ガンダムブレイカー3 彩渡商店街物語 (ナタタク)
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第1話 出会い

「ええっと、地図が正しければ、ここでいいんだよね」

駅前のコンビニで買ったばかりの町の地図を見ながら、少年はその近くにある商店街のゲートの前に立つ。

若干色素が薄い黒のアホ毛のある短髪で、黒い瞳、白いポロシャツと青色の長ズボンを履いた少年はゲートに書いてある、この商店街の名前を読む。

「彩渡商店街…か」

町の名前である彩渡をそのままとったこの商店街は地方の商店街と同じく、シャッターで閉まった店が数多く存在し、休日であるにもかかわらず、人はあまりいない。

しばらく歩いて、開いている店があるとしたら、肉屋と居酒屋、プラモショップにゲームセンター。

野菜や魚などは最近隣町にオープンしたタイムズユニバース百貨店で集めるしかない。

「まぁ、住めば都ってことで、いいか。せっかくの1人暮らしだし…」

彼はこことは別の県の出身で、両親の仕事の都合で彩渡高校に転校、更に高校卒業まで1人暮らしをすることになった。

というのも、両親は海外で働くことが多く、今回は年単位での出張という前代未聞のこと。

この彩渡であれば、親戚がいるため不自由はないということでこうなった。

転入試験についても、無事に通過しているため、あとは始業式の日にどのクラスに入るのかという話だけだ。

「ふう…ちょっと休もうかな」

少し歩き疲れたのを感じ、一息つこうと考えた少年はゲームセンターに入る。

建物は古いが、アーケードゲームは古いものから新しいものまで幅広くそろっており、子供たちも集まっている。

「いらっしゃいませ。初めてのお客様ですか?」

「んんっ!?」

急に女性のような高めの声が聞こえ、その声が聞こえた方向に目を向ける。

そこには白とピンクを基調とした、身長は女子中学生の平均的なものとなっている人型ロボットがいた。

「うわあ…このゲームセンターにもロボットが。やっぱり技術って進歩してるんだなぁ…」

「あの…?初めてのお客様ですか?」

「え??ああ。そうです」

「驚かせてしまってすみません。私はインフォ、このゲームセンターの業務をしています。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「沢村勇太です」

「勇太さん、ですね。データベースに登録します」

インフォの目がじっと勇太の顔を見る。

背丈や恰好などを記録し、防犯につなげているのだろう。

「そういえば、いろいろゲームがあるみたいですけど、おすすめのアーケードゲームはありませんか?」

「それなら、ガンプラバトルシミュレーターはいかがでしょう?アーケードゲームではありませんが、自分で作ったガンプラで戦うことができるので、おすすめですよ」

「いや…それは、いい…」

ガンプラバトルという言葉を聞き、少し暗い表情を見せた勇太が視線をアーケードゲームに向ける。

よく見ると、ポスターや展示物の中にはガンプラバトル関連の物が多く、それを可能な限り視界に入れないようにしている。

「うーん、じゃあ…ストリートファ…」

「おっしゃあ、みたかー!俺の勝ちだー!!」

ゲームを選ぼうとした勇太の耳におそらく自分と同じ年代であろう少年の声が入る。

その少年はガンプラバトルシミュレーターの中から出てきて、得意げに自分のガンプラを見ている。

いかにも不良、といえる黄色いリーゼントっぽい髪で、手には緑が基調でヒョウ柄の模様が所々にあるガーベラ・テトラベースのガンプラを握っている。

そして、時間差で別の機械から出てきた小学生をじっと見る。

「くそう…くそう…!!」

悔しそうに自分が使用したと思われるガルム・ロディを見る。

「ザコのくせに、ガンプラバトルの世界に入ってくんじゃ…ねえよ!!」

そういいながら、少年は彼からガンプラを強引に奪い取る。

「ああ!!返してよ、僕のガンプラ!!」

「あぁ!?弱いやつが何をピーチクパーチクわめいてやがんだよ?弱いやつに使われるのがかわいそうだと思って、こうしてもらってやってるんだよ。感謝しやがれ!!このタイガー様によぉ!」

「はぁ…こういうのだけは、どこも変わりないんだな…」

自分が前に住んでいたところにも不良がいたことを思い出す。

学内でカツアゲをしたり、時には非常ボタンを勝手にならして周りに迷惑をかけたりしていた。

こういう場合は周囲の大人に叱られることで一件落着になり続けていたため、あんまり関わり合いにならないようにゲームを始めようとした。

「だったら、お前のガンプラで活躍してやってもいいんだぜー?あの沢村勇武みてーになー!」

「…!」

勇武、という名前を聞いた瞬間、勇太の手が止まり、タイガーを睨むように見る。

そして、背負っていたリュックサックをその場に置いて彼の前まで行く。

「あん…?なんだよ、よそ者!これは俺とあのガキの問題だ!部外者が首を突っ込むんじゃねーよ」

「誰が沢村勇武みたいに活躍するだって…?はっきり言う、こういう弱い者いじめしかできないあんたには…不・可・能!!」

「んだと、てめえ!!俺をバカにしてんのか!?」

額に青筋を作ったタイガーが思わず殴ろうとするが、右手に持っている自分のガンプラを見て、なんとか自制する。

そして、じっと勇太をにらみ返す。

「だったらよぉ、この俺様の力をお前にしっかり教えてやるよ!ガンプラバトルでなぁ!!」

「…。悪いけど、ガンプラはない」

「はぁ!?お前ふざけてんのか!?ガンプラ持ってねーのに、俺のことをバカにしやがってぇ!ぶん殴られてーのか!?」

ガンプラをしまったタイガーは怒りに身を任せ、勇太の胸ぐらをつかむ。

「(はぁ…もう2度とガンプラバトルをしないつもりだったのに…)じゃあ、30分だけ待ってくれるかな。その間にガンプラを用意する」

「はぁ?たったの30分だぁ?」

勇太の言葉に思わず耳を疑う。

普通、ガンプラはかなりの種類の機体やパーツが存在し、HGだと片足作るのに30分はかかる。

そして、ここから一番近くのプラモショップで選び、購入して戻ってくる時間までそれに含まれている。

だから、実質20分でガンプラを作って戻ってくると言っているようなものだ。

「おもしれえ…じゃあ、30分待ってやる。1分でも遅れたら、その場で土下座してもらうからな!」

「…いいよ、それで」

タイガーから解放された勇太は服を整えると、これの一部始終を見ていたインフォに事情を説明し、荷物を預けてからゲームセンターを飛び出していった。

 

「あーあ、今日も地元のゲーセン通いかぁ…」

勇太が出てから約40分後、ゲームセンターに1人の少女が入ってくる。

「こんにちは、インフォちゃん!」

「ミサさん。本日もご来店ありがとうございます」

「なんだい、また来たのかい。相変わらず、寂しい青春を送ってるんだねえ」

元気に挨拶をするミサをスタッフルームから出てきた白い帽子と赤いフレームのメガネの老婆が茶化す。

「うー、イラトおばあちゃん。一応お客なんだから歓迎してよ」

彼女にとってあまり面白くないのか、不愉快そうにイラトに要求する。

といっても、デートの約束をしてくれるような素敵な彼氏がいるわけでもない彼女には言い返すことができない。

「ぐああああ!?!?ちくしょう!!いったいどうなってんだよ!?」

「んー?もしかして、またタイガー??」

タイガーの声が聞こえたミサがインフォに尋ねる。

実は彼女はある理由でガンプラバトルを何度もやっており、それ故にタイガーのような初心者いじめのプレイヤーを懲らしめる役目を請け負っている。

いつもなら上機嫌になっているところを乱入して、ヒーローショーのように懲らしめるのだが、今回は違った。

バトルシミュレーター付近にある、ガンプラバトルの光景を見ることができるテレビを見たミサは驚いた。

初心者ばかりを相手にしているとはいえ、ある程度場数をこなしているあのタイガーのガンプラをメイス1本で、そして色塗りなどが施されていない、素組みのバルバトス(第4形態)で一方的に叩きのめしているためだ。

「くっそがぁ!!なんなんだよ、お前はよぉ!!」

シーマ艦隊の一般兵のノーマルスーツ姿のタイガーが狼狽しながらマシンガンを放つ。

だが、バルバトスはまるで生身の人間のような不規則な動きで回避をし、そしてメイスをそのまま投擲してマシンガンを粉砕した。

飛び道具を破壊され、動揺しているのを見逃さず、一気に接近して蹴りを入れ、相手が吹き飛んでからメイスを回収する。

「はあ…こんなんで沢村勇武みたいに活躍する…?寝言を言っているの?」

一方、勇太はあまりの一方的な展開に驚きと退屈さを感じていた。

彼の衣装は黒を基調とした耐圧服で、ガンダムシリーズのノーマルスーツを選ぶプレイヤーが多い昨今では珍しいチョイスだ。

「んだと…てめええええ!!」

最後の武器として、グランドスラムを手にしたガーベラ・テトラが持ち味である加速力を生かして一気に接近していく。

そして、下から上へ切り上げる形で攻撃しようとしたが、一瞬でバルバトスが背後へ移動してしまう。

「な…んで…??」

「阿頼耶識システム。反応速度がそれで上がってるんだよ。ガンプラのそういう特殊効果も知らないで戦っていたってこと?」

「ま…待っ!?」

タイガーの声を無視するかのように、メイスが胸部にたたきつけられる。

衝撃によりコックピットがぐしゃぐしゃになってしまい、それにより撃墜判定されたことでガーベラ・テトラが消滅した。

「すごい…」

すっかり、ミサも素組みのバルバトスの戦いぶりに見とれてしまっていた。




機体名:バルバトス
形式番号:ASW-G-08
使用プレイヤー:沢村勇太
使用パーツ
射撃武器:なし
格闘武器:メイス
頭部:ガンダムバルバトス
胴体:ガンダムバルバトス
バックパック:ガンダムバルバトス
腕:ガンダムバルバトス(第4形態)
足:ガンダムバルバトス
盾:なし

沢村勇太がタイガーとのガンプラバトルのために急きょ調達したガンプラ。
20分足らずという短い時間の間で作ることになったため、シールは最低限で色塗りはなく、武器もメイス1本のみで、まさに戦えればそれでいいという程度の構造。
しかし、エイハブ・リアクターとナノラミネートアーマーによる防御力、阿頼耶識システムによる反応性の向上、更に勇太自身の技量により、タイガーを一方的に撃破するだけの力がある。


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第2話 勇武

登場人物の姓は完全オリジナルです。


「ちっくしょおお!!なんだよ、チートでも使ってんのかよぉ!?」

シミュレーターから出てきたタイガーが悔し気に壁に拳をたたきつける。

そして、そのあとで出てきた勇太はそんな彼をじっと見る。

「初心者としか勝負しないんじゃあ、この程度だよ」

「てんめぇ…」

「世の中には強いファイターがたくさんいるんだ。そんなことばかりしていたら、おいていかれるよ」

そういいながら、呆然とするタイガーからグシオンを取り上げ、子供に返す。

「それから、泥棒は犯罪だよ。こんなことをする人を、ファイターとしても男としても認められない」

荷物を手にした勇太は周囲の人々に騒がせてしまったことを詫びてからゲームセンターを出ていく。

彼が出ていく姿をタイガーはじっとにらみつける。

「あの野郎…つぶしてやる…!」

 

「はあ…やっちゃったよ…」

商店街の中にある公園のベンチに腰掛けた勇太は落ち込みながらバルバトスとまだパーツが残っている箱を見た。

仕方ないとはいえ、もう2度とやらないと決めていたガンプラバトルをある意味ではしょうもない理由でやってしまった自分に後悔した。

問題はバルバトスをどうするかだ。

「…さっきのプラモ屋に飾ってもらおうか…」

「あー!ここにいたー!!」

「うん??」

バルバトスをベンチに置き、声が聞こえた方向に目を向ける。

そこにはミサの姿があり、嬉しそうに勇太のもとへ駆け寄る。

「ねえ、君だね!!タイガーをコテンパンにしてくれたファイターって!すごかったよー、素組みで、更に武器がメイス1本なのに、あんなにできるなんてー!!」

ニコニコ笑いながら、勇太をほめたミサは彼のそばにあるバルバトスを手に取る。

「へー、バリの処理をしっかりしていて、シールの場所も正確。ビルダーとしてもいけるんだねー」

「その…君は、いったい…」

「ああ、ごめんごめん!!私はミサ、井川美沙っていうの!君の名前は?」

「…沢村勇太」

「勇太君かぁー。ねえねえ、君はどこかのチームに入ってたりするの??」

「いや…入ってないし、そもそも僕はファイターを辞めたんだ」

辞めた、という言葉に首をかしげるミサ。

立ち上がり、リュックを背負った勇太はすぐに公園を離れようと歩き出す。

「ねえ、どうして辞めたの!?あんなに強いのに!それに…この子はどうするの!?」

ベンチに置きっぱなしにされているバルバトスと箱を手にし、去っていく勇太に問いかける。

「君には関係ない。それから、バルバトスは仕方なく作っただけだ。いらないんだったらあげるよ」

振り向くことなく、そう答えた勇太はそのまま商店街を出ていった。

「あげるって…。はぁぁ…」

バルバトスを手にしたまま、しょんぼりしたミサは彼がいたベンチに座る。

(あーあ。スカウトできなかった…。このままだと商店街は…)

 

「ただいまー…って、言っても誰もいないか」

駅から歩いて10分のところにあるアパート、『彩渡第1アパート』の203号室に入った勇太はリュックサックを部屋に置き、居間のテレビのそばにおいてある写真を見る。

自慢げにトロフィーとブルーフレームを手にし、額のゴーグルをつけた勇太そっくりで18歳の少年がそこには映っている。

「…勇武…兄さん…」

ゆっくりと写真の前でしゃがむと、買ってきたサイダーを置いて手を合わせた。

そして、彼と過ごした日々を思い出した。

 

「そうだ、こうすれば楽のバリを処理できる。やればできるじゃないか」

ゆっくりと切り取ったパーツのバリを取った幼い勇太の頭を勇武が撫でる。

「でも、兄さんのほうがすごくうまいよ…」

「おいおい、お前ぐらいの年のときはすっごく下手だったんだぞ?きっと、俺ぐらいの年になれば、あっという間に追い越しちまうんじゃあないか?」

そういって、勇武は笑いながら自分が使うガンプラ、ブルーフレームの手入れを行う。

勇武は10歳年上の、勇太の兄だ。

彼は当時住んでいた愛知県の県内大会に優勝し、全国大会でも上位を争うほどの実力を持ったファイターで、当時の勇太にとってはあこがれの的だった。

ガンプラバトルも兄の影響で始めており、戦い方やガンプラの作り方などは彼から学んだ。

絶体絶命のピンチになると、青い光を全身から放って圧倒的な性能差を覆す場面があることから、当時のマスコミは彼に『青い閃光』の異名をつけた。

なお、クロスボーン・ガンダムシリーズにも同じ異名のパイロットがいるのだが、決して堅物でもロリコンでもない。

そのころの勇太の目標は自分のガンプラで勇武に勝つ、そして一緒に世界大会で優勝することだった。

あの日が来るまでは…。

 

それは、10年前の全国大会の2日前のことだった。

「母さん、勇太の様子は??」

「ひどい熱だわ…。お医者さんの話だと、ただの風邪だから2,3日休めば元気になるって…」

「そうか…。だったら、1回戦は俺1人でどうにかしないと…」

その年は兄弟一緒にタウンカップとリージョンカップを勝ち進み、全国大会への切符を手にしていた。

だが、今日は勇太が風邪をひいて寝込んでしまっている。

全国大会のある名古屋へは電車で行く必要があり、駅へ向かうバスの時間を考えると、すぐに出発しなければ間に合わない。

「勇太のことは私が見てるから、勇武は大会のことだけに集中なさい」

「了解。じゃあ、勇太を頼むな。母さん」

「それから、駅に着いたらちゃんと…」

「連絡、だろ?わかってるよ」

そういうと、勇武は近くのバス停まで歩いて行った。

 

「ふう…遅いわね…」

出発してから2時間が経過しても、勇武が電話に出ないことを母は心配していた。

こちらから電話しても、なぜかつながらない。

「はあはあ、母さん…のど…」

「はいはい。これから持ってくるわ」

そういうと、退屈しのぎになるかもと思い、母は彼が寝ている部屋に置いてあるテレビをつける。

偶然にも、地元のニュースを伝える番組だった。

女性アナウンサーがCM中に新しい紙を受け取ったようで、手元にある紙の並べ替えを終えた後でしゃべり始める。

(ええ、これは今はいったニュースです。愛知県T市H駅へ向かうバスの真横に飲酒運転をしたドライバーが乗る乗用車が突っ込むという交通事故が発生しました。バスの乗客や運転手、ならびに飲酒運転していたドライバーに重傷者が出ています。また、バスの乗客と思われる10代後半の少年が心肺停止の状態で、現在T市民病院で治療を行っているとのことです)

「このバスって…」

ニュースの内容からして、勇武が乗っていると思われるバスかもしれないため、母親の顔が青くなる。

そのニュースと同時に母親の携帯が鳴る。

「はい…沢村です。…ええ、母親です。…えぇ!?そんな…!!」

 

「運が…なかったんだね。まさか、兄さんが乗っていた場所にダイレクトにって…」

その日のうちの、勇太は母親、そして会社を早退した父親と一緒に市民病院へ行って、そこで勇武の遺体と彼の遺品であるボロボロなブルーフレームを目にした。

肉親であり、目標である兄を失った勇太はガンプラバトルから離れていった。

死んだ兄との思い出がよみがえってしまうことを恐れて。

それから、彼は夢も目標もなく、無気力で流れるままに10年の時を過ごした。

高校もなんとなく選んだだけで、これからの未来を考えることもなくしてしまった。

「はぁ…疲れた…」

商店街を出た後、タイムズユニバース百貨店で必要なものを買いそろえるのに時間がかかり、すっかり疲れ切っていた勇太は起き上がると、炊飯器の中のご飯を使ったタマゴかけご飯を作り、一気にかきこんだ。

そして、風呂に入らず、パジャマに着替えないで畳の上で横になった。

 

そして、彩渡高校始業式の日の朝…。

「彩渡高校…ここが僕の新しい場所か…」

私服姿の勇太が廊下を歩き、自分が入るクラスの教室を探す。

この高校では生徒の自主性を尊重しており、制服がない。

そのため、全員が私服で登校している。

みんな始業式の前に教室で待機することになっている。

また、転校生が入る場合は前もって教室で担任が紹介する。

「2年A組は…ここか」

「あれ…?勇太君??」

「え…!?」

聞き覚えのある少女の声を聴いた勇太は慌てて左に目を向ける。

そこには公園、厳密にいえばゲームセンターで出会ったミサの姿があった。

「ま、まさか…2年…A組…??」

「うん」

「この、高校の…??」

「そうだよ」

改めて、世間が広いようで狭いということを実感した勇太だった。




機体名:ブルーフレーム
形式番号:MBF-P03
使用プレイヤー:沢村勇武
使用パーツ
射撃武器:強化ビームライフル
格闘武器:ビームダガー×2(ピクシー)
頭部:ブルーフレーム
胴体:ブルーフレーム
バックパック:νガンダム(ダブル・フィン・ファンネル装備)
腕:ブルーフレーム
足:ストライクガンダム
盾:対ビームシールド

10年前の勇武が使用していたガンプラ。
原作では1発しか打てない強化ビームライフルだが、追加のエネルギー・ビーム変換器をカートリッジ型に切り替えたことで、容易に交換して再使用できるようにしただけでなく、最低3発は同じもので打てるようになった。また、バックパックにはダブル・フィン・ファンネルが搭載されており、これらは一度放つと回収不能であるものの、長時間の使用が可能となっており、時にはバリアを展開するなど攻防一体の活躍が期待される。現在は形見として勇太が所持しており、最低限の修理がされているものの、これがガンプラバトルに出たという記録はない。



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第3話 0番目のメンバー

「はあ…まさか、同じクラスだなんてなぁ…」

昼休みになり、1人で教室を出た勇太は朝に出会ったミサのことを考えながら廊下を歩いていた。

右手には先生から渡された入部届を握っている。

「この高校の部活に入るなら、来週末までに提出しろって、言われたけどなぁ…」

勇太は中学、そして前の高校で部活に入ったことがない。

野球やサッカーやカードゲームといった、同年代に流行の物を多少なりともやっては見たものの、どれも熱を入れたくなるほどのものと感じることができず、何を目標にすればいいのかわからない根無し草。

それが今の勇太だ。

「うん…?」

「まったく、また勝手にポスターを貼って…」

そんな中、ため息をつきながら1人の教師が掲示板に勝手に貼られているポスターをはがしていた。

「あの、そのポスターは…?」

「ん?ああ、なんでも彩渡商店街ガンプラチームのメンバーを募集しているようだ。勝手に校内の掲示板に貼るな、と言ったのに、また…」

「彩渡商店街ガンプラチーム…?」

「ああ。なんでも、彩渡商店街を復興するために、ガンプラチームを作って宣伝をしたいらしい。気持ちは分かるが、決まりは守ってもらわないとな…」

そういいながら、教師はポスターをもってそのままその場を後にした。

「…はぁ、またガンプラ…。もうガンプラバトルはしないのに…」

ポスターがあった場所を見つめながら、勇太はため息をつく。

初めてお台場でガンプラバトルが行われてからすでに30年が経過し、世界各地でガンプラバトルが流行の最先端を突き進んでいる。

ガンプラバトルに興味がなくても、何らかの形でその名前やバトルシミュレーターを目のすることがある。

だが、もうガンプラバトルをしないと決めた勇太にとってはそれが苦痛になっていた。

「うわーーー!!まーた剥がされてるーー!!」

「うん…?」

後ろから声が聞こえ、振り返るとそこには頬を膨らませて怒るミサの姿があった。

ポスターを回収するためだろうか、背中にはリュックサックを背負っている。

「うがーーちょっとぐらいいいじゃん!!また作らないとなぁ…」

「…まさか、商店街のガンプラチームのこと…?」

「え…?勇太君、見てくれたの!!?」

目をキラキラさせながら、思いっきり勇太に詰め寄る。

あまりにも急で至近距離まで迫ったこともあり、エビぞりになりながら翔太は首を縦に振る。

「じゃあさじゃあさ、私のチームに入って、ガンプラバトルに復帰しない!?」

「…はぁ!?」

「だってさー、もったいないよー。あんなにすごい腕前なのに…」

「腕前は関係ない!!」

急に大声を出されたことで、ミサは驚いて後ろに下がる。

ついかっとなってしまったことを自覚した勇太は視線をミサからそらす。

「ごめん…。でも、それが問題じゃないんだ…」

そういってから、勇太はその場を後にしようとする。

「…もしかして、お兄さんのこと…?」

「…何?」

話したこともないのに、兄のことを知っているかのような口ぶりのミサに驚いた翔太は振り返る。

「なんでそれを…」

「えっと、昨日君が名前を教えてくれたじゃん。それで、10年前に事故で亡くなった勇武さんと同じ苗字だから、もしかしたらって思って…。私ね、勇武さんの試合をテレビで見て、ガンプラバトルをやりたいって思ったの!」

『青い閃光』の異名をとるほどの腕前を誇り、マスコミに紹介され、人気を得た勇武ならこういうファンがいても当然だろうと勇太は思っていた。

だが、こうして目の前でそういう人と出会ったのは初めてだった。

「それに…商店街を歩いたなら、見たでしょ?すっかりさびれちゃってるけど…昔はすごく繁盛していて、いっぱい人がいたんだよ。お父さんがよく、そのころの彩渡商店街のことを話してくれた。…だから、私はもう1度そのころの彩渡商店街を見たい!だから…だから…私と一緒に、ガンプラバトルをしてください!!」

目に涙をため、必死に訴えたミサは思いっきり頭を下げて勇太に懇願する。

「井川さん…」

間違いない、彼女は本気だということは勇太に十分伝わっている。

だが、どうしても勇武のことが頭から離れない。

あの時、たった1人で死んでいった兄のことを思い出してしまう。

「ごめん…。僕にはできない。別の人を誘ってくれ…」

彼女の姿を見ないように、目をそらしながらそういった勇太は彼女からすれ違うようにその場を離れようとする。

「待って!」

急に勇太の腕をミサがつかむ。

あきらめきれず、しぶとく誘うだけだろうと予想した勇太は彼女を見る。

「ならせめて…これだけは返させて!!」

そういって、ミサは背負っているカバンを降し、その中にあるガンプラの箱を勇太に渡す。

「これは…」

「昨日、君が使ってたバルバトス。ちゃんと、完成させてるから…。自分で作ったガンプラは最後まで自分で面倒を見なさい!」

ビシッと指をさして叱るように言ったミサはカバンを握ってその場を走り去った。

1人残された勇太は箱を開け、中に入っているバルバトスを見る。

「太刀と滑腔砲…色塗りまで…」

箱の中に眠る、完成したバルバトスを手にした勇太はじっとミサが走り去った廊下を見た。

 

「…はぁ、なんでまた僕はここに来ているんだ…!」

放課後になり、やることが思いつかない勇太は勝手に彩渡商店街に来ていた。

宿題を学校で済ませたうえで帰宅しており、まだ部活に参加している生徒が下校する時刻ではないものの、商店街は相変わらず人があまりいない。

ふと、勇太は公園の近くにある掲示板を見る。

そこには学校で剥がされたばかりのミサのポスターが貼られている。

ため息をついた勇太はそのポスターを見ないように歩いていく。

「あぁ…よかった!!この前のお兄ちゃんだ!」

「え…?君は…」

大声を出し、目の前から走り寄ってきた、前に勇太が助けた少年が勇太の手をつかむ。

「お兄ちゃん、お願い!!ついてきて!!」

「ついてきてって…これじゃあ連行するの間違いじゃ…」

力が勇太のほうが上のため、やろうと思えば振り払える。

だが、さすがにそんなことをしたらかわいそうだと思ってしまい、それができなかった勇太はやむなくこのまま連れていかれることにした。

当然、その場所はゲームセンター。

そこのバトルシミュレーターの状況を示すテレビの前で手を離した。

「これは…」

それを見た勇太はなぜ彼がここまで連れてきたのかが一瞬で分かった。

テレビに映っているのは月面の光景で、昨日勇太が倒したタイガーのガーベラ・テトラ、そしてグレイズのバズーカを装備したマクギリス・ファリド専用のシュヴァルベ・グレイズとランスユニットを装備したガエリオ・ボードウィン専用シュヴァルベ・グレイズが白とピンクを基調としたアカツキベースのガンプラを追い詰めていた。

ピンクのガンプラの近くには装備していたザクマシンガンの残骸と弾切れでパージした片方のバズーカがあり、右足は関節部分から完全にもげている。

なお、バトルシミュレーターはこの店には3機あるが、今、プレイヤーがいて、動いているのは1機のみ。

おそらく、タイガーとその仲間は別の店のバトルシミュレーターを使っているのだろう。

「タイガーのやつがまた初心者狩りをしていたんだ!それで、ミサ姉ちゃんが止めに来たんだけど、そしたらあいつ、仲間を呼んで…!」

「ミサ…井川さんのことか。けど、さすがに3対1じゃあきつい…」

「こんのぉぉぉぉ!!まだ負けてない、私も…私のアザレアも!!」

カガリ・ユラ・アスハのデスティニー時代のノーマルスーツをオレンジ色の部分がピンクに変更されただけのものを着たミサが白とピンクのガンプラ、アザレアのコックピット内で叫ぶ。

そして、装備しているケンプファーのバックパックのバズーカを手にし、スラスターを使って宙を舞い、バズーカを発射する。

しかし、弾速が遅いことから余裕で回避され、更にシュヴァルベ・グレイズがランス・ユニットを前面に押し立てたまま突っ込み、そのバズーカを貫き、破壊してしまった。

「ああ、バズーカが!!」

(これで俺の勝ちだ!よくも今まで俺をコケにしてくれたよなぁ…クソ女ぁ!!)

背後を取ったタイガーがザクマシンガンを連射する。

「きゃあああ!!」

バックパックが小規模な爆発を起こし、スラスター出力が低下したアザレアがそのまま落下する。

左右には2機のシュヴァルベ・グレイズ、そして背後のはガーベラ・テトラ。

「だめだな…。これは、彼女の負けだ…」

そういって、勇太はその場を後にしようとする。

「待ってよ!ミサお姉ちゃんを助けてくれないの!?」

「たかがガンプラバトルだ。それに、彼女とは何も関係は…」

「あきらめない…!まだ終わってない!!」

地面に落下したアザレアが両腕を使って起き上がろうとしている。

しかし、ここまでの戦闘でその腕にもダメージを追っているらしく、何度も腕が曲がって倒れてしまう。

「あきらめろ!てめぇなんかに…俺たちに勝つことも、商店街を救うこともできねえんだからよぉ!!」

「あきらめない!私は…全国大会に優勝して、もう1度商店街を…!!」

「…あきらめない…」

ミサの言葉を勇太は反復するように小さな声で口にする。

 

「あっちゃー、悪い勇太。負けちまった」

これは勇武がまだ生きていたころのこと。

初めて全国大会に出場した勇武だったが、完成したばかりのダブル・フィン・ファンネルの制御がうまくいかなかったこともあり、1回戦で負けてしまった。

運営が用意したホテルの一室で、勇太にそのことを詫びる勇武だが、悲壮感が一切見られない。

なお、両親はホテルで夕飯を食べれるよう弁当を買いに行っている。

「それにしては、あんまり悲しそうにないね…。どうして?兄ちゃん…」

なんで負けたことを笑っているのかわからない勇太は勇武に尋ねる。

普通、負けたなら本気で悔しいと思うだろうし、悲しくて泣いてしまうのではないかとばかり思っていた分、勇武が異常に思えたためだ。

「あきらめてねえから、だよ」

「あきらめてない…?」

「ああ。今回の負けで、今後の課題が見えてきた。だから、来年の全国大会に出るために準備をする。今回の負けはそのためのステップだって思えばいいさ。それに、あきらめないでこうして戦い続ける限り、全国大会優勝のチャンスは何度だって巡ってくる」

「チャンス…」

「ま、簡単にあきらめたらそのチャンスさえめぐってこないってことさ、勇太!」

 

「…」

勇武のことを思い出しながら、勇太はカバンを開け、ミサが完成させたバルバトスを取り出す。

「カバン…見ていて」

「え…?お兄ちゃん!?」

勇太は急いでもう1つのバトルシミュレーターに入る。

自分が使用するガンプラをセットし、バトルシミュレーターのドアを閉める。

「機体セットアップ完了。アバター入力…終了」

設定パネルへの入力完了と同時に、勇太の衣類が昨日の耐圧服に変わっていく。

腹部あたりにある酸素ボンベとつながっているチューブをヘルメットの口元に装着し、額にある赤いレンズのゴーグルを下げる。

すると、同時に網膜投影が開始されて、バルバトスの視界と自らの視界がリンクする。

視界にはコックピットの中ではなく、カタパルトと格納庫の中の光景、そしてハッチが開いたことで広がる月面の光景が見える。

「いうつもりはなかったけれど…。沢村勇太、バルバトス、出るよ」

カタパルトが起動し、勇太が乗るバルバトスが戦艦を飛び出していく。

そして、すぐに背中のバックパックのサブアームを起動させて左側のウェポンラックについている滑腔砲を左手で握りながら、即座に足を止めているガエリオ専用のシュヴァルベ・グレイズに照準を合わせる。

「井川さんに注意を向けすぎている今なら…!」

照準セットが終わると同時に滑腔砲が発射された。

「なんだ…?」

新しいガンプラの反応にいち早く気づいたガエリオ専用のシュヴァルベ・グレイズに乗る不良がその方向に目を向けようとする。

しかし、それと同時に胸部が針状の弾芯に貫かれ、撃墜認定されて爆発し、消滅する。

ナノラミネートアーマーであれども、コックピット部分の装甲は薄く、そこへ自分からあたりに行く格好となった。

「飯田!?クソッ!!奇襲かよ!?」

「あのバルバトスって…まさか、勇太君!?」

バルバトスの姿を確認したミサはなぜ勇太がここにいるのかわからなかった。

ガンプラバトルをしないと決めた彼がどうして。

月の重力に引かれ、落下するバルバトスはそのまま滑腔砲をタイガーのもう1機のシュヴァルベ・グレイズの周囲に向けて何度も発射し、巻き上がる土で視界を奪っていく。

相手に当たらないように、あえて周囲に着弾するように発射していたこと、そして滑腔砲の威力を感じたこともあり、2機は動かずにマシンガンを撃ちながらやり過ごした。

十分に相手の視界をふさいだうえで着地したバルバトスは左手の滑腔砲を投げ捨て、両手でメイスを握って思い切り横に振り回す。

上空にばかり気を取られ、横っ腹にメイスが直撃したシュヴァルベ・グレイズは吹き飛んで岩に激突、そのまま爆発した。

「渋木まで!?くっそぉ、またてめぇかよ!?」

メイスを振った勢いで舞い上がった土が吹き飛び、バルバトスを見たタイガーは怒りながら叫ぶ。

「勇太君…なんで…?」

ミサを守るように、前に立った勇太のバルバトスの背中を見ながらミサはつぶやく。

「…僕にも、分からない。…いいや、違うか。放っておけなかっただけか…」

「放っておけなかったってぇ?はぁ!?ヒーロー気取りかよ、てめえ!!」

日頃の恨みを晴らす絶好のチャンスを台無しにされたことに怒ったタイガーはグランドスラムを手に突っ込んでいく。

勇太はそれをメイスで正面から受け止める。

「この前も邪魔をして…なんなんだよてめえは!!」

「…名乗るつもりはなかったけど、あえていうよ…僕は!!」

そう叫ぶと同時に出力が上がったのか、徐々にガーベラ・テトラを押していく。

「な、お、俺が…力負けしてる!?」

「僕は沢村勇太、この前あんたが言っていた沢村勇武の弟だ!」

「な、にぃ!!?」

力押しでは無理だと思い、わずかに後ろに下がったタイガーはそのままグランドスラムでメイスの持ち手を斬る。

メイスは攻撃する部分が頑丈で分厚く仕上がっているものの、持ち手部分は細く、実際にアニメでもグレイズのバトルアックスで容易に切られている。

「くたばれぇ!!」

これでメイスは使えないと思い込んだタイガーがそのまま盾に両断しようと思い切りグランドスラムを持ち上げる。

だが、次の瞬間、コックピットに強い衝撃が走る。

「なっ…!?」

ガーベラ・テトラのメインカメラを下に向けると、コックピットにはメイスの上部分が突き立てられていた。

「終わりだ…!」

その言葉と同時に、メイスについているパイルバンカーが起動し、杭がコックピットに深々と突き刺さった。

「ち…ちっくしょおおおおお!!」

タイガーの叫びと共に、ガーベラ・テトラが爆発した。

 

「あ、ありがとう…」

ゲームセンターの外で、ミサが勇太にお礼を言う。

「別に大したことはしてないよ。バルバトスを完成させてくれたお礼をしたかっただけだよ」

「そ、そっか…。じゃあ…」

きっと、チームに入ることを応じてくれるはずがない。

そう思ったミサはそのまま立ち去ろうとした。

「目指すのは全国大会優勝。それぐらいやらないと、商店街の名前は全国に広がらないよ」

「え…?」

予想外の言葉に耳を疑ったミサはじっと勇太を見る。

「…1シーズンだけだ。1シーズンだけ、君のチームに入る」

「勇太君…」

「だから…本気でそれを目指そう。井川さん」

「…ミサ、でいいよ。ありがとう、勇太君!!」

満面の笑みを浮かべ、ぎゅーっと勇太に抱き着く。

「ちょ、ちょっとミサさん!?」

母親以外に威勢の女性に抱きしめられたことのない勇太は戸惑い、顔を赤くしながらミサを見る。

「さん付けは他人行儀な感じでヤダ!どうせなら、ミサちゃんって呼んでよー!」

「うう…わかったよ、ミサちゃん…」

「ほぉぉ、ようやくゲーセン通いの寂しい女子高生にも春がきたもんだ」

昨日、ゲームセンターでミサを出迎えた老婆、鈴森衣良人がニヤニヤ笑いながら勇太とミサを入り口前からインフォと一緒に見ていた。

この後、ミサが顔を真っ赤にしてイラトとインフォ、およびゲームセンターの客に弁解していたのは言うまでもない。




機体名:バルバトス(第2形態)
形式番号:ASGT-00B
使用プレイヤー:沢村勇太
使用パーツ
射撃武器:滑腔砲
格闘武器:メイス
頭部:ガンダムバルバトス
胴体:ガンダムバルバトス
バックパック:ガンダムバルバトス(射撃武器の滑腔砲及び太刀をマウント)
腕:ガンダムバルバトス(第4形態)
足:ガンダムバルバトス
盾:対ビームコーティングマント

勇太がミサに押し付ける形で譲ったバルバトスをミサが完成させたもの。色塗りが施され、最低限にとどまっていたシールも貼られている。また、太刀と滑腔砲も完成したことにより、遠距離での戦闘もある程度可能となっている。なお、メイスを使用する都合上、盾が邪魔になることから、その代替措置としてタイガー戦後に対ビームコーティングマントが装備されることとなった。
ちなみに、形式番号であるASGTは「Ayato Shopping street Gunpra Team」の略で、Bはバルバトスを表しており、また番号が00なのはあくまで1シーズンだけの助っ人だというのが勇太曰く。


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第4話 兄の遺産

「勇太君、こっちこっちー!!」

「ここは…」

彩渡商店街ガンプラチームに入った後の休日、勇太はミサに連れられて商店街に来ていた。

そして、彼女に案内されたのがこの商店街唯一のプラモ専門ショップだ。

「ああ、ここはバルバトスを手に入れた店だ」

「そうなの!?ってことは初めて来るんじゃないんだね。それでも、私のチームに入ったんだから、ちゃんと父さんにあいさつしないと!」

「ん…?父さん…?」

ミサに引っ張られ、プラモショップに連れ込まれると、カウンターで新聞を読んでいる、青い模様のある白の服とピンクのエプロンをつけた茶髪でメガネをかけた男性が新聞を置いて2人を出迎える。

「お帰り、ミサ」

「ただいま!あ、あのね父さん…紹介したい人がいるの…」

「ちょ、ミサちゃん!?」

しおらしく、まるで自分の恋人を紹介するようなミサの言動に顔を赤く染める。

以前にミサに路上で抱き着かれたときのことを思い出してしまっているのだ。

「ああ、新しいチームメンバーを見つけたんだね」

だが、ミサの父はまるで分っているかのように柔和な表情で勇太に目を向ける。

「あ、君はこの前店に来てくれた…」

「はい。沢村勇太です、お世話になります…」

「あ、あのさぁ、父さん…”き、君はまさか娘の…!?ぬぅ、許さん!!表に出ろー!”とかないの?」

「ないよ」

おいてけぼりにされそうになったうえ、父親の反応が不満だったためか、2人の会話を遮るように、本来望んでいた反応を口にするが、即答で否定される。

より不満が強まったのか、頬を膨らませる。

(ちょっと、子供っぽいかな…?)

