この魔力使いに祝福を! (珈琲@微糖)
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プロローグ
この能天気な人間に転生を!


小関彰(こせきあきら)さん。ようこそ死後の世界へ。貴方はつい先ほど、不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが、貴方の生は終わってしまったのです。」

 

「はい?」

 

さっきまで自分の部屋で昼寝をしていたはずなのだが、起きたら違う場所に居た。と言うか俺が寝ていたのは布団だったのだが何故椅子に座っているのか。

 

そう考えていると、目の前の綺麗な女性が話しかけてきた。

 

「ちょっとー?聞いてますかー?と言うか何よ、その口の利き方!」

 

「あぁっと、すみません。ちょっと急すぎて何が何だか分からなくなったもので…」

 

「まぁ急に死んだなんて言われても仕方ないわよね、もう一度説明してあげるから今度はちゃんと聞きなさい!」

 

コクリと頷くとその女性はもう一度説明を始めた。色々考えるのは後にしよう。

 

「改めて…初めまして、小関彰さん。私の名前はアクア。日本において、若くして死んだ人間を導く女神よ。」

 

「ちょっと待ってください!今死んだって言いましたよね!?」

 

漸く整理が出来てきた頭が更に混乱してきた。今死んだって言ったよね?

 

「えぇ、貴方が寝ている間に地震が起きて、頭の上に降ってきた窓の破片が…「もうやめてください、お願いします。」

 

想像したら気分が悪くなってきた。顔色を見たアクアさんがその様子を察して話を元に戻す。

 

「さて、そのように亡くなった貴方ですが二つの選択肢があります。一つ目が人間として生まれ変わり、新たな人生を歩むか。もう一つは天国的な所でお爺ちゃんみたいな暮らしをするか。」

 

それならば天国的な所一択だろう。あんな息苦しい世界で暮らすなんて真っ平ご免だ

 

「じゃあ天国的な所でお願いしま…「ちょっと待ちなさいよ!話は終わってないわ!」

 

食い気味に目の前のアクアさんが言ってきた。

 

「天国っていうのはね、貴方が考えてるような素敵な場所じゃないの。死んだら食べ物は必要ないし、死んでるんだから物は当然生まれない。テレビもなければゲームや漫画もない。あるのは既に死んでいる先人達だけ。そんな中で永遠に意味もなく日向ぼっこや世間話をするくらいしかやることがないわ。」

 

成程、流石に娯楽がないところで永遠に過ごすというのも中々辛い話だ。と言っても、赤ちゃんになって人生をやり直すというのも遠慮したいものだが…

 

悩んでアクアさんの方を見ると、待ってましたと言わんばかりに椅子から立ち上がる。

 

「貴方…ゲームは好きかしら?」

 

コクリと頷くとアクアさんは説明を始めた。

 

曰く、異世界に魔王が居ると。

曰く、その世界が魔王の侵攻によりピンチと。

曰く、その世界には魔法があり、モンスターが居ると。

 

「だけどね、その世界の人達って大半が魔王軍にに殺されたわけよ。そうすると『またあんな死に方はしたくない!』ってその世界での生まれ変わりを拒否しちゃうのよ。そうすると子供が生まれなくなってその世界が滅びちゃうの。それなら、違う世界で死んだ人たちをそこに送り込んじゃえばいいや、ってなったのよ。」

 

成程…と思ったがここで一つ、疑問が湧き出た。

 

「そんなことしても送り込んだ人が死んだら意味がないんじゃ…?」

 

「ええ、それだと意味がないわ。だから何か一つだけ、向こうの世界に好きなものを持っていける権利をあげているの。強力な特殊能力、とんでもない才能、神器級の武器…どう?貴方は異世界で人生をやり直せる。異世界の人にとっては即戦力になる人がやってくる。ね?悪くないでしょ?」

 

…確かに悪くない内容だ。だがしかし、文字の読み書きや言語はどうなるのだろうか。

 

「因みに、文字や言葉は私達神々のサポートで異世界に行く際に脳に負荷を掛けて一瞬で取得できるわ。副作用として、運が悪いと脳がパーになるかもだけど…後は凄い能力か装備を選ぶだけね!」

 

「ちょっと今脳が何とかって聞こえたような」

 

「言ってない」

 

「いや確かに言ったよ「言ってない」

 

…これ以上聞いても同じことの繰り返しになりそうだ。…ただ、いい話ではある。少し考えてから、異世界に移住する旨をアクアさんに告げると、目の前にカタログのようなものを出してきた。

パラパラを見ていると能力等が書かれたカタログのようだが…思いついたことをアクアさんに尋ねる。

 

「ここのカタログにはないものでも大丈夫なんですか?」

 

「ええ、と言ってもどのような内容かは説明してもらうけどいいかしら?」

 

「大丈夫ですよ。俺が欲しい特典は―――」

 

内容を伝えると少し考えた後、アクアさんはこう言った。

 

「別に構わないけど…普通の人間が最初から使えるような能力じゃないわよ?それでもいいかしら?」

 

「構いません。折角の二度目の人生なんですから、やりたいことをやろうと思いまして。」

 

「そう、それならいいけど…じゃあちょっと動かないでね?」

 

そう言うと足元に魔法陣のようなものが浮き上がる。

 

「さぁ、勇者よ。願わくば、数多ある勇者候補達の中から、貴方が魔王を打ち倒すことを願っています。……さぁ、旅立ちなさい!」

 

そうアクアさんが言うと―――俺の視界は光に包まれた。

 




初めまして。ここまで読んで頂きありがとうございます。珈琲@微糖と言う者です。
様々な小説に感化され投稿してしまいました。
マイペースに更新して行く予定なので定期更新とまではいきませんが、暖かい目で見て頂ければ幸いです。
また次回お会いしましょう。


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第1章 この素晴らしい世界に転生を!
第一話 - この異世界で現実を!


異世界の街、と言われると普通の人はどのような風景が思い浮かぶだろうか。

俺は今、想像していた通りの石畳の街を歩いていた。

 

「…本当に異世界に来ちゃったのかぁ…」

 

誰にも聞こえない位、小さな声で呟いた。

 

ここにたどり着くまでに色々あった。目を開いたら森の中に居たり、街を探して平野に出たと思ったら巨大なカエルから逃げることになったり…偶然行商人の一行を見かけ、見つからないように着いて行ったら今の街にたどり着いた。

 

曰く、その街はアクセルと言うらしい。

曰く、その街は駆け出しの冒険者が集まるらしい。

 

街中でそのような情報を集めた俺は、街にある冒険者ギルドに向かっている。

 

「ただ、この格好はちょっとなぁ…ちょっと浮いてるし…」

 

今の格好はジーンズにTシャツとファンタジーな世界には似つかわしくない格好だった。

 

「まぁ冒険者になって金を稼いだら服も買えるようになるか…」

 

そう、独り言を呟くとギルドに向けて歩を進めた。

 

 

================

 

 

「冒険者登録ですね、それでは登録手数料が掛かりますが大丈夫ですか?」

 

「すみません…出直してきます…」

 

拝啓 父さん、母さん。

異世界でも、現実と言うものは残酷なものなんですね。

 

登録を一度諦めた後、ポケットの中を探ってみるが、見事にすっからかんでした…普通そういうものって旅立つ時にもらえるんじゃないのか!?

 

肩を落として、併設されている酒場の席に座る。自分でも吃驚する位落ち込んでいた。

 

「おいおい兄ちゃん、この辺じゃあ見ない顔だが、冒険者になりに来たのか?」

 

顔を上げると、ガタイの良い男が話しかけてきた。…お金なんて持ってないし早くお帰り願いたい。

 

「ええ、ですが放っておいてください…お金なんてありませんから…」

 

「はっはっはっ!そんな事だろうと思ったわ!…ほれ。」

 

そう男が言うと目の前に数枚の硬貨が置かれた。

 

「ですよねー…って…えっ?」

 

「それは俺からの餞別だ、手数料の1000エリス。…命知らずが、ようこそ地獄の入口へ!」

 

やばい、凄く泣きそう…これが人の暖かさか…

 

「あ……ありがとう…ございまず…っ…」

 

「良いってことよ!それじゃあな。」

 

涙を堪えて男に深々とお辞儀をする。静かに元の席に戻る背中はとても恰好良く見えた。…今度会ったときにはちゃんとお礼をしよう。

そう思い、再度受け付けまで歩みを進めた。

 

 

================

 

 

「それでは、改めて説明をしますね。」

 

受け付けのお姉さんに登録料を渡すと、凄く微笑ましいものを見る表情で見られながら再度説明を始めた。…さっきのが見られていたんだろうな。

 

「つまり、冒険者には職業があって、就ける職はステータスで決まる…と言うことでよろしいですか?」

 

「はい、それがこの"登録カード"に記録されます。冒険者が討伐を行った数や、スキルを覚えたりするのもこのカードで行います。レベルが上がるとスキルを覚える為のポイントが与えられるので、頑張ってレベル上げをしてくださいね。」

 

成程、とりあえず冒険者と言うシステムについては分かった…と思う。

詳しい内容はその内覚えるだろう…そう思い、ステータスを測る為の水晶に手を添える。

 

「…はい、ありがとうございます…コセキアキラさん…ですね。どれどれ…筋力と知力が平均に比べて少し高めですね…これなら"ナイト"や"アーチャー"辺りがなれますね…一応、最弱職の"冒険者"にもなれますけど……

 

「えっと、それぞれ特徴を教えて貰っていいですか?」

 

受け付けのお姉さん曰く、"ナイト"は文字通り剣を扱う前衛職、"アーチャー"は弓を扱う後衛職で、"冒険者"は誰でもなれる最弱職…だが、全てのスキルを覚えることが可能らしい。その分、取得に掛かるポイントが多くなるのでどうしても器用貧乏になってしまうらしいが。

 

…これってパーティーを組んでいない内は冒険者がいいのでは?前衛職をしたとしても援護が無ければ敵に囲まれた時に打開策がなくなる。だからと言って、後衛職を選ぶとしてもヘイト役が居ないので接近された時にどうしようも無くなる…。

 

「職業って、転職は出来るんですか?」

 

「はい、ですが一度転職をしてしまうと2週間程は転職は出来ないことになっています。」

 

「成程、それでは"冒険者"でお願いします。」

 

それを聞いて安心した。ならばパーティーが決まった後にメンツに合わせて転職をすればいいだろう。

 

「分かりました、"冒険者"ですね…って、えっ!?本当に"冒険者"で大丈夫なんですか!?」

 

「ええ、まだパーティーも決まっていないので、それが決まったらメンバーを見てバランスを取れるようにした方がいいと思いましたので。」

 

「なるほど、そういうことですか。それでは…冒険者ギルドへようこそ、アキラ様。スタッフ一同、今後の活躍を期待しています!」

 

こうして…俺、小関彰の冒険者生活は始まった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません。急なんですけど、お給料が日払いの仕事ってありませんか?」

 

「えっ」

 

…始まった!




ここまでご覧頂きありがとうございました。
次回から漸く原作1話に入れると思います。
引き続きマイペース投稿となりますが、また見て頂ければ幸いです。
それではこの辺りで失礼します。


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第二話 - この能天気な転生者に出会いを!

「おーし、今日はここまででいいぞー!お疲れさん!…ほれ、今日の日当だ。」

 

「ありがとうございますー!お疲れ様でしたー!」

 

主任の仕事終了の合図で日当を受け取り、帰りの支度を始める。

 

この仕事を初めて早1週間。初めのうちは腕が筋肉痛になったり、疲れで動きたくなくなったりしたが人間の適応力とは恐ろしいものである。

 

手早く支度を終わらせたら銭湯で汗を流し、酒場で同僚達と1杯やる。これが今の俺の日常になっていた。

 

…風呂に浸かっている時に何か忘れているような気がしたが気にしない。忘れる程度のことだからどうでもいいだろう。

 

そう思い、俺は風呂から上がったのだった。

 

 

====================

 

 

「どうもー、なんかギルドが騒がしいんですが何かあったんですか?」

 

「あぁ、アキラか。なぁに、新しい冒険者が来たらしいんだが、何やら物凄い新人が入ったらしいぞ。」

 

ギルドに入ったら何やら騒がしかったので、初めて俺がギルドに来た時に金を貸してくれた男に話を聞く。…結局あの日以来、何かとお世話になっている。今泊まっている馬小屋も彼の紹介だ。…ちゃんとお礼はしているぞ?

 

ただ彼がその見た目で「機織り職人」と聞いた時は流石に驚いた。見た目とのギャップに。

 

「物凄いって…どんな感じなんですか?」

 

「あぁ、男女の二人組なんだが…女の方は綺麗な水色の髪で結構綺麗だったな。男の方は…そうだ、お前さんが初めて来た時みたいな妙な格好をしていたな。男の方は"冒険者"になったらしいが、女の方は初めから"アークプリースト"らしいぞ。」

 

「…ゴファッ!?」

 

危うく飲んでいたシュワシュワを噴き出すところだった。いきなり上級職って…どんな化け物だよ!?…ん?青い髪…プリースト…いや、まさかな!

 

「ゲホッ!ゲホッ!…なんでそんな人がアクセルなんかに…?」

 

「さぁな、どうやら遠くから来たみたいだぜ?」

 

「ふーん、そりゃ今後が楽しみですね。」

 

「あぁ。案外、あんな奴が魔王を倒しちまうかも知れねぇぜ?」

 

目の前の男がそういうと、なんだか可笑しくなり俺と男は大きな声で笑った。

 

…その後はどうでもいい世間話をしながら酒場で夜を明かした。

 

 

====================

 

 

「よーし、それじゃあ今日も仕事を始めるが、その前に新入りを紹介する。」

 

昨晩は普段より飲みすぎてしまい、軽く気分が悪い。ただ、仕事を休むと生活費の方がピンチなので頑張って仕事はしようと思う。

 

主任の話をそんな調子で聞いていた俺の目の前には、いつの間にか信じられない光景が広がっていた。

 

「という訳で、新人のカズマとアクアだ。そうだ。アキラ、この二人の面倒を見てやれ。新人同士の方が気が楽だろう?」

 

「あっ、はい。分かりました。」

 

目の前に、転生させてくれた女神が居た。

 

 

====================

 

 

「という訳で、ここでの仕事は以上だが…何か質問はあるか?」

 

「いえ、何も。」「私も問題ないわ。」

 

とりあえず、二人に仕事の指示をする。

カズマと言う男(転生者と思われる)には俺と同じく採掘の仕事を、アクアさんには壁塗りの仕事を割り当てた。…隙あらばどうしてここにアクアさんが居るのかを聞かなければ。

 

 

 

「あっと、そうだ。カズマ、ちょっといいか?」

 

「えっ、はい。なんでしょうか?」

 

「何故、"女神アクア"さんがここに居るんだ?」

 

「え…えっと…何の話ですかね?」

 

あぁ、うん。多分彼、気付いてないな。

 

「君、日本からの転生者…で合ってるよね?」

 

「えっ!?なんでそれを知って…って!もしや!!」

 

「あぁ、そのまさ「おいコラァ!そこ、何サボってる!!」…とりあえず仕事終わりにでも話そうか、大丈夫か?」

 

「はっ、はい!分かりましたっ!」

 

とりあえず、仕事終わりに2人にコンタクトを取ることにした。

 

 

====================

 

 

「それで…特典としてアクアさんを連れてきたと?」

 

「えぇ…ただ、他の特典にしとけば良かったかなって思ってます……」

 

「…まぁでも、共に冒険が出来る仲間が居るっていうのも心強いぞ?」

 

「はぁ……そんなもんなんですかね……」

 

仕事が終わった後、カズマを銭湯に誘い事の顛末を聞くことにした。

 

曰く、物凄い死に方をしてしまったカズマをアクアさんがストレス解消の道具にした。

曰く、腹を立てたカズマがアクアを特典に選んだ。

…何こいつら、そういうお笑いでもやってるの?

 

「あぁ、そんなものさ。俺だって、独りで放り出された時は心細かったしな。」

 

「そうなんですか…そういえば、アキラさんの特典って何だったんですか?」

 

話をすり替えられた。…まだ特典については未完成レベルだからさらけ出したくはない、ここ銭湯だし。

 

「内緒。少なくとも、こんな公の場で話す内容じゃないだろう?」

 

「まぁそれもそうっすね…そろそろ上がります?」

 

カズマが納得してくれたようで何よりです。

「あぁ。」と頷き銭湯から上がり、外へ出るとアクアさんの姿が見えた。先に上がっていたのだろう

 

「ちょっとカズマー?上がるの遅いー、湯冷めしちゃったらどうするのよ!」

 

「お前一応水の女神なのに湯冷めとかすんのな」

 

「一応って何よ!本当に水の女神なの!…って。貴方、どこかで見覚えがあるのだけど…どこかであったかしら?」

 

カズマに抗議していたアクアさんはどうやら俺に気づいたようだ。

俺の顔を色んな角度からジロジロ見た後、ポン!と納得したかのように手を叩いた。

 

「貴方、この間私が飛ばした転生者ね!」

 

「はい、よく覚えていましたね?」

 

「いこれまで結構な人数送ってきたけれど、カタログも見ないで決めた人は貴方位だったからそれでね!」

 

どうやら特典の印象が強すぎたらしい。まぁ、その特典はまだまともに使いこなせてないのだが。

 

その後、カズマとアクアさんの3人で食事をとり、また翌日から労働に勤しむのだった…。




ここまでご覧頂きありがとうございました。
漸くアニメの1話の内容に入ることが出来ました。
「なんだかこれこのキャラっぽくない」などの意見がありましたら回れ右することをオススメします。それがこの作者の文章力の限界です。
気にしないよって方は次回以降も見て頂ければ幸いです。


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第三話 - この新人冒険者達にパーティーメンバーを!

「なぁ、アキラさんや。なんだかこれ、違くないか?」

 

「えっ?何が」

 

カズマ達が仕事を初めて早1週間。いつも通り仕事終わりの銭湯でカズマと共に汗を流して居るとカズマの方から話かけてきた。

 

「いや、だからさ。俺は異世界って言うとさー、こんな労働じゃなくてな、モンスターと戦ったり、可愛い女の子と冒険したりさー、そういうことを考えてたんだけどなぁ」

 

「…可愛い女性ならお前と一緒に居るアクアさんが居るだろ?」

 

「…あぁ、お前は何も知らないからな…」

 

そういうカズマの回りには何故だか暗い雰囲気が漂っていた。

いや、確かにちょっと頭が弱そうだなって思う時はあるよ?ただそれ以上に可愛いじゃない、あの人。

 

「まぁ、そういう訳でさ。漸く纏まった資金が集まってきたし、明日は久し振りにギルドの方に行こうと思うんだが。…アキラはどうする?」

 

「俺かぁ…まだ主任に何も言ってないし、装備とかの準備もしていないから明日1日だけ準備させてくれないか?それで明後日パーティーに合流…って感じでいいなら。」

 

「あぁ、それで構わないさ。とりあえず、俺とアクアは明日ギルドに行って俺達でも出来そうなクエストに行ってみるわ。」

 

「了解、それじゃあ先に主任に相談に行くから先に上がるな。」

 

「おう!お疲れさん。」

 

そう言って俺は銭湯を後にする。…とりあえず俺は装備でも買いに行くか。

 

 

================

 

 

「えーっと、それで、君らはどうしてそんなに目に見えて落ち込んでいるんだい?」

 

「…あぁ、アキラさんか…いやぁね、カエルが…な。」

 

翌日、落ち合う予定をしていたギルド内の酒場のある席の所に行くと、明らかに落ち込んでいる見知った二人の姿があった。

 

「カエル…?まぁいい、昨日は結局どうだったんだ?」

 

…聞いた話を纏めると、"ジャイアントトード"というカエルを3日以内で5体倒すクエストを受けたものの、思った以上に巨大で大苦戦、結果アクアさんの捨て身の壁役でなんとか2体は倒したものの、これは無理だと思いパーティーメンバーを募集しているところらしい。

 

「なるほどなぁ…って、お前転生の特典って何だったんだ?それを使えばそんなカエルくらいすぐ倒せると思うが…」

 

そう言うとカズマは無言で(絶賛死んだ目をしている)アクアさんを指差す。

 

「あぁ、だからアクアさんがこんなところに居るわけね。納得」

 

「ただなぁ…ついカッとなって連れてきたはいいが思った以上にポンコツで…「ちょっと!誰がポンコツよ!」お前のことだよ、自称女神様が。」

 

「その自称女神って言うのやめなさいよー!自称じゃなくて本当に女神だって言ってるでしょ!!」

 

「じゃあその女神の力でカエル5匹の討伐なんてあっという間に終わらせてくれよな!これじゃあなんの特典も貰ってないのと一緒だよ!!」

 

「だーかーらー!私はプリーストだから、前で戦うよりも後ろでヒールとかしてるのが役目でしょ!戦うならカズマが戦いなさいよ!」

 

「まぁまぁまぁ、お二人とも落ち着いて…」

 

言い合いをしている二人を何とか宥めようとするが、思いの外ヒートアップしてしまったようだ。…原因が俺にある分、少し罪悪感がある。と言うよりも、周りの視線を集めているからとりあえず落ち着いてもらいたい。

 

暫くして落ち着いた後、カズマがふとなにかに気づいたようで、俺に声を掛けてきた。

 

「そう言えば、特典って言えばアキラは何を貰ったんだ?」

 

「あぁ、俺は…「あの、上級職の冒険者募集を見て来たのですが、ここで良いのでしょうか?」クエスト言った時にこっそり教えるわ。…ええ、ここで合ってますよ。」

 

そうカズマに告げた後、声がした方を向くと…女の子が居た。背は俺やカズマよりも小さく、帽子や杖などの装飾品から、ウィザード系列の職業だと思われる。

ただ、彼女が言った事に1つ、疑問を持ったのでアクアさんに聞いてみることにした。

 

「アクアさん、アクアさん。上級職の募集って?」

 

「そりゃ勿論、手っ取り早く魔王を討伐する為よ!」

 

「は、はぁ…」

 

うん、それじゃあメンバーが集まらないよね!王都みたいな都会ならまだしも、ここは駆け出し冒険者の街だ。そんな街に上級職がポロポロと居るわけがない。

 

そう思っていると、カズマが名前を聞いたのか、先ほど話しかけていた少女は突如、バサッとマントを翻した。

 

「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者………!」

 

「…………冷やかしに来たのか?」

 

「ち、違うわい!」

 

「…その赤い瞳に黒い髪…もしかして、貴女紅魔族?」

 

はい、と少女──めぐみんは頷き、アクアさんに冒険者カードを手渡す。

 

「いかにも!我は紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん!我が必殺の魔法は山をも崩し、岩をも砕く!…ということで、優秀な魔法使いは要りませんか?…それと、図々しいのですが、もう3日も何も食べていないのです。出来れば、面接の時にでも何か食べさせては頂けませんか?」

 

「…とりあえず、座って好きなもの頼みなさいな。お兄さんがお金は出して上げるから…」

 

…ギルドに来て初日の事を思い出してしまった。…泣いてなんかないやい。

 

「ところで、その眼帯は何なんだ?怪我でもしてるなら、アクア…そこの青髪の女の人に治してもらったらどうだ?」

 

「ふっ…これは我が強大な魔力を抑える為のマジックアイテム…もし、これが外されることがあれば、この世が大いなる災厄に覆われることに…」

 

カズマが眼帯の事に触れてしまった。…このような時期があった身からすると、この手のものは触れないのが吉。なのだが…

 

「まぁ嘘ですが。単におしゃれで着けてるだけ…あっ、あっ、止めてください!引っ張らないで下さい!」

 

それ見たことか。やっぱりこの子…いや、何でもない。これ以上は俺の傷を抉ることになる。

それとカズマさん、眼帯を引っ張るのは辞めて差し上げなさい。それを思いっ切り離すと大変なことになるのです。

 

そんなことをしていると、アクアさんが紅魔族について俺達に説明をしてくれた。

 

曰く、彼女達紅魔族は生まれつき高い知性と魔力を持つらしい。

曰く、大体が魔法使いのエキスパートとなる才能を持つらしい。

曰く、その紅魔族という名前は赤い目という特徴から来るらしい。

曰く、ネーミングセンスが壊滅的…らしい。

 

そんな説明をしていると、カズマの手から眼帯が離され、めぐみんが素っ頓狂な声を上げる。

…うんうん、やった事あるから分かるよ、痛いよね。

痛みを知っている俺は、めぐみんにとりあえず大丈夫か?と声を掛けた。

ちょっと涙声で「大丈夫です…ありがとうございます」と返ってきた。話してみると割と素直な子かもしれない。…変な名前だけど。

 

「…いつつ…変な名前とは失敬な。私の方からすれば、街の人の方が変な名前をしていると思うのですよ。」

 

「失礼ですが、ご両親のお名前は?」

 

「?母がゆいゆい、父がひょいさぶろーですが。」

 

「「「…………………」」」

 

思わず、俺達3人は絶句した。

 

「と、とりあえず、その紅魔族は魔法使いとして優秀…ってことでいいんだな?それなら仲間にしてもいいか?二人とも。」

 

「おい、私の両親の名前について言いたいことがあるなら聞こうじゃないか。」

 

「まぁ、俺は賛成だな。少なくとも、現状なら仲間を増やすことが先決だろう。」

 

「いーんじゃない?。冒険者カードは偽造出来ないし、冒険者カードには高い魔力が書かれていたもの。それに、彼女の言っていることが本当なら凄いことよ?爆裂魔法は、取得が極めて難しい爆発系統の最上級魔法…本当にそれが扱えるのなら、相当な戦力になるわ。」

 

「あの、彼女ではなく私の事はちゃんと名前で呼んで欲しいんですが。」

 

抗議をしてくるめぐみんに、カズマがメニューを渡す。

 

「とりあえずなんか頼め、俺がカズマで、こっちのがアクア。それで今、お前の隣に居るのがアキラだ。」

 

「ちょっとー、こいつって何よ…よろしくね、めぐみん!」

 

「はい、よろしくお願いします。」

 

紹介されたアクアさんが挨拶をする。挨拶における第一印象というのもは大切だろう。とりあえず俺も挨拶をしておこう。

 

「よろしく、めぐみん。と言っても、俺も今日カズマ達と合流したばっかりだから、同期ってことで気軽に声を掛けてもらえると助かる。」

 

「ええ、よろしくお願いしますね、アキラ。」

 

 

この時、俺達はまさかあんなことになるとは知る由もなかった…。




ここまでご覧頂きありがとうございます、珈琲@微糖です。
漸くめぐみん登場回…長かった。
ここで本文の補足?的なことですが、主人公はまだアクアの女神としての側面しか知らないのでさん付けで呼んでいます。
さて、次回は恒例のカエル回ですが、恐らくそこでやっと主人公の特典等が初お披露目出来ると思います。

何が言いたいか、と言うと主人公くんが女神以外のアクアを知ることになります。

ということで、軽い次回予告もしたところで今回は終わりにしたいと思います。
繰り返しとなりますが、ここまでご覧頂きありがとうございました。次回以降も見て頂けると幸いです。それでは。


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第四話 - この初心者パーティーにクエストを!

「では改めて、俺達の今日の目的は"ジャイアント・トード"を3体討伐することだ。」

 

「「「異議なーし」」」

 

さて、俺達のパーティーは今、街から出た平野に来ている。目的としてはクエストのジャイアント・トードを5体討伐することだ。

 

「それで聞いておきたいんだが、アキラって職業は何なんだ?それによって動き方が決まるんだ。」

 

「そういえば言ってなかったな、一応"ナイト"と"アーチャー"に適正はあるが今は"冒険者"だ。ついでに言うと、攻撃方法は今は近接しかないと思ってくれ。」

 

「…どうして"冒険者"なんかになったんですか?折角他にもなれたのに最弱職なんかに…」

 

俺の職業を聞くと、めぐみんが首を傾げて聞いてきた。…その隣でカズマが落ち込んでいた。一応後でフォローは入れとくか。

 

「まぁ、俺がこの街に来た時にはまだパーティーが決まってなかっただけだ。2つなれる職業があるなら、入るパーティーを決めてからどちらを極めるか決めようと思ってな。」

 

「なるほど、そういうことですか。」

 

めぐみんが疑問を解消した所で、立ち直ったカズマが話を元に戻す。

 

「それともう一つ聞いておきたいことがあったんだが…めぐみん、爆裂魔法ってどういう魔法なんだ?」

 

「爆裂魔法は最強の攻撃魔法。その分、発動するまでに結構時間が必要です。ですが、その間に襲われてしまっては元も子もありません。ですので、爆裂魔法が発動するまでの間、あのカエルの足止めをお願いします。」

 

話しながら平野を歩いていると、一番近くにいたカエルがこちらに気づいたようでこちらに向かってきていた。

 

その動きに気づいたのか、遠くにいたもう1匹のカエルがこちらに気づき、近づいてきていた。

 

「それなら遠い方を頼む。近くのは…アクア行くぞ。昨日のリベンジだ!アキラは援護を頼む!…アクア、お前一応は元何とかなんだろ?偶には元何とかの実力を見せてみろ!」

 

「元って何よ!ちゃんと現在進行形で女神なんですけど!アークプリーストはただの仮の姿よ!」

 

涙目でカズマを襲おうとしているアクアさん、それを防ぐカズマ。この2人は夫婦漫才でもしているのか。

そんな様子を微笑ましく思っていると、隣でめぐみんが不思議そうな声で

 

「………女神?」

 

「を自称するちょっと可哀想な子なんじゃないかな?偶にあぁ言うこともあるだろうけど、根は優しいいい子だからそっとしておこう。」

 

めぐみんの肩に手をポンっと置く。そうすると、何かを察したかのようにめぐみんはカズマに同情するような目でアクアを見るめぐみん。

 

…ちゃんとフォローしておいたことを後でカズマにも伝えておかなきゃな。

 

そんなことをしていると、涙目だったアクアが拳を握ってやけくそになったように近い方のカエルに向かって走り出す。

 

「何よ、打撃が効きづらいだけでただの大きいカエルじゃない!見てなさい、カズマ、アキラ!今のところいい活躍出来てない私だけど今日こそは神の力を見せてあげるわ!」

 

そう叫び、アクアが何やらすごい拳をでカエルを殴る!…がしかし、カエルのあついしぼうはその拳すらも弾きかえした。

…女神アクア、貴女のその身を使ったこと足止めは忘れません。

 

…なにはともあれ、折角アクアが足止めに成功したのだ。カズマにボケーっとしているカズマに「おい、助けに行くぞ!」と叫び、カエルの元に急ぐ。

 

「あぁ…って、待て!お前武器は!?」

 

「それならあるさ…()()にな!」

 

そう言うと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「説明は後だ!さっさとあのカエルを片付けるぞ!」

 

そう言うと、カズマと共にカエルの元へ走り出す!

…その時、後ろのめぐみんの周囲の空気がビリビリと震えだした。

 

段々大きくなるめぐみんの詠唱。その魔法がどれだけ強力な魔法なのか、俺はこの肌で感じ取る。

 

「見ていてください。これが、人類が行使できる最も威力のある攻撃手段。……これこそが、最強の攻撃魔法!」

 

…その一瞬、俺はときが止まったかの様な衝撃を受けた。

 

「『エクスプロージョン』!」

 

めぐみんの杖から放たれた一閃の光は、俺達の向こう側に居るカエルに突き刺さる。

その直後、目を眩ませるような強い光と耳を劈くような轟音。物凄い爆風に吹き飛ばされそうになるが、足に力を込め何とか耐える。

 

煙が晴れると、カエルは塵の一つも残さずに消滅しており、カエルが居た場所を中心に20メートル程のクレーターができていた。

 

「……すっげー、これが魔法か……」

 

「…………………」

 

隣でカズマが何か言ったようだが、俺の耳には一切入ってこなかった。

 

…それ以上に、爆裂魔法に心惹かれていた。

 

 

この魔法が打てたら、どんなに気持ちいいのだろうか。

この魔法が打てたら、どれだけ楽しいのだろうか。

 

 

そんなことを考えてると、カズマがめぐみんの方を向きながら

 

「めぐみん!一旦離れて、1度距離を取ってから攻撃を……」

 

そこで言葉が止まった事に疑問を持ち、カズマと同じめぐみんの方向を見る。

 

そこには、先程呪文を放っためぐみんが倒れていた。

 

「ふっ…我が奥義爆裂魔法は絶大な威力故に、その消費魔力もまた絶大…すみません、限界を超える魔力を使ったので身動きが取れません。ついでに言うと、後ろからカエルが湧き出す音が聞こえるんですが、あの…た、助け…ひゃあっ…」

 

「………アクアの方、頼んます………」

 

「………あぁ………」

 

さっきのワクワクを返してくれ。そう思い、めぐみんの方に湧き出たカエルがを倒しに走り出した。

 

 

====================

 

 

「うっ…うぅ…ぐすっ…生臭いよぅ…生臭いよぅ…」

 

「カエルの体内って、臭いけどあんなに温いんですね……初めて知りました。」

 

カズマの後ろを免疫塗れにされたアクアが泣きながら付いていく。

 

そのアクアの隣で、死んだ目のめぐみんを背負いながら知りたくもない知識を教えられながら街へ戻っていた。

 

曰く、魔力とは生命力と同等であり、魔力が足りない状態で魔法を使うと、その分生命力から差し引かれるらしい。だからこそ、爆裂魔法のような消費魔力が半端ない魔法を常人が使おうとすると、命の危険まであるとか。

 

「とりあえず、今後は爆裂魔法は緊急時だけで、これからは他の魔法で頑張ってくれよ、めぐみん。」

 

そうカズマが言うと、俺の肩を掴む力がギュッと強まる。…まるで、ここで降ろさせないかのように。

 

「…………使えません。」

 

「…………は?」

 

つい、声が出てしまった。

 

「…………だから、使えません。私は、爆裂魔法しか使えないです。他には、一切の魔法が使えません。」

 

「…………マジ?」

 

「…………マジです。」

 

場を静寂が包む。

そうしていると、今まで泣いてた元女神様…アクアが会話に参加できるようになったようだ。

 

「爆裂魔法以外使えないってどう言うこと?爆裂魔法を取得出来る程のスキルポイントがあれば、爆裂魔法以外にも覚えていない筈ないでしょう?」

 

そういうと、目の前のカズマが「スキルポイント?なにそれ、美味しいの?」といった表情をしていた。それを察したアクアは、スキルポイントの説明を始めた。

 

 

曰く、スキルポイントとはスキルを取得する為のポイントである。

曰く、スキルポイントの初期値は本人の才能によって決まる。

曰く、レベルが上がることによってたまっていく。

曰く、アクアは宴会芸スキルを取得してからアークプリーストスキルを全て取得し、今でもポイントが余っている。

 

 

…ちょっと待て、特に最後。なんだ宴会芸スキルって。面白そうだな、覚えさせろ。

流石にそういうことを言う空気じゃないので、ぐっと堪えた。

 

その後、スキルの取得できる種類の話をしていたようだが、要は爆裂魔法とは複合系スキルの為、余程の才能がないと取得出来ないそうだ。

 

…あれ、このロリっ子、もしかして凄い子なの?

そう思っていると、後ろでめぐみんがぽつりと呟く。

 

「…………私は爆裂魔法をこよなく愛するアークウィザード。爆発系統じゃダメなんです。爆裂魔法だけが好きなのです。」

 

その気持ちは分からなくもない。アクアが真剣な面持ちで聞いているようだが、俺はとりあえずそれとなく聞き流しておく。

 

「確かに、他の魔法を取得するだけでも冒険は楽になりますし、基本4属性のスキルを取るだけでも違うでしょう。…でも、それじゃダメなんです。確かに、今の私では1日1回が限度です。打った後に倒れます。ですが、私は爆裂魔法しか愛せない!その為にアークウィザードの道を選んだんですから!」

 

「素晴らしいわ!その一つの魔法だけを愛する気持ち!その非効率ながらもロマンを求める姿、感動したわ!」

 

ここまで来て、俺は変な違和感を感じた。

 

確かに、爆裂魔法はかっこいい。しかし、この魔法使いはもしやダメな系なのではないのか?今思えば、こんな初心者の街に都合よくパーティーを探す上級職なんて…

 

「そっか、多分茨の道だとは思うが頑張れよ。そろそろ街に着くし、ギルドで報酬を山分けにしよう。また機会があれば会うこともあるだろうから、元気でな。」

 

そう言うと、カズマは俺の方を見て目で訴えかけてきた。

 

『そいつを離せ』

 

その瞬間、更に肩にかかる力が強まった。

 

「私の望みはただ一つ、爆裂魔法を放つことのみ。食餌はお風呂、その他雑費さえ出して貰えれば無報酬でも構わないと思っています。」

 

…その後、カズマとめぐみんが何やら言い争いをしていると、カズマと俺に街中の人達からあらぬ誤解を受け、それをネタに脅され、カズマは喜んで(しぶしぶ)めぐみんをパーティーに加えることにした。

…ただ、言い争いをしている最中、段々肩にかかる力が強くなっていたせいか、軽く手の形の痣が出来ていた。

 

 

====================

 

 

「うぅ…めぐみんに汚された…もうお婿に行けない…」

 

「だから、悪かったって言ってるじゃないですか。文句はカズマに言ってくださいよ。」

 

「まぁ別にいいんだけどさ。君らのやり取り、見てて面白かったし。」

 

急な俺の手のひら返しに、他のメンバーはずっこけそうになる。

君らはド〇フか何かか?

 

「それはそうとさ、さっきのあれは何だったんだ?」

 

「あれって何?めぐみんを背負って帰ってる時に今度牛乳でも奢ってやろうかなって思った話?」

 

「おい、私の体型で言いたいことがあるなら聞こうじゃないか」

 

「大変申し訳ありません、今のままでも十分お美しいと思いますお嬢様」

 

そんなやりとりをしていると隣に座るカズマがため息をついていた。

 

「あのなぁ…そうじゃなくてお前のナイフの話だ。」

 

「なんだ、そんなことね。それは私がわた…「おおっと手が滑ったぁぁぁ!!」

 

大慌てでアクアの口を抑える。無事重要な部分は死守できたようだ。

 

「ンッン!ンンンンン!(ちょっと!何するのよ!)」

 

「…カズマは兎も角、めぐみんに本当の事を言ったらアクアがここに居るのがバレちまうだろ?そうなるとそっちとしても都合が悪いんじゃないか?」

 

アクアが何かに気づいたようだ。ちゃんと分かってくれたのだろう。

 

「…とりあえず、適当に誤魔化しながら内容話すから、口裏合わせと聞いてくれ」

 

「…二人とも、急に何してるんですか?」

 

アクアからのokサインが出た。それを確認すると手を離す。

めぐみんの声が少し不機嫌気味なのが少し気になる。隠し事をしてるのがバレたのだろうか。

 

「いやぁ、何でもないよ!なぁアクア!」

 

「…えぇ勿論!そんな変なこと考えてる訳ないじゃない!」

 

めぐみんとカズマから疑いの眼差しが刺さる。その視線凄く胸に刺さるのでやめてもらえませんかね?

 

「そ、それで剣の事だよな!?それなんだが…ちょっと説明が大変何だがいいか?」

 

「それについては私も気になっていましたし構いませんよ。」

 

「良かった…それで何だが。…あれは一言で言うと"魔力"なんだ。」

 

「「はい?」」

 

本当のことを知ってるアクア以外から、言葉が漏れた。




投稿がなんだかんだで遅くなりました。これも全部多忙な私生活が悪い。珈琲@微糖です。

初戦闘回+めぐみんカミングアウト+主人公くん特典開示と盛り沢山の内容で普段より一気に文字数が増えてしまいました。
しかし、カズマさんのパーティーに所属するという時点で一癖も二癖もあるわけでして…まぁ、詳しい能力説明については次回行いたいと思います。
尚、特典公開に基づき、恐らく次回の投稿タイミングで主人公の設定公開もすると思います。いつも通りマイペース更新なのですぐ投下するかどうかは決まってないですからね。

ということでこの辺りで切ろうと思います。
このような拙い文章でも面白いと思って見ていただけたなら、次回以降も見て下さると大変励みになります。


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第五話 - この能力に正体を!

「おいおい…それが魔力って…どういうことだ?」

 

「そうですよ…魔力を道具に込めると言うのは知っていますが、それが魔力ってどういうことなんですか?」

 

何も知らない二人が俺に詰め寄る。…あんまり騒いで欲しくないのだが…周囲を見回すとそこまで目立ってはいないようだ。

 

「あんまりでかい声を出すなって…ここから先は他言無用で頼むな?」

 

二人はコクコクと頷いた。

 

「俺のこれなんだが…俺は"魔力をモノに変換する"事が出来るんだ。」

 

「「えっ?」」

 

そう言うと目の前の二人は固まった。…流石にこんなこと唐突に言われても信じられないだろう。

 

「要するに、魔力をそのまま物体とかに変えられるって事だ。」

 

「えっと…ちょっと待ってくれ。少し整理するから…」

 

カズマさんや、私がそれを使えるのは、貴方の連れてきた女神様と、原理は同じですぞ。

 

「流石にそれだけじゃどういうものか分かりません、詳しい説明をお願いします。」

 

「説明って…まぁそんな大層なものじゃないんだがな。」

 

めぐみんが真剣な目でそう言ってきたのでちゃんと説明することにしよう。

 

「俺のこれは、簡単に言うと魔力の出し入れなんだがな。()()()()()()()()()()()()()()、俺はどんなものでも創り出せる。例えそれが、爆裂魔法であっても、無限の財宝でも、伝説級の武具すらも作れるだろうな。」

 

「なんだそれ…って…ん?」

 

話を聞いてポカーンとしていたカズマだが、何かに気づいたようだ。

 

「お前今、仮に無限に魔力があるなら…って言ったよな?」

 

「あぁ…そうだが…」

 

「…それって、実際に使うのにどのくらい必要なんだ?」

 

「そうだなぁ、魔法で例えるなら普通に使う数倍…かなぁ…」

 

段々のカズマの視線が冷たくなっていく。…それと同時に、めぐみんから同類を見る視線に変わっていく。

 

「…それで、今の魔力量的には何が出来る?」

 

「あの…実は…ナイフ数本位しか……」

 

「それってつまり…」

 

「…使えない子で、ごめんねっ!」

 

カズマがじっと「何言ってんだこいつ」という目で見てきた。心が折れそうだ。

 

「うぅ…めぐみん…カズマが虐めるよぅ…うぅ…」

 

「おーよしよし、自業自得ですから嘘泣きはやめましょうね。」

 

「ばれてました、俺の迫真の演技だったのに。…まぁ、ナイフの正体が分かった所で今日は飲もうぜ!酔いが覚めちまうよ。」

 

「そう来なくっちゃね!店員さーん!シュワシュワもう一杯お願いしまーす!」

 

「あぁ、それとカエルの唐揚げも1つ。」

 

カズマとアクアが注文を終えると、さっきまでの真面目な空気はどこへやら。またいつもの喧騒が戻ってくるのであった。

 

「そういえばさ、お前らが風呂入ってる間にパーティーの参加希望者が来たんだが。…アクア、頼んでた募集要項の回収はどうした?」

 

「あっ…」

 

アクアがなんだっけそれって顔をしながら答えた。…忘れてたな。

 

「まぁいいじゃないか、それでどんな奴だったんだ?」

 

そんな話をして、夜は更けていった…。

 

 

====================

 

 

「ういーっす、お二人さん」

 

「よう、アキラ」「あぁ、どうも…」

 

翌日、ギルドでカズマとめぐみんと合流したのだが…カウンターでカズマは冒険者カードとにらめっこ、めぐみんは何故か死んだ目で食事をしていた。…アクア?あぁ、彼女なら酒場で宴会芸を披露してるよ。

 

「それで、ただならぬ空気を君ら二人から感じるんだが…どうかしたのか?」

 

「あぁ、それか。スキルのことなんだが…「カズマったら酷いんですよ!爆裂道を共に歩みましょう!って言っても全く考えずに断るし!挙句の果てには我の事をロリっ子などと…!」

 

「お、おう…そうかそうか…とりあえず落ち着け?」

 

カズマの言葉に食い気味でめぐみんが俺に詰め寄る。…落ち込んでた理由は最後の部分だろうな。

 

「めぐみん、よく考えてみろよ。紅魔族のめぐみんならまだしも、カズマや俺みたいな冒険者成り立ての新人が爆裂魔法を撃つだけの魔力なんてある訳ないだろう?」

 

「まぁ…それはそうですが…」

 

「それに、カズマが爆裂魔法を覚えないのなら俺が覚えてやる。生憎、最悪スキル無しでも戦えるんでな。」

 

そう言うと、めぐみんの表情がパッと明るくなる。…それと同時に、カズマからの視線が少し冷たくなった。また問題児が増えるのか…みたいに思っているんだろうなぁ。

 

「…体型の事は置いとくとして…まぁそんな落ち込むようなことじゃないさ。」

 

「おい今なんて言った、私の体型に何か言いたいことがあるのなら聞こうじゃないか。」

 

そんなやり取りをしている最中、会話を聞いていたのか、二人の女性がカズマに話しかけていた。…パーティとかなんとか言ってるきがするが、昨日言ってた人かな?

一人は軽装で銀髪のショートヘア。もう一人は鎧を纏い、金色のロングヘアの如何にも騎士!って感じの女性だった。…ついでに言うと、二人とも美人でした。

 

「私はクリス。見ての通り盗賊だよ。この子とは友達かな?」

 

銀髪の方の女性が、カズマに自己紹介をしていた。金髪の方の女性がカズマの隣に座っているところを見ると、参加希望は騎士の女性の方だろう。

 

「君役に立つスキルが欲しいみたいだね。それなら"盗賊"系のスキルなんてどうかな?習得にかかるポイントも少ないし、お得だよ?何かと便利だしね。」

 

「へぇ~。」

 

「どうだい?今ならシュワシュワ一杯でいいよ?」

 

「安いな!よし、お願いします!」

 

スキルを教えてもらう条件を聞いたカズマは、その場で店員さんにシュワシュワを頼む。…役目が被るのはあれだし、俺は遠慮しておこう。

そう思った俺は、空いている席…めぐみんの隣に座り、注文をする。

 

「そっちの君はいいのかい?確か冒険者だったよね?」

 

「なんで知ってるんですか…まぁ、覚えてもいいんですが。カズマとスキルが被らない方がパーティとしての幅が広がるかなぁって思ったので。」

 

「冒険者になってた時、色々目立ってたからね。…そういう事なら、君の所の仲間を少し借りてくよ。」

 

「どうぞどうぞ、うちのカズマをよろしくお願いします。」

 

最初の部分をスルーして、カズマを送り出す。…バレたらメンバー全員にネタにされそうだしね!

 

…カズマがスキルを教えてもらってる時に、俺はめぐみんからギルドに来た日の事を問い詰められ、危うく泣いてたことがバレるところだったのはまた別の話。




例の如く現実の方が忙しく、更新が遅れる珈琲@微糖です。
今回は半分がオリジナル、もう半分がカズマのスキル習得回となりました。
いつも通りマイペースな更新となりますが、また見て頂ければ幸いです。
下記、主人公のステータスとなります。

名前:アキラ…小関 彰
性別:男性 年齢:転生時21
体格:カズマよりも少し大柄、と言っても21歳の平均程度。
能力:自分の魔力を万物に変換する
基本的に仕事とプライベートはきっちり分けるタイプ。
転生後で言うとパーティが仕事、それ以外がプライベートに当たる。
そしてプライベートでは割と適当な人間。
転生時、能力は「あらゆるものを創り出す」事を願ったが、転生して発動させようとしてみると魔力の変換になっていた。と言う裏設定もある。魔力さえあればチート能力だが、現状の魔力では、ナイフを数本出現させる程度。
ステータスについては標準的、筋力と知力が少し高めな普通の人間。


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第六話 - この素晴らしいパーティに新たな仲間を!

「あっ、カズマ」

 

「どこ行ってたのよ、私の華麗な芸も見ないで…って、その人どうしたの?」

 

あの後暫くして、カズマ達が戻ってきた…のだが、スキルを教えていたクリスは泣いており、連れの女性は何故か顔を真っ赤にしていた。

 

「あぁ、実は…「彼女はカズマに盗賊のスキルを教える際に、パンツを剥がた上に有り金全て毟り取られて落ち込んでいるだけだ。」

 

「オイ、あんた何口走ってんだぁ!」

 

「財布返すだけじゃダメだって…グスッ…じゃあいくらでも払うからパンツ返してって頼んだら…自分のパンツの値段は自分で決めろって…」

 

「オイ待てぇ!間違ってないけどホント待てぇ!」

 

「さもないと…もれなくこのパンツは我が家の家宝に奉られることになるって!」

 

段々とギルドの、主に女性冒険者や店員さんのカズマを見る目が冷たくなっていく…当然の反応である。

 

…まぁ、泣いている下でしてやったり、と行った顔でべぇっと舌を出していた。

 

「あの…それと一つ聞きたいんだが、そこの貴方達のパーティーの男性はどうしてそんなに死んだ目をしているんだ?」

 

そんな騒ぎをしている中、金髪の女性が俺の方を見た。

 

「あぁ、アキラですか…その方でしたら「気にしないで大丈夫ですよ、そこのめぐみんに少々傷物にされただけですから…」

 

「そっ、そんな年端もいかない少女に責められるなんて…」

 

「違います!そんな変なことはしていませんから!ちょっと前の事を聞いただけですって!」

 

女性の反応に対して、めぐみんが弁解する。…流石に弄りすぎたかなと少し反省していた所で、めぐみんが話を変えた。

 

「…それで、カズマは無事に盗賊スキルは覚えられたんですか?」

 

「ふふ…まぁ見てろよ。行くぜ!《スティール》ッ!」

 

そう、カズマが叫ぶと握られたカズマの手の中が光り、スティールが成功したと分かる。

光が収まり、少しすると段々とめぐみんの顔が赤く染まっていく。

 

不思議に思っていると、カズマの手から黒い布が出てきた。形からするともしや…

 

「ストォォォォップ!!!」

 

カズマの手から、その黒い布を急いで回収し、そのものを見ないようにめぐみんに渡した。顔を真っ赤にしながらも受け取った。

…その一連の流れから、アクアはカズマが何をしでかしたのかを気づいたようだ。

 

「カズマ…あんた…」

 

「あ、あれぇ?おかしいなぁ、盗れるものはランダムらしいんだけど…」

 

「…ついにカズマさんも変態にジョブチェンジかぁ。この次は容疑者にランクアップかな?」

 

「縁起でもないこと言うなよ!」

 

「こんな幼げな少女の下着を公衆の面前で剥ぎ取るなんて…真の鬼畜だ許せない!」

 

俺たちとカズマの間に女騎士の女性は立ちそう言った。これが真の騎士と言うものか…。

 

「是非とも私を、貴方のパーティに入れてほしい!」

 

…ん?

前後の文と繋がりがないように思える。

 

「要らない」

 

そう、カズマが言うと女騎士の方は顔を真っ赤にして、体をくねらせる。

もしかしてこの人…

 

「ねぇカズマ。もしかしてこの人、昨日言ってた、私たちがお風呂に行ってる間に面接に来たって人?」

 

 

====================

 

 

「ちょっと!この人"クルセイダー"じゃないですか!断る理由なんてないのではないのですか?」

 

そう言うと、めぐみんとアクアの二人が女騎士…ダクネスの冒険者カードを見ながら言う。…カズマが加入に反対したのは恐らく、彼女の内面だろう。

 

「ダクネス。君にどうしても伝えておかなければいけないことがある。」

 

カズマはそう言うと、正面に居るめぐみん、ダクネス、クリスの三人に向かって話し始める。

 

「実はな。俺たち三人は、こう見えてもガチで魔王を倒したいと思っている。」

 

カズマの言葉に、俺とアクアは頷き、三人の方も各々反応をする。

 

「そうなの、凄いでしょ!」

 

「この先、俺たちの冒険はさらに過酷なものになるだろう。…特にダクネス。女騎士のお前なんて、魔王に捕まったら大変な目に遭わされる役どころだ。」

 

…カズマさん、それは悪手ですよ。だってこの人多分…

 

「あぁ、全くその通りだな。昔から、魔王にエロい目に遭わされるのは女騎士の仕事と相場は決まっているからな。…それだけでも、行く価値はある!」

 

「えっ、あれっ?」

 

…だってこの人、恐らく真正のドMですもん。

 

「?私は何かおかしなことを言ったか?」

 

「おかしいと言えばおかしいかな、主に性癖とか…」

 

聞こえないよう、小さな声でつぶやいた。

 

「めぐみんも聞いてくれ!相手は魔王、この世で最強の存在に喧嘩を売ろうっていうんだよ?そんなパーティに無理して残らなくても…」

 

またもやカズマが言ってしまった瞬間、めぐみんが机をバンッ!と叩き立ち上がる。

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操りし者!我を差し置き最強を名乗る魔王。そんな存在、我が最強魔法で消し飛ばしてみせましょう!」

 

カズマの肩を叩き、静かに首を振る。

 

そんなことをしていると、なぜか不安そうな顔でアクアはカズマに耳打ちをしている。

 

…きょとんとしている目の前の、主に参加希望の二人には少し弁解をしようかと思った。

 

「あー、そこの方々。ちょっといいかな。」

 

目の前の三人がこっちの方を見る。

 

「特に参加希望の二人にはちゃんと聞いてほしいんだが。俺とカズマは魔王を倒したいとは言え、職業は"冒険者"なんだ。だからこそ、パーティ全員での協力が必要になる。だから、正式に入れるかどうかはクエストで連携を確認してから…」

 

言いかけたところで、ギルドの中を警報が鳴り響く。

 

「緊急クエスト!緊急クエスト!冒険者各員は至急、正門に集まってください。繰り返します――」

 

丁度いいタイミングだな。そう思い、カズマ達と正門に向かった。




例のごとくお久しぶりです。珈琲@微糖です。
いつものことながら、平日が割と忙しいので遅い投稿になっていまいました。
微妙なところで終わっていますがここまでしか書く元気がなかったということで見逃していただければ幸いです。

さて、今回までは割と主人公はそんなに喋っていませんが、あくまでリーダーをカズマと考え、パーティの事に関しては首を突っ込むべきじゃないと考えています。
その為、ここまでは割とアニメなどに準拠した内容になっていますが、ここから先はオリジナル要素が入り混じり、カオスな内容となると思います。

そんなところで、今回はここまでにしておきたいと思います。
また次回以降もまた見ていただければ幸いです。


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第七話 - この素晴らしい町でキャベツ狩りを!

「それで、緊急クエストって言われて来たけど…一体何が始まるんだ?何も居ないようだが…」

 

「いいや、俺にも分からないな。…なぁ、アクア。何が来るんだ?」

 

装備を整えて正門に向かうと、もう既に冒険者達が集まっていた。

一体何が始まるのか分からない俺とカズマはアクアに尋ねる。

 

「あぁ、二人には言ってなかったっけ?キャベツよ、キャベツ。…この世界のキャベツはね、飛ぶのよ。」

 

「「は?」」

 

目の前の女神が何を言っているのか、俺達二人にはさっぱり分からなかった。

 

聞くところによると、収穫の時期になると抵抗するかのようにキャベツが飛ぶらしい。逃げ出したキャベツは遠くに言ってしまう為、逃がすと誰の口にも運ばれずに枯れてしまうので、冒険者達が捕まえて売るらしい…なんだそれ。

 

「収穫だぁぁぁ!!!!!!」

 

「「「「「おーっ!」」」」」

 

誰かが声を上げると、それに反応してその場にいる冒険者達が声を上げる。…なんだこれ。

 

「…なぁ、カズマ。」

 

「…なんだ?」

 

「…帰っていいか?」

 

「…奇遇だな、俺も同じことを考えてた。」

 

そう言った所で、後ろからダクネスが話しかけてきた。

 

「カズマ、アキラ。丁度いい機会だ。私の"クルセイダー"としての実力、見ていてくれ。」

 

そう言って、ダクネスはキャベツの群れに向かって剣を振るう!

…綺麗な、空気を切る音だけが聞こえてきた。

 

その後、何度も剣を振るうが、その剣が獲物を捉えることはない。

溜息をつこうとした刹那、どこかからか冒険者の叫び声が聞こえた。

そちらを向くと、冒険者がキャベツに不意を突かれたようだ。

 

隙を見せたが最後、キャベツが冒険者に向かって飛んでいく。

もうダメだ!そう思った瞬間、何者かが冒険者の前に立ち、その身を挺して冒険者を庇った。

 

そう、ダクネスだ。

 

「ここは私が…今の内にっ…!」

 

「ダクネスッ!」

 

自らの身を盾に、無数のキャベツを体で受け、鎧をボロボロにし冒険者を庇うダクネスが先程までとは違い、一瞬だけ本物の女騎士の様に見えた。…そう、一瞬だけ。

 

「…ん?」

 

隣に居るカズマも、何かに気がついたようだ。

 

「…カズマさんや、あれってもしかして…」

 

「あぁ、悦んでいるな。」

 

その姿を見て、周りの冒険者達は賞賛の声を上げる。…気づいてるのは俺達だけかぁ…。

 

そう、思っていると近くから聞き覚えのある少女の声が聞こえた。

 

「ふふひ…あれ程の数の敵を前にして爆裂魔法を放つ衝動が抑えられようか…いや、ない!」

 

「「いや、抑えろよ!」」

 

誰が背負って帰ることになると思ってんだ!

そんなことを言っていると、めぐみんが詠唱を始める…あれ、この前と違うような…?

そう思っていたら、丁度めぐみんが詠唱を終えた。

 

「《エクスプロージョン》ッッッ!!!」

 

キャベツの群れの真ん中に、大きな爆弾が落とされた。…他の冒険者を巻き込んで。

 

「って、あんなことしたら全部めぐみんに狩られちまうじゃねぇか!カズマ、行くぞ!」

 

「お、おい!どうしたんだよ!急にやる気になって…」

 

ハッと気が付き、カズマを引っ張りながら手に作り出したナイフを握る。

 

「キャベツの売値!さっき言ってたんだが、あいつらひと玉1万エリスで買い取るらしいぞ!」

 

「はぁ!?なんだよそれ!急がねぇと!」

 

そうして俺は、キャベツの群れをカズマと共に狩り始めた。

 

 

====================

 

 

「納得いかねぇ…なんでキャベツの野菜炒めがこんなに旨いんだ…」

 

「まぁまぁ、カズマさんや。折角なんだからもっと楽しまないと。」

 

不服そうな顔で野菜炒めを頬張るカズマに、俺は声をかける。

 

「そうよ!…それにしても貴方、流石クルセイダーね!あの鉄壁の守りには流石のキャベツ達も攻めあぐねてたわ。」

 

「確かにな、例え攻撃は当たらなくても、その耐久力は武器になる。」

 

「よ、止してくれ…私など、ただ堅いだけの女だ。誰かの壁になって、守ることしか取得がない。」

 

「アクアの花鳥風月も見事でした。まさか、冒険者達の指揮を高めつつ、冷水でキャベツの鮮度を保つとは。」

 

「まぁね、皆を癒す"アークプリースト"としては当然よ!」

 

「…それ、大事か?」

 

「めぐみんの魔法も凄まじかったぞ…キャベツの群れを一撃で吹き飛ばしていたではないか。」

 

「ふふん、紅魔の血の力、思い知りましたか!」

 

「あぁ、あんな火力の直撃…食らったことは無いっ!」

 

いや、直撃して無事だったのかよ。

そう思いながら、俺達のパーティの上級職組はお互いを称え合う。

あぁ言うのが、パーティ全体のやる気を上げる事になるから馬鹿にしてはいけない。

 

「あっ、カズマ!貴方も中々だったわよ!」

 

「確かに、《スティール》と《潜伏》をあのように使うとはな!」

 

「ええ、華麗にキャベツを捕まえる様はまるで暗殺者のようでした!」

 

恐らく、このメンバーの中でもトップクラスにキャベツを捕まえたであろうカズマは、呆れた様子で俺に声をかけてきた。

 

「なぁ、アキラ…ひとつ聞いていいか?」

 

「…?なんだ。」

 

「どうして…お前はそこで料理をしているんだ?」

 

そう、カズマが言うと後ろでお玉を動かす俺の手が止まった。

 

「いやー、レベルが上がって鉄に変換が出来るようになったからな!とりあえず鍋作って、ギルドの人に許可貰って、ここで料理振舞ってる!」

 

「いやどうしてそうなるんだよ!」

 

「…そこにキャベツがあるから?ほれ、新しい料理が出来たぞ。」

 

そう言うと、鍋からロールキャベツを皿に盛り、皆の前に出す。

その出来栄えに、カズマ以外は目を光らせる。

 

「それに、キャベツも野菜炒めだけじゃなくて色んな食べ方をしてあげた方が喜ぶだろ?」

 

「はぁ…もういいや…俺は何にも言わないさ…」

 

カズマが諦めた様に肩を落とすと、大釜で作っていたキャベツのスープを給仕担当の人に渡して各テーブルに配ってもらう。

いいね!ボランティアとは言え、仕事してるって!

