DOG DAYS 大空の勇者 (ポーカー)
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始まりと少女(改)

初めての作品です。至らぬところもあると思いますが、読んでくれたら幸いです。


  

 その昔、ある国に一人のお姫様がいました。お姫様は、自国や他国の人にも愛されお姫様自身も皆を愛していました。ある日、お姫様は一人の勇者を召喚しました。勇者として召喚された少年はその国のため様々な働きを見せ、国の人々にも信頼されていました。少年とお姫様は日々過ごしていく中でお互いのことを少しづつ知っていき恋におちました。二人はとても愛し合っていて、国の人々にも祝福され幸せな日々を過ごしていました。しかし、そんな幸せな日々は長くは続かなかった。

 

 

………満月の光が綺麗に輝く夜………一人の勇者は………

 

………愛する者を手にかけ………その国をも………

 

…………………………滅ぼした…………………………

 

 

 

    

――――――――――長かった――――――――――人である僕にはあまりにも長すぎた――――

 

 

――――――――でもこれでようやく――――――全ての準備は整う―――――――

 

 

――――――――――――また君に会えるんだね―――――――――――

 

 

 

――――――――早く―――――――――早く君に会いたいよ――――――――――

 

 

 

―――――――――――――――――だって僕は―――――――――――――――――

 

 

 

 

―――――――――――――あの時交わした約束を果たすために生きているんだ―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

 

立ち並ぶ木々により光がわずかにあたる森の中を一人の少女が駆けている。

 

「どうだ、見つかったか!」

 

野太い男の声が森の中で響いた。

 

「いや、まだだ。」

「くそ、一体どこ行きやがったんだ!」

 

男がイライラしいる様子で先ほどよりさらに大きな声で叫んだ

少女はその声を気にも留めずひたすらに走った。

この先にある光を信じて

 

「あと、あと少しで………あった!」

 

少女は立ち止り安堵の表情をしたが、すぐに険しい顔にもどりそれに近づいた。

そこには、10メートルくらいの大きな円の形をした石板があった。

少女は、石板の前で膝をつき両手を組会わせ目を閉じ祈った。

 

「………こんなことは許されないでしょう。でも、今の私には………!」

 

少女は複雑な表情を浮かべ少し俯き考えた。

 

………今私にできることは、これ以外には何もない………

 

………今の自分はあまりにも無力だ。しかし、それでも守りたいものがある………

 

………だから………だから………だから………

 

 

 

「どうか………この国を………私たちを………救ってください……………勇者様!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           

           

            止まっていた時間がようやく動き出した

 

 

             そして、物語は紡がれていく

 

 

 

 

 

 

 




どうでしたか、興味を持たれた少しでも方がいるなら、幸いです。


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とある夢と沢田綱吉

2話目です。
読んでいただけたらうれしいです。


 

 

ツナはある夢を見ていた。

嵐でも来ているのではないかと思うくらいの豪雨。そこには少年と少女がいた。少女は力なく倒れていて少年は少女を膝が地面につきながらも胸のあたりで抱え込んでいる。少年と少女は何かを話しているようだがよく聞き取れなかった。すると突然少年が少女を抱えたまま立ち上がり大空へと叫んだ。

しかしツナはそれを聞くことはできず夢から意識が遠のいていった。

 

 

 

小鳥のさえずりが朝を感じさせるなか沢田綱吉は目を覚ました。

 

「………朝か」

 

いつもと変わらない天井を見てそう呟いた。

 

「いつまで寝てんだ起きねーか」

「ほぶっ!」

 

突然現れたスーツをビシッと着ている赤ん坊…………もといリボーンにドロップキックで腹を蹴られツナは悲鳴を上げた。

 

「いきなり何すんだよ!」

「お前がいつまでも寝てるからだろーが、そんなことよりも、そっさと着替えて下に降りてこい」

 

リボーンは自分の用件を言いさっさと部屋を出て行った。

ツナはベットから降り仕方なく言われたとおりに服を着替えた。

リボーンのあんな態度に慣れてしまった自分がなんだか悲しい、などと思いながら部屋を出た。

 

 

リボーンはこの夏休みを使って一度イタリアに戻るらしい詳しい事情鵜は分からない……………といううか恐ろしく聞けない。まぁ里帰りということにしておこう。

ツナの両親は、愛をもっと深めるため旅行いこう、などと言っていたのでツナは、その旅行俺遠慮する、と苦笑いで答え一人家に残ることにした。

ちなみに獄寺や山本など他の皆も夏休み中里帰りや旅行ということにで知り合いはこの夏休みは周りに誰もいないという状態となりツナは寂しい夏休みになりそうだと思っていた

 

 

ツナは見送りという形で玄関にいた。

 

「ツッ君留守番よろしくね」

「ツナしっかり食って歯磨いて寝ろよ、父さんたちは一ヶ月後くらいには帰るからな」

「うん。分かった」

「ツナ家に一人になるがしっかりと宿題もしとけよ。俺も一ヶ月後くらいには帰るつもりだ…………もし帰ってくるまでに終わらせてなかったら………」

「わ、分かったって」

 

両親に心配されたり、リボーンにギロリと睨めつけられながらもしっかりと答えた。

 

「それじゃ、気を付けて」

 

要らぬ心配だろうと思いながらも三人を見送った。

 

「さてと」

 

そう呟き振り返ると、ふと先ほど見た夢のことを思い出した。

悲しい夢だった。なぜそう感じたのか自分でもよくわからないけど、ただそう感じずにはいられなかった。

 

「あれは一体何だったんだろう………」

 

少し考えた後、首をかしげ、まぁいいかと思い部屋に戻ろうと階段を上がった。そこで、ツナはあること気がついた。

 

そういえば一か月分の食事代もらったっけ、少し不安になりポケットにある財布を取り出してのぞいてみると……………五十七円しかなかった。

 

「んなアァァァァァァァァァァァァァ!」

 

ツナは今の自分の所持金を見て思わず叫んでしまった。

ツナは急いで階段を下り外に出た・

 

「父さん達、どっち行ったんだ!」

 

焦った状態で右か左か左右を見て思考錯誤していると

 

「………け…………さい………」

 

ふと、どこからともなく声が聞こえた。

 

「だ、誰!」

 

ツナは声の主を探して周りを確かめてみたが周りには誰もいなかった。

 

「………たす………くだ………」

 

また聞こえた、何と言っているのかよく聞こえないがツナに呼びかけるような声だ。

 

「………たすけてください………」

 

先ほどと同じくらいの小さな声だが今度は聞き取れた。そしてツナは呟いた。

 

「助けてください、ってどういうこと?」

 

誰かが助けを求めているそれは分かるでも一体だれが、そんなことを思っていると突然ツナの立っている地面が淡い桜色の光を放ち始めた。

 

「こ、今度は何!」

 

次から次へと来る不思議な現象にツナはかるくパニックになっている。

だが、そんなことはお構いなしに光はどんどん強くなっていく

そんな状況が怖くなりツナは叫んだ

 

「誰かァァァァァァァア!助けてェェェェェェェェエ!」

 

ツナのむなしい叫びは誰にも届くことはなく

光に包みこまれていった。

 

 

 

 




どうでしたでしょうか、次も読んでくれたら嬉しいです。


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出会いと土人形

3話目です。




ツナは淡い桜色の光に包まれてしまっていた。

光の眩しさに目を閉じてしっていたが、光がだんだんと弱まっていきついに光は消えていった。

 

「な、何だったんだ」

 

そう呟きツナは目を開いた。

そして、目の前の光景にツナは驚愕した。それもそのはず今までいたはずの場所から一瞬で木々があふれる森の中にいるのだから。

 

「一体どうなっているんだ………」

 

ツナは困惑した状態でいた。すると……

 

「………来てくれた」

「え!」

 

突然後ろの方から消え入りそうな声が聞こえ振り返ってみると、

そこには、膝を地面につけながら両手を組んでいる一人の少女がいた。

とても神秘的な少女だった。舞踏会などで着る真っ白なドレスを違和感なく着こなしていて、顔は小さく整った顔立ちをしている。そしてなによりも目を引くのは宝石のようにエメラルド色をしたキレイな髪色と瞳であるいつまででも見てられるそう思えるほど美しかった。

 

「本当に来てくれたんですね!」

 

ツナは終始少女に見とれていたが少女の言葉ですぐ我に返った。

少女はそんなことを知る由もなく、ツナの方をみて目を輝かせていた。

 

「えっと……」

 

ツナは今の状況がうまく飲み込めない状態でいた。ここはどこなのか、なんで自分はこんなところにいるのか。聞きたいことは山ほどあるが今はこの少女が誰なのかを知るのが先だと思った。

 

「君は一体誰なの?」

「……あっすみません! そうですよね自己紹介は大切ですよね」

 

少女が立ち上がりツナと向き合った。身長はツナより少し低いようだがその立ち姿はまるで気品あふれるお嬢様のようだ。

 

「私のな―――――」

「こっちだ! 確かこの辺で光が見えた!」

 

凛とした声を遮るように野太い男の声が聞こえた。

 

「いけない!」

「ちょっ!」

 

少女はいきなりツナの手を掴み走り出した。

 

「い、いきなりどうしたの? それにさっきの声って………」

「ごめんなさい今はゆっくり話している時間がないんです。あなたにとって私は怪しい者に見えると思います。でもどうか私を信じてついてきてください」

 

少女は走りながら顔だけ振り向け不安げな表情でツナに言った

自分を見つめるエメラルドの瞳、こんなにキレイな瞳は初めてみる。などと今の状況には全く関係がないことだと思いながら、数秒思考錯誤した。

この子は危険じゃない。

ただの直感でしかない、でも人を信じるには十分な理由だ。

 

「………分かった。君を信じるよ」

「ありがとうございます」

 

少女はほっと胸をなでおろした様子だ。

 

「いたぞ!」

 

少し離れた場所から野太い男の声が聞こえた。

どうやら見つかったらい。

 

「いけない!」

 

少女が慌てた様子でいるが、時すでに遅く、数人の騎士の格好をした男たちに囲まれてしまっていた。

 

「たく、手間をかけさせやがって。さぁこっちに来い」

 

一人の男がツナのことなど気にも留めず威圧的な口調で少女に手を伸ばしてきた。

どうやら自分はどうでもいいらしい、そう思い少女の方に顔を向けた。

ツナは少女の表情を見て驚いた。なぜなら少女の顔に浮かんでいた感情は………悔しい。

怯えたり恐怖したりするのではなくただ唇を噛み締めて悔しいという表情をしていた。

なんでこんな所に自分がいるのかは分からない、でもこの子のために何かしてあげたい。

だから……

 

「ん? 何だ子憎そこをどけ、邪魔するようなら容赦はせんぞ」

 

ツナは少女の前に立ち男の手を遮った。

そして、少女に子声で囁いた。

 

「………大丈夫。守って見せるから………」

「え!」

 

それだけ少女に告げ死ぬ気丸を飲んだ。

先ほどまでとはまるで雰囲気が違い額に鮮やかなオレンジ色の炎を灯している。

相手を何人いるか辺りを見渡した。

正面に2人右と左に1人ずつ………後方にも一人か、相手は全部で5人。

冷静に相手の位置まで把握して、この程度の数なら問題はないだろうと思った。

 

「聞こえなかったのか、そこをどけと―――――がぁ!」

「なっ! なんだとっ………」

 

ツナは一瞬で正面にいた二人の男の目の前に移動し強く握られ両拳を鎧を着ている二人の男にお見舞いした。

二人の男を気絶してずるずるとツナの拳から離れて地面に落ちた。

次にツナは勢いよく振り返り左右の距離が少し離れている二人の男に両腕をクロスさせ

 

「Xカノン」

 

ツナの掌か炎の弾丸が放たれ左右にいる男たちに命中した。

 

「後はお前一人だ」

「ばっ、ばかな! 俺たちが瞬殺だと!」

 

男は声を荒げて信じられないという表情だ。

 

「これで、終わりだ」

 

ツナは男の声を気にも留めずまた一瞬で男の目の前に移動し右拳を振りかざし男の顔面に叩き込んだ。

その衝撃で男は数メートルほど吹っ飛んだ。

 

「ふぅ」

 

相手を全て倒し額の炎が燃え尽きたみたいに消えていく。

 

「す……」

「ん?」

「すごいです!!」

 

少女が先ほどまでの表情とは打って変わりキラキラと目を輝かせた。

 

「あんな屈強な男達をものの数秒でノックダウンさせるなんて! なかなか出来るもんじゃありませんよ」

「えっ、いやそんな」

「謙遜しなくもていいですよ! ………それに、さっきのかけてくれた言葉私すっごく嬉しかったです」

 

少女の屈託のない笑顔にツナは少し顔が赤くなった。

その、笑顔がどう反応すればいいか分からず逃げるように先ほどの男達に目線を変える。

 

「っ! あれって一体………」

 

ツナは目線の先にいる男に指を差した。いや、男だったものに指を差したという方が合っているだろう。男だったものは体が泥に水をかけたようにドロドロと元の原型がなくなっていく。

 

「あれは、土人形です」

 

後ろを振り返り真剣な表情に変わった少女が答えた。

 

「土人形?」

「はい。紋章術の一種で大地からのフロニャ力を借り作られた人形です。主の命令で動くものですが、とても高度なものです私も見るのは初めてです。どうやらこの土人形を使って私を捕えるつもりだったらしいですね」

 

説明を聞き終えツナは改めて崩れゆく人形を見た。

 

(一体誰がこんな真似を……)

 

人形まで使って一人の少女を捕まえようとするなんてただ事じゃない。

 

「何があった!」

 

少し離れた所からさっきとは別の男の声が聞こえてきた。

どうやら、敵の援軍らしい。

 

「まずいです! 一端ここから離れましょう。」

 

少女に言葉に頷きその場を後にした。

 

 

 

その様子を木の枝に乗っている一人の男が見ていた。

 

「なかなかやるな、あいつ。面白くなってきたぜ」

 

不気味な笑みを浮かべ男はそう呟いた。

 

 

 




どうでしたでしょうか。
バトルの方はあまりうまくなかったと思いますが楽しんでいただけたら幸いです。
少女の名前は次回分かります。


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小屋と忍者(改)

4話目です。
今回はあのキャラが出てきます。
では、どうぞ。


ツナと少女は今江戸時代を連想させるような古風な小屋の目の前に立っていた。

なぜ、ここにいるのかと言うと、男達から逃げるため走っていたら森を抜けだしいつの間にかここに到着という理由(わけ)である。

 

「えっと………ここって空家かな?」

「分かりません。ですが今の私たちにここはうってつけの場所です。中に誰かいるか確認しましょう」

「ちょっ!」

 

少女はツナの静止を聞かずドアの前まで歩いて行きコンコンとドアを叩いた。

 

「すみません。誰かいませんか」

 

怖いもの知らずだなそう思いながらツナもドアの前に来た。

小屋の中まで響く様な声で言った。すると、

 

「はいは~い、今開けるからちょっと待つでござる」

 

中から女の人の声が返ってきて、数秒してドアが開き一人の女の子が出てきた。

髪は金髪で忍者のコスプレのような格好をした美少女と言っても過言ではない女の子だ。

 

「どちらさまでござるか?」

 

小首を傾げ頭の上に?を出しているように聞いてきた。

 

「突然の訪問すみません。わけあって私たちは今追われる身なのです。だからどうかかくまってくれませんか」

 

少女は頭を下げ切実にお願いしツナも続けて頭を下げた。

忍者の格好をした女の子は両腕を組みう~ん、と悩みながら唸り答えた。

 

「いいでござるよ」

 

ニッコリとした笑顔でツナ達に言った。

 

「「ありがとうございます!」」

 

二人は先ほどより深々と頭を下げた

 

「そんなに頭を下げなくていいでござる。拙者も話し相手がほしいと思っていたとこおろであるし、でも、その理由とやらはちゃんと聞かせてもらうでござるよ」

「はい! もちろんです!」

「それじゃ、中にどうぞでござる」

 

小屋の中に招かれ畳のある場所へと案内された。

ツナと少女が隣同士で座布団に座り忍者の少女は二人の目の前に座っている。

 

(外もそうだけど中もやっぱり和風だな)

 

そんなことを思っていると、最初に口を開いたのは忍者の格好をした女の子だ。

 

「まずは、自己紹介でござる。拙者の名前はユキカゼ・パネト―ネと申す。以後お見知りおきを」

「お、俺は沢田綱吉です。よろしくお願いします。ユキカゼさん」

「さん、なんて付けなくていいでござるよ沢田殿」

「そ、それじゃ改めてよろしくユキカゼ」

「よろしくでござる」

 

ユキカゼは満足そうな顔している。

二人の自己紹介が終わり、それじゃ次は、とユキカゼの声と共にツナは自分の隣の少女に顔を向けた。

 

「それじゃ、話を聞かせてもらいましょうか」

「はい。分かりました」

 

そういえば自分もこの子に何一つ教えてもらってないな、と思いながら隣にいる少女の言葉を待っていた

 

「私の名前はアクアマリーナ・アトラティカ。アトラティカ王国の姫です」

「………姫って……えっ、えぇぇぇぇぇぇぇぇ!! お、お姫様なの!」

 

ツナは少女の正体に思わず驚きの声を上げた。

 

「ふ、ふむ、これは拙者も驚きでござるな」

 

ユキカゼも驚きが隠せなく、顔に汗が見える。どうやら緊張しているようだ。

 

「して、アクアマリーナ姫様はどうして、このような場所に?」

「私の呼び方はアクアでいいですよユキカゼさん」

「そ、そうでござるか、ならアクア姫で、拙者もユキカゼでいいでござるよ」

「はい。よろしくユキカゼ」

 

ユキカゼも緊張が少し緩んできた様子だ

 

「それじゃ、本題に戻りますね。姫である私がなぜここにいるのかお話ししましょう。

あれは、数時間前のことです。

いつもと変わりなく過ごしていた時、突然一つの声が国に響き渡ったんです。

アトラティカ国の者につぐアクアマリーナ・アトラティカを渡せ、とそしてそれを聞いた途端元老院の者たちが急に私に逃げるように言ったのです。そのときの私は何がなんだかよく分からなく言われるがままに国から逃げてきました。その後は追っ手が私を捕まえようとしてきたんです。

それで私はあなたを召喚したんです………勇者様」

 

アクアはツナの方に向き直りニッコリとした表情で言った。

 

「……ゆう…しゃ……勇者!!「

 

ツナはアクアの発言にワンテンポを遅れて叫んだ。

信じられないと自分で自分に向けている指が震えている。

 

「はい。それからは勇者様が追っ手の者数名を倒しここに逃げてきたというわけです」

 

アクアは説明を終えユキカゼから出されたお茶を飲んだ。

 

「これはまた驚きでござる。まさか二人が姫様と勇者だったとわ」

「いや、ちょっと待って俺が勇者ってどういうこと!」

「そのままの意味です。私はあなたの力を借りるためにあなたをここフロニャルドに召喚したんです」

 

フロニャルド……そんな場所聞いたこともないんだけど………

 

「あの、もしかしてここって………」

「はい。あなた方の言葉で言うなら異世界です」

 

ツナはその答えにガックリと肩を落とした。

 

「ふむ、そちらの事情もよくわかったでござる。してアクア姫様今後はどうするつもりでござるか?」

「それは……国の者たちは捕まっているだろうし助けたいですけど、私には力がありません。だから!」

 

アクアはツナの方に向き直り言った。

 

「私に力を貸してください勇者様!」

 

自分の状況に半ば放心状態のツナにアクアは真剣な眼差しを向ける。

この子は真剣だ。本当に俺に助けを求めているだったら………俺もこの子のためにできる限りのことはしてあげたい。

ツナはアクアに決意をした瞳をして答えた。

 

「分かった。俺に出来る限りのことなら協力するよ」

「ありがとうございます。勇者様!」

「それと、その勇者様ってのはやめてくれないかな……」

「どうしてですか?」

「そんな柄でもないし、それに恥ずかしい……だから俺のことはツナでいいよ」

「そうですか……勇者様がそう言うなら……これからはツナと呼びます」

「うん。よろしくアクア姫」

「うんうん。どうやら話は決まったようでござるな。アクア姫様私もその件協力させてもらえないだろうか」

 

ユキカゼが突然の提案をしてきた。

 

「え!」

「駄目でござるか?」

 

ユキカゼは不安げに聞いた。

 

「い、いえ、駄目という理由ではないですし手伝ってくれるのはありがたいですが………危険な目にあうかもしれませんよ」

 

アクアはユキカゼの提案はうれしい、でも今からやることは危険が伴うだからこその問い。

 

「もちろん拙者もそれくらい承知の上。それでも二人を見ていると助けてやりたいと思ったから、だからこそ拙者も協力したいと提案したでござる」

「その意思は変わりそうにないですね。分かりました」

 

アクアはこれ以上言っても意思は変わらないだろうと思いユキカゼの同行を認めた。

 

「感謝感謝でござる。あ、それとアクア姫様使い慣れてないなら敬語じゃなく普通の喋り方で言いでござるよ」

「! 気がついていたんですか」

「まぁ、なんとなくでござる。沢田殿もそうでござろう?」

「う、うん。まぁ」

 

確かにアクアは気品あふれるお嬢様………というよりも無邪気なただの女の子という方が合っているだろう。

 

「そ、そうですか。では、コホン………これからよろしくねツナ、ユキカゼ」

「うん。よろしく」

「よろしくでござる」

 

今の自分がどういう状況にいるのか分からないない、でもこのお姫様を守ってあげたい、二人の少女の笑いあう姿を眺めながらツナは心の中で強く思った。

 

「それじゃ、拙者はそろそろ食事の用意をするでござる」

 

ユキカゼはそう言い立ち上がった

その瞬間ツナは悪寒のようなものを感じ取った。

 

(なんだ……なんだこの嫌な感じ……だめだ……ここにいちゃ……ここにいちゃだめだ!)

 

ツナは突然立つ上がった次の瞬間

 

「デスぺラード・レイン」

 

その声が聞こえ小屋は何者かの力によって爆発された。

 




どうでしたでしょうか。
感想待ってます。


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月明かりと狼耳男

投稿が遅れてごめんなさい。
これからは、なるべく気をつけるようにします。
誤字、脱字があるかもしれませんが、
5話目をどうぞ。


ツナ達がいた小屋は、一人の男の手によって爆発された。

男は黒髪でふてぶてしい感じがする顔立ちだ。そして、頭の上にあるのは黒耳で、オオカミを連想させるものがある。

 

「なんだよ、終わっちまったのか」

 

男はつまらないという表情で、燃えさかっている小屋を見て呟いた。

男はため息をつき小屋に背を向けた。

 

「つまんねーの」

 

それだけ吐き捨て小屋の方には、もう何の興味もなく歩き出そうとした時……

 

「待て」

 

オレンジ色の炎額に灯した少年が、男の後ろ肩を掴んで立っていた。

 

「……ははっ! なんだよ、生きていたのか。そうこなくっちゃ―――」

 

男が言い終わる前にツナの右ストレートが、顔面に炸裂し男は吹っ飛んだ。

 

「悪いが、お前のごたくに付き合っている時間はない。さっさと終わらせてもらうぞ」

 

ツナは木々が倒れ土煙が、舞っている場所を見据えている。

 

「……くっくっく、あーはっはっはっはっはっはっはっ!! いいね…いいねお前!」

 

土煙も収まり姿が見えてきたと思うと、男は奇妙に、おかしく、高らかに笑いだした。

男はゆっくりと立ち上がり、ツナを見て、次の瞬間地面を力強く蹴り突進してきた。

突然の行動に戸惑いのそぶりも見せず、ツナは冷静に男の突進を見切り右に交わした。

だが、男はすぐに切り返し再度地面を蹴り突進してきた。

切り返しが早くよけることができないと思い、ツナは右腕で男の拳を受け止めた。

しかし、男の攻撃が思っていた以上に重く、ツナは後ろに吹っ飛ばされ木に衝突した。

 

「がぁ!」

 

男は不気味な笑みを浮かべ、ツナを見ている。

まるで、戦うことに生きがいを感じているようだ。

 

「今の攻撃でも倒れないか、なかなかやるじゃねーか」

 

そう言い、男は一歩一歩ツナに近ずいてく。

しかし、男は何かを思い出したかのように足を止める。

 

「そういえば、あのお姫様どこにいるんだ?」

 

男は辺りを見渡し言った。

 

「お前が知る必要はない……」

 

荒い息をしながらツナが立ち上がりながら答えた。

 

「……はっ、確かにな今はお前との闘いだけを楽しむとするか」

 

ツナは無言のまま相手を見つめ、自分のうまく動かすことのできない左腕を見て、先ほどのことを思い出していた。

 

 

 

――数分前――

 

ツナは何か嫌な予感がしてとっさに死ぬ気丸飲み、二人を抱え全力で小屋を脱出した。

だが、脱出するのが少し遅れたため、爆風により吹き飛ばされた。

 

「ぐっ!」

 

ツナは二人を守るため木に背中から激突した。

二人を腕から離して、ツナは崩れ落ちるように倒れた。

 

「つ、ツナ大丈夫!」

「沢田殿!」

 

ツナは激突したダメージが想像以上に大きく意識が今にも飛びそうだ。

そのせいで、超死ぬ気モードが解けてしまった。

 

「だ、大丈夫……それより……俺達を狙っている奴は、まだ、近くにいるはずだから……早く逃げて……」

 

言葉を発する事もままならない状態で、二人に言った。

 

「逃げろって……ツナはどうするの」

「……俺はここで……迎え撃つ……」

「迎え撃つって、そんなの無理よ」

「そうでござる。そんな状態では……」

 

ユキカゼはツナが、先ほどから押さえている左腕を見て言った。

激突の際、ツナは二人を守るため左腕を痛めてしまっている。

動かない程ではないが、戦うとなると厳しいだろう。

 

「だから、ここは拙者に任せるでござる」

「……ありがとう……ユキカゼ……でも、ユキカゼはアクアをつれて逃げてくれ」

「なっ! 何故でござるか!」

「まだ他にも敵がいるかもしれない、だからユキカゼにはアクアの傍にいてほしいんだ」

 

ツナは真剣な瞳でユキカゼに言った。

これが、自分が今できる唯一の方法だと思い

 

「………分かったでござる」

「ありがとう。ユキカゼ」

 

ユキカゼは少し悔しそうな表情をしながら了承した。

ツナはアクアの方を向き

 

「アクアも―――」

「分かってる」

 

アクアはツナが言うのより早く言葉を発した。

 

「ツナはたぶん何言っても私に逃げろって、そう言うんでしょ」

「……うん」

「この頑固者!」

「いだっ!」

 

アクアはツナに脳天チョップをお見舞いした。

怪我をしているのなんか、お構いなしで、それはもう清々しいほどのチョップだった。

 

「な、何すんだよ!」

「うるさい! 今ので勘弁してあげる」

 

そう言うとアクアは顔をツナから背ける。

 

「……でも、必ず……必ず追いついてきてよ」

 

アクアの声は震えていた。

本当はツナが今からやる事に、アクアは反対なのだろう。

それでも、ツナの事を信じると決めたから、アクアはそう言った。

 

「……うん。必ず……すぐに追いつくから」

「分かった。それだけ聞ければいいよ」

 

アクアは立ち上がり、ツナの手を引っぱり立ち上がらせた。

 

「ほら、それじゃ、さっさと行ってさっさと帰ってきなさい」

 

アクアは吹っ切れたかのような笑顔だった。

ツナはそんなアクアを見て笑みがこぼれてしまいながら、死ぬ気丸を飲んだ。

 

「沢田殿、武運を祈るでござる」

「ツナ……頑張って」

 

二人に声を掛けられ、一度振り返り、言葉を返す。

 

「ああ、行ってくる」

 

それだけ言うとツナは腕から炎を放射し小屋の方へと飛んで行った

 

 

 

 

――現在――

 

ツナは黒服の男と対峙していた。

左腕がうまく使えない状態でも、ここまでいい勝負をしている。

 

「まさか、ここまでやるとはな」

 

最初に口を開いたのは、黒服の男。

先ほどからずっと口元に、笑みを浮かべたままだ。

 

「何がそんなにおかしい」

 

ツナは男の笑みを不気味に思いながら聞いた。

 

「いや、何この戦いは本当に楽しいと思ってな。そうだ、ここまで楽しませてくれたんだ名前くらい名乗ってやるぜ」

「………」

「俺はクロノス・ルドルフだ。お前は」

「………沢田綱吉」

「沢田綱吉か……もっともっと殴り合おうぜ沢田綱吉!」

 

クロノスと名乗る男はそう言うと、ツナに突っ込んできた。

ツナは右腕の炎の噴射で上に逃げた。しかし、右腕だけじゃ体がうまく安定しなく、すぐに地面に着地した。

 

「さっきから、突っ込んでばかり、一体何をたくらんでいる」

「何を企んでいる、か周りを見てみろよ」

 

ツナは目の前の敵に注意を払いながら辺りを見た。

二人の周りには先ほどまで、太い樹木が多くあったが、今ではその樹木等はほとんど倒れ、月のような光があたるほど見晴らしが良くなっていた。

 

「これがどうした」

「つまり、こういう事だ!」

 

クロノスが右腕を前に突き出し魔法陣みたいのが出した。

 

「デスぺラード・スピア!」

 

クロノスが叫ぶと同時に複数の魔法陣がツナの周りに出現し爆発した。

 

「どうだ、かなり効いただろ」

 

爆風による煙のせいで姿が見えないツナに愉快そうな表情で言った。

 

「さてと、それじゃお姫様でも探しに―――」

「どこに行くつもりだ」

 

クロノスが言葉を言いきる前に、一つの声がそれを遮った。

クロノスは、煙の方を注意深く凝視した。

そこから出てきたのは、黒いマントを羽織るツナだった。

 

「………なんだとそれ、マントか?」

 

クロノスは興味深そうに聞いてきた。もちろん、警戒も怠っていない。

 

「Ⅰ世のマント(マンテッロ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)」

「ははっ、いいじゃんか、まだまだ戦えそうだなお前!」

「ナッツ、ありがとう」

「ガゥ!」

「お? なんだそのライオンみたいなのは」

 

クロノスは、マントが消えたかと思うと、急に出てきた動物おもしろそうに見ていた。

 

「これ以上話す必要はない」

「……確かにそうだ、今はただ戦うだけだ」

 

クロノスは、少し考えた様子を見せてすぐに、ツナと戦うことに頭を切り替えたようだ。

そして、ツナはそんなことを気にすることなくクロノスに走り出した。

 

「左腕が使い物にならなくなっているから、楽しさ半減かと思ったけどそうでもないらしいな」

「……気ずいていたのか」

「当たり前だ」

 

ツナは焦っている。今はまだ対等に戦えているが、このまま戦いを長引かせれば自分が不利である。

だったら、早期決着が望ましいが、クロノスは相当の強者である。

 

(くそ! このままじゃ………せめて一瞬でも動きが止まれば)

 

ツナは苦虫を潰した様な表情のままクロノスに応戦している。

 

「おらおら、どうした!」

「くっ!」

 

ツナは腹に右回し蹴りをくらい後方に数歩下がった。

それを見ると、クロノスは自ら距離を取った。

 

「こいつは、さっきのより、効くから覚悟しろよ!」

 

そう言うと、先ほどと同じくクロノスの手から魔法陣のようなものが出現した。

ツナはこれから起きることに警戒するかの世に身構えた。

そして、次の瞬間、さっきとは比べ物にならない程の大きさの魔法陣に周囲一帯が囲まれた。

 

「くらいやがれ。デス・ラビリティ!」

 

ツナはその瞬間直感した。

これは、マントじゃ防ぎきれない。だとしたら、もうこれに賭けるしかない。

 

「ナッツ! 形態変化(カンビオ・フォルマ)」

「攻撃形態(モード・アタッコ)

 

ツナが叫んだと同時に魔法陣は周囲に連動して大爆発を起こした。

大爆発を目の前で見ていたクロノスは呟いた。

 

「なかなか、楽しかったぜ、沢田綱吉……」

 

今度こそ終わったと思いクロノスは目の前の光景を目に焼き付けていた。だが―――

 

「Ⅰ世のガントレット(ミティーナ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)

「!」

 

クロノスは、不意に後ろから聞こえた声に、振り返えった。

そして、そこにいたのは、大爆発に巻き込まれたはずのツナがいた。

 

「なんだ―――」

「バーニングアクセル!」

 

そして、ツナの右腕による渾身の一撃が炸裂した。

 

 




どうでしたか。
感想待ってます。


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一つの嘘と決意の夜

ツナのキャラがうまく書けているか心配です。
それでは、最新話。
どうぞ!