そんなミサの様子を見た勇太は若干苦笑する。

「ミサの父親の井川雄一です。すまないね、強引に誘われたんだろう?」

「いえ、そういうわけでは…」

「上がっていいよ。ミサ、新しいチームメンバーを部屋に案内してあげなさい」

 

「…ま、まぁ、流れでこうなってるけど…いいのかな?」

「父さんの奴…なんで年頃の娘の部屋に男を入れるのを良しとするのかなー…」

よほどユウイチの反応が気に食わなかったのか、プリプリ怒りながらジュースを飲む。

部屋の中は女の子らしく、ぬいぐるみやかわいらしい小道具が置かれている。

ただ、特徴的なのはそんな空間の中にガンプラやガンダムシリーズ関連のグッズがあるということで、机の上にはアザレアが置かれている。

なお、母親はいま、パートで出ているとのことだ。

「そうだ、ミサちゃんに見せたいものがあるんだ」

「え??何何!?もしかして…珍しいガンプラとか!?」

みせたいもの、という言葉に反応して身を乗り出して勇太をじっと見る。

目をキラキラさせており、とても先ほどまで怒っていたのが嘘に思えてしまう。

勇太はそばに置いたリュックサックから緑色の丸い機械を取り出す。

「これって…ハロ!?」

「うん、兄さんがリージョンカップに初めて優勝したときに父さんからプレゼントしてもらったって。この中には戦闘データやガンプラに関するデータがいろいろ入ってる。もしかしたら、今後の役に立つかなって思ってさ」

ハロは十数年前から幼児から中学生を対象に販売されたトイボットだ。

現在もバージョンアップをしつつ販売が続けられ、ガンダムファンを中心に購入者が存在する。

なお、本来は勇太が言うような機能は持っていないものの、父親が改造したことでそれが可能となっている。

勇太はノートパソコンとUSBケーブルを出して、ケーブルでパソコンとハロを接続する。

すると、ノートパソコンに勇武のこれまでの戦闘データが出てきた。

「けど、戦闘データを集めて、そこからどうするの?」

「このデータを分析して、僕たちのガンプラの改造プランを作り出すんだ」

「すっごーい!まるでAGEシステムみたい!」

「確かにそれっぽいけど、あくまで提示するだけで、細かい調整は僕たちがしなくちゃいけないし、それに当然、ハロじゃガンプラを作れないから、AGEシステムのデータ解析オンリーバージョンって言ったほうが正しいかな」

「ハロ、ミサ!ハロ、ミサ!」

「しゃべった!?」

ハロに搭載されている機能を聞いただけでも驚きが隠せなかったミサだが、急にハロがしゃべりだしたことでもうどんな反応をすればよいのかわからなくなっていた。

 

そして、数十分後のゲームセンターで…。

「それじゃあ、まずはチーム戦の練習をしよっか!」

「そういえば、タウンカップまではあとどれくらい時間がある?」

「んー、そんなに長くはないよ。あと1週間くらい」

「そうか…だったら、早く初めてデータを集めないと」

ハロとバトルシミュレーターを接続した勇太は対ビームコーティングマントを新しく装備したバルバトスをセットする。

そして、耐圧服姿になって、バルバトスとともにニューアークの廃墟を模したステージへ飛び出した。

(ううー、やっぱり出撃前が一番恥ずかしい…)

既にフィールドで待機していたアザレアと接触回線をつなげると、すぐにミサの恥じらう声が聞こえてくる。

「恥ずかしいって…どうして??」

「だって、アバター登録したノーマルスーツに代わる間…その、は、は…」

「敵機が来たよ!」

「んもーーー!!乙女が恥ずかしいことを勇気をもって言いだそうとしてるときにー!」

バトルシミュレーターのCPUによって、勇太たちの周囲にドムやグフ、ザクⅡなどのモビルスーツが多数出現する。

今回のステージ設定はジオンによるニューアーク方位を突破するというのがクリア条件らしい。

そして、あいさつ代わりにとドム3機がジャイアント・バズを撃ちながら勇太たちに接近してくる。

「いくよ!!」

「うん!」

右手にメイスを握り、バルバトスが跳躍する。

そして、アザレアはザクマシンガンでゆっくりと動く弾頭を撃ち落とし、左手に持つジャイアント・バズで1機を撃墜する。

(なるほど…アザレアはある程度バランス良く攻撃できるように武装を設定してるのか…)

ピピピピッと敵にロックオンされたことを告げる警報音が鳴り、それと同時にドダイ改に乗ったグフ・カスタムがガトリングガンで攻撃を仕掛けてくる。

「やっぱりコンピュータだと動きが読みやすい…!乱入してくるプレイヤーと戦ったほうがいいかな」

メイスでドダイごとグフ・カスタムを地面にたたき落とし、滑腔砲をダメ押しとばかりに1発発射する。

起き上がろうとしていたグフ・カスタムの頭頂部に垂直になるように着弾し、機体が爆発する。

撃墜を確認すると、そのまま地上へ降下しながらも滑腔砲でビルの中に隠れていたザクⅠ・スナイパータイプのロングレンジビームライフルを破壊した。

「うわあ…やっぱり強い。けど、私だって!!」

マシンガンを腰部のウェポンラックにしまい、バックパックのジャイアント・バズ2丁を手にしたアザレアが上空に現れたガウから降下してくるドム・トローペン2機に向けて発射する。

背後からの攻撃で、気づくのが遅れた2機は逃げる暇もなく撃ち落とされたが、彼女に気づいた周囲のザクⅡが彼女に向けて攻撃を始める。

ケンプファーのバックパックの出力を利用し、低空で高速移動をして弾幕をしのぎ、バズーカをバックパックに戻して左手に握ったビームサーベルで1機を真っ二つに切り裂いた。

「やった!!このままドンド…ひゃあ!?」

上空から放たれた大出力のビームがシールドに直撃する。

ビームが収まり、焼け焦げてボロボロになったシールドを捨てたミサは上を見る。

上空にいるのはアッザムで、よく見るとその周辺には6基のリフレクター・ビットが浮かんでいる。

「改造ガンプラ…ってことは、乱入か!」

アッザムがリフレクター・ビットに向けて4門のメガ粒子砲を発射する。

リフレクター・ビットに次々と反射していき、真上からバルバトスにビームの奔流が襲う。

「く…反射機能をここまで高めてる!!」

バルバトスの反応速度でも逃げ切れないと悟った勇太は対ビームコーティングマントを強制排除し、真上に向けて投げる。

マントは数秒程度、ビームマグナムレベルのビームを遮ることができ、その間に勇太はその場を離れることができた。

「こんのぉぉぉ!!」

バックパックに装着したままバズーカを発射し、リフレクター・ビットを1基破壊した次の瞬間、アザレアに強い衝撃が走る。

「キャアアアア!!!これ、アッザムリーダー!?嘘、全然見えなかった!!」

上を見るが、アッザムリーダーが見えず、見えるのは檻の部分と周囲にほとばしる電撃だけだ。

「改造でアッザムリーダーを見えなくしたのか!!」

滑腔砲をリーダーがあるであろう場所に向けて発射する。

着弾と同時にアザレアの上部で小規模な爆発が起こると同時に、閉じ込めていた檻と電気が消えた。

「うう、今の電撃のせいで、動けないみたい…」

ガチャガチャと必死に両手のスティックを動かすものの、アザレアはうんともすんとも動かず、ツインアイの光も消えている。

「…バズーカ、借りるよ」

「え、勇太君!?」

メイスを置き、ミサからバズーカを半ば強引に借りた勇太はビームで弾幕を作るアッザムへ突っ込んでいく。

(アッザムリーダーは見えなくなってる。でも、アッザムリーダーを射出するために、どうしてもハッチを開かなきゃいけなくなる…!そこを突けば!!)

リフレクター・ビットを利用した四方八方からのビームの雨をよけつつ、バズーカと滑腔砲でリフレクター・ビットを1つずつ減らしていく。

先に滑腔砲が弾切れになり、それを投げ捨てるとバックパックに装着されている太刀を手にし、切り結んでいく。

相手も下から狙ってくることがわかっているのか、リフレクター・ビットを動かしてそれを盾にしようとする。

「遅い!!」

リフレクター・ビットの配置が完了する前に真下にたどり着いたバルバトスが残弾1となったバズーカを発射する。

発射された弾頭はアッザムの開きかけたハッチに命中し、大爆発を起こす。

中に残っているアッザムリーダーもその爆発によって消失し、ハッチの周囲に配置されているメガ粒子砲も砕け散る。

しかし、相手もただやられるわけではなく、残ったメガ粒子砲を撃ち、バズーカを撃つためにわずかに動きを止めたバルバトスの太刀の刀身を破壊する。

「くそ…!バズーカは弾切れなのに!」

武装がなくなったバルバトスに残っているのは拳だけ。

モビルファイターのような素手での格闘戦主体のガンプラを使ったことがない勇太にはつらい状況だ。

しかし、それは1対1ではの話。

今の最大の違いは…。

「勇太君!」

「ミサちゃん!!」

仲間であるミサがいることだ。

機能が回復したアザレアがマシンガンでアッザムの注意をひきつつ、左手に持っているメイスをバルバトスに投げ渡す。

メイスを受け取った勇太は残りのガスを確認する。

(今のガスの残りなら…やれる!!)

スラスターを利かせ、一気に上空へ飛んだバルバトスは至近距離からアッザムに向けてメイスを振り下ろす。

至近距離まで接近されたアッザムには攻撃手段がない。

メイスによる強烈な一撃を受けたアッザムはミノフスキー・クラフトにダメージが生じたのか、浮遊できなくなって地上へ転落、爆散した。

 

「ふううう…」

ガンプラバトルを終え、ハロを抱えてシミュレーターから出た勇太はカバンから水が入ったペットボトルを出し、それを飲み始める。

「やっぱり、10年のブランクがあるせいか、思ったよりも動けないところがあるな…」

他人が完成させたガンプラであるという理由もあるかもしれないが、それよりも自分のバトルの技量が若干低下しているのを感じられた。

しかし、それでも今の勇太の心の中にあるのは、10年前から感じることのなかった充実感だ。

「お疲れーーー!勇太君!」

後ろからミサが背中をたたきながら声をかけてくる。

級にたたかれたこともあってか、口の中に残った水を吐き出してしまい、のどに残った水も逆流して鼻道に入ってしまう。

「ああ、ごめん…!けど、アッザムがこんなに改造されてたなんて…」

「ガンプラの可能性は無限大ってわけだよ。きっと、これからの戦いはモビルアーマーだけじゃない。PGや戦艦といったいろんなガンプラが出てくる。うかうかしてられないね」

「うん!そういえば、今回のバトルでどんなデータが取れたのかな??」

「ああ、調べてみよう」

すぐにノートパソコンでハロが回収した戦闘データを調べ始める。

「ふーん、じゃあ次にこういうリフレクター・ビットを使う相手が出たら、実弾を利用して…」

「可能であれば、接近して破壊する手もあるよ。今回のあれはマシンガンで壊すには厳しいし…」

「じゃあ、ガトリングガンを用意しようよ。今のバルバトスって、短期決戦型に近いし」

こうした、勇太とミサのガンプラ談義はゲームセンターが閉店するぎりぎりの時間まで続いた。




機体名:アザレア
形式番号:ASGT-01A
使用プレイヤー:井川美沙
使用パーツ
射撃武器:ザク・マシンガン
格闘武器:ビームサーベル
頭部:アカツキ
胴体:シェンロンガンダム(EW)
バックパック:ケンプファー
腕:インパルスガンダム
足:ローゼン・ズール
盾:シールド(Ez8)

ミサがアカツキをベースに作ったガンプラ。
白とピンクをベースとした色彩で、バックパックに搭載されている2丁のジャイアント・バズと扱いやすいザク・マシンガンによる後方支援能力が高い。
そのため、滑腔砲が弾切れとなったバルバトスに武装を貸し与えるという場面がある。
ただし、こういうオーソドックスな武装がメインで、隠し玉や切り札となりうるものがないためか、相手の予想外な攻撃に対して弱い一面がある。
今後はハロが収集するデータと提示される改造プランなどを軸にさらなる改造を行うとのこと。


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第5話 タウンカップ開幕

「ふああ…いよいよタウンカップだぁー!楽しみだね、勇太君!」

「うん、けど…これはただの通過点だ。ここで勝てないようだと、日本一にはなれない」

「うう…万年タウンカップ予選落ちのリーダーの私にとっては耳が痛い…」

彩渡駅から北へ徒歩10分の場所に位置する彩渡小学校の体育館には多くのガンプラファイターが集まっていた。

リージョンカップやジャパンカップと比べると人数は少ないが、その分気軽に参加できるのがタウンカップのポイントだ。

だが、ここで勝ち切るだけの実力がなければ、リージョンカップは夢のまた夢。

ハロを抱え、意気込む彼女と共に、勇太も少しうれしそうに体育館を見る。

(もう2度とこういう日が来ることはないと思っていたけど…)

「よぉ、新しいチームメンバー見つかったのか?」

2人の前に若干目つきの悪いTシャツ姿の少年がやってくる。

ミサに気軽に話しかけていることから、彼が彼女と知り合いなのがわかる。

「カマセ君…。ここにいるということは、新しいチームが見つかったんだね」

「ん…?新しいチーム?ってことは」

「うん、彼は私のチームのメンバーだったの。抜けちゃったけど」

「ああ…」

後半の発言のトーンが低くなったことから、そのことを根に持っていることがよく分かった。

しかし、元とはいえ同じチームに入ったということで、あいさつしないわけにはいかない。

「沢村勇太だ。よろしく」

「おう、俺は鎌瀬竜吾。ま、どうせ対戦することがないだろうけど、一応挨拶しておくぜ」

「おい、新入り。こんなところで油売ってないでセッティングしろ」

カマセを呼びに来たのか、今度は白衣を着た男がやってくる。

「わかってるよ、元チームメンバーに挨拶してたんだ。じゃあな、ミサ。決勝まで残れればいいな」

嫌味全開の言葉を残し、カマセは体育館へ入っていく。

(カマセ…かませ犬…)

「勇太君、カマセ君に失礼なこと考えたでしょ?」

「悪いな、嬢ちゃんたち。邪魔しちまって」

さすがにカマセの言動が相手チームへの敬意がかけらもない、失礼なものだと思ったのか、チームメイトとして男が詫びを入れる。

「いえ、むしろありがとうございます。えーっと…」

だが、彼女には詫びは不要だったようだ。

カマセの挑発により、より一層ファイティングな気持ちになったのだから。

しかし、男の名前を聞いていないことから何と呼べばいいのかわからないミサが言葉に詰まる。

「おっと失礼。俺はハイムロボティクス、チームエンジニアの角松和平だ」

「ハイムロボティクス…確か、トイボットやワークボットのシェアが関東地方では上位を争っている企業で…」

「で、去年のタウンカップ優勝チームだよ。カマセのヤロー…」

「…何か目つき怖いよ、嬢ちゃん。んじゃ、俺は仕事があるから」

彼女の目を見ていられないのか、カドマツは逃げるように体育館へ向かう。

「あの…ミサちゃん…」

「勝とう…」

ぎゅっとハロを握りしめながら、低い声で言う。

「ミサ、落ち着け。ミサ、落ち着け」

「まずは、その…落ち着いたほうが…」

「勝とう」

「…はい」

理由が何であれ、タウンカップを制覇する大きな理由ができて、モチベーションが上がったならもういいか。

勇太はそう思い、肯定する言葉を出すしかなかった。

ビグ・ザムが爆発する直前にドズルが見せたプレッシャーのようなものを感じて怖かったのも理由にあるが。

 

30分後、体育館内にすべての参加チームが集まり、放送が流れる。

(えー、それではタウンカップ予選を開始させていただきます!今回のルールはモノリスの破壊です!今回フィールドとなっている月面に設置されているモノリスを多く破壊した上位8チームが本選への出場権を獲得できます!)

「今回の出場チームは20…。ということは、ここで12チームが一気に消えるってことか…」

(なお、攻撃できるのはモノリスだけではありません。もちろん、相手チームへの攻撃も可能です。なので、当然チームが全滅した場合も敗退となります。また、制限時間は1時間ですが、すべてのモノリスが破壊された、もしくは全滅したチームが12チームとなったときはその時点で予選が終了します。相手チームを倒すか、それとも戦闘を避けてモノリスの破壊に徹するか、その選択が勝敗を左右することになります!)

「これは…予選落ちも仕方ないって思えるな…」

モノリスの破壊は単純に人数の多いチームが有利となる。

サウザンド・カスタムのような、一騎当千ができるガンプラとファイターで出るならまだしも、1人が2人だけでは勝ち目があまりない。

前もってミサから予選のルールが教えられたとはいえ、確かに厳しいものがある。

(それでは、これから30分後に予選開始となります。皆さま、準備をお願いいたします!)

放送が終わると、各チームが壁側に設置されているテーブルへ向かい、自分たちのガンプラの最終チェックを行う。

あるチームは武器の換装を行い、あるチームはミーティングを行って作戦を立てる。

様々なチームが異なる行動をとっている。

勇太とミサはテーブルへ行き、ガンプラの整備を始めていた。

「ミサちゃん、武器のカートリッジはどれだけある?」

「んーっと、マシンガンが3つでバズーカが4つくらい。長期戦になるから、つけれるだけ付けたよ。勇太君はどうするの?」

「30分あるし、今のバルバトスでは長期戦が難しい…。少し、改造を加えてみるよ」

そういって、リュックサックからミサの家で購入したガンプラの箱を出す。

「といっても、ほんの少し手を加えればいいだけだけど」

 

(それでは、時間になりましたので、予選を開始させていただきます!各チームはガンプラバトルシミュレーターにガンプラをセットしてください!)

「よーし、しっかり見ててね。ハロ!」

「了解!了解!」

ハロの頭を撫でたミサはそれをバトルシミュレーターに接続する。

システム起動と同時に周囲の光景がアカツキのコックピット内と同じになり、服装もノーマルスーツへ変わる。

「よーし、井川美沙!アザレア、いっきまーす!」

カタパルトが起動し、アザレアがフィールドへ放り出される。

飛び出してすぐにバルバトスの合流し、彼の肩に手をのせて接触回線の会話を始める。

「んじゃあ、がんばろっか!でも、その装備で大丈夫??なんか不安定そうだけど…」

「正攻法だけが戦いじゃないさ。それに、これくらい操縦できなきゃ、日本一になれない!」

「そうだけど…うわぁ!!」

急に銃弾とビームが2人を襲い掛かり、急いで2人は左右に離れて回避する。

「てめえらーー!!ここでいきなり会えるなんてなぁ!」

「タイガー…」

2機のシュヴァルベ・グレイズとガーベラ・テトラベースのガンプラを見て、勇太はファイターの名を呼ぶ。

「弱いやつにモノリスを渡す必要なんてねえ!そいつらは全部片づけ…「どけ!!」え…??」

目の前まであっという間に接近したバルバトスがタイガーのガンプラにメイスを突き立て、そのまま大出力で近くに浮遊している隕石に突っ込む。

隕石に衝突し、めり込んだタイガーのガンプラはぐしゃぐしゃになり、そのまま爆発した。

「うわあ!?タイガーさん!!」

いきなりタイガーがやられて、動揺する2機のシュヴァルベ・グレイズ。

それを2人は見逃さない。

ミサがそのうちの1機をビームサーベルで両断する。

「んもぉ、邪魔しないでよ!あんた達はタイガーっていうより、ただのハイエナじゃない!」

「え…うわ…!?」

残った1機もライフルの銃弾を浴びる形でバラバラになっていった。

これで、開始から1分足らずで1チームが失格となった。

「それにしても、見てみたらヘンテコ装備だよねー…」

改めて、バルバトスを見たミサは苦笑する。

両手足と胴体はバルバトスと変わりないものの、背中の部分だけがサイコ・ザクの2基のロケットブースター付き大型バックパックとなっている。

2つのサブアームが持っているライフルはすぐにバックパックに収納される。

「重力下ではバランスが悪いのは確かだけど、機動力はかなりあるし、おまけにリユース・サイコ・デバイスの代わりに阿頼耶識でサブアームの操作を代替できる。悪くないと思うけど…」

「ま、まぁいっか。じゃ、モノリスを探そっか」

「了解。しっかりつかまって」

バルバトスの両肩にアザレアが捕まったのを確認すると、ロケットブースターが起動して一気に加速していく。

コックピットに伝わるGに耐えながら、2人は月面を目指した。




機体名:バルバトス(第3形態)
形式番号:ASGT-00B
使用プレイヤー:沢村勇太
使用パーツ
射撃武器:滑腔砲
格闘武器:メイス
頭部:ガンダムバルバトス
胴体:ガンダムバルバトス
バックパック:サイコ・ザク(ライフル(グレイズ)×4、バズーカ(グレイズ)×2、滑腔砲×2、及び各武装のマガジン搭載)
腕:ガンダムバルバトス(第4形態)(腰部に太刀をマウント)
足:ガンダムバルバトス
盾:ガントレット

タウンカップ予選のために、バックパックをサイコ・ザクのものに変更したもの。
彩渡商店街ガンプラチームのアセンブルシステムはビルダーズパーツに非対応であり、バルバトス自身は追加装備がなければ長期戦に耐えられないという弱点がある。
そのため、バックパックを武装が豊富なサイコ・ザクのものに切り替えることで、長期戦に対応できるようになったものの、それと引き換えに重力下でのバランスが悪化した。
搭載されている武装はすべてギャラルホルンや鉄華団が使用する武器に入れ替えており、阿頼耶識システムによりサブアームの操作が容易となっている。
なお、火力に関して勇太は不満に思っており、決勝までにはその問題を解決したいとのことだが、バランスの悪化については別に問題としていない。


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第6話 戦場での出会い

「よっし!モノリス発見!」

周囲のガンプラを撃破し、月面を調べていた2機のマラサイのうちの1機がモノリスを見つめる。

ライフルを温存するため、ビームサーベルで破壊しようという魂胆だ。

しかし、それが誤りだということをすぐに気づくことになる。

マラサイの足元に違和感を感じたパイロットがメインカメラをそこへ向けようとした瞬間、右からバズーカの弾丸が飛んできた。

「うわあ!?ワイヤートラップか!?」

右足に弾丸が直撃、破壊されたことでその場にゆっくりと転倒する。

「ジェリドぉ!」

罠にはまった相方を助けるため、バズーカの弾道から場所を探知し、ビームライフルで破壊しようとするが、上からピンクの戦艦レベルのビームが降ってきて、それに自ら直撃する格好で撃墜された。

「カクリコーン!!ちくしょう!!」

どうにか右手のライフルをバズーカのある方向に向けるが、時すでに遅し。

背後から接近したエコーズジェガンにダガーナイフでとどめを刺された。

なお、ジェリドとカクリコンはコードネームであり、原作のあの方々とは全く関係がないのであしからず。

2機のマラサイの撃墜が確認された後、上空からZガンダムのハイパーメガランチャーを装備したジェガン、そして罠のバズーカがある方向からはバズーカとビームガンを装備したジェガンが出てくる。

3機は互いにワイヤーを利用した接触回線で連絡を済ませると、モノリスをバズーカで破壊して別の場所へ移動した。

 

「くっそぉ!どこから、どこから撃ってきやがる!?!?」

一方、いまだ月面に上陸できていないサンダーボルト版のジムが四方から撃ってくるビームをよけながら、必死に相手の位置を探っている。

仲間のジム・キャノンとハイブースト・ジムはすでに撃破されており、残った自分が倒されると、その時点で予選敗退が決まってしまう。

そのことへの焦りが操作精度を鈍くし、再び発射された赤いビームに貫かれて爆散した。

「敵モビルスーツ1機撃墜」

「この場所なら地表のモノリスも狙撃できる!あとは…」

周囲の安全を確認し終えた2機のハイザック・カスタムはモノリスを狙おうとする。

だが、急に背後の現れたEW版のガンダムデスサイズヘルに同時に機体を両断された。

 

「うおりゃあああ!」

右手でバルバトスにつかんだままのアザレアが左手でマシンガンを連射し、シュツルム・ガルスやゲルググ、ルナ・タンクなどにダメージを与えていく。

また、前方にいる2機のリゼルはバルバトスがサブアームで制御しているバズーカで撃墜される。

それでも油断することなく、次のターゲットを調べつつ、ロケットブースターの推進剤の残量を調べる。

「ミサちゃん、そろそろ推進剤は限界だ。降りるよ!」

「了解!じゃあそのままロケットブースターを分離して!」

バルバトスから離れたのを確認した後、勇太は2基のロケットブースターを分離させる。

ロケットブースターはそのまま直進していき、地表のモノリスを撃破し油断しているザムザザーに直撃する。

そして、ミサがダメ押しとマシンガンでロケットブースターを攻撃。

陽電子リフレクターの展開が遅れたザムザザーはマシンガンの銃弾を浴びて大爆発するロケットブースターと運命を共にした。

月面への着地を終えたアザレアはマシンガンのマガジンを、バルバトスは弾切れとなったバズーカのカートリッジをそれぞれ交換する。

「一番近いモノリスは!」

勇太から聞かれたミサは急いで周囲をセンサーで調べる。

遠距離戦を主体としているアザレアはバルバトスよりも長距離の敵や目標を調べることができる。

「ええっと、ここから西へ10キロ進んだところだよ!けど、もう2チームくらいそこへ行ってる!」

「距離と機動性ならこちらに分がある。行こう!」

2機はモノリスへ向けて機体を進めていった。

7キロ進んだところで、両者のコックピットに警報音が鳴る。

「敵機!?しかも、5機同時ってことは…!」

後方に突如、5機のモックが出現し、2人に向けてビームライフルで攻撃する。

わずかに反応が早かったバルバトスはよけるのに成功し、アザレアは避けられなかったものの、シールドでしのいだ。

「モック!?」

「乱入といったところかな…!」

モックはガンプラバトルで初心者が最初に戦うCPU機体として用意されたものだ。

普段はプレイヤー側が調整し、接近戦仕様や遠距離戦仕様、もしくは大型機にしたうえで仮想敵として戦うものの、このような大会ではまれではあるものの、突如乱入して参加チームを攻撃することがある。

なお、そのときのモックの戦闘レベルは15段階のうちの6以上でランダムに設定されており、最高レベルになると世界大会で戦うガンプラレベルとなり、普通のプレイヤーでは充てるのさえ困難になる。

幸い、今回は6に設定されており、ある程度経験を積んだチームであれば倒せない相手ではない。

「あまり弾は使いたくないから…!」

一度ウェポンラックを分離させ、機体を軽くすると、メイスを握った状態で接近する。

装甲の強度も強くないため、一度振るうだけでモックを粉々に粉砕することができた。

「よし、あと1機…!!」

残りの1機を破壊しようとした瞬間、熱源を上空から感知し、勇太はバルバトスを後ろにわずかに下がらせる。

すると、上空から飛び降りてきたロードアストレイがモックを右こぶしを殴り飛ばした。

「ロードアストレイ…でも、このカラーリングは…!」

灰色と赤を基調とした塗装で、ツインアイが赤と緑のオッドアイという奇妙な色合い。

そして、バックパックに装備されているハイパービームジャベリンと両腰に装備されている2丁の高エネルギービームライフル、全身を包む銀色のABCマント。

胸部に刻まれたドクロのペイント。

「ガンプラバトルから身を引いて長いのに、反応できるとは…鈍り切ってはいないってことだなぁ」

オープン回線でミサと勇太にロードアストレイのパイロットが通信を行う。

通信を聞いた勇太はじっとそのパイロットの顔を見る。

「ほおお、かわいい女の子と一緒にバトルを…。胸はないが、中々いい…」

「オイコラ、あんた…」

貧乳であることが大きなコンプレックスであるミサが怒りを込めて無礼なパイロットをにらむ。

「あなたは…どうしてここへ?」

「なーに、様子を見に来たんだよ。あいつの弟が今、どうしているのかを…」

そういって、バックパックのハイパービームジャベリンを両手で握り、バルバトスに向ける。

「…復帰したばかりで、あなたにだけは当たりたくないって思ってましたよ…」

メイスを構えつつ、じっとパイロットの映像を見る。

逆襲のシャア時代のシャアのノーマルスーツを着用し、両目を黒いグラサンで隠した、茶色いテクノカットの青年だ。

「景浦…武さん…!」

名前を呼ばれた青年はニッと笑い、上段に構えたハイパービームジャベリンを振り下ろす。

ウェポンラックを分離したバルバトスがメイスで受け止めるが、力負けしているのか、だんだん押されはじめる。

「勇太君!!」

「手を出さないで!!」

勇太を助けようとバズーカで攻撃しようとするミサを制止する。

右足でロードアストレイの腹部を蹴り、どうにか距離を開けた勇太だが、そんな彼の腹部をビームライフルの閃光がかすめる。

「ビームライフル!?腰に下げたままで!?」

「サンダーボルト版のジムやザクが装備したサブアームを応用しただけだ。ふーん、弱い。勇太、すっかり弱くなったなぁ」

「く…!!」

分離したウェポンラックからライフルを手にし、そのまま撃とうとするが、今度はそれを左腕に装備されているワイヤークローでメイスごと絡み取られる形で奪われてしまう。

ロードアストレイは丸腰になったバルバトスに向けて、奪ったメイスを投げつける。

メイスは頭部をかすめ、そのまま飛んで行って後方にあるミラージュコロイドで隠されたモノリスを貫く。

「これが数センチずれていたら…どうなっているかわかっているよな?」

「…」

明らかに手を抜かれ、更にそれでもなお自分を上回る力量を見せつけられた勇太は何も言うことができなかった。

「機体のパワーも中途半端で動きも鈍い、周りから見るとほんのちょっとだけ強いだけのただの三流、それが今のお前だ、勇太」

「…」

「おまけに…!!」

ビームライフルを手にしたロードアストレイが自身の背後を見ないまま発射する。

撃たれたのは背後から接近しようとしていたシュツルム・ガルスで、一撃で撃破された。

「感も鈍くなった…。これがあいつの弟のなれの果てかと思うと、がっかりするな…。そんな強さで勝ち抜けるほど、ガンプラバトルは甘くないぞ」

「くそ…!!」

「これ以上、俺をがっかりさせたくなかったら、さっさと覚醒して見せろよ」

そういうと、急にロードアストレイがポリゴン状に分解され、消えていく。

「棄権…!?」

「ああ、今のお前と戦っても面白くない。それだけだ」

そう言い残し、タケルが姿を消す。

勇太の心に残ったのは、何とも言いようのない悔しさだった。

「ゆ、勇太君…あの人は…!?」

メイスを回収したミサはそれを手渡しながら、勇太に尋ねる。

「…彼は、景浦武。兄さんのライバルだった人だよ…。ガンプラの名前はロードアストレイ・グレースカル」

「景浦武…ああ!!」

名前を思い出したミサは大声を上げる。

「前に雑誌で見たことある!!外国を飛び回ってるさすらいのガンプラファイター!!」

「あれが世界の実力ってことだよ…」

リキャプチャービームでウェポンラックを回収し、メイスを受け取りながら、ロードアストレイが消えた方向に目を向ける。

復帰して1週間、必死に昔の実力を取り戻そうと、練習を続けた。

しかし、力を取り戻し、さらにその上へ行くにはまだ長い時間が必要だと感じられた。




機体名:ロードアストレイ・グレースカル
形式番号:MBF-P03GS
使用プレイヤー:景浦武
使用パーツ
射撃武器:高エネルギービームライフル×2(ストライクフリーダム)
格闘武器:ハイパービームジャベリン
頭部:ロードアストレイ
胴体:ロードアストレイ
バックパック:ユニコーンガンダム
腕:ガデッサ(ワイヤークロー装備)
足:ガンダム・バエル
盾:ABCマント

世界を旅するガンプラファイターであり、生前の沢村勇武のライバルである景浦武のガンプラ。
ロードアストレイをベースとしたもので、長い戦いの中で改造を繰り返してきたことから機体性能は勇太のバルバトス(第3形態)を圧倒するほどであると同時に、ワイヤークローで2つの武器を同時に奪うという芸当を見せるほどの精密さを秘めている。
ただし、それでも彼自身本気ではなかったことから、本来どこまで本気の性能を引き出せるのかは不明。
彼の言葉の中にあった覚醒が一つのキーワードであると予想される。
なお、グレースカルは灰色の塗装と胸部のドクロのペイントが由来。


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第7話 自分のできることを

「違う、こうじゃない…!この動きじゃない!」

いつものゲームセンターのガンプラバトルシミュレーターから降りた勇太はハロに記録された今回のバルバトスの動きを見ながら、不満げに漏らす。

タケルの棄権により、生き延びることができ、そのあとはどうにか2機の連携で予選を突破することができた。

初めての予選突破であるものの、喜ばしいものではなかった。

1週間後の本選のため、勇太はこうしてガンプラバトルシミュレーターとミサのプラモショップを行き来し、こうして特訓を続けている。

「勇太君…」

缶ジュースを買ってきたミサは心配そうに勇太を見つめる。

宿題を学校の休み時間ですべて済ませ、ほとんどの時間を特訓に費やす勇太を心配しているのだ。

予選が終わってから4日、勇太の休んでいる姿をミサは見たことがない。

「ねえ、ちょっと休んだら?」

「大丈夫、まだできる。早く…10年前の実力を取り戻さないと…」

10年前に勇太は1度だけタケルとガンプラバトルをしたことがある。

そのときは勇武からブルーフレームを借りて、敗北はしたものの、勝負したタケル自身がいいバトルだとほめてくれたし、自分も満足感に満ちていた。

だが、予選の時は真逆で、自分の本来の動きができず、タケルを失望させた。

兄の死が原因で10年も離れていたとはいえ、それを言い訳にしたくない。

何より、このような情けない結果のまま終わることを自分自身が許せなかった。

ミサから受け取った缶ジュースを一気に飲み干し、空き缶を捨てた後で再びシミュレーターに入っていった。

「だいぶ、予選のことがこたえているみたいだねえ」

「イラト婆ちゃん…」

「ま、こっちとしては金を落としてくれてるからいいけどねぇ、それでぶっ倒れちまったら評判に傷がついちまう」

「評判って…」

この商店街では、イラトは守銭奴として子供たちに評判となっている。

なんでも、ガチャガチャやUFOキャッチャーはレアな賞品がほかのゲームセンターと比べて獲得しづらく、アーケードゲームも難しいものを中心に集めている。

大人であればさっさと見切りをつけて、違うゲームセンターを探すものの、子供たちは自分のプライドがそれを許さない。

そのためか、このゲームセンターで商品を手に入れる、クリアすることは大きなステータスとなっている。

「勇太君…ここは私が!」

ミサはカバンからアザレアを出し、空いているシミュレーターへ走っていった。

 

「はあ、はあ、はあ…」

弾切れになった滑腔砲に最後のカートリッジを取り付け、ウェポンラックに残っている武装を確認する。

乱入を含めて20機以上のガンプラを撃破し、残りはライフル2、バズーカ1、滑腔砲1、バズーカについてはもうカートリッジがなく、3発で弾切れになる。

「これなら…まだやれる!次は…」

息を整えていると、次の乱入者が登場したことを告げる警告音が鳴る。

場所を確認し、上空にカメラを向けるとそこには見知った機体の姿があった。

「アザレア、ミサちゃん…」

(勇太君、勝負だー!)

いきなりバルバトスに向けて2丁のバズーカで攻撃を仕掛ける。

すぐに上空へ飛んで回避すると、そこからビルの上に行き、サブアームに装備しているライフルを滑腔砲と共に発射する。

地上に着地したアザレアは大出力のスラスターで滑走しながら回避し、バルバトスに接近する。

強襲用モビルスーツであるケンプファーのバックパックを搭載したアザレアだからこそできる芸当だ。

滑走を続けたままミサはバズーカを弾切れを気にすることなく連射する。

ビルから飛び降り、直撃コースの弾をライフルで対処しながら回避する勇太は駐車場へと移動していく。

「逃がすかぁーーー!」

弾切れのバズーカを投げ捨て、ザクマシンガンをバックパックに向けて撃つ。

ウェポンラックの存在により、大型化したバックパックでは左右への回避が難しく、何度も被弾する。

(ロケットブースターに当たったら致命的だ。仕方ない…!)

サブアームのライフルを左手で持ち、ウェポンラックとロケットブースターをパージする。

そして、急旋回しながらライフルを連射する。

再現されるGが体を襲うせいで照準が定まらないが、それでも数発目でロケットブースターに命中、ウェポンラックに残った弾薬と共に大爆発を起こす。

「うわわわ!!」

びっくりしたミサだが、それでもスピードを緩めることなく、そのまま直進していく。

この爆発の目的は機体を軽くすることと目くらましによる時間稼ぎのためと踏んだからだ。

だが、爆発による光から抜けたミサを待っていたのは…。

「そこ!!」

「ひゃわあああ!?!?」

滑腔砲とライフルを捨て、メイスを手にしたバルバトスだった。

目の前に現れてくれたアザレアの横っ腹にそれを叩き込もうとするが、ギリギリのところでバックステップしたことで正面の装甲をかする程度にとどめることができた。

「ミサちゃんのことだ、この程度ではひるまないと思ったら、正解だったよ」

「うう…なんだか複雑…でも!!」

もはや必要ないとザクマシンガンを投げ捨て、ビームサーベルを手にして切りかかる。

取り回しと攻撃スピードではメイスよりも上、反撃を終える前にアザレアの攻撃が命中する。

そう考えた勇太はメイスを手放し、腕を直接つかんで攻撃を止めようとする。

「う…まずい…!」

急に眠気を覚えた勇太の反応が遅れ、ビームサーベルがコックピットがバルバトスの左腕を切り裂く。

(反応が遅れた…。やっぱり、勇太君は)

「まだだぁ!!」

斬られた左腕を右腕でつかみ、それを振り上げてアザレアの右腕を攻撃する。

予想外の攻撃にミサの反応が遅れ、ビームサーベルが手から離れてしまう。

一度バルバトスを距離を置いたミサは左腕を持つバルバトスをじっと見る。

(勇太君。やっぱり休もうよ!さっきの動き、いつもの勇太君なら…!)

「けど…今の僕は…」

(もう!今は勇太君1人で戦ってるんじゃないよ!私も一緒に戦ってるってこと、忘れないでよ!)

「ミサちゃん…」

(一緒にガンプラバトルをやろうって言ったじゃん…。もっと、私のこと…頼ってよ…。そりゃあ、勇太君のほうが強いし、うまいよ。でも、それでも…!)

ミサの必死な声を聞いた勇太はアザレアをじっと見る。

自分は10年前までチームを組むとしたら、兄しかいなかった。

本当の意味で、ほかの人とチームを組むのはミサが初めてだ。

彼女の言葉で、タケルに負けた影響により、すっかりミサも一緒に戦っているのだということを先ほどまで忘れてしまっていたことを悟った。

「ごめん、ミサちゃん…じゃあ、お願いしていいか…な…」

(勇太君!?)

「…」

返事をしなくなり、動かなくなったバルバトスに近づき、接触回線をつなげる。

バルバトスのコックピット内の姿を見ると、そこには座ったまま眠ってしまった勇太の姿があった。

そんな彼を見て、安心したミサはシミュレーターを終えた。

 

「ん、んん…」

目を開けた勇太は自分の上にかかっている掛け布団、そして白い壁紙の天井を見る。

「寝てたのか、僕は…」

ゆっくりと顔を横に向けると、そこには両腕を折り畳みテーブルの上に置き、それを枕代わりにして座ったまま寝ているミサの姿があった。

机の上にはハロと彼女のガンプラノートが置かれている。

玄関と居間の間にある台所からは誰かが料理をする音が聞こえた。

「誰か、いるんですか…?」

眠っているミサに薄い毛布を掛けた勇太は台所へ向かう。

そこにはきんぴらを作るユウイチの姿があった。

「ユウイチさん!?」

「やぁ、台所使わせてもらってるよ」

「ユウイチさんとミサちゃんが僕を…」

「うん。初めての予選突破だから、ちょっとだけお祝いしようって思ってね。そう考えていたら、ミサが君を家へ連れていくのを手伝ってって頼んだから…」

「そうですか。その…ご迷惑をおかけしました」

チームメイトであるミサだけでなく、彼女の父親であるユウイチを巻き込んでしまったことを申し訳なく思い、謝罪する。

「いや、いつもミサが世話になってるし、恩返しだよ。そろそろ出来上がるから、盛り付け、手伝ってくれるかい?」

「…はい」

3人分の皿を出し、ユウイチのきんぴらを盛り付ける。

途中で目を覚ましたミサが台所へやってくると、お茶碗にご飯をつけて居間まで持って行った。

ここに引っ越してからはいつも1人で食べており、彩渡町で初めてほかの人と一緒にご飯を食べることになる。

学生の1人暮らしを前提とした部屋であるため、3人入ると狭く感じ、ユウイチの作った料理は一般的なものだったが、一人で食べている時よりもおいしく感じられた。

 

そして、タウンカップ本選の1回戦…。

本選では1チームVS1チームの勝負によるトーナメントとなっており、どちらか一方のチームが全滅するまで試合が続く。

「うおりゃあああ!!」

炎上するサンクキングダムで、アザレアがバルバトスから借りたメイスを投げ、上空から攻撃を仕掛けるエアリーズを撃破する。

だが、地上には2機のビルゴⅡが存在し、それぞれプラネイトディフェンサーで多くの攻撃を防ぐ厄介なガンプラだ。

「奴の最大の攻撃力はメイスだ!手元にないなら…!!」

さすがにメイスでは防ぎきれないが、それが手元からなくなったことで安心したビルゴⅡのパイロットが丸腰のアザレアに攻撃しようとするが、横から飛んできた弾丸を受け、バラバラになり、爆散する。

「何!?ビルゴⅡをバラバラにするだと…!?」

急な攻撃に驚きながらも、もう1機のビルゴⅡのパイロットは逆探知を行い、攻撃したであろうバルバトスの位置を把握する。

感知されたのを知った勇太はスコープのついていない、ドーバーガンのような構造の対物ライフルを持ったまま山を下り、その相手に向けて接近する。

プラナイトディフェンサーを展開しながらビームライフルを連射するビルゴⅡに向けて接近し、目の前でそれを発射する。

プラネイトディフェンサーの電気フィールドを突き破った弾丸はビルゴⅡの頭部を吹き飛ばした。

「ふうう…」

(タウンカップ1回戦第4試合、勝者は彩渡商店街ガンプラチーム!!)