 

「所で、アキラのそのスキルは何なんだ?さっきも、どこからともかくナイフを出したり仕舞ったりしていたが…」

 

そう、ダクネスが俺に問いかけた。そう言えば話してなかったか。

 

「あぁ、これは俺の魔力だよ。なんでか生まれつき、魔力を色んなものに変換できたんだ。」

 

なっ!っと目を見開き、驚いた様子でダクネスはこっちを見てきた。

 

「変だなって思うだろ?大丈夫、俺も思ってるから。詳しい内容はまた今度にでも教える。…だから、パーティ以外には内緒で頼む。」

 

「…あ、あぁ。分かっているとも。」

 

まだこちらを驚いた様子で見てはいるが、とりあえずは納得してくれたようだ。

 

「とりあえず、皆に"クルセイダー"としての実力が分かって貰えて何よりだ。では改めて…名はダクネス、一応両手剣を使ってはいるが、戦力としては期待しないでくれ。何せ、不器用過ぎて殆ど攻撃が当たらない…だが、壁になるのは大得意だ!」

 

「私達のパーティメンバーも大分豪華になったものね!"アークプリースト"の私に、"アークウィザード"のめぐみん、そして"クルセイダー"のダクネス。5人中3人が上級職のパーティなんて、そうそう無いわよ?」

 

そう、アクアが言うとカズマは肩を落とす。

そんな肩を叩くと、カズマはこちらを向いてくれたので、一言言った。

 

「頑張れパーティリーダー、大丈夫。出来るだけ支えるから。」

 

「…お玉持って言われても、何も期待出来ないんだが。」

 

「まぁそう言うなって!ほら、アキラさんからの奢りだ。」

 

そう言って、カズマの前に回鍋肉を出す。…そこで虎視眈々と狙っているめぐみんは後で作ってやるから我慢しとけ。

 

 

ギルドの一角で様々なキャベツ料理を作りながら、賑やかな夜は過ぎていった。




漸く投稿できました。珈琲@微糖です。
気が付いたら、様々な方にお気に入り登録して頂けて嬉しい限りです。これからも自分が書きたいものをマイペースに書いていこうと思うので、お付き合い頂ければ幸いです。

キャベツ回、と言うことで戦闘を盛り込んでも良かったのですが、今の状態だとひたすらナイフでキャベツを切りつけるか精々ナイフを投げる程度なので割愛させて頂きました。まだステータスも低いしね!

さて、今後なのですが、他の小説様にあるような恋愛要素(尚、文才がないので様なものになる可能性)も加えてみたいような気もあるのですが、如何せんそのような文はあまり書いたことがないので「こういうところがおかしい!」「ここはこうじゃない!」みたいな指摘も頂けると幸いです。

少々長くなりましたが、ここで終とさせて頂きます。また次回以降、見て頂ければ幸いです。


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第八話 - この素晴らしい爆裂に標的を!

「なんですってぇ!ちょっとあんたどういうことよ、どれだけキャベツ捕まえてきたと思ってるのよ!」

 

「…どうなってんだ、これは。」

 

ダクネスが加入した翌日、キャベツ狩りの報酬を受け取りにギルドに立ち寄るとアクアが受付嬢…ルナさんの胸座をつかみながら抗議していた。

…視界の端に杖に頬擦りしているめぐみんなんて居なかった、いいね?

 

「それが…アクアさんの捕まえてきたのは殆どがレタスでして…」

 

「なんでレタスが混じってんのよぉぉ…」

 

 

「おいっす、朝からアクアはどうしたんだ?」

 

「あぁ、アキラか。キャベツ狩りの報酬が配られているんだが、報酬が思った以上に伸びなかったみたいだぞ。」

 

「確か、レタスの換金率が低いからな。」

 

「成程、それであんな感じになってるのか。」

 

カズマ達に一先ず挨拶をして、この惨状の理由を聞いた。…流石は幸運が低いだけの事はある。だが、少し可哀想に見えてきた。

 

そんなことを思っていると、アクアがこっちの方に近づいてきた。

 

「カーズーマーさん、今回のクエストの報酬は…おいくら万円?」

 

「…100万ちょい」

 

「「「ひゃ、ひゃくまん…!?」」」

 

「すげぇ、大分稼いだな」

 

聞くところによると、カズマが捕まえたキャベツは良質なものが多く、ちょっとした小金持ちレベルまで稼いだらしい。

流石、商売人向きの幸運値というところだろうか。

 

「か、カズマさまぁ…前から思ってたんだけどぉ…貴方って…そこはかとなくいい感じよね!」

 

「特に褒めるところが思い浮かばないなら無理すんな。」

 

100万と言う膨大な数字を前に、アクアがカズマに擦り寄る。

…もしかして、この女神、所持金、ないとか?

 

「かじゅまさぁん…私、今回の報酬が大金になるって踏んで持ってたお金全部使っちゃったんですけどぉ…って言うか、もっと入ってくるって思って、この酒場に10万近いツケがあるんですけどぉ…」

 

「知るか!…というか、今回の報酬は自分たちのものにって言ったのはお前だろ!」

 

「だって!私だけ大儲け出来ると思ったのよぉ…」

 

予想通り、アクアは使い果たしていた…と言うかツケもあったようだ。…せめて、報酬は山分けとでも言っておけばツケ位は返せたと思うのに。

 

「お願いよぉ、お金貸して!ツケ払う分だけでいいからぁ!」

 

「うるさい駄女神!と言うかこの金で、さっさと馬小屋生活を脱出するんだよ!」

 

そう、カズマが言った瞬間にアクアが水を得た魚のように話し出す。

 

「そりゃ、カズマさんも男の子だしぃ?夜中隣で偶にゴソゴソしてるの知ってるからぁ?早くプライベートな空間が欲しいのは分かるけどぉ…」

 

言った瞬間にカズマはアクアの口を抑え、ツケ分貸す事を条件にアクアを黙らせる。

 

…その一連のギャグのような流れを見てため息をついてると、隣のめぐみんが何かを尋ねてきた。

 

「あの、アキラ。どうしてカズマはあんなに焦っているのですか?」

 

「…男としての尊厳を失わないため…かな。」

 

頭の上にはてなを浮かべるめぐみんやダクネスを横目に、俺はキャベツ狩りの報酬を受け取りに行った。

…とりあえず、この金を使って装備品でも揃えようか。

 

 

====================

 

 

翌日、ギルドに行くと同じく装備品を揃えて冒険者らしくなったカズマがいた。

 

「カズマがちゃんとした冒険者みたいに見えるのですが。」

 

「そら、ジャージじゃファンタジー感無いしな。」

 

「ファンタジー感?」

 

俺が発した謎の単語にダクネスが疑問を浮かべるが、説明のしようがないので申し訳ないが聞き流させていただく。

 

「所でアキラ…少し聞きたいんだが。」

 

「なんだ?」

 

「どうしてお前はコックみたいな格好をしているんだ?」

 

「あぁこれ?昨日市場に行ったら安くてさ!」

 

「ちっげーよ!そうじゃねーよ!なんだ、お前は冒険者辞めて料理人にでもなろうとしてるのか!?」

 

「いいなそれ」

 

「いや乗るなよ!」

 

そう、昨日装備を買い揃えに市場に行ったところ、日本の洋食レストランで料理人が来てるような服に一目惚れし、その場で買ってしまった。

…いや、ちゃんと戦闘用の装備も買い揃えたんですよ?

 

「とまぁ冗談は抜きにして、ちゃんとした方も揃えているから安心してくれ。」

 

「…はぁ…唯一アキラがまともだと思った俺が馬鹿だったよ…」

 

「心外な。とりあえず着替えてくるから、どんなクエストに行くか決めておいてくれ。」

 

はーい。と女性3人組の声と、おう。と言うカズマの声が聞こえたのでギルド内のお手洗いに入った。

…一瞬、後ろから全く意見の合わないクエスト希望が聞こえた気がするが、気のせいだろう。

 

 

 

「それで、依頼は見つかったのか?」

 

黒のローブにマフラーといった、暗殺者を意識した格好に着替えた俺は、カズマ達に話を聞く。

ところで、アクアが居ないのだがどうかしたのだろうか。

 

「それが、依頼が高難易度のものしか残ってなくてな。」

 

「それで事情を聞いたら、この街の近くに魔王軍の幹部が住み着いたらしく、弱いモンスター達が姿を隠し、依頼が激減してしまったらしい。…わ、私は高難易度クエストでもいいのだが…」

 

カズマとダクネスが話した通り、依頼板には綺麗に高難易度クエストしか残っていなかった。

 

「成程なー。それで、アクアはどうしたんだ?」

 

「アクアならそれを聞いた直後に仕事を探しに行きましたよ。ツケを払ってしまい、お金がないらしいので。」

 

「納得した。それじゃあ今日は一先ず解散して明日以降詳しいことを決めるってことになるか?」

 

「まぁ、そうなるな。依頼がないんじゃどうしようもないし。」

 

カズマがそう言うと、俺達はギルドを出ようとする…その時、誰かにローブをぎゅっと握られた。…めぐみんだ。

 

「あ、あの…少し付き合ってもらっていいですか?」

 

「喜んで。」

 

父さん、母さん。

俺、大人になります。




私生活に余裕が出来、投稿する時間ができました。珈琲@微糖です。

見返して見ると思った以上に進行がゆっくりですね。長すぎてもあれなので今後もこのペースで行きたいと思いますが。
アニメで言うところの4話中盤、原作ではまだ1巻の途中と先が長いなぁと思いつつ、相変わらずマイペースに書く所存です。

さて、アキラさんの装備ですがイメージとしてはFGOをプレイしている人ならイメージしやすいと思いますがハサン先生の再臨1の様なローブ姿をご想像してください。
ナイフを主戦力として使う以上、そういう格好のイメージしか無かったんや…ローブの下だと能力の使用も隠せますしね。

とまぁ後書きはこの辺りにしておきたいと思います。また次回以降も見て頂ければ幸いです。


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第九話 - この爆裂魔法をあの城に!

「…まぁそんなところだろうね、知ってた」

 

「どうかしましたのですか、アキラ。」

 

「…いや、何でもない。」

 

そんなことを言いながら、俺とめぐみんは町を出て林道を歩いていた。

 

「それで、どうしてこんな遠くまで来てんだ?魔法の特訓なら、もう少し近くでもいいんじゃないか?」

 

「…あんまり町の近くでやると、門番さんに怒られちゃうので…」

 

「おぉ、ちゃんとそこまで考えてるのか、偉い偉い。」

 

「そ、そうじゃなくてですね!…前にやって怒られちゃいまして…」

 

頭のおかしい爆裂娘が、節度を弁えまえた爆裂娘になったのかと思い褒めたのだが、そうではなかったらしい。

 

「まぁ近くで打ったらそうなるだろうさ。…所で、どこに向かって打ちたいとかって言うのはあるのか?」

 

「それなんですけど…以前は何も無い平地や、ただの岩に向かってでも満足出来たんですが…最近、それだと満足出来なくて…」

 

「お、おう…そりゃ大変なこった。とりあえず、散歩でもしながらいい場所探すか。」

 

「そうですね、もう少し歩けば眺めのいい丘がありますのでそこまで行ってから考えましょう!」

 

そう言うと、めぐみんは元気に走り出す。それについて行くように駆け出した。

 

 

====================

 

 

「なぁ、めぐみん。」

 

「何でしょうか、アキラ。」

 

「確かにここの眺め凄く良いんだけどさ、あの景観ぶち壊しな城はなんた?」

 

「いや、分かりませんよ!前に来た時はあんな城ありませんでしたし!」

 

めぐみんの後を追って少し走ると、一面に森が広がる美しい丘に出た。…しかし、その中で一つだけ、全く雰囲気の合わない古城があったのだ。

 

「全く、誰だよあんな城建てたやつ…あっ…めぐみん、いい事を思いついたんだが、興味はないか?」

 

「…一体どんなことを思いついたんですか、物凄く悪い顔してますよ?」

 

「あの城に向かって爆裂魔法を打つめぐみんが見たいなー!」

 

そう、俺が提案するとめぐみんはポンっと手を打ち、いい笑顔で爆裂魔法の詠唱を始める。

詠唱が進んでいくと共に、杖の先に魔力が集まる。…改めて見ると物凄い魔力量だなぁ。

 

そんなことを考えていると、めぐみんは詠唱を終える。

 

「《エクスプロージョン》ッッ!!!」

 

その声と共に魔法が放たれ、巨大な魔力の塊はそのまま古城へと激突する。

 

「うーわ、やっぱすげぇなぁ。」

 

「ただ…今日の爆裂魔法は少し物足りなかったですね。」

 

そう言って倒れかかるめぐみんを抱き抱えて支える。…その後、木陰に胡坐をかいて座ると、足の間にめぐみんを座らせた。

 

「あのー、どうして座らされているのですか…?」

 

「いや、折角こんな所まで来て、ただ爆裂魔法打って帰るだけなんて勿体ないなって思ったから、景色もいいしちょっと休もうかなって思って。」

 

「それならいいのですが…この格好は少し恥ずかしいのですが。」

 

帽子で隠れてはいるが、少し頬を赤らめながら俯くめぐみん。…そんな様子に気が付かずに、持ってきた荷物から幾つか何かが入っている包み紙。取り出した。

 

「それは何ですか…?」

 

「そろそろお昼時だなってと思ってな…ちょっとしたお昼ご飯を用意しました!」

 

そう言って包み紙を開くと、半分に切られたパンに野菜や肉を挟んだもの…所謂、ハンバーガーが入っていた。

それを見ためぐみんは目を輝かせ

 

「あ、あの!これ食べてもいいんですか!」

 

と言った。元よりそのつもりだったので、頷くと俺が持っていたハンバーガーにかぶりついて来た。…魔力が空で、動けないことを忘れていた。

 

「(さぁて、俺はどうやって食べようか。)」

 

そんなことを思いながら、静かに時間は過ぎていった…。

 

 

====================

 

 

魔力がなくなり、動けなくなっためぐみんを背負いながら元来た道を辿っていく。

 

「ありがとうございます…帰りに背負ってもらうのに加え、お昼まで用意してもらって。」

 

「いいってことよ、元々お昼も用意したはいいが食べ切れるか分からなかったしな。」

 

「それならいいのですが…お昼ご飯、とても美味しかったですよ。」

 

「それなら良かった。」

 

そんなどうでもいい話をしながら、林道を歩く。

そんな時、不意にめぐみんが小さな声で言ってきた。

 

「どうしてアキラはこんなに優しくしてくれるんですか?自分で言うのもあれですが、一日一発しか打てないような魔法使いなんて、使いにくいと…思いますし。」

 

元々小さい声で言ってきたのだが、その声すら段々と小さくなっていく。

 

「どうして…って言われると難しいなぁ。俺としては至極当然な事をしているだけだし。」

 

えっ…っとめぐみんの声が漏れた。が、俺は続けて言う。

 

「多分、俺じゃなくてカズマでも同じことを言うと思うぞ?あいつもなんだかんだ言って、根は優しいしな。」

 

「そう…ですか?」

 

「そりゃそうさ、嫌なら、パーティに入る時無理矢理にでも断っていただろうしな。」

 

「………」

 

「それに、俺達はもう仲間なんだ。何かあれば頼って、助け合う。だから、どうして優しいとか、そんなことは考えなくていいんだぞ?」

 

「…ふふ、そんな真面目なこと、数時間前には変な格好で現れたアキラから聞けるとは思っていませんでした。」

 

「何おぅ!?あれはれっきとした厨房に立つ者の正装であり、決して変な格好では…「貴方が立つのは厨房ではなく、戦場ですよ?」はい、重々承知しております。」

 

「でも、ありがとうございました。お陰様で、元気が出ましたよ。」

 

「おう、それなら良かった。…で、明日以降はどうするんだ?」

 

「…出来れば、依頼がいつも通りに戻るまではお願いします…。」

 

「畏まりました、お嬢様。」

 

そんな会話をしながら、俺の日々の日課が一つ増えたのだった。

 

 




連続投稿続いてるけど、暇なのかなって思った貴方、割と日常生活に余裕が出来てきました、珈琲@微糖です。

さて、城焼き回なのですが、付き添いをカズマさんからアキラさんに変更しました。
と言うのも、原作とは違って背負う役回りをアキラさんがやっていたのでアキラさんに頼んだだけなのですが。

そして、最後の部分ですが、見て分かる通り完全にオリジナルで考えました。
めぐみん自身、必死だったとはいえかずまを脅してパーティ加入したと言うのを少し気にしていて欲しい、と言う願望から生まれてしまいました。

と言うことで、漸く次回からベルディア戦に入れます。ナガカッタ…

というところで、次回以降もまた見て頂ければ幸いです。


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第十話 - あの鎧の騎士と対面を!

「「ばっくれっつ、ばっくれっつ、らんらんらん!」」

 

あの日から、俺の日常と言うのは大きく変わった。

依頼もないので、普段よりもゆっくり起きて、昼前にギルドでめぐみんと合流し、古城に爆裂魔法を放つ。その後、昼食をとってからギルドに戻って解散する。

 

そんな日常を送っていると、いつしか音だけで爆裂魔法の完成度が分かるようになっていた。

 

「《エクスプロージョン》ッッッ!!!」

 

「おっ、今日の爆裂魔法は結構良かったじゃないか。耳に来る音の重さが今までで一番良かったぞ。」

 

「ふふん…アキラも漸く爆裂道が分かってきましたね…どうです?アキラも、本当に爆裂魔法を覚えてみませんか?」

 

「それはいいんだけどさ…確か爆裂魔法って覚えるのが相当難しいって、アクアが言ってなかったっけ?」

 

「ふっふっふっ。ただの"アークウィザード"ならまだしも、紅魔族随一の天才であるこの我が教えるんですよ?そんなこと、些細な問題に決まってるじゃないですか!」

 

そう言って自信満々に答えるめぐみん。しかし、倒れながら言ってもあまりかっこよくはないと思う。

ぐっと言葉を堪え、めぐみんを抱き抱えて膝の上に座らせる。

 

「まぁ、まだレベルもポイントも足りないから、大分先になると思うけどな。」

 

「そう言えば、アキラの冒険者カードって一度も見たことないですね。…出来ればでいいのですが、見せてもらってもいいですか?少し興味があるので。」

 

「別にいいけど…はい。」

 

そう言って、めぐみんに冒険者カードを渡す。

 

「ふむふむ…レベルは4でこのステータスですか…割と魔力が高いんですね?」

 

「…えっ、最初にもらった時は、筋力と知力が高いって言われてたんだけど…そんな変わってる?」

 

そう言いながら、冒険者カードを覗き込む。 筋力等のステータスも上がってはいたが、言われた通り魔力の値の成長が著しかった。

 

「まっ、能力的には魔力が高い方が嬉しいからいいんだけどな。」

 

そう言って昼食を食べ始める。 その後、めぐみんも見終わったカードを返すと昼食を食べ始めた。

 

 

====================

 

 

数日後、いつも通りギルドでめぐみんと落ち合うと、突如放送が入った。

 

「緊急警報!冒険者各員は装備を整え、正門前に至急集合してください!」

 

緊急警報を聞き、ギルドに居た冒険者達が次々に正門へと向かう。 その途中でカズマやアクア、ダクネスと合流した。

 

 

正門に着くと、正面の小高い丘に黒い馬に乗る、鎧の騎士が居た。

 

「俺は先日、この町の近くに引っ越してきた者だが……毎日毎日、俺の城に爆裂魔法を打ってくる、頭のおかしいのはどこのどいつだぁ!」

 

その言葉を聞くと、カズマが俺とめぐみんの方をじっと見てくる。…冷や汗をかきながら、目をそらした。

 

「初心者の町だと思って甘く見てりゃ、毎日毎日打ってきて…どうしてそんな陰湿な嫌がらせばっかりするの!?」

 

段々と叫び声が哀愁の漂ったものに変わっていく。

 

「爆裂魔法…?」「爆裂魔法って言ったら…」「この町にも一人居るな…」

 

周囲の冒険者たちが、爆裂魔法。と言う単語から徐々に視線をめぐみんに集める。

…近くに居る、魔法使いらしき人に罪を擦り付けようとしやがった。

 

「オイ」

 

「…冗談ですよ」

 

カズマがそう言うと、目をそらしながら冗談だ、と言うめぐみん。

…恐らく冗談ではなかったのだろう。

 

やれやれ、と言った様子で前に出ていく。

 

「貴様かぁ!いっつもいっつも俺の城に爆裂魔法を打ってくる、頭のおかしい爆裂娘はぁ!」

 

「っ!…我が名はめぐみん!紅魔族随一の天才にして、爆裂魔法を操りし者!」

 

「あ?なんだその名前は、バカにしているのか?」

 

「ち、違うわい!れっきとした名前です!」

 

そうめぐみんが言い返すと、暫くして鎧の騎士は

 

「…成程。貴様、紅魔族の娘か。」

 

と納得していた。

 

「ふっふっふ…私が爆裂魔法を放っていたのも、貴様をここに誘き出すため。」まんまと罠に掛かりましたね!」

 

この言葉には、俺達の周りにいた冒険者からも「おぉ…!」と言う声が上がっていた。

…そう、俺とカズマを除いて。

 

「…なぁ、アキラ。めぐみんの奴、本当にあんなこと言ってたのか?」

 

「…いいや、と言うより、景観ぶち壊しで見栄え悪かったから、逆に俺が提案した側だ。」

 

「オイ」

 

胸を張り、ふふん。といった表情をする俺を、カズマは疑惑の眼差しで見ていた。

 

と言った様子でカズマと話していると、向こうの方でも何やら進展…と言うよりも、アクアが俺と同じ様子でめぐみん達の前に立つ。

 

「ほう。貴様、"プリースト"ではなく"アークプリースト"か。面白い!多少はやり応えがあるのだろうなぁ!」

 

そう言うと、鎧の騎士の手には、ひと目でわかるような嫌な魔力が溜まっていく。

…あれはマズい。

 

そう思った瞬間に体は動いていた。

 

──魔力変換。全体の50%を足の"筋力"へ。

──魔力変換。全体の40%を体の"推進力"へ。

───間に合えっ!

 

「汝に死の宣告を!貴様は一週間後、死ぬであろう!」

 

その瞬間、俺の体は光に包まれた。



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第十一話 - この死の呪いに神の救いの手を!

「…あれ、何ともねぇぞ?」

 

俺の身を包んでいた光が無くなり、自分の体を見回すがどうともなっていない。

 

「ふむ。予定とは違ったが、仲良しごっこが好きな貴様らにはこちらの方が効くだろう。…そこの紅魔族の娘よ!貴様が原因でそこの男は1週間後に死ぬだろう!」

 

そう言うと鎧の騎士は上手く歩を翻らせ、こちらに向かって何かを言ってきた。

 

「我が名はデュラハンのベルディア!紅魔族の少女と、少女を守る為その身を呈した男よ。呪いを解いて欲しくば、このオレの居る城まで来るが良い!」

 

そう言い残し、ベルディアは去ってゆく。

 

「オイ!大丈夫か、アキラ!」

 

「あぁ、特に異常は無いようだが…」

 

こちらに駆け寄り、心配してきたカズマにそう答えた。

…確かに今はどうとでもないが、死の宣告と言えどずっと調子が変わらない訳では無いだろう。どうにかして、早いところあのデュラハンの奴をぶっ飛ばさなければ。

そう考えて居ると、めぐみんが俺とカズマの間を歩き、デュラハンが去っていく方向へ歩みを進めていく。

 

「おーいめぐみん、どこに行く気だ?」

 

「…ちょっと、あのデュラハンの城に爆裂魔法を打って呪いを解かせてきます。大丈夫です、あの城に打ち込むのは日課ですから。」

 

めぐみんに声をかけるアキラ。それに対してめぐみんは、明るい顔を作りながら応えた。

…その言葉に、その表情をさせたことに、胸が痛んだ。

 

「全く、そんなことなら俺も連れていけよ。…魔王軍幹部の本拠地だ、居る敵があいつだけって訳でもないだろう?」

 

「…感謝します、カズマ。それでは行ってきますね。」

 

そう言って、カズマとめぐみんが行こうとする。行ってしまう。

 

「…この馬鹿野郎共が、俺も行くにきまってるだろうが。」

 

二人がえっ、と言った表情でこちらを見る。

 

「庇ったとは言え、当たったのは俺のヘマだ。ちゃんと自分の尻拭い位、自分でしなきゃな。」

 

そう言ってカズマとめぐみんの後ろに着く。…何やら後ろで騒ぎが起きてる様だが気のせいだろう。

 

「それに、あの城に爆裂魔法打って、だれがお前を背負うんだ?」

 

「それは…カズマにやらせようと…」

 

「あのなぁ…」

 

カズマが呆れた顔をしながらめぐみんの方を見る。

 

「あ、あのぉ…いい空気になってる中少しいいか?」

 

そんなことをしていると後ろから、申し訳なさそうなダクネスの声が聞こえた。

 

「呪いの方はさっきアクアが《セイクリッドブレイクスペル》で解除できたようなんだ。だから…その…もう大丈夫だぞ?」

 

「「「えっ」」」

 

予想外の発言に、俺達三人は素っ頓狂な声を上げる。

そんな時、アクアがこちらに駆け寄ってきた。

 

「どーよ!魔王軍の呪いなんて、この私にかかれば余裕よ、余裕!どう、凄いでしょ!だから私をもっと甘やかして!」

 

ふふん、も胸を張りながらアクアが言った。…なんだか、どっと疲れた。早く帰って寝たい。

とりあえず、アクアに一言「ありがとう」と言って町に戻る。めぐみんとカズマもついてきたところを見ると、俺と同じ考えらしい。

 

「…とりあえず、明日からは城に爆裂魔法禁止な。」

 

「…はい、分かりました…」

 

 

====================

 

 

翌日、ギルドに行くともう既に俺以外のメンバーは集まっていた。なにやらこれから、今日一日の流れを決めるらしい。

 

「アクアのレベル上げなぁ…ステータスは結構いいって聞いてたんだけど、必要か?」

 

カズマの提案した内容に純粋に湧き出た疑問をぶつける。

そう言うと、カズマが耳打ちをしてきた。

 

「…ほら、レベルが上がればステータスも上がるだろ?そしたら、こいつの残念な頭も少しはマシになると思って…」

 

ポンっと手を打った。成程。カズマ、こういう所で結構頭が回るな。

 

「…まぁ、ヒーラー系はレベル上げにくいからありと言えばありだが…どんなクエスト受けるとかは決めてるのか?」

 

「あぁ、それならこれかこれの、どちらかのクエストを受けようと思っている所だ。」

 

そう言って、ダクネスから二つのクエストの概要を見せてもらった。

…泉の浄化と、ゾンビメーカーの討伐か…

 

「思ったんだが。ゾンビメーカーはいいとして、泉の浄化はレベルアップに繋がるのか?」

 

「もっちろん!レベルって言うのはね、所謂経験の積み重ねなの。だから例え食事をしていても経験値は溜まっていくわ!」

 

「成程。それだったらカズマ、どっちを受けるか決めてるのか?」

 

「あぁ、泉の浄化の方は時間がかかるから準備が必要だとして、手短に済ませられるゾンビメーカーの方を受けようかなって思ってるところだ。」

 

「異議なし、三人は大丈夫か?」

 

「うむ。私も構わないぞ。」「私も大丈夫ですよ。」「問題ないわ!」

 

三人からokが出た。

 

「それじゃあ、ゾンビメーカーが出てくる夜にもう一回ギルドに集まるか。」

 

全員が頷き、ギルドを出ようとした所で、めぐみんに呼び止められる。

 

「あの、アキラ。少しいいですか?」

 

「ん、どうした?」

 

「その…昨日のことで。」

 

「あー。…ここじゃあれだし、少し歩こうか。」

 

そう言って、ギルドを出て歩き始める。

…少し歩き、人通りの少ない路地に入ると、めぐみんは口を開いた。

 

「…昨日はありがとうございました。」

 

「いやいや。と言っても殆どアクアに持っていかれた様なものだしな。」

 

そう少し苦笑しながら言う。…それにつられ、めぐみんも少し笑った。

 

「あはは…それはそうとして。どうしてアキラは私を庇ったんですか?」

 

「なんでって…なんでだろうなぁ。気付いたら体が動いてた。としか言えないな。」

 

「気づいたらって…自分の命が惜しくはないんですか?」

 

「惜しいと言えば惜しい…かな?」

 

「どうして疑問形なんですか…」

 

めぐみんが呆れながらこっちを見ていう。

あれ、俺、ここ最近いつも呆れられてないか?

 

「…惜しいけど、誰かの命を助ける為だったら、命をかけてでも守りたい…かな。」

 

「…それは、誰でもですか?」

 

「んー、少なくとも知ってる人なら、体は張ると思う。」

 

「……」

 

それを聞くと、めぐみんは俯く。

 

「でも、あのデュラハンの呪いからは、めぐみんは絶対に守らなきゃ。って思ったかな。…って、なんで急にこんな話になったんだ?」

 

「…なんでもありませんよ。どうしてあそこまでしたのか、少し気になっただけだす!」

 

そう言って、めぐみんはぱあっと顔を上げ、前を歩く。

 

「あぁ、でも…最後に言ってくれた事は、ちょっぴり嬉しかったですよ?」

 

そう言われ、自分が何を言ったのか思い出し、顔が熱くなるのを感じた。

そんな俺を見て、めぐみんは笑みをこぼす。

 

「ふふっ、耳まで真っ赤ですよ、アキラ?」

 

「…どうしてあんなことを口走ったのか、自分を問いただしてるところだから何も言わないでくれ。」

 

そう言うと、より一層めぐみんは笑い、俺もつられて笑う。

 

「そういえば、こっちに気になる魔道具店があったんです。少し付き合ってもらえますか?」

 

「まぁ、その位ならいいさ。っておい、置いてくなよ!」

 

「ほらほら、そんなに遅いと置いていきますよ!」

 

そう言うめぐみんを追って、話していた店に向かう。

 

めぐみんの言っていた店の店主が留守で、中を見ることが出来なかったのはまた別の話。




タイトルを序盤で回収して後半がほぼ閑話になることに定評のある珈琲@微糖です。
早いことで12話目となりましたが、まだアニメだと4話くらいなんですよね。まだ先は長いです。

ここまで書いておいてあれなのですが、時系列はアニメ準拠で進めつつ、カットされたお話は原作の位置に入れていこうと思っています。
ですので、キールのダンジョン等はデストロイヤー後になりますかね。まぁアキラくんは盗賊スキルを取っていないので、殆どお荷物と思われますが。

さて、恋愛的なあれも書きたいなぁ、とお話をしていましたが、今回の話を見ても分かる通り、ヒロインをめぐみんにして書こうと思っています。尚、サブヒロインは多分無いと思います。そこまで高度な技術はありません。

と言うことで、今回はこの辺りで筆を置かせていただきます。
また次回以降も見ていただければ幸いです。


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第十二話 - この集団墓地に救いの手を!

「うぅ。まだ冬ではないとは言え、夜は冷えるなぁ…」

 

「まぁもう秋だしな、何か暖かいものでも飲むか?」

 

「頼む。」

 

夜になり、カズマ達と合流して依頼のあった集団墓地に向かう。…が、夜と言うこともあり、想像以上に寒かった。

 

「《クリエイトウォーター》に《ティンダー》っと、ほい。珈琲で大丈夫か?」

 

「あぁ、むしろそっちの方が目覚ましにもなっていい。」

 

「…どうしてカズマは普通の魔法職よりも初級魔法を使いこなしてるんですか。」

 

カズマから珈琲を受け取り、のんびり啜っているとめぐみんが少し呆れた様子で言ってきた。

 

「まぁ、カズマの奴は変なところで頭の回転が早いからなー。」

 

「変なところでとは、変なところとは。」

 

「言葉の通りさ、取るだけ無駄。と言われてる初級魔法をここまで使いこなすのは純粋に凄いと思うぞ?」

 

「うっ…それはまぁ…ありがとな。」

 

そんな会話をしていると、集団墓地まで案内をしてくれているダクネスが声をかけてくる。

 

「おっと、そろそろ墓地に着くぞ。…カズマ、《敵感知》スキルを頼めるか?」

 

「あぁ!ちょっと待ってな。…数は…いち、にー、さん…大雑把に把握出来るだけで4体以上は居るぞ?」

 

敵感知スキルを発動したところ、事前情報で聞いていたゾンビメーカーの情報よりも多くの反応があったらしい。

 

「妙ですね、普通ゾンビメーカーと言えば取り巻きは1~2体の筈ですが…」

 

「うむ、まずは私が先行して様子を見よう。」

 

そう言って、ダクネスが剣を構え、墓地に入っていく。

それに続き、アクア、カズマ、めぐみん、俺の順番で墓地に入っていった。

墓地に入り、暫らくするとアクアが何かに気付いたようだ。

 

「この匂い…この先にアンデッドが居るわ!…それも、そこら辺の雑魚じゃなくて、もっと大物ね!…悠長にしてられないわ、早く行くわよ!」

 

そう言ってアクアが駆け出す。それを追って行くと、ダクネスがとあることに気がついた。

 

「あれは…妙だな、ゾンビメーカーは魔法陣なんて使わないのだが…」

 

そう言うダクネスの先には、確かに魔法陣が描かれていた。…その魔法陣を物凄い勢いで踏み付けるアクアと、それに泣きつく女性も居た。

 

「…カズマ。あれ、一旦事情を聞いた方がいいんじゃないか?」

 

「…あぁ、そうするつもりだが…なぁ…」

 

軽く頭を抱えながら、カズマはそう呟いた。

 

 

====================

 

 

「えっと、それで聞きたいんですが。貴女は何者なんですか?こんな夜中に墓地に居るなんて…」

 

「あぁ…そうですよね。普通、こんな夜中に墓地に居たら不自然に思いますよね。」

 

そう言う彼女の言葉に疑問を持った。まるで、自分が普通でないような言い方だ。

 

「申し遅れました。私、ウィズと申します。普通の人に見えますが、一応"ノーライフキング"なるものをやっております。」

 

自己紹介をしたウィズだが、それを聞いた瞬間、隣でめぐみんが震えだした。

 

「…なぁ、めぐみん。ノーライフキングってなんだ?」

 

「…アキラには、ノーライフキングと言うよりはリッチーと言った方がいいですかね。所謂、アンデッドの王と言われる種族です。」

 

「…それって、やばいやつじゃね?」

 

そんな話をしていると、アクアがウィズに対して掴みかかった。

 

「あんた、この女神アクア様の前に現れるなんていい度胸ね!覚悟なさい、一瞬で浄化してあげるわ!《ターンアンデッド》!」

 

「えっ、ちょっと待ってください!女神アクアって言うとあのアクシズ教の…ってやめてください!薄くなってます!薄くなっちゃってますからぁ!」

 

「あーっはっはっはっ!このままこの墓地ごと浄化してあげるわ!」

 

「おいこら、そろそろやめんか。」

 

「痛っ!…ちょっとカズマ、何すんのよ!もうちょっとで浄化出来たのに!」

 

「あのなぁ…まだ自己紹介しかしてないだろ?もう少し話を聞いてみたらどうだ。」

 

カズマがそう言うと、アクアは不服そうだがそれに従う。

 

「良かった…話を戻しますね。何故ここに居たか、と言う話ですが…この集団墓地に彷徨っている迷える魂を天に還していてあげたんです。」

 

ウィズは一息つくと、元のカズマの問いを答え直す。

しかし、その回答にカズマは疑問を持ったようだった。

 

「…ん?そういうのって、普通はプリーストがやることなんじゃないか?」

 

「…それなんですが、言い難いのですが…この町のプリーストの方々は現金主義と言いますか…お金のない方は後回しにする方が多くてですね…」

 

言いにくそうに言うと、カズマはアクアの方を向く。

…吹けていない口笛を吹きながら目を逸らす。

 

「それで、私が天に還してあげていたのですが…如何せん、私が行くと、浄化されていない遺体が、ゾンビになって出てきてしまって…」

 

「…なぁ、カズマ。今回は見逃さないか?」

 

「…俺はそうしたいんだが、アクアが賛成してくれるかだな…」

 

そう言ってアクアの方を見ると…見逃してくれなさそうな顔をしていた。

 

「カズマ、任せた。」

 

「…はぁ、しょうがないな…おーい、アクア。ちょっといいかー?」

 

「…なによ。」

 

「ウィズの事なんだが…」

 

その後、アクアを無事説得したカズマは少しウィズと話すと、アクセルの町で彼女の営む魔道具店を教えてもらい、ウィズは帰っていった。

 

「ところで、クエストはどうなるんだ?」

 

「「「「…あっ」」」」

 

ゾンビメーカーを討伐せよ!…クエスト失敗。




連続投稿出来てるのは嵐(多忙)の前の静けさです。改めまして、珈琲@微糖です。
アニメでカットされたウィズとの初邂逅なのですが、私はアニメを中心に入って行きましたので、以前にも増して描写が下手だと思います。大変申し訳ありません。(元々上手くありませんが)

さて、ここからはアニメの時間軸で進める予定ですので、ミツルギとの初邂逅→ベルディア戦となります。キールのダンジョンはもう少し先よ!

という訳で、この辺りで筆を置かせていただきます。よろしければまた見ていただければ幸いです。


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第十三話 - この汚れた湖に救済を!

「それで、今日は例の湖の浄化クエストの方か。」

 

ゾンビメーカーの依頼が失敗に終わった翌日、ギルドでパーティメンバーと合流し、残っていた湖の浄化のクエストを受けることにした。

 

「あぁ、そうなんだが…アクア、湖の浄化なんて本当に出来るのか?」

 

「馬鹿ね…この私を誰だと思っているのかしら。名前や外見からして、私が何を司る女神なのか分かるでしょう?」

 

「宴会の神様だろ?」

 

「ちっがーう! 水よ、この美しい水色の髪と瞳の色を見れば分かるでしょう!?」

 

「じゃあそれを受けろよ。 …お前1人で受ければ、報酬も経験値も独り占め出来るだろう?」

 

カズマとアクアの夫婦漫才を見ていたら、どこかおかしい点があることに気がついた。

 

「…めぐみん、ダクネス。聞きたいんだが、本当に目的はレベル上げなのか? …今、報酬がどうとか聞こえたような気がするんだが。」

 

「それなんだが、今回のクエストはアクアとカズマが決めたのだが…アクアがレベル上げと金策の両方を狙えるクエストを選んだみたいだな。」

 

「えぇ…」

 

「まぁ、湖の浄化でもプリーストとしては充分な経験値は貰えると思いますけど。」

 

「…ま、当初の目的を達成出来るならいいとは思うが…おーい。そこのお二人さん、結局どうやってクエストをこなすんだ?」

 

二人から事情を聞き終えた所で、カズマとアクアの夫婦漫才も丁度終わったようで、話の結論を聞く。

 

「あぁ、それなんだが…俺にいい考えがある。」

 

カズマさん、それ、ダメなやつです…

 

 

====================

 

 

「…ねぇ、カズマさん…私、これから売られていく希少モンスターみたいな気分なんですけど…」

 

アクア曰く、水に触れているだけでも浄化が出来るようなので、ギルドからモンスター捕獲用の借り、その中からアクアが水を浄化する。…と言うのがカズマの考えた策だ。

 

「と言うか、本当に大丈夫なのか? モンスター捕獲用とは言え、半日もかかるんだろう?」

 

「それについては問題ない。 もしもの時は檻を引き上げるし、どうしようもなくなったら爆裂魔法もあるだろう?」

 

「…それ、泉ごと吹っ飛んでまたクエスト失敗するやつだよな?」

 

恐らく、幸運値の高いカズマが決めた策だから、色々あってもクエストのクリア自体は可能だろう。 …アクアの幸運値が低いのが少し不安だが。

そんなことを考えていると、不意に声をかけられた。

 

「…そんなことは余程のことがない限り起きないから大丈夫だとは思います。 …所で、どうしてアキラは一人だけ荷台に乗って楽をしているんですか?」

 

…荷台の後ろに勝手に乗って楽をしているアキラに、めぐみんはとてもいい笑顔で言った。

 

「…そこに荷台があったから?」

 

「…まぁいいでしょう。 カズマー、今回のクエスト、アキラもこの檻の中に入りたいと言って…「いやぁ、こんないい天気の下歩くのも楽しいなぁ!」

 

めぐみんがカズマにそう言うと、アキラは多少食い気味で荷台から降り、そう言って歩き出す。

 

「…アキラの奴、完全にめぐみんに尻に敷かれてるな。」

 

「そうだな。 …だが、あのような幼げのある子に尻に敷かれるというのも…」

 

「あーもうだめだこのくるせいだー…」

 

…息を荒らげながら興奮するクルセイダー(ダクネス)と、それに呆れる冒険者(カズマ)の図がそこにはあった。

 

 

====================

 

 

「(…なんだろう、この図は。)」

 

檻に入れられ、湖に漬けられているアクアを木陰から四人で見守ると言う、非常にシュールな光景が広がっていた。

 

「アクアー、何かあったら言えよー、すぐに引き上げてやるからなー。」

 

半分虚ろな目をして、檻の中で体育座りをするアクア。 …恐らく本人は紅茶のティーパックか、鍋で出汁を取られている昆布のような気分だろう。

 

 

========

 

 

あれから、2~3時間は経っただろうか。

ブルータルアリゲーターが住み着いたと言う湖からは、一向にモンスターが現れず、穏やかに時間は経っていく。

 

「…モンスターは出てこないな。」「…そのようですね。」

 

「にしても、今日は一段と大人しいな、お前。」

 

そう言ってカズマはめぐみんの方を見る。それに気付き、ふぇ。と不意に声を上げた。

 

「いつもなら中二っぽいこと言って、湖ごとぶっ飛ばそうとするだろう?」

 

「確かに…」

 

カズマが言うことにダクネスが同意する。そうすると、慌ててめぐみんが修正する。

 

「二人は私にどのようなイメージを持っているんですか!…我が究極の爆裂魔法は、ワニ如きに使うものではないのです…」

 

「そうだぞー。最近は割と頭のおかしい爆裂娘と言うよりは、節度を知り始めた爆裂娘って言う方が正しいし、それにもう大きくて硬いものでしか満足できないだろう?」

 

「そうです…って、なんですかその不名誉なあだ名は!それに何言わせてるんですか!…確かに、あの古城に打ち始めてからは、あれくらい大きくて硬いものに打たなければもの足りませんが…」

 

先ほどの仕返しとばかりにからかうアキラと、それを肯定とも否定とも取れないような様子で受け取るめぐみん。

しかし、その会話を聞いていた二人は、顔を真っ赤にしていた。

 

「大きくて…硬いの…っっ」「ばっ…二人ともこんな昼間っからなんて会話してんだ!」

 

「何って…やっぱりド派手な魔法は標的が大きいもの程かっこいいだろう?」

 

「流石、毎日爆裂魔法を共に打ってきただけあります…アキラも爆裂道が分かってきましたね!」

 

そう言ってめぐみんとハイタッチをするアキラ。 …その様子を見て、ため息をついたカズマはアクアに声をかける。

 

「おーい、アクアー。湖の浄化はどんなもんだー?」

 

「浄化は順調よー。」

 

「水に浸かりっぱなしだと冷えるだろー? トイレ行きたくなったら言えよー。」

 

カズマさんから、ナチュラルなセクハラ発言が飛び出す。 …本人からすると気遣っているのが、余計にタチが悪い。

 

「っ! アークプリーストはトイレなんて行かないしー!」

 

そう言って否定するアクア。

 

「なんだか大丈夫そうですね。 …因みに、紅魔族もトイレなんて行きませんから。」

 

「お前らは一昔前のアイドルか…ついでに、アキラさん程、冒険者を極めた者もトイレには行かないからな。」

 

「そう言うお前も人の事言えねぇこと言うなよ。」

 

「…っぅ…わたしもぉ…クルセイダーだから…トイレは…トイレはぁ…うぅ…」

 

「ダクネスも対抗するな。…トイレに行かないって言うめぐみんや、アクアにアキラには、今度日帰りじゃあ終わらないようなクエストを受けて、本当にトイレに行かないか確かめてやるから。」

 

「やっ、やめてください!紅魔族はトイレなんて行きませんよ! …ですから、やめてください。」「はっ…俺は一体何を…さっき言ってたことが思い出せない…っ!」

 

そう言って、半ば先ほどの発言が嘘だったかのような反応をとる。 …その様子を、ダクネスは頬を赤らめながら見て

 

「…流石は私が見込んだ男だ…」

 

みたいな反応をしていた。

 

「しかし、何事も起きませんね。このまま何事も起きなければいいのですが。」

 

「…ここまで何も起きないなら、クエストはもう成功したも同然だな!」

 

「馬鹿っ!お前らその発言は…」

 

アキラとめぐみんが、そのような何か起きそうなこと言う(フラグを建てる)と突如、アクアの方から悲鳴が上がる。

 

「か、カズマぁぁぁ!!!なんか来た、ねぇ、なんかいっぱい来た!!かじゅま、かじゅまさぁぁぁん!!!」

 

突如、無数のワニが檻の周りを囲うように現れた。

 

それから、アクアは女神の浄化能力に加えて、一心不乱に浄化魔法を唱えている。

 

「《ピュリフィケーション》!《ピュリフィケーション》!《ピュリフィケーション》!ピュリフィ…ひぃぃぃ!!!《ピュリフィケーション》!《ピュリフィケーション》! …檻が、檻が変な音立ててるんですけどぉぉ!!!立てちゃ行けないような音を立ててるんですけどぉぉ!!」

 

「アクアー、ギブアップなら言えよー。鎖引っ張って、助けてやるからなー。」

 

「嫌よー!ここで諦めたら、報酬が貰えないじゃないー! …きゃぁぁぁ!!!メキッて言ったぁ!今さっきよりも鳴っちゃいけない音が聞こえたぁぁ!!」

 

あれ程必死なアクアを初めて見た、と思うアキラ。不意に、ダクネスからこんな声が聞こえた。

 

「…あの檻の中、少しだけ楽しそうだな…」

 

「…行くなよ?」

 

「…なぁ、助けなくてもいいのか?」

 

「…変に刺激して、あの檻が壊されたら大変だからな。一応、助けられるように準備はしておいてくれ。」

 

万が一の時の為、ローブの下でナイフを用意したが、それを使うことは無かった。

 

 

====================

 

 

「…浄化は完了したようですね。ワニ達もどこかに行ったようです。」

 

あれから七時間後、無事浄化を終えたアクアは檻の中で目を濁らせていた。

 

「アクアー、無事か?」「…アクア?」

 

声をかけられたアクアは、檻の中で泣いていた。 …確かに、あのワニの群れは相当なトラウマになるだろう。

 

「…なぁアクア、話し合ったんだが…今回の報酬は俺達は要らないから…」

 

「そうだぞアクア、30万エリスは全てアクアのものだ!」

 

「そうですね、今回は全てアクアの働きですから!」

 

「確かに、今回のクエストは俺達は何も出来なかったしな。」

 

カズマ達はそう言ってアクアを励ます。…が、一向に檻から出ようとしない。

 

「お、おい…もうワニは居ないから、早く出てこいよー…」

 

「…このまま連れてって…」

 

「…えっ?」

 

「…檻の外の世界怖い、このまま町まで連れてって…」

 

訂正、トラウマになるであろう。ではなくトラウマになっていた。

 




タイトルのネタが尽き始めました。珈琲@微糖です。
今回で出来ればベルディア前まで進めたいなぁと思っていたのですが、思いのほか量が多くなりました。

ここまで書いてアニメでは5話の半分、小説では1巻すら終わってないとはどれだけ掛かるのやら。

次回は御剣登場回〜ベルディア前までを予定しています。どれだけの長さになるかは分かりませんが。

と言うことで、次回以降もまた見ていただければ幸いです。


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第十四話 - この剣の勇者に鉄槌を!

「あーるーはれたーひーるーさがりー、いちばーへつづーくみちー…」

 

湖の浄化と言うクエストを終え、カズマ達はギルドへと戻っていた。

馬車は既に町の住宅街まで入ったが、アクアは一向に檻から出ようとしない。 その異様な光景は町の住人の視線を集めるのには十分すぎた。

 

「お、おい…アクア…いい加減に檻から出てこいよ。もう町の中入ってるし、モンスターも襲ってこないから。」

 

「…嫌よ、外の世界は怖いもの…この檻の中だけが私の聖域…暫く出ないわ…」

 

カズマが外に出るよう促すが、アクアは体育座りをしたまま一向に檻から出ようとしない。

 

「…あぁ、うん。まぁ、このままギルドまで連れていくしか無いんじゃないか? シュワシュワでも奢ってやればいつもみたいに調子を取り戻すだろうさ。」

 

「…それで直ってくれたらいいんだけどなぁ…」

 

普段、割と毒舌なカズマもこの時ばかりはアクアを心配する。 …その時だった。

 

「め、女神様ァァ!? どうしてこんな所に!」

 

どこかからそんな声が聞こえると、青の鎧を身に纏った勇者風の男がアクアの乗る馬車の荷台に駆け寄ってきた。

 

「女神様!女神様じゃないですか!」

 

そう言うと、勇者風の男は()()()()()()()()()()

それを見たカズマ達は各々驚愕の声をあげる。

 

「何をしているのですか女神様!こんな所で…」

 

「…オイ、私の仲間に馴れ馴れしく触れるな。 …貴様、何者だ。」

 

勇者風の男の肩を掴みながら、ダクネスが睨みつつ男に問いた。

 

「…あれお前の知り合いだろう? 女神って言ってたし…」

 

「…もしかしたら過去に送った転生者かもな…アクア、見覚えはないか。」

 

ダクネスが男を引き付けている間、カズマとアキラは檻の中にいるアクアに男について聞く。 …それを聞いたアクアは、段々と目のハイライトを取り戻していった。

 

「女神…そうよ、女神よ私は!」

 

つい先程まで、自分のことを女神だと忘れていたかの様な口ぶりをしながら、アクアは調子を取り戻し檻の中から出てくる。 その後、荷台の上から男の前にふんぞり返りながら立った。

 

「さぁ!女神である私に何の用かしら? …アンタ誰?」

 

「僕です!ミツルギ キョウヤ(御剣響夜)です! あなたからこの〈魔剣グラム〉を頂き、この世界へ転生したミツルギ キョウヤです!」

 

「…へっ?」

 

「…は?」

 

「…えっ?」

 

アクア、カズマ、ミツルギの三人が声を上げた。

 

「…あぁ、居たわね、そんな人も!忘れてたぁ。 …結構な数の人間を送ったから、忘れてもしょうがないわよねぇ!」

 

「…カズマさん、あれは完全に忘れてましたね。」

 

「…あぁ、まぁそうだろうとは思ったがな。」

 

そう言ってアクアはミツルギを誤魔化す。

 

「え、えぇ…お久し振りです、アクア様。 あなたに選ばれし勇者として頑張っていますよ。 …所で、アクア様は何故、檻の中に閉じ込められていたのですか?」

 

本人曰く、外の世界は怖いから。だそうです。

 

 

====================

 

 

「はぁぁぁ!?!? 女神様をこの世界に引きずり込んでぇ!? しかも檻に閉じ込めて湖に漬けたぁ!? 君は一体何を考えて居るんですかぁ!?」

 

そう言ってミツルギはカズマに掴みかかる。 その横で、騒ぎの中心人物であるアクアがミツルギを制止にかかる。

 

「ちょっとぉ!私としては、結構楽しい日々を送ってるし、ここに連れてこられたことももう気にしてないし!」

 

「アクア様!この男にどう丸め込まれたかは知りませんが、あなたは曲がりなりにも女神ですよ!それがこんな…」

 

カズマに対し、言いたい放題言うミツルギに軽い憤りを感じていた。

 

「…めぐみんさん、ダクネスさん。あの男どう思います?」

 

「…そのさん付けはやめてください。 …まだ今日の分の爆裂魔法は放っていませんでしたよね?」

 

「やめておけめぐみん。確かに発言はアレだが、こんな町中で打ったら大変なことになる。」

 

イライラした様子を全面的に出すめぐみんと、冷静ではあるが軽く不快感を持っているダクネス。確かに、この個性的過ぎるパーティをまとめあげているカズマの苦労を知るこちらからすると、あのような発言は逆鱗に触れるような発言だろう。

 

「…因みにアクア様は、今何処で寝泊りをしているんです?」

 

「どこって…馬小屋だけど…」

 

それを聞いたミツルギは、カズマに掴みかかっている手の力を更に強める。

 

「おい、いい加減にその手を離せ!礼儀知らずにも程があるだろう!」

 

「…ちょっと打ちたくなってきました。」

 

「流石にそれはやめとけ、カズマ諸共爆裂しちまう。」

 

そう言ってめぐみんを制止する。 そうしていると、今度はミツルギはダクネス達の方を見る。

 

「君達は…"クルセイダー"に"アークウィザード"か…もう一人、"冒険者"も居るようだが。 パーティメンバーには恵まれているようだね。 …君はこんな優秀そうな人達が居るのに、アクア様を馬小屋で寝泊りさせて恥ずかしくないのかい?」

 

「…なぁなぁ、冬場とかならまだしも、冒険者に成り立てって馬小屋生活が普通じゃないのか?」

 

「あぁ、それね…恐らく、この男は特典で貰ったあの魔剣で、初めから高難易度クエストを受けていたんでしょうね。 …居るのよ、貰ったチートの力を自分の力だと思い込んで無茶する人。」

 

成程、と言って手を打つ。確かにそれなら、馬小屋生活なんて知らないだろう。 …労働者として生活していた俺やカズマ達は、どうしてこんな人に説教されなければいけないのだろうか。

 

「君達、これからは"ソードマスター"の僕と一緒に来るといい。 高級な装備品も買い揃えてあげよう。」

 

ミツルギがダクネス達に向かってそう言うが、言われた当人達は白い目をしていた。

 

「…ちょっと、ヤバイんですけど。あの人、本気で引くくらいヤバイんですけど。ちょっとナルシストも入ってて相当ヤバイんですけど。」

 

「どうしよう…あの男は生理的に受け付けない…殴られる方が好きな私だが、あの男だけは無性に殴りたいのだが…」

 

「…打ってもいいですか?打ってもいいですか?」

 

「えぇっと、俺のパーティの人達は、満場一致で貴方のパーティには行きたくないようです。それでは俺達はクエストの報告もあるので失礼します。」

 

そう言って穏便に立ち去ろうとするカズマ。 しかし、その前をミツルギが再度立ち阻む。

 

「待て!」

 

「…退いてくれます?」「…流石にこれ以上相手している暇はないんだが。」

 

軽く呆れるカズマと、普段の雰囲気をかなぐり捨てて、真面目な声を出すアキラ。

 

「悪いが、こんな境遇にアクア様を置いてはおけない。 …勝負をしないか? 僕が勝ったら、アクア様を僕に譲ってくれ。()()が勝ったら、なんでも言う事を聞こうじゃないか。」

 

()()って事は、二対一で勝負しようと言っているのか?」

 

「あぁ、そうだ。」

 

「よし乗った」「行くぞぉぉ!!」

 

そう言って、カズマは剣を出し不意打ちを仕掛ける。それに合わせ、アキラはナイフを出しながら後ろに回り込み、行動範囲を制限する。

 

流石、レベルが高い"ソードマスター"と言うべきか。カズマの奇襲と、アキラの行動を察知し、二つの攻撃を避けつつ剣を取り出す。

 

「今だ、カズマ!」「おう!《スティール》!!」

 

カズマが《スティール》を唱えると、ミツルギが手に持っていた魔剣が、カズマの手に渡る。

…その後、剣の面の部分をミツルギの頭に落とし、勝負は幕を下ろした。

 

「…言いたい放題言いやがって。」

 

そう言って、魔剣を地面に突き刺す。

刹那、どこかから女性の声がした。

 

「ひ…卑怯者…卑怯者卑怯者!」

 

「あんたら…こいつの仲間か。」

 

視線の先には、面積の小さい服を身につけた女性二人が、こちらを見ていた。

 

「そうよ!この卑怯者の最低男!」

 

…二対一とは言え、駆け出しの"冒険者"に勝負を挑む"ソードマスター"。どちらの方が卑怯者なのだろうか。

 

「グラムを返しなさい!その魔剣は、キョウヤにしか使えないんだから!」

 

「えっ、そうなの?」

 

「〈魔剣グラム〉はその痛い人専用よ。他の人が使っても、ちょっと切れ味のいい剣程度だわ。」

 

アクアがそう言うと、カズマは少し考え込む。

 

「…なぁ、アクア。"アークプリースト"のスキルに、魔力増強ってあるのか? あったらちょっと強めにかけて欲しいんだが。」

 

「そりゃ勿論あるけど…何に使うの?」

 

「ちょっとしたドッキリに。」

 

ふーん。と言うと、アクアはアキラに《魔力増強》を付与する。

 

「ねぇねぇ、そこの君達。あの人専用の魔剣って…こういうやつ?」

 

スキルの付与を確認すると、ローブの下から自分の特典を使い、〈魔剣グラム〉を複製する。

その様子を見て、女性達は驚愕の表情を隠せないでいる。

…やばい、魔力使いすぎて頭痛がしてきた。

 

「…なっ、ななっ…なんでアンタがその剣を持ってるのよ!それに本物はそこにもあるし…」

 

「んー、なんであるかって言われたら…内緒かな。それに、この剣も本物だよ?」

 

ローブの下から、普通のナイフを取り出し〈魔剣グラム〉を軽く当てる。…直後、ナイフはポッキリと折れた。

驚きで声も出ない女性達を横目に、〈魔剣グラム〉を魔力に戻す。

 

「おぉ、すげぇ。…こっちの剣もついでに貰っていくか。」

 

タネを知っているカズマは軽く反応すると、地面に刺さった魔剣を抜きギルドの方へと歩き出す。

 

「…ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」「こっ…こんな勝ち方、私達は認めない!」

 

魔剣を奪われまいと、怯えつつもカズマとアキラに言う。

…カズマが立ち止まった。

 

「…真の男女平等主義者な俺は、例え女性が相手でもドロップキックを食らわせられる男…手加減してもらえると思うなよ。 …公衆の面前で、俺の《スティール》が炸裂するぞぉ…」

 

手を変態のように動かしながら、黒い笑みを浮かべて女性達の方を見る。

自分達の格好と、カズマの手の動きからここで《スティール》をされたらどうなるか…。

結局、女性冒険者達は悲鳴を上げながら逃げていった。

 

「…カズマさん…流石にあれは…ちょっと…」

 

やっちまった。周囲の住民どころか、自分のパーティメンバーからも白い目(一人を除き)をされたカズマの顔は、そう言っているようでした。

 

 

====================

 

 

翌日、ギルドを訪れるとまたもやアクアがルナさんの胸ぐらを掴みかかり抗議をしていた。

曰く、ミツルギによって壊された檻の修理代が報酬から天引きされ、報酬が三分の一になってしまったらしい。

 

「あの男…今度会ったら必ず《ゴッドブロー》を食らわせてやるんだから…」

 

そう言った直後、背後から声がした。

 

「探したぞ!サトウ カズマ!コセキ アキラ!…君達の事はある盗賊の少女と、町の噂を、聞いたぞ。 パンツ脱がせ魔と、ロリコンだってね!」

 

…はい? いや、カズマがパンツ脱がせ魔だと言うのは分かる。 ロリコンってなんだ。

 

「他にも、女の子を粘液塗れにするのが趣味だったり、粘液塗れになった少女を背負って歩いていたなんて噂も聞いたな。鬼畜のカズマに、ロリコンアキラだってね!」

 

「お、おい待てぇ!それ誰が広めたのか詳しくぅ!」

 

そう言って否定はしようとしていないカズマを、ダクネスが期待するような表情で見つめていた。

…反面、アキラはめぐみんから白い目で見られていた。

 

「へぇ…アキラ、私以外にそんなことをしていたんですね…」

 

「いや、そんなことをする訳ないだろう!? 粘液塗れの子を運んだのもめぐみんの一回だけだし、そもそもこの町で親しい女の子なんてめぐみんくらいし…か……っ!」

 

必死になって否定している内に、アキラもめぐみんも噂になっているのが自分自身だと言うことに気が付き、顔を真っ赤にする。

 

「…その言葉、信じますからね…」

 

「…あぁ、嘘はつかない…けど…っ」

 

真っ赤になった顔を隠すようにめぐみんは帽子を深く被り、アキラはローブに付いているフードを深く被る。

 

…後ろの方のゴタゴタ騒ぎも落ち着いてきたようで、隣のアクアが上機嫌でシュワシュワを飲みながらカエルの唐揚げを頬張っていた。 恐らく、ミツルギから弁償代を請求したのだろう。

 

…恥ずかしすぎる、もう帰ろう。…そう思った時だった。

 

「緊急!緊急! 全冒険者は装備を整えて、至急正門前に集まってください! …特に、サトウ カズマさんとその一行は大至急でお願いします! …繰り返します───」

 

…嗚呼、この異世界ライフに、平穏は無いのだろうか。




色々と盛り込んでいたら、いつの間にか話が長くなっていた。珈琲@微糖です。
無事予定していたミツルギとの初邂逅まで終わらせられたのですが…いやぁ、今回も長くなった。
そして恐らく、ベルディア戦は更に長くなると思います。

と言うことで、特に後書きに書くこともないのでここら辺で終わりにしたいと思います。
ここまでの閲覧数ありがとうございました。また見ていただければ幸いです。


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第十五話 - この鎧の騎士との戦いに結着を!