ツナの一撃が炸裂して、クロノスは数十メートル吹っ飛んだ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

ツナは肩で息をしている。

どうやら今の一撃に全力をつぎ込み、これ以上は右もうまく動かせない状態である。

ツナはその場で、煙が舞っている場所を見据えていた。

 

「……く…そ……まじ……かよ……」

 

煙が晴れると、地面にうつ伏せになっているクロノスがいた。

 

「……ま…だ……だ……まだ……」

「やめておけ。もう決着は着いた」

「……ふざ……け……んな……お…れ……は………ま…け…て……ねえ……」

 

明らかに無理をしているのが分かる。

ダメージが大きく、戦うこと、ましてや立つことすらできない状態だ。

ツナはこれ以上危険はないと思い、超死ぬ気モードを解いた。

 

「……こ……の……」

「……どうして、そこまで勝ちにこだわるんですか」

 

クロノスをじっと見詰めたまま言った。

 

「クロノスさん、確かに貴方は強い、でもその強さからは何も感じられない、空っぽの力だ。自分の強さを見せつけているだけで、そんなの虚しいだけです」

「…なん……だと……」

「その力は一体何のためにあるんですか、なんの手に入れた力なんですか。今のあなたは見えてたものを見失っている。」

「…………」

「そんな、本当の覚悟がない貴方に俺は負けない」

 

揺ぎ無い瞳でツナはクロノスに言った。

 

「……お前の覚悟ってのは……何なんだ……」

「今の俺の覚悟は、アクアやユキカゼ、二人を守ることです」

「………俺は――――」

「そこまでですよ」

 

クロノスが何かを言いかけた時、突然辺りに響き渡る声が聞こえた。ツナは声の主が誰なのか辺りを見回した。

 

「こっちですよ」

 

探している方向とは全く逆の方から声が聞こえツナは振り返った。

そこに居たのは白髪と白耳が見られ、ツナより少し背が高く執事を連想させる服装の男がいた。

 

「……貴方は誰ですか」

 

ツナは警戒をした状態で言った。

 

「おや、これは失礼。私はアイゼン・ベールと申します」

「貴方もクロノスさんの仲間ですか」

「えぇ、そうですよ勇者様。ですが、私は貴方とは争いませんよ」

「どういう……!」

 

紳士的な口調で男がそう言うと、後ろから一人の少女が現れた。

 

「アクア!」

 

そう、現れたのはユキカゼと共に逃げたはずのアクアだった。

 

「どうして……ここに……」

 

状況をうまくつかめずツナは困惑していた。

何故ここにいるのが、ユキカゼはどうしたのか、その男と一緒にいるのは何故なのか。

 

「姫様は、私達と共に国に、アトラティカ王国に還られると決めたのですよ」

「!」

 

アクアの代わりに答えたアイゼンという男の言葉にツナは驚愕した。

 

「……貴方は、アクアの国を襲った人達ですよね」

「えぇ、そうですよ」

 

男は隠すつもりなんてなく、笑顔で返してきた。

その言葉を聞き、ツナはさらに訳が分からなくなりアクアの方を見た。

 

「アクア、一体どういう事だよ。そいつ等と一緒に還るって、それに、ユキカゼはどうしたんだよ」

「………」

「答えろよ!」

 

何も答えないアクアに、苛立った様子でツナは叫んだ。

 

「……説明なんて必要ない……私はこの人達と共に国に還る事にしたの。だから……もう私を守る必要なんてない……貴方はもう用済みなの……」

 

アクアは俯いた状態で、そう冷たく言った。

 

「なんだよそれ……」

 

ツナはうまく言葉が見つからず、そう言うのがやっとだった。

執事服の男は茫然と立っているツナを数秒見て戦意を失ったと思い、クロノスの方に歩み寄った。

 

「随分と派手にやられましたねクロノス」

「………」

「どうしました? 話す力も残っていませんか?」

「……そんなんじゃねーよ……そんなんじゃ……」

「そうですか、それではそろそろ帰りましょうか。あの国に……」

 

アイゼンはそう言うとクロノスを肩に担ぎアクアのいる方に戻った。

 

「それでは、姫様ま―――」

「アクア!」

 

アイゼンの声を遮りツナは叫び言葉を続けた。

 

「じゃ……君が俺を召喚したことや、ユキカゼと一緒に戦おうって………あれは一体何だったんだよ!」

「………」

「答えろよ!」

 

震えた声でツナはアクアに叫んだ。

だが、それ以上の言葉を続けさせないようにアイゼンがツナの前に立つ塞がった。

 

「もう満足したでしょう」

「まだだ、まだ言いたいことはたくさんある」

「そうですか……それでは仕方ありませんね」

 

アイゼンは先程までとは違う雰囲気を纏っていた。

ツナもその気迫に負けることなく死ぬ気丸を飲もうとしたが、

 

「やめて!」

 

アクアの突然の声に二人は動きを止めた。

 

「……そんな奴にかまっていたって時間の無駄、早く城に戻りましょう」

「ふぅ、そうですね。姫様がそうおっしゃるのなら」

 

アイゼンは殺気に満ちていた雰囲気を消し、アクアと共にツナに背を向けた。

 

「まて! ぐっ……」

 

二人を呼び止めようとしたが、身体が言うう事を聞かずツナは地面に倒れてしまった。

 

「やめておいた方がいいですよ。貴方の今の体じゃ何も出来はしない」

 

アイゼンの言う通りすでにツナは限界で、意識が少しずつ薄れて行っている。

 

「……アク……ア……」

 

力が入らなく、ただそれだけを呟いて目を閉じていった。

意識がなくなる寸前に一つの声が聞こえた。

 

 

―――ごめんね―――

 

 

それだけ聞こえ、ツナは意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは……」

 

目を覚ましたツナが最初に目に入れたのは、木の天井だった。

 

「あ、目を覚ましたでござるか」

 

ツナは声がした方に顔を動かした。

 

「ユキカゼ!」

 

目の前の人物に驚きツナは勢いよく体を起こした。

 

「うっ!」

 

しかし、勢い良く起きたのが悪かったのか、身体に激痛が走った。

 

「あっ、無理は駄目でござるよ!」

「う、うん。それより無事だったんだね」

 

痛みよりユキカゼが無事だった事に安堵した。

 

「……はい」

「よかった~」

 

ツナはユキカゼの無事に安堵した。

でも、すぐにもう一つの大事なことを思い出した。

 

「沢田殿……アクア姫は……」

「アクアは自分意思で……あいつ等の所に行ったんだ」

 

ツナは俯いて言った。

そう、結局自分は何も聞けず何もできず、アクアは去って行ってしまった。

 

「それは違うでござる!」

「えっ」

 

突然否定されツナは驚き顔を上げた。

 

「アクア姫は、拙者達を助けるために嘘をついたんです」

 

ユキカゼが続けて言ったことに耳を疑った。

嘘……嘘ってどういう意味、と混乱している様子であるが、ユキカゼはさらに続けた。

 

「沢田殿と別れた後、すぐにアイゼンという男が現れたでござる。拙者は力及ばず負けていまい、アクア姫だけでも逃がそうと思ったでござるが、奴は一つの提案をアクア姫にしたでござる」

「自ら城に戻るなら、拙者と沢田殿の無事を保障すると」

「!」

「そして、アクア姫はその場を収めるために、その提案を受けたのでござる」

 

しばらくの間二人の間に沈黙が流れた。だがその沈黙はすぐに破られるのであった。

 

「なんだよそれ………」

 

ツナのその一言によって。

 

「俺たちを守るために自分を犠牲にしたっていうのか。あんな嘘までついて、助けてほしいのに、それすら言葉にせず、ただ俺たちを守るために……そんなの間違っている! あいつが犠牲に助かったってそんなの何の意味もないだろ! 俺はアクアがついた嘘が許せない……でも、一番許せないのはその嘘に気がつけなかった……俺自身が許せない!」

 

 

ツナは自分の今の気持ちを言い終わると、拳を強く握りしめ、そして………

 

「ユキカゼ。俺はアクアを助けに行く、今度は俺が守る番だから」

「……そうでござるか」

「だからその為に、力を貸してくれ」

「……何を言ってるでござるか………そんなのあたりまでござる!」

「ありがとう」

「礼には及ばないでござる、拙者もアクア姫を助けたい気持ちは同じでござるから」

 

ユキカゼもツナと同じ、何かを決意したした目をしていた。

 

「それじゃ、さっそく―――」

「駄目でござるよ」

「え?」

 

ユキカゼは起き上がろうとしたツナの肩を掴み静止した。

 

「沢田殿の体は今とても動いていい状態ではないでござる。それに左腕も折れていたでござるよ」

「で、でも、それでも行かなくちゃ!」

「拙者が言ったのは、今は、でござるよ」

「? それってどういう意味」

「この地は、フロニャ力という力が満ちているから、たいていの怪我も治るでござる。でも、沢田殿は地球人でありそれに、怪我もそれ程軽くわなく、しばらくここで休んでもらうでござる」

「で、でも!」

「それに、その身体じゃ立ち上がることすらままならないでござる」

「うっ、おっしゃる通りです……」

 

ツナはそれ以上何も言い返せなかった。

決心した直後実は何もできなく、小さくうなだれていた。

 

「心配ないでござるよ。少しの間眠るだけでよいでござるから」

「う、うん」

 

ツナはまだ納得できないという様子で返事をした。

ユキカゼはそんなツナを見かね。

 

「アクア姫を助けたいのでござろう、だったら今は休むことだけを考えるでござる。それがアクア姫を助ける方法でござる」

「……分かった」

「それじゃ、早朝起こしに来るでござる」

 

そう言うとユキカゼは部屋から出て行った。

ユキカゼが居なくなるのを見てツナは視線を天井に向けた。

 

「必ず助けるから………アクア」

 

一人の少女の名前を呟きツナは眠りについた。

 

 

 




どうでしたか、心理描写がかなり不安ですが、楽しめていただいたら幸いです。
感想待っています。


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侵入とかわいいもの好き

今回はあまり進まなく、戦闘描写もほとんどありません。


 

「体調の方は大丈夫でござるか」

「うん。すっかりよくなったよ」

 

ツナとユキカゼは準備万端という様子で、太陽?の下にいる。

 

「それでは、出発するでござる」

「……うん、それはいいんだけど、この鳥見たいのは何?」

 

ツナは自分の目の前にいる生物の二匹いるうち一匹を指で差し尋ねた。

 

「? 何ってセルクルでござるよ」

「いやだから何それ!」

 

知っていて当然のように言われたが、知らないものは知らない。

 

「あ、そうでござったな、地球ではセルクルはいないのでござったな」

「う、うん。いないけど、何かその言い方誰からか聞いていたみたいだよね?」

 

ユキカゼが思い出したかのように言うので、ツナは疑問に思った。

 

「それは、我が国の勇者に聞いたのでござる」

「え! 勇者って他にもいるの」

 

ツナは少し驚いた様子であった。自分以外にも、この世界にいる人がいるなら会ってみたいと思った。

 

「でも、今は地球に還っていて会えないでござる」

 

その言葉を聞き、ツナは少し残念という表情していた。

 

「大丈夫でござるよ。その勇者は後数日したら、またフロニャルドに帰ってくるでござるから」

「え、帰ってきたりできるの?」

「今では常識でござるよ?」

「知らないよ、そんな常識!」

「アハハハ、冗談でござるよ、その方法はつい最近発見されたでござるよ」

 

ユキカゼに軽く遊ばれて、ツナは小さなため息して、気を取り直した。

 

「それじゃその勇者に会うの楽しみしてるよ」

「そうでござるか。では、行くでござるよ」

「うん……って結局これ何なの!」

 

結局話は振り出しに戻ってしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

ツナ達はセルクルに乗り森の中を歩いている。

あの後、一応セルクルの説明について聞いた。要は地球の馬みたいなものらしい……見た目は鳥みたいだが。

ツナは初めて乗るもので、何度か落ちかけたが、何とか乗れている感じだ。

 

「そういえば、ユキカゼはアクアが居る場所を知っているの?」

 

ツナは今更な質問をユキカゼにした。

 

「それについては問題ないでござる。アトラティカ王国の場所はちゃんと覚えてるでござるから」

「そっか、それなら――!」

「どうしたでござるか?」

 

ツナが突然辺りを見渡している事にユキカゼは疑問に思い尋ねた。

 

「ユキカゼ、その国まであとどれくらいある」

「え、後4~5キロ程度でござるかな。それよりどうしたんでござるか?」

「……俺たち今敵に囲まれている」

「!」

 

ユキカゼはそれを聞き警戒態勢を取った。

そうツナは、周りの殺気を直感で気ずいたのである。

そして、その殺気は昨日感じたものと同じ、つまり、土人形がいる、それもかなりの数。

 

「……どうするでござる」

「……俺に考えがあるけど」

 

ツナは少し不安げな表情で、自分の作戦に自信がない様子だ。

 

「大丈夫でござるよ。拙者は沢田殿を信じているでござるし、沢田殿はやればできる子だと思っているござるから」

「ユキカゼ……」

 

ツナはその言葉を聞き、先程までの不安はなくなり、迷いがなくなった表情をしている。

 

「ありがとう」

 

それだけ、言葉にしツナは死ぬ気丸を飲んだ。

 

「行くぞ」

「了解でござる!………それで作戦とは」

「俺の背中に乗れ」

 

ツナは地面に片膝を付けそう言った。

 

「えっ、わ、分かったでござる」

 

ユキカゼは言われるがまま、ツナの背中に身体を預けた。

 

「ここからどうするでござる?」

「一気に城がある場所まで行く、しっかり掴まっていろ」

 

そうツナの作戦とは、ユキカゼを担ぎ城まで全力で飛んでいくというものである。

ユキカゼはまだツナがすることがよく理解できていないが、言われたとおり、ツナが苦しくない程度の力を両腕に入れた。

だが、あまりに密着しすぎたのがいけなかったのか、ツナは背中に何か柔らかい物が当たる感触を感じた。

 

「うっ」

「あ、苦しかったでござるか」

 

ツナが突然うめき声を上げてユキカゼが、心配するように言ってきた。

 

「い、いや、大丈夫だ。それじゃ行くぞ」

「はいでござる!」

 

背中をあまり気にしないように、ツナは気を取り直し言った。

その声と同時に、両手の炎を全力で噴射して、空へと飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

それから、数十分が経ち、ツナ達はアトラティカ王国に健在する純白の城の前にいる。

ツナの猛スピードにより、敵との戦闘もなく、ツナ達は今現在に至る。

 

「ここが、アクアのいる場所か」

「はい、ここがアトラティカ王国の最大の砦ティラミス城でござる」

 

未だ額に炎を灯した状態のツナは城を数秒間見ていて、ユキカゼはそれを横で、見守っていた。

ツナは一息ついて、気を引き締めた顔つきで言った。

 

「今から助けに行くぞアクア」

「うむ、参るでござる」

「……と、いっても、この門をどうするかでござるな」

 

ユキカゼが困った、という顔をしていた。

なぜなら、目の前には30メートルは軽くある巨大な鉄の門があるからだ。

 

「俺に任せろ」

 

それだけ言うと、ツナはユキカゼの前に出た。

 

     

「ナッツ、形態変化(カンビオ・フォルマ)」

「攻撃モード(モード・アタッコ)」

 

ツナは右手にガントレットを携え、門の方に勢いよく飛び上がった。

そして、

 

「バーニング・アクセル!」

 

その掛け声と共に一点集中で門を拳をぶつけた。

そして、当たった部分が、盛大な音と共に砕け散った。

 

「これで、通れる。先を急ぐぞ」

 

ツナはユキカゼの方を向き、先に行く事を促した。

だが、ユキカゼは今の光景を目の当たりにして、驚いたのか、穴の空いた門に指を差し、口をパクパクさせていた。

 

「な、な、なんでござるか今の!」

「今のはこいつの力を借りたんだ」

「こいつ? どれでござるか?」

 

ユキカゼはどれのことか分からず、頭に?を浮かべているようだ。

 

「ナッツ」

「がぅ」

「うわっ!」

 

ツナに応えるかのように、ガントレットがキラキラ光ると澄んだオレンジ色のミニライオンになった。

 

「さっきのはこいつのおかげなんだ」

「……い…」

「?ユキカゼどうした?」

 

ユキカゼが突然黙ったと思った次の瞬間―――

 

「かわいいィィィィィィィィィィィでござる!!」

 

ユキカゼの咆哮がその場に響き渡った。

 

「なんでござるか、なんでござるか、このかわいいのわ!」

 

テンションが尋常ではない。ツナの肩に乗っていたナッツを素早く奪取すると、これでもか、というほど撫で回した。

ツナは、ユキカゼの豹変ぶりに、ただ唖然していた。……ナッツが助けを求めているように見えるが、無理だ、頑張れ。

だが、ユキカゼはすぐに、はっ!、と我に返った。

 

「ユキカゼ………」

「め、面目ないでござる。あまりにも、この子がかわいすぎて、自分を見失っていたでござる……」

 

ユキカゼは反省した様子であるが、未だナッツを抱きしめたままである。

 

「でも、なぜこの子がさっきの一撃に関係してるのでござるか?」

「今ここで話してもいいが、さっきの音で誰か来るかもしれない。説明は後だ」

「そうでござるな。………ところでこの子の名前は」

「ナッツだ」

「ナッツでござるか、これからよろしくでござるナッツ」

 

ユキカゼ満面の笑みを見せると、ナッツは少し戸惑った様子で、がぅ、と答えた。

 

「そろそろ、城の中に入るぞ」

「はいでござる」

 

そして、ツナ達は城の中へと入って行った。

だが、入ってすぐに、ツナ達は足を止めることとなった。

なぜなら、ツナ達の目の前には、数え切れないほどの騎士の鎧を着た者たちがいた。

 

「土人形か」

 

そう、目の前にいるのは昨日戦った土人形達であった。

 

「こいつらが土人形、見ただけでは普通の人と見分けがつかないでござるな」

「あぁ、だが数が多すぎるな」

「確かに、これじゃ前に進めないでござる」

 

まともに戦っていては、らちが明かない。

ツナはこの状況を打破するための手がないか考えていた

ツナが思考錯誤している時、後ろから一瞬風を感じたと思ったら、突然目の前の土人形が数十体吹き飛んだ。

 

「やれやれ、どうやら間に合ったようでござるなユキカゼ」

「お館さま!」

 

その声にユキカゼが反応し少し遅れてから後ろを振り返ると、ユキカゼとまた異なった和服を着て長剣を右に携えた長身の女の人がいた。

 

 




どうだったでしょうか、次回も続々原作キャラが登場します。


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自己紹介と頼れる者達

今回はあまり進まなかったです。
誤字脱字があったら、教えてください。


「お館さま!」

「遅れてすまなかったでござるユキカゼ」

 

ツナはユキカゼと話している人物を不思議そうに見ていた。

それに、気ずいたのか長身の女の人が、近いてきた。

 

「お主が、ユキカゼが言っていたアトラティカ王国の勇者殿でござるな」

「あ、あぁ」

 

ニコニコとしながら突然尋ねられたので、曖昧な返事で返した。

 

「おっと、自己紹介がまだであったな拙者は………」

「危ない!」

 

それまで黙って見ていた、騎士たちが突然襲いかかってきた。

だが、女の人はそれに気づいていた様子で、一瞬で振り返ると同時に、右手に持っている長剣でなぎ払った。

 

「いや~、助かったでござるよ勇者殿」

「いや、俺は何も……」

「とうちゃァァァァァァァァく!!」

 

室内に清々しい程の咆哮が響き渡った。

今度は何だ、と思い声の方に目をやると、自分と同い年くらいの蒼の服を身にまとった、犬耳の少年がいた。

 

「おお! ガウル殿下も来てくださったんでござるか!」

「あたりめーよ! それに俺だけじゃねーよ」

 

ユキカゼが現れた少年を見て歓喜していと、少年は後ろを親指で指した。

 

「ユッキー助けに来たでありますよ!」

「どうやら大変そうだったからな、私たちも力を貸すぞ」

 

少年の後ろから、小柄で活発的な少女と背はツナより同じくらいの耳が垂れているの少女がいた。

 

「リコ! エクレ!」

 

ユキカゼが先ほどよりもさらに嬉しそうな顔をしている。

 

「二人とも来てくれて助かったでござる」

「気にするな私たちが来たいと思ったから来ただけだ」

「そうであります。気にすることはないであります!」

「盛り上がっているとこ悪いが、そろそろいいか」

 

ゆっくり話もしたいだろうが、今は状況が状況だ。

 

「そうだぜ、今はとにかくこのゴツイ奴等を片づけるのが先だ」

 

銀髪の少年も目の前の騎士たちを見ながら続けて言った。

3人はその言葉に頷き戦闘態勢をとる。

 

「それじゃ、行くぜ!」

 

少年の掛け声と同時にツナ達は駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

「これで、最後だ!」

 

ツナは力を込めた拳を騎士の顔面めがけて放った。

 

「ふぅ、これで、大体片付いたな」

 

ツナは死ぬ気モードを解き周りを見渡しながら言った。

敵の騎士たちは、昨日と同じで意識を失うと泥になり崩れ去った。

敵が居ない事が分かると銀髪の少年が近ずいてきて突然

 

「自己紹介だ」

 

と言ってきた。しかも満面の笑顔で。

 

「俺はガレット獅子団領国王子ガウル・ガレット・デ・ロワだ。気軽にガウルって呼んでくれ」

「え、お、俺は沢田綱吉。ツナでいいよ」

「そうか、よろしくな」

 

ガウルと名乗る少年と挨拶程度の握手を交わした。

 

「私はビスコッティ騎士団エクレール・マルティノッジだ。よろしく頼む」

「私はビスコッティ学術研究学院主席リコッタ・エルマールであります!これからよろしくであります勇者殿!」

 

ガウルの後に続いて、二人の少女が自己紹介をしにきた。

エクレールは礼儀正しく、リコッタは元気な声で敬礼じみた事をしていた。

 

「うん。よろしく」

 

ツナは二人の少女にそう答えた。

 

「拙者はビスコッティ自由騎士ブリオッシュ・ダルキアンでござる」

 

最後にユキカゼにお館さまと呼ばれていた女の人が名乗った。

 

「よ、よろしくお願いします」

 

先ほどまでとは違い、ツナは緊張した様子で答えた。

 

「あはは、そんなに緊張しなくていいでござるよ」

「あ、はい」

 

そう言われても、緊張してしまう自分が少し情けなく感じてしまうツナであった。

 

「ひとまず自己紹介も終わったことで、一体何があったか教えてくれねーか」

「え? 知ってて助けに来たんじゃないの?」

「あー、それがなぁ、俺たちもよくわからないで着ちまったんだよ」

 

ガウルが何故か照れくさそうに頭を掻いていた。

 

「それじゃ一体、誰に教えてもらって来たの?」

 

ツナは疑問に思っている事をガウルに投げかけた。すると……

 

「それは拙者が教えたでござるよ、沢田殿」

 

声がした方に目をやると、ユキカゼが右手を上げニコニコしていた。

 

「ユキカゼが教えたってどうやって?」

「なに、大したことではないでござるよ、ホムラを使ってお館さんに救援を求めたでござるよ。しかし、時は一刻も争うもので、あまりなく詳しい事情は伝えられなかったでござる」

「なるほど……ん? ホムラって?」

 

ツナは納得したようだが、先程とは別の疑問を言葉に出した。

 

「この子の事でござる」

 

そう言うと、ユキカゼはヒョイと一匹の白い犬を持ち上げた。

 

「うわっ!」

 

ユキカゼが見せてきた犬に、ツナは驚きの声を上げ地面に尻もちをついた。

 

「どうしたでござるか、そんなに驚いて?」

「………」

 

言うか言わないか迷った様子を見せると、ようやく口を開き、

 

「……俺犬苦手なんだ」

 

などと、何とも情けない事を頬から汗を流しながら言った。

いくら苦手と言ってもここまで露骨に驚くものだろうか、だがその駄目っぷリこそが、沢田綱吉なのだ。

 

「苦手って……、かわいいでござるよ」

 

ユキカゼは、少し頬を膨らませ、可愛い事を主張するように犬をツナに近づけてきた。

だが、ツナはユキカゼが近づくに連れ、地面に手を付けたまま後づさる。

 

「ちょ……ユキカゼさん……マジでやめて!」

「ナッツは大丈夫なのに、どうしてホムラは駄目でござるか」

「いや、ナッツは別なんだって!」

「何が別でござるか、かわいいのに違いなんてないでござるよ!」

(何でそんなに真剣!)

