デスゲームと化した世界で俺はこの世界をエンジョイする。 (黒様)
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01 変わってしまったこの世界で

ゲームのせいだ!

と、あるアンケートを行った行った人達は言ったそうな。
これだけではなにか分からないだろう。
そのアンケートとは『人は死んでも生き返りますか?』というもの。
このアンケートに小学生の三割が肯定したらしい。
大人達は『ゲームのせいで、子供たちの死に対する価値観が希薄になっている』と糾弾をし始める。
たしかに一部の例外を除いて、ゲームは――とくにRPGは何度も死ぬことによって攻略方法を見つけ出し、敵を倒すという方法が一般的だ。一回目のチャレンジで突破できるということは、プロのゲーマーか最初辺りの雑魚ボスぐらいしかあり得ないだろう。
だからといってそれをすべてゲームのせいだとするのは、いささか強引する気がすると思うのだが。
医学の遅れによる死亡判定の曖昧さや寒さなどといった地理的要因。
その他にも例えば河豚(フグ)の毒などで死んでしまったと思われていた人が復活することは過去にもあったことなのだから。
そうやって生き返った人などを見て人はゾンビやキョンシーなどといったアンデッドを作り出したのだろうから。

だが、それでも。

ゲームでの死が、現実に比べて、ひどく身近で、簡単なことに間違いはないだろう。

「あ"ぁぁぁぁぁ――――」

まるで愛し合う恋人が抱き締めあうかのように、少女は両手を広げ、少年の首を締め上げる。
その少女の右足は太股(ふともも)半ばから切断され、腕からは肉の中から何か白いものが覗いており、少年と少女のへたりこんでいる床を赤黒く染め上げていった。
間違いなく少女は致命傷だ。否、間違いなく死んでいる。
それでもなお動く。
動く死体。まさしくゾンビの名に相応しいが、それをゾンビと呼ぶのには、少女はあまりに美しすぎた。
骨が軋むほどの膂力で抱き締めながら言った。

「……ひと……り……ないで……」

少女の眼からは血色が混ざっていない滴が顔を走り、沼の中に落ちた。
首を絞められながらも、少年は優しく少女を抱き締め返す。

「ぐぁっ――!」

少女は少年の肩にゆっくりと口を広げ、噛みつき、肩の肉を引きちぎった。
少年の脳は全力で警報を発し続けていたがそんなもの意に返さず、彼は考えていた。
この少女を生き返らせるかどうかを。
百万円があれば、少女を生き返らせることができるから。
今の世界はさながらダークファンタジーRPGの世界。
人命ひとつが百万円。
命ひとつの価値に明確な答えが出てしまったこの世界。
それでもこれが高いのか、低いのかはわかりはしない。
そういう意味では変わってしまう世界とたいして変わらないのかもしれない。



「受験か……」

図書室。
少なくない人が居ながらも、静寂が横たわっているその部屋で、山のように疲れた参考書の山を見て机に突っ伏しながら呟く少年。
彼の名前は星帝志龍(ほしみかどしりゅう)。高校二年生。
星帝なんて大層な名前がついてはいるが、どこにでもいるような帰宅部である。ゲーマーである。童貞である。

「急にどうしたんだよ?」

と笑いながら尋ねてくるのは江口小十郎(えぐちこじゅうろう)
志龍の同級生である。
ゲームなら間違いなくモブっぽい名前の癖に、スタイルよし、性格よしの、少女漫画か乙女ゲームの中から現れたような奴だ。

「いや、まったく良いことがなかったクソみたいな部活から上級生が引退したわけじゃん? 別にそれはいいんだよ。でも引退する度に受験受験受験受験と顧問が言うのは我慢ならん。腹立たしい」
「しょうがないだろ。ここ私立のくせに並みの進学校よりもレベル高いんだから。第一、今向かい合うべきは新学期早々に始まるテストだろ?」

そう言いながらも小十郎はノートどころかシャーペンすら持っておらず、にやにやと笑いながらテストに苦しむ志龍を見ているだけだ。
それを志龍は怨念のこもった目で睨み付けると、再び机に突っ伏した。

「かぁ――余裕ですかよ。優等生サマは格が違いますねぇ」

志龍の知る限り、小十郎が学校で授業以外の勉強をしている姿は見たことがない。それでいて毎回テストで一位をかっさらっていくのだから、志龍は毎度毎度世界の理不尽さを噛み締めることになるのだ。

「第一、この世界にはファンタジー要素が足らんと思うのだ。それがあれば俺はモンスターを適度に狩って、奥さんもらって、慎ましく暮らしながら、ログハウスの中で孫達に見守られながら眠るように死ねるのに」
「終わりがずいぶんリアルだな……第一、今日もゲーム持ってきているんだろ?」
「まぁな」
「これ聞いたら、お前の方が余裕だろって思うだろうなぁ」

ニヤリと笑う志龍を見て、苦笑しながらあきれたように言う小十郎。
するとその時予鈴が鳴った。

「面倒くせぇ……今からなんだったっけ?」
「現国」
「うっは、最悪だ」

そして、二人は世界史を受けるべく階段を上っていった。



現国の授業。
志龍は教師の声をBGMにしながらゲームに勤しんでいたのだが、突然放送が流れた。

『深山高校の方がいらっしゃいました。生徒の皆さんは体育館に集合してください』

教室内は騒然とした。この放送は学校内に不審者が侵入したときの合図であったためだ。
この放送が流れたら、教員、生徒は全員グラウンドに集合することになっている。
もちろん、体育館というのはフェイクだ。

(クソッたれ!!)