「やったー!やったね、勇太君!」

アザレアが近づき、武器を置いたバルバトスは彼女とハイタッチした。

(一緒に戦ってこそのチーム…か。やるべきこと、少しだけ見えてきた気がする…)

まだタケルのいう動きには戻っていないものの、勇太には焦りの色がなくなっていた。




武器名:500mm破砕砲
勇太のバルバトスに滑腔砲に変わり、新たに装備されたライフル。
トールギスのドーバーガンをもとに、ミサと勇太がほかのモビルスーツの長距離ライフルのパーツを利用してミキシングビルドされた。
口径は滑腔砲の1.5倍以上となっており、連射性能を犠牲にしたうえ、反動も大きいものの、滑腔砲以上の弾速・プラネイトディフェンサーやナノラミネートアーマーをその名の通り『破砕』できる破壊力を実現している。
また、取り回しと連射速度の問題の解消として、銃身は取り外し・再取り付けできるようになっているが、銃身を外して発射した場合の反動は相当なもので、高硬度レアアロイ製のガンダム・フレームでも無理に発射を続けると腕が破損する。
なお、勇太自身により、鉄華団がダインスレイヴなしで遠距離攻撃でモビルスーツを撃破するのを容易にするために独自に作ったものの、ガンダム・フラウロスを手にしたことと反動によるフレームのダメージが問題視されて不採用となったという設定が加えられている。


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第8話 切り開く未来

「うおりゃあああ!!なんのこれしきぃ!」

準決勝の舞台である、宇宙要塞ソロモンの地表で、追いかけてきたプルーマ3機をアザレアが2丁のザクマシンガンで撃墜する。

相手が使っているガンプラはハシュマルで、先ほどのようなプルーマの製造プラントがあるということから、時間さえあればいくらでもプルーマを生み出して攻撃を仕掛けてくる。

おまけにハシュマル自身は超硬ワイヤーブレードやエネルギー弾発射装置付大型クロー、ビーム砲が武装としてあり、おまけにナノラミネートアーマーで防御力を高めている厄介な相手だ。

「よし、プルーマの対処はこれでいい。少なくとも、3分はそれの心配はしなくてもいいはずだよ」

メイスで叩き潰したプルーマの残骸を見て、ハシュマルから発射されたビームを上空にジャンプしてかわしながら勇太は言う。

戦闘開始から7分が経過し、開始3分後に3機、6分後にもう3機のプルーマと遭遇した。

製造し、出撃するまでのライムラグが3分であることがわかる。

原作ではバルバトスルプスが阿頼耶識のリミッターを解除することで決着をつけ、その代償としてパイロットの三日月は右半身の感覚を失っている。

「勇太君、三日月みたいにならないよね…?」

原作を見たことのあるミサは冗談半分でそんな疑問を投げかける。

阿頼耶識のリミッター解除は現在のガンプラバトルシミュレーターでは再現されていないため、そのようなことはできないし、やったからといって、三日月のようになるわけではない。

「その必要はないよ!!」

上空でバックパックのサブアームを展開し、破砕砲の発射準備を整える。

これまでの試合を観戦し、破砕砲の破壊力を知っている相手は発射される前にその武器を破壊しようと、ワイヤーブレードでバルバトスを襲う。

阿頼耶識システムの反応速度に追随出来る速度で攻撃できるそれでなら、発射される前に破砕砲を破壊できるし、たとえそれができなくとも、銃身をそらすことができる。

だが、その時相手はアザレアの動きを見ていなかった。

「隙ありぃ!!」

バズーカを持ったアザレアがハシュマルの頭部を両手でつかみ、強引に向きを変える。

ビーム砲だけでなく、メインカメラの機能もそれについているために、これでバルバトスの場所がわからなくなってしまう。

急いでアザレアをどかせようと、大型クローのエネルギー弾と頭部のビーム砲を発射しようとする。

「下がって、ミサちゃん!!」

言い終わらぬうちに破砕砲が発射される。

上空で撃ったせいで、その反動により大きく後ろに交代で、地表にあおむけで倒れてしまう。

だが、ナノラミネートアーマーやフェイズシフト装甲を破砕するその弾丸はアザレアが離脱した後、ハシュマルの頭部を貫いた。

頭部ユニットがダメージを受け、おまけにビーム砲のエネルギーが逆流して大爆発する。

それにより、頭部以外のパーツにも大きなダメージが発生し、ハシュマルはその場で倒れる。

ワイヤーブレードも爆発のせいでワイヤーが切れてしまった。

「ミサちゃん、とどめを!!」

「うん!これでとどめぇぇぇ!」

下がっていたアザレアが2丁のバズーカを弾切れになるまで撃ちまくる。

ナノラミネートアーマーがボロボロになり、内部のパーツがむき出しになったハシュマルにそれをしのぐ力はなく、大量の弾丸の爆発の中に消えていった。

 

「やったーー!!決勝進出ー!!」

試合終了後、会場の外でミサは嬉しそうに飛び跳ねる。

これまで予選敗退ばかりなのに、こうして決勝への切符を手にしたため、喜びが大きいのだろう。

「ま、まさか…本当に決勝に進出してくるなんてな…」

同じように、外へ出ていたカマセが驚きを隠せずに勇太とミサを見る。

そんな彼を見ただけでも、勝ち進んだ甲斐があったと思ったのか、ミサは勝ち誇る。

「どう?自分が捨てたチームがここまで勝ち進んだ感想は?」

「俺はプロのガンプラファイターを目指してるんだ。より良い環境を選ぶのは当然だろ。商店街のドノーマルなアセンブルシステムで上を目指せるかよ」

カマセの言うことにも一理ある。

環境は個人の能力を大きく成長させる一因にもなり、それが悪いために開花するはずの才能が開花しないというのもよくある話だ。

現に勇太のバルバトスの第3形態があのような形になったのも、アセンブルシステムがほとんど改造されていないことから、補助ブースターや追加装備を搭載するのが難しかったためだ。

「それは今ある環境の中でベストを尽くしたという前提の話かな?」

「何?」

「僕たちはそのドノーマルのアセンブルシステムでここまで勝ち進んだんだ。ということは、君も移籍しなくても決勝まで進めた可能性があったということだよね?だったら、君よりもミサちゃんのほうがプロへ行ける可能性があると僕は思うよ」

「てんめえ…」

自分がミサ以下だといわれたことに、怒りを覚えるカマセ。

「だったら…環境、つまり金と技術力が可能にするものを見せてやるよ!」

そう言い残して、再び会場へ戻っていった。

会場からはまだカドマツが出てきていないため、おそらく彼と決勝戦のミーティングをするのだろう。

「勇太君…ありがとう」

「僕が思ったことをそのまま言っただけだよ。じゃあ、こっちも準備を始めようか」

「うん!」

 

会場に戻り、勇太はできたばかりのムーア同胞団仕様のフルアーマーガンダムの両腕とバルバトスの腕を交換し、ミサのアザレアにメイスを持たせる。

「うわぁ…サイコ・ザクのバックパックにフルアーマーガンダムの腕。まさにサンダーボルト装備、と言ったところだね」

「ここまで2回カマセ君とあったけど、チームメイトが見当たらなかったでしょ?それに、あの自信…可能な限り準備をしたほうがいいよ」

「けど、その装備だと重たくならない??」

ミサが考えるように、フルアーマーガンダムの腕は2枚のシールドと2連ビームライフルがついていることから、バルバトスよりも重たいうえ、サイコ・ザクのバックパックがそのままであるためにさらにバランスが悪化している。

少なくとも、これを使えと言われたら、ミサは絶対に無理だというだろう。

「問題ないよ。装備の都合上、このビームライフルのエネルギーパックは予備を持たせることができないから、不要になればパージするだけ。さすがに両腕はナノラミネートアーマーにすることができなかったけど、実弾以外の攻撃の選択肢ができる」

「…ごめんね、勇太君。ウチのアセンブルシステムが…」

「ストップ。今ある環境でベストを尽くすのもファイターの才能だよ。それに…日本一になるんだよね?そんな弱気なことを言ったら駄目だ」

「うん…ありがとう」

「さあ…あと20分。再調整を始めよう」

「了解!」

カマセの言葉のせいか、ミサは若干元気をなくしていたが、勇太と話したおかげか、いつもの元気を取り戻していた。

2人は時間ぎりぎりまで互いのガンプラの最終調整を続けた。

 

(会場にお集まりの皆さま、お待たせしました!彩渡町タウンカップ決勝戦、いよいよ始まります!!前回優勝チームのハイムロボティクスがこのまま2連覇を成し遂げるのか、それとも今回、大躍進を見せる彩渡商店街ガンプラチームがその勢いのまま押し切るのかーーー!?)

「よし…準備OKだ。ミサちゃん…勝とうね」

(うん!)

通信越しに彼女と勝利の約束をした勇太のバルバトスの前にあるハッチが開く。

今回のステージはガンダムAGEに登場するコロニー、ノーラの残骸が浮かぶ宙域だ。

(それでは両チーム、発進どうぞ!!)

「じゃあ、沢村勇太…バルバトス、出るよ」

カタパルトが起動し、バルバトスが宇宙へ飛び出していく。

なお、発進時のセリフはミサの意見が入っていて、バルバトスのパイロットである三日月に真似ることとなった。

宙域にはノーラに残っていた車や自転車、乳母車などが漂っていて、ほかにもジェノアスやガンダムAGE-1が撃破したガフランの残骸もある。

まさにガンダムAGEシリーズにおけるガンダム最初の戦いの後の光景といってもいい。

「熱源…!?とても大きい!!」

「散開だ!!」

合流した勇太とミサに向けて、大出力のビームが襲い掛かる。

センサー部分が強化されていたアザレアが見つけてくれたおかげで、早めに反応をすることができた。

「戦艦クラスの火力…まさか!!」

ビームの方向から逆探知した勇太はこのビームの犯人を見る。

それはダブルオーライザーをベースと、色彩が白・赤・緑のトリコロールとなっているガンプラだった。

しかも、それはPGガンプラで、出力や防御はこれまでのガンプラとは段違いなものとなっている。

(どうだ!?俺のガンプラは!!)

オープンチャンネルでカマセが2人に自分のガンプラを自慢する。

(PG機体!?そんなガンプラをタウンカップで出すなんて、聞いたことないよ!?)

PG機体は強力なガンプラだが、アセンブルシステムにかなり手を加えないと使用できない、まさに金と技術力なしでは使えない代物だ。

(カドマツさんに頼み込んで使ってんだ!お前らに現実を教えてやりたくてよぉ!)

そういいながら、オーライザーのミサイルポッドからGNミサイルを斉射する。

PG機体となっているため、ミサイルの大きさも破壊力もけた違いに上がっている。

勇太は2連ビームライフルでミサイルを打ち落としていく。

ビームはそのままカマセのダブルオーライザーにも及ぶが、GNフィールドによって阻まれる。

(そんなチンケな火力で、PGを倒せるもんかよ!)

「そんなの、やってみなきゃわかんないよ!」

そう言いながら、ミサはバズーカで攻撃をする。

GNフィールドを解除したダブルオーライザーに命中したものの、あまりダメージを与えられていない。

(そんなもんでぇ!!)

直進したダブルオーライザーがアザレアに体当たりをする。

スピードのある重い一撃がアザレアを襲い、真後ろにある隕石まで吹き飛ばされる。

「キャアアア!」

コックピットに強い振動が襲うと同時に、警報音が響き渡る。

たった一回の体当たりを受けただけで、アザレアのフレーム各部が悲鳴を上げ始めており、おまけに出力低下を起こしていた。

「うう、パワーダウンだとぉ!?」

「ミサちゃん!!」

彼女を助けるべき、勇太は2連ビームライフルを発射しながらダブルオーライザーに接近する。

「(彼はパワーを制御しきれていない。剛速球が投げられるけど、変化球が投げれない投手と同じだ!)ここはバックパックを!!)」

ミサイルによる攻撃を止めるため、2連ビームライフルと2つのサブアームに持たせたグレイズのバズーカをオーライザーに向けて連射する。

だが、堅牢な装甲と化したオーライザーにはアザレアのバズーカと同じく、有効打にはならない。

(は…そんな攻撃、痛くもかゆくもねえんだよぉ!!)

GNミサイルが再び発射され、勇太は回避しきれない分をビームで薙ぎ払う。

しかし、急に後ろから衝撃が発した。

「何!?まさか、ミサイルが反転して!!」

ナノラミネートアーマーのおかげで、傷がついた程度で済んだものの、反転するミサイルがあることに勇太は驚いた。

(サウザンド・カスタムのバンゾって機体のミサイルからヒントを得たんだよぉ!!)

そう言いながら、カマセはミサを左手でつかみつつ、再びGNミサイルを発射する。

「くぅ…!」

反転して後ろから襲ってくるミサイルにも対処しなければならず、それを防ぐためにはミサイルをすべて落とす必要が出てきた。

最大出力で2連奏ビームライフルを照射し、そのまま薙ぎ払う。

多くのミサイルをそれで破壊することができたが、それでも撃ち漏らしたミサイルもあり、それが反転して勇太を襲う。

(ほら…プレゼントだぁ!)

ダブルオーライザーがつかんだアザレアを思いきりバルバトスに向けて投げつける。

「ぐああああ!!」

「キャアア!!」

アザレアとバルバトスがぶつかり合う。

ダメージのせいでアザレアの片腕と片足がばらばらに吹き飛び、バルバトスはコロニー外壁まで吹き飛ばされて内部フレームにもひびが入る。

内部フレームのダメージのせいで、破砕砲の仕様が不可能となった。

それだけでなく、カメラも損傷しており、一部のモニターがブラックアウトした。

「く…ミサちゃん!!」

(つぶれろよぉ!!)

ダブルオーライザーがGNソードⅢを大きく上へ上げ、そのまま動けなくなって漂っているアザレアを切り裂こうとする。

ダメージと距離の関係で、今のバルバトスでは攻撃を防ぐことができない。

(駄目…このままじゃあ!!)

「ミサちゃん!!!うおおおおーーーー!」

勇太の叫びが響く中、ミサは思わず目を閉じる。

このまま機体を両断され、撃墜されてしまうのかと思われた。

だが、いくら待ってもいずれ来るであろう衝撃が襲ってこない。

ゆっくりと目を開くと、目の前にはウェポンラックとシールド、そして2連ビームライフルをパージしたバルバトスが前に立っていて、GNソードⅢを白刃どりしていた。

しかも、それの各部からは青い光が発せられている。

(白刃どり…!?ふざけやがって!!)

さらに出力を上げて、そのまま押しつぶそうとする。

しかし、いくら出力を上げてもバルバトスはびくともしない。

(PGと互角だと!?)

「まだだ…まだいけるよね…。ミサちゃん、バルバトス!!」

勇太の叫びと同時に、バルバトスが青いオーラをまとう。

そして、GNソードⅢを右こぶしで殴り、刀身を破壊した。

(バルバトスが…青く…)

青く光るバルバトスを見て、ミサは過去に見たガンプラバトルを思い出す。

そのバトルに出ていたブルーフレームもまた、絶体絶命となったときに青いオーラを放ち、爆発的な性能を見せつけた。

「うおおおおお!!!」

武器を持たないバルバトスがそのままダブルオーライザーめがけて突撃する。

(正面だと!?ふざけやがってぇ!!)

オーライザーのGNビームバルカンとGNミサイル、ライフルモードに変化したGNソードⅢを一斉発射する。

しかし、急にバルバトスがアザレアとともに姿を消し、すべてのビームとミサイルが回避される。

(消えた!?いったいどうなってんだよ!?アセンブルシステムに細工でもしたのかよ!?)

慌てるカマセは必死に2人を探す。

だが、急に背後に現れたバルバトスがオーライザーの右側パーツを両腕でつかみ、そのままバキバキと音を鳴らせながら引きちぎった。

(なにぃ!?)

おまけに引きちぎったパーツを残ったオーライザーパーツに向けて投げつけられ、オーライザーが完全に破壊されてしまう。

そのせいで、ツインドライブシステムに不具合が生じ、最大出力が出せなくなった。

(くっそぉ!どうなってんだよ、これはぁぁ!!)

半泣きになったカマセはオープンチャンネルのままであることを気にすることなく、わめき散らしながら折れたGNソードⅢを振り回す。

だが、ガンダムUCでデストロイモードとなったユニコーンガンダムが見せた瞬間移動のような高い機動力を見せたバルバトスに一度も当たらない。

そして、パージしたウェポンラックにたどり着いたバルバトスは破砕砲を手にする。

バルバトスが手にしたせいか、破砕砲のカードリッジも青い光を放ち始める。

それだけでなく、破砕砲全体が青いスパークを発した。

「いけぇぇぇ!!!」

倍返しと言わんばかりに、いきなり破砕砲を5連発し、それによって生じる負荷のせいか、砲身が真っ赤に染まる。

5発の破砕砲も青く光り、次々とダブルオーライザーに着弾し、爆発とともにフレームや装甲、GNソードⅢを吹き飛ばしていく。

(うわああああ!!!)

「これで、終わりだぁぁぁ!!」

最後に腰の太刀を手にしたバルバトスが一気に接近し、ダブルオーライザーを横に一閃する。

ダブルオーライザーは真っ二つとなり、カマセの叫びと共に爆散した。

 

「やったーーー!!やったね!!」

タウンカップ決勝が終わり、優勝トロフィーを手にしたミサが嬉しそうに飛び跳ねる。

昨年優勝チームのハイムロボティクスを破って、更にカマセを倒してでの優勝であるため、喜びは格別なものとなっている。

「どうなってんだ!?どうなってんだよあれ!インチキだ!インチキをやったんだ、あれはぁ!!」

「やめてよ!人聞きの悪い!!」

「じゃあ、なんなのか説明しろよ!!」

一方、納得のいかないカマセは地団太を踏み、必死に抗議をする。

圧倒的に有利のはずで、勝利が目の前のはずだったのに、青いオーラを纏ったバルバトスにすべてを台無しにされた。

そのことですっかり怒り心頭なのだろう。

そんな彼を見かねたのか、カドマツが彼の質問に答える。

「騒ぐな、みっともない。あれは覚醒だよ」

「覚醒…そっか、あれが…」

「ノーマルのシステムに最初っから入ってるけど、使用条件がわからないのさ。なんでも、時間制限があるが、爆発的に性能が上がったり、サイコフレームやバイオセンサーがついたモビルスーツが見せたような想定外の現象を引き起こすことができるらしい。昔は沢村勇武が使ってたが、俺も実際に見るのは初めてだ。いやぁ、いいもんが見れたわ」

カドマツの言葉を聞き、ミサはあの勇武のブルーフレームが見せた光の正体を知ることができた。

一方、勇太も自分が覚醒を使うことができたという事実に驚きつつも、喜んでいた。

これを完全にものにすることができれば、まだまだ戦える。

あのタケルのロードアストレイ・グレースカルに近づけると。

だが、1人だけ納得のいかない人物がいた。

「条件がわからないし、サイコフレームやバイオセンサーと同じ力の発揮だと…。やっぱりインチキじゃあねえか!!」

「アホか、PG使って圧倒的有利な試合をしておいて、負けたらインチキとかアホか。そんなんだから負けるんだよ、アホ」

メカニックとして、カマセをバックアップしたカドマツは彼の人となりをある程度理解していた。

負けたことに納得がいかず、見苦しくインチキだと主張する彼にすっかりうんざりしたようだ。

「3回もアホって言われてやんの」

「ちっくしょーーー!!俺はこんなところで負ける男じゃないのにーーー!!」

泣きながらカマセはその場を走り去っていった。

1人残されたカドマツはやれやれと思いつつ、ため息をつく。

「今年はファイターに恵まれなかったな」

「でも、PGを動かせるなんて、アセンブルシステムの改造はすごかったです」

「いや、突貫作業でPGの性能を完全には生かし切れていなかったけどな。それに、パイロットがあれじゃあな…。上の大会へ行ったら、もっと強いPGと戦うことになるぞ。そいつらと対等に渡り合えるよう、しっかりガンプラの改造と腕磨きをしとけよ」

そういうと、カドマツは会場を後にする。

彼の後姿を見ながら、ミサは小さくつぶやいた。

「次…」

「うん?」

「そっか、私たち…次があるんだね!!」

目を輝かせ、嬉しそうに笑いながら勇太を見る。

夕日がバックにあるせいか、彼女の笑顔が輝いて見えた勇太の顔が赤くなる。

「う、うん…。そうだね…」

 

そして、その日の夜…。

商店街の中の唯一の繁盛店である小料理屋『みやこ』の店内には5人の男女が集まっていた。

ミサや勇太、ユウイチに店の店主であるミヤコ、そして商店街内で肉屋を経営しているマチオがいて、全員が飲み物の入ったコップを持っている。

「それでは…彩渡商店街ガンプラチーム、タウンカップ優勝を祝して、乾杯!」

「カンパーイ!!」

ユウイチのあいさつの後、全員が乾杯をし、ミヤコが用意した料理に舌鼓を打つ。

「ミヤコさん、お店貸してくれてありがとう!」

「いいのよ、ウチは一日くらい休んでも問題ないから」

ミヤコが経営する小料理屋は彼女自身、芸能人顔負けの美貌があるだけでなく、国産の食材を使ったおいしい料理が評判となっており、特に会社帰りのサラリーマンがよく訪れている。

この店にはマチオも食材である肉を売っていることもあり、仮にこの店がなくなると、本当に彩渡商店街はつぶれることになってしまう。

「ミヤちゃん、うちの商品も扱ってくれないかな?」

「ガンプラって食べられるの?衣をつけてカラっと揚げてみる?」

「ミヤコぉ!ビールのお代わり頼むぜー!」

ユウイチたちが楽しそうに大人同士の会話を楽しんでいる。

そんな3人の姿を見た勇太はこのにぎやかさになじめないのか、少しだけ離れてコーラを飲む。

「勇太君、もっと近くへ行ってもいいんだよ?」

焼き鳥をもって隣に座ったミサはニコリと笑いながら、もう1本の焼き鳥を差し出す。

「ミサちゃん、ユウイチさんたちって…」

「うん、小学生のころからの幼馴染。小さいころはマチオおじさんとミヤコさんと一緒に遊んだんだぁ!」

「へえ…。じゃあ、これが…」

「うん。彩渡商店街を守りたい理由。バラバラになりたくないし、このにぎやかさをもっと広げたくて…」

焼き鳥を小皿に置き、じっと大人たちを見るミサ。

底抜けに明るく、若干抜けたところのある彼女だが、しっかりと自分のやるべきことを見出しているようだった。

「ミサちゃんには、かなわないな…」

「ん??」

「いや、なんでもないよ。じゃあ…ちょっとだけ近くへ行こうかな?」

そういって立ち上がると同時に、店の横開きの扉が開く。

「邪魔するよ」

「あなたは…」

「カドマツさん!?」

まさかの敵チームのエンジニアが入ってきたことに、勇太たちは驚いた。

そんな彼らを気にすることなく、カドマツは勇太たちが使っている座席の空いている場所に座る。

「いらっしゃいませ。申し訳ありませんが、現在貸し切りで…」

「ああ…女将さん。今回はこの嬢ちゃんと坊やに話があってきたんです。すぐに引き上げるので、ご安心ください」

「話…ですか?」

「ああ。俺をチームに入れてほしくてな」

「え…?でも…あなたはハイムロボティクスの…」

「お前らに負けて、今シーズンはやることなくなったんだよ」

苦笑しつつ、ミヤコが持ってきてくれた水を飲みながら言う。

次のタウンカップは来年の5月であるため、それまでの間は来年に備えてメンバー集めやガンプラのセッティング、アセンブルシステムの調整などをすることになる。

だが、大きな大会に出られない以上はほとんどやることがないに等しい。

「あーごめん。失業させちゃって」

「別に会社をクビになったわけじゃねえよ…!同じ地元同士で力添えしようって思っただけだ。それに、お前らのチームにはエンジニアがいないだろ?それを俺がやるさ」

「エンジニアか…。アセンブルシステムを少しだけでも改造できれば、PGを出せないとしても、やりようがあるはず…」

カマセのダブルオーライザーには覚醒があったおかげで勝つことができた。

しかし、覚醒の発動条件はいまだに自分でもわかっておらず、またPGと戦うことになったとしても、勝てるかどうかわからない。

これからの大会でPGと再び遭遇することを考えると、エンジニアの存在が必要不可欠だ。

だが、問題があった。

「でも、ウチにはエンジニアを雇う余裕は…」

エンジニアの給料をこのチームで払う余裕がない。

活動費はユウイチ達から出してもらったり、ミサがこれまでためたお年玉や小遣いをねん出することで賄っている。

その程度の財源では払うことができない。

「それはウチの社長と話は通してあります。ちょっとした仕事に協力してもらうってことで。それに…個人的にこのチームのエースに興味があってね…」

「え…エース!もしかして私!?いやー、でも私とカドマツさんとは年の差が…」

「ぶーっ!?!?ミ、ミサちゃん!?」

思わずお代わりのコーラを拭いてしまった勇太はミサを見る。

一方、カドマツも別の意味でびっくりしていた。

「もしかして…嬢ちゃんがこのチームのエースなの??」

「え…?」

「…え??」

「あ、あの…カドマツさん。言いにくいんですけど、それ…僕のことじゃ…」

テーブルにひっかけてしまったコーラをふきんでふき取りながら、勇太はつぶやいた。




機体名:バルバトス(第3形態-重装遠距離戦闘型)
形式番号:ASGT-00B
使用プレイヤー:沢村勇太
使用パーツ
射撃武器:500mm破砕砲
格闘武器:なし
頭部:ガンダムバルバトス
胴体:ガンダムバルバトス
バックパック:サイコ・ザク(ライフル(グレイズ)×4、バズーカ(グレイズ)×2、滑腔砲×2、及び各武装のマガジン搭載)
腕:フルアーマーガンダム(サンダーボルト)
足:ガンダムバルバトス(腰部に太刀をマウント)
盾:なし

タウンカップ決勝のため、腕パーツをフルアーマーガンダムのものと交換したもの。
バルバトスにはなかったビーム兵器を使えるようにするための物であり、ナノラミネートアーマーがない分の防御力は両腕に装備されているシールドで補っている。
ただし、装備されている2連ビームライフルがEパック方式となっており、装備の関係上、予備のEパックの所持に限界があることから、弾切れになったら即時にパージすることになっている。
なお、装備されておりメイスはアザレアに渡しており、2連ビームライフルとシールドがなくなったら受け取って使用することになっている。
決勝ではPG機体のダブルオーライザーと交戦し、GNミサイルの破壊に関しては一定の戦果を挙げたものの、決定だとはならなかった。
また、覚醒した際に破砕砲の連続発射をフレームがボロボロの状態で行うことができたものの、本来はそのようなことができず、覚醒なしで1発撃った場合、機体が反動で粉々になっていたものと思われる。


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第9話 新たな仲間

活動報告を更新しましたので、興味のある方はご覧ください!


「よし…いける!!」

エドモントンで、勇太のバルバトスがCPUが操作するグレイズ・アインの片腕をたちで切り飛ばす。

両腕、両足、バックパックがバルバトスルプスのものに変わっており、第3形態でのバランスの悪さがなくなっている。

だが、それよりも大きな変化は両腕・両足に装備されたワイヤークローと両足に取り付けられた小型ビームガトリングガン、そして頭部のバルカン・ポッドだ。

これらはカドマツによって改造されたアセンブルシステムのおかげで装備できるようになったもので、これにより攻撃のバリエーションを増やしたり、性能の向上につなげることができている。

なお、ワイヤークローはとあるロボットアニメで登場する武器を元に改良したもので、シュヴァルベグレイズのものと比較すると小型化したうえ、ワイヤー部分が若干太くなっている。

(見てよ、この新装備!!やっぱりエンジニアがいるのといないのとでは違うよねー。カマセ君が環境にこだわる理由、少しわかった気がするよ…)

両足にミサイルポッドをつけたアザレアが郊外でキマリストルーパーをビームサーベルで胸部を貫く形で撃破する。

カマセに関しては環境に頼りすぎる面があるため、一概には言えない。

とはいうものの、ミサも自身のガンプラの性能の向上を肌で感じ、環境の大切さを改めて実感している。

「こうなったら、ますます負けられなくなる…よ!!」

肩部格納式40mm機関銃の弾幕を後ろに飛びながらかわし、サブアームで破砕砲を展開する。

ピッピッピッと音が鳴りながら、照準がグレイズ・アインの胸部にロックされる。

「当たれぇ!!」

バスンと大きな音を立てながら、破砕砲から弾丸が発射される。

足場を固定しない状態での発射のため、反動で一気に吹き飛んでいくが、放たれた弾丸

はグレイズ・アインの胴体を粉々に吹き飛ばしていた。

(おーい、2人とも。テストはOKだ。そろそろ戻ってきてくれ)

2人のコックピットにカドマツからの通信が届く。

「エース了解!」

(まだ言ってんのかよ…)

まるで自分がエースであることを強調したいように言うミサにカドマツはあきれている。

カドマツの見立てでは、勇太がエースでミサはリーダーとのこと。

エースではないからといって、ミサもなかなかの実力があることを認めてはいるのだが、ミサ自身はエースではないことに納得できていない模様。

「…」

(おい、勇太。どうした??)

「あ…いえ、了解です」

グレイズ・アインが消滅するのを見ながら、勇太は決勝戦の時のことを思い出していた。

あの時、確かに自分は覚醒をした。

だが、今回のバトルでは覚醒の兆しが見られなかった。

覚醒できるとは言うものの、そのやり方がわからないというのでは宝の持ち腐れだ。

(兄さんはどうやって覚醒したんだろう…?)

 

「よし、じゃあ約束通り報酬を払ってもらおうか」

ミサの家へ戻った2人はさっそくカドマツから例の話が持ち出される。

「今日までありがとう。私、カドマツさんのこと忘れない」

「ちょっとミサちゃん、それ棒読み…」

「別に金払えって言ってるわけじゃねえよ。お前らに仕事を頼みたいだけさ」

「でも、僕たちにはプログラミングや機械の組み立てはできませんよ?」

「んなのわかってる。こいつを見てくれりゃあわかる」

そういってカドマツは前もって家に届けられ、出入り口のそばに置かれていた段ボール箱を開ける。

その中には騎士ガンダムを模したロボットが入っていた。

「わぁ、騎士ガンダムだ!!これ、ロボット!?」

初めて見るロボットにミサは興奮する。

「こいつはウチで開発しているトイボットだ。こいつの運用テストに協力してほしい」

「玩具用ロボットかぁ…ハロもそうだけど、こういうのが買える時代になったんだねえ…」

昭和の時代、空飛ぶ車やロボット、そしてAIといったものはすべて漫画の中の産物

で、こういうものが21世紀にできればいいなという願いがあった。

玩具用ロボットもそれに含まれており、彼らの願いの結晶を、今こうして自分たちが当たり前のように享受している。

それをしみじみと感じながら、勇太はミサと一緒にトイボットを見つめる。

「実際に売り出すにはまだまだ時間がかかるけどな。テストに合格できなきゃ、商品化は無理だ」

「それで、どのように運用テストをすればいいんですか?」

「こいつは子供と一緒に遊べるっていうのが売りなんだ」

「ふむふむ…あ、これが取説」

「ガンプラバトルも一緒にできる」

「ガンプラバトルも!?じゃあ、運用テストって…」

「そうだ。こいつと一緒にガンプラバトルをしたり、遊んだりしてやってくれ。いわば、彩渡商店街ガンプラチーム、3人目のメンバーってことだ」

「あ、これがメインスイッチ」

トイボットの後ろにスイッチがあることを知ったミサの手でそれが押される。

キュイイインと起動音が店内に鳴り響く。

「この音…ミサちゃん!勝手に起動させちゃダメだよ!」

「もうしちゃった」

「しちゃった!しちゃった!」

起動したトイボットがゆっくりと起き上がり、段ボール箱の外に出る。

そして、両目のカメラが光った。

まるで、初めてガンダムが大地に立った時のような動きだった。

「わああ、初めましてロボ太!」

「勝手に変な名前を付けるなよ!?」

「いいじゃんロボ太、かわいいじゃん!ねー、ロボ太!」

同意を求めるように、ミサがトイボットに聞くものの、いつまで待っても返事が返ってこない。

勇太のハロは簡単な受け答えができるため、同じようにできるものと考えていたようだが、結果は違った。

「ああ…こいつ、言語は理解できるんだが、発声機能はつけていないんだよ」

「声がつくことに、何か問題があるんですか?」

「人の近くにいるロボットの開発ってのはデリケートだからな、特にトイボットに関しては子供の成長にどんな影響を与えるかまだ分からないからな」

実際、初めてトイボットが生まれてから、それの子供の成長に与える影響について研究者の間で議論が何度も行われている。

友人を作る必要性が相対的に失われ、コミュニケーションの機会が失われる、小さいころから機会に興味を持つことができるなど、否定的な意見と肯定的な意見がぶつかり合い、時には学生論文のテーマになることもある。

「…なんか、大人っぽいこと言ってる!」

「大人だからな」

 

「いらっしゃいませ」

今度はロボ太のテストのため、3人はゲームセンターに立ち寄る。

いつも通り、インフォが来店する客に挨拶をし、ロボ太に目を向ける。

「初めまして、ロボ太さん。記憶します」

「なんで、ロボ太の名前知ってるの!?」

「今聞きました。光デジタル信号で、ですが」

インフォはすぐにミサの疑問に答える。

人間同士とは違い、ロボット同士の会話はこの信号のおかげで一瞬で完了させることができるのだ。

現にインフォはロボ太はカドマツが作った試作型トイボットであること、そしてこれから勇太達と一緒にガンプラバトルをすることも知っている。

「なんかロボットっぽいこと言ってる!」

「ロボットですが」

「ああ、それよりもロボ太のガンプラですが、どんなガンプラを…」

「ロボ太はSDガンダムを使う。ガンプラバトルって言っても、ビルダーズパーツやHG、RG、PGといった期待は複雑だからな。それよりは操作がシンプルなSDガンダムがこいつにとっていいのさ」

そういって、カドマツはロボ太に騎士ガンダムを渡す。

受け取ったロボ太はそのままシミュレーターへ向かった。

 

和式の家の玄関を模したフィールドに勇太達のガンプラが登場する。

(よーし、じゃあテストを開始するぞ。っといっても、これからやるのは通常のバトルだ。何かロボ太に変なことが起こったら、すぐに連絡してくれ)

(了解!じゃあ、行こうか)

(心得た)

「ん…??」

急にだれか知らない男性の声がコックピット内に聞こえ、勇太は首をかしげる。

(あれ?勇太君が何か言った?)

「いや、っていうより、僕が心得たっていうわけないじゃんか」

(どうした、2人とも。言ったのは私だぞ)

声の正体がわからず、首をかしげる2人のガンプラの前に立った騎士ガンダムが自分自身に指をさす。

「しゃ…」

「「しゃべったぁ!?」」

思わず、2人仲良く素っ頓狂な声をあげてしまう。

驚くのも無理もないと思ったロボ太はすぐに解説を始める。

(シミュレーターに合成した音声データを入力し、スピーカーで出力している)

(で、でも…カドマツさんはしゃべれないって)

(カドマツは発声機能がついていないといっただけだ。私のボディにはスピーカーがないからな。シミュレーターのスピーカーでそれを代用すれば済む話。それに、ガンプラバトルはチームで行動するもの。コミュニケーション手段は必要不可欠だ)

(そ、そう…ですね…)

あまりにも紳士的な声な上に語られる正論。

口をはさむことができないミサはそう答えるしかなかった。

(さあミサ、そして主殿!ともに進もう!)

(ちょっと!なんで私は呼び捨てで、勇太君は主殿なの!?)

(私はカドマツがインプットしたデータに従っているだけだ)

(カドマツゥ!!)

「2人とも!!敵、敵!!」

2人がしゃべっている間に2機のドートレスが出現し、発砲してくる。

背中を向けていたロボ太をかばう形で前に出た勇太はソードメイスを盾に受け止める。

(む…!背後から攻撃とは卑怯な!!)

