私、立花響は呪われている。二年前、コンサートに参加して大怪我を負った私は懸命にリハビリに励み、復帰した。しかし、私を待っていたのはコンサートで起こった事故、特異災害ノイズによって殺された人達の中で唯一生き残った私に対する迫害だった。家の壁に落書きされたり、石を投げられたりされた。中には直接的に暴言を吐いてくる人までいた。そして、お父さんはこの事から暴力的になり、何も言わずに家を出ていった。更に不幸は続き、ついには家が放火されてお母さんやおばあちゃんも死んでしまった。
私は幼馴染である未来の家、小日向家に引き取られる事になった。それから少しして、私は小日向家を出た。私が居たら皆を不幸にしてしまうから。取り敢えず、パスポートを取って残された保険金の一部を置いて単身でヨーロッパへと渡った。ヨーロッパを選んだ理由? 世界地図に適当にダーツを投げて決めた。
ヨーロッパの片田舎、それも山奥にある小さな村。私はそこで生活をするようになり、気の赴くままに山へと入って湖で魚を取って生活していた。その湖の中で不思議な丸い物を拾った。その不思議な丸い物は何故か、私の目の中に入ってきた。取り敢えず、その時は何もなかったのだけれど、夢で色々と見るようになった。その夢は不思議な場所を教えてくれた。そこで病弱な少女に出会って武術を色々と教えて貰った。病弱なのに何故か無茶苦茶強かった。
師匠から免許皆伝を貰ってからは暇つぶしに夢のお告げに従って宝探しに出かけた。そうすると、不思議な物が色々と見つかった。それは全部、私の中に入っていった。それらを取り込むと、なんだか強くなれる気がしてきた。実際、身体能力は上がっている。だから、色々と修行してみた。私の身に掛かる不幸をねじ伏せ、粉砕する為に。治安の悪い所に出向いて、実際に戦ったりもした。何度か、不審者や変な人達と夢で見た場所で出会う時もあったんだよね。先に取られていたら、諦めるけれど襲って奪おうとしてきた人達は逆に潰させて貰った。
そんな中、ある遺跡に入ると変な生物に襲われたら、気づいたら倒していた。ううん、食べていたというのが正しい。気持ち悪くなって吐いたけれど、そのまま食べた。食料がなかったから仕方ないよね。
そんな生活をしていた私は日本に久しぶりに戻ってきた訳ですが、いきなりノイズに襲われている現場に遭遇しました。やはり、呪われている。ううん、日本が私にとっての鬼門?
コンビニの中には炭素化した人間であろう物がある。道にも沢山ある。さて、どうしようかと悩んでいると、悲鳴が聞こえてきた。前の私なら、助けただろうけれど、今の私にとってはどうでもいい事だ。人の醜い部分を沢山見て来た私には、どうしても前みたいに助ける気が起きない。未来とおじさん、おばさん以外は死のうがどうなろうが、どうでもいい。そのはずなのに……私は小さな女の子を助けていた。
「お姉ちゃん……」
フードを被っている私の顔を覗き込んで来る女の子。小さな子供はまだ穢れがない。なら、助けてもいいかな? そう思う事にした。
「大丈夫」
彼女を抱き上げながら、足に力を込める。正確には履いている靴にだ。地面を蹴って、飛び上がる。壁を連続で蹴って屋上に移動した。ノイズは追ってきているけれど、私は相手の動きが良く見えて、感じられる。だから、簡単に避けられる。ノイズは触れたら終りだから、逃げる。でも、数が多くて靴の先がノイズに触れてしまった。すると、相手が炭素になってしまった。
「お姉ちゃん?」
「倒せた?」
ニヤリと笑いながら、私は駆ける。生身で触れては駄目だろうから、靴でのみ倒す。
「あはっ、あははははははははっ!」
「ひぃっ!?」
邪魔になってきた女の子を隅っこに置いて、私は狩りに入る。一応、守りながら狩りまくる。
「鬼に逢うては鬼を斬る。仏に逢うては仏を斬る。ツルギの理ここに在り」
師匠に教えて貰った。言霊を放ち、自分自身をただの殺戮兵器へと変える。テンションが上がってくると、段々と心の中に何かが湧き出てくる。師匠と戦っている時もあったけれど、なんだろうか? 師匠の教えでは欲望の赴くままにやってしまえと教えて貰った。だったら、やってしまうのが正解だよね?
「
歌った瞬間、私の身体が変化した。内側から大量の機械が溢れ出し、ガントレットを作成。ブーツがグリーブへと変化した。色は黒色をメインにしていて、サブにオレンジ色だね。手には黒い大きな槍が握られている。うん、コスプレっぽいからパーカーとかに変えよう。そう思ったら変化した。
「う~ん、私、槍よりも拳なんだよね。師匠から教わったのって格闘技だから」
そう言うと、どことなく槍がしゅんとした感じがして矛先が分かれて私の両手に宿った。
「使えない事もないけど」
次の瞬間には槍は元に戻っていた。なにこれ、可愛い。
「よ~し、お姉さん、槍を遣っちゃうぞー!」
張り切って一振りしてみる。槍さん、元気に光り輝いて斬撃を飛ばして回りを吹き飛ばした。回りの工場地帯諸共。お姉さん、びっくりだよ。槍さんが褒めて褒めてと光を点滅させている。
「よーしよーし。よくやったね! でも、今度は威力を一点集中しようか。勿体ないからね」
槍さんが元気に返事をした気がしたら、ノイズが懲りずに襲い掛かって来た。ううん、女の子を狙うあたりちょっとは変えてきたのかな? 取り敢えず、女の子の前まで一瞬で戻る。目の前の大きなノイズが現れて攻撃をしてこようとする。反撃の一撃を決めようとしたらコスプレした変な人に斬られた。
「何をしている。惚けている場合……」
「私の獲物をとるなぁあぁぁぁぁっ!」
「なっ!?」
取り敢えず、蹴り飛ばしてみた。すると、どこからともなく出現させた剣で防いぎながら吹き飛んだ。一応、それなりには戦えるみたい。
「何をする!」
「五月蠅い、コスプレ変質者め!」
「コスプレではない! ましてや変質者などと!」
「変質者はみんなそういうんだ! だいたい有名人のコスプレなんて、恥をし……」
「本人だ!」
「嘘だ! アーティストが踊って戦える訳ない!」
「それは……」
「お姉ちゃん達、危ない!」
声が聞こえた瞬間、ノイズが殺到する。
「「邪魔っ!」」
私達は同時に発して、回りのノイズを粉砕する。
「わぁ~すごい~」
「……先ずは邪魔者を排除するぞ」
「……まあ、いっか」
先ずはノイズの殲滅を優先するとしようかな。いや、違うや。ここは女の子を抱えて逃げよう。面倒だし。
「えい」
「ちょっ、貴様っ!」
「さらばだよ、ニセモノ君。ノイズは任せた!」
「待てっ!」
「だが、断る! 待てと言われて待つ人はあんまりいないから!」
靴の力を使って女の子を連れて逃げる。
逃げた先で女の子を交番に届け、私はホテルに戻る事にする。次の日、朝食を終えて、外に出ると突然黒服に囲まれた。それに昨日のニセモノさんまで居る。
「えっと……」
「トレジャーハンターの立花響さんですね。ご同行願います」
「え、お断りします」
やってる事が遺跡の発掘だから、トレジャーハンターって言われてるんだよね。でも、自分から名乗った事はないのに。
「それはできません」
「じゃあ、令状を見せてください」
「それは……」
「ないなら、断ります。力で来るなら、少女を拉致監禁しようとする不審者として正当防衛的な防衛を行います。被害がどうなろうと知りませんけど」
「貴様っ」
「私、間違った事を言ってません。ちゃんと年金支払ってますし、国民として当然の権利です。それにこれから用事が……」
「そうだね。用事があるよね、響。それもとっても大事な用事が」
「え?」
肩を掴まれて、ギギギギと振り返るとそこに満面の黒い笑みを浮かべた未来が居た。
「家族に釈明するって用事がね」
「ななななな、なんでここに未来が……」
「捜索依頼を出してたら、見つかったっていう知らせが来て慌ててきたんだよ?」
今度は黒服の方をみると、いつの間にか赤い服を着た大きな男性が居た。
「いかんなぁ、未成年が保護者になんの連絡もせず二年も行方をくらませたら。それはもう、心配されるだろう」
「はかったな! 目的は未来が来るまでの足止め!」
「拒否される可能性は大きかったのでな。関係者を呼んだまでだ。それに令状と言ったな。いいだろう、直ぐに取って来てやろうじゃないか。何せ、君には私有地に対する不法侵入や器物破損、古代遺産の窃盗、暴行などの嫌疑が掛けられているからな」