折角ゲームボスの部位破壊に成功して、ドロップ確率1%未満の超レア素材が出たところだったのだ。これで長い間強化できていなかった愛武器が強化できるというのに、これではゲームを中断せざるをえないではないか。
それにまだ、ボスの体力を削りきっていない。討伐するのにはあと十数分は必要になるだろう。
志龍はちらっと現国教師を見る。
現国教師は定年間近のおばあちゃん先生。これならばごまかしが聞くかもしれない。

「みなさん、早くグラウンドに」

現国教師の指示にしたがって生徒は皆教室を出ていく。
最後に現国教師が教室内に誰もいないことを確認して、教室のドアを閉めた。

(ふぅ……)

教室の後ろの方にあるカーテンから出てきた志龍。
あの視力の悪いあの教師ならば、荷物置きの上に乗ってカーテンに隠れれば気付かないだろうと思ったのは正解だったようだ。
避難のために足早に去っていく生徒たちの足音を聞きながら、志龍は悠々とゲームを続けた。

そして十五分後――。

「しゃあっ、倒した!!」

達成感に思わずガッツポーズをした志龍は早速武器を強化し、セーブをして電源を切った。
そして興奮が覚めない間に志龍はグラウンドを見るが、

「なんだこれ」

と、眉を寄せた。
集中をしすぎると周りが見えなくなることが悪癖である志龍だが、これほどの状況になっていてもゲームをできていたということにはさすがにどうなのだろうかと思った志龍は反省する。
端的に言うのであれば、グラウンドは地獄だった。
グラウンドは至るところが血に染まり、死屍累々といった有り様。
怒声と悲鳴の混声合唱が響き渡り、町の至るところから煙が上がっている。

「戦争……いやテロか?」

ただ事ではないことがここ一帯で起こっているのだろうが、所詮は高校生の志龍には詳細はわからなかった。

「あ」

志龍の真下。片隅で震えている少女を発見した。
同学年C組の峯田とかいう少女だ。ここからは距離があり、なおかつ厚着であるがここからわかるほどの圧倒的質量を誇る乳房は峯田だろう。
巨乳好きに友人だったやつにわざわざ連れられて見に行ったのだから間違いない。
ちょうどよかったと志龍は彼女に声をかけた。

「おーい!! 峯田さーん!!」

志龍の声にびくりと肩を震わせると四方八方を見渡し、志龍を発見したのか上を見てくると、唇に人差し指を当てていた。
静かにしてほしいんだろうか。だったら彼女の後ろに立っている明らかに死んでいそうな少年をどう知らせばいいだろう?

(まぁいいや。放っとこ)

元から大した付き合いのない相手だ。むしろあちらは志龍にことを心底嫌っていたように思える態度をとっていた。
助ける義理はないだろう。
ということで彼は静観を決め込んだ。
そうしているうちに男子生徒は峯田の後ろに立つと首筋に噛みついた。

「キャァ……」

と短い断末魔が響き、地面を鮮血が斑に染めた。

「キモッ……」

距離は離れているものの血が噴水のように吹き出すのを見たのだ。
出血量から恐らく助からないだろう。
峯田は豊満な胸をびくんびくんと震わせながら、男子生徒に貪り食われていった。
その光景を見て志龍はいちゃついているカップルのように見えた。血が出ている時点で台無しだが。

「これはあれか。いわゆる世界規模感染(パンデミック)

映画とかでよくある某国の研究所がなんやかんやで事故に遭って、ウイルス兵器や生物兵器が脱出し、死んだ人がヒトを喰らう化け物に変化を遂げるというものである。
志龍的には大好きなジャンルではあるのだが、現実で起きてほしくないジャンルぶっちぎりのナンバーワンである。
この手の話は大抵がバッドエンドであるためだ。

「お!」

ここで志龍は一瞬で思考を切り替えた。
ゾンビ化した男子生徒が峯田の上着を強引に剥ぎ取ったからだ。
露になる二つのメロン。
志龍はどちらかと言えば足派であり、必然的にスタイルの良い女性を好むため、貧乳好きではあるが、立派な思春期の男子だ。
若い女性の胸には素直に反応してしまう。
そうやってしばらく魅惑の踊りを楽しんでいたのだが、男子生徒が峯田を押し倒して胸に顔を当ててしまい、志龍の角度からは見えなくなってしまった。
思わずクソがという声が漏れてしまったが男子生徒が峯田のメロンを楽しんだあと、それを噛みきったのを見て、思わず関心がそちらにいった。

「へぇ……」

通常、肉食動物が肉を食べるときにはまず首に噛みついて息の根を止めて、腐りやすく栄養のある内蔵から食べ始めるのだというのをどこかで聞いたことがあったためだ。
だというのに、男子生徒は腹ではなく脂肪だらけの胸から食べ始めたのだ。

