

完全に対応が遅れたシャドウは吹き飛ぶ。

シャドウが吹き飛んでいる隙に、ウルトラマンは両手を胸の前でクロス。エネルギーを貯める。

「シュッ!ハアァァァァァァ…」

それを見たシャドウは起き上がり、右拳に闇のエネルギーを貯める。

『フンッ!フゥアァァァァァ…』

そしてウルトラマンはコアインパルス、シャドウはシャドーレイ・シュトロームをそれぞれ撃ち出す。

「デェアァァァァァァァァ!!!!」

『デュアァァァァァァァァ!!!!』

2人の光線は丁度中間でぶつかる。数秒ぶつかり合った結果爆発が起こり、2人の巨人はそれぞれ背中を強打した。

「グゥッ!!?」

『グオッ!!?』

打ちどころが悪かったのか、中々立ち上がれないウルトラマン。そんなウルトラマンの首に、シャドウはダークセービングビュートを伸ばした。

『デュアッ!』

「グッ!?」

何とか振り払おうとするウルトラマンだが、闇の鞭は更に首を絞める…

 

 

『Set into strike formation‼︎‼︎』

ストライクチェスターとδ機がフィールドに突入しようとする。

「『ジェネレーター、フルドライブ‼︎』」

 

 

『デュアッ!』

「グゥッ!?」

闇の鞭で引き寄せられ、ダーク・フィールドの大地に叩きつけられるウルトラマン。

『死ね!死ね!死ねぇぇぇぇ!!』

闇の鞭は首から離れるも、今度は連続でウルトラマンの体を打ちつける。

その度に、ウルトラマンの体から火花が散る。

「グッ⁉︎グオッ!?」

更に両手首に鞭が絡まり、受け身がとれないウルトラマンを、背中から大地に叩きつけた。

「グアッ!?」

 

ピコン、ピコン、ピコン…

 

ウルトラマンのコアゲージが鳴り響く。

背中を強打し、動けないウルトラマンにシャドウは馬乗り。

何度も何度も殴りつける。

『デュッ!デェアッ!!』

「グッ、グゥッ…」

そこに、ストライクチェスターとδ機が突入してきた。

すぐにストライクバニッシャーとクアドラブラスターを撃ち、シャドウの気をひく。

『グッ!?』

「シェアッ!」

その隙を逃すウルトラマンではない。

素早くシャドウの背中に蹴りを入れ、シャドウを転ばせる。その隙に起き上がり、シャドウの両足を掴んで大回転。シャドウをジャイアントスイングで投げ飛ばした。

『グオッ!?』

「ハッ!」

シャドウに向かって構え、走り出すが…

『調子に…乗るな!!!!』

シャドウは起き上がりと同時に破壊光弾、ダークレイ・ジャビロームを放つ。

「シュウッ!」

空中に飛び上がってそれを避けようとするウルトラマン。だが…

『フンッ!!』

「グアァァァァァァァ!!?!!?」

シャドウは右拳を振り上げる。その動きに合わせる様に、破壊光弾はウルトラマンを追尾し、命中した。

「グッ!?」

大地に倒れるウルトラマンに、シャドウは容赦なく足を振り落とす。

『デュッ!』

「グオッ!?」

酸素を肺から強制的に吐き出される感覚に、動きが止まったウルトラマン。

そんなウルトラマンを、シャドウは空高く蹴り飛ばす。

『ハァッ!!』

「グアァァァッ!!?」

 

 

いつの間にか合体していたハイパーストライクチェスター。

今はソアッグエネルギーをチャージしているところだ。

『一夏!ソアッグエネルギーのチャージ終わったよ!!』

シャルロットからチャージ完了の報を聞き、一夏はロックオンシステムを起動する。

「前回よりもエネルギー出力は上だ!さぞや効くだろうよ!!」

ウルティメイトバニッシャーの様に、ソアッグエネルギーを撃った。

 

 

ソアッグエネルギーのレーザーは、ウルトラマンにトドメを刺そうとしたシャドウの背中に見事命中した。

『グゥゥッ!!?またか!?何なんだよこのエネルギーは!!!!』

ソアッグエネルギーに苦しむシャドウ。

「フッ、フゥッ…シュッ!」

そしてフラフラながらもウルトラマンは立ち上がる。そして、両腕にエネルギーを貯める。

「フッ!シュッ‼︎キュアァァァァァァァァ…フンッ!!デェアァァァァァァァァァァァァ!!!!」

必殺のオーバーレイ・シュトロームがシャドウに命中。シャドウは弾ける様に消えていった。

「ファッ…」

そして、ウルトラマンも片膝をつき、消えていった。

2人の巨人が消えたことで、ダーク・フィールドも消えていった…

 

 

「はあ、はあ、はあ!」

「一樹!!」

変身を解き、ボロボロの一樹に駆け寄る一夏。

「立てるか?」

「悪い…肩貸してくれ」

「おう」

何とか一夏の肩を借りて立ち上がる一樹。

「…ナイス援護だったぜ」

「へへ。だろ?」

ゆっくりδ機へ向かおうとする一夏だが、一樹は止まる。

「一樹?」

「……傷の具合はどうだ?」

どこへとも無く語りかけた一樹。一夏が疑問に思っていると、長めの木の枝を杖の様にして立つフードを目深に被った藤原がいた。

「ッ!!?」

麒麟を展開しようとする一夏の左手を掴んで止める一樹。

「幾らボロボロでも、ISじゃアイツを倒せない。エネルギーの無駄になるだけだぞ」

「……」

一夏が強く右拳を握っているのを視界の隅に起き、藤原の方を向く一樹。

『感謝しろ…今日はここで退いてやる』

「……」

無言で対峙する一樹に、藤原は舌打ちすると、今度は一夏の方を向く。

『次に会うときまでに、遺書を作っておくんだな…』

それだけ言い残すと、闇に包まれて藤原は消えていった…




一樹「心を強く持て。でないとここからの戦いは…」


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Episode110 再来-ナイトメア・リターンズ-

ここからの戦い、目を背けてはならない…


一樹は部屋で悩んでいた。

一夏達に、シャドウの正体が元同級生の藤原修斗であることを言うべきかどうか。

「(藤原がシャドウだって分かれば、警戒レベルを上げることは出来る。けど、そんなの奴にとって大差無い。意識面だけの話だ。知ったところで、どうにかなる訳でも無い)」

『でもねマスター。雪恵さんとセリーちゃんには言った方が良いんじゃないかな?』

一樹の思考を読んだミオは、雪恵とセリーには言うべきだと意見する。

「…やっぱり、そうだよな」

その意味が分からない一樹ではない。

今現在、藤原の狙いは一樹の存在を跡形も無く消すことと…雪恵を手に入れることなのだ。

「となると…早めに話した方が良いな」

『だね』

一樹はすぐさまスマホを取り出し、雪恵とセリーを呼び出した。

 

 

「かーくんどうしたの?昼休みに部屋に来てくれって、珍しいね」

「ん、場所取りに行く前で良かった」

不思議そうに首を傾げながら部屋に来た雪恵にセリー。

「…とりあえず、来てくれてありがとな」

「かーくんに呼ばれたんだもん。行けるところならどこにでも行くよ」

「ん。カズキの居る所に、私たち有りだからね」

「言葉の使いどころがおかしい気がするぞセリー…っと、悪いが今回はあまり気分の良い話じゃない。けど、大事な話だからしっかり聞いてくれ」

一樹の真剣な表情に、2人も真剣な面持ちで頷く。

「…この前、俺がダーク・フィールドで戦ったのは知ってるな?」

再び頷く2人。

「その時…シャドウの正体が分かった」

「「ッ!!?!!?」

目を見開く2人。

そんな2人に、一樹は説明するために首飾りに語りかける。

「ミオ、空間投影ディスプレイに表示してくれ」

『あいあい』

首飾りが光り、2人の前でひとつのスクリーンが表示される。

「シャドウの正体、それは雪に一夏、篠ノ之も知ってる奴だった」

「…え?誰?」

「ミオ」

一樹の指示に、ミオが藤原の写真をディスプレイに表示する。

「ふじわら、くん?」

記憶にある顔から、1番近い人物の名を呼ぶ雪恵。

「…ああ。シャドウになってたのは、俺達の元同級生、藤原修斗だったんだ」

「なん、で?藤原君はみんなに凄く優しかったよ?」

()()()、ねえ…」

雪恵の言葉に、一樹はため息を吐く。

藤原は確かに優しかった。

だが、それは自分の気に入った人にだけだ。自分のお気に入りには愛想よく振る舞うが、少しでも気に入らない人物には180度違う態度で接していた。

一樹に一夏は、その気に入らない人物の筆頭だった。

最も気に入ってる雪恵に想われている一樹に。自分よりモテる一夏に。

「…まあ、それに関しては今は置いておこう。とにかく、シャドウの正体が藤原なのは確かだ」

「そう…だね。分かった。気をつける」

話は終わったと言うことで、食堂へ向かう雪恵。セリーもその後に付いて行こうとするが、一樹に呼び止められる。

「…セリー」

「なに?カズキ」

小声で話してくるのを不思議に思いながら、一樹に近づくセリー。

「…さっき言った藤原の狙いだけどな」

「…うん」

「俺の命…いや、存在そのものを消すことと、雪を手に入れることなんだ」

「ッ…」

セリーにとって、最も大切な2人。それを狙っていると聞いたセリーの表情が強張る。

そんなセリーを抱き寄せ、落ち着かせる一樹。

「…だからさ、俺にもしものことがあったら、雪を頼む」

「『もしも』なんて、起こさないで…絶対に、消えないで…」

死ぬと考えただけで辛いのに、記憶すらも消されるなんて、考えたくない。

自分を2度も救ってくれた一樹に、そんな自分を家族と認めてくれた雪恵。

絶対に失いたくないものが、今のセリーにはあった。

 

 

泣き疲れたセリーを寝かしつけ、その頭を撫でながら一樹は考えていた。

 

『次に会うときまでに、遺書を作っておくんだな…』

 

あの時、藤原がそう言ったのは一樹に対してでは無く、一夏にだった。

存在を消すのだから、一樹が遺書を作っても意味が無いという意味なのか。

それとも…次にターゲットにするのが一夏と言う意味なのか。

「(にしても…アイツが単純に襲いかかってくるとは思えない。もっと…吐き気がする方法を選ぶ筈だ)」

つまり、物理攻撃では無く、精神を攻撃する方法だ。

夏休み前の一夏ならともかく、今の一夏にそうそう精神攻撃が通用する筈が…

「(…ん?()()()()?)」

一樹は自分の思考のある部分が引っかかる。

溝呂木と激戦を繰り広げていたあの頃。その時は戦う事と一夏を救う事に集中していたために気付かなかったが…

 

溝呂木が闇の力を得たのはいつ頃か。

あの廃工場での、溝呂木とラウラの会話から察するに、闇の力を得たのは1年前だと予想できる。

 

一夏と()()が初めて出会ったのはいつ頃か。

中学2年の暑い日だと一樹は記憶している。

 

「…まさか!!!!」

考え得る最悪な展開に、一樹は雪恵とセリーに書き置きをしてから部屋を飛び出した。

 

 

「そろそろ新しい体が馴染んだ頃だな」

ある山奥にいた藤原。

その山は、夏に一樹と溝呂木に操られていた()()が最後の戦いをした場所…

 

一夏が、絶望に染まった場所…

 

そんな場所に藤原が現れる。

その意味は…

「…どうだい?3()()()()()()()の感想は」

「……」

虚ろな瞳で、()()は藤原を見る。

瞳には何も映されておらず、ただただ…空っぽだった。

「君にはまた働いてもらうよ。織斑に対して、君ほど影響力のあるものは無いからね」

「……」

「まあ、櫻井一樹(あのクズ)に与える影響にも期待しているよ。何せ君はアイツの前で織斑を庇って2度目の死を迎えたんだからね」

()()の瞳が何も映していないのは気にもとめず、藤原は話を続ける。

「…まあ、少しは人間味を入れた方が面白いかな?」

そう言って、()()の頬に触れようとする藤原。

「…ッ!?」

が、触れる寸前で手を引っ込める藤原。その瞬間、水色の波動弾が藤原の手があった所を撃ち抜いていた。

「…意外と早く気付いたみたいだな。クズ」

顔を憎悪に歪めながら、波動弾の来た方向を向く藤原。

「……」

そこには、ブラストショットを構えた一樹がいた。

「何を、しようとしている…」

その手は、怒りのあまり震えていた。それを知ってか知らずか、藤原はおかしそうに嗤う。

「何って、最高に楽しいゲームをしようとしてるんだよ。コレを使ってね」

藤原に腕を引かれて、ブラストショットの盾にされる()()

その顔を正面から見た一樹の手の震えが、大きくなる。

「お、まえ…!」

そう、()()とは…

「はははは!僕に感謝しなよクズ!!君の目の前で織斑を庇って死んだファウストを、生き返らせてあげたんだからさぁ!!!!」

ノスフェルから一夏を庇い、一夏の腕の中で死んだダークファウスト…斎藤沙織だった。

「おまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

エボルトラスターを引き抜く一樹。

対する藤原は、自らが戦う意思は見せずに、隣の沙織の肩を軽く叩く。

「行きな」

「…はい』

沙織を闇が包み、ファウストが復活してしまった…

 

 

学園でも、藤原のビースト振動波を感知した。

当然出撃しようとする専用機持ち達。

だが、その中で雪恵とセリーが一夏の前に立ち塞がった。

「織斑君は…行っちゃダメ」

「おまえは行くな」

「な、何でだよ2人とも!」

普段なら一樹の援護を止めようとはしない2人。その2人が止めようとしているのを訝しげに見る他の専用機持ち。

「織斑君は今回行ったら…きっと戦えなくなる。今度の敵を、きっと撃てない」

「そんな訳無いだろ!?一樹を殺す様な真似を俺がする訳が「織斑君が自分を殺す事にもなるの!!」…どう言う事だよ雪恵」

「……かーくんは、きっと今回の敵を知ってる。だから、織斑君を出させるなって私たちに頼んで来た」

「カズキがそんなこと言うなんて、よっぽどのことの筈。だからおまえを通す訳にはいかない」

一樹の書き置きにはこう書いてあった。

 

今度の敵は、きっと一夏の精神を潰す事を狙いにしてる。だから、もし振動波を感知したとしたら、一夏だけは来させないでくれ

 

何とか読める殴り書きで書いた事から、かなり焦って書いた事が伺える。

きっと、一夏達が着くまでに決着を付けようとするのだろう。

それでも、来ないに越した事は無い。

そして、親友の心を守るために…一樹はまたその身を削る…

「…俺のことを気遣ってくれてるのは分かった。けど、俺は行く」

「織斑君…」

「雪恵だって、一樹を助けたいだろ?アイツだけが苦しむのを見たく無いだろ?だから、俺は行く。たとえ、行った先で何があろうともな」

「……」

「ユキエ…」

力無く、広げていた両手を下ろす雪恵。

「…お願いだから、2人とも無事に帰ってきて」

雪恵の願いに、一夏は力強く頷いた。

「ああ、分かってる。絶対にアイツを連れ戻すさ」

 

 

「シェアッ!」

『デュッ!』

アンファンス形態のウルトラマンと、ファウストがあの時の様に激しくぶつかり合う。

ウルトラマンのストレートキックを受け流し、摑みかかるファウスト。そのままウルトラマンを投げ飛ばそうとするが、ウルトラマンは側転でその勢いを捌くと、ファウストにボレーキックを決める。

「テェアッ!!」

『グオッ!?』

ファウストは大地に倒れるが、両足を勢い良く振り上げて起き上がり、ウルトラマンに向けてダークフラッシャーを放つ。

『デュアッ!』

ウルトラマンはそれをサークルシールドで受け止めようとするが、連続で放たれたダークフラッシャーに耐えきれずに喰らってしまう。

「グアァァァァァァァァ!!?」

後ろに吹っ飛ぶウルトラマン。何とか起き上がった所に、ファウストの飛び蹴りが来る。

『ハァッ!』

「シュッ!」

その脚を掴み、大回転。ジャイアントスイングでファウストを大地に叩きつける。

『グゥッ!?』

ファウストが倒れている隙に、ジュネッスへとチェンジ。

「フッ!シェアッ‼︎」

メタ・フィールドを展開する。

「シュッ!フアァァァァァァ…フンッ!デェアァァァァァァァァ!!」

だが、やはりファウストはダーク・フィールドを展開し、メタ・フィールドを乗っ取ってしまう…

『フンッ!デュアァァァァァァァ!!』

悲しすぎる戦いの、始まりだった…

 

 

「この振動波…前に見た事ある気がする…」

「何?それは本当か束」

管制室では、束が記憶からこの振動波のパターンを探っていた。

「…見た事があると仮定して、それはいつ?」

キーワードは、雪恵が言った言葉だ。

『織斑君を出させるなって私たちに頼んで来た』

チェスターをではない。一夏を名指しにしている。

過去に出た中で、最も一夏に影響を与えた敵…

「…ッ!!?!!?ちーちゃん!いっくんをすぐに呼び戻して!!」

「な、何故だ?」

「今、かずくんが戦ってるのは…斎藤沙織なんだよ!」

「「ッ!!?!!?」」

 

 

『ハァッ!』

「フッ!」

ファウストの後ろ回し蹴りを屈んで避けるウルトラマン。

次々放たれるファウストの攻撃を、ひたすら捌いて隙を作ろうとする。

『フンッ!』

「ハッ!」

ファウストの正拳突きを振り落として隙を作ると、ファウストの腹部に回転の威力が加わった裏拳を決める。

「シュッ!」

『グオッ!?』

蹲るファウストの頭と肩を掴み、ダーク・フィールドの大地に叩きつける。

「シェアッ!」

『グゥッ!?』

倒れるファウストに向かって、ウルトラマンは構える。

「フッ!」

そしてファウストにパンチを放とうとするが…

 

『ごめん…………ね…………』

 

一夏の腕の中で消えていった沙織の顔が、脳裏に浮かんでしまう…

「…ッ!」

拳を振りかぶった状態で固まるウルトラマンを、ファウストは鼻で笑う。

『相変わらず脆弱だな…』

そして、ダークレイ・ジャビロームを放ってくる。

『ハアァァァァァァ…フンッ!トゥオッ!!』

それは、動きの止まっているウルトラマンに直撃してしまう…

「グアァァァァァァァァァァァァ!!?!!?」

 

ピコン、ピコン、ピコン…

 

ウルトラマンのコアゲージが鳴り始める。

それを見て、ファウストは楽しそうに笑いながら近付いてくる。

『フッフッフッ…』

そして何とか立ち上がったウルトラマンに、連続で回し蹴りを放った。

『フンッ!!』

「グッ!?」

『デュアッ!!』

「グアァァァァ!!?」

蹴られる度に、ウルトラマンの体から火花が散る…

 

 

『一夏!お前は戻れ!!』

「千冬姉まで何言ってんだよ!アイツを見捨てろってのか!?」

『違う!良いか!?今度の敵は…』

いきなり通信が途絶えた。それは、一夏が切ったのでは無い。電波障害によるものだった…

 

 

「まったく…無粋な連中だな。感動の再会を邪魔しようだなんて」

電波障害を起こした張本人である藤原。

彼の目には、ダーク・フィールドの中が見えており、無抵抗でファウストに殴られるウルトラマンの姿も見えていた。

「さて…クズ。お前はどう動くのかな?そのままその人形にやられるのかい?それとも…その人形を壊すかい?まあどちらにせよ、織斑の精神は壊れるだろうね!あはははははははははは!!!!!!!!」




…心を強く持て
その意味が分かって頂けたかな?


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Episode111 悲鳴-シュリーク-

……あなたは、親友の彼女にある頼み事をされました。


あなたなら、その頼み事を叶えますか?


『さっきからどうした!?』

「グオッ!?」

無抵抗のウルトラマンに、苛立ちをぶつけるファウスト。

ファウストは知らないが、先ほどからウルトラマンは…攻撃を通して、脳裏に沙織が一夏と共に過ごした日々が流れていた。

 

『すみません!』

『俺こそすみません…あ、拾うの手伝いますよ』

『あ、ありがとうございます!』

ぶつかった事で辺りに散らばってしまった絵を拾う一夏と沙織。

その時、生徒手帳も落ちていたのを一夏が気付き、そこから2人の関係は始まった。

 

『沙織の絵って、なんて言うかこう、落ち着くよ』

『そう?』

『ああ。海が描かれてたら、その海岸にいる気分にさせてくれるし、森だったら小鳥のさえずりが聞こえてくるし…一言で言うなら、【暖かい】だな』

『…私の絵、そんなに褒めてくれたの、織斑君が初めてだよ』

『え!?マジで!?それこそコンクールとか賞取ってると思ってた!』

『賞取った事はあるけど…ありきたりな文字で褒められてる気がしてたの。直接私に言ってくれたのは、織斑君が初めてだよ』

 

『織斑君って…彼女いるの?』

『いやあ、残念ながらいないんですよ。これが』

『…良かった』

『ん?何か言ったか?』

『な、何でもない!早く動物園行こ!』

『お、おい沙織!引っ張るなって!』

 

『なあ沙織。今日はどうしたんだ?こんな所に呼んで…』

『あのね織斑君、今から言う事は冗談でもドッキリでも無いから…ちゃんと聞いてね』

『あ、ああ…』

『…織斑君!好きです!私と恋人として付き合ってください!』

『……え?沙織が、俺なんかを?』

『なんかじゃない!私には、織斑君しかいないの!』

 

『この度、織斑君とお付き合いさせていただくことになりました!これからよろしくお願いします!』

『『…………は?』』

『おいおい、一樹も弾も驚きすぎだろ』

『『驚くわ!!お前が誰かと付き合うなんてな!!』』

 

2人が過ごした時間の一部は、一樹も真近で見た事がある。

あの時自分が気付いていれば、あんな事にはならなかったのだろうか。

その後悔が、一樹…ウルトラマンの動きを止める。

『いい加減にしろ!!』

「グアァァァ!?」

業を煮やしたファウストの波動弾が、ウルトラマンに直撃する。

その波動弾が…また闇の巨人に変身させられた沙織の悲鳴に聞こえたウルトラマン。

「……」

雑念を払う様に首を振ると、フラフラの状態で立ち上がる。

『フンッ!』

そんなウルトラマンに向かって駆け出すファウスト。

 

お願い…私を、止めて…ウルトラマン

 

「ッ!」

はっきりと聞こえた悲鳴に、ウルトラマンは我に帰った。

「…シュッ!」

『何っ!?』

ファウスト渾身のストレートパンチを空手の要領で受け流し、ガラ空きの胴に膝蹴りを入れる。

『グッ!?』

ファウストとの距離が出来たところに、飛び込みのストレートキックを放った。

「ハッ!」

『グゥッ!?』

ダーク・フィールドの大地に倒れるファウスト。

その隙に、ウルトラマンはエネルギーを貯める。

「シュッ!ハアァァァァァァァァァァァァァァ……」

いつもの倍以上のエネルギーを右拳に貯めると、ファウストに向かって突き出した。

「デェアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」

『グゥッ!!?グオォォォォォォォォォォォォ!!?!!?』

戦闘の場がダーク・フィールドである事を忘れかける程光るウルトラマンのゴルドレイ・シュトローム。

それは受けているファウストだけでなく、空間にも影響を与える。

 

 

「ッ!!?」

外では、ウルトラマンが負けると思って傍観していた藤原の顔が驚愕の色を示す。

その瞬間、ダーク・フィールドは解かれ、金色の光線を放ち続けるウルトラマンと…それを受け、今にも消えそうなファウストがいた。

「…チッ!この光量じゃ織斑からファウストは見えない…ひとまず撤退だ」

 

パチンッ!

 

藤原が指を鳴らすと、ファウストを闇のカーテンが包み、ゴルドレイ・シュトロームを弾いた。

「フッ!?」

突如現れた闇のカーテンに、ウルトラマンは警戒する。

闇のカーテンが消えたそこにファウストはおらず、藤原の姿も無くなっていた。

「…ファッ、フッ、フッ…」

力が抜けたウルトラマンは、膝をついて消えていった…

 

 

「はあ、はあ、はあ…」

木から木へと寄りかかりながら移動した一樹は、()()()()へとたどり着いた。

「ここに…何かあるはず…!」

一樹にも、友人として接してくれた優しい沙織のことだ。

きっと藤原に利用される前に何か残しているのではないかと、一樹はボロボロの体で探し回る。

「一夏への【想い】はあのお守りにあるとして…俺への【願い】はどこにあるんだ…?」

 

トクン…

 

「…?」

エボルトラスターが優しい鼓動を打つ。

それを不思議そうに見つめる一樹に近寄る気配…

「ッ!」

咄嗟にブラストショットを気配に向ける一樹。

「ちょ!?タンマタンマ!!」

ブラストショットの銃口を向けられ、焦った声で叫ぶ一夏。

一樹はホッとブラストショットを下ろした。

「お前…何でここにいるんだ?」

書き置きで雪恵達に来させないよう頼んだ一樹。

彼の心のために…

「…お前に何か考えがあるのは分かってる。俺の事を気にしてるなら大丈夫だぜ?もう、何が起きても憎しみに染まったりしない」

「……」

一樹もそれを信じたい。

けれど、今回は相手が悪すぎる…

「…俺も、お前が憎しみに染まらないって信じたい。けど、無理だ…」

「…理由を聞いても?」

一樹は、とうとう告げる。

再び敵となった沙織の事を。

「お前は…今度の敵の、斎藤沙織さんを討てるか?」

「ッ!!?!!?」

一夏の表情が、変わった。

「ついさっきまで、俺がダーク・フィールドで戦ってたのは…シャドウに操られてるファウスト、沙織さんなんだぞ?」

一樹の心配は、一夏が憎しみに染まる事だけではない。

ファウストとなってしまった沙織を、一夏が討てるのか。

逆の立場となった場合、一樹に雪恵を討てるのか?となるが…一樹には、当然雪恵を討つ事など出来ない。

「……憎しみに染まらないとしても、お前の目の前で沙織さんを討つ事が、俺には出来ない。だから今回、お前を戦わせる訳にはいかない」

「……」

 

トクン…

 

「ん?」

一樹の手の中のエボルトラスターが再び優しい鼓動を打つ。

一樹だけでなく、その優しい光は一夏にも感じられる程大きくなった。

「なあ、その光は何だ?凄く優しくて、暖かい感じがするんだけど…」

「お前にはそう感じるのか…」

一樹にはただ優しいとしか感じないが、一夏は違うようだ。

つまり、この光は…

「(沙織さんの、光…)」

一樹がその答えにたどり着いた時、エボルトラスターから光が放たれ、人の形となっていく…

 

久しぶり…織斑君。それと、櫻井君も。

 

ぼんやりとしているが、それは確かに斎藤沙織だった。

「さ、沙織…」

もう2度と会えないと思っていた沙織が、目の前に現れた…一夏の手が沙織の肩に向かってゆっくり伸ばされるが、その手が触れる事は無かった…

「そ、そんな…」

 

ごめんね、織斑君…この体は、あくまで私の意識を映像化してるだけだから…もう、織斑君に触れる事は出来ないの。

だって私は…もう、人として死んでるから。

 

「ッ…」

悲しげに告げる沙織の顔を見て、今にも泣きそうになる一夏…いや、もう既に泣いていた。

「何で…何で君が、またこんな目に合わなきゃいけないんだよ…」

 

織斑君…

 

「やっと…やっと闇から解放されたのに…何で君が!」

「……」

沙織の姿が見えてから、ずっと黙りっぱなしの一樹。

今はこの2人だけにしてやりたいが…沙織の姿を維持するためには一樹がいなければならないので、なるべく気配を消してその場にいた。

()()()()()()()()()()()()

「…ごめん。俺がキレたところで、どうにもならないよな」

 

ううん…そこまで、私の事を想ってくれてて嬉しかったよ…

 

沙織は悲しげに笑う。

出来る事なら、自分だってずっと一夏といたい。藤原や溝呂木に本格的に操られる前に一夏に対して感じた想いは、本物だから。

今だって、【制限】が無ければ一夏に抱きつきたいのに…

 

ッ…

 

そこで沙織はようやく気付いた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことに。

慌てて一樹の方を見ると、表情こそ変わらずにいる。

ただ、木に寄りかからないと自立する事が出来ず、その顔色も悪い。

「俺の事は気にせず、一夏に言いたい事を言ってやりなよ…」

なのに、彼は自分の事など気にせずに一夏を優先させた。

 

……織斑君と話したい事はいっぱいあるけど、それで言いたい事が言えなかったら意味が無いよ…

 

「……」

「沙織?」

沙織が何を言おうとしてるのか察した一樹は苦しそうに自らの胸元を乱暴に掴み、一夏は沙織を不思議そうに見る。

 

櫻井君…次の戦いで、私を完全に消して。

 




沙織の願いに、一樹はどう答えるのか…


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Episode112 願い-ウイッシュ-

一応言わせて下さい。

サブタイは決してふざけてないです!!




「沙織を、消す…?」

 

もう私は…静かに眠りたいの。

酷い事を頼んでるのは分かってる!けど、それをやれるのは櫻井君しかいないの…

 

「……」

尚も苦しそうに胸元を掴む一樹。

沙織の言う事は理解出来るし、それをやれるのが自分だけなのも分かっている。

分かっているからこそ、苦しい…

「他に…他に方法は無いのかよ!沙織が死なないで済む方法は!!」

 

無いよ…それに織斑君、私はもう人間として死んでるの。

2年も前に…

 

「ッ…」

沙織の言葉に、一夏は泣きそうになる。

沙織を救えない事と…何も出来ない、自分に対して。

 

もう限界、かな…織斑君、こんな形だけど、また話せて嬉しかったよ…

 

沙織の体から、光が飛んでいく…

「沙織!」

無駄だと分かっていても、その手を沙織に向かって伸ばす一夏。

「逝かないでくれ!沙織!!」

 

ねえ織斑君…

 

沙織も、その目に涙を浮かべ、一夏との別れを悲しむ。

 

どうして…こんな事になっちゃったんだろうね…?

 

「ッ…!?」

それは一夏に向けて発せられた言葉。

しかし、一樹の心を深く抉った。

一樹が雪恵を救えなかったから藤原は闇の力を手に入れ、一樹を憎しみに任せて攻撃した。

しかし一樹はそれを【償い】として受け入れ続けた。

業を煮やした藤原は、一樹の精神を壊すため()()に、一夏と出会った沙織をその力で殺した。

更には人形として利用し、2人を絶望のどん底に落とした…

つまり、こんな事になってしまった理由の一因は、一樹にもあるのだ…

それを知ってるから、知ってしまったから。

沙織を、今度こそ安らかに眠らせてやらなければならない。

分かっている。分かっていても、出来ない。

「沙織!諦めちゃ駄目だ!まだきっと、何か方法がある筈だ!!」

 

織斑君…

 

「俺は…絶対に諦めない!今度こそ、沙織を普通の女の子に戻してみせる!」

 

出来ないよ…私は、もう人間じゃないの。いつまで経っても成仏出来ない、幽霊と同じようなものなんだよ…?

 

「沙織の体を取り戻せれば!ファウストとして利用されてるファウストの体を取り戻せれば良い筈だ!」

「…いい加減にしろ一夏」

ずっと黙っていた一樹が、一夏の肩を掴んで止める。

「…沙織さんだって、本当はお前から離れたくなんて無いさ。けど、そうしなきゃいけないのも分かってるから…沙織さんだって苦しいんだよ。分かってやれ」

「じゃあ!お前は本当に沙織を消すって言うのかよ!!?」

「………」

明言する事が出来ない一樹。

だが、彼は櫻井一樹であると同時に【ウルトラマン】だ。

彼個人の感情で戦える事もあれば、逆に彼の感情を殺して戦わなければならないこともある。

前者が2度のセリー戦で…後者が今回の場合だ。

「答えろよ!!」

一樹の胸倉を掴んで叫ぶ一夏。

 

織斑君、櫻井君を責めないで…私が、望んだ事なんだから…

 

「けど!けど!!」

「………」

一樹は胸倉を掴まれたまま動かない。動けない…

 

ねえ織斑君…

 

「…何だ?沙織」

 

人として生きるのって……難しいね……

 

その言葉を最後に、沙織は涙を浮かべながらも、笑って消えていった…

「沙織ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!」

一樹の胸倉を離し、沙織の立っていた場所に駆け寄る一夏。支えが無くなった事で、元々ボロボロだった一樹は力なく座り込み、近くの木に寄りかかる。

「(俺…やっぱり、彼女を倒さなきゃいけないのか?人々を守るためにあるこの光で、彼女を?)」

ぼんやりと一夏を見ると、蹲って泣き叫んでいた。

僅かに残った光が、一夏の胸元に吸い込まれている事には、一夏も…一樹も、気付けなかった。

 

 

泣きじゃくりながら、一夏は学園に戻っていった。

あまりのショックに、一樹がいることも忘れて…

雪恵の携帯にメールを送り、無事を知らせてからも、一樹はしばらくその場を動けなかった。

どれだけそうしていただろうか。辺りが暗くなり、空を見上げれば満天の星空。

…一樹の心とは裏腹に、空はとても透き通っていた。

 

PiPiPiPiPiPiPiPiPi!!

 

「………」

虚ろな目で空を見ていた一樹の携帯が、着信を告げる。

ゆっくりとした動きで操作し、電話に出る一樹。

「…もしもし」

『もしもし、じゃないよかーくん!やっぱり怪我が酷いんだね!?すぐに場所教えて!セリーちゃんと迎えに行くから!』

自分を心配してくれる雪恵の存在をありがたく思うも…今、一樹はその暖かさに甘えてはいけない気がしていた。

「迎えはいらねえよ…今からそっちに行く」

甘えてはいけないと思いつつも…一樹は暖かさを、その温もりを求めてしまう。

「…なあ雪、一緒に星を見ないか?」

『えっ?きゅ、急にどうしたの?』

「…そんな気分なんだよ。俺が帰るまでに、考えておいてくれな」

一樹は電話を切ると、ゆっくりブラストショットを天空に向かって伸ばす。

ストーンフリューゲルは一樹を回収すると、いつもとは違い、ゆっくりと学園へと向かった。

 

 

「…どうしたんだろ、かーくん」

いつもと雰囲気が違った想い人を心配する雪恵。

彼がいつも何かを背負っているのは知っている。

人々の未来を。

人々の想いを。

彼はその背中に乗せている。

今の彼は、その背負っている物の何かに迷ってるのではないか、と雪恵は思った。

ただ、具体的に何なのかと聞かれると答えられないのだが。

「ユキエ、カズキとは連絡取れた?」

雪恵の指示で先にシャワーを浴びていたセリーが、頭を拭きながら出てきた。

その格好は一樹の黒色の半袖シャツに、雪恵とお揃いの明るい色の半ズボンだ。

…一時期は涼しいからという理由でホットパンツを履いていたが、流石に雪恵が止めた。

「うん、取れたよ。今こっちに向かってるって」

「良かった…」

ちなみに、今日雪恵は一樹やセリーの部屋に泊まる事になっている。

…一夏が1人になりたがっているを感じ、急遽千冬に許可を取りにいったのは消灯時間ギリギリだったが。

「ねえセリーちゃん。1人で留守番出来る?」

「え?出来るけど…どうしたの?」

「かーくんから星を見に行かないかって誘われたの…」

「じ…」

じゃあ、私も行きたい。

そう言いかけたセリーだが、途中で止まった。

雪恵の雰囲気が違ったから。

普段の雪恵なら、一樹に誘われたと言うとき、とても幸せそうに笑う。

しかし今の雪恵の顔は、とても悲しげだ。

きっと、一樹に何かあったのだろう。

セリーでは理解する事の出来ない、何かが。

「…ん、分かった。留守番してる」

それに、セリーが最近ずっと一樹に引っ付いていて、雪恵との2人きりの時間が無かった。たまには、2人きりにさせてあげなければならないだろう。

「…あ、ユキエ」

「どうしたの?セリーちゃん」

「カズキが帰ってきたら、ミオは私が預かる」

「…ありがと」

 

 

学園に戻ってきた一樹から、屋上で待っているというメールを受け取った雪恵は、セリーの協力でテレポート。そしてセリーは一樹からミオを預かり、部屋に戻った。

「…かーくん、お帰りなさい」

「…ただいま」

屋上のベンチに座っている一樹の頬に触れる雪恵。

「やっぱり…」

「ん?どした?」

「かーくん…何に苦しんでるの?」

「……」

声音はいつもと変わらない。

また、表情もいつもと変わっているようには見えない。

しかし…理屈ではない【何か】が違うと、雪恵は感じた。

「かーくん、話してくれない?話したら気が楽に…きゃっ!!?」

突然、一樹は雪恵を抱き寄せた。

まるで母親に縋る子供の様に…その手は、その体は、震えていた…

「かーくん…?」

「悪い…しばらく、このまま…」

「…分かった」

「…ごめん」

雪恵には、ただ一樹の腕の中にいる事しか出来ない…

 

情けなくてごめん。

弱くてごめん。

助けられなくてごめん。

 

雪恵には、彼の言葉の意味が分からない。

ただただ、彼の頭を優しく撫で続けた。

それしか、出来なかったから。

 

 

「そん、な…」

部屋では、セリーがミオから話を聞いていた。

ファウストの事や、沙織の願いを…

『…一夏さんの前でこそ、何とかマスターは耐えてたけど…雪恵さんの声を聞いて、ダムが決壊したみたい…ストーンフリューゲルの中で、ずっと泣いてた』

声でしか判断出来ないが…ミオも泣いているのである事は、セリーにも分かった。

『多分、マスターはしばらく学園を離れると思う』

「…どうして?」

『一夏さんに悪いから…救えない自分が、雪恵さんに甘えちゃいけないって、マスターはずっと頭の中で言ってた』

 

 

「…落ち着いた?かーくん」

「ああ…ありがとう」

腕の震えは止まった。

雪恵は明日…いや、今日も授業がある。

これ以上、雪恵に甘える訳にはいかない…

「…俺、しばらく学園離れなきゃいけないんだ」

「……」

「なるべく夜には帰ってくるようにはするけど…帰れない時は、連絡する」

「……」

「雪?」

「また…そうやって1人で背負うの?」

「……」

黙る一樹。

何も答えられない一樹を、今度は雪恵が強く抱きしめる。

「…雪?」

「かーくんが今、何を悩んでるのか分からないけど…私は、かーくんの味方だから。世界の全てがかーくんの敵になったとしても、私はかーくんの味方であり続けるから…」

「………」

「だから…どんなに情けなくても、どんなにみっともなくても良いから…私の所に帰ってきてね…?」

「…ああ」

雪恵の【願い】。

一樹はそれを胸に、しっかりと刻んだ…




彼の心は、いつまで保つのか。

それは、誰にも分からない。


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Episode113 迷い-ディザール-

……


雨がザーザーと激しく降る中、傘をささずに歩く1人の青年がいた。

「……」

自身がびしょ濡れになる事など気にも止めず、ただ歩く。

「……」

その青年…櫻井一樹の歩いてるルートは、一見すると何の意味を持っているか分からない。

しかしそのルートは過去、ビーストに人が喰われた場所を回っており、更には人々の恐怖の集まる場所____例を挙げるならば夜の墓場や、怪談スポット____も含まれていた。

理由としては新たなビーストが出た場合、迅速に倒すためと…一樹を狙う【敵】を誘き出すためだ。

もはや習慣となってしまっているその回り方。

そして…回る度に、救えなかった人々の顔が頭に浮かぶのがいつもの流れだ。

だが、今回は少し違った。

 

次の戦いで、私を完全に消して。

 

じゃあ!お前は本当に沙織を消すって言うのかよ!!?

 

人として生きるのって……難しいね……

 

「ッ…」

泣きそうになる一樹…すると____

 

ゴンッッッッ!!!!!!!!

 

____自らの額を、拳で強く殴る。

その額からは血が流れるも、何故か涙は引いた。

「…俺に、泣く資格は無えんだよ」

血を拭ってから、一樹は再び歩き始めた。

 

 

「……」

沙織の願いを聞いてから…一夏は再び暗くなった。

ただでさえ激しく雨が降ってジメジメしている教室の雰囲気が、更に暗くなる程には。

「い、一夏。どうしたの?」

「一夏くん、らしくないわよ?」

ファウストの件を知らない更識姉妹が、一夏に心配気そうに話しかける。

「ああ…何でもないよ…」

そうとしか返さない一夏。

このままではラチがあかないと判断した楯無は、代表候補生達に近づく。

「…あなた達、何か知ってるわね」

「「「「……」」」」

無言で目をそらす5人。それが、全てを物語っていた。

「…櫻井君が外に行ってるのと、何か関係があるのかしら?

「「「「……」」」」

尚も無言の5人…いや、元々1組の生徒全員が目を逸らした。

「答えなさい!」

強い口調で詰め寄る楯無。

それでも、誰も何も言わない。

「…雪恵ちゃん、櫻井君が外に行ってる理由を知ってるでしょ?答えなさい」

「…私は、知りません」

淡々と答える雪恵。

実際、雪恵は半分知っているが、半分は知らない…

他のクラスメイト達もそうだ。全て知っているのは、当事者である一夏と一樹だけなのだ…

「あなたが、櫻井君の事を知らない筈が無いでしょ!」

「そこまでだ更識姉」

雪恵に詰め寄る楯無を、千冬が止めた。

「櫻井が外に行ってるのは、我々がある仕事を頼んだからだ。仕事の内容は極秘であるために、お前にも…当然田中にも話す訳にはいかん。織斑がこんななのは、ただの偶然だ」

極秘、の言葉を出されては、楯無は何も言えない。

「…分かりました」

しかし、運命とは残酷である。

 

PiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPi!!!!

 

「ッ!?沙織!!」

麒麟が振動波を感知。

その反応を見た一夏は教室を飛び出す。

「ま、待て織斑!!」

千冬が止めようとするも、既に一夏は格納庫に向かって走り出していた…

 

 

時は少し遡る。

尚も激しく降る雨に打たれながら一樹が歩いていると…

「無様だねぇ、クズ」

どこからか、藤原の声が聞こえる。

「…何の用だ。藤原」

そう言って一樹は視線を上に向ける。その視線の先には廃工場があり、藤原はその屋根の上で不敵に笑っていた。

「何の用?馬鹿じゃねえの?僕がお前に用があるとしたら…」

一瞬で一樹の背後に移動する藤原。

まるで街中ですれ違ったかのように、自然に背中を向けあっている。

「お前を殺しに来る以外無いに決まってるじゃん」

そんな言葉の後に放たれた藤原の右裏拳は、一樹の左腕に受け止められる。

更に放たれた上段回し蹴りを屈んで回避すると、藤原から距離を取る一樹。藤原もまた、背後に向かって跳び、2人の間に距離が出来る。

「へえ…生身の方が良い動きするじゃないか」

「…テメエが闇の力に頼り過ぎなんだよ」

「言ってくれるね…」

それなら…

と、藤原が指を鳴らす。

 

パチンッッ!!

 

時空の歪みから、虚ろな目をした沙織が弾き出された。

「……」

「この人形が相手でも、同じことが言えるかな?」

「テメエ…何故彼女を巻き込んだ?」

「ん?織斑相手に面白いゲームが出来そうだったからだけど?」

人の命を奪う事を、ゲームの一部と考えている藤原。

彼にとっては自分と雪恵の命以外、ただのゲームの駒に過ぎない。

ゲームに使えない人間…一樹は、捨てるべきゴミでしかない。

「…どっちが【人殺し】だよ。お前こそ人殺しじゃねえか」

「あ?この世で人として認められているのは僕と雪恵さんだけ…他は僕の駒か、お前の様なゴミ屑しかいないんだよ」

「…神にでもなったつもりか?」

「神…?良いね!僕が神!全部僕が決める!!そうしよう!!!」

狂気に溢れる笑みを浮かべながら、藤原は隣の沙織に命令する。

「おい!あのゴミ屑を潰してこい!」

「…はい』

命令を聞いた沙織が前に出る…

「お前は今日!この人形に殺される!!神である僕が決めたんだ!!!ちゃんと従えよ!!!!」

藤原の隣で、沙織は闇を纏って巨大化。ファウストへと変わっていく…

「生憎だが…」

巨大化するファウストを視界の隅に置きながら、一樹は藤原を見据える。

「俺は…神も仏も信じてねえんだよ!!」

エボルトラスターを引き抜き、ウルトラマンへと変身。

「シュッ!」

『デュッ!』

どしゃ降りの中、戦いが始まる…

 

 

『ハァッ!』

「フッ!」

ファウストから放たれる連続攻撃を、見事に捌いていくウルトラマン。

戦闘経験の差か、ファウストはウルトラマンに決定的な攻撃を与えられない。

「シェアッ!」

『グゥッ!?』

受け流したファウストの腕を掴み、一本背負いを決めるウルトラマン。

背中を強打したファウストは、しばらく動けない…

 

 

「…チッ。やっぱりファウスト程度じゃ相手にならないか。なら…」

懐からブラックエボルトラスターを取り出す藤原。

「僕が加われば良い」

鞘から引き抜くと、藤原の全身を闇が包む。

 

 

『デュアァァァァ!!』

「グオッ!!?」

変身の勢いを利用した飛び蹴りを放つシャドウ・デビル。

その一撃を喰らい、ウルトラマンの体から火花が散る。

『フンッ!ハアァァァァァァァァ!!』

ウルトラマンが倒れている内に、シャドウはダーク・フィールドを展開した。

「フゥッ!シェアッ!!」

起き上がったウルトラマンもジュネッスにチェンジ。

1対2という、過酷な戦いに挑む…

『フンッ!』

「ハッ!」

ファウストの上段回し蹴りを何とかガードするが…

『デュッ!』

「グオッ⁉︎」

逆方向…シャドウの中段回し蹴りを喰らい、体制が崩れる。

その隙を見逃さず、ファウストはストレートキックを放ってくる。

『トゥオッ!』

「グアッ⁉︎」

後ろに下がったウルトラマン。

その首を後ろから掴み、持ち上げるシャドウ。

首の骨を折ろうと、指に力を入れる…

 

ミシミシミシミシ!!!!

 

ウルトラマンの首から、不吉な音が鳴り響く…

「グッ…グオッ…」

 

ピコン、ピコン、ピコン…

 

コアゲージも鳴り始めた…

そんな状態を脱するために、ウルトラマンは右足にエネルギーを集中させる。その足が金色に光った瞬間、油断しきっているシャドウの腹部に後ろ蹴りを放つ。

「デェアッ!!」

『グオッ!?』

ゲン…レオの得意技、『レオキック』を彼なりに今形にした技、その名も『シュトローム・ストライク』だ。

シュトロームストライクをまともに喰らったシャドウは大きく後方へ吹き飛ぶ。

『グゥッ!!』

ダーク・フィールドの岩石に背中を強打し、動きの止まっているシャドウ。

そんなシャドウに、ウルトラマンは素早くクロスレイ・シュトロームを放つ。

「フッ!ハアァァァァ…デェアッ!!」

『グオォォォォォ!!?』

クロスレイ・シュトロームの直撃を喰らい、シャドウは逃げる様に消えて行った…

『フンッ!』

「グアァァァァァァァァッ!!?」

だが、今ウルトラマンの相手をしているのはシャドウだけではない。

ずっと上空で隙を伺っていたファウストの飛び蹴りがウルトラマンに命中。ウルトラマンの体から、激しく火花が散る…

 

 

一夏を乗せたδ機がダーク・フィールドに突入した。

「沙織!!」

 

 

ファウストの連続回し蹴りを何とか捌くウルトラマン。

業を煮やしたファウストは、零距離でダーククラスターを放った。

『デュアァァァァ!!』

「グアァァァァァァァァッ!!?」

 

 

「やめろ…やめてくれ!沙織!!」

操縦桿を握る一夏の手は、震えている。

決して届かない声をあげる事しか、一夏には出来ない…

 

 

「グッ、グゥッ…」

それは、ウルトラマンも同じだった。

ウルトラマン…一樹には、ファウストを倒す事が出来ない…

 

斎藤沙織を()()事など、一樹には出来ない…

 

『…お前はその程度だったか?』

つまらなげに呟いたファウストは、トドメのダークレイ・ジャビロームを放った。

『ハアァァァァ…フン!トゥオッ!』

それは、ウルトラマンに直撃。

「グアァァァァァァァァァァァ!!?」

大きく後方に吹っ飛び、背中をダーク・フィールドに強打。

『…つまらん、鍛え直してこい』

そう言うと、ファウストは無限の闇へと、消えていった…

「ファッ、フッ、フッ…」

ウルトラマンもまた、静かに消えていった。

2人の巨人が消えた事で、ダークフィールドも消えていった…




…彼は、彼女を倒す事が出来るのだろうか?


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Episode114 決断-レゾリューション-

……ハンカチの用意は、万全ですか?


「酷い雨だな…」

モロボシ・ダンはグラスを磨きながら、どんどん強くなる雨にため息をつく。

この店【サン・アロハ】は地球での拠点として開いたが、そろそろ閉める時が近づいていた…

 

彼が、ウルトラの星に帰る時が。

 

「こんな天気じゃ、お客も来ないだろ…ちょっと早いが、閉めるかな…」

グラスを置き、店じまいの準備を始めようとした、その時だった。

 

カランカラン

 

「ん?お客さんかな?」

扉が開いたベルが鳴ったので、ダンは席に案内しようとする…

「いらっしゃい。何名様でしょう…って一樹君!?どうしたんだそんなずぶ濡れで!!?」

入ってきたのは、服から水が垂れるほどずぶ濡れな一樹だった。

「…すいません、タオルを貸して____」

一樹の言葉は、最後まで続かなかった。

 

バチャンッッ!!!!!!!!

 

意識を失った一樹が倒れる。その衝撃で、ずぶ濡れだった服から水が跳ねる。

「一樹君!!?!!?」

そんな一樹に慌てて駆け寄るダン。

そして、その首を見て驚愕する。

 

普通の人なら…首の骨が折れている程、強く握られた痕が残っていたのだから…

 

「とにかく、治療を!」

ダンは、店内を走り回った。

 

 

「…ご迷惑をおかけしました」

ダンの治療と、全身を毛布に包まれたおかげで、何とか意識を取り戻した一樹。その首には、固定用のカラーが巻かれている。

「ああ、それは良いんだが…何があったんだい?」

「……」

急に表情が暗くなる一樹。

ダンは無理に聞き出そうとはせず、温かいコーヒーを差し出す。

「…とりあえず、体を温めなさい。後、そのカラーはしばらく外すなよ。幾ら君でも、数日はそのままだ」

「…分かりました」

一樹が黙々とコーヒーを飲み始めると、ダンは厨房に入って軽食を作り始める。

 

 

「…俺は、どうすれば良いんですかね」

「ん?」

ボソボソ、と一樹が呟き始めた。

ダンは一言も聞き漏らすまいと、全神経を集中させる。

「…ダンさん、親友の恋人から『私を消して』って言われたら、どうしますか?」

「…詳しく話してくれるか?」

一樹はポツポツと話し始めた。

死んだ筈の親友の恋人が、自分を憎む人物によって利用されていること。

その女の子の意識が、自分に『私を消して』と言ってきたこと…

「…世界を救う事だけを考えるなら、その子を倒せば良い。けど、その子の意識を取り戻す事が出来るんじゃないかと思うと…トドメが刺せないんですよ…」

窓の外をボーッと眺めながら、一樹は話す。雨は、まだ激しく降っている。

「……」

ダンは無言のままだった。一樹も答えが帰ってくるとは思ってないので、気にせず窓の外を眺めていた…

 

 

「ふう…いつの間にか、こんなに溜まってたんだ」

簪は放課後、自室のコレクションを整理していた。

その中に、とても懐かしい物が入っていた。

「あ…コレは」

父親が初めてくれたこのオモチャ。赤いメガネの様なアイテムは、簪の大のお気に入りだった。

「(よく遊んだな…こうやって)デュワ」

父の話によると…父が子供の頃地球にいたヒーローが、メガネ状のアイテムで変身していたとかなかったとか。

子供の頃に聞いた話なので、多分作り話だとは思うが…その頃の簪は、目を輝かせてその話を聞いたものだ…

「あ、そういえば今日は予約してたアニメのBlu-rayBoxが届く日…」

しかし外は雨が強く降っている。しかし傘がさせない程ではない。

簪は防水のしっかりしているバックを掴むと、外へと向かった。

 

 

「……」

ダンは治療道具一式と、追加の食材を買って帰路についていた。

宗介達S.M.Sか、雪恵に連絡するべきかとも思ったが、今の一樹をあまり動かす訳にはいかないので、しばらく自分が面倒を見る事にした。

「(あんな状態でなければ、()()()を呼んでやれたんだが…)」

 

『○○、修行は進んでるか?』

『ん…?お、一樹!丁度良いところに来てくれたな!』

『あん?何だよ?』

『お前からも師匠に言ってくれよ…テクターギアを付けているのに加えて、更に両手両足に重しをつけて修行は幾ら何でも無茶だって』

『…お前、その修行は地球人もやってるぞ?地球人に負けて良いのか?』

『ま、マジで!?』

『負担の割合で言えばお前よりキツイので修行してるけど…そうか、お前がそう言うならゲンじゃなかったレオさんに言いに『地球人に俺が負けるだあ?2万年早いぜ!!』…お前が修行内容に文句を言うのは30万年早えよ』

『それは言い過ぎじゃねえか!!?キングの爺さんの歳じゃねえかよ!!!!俺はそこまで弱くねえ!!!!』

『レオさーん、○○がレオさんにアストラさんと限りなく実戦に近い模擬戦したいってー』

『悪かった一樹!俺が悪かったからそれは勘弁して!!?』

 

一樹と○○は実の兄弟の様に仲が良かった。それを、ダンやゲンは微笑ましく見ていた程だ。

「しかし…今の彼はそれどころでは無いしな」

早く戻ろう、とダンは少し近道をする事にした。

 

ドンッ!!!!

 

「おっと」

「きゃっ⁉︎」

曲がり角で人とぶつかってしまった。ダンは()()()()()ため大した事は無かったが、相手は違った。

衝撃を殺しきれず、尻餅をついてしまった。

「すまない…怪我は無いかな?」

ぶつかってしまった相手に手を差し伸べるダン。

「ご、ごめんなさい!急いでて…」

「いや、俺もあまり前を見てなかったから…」

ダンの手を借りて、その人…簪は立ち上がる。

僅か数十秒傘から出てただけなのに、既にその服はずぶ濡れだった。

「…その格好では風邪を引いてしまう。俺の店はすぐそこだから、服を乾かしなさい」

サン・アロハを指差しながら言うダン。

普通のハワイアンレストランである事が分かると、簪はお言葉に甘える事にした。

「すいません…お世話になります」

 

 

サン・アロハに着いたダンが扉を開ける。

 

カランカラン

 

「さあ、入って入って」

「お邪魔します…」

どこか警戒しながら、ゆっくりと店に入る簪。

「…え?櫻井君?」

毛布に包まれた状態で眠る一樹を見て、簪の体から力が抜ける。

「…ん?さらしきさんか?」

寝起きだからか、舌ったらずな口調で話す一樹。

「…櫻井君、その首はどうしたの?」

一樹の首に巻かれているカラーを見て、簪は聞く。

「ん、ちょっとな…」

明言を避ける一樹を不思議に思う簪だが、すぐに気にしなくなる。

「さて、一応新品のジャージだ。これを使ってくれ」

「すみません、お借りします…」

乙女にとって、ずぶ濡れの格好である事の方が問題だ。

 

 

「…お世話になりました」

簪がシャワーを浴びに行ってすぐ、一樹は立ち上がった。

いつまでも、ここで休んでる訳にはいかない…

「…行くのか?」

「ええ…俺は結局、【人殺し】のレッテルから逃れる事は出来なさそうです」

力無い笑みを見せる一樹。沙織を救うためには、ファウストを倒すしかない。そして…それが出来るのは一樹しかいない。世界を救うため、沙織を闇から解放するために、一樹は()()()()()()()()()()を背負う覚悟だ。

「君は…もう少し【自分】を出した方が良い」

「【自分】を出す?俺に、そんな資格は無いですよ…」

悲しげな顔を見せると、一樹は店を出ようとする。

「一樹君」

そんな一樹を呼び止めるダン。一樹が足を止めたのを確認すると、その背中に向けて言う。

「君は自分だけが不幸になれば良いと思っているようだが…1人で全部背負い込む事はない。それに、君は()()()の規則に従いすぎだ。君は、俺たちの集団に属してないだろ?だから…自分の感情を、もっと出すんだ」

「……」

今度こそ、一樹は店から出る。

雨は、まだ強く降っている…

 

 

「沙織…」

ガンバルクイナを胸ポケットに入れた一夏も、ざんざん降りの雨の中、歩き回っていた。

彼の歩く場所は沙織との思い出の場所…

「やあ、久しぶりだね織斑」

「…誰だ?」

そんな一夏に話しかける青年…

「あれ?覚えてない?ショックだな〜。僕だよ、藤原修斗」

藤原が名乗ると、一夏の顔が険しくなる。

「藤原…」

藤原の凶暴性を知っている一夏。

一樹を裏でイジメていた元凶…

「実は、君に言わなきゃいけない事があってさ」

「…何だ?」

「ま、コレを見てよ」

 

パチンッッッ!!!!

 

藤原が指を鳴らす。

その隣に、虚ろな目をした沙織が現れた…

「お、まえ…」

「不思議に思わなかったかい?溝呂木が闇の力を得たのはおよそ1年前。この【人形】が死んだのはおよそ2年前だ。闇の力を得る前に溝呂木が殺したって線も無くはないけど、それも不自然だ。何せ溝呂木は、ドイツ軍の教官をしてたんだからね。それは君ご自慢のブリュンヒルデか、あの銀髪のおチビに聞いてるんじゃないか?」

淡々と語る藤原。

一夏は怒りのあまり、口元から血が出る程歯をくいしばっていた。

「よって、溝呂木が()()を殺したと考えるのは不自然だ。なら誰がコレを殺したかなんだけど…不思議な事に、君のすぐ側には【人殺し】と呼ばれる人物がいるんじゃないかな?」

「ッ!?」

藤原の言う通り、溝呂木が沙織を殺したとは考えにくい…

なら誰が沙織を殺したのか。

藤原は一夏の周りに、【人殺し】と呼ばれる人物がいると言う。

それは誰か。

該当する人物は、1人しかいない…

「一樹が…沙織を?」

「と考えるのが自然じゃないかな?自分を慕ってくれていた雪恵さんを殺しかけるような奴だ。おかしくはないと思うけど?」

 

一樹が…沙織を殺した?

でも、アイツは…ウルトラマンで、俺を救ってくれて…

 

それが自作自演だったなら?

 

けど、雪恵が起きた時、アイツは泣いてて…

 

それがただの笑い泣きだったら?

 

嘘だ。

ウソだ。

ウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだ…

 

「君にとって、奴は親友だったんだろうけど…奴に、人としての感性なんて無いさ。あるのは、ただの殺戮衝動だけ」

薄ら笑いを浮かべて、一夏に話す藤原。

一夏は、藤原が薄ら笑いを浮かべている事すら気付いていない。

…自分が、騙されている事に気付いていない。

「…まあ、信じるか信じないかは君の勝手だけどね」

沙織をファウストに変身させ、街を破壊させる藤原。

「さ…おり…」

虚ろな目で、ファウストを追う一夏。

すれ違う藤原の顔が、狂気の笑みを浮かべている事にも気付かず…

「…アハ」

ついに堪えられなくなったのか、藤原は声をあげて嗤う。

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」

端正な顔など、どこにもない。

そこにあるのは、雪恵に対する歪んだ愛。

「もう少しだ…もう少しで、迎えに行くよ雪恵さん…君の居場所は、僕の隣こそ相応しいんだ…クズ2人を片付けたら、すぐに行くからね…アヒャ、アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!」

 

 

「……」

街全体を見渡せる高台から、ファウストが現れた事を視認した一樹。

「……」

ぐっ、と手のひらに力を入れると、覚悟を決める…

「…恨まれるのは、慣れてるしな」

そう呟くと、首のカラーを外してからエボルトラスターを引き抜いた。

 

 

「シュッ!」

『来たか』

ファウストの前に立つウルトラマン。

「フッ!シェアッ‼︎」

ジュネッスにチェンジし、ファウストと対峙する…

『……』

「……」

両者睨み合って動かない。

ただ、雨と雷の音が響くだけだ…

 

ピシャンッ!!!!

 

「シュッ!」

『フンッ!』

落雷を合図に、両者の戦いが始まった…

上段回し蹴り同士がぶつかるのを皮切りに、攻撃と攻撃がぶつかり合う。

「シュアッ!」

『ハァッ!』

掴みかかるのまで同時だったが、ウルトラマンはファウストの突進力を利用し、巴投げを決める。

『グゥッ!?』

背中を強打するファウスト。それでもすぐに起き上がり、ウルトラマンに殴りかかる。

『フンッ!』

しかし、その攻撃のことごとくをウルトラマンは捌く。

「ハッ!」

『グアッ!?』

カウンターで入ったパンチに、ファウストは数歩下がる。

『フンッ!トゥオッ!』

ファウストはウルトラマンに向かって、連続で波動弾を放つ。

「フッ!シュッ!ヘェアッ!!」

ウルトラマンはそれを、全てアームドネクサスで打ち消す。

「フゥゥゥゥゥゥ…ヘェアッ!!」

最後の1発は両手で受け止め、ファウストに投げ返した。

『グゥアァァァァ!!?』

まさか自分の攻撃が返されるとは思ってもいなかっただろう。その波動弾はファウストに直撃した。

 

ピコン、ピコン、ピコン…

 

「グゥッ…」

ここまで有利に戦闘を進めて来たウルトラマンだが、胸元を抑えて苦しむ。

先の戦闘の傷が、まだ治っていないのだ。その状態でここまで圧倒するとは、もはやウルトラマンとファウストの実力差は歴然だった。

『おの…れ…』

立ち上がるファウストを見て、ウルトラマンも何とか姿勢を正し、交差した両腕を高く上げる…

「シュッ!ハアァァァァァァァァ…フンッ!!デェアァァァァァァ!!!!」

『グオォォォォォォォォッ!!?』

ネオ・ラムダスラッシャーがファウストに直撃。

ファウストがそのエネルギーに苦しんでる隙に、トドメの一撃…

「フンッ!フアァァァァァァァァ…デェアァァァァァァ!!!!」

まるで何かの望みを託すように、ゴルドレイ・シュトロームを放つウルトラマン。

『グアァァァァァァァァ!!?!!?』

ファウストは断末魔の叫びを上げて、金色の粒子となって消えていった…

「……」

悲しげに辺りを舞う粒子を見ながら、ウルトラマンは消えていった…

 

 

「…少しの希望でも、信じたいよな。やっぱり」

変身を解いた一樹の周りを、金色の粒子が飛び回っている。一樹がゆっくりとエボルトラスターを掲げると、金色の粒子は全てエボルトラスターに入っていく。

「…とりあえず、学園に戻るか」

粒子を全て回収すると、一樹はIS学園に向かって歩き出した。

 

 

ずぶ濡れのまま専用モノレールに乗ったが、幸い誰にも会う事なく学園に戻ってこれた。

「……」

そして、校舎に入ろうとしたその瞬間______

 

バキッッッ!!!!!!!!

 

______顔面を、()()に思いっきり殴られた。

「(ああ…やっぱり、こうなったか…)」

近付いて来てるのは分かっていた。しかし躱さなかった。躱したら、誰が()の葛藤を受ければ良いのだろう。他の人物にさせる訳にはいかない。こうなってしまった原因のひとつは、自分にある。ならば死なない程度には、()の怒りを自分が受けなければならない…

「…そういう事だろ?()()

口元の血を拭いながら、肩で息をする一夏と、一樹は向き合うのだった…




まだ、この戦いは終わっていません…


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Episode115 怒り-アンガー-

遅くなってしまい、申し訳ありません!

では、どうぞ!!


ザーザー降りの雨の中、IS学園の制服を着た2人の青年が睨み合っている…

いや、それは正しく無い。

片方の青年は虚ろな目で確かに相手を睨んでいるが…もう片方の青年は、もはや相手を見る気力も無さそうだ。

口元から血が流れているのも気にしておらず、白が基調の制服が血で汚れている。

「お、まえが…」

虚ろな目の青年…一夏が相手…一樹に問う。

「?」

「おまえが…沙織を、殺したのか?」

「…()()()()()()()()()って意味なら、な」

 

バギィッッ!!!!

 

答えた一樹を、再びその重い拳で殴る一夏。

「沙織は…人間だった!人間だったんだぞ!!?」

「……」

 

そんなことは…知ってたよ…

 

心の中でそう言う一樹。

雨の中で分かりにくいが、一夏は泣いていた。

泣きながら、一樹を殴り続ける…

「何で…何で沙織を救ってくれなかったんだよ!セリーに山野さんの時みたいに…何で沙織を救ってくれなかったんだよ!?」

一樹の胸倉を掴み、荒々しく振る一夏。

その度に首が悲鳴を上げるのを感じつつも、一樹は何もしない。何も言わない。

「何とか言えよお!!」

再び、打撃音が鳴り響く…

 

 

ダンに乾燥機を貸してもらい、何とか学園に戻ってきた簪。

「門限ギリギリ…何とか間に合って良かった」

急ぎ自分の部屋に向かおうとする簪の耳に、打撃音が届く。

「ッ…何か、あったの?」

気配を極力消しながら、音の響いた所へ向かう簪。

そこで彼女が見たものは…

 

制服が血で汚れている一樹と、両手が血に染まっている一夏の姿だった…

 

「(た、大変!早く人を呼ばないと!)」

自分だけではあの2人を止められない。

なので簪は、この2人を止められるかもしれない人を呼びに走り出す。

 

 

「…何で反撃してこねえんだよ」

「……」

一樹は俯いたまま答えない。

いや、()()()()()()

「…ゴフッ」

一夏の重い拳を、特に防御もせず受けているのだ。

そのため、内臓にまでダメージが行っている…

「それなら…」

一夏は麒麟を展開。ビームサーベルの切っ先を一樹に向ける。

「…この状態なら、()る気になるか?」

 

 

「……」

一樹は首元に手を伸ばす…だが、そこに首飾りは無い。

今、ミオは雪恵に預けているのだ。

「(まあ良いや…こんなくだらない事に、ミオを使う訳にいかねえし)」

私闘でミオを使いたく無い一樹。

それは、ミオを【影】に落としたくないから。汚したくないから。

「(さて…どうするかな)」

とはいえ、流石に生身では麒麟を止められない。

まるで夏休みの時の再現だ。

一樹の体はボロボロで、ISを纏った生徒に狙われている…

違う点は、相手が一夏であることと、一樹が機体を纏う事を待っている事だろうか。

「…どうした?早くミオを呼べよ」

抑揚のない声で、一夏が促してくる。

そんな一夏を見て、一樹は急に人形劇を見てる気分になった。

一夏から発せられている殺気や憎悪は、どこか人形くさく感じる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()程だ…

 

「…あのゲス野郎」

ある考えに至った一樹。

その考えが正しいのならば、恐らく今の一夏は…

 

 

「ハア、ハア、ハア!」

簪は校舎を走り回っていた。

2人を止められる人物を探して…

「おい、更識妹。校舎は走るな」

「あら?簪ちゃんどうしたの?」

何か話し合いをしていたのか、千冬と楯無が一緒にいた。

「先生!一夏と櫻井君が大変なんです!」

ある意味好都合だ。簪は叫ぶ様に千冬に助けを求める。

「…詳しく話せ」

 

 

「「……」」

一樹と一夏は睨み合っていた。

麒麟を完全に展開した一夏はいつでも飛び込める様構え、未だ機体を装備していない一樹は腹部を抑えて荒々しく呼吸している。

「早くしろよ…」

一夏は、早く機体を装備する様一樹に言う。

だが、一樹は…

「(どこだ…どこに埋め込まれてる?)」

光の力を使って、一夏の中に埋め込まれた【闇】を探していた。

そして…

「そこか!」

一夏の腹部に【闇】を見つけた。

そこ目掛け、ブラストショットを連発するが…

 

 

「…やっと気付いたか」

IS学園の対岸で、藤原は一樹と一夏の様子を()()()()

「織斑に埋め込んだ【闇】を撃ち抜こうとしてるようだね…けど、いつもいつもお前の思い通りにはいかないよ」

藤原は、相変わらず狂った笑いを浮かべていた…

 

 

ブラストショットの波動弾は、一夏の前に展開された闇の障壁で受け止められた。

「ッ!?」

驚く一樹に向けて、一夏はビームサーベルを振るってくる。

「クソッ…」

何とか軌道を()()、その斬撃を避ける一樹。

「(ちくしょう!一夏の記憶からISの扱い方を読み取ってやがる!?)」

完全とは言わなくとも、藤原は一夏の記憶を通じてISを操縦していた。

「『()の怒りを知れ!』」

麒麟から放たれる赤黒い波動。

それは、一樹にとって良くない事なのだけは確かだ。

 

 

「織斑先生!大変です!!」

簪から話を聞き、外に飛び出そうとしていた千冬に楯無。

そこに、青ざめた表情の麻耶が駆け寄ってきた。

「…悪いが今急いでいる。要件は手短に頼む」

「は、はい!学園の訓練用ISが、全機無人の状態で動き出しました!」

「「なっ!!?」」

 

 

格納庫から飛び出したIS…それは、全て一夏(藤原)が操っていた。

それぞれにレーザーガンを装備させて、四方八方から一樹を狙う。

「『アハハハハハハハハハハハ!!!!どうしたよクズ!!いつもの様に壊してみろよ!!!!』」

「…好き勝手言いやがって」

未だ生身である一樹。

その鍛え抜かれた脚力でどうにか避けているものの、いつまで避けきれることか…

 

「『つまんないな…あーあ、あのゼットンでも殺そうかな』」

 

「…今何て言った?」

一夏を通じて話す藤原の言葉に、聞き捨てならないものが含まれていた。

目を細め、本気の殺気を一夏越しに藤原へ向ける一樹。

「『ん?何を怒ってるんだい?神である僕が、お前如きクズの怒りを怖がるとでも?』」

「…この世に、神はいない」

神と呼ばれるレベルの超人はいても、この世の全てを知る、神話の様な神はいない。もしいたのなら、この世に不幸事が起きる筈が無い。生物全てが、幸せである筈…それが、一樹の持論だ。

「『あーあー、凡人が…いや、ゴミ屑未満のお前には理解出来ないか。この僕の、神の考えの壮大さが!』」

「いや、違うな。お前は神なんかじゃない」

「『あん?』」

ミオが一樹の手元に戻ってからは、出番の無かったもの…制服の胸ポケットから取り出した黒地の腕時計を、一樹は左手に付ける。

「お前が昔から雪を見る目が特別だったのは知ってた。正直アイツは、女版一夏と言えるくらいに、男子生徒を落としてたからな…」

「『……』」

「殆どの男子は、アイツに想いを告げた…けど、お前は違う。お前は自分から行く事はしない癖に、雪がお前の隣にいて当たり前だと思ってる」

「『……れ』」

「お前は確かに顔も、家柄も、金も持ってる。性格は()()()()()には優しく接してる。けど、雪はお前を【優しい藤原君】としか言わない。しかも苦笑いを浮かべながらな。それは何でか分かるか?」

「『…ま…れ…』」

「それはつまり…お前が、駄々を捏ねるただの子供(ガキ)だって、雪は知ってんだよ」

「『黙れぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』」

周囲に待機させていた訓練機を、一斉に攻撃させてくる。

一樹はそれを前に飛び込んで躱すと、起き上がりと同時に時計の盤面を叩く様に押した。

「『死ねぇぇぇぇ!!!!』」

 

ドォォォォォォォォン!!!!!!!!

 

爆炎が、高く上がった。

だが…

「俺に幾ら挑んでこようが構わねえけどな…雪やセリー、ミオを巻き込む事は許さねえ」

爆炎を越えて現れる、蒼い翼…

 

Ex-アーマー【フリーダム】が、その翼を広げて飛翔する…

 

「お前の様なクソガキは、俺の()()に近付かせねえ!」

『黙れぇぇぇぇ!!!!』

フリーダムを撃ち墜とそうと、レーザーをあちこちから乱射する。

そこにはもう、一夏の声音は無い。

ただの藤原(駄々っ子)が叫んでいるだけだった。

 

 

「はあ…嫌な雨だなあ…」

「ジメジメしてて、気分悪い…」

雪恵とセリー(それと雪恵の胸元にはミオがいる)は、一樹とセリーの部屋(いつもの場所)でだらけていた。

『私はマスターがいないと実体化出来ないから、今日みたいな日は勝ち組♪』

イラっときた雪恵とセリーがした行動とは…

「金庫、金庫」

「ミオは失くしたら大変だから、防音のしっかりした金庫にしまっておかなきゃ」

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!だから私を放置しないで!!』

…とまあ、いつも通りミオが弄られていた。

 

ドンドンドンドンッ!!!!

 

そんな風にだらけていると、扉が強い力で叩かれた。

「え?誰かな?」

「カズキ以外だったら焼く」

『異論は無いよ』

「大有りだよ!!?」

セリーとミオの物騒な言葉にツッコミを入れながら、雪恵は扉を開ける。

「はーい、どなたですかー?」

「雪恵!!大変なの!!!!」

いつになく慌てた簪が駆け込んで来た。

「ど、どうしたの簪ちゃん?」

「い、一夏が櫻井君を殴り続けてるの!それで全専用機が呼ばれてるの!」

「「『なっ…!!?』」」

 

 

雪恵達が管制室に駆け込むと、今学園にいる全専用機持ちが集まっていた。

「田中達も更識妹から事情は聞いた様だな…状況は最悪だ。織斑が正気を失い、ボロボロの櫻井と戦っている…訓練機をビットの様に扱いながらな」

「「「「なっ!!?」」」」

「…どんな手を使ってでも、織斑を止めなければならん。専用機持ちは全員出撃…」

『させるな!一夏に…いや、シャドウに乗っ取られるのがオチだ!!』

千冬の言葉を、一樹が解放回線で割り込んだ。

「かーくん!専用機なら乗っ取られる事は無い筈だよ!」

『普通ならな!けど相手はI()S()()()()()()()()()!言うなればISと闇の巨人を同時に相手してるようなモンなんだよ!!!!』

『何か面白そうな話をしてるね』

通信を乗っ取って現れたのは、フードを深く被った人物…

「…誰だ?」

険しい目をしたラウラが、モニターに映る人物を睨む。

『ああ、外国組みの人たちは初めましてだね。雪恵さんの同級生で将来の伴侶、藤原修斗って言うんだ。君たちにはシャドウって名乗った方が分かりやすいかな』

「「「ッ!!?」」」

フードを取った藤原。藤原を知っている箒に鈴、千冬は身構える。

『ん?お前らなんか興味無いよ。せいぜい織斑を追ってれば良いさ』

藤原はまるで見えてるかの様に、雪恵にその顔を向ける。

 

ゾクッッッ!!!!!!!!

 

「あ、あぁ…」

背筋に悪寒が走り、膝から崩れる雪恵。

「ユキエ!」

『雪恵さん!』

すぐに雪恵を支えるセリーと実体化したミオ。

『すぐにこのクズを片付けて迎えに行くから…待っててね、雪恵さん』

「…クズって、誰の事?」

震えながらも、モニターに映る藤原に聞く雪恵。

『え?正義の味方を気取ってる、雪恵さんの6年という時間を奪ったクズだよ』

藤原は、雪恵達の前で一樹をクズと吐き捨てた。

「かーくんは!クズじゃない!」

「お前如きが、カズキを評価するな!」

『訂正して!マスターを、クズとは言わせない!』

一樹を想う3人の言葉を聞いても、藤原はため息を吐くだけだった。

『そうか…雪恵さんは今、あのクズに洗脳されてるんだっけ。今は分からなくても、その内分かるよ…君の居場所は、僕の隣だってね』

「私は、洗脳なんかされてない!私の好きな人は、櫻井一樹なの!あなたは、大っ嫌い!!!!」

『それもすぐに変わるよ…あのクズが死んじゃえばね』

 

 

レーザーの嵐を何とか躱し続けるフリーダム。

「良い加減目を覚ませ一夏!」

「……」

【闇】を打ち込まれている一夏は、まだ意識を取り戻していない…

藤原の意のままに、リヴァイヴや打鉄からレーザーを撃ち続けている。

「チッ!」

サイコフレームが赤黒く光り、訓練機がフリーダムを囲む。

レーザーの網の隙間を縫うように飛んでそれを避けるが…

 

ミシミシミシミシミシミシッ!!!!

 

一樹の体が…首が、悲鳴をあげていた。

「(あと少し!あと少しだけ保ってくれよ!)」

ビームマグナムの攻撃を避けながら、一樹は訓練機達を撃ち落としていく。コアは撃ち抜かないよう、細心の注意を払いながら…

「(ごめん…こんな止め方しか出来ない俺を、許してくれ…)」

心の中でコア達に謝りながら、迎撃していく。

『隙見っけ』

そんな戦い方をしてたからだろうか。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ッッッ!!?!!?」

想像を絶する痛みが、一樹を襲う…

『アハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!当たった!当たったぞ!!』

フリーダムに乗り換えてからは、対IS戦で被弾は無かった一樹。

その一樹が被弾し、左足を失ったということは…それだけ、一樹が体を痛め、体力を消耗しているということ…

「(左足をやられただけだ!変身してるならともかく、Ex-アーマーならまだ戦える!)」

過去に無い激痛を感じながらも、一樹はビームライフルを撃ち、リヴァイヴを戦闘不能にした…

 

 

「束!奴の居所を教えろ!私直々に相手してくれる!!」

『無駄だよ。篠ノ之束と言えど、僕を見つける事は出来ない。それは溝呂木の件で分かる事じゃないかな?』

愉しそうに言う藤原。千冬は拳を血が出るほど強く握る…

『けど、雪恵さんがこっちに来てくれるなら織斑は解放してあげるけど?どうする雪恵さん?』

 

 

「行くな雪!!」

フリーダムと麒麟の闘いの舞台は、成層圏へと変わっていた。

フルバーストで訓練機を数機破壊するも、まだ不利なのは変わっていない。

『お前は黙ってろよクズ』

「ッ!!?」

何度目かの集中攻撃を必死に避ける一樹だが…

『次はそこ』

利き腕である右腕が、撃ち抜かれた。

あまりの痛みに意識を失いかけるが、何とか耐える。

『まだ粘るか…!良い加減消えちゃえよ!』

更に両肩のビーム砲まで撃ち抜かれ、満身創痍に…

「一夏…テメエも…!」

カッ!と目を見開くと、左手で残ったビームサーベル2本を連結させる。

()()()()を出現させ、麒麟に向かってスラスターを全開にする。

「いい加減目ぇ覚ましやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

レーザーが自身に迫るのも気にせずに突っ込む。

顔部の装甲にレーザーが掠り、PS装甲が剥がれる…

 

 

『無駄だって言ってんのに、分からない奴だな』

一夏の中で、藤原は狂笑を浮かべながら一樹にトドメを刺そうとするが…

 

ガシッ!!

 

『なっ!!?』

藤原の両腕が、誰かに抑え付けられた。

いや、こんな事が出来るのは2()()()()いない…

「…人の体を、好き勝手使ってんじゃねえよ」

『私を扱えるのは、マスターだけです!あなたなんかに、使われてたまるもんですか!!』

一夏とハクが、藤原の両腕を抑え付けていた。

『は、離せ!離せよ!!』

「離せと言われて」

『離す馬鹿はいません!』

 

 

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

金色の刃が、麒麟を貫いた。

辺りを、閃光が包む…

 

 

「かーくん!!?」

「カズキ!!?」

『マスター!!?』

「「「「一夏!!?」」」」

学園からも、その閃光を見ることが出来た。

男子2人をそれぞれ案じる面々。

だが、まだ奴の攻撃は終わっていない…

《ギャオォォォォ!!!!》

新たな怪獣が、学園を襲撃してきた…




次回はもしかしたらかなりのご都合主義が入るかも…


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Episode116 双頭怪獣-パンドン-

お待たせしました!

今回は贅沢にゲストウルトラマン使います!


学園を襲ったのは…かつてセブンが地球防衛をしてた頃、彼が最後に戦った敵…

 

双頭怪獣、パンドン。

 

《ギャオォォォォ!!》

そして、そのパンドンの頭に乗る藤原。

「あのクズ共…どこまでも僕の邪魔をして…ウワアァァァァ!アァァァァァァァァ!!?」

狂った叫びをあげ、頭を抱える藤原。

次に顔を上げた藤原の目は見開かれ、見たもの全てを恐怖に陥れる色を宿していた。

「もう容赦しない…雪恵さん以外の全てを、潰してやる!!!!やれ!パンドン!!!!!」

《ギャオォォォォ!!》

 

 

右腕と左足の無いフリーダムと麒麟は、訓練機のコア達と宇宙空間で呆然と浮いていた。

「(もう意識が…せめて一夏だけでも地球に、学園に戻さねえと…)」

激痛と血を大量に流した事によって、一樹の意識はもう失われる寸前だった。

 

ドックン

 

「(マジかよ…この状態の俺に、まだ戦えって言うのかよ…)」

懐のエボルトラスターが、鼓動を打つ。しかし右腕と左足が無い一樹には、そもそも変身が出来ない。

「(【光の力】をサーベルに込めさしてくれたのは感謝してるよ…お陰で、藤原から一夏を助ける事が出来た…)」

かなりぼやけている視界に、麒麟が映る。

サイコフレームの輝きは失われているが…デストロイモード状態は維持出来ているため、搭乗者保護機能は生きている。

「…なあ一夏、そろそろ起きろよ。寝過ごすぞ…?」

声から力が抜けていく一樹。

そして、意識も…

薄れゆく意識の中、緑色の光球が見えた気がした。

 

 

「生徒はシェルターに急げ!田中以外の専用機持ちは全機出撃!何としてもヤツの進路を変えろ!私も直ぐに行く!」

一夏はおらず、雪恵も情緒不安定。

こんな状態でチェスターを出撃させたところで、たかが知れている。

それならば、まだ各々が使い慣れているISで出た方がマシ…千冬はそう判断した。

 

 

「ブンブン鬱陶しいなあ…」

パンドンを必死に攻撃する専用機持ち達を鬱陶しそうに見る藤原。

「子バエが…ウザいんだよ!!」

ブラックエボルトラスターを引き抜き、シャドウ・デビルに変身。パンドンの周囲の専用機持ちを振り落とそうとする。

「「「「ッ!!?」」」」

パンドンだけでも厄介なのに、シャドウまで現れてしまった…

散開してシャドウの攻撃を避けるが、それによってパンドンとシャドウの進軍を許してしまう…

『フンッ』

《ギャオォォォォ!!》

 

 

宇宙空間に漂っている一樹を、緑の光が包む。

すると一樹の前に、マントを羽織った1人のウルトラ戦士が現れた。

 

一樹君…

 

「(この声…確か)」

 

久々の再会を喜びたいのは山々だが…君はそれどころでは無いな。

 

「(こんな状態ですみません…()()()())」

一樹が【ケンさん】と呼ぶウルトラ戦士こそ、一樹が今まで会ってきたウルトラ戦士を束ねる戦士。宇宙警備隊の大隊長にして、タロウの実父である彼の名はウルトラマンケン。戦士達には大隊長、もしくは【ウルトラの父】と呼ばれている。

 

「すまないついでに、ひとつお願いがあるんですけど…)」

 

…何だね?

 

「(そこにいるヤツら…一夏と、ISコア達を地球に送ってくれませんか?)」

 

君は、どうするつもりなんだね?

 

「(見ての通り…俺はもう戦える体じゃ無いんで…それに、意識もどんどん遠くなっていってる…)」

 

君の帰りを待っている者がいるのに、かね?

 

「(帰りたいですよ?そりゃあ。けど、現実的に考えて無理なものは…)」

 

…君は、私が誰だか忘れたのかね?

 

一樹には、ケンが苦笑しているように感じた。

ケンがあるアイテムを振るう。フリーダムが解除され、一樹の体を光が包み、右腕と左足が戻った。

「…ありがたいですけど、良いんですか?俺なんかに力を使っちゃって」

もうテレパシーを使わず、直接声に出して話す一樹。

 

【なんか】では無い。それに、宇宙警備隊の規則の事を言っているのなら…君が気にし過ぎなだけだ。

 

「…その規則を作った1人がそんな事を言って良いんですか?」

今度は一樹が苦笑する番だった。

 

私たちだって完璧では無いさ。それに…怪我を治したいと思うのに、規則も何も無いだろ?

 

「おっしゃる通りですよ…本当に、ありがとうございます」

 

右腕と左足は治るには治ったが、君の体のダメージ自体が無くなった訳ではない。この戦いが終わったら、ウルトラの星に連れて行く。良いな?