「デスヨネー。デモ、セイトウボウエイダヨ?」
「過剰防衛の間違いだろう」
「銃を使われたんだから、問題ないですよーだ」
「まあ、その辺はどうでもいいさ。我々は君が持っている物に興味があるのだ」
「どっちにしろ、お断りですよ~だ。行こう、未来。おばさん達にもお土産があるんだよ」
「すいません、お話は後日にしてください。お父さん達も待っていますので」
「うむ。送って行こうじゃないか」
「ありがとうございます」
「いや、いいです。自前でどうとでもなるんで」
「え? ちょっと響!?」
未来をお姫様抱っこして、さっさと逃げる。車なんて乗せられたら、何処に連れていかれるかわかったもんじゃないし。だから、家まで逃げた。未来達とお話したら、さっさと逃げるんだ。そう思ってたんだけど、家に着いて中に入った瞬間、手錠がされました。私と未来の手に。
「あの、未来さん?」
「もう逃がさないよ、響」
「怖い、怖いから!」
未来からは逃げられなかった。結局、一緒に寝て、何をするにも一緒だった。そしたら、赤い人、風鳴弦十郎という人と櫻井了子という人がやって来た。
「協力して欲しい」
「やだ」
「せめて、メディカルチェックとか……」
「やだ。胡散臭いし」
「う、胡散臭いっ!?」
「腹に黒い一物とかいっぱい持ってそうだし。そういう人、いっぱい見て来たから」
「なんですって!」
「だが、いいのか?」
「危険だと言うんでしょう? 構いませんよ。襲われたら背後の組織ごと叩き潰してやります。未来達を傷つけるなら……容赦は一切しません。例え無関係の一般人が巻き込まれようが、知った事じゃありません。もしも人質を取るような事をすれば……その時はその時ですね」
「響?」
「ごめんね、未来。私は日本政府も大っ嫌いだから。私にとって未来達以外、心底どうでもいいんだよ」
「響君の事は調べさせて貰った。すまないと思っている」
「別に謝らなくてもいいよ。お母さん達は帰ってこないんだから。ああ、そうだ。忘れてた。日本で一番やらなきゃいけない事があったんだ……お母さんとお婆ちゃんの……」
「響、部屋でやすも。ほら……」
「うん……」
「私達はおいとましよう」
「そうね」
未来に連れられて部屋で一緒に眠った。久しぶりに幸せな夢を見れた気がした。ノイズに襲われるまでは。
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風鳴弦十郎
小日向家から特異災害対策機動部二課へと戻る間、車の中で了子君から色々と話を聞く事にする。
「さて、それで彼女はどうだった?」
「そうねぇ……彼女は少なくとも聖遺物を三つは持っているわね」
「三つか。それら全ての適合者というのか?」
にわかには信じられない事だ。一つの聖遺物と適合する者でもかなりの低確率だ。それを三つも同時に適応するなど、生半可な確率ではない。
「ええ。あの時、観測されたアウフヴァッヘン波形はガングニールの物と同時に類似しているけれど、別の物も含まれていたのよね」
「それで、どんな聖遺物かはわかるか?」
「そうね……録画してあった彼女の歌詞を唇から解析したからわかるわ」
「それはなんだ?」
「スレイプニル。彼女はそう言っていたわ」
スレイプニル。北欧神話の主神、オーディンが騎乗する八本足の神獣だったな。
「しかし、あれは動物ではないのか?」
「動物じゃなくても問題ないわね。むしろ、その死骸から作られた可能性だってあるのだから」
「なるほど。スレイプニルは別名、滑走するものという意味を持っていたな」
「ええ、恐らくはあの靴がそうなのでしょう。それも、恐らく……完全聖遺物の可能性もあるわ」
「デュランダルやネフシュタンの鎧と同じくか」
「ええ。彼女の発したフォニックゲインの量から、完全聖遺物の覚醒に充分な量を発揮していたわ」
翼君と奏君が二人で起動した完全聖遺物をたった一人で起動できるとは……恐ろしいほどの才能だな。
「まあ、あの子のフォニックゲインは聖遺物同士で増幅しあっているようね」
「幾つもの聖遺物を所持しているからこそか」
「そもそも、緒方君が調べて判明しているだけでも、彼女は適合していない聖遺物を最低でも四つは所持しているでしょうね」
「是非とも協力を願いたいが……」
「まあ、無理でしょうね。彼女の過去を考えたら……」
「だろうな。しかし、監視をしない訳にもいかない。野放しにするには危険すぎる」
「あの娘にとっては政府も敵みたいなもんでしょうしね。それに最後の言葉……」
「うむ。緒方君に連絡をして、被疑者達の護衛と輸送を行って貰っている」
恐らく、復讐に動く可能性がある。ましてや、彼女の収めている武術は画面から見た限り、如何に効率良く敵を破壊し、殺害するか、その為に考案された殺人拳だろう。実際、海外では正当防衛のようだが、何人も殺害しているようだ。実際に判明している件数は少ないが、表に出ていないだけで相当数になっているようだ。
「どこまで有効かはわからないでしょうけどね。彼女の、恐らくスレイプニルの能力は高速移動でしょうしね。下手したら転移能力よ」
「この写真を見ればあり得る可能性だな」
緒方君達が徹夜で調べてくれた情報の一つである、この写真には立花響の姿が映し出されている。去年の八月七日十五時にアメリカ合衆国ニューヨークでジェラートを食べている姿とその二時間後にはアイスランドでその所在が確認されている。それだけではない。調べれば調べるほど、彼女は多数の国を有り得ない速度で移動している。だからこそ、彼女が犯した犯罪に関して証拠がないともいえる。何せ、入国や出国の記録がなく、まったく別の国に数時間の誤差で居るのだから。時たま、飛行機を使って入国している事で捜査をかく乱している。
「どちらにしろ、道を踏み外した若者を正道に戻すのは大人のやる事だ」
「そうね。頑張らないとね」
ましてや、彼女は俺達が出してしまった犠牲者だ。どうにかしなくてはいけない。このままでは不味い事になるかも知れない。彼女を更生させる鍵は小日向君だろう。彼女には協力を要請しなくてはいけないだろう。
「というか、あの娘、本当に出たらめよね! シンフォギアシステムを再現しているのよ! 盗作よ!」
「それは違うぞ。これを見るんだ」
「何これ?」
「二年前、彼女が負った怪我の手術後の写真だ」
レントゲン写真に映る彼女の心臓付近には無数の破片が今なお存在している。これらは砕けたガングニールの破片だ。
「つまり、砕けた欠片からガングニールを再生させ、シンフォギアとして身に纏ったと」
「可能かどうかは知らないがな」
「おそらく、可能でしょうね。この子のフォニックゲインを考えれば……」
「そうか。どちらにしろ、今は様子見とデュランダルの警備を増やそう」
「奪われちゃうかも知れないから、当然ね」
ネフシュタンの鎧を強奪した連中に彼女の持つ完全聖遺物が知られれば、またあの時のような事になるかも知れない。しかし、あの時の事件は……待て。なんだ、この違和感は……都合よくセーフティーが限界を超えて起動してしまった完全聖遺物を、侵入者がそのまま奪取していった。しかし、それはあまりにも相手側に都合が良すぎるだろう。極秘実験の情報を得てセーフティーに細工できる存在……改めて調べ直す必要がありそうだな。
「弦十郎君、どうしたの?」
「いや、なんでもない。それよりも、これからの事だ」
「そうね。なんとかしてメディカルチェックを受けさせられないかしら……」
「厳しいだろうが、誠心誠意対応していこう」
取り敢えず、不眠不休で働いてくれた諜報部には休みを出さないとならないだろう。その後、改めて精査するとしよう。
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3話
早朝、四時。目が覚めて隣を見ると未来が私を抱き枕にして、一緒に眠っている。私の腕はベッドに手錠で繋がれている。未来はヤンデルと思うのだけど、間違ってないよね? まあ、この程度で私をどうにか出来ると思っているのなら、間違いだけど。
「ほいっと」
力を使って、瞬時に移動してベッドから離れる。未来には変わりに枕をプレゼントしておく。
「さてと」