「貴様ら…なぜ城に来ないのだ! …この、人で無し共がぁ!」

 

正門に集まった冒険者たちを待っていたのは、先週やってきた首無し騎士(デュラハン)だった。

 

「なんで…あれからもう爆裂魔法は打ちに行っていないはずだよな…?」

 

「打っていないだと?白々しい! …そこの頭のおかしい紅魔の娘が、あれからも毎日欠かさず打ち込んでいるわぁ!」

 

大層お怒りなデュラハンのベルディアは、めぐみんの事を指さしながら言ってきた。

その後、カズマがめぐみんの方を見ると、誤魔化すかのようにそっぽを向きながら吹けてもいない口笛を吹き始めた。

 

「お・ま・え・かぁぁぁ!!!!」

 

ひ、ひらうんれす(ち、違うんです)ひいへふらはい(聞いてください)! …今までならば、何もない荒野に魔法を放つだけで満足できたのですが、アキラにあのような魅力を覚えさせられて以来…その、大きくて固いものじゃないと満足できない体に…」

 

カズマに頬を抓まれためぐみんは、もじもじしながらそんなことを言う。

 

「もじもじしながら言うな! …大体お前、魔法打ったら動けなくなるだろうが!ってことは一緒に行った共犯者が…」

 

そう言って、カズマは最も怪しいアクアの方を見る。 …めぐみんと同じように、明後日の方向を見ながら口笛を吹く振りをする。

 

「お前かぁぁぁ!!!!!」

 

「だって!あいつのせいでろくなクエストが受けられなかったんだもの!仕返しがしたかったの!」

 

そう言って今度はアクアの頬を抓った。

…そのような事をしていると、デュラハンの方から殺気が飛んでくる。

 

「聞け、愚か者共。 この俺が真に頭にきていることは他にある。 貴様らには、仲間の死に報いようという気概はなかったのか! 生前は俺も、全うな騎士のつもりだった。その俺から言わせてもらうと、仲間を庇い、呪いを一身に受けたあのローブを着た男の、騎士ではないとしても、あのような勇敢な男を死を無駄にするなど!…ん?」

 

「カズマー、緊急集合なんてまたキャベツ狩り…あっ。」

 

ベルディアが憤りをカズマ達にぶつけていると、人混みの中からアキラ(事の中心人物)が出てきた。

 

「あー、そのー。 …なんかごめんなさい。」

 

「えっ…あっ…あぁぁぁるぇぇぇぇ!?」

 

アキラがベルディアの方に申し訳なさそうに一礼すると、ベルディアは素っ頓狂な声を上げた。

 

「何々ー?あいつ、律儀に城で待ち続けてたっていうのー?帰った後、あっさりと呪い解かれちゃったとも知らずに―?プークスクスクス、受けるんですけどー!超受けるんですけどー!」

 

アクア(呪いを解いた張本人)が、ベルディアをお腹を抱えながら只管煽るように笑う。

 

「お、おお、俺がその気になれば、この町の住人を皆殺しにすることだってできるのだぞ!」

 

「っ! アンデッドの癖に生意気よ!」

 

そう言うと、アクアの手の中に魔力が集まる。

 

「ふはははは、そんな駆け出しの冒険者の魔法が通じるわけないだ…「《ターン・アンデッド》!」

 

「ぎやぁぁぁぁぁ!!!!!あーっ!あーっ!あぁぁぁぁっ!!!」

 

高笑いをしながら、油断していたベルディアにアクアが《ターン・アンデッド》を唱えると、予想外の威力にベルディアが乗っていた馬は浄化され、乗っていた本人はその場で地面を転げまわる。

 

「おぉー。」「流石だな。」

 

一方的な浄化を見たカズマとアキラは思わず声を上げた。

 

「ん?…ねぇカズマ、おかしいわ!全然効いてないみたい。」

 

「いや、効いてたぞ?ぎゃぁぁぁって声も上げてたぞ?」

 

砂煙の中からベルディアが立ち上がる。息も切らしており、受けたダメージはそれなりだったようだ。

 

「クッ…お前、本当に駆け出しなのか!?この町は、駆け出し冒険者が集まるところなのだろう! …まぁいい、態々この俺が相手をしてやるまでもない!〈アンデッドナイト〉!この連中共に地獄を見せてやるがいい!」

 

そう言ってマントを翻すベルディア。足元に広がった闇からは、無数の武装したアンデッド達が湧き出る。

 

「…カズマさん、カズマさん。もしかしてあいつ、アクアの魔法が意外と効いてビビったんじゃね?」

 

「さっきまで『この町の住民を皆殺しにできる』って言ってたやつが出したんだからそうだろうな!」

 

わざと、相手に聞こえるように少し大きめに言う。それに同調して、横でアクアが頷いた。

 

「違うわ!いきなりボスが戦ってどうするのだ!まずは配下の者から…「《セイクリッド・ターン・アンデッド》!」

 

少しふんぞり返りながら話すベルディアに、またもや浄化魔法を打ち込むアクア。 …少しばかり、相手がかわいそうだと、周囲の冒険者たちは思った。

 

「あぁぁぁぁぁ!!!め、目がぁ…目がぁぁぁ…」

 

「どうしようカズマ!やっぱり私の浄化魔法が効いてない気がするの!」

 

「いや、物凄い声を上げてたし効いてる気がするのだが。」

 

鎧のあちこちから黒い煙を上げるベルディア。

 

「ええい…もういい!町の連中を皆殺しにせよ!」

 

話すのが無駄。そう正しい判断をしたベルディアが号令をかけると、一斉にアンデッドが襲い掛かる!

"プリ―スト"系の職業を持つ冒険者たちが身構え、その他の冒険者たちは教会へ向かい聖水をもらうように声を上げる。

アンデッド達が目前に迫る! …そう思った時だった。

 

アンデッド達は逃げ出したアクアへと進路を変え、すべからくアクアを追い回す。

 

「…アクアの奴、そう言えば女神だったな。」

 

女神なのに。日ごろの行いはいいはずなのに。そう言いながら逃げるアクアを救いを求めるアンデッド達は執拗に追い回す。

…ダクネスが私だって日ごろの行いはいいはずだぞ!と羨ましそうに言っていた気がするが、反応するものは居なかった。

 

「…カズマ、ダクネス、めぐみん。もしかしたら、あれやばいぞ。」

 

「ん?」「どうしてだ?」「なぜですか?」

 

「…アクアの奴、逃げながらも《ターン・アンデッド》を唱えているが一向に数が減ってない!」

 

そう言うアキラの声に、ハッとした様子で三人はアクアの方を見る。確かに、隙を見つつ呪文を唱えているが、一向に減る様子はなかった。

そして、アクアがこっちの方に向かって走ってくる。

 

「かじゅまさぁぁぁん!!!こいつら、呪文を打っても一向に数が減らないんですけどぉぉ!!!」

 

「オイ待てこっちくんなぁ!あっちに行ったら今日の晩飯奢ってやるから!」

 

「私の方が奢るからこいつらを何とかしてぇ!!!」

 

アンデッドを引き連れながら逃げまどうカズマ達一行。

 

「なぁめぐみん!あいつらに爆裂魔法は打てないのか!?」

 

「逃げながらは無理です!それに、ああも纏まりがなかったらもっと無理です!」

 

走りながら、めぐみんに爆裂魔法が打てないかとアキラが聞くが、無理と即答された。

しかし、それを聞くと何やらアキラが考え込む。

 

「…つまり、纏まりが合って逃げながらでなければいいんだな?」

 

「えぇ…それなら勿論可能ですが…」

 

「よし分かった! カズマ!アクアの方を頼んだ!」

 

そう言ってめぐみんの手を引っ張り、小高い丘に向かって走る。

その様子を見てやることが分かったのだろう。カズマはアクアに声をかけると、逃走進路を変えベルディアの方に向かっている。

 

「めぐみん! …今から俺に、百点…いや、百二十点の爆裂魔法を見せてくれ!」

 

「こんなときに何を言って…っ!…ふっふっふっ。そう言うことですか…絶好のシチュエーション、感謝します、深く感謝しますよ!アキラ、カズマ!」

 

カズマとアクアが、ベルディアに正面から向かっていく。

 

「…我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を扱いし者。 我が力、魔王軍に見せつけようではないか!」

 

杖の先に魔力が集まる。その瞬間、カズマとアクアは横に逸れ、爆裂魔法の範囲外に脱出する。

 

「今だ、めぐみん!」

 

「《エクスプロ―ジョン》!!!」

 

めぐみんが爆裂魔法を唱えると、ベルディアを中心にアンデッドナイト達を巻き込んで魔法が放たれる。

 

…魔法は、ベルディアが居た位置を中心に巨大なクレーターを作り、アンデッドナイト達は一匹たりとも姿形を残さなかった。

 

 

「クックック…我が爆裂魔法を目の前にして、誰一人として声を出せないようですね。…凄く、気持ちよかったです。」

 

「…よくやったよ、お疲れさん。」

 

そう言い残し、普段通り魔力切れを起こして倒れるめぐみんの肩をアキラが支え、その場に座らせる。

 

「アキラ、今日の爆裂魔法は、何点でしたか?」

 

「…百五十点、かな。」

 

「オイコラそこ、こんな場所でイチャつくな。」

 

爆裂魔法が奴らを屠った。それに気づいた冒険者たちは歓声をあげる。

 

「やった!頭のおかしい紅魔の子がやりやがった!」「おかしいのは頭と名前だけで、やるときはちゃんとやるじゃねぇか!」「見直したぜ!頭のおかしい子!」

 

「…アキラ、今言った人たちの顔、覚えておいてください。…今度ブッ飛ばします。」

 

勝利ムードだったのもつかの間、岩の中から突如音がする。音のした方向を見ると、ベルディアが膝をついた後に立ち上がった。

 

「…ふははははっ!面白い、面白いぞ!…本当に配下を全滅させられるとは思わなかった! よし、では約束通り、この俺自ら相手をしてやろう!」

 

「くっ…カズマ、アキラ!」

 

そう言ったベルディアと対面するように、カズマ達の前にダクネスが立ちふさがる。

 

カズマが焦って策を考えている中、冒険者たちが声を上げる。

 

「ビビる必要はねぇ!すぐにこの町の切り札がやって来る!」

「あぁ!魔王軍だなんて関係ねぇ!」

「一度にかかれば隙が出来る!全員でやっちまえ!」

 

そう言って、屈強な冒険者たちはベルディアに襲い掛かる。

しかし、ベルディアは驚く様子もなく、恐ろしいほどに冷静であった。

 

「…余程先に死にたいらしいな。…いいだろう。先に相手にしてやろう。」

 

そう言うと、ベルディアは()()()()()()()()()()()()()

 

「…ッ!やめろ!行くなぁ!!」

 

何かに気づいたカズマは声を上げる。しかし、時すでに遅し。冒険者たちはベルディアに襲い掛かる。

 

「なッ!…あれは…」

 

──その瞬間、投げられた頭は空中で静止し、魔力が目の形に広がる。

 

「…下がれお前ら!このままじゃあ!」

 

──全方向から襲い掛かる冒険者たちの動きを()()()()()()()()()()()躱すベルディア。

 

「なんなのですか、あの…まるで全てを見透かしているかのような動きは!」

 

──全ての攻撃を避け切ると、ベルディアは剣を一度だけ、大きく振るう。

 

「…なっ…」

 

──頭が空から降りてきたとき、襲い掛かった冒険者の中で立ち上がっている者は、誰一人として居なかった。

 

「…次は誰だ?」

 

レベルの差を思い知らされた冒険者たちの中でざわめきが起きる。

そんな中、誰かが声をあげる。

 

「あんたなんか…ミツルギさんが来たら一瞬で切られちゃうんだから!」

 

その声を聞いた瞬間、カズマとアキラの顔が一瞬にして蒼白になる。

恐らく、ミツルギはカズマが売り払った魔剣を再度買い戻すため、この町には居ないだろう。

それはつまり、この町の切り札は来ない。ということになる。

 

「…ほう? ではそいつが来るまで、持ちこたえられるかなぁ!」

 

ベルディアはダクネスの前まで来ると、思い切り剣を振り下ろす。

その剣を、ダクネスは自らの剣で受け止める!

 

「ッ!…よくも、よくも皆を!」

 

「止せ、ダクネス!お前の剣じゃあ無理だ!」

 

ベルディアとの鍔競り合いに拮抗するダクネス。それを止めるべく、カズマは声を上げた。

 

「守ることを生業とする者として…どうしても譲れない物があるッ!」

 

そう言った瞬間、ダクネスの足元の地面が抉れる。

 

「…っ…その顔…見せしめとして、淫らな責苦を受ける様を皆の前に晒すつもりだろうが…やれるものならやってみろっ!むしろやってみせろぉッ!」

 

…こんな時でも妄想ダダ漏れなダクネスさんに、ベルディアは焦りながら声を出す。

 

「変な妄想は止せぇ!お、俺が誤解されるわ!」

 

そう言うと、二人は一度後ろに飛ぶ。

 

「勝負だ…ベルディアッ!」

 

「相手が聖騎士ならば是非もなしッ!」

 

そう言い、ダクネスがベルディアに向かって切りかかるッ! …攻撃が当たったのは、明後日の方向にある、二つの岩だった。

 

「…ふぁっ?」

 

動かない相手にすら攻撃を外したことに、顔を真っ赤にするダクネス。

 

「…何たる期待外れだ…もう良い!」

 

 

====================

 

 

「さてと、そろそろ俺も働きますか。」

 

「…アキラ、どこに行くのですか?」

 

魔力切れで座っているめぐみんを横目に立ち上がると、彼女が話しかけてきた。

 

「まぁ、カズマにちょっとした入れ知恵をな。」

 

「…とか言って、戦闘に参加する気ではないでしょうね? …やめておいた方がいいですよ、ダクネスはあれでいて上級職であったからこそ、凌げたようなものなのですから。」

 

「…善処します。」

 

後ろから静止するめぐみんの声が聞こえたが、構わないでカズマの方に向かった。

 

 

====================

 

 

自らの攻撃を受け止め、拮抗させるような力を持つクルセイダーに期待していたベルディア。

しかし、攻撃が当たらないという欠点は、彼の期待を削ぐには十分過ぎた。

再度向かってくるダクネスにベルディアは剣を振るう。

 

「っ!ダクネスッ!!」

 

カズマがそれに気づいたのは、ダクネスが攻撃を受けた直後だった。

 

 

====================

 

 

そこからの展開は、防戦一方と言う一言で表せるような内容だった。

自らの剣と防具でベルディアの攻撃を受け止めるダクネス。

その激しい攻撃に、彼女の鎧は段々とボロボロになって行く。

 

「…クッ…!」

 

そんなダクネスを見ているカズマは焦りながら新たな手を考える。

 

「クソッ…何かいい手はないのか…!」

 

「無くはないぞ、いい手段。」

 

 

考え込むカズマの後ろから声をかける。カズマは一瞬驚いたが、手段について聞いてきた。

 

「なっ、いつの間に…って、何か思いついたのか?」

 

「勿論、だから来た。…カクカクシカジカ…と言う策なんだが」

 

その手段を聞くと、カズマがポンと手を叩いた。

 

「というわけで、ちょっと行ってくるから隙を見てよろしくな。」

 

そう言い残し、アキラはダクネスの方に向かって歩く。

 

====================

 

「…ほう、今度はあのローブの男か。」

 

「アキラ!こっちに来るんじゃない!奴の攻撃は私が受けるんだ!」

 

歩いていくと、ベルディアがこちらに気づいたかのように目を向け、ダクネスが顔を赤くしながら来るんじゃないと言ってきた。

 

「ローブの男とは何だ。俺にはちゃんと"アキラ"と言う名前があるぞ。…それとダクネス、興奮するなら時と時間を弁えなさいな、変態さんが。」

 

そう言って、ローブの下からナイフを取り出すとベルディアに向かって投げる。…ダクネスはなぜか頬を赤らめながら悶えていた。

 

「…まぁいいだろう、二人まとめてかかってくるがいい!」

 

剣でナイフをはたき落とすと、こちらを挑発するかのように剣の先を地面に軽く刺した。

 

「行くぞ…カズマ!」「おう!《クリエイト・ウォーター》!!」

 

「何ッ!そこはお前が来るんじゃないのか!」

 

「馬鹿め!そんなお約束、通じるわけないだろう!!」

 

油断をしていたベルディアは、普通よりも大きく水を回避した。

そこですかさずアキラが魔法を唱える。

 

「よし、かかった!《フリーズ》!!」

 

魔法を唱えると、ベルディアの足元にある水たまりが凍り、ベルディアの行動を制限する。

 

「まぁ少しでも足止めをできれば十分だろう。行くぞ、《スティール》!!!」

 

作戦通り、《クリエイト・ウォーター》と《フリーズ》を使って動きを制限したところで、《スティール》を使って武器を奪う。

…しかし、その作戦は失敗に終わった。

 

「…あれ?」

 

「悪くはない手…だが、レベルの差と言うやつだな。」

 

「なっ!」

 

ベルディアは易々と足元の氷を砕くと、カズマの方に向かって歩き出す。

 

「カズマ!」「行かせるかっ!」

 

カズマの前にダクネスが立ちはだかり、その後ろからナイフを投擲し時間を稼ぐ。

…暫くすると、ダクネスがベルディアの剣に捉えられる。

 

「《クリエイト・ウォーター》!!」

 

その瞬間、カズマがデュラハンに向かって《クリエイト・ウォーター》を放った。

その水を、デュラハンが大きく回避をする。

 

それを見て、ハッと閃いた。

 

「「水だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

その声を聞くと、魔法を扱える冒険者たちは、一斉に《クリエイト・ウォーター》を放つ。

その一発一発を大きく避ける。

 

暫くすると、カズマの方に寄ってきたアクアが、涙目になって呪文の詠唱を始めた。

水の女神であるアクアの力で、大量の水を呼び出すつもりなのだろう。

逃げだそうとするベルディアの足を、ダクネスが逃走させまいとしがみつく。

 

「おまけの追加じゃあぁぁぁぁ!!!」

 

ローブの下で鎖を作ると、ベルディアに投げつけて縛り上げる。

 

「《セイクリッド・クリエイト・ウォーター》!!!!」

 

天から物凄い量の水が降ってくる。…その水に巻き込まれてからの記憶はなかった。

 

 

====================

 

 

「なぁ、めぐみん。これ、どうなってんだ?」

 

目が覚めると、既にベルディアは居なくなっており、顔を覆い隠すダクネスの姿があった。

 

「…色々ありましたが、無事アクアが弱体化したベルディアを浄化しましたよ。」

 

「…そっか、ってことは。」

 

「ええ、クエストクリア…ですね。」

 

全てが終わった後の空は、どこか澄み切っているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アキラ。明日、お説教がありますので覚悟しておいてくださいね。」

 

「…はい。」











いやぁ、難産でした。どうも、珈琲@微糖です。
VSベルディア戦ですが、如何でしたでしょうか。
元々、序盤の構想は考えていたのですが、ダクネスとのタイマン辺りからどのようにアキラを噛ませていくか。その構成だけで2時間近く悩みました。
結論として、クリエイト・ウォーターからのフリーズとスティールのコンボのアイデアだけを出し、剣の範囲外からナイフを投げるという非常に地味な立ち回りになりました。当たったら一撃アウトなので仕方なくはありますが。

さて、次回ちょっとした閑話を挟んで一章は区切りとなります。
ここまで読んで頂きありがとうございました。また次回以降も読んで頂けたら励みになります。


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第十六話 - この素晴らしい勝利に祝宴を!

「よーっす、どうしたんだ?このギルドの騒ぎ様は。」

 

ベルディアを倒した翌日、アキラが冒険者ギルドに着くと、そこに広がっていたのは冒険者たちの馬鹿騒ぎだった。そんな中、カズマたちはルナの前でなにやら集まって話し合っている。

 

「あぁ、アキラですか。今日は早いんですね。」

 

「なんか目が覚めてな。二度寝するのもあれだし、ギルドに顔出そうかなと思って。 …それで、この騒ぎはどうしたんだ?」

 

声を掛けてきためぐみんにそう言うと、周囲を見ながら言う。

 

「あぁ、それか。 なんせ魔王軍の幹部を倒したんだ。この位の騒ぎはいいだろう。」

 

「そんなことよりも報酬よ!特別報酬が3億エリスも出たのよ! まぁ?私の活躍があったからこそだしー?9対1位で分けても罰は当たらないわよね!」

 

「うるさい駄女神! この金で今度こそ馬小屋生活を脱出するからな!」

 

その後、カズマとアクアが何かを言い合っていたようだが、アキラは3億エリスと言う膨大な金額を前に思考が停止していた。

 

「あのー…カズマさん。 これを…」

 

少しすると、ルナがどこか申し訳なさそうに一枚の紙を差し出した。

 

「ん? なんだ、これは。」

 

「なになに、小切手でしょ!ちょっと見せなさいよ。」

 

そう言ってカズマとアクアは、手元にある紙を見る。

…直後、二人は文字通り真っ白になった。

 

「…デュラハン撃退の際、アクアさんが召喚した大量の水が外壁を破壊してしまい、その付近にあった住宅なども被害を受けてしまいまして…。 魔王軍幹部の討伐と言う功績もあるので、全額とまでは言いませんが…その、一部だけでもお支払いをお願いしたいのですが…」

 

カズマが手渡された紙には、『外壁の修繕費 3億4000万エリス』と書かれていた。 報酬を差し引いて、4000万エリスの借金となる。

 

「報酬3億、そして弁償金額が3億4000万か。」

 

「血で血を洗う魔道の旅は、まだ始まったばかりですね」

 

「ね、ねぇカズマさん…私達、パーティよね? …借金は等分でいいわよ…?」

 

「…カズマ…明日からまた、クエスト頑張ろう?」

 

紙を見つめながら、段々と目が死んでいくカズマ。そのカズマを全員で慰める。

…暫くして、現実を受け入れたカズマの飲みっぷりは、それはそれは良かったものだった。と後に他のパーティメンバーは語った。

 

 

====================

 

 

「…それにしても…なんかあっという間だったなぁ…」

 

「そうですね。なんだかんだ言って、このパーティを組んだのってつい最近ですし。」

 

お祭り騒ぎになっている酒場の中心部から少し外れたところで、アキラとめぐみんは食事をとっていた。

 

「今思い出すと、パーティ組んでからまともに受けたクエストなんて片手で数えられるくらいしかないからなぁ。」

 

「ふっ、そのような浅い経験でも魔王軍幹部の討伐に成功したのは、我の爆裂魔法があったからこそ…!」

 

染々と語るアキラを余所に、食事中なのに右手を左目に添えてポーズを取る。

…どこかイラッと来たアキラは、皿に置いたフォークを取り上げた。

普段の調子に戻り、フォークを返してください!と懇願され、渋々フォークを返す。

 

「…まぁ、今回に関しては半分位合ってるから何とも言えないんだがな…」

 

小さくため息をつきながら、注文していたシュワシュワを飲む。

その様子を恨めしそうに見ていためぐみんが、何かを思い出したかのように話し出した。

 

「…そう言えば、アキラ。 …どうして約束を破って、攻撃したのですか?」

 

「…アキラさん、急に耳が悪くなったみたいだなぁ…めぐみんが何を言ってるのかさっぱり…」

 

誤魔化そうとするが、めぐみんがジト目でこちらをひたすら見つめてくる。

…それに観念したアキラは、渋々口を開いた。

 

「…まぁ…ちょっとここだとあれだから、飯食い終わったら少し外を歩かないか?」

 

「…そういうことでしたら…分かりました。」

 

暫くし、めぐみんが食事を終えたのを確認すると、ギルドを出ていく。

 

 

====================

 

「…ううっ…さむっ…」

 

「もうすぐ冬ですからね。流石にそんな格好じゃあ風邪引きますよ?」

 

「…俺には、めぐみんの格好の方が寒そうに見えるが?」

 

そう言いながら、二人は歩き出す。

 

「…それで、昨日の事なんですが…」

 

「…そのことに関しては、大変申し訳なく思っております。」

 

めぐみんが話し出すと、申し訳なさそうにアキラが言う。

 

「全く…誰かを助けようとするのは構いませんが、無茶かどうかくらい考えてくださいよ…」

 

アキラが平謝りをしていると、ため息をつきながらめぐみんは言った。

 

「…まぁでも、こうして五体満足で生きて帰ってこれたからいいじゃないか。」

 

「っ…何言ってるんですか! 何かあってからじゃ遅いんですよ!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

めぐみんのあまりの気迫に思わず平謝りするアキラ。

 

「…顔を上げてください。 仲間が傷つくのが嫌なのは、アキラだけじゃないんですからね。」

 

小さな声でめぐみんはそう呟き、再び歩き出す。 顔を上げたアキラは、慌ててめぐみんについていく。

 

「…うん、その…本当にごめんなさい。」

 

「もう済んだことだから構いませんよ。 …ただ、今度同じようなことをしたら…覚悟してくださいね?」

 

「…分かってるさ。めぐみんは怒らせると怖いからな。 …爆裂魔法とか打たれそうだし。」

 

アキラはめぐみんの帽子を取り、頭を撫でながら言う。

 

「おい、アキラの私に対する信用がどの程度なのか、しっかりと話し合おうじゃないか。」

 

頭を撫でられながらも、めぐみんはジト目でアキラを見る。

 

「あ、あはは…冗談冗談…」

 

「全く…アキラにそんなこと、するわけないじゃないですか。」

 

頬を膨らまし、いじけながらそう言うめぐみん。

その表情に、アキラの彼女を撫でる手が一瞬止まった。

 

「…あれっ、どうかしたんですか?」

 

「…可愛いなぁって思って…あっ。」

 

アキラが自分が何を言ったか気づいた時にはもう遅く、撫でられているめぐみんは顔を真っ赤にしていた。

 

「なっ…ぁ…いきなりなんてこと言うんですか! って、そろそろ帽子返してください!」

 

顔を真っ赤にしたままアキラの手から帽子を奪い取り、顔を隠すように深く被る。

 

「…全く…なんでいきなりあんなことを…」

 

横を歩くめぐみんが何かボソボソと呟いているが、深く首を突っ込まずに聞き流す。

 

「…あっそうだ。めぐみんちょっといいか?」

 

「…はい、なんでしょうか。」

 

「俺、この町のことあんまり詳しくないからさ、どの辺りで冬服を買えるかとか教えてくれないか? 出来ればさっさと買い揃えておきたいし。」

 

「それでしたらついてきてください、こっちです。」

 

そう言って前を歩くめぐみんを追いかける。

アクセルの町は、静かに冬を迎えていく。





むしゃくしゃして書いた、反省はしていない。どうも、珈琲@微糖です。
漸く原作1巻、アニメの6話までが終わりました。
ここまででこの小説では第一章とさせて頂きます。
第二章からも、大まかな構想の方は出来ていますので話が固まり次第、投稿させて頂きます。

唐突にはなりますが、お気に入り登録数100件超えありがとうございます。
上手い文章を書けるという訳でもない私が、ほぼ見切り発車で始めたこのシリーズも、ここまでモチベーションが保てたのは偏に評価、お気に入り、感想を下さった皆様のおかげです。
今後とも、このシリーズは「自分が書きたいものを書く」と言うスタンスで続けていきますが、またお付き合いのほどお願いします。

改めて、第二章以降もまた見ていただければ幸いです。


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第二章 この素晴らしい世界での生活基盤を!
第一話 - この雪原で雪精狩りを!


「…金が欲しい!」

 

ギルドに来てから、暫く頭を抱えて悩んでいたカズマは唐突にそう叫んだ。

その様子に、アクアが呆れながら言う。

 

「…あんた、突然何言ってんの? そんなの誰だって欲しいに決まってるじゃない。 …第一、カズマって甲斐性がなさ過ぎと思うんですけど! 女神であるこの私を毎日毎日馬小屋に止めて、恥ずかしいと思わないの? 分かったら、もっと私を甘やかして!贅沢させて!」

 

後半から本音がダダ漏れになっているアクア。

その言葉に、アキラはため息をつきながら彼女に言った。

 

「…なぁアクア、どうしてカズマは金が欲しいんだと思う?」

 

「どうしてって、元引き篭もり汚れた頭の中なんて、清く正しくも麗しい私に分かるはずないでしょ? どうせ、引き篭もれるだけのお金が欲しいとか、そんなところでしょ?」

 

「…借金。」

 

借金の理由をそう答えたアクアは、カズマの言葉を聞くと、何も無かったかのようにそっぽを向き、吹けていない口笛を吹く。

 

そうして始まった、いつものアクアとカズマの言い争いを眺めている。

 

「カズマー、アクアー。先に何かクエストが無いか探してくるからなー。」

 

二人には聴こえているか分からないが、アキラはそう声をかけてギルドのクエストの依頼板へ向かった。

 

 

====================

 

 

「白狼の群れの討伐に…冬眠から覚めた一撃熊の撃退…本気でいいクエストがないな。」

 

普段よりも少ないクエスト依頼を見回していると、不意にアキラは声をかけられた。

 

「朝から精が出ますね、何かいいクエストはありましたか?」

 

「あぁ、めぐみんか。 …クエストは全然見つからないな。 言ってた通り、碌でもないクエストしか残ってねぇ。」

 

今ギルドに着いたと思われるめぐみんが、アキラに話しかけてきた。

 

「まぁ、大体のモンスターは冬眠していますからね。仕方ないと言えば仕方ないです。」

 

「…俺も冬眠したなぁ…。 んーっと、これは…機動要塞デストロイヤー接近中につき、進路予測の為の偵察募集…デストロイヤーって?」

 

「デストロイヤーはデストロイヤーですよ、大きくて、ワシャワシャ動いて全てを蹂躙する、子供に妙に人気のあるアレです。」

 

一枚の紙を取ると、それは「機動要塞デストロイヤー接近中につき偵察募集」と言う内容だった。

報酬は良かったが、偵察可能なスキルを所持していないアキラは、その紙を板に貼り直した。

 

そんな会話をしていると、後ろからカズマたちの声がする。

 

「おーい、なんかいいクエストは見つかったかー?」

 

「いいや、全然。白狼の群れやら、一撃熊の撃退。 難易度の高いやつばっかりだ。」

 

その話を聞きながら、カズマ達も依頼板を見る。

 

少しすると、カズマが一つのクエストを見つけた。

 

「雪精の討伐…1匹につき10万エリス。 …なぁ。雪精って何なんだ? 名前からしたらすごい弱そうなんだが。」

 

「雪精と言いますと、とても弱いモンスターですね。雪の深い草原などに出現し、剣で切れば楽に討伐ができます。 …ですが…」

 

めぐみんが何かを言いかけたところで、話にアクアが入ってくる。

 

「なになに、雪精の討伐? 雪精は特に危害を加えるモンスターじゃないけれど、その名の通り冬を司る妖精だから1匹倒す事に冬が半日早く来る、なんて言われているわね。 そのクエストを請けるなら準備してくるわ!」

 

ちょっと待ってて、と言い残しアクアはどこかに走り去る。

めぐみんとアキラも文句はなさそうにしており、一番反対すると思われてたダクネスも

 

「雪精か……」

 

と呟き反対せず、どこか嬉しそうにしていた。

 

 

====================

 

 

「すげぇ、これが雪原地帯かぁ。」

 

初めて見る雪原地帯の風景に、カズマとアキラは呆気に取られていた。

町からは少し離れており、ここに到着するまでは雪も降っていたが、雪原地帯に到着すると道中にあったような猛吹雪は何処吹く風、と言うべきな穏やかな風景だった。

一面の雪景色に、ふわふわと白い綿毛のようなものが漂っている。恐らくそれが雪精だろう。

 

「ところで…お前、その格好はどうにかならんかったのか。」

 

そう言ったカズマはアクアの方を見る。

彼女は普段通りの格好に加え、腰に何本も瓶を付けており、その手には虫取り網が握られている。

その様子はまるで、夏休みに虫を取りに来た小学生のような装備だった。

 

「これで雪精を捕まえて、小瓶と一緒に飲み物を小箱にでも詰めておけば、いつでもキンキンに冷えたネロイドが飲める…つまり!冷蔵庫を作ろうって寸法よ! どう、頭いいでしょ!」

 

そう言って胸を張るアクア。カズマは小さくため息をつくと、今度は目をダクネスに向ける。

 

「それで…鎧はどうしたんだ?」

 

「修理中だ。」

 

そう言うダクネスは、普段着に普段から扱っている大剣を携えている。

 

「…この間のデュラハン戦で相当やられてたからな。 …雪精は攻撃してこないみたいだけど、大丈夫なのか? 主に寒さとか。」

 

「あぁ、問題ない。 …この格好でいるのも我慢大会みたいで…それはそれで中々…」

 

そう言って頬を赤らめるダクネス。

それを見たカズマは、再び深くため息をついた。

 

「まぁお前等はいいんだけどさ…問題はあっちだよ…」

 

アクアとダクネスも何かを察したように、少し後ろを歩くアキラとめぐみんの方に目を向ける

 

 

=========

 

 

「アキラ。この間買った服、ちゃんと着てくれたんですね。 そのコート、似合っていますよ。」

 

「…まぁ、折角買ったのに着ないって言うのも勿体ないしな。 …後、そういう事を言うのはやめてくれ。流石に恥ずかしい…。」

 

ニコニコしながらアキラをからかうめぐみん。

顔を少し赤くしたアキラは、顔を隠すようにそっぽを向いて受け答えをしていた。

 

 

========

 

 

「…大丈夫、カズマさんだったら行けるわよ!」

 

「…もう目的地に着いたしな。早く二人に教えてやってくれ。」

 

アクアとダクネスから肩を叩きながら励まされたカズマは、ため息をついて皮肉混じりに声をかける。

 

「そこのイチャついてるお二人さーん、もう目的地に到着しましたよー。」

 

そう言った瞬間、声をかけられた二人は顔を真っ赤にして、カズマの方に向かって言う。

 

「「い、イチャついてねーよ!(ませんよ!)」」

 

「いや、顔真っ赤にしながら言っても信憑性無いからな? …ほら、さっさと雪精討伐始めるぞ!」

 

そう言ってカズマは自らの剣を抜き、雪精に襲いかかる。

一度呼吸を整え、アキラも新たに買った白のコートの下からナイフを取り出し、雪精狩りを始めた。

 

 

====================

 

 

「めぐみん、ダクネス!そっちに何匹か行ったぞ! アキラはそこら辺一帯を頼む!」

 

ふわふわと漂うだけの雪精だと思っていたが、いざ武器を振るおうとすると、突然素早い動きになり剣撃をひらりと躱すため、思ってた以上に討伐数は伸びていなかった。

 

「クソっ、これで漸く5匹か…ちょこまか動きやがって!」

 

そう言ってナイフを振るうアキラの手には最初の力強さは無く、段々と体力が持っていかれてるのだとわかる。

 

「ねぇねぇ、見てみて!これで4匹目よ!」

 

そんなアキラの近くで、疲れた様子も見せず嬉嬉として雪精を捕まえては瓶に入れるアクアがいた。

そんな姿を見たアキラは、討伐数が振るわなかったら、数匹捕まえた雪精を狩らせてもらおうと決意した。

 

「…アキラ、カズマ。私やダクネスが追い回しても奴らがすばしっこくて中々攻撃が当たりません。 …一度、爆裂魔法で吹き飛ばしてもいいですか?」

 

逃げた雪精を必死に追って杖で叩き、漸く1匹仕留めためぐみんが息を切らしながら言ってきた。

 

「よし、頼むめぐみん。この辺りを一掃してくれ!」

 

そのカズマの言葉を聞くと、嬉嬉としてめぐみんは呪文を唱え始める。

その詠唱が終わると、杖の先から魔力の塊が放たれる。

 

「《エクスプロージョン》ッッッ!!!」

 

放たれた爆裂魔法は、草原に一つの巨大なクレーターを作り上げる。

魔力を使い切っためぐみんは、普段通り魔力切れで雪の上に倒れる。

 

「8匹!8匹も倒しましたよ!レベルも一つ上がりました!」

 

そう言って、自慢げにアキラに冒険者カードを見せるめぐみん。

それに驚きつつも、偉い偉い。と言って頭を撫でるアキラ。

倒れていなければ、少し年の離れた兄妹のように見えただろう。

 

そうカズマが思っていた瞬間、突如周囲の空気が変わった。

 

その変化に驚き、周囲を見回すアキラ。

先ほどまで撫でていためぐみんは、さっきの元気はどこへやら。雪の上に死んだ振りをしていた。

そしてダクネスは、その変化に歓喜しつつ剣を構える。

 

「…ねぇ、アキラ。カズマ。どうして冬になると、冒険者達が狩りに出ないのか教えてあげる。 …あなた達も、日本に居たのなら天気予報やニュースで聞いた事はあるわよね? …雪精達の主にして、冬の風物詩。 …冬将軍の到来よ!」

 

「バカッ!このクソッタレな世界の連中は、人も食い物も人喰いモンスターも揃いも揃って大馬鹿者だ!」

 

空気が集まり、体中に冷気を纏わせた巨大な甲冑のモンスター…冬将軍が姿を現した。

 

 

冬将軍。このモンスターから漂う異様性は素人であってもどれ程恐ろしいか分かるだろう。

 

熟練者にはそのモンスターから感じる覇気やオーラ、直感でそのモンスターが恐ろしいかが分かるだろう。

しかし、冬将軍から感じるもの。それは純粋な『殺気』である。

見ただけで絶望を与えるようなレベル差を持つと思われる冬将軍は、八双の構えを取り、最も近くに居たダクネスを狙う。

 

「…ッ… なにっ!?私の剣が!」

 

ベルディアの剣さえも受けきったダクネスの剣を、冬将軍は一撃でへし折った。

 

「冬将軍は国から高額賞金が掛けられている特別指定モンスターの一体よ。 元々は実体を持たない精霊とは、出会った人のイメージから実体を作るの。 例えば、炎の精霊なら全てを飲み込み燃やし尽くす事から凶暴な火トカゲに。 水の精霊なら、清らで格好よく知的な水の女神のイメージから美しい乙女の姿に。 …でも、冬の精霊は特殊でね。獰猛なモンスターが蔓延る冬は、冒険者達はモンスターを狩りに出ないから実体と言う実体を持っていなかったの。 …日本から、チート持ちの転生者達が来るまでね。」

 

冬将軍と、それに対面しているダクネスから背中を見せずに遠ざかり解説をするアクア。

 

「ってことはなんだ!こいつは転生者達が『冬と言えば冬将軍だよね』って言う勝手なイメージで生まれたのか!?」

 

「全く傍迷惑な話だ! アクア、何か対処法は無いのか!?」

 

冬将軍を警戒しながら、カズマとアキラが声をあげる。

 

「二人とも聞きなさいな!冬将軍は寛大よ! 武器を下ろして誠心誠意謝れば、冬将軍は見逃してくれるわ!」

 

そう言うアクアは、腰につけていた瓶から雪精を放ち、その場にひれ伏した。

 

「DOGEZAよ!DOGEZAをするの! カズマ達も早く武器を下ろして謝って!」

 

そう言って地面にペタリと頭をつけ、それはそれは見事な土下座をする元何とか様(アクア)

アクアに続いて、無言でアクアに負けず劣らず見事な土下座をするアキラや、死んだ振りを続けるめぐみん。 この三人には、いっそ清々しさすら感じられた。

 

アクアの言った通り、土下座をした二人には冬将軍は目もくれずにカズマやダクネスの方を向く。

仕方なく土下座をしようとするカズマの隣では、そのような素振りを全く見せないダクネスが折れた剣を恨めしく見ながら捨て、冬将軍の方を睨みつけていた。

 

「おい何やってんだ、早く頭を下げろ!」

 

「くっ……! 私だって聖騎士のプライドがある! 誰も見ていないとは言え、騎士たる私が怖いからとモンスターに頭を下げるなんて…っ!」

 

カズマがダクネスに向かって言うが、彼女は頭を下げようともしない。

カズマは空いている左手でダクネスの頭を掴み、冬将軍に向かって土下座をさせる。

 

「いつもはモンスターにホイホイついていこうとする癖に、どうしてこんな時に限ってくだらないプライドを見せるんだ!」

 

「や、やめろぉ! 下げたくもない頭を掴み、冷たい地面に頭を付けさせるなんて…どんな御褒美だ! …あぁ…雪がつべたい(つめたい)…!」

 

抵抗する素振りを見せつつ、全く抵抗しようとしないダクネスを土下座させ、自らも頭を地面につけるカズマ。

 

その様子に一つ、違和感を感じた。

 

「っ、カズマ!早く左手に持ってる武器をおろ…せ………えっ…」

 

そのアキラの言葉に顔を上げしまったカズマは、冬将軍の目にも見えない一閃によって、首を刎ねられる。

 

その事に気づいたのは、カズマの頭が地面に落ちた時だった。

 

「…あ…ああああああっ!」

 

カズマが首を落とされた。その事に気づいたアキラは、錯乱しながら声をあげる。

その声を聞いた冬将軍は、体をアキラの方に向ける。

 

「何してるのっ! カズマはすぐ蘇らせてあげるから早く頭を下げなさいっ!」

 

アクアの言葉に従うように、一心不乱に頭を下げるアキラ。

 

 

============

 

 

どれ程の時間が経ったのだろうか。

再び頭を下げてから、10分近く経っただろうか、まだ数十秒しか経っていないのか、将又1時間近く経ったのか。

大まかな時間すらも分からないくらい、頭の中が混乱していた。

目の前の雪原からは、一切の足音がしない。

もう既に冬将軍は去ったのだろうか。そう思い、辺りの様子を伺うように頭を静かにあげる。

 

「ッ! アキラ、まだよ! まだ冬将軍は目の前に居るわ!」

 

そう、アクアが声をあげる。 しかし、その声を聞いた時にはもう遅かった。

 

カズマの時と同じように、鞘に収められた鍔の部分に、左手を添える冬将軍。

視線を軽く下ろすと、左手の親指が鍔の部分をそっと押し、その綺麗な白刃が目に飛び込んでくる。

咄嗟に自らの手元を確認するが、その手には武器は握られていなかった。

 

「…どうし…て…」

 

一瞬、剣を持つ右手がブレたような気がした。

刹那、急に頭が浮遊感を感じる。

 

───どうして、武器は捨てていた筈なのに。

 

頭が落とされた。それが分かったのは、冬将軍の姿が下にあると気づいた時だった

 

───どうして、頭を下げて謝っていたのに。

 

自分の事を呼ぶ、誰かの叫びが聞こえたような気がした。

 

───…あぁ、そうか。そうだったのか。

 

頭の中を、この世界に来てからの思い出が、走馬灯のように駆け巡る。

 

───俺の魔力は、()()()()()()()()()()だったな。

 

薄れゆく意識の中最後に見たものは、刀を収める冬将軍と、上半身の下半身が分かれた自らの体だった。



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第二話 - この素晴らしい世界で三度目の生を!

「小関 彰さん。ようこそ、死後の世界へ。 私は貴方に新たな道を案内する女神、エリス。 この世界での貴方の生は終わってしまったのです。」

 

目を開くと、今まで居た雪原とは違う見知らぬ場所に居た。

周囲を見渡すと、どこかの神殿のような作りをしているような、初めてみた場所だった。

しかし、この場所の雰囲気懐かしさを感じた。

 

「(…あぁ、この感覚は…)」

 

その懐かしさは、今の世界に来た時にも経験した過去があったからだ。

 

「(…俺は…死んだ…のか。)」

 

目の前の、エリスと名乗る少女(女神)に告げられた事が事実だと確信する。

しかし、自分の死ぬ直前の記憶が雲谷がかかったように思い出せない。

 

「…エリス…さん? ちょっといいですか?」

 

「はい、何でしょうか。」

 

「俺って、どのように死んだんですか? …死んだ時の記憶だけが、何故か思い出せないんですけど。」

 

そう、目の前のエリスと言う少女(女神)に問いかける。

その言葉にエリスは少し悩み、一つの結論を出す。

 

「それは構いませんが、非常に残酷な死でしたので、思い出さない方がいいかも知れませんよ?」

 

「…構いません。 自分の最後くらい見なければ、後悔が残りそうですから。」

 

分かりました。と言ったエリスが、何やら手を動かす。

直後、頭の中に死んだ時の記憶が流れ込む。

 

 

その時、アキラは叫び声をあげた。

 

 

「…あ…っ…あああっ!」

 

死んだ時の様子を思い出したアキラは、踞りながら嘔吐き、切られた筈の自分の首を掻き毟る。

その背中をエリスは優しく撫でた。

 

 

================

 

 

「…すいません。いきなり取り乱して…」

 

暫くして、漸く自らの死を受け入れたアキラは再びエリスに向き直る。

 

「恥じることではありませんよ。 大切な命を失ってしまったのですから。」

 

そう言って、アキラを案じるように目を閉じるエリス。

エリスの悲しそうな顔を見ると、切なさを感じてくる。

 

「…二つ聞いてもいいですか? 冬将軍は、あの後どうなったんですか。 そして…先に来た『カズマ』と言う青年はどうなりましたか?」

 

そうエリスに尋ねると、彼女は目と共に口を開く。

 

「…冬将軍は貴方を斬った後に消えていきました。 そしてカズマさんの方なんですが…普通は教えられないのが規則ですが、これは貴方にも関係することですので、伝えておきますね。」

 

そのエリスの言葉に、安堵をすると共に緊張感が走る。

 

「…天界には蘇りの規則があり、通常一人につき一度しか蘇ることが出来ません。 …ですが、日本からの転生者はこちらの世界に『蘇る』と言う形で二度目の生を得ます。」

 

「…って言う事はつまり…」

 

エリスの言葉に、気づいてしまった。

 

「カズマさんも例外なく、私の力で元の世界で裕福な家庭に生まれ、何不自由なく生活できるようにする。 …その予定でした。」

 

そう言い切ったエリスの目は、先ほどとは違って目が段々と死んでいった。

 

「…あの、予定だった。というのは…?」

 

「…あちらの世界に、カズマさんが連れていったアクアさんと言う女神が居ましたよね? …あの人、私の先輩なんです。 …それで、私の秘密をバラされたくなければ、カズマさんとアキラさんを転生させろと…」

 

そう言うエリスは、なにかに怯えるように震えながら話す。

 

「あの…その秘密って、規則をねじ曲げる程大変なものなんですか…?」

 

「大変ですよ! 私の女神としての尊厳がかかっているんですから!」

 

そう言って、涙目になりながら言うエリス。 その姿から、この女神も苦労人なのだと感じた。

 

「まぁそんなに大事な秘密なら聞きませんけど…さっきの話だと、俺も蘇れるんですか?」

 

「…はい、アキラさんも蘇ることができます。 …ですが、カズマさん以上に遺体の損害が激しく、戻れるのは早くても亡くなった日の夜になると思います。」

 

元の調子を取り戻したエリスは、きちんと戻れる旨をアキラに伝える。

その言葉に安堵の息を漏らす。

 

「…それでは、現世に魂を戻してもよろしいですか? 大丈夫です。体が元通りになれば、意識は自然と目覚めますから。」

 

そう言うエリスに一言「お願いします。」と言うと、足元に魔法陣が現れる。

体を浮遊感が襲い、段々と視線が高くなっていく。

その場を去る最後に、エリスはこちらに向かってウィンクをするように片目を閉じ、口の前に人差し指を置いて言った。

 

「皆さんには、内緒ですよ?」

 

その記憶を最後に、天界での意識は途絶えた。

 

 

====================

 

 

どれくらい経ったのだろうか。 背中には冷たい雪の感覚ではなく、固い布団の感覚を感じた。

徐々に覚醒していく意識の中、誰かの声が聞こえてきた。

 

「…早く起きてください。 アキラが居ないと、誰が魔法を打った私を運ぶんですか…。」

 

その声の主はめぐみんだった。

 

「…魔法を打って、アキラに背負われて、どうでもいい話をしながら帰る。 …そんな日常の時間が、一番好きだったんですよ?」

 

彼女の手が、自分の頬を優しく撫でるのを感じる。

 

「…ですから…早く帰ってきてくださいよ…アキラ。」

 

自分の頬に、熱い水滴がポツポツと落ちてくる。

 

───あぁ、俺ってなんて馬鹿なんだろうか。

 

居ても立っても居られずに静かに目を開き、目の前にある頭を撫でる。

 

「…ただいま。また心配かけちゃったな、めぐみん。」

 

目の前で涙を流していた彼女は、ハッと驚き目を見開く。

 

「…本当ですよ、この馬鹿。 …おかえりなさい、アキラ!」

 

そう言って自らの顔を隠すように抱きついてくるめぐみん。

頭を撫で続けると、目を覚まさなかったらどうしようかと思った。本当は死んでしまったんじゃないかと思った。 …そう言った、彼女が心の奥に仕舞っていた不安が溢れ出る。

そんなめぐみんが落ち着くまで、アキラは頭を撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

─翌日、様子を見に来ていた他の仲間達から、ロリコンだのさっさと付き合えよだの茶化されるのは、また別のお話。

 

 

 

 

 

 

 




と言うことで、冬将軍戦でした。珈琲@微糖です。
見直してみると、予想外にシリアスな内容になってしまいましたが、恐らく次回からはシリアスがシリアルに変化すると思います。

と言うことで、早いですがこの辺りで御暇させて頂きます。
また次回以降も見ていただければ大変励みになります。


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第三話 - このパーティメンバーとの交換を!

「おい、もう一回言ってみろ。」

 

俺とカズマが殺されて数日後の事だった。

殺されてから数日間、俺とカズマはクエストは控え、心のケアに時間を当てた。 …その間、時間を見つけては様子を見に来て、世話をしてくれためぐみんには大変感謝をしている。

 

既に傷はほぼ治ってはいるが、アクアから後数日間は激しい運動を控えるよう言われたカズマと共に、簡単な荷物持ちの仕事はないかと掲示板を探していた。

 

「何度でも言ってやるよ。 荷物持ちの仕事だぁ? 上級職の揃ったパーティでもそんな仕事しか出来ないのかよ。 さぞかしあんたら二人が足を引っ張ってんだろうなぁ、最弱職さんよぉ!」

 

そう言って同じテーブルの仲間と笑う戦士風の男。

 

「…カズマ、相手は酔っ払いだ。 あまりムキになるなよ。」

 

手をグッと握るカズマの肩を叩き、男に聞こえない様に耳打ちをする。

 

「おいおい、何も言い返せないのかよ最弱職。 いい女を三人も侍らせてハーレム気取りですかぁ? さぞかしいい生活してるんだろうなぁ!」

 

男がそう言うと、ギルドの中に爆笑が起こる。

 

見回すと、笑っている者達の中にはその空気に嫌悪感を抱いている者もいた。 恐らく、数少ないカズマの苦労を分かっている者達なのだろう。

 

「二人とも、相手にしてはいけませんよ。」

 

「そうだぞ、酔っ払いの言うことなど捨て置けばいい。」

 

「そうよそうよ、あの男、私達を引き連れてるカズマとアキラに嫉妬してんのよ。 私は全く気にしないからほっときなさいな。」

 

歯を食いしばり堪えるカズマに行こう。と一言言って、再度ギルドの掲示板を探そうとするが、男の最後の一言に、カズマが反応した。

 

「上級職におんぶに抱っこで楽しやがって。苦労知らずで羨ましいぜ! おい、俺と代わってくれよ、兄ちゃんたちよ!」

 

「…大喜びで代わってやるよぉぉぉぉぉ!!!!」

 

カズマの絶叫に、ギルドの中が静まり返る。

 

「ああいいよ、代わってやるよ! さっきから黙ってりゃ舐めた事ばっかり抜かしやがって! 確かに俺は最弱職だ、それは認める。 だがな、お前その後何つった!」

 

「あ、あのぉ…カズマさん?」

 

突然キレたカズマに、アクアがおどおどと尋ねる。 が、カズマの耳には入っていないようで、目の前の男に詰め寄る。

男は若干引きつつ、カズマの問に答える。

 

「そ、その後…いい女三人も侍らせてハーレム気取りって…」

 

「いい女!ハーレム! はっ!そんな冗談今どき流行らねぇぞ! おいお前、その顔にくっついてんのは目玉じゃなくてビー玉なのか? 俺の濁った目じゃいい女なんて見当たらねぇよ! さぞかしいいビー玉付けてんだろうな! 俺の濁った目と変えてくれよ!」

 

「「「…えっ?」」」

 

突然のカズマの口撃の飛び火に、アクア達は呆然とする。

 

「なぁおい、教えてくれよ!いい女?どこにいるんだよ! ハーレム?そんなんどこにあるんだよ!その綺麗なビー玉で教えてくれよ!」

 

「あ、あのー、カズマさん?」

 

あまりの気迫に少し怯えながらカズマを止めに入る。 …が、彼には聞こえていない様で、言葉を続ける。

 

「その上唯一まともだと思ってたアキラと、あの中でもまだまともな方だと思ってためぐみんも、最近は付き合いたての学生カップルみたいな空気出しやがって!ハーレムのハの字もねぇよ!俺にもそんな青春をくれよ!」

 

「「まだ付き合ってねぇ(ません)から!!」」

 

カズマが口走ったことに対し、めぐみんと同時に顔を赤くしながら否定する。

 

「しかもその後何つった? 上級職におんぶに抱っこで楽しやがって!?苦労知らずだぁぁぁぁぁ!?」

 

「…そ、その、ごめん……。俺も酔ってた勢いで言い過ぎた。 …たださ、隣の芝生は青く見えるって言うが、お前の境遇が恵まれているのは事実なんだ! 代わってくれるって言ったよな? なら一日、一日だけ代わってくれよ。冒険者さんよ。 …なぁお前らもいいよな!」

 

そう言うと、俺達の意見が一切入らずに話が進んでいく。 …不意に、服の裾が引っ張られた。

 

「…ねぇ、貴方…さっき『"まだ"付き合ってない』って言ったわよね? …その、人それぞれの趣味は自由だけど、そう言う趣味は隠しといた方がいいわよ?」

 

そう言ってきたアクアの言葉を聞き、自分が何と言ったのかをゆっくり思い出す。

キョトンとした顔でめぐみんと顔を見合わせた俺達は、顔を真っ赤にしながら叫ぶ。

 

「わ、わぁぁぁぁ!!!!そうじゃなくて!そういうことじゃなくて!!さっきのは言葉の綾というか!」

 

「そ、そそそ、そうですよ!!決してアキラとそう言う関係になりたいという訳ではなくてですね!!!」

 

めぐみんと共にそう叫び否定する。

…だが時既に遅し、周囲の冒険者達はヒソヒソと噂話をしていた。

 

俺達は、顔を真っ赤にしながら俯き、その場に立ち尽くすしかなかった。

 

 

============

 

 

酒場の一角に座る俺の目の前で、カズマが入れ替わったパーティメンバーとの自己紹介をしている。

全員の自己紹介が終わったところで、パーティリーダーのテイラーがこちらを見て話しかけてきた。

 

「それで、君は君はどうするんだい? 俺達としては、冒険者の一人や二人増えたところでそこまで問題はないが。」

 

「あぁ、ちょっと俺は事情があって、数日間は激しい運動は止められてるんだ。 だから今日は留守番かな。 一応名乗っておくと、名前はアキラ。一応"ナイト"と"アーチャー"の適正はあるが、パーティの穴を埋めるために"冒険者"をやってる。 今日はカズマの事をよろしく頼む。」

 

そう言ってテイラーに対して一礼する。

 

「大丈夫さ、今日はただのゴブリン狩りなんだ。 "冒険者"が一人や二人居たところで変わらないだろう。」

 

そう言ってテイラーは他のメンバーがクエストに向かう準備が出来たことを確認すると、全員に声を掛けてギルドを出ようとする。

 

「…あぁ、そうだ。カズマー、ちょっといいか?」

 

「ん?どうしたんだ、アキラ。」

 

「…この時期にゴブリンの討伐依頼が出るのは少し妙だ。 一応周囲の警戒は怠るなよ。」

 

クエストに行こうとするカズマを呼び止め、一言忠告をしておく。

 

「あぁ、分かってるって。 普段から《敵感知》スキルは使ってるからな!」

 

楽なクエストとは言え、周囲の警戒は怠らないカズマの事だから大丈夫だろう。

そう思って、ギルドを出ていくカズマを見送る。

 

「それじゃあ、俺も買い物してくるか。」

 

カズマ達がギルド出てから少しして、俺もギルドのドアを開いた。

 

 

============

 

 

「…ここに来るのもいつ振りだったかな。」

 

そう言って、町中のとある店の前にいる。

店内を覗き込むと、壁にかかるナイフや剣からここが武器屋であることが分かる。

俺は、ゆっくりとその店の扉を開いた。

 

「…いらっしゃい、今日もナイフをお求めかい?」

 

そう言って、店の中にいる店主が話しかけてくる。

 

「いいや、今日は頼みたいものがあってきたんだ。」

 

俺の言葉に、店主は目の色を変える。

 

「ほう、何を作りたいんだい?」

 

「それなんだが…刃がない鎌を作って欲しいんだ。 なるべく軽くて、丈夫なものを頼む。」

 

その注文を聞いた店主は突如笑い出した。

 

「…くくく…はっはっはっ! ここで店を開いてから刃のない武器の依頼なんて初めてだ!…いいぜ、乗ってやるよ! それだったら、今日の夕方には出来ると思うから取りに来い!」

 

豪快に笑った店主に夕方取りに来る胸を伝え、店を出る。

 

さて、カズマ達が帰ってくるまでどうしようか。

そう悩みながら、歩を進める。

 

 

============

 

 

夜、代金を払って依頼していた武器を受け取り、カズマ達の帰りを待とうとギルドに向かっている最中、クエストを終えて同じくギルドに向かうカズマ達一行と出会った。

…何故か、パーティメンバー達は大笑いをしていた。

 

「ようカズマ、無事帰ってこれたみたいだな。」

 

「おう、アキラか。一時はどうなるかと思ったが、なんとかな。」

 

カズマと軽く挨拶を交わすと、他のメンバー達がカズマの背中を叩きながら今日のクエストの話をしてきた。

 

「カズマの奴ったらすげぇんだぜ? 《敵感知》スキルと《潜伏》スキルで初心者殺しをやり過ごすわ、《クリエイト・ウォーター》と《フリーズ》でゴブリンの足止めをしたりして!」

 

「そうそう! 私、初級魔法なんて取る意味が無いって習ったのに、その初級魔法が一番活躍してるんだもん!」

 

「初心者殺しに会っちまった時も、《クリエイト・アース》で作った砂を《ウインドブレス》で飛ばしてる目に砂を入れるとか、どんな頭してたらそんな発想が出てくるんだよ!」

 

テイラー、リーン、キースの三人が興奮しがちに今日のクエストの内容を話す。

 

「まぁ、こいつ冒険者の癖に、頭の回転だけは異様に早いからな。 伊達にあの癖が強すぎるパーティでリーダーをしてないさ。」

 

「…ったく、頭の回転だけとは失礼なやつだな。おーい、早くクエスト達成の報告を済ませようぜ?」

 

カズマがそう言うと、興奮覚めぬテイラー達と共にギルドへと歩みを進めた。

 

 

========

 

 

「つ、着いたぁぁぁぁぁぁ!!! …なんだか、今日は大冒険した気分だよ!」

 

リーンの声を聞きつつ、カズマはギルドの扉を開け─

 

「…ぐず…っ…ひっぐ……うぅ…か、かじゅまさぁぁん…」

 

…泣きじゃくるアクアを見て、そっと扉を閉めた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 気持ちは分かるがちょっと待ってくれよっ!」

 

閉められたドアを無理やり開けて、アクア達の新たなパーティリーダーであるダストが半泣きになりながら出てきた。

 

「…うん、あいつらのことだから何があったのかは分かる。 分かった上で聞きたくない。待たない。」

 

「聞いてくれよ!なぁ、聞いてくれよ!!俺が悪かったから聞いてくれよ! まずは皆がどんなスキルを使えるか聞いたら、この子が爆裂魔法を使えるって言うから、そりゃすげーなって褒めたんだよ! そしたら、我が真なる力、その目に見せてやろうって言って、いきなり何も無い平地に向かって爆裂魔法を打ったんだ!」

 

…その時点で、俺はめぐみんにデコピンをした。

 

「痛っ! 何するんですか!」

 

「何するんですか!じゃねぇ、お前の方が何でかしてんだ!」

 

ダストに背負われてるめぐみんがデコピンに対して抗議の声をあげてきた。

 

「何って…爆裂魔法を打っただけですが。」

 

「せめて打つ場所くらい考えろよ! クエストに行くんだし、モンスターくらいいくらでも出てくるんだから、そっちに打てよ! そんなんだから『頭のおかしい爆裂娘』なんて不名誉な通り名が付けられるんだよ!」

 

「な、なにおぅ! 爆裂魔法を褒められたら、我が力を見せる以外選択肢がありますか!いや、ない! それに、不名誉な通り名で言ったら、アキラだって『ロリラさん』だとか、『子供にしか興味が無い変態』だとか言われてますからね!!」

 

「おいちょっと待て、最後については初耳なんだが誰が言い出したか教えろ。」

 

ダストがカズマに泣きついてる後ろで、俺はめぐみんと言い合いをする。

 

…その様子に、ダストのパーティメンバーは呆気に取られ、カズマはやれやれと言った様子で頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




カズマさんの口撃シーンは書いてて楽しかった(こなみかん)
お世話になっております、珈琲@微糖です。

先日、総UA数1万を突破しました。ありがとうございます。

さて、この小説は大まかな時系列はアニメ中心に、いくらかの部分を原作補填で書いております。
ですので、次回はキールのダンジョンではなく、屋敷の幽霊退治となっております。
キールのダンジョンにつきましては、恐らく裁判後になると思われます。

それでは、今回はこの辺りで失礼させていただきます。次回もまた見ていただければ励みになります。


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第四話 - この悪霊屋敷の噂に終止符を!