 

ツナが嫌がるたびに、ユキカゼの言葉が熱を帯びていく、このままじゃまずいと思いツナは、助けを求めるため、皆に目をやると、エクレールは何をやっている、と呆れかえった表情、リコッタやダルキアンは、ニコニコした様子でツナ達を眺めて、ガウルに至っては、腹抱えて爆笑している。

視線をユキカゼに戻すといつのまにか、目の目まで来ていてツナは見上げる形になっていた。

 

「わ、分かった! 可愛いのは分かったから!」

「分かればいいのでござる」

 

ユキカゼが満足そうな表情をして、何とか切り抜る事ができた。

 

「それでは沢田殿、抱っこしてみるでござる」

 

いや、できなかった。

安堵して止まっていた汗がまた噴き出した。

ツナは、これはもうやるしかないのか、と半場諦めていると、突然何人かの悲鳴に似た声が聞こえた。

 

「うわぁぁぁぁぁ!」

「どいてくださぁぁぁぁぁぁぁい!」

「………」

 

その声がする方向に振り返ると、何人かの少女がもの凄いスピードでツナに突進してきた。

 

「いたたっ……」

「速すぎましたね……」

「痛かった……」

 

少女たちはツナがクッションになったから、それほど痛くない様子だった。

そのツナはというと、目を回して気絶していた。

 

 

 

 

 

 

あれから、数分してツナは眼を覚ました。

 

「えっと……あの子達もユキカゼの知り合い?」

「はいでござる。この者たちはガウル様直属親衛隊ジェノワーズでござる」

「そして、三人ともバカだ」

 

ユキカゼはニコニコとエクレールは呆れて言った。

今ジェノワーズと呼ばれる少女たちは、ガウルに正座させられ説教を受けている。

どうやら、こっそりガウル達の後を追って来て、そしたら道に迷ってしまい、やっとのことで城を見つけたが、どうやって登場しようか考え、ここは、インパクトが必要という結論に至り、さっそうと登場しようとしたら、足を引っ掛け転んだ勢いでツナに突っ込んだらしい。

ツナとしては、彼女たちのおかげで、ユキカゼの犬攻撃から逃げることができたから、そこまでしなくていいのに、と苦笑しながら思っていた。

そんなことを思っていると説教が終わったのか、少女たちが立ち上がりツナに近づいてきた。

 

「すまんかったなぁ……」

「ごめんなさい……」

「ごめん……」

 

それぞれ、申し訳なさそうに謝ってきた。

 

「いや、そんなに痛くなかったし、そんなに気にしなくていいよ」

 

あまりにも落ち込んでいたので、そう言うと、ジェノワーズの三人は、

「あ、そうなん、ならよかった」

「安心しました」

「よかった」

「切り替え早!」

 

ここまで早いと思わず、つっこんでしまった。

 

「ウチはジョーヌや。よろしくな」

「私はベールと言います。よろしくお願いします」

「私はノワール。よろしく」

 

そんなことも、気にせずいきなり自己紹介をしてきた。

元気で明るい子、おっとりした子、無口そうな子、一目で分かるほど三人共個性的な子だった。

ツナも自己紹介をしようと口を開けようとしたら、

 

「「「三人そろってガウ様直属親衛隊ジェノワーズ!!!」」」

 

戦隊ヒーローが登場シーンする決めポーズに似た事をしてきた。

ツナはそれを見てどう反応していいかわからず苦笑い、エクレールとガウルは額に手を当て、頭が痛い、と呆れて、他の三人は温かい目で見ていた。

 

「えっと……俺は沢田綱吉、ツナでいいよ」

「「「よろしく~」」」

 

ツナは、三人の元気すぎる声に少し後ずさった。

 

「なぁ、さっきから思ってたんだけど、戦っている時と少し……いや大分雰囲気違うよな」

 

自己紹介が終わって、ひと段落と思っていたらガウルが横から突然聞いてきた。

確かに、今のツナは超死ぬ気モードの冷静な雰囲気とは違い、おどおどした様子だから。

それに、ユキカゼも何故か興味津々に見ていた。

 

「あ、えっと……それは……」

 

ツナは自分でもうまく説明することができず、あたふたしていた。

 

「この死ぬ気丸ってのを飲んだからなんだ」

 

ツナは死ぬ気ガンが入っているビンを見せた。

実際これを飲んだから、あんな風になったんだから、嘘はついてない。

 

「へぇ~、やっぱ地球の道具って変わってんだな」

「なるほど、そうだったんでござるか」

 

あれ、これだけ納得してくれたの、と少し驚いた。

もっと追究してくると思ったが、なんだかすんなり納得してくれた。

 

「それじゃ、そろそろ何があったのか教えてくれぬでござるか」

「分かりました」

 

その後ツナは、何故自分が呼ばれたのか、昨日何があったのか、をダルキアン達に説明した。

 

「なるほど、そういうことでござるか」

「まさか、そんな大事だったとは」

「とっても大変な事であります」

「それぁ、まじぃ状況だな」

「うん。だから皆に改めてお願いがあるんだ」

 

その場にいる者たちが口々に言った。

そして、ツナはその場にいる全員を見渡し続けた。

 

「危険だと思うけ俺達に力を借してください!」

「あい分かった」

「え、そんなあっさりでいいんですか!」」

 

神妙な顔つきで言ったのに、あまりにもあっさりとした答えにツナは驚いた。

 

「いいにきまってんだろ、他国とは言え困った時はお互い様だろ」

 

その言葉に、その場の全員が頷いた。

 

「皆……ありがとう!」

 

ここにいる人たちは本当にいい人ばかりだ、ツナは改めてそう思った。

 

「それじゃ皆の者、姫様奪還に行くでござるよ」

「「「おおぉぉ―――!!」」」」

 

ダルキアンの掛け声に続き、全員が元気よく叫んだ。

 

 

 

 




どうでしたか、次回から戦闘を入れれるように頑張ります。
感想お待ちしてます。


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それぞれの戦いと任せる背中

初めに投稿が遅れてすみませんでした。
パソコンの調子が悪く、修理に出していたため先週の投稿ができませんでした。
それから、今回はあまり進まない話です。
では、どうぞ


はーツナ達は一本道の廊下を走っていた。  

廊下は先程までいた殺風景な場所と違って、絨毯はきれいに敷かれて、窓が複数あり光が差し込む。

 

「たく、どんだけ長ェんだよ」

 

走りながらガウルがため息混じりに言った。

確かに先程からこの道を走っているが、さっきみたいな広場は見えてこない

 

「そうだ、ツナ聞きてぇ事があるんだけどいいか」

「? 別にいいけど何?」

 

ガウルは何か思いだしたかのように話題を変えてきた。

 

「さっきの広場で戦ってる時使っていた炎って、紋章術の一種か」

 

ガウルが聞いているのは、ツナが使っていた死ぬ気の炎のことだろう。

 

「えっと……俺が使っていたのは死ぬ気の炎っていうのなんだけど」

 

なぜか、申し訳なさそうに言うツナ。

 

「死ぬ気の炎? 聞いた事ねぇな。誰か聞いたことあるか?」

 

ガウルは他の皆に尋ねてみるが、全員知らないらしく首を横に振った。

 

「ダルキアン卿まで知らないってことは……あの力ってお前の世界の力なのか、どんな力なんだ」

 

ガウルは段々死ぬ気の炎に、もといツナの力に興味を持ったようだ。

他の皆も、興味があるようで、こちらを見てる。

 

「う~と、俺が知っている限り死ぬ気の炎って言うのは、生命エネルギーを使っているんだ。そして、死ぬ気の炎には、「大空」「嵐」「雨」「雲」「晴」「雷」「霧」 の7種類の炎があってそれぞれ特徴があるんだ。俺が使っているのは、大空の炎で、大空の特徴は「調和」。分かった?」

 

ツナは一通り説明を終え、理解できたかガウルに尋ねた。

 

「その「調和」ってなんなんだ?」

「え~と、「調和」っていうのは、全てに染まりつつ全てを包容するって、意味だったと思う」

「う~ん、分かったような分からないような」

 

ガウルは首を少し傾げている様子だ。

 

「それじゃ今度は俺が聞いていい?」

「ん?なんだ?」

「紋章術って、なんなの?」

 

ツナは今までの戦いで、それの名前をよく聞いていたが、どんなものか理解していなかった

 

「なんだ知らなかったのか」

「うん」

「う~ん、俺説明とか苦手だから、エクレール任せた」

 

ガウルはエクレールに指を差した。

エクレール本人は、自分が指名された事に少し驚いた様子だが、すぐに元の表情に戻り説明し始めた。

 

「紋章術とは、元々この大地、フロニャ力を自分の紋章に自分の命と混ぜ合わせ変換したエネルギー、輝力を使っているんだ。しかし、命と混ぜ合わせるからといっても、人体に影響はない。そして、その輝力の力を使って発動するのが、紋章術という。だが、紋章術は強力な分疲労もかなりある。といっても、お前には関係ないか。後は紋章術の他にも輝力を活用してできる事もある。先程の土人形のようにな」

「な、なるほど」

 

エクレールの説明を聞いて、ツナはなんとか理解できた様子だった

 

「お、広場が見えてきたであります」

 

リコッタの言葉にツナは前を向いた。

そして、ツナ達は広場へと出た。広場は噴水が真ん中にあり、辺りには緑の芝が広がっていた。

 

「なんや、誰もおらんやんけ」

 

ジョーヌが前に出ると次の瞬間、地面いっぱいに紋章が表れたと思うと、次々と騎士たちが出現してきた。

 

「な、何!」

 

ツナ達はそれぞれ戦闘態勢を取った。

すると、ダルキアンが一歩前に出て言った。

 

「ここは拙者に任せるでござる」

「え、駄目ですよ一人でなんて!」

 

ツナはダルキアンの言った事に反論する。

 

「見たところ、この紋章術は、使っている本人を倒さなければいつまでも出現し続けるでござる。だったら、ここはあ奴等の足止めをするため、囮役として誰かが残らなければならない、だから拙者が残るでござる」

「で、でも……」

 

ダルキアンの言っている事は分かる、でもやっぱり一人で戦わせるわけにはいかない、ツナが思考錯誤してるのを見ると、ダルキアンはやれやれといった表情をしていた。

 

「勇者殿、お主は優しいでござるな。でも、心配はいらないでござる。拙者を信じてくだされ」

 

ダルキアンはツナの不安を取り除くかのような笑顔をしていた。

 

「……分かりました。だけど、無茶はしないでください」

「御意にござる」

 

他の皆も異存はないようだ。

 

「それじゃ、拙者が道を作るでござる」

 

ダルキアンはそう言うと、右手を腰に台頭している刀に手をかざす。

 

「烈空一文字!」

 

その掛け声とともに鞘から刀を抜刀した。すると、目の前の騎士達は、まるで紙のように吹き飛びツナ達の前に道が作られた。

 

「今のうちでござる!」

「あ、はい!」

 

ツナ達はダルキアンの力に驚きながらも、ダルキアンに急かされ走り出した。

 

「勇者殿! アクア姫を頼んだでござる!」

「はい!」

 

それだけ言い、ツナ達は走り去っていった。

 

「さてと、ここから先は通さないでござるよ」

 

 

 

 

 

 

 

「この廊下もさっきと同じ作りのようだな」

 

エクレールの言う通り、この廊下は先程通った所と遜色なかった。

 

「ってことは、この先もさっきみたいな広場に出るってことか」

「………」

「ダルキアン卿の事を考えていたのか」

 

今まで一言も発していないツナに、エクレールは聞いてきた。

 

「……うん。ダルキアンさんが強いのは、さっきの一撃で分かったんだ。でも、やっぱり……」

「ふん、ダルキアン卿を甘く見るな、あの人は本当に強い人だ。実力だけなら私なんかじゃ歯が立たない程に、でも、それだけじゃない、あの人は今自分が何をするべきか知っている。だから、私はダルキアン卿を信じている。それにお前は、私たちに力を貸してくれ、と言ったではないか、だったら、私たちを信じろ」

 

ツナはエクレールの話を聞き、少し表情を緩めた。

 

「……うん。ありがとうエクレール」

「わ、わかればいいのだ。わかれば」

 

エクレールは照れた様子で、顔をツナから背けた。

 

「広場見えてきた」

 

ノワールの声と共にツナは目を前に戻した。

 

「またいきなり、出てくるんやないかー」

「それでも、行かなくちゃ」

「ふっ、その通りだ勇者」

 

ツナ達は広場へと勢いよく出た。

 

「おい、おい」

「な、なんでありますか、これ……」

 

一同は目の前の光景に冷や汗を流している。

なんたって、目の前には、

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

数十メートルはあるだろう、石でできた巨人がいるから。

 

「ひぃぃぃ、な、なんなのこれー!」

 

ツナは先ほどの吹っ切れた表情とは一転、情けない表情になっていた。

ツナ自身ゴ―ラ・モスカという、巨体と戦った事はあるが、それでもせいぜい2メートル弱、ここまで大きい敵とは戦った事はない。

 

「これはたぶん、土人形を作った紋章術の応用でござろう。しかし、ここまで大きいとなると……」

 

ユキカゼは、この巨人ゴーレムの事を見極めようとしているが、やはり対応策は思いつかないようだ。

 

「先に行け、勇者」

 

エクレールは先ほどダルキアンがしたように、皆の前に出た。

 

「な、なにいってんだよ、こんなのはさすがに……」

「勇者、私がさっき言った事を忘れたのか」

「……だけど」

「大丈夫でありますよ。私も残るでありますから」

「うちらも、残ったる」

「……みんな……」

「行こうぜツナ。ここはこいつらに任せてよ」

「ガウル……。分かった行こう」

 

話はまとまったようだが、ゴーレムはそんなことお構いなしにツナ達に迫ってきた。

 

「勇者。私が合図したら一気にあの通路に走れ」

「う、うん」

「大丈夫でござるよ。拙者達も付いているでござるから」

 

少し緊張した様子のツナにユキカゼが、そっと手を肩にをのせた。

 

「そうだぜ、ツナ」

 

ガウルも続いて反対側の肩に手をのせた。

ツナは二人に目をやり力強く頷いた。

 

「では、いくぞ!」

 

そう言うとエクレールとジェノワーズの3人は、ゴーレムに駆けだした。

ジェノワーズの3人は、少しエクレールの前を走り、ゴーレムの前まで近づいたところでベールとノワールだけ停止し、残りのジョーヌはゴーレムの左の足にそのまま突っ込み、自分の獲物のハンマーで全力で叩いた。

 

「それゃぁぁぁぁぁ!!」

 

するとゴーレムは、少し左の重心が傾いた。

それを、狙っていたかのようにエクレールは、ノワールとベールの肩に乗りゴーレムの顔面が目の前の所まで飛び上がった。

 

「輝力解放! 光輪・風牙10連!」

 

エクレールは二刀の短剣目の前でクロスさせると、短剣が伸び、ダルキアンが使ってのと同じくらいの長剣へと変わり、顔面を連続で斬りつけた。

 

「ぐぉぉぉぉぉ!」

 

ゴーレムは叫び声をあげると、よろめいている。

 

「今だ行け!」

 

ツナ達は頷き、そのままゴーレムの足元を駆け抜けて行った。

ツナは振り返ると、

 

「皆頼んだよ!」

 

返事は返って来なかったが、きっと大丈夫だろう、ツナはそう信じ通路へと駆けだしていった。

 

 

 

 

 

 

 

「たく、また同じ通路かよ」

 

ガウルがうんざりだ、と言わんばかりに愚痴をこぼした。

 

「いつになったら、アクアのいるところに着けるんだろう」

 

ツナも少しため息混じりに言った。

 

「まぁまぁ、二人とも」

 

ユキカゼはなだめるように言った。

 

「そういえばツナ、昨日お前が戦った奴ってどんな奴なんだ」

「……昨日戦ったのは、狼耳のクロノスさんって人だった」

 

ツナは、クロノスの事で考えるところがあるのか、少し表情を曇らせて言った。

 

「? どうしたんだ、何か言いにくいことだったのか?」

 

ガウルもツナの様子に気づいたようだ。

 

「うんん。そんなんじゃ―――」

 

ドゴォォォォン!その音と共に突然目の前の道が破壊された。どれくらい破壊されたのかは煙のせいで分からなかった。

ツナ達は、何が起こったのか分からない様子だが、それぞれ身構えた。すると、突然鎖のようなものがユキカゼを捕えた。

 

「なっ!」

「一体何!」

 

ユキカゼは鎖を振りほどこうとするが、鎖の力が強いのか、びくともしなかった。

ツナとガウルも手伝おうと鎖に掴むが、鎖はもの凄い力でユキカゼを煙の方に引きずって行く。

 

「ユキカゼ!」

「くそ、なんだよこれ!」

「くっ! 駄目でござる二人とも、このままじゃ一緒に巻き込まれてしまうでござる」

「何言ってんだよ!離すわけないだろ!」

「ツナの言うとおりだぜ」

「二人とも……」

 

ツナとガウルは力の限り引っぱっていると、二人が引っぱっている鎖の何かに切断されたように切れた。

 

「ユキカゼぇぇぇぇぇ!」

 

ツナはユキカゼに自分の腕を伸ばしたが、その手は届く事はく、ユキカゼは煙の方に引きずられていった。

 

「くっ!」

「安心しな、あの女な無事だ」

 

煙の方からする声に、はっと顔を

 

「よぉ、また会ったな―――沢田綱吉」

 

煙の中からは、先日ツナが戦った狼耳が特徴的な男、クロノス・ルドルフがいた。

だが、雰囲気が昨日とは違い不気味な笑みなどは浮かべていない。

 

「……クロノスさん」

「どうやら、こいつが昨日ツナと戦った奴みてーだな」

 

ガウルもすぐさま状況を理解した。

 

「ユキカゼが無事って、どこに連れていかれたんですか」

「どこに連れて行かれたかは教えられねーな。助けに行きたかったら俺を倒して行け沢田綱吉」

 

ツナは仕方がないという様子で死ぬ気丸を飲んだ。

しかし、ツナが一歩前に出ようとすると、ガウルがそれを静止した。

 

「ツナお前は、ユキカゼを助けに行ってやれ」

 

ガウルの目を見て言葉を返した。

 

「いいのか」

「あぁ、任せろって」

「分かった。ガウル恩にきる」

 

ツナはそれだけ言うと、自分が立っている地面を壊しそのまま下に消えて行った。

クロノスはツナの突然の行動に何もできなかく、後を追おうとしたが、ガウルがそれを許さなかった。

 

「おっと、後は追わせないぜ」

「そこをどけ、俺が戦いたいのは沢田綱吉だ」

「どけって言われてどく奴がいるかよ。そんなにツナとやりてぇーなら俺を倒していけばいいだろ」

 

クロノスの睨みを、ガウルは意にも介さない様子だ。

 

「……だったら、瞬殺してやるよ」

「……やってみろよ」

 

ガウルは棒をクロノスは拳をそれぞれ構えた。数秒の時が流れ、同時に地面を蹴り二人は激しくぶつかり合った。

 

 




どうでしたでしょうか。
次回はもう少し進めていきたいと思っています。


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本当の勝利とガレットの王子

今回も、戦闘描写がうまく書けているか心配です。
それもいいと言う方は、ガウルvsクロノス戦をどうぞ


ガウルとクロノスの力は互角と言っていい、二人の戦いは一進一退どちらも引けを取らない。、

クロノスは素手でガウルの棒を受け流したり、避けている。

 

「なかなかやるなお前」

「へっ、それぁどうも」

 

二人は距離を取りそれぞれ口にする。

 

「………なんでだ」

「? 何がだよ」

 

クロノスの急の問いにガウルは不思議そうに聞き返した。

 

「なんでお前は……お前たちは沢田綱吉に手を貸すんだ」

 

クロノスの表情は何かに苦しんでいるようだった。

それは、先ほど現れた時に一瞬だけ見せた表情と同じものだった。

 

「……別に大した理由なんてねぇーよ。ただ、俺が助けてぇから助けてんだ」

「それだけなのか……」

 

クロノスは分からないという表情をしていた。

 

「人を助けるのにぐちゃぐちゃした理由なんていらねーだろ。ダルキアン卿たちだってたぶんそんなもんだろ。少なくとも俺はそうだ」

「……お前は自分の意思をちゃんと持ってんだな……でも俺は自分の気持ちが分からないんだ!」

 

クロノスは自らの手で胸の服を強く握りしめ悲痛な表情で叫んだ。

それはまるで、暗闇の中で出口を見失った子供のようだった。

ガウルはクロノスの咆哮に驚いていた。

 

「沢田綱吉が言った言葉が俺を迷わせるんだ、だから、俺はあいつに勝って、自分自身の答えを出さなきゃいけね-んだ!」

 

クロノスの表情が苦痛から怒りへと変わっていく

ガウルはその迫力に気押され少し後ずさった。

 

「俺は沢田綱吉と戦う。だから………邪魔をするなぁぁぁぁぁ!」

 

クロノスは辺りが振動しているのではないかと思うくらいの咆哮を発した。そして、さっきまでとは比べ物にならない速さで、ガウルに駆けだした。

ガウルはその速さに一瞬反応が遅れたが、クロノスが繰り出す拳をなんとか棒で防いだ。しかし、速さの推進力が加わりガウルは耐えきれず、吹き飛び壁に激突した。

 

「がっ!」

 

ガウルはたまらず吐血した。

 

「気を抜かない方がいいぞ。この辺はフロニャ力の加護が弱いから、怪我だけじゃすまねーからな」

「へっ……ご忠告どうも。でも、初めっからそんなのに頼っちゃいねーよ」

 

ガウルは棒は折れたものの、さほどダメージはないようで、不敵に笑った。

 

「そうか。だが、お前の武器は壊れた。これで終りだ」

 

クロノスはそれだけ言うと、先程と同じ速さでいっきにガウルに近づき、拳を振るった。その拳はガウルに直撃――――――――

 

「何!」

 

―――――――しなかった。

ガウルはその拳をギリギリのところで掴んでいた。

 

「残念だったな。俺も素手の方が得意でな」

「……今まで手を抜いてたのか」

「別にそういうわけじゃねーんだけどよ。まぁでも、それはお前もだろ」

「ふっ」

 

クロノスは掴んでいる手を振りほどき、距離を取った。

 

「お前、自分の気持ちが分かんねーとか言ったな。でも、それはいけねーことなのか」

「……なんだと」

「気持ちなんて、永久に変わらないわけじゃねー、その場その時それぞれ違うんじゃねーの。それでも嬉しい気持ち、悲しい気持ち、そうゆう気持ちを一瞬でも感じる事が大切なんじゃねーのか」

「………」

「お前は迷う事がない答えがほしいんだろうが、そんなものねーよ。人ってのは、どこかで自分の出した答えに不安を持っているんだ、それでも自分を信じることでその答えが自分の気持ちになっていくんだ。答えは誰かに聞いて教えてもらうものなんかじゃねーんだよ。喜んで、悲しんで、笑って、泣いて、いろんな人たちと、仲間と一緒にいることで答えを出すんもんだろ。少なくとも俺はそう思う」

 

ガウルは自分の言いたい事を言うとクロノスの反応を見ていた。

数秒の沈黙の後、クロノスは口を開いた。

 

「……黙れ」

 

クロノスは小さく、だがはっきりと聞こえる声で呟いた。

 

「黙れ黙れ黙れ黙れ! お前の戯言なんか知ったこっちゃねー! 戦え戦え戦え戦え――――俺と戦え!」

 

クロノスはただ叫んだ。意識はあるようだが、もうそこにはまともな意思はなかった。

 

「はぁ~、しょうがねーな俺がてめーの目を覚ましてやるよ」

 

ガウルはびしっとクロノスに指をさして、拳を構えた。

 

「俺はガレット獅子団領国王子ガウル・ガレット・デ・ロワお前は?」

「戦え戦え戦え!」

 

クロノスはすでに戦うことだけしか考えていなく、ガウルの問いが耳に入っていないようだ。

 

「おいこら! こっちは名前教えたんだかお前も教え―――」

「戦え!!!」

 

クロノスはガウルの言葉など無視して、突然飛びかかってきた。

クロノスは右腕をガウルに振りおろしたが、ガウルはそれをギリギリでかわした。しかし、振り下ろされた拳は地面を粉々に砕き、ガウルはそれを見て青ざめた。

 

 

(な、なんだよこの力。さっきとは段違いの威力だ。こんなのくらったら……)

 

ガウルは自分が、あれをくらった時のことを想像してゾッとした。

ガウルは一旦距離を取ろうとするが、クロノスはそれを許すことはなく追撃してくる。

スピード自体は先ほどより遅くなっているが、それでもギリギリ避けるのがやっとである。

だが、クロノスの攻撃は一発一発が大振りで単調で、ガウルは大体の攻撃パターンを理解した。

クロノスが右を大振りで振りぬくのを、しゃがんでかわし脇腹に拳を叩きこむ。

力が強くなったと言っても、身体が頑丈になったわけではなく、これを何度か繰り返すうちに、クロノスのスピードはさらに遅くなった。

このままいけるとガウルは確信した時、突然クロノスは攻撃の手を止め後ろに跳んだ。

 

(くそ、後少しで倒せたのに、どうするここは追い打ちをかけるか……いやさっき程の荒々しさがなくなって妙に静かになった。ここは様子を見たほがよさそうだな)

 

ガウルは、野生のカンに似た感覚で様子を見るようにした。

すると、数秒後にクロノスの右腕に黒いエネルギーが纏っていった。

 

「いいぞ……もっと俺と戦え」

 

クロノスは先程とは打って変わって、冷静に淡々と呟くが、瞳は虚ろで、戦う事しか見ていない。

 

(なんだあれぁ、黒々としてるけど、輝力を使ってんのか……まぁ、なんにしても)

 

「俺も輝力を使えばいいだけの話か! 輝力解放! 獅子王爪牙!」

 

ガウルは紋章術を発動させ、輝力のエネルギーまとい、腕や足に鋭い爪をまとわせた。

 

「よっしゃ、こっからは派手に行くぜ!」 

 

今度はガウルが先に仕掛けた。

ガウルは爪による連続ラッシュをして、クロノスに反撃する隙を与えないようにした。

クロノスは右腕は使わず、左腕で受け止めたり、避ける行動をとるが、少しだが確実にダメージをくらっている。

 

「おらおらどうした! その右腕に付いているのは飾りか!」

 

ガウルが優勢に立っている状況だ。そして、クロノスは不気味に思うほど無表情であった。

 

「こいつで終りにいてやる!」

 

ガウルがフィニッシュ宣言を言い、クロノスを空中に浮かせるように叩き上げた。クロノスはなすすべなく、浮かされた。

そしてガウルは、足に力をため、力いっぱい地面を蹴って飛び上がった。

 

「天雷――――」

 

ガウルはクロノスの上野天井に両手をつけ、両足にエネルギーを収縮させた。

 

「―――――爆砕陣!」

 

そして、両腕の反動を使いクロノスに向かって、蹴りこんだ。だが、クロノスは右腕を構え、対抗しよとした。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!」

 

お互いの力がぶつかり合い激しい衝撃が生まれた。しかし、その衝撃に耐え切れずガウルは天井に衝突した。

 

「がっ………」

 

そして、そのままゆっくりと地面に落ちて行った。

 

「戦え……戦え…戦え……」

 

クロノスは、倒れたままのガウルにゆっくりと近づいて行った。

 

「ははっ……慌てんなって……」

 

ガウルは顔をしかめながら痛みに耐え立ち上がった。

 

「戦え……戦え……戦え……」

「………」

 

だが、クロノスはただ戦いを求めて近づいてくる。

しかし、そんなクロノスを見て、ガウルの何かが切れた。

 

「いい加減にしやがれ……」

 

ガウルは静かに怒りを混ぜ言葉を発した。

 

「戦え戦えうるせーんだよ。何で全部放り投げて、自分自身から目逸らしてんだよ……何楽な方に逃げようとしてんだよ。……お前は力を何のために手に入れたんだよ!」

「お前は何のために戦うんだよ……自分のためにか? 違うだろ! 自分のためだけの奴がこんなに悩むわけねー、こんなに苦しむわけねー、守りたいものがお前にはあるからだろ! なのに………こんなところで迷ってんじゃねーよ!」

 

ガウルの心からの叫びが届いたのか、クロノスは歩みを止めた。

 

「……違う……俺は迷ってなんかいねー……俺はただ戦って勝つだけた」

「その考えが間違ってんだよ! バカ野郎が!」

 

ガウルは再び獅子王爪牙を発動させた。だが、傷は思っていたよりひどく傷み、これ以上の戦闘はかなり厳しいだろう。

 

「この一撃で決めてやるよ」

「………」

 

クロノスも言葉は発しないが受けて立つようだ。

 

「獅子装爪牙!」

 

ガウルは獅子王爪牙によって発生するエネルギーを右腕に集中させた。

 

「行くぞぉぉぉぉぉぉお!」

 

二人は駆けだし、そしてお互いの全力の拳がぶつかり合った。

その衝撃は今のガウルの身体じゃとても受け止めきれないほど、だが、ガウルはそれでも倒れる事はなく、強い意志で戦っている。

 

「俺は勝つんだ……勝つんだぁぁぁぁぁ!」

 

クロノスの気迫に押され後ろに押されてしまう。

 

「お前の勝利ってなんだよ……力で敵を叩きのめすことなのか……違ぇだろ……最後に最高の笑顔ができる奴が勝ちだろ!!」

 

全ての力を、自分の思いを、拳に乗せ、ガウルは拳を振り切った。

そして、クロノスはその力を受けきることはできず、後方に吹き飛び壁に衝突し、壁は壊れた。

ガウルは全ての力を出し切りその場に倒れた。

 

「なんで……お前達は強い……」

 

ガレキの方からクロノスの声が聞こえた。意識はあるようだが、もう満足に戦う事はできそうにない声だった。

 

「別に強くなんかねーよ……ただ、お前には勝たねーとって思っただけだ」

「なんだそれ、それだけの理由に俺は負けたのか……」

「あぁ、負けたんだよ」

「……そうか、負けたんだな」

 

クロノスの表情は今まで見た中で、小さいが一番穏やかな顔だった。

 

 




どうだったでしょうか。
これから、戦闘シーンが少し続いてしまいます。こういう時、戦闘描写がうまく書ければと、自分の力不足に、泣けてきます(-.-)


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鎧武者と忍者

かなり久しぶりの投稿です。
久しぶりに書いたのでうまく書けず、時間がかかりました。
それでは、どうぞ。


エクレール達はゴーレムと死闘を―――

 

「ぎゃああああ! 無理無理無理やっぱりこんなにでかい相手と戦うのは無茶すぎるわ!」

「今すぐ逃げ出したい……」

 

―――繰り広げてはいなかった。

 

「そこのバカ二人、逃げてばかりいないでちゃんと戦え!」

 

ノワールとジョーヌはゴーレムの攻撃をかわしながら、ゴーレムから逃げ回っている。

 

「あほ! こんなのとまともにやれるか!」

「エクレ一人でやればいい」

 

二人は走りながらエクレールに抗議する。

 

「それができるなら最初からお前らなどに頼ったりせん! 悔しいが一人じゃ無理だから言っているんだ!」

「だとしても、なんでうちらが前線なんや!」

「しかたないだろ、前線で戦う者がいないと、後衛が機能しないんだから」

 

そう言うと、エクレールは後ろに目線を促した。

そこには、リコッタとベールがそれぞれ、砲撃と弓矢でゴーレムを攻撃している。

 

「はぁ~、分かったやればいいんやろやれば」

「ファイト、二人とも」

「「お前もな!」」

 

ノワールがまるで他人事のように親指を立てるが、二人に一蹴された。

 

「にしても、どうするんやこいつの装甲硬い上に、壊せたとしてもすぐに直ってしまって、実際打つ手なしや」

「別に倒す必要はない。あくまで私たちはこいつを操っている術者を沢田達が倒すまでの時間稼ぎだけでいいんだ」

「なんやそれやったら、別に戦わなくてもええんやないか!」

「そうだそうだ」

「例え時間稼ぎでも、騎士が逃げ回るなどできるわけなかろう!」

「そうだそうだ」

「「お前はどっちの味方だ!」」

「あっ」

 

ノワールは、そんな二人を気にすることなく、二人の後ろに指を差す。

二人は指を差された方を振り返る。そこには今にも拳を振り下ろそうとしている、ゴーレムがいた。

 

「だぁぁぁぁ!」

「のぁぁぁぁ!」

 

エクレールとジョーヌは危機一発でゴーレムの一撃を回避した。

 

「危なかった! ほんま危なかった!」

「ノワール! 貴様もっと早く教えろ!」

「そんなこと言ってる暇があるなら逃げた方がいいよ。次来るから」

 

その言葉と共に二人はまた慌ててゴーレムの攻撃から逃げる。

そんな姿を少し離れているベールとリコッタは苦笑いしながら見ていた。

 

「くそ、早くどうにかしろ沢田ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

この場にいない人物の名前が広場に木霊した。

 

 

 

 

 

「……うっ、ここは……」 

 

ユキカゼは誰もいない場所で目を覚ました。

 

「……っ!」

 

ここがどこなのか調べるため立ち上がろうとしたが、引きずり込まれた時、地面に叩きつけられたため、体中に痛みが走り少しよろけた。

 

「おっと」

 

バランスを崩しかけた時、誰かが後ろから支えてくれた。その本人を確認するため振り返ると、ユキカゼはすぐにその人物から離れた。

 

「な、なんでお主がここにいるでござるか……」

「私がここにいるのがそんなに不思議ですか?」

 

今ユキカゼの目の前にいる者は昨夜ユキカゼが対峙したアイゼンであった。

 

「そんなことを聞いてるのではないでござる!」

 

ユキカゼは目の前の不敵な笑みを浮かべてる者を睨みつける。

 

「ふふっ、そんなにお怒りにならないでくださいよ。私は今あなたに危害を加えるつもりはありません」

「だったら、何故に拙者をここに連れてきたでござる」

「私は別に貴方に用などありません。用があるのは沢田綱吉ですよ。そのために貴方にはエサになってもらいます」

 

アイゼンは今だその笑みを崩さず、ユキカゼに言った。

ユキカゼは少し驚いた表情をすると、すぐさま先ほどと同じくアイゼンを睨みつける。

 

「沢田殿に……、一体何の用でござるか」

「貴方には関係のない事ですよ、隠密隊筆頭ユキカゼ・パネト―ネさん」

「……だったら、お主を倒して無理にでも吐かせるでござる!」

 

ユキカゼはそれだけ言うと、アイゼンの方に駆けだした。

 