「そういえばあの野郎、東野じゃないか」

以前一緒に峯田の胸を見に行った巨乳好きの友人であった東野だ。
そんなやつが、峯田の胸を美味しそうに喰らっている。

「ヒトとしてある程度の意識はあるのか? それとも生前の欲求にしたがって行動している?」

 以前、峯田の胸を弄びたいと明らかなクズ発言をしていたのを思い出して仮定のひとつにそう付け加える志龍。
学校の成績では中の下程度の志龍ではあったが、決して頭が悪いわけではない。むしろこういうファンタジーめいた状況の中ではかなりのパフォーマンスを発揮する。
それに志龍はこの状況を心の底から楽しんでいた。
まずゲームを始めた理由が、生と死の瀬戸際でしか体験することのできない臨場感を擬似的に味わうためだ。
ならば、
武器を振るって敵を殺そう。
生き残るために人を蹴落とそう。
それでありながらも助けたいと思った人は救おう。
圧倒的な敵と嗤いながら生と死をかけて戦おう。

(全力でこの世界を楽しんでやろう)

楽しむためにはまず情報収集だ。
そのためにも創作物で培った脳でこれからする行動をシュミレートする。

「起き上がった」

やはりというべきか峯田は平然と立ち上がった。
それでありながらも歩き方は辿々しく、噛まれた首筋や露出している胸からは血は一切出ていない。
時間としては食われはじめてから十分といったところか。
そして、彼らは歩いてどこかにいってしまっていた。

「やっぱり感染していくか」

この世界でもそういうお約束はしっかりと守っているらしい。
志龍は校門を見る。
そこは生徒も教師も入り混じって阿鼻叫喚という様子だった。

「あそこに行けば直ぐに御愁傷様するところだな……となると」

籠城か。
志龍は必要なものを考えていく。

(食料、水、武器、安全な場所、充電器ってところか)

充電器はいらねぇだろというようなツッコミがどこからか聞こえてきそうな気がするが、志龍は完全に無視。
食料、水はこの階にあるカフェテリアで確保可能。安全な場所もそこでいい。充電器は教室にある。となると心許ないのは――

「武器の類いか」

この教室にあるのは野球部が使っていたような金属バッド。
これでは少々心配だ。
当然ながらここは学校だ。武器のような物があるとは到底思えないが……、

「あるじゃん、世界史準備室!!」

志龍はこの状況になってから異様に冴えている頭脳でなんとか捻り出した。
そう、あるのだ。武器が保存されているような場所が。
世界史準備室。
それは世界史の教師である後藤先生が生徒達に少しでも世界史に興味を持ってもらおうと世界中から集めまくったアンティークが置いてあるのだ。
そのなかに確か武器もあったはずだ。
当然ながらそのなかには中二心をくすぐるものもあったため、志龍が唯一、先生と心の中でも敬称をつけ、授業も真面目に取り組んでいる。
そのため世界史の授業だけなら小十郎に匹敵するほどの点数をとっているのだ。
それに彼とはオタク談義をするほどの仲だ。

(生き残ってくれているといいなぁ)

恩師の姿を頭に浮かべながら、志龍は金属バッドを持った。
幸い世界史を行う教室はこの部屋のとなり。呻き声といった声はしなかったため恐らくは安全だろう。
志龍は廊下に聞き耳をたてながら忍び歩きで世界史教室に入っていった。

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02 やっぱゲームには戦闘が不可欠だよね

主人公は基本的にクズかもしれません。
それでもいいよって方はご覧くださいませ。


世界史の教室には志龍が想像した通り、ゾンビ化した生徒はいなかった。
今日の1限目には世界史を行っているクラスは一切なかったのだ。

「けど、ここまで自分に都合がいいと逆に不安になってくるな」

良いことは長くは続かない。それは故事成語になっているほどよくあることだ。良いことには何かしらの妨害が入ってくる。
例えば世界史を行っている教室にはゾンビ化した者は居なかったが、準備室の方にはいるという可能性。
ドアには南京錠が掛けられているが、まだゾンビ化した者の膂力も理解できていないのだ。もしかしたら、壁なんて容易くぶち抜けるほどのパワーを持ったやつもいるかもしれないし、それに志龍が一番怖がっているのは――、

「この惨状を作り出した感染元……!」

恐らく、学校に現れた不審者というのがそれだろう。あれからもう三十分は経過している。感染元がどこに移動していたとしても不思議ではない。
そのため志龍はドアに忍び歩きで近づき、聞き耳をたてる。本当は窓などから覗き込みたいのだが、窓はない。
警戒しすぎではあると思うが、自分が死なないためには警戒が足りないということはあっても、警戒しすぎたということはないだろう。
音が一切しないことを確認すると、金属バッドで南京錠を破壊し、準備室の中に転がり込んだ。

(うっは……何度みてもすげぇ)

警戒心はありながらも、志龍は思わずそれに目線を引き付けられた。
銃刀法を違反しないようにしっかりと刃引きはされていたが、それでもなお人を傷つけられるような道具が放つ特有の威圧感。
2メートルほどの金属の棒の先に両刃の斧と、槍がついた独特な形状。
ハルバード。
ヨーロッパでルネサンス期に主流となっていた武器だ。
志龍は興奮冷めやらぬという様子で、飾り棚からハルバードを外す。すると来るのはずしりとした重さ。
今から人を殺害するのだ。これくらいの重さは必要になるだろう。
試しに振ってみようと思うが、そこで動きが止まる。
狭い。
ここでハルバードを振るうとなると、確実に壁や天井にぶつかってしまう。それは学校内であるのであれば、ほとんど同じだろう。
リーチが仇目に出てしまうとは。

(ぐぬぬぬぬ……!!)