 

「……期間は?」

 

程度によるが、大体1週間と言ったところだろう。

 

「…分かりました。それくらいなら」

ケンの言う通り、一樹の体は治療が必要だ。

だがそれも、やるべき事をやってからの話だ。

懐からエボルトラスターを取り出すと、ケンに挨拶する一樹。

「それじゃあ…行ってきます」

 

ああ…気をつけて行くんだぞ。

 

ケンの言葉に頷くと、一樹はエボルトラスターを引き抜く。

赤い光球が、一夏とISコア達を包むと、地球に高速降下していく。

 

 

専用機持ち達がパンドンに手間取っている隙に、シャドウは学園に迫っていた。

『ハァァァァァ…』

その両手を高く上げてエネルギーを貯める。

狙いは…ほとんどの生徒が避難しているシェルターだ。

「やめてぇぇぇぇ!!!!」

雪恵が無駄だと分かっていても叫ぶ。そして、シャドウがその両手を振り下ろす…

 

振り下ろす直前に、赤い光球がシャドウを突き飛ばした。

 

『グッ!!?』

光が晴れたそこには、膝立ちのウルトラマンがいた。

その右手にはバリアが張られており、一夏やISコア達を保護していた。

「かーくん!!!!」

「カズキ!!!!」

『マスター!!!!』

自らを呼ぶ声に頷くと、一夏とISコアを雪恵達に向かって飛ばす。

「シュッ…」

気絶している一夏が現れると、セリーが直ぐに全員にバリアを貼って保護した。

『またか…またお前かぁぁぁぁ!!』

「フッ!?」

ウルトラマンが現れた事に激昂するシャドウ。上段回し蹴りを連続して放ってくるのを屈んで回避し、大きくバック転。

「フッ!シェアッ‼︎」

ジュネッスにチェンジして、対シャドウ・デビルに備える…

《ギャオォォォォ!!》

「グアァァァァ!!?」

シャドウに集中していたウルトラマンは、パンドンの火球攻撃を背中に喰らってしまう…

『フンッ!』

「グオッ!?」

その隙を逃すシャドウでは無い。

動きが止まっているウルトラマンの腹部に、勢いを乗せた回し蹴りを放つ。

『どうやって腕と脚を治したか知らないが、ダメージまでは消せていないようだな!動きが鈍すぎるぞ!!』

シャドウは勢いよくウルトラマンを蹴り上げると、自らも上昇。動きの鈍いウルトラマンに怒涛の連続蹴りを放つ。

『ハァァァァァ!!!!』

「グッ⁉︎グオッ!?グアァァァァ!!?」

連続蹴りの最後にかかと落としを決め、ウルトラマンを大地に叩きつける。

『デュアッ!!』

「グオッ!!?」

何とか立つウルトラマンを、今度はパンドンがその鋭い嘴でど突く。

《ギャオォォォォ!!》

「グアァァァァ!!?」

 

 

『速報です。現在、IS学園が宇宙怪獣と謎の巨人に襲われています』

何気なくニュースをつけたダンの耳に、とんでもないニュースが入ってきた。

『現在、ウルトラマンが奮戦しておりますが…状況は良くありません。付近の住民は、急ぎ避難を…』

そこまで聞いて、ダンは懐にあるアイテムを入れて駆け出した。




…正直、サブタイ変えた方が良いか悩んでいます。
だってほぼパンドン出てないし。
変えるとしたら【大隊長-ケン-】になるんですけど…
どちらが良いですかね?


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Episode117 恒点観測員-セブン-

お久しぶりです!



…とうとう、彼が


シャドウ・デビルにパンドンという強敵に、未だダメージが抜けていないウルトラマン。

戦力の差は、歴然だった…

『ハァッ!』

「グゥッ!?」

《ギャオッ!》

「グオッ!?」

シャドウのハイキックにパンドンの嘴の刺突攻撃を受け、ウルトラマンの体から火花が散る…

『ハァァァァァ…フンッ!デュアッ!!』

《ギャオォォォォ!》

「グアァァァァ!!?」

シャドウのダークレイ・ジャビロームとパンドンの火球を喰らったウルトラマンが、大地に倒れる…

 

 

学園に繋がるモノレールに着いたダン。

「…やはり動いていないか。ならば」

誰も見ていないのは幸いだった。なんとダンはモノレールの線路の上を走り出した。良い子は決して真似をしてはならないぞ。

 

 

「グゥッ…アアッ…」

 

ピコン、ピコン、ピコン…

 

ボロボロのウルトラマン。それでも必死に立ち上がってシャドウとパンドンを止めようとする…

「もう良い櫻井!もう充分だ!!」

「もうやめてかーくん!!」

その姿を見ていられず、千冬と雪恵が叫ぶ…だが、ウルトラマンはそれでも立ち上がる。

『いい加減消えろ!』

ウルトラマンの首を掴んで持ち上げるシャドウ。そして、シャドウの右手が…

 

ズンッ!!!!!!!!

 

ウルトラマンの…左胸を貫いた。

「グゥッ…」

その瞳から、光が消える…

「「『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』」」

雪恵、セリー、ミオの悲痛な叫びがIS学園に響く…

『ハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!とうとうやったぞ!6年もかかったが、やっとこのゴミ屑をやれた!!!!』

手足をぶらんと下げているウルトラマンから右手を引き抜くと、学園前に放り投げるシャドウ。

『だがまだ足りない!このゴミ屑が存在していたという証拠を全て消さなければ、ゴミ屑を消した事にはならない!』

もう動けないウルトラマンに向けて、シャドウとパンドンはそれぞれ力を貯める。

「……て……」

シャドウのエネルギー球が、パンドンの口の炎が大きくなるのを見ながら、弱々しく呟く雪恵。

「…め……て……」

専用機持ち達が懸命に攻撃するが、ISではシャドウにかすり傷一つ作る事が出来ない。

「やめて……」

専用機持ちの攻撃を全く意に介せず、シャドウはエネルギー球を完成させた。

『これで最後だ!!!!』

「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

 

 

線路の上を走っていたダンの目に、倒れているウルトラマンと、トドメを刺そうとするシャドウとパンドンが入った。

「させるか!」

懐から赤いメガネ状のアイテム…【ウルトラアイ】を取り出し、変身する。

「ジュアッ!」

 

 

『ハァァァァァァァァァ!!!!』

《ギュアァァァァァァァ!!!!》

シャドウとパンドンの攻撃が、倒れているウルトラマンに迫る…

「ジュアッ!!」

しかし、赤い戦士が攻撃とウルトラマンの間に入り、光の壁でシャドウとパンドンの攻撃を受け止めた。

『何!?』

驚くシャドウを他所に、赤い戦士…【ウルトラセブン】はウルトラマンを軽く揺する。しかし、ウルトラマンの反応は無い…それを見たセブンは、拳を固く握りしめる。

『お前、その屑の仲間か?』

シャドウの声かけに、セブンは…

「屑とは、誰のことだ?」

抑揚のないそれは、シャドウを苛立たせた。

『決まってるだろ!?そこで転がってるゴミのこと…』

シャドウの言葉を、セブンは最後まで聞かなかった。振り向きざまに、頭の宇宙ブーメラン【アイスラッガー】を投げる。

シャドウは横に飛び込んでそれを回避。だが、戻ってきたアイスラッガーによって、パンドンの頭から胸の辺りまでバッサリ切られ、パンドンは倒れた。

『何!?パンドンを一撃でだと!?』

頭部にアイスラッガーを戻すと、シャドウに向かって構えるセブン。

「デュッ!」

『…ハッ!』

シャドウもまた、セブンに向かって構える。

シャドウの連続攻撃を、見事に捌くセブン。

「デュアッ!」

『グッ!?』

カウンターのパンチが決まり、(うずくま)るシャドウに、ラリアット。

『グオッ!?』

アイスラッガーを右手に持ち、起き上がったシャドウを連続で斬りつける。

「ジュアッ!!」

『グッ⁉︎グゥッ!?グオッ!!?』

残像が見える程の斬撃に、シャドウは手も足も出ない。

セブンは後方に飛んで距離を取る。両腕をL字に組み、必殺の【ワイドショット】を放った。

「デュアッッッ!!!!!!!!」

『グアァァァァァァァァ!!?』

ワイドショットを喰らっても、まだ健在のシャドウ。だが、ダメージはやはり大きいらしく、立ち上がれない。

『やるな…だが、目的のひとつは果たした。今日はここで退いてやる』

パンドンの死体とともに、シャドウは闇に包まれ消えていった…

 

 

シャドウが完全に消えたところで、セブンはウルトラマンに再び触れる。

しかし、やはり反応は無い。

「……」

悲しげにウルトラマンを見るセブン。ウルトラマンに駆け寄る雪恵達。

 

《セブンよ…》

 

そんなセブンの耳に、声が聞こえた。

「…大隊長、ですか?」

《ああ》

セブンの後ろに現れる緑色の光球。眩しそうに手を顔の前に出す雪恵達。

光が晴れたそこには、真紅のマントを羽織ったケンの姿が…

「彼は、私が光の国へ連れて行く。その間、君がこの星を守るのだ…」

「彼を…光の国へ?」

「そうだ。元々この戦いが終われば光の国へ連れて行くつもりだったが、こんな形になってしまうとは…」

「…分かりました。彼を、お願いします」

ケンは頷くと、今度は雪恵達にテレパシーを送る。

《君が、田中雪恵さんだね?》

「…はい」

涙でぐしゃぐしゃの顔で頷く雪恵。

《大丈夫、彼は助かるよ。1週間、光の国で療養すればね》

「本当ですか!!?」

《ああ》

優しく告げるケン。雪恵はその言葉を聞き、嬉し涙を流す。

「ありがとうございます…ありがとうございます!」

《待ってやってくれ。彼の、帰りを》

「はい!!!!」

今度は笑顔で頷く雪恵。

ケンも頷き返すと、緑色の光球になり、ウルトラマンを取り込んで飛んで行った。




まさかの、一樹出番無し!(いやあるにはあったが)

次話は、光の国でも療養生活を書く(予定)ぞ!!!!

…つまりゲストだらけってことになるので、よろしくお願いします。


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Episode118 治療-セラピー-

一樹以外、全員ゲストという凄い回。

いや、むしろこの場合は一樹がゲストなのか?

とにかく、お楽しみ下さい!


光の国に帰ったケンがまず向かったのは、銀十字軍の本部だった。

「マリー、頼む」

「ええ」

そしてマリー、【ウルトラの母】に左胸に風穴が空いている一樹をそっと預ける。

医療用カプセルの中で、一樹の治療が始まる。

 

バタンッッ!!!!

 

そこに、2人のウルトラマン…1人は以前地球で一樹と共闘したウルトラマンレオだ。そして、もう1人は…

「大隊長!一樹が来てるってのは本当なのか!!?」

青い体に、頭部には2本の宇宙ブーメラン。

彼の名は【ウルトラマンゼロ】

何と、あのセブンの実子である。

「病院では静かにしろ、この馬鹿弟子」

そしてレオの弟子でもある。

 

ゴチンッッッッッッッ!!!!!!!!

 

見事な拳骨を脳天に喰らうゼロ。

「イッテぇぇぇぇ!!?し、師匠!もっと手加減をしてくれよ!」

「静かにと言ったのが分からないのか?もう1発いっておくか?」

「話を戻して大隊長、一樹が来てるってのは本当なのか?」

ゼロ、全力で話を逸らす。

「ああ…そこで治療を受けているよ…」

ケンが指す方向には、未だ左胸に風穴が空いている一樹の姿が…

「ッ!?一樹!!!」

カプセルに駆け寄ろうとするゼロの首根っこを、レオが捕まえる。

「…今は治療中だ。下手に近づくんじゃない」

「…分かったよ」

大人しくなったゼロから手を離すと、レオはケンへと話しかける。

「…彼をこんなにした奴は?」

「闇の巨人だ。その名はシャドウ。そしてその正体は…一樹君の元同級生の、藤原修斗らしい」

「…アイツか」

 

 

これはまだ、レオ=ゲンが地球で一夏の修行を見ていた時の話だ。

一夏の修行場所を探していたゲン。その優れた聴覚が、ある言葉と…暴力の音を捉えた。

 

おい人殺し!何でお前が生きてんだよ!

 

本当、雪恵さんじゃなくてお前が死んじゃえば良かったのに!

 

天罰だよ!天罰!

 

あまりの内容に、ゲンが駆けつけると…無抵抗の一樹を、集団で殴っていた。

「おいおい、そこじゃあまり効果無いだろ。もっとこう、抉る様に殴るんだよ」

リーダーと思われる男子が、両腕を掴まれて動けない一樹の腹部に、思いっきり拳を叩き込んだ。

 

ズンッッッ!!!!!!!!

 

「かはっ…」

それでも、一樹は抵抗しない。

その瞳に光は宿っておらず、ただただ空っぽだった…

「やめないか!!!!」

そんな一樹の姿を見ていられず、ゲンが止めに入る。

「…チッ。行くぞ」

リーダーの言葉に、退散していく少年達。

ゲンが一樹に駆け寄るも、一樹は空っぽな瞳のまま動かなかった。

「…大丈夫か?一樹君」

「……大丈夫です。ありがとうございます」

それだけ返すと、一樹は去っていく。

後に一夏に話を聞くと、一夏は怒りに顔を歪ませてゲンに話した。

 

・そのリーダー格の名前は、藤原修斗だということ。

・学内で一樹を虐めても、むしろヒーロー扱いされること。

・教室ですら、一樹に『気分はどうだ?人殺し』と言ったこと。

・自分も助けようとはしてるが、一樹自身がそれを拒むこと。

 

聞いていて、ゲンも怒りに震えていた。

 

彼が何をした?

彼は大切な女の子を救いたかった。

しかしそれは出来なかった。

それだけでも哀しいことなのに、何故彼をそんなにも攻撃する?

その女の子を目の前で失って、1番辛い彼を何故?

 

元から彼を気にかけていたゲンは、それ以降より一樹を気にかけるようになり、彼の心の支えになろうと努力した。

 

 

「アイツが…闇の力を」

治療を受ける一樹を見ながら、レオは拳を硬く握り締めていた…

 

 

「う、うーん…」

新たな命を与えられた一樹が目を覚まし、最初に見たのは…

「あ、起きましたか?」

爽やかな笑みを見せる青年の姿だった。

「お久しぶりです、一樹さん」

「…久しぶり、()()()。何でわざわざその姿に?」

青年の名は【ヒビノ・ミライ】

光の国にいることからも、彼がウルトラ戦士である事が分かる。

「一樹さんと話すには、こっちの方が良いと思ったからです」

「いや助かるけどさ。面倒じゃないのか?」

「全然平気ですよ。お気になさらず」

「そうか。なら良いんだけど」

硬直がまだ抜けていない一樹がゆっくりと起き上がるのを、ミライが手伝う。

「…いっつ」

「硬直が抜けるには時間がかかりますから、あまり無理しないでください」

「…分かった。ところで、ここどこ?銀十字軍の病室じゃ無さそうだけど」

どこか見た覚えのある部屋だが、思い出せない。

「あ、ここはゼロの部屋ですよ。以前一樹さんが光の国にいた時、ここで寝泊まりしてたとの事ですが?」

「あー。そう言えばそうだったっけ。もう何年も前だから覚えてなかったわ」

そんな話をしていたら、ゲンが入ってきた。

「ゲンさん…」

「…起きたようだな」

「ご心配おかけしました…」

「全くだ。任務がひと段落ついて光の国に戻って来たら、一樹君が治療を受けていると聞いて気が気じゃなかったぞ。動けるか?」

「肩を借りれば、何とか…」

「ならそのままで良い。移動するぞ」

「…へ?」

「ミライ」

きょとんとする一樹。ゲンは隣にいるミライに視線を送ると、ミライは笑顔で頷く。

左腕に【メビウスブレス】を出現させると、高く掲げた。

「メビウースッ!」

ミライは【ウルトラマンメビウス】の姿に戻ると、そっと一樹を持ち上げる。

「…何か、悪いなメビウス」

姿が変わったため、本名で呼ぶ一樹。

いつの間にか、ゲンもレオに戻っていた。

「よし、では行くか。一樹君のリハビリへ!」

 

 

リハビリ先には、凄まじい面々が揃っていた。

ジャックにAにタロウに80にゼロ…

「よっしゃ、順番にツッコミ入れるぞ。仕事どうしたマント持ち!!【ハヤタ】さんとダンさん以外全員集合じゃねえか!矢的さんにゼロもだ!あんたらも暇じゃねえだろうがぁ!!」

レオはまだ分かる。

地球にいた頃、スポーツセンターの職員もやっていたので、リハビリに関しての知識もあるだろう。

メビウスもここまで運んでくれたことから、たまたま空いていたと考えられる。

しかし、他の面々は違う。

光の国でも、トップクラスの忙しさを誇る彼らが、1人のリハビリに付き合うなど考えられない。

「何、たまには元生徒との交流もせねばな」⇦80

「俺だけじゃないでしょうが!矢的先生の受け持った生徒は!」⇦一樹

「これも訓練の一環だからな」⇦タロウ

「いやタロウさんは新しい戦士育てなきゃいけないでしょうが!」⇦一樹

「丁度任務から帰ってきたんだ」⇦A

「まずケンさんかゾフィーさんに報告しに行ってください」⇦一樹

「今、丁度休みでな」⇦ジャック

「嘘つくならもっとマシな嘘ついてくださいよ」⇦一樹

それぞれにツッコミを入れる一樹に、それを律儀に待つ戦士達。そして、最後はゼロだ。

「おいおい、久しぶりに会って早々それかよ。他にもあんだろ?」

「部屋貸してくれてありがとう馬鹿(ゼロ)

「おいコラ!今人の名前を変なルビにしなかったか!?」

「そんなことはねえよ馬鹿」

「もはや隠す気すらねえだと!?」

ゼロと一樹の会話を楽しそうに聞く面々。

この2人は、いつだって賑やかだ。

「よし、再会も済んだところで、一樹君のリハビリを始めるぞ」

レオの一言に一樹は頷くと、エボルトラスターを引き抜いた。

 

 

「まず、固まってる筋肉をほぐすところから始めよう。メビウス、軽く相手をしてくれ」

「はい!」

ウルトラマンと対峙するメビウス。

「…悪い、頼むな」

「いえ!正直久々に一樹さんと模擬戦が出来てワクワクしています!」

「…模擬戦になるのか?これ」

確かに、以前光の国にいた頃はメビウスの相手をしていた事もあるが…今の自分では話にならないだろう、とウルトラマンは判断する。

「危なくなったら俺達が止めるからな。では、始め!!」

レオの掛け声で、模擬戦が始まった。

 

 

それから、1週間後…

「デェアァァァァァァ!!」

「ウルトラゼロキィィック!!」

ジュネッス形態のウルトラマンのシュトローム・ストライクとゼロのウルトラゼロキックがぶつかり合う。

この1週間でウルトラマン=一樹の体は全快。流石は光の国の医療である。

今はレオのアドバイスの元、シュトローム・ストライクの完成を目指していた。

そして…

「うあっ!?」

なんとゼロのウルトラゼロキックすら破る程の技となった。

「流石だな一樹君。3日で習得するとは」

「技の原理は知ってて、レオさんのも見たことがあるので…完成具合ではゼロにも負けてますよ。まだエネルギー効率が上手くいってないですし」

「当たり前だ!たった3日でこの技習得されたら俺のメンツ丸潰れだ!!」

ゼロのツッコミをスルーして、ウルトラマンから一樹の姿に戻る。

「くぅー!さて、レオさんに教えてもらえたし、そろそろ帰るかな。もう1週間経つし」

「ん?地球を出てからか?」

「あ?そうだけど」

ゼロの言葉に、一樹が首を傾げる。

続く言葉に、愕然とするとは思いもせずに…

「お前が地球を出てから、もう3週間は経ってる筈だぞ?」

「……何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?!!?!!?」

絶叫する一樹。一樹が目を覚ましてからは、確かに1週間なのに…

「まず、地球から光の国(ここ)に来るまでに実時間が1週間かかってるだろ?」

衝撃、まさかの着いた時点で1週間経っていた。

「いや待てよ!体感ではそんなに経ってねえぞ!!?」

「そりゃあ時空間移動してるからだろ…むしろ、300万光年離れてる光の国と地球が片道1週間ってかなり早いと思うけどな」

一樹の耳には、ゼロの言葉が途中までしか入っていない。

 

以前光の国にいた頃は、あまりにも長居し過ぎていた(ゼロとの生活や、戦士達との交流が心地よかった)ので、日付の感覚が無かった。

移動に1週間掛かる…と言う事は、今から帰っても4週間、つまりは1ヶ月経っているという…おろ?

 

「…なあゼロ。移動に1週間掛かるのは分かった。けど、それだとしても今から帰れば3週間じゃないのか?」

「お前が光の国に来てから、目が覚めるまでに更に1週間経ってたんだよ」

「俺そんなに寝てたのか!!?早く帰らねえと!!!!」

そうと分かればグズグズしていられない。何故なら…いつもの3人(特に雪恵)が愚図る未来が簡単に見えるから。

一樹はすぐにエボルトラスターを取り出す。

引き抜く前に、笑顔でゼロと向き合う。

「…ゼロ、久しぶりに会えて楽しかったぜ?またはしゃごうな」

「…いつでも来い。あの部屋は空けとくからよ」

一樹は頷くと、今度はレオに深く頭を下げた。

「…1週間、俺のリハビリに付き合ってくれてありがとうございました」

「何、気にするな。俺も楽しかったからな。またいつでも来てくれ」

「はい…出来れば全員に挨拶したいのですが、時間が無いんで…もう、行きます」

「今度は、帰省するつもりで来いよ。俺達はいつでも大歓迎だからな!」

「…ゼロ、お前はやっぱり馬鹿だ」

「あぁ!?何でだよ!!?」

「…レオさんの前で、【帰省】なんて言葉使うんじゃねえよ」

「あ…」

レオの故郷…獅子座L77星は、もう無い…

「大丈夫だ一樹君。今の俺には、大事な【故郷(ふるさと)】があるからな」

それが指す星は、ひとつしかない…

「…たまには、寄って来てください。あなたの故郷に…」

「うむ」

レオの返事を聞くと、一樹はエボルトラスターを引き抜き、変身。

時空間移動のエネルギーホールを作る。

「皆さんに、よろしくお伝えください」

そうレオに伝えると、エネルギーホールへと入って行った。

帰るべき場所に、帰るために。




1週間という期間は、自分の都合ですので、あまり深く考えないで下さいね?


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Episode119 帰還-リターン-

頑張ったぞ!


その分長いぞ!

お楽しみください!


一樹が光の国に行って早数週間。雪恵の顔が、日に日に暗くなっている。

「ユキエ。今カズキが行ってる場所はとても遠いから、移動に時間がかかってるんだよ」

「でも…あの人は1週間って言ってたもん…」

『治療が1週間って言ってたから…』

セリーやミオが懸命に励ますも、効果は薄い。

それが分かっているから、一夏達も何も言えない。

「…田中。辛いかもしれないが、今は授業をしっかり受けてくれ。テストも近いしな」

「…はい」

 

 

一樹がいない理由を知らない簪は、クラスメイトとの間に距離を感じていた。

元々人見知りだというのもあり、しかも後からこのクラスに入ったのである程度は仕方ないのだが…

「(でも…鈴も事情を知ってるみたいだから、何も知らないのは私だけみたい…)」

そう、簪は一樹の正体を知らない。

それにチェスターには2度乗ったが、その時の一樹は学園から追い出されていた。だから、あの3人の様な誤解も生まれようが無かったのだ。

「(みんな、何を隠してるんだろ…櫻井君の噂の中に、答えがあるのかな…?)」

IS学園はほぼ女子校だ。

そのため、異常な速さで情報は女子全体に回っている…基本的には。

現在、簪が知っている一樹関係の噂は…

 

・護衛役の仕事をサボっている⇦一樹の性格上、それはありえないと簪は断言出来る。

 

・織斑一夏と櫻井一樹は()()付き合い⇦そんなことになっていたら雪恵達が泣いている。

 

・実は三股かけている⇦一夏じゃあるまいし、と簪は一笑に付す。

 

「(ダメ…碌な噂流れてない…)」

自分の持つ情報だけでは足りないと、簪は判断。そんな簪が取った手は…

 

 

「で、この束さんを尋ねて来たと?」

「はい…」

簪が尋ねたのは、束だった…

「ふうん…何でかずくんの事を聞きに来たかは聞かないよ。興味ないからね」

多少改善されたとはいえ、相変わらず身内と認めた人物以外には冷たい束。

そんな束に、簪は震えるほど緊張しながら話す。

「…篠ノ之博士が雪恵達の次くらいには、櫻井君にとって【心強い味方】で、色々知ってると思ったから…」

「興味ないって言ったよね?何話始めてるの?」

束の冷たい目に耐えながら、簪は話し続ける。

「…そんな博士が、櫻井君の立場が悪くなるような話はしないと思うから」

「…はあ」

震えながらも引く様子を見せない簪にため息をつく束。

「…そうだね。束さんはかずくんの立場が悪くなるような話はしない。けど、それ=真実とはならないと思うんだけど?」

「…それは、私が判断する。入学してからの短い付き合いでも、櫻井君が学園で噂されてるような人じゃないことくらい分かる。あんなに友人の一夏に悪意が向かないように努力してる姿を見てれば、それくらい分かる」

束がチラリと簪の眼を見ると、簪の目には、どんな真実でも受け入れる覚悟のある眼をしていた。

「…何が知りたいんだっけ?」

「櫻井君のことで…私以外の1組の人が知ってることを」

「ふうん…全部話してあげても良いけど、それは束さんが面倒だからやらない」

「…え?」

話してもらえると思ってた簪は、束の言葉に愕然とする。

「束さんが言えることは…あなたは既に、知ってる。けれど、その可能性を考えてないってことくらいかな」

話は終わりとばかりに、束は簪に背を向ける。

残された簪は、しばらく呆然としていたのだった。

 

 

「かーくん…」

雪恵の手にあるのは、壊れて使い物にならなくなった黒い腕時計。雪恵には合わない黒地のそれは、一樹の相棒だった【フリーダム】の待機形態だ。

救出された一夏の手に握られていたそれは、成層圏外での戦いの激しさを表していた。

「…帰ってくるよね、かーくん」

夕方の屋上で、雪恵は1人膝を抱えるのだった。

 

 

「……」

膝を抱える雪恵を、ドアの隙間から辛そうに見る一夏。

「ごめん、雪恵…」

自分が藤原に操られなければ、一樹があそこまでダメージを受けることはなかった。

その考えばかりが、一夏の頭に浮かぶ。

「…謝るくらいなら、今のユキエに必要以上に関わるな」

初めて会った頃のような、冷たい眼で一夏を睨むセリー。

「……」

そして、何も言えない一夏。

「今ユキエが欲しいのはお前の謝罪なんてちっぽけなものじゃない。ユキエが欲しいのはカズキの存在そのものなんだ。お前はいつものように、あの女達とでも遊んでろ」

「…こんな状況で、遊んでなんかいられるかよ」

小さくそれだけ言う一夏。

 

ガンッッッッ!!!!!!!!

 

一瞬だった。セリーが一夏の胸倉を掴んで壁に叩きつけたのは。

「がっ…」

「いい加減にしろよ馬鹿!セブン達がいたから良かったものの、そうでなかったらカズキは死んだままだったんだ!お前たち人間に何が出来る!援護が限界なのに、その援護すらやれなかったお前が、今のユキエに近づくな‼︎」

荒々しく一夏を突き飛ばすと、セリーは肩で息をしながら部屋に戻っていった。

 

 

簪は落ち着いて考えるためと、気分転換のために【サン・アロハ】に来ていた。

「(ここの雰囲気は落ち着くし…何より、櫻井君があんな子供っぽい顔で寝れる場所って貴重だろうから)」

「何か考え事かな?」

注文を持ってきたダンが聞いてくる。

このチャンスを逃す簪ではない。

「あの…櫻井君とは、どんな関係何ですか?」

「一樹君と?」

「ええ…あの櫻井君が、安心した顔で寝れる場所は、少ないと思うので」

「…何故彼のことを知ろうとしてるのか、聞かせてもらえるかな?」

「…簡単に言うと、私だけ彼のことを知らないからです」

現クラスメイトは自分以外全員彼のことを知っているのに…

以前までの簪なら、気にしなかったことだろう。

そんな簪がここまでするのは…

「櫻井君には、色々助けられたので…」

打鉄弐式の完成だけではない。

姉の楯無との和解にも、一樹(と雪恵)が動いてくれていた。

そんな一樹が、何か問題を抱えているのだとしたら…簪も、協力したい。

その旨をダンに伝えるも…

「彼は、『その気持ちだけで充分だぜ』と、あの微笑みを見せながら言うのだろうな…」

ダンも、苦笑を浮かべるだけだった。

確かに簪もそれが思い浮かぶ。

自分の事より、一夏たち…何よりも、雪恵の事を優先する一樹の姿が。

けどそれは、簪の望む答えでは無い。

「それでも、知りたいんです。櫻井君が、今どんな問題を抱えているのか」

「…私から言える事は」

ダンの言葉を聞き漏らすまいと、簪は姿勢を正す。

「君は既に、彼の秘密を()()いる」

だが、ダンの言葉は、束の言葉とほぼ同じだった。

「…」

「納得出来ないという顔だね…」

「それは、まあ…」

「けど、それが事実なんだ。君があの学園にいる以上、彼の秘密を何度も見ている筈なんだ」

束もダンも口を揃えて言うのは、【一樹の秘密を既に見て知っている筈】ということ。

それ以上ここで知る事は出来ないと分かった簪は会計を済ませると、一礼して店から出て行った。

 

 

「傷は癒えた…さて、あんだけ斬ってくれた礼をしに行かなきゃ」

闇の中で、悪魔…藤原修斗が動き出す。

 

 

一樹が光の国に行ってから、もうすぐ1ヶ月経つ。

「_____で、あるからして」

千冬の授業だと言うのに…雪恵はただただ、手元の黒腕時計を見つめるだけだった。

「(かーくん…帰ってくるよね?)」

雪恵の目は、ここ2週間で真っ赤になっていた。

クラスメイトもそんな雪恵にかける言葉が見つからず、見守ることしか出来ない。

そんな時だった。

 

《ギャオォォォォ!!!!》

 

藤原達が、攻めて来たのは。

 

 

「さあて、生まれ変わったパンドンの力を見せてあげるよ」

生まれ変わったパンドンは首が左右に分かれ、二方向からの攻撃にも対応出来る様になっていた。

その名も、【キングパンドン】

そのキングパンドンの右の頭には、藤原が乗っていた。

「さあ…来いよ。斬られた礼をしてやるからさぁ!」

 

 

その声が届いたのだろうか、ダンはウルトラアイを取り出した。

「一樹君のいない間は、守ってみせるさ!」

決意を固め、ウルトラアイを装着する。

「デュアッ‼︎」

 

 

IS学園に飛んで来たセブン。

学園を背に、キングパンドンと対峙する。

「デュッ!」

だが、セブンが相手をするのはまともな敵では無い。

「来た来た!待ってたぞ‼︎」

藤原は歓喜の声を上げ、ダークエボルトラスターを引き抜いた。

『フッ!』

《ギャオォォォォ‼︎》

登場と同時に波動弾を撃つシャドウ。それに合わせて、キングパンドンも2つの頭から火球を放ってきた。

「ジュッ!」

それをウルトラシールドで受け止めるセブン。

戦いが、始まった。

『ハアッ!』

マッハムーブで近付いてきたシャドウが右ストレートを放ってくる。

セブンはそれを払い落として左ニーキックをシャドウの腹部に決める。

「ジュアッ!」

『グッ!?』

うずくまるシャドウの頭を抑え、背後から近付いてきたキングパンドンに左後ろ回し蹴り。

「デュアッ!」

《ギャオッ!?》

1対2という不利な状況でも、決して引かないセブン。流石は幾多もの死線を潜り抜けている戦士だ。

『クソッ!ならば…』

セブンがキングパンドンの相手をしてる隙に、シャドウは学園目掛けてダークレイ・ジャビロームを放った。

「フッ!?」

それに気づいたセブンが手を伸ばすも、間に合わない…!

 

 

周りが避難して、誰もいない 1年1組の教室。

「ユキエ!早く行こう!?」

『雪恵さん!早く‼︎』

いや…動かない雪恵に、そんな雪恵を必死に説得するセリーとミオがいた。

「…2人は行って。私はここにいるから」

「『何で!?』」

「ここにいれば…かーくんを感じられるから」

「カズキは帰ってくるんだよ!?それなのにユキエがいなくなったら「じゃあいつ戻ってくるのさ!!!?」ッ…」

ずっと堪えていた雪恵の激情に、セリーもミオも黙る。

「結局かーくんは死んじゃったのかもしれない!いくら光の国の医療が凄くても、死んだ人は治せなかったら!!!?」

「……」

『雪恵さん…』

「もうやだよぉ…かーくんのいない世界なんて、もうやだよぉ…」

小さな子供の様に膝を抱える雪恵。

それでも説得しようとするセリーの目に、シャドウの攻撃が…

「ッ!!!?ユキエ!!!!」

セリーが前に出て、苦し紛れのバリアを貼る…

 

人を6年も待たせておきながら、自分はそれかよ。もう少し頑張れよオイ。

 

そんな声が3人の耳に入った瞬間、赤い光球がシャドウの攻撃を弾いた。

『なっ!?』

驚くセブンにシャドウ。

赤い光球はシャドウの上空で止まり_____

「デェアァァァァ!!!!」

『グッ!!!?』

_____アンファンス状態のウルトラマンが現れ、シャドウに飛び蹴りを喰らわせた。

飛び蹴りをまともに喰らったシャドウは大地に倒れ、ウルトラマンは軟着陸。力強く立ち上がると、ジュネッスにチェンジする。

「フッ!シェアッ‼︎」

 

 

「かーくん…?」

ウルトラマンの背中を見上げて、もう出ないと思っていた涙が出てくる雪恵。

「かーくん、だよね…帰って、来れたんだよね…?」

既にその声は涙声だ。

そんな雪恵の声に頷くウルトラマン。

「(大丈夫だから…雪は安全な場所に行ってくれ。セリー達と一緒に)」

テレパシーで優しく告げるウルトラマンに、大泣きしながら頷く雪恵。同じく涙を流すセリーに連れられて、シェルターに移動していく。

『ふざけるな…何生き返ってんだよお前ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!』

「シュッ!」

激昂したシャドウとウルトラマンが同時に駆け出す。

「フッ!」

『ハアッ!』

ウルトラマンの空中前転、シャドウの空中側転がすれ違う。

両者は同時に軟着陸し、一瞬睨み合う。

殴りかかってくるシャドウを最小の動きで避けると、ガラ空きの背中に回し蹴りを放つ。

「シェアッ‼︎」

『グゥッ!?』

前のめりに倒れるシャドウ。シャドウが倒れてる隙に、簡易的にエネルギーを溜めたゴルドレイ・シュトロームをセブンの背後を狙うキングパンドンに向かって撃つ。

「フゥゥゥ…デェアッ‼︎」

《ギャオッ!!!?》

流石に撃破まではいかなかったが、キングパンドンを怯ませる事は出来た。

「ッ!?後ろだ!!」

「フッ!?」

『デュアッ!』

セブンの言葉に、ウルトラマンが後ろを見ると、起き上がったシャドウが上段回し蹴りを放ってきた。すぐさま屈んでその攻撃を避けると、カウンターのフックパンチを喰らわせる。

「シェアッ!」

『グオッ!?』

 

 

そして、セブンとキングパンドンも激闘を繰り広げる。

キングパンドンの双頭から放たれる熱線を、大きく飛び上がって回避するセブン。その勢いのままキングパンドンに飛び膝蹴りを喰らわせる。

「デュアッ!」

《ギャオッ!?》

マウントポジションを取り、キングパンドンの動きを封じながら手刀を連続で叩き込むセブン。

 

 

シャドウの中段回し蹴りを左腕と左脚で受け止め、続けて放たれた左ストレートパンチの腕を掴んで一本背負いを決める。

「ハァッ‼︎」

『グッ!?』

受け身も取れずに背中を強打したシャドウ。それでも執念で起き上がるシャドウに、ウルトラマンの連続回し蹴りが決まる。

「シュッ!ハァッ!!」

『グアッ!?』

まさに手も足も出ないシャドウ。

これが、ウルトラマン=櫻井一樹とシャドウ=藤原修斗の実力の差だ。

『何故だ…何故攻撃が当たらない!!!?』

シャドウ・デビルに進化してから今まで、ここまで一方的にはやられていなかったシャドウ。だがそれは、常にウルトラマンの体がボロボロの時を狙っていたからだ。傷が完治し、体力も充分な今、ウルトラマンが負ける筈が無い。だが、当然ウルトラマンはシャドウにそれを教えるつもりは無い。

「シュッ!!」

ウルトラマンは高く飛び上がると完成した新技、シュトローム・ストライクを放った。

「デェアァァァァ!!!!」

『グアァァァァ!!!?』

シャドウの体から火花が散り、吹き飛ばされた。

『ふざけるな…ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!』

激昂したシャドウは飛び上がると、空中からダーククラスターを放ってきた。

『ハァァァァァァァ…デュアッ!!』

その散弾が、ウルトラマン達目掛けて飛んでくる。

「フッ、シェアッ!!」

それを、ウルトラマンはラムダ・スラッシャーで全て迎撃するという離れ業を見せる。その影響で爆炎があちこちで起こり、それに紛れてシャドウが突進してくる。

『ハァッ!!!!』

それを迎撃するためにウルトラマンはその場で空中前転、かかと落としでシャドウを叩き落とした。

「シェアッ!」

『グゥッ!?』

 

 

打鉄弐式を展開して一般生徒の避難を見守っていた簪に、一夏に護衛されながら束が近づいてきた。

「…あなたはかずくんの秘密を知りたいと言ってたね?」

「…はい」

「なら、まずはコレでウルトラマンを援護して」

そう言って、束からIS専用バズーカを渡される簪。

「話が見えないんですけど…」

「それは近いうち分かるよ。自然とね。けど、それも生きてればの話。まずは生き残らなきゃ。そのためにも、ウルトラマンの援護をする。簡単でしょ?」

「…分かりました」

束からバズーカを受け取り、打鉄弐式とリンクさせる。

ターゲットマーカーで、シャドウのコアゲージを狙う。

「そのバズーカ、1発分しか入ってないから外さないでね」

「…了解」

フラフラのシャドウ目掛けて、簪はトリガーを引いた。

 

 

バズーカから放たれたミサイルは、見事シャドウに命中した。

『グゥッ!!!?』

全身を走るエネルギーに、シャドウは苦しむ。

 

 

「ソアッグ鉱石のエネルギーとウルティメイトバニッシャーのエネルギーを混ぜ合わせたキメラミサイルだよ。どう?効くでしょう?いっくんとかずくんが受けた痛み、その身で味わえ」

底冷えする程冷たい声で告げる束。

そんな束の隣で、興奮気味の簪が叫ぶ。

「ウルトラマン!今だよ!!!!」

 

 

簪の叫びを合図に、ウルトラマンは両腕にエネルギーを溜める。

「フッ!シュッ‼︎キュアァァァァァァァァ…フンッ!ディヤァァァァァァァァ!!!!」

放たれたオーバーレイ・シュトロームはシャドウに命中。

そのエネルギーに苦しみながらシャドウ…藤原は叫ぶ。

『これで勝ったと思うな…僕は必ず、お前を殺す!どんな手を使ってでもな!!!!』

「…シュッ!!!!」

光線の出力を上げるウルトラマン。そして…

『グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!?!!!?』

断末魔の叫びを上げ、シャドウは弾けるように消えた。

だが、まだ戦いは終わっていない。

ウルトラマンはセブンとキングパンドンの位置を把握すると、メタ・フィールドを展開する。

「シュッ!フアァァァァァァァァ…フッ!デェアァァァァ!!!!」

光のドームが形成され、戦いの場をメタ・フィールドへと移す。

 

 

光のドームが形成されていくのを見た一夏が、麒麟を纏ってドームに入る。

それに、別の場所で避難誘導をしていた箒達も各々の機体を纏って続く。

当然雪恵もアストレイ・ゼロを纏い、セリーを抱えて行こうとする。だが、その前に…

「簪ちゃんも、一緒に行こ?」

簪に声をかける事も忘れない。

「…うん!」

 

 

「デュッ!」

「ヘェアッ!」

屈んだセブンの背中に手を付き、キングパンドンに飛び蹴りを放つウルトラマン。

《ギャッ…》

肺の部分に蹴りが入ったのか、掠れた声が出るキングパンドン。

「「デェアッ!!」」

《ギャオッ!?》

その隙を逃す2人では無い。

ウルトラマンは左回し蹴り、セブンは右回し蹴りでキングパンドンを攻撃する。その威力に、キングパンドンの体から火花が散る。

数歩下がると、キングパンドンはその双頭から火球を連続で放ってきた。

《ギャオォォォォ!!》

それを捌こうと身構える2人だが、一夏達の攻撃が火球を打ち消した。

「これくらいなら、ISでも出来る!」

更に雪恵がランチャーストライカーに換装、火球を続けて放とうとするキングパンドンの右頭の口にアグニを撃つ。

「させないよ!!!!」

セリーも念動力で飛び、手から出した1兆度の火球をキングパンドンの左頭の目に放り投げる。

「…喰らえ」

《ギャオォォォォ!!!?!!!?》

雪恵、セリーの攻撃に怯むキングパンドン。

そんなキングパンドンの各部に、簪は視線マルチロックオン。

「…山嵐、行って!!」

打鉄弐式から放たれる大量のミサイルを受け、キングパンドンの各部から火花が散る。

《ギャオォォォォォォォォ!!!?!!!?》

専用機の連続攻撃を受け、キングパンドンは膝をついた。

「今だ!!!!!!!!」

一夏が叫ぶと、それぞれの最強武装をチャージする。

一夏はビームマグナム、箒は空裂、セシリアはスターライトMK-Ⅱ、鈴は衝撃砲、シャルロットはI.W.S.Pのレールガン、ラウラはレールカノン、簪は荷電粒子砲、そして雪恵のアグニ、セリーの火球…

「フッ!シュッ‼︎フアァァァァ…フンッ!デェアァァァァ!!!!」

「デュアッ!!!!」

更にウルトラマンのオーバーレイ・シュトロームにセブンのワイドショットが放たれ…

《ギャオォォォォォォォォ!!!?!!!?》

キングパンドンは断末魔の叫びを上げ、爆散した。

一夏達はそれぞれ2人の巨人に敬礼。

2人の巨人はそれに頷いて返す。

「シュッ…」

ウルトラマンはメタ・フィールドを解除しながら、セブンは両手を胸の前で組んで消えていった…

 

 

「傷は治ったようだな」

「ええ、おかげさまで」

変身を解いた一樹とダンは、学園の対岸にいた。

「まさか1ヶ月もかかるとは思いませんでしたけど、久々に体が軽いです」

「…だが」

軽く跳ぶ一樹に、ダンは真剣な表情で話す。

「体の傷は治っても、君が長年受けてきた心の傷は治っていない。その事を、決して忘れるなよ」

「…大丈夫です。何せ_____

 

 

ダンが光の国に帰るのを見送ってから、一樹はモノレールでIS学園に戻ってきた。

その瞬間…

 

ドサッ!!

 

「おろ!?」

いきなり何かが落ちて来て、流石の一樹も踏ん張れず地面に潰される。

こんな事が出来るのを、一樹は1人しか知らない…

「あにすんだよセリッ!」

一樹の言葉は、最後まで続かなかった。

上半身を起こした瞬間、強く抱きしめられたからだ。

セリーの可能性も無くは無いが、何よりも…

「ゔぇぇぇぇぇぇん!!!!!!!!」

彼女の方が先だろう。

この1ヶ月、堪えに堪えた彼女こそが。

「…なんつう泣き方だよ、雪」

「だっで、だっでぇぇぇぇぇぇ!!!!」

一樹に抱きついて大泣きする雪恵。

そんな雪恵の頭を、苦笑しながら撫でる一樹。

「ずっど、死んじゃったと思ってたんだからぁぁぁぁ!!!!」

「…心配かけて悪かった」

「かーくんの…かーくんの…かーくんのバカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

「…まあ、今回は言われてもしょうがねえな。1ヶ月分全部吐き出せ。全部受け止めるから」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

雪恵が泣き止むまでずっと、一樹は優しくその背中をさすっていた。

数分後、今だにぐすんぐすん言いながら一樹から離れようとしない雪恵。

「…まだ、許してないんだから」

「…そうかい」

「うん。だから…セリーちゃん達!!!!」

 

ドサッ!!

 

「おろろ!?」

またもや上から落ちてきた何かに潰される一樹。

それは勿論…

「ガズギィィィィィィィィ!!!!!!!!」

『マズダァァァァァァァァ!!!!!!!!』

この1ヶ月、雪恵と一緒に耐えていたセリーが剣の首飾り(ミオ)と共に落ちてきた。

「…お前ら、実は楽しんでねえか?」

無論そんな事は無く、一樹は1時間程、雪恵にセリー、それと実体化したミオに泣きつかれ続けた。

 

 

「…重くは勿論無いけど、動きにくい…」

泣き疲れた3人は一樹に引っ付いたまま寝てしまった。

右手に雪恵、左手にセリー、そして背中にミオ。何故か一樹でも振りほどけない程の力(人間の強さを再認識させられた)で抱きつかれていた。

その状態で、とりあえず部屋に向かう一樹。

「…え…り…」

「おろ?」

右手で抱えている雪恵の方から声が聞こえ、一樹は一旦止まる。

しかし、雪恵は幸せそうな顔で寝ている。

「…寝言か」

再び歩き出す一樹。

そして、今度ははっきり聞こえた。

 

おかえり、かーくん。

 

「…ただいま」

歩調を心なしか遅くして、一樹は3人を運ぶ。

その顔は、とても明るかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____今の俺には、心を癒してくれる最高の人がいますから。




みなさんが、少しでも感動していただければ嬉しいです。


ちなみに、まだ最終回は程遠いので。

まだまだ【人と光の“絆”】をよろしくお願いします!


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Episode120 敵討ち-リベンジ-

10巻入るぜ!

今回は少し長めだ!

それと後書きにお知らせがあるのでよろしくです。



久しぶりにこの作品のゲスキャラ代表、藤原君は出ないっす。


「ふっ!」

「しゅっ!」

IS学園の修学旅行が近付いてきた今日この頃、剣道場では一樹と一夏が模擬戦をしていた。

2人とも防具は付けておらず、身軽な状態だ。

一樹は愛刀の逆刃刀、一夏はわざわざ作った模擬刀だ。

一樹は飛天御剣流、一夏はかつて習っていた篠ノ之流の剣術を駆使して戦っている。

先程から剣道場には、金属と金属がぶつかり合う音が響いている。

すると…

「こらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

道場の扉をバァンッと開けて怒鳴る女子が…

「かーくんも織斑君もやめなさぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!!!!」

雪恵の声が、剣道場に響いた。

 

 

『はぁい皆さん♪生徒会からのお知らせでーす。みんなも知ってると思うけど、そろそろ修学旅行の季節よね?でも最近物騒…クスン。ま、そういう訳で!今度全専用機持ちで視察に行ってきまーす!』

「いい加減にしろこのクソアマぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

あまりに急に言い出したので、一樹の叫びが上がったのはいつもの事…

ともかく、急にそんな事を言い出され、しかも()()()()()()を聞かされた一樹が一夏と選んだのが、模擬戦だった。

何せ…向かう場所は古都、京都なのだから。

 

 

「かーくん!防具も着けないで模擬戦なんてしないで!織斑君もだよ!かーくん相手に防具着けないでやるなんて自殺行為だよ!?」

うんうん頷きながら雪恵が言っていると…

 

キィンキィンッ!

 

まだ男子2人は打ち合っていた。

「だからやめなさぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」

 

 

清々しい汗をかいた一樹が、シャワーを浴びて戻ると…

「私がここで寝るのー!!!!」

「いくらユキエでも、これは譲れない…!」

『私も、譲らないよ!』

雪恵にセリー、ミオが寝る場所(ちなみにそこは一樹が今使っている)で言い争っていた。

「……」

深い深いため息をつくと、全員に軽くデコピン。

「「『痛いっ!?』」」

「…冷静になったか?説明よろしく」

「えっと…私もこの部屋に引っ越しになりましたー♪」

満面の笑みで話す雪恵。

一樹は2度目のため息をつくと、少ない荷物をエナメルバッグに纏めて出ようとする。

慌てて止める雪恵とセリー。

「ちょちょ、かーくんが出たら私引っ越した意味無いから!」

「カズキ!()()仲良く暮らそう?」

家族、その言葉を使われると弱い一樹。

「かーくん…私と同じ部屋は嫌?」

今にも泣きそうな顔で聞いてくる雪恵。

「いや、そうじゃなくて…この部屋2人用だぞ?そもそも」

「でも今までも3人で住めたよ?」

セリーが首を傾げながら言う。

「いやそれは…基本3人だけど寝る時は2人だったからだぞ?」

「「え?」」

「…ミオ、良かったな。雪とセリーにも、お前は1人として数えられてるぞ」

『うん!』

絆の深さが再認識したところで、本題へ…

「…よし、順番に整理していこう」

「「『うん』」」

「まず、雪がこの部屋に引っ越してきた」

「千冬さんとO☆HA☆NA☆SHIを頑張ったな〜」

「お前とうとう千冬すら脅す様になったか…」

恋人の謎の進化に、頭を抱える一樹。

「頭痛い問題が増えたがそれは置いといて…雪の荷物は?」

「この通りだよ!」

ボストンバック2つを指す雪恵。

女子にしてはかなり少ないのでは無いかと一樹は思うが、他の例えが義妹しかいないのでどうしようもない。

「とりあえず荷物は良しと…で、雪が空いてるクローゼット使ってくれ。今んとこ、セリーがひとつ使ってるだけだからな」

「え?かーくんはどうしてるの?」

「バックに入れっぱなし。それでどうにか出来るからな」

少し大きめのエナメルバッグひとつが一樹の荷物だ。

「…納得いかないけど、荷物に関しては理解したよ」

「おし。じゃあ寝る場所だけど…」

「「『……』」」

黙る3人に、一樹は…

「俺は寝袋使うから、雪とセリーでベッドを分けてくれ」

「彼女パーンチ!!!!」

「妹パーンチ!!!!」

雪恵とセリーがそれぞれパンチを放ってくるが、当然一樹に受け止められる。

「当たる訳ねえだろ?」

「それは…」

「どうだろうね」

雪恵とセリーがニヤリと笑う。

そして_____

『相棒パーンチ!!!!』

背後からミオが殴りかかる。

「…実体化許可、取り消し」

『あ、ずる…』

ミオを首元に戻して、セリーを左の、雪恵を右のベッドへ放り投げた。

「「きゃっ!?」」

「お前らがそれで納得しないのなら、俺はまた整備室で寝泊まりするぞ?」

「「『これで良いです!!!!』」」

「よし」

そして、部屋のルールを確認していると、楯無からの招集がかかった。

 

 

会議室に集まる全専用機持ち。ちなみに一樹とセリーはいない。

「さて…全員集まったわね。これより、修学旅行前視察の目的を説明するわ」

「「「「え?」」」」

何も聞かされていない1年専用機持ち(一夏と雪恵を除く)がキョトンとするが、構わず楯無は話し始める。

「今回の視察、それの本当の目的は亡国企業の殲滅よ」

「「「「!!!?」」」」

1年専用機持ちが驚愕していると…

「いよいよか、生徒会長」

「あー、やっぱりやるんスか。亡国機業の殲滅作戦」

3年生唯一の専用機持ち、ダリル・ケイシーとその相棒である2年専用機持ちのフォルテ・サファイアがそれぞれコメントする。

「あら?どこでその情報を?」

自国(ギリシャ)っスよ」

「オレも本国で、な。まあ、オレの相棒のヘルハウンドがVer2.8になった時点で予想はついてたけど」

さりげなく自慢を入れるあたり、流石は3年唯一の代表候補生だ。

「……」

そんなダリルにフォルテを、雪恵は無表情で見ていた。

理由は、招集された時に一樹に言われた言葉だ。

 

_____あまり、楯無以外の上級生専用機持ちを信用するな。

 

「(かーくんがこう言うなんて、よっぽどのこと…気をつけておかなきゃ)」

 

 

『ねえマスター』

「おろ?」

自室でのんびりと逆刃刀の手入れをしていた一樹の左肩に寄りかかりながら、雑誌を読んでいたミオが話しかけてきた。

『さっき、何で雪恵さんに“気をつけろ”なんて言ったの?』

「何でも良いじゃんミオ。この学園にいるほとんどの奴が信用出来ないんだから」

一樹の右肩に寄りかかって雑誌を眺めていたセリーが、どうでも良いとばかりに言う。

そんなセリーに苦笑しながら、一樹は逆刃刀を鞘に納める。

「ミオにセリー…それに、雪。お前ら3人がこの学園の来る前にも、俺は何度かISを相手に戦ったんだけど…」

その度に思った。

1年の専用機持ちたちは、当時専用機が完成していなかった簪を除いて()()()必死に援護していた…これを言えば3人がブチ切れるのは目に見えているので言わないが。

楯無は直接戦闘に参加はしていなかったが、生徒の避難誘導をしていた。

だが、他の2人…資料によると、3年の方がダリル・ケイシーで、2年の方がフォルテ・サファイアだったか。

雪恵には言わなかったが、一樹はフォルテをそこまで警戒していない。

アレはただの面倒くさがりなだけだろう。

だが、ダリルは別だ。

長年戦いの中で生きていた勘が告げている_____

 

_____奴は、自分と同類だと。

 

「…カズキ?」

『マスター?』

急に顔が険しくなった一樹を心配するセリーとミオ。

「…ああ、悪い。とにかく、俺がこの学園に来てから今までを振り返って、その2人は警戒しとくべきだと思ったから」

「『ふうん』」

 

 

「何普通に旅行グッズ買ってるんだよ…」

視察の目的を聞かされたと言うのに、代表候補生’sはワイワイ楽しそうに買い物をしている。

呆れ顔の一夏に、一樹が苦笑を浮かべながら話しかける。

「まあ、京都に行くのは事実だし。少しくらい良いんじゃないか?特に凰を除いた海外組は今回が初めてだろうし」

「それもそっか…」

保護者の様に立つ2人に、シャルロットが声をかけた。

「ねえ!2人は何か買わないの〜?」

「「いや、特にない」」

異口同音に言う2人。

しかし、一夏を代表候補生’sが、一樹を雪恵とセリーが店内に引っ張った。

「かーくん、かーくんのシャンプー切れかかってたよね?」

「あ、そういやそうだ。詰め替え用の買わなきゃ」

「一夏、浴衣を色違いのお揃いにしないか?」

「いや待て箒。京都の旅館で浴衣が無い方が考えにくいだろ…」

「カズキ、このお菓子美味しそう」

「お、なら試しで一個買ってみようぜ」

「一夏さん!香水お揃いにしませんこと?」

「悪いセシリア、俺制汗剤だけで充分なんだ」

「かーくん、歯磨き粉ってまだあった?」

「一応ストックがまだあるから、今日は大丈夫だ」

「一夏ぁ!パフェ奢りなさいよ」

「鈴、お前は中学時代貸した金をいい加減返せ」

『マスター見て!洗濯用洗剤が5割引だって!』

「よく見つけたぞミオ!買い占め…何?【お一人様1箱限り】だと!?くっ…4箱しか手に入らないのか…」

「一夏、酔い止め薬必要かな?」

「夏のシャルを見る限り大丈夫だと思うけど、一応持っていった方が良いな」

「かーくん、今夜何食べたい?私作るよ?」

「お前らが食いたいもので良いぞ。食えるだけで俺はありがたいから」

「一夏、京都に行くには茶碗を買っておくのが常識だそうだ。お揃いにするぞ」

「…ラウラ、お前にその微妙な日本知識を教えてるのは誰だ?」

「かーくん、それが一番困るよぉ…」

「…強いて言うなら蕎麦?」

「ほぼ茹でるだけじゃん…」

一夏を中心した面々はそれぞれ一夏にアプローチを、一樹を中心とした面々はやたら所帯染みた会話を交わしていた。

 

 

買い物を楽しんで?いる面々の後ろに、簪はいた。

「(聞くなら…今しか無いかな?)」

現在、雪恵とセリーは夕食の材料を買うために食品売り場に行っている。更に一夏が代表候補生’sに囲まれている以上、一樹は今1人だった。

話しかけるなら、今しか無い。

「ねえ…櫻井君」

「おろ?」

相変わらず自分に話しかけるのが雪恵達と一夏しかいないと思ってる一樹。

今も簪に話しかけられ、軽く戸惑っている。

「…どうした?更識さん」

「あのね…櫻井君に聞きたい事があるの」

「一夏の事か?」

「ううん…違う」

「おろろ!?」

雪恵達以外の女子が自分に質問=一夏関係の事という式が成り立っている一樹は本気で驚いている。

「…私って後から1組に入ったでしょ?」

「まあ、そうだな」

「だから…ある程度は元々1組だった人と距離を感じるのはしょうがないことだと思う。けど…」

「けど?」

「…元々2組だった鈴まで知ってる櫻井君の秘密を、私だけ知らないのは嫌」

「……」

一瞬で、一樹の纏う空気が変わった。

一樹は基本的に、簪と会話する時は一夏とはまた別種の優しい顔で話す。しかし今は、まるで品定めをされている様に簪は感じた。

「…お願い、教えて。もし櫻井君が悩んでいるのなら、その解決を私は手伝いたい。打鉄弐式の製作に戸惑っていた時や、お姉ちゃんとの仲直りを助けてくれた櫻井君を、私も助けたい」

「…その気持ちはありがたいけど、更識さんだけ知らない事なんて、無いよ」

小さな笑みを浮かべる一樹。

さっきまでの鋭い顔では無く、いつものあの顔だ…

ダンにも言われた一樹の返しに、簪は顔を俯かせる。

「そりゃあ、悩みは当然あるぜ?1番頭が痛いのはアレだし」

後ろでワイワイ騒ぐ一夏達を指す一樹。

確かに、長年の悩みのひとつではあるのだろう。しかし、簪が知りたいのはそれでは無い。

…この際、自分もその悩みの一因である事はスルーする。

「ごまか…さないで…」

一樹の怒りに触れるかもしれない恐怖が、人に必要以上に踏み込む恐怖が簪を襲う。

それでも、彼女は知りたいのだ。

何度も自分を助けてくれた一樹が抱える問題を。そして、それを解決する方法を。

「……」

じっと簪を見る一樹と、そんな一樹と必死に目を合わせ続ける簪…

一樹の目が見開かれた。

怒鳴られると思った簪は目をキュッと閉じた…

 

「逃げろ!!!!更識さん!!!!!!!!」

 

一樹の叫びに、簪の体が一瞬固まる。それがいけなかった。

「ウグッ!?」

背後から口元を押さえつけられ、打鉄弐式の待機アクセサリーである指輪を奪われた。

『ようやく見つけたぞ…』

周りにいた人々が、悲鳴を上げて一斉に逃げ出す。簪もまた、酷く動揺していた。

「(私に…どうやって近付いてきたの⁉︎)」

更識の家で育った簪は、武道の心得も当然ある。そんな簪や、戦いに身を置く一樹ですら気配に気づけなかった。

簪が何とか視線を上に向けると、帽子が良く似合う見た目紳士的な老人が簪を押さえつけていた。

『同族の仇、討たせてもらうぞ』

一樹に強い憎悪の視線を向ける老人の言葉に、簪は戸惑う。

「(櫻井君が…仇?)」

 

 

「(くそ…気配を感じれなかった…)」

恐らく瞬間移動(テレポート)で近付いてきたのだろう。そんな事が人間に出来る筈がない。すなわち、宇宙人…最悪な事に、簪を人質に囚われてしまった…

それに、目の前の老人は一樹を仇と呼んだ。つまりは…

「(俺が一度戦った事のある宇宙人か…!)」

しかし今は戦えない。正体云々ではなく、簪の命が最優先だ。そして恐らく、目の前の宇宙人は一樹を消すまで決して簪を離そうとしないだろう。

一樹が下手に動く訳にはいかない。ならば…

「(ミオ、雪にセリーと一緒に上の階に移動して待機する様連絡してくれ。更識さんの救出には、2人の協力が不可欠だからな)」

『了解だよ!マスター!』

一樹がミオに連絡を頼んでいると、騒ぎを聞きつけて一夏達が駆け寄ってきた。

「ッ!?テメエ!簪を離せ!!!!」

『その言葉で離すくらいなら最初から捕らえてなどいない』

一夏の怒気などそよ風の様に受け流す老人。

今にも動きそうな一夏達に警告する。

『それ以上近付くな。近付くとこの女の命は無い』

「「「「ッ…」」」」

歯ぎしりする一夏達。

「…用があるのは俺だろ?相手してやるからその人を離せ」

淡々と告げる一樹。懐に手を入れ、いつでもエボルトラスターを抜ける体制だ。そして、老人はそれを見逃さなかった。

『今すぐ()()を捨てろ。さもなくば…分かっているな?』

「……」

無言で老人を睨むと、エボルトラスターを取り出し、床に置く。

『武器もだ』

「……」

 

ギリッ

 

と音がする程強く歯ぎしりすると、ブラストショットも床に置く。

『賢明だな。そして死ね』

老人の両サイドから、ある異星人が現れる。

それは_____

 

『『『『フォッフォッフォッフォッ……』』』』

 

_____以前雪恵の入院していた病院を襲ったバルタン星人の同族だった。

一樹を囲む様に、4体が現れ…

《フォッ!》

「くっ…!」

その巨大なハサミで殴りかかってきた。

何とかガードするが、その威力に吹き飛ばされる。その先には、別のバルタン星人が…

《フォッ!》

「ガッ!?」

後頭部を殴られ、一瞬意識が飛ぶ一樹。

その隙を逃さず、右のバルタン星人の前蹴りが腹部に入る。

《フォッ!》

「カハッ…」

更に、左のバルタン星人の殴り上げ。

《フォッ!》

「グッ…」

前後左右のバルタン星人に攻撃され続け、ようやく治った一樹の体に傷が増えていく。

「やめやがれ!!!!」

麒麟をその身に纏う一夏に、簪を押さえている老人の手から放たれた破壊光線が命中する。

 

バァァンッ!!!!!!!!

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?!!!?」

「「「「一夏!!!?!!!?」」」」

麒麟のシールドエネルギーのおかげで、何とか致命傷は避けれた。だが、大きなダメージを受けた事には変わりない。

吹き飛ぶ一夏に駆け寄る専用機持ち達。

『次はその程度では済まさんぞ』

老人がその手を、一夏達に向ける…

「やめ…ろ…」

そんな老人を、血だらけになりながら制止する一樹。

「一夏や皆に…手を出すな!」

『貴様は黙ってろ!!!!』

老人は念動力で、一樹を吹き飛ばす。

「グッ!?」

そして、柱に背中を強打した。

「ガッ!?」

『貴様は同族の仇だからな…楽には殺さん』

「ハァ、ハァ、ハァ…」

頭から、口から血を流しながら立つ一樹を見ていられず、簪が叫ぶ。

「もう良い!もう良いから櫻井君!!私の事を気にしなければ、この怪物達を倒せるんでしょ!!!?」

『黙っていろ。死にたいのか?』

「ウググッ!!!?」

老人は不快なモノを見る様な目を簪に向け、呼吸が出来なくなる程強く口元を押さえる。

「やめろ!!!!その手を離せ!!!!」

今度は一樹が叫ぶが、やはり周りのバルタン星人の攻撃で床に叩きつけられる。

「ガッ…」

倒れる一樹の背中を、4体のバルタン星人が踏みつけ固定する。

『フンッ…いつまでヒーローを気取っている?調べたぞ。貴様がどれほど嫌われているのかをな』

「…あん?」

『あれだけ身を削って戦っているのに、誰からも認められない…そんな戦いを続けて何の得があるのだ?』

「…またそれか。もう聞き飽きたぜ」

『何?』

「確かに、俺はヒーローらしく無いだろうな。ヒーローらしい奴ってのは、そこに転がってる男の様な、がむしゃらなタイプなのかもしれない。皆に好かれる奴が、ヒーローと扱われるのも知ってる。けどな、俺はヒーローとして褒め称えられたいから戦ってるんじゃない。損得感情で戦ってる訳でもない」

『ほう…なら、何だと言うのかね?』

「ただ、体が動くんだよ。それに…」

『それに?』

「今の俺には、俺を認めてくれる人がいる!それだけで、俺が戦う理由としては充分だ!」

そんな一樹の叫びが気に障ったのか、老人は一樹の頭をその革靴で踏みつける。

『フンッ!』

「ガッ…」

『良い姿だな。実に惨めで、情け無い、貴様にピッタシの姿だ』

動きを封じられた一樹にトドメを刺そうとする老人。その目は、既に勝利を確信した目だ。

だが、それは一樹の狙い通りだ。

「今だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

一樹の叫びを合図に、ビームサーベルを部分展開した雪恵とセリーが老人とバルタン星人の目の前にテレポートしてきた。

『何!?グハッ!!!?』

突然現れた2人に動揺する老人とバルタン星人。その隙を逃さず、老人の喉元に強烈なストレートパンチを放つセリー。

「カズキを傷つけた罪、その身で償え…!」

雪恵も、一樹を踏みつけているバルタン星人達にビームサーベルを横薙ぎに振るった。

「ハァァッ!!!!」

『『『『フォッ!!!?』』』』

当然倒せはしないが、一樹の上からバルタン星人達を退かす事は出来た。

「「ッ!」」

老人とバルタン星人が怯んだタイミングで起き上がる一樹と一夏。一樹は雪恵を抱えて跳び、転がる様にブラストショットを拾う。一夏もまた、セリーから簪を預かると抱えて仲間の元まで跳んだ。

簪を無事避難させると、セリーは一樹の隣に移動した。

「しゅっ‼︎」

拾ったブラストショットを4体のバルタン星人に向けて撃つ一樹。

『『『『フォッ!!!?』』』』

その波動弾は、バルタン達を消滅させた。

どうやら、一樹を囲っていたバルタン星人達は分身体らしい。つまり、本体は…

 

 

「簪!しっかりしろ簪!」

救出した簪を揺する一夏。

「ケホッケホッ!いち…か…?」

「そうだ一夏だ!しっかりしろ!」

ようやく酸素を取り込める様になった簪が、朦朧とした意識で見たのは想い人の凛々しい顔だった。

「(こんな状況で、櫻井君には悪いけど…役得、かな?)」

そして脳が情報処理仕切れなくなったのか、簪は想い人の腕の中で気絶した。

 

 

『おのれ…おのれぇ!何なんだその女共は!』

自分の復讐を邪魔された老人は、憎悪の篭った目で雪恵とセリーを睨む。

「…俺の仲間だ」

雪恵とセリーをその背中に庇いながら、強い目で老人を見据える一樹。

『貴様の仲間だと?ならば…ここいらの人間と一緒に潰してくれるわ!!!!』

老人の姿が消えた瞬間、ショッピングモールが激しく震えた。

 

 

《フォッフォッフォッフォッ…!》

老人はバルタン星人としての正体を現し、巨大化。町を破壊しようと、そのハサミからミサイルを連発する。

「「「「キャアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」

悲鳴を上げて逃げ回る人々…

 

 

「カズキ!これを!!」

床に転がっていたエボルトラスターを拾い上げ、一樹に投げ渡すセリー。

「サンキューセリー!じゃあ、ちょいと遊んでくるわ!!雪、一夏!後は頼んだ!!」

「うん!任せて!!」

「おう!任せろ!!」

2人の頼もしい言葉を聞くと、一樹はエボルトラスターを引き抜いた。

 

 

「シェアッ‼︎」

バルタン星人の正面に現れるウルトラマン。

《フォッフォッフォッ…!》

ウルトラマンの姿を認めると、バルタン星人は駆け寄って来た。

その巨大な右ハサミでウルトラマンに殴りかかるが、ウルトラマンは右腕でその攻撃を受け止める。

「シュッ!」

続けて放たれた左ハサミの下段攻撃は、右脚を上げて受け止める。

「ハッ!」

《フォッ!?》

その上げた右脚でストレートキックを放つウルトラマン。それを胸部に受け、数歩下がるバルタン星人。

バルタン星人は体制を立て直すと、両ハサミを突き出しながら突進して来た。

「シェアッ!!」

そんなバルタン星人の突進を、ウルトラマンは高くジャンプすることで回避。着地と同時にマッハムーブを併用したバック転でバルタン星人に近付くと、投げ飛ばした。

「シュアッ!」

《フォッ!?》

着地に失敗したバルタン星人は、背中を強打する。その隙に、ウルトラマンはジュネッスにチェンジした。

「フッ!シェアッ!!」

バルタン星人の動きが鈍いうちに、メタ・フィールドを展開する。

「シュッ!フアァァァァァァァァ…フンッ!ヘェアァァ!!」

 

 

『なあ雪恵、悪いんだけど宗介達に連絡してくれないか?幾ら一樹の怪我が治ったと言っても、用心に越した事は無いからさ』

他の専用機持ちに聞かれ無い様、個人回線で雪恵に頼む一夏。

S.M.Sは今依頼が無いと動けない。そのために、雪恵が形式上依頼を入れる形にするのだ。

『うん!分かったよ!』

箒達に気付かれない様、ゆっくりと離れると最近登録された番号にかける雪恵。

数コールで相手は出た。

『ほいほーい、櫻井宗介の携帯ですぜ。ご用件はなんでっしゃろ〜?』

相手が雪恵だと分かっているからか、飄々と通話に出る宗介。その近くには他のTOP7もいるのか、吹き出す声まで聞こえる。

「宗介君!かーくんの援護を御願い!」

雪恵が叫ぶ様に言うと、通話先の宗介の声が野太くなった。

『野郎ども!ボスが暴れる手助けに行くぞ!』

『『『『よっしゃオーイ!!』』』』

駆けながら通話を続けているのだろう。そんな雰囲気が電話越しに伝わってくる。

『依頼サンキュー雪恵さん!場所は!?』

そんな宗介達を心強く感じながら、雪恵は場所を告げた。

 

 

メタ・フィールドで睨み合うウルトラマンとバルタン星人。

「……」

《……》

先程から、睨み合いながら円を描く様に動いている。

そして_____

「シュッ!」

《フォッ!》

_____両者同時に駆け出した。

バルタン星人の突進を、ウルトラマンはバルタン星人の頭上スレスレの低空前転で避けると、振り向きざまにエルボーカッターで斬りつけた。

「シェアッ!」

《フォッ!?》

バルタン星人の体から火花が散り、怯む。そんなバルタン星人に…

 

ドドドドドドドドド!!!!!!!

 

《フォッ!!!?》

宗介と一馬の駆るVF-25Fに、和哉と智希の駆るVF-25Aから放たれたガトリングガンがバルタン星人に命中する。

「どんなもんだい!」

「【フェニックス】じゃあジェネレーター出力の都合上来れなかったけど!」

「この【メサイア】なら!」

「簡単に来れるんだぜ!」

「シェアッ!」

バルキリー2機の援護を受け、力強く構えるウルトラマン。

《やはりこの空間では不利か…ならば!》

そう言ったバルタン星人が取った行動は、なんと…

《フォッ!》

その両腕のハサミを、メタ・フィールドの大地に突き刺した。

すると_____

「フッ!!!?」

「なっ!!!?」

「これが…」

「一夏や雪恵さんが言っていた…」

「ダーク・フィールド、なのか…?」

_____メタ・フィールドが闇に侵食され、ダーク・フィールドが形成されていく。

《ハハ…ハッハッハッハッ!力が、力がみなぎってくる!》

高笑いを上げるバルタン星人。

その体が、禍々しく変わっていく…

「……」

警戒しながら、その様子を見るウルトラマン。

《ふっふっふ…何故私がこんな事を出来るのか知りたいかね?》

体を変化させながら、バルタン星人が語りかけてきた。

「……」

 

_____別に。興味ないね。

 

《ふっ…そう言われると逆に言いたくなるものだな。勝手に話させてもらう。先程、お前の事を調べたと言ったな?それと同時に、この空間の事も調べたのだよ。この空間ではお前の能力が上がり、お前の敵の能力が下がる事もな。しかも!この空間と対になる空間…つまり、今の空間が存在する事もな!私はこの空間のデータを集め、己自身で展開する事に成功したのだ!》

「……」

高笑いを上げながら話すバルタン星人。

そして、その身の変化も終わった。

右手はロングブレード、左手はガトリングガンの様になり、特徴的だったハサミは両肩のプロテクターとなった。

変化したその姿の名は【ネオバルタン】…

《貴様に不利なこの空間で、強化された私と戦えるかな?》

「…シュッ!」

ウルトラマンとネオバルタンが、同時に駆け出した。

 

 

PiPi PiPi PiPi PiPi!

「「ッ!?」」

簪をおぶって移動していた一夏と、雪恵のレーダーがダーク・フィールドを感知した。

「どうしたの?一夏に雪恵」

2人の表情が硬くなったのを見たシャルロットの問いに、一夏が答える。

「…今、ダーク・フィールドが形成されてる」

「えっ!?じゃあ闇の巨人が近くにいるってこと?僕のレーダーには反応無いけど…」

「多分、私と織斑君のレーダーはかーくんがこまめにアップデートしてるからだね。帰ってきたら、全員分やってもらわないと」

「だな…それより、俺たちも行こう」

「…どうやって?ISではフィールドに入れないよ?」

シャルロットの疑問ももっともだ。

だが、一夏は妙に自信ありげに携帯を取り出す。相手はワンコールで出た。

『もすもすひねもす〜天災の束さんだよ〜』

「束さん、チェスターを自動操縦で送って下さい」

すらすら言う一夏に、箒達は驚きを隠せない。

『ん?何で自動操縦が出来ると思うのかなかな?束さんは出来るって言ってないのに』

「…この間、一樹と機体をメンテナンスしてるのを見てたので」

暗にS.M.Sのシステムだろ?と問う一夏。束の答えは…

『流石だね〜いっくん。その通りだよ。じゃあ、()()()は分かるかな?ちなみに、設定したのはかずくんだよ』

「…ええ、知ってます」

『りょ〜かい、じゃあ合体した状態でそっちに送るよ〜』

 

 

《フッ!》

「シェアッ!」

ネオバルタンが振り下ろして来たロングブレードを避けるウルトラマン。

だが、ネオバルタンはそんなウルトラマンに零距離でガトリングを放った。

 

ドドドドドドドドドッ!!!!!!!

 

「グアァァァァッ!!!?」

怯んだウルトラマンに、更にロングブレードで追い討ちをかけるネオバルタン。

《フゥッ!》

「グオッ!?」

そんなウルトラマンをバルキリー2機が援護に入ろうとするが、ネオバルタンはガトリングをばら撒く様に撃ってそれを妨害する。

「「「「チッ!」」」」

「シュアッ!」

バルキリーを狙うネオバルタンに突進するウルトラマン。

何とかネオバルタンの注意を自らに向けるが…

《フンッ!!》

何と、ネオバルタンはロングブレードを連続射出してきた。

ウルトラマンは一瞬驚くも、すぐにロングブレードを破壊していく。

ネオバルタンはウルトラマンに効果が無いと分かると、今度はバルキリーに向けてロングブレードを射出する。

「シュッ!」

だが、それはマッハムーブを使ったウルトラマンに破壊されていく。

《フッ!》

ならばと、ロングブレードをウルトラマンの背後に仕掛けるネオバルタン。

「シュッ!ヘェアッ!!」

それも難なく破壊していくウルトラマン。

更にバルキリー2機もロングブレード破壊に参加する。

《フォッ!》

ロングブレードを撃ちまくったせいか、ロングブレードだった右手は鉤爪状に変化した。

だがそんな事は気にせず、ネオバルタンは左手から光の鞭を出現させ、ウルトラマンに向かって振り下ろした。

「シュッ!グアッ!?」

最後のロングブレードを破壊したウルトラマンに、ネオバルタンの鞭が巻きつけられる。

《フンッ!》

「グアァァァァ!!!?」

 

ピコン、ピコン、ピコン…

 

鞭から走る稲妻状のエネルギーに苦しむウルトラマン。

 

 

すぐさま援護に向かおうとする宗介達。

だが、それより早く攻撃する機体…ハイパーストライクチェスター。

「待たせたな!」

搭乗しているのは一夏のみだ。そのため、少々乱暴な操縦も出来る。

「宗介、みんな!今乗ってるのは俺だけだぜ!」

『おし!なら存分に暴れられるな!』

 

 

「ハアァァァァァァァァ!!!!」

チェスターの攻撃で、ネオバルタンが怯んだ。

その隙に鞭を引きちぎるウルトラマン。

《グッ!?》

「シェアッ!」

力強くネオバルタンに向かって構え、駆け出す。

大きく左手を振るってくるネオバルタンに、マッハムーブを使った手刀を放った。

 

ドォンッ!

 

手刀の威力に、ネオバルタンの左手にあるガトリングが破壊された。その左手も鉤爪に変え、ウルトラマンに挑むネオバルタン。

《フッ!》

しかし、鉤爪程度に怯むウルトラマンではない。

「シェアッ!」

《グッ!?》

ネオバルタンの腕を掴んで、一本背負いを連続で決める。

《フッフッフッ…》

起き上がったネオバルタンは分身し、ウルトラマンを囲む。そして、無言で飛びかかってくるが…

「ハッ!」

それを読んでいたウルトラマンは飛び上がって避ける。

ウルトラマンを一瞬見失ったネオバルタン達の動きが止まる。そこに、バルキリーとチェスターのミサイル攻撃が決まる。

 

ドォォォォォォォォォンッ!!!!

 

爆発が収まったそこには、ネオバルタンは一体しかいなかった。

「デェアァァァァァァァァ!!!!」

《フォッ!?》

それを見逃すウルトラマンではない。

右足に金色の光を纏わせ、ネオバルタンにシュトローム・ストライクを喰らわす。

《何故だ…何故この空間で私が押されている!?》

 

_____お前は、この空間に頼りすぎた。

 

フラつくネオバルタンにそう言い放つと、エナジーコアに光を集中させる。

「シュッ!フアァァァァァァァァ…テェアッ!!!!」

《グオアァァァァァァァァ!!!?!!!?》

コアインパルスの直撃を受け、ネオバルタンは爆散。

それと同時に、ダーク・フィールドも消滅した。

 

 

「流石にコレはやりすぎだろ…」

翌日の昼休み。額に包帯を巻かれ、口元には絆創膏を貼られた一樹の姿があった。

「かーくんは小さい傷の内に治さないからいつも大変な事になるんでしょ?」

腰に手を当て、頬を膨らませながら言う雪恵。

その隣でうんうん頷くセリー。

「あの…櫻井君」

「おろ?」

包帯が勿体ないと考えていた一樹に、オドオドと話しかける簪。

「守ってくれて…ありがとう」

深く深く頭を下げる簪。

一樹は頬を掻きながら苦笑する。

「いや、むしろ俺が謝らなきゃいけないよ…巻き込んで、すまなかった」

「ううん、大丈夫」

「…そう言ってすぐで悪いんだけど、これからも、俺と友人でいてくれるか?」

「…こちらこそ、お願いします」

 

 

一夏達の所に戻る簪。

その背中を見て、ほっとひと息つく一樹。

「貴重な友人を失わずに済んで良かったよ…」

「私としては複雑なんだけど…」

一夏が同じような事をすれば、その女子は9割方落ちる。それなのに、一樹の場合は…

まあ、落ちられても雪恵としては困るのだが。

そんな雪恵の頭を、一樹は優しく撫でる。

「俺は一夏と違うから…俺のことを理解してくれる人が1人いれば、俺は充分だよ」

「…うん!」

一樹の言葉に、満面の笑みを浮かべる雪恵。

すると、一樹の左手が誰かに引かれる。

視線をそこに向けると、少し拗ねた表情のセリーの姿が。

「…ユキエだけいれば、カズキの【世界】は充分なの?」

「馬鹿言うな。お前もミオも、今の俺には必要な存在だよ」

「ん、なら良い…」

表情を綻ばせ、甘えてくるセリー。

その頭を撫でていると、一樹にも眠気が…

「かーくん」

それを察した雪恵が、自分の膝をポンポンと叩く。

「悪い…膝、借りるわ…セリー、後よろしく…」

「ん、任せて」

珍しく雪恵の膝枕で寝に入る一樹。雪恵もセリーもミオも、そんな一樹を微笑ましく見ていた…




10巻は古都、京都が舞台との事で、今まであまり効果を発揮していなかったあるタグを活用します!


よろしくです!


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Episode121 写真-ピクチャー−

お待たせしましたあ!

11巻が本格化?するぜ!!!!