「悪霊退治?」

 

数日後、俺が武器の試し斬りをしに行っていた間に、カズマとアクアはウィズの所に行っていたようで、そのような依頼を受けていた。

 

「あぁ、ウィズの所に屋敷を売りたいけれど、悪霊が大量に住み着いててその屋敷が売るに売れないって男が来てな。 丁度居合わせたこいつに依頼を受けさせた。」

 

そう言うとカズマはアクアを指差す。

確かにプリーストとしての腕前はトップクラスだし、適任ではあるだろう。

 

「それで、いつから始めるんだ? 流石に一日やそこいらで終わる仕事ではないだろう?」

 

「それなんだが…なんとその屋敷に住み込みでやることになった!」

 

カズマの言葉に、事情を何も知らない俺達三人が反応する。

 

「す、住み込み!? …金を払って止まらなくてもいいのか!?」

 

「勿論そうだとも! それに加えて風呂もあるから、町の大衆浴場に必要な分もカット出来るぞ!」

 

そのカズマの言葉に、俺達三人はゴクリと喉を鳴らす。

 

「…でも、その屋敷って悪霊が住み着いてるんですよね?」

 

めぐみんが小さく手を挙げながらカズマに尋ねる。

 

「…なぁめぐみん、デュラハン戦の時を思い出してみろよ。 …アクアはプリーストだし、ああ言ったアンデッド系モンスターに狙われやすいんだ…つまり、悪霊達はアクアに寄っていくから、俺達の被害は無いに等しいんだ!」

 

「…私も今回の悪霊退治に賛成です!」

 

カズマの口車に乗せられ、納得しためぐみんは賛成の意を表明する。

 

「私も賛成だ。 不特定多数の霊に日常生活が覗かれるなど…考えただけで…ん゛ん゛っ!」

 

「俺も構わないぞ。つい最近こいつを買って、宿に金を払うのが惜しかったんだ。」

 

頬を赤らめ、もじもじしながら賛成するダクネスを横目に、刀のように腰から下ろしている長い棒を見せる。

 

「ってことは全員賛成って事でいいな。 …そしてアキラ、そいつはなんなんだ?」

 

意見を取りまとめたカズマが俺の持つ棒を見ながら尋ねてくる。

 

「こいつは俺の新しい武器だ。 流石にナイフだけじゃ、リーチが短いと思ってな。」

 

「ぷっふー!アキラったら、そんなんじゃカエルも殺せないわよ? それだったら、いつも通りナイフ投げてた方がマシじゃないのー?」

 

棒を持ちながら立ち上がる俺に、アクアが口を抑えて笑いながら言ってくる。

 

「…ふっ、そんなことを言ってられるのも今のうちさ…本当の使い方を見せてやる! …我が魔力よ、鉄の元素と成りて我が鎌に集え!」

 

そう言って棒の先の部分を始点に、刃の形になるように手をゆっくりと動かす。

すると、動かした場所には鉄の刃が出来ており、ただの棒が鎌へと姿を変えた。

 

「「「「おぉ!!」」」」

 

先程までとは違い立派な武器となった鎌を見て、ついさっきまで笑っていたアクアすらも感嘆の声をあげる。

 

「なるほど、《魔力変化》で刃の部分だけを作るとは。 考えたな、アキラ。」

 

「確かにレベルは上がったとは言え、ナイフ数本程度が限界だったものね。 これなら前衛としてもやっていけそうね!」

 

「何よりその呪文! 紅魔族的には中々ポイント高いです!」

 

そう言って、感心しながら鎌を見る上級職三人組。

 

「所でアキラ、そんなに能力を使って魔力は大丈夫なのか?」

 

ハッと何かに気づいたカズマは俺に尋ねる。

 

「それなら平気だよ、今までナイフしか作れなかったのは柄の部分の材質が難しすぎて魔力を食ってたんだ。 だから、柄の部分は先に作っておいて刃だけを能力で作れば、この位なら大丈夫だった。」

 

「いや、そう言うのはもっと早く気づけよ…。 …それと、もう一つ聞いていいか?」

 

カズマにそう言うと、白い目で俺のことを見てくる。

その後、もう一つの疑問を俺にぶつけてきた。

 

「…さっきの刃を出す時の前口上、必要か?」

 

「…愚問だな、必要ない! 前々からやりたかった!」

 

胸を張りながらカズマの問に答え、刃の部分を撫でて魔力に戻す。

 

その様子にカズマはため息をつき、頭を抱えていた。

 

 

====================

 

 

「…ここがその屋敷か。…思ってたよりも広いじゃないか。」

 

一旦解散し、各々の荷物を鞄にまとめた俺達は、件の屋敷の前まで来ていた。

カズマが聞いた話では、屋敷にしては部屋数は少ないという事だったのだが、俺達にとっては十分過ぎる広さだった。

 

「悪くないわね! ええ、悪くないわ! この私が住むには十分じゃないのかしら!」

 

「しっかしこんな広い屋敷、本当に浄化出来るのか? 聞いた話だと、浄化してもまた湧いてくるみたいなんだが。」

 

そう言ってカズマはアクアの方を見る。

 

「まっかせなさいな! …見える、見えるわ! 私の霊視によれば、この屋敷には貴族が遊び半分で手を出したメイドとの間に出来た子供、そして………」

 

そう言って、インチキ霊能力者みたいに霊の情報と思われるものを話し始めるアクア。

 

「…なぁカズマ。 本当に大丈夫なのか?」

 

「…たった今、俺も不安になってきたところだ。」

 

そう言って、自信満々に屋敷に入っていくアクアに続き、俺達も屋敷に入っていった…。

 

================

 

 

「…さてと、この屋敷には何があるのかなっと。」

 

他のパーティメンバーに比べ荷物が少ない俺は、早々に荷解きを終えた俺は屋敷の中を探検していた。

 

「しっかし、別荘っつっても滅茶苦茶広いじゃねぇか。…本当にこんな所に住んでもいいのか?」

 

そう言って屋敷の中を歩き続ける。

少しすると、前から誰かが歩いてきた。

 

「…ダクネスか。 そっちも荷解きは終わったのか?」

 

「ああ。 …と言っても、終わったのはついさっきなのだが。」

 

「おお、そりゃお疲れ様。 やっぱり荷物が多いと大変なのかねぇ。」

 

「大変だが、必要なものが多い分仕方がないことさ。」

 

そんなものか、と呟くとダクネスと共に歩き出す。

リビングを覗くと、既に荷解きを終えたカズマとめぐみんが寛いでいた。

 

「おお、お前達も終わってたのか。 この中をちょっと歩いてみたけど、本当にただで住まわせてもらって大丈夫なのか?」

 

「アキラとダクネスか。 …あぁ、こいつの悪霊退治が終わって、悪評が無くなるまでの間だけだけどな。」

 

俺の言葉に、ソファーに座るカズマがこちらを見て返答する。

暖炉の前で暖を取っているめぐみんが、こう言った。

 

「しかし、見る限りだと暫く人が住んだ形跡がないのですが、どうして最近になって悪霊騒ぎなんて起きているのでしょうか。 …案外、他のところに原因があったりして。」

 

「他に原因か…例えば?」

 

「流石にそれは分かりませんよ。 それに、幽霊なんて居るわけないじゃないですか。 どうせ、その辺りの子供が肝試しをやる為に変な噂でも流したんじゃないんですか?」

 

カズマが聞き返すと、再び暖炉の方を向いてそう言うめぐみん。

 

「…まぁ、何があるかなど夜になってみないと分からないさ。」

 

そう言ってソファーに座るダクネス。

 

「そうだな。 アクアは兎も角、俺達は霊を祓うなんて出来ないんだからどうしようもないけどな。 …カズマ、珈琲をくれないか?」

 

俺はそう言うと、カズマに珈琲の粉を入れたマグカップを差し出す。

ああ。と生返事をしたカズマはマグカップに《クリエイト・ウォーター》で水を注ぎ、《ティンダー》で熱を加える。

 

少しして、珈琲が出来たことを確認すると暖炉の前まで行き、めぐみんの隣に座る。

 

そうやって暫く過ごしていると、荷解きを終えたアクアが元気よくリビングに入ってくる。

 

「お待たー! こっちは準備出来たから、後は夜になって霊が出てくるのを待つだけよ。」

 

「意外と準備に時間が掛かったんだな。 霊を祓うなんて、ひたすら《ターン・アンデッド》を繰り返すだけでいいと思ってたんだけど。」

 

そう言ってカズマはアクアの方を見る。

見られたアクアはやれやれと言った様子で答える。

 

「あくまで私が祓うのは"悪霊"よ。 さっき言った通り、この屋敷にはいい霊も居るわ。 だから、その霊を私の部屋に集めて、その間に悪霊を追っ払おうって寸法よ! …そんなことよりもカズマさーん、私お腹空いたんですけどー。 お昼位準備してくれてもいいんじゃないんですかー?」

 

ふふん。と胸を張って言うアクア。

その言葉に、カズマは頭を掻きながら立ち上がる。

 

「あー、そういやもう昼だな。 と言っても、食材が無いからギルドにでも行くか。」

 

その言葉に、俺とダクネスとめぐみんは生返事をしながら立ち上がる。

 

 

====================

 

 

「なああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

時は過ぎて深夜。

誰かの叫び声にふと目を覚ました。

 

「…なんだ、今の叫び声は。」

 

まだ目覚めきらない頭を無理やり働かせながら起き上がる。

 

「…んー…喉乾いた…水でも飲んでこよ…」

 

誰に言うわけでもなくそう呟くと、立ち上がって部屋を出る。

…視界の端で、誰かが廊下を走っていくのが見えた。

 

「…あれは…カズマ?」

 

走るのがカズマだという事に気づくと、その後を追っていく。

 

カズマの後を追っていくと、カズマはアクアの部屋に入っていった。

その後を追って俺も部屋に入っていく。

 

「おーいカズマー。 どうかしたの…か……」

 

部屋に入ると、めぐみんがカズマのベルトを掴んでいた。

 

「…あー、お楽しみ中のところ失礼しましたー…。」

 

「「ちょっと待ってくれ(ください)!!!」」

 

そう言ってそそくさと部屋の扉を締めると、中から二人の叫び声にも似た声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

「…それで、二人はトイレに行きたいけれど、人形に追いかけ回されてそれどころじゃないと言うことか。」

 

そう言うと、二人はうずうずしながら頷く。

 

「人形が追ってくるねぇ。…にわかには信じ難いんだけど、それってあんなやつら?」

 

そう言って俺は、ベランダの窓を指差す。

カズマとめぐみんはゆっくりと窓の方を向く。

 

…そこには、無数の人形が張り付いてこちらを見ていた。

 

「「ああああああああああ!!!!!!!!」」

 

それを見た二人は、悲鳴を上げながら部屋を飛び出した。

 

「あらら、行っちゃった。 …多分向かったのはトイレだろうし、追いかけますかぁ。」

 

ふわぁと大きな欠伸をし、のんびりと二人の後を追ってトイレに向かった。

 

 

================

 

 

「おお、アクアにダクネスか。浄化の方は順調か?」

 

カズマ達を追っていると、廊下に蔓延る人形達を浄化しているアクア達に出会った。

 

「誰かと思ったらアキラじゃない。どうしたのよ、こんな夜中に。 …浄化の方は順調よ、この調子なら今いる分は今夜中に終わると思うわ!」

 

「そうかそうか、なら大丈夫そうだな。じゃあ俺は水飲んだら寝るから。 …そう言えば、さっきあっちの方にカズマ達が逃げてって、そっちの方にも霊達は行ったと思うから頼んでいいか?」

 

そう、と言うとアクア達は指さした方向に向かって行った。

 

 

==========

 

 

「さてと…水水ーっと…って、ん?」

 

誰もいないリビングに入ると、隅の方から人の気配がする。

不審に思い、そこへ近づいていくとそこには小さな少女がちょこんと座っていた。

しかし、よく見てみるとその少女は全体的に薄く、普通の人ではないことが分かる。

 

その姿を見た俺は、昼のアクアの話を思い出した。

 

「…あぁ、あんたがこの屋敷に憑いてる幽霊か。」

 

そう、独り言の様に呟くと、目の前の少女はこくりと頷く。

 

「全く、どっかから流れ着いた悪霊達と一緒に人形を使って騒ぎを起こすなんてなぁ。」

 

そう言って少女の隣に座る。 …少女はクスクスといたずらっ子のように笑っていたような気がした。

 

「…ただまぁ、ここの持ち主も困っているようだから、俺達としてもお前さんを見過ごせない。 だから、取引をしよう。ここで一つ、俺がこの世界でしてきた冒険話をする。 …だから、それが終わったら大人しく浄化されてくれないか?」

 

そう少女に告げると、少女は少し悲しそうな顔をしながら頷いた。

 

「それじゃあ話を始めようか。 これは何の取得もない普通の少年が、個性的な仲間に振り回されながらも楽しく冒険をするお話だ。」

 

そう言って俺は話をした。

元の世界に居た頃の話から、この世界に来て冒険者になり、様々な相手と戦ってきた話を。

 

その話の最後をこう締めくくる。

 

「…これで俺の話はおしまいだ。 きっと、お前さんが望むような壮大な冒険話ではなかったが、満足できたか?」

 

その問いかけに少女は笑顔でこくりと頷く。

 

「なら良かった。 …さてと、これから俺はお前を浄化しなければならない。 待て待て、そんな悲しそうな顔をするな、こっちがやりずらくなる。」

 

そう少女に向かっていうと、少女は寂しそうな顔をこちらに向けてきた。

 

「…きっとお前さんは、もっと親から愛されたかったんだろうな。 だからこそ、現世のこの屋敷に留まり続けた。 だけど、もうその親はこの屋敷には戻ってこないだろう。 だから、ちゃんと成仏して、新しい人生で、貰えなかった親からの愛情を貰ってこい。」

 

そう言って冒険者カードを取り出すと、一つの魔法を覚える。

 

「きっと天国に行くと、エリスって言う女神が居ると思う。 なんで知ってるかって? これでも一度死んだ身だからな。…って、その話はさっきしたよな? …兎も角、その女神にこう伝えるんだ。『もう一度、両親から沢山の愛情を受け取りたい』って。 優しい女神様の事だ、ちゃんと叶えてくれるさ。 …だから、今は安らかに眠ってくれ。」

 

そう言って、頷いて目を閉じた少女に掌を向ける。

俺も目を瞑ると、こう言った。

 

「『ターン・アンデッド』。」

 

少しして目を開くと、先程までいた少女は姿を消しており、きちんと浄化が出来たのだと分かった。

 

「…さてと、寝るか。」

 

そう言って当初の目的も忘れ、自分の部屋へと戻っていく。

 

 

==========

 

 

「…それで、どうしてお前が部屋にいるんだ? めぐみん。」

 

部屋に戻り寝ようと思って布団の中に入ろうとしたら、中には先客(めぐみん)がいた。

部屋を間違えたのだろうと思い、優しく起こすと

 

「遅かったじゃないですか…寒いので早く入ってください。」

 

と言ってきたので叩き起し、話を聞いている。

 

「いや、あのぉ…非常に言い難いのですが、また寝て起きた時に、周囲にあの人形が居たら、どうしようと思っていたら眠れなくてですね…。」

 

布団の上に正座し、もじもじしながら言うめぐみん。

 

「…それで、どうして俺の所に来たんだ? アクアとかダクネスの所にでも行けば良かったじゃないか。」

 

「…他の人の所に行ったら、絶対笑われるじゃないですか。 子供っぽいって。」

 

「…はぁ。」

 

ため息をつき、座っていためぐみんを横にさせて布団を被る。

 

「…ふぇ。ちょ、アキラ!?」

 

「全く、怖くて寝れないならちゃんと言え。 そして俺は今、非常に眠いんだ。 静かに寝るならいいが、うるさくしたら叩き出すからな。」

 

そう言ってめぐみんの方に背中を向けて寝る。

 

「こ、怖いわけじゃありませんよ! …その、ありがとうございます。おやすみなさい…」

 

その言葉を最後に、後ろからは寝息だけしか聞こえなくなった。

一度めぐみんの方を向き、頭を撫でながら言う。

 

「…全く。まだまだ子供だな。 …おやすみ、めぐみん。」

 

そうして、静かな夜は過ぎていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




うーん、一話に詰め込みすぎた感。 どうも、珈琲@微糖です。二章はデストロイヤーまでですので、比較的話数が少なくなりそうですね。

と言うことで、次回はあの素敵な夢となっております。
次回以降も見ていただければ幸い。


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第五話 - おの素晴らしい店に来店を!

窓の外から差し込んでくる日差しは既に上の方まで上がってきており、既に朝という時間は過ぎていた。

 

「…そろそろ起きないとなぁ…うぅっ…さむっ…」

 

布団から出ようとするが、外気の冷たさに負けて再度布団の中に入る。

 

「…やべ、忘れてた。」

 

布団の中では、めぐみんがすやすやと眠っていた。

 

「…うん、まぁ、もう少し寝てても大丈夫か…。 そうだな…昼くらい…までは…」

 

そう言って布団の中で眠るめぐみんを抱き枕代わりに抱きしめる。

 

「(…あぁ、あったかい…)」

 

アキラの意識は、再び無くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(…これは、一体何があったんでしょうか。)」

 

何かが体に巻き付く感覚がし、目覚めためぐみんは困惑していた。

 

「(…確か昨日は、アクアが霊を浄化して、それから何だか眠れないからアキラの部屋に行って…)」

 

そこでハッとしためぐみんは、視線を上の方にやる。

…眠っているアキラが、自分のことを抱きしめていた。

その事に気づいためぐみんは頬を赤らめる。

 

「(…あっ、アキラがどうして!? …確かに昨日は背を向けて寝ていた筈…)」

 

腕の中から顔を出すと、目の前には眠っているアキラの顔があった。

 

「(…そう言えば、こうやってアキラの顔をじっと見るのは初めてかもしれませんね…。)」

 

予想外の出来事が起き続けためぐみんの頭は既に混乱しており、普段ではやらないような事を始める。

 

「(…ふふ、普段撫でる側の人を撫でるなんて、凄く新鮮ですね。)」

 

腕の中から抜け出さずに、目の前のアキラの頭を撫でてみる。

 

「…誰かを撫でる。と言うのも久し振りですね。」

 

そう呟くと突如、部屋の扉が開く音がする。

 

「ちょっとー、アキラったらいつまで寝てるのよー! もう世間一般じゃお昼のじか…ん……!」

 

アキラをおこすため、勢いよく扉を開けたアクアの目に、布団に包まりながらめぐみんに抱きいて眠るアキラと、その頭を嬉しそうに撫でるめぐみんの姿が入ってくる。

アクアとめぐみんは、お互い突然の出来事にピタッと動きが止まる。

 

…先に口を開いたのはアクアの方だった。

 

「あ、あははー。その、お邪魔だったかしらね…? …失礼しましたー…」

 

そう言って、まるで入って来た時の逆再生のような動きで部屋から出ていく。

 

「…あっ、ちょっ! 待ってください!これには深い理由が!」

 

そのめぐみんの言葉も届かず、廊下からアクアの声が聞こえてきた。

 

「…かじゅまさぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!めぐみんとアキラが!めぐみんとアキラがぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

今のことをカズマに伝えに行こうとするアクアを止めようと、急いで布団から立ち上がろうとするめぐみん。

 

…その瞬間、抱きしめる腕の力がぎゅっと強くなった。

 

「…ちょっとまっ…ぇ…っ…?」

 

抱きつかれた方を見ると、アキラが無意識にはなさまいと抱きしめる力を強くしていた。

 

「えっ、ちょっと、離してください! このままではカズマとアクアに、あることないこと言われてしまいます!」

 

そう言ってアキラを引き剥がそうとするが、抜け出そうとすると余計に力を強めてくる。

 

「…はぁ、どうなっても知りませんからね。」

 

ため息をつくと再び布団に入り、再びアキラの頭を撫で続ける。

 

…それは十数分後、アキラが目覚めるまで続けられた。

 

 

====================

 

 

「…どうしてこうなった。」

 

町中を歩く俺はそう呟いた。

 

 

 

 

と言うのも、目覚めると目の前には笑顔で俺の事を撫でているめぐみんが居た。 …俺が起きたことに気づくと顔を真っ赤にしながら部屋を出ていったが。

 

その後、服装を整えてリビングに行くと、三人(カズマ達)がコソコソと話していた。

…声を掛けたら、カズマに肩を叩かれて

 

「…別に俺達はお前らがそう言う関係になるのは構わないが…その、ちゃんと気をつけろよ!」

 

と言われ、部屋を出ていった。

全く状況が掴めない俺は、リビングに残っていたアクア達に目を向ける。

 

「わ、私も気にはしないが……その、夜は静かにしてくれよ?」

 

「大丈夫、アクシズ教は全てを許します。 それは例えロリコンだとしても。相手が悪魔っ子で無ければ全てを許します。」

 

頬を赤らめたダクネスがもじもじしながら、その隣ではアクアがまるで女神のような優しい顔で言ってきた。

 

その時、後ろでカランと何かが落ちる音が聞こえた。

 

「な、ななな…二人ともなんてこと言ってるんですかぁぁぁぁ!!!!!」

 

後ろから顔を真っ赤にしためぐみんがそう言いながら二人と俺の間に入る。

 

「私とアキラはそういう関係じゃありません! 今朝のはその…私が部屋を間違えたんです!」

 

「…あれ、確か昨日の夜寝れないからって言って…「わ、わぁぁぁぁぁ!!!!どうしてそういう時だけバカ正直に言うんですか!? 馬鹿なんですか!?」

 

そう言ってめぐみんは俺の口を押さえる。

その様子を見て、アクアとダクネスはまたもコソコソと話をする。

 

「…今確かに、夜寝れないからって言ったよな…」

 

「…ええ、やっぱりあの二人って、そういう関係なのかしら…」

 

二人の言葉に気づいた俺達は、顔を耳まで真っ赤にする。

 

「…あ、あああ!!! ちょっと俺用事あったの思い出したわ!!!ちょっと行ってくる!!!」

 

「……あっ! 私も用事がありましたのでちょっと出掛けてきます!!」

 

そう言い残し、俺達は屋敷から逃げるように出て来て、今に至る。

 

 

 

 

「…本当ですよ。 全く、アキラがあんなこと口走らなければ誤魔化せたのに…」

 

そう言いながら町中を歩く。

 

「…それについては非常に申し訳なく思っております。 …もう昼時だし、飯でも食って落ち着いたら屋敷に戻るか?」

 

「そうですね。 …ただ、急いで出てきてしまったのでお財布を忘れてきてしまったので…」

 

「分かった分かった、今日だけだからな。 …って、んん? あそこにいるのはカズマに…ダストとキースか?」

 

ギルドに向かって歩き出そうとした時、コソコソしながら路地裏を覗き込むカズマ達がいた。

 

「めぐみん、先にギルドに行っててもらっていいか?」

 

「? …ええ、構いませんが、どうかしたのですか?」

 

「ああ、ちょっと見知った顔を見つけてな。」

 

そう言うと、そうですか。と言っためぐみんはギルドに向かう。

それを確認した俺は、カズマ達に話しかける。

 

「おーい、カズマー。何やってんだー?」

 

「!? …なんだ、アキラか。 びっくりしたぁ…」

 

話しかけられたカズマ達は肩を震わせてこちらを見ると、安堵したかのように声を出す。

 

「…ところで、お前達はこんなところで何をしてたんだ?」

 

「ああ。何やら、この奥に素敵な夢を見せてくれ…むぐぐ!」

 

何かを言いかけたカズマは、ダスト達に口を押さえられる。

二人に耳打ちされたカズマはハッとすると、手を離された。

 

「…こ、この奥にすげぇ旨い料理店があるってのを二人に聞いてさ! ただ、覗いて見たら今日は閉まってたみたいなんだ!」

 

「そ、そうそう! それで、どこで飲もうかなんて話をしてたんだ!」

 

そう言ったカズマとダストはキースに同意を求める。

 

「そ、そそ、そうだな!やっぱりいつも通りギルドで飲むことになるかな! アキラ来るか?」

 

キースはそう言ってダストとカズマの肩を組む。

 

「…いいや、今日は先約があるから遠慮しておくよ。 また今度一緒に飲もう。」

 

そう言うと三人はどこか安堵した様子で、「そうか、またな!」と言って去ってゆく。

 

「…さて、行ったか。」

 

その姿を見送ると、意を決して路地裏に入ってゆく。

 

少し歩くと、一際素敵な空気を醸し出すお店があった。

外見だけ見ると、確かに普通の飲食店だろう。しかし、普通の店とは違う雰囲気が漂っていた。

 

「ほほう、この町にもこういうお店はあるんですね。 アキラも男の子なんですから、こういうお店に興味を持つのは恥じることじゃありませんよ?」

 

「…まぁ、もう男の子って年でもないんだけどぉぉぉぉ!?」

 

横から聞こえる筈のない声が聞こえて、素っ頓狂な声をあげる。

 

「どうしたんですか、そんな変な声を出して。」

 

「どうしたじゃねぇよ! ちょっとこっちに来い!」

 

「わっ、ちょ!? 痛いです!痛いですから!」

 

めぐみんの声を無視して手を引っ張って店の前から離れる。

 

 

 

 

暫く走り、人気のないところまで来ると、掴んでいた手を離す。

 

「…んで、先に行ってろって行ったのにどうしてここに居るんだ?」

 

「どうしてと言いますと…アキラを追いかけたからですね。 カズマ達の姿は私も見かけましたし、話していた時も誤魔化すように話してましたから、何かあるのではないかと思って追いかけてきました。」

 

「…もう分かった、何も言わないさ。 …ただまぁ、ああ言うお店はめぐみんには早いから、いつも通りギルドで飯でも食おうじゃないか。」

 

そう言って、大通りに向かって歩き出す。

 

「おい、今私の子供だと馬鹿にしただろう。」

 

「…だって、まだ13じゃん。まだまだ子供だよ、子供。」

 

「なにおう! これでも後数ヶ月もすれば14歳なんですからね!結婚だって出来るようになるんですからね!大人ですよ、お・と・な!」

 

「まぁ13歳でも14歳でも、俺から見たら子供なんだけどな。 …ほら、腹減ったし飯でも食いに行こうぜ?」

 

そう言って大通りに出ると、いじけながらめぐみんも着いてくる。

 

…その後、昼飯代は俺が負担することになっていた事を思い出しためぐみんは、これでもかという程料理を頼み、俺の財布が散財しかけたのはまた別のお話。

 

 

====================

 

 

食後、用事があると言ってめぐみんと別れた俺は、再びあの店の前まで来ていた。 …のだが

 

「…あっ」

 

「「「あっ」」」

 

既に店の前に居たカズマ達と鉢合わせていた。

 

「…よ、ようアキラ。 お前、この辺になんか用でもあるのか?」

 

こちらを見ながら言ってくるカズマ。

俺は首を振りながら答える。

 

「用と言えば用かなぁ、そこの店に。」

 

そう言ってカズマ達の後ろにある店を指さす。

 

「なっ、お前もこの店を知ってたのか!? 」

 

「あの頭のおかしい娘と良い雰囲気なのに!?」

 

キースとダストは俺の方を見て言ってくる

 

「めぐみんは関係ないだろ! …俺だって男だ。別にこういうところに入ってもおかしくないだろう?」

 

その言葉に押し黙るカズマ達。

そんなカズマ達を横目に、俺は扉を開く。

 

「いらっしゃいませー!」

 

扉を開くと、男の欲望をそのまま形にしたような女性が居た。

その姿に、俺達四人は言い争っていたことすら忘れ、ゴクリと喉を鳴らす。

その女性の案内で店の中に入り、周囲を見渡すと見事に男性客しか居なかった。

 

「お客様は、当店のご利用は初めてですか?」

 

同じ席に座った俺達は全員頷く。

 

「…それでは、当店がどのようなお店で、私達がどのような存在なのかはご存知でしょうか?」

 

その言葉に、俺以外は頷く。 …周りに合わせて俺も頷いた。

それに満足したかのように、女性は机の上にメニューを置く。

 

「ご注文はお好きにどうぞ。 勿論、何も頼まなくても構いません。 …そちらのアンケート用紙に記入の上、会計の時にお見せください。 何か質問等あれば、ご自由に聞いてくださいね?」

 

その目の前の女性の言葉を聞き、俺達は手元の紙に目線を落とす。

横でカズマ達が質問していたので、それを参考にして、無言で記入をした。

 

カズマ達の方を見ると、全員記入を終わらせており、心無しかソワソワしていた。

 

「それでは、皆様三時間コースをご希望とのことですので、お会計は一人五千エリスでお願いします。」

 

数万は飛ぶだろう。 そう考えていた俺は予想外の金額の安さに固まった。

その様子から察したのだろうか、お姉さんはニッコリと笑いながら言う。

 

「…私達にとって、お金と言うのはこの町で人として暮らせる分だけあれば構いません。 後は、お客様からほんのちょっぴり精気を貰うだけですから。」

 

その女性の言葉に、誰かがこう呟いた。

 

「…か、神様…」

 

「や、やめてください縁起でもない! …それでは、最後に本日お泊まりの宿と就寝時間の記入をお願いします。 それと、余り深く眠られてしまうと、夢を見せることも出来なくなってしまいます。 …ですから、今晩はお酒等も控えてくださいね?」

 

ありがとうございました。と言う女性の声を背に俺達は店を出る。

 

全員、ソワソワしながら自分の宿へと思っていった。

 

 

 

 

 




思いついてしまったから書いた、後悔はしていない。 どうも、珈琲@微糖です。
サキュバス淫夢サービス回、ではありますがその夢の前までしか書ききれませんでした。それほどまでこの辺りの話は書きたいものが溢れるから困り物であります。

次回投稿も構想自体は出来ているのでなるべく早くしたいとは思ってはいますが、書きたいものがかけるかどうか。
と言うことで、今回はこのくらいにしたいと思います。次回以降も見ていただければ幸いです。


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第六話 - この素晴らしい夢の中に祝福を!

「あっ、やっと帰ってきた! ねぇカズマ!アキラ!凄いのよ!ダクネスの実家から、『娘が世話になっていますので、パーティメンバーの皆様に是非』って引越し祝いに、超上物霜降り赤ガニが送られてきたのよ!それも、高級なお酒が同封されて!」

 

帰ってきた俺達に、興奮気味のアクアが満面の笑みで話しかけてくる。

リビングに行くと、夕食の準備をしているダクネスと、食卓に広げられた蟹を拝んでいるめぐみんが居た。

 

「あわわわ…まさか、貧乏な冒険者家業を生業としておきながら、霜降り赤ガニをお目にかかれる日が来るとは……! 今日ほどこのパーティに加入しえ良かったと思った日はないです……!」

「…それってそんなに高級なカニなのか?」

 

既に食卓についていためぐみんに尋ねる。

 

「勿論ですよ! 分かりやすく例えるのなら、このカニを食べる為に爆裂魔法を我慢しろと言われたのなら、大喜びで我慢して、食べた後に爆裂魔法をぶっ放します。 そのくらい高級品なんです!」

「ほう、そりゃ凄……ちょっと待て、お前最後になんて言った。」

 

めぐみんの言葉に一瞬感心しかけるカズマ。

そんなことをしている間に、もう準備が出来たようで、食卓には調理されたカニやカニ鍋が並べられ、アクアが人数分のグラスを持ってきた。

 

そうして全員が食卓につき、早速霜降り赤カニを頂く。

パキッと割った足から、綺麗な白とピンクの身に酢をつけて一口……

 

直後、俺の頭の中に電流が走った。

口の中に広がる、カニのふんわりとした甘さと旨みは優しくも濃厚で、今まで食べたカニとは比べ物にならないほど美味しかった。

周りを見ると、他の全員も無言でカニを食べている。

 

いつしか足を食べ終わり、甲羅に残るカニ味噌を食べようとした時、突如アクアが声を発する。

 

「カズマカズマ、ちょっとここにティンダーちょうだい。 私が今から、この高級酒の美味しい飲み方を教えてあげるわ!」

 

アクアが作った簡易的な七輪にカズマが火を灯す。

そうすると、アクアは七輪の上にカニ味噌の残る甲羅を乗せ、甲羅の中に高級酒を注ぎ込む。

ゴクリ、と俺達四人は喉を鳴らしながらその様子を見つめる。

 

暫く熱し、甲羅に軽く焦げ目が付くと、熱燗したその高級酒を一口啜る。

 

「ほぅ……っ」

 

美味しそうにお酒を啜るアクアを見て、再び俺達はゴクリと喉を鳴らす。

 

その様子を真似し、ダクネスも同じように簡易七輪に火を灯し……

 

「!? これはいけるな、確かに美味い!」

 

一口飲むと、そう言った。

その言葉に釣られ、俺も甲羅に酒を注ぎ込もうとすると、カズマにグッと手を握られた。

 

「ちょっ、何邪魔して…っ!」

 

カズマの迷いながらもグッと酒を堪える姿を見て思い出した。

 

そうだ、これは罠だ!

 

酒をテーブルに置き、一言カズマにありがとう。と呟き、再び食卓に向き直ると…

 

「ダクネスやアクア達ばっかりズルいです!私も今日くらいお酒飲みたいです!」

 

めぐみんがダクネス達に酒をねだっていた。

その後、俺達が酒を飲んでいない事に気づくと、こちらにターゲットをうつす。

 

「あれ、アキラ達、そのお酒飲まないんですか? でしたら、私に譲っていただけませんか? 一杯だけ、一杯だけでいいんです!」

「ダメだ、せめてもうちょっと成長したらな。」

 

カズマがそう言ってめぐみんの要望を払い除ける。

ただ、周りがそうやって楽しんでいるのに一人だけ楽しめないのは酷な話だろう。

 

「なぁめぐみん。酒は渡せないが、その代わりにそいつの旨い食べ方を教えてやろうか?」

 

そう言って、カニ味噌が残った甲羅を指差す。

 

「!? どうするんですか、教えてください!」

 

そう言って俺の方を見てくるめぐみん。

 

「分かった、ちょっと待ってな…おーい、台所借りるからなー。」

 

そう言って、甲羅と身の入った足を一本持って台所に入る。

 

 

 

 

 

 

調理が終わり、台所から戻ってくると既にカズマの姿はなかった。

 

「お待たせー。はい、俺の昔居た国にあった『グラタン』って料理だ。 …ところで、カズマはどうしたんだ?」

 

偶然、バターや牛乳に小麦粉らしきもの、つまみに買っていたチーズがアクアの作った冷蔵庫もどきの中にあったので、拝借し作ったグラタンをめぐみんの七輪の上に置く。

 

「カズマなら、昼間キース達と飲んできたからと言って早々に部屋に戻ったぞ? …それにしても、これは美味そうなものだな。どうやって作ったんだ?」

 

そう言うダクネスは、七輪に置かれたグラタンを見る。

 

「まぁ、作り方に興味あるなら、時間がある時にでも教えるさ。」

「あ、アキラ!美味しそうな匂いが漂っているのですが、これは私が食べてもいいのですか!?」

「あぁ、めぐみんの為に作ったんだ。 …と言っても、口に合えばいいが。」

 

そう言い切る前に、めぐみんはグラタンを一口食べる。

…何も言わずにスプーンを置き、こちらを見ながら言う。

 

「…アキラ、私の所に嫁に来ませんか?」

「誰が嫁だ。 第一、俺は男だ。」

 

真剣な顔をして言うので、口に合わなかったかとドキドキしたが損した。

 

「なら婿でもいいです! 大丈夫、お金は私が稼ぎますから、料理だけ作ってくれればいいので!」

「だーもう! 第一お前はまだ結婚出来る年でもないだろ! …冷めたら美味くなるから、温かい内に食ってくれ。」

 

そう言うと、そうですか。と言って再びグラタンを食べるめぐみん。

はぁ。と息をつくと、ダクネス達がニヤニヤしながらこっちを見ていた。

 

「いいじゃないか、お似合いだぞ?」

「大丈夫よ、困ったらアクシズ教に入信しなさい。 例えロリコンでも許されるから、白い目をされながら式をあげることもないわよ?」

 

その二人の言葉に、顔が赤くなってゆく。

 

「だぁぁぁ!!!! 恥ずかしいからそんな事言うなっ!!!」

 

そう言って、手元にあった水を一気に飲む。

 

「あっ、アキラ、それはっ!」

 

何かに気づいたアクアは俺を止める。

…だがしかし、水は既に飲みきっていた。

 

「…あれ…アクア達が歪んで見えるんだが……」

「それ、お酒よ。 一気に飲むから、変に酔が回ったんでしょうね。 そこのソファーで寝てなさいな。」

 

グラグラする頭を押さえ、言葉に甘えてソファーに横になる。

そこから先の記憶は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眠っている体がグラグラと揺らされる。

ゆっくりと目を開けると、目の前にはめぐみんの顔があった。

 

「全く、アクアもダクネスも片付けが終わったらそそくさと自分の部屋に戻って…誰がアキラを運ぶと思ってるんですか。」

 

そう言って呆れながら言うめぐみん。

 

 

──段々目が覚めてきた俺の頭に、昼の記憶が蘇る。

 

 

「ほら、早く起きてください。 こんなところで寝てしまっては風邪を引きますよ?」

 

 

──そうか、今のこれは

 

 

「ねぇ、めぐみん。」

 

「どうしたんですか、水でも欲しいんですか。」

 

 

──コレハ、ユメナンダ

 

 

「部屋まで連れてって!」

 

その言葉に一瞬固まっためぐみんに抱きつく。

 

「なっ…ちょっと、いきなりどうしたんですか!まだ酔ってるんですか!?」

「よ、酔ってないやい!」

「そう言う人ほど酔ってるんですよ! …全く、早く行きますよ。」

 

そう言ってめぐみんは俺を引き摺るように連れていく。

 

「色々言って連れてってくれるなんて、やっぱりめぐみんは優しいなあ。」

 

そう言って彼女の頭を撫でる。

 

「…おい、この場で下ろされたくなければその手を止めろ。」

 

渋々手を止めると、何も言わずにめぐみんは部屋まで連れていく。

 

 

 

 

「ほら、部屋に着きましたよ。 早く離してくださいって。」

 

部屋の前まで着くと、めぐみんがこちらを見ながら言う。

 

「んー、ベッドまで連れてってー。」

 

そう言うとめぐみんは、はぁ。と溜息を着いて部屋に入っていく。

 

「…よっと。 ベッドに着きましたし、私も眠たいのでもう部屋に戻りますからね。」

 

そう言ってベッドに俺を下ろし、部屋を出ていこうとするめぐみん。

 

その後ろ姿に抱きつき、ベッドへと引きずり込む。

 

「ひゃぅ!? ちょ、あ、アキラ!?」

 

想定外の事に声を上げるめぐみん。

その声を無視して、めぐみんと共に布団を被る。

 

「アキラ! いきなり何するんですか!」

「何って、一緒に寝ようかなぁって思って。」

 

顔を真っ赤にするめぐみんの顔を見て言う。

 

「な、何を言ってるんですか!また今朝みたいに噂されてしまいますよ!」

「…俺はいいよ? めぐみんの事、結構好きだし。」

 

その言葉に、耳まで顔を真っ赤にするめぐみん。

そんな彼女の頭を撫でる。

 

「…あ、あの、アキラ…? 冗談とは言え、そんなこと言われたら流石に困るのですが…」

 

赤らめた顔で上目遣いでこちらを見てくるめぐみん。

 

「…本当に冗談だと思う?」

そう言って、ペタリと自分のおでこをめぐみんのおでこに合わせる。

 

「ち、近いです! このままだと…その…っ!」

「…このままだと…なに?」

 

意地悪にそう答える。 あうあうと口篭っていためぐみんが何かを言おうとした時、どこかから声が聞こえてきた。

 

 

 

「この曲者ー! 出会え出会え! 皆、この屋敷に曲者よー!」

 

 

 

その言葉にハッとしためぐみんは、アキラの方を見て言う。

 

「あ、アキラ! アクアの声が! 何やら侵入者が来たらしいですから、早く行きましょう!」

 

しかし、俺はめぐみんの体に回していた腕をぎゅっと強めた。

 

「…あ、あの…アキラ? どうしたのですか、早くその手を離して、アクアの元に行かないんですか…?」

 

めぐみんがキョトンとした顔で問いかける。

 

「…やだ、もっとめぐみんに甘えたい…」

 

そう言うと、少し迷っためぐみんは溜息をついて頭を撫でる。

 

「…全く、少しだけですからね。 またアクア達になんと言われるのやら…」

「…ありがとな、我が儘聞いてくれて…」

「まぁ、普段は魔法を打ちに行ったりするのに毎回着いてきてもらってますから、そのお礼です。 ……それに、私もアキラの事、結構好き…ですから…」

 

その言葉に、俺はドキッとして俯く。

そんな俺に、追い打ちをかけるようにめぐみんは耳元で囁く。

 

「…後、夕飯の時に言ったこと、結構本気ですからね…?」

 

普段の俺ならば、デコピンの一つでも出来ただろう。

しかし、今の俺の頭の中を混乱させるのには十分すぎる言葉だった。

 

「〜~~~~!!! も、もう寝る!おやすみなさいっ!」

 

そう言って俺は、布団を深く被る。

 

「(…あぁ、これでユメも終わりかぁ…)」

 

薄れゆく意識の中、そんなことを思う。

 

「(…現実でも、素直に言えたらいいのになぁ…)」

 

そうして俺は、深い眠りについた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朝ですよー、早く起きてください。」

 

誰かに体が揺すられる。ゆっくり目を開けると、目の前には普段の格好をしためぐみんが居た。

 

──ああ、やっぱり夢だったのか。

 

「ん…っ…あぁ、もう朝か…」

 

布団から起き上がり、大きく伸びをする。

 

「ふぅ、やっと起きましたか。 私が布団から出ようとした時は一苦労したのに。」

 

…ん?

 

「…な、なぁ、めぐみん。 昨日の夜、何かあったか…?」

「? …ええ、アクア達が言うには、夜中サキュバスが侵入してきたって言ってましたが…」

「………めぐみん、昨日の夜のこと、覚えているか?」

「急にどうしたんですか? …あんな普段とは違うアキラを見て、忘れたと言う方が不思議ですよ。」

 

そのめぐみんの言葉に固まる俺。

 

「と、とりあえず着替えたいから、一度外にでててもらえないか?」

 

そう言うと、めぐみんは部屋を出ていく。

 

着替えてから廊下に出ると、目の前でめぐみんが待っていた。

 

「なんだ、待っていてくれたのか。 先にリビングに行っててもらっても良かったのに。」

「そう言って二度寝されたら困りますから。 もしも暫く出てこないようなら扉をこじ開けてやろうかと…」

「物騒な事言うな。 …それと…出来れば、昨日の事は忘れてくれ…」

 

リビングに向かって共に歩くめぐみんにそう言う。

しかし、彼女はいたずらっ子のような笑みを浮かべる

 

「お断りします。 …だって、折角アキラから嬉しい言葉が聞けたんですから!」

 

そう言って腕に抱きついてくるめぐみん。

俺は溜息をついて、リビングへと向かう。

 

「…まぁ、こういう生活も悪くは無いか。」

 

そう、直後聞こえてきた、この放送さえなければ。

 

『デストロイヤー警報!デストロイヤー警報!機動要塞デストロイヤーが、現在この町に向かって接近中! 冒険者の皆様は、装備を整えて冒険者ギルドへ! 町の住民の皆様は、直ちに避難してくださいっ!!』

 

神様、ぼくは何か悪いことでもしてしまったのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 




思いついたがままに書いたらこうなった。反省はしていない。どうも、珈琲@微糖です。

漸くデストロイヤー戦、これで二章もラストスパートとなります。
ただ、今のところどのようにデストロイヤー戦で絡めていくか悩んでるところですので、次回の投稿は少し日を置くと思いますが、また次回以降も見ていただければ幸いです。


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第七話 - この恐ろしい機動要塞への対抗策を!

「アキラ!こんなことしている場合じゃないです! 早く荷物をまとめて逃げましょう!」

 

デストロイヤー警報が鳴り響いた直後、隣のめぐみんが声をあげる。

 

「落ち着け! 一先ずカズマ達と合流してから、どうするかを決めよう。」

 

そう言って俺はめぐみんの手を引っ張る。

この時間だと、日課の草むしりをしているだろう。 そう思って表へ出ると、普段の冒険着のカズマと、家財を荷車に積んだアクアが居た。

 

「ちよっと、貴方達何してるの! 早く逃げるのよ、遠くに逃げるの!」

 

「…なぁ、めぐみん。 デストロイヤーってそんなにやばいのか?」

 

先日、デストロイヤーとはどんなものなのかを聞いたが、どうしてアクアがそんなに焦っているのかが分からなかった。

 

「ええ、それが通った後にはアクシズ教徒以外、草も残らないとまで言われる最悪の大物賞金首、それが機動要塞デストロイヤーです。 …因みに、戦おうなどとは思わない方がいいですよ? 無謀にも程があります。」

 

「ね、ねぇ、私の可愛い信者たちがなぜそんな風に言われているの? この間ウィズにも言われたんだけど、どうしてうちの子達ってそんなに怯えられているのかしら、みんな普通のいい子達ばかりなのよ?」

 

アクアがめぐみんを見ながらそう言うが、今は関係がないのでスルーしておく。

 

「なぁ、それはめぐみんの爆裂魔法でどうにからならないのか? 名前からしてでかそうだし、遠くから狙えばいけるんじゃないのか?」

 

「無理ですね。 デストロイヤーには強力な魔力結界が貼られています。 爆裂魔法の一発や二発、防いでしまいます。」

 

カズマがめぐみんに尋ねるが、彼女はそう答える。 …あれ、これって無理ゲーじゃね?

何やら横でアクアとめぐみんが言い合いをしてる中、カズマが不意に周囲を見回す。

 

「あれ、そう言えばダクネスはどうした? 放送が聞こえたら、一目散に屋敷に戻ったはずだが…」

 

「ダクネスなら屋敷に戻って来たと思ったら、部屋に行ってたわよ?」

 

アクアの言葉にカズマは肩を落とす。

 

「まぁ、なんだ。 逃げるにしてもギルドに向かうにしても、さっさと準備した方がいいんじゃないか?」

 

俺がそう言うと、カズマが溜息をつきながら、そうだな。と生返事を返してくる。

 

一先ず部屋に戻ろう、そう思った時に後ろの階段から声が聞こえてくる。

 

「遅くなった! ……ん、どうしたんだ。カズマとアキラなら、ギルドに向かうと思ってたんだが。」

 

その声の主は、今まで見たことないような重装備をしたダクネスだった。

 

流石、聖騎士なだけある。

彼女の姿には、逃げるという選択肢はないようだった。

 

「おいお前ら、こいつを見習え! 長く過ごしたこの屋敷と町に愛着はないのか! ほら、ギルドに行くぞ!」

 

「ね、ねえカズマ。今日はどうしてそんなに燃えているの? なんか、目の奥がすっごいキラキラしているんですけど。 というか、この屋敷に住んでからまだ一日しか経っていないんですけど。」

 

燃えるカズマと、窘めるアクア。

きっとギルドに行くことになるんだろうなぁ

そう思った俺は、部屋に戻り装備を整えたのだった。

 

 

====================

 

 

「おっ、カズマ達じゃねぇか。 お前達なら来ると信じてたぜ!」

 

ギルドに着くと、重装備を纏ったダストがカズマに話しかける。

その後ろにはテイラーやキース、リーンの姿も見える。

周囲を見回すと、普段とは違った面持ちの冒険者達が、各々重装備を纏って集まっていた。

…心なしか、男性が多いような気がするが、気のせいだろう。

 

少しすると、職員の放送が鳴り響く。

 

「お集まりの皆さん! 本日は、緊急の呼び出しに応えて下さり大変ありがとうございます! 只今より、対機動要塞デストロイヤー討伐の緊急クエストを行います! このクエストには、レベルも職業も関係なく、ここに居る皆様全員参加でお願いします。 無理と判断した場合、全員で逃げることになります。 皆さんがこの町最後の砦です。 どうか、よろしくお願い致します!」

 

放送を聞いた冒険者達は机を集め、即席の会議室のような空間を作り出す。

 

「それでは、これより緊急の対策会議を始めます。 皆さん、席についてください。」

 

その言葉に、ギルドに集まった冒険者達は席に着く。

 

…その会議の内容は、お世辞にもいいとは言えなかった。

 

 

 

「町の周りに大穴を掘ってその中に入れるとかは?」

 

「過去にやろうとした国はありましたが、穴に入れるまで良かったのですが、その八本の足で飛び越えられました。」

 

 

 

「ロープかなにかで乗り込めないのか?」

 

「あの機動力じゃあ乗り込むどころかロープを掛ける暇すらないだろう。」

 

 

 

「巨大なバリケードを作って奴の進路をずらせばいいんじゃないかな?」

 

「それに関しては資料が残っています。 …そのバリケードを迂回して、踏み潰していきました。」

 

 

………

 

 

ギルドの空気は重く静まり返っていた。

 

「なぁカズマさんや、何かいい案はないかのぅ…。」

 

「急に変な声を出すなよ…そんな事言われてもなぁ、離れた所からめぐみんがぶっ放す位しか考えて無かったんだが、結界で守られて…る……」

 

俺がカズマに冗談半分で聞くと、何やらカズマは考え込む。

 

「…なぁアクア。 ウィズの話だと、魔王の城に張ってある結界も幹部2~3人程度になればお前の力で破れるとか行ってなかったか? それならデストロイヤーの結界も…ってなんじゃこりゃぁ!?」

 

カズマの言葉に釣られ、アクアの方を見ると水だけで描かれた芸術作品がそこにはあった。

 

「あぁ、そう言えばそんな事も言ってたわね。 …でも、やってみなくちゃ分からないわよ?どれくらい頑丈なものかわからないし、必ず破れるって確約は出来ないわ。」

 

そう言うと、アクアは絵の上に水をぶっかけて消した。 勿体ない。

 

その後、何か言い合いをしていた二人だが、アクアの言葉にギルドの職員が声をあげる。

 

「破れるんですか!? デストロイヤーの結界を!?」

 

その声に、アクアのカズマに注目が集まる。

 

「いえ、もしかしたらなので、確約はないそうです。」

 

「いえ、取れる手はすべて取りたいので、やるだけやってみてはもらえませんか? 仮に破れたのなら、魔法による攻撃が…いや、下手な魔法攻撃だと根本から通じませんし、駆け出しのこの町にそんな火力なんて…」

 

そう言うと、職員が再び考え込む。

そしてまた訪れた重い空気の中、一人の冒険者が口を開く。

 

 

「…あ、居るじゃねぇか。この町に火力持ちって言ったら、頭のおかしいのが。」

「…そうか、頭のおかしいのが……!」

「おかしい子が居たな!」

 

 

その言葉と共に、再びざわつくギルド内。

 

「おい待て、それが私のことを言っているのなら、その略し方はやめてもらおうじゃないか。 さもなくば、今ここで私がいかに頭がおかしいのかを証明することになるぞ。」

 

「はいストーップ、とりあえず落ち着こうねー。 そんな事したら、デストロイヤーが来る前に俺達がバラバラになっちゃうからねー。」

 

杖を持って立ち上がるめぐみんを、頭から掴んで無理やり座らせる。 …ついでに撫でておこう。

 

「…ぁぅ…そ、それでも、我が爆裂魔法をもってしても、流石に一撃で仕留めるのは…ぁぁ…」

 

頭を撫でられてるめぐみんの声が段々と小さくなる。

 

「…となると、もう一人火力持ちが必要か……ん? アキラ、アクアから魔力増強を受けてお前の能力を使えば、足の一本や二本飛ばせるんじゃないか?」

 

ハッと閃いたカズマは俺を見て尋ねる。

 

「…まぁ当たれば出来ないこともないが、流石に高速で動く足に当てるなんて曲芸は出来ないぞ? …もしも奴が止まった後に、突入する必要があるなら胴体に大穴を空けるこの位しか出来ないと思う。」

 

撫でる手を顎の下に移動させ、しれっと答える。

 

「流石に出来ないよな…って、今すげぇ物騒なことが聞こえた気がするんだが。 …それとお前らはさっきから何をやってるんだ。」

 

そう言ってカズマのこちらを見る目がジト目に変わる。

その瞬間、ギルドの入口から声が聞こえた。

 

「すみません、遅くなりました… ウィズ魔道具店の店主です。 一応冒険者の資格を持っているので私もお手伝いに……」

 

声の方向を見た冒険者達は一斉に歓声をあげる。

 

「店主さんだ!」

「貧乏店主さんが来た!」

「店主さん、いつも夢でお世話になってます!」

「店主来た、これで勝る!」

 

 

「…なぁ、カズマ。 この町の人達ってウィズの正体を知らないんだよな? …どうしてあんな盛り上がってんだ?」

 

「知らん。…なぁ、なんでウィズってこんなに有名なんだ? 確かに人気はありそうだが、これは一体…ってか、貧乏店主って呼ぶのやめてやれよ。」

 

俺の言葉を聞いたカズマが、近くに居たテイラーに話を聞く。

 

曰く、ウィズは元は凄腕のアークウィザードだったのだが、引退してから暫くは姿を見せなかったらしい。

しかし、いつしかこの町に戻ってきて魔道具店を開いたのだが、高額な商品ばかりで繁盛はしていないらしい。 だが、店主が美人なので、皆覗きに行ったりしてるそうな。

 

「…通うくらいなら少しでも買ってやれよ。」

 

「あ、あはは、まぁ供給に対して需要が合ってないだけだろうなぁ…」

 

ある程度ざわめきが落ち着いたところで、ルナが話をまとめる。

 

「ということで、まずはアクアさんがデストロイヤーの結界を破壊。その後、めぐみんさんとウィズさんがデストロイヤーに向かって爆裂魔法を使用し、足を壊します。 機動力さえ奪ってしまえば、後はどうとでもなるでしょう。」

 

その言葉に冒険者達は頷く。

 

「ただ、何か有事が起こり突入せざるを得ない場合はアキラさんがデストロイヤーに対して攻撃し、出来るだけ大きな穴を開けてください。そこから全員で突入します。」

 

その言葉に、俺は頷く。

 

「それでは皆さん…緊急クエスト、開始です!」

 

 

「「「「「「おーっ!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第八話 - この機動要塞に爆炎を!