志龍は悔しかった。
こんなにも格好いい武器があるというのに、自分では使うことができないなんて。
ここが学校であることが本当に悔やまれる。
なので志龍は金属バッドよりも殺傷性に優れた武器を探して、最終的に行き着いたのは、鉈だ。
マチェットという手段もあったのだが、些か人を殺すのには軽すぎて、耐久性の問題もあった。それにハルバードのように、重さで自分の動きが阻害されてしまっては本末転倒である。
なのでその二つの問題を一気に解決しつつ、一番殺傷能力が高いのがこれだったのだ。
他にも色々あった。
宝飾された短剣や、一メートル近くある両刃の剣、片手で振れそうな斧に、ボウガン、革でできた鞭など様々なものがあったが、頑丈そうで片手で振れつつも、重量のあった鉈が一番だと思ったのだ。
リーチは五〇センチほど。申し分ない長さだ。

(あとはっと……あったあった)

ポリカーボネイト製の片手で持てそうな盾。とても軽く、全身を防御できそうな盾を見つけ、志龍は満足げにうなずく。
右手に鉈、左手に盾をもって戦闘準備は完了した。
まず志龍が目指すのは、二階にある自分の教室。そこでまずスマホとゲームの充電器と運動用の靴、最低限の着替えを獲得する。
なるべく早く、それでいながらも忍び歩きで志龍は進む。
なるべく早く行かなければゾンビ化した奴等が二階に侵入してくるリスクが高まる。それでも焦りすぎてもすでに侵入していたゾンビ化した奴や、感染元に気づかれる可能性がある。
急げ。だが決して慌てるな。警戒を怠ったらその時点で俺は死ぬ。
志龍は自分を鼓舞するように、戒めるように何度もそれを繰り返しながら自分の教室にたどり着いた。
幸いながら途中までの道で化け物には出くわしていない。
階下では呻き声と悲鳴が聞こえてくる。
上がってきたゾンビ化した奴等とまともな生徒が戦っているのだろう。
志龍はそちらにも注意を向けながらも、もはや定番と化した聞き耳をたてる。すると泣き声のようなものが聞こえてきた。
とりあえずは人っぽくはあるが、決して油断はしない。
知能が高く啜り泣くフリをして罠にかかる者を待っているやつかもしれないし、ここは二階だ。
ゾンビ化した奴等が生きていたときよりも身体能力が上がっているのだとしたら、跳躍すればギリギリ入ってこれるような高さだ。
警戒心を決して解かずに、志龍はドアを開けた。
そこには二人の女子生徒がいた。その二人を彼は知っていた。というか志龍のクラスメイトだ。
山口と田中。よくある名字らしく、巨乳でもなければ美脚でもなく、それでいて顔は中の中。これといって特徴のない生徒だ。
彼女らを志龍はよく観察するが、ゾンビ化はしていないだろう。目が虚ろでなければ、急に襲いかかってくることもない。
それを見て、とりあえず二人からは警戒を解く志龍。
だが、窓や閉めたドアを開けて入ってくるかもしれないゾンビ化した奴等はしっかりと警戒する。

(長居はリスクが高まるだけだな)

そう思い、志龍は淡々と自分のスクールバッグをリュックサックのように背負い、靴を屋内用のものでなく、運動用のものに履き替える。
そんな志龍を見る彼女らの様子は、終始怯えているようだった。

「星帝……よね」

山口が志龍に話しかけてきたので志龍は、

「そうだけど……どうした?」
「よかった……星帝はまともなんだね」
「ああ。……そっちはまともじゃなさそうだな」

志龍は田中を見やる。
彼女はへたりこみながら自身の右腕を押さえつけていた。
出血しているのだろう。
顔を真っ赤にしながらかなにかを押さえつけるように震えていた。

「そうなの。……田中ちゃん、ちょっと前におかしくなった人に噛まれちゃって、必死に振り払って逃げてきたんだけど……。ねぇ、星帝、先生見なかった?」

思わず鼻で笑ってしまいそうなのを必死にこらえる志龍。
それほどまでに彼女の言葉は、呑気なものだった。

(先生? てめぇ頭湧いてんじゃねぇのか?)