「やれやれ、しょうがないお人だ」

 

アイゼンのその言葉を合図に、アイゼンは輝力を目の前に展開させると、突然一体の鎧武者が現れた。

ユキカゼは、それにひるむことなく、鎧武者めがけて蹴りを入れた。

だが、鎧武者はそれをものともせず左腕で受け止め、右手に握っている刀でユキカゼを払いのけた。

ユキカゼは、かわす事は出来たが、刀の刃が頬をかすめてしまい、血が流れている。

 

「くっ、その鎧武者といい広場の土人形といい、やはりお主が人形達を操っていたでござるか」

「ふふっ、さすがに気付きましたか」

「お主が操っているという事は、お主を倒せば人形たちを止める事が出来るという事でござるな」

「そうですよ。ですが、それは倒せればの話です」

「それだけ聞ければ十分でござる!」

 

ユキカゼは、もう一度鎧武者に向かって走り出した。

鎧武者の鎧はとてつもなく硬く、直線的な攻撃ではびくともしない、ユキカゼは先ほどの攻撃でそれを悟り、唯一鎧がない、首の隙間を攻撃しようとした。

相手は重い甲冑を身に纏っている。だとしたら素早い動きにはついてこれないと考え、最大の速さで、一瞬で武者の懐に潜り込んだ。

 

「ここだ!」

 

ユキカゼは、自らの小刀を抜き鎧が薄い隙間を斬った。

 

「なっ!」

 

決まったと思ったが、武者には傷一つなく、逆にユキカゼの小刀が折れてしまった。

武者は自分が攻撃された事を気にも留めず、刀を振り上げ、素早く振り落とした。

ユキカゼは、一瞬の気の緩みのせいで、その攻撃をかわす事が出来ず、とっさに両腕の籠手でガードをした。だが、刀の衝撃があまりに強く、その衝撃を伝い地面にひびが入った。

 

「ぐっ………」

 

ユキカゼから苦しみの声が漏れるが、武者はそんなこと関係なく再び刀を振り上げ、振り下ろそうとする。

次の攻撃は、なんとかかわす事が出来た。

 

「甘いですね。あの隙間はわざと作っているんでよ。あそこは一番狙われやすいため、一番強度なものでつっくているんです。そのようなもので斬れるわけがないでしょう」

「はぁ、はぁ、迂闊だったでござる……」

「どうします。このままおとなしくしてくださるのなら、これ以上の危害は加えませんよ?」

「そんなの……知れた事!」

 

ユキカゼは見るからに辛そうだ。先程の一撃はガードしたもののかなりのダメージがある。もう一度くらえば、終わりだろう。それでも、その目は死んではいなかった。

 

「………そうですか。………残念です」

 

武者はガシャ、ガシャと甲冑は音を立て歩いてくる。

ユキカゼは少し考えて、口を開いた。

 

「……一つ尋ねたいことがあるでござる」

「何ですか?」

「お主らはアクア姫を使って、何をしようとしてるのでござるか」

「………さぁ?」

「さぁ、ってふざけてるでござるか」

 

アイゼンの答えにユキカゼは、納得できないようだ。

 

「ふざけてなどいないですよ。本当に私は知らないのです。ただ私たちは、あいつを手伝っているだけですよ」

「あいつって、クロノスの事でござるか」

「違いますよ。あいつは仲間で、そうですね…………私たちのリーダーみたいなものですよ」

 

アイゼンは笑った。その笑みは今までの笑みとは違い、心からは微笑んでいるようだった。

 

「だったらなぜ、その者の目的をお主が知らないのでござるか」

「それは、私から目的は教えなくていいと言ったからです。あいつはその目的を重く感じて辛そうだった。だから、私はあいつの為戦うのです」

 

アイゼンはしっかりとした眼つきで、ユキカゼを捉えていた。

アイゼン自身の心の中にある。仲間への信頼それはとても純粋なものだった。

そして、数秒の間の後。

 

「お主の仲間への想いは、凄いでござる。でも………でも、やっぱり納得できないでござる!」

 

アイゼンはユキカゼの言葉に、初めて見る驚きの表情をしていた。

そして、元の不敵な笑みを浮かべユキカゼを見た。

 

「………別に貴方に納得してもらう必要はありませんよ。ユキカゼさん」

「そうでござるな。拙者が納得する必要などなかった―――」

「ですが、私が勝ったら、その理由をお聞かせ願いたい」

 

ユキカゼの言葉を遮り、アイゼンは不敵な笑みではなく、先ほど見た心からの微笑みでユキカゼを見ていた。

その言葉と表情にユキカゼもたまらず口元に笑みを浮かべてしまう。

 

「承知!」

 

ユキカゼはそう言うと、武者の方に振り向き、右腕を掲げた。

 

(あの甲冑に弱点などない、それに生半可な攻撃では、逆にこちらがダメージを受けてしまう。だったら今拙者が出せる全力をこの拳に込める!)

 

「地に眠りし琥珀の魂よ、天狐の名の下今集え!」

 

そう叫ぶと、ユキカゼの右拳に蒼い光が集まっていく。

 

「輝力全開放!ユキカゼ式奥義!」

 

そして、ユキカゼは全力の踏み込みをし、光の速さで一直線上をかけ、武者めがけて、思い切り右を叩きこんだ。

 

「龍蓮大破!」

 

武者はその一撃により、後ろにもの凄いスピードで吹っ飛び、石の壁を何枚か突き抜けて行った。

そして、ユキカゼは息を切らしながら、アイゼンの方を見て笑った。

 

「拙者の勝ちでござるな」

 

 

 

 

 

 




どうでしたでしょうか。
楽しんでいただけたなら幸いです。


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頼みとあいつ

投稿するのに一カ月かかりすみません(>_<)
なかなか進まなく、こんなにかかってしまいました。
そんなわけで、どうぞ。


「……ふっ、どうやら私の方が、ユキカゼさんを甘く見ていたようですね」

 

アイゼンは、自身が負けたのに、清々しい表情をして目をつぶり上を向いていた。

 

「それでは、約束通り広場の人形たちやゴーレムを止めていただくでござる」

「その必要はないですよ」

「どういうことでござるか?」

「なぜなら、私の人形たちはすでに消えていますから」

「…………へ?」

 

ユキカゼは間の抜けた声を漏らす。

 

「私の体力はもうほとんど使い切っていて、とても人形たちへの輝力供給はできないんですよ」

「そ、それじゃあの武者は……」

 

ユキカゼは先ほど戦っていた武者の事を尋ねた。なぜ武者は消えずにいたのかを。

 

「ですから、武者に私の残りの輝力全てを使ったんです。後、人形達は貴方と戦い始めた時には、もう消えていました」

「なっ、それじゃ拙者を騙したでござるか!」

「騙してなどいませんよ。ただ、教えなかっただけですよ」

 

なんのわびた様子はなく、ニッコリとしている。なんだか今はその笑顔が非常に腹立たしい。

ユキカゼはため息をついた。

 

「食えない男でござる」

「それほどでもないですよ」

「褒めてないでござるよ」

 

ユキカゼはアイゼンをジト目で見た。

そうしてると、後ろの方から声が聞こえてきた。

 

「…………ぜ!…………カゼ!………ユキカゼ!」

 

ユキカゼは振り返ると、遠くにこちらに向かって走ってくるツナが見えた。

 

「沢田殿!」

 

ツナはユキカゼの元まで走ってくると、息を切らしながら、安心した顔をしていた。

 

「はぁ、はぁ、よかった。無事みたいだ……って、なんで昨日の敵が一緒にいるの!」

「ふふ、昨日ぶりですね。沢田綱吉さん。……それにしても、私すっかり貴方の事を忘れていました」

「……右に同じでござる」

 

ツナは驚いた様子だが、ユキカゼは面目ないという顔だった。

 

「え、何が、どういうことなの!」

 

ツナは何がなんだか分からず、ただおろおろとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうことだったんだ」

 

ツナはある程度の事の詳細をユキカゼから聞いた。

 

「でも、アイゼンさんは―――」

「アイゼンでいいですよ」

「あ、うん。アイゼンはなんで俺をおびき出すような真似をしたの?」

 

ツナがそう言うと、アイゼンは通路がある方向を向き、歩き出した。

 

「え、どこに……」

「私についてきてください、理由は歩きながら話します」

 

アイゼンは一度止まり、顔だけこちらを向かせ、ツナとユキカゼを連いてくるよう促した。

ツナとユキカゼは、言われるがまま、アイゼンの後ろにつき歩き出した。

終始無言で歩いていたが、アイゼンが口を開く。

 

「私は試したかったのです。沢田綱吉さん、貴方を」

「試したいって、何をですか?」

「貴方が、あいつを救う事ができるのかをですよ」

「……あの、さっきから出てるそのあいつって、どんな人なんですか」

 

ツナは先ほどから疑問に思っていたことを口にする。アイゼンがここまで信頼してる人はどんなひとなのか、そして、何故この国を襲ったのか。

 

「そうですね……あいつの名前はレイン。私とクロノスにとっての大切な仲間です」

「仲間……」

「はい。だから私はレインの為、貴方を試したかったんです」

「?」

「……どうやらお主は、沢田殿に何かをさせようとしてるのでござるな」

 

ツナがまた分からないという顔をしてると、ユキカゼは今の話の流れで、何かに感づいたらしい。

 

「……やれやれ、ユキカゼさんには本当に敵いませんね」

 

アイゼンは肩をすかすと、その場で立ち止まり、振り返った。

 

「先程も話した通り、私にはレインの目的が何かは分かりません。ですが、彼がこれから起こすことは、彼自身が傷ついてしまうものだと思うんです」

「さっきも聞いてて思ったんだけど、そのレインって人の目的は、アクアじゃないの?」

 

今回の件で狙われたのはアクアであって、目的としては十分なものである。

 

「それはないでござろう。もしアクア姫が目的なら、わざわざこの城に長居する理由はないでござろう」

 

ユキカゼの答えにアイゼンも頷く。

 

「その通りです。レインは何故かここから動こうとしないのです。まるで何かを待っているみたいです。目的も分からないままですが、私の頼みとは、貴方にレインの手助けをしてほしいのです」

「「!」」

 

アイゼンの頼みに二人とも驚いていた。それもそのはず、アイゼンの頼みとは仲間になれ、と言っているようなものだった。

 

「それは無理だよ。俺は貴方達の仲間にはならない。 それに、手助けなんかしなくても、クロノスや貴方が居るじゃないか」

 

ツナの言葉にアイゼンは悔しげな、そして悲しげな表情をして、ツナ達から顔を背け俯く。

 

「だめなんですよ」

 

アイゼンはぽつりと言葉を漏らした。

 

「彼は自らが傷ついても何かを成し遂げようとしている、私だってできるなら、そんな彼のために何でもいいから力になりたいんです。ですが…………私ではだめなんです」

 

常に紳士的な口調であるアイゼンが、その言葉だけは、弱弱しかった。

 

「アイゼンはどうしたいの?」

 

ツナは目を会わせてはいないが、しっかりとアイゼンを見て、先程までおろおろしていた態度とは違い、落ち着いた雰囲気だった。

しかし、アイゼンは答えるどころか、顔を俯けたままだ。

 

「俺がここに来たのは、アクアを助けるため。一緒にいた時間はほんの少しで、かわした言葉だって少ない。助けてほしいから俺をここに呼んだのに、それなのに俺たちを守ってくれた。だから今度は俺がアクアを守るんだ」

「それは拙者も同じでござるよ」

「私は………」

 

二人の迷いのない言葉に、アイゼンは自分の本当の気持ちを探している。自分がしたいと思う本当の気持ち。

少しの間が空きアイゼンは何かを決心して顔を上げ、ツナを見据える

 

「私はレインを助けたい。本当の意味で彼を助けたい。仲間として、いえ友として!」

 

アイゼンの目には先程までなかった光があった。アイゼンは自分の中の希望の光を見つけたんのだ。

その目を見てツナは、安心したかのような表情になった。

 

「それじゃ、行こう。アクアを助けて、レインさんも助ける」

「え、沢田綱吉さん……」

 

アイゼンは口をポカンと広げている。

 

「どうしたの?」

「レインも助けてくれるんですか……」

「当たり前だよ。さっきはアイゼンが、心の弱さを俺の力に頼って埋めようとしたから断ったんだ。助けてって言われた時から、俺は助ける気だったよ」

「何故……」

 

助けてくれるのは嬉しいが、何故そんなに簡単に手伝ってくれるのか、分からなかった。

 

「友達を助けたいって、アイゼンが言ったからだよ」

 

その言葉でアイゼンは少しだけ、沢田綱吉という人間の事を知った、心の優しい少年と言う事を。

アイゼンはそんなツナを見てると、いつの間にか笑みの表情になっていた。

 

「ありがとうございます。沢田綱吉さん」

「今更だけど、フルネームじゃなくて、ツナって呼んでくれないかな。そっちの方が呼ばれ慣れているから楽なんだ」

 

ツナは少し照れながら言った。フルネームで呼ばれるのもいいが、やはりツナと呼ばれる方が落ち着くらしい。

 

「分かりました。それではツナさんと呼びます」

「うん。じゃそれで。ユキカゼもこれからはツナでいいよ」

「いや、拙者は沢田殿でいいでござる」

 

ユキカゼは身体のの前で、両手を交差してバツを作った。

 

「え、何で?」

「何んとなくでござる」

「何それ!」

「ふふふっ」

 

アイゼンはその和む光景を見て、細く笑う。

 

「それでは、行きましょう」

「うん」

 

ツナ達は再び、廊下を歩き始めた。アクアの元へと続く道を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この先です」

 

ツナ達はあの後、数十分歩いて、大きくきれいに白に統一された、扉の前にいる。

 

「この先にアクアが……」

「はい。そしておそらくレインも」

 

ツナは、気を引き締めるため、深呼吸をして

 

「よし、行こう!」

 

扉を開けた。

そして、そこに広がっていたのは、

多くの者が己の力だけを信じ戦い、時には勝利という甘美な味を手に入れ、時には敗北という屈辱の泥を味わう場所――――――闘技場が広がっていた。

ツナ達は闘技場の選手入場口のドアを開けたようだ。

 

「ここは……!!」

 

ツナが闘技場に入ろうとした時、突然一つの紋章術がツナめがけて放たれた。

ツナはそれをなんとかかわした。

 

「ほう、今のをかわしたか。さすがは勇者だな」

 

闘技場の真ん中に誰かが立っていた。

ツナ達は、その人物が見える位置まで歩み寄って行った。

 

「貴方がレインさんですか」

「そうだ」

 

レインの見た目は、ツナとあまり変わらない年齢に見えた。特徴的なのは髪の長さだ、後ろ髪は膝の所まで伸びている黒髪だ。服装も黒いコートに身を包んで背中に大きな剣をしょっている

 

「! この者耳や尻尾が付いていないでござる! まさか……」

 

ユキカゼもその人物が、見える位置まで歩いて行くと、信じられないという顔をしていた

 

「そうだ、かつては俺も勇者だった。だが、今はその称号が一番嫌いだ」

 

レインは吐き捨てるように言った

 

「レイン……」

「アイゼン、お前はそちら側に付くのか」

「違います。ただ私は貴方を救いたいんです。友として」

 

アイゼンは自分の覚悟をレインに伝えた。

 

「……そうか。では始めるとするか、勇者」

 

レインは背中に携えていた、大剣を抜きとり構えた。

ツナはそれを見ると、二人に下がるように促した。

 

「頼みましたよ、ツナさん」

「頑張るでござるよ沢田殿」

 

二人は一言ずつツナに言い闘技場の端っこに下がっていった。

ツナは二人が離れたのを確認して死ぬ気丸を飲み、額に炎を灯した。

 

「行くぞ」

「来い、貴様の力を見せてみろ」

 

 

 

 

 

 

 




どうでしたでしょうか。
あと少しで、このティラミス城での戦いも終りますので、次回も楽しみにしていてください。


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大剣と急変

前の投稿から随分と経ちましたが、また読んでくれると嬉しいです。


はー先に動いたのはツナだ。

一瞬で間合いをつめ、右腕をあごめがけて振り上げる。

レインはそれを、難なく右に避け、左足でツナを蹴りあげた。

ツナはその攻撃を受ける前に、後ろに後退する。

 

「小手調べと言ったところか?」

 

レインは蹴りあげた足をゆっくり下ろしながら、言った。

 

「それはお前もだろ」

 

右腕をレインに向けた。

 

「Ⅹカノン」

 

死ぬ気の炎で作った球をレインめがけて放った。

だが、レインはその球を大剣で難なくかき消した。

 

「まだだ」

 

ツナはさらに連続で何発もⅩカノンを放つが、レインはそれら全て一つ残さず斬り落とす。

 

「無駄だ。何度やっても当たりはせん」

「だったら……」

 

Ⅹカノンを地面に当て、砂埃を起こす。

 

「ふん、煙幕のつもりか、この程度」

 

レインは今までとは違い、大剣を力強く振り、剣風で煙幕を吹き飛ばした。

 

 

「それを待っていた」

 

今までレインと十メートルは離れていた距離を、一瞬で懐に入り込み、いつでも拳を打ちこめる態勢になっていた。

そう、ツナはこの状況をあえて作ったのだ。

 

 

(速い!)

 

レインはツナの動きに反応しようとしたが、ワンテンポ遅かった。

レインが大剣を戻そうとすると、腹に強烈な一撃を叩きこみ、上空に吹っ飛ばした。

空中で態勢を立て直そうとするが、ツナのスピードの方が速く、背後に回り込まれ、かかと落としを繰り出すと、レインは地面に激突し砂埃で見えなくなった。

 

「眠るのはまだ早いぞ」

 

ツナは見えなくなっても、攻撃の手を休めなず、レインを落とした方にⅩカノンを連続で放った。

 

「さ、沢田殿少しやりすぎじゃ………」

 

遠くから見てるユキカゼはツナの怒濤の攻撃に苦笑いを浮かべる。

しかし、同じく二人の戦闘を見ているアイゼンは、そんな風には思っていなかった。

 

「いえ、あれではまだレインを倒せません」

「え、いやでもあれだけやれば、相当なダメージのはず」

「いえ、駄目です」

 

アイゼンは険しい表情で二人の戦闘をじっと見ている。

砂埃が少しずつ晴れていき、レインの姿が見えてきた。

 

「なっ!」

 

レインは悠然と立っていた。

 

「あの程度では倒せません。レインは私の知る限り最強の戦士ですから。………さぁ、どうしますか、ツナさん」

 

ツナは空中でホバリングしながら、じっとレイン見据えている。

あれくらいじゃ倒せていないのは分かっていたようだ。

 

「なるほどな、確かにお前は強い。だが、この程度では俺には届かない」

 

砂埃を払いながら、ツナに威圧感を与えながら言う。

 

「………」

「? どうした」

 

ツナが構えることなく見据えたままであるから、レインは不審に思った。

 

「……アクアはどこにいる?」

「そのことか。教えるわけがないだろ。何のために戦いを始めたと思ってる」

 

分かりきっている答えが帰ってくる。それでもツナは戦いの最中でもアクアの事が心配なのである。

 

「……アクア姫に危害は加えていない。だが、お前が負けてしまえば、アクア姫も無事では済まなくなるぞ」

 

その言葉にツナはレインを睨みつけ、拳を構える。

 

「お前のスタイルは大体わかった。次は俺の番だ」

 

レインは大剣を肩に乗せ、飛び上がった。

大剣で斬りかかった。それをツナは、Ⅹグローブを付けた手の甲で防御する。

だが、大剣はあまりに重く、防ぎきることはできないと、判断すると、ツナは一瞬で背後に回り込んだ。

 

「甘い」

「がっ…」

 

しかし、ツナの来る位置を正確に予測したように裏拳を顔面に放った。

そして、ツナはよろめいたす隙に大剣で斬られ地面に落ちていく。

 

「沢田殿!」

 

ツナは地面ギリギリで、両手の炎を使ったホバリングで何とか地面にぶつからずにすんだ。

 

「っ……これは?」

 

斬られた箇所を抑え気ずく。

 

「耐えたか、大概は今ので終わるのだがな。傷の心配は必要ない、この剣に刃はない、だから斬られたところで死にはしない」

 

確かに斬られてはいない、だが何度も受ければ身体の骨はばらばらに砕けてしまうだろう。

レインは静かに着地して、ツナにゆっくりと歩み寄る。

 

「どうした、この程度が」

「なんだとっ……」

 

ツナは挑発の乗り、レインに突っ込んだ。

 

(至近距離でなら、あの大きな大剣も使えないはずだ)

 

持ち主より大きな剣は確かに威力はあるが、小回りはできないと踏んだようだ。

狙い通りレインの懐に入り、レインが大剣を振るうタイミングに合わせ、何とか避け拳を叩きこもうとする。

 

「なっ…!」

「だから甘いといっただろう」

 

だがその拳は難なく避け、生まれた隙に頭突きを入れる。

ツナは頭突きの衝撃で怯むが、何とか左足でレインの顔を蹴りあげる。

しかしまた、読んでいたかのように左足を掴み、地面に叩きつけ大剣を振リかざし。

 

「沈め」

 

振り下ろした。

 

「くっ」

 

振り下ろされた剣によって、地面に大きなひびが入った。

しかし、剣の下にツナの姿はない。

 

「こっちだ」

 

ツナは炎の逆噴射により、瞬時に上空へと上がっていた。

そして、拳を振りかざし、今度こそ拳が入ると思った。

 

「知っている」

 

レインは冷静にその場から離れる。

ツナの拳は空をきる。

 

「またか……」

 

ツナは自分の攻撃が先程から当らず、顔をしかめる。

 

「お前の攻撃はもう俺には届かない」

「……やってみないとわからないだろ」

「分かるんだよ。俺には見えるお前の未来が」

「どういう意味だ」

 

その問いに答えるかのように、レインは地面に剣を刺し上半身の服を引きちぎり脱ぎ捨てた。

 

「「「!?」」」

 

そこには、水晶玉くらいの大きさの赤い球体が、胸部に埋め込まれていた。赤黒くその色は血を吸い取っているにも見えた。あまりにも不気味なそれは、今もなおレインの心臓と共に脈を打ち、ツナとユキカゼ、アイゼンさえ言葉を失った。

 

「こいつがその理由だ」

 

それを見せても、レインは平然としている。

ツナはその物体が、良いように働くとはとても思えなかった。

 

「お前にはこれが異様に見えるかもしれないが、お前の攻撃が当らないのは、こいつの力を借りているからだ」

 

赤い球体をトントンと軽くつつく。

 

「人間の限界以上の身体と未来予知能力。それが、こいつが俺に与えた力だ」

「………」

「だからこそ、お前に勝ち目はないここで引け勇者」

「……さっきもいったはずだ。やってみないと分からないって」

 

再びツナは構えた。肉体強化と未来予知能力。未来予知では自分の動きが読まれてしまう。それならなば先程まで攻撃が当らなかったのも説明がつく。

 

「そうか、ならやってみろ」

 

レインはため息交じりに言い、剣抱え駆けだし斬りかかった。

ツナは剣筋を見極めようとする。

だが、その考えも読まれていて、剣は囮で代わりに蹴りが飛んでくる。

それはギリギリでかわす事が出来たが、次は大剣を回し斬りをする。

 

(次にこいつは上に逃げる。そこで決める)

 

レインは未来を予知して、勝負の決着を既に知っていた。

しかしツナは、上に逃れる事はなかった。

腰を落とし剣はツナの頭の上を過ぎ、レインに大きな隙ができ、右腕を顔面に力いっぱい振りぬいた。

 

「なっ!?」

 

レインは対応する事ができず、後方に吹き飛ばされた。

今のは確かに手ごたえがあった。

レインは倒れそうになっていたが、何とか踏みとどまる。

        

「……どういうことだ。俺の予知が外れた……」

 

痛みよりも、自分の予知が外れた事にレインは動揺していた。

 

「お前の予知が外れたのは、俺が危険だと直感したからだ」

「直感だと!? そんなもので未来予知を覆したというのか……」

 

レインはツナを睨む。

ボンゴレファミリーボスにだけ現れる、特殊な能力ブラッドオブンボンゴレと言われている。通常の直感を大きく凌ぐ直感力があり、ツナにもその力が備わっている。

 

「これで条件は同じだ」

「……確かにこれでは予知能力は使えないな。だが、まだここからだ」

 

レインの言うとおり、予知能力が使えなくても、レインは十分過ぎるくらい強い。ツナが今まで戦って来た者達に引けを取らないくらい。だからこそ本当の勝負はここからのだ。

二人は駆けだし、拳と剣がぶつかる。激しい衝撃が二人の周りに起こる。

 

「うぉぉぉぉぉぉおお!!」

「はぁぁぁぁぁぁああ!!」

 

どちらも一歩も引かない。その場での力比べはいつまでも続くのではないかと思われた。

だが、終りは突然やってきた。

 

ドゴォォォォ!!

 

何かがコロシアムに入ってきたのである。入口からではなく、観客席を突き破りそれはやってきた。

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」

 

とてつもない迫力、巨大さ、そして邪悪さを兼ね備えたものであり。

その化け物はまるでファンタジーに出てくる、魔物そのもであった。

 

 




やはり、戦闘描写はうまくできていないと自分でも思ってしまいます(T_T)
後2話でティラミス城も終りです。せめてそこまで付き合っていただけると幸いです。


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炎と魔物

連続での投稿です。今回で大体の決着は着きます。



「ぐぉぉぉぉぉぉぉおお!!!」

 

ツナとレインは戦いを中断して、それを見ていた。

けたたましい叫び声が周りに響き渡る。

異形の姿のそれは、けたたましい叫び声を空高く吠える。

その場にいる者は全員、その怪物を見上げている。

あまりにも突然すぎる、新たな、そして怪物の訪問に言葉を失ってしまう。

その怪物は、広間で見たゴーレムよりさらに大きく、全身黒い毛で覆われている。その姿を動物で表すならゴリラそのものである。

 

「……っ! 沢田殿! あれは魔物。このフロニャルドに災厄をもたらすものでござる!」

 

初めに言葉を発したのはユキカゼだ。ユキカゼの様子と、目の前の怪物を見てこれは危険だと一瞬で理解した。

 

「そんなのが、なんでこんなところにいるんだ!」

「それは分からないでござるが……とにかく一端ここから離れるでござる!」

 

そう言われ、視線を魔物に戻すと、魔物は何かを探しているように、顔をゆっくり左右上下動かしている。そして、探し物が見つかったようで、迷わず自身の真下に腕を突っ込む。

 

「まずい!」

 

冷静なレインが、魔物の行動を見て叫ぶ。

ツナは少し驚き、レインに聞いた。

 

「何がまずいんだ?」

「あそこには、あの下にはアクア姫がいるんだ!」

「!?」

 

その言葉を聞きツナは魔物に目線を素早く戻すと、魔物が何かを引きずり出している。そして、魔物の手が地面から離れると、その手にはエメラルド色の美しい髪をした少女いた。

 

「アクア!」

 

共にいた時間は短い、自分が守ると言った女の子が今ツナの前にいる。

ツナはたまらず叫ぶが、アクアからの返事はなく、身体に力が入っていない。どうやら気を失っているようだ。

 

「やはり狙って来たのか……」

 

レインが苦虫を噛み締めるように呟く。そこには、一種の憎しみさえ感じられた。

 

「まて!……くそっ!」

 

魔物は目的を果たしツナの声をまるで気にせずに帰ろうとした。それを見てツナはためらうことなく魔物に突っ込み殴りつけた。

殴られた痛みを覚え、魔物は視線を下げツナを見ると、先ほどより大きな攻撃的な咆哮を放つ

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!!」

「くっ!」

 

咆哮は大きく、ツナの身体にビリビリとくる。

魔物は眼ざわりと感じ踏み潰そうと足を上げる。

ツナは逃れようとするが、咆哮のせいで身体が麻痺して動けない。

魔物は勢いよく足を下ろし、あまりの力に地面がわれてしまった。

 

「沢田殿!」

 

ユキカゼは悲痛な声で叫ぶ。

魔物は足をゆっくりとどかす。しかし、そこにはツナの姿はなかった。

魔物は不思議に思い辺りを見渡す。

 

「こっちだ」

 

魔物がバッと上を見ると、ツナを片手で抱えて大剣を振りかざしているレインがいた。

 

「重双牙」

 

十文字の形の衝撃波を繰り出した。その技は大剣から繰り出されることにより、威力は申し分なく魔物は頭から受け片膝を着いた。

魔物は少し混乱している。

 

「頑丈だな」

 

レインは攻撃を終えると、ユキカゼ達の方に着地する。

 

「アイゼンこいつら二人を連れて城から逃げろ」

「あ、貴方はどうするんですか! まさか、あの魔物を一人で相手にするとはいいませんよね!」

「……そのまさかだ」

 

レインの言葉に嘘はない。本気で魔物を一人で相手にしようとしている

 

「待つでござる。この城にはお館様が、ブリオッシュ・ダルキアンがいるでござる。お館さまの力を借りるべきでござる」

 

ユキカゼの言葉にレインは少し驚いた。

 

「ヒナがここにいるのか……」

「えっ……」

 

ユキカゼは疑問に思った。ダルキアンではなく、もう一つの名ヒナ・マキシマの方を口にしたからだ。

レインはしまった、という顔をするが、すぐに元の表情に戻した。

 

「せっかくの助言感謝する土地神」

「な! 何故拙者が土地神だと!」

 

ユキカゼは土地神という土地を守護する神様である。正体を明かしてもいないのに、初めから知っていたような口調にユキカゼは驚きの声上げる。

 

「今はそんなことはどうでもいい。まともに戦えないお前らがいても邪魔なだけだ。クロノスお前もだ」

 

レインは二人に有無を言わせず、強い口調で言った。

 

「待て、俺も行く」

 

そこまで黙っていたツナが言葉を発した。

 

「何を言っている。さっきも俺が助けなければ、お前は今頃あいつの足元だ」

 

まだ、少し頭をふらつかせる魔物を見ながら、ツナを意志を一蹴した。

 

「……俺はまだ戦える。それに、アクアを置いて逃げれるか」

 

ツナはレインとの戦闘でもかなりの傷を負っている。それでもツナの覚悟は揺るがない。

 

「……いいだろう。足手まといになるなよ」

 

レインのその言葉は、ツナを認めたかのように聞こえた。

 

「沢田殿……」

「ユキカゼは城の外で待っていてくれ」

「………分かったでござる」

 

ユキカゼは言い淀んでしまった。ほとんど力が残っていなく、今の自分では何の役にも立てず、悔しい思いであった。

その様子に気づき、力強くはっきりと言った。

 