着替えを取り出してシャツを着て、パーカーとスカートを着る。それから、階段を降りて外に出る。未来の家は一軒家なので、庭がある。そこで準備運動をして、日課になっている早朝訓練を行う。
「っと、その前に細工をしておかないとね」
指に傷をつけて出した血で、家の塀に文字を描いていく。家の周りに仕掛けを施したら、これで完成。後は修行だ。あっ、でもその前に連絡をいれよう。携帯を取り出して知り合いに連絡する。
「やっふぉー、元気~」
『何の用だ、魔法使い』
「姿からしたら、そっちが魔法使いっぽいけど。えっとね、ペンダント三つ欲しいなって。ついでに日本に送って」
『俺は便利屋ではないのだが……』
「いいじゃん。私と目的は一緒でしょ」
『ちっ、いいだろう。それよりも、例の聖遺物が見つかったら寄越せよ』
「もっちろんだよ」
『今、送った。そちらの都合の良い時にまた来い。強化してもらいたい物があるからな』
「了解だよ」
通話を終えると、目の前にペンダントが三つ、出現した。それに仕掛けを施しておく。
「よし、修行だ。しっかりと強くならないと」
世界を破壊する拳にするためには憎悪の正拳突きかな。アニメって凄いよね。本当に修行になるし。まあ、感謝ではなくて憎悪だけど。ちなみに明鏡止水は私には無理だけどね。でも、東方不敗は覚えたいな。来いっ、ガンダァァムってやってみたい! そうか。作って貰えばいいんだ。メールで送ってみよ。すると直ぐに返信が来た。馬鹿か、貴様って言われちゃったよ。酷いよね。
「ん? 設計図を寄越せ? 作ってくれる気、あるんだ。よ~し、渡しちゃうぞ!」
ネットで調べたのを送っておく。この時、私はこの事を後悔する事になるなんて、思わなかった……まる
「ひびきぃいいいいぃぃぃぃっ!!」
修行をしていると、叫び声が聞こえてきた。早朝から迷惑だなぁと思っていると、玄関の扉が思いっきり開いて未来が飛び出してきた。
「あっ、居た……良かった。良かったよぉ……」
直ぐに抱き着いてくる未来。
「居なくなったかと思ったじゃない!」
「ちょっと朝練してただけだよ?」
しかし、心配をかけたのは事実だから、ここはプレゼント作戦でいこうと思う。
「はい、未来」
「これはペンダント?」
「うん。お守りだよ。だから、基本的に肌身離さずに持っておいてね」
「わかった」
「未来は学校に行かなきゃいけないんだよね」
「うん。本当は寮なんだけど、響が見つかったって聞いたから……」
「それじゃあ、早く戻らないとね」
「でも……というか、響も学校に行かないと駄目じゃない」
「どっか編入試験でも受けようかな」
「じゃあ、私が行っているリディアン音楽院高等科はどうかな?」
「音楽院か~。確かにそれなりには歌えるけど……」
「歌えるの?」
「うん。リズムに乗って戦うと調子はいいからね」
「戦うって……ううん、聞かせて」
「いいよ。“Feuer! Schießen! Feuer! Los!”
“Achtung! Deckung! Vorrücken! Halt!”」
Los! Los! Los!という曲を歌っていく。これが一番好きだ。
「ひっ、響? 上手いけど、上手いけど! それに目が怖いよ!」
「戦場で歌う奴だからね」
今でも思い出すね。彼等と戦った時は死にかけたよ。頑張って戦って仲良くなってこの歌を教えて貰ったけど。
「まあ、ダメ元で受けてみるよ。私って中学から出てないからね」
「うん……頑張ってね」
「英語とかはペラペラなんだし、ちょっと頑張ればどうとでもなりそうだけどね。っと、そうだ。おばさんたちに渡す物を渡したら、学校まで送ってくよ。ちょっと見てみたいし」
「うん。一緒に行きたい」
その後、食事をしてペンダントを渡してから未来と一緒にリディアン音楽院に到着したのだけど……へぇ、地下か。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ。
じゃあ、私はこれで帰るね。街の探検とかもしたいし」
「うん。ちゃんと電話に出てね。あ、おすすめの店もあるよ」
「任せて~。じゃあね~」
さて、未来と別れて裏路地に入る。フードを被ってから、街を探索する。お好み焼き屋に入って食事を取ってから外に出る。ゲームセンターに入ったりして、色々と遊んでいると気付けば夜になっていた。
『響、今何処にいるの? お母さんがまだ帰ってきてないって……』
「うん。今帰ってる所だよ……」
夜の公園を電話しながら進んでいく。すると、目の前にコスプレ少女が現れた。この街は変態が多いのかな?
「お前が立花響だな。ちょっとツラ貸せや」
「やだ。帰ってる所だし」
「そういうなよ。強制だ」
「じゃあ、その聖遺物くれたら考えてあげる」
「コイツが欲しけりゃ、力づくで奪うんだ」
「わかった。そうするね」
瞬時に運動能力を強化して相手の後ろに移動して蹴りを放つ。吹き飛んで電灯を圧し折る。
「てめぇ……」
「どうしたの? お望み通り、殺して奪ってあげる」
『響っ! どうしたの響!』
「未来、ごめん。ちょっと遅くなるって言っておいて」
『ちょっとっ!?』
携帯を切ってポケットに仕舞う。
「おらぁっ!」
変な鎧を着たコスプレ少女が鞭みたいなのを放ってくるので、掴んで引っ張り寄せて顔を思いっ切り殴る。
「ふべっ!?」
吹き飛んだのをまた戻して、殴る。気分はサンドバックかな? 手は少し痛いけど、まあ問題ないね。
「てめっ、やめっ! がぁっ!?」
「えっと、そうだ。これをやってみよう。私のこの手が真っ赤に燃える。お前を倒せと轟叫ぶ!」
「え? ちょっ、なんで燃えてるんだ!」
ちょっとした魔法で燃やしているだけで、簡単なトリックだよ。そんな事をしていると、空から大きな剣が降ってきた。なので、このコスプレ少女を盾にして防ぐ。
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4話
鎧のコスプレ少女を剣のコスプレ少女に投げつけて防ぐ。流石は鎧の完全聖遺物だけあって、頑丈だね。取り敢えず、離れて仕切り直しかな。
「その鎧は二年前に盗まれた物だ。二人共、話を聞かせて貰うぞ」
剣をこちらに向けてくる。
「はっ、断る! てめぇなんてお呼びじゃねえんだよ!」
鎧は鞭を放って妨害する。
「そちらの都合など知らぬ。私はただ、取り戻すだけだ!」
まあ、そうだよね。私、もういいみたいだから帰ろうかな? 二人で楽しそうにじゃれ合いだしたし。うん、帰ろう。
「逃がすと思ってんのか!」
「余所見をするとは余裕だな」
「ちっ、てめえの相手はこいつらだ!」
鎧が杖を振るうと、ノイズが沢山出て来た。
「ノイズを操るか! しかし、この程度で剣を止められると思うなっ!」
大量の剣を空から降らせてノイズを殲滅していく。これ、やっぱ帰れないよね~というか、聖遺物を手に入れるチャンスだし……真面目に不真面目に戦おうか。取り敢えず、木の枝を圧し折って回収。要らない枝は取って、後はペタペタ、ぺったんと……よし、これで完成。
「――――束ねるは星の息吹」
「あ?」
「なんだ?」
私の持つ剣に光が集中していく。私は携帯を片手で操作しながら、詠唱を読む。
「卑王鉄槌、極光は反転する。光を呑め。約束された勝利の剣、エクス、カリバァァァァァッ‼‼」
剣に集めて反転させた光をビームとして叩き込む。着弾点に居た二人は爆発に巻き込まれ、黒い光の柱に飲まれていく。残ったのはクレーターと倒れている二人だけ。私の剣は負荷に耐えられずに消滅した。
「くっ、エクスカリバーだと……」
「ふざけんなぁぁぁぁぁっ!」
「おおっ、流石は完全聖遺物。立つなんて響さん、驚いちゃったよ」
鎧がボロボロに崩れさせながらもしっかりと立っている。うん、本当に凄い。
「てめぇっ、ガングニールの奏者だろうが! エクスカリバーとかざけんなぁぁぁぁぁっ!」
「えー私は聖遺物を沢山持ってるだけの女の子だよ。ふざけてないし」
唇に指をあてて言ってあげると、無茶苦茶怒り出してノイズをいっぱい呼び出してきた。これは流石に不味い。こっちも
「仕方ない。歌ってあげよう……Balwisyall Nescell Gungnir Sleipnir」
姿は靴とガントレット、グリーブが出来たぐらいで他はそのまま。腕に黒い槍が出現した。歌うのは聖遺物の槍だから、これだね!