「うーん、ああは言ったものの、どうするものやら…」

 

対策会議を終えたギルドで、俺は図面を広げて悩んでいた。

 

「どうしたんだアキラ、行かないのか?」

 

「…あぁ、カズマか。 いやな、ああは言ったものの、デストロイヤーの表面の材質が分からないからどうやって破ろうか迷ってて。」

 

そう言って後ろから声を掛けてきたカズマに相談する。 周囲を見渡すと、他の冒険者達は各々持ち場に向かったようで、俺達パーティメンバーとウィズしか残っていなかった。

 

「お前、そんな調子で大丈夫かよ………」

 

「まぁ、何をどうするかは思いついては居るんだが、如何せん起爆剤が思いつかなくてなぁ…どこかに火薬の代わりになるものはないんかねぇ…」

 

呆れるカズマの目線を気にしないようにしながら頬杖をつく。

すると、おずおずとウィズが手を小さくあげる。

 

「あのー、それでしたら私の店にあるポーションを使いませんか? …それなりにお値段はしますが…」

 

その言葉に、アクアとカズマがポンと手を打つ。

 

「…ポーションと言いますと、飲むと回復したりするあれですよね?」

 

「ああ。中には攻撃用途のポーションもあるが、こんな始まりの町で買う者などほとんど居ないから、仕入れているのは王都の魔道具店位だろう。」

 

そう言って首を傾げるめぐみんとダクネス。

 

「それが、この間ウィズの店に行った時に爆発系のポーションが大量にあったんだ。 …あったよな、アクア?」

 

「ええ、確か温めると爆発するポーションとか、水に触れると爆発するポーション、瓶から出すと爆発するポーションに…そう言えば、強い衝撃を与えると爆発…「それだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

種類をあげるアクアの声に反応し、俺は立ち上がってウィズの手を握る。

 

「ひゃい!? と、どうなされましたか…?」

 

「衝撃を与えるポーションと水に触れると爆発するポーション! その二つがあれば完成するんだ! いくらなんだ、ウィズ!」

 

俺の行動に少し怯えるウィズ。 …どこかから、冷たい目線を受けてる気がするが、気のせいだろう。

 

「え、えーっと…確か一本10万エリス…「買ったァ!」

 

「な、お、オイ! 俺達は報酬は借金返済に回してるからそんな大量の金なんて…」

 

興奮する俺を鎮めようとするカズマがそう言う。

 

「大丈夫だ。 …こんなこともあろうかと借金返済に使わなかった俺の隠し財が70万程…」

 

「なにっ、お前そんなことしてたのか!」

 

俺の言葉にカズマが驚く。 …とは言っても、キャベツの報酬を殆ど使っていなかっただけだが。

 

「その話は置いといて、俺達も所定の場所に向かおう。 …ウィズ、ポーションを頼めるか?」

 

「は、はい。 それはいいのですが…その、そろそろ手を離して頂けませんか?」

 

「…あっ、悪い。興奮してつい…」

 

そう言って手を握っていたことを思い出した俺はハッとして手を離す。

…視界の端で、めぐみんかこっちをじっと見ていた。

 

「…どうした、めぐみん?」

 

「…なんでもありません!」

 

ふんっ。とそっぽを向くめぐみん。 理由は後で聞くとして、今は一先ず支度をするために屋敷に戻った。

 

 

==========

 

 

ウィズからポーションを購入し正門に着くと、冒険者達だけでなく町に残る人達も一緒になって正門の前にバリケードを作る。

その中には、こちらに来てからお世話になっていた主任の姿も見えた。

 

そのバリケードの前では、"クリエイター"達がああでもない、こうでもない。と言い合いながら魔法陣を描いていた。

…その前には立ち続けているダクネスと、後ろに下がるよう説得していたカズマが居た。

あっ、戻ってきた。説得は失敗かな?

 

そんな中俺は、正門の上にいた。

 

「さてと…アクアー、準備出来たから支援魔法を頼むー!」

 

「任せなさい! 今こそ私が本当に女神であることを示す時、アクシズ教徒達から集めた信仰の塊を見せてあげるわ!」

 

そう言って、側に聳える塔に居るアクアから支援魔法を受ける。

 

「よし、もう大丈夫だそー!ありがとなー!」

 

そう言って俺は魔力を幾らかの金属等に変える。

 

「…よし、それじゃあ始めますか!」

 

そう言って金属片を集め、目的のものを作り始める…。

 

 

 

 

 

「…説得は失敗した。 あの頭の固い変態を守る為にも、確実に成功させるぞ!」

 

"クリエイター"達の描く魔法陣の前、最前線に立つダクネスをどうにかして後ろに下げようとしたが失敗に終わった(カズマ)はめぐみんの居る迎撃地点まで戻っていた。

 

「そ、そそ、そうですか! や、やらなきゃ…わ、私が絶対やらなきゃ…!」

 

横でガチガチと震えているめぐみんを見て、こんな調子で大丈夫か。と思ってしまう。

 

「お、おい落ち着け。 いざとなったら、あいつの装備を《スティール》でひん剥いて、力尽くでも引っ張って逃げるから。」

 

そう言って、反対側に居るウィズとアクアの方を見る。

…何故か屈み込み話し込んでいた。

 

そんな中、広い平野にルナの声が鳴り響く。

 

『冒険者の皆さん、そろそろ機動要塞デストロイヤーが見えてきます! 町の住人の皆さんは、直ちに町の外に遠く離れていてください! それでは、冒険者各員は手筈通りお願いします!』

 

その声と共に、遠くから巨大な塊が見えてくる。

 

「何あれ、でっけぇ…」

 

デストロイヤーの登場に、俺は口をあんぐりと開いていた。

これ、爆裂魔法で破壊できんのか?

 

「なんだあれ、本当にいけんのか!無理じゃねぇのか!」

 

誰かがそう叫ぶ。

 

「「《クリエイト・アースゴーレム》!」」

 

"クリエイター"達の描いた魔法陣から巨大な土のゴーレムが召喚される。

 

「ちょっとウィズ!あれ本当に大丈夫なんでしょうね!…大丈夫なんでしょうね!?」

 

「大丈夫です、アクアさん。 これでも最上位アンデッドの一人です。 アクア様が魔力結界さえ打ち破ってくれれば後はお任せを! ………もしも失敗しても、皆で仲良く土に還りましょう。」

 

「冗談じゃないわよ! シャレにならないわよ!」

 

反対側では何やら二人が騒いでいる。

そんな二人を見ながら、俺は隣でガチガチに緊張しているめぐみんに声を掛ける。

 

「おい、とりあえず落ち着け! 失敗しても誰も責めないさ。 もしダメだったら、皆で町を捨てて逃げ出せばいいだけだ!」

 

「だ、だだだだ、大丈夫です! わ、我が爆裂魔法でけっ、消し飛ばして見せまひょう!」

 

めぐみんが噛み噛みで返事をする。

俺はため息をつき、その手に持った拡声器のような魔道具で声を掛ける。

 

…どうして俺がこんなものを持っているのかというと、俺がこのパーティでリーダーをやっていると言うことを知ってる一部の連中が、俺の立場を現場監督まで引き上げさせたからだ。

 

『来るぞー! アクア、今だ!!』

 

俺が声をかけると、アクアの周りに魔法陣が展開される。 普段は持っていない杖も使っていることから、アクアも今回は本気なのだと分かる。

 

「《セイクリッド・ブレイクスペル》ッ!!」

 

アクアの杖の先に白いが光が集まり、デストロイヤーに向かって打ち出す。

 

光がデストロイヤーの元に辿りついたと思った時、デストロイヤーの周りに無数の魔法陣が展開され、アクアの魔法と肉薄する。

 

「アクアッ!!!」

 

「ふぬぬぬぬ………うぁぁぁぁ!!!!!」

 

そんな叫び声をあげると、光はより一層輝きを増し、遂にその魔法陣を打ち破る。

 

『ウィズ、爆裂魔法の準備だ!』

 

拡声器を通してウィズに声を掛けたら、俺は隣で震えるめぐみんに声を掛ける。

 

「おい、何やってんだ! お前の爆裂道ってのはあんな要塞程度で諦めるほど柔なものだったのかぁ!?」

 

「な、なにおぅ!? 我が爆裂道を馬鹿にしましたね!?」

 

めぐみんがこっちを見ながら叫ぶ。

 

「あぁ馬鹿にしたさ! その程度で諦めるような気持ちでやってたら、アキラだって着いてこないだろうしなぁ!」

 

「ぐぬぬ…言いたい放題言って…というか、アキラは関係ないでしょう!」

 

「いいや関係あるね! どうせお前、あいつの事好きなんだろ? そんな奴の前でガタガタ震えて、恥ずかしくないのかよ!」

 

そう言われためぐみんは俯いたと思ったら、肩を震わせながら前を向く

 

「ふ…ふふふ…カズマの癖して言ってくれますね……ええ、好きですよ、大好きです! 我が爆裂道には、アキラが必要なんです! アキラと一緒じゃなきゃ、嫌なんです!」

 

自信を取り戻しためぐみんは杖を構える。

 

「…なら、あいつにお前の真の爆裂魔法を見せてやれ!」

 

「言われなくても!」

 

そう言うと、ウィズと共に呪文の詠唱を始めるめぐみん。

 

 

『黒より黒く、闇より暗き漆黒に』

『我が真紅の混交に望み給もう。』

『覚醒の時来たれり、無謬の境界に堕ちし理』

『無形の歪みと成りて現出せよ!』

 

『《エクスプロージョン》ッッ!!!』

 

 

ウィズとめぐみんから放たれた爆裂魔法はデストロイヤーの足を一本残らず吹き飛ばす。

突然足を失ったデストロイヤーは勢いをそのままに地面を抉って滑り込む。

 

こちら側には、空から足だったものの破片が降ってくるが、ウィズの方にはそのようなものは降ってこなかった。

 

「…よし、めぐみん、無事やったぞ。」

 

「ぐぬぬ…無念です……。 流石はリッチー、私にはまだレベルが足りないようです…。」

 

そう言って悔しそうに横になるめぐみん。

 

「よしよし、よくやったよくやった。」

 

「…カズマ。…アキラは私の爆裂道に着いてきてくれるんでしょうか…。」

 

倒れながら俺に尋ねてくるめぐみん。

 

「あぁ、あいつの事だからきっと着いてくるさ。 初めてお前の爆裂魔法を見た日の風呂で、興奮気味に俺に凄かったってのを話してきたようなやつなんだぜ?」

 

その言葉に満足げに笑うめぐみん。

 

「やったか!」

「俺…これが終わったら結婚するんだ…」

 

下からそんな声が聞こえてくる。

…この台詞はまさか…

 

「さぁ、帰って乾杯よ! 報酬はお幾らかしらね!」

 

「「こんの馬鹿ー!そんな事言うなー!」」

 

俺と、正門の上に居るアキラが声をあげる。

 

その声は、突如鳴り響いた。

 

 

『この機体は活動を停止しました。 排熱及び、機動エネルギーの消費ができなくなっています。 搭乗員は速やかにこの期待から離れ、避難してください。 繰り返します……』

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

冒険者達は叫びをあげる。

 

「おい、この警報はなんなんだ! あいつはもう動けなくなった筈だよなぁ!?」

 

「…恐らく、このままにしておくとボンって行くんじゃないか…?」

 

平野まで降りてきた俺は、冒険者の言葉に対して呟く。

 

「お、おい!これってどうすればいいんだ、何かないのか、ウィズ、アクア!」

 

「…恐らく、動力源をどうにかすればこの爆発は収まると思います。…ですが、中にはゴーレム達が…」

 

俺の言葉にウィズが返答する。

その後ろから声が聞こえてきた。

 

「…つまり、あの体に大穴を開けてやればいいわけだな?」

 

「アキラ! そうだ、あいつの土手っ腹におおあ…な……」

 

颯爽と現れたアキラの姿に、俺達は絶句した。

 

 

 

 

 

「…?どうしたんだ、その変なものを見る目は。」

 

周りの皆が(アキラ)に見ながら固まっている。

 

「…なぁアキラ、その変な筒はなんなんだ?」

 

デストロイヤーに一番近い位置に居るダクネスがこちらを見ながら話しかける。

 

「ああこれ? …最終兵器?」

 

「…すみません、それでどうやって穴を開けるんですか?」

 

俺の言葉に木陰に座るめぐみんが首を傾げながら尋ねる。

 

「それは百聞は一見に如かず、ってことでやってみた方が早いと思うぞ。」

 

そう言って、俺は背中のそれを構える。

 

「ダクネスー、そこ危ないぞー。 少し下がってろ!」

 

俺の言葉に戸惑いながら少し距離を取るダクネス。

 

「…よし、準備完了。 …さぁ、行くか!」

 

「なぁアキラ、ちょっといいか。」

 

準備が出来たところでカズマが話しかけてくる。

 

「…なんだ、手短に頼むぞ?」

 

「…お前は…なんてもん(ロケットランチャー)作ってんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

俺が構えた、ロケットランチャーもどきを見ながらカズマはそう叫んだ。



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第九話 - この素晴らしい爆発に祝福を!

「おい、何そんな物騒なもん作ってんだよ!相手は止まってんだし、ハンマーでもなんでもやり様はあるだろうが!」

 

カズマがそう俺に訴える。

 

「馬鹿野郎、そんなん使ってたら普通に乗り込んだ方が早いだろうが! 手っ取り早く道を開けるにはこの手に限る!」

 

俺達が言い合いをしていると、後ろから声を掛けられる。

 

「いいから早くしろー!もう時間が残ってないぞー!」

 

その冒険者達の言葉に、俺はグッと握った腕を上げて応える。

…そんな空気に、流石のカズマも諦めたようだ。

 

「さぁ、皆下がってな! 俺が用意したこれは魔法とは一味違うぜ!」

 

その俺の言葉に、全員が俺から離れる。

 

 

『魔力を推進力へ変換。圧力強化、圧縮。』

『我が操るは、力無き人間の知恵の結晶。』

『我が呼び起こすは、力無き人間のもたらす災厄。』

『いでよ、人類が手にした究極の武器の最高傑作!』

 

『エクスプロージョンッ!!』

 

 

(全く必要の無い)詠唱を終えると、筒から打ち出された弾丸は一直線にデストロイヤーへと向かっていく。

 

着弾した瞬間、中に込められたポーションによって巨大な爆発が引き起こされる。

 

「…く…クハハハ…ッ! ここからだ…アキラ式連続爆破を見るがいい!!」

 

俺がそう叫ぶと、爆発したポーションの水分によって、新たなポーションが誘爆を起こす。

 

「…確かに、こいつの装甲は固い。 だが、総数十数発にも及ぶ誘爆に耐え切れるかなぁ!?」

 

そう叫んだ直後、爆発によって高温になったポーションが誘爆を起こす。

 

 

「……なんだあいつ…頭がイカれてやがる

……」

 

 

冒険者の誰かが、爆発を見て甲高い笑い声をあげるアキラを見てそう言う。

そう言っている間にも、誘爆は更なる誘爆を起こし、全てが止んだ頃にはデストロイヤーには宣言通り、大穴が空いていた。

 

 

「へへっ…どうだ、見たものか…! 皆、今だ!乗り込んでくれ!」

 

 

俺が声を上げると、一番デストロイヤーの近くに居たダクネスが先陣を切ってデストロイヤーに向かって駆け出す。

それを見てハッとした冒険者達も次々にデストロイヤーに乗り込む。

 

「あー、やべ。魔力使いすぎた……」

 

いくらアクアから支援を受けていたとは言え、使える魔力には限りがある。

その場に倒れそうになる肩を、不意に誰かに支えられる。

 

「…よくあんなのが思いついたな、お疲れさん。」

 

「初級魔法をえげつない組み合わせをするお前には敵わないさ。…大体ウィズのポーションとアクアの支援魔法のお陰だ。俺はただ、それを合わせただけに過ぎない。」

 

魔力が残り少なく、立っているのが限界な俺はカズマにめぐみんと同じ木陰に運ばれる。

 

「じゃあ俺達もあの中に乗り込んでくるから、お前達はここで大人しくしていてくれ。」

 

そう言ってカズマ達もデストロイヤーの中へと入っていく。

 

 

 

 

取り残された俺達二人の間に、静寂が流れる。

その静寂を破ったのはめぐみんだった。

 

「…アキラ、さっきの攻撃…凄かったですよ。 ただ、あの程度の爆発で爆裂魔法を名乗るなど百年早いです。」

 

「それは分かっているさ、言ってみたかっただけ。 それに、まだまだ俺の魔力じゃあ爆裂魔法なんて夢のまた夢だからな…」

 

そう言って俺が苦笑すると、めぐみんがこっちの方を見て言ってくる。

 

「…アキラ。 一つ、お願いしたいことがあります。」

 

「…どうした?」

 

めぐみんの真剣な表情を前に、俺の背筋が自然と伸びた。

 

「…これから先、私と共に爆裂道を歩みませんか? 私の爆裂道には、アキラが必要なんです…!」

 

そう言ってめぐみんは、俺の手をぎゅっと握る。

 

「…はぁ、そんなこと言われて、断れるわけないだろ…。」

 

そっぽを向きながら、俺はそう答える。

その言葉を聞いてめぐみんはパァっと笑顔になり、腕に抱きついてきた、その時だった。

 

 

 

凄まじい轟音と共に、デストロイヤーが再び震え出す。

 

「な、なんですか! もしかして動力源をどうにも出来なかったんですか!?」

 

「馬鹿野郎!それだったら今頃俺達も吹っ飛ばされてるはずだ! …とりあえず俺達もあっちに向かうぞ、背中に乗れっ!」

 

そう言うと俺はロケットランチャーもどきの筒の部分を魔力に戻し、めぐみんを背負う。

 

 

 

 

デストロイヤーの元に着くと、何やらカズマ達が言い争っていた。

 

「嫌よ!なんで私の魔力をアンデッドなんかにあげなきゃいけないの! それに、私の神聖な魔力をウィズに大量注入したら、あの子きっと消えちゃうわよ!」

 

「その…以前カズマさんに《ドレインタッチ》を教える際に、アクア様から少しだけ魔力を頂いた後、物凄く体の具合が悪くなって……」

 

アクアとウィズがカズマに対してそう言っていた。

 

「なぁカズマ、動力源はどうなったんだ?」

 

「あぁ、アキラか! 動力源自体はどうにかなったんだが、中で溜まっていた熱が爆発しそうになっているらしいんだ!」

 

俺の質問にカズマが焦り気味にそう言う。

 

「…それってどうしたらいいんだ? もう逃げるしかないのか…?」

 

「まだだ、あの塊を吹き飛ばせればどうにかなるはず…!」

 

そのカズマの言葉に反応して、背中から声が聞こえた。

 

「真打ち登場」

 

立ち上がれる程度まで魔力が回復したのか、俺の背中からめぐみんが降り立った。

 

 

 

==========

 

 

 

「ね、ねぇカズマ、分かってるとは思うけど吸いすぎないでね?吸いすぎないでね!?」

 

「分かってる分かってる、宴会芸の神様の前振りだろ?」

 

「違うわよ! 芸人みたいなノリで言ってるんじゃないわよ!」

 

そんな某トリオ漫才師のようなやり取りをするカズマとアクアを少し遠目で見る。

ウィズからスキルのコツを教えてもらったカズマは、めぐみんの背中に手を突っ込む。

 

急に手を突っ込まれためぐみんは変な声をあげていた。

その後、ナチュラルなセクハラ発言をしながら背中に手を入れようとするカズマと、それを阻止しようとするめぐみん。

 

「ちょ、や、やめてください! 私にはアキラが居ますから…!」

 

…変な言葉が聞こえた気がするが、気にしないでおく。

 

「おーい、お前らー! 流石にもう時間が無いし、後ろでウィズが涙目になってんぞー!」

 

そのまま間に合わず皆仲良く土に…となるのは嫌なので、そう叫ぶ。

 

 

少しして、二人の首根っこを掴むことで合意したようで、アクアからめぐみんへの魔力の受け渡しが始まる。

 

「ヤバイです、これはヤバイです!アクアの魔力はヤバイです! これは過去最大級の爆裂魔法が放てそうです!」

 

「ねえめぐみんまだかしら! もう結構な量を吸われてると思うんですけど!」

 

その言葉の通り、結構な時間魔力を吸い続けるめぐみん。 …と言うか、カズマのやつあんなスキルを教わってたのか。後で教えてもらおうかな。

そんなことを思っていると魔力の吸収を終えためぐみんが眼帯を外し、杖を構える。

 

 

『光に覆われし漆黒よ。闇を纏いし爆炎よ。』

『他はともかく、爆裂魔法の事に関しては誰にも負けたくないのです! 我が究極の破壊魔法、行きます!』

 

『《エクスプロージョン》ッッッ!!!!』

 

 

めぐみんの杖から放たれた魔力の奔流は、今にも熱暴走をしようとするデストロイヤーに向かって放たれる。

直後、ウィズのものに勝るとも劣らない爆裂魔法がデストロイヤーを飲み込む。

 

爆裂魔法による土煙が収まった頃には、デストロイヤーは塵一つ残さずに消滅していた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




デストロイヤー戦、完! どうも、珈琲@微糖です。
漸くデストロイヤー戦が終わりました。なんだかんだ、ここまでで一番長くなりました。

一度、この章のエピローグを挟んで次の章に入っていきたいと思います。

と言うことで、この辺りで失礼させていただきます。また次回以降も見て頂ければ幸いです。


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第十話 - この素晴らしい結末に祝福を!

「それにしても、本当にあのデストロイヤーを倒すとはなぁ。」

 

デストロイヤーを討伐した翌日、実感の薄い俺は沁々と語る。

今日は、以前魔王軍の幹部を討伐した時のように、ギルドの酒場で祝勝会が行われていた。

 

「そうですね。一時はどうなるかと思いましたが、無事町を守ることが出来ました。 …まさか、日に二度も爆裂魔法を放てるなんて…」

 

隣のめぐみんが、恍惚とした表情でそう言う。

何を言っても無駄だろう、そう思った俺は水でも取ってこようと立ち上がろうとし……

 

 

 

 

 

 

「おっとアキラ、いけませんよ。 アクアから絶対安静って言われてるんですから。」

 

 

 

 

 

 

そう言って、めぐみんは力ずくで俺の事をベッドに寝かせる。

 

「…はぁ、もう動けるってのにどうして…」

「まぁ、あんな無茶をやらかしたんだから当然ですよ。」

 

目線だけで抗議しようとするが、そうめぐみんに跳ね除けられる。

 

と言うのも、デストロイヤーの討伐に成功した後、アクアから支援魔法を解除してもらったのだが、弾頭を打ち出すのに使用した魔力量が予想以上に大きく、解除した瞬間魔力不足でぶっ倒れてしまったのだ。

加えて、元々魔力のステータスは優れていない俺は、回復までに時間を要するらしく、アクアから回復しきるまで絶対安静を言い渡された。

 

「…それにしても、めぐみんは祝勝会の方に行かなくて良かったのか? 別に俺一人でもどうとでもなるし、今からでも行ってきていいんだぞ。」

「自分から言い出した手前、やっぱり来たくなったので来ました。なんて言えませんよ。 それに、居ない間にアキラが無茶したら咎める人が居なくなるではありませんか。」

 

彼女の言う通り、めぐみんは今朝、自分から安静にするように監視すると名乗り出て、この屋敷に残った。

祝勝会を蹴ってまで俺の面倒を見てくれてることに関しては感謝をしているが、その時こちらを見ながらニヤニヤしていたカズマ達には、何かしらのお仕置きをしようと思う。

 

「…否定出来ないから何とも言えねぇ……」

 

そう言って俺は再びベッドに横になる。

…一つあることを思い出した俺は、めぐみんにその事を尋ねる。

 

「…そういやさ、昼飯どうすんの? 何か作る位の材料ならあると思うけど。」

 

その言葉に、めぐみんはこっちの方を見る。

 

「…マジですか?」

「マジですよ。」

 

屋敷の中に沈黙が流れる。

 

「…ギルドに行って、何か買ってきます。」

 

そう言って、めぐみんが立ち上がる。

 

「…あれ、そこは何か食べたいところがあるか聞くものじゃないの? …もしかして、料理できない…?」

 

そう言って、煽るように口を押さえながら言う。

…その仕草には、負けず嫌いなめぐみんもカチンと来たようだった。

 

「…言ってくれますね…出来ますよ、料理くらい出来ますよ!紅魔族随一の天才である私に掛かれば、料理くらい余裕ですよ!」

 

そう言って部屋を出ていくめぐみん。

 

「…さて、何が出てくることやら。」

 

その後出てきた料理は普通に美味しかったとだけ記しておく。

 

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

 

めぐみんの作った昼食を食べた後、少し横になって昼寝をしていると、突如布団の中にもぞもぞとした謎の感触に気付き目を覚ました。

何事かと思い、静かに布団の中の覗くと、そこにはめぐみんの頭があった。

もぞもぞと動くそれは、段々と俺の正面へと近付いて………

唐突な出来事に驚いた俺は、何故か狸寝入りをしていた。

 

「…えへへ…忍び込んじゃいました。」

 

妙に嬉しそうなめぐみんの声が聞こえる。

 

「全く、どうして私を放って先に寝ちゃうんですか…退屈なんですよ…?」

 

ご立腹な様子で、そう言うめぐみん。

その言葉に、少し申し訳なく思う。

 

「まぁ、そのお陰でこうやって勝手に布団に忍び込めたので役得ですけどね…」

 

そう言うと、何かが体に抱きついてくる。

 

「…えへへ…こんなこと、アキラが起きてる時には出来ませんからね…」

 

…いや、割と最近腕に抱きついてきたりしてるじゃないか。

つい、そう口走りそうになるが、ぐっと堪える。

 

「(そうだ、今の俺は石像だ。石像だからどんな言葉にも動揺しない…!)」

 

そう、自分の頭の中で繰り返す。

 

「…昨日、カズマから指摘されてやっと分かったんです。 …私、アキラの事が…!」

 

そう、自分に言い聞かせていた瞬間、それは聞こえてきた。

同時に、静かな息遣いが段々と近付く。

我慢出来なくなった俺は、ほんの少しだけ目を開く。

 

 

「「あっ…」」

 

 

開いた先には、めぐみんの真っ赤な目しか見えなかった。

何とも気まずい空気になってしまい、ゆっくりとめぐみんは顔を離す。

 

「…いつから、起きてたんですか…?」

「…その、『忍び込んじゃいました』って辺りから……」

 

そう言うと、めぐみんは顔を真っ赤にしながらプルプルと震える。

 

「…く……黒より黒く…闇より暗き漆黒にぃぃ…「爆発オチはやめろぉぉぉ!!!!」

 

爆裂魔法の詠唱を始めようとするめぐみんの口を押さえようと手を伸ばす。

 

「止めないでください! あんなのを聞かれるくらいなら一層の事アキラごと纏めて…!」

「いや、そんなことしようと思う位なら、あんなことするなよ!」

 

そう言って取っ組み合いをしていると、いつしか俺が、めぐみんの上に覆いかぶさるような体勢になる。

 

「…だって、寝てるアキラを見てたら…抑えきれなくなっちゃったんですから……」

 

顔を真っ赤にしながら目を逸らすめぐみんに、ついドキッとしてしまう。

 

「ですから、我が爆裂魔法と共に、どうかその記憶を消してください!《エクスプロー「言わせねぇからな!?」

 

そう言って、油断していためぐみんの口を無理やり押さえる。

むぐぐー、と声を発せないめぐみんが抗議の声をあげようとする。

 

「……その、なんだ。 …驚いただけで、一緒に寝たり、抱きつかれるのは……嫌いじゃない、からさ…。」

 

そう、段々と小さくなる声で言う。

言ってる最中、顔が耳まで熱くなるのを感じた。

 

「…それに、さっき言われた言葉も、実は凄い嬉しかった…。 だから、爆裂魔法とか忘れさせるとか、そう言うのはやめてくれ…忘れる前に、俺が木っ端微塵になりそう。」

 

恥ずかしさで声が出ないので、めぐみんの耳元でそう囁く。

その言葉と同時に、目の前のめぐみんの顔も真っ赤になった。

 

「……お、俺はこれから寝直すけど、めぐみんはどうする…?」

「…私も御一緒していいですか…? さっき言った通り、一人だとやることがありませんので。」

 

そうめぐみんが言うと、めぐみんの隣に横になり、胸元にめぐみんの顔を抱き寄せる。

 

「ふぇ…あ、アキラ!? いきなりなにするんですか!」

「…うるさい、寝るんだから静かにして…勝手に布団に忍び込んだ罰。 めぐみんには、俺の抱き枕になってもらいます。」

 

そう言って俺は目を閉じ、眠ろうとする。

 

「こ…こんなこと、罰と言うより御褒美になってます…と言うかこれヤバイです、アキラの匂いがこんなに直接…!」

 

胸元に顔を埋めためぐみんからそんな声が聞こえてくるが、気のせいだと信じたい。

 

 

……その日の夜から、毎晩めぐみんが布団の中に侵入してくるようになったのは、また別のお話。

 

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

 

デストロイヤーを討伐してから数日後、俺達はギルドに集まっていた。

これだけ聞くと普通だと思うだろうが、今日は訳が違う。

横一列で並ぶ俺達の前には王都から来たであろう騎士達と、一人の女性が居た。

 

「…な、なぁ、この空気はなんだ…?」

「さぁ、分からないけど、私達はあのデストロイヤーを倒したのよ。国王から直々に感謝状が送られても不思議じゃないわ!」

 

俺の問に自信満々に答えるアクア。

目の前の女性と騎士を見るが、どう見ても感謝状と言う空気ではない。

そう思った瞬間、女性は口を開いた。

 

「冒険者、サトウカズマ! 貴様には現在、国家転覆罪の容疑が掛けられている! 自分と共に来てもらおうか!」

 

あぁ、神様。どうして貴方達は、私達に休息すら与えて頂けないのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第二章終わり!どうも、珈琲@微糖です。
前半については色々と暴走して書いてしまった、反省はしていない。

さて、例の如く次回以降は構想が出来次第になりますし、四月以降は私事が忙しくなりますので、いつになるかなどはわかりません。

それでもよろしければ、次回以降も見て頂ければ幸いです。


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第三章 - この不当な裁判に無罪放免を!
第一話 - この不法な取り押さえに抗議の声を!


「………ええっと、どちら様ですか? と言うか、国家転覆罪ってなんだよ。俺はただ報酬を貰いに来ただけなんだが。」

 

目の前の険しい顔をした女性に向かって、カズマが言う。

 

「自分は王国検察官のセナ。 国家転覆罪とは、その名の通り、国家を揺るがす犯罪をしでかしたものが問われる罪だ。 貴様には現在、テロリスト若しくは、魔王軍の手先の者ではないかと疑われている。」

 

そう言って、騎士たちにカズマを捕らえろと指示を出すセナ。

 

「ちょっと待ってくれ! 俺はこいつと同じパーティだが、一緒に居てそんなに大袈裟になるような事はしていない!俺が証言してやる!」

「そうですよ!なにかの間違いではないのですか? 確かに、セクハラとか小さな犯罪はちょこちょこやらかしますが、そんなに大それた罪に問われるような事をやらかす程、度胸のある人間ではないですから!」

 

セナとカズマの間に入り、俺とめぐみんがカズマを庇う。

 

「お前達…ありがとう、アキラ。 …めぐみん、お前は俺の擁護をしてるのか喧嘩を売ってるのかハッキリさせろ。」

 

騎士たちに両腕を押さえられたまま、カズマがそう言う。

それに続けて、ダクネスが顎に手を当てて言う。

 

「ふむ、確かにこの男がそのような大それた真似が出来るとは思わんな。 …そんな度胸があるのなら、普段屋敷の中を薄着でウロウロしている私を、腹を空かした肉食獣のような目で見ておきながら何もしないなんてことは無い筈だ。 夜這いの一つすらかけられんような男だぞ、この男は。」

「べ、べべべ、別に見てねーし!? お前、自意識過剰なんじゃねぇのか!? このパーティの中で一番エロい体してるからって調子に乗るんじゃねぇぞ!? こっちにも選ぶ権利くらいあるんだからな!!」

 

そう言ってダクネスと言い合いを始めるカズマ。

そんな言い合いをしているダクネスとカズマの間に、眉を一つも動かさなかったセナが割って入った。

 

彼女によると、カズマの指示で転移されたコロナタイトがこの土地の領主の屋敷に転移されたらしい。

だが、偶然屋敷の使用人は出払っており、領主自身も地下室に居たため、奇跡的に死傷者は出なかったらしい。

 

その言葉に安堵したカズマだが、領主の屋敷を吹き飛ばしたことも事実。 そのせいで、有らぬ疑いをかけられているのだ。

詳しい話は署で聞こう。そう言ってセラはカズマを連れていこうとするが、その強引な行動に非難が上がる。

 

「ふ、何かと思えば…… カズマはデストロイヤー戦においての功労者ですよ? 確かに石の転送を指示したのは事実と聞いています。 ですが、あれは町を守る為にやむを得ない行為。あの機転がなければ、私達は既に木っ端微塵でしたでしょうからね。 褒められはしても、非難される言われは無いと思うのですが。」

 

隣に立っているめぐみんがそう言うと、あちこちからそうだそうだと声が上がる。

そんな空気を見て、セナが冷たく言い放つ。

 

「…因みに、国家転覆罪は犯罪を行った主犯以外にも適用される場合がある。 裁判が終わるまでは注意をした方がいいぞ? この男と牢獄の中に入りたくないのであればな。」

 

その言葉に、ギルドはしんと静まり返った。

 

「…確か、あの時カズマ、こう言ったわよね?『大丈夫だ! 世の中ってのは広いんだ。 人が居る場所に転送されるより、無人の場所に送られる確率が高い! 大丈夫、全責任は俺が取るこう見えて、俺は運がいいらしいからな!』……って。」

 

ポツリとアクアがそう言った。

その言葉に、カズマはアクアを見ながら言う。

 

「……まさかお前、俺一人に責任を押し付けようとしてるんじゃないだろう…な……?」

 

その言葉に対して、返答は何一つなくアクアは目を逸らす。

 

「……私達はそもそも乗り込んでいませんから…うぅ、もしも私達がその場に居さえすれば、止めることが出来たかもしれないのに……」

 

そう言ってめぐみんは、嘘泣きをしながら俺の腕にしがみついてきた。

何がなんだか分からない。 そう考えている間にダクネスがカズマを庇うように立つ。

 

「待て!主犯はこの私だ、私が指示をした! だから私に牢獄プレ………ごほんっ! カズマと共に連行して激しい責めで私を尋問し、無理やり自供を……っ」

「あなた、ずっとデストロイヤーの前に立ったままで、何の役にも立たなかったそうじゃないですか。」

 

こんな時でも全くブレずにそう口走るダクネスを、セナは一蹴する。

…そのことを指摘されたダクネスは涙目になっていた。

 

「あ、あの、テレポートを使ったのは私なので、カズマさんを連れていくなら私も…」

「ダメよウィズ! 犠牲が一人で済むならそれに越した事はないわ! 辛いでしょうけど、ぐっと堪えて! 大丈夫、死者は出ていないのだから、きっとカズマは出てこれるわ! だからカズマがお勤めを終えるまで、私達は待っていましょう?」

 

おずおずと上がるウィズの手を無理やりアクアが下ろす。

と言うかもう有罪確定みたいに言うのはどうなんだ。

そんなカズマが、俺の方を救いを求める目で見てくる。

 

「…アキラ、変なことしようとしたら…戻ってきた時、今よりももっと凄いことをして、責任取らせますからね…」

 

耳元から聞こえてきた声に、一瞬ゾクッとする。

その方向を見ると、めぐみんがじっとこちらを見つめていた。

 

「…カズマー。こっちで無罪になる材料は集めておくから、迂闊なことを言うなよー。」

「お前、完全にめぐみんに尻に敷かれてるじゃねぇか! …ああいいさ、お前らが庇ってくれなくても俺にはギルドの皆が居るんだからな!」

 

そう言ってカズマが周囲に目を向けると、ギルドの皆は静かに目を逸らす。

 

「おいふざけんな!お前らもっと頑張れよ! もっと抗議しろよ!」

 

カズマがそう罵声の声をあげた。 …少しすると、魔法使いの少女が口を開く。

 

「…私が初めてカズマさんを見たのは…そう、このギルドの裏で、盗賊の女の子の下着を剥いでいる姿でした。 …それはもう、衝撃的でした。」

 

その言葉を皮切りに、次々とカズマの行った所業を思い出話のように話し出す冒険者達。

そうしていると、騎士に連れられてカズマは冒険者ギルドを出ていかされる。

 

 

「どいつもこいつもふざけやがってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

 

 

…そんな捨て台詞が、聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

 

「それでは、裁判の対策会議を始めたいと思います。 はい、元気よく手を挙げたアクアさん。発言お願いします。」

「はい!裁判は私に任せなさい! 大丈夫、『百転裁判』と『マンガンロンパ』ってあるでしょう? あれで遊んだことはあるわ!」

「よしアクア、このまま布団に行って静かにおやすみなさい。 大丈夫、起きた頃にはきっと裁判も終わって、カズマも帰ってきていますから。」

「なんでよー!」

 

カズマが連行された日の夜、俺達は屋敷で裁判の対策会議をしていた。

この世界には弁護士と言う制度はなく、基本的にこのような事件の時は身内や仲間が弁護を行うらしい。

 

「はい、今手を挙げためぐみんさん。 発言どうぞ。」

「はい、裁判が始まる前に我が爆裂魔法で留置所に穴を開け、カズマを連れて逃亡なんて如何ですか?」

「そんな事したら、ずっと山に篭もり切りで自給自足生活になるでしょうね。少しでも実行に移そうとしたら私の部屋に鍵が導入されるのでご注意ください。」

 

俺がそう言うとめぐみんは頬を膨らます。

 

「…はぁ、全く…なぁダクネス、ここの領主ってどんなやつなんだ?」

 

ため息をつくと、真剣な顔で考え込んでいるダクネスに尋ねる。

 

「ここの領主の名はアレクセイ・バーネス・アルダープ。貴族ではあるが、何かと悪い噂がある男だ。」

「なるほど。 ありがとな、ダクネス。 …それにしても、ランダムテレポートを使って飛ばしたのに、国家転覆罪が適用されるなんておかしな話だなぁ。」

 

俺がポツリと呟く。

 

「あっ、私もそれは気になってました。 ランダムテレポートは転移先が分からない魔法。 弁償等を命じられるなら分かるのですが、国家転覆罪の適用は納得が行きません!」

「どーせその悪党領主が裏で手を回しているんでしょう、ありがちな設定よね!」

 

俺の言葉に同意するように、めぐみんとアクアが話し合う。

そこで、考え込んでいたダクネスが手をあげる。

 

「せってい? …とはよく分からんが、裏で手を回している可能性は十分に有り得る。 あの領主は不都合なものがあれば、力尽くで揉み消すようなやつだ。」

「…なにそれ、勝ち目ねぇじゃん。」

 

ダクネスの言葉に俺達はガックリと肩を落とす。

 

「…まぁ、もしもどうにもならなくなったのなら、私の力でどうにかしてみよう。 一応、勝算自体はある。」

「そうか、じゃあ最終手段についてはダクネスに任せる。 …所で、ダクネスはどうしてあの領主について詳しいんだ?」

「………色々あってな。」

 

その言葉以上、ダクネスは口を開こうとはしない。

自分から言おうとしないやつを問い詰めても、どうせ口は開かないだろう。

 

「…とりあえず、今日の対策会議は終了。解散としよう。 明日から俺は証拠を集めに行くが、絶対お前ら変な事はやらかすなよ? 特にアクアとめぐみん。」

「「なんで私達名指しなのよ!(なんですか!)」」

「さっきの対策会議での発言を踏まえた結果です。それでは解散!」

 

アクアとめぐみんの抗議の目を横に、俺は立ち上がって部屋に向かう。

 

…さて、裁判までにどれだけ証拠を集められるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、珈琲@微糖です。
早いもので始まりました第三章。この章は恐らく三巻の内容になると思います。

次回は国家転覆罪の裁判編ですね。ある程度の構想は出来上がったので、完成し次第投稿します。
それではここまで見て頂きありがとうございました。 次回以降もまた見て頂ければ幸いです。


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第二話 - この不平等な裁判に逆転を!

「そんなに緊張することはありませんよ。大丈夫です、私達がついていますから。」

 

緊張に震えるカズマの横で、めぐみんがそう言う。

カズマが不当な逮捕をされてから数日後、ついにカズマの裁判が始まった。

周囲を見渡すと、裁判の体制は殆ど日本と変わらない。

だが、唯一違うのはこの世界には弁護士などという職業は無く、被告人の知人や友人、親族が請け負うことになる。 それがどういうことかと言うと……

 

「大丈夫です、私に任せてください。 紅魔族は高い知能を有しています。 あの検察官が涙目になるくらい、論破してやりますよ。」

「ああ、安心しろ。 本当にどうしようもなくなったら、私がどうにかしてみせよう。 今回の件に関しては、カズマは全く悪くない。」

「まぁこの私にどんと任せなさいな! なんせ私は聖職者よ、私の言葉には物凄い説得力があるのよ!」

 

めぐみん、ダクネス、カズマの順番に緊張するカズマに声をかける。

 

「いいかアクア。 今回、お前は頼むから黙っていてくれ。 裁判が終わるまで大人しくしていてくれたら、霜降り赤ガニでも何でも買ってやるから…。」

「何馬鹿なことを言ってるの? カズマが懲役とか死刑になったら、そもそもカニも買ってもらえなくなるじゃない。 大丈夫、この中で一番弁護士に詳しいのは私よ。 カズマも、日本にいる時に『百転裁判』とか、『マンガンロンパ』とか聞いたことあるでしょう? 私、あれで遊んだことがあるの。」

 

カズマの訴えに、アクアが胸を張って応える。

カズマは一度大きなため息をつくと、助けを求めるようにこっちを見てくる。

 

 

 

 

「任せろ、俺は『百転検事』シリーズは全て発売日に網羅した。」

「お前ふざけんなよ!それ完全に俺がアウトなやつじゃねぇか!」

 

グッと親指を立てながら応える俺に、我慢の限界になったカズマが声をあげる。

 

「まぁそんな冗談は置いておくとして…安心してくれ。ちゃんと無罪になるような証拠は集めたつもりだ。 …お前が取り調べで、変なことを口走ってなければな。」

 

そう俺が言うと、カズマがフリーズする。

…もしかして、変なことを口走ったのか?

 

そんなことをしていると、裁判長と思わしき人物が木槌で机をコンと叩いた。

 

「静粛に! これより、国家転覆罪に問われている被告人、サトウカズマの裁判を始める! 告発人はアレクセイ・バーネス・アルダープ!」

 

裁判長の言葉に、椅子に座る太った男が立ち上がり、こちらを値踏みするように見てくる。

…ダクネスに目を向けた瞬間、何故か驚きの表情を浮かべていた。

 

「…すみませんアキラ。裁判の間、手を握っててもらってもいいですか? …なんだか、嫌なものを感じます。」

「…ん。」

 

めぐみんがそう言うので、無言で手を差し出す。そして、その手を握るめぐみん。

唐突なことだったとは言え、曲がりなりにも裁判だ。 それに、いきなり舐めるように見回されて、めぐみんも不安になったのだろう。 そう思って俺は何も言わずにめぐみんの手をギュッと握る。

 

「静粛に!裁判中は私語は慎むように。 …それでは検察側は前へ。 ここで嘘を吐いても魔道具で分かるようになっている。 それを肝に銘じて発言をするように。」

 

裁判長の言葉と共に、再び机に木槌が振り下ろされる。

その音と共に、セナが立ち上がる。

 

「それでは起訴状を読ませていただきます。 …

被告人サトウカズマは、機動要塞デストロイヤー襲来時、この町の冒険者たちと共に、これを討伐。 その際、動力源であるコロナタイトをランダムテレポートによって転送する様に指示し、コロナタイトは被害者であるアルダープ殿の屋敷を吹き飛ばし、現在アルダープ殿はこの町にある宿への宿泊を余儀なくされています。」

 

セナが今回の事件(事故)の内容を読み上げる。

その他にも、カズマの仕出かしたことについて読み上げている間に、横のカズマに小さな声で話しかける。

 

「…カズマ、聞こえますか。 …私です、アキラです。」

「…なんだ? あんまり変なこと言ってると怪しまれるぞ?」

 

内容については少し巫山戯たが、真面目なトーンの声にカズマは耳を傾けた。

 

「…いや何、タイミングを見計らってカズマはこう言って欲しいんだ。 "────"って。」

 

俺がそういうと、カズマは何故?と言った感じの顔をしていた。

 

「…こうやって裁判になったんだ、どうせ魔王軍の関係者(ウィズ)と関わりがある。とか何とか言って、あれが反応しちまったんだろ? …その顔は図星みたいだな。 ただ、ああ言ってしまえば、ほぼ確実にあの魔道具は反応しない。 …この不当な裁判で優位に立てるかもしれないんだ。」

 

俺がそう言うと、カズマは静かに頷いた。

その時、検察側の逮捕状読み上げが終わる。

 

「以上の事から、検察側は被告人に対し国家転覆罪の適用を求めます。」

「異議あり!」

 

読み終わった直後、アクアがあのゲームの決めポーズを取りながらそう叫んだ。

 

「弁護人の陳述の時間はまだです。 発言がある場合は許可を求めて発言をするように。 …裁判は初めてでしょうから、今回は大目に見ます。 弁護人、発言をどうぞ。」

「異議ありって言ってみたかったのでいいです。」

 

その言葉を聞いた瞬間、無意識に俺は空いた手でアクアの頭にチョップをしていた。

 

「ぁたっ! …ちょっと、いきなり何すんのよ!」

「ほんっとうちの弁護人がすみません!」

 

俺の行動に抗議するアクアを横目に俺は裁判長に向かって平謝りをする。

 

「…弁護人は弁護の時だけ口を開くように。」

 

裁判長の寛大な処置によってこの場はどうにか収まった。

 

「…ええっと、検察側からは以上です。」

 

すっかり気勢を削がれたセナがそう言って裁判は被告人の陳述に入る。

内容としては、多少オーバーな表現をしていたが大筋は間違っておらず、魔道具が反応することもなかった。

 

しかし、問題はその次にあった。

 

検察側の証人尋問が始まると、次々と俺達の見知った顔が出てくる。

まず初めに出てきたのは、カズマに《スティール》を教えたクリスだった。

 

「と言うことで、クリスさんは公衆の面前で《スティール》を使われ、下着を剥がれたと。 間違いないですね?」

「ええっと、間違いではないけど…でもあれは…」

 

何かを言いかけた瞬間、傍聴席から声が聞こえた。

 

「私見たんです! 路地でパンツを振り回しているところを!」

「…その男とは。」

 

声を上げた女性は、震えた指でカズマを指し示す。

 

「事実だったと言う確定が取れただけで結構です。 ありがとうございます。」

 

そう言って、半ば無理やりに一人目の証人尋問が終わった。

 

…その後、魔剣を売り払われた御剣や、そのパーティメンバーの女性達も出てきてカズマの仕出かした悪行の数々を述べる。

 

「(…さて、この裁判…どうひっくり返すものか。)」

 

そう俺は思考を張り巡らせる。

確かにカズマのやったことはアレだったが、どれも相手から仕掛けられた勝負(最後のについては違うが。)の結果によるものだ。 …どうにかしてそこをひっくり返せれば。

 

「異議あり! カズマの性格が曲がっているのは認めます。 ですがこのような証言、証拠にもなりません! カズマがテロリストだと言うのなら、もっとマシな根拠を持ってきてください!」

 

横にいためぐみんがパッと手を離して立ち上がる。

それに同調したアクアも同じく立ち上がった。

 

「…根拠ですか…よろしいでしょう。」

 

そう言ってセラが根拠の陳述を始める。

 

「一つ、デュラハン討伐の為とは言え、町に多大な被害を負わせ!」

 

その言葉にアクアが耳を塞ぐ。

 

「二つ、町の近くで爆裂魔法を放ち、町の周辺の地形や生態系を変え、あまつさえこの数日間は深夜に騒音騒ぎを起こし!」

 

その言葉にめぐみんが耳を塞ぐ。

…と言うか、変なことはするなと釘を刺してただろうが! めぐみんに説教をすること心に決める。

 

「そして三つ、被告にはアンデッドにしか使えない《ドレインタッチ》を使ったと言う目撃情報もあります!」

 

その言葉にカズマが耳を塞ぐ。

 

「そして最も大きな根拠として、尋問の際貴方に『魔王軍幹部との交流がないか』と聞いたところ、魔道具が嘘を感知したのです! これこそが証拠なのではないでしょうか!」

 

そう言ってセナがカズマを指し示す。

 

「もういいだろう、そいつは間違いなく魔王軍の関係者だ! 手先だ! このワシの屋敷に爆発物を送り付けたのだぞ! 殺せ! 死刑にしろ!」

 

…この言葉を待っていた。

予想通りアルダープはこの言葉を発した。

 

「違う、俺は魔王軍の関係者でもテロリストでもない!」

「何を今更! 貴方の証言が嘘であることは確認している!」

 

今だカズマ! さっき伝えた言葉、ハッキリと言ってやれ!

 

「いいか、よく見とけよ! 『俺は、魔王軍の手先でも、テロリストなんかでもない!!!』」

 

そのカズマの言葉に、魔道具は反応しなかった。

 

「そ、そんな…魔道具が反応しない…!?」

「裁判長! 今のカズマの発言に魔道具の反応が見られなかった以上、検察側の証拠は不十分だ! そしてこれより、弁護側の証人尋問に入らせて頂きたい!」

 

周囲が騒然とする中、俺は立ち上がり裁判長に掛け合う。

 

「…は、はい。許可しま…「ダメだ裁判長!奴に喋らせるな!」

 

アルダープの言葉に、裁判長はグッと押し黙る。

 

「もう一度言うぞ、奴にこれ以上発言をさせるな。」

「……弁護側の申請は…許可しないものとする…!」

 

裁判長がそう言った。

 

「ちょっとなんだそれ!おかしいじゃねぇかよ!」

「そうです! アキラはキチンと発言の許可を得ました! なのに、それが貴方の一存で跳ね除けられるっておかしくないですか!」

 

裁判長の手のひら返しに、俺とめぐみんは抗議の声をあげる。

 

「うるさい、そこの青年に小娘よ。 裁判長、奴らを退廷させろ。」

 

「はぁ!?どんな権利があってお前がそんなことを命じられるんだ!」

「そうですよ! 私達は正当な抗議をしているのです! …ちょ、いきなり掴まないでください!」

 

抗議の声を上げ続ける俺達の腕を、グッと騎士たちが抑える。

そうして俺達は、法廷から退廷させられた。



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第三話 - この新たな課題に解決策を!

「カズマ! 無事だったか!」

 

別室で勾留されていた俺達を、カズマ達が迎えに来る。

 

「すみません…ついカッとなってしまって…」

「大丈夫だって、今こうして俺は無事なんだしな!」

 

そう言って俯くめぐみん。

そんなめぐみんをカズマが励ましている。

…何故だか、その様子を見ていると心がモヤモヤする。

 

「…そう言えば、あの領主相手によく無罪を引っ張ってこれたな。」

「…あぁ、いや、それなんだが…」

 

そう俺が声を掛けると、カズマが頬を掻きながら言う。

 

「実は、まだ裁判自体は終わっていないんだ。 ダクネスの交渉で何とか裁判を引き伸ばしたから、その間に俺が無罪だって証拠と、あの領主の屋敷を吹き飛ばした借金を返済しなきゃいけないんだ。」

「…ダクネスにそこまで相手を譲歩させる交渉材料あったのかい…」

 

そう言って俺は少し肩を落とす。

とは言っても、時間の猶予が出来ただけで現状がピンチなのには変わりない。

 

「…とりあえず、屋敷に戻らないか? こんな所で話していても、いいアイデアなんて出ないだろう。」

「そうよ、まだ私達には明日があるの! 今日は一先ず帰って、作戦を練りましょう!」

 

ダクネスの提案にアクアが賛同する。

 

「…そうだな、とりあえず帰るか。」

 

カズマがそう言うと、俺達は屋敷に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

 

 

「…うーん、どうしたものか。」

 

あの後、家財が差し押さえられ、ほぼ蛻けの殻となった屋敷のリビングで俺は頭を抱えていた。

カズマとアクアはウィズの店に相談に、ダクネスは引き伸ばしの条件として『出来ることならば何でも一つ、言う事を聞く』と言う事を提示してしまったらしく、あの領主に呼ばれて屋敷を離れていた。

 

「何か悩み事ですか?」

「そうだな。強いて言うなら、めぐみんが足の上から退いてくれないから、身動きが取れないことかな?」

「仕方ないじゃないですか、普段使っている椅子が差し押さえられてしまったのですから。」

「俺は椅子替わりかよ。」

 

俺が金策の事で悩み込んでいると、いつの間にか胡座をかく俺の足の上に座っていた。

…なんかあれだな、最近めぐみんの事が物凄く猫っぽく感じる。

 

「とまぁそんな冗談はこれくらいまでにして…いやな、昔カズマが冒険者に成り立ての時に、『登録する時に幸運値が高いから商人に向いてるって言われてた』って言っててな? だから、昔俺の居たところで便利だった道具をカズマが作って売れば、借金を返せるくらいまで儲けられないかなって思って。」

「幸運値が高いとは言え、借金を返済する程は難しいと思いますよ? どんな道具を作るのかにもよりますが。」

 

俺の方を見ながら、そう言ってくるめぐみん。

 

「んー、今考えてるのは、ちょっとの魔力で自動で風を起こせるようになる道具とか位しか思いつかないんだよなぁ…」

 

そう言って手元の設計図の紙を見る。

それは、こちらの世界に適用させた扇風機の設計図だった。

 

「まぁ、カズマが乗るかどうかも分からないですし、二人が戻ってきたら相談でもいいのではないでしょうか。」

「…そうだな。 …と言うか、最近また寒くなってきてないか? 流石に、こんな中布団一枚で寝るのは辛いんだが。」

 

設計図を仕舞い、暇つぶしにめぐみんと世間話でもしようと思い話しかける。

 

「そんなことを言うなら、あの部屋の扉の鍵をさっさと外せばいいんですよ。 二人で寝たら、きっともう少し暖かいですよ?」

「外さねぇよ。って言うか、忍び込む気満々じゃねぇか。」

 

こっちの方に体ごと向けながら、そう抗議するめぐみん。

…裁判の時、勝手に騒動を起こした罰として俺の部屋の扉には鍵が取り付けられた。

めぐみんは俺が居ない時に、どうにかして取り外そうとしているのだが、俺の魔力の半分近く使用し出来る限り丈夫に作った為、その結果は著しく無かったようだ。

 

そんな会話をしていると、玄関の扉が開く音がする。 恐らく二人が帰ってきたのだろう。

 

「ただまーっ!二人とも居るわよね? ご飯食べにいき…ま……」

 

リビングに入ってきたアクアが俺達を見て固まる。

疑問に思った俺達は視線の方向…自分達の体を見る。

胡座をかく俺の上にめぐみんが座り、二人で向かい合っている。 ………どう見ても、アウトです。

 

「あ、あぁ…別にそういう仲になるのは構わないのだけれど、少しくらい場所を考えた方がいいわよ…?」

 

アクアのその指摘に俺達は顔を赤くする。

 

「あ、あああ、アクア!別にそういうのじゃなくてな!俺達はそういう関係じゃなくて!」

「そうです! 暖炉の火が消えてしまい、寒くなってきたので二人でくっついて暖を取っていたんです!!」

 

立ち上がり、アクアに詰め寄りながら否定する俺達。

誤解を解くための言い訳は、トイレに行って遅れてきたカズマがリビングに着くまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたんだ? 三人ともこの世の終わりみたいな顔をして。」

 

翌日、リビングに行くと、カズマ達が文字通りこの世の終わりのような顔をしていた。

 

「あ、アキラか…お前までどうしてそんな平然としてるんだ! ダクネスが一晩も帰ってこなかったんだぞ!」

「確かにそうだが、どうせ一日じゃ出来ないような事を吹っかけられたとか、そんな感じだろ?」

 

焦るカズマに俺はそう言う。 そんな反応を見せた俺に、カズマは何か気付いたようで口を開く。

 

「…そう言えば、お前らが居ない時に聞いたんだが、ダクネスにあの男は幼い頃から求婚してきていたそうだ。」

「……なっ…!?」

 

カズマの言葉に俺は固まる。

 

「…もしかしたら、ダクネスはあの領主相手に物凄い事を…!」

 

動揺している俺に追い打ちをかけるようにカズマが言う。

 

「あ、あわわわわ………めぐみん、どうしよう…ダクネスが…ダクネスがぁぁぁぁぁ………!!!!」

「おおおお落ち着いてください! こんな時こそ深呼吸です!私に続いてやってください! ひっひっふー、ひっひっふー!」

「ひっひっふー、ひっひっふー!」

 

パニックに陥った俺はすぐ近くに居ためぐみんに泣きつく。

俺が入る前に同じことをめぐみんも言われたのだろう。 パニックになっている俺達は深呼吸をした。

 

「二人とも落ち着け! …いいか、ダクネスが帰ってきても、普段と変わらず優しくしてやるんだぞ?」

「分かったわ! 大人の階段を上ったダクネスには、何があったのか聞いちゃいけないって訳ね!」

 

カズマの言葉の意図を理解したアクアがそう言う。

だが、俺とめぐみんは今だにあわあわしていた。

その時、俺の後ろにある扉が勢いよく開かれる。

 

「サトウカズマ! サトウカズマは居るかぁぁぁぁぁ!!!!」

 

扉を勢いよく開き、中に入ってきたのはセナだった。

 

 

 

 

 

 

 

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「それで、誰かさんの爆裂魔法で冬眠からカエルが目覚めたと。」

 

普段通り、何故かカエルに追われるアクアを見ながら呟く。

 

「にしても、ここのカエルは寒さの中でも動きが鈍くならないんだな。 野菜といい動物といい、本当にここの連中は逞しすぎやしないか?」

「過酷な世界だからこそですよ。 生き物は皆、その時その時を精一杯生きるのです。 私達も負けてはいられませんよ、もっともっと強くなり、この過酷な世界を生き残るのです。」

 

カズマの呟きに、めぐみんがそう答える。

…カエルに、肩から下を食われながら。

 

「なっ、お前いつの間に食われてんだ! 待ってろ、今助けるからな!」

「いえ、アクアを追っているカエルを倒してからで構いませんよ、外は寒いですし。 カエルの中って、意外と温いのです。」

 

柄のみの鎌を持ち、俺がそう言うと、カエルに食われていると言うのに落ち着き払っているめぐみん。

こいつ、カエルに食われるのに耐性が出来てきたな。

 

「あ、貴方達は仲間がカエルに食べられ、別の仲間が追われていると言うのに冷静なのですね…」

 

俺達にとっては割といつもの光景だったが、立会人として初めて見るセナは若干引き気味に言った。

 

「まぁいつも通りですから。 …カズマ、新しいスキルを試すんだろ?」

「ああ、見てろよ…《狙撃》ッ!」

 

俺が声を掛けると、妙にいい発音をしながらカズマが矢を放つ。

命中率は幸運依存な為、幸運値の高いカズマには最適なスキルである。

カズマの放った矢はアクアの髪のリングを通過してカエルの頭を貫通した。

 

「おー、やっぱ幸運値が高いと当たるなぁ…」

「まぁな。 とは言っても、剣とは違って金が掛かるから借金がある今じゃあんまり使いたくないんだが。」

 

そんな世間話をしながらめぐみんを助けようと振り向く。

 

「…その、アキラ…後ろ…。」

「えっ?」

 

直後、俺の視界が真っ黒になった。

程よい温度と共に、体に巻きついてくる舌とベットリとした粘液が体に絡みつく。

 

「だぁぁぁ!!アキラが食われたぁぁぁぁ!!!」

「ちょっとカズマさん!なんか他にもカエルが出てきたんですけど…って言うか、物凄いピンチなんですけど!」

 

カエルの外からそんな叫び声と共に、再びカエルの飛び跳ねる音が聞こえてくる。

 

「(…って、こんなことしてる場合かっ!)」

 

そう思った俺は、その手に持っていた鎌の柄に魔力を込めようとした瞬間だった。

 

「『ライト・オブ・セイバー』ッッッッ!!」

 

聞いたことのない声と共に、目の前に光の線が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、 若干開幕のネタが尽きつつある後書きです。 珈琲@微糖です。
今回は裁判終了後〜カエル回までとなりました。
一体最後に出てきたのは何ゆんなんだ…。
恐らく次回でアニメの2話の内容は終わると思います。
この次が原作とアニメで大きく変わるところだけど恐らくアニメの方になるかなぁと。

という所で、また次回以降も見て頂ければ幸いです。


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第四話 - この爆烈娘に旧友を!