この状況で教師のいったい誰が役に立つ?
この変わってしまった世界では、いったい大人がどれ程使い物になるというのか。

「いや、見てないけど……、ところで田中さんは噛まれてからどれくらい時間がたった?」
「え? 十分位だと思うけど……」

ここで志龍には二つの選択肢が発生した。
一つはこのまま二人を無視して、ここから去り、安全な場所を探しにいくという物。
二つ目はもう助からないであろう田中は見捨て、山口と一緒に行動するというものだ。
今のところ志龍はゾンビ化した者を助ける方法を知らない。あったとしても恐らくワクチンだろうが、いくらここは金持ちの私立だとしてもただの学校だ。ゾンビ化した奴を助けられる物があるとは到底思えない。
だからここは田中は見捨て、山口と一緒に行動する――

(わけないんだよなぁ……)

正直言うと、武装もしておらすそれといって武道の心得もない女子を守りながら、安全な場所を探しにいくという行動は大きなリスクを伴う。
第一、田中を見捨てるという選択肢自体が山口にはないようだ。となると説得する時間も惜しい。
そして、一番の理由が――

(俺、コイツら嫌いだし)

志龍は山口にバレないようにそっと視線を自分の机にやる。するとそこには罵詈雑言が書かれていた。そう、志龍は苛められていたのだ。
主に小十郎を慕う女子から。
小十郎は読者モデルになるほどのイケメンだ。そんな彼が、話しかけている女子(じぶん)たちには一切見せない笑みを、志龍にだけは見せているというのだから、いじめの対象になったりするだろう。
そう志龍は理解はしているが、納得してやるほど大人ではないのだ。

「ねぇ、星帝。先生探しに行ってきてよ。田中ちゃんの様子がおかしいの」
(よし、絶対に見捨てよう)

この悲鳴がBGMになっている場所に居るかも分からない教師を探しに行けとは、随分と脳みそがお花畑のようだ。
そんな自己中心的な考え方を持つ奴と集団行動をしても、ロクなことにならないのは目に見えている。
志龍は黙って教室を出ていった。
とりあえずは階下の戦況には変わりがない。もう数十分すれば戦線は崩壊して、二階に流れ込んでくるゾンビ化した奴等が流れ込んでくるだろうが、そのころには志龍は上の階に逃げている。
なので、まだ少し余裕があるかと判断した志龍は物陰に身を潜めた。
身を潜めた理由は、田中のゾンビ化だ。奴がゾンビ化したら、騒ぎを聞き付けたフリをして初戦闘。山口(にくかべ)をうまく使って、負傷をすることなく初戦闘を終えたい。そしてそのあとは山口(にくかべ)殺害(しょり)する。
山口を殺す必要はないかもしれないが、あれには自分の盾になってもらうため必ず負傷してもらう。最初にゾンビ化した田中は山口を襲うだろうから、必ず負傷しているとは思うが。
という大義名分はあるが、一番の理由は万が一にも人間が的なったときのための予行練習だ。こんな世界の終焉の模倣図と化した世界だ。ゾンビ化した奴等だけが敵だと思っていると、足元を掬われかねない。
唯一の問題は殺害をしてくる(しりゅう)に怯えて、なにもしてこないような状況だが――

(さすがに襲いかかってくるよな?)

彼女から見れば、志龍は友人を殺した殺人鬼だ。黙ってやられるとは思ってはいないが――。

(というか殺害っつー発想が出てくる時点で俺はヤバイかもな)

思わず、小さく嗤う。
だが、そうせねば生き残れない世界になってしまったのだ。
命あっての物種。楽しむためには、生き残らなければならない。
あらゆる状況に対処するためにも、様々な種類のチュートリアルはこなしておかなければ。
ヤバいと思うよりも、良い傾向だと思おう。
そう思っているうちに、教室から甲高い悲鳴が聞こえてくる。
それ志龍は反応し、教室のドアを勢いよく開け、状況を確認。
部屋の中には山口と田中しかおらず、新たなゾンビの参戦は無し。そして田中は山口の腕に噛みついていた。志龍が思い描くベストシュチュエーションだ。

「山口さん!! 大丈夫か!?」
(おっしゃ、ナイス山口(にくかべ)!! ゾンビ、頼むからその獲物から歯ァ離すんじゃねぇぞ!!)

自らの名役者(自分基準)ぶりに思わず、笑みが浮かびそうになるものの、自分の表情筋に全力で指令を送り、あくまで真剣に山口を助けに入った男子を演出する。
そして、山口に噛みつくのに夢中になっている田中の頭蓋に鉈を振り下ろした。
それは容易く田中の頭蓋を打ち砕き、田中の脳獎を山口の顔と志龍の腕に撒き散らさせた。

(生前とあんまり肉体スペックは変わらないのか? それに知能は大幅減少っと)

本来であれば、無抵抗な山口よりも鉈を振り下ろす志龍を警戒するだろう。それなのに田中は、志龍に一切反応した素振りを見せなかった。
エサを与えられた動物でさえもう少し周囲を警戒して飯を食うというのに、これは酷い。

(まぁコイツはもっとも弱いゾンビだろうから、強くなれば勝手は違うんだろうなぁ)

そうやって、冷静にゾンビ化した奴等について考えていた時だった。

「この、人殺し!!」

と、山口の声が志龍の思考を遮ったのは。

「あのなぁ……静かにしろよ。てめぇの声で化け物がここに来たらどうしてくれる」
「そんなの知らないわよ!! 何で田中ちゃんを殺したのよ!!」
「そんなの決まっているだろ」