ロボ太はバルバトスの肩を踏み台にして大きく跳躍し、右手に持っているナイトソードでそのまま落下しながらドートレスを真っ二つに切り裂く。

残り2機についてはアザレア改め、アザレアカスタムが両足のミサイルポッドのミサイルで破壊した。

3機の撃破が確認されると、今度は上空にグゥルに乗ったジンが10機近く出現する。

「ここは…!!」

上空へ飛びあがった勇太は左腕のワイヤークローを射出し、グゥルに突き刺す。

そして、上空へ飛びあがって立体機動を行いつつ、両足のビームガトリングガンを発射する。

(すっごーい…)

まるで第08MS小隊で登場したグフ・カスタムのジェット・コア・ブースターとの空中戦を見ているような感じがし、驚きながらもミサはバズーカで攻撃を始めた。

 

「シミュレーターのスピーカーを使ってしゃべれるとは、想定外だったなぁ」

ガンプラバトルを終え、勇太が自販機で購入した飲み物をみんなで飲みながら、カドマツはロボ太を見る。

勇太が飲んでいるのはコーラでミサはメロンソーダ、カドマツはジンジャーエールだ。

炭酸飲料ばかりだが、それは勇太自身がコーラのような炭酸が好きだからだ。

前に叔母が料理を作りに家へ来た時には冷蔵庫の中が炭酸ばかりで呆れられ、炭酸以外の飲料も飲むようにと説教されたのだが、いまだに直っていない。

「ヒアリング用の言語データベースを利用して音声データを合成するとは…」

「勝手にやってたってこと?」

「ここまでできるAIを作るなんて、さすが俺。でもこれはダメだ。AIに禁止させるかなぁ」

残念に思いながらも、カドマツはそう告げる。

「なんで!?しゃべれなくするなんてかわいそうだよ!!」

急な宣告に驚き、納得のいかないミサが立ち上がって抗議する。

「ハロはしゃべれるのに、なんでロボ太はダメなの!?」

「ロボ太のAIはハロ以上で、ハロは簡単な受け答えしかできないからな。だが、ロボ太の場合は言語データベースが膨大だ。何をしゃべっても不思議じゃない」

「それはそうだけど…」

「だがな、しゃべれるようになることで、必要以上に感情移入しちゃうだろ?例えが悪いが、こいつが車に引かれそうになったとき、持ち主が助けようとすると困るんだ」

「言いたいことは分かるけど…でも…」

カドマツのいうことは頭の中では理解できるものの、どうしても納得できないミサ。

一度一緒にガンプラバトルをし、話したがためにカドマツが言う『必要以上な感情移入』をしてしまっているのだろう。

「あの、ちょっといいですか?」

「ん?どうした、勇太」

「ロボ太は彩渡商店街ガンプラチームのメンバーで、今後は僕たちと一緒にバトルをします。けど、コミュニケーションが取れないとロボ太との連携に支障をきたしてしまいます」

「まぁ、それはそうだが…」

カドマツもロボ太のテストを任せる点で、彼にガンプラバトルをさせるかについては正直悩んでいた。

ガンプラバトルになると、何らかのコミュニケーション手段が必要になってしまうからだ。

だが、ガンプラバトルは今や世界中で行われる有名なゲーム。

どのような世代の人間もやる可能性がある。

仮にそれができるトイボットがあれば、それは大きなビジネスチャンスになるし、子供たちだけでなく、大人との関係も構築できるものとなる。

そう説得したから、ロボ太の開発チームはハイムロボティクスから開発予算をもらうことができた。

「それに、ロボットとの会話ならインフォちゃんともやっています。これからも、そういう会話できるロボットとかかわる機体がどんどん増えると思いますし、それに…」

「それに?」

「カドマツさんも…してしまってるんじゃないですか?『必要以上な感情移入』」

「俺が…んん??」

勇太とカドマツの会話を遮るように、ロボ太がカドマツの白衣を引っ張る。

ロボ太の手にはカドマツが持参したモニターが握られていて、そこにはロボ太自身が出力した文字データが記入されていた。

「お前ってやつは…!!」

「どうしたの?」

「このモニターを見ろ!今、こいつが出力したテキストだ!」

興奮したカドマツが2人にモニターを見せる。

「ええっと、『私は自分の主やその仲間に危害を加えることは望まない。その可能性を生む要素は排すべき』…」

「バッキャロー、お前!!こんなことを言われてできるわけないだろ!!」

ロボ太のまるで騎士の忠誠心に似た言葉に感動したカドマツが声を震わせてその場を後にする。

「…感情移入し過ぎ」

『必要以上な感情移入』を大人であるカドマツがしてどうする、と突っ込みたくなったミサだが、これでロボ太がしゃべれなくなるという事態は避けられた。

「まぁ…これからよろしくね。ロボ太」

勇太はロボ太に右手を差し出す。

すぐに握手だと判断したロボ太は勇太の右手を握り、ゆっくりと振った。

 

「じゃあ、私は帰るね」

「うん。明日また学校で」

イラトゲームセンターを出たころにはもう5時半を超えており、ミサは今晩の料理当番を任されていることから、すぐに帰らなければならなかった。

なお、カドマツは20分前にロボ太と共に帰っており、リージョンカップまでに可能な限りの調整を行うとのことだ。

「あのさ…勇太君」

「何?」

「勇太君って、意外におしゃべりなんだね。今日のカドマツとの話を聞いてて、びっくりしちゃった」

「ああ、あの時はロボ太ともっと話したかったし、ミサちゃんが必死だったから…」

「え、もしかして…私のため…?」

「そういうことに…なる、かな…?」

照れながら頭をかき、ミサにそう答える。

意外な答えを聞いたミサは驚きながらも、とてもうれしくなってくる。

「ありがと!勇太君、かっこよかったよ!」

「え…!?か、かっこいい!?」

「じゃあね!また明日!」

ニコニコ笑って、勇太に手を振りながらミサは自宅へ走っていく。

級にかっこよかったと言われた勇太は顔を真っ赤にしながら彼女を見送った。

「かっこよかった、か…。初めていわれたな」

「おお、女の子に褒められて鼻伸ばしてるな。勇太」

背後から声が聞こえ、勇太はすぐに後ろを向く。

そこには予選で勇太をコテンパンにしたタケルの姿があった。

「タケルさん…」

「決勝戦、見たぞ。覚醒はしたみたいだが…まだまだじゃな。どうやら、あの試合の後、一度も覚醒できてないように見える」

「…」

タケルの言葉に勇太は沈黙する。

決勝戦の後も、勇太はミサと一緒に何度もガンプラバトルの練習を続けてきた。

しかし、いつまでたっても決勝の時のような覚醒をすることがなかった。

「勇太、これから少し付き合えるか」

「付き合うって…何を?」

「当然、ガンプラバトル。お前の特訓じゃ」




機体名:バルバトス(第4形態)
形式番号:ASGT-00B
使用プレイヤー:沢村勇太
使用パーツ
射撃武器:500mm破砕砲
格闘武器:ソードメイス
頭部:ガンダムバルバトス(頭部左側にバルカン・ポッド装備)
胴体:ガンダムバルバトス
バックパック:ガンダムバルバトスルプス(太刀をマウント)
腕:ガンダムバルバトスルプス(両腕にワイヤークロー装備)
足:ガンダムバルバトスルプス(両足にワイヤークロー及びビームガトリングガン装備)
盾:なし

カドマツの手によってアセンブルシステムが改造され、ビルダーズパーツの取り付けが可能となったことを機に、バルバトスを改造したもの。
バックパックや腕、足をガンダムバルバトスルプスの物と交換したことでバランスが回復し、同時に主力武器を威力がメイスと同じでかつ軽量なソードメイスに換装している。
また、両足にはビーム兵器である小型のビームガトリングガンが装備されており、破壊力はユニコーンガンダムのものと変わりないものの、小型にした代償として弾数が少ないため、弾切れになるとすぐにパージされる。
特徴的なのは両腕両足にあるワイヤークローで、破砕砲発射の際の機体固定や立体軌道、敵の捕縛など応用性が高いうえ、射出しなくてもそのまま肉弾戦での補助武器としても使用できる。
このように、ガンプラ全体の動きを中心に強化した結果、シールドを持つ余裕がなくなり、対ビームコーティングマントも装備できなくなった。


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第10話 リージョンカップへ

今回は夜戦夜叉さんが考えてくれたガンプラが登場します。
ご協力、ありがとうございます。
オリジナルガンプラ、パーツはまだまだ募集していますので、詳しくは活動報告をどうぞ!


「さぁ…準備はいいな?」

「はい」

ガンプラバトルシミュレーターに乗り込んだ2人のガンプラの目の前のハッチが開く。

2人ともすでにノーマルスーツ姿になっており、タケルのほうはなぜかやる気十分だ。

「閉店時間まであと30分。みっちり特訓してやる!」

「まぁ…特訓相手なら、歓迎しますけど…」

一度は失望させてしまった彼がなぜここまでやる気を出しているのか全く分からず、首をかしげる。

2人のガンプラが発進し、夜のニューヤークに飛び出す。

タケルのガンプラはグフをベースとしたもので、胸部にはドクロのペイントがあり、灰色ベースの色彩である点はロードアストレイ・グレースカルと変わりない。

彼は多くのガンプラを作り、使いこなしてこそプロのファイターという考えがあり、このようにいくつも、作品や陣営の縛りなしで作ってはバトルに使用している。

「近づかれる前に仕留める!」

屋上に着地したバルバトスの両腕・両足のワイヤークローを足場に打ち込んで期待を固定し、破砕砲を上空にいる灰色のグフに向ける。

照準補正が終わり、あとは引き金を引くだけで終わる。

しかし、急に真下からコンクリートを突き破って緑色のビームが出てきて、破砕砲の砲身を貫く。

「なに!?」

使い物にならなくなった砲身をパージし、ワイヤークローを戻してビルから離れる。

「油断しすぎじゃあ!」

ニューヤークの路上を走る灰色のグフが左手のガトリングシールドを発射する。

「その程度!!」

急いで着地するため、真下の道路に向けてワイヤークローを発射する。

地面に刺さったのを確認すると、そのままワイヤーを戻していき、その勢いで一気に着地する。

「グフ・スカルカスタムは接近戦だけのガンプラじゃないってことを教えてやる!」

「さっきのビーム…まさか!!」

接近するグフ・スカルカスタムのバックパックがわずかに見えたことで、先ほどのビームの正体に気づいた勇太はスラスターを全開にする。

真上や背後からビームが襲い、左へ回避したバルバトスの右腕をわずかにかすめる。

「アカツキのシラヌイユニット…!」

ガンプラバトルシミュレーターはファンネルやドラグーン、ビットを操作するのは非常に難しい。

機体を操作しながら、射出した遠隔操作兵器の操縦を行わなければならないためだ。

ある程度シミュレーターのシステムが操縦の補助をしてくるものの、それはシステムの改造の度合いによって左右され、エンジニアがいないチームではそれを使わないのがスタンダードだ。

今回のカドマツによるアセンブルシステムの改造はビルダーツパーツへの対応にとどまっており、ファンネルを機体そのものの操縦を邪魔しないで操ることができるようになるまではまだまだ時間を要する。

「ま…アセンブルシステムを改造できないと、世界で勝てんからな」

シミュレーターに接続した大容量のUSBメモリを見ながら、タケルはつぶやく。

このUSBメモリの中に改造データが入っている。

「さぁ、こんなに攻撃が来てるぞ。さっさと覚醒したらどうじゃ!?」

接近してくるグフ・スカルカスタムのヒートサーベルをソードメイスで受け止める。

「く…!そんなに接近したら、ドラグーンシステムの攻撃が自分にも!」

「そんなヘマをすると思ったか?」

急にバルバトスの両サイドを挟むようにドラグーンが配置され、ビームが両腕の関節を襲う。

ナノラミネートアーマーはビームと実弾双方に高い防御力を発揮するが、それはあくまで装甲に特殊塗料を塗り、エイハブ・リアクターを使用することで成り立っている。

高硬度レアアロイ製のフレームに対しては当然塗料が塗られておらず、そのフレーム自体はビームに弱い。

「ドラグーンだと分かれば!!」

両足のビームガトリングガンをドラグーンに向けて発射する。

そのままでも操縦できるのか、ドラグーンはビームガトリングガンの弾幕をかわし続ける。

「さすがですよ…タケルさん!」

「何してるんじゃ勇太!そんなんでジャパンカップに優勝できると思ってるのか!?」

「く…やっぱり弾数をどうにかしないと!!」

残弾0という表示が出たビームガトリングガンをパージし、グフ・スカルカスタムの腹部を蹴って距離をとる。

地面にあおむけで倒れたバルバトスはバルカン・ポッドを発射し、ドラグーンを攻撃する。

照準をセットしないままの発射で、ブレが生じているものの、それでもドラグーンを1基破壊する。

「バルカンでドラグーンを…!」

「炸裂弾を使ってますからね!!」

ソードメイスを杖代わりにして起き上がり、再び構える。

だが、それと同時に急速接近したグフ・スカルカスタムがマニピュレーターを蹴って、ソードメイスを弾き飛ばす。

「まだまだぁ!!」

タケルが左手に逆手で握ったヒートサーベルで隙だらけとなったバルバトスのコックピットを突き刺そうとする。

ギリギリのところで横にずらしたため、ヒートサーベルは確かに刺さりはしたものの、コックピット直撃だけは回避できた。

これについてもかなりリアルに再現されており、雄太のコックピットの右側にヒートサーベルで穴ができ、刀身がすぐ近くに肉眼で見えたことから冷や汗をかく。

ハシュマルとの戦闘の時に同じような目にあった三日月はそれを「あぶねーなー!!」というセリフで済ませることができたが、さすがに一般人の勇太には無理な相談だ。

刀身の耐久性の問題があるためか、今は加熱されていないが、仮に過熱していたらこのまま熱でコックピットが焼かれて撃墜認定されていただろう。

「けど…このままぁ!!」

左手でグフカスタムの左腕をつかむ。

「悪あがきを…!」

「悪あがきだろうと、あがきはあがきだぁ!!」

右のマニピュレーターでこぶしを作り、ヒートサーベルの刀身を横から殴りつける。

横からの衝撃にはもろいのか、ヒートサーベルが砕け散る。

それと同時に、バルバトスの全身が青いオーラに包まれ、それのせいでグフ・スカルカスタムが周囲のドラグーンごと吹き飛んでいく。

「窮鼠猫噛みで覚醒か…!」

吹き飛んだドラグーンがビルや道路に激突してへしゃげ、使い物にならなくなった。

なお、バルバトスは覚醒したと同時に両肩の装甲も展開しており、そこから青い炎が燃え上がっているかのように大量の熱が排出されている。

「うおおおお!!」

「正面!覚醒を思うように発動できないうえにそのパワーに振り回されてる!操り切れていないとは、まだまだじゃあ!!」

ガトリングシールドを連射するが、青いオーラがバリアとなってはじいていく。

そして、そのまま力任せに右拳を叩き込もうとするが、グフ・スカルカスタムがそれを左手で受け止める。

「な…!?」

「パワーだけの攻撃じゃあ受け流されるだけじゃ!それに、そんなんじゃあ覚醒の力を引き出し切れていない!!」

頭突きをしながら、タケルが接触回線で勇太に指摘する。

「決勝戦で見せた攻撃を思い出すんじゃ!覚醒はファイターのイメージを具現化し、思いを力にする!サイコフレームやバイオセンサーのように!」

「イメージ…思い…!?」

タケルから離れた勇太は彼の言っていることが理解できなかった。

システムの1つである覚醒にそんな機能があるようにはどうしても思えなかった。

「俺をがっかりさせるんじゃない!沢村ゆう…!?」

ビーッビーッビーッ、とシミュレーターから音が鳴り、バトルが終了する。

「おっと、このまま続けたかったが、もう時間か」

「く…」

結局今回もいいようにやられしまったことを悔しく思いつつ、勇太はシミュレーターを出た。

 

商店街内の公園のベンチに座る勇太にタケルが自販機の缶コーラを差し出す。

「まだまだじゃなぁ…」

「いわれなくてもわかってますよ…」

覚醒は無理やり発動したような形になっていて、そのあとはあの力に振り回されてしまった。

決勝でのあの動きはマグレだったのかと思ってしまう。

「あいつも言っていたが、お前は頭が固いところがある」

「頭が固い…?」

勇武からも正面から言われたことのない自分の欠点を指摘された勇太は驚きながらタケルを見る。

彼はすでに2缶目のサイダーを口にしている。

「どうせガンプラバトルは遊びなんじゃ。もっと好き勝手したらいいんじゃ」

「好き勝手…?」

「遊びだから熱中できる。史上初のプロのガンプラファイターの言葉じゃ」

空っぽになった缶をゴミ箱に投げ捨てたタケルがバイクに乗り、公園を後にする。

「頭が固い…」

ベンチに座ったまま、タケルに言われたことを反復していた。

 

「あのさ、ミサちゃん…」

「んー?どうしたの??」

「その…僕って、頭固い?」

翌日、昼休みに学校の屋上で一緒に弁当を食べながら、勇太はミサに質問する。

急に変な質問をされたことにびっくりしたのか、ミサの食べる手が止まっている。

「ごめん、忘れ…」

変なことを言ってしまったと思い、すぐに撤回しようとする。

「うーん、どうだろう。…固いんじゃない?」

「うう…」

正面から、さらにチームメイトから正面から言われたことで少しへこんでしまう。

「ねえ、どうしたの?急にそんな質問をして」

「それは…」

「私たち、チームでしょ?君の問題は私の問題。一緒に解決しよ、ね?」

笑いながら首を傾けるミサを勇太はじっと見つめる。

屈託のない、無邪気な笑顔がとても魅力的に感じられた。

そんな自分にないものを持つ彼女をうらやましいと思った。

「うん。実を言うとさ…」

勇太はミサに昨日のことを話す。

覚醒を思うように発動できなかったうえに、その力に振り回される形になってしまったこと。

タケルとの特訓で、彼にまたもいいようにやられてしまったうえ、先ほどの欠点を指摘されたことを。

それをミサは口を挟むことなくすべて聞いた。

「…なんだか、安心したよ」

「え…?安心した?」

予想外の言葉が返ってきたため、目を丸くする。

自分の悩みは安心させるどころかむしろ不安にさせるものなのに、どうしてそう思うのかわからなかった。

「あ、もしかして悩んだりすると思った?もー、だから頭が固いって言われるんだよ?」

「うう…反論できない…」

「でもよかった!だって勇太君ってとっても強くて、私にとってヒーローみたいな存在なんだよ?でも、私みたいに悩んだり欠点があるってわかって、安心したの。私でも、雄太君にできることがあるんだってわかったもん」

「ミサちゃん…」

「だから、一緒に頑張ろう。ロボ太やカドマツもいるんだしさ!」

「…うん」

根本的に解決はしていないが、ミサの言葉、そしてロボ太とカドマツという新しい仲間の存在が勇太を安心させた。

タケルはイメージと思いが覚醒をコントロールするのに重要だと言っていた。

だが、発動のさせ方は教えてもらえなかった。

これはそれらとは別問題なのか、それとも同じなのか。

でも、ミサ達と一緒に悩んだ進んでいけば、見えてくるかもしれない。

論理的ではないが、なぜか勇太にはそう思えた。

「なぁなぁ、あの2人って…」

「やっぱり、付き合ってるんじゃない?2人っきりで一緒に屋上でお弁当って…」

「ああ。もしその弁当が井川さん手作りなら完璧よねー」

屋上の出入り口のドアの後ろ側から、野次馬たちが見ていたのに勇太達は気づいていなかった。

 

そして、それから2週間がたち…。

(ハーイ、みなさん!今シーズンのMCのハルでーす!全国20か所の会場に同時中継でご挨拶していまーす!)

東京都の東京ドーム周辺に設置されたテレビにハルの姿がある。

彼女は朝のお天気キャスターで、快活なキャラで人気を集めている女性だ。

ガンプラバトルについては現在勉強中とのこと。

(タウンカップから始まったガンプラバトルカップはこのリージョンカップを経て、ジャパンカップへと続きます!)

そう、この大会にはタウンカップ優勝者だけが集まっている。

タウンカップの時のような軽い空気はここには存在しない。

きっと、ジャパンカップでは強いプレッシャーを感じることになるだろう。

(皆さんの素晴らしい戦いを全国のファンが見守っています!参加チームのみなさん、頑張ってくださいね!)

「…なんか、緊張してきた」

ハルの中継を見て、改めてミサは緊張を覚える。

タウンカップ予選落ちを繰り返していて、リージョンカップのような雰囲気はミサにとって初めての体験なのだから、無理もないだろう。

「そんなに気負うなよ。日本だけで20か所もやってるんだぞ?」

去年のリージョンカップに参加した経験のあるカドマツが笑いながらミサの緊張をほぐすために言う。

確かに20か所もある会場で行われる試合だと、テレビで中継されない試合のほうが多い。

だが、彼女が緊張する理由はそれではない。

「絶対に負けられない理由がある!」

「まー、そうだな。来年にはあの商店街なくなってるかもしれないからな」

「そんなこと言うな!!」

カドマツの冗談を真に受けたミサが怒りを見せる。

「負けませんよ。僕たちは…」

「おー、言ってくれるな。勇太」

「当然ですよ。僕たちが一緒に戦うんですから」

この2週間、勇太はチームを巻き込んで覚醒の特訓をした。

あえて危機的状況に追い込んだり、イラトに依頼して閉店後から朝までバトルを続けたり、お寺へ行って座禅をしたり…。

その特訓のおかげか、数回だけ覚醒を発動できたことがあるが、任意で発動するのはまだまだ難しい。

積み上げたという実感があるためか、今の勇太は自信に満ちていた。

「おー、頼もしいことを言うなぁ」

「おい、カドマツ!」

カドマツの半分くらいの身長で白衣姿の少女が大人であるカドマツにタメ口で話しかけてくる。

「ん?」

「なんで負けチームのアンタがここにいるんだよ?」

彼がハイムロボティクス所属だとわかっているため、彼女がカドマツの関係者であることがわかる。

親しく話している2人を見て、ミサが唐突に質問する。

「誰、この子?カドマツの娘さん?」

ロボ太のことで根に持ったのか、それとも呼びやすいからか、すっかりミサはカドマツを呼び捨てで呼ぶようになっていた。

勇太は君付けで読んでるのに、不公平だだの、年長者の威厳がないだの、カドマツは当初、呼び捨てにされるのが不快だったのか、よく勇太にそのことについて愚痴をこぼしていた。

勇太もさすがにまずいとミサに注意していたが、今ではすっかり定着してしまっている。

「確かに、そうじゃないと…」

勇太もミサの予想に同意し、その少女をじっと見る。

カドマツの家族構成については聞いたことがなく、結婚しているなら子供がいてもおかしくないだろう。

ちなみに、ミサには父親であるユウイチのほかには海外で働いている母親と地方の大学へ行った兄がいる。

「俺は独身だ。こいつは望月小夜子。神奈川にある佐成メカニクスのエンジニアだ」

「佐成メカニクスって、ハイムロボティクスのライバル会社の…」

佐成メカニクスは10年前にできたばかりで、作業用ワークボット中心のハイテク商品でシェアを拡大させている中堅企業だ。

最近ではトイボットやインフォちゃんのような接客ワークボットの市場への進出も行っており、そこになわばりのあるハイムロボティクスとは必然的にライバル関係になっている。

なお、ハイムロボティクスは50年前の家電工場から始めった老舗企業だ。

そんな佐成メカニクスに自分よりも年下なのにエンジニアとして活躍していることにミサは驚きを隠せなかった。

まさかキラ・ヤマトのようなスーパーコーディネイターならぬスーパーエンジニアとなるために遺伝子操作されたのか、それとも飛び級で海外の大学を卒業した才女なのかとさえ思ってしまう。

「…俺とタメだけどな」

しかし、カドマツの言葉で一気にそのような幻想が崩れた。

モチヅキは体は小さいけれど、カドマツと同年代なのだ。

「嘘…三十路過ぎ…!?」

「体は子供、頭脳は大人っていうこと、ですか??」

「歳のことは言うな!!それからそこのガキ!誰が体は子供だ!!」

モチヅキは頬を膨らませ、2人に不満をぶちまける。

体が小さく、子供に見られることは本人もコンプレックスらしく、言われたくないらしい。

だが、2人のそばにいるロボ太とハロを見て、表情を元に戻す。

「ところでカドマツ、こいつらは何だ?もしかして…」

「わが社の来季主力商品となるかもしれないアレだ。ちなみに、ハロは勇太のだから違うぞ?」

モチヅキは噂だけだが、このような高性能はトイボットをハイムロボティクスが開発しているという話は聞いていた。

そして、その噂が現実であることを示すかのように、目の前にはロボ太がいる。

目を輝かせたモチヅキはドライバーとスパナを白衣から取り出す。

「本当かーーー!?ばらしていいか?」

「いいわけねえだろ!?」

彩渡商店街ガンプラチームのメンバーであり、機密情報が詰まったロボ太をライバル企業のエンジニアに解体されていいわけがないとカドマツは片手でモチヅキを持ち上げる。

必死になって振りほどこうとじたばたしているのを見ると、やっぱり何も知らない人が見たらカドマツとモチヅキは親子なんだろうと思われてしまうかもしれない。

「それよりもカドマツ!負けチームのお前が何でここにいんだよ!?もしかして、私のチームの勇姿を見るためか?」

「んなわけねーだろ?今は彩渡商店街ガンプラチームのエンジニアとしてレンタル移籍中だ」

おろされたモチヅキはカドマツの話を聞き、彼がここにいる理由に納得する。

そして、彼の存在に彼女の闘争心が燃え上がった。

「なるほど!カドマツには悪いけど、そういうことなら容赦しないぞ!予選でコケるなよ?」

「お前もそこらでウロチョロしてコケるなよ?」

「子供か!?」

それから2人の夫婦漫才のようなトークが始まった。

勇太とミサ、そしてロボ太とハロは2人から離れ、近くのベンチに座る。

「まさか…あんなに小さな人がカドマツさんと同年代で、しかもエンジニアだなんて…」

「本当に不思議なことってあるよねー」

水筒のスポーツドリンクを飲みながら、相槌を打つミサを勇太はじっと見る。

「ん?何か私についてる?」

「あ、いや?なんでも…」

「ふーん、怪しー…」

悪い笑みを見せたミサはゆっくりと顔を近づける。

(あはは…とてもここでミサの貧乳を口にはできない…)




機体名:グフ・スカルカスタム
形式番号:MS-07B3SC
使用プレイヤー:景浦武
使用パーツ
射撃武器:ガトリングシールド(盾兼)
格闘武器:ヒートサーベル(グフ・カスタム)
頭部:グフ・カスタム
胴体:グフ・カスタム
バックパック:アカツキ(シラヌイ)
腕:グフ・カスタム
足:高機動型ザクⅡ(トライブレード×2 ニースラスター×2、ヒートサーベル(グフ・カスタム)装備)
原案:夜戦夜叉さん

景浦武が制作した近接戦闘型ガンプラ。
08MS小隊で活躍したノリスのグフ・カスタムをベースとしており、今回は近接戦闘主体という形を維持しつつ、より汎用性を高めた設計となっている。
グフの弱点である遠距離戦闘能力の不足をガトリングシールドだけでなく、攻防一体のオールレンジ攻撃を可能とするシラヌイユニットの搭載で補っている。
また、彼自らが改造したアセンブルシステムの恩恵でドラグーンシステムの操縦をしつつ、猛スピードかつパワフルな接近戦を行うことも可能となっている。
勇太との特訓の際に使用されたが、仮に彼が本気を出した場合、バルバトスは閉店前に敗北していたことは容易に想像できる。
なお、彼が制作したガンプラであるため、色彩は灰色が勝っており、胸部にはドクロのマークが刻まれている。


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第11話 それぞれの予選

(そ、れ、で、はーーー!!リージョンカップin東京、予選を開始するぜぇ!)

実況席で、黒いリーゼントと土壌髭が特徴的な細身の男性がマイクをもって実況する。

会場は予選であるにもかかわらず満席で、立って観戦している人も少なくない。

(タウンカップを制し、このリージョンカップに集まった諸君!その実力をプルーマハントで示してくれーーー!!)

プルーマハントとは、各チームがそれぞれ独立したフィールドに配置され、次々と現れるプルーマを文字通り撃破していって、その数を争う形式のバトルだ。

30分経過する、チームが全滅する、10機以上のプルーマがそれぞれのステージに設定されている最終防衛ライン(最初に自チームが配置される場所から後ろに少し離れたところがスタンダード)を突破されると終了となり、この時点で撃破したプルーマの数が記録となる。

なお、プルーマは第一波、第二波というように大量の軍勢を率いて何度もやってきて、ランダムでハシュマルが混ざる。

ハシュマルは最終防衛ラインを突破することがないものの、圧倒的な性能でチームを壊滅させようと動いてくる。

ハシュマルは出てきてから3分経過すると消えるが、その間に撃破に成功した場合はプルーマ20機撃破と同じ価値がある。

また、5の倍数目の軍団が全滅した際には3分程度のインターバルがあり、近くに2機設置されている補給装置に触れることで弾薬やバッテリー、推進剤などを回復させることができ、更にはガンプラの応急修理や装備の換装も可能となっていて、そのインターバルの間は制限時間が減らない。

だが、ハシュマルやプルーマに補給装置が破壊された場合はもう補給を受けることができなくなる。

補給装置の形は地上では『コロニーが落ちた地で…』で登場するホバートラックのオアシス、宇宙では鉄華団の宇宙用モビルワーカーとなっている。

それぞれ見た目はもろそうだが、耐久性は高めに設定されている。

最も、それでもプルーマの大軍の前では雀の涙程度かもしれないが…。

「よーし、頑張ろう!勇太君、ロボ太!」

「うん。後方支援は任せるよ」

ミサにそう答えた勇太に対し、ロボ太は彼女にサムズアップをする。

シミュレーターに入っていないため、声を聞くことができないものの、それでもミサにはロボ太の言いたいことが分かった。

 

「いっぱい、集まってる…」

観客席に入ってきた、黒い帽子と灰色のトレンチコート姿で、おまけに黒いサングラスと白いマスクをつけたいかにも怪しい人物が予想以上の人の数に驚きながらも、出入り口付近から出場者たちの姿を見ていた。

「あれは…!!」

出場者たちを見る目が、勇太たちのところで止まる。

「まさか…勇太君??」

 

「よし…バルバトス、出撃準備OK!」

(いいか?プルーマは50機で一軍だ。後ろを取られるんじゃねーぞ?)

「了解。沢村勇太、バルバトス、出るよ」

カタパルトからバルバトスが初出され、同時に出撃した騎士ガンダムとアザレアと共に東南アジアのジャングル地帯に放り出される。

ジャングルの中には撃破されたザクやグフ、ジェット・コア・ブースターといった一年戦争時代のモビルスーツや航空機の残骸が残っている。

このフィールドの元ネタは機動戦士ガンダム戦記Battlefield record U.C.0081で、ここでユーグのジーライン・ライトアーマーとエリクのイフリート・ナハトが初対決をした。

そんなジャングルに、ここで倒れた戦士たちの魂の眠りを邪魔するかのようにプルーマとハシュマルがやってくるのだ。

「ロボ太、電磁スピアにビームガンを2門外付けしたけど、使えるかい?」

「問題ない。だが、パイルバンカーまでつける必要があったのかは疑問だ」

電磁スピアを手にしたロボ太はずっとそのことについて違和感を感じ続けていた。

確かに、騎士ガンダムは遠距離攻撃用の装備がないため、必然的に接近戦を仕掛けなければならなくなる。

その際に邪魔になるのは誘導兵器で、それの対処とけん制のためにビームガンをつけたのはまだわかる。

しかし、パイルバンカーについては有効なのはナノラミネートアーマーやフェイズシフト装甲といった実弾射撃に高い耐性を持ったもののみ。

パイルバンカー自体、ロマン武器という面が強いため、ロボ太にとってはあまり合理的には思えなかった。

「メイスはなぜかこのシミュレーターでは槍の扱いだからね。それに、杭に少し仕掛けを施してるから、気に入ってもらえると思うよ」

「むう…まぁ、主殿がそういうのであれば…」

「熱源反応…!来るよ!!」

ミサから贈られた熱源反応が出た座標データを2人は確認する。

「よし、各機Vフォーメーション!僕とロボ太が前に出る!」

勇太の言葉を聞き、ミサを中心にVフォーメーションとなると同時に、ミサは新しくなったバックパックからレールガンを手にする。

「来るなら来ーい!このアザレア・カスタムのレールガンは痛いぞー!」

例の座標の位置の木々がなぎ倒されていき、そこから数十機のプルーマが飛び出してくる。

おまけに、オリジナル設定として各機体にはビーム砲やレールガン、ガトリング・スマッシャーやミサイルランチャーといった多種多様な装備が施されており、圧倒的に数が上な分、かなり厄介な相手になっている。

「ここはソードメイスより!」

大ぶりになりがちなソードメイスの使用を断念した勇太はマニピュレーターに装着されているクローで近づいてくるプルーマを片っ端から引き裂いていく。

クローそのものの威力は破砕砲やソードメイスよりも低いものの、小回りが利く上に勇太がグリムゲルデのヴァルキュリアブレードに採用されている特殊希少金属製のものに作り替えたことで、切れ味がよくなっている。

といっても、高硬度レアアロイ製のフレームを切断するほどのものではないため、それだけの切れ味を求めるのであれば、太刀の方がよいという一面もある。

懐まで近づいてきたプルーマを切り裂いていき、少し距離のある相手に対してはワイヤー・クローで捕獲し、別のプルーマにぶつけて撃破していく。

「(密林の中でもワイヤー・クローを使いこなすとは…さすがは主殿だ!)殺りく兵器の人形め、勇者の剣のサビとしてくれる!!」

プルーマからのマシンガンによる攻撃を盾で防ぎつつ、接近して電磁スピアで貫き、遠くにいるプルーマをビームガンでけん制していく。

威力は小さいが、連射性能の高いビームガンによる攻撃を回避するプルーマ達だが、そこに高速で質量弾が襲い掛かり、バラバラに吹き飛んでいった。

「いい攻撃だ、ミサ!」

「まだまだいくよーー!」

無人兵器ゆえか、レールガンのまさかの破壊力に動揺を見せずに集団で動くプルーマたちにむけて、再びそれを発射する。

給電レールがスパークし、破砕砲に匹敵するスピードで発射されるT字型の質量弾が着弾すると同時に再びプルーマがバラバラな残骸と化し、周囲のそれも吹き飛んでいく。

「電気の残量と弾数…うん、大丈夫!」

アザレアのバックパックとして新たに採用されたアトラスガンダムのサブレッグと共に追加された兵装であるレールガンは改造されたことで水中でなくてもプラネイト・ディフェンサーのような電磁バリアを展開することが可能となっている。

しかし、残弾だけでなく電気残量も確認しなければならないという欠点がある。

だが、この破壊力はその欠点を埋め合わせるだけのものがある。

(ミサー、味方にあてんなよ?)

「そんなヘマしないって!」

あっという間に第一波のプルーマが全滅し、間髪入れずに次の軍団が現れる。

「勇太君、ロボ太!充電してるから、レールガンの援護は待って!」

「了解!!」

「心得た!」

破砕砲を手にし、接近してくる軍団の中央に向け、両足をワイヤークローを地面に突き刺して固定した状態で発射する。

着弾した地点から大きな爆発が発生し、生まれた火の玉の中にプルーマ達が消えていく。

「でっかい火の玉(グレートボールオブファイア)、ですな。主殿」

「ロボ太、それ、どこから…?」

どこかで聞いたことのあるセリフをロボ太が口にし、苦笑いした。

「…!大きな熱源、ハシュマルが来るよ!!」

「このタイミングで…!」

上空を見ると、そこにはミノフスキー・クラフトを搭載したハシュマルが浮かんでおり、地表に向けて高濃度圧縮ビームを発射する。

「空中からビームって、そんなの聞いたことないよ!?」

「ハシュマルも改造済みってことか!」

発射されているビームの出力はタウンカップで戦ったハシュマルのそれを大きく上回っており、タウンカップとリージョンカップの大きな差を感じざるを得ない。

空中へ飛んで回避したことで、ダメージを負わずに済んだものの、着弾地点には大きなクレーターが出来上がり、木々も炎上している。

「勇太君!!」

「主殿!」

「ん…やってみるよ。うおおおおおお!!!!」

勇太の叫びと共に、バルバトスが覚醒し、青いオーラを纏う。

そんなバルバトスを見たハシュマルはそのモビルスーツが一番の脅威だと判断し、内部で製造していたプルーマを次々と出撃され、更に強制冷却材によってビーム砲を一気に冷却していく。

「プルーマ…好都合だ!!」

上昇を続けるバルバトスに向けて、出撃したプルーマはビームやミサイル、マシンガンなどで弾幕を張るが、青いオーラによってそれらが阻まれ、バルバトス本体に一切ダメージを与えることができていない。

更に、あろうことかバルバトスは質量の小さいプルーマを足場代わりにしてさらに上へ飛んでいき、踏まれたプルーマはバルバトスが離れたと同時につぶれて爆発する。

「これで…真っ二つだ!!」

太刀を手にしたバルバトスに向けて、ハシュマルはテイルブレードを放つが、正面から刀身が真っ二つに切り裂かれる。

更に、赤いオーラを纏った太刀からガンダムエピオンのハイパービームソードのような大出力ビームの刀身が出現し、今度はそれでハシュマルが縦に両断された。

テイルブレードと同じように真っ二つとなったハシュマルは地表に墜落し、機能を停止させ、その残骸の前に着地したバルバトスも青いオーラが消え、両肩パーツから白い煙がたっぷりと放出される。

「ふうう…自力で発動できたけど、まだまだっていったところかな…?」

特訓の成果か、大物の前で初めて任意の覚醒に成功したことに喜ぶ勇太だが、それもつかの間。

プルーマの大軍が姿を現し、ハシュマルを撃破したバルバトスに攻撃を集中させる。

「く…反応が…!!」

操縦桿を握りしめる勇太は覚醒の別の弱点を感じた。

覚醒してから解除されるまでの時間が1分足らずで、おまけに排熱の都合で反応が鈍くなるところだ。

現に次に現れたプルーマのマシンガンによる攻撃を回避しきれず、腕や足、頭をかすめている。

おそらく、排熱が終わればまた覚醒できるようになるかもしれないが、今のところは短時間に2度も覚醒できる自信はない。

「主殿!!」

ドリルを搭載して突っ込んでくるプルーマからバルバトスをかばう形で、騎士ガンダムが前に立ち、盾でドリルを側面からたたき折る。

「助かったよ、ロボ太」

「勇太君、排熱が終わるまでどれくらいかかるの?!」

勇太のカバーに入ったミサがアサルトライフルとミサイルポッドでプルーマを攻撃しながら訪ねる。

「あと5…いや、4分。通常の反応速度に戻るまでならあと2分!その間は頼むよ…!」

「御意!!」

「了解!私に任せて!」

2人のカバーを受けながら、勇太は破砕砲の砲身パーツを取り外す。

そして、プルーマ達に向けて銃弾を発射した。

 

「…勇太君」

観戦するトレンチコートの人物はじっとバルバトスの動きを見ていた。

特に印象に残っているのは、やはりハシュマルを撃破したときのあの赤いオーラを纏った姿だ。

重量の軽いプルーマを足場にして大きく跳躍し、太刀で一刀両断するという一連の動きは観客たちを圧巻させていた。

「タケルさんから聞いたけど、まさか本当にガンプラバトルに復帰したなんて…」

この人物は3日前、突然自分のもとに現れたタケルから勇太がガンプラバトルに復帰したということを聞いた。

動画投稿サイト『MeTube』で、タウンカップで覚醒したバルバトスの動画を見たときにはそのバルバトスを操るファイターが誰なのかわからなかった。

だが、タケルの話を聞いたことで、バルバトスのファイターが勇太だということを確信した。

「どうして、彼女と…」

その人物の視線がバルバトスからアザレア・カスタムに向けられる。

ガンプラの出来栄え、そして技量はある程度持っていることは認められるものの、自分よりも強いとは思えなかった。

彼女程度の実力の持ち主はこの人物の周囲には何人もいる。

(勇太君…あなたは彼女と一緒に日本一を勝ち取ろうというの…?)

 

(ウルチ!!どんどんやっちまえーーー!!)

「あー、うるさいよ姉さん。私、昨日徹夜してたんすよー?)

1年戦争時代のジオン一般兵のノーマルスーツを来た黒いショートヘアの女性が通信機に聞こえてくるモチヅキの大声をうっとうしく思いながら、ドルトコロニー内部で次々と出現するプルーマを緑色に塗装されたヴェルデバスターの2連装ビームランチャーで薙ぎ払う。

撃ち漏らしは同じ色彩のセラヴィーガンダムとラファエルガンダムが高濃度圧縮ビームで加減なしに焼き尽くしていく。

「あーー、さっさとタイムアップして寝たいっす…」

緑色のヴェルデバスターのファイターであるウルチこと宇留地環奈はモチヅキと同じく、佐成メカニクスの社員で、モチヅキの後輩にあたる若い女性だ。

能力はあるものの、いつもけだるそうな雰囲気を見せており、とても社会人には見えない。

(馬鹿野郎!予選前日にガンダムの劇場版映画制覇したいからって徹夜してんじゃねーぞ!)

「えーーー?だってレンタルの期限迫ってたんすよー?延滞料とられるのヤだし」

(だったら一度に借りるのを2本か3本にしとけばいいだろ!?一度に10本借りるな!!)

そんな口論を続けながらも、ヴェルデバスターは次々とその高い火力でプルーマを葬っていく。

このやり取りはタイムアップになるまで続いたという。




機体名:アザレア・カスタム
形式番号:ASGT-01AC
使用プレイヤー:井川美沙
使用パーツ
射撃武器:アサルトライフル(アトラスガンダム)
格闘武器:ビームサーベル
頭部:アカツキ
胴体:シェンロンガンダム(EW)
バックパック:サブレッグ(レールガン・アサルトライフルをマウント)(アトラスガンダム)
腕:インパルスガンダム
足:ローゼン・ズール(ミサイルポッド×2装備)
盾:シールド(Ez8)

リージョンカップに備えて、アザレアを改造したもの。
覚醒を使うバルバトスに追従できるように、バックパックはアトラスガンダムのサブレッグに換装されており、これの過剰なほどの推力を獲得している。
また、レールガンはバズーカ以上に取り回しが悪いものの、高い弾速と破壊力を秘めており、更に電磁バリアへの転用が可能となるなど、応用性が高くなっている。
このような装備になったのは、接近戦主体の騎士ガンダムが加わったことでアザレアを後方に下げる戦法が取りやすくなったという点が大きい。


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第12話 消える??