「あ…あはははは……汚された…俺、汚された………」

「…大丈夫ですよ、アキラ。 初めは私もそうでしたが、こちら(食われる)側に来れば、すぐに慣れますよ。 それに、ちゃんとお風呂で洗い流せばこのヌメヌメだって落ちます。 こうなることを見越して、ここに来る前にお風呂は沸かしてきました。 ですから、早く帰って一緒にお風呂に入りましょう?」

 

カエルの口から吐き出され、その場で体育座りになって死んだ目で俯く俺の肩に、カズマから魔力を受け取って動けるようになっためぐみんが手を置きながら慰める。

…今何か変なことが聞こえたような気がする。

 

「全く…誰だか知らないけど助かったよ、ありがとう。」

 

そんな俺達の姿を見て頭を抱えていたカズマは、魔法を振るったと思われる女の子にお礼を言う。

 

 

「た、助けた訳じゃないですから…ライバルがカエルなんかにやられたりしたら、私の立場がないじゃないですか。」

「「…ライバル?」」

 

めぐみんの方を見てそう言う女の子を、カズマと正気を取り戻した俺はじっと見つめる。

その言葉を聞き、やれやれ。と言った様子で立ち上がり、女の子に向き直るめぐみん。

 

「ひ、久し振りね、めぐみん! 今日こそ、長きに渡った決着をつける時!」

「どちら様でしょうか。 …大体、名前も名乗らないなんておかしいじゃないですか。 これは、きっと二人が前に言っていたオレオレ何とかってやつですよ。」

 

その言葉に、段々と恥ずかしがる女の子。

…めぐみんと知り合いと言うことは、この子も紅魔族なのだろう。

 

「分かったわよ! 知らない人の前で恥ずかしいけど……」

 

紅魔族の少女は、一度咳払いをすると、随分前に聞いたような自己紹介が始まる。

 

「我が名はゆんゆん! アークウィザードにして、上級魔法を操る者! やがては紅魔族の長となる者!」

「…とまぁ、彼女はゆんゆん。紅魔族の長の娘で、私の自称ライバルです。」

 

まだ羞恥心の残っている様な挨拶の後、めぐみんが俺達に紹介する。

…と言うか、挨拶を恥ずかしがってるって事は、この子意外と普通の子?

 

「なるほどな。 俺はこいつの冒険者仲間のカズマ。よろしくな、ゆんゆん。」

「同じく「将来私の嫁になるであろう」冒険者仲間のアキラだ。よろしく頼む。」

 

変な茶々を入れてきためぐみんの頭をグリグリとしながら、自己紹介をする。

 

「痛い!痛いです! 離してください!」

「離して欲しけりゃ変な注釈を付けるな!」

「分かりました! 分かりましたからぁ!!」

 

「え、えっと…あそこの二人は何をしているの? って言うかさっき嫁が何とかって……それよりも、私の名前を聞いても笑わないんですか………?」

「世の中には、変な名前な上に『頭のおかしい爆裂娘』なんて不名誉な通り名で呼ばれるような奴も居るからな。 …後、あの二人は気にするな。 割と日常茶飯事だし、嫁だ何だって言ってるのもアキラの飯を食いたいだけだ…」

 

めぐみんの発言に動揺したゆんゆんにカズマがそう言う。

…前半の内容に、ぐりぐりから抜け出しためぐみんが反応する。

 

「私ですか!? 私の事ですか!? 私が知らない間に、いつの間にかその通り名が定着していたのですか!?」

「落ち着けって、お前以外に爆裂娘なんて付く呼ばれるような奴がこの町にいると思うか? 頭のおかしい娘よ。」

 

プッと笑いながらカズマに抗議するめぐみんに、小さい声でそう言う。

…なるべく聞こえないように言ったはずなのに、言った瞬間にこっちの方を向いてきた。

 

「さ、流石ねめぐみん、いい仲間を見つけたようね! それでこそ私のライバル、私は貴女に勝って、紅魔族一の座を手に入れる! …さぁめぐみん! この私と、勝負しなさい!」

「嫌ですよ、寒いですし。」

 

ゆんゆんの言葉をサラッと跳ね除けるめぐみん。

 

「ええっ! なんでよぉぉ……お願いよぉ、勝負してよぉ……」

 

そんな二人の言い合いを眺めていたら、俺の肩がチョンチョンと突かれた。

ゆっくりと振り向くと、後ろにはカズマ以外の人影が無かった。

 

「あれ、アクアとセラは?」

「二人ならもう町に帰ったよ。 …アクアの奴、ヌメヌメのままギルドに向かったから、代わりに手続きする為にここは任せてもいいか?」

「…いつの間に…ああ、それは構わんよ。 それにしてもカズマ、意外と仲間想いな所あるじゃねぇか。」

 

肩を突いてきたカズマにそう言うと、そんなんじゃねぇよ。とか何とか言いながら町に戻っていった。 全く、素直じゃない奴。

 

そんなことを考えながら再びめぐみん達の方を向くと、何やら動きがあったようだ。

 

「はぁ。 …しょうがないですね…私は今日はもう魔法が使えません。 ですから、勝負は貴女が得意だった体術でどうですか?」

「えっ、お前その状態でやるの?」

 

つい俺がそう口走ってしまうと、めぐみんがこちらの方を睨んでくる。 恐らく、何も言うなということだろう。

 

「…いいの? その、学園ではろくに体術の授業に出なかっためぐみんが、昼休みの時間になると此れ見よがしに私の前をチョロチョロして、勝負を誘って私からお弁当を巻き上げていた貴女が……」

 

俺はじっとめぐみんの方を見る。

 

「…あの、アキラ? 流石の私でも、そんなにじっと見られると照れると言いますか…」

 

めぐみんの言葉を無視して、疑惑の目で見続ける。

 

「…その、学園の件は仕方がなかったんです。家庭の事情で、彼女のお弁当が生命線だったので…」

 

俺の目が疑惑の目だという事に気づいためぐみんは、そう言って俺から目を逸らす。

 

「…分かった、体術勝負でいいわ!」

 

考え込んだゆんゆんはそんな結論を出した。 …いや、出してしまった。

 

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

 

結論から言うと、勝負はめぐみんが勝った。

と言うのも、今まで日が陰っていてゆんゆんは気付かなかったようだが、めぐみんは先程までカエルに食われており、体中に粘液が染み付いていた。

そんな状態で体術勝負なんてしたらどうなるか…………

 

「降参!降参するからこっち来ないでぇぇぇぇぇ!!!!」

 

雪原を走り回る二つの人影。 …あっ、今一つになった。

 

「…降参…降参したのにぃぃぃ………」

 

一つとなった人影の片方は、もう一つの人影から抜け出そうとする。

 

「…今日も勝ち!」

 

もう一つの人影は、逃げ出すことすら許さなかった。

 

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

 

「あのゆんゆんって子、泣いて帰っちゃったけど大丈夫かなぁ。」

「向こうが挑んできた勝負ですし、大丈夫だと思いますよ。 …はいこれ、アキラにあげます。」

 

勝負が終わった帰り道、そんなことを話していると、めぐみんがこちらに戦利品として得たマナタイトを差し出してきた。

 

「あー、俺じゃなくてカズマに返済の足しに渡した方がいいと思うぞ? 俺のやつって魔法とはちょっと違うから、多分そう言う魔道具は使えないと思う。」

 

俺の言葉に、そうですか。と言うめぐみん。

 

「それにしても、紅魔族にもまともな子って居たんだな。」

「なんですか、まるで私がまともじゃないような言い方は。」

「まともだったら『頭のおかしい爆裂娘』なんて通り名は付かないだろ。」

 

俺がポツリと呟くと、めぐみんが俺の方をジトっとした目で見てくる。

その後、何かを思い出したかのようにフッと鼻で笑うと、めぐみんがこう言ってきた。

 

「通り名と言えば、アキラにも付いてましたよ。 …『頭のイカれた爆発魔』だとか、『頭のおかしい爆裂夫妻の夫の方』とか言われてましたね。」

「おい、その通り名誰が言い出したか詳しく教えろ。 そして誰と誰が夫妻じゃ。」

 

俺がそう言うと、めぐみんがこちらの方を指差す。

俺は頷くと、その後めぐみんは自分のことを指差す。

 

「ちょっと待て、色々と待て。 いつの間に夫妻になった。」

「ただの通り名とか噂話の類です、気にすることではありませんよ。 それよりも早く帰りましょう? 流石に寒くなってきました。」

 

そう言ってめぐみんは屋敷に向かって駆け出す。

 

「……まぁ、悪い気はしないけどさぁ……」

 

小さく呟き、俺は先を行くめぐみんの後ろをついていった。

 

 

 

 

==========

 

 

 

 

「ただいまー…あぅぅ…早くお風呂入りたい……」

「先程も言った通り、お風呂は湧いていますよ。 私も早くヌメヌメを落としたいですし、早く入りましょう。」

 

家にたどり着いた俺がそう言うと、グッと俺の手を引っ張るめぐみん。

 

「…えっと、めぐみんさん? その手を離していただけないでしょうか。」

「…急に敬語になってどうしたんですか。 大丈夫ですよ、まだ家には誰も帰ってきていない様ですし、私も寒いのです。」

 

何とかしてめぐみんの手から抜け出そうとするが、手首から掴まれて抜き出すことが出来ずにいた。

 

「それだったらめぐみんが先に入るといい。 世の中には、レディーファーストなんて言葉もあるしな!」

「そんなことしてたら、アキラが風邪を引いてしまいますよ。 それに、その体で待ってたら臭いも篭ってしまいますから。」

「それだったら、俺は大衆浴場の方に行ってくるわ。 だから家の風呂はめぐみんが使っていいぞ!」

 

そう言って俺は手を振りほどくと、後ろにある玄関から家を出ようとする。

 

「そんなベトベトな姿で行くと、物凄く嫌な目で見られますよ。 それでもいいと言うのなら止めませんが……まさかアキラもダクネスと同じ種類の人間だったとは。」

 

後ろから聞こえてきためぐみんの言葉に、ドアノブにかけた手が止まる。

 

「…そう言えば、パーティを組んですぐの時は私も大衆浴場を使用してましたね。 隣にアクアが居たので、なんとか視線には耐えれましたが。 …アキラがどうしてもそちらを選ぶというのなら、カズマ達にその事をバラして関わり方を変える。 という事も吝かではありませんね。」

 

続くめぐみんの言葉に、俺はドアノブを掴む手を震えさせる。

 

「………ってやるよ………」

「…なんて言ったんですか?」

 

俺が呟いた声にめぐみんが反応する。

 

「風呂がなんだ!そんぐらい一緒に入ってやるよぉぉぉぉ!!!!」

 

俺は着ていたローブを脱ぎ、床に叩きつけた。

 

 

 

 

===========

 

 

 

 

「あ゙あ゙ー゙ー゙、生き返るぅ……」

「こうやってお昼に入るお風呂もいいですねえ…」

 

色々あったが、俺達二人と一匹は共に風呂に入っている。 …一匹?

 

「そういやめぐみん、聞きたいことがあるんだが…」

「なんです?」

「…その猫はどうしたんだ?」

 

そう言って俺は風呂桶の湯船に浸かる一匹の黒猫を見る。

 

「そう言えばアキラには紹介していませんでしたね。 この子はちょむすけ、私が拾った猫です。 ちゃんとカズマ達にも飼う許可をもらいましたよ。」

 

そう言って浴槽から出ると、風呂桶に浸かってた猫を抱き上げるめぐみん。

 

「ちょむすけ…って事は、こいつ男の子か?」

「いいえ、女の子ですよ?」

「えっ?」

「えっ。」

 

やっぱり、紅魔族のセンスは分からない。

そんなことを思いながら、猫と戯れるめぐみんを眺める。

 

「…それにしてもゆんゆんって子、本当にめぐみんと同級生だったのか?」

「おい、今どこを見てその疑問を思ったのか教えてもらおうじゃないか。」

 

タオルで包まれためぐみんを眺めながらそう呟くと、こっちを睨みながらそう言ってくる。

 

「どこって言われても…全体的に…ってごめんなさい爆裂魔法はやめてください吹っ飛んでしまいます!」

 

答えた瞬間にめぐみんが爆裂魔法の詠唱を始めたので必死に謝った。

 

「ふんっ、私だってこれからが成長期ですから。 数年もすればゆんゆんどころか、アクアやダクネスすら羨むような体になって見せますから!」

「…あぁ、うん。 夢を持つのはいい事だと思うよ…?」

 

目を逸らしながらそう言うと、めぐみんがこっちをジトっとした目で見てくる。

 

 

そんなやり取りをしていると、外から声が聞こえてきた。

 

 

 

「ただまーっ!カエルの報酬、もらってきたわよー!」

 

 

 

そんなアクアの元気な声と共に、廊下を歩く足音が二つ聞こえてきた。

 

「…なぁめぐみん。 風呂に入る時、鍵は掛けたよな?」

「…後に脱衣場に入ってきたのはアキラの方ですから、聞きたいのはこっちの方ですよ。」

 

互いに見つめ合いながら確認しあう。

額に、冷たい汗がツーっと流れた。

 

「おーい、アキラー!めぐみーん! まだ帰ってないのかー?」

「もしかしてお風呂にでも入ってるんじゃない? カエルに丸呑みされてたし。」

「だとしたら、どっちか片方は居るはずだろ? 一緒に入ってるって訳じゃあるいし。」

 

そうよねー。と言うアクアの声の後に、二人の笑い声が聞こえてきた。

……いや、入ってるよ? ばっちり二人(+一匹)が風呂場に居るよ?

 

「「…………鍵を締めろぉぉぉぉ!!!!」」

 

俺達は一斉に立ち上がり、扉の鍵を締めようと走り出す。

 

「めぐみーん、アキラー。 風呂にでも入ってるのかー?」

「めぐみんなら私も入っていいー? 早くヌルヌル落としたいんですけどー。」

 

扉のすぐ前からカズマとアクアの声が聞こえる。

だが、こちらももう少しでめぐみんが鍵に手が届く。 …そう思った瞬間だった。

 

 

「………あっ………」

 

 

足元に敷いてあるバスマットに滑り、目の前のめぐみんを押し倒す形で倒れ込む。

…そう、外に居たのなら慌てて様子を見に来るような物音を立てて。

 

 

「ちょっと!? 今凄い音がしたけどだいじょ…う……ぶ………」

 

 

扉の前に居たであろうアクアが慌てて扉を開ける。

そこには、うつ伏せに倒れているめぐみんと、その上に覆うように乗っかる俺の姿が映っていた。

 

扉の前で、扉を開けたアクアとその隣に居たカズマが固まる。

 

 

「「「「………………」」」」

 

 

無言で扉が閉められる。

俺達は何も言わずに起き上がると、互いの格好を見て目を合わせる。

 

 

 

「「お、お邪魔しましたぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」

 

「「違うからぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」

 

 

 

ドアの向こうから、駆け足と共に聞こえてきた声を、着替えることも忘れて俺達は追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 




アニメ二話の最後まで行くと言ったな、あれは嘘だ。
どうも、珈琲@微糖です。

色々と書いてたらいつの間にか普段の文字数を超えてたので一度ここで切り上げました、お兄さん許して。

また、ふと疑問に思ったことがあるので、活動報告の方でアンケートを取ろうかなぁと思います。 もし良ければ意見を書いて頂けると幸いです。

それでは、次回以降もまた見て頂ければ幸いです。


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第五話 - この紅魔の少女の争いに決着を!

「へぇ、ここがウィズの店かぁ…」

 

あの風呂での出来事の翌日、俺達四人はウィズの店を訪れていた。

と言うのも、魔道具を作ったらその商品を置かせてもらう交渉ついでに、めぐみんがこの間の勝負でゆんゆんから得たマナタイトを売りに来ただけなのだが。

 

「ちわーっす、これを買い取ってもらいた……」

 

カズマが扉を開けると、そこには昨日見た人物(ゆんゆん)が居た。

 

「わ、我が名はゆんゆん! なんという偶然、なんという運命のいたずら! やはり終生のライバル!」

「実は彼女、カズマさん達が偶にここに来るって聞いて、今朝からずっと待っていたんですよ。」

 

ウィズがそう言うと、ゆんゆんは顔を真っ赤にしながら、慌てて色々と言い訳を言う。

 

「あのー、ゆんゆん…さん? もしも何か用事があれば、直接俺達の屋敷に来てもいいんだよ…? ほら、めぐみんとは友達なんだろ?」

 

ウィズの方を向いているゆんゆんにそう言うと、ビクッと驚いた様子でこっちを見る。

 

「…っ! その、そう言うのには慣れてないと言いますかっ! そ、それにめぐみんと私は友達じゃなくてライバルって言いますかっ!」

「そうですよ、ゆんゆんと私は友達と言うものとは、少し違うとは思いますよ?」

 

何やら恥ずかしがりながら否定をするゆんゆんと、後ろから普段の調子で否定をするめぐみん。 こいつら仲良しか。

 

「まぁ何にせよ、何か用事があれば直接来てもらって構わないから…いいよなー、カズマ。」

「ああ、別にいいけど…言う前に確認取れよ。」

 

カズマが苦笑しながらそう言う。

だが、目の前の少女はそう言われたにも関わらず、どこかもじもじしていた。

 

「いや…でも、いきなりお家におじゃまするのってちょっと緊張して…」

「全く煮えきりませんね。 これだからぼっちは…」

 

その言葉に、俺達はゆんゆんの方を見た。

 

「えっ」「そうなの?」「…こんなに普通な子なのに?」

「ええ、ゆんゆんは紅魔族でも、自分の名乗りを恥ずかしがる変わり者で通っていまして、そのせいか学園でも、一人でご飯を食べていました。 その前を此れ見よがしにチョロチョロすると、いつも喜んで勝負を挑んで来ました。」

 

昔の事を懐かしむように語るめぐみん。

だが、その言葉にゆんゆんが抗議の声をあげる。

 

「失礼ね! …私にだって友達くらい居たもの!」

「…ゆんゆんに…友達……? アキラ、ちょっと私の頬を抓ってください、夢かどうか確認したいので。」

「さ、流石にそれは酷くない!? …同じクラスのふにふらさんやどどんこさんとかが、『私達友達よね』って言って私の奢りでご飯を食べに行ったり……」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺はゆんゆんの肩にポンと手を置いた。

 

「それで………え、えっと…どうしたんですか皆さん。 …そんなに凄い顔をして……」

「…ゆんゆん…俺が友達になってやるから、それ以上はもうやめてくれ……」

 

急に手を置かれた事におどおどするゆんゆんに、俺は無意識にそう言っていた。

 

「えっ!? その、いいんですか!?」

「……ああ、うん。俺なんかでいいなら、いくらでも友達になるから…だからその思い出話はやめてくれ、心に来る……」

 

その言葉を聞いたゆんゆんがぱあっと笑顔になってめぐみんの方を向く。

 

「めぐみんめぐみん! 新しい友達が出来たよ!」

 

嬉しそうに報告するゆんゆんを見て、めぐみんは溜息をつきながら頭を抱えた。

 

 

 

==========

 

 

 

「それで、勝負はするのですか? 爆裂魔法しか使えない私としては、魔法勝負だけは避けたいところなのですが。」

「他の魔法も覚えなさいよね、スキルポイントだって溜まっているんでしょう?」

「貯まりましたよ。 一つも余りなく.爆裂魔法の詠唱速度アップや威力上昇スキルに振り分けようと……」

 

やっぱり筋金入りの爆烈娘だったよ。そんなことを思いながら、アクアの正面の空いていた椅子に座る。

 

「全く、喧嘩するほど仲がいいとは言うけど限度があるだろうよ…」

「まぁ偶にはいいんじゃない? 少し殺伐としてるけど、邪険にしてる訳じゃなさそうだしね。」

 

そう言ってアクアは立ち上がると、店の商品を物色し始めた。

 

「…何これ、【仲良くなる水晶】?」

「あぁ、それは文字通り仲良くなる水晶なんですが、熟練した魔法使いでないと使えないんですよね。」

 

そう言って二人が水晶を見ながら話をしている。

 

「なぁめぐみん、あれを使って勝負出来ないのか。 熟練した魔法使いでないと使えないのなら、上手く使えた方がより優れた魔法使いになるんじゃないのか?」

 

俺はその水晶を指差しながら言う。

 

「…私は、別に馴れ合う気はないのですが。」

「とか何とか言って、負けるのが恥ずかしいんじゃないの?」

 

そのゆんゆんの言葉に負けず嫌いの爆烈娘が食いついてきた。

 

「…ふふふ、いいでしょう。 そこまで言うのでしたら、受けて立ちますよ!」

 

 

 

==========

 

 

 

向かい合う二人の間に、水晶の魔道具が置かれる。

そして、互いに水晶に手を向けると、魔力を流し始める。

 

その時、空気が変わったような気がした。

 

 

「すっげぇ……」

「流石紅魔族、この様子なら魔道具も上手く投影出来そうです。」

 

無意識にオレがポツリと呟くと、アクアの隣にいるウィズがそう言う。

 

「…ん? 投影ってなんのこと?」

 

疑問を持ったアクアがウィズにそう尋ねる。

 

「そろそろ魔道具が展開されますので、その時になったら説明しますね。」

 

ウィズがそう答えた直後、魔道具は空中に無数のスクリーンを投影する。

そのスクリーンに目を向けた瞬間、俺達は絶句した。

 

────どこかの家に忍び込み、大量のパンの耳をくすねるめぐみん。

 

────誕生日を、一人で楽しそうに祝うゆんゆん。

 

────川でザリガニを捕まえ、鍋で茹でて妹らしき子とそれを食べるめぐみん。

 

────チェスらしきゲームを、独り言を言いながら一人で交互に打つゆんゆん。

 

その他にも無数の映像が映っていたが、それ以上は見ていられなかった。

 

 

「……何あれ………虫を食べてるの…………?」

「…友達に奢るために……バイトをするのか………?」

 

 

アクアとカズマがポツリと呟く。

 

「な、何なんですかこの魔道具はっ! あ、アキラ!見ないで、見ないでください!早く伏せてくださいっ!」

 

涙目のめぐみんがそんな叫び声をあげていたような気もしたが、目の前の映像が衝撃的過ぎて、俺の頭には入ってこなかった。

 

「店主さんっ! これって仲良くなる水晶じゃないんですかっ!?」

「…これは、お互いの恥ずかしい記憶を晒すことによって、友情や愛情がより深くなると言う、大変徳の高い…アイテム…で……す………」

 

ゆんゆんの叫び声にウィズが反応するが、段々と声が尻すぼみになっていく。

 

「ねぇめぐみん! 私達、本当に仲良くなれるの!? こんなので本当に仲良くなれるのっ!?」

「………うがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

ゆんゆんがめぐみんの方を見てそう言うと、耐えきれなくなっためぐみんが水晶を床に叩きつけた。

 

 

 

 

==========

 

 

 

 

「それでは、この魔道具代は保護者のカズマさんにツケておきますね。」

「ちょっと待て、めぐみんの保護者はこいつだ。」

 

そう言ってカズマが俺の方を指さしてくる。

 

「…別にそれでもいいが…カズマ、貸し一な。」

 

そう言ってため息をつくと、二人の紅魔族の少女の方を見る。

 

「(めぐみんの奴、立ち直り速いなぁ…)」

 

呑気にそんなことを思いながら、一口紅茶を飲んだ。

 

「全く、いつまでメソメソしているのですか。」

「だって! 折角の勝負がこれじゃあどっちが勝ったか分からないじゃない!」

 

めぐみんがそう言うと、さっきまで死んだ目でブツブツと呟いていたゆんゆんがめぐみんに泣きついてきた。

 

「それに、めぐみんだってついさっきまでメソメソしてたじゃない!」

「あっ、あれはですね! …その…あんなものを見られて、アキラに嫌われないか…とか心配になって……って、その事はもういいじゃないですか! 別に勝負は、ゆんゆんの勝ちでも構いませんよ。 もう勝負事に拘る程、子供でもないですし。」

 

ゆんゆんから少し目を逸らしながらそう言うめぐみん。

勝ちを譲られたことに不服そうなゆんゆんは、何かを思い出したようにはっとした。

 

「子供と言えば昔、発育勝負なんかもやったわよね。 子供じゃないって言うなら、またあの勝負をしましょう!」

 

自信満々に言うゆんゆん。 確かに、めぐみんの体で発育勝負…と言うのは酷な話だろう。

だが、めぐみんは余裕そうにやれやれ。と言った感じに首を振った。

 

「ゆんゆん。 発育と言うとは、決して体のことだけではないんですよ。」

 

そう言ってめぐみんは俺の方に近づいてくる。

 

「…現に私は既に、アキラと"そういう仲"なのですから。」

 

めぐみんは振り向いて、目線をゆんゆんの方に向けながら、俺に抱きついてきた。

 

「……めぐみん、いきなりお前何言って……「静かに、話を合わせてください。」

 

否定をしようとする俺の耳元で、めぐみんがそう言う。

…目の前のゆんゆんを見てみると、彼女は固まっていた。

 

「………えっと、めぐみん。 出来れば、もう一回言ってくれないかしら……?」

「ですから、言ってるじゃないですか。 もう既にアキラとは"そういう仲"だと。 …昨日だって、一緒にお風呂に入りましたしね。」

「………その、アキラさん…それは本当の話…?」

 

状況が掴めていないであろうゆんゆんが、こちらに話を振ってきた。

………否定しても肯定しても大変な事になりそうなので、何も言わずに笑顔を向けた。

 

「…な…え……えぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

漸く状況を掴めたゆんゆんは、大きな悲鳴をあげた。

 

「それだけじゃないですよ。 初めて一緒に寝たあの日の夜なんて……」

 

そんなゆんゆんに、追い討ちをかけるように言葉を続けるめぐみん。

…段々とカズマ達から向けられる目線が、冷たいものになっていくのを感じる。

しかし、目の前のゆんゆんは話の内容を誤解しているようで、顔を真っ赤にしていた。

 

「……きょ、今日のところは私の負けにしておいてあげるからぁぁぁぁ!!!!」

 

この空気感に耐えきれなくなったゆんゆんは、泣きながら店を出ていく。

 

「………今日も勝ち!」

 

勝負事に拘ってるじゃねぇか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、カズマさん。 これは違うんですよ、先程の事は言葉の綾と言いますか、めぐみんの話を合わせただけと言いますか。 その、アクア様にウィズさんも、そのゴミを見るような目を見るのはやめていただけませんかね。 確かに事実ではあるのですがこの事には海よりも深い理由か……」

 

その場に居合わせた他の三人に正座をしながら釈明したのはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、私です。珈琲@微糖です。
前回はアンケートへのご協力ありがとうございました。 参考にさせて頂いた上、今後とも書きたいものを書いていきたいと思います。

さて、次回はキールのダンジョンなのですが、恐らく全くの別行動を取るのでほぼオリジナル回になると思います。

ということで、次回以降もまた見て頂ければ幸いです。


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第六話 - この冒険者に一人の日を!

「今日はダンジョンに行きます。」

「嫌です。」

 

あのウィズの魔道具店での騒動の翌日、俺達はギルドの酒場で話し合っていたのだが…。

 

「行くったら行きます。」

「嫌ですぅぅ!!! だって、ダンジョンに行ったら私、ただのお荷物じゃないですか!」

 

ダンジョンに行くと言うカズマと、それに反対するめぐみんが言い争いをしていた。

 

「大丈夫だって! ダンジョンに入るのは俺だけなんだから!!」

「だったら尚更私が行く必要ないじゃないですかぁぁぁ!!!!」

「…お前、パーティに入る時に『荷物持ちでも何でもしますからぁ!』って言ってたよな! だから入口まで、その荷物持ちでもしていてくれ!!」

 

カズマが言うには、割と近場にある『キールのダンジョン』と言う初心者向けのダンジョンに新たなエリアが見つかり、借金返済に困っていたカズマがクエストを斡旋してもらったらしい。

 

「…ぐぬぬ…確かに、私はその時はそういいました。 今回も、出来る限りならやろうと思います。 …ですけど…」

 

カズマの事情を知っているめぐみんは一歩引き下がった。

 

「ですけど! どうしてアキラは別行動なんですか!! 私も、そっちの方についていきたいです!!」

「だって、アキラ。モテモテじゃない。」

「…あ、あはは…」

 

…めぐみんの言う通り、今日俺はダンジョンアタックにはついていかずに、別行動をすることになっていた。

アクアがこちらを茶化すように言ってきたので、苦笑を返しておいた。

 

「だって仕方ないだろ? アキラの方には、新しい金策の為の情報収集をしてもらいたいんだから。」

「でしたら! アキラよりもこの地に詳しいこの私もついて行った方が、効率は上がるのではないでしょうか!」

 

カズマがめぐみんを説得しようとするが、めぐみんは一歩も引こうとしない。

そんなカズマが、こちらに助けを求めるような目で見てきた。

 

「…めぐみん、俺の方は大丈夫だから、カズマ達の方について行ってもらっていいか?」

「どうしてですか! 私が居ると邪魔だと言うのですか!」

 

俺がそう言うと、めぐみんが噛み付いてきた。

 

「そうじゃなくて! パーティリーダーはカズマなんだし、そのカズマがめぐみんが必要だって言ってるんだ。 だから、そっちの方に行ってくれないか…?」

 

そう言ってめぐみんの帽子を取って頭を優しく撫でる。

 

「…ぁぅ…で、ですが…!」

「そうだなぁ…じゃあ、もしもカズマ達の方を手伝ってくれたら、何か一つご褒美をあげようじゃないか。 …だから、お願い出来るか?」

 

俺が頭を撫でながら言うと、めぐみんは少し考えると再び口を開いた。

 

「…わかり…ました……」

 

めぐみんは俯きながらそう言う。

 

「なんと言うか…恋人同士って言うより親子みたいね、貴方達。」

「恋人でもなければ親子でもねぇよ。 …って、どうしたんだ? めぐみん。」

 

アクアが冗談交じりに言った言葉に俺は否定をするが、いつものようなめぐみんからの否定の声が聞こえず様子を見る。

 

「……こいびと…どうし……っ…」

 

顔を真っ赤にしながら帽子をギュッと抱き、顔を隠すめぐみん。

そんなめぐみんを撫でていると、段々とこっちまで恥ずかしく……

 

「あぁもう! とりあえず、今日は俺はダンジョンに潜るから、アクアとめぐみんもさっさと準備しろよ!!」

 

この空気感に耐えきれなくなったであろうカズマがそう言って立ち上がる。

その音にハッとしたのか、めぐみんは俺の手を払い除けると帽子を深く被って立ち上がり、準備してきます。とだけ言い残してギルドを出ていく。

 

「…あぁ、これが娘の旅立ちってやつかぁ…」

「アンタ、さっき自分で親子じゃないって否定したじゃない。」

 

俺がそう感傷に浸っていると、ジトっとした目でアクアが俺のことを見ながらそう言った。

 

 

 

==========

 

 

 

「ふむふむ…まぁこんなところか。」

 

カズマ達と分かれた俺は、町中を歩いて色々と調べていた。

と言うのも、日常で使える冷暖房器具がどの程度のものなら売れるかどうかを考える為に、一般家庭にどのような冷暖房器具が備わっているかをまとめていただけだが。

 

調べた内容を手元のメモ帳にまとめていると、正面から声を掛けられた。

 

「…あれ、アキラさんですか…?」

「おー、ゆんゆんか。 こんなところでどうしたんだ?」

 

目の前には紅魔族の少女…ゆんゆんが居た。

 

「…いえ、ただ昨日、『何か用事があれば直接屋敷に来てもいい』って言われて、その言葉を信じて屋敷の方に直接行ったんですけど…誰も居なくて」

「…あー、今めぐみん達はダンジョンに行ってるからなぁ、だから家には誰も居なかったんだ。」

 

段々と暗い顔になるゆんゆん。

そう言って俺が弁解しようとすると、何かに気付いたゆんゆんが俺に尋ねてきた。

 

「そうだったんですか…所で、めぐみん達がダンジョンに行ってるなら、どうしてアキラさんはここに居るんですか? …その…めぐみんとそういう仲…なんですよね…?」

 

言ってて恥ずかしくなったのだろうか、段々と小さくなる声でそう言った。

 

「……ああ、昨日のあれかぁ……ゆんゆん。 俺とめぐみんの仲って、どうなってると思ってるんだ?」

「……えっと……その、恋人同士……じゃないんですか?」

「うん、じゃないね。 …めぐみんだって、"どういう仲"かなんて言ってないだろ?」

 

俺の指摘に、ゆんゆんはめぐみんに嵌められていたという事に気が付き、顔を段々と赤くする。

 

「…ま、まぁ、めぐみんも誤解されるような言い方をしていたしな!」

「…そ、そうですよね! …それで、アキラさんはどうして別行動をしているんですか?」

「うーん、それなんたが…」

 

本題に戻ると、俺達には大量の借金があること、そしてその借金を返す為に商売をしようとしていること、その為どのような商品なら売れそうか調べていることを伝えた。

 

「…そ、それでしたら、私もお手伝いしましょうか? …この町に来るまでは、修行の為に色んな町に行きましたし…」

 

どこか緊張しているかのような面持ちのゆんゆんがおずおずと小さく手を上げる。

 

「本当か!? …この町以外のことも知ってるとなれば、アレを商品化してウィズの伝で大規模展開することも夢じゃ…」

 

ゆんゆんの申し出に俺は少し興奮気味に反応する。

小さくブツブツ呟いていると、オドオドとゆんゆんが話しかけてくる。

 

「…あ、あの…それで、私は一体何をしたら……」

「…あ、あぁ、ごめん。 とりあえず、立ち話もあれだからどこか座れる場所にでも行かないか? ギルドの酒場か…ウィズの店とか…」

 

そう言って再び俺は考え込む。 そんなことしていると、服の裾をちょこんと摘まれた。

 

「あの…それでしたら、私行ってみたいお店があるんですけど…」

「…ん、ならそのお店にでも行こうか。」

 

そう言って、どこか嬉しそうに道案内をするゆんゆんの後について行く。

 

 

 

==========

 

 

 

店を出てゆんゆんと分かれた俺は屋敷に戻り、カズマ達やダクネスが戻ってくるのを待っていた。

 

「(…それにしてもこの屋敷、こんなに広かったんだなぁ…)」

 

リビングでぼんやりとしながら、手に持ったお茶を啜る。

 

「…それにしても、こっちに来てから色々なことがあったなぁ…」

 

ふと思い返すと、本当に色々なことがあったと思う。

土木作業をしていると、こちらの世界に送った女神が新入りとして入ってきたり、キャベツが空を飛んだり、古城にめぐみんと爆裂魔法を打っていたら、いつの間にか魔王軍の幹部と戦うことになったり、古代兵器を倒したと思ったらカズマが国家転覆罪の容疑をかけられたり…

 

「(…あれ、思い返したら、俺いっつもめぐみんと一緒に居ないか…?)」

 

爆裂魔法を打ち込みに行く時は勿論、ベルディアと戦う時や、デストロイヤーを倒した時。

それに、いつしかめぐみんが布団の中に入ってきたり、この間の風呂だったり………

 

「(…あー、うん。 そりゃ変な通り名が付けられるのも無理ない…か。)」

 

そんなことを思いながら、中身のなくなった湯呑みを置いてゴロンと寝転がる。

 

「…夫婦…か。」

 

ポツリと呟いて、めぐみんに言われた通り名を思い出す。

…夫婦、と言われても中々想像がつかない。

元の世界でも21の時に死んだから、そういう事があった訳でもないし、こっちに来たからと言っても、そういう様な関係の人達は殆ど見たことがない。

 

「(…結婚生活かぁ…)」

 

そんなことをぼんやりと考えながら想像をする。

いつもみたいに家に帰ると、エプロンを巻いた(めぐみん)が出迎えに来て……

 

「(…どうしてそこでめぐみんが出てくるんだよっ!)」

 

そんなことを思いながら、グルグルとその場を転げ回る。

確かにめぐみんとは恐らくこっちでは一番親しいけれども。 それに、なんだかんだ言って普通に可愛いし。

だが、相手は13…誕生日を迎えても14歳。 日本で考えると中学生と大学生…十分アウトだろう。

 

「(…って言うか、なんでこんなに、めぐみんの事ばっかり考えてるんだよ………っ!)」

 

そんなことを思いながら、再びその場に転げ回る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お、おい、めぐみん。アクア。カズマ。 …その、私がいない間に、アキラに何があったんだ?」

「…分かりません…カズマ…その…アキラは大丈夫なんでしょうか。」

「分からないけど、あの状況で入っていく勇気はめぐみんにはあるのか?」

「…って言うか、私達が帰ってきたのに気付かないなんて、相当異常ね。 …あっ、頭ぶつけた。」

 

リビングの扉から、いつの間にか帰ってきてたダクネス、めぐみん、カズマ、アクアがそんな話をしていたのは、また別のお話。



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第七話 - この冒険者達に新たな気持ちを!

「もうやだ、あんな姿見られてたなんて……消えたい、皆に忘れ去られて消えたい…」

 

部屋に鍵を掛け、両耳を塞ぎながらブルブルと震えていた。

 

あの後、落ち着こうと水を飲みに行こうと立ち上がると、廊下に繋がる扉からこちらを見るカズマ達と目が合い、あの姿の一部始終を見られていたことを知った俺は、部屋へと逃げ込み今に至る。

 

「…ほんと…なんであんなことしてたんだろ……」

 

体育座りで俯きながら、先程の奇行を振り返る。

傍から見ると、何も言わずにゴロゴロ回って、ちょっと止まったかと思ったらまたゴロゴロ…完全に変な人である。

 

そんな風に振り返りながら塞ぎこもって居ると、背中の扉がドンドンと叩かれる。

 

「アキラー、いつまで篭ってるんですかー! 早く出てきてくださいよー!」

 

扉を叩く音と同時に、そんなめぐみんの声が聞こえてきた。

…だが、今めぐみんと顔を合わせると、さっきのことを思い出しそうで扉を開けるに開けられない。

 

そんなことを思っていた時だった。

 

「…全く、カズマ達はダクネスの縁談を断りに行ってしまいましたし、もう力技しかないんですかね…」

 

ちょっと待て、縁談って何の話だ。 確かに扉から顔を覗かせていたダクネスは、どこか普段とは違ったような感じだったし…

そんなことを考えていたら、廊下から物騒な声が聞こえてきた。

 

「黒より黒く、闇より暗き漆黒に…」

「やめろぉぉぉぉぉ!!!!」

 

突如聞こえてきた爆裂魔法の詠唱に驚き、俺は扉を開いてめぐみんを止めようとする。

 

「漸く扉を開けてくれましたね。…開けなければ、屋敷に大穴が開くことになりましたが。」

「…流石にそれは洒落にならないからやめておこうな……」

 

そう言って俺は部屋に入ってきためぐみんの方を見る。

 

 

 

 

 

 

──おかえりなさい、アキラ。

 

 

 

 

 

 

ついさっき想像してしまった姿が、再び頭の中を過ぎり、つい目を逸らしてしまう。

 

「どうしたんですか、そんなに顔を赤くして…」

 

そう言ってめぐみんが顔を覗き込んでくる。

 

「…っ…いやっ! 何でもない、何でもないからっ!」

「…嘘ですね。 アキラが嘘をつく時には、瞬きの回数がやけに増える癖がありますから。」

「嘘っ!?」

 

まさかのカミングアウトに俺は自分の顔をペタペタと触る。

……めぐみんがジトっとした目をしているのを見て、全てを察した。

 

「……まさか、こんな古典的な引っ掛けにかかるなんて…本当にどうしちゃったんですか…?」

 

顔を近づけて、心配そうに顔を覗き込むめぐみん。

 

「…っ! 大丈夫だからっ!」

 

そう言ってローブで口元を覆い、目を逸らす。

 

「…全然大丈夫そうに見えませんよ? それに顔まで赤くなって…」

 

そう言ってめぐみんがピタリと手のひらをおでこに当て……

 

「うーん、熱はないようですけど…」

 

グッと背伸びをして顔を覗き込んだ事で、視界いっぱいにめぐみんの顔が映る。

 

「…め、めぐみん…? その…近くない…ですか…っ?」

「そうですか…? …と言うよりも、どうしたんですか。急に敬語になったりして…今日のアキラ、やっぱりちょっとおかしいです。」

 

そう言って、俺の目をじっと見てくる。

 

「もしかして、私には話せないことですか…? …それとも、やっぱり私じゃ頼りない…ですか…?」

「っ! それはないっ!…むしろ、悩んでるのはめぐみんの事っていうか…っ!」

 

めぐみんの発した言葉に、少し食い気味に否定をする。

 

「…私のこと、ですか…?」

 

キョトンとしながら首を傾げるめぐみん。

そんなめぐみんを見ながら、俺は小さく頷いた。

 

「………えっと、それって……どんなこと、ですか…?」

「……その、めぐみんと夫婦になったら……って事…考えてました………」

 

その言葉に、めぐみんも一気に顔を真っ赤にする。

 

「なっ、なんでそんなことを考えてるんですかっ!」

「ごめんっ! やっぱり嫌だったよなっ!」

 

めぐみんのあげた大声に驚き、咄嗟に謝る。

だが、返ってきた返答は予想外なものだった。

 

「…いえっ、嫌と言うわけではなくてですね… と言うか、誰でも急にそんなことを言われたら驚きますよっ!」

「そ、そうだよな! 急にごめんなっ!」

 

そんなやり取りをして、俺達は顔を赤くしたまま押し黙る。

暫くすると、めぐみんが再び口を開く。

 

「…その、どうしてアキラは…急にそんなことを…?」

「あー、めぐみん…その事を聞いちゃう? 俺としては、すっごい恥ずかしいんですけど…」

 

妄想していた相手に『こんなことを考えてました。』と内容を言うなんて、どんな罰ゲームだろうか。

そんなことを言って誤魔化そうとする。

 

「…私だって、いきなりあんなことを言われて恥ずかしかったです。 …もし言わないのなら、アキラと一緒にお風呂に入ったことを、ギルドに広める事も吝かではありませんが…」

「よし、話すから。だから、その事は他言無用でお願いします。」

 

そう言って俺は、コホンと咳払いをすると昼間、考えたことを全て喋ってやった。例えめぐみんが顔を真っ赤にしようとも、例え恥ずかしさから押し黙ったとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と言うことを、考えていました……。」

 

一人の時に考えていたことを、洗い浚い話すと言う公開処刑が終わり、再び俺達の間には沈黙が流れる。

もうやだ、逃げたい。 ここから早く逃げ出したい。

そう思って部屋から逃げ出そうとするが、グッと手を掴まれた。

 

「待ってくださいっ!」

「断るっ! こんな恥ずかしいことしてここにいられ…る……」

 

手を振り払って逃げようとすると、より深く手を掴まれ、グッと体が引かれる。

 

 

 

「…めぐ、みん……ッ!?」

 

俺がそう言うと、めぐみんは俺の首の後ろへと手を回し、ぎゅっと抱きついた。

 

「……私も…初めてあの通り名を聞いた時、同じことを考えました…。」

 

俺の耳元で、小さな囁くような声が聞こえた。

それと同時に、首の後ろに回された手にグッと力が入る。

 

「…ただ、私は恥ずかしくもありましたが、嬉しくもありました。 …私達、そんな風に見られてるんだなぁ…って。」

 

少しだけ、首に回された手が震えるのを感じる。

 

「…デストロイヤーと戦った時に、カズマに指摘されて初めてこの思いに気が付きました。 …そして、今回の事でやっと決心がつきました。 …私は、貴方のことが……」

 

その言葉の続きは容易に想像が出来た。 だからこそ、俺は手でめぐみんの口を閉じた。

 

「……んーっ!んーっ!!」

 

めぐみんは口を塞がれながらも抗議をするような声をあげる。

 

「……めぐみんの気持ちは…多分分かった…。 でも、カズマやダクネスが大変な今は…まだ言わないでくれ。 …全部の事が終わったら教えてくれ。 …俺も、めぐみんに伝えたいことがある…から…。」

 

俺はめぐみんの耳元でそう言うと、口に当てた手を離しぎゅっと抱きしめる。

 

「…ぁぅ…わかり…ました……。」

 

再び頬を赤くしためぐみんがそう言いながら、グッと腕に力が篭る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…そんなことをしていると、玄関の方から誰かの声が聞こえてきた。

 

「サトウカズマは居るかぁぁぁぁ!!!!」

 

……カズマ、今度は何をしたって言うんだ。



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第八話 - この貴族の娘に縁談を!

「…つまり、この間カズマ達が潜ったダンジョンから謎のモンスターが湧き出していて、何か知らないか聞きに来たってことですね。こんな夜遅くに報告ありがとうございます。」

「いえいえ、こちらこそこんな遅くにすみません。 …しかし、本人が不在とは…」

 

そう言って俺が屋敷に訪れたセナに対してお辞儀をすると、向こうも律儀にお辞儀で返してきた。

 

「それにしても、変なモンスターか…見た目とかって分かってます?」

「そうですね、目撃した冒険者によると『黒と白の仮面を被った手のひらサイズの人形のような姿』と言っていました。 …自分も実物を確認した訳ではありませんので、具体的な姿形は分かりません。 …何か覚えはありますか?」

 

セナの言葉に俺は思考を巡らせるが、その条件に当てはまるようなものは、一つも出てこなかった。

 

「うーん、ちょっと分からないですね…めぐみん、お前あの時カズマ達について行ったろ。 なにか思い当たることはないか?」

「…いえ。 第一、私はダンジョンの入口で、ちょむすけとカズマ達を待っていましたので…少なくとも、その時周りにはそんなモンスターは居ませんでしたよ。」

 

隣にいるめぐみんにそう聞くが、結果は著しいものではなかった。

 

「となると、やはりカズマさん達に聞くしかなさそうですね…どこに行ったのかは分かりますか?」

「それでしたら、カズマ達はお見合いを断る為にダクネスの実家に向かっている筈です。 私達も、明日の朝一番で向かう予定なので、良ければ一緒に来ますか?」

 

めぐみんの言葉にえっ。と声をあげようとすると、足をぐっと踏まれめぐみんがこちらを睨んでくる。 …話を合わせろってことか。

 

「そうですか。それでは明日の朝、再度こちらにお伺いします。」

 

再びお辞儀をしたセナがそう言って屋敷を後にする。

 

扉が閉まると、踏んでいた足が退けられた。

 

「…あいたたた…割と本気で踏んできたな…」

「すみません。釘を刺さないと、失言しそうでしたので。」

 

否定が出来ないので、抗議をせずにため息をついた。

 

「…ところで、ダクネスの見合いだとか、縁談だとか言ってたけど、あいつに何があったんだ?」

「…そう言えば、説明してた時には部屋に引きこもってましたから知らないですよね。 …一から説明しますと………」

 

 

めぐみんが言うには、ダクネスはダスティネス家と言う、相当地位の高い貴族の令嬢で、カズマの裁判を先延ばしにする為にその権威を振るったそうで、それを借りとしてアルダープは自分の息子との縁談を取り付けたそうな。

何故ダクネスが屋敷に戻ってこなかったかと言うと、その縁談を何としても阻止しようと奔走してたから、だそうな。

 

「……へぇ、でもさ。 あんな悪名高い領主の息子なら、ダクネスの親父さんも流石に止めるんじゃないか?」

「それが、ダクネスが言うには、息子の方はあの領主とは似ても似つかないような好青年らしくて……むしろ縁談を推進してる側らしいんです。」

「…それってやばくないか? と言うか、ダクネスは大丈夫なのか!?」

 

めぐみんの言葉に、俺はハッとする。

 

「大丈夫ですよ、カズマは変なところで知恵が回りますから。 どうにかしてくれる筈です。」

「…そうだといいけど…」

「とにかく、今ああだこうだ言ってもどうしようもありません。 ですから、あちらはカズマ達に任せて、さっき言った通り明日の朝一番でダクネスの実家に向かいましょう。」

 

そのめぐみんの言葉に一先ず同意し、明日に備えて再び自分の部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これが本物の屋敷ってやつかぁ……」

「流石、国王の懐刀と言われてる名家なだけありますね…」

 

翌日、ダクネスの実家に訪れた俺達は屋敷を見ながらそんなことを呟く。

屋敷の方への事情説明等は、王国検察官と言う立場があるセナに任せ、俺達はその結果が出るまで屋敷の外で待っていた。

その後、帽子の中に居たちょむすけと戯れて居たら、屋敷の中からセナが出てきた。

 

「あ、セナさん。 入っても大丈夫ですか?」

「はい。 カズマさん達は丁度縁談を終え、客間の方にいらっしゃるみたいなので、そちらの方に向かいましょう。」

 

そう言って、セナの後に続き屋敷の中へ入っていく。

少しすると、セナは扉の前に止まる。恐らくそこがカズマ達の居る客間だろう。

そう思っていると、セナが扉に手を掛け深呼吸をする。 そして……

 

 

「サトウカズマ、サトウカズマは居るかぁぁぁ!!!」

 

 

先程とは違った強い口調で、扉を開きながらそう叫ぶ。

部屋の中では、執事服を来たカズマとメイド服を着たアクア、普段と違った服を着ているダクネスと恐らくその父親と思われる男性がこちらを見ていた。

 

「…えっと、何のようだ? セナ。」

 

状況を掴めていないカズマがセナにそう尋ねる。

 

「貴様らが潜入したキールダンジョンから謎のモンスターが溢れ出し、それらが町の周囲にまで溢れ出している! この事について、貴様らの関係性を聞こうじゃないか!」

「…謎のモンスターって、俺達は何も関係ねぇよ。 …念のために聞くけど、心当たりはあるか?」

 

セナの言葉に、カズマがこちら側を見て尋ねる。

 

「爆裂魔法絡みでないなら、私は関係ありませんよ。」

「右に同じく。 それにカズマ達が潜ってた時は、俺は町で情報収集してたしな。」

 

初めに目を向けられた俺達はそう答えた。

 

「まぁそうだよな。 ダクネスは?」

「私も心当たりはないな。 日頃から問題は起こしていないし、ここ数日は基本的にこの家に居たからな。」

 

そうダクネスが答えると、後ろで父親らしき男性も頷いていた。

 

「…それで、お前は?」

「勿論無いわよ! 幾ら何でも私を疑い過ぎでしょ。 あのダンジョンに関しては、むしろ私のお陰でモンスターは寄り付かない筈よ!」

 

そう自信満々で言うアクア。 その言葉に何か引っかかったのか、疑惑の目をしたカズマがアクアとひそひそ話をする。

 

 

「…そう言えば、縁談の方はどうなったんだ!?」

 

ハッとした俺は、ダクネスにそう問う。

 

「あぁ、その事ならばもう心配はないさ。 領主の息子の方から、私との見合いは断ったとアルダープに伝わる筈だ。」

「…と言うことは、これからも冒険者を続けられるのですね!」

 

その言葉を聞き、俺とめぐみんは安堵する。

 

「と言っても、向こうの方も元々見合いを断る予定だったらしいんだがな。 …それに、アキラの方も無事立ち直ったみたいだな。」

「あの、出来ればその事はもう掘り返さないで頂けると有難いのですが。」

 

そこまで年が離れてないとは言え、ここまで年下の女の子に弱みを握られる男ってどうなんだろうか。

そんなことを思っていると、不意にカズマの叫び声が部屋の中を響き渡る。

 

 

「…こんの……バカがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

ああ、また何かやっちゃったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、私です。珈琲@微糖です。
この完全に自己満足で書いている小説も先日総UA2万を突破しました。ありがとうございます。

ダクネスの縁談周りは時系列等、少し改変させて頂きました。読み辛い等あればすみません。

さて、次回はバニルさん回なのですが、恐らく投稿が遅れると思います。
それ以降も、恐らくこれまでよりかは投稿ペースが落ちるとは思いますが、失踪だけはしないようにしますので、こんな自己満足な小説でよろしければ次回以降も見て頂ければ幸いです。


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第九話 - この借金生活に終止符を!