「Dieser Mann wohnte in den Gruften, und niemand konnte ihm keine mehr,nicht sogar mit einer Kette,binden.(その男は墓に住み あらゆる者も あらゆる鎖も あらゆる総てを持ってしても繋ぎ止めることが出来ない)」
聖約・運命の神槍(ロンギヌスランゼ・テスタメント)の奴だけど、気にしない。神槍には変わりない。ガングニールに魔術を使用し、力を増幅させて振るう。斬撃が飛び、纏めてノイズを切り飛ばす。
「ちっ、化け物がっ!」
「失礼な。私はただの女の子だよ!」
「んな訳あるかぁぁぁぁっ!」
ガングニールに力を溜めつつ、高速で移動して相手の背後に回る。そこで上段から必中と勝利、破壊の魔術を使って槍を放つ。
「穿つは死の槍ってね」
「ちぃっ!」
鞭を盾にして防ぐけれど、あっさりと破壊されて心臓目指して突き進む。今度は腕をクロスさせて防ごうとするけど、無駄なんだよね。
「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl」
「え?」
「ナイスっ!?」
「さっきのお返しだ。しっかりと味わえ」
横合から強烈なエネルギー破を喰らって、ガングニールが飛ばされてしまう。本番はこの後みたいだから、これは転移しないと不味い。そう思った瞬間。しかし、私の手足は鞭で縛られる。しかも、今度は私が盾にされた。
「おっと、逃がすかよ。こいつもくらっておけ、利息をつけたお返しだ。アーマーパージっ!」
「うわっ、それは遠慮したいなぁ~なんて」
「遠慮はいらねえよ!」
弾けんとんだ鎧がが散弾となって私に襲い掛かる。しかも、背後からエネルギー破の本番。転移はした所でダメージは喰らうけど、そっちの方はまだまし。
「ちょっ、なんで転移できないの! 身体も動かないし!」
「逃がすと思ったのか」
私達の影に剣が突き刺さっていた。いや、正確には私のだけだ。重なっていた影は鎧のは外れている。こうなったら喰らうしかない。仕方ないから、再生の魔術だけして後は運を天に任せる。いや、どうせならもっと賭けちゃおう。ガングニールを解除して破片を
「ごふっ」
血塗れになりながらも、私はなんとか生きている。鎧はいつの間にか消えている。再生の魔術が早速、効果を発するけれど……その前に発動する物がある。
「あっ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァッ‼‼‼」
雄叫びを上げて、全身が黒く染まっていく。これぞ私の切り札。さあ、今度はどんな被害をもたらすかな? 前はとある施設を半壊させてとっても怒られたんだよね。まあ、そこから仲良くなったんだけど。
了子
戦闘が行われている公園に弦十郎君と一緒に来た訳だけど、立花響が暴走し、翼ちゃんに襲い掛かる前に弦十郎君が割って入った。壮絶な殴り合いを行う二人。そして、直ぐに制圧してしまった。どう考えても弦十郎君がおかしい。この人、本当に人間?
「大丈夫なの?」
「獣の扱いは容易いものだ。暴走する前の方が彼女の場合は特にやっかいだ」
「そうなの?」
「出力は上かも知れんが、そこに技術が無い。ならば相手の力を利用すればいいだけだ」
「そう……」
「そっちはどうだ?」
「翼ちゃんの応急処置は終わり。そっちは?」
「既に傷が治りだしているようだ」
「そう……どれ、今の間に調べようかしら」
立花響に近付き、触れようと手を伸ばすと弾かれた。立花響の周りには結界が展開されている。小癪な。
「どうした?」
「弾かれたのだけど、弦十郎君はどうもないの?」
「ああ、そうみたいだ。原因はわかるか?」
「おそらく、これはルーンによる結界ね」
「ルーンだと?」
「ええ。恐らく、彼女が使っているルーン魔術ね。さっきのエクスカリバーだって、アレは勝利と破壊のルーンを多重展開していただけで、聖遺物ではないわ」
「なんだ、そうなのか……って、ちょっと待て。威力は間違いなく聖遺物の物だったぞ」
「そりゃそうよ。おそらく、彼女が使っているのは現代に伝わっているルーン魔術ではなく、オーディンが開発した神代の術よ」
本当に懐かしくもムカつく術を使ってくれるわね。
「ガングニールにスレイプニル。それにルーン魔術か。彼女はまるでオーディンだな」
「この子の片方の瞳も聖遺物の反応があるから、おそらく……」
「現代に蘇ったオーディンか。笑えんな」
「普通は有り得ないわよ……あくまでも聖遺物ってだけなんだから……待って。ねえ、この子って心臓にガングニールの破片を持っているのよね?」
「ああ、そのはずだ」
「なら、それらと融合していたら?」
「おい」
「彼女はペンダントなんて持っていないわ。だったら、可能性はそれしかないわ」
「どちらにしろ、本部まで運ぶぞ。救急車も来た」
「ええ」
どうにかして、手に入れないといけないわね。この子なら、デュランダルの起動も問題なく出来るはず。オーディンと同じになりかけているのなら、フォニックゲインの異常な量も納得できるのだから。
エクスカリバーなんて持ってる訳ありません。基本的に響が使うのはオーディン系列です。
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5話
「おお、響よ、死んでしまうとは情けない」
「いや、死んでないよ」
おじいちゃんにそう言いながら、私は泉から水を飲みながら浮き上がる。うん、相変わらず美味しい。
「おお、響よ、暴走してしまうとは情けない」
「はいはい、それはあってますよっと」
水面に立って歩いていく。私の足元にある泉。前を向けば視界に入り込んでくるのは巨大な大樹。その幹の上に白髪の老人が立っている。老人の片方の瞳は無く、眼帯がされている。残った彼の瞳が虹色に光。同時に私の片方の瞳も光る。
「でも、死んではいないしだいじょ~ぶ」
「あの程度で死なれてはたまらんわい。というか、さり気なく水を飲むでない。代価が必要だぞ」
「あ~じゃあ、肝臓で」
私がそう言った瞬間。口から血を吐いた。直に再生されて事なきを得たけれど、やっぱり痛いな~。もう、何回目だろうか。
「儂は片目だけじゃったが、お主は限度を知らんな」
「私の身体は既に大半が聖遺物だからね」
そう、ここは
「でも、これで欲しい知識は手に入れたから、もうやらないよ。多分」
「破滅願望を感じるのう」
「失礼な。これは未来への投資だよ。そう、私達が歩む未来の為のね……」
「そうか」
「それより、おじいちゃん。槍の使い方を教えてよ。めそめそ泣いて鬱陶しいんだよね」
「使ってやらんからじゃな。よかろう。儂自らが訓練してやる。お主は儂の瞳を持つから特別じゃ」
「やったね」
流石は神様だけあって、無茶苦茶強い。素手ならなんとか戦えるけれど、槍じゃ無理。やっぱり槍は邪魔かな。あっ、また泣いた。というか、槍の知識を貰おう、そうしよう。代償、何がいいかな~?