「やったー!予選3位通過だー!」

各チームの記録が表示され、200機近く撃破した勇太たちのチームの予選通過が決定し、ミサは嬉しそうに飛び跳ねる。

周囲にはミサのように予選通過を喜ぶチームがあれば、敗北して沈黙するか涙するチームもある。

だが、これはどのような真剣勝負のコロシアムでも見る光景で、特に特別でも何でもない。

特別があるとするならば、それはまだチャンスがあるかないかということくらいだろう。

「おお、予選突破できたみたいだな、ヘッポコチーム!」

笑いながらモチヅキが4人のもとへやってくる。

佐成メカニクスガンダムチームはなんと2位とダブルスコアの差をつけての予選突破とのことで、自分が作ったガンプラが大きな戦果を挙げたことでかなり機嫌がいい。

「本戦は明日だ。家へ帰って、明日に備えておけよ」

「了解!」

「無視すんな!!」

カドマツとミサに無視されたモチヅキが頬を膨らませながら2人に抗議する。

カドマツの話を聞いたとしても、やっぱり彼女が彼と同年代の大人には見えなかった。

「あのー…」

頭をかきながらウルチが5人のもとへやってくる。

「なんです?」

「この辺で小さな女の子を見てないすか?ずっと探してるんですけど…」

緑色のTシャツを着ていて、首に佐成メカニクスの社員証をぶら下げているウルチを見た勇太はすぐに彼女が言う小さな女の子の正体を察する。

「ええっと、その女の子って…んぐ!?」

「ちょっと静かにしてろよ」

ウルチに話そうとした勇太の口をふさいだカドマツはそのまま彼を引っ張っていく。

わずかながらに笑みを浮かべているカドマツを見て、悪いことを考えているなと思ったのだが、こうなった以上はどうにもならなかった。

「え、迷子!?年は!?」

一方、社員証に気付いていないミサが確認しようとウルチに尋ねる。

「三十路過ぎなんすけど」

この一言で、ミサも勇太と同じように小さい女の子の正体がわかった。

沈黙するミサと口をふさがれたままの勇太をしり目に、カドマツが笑いながら話しかける。

「受付で迷子アナウンスをしてもらえ、面白そうだ」

「あー、そうですね。どうもっす」

「やめろぉ!!」

カドマツの言う通りにしようと思い、立ち去ろうとしたウルチについに我慢が限界を超えたモチヅキがかみつく。

その反応が見たかったと、カドマツはニヤニヤ笑っていた。

「あ、モチヅキ姐さん。ずっと探してたんすよ?」

「ずっと目の前にいたよ!」

「姐さん、視界に入りにくいから…」

カドマツと違い、ウルチは悪気は全くなかった。

身長が女子バレーボール選手並みに高いウルチには背の小さいモチヅキの姿が本当に見えなくても仕方ないのかもしれない。

数分後、ようやくモチヅキの怒りが収まった。

「ウルチ、こいつらは決勝で戦うことになるかもしれない相手だ。一応、あいさつしとけ」

「え、あー…しゃーっす…」

「お前、それでも社会人か!?」

「お前もな」

まるで3人で漫才をするかのようなやり取りを見たミサはアハハハと愛想笑いをしつつ、ウルチをじっと見る。

佐成メカニクスのチームの撃墜スコアをチェックすると、彼女が1倍で、残り2人のスコアの倍の数の敵機を撃墜している。

つまり、彼女がエースということだ。

やる気がなく、敬語もまともに話せない、社会人としてはいろいろ問題のある女性だが、バトルの腕はかなりのものと言ってもいい。

「くっそーーー!いつもいつもバカにして、明日こそはお前を倒して土下座させてやる!」

「姐さん、外から見ているだけじゃないですか?」

「いいじゃねーか!このチームのアセンブルシステムの調整とガンプラづくりを誰がやってると思ってんだ!」

「おもしれえ…じゃあ、俺が勝ったら?」

「カドマツも外から見ているだけでしょ?」

勇太を除くファイターに反して、メカニックはライバル関係であるためか、すっかり闘志を燃え上がらせている。

もはや彼らが1VS1でバトルすればいいのに、と思ってしまうくらいに。

「え…じゃあ、今まで私をいじめたことをチャラにしてやる!」

「いらん、大会が終わるまでに何か考えておく。これでいいな?」

「いいだろう!試合で会うのを楽しみにしてろ!」

すっかり上機嫌になったモチヅキはウルチを置いて、会場を後にする。

彼女の小さな姿が見えなくなったのを見計らい、ウルチはカドマツらに目を向ける。

「姐さんって仕事ができるけど、アホっすね」

「アホだな」

「っていうか、カドマツさん。そこのファイター、そろそろ解放しないとまずいんじゃないっすか?」

「あ…」

勇太のことをすっかり忘れていたカドマツはカクカクと首を回して、彼に目を向ける。

すっかり酸欠になっていた勇太は顔を青くし、白目をむいて意識を失っていた。

「勇太君、勇太くーーん!!」

「頼むから、ファイターがこんな形で戦闘不能になったからって言って、棄権しないでくださいよ?そうなったら姐さん、調子乗っちゃうと思うんで…」

解放された勇太の体を半泣きになって必死に揺らすミサを見ながら、ウルチは頭を抱える。

勇太をこんな状態にしてしまったカドマツは首を縦に振るしかなかった。

(済まねえ…勇太。モチヅキと張り合うのに夢中になってて、すっかり忘れてたぜ…!)

 

「じゃあ、明日の8時には迎えに来るからな」

「はい、じゃあまた明日…」

「その…悪かったな、勇太」

夜になり、勇太とミサを彼が住むアパートの前におろしたカドマツは勇太に詫びると、車を走らせた。

「勇太君、本当に大丈夫?」

「大丈夫だって、心配性なんだね、ミサちゃんって…」

「だって、ここにつくまでずっと顔が青いままだったから…。ああ…!!」

車の中でのことを思い出したミサの顔が真っ赤になる。

なぜそうなったのかわからない勇太はじっとミサの顔を見る。

「その…ミサちゃん?どうかしたの?」

「ううん!!なんでもない!!じゃ…じゃあ、また明日!!」

大急ぎでミサは商店街へ向かて走っていく。

そんな彼女の後姿を見続ける勇太だが、やっぱりその理由がわからなかった。

 

「ううう、思い出すとやっぱり恥ずかしいよ…」

帰宅するミサだが、頭の中からあの光景が離れず、顔を赤く染めたままになる。

帰りの車に乗り、勇太が意識を取り戻すまで、ずっとミサは彼に膝枕をしていた。

座席が固く、横になるには苦しいだろうというのは建前で、実際には面白そうだからという理由でカドマツに膝枕を提案されたためだ。

「座布団くらい置いておいてくれてもいいのに…カドマツのヤロー…」

「井川美沙さん、ね?」

「んん…??」

急に背後から女の子の声が聞こえ、びっくりしたミサは後ろを向く。

そこにはトレンチコート姿の人物が立っていて、暗いのとマスクで口元を覆っていて、更にサングラスをかけていることから、だれなのか全くわからない。

「ええっと、どちら様…」

「彩渡商店街ガンプラチームのバトルを観戦したいた者よ。まずは、リージョンカップ予選突破おめでとう」

「え?あ、ありがとう…ございます…」

「いきなりで悪いけど、私とバトルしてもらえる?」

そういいながら、トレンチコートの女性はコートの中からガンプラを出す。

ブリッツガンダムをベースとしているが、色彩は白をベースとしており、左肩にはガンダムSEEDシリーズに登場するレナ・イメリアの痣を模した乱れ桜のペイントが左肩からひじのあたりまで描かれている。

また、左腕部分にはギガンティックシザースらしく大きな鋏が逆さの状態で搭載されており、足には左右に3本ずつ、合計6本のダガーと鞘が取り付けられた、ベースとなったブリッツに反して攻撃的な印象を見せている。

「あー、ごめん!私、今日はくたくたで…だから、明日大会が終わってから、お店まで来て!そしたらバトルに…」

「いいえ、今でないとダメよ。それに、あなたのチームメイトに電話をしてみたら…?」

「勇太君に…?」

含みのある言葉を吐く彼女を見たミサは恐る恐るスマホを出し、勇太の番号を押す。

(お願い…勇太君、出て!!)

スマホを耳に当て、願いながら勇太が出るのを待つ。

しかし、どれだけ待っても呼び出し音が響くだけで、電話に出ない。

「勇太君が電話に出ない…まさか!!」

「彼がどうなっているか、知りたい?」

「あなた…まさか私たちの妨害のために!?」

「どうでしょうね?知りたかったら、私とのバトルで勝つことね」

「…いいよ、あんたなんかに絶対に負けない!!」

ミサはトレンチコートの女性に指をさしながら、勝利宣言をする。

勇太に何かをしたことに加えて、妨害工作でガンプラバトルをけがすような人間を許すことができなかった。

「それでいいわ、いえ…そうせざるを得ないわね」

そういうと、彼女はコートの内ポケットからアザレア・カスタムを出す。

なぜ自分のガンプラは、と思ったミサは自分のジャケットの内ポケットを調べる。

「あなた…まさか!!」

「場合によっては、あなたのガンプラもネタにするつもりだったのよ」

彼女はミサにアザレア・カスタムを手渡すとついてきて、といいながら彼女を先導した。

 

トレンチコートの女性についてきて、ミサがたどり着いたのは近くの廃ビルの屋上だった。

そこには2つのシミュレーターが向き合うように設置されており、発電機と接続している。

「ゲームセンターは閉店しているから、私が用意して置いたわ」

「まさか…シミュレーターにはズルをしてないよね?」

「そんなことはしないわ。私にもプライドがある」

「勇太君に何かをしといて、何がプライドよ!」

念のため、ミサはシミュレーターを調べ始める。

メカニックであるカドマツではないため、あまり詳しいところまでは調べることができないが、特に変わったところはなかった。

USBメモリの差し込みと改造データの読み込み、そしてガンプラのセットも問題なく完了し、自身の姿もノーマルスーツ姿に変わったが、対戦相手である彼女はコート姿のままだった。

「なんでそっちはノーマルスーツ姿じゃないの?」

「あなたになら、その姿にならなくても勝てるってことよ」

「意味わかんないよ…けど、絶対に勝つ!勇太君を助けるために!!井川美沙、アザレア・カスタム、行きます!」

アザレア・カスタムがカタパルトから射出され、アルテミス宙域に飛び出す。

ちょうど正面から、コートの女性のブリッツが直進してきていた。

「正面から!だったら!!」

アサルトライフルをサブレッグに収納し、代わりにレールガンを手にすると、照準を相手に合わせる。

照準が合い、この状態なら警告ランプか音声が発生する状態であるにもかかわらず、目の前のブリッツはそのままスピードを緩めずに直進している。

「そんな直進だと!!」

ブリッツに向けてレールガンを発射する。

レールガンの威力であれば、ブリッツなどのSEEDシリーズのガンダムの標準的な装甲であるフェイズシフトにもダメージを与えることができる。

おまけに、弾速も早いため、今のように直進する相手には確実に当てられるはずだった。

しかし、ブリッツは速度を緩めずにわずかに右にずらすことで回避し、弾丸は後方にあるアルテミス基地の外壁に当たった。

「避けた!?」

「その程度の攻撃で、私のブリッツ・ヘルシザースには当たらないわ」

ブリッツ・ヘルシザースの右腕に装備されているトリケロスからビームが放たれ、アザレア・カスタムはスラスターを全開にして左へ行く。

(あの大きな鋏の射程は短いはず!左側からレールガンを叩き込めば!)

「射程を…見誤ってるわ!」

左腕をアザレア・カスタムに向けると同時に、左肩に収納された延長アームが展開し、ギガンティックシザースが大きく開いて相手を挟もうとする。

延長アームのせいで倍加したリーチにより奇襲で、ミサは驚きながら後ろへ回避しようとするが、ギガンティックシザースにレールガンが挟まれ、そのままバキバキと砕かれた。

「レールガンが!!」

「ギガンティックシザースは接近戦のためだけのものじゃないのよ!!」

砕いたレールガンを投げ捨てたブリッツ・ヘルシザースに内蔵されているビーム砲が鋏の先あたりまで伸長する。

バチバチとビームが砲身で収束していき、ザムザザークラスの火力のビームを発射する。

「くうう…これだと、近づけないよ!!」

距離を置けば、先ほどのようなビームやトリケロスのランサーダート、そしてビームライフルが襲い掛かり、接近しても今度はギガンティックシザースや両足のダガーの餌食になる。

レールガンを失い、持っている射撃武器がアサルトライフルであるアザレア・カスタムがフェイズシフト装甲のモビルスーツを倒すにはビームサーベルしかない。

「どうしたの?もしかして、もう攻撃手段を失ったのかしら!?」

スラスターを全開にし、動きを止めないままアザレア・カスタムに向けてビームライフルを連射する。

動きを止めていないにもかかわらず、その狙いは正確で、左足やアサルトライフルに命中する。

やむなくアサルトライフルを投げ捨てると、それは同時に爆発し、左足もビームが貫通したことで使い物にならなくなる。

圧倒的な相手の技量に翻弄されるミサに残された武器はビームサーベルのみ。

アサルトライフルもレールガンもなく、距離を離したままでは一方的にやられるだけだ。

「まだまだぁぁぁぁ!!」

体が熱くなり、ヘルメットを脱ぎ捨てたミサはアザレア・カスタムをザブレッグ全開で直進させる。

「ヤケにでもなったのかしら!?直進なんて!!」

動きを止めないブリッツ・ヘルシザースはビームライフルを撃ちながら相手に合わせるように直進する。

防御のために胸部を覆うように構えたシールドは3発ビームを受けるとボロボロになり、サブレッグや左腕にも次々とビームをかすめる。

「このままコックピットにビームサーベルを!!」

「甘いわ!!」

再びギガンティックシザースを展開させ、今度はそれで胴体を挟み込む。

正確には横幅が胴体よりも大きいサブレッグに、というべきだが、それでもこのまま挟みつぶされたらアザレア・カスタムは撃破されてしまう。

「このままとどめを!!」

「まだだぁぁぁ!!」

サブレッグを強制排除したアザレア・カスタムが上へとび、同時にギガンティックシザースがサブレッグを挟みつぶす。

「なに!?」

「隙ありぃぃ!!」

逆手にビームサーベルを手にしたアザレア・カスタムがブリッツ・ヘルシザースを串刺しにしようとする。

トリケロスにはビームサーベルの機能もあるが、ギガンティックシザースが邪魔でアザレア・カスタムを狙えない。

「これで終わりぃ!!」

「終わり…?違うわね、あなたの負けよ」

コートの女性の言葉を聞いたミサは一瞬、彼女が何を言っているのかわからなかった。

アザレア・カスタムのビームサーベルがブリッツ・ヘルシザースの胸部を上から貫く手前で、その機体が桜吹雪を模した光のエフェクトの中に消えていく。

「手ごたえがない!?キャア!!」

エフェクトが消えると、そこには敵機の姿がなく、右足の太もも部分に投擲されたナイフが刺さる。

カチ、カチと不吉な音がナイフの刀身から鳴り響き、2回それが鳴り終わると同時にそれが爆発する。

至近距離からバズーカの直撃を受けたのと同じ破壊力であったために、右足がバラバラに砕け散る。

「くぅぅ!!ええ…なんで!?」

急に目の前に3機のブリッツ・ヘルシザースが姿を見せる。

3機は同時にアザレア・カスタムに向けてナイフを投げてきた。

ビームサーベルを横に振ると、3本とも消えたが、なぜか胴体に1本刺さり、爆発する。

「キャアア!!」

爆発によってコックピット上部に穴が開き、大急ぎでミサはヘルメットをかぶる。

宇宙空間でコックピットに穴が開き、なおかつヘルメットを着けていない場合、5秒で失格になるためだ。

「どこに…!?どこにいるの!?」

ビームサーベルを2本抜き、二刀流になって周囲を見渡す。

あの時のビームサーベルには、確かに1本は手ごたえがあった。

いかにミラージュコロイドといえど、分身したとしても、本体は1つしかない。

機体の動きを見ても、1本ずつしか投げていない。

しかし、その1本を破壊したにもかかわらず、なぜかナイフが当たったし、その軌道はどう見ても先ほど現れた3体が投げたものとしか思えない。

キョロキョロと周囲を見渡す中、アザレア・カスタムの頭部や左腕の関節、右足に腰と次々とナイフが命中、爆発する。

「キャアア!!メインカメラも壊れたぁ!!でも、これでナイフは…」

「ナイフはまだあるわよ」

ブリッツ・ヘルシザースが正面に現れ、ナイフをコックピットに向ける。

「なんで…7本目が…それに…」

サブカメラが映し出したのピンク色のオーラに包まれたブリッツ・ヘルシザースの姿だった。

だが、コックピットにナイフが刺さると同時に映像がブラックアウトした。

 

「負けた…」

シミュレーターから出たミサは完膚なきまでの敗北のせいか、その場に座り込む。

一指も報いることのできない敗北と自分の無力さから涙が出てくる。

そんな彼女の前にコートの女性が立つ。

「その程度の実力では、日本一になることはできないわ。それどころか…勇太の実力を殺しているかも」

「勇太君の実力を…殺してる…」

「彼は本当ならジャパンカップにたやすく進出できてもいい実力。そのためには、彼と同じかそれ以上の実力を持った人が必要。だけど…あなたでは逆に彼の足を引っ張るだけ」

「あなたは…一体…?」

勇太のことを呼び捨てし、さらに勇太以上に覚醒を使いこなした彼女を涙を流しながらじっと見る。

彼女は着ていたトレンチコートをその場で脱ぎ、投げ捨てた。

投げ捨てたトレンチコートが夜空を舞う中、黒いロングヘアーに桜を模したヘアピンをつけ、黒い瞳とで白い肌をした、ミサや勇太と同年代の少女の姿がさらされる。

青いリボンタイがあり、振袖のような長い袖をした白いセーラー服と丈の短いスカートを着ていて、腹部が露出している。

おまけに、ミサとは対照的でグラマラスな体つきをしており、ミサは二重の意味での敗北感に襲われる。

「私は凛音桜。昔、勇太と一緒にガンプラバトルをしていたファイターよ」




機体名:ブリッツ・ヘルシザース
形式番号:GAT-X207HS
使用プレイヤー:凛音桜
使用パーツ
射撃武器:トリケロス(ビームライフル)
格闘武器:トリケロス(ビームサーベル)
頭部:ブリッツガンダム
胴体:ブリッツガンダム
バックパック:ブリッツガンダム
腕:ブリッツガンダム(左腕部に延長アーム付きギガンティックシザース装備)
足:ブリッツガンダム(インパクトダガー×6装備)
原案:本人の要望で非公開(インパクトダガーについては夜戦夜叉さん)

過去に勇太と共にバトルをしていたという少女、凛音桜が使用するガンプラ。
ブリッツガンダムをベースとしているものの、色彩は白が中心であり、左肩からひじのあたりまで乱れ桜のペイントが施されていて、黒が基調だったベース機とは対照的となっている。
また、ブリッツガンダムの弱点である主力武装のトリケロスへの集中を克服するため、刀身が時限信管型爆弾としても機能するインパクトダガーとアルトロンガンダム(EW版)の延長アームが取り付けられたギガンティックシザースが追加装備されている。
なお、ギガンティックシザースに搭載されているビーム砲は収束することで、ザムザザークラスの高出力ビームの発射が可能。
ミラージュコロイドについては健在で、桜の覚醒と併用することで、時には分身して一瞬だけ姿を見せて攻撃したり、攻撃されるギリギリのところで消えて回避してしまうなど、本来ではありえないような動きを見せている。
ただし、エネルギー使用量が大きいうえに、ミラージュコロイド使用中のフェイズシフト装甲使用不可能という弱点は変化していないが、彼女はスラスター全開で動き回る短期決戦型の戦術を見せることでそれを補っている。
なお、覚醒中に彼女が本来6本しかないインパクトダガーの7本目を持っていたり、切り裂いたはずの1本がなぜか命中するという謎の動きがあったものの、その原因はいまだに不明。


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第13話 友人との再会

「勇太君と…?」

「そう、私は勇太と一緒にガンプラバトルをやっていたファイターよ」

「ということは、サクラさんも勇太君のお兄さんからガンプラバトルを?」

「当然よ、あの人は私の目標なんだから…」

勇武から教えられたのであれば、ミサもサクラの強さに納得できた。

彼の弟である勇太の実力を、近くで見続けてきたミサ自身が何よりも知っているのだから。

「まったく、わからないわね。勇太がどうして、あなたみたいな弱い子と一緒に戦おうと思ったのか…?(どうして、私と一緒に戦おうって思ってくれなかったのか…)」

勇武の葬式のときの勇太の顔を思い出す。

その時の彼は完全に気力を失ってしまっていて、火葬場までいき、遺骨を納める時も表情1つ使えることがなかった。

兄と一緒にバトルをして、ガンプラを作っていた時のあの元気な笑顔はもう2度とみられないものと思っていた。

「弱い、弱いって…。確かに今はあなたに勝てないくらい弱いかもしれない!!けど…!」

「けども何も、仮にリージョンカップを突破したとしても、あとどれだけの時間が残っているのかわかっているの?」

リージョンカップが開催され、すべての地域で優勝者が決まるのは5月下旬。

そして、ジャパンカップが開催されるのは夏休みが始まってから1週間後に当たる7月下旬。

つまり、強くなるまでの時間はあと2,3か月程度しかない。

「ちなみに、私はシード、つまり委員会推薦枠で今回のジャパンカップに出場するの。リージョンカップへの出場が免除されてる。そして、予選なしで本選への出場が約束されているわ。それがどういう意味か…分かっているわね?」

ジャパンカップは47都道府県の代表チームに加えて、運営委員会が推薦した1チームが予選と本選で戦うことになる。

だが、推薦基準が非常に厳しく、過去数年にわたる公式・非公式問わず、すべての大会の記録を見られ、さらには委員会に作ったガンプラを1つ提出(といっても、審査後は速やかに返却される)しなければならない。

そのため、ほとんどの人は最初から委員会推薦でジャパンカップに出場しようとは思わないし、むしろそれよりも地道にリージョンカップ優勝での出場のほうが近道になる。

だからこそ、推薦されるということはかなりの実力があるということを意味する。

「つまり、私に勝てないようでは…日本一なんて無理、ということよ」

「くうう…」

ジャパンカップに出場したことがないミサでも、推薦枠で出場したチームの実力はよくわかっている。

推薦枠のチームは毎回のように決勝に進出しており、優勝もしくは準優勝の常連となっている。

「それじゃあ…ミサさん」

サクラは屋上を後にする。

1人残されたミサのジャケットの中にあるスマホが鳴る。

相手を確認しないまま、ミサは電話に出る。

「もしもし…」

(もしもし、ミサちゃん??ごめん、さっき電話に出られなくて…)

「勇太…君?」

相手が先ほど電話に出ることがなかった勇太であったことに驚く。

サクラの話しぶりで、彼女に何かをされたものだと思っていたため、その驚きは大きい。

といっても、彼女が勇太の元仲間ということを知った後から、本当に何かをしたのかという疑いを抱いていたのだが。

(さっきまで風呂に入ってて…それで、何かあったの??)

「…ううん、なんでもない。なんでもないよ…」

消えていくような小さな声で返事をしたミサはそのままスマホを切る。

スマホを強く握りしめ、ミサは必死に涙をこらえ続けた。

 

「もしもし…。ごめんなさい。無理を言ってしまって。ええ、シミュレーターの撤去、お願いします。はい、はい…じゃあ、あとは…」

歩きながらどこかと電話を終えたサクラは勇太が住んでいるアパートの前で足を止める。

勇太がいる部屋の前に来たサクラはインターホンを鳴らす。

「はいー!」

中から声が聞こえ、すぐにパジャマ姿の勇太が出てくる。

「え…?サクラ、さん?」

「久しぶりね、勇太」

驚きながら彼女を見る勇太をサクラは無表情で見つめていた。

 

「…」

「…」

折り畳み式のテーブルの前に置かれた座布団の上に座るサクラと冷蔵庫からコーラを出す勇太はずっと無言のままだった。

コップを2つだし、その中に氷を入れ、そのあとでコーラを入れてテーブルに置く。

おかわり用に、コーラが入ったペットボトルも置いている。

「…ごめん」

「ごめんって…何が?」

「その…ずっと、連絡入れなくってさ。それに…」

「それ以上は言わなくていい。わかってるから…」

勇太が入れたコーラを飲み、サクラは勇太を制止させる。

「…。ガンプラバトル、また始めたのね」

「…うん」

「なんで、私を誘ってくれなかったの?」

コップを置いたサクラは勇太に問いかける。

といっても、今のサクラが勇太と一緒に戦うことができないというのはわかっていることだ。

タウンカップ、リージョンカップの参加チームには同じ市もしくは県に住んでいる人間だけでメンバーを組むことが義務付けられている。

引っ越しにより、愛知から東京に移り住んだ勇太は当然、サクラと組むことができない。

頭ではわかっているが、どうしても勇太が自分ではなくミサを選んだことに納得することができなかった。

「それに、私には何も伝えないで…」

「1シーズンだけだよ。そういう約束をしたから…」

「1シーズンだけやって、本当に満足なの?」

突っ込まれた勇太は沈黙する。

最初はミサの熱意に惹かれる形でこうしてガンプラバトルをもう1度やるようになった。

だが、タケルとの戦いとロボ太やカドマツの加入、そして覚醒を自分で発動できるようにするための特訓をする中で、迷いが生じ、自分でもわからなくなっていった。

自分はミサのためだけにこうしてガンプラバトルをしているのか、それともガンプラバトルから本当は遠ざかりたくないのか、と…。

「勇太、チームの人数制限はPGやモビルアーマー、戦艦を使用する場合は2人、PG以外のモビルスーツを使う場合は3人。今、私たちのチームには1人だけ空きがある」

「…つまり、何を言いたいの?」

「今なら、あなたを私たちのチームに入れることだってできる。はっきり言って、彼女と一緒に勝ち上がるのは無理よ」

サクラのはっきりとした言葉を勇太は反論しなかった。

ジャパンカップを勝ち上がることを考えると、今の彼女では力不足であることは彼自身もよく分かっていた。

「あなたの戦い、見たわ。ブランクがあるけれど、それでもジャパンカップを勝ち上がれるだけの力がある、だから…」

「誘ってくれるのはうれしいよ。けど…今はできれば、ミサちゃん達と一緒に勝ち進んでいきたい…」

「勇太…」

「正直に言うと、1シーズンだけやって、自分の気持ちに区切りがつくか、よくわからない。それに…バトル中はいやでも兄さんのことを思い出してしまうし…。だから、確かめたいんだ。僕にきっかけをくれた彼女と一緒に…」

じっと、サクラの目を見ながら勇太は言う。

その目は勇武が生きている時に見せた、あれ以来見ることのなかった一途な光のこもった目だった。

「…そう」

決意は変わらないだろうと判断したサクラは立ち上がる。

「サクラさん、駅まで送って…」

「いいわ、それよりも…」

サクラはじっと立ち上がろうとしている勇太の目を見る。

「言ったからには、ジャパンカップで私と戦うまでは1回も負けないで」

そう言い残し、サクラは部屋を出ていく。

1人になった勇太はしばらく彼女が出ていったドアを見つめた後で、ベッドの上に置いているハロを手にする。

「…また1つ、負けられない理由ができちゃったな…」

ノートパソコンのキーを打ち、これまでのガンプラ制作及び戦闘データをまとめ始める。

 

翌日、リージョンカップ会場。

「ミサ!バックアップを頼む!」

「りょ、了解…!」

オーガスタ基地のフィールドで、ロボ太からの通信にたどたどしく答えたミサは高台へ向かい、レールガンの照準を合わせる。

リージョンカップ本選は1チームVS1チームでのノーマルバトルとなっており、タウンカップと同じ形となっている。

騎士ガンダムの前にはジム・ストライカー用の装備が施されたジェスタがいて、電磁スピアとツイン・ビーム・スピアが何度もぶつかり合う。

「くっ…SDガンダムにしては、やってくれる!」

「SDガンダムを舐めてもらっては困るな!!」

電磁スピアのビームガンが連射され、ジェスタの全身を覆うウェラブルアーマーがそれに反応して爆散していく。

「見えた!そこぉ!!」

照準合わせが終わったミサがレールガンの引き金を引く。

T字型の質量弾がまっすぐ飛んでいき、あろうことかロボ太の右腕ごとジェスタを貫いた。

「な…!?」

「嘘!?なんで!?」

ロボ太もミサも、まさかのフレンドリーファイアに動揺する。

そうしている間に、ミサの背後には銀色に塗装されたゴッドガンダムが現れ、サブレッグを赤く光右手でつかむ。

「しまっ…!!」

今になって、ミサはコックピット内に響く警告音の存在に気付いた。

やむなくサブレッグをパージし、ゴッドフィンガーが発動する前に離脱する。

「ミサ!!」

「こいつで、決めたみせるぅぅぅ!!」

既に左手のゴッドフィンガーの準備を終えていたゴッドガンダムがうつぶせに倒れたミサに迫る。

電磁スピアを投げたとしても、モビルファイターの高い反応速度と機動性の前では間に合わない。

「負ける…!」

「させるかぁ!」

ゴッドガンダムの左側にいた勇太のバルバトスの両腕に装備されているワイヤークローが発射され、左腕を拘束する。

そして、両足に装着されているビームガトリングガンが発射され、左腕の関節部分に数発が命中した。

「しま…!」

関節が破壊されたことで左腕が折れて、コントロールから離れたゴッドフィンガーのエネルギーがその左腕の中で暴走し、爆発する。

爆発によって2機のモビルスーツの表面が熱せられ、更に発生した閃光によってゴッドガンダムの視界が封じられる。

「おのれぇ、悪魔の名を持つガンダムめぇ!!」

「神様の名前をつけるよりはマシだと思うけど?」

両腕のワイヤークローの基部をパージしたバルバトスが視界が封じられたゴッドガンダムの両肩の上に立ち、両手には太刀が逆手で握られている。

そして、コックピットに向けて思いっきり刃を突き立てることでゴッドガンダムを撃破した。

(リージョンカップ1回戦第2試合、勝者は彩渡商店街ガンプラチーム!!)

 

「おいミサ…今回のお前、らしくなかったぜ?」

1回戦が終わり、チーム別に用意された控室に戻ったミサをカドマツが心配そうに見る。

フレンドリーファイアはどんなに対策しても、起こる可能性のあるものだということは分かっているものの、今回は相手がほぼ直線で動いており、騎士ガンダムとのサイズ差もあって、そうなる可能性の方が低いし、味方に当てずに敵を撃破することも十分に可能だ。

しかし、今回は見事に騎士ガンダムの右腕に命中してしまっている。

レールガンの威力を考えると、これで騎士ガンダムが撃墜レベルのダメージを負っても不思議ではない。

「…ごめん」

「ま、今回は勝ったからいいけ…」

「勝ったなら、勝ったならそれでいいの!?」

顔を下に向けたミサがカドマツの言葉に強い口調で反論する。

いつものようなふざけた感じではなく、さすがのカドマツも沈黙する。

「勝ったからって言って、こんなの…こんなの全然だめだよ!こんなんじゃ、こんなんじゃ…」

「ミサちゃん…?」

「ああ、ごめんね?ちょっと調子悪いから…外で空気を吸ってくるよ!」

ちょうどコーラを買って控室に戻ってきた勇太に顔を見せないように、ミサは控室を飛び出していく。

「ああ…あいつ、どうしちまったんだ?」

頭をかきながら、カドマツは彼女をどうすればよいのかと考え始める。

「…すみません、カドマツさん。おつり、ここに置いておきます!」

急いでカドマツの分のコーラとおつりの小銭を机の上に置き、勇太はミサを追いかける。

よほど急いでいたのか、置いた小銭は飛び散っており、何枚かは床に落ちてしまっている。

「勇太!?ったく、人様のお金は丁寧に扱ってくれよぉ」

床に落ちた小銭を拾うカドマツからは悩みが嘘だったかのように消えてしまっていた。

ここは自分がどうにかするよりも、一緒に戦うチームメイトが助けたほうが良いだろうと思ったためだ。

「さてっと…あいつらのためにデータを集めねーとな」

コーラを片手に、カドマツはテレビをつけた。




機体名:ジェスタ・ストライカー
形式番号:RGM-96FP
使用プレイヤー:リージョンカップ出場者の誰か
使用パーツ
射撃武器:ビームライフル(ジェスタ)
格闘武器:ツイン・ビーム・スピア
シールド:シールド(ジェスタ)
頭部:ジェスタ
胴体:ジェスタ・キャノン(ウェラブルアーマー装備)
バックパック:ストライカー・カスタム(ネメシス仕様)
腕:ジェスタ・キャノン(ウェラブルアーマー装備)
足:ジェスタ・キャノン(ウェラブルアーマー装備)

1年戦争末期に活躍したジム・ストライカーの戦闘データを基に設計されたジェスタの新たなバリエーション、という設定で作られたガンプラ。
元々高い拡張性を誇るジェスタは様々なオプションパーツを取り付けることが可能であり、ジェスタ・キャノンの増加装甲とストライカー・カスタムのウェラブルアーマーを装着することで高い防御性能を発揮している。
バックパックがストライカー・カスタムのものとなっているため、ツイン・ビームサーベルやバースト・ナックル、スパーク・ナックルといった多種多様な接近戦用武装の使用が可能で、近接戦闘で真価を発揮する。
しかし、接近戦主体であることから乗り手を選ぶ機体であり、パイロットとなると思われたトライスターのワッツもジェスタ・キャノンへの換装を希望したため、日の目を浴びることがなかったという設定も含まれている。



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第14話 才能

(ダメだ…こんなんじゃ、ダメだ…)

本選が続き、スタジアムの中に人々が集まっている中、ミサは1人、だれもいなくなった広場のベンチに腰掛け、じっとアザレア・カスタムを見る。

これを見ていると、嫌でも昨夜のサクラとのバトルを思い出してしまう。

彼女のガンプラ、ブリッツ・ヘルシザースの性能と彼女自身の技量は自分のはるか上を行っていた。

覚醒も、勇太以上に使いこなしていて、そんな彼女の存在が自分の日本一になった姿をぼやけさせる。

そう考えると、これまでの戦いも勇太に頼りっぱなしであったように思えてしまう。

タイガーが仲間と共に自分に攻撃を仕掛けてきたときも、彼の助けがなければ何もできなかったし、カマセとの戦いでも勇太が偶然とはいえ、覚醒を発動してくれたからだ。

(私なんかと一緒にいたら、勇太君は…)

「ミサちゃん」

急に聞こえた声にびっくりしたミサは視線をスタジアム側に向ける。

そこには両ひざに手を当てて、ハアハアと息を整える勇太の姿があった。

「勇太…君…?どうして…?」

「係りの人に聞いたんだ。そしたら、君に似た女の子がここへ走っていったって、教えてくれた」

本当はどうしてこんな自分を追いかけてきたのかを聞きたかったミサだが、今の彼女にそんなことを問う余裕がなかった。

アザレア・カスタムを握ったまま立ち上がったミサが勇太に抱き着き、顔を彼に胸に押し付ける。

「ミ、ミサちゃん!?」

「駄目だよ…勇太君、私なんかと…私なんかと一緒にいちゃ…」

最初は顔を赤くし、彼女を振り払おうとした勇太だが、ミサの言葉に困惑し、動きを止める。

「その…どうして、君と一緒にいたらだめなの…?」

「だって…グスン、だって、私なんかじゃ…勇太君の足、グスン、引っ張っちゃうから…」

泣きながら、彼女の本音を耳にした勇太はおそるおそる彼女の頭を撫でて、そのままミサの言葉を何も言わずに、すべて出し尽くすまで聞くことにした。

 

「そっか…。サクラさんと、会ったんだ…」

「うん。何にもできなかった…」

しばらくして、ようやく泣き止んだミサと一緒にベンチに座った勇太は昨夜のことを聞く。

彼女の話を聞いたことで、なぜサクラが自分を勧誘しに直接訪ねたのかわかった気がした。

「…僕なんかと違って、サクラさんはガンプラバトルを捨てなかった…。もしかしたら、僕よりもはるかに強いかもね」

「うん…。だから、勇太君。もし…もし、ね?もっとガンプラバトルで上を行きたいと思うなら、移籍を…」

「ミサちゃん」

言い終わらぬうちに立ち上がった勇太はゆっくりとミサの前に立つ。

そして、彼女の腕をつかんでそのままスタジアムへと歩いていく。

「ちょ、勇太君!?離してよ…まだ話は終わってな…」

「…」

必死に振りほどこうとするが、今の勇太のつかむ手の力が強くて、どうやっても引きはがすことができない。

ミサはそのまま彼についていくことしかできなかった。

 

「よし…ここなら使える」

受付で練習用のバトルシミュレーターの無料レンタルの許可をもらった勇太はミサの腕をつかんだまま、練習室に入る。

練習室には観戦用のテレビとチームで練習できるようにシミュレーターが3つ置かれている。

勇太はミサのアザレア・カスタムを取り上げて、彼女に自身のバルバトスを渡す。

「え…?」

「ミサちゃん、僕とバトルをしよう。ただし、僕が使うのはアザレア・カスタム。そして君が使うのは…バルバトスだ」

「ええっ!?けど…」

「…いいから!」

強引にミサをシミュレーターに座らせ、バルバトスをセットさせて起動させると、勇太は別にシミュレーターに乗り込む。

起動してしまった以上は、バトルが終わるか棄権するまで出ることができない。

「あ…」

起動した瞬間、ミサはアザレア・カスタムに乗っていた時とは違う感覚を実感した。

バルバトスに搭載されている阿頼耶識システムにより、網膜投影が開始したことで、視界が機体とリンクしている。

バルバトスが見えるものを直接肉眼で見ているような感覚で、アザレア・カスタムよりもよりダイレクトに視界の状況を知ることができる。

カタパルトに乗り、発進準備を終える。

「…井川美沙、アザ…じゃなくて、バルバトス…いきます」

元気も抑揚もない声と共にバルバトスが発進する。

外へと飛び出したバルバトスは月面に着地する。

そこには、既に出撃していたアザレア・カスタムも立っていた。

「じゃあ…始めようか。ミサちゃん」

「なんで?なんでこういうことをするの?意味わからないよ…?」

「わからなくてもやるんだ!」

アサルトライフル2丁を手にしたアザレア・カスタムがバルバトスに向けて発砲する。

慌ててミサはソードメイスを盾に受け止めるが、それでもすべての弾丸を受け止めることができず、数発がナノラミネートアーマー製の装甲に当たり、衝撃がコックピットに伝わる。