ある要素の作者がアレだけど、気にせずに行こう。


「エキベンと言うのをくれ。なるべく栄養価の高い物をな。む?コレは…」

東京駅で買い物をしているラウラの目に映ったのは…ひよこサブレだった。

「こ、このひよこをあるだけくれ!支払いはカードで…」

「ラウラもう時間だから!行くぞ!」

あまりに遅いラウラを探しに来た一夏(と一樹)が、ラウラの腕を引く。

「ま、待て!私にはひよこを救出するという使命が…」

「うるせえ早く行くって言ってんだよ!」

容赦なくラウラに当て身を喰らわせて気絶させた一樹。

気絶したラウラを一夏が抱えて、ホームへ急ぐ。

 

 

「き、貴様!私のひよこが、ひよこがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ちょっ、ラウラ!落ち着けって!」

気絶から目覚めてすぐ、ラウラは一夏の襟元を掴んでブンブン振り回していた。

流石に見てられず、シャルロットが止めた。

「あー苦しかった」

ラウラから解放された一夏があるものを取り出す。

それは、一夏の【思い出】を記録して来た相棒…フィルム式の、一眼レフカメラだ。

「一夏、それ持って来たんだ」

自らもそれに何度も写った鈴が、凄く優しい顔で言う。

「ああ。みんなで京都に行くなんて、コイツで撮らなきゃ勿体ないだろ?」

愛おしげに一眼レフカメラを手入れしながら言う一夏。

一夏自身もそれを使って綺麗に写真を撮る事が出来るが、それ以上に綺麗に写真を撮れる人物を、一夏は知っている。

 

 

「ねえかーくん。舞ちゃんから預かった物があるんだ」

「おろ?」

一樹の隣に座る雪恵が、荷物から取り出したのを見て、一樹の目が見開かれる。

それは、小さなバック。一夏が持つ一眼レフカメラが入っていた物とよく似ていた。それもそうだ。それに入っている物は…

「なん…で…?」

1年前、一樹が封印した相棒。

何度も雪恵や舞たち義妹、風景を撮ったデジタル一眼レフカメラだ…

それが入ったバックを一樹に渡そうとする雪恵。

「舞ちゃんから伝言だよ。『また、生き生きとした義兄さんの写真が見たいです』…だって。私も、かーくんに写真を撮って欲しいな」

「けど…俺の写真は、お前を…」

「かーくんは何も悪くないよ。私がかーくんの言うことを聞かないで、私が足を踏み外して崖から落ちたんだもん。しかも、かーくんは本当なら死んでた私を助けてくれた。誰が何と言おうと、それが事実なんだよ」

「…俺は、ファインダーを覗けない」

「大丈夫だよかーくん。だって、今は私がいるんだよ?」

雪恵の言葉に後押しされたのか、震える手でバックを受け取る一樹。

ゆっくり開けたそこには…

主人の手を、今か今かと待つ相棒の姿があった。

「……」

そっとカメラを持ち上げて、笑顔を浮かべる雪恵をファインダー越しに覗く…

覗ける。

覗けるのだ。

「あっ、ああっ…」

ファインダー越しに見える。

一樹がずっと撮りたかった、綺麗な【世界】が。

あの頃、濁って見えていたのが嘘の様に、輝いてる【世界】が。

見える。

見ることが、出来る…

 

カシャッ

 

思わずシャッターを切る一樹。

その音を聞いて、驚いたのは一夏だ。

自分の席から大慌てで、一樹のいる所に駆け寄ってきた。

「か、一樹…お前、写真を…」

「撮れた…やっと、とれた…」

中学2年のあの日以来、撮れなかった写真を。

ずっと写したかった【世界】を。

今の一樹は撮れる…撮れるのだ。

「おかえり…待たせて、ごめんな…」

涙を浮かべながら、カメラをそっと胸に抱く一樹。

キラリと光るカメラも、主人との再会を喜んでいる様だった。

 

 

「やっぱりお前は、カメラを持ってた方が良いと思うぜ」

「…ありがとな」

新幹線の中で、京都駅で集合写真を撮った一樹と一夏。

ブランクがあるにもかかわらず、一樹の写真はそれを感じさせないほど輝いていた。

 

『東京に帰ったら、薫子に知らせてあげましょう。あの子、櫻井君の写真の大ファンらしいから』

 

一樹が撮った集合写真を見た楯無の最初の言葉がそれだ。

楯無にも分かったのだ。級友である黛が、一樹の写真に入れ込む訳が。

「……」

先程撮った写真を見返す一樹。

京都駅の前で、一樹以外の全員が写った写真がある。その中にはダリルとフォルテもいる。

久しぶりに写真を撮れる喜びから、一樹は少年のような笑みを浮かべていた。

「さて、じゃあそろそろ待機場所に…」

カメラを首に掛け、移動を提案する一樹。

「あ、連絡するまでは京都を観光してて良いわよ」

楯無の言葉に、一樹と一夏がコケた。

「「はぁ!?」」

「ちょっと色々あってね。多分夜になると思うから存分に京都を満喫しちゃいなさい!」

ウインクしてまで言う楯無に、一樹はため息をつく。

「ごめんなさい。お姉ちゃんが、本当にごめんなさい」

簪が何度も頭を下げているのを見て、どっちが姉なのか分からなくなった。

「…ヘタレの姉に、しっかり者の妹か」

「聞こえてるわよ櫻井君!?」

楯無の叫びを見事にスルーして、それならばとカメラを雪恵とセリーに向ける一樹。

すぐにピースする2人…

「……」

「あれ?かーくん?」

「どうしたの?カズキ」

中々シャッターを押さない一樹に首を傾げる2人。

「…やっぱり、()()写したいな。ミオ、出てきてくれ」

『あーい』

スッ、と一樹の隣に現れるミオ。そのまま雪恵の隣に移動すると、改めて3人ともピースする。

「……」

 

カシャッ

 

【家族】アルバムの1枚が、撮れた。

 

 

「…唐変木、状況を俺に()()()()()()説明しやがれコラ」

「いや、その…」

数分後、京都の石畳の上に正座する一夏と、その一夏を睨む一樹の姿があった。

「雪たちと京都を回ろうと思ってたってのに、何でお前のお守りをしなきゃなんねえんだ」

「あの、一樹さん?あなた一応俺の護衛ですよね?当たり強くないですか?」

「…いつも通りだろ」

「いや、目が怖いから」

「……京都がそうさせてるんだよ」

「んな馬鹿な!!!?」

「うるさい。早く説明しろ」

「…みんなが俺と一樹に写真を撮って欲しいとのことです」

簡潔に一夏が説明すると、一樹の額に血管が浮き出ていく。

「ほお…」

「いやだって仕方ないだろ!?箒と鈴はお前の撮った写真のレベルを知ってるから、それをみんなに話したら『じゃあ私も!』になるのも…」

「元凶のその2人、ちょっと燃やしてくる」

いつの間にかいたセリーと雪恵。

恐ろしい事を淡々と言うセリーを慌てて止める雪恵。

「ちょっ!落ち着いてセリーちゃん!」

「ユキエは腹立たないの?」

「え?うーん…どっちかというと、嬉しい方かな」

「「『…は?』」」

思わぬ雪恵の答えに、一樹にセリー、ミオがキョトンとしていると、はにかみながら雪恵が話す。

「だって…かーくんの写真を、みんなが認めてくれてるってことでしょ?」

「『あ…』」

セリーとミオは雪恵の言葉を理解したが、当の本人である一樹が理解していない。

「そんなアホな」

「「アホじゃない!!!!」」

一樹の写真の腕を昔から知っている雪恵と一夏の反論に、流石の一樹も一歩引く。

「そ、そうか…」

「まったく!かーくんはもっと自分の写真を誇るべきだよ!」

「「『そうだそうだ!』」」

咄嗟に同盟?を組んだ一夏とセリー、ミオも雪恵の言葉に同意する。

「わ、分かったから落ち着けよ雪…眉間にシワが寄ってるぞ」

「大丈夫。もう貰ってくれる人がいるから」

「高校生のうちに決めるのは早計すぎると思うぞ」

「じゃあ私がどっかのI君みたいなのに誑かされても良いの?」

「そいつ絶対【ピー】す」

目がマジ過ぎて一夏が震えていた。

「(ヤバイよアレは!時代が時代だったら立派な人斬りになってたよ!?)」

 

 

1組目、シャルロット&簪。

「メールだとこの店だな」

「一夏、お前行ってこい。俺は雪達と団子食べてるから」

「お前も来るんだよ!!」

「馬鹿か!あの店は着物体験が出来るのが売りなんだよ!俺が行ってどうする!?」

「せっかくの着物姿を写真に残してやれよ!」

「オメエが撮れって言ってんだよ!!!」

カメラが壊れないよう、細心の注意を払いながら取っ組み合う一樹と一夏。

「ね、ねえかーくん!私も着物着たいから行こ?」

雪恵のサポート?もあり、渋々了承した一樹。

店内に入ると…

「あ、遅かったね一夏!」

「…シャルロット、苦しそう」

「そ、それは帯が始めてだからで!僕が別に太ってる訳じゃ…(そりゃあ、最近ほんのちょっとだけ増えてたけど)」

最近何か思う事があるのか、シャルロットの声がどんどん小さくなる。

…まあ、小さくなったところで、一樹の優れた聴覚では捉えてしまうのだが。

「…かーくん?」

必死で耳を抑えていると、心なしか雪恵の目が冷たくなった。

「かーくん。まさか…」

「頼む雪。俺と会話をしてくれ。俺に余計な情報を入れないようにしてくれ」

本当に聞きたくない一樹は、うんざりした顔で雪恵に目を向ける。

「シャル?どうしたんだ?」

そんな一樹の努力も虚しく、デリカシーの無い唐変木が一人…

「な、何でもない!一夏の馬鹿!」

「何でだよ!?」

「…そろそろ撮って良いか?」

学園にいるのと全く変わらないので、カメラを向けて促す一樹。

「あ、ごめん櫻井君!」

「…お願い、します」

「おう」

カシャッカシャッと、一樹がシャッターを切る音がしばらく響く。

撮るからには、一切妥協はしない一樹。

絶妙な光の加減で数枚ずつ写真を撮っていく。

「…一夏、お前も入れ」

「え?でも…」

「良いから」

 

_____今この瞬間の【思い出】が、少しでも思い出せますように。

 

そう願いながら、一樹はシャッターを切った…

すると_____

「あら?そこにいるのは櫻井君かしら?」

「……」

_____後ろから一樹を呼ぶ声が。

ダラダラ冷や汗を流す一樹を不思議そうに見る雪恵や一夏たち。

「やっぱり櫻井君じゃない!もう〜、京都に来たならまずウチに寄ってって言ってるじゃない!」

「い、いや…今日は私用じゃないから…」

「何水臭いこと言ってるの!ほら早く来て!」

「お〜ろ〜!?」

何故かその店の女将さんと従業員に拉致られる一樹。

「「……え?」」

あまりの早業に、茫然とする雪恵とセリーだった。

 

 

「「「「カッコいい!!!!」」」」

数分後、戻ってきた一樹の姿に女子陣が興奮気味に言う。

「…似合うな。剣客姿」

そう…一夏の言う通り、今の一樹の姿は某不殺の流浪人なのだ。

…ご丁寧に左頬の十字傷まで再現されている。

「…俺はこの目立つ格好好きじゃないんだが」

どんよりとしている一樹に、すかさず女将がツッコミを入れる。

「駄目じゃない櫻井君!その格好の時はござる口調じゃないと!」

「…拙者はこの格好苦手でござる」

「よろしい!」

「「「「良いんかい!!!?」

 

 

「はい!それじゃあ東京に帰る時にまた寄ってね〜」

無慈悲にもその姿のまま放り出された一樹。

隣の一夏はIS学園の制服のままなので、その紅い衣が余計目立つ。

「…ま、まあいざと言う時に対応しやすくなったと思えば良いじゃねえか」

普段は隠し?持っている逆刃刀を、この格好では常に腰に挿しておける。

一夏はそのことを言っているのだろう。

「…拙者は戦いたい訳では無いでござるよ」

京都は広いようで狭い。

以前店を出てからは普通に話していたら女将にバレており、長々と説教を喰らった。

なので一樹は外でもこの口調だ。

「そう言えば、何でその格好をするようになったんだ?」

「元々は仕事のひとつだったのでござるよ」

数年前に入った依頼で、TOP7の6人があの店の宣伝を手伝う事になったのがそもそものキッカケだった。

店にある着物を着て、京都を回る…という、よくある仕事だった。

しかし、あまりに一樹に和服が似合い、観光客を呼ぶために、その日の売上は普段の3倍にまで跳ね上がった。

それ以来、一樹が京都に来る度にその仕事をする契約を宗介達がたちまちしてしまった。

宗介曰く、『一樹がやる仕事にも、たまには楽なのがあっても良いから』だそうだ。

「…割と入りの良い仕事でござるから、S.M.Sとしても断にくいのでござるよ…」

「…なるほどな」

 

 

「〜♪〜♪」

少し後ろでは、恋人を褒められて嬉しそうな雪恵が鼻歌を歌っている。

「ユキエ♪嬉しそうだね♪」

…訂正、妹も喜んでいた。

「そういうセリーちゃんもね♪」

「…楽しそうでござるな」

今も観光客の写真撮影の付き合った一樹の顔はげっそりしている。

「だってかーくんが褒められてるんだもん♪嬉しいに決まってるじゃん♪」

「カズキ♪カッコいいよ♪」

「あ!ねえねえかーくん!後で写真撮ろうよ!」

「…もう好きにしてほしいでござるよ」

「「うん♪好きにする♪」」

 

 

箒&鈴ペア。

「「遅いぞいち…ってええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?!!!?」」

遅くなった一夏達に文句を言おうとした箒と鈴の(一夏の)幼馴染ペアだが、一樹の流浪人スタイルを見て驚愕していた。

「さ、櫻井どうしたのだ?」

「なんか…妙に似合ってるわね…」

「…ほっといてほしいでござる」

そう言いながら写真を撮る一樹。

一夏もファインダーを覗いて撮っていると、落ち葉が舞ってきた。

「落ち葉と言えば、昔焚き火で焼き芋とかやったよな」

「「一夏(織斑君)…」」

一夏の言葉に、箒と雪恵の顔が曇る。一樹は黙々と撮った写真を確認していた。

それは、小学2年の時。

篠ノ之神社で焼き芋をしようと集まっていた。その時、追加の芋を取りに行った一樹に千冬、束、箒の両親。それを一夏に箒、雪恵は待っていた。

『待ってる間に、火を起こしとこうぜ』

そう言って、集めた落ち葉に火をつけた一夏。中々火が大きくならないのを見た一夏が…

『なんか火力が足りないなあ…落ち葉もっと入れようぜ』

結果ボヤ騒ぎにまで発展。

雪恵が悲鳴を上げ、駆けつけた一樹が何とか消火。

一夏は千冬の手刀を喰らい、『焼き芋禁止令』が発令された。

「箒達の時にもあったのね…」

「…もしかして、鈴の時もか?」

「ええ…ねえ、櫻井」

「拙者に一夏の文句を言わせたら、何日かかるか分からないでござるよ」

「酷くないか!?」

淡々と言う一樹に悲鳴を上げる一夏。

ちなみに、鈴の時は…

小学6年の頃、地域ボランティア授業時の事だ。

秋の実り豊かな時期だったのもあり、栗が大量に取れた。

『これ、焼いて食べてみようぜ!』

当然過去の事があるので、一樹は反対したのだが…鈴を筆頭に他の班員はノリノリだったので、焚き火を起こした。

しかし、ここで一夏の悪い癖が出る。

『何か火力が足りないなあ…もっと落ち葉入れようぜ!』

結果、またもやボヤ騒ぎにまで発展。

嫌な予感がしていた一樹が戻ってきて消火したため事なきを得たが、一夏は千冬の拳骨を喰らい、一切の『焚き火禁止令』が出た。

…ちなみに、その時期が時期だったために、一樹にも責任がいき、一樹と一夏、そして逃げ遅れた鈴は1ヶ月間校内清掃を言い渡された。

「焚き火には良い思い出が無いわね…」

「同感だ」

「…俺の方が文句言いたいわ。止めた上に消火までしたのに、責任を押し付けられたんだぞごら」

「「本当に申し訳ございませんでした!」」

口調が戻る程キレた一樹の眼光に、一夏と鈴が綺麗な土下座をしたのは言うまでもない。

 

 

セシリア&ラウラペア

「遅いですわよいち…かさ」

「遅いぞいち…か…」

「ゼェ、ゼェ、遅えぞいち…か…」

何故かいる弾まで、一樹の姿を見て固まる。

「…何で五反田殿がいるでござるか?」

「いやその前にお前の格好が」

「気にしないでほしいでござる」

「あと口調も」

「…気にするなと言ってるんだ」

「はい!!!!」

鋭いなんてものじゃない眼光で睨まれ、ビシッと敬礼する弾だった。

…ちなみに、弾はやっと出来た恋人に贈りものをしたくてバイトをしていたそうだ。

『…バイトならしてるだろ?』

ござる口調が面倒になって来たので、個人回線で弾に聞く一樹。

『そうなんだけど…何か、S.M.Sのバイト代から出すと、一樹達に頼りすぎな気がしてさ…気を悪くしたなら、ごめん』

『いや、気を使ってくれたのは分かるからそれは無い…頑張れよ』

『…ああ!』

 

 

「和服にカメラは、合わないでござるよ…」

「…言うな」

ひと通り代表候補生達の写真を撮り、残るは何故か加わっていた千冬と麻耶のペアだ。

合流地点に向かおうとしていた一樹たちの前に、ある女性がいた。

「ちょいと尋ねたいことがあるのサ」

「…お主は、確か」

その目立つ右目の眼帯と、失われている右腕。

一樹はその女性の顔を知っていた。

いや、彼女の右目と右腕があった頃の姿なら、世界中の人々が知っているだろう。

2()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でござるな」

「半分正解半分ハズレなのサ。私はブリュンヒルデの資格は持ってないのサ」

「…そうでござったな」

その時、アリーシャの影から1匹の白猫が現れた。

「おろ?」

そして一樹にじゃれつく。

「あら?【シャイニィ】が初対面の人に懐くなんて珍しいのサ」

「…さようでござるか」

雪恵ですらあまり見たことのない、穏やかな笑みを浮かべる一樹。

「かーくん、動物に良く好かれるよね〜」

「ユキエ、それ遠回しに私の事言ってる?」

「全然違うよ!?」

セリーに全力でツッコミを入れた雪恵にも、そのセリーにも、シャイニィはじゃれつく。

「まさか…ミオ殿」

『えー…これで私嫌われてたらショックなんだけど…』

「多分大丈夫でござるよ…一夏以外」

「なん、でだ!?」

一夏の言葉をまたもやスルーして、ミオを実体化。

やはりシャイニィは寄ってきた。

「「『…可愛い』」」

女性陣がシャイニィと遊んでいると、一樹とアリーシャの顔が鋭くなった。

「うおっ!?」

グイッ!と一樹が一夏の襟を掴んで引き寄せると、腰の逆刃刀を素早く抜いた。

 

キィンッ!!!!

 

逆刃刀が何かを弾いた。

それは…

「狙撃された…!?」

「まだ来るでござるか」

 

キィンキィンッ!!!!

 

続けて放たれた弾丸も、全て一樹の逆刃刀に落とされる。

「…あそこでござるな」

狙撃手の居場所を特定し、駆け出そうとする一樹。

だが…

「すみませんが、あなたの相手は僕です」

こんな状況だと言うのに、笑みを浮かべた青年が一樹の前に立ち塞がった。

「…お主は、誰でござるか?」

「【縮地の宗太】です。よろしくお願いします」

尚も笑みを崩さずに、腰に帯びていた刀を抜く宗太。

「(こいつ…殺気はおろか、剣気も闘気も感じられない…こんな事は初めてだ)…アリーシャ殿」

「アーリィで良いのサ」

「…アーリィ殿、すまぬがISの相手をお願いしたいでござる。拙者はこの者の相手をしなくてはならなくなった」

「お任せなのサ」

アーリィは自らの機体、【テンペスタ】を展開すると、大空へと飛び上がった。

「一夏たちは、急ぎ皆と合流するでござる。この状況、お主たちには危険すぎる」

「「「…分かった」」」

渋々同意する3人。セリーのテレポートで移動したのを見届けると、一樹は改めて宗太と対峙する。

「…待たせたな」

「いえいえ、当然の対応だと思います。まあ、僕に言われた仕事はあくまであなたを倒す事なので」

そう言うと宗太は、改めて構える。

「そろそろ、始めましょうか」

「ああ…」

かつてない激戦が、始まろうとしていた…




次回はあっちゃこっちゃ大変な事に!

京都で暴れまくるぜ!




次回は、いつなんだろう…年内にはあげたいな(泣)


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Episode122 裏切り–ビトレイ–

よし、何とか年内に投稿出来た!

色々ぶっ込んだぜ!


…実はサブタイトルを考えるのに1番時間がかかるんだよな…


「狙撃での暗殺は失敗、と。やっぱあの護衛役がいたんじゃ無理か」

フォルテは信じられなかった。

目の前の相棒が…恋人が、やってる事を。

「なに…やってるんスか?」

「ん?何って…織斑一夏を暗殺しようとしてんだよ」

淡々と言うダリルに、フォルテは開いた口が塞がらない。

「ワケ…分かんないっスよ…何で、そんな…」

「何でって…それがオレの役目で、()()だからな」

「…え?」

スナイパーライフルを肩にかけ、いつもの笑みを見せながら、彼女は自分の本当の名を名乗る。

「オレの本当の名前はレイン・ミューゼル。呪われし家系の末裔さ。さて…フォルテ、お前はどうする?」

「どう、するって…」

全てを知った上で、レインに着いて行くか、残るのか。

「一緒に来いよ。このふざけた世界を、めちゃくちゃにしてやろうぜ」

それは、何て甘い響きだろうか。

恋人について来いなどと言われるなんて。

たとえそれが、世界をめちゃくちゃにする事であっても。

「わ、私は…分かんないっスよ…」

あまりに色々ありすぎて、フォルテの頭はパンクしかけていた。

「ついてこいよフォルテ。オレと一緒に、引き裂こうぜ。腐った世界を_____この呪われた【運命】を、な」

「ついて…いけないっスよ…」

「それならそれでいい。じゃあなフォルテ。お前といるの、結構楽しかったぜ?」

また寂しげに笑うと、飛んでくるテンペスタの相手をするため、ヘルハウンドを展開して飛び出した。

 

 

キィンキィンッ!

一樹の逆刃刀と宗太の刀がぶつかるたびに、火花が激しく散る。

突き出された刀を、体を反らして躱す一樹。

「ッ!」

更に突き出される刀を逆刃刀で弾き、宗太の脚を狙う一樹。だが、宗太はその状態で空中横転をして逆刃刀の一撃から逃れる。

横薙ぎに振るわれた宗太の刀と、それを弾く一樹の逆刃刀。

両者は1度距離を取る。

「…何がおかしい?」

これだけ激しい動きを、戦いをしていると言うのに、宗太の顔は笑顔のままだった。

「何もおかしくないですよ。何も…」

やはり笑顔のまま言うと、再び一樹に向かって駆け出した。

 

 

「○○、何故宗太を最初の刺客に?」

「アイツは昔から喜怒哀楽の【楽】以外の感情が欠落してるからな。【喜】の感情がないから【闘気】がなく、また【怒】の感情がないから【殺気】もない」

京都のある屋敷で、怪しげな会談がされていた。

「一流の戦い手であるほど相手の攻撃的な【気】を読んで行動するが、宗太にはその手が通じない」

 

 

超低姿勢の状態で斬りかかる宗太。その攻撃を、空中前転で宗太を飛び越えて躱す一樹。

「へえ。そんな動きも出来るんですか?」

「……」

このままではラチがあかない。そう判断した一樹は…

 

キンッ…

 

鞘に逆刃刀を納め、構えた。

「抜刀術、ですか…それなら、僕も」

宗太もまた、鞘に刀を納めて、構える…

 

 

「勝負は恐らく、抜刀術の打ち合いになる。だが_____」

 

 

ジリ…ジリ…とお互い近付く2人。

「「ッ!!!!」」

神速の一撃が、ぶつかり合う…!

だが…

 

キィンッ!!!!

ドスッ!!

 

「ッ!!!?」

逆刃刀が、折れた…

 

 

「剣速は互角でも、【哀】の感情がなく、人を殺すことを何とも思わない宗太の剣と、絶対に人を殺さないとか()()()()()()()の剣じゃ、技のキレに明確な差が出る」

 

 

「勝負あ…ッ!」

 

ドゴッ!!

 

刀を折って油断した宗太の手に、鞘がぶつかる。

飛天御剣流抜刀術【双龍閃】…

飛天御剣流の抜刀術は、全て隙のない二段構え。

それによって、宗太の手から刀が離れた。

さらに逆刃刀の一撃によって、宗太の刀の刃こぼれも酷い事になっていた。

「……」

「イタた…これじゃ2、3日は戦えないや。それに、この刀も…こりゃ修復は無理だ。まあどーでもいいですけど。どうせ僕のじゃないし。今日はこれで失敬しますけど、出来たらまた闘って下さい_____」

やはり笑顔のまま、宗太は去ろうとする。

「_____次に会う時までに、新しい刀を用意しておいてくださいね」

「……」

宗太とは対照的に、一樹の表情は暗かった。

長年命を預けた相棒が折れてしまったのだから当然だ。

『マスター…』

「……」

しかし、今は止まっていられない。折れた逆刃刀を鞘に納めると、空を見上げた。

 

 

飛び出してきたヘルハウンドを迎え撃つテンペスタ。

「やる気まんまんなのサね。まぶしい若さなのサ」

「ほざいてろババア!」

テンペスタに向けて、両肩の頭から火球を放つヘルハウンド。

「華の二十代になんて事言うのサ!」

その火球を、風を操って返すアーリィ。

「教育してやるサ!」

「チィ!?」

躱せない、レインが覚悟を決める。

だが、いつまで経っても衝撃が来ない。

「あん?」

不思議に思ったレインが、辺りを見回すと…

「………」

フォルテが、そのシールドで火球を受け止めていた。

「フォルテ…」

「見てらんないっス…見てらんないっスよ!何いいようにやられてるんスか!!!?ウチら無敵の【イージス】が!!!!大体、あなたがいなくなったら、いったい誰が私の髪を編むんですか!!!?」

「…髪は自分でやれよ」

レインの思わず出たツッコミもスルーして、フォルテは泣き叫ぶ。

そして祖国を…IS学園を裏切った…

「随分遅いと思ったら、手こずっているようだな」

そんな声が聞こえた瞬間、極太ビームがテンペスタに向かって放たれた。

「ッ!!!?」

何とか避けたアーリィ。

だが、シールドエネルギーは8割程削れてしまった。

「なんつー火力なのサ!!!?」

「テンペスタも大したことないな」

「ッ!!!?」

黒い全身装甲の機体が、一瞬でテンペスタに肉薄。

凄まじい衝撃がアーリィを襲う。

「ガッ!?」

絶対防御など最初からなかったように、黒い機体はテンペスタをひたすら殴る。

「こんのぉ…」

「終わりだ」

眼前に突き出された黒いビーム砲。

その砲口の大きさに、アーリィは先程のビームはここから出た事を察する。

「チッ…」

しかし、黒い機体は突如急浮上した。

その瞬間、ブルー・ティアーズの攻撃が来た。

「また邪魔をしに来たか。雑魚共!」

ブルー・ティアーズを筆頭に、箒達専用機持ちに向かって黒い機体の装着者、エムが毒付く。

「まあ良い。貴様らから切り裂いてやる…織斑一夏の前にな!!!!」

専用機持ちたちに向かって飛びながら、その機体の真の姿を現わす。

全身の装甲が開き、金色に光るサイコ・フレームが露出する。

そして…頭部の装甲が変形して現れる、ガンダムフェイス。

「「「「なっ!!!?」」」」

その姿を見た専用機持ち達の顔に、驚愕が走る。

何故なら、その姿は…

「黒い、ユニコーン…?」

誰かがそう呟いた。

黒いユニコーンを飛ばしながら、エムは叫ぶ。

「【バンシィ】!!!!私の憎しみを流し込め!!!!」

手始めに、最も近くにいた紅椿をその左腕のクローで殴りつける。

「グッ…!!!?」

咄嗟に両手に持つ刀で受け止める箒。だが、そのパワーに押し切られて地面に叩きつけられる。

 

ドォォンッ!!!!

 

「よくも箒さんを!」

バンシィを狙撃しようと構えるセシリアだが、バンシィの速さに対応出来ない。

「居場所が分かっているスナイパーなど…」

瞬時加速でセシリアに急接近。

いつのまにか右手に持っていたビームサーベルを振り下ろす。

「恐るるに足らん!!!!」

「ッ!!!?」

インターセプターで受け止めようとするが、ビームサーベルに簡単に破壊されてしまう。

「ああッ!!!?」

ビームサーベルの攻撃で、ブルー・ティアーズのシールドエネルギーが7割削られてしまった。

「セシリア!!!!」

追撃しようとするバンシィに、甲龍の衝撃砲が命中する。

「チッ…」

流石のバンシィも、衝撃砲を無視する事は出来なかったようだ。

持っていたビームサーベルが弾かれ、セシリアは助かった。

「はあぁぁぁぁ!!!!」

弾かれたビームサーベルを拾い、己のビームサーベルとの二刀流で挑むシャルロット。

「人の武装を奪うとは、頂けないな」

「君たちには言われたくないね!!」

振り下ろされたビームサーベルを、その左腕で受け止めるバンシィ。

「ラウラ!!」

「任せろ!!」

動きが止まったバンシィにレールカノンを向けるラウラ。

「落ち…ガッ!?」

だが、背後から飛んで来た火球に姿勢を崩される。

「エム、助太刀するぜ?」

「いらんことを…」

火球を放ったのは、ヘルハウンドを駆るレインだった。

「貴様ら…裏切るのか!!!?」

激昂したラウラが、レインに…その後ろにいる、フォルテに叫ぶ。

「裏切る?なに言ってんだ?オレは元々こっちの人間だ。それとフォルテは…」

絶え間無く火球を放ちながら、レインは言い放つ。

「オレに付いてきてくれるってよ!!」

火球を避けながら、シャルロットがビームライフルをレイン達に向けて撃つ。

「無駄っス」

しかし、コールド・ブラッドを操るフォルテによって止められる。

「その程度の出力、私たち【イージス】の敵じゃないっス」

シャルロットが表情を曇らせる…

 

 

「じゃあ、これならどうだ?」

 

 

そんな声が聞こえた瞬間、極太ビームがヘルハウンドとコールド・ブラッドを襲う。

「「ッ!!!?」」

慌てて避ける2人。

だが、そこには…

2本のビームサーベルを持ったフリーダムが待ち構えていた。

「あーばよッ」

一瞬だった。

ヘルハウンドとコールド・ブラッドがコアとPICを除いてズタズタにされたのは。

「クソっ!覚えてやがれ!!」

「おう、忘れるまでは覚えておいてやるよ」

フォルテを連れて去ろうとするレインの捨て台詞を、装甲の下で笑顔を浮かべながら飄々と返す一樹。

「さて…」

レイン達は撃退した。だが、厄介な敵が残っている。

「…随分と攻撃的なフォルムだな」

「貴様らを堕とすには、丁度良いくらいだろ?」

ストライクフリーダムとバンシィ・デストロイモード。

共に動力炉を持つ機体が、ぶつかろうとしている…

 

 

合流地点に駆け込んだ一夏に雪恵、セリー。

そこでは、ゴールデン・ドーンとアラクネに対して奮闘するミステリアス・レイディと打鉄弐式の姿があった。

「ッ!織斑君!」

「ああ!行くぞ雪恵!」

各々の機体を展開し、突っ込む。

麒麟は雪片弐型を、アストレイ・ゼロはソードストライカーのシュベルトゲーベルを構える。

「あら?こっちには織斑一夏が来たのね」

「つーことは、エムのとこにフリーダムかよ。つまんねえな」

「ほざいてろ!」

雪片を構えた麒麟が、アラクネに急接近。

「いい加減お前との決着をつけねえとな!」

「クソガキが吠えてんじゃねえ!」

雪恵も、シュベルトゲーベルをゴールデン・ドーンに向かって振り下ろす。しかし、それは右手のクローに受け止められる。

「熱っ…!」

ゴールデン・ドーンのプロミネンス・コートに怯む雪恵。

「あら?あなたの王子様は、この熱さを物ともしなかったわよ!」

シュベルトゲーベルを受け流し、ガラ空きとなった背中に拳が叩き込まれる。

「あぐっ…」

「戦えないお姫さまは、舞台から降りてちょうだいな!」

更に蹴りを入れられ、アストレイ・ゼロは京都の大地に叩きつけられる。

「ユキエ!」

更に追撃しようとするスコールとの間にセリーが入り、その両手から火球を連続で撃ち出す。

「残念、私も出来るのよ」

スコールもまた、両手から火球を連続で撃ち、セリーの火球を相殺した。

 

 

バチンバチンバチンッ!!!!

高速戦闘を繰り広げるフリーダムとバンシィ。

時折見えるスパークが、2機がぶつかり合っているのを周りに認識させた。

「今のうちに、アタシたちは箒とセシリアを連れて離脱しましょう」

「そうだね…このレベルの戦闘に、僕たちが入ったら邪魔になるね…」

鈴の提案に同意するシャルロット。

ラウラもそれには概ね同意だが…

「…私は残るぞ。流れ弾が、京都に来ないようにな」

しかし、状況が変わる。

「…ッ!!!?」

『マスター!!!!雪恵さんが!!!!』

「分かってる!!!!」

雪恵の危機を()()()一樹とミオ。

すぐに向かおうとするが、バンシィが邪魔をする。

「戦いの途中に、他のことを気にするとは余裕だな!!!!」

左腕のクローがフリーダムに迫る。

咄嗟にビームシールドで受け止めるが、バンシィの想像以上のパワーに押し切られる。

「くっ…」

「その程度か、フリーダム!!」

右手に再度構えたビームサーベルを振り下ろしてくるバンシィ。

「墜ちろ!!」

だが、フリーダムもやられっぱなしではない。

バンシィの右手首を掴んで斬撃を防ぐと、超至近距離でレールガンを撃った。

 

ドンッッッ!!!!

 

「ガッ!!!?」

怯んだバンシィに急接近して背後に回り、強烈な回し蹴りを放つ。

 

ガンッッ!

 

「ゴッ!!!?」

バンシィに大きな隙が出来た。

すかさず両手にビームライフルを持ち、武装を撃ち抜こうとするフリーダム。

だが…

 

バチィィンッ!

 

ビームライフルの攻撃は、バンシィのサイコ・バリアーに阻まれてしまった。

「チッ…」

「残念だったな!」

振り向きざまに、極太ビームを放つバンシィ。

難なく避けるフリーダム。

「さっきから別の事に気を取られているようだな。そんなにあの女が大事か?」

「テメエとの決着なんかとは比べ物にならないくらいにな!」

「ならば死ね!」

「お断りだ!」

しつこくフリーダムを狙うバンシィ。アストレイ・ゼロの元に向かいたいフリーダム。

膠着状態となった戦いの場に、黒い機体が近付く。

黒い機体は両手に持ったビームライフルショーティをバンシィ目掛けて連射する。

「ッ!!!?」

慌ててビームを避けるバンシィ。

「貴様は、あの時の…!」

それはキャノンボール・ファストの時、割り込んできた機体…

「お前の相手は俺がしてやるよ」

黒い機体、ストライクノワールを操る弾の声がその場に響く。

「貴様が私の相手をするだと?」

「ああ、そうだぜ」

飄々とバンシィに言い放つと、後ろのフリーダムに個人回線を送る。

『ここは俺が引き受けるから、一樹は雪恵さんのところに!』

『…悪い、助かる』

『気にしなさんな!』

弾の力強い言葉に背中を押された一樹は、フリーダムのスラスターを全開にする。

「行くぞミオ!!」

『うん!!!!』

 

 

「チクショウ!機体性能の差がなければ…!」

亡国機業のアジトに何とかたどり着いたレインとフォルテ。

着いて早々毒づくレインに、亡国機業のメカニックが近付く。

「レインさん、スコールさんから新たな機体が届いています」

「ん?おばさんから?」

「はい」

メカニックから案内されたレインの前には、既に人型になっている機体があった。

「…なんじゃこりゃ。どうやって乗るんだよ」

「触れていただければ、レインさんの体をデータ化、吸収します。これにより、従来のISの3倍以上の反応速度に加えて、人体構造を無視した動きが可能となります」

「ほお…面白いじゃん。で、機体名は?」

「__________です」

その名に、レインは皮肉を感じる。

自分の背負ってる物が、機体名になっていることに。

「…まあ良いや。さっさと調整を終わらせるぞ」

「了解です」

その機体…【デスティニー】に触れ、レインは憎悪の篭った目で呟く。

「フリーダムは…オレが倒す」




最近、原作タグを【ガンダム】にした方が良いのか悩む今日この頃。

ではみなさん、多分コレが今年度最後の投稿のなります。
今年はお世話になりました。
また来年もよろしくお願いします。


ではみなさん、良いお年を!!!!


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Episode123 運命–デスティニー–

新年明けましておめでとうございます(遅すぎる)


では、新年1発目どうぞ!


「(うーむ…やっぱり無茶だったか?)」

装甲の下で苦笑を浮かべる弾。

彼は今右手にビームブレード、左手にビームライフルショーティの遠近両方に対応出来る状態でバンシィと渡り合っている。

しかし、想像以上のバンシィの強さに軽く後悔していた。

「(かっこつけた手前、助けを求めるのは俺が自分を許せないし、やれるだけやるか。時間稼ぎくらいのつもりで)」

そう、先程一樹がブーストを蒸しながら弾に言っていた。

 

雪たちを送ったらすぐに戻ってくる!だからそれまで耐えててくれ!いや耐えろ!

 

「(ったく、最高にカッコいいじゃねえかよ…()()()のボスは!俺が女だったら惚れてたね!)」

「いい加減諦めたらどうだ!!!?」

その左腕のクローを振り下ろしてくるバンシィ。

対してノワールは右手のビームブレードで器用に受け流す。

「悪いが、俺たち男にも譲れないものがあるんでね!男として託された以上、引くわけにはいかねえんだよ!!」

バンシィに向かってビームブレードを薙ぐ様に振るうが、バンシィは90度上昇してそれを避ける。

「くだらん友情のために、命を捨てるのか?愚かすぎて笑えるな!」

放たれた蹴りは、ノワールの腹部に決まってしまう。

「ガハッ!!!?」

ノワール自体はPS装甲に守られているため損傷は無い。

しかし、衝撃は捌けないために、モロに弾に衝撃が来た。

「まだ行くぞ!」

左の裏拳が、ノワールを大地に叩きつけるために放たれる。

かろうじて身体の向きを変える事で避けると、バンシィのビームサーベルの持ち手から上を切断するノワール。

「チッ…だが無意味だ!」

左手のクローでノワールを殴りつけようとするバンシィ。

「ただやられる訳ねえだろっと!」

ビームブレードをクローに突き刺し、クローを使い物にならなくするノワール。

「この雑魚がぁ!」

破壊力を失ったクローだが、叩きつけることくらいは出来る。

「アガッ!!!?」

ノワールを殴って距離を取ると、バンシィはゴールドフレームに向かって瞬時加速。

「それを返せ!」

「くっ…!」

ゴールドフレームが持っていたビームサーベルを取り返すと、ゴールドフレームを踏み台に再度瞬時加速。

「死ねぇぇぇぇ!!!!」

狙うは、ノワールただ1機!

だが、この場にいるのはノワールだけではない…!

 

ドンッッッ!!!!

 

「なっ!!!?」

下から放たれた衝撃に、バンシィの攻撃がずれる。

その隙にバンシィのクローからビームブレードを回収、ついでに蹴り飛ばして距離をとるノワール。

「…サンキュー鈴、おかげで助かった」

「アンタも、なのね…?」

隣に来た甲龍に礼を言うノワール。

「アンタも、S.M.Sの人間なのね?」

「ああ…そうだよ。でなきゃコレ使えねえよ」

「……いつから?」

「流石にそこまでは話せねえよ…」

「あ、そう。まあ良いわ。コレが終わったらじっくり聞かせてもらうから」

「ねえ俺今話せないって言ったよね?スルーするのはやめてもらえます?」

「いつまで話しているつもりだ!!!!」

中学時代と変わらない会話をする2人に、痺れを切らしたバンシィが突進してくる。

「ッ!!!!」

最初に反応したのはノワールだ。

咄嗟にバンシィの右手首を掴んでビームサーベルの斬撃を阻止し、続けて振り下ろされたクローも受け止める。

次の瞬間。

 

ビリッ!!!!

 

「ッ!?」

バンシィを駆るエムの頭に、強い衝撃が一瞬走った。

急ぎノワールから距離を取るバンシィ。

「…あ?」

バンシィの行動が理解出来ないノワール。

何か来るのかと、警戒レベルを跳ねあげた。

 

 

「(何だ今のは…?)」

今も若干痛む頭に、エムは疑問を持つ。

しかし、バンシィ自体にはクロー以外特に損傷は無い。

「(気にしても仕方ないか…)」

ビームサーベルを構え、バンシィは再び突進する。

 

 

「あら?もう終わりかしら?」

「ッ…」

「ユキ、エ…」

ゴールデン・ドーンの前には、シールドエネルギーが枯渇寸前のアストレイ・ゼロと、ボロボロのセリーがいた。

「じゃあ、さよなら…彼には、よろしく言っとくわ…」

右手を高く上げ、巨大な火球を作り出すスコール。

 

 

「人の家族に手ぇ出すんじゃねえ!!!!」

 

 

「ッ!!!?」

猛スピードで飛んで来たフリーダムに蹴られ、ゴールデン・ドーンの姿勢が崩れる。

「ハアァァァァァァァァァァァァ!!!!」

両手のビームサーベルを巧みに使い、ゴールデン・ドーンを次々と斬り刻む。

「アンタと言えど!コイツらに手を出す事は許さねえ!!」

「は、速い…!?」

スコールが以前戦った時とは比べ物にならない速さでフリーダムが舞う。

「これが…フリーダムの全力…」

「甘いな!ミオの全力はこんなもんじゃねえ!」

ゴールデン・ドーンを蹴飛ばし、雪恵とセリーから距離を取ると、容赦なくフルバーストを放った。

それを、シールドエネルギーの大半を消費しながらも受け切ったスコール。

いや、それすら一樹の計算通りなのだろう。

「…飛べる程度に損傷を抑えてくれたのは、慈悲かしら?」

「…俺は人殺しはやらない」

「それは道徳的な意味かしら?それとも…過去のトラウマから来る言葉かしら?」

「……さっさと行け」

スコールにはもう、フリーダムを攻撃するための武装は残されていない。それが分かっている一樹は、雪恵とセリーの元へと向かう。

「…あなたも分かっている筈よ。自分が今、どうなりつつあるのか」

それだけ呟くと、スコールはアジトに向かって飛んで行った。

 

 

麒麟の雪片弐型の斬撃に、装甲脚が2本切断されるアラクネ。

「こなくそ!」

残った全ての装甲脚からビームサーベルを発現、麒麟へと突進してくる。

「ッ!」

ギリギリまで引きつけると、麒麟の反応速度を最大限活かした動きでアラクネの背後に回り、更に雪片を振るう。

「チッ!?」

装甲脚を1本を失いながらも、致命傷は避けるオータム。

「ハァッ!」

横薙ぎに振るわれた雪片を、全てのビームサーベルを収束させて受け止める。

「クソッ…」

オータムはイラつきが収まらない。

何故なら、一夏はまだ全力を出してないのが目に見えて分かるからだ。

麒麟はデストロイモードになっていなし、雪片もその能力を発動していない。

「(遊んでやがるのか!?)」

「遊んでなんかいないさ、この状態で出せる全力を出してるだけだ!」

オータムの表情から思考を読んだ一夏の声が、余計にオータムをイラつかせる。

「それが遊んでるってんだよ!」

「あ、そう。じゃあ…」

アラクネを蹴飛ばして距離を取ると、麒麟の全身が金色に光り、雪片の刀身が開く。

『【零落白夜】、発動します!』

ハクの声と同時に現れる白く光る刀身。

対IS最終兵器が現れる。

「コレでトドメだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

暗くなりつつある京都の空で、残像を残しながら飛ぶ麒麟。

その白光の刃が、アラクネに振り下ろされる。

「ガッ!?」

装甲脚は全て切断され、シールドエネルギーもほぼ消滅した。

だが、かろうじて機体は残っている。

麒麟が更に攻撃しようと追撃してくる前に、出せる限界スピードでアラクネが向かった先には…

「ッ!?危ない簪ちゃん!!」

更識姉妹が…

「来い!!!!」

簪を庇った楯無を拘束するオータム。

「お姉ちゃん!」

「それ以上近づいたら、どうなるか分かるだろ?」

「…やる事がいちいち小者くさいぜ?」

「っせえなクソガキ。だが、お前も動けねえだろ?」

「テメエ…」

「クソガキを捕まえれば良かったんだが、この際この女でも良いか。スコールも行ったみたいだし、さっさとずらかるか」

楯無を睡眠ガスで眠らせて、オータムは飛び去った。

 

 

「大丈夫でござるか?雪…」

「何とか…大丈夫だよ…」

「セリー殿は…?」

「私も…何とか…」

ボロボロの雪恵とセリーを抱えて歩く一樹。

機体を解除して和装なため、今はござる口調だ。

「…遅くなってしまい、申し訳ないでござるよ」

「もう…かーくん心配し過ぎだよ…」

「普段のカズキの方が…無茶してる…」

疲労の色を見せながらも、笑顔を浮かべる2人にホッとする一樹。

「…良かった」

思わず口に出たのか、口調もいつも通りの、本当に小さな声で呟いた一樹。

心なしか、2人を強く抱きしめていた。

「…ふふ」

「…えへへ」

それを感じられた2人は、嬉しそうな声を出す。

『マスター…後で私も甘えさせて…』

「分かってるでござるよ…」

穏やかな笑みを浮かべて応える一樹。だが、その表情が一瞬で険しくなると…

「揺れるでござるよ!!!!」

2人を抱えたまま、全速力で走り出す。

その瞬間…

 

ドォォォォンッ!!!!!!!!

 

極太ビームが、京都の大地を震わせた。

『オイオイ、何逃げてんだよフリーダム。オレと遊ぼうぜ?』

新たな機体、デスティニーに()()()レインの声が解放回線に響く。

「…お主と遊んでいる暇は無いでござるよ」

『釣れないねえ…まあ、そんなのは無視すんだけどさ!』

バックパックに搭載されている【高出力インパルス砲】を一樹達に向かって撃ちまくるデスティニー。本気で一樹達を消すつもりだ。

「セリー殿!頼めるでござるか!!!?」

「うん…!ユキエは、任せて…!」

駆けながらセリーに雪恵を頼むと、2人が傷つかない絶妙な角度でスライディング。

『消し飛べ!』

デスティニーのインパルス砲が、放たれる…!

 

ドォォォォンッ!!!!!!!!

 

大きな爆発が起きた。

「ったく、さっき『あばよ』って言っただろうが。空気読めよクソアマ!」

爆発の中から、その蒼翼を広げてフリーダムが舞い上がる。

『それならオレも『覚えてろ』って言っただろうが。忘れてるオメェが悪いんだよ!』

ビームライフルを撃ち合いながら、徐々に浮上していく2機。

「そこだ!」

デスティニーの翼を狙い、ビームライフルを撃つフリーダム。だが、デスティニーはそれを僅かに降下しただけで避ける。

「…ん?」

何かが引っかかる一樹。

しかし、今は気にしてる暇は無い。

更にビームライフルを連射するも、デスティニーは最小の動きでフリーダムの射撃を避け続ける。

「俺の攻撃パターンを把握してやがるのか…!?」

『テメエは、絶対に人体に影響を与えない場所しか攻撃しねえ!ISでそんな場所は意外と少ない…となれば、自ずと武装に焦点が来るんだよ!』

武装に攻撃が来ると分かっているのなら、その武装を守れば良い。

フリーダムの戦いを、第三者の視点で見続けていたレインだからこそ、これに気付けた。

『いつもいつもテメエの思い通りに…やれると思うな!!!!』

背部ウイングブースターに装備されているビーム大剣、【アロンダイト】を抜刀。正眼に構えると同時にウイングブースターから眩い翼状の光が現れる。

残像を残しながらフリーダムに急接近するデスティニーに、フリーダムもビームサーベルを構えて迎え撃つ。

2機がすれ違う度に激しくスパークが起こる。

『テメエはオレが討つんだ…今日!ここでな!!』

「チッ…」

縦横無尽に飛び回るデスティニーの斬撃を、華麗に舞って避けるフリーダム。

突進してきたデスティニーを回し蹴りで蹴飛ばすと、二丁のビームライフルを連結させて【ロングライフル】を放つ。

『クッ…』

デスティニーの機動性を以ってしても、回避は間に合わない。止むを得ずビームシールドで受け止めるレイン。

だが、その威力に後方に弾かれる。

姿勢の崩れたデスティニーに追撃しようと、スラスターを蒸すフリーダム。

『っざけんな!!!!』

姿勢が崩れている状態で、正確にフリーダム目掛けてインパルス砲を撃ってくるデスティニー。

「……」

しかし、フリーダムもスキュラを撃ってインパルス砲を相殺した。

 

 

『エム、レイン、お遊びはそこまで。一時撤退よ』

 

激闘を繰り広げるレインの耳に、スコールの淡々とした声が聞こえた。

『何でだよおばさん!オレはまだやれる!』

『レインに同意だな。私もまだやれる』

『命令よ。心配しなくてもすぐに暴れさせてあげるから、今は戻りなさい』

スコールは通信を切った。

レインは舌打ちすると、フリーダムに背を向けてアジトに向かって飛び去る。

「……退くのか?」

『そうみたいだね。私達も戻ろ?雪恵さん達が心配だし』

「ああ」

 

 

無事旅館にたどり着いた一樹。

「今戻ったでござるよ。女将、すまぬが水を一杯いただきたいでござる」

「かしこまりました」

激戦の連続で思った以上に乾いていたのか、冷たい水が心地いい。

女将に礼を言ってから、一夏から聞かされていた部屋に入る一樹。

「あ、かーくん来た。こっちこっち」

手招きする雪恵の隣に逆刃刀を抱えながら座る。

「…現状を説明してくれぬか?」

「櫻井君…座り方もこだわってるね…」

簪の目がキラキラ光っている様に見えるが、スルーした。

右隣に座る雪恵が頬を膨らまして腕を組んで来たのとは関係無い。無いったら無い。

「…更識姉が拐われた」

千冬の言葉に、一樹の表情が険しくなる。

「…拐ったのは、誰でござるか?」

「…亡国機業の、オータムだよ。一瞬の隙を突かれてやられた」

左隣に座る一夏の言葉に、逆刃刀を握る手に力が入る。

「…ところで、ダリル先輩とフォルテ先輩はどうなったんですか?」

2人が裏切った事を知らない簪が千冬に聞く。

「…その2人は、亡国機業についたでござるよ」

俯きながら言う一樹の表情は読めない。

淡々と告げる声に、簪は愕然とする。

「そ、そんな…だって2人は、IS学園の最強コンビだって…」

「ダリルは元々亡国機業側の人間だったそうよ。それにフォルテはついていった形ね」

面倒そうに言う鈴。

「それに…2人の裏切りと同じかそれ以上に厄介な事があるぜ」

「…あの事でござるな?」

「ああ」

一樹の正面に座る弾が、エムの機体について報告する。

「どうやって手に入れたか知らんが、亡国機業も一夏と同じようなシステムを搭載した機体を使ってやがる」

「な!?」

それに驚いたのは、その機体を扱っている一夏だ。

「(…確か、前にイタリアの整備士から自慢げに電話が来たな『これで君たちを超えられる』という内容のが。奪われたら世話ないけどな)」

呆れて物も言えない一樹。

そして、そのシステムはS.M.Sでとっくに作られていたという…

「厄介には変わりねえけどな…」

「ああ…」

小声で呟いた一樹に同意する一夏。

「…んで、ソイツの狙いは一夏、お前だったぜ」

「まあ、そうだろうな…」

「気をつけろ。奴の速さは尋常じゃない。幾ら()()()でも、油断したら大怪我じゃ済まない。死ぬぞ」

「…分かった。気をつけておく」

「それも気になるでござるが…」

一呼吸置いて、一樹が話し始める。

「何より気になるのは、楯無殿の安否でござるよ」

「「「「……」」」」

「楯無殿は優秀なIS乗り、亡国機業側からしたら喉から手が出るほど欲しい人材でござろう。ただ…連中が楯無殿をまともに扱うとは思えないでござるよ」

「確かにな…恐らく、今晩にでも攻めてくる。皆、準備を怠るなよ」

「あの…織斑先生」

控えめに手を上げるシャルロット。

その表情は、何か聞きたげだ。

「…何だ?デュノア」

「その…そこにいる男の人と、織斑先生の隣にいるアリーシャさんは、何故ここに?」

「2人とも協力者だ。他に何かあるか?」

「アリーシャさんはともかく、男性がいる理由が分かりません」

「…だ、そうだ。すまないが自己紹介してくれるか?」

申し訳なさそうに弾を見る千冬。

戸惑いの表情で弾が一樹を見ると、肩をすくめられた。

面倒だが仕方ない、という意味で。

それを理解した弾は身なりを整え、改めて自己紹介した。

「…今回の作戦で共闘させていただきます。S.M.S防衛科所属の五反田弾少尉です。よろしくおねがいします」

きっちり直角に腰を折る弾。その姿を見て驚いたのは、普段のおちゃらけた状態しか知らない鈴だった。

 

パチンッ!!!!

 

どこかから指を鳴らす音が聞こえ、一瞬部屋が強く光った。

全員がその方向を向くと、いつのまにかS.M.Sスタイルに着替えた一樹の姿があった。

「…話す内容が内容だからな。この姿に戻させてもらった」

あの女将には内緒にしてくれよ?

と、苦笑を見せる一樹。

「さて…今言った通り、弾はS.M.Sの人間だ。実力は保証する。これは他言無用で頼むぜ?」

全員が頷いたのを確認すると、話しを続ける。

「後、対IS装備も持ってる。前俺が使ってた機体の改良型で、その名も【ストライクノワール】なんだが…言っちゃ悪いけど、お前らよりは強いぞ?」

「やめて一樹!?俺を過大評価しないで!」

 

 

「話を戻して…アーリィ、機体の損傷は大丈夫なのか?」

「問題無いのサ」

「んじゃ、ブリュンヒルデクラスが1人増えた事になって、国家代表クラスがマイナスと…」

キツイな、と一樹が珍しく弱音を吐いた。

「…1人あたりの分担が大きくなるな」

「じゃあ、俺はさっきの話の新型を相手するか」

一夏は、自分からバンシィの相手をすると言い出した。

「…いや、下手に役割分担しない方が良い。今回の奴らの機体のスペックを考えたらな」

「確かにな。更識姉の救助が最優先とだけ決めておけば良いだろう」

臨機応変に対応するのが一番と判断する一樹に同意する千冬。

「…けど、チーム分けはした方が良いと思う」

弾の発言に、全員が顔を向ける。

「チーム分けって言っても…俺とお前が単騎で良いじゃねえか」

「あ、俺もそれで」

一樹、一夏がそれぞれ単騎を望むのに呆れる弾。

「いや、お前ら…少しは連携を考えようぜ?」

「「じゃあ一夏(一樹)とで」」

「そこは俺も入れろ!じゃなかった!!学園の仲間と!!」

「だって一夏」

「いや待て一樹。お前も雪恵やセリーと組めよ」

「雪とセリーを危ない目に合わせる気か貴様!」

「雪恵は専用機持ってるしセリーは俺より強いっての!!」

「生身ではな!IS相手って無茶にも程があるだろうが!!!!」

「えこひいきすんな!」

「お前みたいな八方美人よりマシだろうが!!!!」

「誰が八方美人じゃゴラァ!!!!決着つけてやるから表出ろ!!!!!」

「上等だ!ハクには悪いが、ボコボコにしてやるから覚悟しやがれ!!!!」

いつのまにか喧嘩腰で部屋から出る2人。

「お、おい2人とも!」

それを慌てて追う弾。

雪恵とセリー以外の女子が呆れていると、千冬がため息をつきながら言う。

「…お前ら、行かなくて良いのか?アイツらは今ので出撃したぞ?」

「「「「…あ!!!?」」」」

 

 

「オラ、さっさと歩け」

「ッ…」

縛られた楯無が、レインに薄暗い部屋へと蹴飛ばされる。

「ご気分はいかがかしら?更識楯無さん」

優雅に微笑みながら話しかけてくるスコールに、楯無も笑みを浮かべながら答える。

「最悪♪」

「あらあら。レイン、お客様は丁重におもてなしをしなさいと教えたでしょう?」

「コイツはお客様とは言わねえよ。学園にいる間は【学園最強】とやらで煩かったんだ。これくらいはしないと割に合わねえ。そんなことよりおばさん、フォルテのアレは終わったのか?」

「もちろんよ。デスティニーをデチューンしながらも高性能を維持した機体、【インパルス】を彼女に託すことにしたわ」

「そうか、なら良い。オレはもう行くぜ」

「ええ、お疲れ様」

レインが部屋から出ると、楯無とスコールの2人だけとなった。

「…何を企んでいるのか知らないけど、無駄に終わるわよ?今のIS学園には、()()がいるもの」

「あら?あなたも認めてるの?櫻井一樹の実力を」

「当たり前よ。何せ共に戦ってる仲間ですもの。彼と一夏くんがいれば、あなた達を相手することくらい簡単よ」

「へえ、随分信頼してるのね…でも、それも万全な状態での話。今回はそう簡単にはいかないわよ」

そう言うと、スコールは照明のスイッチを入れた。

そこにあったモノを見た楯無の顔が、驚愕に染まる。

それは、黒く光る巨大なIS。

普通のISの2倍以上の大きさのソレに、楯無の体が震える。

「あなたにはこの機体の()()()になってもらうわ。そして、京都の街を破壊してもらう」

「そんなこと…だれがするもんですか」

「言ったでしょ?『パーツになってもらう』って。そこにあなたの意思は関係ないわ」

無表情で話すスコールに、楯無は恐怖する。

「あなたの言う【仲間】とやらは、あなたを討つ事が出来るかしら?」

果たして、その黒いISとは…




ドンドン派手になっていく京都編。


最後の機体は…皆さん、もうお分りですよね?


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Episode124 弱点-ウィークポイント-

遅なりました!

ギリギリ2月に間に合った…


いやアレなんですよ!バレンタインネタとかやろうかなとか時間無いのに悩んでたこんな事に…


細かくは後書きで!


「しっかし、幾ら巻き込みたくないからって…喧嘩しながら出なくても良かったんじゃね?」

旅館を出た男子3人。

楯無のミステリアス・レイディの反応の元へと飛んでいると、弾が呆れ口調で言う。

「ん?別に喧嘩じゃねえだろ。なあ一夏」

「ああ。アレはボケとツッコミだ」

「んな訳あるか!」

幼馴染コンビに盛大なツッコミを入れる弾。

『一応雪恵さん達には説明してたんだから、マスターは抜かりないよね』

「雪はあれくらいすぐに演技だと見抜いちまうからな…一夏が演技下手すぎて」

「濡れ衣だ!演技が下手なのはお前だろうが!」

『すみませんマスター。私も一樹さんに同意です』

「ハクまで!?」

相棒にまで裏切られた一夏だった。

「まあ、一夏の事は今は置いといて」

「置いとかれた…」

後ろで一夏がシュンとしてるのが感じられるが、一樹は気にしない。

「…敵さんのおでましだ」

そこに飛んでくる複数のビーム。

咄嗟に散開して避ける3人。

『あん?人数少ねえな』

ビームライフルを連射してくるデスティニー。

「大方、足手まといな奴らを置いてきたと言ったところだろう」

バンシィを駆るエム。

その後ろに付く、フォルテが駆るインパルス。

『なるほどな…じゃあ!遠慮はいらねえな!』

最大稼働したデスティニーが、フリーダムに迫る。

「遠慮なんかした事ねえくせに、何言ってんだか」

デスティニーがビームを連射してくるのに、フリーダムもライフルを撃ち返す。

「決着をつけるぞ…織斑一夏!」

「上等だ!かかって来い!

バンシィはビームサーベルを構えて麒麟に突撃する。麒麟もまた、ビームサーベルを構えて迎え撃つ。

「じゃあ俺はアンタの相手だな!」

『男に負ける程落ちぶれちゃいないっスよ!』

それぞれ戦闘を開始。

夜の京都に、ビームが飛び交う…

 

「「「「置いて行くなぁ!!!!」」」」

 

そんな叫びと共に、飛んでくる攻撃。

思わぬ攻撃に、慌てて避ける亡国機業たち。

「あー、もしかしなしくても千冬姉がバラしたのかな?」

呟く一夏に、一樹と弾の非難の視線が…

「いや!俺のせいじゃ無いだろ!?」

ふざけている間にも当然攻撃が飛んでくる。

それを華麗に避けるフリーダム。

最小限の動きで避ける麒麟。

やや大きめな動きで避けるノワール。

…大袈裟に避けるIS学園組み。

『『「コントか!!!?」』』

亡国機業組みのツッコミを完全にスルーし、フリーダムが先制する。

「(…ミオ、ダリルとフォルテが使ってる機体を調べろ)」

『え?良いけど…何で?』

「(あまりに動きが良すぎる)」

『!?分かった!』

「一夏!」

「あいよ!」

ビームサーベルの二刀流で突っ込むフリーダムをビームマグナムで援護する麒麟。

『チッ!』

ビームマグナムの攻撃をビームシールドで受け止めるデスティニー。

それに肉薄するフリーダム。

『ッ!?』

何とかフリーダムの斬撃を避けると、アロンダイトを振り上げる。

「やっぱり小回りが効かないみたいだな」

しかし、フリーダムは踊るようにアロンダイトを避けるとデスティニーの後頭部に裏拳を決める。

『ウワッ!?』

ガラ空きの背中に、ビームサーベルを振り下ろそうとするが…

『ダリルさん!』

インパルスが撃ってきたビームに邪魔される。

「クソッ…弾!ちゃんと相手してろよ!」

ビームを避けながら、ノワールに文句を言うフリーダム。

「無茶言うなよ!?仮にも2年の代表候補生だぞ!!?」

ツッコミをいれながら、ビームブレードでバンシィのビームサーベルを受け止めるノワール。

『クソッ!こんなふざけた奴らに良いようにされてたまるか!フォルテ!』

『ウッス!』

レインに応えると、フォルテはインパルスのバックパックを換装する。

機動性重視の赤い【フォースシルエット】から、砲撃戦仕様の深緑色のバックパック、【ブラストシルエット】へと。

それと同時に、VPS装甲も鮮やかな三色(トリコロール)から深緑基調に変化した。

『喰らえッス!』

両脇に抱える大出力ビーム砲、【ケルベロス】から放たれる極太ビーム。

フリーダムはそれを華麗に舞って避けると、インパルスに急接近。ビームサーベルを振り下ろす。

『クッ…』

何とか身を反らして避けるインパルス。

『当たれッ…!』

苦し紛れに近接武装のビームジャベリンを振るうが、フリーダムはそれを紙一重で避ける。

『フォルテ!』

更に追撃しようとするフリーダムに、デスティニーの攻撃が迫る。

止むを得ず急上昇して避け、牽制のビームライフルを撃つ。

「(一夏達は…!?)」

 

 

先程まで一樹の援護をしていた筈の一夏と、代表候補生達は…大量のゴーレムIIIと激闘を繰り広げていた。

「ちくしょう!前より数が増えてやがる!」

向かってくるビームをシールドで受け止めながら愚痴る一夏。

「こうなったら…!」

ユニコーンに変わろうとする一夏を、ハクが止める。

『ダメですマスター!あの黒いのに【変身】するのを狙われています!?』

「なっ!?」

 

 

「クソッ…」

一夏が戦闘に集中出来るようにするためには、現状弾がバンシィの相手をしなければならない。

だが、今はむしろ弾が相手をされてる状況だった。

実際、バンシィはデストロイモードを発動すること無くノワールを相手取っている。

「(俺の腕が大した事じゃないのは知ってたけど!タイマンで遊ばれる程かよ!?)」

バンシィに遊ばれてる…

そう感じ、一瞬冷静さを無くしかける弾。

しかし、何とか深呼吸して落ち着く。

「(危ねえ…熱くなりすぎてた。考え方を変えよう。なりたくてもなれないってな!)」

冷静さを取り戻し、再度ビームブレードを構えてバンシィに挑む。

 

 

「(クソッ…何故【変身】が出来ない!?)」

ノワールの攻撃を受け止めながら、エムは舌打ちする。

エムとしては、乱戦になった段階でデストロイモードに【変身】したかった。

しかし、謎の頭痛によりサイコフレームを反応させる事が出来なかった。

白式が【変身】するために脳波を発するのを利用しようとすれば、それに気付かれて【変身】をやめられる始末。

「(システムに異常がある訳ではない…なら、何が原因だと言うのだ!?)」

「ハアァァァァァァァァ!!!!」

全力でビームブレードを振り下ろしてくるノワール。

バンシィはビームサーベルでそれを受け止め、フリーダムに向かって蹴飛ばす。

「ガッ!?」

「ッ!?」

自らに向かって飛んでくるのを認識したフリーダムはやむを得ず急上昇。追撃を狙うバンシィに両腰のレールガンを放った。

「チッ!?」

何とか左腕で受け止めるも、大きく後方に下げられてしまうバンシィ。

「弾!フォルテの相手は頼んだ!」

デスティニーに牽制のライフルを撃ちながら、バンシィに斬りかかるフリーダム。ビームを撃って迎撃しようとするバンシィだが、狙いの定まっていない攻撃に当たるフリーダムでは無い。

「クッ…」

ノワールならともかく、全力を出せない現状でフリーダムの相手はキツイ。

今はデスティニーとの2対1で戦えているため何とかなっているが、それもいつまで保つか…

「(いい加減動け!バンシィ!!)」

 

 

「みんな!大丈夫か!?」

デストロイモードになれないために、専用機持ちたちの補助に回りにくい麒麟。

何とかビームサーベルで1機のゴーレムIIIを戦闘不能にするも、まだ麒麟の周囲にはゴーレムIIIが固まっている。

『…一夏、私達は何とか大丈夫。だから、一夏の方こそ気をつけて。敵の殆どが、一夏に固まってる』

自らも1機のゴーレムIIIの相手をしながら、簪が教える。

普通ならかなり危ない状況だが、自分に集中して来る方が一夏にはありがたい。

「サンキュー簪!それなら…」

一夏は、装甲の下で獰猛な笑みを浮かべる。

「危ないから、俺の戦闘宙域から離れててくれ!!」

言うが早いか、ビームマグナムで5機を纏めて撃ち抜く一夏。

これで、少しは空間が出来た。

 

 

一夏が殆どのゴーレムIIIを相手しているが、専用機持ちたちも奮戦していた。

両腕に近接武装を持つ箒、鈴、シャルロットがゴーレムIIIの両腕を抑え、セシリアにラウラ、簪がその火力で撃ち抜く。

一夏の様に爆発的な戦果は無いが、確実に敵を減らしている。

更に、遅れて到着したアーリィの存在も大きい。

「流石に、お人形さんに負ける訳にはいかないのサ♪」

本人は認めていないが、2代目ブリュンヒルデと呼ばれるその実力は折り紙つきだ。

実際、1度に3機を相手取っている。

そんな専用機持ち+アーリィの活躍を見て、イラついたレインがビームライフルを連射する。

『雑魚はすっこんでろ!』

当たれば死を意味するその射撃を、全員必死で避ける。

「こんのぉ!」

苦し紛れにワイヤーを射出するラウラ。

しかし、最大出力のデスティニーはそれを簡単に避ける。

それどころか、ワイヤーを掴み…

『邪魔なんだよ!!』

掌部ビーム、【パルマフィオキーナ】でワイヤーを破壊した。

「なっ!?」

動揺するラウラに向かって、アロンダイトを構えて突撃する。

「ラウラ!!」

ラウラの危機に、シャルロットがシールドガトリングを連射。

『チッ!』

何とかデスティニーの動きを止める事が出来たが、不利な状況に変わりはない。

 

 

「ああ雑魚が鬱陶しい…!一夏!弾!」

「「何秒!?」」

「15!!!!」

「「10で!!!!」」

「しゃあねえな!!!!」

短く会話を終わらせると、ノワールと麒麟がそれぞれビームを連射。亡国機業の有人IS達の動きを止める。その隙にフリーダムは急上昇、マルチロックオンからのフルバーストで一気にゴーレムIIIを撃墜する。

 

 

 

『…マスター、解析終わったよ』

「流石だミオ!で、結果は?」

ブラストインパルスが放った大量のミサイルを絶妙なスラスター制御で避けながら、先を促す一樹。

『解析の結果、ダリルとフォルテは私達ISコアの()に体をデータ化して入ってるよ…』

「…あ?つまり…」

一樹の声は、ミオが聞いた事がない程低かった。

「アイツらは()()()()に居座ってるって事か?」

一樹の言う【あの場所】…

ミオ達ISコアがいる、綺麗な空間。

決して汚してはならない、安らぎの空間…

そこを侵食するということは…

『…そう、だね』

「…そうか」

酷く落ち着いて聞こえるその返事が、返って重く感じる。

 

_____ミオやハク、その妹達の綺麗な空間を汚す奴らは…

 

「…手足の1、2本は覚悟しろよクソアマ供!!!!」

フリーダムはそのスラスターを全開。

一瞬でインパルスに接近するとその右腕を切断した。

『なっ!?』

データ化しているため、フォルテの体自体にダメージは無い。

だが…逆に言えば、コアさえ傷つけなければ一樹の【不殺の誓い】は守られる。

故に、この2機を相手に手加減をする必要はほぼ無い!

『フォルテ!』

インパルスの危機に、アロンダイトを構えて突撃してくるデスティニー。だが…

 

ドォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!

 

『グッ…』

超至近距離で放たれたレールガンにより、大きく後方へ吹き飛ばされる。

『ダリルさん!』

慌ててフォースシルエットに換装するインパルス。後方に下がりながら、残った左手に持ったビームライフルを連射する。

「……」

その程度の射撃を喰らうフリーダムでは無い。

連続で放たれるビームを避け続け、インパルスの左腕を根本から切断する。

『クッ!?』

『こんのぉ!』

負けじと、デスティニーがインパルス砲を放つ。

それを空中バック転で避け、お返しとばかりにスキュラを放つ。

『クッ…』

回避は間に合わず、ビームシールドで受け止めるデスティニー。

『ガッ!?』

追撃しようとスラスターを蒸すフリーダム。

だが…

「…ッ!!!?」

嫌な気配を感じ、急ぎ進路を変える。

そこに…

 

ドォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!

 

3つの超極太ビームが飛んできた。

「この出力は…!?」

『動力炉を2つは使ってるね…!』

ビームの来た方向を向くと…

 

そこに、円盤に足が生えた様な、黒い悪魔がいた。

 

「ミオ、俺たちがいつもやってる事があるだろ?【やられたら】」

『【倍返し】だね!!!!』

「正解だ!!!!」

先のビームのお返しに、スキュラを放つフリーダム。しかし、それが黒い機体の全面に張られた陽電子リフレクターで弾かれる。

「…チッ」

一樹は小さく舌打ちする。それを嘲笑うかのように、黒い機体は()()を始める。

黒い円盤から、人型へと…

 

 

『来んのが遅いんだよ!』

フリーダムに斬りかかりながら、レインが愚痴る。

『結構粘られたのよ…後はレインとエムの好きになさい』

『「了解」』

装甲の下で、悪魔の様な笑みを浮かべる2人…

『フォルテさん、予備のチェストフライヤーとソードシルエットを送ったわ。換装すればまだイケるでしょ?』

『勿論っス!』

 

 

「なに…アレ…?」

簪が震えながら、人型に変形した黒い機体…デストロイを指す。

「…状況が変わった。お前ら帰れ」

険しい声で告げる一樹。それに反論するのはシャルロットだ。

「いやいや!これこそ僕たちにも協力させてよ!?これでも代表候補生なんだよ!?」

「……シャル、悪いが俺も一樹に同意だ。アイツ、やな予感しかしない」

雪片を持ちながら、一夏も険しい声で告げる。弾も声にこそ出さないものの、それに同意の様だ。

「しかし櫻井。お前たち3人だけで、あのデカブツにダリルやレイン、エムが相手するのはかなりキツイと思うが…」

ラウラの言う事ももっともだ。

単純な頭数でも1人少ない一樹たち。それに、デストロイを何か相手取りながら闘えるとは思えない。

「…ラウラの言う事は分かるし、確かにキツイ。けどな…お前たちは機体適性的に死ぬかもしれないぞ?」

「「「「ッ…」」」」

相手は【殺し合い】の為に作られた機体。

専用機持ちたちの機体はあくまで【競争】の為に作られた機体。

その攻撃力の差は歴然だ。

「…それでも、私は残るよ」

1人、しっかりとした目でフリーダムを見上げる少女…簪。

「私は、お姉ちゃんを助けに行きたい…だから、櫻井君に一夏が何と言おうと、私は残る」

「…何かあっても、助けに行ける保証は無いからな?」

「うん…ありがとう」

1人許してしまった以上、他の面々も引かないだろう。

「(さて…どうするか…)」

 

 

デストロイの搭乗者…楯無は必死で機体を止めようとしていた。

「(ダメ…コントロールが出来ない!)」

しかしデストロイは搭乗者であるはずの楯無にコントロール出来ず、ただのパーツと化していた。

「(せめて…攻撃の方向を決める事が出来れば…!)」

 

 

デスティニーとデストロイがフリーダムを、インパルスが麒麟を、バンシィがノワールを狙って動き出す。

『オラオラオラァ!!』

最大稼働である事を生かし、縦横無尽に飛び回る。

「ッ…」

対するフリーダム。デスティニーだけでなく、デストロイの攻撃を捌かなければならないため、今までに無いほど苦戦している。

『オイオイ!背中のソレは飾りかぁ!?』

「うるせえよ…」

レインの言う通り、一樹は一向に翼のスーパードラグーンを使おうとしない…

『知ってるぜ!お前が何故ソレを使わないのか!第三世代兵装の弱点にハマってんだろ!?』

デストロイに大量のミサイルを撃たせ、フリーダムを牽制、自らはアロンダイトを構えて突っ込む。

フリーダムはミサイル軍の中心を左手に持つビームライフルで正確に撃ち抜く。結果、爆発が他のミサイルを誘爆し、迎撃が完了する。だが、続けて振り下ろされたアロンダイトを右手のビームサーベルで受け止めるも…

「クッ…」

相手は両手でアロンダイトを持っているのに対し、フリーダムは右手のみ。パワーの差は歴然だ。

『第三世代兵装…搭乗者のイメージで動くソレは、通常じゃ考えられない程攻撃範囲が広い。だがな!』

フリーダムを蹴飛ばし、デストロイの五指から計10本のビームを放たせる。

それを、繊細なブースト制御で避けるフリーダム。

『逆に言えば、第三世代兵装は【搭乗者がイメージ出来ない動きは出来ない】って事になる!』

逆さまになりながら、デスティニーにスキュラを撃つフリーダム。

しかし、デストロイがデスティニーを庇う様に前に出て、陽電子リフレクターで受け止められる。

『お前はどうやらソレが【宇宙空間でしか動かせれない】って固定観念があるらしいな!映像で見たぜ?宇宙と、学園でのソレを使った戦闘をな!』

「…何お前?ヒマなの?」

『やかましい!…とにかく!その結果はどうだ?宇宙と比べたら、学園の時なんかお遊びじゃねえか!』

全力で振り下ろされたアロンダイトをビームサーベルで受け流し、デストロイの方へ蹴飛ばす。

しかし、デスティニーはその翼でブレーキをかけた。

「へえそうなんだ。それは知らなかった」

飄々と返す一樹だが、その心中は穏やかではない。確かに、大気圏内でスーパードラグーンを使うのは苦手である。

相手が使ってくる分には問題無い。

しかし、どうしてもドラグーンが浮いているのが納得出来なかった。

「(思った以上に調べられてる…!)」

デスティニーとデストロイ…かつてない強敵に、一樹はどう戦う…!




結局、バレンタインネタやるならまずクリスマスネタやってねえじゃん…という事を思い出し、お流れになりました。

大丈夫!物語内がその時期になればやるから!



多分、きっと、メイビィ…


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Episode125 感応–サイコフレーム–

本ッッッ当に遅くなりました!!!!

今回、改行が多く見にくいかもしれませんが、お楽しみください!


『ハアッ!』

ソードシルエットに換装し、エクスカリバーを麒麟に向かって振り下ろすインパルス。

「なんのッ!」

対して麒麟は、雪片弐型でそれを受け止める。

『こっちは二刀流なんスよ!』

両手で持っていたエクスカリバーを右手のみにし、空いた左手で更にエクスカリバーを持つ。

『さよならっスよ!』

振り下ろされたエクスカリバーは、麒麟の()()から発せられたビームサーベルに受け止められる。

『なっ…!?』

「あらよっと!」

驚くフォルテ。その隙を逃さず、前蹴りで距離を取る麒麟。

すかさず右手に持ったビームサーベルを振り下ろすが、それはインパルスのシールドに受け止められる。

『どういう仕組みなんスか!?』

「答える義理は無い!」

 

 

イライラしながらサーベルを振るうバンシィに、それを冷静に受け止め続けるノワール。

「いい加減墜ちろ…!」

「断固拒否する!」

ノワールの目的はあくまで時間稼ぎ。

自分がバンシィに勝てるとは思っていない。

実力的にも、機体性能的にも。

ならばひたすら防御に徹するまでだ。

「こんのぉ!」

バンシィがその右腕から高出力ビームを放ってくる。

「こなくそ!」

それを気合いで避けるノワール。その勢いでレールガンを放つが、バンシィのビームサーベルに切断される。

「(ノワールのレールガンじゃ遅いのか…!)」

これがフリーダムだったなら、そんな芸当は出来なかったであろう。

断っておくが、ノワールの性能も決して低くない。むしろ、一夏を除いた代表候補生たちの機体より性能は上だろう。

つまり、今のIS学園陣営では3番目に高性能な機体を駆っていることになる。

しかし、相手は一夏の麒麟と同程度の性能を持つバンシィだ。むしろノワールがここまで耐えている事自体、評価されて然るべきだろう。

 

 

『オラオラオラオラオラオラオラァ!!!!』

「やかましいんだよ…!」

最大稼働で飛び回り、ひたすらフリーダムに斬りかかるデスティニー。

1対1ならフリーダムが勝利しただろうが、今フリーダムはデストロイにも狙われているのだ。簡単には、切り抜けられない…

しかも、それだけではない。

「(あの機体から…嫌な感じがしやがる…!)」

下手に攻撃すれば、()()()壊れそうな感覚がするのだ。

だから未だに、デストロイに近接攻撃が出来ないでいる。

『お前の予想は多分合ってるぜ!さて、どうするんだ!?』

左手のパルマフィオキーナでフリーダムの頭部を狙ってくるデスティニー。

「相変わらず良い趣味してんな!」

それを左腕のビームシールドで受け流し、ニーキックで距離を取るフリーダム。

一樹の予想が合っているということは…

「(あの機体に乗ってるのは楯無かよ!!?)」

最悪の展開となってしまった。

そして、恐らく楯無のコントロールは効いていないのだろう。

「(とにかく…何が何でも、あの機体から引きずり出す!)」

最初から自分を友人と認めてくれた、簪のためにも。

そして_____

 

 

 

 

 

_____自分の心のためにも。

 

決意を胸に、フリーダムは舞う!

「ったく…世話が焼けるッ!!!!」

デスティニーの突撃を空中前転で避け、がら空きの背中を踏み台に瞬時加速。

『オレを踏み台にしたぁ!?』

某三連星のリーダーの如く叫ぶレインは無視する。

接近してくるフリーダムを、デストロイは五指からビームを撃って迎撃しようとする。

「ミオ!付いて来いよ!!」

『合点承知!』

ストライクフリーダム…ミオの反応速度を信じ、一樹はデストロイの攻撃に向かって突っ込む。

ビームの隙間を縫うように飛んで避け、懐に取り付こうとしたが…

「ッ!!?」

右横からの攻撃に、上昇せざるを得なかった。

「何が…!?」

『マスター見て!デカブツの左手が分離してる!』

ミオの言葉に一樹が右横を見ると、確かにデストロイの左手が分離し、一種のビットの様になっていた。

「…仮にも国家代表を乗っけてるだけあるな」

ビームを避けながら愚痴る一樹。

「しっかし…」

右横から来た斬撃を、ビームサーベルで受け流す。

「お前邪魔じゃボケェ!」

『邪魔してんだから当然だろうが!』

デストロイにいる楯無を救おうにも、レインのデスティニーが邪魔で動けない…

「(あともう少し耐えろよ楯無!)」

 

 

連続で振り下ろされるバンシィのビームサーベルをひたすら捌くノワール。

そんな状況がずっと続き、ついにエムがキレた。

「いい加減にしろ!!!!!!!!」

「ッ!!?!!?」

その怒りの脳波が、抵抗していたバンシィを強引に【変身】させる…

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

「やべッ…」

金色に輝くサイコフレームに、狂気の叫びをあげるエムに冷や汗を流す弾。

「墜ちろォォォォォォォォ!!!!!!!!」

デストロイモードとなり、パワーとスピードが段違いになったバンシィ。

そのスピードでノワールに肉薄、ビームサーベルを振り下ろす。

それを、両手のビームブレードで受け止めようとするノワールだが…

「ガァッ!!?」

バンシィのパワーによって、京都の大地に叩きつけられた。

追撃を警戒するノワールだが、バンシィはノワールは既に眼中に無いらしい。インパルスと激闘を続ける麒麟に向かって、スラスターを蒸した。

「ッ!!?一夏!気をつけろ!!!!」

 

 

弾の焦った様な声で、大体想像が出来た一夏。鍔迫り合いを続けていたインパルスを前蹴りで蹴飛ばすと、すぐに上昇。バンシィの突進を避ける。

『正面から、強烈な敵性脳波を感知。デストロイモードに移行します』

「ッ!?ダメだハク!!」

淡々とユニコーンへと【変身】すると告げるハクを止める一夏。

その隙にバンシィが斬りかかってくるが、それはシールドで受け止める。

バンシィが左腕のクローを展開し、振り下ろしてくるのを手を掴む事で止める。

その瞬間、麒麟とバンシィの周りが光りだす。一夏はその光に、嫌な予感しかしない…

「光…この光こそ、私の力の源だ!!!!」

「違う…これは危険な光だ!!!!」

 

 

フリーダムに突撃しようとするデスティニーに、ビットの攻撃が来た。

『チッ…』

小さく舌打ちしてビットの攻撃を避けるレイン。

「お前ら…」

「すまない、遅くなった」

「前は不覚を取りましたが…今度はそうは行きませんわ!」

「住人の避難誘導って結構大変なのね…良い経験になったわ」

「ここは僕たちに任せて!」

「櫻井は、あのデカブツを!」

驚く一樹とレインの間に入る専用機持ちたち。

「…一夏の方じゃなくて良いのか?」

最終確認として、()()()()問いをする一樹。普段が普段のために、簪が苦笑しながら答える。

「…大丈夫。これは、一夏から頼まれた事だから」

「…そうか。なら、悪いが頼む。行くぜミオ」

『ラジャー!』

フリーダムがその場を離れると、大きく舌打ちするレイン。

『…オレの相手は雑魚共で充分ってか?ふざけやがって!』

最大稼働の証である光の翼が、箒達に圧をかける。

「…みんな、何としても奴を倒すぞ」

「「「「当然!!!!」」」」

ラウラの言葉に、全員が同意した。

 

 

「ミオ!楯無の場所を探してくれ!」

『お任せ!』

デストロイが放ってくる無数のビームを、ビームサーベルで弾くという離れ業で捌く一樹。

『…マスター。楯無さんは多分ここにいるよ』

ミオが投影ディスプレイに映したのは、デストロイの腹部に『?』マークだった。

「このマークの意味は?」

『あの機体、全体がブラックボックスみたいになってるの。だから、温度センサーで見た結果で1番可能性があるのがそこだったの』

「了解…じゃあ」

デストロイに向かって急加速するフリーダム。

慌てて迎撃しようとするデストロイだが、その程度の攻撃に当たる一樹とミオではない。

「表面を斬って確かめる!」

ミオが怪しいと言った、その場所の表面を削る様に斬る。

そこには…

「『ッッ!!?!!?』」

ヘッドギアを付けられ、四肢を拘束されている楯無がいた。

「ミオ!」

『アクセス開始!』

デストロイのコアにアクセスを試みるミオ。

コアを止める事が出来れば、この悪魔を止める事も出来る筈…!

『…ダメ!外付けの洗脳プログラムを付けられてる!』

「ゲス供が…!」

ビームサーベルではこれ以上削ることは出来ない。

しかし、コアに取り付けられている洗脳プログラムを外さない事には下手にコアにアクセスする事も出来ない。

「こんちくしょう!!!!」

対策が浮かぶまで、また防戦一方となってしまった。

 

 

バンシィは麒麟の拘束を振りほどくと、至近距離でその極太ビームを連射する。

「死ね」

「ッ…!」

何とかシールドで受け止めるも、反動で大きく後ろに吹き飛ばされる。

「のやろ…」

苦し紛れに頭部バルカンを撃つが、バンシィはそれを物ともせずに殴りかかってきた。

バンシィの両肩に手を置いて前転して避けると、ビームサーベルを抜刀。バンシィの頭上を狙うが、あっさり受け止められる。

「…遊んでいるのか?織斑一夏!」

「さあどうでしょうね!」

デストロイモードを発動したバンシィに対し、未だに麒麟の状態で対峙している一夏。

飄々と返す一夏だが、その内心は…

「(ユニコーンになった場合のサイコフレームの()()()()で何が起きるか分からないからなれないなんて言えるか!)」

 

 

ノワールの相手は、必然的に残ったインパルスとなっていた。

バンシィ程では無いにしろ、インパルスの反応も速い。

だが、先にバンシィという強敵と戦ったからか、弾は余裕を持ってインパルスの相手を出来ていた。

「(俺の戦闘スキルが若干上がった…とかだったら嬉しいね)」

実のところ、【若干】なんてレベルを超えて伸びているのだが…今の弾にそれを知る術は無い。

「(止まって見えるぜ!)」

インパルスの斬撃をシールドで受け止め、ビームピストルを超至近距離で構える。

『!?』

フォルテが気付いた時には、もう遅かった。

「じゃあな♪」

 

ババババババババババババ!!!!!!!!

 

超至近距離で連射されたビームは、インパルスのVPS装甲を破り、ボロボロにしていく。

『ッ!フォルテ、離脱します!』

使えなくなったパーツを全てパージして、コアスプレンダーのみとなったインパルスが離脱していく。

「あ!逃すかコラ!」

追撃しようとするノワールだが、デスティニーの渾身の蹴りを喰らい、阻まれた。

「アガッ!?」

『テメエ…よくもフォルテを!』

「まんまブーメランだろ!!?」

アロンダイトの攻撃を両手に持つビームピストルのグリップ部分で受け止めるノワール。

横目で辺りを見回すと、ボロボロの箒達が大地に倒れていた。

「(…時間稼ぎ助かったぜ!後は俺達に任せてくれ!)」

心の中で賛辞を送り、目の前の敵に集中するノワール。

しかし、恋人を倒されて怒りに燃えるデスティニーの勢いは尋常ではない。

ビームブレードに持ち替える隙すら無く、追い詰められていく。

『死にさらせやァァァァ!!!!』

「ガッ…」

左ストレートがモロに入り、一瞬弾の意識が持っていかれる。

続けて放たれた前蹴りにより、大きく吹っ飛ばされる。

その先には…

「_____ッ!一夏!避けてくれ!!」

バンシィと麒麟が激闘を繰り広げていた。

誰もが、ノワールがどちらかにぶつかると思った。

だが…

 

カァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!

 

強い光が突如発生した。

光が晴れ、全員の目に映ったのは…

「ふ、ふざけるな!そんな事があってたまるか!」

()()()()()()()()()()()エムの姿だった。

「「「「な!!?!!?」」」」

しかし、バンシィは麒麟の前でしっかりと健在している。

つまりは_____

「弾…なのか?」

「…えと、うん…」

_____バンシィが、弾を選んだという事だ。

 

 

『やっとあの人を追い出せたよ!待たせてごめんねマスターちゃん』

弾の脳裏に、ある少女の声が響く。

「え?え!?」

『あれ?マスターちゃんには私の声聞こえてないっぽい?おーい、聞こえてますかー?マスターちゃんの可愛い可愛い【ノルン】ちゃんが話しかけてるんですよー?』

「ノルン?それが君の名前なのか?」

『お?聞こえてたよわーい!ノルンちゃん感激です!』

「…とりあえず、山ほど聞きたい事があるけど後にする。ちゃんと説明してくれよ?」

『んー?ノルンちゃんは良いよー』

「助かる!」

 

 

「それを返せぇぇぇぇ!!!!」

予備に持っていたサイレント・ゼフィルスを纏い、真っ先にバンシィに突っ込むエム。

「弾、ソイツはお前に任せる」

「初陣からえげつなくねえか?」

『ノルンと言いましたね?キチンとマスターをサポートするんですよ?』

『分かってるよ〜。もうハクちゃん小姑みたい〜』

『こじゅっ!?』

 

 

『マスター!洗脳プログラムを見つけたよ!胸のビーム砲の奥!』

「ッ!!!!」

打開の道が開かれた。

すぐさまスラスターを蒸すフリーダム。

ビームサーベルを構えて突っ込むも、デストロイの攻撃が激しくなり、近付けない。

 

_____()()()()()

 

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

一樹の反応速度、ストライクフリーダムの追従速度に加速性能がデストロイの予想を上回る速さで動く。

ならばと迎撃のために胸部ビーム砲がチャージされていく。

「届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

それに臆せず突っ込み、普段より刀身を伸ばしたビームサーベルを中央に突き刺すフリーダム。

『ダメ!届いてない!!?』

「だったら!!」

ミオの悲痛な叫びが聞こえ、すぐさま右腰のビームサーベルも抜刀。

先のより更に刀身を伸ばしてデストロイの右胸に突き刺す。

『届いた!!!!』

洗脳プログラムを破壊した事により、楯無の拘束が解かれた。

落ちそうになる楯無を抱えると、今にも爆発を起こしそうなデストロイを踏み台に後方へ瞬時加速。

仰向けに倒れてから爆発するデストロイを見ながら、抱えている楯無に毒づく一樹。

「…手間かけさせやがって。クソアマが」




ところで、ダブルオーの新作が出ると噂を聞きました!


本当なら嬉しいですね!


ではまた次回!


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Episode126 鍛冶屋-ブラックスミス-

京都大火編、スタートです!


「おーい一樹!大丈夫かー!?」

気絶している楯無を小脇に抱えているため、ゆっくりとしか飛べないフリーダムに近づく麒麟とバンシィ。

「俺は全然大丈夫。そっちは?」

「弾がバンシィに気に入られた。それで怒ったエムが殴りかかってきたんだけど、ダリルが連れて行った」

「『は?』」

最強タッグが呆然としていると、頭部のみ解除するバンシィ。

「まあ、そんな訳です」

苦笑を浮かべる弾の顔を見て、とりあえず理解した一樹とミオ。

「…世界で3人目の男子がお前か」

『マスターの身内ばっかりだねぇ…』

「…何でだ?お前が何かしてるのか?」

『してる訳無いでしょ!!?』

ミオ渾身のツッコミを流すと、楯無を一夏に預ける一樹。

「…とりあえず帰ろうぜ。疲れたし、腹減った」

「だな…って俺に預ける意味は?」

「お前が1番運ぶのが上手いから」

「(絶対その方がこの子喜ぶからとか思ってるよね?)」

再び装甲を纏った弾は苦笑を浮かべていた。

 

 

「お疲れ様。かーくん」

「あぁ〜…」

旅館に戻り、食事に温泉を済ませた一樹は雪恵の膝枕を堪能していた。

 

ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?