彼女の言葉に志龍は心底呆れたように、首を振った。
そして一呼吸置くと、

「これが人を殺すからだ」

何故、人は生物を殺すのか。
家畜は自分達が食べるためだろうが、それ以外の動物を殺す理由は決まっているだろう。
自分達の脅威となり得るからだ。自分達に害をもたらすためだ。
そのくせ、その生物が絶滅しそうになれば保護をしようとお涙ちょうだい展開に持っていくのだから、志龍はその手の話を聞くたびに呆れているが。

「第一、おまえも殺されかけたじゃないか。それでいても救いたいだなんて、中々に博愛主義だなぁおい」
「田中ちゃんは少しおかしくなっただけよ。それだけなのに殺すなんて、あり得ないわ!!」

その馬鹿げた綺麗事に志龍は溜め息しかでない。

「あのなぁ……お前、外の惨状見たかよ? あれはこれが原因だぞ。それなのに友達だから助けたいだと……? 寝言は寝てから言えよ」
「――――ッッ!!?」
「そんな綺麗事を成せるだけの力があるのか? 綺麗事はそれを成せる力の持った奴しか言うなよ。ここで死ぬだけだったクズの分際で」

漫画の主人公が綺麗事を言うのは、それを成せるだけの実力や仲間がいるからだ。
それがなければそれはただのうざったい言葉の羅列でしかない。
まぁそんな事をクズに説くだけ無駄だと言うことで、志龍は鉈を振り上げた。

「ちょっと!! あんた何を!?」
「お前を処理する。脅威の芽は若いうちに摘んでおかないとな」
「ふざけんな――!!」
「じゃあな、あの世で綺麗事でも歌ってやがれ売女(ビッチ)

そして、怒号を振り撒く山口の顔に鉈を振り下ろした。

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03 この世界は本当にゲームチック

それが起こったのは、山口を殺害した時だった。
『テッテレーン』とやけに明るい音が脳内でした。そしてドサッとそれなりに質量を持ったものが落下してきた音もしてきた。
志龍は右胸ポケットに仕舞ってある自分のスマホを見る。あんな軽快な着信音にした覚えは全くなかったが、一応念のためだ。
予想通り、かの軽快な音楽はスマホから発せられたものではなかった。
パッと見たときに両親からの不在着信が入っていたが、今はそんなことをしている場合じゃない。
安全が確保できしだいかけ直すことにすると、志龍は田中の死体の近くに妙なものがあるのを発見した。

「段ボール……だよな」

それはこの空間では異様に浮いている、やりようによっては全身を隠せるのではないかというほどの大きさの段ボールだ。某傭兵に渡せば素晴らしいステレスプレイを見せてくれるのだろうが、志龍にそんな趣味はなかった。
嫌な予感が全力で警鐘を鳴らすが、見ないわけにもいくまい。ちなみに段ボールには神天とご丁寧に日本語で書かれていた。実に勤勉だ。
それをゆっくりと開けると、なかにはポツンと5型サイズのタブレット端末が入っていた。
名前は愛神。

「愛神?」

なぜそんなへんてこな名前になってしまったんだ。と志龍は真剣に悩むが、

「まぁ現状は落ち着いて物事考えることがベストだな」

と、五階に戻ろうとするが、

「問題はこれだよなぁ……」

志龍がいる部屋に転がっている二つの死体。山口と田中の物だ。
現状で、これを生存者に見られたら間違いなく俺は犯人扱いだ(実際そうだ)。
それでも、このままの状態でスタコラサッサーは不味い気がする。最悪なパターンは時間経過で復活するという物。ゾンビものならありそうで怖い。
だから、何とかしてこの死体二つをちゃんと抹消しておきたいが……。
そんなことを考えていると、愛神の電源が入った。そこには、

「カメラで撮ってみましょう……か」

何かチュートリアルが始まってしまったようだ。とりあえず愛神の指示通りカメラアプリを作動させる。幸いにも操作方法はスマートフォンと変わらなかったので簡単に操作は行えた。
そして、パシャリと死体二つを撮ってみると、

「死体が消えた……!?」

死体は溢れた血液すらも残さず、きれいさっぱり消失していた。
いったいどういう仕掛けだと聞くのは無粋だろう。ここはもう今までの常識が通じるような場所ではないのだから。

「最初の方針通り、五階に籠城しよう。これはそれからいじろ」

そう言い、彼は未だに激闘が繰り広げられている階下の音を聞きながら、階段をかけ上がっていった。



「あっぶねえ……」

五階の階段の防火扉を閉めながら、志龍はそう呟く。
その理由はもう防火扉の向こう側になってしまったが、階段を上がってくる女ゾンビが見えたためだ。
田中を殺害したときにも思ったが、ゾンビは知能が圧倒的に低いようだ。少なくともノーマルゾンビは、防火扉を開けられるほどの知能を有してはいない。
女ゾンビが防火扉前についたのであろう。呻き声は聞こえど、防火扉が開けられる様子はない。
志龍が五階に着いてすぐに四階から五階に上がってこれる場所を閉鎖して回っていた。
これで元から五階にいたゾンビは兎も角として、新しくゾンビが追加されるようなことはひとまずなくなった。