瞳を開けると天井が見えた。ミーミルの泉から精神が戻ったようだね。酸素マスクが鬱陶しいから外す。ここはアレだよね。
「知らない天井だ……未来の家でもないし、何処だろ?」
身体を起こそうとすると縛られているのがわかる。顔をそちらに向けると、固定された腕には点滴の針とチューブが取り付けられている。取り敢えず、腕を上げて固定されているベルトとベッドごと破壊する。次に酸素マスクを取る。もう片方も破壊して自由になる。それにしても、着替えさせられているって事は、うら若き乙女の柔肌を見られたって事だよね。
「よっと」
足も固定されていたので、そちらは両手で引きはがしてベッドから出る。身体を動かして、問題ないかを確認する。結局、肺は完全になくなった。二個とも。でも、槍の知識が入ったのでよしとしよう。本当に欲しかった知識は貰っている。これで
「ん~どこかわからないけど、帰ろっか」
病院の服みたいなのを脱いで、近くにあった私の服を着る。あ、次は胸の脂肪を捧げたらいいんだ。女の子にとっては大切だし、多分代償になるだろう。うん。やった、後二個のストックが出来たよ。女の子として終わってる気もするけど。取り敢えず、下は着替えた。次は上かな。
「立花くん……」
「あっ」
服を着ようとした瞬間。扉が開いておじさん達が入ってきた。赤いおじさんとうさんくさいおばさん。それにスーツの男の人。
「「「……」」」
「男どもは出た方がいいんじゃない~?」
「別に気にしないよ」
さっさと服を着て、身体を動かしてみる。なんの問題も無い。むしろ、前より調子がいい。身体の中を意識してみると、複数の聖遺物が私の中に取り込まれて臓器の代わりとなっているのがわかる。各部調整は問題なし。エネルギーの伝達に若干の遅れがみられるけど許容範囲だし。
「すまんかった。さて、君が居る場所だが……」
「リディアン音楽院でしょ」
「わかるのか」
「視たから」
「その眼、やっぱり特別製のようね」
「これも聖遺物だから」
「そうなのか……」
何故かおじさんが悲痛な表情をする。
「それで、何の用ですか? 用がないなら帰りますけど」
「うむ。立花響君。君にお願いがある」
「嫌です」
「話だけでも聞いてくれ」
「まあ、話だけなら」
「君にノイズを倒して貰いたい。こちらに居る奏者は先の戦いで絶唱を歌い、戦える状況にない」
あの人、歌い終わったらボロボロだったし、仕方ないよね。彼等はノイズに対抗する手段を無くした訳だ。
「つまり、貴女を雇いたいという事です」
「高いですよ」
「出来る限り、支払おう」
「じゃあ、お願いを一つ。なんでも聞いてくれればいいですよ」
「わかった」
「よろしいのですか?」
「背に腹は代えられん」
「あ、やっぱりもうちょっとお願いがありました」
「なんだ?」
「携帯とここに入学させてください。携帯は壊れたので」
「それはありがたいが、いいのか?」
「ええ。未来が一緒に通いたいって言ってたから。まあ、別に試験を受けてもどうとでもなりそうですけど」
「わかった。手配しよう」
「じゃあ、メディカルチェックを……」
「お断りします。自分でできますから。こう見えても私も聖遺物の専門家ですから」
私自身が聖遺物だしね。それにかかりつけ医の専門家もいる。あっちは錬金術師だけどね。
「そう……それじゃあ、何かったらお願いするわ」
「差し当たって、こちらから頼むのはとある物を運ぶ護衛だ。近いうちに依頼する。この携帯を持っていくといい」
「了解です。では、失礼します」
携帯を貰って、私は転移する。適当に転移してから欧州のある場所へと転移した。
「やっほー遊びに来たよー」
「遊びに来たなら帰れ」
同じ顔をした子達が沢山働いている場所。
「というか、貴様。また、やったな」
「あれ、わかる?」
「当たり前だ。そのままだと貴様は……」
「ん~約束した日まで持てばいいんだよ。それに対策はしてあるよ」
「そうか。ならば好きにしろ。なんだったら、新しい身体を用意しておいてやる。貴様に死なれても困るからな」
「きーちゃんのツンデレ~」
「殺す」
放たれた風の刃を避けて、さっと近付いて撫でてあげるとまた攻撃してくる。
「さてさて、おねーさんはお仕事をしてくるとしましょうか」
「俺の方が年上だがな!」
「身体は4,5歳でしょう」
「精神年齢は数百歳以上だ」
「じゃあ、おばあちゃんだ」
「死にたいのか、貴様は……」
「はっ、やれるものならやってみなよ」
互いに膨大な力を集結させ、戦闘態勢になる。でも、直ぐに霧散させる。
「二人共、やめてください! せっかくここまで作った物を壊す気ですか!」
「ちっ。後は任せる。魔法使い。さっさとやる事をやって出ていけ」
「はいよ~錬金術師のきーちゃん」
「……」
「だ・か・ら! やめてください!!」
「はーい。えーちゃんは可愛いね。お姉ちゃんが撫でてあげよう」
「は・た・ら・け!」
「やれやれ。じゃ、頑張りましょうか」
さて、頑張って仕事をしよう。終わったら未来の所にいかないと。お土産に何か持って帰ろっか。宝石とか。
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6話
「皆さんこんばんは。私、立花響は現在戦場リポーターとして走行中の車に乗っております!」
車が左に避けるとマンホールが破裂して、中から大量の水が出てくる。
「見てください。ノイズの襲撃です! はたしてノイズの狙いはなんなのか! お送りは私、立花響と腹黒いで評判の了子さんでお送り致します!」
「腹黒くないから!」
運転席で車を走らせて、ノイズの攻撃から避ける避ける。いやー楽しいカーチェイスだね。ドライブテクニックも凄い。前後左右を自由自在に動いてるよ。
「というか、随分と余裕ね」
「だって、殺る気がないようですし。それにぶっちゃけ、車より私が走った方が速いですし」
「まじで?」
「私の速度は亜光速です!」
「化け物じゃない」
実際はもっと速いよ? というか、転移できちゃうし。
「しっかし、デュランダルを輸送中にピンポイントで狙ってくるとか、酷い漏洩具合ですよね。大丈夫か、二課」
「本当にそうよね」
「まったくですよ」
私が大事に抱え持っているケース。ここに完全聖遺物であるデュランダルが入っている。デュランダルといえば竜殺しの魔剣だよ。とっても美味しそう。食べちゃいたい。でも、食べたら怒られるよね。だったら、ちょっと細工しておこう。バレなきゃ犯罪じゃない。という訳で、響さんはこそこそとデュランダルを手に入れる算段を行うよ。
『二人共、予定を変更だ。薬品工場の方へ行ってくれ』
「ちょっとっ、正気?」
『敵にバレていたんだ。だったら、予想外の所に行って相手の出方を封じる。響君、頼む』
「了解だよ!」
「ちょっとっ!?」
急速走行中の車からドアを開けて飛び出す。地面に着地する瞬間に完全聖遺物であるスレイプニルを起動して着地する。すると、直ぐに地面から巨大ノイズが出現して私を捕らえようとしてくる。
「邪魔だよ」
足を地面に叩きつけて、広範囲を陥没させてノイズを殲滅する。我が身はそのほぼ全てが聖遺物の兵器だ。故にノイズなどおそるるに足らず。ついでに踏み砕いた衝撃と砂塵を利用して一気に加速して、空からも誰からも見えない場所に隠れる。こっそりとやる事をやってから、薬品工場へと向かった。
『響君、無事か!』
「ちゃんと到着したよ、隊長~」
『うむ。こちらでも確認できた。しかし、姿が一瞬見えなかったが?』
「それはそっちが追い付いてなかっただけだよ」
『ケースが開けられた反応が一瞬だけあったのだが……』
「ごめんなさい、ちょっと落としちゃった。中身は無事だよ。ほら」
ケースを開けて、中を見せてあげる。
『確かにそのようだ……響君っ!?』
「ん?」
隊長の声が聞こえた瞬間、私の腕をネフシュタンの鎧の鎖が巻き付いた。ケースには別の物が巻き付いている。
「貰ったぞ!」
「うん、凄いね。でも、甘い」
片手を回して、鎖を掴んで逆に引っ張って地面に何度も何度もぶつけてあげる。
「私の怪力、舐めたら駄目だよ? なんてったって怪獣少女響ちゃんだからね! がおぉー!」
「ふざけんな! ぐはっ!?」
地面に思いっきり叩き付け、陥没させた女の子の頭をスレイプニルで踏みつけて固定する。ついでに封印のルーンも使ってシンフォギアやネフシュタンの鎧の効果を短時間だけ封じる。そんな事をしながら戦いの余波で空を飛んでいたケースを見上げると、蓋が空いていた。
「わっと」
中から零れ落ちたデュランダルを掴むと、身体中の血液が沸騰したかのように熱くなって、ドクンッと心臓が動き出して私の身体から膨大なフォニックゲインが発生する。デュランダルはフォニックゲインを吸収して錆びを弾き飛ばして綺麗なその身を曝した。膨大な力の奔流は空へと柱を作り出し、私の心の中へと侵蝕してくる。デュランダルは私を乗っ取ろうとしてきている。
「五月蠅いっ、駄剣が! 私に従えっ!」
叫びながら、全ての力を出し切って制圧にかかる。でも、おかしな事に私であって私でない別の誰かの記憶が流れ込んで来る。ミーミルの泉を飲み過ぎていろんな世界と繋がったからかも知れない。その少女も不幸を背負って生きて、最後には若くして皆に見送られつつ息を引き取った。これが良い人生? ふざけるな! なんで別の私も不幸にばかりならなきゃならなくちゃいけないんだ! 私は疫病神に憑かれているのか! もしくは私自身が疫病神だとでも言いたいのか!