「大丈夫だ。アクアは必ず助け出す」

「……沢田殿」

 

その言葉を聞き、一呼吸するとニッコリと笑い背中をバシッ叩いた。

傷ついている身体に、突然の一撃ツナは少し涙目になる。

 

「任せたでござるよ。勇者殿!」

「あ、あぁ」

 

アイゼンはレインをじっと見つめていた。

 

「どうした?」

「……貴方が何を考えているのか私には分からない。いつもどこか遠くを見ていて、何かを思っているようで、でも、私は待っています。貴方が全てを打ち明けてくれるまで。なぜなら私は貴方の友ですから」

「………友、か」

 

レインは穏やかに笑った。その笑みはアイゼンの言葉を噛み締めているようだった。

アイゼンはそれを見て、レインに背中を見せるように振り返った。

 

「……また会いましょう」

 

アイゼンはそれだけ言い残しユキカゼと共にその場を後にした。

 

「あぁ、またな……」

 

アイゼンには届かないと知りつつ、そうレインは呟いた。

ユキカゼとアイゼンが去り、ツナとレインは魔物の方に振り返った。

 

「この身体での長期戦は分が悪い、一気に終わらせるぞ」

「あぁ、最初からそのつもりだ」

 

二人は見た目以上に疲弊していた。体力も大分落ちていて、長丁場になれば確実に終りだ。

二人の狙いは至ってシンプル。一人がアクアを救出して、一人が大技で決着を着けるという作戦。

 

「俺があいつを始末する。お前はアクア姫を助け出せ」

「……倒せるのか」

「いらん心配をするな。それに、あの程度の魔物何度も相手をした事がある」

「分かった。だったら任せるぞ」

 

役割も決まり二人は、先ほどの攻撃で怒り狂っている魔物に駆けだした。

初めはレインが魔物を気を引き、アクア姫を助け出せるように隙を作るため、地面を蹴り魔物の目線まで飛び上がった。

 

「ふん!」

 

そのまま剣を魔物の右目めがけて振る。魔物はアクアを握っていない方の手で防御する。だが、魔物は大剣より軽く数十倍の大きさであるため、まるで効果がない。

 

「まだだ!輝力解放!空神刃・陽炎!!」

 

剣が突然勢いよく燃え上がり、炎が剣を魔物の腕と同じ大きさまで形作る。そこには先程の大剣と違い、炎の刃が宿っている。

炎が鬱陶しく思いレインを振り払おうとするが、

 

「遅い!」

 

そのまま腕を斬り落とされた。

痛みに耐えかねた魔物は、耳障りな叫びを上げる。

斬られた手を抑えようとして、アクアを離す。

ふわりと空中に投げだされたアクアは、何の抵抗もなく落下していく。

 

「アクア!」

 

ツナはアクアを両腕でキャッチする。

 

「アクア、大丈夫か。アクア」

 

ツナは今だ意識を失っている女の子に呼びかける。

身体に目立った外傷はないが、やはり心配せずにはいられないようだ。

 

「……うっ……ん…っ」

 

呼びかけが聞こえたのか、アクアはゆっくりと目を開く。

目の焦点は少しぼやけてツナの事は捉えきれていなく、少しぼ~としている。

 

「アクア、俺の事が分かるか!」

「……う~……耳元でうるさい!」

「うぐっ……」

 

突然のグーパンチ。

まだ寝ぼけているのか、それともただ単に寝起きが悪いのか、ツナは突然のことできれいに一撃もらってしまった。

 

「……うん?……ここは?……って、ツナ!?」

「……あ、あぁ……」

 

ようやくツナの事が認識ができるくらい意識が回復したようだ。

それにしても、ユキカゼには背中を叩かれ、アクアには顔面を殴られ、仲間から攻撃を受けすぎじゃないか、とツナはそんなことを考えていた。

 

「どうやら無事みたいだな」

「…………」

「? アクア?」

 

返事がなく不思議思い、アクアの顔を覗き込むと、アクアは信じられないという表情をしていた。

 

「何で……来たの……」

 

うまく言葉が出ず、何とか出た言葉もかすれていた。

もう二度と会う事はないと思い別れたはずなのに、また出会えた。

アクアにとって今目の前にいるツナは、幻にも思えるほどだった。

初めはアクアの様子に訝しげだったが、すぐに理解した。

 

「初めに会った時言っただろ。守るって」

 

ツナは微笑んだ。

その言葉は軽い気持ちで言ったのではない、約束したわけでもない。それでも、守りたいと思っただからツナは今ここにいる。

 

「…………そ……っか……」

 

アクアの瞳から頬をつたい涙が流れる。

心の中にはツナの言葉で心地い安心感に包まれている。

しかし、そんな休まる時間も長くは続かなかった。

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」

「え!? 何あれ!?」

 

腕を斬り落とされた魔物が怒り狂っている。

その怒りの矛先はレインに向かうものではなく、アクア姫を奪取し自分の使命の邪魔をしている、ツナに向けられたものだった。

 

「しまっ―――!!」

 

気付いた時には既に避ける事は敵わず、叩き落とされる事を覚悟したが、

 

「お前の相手は俺だっ!!」

 

レインが立ちふさがり、炎の剣でもう一方の腕を斬り落そうとした。

 

「何だと!?」

 

先程まで見せなかった俊敏な動きで、剣を避けレインをはたき落した。

 

「レイン!!」

 

再びツナに足を向ける。

自分が何をはたいたのかより、アクアを狙い続ける執念深さは凄まじい。

魔物はツナを捕えようとするが、レインのおかげで何とか逃れる事に成功する。

俊敏さはあったが、足は速くなくツナのスピードには追い付けない。

 

(とにかく一旦アクアを下さないと)

 

ツナはどこか安全な場所を探すが、ここはコロシアム見晴らしのいい場所しかない。

だが、外に逃げてしまえば、魔物がもし街の方に向かってしまえば、大惨事になってしまう。

長く考える時間はない。ツナは焦りながら模索する。

 

「……ツナ。私の安全の事を考えているんだったら。今すぐ殴るから」

「えっ……」

「私はわが身可愛さで他の人たちを傷つけたくない。確かにあの怪物は怖いよ。でも、私は女の子である前に一国の姫なの。あの怪物は今ここで倒さないといけない、それだけは分かる。それに、怖くてもツナが守ってくれんでしょ。だから、平気だよ私」

「アクア……」

 

アクアは既に覚悟していた。

 

「悪かった。俺はお前の覚悟を見余っていた。だから、ここからは俺に全部任せてくれ」

「うん! 任せた!」

 

ツナはその場で着地する。

これ以上逃げ回ったところで、じり貧と判断した。

本当はレインが放つはずだった大技だが、先ほどの攻撃をもろに受けてしまい、そんな力も残っていないだろう。

だったら自分がやるしかない、そう思い魔物に向き合う。

 

「オペレーションⅩ」

『了解シマシタボス。ⅩBURNER発射シークエンスヲ開始シマス』

 

右手を後ろに向け、左手を魔物に向ける。

後ろに向けた手が炎を逆噴射し始める。

イクスバーナーの態勢に入ったツナ。しかし、一つ問題がある。

魔物の俊敏性である。このまま撃てば先程のレインの攻撃のように避けられてしまう可能性がある。

だが、もうそんなことを言ってる暇はなく、当るようにしっかりと相手の動きを見たいた。

魔物はツナの態勢を見て、不気味に笑い、向かってくる足を止める。

まるで、こちらがこれから何をするのか理解したみたく。

 

(くそ! 完全に読まれている。このままじゃ……)

 

「黒刃獄炎 暁!」

 

魔物の足元から炎が燃え上がっていき、まるで炎の牢獄のように魔物を多い囲むようになる。

魔物も突然のことで、暴れだすが、炎の檻は決して外には出さない。

 

「今だ勇者! 長くは持たん早く終わらせろ!」

 

倒れているレインが叫ぶ。レインも足止めをしなくはこいつに大技をは当らないと察しての行動なのだろう。

ツナもそのおかげで、不安もなくなり最大の力を―――

 

『ゲージシンメトリー!! 発射スタンバイ!!』

「ⅩBURNER!!!」

 

―――放つ。

放たれた炎は魔物や周りの瓦礫などを飲み込む。

しかし、魔物はもがき苦しみながらも、抵抗してる。

そのしぶとさに少し、力が押し返されてしまう。

ツナは全力の力で応戦する。今出せる全力で。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!!」

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」

 

炎に包みこまれていき、魔物の断末魔が徐々に小さくなっていき、悪しき存在と呼ばれる魔物はその場から跡形もなく消滅した。

 

 

 




ティラミス城でのバトルはこれで終了です。後は、後日談みたいなものです。


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宴と愛される者

最新話です。
では、どうぞ


「いやっほぉ~~~!! 盛り上がってるかいみんな~~!!」

「「「「おおおぉぉぉぉぉ!!!」」」」

「今宵は宴だ~~~!!! もっともっとも~~~~~っと!! 派手に騒ごうぜ~~~~!!」

「「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」

 

モニターに映る二人の司会者が、派手に騒ぎ、国民たちを力一杯煽る。

街は行き交う人々で大いに賑わっていて、どんちゃん騒ぎ状態だ。

 

「何か凄いね。まるで祭り見たい」

 

目の前に広がる光景に圧倒され、ツナは自分の感想を言う。

 

「確かに凄いでござるな。拙者達がいるビスコッティでもここまで大いに賑わっているのを見た事がないでござる」

 

隣にいるユキカゼも、ツナと同じ感想を漏らすが、そこまで驚いている様子ではない。

ビスコッティでも似た事を何度も見た事があるからだ。

ツナ達が魔物との戦いを終え、数時間が過ぎ今は空も夜に染まっている。

 

「でもいいのかな? あんな事があったあとで、こんなに騒いで?」

「大丈夫でござるよ。あんな事があったからこそ、騒ぐんでござるよ。それに、暗い気持ちでいたっていい事はないでござる。沢田殿も一緒に騒ぐでござるよ」

 

ツナの顔をのぞきこみニッコリと笑う。

 

「そうだね。うん騒ごう!」

 

ユキカゼの笑顔につられツナも笑顔で返す。

しかし、ツナはまだ先程のレインの事が頭に引っ掛かっていた。

 

 

 

 

 

――数時間前――

 

 

 

 

「はぁはぁはぁ……」

「ツナ大丈夫!」

 

力を使い切り超死ぬ気モードが解ける。

ツナは少しふらついているが、倒れてしまうほどではない。

 

「うん……何とか………」

 

アクアの心配を少しでも和らげるため笑って答える。

 

「もう無茶するんだから」

 

アクアはほっと安心する。

 

「あ!」

「どうしたの?」

 

ツナの問いかけを無視してアクアは、今まで魔物がいた場所に駆けよる。

何かをゆっくり大事そうに拾い上げ、戻ってくる。

そこには、かわいらしい寝顔のお猿がいた。

 

「アクア、それって……」

「土地神様だよ」

 

土地神と呼ばれるお猿はアクアの腕の中ですやすやと気持ちよさそうに寝息をたてている。

 

「さっきツナが倒した魔物はね、元々土地神様なの。でも、何かの拍子に魔物になるような事が起こったんだと思う。どうやって魔物になるかは私にもわからないけど、なんだか悲しいよね。そういうの……」

 

土地神の事を考え、泣き出しそうな表情を浮かべる。

 

「……その子は大丈夫なの?」

「うん。魔物になっても、元に戻れば命に別条はないから」

「そっか」

 

それを聞きツナは一安心した。

土地神やそうではないものでも、命は奪いたくないからである。

 

「どうやら、終わったようだな」

 

ふいに声が聞こえる。

声がした方には、傷だらけのレインが、ふらふらしながら立ち上がろうとしている。

 

「レイン! 大丈夫!」

「ふん。敵の心配などするな。甘い奴め」

 

ツナは苦笑いする。今まで戦って来た者たちやリボーンに散々言われてきた事が、異世界でも言われるとは思わなかった。

レインはしばしの間ツナを見る。

ツナ自身はそこまで気にはならないが、少し首を傾げる。

 

「……勇者。名を聞いていなかったな」

「えっ、あ、うん。沢田綱吉……」

 

少しおどおどして名乗る。

 

「沢田綱吉………。沢田綱吉勝負はお預けだ」

「えっ!」

「なんだ、まだ戦い足りないのか?」

「いっ! そ、そんなわけないだろ! こっちもぼろぼろでへとへとなんだから!」

 

ツナは必死に弁解する。事実もう立っているだけで一杯一杯のだから。

 

「フッ、冗談だ」

 

小さな笑みを浮かべ、ツナとアクアに背を向ける。

 

「沢田綱吉アクア姫をお前は守りきれるか? どんなことがあっても守り切れるか?」

 

レインが声は今までで、一番の重みがある言葉だった。

 

「守るよ」

 

ツナは揺ぎ無く答える。

自分の守りたいものを守る強さ。それが沢田綱吉が求めた強さだ。

そして、その力は今、一人の女の子のために。

 

「そうか。その言葉忘れるな。…………俺と同じにだけはなるな」

「え、今なんて……」

 

最後の言葉はツナの耳に届いていなく、聞き返す。

だが、レインは何も答えず歩き去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

――現在――

 

 

「そういえば、アクアはどこに居るの?」

「そう言えば、そうでござるな」

 

二人はアクアやガウル達は宴の開始と同時に姿が見えなかった。

 

「まぁ、そのうち戻ってくるでござろう。それより、沢田殿この果物おいしいでござるよ」

 

アクア達の事は気になるが、祭りごともしっかりと楽しんでいる。

ツナもこんな国全体で盛り上がる祭りごとは、初めてで思わず笑顔になる。

 

「ユキカゼさっきから、目に入る物全部食べてるけど、大丈夫なの……」

「このくらい、食べなくては祭りごとを楽しんでいるとは言えないでござるよ。さ、沢田殿もお一つ」

 

うさぎ型にカットされた、リンゴに似た果物をツナの口元に近づける。

 

「お、俺は別にいいよ!」

 

ユキカゼはあまり気にしてないが、これは完全にア~ンという形になっている。

女の子からこんな事をされたら当然恥ずかしく、ツナは顔が熱くなっていく。

 

「おやおや、若いですね~お二人とも」

 

前方からアイゼンとクロノス、ダルキアンが歩いてくる。

ユキカゼとのやりとりを見て、アイゼンは微笑んでいる。

 

「アイゼン!クロノス!」

「お館様!」

「二人とも楽しんでいるようでござるな」

「もちろんでござる! 楽しまなきゃ損でござるから。アイゼン殿も祭りを楽しんでいるようでござるな」

 

アイゼンは持てているのが不思議なほどの量の食べ物を両手で持っていた。

 

「こいつ、呆れるほど食うは食うはで、見てるだけでこっちは腹いっぱいだっつーの」

 

レインが去った後、二人は行くあてもなく、アクアがアトラティカ王国の戦士として迎え入れる事を提案したのだ。

元々国民や建物、実質的な被害を二人は出していないとのことで、さほど問題はなかった。

アイゼンは快く誘いを受けたが、クロノスは自分達がこの国に迷惑をかけた事に変わりはない、と断ろうとした。結局アイゼンが説得という形に収まった。

 

「クロノスはどう?」

「あ~、ま、楽しんでるよ」

 

少し照れながら答える。

 

「あ、そういえばガウル達見なかった?」

「それでしたら、もうそろそろだと思いますけど」

 

アイゼンの発言にツナとユキカゼは首を傾げる。

すると、突然国全域にコミカルな音楽が流れ出す。

 

「紳士淑女の皆さん注も~~~く!」

 

モニターに映っていた司会者が何かを始めるようと弾んだ声で言う。国民も何だ何だとモニターに目をやる。

 

「今宵は我々にとっては忘れがたい歴史が生まれました! 私たちの国、アトラティカ王国への突然の襲撃ア~ンド魔物の出現! ピンチはピンチ、大ピンチ!」

「しか~し、そんな窮地を救ってくださったのが、我らの勇者様だ~~~!」

 

上空に浮かぶ無数のモニターには二人の司会者が熱弁をふるっている。

人々はモニターを見て盛り上がる。

 

「なっ!」

「とっ、いうことで、ツナさん行きましょうか」

 

アイゼンはニッコリと笑い、ダルキアンとクロノスはツナの腕を片方ずつ肩を持ち上げる。

 

「えっ! ちょ、待って! そ、そうだ! 今からじゃどうせ間に合わないから!」

 

ツナは必死に訴える。

このままでは大勢の人前にでてしまう。ツナ自身国民全員の前にでて、勇者とまつりあげられたら、もう死にたいと嘆くほど、恥ずかしい思いをするだろう。

 

「大丈夫でござるよ。それまでエクレール達が繋いでくれるでござるよ」

「えっ!」

「勇者様自身は、ここにはいませんが、勇者様と共に闘ってくださったビスコッティ、ガレットの戦士が、いらっしゃってくださいました!」

 

司会者の紹介で、エクレール、リコ、ガウル、ノワール、ジョーヌ、ベールがモニターに一人一人映る。

モニターを見ている人々は、戦士達の登場に割れんばかりの歓声を送る。

エクレール達はそれぞれ、照れ笑いを見せる。

 

「さ、これで時間ができたでござるよ。勇者殿」

 

ダルキアンはニッコリと笑う。ツナにとって今その笑顔は悪魔の微笑みに見えたとか何とか。

 

「頑張るでござるよ~」

「まー、そのなんだ。同情はする」

 

ユキカゼは笑顔で見送り、クロノスはどんまいとい目で言っていた。ていうかクロノス同情するなら手を離してよ! ツナは心の中で全力でツッコム。

かくしてツナはあえなく、ずるずると引きずられていった。

 

「皆さん今回は本当にありがとうございます! 他国の為に危険を冒してまで、助けてくださって!」

 

司会者の一人が感謝の意を込め言う。

それは国民皆の気持ちである。

 

「いや……そんなに改まらなくても……」

「そうだぜ、困ってるときはお互いさまだ」

「うぅ~、なんて寛大なんでしょう~、私たちは感謝感激雨あられです」

 

二人の司会者は、涙を滝のように流す。

 

「それでは、続いて。我らのアクア姫に登場してもらいます」

 

司会者の二人は、すぐに元のはつらつとした雰囲気に戻り、エクレール達が来た逆の方に手を大きく広げアクアを迎い入れた。

モニターが一人の女の子を捉える。

そこには、ドレス姿で司会者たちに近づくアクアがいた。

アクアが司会者達の元まで来ると、大きく頭を下げた。

 

「皆さん。今回はたくさん心配かけて、ごめんなさい!」

 

アクアの突然の行動にエクレール達はもちろん、民衆も驚きの表情をしていた。

 

「私は今回の件で何もできなかった。守るはずの国民を不安にばっかりして。本当こんなんじゃ駄目だよね」

 

アクアは笑ってみせるが、悲しみが強くみられ、うまく笑えていない。

自分は一国の姫で、守らなくてはいけない存在なのに、結局何にもできなかった。

アクアにとっては耐えがたいほどのものがあるのだろう。

 

「そんなことはないであります!」

「えっ……」

 

しかし、アクアの言葉は否定される。

 

「リコの言う通りです。私はアクア姫の事はあまり知りませんが、それでも国民の誰一人として、そんなことを思っている人はいないはずです」

「……でも、私は………」

 

アクアには自信がない。

本当に国民は自分を今まで通り受け入れてくれるのだろうか、不安で不安でたまらない。

無理もない、一国の姫とはいえまだ少女なのだから。

 

「二人の言う通りだよアクア!」

 

その声に俯いた状態のアクアはゆっくりと顔を上げる。

 

「アクアは自分が思ってる以上に頑張った! それは俺が知っている! 国の皆だった知ってる!」

「ツナ………」

 

今までいなかったツナが、アクアの近くまで来ていた。

そして、アクアの言葉を否定する。

アクアはその言葉を聞き、辺りを見渡す。

たくさんの国民がいて、全員がしっかりとアクアを見据えている。

 

「姫様は悪くない!」

「そうだ、姫様を守ることができなかった俺たちの方が駄目なんだ!」

「姫様笑って!」

「姫様の悲しい顔なんてみたくないよ!」

 

モニター越しに見ている人々も、聞こえないと分かっていても口々に叫ぶ。

これが国民の本心。

アクアは本当に愛されていた。それは誰が見ようと疑いようもない事だ。

こんなに慕ってくれる人たちがいる。そう思っただけで、アクアの瞳から涙を流す。

 

「みんな、アクアの事が好きなんだ」

 

アクアは涙をぼろぼろと零しながら、涙声で全力で叫ぶ。

 

「………私も……この国が……みんなが……大好きだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!!!」

 

アクアの心にもう不安なんてものはない。あるのはこの国をみんなを自分は大好きだと思う気持ちだけ。

そして、国民のみんなもそれに全力で答える。

今日この日の宴は、大いに盛大に最高に賑わった日となった。

 

 

 




今回でティラミス城編終了です。
次回からは小話を入れていきます。


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日常とバカ

だいぶ投稿が遅れてしまいすみません。
これからは春休みに入るので、早く投稿ができると思います。
前の話で予告した通り、日常です。新しいオリキャラでます。
ではどうぞ。


「は~、ひまだな~」

 

アトラティカ王国の危機を救い、宴があった日から、三日が過ぎたある日。

ツナは特にやることもなく、アトラティカ城をぶらぶらと散歩していた。

ツナがこうも暇を持て余せているのは仕方がない事だ。

ユキカゼ達は自国に帰っていき、アイゼンとクロノスは今回の騒ぎの罪滅ぼしとして、国民の様々な手伝いをしている。もちろんアクアも、国民に改めて認められた事により、領主としての仕事を張り切ってこなしている。

ツナも昨日まで傷が完治していなく、安静にしているように言われていたが、いざ自由の身になってもやることがなく、現在に至る。

ツナはふと自分の手に視線を落とす。

 

(そう言えば、この間の戦いの時から、何か違和感があるだよな………)

 

ツナは手を握っては開いて、握っては開いてを繰り返し、自分の調子を改めて確認する。

この世界に来た時には、あまり感じなかった事だ。それもそうだ、そんな事を考える余裕などなかったのだから。

 

(気のせいかな……)

 

まだ、その違和感をうまく拭いきれないでいると、

 

「勇者様!」

「……えっ」

 

前方から一人の騎士が甲冑をガシャガシャ鳴らしながら駆け寄ってくる。

まだ、勇者と呼ばれるのに慣れていなく、自分の事だと遅れて気付く。

 

「ちょうどいいところに。今から我らの訓練を始めるのでよろしければ見に来ませんか?」

「う~ん、じゃぁ……ちょっとだけ」

 

断る理由も特にないので誘いを受ける。

騎士の男に案内され、多くの騎士たちが剣を互いに交える場所につく。

 

「うわ~、すげぇ……」

 

ツナは感嘆の声を上げる。

互いに真剣の表情で剣を打ち込む様子は、実力以上の気迫が伝わってくるものがある。

 

「ここでは、騎士たちの剣の稽古に実戦訓練などを行っているんです。他にも、弓兵や砲術師も少し離れた場所で訓練をしています。アクア姫の危機には次こそお役に立てるように皆張り切って取り組んでいます」

「そっか、みんな頑張ってるんですね」

「もちろんです! そうだ、勇者様も一緒にどうですか?」

「えっ! あ……お、俺はいいや」

「そう遠慮なさらず、私たちも勇者様の戦い方を見てみたいのです」

 

どうしてもとお願いされ、ツナは困った表情を浮かべていると、

 

「俺にも見せろ!」

 

上空から声が聞こえ何だと思いその場の全員が上を見上げる。

すると、一人の男が両手両足を広げ、大の字の形で落ちてくる。

 

「アトラティカ王国の勇者よ! 貴様の勇者っぷりを俺に見せ―――」

 

通るような声で叫びながら地面に着地―――しなく激突した。綺麗に大の字という跡が地面に残る。

 

「えっ……と……生きてる?」

「無論だ!」

「うわっ!」

 

ツナが恐る恐る尋ねると、落下男はすぐさま身体を起こす。

 

「この鍛え抜かれた身体がこの程度で、砕けるわけがない! そこらの貧弱な兵士と一緒にしてもらっては困る!」

 

その言葉に、その場にいた兵士はムッとなる。

こうも目の前で自分たちの事を侮辱されたら怒りもするだろう。

 

「貴様は誰だ? 侵入者ならすぐさま捕えるぞ」

 

ツナの横にいる騎士が落下男を睨み、目的を聞く。

しかし、落下男は騎士の男を鼻で笑い、挑戦的な口調で言う。

 

「貴様らごとき、ただの兵士がこの俺を捕えるとな笑わせるな!」

「このっ!………アトラティカ王国騎士団! 侵入者をひっ捕らえるぞ!」

「来るとな。おもしろい、遊んでやる!」

 

落下男は拳を構えた。

 

 

 

―――五分後―――

 

 

 

 

「ずびまぜんでした…………」

 

……落下男はぼろぼろの状態で縄で縛られていた。

 

「…………」

 

ツナや騎士たちは何も言えなかった。いや、何も言葉が見つからなかった。

この男のあまりの――――――――――弱さに。

戦いはまさに一瞬だった。

落下男が騎士たちに駆けだそうとしたら、転がっていた小石につまずき転倒。

騎士たちは勢いあまって、止まる事は出来ず、そのまま体重+甲冑の重さをくらいノックダウン。

男の態度も先程とはもはや別人といっていいだろう。

 

「この人……弱すぎる……」

「ち、違う! 俺は元々素手で戦うファイターではない! 剣を、武器を扱ってこそ俺の真の力は発揮されるのだ! だからもう一度、俺に武器を与えて再戦を申し込む!」

「自分の立場が分かっているのか貴様は……」

 

騎士の男は話しているだけで疲れてくる、それは全員が思った事だ。

 

「それで、改めて聞くぞ。お前は誰で何の目的があってこの城に来た」

「………ふっ、俺が簡単に口を開くと思うのか、否! 断じて否! 俺の口を割りたければ食料を持ってこい!」

「………一応聞くが何故だ……」

「決まっているだろう。腹がすいたのだ!」

 

何も恥じる様子もなく、決め顔で言う。

 

「勇者殿……何故こいつはこんな状態で、我々に食料を要求してるのでしょうか…」

「えっと……肝が据わっているから……とか」

 

騎士は落下男の言葉を聞くたびに頭が痛くなっていく様子で、ついにツナに助け舟を出した。

ツナも苦笑いで答えるしかできない。ツナ自身もどう対応したらいいかわからないのだ。

 

「はぁ………答えないならしかるべき処置をする事になるぞ」

「処置だと?」

「そうだ、不法侵入に我らへの攻撃。これは立派なアトラティカ王国へ敵対攻撃だ」

「敵対だと? それは違うぞ! 俺ムラサメ・キキはこの国の騎士になるため参上したのだ!」

 

自らの正体と目的をこうもあっさりと話してしまうのこの男がバカであるからだ。

 

「どうした。俺が騎士団に入るのが嬉しすぎて、声も出ないか」

 

ムラサメは得意げな表情を浮かべる。繰り返すこの男はバカである。

 

「おや、みなさん? どうしましたか?」

「あっ、アイゼン。それにクロノスも」

 

二人がいつの間にか、近くまで来ていて、何事か尋ねてくる。

 

「二人とも、街の方はもういいの?」

「あぁ、今日の分が終わったからな。訓練でもしようと思ってここに来たわけだが……取り込み中か?」

「うん。ちょとね」

 

クロノスはふとツナ達の後ろ居るムラサメに目をやる。

 

「問題ってのはそいつの事か?」

 

ツナはその質問に頷き、先程のことを二人に説明する。

 

「――――なるほど。入団希望者ですか」

「なんだよ、面白そうじゃねーか」

 

クロノスはムラサメの大胆な行動を気にいったようだ。

 

「まぁ私たちも敵対する意思がなく、単なる入団希望者であるなら特に問題もない。だが、そうなると、最低限の実力を示してもらうために入団テストを行う必要がある。受けるかテスト」

「愚問だな!」

 

騎士の男の問いを鼻で笑い答える。

 

「そういうことなら、俺がそのテスト相手になってやるぜ」

「え、いいのクロノス?」

「あぁ、こいつの実力とやらも見てみたいしな」

「……あんまり期待しない方がいいと思うよ」

 

クロノスは真に受けているようだけど、ツナや周りの騎士たちは完全な強がりと思っている。

 

「ふん、俺の本気を出すのに相手にとって不足ありだな。そこの勇者と戦わせろ」

 

クロノスの申し出を悪態をつけ拒否する。

 

「ほう……言うじゃねーか。小石につまずいて捕まった間抜けのマヌケが」

 

クロノスの表情はにこやかのままだが、明らかに頬は引きつって、怒りのオーラを纏っている。

 

「貴様人の話を聞いていなかったのか、俺は武器を扱ってこそ強いんだ」

「だったら、沢田とやる前に俺とやってその実力ってもんをみせてみろよマヌケ」

「貴様二度もマヌケと言ったな。いいだろう! 貴様をコテンパンにしてその言葉を訂正させてやるぞ!」

 

既に、テスト関係なく二人のいざこざになっている。

ツナ達はもはやかやの外である。

 

「そこの騎士! 剣を借せ!」

 

指名された騎士は少し不服そうにしながら剣を投げる。

ムラサメはそれを掴むと同時にクロノスに駆けだす。

クロノスも臨戦態勢に入り、ムラサメの剣を見きるため集中してみる。

 

「くらえ!」

 

ムラサメは剣を振り下ろす。しかし、その姿はあまりにも不格好で素人の動きにしか見えなかった。

クロノスはなんなく避ける。

まだだ、と言いながら、子供のように剣を振りまわす。

 

「くっ、当たれ!当たれ!当たれ!!」

「お前……マジか」

 

振りまわされる剣を全て避けながら、クロノスは若干顔が引きつっていた。

それもそうだろうあれだけの大口を叩いて、本当は戦いの素人なのだから。

クロノスは隙だらけの腹部めがけて一発いいのを放った。

 

「ぐほっ!!」

 

膝をつき悶絶。さしずめ呼吸困難だ。

先程は体が頑丈と言っていたが、どうやら腹部は別らしい。

 

 

 

 

 

―――十分後―――

 

 

「最後に何か言い残すことはありますか?」

 

元通りに呼吸ができるまで、ツナ達は少し待っていた。結果はもちろん不合格。

騎士団の人達に、城の外まで運んでくれないかと頼まれた。たぶん、これ以上一緒にいるとストレスが爆発してしまうからだろう。

ツナとクロノス、アイゼンは城の入口までムラサメを連れて行き、別れの前の一言を聞く。

 