「さてと、次は……」

志龍が向かったのは、この五階よりもさらに狭い場所でありながら食料問題も解決してくれる場所。
家庭科準備室のとなりにあるカフェテリアだ。
ここ、私立親原高校は小さな丘の上に建設された高校だ。特に五階からの眺めは圧巻の一言で、そういった景色を楽しみながら昼食を摂られるようにという計らいでそれは作られたらしい。
一階にも食堂はあるにはあるのだが、こっちの方が飯がうまい上に、デザート類も充実している。真面目な理由でいうならば、一階は死屍累々の大惨事だろうからここに立て籠ろうとした所存。
家庭科準備室の隣まで歩いてきた志龍は扉をに手を掛けるが、

「くっそ……開かねぇ」

それも考えてみれば当然だ。
ここの開店時間は四限目の授業が終了した直後。それまでは従業員しか入れないのだ。それならば生徒が入る場所は当然閉まっている。

「かぁ~……どうすっかな。そうだ」

志龍は扉にもたれながら、存在を忘れていた愛神をいじろうとする。
この道は一本廊下で、ゾンビが近づいて来ても気づくことができるだろう。
ということで、志龍は愛神の入っていた段ボールを改めて見ると、

『絶対に壊れません』と書いてあった。
左様ですかと思い、右側にある電源ボタンを改めて押す。
表示されている画面は対してスマホと変わりはしない。
メールや電話といった基本的なアプリも備わっていた。
なんかデザインはアン○ロイドっぽいな、というような馬鹿なことを考えながら志龍は見覚えのないアプリを起動させる。

『はじめての方へ』
『ステータスチェッカー』
『総合売却カウゼー』
『総合販売ウルゼー』
『掲示板』
『ミッションチェッカー』

以上の六つだ。
カウゼー、ウルゼーはものすごく単純であったがまずははじめての方へというのをタップする。

要約すると現在の状況は、ゾンビものあるあるの細菌兵器や感染爆発によって起きたものではないということ。
ある事情から、世界のルールが書き換えられたことによって起きている現象であるということ。
その変化とは大まかに分けて以下の三つだ。

・魔物の自然発生……人を食らう魔物と呼ばれる存在が発生するようになった。
・レベルアップ………生物が他の生物を倒すと起こる現象。魔物が倒せば身体能力などが向上する。
・死体の魔物化………死亡した生物の死体が魔物として復活するようになってしまった。

そして、この端末は魔物を倒そうとする勇気ある人の手元に送られてくるアイテムなのだそうだ。

一通り読むと志龍は思う。
ゾンビものかと思っていたら、RPGだったでござる――と。
分かりやすくいうならサハイバルホラーが異世界転移ものに変わったぐらいだ。

(まぁいいけどな)

志龍にとってゲームとは魂の伴侶。
レベルアップなぞというシステムは志龍にとってプラスにはなれど、マイナスにはなり得ない。

(まぁそうなりゃ、『ステータスチェッカー』だよな)

そう思い、志龍はステータスチェッカーを起動させる。


【ステータス】
名前 星帝志龍(ほしみかどしりゅう)
性別 男
種族 人間
年齢 16
Lv, 2
職業 無職★2

HP 14 MP 16
STR 15 CON 14 INT 15
DEX 17 APP 13 POW 16
SIZ 13 EDU 12

知識  60 幸運 80

技能 鈍器 27  忍び歩き 15  聞き耳 32 隠れる 11
スキル なし
所有GP 300+120
所有SP 20

戦歴(最新の四件表示)
達成したミッションがあります。
レベルアップ。無職★1⇒無職★2
人間 Lv,1 撃破 経験値5  SP20獲得
ゾンビLv,1 撃破 経験値10 SP10獲得

志龍は今までのゲーム経験と、『はじめての方へ』の内容からステータスを検討する。
まず職業だが、皆最初は無職として登録されておりレベルを五まであげると、自分にあった職業を提案されるらしい。
レベルは魔物を倒したり、素材を回収することにいってレベルが上がるらしい。その他には、職業にあった行動をするなどだ。
次にHPなどといったものだが、これは肉体の性能を数字化したもので、人間の最高値は21だそうだ。となると自分のステータスは結構高めなのではないかと、志龍は考える。
次に技能についてだが、これはその技能を使用する度に熟練度が上がってき、精度が増していくとのことだ。
ここで、志龍はウルゼー、カウゼー、掲示板をすっとばしてミッションを確認する。
すると、たくさんのミッションが書いてあったが達成してあるのを見るとこれだけになった。

『世界変化後、一時間以内に魔物を撃破する』
『世界変化後、一日以内に魔物を撃破する』
『初めて魔物を倒す』
『世界変化後、殺人を犯す』
『傍観者に気に入られる』

この、傍観者というのが気になったが今考えても仕方のないことだろう。
スマホゲームあるあるの報酬一斉獲得を見つけると、それを素直に押す。するとSPが10600、GP50+50、新職業解放、傍観者特製ガチャチケット×1を獲得した。
10600という数字か多いのか少ないのかは分からないが、新職業とガチャチケットは素直に気になる。
あとで調べてみることにしよう。
次に志龍は『総合売却カウゼー』を起動する。
このアプリは倒した魔物の一部――いわゆるドロップアイテムをSPと交換できるそうだ。
このことに志龍は後悔した。せっかく好きなゲームっぽい素材剥ぎ取りという作業ができたというのに、それを棒に振ってしまうとは……!!
志龍は若干涙目になったが、それでも気分を切り替えて愛神を見ると、素材を回収してみようということでやり方がわかっていた志龍はそのままパシャリ。
段ボールは消え代わりに300SPがステータス欄に追加されていた。
『総合売却カウゼー』を見ると、(かね)もSPに変えられるらしいので志龍は財布に入っていた一万円札をパシャリ。すると一万円札は消えSPが100追加されていた。
1SP=100円換算のようだ。これでSPは11020SP。
現金換算すると1102000円。超金持ちである。