「…うぐ…ひっぐ…私は悪くないのに……」

「全く…お前は毎度、活躍をマイナスにする病気にでも掛かっているのか?」

 

アクアとカズマがこんな会話をしながら、俺達はキールのダンジョンへと向かっていた。

 

「それにしても、モンスターの異常発生なんてそんな都合よく起こるもんかねぇ…」

「普通はそうそう起こることではありませんよ。 …恐らく、何者かが召喚してるのだと思いますが…」

 

この世界の生態系に疎い俺は、隣に居ためぐみんに尋ねるが、回答はほぼ予想通りだった。

 

暫く歩くと、ダンジョンの入口らしき場所まで辿り着く。

そしてその入口からは、話に聞いていた白と黒の仮面を被った小さな人形のようなモンスターが次々に湧き出していた。

 

「サトウさん。 ご協力、感謝致します。 恐らく、何者かがあのモンスターを召喚していると思われます。 ですので術者を倒し、この封印の札を召喚陣に貼り付けてください。」

 

そう言ってセナがカズマに小さな紙を渡していた。

 

そんな様子を横目に、俺はダンジョンから湧き出す謎のモンスターを見る。

 

「ああ見るとそんなに危険なモンスターには見えないんだがなぁ…」

「そうかしら? ……私、あの仮面を見てたら無性にイライラしてくるんですけど……」

 

そう言ってアクアが手元にあった石をつかみ、謎のモンスターに向かって投げようとするが、それに気づいたモンスターの一匹がトコトコとアクアに向かって歩く。

 

「な、なに!? …何かしら、もしかしてこの子、甘えているのかしら。」

 

モンスターが足にピョコっとしがみついてきたのを見て、少し空気が和らぐ。

 

 

 

その直後、モンスターは急に体から光を発して、くっ付いていたアクア諸共爆発した。

 

「…ご覧の通り、あのモンスターは敵に飛びつき、自爆すると言う習性を持っています。」

「なるほどな。」

「なんで貴方達はそんなに冷静なのよー!」

 

攻撃されたにも関わらず、冷静に特徴のやり取りをするセナやカズマを見て不満げにアクアが言う。

 

そんな彼らを横目に、ダクネスは魔物の群れの方に向かっていく。

 

「ちょ、ダクネスッ、何してんだ!」

 

俺がダクネスを止めようと声を上げるが、予想通りモンスターがダクネスへ向かって飛びつき、自爆をする。

 

「…ふむ、私ならばそこまでダメージはないようだな…カズマ、私が露払いをしよう。」

 

爆発に巻き込まれても無傷だったダクネスがカズマにそう言う。

…防御スキル極振りってすげぇ…

 

「カズマカズマ。 私は足手まといになりそうですので、ダンジョンの外で待っています。」

「そうだな。 …お前達はどうする?」

 

そう言ってカズマは俺達に目を向ける。

 

「嫌よ……もうダンジョンは嫌……」

「俺はこの表に出てるモンスターの清掃に回るわ。 ダンジョンに潜ったことのない俺が行っても、足手まといになるだろうし。」

 

カエルやワニに加えて、新たなトラウマを抱えたアクアが震えながら蹲る。

…カズマのやつ、ダンジョンに潜った時何をしたんだろうか。

そんなことを考えていたら、俺達の答えに納得したのだろうか、ダクネスやセナが連れてきた町の冒険者達と共にダンジョンに潜っていった。

 

「さてと、じゃあこっちの方も始めますか!」

 

そう言ってローブの下から魔力で作り出したナイフを取り出す。

 

「なぁ、セナ。 あいつらは近づかなければ爆発しないんだよな?」

「え、ええ。 そうですが…あのように小さいと、相当運が高くなければ当たりませんよ?」

「いや、今回のに関して言えば当たらなくてもいいんだ。 …こうやってナイフを投げれば…ッ!」

 

モンスターの群れの中心に投げられた、()()()()()()()()()()()()()を敵と認識したモンスターは、次々とナイフに飛びつき自ら自爆をする。

 

「…予想通り、って言ったところかな。」

 

そう言ってある程度モンスターが居なくなったところで、地面に刺さったナイフを回収する。

 

「…えっと、アキラ。 今何をしたんですか…?」

 

何故あのモンスターがナイフに吸い寄せられたか疑問に思っためぐみんがそう聞いてきた。

 

「ああ、今のアレか。 ナイフに魔力を纏わせて、あのモンスターが敵と認識するようにした…って感じかな。」

「…どうして魔力で認識してると分かったんですか?」

 

その俺の回答にセナが少し疑いを持つ顔で尋ねる。

 

「まぁ予想だったんだが…動くもので敵と認識してるんだったら、そこら辺の草木にも飛びつく筈なのに、あいつらは真っ直ぐアクアやダクネスを狙っただろ? だから、魔力か何かで敵を判断してるんじゃないかなぁって思って、ナイフを投げたんだ。」

 

手先でナイフをクルクル回しながらそう答えると、その答えに一応納得したセナが食い下がる。

 

「ああ言ったモンスターには直接攻撃は出来ないし、カズマ達が戻ってくるのを待ちながらここら辺のモンスターでも討伐してようか。」

 

そう言って再び、魔力を纏わせたナイフを別の群れの中心に向かって投げる。

 

 

 

 

 

==========

 

 

 

 

 

「アキラー、ダンジョンに潜っていった冒険者達が戻ってきましたよー!」

 

あの後、少し離れたところでモンスターの討伐を行っていると、めぐみんが呼びに来た。

 

「おー、ありがとうなー。 ってことは、カズマ達も戻ってきたのか?」

「それが…戻ってきた冒険者達曰く、中でモンスター達の襲撃に遭いカズマ達とははぐれてしまってらしく…」

「…ってことは、あいつらはまだ戻って来てないのか…よし、とりあえずアクア達と合流しようか。」

 

そう言ってナイフを魔力に戻すと、めぐみんの隣を歩いて再びキールのダンジョンへと戻っていく。

 

「そう言えば、アキラがナイフを使うのは久し振りですね。」

「…そう言われたら、確かにそうだな。 …と言うか、ここ最近はああ言ったのが通じる奴らが少なかったしな。」

 

ベルディアといい、デストロイヤーといい。振り返ってみると、こう言った小手先の武器が通用する相手は殆ど居なかった。

 

「それに、今はこいつもあるからなぁ…」

 

そう言って、背中に背負っている柄のみの鎌を見る。

この間のカエル討伐の時には出番はなかったが、これから先はこう言った武器を主軸にしていこうと考えているので、やはりナイフの出番は少なくなるだろう。

 

「その鎌を見て思い出したんですけど、アキラはそのスキルに名前は付けないのですか? 初めて見た時の詠唱は中々良かったのに、スキルの名前が無いと何かしっくり来ないと言いますか。」

「…必要なのか、それ。」

 

少し考えてそう言ったが、こっちを見るめぐみんの目線からして恐らく必要なのだろう。

 

「…まぁ、考えておくよ。」

 

そう言って再びキールのダンジョンへと歩みを進めた。

 

 

 

 

==========

 

 

 

 

「…臭うわ、ダンジョンの奥からクソ悪魔の臭いがするわ!」

 

キールのダンジョンの前まで行くと、アクアが急にそんなことを言っていた。

一応は女神と言うだけあって、そう言った嗅覚は鋭いのだろうか、直後、ダンジョンの中から二つの走る音が聞こえてくる。

 

「乗っ取られた仲間の体を前にどう出るのか! とくと…」

「『セイクリッド・エクソシズム』ッッ!!!」

 

武器を構えて、モンスター達と同じ仮面を付けて出てきたダクネスに、なんの躊躇もなくアクアは魔法攻撃を仕掛けた。

 

「だ、ダクネスーッ! おいこら、いきなり魔法をぶちかますなよ!」

「何か邪悪な気配が近付いてきたから打ち込んでみたんだけど…」

 

ダクネスの後を追って出てきたカズマがそう叫ぶ。

 

「ダクネスは今、魔王軍の幹部に体を乗っ取られているんだ!」

 

その言葉に、冒険者達やセナは驚きの声をあげる。

 

「う…っ…くっさ、なにこれクッサ! 間違いないわ、これは悪魔から漂う臭いよ! ダクネスったらえんがちょね!」

 

おいそこの女神さんや、どうしてそんな古い言葉を知っている。

若干アクアの本当の年齢が気になったところで、ダクネス…?が再び立ち上がる。

 

「……ふ、フハハハハッ! まずは初めましてだ。 我が名は 『お、おいアクアッ! 私自身は臭わないと思うのだがっ!』 我が名はバニ『カズマも嗅いでみてくれっ! 臭くはない筈だっ!』喧しいわっ!……我が名はバニル! 出会い頭に退魔魔法とは、これだから悪名高いアクシズ教徒は…ッ! 礼儀と言うものを知らんのかっ!」

 

一人の人物から、男女別の声が出てくると言う、世にも奇妙な状況を目撃した。

そんなダクネス(バニル)を、アクアは煽ると再びダクネス(バニル)に向かって退魔魔法を放つ。

 

「ちょっとダクネス! どうして避けるの?じっとしてて頂戴!」

「『そ、そんなことを言われても…』」

 

そんな二人(三人)のやり取りを見ていると、急に腕がグイッと引っ張られる。

 

「ちょっとアキラ!何ですかあの仮面は! 私も欲しいです、紅魔族の琴線に激しく響きます!」

「うん、どうみても今言う空気じゃないよね。 と言うか多分あれが乗っ取ってる本体だよね? 町に戻ったら何か好きなもの買ってあげるから、ちょっと黙ってよっか。」

 

そう言って再びダクネス(バニル)の方に目を向ける。

丁度、冒険者達がダクネス(バニル)へと襲いかかっていた。

 

「…くっ…あのダクネスがこんなに手強いなんて…っ!」

「当たらねぇ…簡単に剣で弾き返されちまう…っ!」

 

その冒険者達の言葉の通り、バニルはダクネスの体を使いこなし、傷の一つすら付けずに居た。

 

「…全く…おいカズマ、どうにかして対処法を考えといてくれ!」

 

ダンジョンの入口からこちらにやってきたカズマにそう言うと、俺は背中に背負っていた柄のみの鎌を取り出す。

 

目の前では、四人の冒険者達がダクネス(バニル)を取り囲んで襲い掛かる。

だが、元々筋力や耐久性にステータスを極振りしているダクネス(バニル)に傷をつけることは容易いことではなく、一人、また一人と倒されて行く。

 

「…ほう、次は貴様か。 …その刃のない武器で、一体何をするつもりだ?」

 

四人の冒険者達を倒したダクネス(バニル)がこちらに目を向ける。

 

「ああ、と言ってもどうせすぐ倒されるだろうけどな。 …それと、こいつは…こうするのさっ!」

 

俺はそう言うと、体の後ろで柄のみの鎌を半月状に回す。

そうすると、柄の先に軌道と同じ形の刃が出来上がり、その逆方向には槍の先の部分のようなものが現れる。

 

「ほう、この見通す悪魔に勝てないと分かっていても立ち向かうと言うのか。 …それにその術、少なくともこの世のものではないな?」

「さぁ、どうだろうな。 …ただ、勝てないとは言え負けるつもりはないから…油断するなよ…ッ!」

 

大鎌を構え、ダクネス(バニル)との距離を詰める。

 

──恐らく、いやほぼ確実に普通に戦ったとしても、俺はダクネス(バニル)には勝てないだろう。

 

だからこそ、柄の先の部分を持ってダクネスの剣が届かない範囲から攻撃を仕掛ける。

 

「…ふん、我輩の届かない位置から攻撃しようと言うことか…だが甘いッ!」

 

ダクネス(バニル)は軽くバックステップをすると、グッと踏み込んで一気に距離を詰め、剣をこちらに突き刺してくる。

 

俺は、振り切った鎌の遠心力を利用し、逆の先に付いた刃で剣先をずらす。

 

「…ふむ、いい筋をしている…が、相手が悪かったようだなッ!」

 

ダクネス(バニル)がそう叫ぶと、フッと足から力が抜け、視線がグッと横になる。

留守だった足元を引っ掛けられて転ばされたと気が付いた時には、俺の腹を思い切り蹴られていた。

 

「…ゴフッ…!?」

「アキラッ!?」

 

俺は丁度後ろにいたカズマやめぐみん達のいる方に蹴り飛ばされていた。

 

「アキラッ、大丈夫か!?」

「アキラッ!しっかりしてください!」

 

カズマやめぐみんがこちらに駆け寄り、体を揺さぶる。

…待って、そんなに揺さぶらないで。ただでさえ意識が朦朧としてるんだから。

 

「安心しろ。 我輩は人を殺す趣味などない。」

 

朦朧とする意識の中、最後に聞こえたのはそんなダクネス(バニル)の声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「うぅ…ん…」

 

あれからどれくらい経ったのだろうか。

空は今だに暗く、それ程時間は経っていないのだろうか。

だが、一つだけ決定的に違うところがある。

先程まであった周囲の喧騒が一切なく、まるでいつもの森に戻ったようだった。

 

「…やっと起きましたか、寝坊助さん。」

 

周囲を見渡すと、すぐ近くでめぐみんがちょむすけと戯れていた。

 

「……なんだ、めぐみんか。 と言うか、ダクネスや皆はどうしたんだ? それにバニルは…」

「バニルなら無事討伐出来ました。 …ただ、討伐する時に爆裂魔法を放ちましたので……」

 

こちらに近づいてきためぐみんの顔はどこか曇っている。

爆裂魔法を放ったと言うことは、ダクネスにも大きな被害が出たのだろう。

 

「…それで、他の皆は?」

「ダクネスを町に連れ帰ったり、魔王軍の幹部討伐の報告に行ってしまいました。 ただ、気絶してるアキラを放っておくわけにも行かないので、私がここに残ってました。 …そろそろ、カズマ達も戻ってくると思いますよ。」

 

そうか。 と呟くと再び空を見上げる。

ぼんやりと空を眺めていると、めぐみんが心配そうに声を掛けてくる。

 

「…えっと、アキラ。 大丈夫ですか…?まだお腹が痛みますか?」

「…ん、いや、それは大丈夫。 まだ少し痛むけど、無茶した罰と受け取っておくさ。」

 

そう言って俺は笑みを浮かべて、心配そうに覗き込むめぐみんの頭をなでる。

 

「まぁ、あの悪魔も本気で殺すつもりはなかっただろうし、ちょっと休めば元通りになるだろうしな。」

「…前にも言った気がしますが、もうあんな無茶はやらかさないでくださいよ?」

 

めぐみんの言葉に頷くと、俺は痛みを堪えながら立ち上がる。

 

「さてと、そろそろカズマ達が来るだろうし、すぐに動ける準備をしとけよ!」

 

そう言ってめぐみんの頭から手を離す。

 

「準備が必要な程でもありませんよ。 …それよりも、そんな急に動いて大丈夫なのですか?」

「あぁ、痛むって言ってももう殆ど無いのも同然だからな!」

 

そんなことを言っていると、木陰から聞き慣れた声が聞こえてくる。

 

「おーい、めぐみんー!アキラは起きたかー?」

「何言ってるの?起きてて当たり前じゃない! この私が手当をしてあげたんだから! これで起きてなかったら、ゴッドブローでも食らわせてやるわ!」

 

木陰から聞こえてきたやり取りはどこか懐かしく、無事に日常に帰ってきたのだと実感出来るようなやり取りだった。

 

「アキラはついさっき起きましたよー! それよりも、ダクネスは大丈夫でしたか?」

 

木陰から姿を現したカズマ達に、めぐみんがそう声を掛ける。

 

「ダクネスの方なら大丈夫だ。 重症だったが、こいつが本気で回復魔法を掛け続けたんだ。」

「すぐ…とは無理だったけど、数日後には目を覚ますと思うわ!」

 

そう言ってふふんとしながら胸を張るアクア。

普段の行動はあれだが、プリーストとしての腕前は超一流と言っても過言ではないので、恐らくダクネスは無事だろう。

 

「見た感じアキラも平気そうだし、俺達も帰ろうぜ!」

 

そのカズマの声に俺達は各々返事をし、町へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冒険者、サトウカズマ殿。 貴殿を表彰し、この町から感謝状を与えると同時に、嫌疑をかけたことに対して、深く謝罪させていただきたい!」

 

ダクネスが目覚めるのを待ってから、俺達は再び冒険者ギルドへと集められていた。

そして、あの時と同じように俺達の前には数人の騎士とセナが立っている。

唯一違うところとすれば、セナの手から渡ったカズマへの感謝状と、ここに居る全員の表情だろうか。

 

「続いて、ダスティネス・フォード・ララティーナ卿。 今回における貴公の献身素晴らしく、ダスティネス家の名に恥じぬ活躍に対し、王室から感謝状並びに、先の戦闘において失った鎧の代わりに、第一級技工士達による鎧を贈ります。」

 

そう言って後ろの騎士達から、今まで愛用していた鎧と同じデザインの新たな鎧が贈られる。

 

…あぁ、そう言えばもう一つ違うところがあるとすれば……

 

「おめでとう、ララティーナ!」

「ララティーナ、よくやった!!」

 

カズマによって、ララティーナと言う名前が冒険者達に広められてるところだろうか。

 

「それにしても、ダクネスってララティーナって名前だったのか…。」

「普段のアレとは違って、案外可愛い名前ですよね。」

 

つい先日、ダクネスの本名を知った俺は不意にそう呟く。

その声を聞いたダクネスは、顔を覆い隠してこう叫んだ。

 

「……こんな…っ…こんな辱めは……私が望むスゴい事ではないぃぃ……っ!」

 

そんなダクネスの横で、『ララティーナ』と言う名前を連呼しながら慰めるアクア。

…むしろ、逆効果になってる気がするのは言ってはいけない。

 

そんな懐かしい喧騒が少し落ち着いた時、再びセナの口が開かれる。

 

「…そして、冒険者"サトウカズマ"一行。 機動要塞デストロイヤーの討伐における多大な貢献に続き、今回の魔王軍幹部"バニル"討伐は、貴方達の活躍無くばなしえませんでした。 …よってここに、貴方の背負っていた借金及び、領主殿の屋敷の弁償金を報奨金から差し引き、借金を完済した残りの分、金四千万エリスを進呈し、ここにその功績を称えますっ!」

 

その言葉を聞き、一瞬全ての音が止まった気がした。

 

 

「…ってことは……」

 

 

恐らく、カズマがそう言ったのだろう。

その言葉で、俺達は実感した。

 

 

「「「「「借金完済だぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」

 

 

その言葉と共に、周囲の冒険者達が湧き上がる。

俺達は共に抱き合い、今まで雁字搦めにまとわりついていたものから開放されたことを喜び合う。

漸く借金から開放されたのだ。 今だけは浮かれてもいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔王軍幹部討伐の祝宴という形で、始まったどんちゃん騒ぎの端で、俺はめぐみんと二人で少しのんびりしていた。

 

「…それにしても、借金完済かぁ……嬉しいけど、実感ないよなぁ…」

「そうですね。 …ただ、漸く追われるものがなくなったんですから、少しだけゆっくりしてもいいんじゃないんですかね。」

 

宴会の中心で宴会芸を披露するアクアを横目に、グダグダしながら喋る。

 

「そう言えば、カズマの姿が見えないけど…あいつどこ行ったんだろうかね。」

「それを言うなら、ダクネスの姿も見えませんね。 どこか別の場所にでも行ってるとかですかね?」

 

そんなことを言って、再びのんびりする。

少しすると、再びめぐみんが口を開く。

 

「…アキラ、ダクネスの実家に向かう前に話した事…覚えてますか?」

「……………あぁ。」

 

そんなめぐみんの言葉に、俺は小さく頷く。

 

それを見ためぐみんは、一度深呼吸をすると、意を決したようで再び口を開く。

 

 

「…アキラ。 夜、時間を少し貰っていいですか? …

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…伝えたいことが、あります。」



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第十話 - この冒険者に新たな決意を!

「……アキラ、居ますか…?」

 

俺達の借金が完済された日の夜、その声と共に俺の部屋のドアがゆっくりと開かれた。

椅子に座って読書をしていた俺が扉に目を向けると、どこか緊張した面持ちのめぐみんが顔を覗きこませていた。

 

「あぁ、とりあえず適当に座ってくれ。」

 

俺がそう答えると、めぐみんがお邪魔します。と言って部屋に入り、ベッドに腰掛けた。

そわそわしながら部屋を見回すめぐみん。

そんな様子を見ながら、俺は読んでいた本をパタリと閉じる。

 

「……どうしたんだ、そんなにそわそわして。」

「いえ、何でもありません。 …ただ、こうやってアキラの部屋に来るのは久し振りだなぁって思って。」

「まぁ、最近は鍵を締めてたけど…そう染々言うことか?」

 

染々と言うめぐみんに首を少し傾げながら言うと、めぐみんはやれやれと言った様子で言う。

 

「全く、アキラは鈍いんですから。 …緊張してた私が、ばかみたいじゃないですか。」

 

そう言ってめぐみんはいかにも怒ってますと言った様子で小さく呟く。

 

「…あぁ、うん。悪い、どうもそう言うのは昔っから疎くてなぁ…」

 

椅子から立ち、机の上に本を置いた俺はめぐみんの方に向き直りそう言う。

 

「…今回は許してあげます。お陰で緊張も解れましたし。」

 

そう言ってめぐみんは布団から立つと俺に向き合う。

 

「…アキラ、この間の話の続き…です。」

 

俺の目の前に立つ少女は服の裾をぎゅっと握ると、意を決したようで口を開く。

 

「…私は、この町に来てから沢山のパーティに参加させてもらいました。 紅魔族のアークウィザードという事もあり、初めのうちはどのパーティでも歓迎してもらえました。」

 

そう、昔を懐かしむ様に話すめぐみんの顔は決して明るいとは言えなかった。

…そして、めぐみんは俯いて話を続ける。

 

「ですが、私が爆裂魔法しか扱えないアークウィザードだと分かると、どのパーティも入れてくれなくなり……いつしか、私は一人ぼっちになりました。」

 

そう話すめぐみんの声は段々と震え、裾を握る手の力も段々強くなっていた。

 

「……でも、カズマのパーティは…貴方だけは違ってた。 私の爆裂魔法を見て、凄いと言ってくれた。 動けなくなる私の手を取って、助け合うのは当然だと言ってくれた。 ……そして、私の爆裂道を馬鹿にせず、共に歩んでくれると言ってくれた!」

 

俯いていためぐみんは顔を上げて、目には涙を浮かばせつつも笑顔でそう言う。

 

「初めは、優しい人だなぁ。位にしか思っていませんでした。 …でも、その想いは段々と大きくなって。…いつしか、貴方のことをもっと知りたい。貴方にもっと認めてもらいたいと思うようになりました…。」

 

そう言っためぐみんは自分を落ち着かせる様に一度深呼吸して、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…アキラ、貴方のことが好きです。」

 

目の前の少女は、頭を下げながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「めぐみん、顔を上げてくれ。 …俺の話を、聞いてくれないか?」

 

目の前の少女にそう言うと、めぐみんは顔を上げて頷く。

 

「俺がカズマのパーティに入った時、同時に入った魔法使いの女の子が居たんだ。」

 

俺はあえてその少女の名前を出さずに言う。

 

「その女の子は、一度使うとガス欠になる魔法しか使えなくて。 …正直な事を言うと、結構不安だった。」

 

その俺の言葉に、めぐみんの顔が少し曇る。

だが、俺はそれを無視して言葉を続ける。

 

「…でも、その女の子が一つの魔法に掛ける想いは本物で、初めてその魔法を見た時から、俺の心は、そのたった一つの魔法に奪われたんだ。」

 

そう言うと、不安そうな顔をしていためぐみんの肩がビクッと震える。

 

「そして、その魔法を追い掛けていた筈なのに、いつしかその魔法を打つ女の子の事が気になって…その女の子にも、心を奪われてた。」

 

そこまで言うと、俺は一度目をつぶって深呼吸をし、その少女に想いを告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺も、めぐみんの事が好きだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、今はめぐみんの想いには答えられない。 …ごめん。」

 

そう言って頭を下げた瞬間、この部屋の時間が止まったような気がした。

 

目の前の少女は、俺の言葉の意味を理解した瞬間、帽子で顔を覆い隠して尋ねる。

 

「……………どうして…っ…ですか……もしかして、私が子供だから……ですか…っ……」

 

そう尋ねる声は震えながら段々と小さくなり、今にも泣き出しそうになっていく。

…そんなめぐみんの事を、何も言わずにぎゅっと抱きしめる。

 

「そうじゃない。 …ただ、一度パーティを離れようと思ってるんだ。 …だから、めぐみんの想いにはすぐには答えられない。」

 

泣きそうになるめぐみんの耳元で、そう言った。

その言葉に驚くめぐみんに、俺は続けて言う。

 

「この間、バニルと戦った時に思い知らされた。 …カズマには高い幸運と知識、アクアにはアークプリーストとしての能力。 ダクネスには高い耐久力…そして、めぐみんには爆裂魔法がある。 …でもさ、俺には何も無いんだ。」

「…で、でもアキラには…」

「確かに、俺には魔力を物体にする。なんて能力がある…でもさ、今の俺には全く使いこなせていないって…バニルと戦った時に思い知らされたんだ。」

 

めぐみんを抱きしめる腕にグッと力が篭る。

 

「デストロイヤーの時だって、俺があんなことを出来たのはアクアが居たからだ……っ…俺一人じゃ何も出来ないのに…何でも出来るような気になって……」

 

自分で言ってて、情けなさに目頭が熱くなるのを感じる。

そんな俺の頭に、優しく手が置かれる。

 

「そこまで悩んで決めたのなら、私は何も言いません…でも、約束してください。 必ず帰ってくるって。」

 

頭を撫でられながら、俺はこくりと頷く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くして、落ち着いた俺は一度めぐみんから離れてベッドに座ったのだが…

 

「…情けない姿みられた…もうやだ…おうちかえる…」

 

ベッドに体育座りをしながらそう言う。

 

「いいじゃないですか、見たのは私だけなんですから……それに、ああ言った姿のアキラも中々…」

「…そうやってぶり返すのやめて…ほんとに…」

 

そう言って隣に座りながら頬に手を当てて言うめぐみんに反論する。

そんなことをしていると、めぐみんが何かに気づいたようで俺に話しかけてきた。

 

「…そう言えば、パーティを抜けるって具体的にはどういうことなんですか? 暫く一人でクエストを受けるとか…?」

「いや、詳しい事は考えてないんだけど…アクセルの町から出ようかなぁとは思ってる。 色んなところに行って、色んなモンスターと戦って沢山経験を積むのが一番かなって思って。」

「…ちょっと不安になって来たんですけど。 本当に危ない事はしないでくださいね…?」

「分かってるって、めぐみんと両想いになったのに、そんな無茶なんてしないさ。」

 

不安げに顔を覗き込むめぐみんにそう笑いながら返事をする。

 

「…ふふ、そうですよね。 ところで、いつ頃出る予定なんですか…?」

 

俺の言葉に、少し頬を赤らめつつもそう聞いてきた。

 

「そうだなぁ…カズマ達に話して、色々準備して……大体2~3日後位かな?」

「結構すぐ出る予定なんですね……と言うか、カズマ達にまだ話してないんですか!?」

 

先にカズマ達に話しているであろうと思っていたのだろうか、めぐみんは驚いたような顔をしていた。

 

「ああ…話そうとは思ったんだが、姿が見当たらなくてな。 …という訳で、明日の朝からの準備の為に早く寝たいだが。」

 

俺がそう言うと、めぐみんはそうですか。と答えてどこかもじもじしていた。

 

「どうしたんだ?」

「…アキラ。その、お願いがあるのですが…」

 

そんなめぐみんに話しかけると、めぐみんは少し俯いてこう言ってきた。

 

「…あの…アキラが居なくなるまでの間、また一緒に寝てもいいですか…?」

「…ん。」

 

俺はもじもじするめぐみんの手を取ると、立ち上がって布団の中に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こうやって二人で添い寝するのは久し振りですね…。」

「…まぁ、ここ最近で色んなことがあったからな…。」

 

布団の中でくっ付いて二人でそんな話をする。

こうして二人で寝るのは何時ぶりだろうか。

そんなことを考えていると、目の前にめぐみんの顔があった。

 

「…出来れば、これからもこうやって過ごしたいんですけどね…」

「…あー、うん。ごめんね、俺のわがままで。」

 

そう言ってめぐみんの頭を撫でる。

そうすると気持ち良さそうに目を細める姿を見て、こちらも笑顔になる。

 

「…いいですよ、帰ってきたら覚悟しておいてくださいね?」

「よし、出来るだけ長くして…痛い痛い痛い!ごめんなさい、ごめんなさい!」

 

笑顔でそう言うめぐみんに、俺がふざけて言うと笑顔のまま太ももの部分を抓られたので全力で謝った。

 

「ふんっ…そんなことより、そろそろ寝なくてもいいんですか…?」

「…そうだな、もうちょっとめぐみんと戯れてもいいけど、流石に寝るかな…」

 

そう言ってめぐみんをぎゅっと抱きしめてゆっくりと意識を失った。



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第十一話 - この新たな冒険の始まりに祝福を!

「「「はぁ!? パーティを抜ける!?」」」

 

翌日、めぐみんに伝えた事をカズマ達にも伝えると、驚いた様子で俺の顔を見てくる。

 

「お、おいアキラ! 急にそんなこと言い出してどうしたんだ!?」

「そうだ! 確かに借金は返済して、ある程度の貯蓄もあるだろうが…流石にパーティを抜ける必要はないだろう!?」

「そうよ! 今ならまだ戻れるわ、だから考え直して!」

 

カズマ達はそう言って俺に詰め寄ってくる。

 

「…あー、えっと…言い方が悪かったかな? 暫く、パーティを離れて修行の旅…? っていうやつに行こうと思うんだ。」

 

俺がそう説明すると、パーティを抜ける気では無いことに気づいたカズマ達は一先ず安堵した。

 

「…全く、驚かせるなよ…ってか、それはそれでどうして急に…」

 

カズマの言った言葉にダクネスのアクアは頷く。

 

「…この間、バニルと戦った時に俺だけ何も出来なかった。 その前のデストロイヤーの時だって、アクアが居たからあんなことが出来たけど…多分、俺一人じゃ何も出来なかったと思う。 …ベルディアの時だって、結局俺は殆ど何にも出来てない。 そう考えてたら…自分のことが情けなくなって…」

 

そう言う俺の手に、段々と力が篭る。

 

「…それならば、別にパーティを抜ける必要なんてないのではないか。 この町に居るからと言って、鍛えられない訳では無いだろう?」

 

ダクネスがそう言うが、俺は首を振る。

 

「確かに、この町でもレベルは上げられる。 …でもさ、こんな居心地の良いパーティが居る町に居たら、俺は多分戻りたくなると思うんだ。 だから、自分の退路を断つ為にも、この町を出ていこうと思う。」

 

俺がそう言うと、カズマ達は押し黙る。

…暫くすると、アクアが口を開いた。

 

「…いいんじゃないの? アキラだって、ちゃんと考えてそうしようって思ったんでしょ。 なら、私は止めないわ。」

 

そう言ったアクアに同意するように頷くダクネスやカズマ。

 

「…アクアの言う通り、アキラが決めたのなら、私から言う事はないだろう。 分かってると思うが、無茶だけはするなよ?」

「ああ、分かってるって、必ず帰ってくる。」

 

そう話していると、カズマがふと気づいたように言ってきた。

 

「そう言えば、この事はめぐみんの奴には伝えたのか? 」

「ああ、めぐみんには……「私がどうかしましたか?」

 

俺がそう言いかけると、後ろの扉からめぐみんの声が聞こえてきた。

 

「噂をすれば何とやら、って所だな。 昨日の夜の事を話してたんだ。」

 

俺がそう言うと、途端にめぐみんは顔を赤らめて顔を隠すようにくっ付いてきた。

 

「その、アキラ? …流石に、昨日の今日でカズマ達に伝えられるのは恥ずかしいと言いますか…」

「そっちじゃねぇよ!パーティ離れるって話の方だよ! 」

 

恥ずかしげに言うめぐみんの誤解を解いていると、カズマ達が集まって、何かを話しているようだった。

 

「…あの二人、やっぱりそういう関係だったのね…」

「…いつかはそうなると思っていたが……」

「…むしろ、あんだけイチャついててくっついて無い方が不思議だったもんなぁ…」

 

そんなことを、こちらに聞こえるような声で話している。

 

「……めぐみん、後の事情説明は頼んだ。 俺は準備の為に暫く家を空けるから!」

 

小っ恥ずかしくなった俺はそう言って早歩きで部屋を出ていく。

 

「ちょ、ちょっとアキラ!置いてかないでください! と言うかなんですか!その微笑ましいものを見るような目は!」

 

後ろからそんな声がしたような気がしたが、俺は気にせず歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

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町に出てきた俺は、ウィズの店の前まで来ていた。

この店の商品は使い勝手の悪いものが多いが、稀に掘り出し物があるので旅に出る際、何か使えるものは無いかと思い訪れていた。

…あわよくば、カズマが使っていた『ドレインタッチ』を教えてもらえないかと思ってはいるが。

そんなことを考えながら、俺は店の扉に手を掛けて………

 

 

「おお、これはこれは先日の我輩との戦いでボコボコにされてその晩、枕を涙で濡らしたせいね……」

 

 

俺はこれまでにないくらい綺麗なスナップを手首に効かせて扉を閉めた。

 

「(…あれー。俺、疲れてんのかな…)」

 

今目の前に映った姿が信じられない俺は、そんな思考を張り巡らせながら再び店の扉を開く。

 

 

「全く、そんなに乱暴に扉を閉めるでない。 壊れたらどうする。」

「…いやなんでしれっとお前が居るんだよ!めぐみんの爆裂魔法で倒されたって聞いたぞ!」

 

黒のタキシードに似つかわしくないピンクのエプロンを付けた見通す悪魔に、俺はそう叫んでいた。

 

「青年よ、この額の文字を見てみよ。」

 

そう言ってバニルが指した額の文字を見ると、【Ⅱ】と書かれていた。

 

「…その二がどうかしたのか?」

「ふん、察しが悪いな。 あの貴様が恋してる小娘の爆裂魔法の直撃など、我輩とてただでは済まん。 …我輩の残機も一つ減ってしまってな! 我輩は二代目バニルッ!」

 

…もう、突っ込む気すら起きなくなった。

 

「…あぁ、うん。なんで二度目ましてのお前がそのことを知ってるんだとか、残機とか色々言いたいことはあるけどもういいわ。 …それで、ウィズはどこだ?」

「あのポンコツ店主なら何やら用事があると言って2、3日店を空けると言っていたな。 …変なものさえ仕入れなければいいが…」

「…お前も苦労してるんだな…」

 

頭を抱えながらそう言うバニルに少し同情した。

 

「…まぁ、それはいいのだが…恐らく、戻ってくる頃にはもう既に青年は町には居ないだろうな。」

「…お前はどこまで知ってるの? まだ町を出る話とかしてないよね?」

 

俺が半分棒読みでそう言うと、バニルは高笑い

して答えた。

 

「フハハハハ! 我輩は見通す悪魔、悪魔公爵のバニルである! 人っ子一人の人生を見通すなど、たわいないことよ!」

 

そんなことを言ったバニルは顎に手を当てながら少し考え込む。

 

「…フム…青年よ、旅に出ると言うのなら優しいバニルさんから二つ助言をしておこうではないか。」

「…どういう風の吹き回しだ?」

 

唐突にそんなことを言ってきたバニルに、俺は怪しみながらそう言う。

 

「なに、貴様の将来を見通した上で友好的な関係は保っていて損は無いと判断しただけだ。 …あの忌々しいプリーストと同じパーティだが、それを差し引いても理はあるだろうしな。」

 

そのバニルの言葉を信じて、一応その助言を聞くことにする。

 

「まずは、旅に出ると言うのなら、バニルさん的には王都がいいだろう。 無数の冒険者が集まる地であり、日々魔王軍の襲撃を受けている地だ。 そこで他の冒険者から技量を吸収し、魔王軍との戦いで実践することで、短期間で経験を積めるだろう。」

「…そんな魔王軍に、この間俺はボコボコにされたんだけど…大丈夫なのか?」

 

不安げに言う俺にバニルは答える。

 

「ただの冒険者風情に、この『魔王より強いかもしれないバニルさん』が遅れを取るわけ無かろう! まぁ貴様の実力ならば、王都に群がる魔王軍など余程のことがない限り大丈夫だろう。」

「……まぁ、参考程度に考えておくよ。」

 

バニルのアドバイスを頭の片隅に置いたところで、二つ目の助言をしてくる。

 

「そして二つ目の助言だが……貴様の能力は『魔力を物質にする』事だけだと思っているな?」

「……? あぁ、そうだと思っているが……」

 

そういったところで、バニルは俺の目の前にビシッと指を突きつけて言う。

 

「ならば言わせてもらおう。 貴様の能力はそれだけでは収まらない。その能力さえ開花すれば、魔王軍の幹部であろうとも渡り合うことが出来るだろう! ……それを開花できるか否かは貴様次第だがな。」

 

そう言ってきたバニルに対して、俺は一度目を瞑り、一息吐いてから言った。

 

「…ははっ…だったら、意地でもその能力を開花して…真っ先にあの時のリベンジしてやるよ。」

「…いいだろう。 だが、このバニルさんを超すなど容易いことでは無いという事は覚えておけ。」

 

バニルが不敵に笑うのに釣られて、俺も笑みを浮かべながら、目的の人物が居なかったので俺は店の外へと歩みを進める。

 

「…そういや、近々カズマ辺りが商品を売りに来るかもしれないから、あいつらが来たらよろしく頼むぞ。」

「うむ、心得た。」

 

その言葉に満足して、俺はウィズの店を出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

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「おーい、カズマー。 居るかー?」

 

ウィズの店から帰ってきた俺は、カズマの部屋の前に立っていた。

 

「おお、アキラか。 何か用事か?」

「まぁな、教えて欲しい魔法があるんだが…」

 

部屋から出てきたカズマにそう頼む。

 

「それは別にいいが…その手に持ってるのは?」

 

カズマは俺が手に持ってる幾らかの紙を見ながら尋ねる。

 

「こいつか…俺が借金を返済しようとしてた時に、色々調べてただろ? この世界の生活水準を調べた上で、売れそうな商品の設計図なんだが…暫く居なくなるから、カズマに託そうと思ってな。」

「いいのか? もう借金は無いし、戻ってきてから作っても遅くないだろ?」

 

そう言ってカズマは、遠慮がちに対応してきた。

 

「いいっていいって、カズマの方が運のステータスが高いしな。 もしその中でヒット商品が出来たら、その売り上げの一部だけ取っておいて貰えれば十分だしな!」

「そういうところだけは抜かりないよな、お前。」

 

そう言って設計図を押し付けると、カズマは渋々受け取って設計図を眺める。

 

「ふむふむ…確かにこっちには暖房器具は殆ど無かったな…将棋なんて、この世界で流行るか?」

「あっ、それ俺がやりたいから作っただけ。 ついでに作っといてもらえると助かる。」

「よし、この設計図を使っていくつか魔法を教えてやる。 どうせ欲しいのは初級魔法だろ?」

「ごめんなさい自分で作るので返してください。」

 

俺が平謝りをすると、カズマは将棋の設計図だけを返してくる。

 

「…目を通してみたけど、他の奴は普通に使えそうなものばっかだから、こっちでちょっと頑張ってみるわ。 それで、教えて欲しい魔法はなんだ?」

「ああ、すまないな。 …魔法は、『ティンダー』と『クリエイト・ウォーター』、それと……」

 

そうして俺は、幾らかの日常で使えるスキルと自衛手段の盗賊のスキルを教えてもらい、部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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翌日、風が揺らす草木の音しか聞こえないような中、俺は正門の前に立っていた。

 

「(…結局あいつらには何も言わずに出てきたけど…大丈夫だよな。)」

 

そんな思考を張り巡らせ、俺は正門の横にある扉をゆっくりと開けようとした。 …その時だった。

 

「……全く、何一人でかっこつけて出ていこうとしてるんですか。 紅魔族的にはかっこいいですけど、一言くらい言ってから出ていくのが筋だと思うのですが。」

「…誰かと思ったらめぐみんか。 よく出て行ったことに気付いたな。」

「布団が急に冷たくなりましたからね。」

 

そんなたわいない話をしながら、俺はめぐみんの方に向き直る。

 

「まぁ、気付かれたんならしょうがないな。 …じゃあめぐみん、暫く出かけてくるわ、カズマ達にも、よろしく言っておいてくれ。」

「ええ、分かりました。 …アキラ、ちょっと目を閉じて屈んでもらってもいいですか?」

 

そう言われて、何かと思いつつ言う通りにする。

少しすると、首にベルトの様なものが通される。

 

「…えっと、めぐみん…これは…?」

「チョーカーですよ。昨日露店を見てたら、私の付けてるものに似たものがありましたので。 …寂しくなったら、それを見て私の事を思い出してください。」

 

そう言ってニコリと笑うめぐみん。

無意識に、そんなめぐみんの頭を撫でていた。

 

「…ありがとな。 このチョーカー、めぐみんだと思って大事にするから。」

「そうしてもらえると嬉しいです。 …必ず、帰ってきてくださいね。」

 

めぐみんの言葉に返事をするように、俺はこくりと頷きめぐみんの頭を撫でる。

 

「…それじゃあ、そろそろ行ってくるわ。」

 

頭を撫でていた手を離し、再び町の外へと歩みを進める。

 

 

 

「…行ってらっしゃい、アキラッ!」

 

 

暫く聞けなくなる、俺が一番聞き慣れた声に手を振りながら町の外へと出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見慣れた平野に吹く風は、今まで感じてた以上に清々しく、ここから新たな冒険が始まるのだと認識する。

放胆小心とは、よく言ったものだろう。 そう思い、大きく息を吸って叫ぶ。

 

「一先ず…目指すは王都へ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第三部完! どうも、珈琲@微糖です。

この章からちょこちょこオリジナル路線も混ぜ始めましたので、所々見辛い所等あったかもしれませんが、ここまでお付き合い頂きありがとうございます。

次回以降ですが、ほぼオリジナルの路線になりますので、更新頻度は現在以上に落ちると思います。
それも踏まえて、次回以降もお楽しみ頂ければ幸いです。


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第四章 - この修行の旅に祝福を!
第一話 - この授かり物の能力に真の名を!


「…死に晒せ…ッ!」

 

俺は手に持ったナイフを目の前の一匹だけ残ったゴブリンに向かって振り下ろす。

旅に出て数日、出会ったモンスターと戦いながら俺は王都を目指していた。

 

「ふぅ。 …旅に出たはいいけど…本当にこれでいいのかなぁ…」

 

そんな事を呟いて、自らの冒険者カードに視線を落とす。

幾らかレベルは上がり、ステータスも魔力を中心に上がってはいるが、基本の攻撃スタンスは変わらない為、あまり成長したと言う実感がない。

 

「…そういや、めぐみんに能力の名前は無いのか。…なんて事言われてたなぁ…」

 

前にめぐみんに言われたことを思い出しながら、王都に向けての歩みを進める。

 

「『物質錬成』!…いや、普通過ぎるな…物に変換…うーん…」

 

そんなことを考えていると、目の前の木陰に包帯を巻いた少女が座っていた。

 

「…なんでこんな所に女の子が…?」

 

木陰に座る少女は、こちらの事を上目遣いで見てくる。

だが、そんな見た目とは裏腹に『敵感知』スキルは少女に対してハッキリと反応していた。

 

「…触らぬ神に祟りなし…か。」

 

そんなことを呟きながら、なるべく見ないように通り過ぎる。

 

「…イッチャウ…ノ?」

 

力の弱い声で言う少女に、再び俺は目を向ける。

先ほどとは変わらずに、少女は上目遣いで見続ける。

 

「えっと、君は一体…?」

 

俺の問いかけに何も答えない少女。 その少女に手を差し伸べようとした時、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「おーい!そこの君ー!ちょっと待ってくれー!」

 

その声の方向を向くと、鎧に剣を携えた男…ミツルギがこちらの方に向かって来た。

 

「おや、君は確かサトウカズマのパーティに居た…どうして一人なんだい?」

「コセキアキラだ、アキラとでも呼んでくれ。 今は色々あって、一度パーティを離れてる。…それで、あの女の子は何だったんだ?」

 

そう言って少女が居た木陰に目を向けると、さっきまでいた少女はそこには居なかった。

 

「…しまった、取り逃したか。 さっきのは安楽少女と言うモンスターで……」

 

 

ミツルギから先ほどのモンスターの説明を聞き、俺はゾッとした。

 

 

「うわぁ…こえぇ…なんでそんなモンスターがそこに?」

「元はこの辺りに生息して居なかったモンスターだったんだけど、逃げてきてこの辺りに住み着いたらしいんだ。 それで、討伐依頼を受けて探していたんだが…」

「そりゃ悪いことをしたな。俺が居なかったら仕留められていたんだろうけど…」

 

俺がそう言うと、ミツルギは首を横に振る。

 

「いや、目撃証言があるだけ有難いよ。 恐らくこの周辺に居るだろうからね。 …それにしても、間に合ってよかった。 あの安楽少女に魅了されてからだと、引き離すのが面倒だっただろうし。」

 

あの説明を聞くと、切実にミツルギに出会えてよかったと安堵する。

 

「…じゃあ、僕はあの安楽少女を追うけど…また会っても決して近付かないように!」

「ああ、分かった。 忠告ありがとうな。」

 

 

そう言って安楽少女を探しに行ったミツルギと別れて、再び王都を目指して歩く。

 

 

 

 

 

 

 

==========

 

 

 

 

 

 

 

さて、旅をする上で大切なものとは何だろうか。

 

食料、水、襲われた時の武器…確かにどれも重要なものだろう。

だが、今俺が困っているものはその中のどれでもなかった。

 

「…さてと、今日はどこで寝ようかな…っと。」

 

目の前には火の消えた焚き火の跡、周囲を見渡すと森とまでは行かないが、林と言えるには十分と言える程の木が生えている。

 

そう、俺が今悩んでいるのは寝床の確保だ。

 

この世界の住民と言うのは須らく逞しい。

故に、例え木の上で寝てようとも安全と言えないのが現状だ。

 

「一応『敵感知』で辺りに敵が居ないのは確認しているが…また鉄の上で寝るのか…」

 

はぁ。と溜息をついて能力を発動させ、寝袋の形をした金属を生成する。

 

最悪敵に襲われても大丈夫なようにと編み出したこの睡眠方法だが、弱点があり、地面が鉄だから翌日が非常に辛い。

 

嵩張るからと言って、毛布を荷物の中の入れなかった数日前の自分を思い切りぶん殴ってやりたい。

そんなことを思いながら、慣れ親しんだ鉄の寝袋に体を入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その晩、俺は夢を見た。

 

目の前には自分自身が居て、黒い"何か"と対峙している。

俺の手には見慣れた柄だけの鎌が握られていた。

 

そして、目の前の俺は何かを呟きながらその鎌を振り、刃を表す。

 

俺自身が何を言ったのかは聞こえない。 …だがその瞬間、頭の中にとある言葉が浮かぶ。

 

 

『……モル、フェウス……』

 

 

その言葉を発した瞬間、俺の中で何かが割れたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後、俺はハッと目を覚ます。

背中には寝苦しい鉄の寝袋の感触、目の前には普段通り夜空が広がっている。

 

「…なんだ、夢か……」

 

そう思い再び瞳を閉じる。 …が、そこで違和感を感じた。

虫の知らせ、というものなのだろうか。その違和感が気になった俺は、ふと『敵感知』スキルを使う。

 

「…ッ!…ビンゴ…か。」

 

『敵感知』スキルを使うと、周囲の林から無数の気配を感じる。

一つ一つの反応はそこまで大きくない為、ゴブリンやコボルトと言った雑魚モンスターだろう。

 

だが、その量が尋常ではなかった。

 

「…十…二十…少なく見積もってもその位か…」

 

敵感知スキルに引っかかった数でそれ程。 恐らく、それ以上居るだろう。

このままやり過ごそうにも見つかれば相当危険な状態である。

 

「…しょうがねぇ…一丁やったりますか。」

 

そう言って俺は寝袋を魔力に戻し、横に置いていた柄をその場に立ち上がる。

周囲を見回すと、木々の隙間からこちらを見る無数の目玉。

全方向を囲むそれから逃げるには、それなりの数を倒す必要があるだろう。

 

俺はいつも通り鎌を振りながら魔力を刃に変換する。 …が、何故か勝手に口が動いていた。

 

 

「『物質創造(モルフェウス)』ッ!」

 

 

そう言って刃を出現させるが、普段とは違う違和感を感じる。

 

「(…いつもより…軽い…? それに、消費魔力も少なくなってる…!)」

 

普段扱っている鎌は力を入れて振りかぶらなければ行けないほど重いものだったが、たった今手に握られている鎌は今の俺でも十分振れる程扱い易い重さになっていた。

 

「…それじゃ…死にたい奴から掛かってきな。」

 

手に持った鎌を肩に担ぎ、挑発するように手招きをする。

 

直接言葉が通じる訳では無いが、馬鹿にされていると感じたのか、隠れていたコボルト達が俺に対して襲い掛かってくる。

 

その攻撃を躱しつつ、正面にいたコボルトの首目掛けて手に持った鎌を振るう。

 

…そこまで力を入れて居ない筈が、コボルトの頭と首を綺麗に二つに分けていた。

 

 

「(…うわぁ…)」

 

 

目の前に広がる惨状に内心ドン引きしつつ、再び鎌を構える。

 

…しかし、元々仲間意識が強いコボルトがあっという間に仲間の首が落とされたことに怖気付いたのか、一目散に群れは逃げ出した。

 

 

「…あ、行っちゃった…」

 

 

そんなことを言いながら、残党は居ないかと思い『敵感知』スキルを使う。

 

…瞬間、後ろから物凄い速さでこちらに向かってくる反応を掴んだ。

 

「…クッ! まさか初心者殺し!?」

 

昔、カズマ達がパーティを入れ替えた時に言っていたモンスターの名前を思い出す。

 

初心者殺し。 コボルトやゴブリンと言った、所謂雑魚モンスターを利用して初心者冒険者を狩る、非常に高い知能を持つモンスターだ。

 

「あのコボルト達が逃げたのもこいつの気配を掴んだからかッ!」

 

そう言って俺は急いで『潜伏』スキルを使い、木陰に隠れる。

 

その数秒後、俺が今までいた場所に初心者殺しがやってきた。

初見殺しは警戒しながら辺りを見回し、何も居ないのを確認するとコボルト達の群れが居た方向に歩いていく。

 

その方向は、王都がある方向とはまた別の方向であった為、一先ずどうにかなったことを安堵した。

 

「…危なかった…あんな奴がここにも居るなんてな、さっさと街を目指そうかなぁ…」

 

そんなことを呟きながら、俺は王都に向けて再び歩みを進める。

 

 

 

 

 

 

 

……その林が、王都に割と近い所にあり、翌朝には街に着いてしまったのはまた別のお話。



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第二話 - この冒険者に新たな出会いを!

「ほへー、これが王都か…」

 

漸く辿りついた街を散策しながら、俺はそう呟いた。

王都というだけあってアクセルの町とは違った賑わいがある。

 

街の賑わいに圧倒されながら、俺は露店の商品をチラリと見る。

 

「……おおう。」

 

商品の値段も、中々なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観光もそこそこに、再び俺は街の中を歩く。

 

理由は簡単、腕に自信のある冒険者の中で、大鎌を扱う冒険者を探す為だ。

アクセルの町には、鎌を扱うような冒険者は居なかった。

だから、俺は今まで鎌をスキル無しで扱わざるを得なかった。

 

しかし、この世界は完全スキル制MMOによく似た世界。 スキルの無い武器の扱いでは、限界はすぐに来た。

 

だからこそ、冒険者が集まるこの地で鎌を扱う冒険者から教えを請う必要があった。

 

 

暫く歩くと、街中で一際賑わう施設を見つけた。

周囲の人々からは、さっきまで居た露店の人々の雰囲気とは違った感じがするので、恐らくここがこの街の冒険者ギルドなのだろう。

 

意を決して、その建物の入口を開くと、アクセルの冒険者ギルド以上の喧騒が目に入ってきた。

 

「いらっしゃいませー! お食事ならば酒場の方へ、冒険者登録やその他尋ねたい事がありましたら受け付けへどうぞー!」

 

すぐ近くにいたギルドの職員の方にそう言われたので、俺は微笑みかけながら会釈し、受け付けの方に向かう。

 

 

 

 

 

 

「すみません、少々尋ねたいことがあるのですが……」

「はい、なんでしょうか?」

 

受付窓口まで行き窓口の職員に話しかけると、目の前の男性職員はにこやかに笑いながら対応してくる。

 

「この街を拠点にしている冒険者の中に、鎌をメイン武器にしている冒険者の方って居ますかね? 私は他の町で冒険者をしているんですが、その町に鎌を扱っている人が居なくて…」

「成程。 それでは一度冒険者カードを拝見させて頂いてもよろしいですか?」

 

その言葉に頷き、俺は懐の冒険者カードを男性職員に渡した。

ざっと内容を流し読みで確認した後、こちらに冒険者カードを差し出しながら言う。

 

「ありがとうございます。 コセキアキラさんですね。 …鎌を扱う冒険者の方なのですが、居ることには居るのですが、数時間前からクエストに出てしまったので、少々待って頂いてもよろしいですか?」

 

その言葉に、俺は分かりましたと言って歩みを酒場の方に向けた時だった。

ギルドの入口が開かれ、外から俺が使っているような大鎌を携えた男性が入ってくる。

背負ってる武器からして、彼がこの街の鎌使いであり、たった今クエストを終えて帰ってきたと思われる。

 

その男が、ついさっきまで俺が居た受付の職員に話しかける。

 

「すみません、さっき受けたワイバーン十体の討伐の達成確認をお願いします。」

「かしこまりました。 ………はい、確認終わりました。 こちらの方が達成報酬になります。」

 

そんなやりとりを見ていると、職員がこちらの方に話を振る。

 

「こちらの方が先程言っていた鎌使いのブレットさんです。 そしてこちらがコセキ・アキラさん。ブレットさんに、鎌の扱いを教わりたいって言ってる方です。」

 

そんなギルドの職員の紹介を聞いた俺が初めまして。とお辞儀をすると、目の前のブレットさんもお辞儀をする。

 

「えーっと、初めまして。俺の名前はブレット。 上級職の"サイズマスター"だ。 鎌を習いたいって事は、君は"サイザー"では無いよね?」

「あ…はい。 普段所属してるパーティでは、バランスを取る為に"冒険者"をしていました。」

 

俺がそういうと、ブレットさんは一度溜息をつき、俺に向き直って言う。

 

「そうか…それなら一つ言っておこうか、鎌使いはやめておいた方がいい。 見たところ、まだ大鎌も手に入れられてないようだし、第一恐らく君のステータスではあんなもの扱い切れない。 取得するだけ無駄だよ。」

 

ギルドの職員から大雑把なステータスを職員の方から聞いたのだろうか、丁寧な口調でこちらを諭してくる。

 

「そこを何とかお願いします! 武器ならあります、俺の筋力でも扱える程の代物です。 …それに、俺は強くならなくちゃいけないんです!」

 

そう言ってブレットさんに対して深くお辞儀をする。

そんな俺に対し、ブレットさんは困り果てた様子で頬をかく。

そんなことをしていると、不意に聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「あれ、ブレットにアキラじゃないか。二人ともそんな所で何をしているんだ?」

 

俺達二人が声のした方を向くと、つい数日前に命を救ってくれた恩人、ミツルギがキョトンとした様子でこちらを見ていた。

 

「…なんだ、ミツルギか…名前を知ってるって事は、こいつと知り合いが何かか?」

 

そう言ってブレットさんは俺の方に親指を指しながら尋ねる。

 

「ああ、アクセルの町でちょっとね…それよりも、こんな所で話すのもあれだし、一度座らないか?」

 

そのミツルギの言葉に、俺達はここが受付の前だということを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて、俺の名前はブレット。 王都を中心に活動している冒険者だ。 基本はソロなんだが、時々こいつ(ミツルギ)と組んだりしている。」

 

ギルドの酒場に戻った俺達は、ミツルギの提案で一度落ち着いてから話し合おうという事になった。

四人掛けのテーブルで、俺の目の前にはブレットさんとミツルギが座っている。

 

「ご丁寧にどうも、俺の名前はコセキ・アキラ。 パーティメンバーには基本的には『アキラ』って呼ばれてます。 元はアクセルの町を拠点にしているパーティに入っているのですが、訳あってパーティを離れています。」

 

そう言って俺は軽く頭を下げる。

 

「えっとさ、まず一ついいか? …敬語とかそう言うのは出来ればやめてくれ。 それと、俺のことはブレットで構わない。」

 

そう言う堅苦しいのは苦手なのだろうか、ブレットさん…ブレットは照れ隠しをするように頭を掻きながらそう言う。

 

「…分かった。 それなら俺のこともアキラで構わない。」

 

俺がそう言うとブレットは頷いて了承した。

お互いの自己紹介が済んだところで、ミツルギが話を切り出す。

 

「それじゃあ…まず一つ聞きたいんだけど、前サトウカズマと一緒に決闘をした時、確かナイフを使ってたよね? どうして"サイズマスター"のブレットに教えを乞おうとしてるんだい?」

「ナイフじゃどうしても火力不足でなぁ…。 小型モンスター相手にする為に使ってはいるが、他の主軸を立てようと思って。」

 

そう言って、ミツルギ達にローブの裏に括りつけたナイフを見せる。

…魔力を作ったものではなく、普通に武器屋で買ったものだが。

 

「成程。 …でも、どうして鎌なんて使おうとしてるんだ? 普段使ってる俺が言うのもあれだが、剣とかの方が扱い易いだろう?」

 

ブレットが首を傾げながら尋ねる。

 

「それはそうなんだが…大鎌の方がかっこいいだろう?」

「よし、今すぐアクセルの町まで帰れ。」

 

俺が理由を答えると、ブレットが真顔でそう言う。

流石にここで帰るわけにも行かないので、ちゃんとした理由も話す。

 

「冗談冗談! …ただ、盾とか持ってる敵には、こっちの方が有利だろ?」

 

俺が少し慌てながら答えると、ミツルギは苦笑しながら頷き、ブレットはため息をついて頭を軽く抱えた。

 

「…ところで、君の武器はどこにあるんだい? 見たところ、そのナイフしかないみたいだけど…」

「それは俺も気になってた。 流石に、まだ武器も買ってません、作ってません。なんてことはないだろう?」

 

何かに気付いたミツルギはそう尋ね、同じ疑問を持っていたブレットが同調する。

…そう言えば、ブレットはまだしもミツルギには言ってなかったっけ。

 

「…ああ、あるぞ。 ただ、こんなところで出すのもあれだし、ちょっと外に出ようじゃないか。」

 

俺の言葉にどこか疑問を持った顔をしたミツルギ達を連れて、俺達はギルドの外へ出た。



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第三話 - この修行の日々に祝福を!

「よしっ、ここら辺ならいいかな。」

 

そう言って俺は人通りが殆ど無い路地裏で足を止める。

振り向くと、キチンと二人は着いてきていたが、ブレットの方は疑惑の目を向けていた。

 

「…こんなところまで連れ出して…もしかして、お前そっちの気でもあるのか…?」

「ちっげーよ!!! 普通に武器を見せるだけだよ!!!」

 

冗談半分に言ってきたブレットに俺はそう言う。

 

「まぁまぁ、彼だってアクセルの町じゃあ『頭のイカれた爆裂ロリコン野郎』なんて言われてるし、少なくともそっちの人じゃないと思うよ?」

「オイ、その不名誉な名前を言い触らした奴の名前を教えてもらおうじゃないか。 ついでに俺はロリコンじゃねぇ。」

 

誤解を解こうとしたのだろう、俺の不名誉なミツルギをジト目で見ながら、俺は柄だけの鎌を取り出す。

そんな鎌を、二人は興味津々で見てくる。

 

「…なぁ、お前俺達のことを茶化してるのか? そんな刃がない鎌を出されて、"これが俺の武器です!"なんて言われた日にはぶん殴るからな?」

 

ブレットはそう言うが、名前や外見から俺の事を転生者だと予想が出来ているであろうミツルギは、何かあるのでは無いかと鎌を見つめる。

 

「これが俺の武器です!」

「よし、俺の鉄拳が飛んでくる前にさっさと荷物纏めてアクセルまで帰れ。」

 

そう言ってブレットは親指を突き立ててグッと自身の後ろを指差す。

 

「まぁ落ち着けって、ちゃんと武器として扱えるから…見てな。」

 

俺は柄をクルリと一回転させ、刃を作る方向を下にして杖のようにドンッと地面に当てる。

 

そして、あの時思い浮かんだ言葉を、頭の中で完成図を思い描きながら唱える。

 

 

「『物質創造(モル・フェウス)』ッ!」

 

 

俺の言葉に呼応するように、体の中の魔力の一部がスッと抜け落ちて、柄の先に鋼鉄の刃を創り出した。

 

「ほらな、武器になったろ?」

 

俺は出来上がった鎌を肩に担ぎながらブレット達の方を向く。

……二人は、口をあんぐりとさせながら、何が起こったのか分からない。と言った様子で呆然としていた。

 

「…な、なぁ!お前今何をやったんだよ! なんでいきなり刃が出てきてんだよ!」

 

たった今起きたことが信じられないと言った様子で詰め寄るブレット。

転生による特典だろうと予想をしていたであろうミツルギは少し考えると、ブレットに聞こえないように耳打ちする。

 

「…アキラ、今のはアクア様から頂いた"特典"かい?」

「…ああ、俺が貰ったのは"魔力を万物に変換する"能力だが…」

「…分かってる、言いふらしたりはしないさ。」

 

ミツルギの魔剣と違い、もしもの事が起きたら他者に能力を利用されかねないものなので、釘を刺しておこうと思ったが、どうやらその必要はないらしい。

 

「ブレット、出来ればこの武器の事を教えるが…出来るだけ内密に頼む。」

「分かった、分かったから今のは一体何だったんだよ!?」

 

興奮気味に俺を問い詰め続けるブレットにそう言うと、日本からの転生で貰ったことを隠して能力の事を伝える。

 

 

 

「……という訳だ、分かったか。」

「あ、あぁ…ただ、あんなことが起きるなんて、今だに信じられないが…」

 

俺は能力を解き、刃を魔力へと戻しながら確認する。

落ち着きを取り戻したブレットは今だに信じられない。と言った様子だが一先ず納得していた。

 

「…それで、話は戻って鎌の扱いの師匠の話だが…受けてくれるか?」

 

柄を仕舞い、ブレットに尋ねると頬を掻きながらブレットは答える。

 

「…それは別に構わないが…元々俺はソロだ。 生憎、誰かにものを教えるのも教わることもしたことがないから、どうやって教えたら良いのかなんて全く分からない。」

 

そこまで言うと、ブレットは一度深呼吸して言葉を続ける。

 

「だから、暫くパーティを組んで俺から技を盗め! 自分が得るべきものは自分で探せ。」

 

そう言ってブレットはこちらに右手を差し出してくる。

 

「…あぁ、よろしくな、ブレット。」

「精々足を引っ張るなよ、アキラ。」

 

俺は差し出された手をグッと握り、硬い握手をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早いもので、俺がブレットに弟子入りしてから一週間が経った。

彼の振るう鎌の動きを徹底的に研究し、スキルとして昇華するまで鎌での戦い方は熟知した。

そんな俺が今、何をやっているかと言うと……。

 

 

 

 

「た、助けてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

「はっはっはっ! そんくらい相手出来なくてどうする! 鎌は扱い辛いが、攻撃範囲が自慢の武器だ。 思いっきり振り回してみろ!」

 

ダンジョンの中で、無数のアンデッド達に追いかけられていた。

 

 

 

パーティを組み始めの頃は、複数人での立ち回り方と称して二人で狩ることが多かったが、ここ数日は「一人でも戦えるように」と言うことで、基本一人で狩り、どうしょうもない時やピンチの時はブレットと協力。という形になっていた。

 

 

 

「これでダメだったら恨むからな! 『物質創造(モル・フェウス)』ッ!『ターンアンデッド』ッ!」

 

随分昔に覚えた『ターンアンデッド』を織り交ぜながら刃を創り、擬似的なアンデッド特攻武器を作り上げ、体ごと鎌を回してアンデッドの群れ目掛けて一振りする。

 

最前列にいたアンデッド達はその刃に当たりいくらか消滅していく。

 

 

 

それと同時に見えた、追いかけてくるアンデッドの数に絶望した。

 

 

「ブレット!なんだあの数! たたかってたらあ、確実にジリ貧になるぞ!」

「俺も今見た、あの数は無理だ! …とりあえず、ある程度処理しながらダンジョンの外を目指すぞっ!」

 

 

 

そうしてアンデッドを狩りながら暫く走ると、漸く目の前に眩しい何かが見えてくる。

明るさからして、ダンジョンの出口だろう。

 

…しかし、その光に浮かび上がる無数の骨のシルエット。

それらのシルエットの形は、後ろにいるアンデッドのものと酷似していた。

 

「クソッ!挟み撃ちかよ!」

「このまま強行で突破するぞ、武器を構えろ!」

 

そう言ってブレットは大鎌をいつでも振れるように構える。

それと同時に、俺もその手に持つ擬似アンデッド特攻の武器をグッと握り、正面のアンデッド達に狙いを定める。

 

「…ちゃんと合わせろよ?」

「ハッ、この一週間、お前から何を学んだと思ってるんだッ!」

 

ブレットはそう言って鎌をアンデッド達の頭目掛けて大きく振るう。

このまま俺も呆然としていればここ一帯に綺麗な薔薇を咲かせることになるだろう。

 

 

俺はグッと姿勢を低くし、ブレットの鎌を躱すと共に、アンデッド達の足目掛けて鎌を振るう。

 

「アキラッ!後ろのアンデッドも頼むッ!」

「任せろッ!」

 

そう言って振り向くと、こちらを追いかけてきたアンデッド達が数メートル先まで迫っていた。

 

「…こっから先の相手は……この俺だッ!」

 

俺はその手に持つ鎌の柄の先をグッと握ると、なるべく多くのアンデッドを巻き込むように鎌を振るう。

広い攻撃範囲もあり、先ほどより多くのアンデッドを巻き込むことが出来たが、大振りしたせいか、僅かながらに隙が出来る。

残ったアンデッド達は、その隙を逃すまいと俺に一気に詰め寄ってくる。

 

このまま行けば襲われる。 そう思った俺は、鎌をその場に捨て、能力でナイフを創る。

 

「『物質創造(モル・フェウス)』ッ!」

 

両手に生み出したナイフをグッと握り、振り下ろされるアンデッドの腕をすんでのところで受け止める。

 

腕に力を入れてアンデッド達を押し返すと、後ろからブレットの声が聞こえる。

 

「こっちは大丈夫だ! 早く来い!」

「分かった! 『物質崩壊(モル・フェウス)』ッ!」

 

その声を聞いた俺は能力でナイフと刃を魔力に戻し、柄を拾い上げ出口に向かって走り出す。

 

少しすると、目の前の光が段々と大きくなり、遂には外へと出られた。

 

 

「「た、助かったぁぁぁ……」」

 

 

危うく命を落としかけた俺達は、後ろからアンデッド達が追ってきてないのを確認して安堵した。

 

 

 

 

 

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「…ん…ぐ…ぷはぁ! 店員さん、もう一杯!」

「…お前…飲みすぎじゃないか?」

 

ダンジョン探索が終わった日の夜、俺達はギルドの酒場で一緒に食事を取っていた。

普段は別々で食事をしているのだが、偶には一杯やろうじゃないかと言うことで、酒場で食事をしていた。

 

「いやー、あんなアンデッドの群れから生きて帰れるとは思わなかった! アキラが『ターンアンデッド』を取っていてくれて助かったよ!」

「成り行きで取ったスキルだったが…まさかこんなところで役に立つとはな。 それにアンデッドを狩りまくったことでレベルもいい感じに上がったし。」

 

冒険者カードを確認すると、レベルの欄には37と書かれていた。

パーティに居たことにも、雑魚モンスターの処理を担当していた俺は比較的レベルも上がっていた方だが、この旅でレベルが10近く上がっていた。

 

冒険者カードを仕舞い、再び目の前の食事にかぶりつく。

 

暫く駄弁りながら食事をしていると、唐突にブレットは話し出した。

 

「アキラ。 俺、明日からあるクエストを受けることになっていてな……暫く王都を離れるんだが…お前はどうする? 一通りの事は教えたし、もう独り立ちしてもいいとは思うが…」

 

ブレットが真剣な様子でこちらを見ながら言ってくる。

そんなブレットを見ながら、俺は答える。

 

「…こんなところで別れても、俺が何していいのか分からなくなっちまうからなぁ…それに、俺はブレットから盗める技術は全部盗んでから出ていくつもりだ。 お前が嫌っつっても、そのクエストってのに勝手に付いていくさ。」

 

そう俺が答えると、ブレットがクスクスと笑う。

 

「…ふふふ…はっはっはっ! いいぜ、"冒険者"如きに簡単に技を盗まれてたまるか! 俺の全部を盗むなら、地獄の底まで来ることを覚悟するんだな!」

 

笑いながら言うブレットに釣られ、俺も自然と笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブレット。それで、クエストにはどこに行くんだ?」

 

「…そういや言ってなかったな、これから行くのは『水の都 アルカンレティア』だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、私です。珈琲@微糖です。

新章3話にして早くもアルカンレティアフラグを立てましたが、時系列的にはまだまだ4巻の序盤です。

また、現在の主人公の詳細を以下にまとめました。 小説を見る時に参考にして頂ければ幸いです。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=148298&uid=181647


と言うことで、今回はこの辺りで、また次回以降も見て頂ければ幸いです。


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第四話 - この修行の旅に休息を!