「俺がこの程度で諦めると思うなよ! 俺は何度だって挑戦し続ける!」

「そうかよ。だったらそんときも、また相手になってやるよ」

 

クロノスが握手を求めるため手を出す。

ムラサメは出された手を握る。

 

「その言葉忘れるなよ。次会う時こそ、貴様を地面にひれ伏させ―――」

「あっ! いたいた! おーい!」

 

ムラサメの言葉を遮り一人のアクアが急ぎ走しで駆け寄ってくる。

 

「そんなに急いでどうしたのアクア?」

「いやちょっとね……あっ! やっぱりムラサメさんだ!帰ってきたんですね!」

「そう言う貴方はアクア姫ではないか」

「えっ!二人って知り合いなの」

 

二人は一緒に頷く。ツナにはとてもじゃないが二人が知り合いには思えなかった。

 

「二人はどういう間柄なんですか?」

「間柄も何もムラサメさんはこの国の医療部隊だよ。今までは自分の腕を磨くため修行の旅に出てたの」

 

それを聞き三には驚いた表情でムラサメを見る。

 

「医者! そんな人が何で、騎士団に殴りこみなんて仕掛けたの!」

「ふん。決まっているだろ。殴りこみは男のロマンだからだ!」

 

当然のことく言い放つが、この人は普通じゃない。それはもうびっくりするくらい普通じゃない。

 

「そ、そうなんだ……」

「そうだ。ようやく分かっ……勇者ちょっといいか」

「えっ、ちょ、いきなりな―――」

 

突然真剣な表情になり、ツナの意見を聞かず両腕を触り始めた。いや、触り始めたというより調べ始めたというのが適切だろう。

本人や他の者は何が何だか分から上、ムラサメの真剣さに何も言えなかった

何度かもみほぐした後、今度は肩、太もも足と次から次へと何かを確認している。

調べ終え、数秒拳を口元に当て、考える動作をしてようやく口を開いた。

 

「勇者お前は自分の体に異常を感じた事はないか?」

「えっ、異常?」

「そうだ。何でもいいここ最近感じたことであれば何でもだ」

「何でもって、う~ん……あっ、そういえば」

 

朝自分が考えていた事をツナは思い出した。この世界に来てからの自分の力の違和感。

そのことをムラサメに話すと、

 

「やはりそうか。しかし珍しいな、いや勇者自体が特殊なのか」

 

ムラサメは一人ぶつぶつと呟いている。その事に煮えを切らしたのか、クロノスは少し乱暴に尋ねる。

 

「だぁぁぁ!!何一人で分かってんだよ。俺たちにもわかるように説明しろ!何だ沢田は病気にでもかかってんのか!」

「ちょクロノス!嫌な事言わないでよ!」

「少しは落ち着けそこのサル。そして、心配するな勇者お前は病気などにはかかっておらん。それに大したことじゃない」

 

その言葉にツナはほっと胸をなで下ろす。後ろの方では、誰がサルだてめぇ!と、アイゼンに押さえられているクロノスが叫んでる。

ムラサメはさして気にした様子もなく説明を始める。

 

「お前が感じる違和感を一言で言い表すのなら、この世界に慣れていないだけだ」

「慣れていないって……俺もう随分慣れたと思うんだけだ」

「気持ちの方はそうなんだろうが、問題は体の方だ」

「体の方?」

 

ムラサメは頷く。

 

「お前の体には、本来お前自身が持っている力があるはずだ。しかし、それがいけない。このフロニャルドでは大地から分け与えられる、フロニャ力がある。この世界の人間はそのフロニャ力を使い、自身の中にある輝力を力とする。だが、お前の力はどういうわけかこの世界、フロニャルドとは合わないようだ」

「合わないとどうなるの?」

 

ムラサメの説明に聞き入っているツナは質問する。自分にとって大事な話しかもしれないと思ったのだ。

 

「そうだな……おそらくお前本来の力が引き出せないはずだ」

「えっ!」

 

返ってきた言葉にツナ自身驚いた。今の今まで自分は全力じゃなかったのかと分かったからだ。

そしてふと、家庭教師の赤ん坊が脳裏をよぎった。しばらく戦いがなかったとはいえ、自分の体の状態をちゃんと把握できていなかった事がばれたら………背筋に冷や汗が流れる。

 

「それでツナさん本来の力を取り戻すことはできないんですか?」

「いや、それ自体はさほど問題はない、最初に言った通りこれは慣れだ。フロニャルドに居るだけで、勇者の力が馴染んでいくはずだ」

 

嫌な想像をしていたツナにとって、嬉しいはずの解決策もあまり素直に喜べなかった。

 

「やっぱりムラサメさんは凄いなぁ~。でもなんでそんなぼろぼろの格好でこんなとこにいるんですか?それにさっきの殴り込みって?」

「ふん、なに大したことはことではないから気にしないでくれ姫よ。少し新参者と戯れていただけだ」

「けっ!よく言うぜ」

 

ムラサメに聞こえる大きさで悪態をつく。

その発言にもちろんムラサメも黙ってはいなかった。

 

「なんだサル」

「サルじゃねーよマヌケ」

 

二人は額をぶつけながら睨みあう。二人から変なオーラすら見える。

 

「これからもっと賑やかになるねツナ」

「ははっ……ほんと賑やかになりそうだね」

 

新しい仲間が加わり、沢田綱吉の異世界での生活はまた一段と賑やかになりそうだ。

 




今回でてきた、アトラティカ城はティラミス城とは別のものです。
次回も小話になります。


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手伝いと猫

今回も小話です。
ではどうぞ。


「ふぁ~全然寝れなかった……」

 

ツナはベットからのろのろと起き上がり、伸びをする。

ツナが今いる部屋はアトラティカ城の一室を使わせてもらっている。

昨日ムラサメと言う、己を貫き通すなんとも言い難い医者に出会った。

そのムラサメがこれまた予想通りに騒がしく、ツナやクロノスは振りまわされていた。その所為でツナは寝不足である。ちなみにアイゼンはいつの間にか姿をくらまし難を逃れていた。

 

「今日はどうしようかな」

 

ツナがパジャマから普段着に着替えながら、これからの事を考えていると、

 

「勇者入るぞ!」

 

返事を聞かず、ドアを勢いよく開く。

突然の事に驚きドアに目をやると、そこにはムラサメが威風堂々と立っていた。

 

「む、ムラサメさん!」

 

あまりにも唐突の訪問に困惑する。

しかし、ムラサメは鼻を鳴らし、

 

「大したことはない。アクア姫にお前を連れてくるように言われたのだ」

 

腕を組み、わびる様子もなく自分の用件を伝えるとツナの腕を掴む。

 

「行くぞ」

「えっ、ちょ!」

 

ムラサメは半場強引にツナを部屋から連れだし、二人はそのまま部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんねツナ。いきなり呼び出して」

「別にいいよ。どうせやることもなかったし」

 

ムラサメに連れてこられたのは、昨日ムラサメが医者だと教えられた城の入口だ。

アクアの隣にはセルクルがいて、これからどこかに出かけるようだ。

 

「それで、用って何?」

「これから街の方に出るんだけど一緒に来てくれない」

「それくらいなら別にいいけど……」

 

ツナはおかしいと感じた。ただ街に行くだけで何で自分が呼ばれたんだろうと。

 

(まぁいっか)

 

特段気にする事でもなく、すぐに考えをやめる。

 

「それじゃ行こ。ツナのセルクルはそれね」

「分かった」

 

ツナはセルクルにまたがる。最初の頃に比べセルクルに乗るのは難しくなくなっていた。

 

「それじゃ、行くとするか」

「あれ? ムラサメさんも来るの?」

「城に残るより、こっちの方がおもしろそうだから。問題はないだろうアクア姫」

「はい」

 

アクアは笑顔で答える。昨日も思ったが、アクアは随分とムラサメを慕っているように見える。

三人はセルクルを進め出す。

 

 

 

街には数十分で着いた。

街では行きかう人々で賑わっていた。

 

「そういえば、俺この街の事あんまり知らないな」

 

ツナが街に来たのは祭りのの時だけだ。

あの時は、いろいろありゆっくり見物する時間がなかったので、ツナは物珍しく街を見渡し自分が、異世界にいる事を改めて実感した。

 

「ん? あれってなにやってるの?」

 

複数の屋台が何か飾り付けみたいなものを作っていた。

 

「あぁ、あれは今度の感謝祭の為に自分たちの屋台を飾り付けてるの」

「へぇ、そうなんだ……って感謝祭!」

「うん。そうだよ」

 

アクアはさも当然の如く答える。

 

「私たちに国には一年間お疲れ様って意味を込めて、一年に一度国総出で盛大なお祭りをするの」

「そうだったんだ。もしかし、今日来たのも…」

「そ。この前の騒動で大分作業が遅れたから、それの手伝いってこと」

 

アクアを先頭に三人は歩き出した。

よく見てみると、確かに街の人達の中には熱心に何かをしている人がちらほらと見える。

 

「フム、街の方も活気づいているな。この分だと今年も楽しめそうだな」

「ムラサメさんも感謝祭に参加した事あるんだよね? どんな風なの?」

「フフッ、中々面白いぞ。この国はもともとが広いからな、様々な場所で多種多様の物を見たり聞いたり経験したりできるぞ。それに、最終日にある光のパレードはこの国の名物しと言われてる」

「へぇ~、なんか面白そうだな」

 

異世界の壮大なパレード、ツナは今から楽しみにしているようだ。

他にもムラサメにどんなものがあるか、興味津々に尋ねている。

 

「ふふっ、ツナってこういう祭りごとが好きなんだね」

「えっ、あ、そういうわけじゃ……」

 

ツナは子供みたいにはしゃいでいた事が恥ずかしく、顔が赤くなっている

 

「それよりアクア! 領主が自分から出るほどの手伝いってなんなの!?」

 

悪気があるわけじゃないのは分かっているが、女の子に笑われるのに耐え切れず話をそらす。

 

「あぁ、それなら、ほら」

 

どうやら目的地についたらしい。ツナは指が差される方向に目をやる。

ツナの目に入ったのは、何の変哲もない民家だった。

間違いではないか、周りを確認するが、他にそれらしい物は見当たらない。

 

「えっと……あの家に用があるの?」

「うん。そうだよ」

 

アクアに確認をとるが、間違いないようだ。

 

「この家の猫達を追い出すの」

「猫って………あの猫」

「そ。小さくて耳があって尻尾があって、見ているだけ癒される。かわいすぎるあの猫」

 

アクアは猫の説明をうっとりした表情で、すらすら述べる。よほど猫のことが好きなのだろう。

 

「その猫と感謝祭への手伝い。どう関係があるの?」

 

ツナはさらに尋ねた。

 

「それがね、感謝祭を行うに当たって、この家に住み着いてる猫が邪魔をしてくるの」

「邪魔をする?」

「うん。この家に猫が住み着きだしたのはつい最近なんだけど、何故か準備の邪魔ばかりしてくるの。このままじゃ、当日まで間に合わないかもしれないから、私が引き受けたの」

「でもなんで、アクアが? こういうのは騎士団の皆に頼んだらよかったのに」

 

猫を捕まえるのは体力を使うだろうし、アクアには荷が重いはずだ。

すると、アクアは目線を下に落とし、肩を震わる。

 

「えっ、アクア!」

 

突然泣きだしたのかと思い、ツナは慌てた。

 

「いや、そういう意味で言ったんじゃなくて! 日頃から忙しいから、猫を捕まえるのって難しいと思うし、それに―――」

「猫がいるんだよ。猫が……あの家には猫が……肉球があるの! これだけは譲れない!」

「なんか変なスイッチ入ったぁ!」

 

目を輝かせ、高らかに宣言する。アクアは好きは好きでも大の猫好きらしい。

 

「ふん。猫ごとき追い出すことなどこの俺一人で十分だ」

 

ムラサメは二人に構わず、民家のドアの前まで歩いていく。

 

「それで、猫を追い出すってどれくらい住み着いてるの」

「それがね!それがね!なんと!」

 

アクアがぐっと溜めを作ってる。

 

「100匹もいるんだって!」

「ムラサメさん!開けちゃダメ!」

「もう開けてしまったが―――なっ! なんだこの数!や、やめろっ!離せぇぇぇぇぇぇえええ!!!」

 

時すでに遅く、ムラサメはドアを開けていた。、数十匹もの猫が服に噛み付かれ、ムラサメは強引に家の中に引きずり込まれていった。

 

「む、ムラサメさんが家に食われたぁぁぁぁぁぁああああ!!!」

「ツナ落ち着いて。家に食われるなんてあるわけないでしょ」

「そ、そうだよね。ごめ―――」

「ムラサメさんは猫と戯れているの。あぁ~早く私も猫と遊びたいなぁ~」

「さっきのが!猫に引きずり込まれてたよ!後アクアここに来た目的忘れてないよね!」

「冗談だってば、冗談」

 

さっきの眼の輝きは冗談とは思えなかった。

しかし、このままアクアと二人でこの悪魔の家に入るのは大丈夫なのだろうか。

ツナが少し思い悩んでいると、

 

「何やってんだ沢田」

 

声に振り返ると、両手を首の後ろに組んでいるクロノスがいた。

 

「クロノス!」

「昨日と同じ反応だな。で、お前は姫と一緒に何してたんだ?」

 

ツナは猫の追い出しの手伝いの事を説明する。……一応ムラサメの事も。

 

「なるほど。それで姫があんなにそわそわしてるのか」

 

クロノスは視界の端で、速く猫と遊びたくてうずうずしてるアクアを見て言う。

 

「よし。なら俺も手伝うぜ」

「え、いいの?」

「あぁ、俺の分の仕事は終わってるから、後はアイゼンに任せてる。それに……」

「それに?」

 

オウム返しをすると、クロノスが悪戯っぽく笑う。

 

「ムラサメのマヌケをバカにできるからな」

「そ、それが狙いなんじゃ……」

 

どうやらクロノスは猫に負けたムラサメを馬鹿にしたいらしい。

ここまで、クロノスが笑顔を表に出すのは初めてだ……悪い意味で。

 

「そ、それじゃ行こっか」

 

時間が無駄に過ぎる気がして、さっそく取り掛かろうとする。

 

「ちょっと待て沢田。どうやって捕まえるつもりだ」

「あ! ………考えてなかった」

 

考えてみれば100匹もの猫をどうやって捕まえてるのだろう。

アクアに来た頼みごとだから、何か考えていると思い聞いてみると、

 

「え? 1匹ずつ捕まえていけばいいんじゃないの?」

 

駄目だ。何も考えていなかった。

クロノスは一度ため息を吐く。

 

「はぁ~、しょうがねぇ-な。ちょっと待ってろ」

 

そう言ってクロノスは街の方に向かった。待つ事数分、クロノスは大きな檻を持ってきた。

しかし、その檻を軽々しく持ってくるクロノスの力も凄い。

 

「よっと。まぁ俺の作戦は簡単だ。この檻に猫達を入れるだけ」

「でも、どうやって入れるの? かなりいるよ。まさか、アクアが言ったように、一匹ずついれてくの?」

「そこんところは任せとけ」

 

クロノスは自信ありげに笑う。

檻をドアの前に置き、準備万端と言う。

 

「俺は家の後ろに回り込む、合図したらドアを開けてくれ」

「わ、分かった……」

 

今だこの作戦がよく分からない。

クロノスは何をするのか気になる。隣ではアクアが猫との邂逅を今か今かと待っている。

 

「いいぞぉ!!開けろぉ!!」

 

合図だ。ドアを勢いよく開けると、同時に地響きが起こった。

その揺れのせいで、ツナは態勢を崩してしまう。

 

「うわっ!………ってて、一体何なん……………」

 

ツナは目の前の光景に息を呑んだ。なぜなら、先程まで隣にいたはずのアクアが今目と鼻の先にいるからだ。

 

「………」

「………」

 

一瞬時が止まった。そして、二人は段々意識を取り戻していくと同時に、顔が赤くなっていく。

 

「はひゃっ!つ、つつつつつツナっ!!」

「い、いや!こここここれはその!」

 

ツナは状況を理解し、素早くアクアから離れる。

二人の顔はリンゴみたいに真っ赤である。お互い顔が見れない状態でいると、家の中から何かが迫ってくる物音が聞こえる。

二人がドアに目をやると、何十匹の猫達が全速力でドアから出てきて、檻の中に入っていく。

猫の列がが終わると、クロノスが戻ってきて檻を閉める。

 

「よし、こんなもんかな。ん? 二人共何やってんだ?」

 

クロノスは二人が正座をして、互いに背を向けているのを不思議に思った。

 

「「何でもない!何でも!」」

 

二人は慌てながらも息ぴったりで答える。

クロノスもあまり気にしていない様子だ。

 

「そ、それよりクロノスは何をしたの」

 

ツナ気を取り直し尋ねた。

 

「そこまで難しい事はしてねぇよ。動物は大抵大きな物音がなったら、それとは逆の方に逃げるから、家の後ろでちょっと地面を割ったらドアの方に行くんじゃねぇかと思ったんだ」

「そんなむちゃくちゃな……」

「でも、うまくったじゃねぇか」

「……確かに」

 

作戦はめちゃくちゃすぎる。作戦とも呼べるのかさえ怪しいが、実際にはうまくいった。

クロノスは得意げな表情だ。

 

「あ、そうだ。ムラサメさんを探さなくちゃ」

「それなら大丈夫。ほれ」

 

クロノスは先程から引きずっていた何かを投げ出す。

 

「ムラサメさん!」

「さっき家のそこで拾った」

「そんな捨て猫みたいに! てかこれ本当に大丈夫なの目が虚ろなんだけど!」

 

よほど怖い体験でもしたのか、意識はあるのに動かなくなっている。

ツナが肩を掴み揺らしてもピクリと動かない。まるで生きる屍だ。

 

「ちょ、これどうしよう」

「別にいいんじゃねぇの、静かで助かるぜ」

「そういう問題じゃ……アクアどうしよ――あれ? アクアは?」

 

さっきまで、近くにいたのに居なくなっている。

 

「姫なら檻の中で猫と戯れてんぞ」

 

指が差された方を見ると、自ら檻の中に入り猫を何匹も抱きかかえ、あまりの嬉しさに何度も転がっている。

 

「……ね……こ……猫だと!」

 

突然ムラサメは目を大きく見開いた。猫と言う単語に反応したらしい。

ムラサメはぶるぶると肩を震わせている。

 

「猫はだめだ……猫はいけない……猫、あれにだけは関わってはいけない……」

 

ぶつぶつと何か言っている。本当に怖い体験をしたらしい。猫恐怖症とも言えるだろう。

既にツナとクロノスの周りは収集がつかない状況になっている。

 

「おや? 皆さんこんなところでどうかしましまたか?」

「お、アイゼンちょうどいいところに。ちょっと手を貸してくれないか」

 

アイゼンは既に自分の作業を終えたのか、タオルを肩にかけていた。

 

「手を貸せとは………なるほど、何となくはわかりました」

 

アイゼンは苦笑いしながらも、この悲惨の状況を瞬時に理解したらしい。このとてつもないカオスの状況を。

この後、アイゼンの手際の良さですぐに収集がついた。

猫の件は騎士団の人達に国の外まで連れ出し、解放するということになった。

 

「はぁ~、疲れた~。本当に助かったよアイゼン」

「いえいえ、これくらいお安いご用ですよ」

「あ~あ、まだ猫を愛でていたかったのに。残念」

「猫など、もう二度見たくない」

「情けねぇな」

 

日は沈み始め、全員一緒に帰路につくこにした。

 

「クロノスも本当に助かったよ。ありがとう」

「別にいいっていったろ。それに……」

 

クロノスは少し恥ずかしそうに口ごもる。

 

「俺はこの国の為に少しでも役に立ちてぇんだよ」

 

その言葉にツナは驚いた。

 

「最初はこの国に迷惑かけといて、どの面下げていればいいんだと思ってたけど。でも、仕事の手伝いにとかやってると、この国の人達は優しく接してきてくれるんだ。許してくれたとは思ってねぇけど、俺はそれだけでも十分嬉しかった。だから、俺は俺にできる事は何でもしたいんだよ」

「クロノスも成長しましたね」

 

アイゼンはクスリッ、と嬉しそうに笑う。

するとクロノスは恥ずかしそうに顔を背ける。

 

「クロノス」

「何だよ沢田……」

「改めてよろしく」

 

クロノスの本心も聞け、ツナも嬉しく思った。

クロノスは背けたままだが、不器用なりに答える。

 

「……おぉ、よろしく頼む」

 

皆と話して帰る道のりは騒がしくも楽しいものだった。

 

 




今回で小話は終りです。
次回からは原作に入っていきます。楽しみにしててください。


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戦興業と強制参加?

早く投稿すると言ったのにこうも遅くなってすみません……。
今回はいよいよ原作スタート(二期)!
ではどうぞ。


ツナが異世界に訪れてもうすぐ一週間が過ぎようとしている。

ツナ自身もこの世界にだいぶ慣れてきていたとこだ。

しかし、ある重大な事をツナは忘れていることに気付いた。

 

「俺どうやったら帰れるの!!!」

 

今の今まで戦いや異世界の観光などですっかり忘れていたのだ。

部屋の中で唸っていると、ドアをノックする音が聞こえた。

 

「ツナ! 今大丈夫!」

 

アクアの声だ。これはいいタイミングだ。自分を召喚したアクアなら帰る方法だって知ってるはず、なんだ簡単な事だとほっと安心した。

 

「うん大丈夫!」

 

そう答えるとドアを開けアクアが入ってくる。

ドアからは私服姿のアクアが現れた。そこまでこったデザインではなく、シンプルな白のドレスだった。

その普段とは違う姿にツナは少し、見惚れていた。

 

「? どうしたの?」

「あっ!いやなんでもない!それよりも何か俺に用があるんだよね」

 

話をそらそうとするのが見え見えだが、アクアは気づくことなく頷く。

 

「今日ビスコッティに行くんだけどツナも一緒に行くよね」

「ビスコッティって……ユキカゼ達がいる国だよね」

「そうだよ。まだこの前の騒動のお礼をあっちの領主に言ってなかったし。ちょうど今日は戦興業がある日だから」

「戦興業?それってなんなの?」

 

聞き覚えのない単語だと首を傾げる。

戦とと言えば最初に思いつくのは、戦国時代などが思い浮かんでくる。

 

「う~ん、話せば長くなると思うから、後でちゃんと説明するね。それで、行くよね?」

「もちろん」

 

内容はともあれ、久々にユキカゼ達とも会えると思い、ツナは表情を明るくして答える。

 

「でも、なんでこんなに急なの?こういうのってもっと前から連絡とかするんじゃないの?」

「あ~、それが今日来る事忘れてたんだ~」

 

アクアは少しばつが悪い表情だ。忘れてった、と心の中で肩を落とすが、気になった言葉が入っていた。

 

「来る?誰が?」

 

ツナは尋ねると、慌てて何でもない!と手を左右に振る。誤魔化そうとしているのが、ばればれだ。

しかし、アクアはツナに喋らせないように咳払いをして、

 

「ツナ。今日は楽しい日になると思うよ」

 

と、意味ありげな言葉とまるで天使のような笑顔を残しアクアはへを出て言った。

ツナは再び繰り出された笑顔という重い一発をもろに食らい、アクアが出て言った後も数秒ぼ~としていた。

もちろんアクアの言葉は耳に入っていない。帰る方法についても今のツナには遥か地平線へと消えている。

 

 

 

 

 

「うわぁ~、高いな」

 

ツナは今飛竜に乗り、下を眺めていた。

飛竜の背中は広く10人くらい軽々と乗せれそうだ。この飛竜はアクア曰く、大事な友達とのこと。その友達にツナ、アクア、ムラサメは乗っていた。

 

「ていうかなんで、ムラサメさんまで来てるの?」

「戦興業があると聞いてはこの俺も黙ってはいられないからな」

 

当然のごとく乗り合わせているムラサメはどうやら、その戦興業というのに参加をしたいらしい。

ツナもその言葉に薄々気づいていた。

 

(戦って、やっぱりあの戦だよな。でも興業ってどういう意味なんだ?)

 

「ムラサメさん私たちは参加しに行くんじゃなくて、あくまで別件で行くんですけど……」

 

アクアは遠慮しがちにムラサメに言う。

 

「なんだと!そんな話し聞いていないぞ勇者!」

「なんで俺!」

 

突然の指名にツナは驚く。しかし、ムラサメはそれ以上問いただすことなく、むむむっ、と小さく唸っていた。

 

「どうせならクロノスやアイゼンも来ればよかったのに」

「しょうがないよ。私たちが城を空ける事ができたのも、二人が城の護衛にあたってくれたおかげなんだから」

 

アクアが言うには前の騒動からそこまで日は経っていなく、領主と勇者が城を離れるには問題があるのではと、元老院の人達に言われ、それなら自分達が残る、と提案してくれたおかげでこうして今飛竜の背中に乗っていられる。ツナからしても二人が残ってくれれば、何かと安心もできる。

 

「ふん。あいつらも運がない」

 

何故かしたり顔のムラサメを横目に、ツナは先程からの疑問に思っていたことを口にする。

 

「そういえば、戦興業って何なの?さっき説明するとか言ってたけど」

「あっ、そうだったそうだった。戦興業ってのは、名前の通り国同士で戦をする興業の事だよ」

「戦をするって、国同士で戦争をするってわけじゃないんだよね」

 

ツナは少し緊張した面持ちで尋ねる。戦争をするのが楽しいなんてツナとしたら絶対に許せない事だ。でも、アクア達の様子を見れば、そういう命のやり取りではないとなんとなく感じ取っていた。

 

「もちろん。戦は国と国同士が交流を深める大事な手段でもあるの。この戦は、皆が楽しく、わいわい騒いだりして、この世界じゃなくてはならないものなの」

「へぇ~、でも戦ってことは戦うんだよね?怪我とかしないの?」

「この世界、フロニャルドには、フロニャ力があるのは知ってるよね?」

「うん。一応は」

 

前にユキカゼに聞いたことがある。

 

「怪我が早く治ったり、輝力っていうのに使うんだよね」

「その通り。もう少し付け加えると、フロニャ力が高い場所ならさらに直るのが早くなったりして、戦はこういう場所で行われるの。それにこの世界の人達はある程度のダメージを受けると、けものだまにっていうのになるから安心して全力でできる」

 

アクアの説明にツナはなるほど、と頷く。

 

「まぁそういうことだから、ツナも機会があったら参加してみれば」

「いや俺はいいや……」

 

安全な戦とはいえ、やはり自分からはやりたがらない。

ツナは戦う事自体が好きというわけではないからである。

アクアはそれを聞き少し残念そうにする。

その顔を見て何故か良心が痛む。

 

「……き、気が向いたら参加するよ」

「本当!」

「う、うん……」

「それじゃ私楽しみにしてるね!」

 

ツナはしまったと!、と思った。あまりにもアクアが不憫に思いつい口に出してしまったのだ。

アクアはパァッと顔が明るくなり、飛竜の手綱を掴み前に向きなおす。鼻歌を歌い上機嫌である。

 

「アクアそんなに俺に戦ってほしいのかな?」

「フン、アクア姫は戦ってほしいではなく、戦ってるお前が見たいんだろう」

「?同じ意味じゃないんですか?ていうかムラサメさん立ってると危ないですよ……」

 

ムラサメはツナの横で腕を組み仁王立ちをしている。ムラサメは何故かこの仁王立ちをしたがる。癖なのだろうか。そして、その立ち姿は以外にも似合ってる。

 

「そんなことも分からんのか。いいか勇者。アクア姫は――――」

 

ツナの質問にやれやれとした感じで答えようとした時、飛竜が一瞬急降下する。

ムラサメは突然の事にバランスを崩し、

 

ドンッ!