「キャア!?」

「まだ終わりじゃない!」

右手のアサルトライフルをしまい、レールガンを手にし、バルバトスに向けて発砲する。

「キャアアア!!」

レールガンの弾丸がソードメイスに直撃し、アサルトライフルを受けたとき以上の激しい衝撃が襲い掛かる。

激しく体が揺れ動き、気を抜くと嘔吐してしまいそうなレベルだ。

それだけのダメージのためか、ソードメイスはレールガンの弾丸を受け止めること自体には成功したものの、大きなひびが入り、ポキリと折れてしまう。

「ソードメイスが…!」

「いい武器じゃないか!」

スラスターを全開にし、バルバトスの脚部から発射されるビームガトリングガンを後ろに飛んで回避しつつ、レールガンに弾頭を装填する。

そして、一気に真上へ上昇しながら照準を合わせ、再びレールガンを発射する。

折れたソードメイスを投げ捨てたミサもそれに合わせて上昇し、レールガンを回避する。

「これで楯はなくなった!」

左手のアサルトライフルを連射させつつ、一気に距離を詰めると、右手のレールガンを投げ捨ててビームサーベルを手にする。

太刀を手にする時間のないミサはやむなく、左手でアザレア・カスタムの右腕をつかんで動きを封じる。

「ミサちゃん…。君と初めて一緒に戦ってきて、ずっと思っていたことがあるんだ」

「何…を??」

「君には…ガンプラバトルの才能がない。昔の僕と同じように…」

「え…??」

勇太が言う昔の自分というのは、おそらく勇武にバトルを学んでいたときのことだろう。

自分に才能がないのはともかく、そのころの自分に才能がないと言い切った勇太の言動にミサは違和感を覚える。

勇武の死後、長い間バトルから身を引いていたのに、しかも今使っているのは今まで使ったことがなく、まったく別のタイプのアザレア・カスタムなのにここまで戦えるのに。

覚醒まで使えるのに。

それは自分に才能があるからではないのか。

そう考えているミサがいるコックピットの後ろから衝撃が襲う。

勇太が左手のアサルトライフルをバックパックにある破砕砲のカートリッジに向けて至近距離で発射したのだ。

これにより、ミサは立て続けにバルバトスの主力武器を失うことになってしまった。

動揺するミサに追い討ちをかけるように、勇太はそのまま空中でバルバトスを背負い投げして月面に落とす。

(…アザレア・カスタムはサブレッグ以外の構造はいたってシンプルだ。システムも含めて…。そのおかげで搭載されている核融合炉とサブレッグにパワーがそのままダイレクトに手足と武器に伝えることができる)

「うう…ガトリングは弾切れ。武器は太刀と爪しか…!」

「気づくんだ、ミサちゃん!!」

そう叫びながら、ビームサーベル二刀流となって下にいるバルバトスに襲い掛かる。

「教えてよ、勇太君は才能がないっていうのに、どうしてそんなに強いの!?」

「気づけぇぇぇ!!」

アザレア・カスタムは勢いを緩めることなく、なおも接近していく。

必死に彼女に願いながら。

「うわあああああ!!」

振り下ろさんとするアザレア・カスタムの右腕に向けてバルバトスが右拳を叩き込む。

左手のビームサーベルがバルバトスの右肩をかすめ、拳が右腕の関節部分に命中する。

「何!?」

関節が損傷したことで、右手の動きがおかしくなり、ビームサーベルがポトリと落ちる。

「まだまだぁぁ!!」

(そうだ…ミサちゃん、それでいいんだ…)

思わぬ反撃に驚いた勇太だが、ミサの底力を感じて安心したように笑みを浮かべる。

だが、自分もファイターとしてもプライドがある以上、このまま負けるつもりはない。

頭部バルカンを発射し、バルバトスのメインカメラを破壊する。

網膜投影をしていたこともあり、ミサの視界がブラックアウトするが、彼女が止まる気配はみじんもない。

「負・け・る・かぁーーーー!!」

右手のクローでアザレア・カスタムのコックピットを貫こうと、右手の指を伸ばす。

目が見えなくなっているため、詳しい場所は分からないが、それはもう勘に頼るだけ。

ミサは迷うことなく手刀を叩き込んだ。

手ごたえがあり、装甲を確かに貫いている感触はある。

だが、なぜか肝心の右腕が動かない。

「はあはあ…ギリギリセーフか…」

勇太のコックピットの右側に突き刺さったバルバトスのクローを見ながら、勇太は肝を冷やす。

動かないように左手で抑えているものの、コックピットへのダメージのせいでアザレア・カスタムの右半身が使えなくなっている。

阿頼耶識システムがあれば、それに全コントロールをゆだねることで全身を動かすことができるが、それがないアザレア・カスタムでは無理な相談だ。

おまけに核融合炉にダメージを負ったことで、パワーダウンを起こしている。

「これは…僕の負けか」

コンソールを操作するが、パワーダウンを抑えることができず、左手のパワーが低くなっていく。

左足と左腕だけではどうにもならず、このままコックピットにクローがゆっくりと向かうのを待つだけ。

バルバトスのメインカメラが壊れているため、このままクローを左に動かして復帰できる可能性があるが、それだと機能停止を待つことになる。

「…」

勇太はコンソールを操作し、降伏信号を接触回線でミサに送る。

すると、バトルシミュレーターが終了し、勇太たちの姿が元に戻った。

 

「勝っちゃった…」

シミュレーターから出たミサはポケーッとしながら、バルバトスを握る。

お互いに機体を交換してでの変則バトルであり、本気の物ではなかったかもしれないが、それでも勇太に勝ったことが現実に思えなかった。

「土壇場の底力と負けん気、それが君の強さだよ」

「勇太君…」

ミサの前に立ち、彼女にアザレア・カスタムを返した勇太は笑みを浮かべながら言う。

彼女もバルバトスを彼に返した。

「それに、何が何でも勝たなきゃいけない理由がある。そんな君と一緒なら、失った熱意を取り戻せるかもしれない。兄さんたち解いた時よりも上へ行くことができる」

「そんなことを思っててくれたなんて…。でも、いいの?サクラさんと違って、私…」

「…いや、むしろ君の見捨てられないかってビクビクしてるの、僕なんだよ?」

「…え??」

「だって、僕ってシャイで中々友達作れないし、ガンプラバトル誘うのもへたくそで、しかも唯一相手してるかもしれないサクラさんからチームに入る誘いを断っちゃって、多分すごく怒ってるから…!」

急に焦りだした勇太がマシンガンのようにミサと一緒に戦わないといけない理由を次々と口にする。

シャイだということはミサも分かっていることだが、サクラからの誘いを勇太が断った、つまりは自分を選んでくれたということを聞けてとてもうれしく思えた。

嬉しく思ったのだが、まるで家を飛び出そうとする奥さんを必死に引き留めようとする旦那のように見えた勇太があまりにもおかしく思えて、思わず笑ってしまう。

「ミ、ミサちゃん…!??」

「ア…アハハハ!!ご、ごめん…!勇太君の話聞いてたら、なんだかさっきまでウジウジ考えてたのがばかみたいに思えちゃった…」

笑いを抑えつつ、指で涙をふき取り、ミサは勇太に笑顔を向ける。

「さっきはごめんね…。もう、私なんか…なんて言わない。だから…」

「言わなくていいよ、一緒に頑張ろう」

いつもの調子に戻ったミサに安心した勇太は笑みを浮かべる中、ミサはふとあの言葉を思い出す。

「そういえば、昔の勇太君は才能がないって言ってたでしょ?もしかして…今の自分には才能あるー、って思ってない??」

「んん…!?」

急にジト目になったミサを見て、焦りを見せながら勇太はその時の言葉を思い出す。

「ああ、いや!?今も才能ないって!ただ、がむしゃらにやってるだけで…」

「本当にー?」

「本当だってぇ!!」

「おい、お前ら、何やってんだ!?もうすぐ次の試合だぞ!?」

いつまでも戻ってこず、心配したカドマツが練習室のドアを開け、2人に声をかける。

「あ、カドマツ」

「急げよ!!遅刻で不戦勝したって上に聞かれちゃあ、お前らのチームに出向している俺の立場がねーよ!!もうロボ太はスタンバイしてる!」

「ああ、すみません!いこう、ミサちゃん!」

「うん!」

勇太とミサが練習室を飛び出していく。

2人の後姿を見ながら、カドマツはミサがいつも通りの彼女に戻ったのを知り、安心した。



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第15話 当たらなければ…。

「これで…ラストォ!!」

南極の水中ステージで、ビームサーベルを手にしたアザレア・カスタムがそれをサンダーボルト版グラブロの頭部に突き立てる。

「うわああ!?ベスト4に進出した俺がこのセリフだけで退場!?」

どこかメタな発言をしたが、愛機の爆発に飲みこまれていく。

そして、2本のビームサーベルを利用して水上へと飛び出したアザレア・カスタムは氷上に着地し、そこまで待っていたバルバトスと騎士ガンダムにハイタッチする。

(準決勝第2試合、勝者は彩渡商店街ガンプラチーム!!これで、リージョンカップ頂点は佐成メカニクスと彩渡商店街ガンプラチームの2チームに絞られましたーー!!)

 

「やったーー!!次勝てばジャパンカップだー!!」

準決勝が終わり、控室に戻ったミサは嬉しそうにジュースを飲む。

勇太との戦いの後、自信を取り戻したミサの動きは格段に良くなった。

3回戦ではロボ太に誤射してしまったときと同じような状況が発生したが、その時はレールガンでピンポイントに敵モビルスーツの頭部を撃破することに成功した。

「うかれんなよ。決勝の相手はあいつらだ」

MCであるハルが言っていたように、決勝戦で戦うのはウルチとモチヅキがいる佐成メカニクスだ。

いずれのバトルも圧倒的な火力によって勝利を収めてきた。

それ故に、こういうチームとのバトルでは一発でも当たれば終わり、ということになる。

「ま、シャアが言ってただろ?当たらなければどうということはないって。ま、どうにかなるさ」

「むー…カドマツめ、自分はバトルしないのをいいことに…」

言うのは簡単ではあるが、実際に攻撃を回避するのは難しい。

数回の戦闘で軽く敵の攻撃をよけられるようになったアムロやフリットとは違って、自分たちは一般人だ。

勇太自身も、あれだけの動きができるようになったのは勇武との特訓という大きな下地があったからこそ。

「決勝戦まであと1時間。調整はできそうだ…」

ウォーターゼリーを飲んだ勇太はさっそく決勝戦のためにバルバトスの調整を始める。

スラスターの動きを再確認し、更に関節部分にはグリスを縫って滑らかにする。

「どうやら、やる気は満々ってところだな」

「だったら、私も!ロボ太!」

ミサとロボ太も勇太と一緒にそれぞれのガンプラの調整を始める。

となると、年長者であるカドマツも動き出さざるを得ない。

ノートパソコンでアセンブルシステムの調整をはじめ、こちらとしても勝てるだけの準備をすることにした。

(俺にはあいつらほどガンプラを動かす力はないが、こういうことなら負けはしねえ!勝負だ…モチヅキ!)

ライバルである彼女への闘志を燃やしながら、カドマツはキーボードを叩いた。

 

「みなさん、お待たせしましたーー!リージョンカップ決勝戦をお送りいたします!なお、決勝戦では特別ゲストとしてミスターガンプラにお越しいただいておりまーす!」

「よろしくぅ!」

ミスターガンプラと呼ばれたアフロヘアーとアロハシャツ姿の男性がハイテンションな様子であいさつをする。

彼はガンプラバトルでは史上初となるプロのファイターとして一世を風靡したレジェンドであり、8年前に引退してからはこうしてガンプラバトルの面白さを伝える日々を送っている。

なお、引退した理由はいまだに不明で、本人は病気になったから、だの神様からのお告げだの、ちょっと行方不明になったアムロの思念に導かれた、だのいろいろと訳の分からない理由をペラペラ話しているため、誰も真相を聞く気にならなくなった。

「ミスターガンプラ…兄さんがあこがれていた人…」

「ミスターガンプラが見てる…こうなったら全力で戦わないと!!」

ミサががぜんやる気になった一方で、勇太は兄があこがれていた男をこうして肉眼で見れたことを静かに喜んでいた。

それだけでも、勇武がいる場所に近づけたという実感がわいたためだ。

ミスターガンプラを見て、動きを止めている勇太の腕をロボ太が引っ張る。

「…ごめん、すぐ行くよ」

しかし、今は感傷に浸っている場合ではない。

目の前にいるライバルを撃破しなければ、ここよりも先にある、ミサが目指している場所であり、兄が目指した場所へたどり着くことができない。

ゆっくりだとしても、一歩一歩着実に、確かに進んでいく。

何のために、そしてどこへ進むのかという意思を確かにして。

勇太は走っていき、シミュレーターの前でウルチと対峙する。

「あれ…?ほかの選手は…?」

なぜウルチ1人しか出ていないのか気になりながら、ミサはきょろきょろし始める。

ウルチのいつも通りのけだるげな様子を見てわかるように、今回出撃するのはウルチ1人のようだ。

「…ということは…」

「ちぃーす…。ま、恨みはないけど、負けたら負けたで姐さんがうるさいからさ…本気でぶつかるよ」

最後の一言の瞬間、ウルチの目つきが変わり、鋭い眼光が3人を襲う。

(い、今のは…!?)

「じゃ、そーいうことで」

しかし、それを見せたのは一瞬だけで、疲れた表情を見せたウルチはそのままシミュレーターの中に入ってしまう。

「お、あの目になったなぁ…。ってことは、今回のウルチは相当やる気ってことだ!こりゃあ私たちの勝ちだなぁ!残念、カドマツぅ!」

ウルチがあのような目つきになるのはモチヅキにとって、かなり珍しいことだ。

だが、その目つきになった後のウルチが試合で負けたことがない。

いずれも圧倒的な勝利を見せつけている。

彼女にとって、それは勝利フラグだ。

それが勇太たちに通用するかどうかはいまだにわからないが…。

 

「それでは、リージョンカップ決勝戦を開始しまーす!!」

「両者ともに、思う存分戦ってくれ!!ガンプラバトル、レディー…ゴーーーー!!」

「沢村勇太、バルバトス、出るよ」

「井川美沙、アザレア、行きまーす!!」

「ロボ太、騎士ガンダム、出撃する!」

彩渡商店街ガンプラチームのガンプラが一斉に出撃し、ヒマラヤ山脈へ降り立つ。

猛吹雪のせいか、視界の多くが封じられており、頼りになるのは熱源・音響センサーだ。

「ミサ、敵はどこにいる?」

「ええっと、相手は…え!?」

急に熱源反応をキャッチし、アザレアのメインカメラを上空へ向ける。

「まずい…みんな、離れてぇ!!」

3機は別々の方向へ飛んでいき、3人がいた場所には大出力のメガ粒子砲が突き刺さる。

上空にはアプサラスⅡの姿があり、その巨体をミノフスキー・クラフトによって空中に浮かべていた。

「なんと佐成メカニクス、満を持してモビルアーマーを投入してきましたー!」

モビルアーマーはルール上、1機でしか出撃することができない。

そのため、かなり作りこみをした上にファイターの技量が高くなければ、とてもでないが扱いにくい。

それに、そういうタイプの機体は登場した後は対策されるのが常であり、出すとしたらこのような大一番の時が多い。

「どうやら、アプサラスⅡベースのモビルアーマーみたいだね。メガ粒子砲にミノフスキー・クラフトによる衝撃波、どれもモビルスーツにとっては脅威となる威力だ」

「そんなモビルアーマーに対しては、どのように戦えばよろしいのでしょう?」

「セオリーとしては、機動性を生かしてかく乱し、もろい部分を攻撃すればいい。デンドロビウムのむき出しのIフィールド・ジェネレーターを破壊してチャンスを作るみたいにね」

ハルとミスターによる実況が行われる中、勇太は破砕砲の照準をアプサラスⅡの頭部に向ける。

「その武器は危険すぎる!まずはそれを…!」

「それは撃たせないっすよ!」

破砕砲の破壊力を理解していたウルチはアプサラスⅡの前方の装甲を展開し、ビームガン2丁を装備した2本のマニピュレーターを出す。

そして、その2丁から放たれるビームの雨がバルバトスを襲う。

「主殿!!」

バルバトスの前に立った騎士ガンダムがシールドでビームガンを受け止める。

そして、アプサラスⅡの攻撃を阻止しようとミサはレールガンを向ける。

「破砕砲だけじゃあないよ!」

レールガンのT字型の質量弾がアプサラスⅡに向けて発射される。

速度は速いが、直線的なその弾道を見たウルチを笑みを浮かべ、アプサラスⅡの左サイドの搭載されている複数のサブスラスターを展開し、大きく横に避けた。

「ええ!?避けたぁ!?」

「姐さんが作ったアプサラスは…ただのアプサラスなんかじゃないってことっすよー!」

ミサのレールガンによる攻撃を回避し、勇太に向けてビームガンを連射し続けている間にアプサラスⅡのメガ粒子砲のチャージが完了、そのまま発射する。

「くそ…!」

破砕砲を手放した勇太はメガ粒子砲をよけると、バックパックにあるソードメイスを手にする。

そして、両足のビームガトリングガンを残弾を気にせずにアプサラスⅡに向けて撃ちまくる。

しかし、アプサラスⅡは今度は避けずにそのビームの雨を受け止める。

ビームを受けた緑色の装甲は一瞬赤く焼けた後で、元通りに戻ってしまった。

「アプサラスⅢの対ビームコーティングか…!」

目の前にいるアプサラスⅡがまるで別の何かに見えてきてしまう。

ビームガンを手にしたマニピュレーターを隠し、対ビームコーティングでビームを防ぎ、おまけに各部に追加したサブスラスターによって高まった運動性。

火力だけが取り柄と思い、どこか高をくくっていたのではないかと思った勇太はそのうかつさを恥じた。

「となると、あとはこれか!」

可能な限り接近し、ソードメイスの重い一撃を叩き込む。

阿頼耶識システムによって、より高い反応速度とプログラムに頼らない動きが可能になっているバルバトスであれば、不可能ではない。

「ハアアアア!!」

「こいつ…!」

跳躍し、そのままスラスターを全開にして上昇するバルバトスを見て、驚いたウルチはメガ粒子砲をゆっくりとバルバトスにむけて変えつつ、牽制のためにビームガンを連射する。

「主殿!!」

「援護するよ、ロボ太!!」

「任せたぞ、ミサ!!」

アサルトライフルを手にし、アプサラスⅡに向けて連射するミサに合わせて、ロボ太も上空へ向けて飛んでいく。

「どうだカドマツ!?こいつは当たるとどれも必殺級だぞー?」

自らが作ったアプサラスⅡに感動を覚えながら、モチヅキはカドマツに自慢する。

「何言ってやがる?昔から言うだろ?当たらなければどうということはない…てよぉ」

「ということは、当たるとどうにかなっちゃうってことだろぉ?」

「全部よけたらぁ」

自分たちがバトルをしているわけでもないのに、カドマツとモチヅキがお互いに張り合う。

そんな彼らの会話はダイレクトに勇太たちの通信にも聞こえており、それによって集中力がそがれたのか、ミサのアサルトライフルの弾丸がバルバトスをかすめる。

「あああ!!もう、カドマツ!!あんた見てるだけでしょーが!」

「姐さん、気が散るんでちょっと静かに!」

ビーミガンの弾が切れ、Eパックを交換させながらアプサラスを後ろに下げていくが、それでもバルバトスは追いかけ続けている。

すべてはこのソードメイスを叩き込むために。

やむなく、チャージが完了したメガ粒子砲の発射準備に入る。

「ぶっぱなす!!」

「ぶっ放される前に!!」

メガ粒子砲が発射されるかされないかというタイミングで勇太はソードメイスを投げつける。

ソードメイスはメガ粒子砲のビームをあろうことか真っ二つに切り裂きながらアプサラスⅡに向けて飛んでいく。

「んな…!?カドマツ、なんでビームが切れるんだよぉ!?」

モチヅキはどういうことだとびっくりしながら、ソードメイスを見る。

それは青いオーラを宿していて、バルバトスも同じように青く光っている。

「あれは…」

オーラを宿したバルバトスを見たミスターの動きが止まる。

あの青い光を見た瞬間、それに魅入られ、そして胸が熱くなっていくのを感じる。

何年も前から感じられなくなった、あの懐かしい熱がよみがえってくる。

「隙ありぃ!!」

ソードメイスが命中し、メガ粒子砲が機能停止となると、ロボ太がナイトソードで直接攻撃を仕掛ける。

刃が装甲を貫き、サブスラスターをつぶしていく。

「くっそぉ!!」

ソードメイスが突き刺さり、警報音が鳴り響く中でウルチはミノフスキー・クラフトの出力を高める。

瞬間的に高まったことにより、強烈な衝撃波が勇太とロボ太を襲う。

「ぐ…うわああ!?」

「うわあああ!!」

「勇太君、ロボ太!!」

衝撃波を受け、落下した2機にミサが駆け寄る。

覚醒しているためか、ダメージが軽減されているバルバトスはゆっくり起き上がったが、ロボ太の場合は強い衝撃によって右腕が破壊されてしまっていた。

「くっそーーー!ウルチぃ!こうなったら、奥の手だぁ!!」

「何!?まだあるのかよ!?」

「仕方ないっすね…まだ負けるわけにはいかないっすからぁ!」

一瞬強い光を発したアプサラスⅡが爆発し、装甲がはじけ飛んでいく。

「え、何々!?自爆!?」

「違う…あれは…」

覚醒したバルバトスのメインカメラが光りの中に現れる1機のモビルスーツ、正確に言うとアプサラスⅡの中にあったモビルスーツの姿をとらえていた。

アプサラスⅡと同じ色彩で、頭部がアプサラスⅡと同じザクⅡのものとなっている、サイサリス。

地球連邦軍で初めて、戦術核を搭載したガンダムだ。

右手にはすでにアトミックバズーカが握られていて、ラジエーターシールドによる自機への防御の準備もすでに完了している。

「隠し玉っていうのは、最後の最後まで隠しておくものだぞー、カドマツー」

「ぐうう…」

あれから発射される核は1発しか打てないものの、威力はサテライトキャノン以上の威力を誇り、ナノラミネートアーマーのモビルスーツですら消滅してしまう。

誘導性のなさをどうにかして、相手を射程圏内に追い込み、発射のチャンスをつかむことができれば、まさに最強の武器と言える。

そして、そのあとの戦闘のことは考えなくてよくなる。

このアトミックバズーカの攻撃範囲の中にいる敵はすべて消し飛んでしまうからだ。

「この勝負…」

「私たちの勝ちっすよぉ!!」

上空で浮遊するサイサリスのアトミックバズーカから弾頭が発射され、ヒマラヤ山脈の一画が白い光に包まれていった。




機体名:サイサリスS
形式番号:RX-78GP02AS
使用プレイヤー:宇留地環奈
使用パーツ
射撃武器:アトミック・バズーカ
格闘武器:ビームサーベル(サイサリス)
シールド:ラジエーターシールド
頭部:アプサラスⅡ
胴体:サイサリス
バックパック:サイサリス
腕:サイサリス
足:サイサリス

リージョンカップ決勝戦に登場したアプサラスⅡのコアユニットであり、最大の隠し玉となっていたモビルスーツ。
アプサラスⅡに格納されている間はそれに内蔵されているビームガンを使用して、周囲の砲台やミサイルからアプサラスⅡの防御を行う。
また、本編では行われていなかったが、ネオ・ジオングのコアユニットとなったシナンジュのように、そのままビームサーベルで格闘戦を行うことができる。
一番の特徴はアトミック・バズーカで、1度の試合で1発しか発射できないという大きなデメリットがあるものの、爆発に巻き込まれたら消滅してしまうほどのとてつもない破壊力を秘めている。
これを作ったモチヅキによると、これはできればジャパンカップ決勝戦で使って、みんなをびっくりさせたかったとのこと。
なお、アトミック・バズーカ使用後の武器はバルカンとビームサーベルのみとなる点は変化しておらず、それの解消のためにMLRSを搭載する予定だったが、アプサラスⅡのスペースの都合上、見送られた。


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第16話 忍び寄るライバル

核爆発の光の中に3機は姿を消し、会場は騒然とする。

「よっしゃーー!!これで、優勝は佐成メカニクスのものだー!どうだ、カドマツぅ!」

「いいや…」

「まだだ!」

カドマツとミスターの目はじっと映像に向けられている。

核爆発の光が消えたとき、会場がざわつきはじめ、モチヅキの目が丸くなる。

「んな…んな…そんな、馬鹿なぁーーーー!?!?!?」

爆風が消え、青い光のバリアが見えてくる。

その中心にはバルバトスがいて、アザレア・カスタムと騎士ガンダムも無傷でそのバリアの中にいる。

「た、た、た…耐え抜いたーーーー!!彩渡商店街ガンプラチーム!!アトミック・バズーカの核攻撃を耐え抜きましたーーーー!!」

「くっ…でも、まだ勝負がついたわけじゃないっすよぉ!!」

原作と違って、ラジエーターシールドはより頑丈な出来になっており、まだ両腕のマニピュレーターは動き、

シールドを投げ捨て、2本のビームサーベルを手に、3機に向けて突撃する。

「うおおおお!!!」

太刀を手にしたバルバトスが青いオーラを纏ったまま突撃する。

ビームサーベルと太刀がぶつかり合う。

サイサリスのビームサーベルの出力は最大となっている。

これであれば、たやすく太刀を熱で両断できるはずだったが、青いオーラに包まれた太刀を両断できず、むしろじりじりと追い詰められていく。

「そんな!?サイサリスがパワー負け!?」

「このまま押し切る!!」

「んなこと…認められない!!」

サイサリスがバルカンを発射し、バルバトスの頭部を破壊しようとする。

しかし、青いオーラに銃弾が弾かれていく。

「うおおおおおお!!!」

「姐さん…ごめん…」

そのまま押し切ったバルバトスの太刀でサイサリスが両断される。

地上へ着地すると同時に、真っ二つになったサイサリスが爆散した。

「決まったーーーー!!優勝は彩渡商店街ガンプラチーム!!ミスター、今回の戦い、いかがでしたでしょうか?ミスター、ミスター!!」

ハルが実況する中、ミスターは何も言わずにじっとバルバトスを見ていた。

サングラスによって両目が隠れているせいか、彼の表情が読み取れない。

「ミスター!!」

「ん…?ああ、すまない。年甲斐もなく感激してしまった…。いや、見事!!見事だったぞ!!佐成メカニクスのまさかの隠し玉!そして彩渡商店街ガンプラチームの連携!どちらもジャパンカップに出てもおかしくない!!」

「ミスターからのお墨付きをいただきました!優勝した彩渡商店街ガンプラチームのジャパンカップでの活躍をみなさん、ご期待下さーーい!」

 

そして、その日の夜…。

「それではー、リージョンカップ優勝を祝って…カンパーイ!」

「「カンパーイ!!」」

ミヤコの店で、勇太たちが乾杯し、ジャパンカップ出場権獲得のお祝いを始める。

カドマツを含むいつもの面々が店を貸し切り、飲み食いしているが、その中にはなぜか見慣れないメンツが2人いる。

「カンパーイって、なんで私らまで乾杯してんだ、馬鹿!?」

「ただ酒飲ませてもらって何が不満なんだよ?」

「そうっすよー、姐さん。せっかくなんだから楽しんでやりましょうよー」

すっかりこの空気になじんだウルチがマチオについでもらったビールをもう3杯も飲んでいる。

顔が若干赤くなっており、もっともっととマチオに空っぽになったグラスを出す。

「私のはジュースだ、飲めるか!!」

モチヅキのグラスに入っているのは酒ではなく、ただのオレンジジュースだ。

ミヤコに未成年と誤解され、アルコールを出してもらえなかったのだ。

実を言うと、2人は試合終了後、無理やりカドマツにここまで連れてこられたのだ。

宴会の代金は払わなくていいとのことだが、裏があるということは確信していた。

しかし、タダで飲めるのならどこでもいいとウルチが勝手に承諾してしまったため、こうしてここに来ている。

「いやー、さすがに未成年にはちょっと…」

「あの、ユウイチさん。モチヅキさん、これでもカドマツさんと同年代なんですよ」

「これでもってなんだぁ!これでもって!!」

「え…嘘!?本当に!?」

「悪いか!どうせ見た目は小学生だよぉ!カドマツ、酒よこせぇ!」

カドマツのそばにあるビーム瓶を奪い取ったモチヅキは瓶のままビールを飲み始める。

「ちょっと、一気飲みはダメだって!」

「あいつ…相当ストレスためてんだな」

こうして立て続けに見た目のことでいじられたモチヅキがこうしてやけ酒を飲みたくなるのは分かる気がした。

といっても、居酒屋へ行っても小学生と誤解されて追い出され、結果としてウルチに買ってこさせた酒を飲んでストレスを発散させている。

飲み終えたモチヅキの顔は真っ赤に染まっていた。

「ねえねえ、私にも若作りの秘訣を教えて!」

目を輝かせながらミヤコがモチヅキに迫る。

ミヤコにとって、モチヅキのその小学生のような若さを三十路になっても維持できていることがとてもうらやましかった。

そのせいで本人がどれだけ苦労しているのかを知らずに。

「作ってんじゃねーよ!!いいからおかわりのビーム持ってきやがれぇーーー!!」

顔を真っ赤にして激怒するモチヅキの火の粉がこちらに及ぶのを恐れた勇太は離れたところに避難し、そこでコーラをチビチビと飲み始める。

「まったく、カドマツさん…どうしてこの人たちまでここへ…」

「誠君、今日はありがとね」

唐揚げやサラダを持ってきたミサが勇太の隣に座り、そこでオレンジジュースを飲み始める。

「ん…ミサちゃん。偶然だよ。おんなじことをもう1度やれって言われてももう…」

勇太は核爆発からミサ達を守ったときのことを思い出す。

その時はミサとロボ太を守りたいという思いでいっぱいで、爆発を抑えたいと彼らの前で核の白い光に向けて手をかざしていた。

そして、その間にあの青い光のバリアが生まれて、3人は核爆発から逃れることができた。

「そういうことじゃないってぇ。私を励ましてくれた時」

「え…?ああ…。それ以外に思いつかなくってさ…」

「ってことは、誠君ってガンプラバカなんだね」

「バカって…なんだか馬鹿にされてる感じが…」

「褒め言葉だよ、褒め言葉。気分を悪くさせちゃってごめんね?」

笑顔を見せるミサは空っぽになったコップを置き、いきなり勇太の腕にしがみついてくる。

「ちょ…ミサちゃん!?」

貧乳であるため、女の子の柔らかい感触がわずかしか伝わらないものの、異性からこのようなことをされた経験のない草食系の勇太にとっては十分威力があり、彼の顔が真っ赤になっている。

よく見ると、ミサの顔も赤くなっており、鼻にはモチヅキやマチオらから感じるような変なにおいが入ってくる。

「ミ、ミサちゃん…もしかして…お酒、飲んじゃった!?」

「えー?お酒なんへ飲んれないよー…」

ろれつが回らず、スリスリと勇太にほおずりを始めてくる。

最初にチームを組むと言ったときは思いっきり抱き着いてきたのを覚えているが、彼女があんな大胆なことをしてきたのはその時だけだ。

(た、た…助けて!!カドマツさん、ユウイチさん、マチオさん、ミヤコさん、ロボ太!!)

心の中で大人たちとトイボットに助けを求めるが、彼らは大人の会話に夢中で、モチヅキは酔ったせいかぐっすりと眠っており、飲むのに飽きたウルチは料理に夢中になっている。

「勇太くーん…」

「え…?」

勇太の目の前に来て、両足を彼の背中に伸ばして逃げられなくしたミサは目を閉じる。

「え…ミ、ミサちゃん、何を…??」

「キス…して?」

「はぁ!?」

「チューしてー…いいれしょー…」

「あ、いや、ちょっと!?まだ僕たち、恋人同士じゃ…」

酔った勢いでキスを迫ってくるミサにすっかり勇太は気圧されている。

そこにはミサ達をピンチから何度も救ったエースの姿がなかった。

ゆっくりと顔を近づけてくるミサから逃れられず、顔を真っ赤にした勇太は目を閉じる。

しかし、いくら待っても柔らかな感触が襲い掛かることはなかった。

「あ、あれ…??」

目を開けると、ミサは勇太の肩に頭を置いた状態で眠ってしまっていた。

「おーおー、最近の子供ってのは大胆なんだなー」

「本当ね。もしかしてって思ったけど…」

「ええ、あ…その、僕は…いや、僕たちは!!カドマツさーん!!」

涙目になり、チームメイトであるカドマツに救いを求める。

彼なら自分たちは恋人同士じゃないことを説明できると信じた。

だが、カドマツは2人を見て、まるでいいおもちゃを見つけたぞって思っているかのようなニヤケた表情を見せている。

「おー、こいつは将来が楽しみだ。ユウイチさん、いいんじゃないですか?」

「そうだなぁ。彼になら僕のガンプラコレクションを…。いやぁー、あのミサに春が来るなんて…」

「カドマツさぁーーん!!!」

ホワイトベースからマチルダの死を悼んだアムロのような声がミヤコの店中に響き渡った。

 

「以上がタイムズユニバース百貨店各店舗の売り上げ収支です」

高層ビルの最上階にある広い部屋に入ってきた、黒いロングヘアーで黒いメイド服を着た日系アメリカ人の女性が白いTシャツと灰色のチョッキ、黒いスリムパンツを履いた金髪で青い瞳の少年に報告する。

メイドからUSBメモリを受け取った少年はすぐに自分のそばにあるノートパソコンを立ち上げ、USBメモリをさしてパスワードを入力する。

すると、Excelで作られた各店舗の収支データが表示され、マウスを動かしながら確認していく。

「ありがとう、ドロシー。ところで…あんまり売り上げが伸びていないところがあったけど…」

「はい。彩渡駅前店ですよ。ウィル坊ちゃま」

「彩渡駅前か…」

ウィルの脳裏に彩渡商店街という名前が浮かぶ。

日本のガンプラバトル選手権については、ニューヨークでも話題となっており、自分がよく読んでいるニュース雑誌にもたまにそれに関する記事が載ることがある。

たとえ興味がないとしても、こういう形で勝手に入ってきてしまうのだ。

数日前に購入した雑誌にそのような名前のチームがあったことをウィルは思い出した。

「時代に取り残された古臭い商店街をもう1度発展させるために作ったチームが確か…。けなげなことだ」

ウィルは外資企業タイムズユニバースのCEOを19歳という若さで務めている。

3年前に父親が病死し、後継者としてまつりあげられた。

元々、高校に行かずに経営学や帝王学などの会社経営に関するノウハウを父親に現場に連れていかれたり、知り合いの大企業の実力者から学ぶことで経営者としての才能を磨き続けており、最初は若造と馬鹿にしていた社員たちからの信頼を勝ち取っている。

なお、ドロシーは同い年で、小さいころから知り合った関係だ。

「責任者によりますと、その商店街の宣伝戦略が効果を上げているとのことです」

ドロシーはそれを証明するため、最近の彩渡商店街の利用者数や売り上げ予測の統計が書かれた書類をウィルに見せる。

確かに、タウンカップ優勝を果たしてからは、少しずつ利用者数が増えてきており、売り上げもそれに合わせて伸びてきている。

このまま勝ち進み、宣伝効果が高まると、彩渡駅前店にとっては厄介な存在になる。

「ガンプラバトル…」

ウィルは舌打ちしつつ、そのことが机の中にしまっている、それについて書かれた雑誌を手にし、ゴミ箱に投げ捨てた。

「ドロシー、日本行のチケットと滞在先の確保を」

「…」

「ドロシー?」

まさか、と思い、腕時計を見つつ、カクカクと顔をドロシーに向ける。

ドロシーはどこから出したのか、ドーナッツをあろうことか雇い主の前で平気で食べている。

「申し訳ありませんが、本日の勤務時間は数分前に終了しました」

彼女は残業はしない主義であり、定時になるとこうしてプライベートの時間を過ごし始めるか、帰宅してしまう。

数分ぐらいいいだろうと文句を言いたくなるのだが、彼女の仕事は的確で優秀であるため、ここは目をつぶらざるを得ない。

「残業代、出すからさ」

「お茶入れますね。いつ出発なさいますか」

ドーナッツをしまったドロシーはティーカップに紅茶をいれ、ウィルに差し出す。

スケジュール表を見始めたウィルはゆっくりと紅茶を飲み始める。

「今すぐだ」

「なるはや…すぐ手配いたします」

お辞儀をしたドロシーは空港に交渉をするため、席を外した。

ドロシーを見送ったウィルは重役たちにメールを送り、不在中の指示をある程度出しておいた後で、自社の保有株式の情報を確認する。

その中でも、スリーエスの株式に関しては既に6割以上を保有しており、支配株主としてその企業は完全にタイムズユニバースの子会社化している。

「さて…汚いビジネスに手を染めた無様な大人には報いを受けてもらおうか。世界を浄化するために…」

ノートパソコンからピロリンと音が鳴り、1件のメールが入ってくる。

セキュリティソフトでチェックをした後で開き、中身を見たウィルは笑みを浮かべる。

「そうだ…。これでいい。これでこの企業を浄化できる」

 




機体名:騎士ガンダム
形式番号:ASGT-02SD
使用プレイヤー:ロボ太
使用パーツ
射撃武器:なし
格闘武器:電磁スピア(ビームガン、パイルバンカー内臓)orナイトソード
シールド:ナイトシールド
頭部:騎士ガンダム
胴体:騎士ガンダム
バックパック:騎士ガンダム
腕:騎士ガンダム
足:騎士ガンダム

カドマツがロボ太用に用意した騎士ガンダム。
見た目は普通の騎士ガンダムと変化はないものの、勇太とミサの手直しにより、反応速度や機動性を中心に高まっている。
射撃武器はないものの、主力武器の電磁スピアにはビームガンとパイルバンカーを内蔵しており、ナイトシールドについてはトランスフェイズシフト装甲製となっている。
なお、ロボ太はSDガンダム以外のガンプラの操縦ができず、SDガンダムでの参加そのものがかなり少数であるため、珍しさから話題となることが多い。
バトルではフロントアタッカーを務めることが多い。


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第17話 予期せぬ再会

「うーん、このパーツだと確かに火力は上がるけど、燃費のことを考えると…」

「燃費なら、短期決戦で勝てば問題ないよ!」

「モビルアーマーやPG機体と戦うことになったら、そうは言ってられなくなるよ!」

ミサの家で、勇太とミサがアザレアの改造について朝から議論を行っている。

ジャパンカップは夏休みに入る7月下旬に行われるため、2か月近く時間がある。

ジャパンカップ出場権を手に入れたチームはそれぞれ自分のガンプラの改造を行ったり、シミュレーターに入り浸ったりして準備を進めている。

日本一になれるか否か、それはこの2か月の積み重ねにかかっている。

「でも、レールガンのままだと弾数が…あ…」

急にミサのおなかが鳴り、お互いに会話が止まる。

朝から議論と改造をしていたせいか、2人とも何も食べておらず、そのせいでミサのおなかの音は勇太にまで聞こえていた。

「ええっと、もう2時か…。その、何か食べに行く?」

今日はユウイチが町内会の旅行に行っているため、家にいるのは2人だけで、ミサの勉強机の上には彼が昼ご飯代として置いてきた2千円がある。

そのお金があれば、どこか安い外食店で一緒に食べることができるし、そんなに食べないのであれば、マチオの肉屋でから揚げやコロッケ、メンチカツといった商店街ウォーク醍醐味のものを買ってもいい。

だが、ミサは返事をしない。

「あの…ミサちゃん」

「…うわああああん!!勇太君のバカぁーーーー!!こういう時は何も言わずにそっとしておいてよぉーーー!!」

「えええ!?!?」

突然泣き始めたミサはお金をもって部屋を飛び出していく。

あまりにも急なことで動くことができなかった勇太は呆然と開けっ放しになったドアを見ていた。

(もしかして、こういうのって気にするのかな…?)