 

「…何か悲鳴が聞こえた気が…」

「「大丈夫雪(ユキエ)。ただの幻聴だから」」

「これほど説得力の無い【大丈夫】は中々無いと思うんだ」

一樹とセリーの息の合った言葉に苦笑する雪恵。

「…なあ雪」

「ん?どうしたの?」

「…明日、東京に帰るんだよな?」

「うん。明日の朝の新幹線で。それがどうかしたの?」

「実は…」

 

 

「…あれ?一樹はどうしたんだ?」

翌朝の京都駅。集合場所に来ない一樹を不思議に思った一夏。

同じ部屋だった雪恵に聞いてみると、少し落ち込んだ声で教えてくれた。

「…かーくんは来ないよ」

「来ない?どういう事だ?」

「…京都でやり残した事があるんだって」

「はぁ?」

 

 

「(この店か…さて、言われた品を注文しないとな)」

とある茶屋に来ていた一樹(和装ver)。

それは、昨晩意識を取り戻した楯無からの指示だった。

 

『そう…またあなたが助けてくれたのね』

『俺だけの力じゃねえよ。お前を機体から引っ張り出したのは俺だけど。それより、お前に言っておく事がある』

『…何かしら?』

『明日、東京に戻る予定になってるだろ?』

『ええ…』

『悪いが、俺は京都に残る』

そう言うと、小脇に抱えていた鞘から折れた逆刃刀を見せる一樹。

『…折れてる?』

『ああ…コレを作れるのは世界で1人しかいないんでな』

『…場所は分かってるの?』

『んにゃ。その人は結構引越し好きでな。ちょっと探さなきゃいけないんだ』

『なら…私達【更識】にも協力させてくれないかしら?あまりおおっぴらにS.M.Sに行けないんでしょ?今は』

『……』

『葵屋』

『ん?』

『そこが京都での更識家の拠点よ。そこに初めて更識家の人間として入るにはある条件があるの』

 

「いらっしゃい!ご注文は?」

()()()()()()()()()()()()()()をお願いするでござるよ」

「え?」

「みたらしだんごの餡子マシマシをお願いするでござるよ」

「あの…」

「みたらしだんごの餡子マシマシをお願いするでござるよ」

「……」

「……」

 

『葵屋の真北にある茶屋で【みたらしだんごの餡子マシマシ】を3回頼むの。店員がどんなに冷たい態度をとっても、毅然としてね。それが、更識の関係者としての合言葉なの』

 

「……少々お待ちください」

しばらく待つと、2()()()のみたらしだんごと茶が出てきた。

「(醤油ダレが絶妙な甘さで茶が進むな。美味い美味い)」

だんごの美味さを素直に賞賛していると、背後に気配を感じた。

「お気に召された様ですな。櫻井様」

あまりに自然に話しかけてきたその人物だが、一樹は特に驚く事なく応える。

「拙者、正直あまり関西(こちら)の味付けは得意では無いのでござるが…このだんごは素直に美味しいでござる」

「それは良かった。では…食べ終わり次第、移動をお願いできますかな?」

「了解でござるよ」

 

 

「楯無様から聞いた話では、我々に何か頼みがあるとの事ですが…」

一樹を葵屋に案内してくれたその老人【柏崎念至】の役職名は【翁】。

京都内の情報を一身に集めるのが役目だ。

「翁殿、それに更識の情報網を使って人探しをして欲しいでござるよ」

「人探し?」

「ええ」

腰にさしていた鞘から、折れた逆刃刀を取り出し翁に見せる。

「この逆刃刀の生みの親…【新井赤空(あらいしゃっくう)】殿の居場所を出来るだけ、早く…」

「了解した…すぐに手配しよう」

 

 

「○○様、アイツは京都に残りました」

「そうか…折れた刀の代わりを探してるってとこか。ふんっ、あのクズも間抜けだな。()()に刀を打ってもらおうだなんてな」

 

 

「……」

一樹が無言で見つめるのは、新井赤空と彫られた墓石。

「(赤空さん…)」

 

 

『お前か。オレに変な刀を作れとかほざいた馬鹿は』

まだ(見た目は)幼い一樹に向かって、不敵に笑いながら近づく赤空。

『…護身用なら、殺傷力を追求する必要はありませんから…』

『だったらそこらの鉄棒でも振り回していたらどうだ?わざわざ自分に刃を向ける必要はねえだろう?』

『……』

『俺はこのご時世にもかかわらず、殺傷力を高める刀だけを打ってきた。そんな俺に何故?』

『だからですよ…殺傷力を高める刀を打ってきたからこそ、こんな辺鄙(へんぴ)な刀を打つ事が出来ると思ったんです』

『褒めてんだか貶してんだか分かんねえ言葉だな。だが』

そう言って小脇に抱えていた刀を一樹に向かって投げる。

受け取り、鞘から抜いたそこには…逆刃刀があった。

『そんなふざけた注文をする奴だ。出来損ないで充分だろ。それが折れた時、まだそんなふざけた注文が出来るのなら…俺を訪ねに、京都まで来な』

 

 

赤空の墓参りを終えた一樹が翁と向かったのは、ある鍛冶屋だった。

「赤空には全ての技術を伝授した息子が1人いるとのこと。その名も【新井青空(せいくう)】彼なら、新しい逆刃刀を造る事が出来るかもしれぬ」

「…そうだと良いでござるが」

鍛冶屋に着き、最初に目に入ったのは、包丁や鍬などの日常品。その次が…

「ふぁい?」

「おろ!?」

「ひょ!?」

また歯も生え揃っていない赤子だった。

「…青空?」

「いや、まさか…」

一樹と翁が呆然としていると、目の前の赤子がその小さな両手を上げて…

「あくす、あくす」

と笑顔で一樹に向かって言う。

「あくす?」

「握手の事ではないかな?」

首を傾げる一樹に、翁が助言する。

「おぉ!握手でござるか!よしよし」

朗らかに笑いながら赤子と握手する一樹。

それにカラカラと笑う赤子。

「こら伊織、おイタしちゃダメよ。すいません、何かご入り用ですか?」

「おっかあ」

奥から出てきた女性が伊織を抱えて、一樹達に注文を聞く。

「包丁を見せていただきたいでござるが…?」

「…櫻井様?」

刀ではなく、包丁を頼む一樹を疑問に思う翁。そんな翁の視線を他所に、女性からオススメの包丁を受け取る一樹。

「…試し斬りしてもよろしいでござるか?」

「どうぞ♪」

「では…」

何の前触れも無く、懐から大根を取り出す一樹。

「ひょ!!?」

「え!!?」

翁と女性が驚くのを横目に、勢いよく包丁を大根に振り下ろした。

「(うむ、良い斬れ味じゃ)」

スパッ、と気持ちよく斬れた事を評価する翁。

しかし、続く一樹の行動に驚く事になる。

「……」

斬った大根の断面同士を近づけ…

「なっ!!?」

ピタッ、と斬る前に戻った。

「【戻し斬り】か!初めて見ましたぞ!?」

斬り口の組織を全く潰す事なく斬る事で、再び元通りに出来てしまうという…名刀と達人の腕があって初めて行なえるソレに、翁も興奮気味だ。

「…あの、ウチの商品に何か不手際でも?」

少し騒ぎすぎたのか、奥から作業衣姿の男性が出てきた。

「いや、違うでござるよ。拙者達はこの包丁の出来の良さに驚いていただけでござる」

「そうですか。それは良かった」

ホッとした様子の男性。一樹は本題に入るために、男性の名を聞く。

「…あなたが、新井青空殿でござるか?」

「はい、そうですけど…」

青空が頷くと、一樹は表情を引き締めて本題に入る。

「拙者は、お父上にお世話になった者でござる」

「……」

「お父上がお亡くなりになったと聞き、折り入って頼みがあるでござる」

「……」

「刀を一振り、打って頂けぬか?」

 

 

「…なるほど」

折れた逆刃刀を見せ、事情を粗方説明した一樹。

「…父はよう言うとりました。『俺の造った刀がいずれ時代を動かす』と。僕はそれが理解出来なかった…この平和な世に、殺傷力の高い刀を造ってどうすると」

「……」

「ISが出来て、刀は更に用無しになった。だから僕も刀匠ではなく、単なる鍛冶屋として日常品を打っとります。申し訳ないが、刀は二度と造りません」

青空の瞳の奥に、確かな信念を見た一樹。

断られたというのに、自然と穏やかな笑みが浮かんだ。

「…なるほど。失礼いたした」

青空夫妻に一礼すると、ずっと黙って話を聞いていた翁と共に、街に戻った。

 

 

「あの人…お困りだったんじゃないの?あなたが打たなくとも、お義父さまの最後の一振りを渡せば…」

「…いや、良いんだ。この平和な世に、刀はいらないんだから」

一樹達が去った後、青空夫妻がそんな会話をしていた。

…盗み聞きされているとも知らないで。

 

 

「○○様、涼が到着しました」

「入れてやりな」

扉を開けて入ってきたのは、刀を4本持った男。背中に2本交差するように背負い、残り2本は両腰だ。

「お早いお着きだね」

「ワイは大阪住まいやさかい。メールから2時間程度で着くのは簡単や」

「…他の連中は1週間は待ってくれって言ってたけどね」

「まあ急に連絡来たからそれもしゃあないわな」

「…ま、ゆっくりしていてよ」

「そうさせてもらうわ」

近くにあったワインを飲みながらくつろぐ涼。そこに報告係であり、○○の補佐役でもある【百識】の正治が入ってきた。

「○○様、ヤツが逆刃刀の依頼をある鍛冶屋にしていたそうです。断られたそうですが…」

「誰に?」

「新井赤空の息子、青空です」

赤空の名を聞いた涼の表情が変わったのを気にせず、正治は続ける。

「赤空の造った最後の一振りとやらがあるそうですが、それも渡していません」

「ほお…あの名刀匠、新井赤空の、最後の一振りねえ…」

たった今着いたばかりだというのに、部屋を出ようとする涼。

「大事の前だから、そんなに面倒事おこさないでくれよ」

「ほいな」

 

 

「しかし残念でしたな…青空さんに打ってもらえないとなると、逆刃刀探しはまた1から出直しになりまする」

「何、焦る必要は無いでござる。他の刀匠にも当たってみるだけでござるよ」

「…そうですな」

街に戻ってきた2人がそんな会話をしていると…

「買うてってや〜!可愛い可愛い風車(かざぐるま)やで〜!買うてってや〜!」

色とりどりの風車が売られているのが目に入った。

「…翁殿、先に戻っていて欲しいでござる。拙者はあの風車を伊織に買ってくるでござるよ」

穏やかな笑みの一樹に、翁も笑顔で返した。

「分かりました」

 

 

涼は青空夫妻の家に着くと、伊織に近付いた。

「ふぁ?」

「おい坊、おとんはどこや?」

そんな声が聞こえたのか、青空が奥から出てきた。

「あ、いらっしゃい。何かお探しですか?」

その瞬間、涼の顔が歪んだ。

「アンさんが新井赤空の息子、青空か。赤空の最後の一振り、あるって話みたいやないか?売ってくれへんか?」

「(この人…何処でそれを)さ、さあ。父の刀は手元には一振りも残ってませんが…」

「…ほお」

途端に目を鋭くした涼は近くの伊織を鞘で持ち上げると、空中に放り投げた。

「伊織ッ!!?」

受け止めようと駆け出した青空だが、涼の振るった鞘が腹部に直撃し、後方に吹っ飛ばされる。

「ガッ!?」

落ちてきた伊織は涼が左手で受け止めた。

「ふ、ふえぇぇぇぇぇん!!!!」

「…しらばっくれんなや。アンさんとそこに隠れてる女の会話を聞いた奴がおるんや。あることは分かってるんやで」

右手に抜いた刀を持ち、青空夫妻に突きつける涼。

「…赤空最後の一振りを持ってくるまで、このガキは預かっておくで」

 

 

風車を息を吹きかけて回しながら、一樹は青空夫妻の家に向かっていた。

「櫻井さん!!!!」

「おろ?どうしたでござるか?」

青ざめた顔で一樹に縋る青空夫妻。

「け、警察を!警察を呼んでください!!」

「うちの子が!うちの子が!」

「!?」




主に実写版の京都大火編、伝説の最後編に原作るろ剣をミックスする感じで進めていきます。

では、また次回。


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Episode127 象徴-シンボル-

か、関西弁が難しい!


もしこれを読んでくださってる関西圏の皆様、間違っていたらすいません!


「雪恵ちゃん、そんなに心配?櫻井君が」

ここ数日、教室でボーッと窓の外を見ていた雪恵に話しかける楯無。

「それは、まあ…」

今、雪恵の肩に寄りかかりながら寝てるセリーもだが、1人京都に残った一樹を心配にならない訳が無い。

…ミオを通じて多少でも現状を連絡してくれているおかげで、この程度で済んでいるのも事実だが。

「大丈夫よ。今櫻井君は【更識】の人が支えてるから」

「…ありがとうございます」

本当なら、自分も京都に残りたかった。自分が一樹を支えたかった。そんな想いが、雪恵の表情を曇らせる。

「…行くか?」

「「「「……は?」」」」

いきなりの千冬の言葉に、雪恵以外の面々も呆然とする。

「今回の我々の元に来たのはそもそも、()()()()()()()()()()という任務だ。その道のプロである櫻井が()()()()()()()()()のなら、我々の仕事も終わってないという訳だ」

ニヤリと笑う千冬に、雪恵も笑い返す。

「よし!そうと決まれば新幹線の…」

張り切って行こうとする千冬を制して、雪恵はセリーの手を引く。

「私と楯無さんは先に行きます。セリーちゃんのテレポートが1番早いので」

「…そ、そうか」

「あれ?何で私も?」

「【更識】の場所に行くのに、楯無さんがいた方が早いからです」

「あ、そっか」

ポンッと手を叩く楯無。

その後ろで小さく手を上げる男子1名、織斑一夏。

「あの…俺も行って良いかな?」

「私は良いけど…セリーちゃんは?」

「コイツに触られたくない」

即答である。それはもう絶対零度の視線で。

「何で一樹に懐く女子は俺に冷たいんだよ…」

ズーンと落ち込む一夏の後ろでは、『一夏に冷たくする子がセリー以外にいる』という新事実に驚いていた。

「…嫌だけど、本当に嫌だけど、本当に本当に嫌だけど」

「あまりイジメんといて…」

「黙れ。話の途中」

「はい」

「本当に本当に本当に嫌だけど、お前がいればカズキの弾除けにはなるから連れて行く」

「ありがたいです…」

目から汗が止まらない一夏と、苦笑する楯無の肩を掴むセリー。

「ユキエ、私に捕まって」

「うん。では千冬さん、先に行きます」

「あ、ああ…」

楯無と同じく苦笑している千冬を他所に、セリーはテレポートした。

 

 

「おぎゃあ!おぎゃあぁぁ!!」

「そんな泣くなや…時期に黙らしたるさかい」

とある神社に、涼と伊織はいた。

4本ある刀の内の1本で遊びながら、涼は青空が最後の一振りを持ってくるのを待っていた。

 

ゾクッ!!!!

 

「ッ!!?!!?」

突然寒気を感じた涼。

急ぎ振り向くと、そこには…

「ごじゃる〜!」

左頬に十字傷が作られてた青年がいた…

「その子を返せ」

淡々と告げる青年に、涼は冷や汗が止まらない。

「…その左頬に作られた十字傷、アンタがアイツの言うとった櫻井っちゅう訳か」

「……」

涼の言う【アイツ】が気になる一樹だが、今は何よりも伊織が優先と、意識を切り替えた。

「刀折れたそうやな…アンタも赤空の最後の一振り、取りに来たんか?」

「…何の事だ」

赤空の最後の一振りの話など知らない一樹は、そう返すしかない。それに、仮に最後の一振りがあったところで一樹の欲している刀ではないだろう。

「…違うっちゅう事はワイが手に入れても問題ない訳や。邪魔せんといてくれるか」

確かに、一樹にとって赤空の最後の一振りが涼に渡ってもそこまで問題は無い。だが_____

「その子を返せ…」

_____伊織を見捨てて良い理由にはならない。

自分でも驚く程低い声が出た一樹に、涼は…

「何でや?せっかく最後の一振りを手に入れても、()()()()出来ひんかったら…楽しみ半減やないか!!!!」

そう言うが早いか、一樹に斬りかかる涼。

半歩下がってその斬撃を避ける一樹。逆刃刀の鞘を引き抜き、続けて放たれた右薙を逆刃刀の持ち手で受け止める。

「ッし!」

その状態で涼の刀を巻き込むように時計回りに回すと、涼の鳩尾辺りに鞘を突き出す。

「ガッ…」

腹部を抑えて後退する涼。

しかし流石と言えるか、すぐに呼吸を整えると、刃を一樹に突き出す涼。

一樹は体全体をコマの様に回し…

「拙者を突き殺すなら、もっと威力と速さを上げてこい」

遠心力を加えた強力な一撃【龍巻閃】を喰らわす!

「ガァッ!?」

涼が背負っていた刀をも砕くその威力は、涼を大きく吹き飛ばした。

「……」

冷たい目で涼を一瞥すると、伊織の元に行こうとする一樹。

「へへっ…やるやないか」

首をコキコキ鳴らしながら涼は立った。

「背中の愛刀が無かったら危なかったわ…けどな、この代償は高うつくで!!!!」

「ぐだぐだ煩い奴だ…来るなら早く来い」

どんどん瞳を鋭くさせながら、一樹は涼に言い放つ…

 

 

「早う警察呼びいな!」

「そんなんほっといたらええねん!」

京都に着いた雪恵達。

楯無の案内で葵屋に向かっていると、町の人々が騒がしい。

「あの、どうかしたんですか?」

近くの男性に話を聞く楯無。

「向こうの神社で侍風情同士が喧嘩しとるそうや」

全員の表情が固まった。

「危ないから近寄らん方がええで?」

そう言うと男性は去っていった。

「ユキエ!急ごう!」

「うん!」

駆け出す雪恵とセリー。

「お、おい2人とも!」

「待って!」

慌てて追う一夏と楯無。

 

 

「おりゃ!」

飛び上がって斬りかかる涼。

一樹はそれを後ろに退がって避けるが、涼は更に踏み込んで来る。

「ッ!?」

後退し続けて何とか避けるが、鳥居の柱に追い込まれてしまう。

「へっ!」

その状況を鼻で笑い、突き刺そうとする涼。

だが、一樹はその場で飛び上がり、鳥居の柱を蹴って涼を飛び越えることで避ける。

「ウロチョロすんなや!」

前転でスピードを緩める事なく起き上がり鞘を構える一樹。

頭に血が上った涼の顎に、鞘を振り上げた。

「アガッ!?」

2メートルは上がっただろうか。

一樹の技を受けた涼は大地に倒れた。

「待たせたでござるな伊織。今行くでござるよ」

「キャッキャッ♪」

表情を柔らかくして伊織に近付く一樹。

先程まで大泣きしていた伊織も、一樹が近付くのを楽しそうに見ている。

「…ホント、アンタ中々やるやないか。ワイ、ちぃと遊び過ぎたようや」

「……」

再び立った涼に違和感を覚える一樹。

顎への一撃は確かに全力では無いが、()()()()()ならば10分は気絶している筈の一撃だ。

涼が多少鍛えているにしても、数秒で起き上がれる筈が無い。

何か、カラクリがある…

「ごじゃる?」

動きの止まった一樹を不思議そうに見る伊織に、一樹は苦笑を見せる。

「すまんのう伊織。もう少し時間がかかるでござるよ」

そんな一樹が、涼には余裕に見えたらしい。

憤怒の形相で叫び出した。

「ガキと喋くっとらんとこっち向かんかいこのダボが!なめてっと先にそのガキから解体(バラ)すぞコラ!!!!」

その涼の言葉に、一樹は絶対零度の視線を向ける。

「その目、その殺気…何や、アンタもそう言う顔出来んのやな。出し惜しみなんて人が悪いで?そっちが最初からその顔ならこっちも本気出したっちゅうのに」

再度刀を握り直し、涼は先程までとは違う【瞳】をして斬りかかってくる。

一樹も涼の雰囲気が変わったのを察すると、鞘を構えて立ち向かう。

「オラッ!うりゃ!ハッ!」

「ッ…」

先程までとはまさに【斬れ味】が違う。

縦横無尽に襲い来る斬撃を鞘で受け止める一樹だが、その額に冷や汗が出てきた。

「(鞘がどこまで保つか…!)」

鞘はあくまで木製だ。斬撃を何度も受け止めれば当然折れてしまう。現に、所々木片が見えてきている。長期戦になればなるほど一樹が不利な状態だ。

「何考えとんねや!!!!」

「ゴッ…!?」

そんな考え事をしてたからだろうか。涼の前蹴りが腹部に入り、石灯篭(とうろう)を崩しながら倒れこむ一樹。鞘から手が離れ、折れた逆刃刀が出てきた。

「伊織ー!!!!」

そんなところに、青空が駆け込んできた。

「やかましいわボケ!!!!」

涼の一喝に止まる青空。

「…もう終わりか?たかがガキ1人に命張ってる場合じゃ無いで」

「ハア、ハア、ハア…」

呼吸を整えながら立つ一樹。

そして…

「…拙者はかつて、大切な人を守ることができなかった」

静かに、しかしハッキリと語り始めた。

「…不幸自慢かいな?ええでええで。この期に及んで、過去を理由に逃げる!見苦し過ぎて最高や!」

嘲笑う涼を他所に、一樹は続ける。

「償いの日々を過ごし6年…【闇】を知らずに、幸せな家庭で子供が健やかに育つまでに【世界】は平和になった…貴様にとってどうであろうが、拙者にとってその子はかけがえのない平和の象徴…!」

使い物にならない逆刃刀を地面に突き刺すと、改めて鞘を拾い、構える。

「この命に代えてでも…その子は両親の元へと連れ戻す…!」

先とは違う意味で強い瞳の一樹に、涼は苛立たしげに持っていた刀を捨て…

「正義の味方気取りよって…」

両腰の刀の持ち手を半分ずつ無くし、それを接続させることでひとつにすると、2本同時に鞘から引き抜いた。

その刀を見た青空の表情が青ざめる。

「あ、あれは父赤空の初期型殺人奇剣、【連刃刀】!?」

「「……」」

一瞬の静寂が生まれ…

「…っし!」

「ハッ!」

両者同時に動き出した。

鞘を振り下ろす一樹に、それを連刃刀で受け止める涼。その状態で連刃刀を外し、一樹を挟み殺そうとするが、一樹は屈んで避ける。

連刃刀を外して二刀流へと変わった涼が風車のように振り回して来るのを後退して避け、背中に鞘を突き出すも、涼は姿勢を低くして躱す。

「うりゃ!」

今度は下から斬り上げを二刀でしてくる。

縁側に追い込まれていた一樹はすぐさま縁下に潜り込んだ。

「待てやコラ!」

一樹を追って縁下に入った涼は再び刀を連刃刀にし、襲いかかる。

だが、狭い縁下では攻撃方法が少なくなり、連刃刀が思うように振れない。

その隙を逃さず、一樹は涼の膝、腰、肩を鞘で攻撃。

「ガッ…」

一瞬姿勢を崩した涼に追撃を加えようとするが、涼は連刃刀を突き出す事でそれを抑える。

「へへっ、愉しくなってきたで!」

「…拙者とは逆でござるな」

 

 

縁下で激戦を繰り広げる2人を見る青空。

「(今なら、伊織を助けれるか!?)」

踏み出そうとするが、一樹と戦いながら青空を睨む涼。

今、伊織を助ける事は青空には出来ない…

ならば。

「ま、待ってろ伊織!もう少しの辛抱だ!!」

ある場所目指して駆け出した。

父、赤空の最後の一振りを取りに…

「(一樹(あの人)に賭けてみよう!あの人なら、父の刀を正しく使ってくれる筈!)」

一樹と涼が激戦を繰り広げている神社の裏にある(やしろ)に入り、【奉納】と書かれた木箱を取り出す。そこに入っていた白鞘の刀を半身抜いて刀身を確認する青空。

「父さん…守ってくれ…」

そして、再び激闘の場へと駆け戻る。

 

 

連刃刀を突き出す涼。一樹はそれを僅かに屈んで避けると、鞘で涼の眉間を殴る。

「ガッ…」

一瞬仰け反る涼だが、すぐさま連刃刀を振り下ろす。

流石に避けきれず、左肩を僅若干斬られる。

 

ガシッ!

 

「くっ…」

涼の左手が、一樹の首を掴んだ。

柱に叩きつけようとする涼。

しかし一樹は首を掴まれている事を支えとして逆に利用。叩きつけられようとしている壁に足を掛けて弧を描き、涼を飛び越えると掴まれていた腕を掴み返して一本背負い。

「かはっ…」

肺から強制的に空気を吐き出された涼。

だがすぐさま呼吸を整え、近付く一樹に蹴りを放つ。

「ぐっ…!?」

蹲る一樹に連刃刀を振り下ろす涼。一樹は鞘で受け止めようとするが…

 

カランカラン

 

とうとう鞘が折れてしまった…

「ッ!?」

急ぎ半歩退がって致命傷は回避するも、腹部を若干斬られた。

起き上がった涼が連刃刀を分離させて完全な丸腰状態の一樹に斬りかかる。

折れた鞘の残骸を前転しながら拾い、挟み殺そうとする二刀の間に立てる。

「なっ!?」

驚愕する涼に肉薄し、鳩尾に拳を連続で叩き込む。

「テメこの!」

「くっ…」

一樹の胸倉を掴んで柱に2度叩きつける涼。

人間離れしたその力に、一樹と言えど簡単には拘束を振りほどけなかった。

「っし!」

「ガッ…」

油断した涼に膝蹴りを食らわせて拘束から逃れると、伸ばされたままの涼の腕を掴み、縁下に置かれていた道具に向けて背負い投げを決める。

 

ガラガラガラガラッ!!!!!!!!

 

遠心力+固い道具に叩きつけられたのが相当効いたのか、涼の動きが止まった。

「はぁ、はぁ、はぁ…」

ふらふらの足で、縁下から出る一樹。

「ごじゃる〜!」

それを、嬉しそうな顔で見る伊織。

「待たせたで、ござるな……いま、行くでござるよ……」

ゆっくりと、階段を昇って伊織に近付く一樹。

 

「何勝手に終わらしてんのや!」

 

涼は、まだ倒れてはいなかった。

「ッ!?」

とにかく伊織を守ろうと、涼と伊織の間に駆け込む一樹。連刃刀を振ろうとする涼の腕を抑え…

「この子に近付くな!!!!!!!!」

2人揃って階段を転げ落ちる。

「グッ!?」

「ガッ!?」

それは賽銭箱を壊し、涼を固い石畳みに叩きつける事になるが、一樹もまた石畳みに叩きつけられる事になってしまった。

「つぅ…痛えやないかコラ!!!!」

「くっ…」

そこに駆けつける雪恵やセリー、一夏に楯無。

「あ、あれ?アイツ、逆刃刀は?」

逆刃刀が折られた事を知らない一夏が呟くが、今はそれどころでは無い。

奥に伊織がいるのが見えた楯無が、セリーに耳打ちする。

「(セリーちゃん、櫻井君が戦ってる理由はきっと、あの奥の子供よ。何とか助け出せない?)」

「(ごめん…さっきかなりの距離をテレポートしたから、まだ出来ない…)」

「(となると、結構マズイわね…私たちは当然無理だけど、櫻井君の脚力でもあの男より速くあの子のところに行けるとは思えないし…)」

楯無がセリーと相談していたその時、青空が駆け込んできた。

「櫻井さん!!コレを使って下さい!!!」

青空が白鞘に納められた刀を一樹に向かって投げる。

「「ッ!?」」

涼と一樹、同時に反応。

涼は落ちていた連刃刀を拾って一樹を狙うが、一樹は後ろに跳んでそれを避け、刀をキャッチ。流れるように腰を低くして、抜刀術の構えに移行する。

「父の最後の一振りです!!それを使うて下さい!!!」

投げるのに集中していたのか、勢い余って転んだ青空が叫ぶ。

「へっ!やっぱりあったようやな…その刀はワイの物や!!!!」

連刃刀を突き出して一樹を挑発する涼。

一樹は、抜刀術の構えをしたまま動かない…

「…抜け。互いに真剣使い同士、ええ加減ケリつけようや」

「……」

それでも、一樹は刀を抜かない。

 

いや…抜かないのではなく、抜けないのだ…

 

「かーくん…」

一樹が動かない理由を大方察した雪恵。苦しげに一樹を呼ぶが、一樹の耳には入っていないようだ…

いつまで経っても刀を抜かない一樹に、涼は苛立たしげな声を上げる。

「アンタ…アイツ曰く【人殺し】なんやろ?真剣抜くのに何を躊躇しとるんや」

「……」

尚も刀を抜く様子を見せない一樹に、涼は…

「…ハハッ。ええで、人を斬る悦びを知らんっちゅうなら、ワイが教えたるわ…」

連刃刀を分離させ、涼が狙うのは一樹ではなく…

()()を踏まえてな!!!!」

「「「「!!?!!?」」」」

「伊織!!?!!?」

青空の悲痛な叫びを他所に、涼はずんずんといに近付いていく。

「ふぁ?」

「待ってろや…今バラバラにしたるさかい」

「させるか!」

麒麟を展開しようとする一夏、同じくミステリアス・レイディを展開しようとする楯無。

だが、雪恵だけは気付いた。

 

_____一樹の目が…冷たく、鋭くなっていることに。

 

「かーくん!!!!殺しちゃダメ!!!!!」

雪恵が叫んだ時には、一樹は涼に向かって飛び込み、刀を抜刀。

「しゅっ!」

振り向いた涼と一瞬の交差の後、刀を振り抜いた一樹と首を抑える涼の姿があった…

「は…は。アンタ……やっぱ、サイコーや……」

「ハァーッ、ハァーッ…」

荒い息の一樹にそう言うと、涼は大の字で倒れた。

「伊織ーッ!!!!!!!!」

すぐさま伊織のもとへと駆け寄る青空。

「はぁ、はぁ、はぁ…」

まだ呼吸が荒い一樹。そんな一樹に近付く雪恵達。

「かーくん…」

ようやく雪恵達に気付いたのか、一樹が振り返る。

「雪……」

しばらく呆然とする2人。

すると、セリーが気付いた。

「…ってない。斬ってないよユキエ!あれ逆刃刀だよ!!」

「…え?」

セリーの言葉に、慌てて刀を見る一樹に雪恵。

反りの腹側に峰がある、一樹が求めていた刀だった。

「……ぐっ」

当然、斬られていない涼は呻き声を上げ始めた。

慌てて拘束する一夏と楯無。

その状態で、一樹の背中に向かって語り出した。

「なるほどな…あれほどの【力】があるアイツが、何でアンタを目の敵にしとるのかよう分かったわ…」

「アイツ?誰のことだ」

取り押さえている一夏が涼に聞く。涼は視線を一夏に向けると…

「アンさんがあの織斑一夏か…気ぃ付けや。アイツはアンタも狙いのひとつに入れとる」

「だがら、()()()って誰だよ!?」

「アンタらもよう知っとる男や……アンタらの元同級生、藤原修斗や…」

「「「「!!?」」」」

藤原がまだ生きている…その事に驚愕する楯無以外の4人。

 

『これで勝ったと思うな…僕は必ず、お前を殺す!どんな手を使ってでもな!!!!』

 

セブンと共闘したあの時、オーバーレイ・シュトロームを受けながらウルトラマン=一樹に憎々しげに言いながら弾けたシャドウ=藤原。

奴はまだ、生きていた。

「ワイと戦ったアンタなら分かるやろ…?ワイの体には、アイツの【力】の一部が埋め込まれてるんや…」

「……」

「人間離れした力やったろ?アンタの刀を折った宗太も、他の幹部達もみんなそうや…あまり舐めてかからん方がええで」

「……」

ゆっくり、ふらふらと神社から去ろうとする一樹。

「カズキ!何はともあれ、新しい逆刃刀が手に入って良かったね!」

笑顔で一樹に駆け寄るセリーだが、一樹はセリーが見えていないのか、そのままゆっくりと歩き続ける。

「カズキ?」

尚も声をかけようとするセリーを、雪恵がそっと止めた。

「…今は、かーくんを1人にさせてあげて」

「ユキエ…」

覚束ない足取りで神社を去る一樹を、雪恵は悲痛の面持ちで見送るのだった。




お、おかしくなかったですか?
おかしかったらすみませんがお教え願います。


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Episode128 想い-エクスペクテーション-

やっぱり、多少原作に似せると早く出来ます(汗)

まあ短いんですけどね!!!!


涼を撃退したその夜、一樹は葵屋で白木の鞘から逆刃刀を取り出していた。

目釘を外した後に布で刀身を持ち、白木の柄からゆっくりと抜く。

「…ん?」

今まで柄に隠れていた部分に、ある句が彫られていた。

 

我を斬り 刃鍛えて 幾星霜

子に恨まれんとも 孫の世の為

 

「……」

その句を見た一樹の脳裏に、夕刻の青空との会話がよぎる。

 

 

「青空殿…これは…?」

白鞘を示して聞く一樹に、青空は答えた。

「…逆刃刀・真打(しんうち)

「真打?」

「ええ…殺人剣ばかり作り続けた父が、深い悔恨と僅かな希望を込めて打った御神刀です。御神刀を打つ時、刀鍛冶は2本打つのが通例です。出来のいい【真打】は神に捧げ、もう1本の【影打(かげうち)】と呼ばれるものは、人に譲ったりする…」

「では…」

「はい。昔父があなたに渡したのは、影打やった…」

赤空の想いがこもった刀、逆刃刀・真打をそっと握る一樹。

影打(前の逆刃刀)よりも、若干だが手に馴染むソレを…

「…その刀は、あなたがお持ち下さい」

「!?良いのですか!?」

青空から発せられた驚愕の言葉に、思わず素に戻る一樹。

「ええ…きっと、父もそれを望んでいるでしょうから…」

穏やかな笑みで言う青空に、深々と頭を下げる一樹。

「…ありがとうございます」

「いえいえ…ところで、あの口調でなくて良いんですか?京都は広いようで狭いですよ?」

悪戯っぽく笑う青空に、一樹も笑顔で応える。

「…お気遣い、感謝するでござるよ」

「…ご武運を」

「かたじけない」

再度頭を下げると、青空宅から出ようとする一樹。

「ごじゃる〜」

「おろ?」

声が聞こえた方向を向くと、伊織が一樹に向かって這ってきた。

「あくす、あくす。ばいばいのあくす」

「……」

とても穏やかな顔で伊織の握手に応じる一樹。

伊織の小さな手から、大きな希望を渡されるのを感じながら。

 

 

「一樹、入るぞ」

物思いにふけっていると、一夏の声が聞こえた。

改めて逆刃刀・真打を愛用の柄に収めていると、浴衣を着た一夏に雪恵、セリーが入ってきた。

「…少しは休めたでござるか?」

「おう。流石は更識家だよな。風呂がめちゃくちゃ広かったよ」

ほら。と瓶ラムネを一樹に差し出す一夏。

丁度逆刃刀を新しい鞘に収めた一樹は、礼を言ってそれを受け取る。

「…やはりこういう所では、瓶のラムネでござるな」

「なあ、和服屋の女将に言わないからさ。俺たちしかいない時はいつもの口調で良いぜ?」

「そうしたいのは山々でござるが…いつどこで誰が聞いてるかわからぬ故、そう簡単には戻せないのでござる」

一樹の口調以外は、いつもと変わらない2人の会話。

そんな中、おずおずと雪恵が声を上げる。

「…ねえ、かーくん」

「…おろ?」

「…怒ってる?私達が、京都に戻ってきたこと」

「……」

「かーくん言ってたよね。『新しい刀を探してる間に、敵が出てこないとは限らない』って。そんな状況なのに私達が来たのを、怒ってないかなって…」

「…怒ってない訳が無いでござるよ」

「ッ…」

一樹の言葉に、雪恵の隣にいたセリーは雪恵の袖を掴んだ。

怒鳴られる…そう思って2人は身構えるが、一樹は怒鳴る事なく、ラムネを飲み干すと逆刃刀を抱えて部屋を出ようとする。

雪恵とセリーの側を通りすぎると止まり…

「確かに怒りは湧いた…でもそれ以上に_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____ほっとした」

「「ッ!!?!!?」」

静かに告げられた言葉に、腰が抜けそうになる2人。

それを知ってか知らずか、一樹はござる口調に戻って続ける。

「…藤原の事だ。いつ仕掛けてくるか分からぬ。充分注意するでござるよ」

そう言うと、夜風に当たりに部屋を出て行った。

「…良かったな。2人とも」

一部始終を見ていた一夏が、笑顔で言う。

雪恵は顔を真っ赤にして座り込み、セリーは…

「お前は忘れろぉぉぉぉ!!!!」

同じく顔を真っ赤にして、一夏を念力で吹き飛ばした。

「何でだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!!?」

 

 

葵屋の中庭で一樹は改めて逆刃刀を見ると、小さく呟く。

「…赤空さん。俺はまだあなたと同じく、甘い戯言に賭けてみたい」

 

 

同時刻、京都にある藤原邸に集まる宗太や正治を筆頭とした幹部集。

「藤原様、涼以外の幹部が集まりました」

「ん、ご苦労様」

一樹との死闘の痕か、所々に傷跡が残っている。特に右目を縦に走る傷が目立つ。

一樹の左頬の十字傷と対になるような右目の傷を、藤原は戒めとして残している。

「…さ、待たせたね。予想外の事で涼がいなくなっちゃったけど、他は概ね計画通りだ」

自らの周りに集う【幹部】を改めて見回す。

 

【幹部】の中で最強の実力を持ち、一樹の逆刃刀を折った男、感情欠落の【縮地】の宗太。

 

【幹部】の中では宗太の次点の実力を持ち、幹部随一の防御力を持つ【鉄壁】の村田。

 

【幹部】の中では最も慈悲深いが、敵には(藤原程では無いが)最も容赦ない【天誅】の丸山。

 

【幹部】唯一の女性で藤原に惚れている(愛人でも良いらしい)という変人。独特な戦闘法の【変幻】の花澤。

 

【幹部】随一の巨体を誇り、村田の次に高い防御力を持つ【豪傑】の内山。

 

【幹部】内では頭脳派。巧みな話術や策略で相手を追い詰め、戦闘ではカウンター戦法を得意とする【策謀】の坂崎。

 

【幹部】内で最も身軽で、忍びの様な動きで敵を翻弄する【俊敏】の綾野。

 

【幹部】内で1番の剛腕。代わりに俊敏性が低い故に3強入りは出来ていないが、それでも充分な実力を持つ【破壊】の沢山(さわやま)

 

【幹部】内では最も非力。だが、それを補う武器の知識と莫大な財産を持つ【百識】の正治。

 

これに【刀狩】の涼が加われば【幹部】が全員集まるのだが、藤原にとってそれはそこまで痛手では無い。

…【天誅】の丸山と【刀狩】の涼を除いた【幹部】は、何と6年以上前から藤原との()()()()がある。

つまり…ほぼ全員が、一樹や一夏とは因縁がある…

「…明日の朝、手始めに京の街の時間を逆戻りさせる。その翌日_____つまりは明後日だが_____の夜11時59分、京都大火を実行に移す!!!!」

過去最悪の作戦が、始まろうとしていた…

 

 

「…ッ!!?!!?」

その朝、逆刃刀を抱えて寝ていた一樹は、高濃度の殺気を感じて跳ね起きた。

急ぎ葵屋の外に出てみると、外は異常な程暗かった。

「これは…」

『マス…タ……へ……ぱ』

ミオの声が、どんどん遠くなっていく。

「ミオ?ミオ!」

遂には、首飾りから光が失われた…

「…まさか」

ある可能性が浮かんだ一樹。

それを肯定するように、一樹の目の前に【闇】が集まり、人の形になっていく。

『よお、まだ生きてるみたいだね。クズ』

「藤原…!」

逆刃刀を指で弾き、抜きの体制に入る。なぜなら…

「まさか、お主も剣術使いだったとはな…」

藤原の左腰に、日本刀があったのだ。

『僕は神だからね。何でもこなせるのさ。だから今回はお前の土俵で戦ってやるよ』

不敵な笑みを浮かべて一樹を見据える藤原。

『さて、今街を覆ってる【闇】の正体を教えてやるよ』

「……」

瞳を鋭くさせ、続く藤原の言葉を待つ一樹。

『簡単に言えば、京都の街の時間を逆戻りさせてんだよ』

「…何?」

『周りを見てみろよ』

藤原の言葉に、一樹は辺りを見回す。

京の街が、どんどん寂れて…いや、違う。

「まさか…!?」

『ダーク・フィールドの応用だ。街…いや、世界の時間を逆戻りさせ、街の建物を全て木造だった頃…およそ150年前にする』

「…何が狙いだ」

『僕が話しても良いけどね…それじゃつまんないから、自分で探るんだね…』

そう言い残し、藤原は消えて行った…

 

 

藤原から狙いを聞けなかった一樹。

しかし藤原が敵だと分かった以上、極力雪恵達が離れたく無い一樹が頼ったのが…更識家だった。

依頼を受けた頭首、楯無が向かった場所は…

「お疲れ様です」

「「お疲れ様です!」」

京都警察署内の独房だった。

「こちらの部屋になります」

独房の中でも一際警備が厳重な部屋に案内された楯無。鍵を開けてもらい、中に入る。

「…よお、昨日ぶりやな嬢ちゃん」

「…あなた、藤原修斗直属の【幹部】所属、【刀狩】の涼ね?」

「…なんや改まって」

そこにいたのは、昨日一樹と激闘を繰り広げた涼だった。

「今、京都の街がタイムスリップ?を起こしてるのだけれど…何か知らないかしら?」

「あん?もう始まったんかいな」

「…知ってるようね。藤原修斗への忠誠心なんか捨てて、全て吐きなさい」

楯無の言葉に、涼は本気で冷めた目をする。

「忠誠心?何言うとるんや。別にアイツに忠誠心なんかあらへん。利害関係が合って集まってるだけや」

「……なら、話してくれるかしら?」

「別にかまへんで。ただ、どっから話せば良いか分からんからな。多少はこっちも聞くで」

「…良いわ」

 

 

楯無に呼ばれた一樹達。

全員で更識家の大広間に行くと、上座で楯無が待っていた。

「…拙者は作法を知らぬでござるよ?」

「あー、それは気にしないで良いわ。適当に座ってちょうだい」

全員が座るのを待って、楯無は話し始めた。

「…櫻井君、あなたが倒した男が吐いたわよ」

「…それで?」

「…藤原は、京都に火を放つらしいわ」

「…【池田屋事件】か」

かつて、明治維新の強硬派志士が京の街に火を放とうとしていた。

会談を行っていた【池田屋】を新撰組に襲撃され、京都大火が実行されることは無かったのだが…

「…京の建物の時間を逆戻りさせたのは、建物の耐火性を無くすため。それとこの変な電波は、ISを使わせないため…だそうよ」

「しかし、何故そんな重要な情報を?」

「あの男曰く、『藤原に忠誠心なんか無い。利害関係が合って集まってるだけ』ですって」

「……」

違和感が拭えない一樹。

いくら忠誠心が無いと言っても、あまりに簡単すぎる。

しかし、京都大火という藤原の陰謀を阻止しなければならないのも事実だ。

「決行は明日…夜11時59分よ」

「…やらねば、ならぬか」

「警察及び、更識家は藤原一派の迎撃に当たるわ。櫻井君、あなたはどうするの?」

「…拙者は、遊撃手として出るでござるよ」

「そうね。櫻井君はどこでも出れるようにしてもらった方が私達も安心出来るわ。後は…」

「私達も行かせて下さい」

ガラッ

と障子を開ける音が。一樹と一夏以外の面々がそちらを向くと、簪を筆頭に、IS学園専用機持ちが集結していた。

「…これはもはや【戦争】よ。ISが使えない今、あなた達がやれることは限られているわ」

【更識家当主】として警告する楯無。

しかし、それに言葉を返したのは…なんと、千冬だった。

「確かに、更識姉の言う事は最もだ。だが、コイツらも中途半端な覚悟で京都まで来た訳では無い。やらせてやってくれないか…?」

「…櫻井君、あなたはどう思う?」

「……」

一樹は静かに、代表候補生達の【覚悟】を見る。

「「「「ッ!!?!!?」」」」

少し強めに殺気を込めた眼で睨むと、一瞬怯む面々。しかしすぐに気力を振り絞り、一樹をしっかりと見据える。

たっぷり数十秒、殺気を送り続けると、フッと笑う一樹。

「…無理は禁物でござるよ」

一樹の言葉に、その場にいた全員が頷いた。

 

そして…日付が変わり、その時が来た。




次回、京都大火…


















彼女達に、奴らの魔の手が…


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Episode129 京都大火-インフェルノ-

長い!
前回が短かった分長いぞ!

内容が濃いかは人それぞれ←オイ


警官が京都の各地に配置され、警官では手の届かない所は【更識】の人間が配置された。

「……」

「よっ!ほっ!」

刻一刻と迫るその時に備え、一樹は精神統一を、一夏は準備運動をしていた。

ちなみに、今の一樹の格好は緋色の衣から、雪の結晶の装飾が施された白い衣となっている。

和服屋の女将に和服を返そうとしたら、

『汚れる事は気にしなくて良いから、コレを着なさい!』

と、渡されたのだ。ちなみに…

『あなたの側にずっといるその子、【雪恵】って名前なんでしょ?だから勝利の女神の代わりに、ね?』

その言葉に、雪恵の顔が真っ赤になったのは言うまでもないだろう。

 

 

そして、こちらも動き始めようとしていた…

「…時間だ。全員配置につけ」

藤原の合図に、正治以外の【幹部】が動き始める。

「宗太」

「はい?」

その中で、宗太を呼び止める藤原。

()()()忘れるなよ?」

「…はい」

藤原の言葉の真意を察した宗太は、笑顔で一礼すると、改めて部屋から出て行く。

「…よし、放て」

「はっ」

藤原の指示を受けた正治が、部屋を出て行く。

「…さァて、お前はどう来る?クズ」

 

 

『…櫻井君』

『おろ?』

新しい和服に着替え、店を出ようとした一樹を呼び止める女将。

『今、京都が大変な事になりつつあって、それを阻止するために櫻井君が動いてる事は知ってるわ。だから、ひとつ私と…いえ、この店の人達と約束して』

『…何でござるか?』

『その服が幾ら汚れようが、ボロボロになろうが構わないわ。あなたが今までこの店にもたらしてくれた利益は、着物の10や20程度じゃ覆らないもの。だから…もし戦う事になったとしても、その口調は続けて』

『…何故でござる?』

いつもカラカラと笑っている女将の真面目な顔に、一樹も真面目な顔で聞く。

『だって…その口調であるうちは、櫻井君は冷静な証でしょう?』

『……』

『ある意味、今の櫻井君は演技をしてるのだからね。しかも、戦ってる相手からしたらふざけてるのか!って怒ると思うし。相手から冷静さを奪えて一石二鳥でしょ?』

『…かもしれないでござるな』

 

 

「(…気遣い、感謝するぜ。女将)」

瞑想をしていた一樹がそう呟く。

逆刃刀を腰にさし直す(ちなみにエボルトラスターとブラストショットは何があっても落ちない様に、厳重に小物袋に入れて腰にぶら下げている)と、一夏と共に前線へと向かう。

 

 

「…来たか」

京都の県境にいる警官の目に、大きな炎が映った。

「警察の威信にかけて…奴らの暴挙を食い止めるぞ…!!!!」

「「「「オウ!!!!」」」」

時刻は午後11時59分。

藤原の【京都大火】作戦が、始まった…!

「「「「ウオォォォォォォォ!!!!」」」」

「「「「だあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」

警官隊と藤原一派が激戦を繰り広げるところに、静かに近付く2人…櫻井一樹と織斑一夏。

 

 

【更識】から借りた、護身用の模造刀で次々と敵を沈めていく一夏。

「(久しく篠ノ之流を振るってないから、多分に我流が目立ってるな)」

我流が目立つと言っても、それはむしろ実戦向きの剣術として昇華している。

流れるように敵を打ち倒していく一夏の姿は、その白い制服も相まって、後に【IS学園の白い悪魔】と呼ばれたとかなかったとか。

 

 

一方の一樹は、いち早く斬り込んで来た1人の斬撃を、刀の柄部分を両手首で受け止め素早く横移動。それによって斬撃を止められた者は前のめりに倒れ、突進してきた1人に足を掛けて転ばせる。

そこで漸く逆刃刀を抜き、同時に斬りかかってきた3人を横薙ぎの一撃で沈める。

「この野郎!!」

「ッ…」

倒れた仲間を踏み台にして一樹に斬りかかる者には、空中にいる間に3連打を喰らわせる。

「ガッ…」

素早く駆け出して、一樹に迫り来る者共を振り切る。

「待てやコラ!」

「逃げるな!」

当然藤原一派は一樹を追うが、それぞれの走力の違いから、陣形が崩れる。

それが一樹の狙いだ_____!!!!

「しっ!!」

滑り込む様にして速さを落とす事なく方向転換し、陣形が崩れた一派の者共を逆刃刀で殴り倒していく。

「グッ!?」

「ガッ!?」

「ゴッ!?」

「ひぃっ!?」

陣形を組んでいた最後の1人は咄嗟に横に移動して一樹の攻撃を避ける。

「(今だ!!!!)」

自分の横を駆け抜けた一樹の背後を狙うが…

「(あれ…?速すぎない…?)」

自分も全力を出して走っているのに、一樹の背中は近付くどころか遠くなっていく。

そして…

「(え?嘘だろ…!?)」

一樹を追うあまりに、自分がどこに向かって走っているのか把握していなかった。

「でえぇぇぇぇい!!!!」

「あがっ!?」

何と一樹は橋の手すりを踏み台とし、飛び上がった。自分の背後を狙う一派の者の頭上をとり、落下+全体重を乗せた一撃を喰らわせた。

「……」

周囲の敵が全員倒れたのを確認すると、その場を警官に任せて次の戦場へと一樹は駆け出した。

 

 

ISが使えなくなった事で戦闘力が極端に落ちた雪恵を含む代表候補生達だが、藤原一派と互角以上に渡り合えていた。

「お前ら、邪魔…!!!!」

理由の一つとして、セリーの存在があるのは間違いないだろう。

殺さない程度に手加減をしているとはいえ、その力は絶大だ。

【更識】から借りた籠手で一派の斬撃を受け止め、腰の入ったパンチで殴り飛ばす。

「オゴッ!?」

殴り飛ばされた先には、別の一派の者がおり…

「あがっ!?」

見事にぶつかり、2人を倒した。

一発の拳で2人を倒すというセリーにしか出来ない荒技だ。

「えい!」

「ガッ!?」

「やぁ!」

「ウグッ!?」

その近くでは、雪恵が棍棒を振り回して近寄る敵をそれはもうバッタバッタと薙ぎ倒していく。

…どこでそんな技術を得たのか深く問いただしたいところだ。

 

 

雪恵とセリーの2人から少し離れたところでは、箒達が藤原一派と戦っていた。

「はっ!」

箒は愛用の日本刀で敵の斬撃を受け流し、前のめりになったところを峰で当て身を入れて気絶させる。

「そこですわ!」

セシリアは後方支援として、箒達では捌ききれない敵の肩などをスナイパーライフルで撃ち抜く。

「アンタらの計画は、分かってるんだから!」

鈴は中国にいた頃習っていた棒術で確実に敵を撃退していく。

「この綺麗な街を、焼かせなんかしない!」

「貴様らには地獄を味わせてやる」

シャルロットとラウラはゴム弾を装填したハンドガンを持って遊撃手として動き回っていた。

「腕を上げたわね、簪ちゃん!」

「私も、【更識】だから…!」

更識姉妹は2人とも槍を持ち、見事な連携で一派を倒していく。

 

 

最前線で戦っている一夏。

その背中を狙って攻撃してくる者が…!

「(なろ…!)」

すぐさま己の得物でその攻撃を受け止め、受け流しの要領で自分の前に来させ…

 

ズドンッッッ!!!!!!!!

 

「ゴホッ!?」

膝蹴りを喰らわせた。1人を片付けたが、まだまだ藤原一派は減る様子を見せない。

「ごちゃごちゃ邪魔だっての!」

左にいる敵の襟元を掴んで振り回す。それだけで敵達の動きが一種止まる。その隙を逃さず、前蹴りで複数をまとめて倒す。

「一夏、待たせたな」

そんな声と共に、黒い影が一夏の前に現れ、大太刀を軽々と振るって目の前の敵を一掃した。

「…本当、遅えよ。千冬姉」

「ふむ、案外私に合う武器が見つからなくてな。手間取ってしまった」

一樹と更識姉妹(あと何故か箒)を除き、IS学園組みは【更識】から武器を借りている。

生身でISブレードをも軽々しく動かす千冬に合う武器が、そう簡単に見つかるとは確かに思えない。

「…なら、遅れた分きっちり動いてくれよ?」

「フッ、誰に対して言っている」

 

 

「ッ!?ユキエ!」

雪恵の頭上に、火を持った敵が1人いるのを見つけたセリー。急ぎテレポートしようとするが、そんなセリーの近くに、蹲っている敵3人が重なる。そう、まるで階段のように…

「行って!櫻井君!」

「ッ!」

楯無の叫びの後、凄まじい勢いで一樹が駆け込んできた。更識姉妹が作った人の階段を登り、雪恵を狙う不届き者に逆刃刀を振るった。

「ッし!!」

「ウガァッ…」

その剣速によって火は消え、不届き者は地に落ちた。

トンッ、と一樹は軟着陸すると、雪恵とセリーの状態を確認する。

「…ケガは無いようでござるな」

「うん!ありがとうかーくん」

「ありがとうカズキ!」

ホッと息をするのもつかの間。

「火が出たぞ!!消火急げ!!!!」

そんな警官の叫びが聞こえた。

「櫻井君!ここは私達に任せて!!」

楯無の言葉を聞いた一樹。雪恵とセリーを見ると、2人とも力強く頷いた。

「頼むでござる…!」

そして、疾風の如く駆け出した。

 

 

「ウギャッ!?」

「アガッ!?」

「オゴッ!?」

駆けながらも、藤原一派を沈めていく一樹。消火活動を行なっている警官隊を見つけ、向かおうとしたその瞬間。

 

_____やるじゃん、クズ。

 

「ッ!?」

粘着質で、ここ数ヶ月よく向けられる種類の殺気を感じた一樹。

辺りを見回したら…

 

不敵に笑いながら、京の街を闊歩する藤原の姿が…

「藤原…!」

すぐさま藤原を追う一樹。だが、京の街は狭く入り組んでいる。いくら一樹と言えど、隠れられたらすぐには見つけられない…

「……」

全神経を気配察知に集中する一樹。

 

ドギャアァァァァン!!!!

 

「うぉらぁ!!!!」

「おらぁ!!!!」

突然、真横の建物二階から飛び出してくる敵。しかし一樹に不意打ちは通用せず、すぐさま迎撃する。

「ガッ!?」

「アグッ!?」

2人迎撃したのを皮切りに、周辺の建物全てから敵が飛び出してくる。

しかも、その者共は全員藤原と似た顔つきだった。

「(影武者か…!)」

自身が罠にかけられた事を察する一樹。だが、影武者達の実力は大した事なく、逆刃刀の一撃で沈んでいく。

「(しかし…数が、多すぎる!!)」

 

 

最初こそ順調に戦っていた雪恵だが、徐々に体力の消耗が目立ってきた。

「はぁ、はぁ、はぁ」

棍棒を振り回して敵を倒していくが、その一撃がどんどん弱くなっていく。

「はぁ…えい!えい!」

それでも雪恵の頭に、撤退の2文字は無かった。

 

 

「ふっ!しっ!」

「ウガッ!?」

「アグッ!?」

逆刃刀を左右に振るい、一樹を挟み込もうとした影武者2人を倒す。

「うおらっ!!」

「ッ!」

一樹の足元を狙って来た横薙ぎの一撃には、逆刃刀を地面に刺して受け止め、前蹴りで迎撃する。

「おおお!」

「くっ…!」

腹部に突撃してきた敵は、自ら転んで拘束を振り解き、巴投げの要領で投げ飛ばす。

 

 

「おいおい、もう夜遅いってのに随分と騒がしいじゃねえか」

京都のとある一角で、1人の青年が藤原一派と対峙していた。

その青年とは…

「この趣ある街も焼こうだなんてさせるかよ!」

赤毛の長髪を振り回して暴れる、五反田弾だ。

両袖に隠しておいた銃を取り出し、撃ちまくる。硬質ゴム弾のため死ぬことはない。だが、某自爆好きパイロット風に言うならば…

()()()()()()()♪」

満面の笑みを浮かべながら、弾は二丁拳銃で暴れ続けた。

 

 

「勝ったぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

そんな警官の叫びが聞こえたのは、一樹が最後の影武者を気絶させた時だった。

「(おかしい…)」

違和感が抜けない一樹に、一夏と弾が近づいてきた。

「なあ一樹、妙だと思わねえか?」

一夏も違和感があるのか、神妙な面持ちで一樹に話しかけてきた。

「ああ」

「肝心の藤原や【幹部】とやらが1人も出てねえぞ」

一樹と一夏の会話についていけない弾。

「え、えと…どういうこと?」

「何もかも簡単過ぎるのでござるよ。情報の入手から、京都大火の阻止まで。それに、京都を焼き尽くす事が目的ならば、藤原は自分の目でソレを見たいはず」

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ…」

肩で息をしている雪恵。近くの井戸から水を汲み、一口飲む。すこし呼吸が落ち着いたその瞬間。

「田中雪恵さん、ですよね?」

背後から、雪恵を呼ぶ声がした。

「ッ!?」

慌てて武器である棍棒を掴んで振り向く雪恵。そこには、刀を手で遊ばせながら自分を見る宗太の姿が…

「あなた、この間の_____」

雪恵の言葉は最後まで続かなかった。一瞬で雪恵の懐に踏み込んだ宗太に特殊なライトを当てられ、意識を失う。

「ユキエ?」

少し離れた所で戦っていたセリーが、中々合流しない雪恵を心配して近づいてくる。

「ッ!?お前!!」

宗太に気づいたセリーが殴りかかるより先に、宗太は袖から()()()()()をセリーに向かって放った。それは意思を持っているかの様に動き、セリーの両腕を拘束する。

「(ッ!?力が…)」

自身の体に起こった異変に硬直するセリー。宗太はその隙を逃さず、セリーに肉薄。峰打ちでセリーも気絶させた。

 

 

「じゃあ、藤原?はまだ何か企んでるって事かよ」

「……」

逆刃刀を1回転させ納刀すると、一樹は語り出した。

「幕末、天下分け目の戦となった【戊辰 鳥羽・伏見】」

 

 

「将軍徳川慶喜は味方を欺き、船で大阪湾から江戸へ逃げ帰った」

時を同じくして、藤原もまた、誰にでもなく語り出していた。

 

 

近くにいた警官から地図を受け取る一樹。

「それによって維新側の優勢、勝利となり、今の礎となる新時代【明治】となった…藤原がもし、その歴史を利用しているのだとしたら…」

「…まさか!」

一樹と一夏、同時にある考えに至った。

その目が見つめるは、地図のある一点、【東京】。

 

 

「東京を砲撃し…まずはこの国をぶっ壊す」

愛刀である新井赤空最終型殺人奇剣【無限刃】の特徴的なノコギリ状の刃を見る藤原の目は、冷酷に見開かれていた。

 

 

「次の狙いは東京か…!!!!」

地図を放り出し、葵屋に向かって走る一樹。今気づいたこの事を、楯無に伝えなければならないからだ。

そんな一樹を気にせずに、一頭の馬が駆けてきた。

「ッ!!?」

咄嗟に横転して避ける一樹。顔を上げた時に見えたのは…

「(雪にセリー!!?)」

宗太に連れ去られようとしている2人の姿だった。

「くっ!!!!」

行かせる訳にはいかない。一樹は進路上の瓦屋根の上を爆走する。かなりの距離をショートカットしたが、それでも宗太の乗る馬に追いつけない。すぐさま近くの馬に飛び乗り、後を追う一樹。

「はっ!」

 

 

宗太達を追っていると、いつの間にか大阪湾に着いていた。

そして、暗雲立ち込め、嵐となった港から、強引に出航しようとする軍艦が一艦…

あまりに強引に出航したからか、近くの物見櫓(ものみやぐら)が倒れ、道になった。

「ッ!!?」

馬から飛び降り、物見櫓の道を駆ける一樹。道が崩れる寸前で何とか軍艦に乗り込んだ。

「お前は!?」

「侵入者だ!殺せ!!」

一樹を見つけた船員が一斉に襲いかかる。起き上がりと同時に逆刃刀を抜き、迎撃する。

「会いたかったぜクズ野郎!」

「ッ…!」

騒ぎを聞きつけ、【鉄壁】の村田が飛び出してきた。

左手に亀甲状の盾を持ち、右手には()の短い槍。

村田は逆刃刀の攻撃を盾で受け止め、槍で突き殺そうとする。それを逆刃刀をすぐさま逆手に持ち替える事で受け流す一樹だが、そこに【豪傑】の内山の突進が来る。

「うおらぁっ!!!!」

「がっ!!?!!?」

あまりの巨体に、流石の一樹も踏ん張れず後方に吹っ飛ぶ。

「ヒャッハー!!」

何とか起き上がった瞬間、【俊敏】の綾野が右手にドスを持って飛びかかってきた。

「ッ!!」

縦横無尽に襲い来る斬撃を、何とか避ける一樹。綾野の隙をつき、逆刃刀の柄頭で腹部を殴る。

「あがっ!?」

カウンター気味に決まったその攻撃に、綾野が怯む。再度村田が突進してこようとするのが視界の隅に入り、身構える一樹。

 

「やめろ」

 

そこに響く制止の声。

声の主である藤原は、宗太を傍につけて出てきた。

「流石じゃんクズ。京都大火で終わりじゃないって気付いたのか」

「……雪とセリーはどこだ」

単刀直入に聞く一樹に、藤原は苛立たしげに舌打ちする。

「なんだよ。折角僕が褒めてやったってのに」

「罪のない人を巻き込む事は許さん」

藤原の言葉など、一樹の眼中に無い。

「…まあ良いだろ。出番だよ雪恵さん!!!!」

藤原の声によって、【変幻】の花澤に連れて来られる雪恵。

「離して!離してよ!!」

「ちょっと雪恵ちゃん、久しぶりに会ったのにちょっと冷たすぎない?」

それと…

「さっさと歩け!!!!」

「んんっ!!!!」

口に猿轡を噛まされ、両手首をロープで固定された状態で正治に引っ張られるセリーの姿が…

「雪!セリー!」

叫ぶ一樹を他所に、嗤いながら藤原が言う。

「おいおい正治。可哀想だから外してやりな」

「はい。おいじっとしてろ!」

正治に猿轡を外され、漸く声が出せるようになったセリー。

「カズキ!私よりユキエを先に助けて!!」

「かーくん!セリーちゃんをはやく!!」

互いが互いを先に助けろという。その優しさが2人の美点だが、一樹は選ぶ必要など無い。何故なら、当然2人とも助けるから。

「安心するでござる今拙者が「何が【ござる】だその下らねえ物言いはやめろ!!!!」…」

一樹のござる口調に我慢が出来なくなった藤原が叫ぶ。

「僕が殺したいのはな。全力を出した状態のお前なんだよ。不殺だとか甘っちょろい事言ってる今のお前じゃないんだよ!!!!!!!!」

「…お主が命を狙っているのは拙者でござろう2人を離せ…!」

徐々に一樹の眼が鋭くなっていくのを見て、藤原は愉しそうに嗤う。

「…丁度良いし、そろそろ決着をつけようじゃないか」

鞘から無限刃を抜く藤原。

「不思議に思わないかクズ。何故普通の人間である正治がゼットンを抑えられているのか」

「……」

逆刃刀を強く握りしめ、藤原を見据える一樹。

「…お前の()()も昔世話になったロープの発展型でな。アレでゼットンの力を封じてるんだよ。だから今、ゼットンはただのガキと同じという事だ…」

「…仕入れ先は【ブラックスター】か」

「良く知ってるじゃないか。そこの奴を脅して手に入れたロープを僕の力で改良したのが、今ゼットンの手首に巻きついてるアレだ…正治!」

藤原の命令に、正治は手に持っていた松明の火をセリーに近付ける…!

「ほら熱いよ燃えちゃうよ!!!!!!!!」

「ッ!!?!!?!!?」

「やめろ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「やめて!!!!!!!!!!!!!!!!」

近くにいる雪恵が突進しようとするが、それは花澤に止められる。

そして、かつてない形相で叫ぶ一樹。そんな一樹を、藤原は更に挑発する。

「熱いぜ…痛いぜ…いっそ殺してほしいと願う程に!」

「藤原やめろ……」

一樹の顔が変わっていくのを、やはり嗤いながら見る藤原。

「それだよクズ…それなんだよ僕が待っていたのは!僕を殺したいかい?殺してみろよ」

「黙れ……」

一樹の雰囲気が変わっていくのを察した雪恵とセリーが叫ぶ。

「かーくん!!挑発に乗っちゃダメ!!!!」

「カズキ!!私は大丈夫だから!!!!」

2人の叫びは一樹の耳に入るが、それが余計に一樹の表情を鋭くさせる。

2人にそんな事を言わせてしまっている不甲斐なさが、一樹の表情を鋭くさせている…

それを知ってか知らずか、藤原は続ける。

「自分を呪い、神を呪い、仏を呪い、時代を呪い全てを憎む」

「黙れ…」

「良い顔だぞクズ…アハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」

 

_____ブチッ

 

…一樹の中の、()()が切れた。

「…藤原ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」

忿怒の形相で叫び、藤原に向かって駆け出す一樹。しかし藤原の前に村田が立ち塞がり、その盾で一樹の攻撃を受け止めようとする。

だが…

「どけ!!!!」

「がっ!?」

一樹は回し蹴りで村田を横に蹴り飛ばす。再度藤原に向かって走るが、藤原は驚異の跳躍力で2階に上がる。

「この艦、【煉獄(れんごく)】の船員は全員あの頃からの付き合いだ。ちょっとした同窓会と洒落込もうじゃないか!」

藤原が話してる間も、一樹は【破壊】の沢山と対峙していた。沢山の剛腕から放たれる斬撃を紙一重で避け、鳩尾を逆刃刀で殴る。

「ウゴッ!?」

一瞬怯む沢山だが、その顔を怒りに歪ませ、全力で一樹を蹴り飛ばした。

「死ねやぁ!!!!」

「かはっ…」

「かーくん!!?」

「カズキ!!?」

意識が持っていかれそうになる一樹だが、雪恵とセリーの声で奮い立つ。

「ッ!!」

壁を走って向かうために、壁に近づくが…

「行かせるわきゃあねえだろ!!?」

【策謀】の坂崎に阻止される。何とか坂崎の斬撃を受け止めるが、坂崎はそこで前のめりに全体重をかけてきた。

逆刃刀の逆刃が、一樹の首元に迫る…

「カズキ!!?」

自分に炎が向けられていることも忘れて叫ぶセリー。

そんなセリーに、正治がキレた。

「ああうるさい!お前はこっちだ!!」

「きゃっ!!?」

ほぼ意味をなさない手すり間際に投げられるセリー。姿勢を崩し、今にも落ちそうだ…

「セリーちゃん!!?!!?」

それに気付いた雪恵が駆け寄ろうとするが、やはり花澤に止められる。

「ダメでしょ雪恵ちゃん。あなたは藤原君の1番大切な人なんだから」

「離してよ!私はあんな人好きじゃない!!」

雪恵と花澤が戦っているうちにと、正治は叫んだ。

「おおおおおい!人殺し!!!!」

この場で【人殺し】と呼ばれる人物は1人しかいない。

「ッ!?」

坂崎と鍔迫り合いをしながら、正治の方へと向く一樹。そこで正治は、とんでもない行動に出る。

「うぉらぁ!!」

_____姿勢が崩れ、未だ両手を縛られているセリーを、荒れ狂う海へと蹴り落としたのだ。

「イヤぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!!?!!?」

「_____!!?!!!!!!?!!?」

声にならない声をあげ、一樹は坂崎を受け流してその背中を逆刃刀で殴って脱出。邪魔する【幹部】の足元をスライディングで潜り抜けるが、そこでは藤原が待ち構えていた。

「オラァッ!死ねやぁッ!!」

「ッ!!?!!?」

【幹部】の者達とは比べ物にならない速さと重さに、一樹は防御に回る事しか出来ない。何とか無限刃の斬撃を逆刃刀で受け止めるが、その状態で足で壁に押し付けられる。

「ガハッ!?」

「どうしたクズ!そんなもんか!!?人殺し様の実力はその程度かぁ!!?!!?」

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!!!」

左手で鞘を抜き、藤原の腰を殴る。

「ガッ!?」

拘束から抜けると、蹲っている藤原の背中を踏み台に、雪恵を拘束している花澤のところまで跳ぶ。

「ひっ!!?」

一樹の形相に、花澤は雪恵から離れる。雪恵はその隙を逃さず、自らセリーが落とされた海に飛び降りた。

「セリーちゃん!!!!!!!!」

一樹もまた、【幹部】達が来る前に海へと飛び込んだ。

 

 

飛び込んですぐ、一樹は必死に岩に掴まるセリーと、セリーの縄を解こうとする雪恵の姿を発見。荒れ狂う海面を走って2人に近づく。

「2人とも動くな!!!!」

逆刃刀の逆刃で、セリーの両手を縛るロープを切断した瞬間だった。

 

ズガンッッッッ!!!!!!!!

 

一樹を、銃弾が襲ったのは…

「かーくん!!?」

「カズキ!!?」

「ゴフッ…」

血を吐きながら、雪恵とセリーを突き飛ばす一樹。

 

逃げろ…

 

その言葉を最後に、一樹は波に飲まれた…

 

 

とある海岸に流れ着いた一樹。

大波に飲まれたというのに、右手の逆刃刀と左手の鞘は、その手から離れていなかった。

倒れている一樹に近づく影。その人物は逆刃刀を拾って眺めた後、濡れた髪に隠れていた一樹の顔を見る。

「………」

そしてその人物は_____




最後の人物は誰なんでしょう?
ゼンゼンソウゾウガツカナイナァ…

次回から伝説の最後編です!


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Episode130 比古清十郎−マスター−

伝説の最後編、開幕です!!!!


少年はずっと独りだった。

1人ではなく、独り。

兄弟も親もいない、独り。

どうやって生きていたのか、誰にも知る由はない。

比古清十郎がその少年と出会ったのは、少年が3歳ぐらいの時だった。

いつも通り村でお気に入りの酒を買い、いつも通り家に帰っていた時だった。

「…む?」

家に帰る時に通らなければならない林道。田舎故に、たまにゴロツキ共が出てきたりするが、比古にはちょっとした運動代わりだった。しかしあまりに苛めすぎたからか、近頃はゴロツキ共を全く見ていない。そんな林道で、比古は人の気配を感じた。

「…行ってみるか」

護身用に持っている仕込み杖を手に、比古は林道の奥に向かう。

そこで見たのは…幼すぎる少年が、動物達の墓を作っていた。手頃な石で穴を掘り、犬や猫などの死骸を弔っていた。まるで、友を送る様な目で…

森で暮らしているのか、服のサイズがめちゃくちゃだ。おそらく、捨てられていた服を着ているのだろう。

「…だれ?」

比古の気配を感じたのか、少年が振り向く。

「驚かせたな。俺は比古清十郎っていうんだが、おまえさんの名前は?」

「…さくらいかずき」

「…親は?」

「しんだ」

比古は愕然とした。どうみても生まれてから数年しか経っていない少年が、こんな林の奥で生きているなどと…その時、比古は決断した。

「…一緒に来い。お前をせめて自立出来るくらいまでは育ててやる」

 

 

「…………夢、か」

随分と懐かしい夢を見た。

まだどこの【世界】も行ってなく、独りで生きていた頃の夢だ。

「いっつう…」

ゆっくりと起き上がる一樹。全身に痛みが走り、全身を見回すと…

「手当てしてある…?」

包帯が巻かれているのに軽く驚く。辺りを見回すも、見覚えのない小屋だ。

「(セリーが咄嗟にテレポートしたのがここだったのか?)」

そこまで考え、漸く気付く。近くに、雪恵もセリーもいないことに…

「ッ!!!!」

傍に置かれていた逆刃刀を拾い、大急ぎで小屋を出る一樹。

 

「起きたか」

 

「…え?」

聞き覚えのある声に一樹が振り向くと、釜の前で焼けた器を取り出している壮年の男性。

その男性に、一樹は見覚えがあった。いや、見覚えのあるなんてものではない。何故なら、その男性は_____

「…師匠」

「…久しぶりだな。バカ弟子」

_____一樹に飛天御剣流を教えた師、比古清十郎なのだから。

「…あなたが拙者をここへ?」

「ああ。あの嵐の後、流木を拾いに行った。まさかお前が落ちているとはな…」

「…拙者の他には誰か?」

「そのおかしな刀が抜き身で落ちていただけだ。何だ?心中でも計ったのか?」

「それはどの海岸ですかどの方角に行けば!!?」

「無駄だ」

一樹の言葉に、冷酷に返す比古。傍に置いといていた樽から柄杓で酒を掬うと、小皿に入れて一気に飲む。

「お前は3日間眠っていた。3日海にいたら、誰も助かるまい」

比古の言葉に、膝から崩れ落ちる一樹。

「3日間、も…」

愕然とする一樹に、比古は冷たく言う。

「何だその顔は?出会った頃と変わらんな。この世の全ての悲劇を背負うつもりか?」

「……」

比古の言葉に、何も返せない一樹。

しばらく呆然としていると、ポツリポツリと話し出した。

「…夢を見ていました」

「ん?」

「師匠と初めて会った時の夢を…無数の屍に囲まれて、ただただ墓を掘っていた…」

「……」

小屋に入ろうとする比古の背中に、一樹は声をかける。

「師匠…お願いがあります」

「…?」

「昔、筋力が足りないという事で出来なかった飛天御剣流奥義を…お教え願いたい!」

「なんだと?」

涙を浮かべながら言う一樹に、比古は続きを促す。

「拙者には倒さねばならない者がいる…拙者を憎む藤原修斗が世界を脅かしています。奴が世界を取れば、多くの人が苦しむ事になる…時間が無い。お願いします…」

膝を折り、深々と頭を下げる一樹。

しばしの沈黙の後、比古が発した言葉は…

「…良いだろう」

手頃な木の枝を拾って軽く振るい、一樹に近付く比古。

「暇つぶしに、話を聞いてやろう。バカ弟子のお前が俺の元を去ってから、何処で何をしていたのか」

強引に一樹を自分に向かせる比古。

「…その可笑しな刀で、証明してみせろ」

「……」

 

 

「3人の目撃情報はまだ無いの?」

「申し訳ありませぬ…」

「そう…」

翁からの報告に、深いため息をつく楯無。

藤原の京都大火作戦を阻止したは良いものの、その1番の功労者である一樹と、その恋人の雪恵、妹(ポジション)のセリーが行方不明となってしまった。現在、【更識】の全精力をもって捜索しているが、結果は芳しくない…

「あの3人は絶対に生きてる…決して捜索をやめないで」

「御意」

 

 

浦賀に陣取っている【煉獄】の中では、正治が藤原の怒りに触れていた。

「ふ、藤原様!ど、どうかお許しを…ガハッ!?」

雪恵が波に流された原因である正治に、藤原は強烈なハイキックを決める。

「おいお前…ゼットンならともかく、雪恵さんを海に落とすってどういう神経してんだ?あ?言えよ…言ってみろよ!」

「い、いえ!雪恵様を落とすつもりなど全く有りませんでした!」

「結果落ちてんじゃねえかよ!!」

「ごっ!?」

正治の首を掴み、何度も壁にたたきつける藤原。

「か、勘弁してくだせえ!」

「は、離してくだせえ!」

そこに、村田が縄で縛られた漁師2人を連れてきた。

「修斗、落ち着け」

「…何だそいつらは」

「なに、こいつらが()()()()()()()()()()()を病院に連れて行ったって言うんでな」

「…ほお」

正治を放り投げると、縛られている1人の胸倉を掴み上げる藤原。

「それは本当なんだろうな…?」

「…!…!」

必死で頷く漁師。

「…良かったな正治。お前の命が拾われてよ」

漁師を離し、花澤から受け取った酒を飲む藤原。そこに宗太が近づいて来た。

「藤原さん、あまり面白くない知らせです」

「…言ってみな」

「とある海岸で、左頬に十字傷がある青年が運ばれているのを見た漁師がいました」

左頬に十字傷…それが示す人物は、1人しかいない。

「…へえ、案外しぶといじゃんか」

「どうしますか?僕が探しに行きます?」

「いや…」

宗太の提案に首を振る藤原。

「面白い事を思い付いた。ただ世界を盗るより、もっと面白い事をな…」

 

 

「ガッ!!?」

比古の一撃で吹き飛ばされた一樹。逆刃刀で何とかブレーキをかけて止まるが、その大きな一撃は、一樹の傷口を開かせるには充分だった。

「…飛天御剣流は自由の剣だ」

木の枝を持ち、軽く柔軟をする比古。

「人々を時代の苦難から守るためのみに使え、決して権力には組さない…だがお前はその教えを破り、今なお政府に力を貸している。邪心か?それとも野心か…?」

「邪心でも野心でもない…これは拙者なりに、人々を苦難から救うために意を決してのこと…!」

呼吸を整え、比古に向かって走り出す一樹。比古は足元にあった雨水の溜まった桶を蹴飛ばす。

「ッ!」

桶は迎撃するも中に入っていた雨水をまともに受ける一樹。

「頭は冷えたか?」

「…ッし!」

改めて比古に向かって駆け出す一樹。

逆刃刀の攻撃を、比古は見事に木の枝で捌く。それどころか、一樹がボコボコにやられている現状だ。一樹の攻撃は一撃も当たらず、比古の攻撃は面白い程に当たる。宗介や一夏達が見たら驚く光景だ。

「うおらッ!!」

「あがっ!?」

比古の前蹴りを喰らい、斜面を転げ落ちる一樹。起き上がろうとしたその瞬間、比古が枝を振りかぶって降りてきた。

「ッ!!?」

何とか横に転がって避ける一樹。着地した比古は、独特の構えを取る…

「(この構えは…!?)」

それに一樹が気付いた時には、もう比古は動き出していた。

飛天御剣流の神速を最大限活かし、回避も防御も不可能な技、【九頭龍閃】が放たれる。

「ガッ!?グッ!?」

「ハッ!!」

「ゴッ…」

最後に放たれた突きにより、とうとう枝が折れた。

「フンッ」

使い物にならなくなった枝を捨て、尚一樹と対峙する比古。

「はぁ、はぁ、はぁ…」

呼吸を整えて再び立つと、再度一樹は駆け出した。

 

 

警視総監の川司や、その他の護衛と共に浦賀に現れたのは現内務卿である【伊藤博昭(ひろあき)】だ。

…藤原の作ったダーク・フィールドもどきの影響で、今の世界技術はどんどん退化している。なので、ここまで来るのに馬車を使わざるを得なかった。

藤原達の姿を見て、警戒を強める周りに静かに告げる。

「…取って食いはしまい。行くぞ」

「「「「はっ!」」」」

最初に伊藤達を出迎えたのは、顔中に湿布が貼られた正治だった。

「これはこれは。【内務卿】伊藤博昭閣下直々にお越しいただくとは、光栄の極み」

嘘くさい言葉の後、席に誘導。伊藤の護衛と藤原の部下が睨み合う中、会食が始まった。

「へえ、美味いじゃん」

出された肉料理に舌鼓をうつ藤原。

「海外留学の賜物かい?」

「……」

藤原とは対照的に、伊藤は時間をかけて咀嚼している。漸く飲み込むと、隣の川司に言う。

「…毒は入っていないようだな」

「そうですね」

その言葉に、堪えきれずに笑う藤原。

「あははは!そんなショボい手は使わないよ!安心して食べな!」

豪快に笑って食べるその姿は、やはりまだ十代の青年。その青年が、今世界を脅かしているなんて、知らない人が聞いたら信じないだろう。

「はー笑った笑った。さて、そろそろ本題に入ろうか」

「…何だね?」

声音と表情が変わった藤原を警戒する伊藤に、藤原は聞く。

「アンタ、()()()()()()()んだ?」

「……」

()()()()()()()その立場になったんだ?」

「……」

黙る伊藤。その時、ガンッと音を立てて1人の老人が立ち上がる。

「貴様!内務卿に対して_____」

老人の言葉は、最後まで続かなかった。

村田がその老人をテーブルに押さえつけ、ステーキナイフで突き刺したのだ。

「ウガッ…」

「何をしている!!?」

「やめろ!!!!」

川司を始めとした護衛の者が急ぎ近付くが…もう手遅れだ。

「はは、使い方を間違っちゃいけないねぇ」

飄々と笑う藤原。

そして、伊藤は…

「座れぇ!!!!!!!!」

威厳のある声で、伊藤が怒鳴った。

静まり返る中、もう一度伊藤は言う。

「座れと、言っているのだ…!」

その声に、川司達が席に着く。

「…阿部内務卿大臣は、()()()より、ここに来る()()()急死なさったと…世間にはそう伝えろ」

「…はい」

川司に命令する伊藤を、藤原は鼻で笑う。

「お得意の手だな。都合が悪い事は何でも闇に葬る」

「…それが【政治】というものだ」

「人を見殺しにするのも【政治】って訳かい?」

しばらく睨み合う2人。

そして、伊藤はおもむろに赤いハンカチをテーブルに叩きつけた。

それは、交渉の決裂を示していた。

「…話にならんな」

伊藤とその護衛が席を立とうとした、その時だった。

伊藤を除いた全員の首元に刃が突き立てられ、護衛の警官達は藤原の部下が囲っていた。

「や、やめろぉ!」

「うわぁぁ!!」

「ッ!!?」

伊藤が驚愕しているすぐ後ろでは、藤原が宗太から無限刃を受け取っていた。

「なるほど…その【政治】とやらのせいで、不自然な死を迎えた人は見殺しにさせられた訳か」

ゆっくりと無限刃を抜くと、伊藤の眼前に突きつける。

「僕が何も知らないと思っているなら大間違いだぜ?知ってるんだよ。お前らに忠実な【犬】がいるって事はな」

「犬、だと…?」

「あのクズ、櫻井一樹だよ…命が惜しければ奴を見つけ出して、民衆の前で晒し首にしろ。そうだな。IS学園辺りが良いな」

「何だと!?この時代に晒し首など…!」

憤慨する川司だが、首元に村田の槍があるため動けない。それを横目に、藤原は続ける。

「お前たち政府は自分たちの悪行を隠蔽し、今の世界は平和だと民衆を欺こうとしている!んな事が許されると思うなッ!!」

伊藤の鼻先で無限刃を振り下ろす藤原。

その切っ先に、ドス黒い炎が噴き上がる。

「ッ!?」

思わず半歩下がる伊藤に、藤原は炎が走る切っ先を向けた。

「アイツが生きているという罪状と共に、お前達の悪行を民の前に晒せ」

「……」

その翌日、日本全国に【左頬に十字傷がある男】が指名手配された。

 

 

ドガァァンッ!!