 

「………え」

「………あ」

 

一瞬何をされたか理解できていなかったが、すぐにツナは自分が空中に放り出された事に気づく。

そうツナは突き落とされたのだ………ムラサメに。

 

「………ちょ、えぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!!ムラサメさんぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」

 

ツナは手を伸ばすがもちろん届かず、涙目になりながら力一杯叫ぶ。

すぐにツナの姿が見えなくなる。

 

「………」

 

下を覗き込んでいたムラサメは空を見上げて一息吐き、

 

「まぁ………いいか」

 

と呟き、何事もなかったように再び前を向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

ビスコッティの勇者シンク・イズミと同じくビスコッティ親衛隊長エクレール・マルティノッジがそれぞれの武器を握り戦場を駆ける。

 

「やっぱフロニャルドの戦は楽しいね!エクレ!」

「バカ勇者! あまり油断するな!」

「うっ、親衛隊長さんは手厳しいなぁ……」

 

シンクは苦笑いし、エクレールは鼻を鳴らす。

そんな掛け合いをしながらも二人は戦場を真っ直ぐ走り続けている。

 

「そういえばエクレ、さっきユッキーに僕たち以外の勇者が今フロニャルドに居るって聞いたんだけど本当?」

「そのことか、事実だ。一週間前程にアトラティカ王国という国現れた。話せば長くなるから、この戦が終わった後にでも会いに行け。来るぞ!」

 

二人が走り続けていると、ガレット兵が前方から迫ってくる。

 

「そっか、本当なんだ。うぅ~、早く会ってみたいな!」

 

シンクは手に携えている棒を構え、エクレールと同じタイミングでガレット兵の群れに飛び込む。

 

 

 

 

 

 

 

「………ぁぁぁぁぁぁぁああああ!!ぐふっ!!」

 

ツナは空から降ってきてそのまま地面に激突。

普通なら死んでてもおかしくない高さだが、普段からリボーンに鍛えられていた事やこの場所のフロニャ力が高かったおかげで何とか助かってる。

 

「……うぅ……いってぇ………」

 

ツナは頭を押さえながら起き上がる。外見にそれ程怪我はないようだ。

 

「ムラサメさんの所為でひどい目に会ったな……ていうか生きてる自分が凄いと思えるよ」

 

ツナはそう呟きながら顔を上げると、生まれて初めてみる光景が広がっていた。

 

「…………これってまさか………アクアが言ってた………戦なの――――――っ!?」

 

目の前では、騎士の格好をしてる人が戦っている。

それも10や20ではない、辺り一帯見回すと数え切れないほどだ。

ツナの叫び声に一人の騎士が気付き、斬りかかってくる。

 

「ちょ、ちょ待った!」

 

ツナはその剣を何とか避けたが、頭の中は混乱しきっていた。

いきなり落とされたと思ったら、突然戦場の真っただ中に放り込まれたのだ、当然である。

 

「ちっ、避けやがったが、ならもう一度!」

 

騎士の男は再び斬りかかろうとする

今度は避けられないと思いツナは半場やけくそ気味で、死ぬ気丸を呑む。

 

「なっ!?」

 

騎士の剣を片手で受け止め、額に炎を灯す、さっきまでとは違う引き締まった顔つきの沢田綱吉がそこにはいた。

ツナは腹に一発入れると、騎士は突然何か小さいものに変身した。

 

「?これが……けものだまか?」

 

けものだまと呼ばれる小さく丸っこい物体は目を回していた。

ツナはそれを見て随分可愛いものだと思った。

視界の隅にけものだまを捉えつつ、ツナはこれからの事を考えていた。

正直なんでこんな事になってるのかは、そこはあえて考えないようにして。

 

(……確かアクアはビスコッティに行くっていってたな。だったら)

 

ツナ両手の炎を放出し、真上へ上がる。

ある程度周りが見渡せる高さで止まり、ツナは城を探す。

 

(………見つけた。あの城にアクアはいるはずだ)

 

まだ断定できたわけではないが、このままこの場所に留まっていてもしょうがないく思い、ツナはそのまま目的地へ向かうため両手の炎を勢いよく噴射する。

 

 

 




どうでしたでしょうか?
ちなみに初めにツナと戦う相手は既に決まっています。
戦闘描写は自身がありませんが、頑張ってみます。
それでは感想待ってます。


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初陣と天下無双

今回はツナの初戦です。
タイトルで大体誰と戦うのかわかるでしょうか?
それではどうぞ。


『さぁさぁパスティアージュの勇者レベッカも加わり盛り上がってきましたよ~! レオ閣下に空中から挑んだクーベル様ですが、力及ばず武装を破壊されてしまいました!』

『このままガレットが押し切るのか! ビスコッティが巻き返すか! はたまた途中乱入のパスティアージュが大逆転を果たすのか! 一瞬たりとも目が離せません!』

 

熱く実況を二人の司会者がこなしていると、何か緊急の連絡が入ったようで、一枚の紙が横から渡される。

 

『え~、ただいま入った情報ですが、空からとんでもなく強い奴が降ってきたとあります!………なんだこれ。何かの間違いじゃないの?』

『どうでしょうか……あ、カメラつながりました!映します!』

 

空中に浮かぶモニターには、炎の遠心力を利用し空を飛んでるツナが映った。

 

『どうやら情報は本物のようだ!それにしても誰なんだこの少年は!突如として戦場に現れ謎の炎で空を駆けているぞ!』

 

他の者達もモニターを見上げている。誰なんだ?と言葉が飛び交う。

 

『それにしてもこの少年のこの速さは一体何なんだ!』

『しかし、このまま進むとガレット本陣!つまり天下無双と相対する事になります!』

 

 

 

 

 

ツナは常に一定の速さを保ち飛び、目的地に近づいていく。

ツナが城に近づくに連れ、一つの影が見えた。

影を通り過ぎるか少し迷ったが、念のためと思い、ツナは両手の炎を緩め着地する。

 

「なんじゃ、お主がこの戦に乱入したという者か?」

「乱入なんかしていない、少し事情があるだけで、俺に戦うつもりはない」

 

ツナは今回戦いに来たわけではない。右も左も分からない状況、早くアクアがいると思われる城を目指しただけだ。

目の前の威厳のようなものがある女性は、笑みを浮かべたまま続ける。

 

「ここまで、戦場をかき乱しておいて、それはないんじゃないかのぉ」

「そんなつもりはなかった。すまない」

「やれやれ。素直に謝るのはいいことだが、もう少し張り合いがほしいもんじゃ」

 

もう少し張りつめた空気が良かったのか体から力が抜けたのか、少し肩を落とす。

しかし、すぐに先ほどと同じ自身たっぷりの表情に戻る。

女性は傍にある自分と同じくらいでかい斧を軽々と地面から抜く。

 

「まぁなんじゃここまで来れた褒美としてわしが相手になってやろう」

「いや、だからそういうわけじゃ―――」

「ガレット獅子団領主レオンミシェリ――――――いや、これ以上は言うまい」

 

どうやら相手はやる気満々らしく、取り付く暇もないようだ。

ツナはしかたないと思いながら、

 

「沢田綱吉」

 

自らの名を名乗る。

レオは名を聞くや嬉しそうそな笑みを浮かべる。

 

「そうか、沢田綱吉、やはりか。面白い」

 

その目は獲物を見つけた狩人のようだった。

ツナも身構えるように拳を前に出し、戦闘態勢に入る。

レオもそれに応じ手にもつ斧を構える。

 

「いくぞ」

『レオ様とこの少年いきなりの展開に我々も同様の色を隠せません!』

『ですが!なにやら二人ともやる気満々!なら私たちはその戦いを全力で見守る、もとい実況しましょう!』

 

両手の炎を瞬間的に爆発させ、一気にレオに迫る。

そのままレオに拳を入れようとするが、レオはひるむ様子はなく斧を正確に振り下ろす。

ツナは再び掌の炎を爆発させ、今度は背後に回りこむ。

 

「遊んでいる暇はないだ。これで終りだ」

 

ツナはこのまま勝負を終わらせるため、そのまま手套をいれようとする。

しかし、レオは前のめりに屈みツナの攻撃は空を切る。

レオはそのままの状態で馬が人を蹴るかのように、ツナの体を力強く蹴る。

不意の攻撃にツナはたじろぐが、レオはさらに追撃する。

斧を全身を軸にツナめがけて振りぬく。

 

「ぐっ……」

 

ツナは両腕を交差して耐えるが、ガードしたにも関わらず、ツナの口から血が流れる。

あまりの斧の貫通力に、顔をしかめる。

だが、レオはまだ攻撃の手を緩める事はなく、斧を構え直し力を溜め始める。

周りの空気がピリピリと音を発しているようにも聞こえる。

レオの周りに青い色をした鬼のようなものが出現する。

 

「輝力解放!獅子王烈火爆再斬!」

 

斧を力強く振りかぶると、斧から火の鳥が飛びだしてツナを襲う。

ツナはとっさに上に逃げるが、火の鳥はなお追って既にツナの俄然まで迫っていた。

ツナはしまった!と思う。火の鳥はツナにぶつかるとそのまま爆発する

 

「……わしと戦う事が遊びじゃと………言いよったな小童が!!」

 

レオの怒号が周囲に響き渡る。自分との戦いを遊びと言われ、今は怒りをあらわにしている。

上空ではまだ爆煙が上がっていて、ツナの姿は見えない。

レオは爆煙を見上げたままだ、斧を一度構えなおす。ツナ本人が落ちてこないという事は、いつ何をするか分からなく、気は緩めずにいた。すると、爆煙が晴れていくと共に、

 

「………遊びと言った事は謝る。だから、ここから俺も本気で行く」

『なんとっ!この少年ほとんど無傷!なんてタフなんでしょう!』

『ですが、レオ様の方が優勢に見えます!このまま押され続けるのかぁ!』

 

ツナが顔の前で交差していくる両腕を下ろしながらレオに言い放つ。

服は今ので大分汚れているがツナ自身のダメージは見た目程ではないようだ。

ツナは先ほどと同じ方法でレオに近ずく。

 

「またその手か、芸がない」

「ナッツ!」

「ガゥ!」

 

ツナの呼び声にそれまでどこかに隠れていたナッツがレオの目の前に現れる。突然目の前に小さい何かが現れレオは驚き少し身をのけぞる。

その隙をつき、ツナの得意とする拳のラッシュを仕掛ける。

 

「くっ!こざかしい!」

 

しかし、レオは手に持つ斧を盾代わりにツナの拳を全て防ぎ、ツナを払いのける。

ツナはそれを避けるように、一旦レオとの距離をとる。

 

「ふん、目くらまししなどせこい手を使いおって。男なら真っ向からこんかっ!」

 

再びレオが吠える。そうとう威厳のある声で、普段のツナなら何を言われようと従ってしまいそうだ。

レオは先程と同じく背後に鬼の姿が現る。再び何か大技を使おうとしている。

 

『むむっ!この構えはレオ様一番の威力を持つ輝力技!防御不能のその技は味方まで巻き込むのがたまに傷!』

 

「小細工などわしの前では無駄じゃ!輝力解放!獅子王炎陣大爆破!」

 

レオを中心に周りの地面がひび割れ、中心を除く周りが瞬間的に大爆発を起こす。もちろんツナも巻き込まれてしまい、その威力は先程の技の比ではない。

 

『出たぁぁぁぁああっ!レオ様の獅子王炎陣大爆破!以前使った時は勇者シンクと親衛隊長に避けられてしまったが、今回乱入者には避けようとする動きはなく、直撃!これで決まりか!』

 

レオの周りは爆発の影響で何も見えないと言ったところだ。レオ自身これで決まったと思い斧を地面に立て、戦闘隊背を解く。

しかし、それがいけなかった。爆煙が晴れていく中、レオはツナの姿を捉えるが、それは地面に横たわる姿ではなく、黒いマント―――一世のマントを纏い先程の爆発を防いでいた。

 

「なっ!」

 

一つの傷がついていないツナに驚愕する。マントから顔をだしツナは三たび両手の炎を瞬間的に爆発させレオの目の前に迫る。

一瞬反応が遅れたレオは、ツナの接近を簡単に許してしまう。

 

「これで終りだ」

 

ツナはそのまま拳をレオに振り下ろし、レオの顔前で止める。

 

「………何の真似じゃ…」

 

レオはツナの行動に気に食わなく、ギロリと睨む。

だが、ツナにとってはこれでいいのだ。

 

「言葉通りだ。これで俺の勝ちだ」

「勝利宣言はその拳をわしに当てて初めてするものじゃ」

「最初に言ったはずだ。俺は争いに来たんじゃない。俺が用があるのはそこの城だ」

 

両者しばし目を離さず譲らないと言ったところ。ツナにとってかここで勝つ事に何の意味を持たない。

だからこそ、ここでレオに引いてもらいたいのだ。

数秒してレオはやれやれ、と言って目を瞑る。

 

「分かったわしの負けじゃ」

 

どうやらレオの方が先に折れたようで、どこから取りだしたのか小さな白旗を振る。ツナはほっと胸をなで下ろす。

煙も晴れていき周りも大分見渡せるようになると、

 

『おおぉぉぉっと!煙が晴れると何故かレオ様が白旗を上げている!これはどういうことだ!』

『』

 

ツナが死ぬ気を解こうとした時、上空から活発で元気のいい声が聞こえてくる。

 

「ちょぉぉっと待ったぁぁあ!ガレットの危機、もといレオ様の危機と聞いてはこのガレットの勇者ななみが黙ってないよ!」

「え?」

 

空を見上げたその先には一人の少女がいた。少女は楽々と着地をして、ツナを見て喜々して言った。

 

「さぁレオ様の代わりに私が相手になるよぉ!かかってきなさい不法侵入者!」

 

一難去ってまた一難。とても元気で活発なまさに天真爛漫という言葉が当てはまる子だ。

突然の事であっけにとられていたが、ツナは彼女が言った事に反応する。

 

「勇者……」

 

 

 

 

 

 

所変わって、ツナを途中戦場を捨ててきた?アクアとムラサメはちょうどビスコッティの城。ヒィリアンノ城に到着したとこだ。

 

「ミルヒ久しぶり!元気だった!」

「アクア突然どうしたんですか!?」

 

飛竜から降り一人の少女に駆け寄る。そうこの少女こそビスコッティミルヒオーレ・ヒィリアンノ・ビスコッティである。

ミルヒは驚いた様子でアクアを見る。

 

「この前の件でお世話になったし、そのお礼に。それと、私の国の勇者に戦興業を見せて上げようと思って」

「それだったら連絡くらいいれてくれてもよかったのに」

 

当然の反応だ。アクアはほとんど勢いで飛び出してきたからそんな暇はなかったのだ。

誤魔化すように笑っていると、ミルヒはアクアの後ろを覗き込む。

 

「そちらがアクアの国の勇者様なんですか?」

「うん。この人がアトラティカ王国の勇者沢田綱―――」

 

アクアが大手を振るって後ろにいる人を紹介しようと、そこにはムラサメしかいない。

アクアはあれ?、と困惑しながらツナの姿を探すがどこにも見当たらない。

 

「む、ムラサメさん……ツナは?」

「落ちた」

 

ムラサメの回答に首を傾げもう一度問う。

 

「えっと……ツナは今どこに?」

「たぶん、いや確実に戦場だろう」

 

アクアの思考が有無言わせず止まった。そして、すぐに時が動き始めると、

 

「ええぇぇぇぇぇぇええ!!どうしてそんなことに!!」

「飛竜で飛んでいる時、一人で落ちて行った」

 

この証言には嘘がある。正確には落とされただ。ムラサメは少なからず自分の罪をなかったことにしようとしてるのだ。

 

「なんでその時教えてくれなかったんですか!」

「問題無いと思ってな」

「大ありですよ!」

 

まくしたてるように問い詰めているアクアを見て、ミルヒも何となく状況を理解したようだ。

 

「アクアは勇者様と来る途中ではぐれたんですか?」

「う、うんそうみたい」

「よかったなアクア姫!これで勇者の戦いっぷりが見れるぞ!」

「ムラサメさんは黙っててください!」

 

無駄な横やりにアクアはすっぱりと切り捨てる。

ちなみに、ムラサメはまったくわびた様子はない。

 

「どうしよう………」

 

ツナが今戦っていると知らずアクアはただただツナの心配をしていた。




どうでしたでしょうか?
これからは更新が少し遅れるかもしれません。


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勘違いと波乗り勇者

大分遅くなりました。もっと早く投稿したかったですけど、中々進まみませんでした。
まぁ、とにかく最新話。どうぞ!


『なんということでしょう!レオ様の危機に現れたのはガレットの勇者ナナミ!しかし、レオ様が勝てなかった相手に勇者ナナミは勝てるのでしょうか!』

「心配ご無用!レオ様のピンチを救うためなら、この勇者ナナミ元気百倍、勇気百倍!」

 

実況の声にナナミは元気一杯に答える。

ツナはいきなりの事で困惑するが、二つだけ分かる事がある。

この少女が勇者であることと、

 

「さぁ、さぁ、来ないならこっちから行くよ!」

 

この戦いは避けられないということ。

レオと同じで聞く耳持たないようだ。

 

「これナナミ。ちと待たんか、こやつとの勝負は既につい……」

「いっくよう――!」

 

レオの静止をまるで聞いていない。

ツナの意思などお構いなく向かってきて、仕方ないとと思いツナは再び拳を構える

 

「たぁぁぁぁぁぁあああ!」

 

ナナミは棒を躊躇なくツナに振り下ろす。

それを受け止めると小さな衝撃波が生まれる。押しきれないと思ったナナミは空中で一回転しながら後ろに下がる。

攻撃を受け止められたのにもかかわらず、その表情には生き生きとしたものがある。

それだけ戦いを楽しんでいるんだろう。

ツナはどう戦うか思考しようとするが、それを許さないのかナナミは棒を持つ方とは逆の手を突き出し叫ぶ。

 

「輝力解放! 海王水神掌!」

 

そこから勢いよく水が噴射されたように、紋章砲がツナに襲い掛かる。

ツナは先程レオの紋章砲を止めた時と同じく、ナッツを形態変化させ、一世のマントを纏う。

しかし、その紋章砲はツナの俄然まで迫ると突然弾けるかのよう飛び散った。

水に視界を奪われたツナが一瞬驚くと、いつの間にかその水に乗じてのナナミが接近していた。

 

「しまっ――」

 

そして、そのまま手に持った棒でツナの体をなぎ払った。

防御が間に合わずツナは後方に吹っ飛ばされる。

 

『おお~っと!勇者ナナミ!今日初めて使う紋章砲をこうも自由自在に扱うとは、さすがと言うしかない!』

「へっへん。さてレオ様の敵取らせてもらうよ!」

「いや死んでおらんわ」

 

レオの小さなツッコミは聞こえるはずもなく、ナナミはここで畳みかけて終わらせようと、先ほどと同じく掌を突き出した。

ツナは今だ起き上がれていなく、これでは防ぎようがない。

 

「これで終りだよ!輝力全開放! 海王水神掌!」

 

さすがのツナもやられたと思った。

しかし、いつまでたっても何も起こらない。

ナナミを見ていると、何故術が発動しないのか首を傾げている。

 

『どうしたんだ?紋章砲が発動しないぞ。まさか不発か?』

 

実況も困惑したような様子だ。するとナナミは足元がおぼつかなくなったのか、突然ふらつきだして、最終的に地面にペタンと座り込んでしまった。ナナミ自身何が何だかわかっていなく、頭に?を浮かべている。

 

「輝力の使いすぎじゃ」

 

レオがやれやれと言った感じで、ナナミに近づいていく。

 

「今日輝力を使い始めたばかりじゃと言うに、ばかばかと使いよって。ただでさえ、体力消費が激しいというにお前はまだ慣れておらんのに。当然の結果じゃ」

「レオ様!生きていたんですか!?」

「勝手に殺すな!」

 

どうやら相手の体力ぎ切れのようだ。

今度こそ終わったと思い、ツナは今度こそ死ぬ気モードを解いた。

 

「えっと、いいですか?」

「おお、すまんかったな。……というか雰囲気かわっておらんか?」

「えっ、そ、そんなことないでよ……」

「そうか?」

「そ、それよりもその人って勇者なんですか!」

 

少し強引に話の流れを変え、ナナミについて尋ねた。

 

「そうじゃ、我がガレットが召喚した勇者じゃ」

「あれ?随分と親しげですけど、レオ様その人って侵入者じゃないんですか?」

「ん? あぁ違う違う。こやつも勇者じゃ」

「え………ええぇぇぇぇぇえええ!!」

 

ナナミのかん高い声が戦場に響き渡る。

ナナミはツナに指をさしながら口をパクパクとしている。

ツナもレオの発言に対し驚いていた。

 

「知ってたんですか!俺が勇者だって!」

「まぁな、弟から聞いておったもんじゃからな。アトラティカ王国を救った勇者の話を」

「弟?……ていうか知ってたんなら戦う意味なんて無かったじゃないですか!」

「いやなに、話ではかなりの使い手と聞いていたものだから、どれほどの力なのか知りたくてな。まぁ、そう怒るな」

 

ツナはがっくりと肩を落とす。何というかもの凄く疲れているようだ。

 

「ごめんなさい!」

「……え?」

 

ナナミは勢いよく立ち上がると、綺麗にお辞儀をする。

落ち込んでいたツナは虚を突かれ、目を丸くしていた。

 

「侵入者と思って襲いかかっちゃって、本当にごめんなさい!」

「い、いいよ別!そんなに謝らなくたって!俺がここに落ちてきたのが悪かったんだし!」

 

本人はかなりノリノリだった気がするが、ここまで謝られると返って対応に困る。

 

「いやそれでも私の早とちりと言うか何というか………って落ちてきた?」

「う、うん」

 

ツナは二人にここまでの事情を話した。

 

「なるほどな。だったり心配するな。もうじき戦も終わる。そしたらワシが送って行ってやろう」

「え、でもそこにあるのって……」

 

ツナはレオ達の後ろにある城を指差す。

ここまで来た目的地はそこにあるではないかと思った。

 

「いやここは我がガレットの拠点で、ヒィリアンノ城ではないぞ」

「え、……ってことは……間違えたぁぁぁぁぁあああ!!」

 

ツナは瞬時に理解した。自分が向かっていた場所が、間違いであったことを。

考えてみればそうだ、戦中なのだから他にも城があってもおかしくはない。

ツナは再び肩を落とし、唸り声を上げる。

 

「どうやら何か勘違いしていたようだな。まぁ、気を落とすな」

 

言葉では慰めているが、愉快にそうに、はっはっは!と大きく笑っている。

 

『むむっ!レオ閣下が何か笑っているぞ!どうやら侵入者と和解した様子だ!』

『戦もそろそろ終わりを迎えてきました!さぁ皆さん最後の力を振り絞って精一杯頑張ってください!』

 

うなだれていたツナは、先程の話の続きを思い出し、ナナミを見た。

 

「そういえば、ええっと………」

「? あ、そっか!名前だよね。私は高瀬七海だよ」

「俺は沢田綱吉です。それで高瀬さん……」

「肩っ苦しいな。ナナミでいいよ。敬語もいらない」

「そ、そう。それじゃ俺はツナでいいよ。皆からもそう呼ばれてるし」

「分かった」

 

軽く自己紹介を済ませツナは先程の疑問をナナミに投げかける。

 

「ナナミは勇者って呼ばれたけど本当なの?」

「うんそうだよ。っていっても今日が初めての新米勇者なんだけど」

「ちなみに勇者は後二人いるぞ」

「え、勇者ってそんなにいるもんなの!」

 

勇者っていったら大体一人いるかどうかも不思議なものなのに、それが三人もいるとは、驚きが隠せない。

 

「まぁ、その勇者たちもこの戦が終わった―――」

 

ビィ――――!!!

 

『『終了ぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!』』

『楽しい時間ほど早く終わってしまうもの。皆さんこの戦興業楽しんでもらえたでしょうか!』

『この戦に参加してくださったたくさんの方々のおかげで私たちも楽しく伸び伸びと実況ができました!』

『それでは結果発表に移りたいと思います!』

 

 

 

 

 

どうやら戦は終わったようだ。

レオはこれから表彰があるとのことで、ツナも一緒に移動する事になった。

表彰場はあまり離れてはいなかったので、そこまで時間はかからなかった。

着くと、そこには服装から見て取れるほどのお姫様が二人いた。一人はツナと同い年のピンクが似合いそうな女の子と背はツナより大分小さく少女と言うより、幼女という言葉が適切な、リスみたいな尻尾が特徴的な女の子である。

 

「ナナミ!」

「シンク!ベッキー!」

 

ナナミは自分の元へ駆け寄ってきた、男女二人に笑顔で返す。

どうやら二人はナナミの知り合いのようだ。もしかしたら、先程言っていた勇者だろうか?

ツナはそんな三人を見ていて、自分の世界の獄寺や山本の事を思い出した。

いつも一緒にいた大事な友達いろんな苦難を共に乗り越えてきた、ツナにとってかけがえのない存在。

そんな風に考えている、思わず頬が緩んでしまう。

ツナが干渉に浸っていると、どこからともなく猛々しい雄たけびが聞こえてくる。

 

「………ぉぉぉぉぉおおおおおお!!!勇者ぁぁぁぁぁあああ!!!」

「え、何!ってむ、ムラサメさん!?何でそんな鬼の形相で!」

 

どこから来たのかムラサメがこちらに全力ダッシュで向かってくる。

 

「くたばれぇぇぇええええ!!!」

「何でですか!ってぎゃぁぁぁあああ!!」

 

ムラサメはスピードを緩めることなく、そのままツナへ渾身のドロップキックを放った。

ツナは、先程の疲れもありかわす事もできず、キレイに吹っ飛ばされる。

その場にいた者達は突然の事で何が起こったのか理解できず、静まり返っていた。

 

「……ったた……いきなり何するんですか!」

 

身に覚えのない攻撃。一体自分が何をしたんだと思った。

 

「何をしたかだと………そんなの決まっている!お前だけ戦場で戦うなどずるいではないか!」

 

何を言っているんだこの人は?そう思うほかなかった。

 

「ず、ずるいも何もムラサメさんが俺を落としたんじゃないですか!」

「そんな些細なことなど気にするな!」

「些細じゃないですよ!十分すぎます!ムラサメさんの所為でこっちは大変だったんですよ!」

 

自分の意思とは関係なく参加させられ、右を向いても左を向いても何が何だか分からない戦場。

どれだけ大変だったか、ツナは文句を言いたいくらいであった。

 

「ふん!そんなことなど当の昔に忘れた!」

「なっ!」

 

ムラサメはふてぶてしくも言い放つ。

その発言にツナが反論しようとした時、

 

「ム~ラ~サ~メ~さ~ん~」

 

ムラサメの後ろから何かどす黒いオーラを纏った『何か』が現れる。

その『何か』は不気味な笑顔を浮かべ、ムラサメの肩にそっと手を置く。

 

「ツナが落とされたって、どういうことですか~」

 

『何か』に語りかけられているムラサメは顔は青く、額には大粒の汗が見える。

それは何かに恐怖をしているようにも見える。

 

「い、いや、これは、その、だな……」

「ムラサメさんさっきは、そんなこと一言も言ってませんでしたよね~」

 

ムラサメは振り向いてはいけないと分かっていても、何かに吸い寄せられるようにゆっくりと後ろを向く。

そこには、アクアが――――もとい般若がいた。

ムラサメは顔を見るや否や素早く、逃げようとする。しかし、アクアはそれを許さず首根っこ掴む。

 

「ちょ~っとこっちに来てくださいね~」

「ち、違うぞアクア姫!あれは事故だったんだ!言わなかったのは余計なトラブルを避けるためで!」

 

ムラサメは言いわけをするが、アクアはニコニコと笑顔を絶やさず完全に聞き流している。

見ているツナも恐ろしくて、何も言葉を発する事ができず震えていた。

その後、ムラサメの断末魔が戦場で響き渡った事は言うまでもない。

こうして、沢田綱吉の初めての戦は無事に?幕を閉じた。

 

 

 

 




どうっだったでしょうか?
次はもう少し早めに投稿したいと思います。


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談笑と月

早くと言っておきながらまた、遅れてしまいました。
今回は会話ばかりです。楽しんでいただけるかは分かりませんが、どうぞ。


「へぇそういうことがあったんだ」

「なんか凄い話だね」

「うん。」

 

シンク、ナナミ、レベッカはツナと向き合い感嘆の声を上げる。

 

「い、いや………そんなんじゃ……」

 

戦が終わった後、ツナはアクアやそこにいた姫様、勇者達と一緒にここビスコッティに訪れた。

ビスコッティに着くまで召喚された他の勇者との挨拶を軽く交わした。

そして、勇者三人がツナのアトラティカ王国での活躍を聞きたいと言いだし、それなら、ゆっくりできる場所でと、ミルヒの計らいで広く綺麗に装飾されたこの部屋で話すことになった。どうやら、この部屋は日本で言う居間みたいなものらしい。

約束通りツナはこれまでの事を控え目に話すが、何故かアクアが煮えを切らして、真実をギリギリ超えない程度に盛り上げた。ツナ本人は自分の事をあまりにも美化され、顔から火が出るほど恥ずかしかった。

 

「そうなの!それで極め付けがこれ!『俺は君のためなら死ねる!』」

「ちょっ!何勝手に話し作ってんの!」

「ツナカッコいい!」

「シンク違うから!そんなこと言っていないから!」

 

慌てて否定するがシンク達の耳には入っていなく、シンクはツナを尊敬のまなざしを向ける。

この場には勇者と領主達しか居ないから、ユキカゼはエクレールに助け船はもちろん出ない。

ツナ自身が弁解するしかない。

 

「確かに守るみたいな事は言ったけど、そんなにカッコいい事言ってないよ!」

「ツナったら照れちゃってぇ~」

「アクアは俺を茶化したいだけだよね!」

「うん」

「認めちゃった!」

 

ツナとアクアのやり取りを見ていた勇者三人は思う。

 

「どっちにしたって二人とも仲いいね」

「だね」

 

出会って1週間程しか経っていなのに、こんな風にふざけあえるのが何よりの証拠である。

二人のやり取りを見てるだけでも不意に笑ってしまいそうである。

領主陣も紅茶を呑みながらその様子を微笑ましく見る。

 

「アクアのとこの勇者も大変だな」

「そうですか?私にはとっても仲が良いと思いますよ」

「うむ~。うちもあんな風にレベッカときゃっきゃっ、うふふ、したいのじゃ~」

 

この場は随分と豪華な顔触れになっている。それぞれの国の勇者や領主、それがこれだけ集まっているのだから。

それでも何に気兼ねなく笑いあえるのもこの世界の、いやここにいる者達がそれだけ誰に対しても分け隔てなく優しい心を持っているからであろう。

たくさん談笑をし終えると、区切りがいいと思いミルヒが言った。

 

「それじゃ皆さん。そろそろお風呂に入りましょうか」

「お!いいね、いいね!フロニャルドでの初風呂だぁ!」

「うちたちも入るのじゃ!のうレベッカ!」

「はい、クー様!」

 

女性陣は風呂という単語を聞くと、途端に目の色を変えた。

やはり、異世界だろうと何だろうと、女の子は風呂が好きなのだろう。

とても、うきうきした様子である。

 

「それじゃ僕たちも入ろうかツナ」

「そうだね」

 

二人で残っていても時間を持て余すだけだと、思って、二人も女性陣に続くように部屋を出る。

 

「ツナ覗いたら駄目だよ?」

「そんなことしないよ!」

「本当に?」

「俺ってそんなに怪しく見えるの!」

「いや、その慌てようが何だか逆に怪しく……」

「そうさせたのはアクアでしょ!」

 

アクアは「冗談、冗談」と笑いながら答える。

さっきから随分と遊ばれているが、どうもアクアには敵わない。

初めて会った時とは大違いである。あの時は演技で作っていた部分があったけど、砕けたらこんなにも小悪魔的性格だったのかと、ツナは思い知った。

まぁ、他人行儀や敬語を使われるのはむず痒く感じてしまう。しかし、これはこれでまた激しく疲れそうである。

ツナ達は、廊下を進んでいくと『男』『女』とそれぞれ別の色で塗られたのれんが目に入る。

 

「あれ?異世界なのに何で銭湯みたいになってんの?」

「これはシンクが提案してくれたんです」

 

名前を呼ばれ、シンクは照れくさく笑う。

 

「へぇ~、でも何で?」

「そ、それはその~……そう!こっちの世界にも僕たちの世界の事を知ってもらいたくて、まずは風呂からってことで教えたんだ!」

 

何だか少し、後付け臭い感じだ。妙に焦ったように大きな声で言うから尚更何かあるのかと考えてしまう。

シンクはシンクで、この場を凌ぎたかった。以前フロニャルドに来た時、間違ってミルヒと風呂に入る事になった事を教訓に、こののれんを設置するように薦めたのだ。

ちなみにミルヒには敢えて、その事を伏せて話した。

何とかばれない様にと心の中で願っていると、

 

「へぇ~そうなんだ」

「ほう、これがあちらの世界では普通なのか」

 

のれんに興味が行くもののすぐに、『女』と書かれたそれを潜る。

それだけ風呂に入る事を心待ちにしていたという事なのだろう。

シンクもほっと胸を撫で下ろした。

 

「それじゃ僕らも入ろうか」

 