 

「もう、勇太君のバカバカバカ!!」

商店街を出て、表通りを歩くミサは頬を膨らませながら勇太への不満を漏らす。

勇太とチームを組んでから1か月以上経過し、彼の人となりはある程度理解できるようになった。

女の子の心境をあまり理解できていないということも少しはわかっているが、それでも不満を持ってしまう。

「こうなったら、勇太君の分も食べちゃうもん!!」

「ティッシュいかがですかー?」

どこのファミレスで食べようかと考えながら、ミサは声が聞こえた方向に目を向け、ティッシュを手にする。

だが、その人物の顔を見た瞬間、お互いに固まってしまう。

「「あ…」」

ミサの目に映っていたのは、駅の近くにある飲み放題付きカラオケ店の制服を着たサクラだった。

 

「お待たせしましたー。こちらはランチのポークカレードリアでございます」

ウェイトレスが持ってきたドリアをサクラは大急ぎで食べ始める。

食べ終えると今度はドリンクバーで何度も野菜ジュースを入れては飲みを繰り返していた。

「す、すごく…おなかがすいてたみたいですね…」

ひきつった笑みを浮かべつつ、ミサはハンバーグを食べ始める。

ランチメニューであるため、価格はいつもよりも安くなっていた。

「それはそうよ…。路銀がなくなっちゃったから…こうして、アルバイトを…」

「でも、なんで愛知に帰ってないんですか?」

ミサにとっての疑問はそれだ。

勇太が前に住んでいたのは愛知で、サクラとミサが出会ったのは1週間前。

リージョンカップも終わったため、愛知へ帰ってもいいはずだ。

「観光よ。せっかく東京へ来たんだし…」

「アルバイトしながら観光って…」

確かにリゾートバイトという、旅行しながらバイトをしてお金を稼ぐというのはある。

しかし、それでティッシュ配りのバイトは聞いたことがない。

それに、東京都内でのリゾートバイトの場合は時給が1000円以上であることが多く、ここまでおなかをすかせることはないはずだ。

(もしかして、勇太君のことが気になって…)

 

「ん…ハクション!!」

ミサの部屋の中で、独りぼっちになった勇太がくしゃみをする。

(誰かが噂してるのかな…?って、それよりも、ミサちゃん…そろそろ帰ってきてもいいころ合いなんだけどな…)

 

「じゃあ、どこで泊まってるの??」

「ネット喫茶で」

「めちゃくちゃ体に悪そう…」

ネット喫茶は2000円近くの出費で寝泊まりできるうえにドリンク飲み放題なところが多く、ネットや漫画があるため、ある程度娯楽を楽しむことができる。

しかし、シャワールームの使用時間は限られているうえ、当然のことながら風呂もベッドもない。

きちんと睡眠をとるという点ではカプセルホテルと比較するとかなり見劣りがある。

そんなところに年頃の女の子が1人で寝泊まりするのは危ない。

「言い返せないわね…。結果としてあなたにおごられる形になったんだし…」

「あ…そうだ!ウチに泊まっていくのってどうですか??」

「…え?」

突然のミサからの提案に困惑する。

以前、ミサとガンプラバトルをしたときに、彼女に大きなダメージを与えている。

それにもかかわらず、そんな相手に家へ泊ることを提案するミサの考えが彼女にはよくわからなかった。

「その代わり、私にガンプラバトルとガンプラの作り方を教えてください!!」

「ええっ!?な、なんでジャパンカップで戦う相手にそんなことを教えないといけないの!?」

「そんなこと言って、またおなかペコペコになったらどうするの?」

ミサの指摘にサクラは口を紡ぐ。

現在、サクラの財布に残っている残金はネット喫茶での宿泊費を除くとたったの17円。

そのお金では当然食費を賄うことなんてできるわけがなく、週給とはいえ、次の給料日まで4日残っている。

腹を空かせて倒れてしまったとなると、首は避けられないし、それからまたバイトを探さないといけなくなる。

ネット喫茶に泊まるお金で愛知へ帰ればいいのに、という意見もあるが、今の彼女にはそのような選択肢はない。

背に腹は代えられない。

「それに、サクラさんの言う通り、今の私は弱いから…。勇太君と一緒に戦うためにも、もっと強くならないと…」

サクラとの戦いでの敗北、そして勇太とのガンプラを交換してでのバトルで、ミサは自分の力不足を実感し、自分のまだ気づいていない力も実感した。

サクラを倒し、日本一になるために、是が非でも強くならなければならない。

ミサはじっと打算のない純粋なまなざしをサクラに見せる。

「…その眼、勇太にそっくりね」

「え…?」

「いいわ。ただし、1週間だけよ。それから…もう1品注文させて。それなら、応じてもいいわ」

「…はい!!」

「それから、敬語はいいわ。それに、私のことはサクラって呼んで」

ウェイトレスを呼ぶベルを鳴らし、サクラはメニューを開いて何を注文しようか考え始めた。

「うん…ありがとう、サクラ。ってあれ?何か忘れてるような…ああっ!!!」

あることを忘れていたミサはハッとして椅子から立ち上がる。

次第に顔を青くしながらサクラを見る。

「どうしよう、サクラ…」

「…どうか、したの?あ、次は野菜がたくさん入ったミネストローネを…」

「はい、かしこまりました」

注文を聞いたウェイトレスは笑顔で返事をし、厨房へと戻っていく。

「…勇太君のご飯代も使っちゃった…」

 

「おなかすいたなぁ…」

机の上に置いてあるHGガンダムバルバトスルプスレクスの箱を見ながら、勇太はつぶやく。

家に帰っても食材がなく、これが終わった帰りにマチオの店で肉を買い、近くにあるスーパーで調味料や野菜を買おうと思っていた。

このまま腹をすかせた状態でガンプラを作っても失敗するだけだ。

「腹が減ってはガンプラバトルはできぬ…ってね」

幸い、自分の財布は持ってきているため、マチオの肉屋で唐揚げを買おうと思い、立ち上がろうとする。

「ただいまー…」

「あ、帰ってきた?」

1階からミサの声が聞こえ、勇太は再びその場に座ってミサを待つ。

数分するとドアが開き、そこにはミサとサクラの姿があった。

「あ、ミサちゃん…サクラさんまで…」

「またあったわね、勇太」

「ええっと、勇太君、あの…そのー…」

「ミサ、ちゃんと言わないとダメよ?」

フゥ、とため息をつきながらサクラはミサに諭す。

自分が食べた分の代金の正体については帰宅中に説明されており、こんなことになるのなら、意地でも断ればよかったと後悔した。

「勇太君、ごめんなさい!!勇太君のご飯代、全部使っちゃった…」

「…ええっ!?まさか…サクラさんに…??」

サクラがいるため、まさかと思いながら聞いた勇太の言葉を肯定するかのようにミサは首を縦に振る。

やっぱり、と思いため息をついた勇太は財布を手に取る。

「あの…勇太君?」

「適当に買って、食べてから帰ってくるよ…」

それだけ言い残すと、勇太は部屋を出ていく。

怒ってはいないが、少しがっかりしている様子で、それがミサの罪悪感を増幅させる。

(ほんっとうに…ゴメン!!今度何かおごるから許してね、勇太君!!)

 

「ごめん、勇太君!先帰ってるね!!」

「あ、うん…」

翌日、ホームルームを終えて下校時間になるとミサは真っ先に教室から飛び出していく。

さっそく今日からサクラによるミサの指導が始まる。

なお、サクラが泊まることについてはユウイチが快く合意した。

というのも、ミサと勇太の友達である彼女を放っておくわけにはいかないかららしい。

「にしても、すげえなあ。沢村と井川って。リージョンカップ突破して次はジャパンカップかぁ」

「ラッキーなことが多かったからね…」

「謙遜するなよ。もしかして…愛の力ってやつか?」

「あ、愛!?!?」

冗談半分に言われた言葉に勇太が顔を真っ赤に染める。

勇太の脳裏にはリージョンカップ優勝の打ち上げの時のことが浮かんでいる。

間違えてお酒を飲み、酔っぱらってしまったミサがあんなに大胆なことをしてきて、その時はものすごくドキドキした。

「で、実際のところはどうなの?沢村君!」

「ミサちゃんとはチームメイト以上に男女の…」

「う、うわあああああ!!!!!」

悲鳴を上げた勇太はカバンをもって教室を飛び出していった。

 

イラトゲームセンターのシミュレーターでは、ミサとサクラが乗り込んでいて、南極で模擬戦を行っていた。

「くぅぅぅ…!」

「違う、パターン化してる。そんなんじゃ、すぐに次の攻撃を読まれるだけよ」

ガンダムヴァーチェのバックパックに換装し、ミサイルポッドやフラッシュバン、マイクロミサイルランチャーといった実弾型のオプションパーツを取り付けたアザレア、アザレアパワードから発射されるミサイルの雨をサクラが操るジム・スケーターがフィギャスケートをするかのように華麗に滑りながら回避する。

より火力を増したアザレアに対して、ジム・スケーターは極限まで装甲を削っており、両足にはその名の通り、フィギュアスケートのスケート靴のパーツが取り付けられている。

百式のような避けて当てるという動きを想定したもので、武装もライフルとダガーナイフのみというシンプルな形となっている。

「だったら…!」

「読みやすいのよ、あなたの動きは!!」

GNキャノンを発射しようとしたアザレアの足場がライフルで崩される。

体勢を崩した状態で発射されたビームはどんなに火力があろうとあたるはずもなく、あらぬ方向へ飛んでいき、ガンペリーの残骸に命中した。

「もらったわ!!」

ダガーナイフを左手に握ったジム・スケーターが上空へジャンプし、そのまま転倒したザレアの胴体に馬乗りになる。

そして、コックピットめがけて刃を突き立てた。

ミサの敗北によってシミュレーターが終了し、2人は出てくる。

「相手は貴方の思惑通りに動かない。今回の場合は私に対する攻撃ではなく、氷を壊すことを考えれば、動きを封じ込めることができたわ」

「くうう…もう1戦お願い!」

「いいわよ、あなたの気が済むまで」

「ウヒャヒャヒャ…これはいいねえ。青春ってもんさぁ」

お金を投入し、再びシミュレーターに入った2人を見たイラトが嬉しそうに笑いつつ、そろばんを弾く。

「青春、ですか?」

「そうだとも。若いもん同士、ライバル同士が切磋琢磨してお互いに高めあう。これが青春と言わねえで難になるんだい?」

青春について語ってはいるものの、本音はこうしてバンバンお金を落とす2人の客の存在がうれしいだけなのだろう。

インフォはそれを口にすることなく、ほかのゲーム機の点検を開始した。

対戦格闘ゲームのチェックを開始したインフォがプログラムチェックのためにマニピュレーターをセットすると、一瞬だけブルッと体が震えた。

「うん?どうしたんだい、インフォ。ロボットのくせにさむがって」

「…いえ、なんでもありません(なんでしょう…さっきの感覚…?)」

インフォはチェックを終えると、体内のプログラムの簡易点検を開始するが、特に問題はない。

気のせいだろうと思った彼女は、ガチャポンの景品の補充を始めた。




機体名:ジム・スケーター
形式番号:RGM-79S
使用プレイヤー:凛音桜
使用パーツ
射撃武器:専用ライフル
格闘武器:ダガーナイフ
シールド:なし
頭部:ジム改
胴体:ジム改
バックパック:アクア・ジム
腕:ジム改
足:ジム改(スケート靴装備)

ジム改を南極のような氷上戦用に改造したガンプラ。
機体の装甲を極限まで削り、更に両足に自作のオプションパーツであるスケート靴を装備したことで、氷上ではファイターの腕次第ではプロのスケーターのような動きをすることが可能で、そのスピードとリズムによって相手の攻撃を回避する。
装備されている専用ライフルは従来のライフルと比較するとかなり切り詰めた形となっており、発射口が2つになっている。
上は実弾を、下はビームを発射でき、柔軟な対応ができるようになっている。
バックパックがアクア・ジムのものとなっており、水中用チューンも施されているため、水中戦も可能ではあるが、装甲を削ったため、ほかの水陸両用型モビルスーツと比較すると長時間深海で行動することができなくなっている。
なお、サクラのガンプラ共通の特徴として、色彩は白が中心で、乱れ桜のペイントがある。


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第18話 光の勇者 炎の戦士 ピンクの僧侶 白い妖精

「よし、ここに色を塗って…いや、この赤じゃないな。もっと鮮やかで、炎みたいな…」

ミサの家の機材を借りて、勇太は新しく作ったバルバトスルプスのパーツに色を塗る。

リージョンカップまで使用していたバルバトスのパーツはバルバトスルプスの物を除くと、自分が即席で作ったものをミサの手で完成させたものだ。

単独で作ったわけではなく、おまけに破砕砲や覚醒などの従来の物とは異なる要素もあるため、ここに来て、新規で作ることとなった。

せっかく作るのならと思い、色彩などに自分のこだわりを加えている。

特に、バルバトスルプスが白・赤・青のトリコロールなのに対し、今作っているそれはシンプルに白と炎のような赤だ。

また、頭部の後ろには放熱ユニットを取り付け、覚醒によって発生する熱の逃げ道を増やした。

色塗りを終え、組み立てた後で近くに置いてあるタオルで額の汗をぬぐう。

「暑いなぁ…6月なのに」

6月にもかかわらず、気温は28度を超えている。

ガンプラづくりに集中していたこともあり、彼自身もかなり熱が入っていて、あと少し暑かったら、クーラーをつけていたところだ。

出来上がった自分の新たなガンプラを見つめていると、机の上に置いてあるスマホが振動する。

それを手にした勇太は相手を確認した後で、電話に出る。

「はい、沢村です」

「おお、勇太か。ミサはそっちにいるか?」

「ミサちゃんはサクラさんと一緒にゲームセンターで特訓してます」

あの日から、ミサはサクラのもとでガンプラづくりやバトルの修行を受けることになった。

そのせいか、疲れた様子を学校などで見せることが多いものの、どこか充実しているような雰囲気を見せており、修行の成果も出始めている。

昨日の勇太との練習試合では、破砕砲やソードメイスを破壊して攻撃手段を封じ、足場を崩したり攻撃の反動を利用して回避するなど、戦略の幅を広げ始めている。

その時の戦闘は覚醒を使うことでぎりぎり勝つことができたが、ミサのレベルアップに驚かされた。

なお、カドマツにもサクラについては勇太が伝えている。

「それで…カドマツさん、何か御用ですか?」

「ああ。これからジャパンカップがあるから、ロボ太用の機体をどうにかしないとって思ってな」

「ああ…そうですね」

ジャパンカップとなると、リージョンカップと比較してかなりファイターとガンプラのレベルが変化する。

自分とミサが自らのガンプラを強化していることもあり、ロボ太の強化の必要性も増した。

勇太と同様フロントアタッカーになることが多い分、なおさらだ。

「俺の方で、いろいろ用意した。お前が前に作ってくれたパーツも役に立ったよ」

「え…?それって、どういう…」

数日前、勇太はカドマツからよくわからない設計図をもらい、それをミサの店の機材を借りてスクラッチビルドで

「それは見てからのお楽しみだな。ミサやそのサクラって女の子があっちにいるなら、好都合だ。そっちで落ち合うぞ。時間の方は大丈夫か?」

「そうですね…1時間後くらいなら」

「了解だ」

電話が切れると、勇太はスマホを置き、武器の調整を始める。

「バルバトス第5形態…いや、バルバトス・レーヴァテイン…かな?」

 

1時間後、約束通り勇太はイラトのゲームセンターに入る。

「イラトばあさん、この筐体コイン入れてもクレジット増えねーぞ!」

「もう1枚入れてみな!」

「なんだよ、1プレイ2コインだったらそう書いとけよな!?って、やっぱりクレジット増えねーじゃねーか!!」

「くく…アンタはゲーム開始前から呑まれているのさ。その筐体と、このアタシにね!!」

「アハハハ…」

金の亡者であるイラトのどこかのRPGの大魔王のようなセリフに勇太は力なく笑うしかなく、金だけとられることになったあの哀れな少年に同情する。

「あ、勇太君、カドマツ、ロボ太!!」

ちょうどプレイし終えたミサがシミュレーターの外に出て、勇太とカドマツ、ロボ太に向けて手を振る。

また、灰色のジャンバーを着たサクラもシミュレーターから出てきた。

(サクラさん、暑くないのかな?)

「よぉ、あんたがサクラって子か。俺はカドマツ、ハイムロボティクスのメカニックで、今はこいつらの世話をしてる」

「凛音桜です。2人がお世話になっています」

「んじゃあ、せっかくだから、4人でプレイしてもらうか」

「ん…?それはどういう…」

勇太の質問に答えることなく、カドマツはシミュレーターとノートパソコンをケーブルで接続する。

そして、カタカタとキーボードを数分操作すると、シミュレーターに新しいステージが追加された。

なお、自分で作ったステージを読み込み、プレイすることができるシステムは最近のアップデートで追加された新しいシステムだ。

「よし、お前ら。今追加したステージでボスを倒して来い」

「え…?その…ロボ太のことは…?」

ロボ太のパワーアップとそのステージのボスに何の関係があるのか?

もしかして未完成で、そのボスを倒すことで完成させることができるのか?

何も答えないカドマツに首をかしげながら、勇太はロボ太、ミサ、サクラと共にシミュレーターに入った。

 

「うわぁ、勇太君のバルバトス、すっごくイメチェンしてるー!」

RPGで出るような、中世ヨーロッパの城内を模したフィールドに出たミサは勇太のバルバトスを見て、目を丸くする。

熱血とは程遠いイメージの強い勇太に反して、今のバルバトスが闘志を宿した紅蓮の炎を宿しているように見えた。

「赤はエースの色だしね」

超大型メイスを手にし、これから現れる相手に備える。

ミサのアザレア・パワードとサクラのブリッツ・ヘルシザース、ロボ太の騎士ガンダムも勇太にならうように構えた。

「では、いくぞ。戦士ガンキャノン、僧侶ガンタンク、妖精ジムスナイパーカスタム!」

「誰がだ」

(ん…まさか、カドマツさん。ロボ太のプログラムに何か細工でも…)

いつもなら主殿、ミサと呼ぶはずの彼がまるでラクロアの勇者の主人公、騎士ガンダムになりきり、自分たちを旅の仲間の名前で呼んでいる。

おまけに今回のステージも、それに合わせた環境となっており、更にゴブリンザク数機と騎士サザビー、騎士ゲルググ、モンスタージャイアントジオングまで登場する始末。

「ま、まあ…いいか。前へ出るよ!ロボ太!」

超大型メイスで接近してくるゴブリンザク数機を弾き飛ばす。

初代メイスの倍以上の大きさのこのメイスは一撃で彼らをバラバラに粉砕していた。

しかし、ロボ太は前に出ないばかりか、勇太の言葉に一切返事をしない。

「あ、あれ…?」

「勇太、多分…今のロボ太君はロボ太君じゃないみたい」

「え…?じゃ、じゃあ…行こう、騎士ガンダム!」

「心得た、戦士ガンキャノン!」

勇太にうなずき、前に出た騎士ガンダムが電磁スピアを手にし、ビームガンで騎士サザビーをけん制する。

「うう…サイズ差のせいで狙いにくい…!!」

アザレア・パワードはミサイルやビームマシンガンで攻撃するが、小型なSDガンダム達はゆうゆうと攻撃をかわし続ける。

小型の目標を攻撃するのはミサイルの迎撃くらいしかやったことがなく、おまけに火力を重視しているアザレア・パワードではこういうタイプのものには対処しづらい。

「ミサ、相手の動きをよく見て。SDガンダムはいずれもコンピュータ制御。モビルドールと同じで、動きがわかればただの人形よ。それに…」

「逆に言うと、当たったらどうにかなっちゃうってこと、だね!」

ビームマシンガンの発射を辞め、アザレア・パワードは周囲の敵SDガンダムの動きを確認する。

バルバトスはさすがに超大型メイスで小型機との戦闘は無理と判断し、バックパックにマウントされているビームショットガンを散弾モードで発射している。

騎士サザビーは右へブーストステップして回避しようとするが、散弾になったことで攻撃範囲が拡大し、左足と左腕にビームがかする。

そして、このまま正面から攻撃は無理と判断し、背後へまわろうとした。

「今よ!」

「とぉりゃあ!!」

GNバズーカが発射され、騎士サザビーが自分から射線上に入る形でGN圧縮粒子の光に包まれていく。

ビームが消えたときには、射線上にいたはずの騎士サザビーは消滅しており、アザレア・パワードのモニターからも反応がロストしていた。

「当たった!!」

「見事だ、僧侶ガンタンク!」

「誰がガンタンクだ!?」

褒めてもらっているということは分かっているが、やはりおかしな呼び方に不満を覚え、文句を言ってしまう。

その間に、騎士サザビーが倒されて動揺を見せるゴブリンザクをブリッツ・ヘルシザースがビームライフルを連射して次々と撃破していき、目の前のモンスタージャイアントジオングに向けて左腕のギガンティックシザースを展開し、挟み込む。

モンスタージャイアントジオングは両手でギガンティックシザースの左右をつかみ、そのまま自慢の怪力で開こうとしている。

実際に、モンスタージャイアントジオングに握られている部分にはひびが入り始めている。

「すごい怪力ね。でも、一度挟まれたら最後…あなたは終わりよ」

ギガンティックシザースに内蔵された砲からビームが何度も発射される。

胴体を何度も撃ち抜かれたモンスタージャイアントジオングの力が弱まり、そのまま挟みつぶされる形で撃破される。

「全員、飛んで!!」

全員に通信を送った勇太は超大型メイスを床に突き刺し、破砕砲をバルバトスに持たせ、上空へ飛ぶ。

背中に天井を張り付け、両腕のワイヤークローを突き刺し、破砕砲の照準をステージ中央の床に向ける。

ミサ達が上空へ飛んだのを確認すると、破砕砲から一発の弾丸が発射される。

着弾と同時に床に大きなクレーターができ、それによる衝撃波で騎士ゲルググと生き残ったゴブリンザクが吹き飛ばされる。

「はああああ!!」

吹き飛ばされた敵機に向けて、ナイトソードを手にした騎士ガンダムが突っ込んでいく。

苦しまぬようにという情けか、それらの敵に一撃ずつ剣を叩き込み、攻撃を受けた機体は爆発した。

下へ降りたバルバトスは無傷で残っている超大型メイスを手にする。

「よし、先へ進むぞ」

破砕砲の余波でボロボロになった螺旋階段を騎士ガンダムが先に上っていく。

いつもならありえないようなロボ太の動きにきょとんとしながら、バルバトス達はスラスターを利かせて上昇する。

さすがにロボ太のように螺旋階段を上るのはサイズ的にも、階段そのものが受けたダメージを考えても、無理な相談だった。

 

「…誰だ、お前は?」

血が塗られているかのような赤い三日月が照らす広間の中、赤い玉座に座るサタンガンダムが正面のドアを切り裂いて入ってきた騎士ガンダムと3機のモビルスーツを見て、彼らに尋ねる。

SDガンダムであるにもかかわらず、ディビニダドクラスのサイズで、ロボ太達を見下ろすように見ている。

「私の名はガンダム!」

「ガンダム…?」

(いや、ロボ太でしょ?カドマツさん、後で直せますよね…?というより、まさかさっき戦ったのとサタンガンダムがロボ太の新しい機体として使えるようになるってじゃ…)

その場のノリについていけていない勇太はカドマツが言っていたことについて考える。

空気を読んで、口に出さないだけは立派かもしれないが、超大型メイスは自分のそばに突き刺しておいている。

「そうだ、貴様と同じ名前!私は自分の名前以外、何も知らない。なぜ、貴様と同じ名前なのかも知らぬ」

設定として、記憶喪失ということになっているロボ太がナイトソードの剣先をサタンガンダムに向ける。

「しかし貴様のやっていることは許せん!」

「なにこれ…」

(まぁ、考えるのはあとにしよう。あとは集中して…)

ミサがポカンとする中、何かの準備を終えた勇太は深呼吸をし、集中し始める。

「小賢しい…ッ!!雑魚は引っ込んでいろッ!!」

「キャア!」

サタンガンダムが持つ髑髏付きの杖が光り、そこから発生する稲妻がアザレアを襲う。

稲妻の直撃を受けたアザレアは後方の壁に吹き飛んでいく。

電撃を受けたことで、電子回路へのダメージの懸念があったものの、幸いなことにダメージは軽微で、戦闘続行可能となっている。

「ミサ(ちゃん)!!」

「僧侶ガンタンク!」

「誰がガンタンクだ!」

やはり納得できないのか、床に座り込むアザレアは右腕を上に掲げて抗議する。

「防御力が低い僧侶ガンタンクは敵に第一に狙われる…と…」

「サクラ!冷静に分析しないで!!」

「身の程知らずが…」

サクラに冷静に観察されるミサに対して、サタンガンダムが吐き捨てる。

仲間をバカにされたことで、ついに勇者の怒りが爆発する。

「っ…貴様は勇者の名を汚す者!消えて無くなれーーー!!」

「馬鹿め!消えてなくなるのはきさ…」

ズドォン、と大きな銃声が響き渡り、サタンガンダムの胸部に大穴が開く。

何が起こったのかわからず、サタンガンダムは胸の穴に手を当て、あおむけで倒れる。

「ありがとう、騎士ガンダム。おかげで準備ができたよ」

ロボ太を除く2人の目線がバルバトスに向けられる。

その手には破砕砲が装備されていて、銃口からは白い煙が出ている。

また、覚醒しているため、青いオーラに包まれており、展開された両肩と頭部後方の排熱ユニットから熱が放出されている。

頭の排熱ユニットからはポニーテール状の放熱索が出ており、余剰エネルギーがあるためか、光の粒子が発生している。

「…何、やってるの?」

「何って…名乗り終わったみたいだから、そのままズドンと撃っていいん…だよね?」

「当たり前…なわけないじゃん!!こういう前振りの時は遠慮するのがお約束でしょ!?」

「いや…だって僕、こういうの、よくわからないから…」

「言い訳じゃん、それ!!ちょっと空気を読んだらそれくらい…」

「ちょっと、2人とも。まだステージクリアになっていないわよ。ミサの言うお約束が…もう1つあるわ」

サクラの言葉で我に返ったミサと勇太は倒れたサタンガンダムを見る。

黒いオーラに包まれ、上空を浮遊しながら起き上がったサタンガンダムのマントが開き、それが巨大な悪魔の翼へと変化する。

「フハハハハハ、愚か者!そのような豆鉄砲で死ぬ魔王ではないわ!!」

「貴様…生きていたか!」

「これこそがわれの真の姿、その名は…モンスターブラックドラゴン!ガンダムを超えた存在だ!!」

高らかに自分の新たな名前を宣言し、杖を天にかざす。

すると、上空に黒い雷雲が出現し、それから次々と雷が天井を突き破って降り注ぐ。

「くっ…!!」

破砕砲を手放し、超大型メイスを抜いたバルバトスがその場を離れ、落雷は破砕砲を粉々に粉砕する。

「わわわ…こんな攻撃、見たことも聞いたこともないよ!!」

「さすがはファンタジー系RPGね…。そういう設定だと、この攻撃もありになる!」

モンスターブラックドラゴンに向けてビームライフルを撃つが、黒いオーラに阻まれ、霧散する。

「あのオーラ、バリアになってるの!?」

「ふん…あの戦士の戦士にあるまじき奇襲攻撃には驚いたが、この黒いオーラがあれば、いかなる攻撃も効かん!」

杖から放たれた黒いビームが騎士ガンダムのナイトソードの刀身を焼き尽くす。

「く…ならば、そのオーラが消えるまで攻撃を続けるだけだ!!」

「そういうことなら私も!!」

ナイトソードを捨て、電磁スピアを手にした騎士ガンダムが突撃し、アザレアがGNバズーカを最大出力で発射する。

騎士サザビーを消滅させたそのビームがモンスターブラックドラゴンに直撃する。

そして、ビームが消えると同時にその場所めがけて騎士ガンダムが電磁スピアで貫こうとするが、投げる直前にモンスターブラックドラゴンに胴体をわしづかみにされる。

「何…!?」

「馬鹿め…その程度の火力で我がオーラを払えると思ったか!?」

無傷のモンスターブラックドラゴンが笑いながら手に力を入れていく。

ミシミシと騎士ガンダムの体にひびが入り、更に落雷まで受けたことで電磁スピアが破壊されてしまう。

「ああ…ロボ太の最後の武器が!!」

「ロボ太!!」

もう騎士ガンダムと呼ぶ気がなくなった勇太が超大型メイスを手にモンスターブラックドラゴンに向けて、落雷をよけつつ接近する。

「フハハハハハハ!!」

笑うモンスターブラックドラゴンの目からビームが発射される。

追尾性のない、直線的なビームであったため、あっさりと回避できたが、そのビームは床や天井、更には落雷に当たることで次々と方向を変えていき、バルバトスのバックパックに命中する。

「しまった…!!」

バックパックへの攻撃によりスラスターにダメージが発生し、バルバトスは大きく失速する。

それを逃すまいと、モンスターブラックドラゴンは目から何度もビームを発射する。

何かに接触することで何度でも軌道が変化するそのビームはミサやサクラにとっても脅威で、もはや避けるだけで精一杯になる。

「おのれ…これまで、なのか…フラウ姫ーーー!!」

「覚醒の持続時間はあと1分。使えるのはワイヤー・クロー2基と超大型メイス。ビームショットガンは…無理か…」

バックパックへの攻撃により、サブアームも操作できなくなっており、マウントしているビームショットガンが使用できなくなっていた。

たとえ使えても、最大出力のGNバズーカをしのぐ黒いオーラを吹き飛ばすことはできないが。

破砕砲はすでになく、あとは運を天に任せて超大型メイスを投擲するくらいだ。

「…ノン、戦士ガンキャノン…」

「え…フラウ・ボウ、もしくはフラウ・コバヤシ??」

急に通信で聞こえてきた声にびっくりし、その声の正体と思われる人物を口にする。

「私はフラウ、ラクロアの姫です」

「え…?」

いや、声だけ聞いていたら間違いなくアムロに世話を焼き、ハヤトと結婚したあのフラウでしょ、と思いながらも、勇太は黙って彼女の話を聞く。

「サタンガンダムを包んでいるオーラは絶対防御の闇の力。普通の武器では破壊できません。しかし、ラクロア王国の伝説として語り継がれている三種の神器があれば、それを払うことができます」

「三種の神器…草薙の剣と八尺瓊勾玉、それから八咫鏡のこと!?」

「…今のあなたになら、それを召喚することができます」

「え…無視…?」

「あなたに宿る力のすべてをそのメイスに込めて、上空に投げてください。そうすれば…」

「まぁ…クリアするには、これしかないってことか!!」

通信が切れると同時に、勇太は再び集中し、バルバトスは立ち上がる。

バルバトスを包む青いオーラが超大型メイスにすべて吸収されていき、それが青い炎を宿したかのようなエフェクトを発生させる。

「いっけぇぇぇ!!」

上空の雷雲に向けて、超大型メイスを投げ込む。

雷雲を貫き、霧散させた超大型メイスはグングン高度を上げていき、上空に浮かぶ赤い月に命中する。

そして、月が砕けると同時に太陽が出現した。

「何ぃ…太陽、だとぉ!!?」

太陽の光で目がくらみ、力が緩んだすきに騎士ガンダムは脱出する。

そして、太陽から赤・緑・青の光が彼に向けて振ってくる。

光りを受けた騎士ガンダムはボロボロになった鎧と楯をパージし、炎の剣・力の盾・霞の鎧が新たに装備されていく。

「ば、馬鹿な!?三種の神器だと!?」

「これが…ロボ太の新しい力…??」

三種の神器を装備した騎士ガンダム、フルアーマー騎士ガンダムを見たミサはオオーッと目を輝かせる。

「感じる…フラウ姫の想い、皆の想いが神器に…うおおおおお!!」

紅蓮の炎を宿した炎の剣を抜いたフルアーマー騎士ガンダムがモンスターブラックドラゴンに突撃する。

炎に触れた黒いオーラは炎上し、その炎を突っ切る形で騎士ガンダムは懐にとりつく。

「おのれ…!オーラを破っただけでいい気になるなぁ!!」

再び握りつぶそうと手を伸ばすが、急にその場からフルアーマー騎士ガンダムは姿を消し、頭上に姿を現して盾で殴りつける。

光りの力が宿った力の盾の一撃を受けたモンスターブラックドラゴンの頭部からは白い煙が発生し、彼自身も激痛を感じている。

「馬鹿な…この私が、ガンダムを超えたこの私がーーー!!」

「貴様は超えたわけじゃない!力におぼれ、ガンダムを捨てただけだぁーーー!!」

炎の剣がモンスターブラックドラゴンを一刀両断する。

真っ二つになった魔王の肉体はそのまま炎で焼かれ、消滅してしまった。

 

「星降るとき、大いなる地の裂け目から神の坂を持ちて勇者現る。その名は…ガンダム。こうして、ラクロアに平和が訪れたのだ」

シミュレーターから出てきた4人の前で、カドマツがまるでストーリーテラーのようにエンディングのセリフを口にする。

ロボ太の手には三種の神器の換装パーツが握られていて、興味津々に眺めている。

「結局、フルアーマー騎士ガンダムがロボ太の新しいガンプラってこと!?」

「そういうことだ。あと、武者ガンダムとコマンドガンダム、武者ゴッド丸も作っといたから、必要に応じて使ってみてくれ」

「あのさぁ、カドマツ。別に戦う必要なんてなかったよね」

ミサの言う通り、あんなステージを作らなくてもパーツを渡して、それに換装してテストプレイをすれば済む話。

なぜこんなまどろっこしいことをしたのか、彼女には全く理解できなかった。

「ロマン…ね」

「そういうことだ。いやぁー、サクラちゃんは分かってくれてうれしいぜ。んじゃ、帰って寝るわ。徹夜でステージ作って、疲れたからなぁ」

フアアアと大あくびをしながら、カドマツはゲームセンターを出ていく。

ロボ太は勇太の手を引っ張り、シミュレーターへ連れて行こうとしている。

「…わかったよ。新しいパーツに慣れておかないとね」

仕方ないなと思い、勇太はロボ太と一緒に再びシミュレーターに入る。

カドマツが出ていったドアをじっと見ていたミサは大声で叫び出した。

「あれ全部、自作かよーーーー!!!!」




機体名:バルバトス・レーヴァテイン
形式番号:ASGT-00BR
使用プレイヤー:沢村勇太
使用パーツ
射撃武器:500mm破砕砲
格闘武器:超大型メイス
頭部:ガンダムバルバトス(頭部後方に放熱ユニット装備)
胴体:ガンダムバルバトスルプス
バックパック:ガンダムバルバトスルプス(ビームショットガンをマウント)
腕:ガンダムバルバトスルプス(両腕にワイヤークロー装備)
足:ガンダムバルバトスルプス(両腰にガーベラ・ストレートとタイガー・ピアスをマウント)
盾:なし

ジャパンカップに備えて、勇太が作ったガンプラ。
バルバトスそのものは元々、タイガーとの戦いのために即席で作ったものをミサが手直ししたものであり、性能よりも勇太自身の腕と覚醒によって勝ち進めることができた。
しかし、それはある意味ごり押しであり、ジャパンカップとなるとそれで勝ち進めるほど甘くないことから、バルバトスそのものは新規で作ったものを使用している。
覚醒の使用を鑑みて、頭部後方に新たに放熱ユニットを装備し、更に太刀についてはレッドフレームの刀であるガーベラ・ストレートとタイガー・ピアスを腰につけた鞘にマウントし、弾数に問題のあったビームガトリングガンを撤去した。
その代替措置として、バックパックにはビームショットガンがマウントされており、破砕砲とは異なり取り回しを重視して、銃身は短くなっている。
カラーリングは白と赤の2色で構成されており、その赤が炎に近い色になっていることから、炎の魔剣であるレーヴァテインの名前が加わることになった。
なお、超大型メイスの装備に当たりガンダムバルバトスルプスレクスの腕を採用するというプランがあったが、破砕砲がマニピュレーターと適合しなくなること、チーム戦ではミサの武器を借りるケースがあり得ることがあり、見送られた。


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第19話 サウンドファイター

「へっ、出るわ出るわ。けっこうなことや」

ガンダムサンダーボルト地上編で登場した東南アジアの森の中で、金色の逆立った髪をしていて、棒付きキャンディーを咥えた白い連邦軍ノーマルスーツ姿の少年がジャズ音楽を流しながら周囲の警戒をしている。

レーダーでは既に6機近くのガンプラの熱源を探知しており、彼らはたった1機のガンプラを探している。

「あの野郎、1人で好き放題しやがって…!」

「この前は俺のチームメイトを叩き潰しやがった!許さねえ!!」

彼を探しているファイターはみんな、彼に対して多かれ少なかれ恨みを持っている。

彼が流しているジャズ音楽はわざとなのか、コックピットの外にも聞こえるようにしており、そのため彼らはこの森の中をピンポイントで捜索することができている。

そんな中、急に森の中からティターンズ仕様のガンダムMk-Ⅱに近い色彩をしたガンダムケストレルベースのガンプラが飛び出し、上空から専用ビームライフルを発射する。

長い銃身のライフルから放たれる高出力のビームを受けた2機のガンプラの上半身が消滅し、下半身が爆散する。

「くっそぉ!いきなり2機も!!」

仲間がやられた4機がそのガンプラに向けてミサイルやガトリング、ビームで襲う。

しかし、バックパックとして装備されているトールギスのスーパーバーニアによって、殺人的な加速を見せながらその攻撃を回避し続けている。

「まったく、なんでワシが自分らのような雑魚とやりあわなあかんのや?」

「雑魚だと!!?お前のその口が気に食わないんだよぉ!!」

「雑魚を雑魚と言うて、何が悪いんや?小さいやつらや」

ビームや銃のわずかな隙間を利用して接近したケストレルが四肢の各部に搭載されているビームブレイドを展開し、射撃攻撃のために身動きを止めていた3機を一瞬でバラバラに切り裂いていく。

そして、残りの1機がビームジャベリンをもって接近してきたが、その穂先もビームブレイドで切り裂き、使用不能に追い込む。

「まったく、もうちょい骨の折れる相手ならよかったんやけどなぁ?」

「う、うわああああ!!!!」

最後に残ったイオク専用レギンレイズがレールガンを至近距離から発射するが、その瞬間ケレストルは背後に回り込む。

「終わりや…」

ドスン、と膝蹴りと同時にビームブレイドがバックパックとコックピットを貫く。

ナノラミネートアーマーで高い防御力を持っていたはずのレギンレイズはたった一撃で力尽きてしまった。

 

「どうしたの、ミサ?その程度なの??」

「まだまだぁ!!」

イラトゲームセンターのシミュレーターをプレイするミサとサクラはサイド3宙域で、アザレアパワードとブリッツヘルシザースに乗って互いにぶつかり合う。

最初のバトルではほとんど手も足も出なかったミサだが、今回はつばぜり合いを演じたり、ビームマシンガンで何度か被弾させることに成功するなど、成長を見せている。

少し前には、サクラの意表を突く形でGNキャノンでの攻撃に成功し、ギガンティックシザースの破壊に成功している。

(見誤っていた…ミサって子を…)

鍔迫り合いをしつつ、サクラは最初の頃のミサへの評価を撤回する。

ミサとサクラの指には短期間にかなりの回数のガンプラバトルをし、ガンプラづくりをしていたために包帯がまかれている。

「(少なくとも、努力と気迫については、もしかしたら勇太以上かもしれない…けど!!)ハアアア!!」

ブリッツヘルシザースの出力を最大にし、更にスラスターも全開にして、一気に力押しでアザレアパワードを追い詰めていく。

もう、手加減して戦う必要もなく、全力でぶつかり合うだけでよいと思ったからだ。

「なんとぉぉぉぉ!!」

しかし、ガンダムヴァーチェの太陽炉を搭載したアザレアパワードもパワーでは負けていない。

こちらもスラスターを全開にし、再びパワーでは互角の状態を生み出す。

 

「まだやってる…」

シミュレーター近くの休憩用のテーブルの前にあるソファーに腰掛けた誠は2人のバトルの様子をテレビで見ている。

机の上には個々の自動販売機で買ったコーラのペットボトルが置かれていて、ロボ太は自分の手でフルアーマー騎士ガンダムの調整を行っている。

「ロボ太、何か足りないパーツはある?」

シミュレーターのスピーカーがないため、しゃべれないことは分かっているが、一応勇太はロボ太に質問し、彼にペンと紙を渡す。

ロボ太はうなずくと、紙にパーツの絵を描き始めた。

まだ文字を手で書くことはできないようだが、絵を描くことで、スピーカーがなくてもコミュニケーションできるようになったらしい。

それは勇太とミサ、ファイターたちとバトルなどで交流したことで、プログラムが成長したからだろうとカドマツは分析している。

実際、カドマツが調べた結果、今のロボ太のプログラムは最初に設定されたものとは大きく変化しているとのこと。

「うん…?」

コーラを飲み終えた勇太がロボ太の絵を見ようとしたその時、ジャズ音楽が聞こえてくる。

音がしている方向はゲームセンターの出入り口で、そこには紺色のジャケットと白いTシャツ、そして薄緑色のワイドパンツを履いた金髪の、勇太たちとは同年代の少年で、腰には古い携帯音楽端末がぶら下がっており、その音楽が流れている。

「よぉ、相変わらずしみったれた商店街としみったれたゲーセンやなぁ」

関西弁の少年が両替機の点検を行っているインフォにヘッと笑いながら声をかける。

「いらっしゃいませ、ケンジさん。毎度注意してますが、ゲームセンター内では音楽プレイヤーにはイヤホンをつけて…」

「イヤホンつけてると音が悪くなんねん」

「ですが、周りのお客様のご迷惑に…」

「どうせそんなに客いないから、ええやろうが」

インフォの注意を聞かず、音楽を流しながら少年は空いているシミュレーターに入る。

「ねえ、インフォちゃん。あの人…前からきてる人?」

彩渡商店街ガンプラチームに加わってから1カ月以上経過しているが、こんな堂々とジャズを流しながら遊ぶ同年代の人がここに来るのは初めてだ。

にもかかわらず、新規の客の場合は登録を行いインフォがそれを行わなかった。

「ええ、あの人は…」

 

「フウウ…」

鍔迫り合いを終えた2機が少しだけ距離を置き、ビームサーベルを構えなおす。

「さあ…このままやってみせる!」

太陽炉は時間さえ確保すればエネルギーを回復させることができるが、バッテリーで稼働するブリッツ・ヘルシザースはエネルギーが一定値を下回るとフェイズシフト装甲がダウンし、おまけにトリケロスに搭載されているビーム兵器も使用不能となる。

長期戦となって、困ることになるのはサクラの方だ。

「私も、このまま終わるつもりは…!?」

「敵機!?」

2機のセンサーが新たなガンプラの反応をキャッチする。

同時にジャズが流れ始めて、コックピット内の2人の耳にも届く。

「ジャズ!?」

「このジャズソング…ということは!避けなさい、ミサ!!」

「ふぇ!?」

誰が入ってきたのかに気付いたサクラは一気に後ろへとび、彼女の声を聞いたミサも慌ててその場を離れる。

それと同時に、2機がいた場所を大出力のビームが焼き尽くしていく。

ネオガンダムに搭載されているG-バードに匹敵するほどのビームを見たミサの額に冷や汗が出る。

「今のって…」

「よぉ、ヘボいバトルをしとるみたいやから、飛び入り参加させてもらうで」

右手にメガビームランチャーを装備したガンダムケストレルベースのガンプラの中で、例の少年はバイザーを開き、棒付きキャンディーを咥える。

咥えたままニヤリと笑うと、再びメガビームランチャーを発射する。

あれほど高火力のビームをわずかな冷却時間で再度発射したことに驚くミサはわずかに回避が遅れてしまい、片足を焼き尽くされてしまう。

「うわわわ!?!?何よ、私とサクラの特訓を邪魔して!!」

いきなり邪魔をしてきた相手に腹を立てながら、ミサイルを発射する。

「駄目、ミサ!!」

「その程度のミサイルでびびるかぁーーー!」

四肢の各パーツに装着されているビームブレイドを展開させ、ミサイルのど真ん中を突っ込んでいく。

ビームブレイドで自機に近いミサイルを切り裂いていき、難なくアザレアに肉薄する。

「キャアアア!?」

いきなり接近を許してしまい、ビームサーベルを手にする時間もないミサはバルカンを発射するが、左ひじに装備されているビームマドゥでビームシールドを形成し、難なく受け止める。

(な、なに…このジャズを流している人…すごく、強い…!)