「……絶対に……やる……」
「おっ、おいっ!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
雄叫びをあげながら、力を解放すると勝手にシンフォギアを身に纏っていた。問題は別の形に変化していた。黒いブレストアーマーに肩を露出させた黒いハイレグのアンダーウェアと紺色のアームカバー。下は切れ目が入ったスカート。赤い布のような物で止めている。更には髪が長くなっている。ヘアバンドは前からあるので気にしない。その姿は私に流れ込んで来た別の私の姿に似ている。確かにあの子は剣士だったけれど。でも、響さん的には露出が多いと思うんだよね。肩とか、足とか、脇とか、水着よりはましだけど似たようなものだよね。
「ふう。さて、それじゃあ……試してみようか」
「おい、馬鹿やめろ!」
頭を足で押さえつけている女の子にニヤリと笑いながら、覚醒したデュランダルを切先を下にして降ろす。
「ばいばい。機会があればまた来世で」
『待つんだ! 彼女は確保してくれ!』
耳に取り付けたインカムから、隊長の声が首を切断しようとする前に聞こえたので止める。切先が少し食い込んだけど、まあ、いいよね。
「捕虜にしろって。良かったね」
「ふっ、ふざけんな! 捕虜にされるぐらいなら殺せ!」
あれ、これってもしかして、あれに素晴らしいシチュエーション?
「い・や・だ。そんな屈辱に塗れた顔をされると、響さんは拒否したくなっちゃった。これから頭や身体を弄られて、いっぱい凌辱されて犯されるといいよ」
「くそっ、殺せっ、ころせぇぇぇぇぇっ!!」
『いや、そんな事はしないから』
「てへ」
くっころ頂きました。さぁ、皆さんもご一緒にくっころ、くっころ。あれ、何を言っているんだろ? おかしいな。響さん、ちょっと電波を受信しちゃった。取り敢えず、デュランダルを直そう。
剣を四回くらい振ってから、鞘に戻す。やっぱり、この剣は大きい。それに鞘が無い。そうだ。良い事を思い付いた。デュランダルを持っと細身にして、鞘をガングニールにしよう。そうしたら、ガングニールも拗ねる事はないだろうし。なんか、アーッって声が聞こえてきそうだから、止めてあげよう。でも、デュランダルは大きさを変化できたようなので、御願いしたら二つに分かれて剣と鞘になってくれた。片手剣と槍の二刀流か。なんか、変な感じだね。まるでジャンヌ・ダルクだよ。計画が狂ったけどまあ、いいか。
「さて、それじゃあ待つまで暇だから解体作業でもしようか」
「ひっ!?」
デュランダルは仕舞って、ガングニールの矛先でネフシュタンの鎧を剥ぎ取っていく。二課の皆さんが来た頃には裸に剥かれて鎖で大事な部分を拘束されて泣いている女の子と、ネフシュタンの鎧を着ている私が居た。
「響君……」
「ちゃんと捕まえたし、ネフシュタンの鎧も回収したよ」
「デュランダルは?」
「あれ? アレは貰う事にしたよ。それが協力する報酬だね。お願いを聞いてくれるって約束したしね」
「それは……」
「それにもう、私以外には使えなくしちゃったから無駄だよ。それとも、約束を守らない?」
「いや、いいだろう。代わりにネフシュタンの鎧は渡してくれ」
「いいよ。ついでにこれもあげる」
「シンフォギアだと……」
了子さんの方を見ると、何か物凄く睨んできたのでブイサインをしておく。響ちゃんは煽っていくスタイルなのだ、えっへん。
さて、無事に一仕事を終えて予定外にデュランダルを手に入れた私は制服を着てリディアン音楽院に来ている。というのも転入が簡単に終わったからだ。まあ、二課や政府からしたら完全聖遺物を複数持つ私の監視の意味もあるのだろう。
「それでは立花響さん、挨拶をお願いね」
「立花響です。二年前までは日本で住んでいましたが、今まで海外を転々としていました。後は何が要りました?」
「好きな事と嫌いな事ね」
「好きな事は修行と遺跡探索。あと、修行の成果を感じる戦い。嫌いな事は人とノイズです」
私の言葉に皆が騒然とする。でも、気にしない。
「そ、それでは質問は?」
「はい。海外ではどこに居たんですか?」
「色々と。基本的には戦場や古代遺跡が有る場所を転々としていましたので、85ヵ国ぐらいかな」
「せ、戦場?」
「そう、戦場。銃弾と硝煙と血の臭いが蔓延る場所です」
騒然とする中、私は空いている席に座ってさっさと教科書を読んでいく。音楽院なだけあって音楽史や演奏の技術など、沢山ある。私には足りない技術ばかり。歌が力になるなんて知らなかったから、勉強はしていない。でも、シンフォギアの力を引き出すには必要な事だろう。前は勉強が嫌いだったけれど、今の私はオーディンの瞳と融合しているせいか、知識の吸収効率が非常にいい。だから、読むだけで理解できる。
「響?」
「どうしたの、未来」
「その、戦場って……」
「実際、行ってたよ。修行した力を試すのに丁度いいし、紛争地帯に目的の遺跡があった場合もあったし。むしろ、ゲリラが根城にしてた所もあったよ。まあ、襲い掛かってきたから爆弾とか狙撃とか、その他諸々で始末してあげたけど」
「大丈夫だったの?」
「平気平気。まあ、何度か死にかけたけどね」
「それ、平気じゃないから……」
そう、私は死にかけた事が何度もある。でも、大けがをしたはずが気付いたら生き残って立っていたりする事も多い。シンフォギアの暴走機能のお蔭でね。
「それよりも後で学校を案内してよ」
「うん、わかった」
それから、学校を案内して貰った。私にとっては未来だけは大事な親友だ。他の二人はなんていうか、友達だし。
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7話
授業も終わり、帰宅時間へとなった。私は教科書を鞄に戻して未来と一緒に帰ることする。未来もそのつもりなのか、急いで準備をしてこちらにやってきていた。忘れ物がないか心配するぐらい急いでいる。私が何処かに行ってしまうかとでも思っているのかな?
「響、帰ろ。この辺りを案内するよ」
「うん。お願い。大分変っているみたいだから」
「ノイズに壊されたりしたからね……」
「そうなんだ……」
未来と一緒に帰宅する。リディアン音楽院を回って、更に街を回るともう夕方を過ぎて夜になりだした。普通なら女の子二人は危ない時間になってくるのだろうけど、私がいるし問題ないけどね。きーちゃんに言ったら相手の心配をするなって言われるくらいだし。
「響、晩御飯はお好み焼きでいい?」
「うん、いいよー」
「じゃあ、こっちね」
「もしかして、おばちゃんのところ?」
「そうだよ。おばちゃんのお好み焼きが一番だからね」
「久しぶりに食べるから楽しみだね~」
「前より更に美味しくなってるよ」
「それは期待大だね」
未来の案内でお好み焼きふらわーの店へと移動した。
「いらっしゃい。あら、響ちゃんじゃない。無事だったのね。行方不明って聞い心配していたのよ」
中に入るとおばちゃんが優しく迎え入れてくれた。席に着きながら、取り敢えず、全種類注文していく。
「響、そんなに食べられるの?」
「うん、食べられるよ~食べられる時に食べるのが基本だったし、食い溜めは大事なんだよ」
「そうなんだ……」
たわいない会話をしながら、待っているとおばちゃんがお好み焼きを作って渡してくれる。
「これは私の奢りだよ。味わってお食べ」
「ありがとう。いただきます」
一口食べると外はかりっとして中は柔らかくシャキシャキしている。キャベツととろろの角切りかな。とっても美味しい。
「しかし、本当に無事でよかったわね。未来ちゃんも心配していたんだよね」
「そうですよ。二年間も連絡一つも寄越さないで……」
戻る気もなかったしね。でも、そうもいってられなくなったんだけどね。
「でも、このお好み焼きはとっても美味しい。それに優しいおばちゃんは大好きだよ」
「それはありがとうね。おばちゃんはお好み焼きを焼いて美味しそうに食べてもらえることが幸せだよ。はい、未来ちゃん」
「ありがとう。響、ちょっとそっちのも頂戴。こっちのもあげるから。はい、あ~ん」
「あ~ん。じゃあ、これはお返しだよ」
「うん」
楽しいひと時が過ぎていく。何時壊れるかも知れない砂上の楼閣の平和が。
了子
「全く、立花響には困ったものね」
このままではクリスから私のことが漏れる。いっそ始末するか。それ以前にネフシュタンの鎧を回収して去りましょうか? でも、カ・ディンギルはデュランダルを奪われたので使えない。現状、立花響から奪い取るには戦力的にきついわね。
そんなことを考えながらリディアン音楽院の教室を歩いていると、目の前から生徒がやってくる。
「先生、忘れ物です」
「あら、ありがとう。職員室に届けておくわ」
「お願いします」
「気を付けて帰りなさいね」
「は~い」
受け取ったペンダントをみると、気になる反応があった。詳しく調べるとペンダントから発せられている力ね。
「この紋様はルーン……しかも古代の本物ね」
ということは、これは立花響が作った物ね。古代のルーン魔術を扱えるのはあの子だけでしょうし。しかし、これは……ちょっと待ちなさい。急いでラボに戻って解析しましょう。
何よこれ、ルーンはまだいいわ。でも、素材のペンダントそのものが自然にできた鉱物じゃないわ。錬金術で作られた物ね。錬金術……? なんでそんな物を彼女が持っているの? これは急いでデータを取り寄せるしかないわね
「了子さん、今日の響さんの記録です」
「ええ、ありがとう」
連絡をすれば緒川君がすぐに渡してくれた。早速確認する。コーヒーを飲みながら、映像を確認するが、なんの問題もない普通の少女。ルーン魔術だけでも異常なのに錬金術まで精通している? いえ、それはないわね。ん、朝方、誰かに電話している? 通信記録をハッキングして……欧州?