安堵の表情のままツナにも入るよう促した。

 

 

 

――――女湯――――

 

「わぁ!ひろ―――い!」

「私こんなに広いお風呂初めて!銭湯より広いんじゃない!」

 

レベッカとナナミは浴場を見て感嘆の声を上げる。

ここまで大きく豪華な風呂に入る事などまずないだろう。

 

「喜んでもらえて嬉しいです」

「レベッカ!うちと流しっこするのじゃ!」

 

続けてミルヒとクーベルが出てくる。

クーベルは浴場よりレベッカの方に飛びつく。

 

「それでは、ワシはナナミに流してもらおうか」

「なら私はミルヒを」

 

それぞれが洗いあう相手を決め、それぞれがいろんな話に花を咲かせる。勇者二人は今日初めて知り合ったとは思えないくらい、仲良く領主達とじゃれあっていたり、アクアは久しく会うミルヒとふざけあったりする。

全員体を流し終え、待ってましたと言わんばかりに湯に浸かると、ほっこりとした顔を浮かべる。

 

「今さらじゃけど、レオ姉のそれは大きするんじゃ!」

「そうか?自分ではよく分からんが……」

 

ナナミがレオの胸を指差しジトメで見る。

クーベルは自分の無い胸を虚しくも見る。……これからの成長に期待。

レオは自分が持つそれの意味をあまり理解していないらしいが、ナナミ、アクア、クーベルは恨めしそうに見る。

 

「そういえば、レオ様って昔から発育が良かったですね」

「レオ姉はずるいのじゃ!反則なのじゃ!」

「そんな危ない爆弾は今すぐ撤去しないといけないよね!」

 

ナナミ、アクア、クーベルが何かに取りつかれたかのようにゆらりと立ち上がる。

レオもそれに何か危険を察知したのか、少し後ずさる。

 

「な、なんじゃ一体、何か怖―――」

「さわっちゃえ―――!」

 

ナナミの合図とレベッカとクーベル、アクアが飛びかかる。

手当たり次第にレオの体を触りつくし、なんとも嬉し恥ずかしの構図ができあがる。

触ってる本人達は完全に悪ふざけでやっている。

 

「や、止めぬか!こ、これっ!そこは……っ!」

「す、すごいっ!これが大人の魅力!」

「レオ様は私達とそんなに変わらないんですが……」

 

ミルヒが訂正するが、そんなのは関係なく、ナナミ達の猛攻は一向に休まない。

というか、なんだか楽しんでるようにも見える。

しかし、さすがにやり過ぎである。堪忍袋の緒的な何かが切れる音が聞こえた。

 

「……いい加減にせんかぁぁぁあああ!!」

 

 

―――男湯―――

 

「なんだか向こうは騒がしいね」

「うん。レオさんが怒っているのは声で分かる」

 

二人は湯に浸かりながら、今日一日の疲れを取る。

 

「シンクってフロニャルドに来るのって、二回目なんだよね?」

「そうだよ。前に来たのは春休みだから……三か月前ってとこかな」

 

シンク達についても先程、大まかであるが教えてもらったとこだ。

 

「それよりさツナ。僕達風月案で合宿をやる予定なんだけど、ツナも来ない?」

「えっ?行っていいの?」

「もちろん!僕もツナと仲良くなりたいし!」

 

恥ずかしい台詞をこうも堂々と当たり前に言えるシンクに、ツナは自分の心に真っ直ぐなんだな、と素直に凄いと思った。

 

「そ、それじゃ。よろしく」

 

照れながらもシンクの申し出はツナ自身嬉しく感じていた。

 

「うん!よろしく!」

 

シンクから出された手をツナはしっかりと握る。

 

「こんのたわけがぁぁぁぁぁああああ!!!」

 

その後隣では大きな水しぶきと共に目を回している三人の娘達が宙を舞っていた。

 

 

 

 

 

 

夜であろうとも城の中では様々な光が零れるように溢れて、まだ大分昼間の賑やかさが残っている。

ツナ達は風呂を上がった後も、様々な話に花を咲かせていたが、時間も時間と言う事で、お開きと言う形になった。

ツナも使用人から部屋の鍵をもらい、場所も教えてもらい向かっているのだが、

 

「ま、迷った~」

 

今にも泣き出しそう声が廊下に小さくだが響く。

城の人達にも、何故だか会う事がない。

だからツナは途方に暮れて、城の中をただたださ迷う事しかできない。

 

「ん?あれって……」

 

歩いているといつの間にか庭の方に出ていて、その庭には見覚えのある少女がいた。

 

「アクア……?何してんだろ?」

 

庭の椅子に一人アクアは空を見上げながら座っていた。

エメラルド色の髪が月の光に照らされ、不思議な色を放っていた。

ツナの眼には凄く幻想的に見えているだろう。まるで、絵本の一ページのようである。

いつの間にか目を奪われていたツナは、ふと振り返ったアクアと目が合う。

 

「ツナ……」

「あっ、ごめん!別に盗み見てたわけじゃ……」

「?どうしたのそんなに慌てて?」

 

どうやらツナが偶然通りかかったと思ってるらし。事実そうだが、何故か悪い事をしたかのような気持ちになってしまう。

 

「……少し話ししない」

 

アクアの誘いに少し戸惑うが、素直に頷く。

庭先まで足を運び、アクアの向かいの椅子に座る。

 

「………」

「………」

 

沈黙が流れる。

 

(な、何を話せばいいんだ……)

 

ツナは何を話すか頭の中であれこれ悩んでいると、

 

「ツナ知ってた」

「?」

 

アクアが神妙な面持ちでツナをじっと見つめる。

 

「ここはね、昔ある騎士が練習場所に使っていたの。でも、ある日練習が終わって返ろうとした時、ふとどこからともなく声が聞こえてきたの。《おいていけ》って、騎士は空耳だと思ったけど、何度も何度も聞こえ――――」

「ちょ、ちょっと待って!」

「む~、今からいいとこなのに」

 

アクアは不服そうに唸る。

 

「じゃなくて、それってもしかして怖い話なんじゃ………?」

「もしかしなくても、そうだよ。聞いててわかんなかった?」

「いや何となくは……じゃなくて!何で怖い話なの!」

「いやここは場を温めようと」

「逆に冷えかえるよ!」

「だったらツナが何か話してよ。面白い事」

 

アクアは悪戯っぽく笑う。自分の話題を途中で斬られて仕返しのつもりなのだろう。

しかし、面白い事と言われてもすぐさま話題は浮かばない。ツナは空中で指をなぞり、え~と、と焦りながら考え、そうだ!と手を叩く。

 

「俺の居た世界はしゃべる赤ん坊がいるんだ」

「………」

 

無言の威圧感。憐みの目。

今のアクアはとても可哀そうな人を見る目である。

 

「ツナ…さすがにそれは……」

 

アクアは心配した表情と控えめな声で言う。

 

「いや本当なんだってば! てかその目やめて! 結構きついから!」

 

ツナはげんなりとなった。ここまで、ダメージを負うとは自分でも思っていなかったのだろう。

 

「ふふふっ」

 

すると、アクアが小さく笑う。

 

「……初めてだね」

「えっ……」

「ツナと二人でこうしてゆっくり話すの」

「あ、確かに……」

 

言葉を交わした事はあっても、こうして落ち着いて話すのは確かにこれが初めてだった。

気付くとツナの方もさっきまでの緊張感はなくなっていた。

 

「前々からツナとはこうして話す機会がほしかったんだ」

「しょうがないよ。アクアは色々と忙しかったんだから」

「そう言ってもらえると助かるな」

 

ツナの気遣いにアクアは笑顔で返す。

 

「そう言えば、一人でなにしてたの?ぼぉ~としてたみたいだったけど」

「ん?そう見えた、やっぱり」

 

ツナは頷く。

逆にそれ以外どうみえるのか。

 

「……私さ、この月や空が好きなんだ。綺麗に輝いて………今の私の眼に映ってるのが夢なんじゃないかって思うくらい。幻想的で、いつまでも見ていたいと思わせるの。………って、変だよね私?」

 

アクアは苦笑いしながらツナに尋ねる。

 

「変じゃないよ。そんな風に景色を楽しむ事が出来るのは大事な事だと俺は思うよ」

 

ツナは元の世界で、ただ皆と騒ぎ会うだけじゃなく、そこには花火や桜。様々な背景があったからこそ、楽しめた。だからこそ、景色を楽しむことの大切さも知っている。

アクアはその言葉に意外な言葉だったのか面をくらっている。

 

「だから、変なんかじゃないと俺は思うよ」

「………そんなことってくれたのは、ツナで二人目だよ」

 

ふいに零れるその穏やかな笑顔にツナはドキッとする。

 

「?何赤くなってんの?」

「な、何でもない何でも!」

 

ツナは激しく両手を左右に振る。

気付かないうちに、顔が赤くなっていた。

そう?、と言いアクアは椅子から立ち上がる。

 

「それじゃ、そろそろ寝ようか」

「う、うん」

 

ツナも立ち上がり伸びをする。

ふいに目を上にやると、今もまだ輝き続ける月がそこにある。

 

「綺麗な月だよね」

 

ツナは素直な感想を言う。

 

「本当だね」

 

いつの間にかアクアも月を見上げていた。

二人はしばしの間。暗闇の中でも決して光を失う事がない大きな月を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に戦も終り誰もいない戦場に一人の男が倒れている。

 

「はっ!こ、ここはどこだ!」

 

男は意識を取り戻すと、勢いよく立ち上がり周囲を見渡す。

しかし、周りには人っ子一人おらず、まるで世界に一人取り残されたかのようである。

 

「だ、誰かいないのか!勇者!アクア姫!誰でもいい、誰でもいいからから返事をしろぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!」

 

存在を忘れられ、一人取り残されたムラサメは一人虚しく空に吠えた。




どうだったでしょうか?
先程プロットを再確認しましたけど、この小説の終りはまだ長いです。
それまで、なんとか頑張っていきますので、読者の皆さんも付き合ってくれれば幸いです。


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合宿と迷子

テストも終りまた投稿を開始していきます。
今回は風月案での合宿の場面にオリジナルの話を加えていきたいと思います。
それではどうぞ。


ツナは約束通りシンク達と一緒に風月案に来ていた。

これには若い騎士たちの交流や訓練などを名目にしている。ここに居るのもツナやシンク、エクレールにユキカゼ、ノワール、そして何故かムラサメが来ている。

 

「やっぱ綺麗でのどかなとこだよな~」

 

自然溢れる森からは鳥のさえずりが聞こえ、河の方では日の光が反射しながらも流水が小さなせせらぎを奏でている。ツナは目を閉じてゆっくりと深呼吸すると、まるでそれらが体に染み込んでいくように感じた。こんなにいい場所なら、いつまでだって居たいとも思った。

そして、今は何をしているかと言うと、

 

「ツナ、そっちは終わったの?」

「えっと~、まぁ一応は………」

 

ツナは歯切れの悪い返事を返す。何が終わったのかと言うと、ツナ達は今の今まで戦闘訓練をしていた。

ツナは断ったのだが、どうせだからと言われ、参加したのだ。

訓練はそれぞれ二人一組を作ってやるのだが、シンクはユキカゼとエクレールはノワールと、それで消去法でツナはムラサメと戦う事になったのだが……。

ムラサメは「この時を待っていた!」と興奮していて、戦いが始めると足場が濡れていたのか足を滑らせ、そのまま川に落ちどんぶらこと流れて行った。

ここまで不幸なことが続くと、ムラサメには何か悪霊でも憑いているのではないかと本気で心配をするツナだった。

その後は、なんとかムラサメを河から助けたが、目を回していて続行不可能と思い、ツナは岩場でゆっくりと休憩していた。

 

「あれ、エクレール達は?」

「そういえば見てないな。まだ終わっていなのかも」

 

二人を身に行くと言うのでツナも同行した。

少し離れた場所で水しぶきが上がる。その場に着くと、案の定エクレールとノワールが肩で息をしながら岩に倒れ込んでいた。

 

「はぁ、はぁ、いい加減にしろ……この負けず嫌いが……」

「はぁ、はぁ、やめない。勝つまでは……」

 

状況からして、二人は既に戦う体力は残ってなさそうが。それでもノワールは根性とでも言うべきか執念と言うべきか、よろよろとしながら立ち上がる。

 

「もういい分かった……私の負けだ……」

 

付き合いきれないと思い、エクレールは半場投げやりに負けを認める。確かにどれだけ時間を費やそうとも、今のノワールは勝つまでやめないだろう。

ノワールってこんな子だったんだ、と心の中でツナは苦笑する。

本人は「勝ったぁ」と満足して力が抜けたかのように、石に座り込む。

 

「ノワールの負けず嫌いとど根性の勝利でござるな」

「ガレット魂……」

 

ノワールは小さくガッツポーズをとる。それほど勝負事が好きなのか、それともエクレールに負けたくなかったのだろうか。

エクレールはため息をつきながら、シンクの手を借り立ち上がる。

 

「だから、こいつとはやりたくなかったんだ」

「まぁまぁ、そんなこと言わない言わない」

 

戦闘訓練も終り、少しの休憩を挟む。次は水難救助の訓練とのこと。戦興業では水を使ったステージもあり、どんなアクシデントが起こっても冷静に対応できる為とのこと。

リボーン達と行った海水浴では、水難救助をした事があるが、あの時は結局死ぬ気弾に頼る形になったからな、とツナは昔の事を思い出していた。

ツナとシンクはすぐさま海パンに履き替え、河で水の冷たさを味わっていた。

 

「ん~!この冷たさ。最高!」

「確かにいいよね。そういえばナナミとレベッカはどうして来なかったの?」

「ナナミはガレットにベッキーはパスティアージュにそれぞれ帰って行ったよ。なんでも向こうで街の探索やいろんな人と話したいことがたくさんあるらしいとか」

 

二人ともこの世界を満喫してるようだ。

アクアも今回の合宿に来たそうであったが、領主陣と大切な話があるとかで、やむなく諦めていた。

アクアのことを考えていると、そういえば、と何か思いだしたかのように口を開く

 

「シンクって一度この世界から元の世界に帰ってるんだよね?」

「うん。そうだよ。あの時はいろいろ大変で、帰る方法が見つかっても喜べなかったけど」

「……聞いてもいい話し?」

 

少し遠くを見て昔を懐かしむような横顔で、ツナは遠慮がしら尋ねた。もしも聞いてはいけない部分だったら気まずさが半端ない。だが、聞きたくないと言ったら嘘になる。

しかし、シンクは特段気にするようもなく笑う。シンクのはいつもニコニコだからだろうか、この笑顔はすごく親しみやすさを感じさせるものがある。

 

「全然大丈夫だよ。今となっちゃそんなに大変な事じゃなかったし」

 

シンクが口火を開こうとすると、今まで岩の上で寝かせていたムラサメが、機械的に起き上がる。

二人の目線があることに気付いたのか、ムラサメはこちらに首を回す。

すると、ツナ達の方に歩み寄りツナの手を掴み、小さな小屋へと足を向ける。

突然のことで困惑するが、シンクはただ茫然とツナが連れていかれる様子を眺めている。

掴まれているツナ本人ははムラサメに声を掛けるが反応がない。

自分はどこに連れていかれるのか考えていると、ムラサメガ向かう場所にツナは目を疑う。

 

「む、ムラサメさん、こっちはユキカゼ達が着替えてますから駄目ですよ!」

 

本当に更衣室に向かってるか分からないが、さすがにこれ以上近ずくにはまずいと思い、ムラサメを止める為に足に力を入れ踏みとどまろうとする。だが、ムラサメの力が今まで感じた事がないほど尋常ではなく止まらない。

 

「今は駄目ですって、皆が着替えてるんですよ!」

「…………んじゃないか……」

「えっ」

「だから行くんじゃないかぁ!」

「なに言ってんのこの人!」

 

ムラサメはバカであり、不幸者であり………変態でもあった。この合宿に連れてきたのは間違いだったと今更ながら感じていた。

アクアはこんなムラサメのどこを慕っているんだろうか。

 

「駄目ですって!見つかったら冗談じゃ済みませんよ!」

「そんなのは百も承知だ!だが、お前には何の為に足が付いているんだ!」

「少なくてもこんなことをするためじゃありません!それになんで俺まで巻き込むんですか!」

「そんなの決まっているだろう。さすがに紋章術を使われたらやばいからな」

「盾に使う気ですか!」

 

ムラサメとコントまがいのことをしてると、いつの間にか小屋についていた。

ムラサメはツナの首に腕を絡ませる。このままじゃ共犯だと思っても、態勢が悪いのかうまく

力が入らない。

ムラサメは表情にとても嫌な笑みを浮かべて、そっと小屋の隙間を覗こうとすると、

 

「こんのアホがぁぁぁああ!」

 

エクレールの怒りの声が聞こえるや否や小屋の屋根を何かがつら抜けていき、小屋の中に日の光が入る。

後ろの方では何かがシンクのいる河の方へと落ちていく。シンクと激突した何かは大きく水しぶきを上げる。あまりのことに、ツナとムラサメは思わず振り返ると、ノワールがあられもない姿でいた。

 

「……い…ってて、の、ノワ!?」

「あ、ごめんシンク」

「そ、それよりも、服!服!」

「そうだった。こっち見ないでねシンク」

 

ノワールは顔を赤らめているが、そこまで焦っている様子はなく、シンクから離れ小屋へと走っていく。

しかし、小屋に戻ってくると言う事はツナ達を否応なく目に入る。つまり……

 

「あれ、ツナにムラサメ何してるの?」

 

見つかるというこだ。

だが、見られたのはノワールだけ言い訳をすればまだ……

 

「ノワ、大丈夫でござるか?おや、ツナにムラサメこんなとこでどうしたでござる?」

「き、きききき貴様らまさかっ!」

 

終わった。ジ・エンドだ。

無罪を主張した所で、怒り狂っている今のエクレールはまともに話を聞いてはくれないだろう。

 

「ひぃぃぃぃいいい!」

「お、落ち着け親衛隊隊長!話せばわかる!」

「うるさい!聞く耳持たん!」

 

ムラサメは逃げを試みようとするが、いつの間にか水着姿のノワールに立ち塞がれる。

 

「覗きは駄目。ちゃんとお仕置きしなと」

 

この後、とっても痛いお仕置きをくらいましたとさ。

 

 

 

 

 

お仕置きや水難救助が終り、そろそろ日が落ちてくる。

合宿では自給自足なので、食料の調達をするためシンク達はそれぞれの役割分担を決めている。

 

「それじゃ、僕とエクレが食料で、ユッキーが薪、ノワが火を起こすってことで」

「あれ、ツナとムラサメは?」

 

ノワールが二人の姿を探すがどこにも見当たらない。

 

「奴らには反省の色が見えるまで、そこらへんの木に吊るしてある」

「ツナは本当に巻き込まれただけだよエクレ」

 

怒りがまだおさまらない様子のエクレールをなんとかなだめ様とシンクは言う。

 

「だとしても、断り切れなかった沢田も悪い」

 

どんな理由があってもエクレールにとってはツナも同罪らしい。

怒りの色が消えていないエクレールにこれ以上言っても無駄かなとシンクは思った。

そして、どこかで吊るされているツナに心の中で手を合わせて力になれず謝る。

 

「これ以上話していては本当に日が暮れてしまうでござるから、そろそろそれぞれの役割をこなすでござる」

 

それぞれが自分達を役割を果たすため移動する。

 

 

 

 

 

「これだけあれば十分でござるな」

 

薪をある程度拾い、ユキカゼは一息をつく。

森に入ってそこまで時間は過ぎていないが、籠一杯に入っているので、ここいらで区切りを付けるところだ。

あまり経っていないとは先程よりも日は落ちてきている。

これ以上は皆に心配を掛けると思い、戻ろうとすると、

 

「あ、あの~………」

 

ユキカゼは後ろからの声に不意に振り向く。

そこには、白い耳をした幼い顔立ちの小学生くらいの少年がいた。

少年は困り事でもあるのか、少し戸惑った様子だ。

 

「どうしてこんなとこにいるでござるか?」

「え、えっと、散歩してたら、いつの間にかこんなとこにいて、その、あの……」

「用するに迷子でござるか」

「えっと、その………………はい…」

 

少年は恥ずかしそうに俯く。迷子になった事がよほど恥ずかしいらいい。しかしこの年だったら迷子になってもさほど恥ずかしがる事はないだろう。

なんにしても、このまま放置しておくのは心が痛む、当然ユキカゼが取る選択肢は決まっている。

 

「だったら拙者が出口まで送っていくでござるよ」

「えっ!いいんですか!」

「最初からそのつもりで声を掛けたんじゃないでござるか?」

「そ、そうなんですけど。そんなに簡単に引き受けてもらってもいいのかと……」

「気にする事は無いでござるよ。困った時はお互いさまでござるよ」

 

ユキカゼは満面の笑顔で答える。すると安心したのか少年は緊張が解け、嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「ありがとうございます!えっと……」

「ユキカゼでござるよ」

「僕はココです。ユキカゼさんよろしくお願いします!」

 

ココは先程までおどおどした様子がまるで嘘のように、はきはきと話す。どうやら、本来の性格は人懐っこいものなのだろう。

 

「それじゃココ。しっかりと付いてくるでござるよ!」

「はい!ユキカゼさん」

 

こうしてマキ拾いから一転して、何故か迷子案内となった。

 

 




どうだったでしょうか?
感想や質問待ってます。


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捜索と違和感

今日でこの作品を書き始めてちょうど一年です。
なんとも早いです。でも私の投稿は遅いです……。
まぁ、そんなことは置いといて、最新話です。どうぞ。


日が沈んできて、森も昼間のような明るさが無くなり始めている。先程から足場の悪い場所を歩き続けてる。子供には厳しいだろう。案の定ココは大分息が上がっている。

 

「もうすぐでござるよ。ココ」

「はぁ……はぁ……う、うん」

 

歩き続ける事1時間。ココには疲労の色が見えてきている。

先程までは積極的に話題を出していたが、今ではそんな体力もうないようだ。ユキカゼはそんなココを見かねたのか、ココの意思に関係なく半場強制的に背中に担ぎあげる。

 

「お、お姉ちゃん!?」

「ほら、これなら楽でござろう」

「いいよおんぶなんて!恥ずかしいよ!」

「子供は子供の時にしかおんぶなんてしてもらえないでござるよ。甘えられるときに甘えるのは大事なことでござるよ」

 

恥ずかしそうに顔を赤らめているココにユキカゼは安心させるように微笑む。この光景は端から見たら親子にも見てとれるだろう。

ココも恥ずかしそうにしていたが、満更でもないようで頷く。

 

「ココはどうしてこの森に来たのでござるか?」

「え、だからさっき言った通り、散歩で……」

「嘘でござるな。ただの散歩であんな森深くまで、来るなんておかしすぎでござるよ」

「…………」

 

初めから変だなと感じていたが、嘘をついてまでのことだ、それなりのことがあるのだろうと思い聞くか迷っていた。しかし、やはり聞いておくべきかもしれないとユキカゼは思い問うた。

ココは気まずそうにも言いずらそうにもどちらとも取れる表情する。

 

「……別に話したくなかったらいいでござるよ」

「うんん。ここまでしてもらったんだし話すよ。………お母さんお医者さんからあんまり体調がよくないって言われたんだ。その時この森に生えてる薬草は体に効くって聞いて。それで………」

 

ココはそこで言葉を切らす。その声色から察するに薬草は見つからなかったんだろう。子供ながらここまで来て迷子にまでなって結局収穫なし。残念なんて言葉では言い表せない気持ちだろう。

 

「ココ………」

 

少年の名を呟く。ユキカゼには今のココを満足のいく言葉が言えるのか迷う。それでもと、ユキカゼは少年へと口を開く。

 

「病はつらいでござろうな………つらくて、苦しくて、逃げ出したりもできない。誰も代わりになんかなることはできない。だからこそ母上に今必要なのはココでござるよ」

「えっ…」

「母上はきっと寂しんでおられる。息子の帰りを心配しながら。ココは母上の為と思い薬草う探しに来たのでござろうが、母上にとってはそんなことよりもただ傍にいてほしかったでござるよ。人のぬくもりこそ何よりの特効薬でござるから」

 

大切に思っているからこそ、その人の為に自分のできる限りのこをしてやりたい。その考えはとても難しい。それを行動に移すのはもっと難しい。ココはやったことは決して間違った事ではない。

でも、病で弱っているからこそ人肌の暖かさを感じたいと思う時もある。ココの母もきっとそう思っているんだとユキカゼは思った。

 

「………そっか……傍にいるだけでよかったんだ……」

 

ココはユキカゼの言葉を噛み締めるように何度も小さく頷く。

振り向かずとも、今ココがどんな表情をしてるのか、ユキカゼはつい顔がほころんでしまう。

ココの優しさいい気持ちは、ユキカゼ自身にも伝わってくるほど、切実である。

 

「あっ!出口だ!」

 

ココが指を指す方に目線をやる。森を抜け通常の道なりに戻ると、ユキカゼはココをゆっくりと下ろす。

 

「お姉ちゃん案内してくれてありがとう!」

「なんのなんのこれくらいお安いご用でござるよ」

「それに、お母さんの事も教えてくれて本当に。本当にありがとう!」

 

感謝の言葉。ココの心からの言葉である。森の中での小さな出会いだけど、ココにとっては大事な事を気づかせてくれた大きな出会い。だからこそ、ユキカゼもこの感謝に心からの返事を返す。

 

「……母上を大事にするでござるよ」

「うん!」

 

少年は駆け足で段々と姿が見えなくなっていく、よほど早く母に会いたのだろう。

少々離れた場所で少年は何か思い出したかのように、手を振りながら叫ぶ。

 

「お姉ちゃんもお母さんを大切にするんだよ!」

 

その言葉にユキカゼは一瞬体が硬直する。

大切にすると言ってもユキカゼの家族は既に……。

そして、その言葉はまるで脳の深くに眠っていた、いや眠らされていたものを無理やりに起こした。そんな感覚をユキカゼは無意識ながら感じていた。頭では何がそんなにも、息苦しいのか分からない。しかし体はしっかりと理解をしていた。

手を振るココにユキカゼは呆然と小さく手を振る事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユッキーどこ行ったんだろう?」

 

薪を拾いに行くと言ってから、かれこれ一時間はかかっている。いくらなんでもかかり過ぎである。

 

「変態二人に裸を見られ、どこかで泣いているんだろう」

「そんなキャラじゃないと思うけど………」

 

エクレールはまだ先程の事に腹を立てている様子だ。ツナに関しては巻き込まれたと本人があまりにも必死に弁解するものだから、一応納得?はしてくれて、何とか解放してくてた。しかし、首謀者のムラサメは今だ木につるされたままだ。

 

「でも確かに遅いよね、もしかして道に迷ったとか?」

「それはないだろう。このあたり一帯はあいつの庭みたいなものだから。だが、確かに遅いな………よし手分けして探してみるぞ」

 

さすがにエクレールも心配に思い、ユキカゼ捜索となった。

日も大分落ちてきているので捜索はなるべく固まってするようだ。

シンク、エクレール、ノワール、この三人と何故か一人だけ余ったツナの二班に分かれて行われる。

 

「……って、何で俺だけ一人なの!」

 

さも当然のように分けられて、危なく流れに流されてしまうところであった。

 

「何か文句でもあるのか」

 

直感で分かる。エクレールはまだツナの事を全て許したわけではないと。

有無を言わせないエクレールの迫力にツナはこれ以上何も言えなかった。

 

「いえ何も………」

 

しぶしぶと言った感じでユキカゼを探すため、一人森の中に入っていくツナだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ユキカゼ~!ユキカゼ~!いたら返事して!」

 

ツナは声を出しながら辺りを探索するが、なかなか見つからない。

森の奥に奥にと進むがそれらしい影も形も見当たらない。

既にシンク達が見つけているかもしれないし、そろそろ戻ろうかと踵を返すと

 

「おや?沢田殿ではござらんか」

 

キョトンとした顔のユキカゼがいた。

 

「ユキカゼ!良かった~皆心配してたよ」

「探しに来てくれたのでござるか?」

「うん。皆で手分けして」

「それは悪い事をしたでござるな」

 

ユキカゼは手を頭の後ろに当て、照れたように笑う。

何故かその笑いには力が、いつもの元気が感じられなかった。

 

「………何かあったの?」

 

つい何気なくツナは聞いた。本当に何気なく。

いつもと何か、様子が違う。問いただす理由としては十分である。

ツナの問いかけにユキカゼは少し驚くが、すぐに何事も無かったかのように笑う。

 

「なんでござるか突然?戻るのが遅くなったのは迷子の子供を案内していたからでござるよ」

「迷子?」

「そうでござる。なんでも病気の母親の為にわざわざこんな森にまで、薬草を取りに来たのでござるよ。親を思う子供心。関心関心」

「そんなことがあったんだ」

「そうでござるよ」

 

ユキカゼは笑顔で答える。でもその笑顔はやはりどこか無理をしているように思えた。再びツナがその事について口を開こうとするが、ユキカゼに台詞を先回りされる。

 

「そういえば、沢田殿はどうしてここにいるんでござるか?エクレのことだから覗きの事をまだ許していないと思ってたござるが」

「ちょっ!だから俺は覗きなんてしようとも思ってなくて、あれはムラサメさんが無理やり……それにまだ覗いてなかったし」

「おや?その言い分だと、もう少し時間があれば覗いていたということでござるか?これは帰ってエクレに報告でござるな」

「ち、違うってっ!これは言葉の綾と言うか何というか………。とにかく、もしそんな事をいったら、また逆さ吊りに逆戻りだよ!」

 

もう二度と体験したくない。ツナの必死の表情からそう読み取れる。

確かに逆さまで吊るし上げられるのなんて、頭に血が上りっぱなしで酔ってしまいそうだ。あれ、だとしたら、今ムラサメさん大丈夫なのか?と内心本気でムラサメの心配をツナはする。

 

「分かったでござるよ。では皆の所に戻るとするでござる」

 

ツナは安堵の息を吐く。今日一日分のため息と一緒に。

ユキカゼは既に帰路を歩き出していて、ツナもその後に遅れながら続く。

 

(結局さっきのって…………)

 

先程の様子の事を考えるが、考えた所で答えはでない。結局は本人に聞くのが一番なのだが、ツナの痴態の話を持ち出したと言う事は、つまりそういうことなのだろう。

どうも聞き出しにくくなり、仕方なくツナはその事について触れるのをやめた。

今のユキカゼが何を思い何を感じているのか、それは本人にしか決して分かり得ない事なのだろう。

 

 

 




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