「これはどういう事か説明しやがれゴラァ!」

そんな口調と共に、川司の部屋の扉を蹴破って現れる宗介。その手には、和風姿の一樹が描かれた指名手配の紙が…

「…藤原の要求だ」

「あ?何で藤原の要求聞いてんだよ!それに何だこの罪状!コレは全部ビーストが食い殺した人達のじゃねえか!アイツが殺したわけじゃねえぞ!!」

川司の胸倉を掴んで叫ぶ宗介。

当然後ろから警官が近付くが、川司が目でそれを制する。

「藤原はあらゆる手で政府に揺さぶりをかけている!突っぱねる事など出来ん!!」

荒々しく宗介の手を振り解くと、川司は続ける。

「…一樹君の事だ。そう簡単に我々警察には捕まらん。その間に、あの軍艦の情報を集め砲台を設置し「要するに一樹は捨て駒って訳か?」…言葉が過ぎるぞ宗介君」

険しい表情を浮かべたまま、宗介は部屋を出ようとする。

「アンタらがまさか、恩を仇で返す人達だとは思わなかったよ」

「……」

何も言えない川司を他所に、宗介は部屋から出て行った。

 

 

京都の葵屋にも、手配の紙は出回っていた。目を通した一夏は、その紙を床に叩きつけた。

「ふざけんな!!何でアイツが!!!」

一方、一夏よりは冷静な弾が意見する。

「だけど一夏、政府から手配されてるって事は…一樹が生きてるって証じゃないか?」

「ッ!?こうしちゃいられねえ!おい弾行くぞ!早く準備しろ!」

「行くって、どこに行くんだよ!?」

「東京に決まってんだろ馬鹿か!?」

「のやろ…事が終わったら覚えてろよ…!」

ドタドタと男子2人が動く中、簪は電報を受け取っていた。

藤原のフィールドの影響は、こんな所にも来ていたのである。

「申し訳ありません、1通だけ着払いがありまして…」

「あ、分かりました」

郵便局の担当者にお金を払い、翁に渡す簪。

「翁、何か着払いで電報が来たよ」

「着払いですと?どこの非常識人なんだか…」

ぶつぶつ文句を言いながら差出人を見る翁。

「ッ!?お嬢!これを!」

興奮気味に翁が差出人を見せる。不思議に思った簪が覗き込むと…

「え!!?セリーちゃんから!!?」

慌てて電報を読む簪。その内容を皆に伝え、急ぎ移動するのだった。

 

 

セリーからの電報に書かれていたのは、自分と雪恵が生きていること、そして病院で入院していることだった。

急ぎ一夏たちが病院に向かうと、ベッドの背を立たせて座るセリーと、その隣で眠っている雪恵が…

「「!!?!!?」」

その雪恵の姿を見て、顔が青ざめる一夏と箒。

それを察して、セリーが話す。

「…ユキエはただ眠ってるだけ。脳に問題は無いって」

その言葉にホッとする2人。

「ご家族の方ですか?」

「いえ、学友です」

「そうですか…」

医師が説明してくれた。岸に流れ着いた2人を、近くを通りかかった漁師がこの病院に連れて来てくれた事を。すぐに目が覚めたセリーが、電報を送った事を。

「…タテナシにカンザシ、お金払わせちゃってごめんなさい」

「良いのよセリーちゃん。お陰でここが分かったのだから」

「2人が生きててくれただけで、充分だよ」

着払いで電報を送ってしまった事を謝罪するセリーに、更識姉妹は笑顔で首を横に振るのだった。

「…ねえ、ダン」

更識姉妹に謝罪を終えたセリーは、弾が握っている紙に注目した。

…どうでも良いが、セリーが弾をダンを呼ぶと、モロボシ・ダンとの区別が付きにくいのが難点である。

「ん?何だ?」

「…その手に持ってる紙、見せて」

「え?あ、いや、これは…」

しどろもどろに紙を後ろに隠す弾。

「見せろ」

「はい」

しかしセリーの目力に負けた。冷や汗をかきながら紙を見せる弾。

その内容を見たセリーは、何気なく右手を伸ばす。そう、一夏の方へと。

「うおっ!!?」

突如セリーの元へとすごい速さで引き寄せられる一夏。

そして己に近付いた一夏の胸倉を掴み、絶対零度の眼で睨むセリー。

「…おい、この紙について説明しろ」

「え、ええと…」

冷や汗をダラダラ流しながら目をそらす一夏。

それを見たセリーは、手配書を小脇に置き、空いた左手を一夏の眼前に突き出す。

「ストップストップ!知ってる事全部話すからそれだけは!!!!!!!!」

一夏魂の叫びである。

「…話せ」

体制はそのままに、セリーに自分が知っている事を話す一夏。

話が進む程、セリーの表情は険しくなっていく。

「…で、カズキは今どこにいるの?」

「目下捜索中です」

「…チッ」

荒々しく一夏を突き飛ばすセリー。

「…こんな体じゃ無かったら、私も探しに行くのに」

左腹部に軽く触れるセリー。

あの煉獄から抜け出した後、自分を縛っていたロープを切断してくれた一樹。そして、その一樹を狙って放たれた1発の銃弾。

一樹を貫通したその弾丸は、セリーをも傷つけていたのだ…

 

 

土砂降りの雨の中でも、比古による一樹の再修行は続いていた。

「はぁ、はぁ、はぁ…」

大地に倒れ、肩で息をする一樹に、比古はやはり冷たく言う。

「何度も言った筈だ。【剣は凶器、極意は殺生】どんな綺麗事やお題目を並べたところで、それが真実…お前のその薄甘い理想と、今目の前にある脅威。そのどちらも守りたいなど、手前勝手なわがままだ」

「…あぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」

気合を入れて起き上がり、比古に立ち向かう一樹。

しかし比古は一樹の攻撃を全て捌き、一樹の背を大木に押し付けた。

「くっ…」

「そんな腕で、奥義を会得出来ると思ってるのか?」

「…ッし!」

とにかく比古に一撃当てようと、一樹は全力で挑む。比古もそんな一樹の意思を感じたようだ。

「そうだ…雑念を振り払い、技のみを研ぎ澄まさせろ…!」

飛天御剣流だけではなく、一樹は今までの戦いで得た経験を総動員して動く。

姿勢を低くし足払いを仕掛けるが、比古にはそれを片足を上げる事で避けられる。

避けられる事を想定していた一樹はその状態でバック転。比古に蹴りを放つ。

「チッ!」

初めて比古の動揺が見えた。一樹は決して引かずに連続で攻める。逆刃刀を縦横無尽に振るい、比古の回避コースを特定すると、今放てる最大の技、九頭龍閃を放つ!

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

それに対し、比古はニヤリと笑うと、同じく九頭龍閃を放って対抗する。

2人の攻撃がぶつかり合い、そして_____

「ガァァァァァァァァ!!?!!?」

_____一樹が全て打ち負けた。

倒れて動かない一樹を見て、比古は呟く。

「あの頃は、何度も向かって来たぞ」

 

『グッ!?』

『ガッ!?』

『…うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』

 

「打たれても…打たれてもな!」

「…あ''あ''あ''あ''ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

再び立ち上がって比古に向かう姿は、かつて比古が一樹に飛天御剣流を教えた時と重なるのだった。

 

 

穏やかに眠っている雪恵を、懸命に看病する楯無と、それを手伝うセリー。

「…セリーちゃん、桶の水を替えてきてもらって良いかしら?」

「ん、分かった」

楯無に頼まれ、病院裏の井戸で水を汲むセリー。

「…ん、これくらいだね」

新しい水を持って病室に向かう途中、楯無が看護婦から新しいタオルを貰っているのが見えた。

「タテナシ?」

「あ、セリーちゃん」

「何でタオル替えてるの?」

「ああ…セリーちゃんに行ってもらってすぐに、間違って落としちゃったのよ」

「なるほど」

談笑しながら部屋に戻る2人。

「(…あれ?前にこんな事無かったっけ?確か…)」

セリーが首を傾げて数瞬、血相を変えて走り出した。

「セリーちゃん!?」

驚く楯無を他所に、セリーは走り続ける。

「(前は、カズキが入院してた時。そしてその時カズキは…大怪我の状態で抜け出してた!)」

そして、その一樹と一緒にいる雪恵の事だ。恐らく…

「…やっぱり!」

病室に駆け込んだセリーの目には、空いたベッドが映っていた。

 

 

潮風を感じながら、少女…雪恵は海岸に立っていた。その脳裏に浮かぶのは、煉獄で一樹が叫んでいたあの時…

 

『…藤原ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

あれだけ一樹が怒りを…いや、殺意を露わにした事があっただろうか。少なくとも、雪恵の記憶(案内人(ナビゲーター)時代も含めて)には無い。ブチ切れる事は多々あるが…主に一夏と楯無に。

「私…かーくんの事あまり知らないんだな…」

出会った時には、既に逆刃刀を持っていた。既に飛天御剣流を(ほぼ)会得していた。僅か4歳程で。

そして…出会った時には、既にあの悲しい眼をしていた…

たまに思う時がある。一樹が本当に自分と同い年なのか。

いつ…修羅場を経験していたのか。

そこまで考えたところで、雪恵は首を振るう。

「…かーくんは、かーくんだもん」

自分の大切な人である事に変わりはない。

「…よし!」

決意を決めた所で、自分を呼ぶ声が聞こえる。振り返って叫び返すと、大事な義妹が目の前にテレポートしてきた。

「ユ''キ''エ''ェェェェ!!」

大泣きしながら抱きついてくる義妹、セリーを受け止めて、優しくその頭を撫でる。

「ごめんね、書き置きしておけば良かったね」

「ユキエのバカ…」

「あはは…」

ついこの間一樹に言った言葉が、自分に返ってきてる事に苦笑する雪恵。

「「「「雪恵!!!!!!!!」」」」

ほかの仲間達も、肩で息をしながら近付いてくる。

「もう!心配したのよ!!?」

「ごめんなさい楯無さん。ちょっとお散歩したくて」

「ったく、いきなりいなくなるのは流石一樹の彼女ってとこだな」

呆れ顔の一夏の言葉に、雪恵は頬を膨らませる。

「むっ、かーくんの【お散歩】は国レベルだもん!私は近場だもん!」

「スケールの違いじゃねえよ!後それは笑えないからやめてくれ!」

何度か経験があるのか、顔を青ざめる一夏と弾。

「さて」

仕返しも済んだところで、雪恵は移動を始める。

「?ユキエ、どこ行くの?」

セリーの問いに、決まってるでしょ、と返す雪恵。

「東京だよ」

 

 

夜の小屋で、比古は小皿に酒を注いでいた。

「お前も呑むか?俺が作った皿だ」

「…いただきます」

後ろの一樹に小皿を渡すと、自分の分の小皿を取り出す。

「…何故陶芸の道を?」

「ん?さあな…強いて言うなら、自分のためだけの皿で、自分のためだけの酒を呑む…その程度の事だろう」

「なるほど…」

酒を呑み、少し落ち着いた一樹は、懐かしむように言葉を続ける。

「そういえば、あなたはいつも言っていた。春に夜桜、夏に星、秋に満月、冬には雪。それを愛でるだけで酒は充分美味い。それでも不味かったなら、それは自分の心が病んでる証だと」

「…俺からもひとつ聞いて良いか?」

一樹が聞く体制になるのを見た比古は続ける。

「…6年前、お前が【人殺し】と呼ばれた理由は何だ。お前の甘っちょろい性格を知ってる俺から見たら、お前が人を…しかも幼い女の子を殺すとはどうしても考えられなかった」

「……何故師匠がその事を」

「当時、小さくだが新聞に載っていた。しかも当時は既に情報社会だ。お前の顔は既に広まっていたんでな」

「……ヤツの仕業か」

「恐らくな」

数秒止まっていた一樹は、近くに腰を下ろすとゆっくりと語った。あの事件の真相を…全て語り終えた一樹に、比古は何を思ったのか。

「……お前が原因で、今世界は危機に陥っているということか?」

「そこまで極端ではありませんが、理由の一端は自分にあると思います」

しばらく無言の時間が続いた。

それを打ち破ったのは、やはり比古だ。

「斬らずに、勝てる相手なのか?」

()()()()ではなく()()んです。そのためには…命に代えてでも、ここで奥義を会得しなければ」

一樹がそう言った瞬間だった。

「愚かな…」

低い声でそう呟くと、一瞬で熱の篭った火箸を一樹の喉元に突きつける。

「…だったらここで死ぬか?」

「……その後に、師匠が藤原を倒してくれるのなら、俺は何度でも死ねる」

動揺をまるで見せない一樹に、比古は…

「…時間をやる」

持っていた火箸を投げ捨てると、小屋の奥に向かう。

「お前に欠けているものが何か、その馬鹿な頭で証明してみせろ」

 

 

小屋を出て、満点の星空を見上げる一樹。

「(自分が優れてるなんて考えた事は無い…むしろ、守り切れていない大罪人だと思っている。だけど、師匠はまだ俺に大切なものが欠けていると言う。俺に…欠けているもの…)」

 

 

小屋の奥にある、比古が自ら打った刀。それを持ち、比古は呟く。

「…奥義伝授があろうとなかろうと、明日が今生の別れだな」




一樹は、奥義を会得出来るのか…!?


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Episode131 奥義−シークレット−

戦闘描写があまり無いと比較的早く終わりますね(汗)

今回、IS学園サイドもお楽しみください!


一晩明け、どしゃ降りの竹林の中で一樹と比古は対峙した。

「…来たか。どうだ?自分に欠けているものを見出す事は出来たのか?」

「…いえ」

一晩考えても、一樹には己に欠けているものが見出す事は出来なかった…

「所詮お前は、ここが限界だったか」

ため息をつく比古。そして、羽織っていた白いマントを外し始める。

「…欠けているものが見出せぬ中途半端なままでは奥義の会得はもちろん、藤原一派に勝つこともまず無理だろう。仮に勝てたとしても、お前の中に確実に存在する【狂気】には、打ち勝つ事など出来ぬ」

持っていた2本の刀の内、1本を一樹に投げ渡す。

「……」

渡された刀の刀身を見つめる一樹を横目に、比古は続ける。

「お前は生涯苦しみ、悩み、孤独に苛まれ、いずれ人を殺す様になる…ならばいっそ、奥義の代わりに引導を渡してやるのが、師匠としての最後の務め…」

 

ゴウッ!!!!!!!!

 

「ッ!!?!!?!!?」

比古から放たれる殺気に、一瞬気圧され、持っていた刀を落とす一樹。

「(初めて見る…これが、真の比古清十郎の殺気か…!!?)」

「…覚悟は良いな?一樹…」

 

 

一樹が指名手配されてから、IS学園ではある動きがあった。

「絶対絶対、ずぅぇったい!おかしいですよ!何ですかこの手配書は!!?」

「「「「そうだそうだ!!!!」」」」

新聞部副部長の黛を筆頭に、一樹と関わりのあった生徒達が生徒会室に突撃していた。

「ちょっ、ちょっと落ち着いて下さい!」

「まぁまぁ〜落ち着こうよ〜」

それに対応するのは、学園に残った生徒会役員である布仏姉妹なのだが…2人も、この手配書には思うことがあるので、あまり強く出れないのが現状だ。

「櫻井君が人殺しっていうのもありえないし!このご時世に晒し首ってなんですか!?しかもこの学園に!!」

興奮気味に抗議する黛に、流石の虚もタジタジだ。

「い、いや…この手配書には櫻井君だとは一言も…」

見苦しいとは思いつつも、手配書には【左頬に十字傷がある男】としか書かれてない点を指摘した虚。それに、黛は淡々と懐から写真を取り出した。

「…これ、この騒ぎが起こる前にプリントアウトしたものです。アッチで楯無(たっちゃん)が撮ったものを、ね」

そこに写っていたのは、和装の一樹。その左頬の十字傷が、手配書の人物が一樹である事を示していた。

「…こんな所に傷がある人が、そう何人もいると思いますか?こんな哀しい雰囲気を出せる人が、何人も?」

「ごめんなさい」

虚はすぐ謝罪した。

 

 

「ところで〜」

重い雰囲気の中でも、決してその口調を崩さない(一樹が壊れた場合を除く)という、ある意味大物な本音が話し出す。

「黛先輩はともかく〜他の1年1組以外の人がいるのは何で〜?」

そうなのだ。今生徒会室に詰め寄って来ている生徒達は黛+1年1組+その他の生徒なのだ。

ちなみに、黛以外の新聞部員も来ているが、それは1組しかいない時に夏休みの事を説明していた。

「えっと…」

そして、その他の生徒の内の1人である【西田奈緒】がおずおずと話し出した。

「実は私…去年櫻井君に助けられてるの」

「「「「何ィィィィ!!?!!?」」」」

「ちょっとその話!詳しく聞かせて!!」

1組の生徒達は驚愕し、一樹の(撮った写真&人柄の)大ファンである黛はメモ帳を手に、奈緒に詰め寄る。

「えっと、正確には櫻井君や織斑君達って事を前提でお願いしますね」

 

 

中学3年生時の奈緒は、IS学園の受験のために、最終下校時刻ギリギリまで居残りで勉強していた。

『IS学園の倍率は高いから、もっと頑張らなきゃ!』

家に帰って勉強しようと、急ぎ足で帰っていた時だった。

 

ドンッ!

 

『イタッ!』

『イテッ!』

曲がり角で、人にぶつかってしまった奈緒。その表紙で、持っていた教材が散らばってしまった。

『す、すみません!』

教材を拾いながら謝罪する奈緒。しかし、すぐにその顔が蒼白する。

『イッテェな!どこ見て歩いてんだよ!』

奈緒がぶつかったのは、よりによって街で悪い意味で有名な6人の不良集団だった。

『あ、ああ…』

恐怖のあまり、腰が抜けた奈緒。

『ん?お姉ちゃんよく見るとイイ体してんじゃん。ちょっと付き合えよ』

ジロジロと奈緒の体を見る男。

奈緒の体は確かに中学3年生にしては発育が良かった。それが奈緒にとって良いことなのかどうかは分からないが、少なくとも今は良くない。

『い、イヤです』

弱々しく抵抗するも、男達には通用しない。

『まあそう言うなって。イロイロと楽しませてやるからさ』

ずんずんと近づく男達に、奈緒が絶望していた時だった。

『ガッ!!?』

集団の後ろにいた男が、呻き声をあげて倒れた。

『な、何だ!?』

男達が一斉に後ろを向いた瞬間、奈緒の前に1人の青年が現れ、ガラ空きの背中に蹴りを放った。

『オラァ!』

『ウガッ!?』

背中への一撃だったからか、気絶することは無かったが、大きなダメージを与えた事には変わりなかった。

『何しやがるクソガキ!』

蹴られた男が忿怒の形相で睨むが、青年は涼しい顔だ。

『ん?女の子に自分の欲望をぶつけようとしてるゴミの掃除だけど』

『…ぶっ殺す!』

『悪いがもう遅い』

『なっ!?』

目の前の青年に殴りかかろうとする男は、背後からの一撃で沈んだ。

『…ったく、真島おじさんが見つけられないっておかしいと思ったんだ。わざわざ2つ先の街に逃げてたなんてな』

最後の1人を沈めた…実質的1人で6人全員を沈めた背中がため息をつく。沈んだ6人の両親指を結束バンドで拘束すると、奈緒に近付こうとする。

『ヒッ…!?』

が、奈緒の反応を見て数歩下がった。

『…怪我はありませんか?』

離れた状態で話しかけてくる青年の顔には、長い間背負っている様な、深い哀しみを奈緒に感じさせた。

『あ、あの…ごめんなさい』

『いえ…自分が無神経でした。一夏、後は頼む』

『おい一樹。お前女子関係全部押し付けるつもりかよ』

『…俺に怯えてる子に、俺が手当てしろと?』

『あー…悪かった』

『何よりお前の方がそういう役が似合う』

『結局ソレかよ!』

一夏と呼ばれた青年の渾身のツッコミを、一樹と呼ばれた青年は肩をすくめるだけで流すと、背を向けて去ろうとする。

『あ、あの!』

その背中に呼びかける奈緒。一夏が『一樹、呼ばれてるぜ』と言ってくれたおかげで、一樹は止まってくれた。

『…どうしました?』

『わ、私!西田奈緒って言います。そこの三日月女学院に通う3年生です!あなたのお名前を聞かせてくれませんか?』

奈緒の言葉に、一樹は驚く。一夏ではなく、自分の名前を聞いてきた事に。

『…櫻井一樹。2つ先の街にある第6中の3年生です…もう夜遅いので、そこの一夏に送ってもらうと良いですよ』

『おいコラぁ!!!!』

『あ、あの!ありがとうございました!!』

その後、不良集団を真島組に引き渡すために残った一樹。奈緒は一夏に無事家に送ってもらったのだった。

 

 

「分かってたけど!櫻井君の行動がイケメン過ぎるわ!」

興奮気味に感想を言う黛に、奈緒は同意する。

「その後、その学校に通ってる友達に聞いたんですけど、あまり良い噂は聞かなくて…『あなたの体目当てだったんじゃないの?』って言われちゃって、中々お礼をする事が出来なかったんです…それに、織斑君がこの学園にいたのは知ってたんですけど、櫻井君までいるっていうのはこの騒ぎが起こるまで知らなかったんです」

確かに、1組以外の生徒達にとって一樹は【織斑一夏の護衛役】でしか無かったので、名前を知らない生徒の方が大半だった。雪恵と感動の再会を果たした時ですら、『【護衛役】の人と1組の転校生が再会を果たした』という程度だったのだから。

…こんな理由で知れ渡るのは、皮肉としか言いようが無い。

しかし、奈緒のような人が思った以上に学園にいたのは幸運だった。今後、学園に一樹の名と今までの功績が広まっていく事だろう。

「今までの悪名を全部振り切るような、凄い記事を書いてあげるから安心してね櫻井君!」

「やりましょう副部長!」

「あの時のお礼も含めて!歴代最高の記事を書きましょう!」

握り拳を高く掲げた、新聞部員の記事によって。

 

 

どしゃ降りの竹林の中で、刀と刀がぶつかる金属音が鳴り響く。

「はぁ、はぁ、はぁ…」

「……」

荒い息の一樹に対し、比古は呼吸は乱れていない。一樹も普段ならこの程度の動きで呼吸が乱れる事など無いのだが…今は比古の殺気により、体への負担が尋常ではない。

「(震えている…恐れているのか?師匠である比古清十郎を…!?)」

「…ウラァッ!」

一瞬で一樹に踏み込み、全力の右薙ぎを放ってくる比古。 何とか逆刃刀で受け止める一樹だが、続けて放たれた回し蹴りをまともに喰らってしまう。

「グッ…」

受け身も取れずに大地に転がる一樹に、比古は刀を振り下ろした。

「ッ!!?」

逆刃刀と鞘で受け止めるが、比古はその腕力で押し切ろうとする。

逆刃が、一樹の首元に迫る…

「(その先にある、絶対的な【死】を!?)」

「…フンッ」

突如、比古からの圧力が薄まり、一樹から離れた。

「はぁ、はぁ、はぁ…(恐れるな…死への覚悟など、とうの昔に出来ている筈!!)命を捨ててでも…俺は今こそ奥義を!!!!」

「この愚か者が…」

そして比古は構える。トドメの技、【九頭龍閃】の構えを…

「……」

九頭龍閃は回避も防御も、同じ技を使って打ち勝つ事も今の一樹には不可能。ならば…

 

キンッ…

 

逆刃刀を鞘に納め、抜刀術の構えを取る。

回避も防御も不可能ならば…九頭龍閃の神速を超えた、超神速の抜刀術で技の発生より速く斬り込む他に無い…

「この命を捨ててでも…!」

「……行くぞ」

勢いをつけるために、更に後ろに下がった比古。一瞬の静止の後、一樹に向かって踏み込んで来た。

迫り来る九つの斬撃。

迫り来る、絶対の死!!!!

一樹が真の意味で【死】を意識した、その時だった。

 

_____カズキ!!!!

 

_____マスター!!!!

 

_____かーくん!!!!

 

「ッ!!?!!?!!?」

_____【家族】の声が、聞こえたのは。

 

死ねない!!!!!!!!!!!!

 

「うおおおおォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

俺はまだ!!!!死ぬ訳にはいかない!!!!

 

 

 

ガギンッ!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

両者共、己の得物を振り切った姿勢で固まる。

先にその静寂を破ったのは、比古だった。背を向けあった状態のまま、話し出した。

「そうだ……それで良い」

距離が離れているからか、一樹には比古の言葉が弱々しく聞こえた。

「1度大切なものを失ったお前は……その悔恨と罪悪感のあまり、自分の命の重さから逃れようとする……自分の命もまた、1人の人間の命だと言う事から目を伏せて」

「……」

「それがお前の【強さ】を抑える事になり、時として心に住み着いた【狂気】の自由を許してしまう」

「……」

「それを克服するためには、今お前が生と死の狭間で見出した…【生きようとする意志】が不可欠なんだ」

「師匠…」

「愛しい者や、弱き者を、己を犠牲に守った所で…その者達の中には深い悲しみが残り…本当の幸福は訪れない…」

 

_____生きようとする意志は、何よりも…何よりも強い。

 

「それを…忘れ……るな……」

「…ッ!?」

「気に…するな……これも飛天御剣流の師弟の運命(さだめ)だ…飛天御剣流奥義…【天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)】の伝授は、師の放つ九頭龍閃を打ち破る事によって成し遂げられる……俺自身も先代の命と引き換えに、この天翔龍閃を得た……お前の不殺の誓いの………外の事だと…………思、え………」

 

ドチャッッッ!!!!!!!!

 

水を吸い、ぐちゃぐちゃになった大地に倒れる比古。

「師匠!!!!師匠ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!」

倒れた師に向かって叫ぶ一樹の声が、竹林に響き渡っていた……

 




比古清十郎の運命やいかに!

そして、次回は一樹に、新たな敵が…






















実は、今までに出てきたりするかも…


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Episode132 狂犬-マッドドッグ-

戦闘描写が入るとやっぱり長い!

見にくいかもしれませんが、よろしくお願いします。


今回一樹が戦う相手、それは…


_____死なせない!死なせるものか!!

胸元が大きく抉れている比古を小屋に運び、懸命に手当てする一樹。

親代わりでもあるこの人を、死なせないために。

一樹は小屋中を走り回った。

 

 

「…今日はこの辺りまで。ここなら、更識の息のかかった宿があるから」

楯無のみ京都に残し、IS学園組は簪を筆頭に東京へ向かっていた。

比較的移動が楽と言われている東海道を歩いているが、近代文化に慣れてしまっている体にはキツすぎた。

「大丈夫か?雪恵」

病み上がりの雪恵を気遣う一夏。当の雪恵はセリーに肩を借りて立っている状態だ。

「…ちょっとキツイ、かな」

「ちょっとじゃないよユキエ!顔色じゃ分かりにくいけど、今だって立ってられてないじゃん!」

セリーの言葉に、一夏が雪恵をよく観察すると、足が尋常でない程震えていた。

「…雪恵、今日はゆっくり休んで」

「ごめん、ありがとう」

簪とセリーに支えられながら旅館に入る雪恵。

雪恵がここまで無茶をする理由はただ一つ…『一樹と会いたい』だ。

海上で撃たれ、海に流された一樹と…

「(かーくんなら、絶対に東京に向かってる。私も頑張らなきゃ!)」

 

 

「おい、起きろ」

「おろ!?」

比古の手当てをした後、眠ってしまっていた一樹の目覚めは、師匠の蹴りだった。

「お前の帰りを待っている人達がいるんだろ?何こんな所で油売ってるんだ」

「し、師匠…どうして」

「手当てしといてどうしても何も…まあ、あえて理由をつけるのであれば、その刀だ」

一樹が抱えている逆刃刀・真打を指す比古。

「よく見てみろ。目釘が抜けかかって、刀身が抜けるか否かのギリギリまで緩くなっている。その結果、天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)の力がわずかばかり刀身に吸収され弱まった…持ち主の意を汲んでくれる、良い刀だな…」

「(赤空さん…)」

そっと逆刃刀の柄を撫でる一樹。

そんな一樹を心なしか優しい顔で見る比古。

「…まあ、紆余曲折あったが、これで奥義の伝授は終了だ。お前も体験した通り、天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)は逆刃刀にさえ十分な殺傷力を与える…あとはお前が()()として、この技の強弱緩急を全て意のまま自在に操れるよう昇華しな」

「…はい」

 

 

「すいません!!!!ここに櫻井一樹君はいますか!!?!!?」

比古の話を聞き終えた丁度その時。水色髪の少女…更識楯無が駆け込んできた。

「…楯無殿?」

一樹が名を呼ぶと、血相を変えて飛び込んできた。

「櫻井君!!無事だったのね!!!!」

一樹の手を掴み、ブンブン振る。

「ど、どうしてここが…?」

「そんな事より!安心して。雪恵ちゃんもセリーちゃんも無事よ!」

「……良かった」

穏やかな笑みを浮かべる一樹。そんな一樹に声をかける比古。

「…約束しろ一樹」

「師匠…?」

「お前のその命…決して無駄にはしないとな」

比古の言葉は、一樹の胸に深く刻まれた。

「…はい。師匠、お世話になりました」

深々と頭を下げると、一樹は楯無と共に山を下りていった。

「…死ぬなよ。バカ弟子」

 

 

「政府の連中は、躍起になってあなたを探してる。見つかれば…処刑されるわ」

楯無の案内で葵屋まで来た一樹は、今自分が指名手配されている事を聞かされた。

「…他の皆は?」

「簪ちゃんの案内で、先に東京に戻ってるわ。私はあなたを探すために残っていたの」

「それはかたじけない。では、拙者も東京に向かうでござるよ」

「…本気?」

「京都よりも、東京の方が拙者の仲間がいる。それにこの手配書を見るに、拙者が私服に戻れば問題解決でござるよ」

「…それは無理よ。今、あの和服屋は常に政府の人間に固められてる。24時間常にね。いくらあなたでも、潜入は難しいと思うわ…」

「(…無駄に頭を使うようになりやがって)」

小さく小さく舌打ちする一樹。そんな一樹に、翁が古地図を渡してくる。

「…これは?」

「更識家が代々、江戸へ渡る時に使っていた抜け道です…どうか、お役立てください」

「…かたじけないでござる」

「途中までは私も行くわ。最終的に、東京の更識邸で合流するのが目的よ」

すでに身支度を済ませていた楯無と共に、一樹は葵屋を出て行った。

 

 

「しかし、何故楯無殿も同行するでござるか?拙者1人で行った方が、面倒も少なかろうに」

歩きながら楯無に聞くと、楯無は肩をすくめながら答えた。

「まあ、道案内みたいなものよ。後は、分岐点まではどうしても人がいるところを通らざるを得ないから、カモフラージュの意味もあるわ」

「なるほど」

楯無の案内の元、東京を目指す一樹。

その男が現れたのは、そろそろ分岐点というところだった…

 

 

「見つけたでえ。久しぶりやなかず坊」

 

 

「ッ!!?!!?」

その声に驚く楯無と、比較的冷静な一樹が上を向くと、そこには素肌にヘビ柄のジャケット、更に黒革のジーンズを履き、左目に眼帯をつけた男の姿が。ジャケットの下から、その男の肌には紋が刻まれており、ひと目でその筋の者だと分かる。自信満々と石橋にいるその男に、一樹は見覚えがある。

…いや、見覚えがあるなんてものでは無い。昔からの顔馴染みであるその男は…

「…お久しぶりです。真島のおじさん」

現特別警察集団真島組組長であり、警視庁から【狂犬】と呼ばれる真島吾朗だ…

楯無が急ぎ周りを見ると、そこは既に真島組の者が囲んでいた。

「(まさか櫻井君、ここにこの人達がいることを知った上で!?)」

冷静な一樹にも、楯無は驚いていた。恐らく、気配で真島達がいる事が分かっていたのだろう。そして、()()が避けられない事も。

「しかし、大変な事になっとるなかず坊。謂れのない罪を被さられるなんて…大丈夫や。オレらは分かっとるで?かず坊がそんな事をする訳無いってな」

「おじさん…」

「せやけどな」

石橋から飛び降り、一樹と楯無の正面に着地する真島。

部下が投げて来た武器_____楯無には鞘に納められた大太刀に見えた_____を受け取ると、獲物を見つけた肉食獣の目で一樹を見据える。

「オレは今警察に感謝もしとるんや…かず坊と全力で、堂々と闘える機会をくれたんやからな!」

「ッ!!?!!?」

真島の発する、純粋すぎる闘気に圧倒される楯無。

「……」

「ッ!ハァ、ハァ、ハァ!!」

それを察して、真島から庇う様に前に出る一樹。そのおかげで、楯無は圧から解放され、何とか呼吸が出来るようになった。

「…拙者は、あなたと戦いたくはないでござるよ」

「かず坊ならそう言うと思ったで。けどな、こっちもそれを許せない()()なんや。そんな事はかず坊が1番分かっとるやろ?」

「……」

黙る一樹を見据えながら、真島は己の得物を取る。楯無には大太刀に見えたソレの両端を、()()()()()()()

「え!?」

驚く楯無の目に映っていたのは、真島が2()()()()()()を持っている姿が…

そう、真島はひとつの鞘に、2本の小太刀を納めていたのだ。

しかし、楯無が驚いた理由はそれだけでは無い。

「あなた…ドス使いじゃなかったの?」

楯無は【更識家当主】として、真島のデータを見た事がある。その中に、真島がドスを使って暴れる映像があった。

「…普段はな。けどオレが本気で暴れられるのは小太刀二刀流(コレ)や」

腰を落とし、いつでも駆け出せる体制に入る真島。

「…下がっているでござるよ」

一樹が楯無を下がらせた瞬間、真島が踏み込んで来た。

二刀の小太刀が一樹を斬り裂こうと迫ってくる。

後方に跳ぶ事で避ける一樹だが、それを読んでいた真島は右の小太刀を突き出す。

「ッ…」

対する一樹は左に大きく踏み込み、空手の要領で受け流す。

だが…

「ウラァッ!」

「がっ!?」

真島の回し蹴りが顔面に命中。流石の一樹もダメージが大きかったのか、一瞬怯む。

それを狙い、二刀の小太刀で挟み斬ろうとする真島。一樹の背後には石の壁があり、これ以上後退出来ない…!

「ッ!?」

止むを得ず逆刃刀を半身抜き、小太刀の攻撃を受け止めた一樹。それを見た真島が、ニタァと笑う。

「…抜きおったな」

逆刃刀の鍔に小太刀をぶつけると、強引に鞘から抜かせた。

「ッ…」

距離を取り、逆刃刀を前に突き出す一樹。嬉しそうに笑い続ける。

「そうや…それでええ。これで存分に()れる…」

笑みを浮かべる真島と対照的に、一樹の表情は厳しい。それを見る楯無の顔に、心配の色が濃くなっていく。

「(櫻井君…)」

「…約束してほしいでござるよ。真島殿(どの)

「殿…か。かず坊もスイッチが入ってきたな。で、何や?」

「何があっても、楯無殿に手を出さないでほしいでござる」

その言葉を聞いた楯無が抗議しそうなのを、一樹はひと睨みする事で止める。

「なんやその事か。それは心配せんでええで。それに、オレに勝ったらここは通したる」

「…本当でござるか?」

「そりゃあな。オレも子分が動けなくなる事は避けたいからな」

ホッと息をつく一樹。1番の懸念事項である楯無の安全が確保されたのだから。

「じゃあもうええな」

「…ああ」

どうしたって、この闘いから逃れる事は出来ない。真島が楯無の安全を保障してくれただけでも儲けものだ。

()()()()()で相手するでござる」

「よっしゃ!行くでかず坊!!!!」

姿勢を低くして駆け寄る真島。縦横無尽に迫り来る斬撃を、全て逆刃刀で流す一樹。真島の攻撃が止まった瞬間に、真島の横を駆け抜ける。

「待てやッ!!」

一樹の後を追う真島は、その背中に小太刀を投げようとするがやめた。一樹が石壁を走るという離れ業をする事で、狙いが定められないのだ。

「(忘れとったわ…かず坊は足場が繋がっているとこならどこでも走れるって事を!)」

そして、石壁を走りきった一樹は、比較的広めな場所を闘いの場所に定めた。

追いついた真島の攻撃を逆刃刀で捌き、一樹も攻撃するが、真島は俊敏な横移動で一樹の攻撃を避ける。

「そんな攻撃はオレには当たらんで!」

「ッ…」

一樹の攻撃を左の小太刀で受け止め、右の小太刀で突き刺そうとしてくる。

一樹はそれを脇の木を蹴って飛び、空中横転する事で避け、真島の背後を取る。

「させんわ!」

すぐさま体を独楽の様に回し、一樹の接近を阻止する真島。

流れる様に小太刀の交差斬りを仕掛けようとするが、一樹が勢いよく逆刃刀を振り下ろした事によって止められた。

「くっ…あぁぁぁぁ!!」

一樹の腕力に、小太刀二刀が押し切られそうになるが、真島は気合で押し戻す。

「もろう、た!」

逆刃刀を左の小太刀で抑え、右の小太刀で一樹を突き刺そうとする。

「ッ!」

一樹は小太刀の突きを避けると、突き出された真島の左腕を掴んで自分から倒れこむ。巴投げの亜種技で、真島を投げ飛ばす。

「ふんっ!」

しかし真島は尋常でない速さで起き上がり、まだ転がっている一樹に向かって左の小太刀を突き下ろす。

「くっ…!」

すぐに横転して小太刀を避ける一樹。真島は突き刺した小太刀をそのままに、小太刀一刀で追撃する。

「(速い…!)」

一刀のみになった分、受け止めやすいと思ったら大間違いだ。むしろ一刀のみに攻撃を集中する分、真島の俊敏さが全開し、一樹の想像以上の速さで斬撃が迫ってくる。

 

ガギィンッッッ!!!!

 

耳をつんざくような金属音が響いた瞬間、真島の膝蹴りが一樹の腹部に決まる。

「ガッ!?」

思わずうずくまる一樹の頭部に、回し蹴りが…

 

バキッ!!!!

 

「ゴッ!!?」

その蹴りの威力に、一樹は吹き飛ばされ、大地を転がる。

「どうしたんやかず坊…お前の本気はそんなもんじゃないやろ?」

「はぁ、はぁ、はぁ…」

肩で息をする一樹。

「はぁ……はぁ……ふぅ……」

呼吸が落ち着いてきた一樹は、その場で逆刃刀を半回転。順手から逆手に逆刃刀を持ち替えた。

「「……」」

睨み合う2人。楯無を始めとする観戦者達も、怒涛の展開から目が離せない。

 

 

「(……あれ?)」

一樹の眼が鋭くなっていくのを見た楯無だが、不思議とその眼に恐怖を感じない。以前なら、その全てを斬る様な眼を見たら腰が抜ける程だったのに…

「(あ……そうか)」

以前の一樹は、自分が死んでも良いと思って戦っていた。しかし、比古が命をかけて一樹に教えた【生きようとする意思】が、戦闘体制に入った一樹の眼に、光を灯したのだ。

「(今の櫻井君の眼を見れば、きっと雪恵ちゃんは全部分かるんだろうな…)」

それだけの信頼関係が、この2人にはある。

楯無がそこまで思考した時、膠着状態が解かれた。先に動き出したのは、一樹だった。

 

 

「……ッし!」

真島に向かって踏み込むと、逆手に持った逆刃刀で連続で仕掛ける。真島はその攻撃を小太刀一刀で裁くが、その顔に冷や汗が…

「(かず坊、とうとう本気になりおったか!!)」

本気になった一樹を、小太刀一刀で受け止めるのは骨が折れる。それだけ、一樹の動きは速かった。

「ウラァッ!」

「ッ!?」

何とか体制を整えるために、一樹に前蹴りを放つ真島。蹴りを避けるために後方に跳んだ一樹を、その俊敏な動きで追い込む。どこか紫のオーラが見える真島の動きからの攻撃を、一樹はスライディングのように腰を落とした横移動で避ける。そんな動きをする一樹を追いながら、大地に突き刺したままの小太刀を抜いた。

「逃がさんわ!」

左足を軸に、独楽のように回って真島と対峙した一樹に向かって、拾ったばかりの小太刀を投げた。

「ッ!!?」

何とか頭を左に傾けて飛んできた小太刀を避けるが、それは一樹の後ろの木に突き刺さった。避ける方向が限定されてしまった一樹。その隙に決着をつけようと、真島が迫る。

縦横無尽に襲ってくる斬撃を、逆刃刀で懸命に迎撃する一樹。まるで、何かを狙っているように…

「(…ッ!ここだ!!!!!!!!)」

短気な真島にしては保った方だろう。簡単に攻撃出来る刺突攻撃を放ってきた。一樹は上半身を大きく左に傾けて避け、逆刃刀の柄頭で殴った。

「ガッ!?」

カウンターを喰らった真島が大きく仰け反る。その隙を逃す一樹ではない。

「はぁっ!」

「ぐっ!?」

回転の遠心力を加えた蹴りを真島に喰らわせて仰け反らせると、一瞬で肉薄。飛び蹴りを放つが、真島は前転して回避。木に突き刺さった小太刀を回収し、一樹に斬りかかる。

「ウオラァッ!」

小太刀二刀の斬撃を逆刃刀で受け止めると、素早く踏み込み、真島を空中に投げる。

「う………らぁっ!!!!」

「くぅっ!?」

空中で真島は身動きが取れない。その隙を逃さず、一樹は空中にいる真島目掛け、逆刃刀を振り下ろす。

「…ッし!!!!」

「ガァッ!!?」

その威力に、真島は斜面を転がり落ちる。何とか起き上がった真島が上を見上げると、逆刃刀を振りかぶった一樹が飛び降りてきた。

「アガッ!!?」

落下のエネルギーも加わったその一撃に、流石の真島も意識を失いかける。それを見た一樹は逆刃刀を下ろした…

「…真島殿、もう勝負はついたでござるよ」

「いや、まだや……まだ終わっとらんで……」

あまりの激闘に、真島の全身は血だらけだ。真島程の実力者が相手となると、流石の一樹もあまり加減が出来ないのだ…

「まだ…オレはやれるで!!!!」

「……そうでござるか」

逆刃刀を持ち直した一樹。その刀身を、風に乗せるように下に向け…

 

逆風(さかかぜ)(切り上げ)!逆袈裟!左薙!右切り上げ!唐竹(切りおろし)!左切り上げ!右薙!袈裟斬り!…そして、刺突!!!!

 

これを順番に、全て一瞬で叩き込むこの大技こそ、飛天御剣流【九頭龍閃】。

 

奥義と同時に得たこの技を、真島に喰らわせた一樹。

「ゴハァッ!!?!!?」

吐血しながら大きく後方に仰け反る真島。しかし、究極の戦闘バカである真島はまだ止まらない。

「中々今のは効いたでぇ…けどまだや…まだまだや!!」

「……」

もはや真島を止めるには、気絶させるか骨を折るかしかないのだろうか…

一樹は逆刃刀を半回転させると、静かに鞘に納めた。

「…次で決めるでござる」

「…せやな」

一瞬の静寂、そして…

「「ッ!!!!」」

 

ドギャアァァァァンッ!!!!!!!!

 

「ガボッ!!?!!?」

楯無達には、何が起きたのか分からなかった。気がついたら一樹は逆刃刀を振り上げており、真島は吐血しながら空を舞っていた。

ドシャッ、と真島が大地倒れた。

「相変わらず……ゴツいなあ……かず坊」

「……」

ガクッ、と真島は気絶。

一樹は逆刃刀を再度鞘に納めると、真島組の顔見知りの者達に一礼して歩き出した。その後を慌ててついていく楯無。

「ねえ櫻井君、さっきのって…抜刀術?」

「…ああ」

「速すぎて見えなかったんだけど…」

「それがあの抜刀術…飛天御剣流奥義、天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)でござるから」

「え?え!?今までそんなのあるそぶり見せなかったじゃない!!?」

「必要なかったでござるよ」

それに一樹自身、この奥義を得てから一週間も経っていない。楯無が知っている筈が無いのだ。

「それより、早く行くでござるよ」

「え、ええ…あ、そうだ。マサって人から警備配置書を貰ったから、更識邸まで一緒に行くわ」

「…そうか。なら、しっかりついてくるでござるよ」

「え?ちょっ!早いって!!」

 

 

雪恵達とIS学園で別れてから、簪は更識邸で待機していた。何故こんなに早く戻ってこれたかと言うと、途中で体調が回復したセリーのテレポートを使った為だ。

「…お姉ちゃん、ちゃんと櫻井君を見つけられたのかな?」

電子機器が使えない今、情報の伝達が非常に遅い。更識邸に着くまではその事しか頭に無かったのでそこまで気にしなかったが、無事着いた今、簪の心労はマッハだ。

「早く来てよ2人とも…」

「これでも急いで来たでござるが」

「わひゃあ!!?」

突如背後から声が聞こえ、簪の心臓が跳ね上がる。慌てて後ろを向くと、そこには藁傘を深く被った一樹の姿が。

「さ、櫻井君!生きてたんだね!」

「おかげさまで」

「お姉ちゃんは?」

「そこで生き倒れてるでござるよ」

一樹の指す方向には、椅子に座って真っ白に燃え尽きている楯無がいた。

「そっか!」

それには特にリアクションをしない簪。おや、真っ白な楯無の目元に雫が…

「じゃあ櫻井君にはお茶を持ってくるね」

姉の分が無いことに、更に楯無の目元から水が…

「いや、先を急ぐでござるよ…藤原との決着をつけねばならぬ故」

真っ直ぐ簪を見る一樹の目に、簪は根負けした。

「…分かった。でも、這ってでも戻って来てね。死んじゃったらどうしようも無いけど、生きてさえいてくれれば、必ずお医者さんに治してもらうから。人を生かす前に、自分を生かす事を忘れないで」

「…師匠と同じことを」

「え?」

「いや、何でもないでござるよ」

「そう…あ、ちょっと待ってて」

「おろ?」

そう言って簪は奥へ向かう。キョトンとする一樹。燃え尽きたまま涙する楯無。

そして戻ってきた簪の手には…

「…これに着替えて行って」

「……」

 

 

数分後、渡された物に着替えた一樹が戻ってきた。

「…やっぱり、櫻井君にはそっちの方が似合うよ」

「そうでござるか?」

渡された物とは、涼との戦いでぼろぼろになり、女将に修復を頼んでいたあの緋色の衣だった。

「女将は相変わらず仕事が早いでござるな」

「…女将がバレないよう分かりにくく話してくれた事を言うね。『私服は()()返せないけど、代わりにこの正装を貸してあげる。キッチリ決着をつけてきなさい』だって」

その言葉に、一樹は小さく笑う。そしてすぐに表情を引き締め…

「…雪とセリーを頼む」

「…うん。分かった」

簪に後を頼み、更識邸を出ようとした、その瞬間だった。

 

ピィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!

 

警官隊の、笛の音が響いたのは。

「「「ッ!!?!!?」」」

一樹と簪、そして真っ白だった楯無もその音に反応する。

「何で!!?見つからないよう細心の注意を払って来たのに!!!!」

「…誰かが張っていたのでござろう」

一樹が呟くと同時に、警官が次々と更識邸に突入してくる。そして、一樹を囲むと、1人が震えながら…己を鼓舞するように叫んだ。

「櫻井一樹!!!!この館は既に警官が囲んでいる!!お前はどこにも逃げられない!!大人しくお縄につけ!!!!」

「「「「つけ!!!!」」」」

「……」

一樹がざっと見回していると、ずんずんと簪が一樹の側に来る。

「更識殿?」

普段の簪なら有り得ない行動に、一樹は首を傾げる。簪は一樹の視線を気にせず、警官隊に対峙する。

「…みなさん、恥ずかしく無いんですか?今この国を脅かしてる人と戦おうしてる人を捕らえて処刑するなんて!人として恥ずかしく無いんですか!!?!!?」

「「「「何!!?!!?」」」」

「簪ちゃんの言う通りよ…櫻井君を捕まえるって言うのなら、私達2人を殺してからにしなさい!!!!!!!!」

「「「「!!?!!?」」」」

強い覚悟を持って警官隊と対峙する更識姉妹。今にも2人に飛びかかろうする警官隊の前に、一樹が立ちふさがる。

「2人とも、かたじけない」

余裕のある笑みを2人に見せ、改めて警官隊と対峙する一樹。

「う、うおぉぉぉぉ!!!!」

1人の警官が踏み込んでくる瞬間、表情を引き締めた一樹。その眼光に警官は一瞬怯むも、気を奮い立たせて踏み込んだ。

警棒の攻撃を、更識姉妹に当たらないよう注意しながら捌く一樹。

「下がっているでござるよ」

更識姉妹を広間の端へと押し込むと、自身は姿勢を低くして駆け出す。警官達が固まって阻止しようとするが、そこを素早くスライディングして抜け、広間から庭へと出た。

庭には警官が張っており、一樹は更に多くの警官に囲まれる事になってしまった。

「…その2人は関係なかろう。それに、土足で人の家を荒らさせはしないでござるよ」

多くの警官に囲まれいると言うのに、一樹は全く気後れしていない。次々と飛んでくる警棒の攻撃を軽くいなし、警官隊を圧倒していく。しかし一樹は1度も攻撃を仕掛けず、あくまで警官隊の攻撃をいなすだけだ。だからこそ、警官隊は果敢に挑めるのだが。

「……」

しばし警官隊の攻撃をいなし続けた一樹だったが_____

 

シュッ!

 

_____とうとう逆刃刀を半身抜いた。それだけで、()()()()()()()と聞いている警官隊の腰が抜ける。

「「「「ヒィッ!!?」」」」

「………」

怯える警官達を見回した一樹は、ため息をつくと逆刃刀を鞘に納めた。

「……もう()い」

鞘に納めたまま逆刃刀を腰から抜くと、警官達に見えるよう高く上げる。

「…拙者にお主らと戦う理由は無い」

そして、そっと逆刃刀を大地に置いた瞬間だった。

 

バキッ!!!!

 

「ッ…」

1人の警官の警棒が、一樹の背中を捉えたのは。警戒していたためそこまでダメージは無かったが、それを気に警官全員が一樹に迫った。無抵抗で押さえつけられる一樹の目には、更識姉妹が己の名を呼ぶ口の動きが僅かに映った後、また警官隊で埋もれるのだった。

 

 

その数時間後、【伝説の殺し屋】が逮捕されたという新聞が、東京中に広がったのだった。




警察に捕まった一樹は、果たしてどうなる!!?


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Episode133 処刑-パニッシュメント-

本編とは全く関係ないですが言わせてください。





MGクアンタフルセイバー発売いよっっっっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!




ではどうぞ!


警官に連行された一樹。着いたのは、警視庁だった。

「……」

マスコミも入れない警視庁の奥部に連行され、抑えられているところに、警視総監の川司が来た。

「「……」」

無言の会話の後、川司は側にいた警官にアイコンタクト。その意を理解した警官によって、一樹の拘束は外された。

「……付いて来てくれ」

 

 

「失礼します」

警視庁内の応接室に一樹を案内した川司。ノックをした後に一樹を入れると、そこにいたのは…

「伊藤さんに、宗介…」

内務卿伊藤博昭と、現S.M.Sリーダー櫻井宗介だ…

「もう少し、時間を稼いでくれると思ったんだがな」

「……」

無言の一樹を見据えながら、伊藤が続けた言葉とは…

「悪いが一樹君。君には()()になってもらうぞ」

「…最初からそのつもりでござろう。何を今更」

ため息を吐きながら呆れる一樹に、伊藤は強い口調で反論する。

「藤原はハナから交渉に応じる気など無い!力で、この国を、世界を乗っ取るつもりだ」

「人心を味方につけ、一気に東京へ攻め込んでくるだろう」

川司の言葉に伊藤が頷くと、窓の外を眺めながら続ける。

「もはや全面戦争しか無い。だが今事を起こせば…首都東京に、大きな被害が出る…」

「…伊藤さん」

ずっと黙って話を聞く宗介を横目に、一樹は伊藤に淡々と問う。

「拙者が黙って殺されると思うか…?」

「……」

「…奴に近づけさえすれば、勝機はある」

伊藤はしばらくの思考の後…

「なるほど…面白い。やれるもんならやってみろ」

不敵に笑いながら一樹に言う伊藤に、一樹も自然と眼が鋭くなった。

「…餞別代わりだ。()()の名に相応しい花道を用意してやる」

そう言うと、応接室を出て行く伊藤。

伊藤を見送った後、一樹が宗介の方を見ると、宗介は力強く頷いたのだった。

 

 

IS学園に無事着き、ひと段落ついていた一夏と名目上護衛役の弾。

「あ”〜づがれだ〜」

「俺達でこれだから、他のみんなはもっと辛かったろうな…」

S.M.Sで鍛え抜かれている2人ですらそうなのだ。他の者の苦労は計り知れない。

 

ドンドンドンドンッ!!!!!!!!

 

『織斑君いる!!?!!?』

扉を荒々しく叩く音と共に、一夏を呼ぶ声が聞こえた。

「この声…黛先輩かな?」

「知り合いか?」

「むしろ一樹の理解者なまである」

「丁重におもてなしするぞ」

素早く動く弾。S.M.S隊員らしい動きに、一夏は苦笑する。

「はーい、今開けます」

扉を開けた瞬間、黛は一夏の眼前に先程届いた号外新聞を突き出した。

「コレ見て!!!!」

「ん?…!!?」

記事の一面を見た一夏の顔が鋭くなる。

「…弾」

「あん?」

「ほれ」

「ん?」

お茶を淹れる道具を持ってきた弾に新聞を渡す一夏。受け取った弾の目に映ったのは…

 

【左頬に十字傷を持つ伝説の殺し屋の公開斬首】

 

と書かれた一面だった。

「なんじゃこりゃ!!?」

「…奴らの言いなりになってるんだろうよ。しっかし、こんな早く一樹が捕まるなんて…楯無さんか簪を人質に取られたのか?」

「もしそうだとしたら、警察も落ちるところまで落ちたわね」

一夏の予測に、黛は表情を険しくさせて言う。普段おちゃらけている彼女でも、今回の事は相当頭に来ている様だ。

「…一夏」

「分かってる。処刑場に乗り込んで一樹を連れ戻すぞ!俺は千冬姉に話つけてくる!」

「私も行く!!」

「え、あ、ちょっ…」

弾が止める間もなく、一夏と黛は部屋を出て行ってしまった。ため息をついて後を追おうとする弾の耳に…

 

コンコン

 

窓を軽く叩く音が聞こえた。慌てて振り向くと、そこには…

「り、理香子さッんぐ!」

窓から潜入してきたのは、宗介の恋人である瀬川理香子だ。思わず叫びかける弾の口を手で抑えると、小声で話し出す。

「(ちょっと!バレたらどうするのよ!)」

「(す、すんません…けど、どうして理香子さんがここに?)」

「(最初は宗介や智希君達の誰かがやる予定だったんだけど、私を筆頭に女の子達が反対したのよ)」

「(あ〜…なるほど)」

その光景が頭に浮かぶ弾。一樹以外のTOP7の少年達には、ひとつだけ共通している弱点がある。

_____恋人のお願いには弱いという弱点が。

「(潜入する場所が場所だしね。だから代表して私が来たの。あ、潜入方法は聞かないでね。あなたじゃ絶対出来ない方法だから)」

「(何それめっちゃ気になる!!!!)」

「(教えない。それより、宗介からの伝言なんだけど…)」

「(あ、はい)」

「(一樹君の処刑に関してね。こっからは誰にも話しちゃダメよ。一夏君や雪恵ちゃんにも)」

「(…了解)」

「(_______________)」

「(…マジっすか。アイツも攻めるなあ…)」

「(一夏君に話さないでって言う意味、分かったかしら?)」

「(ええもちろん…アイツは知らない方が都合が良いですね。アイツの性格的に)」

「(そういう事だから、一夏君はほっといても動いてくれるから良いわ。あなたは万が一に備えて()()の事を話したけど、あまりコレの件は広めたく無いの。あなた以外だと本部勤めのS.M.S団員の極一部しか知らないからそのつもりで。あの2人に話してあげたいのは分かるけど…今は、堪える時よ。あなたもあの子達も)」

「(了解。何とかやりますよ)」

「(お願いね)」

伝える事を伝えると、理香子は忍者の様に一瞬で消えた。

「…ほんっと、S.M.Sの人達は人間離れしてるぜ」

ボソッと呟かれたその言葉は、どこか諦めを含んでいた。

…既に一夏や弾も充分人間離れしているのだが、知らぬは本人達ばかり、だ。

 

 

「いよいよ、だな」

無限刃の手入れをしながら、満面の笑みを浮かべる藤原。そんな藤原に酒を差し出す花澤。

「藤原君、すごく嬉しそう」

「そりゃ嬉しいさ。あのクズにこれ以上無い程の屈辱を与えて殺せるんだからな」

「…自分で殺る訳じゃ無いのに?」

「ん?……あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!忘れてたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

夏休みの宿題を最終日に取り掛かる小学生の様なリアクションを取る藤原。

そんな藤原に声をかけるのは、ようやく包帯が外れた正治だ。

「藤原様、あの者がただ黙って処刑されるとは思いません。きっと、何か仕掛けてくる筈です」

「…それもそうだな」

あっさり落ち着いた藤原に、微笑む花澤。

「(かぁわいい…)」

藤原の愛人…つまり、第2夫人の座を狙う花澤は、藤原の表情全てが愛おしく思える。恐らく、藤原一派の中でも()()()()は上位に入るだろう…

「(藤原君がこぉんなに殺したい櫻井一樹って人、早く死んでくれないかなぁ…でないと、藤原君の心に、私が入れないからさぁ…)」

ドス暗い…深い闇を含んだ微笑みで藤原を見つめる花澤は、今この場で最も狂っていた。

 

 

ついにこの時が来た。

拘束された一樹は馬に乗せられ、顔を隠す麻袋を被った状態で民衆の前に晒された。

「この人殺し!」

「罪を償うんだな!」

民衆の声を聞き、一樹は顔を隠してて良かったと切に思う。この状態なら、まだ自分に言われてるのでは無いと思える。

「(まあ…強引にだけどな)」

 

 

藤原が指定した処刑場は、IS学園にほど近い海岸だった。処刑場に着き、警官に連れられる一樹。

「…袋を取れ」

目の前で誰かが命令した。警官が麻袋を取り、一樹の視界が開ける。

「…お前か」

一樹の正面にいたのは、【百識】の正治だった。

「藤原の野郎はどこだ」

「お前の最後は藤原様に変わって俺が見届けてやる」

「…下っ端に確認させるなんて、藤原も不確実な方法を取ったな」

飄々と言う一樹の頬に、正治の拳が決まる。

 

バキッ!!!!

 

「ッ…」

「無様な貴様が、藤原様を愚弄するな」

「…ペッ」

今の一撃で口の中が切れたのだろう。砂浜に溜まった血を吐き捨てる一樹。

「…なら奴に伝えておけ。『先に地獄で待ってる』ってな」

「その虚勢がいつまで続く、かな?」

 

 

「おい一樹!」

「かーくん!」

「カズキ!」

「「「「櫻井君!」」」」

処刑場に駆け込んで来た一夏たちIS学園組。竹で出来た柵をぶっ壊そうとする一夏を、やけに深く帽子を被った2人の警官が地面に抑え込んだ。

「ガッ!?」

「大人しくしてて下さい」

「この処刑に、この国の未来が掛かってるんです」

「ふざけんな!冤罪で人を処刑しなきゃいけない未来って何だよ!」

警官に怒鳴る一夏。その光景を見て、雪恵とセリーは妙な感覚を覚えるも、それどころでは無いと竹柵の間から覗き込んだ。

 

 

砂場に敷かれた藁の敷物に座らされる一樹。それと同時に、じっと座って待っていた川司が立ち上がる。伊藤から渡された、罪状の書かれた紙を広げ読み出す。

「この者!地球外生命体出没に紛れ!重き人命を絶つ事数多に及び!その非道かつ!残忍な、振る舞い…」

読み進んでいくほど、川司の声の力が無くなっていく。

「(川司さん…)」

仕事とはいえ、冤罪だと分かっている罪を読まなければならないのが川司には辛いのだろう。そんな川司を無言で見上げる一樹。

「どぉした!?早く続きを読め!」

そして少し離れたところで偉そうに座っていた正治が野次を飛ばす。

それでも読まない川司。痺れを切らした正治が川司から紙を奪い取ると大声で話し出した。

「櫻井一樹!その非道かつ!残忍な振る舞いは決して許されるものではない!!」

「……」

長くなってきた髪に顔を隠す一樹。それを見てほくそ笑みながら、正治は紙を高く掲げた。

「これより、櫻井一樹に殺された…いや、日本政府に見殺しにされた!罪のない人々の名を読み上げる!!」

そして読み上げられる名の数々。ほぼ一樹の知らない名が続いたが、正治が_____おそらくワザとだろう_____最後に読んだその名は、一樹の痛い記憶を蘇られた。

「都内美術高校1年、斎藤沙織!!!!」

「……」

 

『櫻井君、織斑君の攻略方法を教えて下さい!』

 

『この度、織斑一夏君とお付き合いさせていただく事になりました!』

 

『織斑君と櫻井君って、本当に仲良いよね!ちょっと妬けちゃうかも…』

 

一夏と付き合ってからも、一樹とは友人として親しくしていた少女。しかし彼女は藤原に殺され、操り人形となってしまっていた…そして、恋人である一夏の目の前で…

 

『織…斑…君?』

 

『もっと………色んな事…………話し……たかった……な……』

 

『ごめん…………………………ね…………』

 

『人として生きるのって……難しいね……』

 

沙織の残した言葉が、一樹の脳裏に蘇る。その時の、心の痛みも…

_____俺は…

 

『…欠けているものが見出せぬ中途半端なままでは奥義の会得はもちろん、藤原一派に勝つこともまず無理だろう。仮に勝てたとしても、お前の中に確実に存在する【狂気】には、打ち勝つ事など出来ぬ』

 

『人を生かす前に、自分を生かす事を忘れないで』

 

師である比古の、自分を心配してくれた簪の言葉も蘇る。

それは、一樹にある決意を固めさせた。

_____俺はもう…人にあんな死に方はさせない!

 

「犠牲者の中には、まだ未来のある若者も含まれており、その所業は残忍極まりない!!!!よってこの者を、斬首刑に処するものとする!!!!」

正治が読み上げると同時に、一樹の両サイドを抑えていたやはり目深に帽子を被った警官が、一樹を前のめりに倒す。そう、首を斬り落としやすいように。

 

_____もう二度と…

 

「やめて!!!!!!!!」

「やめろ!!!!!!!!」

「やめなさい!!!!!!!!」

様々な制止の声の中、執行人が刃を酒で洗った…

 

_____決して

 

執行人が刀を構える…

そして、振り下ろされた!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何!!?!!?!!?」

目を強く瞑っていた雪恵の耳に、正治が驚愕する声が聞こえた。

恐る恐る目を開けると…

一樹の首は斬り落とされておらず、代わりに拘束していた縄が斬られていた。

「…え?」

呆然としている雪恵。

すると、執行人と一樹を抑えていた警官2人が立ち上がり、目深に被っていた笠と帽子を投げ捨てた。

「「「お芝居はここまでだ!!!!」」」

そこにいたのは、S.M.SのTOP7の少年が3人。執行人は櫻井宗介、抑えていた警官2人は、長峰智希と倉野和哉だった。

「宗介君に智希君に和哉君!?という事は!」

急ぎ後ろを向くと、一夏を抑えていた警官2人が帽子を投げ捨て、六連佑人と星野一馬の姿になった。

「へ!?佑人に一馬!!?」

「「そーういうこと♪」」

驚く一夏に、いたずらっぽく笑う佑人と一馬。

「しっかし、雪恵さんがうっすら感づいてたのに、お前は全く気付かないなんてな…一樹に報告して今度ねっちょり修行だな」

「ね、ねっちょり嫌だぁぁぁぁ!!!!」

ふざけながらも邪魔な警官服を脱ぎ捨て、いつものS.M.Sスタイルになる佑人と一馬。

更に一馬は警官に預けていたとある刀を受け取って、宗介達と合流する。

今、ここに最強の少年達が集結した。

「ほれ、一樹」

刀身を確認した後、一樹に刀を投げ渡す一馬。

受け取った一樹はその刀を腰に挿し、狼狽える正治達と対峙する。

「そ、そんな子供騙しに負ける我々ではないぞ!!!!」

「子供騙しではござらんよ…」

精一杯の虚勢をはる正治達の前で、ゆっくりと刀を抜き、刀身を見せる。

「人を不殺(ころさず)の誓い…逆刃刀だ」

その言葉を合図に、警官隊+S.M.S部隊が各々の得物を取り出し、戦闘態勢に入る。

藤原一派も、正治を除いて全員戦闘態勢に入った。

「…行こうぜ、大将」

「ああ」

宗介の言葉を合図に、一樹は駆け出した。




伝説の最後編も佳境です!

皆さん、どうかお付き合いください!


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Episode134 第一局面-ファースト・フェイズ–

言い訳はしない。

2ヶ月間お待たせしました!!!!

スランプって怖いね!!!!

もう1年も書いてるのに10巻終わる気がしないよ!?


とにかく!
今回は派手に暴れてます!

ではどうぞ!!!!


一樹が駆け出したのを合図に、決戦が始まった。

次々と迫り来る一派の兵隊達を逆刃刀を薙いで倒していき、徐々に正治達に迫る。

「やっぱお前はただ殺される訳が無いって思ってたぜ!!!!」

「ッ!?」

兵隊達に紛れ、【俊敏】の綾野が飛び出して来た。

その両手に持っているのは、拳銃…

「って事で、俺に殺されろや!!!!」

「断る!!!!」

素早く放たれた銃弾を、逆刃刀で弾く一樹。しかし、その反動で大きく仰け反ってしまう…

「お終いだな!!!!」

「…それは分からぬでござるよ」

「あん?どういう_____ッ!!?」

勝ち誇った笑みを浮かべている綾野の両手に、ゴム弾が命中した。

「銃を使えるのは、お前だけじゃねえんだよ」

ニヤリと笑うのは、TOP7の中で最も射撃が上手い一馬だ。

「じゃあ一樹。ここは俺に任せて進んでくれ」

「かたじけない」

一馬にこの場を任せ、一樹は更に進む。

「さぁて、どれくらい俺を楽しませてくれるのかな?」

どちらが悪役なのか深く問いたいが、そんな事は気にせずに、一馬も両手に拳銃を持つと綾野を撃ちまくる。

「アグッ!?グガッ!?アギッ!!?」

「あ、そうそう。この拳銃(コレ)、物理法則を無視した無限リロード銃だから…」

言いながら、背後から襲ってくる藤原一派の兵隊達を撃ち抜く一馬。

「弾切れまで耐えれば勝ち…とか思わない方が良いぞ」

「この野郎ッ…」

一馬を殺意の篭った目で睨む綾野。それを受け、一馬も綾野を冷たい目で睨んだ。

「ッ!!?」

その瞬間、綾野は腰が抜けかけた。それほど、一馬から放たれる圧は大きいのだ。

「久しぶりだよ…本ッッ当に久しぶりだよ…俺たちがここまで()()()なんてよ…6年間、溜まりに溜まった鬱憤(うっぷん)を晴らさしてもらうから覚悟しろ」

 

 

「おい一夏。いつまで寝てるんだよ」

呆然と砂浜に転がっている一夏を立たせる弾。

「え、え?一馬と佑人が、あれ?」

「一発殴ったら治るかな?」

バギッ!!

「グハッ!?はっ!俺は一体何を!」

「治ったな。じゃあ行くぞ」

「へ?」

「あの一派のボスには、お前も因縁があるんだろ?」

S.M.S本部から持ち出した、一夏専用の模造刀(ベルトに鞘付き)を渡す弾。

「…ああ。そうだな」

それを受け取ると、一夏はIS学園の制服の上から、そのベルトを巻いた。

一方の弾は一馬と同じく、無限リロード_____しかしプロトタイプのため、弾丸の製作には一馬の以上に時間がかかる_____の銃に、使い勝手の良い小型スタンロッド_____Ex-ギアの動力炉を超小型にしたため、稼働時間は事実上制限無し_____を取り出した。

「んじゃあ…」

「行きますか!」

一夏と弾、同時に駆け出す。柵を跳躍で飛び越すと、藤原一派の兵隊達を次々と下していく。

「一夏!弾!お前らは一樹のフォローにまわれ!」

綾野と対峙しながら、一馬が2人に叫んだ。

「「了解!!」」

 

 

「早く!狼煙を上げろ!」

正治の叫ぶような命令に、慌てて狼煙をあげる兵の1人。それを合図に、沖に待機していた煉獄から砲撃が飛んできた。

「死ね!死ね!!死ねぇぇぇぇ!!!!」

隠し持っていた拳銃を、がむしゃらに撃ちまくる正治。がむしゃら過ぎて、敵味方関係無く被害が出ている。

そして、その内の一発が佑人の頬を掠った。

無論秒でキレた。

「何してくれんじゃボケぇぇぇぇ!!!!」

近くに落ちていた貝殻を拾うと、正治目掛けて投げた。

「アベシッ!!?」

それは見事正治の眉間にクリーンヒットし、正治は情けなく倒れた。

「しょ、正治様!!?」

兵達が慌てて正治を担ぎ、船へと運ぶ。

「逃すかよ!」

煉獄に向かう正治を追おうとする佑人。だが、その眼前に刀の切っ先が…

「チッ!」

やむを得ず後方に下がって避ける佑人。

「へぇ…案外やるみたいだな」

佑人に刀を突き出したのは【策謀】の坂崎。ニヤニヤと君の悪い笑みを浮かべる坂崎に、佑人は舌打ちする。

「邪魔しやがって…」

「正治は煉獄の中でこそ真価を発揮するんでな。ここではやらせねえよ」

坂崎の言葉を聞くと、佑人はため息をついた。その後、首をゴキゴキ鳴らしながら回すと、戦闘モードで坂崎と対峙する。

「まあ良いや。お前も()()()の連中の1人だろうからな…ストレス発散分くらいは耐えて貰わなきゃな!!!!」

TOP7の中では珍しく、佑人は徒手空拳を好む。拳を保護するグローブをはめ直すと、坂崎に向かって踏み込んだ。

 

 

「…ここ、任せて大丈夫でござるか?」

煉獄からの砲撃を何とか避けながら、一樹は近くにいた宗介と智希、和哉に聞く。無論、3人の答えは決まっている。

「「「任せろ!!!!」」」

「かたじけない」

元々煉獄に乗り込むつもりだったのか、警官達が小さな船を用意していた。そこに駆け込む一樹。

「「一樹!!」」

「おろ?」

自らを呼ぶ声に一樹が振り向くと、IS学園の制服を着崩した一夏と、S.M.Sの隊服を着た弾がいた。

「ったく、ハラハラさせんなよ!」

計画を聞かされていなかった一夏が文句を言ってくるが、そんな事より大事な事がある。

「…雪やセリーは?」

「あの2人なら大丈夫だ」

弾の言葉にホッとすると、改めて船に乗ろうとする一樹。

「アレに乗り込むのか?」

「ああ」

一夏の問いに答えると、一樹達は船で煉獄に向かう。

 

 

一樹達が煉獄に乗り込もうとしている頃、千冬や楯無達も兵と戦っていた。

そこに、怪しく光る物が…

「ッ!!?」

殺気を感じた千冬がソレを弾く。ソレは、極限まで薄く鍛えられた刃だった。

「あらあら。初見でこの【薄刃ノ太刀(はくじんのたち)】を弾くなんて…流石はブリュンヒルデといったところかしら」

声の元は、【幹部】の紅一点である【変幻】の花澤。相変わらずの妖しい笑みを浮かべているその姿は、この状況にとても合っていた。

「お前は…確か」

「藤原派のトップだったわよね」

千冬に追いついた箒達。面識のある箒と鈴を見ると、花澤はカラカラと笑った。

「いやだ〜久しぶり〜。どう?少しは織斑君の気は引けてる?」

「そういうお前はどうなんだ?」

「そうよ。そういうのは自分から言うものでしょ」

己の得物を構えながら、花澤と会話する2人。その隙に、他の者は花澤を囲む。

それを知ってか知らずか、陽気に笑い続ける花澤。

「え?聞きたい?しょうがないなあ…私はね、藤原君から…」

言葉の途中で、踊る様に薄刃ノ太刀を振るう花澤。

「「「「アアッ!!?」」」」

「藤原君から、熱〜いモノを貰ってるわよ♪」

笑顔のまま、薄刃ノ太刀を振り回す花澤。その動きに、箒と鈴は覚えがあった。

「お前、まさか…」

「新体操の技を使ってる…?」

そう、花澤は過去に新体操で賞を取った事がある。薄刃ノ太刀を新体操のリボンの様に振るって、箒達を攻撃したのだ。

「そうよ?リボンを上手く扱えないようじゃ、新体操は完成しないし、新体操をやっている者同士でなきゃ、リボンの動きを把握出来ない…新体操で鍛えた体の動きに、【刀狩り】の涼ちゃんから借りたこの新井赤空の後期型殺人寄剣、薄刃ノ太刀による広範囲攻撃…これが、私が【変幻】の花澤と呼ばれている由縁よ」

 

 

次々と襲いくる兵隊達を、宗介は殺さないよう細心の注意を払いながら斬りまくる。その背後に、【破壊】の沢山が…

「死ねぇぇぇぇ!!!!」

その手に持つ大剣を、宗介に向かって振り下ろした。

 

ドォォォォォンッッッ!!!!!!!!

 

その衝撃により、凄まじい砂埃が舞う。

「フンッ。たわいもない…」

「誰が?」

「ッ!!?」

背後の声に驚く沢山。慌てて振り向くと、そこには刀の峰を肩に当てて呆れている宗介の姿が。

「い、いつの間に…!!?」

「おいおい。あんだけ濃い殺気を放ってたら誰でも分かるっての。特に()()()世界にいるんじゃな…それが分かってないって事は、お前大した奴じゃねえな」

その言葉に、一瞬で沢山の頭に血が上った。

「舐めるなぁ!!!!」

 

ドゴォォォォンッッ!!!!!!!!

 

先程よりも勢いよく大剣を振り下ろす沢山。

「(これは確実に殺った!!!!)」

「お前、武器の本質を理解してないだろ?」

「なッ!!?!!?」

再び背後から聞こえる宗介の声に、沢山は愕然とする。

「お前が使ってる大剣(ソレ)は、確かに一撃必殺の威力を持つ。だけどな」

宗介の話している間に、沢山はその大剣を右に薙いだ。

だが、宗介は刀身に乗るという離れ業を見せた。

「その威力はソレを振り回せるだけの腕力と、少ない攻撃の選択肢をいかに活かすかを計算出来てこそ活きる。お前には腕力は充分にあるが、選択肢を増やせるだけの頭は無いようだな」

「お、俺の攻撃は!あのクズも恐れる程の…」

沢山の言葉は最後まで続かなかった。

 

ドォォォォォンッ!!!!

 

宗介は沢山の首を掴み、砂浜に叩きつけた。

「ガハッ!!?!!?」

「おい…クズってのは誰を指してるんだ?」

重く暗い、ドスの効いた声を出す宗介。

「…フンッ!お前がそう思ってる奴じゃないか?」

「…だから、誰だって聞いてんだよ」

「クズの下に甘んじてるお前に、現実を教えてやろう。その者の名は桜ら…」

「もう良い喋んな」

押さえ付けていた首を離すと、沢山の土手っ腹を蹴り上げた。

 

ドキャァァァァァ!!!!!!!!

 

「オゴッ!!?!!?」

かなりの高さまで上がった沢山。砂浜に落ちた時には、砂埃が高く舞った。

「俺だけでも冷静にやろうかと思ったけど、やっぱ無理だわ。一樹の頼みが無かったら瞬殺してるくらいキテるわ…まあ安心しろ死にはしないから。ただ…」

そこで区切る宗介。その手に持つ刃が妖しく光る…

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から、覚悟しろ」

 

 

「く、来るぞ!敵の砲撃だ!!」

誰かの悲鳴が耳に入った途端、智希はバレーのレシーブの様な体制になった。

「和哉!」

「任せろ!!!!」

智希の構えていた手に飛び乗る和哉。

「お帰りくださァァァァい!!!!」

そして、なんと砲弾をスパイクで弾き返した。

「「「「ええぇぇぇぇぇ!!?!!?」」」」

警官も藤原一派も関係なく驚いた。

「…やはり、貴様らを優先的に叩いた方が良さそうだ」

「「あ?」」

智希と和哉の前に現れるは、【豪傑】の内山…

他の幹部と違い、全身を強固な鎧で固めており、生半可な攻撃ではビクともしなさそうだ。

「他の【幹部】は全員忙しそうだからな…仕方ない、俺がお前ら2人を相手してやる」

「「ありがとさん!!!!」」

少しでも早く片付けるために、2人は同時に駆け出した。

 

 

「あ!テメエはグハッ!!?」

煉獄に乗り込んだ瞬間、兵隊の1人を鎮める一樹。それに続いて乗り込む一夏と弾、警官達。

決着(ケリ)つけようぜ藤原ァ!!!!」

一夏が吠える。それを合図に、一樹は船首から甲板に飛び降り、一派との戦闘を開始する。

「死ねや!」

「ッ!」

兵隊の1人が、一樹の至近距離でライフルを撃ってくるが、首を傾けて躱す。

「なっ!!?」

驚愕している兵を逆刃刀で下すと、突然駆け出した。

「逃すな!!!!」

「(わざわざ乗り込んで来たとこから逃げるか間抜け)」

駆け出した一樹の狙いは、兵隊が固まっている一角。そこにスライディングで滑り込むと、ブレイクダンスの様にその場で足を高く上げて回転。

「ぐっ!?」

「がっ!?」

「ごっ!?」

一樹を囲もうとしていた兵はその回転の勢いが乗った蹴りを受け後退。それならばと、刀で斬りかかってくる者は素早く起き上がった一樹の逆刃刀の一撃で沈んだ。

次の敵に備え立ち上がった一樹の耳に、やはり兵隊を下していた一夏の声が入った。

「一樹!ここは俺達がやるから、お前は砲台を!」

一夏の言葉に頷くと、警官を数人連れて、煉獄の中心部へと攻め込む。

銃で狙ってくる敵を一瞬で下すと、砲撃を続けている兵を次々下していき、二度と撃たれない様、砲台を逆刃で切断していく。

 

ダンダンダンダンッッ!!!!!!!!

 

「ッ!!?全員伏せろ!!!!」

一樹の声に慌てて伏せる警官達。その頭上をギラリと光る刃が…

「「「「(ヒィッ!!?!!?)」」」」

幾ら鍛え上げられている警官と言えど、死の恐怖が消えるはずが無い。一樹の声が無ければ、今の一撃で全員の首が胴体からさよならしていただろう。

「そこッ!!」

一樹が突如跳び、逆刃刀を振り上げた。

 

ガギィィィィィンッ!!!!

 

その一撃は、いつの間にか現れていた【縮地】の宗太によって受け止められた。

受け止められる事を予測していた一樹は宗太の腕を掴んで投げ落とす。が、宗太は空中前転する事で難なく着地。続いて降下してきた一樹の一撃を側転して避けると、一樹に向かって踏み込み、挨拶代わりに刀を振り下ろす。

「ッし!」

その攻撃を逆刃刀で円を描いて反らせ、勢いを乗せた回し蹴りを放つ一樹。

「よっと!」

しかし宗太は、その攻撃を一瞬跳んで避ける。着地と同時に、突進しながら刀を左右に振るってくるのを、一樹も高速で退がりながら逆刃刀で防御する。反撃で放った一撃を、宗太は後ろに跳ねて避ける。

そして、相変わらずの笑みを浮かべながら一樹に話しかけた。

「お久しぶりです櫻井さん。ご無事でなによりです」

その宗太に、一樹は逆刃刀を突き出しながら応える。

「生憎ゆるりと会話を楽しんでいる余裕は無い」

「せっかちだなぁ」

「藤原はどこだ」

「…あなたじゃ勝てませんよ。あの人は()()ですから…」

片足でトントンと跳ねた瞬間、宗太は一樹に踏み込んだ。

 

 

甲板の敵を薙ぎ払った後、弾と別れた一夏。今は、煉獄の動力部を目指して進んでいる。

「(砲撃は一樹が止めてくれたし、俺達も働かないとな)」

駆動音が聞こえる所へひたすら進んでいた一夏。

 

ウワァァァァァァァァ!!!!!!!!

 

そんな彼の耳に、警官の悲鳴が聞こえた。

「ッ!!?」

すぐさま手の刀を握り直して悲鳴の元へ駆ける一夏。

駆けつけた一夏の目に…

「た、たしゅけて…」

「おいおい、警官様がそんな無様で良いのかよ」

血だらけで倒れている警官に、今まさにトドメを刺そうと、槍の穂先を警官に向けている【鉄壁】の村田の姿が…

「やぁめぇろぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

振り下ろされた槍の穂先を、刀の刀身で受け止めて弾いた一夏。

「お、織斑一夏…?」

「早く!早く逃げて下さい!」

「す、すまない…」

警官を逃し、村田と対峙する。

「よお織斑。相変わらずのヒーローっぷりだな」

「そう言うお前は相変わらずのヒールっぷりだな」

片手用に、幾分小さめの槍を右手で遊ばせながら話しかけてくる村田。一夏も臨戦態勢で臨む。

「まさかお前が乗り込んでくるとは思わなかったぜ」

「お前らの大将には言いたい事が山ほどあるからな」

「ふうん…お前が、修斗の所までたどり着けるかな?」

槍を持ち直してから突進してくる村田。一夏は槍の攻撃を刀で弾き、蹴りを放つが、それは村田が左手に持つ亀甲型の盾に受け止められる。

「くっ…」

続けて村田は全体重を込めた前蹴りを放った。

「オラァッ!!」

「ゴッ!?」

腹部にまともに入り、数歩退がる一夏の頭部を、村田は盾で殴る。

 

ゴッ!!!!!!!!

 

「ッ!!?!!?!!?」

その衝撃に、視界が霞む一夏。

踏ん張りが効かない一夏を、槍を横薙ぎに振るって殴る村田。

「っし!」

「ガッ…」

頭から血を流して倒れる一夏の背を容赦なく踏みつける村田。

「俺をそこらの雑魚と一緒にしてんのか?舐めすぎなんだよ…それともなんだ?お前の実力はその程度なのか?」

「グッ…ガッ…」

「ああ、浜に行ってた【幹部】のレベルで考えてた?なら納得だぜ。けどな、【幹部】のTOP 3_____順番に宗太、俺、丸山な_____は他の【幹部】と壁ふたつくらい違うんだよ」

一夏の背を踏みつけながら話す村田。そのあまりの力に、一夏は起き上がれない…

「この…やろ…」

「まあ、お前も多少は鍛えてたんだろうな。左手が若干痺れてやがる。けど、運が悪かったんだよ、お前は」

一夏の背から足をどけて、すぐさま蹴りを放つ村田。

「オゴッッッ!!?!!?」

蹴りの威力は凄まじく、一夏は隣の物置まで吹っ飛ばされた。

「お〜い。生きてるか〜」

ふざけた口調で問う村田。

しかし、何も返って来ない…

「あ、こりゃ織斑逝ったな。さて、修斗と合流するかね」

 

 

一夏が煉獄の右側から動力部を目指しているのに対し、弾は左側から動力部を目指していた。

警官と共に、警備の兵を殴り倒して着々と進んでいた。

「ガッ!!?」

「「「「ッ!!?」」」」

突如、壁から腕が伸びて来て、警官の1人を捕獲。引き込まれてしまった。

「待て!!!!」

駆け寄る弾。その足元に、ボロ雑巾の様にさせられた警官が転がって来た。

「大丈夫ですか!!?」

「う、うぅっ…」

息はある様だ。それにホッとする弾。

「般若心経…」

その耳に、お経を唱える声が。

弾がその方向を向くと、血だらけの警官の襟を左手で掴んで引きずる、【天誅】の丸山が…

「…何してやがる」

険しい表情を浮かべて、丸山に詰め寄る弾。

「…フンッ!!!!」

そんな弾に、丸山は引きずっていた警官を投げた。

「なっ!!?」

何とか警官を受け止める弾。

その瞬間!

 

ドンッッッ!!!!!!!!

 

「ごはっ!!?」

警官越しに、丸山の重い拳打が決まる。

「(なんつう馬鹿力だよ!!?すいませんお巡りさん!)」

心の中で謝ると、抱えていた警官を軽く投げて身軽になる。

「ハァッ!!!!」

轟ッ!!!!と風切り音が聞こえる程の丸山の拳を、紙一重で避ける弾。

ビリビリと肌に衝撃が走るのを感じながら、弾はスタンロッドを最大出力で丸山に押し当てた。

「ぬぅっ!」

電撃が()()効いてるらしく、丸山が怯んだ。

「(オイオイ!最大出力だぞ!?気絶しないってマジかよ!)」

驚愕しながらも、隙を逃さないために踏み込み、人体急所のひとつである水月に腰の入った拳を叩き込む。

「ラァッ!」

ドンッッッ!!!!!!!!

見事に決まった。だが…

「ヌンッ!」

「ガッ!!?」

丸山には大したダメージを与えられなかったらしい。逆に頭部にダメージを喰らう事になってしまった。

「(嘘だろ…?人体急所を全力で殴ったんだぞ…何で効いて無いんだ…)」

視界がボヤけるが、何とか踏ん張る弾。しかし、それは丸山に読まれており、追撃の回し蹴りを喰らう事になってしまった。

「グハッ!?」

その蹴りの威力は凄まじく、弾の体が横に飛んだ。

しかし弾もただやられる訳には行かない。右手に拳銃を持つと、吹き飛びながら丸山に連射。

しかしその弾丸は、丸山の前に貼られた障壁によって弾かれた。

「なっ…」

驚く弾に詰め寄り、その重い拳を叩き込んだ。

「ガッ!!?」

壁際に追い込み、連続で拳を叩き込こもうとする丸山に何とか前蹴りを喰らわせる弾。

「ラァッ!」

「ヌッ!?」

だが、丸山は数歩下がっただけだった。すぐに体制を整えると、弾の胸倉を掴み、壁に叩きつけた。

「フンッ!!!!」

「ゴガッ!!?」

更に、弾の足が付かない所まで持ち上げると、身動き取れない弾に拳を連続で打ち込む。

「ガッ!?グッ!?ゴガッ!!?」

このままじゃ()られると判断した弾は、奥の手を使う。

右手に嵌めていた腕時計の盤面を壁に叩きつけて押すと、腕時計から中距離スタンブレードが発生。

「ラァッ!ハァッ!」

「くっ…」

バリバリと音が鳴るスタンブレードを右に左に振るうと、流石の丸山も怯んだ。しかし、特に剣術に秀でている訳ではない弾の攻撃はすぐに見切られ、カウンターの一撃が腹部に決められてしまった。

「ハッ!」

「ゴッ…」

蹲りながら数歩退がる弾。その隙に、丸山は弾達が倒した兵が落としたガトリングガンを拾う。

そして…

 

ガガガガガガガガガガッッッ!!!!!!!!

 

ガトリングガンを撃ちながら、アッパーカットの様に振り上げる丸山。

「ガァァァァァァァァァァァァ!!?!!?」

ガトリングの攻撃に襲われる弾。その体から、血しぶきが巻き起こる。

丸山はそんな弾に詰め寄ると、まだ熱のこもっている筈の銃口を握って、グリップ部で弾の腹部を殴りつけた。

「ゴハッ!!?」

その衝撃に、ガトリングガンは耐え切れずに破裂。当然、残弾も破裂する事になり…

 

ドォンッッ!!!!!!!!