「待ちなさい。待ちなさいよ。確か、欧州で世界を分解しようとする動きがあったわね。まさか、まさか……」
急いで立花響の来歴を調べる。すると欧州を中心に活動しているのがわかった。それも例の連中と接触している形跡がある。でも、連中の動きはちゃんと掴んでいた。まだしばらくは問題なかったはず。潰すのに時間は数十年単位で十分に……いえ、立花響と協力すれば……まずい。すぐに世界中のレイラインを調べる。するとある一ヶ所に力が集中しているのがわかった。
このエネルギーの量は巨大な建造物。調べれば調べるほど私が掴んでいた情報がダミーだと思い知らされた。数十年、数百年におよぶ連中の本当の計画が明らかになってくる。
やばいやばい! ふざけるんじゃないわよ、コイツら!
こんな計画、認められるもんですか! 世界を分解するなんて私が望んでいるものじゃない! バラルの呪詛を解くどころか! あの方との思い出があるこの世界が消滅してしまう! 私はあくまでもこの世界でいきたいのだ。それを連中は全てをなかった事にして、作り直そうとしている。それこそ神の御業。また塔を作った時のような事が起こるかも知れない。
しかし、それには必要な呪われた旋律を手に入れなければ……確か、立花響が運ばれた時、彼女の意識は何処かにいっていた。戻ると同時に彼女の身体に変化が起きている。まるで代償を支払ったかのように臓器がなくなって、聖遺物が修復していた。彼女はもしかして……いや、そんなはずは……いえ、あるじゃない。彼女はガングニールとスレイプニルの使い手、オーディン。なら、ミーミルの泉から知識を引き出しても不思議じゃない。ましてや代償を支払っている!
「しかし、油断はできないわね。もうこうなったら……」
「了子君、失礼する」
「弦十郎君」
「すまないな。拘束させてもらう。理由はわかるな?」
彼の後ろから、クリスが顔を覗かせていた。
「そう。バレたのね。まあ、いいわ。むしろ、こちらから話しに行こうと思ったのだし」
「どういうことだよ!」
「了子君。では……」
「世界は何時だって待ってくれないのよ。私は私なりに世界を救い救済するつもりだった。でも、立花響はどうかわからないけれど、彼女と協力関係にあるかもしれない連中は世界そのものを消すつもりよ」
「なんだよそれは!」
「了子君、詳しく話してくれ」
「いいわ。でも、それは別の所に連絡を取ってからよ。現状、私達が用意できる戦力では連中の戦力に足りないわ。別の奏者を呼ぶわ」
「別の奏者が居るのか?」
「ええ。アメリカにね」
「やはりアメリカとも内通していたのか。しかし、それほどに危険なことをしようとしているのは事実なんだな」
「そうよ。だからこそ、協力すべきね」
「わかった。若者が道を間違えようとするなら、正すのは大人の役目だからな」
世界は加速する。聖遺物と融合した立花響を中心に。
「しかし、響君に事情を聞くしかないな」
「そうね。これはあくまでも私の推測にすぎない。でも、錬金術師が世界を再構築しようとしているのは本当よ。これを見て」
私は皆に説明している。そんな時、警報が鳴り響いた。
『火災発生! 被害は右側に移動中。ノイズに似た反応を確認しています! 至急、奏者に出動要請を!』
「わかった。響君に出動要請をだせ」
「クリスもいきなさい」
「わかった。それが平和に繋がるなら……やってやるよ」
「それじゃあ、そっちは頼むわ。私は連絡をいれるから。危なくなったら私もネフシュタンの鎧で出るから、連絡してちょうだい」
「了解した」
さて、F.I.S.にはガングニールとシュルシュガナ、イガリマの三人。この三人にクリスと翼ちゃん。そして、私と弦十郎君、緒川君。これだけでもまだ足りないかも知れないわね。そうなるともう一人くらいは奏者が欲しくなるわ……そうね。とっておきがいるじゃない。立花響に対するカウンター装置とすればいい。この世界を解体なんて、絶対にさせないわ。
「悪者が悪者をしないとか、ダメだぞ」
「っ!? ごふっ!?」
私の腹から鉤爪が生えていた。周りが赤く染まり、腕が引き抜かれる。床に倒れた私が見たものは、赤い髪の自動人形。
「要らない役者は退場ダ。役から外れた邪魔者は排除するんだな」
「ミカ、帰りますよ。欲しい物は手に入れましたから、さっさと逃げるのよ」
置かれていたネフシュタンの鎧とソロモンの杖を持ったゴスロリ風の容姿をした、青を基調とした自動人形。
「了解ダ」
転移していった奴等を見送ってから、空いた穴を手で押さえながら必死にコンソールを操作する。
『はい。こちら、F.I.S.』
「おひさし、ぶりね……」
『あなた、その怪我は……』
「いいから、データを、おく、る……急いで、日本に……彼女、達を……」
叩き付けるように送信ボタンを叩く。最後の力を振り絞った私はそのまま崩れていく。通信先から声が聞こえてくるが、もうほとんど聞こえない。血を流し過ぎている。
「……ふぅ……」
このまま一人でまた死ぬのかと思ったら、扉が開けられ弦十郎君が入ってきた。
「嫌な予感がしたんだ。あまりにも襲撃のタイミングが良すぎると」
「……そ、う……」
抱き上げてくれる弦十郎君の唇を読んで答える。
「……こ、の……世界、たの……よ……」
「ああ、任せろ」
涙を流している弦十郎君の目元を指で擦って倒れる。意識が闇に飲まれ、新たにフィーネとして再誕する。
「やっほー。計画は順調かな?」
「当然だ。邪魔者は始末した」
私、立花響は未来と一緒にお好み焼き屋フラワーから公園にきて、休憩している。今、未来がおトイレにいっているので、私がベンチに座ってジュースを飲んでいる。その背後にある自販機でジュースを飲んでいる金髪の少女。
「そっかー。旋律とバックドアを用意した甲斐があるよ。よくやったね」
「お膳立てがされていたんだ。この程度は容易い。しかし、本当によかったのか?」
「何が?」
「世界を再構築すれば、皆が消える。大切な知り合いも居たのだろう?」
「知り合い? 前の私ならともかく、今の私に大切な知り合いなんていないよ」
公衆トイレの方で未来が手を振っている。私も手を振り返す。
「立花響」
「違うよ。立花響はすでに死んでいるんだから。ここにいるのはただの残滓」
「そうか。予定通りに行う。どうせ私達は過去を取り戻すことを願う者達だ。お前はお前で好きに動くがいい立花響、いや、オーディン」
「うん。じゃあね、キャロル。次は戦場で全力で後悔のないように歌をおう」
肩の上から後ろに向けた缶が缶とぶつかり、軽い音を鳴らす。そのまま後は最後まで飲み乾してからゴミ箱に入れて未来のもとへと向かう。
「お待たせ、響」
「帰ろっか」
「電話、なってるよ? でないの?」
「ちょっとまってね」
「うん」
帰ろうとすると電話が鳴った。しかたないので出る。
『響さん。すぐに現場に向かってください! リディアン音楽院が襲撃を受けています』
「はい、わかりました」
「どうしたの?」
「ちょっといかなきゃ。ごめんね、未来」
「響?」
振り向くとそこにはすでに私はいない。風が吹く音だけが残る。
「帰って、くるよね……?」
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8話
襲撃の情報を聞き、私はリディアン音楽院へとやってきた。そこにはノイズが沢山いる。ううん、溢れていた。見渡す限りノイズだらけで、正直、気持ち悪いレベル。
「来たか、立花」
「翼さん」
「貴様はノイズを排除していろ。地下に人を誘導している。私達の任務は時間稼ぎだ」
「そっか。じゃあ、やろうか」
スレイプニルを起動し、黒いシンフォギアを身に纏う。手に持つのは完全聖遺物であるガングニール、デュランダル。大きな槍と大きな剣の二刀流。実験には丁度いいし。
ノイズの間をスレイプニルで駆け抜けながらガングニールとデュランダルを振るって惨殺する。でも、やっぱり扱いづらい。ガングニールは使い方を引き出しているし問題ないけど、デュランダルはやっぱり使いづらい。ガングニールの方も私に最適化しないとだめか。
とりあえず、デュランダルは使わずに先に槍を使おう。前のオーディンから教えてもらった戦い方を最適化させて私に合わせる。一振り一振り、全身を使って組み替えていく。
私はただ一振りの槍。一条の閃光となって全てを終わらす。瞳に映る最適な行動に従って自らの身体の使い方を調べる。
「うん、やっぱり槍のほうが使い易いね。穿てガングニール」
放つは必中の槍。穂先にあるルーン文字を起動させ、投擲してノイズを一掃する。息を吐きながら周りをみると、クレーターがそこかしこにできている。手を上げるとガングニールが戻ってくる。
『翼っ、翼ぁあああああああああぁぁぁぁぁっ!!』
インカムから司令の声が聞こえる。どうやら、落ちたようだ。瞳の倍率をあげてそちらの方をみると、執事風の容姿をした、緑色を基調とした自動人形にシンフォギアを破壊され、貫かれていた。入口を見れば同じようにクリスがカジノの女性ディーラーのような容姿をした、黄色を基調とした自動人形にシンフォギアを破壊されている。
「まぁ、そうだよね」
ただの破片であるシンフォギアが、彼女達に勝てるはずはないよね。
『貴様のお陰だがな。本来なら、スコアを手に入れるために身をもって集めねばならなかった』
「およ」
声が頭の中に聞こえてくる。力の発信源を感じると、私が付けているペンダントからだ。
『このまま奏者を排除する。別に構わないな?』
「うん、いいよ~」
歩きながらノイズを滅ぼしていく。必死に戦っているアピールをしないと。あれ、それだと私のところにもオートスコアラーが来た方がいいのかな?