アルカンレティアへと向かう馬車の中。

俺達はガタゴトと揺られながら馬車の中で寛いでいた。

 

「水の都ねぇ…なぁ、ブレット。 アルカンレティアってどんな所なんだ?」

「お前…それ何回目だ? …さっきから言ってる通り、温泉が有名な観光地だ。 王都からは数日かかるが、シーズンになれば観光客も集まる、それなりに良いところだよ。」

「温泉ねぇ…箱根みたいなもんか。」

 

馬車の外を眺めながらそんなことを呟く。

 

「ハコネ?」

「…昔居た国の話だ、忘れてくれ。」

 

ついポロッと出てしまった日本の事を流しながら、俺は再び外を眺める。

 

少しすると、退屈そうに横になっていたブレットが起き上がり、唐突にこんなことを聞いてきた。

 

「そうだ、アキラ。 暇だしお前の過去を教えてくれよ! 昔居た国の話とか、アクセルの町のお前のパーティのこととかさ!」

 

ブレットの言葉に、俺は一瞬ビクッとした。

 

「…すまん、昔居た国の話は出来ない。 …アクセルの方の話ならしてやる。」

「えー、別にいいじゃないか。 話しても減るもんじゃないだろ?」

「……ごめん、あんまりあそこの話はしたくないんだ…」

 

俺がそう言うと、ブレットは諦めた様子で再び横になる。

 

「じゃあアクセルの話だけでいいや、お前が居たパーティってどんな奴がいたんだ?」

 

話したくないのが伝わったのか、退屈なのが嫌なのかは分からないが日本のことを諦めてくれたのは素直に有難い。

 

「俺の居たパーティねぇ…今思えば、ある意味凄いパーティだったなぁ…異様に高い幸運以外は普通の"冒険者"のリーダーに、逆に知力と幸運以外がトップクラスの"アークプリースト"、攻撃が当たらない"クルセイダー"。それと、爆裂魔法をこよなく愛する"アークウィザード"…懐かしいなぁ…」

 

外を見ながらカズマ達のことを懐かしみ、首元のチョーカーを優しく撫でる。

 

「…それ、パーティとして大丈夫だったのか…?」

「それが不思議と上手く行ってたんだよ。 借金したり、死にかけたこともあったけどさ。それでも、やっぱり楽しかったな。」

 

俺が思い出しながら言ってると、純粋に疑問に思ったのかブレットが尋ねてくる。

 

「…じゃあ、なんでアキラは今パーティを離れてんだ? 楽しかったんなら、わざわざ離れる必要も無いだろ?」

「あー、それ聞いちゃう? …理由は色々あるけど、一番はやっぱり実力不足を感じたから、かなぁ。」

 

ポツリ、と呟くとブレットの返事を待たずに話を続ける。

 

「色んな敵と戦ってるうちにさ、他のみんなはそれぞれ長所を活かして活躍してたのに、俺だけ何も出来なくてさ。 それが悔しくて、旅に出たんだ。」

「…だから、あんだけ教えてもらうように粘ってたんだな。」

 

俺の言葉に納得したように頷くブレット。

外を見ていた俺は、ブレットと同じようにその場に寝転がる。

 

「…なぁ、ブレット…俺、強くなってるかな。」

「さぁな。 なんだったら、模擬戦でもしてみるか?」

「遠慮しとく。 無茶したら、めぐみんに怒られそうだしな。」

 

首元のチョーカーを撫でながら、俺は無意識に言う。

 

「…めぐみん?」

 

一体誰のことか分からないブレットは首を傾げながら尋ねる。

 

「あー、そういや名前を教えてなかったなぁ…めぐみんってのは、アクセルのパーティのアークウィザードの女の子の名前なんだ。」

「ほうほう。つまりその子がアキラの好きなやつってことか。」

 

 

 

 

 

……俺は寝転がっている座席から転がり落ちた。

 

 

 

 

「お、おま、おまっ…なんでその事をっ!?」

 

立ち上がりながら俺はブレットを問い詰める。

 

「…反応が分かりやすすぎ。 その子の事を話す時だけ声色が違うし、どうせそのチョーカーもその子から貰ったもんだろ?」

 

うっはー、ばれてーら。

図星を刺された俺は目線を逸らし、髪を掻き揚げながら座席に戻る。

 

「…まぁ、模擬戦は卒業試験にでもしておくか。」

「…それで頼む。 疲れたから俺はもう寝る。 着いたら起こしてくれ。」

 

そう言って俺は座席にブレットに背を向けて横になる。

 

「えっ、ちょっとアキラさん?俺一人になるとめちゃくちゃ暇なんですけど! ってかアルカンレティアまで後一日以上あるんですけど!」

 

そんなブレットの声を無視して、俺は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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暫くすると、眠っていた俺の体が揺さぶられる。

 

「…んぁ…なんだ…まだ夜じゃないか…」

 

目を開けると馬車の外は暗く、眠った時にしていた揺れも収まっていた。

 

「まだ、じゃなくてもう、だろ。 お前このままだと朝まで寝てそうだったからな。 …本来の仕事の時間だし、俺だけ働くのは釈然としないから無理やり起こした。」

 

起こした張本人(ブレット)を横目に、俺は目を擦りながら体を起こす。

 

「…あー、商人達の護衛か…ふぁぁ…しゃーねぇなぁ…」

 

そう言って俺は『敵感知』スキルを使う。

 

「よし、とりあえず周辺に敵影はなし。 …なぁブレット、もしかして言ってたクエストってこの護衛の事か?」

 

昼間のように座席に座り、外の様子を伺いながら尋ねる。

馬車の外ではアルカンレティアを目指す商人達が焚き火をしながら夕食を取っていた。

 

「いいや、これはあくまでアルカンレティアに向かうついでだな。 …ここから先は内密に頼むぞ。」

 

辺りに人が居ないことを確認すると、ブレットは小さな声で話し出す。

 

「…ここ最近、魔王軍に動きがあった。 そろそろ本格的な攻勢に出ようとしているのかどうかは分からないんだが、このベルゼルグ王国のいくつかに対して幹部を派遣しているらしい。」

「つまり、その一つがアルカンレティアってことか。」

 

俺の答えにブレットは頷く。

 

「そういうこと。 そして俺のクエストの内容は、アルカンレティア周辺の魔族の調査だ。 …まぁ、直接戦ったりする訳じゃないから、余程じゃなければ数日で王都に戻ることになるかな。」

「そういうことね、了解。 …しっかし、魔王軍もどうしてそんな観光地を狙ってるんだろうかね。」

 

ふと疑問に思った俺は、体を伸ばしながらポツリと呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、知らないのか? アルカンレティアはあのアクシズ教の総本山だぞ?」

 

「えっ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




短かいなオイィ!?
どうも、珈琲@微糖です。

今回はアルカンレティアへの道中でしたが、本編であったようなトラブルの起爆剤が無かったので戦闘もない穏やかな旅となりました。

とまぁ次回からアルカンレティア編となって行きますが、例の如く更新につきましてはいつになるかは分かりません。
それでもよろしければ、次回以降もお付き合い頂けると幸いです!


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第五話 - この温泉地に祝福を!

馬車に揺られること早数日。

いつものように、馬車の窓から外を眺めていると、段々と大きな街が見えてくる。

 

「ブレットー、なんかでかい街が見えてきたんだけど、あれがアルカンレティアか?」

 

その街の方向を指刺しながら尋ねると、俺が眺めていた窓からブレットも街の方を見る。

 

「あぁ、あれが水と温泉の都、そしてあのアクシズ教の総本山のアルカンレティアだ。」

 

そう言うと、ブレットは街に着いていないにも関わらず身支度を始めた。

 

「? …どうしたんだ、まだアルカンレティアには着いてないぞ?」

「だからだよ、俺はアルカンレティアには入らないでそのまま仕事に入るが、アキラはどうする?」

 

何故ブレットは街に入らないで仕事に行こうとしているのか分からず、俺は首を傾げる。

 

「折角温泉地に来たんだ、別に一日くらい休んでも罰は当たらないんじゃないか?」

 

俺はそう答えると、ブレットは馬車の御者の男に声を掛けてから話す。

 

「…だったら、ここで一旦別れよう。 俺はクエストを進めるから、アキラは宿の確保を頼む。 それが終わったら、後は自主行動で構わない。 日が沈んだら、正門の付近で待ち合わせな。」

 

ブレットの言葉に頷くと、御者の男は馬を止め、ブレットは馬車を降りる。

…降りる時、小さく何かを言ったような気がしたが、気のせいだろう。

 

降りた本人は御者に路銀を払うと、馬車が進んでいた別方向へと歩いて行った……。

 

 

 

 

 

 

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「お客さん、そろそろだよ。」

「ああ、ありがとうございます。 えっと、運賃は幾ら位ですかね?」

 

あれから少しすると、御者の男がそろそろ着く旨を伝えてきた。

 

「金ならさっき降りた男が払ってきたから大丈夫だよ。 …それよりもあんた、アルカンレティアに一人で行く気かい?」

「いえ、さっきの彼は用事があるらしいので夜に落ち合おうと…」

 

俺がそう言うと、男はこちらの方を若干憐れむように見てきた。

 

「…あぁ、そういうことかい。 分かってると思うが、あの街の連中には気をつけておきな。」

「そりゃ、ご忠告どうも。」

 

門の前まで着くと馬車が止められたので、俺は馬車から降りると、再び御者の男は馬を操り商人達と街に入っていく。

 

 

「さてと…とりあえず手頃な宿でも探して今日はゆっくりするか!」

 

グッと馬車の旅で鈍った体を伸ばし、アルカンレティアへと入っていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ようこそいらっしゃいました、水と温泉の都アルカンレティアへ!」

「観光ですか?入信ですか?冒険ですか?お仕事ですか?入信ですか?洗礼ですか?入信ですか?まずは一度アクシズ教の教会へとお立ち寄りください!」

「お仕事を探しに来たのならいいお仕事がありますよ? 他の街へと赴き、アクシズ教の素晴らしさを広めるだけでお金がもらえるんです!」

「更に!そのお仕事に就くと何と、アクシズ教徒を名乗れる特典まで付いてくるんですよ! 素晴らしいお仕事でしょう?さぁ、どうぞ!」

 

 

───あぁ、俺は嵌められたんだな。

 

 

この街に踏み入れた瞬間、俺はブレットに着いて行かなかった事を後悔した。

 

どうして、数日にも渡る馬車の旅を経て、辿り着いた温泉地で休まずクエストに向かったのか。

どうして、御者の男は最後に気をつけてなんて言ったのか。

 

今、周りにいるアクシズ教徒の奴らを見て、俺は自分の選択を後悔した。

 

「い、いや…あの、パーティメンバーの奴がアクシズ教なので俺は……」

「ならば尚更!アクシズ教の素晴らしさは既にお分かり頂けていますよね? 今ならここに名前を書くだけで貴方も立派なアクシズ教徒! そのお連れの方と一緒に、色んな街でアクシズ教を広めましょう!」

 

俺の周りを囲っている人達から、一歩退きながら言うと二歩詰め寄り、三歩引くと四歩詰め寄りながら『アクシズ教入信書』を押し付けてくる。

そんなやり取りをしていると、いつの間にか背中に壁が付く。

 

あぁ、死んだな。 …そう思った時だった。

 

 

「おーい! こっちからアクセルの町からの観光客が来たぞー!」

 

そんなアクシズ教のおっさんの声に、一瞬俺を取り囲んでいたアクシズ教徒達がそちらの方を向く。

 

その瞬間、俺はすかさず『隠密』スキルを使い、人の合間を縫ってそのアクシズ教徒達から離れる。

 

 

「…あっ、クソっ!逃げられたぞ!」「どこ行った!?」「落ち着け!一先ずアクセルから来た観光客へ勧誘だ!」

 

すまない、アクセルから来た人達……恐らく行商か観光客だとは思うが本当にすまない。

こんな事を心で思いながら、宿屋街を目指して歩くのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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夜、ブレットと約束した場所で待っていた俺は酷く疲弊していた。

 

昼間を思い出すと、それはもう酷い目に合った。

 

 

=====

 

 

「すみません、今お部屋って空いてますか?」

 

「少々お待ちください…ただ今二部屋空いていますね。 何部屋ご希望されますか?」

 

「二部屋でお願いします。」

 

「畏まりました。 それでは、こちらの名簿にお名前をお願いします。」

 

……視線を落とすと、そこには例の紙(入信書)があった。

 

 

=====

 

 

「いらっしゃいませー。 一名様ですか? こちらの席にどうぞー。」

 

窓際の一人用席に案内された俺の目の前に、メニュー表が置かれる。

 

「ご注文の方、お決まりになられましたらご自由にお声掛けください。」

 

そう言って去っていく店員を横目に、俺はメニュー表を一ページ開く。

 

……そこには、例の紙(入信書)があった。

 

 

=====

 

 

「きゃあっ!?」

 

目の前を歩く、大量の林檎が入った籠を手に下げている女性が、不意に足元で何かに躓いたようで、籠に入っていた林檎をその場に転がしてしまった。

 

「…よっと。 大丈夫ですか?」

 

こちらの方に転がってきた林檎を拾い上げながら、女性の籠に林檎を入れる。

 

「あっ…ありがとうございますっ!」

 

恥ずかしさからか、少し顔を赤らめる女性にいえいえ。と言いながら転がった林檎を再び拾う。

 

 

「ありがとうございますっ! まさかこんなところで躓いてしまうなんて…」

 

照れくさそうにしながら、女性は言う。

 

「いえいえ、困った時はお互い様ですから。」

 

そう言って俺は立ち去ろうとするが、不意に声を掛けられる。

 

「あっ、待ってください! せめてものお礼として…」

 

物をもらうために助けた訳じゃないですから。

そう言って断ろうとして振り向く。

 

……その手には、例の紙(入信書)が握られていた。

 

 

=====

 

 

思い出すだけで辛い出来事が、頭の中を走馬灯のように駆け巡る。

 

はぁ。とため息を付くと、唐突に後ろから声を掛けられる。

 

 

「はっはっはっ、そんなため息をついてると、幸せが逃げるぞ?」

「…ため息程度で逃げる幸せなんて、その程度のものだからいいんだよ。」

 

笑いながら茶化すブレットにそう言って、俺は再びため息をつく。

 

「…それで、宿の方は大丈夫だったか?」

「あぁ、キッチリ二部屋取れた。」

「了解。 宿に戻って、明日以降のことを決めようじゃないか。」

 

そう言って俺達は、宿泊を決めた宿へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、私です。珈琲@微糖です。
早いものでもう43話、早く原作のお話に路線を戻していきたいと思い始めております。

今回からアルカンレティア編に入りましたが、正直そんなに長くならないと思います。アルカンレティアの中よりも、その後の部分の構想ご出来てしまっているので、基本主人公はカズマ達の裏で何かをする。と言った感じになりますのでご了承ください。

と言うことで、今回はこの辺りで。次回以降もお楽しみ頂けると幸いです。


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第六話 - この企みに対策を!

「…なんでだよ! どうして温泉地なのに温泉に入れねぇんだよ!」

 

宿へと戻ってきた俺達は一先ず、温泉で体を癒そうとしていたのだが、フロントの女性に止められそう半分怒鳴るように尋ねた。

 

「すみません……数日前から温泉に入ったお客様の体に不具合が起きておりまして……一応お部屋のお風呂でしたら使えるのですが……」

「…分かりました、それでいいです。」

 

俺の口を手で抑えながら、ブレットは女性にそう答え、部屋の方へと向かう。

流石、普段大鎌を扱っているだけあり、俺なんかの筋力ではビクともしなかった。

 

その状態のまま、俺が宿泊する予定の部屋に入ると漸く手を離された。

 

「プハッ!? 何すんだよ!」

「それはこっちの台詞だバカタレが!」

 

俺がブレットに抗議するように言うと、思いっ切り俺の頭が叩かれた。

 

「全く…前にも言ったが、今のこの街には魔王軍の幹部が来ている可能性があるんだ。 そのタイミングでこの騒ぎ。 …何かあるとは思わないか?」

 

そう言われて、俺は少し考える。

…そこで、ふと一つ思いついたことを尋ねる。

 

「…ブレット、この街の観光資源に温泉が関わらないものはあるか?」

「殆ど温泉が関わってると言っても過言じゃないな。 温泉は勿論のこと、温泉まんじゅうに温泉たまご…」

「…そんな街から温泉を奪ったらどうなる?」

「…そういう事だ。 だが問題は、その幹部がこの街に居るかどうかって事だ。 明日はこの街の中を調べて回ろう。」

 

ブレットの言葉に頷くと、彼は自分の部屋へと戻って行く。

 

…疲れたし、一先ず風呂でも沸かそう。

そう思い立ち、部屋に備え付けられた風呂の方へと向かう。

 

「…そういや、アクセルから来た奴らは大丈夫だったかな…」

 

ふと、昼間の出来事を思い出しそんなことを考える。

アクセルの町からの観光客と言うと、俺も知っている顔の可能性があるだろう。

 

あの時、人混みに紛れて顔でも見ていけば良かった。

そう思っても後の祭り、その一行が止まってる宿も知らないし、恐らく会う事もないだろう。

 

そんなことを考えていたら、いい感じに湯船にお湯が貯まってきたので、一度思考を止めて服を脱ぎ、風呂に身を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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翌日、俺は何故か宿泊していた部屋に正座させられていた。

 

「それで、どうしてお前はこんな時間に起きてきたのか聞こうじゃないか。」

「…それが昨日の夜、お風呂上がりに布団に入ったらそれがそれが気持ち良くてですね。 気が付いたら日が登り始めてたんですよ。 そろそろ起きなきゃなぁって思ってですね、布団から出ようと思ったら布団の中が大渋滞してましてね?」

 

そう言った瞬間、頭に強い衝撃が走った。

 

「お前はバカか! 今何時だと思ってやがる!」

「丁度お昼頃ですね!」

 

再び頭に強い衝撃が走った。

 

「…全く…お陰様で午前中、俺一人で街を回ることになったんだからな。」

「あっ、その節は本当に申し訳ありませんでした。」

 

目の前に立つブレットに、俺は全力で土下座をしていた。

 

「まぁいいけどさ、これと言って収穫があったわけじゃねぇし。 …ただ、広場の噴水で、女神アクアを名乗ってる変な奴なら居たなぁ。 あそこまで怪しいと、逆にあいつらは魔王軍の関係者じゃなくて愉快犯だろうし。」

 

……えっ?

俺は、ブレットの言葉に耳を疑った。

 

「…なぁ、そいつの近くに誰か居たか?」

「…近く? そういや、金髪でポニーテールの女性も居たな。 着てた服も結構いいヤツだったし、どっかの貴族の娘だったりしてな。」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺は頭を抱えた。

…もしかして、あの時街に来たアクセルの観光客ってカズマ達の事だったのか!?

 

「…どうしたんだ? 急に頭を抱えたりして…そいつらに何か心当たりでもあるのか?」

 

ありますよ!大有りですよ!と言うかそいつら、俺のパーティメンバーですよ!

…と心の中で叫ぶが、顔には出さずに答える。

 

「いや、なんでもない…知り合いにアクシズ教の奴がいて、もしかしたらなって思っただけだ。 だけどまぁ、多分人違いだろうな。」

「そうか…ならいいが…これからどうする?街の聞き込みはしたが、今のところ手掛かりはなしだ。」

 

ブレットの言葉に、俺は少し考え込む。

魔王軍は、ここの観光資源である温泉を奪おうとしている? 温泉と言っても、一つ一つの旅館の温泉を汚染するとしたら莫大な時間が掛かるだろう。

それに、今ある温泉を汚染したとしても新しい湯が入ってきたらダメに……ん?新しい湯…?

 

「…ブレット、この街の温泉ってどっかから湧き出してるのか?」

「…あぁ、そこにある活火山に源泉は集まっている筈だが…」

 

その言葉に、俺は魔王軍の狙っている場所を確信した。

 

 

 

「…もしかして、魔王軍の奴らは源泉を狙ってるんじゃないか?」

 

 

 

その言葉に、ブレットはハッとした表情をする。

 

「…確かに、源泉さえ押さえればこの街に流れ込んでくる温泉は全て支配できる。 アクシズ教の力を弱めたい魔王軍からしたら、利用しない手は無いな。」

「とりあえず、昼を取ったら源泉の方に向かおう。汚染し切られるまでに食い留めれば、何とかなるかもしれないしな。」

 

俺の提案にブレットは頷き、準備して来ると言って部屋を出ていった。

 

扉が閉じられたと同時に、俺はため息をついた。

 

「…はぁ。 まさか、あいつらが来てるなんてな。」

 

そう言って俺は首元のチョーカーを優しく撫でる。

久し振りにあいつらに会いたい気持ちもあるが、それはぐっと堪えて俺は準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

===============

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、この先ってこの街の温泉の源泉ですか?」

「ええ、そうですが…どちら様ですか?」

「私達はこういう者です。 ここを通して頂いてもいいですか?」

 

俺達は午後一番で源泉のある山へと向かっていた。

だが、その道の途中の門番に事情を説明していた。

 

俺達のことを怪しむ目で見る門番達に、ブレットは冒険者カードと共に一枚の紙を差し出す。

門番達はその紙を読み込むと、こちらに一礼してきた。

 

「なるほど、分かりました。 どうぞお通りください。」

 

門番は紙をブレットに返すと、門番の後ろにあった門が開かれた。

 

 

「なぁ、今何を見せたんだ?」

「依頼の証明書。 元々この街の冒険者じゃないから、身分証は必要だろ?」

 

ブレットの言葉に俺は納得し、成程と頷く。

そして俺達は再び源泉に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

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「アキラ、そろそろ着くぞ。 『敵感知』を頼む。」

 

ブレットの言葉に俺は頷き、『敵感知』スキルを使う。

 

「…反応なし。 まだ源泉までたどり着いて居ないか、それとももう既に…」

「それだけでいい。 さっさと源泉まで急ごう。」

 

そう言っていると、段々と源泉が集まる場所が見えてくる。

だが、その源泉地帯には誰一人居らず、温泉を覗いても汚染された形跡はなかった。

 

「ふむ…まだここは大丈夫なようだな。 アキラ、警戒を続けてくれ。」

 

ブレットの言葉に頷き、引き続き『敵感知』スキルを使い続ける。

暫くすると、俺達の来た道から何か反応を掴んだ。

 

「…ブレット、何か来る…」

 

反応があったことを伝えると、ブレットはその手に武器を構える。

俺も能力を使い、手に持つ柄に刃を出現させる。

 

そうして警戒していると、目の前から一人の男性がこちらの方へと歩いてきた。



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第七話 - この鎌使い達に強敵を!

「おや、こんなところに人とは珍しいな。 こんなところに何か用か?」

 

俺達がやってきた道から一人の男が歩いてきた。

一見すると普通の男だが、俺の『敵感知』スキルは強く反応を示している。 恐らく、彼が件の魔王軍の幹部だろうか。

 

「そっちこそ。 こんなところに用事があるなんて、この源泉の管理人くらいだろう?」

「俺がその管理人さ。 ここ最近汚染騒ぎが起きてるだろう? だからその様子を見にな。」

 

ブレットの言葉に男はそう白々しく答えると、源泉の方まで歩いていく。

…俺は鎌の刃を造ると、男の首元に構えながら立ちはだかる。

 

「冗談は止してくれよ。 さっきから俺の『敵感知』がお前は敵だって言って五月蝿いんだ。 …どうやって入ってきたのかは知らないが…お前、魔王軍の奴だろ?」

 

俺が睨みつけながらそう言うと、男は不敵に笑いながら答える。

 

「ほう…もうそこまで勘付いていたか…だが、そこまで分かっていて近付いてくるとは…迂闊だな!」

 

その瞬間、男の腕がこちらの方に向かって伸ばされ……

 

「アキラッ!避けろッッ!!」

 

ブレットの言葉に、俺は足にグッと力を入れ後ろに飛ぶ。

 

俺がいた場所に、謎のゲル状の何かが広がっていた。

 

「…今のを躱したか…そっちの男は俺の正体に気付いているようだな。」

 

そう言って肩を鳴らしながらブレットの方を見る男。

 

「あぁ、嫌ってほど知ってるさ……なんせ、魔王軍の中でも近接職の俺らにとっては天敵だからな。」

 

大鎌を構えたまま、ブレットは一方後ろに下がる。

そんなブレットに対し、男は不敵な笑みを崩さずに一歩、ブレットの方へと躙り寄る。

 

「な、なぁブレット!あいつは一体なんなんだ!? それにあのゲル状の奴はなんなんだよ!?」

「んなことも知らないで冒険者やってんのか!? あいつは魔王軍幹部、"デッドリーポイズンスライム"のハンスだ!」

 

俺は立ち上がり、ブレットの方へ駆け寄りながら問うと、恐ろしい剣幕で答える。

 

「…?スライムってそんな危ないモンスターなのか?」

 

日本に居た頃には色々とゲームをしていたが、どのゲームでも須らく『スライム』と言ったら雑魚モンスターの代名詞だ。

そんなモンスターが何故魔王軍の幹部をしているのか。そう思ってブレットを尋ねると、何を言っているんだこいつは。と言った表情でこちらを見る。

 

「馬鹿かお前は!? スライムって言ったら、近接職の天敵だろうが! …それに、あいつは幹部クラスの"デッドリーポイズンスライム"。 恐らく、相当強力な毒を持っている筈だ。 …それこそ、源泉の汚染なんて難なくできるレベルのな…」

 

真剣なブレットの表情に、俺は息を呑む。

…確かに、スライムの体は柔らかいゲル状の物体で出来ている為、剣は通りにくいだろう。

だからと言って、そこまで怯える程のモンスターなのだろうか。

 

そう思い、男……いや、ハンスの方を向くと、右手を額に当てながら笑い声を上げていた。

 

「…ククク…ハハハハハッ! まさか、この俺の恐ろしさを知らない冒険者が居るとはな! その男の言う通り、俺の体には強力な毒が流れている。 …人ならば、触れる程度で殺す事は出来るくらいのな。」

 

その言葉に、俺達は息を呑む。

彼の言うことが本当ならば、奴に攻撃する事は不可能だろう。

 

この場で奴を切れば、飛び散った破片が源泉に入り汚染…なんてことがあるかもしれない。 いや、それ以前に破片が体に当たっただけでアウトなど、どんな優れた近接職でも攻撃は難しいだろう。

 

少なくとも、この場で戦うのは不可能。

どのようにして逃げようか。 そんな算段を立てている時だった。

 

「まぁいい。 この事を街の連中に伝えられても面倒だ………喰らうか。」

 

そう言ってハンスは一気にこちらに詰め寄ってくる。

俺とブレットは左右に分かれて互いにハンスから距離を離す。

 

「アキラッ!逃げるぞ! 街に戻ってこの事を伝えるんだ!」

「ああっ!」

 

そう言って俺達は元来た道の方へと駆け出す。

だが、ハンスがそれを許す訳もなく、こちらに毒を含んだスライム体がこちらに飛んでくる。

 

「クソッ!『物質創造(モル・フェウス)』ッ!」

 

そのスライム体を、俺は能力で体を被える程の盾を作りながら防ぐ。

その盾の後ろにブレットも入り、何とか毒を凌ぐ。

 

「ほう…妙な技を使うな…だが、そんな事は関係ないッ!」

 

毒が止んだと思ったら、次はハンスがグッとこちらに距離を詰める。

奴の攻撃に当たったら死ぬ。その事を頭の中で繰り返しながら、必死に盾をハンスの動きに対応させる。

 

ハンスが右に動けば右に、左に動けば左に。

ただひたすら攻撃を受けない事だけを意識しながら盾を動かし、少しずつ後ろに後退する。

 

「ブレットッ!今の内に街に…「行かせるかッ!」

 

後ろのブレットにそう大声で叫ぶと、ハンスは盾を支えている俺ごと蹴飛ばす。

 

「アキラッ!」

「余所見している場合か?」

 

ブレットは足を止めてこちらの方を見て叫ぶ。

だが、ハンスはここぞとばかりにブレットの方へ距離を詰める。

何とかその体に当たるまいと、背中に背負う大鎌でハンスの猛攻を凌ぐ。

 

しかし、触れてはいけないと言う条件がある為か、徐々にブレットが押されていく。

 

こちらの方を見ていない今がチャンスと思った俺は、盾を魔力に戻し、再び鎌に刃を作り出しでハンスへと切りかかる。

 

「…ッ! チッ、鬱陶しいなッ!」

「そりゃどうも、魔王軍幹部様にそう言って頂けたなら光栄ですわ。」

 

俺の決死の攻撃はすんでのところで躱され、右手の指の先を切り落とすまでしか行かなかった。

 

「くそッ、不意打ちでも指しか落とせなかったか…」

「でも助かった、隙を見て逃げるぞ!」

 

ブレットの横に行きハンスの方へ向き直る。

 

ハンスは、自らの右手を見ると、救援に口元を押さえて笑い出す。

 

「……クク……アハハハハ! まさか冒険者風情がここまでやるとはな…いいだろう。少しばかり本気を出させてもらうぞ…?」

 

ハンスがそう言った瞬間、千切れた指からゲル状の何かがムクムクと溢れ出す。

その溢れ出す何かは毒々しい紫色をしており、それがこの男の正体であろうことは容易に予想がつく。

 

咄嗟に何か嫌な予感がした俺達は大きく後ろに飛ぶ。

…俺達がいた場所には、毒々しい紫色のゲルがあった。

 

「今のを躱したか。 だが、もうお前達に逃げ場はないぞ?」

 

そう言ってハンスは段々とこちらに近付いてくる。

一歩近づけば一歩後ろへ、二歩近づけば二歩後ろへと下がる。

 

…だが、それが起きたのは唐突だった。

 

「…ッ! アキラ、大丈夫かッ!」

 

今まで地面をついていた足が、不意に空を切る。

いつの間にか崖際に追い込まれていた俺は、その後退する一歩でバランスを崩した。

その事に一早く気づいたブレットは手を伸ばし、俺の手首をぐっと掴む。

 

「すまない! たすか…っ……」

 

握られた手に力を入れ、もう片手で岩を掴み登ろうとする。

 

……俺は岩を掴む手に力を入れようと上を向いた時、俺の体は固まった。

ブレットの後ろに見える巨大な紫色の塊。

その塊はたった今、俺達を飲み込もうと近付いてくる。

 

このままだと二人とも助からない。そう思った俺は、ブレットが掴む腕をグッと引っ張り、紫色のそれから逃げるように岩肌を滑り落ちる。

 

…崖の上を見ると、ハンスが悔しげな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「クソッ、取り逃したか…」

 

そう言って(ハンス)は元の姿へと戻していた腕を再び人間の姿へ擬態させる。

 

「全く…あんな邪魔が入っちまったせいで変に時間食っちまったじゃねぇか…」

 

髪を掻き上げながら、あの二人組が落ちていった崖下を覗く。

崖下は斜面だったが、それなりに傾斜があり所々に血が点々としている。

まだ仕留めきれてないにしろ、俺が源泉の汚染を終わらせるまでは邪魔はして来ないだろう。

 

「…しっかし、ここまで遅れると全部終わるまでにどれくらい掛かるか…まぁ、さっさと始めるか。」

 

徐々に傾き始める日を横目に、俺は再び源泉地帯へと戻っていく。

あまりに長引きすぎると、ここまで来る時にいた門番や街の者に怪しまれるだろう。

 

とにかく汚染を進める為に、俺は源泉の一つに手を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、私です。 珈琲@微糖です。
今回戦闘描写で非常に悩み、投稿が遅れました。 申し訳ありません。

さて、ハンス戦ですが次回〜次々回辺りで区切れたらなぁと思っております。 その後エピローグ的な話を挟んでこの章は終了予定です。

次回以降も今回同様、それなりに戦闘描写が入る為、そこそこ投稿まで時間がかかると思います。
まだまだ拙い文章でお世辞にも上手いとは言えませんが、ここはこうした方がいい等ご意見がありましたら是非とも感想の方にお願いします。

それでは、次回以降もまたお楽しみ頂ければ幸いです。


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第八話 - この強敵との戦いに終止符を!

「おい、大丈夫か? 起きろ。」

 

段々と覚醒していく意識の中、俺の体が揺らされるのを感じる。

ゆっくりと目を開くと、辺りは暗くなっており、ハンスとの戦いから結構な時間が経ったのだろう。 そして目の前にはブレットの顔があった。

 

「…いたた…ここは?」

「崖の下だな。 あのスライムから逃げる為とはいえ、俺ごと崖の下に落ちるとは思わなかったぞ。」

 

髪を掻き上げながら立ち上がるブレット。

俺も立ち上がり、崖の上の様子を見る。

 

「…この程度の崖なら何とか登れそうだが…アキラは大丈夫か?」

「まぁ大丈夫だろ、無理だったらロープでも作ってお前に引っ張りあげてもらうさ。」

 

ブレットの問いかけに冗談を言って笑いながら返す。

 

「おう、そうなったら任せろ。 引き上げる振りして落としてやるよ。」

「それって何が何でも自力で登れって事だよね? 崖から落ちたとは言え命の恩人にその仕打ち!」

「…お前が踏み外さなければ命の危機にもならなかっただろうけどな。」

 

 

…俺は何も言わずその場で平謝りをした。

 

 

 

 

 

 

 

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「頑張れー、もう少しだぞー。」

「うるせぇ! こちとらお前さんみたいにいっつもクソ重い鎌振り回してるわけじゃねぇんだぞ!」

 

先に登ったブレットがこちらを煽るように手を叩いて声をかける。

そして煽られてる俺は、岩肌に手を掛けて崖を登っている。

 

「…ね、ねぇブレットさん。 出来れば…ロープとか使って俺の事を引き上げてくれませんかね…? 今チラッと下見たら死ぬ程の高さじゃないにしても結構怖いんですけど…」

「…頑張れ、もう少しだ。 それに俺はロープなんて持ってないぞ?」

 

俺の必死の助けも、どうすることも出来ないと言った様子で答えるブレットを見て、俺は再び手を伸ばすしか無くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、はぁっ…つかれた…っ……」

「お前、そんな様子で大丈夫か?」

 

漸く崖を登り終えた俺は、膝に手をつき呼吸を整える。

そんな俺の様子を見て、ブレットは少し心配そうに声を掛けた。

 

「…あ、あぁ…大丈夫…だ……」

「いや、全然大丈夫そうに見えないんだが。」

 

呼吸を整えながら答えるが、ブレットは相変わらずこちらを心配そうに見てくる。

 

だが、疲れているからと言ってここで立ち止まる訳には行かない。

呼吸を無理矢理整えて、行こう。と言おうとしたその瞬間だった。

 

街へと続く道から無数の明かりと共に謎の声が聞こえてきた。

 

「……ブレット、聞こえるか?」

「…あぁ。 結構な人数がいるみたいだが…」

 

そう言って俺達は耳を澄ます。

…遠くから、『悪魔殺すべし、魔王しばくべし!』と言う声が聞こえてきた。

 

「………多分この声、街の連中だろ。 昨日、この声に似たような人達から宗教勧誘されたぞ。」

「奇遇だな。俺も前にこの街に来た時、この声に似た人達に宗教勧誘されたんだ。」

 

俺達は顔を見合わせて固まった。

少しして、思考が落ち着いてきた俺は口を開き…

 

 

「どうして街の連中がこっちに来てんだ! 危険だから、街の連中に感づかれないように来た筈だよな!」

「ンなこと知るか! それにこんなに遅くなってから来たんだ、俺ら以外に原因がある筈だ!」

 

俺達が言い合っていると、いつの間にか街の人たちが近くまで来ていたようで街へ続く道の方から声が聞こえた。

 

「お、おい! お前達、こんなところで何をしているんだ!」

「「うるせぇ!ちょっと黙ってろ!!」」

 

突然怒鳴られた街の人は、訳も分からず呆然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…えっと、つまり君達は王都から来た冒険者で、この先に居る魔王群の幹部と戦う気でここに居るってことか?」

「はい、そうですが…なぜ街の皆さんはこちらに?」

 

少しして落ち着いた俺達は、改めてやってきた街の人たちに事情説明をしていた。

ブレットが街の人にここまで来た理由を尋ねると、今まで話していた人とは違う人が声を上げる。

 

「んなの、アクア様の名を騙る偽者を成敗する為に決まってるだろうが!」

「そうよ! あいつらがこっちに逃げたって言うのは門番から聞いたわ!」

 

「(…カズマ達がこっちに来てる…ってことはハンスと戦ってるのか…?)」

 

そう思った俺は源泉のある方向を見る。

少し距離があるからか、ここからは様子を確認する事は出来ない。

 

そんなことを考えていると、不意に声を掛けられた。

 

「じゃあそういう感じで…アキラ、聞いてたか?」

「…あっ、すまん。 ちょっと考え事してた…それで、なんだって?」

 

俺がそう尋ねると、話し掛けてきたブレットは頭を抱えて答える。

 

「全く、本当に大丈夫かよ…源泉地帯がどうなってるのか分からない以上、村の人達も戻れないからこのまま進む。 だがこの奥にまだハンスが居るかもしれないから、俺達のどちらかが先行して様子を見る。」

 

ブレットの立案に俺は頷き同意する。

 

そうして俺達は、源泉の集まる場所へと再び歩き出した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

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やばい!やばい!今回はマジでやばい!

目の前に現れた魔王軍幹部に、(カズマ)は焦っていた。

 

「カズマ!何かいい手段は無いのですか! いつもみたいに、何か小狡いことの一つや二つ考えてくださいよ!」

「小狡いって言うなよ!それに今手は考えてる所だ! ウィズ、あれを凍らせたりは出来ないのか!」

 

めぐみんの言葉に答えた俺はウィズに尋ねる。

 

「すみません! 今の私の魔力ではあの大きさは…せめて半分くらいになれば出来るとは思いますが…」

 

ウィズの言葉に何か無いかと周囲を見回す。

だが、あの巨体をどうにかして半分まで縮められそうなものが見当たらない。

 

「もういつもみたいに私が爆裂魔法を放ちあれを半分位まで小さくすればいいんじゃないんですかね!」

「待って! そんなことをしたら山全体が汚染されちゃう!」

 

めぐみんが痺れを切らして言うが、その言葉に源泉を浄化していたアクアが反論する。

 

だが、そんなことをしている間にもハンスは徐々にアクアの方へと距離を詰める。

もう少しでアクアに触れられる…そんな時だった。

 

俺の真横を、何かが物凄い速さで通り過ぎ、そのまま吸い込まれるようにハンスに当たる。

その何かを投げ込まれたハンスは突如悶えてこちらの方を見る。

 

「ヒュー、危ねぇ…なんとか間に合ったか…」

 

後ろから聞こえてくる声、恐らくあの物体を投げた奴だろう。

その声には聞き覚えがある。だが、そいつはここに居るはずのない人物だ。

 

「全く、お前らの行くところにはトラブルしか起きない呪いでもかかってんのかよ…」

 

悪態をつきながらその人物がこちらへと寄ってくる。

 

「その呪いにはお前も掛かってるみたいだがな、アキラ。」

「本当だよ…と言っても、俺達はあいつを追ってここまで来たんだがな。」

 

そんな話をしていると、少し離れた場所に居ためぐみんやダクネスがこちらの方に来ていた。

 

「アキラ!本当にアキラですか!?」

「バニルの奴は王都の方への向かったと言っていたが…どうしてここにいるんだ!?」

 

二人はアキラに対して尋ねる。

そんな中、アキラは能力で手元に人一人覆えるような盾を作り出しながら答える。

 

「詳しい話は後だ、悠長に話している時間もくれないみたいだしな。 何とかここで食い止めるから、一旦お前らは離れてろ。」

 

そう言ってアキラはハンスの方を指刺す。

アキラが何かを投げつけたからか、ハンスはこちらの方に向かって動いてきている。

 

「アキラさん、危険です!ハンスさん…いえ、あのスライムは、普通の人ならば触れただけで死んでしまうような猛毒を持っているんですよ!」

「ええ、分かってますって。大丈夫です、絶対に受けないようにしますから。 …ダクネス、アクアの方は任せた!なるべくそっちには行かせないようにするが、もしも流れ弾がそっちに行ったら……」

「分かっているさ、何が何でも守ってみせる。」

 

ウィズの注意にそう答えると、ダクネスに指示を出すアキラ。

その後、アキラはこちらを見てくる。

 

「パーティーリーダーさんよ、後は任せた。」

「…ああ、任せておけ!」

 

そう言ってグッと親指を立てる。

 

 

 

 

 

 

 

==========

 

 

 

 

 

 

 

「…まさか、本体がこんなにでかいとはなぁ…」

 

そう言って(アキラ)は盾越しにハンスの姿を捉える。

大きさからしても、時間を稼ぐにはあいつの体から飛ばされる毒入りスライムを防ぐしか手はないだろう。

 

街の人たちから受け取り、懐にしまっている石鹸や洗剤の数を数えるが、それ程持てず量が少ないので心許ない。

 

「(もう少ししたら街の人たちが来るから、それまでにこいつは何とかしないと…)」

 

そんなことを考えていると、巨大な咆哮と共に無数のスライム片が飛ばされてくる。

 

「…ッグゥ…!」

 

咄嗟に盾の後ろに体を仕舞いこみスライム片から身を守る。

幸い、飛ばしてきたのはこちらの方のみだったので源泉に被害は出ていない。

 

「…ッ!…なら、こっちからお見舞いしてやる!」

 

懐から石鹸を数個取り出し、ハンスに向かって投げつける。

だが、ハンスはスライムで出来た体に器用に空洞を作り、投げつけられた石鹸を避ける。

 

「(ハァ!? あんなのありかよ!)」

 

そう頭の中で思いながら、俺は盾を魔力に戻してハンスへと接近を試みる。

避けられると言うのなら間近でお見舞いしてやる! そう思った時だった。

 

「アキラ、危ない!」

 

高台の上に居ためぐみんからそんな声が聞こえてきた。

直後、俺の真上から何か気配がした。

 

「…ッ!『物質錬成(モル・フェウス)』ッ!」

 

咄嗟に自分の真上に先ほどと同じ盾を創った。

…直後、盾に強い衝撃が走る。

スライム片にしては強過ぎる衝撃から、触手状のスライムに直接殴られただろうか。

 

再び盾を構え、触手による攻撃を一発一発弾いていく。

だが、徐々に攻撃が激しくなっていき少しずつ後ろへと押されていく。

 

「(…ッ…何か手段を…!)」

 

盾を支えながら自分の周囲を見回す。

そして後ろを見た時、遠くからこちらに向かって近づく無数の明かりがあった。

 

「(…クソッ!もう街の連中が…ッ!)」

 

触手を盾で弾きながらジリジリと後ろに下がっていく。

そんな時に、後ろから声が聞こえてくる。

 

「おい、何だあれは!」「あいつが汚染の原因か!」「あの青髪の姉ちゃんか言ってる事は正しかったんだ!」

 

そんな声と共に、後ろから沢山の洗剤や石鹸、そして何故か温泉饅頭も投げ込まれた。

 

するとハンスは、石鹸や洗剤に対しては俺が投げた時と同じように避けるが、温泉饅頭はそのまま飲み込み、周囲に落ちていた当たらなかった温泉饅頭にも触手を伸ばす。

 

「(…スライムでも好き嫌いするんだな……)」

 

そんなしょうもないことを考えていると、後ろ声が掛けられる。

 

「アキラ、そっちは大丈夫か?」

「大丈夫そうに見えるんなら変わって欲しいかな。」

 

街の人たちの方についてきていたブレットが盾の後ろに回って声を掛けてきた。

 

「そりゃ勘弁、俺に出来るのは…ッ!」

 

ブレットは背中に携えていた大鎌を手に持って振るう。

…いつの間にか盾の裏に回ろうとしていた触手がその場に落下した。

 

「こうやって触手を切り落とす位だからな。」

「いや、充分過ぎないか、それ。」

 

そう言ってブレットは盾の裏から届く範囲で触手を切り落とし始める。

 

「…ところで、あいつをどうにかする手段は考えてるのか? このままじゃジリ貧だぞ?」

「安心しろ、全く考えてない!」

 

盾で触手を弾きつつ、こう答えるとブレットが驚いた様子でこちらを見てくる。

 

「…まぁ、そう言った頭を使う事はうちのリーダーが得意だからな。 俺はそいつの事を信じて出来ることをするだけだ。」

「リーダーが得意って…まさか、お前の仲間が今ここに居るのか?」

「そのまさか。 じゃなきゃこんな必死こいて守り続けてないし…なっ!」

 

そう言って盾で触手を弾き返す。

その瞬間、遠くから声が聞こえてきた。

 

「アキラー! そのまま飛んでくるハンスの破片から街の奴らを守ってくれー!」

 

…は?

 

声の張本人…カズマが何を言っているのか一瞬理解が出来なかった。

 

一先ず触手を防ぎつつ様子を見ていると、突然攻撃が止んだ。

何かあったのかと思いハンスの方を見ると、ハンスの意識は俺から温泉饅頭を持つカズマの方へと移っていた。

 

「お前の餌は…俺だ!!」

 

そう言ってカズマはどこか明後日の方向へと駆け出す。

それと同時に、めぐみんとウィズもそれぞれ別方向へと駆け出していく。

 

「(飛んでくるハンスの破片…餌…もしかしてあいつ…ッ!)」

 

カズマがやろうとしていることが何となくだが分かった俺は、カズマが走る先を見る。

 

…予想通り、源泉のない大穴へ向かって走っていた。

 

「…なぁアキラ、あの男何をやろうとしているんだ? それに飛んでくるあいつの破片ってどういうことだ?」

 

全く様子が分からないと言った感じにブレットが尋ねてきた。

そんな彼に、俺は答える。

 

「あいつ…いや、俺達のリーダーは捨て身の作戦で無理やりハンスを倒そうとしてるんだ! …ブレット、街の人達の事…頼んでいいか?」

 

俺は盾を魔力に戻しながら、ブレットに言った。

そんな俺の顔を見て、ブレットは答えた。

 

「…分かった。ただ、後で指示を破ったことで怒られても知らねぇからな!」

「ああ、分かってるって…そんじゃ、行ってくる!」

 

そう言い残し、俺はカズマが走っていった方向へと駆け出した。

 

「(…遅い、こんなんじゃカズマに追いつけない…もっと、もっと早く…っ!)」

 

俺は能力を使い、自分の体に推進力を加える。

 

 

──まだだ、まだ遅い!

 

 

再び能力を使い、自らの足に擬似的な筋力を作り出す。

 

 

──もう少し…もう少しで…っ!

 

 

カズマが大穴へと落ちていく直前、俺は漸くハンスを追い抜かす。

 

 

──直後、普段見えている景色とは別の風景が見える。

 

 

目の前に居るカズマの体…丁度胸の辺りに淡い炎の様なものが灯っているように見えた。

 

 

その炎へと手を伸ばそうとするが、カズマの体がスッと消える。

 

 

「皆、後は任せたぁぁぁッッ!!」

 

 

その声を追うように俺も穴へ身を投げる。

目の前に落ちていくカズマの顔は驚愕に染まっていた。

 

そんなカズマの胸元の炎に手を近付ける。

 

 

「死なせる………ものかぁぁッッッ!!!!!」

 

 

そう叫んだ瞬間、カズマの胸元の炎が俺の触れる手を中心として大きく広がっていきやがてはカズマの体中を覆う。

 

「(…良かった…間に合った…ッッ!?)」

 

心の中で安堵した瞬間、背中に熱いものを感じる。

一瞬でも気を緩めたら気絶してしまいそうな激痛、それと同時に目に飛び込んできたのは紫色のスライムだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ようこそ、小関 彰さん。死後の世界へ。 貴方にはお伝えしなければいけないことがあります。」

 

目の前の美しい女性…エリスはいつにも増して真面目な顔で俺に言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




投稿遅れて非常に申し訳ありません! 珈琲@微糖です。

前回から今回までの間、幾つかの私用が重なったり夏風邪を引いたりと色々とあった上に、中々いい感じに書けなかったり、一度書いたものを大きくリメイクしたりと色々ありました、。

さて、今回は割と詰め込んで書いた為ハンス戦はここまでとなります。
恐らくこの章は長くても後3~4章で終わると思います。

また、今回の話は読んでもらった通りだとは思いますが戦闘描写が余り上手くありません。
それぞれ書いた日にちが微妙に違ったり等で少し読みにくい点などが多々ある可用性がありたす。
そのようなところがあれば指摘をして頂けると嬉しいです。

と言うことで今回はここまでで、また次回以降も見て頂ければ幸いです。


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第八話 - この授かりものの能力に正体を!

「えっと、エリス様…その話の前に聞きたいんですが…あの後カズマ達はどうなりましたか?」

 

いつか冬将軍に殺された時に見たような空間を見回す。

あの時と変わらず、まるで空の上に居るかのような風景。そんな中、目の前のエリス様にそう尋ねる。

 

「カズマさん達でしたら無事ですよ。アキラさんの体も消化され切った訳ではないので、恐らくアクア先輩に蘇生魔法を掛けさせすればあちらへ戻れると思いますよ。」

「あっ、良かった、生き返れるんですね。前回だけが特例かと思ってました。」

 

俺がそう言うと、エリス様は一瞬遠い目をして答える。

 

「…今回も特例ですよ。 蘇生しないと、アクア先輩に私の秘密がバラされそうですから……」

「……なんか、すみませんでした……」

 

その言葉の後、一度コホンと咳払いをして元の様子に戻るエリス様。

 

「…それで、最初に言ったお話のことなのですか…アキラさん。ここ数日、こちらに来る時に貰った"特典"に何か変化はありましたか?」

 

そう言われて、俺はここ最近のことを思い出す。

 

「変化…って言うと…まぁ色々ありましたけど…」

 

具体的に言うと、王都に向かってた時の夜やついさっきだろうか。

前者の時には頭の中に言葉が浮かんできて、その言葉を発すると今までとは違う感覚が走った。

後者の時にはカズマの体に炎の様な何かが見え、それに手を伸ばすとその炎はカズマの体を覆いカズマ自身も無事だったらしい。

 

その様に"特典"に起きた変化を思い出して居ると、目の前のエリス様は改めて口を開く。

 

「確認ですが、アキラさんが元々こちらに来る際、アクア先輩に希望したのは"魔力をモノへと変換する"能力ですよね?」

 

俺は何も言わずに頷く。

 

「…単刀直入に言います。 アキラさん、貴方の"特典"はアクア様に希望したものから大きく変化をしています。」

 

その言葉に、俺は固まった。

 

「…エリス様、今なんて仰いましたか?」

「ですから、アキラさんの"特典"は大きく変化していますと。」

 

再び告げられた事実に、俺は耳を疑う。

 

「…えっと、因みにエリス様。 過去にこんな例ってあるんですか?」

 

俺がエリス様にそう尋ねるが、エリス様は静かに首を横に振る。

 

「いえ、今までそのようなことは一度も起きていません。 基本的に"特典"はあのカタログから選ばれるので、アキラさんの様に自分がで"特典"を考える人自体ほぼ稀なんです。」

「あっ、そうなんだ…それで、その変化とは?」

 

俺がそう言うと、少し言いづらそうに答える。

 

「変化、と言っても少し説明し辛いんですよね。」

 

エリス様がそう言うが、俺は首を傾げた。

 

「説明し辛い…って言うと原因がハッキリ分かっていないとかですかね…?」

「いえ! 原因は分かっているんですが…どこから説明していいものかが…」

「…別に、初めからでも構いませんよ?」

 

頬を掻きながら言うエリス様にそう答えると、分かりましたと一言言ってから話し始めた。

 

 

「…まず初めに申し上げますと、アキラさんの"特典"の変化と言うのは元はこちらの世界へと送られる際に起きていました。」

「元から…調整ミスとかですか?」

 

俺の問いかけを否定する様に、エリス様は首を横に振る。

 

「いいえ。むしろアクア様は、貴方が望んだ"特典"を完璧に作り上げて貴方をこちらへと送り出した…筈でした。」

 

そこまで言うと、まるでここから先は告げさせまいとする様に急に空気が重々しくなる。

俺はゴクリと息を飲み、エリス様の答えを待つ。

 

 

 

 

「貴方がこちらの世界へと来られる直前、貴方の"特典"に一柱の神が介入しました。 恐らく、それが"特典"が変化した原因と思われます。」

 

エリス様は、そう答えた。

 

 

 

 

「…えっと、エリス様?流石にこんな空気の中で冗談言うのは止めてもらえませんか?」

 

俺がそう言うが、エリス様は何も言わずにこちらを見続ける。

その瞳は、まるで今言った事は全て事実であると言っているようだった。

 

「……マジですか…」

 

俺がポツリと呟くと、エリス様はこくりと頷いた。

 

「…えっと…神が介入して常識的に考えて大丈夫なんですかね?自我が乗っ取られたりしません?って言うかその介入してきた神って何なんですかね?」

「ちょ、ちょっと待ってください!そんなに一度に聞かないでくださいって!ちゃんと説明しますから!」

 

俺がエリス様に詰め寄りながら尋ねると、グッと俺の体を離してそう言った。

 

「…一先ず、今アキラさんが仰った様な自我が取られたり等はないと思います。それが目的ならば、こちらに来た時点でアキラさんの自我は消滅している筈ですから。」

 

エリス様は息を整えてしれっと怖いことを言ってきた。

俺はじとっとした目でエリス様を見るが、気にしない様子で言葉を続ける。

 

「ですが、今後何かが起こらないとは言いきれません。 今までの様に"特典"に変容が起きたりする可能性が無いとも言いきれませんが…これ以上変化するとしても、能力がその神の方へと近付くだけですので今まで通りの事は出来ると思います。 …そしてその神の名前なのですが…アキラさん、貴方達の世界の『ギリシア神話』はご存知ですか?」

 

一先ず悪影響が無い事にホッとしたのも束の間、エリス様はそう聞いていた。

 

「…一応、なんとなくはですが…」

「成程…それでは、ギリシア神話における眠りの神『ヒュプノス』はご存知ですか?」

 

エリス様の問に、俺は首を縦に振る。

そうすると、エリス様はどこか安心した様子で言葉を続けた。

 

「でしたら、話は早いですね。 …貴方の"特典"に介入した神、それはギリシア神話のヒュプノスの息子、夢の神である『モルペウス』です。」

「……夢の神…モルペウス?」

 

俺は首を傾げながらそう繰り返す。

 

「はい、夢を形作り、夢に宿るものに形を与える神。 それこそがアキラさんに介入してきた神であり、アキラさんの"特典"はモルペウスの力受けて変容したと考えています。」

 

もう何が何だか分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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あれから暫く、エリス様によって新たな(?)俺の"特典"の説明を受けた。

 

曰く、能力の大筋は変わらないらしく今まで通りの使い方でいいとのこと。

だがしかし、"夢の神"に強く引っ張られているお陰か創りたい"モノ"を強く望めば望む程、性能が高くなるらしい。

 

それと、今までは自分の魔力で"モノ"を作って居たが、魔力の"核"となる部分さえ掴めればカズマの時の様に自分以外の魔力を使っても能力は使えるらしい。

 

………何このチート能力。と言うより、人の魔力を使えるなら魔王軍幹部だって楽に倒せるんじゃないか?

 

 

「…言い忘れていましたが、魔力の"核"となる部分を掴むのはレベル差が開いてれば開いてる程困難になりますので。 魔王軍の、特に幹部クラスともなればまずは使えないものと思ってください。」

 

 

…そんな事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さて、以上で説明は終わりですが…何か聞きたい事はありますか?」

 

エリス様がそう尋ねてくるが、俺は首を横に振る。

そうですか。と言った瞬間にどこかから聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

 

『アキラー! 蘇生掛けたから早く戻ってきなさい! さっきから皆心配してるわよー!』

 

 

突然聞こえてきたアクアの声が合図となり、かつて冬将軍にやられた時の様に大きな扉のようなものが出てくる。

 

「…無事蘇生は出来たようですね。 前にも来たので分かると思いますが、その扉を潜れば地上へと帰れますよ。」

「いや、ほんと何から何までありがとうございます。」

 

俺がそう言ってエリス様にお辞儀をすると、エリス様は微笑みながらどういたしまして。と返してくる。

 

そうして扉を潜ろうとした時、不意に後ろから声を掛けられる。

 

「アキラさん。最後に一つ聞いてもいいですか?」

「…? はい、大丈夫ですよ。」

 

俺は扉に入る直前、後ろを向く。

 

「アキラさんの能力はありとあらゆる事に使えます。 それこそ、使い方次第では人を守ることも、傷付ける事も出来ます。 …アキラさん、貴方はそんな能力を何の為に使いますか?」

 

真剣な目でこちらを見ながらエリス様が尋ねる。

そんなエリス様に、俺は笑いながら答える。

 

「言うまでもないでしょう? …俺は大切なものを守りたい。その為に俺はこの能力を使う。 ……それじゃあダメですかね?」

「……いいえ、むしろアキラさんらしいと思いますよ。」

 

 

エリス様の答えを聞くと、俺は再び扉の方を向いて手を振りながら歩き出す。

 

視界は明るい光に埋め尽くされ、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




段々と投稿ペースが遅くなっている珈琲@微糖です。ここまで読んで頂きありがとうございます。

割と今年から来年頃まで私事が忙しいので今のような、もしくは今よりも遅い投稿ペースになってしまうかもしれませんがご了承くださいませ。なるべくスキマ時間を見つけて投稿出来るようにします。

さて、漸くハンス戦終了後辺りまで持っていくことが出来そうです。 恐らく次回でアルカンレティア編は終わると思います。
それ以降は原作5巻に入るか、その間に閑話を挟むかは気分次第で決めます。
と言うことで、次回以降もまた見て頂ければ幸いです。


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