 

「ガハッ!!?!!?」

至近距離で弾丸の破裂が起きた弾は、その衝撃により後方に吹き飛ばされる。

仰向けに倒れた弾が動かない事を見ると、丸山は藤原と合流するために移動した。

 

 

宗太の縦横無尽に襲いくる攻撃を、逆刃刀で捌き続ける一樹。

上空から急降下しての攻撃を、逆刃刀を斜めに構える事で捌くと、宗太の着地の瞬間を狙って回し蹴りを放つ。対する宗太は、捌かれた刀を床に刺して支柱にして横移動する事で一樹の蹴りを避ける。

蹴りを避けられた一樹は宗太の背後を取ろうと動き回るが、速さが拮抗しているためか、中々背後を取れない。

壁際に追い込んだとしても、宗太はその脚力で壁を踏み台にして飛び上がり、一樹に刀を振り下ろす。

「ッ!」

何とか逆刃刀で受け、宗太の背を押す事で追撃を避ける。

「よっと!」

宗太は対面の壁を蹴って勢いをつけると、一樹に向かって突進してきた。

「ッし!」

一樹はソレを、壁を走って宗太をやり過ごすことで避ける。

「逃がしませんよ!」

宗太も一樹を追って駆け出す。

無造作に置かれているガラクタを物ともせずに駆ける2人。

比較的障害物が少なかった宗太が前に出て刀を振り下ろす。

「ッ…」

何とか急ブレーキをかけてその斬撃を避けた一樹。互いに呼吸を整えていると、宗太が話しかけてきた。

「前より速くなりましたね…迷いの無い動きをしています」

「……」

「あなたが修行で腕を上げてきたというのなら」

そこで宗太は、腰に挿していた鞘を抜き取り、捨てた。

「こちらも、礼を尽くさないと」

「……」

一瞬の静寂の後、一樹に踏み込む宗太。

「…チッ」

鞘の重りが無くなった事の影響がそんなに大きいとは思えないが、宗太の心情は違うのだろう。鞘を腰に挿していた時よりも速い。それに、小さく舌打ちする一樹。

流れる様に迫ってくる斬撃を逆刃刀で捌き続けるが、突如宗太が突進してきた。

「ッ…」

受け止め切れず、通風口から落ちる一樹と宗太。落ちた先は、煉獄の動力部…

 

「戻れ、宗太」

 

宗太を呼ぶ声が響く。その声に従って、宗太は一樹の側から離れた。

一樹が声の元を向くと、そこには…

 

「やぁっと会えたな…クズ野郎」

 

傍に村田と丸山を置いた、この騒動の元凶である…藤原修斗が。

 

「待たせたな…ゲス野郎」

 

真っ直ぐ藤原を見据えながら言う一樹。

「随分と荒い息だな…そんな状態で僕と殺り合おうってか?」

「保険をかけなきゃかかってこない腰抜けには丁度良かろう」

「…減らず口が。その虚勢がどこまで続くかな」

無限刃を鞘から抜き、ゆっくりと階段を降り始めた。

「…ところでクズ。気になる事は無いか?」

「…何でござるか」

「お前がこの船に乗り込む時、一緒に来た奴らは、今この場にいるか?」

「……何が言いたい」

一樹の瞳が、一際鋭くなる。

それを知ってか知らずか、愉しそうに続ける藤原。

「織斑は村田が、あのバンダナの男は丸山が相手をしたんだがな」

「………を……た」

「あ?」

「な……し……」

「聞こえねえぞクズ野郎!!!!」

「だから…」

瞬間、その場を一樹の冷たい殺気が支配した。

感情が欠落している宗太以外の全員が圧倒される中、一樹が獣の様に吠えた。

「あの2人に…何をした!!?!!?!!?」

目の前の藤原目掛け、一樹は駆け出した。




弾の戦闘シーンでとあるライダーが思い浮かんだあなた。
そう、元ネタはアレです。
合ってますよ。


では…よいお年を!!!!


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Episode135 第二局面−セカンド・フェイズ−

忘れた頃に登場するのがフルセイバークオリティ。



いやほんとすんません。


「あの2人に…何をした!!?!!?!!?」

正面の藤原目掛けて駆け出す一樹。

藤原もまた、抜き身の無限刃を手に駆け出す。

 

ギャリィィィィィィィィンッッッ!!!!

 

一樹の逆刃刀・真打と藤原の無限刃がぶつかったその瞬間、空気の波が見える程の衝撃が広がる。

「クッ…」

「このッ…!」

数秒の鍔迫り合いの後、同時に後方へ跳ぶと、再度駆け出す。

振り下ろされた無限刃を一歩右に踏み込む事で避ける一樹。藤原の肩、腕、膝を逆刃刀で殴るが、【闇】で体中を強化している藤原には大して効果が無い。

「そんな逆刃刀(オモチャ)で、僕に勝てる訳無いだろ!!」

「ッ!?」

一樹の襟元を掴み、何度も何度も壁に叩きつける藤原。

しばらくそれに耐え、藤原が隙を出すのを待つ一樹。一瞬出来た隙を見逃さず、前蹴りで藤原の拘束から逃れると、一旦右前に踏み込んでから、素早く左前に踏み込んで逆刃刀を振るう。

「チッ!」

無限刃でその攻撃を受け流す藤原の、ガラ空きの後頭部に蹴りを入れる一樹。

 

バキッッッ!!!!

 

綺麗に決まり、藤原は壁まで飛ばされた。

壁に人型の穴が出来る程の威力で蹴られたというのに、藤原の部下である村田と丸山に動じる様子は無い。村田に至ってはうすら笑いを浮かべている。

「…何がおかしい」

鋭い目で村田達を睨む一樹。

薄気味悪い笑みを浮かべながら、村田が一樹の後ろを指差す。

「…ああ、分かっている」

その意を察した一樹はため息をつく。

「この程度でヤツが倒れるのなら、拙者は苦労せぬよ」

 

轟ッッッ!!!!!!!!

 

凄まじい音が背後から聞こえ、一樹は側転する。その瞬間、一樹立っていた場所を、黒炎を纏った無限刃が振り下ろされていた。

「フッシャアッッ!」

「威嚇してるつもりか?」

あくまで淡々と、藤原の炎を纏った斬撃を避ける一樹。

以前の彼ならばその斬撃を受け止めて、カウンターの一撃を放っていただろう。

まさに【肉を切らせて骨を断つ】の戦法を中心としていた彼が、今は己の体にかかるダメージを最小限にしようと戦っている。

「神の裁きから逃げるな!」

「なら、当ててみるでござるよ」

いつもと違う一樹の動きについて行けない藤原。パワーとスピードのバランスで見れば、宗太より上の藤原だが、単純なスピードなら宗太より圧倒的に遅い。故に、一樹は遊ぶように避けれてしまう。

「こんのッ!調子に…グハッ!?」

頭に血が上り、隙だらけの藤原の喉元に、一樹の蹴りが決まる。

「ああ、すまぬ。あまりに隙だらけだった故、蹴りを入れてしまったでござるよ」

そこで一呼吸置くと、ござる口調のまま、藤原を挑発する。

「来い。御主の戯言は既に聞き飽きているでござる」

「ほざけぇぇぇぇ!!!!」

【幹部】の目の前で、屈辱を与えながら一樹を殺すつもりだった藤原。

それがどうだ。屈辱を与えられているのは藤原自身だ。

「(戦い方を変えられただけで、ここまで僕が圧倒されるなんて!)」

前回の戦闘までは、力技が通じていた。藤原自身、()()()()でひと通りの武術の心得はある。それに元々の残虐性が相まってかなりのレベルとなっているが、それも所詮は十数年しか生きていない者のレベルだ。生まれた頃から()()で生き、物心ついた頃には常に死の危機に襲われ続け、それを()()()()()()()()()()()()()()()()()続けていた一樹とは、そもそもの()が違うのだ。

今までは精神を揺さぶり、更には捨て駒を用いて心身ともに一樹をボロボロにしていた為に優位に立てていただけなのだ。

「喰らえよッッ!!!!」

力任せに振り下ろされた無限刃。しかしそれに手応えは無かった。

「ガッ!!?!!?」

一瞬で藤原を床に押さえつけた一樹。

「…おい、その程度か?」

ここまで藤原を圧倒している一樹。

そんな一樹が、突如表情を引き締めて藤原から飛び退いた。

刹那_____

 

ガガガガガガガガガガガッ!!!!!!!!

 

_____ガトリングガンの掃射が、一樹を襲う。

「死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

ずっと機を伺っていたのだろう。狂ったように叫びながらガトリングガンを乱射する正治。

正治の腕力では、一樹に当てる程早く振り回せないが、藤原から遠ざけるには充分だ。

「よくやった正治」

立ち上がって埃をはたく藤原。無限刃を肩に軽く置くと、不敵な笑みを浮かべた。

「さァて、たっぷりと礼をしなきゃな!」

ダンッ!!!!

と、一樹に向かって踏み出す藤原。一樹はガトリングガンの攻撃と、藤原の突進を避けるために跳び上がった。ガトリングガンの銃口を正治では上に上げられず、藤原のみに集中出来る…筈だった。

「ッ!?」

どこからか、円盤状の物が飛んできた。止むを得ず逆刃刀で受け流す一樹だが、その威力に体制を崩される。

「(しまった!)」

当然それを見逃す藤原では無い。

「フッシャアッ!!」

黒炎を纏った無限刃が、振り上げられる。

「ッ!!?」

致命傷は避けたが、黒炎を右腕に喰らってしまった。

「(女将が折角直してくれた衣が…!)」

その緋色の衣にも火が付き、慌てて消火する一樹。

「戦闘中に着物の心配だなんて、余裕だな!」

今度は藤原が上となり、無限刃を振り下ろす。当然逆刃刀で受け流そうとする一樹だが…

「…ッ!」

別方向から殺気を感じた。無限刃を振り下ろしてきた藤原の右手首を掴んで、殺気との間に引き込む。

「おのれクズが!」

殺気の正体は正治だった。ようやく角度を上げれたガトリングガンを撃とうとしていたが、一樹が藤原を盾にした事で止まらざるを得なかったようだ。

「テメ…!」

藤原も己が盾にされた事に気付いたのだろう。背後の一樹を睨みつけるが、一樹はそれを鼻で笑う。

「…オラ、着地の手伝いをしてやるよ」

「何言って…ガッ!?」

空中で体を捻り、ガトリングガンを構える正治目掛けて蹴り飛ばした。

「ふ、藤原さ…ガハッ!?」

何とかして飛んできた藤原を受け止めようとした正治だが、非力なその身では叶わなかったようだ。藤原諸共、煉獄の鉄製の壁に叩きつけられ、吐血していた。

「…その物騒なモノは」

それを見ていた一樹は空気の壁を蹴り、ガトリングガン向けて急降下。

逆刃刀の逆刃で…

 

ズダァァァァン!!!!!!!!

 

「永久退場願うでござるよ」

ガトリングガンを切断した。

「なっ!?鋼鉄製のガトリングガンが!」

「やってくれたな…クズがぁ!」

頭に血が上った藤原は無限刃を手に、一樹に向かって駆け出す。一樹も逆刃刀を持ち直して藤原と対峙する。

無限刃の斬撃を受け流し続けていると、背後に気配を感じた。

「…随分と落ちぶれたな、藤原」

気配の元に蹴りを入れると、それを亀甲状の盾で受け止める村田の姿が。

「へ、テメエの方こそ分かってねえだろ」

「……」

「テメエはな…()()にボコられてるのがお似合いなんだよ!!」

村田の背後から、拳を硬く握り締めた丸山が飛びかかってきた。

「ッ!?(コイツは…初めて見る!)」

丸山の身体能力が読めない為、一樹は鍔迫り合いを続けていた藤原の肩に手を着くと、腕力のみで藤原を乗り越えた。

着地してすぐ、宗太が横から攻撃してきたのをギリギリのところで捌き、何とか距離を取る。

「…初めて見る顔が混ざっているでござるが?」

「お初にお目にかかる。私は【幹部】の中の1人。【天誅】の丸山と言う者だ」

「……御主、他の者とは()()な」

一目見ただけで、一樹は丸山が他の【幹部】とは異色な事に気が付いた。

他の【幹部】が一樹への殺意や破壊衝動、藤原への忠誠心で集まっているのに対し、丸山からはその手の黒い感情は感じられない…

「あなたの思っている事と合っているのかどうかは分かりませんが…私には、あなたを憎む理由が無い」

「…なら、何故?」

一樹の問いに、丸山は静かに答えた。

「…私は元々、とある村で僧をしていた。ある時_____」

 

 

とある山奥に、丸山が住職をしていた寺があった。

その寺で、丸山は親を亡くした子供達と共に生活していた。

檀家が無いその寺で生きるために、農作物を育てて自給自足の生活を送っていた。丸山も子供達も、笑顔が絶えない暖かい生活を送っていた。丸山の願いはただひとつ、いつか必ず、子供達がその小さな手足で歩める日が来る事…

 

しかしそれも、一晩で消滅した。

 

突如その寺を、怪物が襲ったのだ。

子供達を守ろうと、丸山は懸命に戦ったが、人外の怪物達には手も足も出ず、丸山の目の前で子供達は…喰われた。

残るは丸山ただ1人。

丸山自身、死を覚悟した。

しかし、一瞬大地が大きく揺れて丸山の判断能力が落ちている間に、怪物達は跡形も消し去った。丸山は助かったのだ。丸山を救ったのは…

『他の人達は間に合わなかったか…ごめん』

()()だった。

 

 

「_____その恩を返すために、私は【幹部】に入った…あなたに私怨は無いが、藤原殿への恩の為、死んでいただく」

その鍛え抜かれた肉体で、一樹に迫る丸山。

「…そうか」

哀しげに、一樹は呟く。そして_____

 

ドンッ!!!!

 

「ゴハッ!?」

硬く握った左の拳を、丸山の水月に叩き込んだ。

その威力に、丸山は動揺する。

「(な、何だこの威力は…?同時に突入して来たあの青年とは、比べ物にならんぞ…)」

「その顔をするという事は、弾と戦ったのは御主のようでござるな」

「…何故分かる?」

「仲間だからでござるよ」

近接戦闘では刀を使って戦うのを得意とする一夏に対し、弾は肉弾戦を得意としている。理由は『刀の間合いを理解するより、自分の拳で殴った方が速い』という脳筋モノだが。

「オイオイ、お前の相手は丸山だけじゃねえんだぞ」

一樹の背後に迫る村田が右手に持つ槍を突き出してくる。

すぐに逆刃刀を背中に回して、槍の穂先を受け止めた。

「…邪魔だ」

「ガッ!?」

村田を蹴飛ばし、再度藤原と対峙するが、その間に宗太が割り込んだ。

「ハッ!」

「ッ!?」

【読み】の使えない宗太は、この場で最も厄介な敵だ。その上【神速】を超える速さで向かってくるので余計に苦しい。

宗太の攻撃をバックステップで避ける一樹。しかしそこは、既に丸山が待ち構えていた。

「ヌンッ!」

拳を振り下ろしてくる丸山。一樹は咄嗟にその腕に捕まると、空いた両足で宗太を蹴飛ばす。素早く着地し、逆刃刀の腹で丸山の顎を打ち上げた。

「グゥッ!?」

「悪いが、この状況では手加減が出来ぬ。医者通いが嫌な者は、今のうちに退くでござるよ」

「舐めるな!」

威勢()()()良い正治が、両手に持った拳銃を構えた瞬間。

「き、貴様は…ガッ!?」

白い影が片手にショットガンを持った状態で、2階から飛び掛ってくると、正治をクッションにして着地。

「村田ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

白い影…一夏は一樹の背後を狙う村田に向かってショットガンを構える。

素早く一樹が飛び上がった瞬間に引き金を引くが、村田は近くに転がっていた小麦粉の袋を蹴り上げ盾を構える。

ショットガンから放たれた散弾は全てその袋に命中し、中の小麦粉に引火。小爆発を起こす。

 

ドンッ!

 

「チッ」

危うく一樹がその爆発に巻き込まれる所だった。空気の壁を蹴る事でそれを避ける一樹を見ながら、村田は一夏を挑発する。

「オイ…撃つならちゃんと撃てよバカ織斑。お仲間に迷惑かけてんなよぉ!」

片手槍を構え、一夏に向かって駆け出す。

「お主も油断しすぎでござるよ」

着地と同時に、爆発の影響で出来た破片を村田に向かって蹴り飛ばす一樹。

音速級のソレにより、村田の盾が破壊される。

「なっ!?」

「(サンキュー、一樹!)うおりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

盾が破壊されて動揺する村田に、一夏渾身の飛び蹴りが決まる。

「ゴッ!?」

その蹴りの威力に、村田が東側の連絡通路に弾き飛ばされた。

「あの野郎は任せろ!」

「…勝手にくたばんなよ」

「上等!」

腰の刀を抜くと、村田の後を追う一夏。

「(これで1対3…大分楽になったが…)」

「何考えてんだよ!!」

無限刃に黒炎を纏わせ、藤原が突出してくる。

その斬撃を逆刃刀で受け流そうと構えた途端、宗太が横から突進してくる。

「…ッ!」

宗太の攻撃を捌いたら、後から来る藤原の攻撃に対応しきれない。止むを得ず後方に跳ぶと、そこは丸山が待ち構えていた。

その鍛え上げられた拳を握りしめて、一樹に振り下ろす。

だが…

 

ドゴッ!!

 

「ガハッ!?」

横から黒い影が飛び出し、一樹に集中しきっていた丸山にぶつかる。その衝撃で、丸山は横に倒れた。

「俺を忘れてもらっちゃ困るね」

丸山を転ばしたのは、ガトリングガンで撃たれて戦闘不能になったはずの弾だった。

丸山との激闘の影響か、S.M.Sのジャケットが壊れかけており、前が開きっぱなしだ。

「…君は倒したと思っていたが」

「ああ、正直死ぬかと思ったよ。けどな、ギリギリコイツが間に合った」

懐から取り出したのは、空になったシリンダー。

「S.M.S特性の医療ナノマシンだ。コレのおかげで、今俺はここにいる」

シリンダーを投げ捨てると、両手にマグナム型拳銃を構える。

「さっきのは小回りを重視してハンドガンタイプだったからな…兵隊にはそれで充分だったけど、アンタを相手するには役不足だった。俺や一夏の様なただの人間が、アンタみたいな怪物を倒すには…殺すぐらいのつもりじゃないとダメみたいだな!」

両手のマグナムを同時に発砲する弾。

「ヌッ!」

丸山は両手を組んでそれを受ける。

先の戦闘時とは比べ物にならない威力に、流石の丸山も怯む。

それこそ、弾の狙いだ…!

「コイツもおまけだ!」

ここに来るまでに拾った手榴弾の安全ピンを口で外すと、丸山に向かって投げる。

 

ドォンッッ!!!!

 

「グッ…」

手榴弾の爆風によって、丸山が西側の連絡通路に吹き飛ぶ。それを追おうとする弾。途中で立ち止まり、宗太や藤原と激闘を繰り広げている一樹に宣言する。

「一樹!必ず戻ってくるから!それまで耐えててくれよ!」

「ああ…気をつけろよ」

一樹の言葉に頷くと、弾は丸山を追った。

 

 

「盾が無くなった程度で、お前に負けるかよ!」

「ゴッ!?」

村田の攻撃により、一夏は煉獄に積まれていた資材に突き飛ばされた。崩れる資材により更にダメージを負うが、それでも立ち上がる。

村田が振り下ろした槍を己の獲物で受け流し、がら空きの顔を掴むと床に叩きつける。

「らぁっ!」

「ガッ!?」

一夏らしからぬラフファイトに、村田は驚く。

「(【ヒーロー】を地で行くコイツが、こんな戦い方をするなんて!)」

だがラフファイトは村田に一日の長がある。

馬乗りしてこようとする一夏の背中を蹴り、すぐさま体制を立て直す村田。一夏も蹴られた衝撃を利用して前転、村田と距離を取る。

「ッシ!」

先に動いたのは村田だ。足元に転がってきた角材を一夏に向かって蹴飛ばす。

「ッ!」

それを一夏は刀で払う。だが、一夏が角材に気を取られた一瞬で村田は急接近。飛び膝蹴りを一夏に喰らわせる。

「オラァッ!」

「グッ!?」

衝撃を殺しきれず、数回バウンドしてようやく止まる一夏。

「死ねぇぇぇぇ!!!!」

槍の穂先を一夏に向かって突き出す村田。しかし一夏が咄嗟に投げた木箱が顔を直撃。

「グアッ!?」

流石の村田も、これには怯む。その隙に一夏は立ち上がり、がら空きの腹部に全力の前蹴りを放った。

 

ドゴンッッッッ!!!!!!!!

 

「カハッ…」

その衝撃に、村田が止まる。しかし一夏はこれで終わらせない。刀の切っ先を、出せる全力で村田の喉に叩き込んだ。

「ラァァァァァッッ!!!!!!!!」

「ゴッ…ハ…」

模造刀であったのと、藤原の力で強化されていたおかげで村田は死にはしなかった。が、当然普通なら死ぬレベルの攻撃である。それを喰らった村田は、膝から崩れ落ちた。

「ハァ、ハァ、ハァ…!」

何とか勝利した一夏は、気絶してる村田の両手の親指を結束バンドで固定すると、船外で待機している警官目掛けて投げ落とす。

「ハァ…早く一樹のとこへ行かないと…!」

 

 

西側連絡通路では、丸山と弾が取っ組みあった状態で転がっていた。

「ウオラァッッ!!!!」

弾がマグナムのグリップ部で丸山の側頭部を殴って離れる弾。

「ガッ!!?」

肩で息をしながら、弾は己を鼓舞するために吠える。

「ウオォォォォォォォォ!!!!」

その気迫に、丸山は正面からぶつかる。

「オォォォォォォォォ!!!!」

両者同時に動き出し、攻撃を仕掛ける。

丸山の重く腰の入った拳を紙一重で避ける弾。そして左のマグナムを、超至近距離で丸山の眉間に撃つ。

「グアッ!?」

衝撃により後退する丸山。

「(ここだッ!)」

後退して隙が出来た丸山に、二丁拳銃で腹部を狙う。

しかし、丸山は闇の障壁でそれを受け止める。

「(ダメか!)」

動揺している弾に、丸山の重く腰の入った拳がまともに入る。

「フッ!」

「ガァッ!?」

脳が揺れ、弾の意識が一瞬刈り取られる。

「…悪く思うな」

そんな弾の胸ぐらを掴み、トドメの一撃を放とうとする…が。

「…あはは」

弾は、嬉しそうに笑うのみ。気でも狂ったか?と疑う丸山だが、突然弾が力強く丸山の右腕を掴んだ。

「この距離なら…障壁は張れねえだろ?」

丸山の腹部近くに、マグナムが。

「ッッ!!?!!?!!?」

急ぎ離れようとする丸山だが、もう遅い。

 

ガガガガガガガガガガガッッ!!!!!!!!

 

「ガァァァァァァァァァッッ!!!!!!?」

一馬に早撃ちの能力を鍛え上げられた弾の速射攻撃に、丸山の内臓に大きなダメージが入る。

思わず弾を解放する丸山。

「まだまだァ!!!!」

今度の狙いは、その喉元。マグナムから放たれるゴム弾が、丸山の喉元を襲う。

「コイツもおまけだ」

倒れかける丸山。それを見た弾は手榴弾の安全ピンを外し、天井に向かって投げた。

 

ガラガラガラガラッッッッ!!!!

 

手榴弾の爆発で、丸山は瓦礫に埋もれて動けなくなった。

「…私の負けだ」

潔く負けを認めた丸山。

「…カハッ」

気が抜けたのか、吐血して膝をつく弾。

「…アンタ、めちゃくちゃ強かったよ。出来ればアンタみたいなのとは二度と戦いたくねえ」

「そうか…だが、そうも言ってられないだろう?」

「まあな…ここのボスを倒さなきゃいけないし、それに…」

「それに?」

「…俺には、守りたい人が出来たから」

穏やかな顔で告げる弾に、丸山はかつて自分を慕ってくれていた子供達が見えた。

和尚さん、もう良いよ

と言うように…

「…少年、名は?」

「ん?S.M.S防衛科所属の五反田弾だ」

「五反田弾…ひとつだけ、この破戒僧と約束してくれ」

「…なんだ?」

「絶対に死ぬな。その守りたい人のためにも、何より、君自身のために」

「……」

自分が成せなかった事を、目の前の少年に託す事にした丸山。

もう、自分が体験した悲劇が起こらないために。

「…言われなくてもそのつもりだ」

立ち上がった弾の顔は、誰もが認める【漢】だった。

 

 

宗太の斬撃を、一樹は敢えて一歩踏み込んでから逆刃刀で受け止める。

その影響で、一樹の背中を狙っていた藤原に宗太の刀の切っ先が突き出される形になり、藤原の動きが止まる。

「ッし!」

宗太の腕を掴んで続く斬撃を封じると、後ろにいる藤原に回し蹴りを決める。

「くっ…」

それを右腕で受ける藤原。

回し蹴りをした反動で、腕を掴まれていた宗太が前のめりになる。

「うわわっ!?」

「ハッ!」

その背中に掌底を叩き込んで藤原にぶつける一樹。

「ガッ!?」

「痛い!?」

ここまで何とかこの2人の猛攻を抑えてきた一樹だが、そろそろ限界が近付きつつある。

「(そこらの兵隊ならともかく…ラスボスクラスが2人同時にはキツイ…)」

しかし元々は4人だったのだ。一夏や弾のおかげで2人減っているという事を考慮して戦っていたが、キツイものはキツイ。

「死ねよクズ!!!!」

黒炎を纏った無限刃が、一樹に迫る。疲労が溜まってきている一樹は、反応が遅れてしまった。

「(しまっ…!?)」

絶対絶命の、その時だった。

 

「待たせたな、親友」

「まだくたばってねえよな」

 

ガギンッッッッ!!!!!!!!

 

藤原の斬撃は、一樹の左右から飛び出してきた刀とブレードに抑えられた。

「あ?お前ら村田と丸山に勝ったの?」

無限刃を握る手に力を込めながら、藤原が聞いてくる。

「ああ、そうだよ」

「でなきゃここにいねえよ」

「ふうん…殺せ、宗太」

藤原の合図に、宗太が藤原の背後から跳び上がる。

笑顔のままその凶刃を振るおうとするが、一樹が横から飛び蹴りを決めた事により失敗に終わる。

「先にコイツを片付けてくる!」

「「了解!」」

宗太に集中するために、一樹は宗太を2階へと投げ飛ばした。

「うわ!?凄いなあその力」

子供の様に驚く宗太を追って、一樹も壁を蹴って2階に向かう。

 

 

「つまり?僕の相手は雑魚二匹で充分だと…?舐めてんじゃねえぞクズ!!!!!!!!」

「「ガッ!!?!!?」」

その腕力で一夏と弾を突き飛ばすと、宗太を追った一樹を追おうとする。

「させるか!」

一夏渾身のタックルによって、流石の藤原も姿勢が崩れた。

「そこっ!」

そんな藤原の眉間目掛け、マグナムを撃つ弾。

「遅えぞ雑魚がァ!」

しかし藤原は、無限刃を振るってその攻撃を弾く。

邪魔な弾を始末しようと無限刃を振るうが、弾はスタンブレードでそれを受け止める。

 

バリバリッッ!!!!

 

「チッ!?」

無限刃を伝って、藤原に電撃が走る。動きの止まった藤原に、一夏は飛び蹴りを喰らわす。

「ウラァッッ!!!!」

「ガッ…!?」

数メートル飛ばされた藤原。

ゆらりと起き上がり…

「アハ、アハハハハハハハハハハ!!!!」

狂った様に笑い出した。

「そうかよ!そんなに死にたいのかよ!それならそうと早く言えよな…あのクズより先に、お前達を焼却処分してやるからさぁ!!!!」

「俺たちも、もちろん一樹も!」

「お前なんかに殺される訳には行かねえんだよ!!!!」




戦闘描写が、うまく行かない…
本当アクション系の小説を書いてる方々、本当に尊敬します。

次回もよろしくお願いします!!


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Episode136 最終局面−ラスト・フェイズ−

半年以上空いてしまい、すいませんでした!!!!

その代わり、普段よりとても長い文字数となっています。

どうぞ!!!!


所変わって海岸。

煉獄から砲撃が来なくなった事で、一樹陣営の者は戦いやすくなった。

 

ドゴンッッッッ!!!!

 

「ガァッ!!?」

体のあちこちに痣や切り傷が出来ている【破壊】の沢山(さわやま)が、砂浜に転がる。

「おいおい、お前は一樹を雑魚のクズ呼ばわりしてたんだろ?何で一樹より弱い俺に太刀打ち出来ねえんだよ」

一方、沢山と対峙している宗介はと言うと、先の言葉から察せれる通り無傷だ。刀を肩で遊ばせながら、沢山の実力の低さに呆れている。

「まだまだァ!!」

己を奮い立たせ、沢山は大剣を構える。だが、それすら宗介は攻撃に利用する。

「胴がガラ空きだ」

 

ズドンッッッッ!!!!

 

「ゴハッ!!?」

宗介の重い拳がまともに入り、沢山が吐血する。

「まだ終わる訳無いだろ」

トンッ、と軽く跳躍すると、空中で体を半回転させる宗介。そこから繰り出される強烈な蹴りが、沢山の喉元を捉える。

「オゴッ…」

「お前本当に【幹部】なの?レベル低すぎるんだけど?」

普段は一樹や仲間達とふざけるのが大好きな宗介が、今は一流の殺し屋に見える。

「はぁ…ここまで弱いと痛めつけるのも飽きてくるわ。どうする?大人しくお縄につくならここまでにしてやるけど?」

冷めた目で砂地に転がる沢山を見下ろす宗介。先程まで抜き身だった刀は、既に鞘に納められていた。

「舐めるなァァ!!!!!!!!」

渾身の力で、砂浜を叩きつける。

砂煙が舞い、宗介の視界を奪った沢山。チャンスとばかりに大剣を振るう。しかし、手応えが無い。

「なっ…!!?」

驚く沢山を、人型の影が覆う…

「…ほんと、つまんねえ奴だ」

そんな呟きが聞こえた後、頭部に凄まじい衝撃が走り、沢山の意識は刈り取られた。

「息は…あるな。良かった。弱すぎると、殺さないようにするの大変なんだよな」

 

 

「あれれ?一樹に対して放ってた殺気は何処(いずこ)へ?」

【俊敏】の綾野に、両手に持つハンドガンを撃ちまくる一馬。

もはやどっちが悪役か分からない程だ。

「ふざ、けんな!」

右手にナイフを握り直し、一馬に肉薄する綾野。一馬にそのナイフが突き刺さるその瞬間、グリップ部によって後頭部を殴られる綾野。

「ガッ!?」

「俺が近接戦出来ないと思ってるなら大間違いだぜ」

殴られた影響で姿勢が崩れた綾野に、容赦なく回し蹴りを叩き込む一馬。

「そらっ!」

「オゴッ!?」

再び距離が開き、一馬の正確無比な射撃が綾野を襲う。

「ガッ!?ゴッ!?アガッ!?」

「ほーら、【俊敏】の名の通り動いてみなよ。ま、動き次第そのスカスカの脳天にゴム弾ぶち込むけど」

もう一度言おう。

どっちが悪役だ。

「周りの雑魚達はみぃんなおネンネしてるし、お前以外の【幹部】も1人を除いて全員俺らが相手してるからな…助けが来ると思ってるなら無駄だぜ」

絶対零度の視線で綾野を睨む一馬。一旦銃撃を止めると、綾野に降伏を促す。

「もう俺とお前の実力差は身に染みて分かったろ。さっさと投降しろ」

「誰がするか!!」

一馬の目に向かって砂を蹴り上げる綾野。

それを予測していた一馬にあっさり避けられるが、そもそも当たるとも思っていない。綾野の狙いは、一瞬でも一馬の意識を自分から離す事だ。

「(貰った!)」

一瞬でも意識から離れれば、綾野にとって背後に回る事など容易い事だ。一馬の背中にナイフを突き刺そうとした綾野の眼前には、右手を左脇から…つまり、背後にいる己に銃口を向けている一馬の姿が。

「(しまっ…)」

綾野の眉間に、ゴム弾が直撃。

綾野の意識は刈り取られた。

「はい、お終い。後片付けでもしますか。はぁメンド」

 

 

【策謀】の坂崎の横一文字の斬撃を、佑人は屈む事で避ける。

「まだだよ」

佑人が屈む事を予測していた坂崎は、その佑人の頭目掛け蹴りを放つ。

「何が?」

対する佑人は冷静に、迫り来る坂崎の膝頭を殴った。

 

バキッッ!!

 

「ギャアァァァァ!?」

関節部を殴られ、悲鳴を上げる坂崎。それを冷たい目で見下ろす佑人。

「まだなんだろ?早く来いよ」

坂崎の胸ぐらを掴み上げ、渾身の右ストレートを決める。

「グハッ!?」

「さて、ここで問題です。一樹が昔、テメエらにやられた傷は、どんなのがあるでしょうかぁ」

砂地に転がる坂崎に、ゆっくりと近づく佑人。

「し、知るか…」

膝の痛みを堪えながら、なんとか立ち上がる坂崎。その答えに佑人の瞳が鋭くなる。

「あ、そう。知らないならその身を持って教えてやる」

佑人がそう言った途端、坂崎はプライドを捨てて逃げ出す。それもそうだろう。坂崎が記憶にある事をされるだけでも…坂崎の命は、無くなるのだから。

「その1、石を頭部に投げられた」

石の代わりに、佑人は煉獄から飛んできた砲弾のカケラを拾う。そして、逃げる坂崎の後頭部へ投げた。

 

ゴンッッ!!

 

「グッ!?」

手加減しているとは言え、砲弾のカケラだ。

その威力によって、砂浜に転がる坂崎。

「その2…」

袖からナイフを取り出すと、クルクル回しながら坂崎に近づく。

「手の甲に、長ナイフを突き刺された」

「ッ!?」

それを聞いた坂崎が起き上がるより速く、左手の甲にナイフが突き刺さった。

 

ドスッッ!!!!

 

「ギャアァァァァァァァァ!!?」

その痛みに絶叫する坂崎。佑人は坂崎のナイフが刺さった方の腕を踏みつけて固定すると、更に続ける。

「その3、リアクションが薄くてつまんないとか言う坂崎(クソ野朗)に、ナイフを踏みつけられた」

躊躇なくナイフを踏みつけ、更に深く食い込ませる。

「ッッ!!?!!?」

もはや声を上げる事すら出来ない坂崎。しかし、佑人はまだ止まらない。

「その4、一樹が無抵抗なのをいいことに、全員に灯油をかけた」

いつのまにか一斗缶を持っていた佑人に、坂崎の顔が青ざめる。

「や、やめろ…!」

しかし佑人は坂崎の言葉に耳を貸さず、坂崎の体に灯油をかけまくる。

「やめてくれ!」

「うるせえよ。お前が提案して、実際に一樹にやったことだろうが。責任持ってお前も味わえ」

「嫌だ!俺はまだ死にたくない!!」

必死に逃げようとする坂崎だが、佑人がしっかり踏みつけている以上、ただ砂が舞うだけだ。

「…その5だ」

懐からマッチ箱を取り出す佑人。

「ヤダヤダヤダヤダヤダ!!!!僕は死にたくない!!!!あんな()()()()と僕をいっしょに…」

 

ボギャアァァァァッッ!!!!

 

全力で坂崎を蹴り上げた佑人。

坂崎の体が高く舞い上がる。それを追って、佑人も跳び上がると、容赦なく坂崎の腹部にかかと落としを決めた。

「オゴッ!!?!!?」

ボキボキッ、と骨が軋む嫌な音が聞こえる。砂浜に再び叩きつけられた坂崎の呼吸は荒く、それを見下ろす佑人は、今度こそマッチに火をつける。

「やだ…いやだ…やだよ…」

ガクガク震えながら泣く坂崎。

そんな坂崎に、佑人は無表情で火をつけたマッチを近づけ…

「…そんな嫌なら、ハナからやるんじゃねえよ」

泡を吹いて気絶した坂崎を見下ろしながら、佑人はマッチの火を消した。

 

 

「そーれ♪」

薄刃ノ太刀を自在に操って暴れるは【変幻】の花澤。

8人を同時に相手取るその技量に、千冬たちは圧倒されていた。

「くっ…」

何とか薄刃ノ太刀を捌く千冬。彼女を持ってしても、花澤の攻撃を捌くのが精一杯…それだけ花澤の技量が凄まじいのだ。

そんな攻撃が、箒達に捌ける筈が無い。身体中に切り傷ができ、立っているのがやっとの様だ。

「あれ?もう終わり?もうブリュンヒルデしか残ってないの?」

首を傾げて言う花澤に箒達は反論したいが、呼吸を整えるのに必死で話せない。

「んー、じゃあもう終わらせようかな。ブリュンヒルデ1人しかいないんじゃつまんないし、かと言って他の【幹部】のとこにいるS.M.S(バケモノ)と戦いたくないし。さっさと終わらせて藤原君と合りゅ「そうはさせない」ッ!?」

花澤の背後から声が聞こえた。そのあまりの冷たさに、花澤は前に飛び込んだ。刹那、花澤の上を火球が通り過ぎ…

「おわっ!?危ねえ!!?」

沢山を片付けた宗介に当たりかけたが、咄嗟に引き抜いた刀で両断して難を逃れた。

「ごめんソースケ」

謝りながらも素早く動いて花澤に殴りかかる声の主、セリー。

「(この子…雪恵ちゃんと一緒にいた…!)」

セリーの風のうなりを感じる拳を避けると、花澤は距離を取るために後方へ跳ぶ。

「いや、俺は別に大丈夫…でもないか。まあ気にすんな。けどよセリー」

セリーの背後を狙って薄刃ノ太刀を振るう花澤。その切っ先が、セリーの後頭部に迫る…

()()()()

「分かってる」

切っ先がセリーに触れるその瞬間、セリーは素早くテレポートを発動。

「ッ!?」

己の攻撃が迫って来るのを、華麗さを捨てて転ぶ事で避ける花澤。

そんな花澤を、セリーは全体重を乗せて踏みつけようとする。

「当たるもんですか!」

薄刃ノ太刀を振るって、セリーを横から攻撃する花澤。

「チッ…」

踏みつけを諦め、後方へ飛ぶセリー。セリーが離れた隙に起き上がる花澤。

「(この子に、薄刃ノ太刀の攻撃は通用しなそうね…当たったところで、かすり傷くらいで済みそうだわ)」

「考えてる暇あるの?」

ドンッ!とセリーが踏み込んで来た。当たれば一撃で花澤を沈めれるであろう拳を、必死で避ける。

「(何なのこの子!?この間よりめちゃくちゃ強いじゃない!?)」

「お前、この間は私が変なロープに縛られてたの忘れてる?」

ブラックスター製の宇宙ロープが無い今、花澤など本来セリーの敵では無い。逆に弱過ぎて手加減が必要な程だ。

…セリー自体は殺す事に全く躊躇いが無いが、一樹の直属の部下である宗介に止められたのなら従うしかない。何より、()()()()を殺した事で一樹に罪悪感を感じさせるのも嫌なセリーである。

そのおかげで未だ生きている花澤は、本来なら一樹に感謝しなければならないだろう。しかし、手加減されていても、花澤ではセリーに太刀打ち出来ないのもまた事実。

「(このままじゃ、やられる!)」

そう判断してからの花澤は早かった。セリーの背後を薄刃ノ太刀で狙い、セリーがそれの対応をした瞬間、煙玉を砂浜に叩きつけた。

 

ボフンッッ!!!!

 

「ッ!!?」

セリーが怯んだ隙に、花澤は極限まで気配を消してその場から逃走した。

「クッ…ソースケ!」

「悪い!弱過ぎて気配が感じられねえ!!」

周りに兵隊が多い事もあってか、宗介ですら花澤を見つける事は出来ない。これで花澤が功を焦って不意打ちでもしようものなら即座に反応しただろうが…花澤は藤原との合流を選んだのだった。

「ごめん、カズキ…」

 

 

「コイツ…」

「攻撃してこないけど…」

「「硬えぇぇ!!」」

浜辺に残った最後の【幹部】である【豪傑】の内山と対峙する智希と和哉。

S.M.Sトップクラスの2人の攻撃を、内山はかなりの数受けている。しかし、その2本の足でしっかりと立っている。

「こちらの攻撃が通用しないと分かっているのなら、俺が持つ全ての能力を防御に回すまで」

武器であろう刀を出そうとする素振りも無く、ひたすら2人の攻撃を耐え続けている。

「鍛え抜かれた肉体を持ち、その全てで防御する事によって俺たち2人の攻撃を耐えてる訳か…」

「鎧を着てるだけが理由じゃないとは思ってたけど…なら!」

智希と和哉は一瞬頷き合う。

まずは智希が先行、走った勢いを乗せた飛び蹴りを内山に放つ。

「これならまだ耐えられる!」

「知ってるよ」

智希の蹴りを耐えた内山に、今度は和哉が肉薄。手に持ったそのスタンロッド_____何故か帯電していない_____で殴りつける。

「効かぬ!」

「あっそ」

素早く後退する和哉。その絶妙なタイミングで、智希が投げたスタンロッドが内山に命中する。

「くっ…(何だ…今までの攻撃より重く感じる)」

内山が僅かに違和感を感じている間にも、智希と和哉の連携攻撃は続く。その後、数撃喰らってから、ようやく内山は2人の狙いに気付いた。

「まさか…同じところだけを狙って…!?」

「「もう遅い!」」

同時に銃を撃つ2人。それは、今まで攻撃を続けていた内山の鳩尾の中心に命中。ようやく内山を倒せた。

「「フィ〜」」

 

 

一樹目掛け、宗太は刀を構えながら突進。対する一樹は、ギリギリまで引きつけてから横に避ける。

「甘いですよ!」

それを予測していた宗太は、その速度を落とさぬ為に柱を蹴って反転すると、一樹に更に攻撃を続ける。

怒涛の連撃を、一樹は何とか捌き続けて隙を伺う。だが、【読み】が使えない宗太の攻撃は動体視力のみに頼らざるを得ないため、一樹はどうしても後手に回ってしまう。

「(どうにか隙を作るか、コイツが隙を出すのを待つか…)」

そんなの、考えるまでもない。今動力部では、藤原というバケモノを一夏と弾が必死で相手しているのだ。少しでも早く、宗太を片付けなければならない。

ならば!

「(ここで…崩す!)」

宗太が上段から刀を振り下ろしてきた。それを逆刃刀の柄頭で弾く一樹。

「(その程度、僕にだって対処出来ますよ)」

笑顔のまま、弾かれた刀を背後で持ち帰る宗太。【背車刀(はいしゃとう)】という高度な技をあっさり使うのは、流石と言える。その技によって、弾いた筈の刀が一樹に迫る…

「お主の実力なら、それは予想出来るでござるよ」

背車刀を予測していた一樹は、その刀身を踏み台に跳び上がった。

天井付近で体を半回転、天井を蹴って急降下する一樹。飛天御剣流の名の通り、空中から宗太に攻撃を仕掛ける。

その神速の一撃を、宗太は咄嗟に後退する事で避ける。

「あーあ、本当に強いんだなぁ」

「…?」

宗太の雰囲気が、若干変わった。

それを訝しむ一樹を他所に、宗太が呟いた言葉は…

「なんか…()()()()()()なぁ」

「!?」

その言葉に、一樹は驚く。

なにせ、彼は喜怒哀楽の内の【楽】しか無い筈なのだ。

そんな彼が、『イライラする』と言った。

「(コイツはもしかして…感情が()()んじゃなくて、感情を()()()()()()()だけなんじゃ!)」

「そろそろ…終わらせたいな!」

顔はやはり笑顔のまま、一樹にトドメを刺そうと駆け出す。

「!」

 

バキッ!

 

「ガハッ!?」

吹き飛ばされたのは、宗太の方だった。突進の速さを利用され、突き出された脚に自分からぶつかりに行った様に当たってしまった。

「……」

蹴りを当てた一樹はと言うと、まだ訝しげな表情だ。

「イタタ…ちょっと油断し過ぎたのかな?でも、次は!」

今度は閉鎖空間である事を利用して、一樹の四方を跳び回る宗太。対する一樹は、眼を閉じて気配察知に集中した。

「(さっきはちょっと遊び過ぎたんだ。藤原さんならともかく、僕がこんな【他人のため】に戦う人なんかに負ける筈が!)」

一樹の頭上から、必殺の刃を突き刺そうとする宗太。しかし…

 

カッ!!!!

 

「ッ!!?」

目を見開いた一樹の鋭い視線に気圧され、宗太の動きが一瞬止まる。その隙を逃さず、一樹は逆刃刀を振るった。

 

ドゴッ!!!!

 

「ガッ!!?」

宗太の腹部にクリーンヒット。空中に浮いていた事もあり、床に背中から落ちるという追加ダメージも与える事に成功した。

「…あれ?」

何とか起き上がった宗太は、ダメージを受けた事に首を傾げる。己の調子を確かめるために数回軽く跳ねると、再度一樹に向かって駆ける。

「っし!」

「ガハッ!?」

しかし、宗太の斬撃は完全に見切られ、逆に一樹の攻撃は面白い程当たる様になった。

「あれ?おかしいなぁ」

「お主…今自分がどうなってるのか、気付いておらぬのか?」

「何のことです?」

一樹の問いに首を傾げると、三度斬りかかってくる。

しかし、もう一樹に宗太の斬撃は当たらない。何故なら、宗太は今…【読み】が使える程に感情が蘇ってきていた。

今まで動体視力のみで戦っていた相手に【読み】が使えるようになった事で、一樹からしたら非常に戦いやすくなった。

「何で!何で僕が手も足も出ないんだ!?」

「……」

「この世は所詮【弱肉強食】!強ければ生き、弱ければ死ぬ!ただそれだけのことなのに!」

「確かにそれは一理ある…しかし、実際は強さだけでは生きてはいけぬ」

「…何だ。何だ何だ何だ何だ何だなんだなんだなんだなんだなんだナンダナンダナンダナンダナンダ!!?!!?」

突如激昂し始めた宗太。急速に蘇っていく感情により、パニック状態になっていた。

パニック状態のまま、がむしゃらに一樹に斬りかかる。

「強ければ生きガッ!?強ければゴッ!?強けガハッ!?」

当然そんな攻撃が一樹に通る筈も無く、全て受け流され、逆に攻撃を受ける事になった。

「ああァァァァぁぁぁぁァァァァぁぁぁぁァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァ!!?!!?」

とうとう頭を抱えて、狂ったように叫び出す宗太。体をあちこちにぶつけて暴れる宗太を、距離を取って見守る一樹。

「この世は…弱肉強食…強ければ生き、弱ければ死ぬ…僕には、これしか無い…これしか無いんだ!」

「……」

「僕がここまで上がってこれたのは…藤原さんから教わった、この自然の摂理があったから!」

「……」

「僕を…あの暗闇から救ってくれたのは藤原さんだ…あの時!あなたは僕を救ってくれなかった!」

「……今からでも、間に合わぬか?」

「…え?」

静かに語り出した一樹に、宗太の動きが止まった。

「拙者には、お主の言う【あの時】が分からぬ。しかし、今からでも遅いとは思わぬ。何故なら…お主はまだ生きている。生きている限り、何を始めるにも、決して遅いことなんて無いでござるよ」

「……」

一樹の言葉に、今度は宗太が黙る番だった。しかし…彼はもう、それでは止まらない。

「僕はもう…戻れない所まで来てるんだ!今更他の生き方なんて出来る訳が無い!」

その脚力で一樹から距離を取ると、先程捨てた鞘を拾い、刀を納めた。

「…僕の技は、ほとんどが藤原さんに教わったものです。けど…これから見せる技は、唯一の僕オリジナルの技」

腰帯に鞘を挿して左手で鍔を軽く弾く。そして、右腕は力を抜いてだらりと落とす。

「この技の名は、【瞬天殺】」

「…お主の神速を超えた超神速…縮地に加え、【幹部】随一の、天性の剣椀から放たられる抜刀術。成る程…確かに決まれば瞬天殺だ。しかし打てるのか?その乱れに乱れた心で」

「余裕ですか?その余裕もすぐにこの世から無くなりますよ」

「……」

 

チンッ…

 

一樹もまた、静かに逆刃刀を鞘に納めた。

宗太という強敵を相手に、そしてその強敵の最大の技を迎え撃つというこの状況で放つ技は、ひとつしか無い。

飛天御剣流奥義、【天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)】しか…

「行きます…」

「…来い」

両者同時に駆け出す。

果たして、奥義同士の戦いを制するのは…

 

 

時は、少し遡る。

一樹が宗太を追って、動力部から離れた頃だ。

「お前ら程度で僕を止められると思ってんのか!?」

「くっ…」

藤原はまず、近くにいた弾の襟元を掴む。そして、挟み撃ちを仕掛けてきていた一夏に向けて投げた。

「ッ!」

何とか弾を受け止めた一夏。

「弾ごめん!」

藤原の追撃を避けるため、やむを得ず弾を投げる一夏。その直後、一夏に無限刃が迫ってくる。

「ッ!?」

何とか刀で捌く一夏。

その重さに、腕が若干痺れた。それを見逃す藤原ではない。渾身の前蹴りを一夏に決める。

「オラァッ!!」

「ガッ!?」

その威力は、一夏の体が数回跳ねる程だ。

「…お前も昔っから気に食わなかったんだ」

無限刃を握り直し、一夏に近付く藤原。

「いつもへらへらしてる癖に、妙に人が集まりやがってさ。お前程女癖が悪い奴を僕は知らないね」

「…何のことだ?」

「今、凄い腹立つけどあのクズと同じ気持ちになったよ。コイツ殴りてえ…いや、殴るどころか殺すか」

ポンっ、と手を叩く藤原。

しかし対する一夏も、藤原には山ほど言いたい事がある。

何よりも…

「お前には、文句が山ほどあるけどよ…」

「あん?」

「…これだけ聞いとく。どうして沙織を殺した」

「さおり?んー…あ、あーあ!あの人形ね!そういえばそんな名前だったわ。ったく、人に物聞くならその人に分かりやすい名前で教えろよな。あの人形なら…ファウストってな」

「……」

ギチギチと刀を握る一夏。その手から血が出ているのも構わず、藤原を睨む。

「まあその質問に答えるのは簡単だ」

そして、藤原が答える…

「誰でも良かったんだよ。お前の近くにいる女ならな」

その言葉を聞いた瞬間、一夏は藤原に踏み込んでいた。

藤原を本気で殺すつもりで振り上げた刀を、藤原は腕に付けていた金属製の籠手で受け止める。

「話は途中だっての」

続けて放たられる斬撃全てを、藤原は籠手と無限刃で受け流す。

「まあ、お前の近くにいる女の中で選んでた時だよ。お前自身が始めて意識した女を見つけた。それがあの女だった。()()()()()()()()()()

ひたすら突進してくる一夏を蹴飛ばす藤原。自ら転がる事でその衝撃を殺す一夏。

「人の命を、何だと思ってやがる!!?」

「人?人ってのは僕と雪恵さん以外いないよ?」

「ふざけんな!!」

一夏の斬撃を全て流す藤原。感情に任せて振るう剣は、軌道が単調になってしまっているのだ。そんな剣が、剣術を会得している者に当たる筈が無い。

「しつこいんだよ!」

「ガァッ!?」

一夏の攻撃を無限刃で受け止めると、そのまま刃を走らせる藤原。摩擦熱によって黒炎が発生、小爆発を起こして一夏を襲う。

「死ねやぁッ!」

小爆発によって体制が崩れた一夏に、トドメの一撃を放とうとする藤原。間一髪、弾が全力でタックルを決めた事で一夏は助かった。

「させねえよ…!」

「何なんだお前は!?」

藤原の問いに答える余裕は今の弾には無い。

少しでも藤原にダメージを与えようと、必死で藤原の腹部を殴り続ける。

「ラァッ!オリャァッ!」

「効かねえ、よ!」

藤原の重い拳が、弾の腹部に突き刺さる。

「ゴッ…!?」

「お前じゃ相手にならねえな」

無限刃に黒炎を纏わせると、その必殺の刃を弾に振り下ろす。

咄嗟に両手に持つマグナムの銃身で受け止め、更にその衝撃を利用して後ろに下がる弾。

 

グキッ

 

「(ッ…左腕を捻ったか…)」

しかし想定内だったのか、弾はそこまで動揺していない。

すぐさま2丁のマグナムを藤原に向け、引き金を引いた。

 

ダダンッッ!!!!

 

一馬に鍛え上げられた弾。事生身での銃撃戦では一夏よりも実力は上だ。

「ッ!?」

そんな弾の放った攻撃は、狙い通り藤原の右手の甲と鳩尾に命中。戦闘不能にこそ出来なかったが、藤原を怯ませる事には成功した。

「一夏!」

「任せろ!」

そして、一夏は生身では近接戦を好む。全力で振るわれた刀が、藤原に迫る。

「チィッ!」

流石の藤原も避けるには間に合わないと判断、無限刃で一夏の斬撃を受け流す。

「邪魔なんだよ雑魚共が!!!!」

近くにいた一夏に前蹴りを喰らわせる。蹴りを受けて蹲る一夏を踏み台に跳び上ると、弾に無限刃を渾身の力で振り下ろす。

「ウオラァァァァァッ!!!!」

「くっ…!」

何とか斬撃を受け流した弾。しかし、その攻撃の重さにより、両腕が痺れてしまう。

その隙を見逃す藤原ではない。

弾にトドメを刺そうと、無限刃に黒炎を纏わせ斬り込む。一夏がそれに気付くが、間に合わない_____!

 

ドンッ!!!!

 

「ガァッ!!?!!?」

「ゴッ!!?」

 

突如煉獄の壁が破壊され、そこから宗太が飛んできた。完全に想定外の事だったので藤原も対応出来ず、宗太と共に床を転がる。

「「ッ!?」」

慌てて一夏と弾が壊された壁を見ると、そこから一樹が出てきた。ゆっくりと、しかし確実に藤原に近づくその姿に、味方でありながら2人は軽く恐怖した。

「…待たせたな」

それが2人に向けられたのか、対する藤原に向けられたのかはわからないが、ひとつ確実なことがある。

 

一樹が、宗太を倒したということが。

 

「…コレ、使うでござるよ」

懐から医療ナノマシン入りのシリンダー2つを取り出すと、倒れている一夏と弾に投げ渡す一樹。

「悪い…」

「助かる…」

それぞれ怪我した箇所にシリンダーを当ててナノマシンを送り込む。ナノマシンが急速治療を始め、傷がみるみる塞がっていく。

それを確認すると、藤原の方へと歩を進める一樹。

「…随分、ウチの宗太を可愛がってくれたみたいだな」

「そっちこそ」

同じ刀匠の作刀を持った2人が、再度ぶつかろうとしていたその時。

 

ヒュッ!

 

「…ッ」

一樹が後頭部あたりに殺気を感じた。逆刃刀をその殺気に向けて振るうと…

 

キンッ!

 

「…赤空さんの作品か」

蛇のように動く刀があった。

「流石は藤原君の宿敵ね。この薄刃ノ太刀の攻撃を初見で防ぐなんて」

蛇のように動く刀…薄刃ノ太刀で一樹を攻撃した女、花澤が一樹に冷たい目を向けながら評価する。

「…そんなの」

一樹が花澤と対峙したその瞬間、ダンッ!と藤原が踏み込んできた。

背中を狙って突き出された無限刃を側転で避けると、起き上がりと同時に一回転。今度は一樹が藤原の背中を狙う。

「…チッ」

藤原にはその攻撃を捌く技量は無い。避けざるを得ず、花澤の元へと跳躍した。

 

 

「…花、お前は後ろの2人を相手どれるか?」

「やってみるわ。砂浜にいるTOP7(バケモノ)に比べたら弱いでしょ。あの8人よりは強いだろうけど」

花澤に一樹の相手をする事は出来ないのは分かりきっている。けれども、鬱陶しい雑魚2人の相手が出来れば藤原には充分だ。

「じゃあ任せた」

 

 

「…一夏、やれるか?」

視線で花澤を指す一樹に、一夏は肩をすくめる。

「正直分かんねえ…けど、お前がくれたナノマシンのおかげで傷は癒えた。やれるだけやるさ」

「俺もいる。何とかするさ」

弾も回復したのか、一夏の隣に移動してくる。

「…頼むでござる」

そう呟くと、先手必勝と藤原に向かって駆け出した。

 

 

突っ込む一樹目掛け、薄刃ノ太刀が飛ばされる。

「…邪魔だ」

呟くと同時、一樹は薄刃ノ太刀の()()を潜る。

「(甘いわ!薄刃ノ太刀の切っ先は変幻自在!背後から串刺しに…)」

「邪魔だと言っている」

既に最高速に達している一樹からすれば、花澤の反応速度など恐るるに足らない。

あっという間に花澤の横を駆け抜けて藤原に迫る。

「(牽制のつもりだったとはいえ、ここまで効かないなんて!しかも…)」

一樹を狙って反転させた薄刃ノ太刀が、持ち主である花澤に迫っている。

「私を狙うよう誘導させるなんてね!」

切っ先を掴む事で対処した花澤。一歩間違えれば己に襲いくる行動を躊躇いなく行う度胸に、花澤は心の中で拍手を送った。

「じゃ、私は雑魚2人を片付けるとしますか!」

すぐに意識を切り替えると、己に迫ってくる一夏と弾と対峙した。

 

 

一樹の突進に合わせて無限刃を横薙ぎに振るう藤原。

その斬撃を、速度を落とさずスライディングする事で避ける一樹。

斬撃を避けてすぐ、素早く足を振り上げて藤原の腰を蹴飛ばして追撃を抑えながら起き上がる。

「このっ!」

無限刃に黒炎を纏わせて斬りかかる藤原。

「(炎自体の殺傷性は低い…!その奥の、斬撃を見極めろ!)」

黒炎に惑わされず、刃を避ける事に全神経を注いだ一樹。

最小限の動きで藤原の攻撃を避け続け、見つけた隙に小さくとも確実に攻撃を当てていく。

それはじわじわと、藤原にダメージを与えていく。

しかしそれは、一樹自信にも言える事だ。砂浜から始まった戦いは、想像以上に一樹の体力を奪っていた。この動きが出来るのも、あと少しだ。

「(コイツのタフさを考慮すると、このままじゃジリ貧。だけど、全力を出しても倒せるか分からない。くそッ、どうすればいい…)」

そんな事を考えていらなくなるのも、一瞬だった。

「ウザってぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

突如藤原が吠えた。

その瞬間、藤原の体に闇が集まり始めた。

「ッ…」

一樹はその光景に、シャドウがシャドウ・デビルに進化した時を思い出す。

「…ヤバイな」

小さく呟いた言葉を合図にしたかの様に、黒いオーラを纏った藤原が突撃してきた。

「ゴッ!!?!!?」

一瞬、一樹の目からも藤原の姿が消えた。その一瞬で藤原は一樹に肉薄すると、一樹の胸ぐらを掴み、煉獄の壁へと突進する。壁を数枚、突き破ってようやく止まると、不敵な笑みで一樹に話しかけてきた。

「…どうだい?これでも宗太より戦いやすそうか?」

「…今までは手加減していたでござるか?」

吐血しながら問う一樹に、藤原は余裕の表情を崩さず答える。

「ちょっと違うね。()()()での全力は出してたさ。今の状態は、分かりやすく言うならパワーアップアイテム・時間制限無しを使用してるってとこかな」

「…反則技でござるな」

「出来ないからって僻むな、よ!!!!」

言葉の終わりと同時に、前蹴りで更に吹き飛ばされる一樹。

壁を更に数枚ぶち破ってから止まるが、ダメージの大きさに動けそうに無い。

「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ…」

「おいおい、それでも伝説の人殺しかよ。もっと楽しませろよ」

咳き込む一樹に近付く藤原。

次の攻撃に対応するために立ち上がろうとする一樹。トドメを刺そうと藤原が突進した瞬間…

 

ドォォォォォンッ!!!!

 

「「ッ!!?」」

凄まじい衝撃により、煉獄が揺れた。

 

 

一方、海岸では…

「コレで最後!!」

宗介が兵隊最後の1人を気絶させていた。例のごとく結束バンドで拘束すると、控えていた警官に預ける。

その時だった。

「あん?」

煉獄に闇が集まると同時に、今まで機能を完全に停止されていたISを始めとする近代兵器が稼働し始めた。

それが意味するのは、藤原が作り上げ、世界中を覆っていた特殊フィールドが消滅した事だ。しかし、依然煉獄周辺はフィールドが残っている。

 

「通信機能復活を確認。IS部隊、出撃!」

 

「ッ!!?」

出撃命令を受け、日本のIS部隊が出撃していく。レーザーなどの近代兵器が通用しないと気付くと、一旦海岸に戻り、大砲の弾を次々と落とし始めた。

「おい!何してやがる!?」

「一樹や一夏たちがまだアレにいるんだぞ!?」

指示を出した軍人に掴みかかる宗介と智希。軍人は2人を一瞥するも…

「攻撃を、続行せよ!!!!」

攻撃を、止めさせはしなかった。

「…誰の命令なの?」

新たに軍人に詰め寄るのは楯無だ。楯無の言葉への返事も無く、軍人はただ煉獄に攻撃を集中するIS部隊に視線を向けていた。

「…おい、五体満足でいたかったら今すぐ攻撃をやめさせろ」

暗く冷たい宗介の言葉に、軍人は冷や汗を流すも、口を開こうとはしない…いや。

「…ご安心を。()()()()()必ず救出しますので」

千冬に向けて、淡々と語った途端。

 

ドギャァァァァ!!!!!!!!

 

宗介の拳を喰らい、数メートル吹っ飛んだ。

「貴様!!!!」

周りの軍人達が各々武器を取り出すが…

 

ズガンッ!!

 

宗介以外のTOP7全員が同時に放った弾丸により、武器を落とされた。

「文句があるなら、この戦いが終わった後いつでもかかってこい…けどな」

宗介を中心に5人がとんでもない殺気を放つ。

「まともに生きて帰れると思うなよ?」

その中心にいる宗介の言葉に、政府直属の隊員たちの呼吸が止まる。

そんな恐怖の対象である宗介に近付くのは、大泣きしている雪恵とセリーだ。

「そう、ずげぐん''」

「ガ、ガズギが」

2人の声に、一旦怒りのオーラを消すTOP7。

「…分かってる。コイツらにSEKYOUすんのは全部終わってからだ」

そこで区切ると、宗介は鋭い目で川司を見る。

「川司のオッサン、警官達の避難はどれくらい進んでる?」

「…一樹君の指示のおかげで、警官と捕虜は全員煉獄から脱出している」

「オーケー。それならそんなに気にする必要は無えな。お前ら、ありったけの人員を用意しろ。ボスとアホ2人を迎えに行くぞ」

「「「「了解!!!!」」」」

「川司のオッサン!船借りてくぞ!!」

「ああ!使ってくれ!!」

 

 

花澤の人間離れした薄刃ノ太刀(リボン)の攻撃を何とか捌いていたら、IS部隊による爆撃の影響で煉獄が揺れた。

「キャッ!?」

その揺れに、踊る様に薄刃ノ太刀(リボン)を振るっていた花澤の動きが止まる。

「「ッ!!」」

その隙を逃す一夏では無い。素早く弾が落としていたスタンロッドを拾って花澤に向かって投げた。

 

ガッ!

 

「痛ッ…!」

薄刃ノ太刀を落とした花澤。慌てて拾おうとするが、それより早く弾が転がりながら薄刃ノ太刀を掴んだ。

「コイツは貰ったぜ…!」

数度振るってコツを掴むと、花澤を完全に拘束する。

「しまっ…!」

「じゃあな」

身動きが取れなくなった花澤に、再度拾ったスタンロッドのスイッチを入れてから当て、気絶させた。

 

 

一方の一樹と藤原の戦いは、未だ決着が着く兆しが見えない。爆撃の影響による煉獄の揺れによって距離が出来た2人。鋭くお互いを睨みつつ、揺れが収まるのを待っている現状だ。

「…政府にとっちゃ、お前も僕も同じらしいぜ?」

「…今に始まった事では無いでござるよ」

急速に闇の力を取り入れた反動が来たのか、藤原の息は荒い。一方の一樹も、ここまでの激闘によって体力を消耗しており、やはり息が荒い。

「そろそろ…決着着けようよ」

「ああ…」

揺れに慣れてきた2人、姿勢を低くして走り出す。

力量で戦う藤原と、技量で戦う一樹。

それぞれが刀を振るうが、受け止められるか流され、有効な一撃になり得ない…筈だった。

「うっ…ラァッ!!」

 

ドンッ!!

 

「カ…ハッ…」

無限刃による零距離爆破をまともに喰らってしまった。それによって体制が崩れる一樹。

その隙を逃す藤原では無い。黒炎を纏わせた無限刃で袈裟斬りを放つ。

「オラァァァァ!!」

「グッ!?」

致命傷は避けたものの、ザックリと斬られてしまった上に、火傷も負った。ただでさえ大きいダメージが、更に大きくなってしまった。

「コレでトドメぇぇぇぇ!!」

心臓を突き刺そうと無限刃を突き出す。

「ッ!」

勝利を確信したからか、単調な攻撃を出してきた藤原。そんな攻撃を見逃す一樹では無い。

「なっ!?」

突き出された無限刃を、体をコマの様に回転しながら避けると、その勢いを利用して藤原の背中に逆刃刀を叩き込んだ。

「ガッ!!?」

大きなダメージを負っているとは思えない一樹の動きに、藤原は対応出来なかった。

「藤原…」

荒い呼吸のまま、一樹は話し出した。

「もうお前や拙者のような、【力】を持つ者が支配する時は終わったんだ…」

「終わってなんかいないさ…【力】はずっと通用する。そしてこれからは僕の時代だ。僕の()を使ってね…!」

グォンッ!と、無限刃を振るって力を誇示する藤原。闇を脚に集中させて踏み込んでくる。だが、既に一樹はその速さに慣れていた。振り下ろされた無限刃を横に弾くと、逆刃刀を構えて飛び上がった。

「ゴガッ!?」

逆刃刀が顎に直撃、大きく後退する藤原。

「終わったんだ…拙者が、雪恵()と出会った時に…」

「……」

呼吸を落ち着かせた藤原は、無限刃を力強く握る。

「さぁ…最終局面だ…」

「……」

対する一樹は、逆刃刀を鞘に納めた。

 

飛天御剣流奥義、【天翔龍閃】を放つために。

 

藤原は自身に纏える闇の量を最大にした。目に見えてオーラが禍々しくなり、それはもはや人が出せる領域ではない。

「(こんな状況だ。おそらく宗太を倒した技を出してくる…そしてそれは抜刀術なんだろう。宗太を倒せるって事は、他の抜刀術とは何かが違う筈…それに対応するために目と反射力に闇を集中させる。抜刀術さえ凌ぐ事が出来れば僕の勝ちだ!)」

「…勝負」

 

轟ッッッッ!!!!!!!!

 

「(来る!!)」

相変わらずダメージを感じさせない速さで踏み込んでくる一樹。もはやそれに驚く事は無いが、威圧感は拭えない。

「(怯えるな!確実に攻撃を裁かないと僕に勝ち目は無いんだ!)」

藤原は全神経を集中させて一樹の攻撃に備える。

「ッ!!!!!!!!」

そして、一樹は藤原の予想より1()()()()踏み込み、逆刃刀を抜刀。

「くっ!!?!!?」

予想が外れたとは言え、全身を闇で強化している藤原。無限刃で逆刃刀を受け止める事に成功。

「(なんつう力だよ!!?)」

「グッ…!」

闇で強化されている藤原と、己で鍛えた力のみで互角の力を発揮する一樹。

数秒間、刀と刀がせめぎ合っていたが…

「うっ…らぁっ!!!!」

「ッ!!?」

無限刃を半回転させることで、逆刃刀を捌いた藤原。

【天翔龍閃】が、破られた!?

「コレで僕の勝ちだァァァァ!!」

無限刃の全発火能力を解放し、塵すら残させないとばかりに振りかぶる。狙うは、弾かれた影響で体が回転している一樹の背中だ。

だが…

「ッ!!?」

突如、藤原の足が風に引っ張られた。

「(これは…コイツに引き寄せられてる?いや違う!引き寄せられているのは、その目の前の空間か!)」

超神速の抜刀術によって弾かれた空気が、急速に元に戻ろうとしている。

その影響で、藤原の体は一樹の前へと引き寄せられていく。

つまり_____

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

_____一樹にとって、絶好のチャンスなのだ。

弾かれた勢いを逆に利用、一回転+更に踏み込んで放つ、最強の二撃目!

 

ドギャァァァァンッ!!!!!!!!

 

「が……はっ!!?!!?」

防御も出来ず、真の天翔龍閃を喰らった藤原。全力で振り上げられた逆刃刀の威力に、吐血しながら高く吹き飛ぶ。そんな状態で着地の体制を整える事が出来る筈も無く、背中を強打しながら着地した。

「ハア、ハア、ハア!」

持てる力全てを振り絞った一樹も、呼吸がかなり荒い。

しかし数秒で何とか立ち上がると、決着をつけるために、藤原に近付いていく。

「コレで…最後…」

「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

藤原が怨念の籠った唸り声をあげるが、体を動かす事は出来ない。1歩、また1歩と一樹が近付く…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いが、今ソイツを倒されたら困る」

 

 

ドドドドッ!!

 

 

「がはっ…!?」

あと1歩というところで、何かが一樹の体を貫いた。前のめりに倒れる一樹。

「(何…が…?)」

藤原の方へ視線を向けると、黒い縦穴が現れた。そこから、スーツを着こなす若い青年が出てきた。

「…お前が、今地球にいるウルトラマンか」

青年の言葉は淡々としていて冷たい。そして、一樹がウルトラマンであることを一目で見抜いたという事は…

「ああ、俺だけお前の事を知ってるのはあまり公平じゃないな。俺は…この姿では前原を名乗ってる。そして、お前たちが【メフィラス星人】と呼んでいる宇宙人だ」

「めふぃ、らす…」

倒れている藤原を抱えると、再度黒い縦穴を呼び出す前原。

「ま……て……」

何とか立ち上がり、前原を止めようとする一樹。前原は藤原を抱えたまま振り返ると、余裕の笑みを浮かべる。

「そう焦るな。近いうちにお前とは闘り合う事になる。今のお前じゃ1()()で終わっちまってつまらないからな。その命、預けといてやる」

前原はそう言うと、縦穴の中へ消えて行った。

「前…原…ゴフッ」

気配が完全に消えたと同時に、気力が抜けた一樹は吐血しながら倒れた。

「一樹!!!!」

「おいしっかりしろ!!!!」

ぶち抜かれた壁を越えてきた一夏と弾に抱えられ、今にも沈みそうな煉獄から脱出を図る。

藤原がいなくなったため、闇のフィールドが消滅し始めた。IS部隊の攻撃が激しくなる中、意識が朦朧としている一樹を必死に運ぶ一夏と弾。

『マ……が……』

『ノ………ちゃ……』

『も……が………わ……』

ノイズ混じりながらも、各々相棒の声が聞こえている。

「しっかりしろ一樹!」

「もう少しだからさ!」

何とか船首にたどり着いた3人。

そこに_____

「絶対受け止める!!だから…」

 

「「「「飛び降りろ!!!!!!!!」」」」

 

_____仲間たちの、声が聞こえた。

「「ッ!!」」

その声に従い、3人とも船首から飛び降りた。

下で信じて待っていたS.M.S団員達が張っていたネットに着地すると、すぐ小舟にそれぞれ引き上げられた。

「離脱するぞ!!!!!!!!」

「「「「応ッ!!!!」」」」

宗介の指示により、小舟は急ぎ陸へ向かう。

『マスター!しっかりして!』

フィールドが完全に消滅したのか、一樹の脳にミオの声が響く。

「(随分…久々だな…)」

 

 

無事陸にたどり着いたS.M.S団員達。

「かーくん!!!!」

「カズキ!!!!」

「五反田君!!!!」

「「「「一夏!!!!」」」」

砂浜で待っていた女性陣が、己の服が海水に濡れる事も構わず船に近付く。

「一樹、肩貸すぜ」

「ほら、掴まれよ」

「……ん」

宗介と智希に支えられて立つ一樹に、雪恵とセリーが駆け寄る。

「大丈夫!?」

「カズキ凄い怪我…」

その声に、一樹が顔を向ける。

「………ただいまでござる」

弱弱しく、小さな声だが、笑顔で2人に言う一樹。

「うん!おかえりなさい!!」

「おかえりカズキ!!」

満面の笑みを浮かべる2人。

そんな2人に宗介が申し訳なさそうに話す。

「あ〜、感動の再会の途中で悪いが、一樹たちを病院に連れてってやりたいんだけど…」

「あ、ごめんね!」

「私が運ぼうか?」

「あの2人も行けるか?」

後ろの一夏と弾を指す宗介。セリーは一瞬真顔になったが、仕方ないとため息をついてから頷いた。

そこに、空気の読めない者が近付いてくる。

「ご苦労だったな。無事で何よりだ」

伊藤博昭が川司たちを引き連れて近付いてきた。

「どの口がほざいてんだ!!」

「てめえのためにボスは戦った訳じゃねえ!!」

血の気の多い団員達が、伊藤に詰め寄る。警官達がその間に入ろうとしたその時。

 

()()()

 

「「「「ッ!!?!!?」」」」

重く低い声が砂浜に響いた。

声の元である一樹は、未だ宗介と智希の肩を借りて何とか立っている状態だ。

それでも、その身から発せられるオーラはやはりこの集団のトップなんだと思わせる。

「…アンタの命令のおかげで、藤原に逃げられた。この責任はどうとるんだ?」

「なっ…藤原に逃げられたのか!?」

「…まあ、それ以外の幹部はほぼ全て倒したんだ。アイツがまた集団を組むとは考えにくいけどな」

6年前の面々など、今回の大捕獲劇でほぼ捕らえられてしまったのだ。

()()藤原が、新しい人物を信用出来るとは考えにくい。

前原が連れて行った花澤と宗太しか残っていない以上、これだけの大事を起こせるとは思えない。

「…自分の失敗に怯えながら、過ごしていけば良いさ」

そう伊藤に言うとセリーに目配せをし、病院へとテレポートした。




るろ剣要素はコレで終わりになります!
1年以上、作者の趣味にご付き合いいただきありがとうございます!

次回はIS学園です!!!!!!!!


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Episode137 安息−キュア−

大不評どころか、お叱りを多々受ける話が続きましたが、あの要素が出てくることはほぼありません。ご安心を。

そして、幾ら不評を喰らっていても、個人的には愛着がそれなりにあるので、アレは消しません。


そんな事より、超久々にほっこりする話です!


煉獄での戦いを終え、激闘を繰り広げた一樹たちは成海遥香の病院で短期入院し、今日退院した。

「流石成海だな。良い腕してるぜ」

体を軽く動かして調子を確かめる一樹。

「学園までは送るよ。少しでも寝とけ」

「ありがとな一馬」

運転席に座る一馬に礼を言ってから、一樹は眠りに落ちた。

 

 

「ただいま〜」

「おかえりかーくん!」

「おかえりカズキ!」

「お?帰ってきたか一樹」

「「「「おかえりなさい!櫻井君!」」」」

「お、おう。思ってたより人数多くてびっくりした…って、なんかクラス違うひともいない?」

1組の教室に入った途端、凄い人数(一樹感覚)に歓迎された。

その理由である、他クラスの人がいることに驚く一樹。

「それは私が代わりに説明しよう!」

えっへんと胸を張って前に出てきたのは、新聞部副部長である。

「なるべく簡単でお願いします」

「了解よ」

 

以下、黛の説明。

・一樹の指名手配書が届く。

・1組の子と私で『絶対おかしい!』と抗議。

・手配書で櫻井君の顔を知った()()()()()も一緒に抗議。

・事件解決後、みんなでお出迎え⇦今ココ

 

「…ある子たち?」

「本人たち曰く、櫻井君に昔助けられた事があるって言ってるけど?主にチンピラから」

黛の言葉に、ひたすら記憶を探るが…

「思い当たる節があり過ぎてどの時か分からない…」

ズデデデッ!!!!

教室にいる女子全員がコケた。

「それに、一夏にそういう対象は押し付けてたし」

「やっぱ押し付けてたのかお前!!」

一夏の抗議をスルーして、一樹は改めて『助けられた』と言っている人たちと向き合う。

「えーと、とりあえず出迎えてくれてありがとう。それとごめん。覚えてなくて」

ペコリと頭を下げる一樹に、ブンブンと手を振る女生徒たち。

「あの…櫻井君」

その中から、西田が前に出てきた。

「あ、君は確か…」

西田の()()()()()()見る一樹に、西田はホッとする。彼が自分の体を目当てに助けた訳では無いと確信出来たからだ。

「間違えてたらごめんだけど…西田さん、だっけ?」

「覚えてくれてたの!?」

1度しか会っていない自分の名を覚えてくれていた事に驚く西田。

「いや…確か自己紹介してくれてた子だよなってだけなんだけど…」

「それでも嬉しいよ!あの時は助けてくれてありがとう!そのおかげで、こうしてIS学園に通えてるの!」

「…ここにいれるのは、君が努力したからだよ。でも、どういたしまして」

穏やかな笑みで話す一樹に、西田も笑みを浮かべる。

「あの…櫻井君」

「ん?」

「これからは…私のこと、【奈緒】って呼んでほしいな」

「…え?」

西田の言葉に、思わず奥に座る雪恵を見る一樹。雪恵はと言うと…

「……」グッ!

サムズアップを見せていた。

「…彼女さんからの許可は出たみたいだね。ね!櫻井君!」

グイグイ来る西田…いや、奈緒に若干引きつるも、すぐに…

「よろしく、奈緒」

笑顔で手を差し出す一樹。すぐさまその手を取る奈緒。

「うん!よろしく一樹君!」

奈緒をきっかけに、ドドっと迫る女生徒たち。対応に追われる一樹を、ニコニコしながら見守る雪恵。

 

と、ここまでは平穏だったのだが。

 

SHRの時間になり、連絡事項を千冬が告げる。

「…今日は、転入生がいる」

ひたすら一樹から目をそらす千冬に、一樹は訝しむ。

「では、入ってきてくれ」

千冬の指示に、入ってきた人物は…

「どうも、五反田弾と言います。紆余曲折あって世界で2()()()の男性操縦者扱いになりました。まあ…相棒しか扱えませんが。とにかく、これから一夏や一樹共々、よろしくお願いします」

「「「誰だお前ぇぇぇぇ!!?」」」

弾の芝居かかった自己紹介に、中学時代を知る3人が渾身のツッコミを入れる。

「ん?今自己紹介しただろ?五反田弾だって」

「いーや違うね!お前の素だったら『どーも!五反田弾っス!現在彼女募集中なんでよろしくぅ!』とか絶対言うね!」

「お前ふざけんな一樹!俺にはもう彼女いるわ!」

「……あ、そうだった」

一瞬で作ったキャラが壊れた弾に、全員が苦笑した。

 

 

「…んで?弾は正式にS.M.S代表候補生って言うのか?」

屋上に集まった男子3人。一夏の問いに一樹は軽く頷く。

「ああ。この前の京都で弾がS.M.S所属だってのは説明しちゃってるからな」

「了解…なあ、そろそろ「黙れ一夏」へ?」

何か言いかけた一夏を制する一樹。一瞬で屋上のドアに近付くと勢いよく開けた。

バンッ!

ドドドドッ!

見事に専用機持ちほぼ全員が出歯亀していた。

「あー…納得」

呆れた顔で理解する2人。こんな状況で一夏が続きを話したら今まで隠していた事が無駄になっていただろう。

「はぁ…帰るぞお前ら」

「「あーい」」

 

 

弾が来たのは、一樹にとっても色々利点があった。無論話し相手が増えた事もそうだが、何より…

「今日はいい風が吹くな…セリー、昼寝でもするか」

「ん」

あくまで生徒として転入した弾は基本一夏と一緒に行動するため、前以上に自由に動けるようになった。それでも夜間は警戒しなければならないが、昼だけでもゆっくり寝れると全然違う。

『マスター、私も寝て良い?』

「良いぜ…」

『やった』

木陰の、心地いい風が吹く絶好の昼寝スポットで、木に寄りかかりながら寝る一樹と、そんな一樹の右側に寄りかかって寝るセリー、膝上に座って一樹を背もたれにするミオ。

「「『……』」」

スースーと、寝息が聞こえて来るまであと数秒…

 

 

しばらくすると、本日の授業を終えた雪恵がのんびり寝ている3人に近付く。

「ふふ…良い寝顔」

穏やかな寝顔を浮かべている3人。そっとスマホで写真を撮ると、10分後にアラームをセットし、空いている一樹の左側に寄りかかると、自らも眠りに落ちていった。

 

 

「…ん?」

一樹が起きたのは、アラームが鳴る5分程前だ。全方位を雪恵たち3人に囲まれている事に気付くと、小さく笑う。

「やっぱ良いな…この感覚」

久々の平穏を、アラームが鳴るまで感じたのだった。

 




平和って大事


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Episode138 模擬戦−テストマッチ−

長らく書いてなかったから、戦闘描写の書き方を忘れてる…


弾が転入して来た日の放課後、久しぶりの第四整備室で男子全員が揃っていた。

 

「おーし、じゃあ調整始めるか」

「え?一樹がすんの?」

「むしろ誰がすると思ってんの?」

「え?整備科の生徒…」

「「アホか」」

 

極秘情報の塊であるバンシィの調整を、そう簡単に他人にやらせる訳にはいかない。現に、一夏の麒麟もそうなのだから。

 

「んじゃまずは…バンシィのOSから弄るか」

 

空間投影ディスプレイに表示されるバンシィと、脇に置いたパソコンから弾の戦闘データを見て、弾の戦い方にあった調整を開始する。

一樹にしては珍しく、少し大きめの電子バイザーを装着した。

 

「(やっぱり、弾が発する脳波程度じゃデストロイモードへの移行は出来ないか)」

 

過去にS.M.Sでやったテストの結果と、バンシィのデータを照らし合わせたところ、弾はデストロイモードに移行する程の脳波をまだ発する事が出来ていない。実際、ノワール時代の脳波展開の習得にも弾は苦労していた。

 

「(後で宗介に連絡して、ちょっとしたオプションパーツの製造を頼まないとな)」

 

デストロイモードを使()()()()ならともかく、使()()()()じゃ大問題である。

幸い、S.M.Sは搭乗者の脳波を増幅させるシステムを製造する事が出来るので、それが完成するまでの辛抱だ。

 

「(まずは、弾から返してもらったノワールをコイツに繋いでっと)」

 

バンシィを得た後、ノワールを一樹が返却した弾。本人曰く、『使い分けれると思えない』とのこと。

待機形態である腕時計をパソコンとUSBで繋ぐと、弾の戦闘データが電子バイザーに表示された。

そのデータを見ながら、弾の動きに対応出来るOSを組み上げていく。

近〜中距離の戦闘なら危なげなくこなせる事が分かり、ホッとしたのは内緒だ。

更に本人からの要望を受け、装備を麒麟と同じような構成へ変更した。

普段格納されている左腕のアームド・アーマーDEを覆うように、大きめのシールドを装備。弾曰く【ノワールの時はシールドが使いにくかったから、一夏のみたいに左腕に装備したい】とのこと。シールドは麒麟のよりひと回りほど大きく全体カラーが黒だが、機能は同じだ。シールド表面に対ビームコーティングを施し、内部にはIフィールドジェネレーターを搭載した。しかし弾の脳波がまだ弱いため、麒麟ほど機敏にIフィールドを発動する事は出来ない。

他、複合兵装内蔵型ビームマグナムを始めとした基本兵装は麒麟の装備のカラーリングを変えたのみなので割愛する。

 

「…出来た。とりあえず、しばらくはデストロイモードになるのは諦めてくれ。正直、お前の脳波レベルじゃ狙って【変身】させる事は出来そうにない」

「おう。まあ、ノワールを思考展開出来る様になったのも最近だし、予想はついてた。調整さんきゅな」

「どういたしまして。それと、多分明日はお前と一夏たちで模擬戦になると思う」

「それは何で?」

「千冬の性格から考えて、まずお前の実力を生で見たがる。だからまずは代表候補生'sと模擬戦をして、最後に一夏と…ってな」

「うげ、代表候補生たちともやるの?面倒だな」

「そう言うな。ノワールの武装の確認がてらだと思ってくれ」

「あ、なるほど」

「いきなり実戦なんてわざわざ狙うもんじゃないし、その機体はかなりのジャジャ馬みたいだしな…少しでも長く起動してほしい」

 

いくらS.M.Sと言えども、短期間で弾専用にカスタマイズする事は出来なかった。こればかりはひたすら展開時間を稼ぐしかない。

 

「デストロイモード移行に関しては、宗介に連絡しておくから、近いうちに専用改装が出来ると思う。だからお前は現段階でのバンシィの装備を完璧に把握しろ」

「了解!」

 

 

そして翌日…一樹の予想通り、午後の授業全部を使って、弾vs1年専用機持ちの模擬戦が行われる事になった。

…ご丁寧に、1年生全員が見れる様にして。

 

「え?え?何これ?動物園のパンダ?」

「「それを俺たちは半年前から喰らってる」」

「本当にお疲れ様でした!」

 

出撃準備のためにピットに移動した男子3人。システムに不調が無い事を確認すると、弾はカタパルトに移動した。

 

「最初の相手は…雪か」

「何か気をつける事は?」

「お前が生きて家に戻れる様に戦え」

「対戦相手より味方の方が怖い!?」

 

ガクブルと震えながら出撃すると、先に出ていた雪恵(アストレイ・ゼロのI.W.S.P装備)が苦笑いを浮かべていた。

 

「あー…もしかしなくてもかーくんに脅された?」

「は、はい…」

「なんか、ごめんね?」

「い、いえ大丈夫です。ちゃんと試合形式で戦えば良い話なので」

「うん、よろしくね。あと敬語じゃなくて良いよ?」

「お、おう…」

 

『それでは、五反田君対田中さんの模擬戦を開始して下さい』

 

麻耶のアナウンスが終わると同時に、雪恵は弾に向かって飛び、弾は後退した。

 

「逃がさないよ!」

 

後退し続ける弾に、ビームライフルを連発する雪恵。

シールドを構えながら、雪恵の移動速度を確認する。

 

「うし、そろそろ行くか」

 

ビームサーベルを抜刀すると、初めて前進。

対する雪恵も、ビームライフルを腰に移動させるとI.W.S.P専用のビームソードを抜刀。近接戦闘に臨む。

 

バチィィンッ!!