「お前の相手はオレだ」
「あはっ♪」
目の前に魔法錬金術少女キャロルちゃんが現れた。属性過多だね。
「さあ、殺し合う」
「いいよ、殺ろうか」
互いに全力で殺し合う。全力で歌い、フォニックゲインを放出しまくる。それは相手も同じ。私達のフォニックゲインはチフォージュ・シャトーへと流れ込む。
「あははは」
「ふははは」
風の刃がビルを切断し、大地の槍がコンクリートを粉砕してでてくる。それらを燃やし尽くし、私を殺そうとしてくる。私は高速で移動しながら相手の心臓を狙う。互いが互いに全力で殺しにかかる。
「ちっ、厄介な槍だ」
「放てば必中だから、ね!」
でも、確実な時しか放てない。分解されたらたまったものじゃないから。こっちも警戒しながら確実に潰さないといけない。
「絶唱してもなんで勝てないかなー」
「ふん。私とお前とではフォニックゲインの差が大きいからだ」
「ちっ、億単位とかチートすぎるよ、キャロルちん」
「はっ、お前がいうな」
交差する一瞬でキャロルの腕を切断する。同時に私の片腕も分解される。シンフォギアのエネルギーを腕の形に実態化させて固定する。相手も同じで再構築してくる。
周りのことなど一切気にしない楽しい楽しい戦いは長くは続かない。無粋な連中が介入してきた。
「「ちっ」」
私達は互いに離れて距離を取る。真ん中にミサイルが突き刺さったのだ。空を見上げるとそこにはミサイルから飛び降りただろう三人の少女。
「あれ、敵だよね。穿て、ガング」
『あれは味方だ!』
「ちっ」
せっかくの楽しい戦いを邪魔してくれた奴等を殺そうとしたら、止められた。でも、止まらない理由は……まだないか。残念。
「ふん。この場はここまでだ。さらばだ」
「いいよ。興が削がれたし。またね~」
しかし、キャロルとの闘いは本当に楽しいけど辛い。身体がボロボロだよ。回復のルーン、ちゃんと使っておこう。
「じゃあ、私は帰りますね」
『救助は手伝ってくれないのかね?』
「……未来が心配なので、この場はお任せします」
『彼女はこちらで保護している。彼女の両親もだ。一旦、こちらに来てくれ』
「わかりました」
残念。リディアン音楽院の地下にある秘密基地に入ると、みんな大慌てだ。内部も襲撃されていたようで、大変だ! あの腹黒さんも身体を貫かれて死んじゃったみたい。
『響君、司令室にきてくれ』
「了解しました」
司令室に入ると、知らない女の子が武装したままで三人居て、司令と話している。
「来たか」
「何の用ですか?」
「君に聞きたいことがある」
「おっと、下手な動きをすると首が離れるデスよ」
「? どういうこと?」
「君は彼女と知り合いなのだろう?」
画面にキャロルの姿が映し出される。会話、聞かれてたか。うん、これはこっちのミスだ。とっても大きな。
「知り合いですよ」
「へぇ、認めるのね」
「欧州で出会って友達になりましたし」
「友達同士で殺し合いをしたの!?」
「そうだけど、それがどうしたの?」
「「っ!?」」
黒髪と緑髪の子が驚いているけど、それぐらい当然じゃないかな。
「今回のことは知っていたのか?」
「知らなかったよ」
襲撃がいつかなんて知らなかったし、嘘じゃない。嘘をつかなければばれにくいんだよね。
「本当のようですね。嘘ではないようです。脈拍と呼吸からもそれがわかります」
「そうか。それなら……」
扉が開いて衝撃が走る。いや、後ろに気配があるのがわかったけれど、ここで動くのはまずい。
「大丈夫?」
後ろを振り向くと良く見知った子がいた。
「あ、あれ、響さん? なっ、なんでここに……」
「久しぶりだね、エルフナインちゃん」
エルフナインちゃんは身体を震わせて、後退る。
「こ、この人が首謀者です!」
あ、これはまずい。非情に不味い。そういえばエルフナインちゃんって、キャロルが考えた最初の計画通りに作られたクローンの子だ。だったら、私達の計画を妨害しても当然だよね。
「確保っ!」
瞬時に身体を傾ける。脇腹が大鎌で抉られ、血が噴き出す。それに驚いた表情をする。まさか、自分から飛び込むとは思っていなかったようだ。だけど、その隙が致命的だよ。
「ごめんなさい!」
「なっ!?」
スレイプニルを起動して転移しようとした直後、エルフナインちゃんに刺された。よく見るとそれはアルカノイズの紋様が刻まれていた。エルフナインちゃんの瞳の先にキャロルの姿をみる。ニヤリと笑う彼女の目的はわかっている。私という戦力を以て、こいつらを滅ぼせということだ。
アルカノイズの短剣により、そのほとんどが聖遺物で構成されている私の身体はズタズタに分解され、それを押しとどめようと力が暴走してコントロールから外れていく。
「響君っ!」
しかし、甘いよキャロル。私がなんの対策をしていないと思っているのかな? なめんなっ!
懐からパクっておいた転移結晶を取り出してさっさと転移する。
「まっーー」
瞬時に転移した先はチフォージュ・シャトー。つまり、キャロルの本拠地。玉座に座るキャロルが忌々しそうにこちらを見て来る。
「……いつの間にパクってやがった」
「甘いよ。さて、キャロル。ここで暴走して欲しく無かったらわかるよね?」
「ちっ、いいだろう。オレ自らが、改造してやる」
「どうせだから、デュランダルも混ぜて。あとネフシュタンも」
「いいだろう。どうせ、もうチフォージュ・シャトーは起動した。後は時間を稼ぐだけだ。命が持つ時間は保証できない。それでいいな?」
「もちろんだよ」
「なら、やってやる」
キャロルちゃんによる人体改造。これにより、スペシャルでスーパーなオーディンへと完全に生まれ変わる。立花響の残滓はもう擬態する必要すらないので、要らない。必要なのは戦闘力だけだ。
「ああ、逃げられてしまいました。絶対に彼女はキャロルと協力して、妨害してきます……確実に殺さないとだめだったのに……」
「詳しく説明してもらうぞ。だが、その前に響君のことを未来君に伝えねば……彼女なら、まだ響君を説得できるかもしれん」
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