「ぐへへ……」

と気持ち悪い声が漏れるが、それを咎めるものはこの場にはいない。
この勢いで『総合販売ウルゼー』を起動する。先に『掲示板』を見てもよかった気がするが、ネタバレをくらうのも嫌だったので、こちらを優先した。

(まぁ、『掲示板』は見なくても良いっぽいし)

武器や防具、日用雑貨や食料、薬など様々なものが変えたが志龍の気を引いたはスキルのところだった。

獲得経験値増加……2000P
必要経験値減少……3000P
レベルアップ適正…4000P
………

などと様々なスキルがあったが志龍の目的のスキルは下の辺りにあった。

努力の天才
技能の熟練度増加率が上昇する。職業適正技能は二倍。

こういう増加率アップ技能だ。増加率アップ技能は低いレベルの時から習得しておくと、強くなりやすい。個別にあげるスキルもあったにはあったが、こちらの方がコスト的にお得だったのでこちらにした。
あまったSPではほとんどスキルを購入することができなかったので、志龍は残りの1020SPは残しておこうと思い、愛神の電源を落とす。
田中の例から行けばゾンビはそれほど強くない。レベルアップが怖いが、ここは五階。まだ下のゾンビたちが登ってきていないためまだ安全だろうとは思う。
志龍は新たな技能を得るためレベルアップに勤しもうと立ち上がり、五階を散策する。
この階には視聴覚室、第一理科室、家庭科室、美術室及び多目的室が四つあり、志龍が現国を受けていた教室や武器をパクった世界史の教室もそこに含まれる。
この校舎は第一棟、第二棟の二つに別れており志龍が現在いるのは第二棟だ。こちら側には視聴覚室、家庭科室、多目的室が二つある。
まず志龍は家庭科室を調べようとした。
調理実習を行っていれば完成した料理があるかもしれないからだ。カフェテリアの飯のは劣るかもしれないが、正直言って空腹がもう限界である。なんか食わせろ。
そんな思いで家庭科室の扉に耳を当てる。

(おっ? なんか耳がよくなった気がする)

これが聞き耳技能かと感動していると「ォォォ……」という呻き声が部屋の中からしてきた。こっそりとドアを開けながら、中を見てみると女子生徒ゾンビが一体いた。
損傷はひどくない。顔も胸も足もそこそこ。だが、

「このまま放っておくわけにはいかないからな」

と、自分を奮い立たせ家庭科室の扉を開く。
するとゾンビは志龍に気づいたようで、こちらに走ってくるが、

(身体能力は生前とほとんど変わらないのか)

田中と山口がゾンビを引き剥がし逃走できたという時点で想像はしていたが、目の前のゾンビを見て確信した。
こちらへ走ってくるゾンビの速度は女子生徒の基準のほぼ平均ぐらいだ。陸上部の短距離選手すらも軽々と追い抜かせる志龍のDEXならば、易々と逃げることができるだろう。
だが、志龍は逃げない。
しっかりと後ろ手で家庭科室のドアを閉め、後方の憂いをなくすと、

「漢に後退の二文字はねぇッッ!!」

と言いながら女ゾンビの突進を盾でいなすと、背後から脳天に向かって鉈を振り下ろす。
骨を砕くまだなれない感触が伝わり、志龍は鉈を引き抜く。脳みそをぶちまけながら女ゾンビは倒れた。

「今日の俺は紳士的だ。運が良かったな」

今までプレイしてきたなかで一番と言っていいほど大好きでありながら、トラウマにもなったキャラクターのロールプレイングをしながら志龍は素材を剥ぎ取った。剥ぎ取った後の死体はSPに変化させた。
正直言ってどこが紳士的なのか、自分で言っているのにまったく分かっていないが、まぁこういうのは気分の問題だ。自分をハイにするためには必要なことだ。
その後もゾンビに遭遇し、そのすべてをなんなく討伐していった。そのうち二体は背後から忍び歩きで近寄ってからの不意打ちで沈めた。少しでも技能値をあげるための努力は欠かせない。
そうやっているうちに鉈も随分と使いなれてきた。このまま行けば、複数を同時に相手取っても戦えるのではないか。にやにやが止まらない。
そして、ハイになった志龍は視聴覚室の扉を開けた。
――聞き耳もなにもせずにだ。

(…………)

確かに志龍は複数を相手取っても戦えるのではないかと思ったが、それは二、三体のはなし。今開けた視聴覚室にいるゾンビの数――二十体以上は無理だ。
思考停止している志龍に、一番近くにいた男ゾンビが襲いかかってきた。

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