 

一瞬サーベルとソードがぶつかると、弾は素早く刀身の向きを変えて雪恵の攻撃を受け流した。

 

「え」

「ごめんお終い」

 

あっさりと受け流され、呆けてしまう雪恵。

その隙を見逃す弾ではない。ビームマグナムをガトリングモードに切り替えて連発。あっという間にアストレイ・ゼロのシールドエネルギーを無くした。

 

『勝者、五反田弾』

「あー負けちゃった…」

「田中さん、怪我はしてないよねそうだよね?」

「何で負けた私より五反田君の方が震えてるの…」

 

言うまでもなく一樹への恐怖だ。

呆れながらピットに戻っていく雪恵を見送り、シールドエネルギーを消費していない弾はそのまま試合に挑む事にした。

しかし、後が詰まっているのでダイジェストでお送りする。

 

 

・篠ノ之箒戦

 

「アンタには前振りはいらねえ…最初っからクライマックスだ!!」

「な、何をそんなに怒って…ウワァァァァ!?」

 

 

・セシリア・オルコット戦

 

「お前倒すけど良いよな?答えは聞いてねえ!」

「ちょっ、攻撃に殺気が篭ってますわよ!?い、イヤァァァァ!!?」

 

 

・凰鈴音戦

 

「やる前に言っておく。俺はかーなーり、実は怒ってる」

「予想はしてたけど!キャラ変わりすぎじゃない!?ちょっ、ま…」

 

 

一樹には語られていないが、弾にはTOP7の少年達から『あの3人と対戦することになったら構わん、全力で潰せ』との指令を受けていたので、問答無用で叩き潰した弾。

その後のシャルロットやラウラ、簪戦はどちらかというと相手の練習になるような対戦を心がけた。

そして、何よりやりたがっていた一夏との模擬戦だが…

 

「よし、お前の実力は充分わかった。だからもう模擬戦はやめようそうしよう」

 

千冬が青ざめた顔で模擬戦を打ち切った。

 

「「「何でじゃァァァァ!?」」」

 

一樹に一夏、そして弾の魂の叫びに怯みながらも千冬は怯えている生徒たちを指す。

 

「織斑以外の代表候補生をほぼ瞬殺出来る実力があると分かった以上、私の授業での対応は決まった。それに…正直に言うと、お前らがぶつかるとそろそろアリーナが壊れる気がしてならない」

 

思わず納得してしまう3人であった。




次回、ドラマCD編


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Episode139 幼馴染み-オールド・プレイメント-

お待たせしました!

言い訳をさせてもらうのならば、ドラマCDの話を書いてはみたものの、良いストーリーが浮かばなかったのです…申し訳ない。

言い訳はこの辺で本編をどうぞ!


「う〜ん!買い物楽しかった〜!」

「それは何より」

 

久々の休日、一樹と雪恵の2人(ミオは例外)きりのショッピング。たんまりと買った雪恵はご満悦だ。

 

「…ん?」

 

IS学園に帰っている途中、一樹が急に立ち止まった。

 

「かーくん?どうしたの?」

 

雪恵が尋ねるも、一樹は目を閉じて集中しているのか答えない。

数秒経つと、帰り道から逸れて歩き出した。

 

「ちょっ!かーくん!?」

 

淡々と歩く一樹に驚きながらもそこは雪恵。すぐさま千冬に連絡を入れて一樹の後を追う。

 

 

「かーくん!急に歩き出してどうしたの?」

「…アレ」

「ん?」

 

一樹が指す方向を見ると、そこは…

 

「…イジメ、だね」

「だろうな」

 

1人の少年を、複数人で囲んでいる。

しかも暴行も受けているようだ。助けに行こうとする雪恵を、一樹が止めた。

 

「なんで!?」

「…今俺たちが助けても、悪化させるだけだ。俺たちが助けられるのはこの後だ」

「この後?」

「ああ…」

 

一樹も雪恵の件でイジメられていた人間だ。だから、雪恵以上に助けに行きたい気持ちは強い。拳を硬く握りしめて耐える姿に、雪恵は何も言えなかった。

 

 

暴行は、その後も数分で続いた。それ以上続きかけたが、我慢の限界が来た一樹が強烈な殺気を放ち出した途端、囲んでいた少年たちが怯えながら帰っていった。本能で一樹の殺気を感じたのだろう。

少年たちが完全に見えなくなると、一樹が囲まれていた少年に駆け寄った。

 

「大丈夫か?」

「……あんまり」

 

小さな声で返事をする少年。一樹は懐から医療ナノマシンが入っているデバイスを取り出すと、少年の腕に当てた。

すぅーっと傷が消えていく様子に、少年は驚く。

 

「あれ?もうそんなに痛くない」

「そいつは良かった」

 

テキパキ傷の手当てをする一樹を、少年は不思議そうに見上げる。

 

「…何でお兄さんは僕を助けてくれるの?」

「経験者だから…と言えば分かるか?」

「そっか…」

「俺の方も聞きたい。何で俺の治療を受けれる?」

「…目かな」

「…お前、昔の俺とよく似てるわ」

 

一樹の目を見て、信頼出来るかどうか判断した少年。一樹もこの頃は目の()で敵か味方か判断していた。

まあ…彼の場合は気配もだが。

 

「…あれだけ殴られたのに、よく喋れるな」

「武道の守りの型を覚えたから。でないと命がいくつあっても足りない」

「なるほど…なぁ、名前聞いても良いか?ちなみに俺は櫻井一樹だ」

「…夏風和明(なつかぜかずあき)

「良い名前だね」

 

ずっと黙って様子を見ていた雪恵が、視線を和明に合わせた。

一種ビクッとした和明だが、雪恵の目を見て敵では無いと分かると、全身の力を抜いた。

 

「…ねえ一樹さん。もしかして一樹さんが言ってた経験者って言うのは、お姉さんが理由?」

「ああ。そう聞くって事は、和明もか?」

「まあね」

 

肩をすくめる和明。雪恵が詳しく聞こうとすると、「かずちゃ〜ん!!」と呼ぶ声が。

 

「…春?」

「春?じゃないよ!何でまた怪我してんの!?」

「(デジャビュ?)」

「(デジャビュかな?)」

 

和明に詰め寄る少女。その姿は、過去の一樹と雪恵によく似ていた。

 

「あ、お兄さんお姉さんありがとうございます!私、かずちゃんの幼馴染みの高本春香(たかもとはるか)です!」

「お、おう。俺は櫻井一樹」

「私はその幼馴染みの田中雪恵!よろしくね春香ちゃん!」

「はい!」

 

笑顔で話す春香の姿に、雪恵と同じものを感じた一樹。

 

「…なあ高本さん」

「春香で大丈夫です!」

「…春香。少しの間、和明と話しても良いか?」

「え?私は良いですよ?」

「ありがとな。和明」

 

和明を連れて少し離れたベンチに向かう一樹。雪恵も、春香と共にすぐ近くのベンチに座った。

 

 

「話がしたいって、何を?」

「和明がやられてる理由。あの子だろ?」

「…うん」

「あのレベルの子が、異性では和明としか話さないから、もしくはさっきの奴らのリーダー格がフラれたかってとこだな」

「両方ともだよ。それに、僕には両親がいないから」

「(そんなとこまで一緒かよ…)」

「リーダー格の親はPTAのお偉いさんだし…」

「屑なのも一緒かい!」

 

思わず叫んだ一樹に、和明は驚く。

コホン、と咳払いすると、自分の事情を話せるところだけ話す。

話し終えると、和明は大爆笑。

 

「あはは!ここまで一緒だともう笑うしかないね!」

「だろ?というか、和明強いな」

「強い?何言ってんの。僕は弱いよ。弱いからアイツらにいいようにされてるんだよ」

 

自嘲気味に呟く和明。

しかし、一樹はそれを否定する。

 

「強えよ。そんなにやられてて、それでもなお笑っていられるんだからな」

「…それはきっと、春のおかげだよ。春とは幼稚園から一緒でさ、ずっと僕の側にいてくれてる。だからだね」

「…お前、あの子の事どう思ってるんだ?」

「う〜ん…隣にいるのが当たり前だったから

な…改めて聞かれると分かんないや。でも…」

「でも…?」

「春には…幸せになってほしいとは思ってるよ」

 

和明の顔は、歳不相応な枯れた笑みを浮かべていた。

 

 

「かずちゃんとは、幼稚園から一緒なんです!他の男の子と違って、すごく大人っぽくて、女子のみんなに大人気なんです!」

「凄い子なんだね」

「はい!それにすごく優しいんですよ?私が重い教材を持って移動してたら何も言わずにほとんど持ってくれたり、一緒に歩いてたらさりげなく車道側を歩いてくれたり!」

「…春香ちゃんは、本当に和明君が好きなんだね」

 

雪恵が優しく言った瞬間、ボフンと春香の顔が真っ赤になり、湯気が吹き出る。

年頃の女の子らしい反応に、雪恵の笑みが深くなる。

 

「あ、あのその!それはもちろん友達として好きですけど!そういう意味じゃなくて!」

「あれぇ?私は別に【男の子として】なんて言ってないけど?」

「ッ〜〜!」

 

意地悪く言う雪恵に、春香は自分が墓穴を掘った事を理解した。

 

「そ、そういう雪恵さんこそ!一樹さんの事どう思ってるんですか!?」

 

せめてもの仕返しにと、雪恵にも同じ返しをする春香だが、相手は雪恵だ。

 

「好きだよ?もちろん、男の子として。結婚したいくらいに」

「ふぇっ!?」

 

何せ、春香と同じくらいの頃には、周りから【夫婦みたい】とからかわれても褒め言葉と受け取る雪恵だ。春香からしたら、相手が悪すぎる。

しばらく春香の反応を楽しんだ後、真面目な顔で雪恵は聞いた。

 

「春香ちゃんはさ」

「…はい?」

「今の和明君の状況って知ってる?」

 

その言葉に、先程までアワアワしていた春香が、静かになった。

 

「知ってますよ…それは」

「そうなんだ…」

「でも…かずちゃんは『なんでもないよ』としか言ってくれなくて…」

 

雪恵は思う。小学生の頃、一樹がイジメを受けていた時に自分の意識があれば、目の前の少女と同じだったろうと。

 

「和明君は男の子だから、女の子の春香ちゃんに助けてもらうのがカッコ悪いって思ってるんじゃないのかな?」

 

和明の性格が一樹によく似ている事を考慮した上で、間違ってるであろう答えを言う雪恵。

雪恵と似ている春香なら、和明が何故助けを拒否するのか分かる筈だ。分からないなら、彼女にこの問題に向き合う資格はない。

 

「かずちゃんは、そんなくだらない理由で断ったりしません!他の男の子みたいに自分をカッコ良く映すような事しないし、出来ない事は出来ないってはっきり言えるんです!だからかずちゃんは、【カッコ悪いから】って理由で私を遠ざけるはずが無いんです!」

「…良かった。ちゃんと和明君を見てるね」

「…え?」

「ごめんね試すみたいな事して。でも、春香ちゃんが『イジメを止めたいという自分』になりたいだけなんじゃないかと思ってね…イジメってさ、確かに何も出来ないと自分も同じなんだけど、かと言って変に手を出すと、もっと酷い状況になるからさ…和明君のがまさにそれで、下手に助けると…」

「そうなんですか…」

「何より和明君は春香ちゃんを巻き込みたくないっていうのもあるだろうけどね」

 

かーくんが、そうだったから…

 

どこか悲しげに語る雪恵に、春香は何も言えなかった。

 

 

「…この辺か」

 

夜中のとある無人島に、風景に合わないスーツを着こなした青年が音も無く現れた。

青年…前原はビースト細胞の入っているシリンダーを右手で遊ばせながら、島を歩き回る。

 

「…藤原(アイツ)から貰ったコレを試すのに、丁度良いのがここらにいると思うんだが」

 

彼の種族、メフィラス星人の持つIQ1万の頭脳が高速回転する。

 

「奴の出現パターンから予測するに、後数キロ先に…」

 

その言葉の通り、前原がしばらく歩くと、そこに大きな洞窟があった。

不適な笑みを浮かべて進む前原。

洞窟の奥で眠っていた巨大な生物にシリンダーを押し当てると、ビースト細胞を注入していく。

 

《グオアァァァァ!!?》

「元気があって結構」

 

体に異物が入り、苦しむ生物…古代怪獣【ゴモラ】を見て、笑みを深める前原。

目の前でゴモラの姿が変わっていくのを、嬉々とした目で見つめている。

 

「さぁ、遊んでもらおうか。ウルトラマン」

 

 

和明に春香と出会った数日後、一樹は日常品の買い出しにあるショッピングモールに来ていた。

 

「さてと、一夏に頼まれた物はこれで終わったな」

 

外出許可を取るのに時間のかかる一夏や弾に頼まれていた洗濯洗剤をカゴに入れると、自分の目的である歯ブラシのコーナーに移動する。

 

「今回のセール品は…コイツか」

 

特にこだわりの無い一樹は一直線に安物コーナー(ちなみに1本29円だそうな)のを取り、更に歯磨き粉(1本75円)も購入。

 

「あとは…ミオ、雪に何頼まれてたっけ?」

『え〜と…雪恵さんとセリーちゃんも歯ブラシだったと思うよ』

「歯磨き粉は?」

『大丈夫だった筈。まあ最悪、学園内の売店で買えるでしょ。割高だけど』

「…電話してみよう」

『マスターって、本当に倹約家だよね…世界最大級の企業のトップなのに』

「贅沢三昧より良くね?」

『まあね』

 

結果、雪恵とセリーの歯ブラシ(1本250円超え)と歯磨き粉(1本300円程)も購入。

きっちりレシートも貰った所で帰ろうとしたら…

 

「…ん?」

『マスター?』

 

違和感を感じた一樹。感じた本人も上手く説明出来ないが、どこか嫌な感覚だ。

一樹が辺りを警戒していると…

 

「久しぶりだな…あの燃え盛る船以来か?」

 

背後からいきなり声をかけられた。急いで振り向くと、そこには上質なスーツを着こなしている青年、前原がいた。

 

「…何の用だ」

「再会を喜んでくれても良いと思うんだが?」

()()()()()()が共闘した事が漫画以外であったか?」

「マニアックすぎるだろ…一応怪獣使いを助けた事はあるぞ」

「いやお前もだろ…ちなみに俺は某無料動画の解説で知った」

「右に同じく…だ。Wi-Fiとはかなり便利だな」

「随分地球に馴染んでんなこの野郎」

 

*2人は敵同士です。

 

「娯楽に関して、地球はやはりずば抜けている。宇宙でも地球のチェスや将棋、アイドルは大人気だ」

「最後。最後おかしいぞIQ1万宇宙人」

「某ちゃぶ台宇宙人なんだが、最近では大人数アイドルにハマってて、イベント皆勤賞らしい。ファンの中でも、さらにはそのグループメンバーにも有名らしいぞ」

「侵略より全然良いけど、それで良いのか夕焼けちゃぶ台星人」

「ちなみに最近、総合プロデューサーと飲みに行く事が増えたとか」

「もはやそれ関係者じゃねえか。しかも結構上の方の」

 

*繰り返しますが2人は敵同士です。

 

「俺も、最近では某通販サイトの会員で見れる作品にハマってな。シーズン2は涙無しに見れなかった」

「お前名前的にはシーズン1の方だろうが」

「どちらも好きだぞ。だが、完結編の映画まで救いが無かったのが辛かった。好きなのに辛いとはどういう事だ?」

「俺に聞くな。そしてそれには同意だ」

 

*何度も言いますが2人は敵同士です。

 

「おっと、お前とのアマゾンズ談議も楽しいが目的を忘れる所だった」

「お前名前言っちゃってる!隠してた意味!」

「芸人ばりにツッコミを入れてるところ悪いが、お前に挑戦状だ」

「…何?」

「ま、せいぜい頑張ってくれ」

 

パチンッ!!

 

不適に笑いながら、前原は指を鳴らした。

次の瞬間…

 

ドックン

 

エボルトラスターが鼓動を打ち…

 

ドドドドドドドドッ!!

 

「ッ!?」

()()()()()()お前の力、じっくり見させてもらうぞ」

 

一樹が膝をつく程強い揺れが起こった。

そしてこの揺れは、地震ではない。

 

 

《ギャオォォォォ!!!!》

 

大地から、全身が刺々しく改造されたゴモラが出現。ビースト細胞の影響か、目まで鋭い。

近くの高層ビルの上階を、伸縮自在となった尾で破壊したのを皮切りに、破壊活動を開始した。

人々が逃げ回る中に、たまたま友達と遊んでいた春香の姿があった。

 

「みんなこっちだよ!!」

 

友達の手を引き、懸命に走る春香。

その視界の隅に…

 

「お母さ〜ん!!」

 

この状況で、母親とはぐれてしまった小さな女の子が。

春香は友達を先に避難させると、その子に駆け寄った。

 

「大丈夫!?お姉ちゃんと一緒に逃げよ?」

 

 

改造ゴモラを呼び出した前原は既に消えた。

一樹はゴモラの気を引くためにショッピングモールを飛び出すと、ゴモラの背中にバレルをスライドしてからブラストショットを撃った。

 

《グル?》

 

そこそこの威力があったためか、ゴモラが一樹に目を向けた。

 

「そうだ…こっちに来い」

 

もう一度ブラストショットを撃つと、避難してる市民から離れる様に走り出した。

変身してメタ・フィールドを張ろうにも、市民との距離が近すぎる。

 

《オォォォォ!》

 

ゴモラも一樹を狙う事にしたのか、その後を追う。獲物を狙う獣の如く、じわじわと。

一樹にとって、それは好都合だ。

 

『一樹!無事か!?』

『かーくん!今どこ!?』

 

学園から急ぎ出撃してきたチェスター隊が現場に到着した様だ。

 

「ナイスタイミングだお前ら。コイツをポイントOS928に誘導してくれ。そこでケリを付ける」

『『『『了解!』』』』

 

誘導をチェスター隊に任せると、一樹は一旦ビルの影に隠れた。

デュナミストの力で、辺りを見回したその時。

 

「春香ちゃん!!!!どこ!!!?」

 

そう叫びながら走り回る少年を見つけた。

【春香】という少女を探しているらしいが…

 

「…チッ」

 

探す気持ちも分かるが、あの少年の動き方ではゴモラの視界に入り危ない。

 

「一夏悪い。ちょっと悪ガキの面倒を見てくる。そこ任せて良いか?」

『合点!!』

 

ゴモラの気を引く程度に攻撃するチェスター隊を横目に、一樹はその少年のところへ走り出した。

 

 

時は少し遡る…

和明がそのショッピングモールにいたのは、本当に偶然だった。

施設の職員に頼まれた買い物がそのモールに行かなければ買えなかったので、態々足を伸ばしたのだ。

 

「ついてないなぁ…」

 

滅多に来ないショッピングモールに来たら、滅多に現れない(現れても困るが)怪獣が暴れ始めたなど、不幸以外の何物でもない。

不幸中の幸いなのは、買い物を素早く終わらせてモールから出ていた事だろうか。

和明は避難誘導に従ってその場から離れようとしていたが…

 

「和明君!」

「ん?」

 

どこからか自分を呼ぶ声が聞こえた。

足を止めて辺りを見回していると、春香の友人たちが駆け寄って来た。

 

「春香ちゃん知らない!?」

「…見てないけど」

 

彼の本能が警鐘を鳴らしていた。

【急げ】と…

 

「春香ちゃん、迷子を助けに行ってから全然戻ってこないの!!」

「それは、どこら辺で?」

「モールのインフォメーション辺り!」

 

その言葉を聞いた瞬間、和明は避難誘導とは逆に走り出した。

それに、ひとつの影が追従している事に気付かずに。

 

 

「ありがとうございます!!」

「お姉ちゃんありがとう!!」

「どういたしまして。早く逃げて!」

 

何とか少女と母親を会わせる事が出来た春香。

 

「さて、私も逃げないと…」

 

《ギャオォォォォ!!》

 

ゴモラが吠えたのを聞き、春香の動きが止まってしまった。

ゴモラがその伸縮自在の尾を伸ばして1回転し、春香の近くの高層ビルを破壊。

破壊された上階部分が春香に迫るが、春香は腰が抜けて動けない…

 

ドォォォォォォォォン!!

 

春香のいた辺りに、上階部分が落ちた。

 

 

「春香ちゃ…フガッ!?」

 

無警戒に大声を上げて春香という少女を探していた少年を、一樹は黙らせながら確保した。

 

「な、何しやがる!?」

 

一樹が呼吸の為に口元を開けると、少年が文句を言いながら肘打ちをしようとしてきた。

その肘打ちを左手で止めると、右手で頭を鷲掴みにして睨む一樹。

 

「何してるはこっちのセリフだクソガキ。今どんな状況か分かってんのか?」

 

一樹の冷たい視線に、やたら強気でいた少年が一瞬黙る。

が、すぐに立て直して食ってかかってきた。

 

「うるせえ!あんなのに俺が殺される訳無いだろ!なんたって俺は▽▽建設会社社長の息子、鹿浜馬之助様だからな!」

 

自信満々に言う少年。父親の会社名と役職を聞き、和明を標的にしていた阿保である事が分かった一樹。

しかし、今そんな事を言ってられる場合ではない。

 

「どこの息子だろうが関係ねえよ。今この場においてお前がいる事がどんだけ迷惑か考えろって言ってんの」

「はぁ?迷惑ぅ?俺は春香ちゃんを助けるヒーローだぞ?」

 

ここで漸く、この馬之助とか言う馬鹿者の言う【春香】が先日出会ったあの少女の事である事が分かった一樹。

 

「春香って奴を助けたいなら、尚更早く避難しろ。あの怪獣の誘導がしにくくなる」

「嫌だね。俺に命令出来るのは父さんだけだ」

 

あまりにくどいこの馬鹿に、一樹はジョーカーを切る。

 

「…お前の親父さん、▽▽建設の社長だったっけ?」

「そうだって言ったろ」

「▽▽建設が、どこの会社の傘下か知ってるか?そもそも傘下って言葉分かるか?」

「は?S.M.Sだろ?それくらい知ってらあ」

「この上着、何だか分かる?クソガキ」

 

一樹の言葉に、馬鹿が一樹の上着を見る。

その胸元にある、【S.M.S】のロゴに、馬鹿の顔が青ざめていく。

 

「こういうの、俺らの仕事でもあるんだ。それを邪魔したって俺が報告すれば、親父さんの会社はどうなるのかね?」

 

無論その程度で一樹が傘下から外す事は無いが、子供心には効いたらしい。

 

「そ、そんなのお前がなんとかしろよ!」

 

効いたが、まだ自分が絶対だと言うなんとも迷惑な思考をお持ちの様だ。

堪忍袋の尾が切れた一樹は、力ずくで行く事にした。

 

「邪魔だって言ってんだよクソガキ」

「イダダダダダ!?」

 

アイアンクローをしながら強制的に連行していたその時。

 

けて…

 

「ッ!?」

 

一樹の優れた聴覚が、僅かに声を捉えた。

 

「な、何だよ」

 

いまだアイアンクローをされているが、急に歩みを止めた一樹を不審に思う馬鹿。

しかし一樹はそれに構わず、全神経を耳に集中させる。

 

たす……て

 

「近いな…」

 

声が聞こえる方向を何気なく見た一樹。

 

「夏風!」

「あ、おい!」

 

一瞬拘束が弱まったのを見逃さず、馬之助が一樹のアイアンクローから逃れて走り出した。

 

「夏風!」

「鹿浜…」

 

駆け寄ってきて早々に胸倉を掴んできた馬之助に、和明は呆然とする。

 

「お前、春香ちゃんをどこへやった!」

「…は?」

「とぼけんな!この怪獣だって、お前が呼んだんだろ!自作自演の救出劇のために!」

 

あまりに頓珍漢な事を言う馬之助に、和明は開いた口が塞がらない。

尚も和明に詰め寄る馬之助。

興奮のあまり、どんどん声が大きくなっている。

それは、一夏たちが必死に食い止めていたゴモラの耳に入るくらいに…

 

《グルルル…》

 

和明達の存在が、ゴモラに気付かれた。

いち早くそれに気付いた和明が、馬之助の腕を掴んで走り出す。

 

「おい!何すんだよ!」

「お前のバカ声のせいでアレに気付かれたんだよ!お前みたいなクズ野郎でも目の前で死なれたら目覚めが悪いからな!」

「は?お前がアレを止めれば良いじゃねえか」

「どうやってだよ!?」

「止まれー!って言えば?」

「お前の頭が飾りだって事はようく分かった」

「え?じゃあアレは…」

「俺は何も知らない。死にたいなら勝手にしろ」

「…嫌だァァァァ死にたく無いよォォォォ!!お母さァァァァァァァァん!!!!」

「テンプレにも程があるだろ!?」

 

先程まで強気だった馬之助が、現実を知って泣き叫んだ。

これでも小5である。かなり甘やかされて育ってきたのだろう。

見捨てるのも後味が悪いので、やむを得ず腕を引いて建物の影に隠れる和明。

騒がれる前に、馬之助の口を頭蓋骨が浮かび上がる程強く掴んで黙らせる。

 

「…オイ。死にたくないだろ?」

「…!…!」コクコク!

「春も死なせたく無いだろ?」

「!…!…」コクコク!

「じゃあ俺の言う事が聞けるか?」

 

それに躊躇う馬之助。和明は自分でも驚く程の腕力で馬之助を持ち上げると、ゴモラ目掛けて投げようとする和明。

 

「ま、待て!待ってくれ!聞く!聞くから!」

「上から目線が気になるけどしょうがねえ。言う事はひとつだ。お前が居ても邪魔だからさっさと逃げろ。でないと…春が死ぬぞ」

「そ、それは…」

「往生際が悪いんだよクソガキ」

 

渋る馬之助は、背後からの当て身によって気絶させられた。

当て身を放った人物、一樹は馬之助を小脇に抱えると、和明に視線を向ける。

 

「…よお、また会ったな」

「一樹さん…」

「一応仕事だから言うぞ。ここから逃げろ」

 

帰ってくる答えが分かってるのだろう。淡々という一樹から目線を逸らさずに和明はいう。

 

「嫌です」

「…」

「春がまだ避難出来てない…俺だけ逃げる訳にはいかない」

「……」

 

無言で和明を見ていた一樹だが、不意に馬之助を担ぐ。

和明に背を向けて歩き出すと、振り向くことなく和明にアドバイスを送る。

 

「…覚悟を決めるのは構わないが、決める覚悟が違うぞ」

「…え?」

「お前は今、『()()()()()()()()()()()()』って思ってるだろ?」

「……」

「経験者だからな。それくらい分かる。だから言えるんだけどな…その認識を改めろ。『自分も春も生きる』にな」

 

それだけ告げると、一樹は馬之助を連れて歩き出した。

 

「俺、生きたいって思って良いのかな…?」

「駄目な()()はいねえよ」

「ッ!?」

 

ボソリと呟いた和明の言葉に、一樹は背を向けたまま応えた。

驚く和明を他所に、一樹は馬之助を運んで行った。

 

 

『マスターが一般人を現場に残すなんてね』

「…本当に、同じなんだよ。俺と」

 

馬之助をレスキュー隊に引き渡した後、誘導ポイントに急ぐ一樹。

先の行動を珍しく思ったミオの言葉に、感慨深気に答える。

一夏からの連絡で、あと少しでゴモラは誘導ポイントに到達するらしい。

そこからは、彼の出番だ。

 

「それに…さっきあの馬鹿を気絶させた時、アイツの襟に発信器を付けといた。場所はすぐ分かる」

『流石マスター!置いていくのはプロとしてどうかと思うけど!』

「お前が俺に喧嘩を売ってるのはよくわかった。覚悟しておけ」

『理不尽!?』

 

身軽になったとはいえ、フリーダムを使える状況では無い。瓦礫を飛び越えたり、時にビルの壁を走ったりして移動していく。

ゴモラがポイントに着くまで、あと少し…

 

 

一方の和明。

ゴモラの位置を常に警戒しながら春香を探す。

先程すれ違った親子の話によると、逸れていたところを和明くらいの女の子に助けられたらしい。

こんな状況でそんな行動が取れるのは、和明は春香しか知らない。

 

「あの人の話の通りなら、この辺りに…!」

 

和明の目にまず入ったのは、崩れて落ちてきた瓦礫だ。

そしてその下に…

 

「春!!」

 

頭から血を流している春香の姿が。

急いで駆け寄る和明。

 

「(良かった…脈はある)」

 

かじった程度の知識だが、春香の脈があるのを確認すると、自らのシャツの袖を引きちぎり、止血を行う。

 

「春…絶対助けるから」

 

幸い、足が挟まれていたりはしておらず、ゆっくりと引けば瓦礫の下から救出出来そうだ。

問題はぐったりしている春香を、和明1人の力で引き出せるかどうか。

 

「(意識の無い人は重いって知ってたけど、こんなにだなんて…!)」

 

春香に余計な傷が付かないように、出来るだけ破片を退かす和明。

己の手が血だらけになっている事は気にせずに、とにかく春香を助ける事に集中する。

 

「かず…ちゃん…?」

 

ここで、春香の意識が戻った。

ホッとする和明。

傷が痛まない、そして和明の血でなるべく汚れないよう気をつけながらそっと頭を撫でる。

 

「ごめん、お待たせ」

「…遅いよぉ」

「だからごめんって。出れる?」

「…うん」

 

何とか自力で瓦礫から這い出た春香。そして、和明の手を見て愕然とする。

 

「かずちゃん…その手」

「大丈夫。かすり傷だから。何なら春の方が重傷だよ」

「でも…」

「うだうだ言ってる場合じゃないよ。とにかく今は逃げなきゃ」

 

春香の手を握って立たせようとするが…

 

「痛っ…」

 

足を痛めているのか、春香が蹲る。

素早く春香の前に屈む和明。

 

「乗って!」

「え?私重いよ?」

「意識がある人はそんなに重くないから大丈夫!」

「何その理屈!?」

 

 

『誘導ポイントに到達!いつでも行けるぜ一樹!』

「ありがとな!んじゃ、()()()でも頼むな!」

『合点!』

 

一夏との通信を終えると、懐からエボルトラスターを取り出す。

 

『それじゃマスター!2年と数ヶ月振りにいきましょう!』

「ちょっと何言ってるか分かんねえ」

 

ミオのメタ発言をスルーし、一樹はエボルトラスターを引き抜いた。

 

 

「デェアァァァァ!!」

《グルアァァァァ!?》

 

変身の勢いを利用した飛び蹴りを放ち、改造ゴモラを怯ませた。

 

 

「見てかずちゃん!ウルトラマンだよ!」

「…あれが、ウルトラマン」

 

ウルトラマンを指差す春香と、その姿にどこか既視感を感じる和明。

 

 

「シェアッ!」

《キシャアァァァァ!》

 

改造ゴモラに向かって、力強く構えるウルトラマン。対するゴモラも、敵と認識したウルトラマンに吠える。

 

「フッ!」

 

不意打ち気味に地面から飛び出てきた改造ゴモラの尾をバック転で避けると、素早くジュネッスにチェンジした。

 

「フッ!シェアッ!」

 

改造ゴモラの尾の被害を食い止めるため、ウルトラマンはメタ・フィールドを展開する。

 

「シュウッ!フアァァァァ…フッ!デェアァァァァ!!」

 

 

メタ・フィールドが広がっていくのを、前原は少し離れたところで見ていた。

その手には、前原お手製の機械が。

 

「…なるほど。これが噂のメタ・フィールドか。メフィラス星のデータに無いということは、今まで闘り合ってきたウルトラマン達とは特に違うようだな」

 

メタ・フィールドのデータを正確に取りながら、前原は不敵に笑っていた。

 

 

一方、メタ・フィールド内ではウルトラマンが優位に戦闘を進めていた。

チェスター達の援護が効果的という事もあるが、ゴモラが尾以外の遠距離攻撃をしてこれないのに加え、メタ・フィールドに入ってから異常に動きが遅くなっているのが大きい。

ウルトラマンを串刺しにしようとその鋭い尾を伸ばしてくるが、軌道が直線的なためウルトラマンは簡単に避ける。続けて横薙ぎに振るってくるのを前転で避け、起き上がりと同時にゴモラの顎にアッパーパンチを叩き込む。

 

「デェア!」

《グルアァ!?》

 

アッパーパンチがよっぽど効いたのか、ゴモラは大きく吹き飛ぶ。

 

「シュッ!」

 

油断なくウルトラマンが構えていると、ゴモラはゆっくり立ち上がり…

 

《グオォォォォ…》

「フッ?」

 

どこか哀しげな声を出した。

先程までの鋭い目も、若干丸くなっている様にも見える。

 

「この感じ…セリーちゃんと同じ?」

 

α機の雪恵の言葉がウルトラマンの耳に入ったのだろうか。ウルトラマンは構えを解くとゴモラとテレパシーで会話を試みる。

 

【……けて】

【た……て】

【…すけ…】

 

た す け て

 

「…」

《グ、グオォォォォ!》

 

ウルトラマンに助けを求めるゴモラ。鋭かった目は完全に丸くなっている。

その鳴き声は、どこか苦しそうだ。

 

ピコン、ピコン、ピコン

 

コアゲージも鳴り始め、メタ・フィールドの維持限界が近づいている事を知らせてくる。

ウルトラマンはゴモラを注意深く観察し…

ゴモラの腹部に、ビースト細胞を発見した。

すぐさま両手を胸の前でクロス。大きく弧を描く様に広げて構えた後、右拳に金色の光を集め、ゴモラに向かって突き出した。

 

「フッ!ハアァァァァ…デェアァァァァ!!」

 

金色の光、ゴルドレイ・シュトロームがゴモラの腹部に命中。

ゴモラからビースト細胞を追い出す。

 

「シュウッ!フアァァァァ…テェアッ!!」

 

追い出したビースト細胞の軍団に、コアインパルスを放ち、完全に消滅させた。

 

《クアァァァァ…》

 

ペコリ、とビースト細胞が抜けて元の姿に戻ったゴモラが頭を下げる。ウルトラマンはそれに頷いて返すと、メタ・フィールドを解除しながら消えていった。

 

 

「さて…お前はこれからどうする?」

 

変身を解いた一樹の目の前には、膝くらいの大きさに縮んだゴモラの姿が。

メタ・フィールドを解除したら自然に帰ると思っていたのだが、ゴモラは一樹を気に入ったらしい。

すりすり、と一樹に懐くゴモラの頭を撫でていると、人の気配が近づいてきた。

 

「…やべ。とりあえずパーカーのフードに隠れてじっとしててくれ。いいな?」

 

一樹の言葉に頷くと、ゴモラは素早く一樹の体をよじ登り、フードの中へと隠れた。

 

「おーい一樹ー!」

「かーくん!帰ろ〜!」

 

しかしそれが仲間だと分かると、一樹はゴモラを肩に移動させた。

 

「…また懐かれたの?」

「まあ、な」

「どうするんだ?」

「流石に学園じゃ飼えないからなぁ…」

 

少しの間考えた一樹の出した結論は…

 

 

「という訳で、ゴモラを【アサガオ】の番犬にしてくんね?」

「あのですね義兄さん。ここは一応養護施設なんですよ?義兄さんの仕送りで運営してるので大きな事は言えませんが「あ、もう子供達に懐いてる」順応性が高いのは誰のせいでしょうかねぇ!!」

 

舞の説教の間に、ミニゴモラは子供達とアサガオの庭で遊び始めた。

きちんと力加減を考えているあたり、それなりに賢そうだ。

一樹は舞を宥めると、指笛でミニゴモラを呼び寄せる。

そして、膝をついてゴモラの目を真っ直ぐ見ながら話し出した。

 

「…俺がいない間、ここの子供達も守ってくれないか?ここは、俺の家なんだ」

《クアァァ》

「…ありがとな。あと、舞の言う事は絶対に聞く事。出来るな?」

《クアッ!》

 

任せろ、と鳴くゴモラの頭を軽く撫でると、一樹はアサガオを後にして、もう一つの目的地に向かう。

 

 

「よお、調子はどうだ?」

「あ、一樹さん。俺たちは大丈夫だよ」

 

アサガオを後にした一樹が向かったのは、和明と春香が検査を受けていたS.M.S総合病院だ。

特に異常が見つからなかったため、軽い治療だけで済んだようだ。

 

「守れて良かったな」

「うん。一樹さんのおかげだよ」

「どうだこの後。雪と春香を呼んで焼肉でも行かないか?」

「良いの?」

「もちろんだ。財布を呼ぶ」

「誰?」

「世界で最初に見つかったIS操縦者」

 

その後、呼ばれた一夏では払いきれない金額になったために、結局宗介と一馬が呼ばれたのは別の話。

 

 

「面白いデータが取れた。次は細胞を植え付ける対象を変えてみるか」

 

前原は満足げに端末に映るデータを見る。

その前原が不気味な笑みを浮かべていたのは、誰も知らない…




ちなみに…今回出てきた改造ゴモラに関しては、【ウルトラマンFER 改造ゴモラ】でググってください⇦オイ



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Episode140 暗殺者-ゼラ−

更新が約一年止まってるのはどこの大馬鹿野郎かな?



僕です(土下座)


何故ご主人様の言うことが聞けないの?

 

やだよ…意味も無く殺すなんて

 

能力があるのに、それを使う個体がこれじゃねぇ

 

私は別に()()()みたいに殺し回りたいわけじゃないもん

 

何アンタ、ご主人様が用意してくれた【アロン】を倒せなかったですって?テストに出てくる最弱怪獣すら倒せないなんて、私たちゼットンの恥よ。

 

あのアロン、【生きたい】って泣いてたんだよ。だから助けたのに…それがいけないことなの?

 

アッハッハ!!アンタ捨てられるんですって!そりゃあそうよね!!殺戮こそがゼットンの生きがいなのに、それをしないなんてもはやゼットンじゃないわ!!アンタみたいのをね、出来損ないって言うのよ!!

まあ、あの世で見てなさい…この私が、ゼラが全宇宙に恐怖と絶望を与える時代を!!!!

 

私は、捨てられる…

そうか…私は…

イキテルイミガナインダ…

 

 

「起きろセリー!!」

「ッハ!?え?え!?ここ…」

「俺が分かるか?とりあえず分かんなくても深呼吸しろ。良いな?」

「わ、私…出来損ないって…いらないって…」

「セリー…深呼吸を、しろ」

 

徐々に寒さを感じる様になってきたある日の真夜中、いつものように夜通しの警戒をしていたら突然セリーが苦しみ出した。

慌てて起こすも、自分が今どこにいるかも理解していない様子を見て、相当な悪夢を見ていたのだと察すると、()()の時の圧を一瞬だけ出した。

この圧によって、セリーは一樹の存在を認識。

賢明に深呼吸をしようとするが、悪夢の影響がまだ残っているのか、どうしても過呼吸気味になってしまう。

最終手段として、エボルトラスターを取り出した一樹。

エボルトラスターから光を発すると、セリーの前に掲げる。

数秒後、光の効果でセリーが落ち着いていく。ホッとひと息つくと、背中をさする一樹。

 

「…大丈夫だ。俺はここにいる。セリーもここにいる」

「カズ、キ…?」

「そう、一樹だよ。んで、そこで呑気に爆睡してんのが雪」

そこそこの声量で話しているというのに、雪恵は幸せそうに眠っている。

ここまで眠りが深い事に、最初は気が気でなかった一樹だが、目覚まし時計の音には反応するので、最近はその謎の方が気になっているのは完全な余談だ。

 

「昔の夢、見てた…」

「そうか」

「内容、聞かないの…?」

「聞いてほしいのか?」

「…ごめん」

「いや、気にすんな」

 

一樹だって聞かれたくない事は山ほど…いや、星の数ほどあるのだ。

なのに人には話せなどと無責任な事は言えない。自分も話さなければならなくなるから。

本人が話したいと言うなら、話は別だが。

 

トクン、トクン…

 

「…」

 

セリーを落ち着かせていると、懐のエボルトラスターが鼓動を打つ。

それに導かれるままに、窓際に寄ると…

 

「(この感じ…()()()()さんからか?)」

 

夜空にウルトラサインが浮かび上がっていた。

一樹が一体化しているウルトラマンは()()()()なので、ウルトラサインを出す事は出来ないが、読む事は可能だ。

 

【宇宙に不穏な動き有り。注意されたし】

 

「(ゾフィーさんが俺宛にウルトラサインを出すって事は…かなりやべえ奴が動いてるみたいだな)」

「カズキ…?どうしたの?」

「…ん?()()さんから連絡が来た」

「隊長?隊長…ってことは!」

「多分合ってる。今宇宙がきな臭いから用心しろってさ」

「そうなんだ…」

「ホットミルクでも飲むか?落ち着くぞ」

「…ん。欲しい」

 

セリーにホットミルクを、自分にホットコーヒーを用意しながら、今後の動きを考える一樹。

 

「(とりあえずしばらく様子見か…明日さっそく雪と一夏、千冬と束に声を掛けたらちょっと出歩いてみるかな)」

 

 

彼の行動は早かった。

朝のトレーニングをしている織斑姉弟を皮切りに、不健康な引きこもりをしてる兎、そして幼なじみと妹分にしばらく留守にすることを伝えると、S.M.S本社に行って仮眠を取ってから動きだした。

 

 

一方の雪恵&セリー。

以前から予定していたセリーの冬物の服を買いにレゾナントに来ていた。

ちなみに、他の人(特にシャルロット)が来たがっていたのをセリーが火球を出しながら断っていたのは完全な余談である。

 

「セリーちゃんはどんなのが欲しい?」

「安くて動きやすいの」

「…かーくんに似てきたなぁ」

 

雪恵の問いに即答するセリー。その内容に頭を抱える雪恵を余所に、セリーは真っ直ぐに量販店に向かおうとする。

 

「ちょ、ちょっとセリーちゃん!この間ほどじっくり見なくて良いから、お店は全部見ようよ!」

「えぇ…」

 

心底嫌だというのを隠しもせずに、ジトッとした目を向けてくるセリーを、雪恵は必死に説得したのだった。

 

 

「ん、結構良いのあった」

「良かったねセリーちゃん。可愛いのいっぱいあって」

「でも、雪恵のお古で良かったのに…良いの?」

「キチンとかーくんから許可は貰ってるよ。安心して」

 

そんな楽しい日常を過ごしている時こそ、無粋な連中は現れてしまうのだ。

 

「ッ!?」

 

先にソレに気付いたのはセリーだ。

何故なら…昨晩の悪夢でもソレを感じたから。

この肌に纏わり付く様な、粘着質な殺気を放つ生物を、セリーは1体だけ知っている。

 

「光の波動を辿ってみればまさかアンタがいるなんてね…出来損ない」

 

その声に、セリーはゆっくり後ろを向く。そこにいたのは、黒いパンツスーツに身を包んだ長身の女性。一見出来るOLだが、その鋭い眼光と全身から発せられている覇気がそれを否定する。彼女は、かつてセリーと同じところにいた。当時のセリーは名を与えられず、数あるゼットンの一体に過ぎなかったが、彼女は違う。バット星人から直々に名を与えられていた。その名を…

 

「ゼラ…なんで…あなたが…」

 

雪恵を守るために、前に出るセリー。バット星にいた頃の実力は、セリーが本気を出せば拮抗していたが、恐らく今はゼラの方が強いだろう。それでも、引く訳にはいかなかった。

 

「愚問ね。私がこんな辺境の星に来る理由なんてひとつよ」

 

_____ウルトラマンの、抹殺

 

「「ッ!?」」

「ここのウルトラマン、相当出来るみたいね。この私が観光がてらとはいえ、情報を集めてもあんまり有力な情報が入ってこないなんて。だからやっと感じた_____といってもかなり集中しないと分からないけど_____光の波動を辿っていたらアンタ達がいた。ウルトラマンの正体を知ってそうなね…丁度良いわ。出来損ない、アンタウルトラマンを呼ぶ餌になりなさい。抵抗したら…分かってるわよね?」

 

そこでゼラは、セリーが庇っている雪恵を見る。その意味を察したセリーは、ゆっくりと雪恵に荷物を渡す。

 

「ごめんユキエ。私行くね」

「セリーちゃん!?でも」

「大丈夫」

「大丈夫な訳…!」

「お願い」

 

セリーはそっと雪恵から離れると、ゼラの方へしっかりと歩きだした。

 

「行くなら早くして。人がいないところへ」

「アンタが命令するな…まあ、そうでないとウルトラマンとタイマン出来ないし…良いだろう。そこの人間。コイツに死んで欲しくなければウルトラマンを宇宙座標SCD501に来させろ」

 

一方的に告げると、ゼラはセリーの肩を掴んでテレポートしていった。

ゼラの姿が消えた途端、崩れるように座り込んだ雪恵。泣きながら、一樹へと電話する。

2コール程で一樹は出た。

 

『おう雪。どした?セリーの服の金足りなかったか?』

「かーくん…あのね_____」

 

 

「宇宙座標SCD501…確かにそいつはそう言ったんだな?」

『うん…』

 

電話口の雪恵に聞こえぬよう、小さく舌打ちする一樹。思ったより相手の動きが早い。しかしながら雪恵の話しによれば、相手はこちらとの1対1を望んでいるらしい。それがまだ救いだ。

 

『ねえかーくん…宇宙座標SCD501ってどこ?』

「まだ確認してねえけど、確か国内の無人島のひとつだった筈だ」

 

『わ、私も「ダメだ」でも!』

 

「セリーを助けたいのは分かる。そんで俺の心配をしてくれてる事も分かる。けどな、今回は相手が悪過ぎる。雪も知ってると思うけど、ゼットンってのはテレポートを得意とする種族なんだ。しかも特に体力的負担が無い感じでな。あんな厄介な奴を相手するのに、正直チェスター達が来られるとむしろ怖くて戦いにくい。だから、今回は来ないでくれ…」

『…分かった』

「ごめん、ありがとな…」

 

雪恵の返事が聞けた所で、一樹は人気の無い所でストーンフリューゲルを呼び、指定されたポイントへ急ぎ向かった。

 

 

「まさかこんな辺境の星にいるなんてね。出来損ないのアンタらしくて笑いが止まらないわ」

「…勝手に笑ってれば?」

 

ゼラのアジトの洞窟で、特に拘束もされず放置されているセリー。

セリーに逃げるつもりが無いことを理解しているからだろうか。

 

「そう言うゼラこそ、仕事だからって地球に来るなんてね」

「アンタは知らないのよ。あのウルトラマンの首が裏でどんな価値を持っているのかね…分かりやすく言うなら、あの六兄弟に匹敵しつつあるわよ。アイツを仕留めれば、私の名は宇宙全域に広まる。その後でじっくりと、ウザイ宇宙警備隊を料理してやる」

 

ゼラの言葉に吐き気を催しかけたが、ふと洞窟の入り口に気配を感じた。ゼラもそうなのか、ただでさえ鋭い眼光がより凶悪さを増していた。

 

「なるほどな。要するに俺を踏み台にしてあの人たちに宣戦布告するつもりだったのか」

 

洞窟に響くその声に、セリーは安堵を覚え、ゼラは警戒を強くする。

 

「よお、お望み通り来てやったぜ?」

「…テメエが噂のウルトラマンか?まだガキじゃねえか」

「まあ、宇宙の感覚的にはガキどころか下手したら赤ん坊なのは間違いないな」

 

宇宙の高校生て6800歳くらいらしいし、と飄々としている青年…櫻井一樹。

 

「…違うな。お前はガキじゃねえ。ガキにしては隙がなさ過ぎるし、何よりそんな()()眼をしてる筈がねえ」

「…ただの狂人じゃねえんだな。流石、今宇宙警備隊に警戒されてる殺し屋なだけある」

「当たり前だろ。相手の力量を測るのは初歩中の初歩だ。それが出来ない奴はさっさと死ぬ。お前みたいな奴にやられてな」

 

ゼラは凶悪ではあるが、馬鹿ではない。相手の力量を読み、不意打ちが()()()()()()()者と、()()()()()者を分ける。

ゼラとしては、通用しない者の方が面白い。そういう強者こそ、戦って勝つ事に意味がある。対して不意打ちが通用してしまう者は面白みが無いので一瞬で消す。そこそこ長く暗殺者をしてきているが、ほとんどが不意打ちで倒せてしまっている…だから、ゼラにとって一樹は久方ぶりに見る強者なのだ。

少し、()()()()と思う程には。

愛用の鎌を取り出して一樹に突っ込む。首を狙って振るわれた鎌は、エボルトラスターの鞘で受け止められた。

 

「…お宅の挨拶は別れの挨拶も兼ねてるのか?」

「良いねえ…お前、やっぱアタリだよ!!」

 

凶悪な笑みを浮かべて次々と鎌を振り回すゼラ。対する一樹は、あくまで鞘で受け止めるか避けるだけだ。

 

「何だよノリ悪いな!もっと遊ぼうぜぇ!」

「あいにく、あまり友人がいないから遊びとやらを知らないんだよ」

 

防御に徹する一樹につまらなそうに文句を言うゼラ。

それに一樹は無表情で返す。

 

「こんにゃろ!」

 

今まで首を狙っていたゼラ。そこで軌道を変えて、鎌を振り下ろしてした。

 

「……」

 

対する一樹は半歩下がって鎌の軌道から逃れる。間合いを完全に把握しているから出来る動きに、ゼラは激昂する。

 

「テメエぶっ殺す!!」

 

鎌をもう一振り取り出し、本気で一樹の首を切ろうと襲い掛かる。

 

「チッ…」

 

初めて一樹の表情が動いた。

極力エボルトラスターの鞘で受け流すようにしていたが、ここにきて大きく回避行動を取るようになった。

 

「(知能のある戦闘狂はやっぱ面倒だな…!)」

「お?良い動きするようになったじゃねえか!後は攻撃してくれば完璧だな!」

 

あまりゼラに手札を見せたくない一樹。しかし、やむを得ない。

 

「それは邪魔だ」

 

ゼラの左手にある鎌を、ブラストショットで撃って持ち手から破壊する。

 

「あ?」

「隙だらけ」

 

鎌が破壊された事で動きが止まったゼラの腹部に拳を喰らわす。

 

「ガハッ!?」

「もう一丁!」

 

蹲ったゼラの側頭部に、渾身の回し蹴り。

 

「グハッ!?」

 

一樹の攻撃は、見た目以上に重い。ゼラの意識が、一瞬飛びかける程には。

 

「(暗殺に慣れすぎて、戦闘術を忘れてるのか?なら、今のうちに!)」

 

ブラストショットをゼラに連発。

 

「ッ…ちくしょう!」

 

数発喰らったが、その後はバリアを貼って耐えたゼラ。

バリアを貼られては、生身の一樹に攻撃を当てるのは難しい。舌打ちをすると、この狭い洞窟から出る事を決断する。

ブラストショットでゼラを牽制、何とかセリーの隣へと移動した。

 

「セリー、とりあえず洞窟から出るぞ」

「分かった」

 

セリーの手を取り、外に出ようとした瞬間。ゼラの火球が一樹に向かって放たれた。

 

「ッ!?」

 

咄嗟にセリーを突き飛ばしてから反対に飛び込む事でその脅威から回避する。

続けて連続で放たれた火球の内、自分達に向かってくる火球をブラストショットを撃って消滅させるが…

 

「カズキ!洞窟が崩れる!!」

 

2人から逸れた火球の影響で、洞窟が崩れ始めた。セリーならともかく、一樹は生身のままで耐えられる筈がない。

 

「…脱出するぞ」

「うん!」

「させると思うか?」

 

己の周りにバリアを張り、一樹に近づくゼラ。この崩落で一樹を潰すつもりらしい。

セリーのテレポートで逃げるためには、一樹かセリーのどちらかが触れなければならない。

そしてゼラ程の実力者であれば、それに合わせて攻撃する事も可能だろう。

となれば…

 

「…それしか無いよな?」

 

エボルトラスターを引き抜く体制に入る一樹。もう少しゼラの攻撃性を確認したかったが、そうも言ってられない。既に、この洞窟がいつまで保つか分からないのだ。

 

「そんじゃ…殺し合おう(遊ぼう)ぜウルトラマン!!」

 

パチン!

 

ゼラが指を鳴らすと巨大化、一樹は岩に潰される前にエボルトラスターを引き抜いた。

 

 

《ゼェットォン…》

 

ゼラが変身したゼットン・デスサイズは、セリーが変身するゼットンよりも、細長い印象を受けた。

そして、最も目に着くのはその両腕の鎌だ。

相手を斬殺するために研ぎ澄まされた両腕が、鈍く光る…

その対面、光の柱から現れたウルトラマン。崩落から救い出したセリーをそっと地面に降ろす。

 

「カズキ…もう分かってると思うけど、ゼラは多分私よりも強い。だけど…勝って!」

 

セリーに頷くと、立ち上がってゼラのゼットンと対峙する。

 

「シェアッ!」

《ゼェットォン…(その出来損ないに何を見出してるのか知らないけど、私の格上げの踏み台になるのに変わりは無い!)》

 

両者、互いに向かって同時に走り出す。

ある程度近づくと同時に飛び上がった。

 

「シュアッ!」

《ゼェッ!》

 

ウルトラマンのエルボーカッターとゼットン・デスサイズの鎌が一瞬すれ違う。

両者共に軟着陸し、再び対峙。

 

「フッ、シェアッ!!」

 

牽制のパーティクルフェザーを放つも、ゼットン・デスサイズはその鎌でパーティクルフェザーを弾き消す。

 

《ゼェットォン…》

 

お返しとばかりに火球を吐いてくる。ウルトラマンは左のアームドネクサスで受け止めようとする。

 

「シュッ!フアァァァァ…」

 

その威力に、ウルトラマンは大分後ろに下げられたが、何とかスピルレイ・ジェネレードで光球に変換、返す事に成功。

 

《!?》

 

流石に返される事は予想出来なかったのか、ゼットン・デスサイズはその光球をまともに喰らい、大きく吹き飛ぶ…かに見えた。

 

「フッ!?」

 

空中で突如消えたゼットン・デスサイズ。今までの経験を活かし、ウルトラマンは素早く後ろを振り向いた。

 

《ゼェッ!》

「シェアッ!」

 

やはり、ゼットン・デスサイズは背後に現れた。首を狙って放たれた鎌を、アームドネクサスで受け止めて前蹴りを返す。

 

《(コレに対応するのか!伊達にあの宇宙警備隊とほぼ同格視されてる訳じゃねえな!)》

 

蹴られた衝撃を利用して下がると、再び姿を消したゼットン・デスサイズ。

 

「シュッ!グアッ!?」

 

背後に現れたゼットン・デスサイズに裏拳を放とうとしたウルトラマン。だが、それを一瞬消える事で避け、空振りしたウルトラマンの正面に再度現れドロップキックを放つ。

ドロップキックをまともに喰らったウルトラマンの体から火花が散り、大きく吹き飛ぶ。

 

《ゼェットォン》

 

ウルトラマンが立ち上がっている間に、連続でテレポートを発動。ウルトラマンを中心に円を描くように、そして近づく毎にテレポートの間隔(かんかく)を短くして接近していく。

 

「……」

 

徐々に接近してくるゼットン・デスサイズを警戒するウルトラマン。

 

《ゼェットォン》

「ハッ!」

 

ウルトラマンの左側に現れ、火球を放つゼットン・デスサイズ。

火球をアームドネクサスで弾き落とし、動揺するゼットン・デスサイズにマッハムーブで接近。

テレポートをさせないために、怒涛の連続攻撃。左右のストレートパンチに続き、右回し蹴り。蹴られた衝撃を利用して離れようとするゼットン・デスサイズには飛びかかる事でそれを許さない。

だが、ゼットン・デスサイズもやられっぱなしではない。

連続攻撃が途切れないと分かるや、ウルトラマンの攻撃を受けながら火球を零距離で連続して放った。

 

「グアァァァァ!?」

 

火球を喰らって吹き飛ばさるウルトラマン。一際大きな火球を喰らって爆発が起きる。

 

「シェアッ!」

 

その爆風の中で水色の光が見えた瞬間、ジュネッスにチェンジしたウルトラマンが。

右足を金色に光らせたシュトローム・ストライクをマッハムーブを併用して放つ。

 

《!?》

 

結果、マッハムーブの速さに対応しきれなかったゼットン・デスサイズの左腕に命中。左腕が吹き飛んだ。

 

「フッ!フアァァァァ…デェアッ!!」

 

左腕を抑えているゼットン・デスサイズに、コアインパルスを放つ。

コアインパルスをまともに喰らい、ゼットン・デスサイズは大きなダメージを負った。

 

《チィ!お前を相手に片腕じゃ勝ち目がねえ…ここは退くか…》

 

させる訳にはいかないと、ウルトラマンはゼットン・デスサイズに駆け寄る。

だが…

 

【面白そうだ。ここは見逃してもらおうか】

 

そんな声が聞こえた瞬間、ウルトラマンを強力なレーザー光線が襲った。

 

「グアァァァァ!?」

 

ピコン、ピコン、ピコン

 

その威力に、ウルトラマンは大地に倒れる。

レーザー光線を撃ったのは…

 

【まだ不意打ちしかお前にはしてないのは謝ろう。だが、俺はお前の面白い戦いをこれからも見たいんでな。邪魔させてもらった】

 

前原の正体であり、M78系ウルトラマンの宿敵とも言える、メフィラス星人だった。

 

《なんだテメエは…?》

【仮にも命の恩人に対する言葉じゃないな。まあ良い。お前を治療して、更なる力をくれてやる。事強化に関しては、俺たちはバット星人よりも優れているぞ】

 

まだウルトラマンが動けないのを良い事に、メフィラスはゼットン・デスサイズに話しかけていた。

 

《何が目的だ》

【今言っただろう?コイツの戦いをもっと見たいんだ。だから、強敵となりうる者はなるべく残しておきたい】

 

何とか起きあがったウルトラマン。マッハムーブを使い、せめてゼットン・デスサイズだけでも倒そうとする。

 

【そのダメージ量の動きでは、幾らお前でも遅いな】

 

それをさせまいと、メフィラスがグリップビームを放つ。

 

「シュウッ!ハッ!」

 

それをスピルレイ・ジェネレードで倍にして返す。

 

【なっ!?グワッ!?】

 

まさか返されると思ってなかったのかメフィラスはそれをまともに喰らってしまい、大きく吹き飛んだ。

 

《ゼェットォン》

「フッ!シェアッ!」

 

メフィラスに集中してると思ったのか、ゼットン・デスサイズがウルトラマンの背後にテレポート。残った右腕の鎌をウルトラマンの首目掛けて振るうが、アームドネクサスでそれを受け止めるウルトラマン。

受け止められたならばと、火球を連続射出するゼットン・デスサイズだが、ウルトラダイナマイトの技術を応用し、全身に火球の炎を纏わせる事で受け流す。

 

《!?》

 

驚くゼットン・デスサイズに前蹴りを喰らわして距離を取ると、全身の炎を右手に集中。光球状にした後、大きく後ろに引いてからゼットン・デスサイズに向かって突き出した。光球はウルトラマンの力が込められた熱線となり、ゼットン・デスサイズに直撃。大爆発を起こした。

 

【チッ…】

 

ゼットン・デスサイズが爆散したのを見ると、舌打ちしながらメフィラス星人は消えた。

 

 

「カズキ、帰ろ?」

 

ずっと一樹の指示で隠れていたセリーが、念動力でウルトラマンの肩に近付いてきた。

ウルトラマンは頷くと、そっと掌をセリーに向ける。

セリーが掌に収まると、IS学園に向かって飛び出した。

 

 

「セリーちゃん!」

「ただいまユキエ!」

「無事で良かったよ!かーくんもおかえり」

「ああ…ただいま。一夏、久しぶりにお前のおでん食いたいんだけど…頼める?」

「まかせとけ。んじゃ買い出し行くか。弾荷物持ちよろしく」

「了解」

 

 

「まさかあの状態からコイツを倒すとは…流石だな」

 

ウルトラマンが飛び去った後、前原はゼットン・デスサイズが倒された所にいた。

辺りを手持ちの機械で調べた後、おもむろに指を鳴らした。

 

パチンッ!!

 

すると、前原の側に禍々しく光る穴が現れた。その穴に、ウルトラマンの力で消滅仕掛けているゼットン・デスサイズの破片が吸い込まれていく。全ての破片が穴に吸収された後、前原は満足気に笑う。

 

「さて、これをどう強化していくかな。まだまだ楽しめそうだ。あのウルトラマンには頑張ってもらわないとな」




約一年、お待たせしました。

どんなに時間がかかっても失踪はしませんので、どうかお付き合いください


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Episode141 琴-ソーズウーマン-

あの要素はなるべく出さないようにしてましたが、ごめんなさい…

映画公開が決定してテンション上がって書き出したら、引き返せなくなったんです…


「はふはふ…やっぱ一夏のおでんは美味いよ。今度は蕎麦打ってくれよ」

「オッケー。季節はちょいと過ぎたけど月見で良いか?」

「一夏のやりやすいので良い。間違ってもそこのバカ共に手を出させるなよ。俺は死にたくない」

 

本来、男子だけで一夏お手製のおでんを食べる予定だったのだが、ハイエナの如く代表候補生たちが現れて何食わぬ顔で参加してるので、一瞬一樹の顔が般若の様になったのは別の話。

 

「ラウラさん、言われてますわよ」

「お前だセシリア。むしろ私はこの中で1番料理上手だと自h「寝言は寝て言えよ?」すいませんでした」

 

料理下手TOP2が醜い争いをしていたが、一樹の殺気により止まる。

それを他所に、雪恵がふと鈴に話しかけた。

 

「ねえ鈴ちゃん。エビチリの作り方教えて?出来れば辛さ抑えめの」

「え?良いけど…何で?しかも辛さ抑えめ?」

「かーくんが食べたいらしいんだけど、かーくんあまり辛いの好きじゃないから」

 

その瞬間、一樹をイジるネタが出来たと悪い顔を浮かべる者が若干名。しかし…

 

箒の場合。

 

「何だ櫻井。お前意外とお子様なんだな」

「うんそうだよーきみのせいかくみたいだねー」

「アベシッ!?」

 

大根を頬張りながら言われ、箒ダウン。

 

鈴の場合

「ププッ、辛い物ダメじゃ薬味系必要ないわね」

「そうですねーところできみのはじめてのりょうりはぼくもやくみないとたべれなかったよー」

「ひでぶッ!?」

 

白滝を食べながら言われ、鈴ダウン。

 

楯無の場合

 

「あらあら。意外と可愛いとこあるじゃない」

「そーでしょーところできみがはるからやってきたことなんだけどさー」

「誠に申し訳ございませんでした!!」

 

ちくわぶを食べながら言われ、楯無土下座。

 

そんな光景を見ながら、一樹に具を取ってやる苦笑気味の一夏。

千冬以上に一夏の料理の腕を知ってる一樹。つまりそれだけ一樹に料理を作ってるので、好みは何なのか分かる。

 

「ほい。シュウマイ巻とちくわぶの追加だ」

「ありがと。やっぱ一夏のおでん、というか料理は好きだ。舞の次にな」

「流石に家庭の味には勝てねえよ」

 

 

 

宇宙のある寂れた星。

バルキー星人は右手にバルキーリングを持って周囲を見回していた。

今、バルキー星人が地球人と同じ体だったら、冷や汗が流れていただろう。

それだけ、辺りには濃密な殺気が漂っていた。

そして____

 

スパッ

 

____バルキー星人は声を発する事も無く、また自分がどうなったのかも分からぬまま絶命した。

 

《…フン》

 

バルキー星人の体が首から下だけになったのを、つまらなそうに見る異星人が1人。

全身を青の鎧に包んだ、地球人でいう戦国武将の様な姿の異星人。

宇宙剣豪、ザムシャー。

強い者と戦い、更なる強さへと至る事だけを求める戦闘狂だ。

いや、()()()()()()

 

《ここの者も大した事無かったな…》

 

エコーがかかったような声が響く。愛刀である【星斬丸】を血振りしてから鞘に納めると、砂埃が舞う空を見上げる。

 

《そろそろ行くか…地球へ》

 

 

「めぇぇんッ!!」

「遅い」

 

剣道場の一角。防具を纏った箒が竹刀を全力で振り下ろす。相手は制服姿の一樹だ。箒の一撃をスポーツチャンバラの柔らかい剣で横に流すと、隙だらけの面を叩いた。

 

「一本!勝者櫻井一樹!…で良いの?」

「上出来だよ雪」

 

審判をしていた雪恵が不安そうな顔で一樹に聞く。セリーから受け取ったタオルで汗を拭きながら答える一樹。そして、タオルのひとつをいまだダウンしている箒に投げ渡す。

 

「ほら篠ノ之。さっさと起きろ」

「少し…待ってくれ…かれこれ2時間はやりっぱなしなんだぞ?」

「お前が相手しろって言ったんだろうが。防具を付けないなんて舐めるなとか言ってたが、1回も当たる様子は無いし、何より俺はスポーツの剣道で相手するつもりは無いからな」

「くっ…休憩したらもう一回だ!」

「えぇ…せめて弾に一撃当ててから言えよ」

「勝負だ五反田!

「ふざけんな一樹!」

 

あっさり弾を切り捨てて、剣道場から出る。

テテテと一樹に着いてくる雪恵。その腕を取ると、笑顔を浮かべる。

それに笑みを返していた一樹だが、ふと思った事を聞いてみた。

 

「なあ雪。何で篠ノ之の対戦してる時防具を着てなかったことを怒らなかったんだ?」

 

その一樹の問いに、雪恵は苦笑気味に答える。

 

「織斑君と前やってた時に文句を言って、箒ちゃんとの時に言わなかったのは…実力かな」

「納得したわ」

 

煉獄で一樹と共に戦えた一夏と、花澤1人に対し8人で挑んでも勝てなかった箒が同じ実力の筈が無い。更に一夏より強い一樹が、箒の攻撃を喰らう訳もない、というのが雪恵の考えだった。

 

「…ん?」

「どうしたのかーくん」

「なんて言うかな…気配が騒がしい」

「へ?」

 

一樹が妙な感覚を感じてた頃、麒麟のメンテナンスをしていた一夏、日課のトレーニングをこなしていた千冬、弾にボコボコにやられていた箒…そして、剣道部一同。つまり、剣に関わっている者たちが大小の差はあれど、()()を感じていた。

それは、宇宙から飛来してくる剣豪の襲来を示していた。

 

 

「こちらSS。謎の隕石が飛来するとされているポイントに到着した。これより迎撃準備に入る」

『本部了解。何が起きるか分かりません。充分注意してください』

「了解」

 

コードネーム代わりのSSを名乗る青年、櫻井宗介。コードネームを考えるのが面倒だからとは言え、イニシャルの頭文字そのままはプロとしてどうなのだろうか。ちなみに、今回のオペレーターはクロエだ。

…余談だが、TOP7が成果を上げると、『まさにエース級の活躍です!』とはしゃいだ声で喜んでくれるとのこと。一体どこのあ○ねるなんだ…

しかし、仕事自体におふざけはしない。Ex-アーマー【インフィニットジャスティス】を纏って浮上。ビームライフルと背中のファトゥムに搭載されているビーム砲を構え、隕石に対応する準備を整える。

 

「SS、迎撃準備完了」

『了解。予測コースを送ります』

 

宗介の視界に、予測コースが表示された。表示によると、あと10秒程でジャスティスの超長距離射程圏内に入るらしい。

 

「(予想より早いな…質量はそこまで大きくないからジャスティスのビームで問題無く破壊出来るけど…嫌な予感がする)」

 

一樹と共に、数えきれないほどの修羅場を経験しているTOP7の中で、一樹に次ぐ実力を持つ(とはいえ、他との実力差は僅かなものだが)宗介。

そんな宗介なら大抵の事は1人で対処出来る。だが、今回はそうはいかなかった。

 

『!?SSさん!緊急事態です!隕石が予測コースを離れました!!』

 

クロエの焦りの声が聞こえる。宗介はクロエに聞こえないよう小さく舌打ちすると、すぐにいつもの声で返した。

 

「ん、分かった。急ぎ移動する。新しい予測コースを教えてくれ」

『そ、それが…』

「クロエ、流石の俺も教えて貰えないと行けないんだけど…」

 

落ち着かせるために、いつもの様におどけた様子で話す宗介。だが、次の報告によってそれが崩れる事になる。

 

『予測コースは…IS学園です!!』

「すぐに一樹たちに連絡しろ!!俺もすぐに向かうが、間に合わない可能性が高い!!」

『は、はい!!』

 

 

「ん。分かったメイリン。ミオに隕石の質量と予測コースを送ってくれ。こっちでぶっ壊す」

『はい、すぐに送ります』

 

視界の片隅に次々送られてくるデータを流し見しながら、万が一に備えて部屋で待機しているセリーに連絡を取る。

 

「(弾に返してもらったノワールをセリーに持っててもらって正解だったな)セリー、聞こえるか?」

『ん、聞こえる。どうしたの?』

「宇宙から面倒な落とし物が来るっぽくてな。俺とミオで壊すつもりだけど、()()()()()()があるから…その時は学園を頼む」

『ん、了解』

 

セリーに連絡を取れた所で、隣にいた雪恵を見る。アイコンタクトでその意を理解した雪恵は千冬の所へ駆け出した。

それを見送ると、手近な窓から飛び降りる一樹。

 

「んじゃ、仕事だミオ。フルパワー使うつもりで頼むぜ」

『合点!!』

 

フリーダムを展開、予測コース上に移動する。

そして、フリーダムの装備でもっとも高火力なスキュラにエネルギーを充填させる。

 

「よう一樹」

「俺たちも手伝わせてけれ」

 

その両隣に、白式とバンシィが並ぶ。

2人ともマグナムモードで主武装を構えており、準備万端だ。

今回は火力が高ければ高いほど確実なので、2人の助けはありがたい。

 

『マスター、そろそろだよ』

「あいよ」

 

ミオからの報告を聞き、超長距離射撃のために望遠のリミッターを少し外す。

 

ドックン

 

隕石を視認した途端、懐のエボルトラスターが反応した。

それが意味する事は色々あるが、確実に言えるのは近付いてくる隕石に生命体がいる事だ。

 

「…おいミオ。コレ本当に隕石か?」

『というと?』

「アレが反応した。つまり、近付いて来てるのは隕石じゃなくて、宇宙船かなんかだ」

『…マジで?』

「マジで」

『ふぅ…どうすんのマスター!!!?』

「近付く」

『嘘でしょ!?』

 

ミオの叫びを他所に、一樹は宣言通りフリーダムを隕石に向かって飛ばす。

慌てて追う一夏と弾。

隕石が肉眼で捉えられる程近付いた時、隕石が消えた。

いや、()()()()()()と言った方が正しいか。

 

《その剣気…お前も剣士か?》

 

隕石を切り刻んだと思われる者の声。ほんの少し声を発しただけで、一夏と弾は心臓掴まれた様な圧迫感を感じた。

そして、その者が3人の前に現れる。

 

「…ザムシャー、か?」

 

その者の姿を見た一樹が、小さく呟く。

しかし、それは考えにくかった。

なぜなら、ザムシャーは…かつてメビウスとその仲間を庇って死んだ筈なのだ。

しかし、それはザムシャー本人に否定される事になる。

 

《私がザムシャーだと知っているという事は…メビウスや【ヒカリ】の関係者か?》

「(メビウスとヒカリを知ってる!?でも、何か違和感が…)」

 

違和感が拭えぬまま、目の前のザムシャーと対峙する一樹。

ザムシャーもまた、一樹のみに集中する様だ。

一夏と弾を学園に戻し、ザムシャーに声をかける。

 

「…何故地球に来たのか、教えてもらえるか?」

《私を知ってるのなら分かるだろ?強い者と戦う事だ》

「…生憎、地球(ここ)にはもう、あんたの相手が出来る程の強者はいないぞ」

《よく言う…お前の事だ。今この星を守っているウルトラマン》

「(やっぱバレてるかぁ…けど、ゼラ(この間の暗殺者)みたいな情報収集のプロにバレてなかったのに、なんでバレてるんだ?勘か?勘なのか?だとしたらどう隠しゃ良いんだよ…)まあ、お察しの通り俺は今地球をあの人たちに託されてる。けど、俺は剣を使ってないんだが?」

 

最後の抵抗に、変身した状態では剣を使ってない事を言う一樹。だが、ザムシャーは誤魔化されなかった。

 

《さっき聞いたろ?【お前も剣士か?】とな。お前は確かに肯定しなかったが、逆に否定もしなかった。それに、剣の心得が無ければ、たとえ強者であっても剣気を纏う事は出来ん。いくら気配を消そうとも、面と向かえば分かる》

「マジか…今度からあんたの様な猛者と対峙する時は気配を消すんじゃなくて、気配を誤魔化す事にするわ」

《認めたな?ならば分かるだろ?私と決闘しろ》

「断る。たとえ腰抜けと言われようとも、俺にはあんたと戦う理由が無いし、先に言った通り()()姿()では武器を持ってない」

 

あくまで決闘を受ける気は無い一樹。すると、ザムシャーは地球人程の大きさになって校庭に着地。

 

《…これなら良いか?》

「…しゃあねえか。セリー、逆刃刀を持って校庭に来てくれ」

『…分かった』

 

セリーに部屋から相棒を持ってきてもらうよう頼んむと、ザムシャーから15mほど離れた所へ移動。フリーダムを解除して着地すると同時に現れたセリーから逆刃刀を受け取ると、腰に挿す。

 

《よし…いざ、参る!!》

「ッ!!」

 

両者同時に駆け出す。間合いに入った瞬間、ガギンッ!と刀がぶつかり、火花が散る。

 

《…斬れない刀か。噂は本当だった様だな》

 

鍔迫り合いの中、逆刃刀を見たザムシャーが呟く。

 

「…コレは人間と戦う用の得物だからな。文句は言うなよ」

《言わんさ。そっちも、愛刀が斬られても文句を言うなよ!》

 

鍔迫り合いの状態から敢えて一歩下がり、一樹を狙って星斬丸を薙ぐ。

一樹はそれを逆刃刀を瞬時に逆手持ちに変え、自分も飛び上がる事で受け流す。

受け流した星斬丸の斬撃を利用して1回転、ザムシャーの後頭部を蹴る事で距離を取る。

 

《素晴らしい身のこなしだ。だが!》

 

重たい鎧を着てるとは思えない、素早い踏み込みで一樹の着地の隙を狙うザムシャー。

普通の剣士なら、この一撃で勝負は決していただろう。だが、一樹は違う。

 

「ふっ!」

《何ッ!?》

 

旋風の様に体を連続回転させ、ザムシャーの斬撃を弾いた後、ボレーキックでザムシャーの姿勢を崩す。流石のザムシャーも生身の人間が空中で連続して技を出すなど予想出来ず、動揺を隠せない。

無事着地すると、今度はこちらの番とばかりにザムシャーに踏み込む。

 

《くっ…》

 

一旦一樹から距離を取ろうとしたザムシャー。一樹はそれを気にせず、斬撃を()()()放った。

 

《がっ!?》

 

その影響で複数の、それなりの大きさの土塊がザムシャーを襲う。

 

「(コイツ…やっぱり()()な)」

 

ここまで戦ってきて、思った事がある。

今、一樹の目の前にいるザムシャーは、メビウス達と面識のあるザムシャーでは無い。

あのザムシャーの動きを、一樹は映像でタロウに見せてもらっているし、現場にいたメビウスとヒカリにも話を聞いている。

だから言える。

 

あの2人と共闘したザムシャーは、こんなに()()()()

 

今一樹が戦っているザムシャーも剣士としては優秀だ。だが、あのザムシャーとは頭二つほど下と言わざるを得ない。

 

「(いや…実際に会ったあの2人が見たとしたらもっとだろうな)」

 

あのザムシャーを、一樹は映像でしか知らない。

それでもそう思うのだから、実際に対面していた2人は尚更だろう。

 

《戦いに集中しろ!》

 

土塊の襲撃を何とか捌いたザムシャーが星斬丸を構えて踏み込んで来る。

だが、一樹から見ればその動きは遅すぎる。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思うほどに。

 

「集中してほしいなら…」

 

ザムシャーの突進を弧を描く様に移動して避けると、素早く飛び上がる。

ザムシャーが振り返った時には、既に空中で逆刃刀を上段に構えて降下してきている。

 

「お前本来の戦い方で来い!!」

《グッ!?》

 

落下+重量+腕力の一撃をザムシャーの兜に叩き込む。

その一撃は、ザムシャーの兜にヒビを入れ、そして…砕けた。

 

「「「「へ?」」」」

 

兜が割れた事で、その下の素顔が現れる。

それを見た一樹達、人間の時が一瞬止まる。

金色に輝くさらさらした長い髪が、海風によって美しく靡き、空の様に澄んだ蒼色の大きな瞳は、呆然とした一樹の顔を映していた。

 

「「「「はァァァァ!!?女の子ぉぉぉぉ!!?」」」」

 

「…マジか」

 

叫ぶ一夏を始めとするIS学園生徒達。流石の一樹もこれは予想外だったのか、珍しく戦闘中に表情が変わっていた。

そして、漸く違和感の正体が分かった。かつて現れたザムシャーの一人称は『俺』だった。

しかし、一樹が対面していた彼…いや、()()の一人称は『私』。

過去のザムシャーとは違うのは分かっていたが、まさか女性だなんて誰が思うだろうか。

 

「…女が刀を握ったら悪いか?」

 

一樹の反応が、目の前の彼女には蔑んでいる様に見えたらしい。強い意志を感じる、合唱ならアルトパートを担当するであろう若干低めの声と鋭い視線で一樹を射抜く。

 

「んにゃ全然。ここにもそんな奴がいるからな。まあ、ちょっと前まで普通に真剣を無防備な人に振り下ろしてた阿保だけど」

 

誰とは言わないが、と言う一樹だが、IS学園の人間なら誰かすぐ分かるだろう。

 

「ただ、兜を被ってた時の声から想像出来なかっただけだ」

「そうか…決闘の途中だ。仕切り直させて頂く」

 

星斬丸を構える目の前の女剣士。

だが、一樹は構える事をせず、ダラリと両手を下ろした。

 

「言った筈だ。集中して相手してほしいなら、お前本来の戦い方で来いってな。お前、本当はそんなパワータイプじゃないだろ?」

「……参る!!」

「無視ですかそうですか。なら…」

 

女剣士が一気に踏み込み、星斬丸を振り下ろしてきた。その刃が一樹に迫るが…

 

「遅い」

 

一瞬で女剣士の背後に回り、呆れ顔で逆刃刀を肩で遊ばせる一樹。

 

「何故攻撃してこない?」

 

怒りに表情を歪ませる剣士。

それに対し、一樹は苦い表情のままだ。

 

「だからさ、お前本来の戦い方で来いよ。その状態じゃ俺に攻撃を当てる事は出来ないし、何より…ザムシャー、あの漢の戦い方が弱いって誤解されるぞ?あの気高く、力強い漢の戦いがな」

「……」

「お前が、ザムシャーを大切に思ってる事は分かる。でなけりゃ、自分には重すぎる鎧を着続ける事なんて出来る訳無い。そして、鎧を着た状態である程度でも戦える様になる事もわざわざしない」

「……」

「今までお前が相手してた奴はそんなハンデを持ってても楽勝だったんだろうけど、生憎俺はそうじゃないらしい。だから…お前が大切に思ってる漢のために、お前の全力で来い」

 

真剣な表情の一樹に、女剣士は鎧を脱ぎ捨て、襦袢(じゅばん)姿になる。

地球でいう欧米人に近い容姿をしている剣士だが、妙に襦袢が似合っていた。

それだけ長い期間着ているという事だろう。

余談だが、呼吸と同時に揺れる物に一部の生徒が発狂していた事を補足する。

 

「…名を教えて、くれませんか?」

「(あるぇ?キャラまで変わるのは予想外!)櫻井、一樹」

「ありがとうございます。(わたくし)は、ザムシャー様から【琴】の名をいただいています。ここからはご進言の通り、私本来の戦い方でお相手させていただきます」

優雅に一礼すると、星斬丸を持ち直して踏み込んできた。

 

轟ッ!!!!

 

「ッ!」

 

ガギンッ!!!!

ガギンッ!!!!

ギャリンッ!!!!

 

「(速えッ!!)」

 

連続で星斬丸を振るってくる琴と名乗った剣士。スピードかテクニックタイプだとは思ったが、ここまで極端なスピードタイプとは思わなかった。

飛天御剣流の【読み】が無かったら、今までの経験が無かったら、一樹も対応出来なかっただろう。

そう思わせる程、琴の斬撃は速く、鋭かった。

 

「ザムシャー様以来です…私の剣を防げたのは!」

「そりゃ光栄だね!」

 

満面の笑みを浮かべる琴に、一樹は苦笑する。

何度も何度も斬撃を受け流す一樹に、琴は心底楽しいと笑う。

 

「最高です!久方ぶりに私の剣を振るえるのに加えて、それを何度も受け止められる方と出会えるなんて!」

「あー…やっぱり戦闘狂のとこは同じなのね。ならさ…」

 

ゾッ!と琴は背後に寒気を感じた。本能的に星斬丸をそこに振るうと、そこには逆刃刀が。

 

「(私より速い!?)」

「俺の本気も、笑って相手しろよ?」

 

琴の攻撃を受け止めたと思えば、また姿を消す一樹。

琴の目では捉える事のできない速さで一樹は動き回り、確実に琴を追い詰めていく。

 

 

「オイオイ…まさか一樹()()()()()()のか?」

「…違う」

 

離れた所で一樹と琴の激闘を見ている一夏達。

琴を圧倒する一樹を見て、【狂気】が戻ってしまったのか疑う一夏。だが、それは雪恵によって否定された。

 

「え?違うの?」

 

弾ですら、一樹が()()()と思っていたらしく、いつでも止められるよう、マグナムを構えていた。

 

「もしかーくんの【狂気】が戻ったとしたら、ここで見てる私達の息も詰まる筈だよ。京都に行く前は実際そうだったんだから」

「「…確かに」」

 

納得する2人に、雪恵は続ける。

 

「だから今は、ワザトそう見えるようにしてるんじゃないかな?」

 

 

雪恵の予想は当たっていた。

最初こそ琴の速さに驚いていたが、今は違う。

何故なら…

 

「(速さは確かにある。けど、斬撃に重さが無いし、何より同等か格上との命がけの戦闘経験が足りてない。だから…)」

 

あえて殺気を強め(具体的には楯無が腰抜かす程度)に放ち、琴に向かって踏み込む。

 

「ッ!?」

「(ちょっと殺気を向けるだけでこうなる。そして、これでチェックメイト)」

 

己の命を追い込む者と戦った事が無い琴は、一樹の殺気により一瞬動きが止まる。

弱い者イジメは趣味じゃない一樹。素早く鞘を腰から抜くと、逆刃刀を逆手持ちし、琴の耳元で神速の速さで納刀した。

 

キィンッ!!!!

 

「あっ…」

 

甲高い音の後、琴がグラッと倒れる。地面に頭を打つ前に、そっと一樹に受け止められた。

 

「…今の、は?」

「飛天御剣流()()()、【龍鳴閃(りゅうめいせん)】だ。通常なら少しの間聴覚を奪うだけの技だが、お前みたいに耳の良い者は、三半規管が狂うくらいには効く技だ」

 

実際、まだ動けないだろう?と聞いてくる一樹に、琴は頷くしかない。

 

「私は…負けたのですね…」

「よく言うぜ。それを望んでた癖に」

「…気付いていたのですね」

「闘気は感じてたが、殺気は感じなかったんでね」

「…なるほど」

 

何度も剣をぶつけ合ったが、殺気を感じなかった故に、一樹は逆刃刀の打撃ではなく、音で動けなくする方法を選んだのだ。

 

「大方、あの漢が護るだけの【強さ】が人間にあったのか確かめに来たとかそんなとこだろ?」

「その通りです。この星の人間に、あのお方が命を賭けた意味があるのか知りたかったのです」

 

龍鳴閃の影響が薄くなってきたのか、ゆっくりと起き上がろうとする琴。

 

「ほれ」

 

そんな琴に手を差し出す一樹。琴は素直にその手を取った。

 

「ありがとうございます…」

「ん、それで?」

 

礼を言う琴に短く返す一樹。そして、琴に続きを促す。

 

「地球人全てとは言いません。ひと握りでも…いえ、たった1人でも良い。あのお方が命をかけて護った、それに見合った人がいるのか…」

「…もしいなかった場合、その刀で地球を斬るつもりだったのか?星斬丸の名の通りに」

「はい」

「まあ怖い」

「よく言いますよ…ずっと手加減してましたよね?私が受け止めれる程度の速さでその刀を振るって来たり、わざわざ殺気で不意打ちをすると教えてきたり」

「…」

 

琴の言葉に、一樹は肯定も否定もしない。

それが、答えだった。

 

「ザムシャーとお前の関係は?」

「師弟…と言うのが一番近いでしょうか」

 

 

『何だお前は?』

『俺は弟子を取るつもりは無い…』

『見稽古でも良い、だと…?フン、勝手にしろ』

 

この広い宇宙で、あのお方に、ザムシャー様に出会えたのはきっと奇跡だ。

メビウスとの出会いの後、修行のためにザムシャー様がたまたま私のいた星にいらっしゃって、たまたま修行中のザムシャー様の剣を私がみて、弟子入りをお願いした。

最初は相手にすらしてくれなかったけど、ずっと纏わりついていたら見稽古だけは許してくれた。

 

『ほう、中々良い剣を振るう。面白そうだ。俺に向かって打ち込んでこい』

『…見稽古だけでこれほどの強さを持つとはな。気が変わった。稽古をつけてやる』

 

ある時、素振りをしているとザムシャー様が私の相手をしてくれる事があった。

全力で挑んだ結果、手も足も出なかったけど、ザムシャー様は私の剣を気に入ってくれた。それから、時々稽古をつけてくれるようになった。

余談ですが、【琴】の名をいただいたのもこの時です。

稽古といっても、私が斬りかかって、それをザムシャー様に当てれるかという単純なものですが。

コレが難しい。

命を賭けた戦いに勝ち続けているザムシャー様に、剣を持ってたかだか数ヶ月の私の攻撃が当たるわけが無かった。

そして、負け続けてしばらく経ったあの日。

 

『少し、地球という星に行ってくる』

 

と、ザムシャー様に突然言われた。

 

『地球がどうかしたのですか?』

『地球には俺が斬ると決めた漢、ウルトラマンメビウスがいる。だが、それを横取りされそうなんでな…阻止してくる』

『要するに友達のピンチだから助けに行くって事ですね』

『……すぐに戻ってくる。だから琴、お前はここにいろ』

『え?私も行きますよ?』

『駄目だ』

 

この頃には、ある程度軽口も言えるくらいにはなっていた。

その流れで同行すると言ったら、久々にザムシャー様から殺気を向けられた。

 

『今回の戦、お前では力不足だ。足手まといでしか無いから残っていろ。これは命令だ』

『…分かりました』

『安心しろ。俺はすぐ戻ってくる』

 

この時、ザムシャー様は何となく分かっていたのかもしれない。

なにせ、このときザムシャー様が戦った相手は…

 

『失礼、あなたに聞きたい事があるのですが』

『はい、何でしょうか』

 

ザムシャー様が旅立ってからしばらく、基礎トレーニングをしていた時でした。

青い体のウルトラマンが、私を訪ねてきたのは。

 

『あなたは、ザムシャーという漢をご存知でしょうか?』

『ッ!?ザムシャー様に何か!?』

『…』

 

辛そうに、青いウルトラマン…ヒカリさんは話してくれた。

皇帝を名乗る凶悪宇宙人と戦い、その命を散らせた事を。

残された星斬丸に、私の事が【記憶】として残っていたそうで、わざわざ伝えに来てくれたそうだ。

 

『コレは、貴方が持っていた方が良いと思います』

 

丁寧に差し出してくるヒカリさんから、星斬丸を受け取ると、ヒカリは深く一礼した後、光の国に帰って行った。

 

『すぐ帰ってくるって…言ってたじゃないですか…』

 

 

「これが、私とザムシャー様の話の全てです。その後は貴方の予想通り、地球に向かう事を決めて、寄る星々で決闘を申し込まれ、薙ぎ倒してきたわけです」

「……」

 

琴の話を聞き終えると、一樹は転がっていた星斬丸を鞘に納め、琴に差し出す。

 

「…これからどうするんだ?」

「ザムシャー様の様に、宇宙を流れる事にします。そして、いつか貴方に勝ちます」

「…そうか」

 

星斬丸を受け取り、腰に挿す琴を一樹は穏やかな顔で見つめる。

 

「なので…私が貴方に勝つまで、死ぬ事は許しませんよ?」

「言われなくても死ぬつもりは無いさ。俺は老衰で死ぬと決めてるんでな」

「…素晴らしい目標ですね」

「だろ?」

「それでは、失礼します」

 

一樹達に一礼すると、琴は光に包まれ、大空へと飛び立った。

 

「さて、どう宗介達に説明するかな」

 

残った一樹は琴が飛び立った反対側から飛んでくるマゼンタ色の機体を見ながら、言い訳の内容を考えていた。




*作者はまだ完結編の映画を見れてません。
ネタバレは勘弁願います


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Episode142 未練-ヤクシャ-

半年振りの更新です!

とうとうウルトラマン関係無いゲームから登場させてしまいました。


ちょっと色々チャレンジし過ぎたかな…


「ねえ、本当に行くの?」

「何奈緒、怖いの?」

 

ある休日、奈緒はクラスメイト達とある心霊スポットに来ていた。

ホラーの苦手な奈緒はもう足がすくんでいる。

 

「大丈夫だって。こう言うのは大体ちょっとした事件が昔あって、それが大袈裟に伝わってるだけなんだから」

 

ホラー映画が大好きなクラスメイトはそう言うが…

【山にピクニック行こう】と誘われて来たは良いものの、行きの電車で近くのホラースポットを調べられ、今に至る。

 

「で、でも…火の無い所に煙は立たないって言うじゃん?」

「その火がちっちゃければ問題無い無い。さあレッツゴー!」

「うぅぅ…(雪恵ちゃんから貰った御守り、しっかり首にかけてよ…)」

 

それが後に、彼女を助ける事になる。

 

 

「雪、奈緒にピクニックに誘われてたのに行かなかったのか?」

「だってかーくん仕事じゃん」

「…たまには羽伸ばしてきてええんやで?」

「何故にエセ関西弁?」

 

まるで秘書のように隣に立っている雪恵に呆れる一樹。

 

「あのな、確かに雪はS.M.S所属だけどさ…書類仕事までやらなくて良いんだぞ?」

 

例の如く神速のキーボード捌きで書類を片付けた一樹が椅子に寄りかかりながらそう言うと、雪恵はそんな一樹の前にコーヒーを置いた。

 

「んー。なんか、秘書っぽいことがやりたかったんだよね」

「言いたい事はなんとなく分かるけど、最近俺の中で秘書って余計な仕事増やす脳筋の印象が強いからやめて」

「それどこの紫鬼人?」

 

過保護なTOP7により、一樹の本日の業務はほぼ終わっている。久しぶりにアサガオにでも顔を出そうか悩んでいると、懐のスマホが鳴り出す。

 

「へ?奈緒?」

「珍しッ!」

 

アイコンタクトで雪恵に出る事を伝えると、タップして耳元に当てた。

 

「もしもし、どうした?」

『一樹君!友達を助けて!』

「…詳しく聞かせてくれ」

 

 

奈緒の話を要約すると…

 

・友達と山にハイキングに来てた。

・ホラー好きの友達が近くのスポットを見つけた。

・そのスポットに着き、しばらく歩いてたら変な声が聞こえ、気付いたら友達が消えていた。

 

 

「…何て山だ?」

『雲隠山!』

「…はい?」

『だから雲隠山!!』

 

奈緒の言う山を念のためパソコンのマップに表示させる一樹。そして…

 

「奈緒、ちなみに体力はまだ大丈夫か?」

『え?大丈夫だけど…』

「んじゃ、今からスマホに送る場所に行ってくれ」

『どこ?』

「隣の霧隠山にある村だ。その村で医者をしてる山野って人に櫻井一樹の紹介だって言えば通じるようにしとく。すぐ行くからそこで待っててくれ」

『わ、分かった…』

 

そこで通話を終わらせ、急いで山野に電話すると格納庫に向かって走り出す。

 

「悪い雪!ちょっと行ってくる!」

「気をつけてね!」

 

 

「やあ、君が西田さんだね。彼から話は聞いているよ。さあ入って入って」

「お邪魔します…」

「大した物は出せないけどね。冷たい麦茶はいるかい?」

「…頂きます」

 

一樹の指示通り、霧隠山村に来た奈緒。

村唯一の医者らしいこの老人に、奈緒は妙なものを感じていた。

 

「(なんだろう…上手く言えないけど、他の村の人とは何か違う気がする)」

「お待たせ。さて、彼からおおよその話は聞いてるけど、当事者である君の話も聞きたい。話してもらえないかな?」

 

違和感を感じるものの、害意は感じないので、一樹に話した事をそのまま話す奈緒。

話が終わる頃、外で大きな音が聞こえた。

 

「お、彼が来たようだね」

 

音に驚く事なく外に出る山野。

その後に奈緒が続くと、丁度一樹がVF-25Fから降りてくるところだった。

 

「お待たせしました。山野さん、どうでした?」

「君の言う通り、彼女の友人はあの山の伝説の存在に攫われてる可能性が高いね」

「伝説?」

 

一樹と山野の会話についていけない奈緒。

説明を求める視線に、一樹が先に気付いた。

 

「奈緒から連絡を貰った後、仲間に雲隠山について調べて貰ったんだ。そのホラー好きの友人も言ってたと思うけど、そういう心霊スポットってのは、墓場か過去の悲惨な事件が起こった場所だって相場は決まってる。んで、今回は後者だって訳だ」

「なるほど…それで、その伝説って?」

「ざっくり言うと、昔の哀しい恋愛話だな」

「…もうちょい詳しく」

 

あまりにざっくりしすぎる一樹に、奈緒は頭を抱えそうになりながら詳細を求めた。

 

「あいよ」

 

次は詳しく話してくれた。その内容は…

 

その昔、雲隠山にはある大名が城を構えていた。

その大名には、とても美しい1人娘がいた。

その娘…音姫は笛を愛していたそうで、その音色は城内で働く人々の癒しであったそうだ。

大名は音姫をたいそう可愛がり、その時代には珍しく、自由に生活させていたらしい。

そんな音姫が恋をした。

相手は領内の足軽。

流石の親バカ(大名)もそれは反対したが、足軽の目に光るものを見た事で条件付きの婚約を認めた。

その条件は次の戦、最前線で戦って帰ってくること。

首を取れと言わなかったのは、足軽の持つ刀では首を取れないと判断したからである。

そして、足軽であるその男は帰ってきた。

その後も大名の出す課題を次々とこなしていった男は、遂に馬大将まで登り詰めた。

次の戦の結果次第で、侍大将に任命と共に音姫との結婚を認めると大名に言われた男は、張り切って、しかし冷静に出陣した。

そして…帰ってこなかったのだ。

 

 

「…哀しいお話だけど、戦で死ぬ事は当時では珍しくなかったと思うんだけど」

「これが奈緒の言う通り、男が戦で死んだのならこんな事にはならなかったろうな」

「…まさか」

「そう、男は戦で敵に殺された訳じゃない。いつの時代にもいる、成功者を妬む奴に暗殺されたんだ」

 

 

その戦において、男は課題をこなしただけでなく、敵将を討ち取る(課題は敵軍の侍大将等格上なら1人、馬大将等同格なら2人討つ事)活躍を見せていた。

敵将を討ち、これでやっと音姫と一緒になれる…と感慨深く思っていると、同年代の戦目付が話しかけてきた。

 

よくやった。これで俺は侍大将になれる。

 

その言葉の後、戦目付は男に刀を抜く暇を与えずに首を刎ねた。

その戦目付は、男が現れるまでは出世頭であった。

そして、大名が音姫の結婚相手の候補に考えていた者でもあった。

それ相応の家に生まれていた戦目付は、このまま自分と音姫は結婚し、国が自分の者になると予想していた。だが、音姫はそこらの足軽に惹かれ、大名もその足軽を認めていく始末。

タチの悪い(戦目付にとって)ことに、その足軽はどんどん実力で出世していき、気がつけば自分と同格にまで並ばれてしまった。

当然面白くない戦目付は、足軽を始末する事にした。

しかしこの元足軽、勘やら運が良いやらで、中々始末出来ない。

苛々していた所、とうとう次の課題をこなしたら音姫と結婚を認めらるというではないか。

しかしこれはチャンスでもあるのを戦目付は知っていた。

人は悲願を達成出来ると確信した時、大きく油断する…

その結果、先に話した通り元足軽は殺されたのだった。

元足軽を斬り殺した戦目付は、苦労して取り戻したという()()で、大名と音姫の前に元足軽の首を持っていった。

音姫は泣き崩れ、大名は残念がった。

戦目付は元足軽の訃報を知らせてくれたのと、()()()()()()()()()()により、目付頭に任命。さらに音姫との婚約を許された。

 

 

「…正確な記録に残ってるのは、ここまでだ」

「…え?」

「この目付頭になった男、いつか自伝書を残すつもりだったらしくてな。記憶に残ってる内に書くって考え方のおかげでここまで詳しく分かったんだ。しかも何年何月何日まで書かれてるし」

「…暗殺がバレるかもとは思わなかったのかな?」

「原文は相当自信に溢れてる文だったからな。頭の良いバカって奴だったんだろ。歴史家的には大助かりだけど。んでここからは諸説あるんだが、1番有力だと思われる話をするぞ」

 

まあ、本当は山野から聞いた話(その頃には既に霧隠山にいたとのこと)なので、事実なのであるが。

 

「戦目付改めて目付頭なんだが、任命されてすぐに死んでる」

「それは…暗殺?」

「それか、呪い殺されたか…って当時は推測されてる。死に顔が、恐怖に引き攣った状態だったらしい。けど、戦いの実力は元々出世頭だった事もあってかなりのレベルだったんだ。そんな人物が死ぬ程恐れる事って何だ?」

「……死者が、蘇った?」

「そんなところだろうな。そんで、目付頭が死んだ後、とある地点付近に立ち寄った人が次々行方不明になってる。しばらく経てば見つかるが、その地点ってのが…」

「元足軽が、殺された場所…?」

「正解。流石、IS学園生徒ってとこかな」

 

俺はそんな速くに察する事は出来ない。と苦笑する一樹だが、奈緒に言わせれば一樹の方が優れていると思うのだが、コレは世間の評価方法が一樹の能力と噛み合わないためだろう。

 

「長々と語ったが、雲隠山の歴史はこんな感じだ。そんで、奈緒の友人を攫った犯人が誰かは大体分かるだろ?」

「…元足軽の、怨念?残留思念?」

「そのどっちかであるのは間違い無いな。ところで、何で奈緒は助かったのか分かるか?家柄?」

「まさか。私の家は普通の一般家庭だよ。それこそ雪恵ちゃんは?私は雪恵ちゃんから貰ったお守りのお陰だと思ってるんだけど…」

 

そう言いながら、雪恵から貰ったお守りを一樹に見せる奈緒。その瞬間、一樹が頭を抱えて蹲っていた。

 

「ど、どうしたの一樹君?」

「いや…帰ったら雪に感謝すれば良いのか説教すれば良いのか悩んでるところ」

 

雪恵が奈緒に渡していたお守りは、一樹が【繋がり】を切っててもいざという時居場所が分かるよう光の力をそれなりに込めた物だ。

メタ・フィールドでもダーク・フィールドでもISのセンサーで感知出来るが、もしセンサーの効かない所に連れ込まれたら…と一樹が危惧して制作していたのだ。

 

「…うん、やっぱ帰ったらめちゃくちゃ説教しよ」

「…それ、却って雪恵ちゃんの()()()()入れる事にならない?」

「そん時は放置だ」

「鬼だ…鬼がここにいる…」

「俺は清めの音は出せないぞ?」

「違うよ!?」

「なら太陽の下を歩いても全然平気だぞ?」

「だから違うって!!」

 

緊張感の無い一樹に、ツッコミを入れている内に、霧隠山に来てからずっと続いていた震えが収まった奈緒であった。

 

 

『ヒメサマ…ドコニオラレルノデスカ…カナラズ、カナラズミツケマスゾ…ヤクソクノタメニ』

 

姫との約束の為に、元足軽は死後数百年経った今も、現世を彷徨う。

最後に会った姫と同じ年代の娘を攫い続けるのは、いつか姫が見つかると信じているから。

しかし…姫は、もうこの世にはいない。

彼はそれを知った時、どうなるのだろうか。

姫と勘違いした女性達の解放は、年を重ねる毎に遅くなっている。

このままでは…彼は、彼女達は救われなくなってしまう…

 

 

「んじゃあ、俺はその地点に行ってちょいと奈緒の友達連れてくるわ」

 

『近所のコンビニ行ってくる』の様な気軽さで言う一樹に、奈緒は一瞬付いていけなかったが、言葉の意味を理解すると、慌てて一樹を止めようとする。

 

「ちょっ、ちょっと待って一樹君!」

「おろ?」

「おろ?じゃない!幾ら一樹君でもこんなオカルトみたいな現象は簡単に解決出来ないでしょう!?それに私はどうすれば良いの!?」

「(オカルトみたいな存在と一体化し、なんならもっと恐ろしいモノと戦ってますけど…)ちょっと俺の所属してる会社は色んな…そりゃもう色んな問題を解決せにゃならん場所でな。この手に関する知識も下手な自称専門家よりはあるんだわ。それと、奈緒は雲隠山で山野先生とある物を探して欲しい」

「あるモノ?」

「話に出てきた姫と、ゆかりのある物をだ。そんで、その物に込められてる姫の【想い】で、元足軽を連れて行って貰う。いるべき場所にね」

「…分かった」

 

 

奈緒と別れた後、一樹はその地点に立っていた。

まだ正午を少し回ったばかりなのだが、既にそこは薄暗い。なるほどオカルトスポットと言われる事はある。

 

「……」

 

懐からエボルトラスターを取り出すと、反応を見る。

 

ト…クン

 

微かに、本当に微かに反応を見せた。

その反応を頼りに、その周囲を散策する一樹。

そして…

 

「…ここか」

 

側から見たら、ただ太い大木があるだけだが…一樹はその大木に向けてブラストショットを撃った。

すると、時空の歪みが現れ、一樹はそこに飛び込んだ。

 

 

『ココニハイラッシャイマセンデシタカ、ヒメサマ…ヒメサマトノヤクソク、カナラズハタシマス…

ココニイナイノナラ、マタサガシニイクマデ…』

 

 

「…色んな()()を行ってきたけど、こういう霊関係の場所程陰気なとこは無いな」

 

元足軽が作った異次元空間に入った一樹。S.M.S製の上着を着ていても感じるジメッとした空気に、ため息を吐くと、先程より強く反応する様になったエボルトラスターを服の上(下手に落とすと2度と手元に戻って来ない可能性もあるため)から触れながら、異次元空間を進む。

反応が強くなるにつれ、特性上着を着ていても寒さが抜けなくなってきた。

 

「…急がないとヤベェな」

 

特性上着を着てる一樹ですら寒く感じるのだ。

早く対応しないと、普通の人なら凍えてしまう。

冷や汗を流しながら進む一樹。

異次元空間を進めば進む程、寒気が強くなる。

それは、()に近づいている証拠でもある。

 

「…見つけた」

 

捕らわれた人々を見つけた一樹。

寒さに耐える為に、全員で固まっている。何か、そういう知識を持った人物がいたのだろう。後は、皆をこの空間から逃すだけだ。

 

「ッ!?」

 

一樹が拐われた人々に近づこうとした瞬間、背筋が凍る程の殺気を感じた。

咄嗟に前に飛び込んだ一樹。間一髪、紫の波動弾を避ける事に成功した。

 

『ヒメサマヲサガスジャマハ、サセナイ…』

 

一樹を攻撃したのは、右腕に大砲を生やした、猫背の落武者。髪が長く伸び、般若の面の様な顔で一樹を睨んでいる。

ブラストショットを握りながら、切なげな表情で一樹は落武者___ヤクシャに告げる

 

「あなたはもう、数百年前の…歴史の人だ。姫様はもう、死んでる」

『シンデル、ダト…?バカナコトヲイウナ!キサマモ、アノヒキョウモノトオナジカ!ワレラヲヒキハナソウトスル!』

 

そう叫ぶと、ヤクシャは周囲の人魂を吸収し巨大化。一樹を踏み潰そうとしてくる。

 

「……」

 

切なげな表情のまま、一樹は踏み潰された…様に見えた。

 

《…?……!?》

「シェアッ!!」

 

ヤクシャの足を押し除けながら、ウルトラマンが光に包まれて現れた。

どこか薄暗いこの異次元空間で、ウルトラマンの光が、一際輝いて見えた。

 

《ジャマヲスルナァァァァ!!》

 

右腕の大砲から波動弾を撃ってくるヤクシャ。

 

「シュッ!ハッ!」

 

それをアームドネクサスで迎撃するウルトラマン。全て迎撃し終えると、マッハムーブでヤクシャに急接近。ストレートキックでヤクシャを蹴り飛ばした。

 

「デェアッ!」

《グッ!?》

 

ヤクシャを拐われた人々から離すと、ウルトラマンは左のアームドネクサスに触れ、拐われた人々の頭上に向けて青い光線を放つ。

光線は人々全体を包むドームとなり、寒さと戦闘の被害から守る。

 

《オノレェ!》

「フッ!?」

 

激昂したヤクシャがウルトラマンに右腕の大砲を薙ぐように振るう。

ウルトラマンは素早く屈んで回避し、続けて放たれた左腕の攻撃は右腕で受け止める。

 

《ハッ!》

「グッ!?」

 

ヤクシャの右回し蹴りが綺麗に決まる。

一瞬怯むウルトラマンだが、右回し蹴りのお返しを決めた。

 

「デュアッ!」

《ウッ!?》

 

反撃の思わぬ重さに、ヤクシャが蹲る。

ウルトラマンはそんなヤクシャを掴むと、ドームから引き離す為に投げ飛ばした。

 

「デェアァァァァッ!!」

《アァッ!?》

 

 

 

「あの…山野先生は、一樹君とどういうご関係なんですか?」

 

一樹に頼まれた、姫とゆかりのある物を探す為に、山野と雲隠山の旧城跡に来ていた奈緒。

道中また同行者が居なくなるのじゃないかという恐怖があったが、妙に自信のある一樹の説得と、落ち着いている山野を見て大丈夫だと信じる事にした。

しかしそうなると、一樹と山野の関係が気になってしまう。

言い方は悪いが、都心部の大企業で働く一樹と、こんな電車に数時間乗らなければ着かないような田舎の医者に、接点があるとは考えにくい。

 

「うーん…実は彼と知り合ったのはつい最近なんだよね」

「はい!?」

 

まさかの言葉に驚いていると、山野はクスッと笑ってから続けた。

 

「実はとある毒に僕は蝕まれていてね。その特効薬を彼は用意してくれたんだ」

 

*毒=宇宙製のえげつないモノ

*特効薬=ゴルドレイ・シュトローム

 

「へえ…本当に色々やってるんですね」

 

山野のぼかしにぼかしまくってる答えでも納得した奈緒。

ぶっちゃけ、一樹に秘密が有りすぎるので適当な説明でも納得する事にしている。

いつか、話してくれると信じて。

 

「さて、僕と彼の話はここまで。早くゆかりのある物を探さなきゃ」

「あ、はい」

 

 

ウルトラマンとヤクシャの戦いは、波動弾と波動弾のぶつかり合いになっていた。

 

《喰らえ!!》

「フッ!」

 

ヤクシャの波動弾を右に飛び込んで回避した後、パーティクルフェザーを放つ。

 

「ハッ!」

《甘い!!》

 

対するヤクシャは、パーティクルフェザーを少し体を横に傾けるだけで対処すると、波動弾を2連射。

 

《次だ!》

「シュッ!」

 

ウルトラマンはサークルシールドでその攻撃を受け止めるが…

 

《甘いと言ってるだろう!!》

「グアァァァァ!?」

 

続けて放たれた3連射には耐えられず、先に放たれた2連と合わせて5連射分の攻撃をまともに喰らってしまった。

 

「グゥッ!?」

《ハアァァァァ…》

 

背中を強打し、動きが止まるウルトラマン。その隙に、ヤクシャは更に人魂を吸収。

両肩甲骨辺りから、鋭い爪を持つ腕が出現。ヤクシャ・ラージャへと進化してしまった。

 

「フッ!シェア!!」

 

それに対抗する為に、起き上がりと同時にジュネッスにチェンジ。

腕が生えてから獣の様に高速で暴れるヤクシャ・ラージャの攻撃を、マッハムーブを併用したバック転で避けるウルトラマン。

距離が出来たウルトラマンに向けて、ヤクシャ・ラージャは片膝で立ち右腕の大砲にエネルギーを込めると、巨大な波動弾として撃った。

 

《終わりだァァァァ!!》

「フッ!?シュッ!ハアァァァ…テェアッ!!」

 

波動弾が迫り来るのを見たウルトラマンは、素早くエネルギーをエナジーコアに集中させると、コアインパルスを放って波動弾の迎撃を試みる。

 

「ハアァァァァ…ハッ!!」

《なっ!?ガァッ!!?》

 

数秒のせめぎ合いの後、素早く威力が上げられたコアインパルスが勝った。

コアインパルスと波動弾、両方まともに喰らったヤクシャ・ラージャが大地に倒れる。

だが、まだウルトラマンに向けて殺気を放ったままだ…

 

《ヒメサマヲ…ドコヘヤッタァァァァ!!》

 

両肩から生えた腕の、鋭い爪がウルトラマンに迫り来る。

何とか爪の攻撃をアームドネクサスで受け止めるが、続けて振るわれた右腕の大砲を腹部に喰らってしまう。

 

「グッ!?」

 

蹲るウルトラマンの後頭部に、両肩の腕が振り下ろされた。

 

「グゥッ!?」

 

大地に叩きつけられたウルトラマンに、ヤクシャ・ラージャはサッカーのシュートの如く蹴り飛ばした。

 

「グアァァァァ!?」

 

ピコン、ピコン、ピコン…

 

この異次元空間の寒さも相まって、いつもよりコアゲージが鳴り始めるのが早い。

コアゲージが鳴り始めた事が、ウルトラマンにとって良くない事だと気付いたヤクシャ・ラージャが怒涛の連続攻撃を仕掛けてくる。

4つある腕が同時に襲いくる。何とか2つの攻撃は捌けたが、残り2つの攻撃は喰らってしまった。

なるべく殺傷性の高い攻撃を優先的に対応しているが、相手も場慣れしてる強者。

独特のフェイントをかけてウルトラマンの防御を掻い潜ってくる。

今、ウルトラマンに出来るのはあの2人が【想い】の込められた物を見つけるまで耐える事だけだ…

 

 

「【想い】の込められた物って何なんだァァァァ!!?」

 

ここまで耐えてきた奈緒がとうとう爆発した。漠然とした物を探しているのだから気持ちは理解出来る。

 

「うーん…駄目元で姫様に語りかけてみたらどうだい?」

 

山野もどこか疲れた表情で言う。

むしろ、奈緒より現状をよく把握している分、余計に疲れている筈だ。

しかし、今1番危険な場所にいる一樹の為にも急いで探さなければならないのも事実。

そんな山野の、聞きようによってはヤケクソにも取れる言葉に、奈緒は…

 

「それだ!!」

 

血走った目で、本当にヤケクソで叫んだ。

 

「ちょっと!!アンタの婚約者のせいで私の友達が大変な目に遭ってんのよ!!責任持って連れて行きなさーい!!!!」

「いや、そんな喧嘩口調で姫様が来る訳が___」

 

____それは、本当ですか?(わたくし)を、その者の所まで連れて行ってくださいませんか?

 

「____出てきちゃうのかぁ…」

 

必死探していた物…姫が愛した笛が、どこからともなく光に包まれて飛んできた。

釈然としない山野の横で、笛を掴む奈緒。

 

「さあ!一樹君の所へ急ぎましょう!」

 

 

《ヒメサマヲ、ヒメサマヲドコヘヤッタァァァァ!?》

「グッ!?グァッ!!?」

 

本格的に寒さで体が動きにくくなってるウルトラマンに、積年の怒りをぶつけるヤクシャ・ラージャ。防御するのがやっとのウルトラマンだが、そろそろその防御すら突破されそうだ。

正直、何度か倒すチャンスはあった。

しかし、この手の敵はただ倒しただけでは魂がこの世に縛られてしまい、時が経ったら再び復活してしまう。

それを理解しているため、ウルトラマンはヤクシャ・ラージャを倒せなかった。

だが、ウルトラマンの体もそろそろ限界が近い。

ヤクシャ・ラージャは、弱くはない。昔話にある通り、数々の死線を潜り抜けている猛者なのだ。多少流してるとは言え、そんな猛者の攻撃を喰らい続ければ、ウルトラマンと言えど保たない。

 

《ヒキョウモノメ!ブシナラバショウメンカライドンデコイ!》

「グオッ!?」

 

ウルトラマンと己を闇討ちした戦目付が重なって見えているのか、どんどん攻撃が重くなっていく。

何度目かの叩きつけに、流石のウルトラマンも立ち上がれない。

 

「グッ、グゥッ…」

 

こうなってしまっては、何とかして一旦ヤクシャ・ラージャを倒し、復活するまでに対策を考えるしかないかとウルトラマンが思ったその時。

 

♪〜♪〜♪

 

《ム?》

「フッ?」

 

どこからか、優しい笛の音が聞こえる。

現代に普及している金管楽器のフルートの小鳥がさえずるような音色でなく、どこか雅な音色だ。

 

《コノ、ネイロハ…》

「……」

 

笛の音を聞き、背中の腕が消えるヤクシャ。

ヤクシャの落ち着いた様子を見て、ウルトラマンも事の成り行きを見守る事にした。

すると、光がヤクシャの眼前に現れ、彼が数百年も探し続けた姫の姿になった。

 

____ようやく、ようやく見つけましたよ。私の愛しい人。

《ヒメ…サマ?》

 

____さあ、行きましょう…私たちはもう、この世にいてはならない存在です。

 

 

ふとウルトラマンが辺りを見回すと、山野に連れられた奈緒が木製の横笛を吹いていた。

ウルトラマンの視線に気付くと、笛を吹くのをやめてピースサインをしてみせる奈緒に対して、山野は何とも言えない表情をしている。後でそれに着いては聞くとして、今はヤクシャを見守る事にした。

 

《ヒメサマ…オムカエニキテクレタノデスカ…》

 

ヤクシャの言葉に頷くと、ウルトラマンの方を向く姫。

 

____感謝します。光の人…私が来るまで、この人を倒さないでくれて。

 

姫の言葉に頷くウルトラマン。姫はウルトラマンに深々とお辞儀をすると、再度ヤクシャの方を向く。

 

____さあ、貴方が連れて来た人を解放するのです。

《カシコマリマシタ》

 

ヤクシャが姫にお辞儀すると、途端に異空間が消えた。

雲隠山の、かつて城があった所を見つめるヤクシャ。

 

____行きましょう。我々の、いるべき所に。

《…ヒメサマ、ショウショウオマチクダサイ》

 

肩上にいる姫をそっと下ろすと、ヤクシャはウルトラマンに向き直った。

 

《ヒカリノヒトヨ、ヒトツタノマレテクレナイカ?》

「…」

 

続く言葉を待つウルトラマン。そんなウルトラマンに、ヤクシャは右腕を元に戻しながら言った。

 

《ワタシト、ホンキデタタカッテクレ。ワタシヲ、センシトシテオワラセテホシイ》

「……」

《ワタシノミレンハ、ヒメサマトノヤクソクヲマモレナカッタダケデハナイ。ワタシノイキタジダイハカンタンニヒトガシヌジダイ。タタカイニマケテシヌナラマダナットクデキタ。シカシ、ワタシハミカタデアルハズノヒキョウモノニコロサレタ…ソレガイチバンノミレンナノダ》

「……」

 

ヤクシャの言葉を聞いたウルトラマンは、そっとヤクシャを見守っている姫に視線を向ける。

 

____私からもお願いします、光の人。彼を、終わらせてあげてください…

「……シュッ」

 

ヤクシャの、そして姫の願いを聞いたウルトラマンは静かに構える。

 

《…カンシャ》

 

戻した右手に日本刀を召喚し、ウルトラマンと対峙するヤクシャ。

両者が身構えたその時、一陣の風が吹いた。

 

「シュッ!」

《マイル!》

 

同時に駆け出す両者。

ヤクシャが刀を振るってくるのを屈んで避けると、ガラ空きの胴に正拳突きを当てるウルトラマン。

 

「ハッ!」

《グッ!?》

 

鎧の隙間に決まった影響か、ヤクシャは蹲りながら後退。しかし、その隙を逃すウルトラマンではない。

 

「テェアッ!」

《ガッ!?》

 

蹲っているヤクシャの頭部に跳び回し蹴り。

更に連続で左右の回し蹴りを喰らわせ、両肩の鎧を破壊。

 

《ソコダ!》

 

ヤクシャの反撃。何とかウルトラマンの蹴りを防御すると、上段から刀を振り下ろす。

 

「フッ!」

 

しかしその斬撃は、ウルトラマンが交差した両手で刀の柄を受け止めた事で不発に終わる。

更に…

 

「シェアッ!」

 

手首を掴まれ、大地に転がされる。

刀を奪われるオマケ付きで。

 

《クッ…》

 

素早く起き上がるヤクシャだが、既にウルトラマンは次の攻撃の準備を終えていた。

刀身を金色に光らせ、マッハムーブでヤクシャに急接近。目にも止まらぬ速さで振り下ろした。

ヤクシャの中央に金色の線が出来た。ウルトラマンは刀を捨てながらヤクシャを蹴って距離を取ると、両腕にエネルギーを溜める。

 

「フッ!シュッ!ハァァァァァ…フンッ!デェアァァァァ!!」

 

オーバーレイ・シュトロームがヤクシャの中央の線に命中。魂が浄化されている証か、ヤクシャから光の粒子が溢れていく。

 

《カンシャスる光の人。これでようやく、この呪縛から解放される…」

 

一瞬、ヤクシャの身体が強く光った。

禍々しい般若の顔の鎧武者は消え、済んだ人魂となった。

人魂は戦いの行方を見守っていた姫の元へと移動していく。姫はそれを愛おしそうに抱えると、自らも人魂の姿に戻って飛び出す。

2つの人魂がウルトラマンを周囲を軽く飛んだ後、天に向かって行った。

それを見届けた後、ウルトラマンは静かに消えていった。

 

 

「…そんな事があったんですね」

「コメントに困るだろ?」

「はい…今回は協力していただいてありがとうございます。本当に助かりました」

 

結界を逆刃刀で斬って解除した後、山野に事の成り行きを教えて貰った一樹。

奈緒が友人達に駆け寄っているのを見ながら、山野に協力してくれたお礼を言う一樹。

 

「困った時はお互い様さ。またいつでも遊びに来てくれ」

「そうします。今度は、雪達も連れて来ますよ」

「一樹くーん!友達紹介したいからこっち来てー!」

「ああ!今行くよ!」

 

 

その後、無事本部に帰った一樹のした事は…

 

「何か申し開きはあるか?雪」

「あの、かーくん?謝るからさ?その…縛るのは、やめてほしいかなぁ…」

 

一樹特性のお守りを勝手に奈緒に渡していた事のSEKYOUだ。

逃げないよう縛っているだけなのだが、何か目覚めそうな雪恵を見て、一樹は一言。

 

「…このまま数時間放置したらどうなるかな」

「やめて!!?」

 

ちょっとかーくんのS発言に目覚めかけたのは絶対に秘密です…By雪恵




最後ォォォォォ!

*ヤクシャとヤクシャ・ラージャの見た目に関しては【GE2 ○○】で検索検索ゥ!

*こういうタイプの話は難しいから次やるかは分かんない…


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Episode143 日常ーエブリデイ・ライフー

覚えてくれてる方はいらっしゃいますかね…?


ー戦争?ー

 

 

「弾…お前には負けない」

「上等だ…俺も容赦しねえぞ」

 

鬼気迫る表情で睨み合う一夏と弾。

お互い1歩も下がらないという、代表候補生達すら間に入れない気迫を発して、いざ!

 

「「その肉はいただいたああああ!!!」」

 

ホットプレート上の肉目掛けて箸を動かす…

 

「同じもの取ろうとすんな行儀悪いだろうが」

 

ゴチンッ!!!!×2

 

「「イッテェェェェ!!!!」」

 

冷静に一般的な作法を指導する一樹の鉄拳に沈んだ。

痛みに悶える2人を他所に、一樹は苦笑を浮かべている雪恵とセリーに肉をよそう。

 

「馬鹿2人は気にせずに食べてくれ。正直食い切れるか微妙だからな」

「それならなんで箒ちゃん達呼ばないの?」

「飯にアイツら呼んだら、せっかく真島のおじさんがくれた肉が無駄になる」

「……否定出来ねえ」

 

痛みから復活した一夏も同意する。

なお、今でも部屋の扉をドンドン叩いてるお馬鹿がいるが、間もなく一樹がメールした千冬に連行されるだろう。なお、文面は【やっとまともに飯食べられそうな状況を邪魔するのいるんだけど、俺達が燃やしていい?】だ。

急げ千冬。IS学園に人型の炭が量産される前に!

 

「セリー、タレにニンニク初入れだけど、味はどうだ?」

「もう、最っ高!!」

「良かった。ただ、食べ終わったらいつもより念入りに歯磨きしような」

「ふふふ…私には()()という手がある!」

「ダメです。ミントにそろそろ慣れなさい」

「そんな!?」

「流石にその見た目でお子様用歯磨き粉はそろそろダメです。弱めのでいいからミント慣れなさい」

「ミントはスースーするから嫌い!別にお子様で良いもん!今までのが良い!見た目が理由ならもっと縮むもん!」

「何気に高いままなのでダメです!せめて雪と同じのにしなさい!そして縮んだらここにいれなくなりますよ!」

「うっ……それは嫌だ……ミント頑張ります……」

「よろしい」

 

これまでずっとお子様用歯磨き粉を使うか、炎で消毒というチートを使っていたセリー。

意外と値段が嵩むので、今のうちにと雪恵に相談されていた一樹。

苦手なミントを使いたくないセリーだが、2人といれなくなる事の方が問題なので、今後頑張って克服するだろう。

 

え?辛い物苦手な一樹はどうなんだって?

 

徹夜で仕事するために取りすぎて慣れてしまったそうな。

もちろんそれを知った宗介達(それどころか理香子を含む他TOP7ガールズにも)に止められ、流石に徹夜作業することは無くなったのは別の話。

 

 

ー業務ー

 

やたらと現場にいるために忘れがちだが、一樹は世界トップクラスの大企業であるS.M.Sの頂点だ。

いくら外向きでは違うと言っても、当然然るべき業務はあるはずなのだ。

と言っても、戦闘能力はずば抜けて高い一樹だが、事は経営に関してはズブの素人だったりする。

それでも頂点にいれるのは、それだけのカリスマがあるのと同時に、他の現場部隊以上に現場参加してるからだろう。

例えば……

 

「マサ兄。最近張ってた組のヤクの取引の情報が入って、今夜潰しに行くんだけど、来る?料金はいつも通りで」

『分かった。とりあえず行くのは俺と『俺も行くでぇ!久しぶりの喧嘩や!絶対行くでぇ!』……聞こえたか?』

「ああうん、正直真島のおじさんは最初から頭数に入ってる……他の人教えて?」

『おう。とりあえず俺とシュウと……ウチの新人共連れてくわ。面倒はウチが見るから気にしないでくれ』

「りょーかい。あと、例のごとく潰したあとの奴らの再教育もよろしく。何かあったらメールなりなんなりちょうだい」

『もちろんだ。再教育が本来ウチのメインの仕事だからな…任してもらおう』

 

その夜…

 

「一応聞くけど…おじさん、この間の怪我は治ったの?怪我させた俺が言うのもアレだけど」

「問題無いで!むしろリハビリに丁度ええわ!」

 

ドスを片手に、ワクワクが止まらないと動き回る真島。

そんな真島の動きを見て、問題無さそうだと判断した一樹。

このようにいわゆる裏の人間と相対するときは、基本一樹+S.M.Sの誰か+真島組で対処する事が多い。今日の一樹の補佐は一夏だ。

 

「はじめまして。S.M.S防衛課所属の織斑一夏です。真島組の皆さんの足を引っ張ることの無いよう、今日は気をつけたいと思います」

「おう、挨拶ありがとうな。俺は真島組若頭のマサってんだ。こいつは補佐のシュウ」

「シュウと申します。どうぞよろしく」

 

真島組の苦労人2人と顔合わせをすると、一樹が真島を呼ぶ。

 

「おじさん、コイツが今世界を騒がしてる奴だよ」

「おおそうか!かず坊とは結構長い付き合いの真島吾朗や。よろしくな」

「織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

深くお辞儀する一夏に、感心した笑みを見せる真島。

 

「おお、礼儀正しい子やな。ウチの人間にも見習って欲しいわ」

「……まあ、おじさんのトコのメンツが礼儀正しかったら、それはそれで怖いけどね」

「「「確かに」」」

 

自己紹介を終えると、取り引き現場とされる倉庫の見取り図を見せる一樹。

 

「まあ、念の為の打ち合わせ。おじさんとマサ兄(&その部下)は正面から殴り込んで。シュウ兄には裏口から逃げ出そうとする奴らの確保。俺と一夏は動揺してる奴らの()()()殴り込むっていういつもの流れ。OK?」

 

全員が頷くと、シュウの部下が用意した車に乗り込み、現場に向かう。

 

 

結論を言おう。

取り引きはあっさり潰されました。

真島の顔は裏世界にも広く知れ渡っており、正面から突入した真島を見た瞬間、クスリが入ってるアタッシュケースを放り投げて逃走を計る。

そんな集団に、屋根から飛び降りて来た一樹と一夏が立ち塞がる。

相手が子供だと油断した輩を、それぞれの得物で瞬殺。

追い付いた真島達も加わり、ものの5分程度で掃除は終了。

念の為裏口を張っていたシュウ達の出番も無く、予定通りクスリのルートと、関連する組の情報を得れたのだった。

 

「ああ良いリハビリだったで。かず坊、どうや?この後いつもの焼肉屋でも行かんか?勿論織斑チャンも一緒に。奢るで?」

「行く」

「行きます」

「親父……また焼肉ですか……たまには鍋もええですよ。最近寒くなってきたし」

「お、せやな……かず坊、どっちがええ?」

「う〜ん、今日はマサ兄のオススメにしようかな。美味そうだし」

「よし任せろ」

 

マサに教えてもらった鍋屋さんは、とても美味しかったそうです。

真島組の頭や幹部との付き合いが長く深い一樹はこういう【掃除】の仕事はまず確定で行く。

補佐に他の人間をつけはするものの、危険な仕事であること(一樹や真島が暴れてるとそんな気はしないが)は間違いなく、一夏がIS学園に入学するまでの一樹のメイン仕事だったりする。

 

 

ーアサガオー

 

たまの休み。一樹はなるべく育った孤児院である【アサガオ】に顔を出すことにしてる。

子供たちや、一緒に遊んでるアサガオの番犬?ゴモラの元気な姿を見に行くのと同時に、普段アサガオを支えてくれてる舞を休ませるためでもある。

だが…

 

「はい義兄さん!どんどん食べてください!」

「……はい」

 

休むどころか、嬉々として次々料理を出してくる舞。とても一樹好みの味なので、食べること自体は全く苦ではない。

しかし前述したように、一樹がアサガオに来た理由は、普段激務である舞を休ませるためである。

 

「あの〜、舞さんや。今日アサガオ関連は俺がやるから、たまにはゆっくりと休んで…」

「私は普段結構休んでるんで平気です!それより義兄さんの食事を作ってる方が楽しいので良いんです!」

「……」

 

チラッ、と一緒に食べてる子供たちを見るも、凄い早さで目を逸らされ、我関せずを貫く姿勢であることを見せられた。

実際、年長組にメールで聞いてみたところ、やれる事が増えてきたので、舞の負担も大分減っているらしい。友人達と放課後軽く遊べてるのがその証拠だ。

それよりも、一樹が来ない方がどんどん体調が悪くなるらしく、今日もアサガオの年長者の1人が、S.M.Sに依頼メールを送ることでようやく一樹が来れたのだ。

連絡を受けた一樹が料金を支払おうとすると、たまたま本部にいた一馬によって処理され、一樹の溜まりすぎてる有給の消化がてら調整されたという。

 

「(今度、一馬には礼を言っとかないとなぁ)」

 

なお、この後一樹の知らないところで、アサガオの主要人物と、宗介達TOP7はメールアドレスを交換することになるのは別の話だ。

 

「…よし。舞!ご飯おかわり!」

「はい!」

 

一樹としても、この義妹の料理はかけがえの無いご馳走なのだ。

それで義妹が喜ぶのなら、それこそ喜んで頂くとしよう。

 

 

ー訓練ー

 

S.M.Sのメイン事業は、荒事の鎮静。

そのため、特に戦闘に関する訓練は厳しく行われている。

社長室で書類の片付けを一段落させ、訓練風景を見に行った一樹の目には…

 

「おい!この程度でくたばってんじゃねえ!これが現場だったら今頃テメェらはバラバラにされてるぞ!!」

 

倒れ伏してる10人程の訓練生を、鬼の形相で扱く宗介の姿が。

 

「か、勘弁してください宗介さん…こちとら、朝の6時からずっと訓練続きなんですぜ…」

 

尚、現在時刻は14時である。

訓練生の言葉を聞いて、更に怒鳴ろうとする宗介の肩を軽く叩く一樹。

 

「熱くなってるところ悪ぃな宗介」

「一樹…」

「書類、終わったんだ。提出先に失礼無いか確認してくれないか?ここは俺がやるから」

「…………分かった。テメェら、一樹の指示をキチンと聞けよ。でないと____」

「脅すな脅すな。ことS.M.S内において、俺の言うこと聞かない人はいないんだから。そうだよなお前たち?」

 

それはもう、残像が見える程首を縦に振る訓練生を一瞥すると、深く息を吐いて一樹に向き直る宗介。

 

「…それじゃ、コイツら頼むわ」

「おうよ。あと、あんまりやりすぎんなよ」

「…お前に苦労させないためだ。いくらコイツらに恨まれようとも、やめねえよ」

 

あえて厳しくしていた表情を解きながら、書類確認に向かう宗介。

そんな背中を見送ったあと、訓練生達の前にしゃがむ一樹。

 

「……ほんと、お前らには救われるよ。宗介達を嫌わないでくれて、ありがとうな」

「いえ……宗介さん達程ではなくとも、自分達もボスの役に立ちたいので…それに、ボスの役に立つ為に鍛えてくれてるのは、分かってるんで…すいません、不甲斐ない所を見せて…」

「そんなことはねえよ。なにせ、アイツらの鍛え方はアイツらと、横並びにさせる為のだからな。入ってすぐのお前らが、やれる訳無いんだ」

「…………」

「さて、あと15分程は動けねえだろ?とりあえず水分を取って、その後軽く腹に入れろ。俺が訓練を見るのはそれからだ」

「「「「すいません…」」」」

「気にすんな。とりあえず、16時には訓練を開始する。食後30分は開けてから来るように」

「「「「はい!!」」」」

 

訓練開始の時間を告げた後、社長室に戻る一樹。

缶コーヒーを片手に戻ると、宗介が書類のチェックを済ませたところだった。

 

「お?一樹か。アイツらはどうした?」

「休憩させてる。16時からは俺が面倒見るから、お前はそれ終わったら理香子と一緒に早上がりしな」

「いや、でも「命令だ」……分かったよ」

 

普段命令をしない一樹の、強い口調の命令に、宗介は渋々従う。

一樹は持ってた缶コーヒーを投げ渡すと、訓練部屋に戻ろうとする。

 

「わざわざ、お前らが敵にならなくて良いんだからな?」

「そっくりそのまま返すぞ。一樹」

 

宗介の声を、一樹は肩を竦めて受け流すと、訓練部屋に向かったのだった。

 

 

ーデートー

 

ある週末、一樹と雪恵は2人で街中を歩いていた。

所謂、デートである。

傍から見たら、全て雪恵が奢っているように見えるデートと言うのか怪しいところだが、実際は一樹が雪恵の口座に振り込んだお金なのはここだけの話。

 

「なあ雪、ちょっと行きたいところあるんだけど、良いか?」

 

そろそろ帰ろうか悩む夕方の時間帯、珍しく一樹が行きたい場所を告げてきたので、雪恵は驚く。

驚きはするものの、断る理由も無いため笑顔で頷く。

一樹先導の元、進んでいくと、小さな個人経営の喫茶店【夕顔亭】に着いた。

扉を開けると、「いらっしゃいませ」と可愛らしい声で店員が出迎えた。

 

「よぉ夕陽(ゆうひ)。久しぶりだな」

「か、一樹君!久しぶりだね!智希経由で元気なのは聞いてたけど、全然来てくれないから…」

「んま、色々あってな。それより紹介がまだだったな。俺の幼馴染の雪だ」

「田中雪恵です!初めまして!」

「初めまして!深菜川(みながわ)夕陽です!一樹君には色々お世話になってます!」

 

流石のコミュ力であっという間に仲良くなる2人。

席に案内されてから、雪恵が聞いてきた。

 

「ねえかーくん。夕陽ちゃんを名前呼びしてるって事はS.M.S関係者だよね?」

「お、おう。そうだけど…元カノとかって発想にはならないのか?」

「伊達にかーくんと付き合ってないよ」

「……流石。夕陽はさっき話にも出てた、智希の相方さんだ。アイツらも幼馴染コンビで…くっつくまでは苦労したなぁ」

 

遠い目で外を見る一樹に、何となく苦労具合を察した雪恵。

 

「……ボロクソ言ってくれてるとこ悪いけど、注文は決まったか?」

 

ブスッとした表情で注文を取りに来たのは、件の智希。

シンプルな紺のエプロンのTHE・喫茶店の店員スタイルの智希からのクレームを軽く流して、ホットカフェオレとホットレモンティーを注文する2人。

 

「ああそうだ。智希、今日は砂糖も頼む」

「ん?珍しいな。何かあったのか?」

 

普段、一樹はコーヒー系に砂糖を入れない。

それを()()付き合いで知ってる智希は、いつも通り砂糖抜きで出そうとしていたのだが…

 

「…このあと、学園に戻るから」

「理解した」

 

もはや阿吽の呼吸レベルの会話に、雪恵と夕陽は苦笑を浮かべるしかなかった。




どんなに時間が掛かっても、決して消失はしませんので、どうか、超気長にお待ちください…


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Episode144 後輩ーアンダークラスメンー

ひとつの話が出来てから書くのではなく、それぞれネタが浮かんだら書けば良いと気付いたフルセイバーです

遅すぎる。


「俺達の母校、第六中に出向、ですか?」

「なんでまた?」

 

少しずつ秋の肌寒さを感じ始めたある日の放課後、男子一同は楯無に呼ばれていた。

我関せず、と虚の用意したお茶を飲む一樹を横目に、一夏と弹は楯無から話を聞いていた。

 

「よくある課外授業よ。ISに関する知識を得たいからって、アチラの生徒会長からの要望でね」

「ブホッ!!??」

 

完全に唐突に吹き出した一樹に驚く楯無は不思議そうに、理由を察せれた一夏と弹は苦笑いで彼を見る。

 

「…おい楯無。その出向とやらに行くのは勿論教員だよな?」

 

縋るように楯無に聞く一樹。

疑問符を大量に浮かべながら、楯無はただ事実を告げる。

 

「いえ?教員も手が空いてないし、折角だから歳の近い先輩の話の方が良いってなって、私達生徒会が行くことになったわ。あとは、卒業生って事で一夏君達も呼ばれてるわね。あちらからの提案をまるまる呑んだ形よ」

「……あんにゃろう、やりやがったな」

 

一夏が行く、ということで護衛役である一樹が行かない訳にいかなくなってしまった。

 

 

「〜♪〜♪」

 

件の第六中の生徒会室では、亜麻色の髪を肩甲骨まで伸ばし、今年15歳にしては凸凹のハッキリした体躯の生徒会長、双葉梓がご機嫌に鼻唄を歌っていた。

 

「いやーダメ元で言ってみるもんだね♪」

「…まさか外部講師に、IS学園の生徒が採用されるなんて思いませんでした」

 

梓の隣、生徒会副会長の倉野絵麻(S.M.S倉野和哉の妹双子の1人)が、相方の行動と結果に驚く。

 

「(一樹さんを気に入る人って、どうしてこうもキャラが濃いのかな…あ、ある意味お兄ちゃん達もそうだった)」

 

自分の兄もそうだと言うことを思い出し、遠い目になる絵麻。

そんな絵麻に、興奮気味の梓が詰め寄る。

 

「ねえねえ絵麻ちゃん!一樹先輩って今は織斑先輩の護衛役なんだよね!?」

「う、うん。そうだけど…」

「じゃあさじゃあさ!織斑先輩が生徒会役員だって事はさ!織斑先輩がここに来る=護衛役の一樹先輩も来るって事だよね!」

「……」

「…なんでそこで黙るの?ねえ……」

 

絵麻は露骨に目を逸らす。なぜなら、和哉から

「なんか珍しく一樹がTOP7グループに○/○の護衛役だけ代わってくれって連絡して来たんだけど…もしかしてもしかする?」

と、昨日相談されたからだ。

TOP7の事だから、一樹の休暇がてら良いぞと言いかねない。

それを永い付き合いで分かっている絵麻は、梓に安心させてあげられる言葉を送る事が出来ない。

 

「…まさかさ、その日だけ護衛役を代わってとか言ってるの?」

「……」ダラダラ

「…へえ」

 

 

『助けて一樹さん!!お願いだから梓と会ってあげて今度お店のケーキ安くしてあげ』

 

こんな慌てたメールを、一樹宛に送った絵麻を責める事は、誰も出来ないだろう。

 

 

「……楯無、頼みがある」

 

絵麻のメールを見て、流石にその日護衛役を休むのを自重する事にした一樹。

となると、対策をたてなければならない。

 

「櫻井君が私に頼み?珍しいわね…協力出来るかは分からないけど、とりあえず聞かせて?」

「そこまで大変なことじゃない。その日限定で、雪を生徒会役員って事にして連れて行って欲しいんだ」

「……なんで?」

「雪がいてくれないと、今回はキッツイんだ…あっちの生徒会長のせいで」

 

いつも以上に疲れた顔の一樹を見て、それくらいならと楯無は手続きを済ませたのだった。

 

 

その日の夜、雪恵が一樹に聞いた。

『どうしてその子はそんなに一樹に執着するのか?』

と……

 

……元々、梓はよくいるステータス女子って感じで、男子たちを手玉に取り、一夏とステータスとして付き合おうとしてたんだ。

まあ一夏あんなだし、当時は……

だから、それは無かった。

それでも、アイツは諦めなかった。

 

『織斑先輩!お弁当作ってきたんですけどって、なんだ。櫻井先輩ですか』

『…アイツなら例のごとく体育館裏だ』

 

猫なで声で屋上に入ってきては、俺を見てガッカリするってのが2年前のお約束だ。

おっとセリー、過去の話だから手に火球を出して焼こうとするな。

まあ、一夏を狙うって事は、必然的に俺に弾とも面識を持つようになるんだ。

鳳?ああ、アイツは何故か梓が来る時はいなかったな。多分、ウマが合わないし、一夏の前で喧嘩して面倒起こすくらいなら〜とか考えてたのかもな。決して作者が台詞考えるのダルいからじゃないぞ?

…ゴホン、すまん取り乱した。

んで、なんだかんだ梓と知りあう訳だ。

ステータスのために結構努力する奴でな。中々ガッツもあって、ゲンさんと修行してるところまで付いてこようとするんだ。

…流石に鬱陶しくなるし、ゲンさんの迷惑になるから止めたけどな。

んで、ある日梓の自転車がパンクしたんだ。それも両方。たまたま道具持ってたから直してたら……まあお約束のナンパさんが来てな。一夏がいれば任せるんだが、そんときはいなかったし、如何にも体目当てな連中だから、見捨てるのも寝覚めが悪いから軽くのしたんだ。

そしたら懐かれたの?って?

そんな単純じゃないよ。一夏じゃあるまいし。

まあ多少は心を開いてくれたと思うけど。

多分…その後、だな。

アイツは実は、一夏達より先に…

 

 

「先輩、なんであんな強いんですか?」

 

しつこいナンパ男を軽く片付けてやったあと、梓は大分一樹(当時の一樹は矢的の授業時以外基本屋上にいた)と会話するようになった。

それまで一言二言話したら終わりだったのに、今では大分会話が続くようになった。

 

「俺が強い?どこがだよ…」

 

昼休みの屋上。紙パックのカフェオレを飲みながら、何気なく空を見上げる一樹。

相変わらず色を感じない表情の彼に、胸の奥で何かが動く感覚があったが、この時の梓にはそれが何か分からなかった。

 

「俺は……別に、強くなんて無いよ」

 

 

学校からの帰り道。バックを片手に歩いてる梓。

あの日、ナンパ男たちをあっさり撃退した彼の背中は、頼りになるのと同時に、酷く脆く見えたのを覚えている。

梓は美少女だ。

ちょっと笑顔を振り向くだけで、あっという間に男は落ちる。

さらに愛想を振りまけば、大抵の男は自分を助けてくれる。

そんな梓にとって、周りにいる男はステータスだった。

(なび)かない一夏(気付かないのと変な話慣れてる)と一樹(そもそもされると思ってない)と弾(一夏に向いてると理解している)は珍しかった。

 

「そこのお嬢ちゃん、ちょっと助けてくれないかしら?」

 

物思いに耽っていると、目の前で困った表情を浮かべている美女が、エンストしたと思われる車のエンジンルームを覗いていた。

車に詳しくない梓は断ろうとするが、ただ視力の悪い自分の代わりに見て欲しいだけと言われ、その女に近付こうとすると…

 

「双葉!しゃがめ!!」

 

最近聞きなれてきた声が、酷く焦った状態で聞こえた。

それに従ってしゃがむと、頭上を凄い速さで何かが通り過ぎる音が聞こえた。

 

「チッ!」

 

女は舌打ちすると、飛んできた何かを対処したようだ。

その隙に声の主、一樹が梓と女の間に立った。

 

「……なんで気付いた」

「あいにく、俺は女性に弱くないんでね」

 

梓からしたら何を言ってるか分からないが、学校の先輩がなにやら目の前の女を警戒しており、女も恐ろしい形相で彼を睨んでいる。

ただ、女から発せられている覇気のようなもので、自分は間一髪助けられた事だけは理解した。

 

「せ、先輩…」

「色々思う事はあるだろうが、今は俺の後ろにいろ。もう少しで、頼りになる大人が来るから」

 

この頃は一樹だけでなく、ダンにゲン、矢的も地球にいた上に、今より自由に動けていた。3人は一樹になるべく普通の学生として過ごして欲しがったが、いかんせんエボルトラスターのお陰で一樹が先に気づいてしまうので、結局は協力していたのだ。

 

「チッ…セブンじゃなかったのかよ」

「ああ、お前らのとこでも有名なのね…」

 

軽口の応酬を続けているが、互いに隙を見せないよう注意してるのが、梓にも分かった。

特に一樹は、自分を庇っているのだから尚更だ。

 

「…さて、そろそろ俺たちは退散させて貰おうかな」

「へえ、しっぽ巻いて逃げるのか?」

「やっすい挑発に乗るほど短気じゃないし、何より…」

 

そっと、梓の腕を掴む一樹。逃げる準備だと、梓は察した。

 

「待たせたな、一樹君」

 

「頼りになる大人が来てくれたんでな!それじゃ!」

 

妙齢の僧=ゲンが梓の隣に来た瞬間、梓の手を引いて走り出す一樹。

一瞬のアイコンタクトでゲンに後を頼むと、とにかく梓を安全な場所に連れていくのだった。

 

 

「先輩…なんだったんですか?あの女の人」

「招かねざる客だ。かなりのな」

 

圧迫感が薄くなったので、梓は先程の女がどんな人物なのか聞いたが、まだ一樹は緊張を解いていない。

 

「悪いが、矢的先生と会えるまではとにかく着いてきてくれ。安心して話せないんでな」

「矢的先生のとこ、ですか?不審者が出たのなら、交番の方が良いのでは…?」

「ただの不審者だったらそれで良かったんだけどな…ッ!?悪い!!」

「キャッ!?」

 

いきなり一樹は梓を抱えて横に跳んだ。

瞬間、梓の頭があった所を光弾が通り過ぎた。

アレに当たっていたら、と思うとゾッとする。

 

「…まだいやがったか」

 

梓を背に庇いながら、一樹は目の前のコートにハットを目深に被っている紳士を睨む。

その手に握られている光線銃から、今の光線はこの紳士が撃った事が察せられた。

 

「光の国の者は、見つけ次第抹殺する」

「(光の国???)」

 

紳士の言葉に梓は疑問を持つが、場の雰囲気的に聞ける空気では無い。

 

「人違いだろ…俺は普通に日本生まれだ」

「光の国の者でないのなら、今の攻撃で死んでるぞ」

「悪意には昔から敏感なだけだ」

 

紳士が光線銃を構える。一樹もまた、学ランの胸ポケットに手を入れている。

そして____

 

「「ッ!!」」

 

____紳士は一樹に向けて懐から出した光線銃を向けたが、その引き金を引く前に一樹と梓は横に吹き飛ばされた。

吹き飛ばされ先が、硬いコンクリート製の壁であるのを一瞬で理解すると、梓の盾になる為に空中で体制を整え、念押しで袖に隠し持っているエボルトラスターを握る。光のベールが、一樹と梓の間に発生、衝撃から梓を守った。

 

「カハッ…」

 

梓を守る事に成功したが、己を守る事を考えすらしなかった当時の一樹は、その衝撃をモロに受け吐血する。

 

「先輩ッ!?」

 

地面に落ちる血液に、梓は動揺する。

無理もない。命を狙われるなんて状況に、現代日本で経験がある方がおかしいのだから。

 

「2体…か」

 

そんな梓を軽く肩を叩くことで落ち着かせ、改めて敵と対峙する。

この場で戦うという選択肢は彼には無い。

自分の実力で、梓に怪我をさせずに戦うのは無理だと理解しているからだ。

そのために、ゲンにあとを頼んでからひたすら逃げているのだ。

 

「私の生徒に何をしている」

 

どうするか悩んでいると、一樹と梓の前に矢的が来た。

 

「先生…」

「君にしては時間がかかるから、様子を見に来てみたんだ。どうやらむしろ私の方が遅かったみたいだ。すまない」

「…流石先生、こんな時も遅刻魔ですね」

 

矢的が来てくれて、ほっとひと息つく一樹。

 

「ここは任せてくれ。君は彼女を兄さんの所に」

「…はい、少し離れたところでゲンさんも戦ってくれてるので、お気を付けて」

「ああ」

 

矢的が2人を睨んでいるうちに、一樹は梓の手を引きまた走る。

なんとかサン・アロハまでたどり着く、その瞬間。

 

『逃がさん!』

「ッ!?」

「キャッ!?」

 

衝撃波が2人を襲う。

壁までの距離が短すぎたために、光のベールしかクッションを用意出来ず、梓は気を失ってしまった。

 

「ッ!おい双葉!しっかりしろ!」

 

気を失った梓に近寄り、呼吸をしてるのを確認するために、ポケットティッシュを梓の口元に近付ける。浅いとはいえ呼吸をしてるのが分かると、とりあえず安堵する。

 

『安心しろ。ソイツはお前たちを始末したあと、我が星で売るのだからな。殺しはしない』

 

声の主、【ゴドラ星人】がそんな事を言う。

 

____一樹の、怒りに触れる事を。

 

「……何故こいつを?」

 

ゴドラ星人に背を向けたまま、一樹は静かに問う。

彼は今、()()()()()

 

『ゴドラ星では今、地球の美しい女が流行りでな。()()として飼いたいために捕獲しに来たって訳だ』

「……ふざけるなよ?」

 

一樹からの殺気が、膨れ上がった。

彼は気を失っている梓を、そっと壁に寄りかからせてゴドラ星人と対峙する。

 

『ッ…良い殺気だ。だが、貴様は光の国の住人でないのなら、こうすれば良いのだ!』

 

ゴドラ星人は巨大化。一樹を見下ろす。

 

「…確かに俺はさっき、光の国の住人じゃないと言った。だがな____」

 

袖からエボルトラスターを下ろし、握る。

 

「____お前らと戦えないとは、言ってないぜ?」

 

 

一樹がエボルトラスターを取り出すのと同じタイミングで、ゲンは獅子の瞳を、矢的はブライトスティックをそれぞれ構えた。

 

「ウオォォォォ!!」

「レオォォォォ!!」

「エイティ!!」

 

 

一樹が光に包まれている光景を、まだうっすら意識があった梓に見られていると気づかないまま、彼はウルトラマンに変身した。

 

 

「すまない一樹君、1体そちらにやってしまって…」

「お気になさらず。お陰で、奴らの目的が分かったので」

「ほう…それで、目的とは?」

 

ウルトラマン、レオ、80は横に並ぶと、やはり3体いるゴドラ星人と対峙する。

 

「地球の美しい女性を奴隷にしたいそうです」

「「ほぉ…」」

『知られた所で問題は無い。おい、そこの銀の奴。泣いてセブンに助けを乞わなくて良いのか?死ぬぞ』

「てめぇら如き、セブンさんを出すまでもねぇよ。レオさんに80さんだって、てめぇらには分不相応だ」

『貴様…!』

 

ゴドラ星人の挑発を、挑発で返すウルトラマン。

激昂した1体のゴドラ星人が飛びかかってきたことで、戦いが始まった。

 

 

ウルトラマンを挑発していた個体は、この3体のリーダー格らしい。

中々の格闘センスで攻撃してくるが、ウルトラマン=一樹が普段見ている格闘は一夏を鍛えているゲンの物だ。

ゴドラ星人程度の格闘では、児戯に等しい。

リーダー格でこれなのだから、レオや80が相手してる個体など、見てて可哀想になる程だ。

アッサリ攻撃を受け止められ、ボコボコにやられている。

レオの拳法に。80の蹴り技に。

ウルトラマンも目の前のゴドラ星人をボコボコにしたい。だが、当時の彼の技術では街に被害が出てしまう。

ならば、答えはひとつだった。

 

「レオさん、少しお願いします!」

「分かった!」

 

自分が相手していたゴドラ星人をレオに向けて蹴り飛ばすと、ジュネッスにチェンジ。メタ・フィールドを展開する。

 

「シュウッ!フアァァァ…フンッ!デェアァァ!!」

 

 

メタ・フィールド内での戦いは、一方的だった。

周囲を気にしなくていいために、ようやく暴れられる用になったウルトラマンと、更に実力を解放したレオと80がそれはもうボッコボコにしていた。

ゴドラ星人よ、君たちは来るタイミングと狙った獲物が悪すぎた。

最終的に、メタ・フィールド内だと言うのに逃亡しようとする3体は、オーバーレイ・シュトローム、シューティングビーム、サクシウム光線によって撃破されるのであった。

 

 

「……ん?」

 

意識を取り戻した梓。

掛けられていた毛布を退かして辺りを見回すと、そこはハワイアンレストランだった。

 

「起きたか」

「…先輩?」

 

起き上がった梓に気付いた一樹が、ホットココアを片手に近付く。

 

「…ここ、どこですか?」

「俺がいつもお世話になってる人の店だ。ここなら安心出来るぞ」

「さっきまでの…変なのは?」

「頼りになる大人達が片付けてくれたぞ。怖がらせてごめんな」

 

ココアを手渡してくる一樹。

それを礼を言ってから受け取る。

ほんのり甘いそれに、ほっとするのを感じる。

 

「先輩は何も悪くないですよ…むしろ、助けてくれてありがとうございます____ウルトラマン」

「……何言ってんだ?」

「隠さなくて良いですよ。私、見ましたから。先輩が、光に包まれたあと、銀色のウルトラマンになったのを」

「……」

 

まっすぐ自分をみてくる梓に、一樹はため息をついた。

 

「……他の人に言ってくれるなよ」

「何でですか?ザ・ワンの時だって先輩が戦ってくれたから世界があるのに」

「…この力は、俺への【罰】だから」

「【罰】?」

「お待たせ。一樹君のグァバジュースだよ」

 

更に聞こうとする梓だが、タイミング良くダンがドリンクを持ってきた。

これ幸いと礼を言ってからグァバジュースを飲み始める一樹。

彼から発せられる、『それ以上聞くな』という空気に、梓は何も言えなかった。

 

なお、梓が気絶してる間に、ダンに何故自分を呼ばなかったと軽く説教を一樹が喰らっていたのは別のお話。

 

 

それからかな…屋上で会う度に、前より距離感が近くなったのは。

ウルトラマンの力が無くなったら、アイツはいなくなると思ってたから結構ぞんざいに扱ってたんだけど…アイツは強かった。

 

『先輩、私は先輩が【普通の人】になっても離れたりしませんよ。だって、それは先輩がもう傷つかなくて良いって、証でもありますから』

『……お前は、一夏の様なTheイケメンを狙ってたんじゃねえのか?』

『前まではそうでした。でも、織斑先輩は私には合わないって気付いたんです。今の私は先輩の虜ですよ♪』

『キツイぞ』

『なんですかなんですか!せっかく可愛い後輩が可愛く言ったのに!!』

『狙いすぎ。出直してこい』

『くっ、織斑先輩とはまた別の強固な壁ですね…わ、私を彼女にしたらお得ですよ!なんたって可愛いし、スタイルだってクラスで1番良いんですから!』

『…俺は、待ってる人がいるから』

『お、男なら女の1人や2人囲って見せてくださいよ!織斑先輩みたいに!』

『そんな甲斐性は無い。あと、一夏を例に出すのは違うと思うぞ』

『…確かに。な、ならひとつお願いが…!』

『何だ?金なら無いぞ』

『先輩は私をなんだと思ってるんですか!?違います!ただ名前で呼んで欲しいんです!』

『…それくらいなら。梓、コレで良いか?』

『え、えへへ…私は諦めませんよ先輩!これからアプローチしまくりますから!』

『あ、俺基本学校いないから』

『義務教育キチンと受けて下さいよ!?』

 

これが、俺と梓のちゃんとした出会いだよ。

アイツは良い奴だから、キチンと良い相手を見つけて欲しいって、思ってる。

ただ、俺にあの唐変木みたいなハーレム構築を薦めたのはどうかと思うけどな。




ダンを呼ばなかった理由は何?

一樹「美女が出てきたら困るから」


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Episode145 反重力宇宙人ーゴドラー

ガンダムSEEDの映画楽しみ!


課外授業の日が来た。

楯無を筆頭にIS学園生徒会の面々と一樹は電車とバスを乗り継いで第六中学校に向かっていた。

 

「はぁ…」

「かーくん、まだ行ってもないのに疲れてるね…」

「お前も梓に会えば分かるよ…あのバイタリティは尊敬に値するな」

「かーくんが尊敬!?」

「だってお前、振った相手にずっとアプローチ出来るか?相手が卒業しても」

「…凄いね」

 

 

「……」ソワソワ

「…梓、落ち着いて。ちゃんと一樹さん来るからさ。彼女さん連れてだけど」

「分かってるけどさ!卒業してから会ってないんだもん!髪型大丈夫かな…肌荒れはしてないけど、体型大丈夫かな…お腹のお肉は一応つまめないけど不安だな…」

「いや、水着になる訳じゃないんだからお腹の肉は平気でしょ…」

 

同性の絵麻から見ても…いや、同性の絵麻だからこそ、梓のスタイルは同年代に比べて素晴らしいのが分かる。出るとこは出てて、引っ込むべきところは引っ込んでいる。

現に、都心部を梓と歩いていたら30分に1度はモデルのスカウトと遭遇する程だ。

そんな神様に愛されているような体型の梓だが、想い人と会うとなるとやはり緊張するのだ。

ちなみに絵麻は重度のブラコンなので、兄である和哉以外の評価はあまり気にしてない。凹凸が少し貧相だとしてもそこまで気にしてないのはそういう事である。

 

 

「着いちまったか…」

 

六中の校門前に着いたIS学園組。

卒業してから半年程しか経ってないというのに、どこか懐かしさを感じるのは、それだけこの半年が酷く濃かったためだろう。

正門横にあるインターホンを押して、出てきた教頭に着いた事を伝えると、直ぐに迎えを出してくれるとのこと。

勿論迎えは____

 

「せんぱぁぁぁぁい!!!!」

「突進してくんなこのアホが!!」

 

____梓である。

会ってそうそう一樹の腰の辺りに飛凄まじい勢いで抱きついて来た梓の勢いを回転することでいなす一樹は流石だ。

 

「会いたかったです先輩!先輩先輩先輩!!」

「ええいやかましいこのアホ後輩!さっさと仕事しろよ!」

 

腰に抱きついて来た後輩の脳天にズビシッ!と手刀を放つ一樹。

涙目で頭を抑えて抗議の視線を送ってくる梓をスルーして、楯無に視線を送る一樹。

その意を察して、楯無が前に出る。

 

「あ、IS学園生徒会長の更識楯無です。本日はよろしくお願いしますね」

「あ、すみません。第六中学校生徒会長の双葉梓です。本日は御足労頂きありがとうございます」

 

涙目が瞬時にキリッとした表情に戻れるのは、昔のステータス女子だったころ得た能力だろう。

双方挨拶が終わったところで、一樹は雪恵を抱き寄せた。

 

「梓、前から話してた俺の彼女の田中雪恵だ」

「ど、どうも…」

「ムムッ!ホントに恋人が出来たんですね…メールで聞いてはいましたが…なるほど、美人さんです。ですが!相手にとって不足は無しです!絶対に一樹先輩の心は奪ってみせます!」

「ムムッ!私とかーくんの絆に正面から挑んでくるなんて…この子、出来るねかーくん!」

「いや、お前も梓みたいになるなよ…とにかく梓、そういう訳だから…お前も良い人探しなよ」

「いえ!いざとなったら愛人になってやるです!とりあえずIS学園受験に向かって今は頑張って、卒業後はS.M.Sに就職してやるです!」

「あー、最近のS.M.Sは大卒じゃないと取らないらしいぞ(大嘘)。愛人なんて作る気は無い。そんな俺は器用じゃない」

「ならS.M.Sでバイトしながら通ってやるです!とにかく!私が先輩を諦める事はありません!」

 

何度断られても決して諦めずに慕ってくれる後輩に勿論悪い感情は無いが…無いからこそ、強く引き離す事もしにくく、一樹は梓が苦手だった。

 

「……とりあえず、楯無達を案内してくれ。今日はあくまで一夏たちの護衛って事で来てるだけだから」

 

後ろで苦笑を浮かべてる一夏と弾を指しながら言う一樹。

その言葉に、やっと2人が居ることを認識した梓。

 

「あ、御二方いたんですね」

「「扱いの差が激しすぎね???」」

 

 

講演会と言っても、この年代の子達の耳に入るとは中々無い。

特に女性にしか扱えないISの講演であれば、男子達が興味を持つのもそんなに無い…と思っていたのだが。

 

「(ある意味で、楯無達が講演に来たのは正解かもな…全員真剣に聞いてるし)」

 

女子達は自分が目指すために、男子達は見目麗しい楯無達の講演によるのと、2人(公式上)しかいないとはいえ、男子も扱えた前例があるために、【もしかしたら自分も…】と考えたのだろう。誰1人、ふざけること無く講演を集中して聞いている。

 

「(なあ、ミオ)」

『ん?』

「(実際、他の男子がISを扱える可能性はあるのか?)」

『0では無いと思うよ。ただ…マスターや一夏さん、弾さんみたいに、かなりの実力が無いと私達は選ばないかな』

「(おいおい…みんながみな、S.M.Sクラスでないとダメなのかよ…しかも、高校入学前にとか、基本ダメじゃねえか)」

 

一夏と弾が中学時代に入隊出来たのは、S.M.Sトップである一樹が認めたからだ。

交友関係があまり広くない一樹は、同中の後輩だとしても面識あるのは梓くらいだし、彼女をS.M.Sに入れるというのは現時点で考えていない。そもそも梓なら普通に試験を受けれるので、後は彼女の努力次第だろう。

いくら一樹と言えど、中学生に入隊を認めるのは激レア中の激レアなのだ。

 

『だってマスター?私達にとって、IS搭乗者として認めるのは、自分の服の中に人を入れるようなもんなんだよ?何故かコア人格は女の子ばかりなんだから、そりゃ男性操縦者はいないよ』

「(あーなるほどな)」

『そうそう。だからマスターはいつも私の服の中に…キャッ///』

「……」

『何か反応してよマスター!(泣)』

「……」

『マスター?』

 

いつものようにスルーされてるのかと思っていたミオだが、一樹があまりに真剣な表情をしているので、ふざけるのをやめた。

 

「(…ミオ、レーダーをモードUKに切り替えろ)」

『え?なんで?』

「(早くしろ)」

 

いつに無い一樹の強い口調に、慌ててレーダーを切り替えるミオ。

『ッ!?』

「(それを一夏と弾…ハクとノルンに送れ)」

『了解!』

 

ミオが行動しながら、気を利かせて雪恵のアストレイ・ゼロと個人回線を繋げた。

心の中でミオに感謝して、一樹は雪恵に告げた。

 

____ちょっと仕事増えたみたいだ。

 

 

課外授業の後の放課後、生徒指導担当の合田は生徒会室を訪ねていた。

ガラッと扉を開けると、疲れた表情で左腕を現生徒会長、梓に抱きつかれている卒業生がいた。

 

「まだ帰らなかったの?他の人達はもう帰られたと思うけど」

「やんなきゃいけない仕事が出来ちまったんですよ。それで校内回ろうとしたらコイツに捕まっちまいました」

 

このご時世に梓程の美少女に抱きつかれているというのに、疲れた表情を全く崩さないこの卒業生はある意味大物だと合田は思う。

しかし、卒業生といえど今は部外者。早々に帰ってもらわねばならない。

 

「そう、お仕事大変ね。出来れば早く済ませて帰って欲しいのだけれど。これから生徒会の面々と反省会やらないといけないから」

「お疲れ様です。でも、すぐ終わりますよ。なにせ、相手から来てくれましたから」

 

一瞬だった。卒業生…一樹が空いていた右腕に持っていたブラストショットから波動弾を合田に向けて撃ったのは。

普通の人間なら対応出来ない速さで行われたソレを、合田は横に飛び込む事で回避。しかし、ロッカーに隠れていた弾の放ったゴム弾までは対応出来なかった。

 

「クッ!?」

 

人間なら気絶する程の威力で放たれたゴム弾が腹部に命中したが、合田は呻くだけだった。

殺意を込めた眼で一樹と弾を睨む合田に、梓を背中に庇いながら一樹が対峙する。

 

「何故分かった…!?」

「企業秘密だ。お前を通じて他の奴に伝わる可能性もあるんでな。無駄なリスクを負う必要は無い」

 

ブラストショットの銃口を向けながら、冷たい目で合田を睨む一樹。

そして一樹程ではないにしろ、それでもかなりの覇気を発している弾。

今、合田に勝てる要素は無かった。

そう、合田()()なら。

 

「あ、そうそう。お前のお仲間達だけど、多分今頃ボコボコにされてから焼かれてると思うぜ?」

 

 

「っし!!」

「良いストレス発散…!」

 

IS学園への帰り道、黒服覆面2人に襲われた一夏たち一行…

しかし凄まじい師に鍛えられた一夏と、素でスペックの高いセリー(どうしても雪恵の傍を離れなければならなかった一樹が呼んだ)によって圧倒されていた。

音もなく現れた覆面タッグなのだが、まるで()()()()()様に出された一夏の回し蹴りによって持っていた光線銃を弾かれ、セリーによってタッグを分散された。

2対2だったら襲撃者が強かっただろう。

だが、1対1と1対1に別れたこの戦いでは一夏とセリーが強かった。

 

 

覆面の放つ拳を、一夏は空手の要領で捌くか、カウンターの一撃を入れて対応。

上段に放たれた回し蹴りは一瞬屈んで避けると、がら空きの鳩尾に容赦のない右ストレート。

ストレートにより怯んだ覆面に、一夏の上段回し蹴りが決まる。

一樹との模擬戦だけ見てると忘れてしまいがちだが、一夏は決して弱くない。何せ鍛えた師が師だ。

覆面の放つ攻撃をことごとく捌き、カウンターの重い一撃を喰らわせてく。

そして、覆面が大きく怯んだその瞬間!

 

「はぁあああああ!!」

 

麒麟を部分展開。ビームサーベルで覆面を一刀両断した。

離れた所では、セリーも覆面を火球で焼き尽くしていた。

一夏が斬り伏せた襲撃者は泡となって消えた。

 

「…気持ち悪い」

 

汚い物を雪恵に見せぬよう、セリーは泡を燃やすのだった。

 

 

『カズキ、頼まれてたゴミ掃除終わったよ。言われた通りアレと1体ずつ片付けた』

「ありがとうなセリー。後は気をつけて帰ってくれ」

『ん。カズキもね』

 

合田を睨みつけながら、セリーと個人回線で会話する一樹。

梓を弾に預けると、合田に近付く。

「お前の仲間は泡になったそうだ。今母星に帰るってんなら見逃してやる。これ以上やるってんなら…」

 

容赦はしない。

 

殺気の籠った目で睨む一樹。

合田はその殺気に気圧されるが、気力で振り切る。

 

()()()()()如きが、図に乗るな!!」

 

変装を解き、一樹に殴り掛かる。

だが、合田…ゴドラ星人が触れるより早く、一樹の蹴りが入る。

 

《グハッ!?》

「テメェみたいな汚い連中の動きはそれなりに慣れてる。多少近接戦闘の心得があるみたいだが、その程度の動きでよく地球に来たな」

 

ブラストショットを向けて、トドメを刺すその瞬間。

 

《舐めるなあああああ!!!》

ゴドラ星人の体が光り、巨大化。第6中学校を破壊しようと腕を振り下ろす…が。

 

《!!??》

 

一樹からの連絡に受けて出撃していたチェスター達の攻撃を受けて怯んだゴドラ星人。

その隙に、梓を弾と共に避難させる一樹。

 

「先輩……」

「心配すんな。後で合流するからよ」

 

ニカッと笑って軽く小突く一樹。

そんな彼に安心すると、梓は弾に連れられて避難していく。

梓と弾が生徒会室を出たのを確認すると、一樹はエボルトラスターを引き抜いた。

 

 

「生徒の避難がまだ完了していない。今はとにかく学校からやつを引き離すぞ」

『『『了解!!』』』

 

一夏のいない今、チェスターの指揮を取るのはラウラだ。

挑発するようにゴドラ星人の頭部に攻撃を続ける。

激昂したゴドラ星人が腕を振り上げたその時!

 

《!?》

「シェアッ!」

 

眩い光の柱がゴドラ星人を吹き飛ばした。

光が収まったそこには、いつもの登場ポーズのウルトラマンが。

 

《同族の仇!》

「…シュッ!」

 

もう侵略などどうでもいいとばかりに、ウルトラマンに攻め込むゴドラ星人。

大振りの腕を屈むことであっさり避けると、空いている胴に拳を叩き込む。

 

「ハッ!」

《うぐっ!?》

 

うずくまりながら数歩下がったゴドラ星人に、踏み込みの前蹴り。

下がっていた頭部に喰らった事で、見事な放物線を描いて大地に崩れるゴドラ星人。

 

「シュッ!ヘェアッ!」

 

何とか起き上がったゴドラ星人に、ウルトラマンが駆け寄る。

ヘッドロックから胴体を持ち上げ、大きく弧を描く投げを喰らわす。

 

《ッ!?》

 

大地に叩きつけられ、一瞬動きが止まるが、ゴドラ星人にも意地がある。

ウルトラマンの腰に回し蹴りを放つが、ウルトラマンは咄嗟に右膝を上げる事で受け止める。

素早く姿勢を低くしたゴドラ星人がウルトラマンの左脚にスライディング蹴り。

流石のウルトラマンも左脚だけでそのスライディング蹴りには耐えられず、大地に転がる。

 

《ッ!》

 

自分が有利となった瞬間、ゴドラ星人はウルトラマンを踏みつけようと脚を高く上げるが、ウルトラマンは降ろされた脚に横から蹴りを入れて軌道をずらしてから起き上がる。

 

「ハッ!」

 

《おのれ…!》

 

ゴドラ星人は右手に光線銃を呼び出すと、ウルトラマンに向かって連射。

2発は両手で弾いたが、3発目以降を喰らってしまった。

 

「グッ!?」

《そこだ!》

 

一瞬ウルトラマンの姿勢が崩れたのを見逃さず、もう一丁光線銃を呼び出して連射。

度重なる爆発によって起こった硝煙がウルトラマンの姿を完全に隠した……

 

《やったか……?》

 

注意深く煙が晴れるのを待つゴドラ星人。

そして、煙が晴れた……

 

《いない!?》

 

しかしそこに、ウルトラマンはいない。

慌てて周囲を見渡すゴドラ星人。

その視線が、上に向いた……

 

《なっ!?》

 

そこには、クロスレイ・シュトロームの準備をしているウルトラマンの姿が。

慌てて光線銃を向けるゴドラ星人だが…

 

「シェアッ!!」

 

ウルトラマンがエネルギーを貯め終わる方が早かった。

ゴドラ星人が光線銃を撃つより速く、その光線がゴドラ星人の体を貫き、大地に前のめりに倒れた。

 

ドォォォォォン!!!!

 

ゴドラ星人が爆散したのを確認すると、ウルトラマンは光に包まれ消えていった。

 

 

「先輩!」

「よぉ梓。怪我はしてねえな?」

「はい!先輩は…少ししてますね…」

 

顔に何枚か絆創膏を貼っている一樹の姿を見て、梓は若干悲しげな表情を見せる。

そんな梓の頭にポンッ、と手を置くと、その髪の柔らかさを感じながらそっと撫でる。

 

「ちょっと擦っちゃっただけだから気にすんな。2〜3日もすれば傷跡も残ってないよ」

「……良かった、です」

 

仕事柄、この程度の怪我はしょっちゅうな一樹は全く気にしてないが、梓からしたら見える所に傷があるのは少々こたえる様だ。

 

「…先輩、私、絶対にIS学園に行きます」

「おう、頑張れよ」

「…先輩唯一の【後輩】ポジは、絶対に他の誰にも譲りません」

「俺の後輩って、1人しかなれなかったのか…」

「…雪恵さんの隣にいる先輩は、私が知ってるどの時よりも、明るかったです。でも______」

 

そこで梓は区切ると、一樹を見上げる。

夕焼けに染まるその顔は、儚くて、年齢以上の色気を纏っていた。

 

「______先輩の近くにいたいのは、雪恵さんだけじゃないんですからね」

「……ああ、知ってる」

「どんな形であっても、私は先輩の近くにいたいんです。だから……」

 

 

 

あと半年くらい、待っててくださいね。せ〜んぱい♪




色んな物魅入っちゃうの治したい今日この頃です。

今後ものんびりやっていくので、よろしくお願いいたします


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