「こいつで…おっと!!」

ビームシールドを3本のビームの刃に変形させ、コックピットをつぶそうとしたそのガンプラは側面から飛んでくるインパクトダガーに気付き、アザレアをこの場で倒すことをすぐにあきらめて上昇して回避する。

ダガーが近くにあった木々に刺さった直後で、アザレアのメインカメラがブリッツ・ヘルシザースを映し出す。

「サクラ…!」

「気を付けて、あのガンプラ…ケストレル・フィルインは手ごわいわよ…」

サクラはミサに警告しつつ、自機の弾薬と推進剤、エネルギーの残量を確認する。

先ほどの特訓のせいでいずれもかなり消耗しており、おまけにギガンティックシザースも今は使えない。

エネルギーのことを考慮して、彼女が使える武器としたらバルカンとダガー3本。

そのダガーもミラージュコロイドと覚醒を利用した攻撃のための武器であるため、耐久性に難があるため、接近戦は避ける必要がある。

ケストレル・フィルインとインファイターな側面の有る彼を相手にする場合は、なおさらそうだ。

「ミサ、まだ使える武器はある?」

「ビームマシンガンはEパックを交換したら、まだ使えるよ。GNバズーカはもう少し粒子をチャージしてからで、マイクロミサイルランチャーとフラッシュバンはまだ残ってる」

「だったら、2人で倒すわよ…。協力してね」

「…うん!」

「ハッ、協力ねえ…。ええで、でもそんなんで勝てるとは思わんようにな」

音楽プレイヤーを操作し、アルバムを『フリー・ジャズ』にする。

オーネット・コールマンのサクソフォーンの音が響き渡る。

「いくで…ケストレル・フィルイン…!!」

 

「…ということは、彼って…」

インフォから彼について話を聞いた勇太は驚きを隠せなかった。

まさかこの商店街の関係者に当たる人物がライバルとして登場するとは予想していなかったからだ。

一緒に彼のバトルを見ながら、インフォは彼について教え始める。

「あの人は鈴森法介。大阪で暮らしている、マスターのお孫さんです」

「大阪…」

携帯を出した勇太は大阪のリージョンカップの情報を調べ始める。

優勝チームのメンバーの中には確かに彼の名前が存在する。

そして、ケストレル・フィルインという名前も。

「公式大会では異例ともいえる、音楽プレイヤーをシミュレーターに持ち込んでいるうえに、大音量で流していることからフィールドでも敵味方関係なく聞こえてしまう…。変わった人だな…」

ガンプラバトルでは本来、ファイターの集中力の維持や敵味方とのコミュニケーションの邪魔になりかねないことから、イヤホンをつけたとしても、音楽プレイヤーを持ち込むファイターはほとんどいないと言ってもいい。

確かに、試合開始前に自分を落ち着かせるために音楽を聴くプレイヤーがいることは確かだが。

しかし、彼の場合はイヤホンをつけることなく、外に漏れるぐらいの大音量で流している。

現にサクラはその音楽が聞こえたからホウスケの位置を知ることができ、ミサ共々最初の攻撃から逃れることができた。

「はい、ホウスケさんのお父さん、つまりマスターの息子さんは大阪で商社の営業を務めています。そのため、将来は彼が私のマスターになるかもしれません」

「大阪か…ここにあまり来ないわけだ。でも、なんで今ここに…?」

 

「おっと、まぁいらんわ。この長い獲物は」

ビームマシンガンでメガビームランチャーを破壊されたホウスケは迷うことなくそれを投げ捨て、四肢のビームブレイドを展開する。

上空に飛翔したケストレル・フィルインはそのビームブレイドを大きく展開し、それからビームライフルと同じ出力のビームを連続して地表に向けて発射していく。

ビームマシンガンと同じ連射速度かつ、ビームライフルと同じ出力。

その雨が密林に降り注ぎ、ミサ達を襲う。

「キャア!パーツが取れたぁ!!」

「けど、最初から全開でやっている。核融合炉搭載だとしても、長くはもたないはずよ」

同じような短期決戦型の戦闘を得意としているサクラだからこそ、その戦術の弱点がわかっている。

この攻撃は確かにきついものの、耐えきれないものではない。

何とか耐え忍び、攻撃が弱くなるタイミングにけりをつける。

ビームの雨の中をかいくぐり、その中でわずかに出力が低下したことをサクラは見逃さなかった。

「ハアアア!!」

推進剤の残量を気にせず、全力で飛行し、ケストレルに肉薄する。

左手にインパクトダガーを装備し、それを突き刺そうとする。

「そういうのはお見通しだ!!」

サクラがそのような動きをすることが分かっていたのか、右ひじのビームブレイドでインパクトダガーを持つブリッツの左腕を切断する。

そして、左ひざのビームブレイドで彼女にとどめを刺そうとした。

「…かかったわね!!」

「なに!?」

ビームブレイドが刺さると同時に、ブリッツがケストレルを右腕で抱き着くように抑え込む。

そして、サクラはコンソールを操作して右腕の関節を固定した。

「てめえ…まさか!!」

「ミサ!!」

「うおりゃあああああ!!!」

ブリッツにつかまれたケストレルの攻撃の手が止まり、GNキャノンのチャージが始まる。

GN粒子残量の問題があり、最大出力での発射には時間がかかるが、今は6割程度のチャージで十分だ。

左右のGNキャノンが火を噴き、ビームがブリッツもろともケストレルを飲み込んでいく。

「うおおおおお!!!」

ビームに2機のガンプラが飲み込まれていく。

数秒の照射ののち、ビームが消えていき、そこに残っていたのは右腕と左足を損傷し、頭部の右半分が黒焦げになったケストレルだけとなった。

ホウスケのコックピットに映る映像も右半分がブラックアウトしており、左半分にもノイズが発生しているせいで映像がゆがんでいる。

「…ハハ…アハハハハハ!!こいつはすげえ!!ケストレルをこんなにボロボロにするなんて、あんたらすげえ!!」

コックピット内で突然、ホウスケが大笑いしはじめ、地上にいるアザレアに目を向ける。

「よぉ、あんたが彩渡商店街ガンプラチームのリーダーか?さっきのブリッツともども、なかなかええバトルやった。んで…名前は?」

「…井川…美沙…」

突然乱入してきた相手の突然の笑い声に困惑したミサだが、名前を尋ねられたため、ここは素直に自分の名前を名乗る。

「それで、あんたはだれよ!?」

「ハハッ、俺がわからんか。ま、しゃあないのぉ。最後にあったのは小学1年生くらいやからなぁ」

通信機能が生きているのを確認すると、ホウスケはコックピット内の映像をアザレアに送信し、ヘルメットを外す。

バイザーによって隠れた素顔を見たミサは目を丸くする。

「ま、ままま…まさか、ホウスケ君!?」

「久しぶりやなぁ、ミサ!」




機体名:ケストレル・フィルイン
形式番号:MSW-004Fi
使用プレイヤー:鈴森法介
使用パーツ
射撃武器:メガビームランチャー
格闘武器:なし
頭部:ガンダムケストレル
胴体:ガンダムケストレル
バックパック:ガンダムケストレル
腕:ガンダムケストレル
足:ガンダムケストレル
盾:なし

大阪のリージョンカップ優勝者である鈴森法介が使用するガンプラ。
ベースとなったケストレルのカラーリングをティターンズ仕様のガンダムMk-Ⅱの物に合わせたものとなっており、外部武装がメガビームランチャー1丁のみとなっている。
しかし、このガンプラ最大の武器は火力ではなく高出力ジェネレーターから引き出される高い加速スピードと準サイコミュシステム「シャーマン・システム」による反応速度だ。
更に機体各部に装備されたビームブレイドはビームライフル及びビームシールドへの代替が可能で、ミサイルの弾幕の中を破壊しながら突き進むといった芸当が可能。
ただし、加速スピードがトールギスに匹敵する『殺人的加速』であるため、それがシミュレーターでもある程度軽減されているが再現されており、乗りこなすにはGに耐えられるように訓練する必要がある。


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第20話 勇太VSホウスケ

「ハハハ!まさかミサがガンプラバトルでここまで強くなっとるっては、びっくりやで」

ゲームセンターの大きなテーブルで、大笑いしながらホウスケは自販機で買ったジュースを飲む。

サクラと勇太は状況を飲み込めておらず、ミサに限ってはホウスケをじろじろ見ている。

「なんや、俺が何ぞおかしいでっか?」

「いや…どう見ても、小学校の頃のホウスケ君と重ならなくて、混乱してる…」

ミサの脳裏に浮かぶホウスケは今の勇太以上に人見知りで、目立つのを苦手としている内気な少年だ。

しかし、今の彼は黒かった髪を黄色く染めた上に、周りを顧みることないで好きなジャズ音楽を流す上にかなり明るくなっている。

とても当時の彼とイメージが重ならない。

「そういやぁ、ワレはミサのチームメイトみたいやけど…どうも頼りひんのぉ。気迫が感じられん」

「アハハハ…」

ジロジロと顔を見られ、そう指摘された勇太は苦笑いするしかなかった。

反論しようにも、基本的にシャイである彼にはその材料がなく、したとしても返り討ちにされるのがおちだ。

しかし、ミサはその言葉が気に入らないのか、不機嫌な表情を見せる。

「まったく、来るってんなら、連絡してこい!」

お茶を持ってきたイラトは少し怒った表情を見せながら、ホウスケ達にお茶菓子を出す。

金の亡者であるイラトがそのようなことをするのは普段ではありえない話だ。

表情には見せないが、孫である彼が来てくれたことがうれしいのかもしれない。

「ところで、ホウスケさんはいつまでこちらにいるんですか?」

「明後日までやな。そのあとは大阪に帰って、合同練習せにゃあ…」

「合同練習!?ってことは…」

「せや!大阪代表として、ジャパンカップに出場や!」

テーブルの上に片足を置き、天井に向けて右手人差し指を突き立てながら高らかに宣言する。

そして、そのまま人差し指を今度は勇太に向ける。

「そこでだ。沢村勇太!ワレと1対1で対決する!!」

「え、ええ!?」

急に指を刺され、宣戦布告された勇太は突然のことに驚き、目をきょろきょろさせる。

特訓のため、勇太の自分のガンプラを持ってきているため、勝負については応じることができる。

だが、なぜこのタイミングで受けなければならないのかがわからなかった。

「ファイター同士、出会ったらバトルするもんやろう?それとも、ミサの力になれん腰抜けと認めるんか!?」

「ちょっとホウスケ君、言い過ぎ!!」

「そんなんやったら、ジャパンカップで勝ち進むなんて、夢のまた夢や!!」

「ハァ…わかった。わかったよ!」

ため息をついた勇太はお茶を飲み干すと、彼のバトルの申し出を受ける。

そして、テーブルに置いてあるバルバトスを手に取る。

「ほぉ、それがワレのガンプラか。頼りひんくせに、無駄に赤いのぉ」

「頼りないは余計だよ。ふぅ…だったら、そんなことを2度と言えないようにしてやる…!」

さすがに頭に来たのか、勇太は怒りを見せながらホウスケに宣言する。

オオーッと興味津々に見つけるミサに対して、サクラは本当に勇太は彼に勝てるのかどうか疑問に思った。

彼のガンプラ、ケストレル・フィルインに対して、サクラは修行のせいで消耗していたとはいえ、ミサの助けがなければ攻撃を当てることさえできなかった。

また、彼は何も考えていなさそうに見えるが、実際にバトルをしたことで、その中でも自分なりに戦略を立てて、暴れまわることができていることに気付いた。

推薦枠から出場する彼女から見ても、彼は手ごわい。

 

5thルナ宙域のステージに、バルバトスとケストレルが現れ、2機は互いに対峙する。

『逆襲のシャア』序盤の場面を再現しているためか、5thルナは現在進行形で地球に向けて落下している。

「さてっと…この宙域で戦ったアムロとシャアのような、互角な戦いをしてくれることを期待するで?」

「満足してくれるかどうかは分からないけど…!」

そういうと、バルバトスが青いオーラに包まれていく。

ホウスケはホゥと興味深げではあるものの、あまり驚かずにその姿を見ていた。

「これが巷で話題の覚醒…。システムでは確かに存在するんやけど、使える人間が限られとるっちゅう…」

「ミサちゃんとサクラさんと戦っているところを見たからわかる。手加減しちゃいけないってことくらいは」

「だったら、俺も手加減なしでええっちゅうことやな」

ケストレルはメガビームランチャーを捨て、ビームブレイドを展開する。

そして、バルバトスは超大型メイスを握り、互いににらみ合う。

5thルナが地球へ落ちていく音だけが聞こえ、数秒間の静寂ののち、まずはバルバトスが前へ出る。

ケストレルは両肘のビームブレイドを大型化し、それからビームを連射する。

1発1発がビームライフルと同じ威力のそれをバルバトスは超大型メイスでコックピットを守りつつ、不規則に動き回りながら進んでいく。

その攻撃では無駄だと判断したケストレルはビームブレイドの発射を辞め、刃を出したままバルバトスに突撃し、つばぜり合いを演じる。

2本のビームブレイドで超大型メイスを受け止めているケストレルをモニターで見た勇太は驚きを隠せない。

「すごいパワー…これが、ケストレルの…」

「レーザーロケット推進器…。デラーズ紛争でアルビオンに搭載されていたレーザーロケットの改良品や!!」

惑星間航行を目的として開発されたその推進器が生み出すパワーは覚醒したバルバトスを上回っていて、バルバトスが押されていく。

そして、近くに浮かんでいる5thルナの破片に背中が激突する。

「くう、うう…!!」

覚醒したバルバトスがまさかの力負けをしていることに驚きつつ、危機を脱することを最優先に考え、ケストレルの横っ腹に蹴りを入れる。

異なる方向から突然の攻撃を受けたことで体勢が揺らいだ隙をついて、バルバトスはケストレルから離れる。

超大型メイスを投げ捨て、バックパックにマウントされているビームショットガンを手に取り、ケストレルに向けて発射するが、ビームシールドに変形させたビームブレイドで受け止められる。

破砕砲を使うという選択肢があったが、高い反応速度と機動力を誇るケストレルの前でそれを使用するのは自殺行為だ。

だが、結局接近を許してしまい、ビームブレイドでビームショットガンを切り裂かれる。

腰にマウントされているガーベラ・ストレートとタイガー・ピアスの2本の日本刀を引き抜き、ビームブレイドやビームマドゥによる変則的な連続近接攻撃をさばいていく。

覚醒と阿頼耶識システムによって反応速度が向上しているおかげで、今はさばくことができているものの、覚醒には時間制限があり、それが切れた場合に今のように守り切れるか自信がない。

合計6本のビームサーベルを持っていることになるケストレルの方が手数ではバルバトスを上回っているからだ。

「あの勇太君でもここまで一方的に…!?」

勇太の実力をよく知っているミサも映像で流れている現実を受け入れるのが難しかった。

そして、なぜホウスケがここまで実力を持ったのか疑問を感じ始める。

(ホウスケ君はガンプラバトルを小学校に入ってから始めてる…。勇太君にはブランクがあるから、バトルの経験では上回ってるかもしれないけど…)

技量についてもだが、覚醒したバルバトスを上回るパワーを発揮している理由がわからない。

秘密はケストレル自体にあるのかもしれないが…。

ビームブレイドとビームマドゥの連続攻撃をさばきながら、勇太はどうやって攻略すべきか考える。

考える中、タウンカップ決勝でカドマツが言っていたことを思い出す。

(ノーマルのシステムに最初っから入ってるけど、使用条件がわからないのさ。なんでも、時間制限があるが、爆発的に性能が上がったり、サイコフレームやバイオセンサーがついたモビルスーツが見せたような想定外の現象を引き起こすことができるらしい)

そして、リージョンカップ決勝でアトミックバズーカからミサやロボ太を守り抜いた時のことを思い出した。

「もっと…もっとできるはずだ…。覚醒の力は、こんなものじゃない!バルバトスだって…そうだろう!?」

答えが返ってくるわけではないことは分かっているのに、勇太はバルバトスに問いかける。

それに対して返事をするかのように、バルバトスのツインアイが一度点滅した。

同時に、阿頼耶識でつながっているせいなのか、なぜか意識が一瞬だがクリアになったように感じられた。

「こいつで…どうだ!!」

短期決戦型のケストレルも決着まで時間をかけるわけにはいかない。

バルバトスから距離を置き、両手を繋いで超大型のビームブレイドを発生させ、その刃がバルバトスに襲い掛かる。

覚醒したとはいえ、ガーベラ・ストレートとタイガー・ピアスはあくまでもサブ武装であり、強度はそれほど高いものではない。

ひび割れが目立っており、後何回耐えられるかくらいだ。

「なら…!!」

2本の刀を鞘に納め、両手を前に出して大出力のビームブレイドを正面から受け止める。

「避けずに素手で受け止める…ハハッ、おもろいでぇ!!」

ナノラミネートアーマーとはいえ、長時間ビームを受け止めているとコックピットに蓄積する熱量が限界を超え、それが原因で撃墜判定が出てしまう。

実際、熱は確かに伝わっており、耐圧服の中に汗臭さを感じる。

「まだだ…まだだぁ!!」

「見て!?バルバトスを包んでるオーラが…!!」

受け止める中、バルバトスのオーラの色が両手に集中していく。

そして、ビームブレイドをまるで紙を破るかのように両手でバリバリを分断していく。

「何やてぇ!?」

「ハァァァァ!!」

左手の青いオーラがバリアとなってビームを弾きながら中央に向けて突進していく。

「せやったら、こっちもぉぉぉ!!」

熱くなったホウスケは何かシステムを起動しようとしたが、次の瞬間、別方向から真上からバルバトスとケストレルに向けてビームが飛んでくる。

直線的なビームだったため、ケストレルは難なく回避し、バルバトスは右手で受け止める。

「乱入!?」

見上げると、そこには勇太にとって見覚えのあるガンプラが浮かんでいる。

緑を基調とし、ヒョウ柄の模様があるガーベラ・テトラ改がいて、そのガンプラのファイターが誰だか、すぐに気づいた。

「くそ…!闇討ち失敗かよ!?」

コックピット内で、タイガーは舌打ちする。

彼は2度にわたって勇太に、しかもろくな完成度ではないガンプラで倒されたという屈辱を受けたことで、元々初心者狩りをしていて悪かった評判がさらに悪化した。

ファイター達からは馬鹿にされ、タウンカップでも1分足らずで敗れたこともあって嘲笑の対象になるまで落ちぶれてしまった。

こうなったのは全部勇太のせいだと思ったタイガーはこうして彼に復讐する機会をうかがっていた。

暴力に訴えるのではなく、曲がりなりにもガンプラバトルで復讐しようとしている点はある程度評価できるが、そこまでだった。

「邪魔(だ)(や)!!」

2人の猛者のバトルに水を差してしまったことの意味をタイガーは理解していなかった。

飛んできたビームブレイドの刃が両足とビームマシンガンを貫いていく。

そして、バルバトスは右手にオーラを集中させた状態でそのまま正面に向けて接近していく。

「う、うわああ!?し、姿勢制御が!!」

両足を切られ、姿勢が狂ったタイガーのガンプラの胸部に容赦なくバルバトスの右拳がぶつけられる。

同時に拳から発生する青いオーラが衝撃波となって前方にさく裂し、タイガーのガンプラがバラバラになって吹き飛んでいく。

「うぎゃああああ!?何が、何が起きてるんだーーーー!?」

何が起こったのか理解できないままタイガーは青い光に包まれていく。

光りが消えると、そこにはタイガーのガンプラだったものの残骸が宙域を漂い、撃墜判定と共に消滅した。

これで覚醒が限界を迎えたのか、バルバトスの両手に集中していたオーラも消滅した。

「ハアハア…」

厚さに耐えられず、バルバトスの酸素供給システムを起動させてからヘルメットを取る。

冷たく心地いい空気がコックピット内に漂い、勇太は深呼吸してその空気を体内に取り込んでいく。

「続き…どうする?」

ケストレルに目を向け、問いかける。

覚醒はしばらく使えないが、バトルの継続自体には問題がない。

しかし、ケストレルはビームブレイドを止め、同時にジャズを流していた音楽プレイヤーも止めた。

「いいや、このまま決着をつけてもおもろない。どうせ決着をつけるなら、ジャパンカップでつけるんがええやろ?」

「…そうだね」

「楽しみにしとるで、ワレとのバトルを」

「うん…。僕も楽しみだよ、ホウスケ君…」

 

「勇太君、熟睡しちゃってる…」

「無理もないわ。覚醒をああいう形で使ったんだから…」

ミサとサクラはソファーに座ったまま眠ってしまった勇太を見ている。

バトルを終え、シミュレーターから出てきた勇太はソファーに腰掛けると同時にそのまま眠ってしまった。

リージョンカップ決勝戦でアトミックバズーカからミサ達を守り、優勝を決めた帰りの車の中でも勇太はパーティーが始まるまで眠っていた。

「覚醒はファイターにも負担がかかるわ。おまけにあんな形で制御した分、体力を余計使ってしまったのかも…」

「サクラもそれで疲れることがあるの?」

「そうね。力を増幅させるだけなら疲れにくいけど…私の場合はあの時見せたように、分身を使うこともあるから…」

おそらく、サクラの言う分身も覚醒によって発生するエネルギーを制御して発動しているのだろう。

勇太のように疲れを見せることはなかったが、もしかしたら実際は勇太以上につかれていたのかもしれない。

「それにしても、ホウスケ君、もう帰っちゃったなんて…」

シミュレーターから出てきて、勇太がこうして眠ってしまった後で、ホウスケは大阪に帰ってしまった。

イラトには埋め合わせをすることを約束したうえで。

おそらく、勇太とのバトルによって何か触発されたものがあったのだろう。

「さ…私たちも特訓を再開しましょう、ミサ。あの2人に置いていかれるわけにはいかないわ」

「うん!私も…勇太君と一緒に戦い続けたいから!ロボ太もどう?」

ミサの誘いに首を縦に振ったロボ太の手にはフルアーマー騎士ガンダムが握られている。

あのバトルを見たせいか、彼もバトルがしたくて仕方がないのだろう。

「じゃあ、3人一緒に特訓ね」

「了解!じゃあ、行ってくるね、勇太君」

耳元でつぶやいたミサは2人と一緒にシミュレーターに入っていく。

1人になり、インフォが機械の手入れをしている中で、勇太は静かに眠り続けていた。

疲れているにもかかわらず、どこかうれしそうな顔で。




機体名:アザレア・パワード
形式番号:ASGT-01AP
使用プレイヤー:井川美沙
使用パーツ
射撃武器:ビームマシンガン(ゲルググJ)
格闘武器:ビームサーベル
頭部:アカツキ
胴体:シェンロンガンダム(EW)
バックパック:ガンダムヴァーチェ(マイクロミサイルランチャー×2、フラッシュバン×2装備)
腕:インパルスガンダム
足:ローゼン・ズール(ミサイルポッド×2装備)
盾:シールド(Ez8)

アザレア・カスタムをジャパンカップに向けて改造したもの。
機動力よりも火力を重視した設計となっており、ミサイルや大出力のGNバズーカ、更に取り回しを重視したビームマシンガンと多彩な後方支援用の装備がそろっている。
また、動力源が太陽炉に変更されたことで推進剤を気にする必要がなくなった。
ただし、近接戦闘能力に関しては上昇しておらず、あくまでバルバトス・レーヴァテインとフルアーマー騎士ガンダムとの連携を前提としたコンセプトについては変更されていない。


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第21話 温泉へGo!

青々とした木々であふれる群馬の山中を一台の白いワゴン車が走っている。

トランクではロボ太が窓から外の景色を眺めていて、カドマツが運転している。

「うわー、きれーーー!!ねえねえ、勇太君も見てよ!この景色ぃ!」

ワクワクしながら外の景色を後部座席から眺めるミサが前の助手席に座っている勇太に声をかける。

しかし、今の彼はそんなことができる状態ではなかった。

「ううう…ミサちゃん、静かにしてぇ…」

顔を青くした勇太が背もたれに身を任せており、起き上がることができなくなっている。

「にしても、意外だぜ。バトルではあんなに激しい動きをしてるコイツがまさか車に弱いなんてなぁ」

「短い距離なら…いいですけど…こんな、長距離はちょっと…」

東京から群馬へ高速道路で移動していた際、気分が悪くなった勇太は何度もサービスエリアに止めてもらい、トイレに数分間籠ったことを思い出す。

まさか、ここまで車に弱かったとは思いもよらず、山の中でも嘔吐していたこともあり、サービスエリアでエチケット袋や酔い止めの薬を買っておいてよかったと心から思っていた。

最も、酔い止め薬については慰め程度の効果しかなかったようだが。

「ありがとうございます、カドマツさん。わざわざ車を用意してもらったばかりか、運転までしてもらって…」

「構いませんよ、これくらいはお安い御用です」

「それにしても、まさかリージョンカップ優勝特典が群馬での温泉旅館1泊2日だなんて…」

「温泉自体は毎年恒例のことみたいですけどね」

「あの…私も来てよかったんですか?」

後部座席にはミサとユウイチ以外にも、もう1人乗っている人がいた。

本来は別チームに所属するサクラだ。

自分が彼らと一緒に行くのは何かの間違いではないかと思い、少し申し訳なさげにミサ達に言う。

「温泉旅行の定員は5人だからね。それに、サクラちゃんはミサのコーチなんだから」

「そうそう!私にバトルを教えてくれたお礼くらいさせてよ!」

「お礼だなんて…それは泊めてもらえただけでもう…」

「まーまー、そんなこと言わないでー…」

「うーん、そろそろのはずなんだが…ユウイチさん。どうですか?」

カーナビの時計を確認したカドマツは後部座席のユウイチに質問する。

本当は助手席の勇太に地図を見てもらい、彼に聞くつもりでいたが、今の彼がこのような状態であるため、ユウイチに頼むほかなかった。

「道はあってます。となると…あと10分くらいでしょうか」

「あと10分!?もうすぐじゃん!」

「10分…長い…」

車酔いですっかりボロボロな勇太にはミサとは違い、その10分がとてつもなく長く感じられ、余計に気力が落ちてしまう。

こんな弱った彼を見たサクラは不謹慎ではあるが、クスリと笑ってしまう。

「そんなにつらいのなら、ミサに膝枕してもらったらどうかしら?」

「ひ…膝枕ぁ!?!?」

サクラの発言を一番近くで聞いたミサが耳まで顔を真っ赤に染め上げ、大声をあげてしまう。

頭の中では、勇太を膝枕する自分の姿を思い浮かべてしまっており、余計に恥ずかしさが倍増していく。

「て、て、て…ていうか、そそそそ…そんな、そんな余裕は…」

すっかり慌ててしまったミサは何度も噛んでしまう。

あまりにもわかりやすい反応にカドマツはため息をつき、サクラは面白そうに笑う。

「そうだな。じゃあ、旅館で部屋についたら、そうしてあげたらどうだい?」

「お父さん!?」

本来ならそんなことを一番に反対しなければならない父親のユウイチの明後日の方向な発言にびっくりしてしまう。

「うう、静かに…静かにぃ…」

一連の会話をまるで聞き取れず、騒音のように響いた勇太はグッタリとしていた。

 

「ついたぁーーー!!」

山肌にある旅館前の駐車場に車が止まり、真っ先に飛び降りたミサが背伸びをする。

遅れてサクラが下りてきて、カドマツはトランクを開けると、そこからロボ太が下りてくる。

一方、勇太についてはユウイチに肩を貸してもらう形で降りることになった。

「す…すみません…」

「構わないさ」

勇太の意外な一面を見ることができたユウイチはニコニコ笑いながら彼を旅館入り口まで連れていく。

入口には紫色の着物を着た、白髪の老婆が待っていた。

「ご予約されていた彩渡商店街ガンプラチームの皆さまですね。虎の門屋の女将のユハラです。お待ちしておりました」

「代表のカドマツです。ああ、ちょっと連れの1人が車酔いしてしまって、部屋の案内お願いできますか?」

「ええ。どうぞ、こちらへ…」

ユハラに案内され、カドマツらは部屋へ案内される。

3階建ての広い虎の門屋には多くの客が入っており、勇太たちが泊まることになるのは2階の3人部屋と2人部屋が1つずつだ。

3人部屋には男性陣が、2人部屋には女性陣が入ることになっている。

なお、それを知った際にカドマツに勇太とミサが2人部屋に泊まったらどうかと冗談交じりに提案した際、2人とも顔を真っ赤にしていたが、それはまた別の話だ。

「温泉は6時から24時まで開いております。ご自由にご利用くださいませ」

ユハラがお辞儀をすると、部屋を後にする。

「それじゃあ、私たちは…」

「温泉へ出発ーー!!」

荷物を部屋に置き、サクラとミサは先に温泉へ向かう。

「あいつら…俺らに勇太のことを押し付けやがって…」

「す、すみません…」

「大丈夫だよ。吐き気のほうは大丈夫?」

勇太が乗り物酔いから回復するまで、それから20数分かかることになった。

 

「うーーん!!気持ちいーーー!!」

体を洗い終え、温泉につかるミサは思いっきり背伸びをする。

家のお風呂とは違い、ミネラルたっぷりの湯がミサの体を潤している。

ここの温泉は露天風呂になっており、男湯と女湯は分かれている。

「それにしても、サクラ遅いなー。もう温泉に入っちゃったのに…」

「お待たせ」

戸が開き、タオルを巻いたサクラが入ってくる。

彼女を見た瞬間、ミサの目線は一気に冷たくなっていく。

「…どうしたの?」

なぜそんな目をするのかわからないサクラは首をかしげる。

自分の不満に全く気付かない彼女の態度にミサはさらに機嫌を悪くし、あろうことか舌打ちまでする。

(なに…?ミサが…怖い…)

バトルでも感じたことのないプレッシャーにブルッと震え、サクラは体を洗い始めた。

「…うわあああああ!!!」

かと思えば、急にミサは立ち上がり、思いっきり声を上げる。

突然なんだと思ったサクラはミサに目を向け、さらに岩でできた壁の上に目を向ける。

この壁の先に男湯があり、とある猛者が必死によじ登って女湯をのぞいたことがあるという。

しかし、彼はそのあと見られた女性から投げつけられた風呂桶が顔面に直撃し、それによって足を滑らせて転落し、全治1週間のけがを負って入院したとのこと。

(まさか、カドマツが…?)

念のために壁の上を見るが、そこには誰もおらず、男湯からは声が聞こえないため、のぞきの可能性が頭の中から消えた。

 

「ヘックショイ!!」

「カドマツさん、風邪ですか?」

くしゃみをし、鼻水を出したカドマツにユウイチはポケットティッシュを渡す。

勇太はようやく起き上がることができるようになり、今はせめてものお礼として彼らのお茶の用意をしている。

「いや…大丈夫ですよ。まさか、ミサかモチヅキの奴が俺の悪口でも言ってんのかぁ…?」

受け取ったポケットティッシュで鼻をかみつつ、自分のうわさや悪口をいうような人物を脳内でリストアップする。

ミサは年上である彼に敬語を使わず、あろうことか呼び捨てで読んでおり、モチヅキについては何かと理由をつけてこちらに突っかかってくる。

どうして自分の周りにはおしとやかな同年代の女性がいないのかとさえ思ってしまう。

そういう女性といきなり同僚や後輩でできたりしたら、カドマツにはすぐに告白しに行く自信があった。

「カドマツさん、ユウイチさん。濃さ、どれくらいにしますか?」

味の好みを聞くのを忘れていた勇太が戸棚から湯呑を探しながら尋ねる。

「ええっと、じゃあ俺は…」

 

「なんで…なんでサクラはスタイル抜群で、私はペチャパイなんだよーーーーー!?!?」

「ミサ、落ち着いて!!」

我を忘れ、叫び続けるミサをサクラは必死に抑える。

ジャンバーを着ていることからあまりわからないが、サクラはモデルのようなスタイルの持ち主であり、胸も誰が見てもわかるくらい大きい。

ZZで登場したキャラ・スーンほどではないが、Gガンダムのアレンビーくらいはある。

しかし、ミサの場合は悲しいことに、文字通りの貧乳だ。

確かに出っ張っているのは出っ張っているが、あまり目立たないつつましさで、そのためにサクラに強い劣等感を感じてしまう。

「うがーーーー!!あんたにはわかんないんだよー!!ペチャパイの悲哀ってやつをさーーー!!」

「わかった、わかったから、そんなことを大声で言っちゃダメーーーー!!」

まるで泥酔して泣き上戸になった人のように、今度は泣きながら大声で語り始める。

サクラ自身、もうすればこの事態を収束することができるのか、解決策を見出すことができずにいた。

 

「あの…ユウイチさん?どうもあの娘、とんでもない状態になってますが…大丈夫ですか?」

「うーん…これはちょっとかかるかなぁ…」

温泉につかるユウイチは体を洗うカドマツの質問に苦笑しながら答える。

去年はプールの授業で、胸のことをいじられた結果、今みたいな状態になってしまったことを二者面談の時に担任に教えられたことがある。

彼や現在は仕事で不在のミサの母親はどうにか、自分たちの愛娘の胸をどうにかできないか考え、食事などでいろいろ試みているが、なかなか成果が出てこないらしい。

なお、勇太はあったことがないためわからないのだが、ミサの母親も貧乳で、どうやら遺伝が関係しているものと思われる。

「そういやぁ、勇太はどっちが好きなんだ?」

「へ…?」

質問の意味が分からない勇太は首をかしげる。

というよりも、意味を理解したくなかったというほうが正しいかもしれない。

ここから始めるだろう、卑猥なトークに付き合いたくなかった。

ここまでの展開でそれくらいわかるだろうと思い、ため息をつきながら湯で体を流したカドマツはじっと勇太を見る。

「胸だよ。お前は…貧乳と巨乳のどっちが好きなんだ?」

「そ、そ、そんな大真面目に何とんでもないことを…!?」

真っ赤になった勇太は男の悲しい習性か、ミサとサクラの胸を妄想してしまう。

2度にわたって、ミサに抱き着かれたことがある勇太は彼女がちょっとだけ、ほんのちょっとだけだが柔らかいものがあることを理解している。

元チームメイトであるサクラについては言わずもがなだが。

なお、日本では1970年代くらいになるまでは逆に巨乳の方がコンプレックスの対象となっており、Aカップの女性の方が1980年代まで半数以上を占めていたらしい。

また、バランスのとれた生活をすれば、17歳でまだまだこれからのミサには成長の余地があることを忘れてはならない。

「ほら、さっさと答えろよ、勇太」

「ハハ…僕もちょっと興味があるかな」

なぜかユウイチがカドマツの加勢に入り、2人がかりで勇太を追い詰めていく。

ミサとサクラのどっちが好きなんだ、というのと同じ意味合いの質問をカドマツがしているにもかかわらず、だ。

「そ、そ…それは…それはーーー…」

心臓が激しく動き、ブルブルと体を震わせながらどういう答えを出せばいいか迷う。

この状態が3分続き、急に彼の視界がゆがみ始めた。

「お、おい!?大丈夫かよ!?」

「急いで部屋へ運ぼう!カドマツさん、運んだら冷たいタオルを持ってきてください!!」

(え…?何?僕…どうなっちゃったの…??)

のぼせて考える力を失った勇太は2人の会話がだんだん聞こえなくなってきた。

そして、状況を理解できないまま意識を失ってしまった。

 

「うう、うーん…」

ゆっくりと目を開けた勇太は木でできた天井を見る。

体は熱くなっているままで、頭も変な感じがする。

額からは冷たい感触があり、触れるとそれがタオルだということがわかる。

背中にはいつもより若干柔らかめの敷布団の感触がし、カドマツとユウイチがやったのか、下着と浴衣は既に着ている。

「ここは…?」

「あ、勇太君起きた?」

部屋の戸が開き、浴衣姿のミサが入ってくる。

手にはレトロな雰囲気のあるガラス製の2本の牛乳瓶が握られている。

「ミサ…ちゃん…?ということは…」

「そう!ここは私とサクラの部屋。ほら、飲んで!」

「あ、ありがとう…。でも、部屋だったら隣に…」

「べ、別にいいじゃん!」

押し付けるように牛乳を渡したミサは勇太の隣に座り、一緒に牛乳を飲み始める。

のぼせたとはいえ、やはり湯につかったばかりであるためか、発汗機能アップや貧血防止、リラックス効果のおかげか、いつも飲む牛乳よりもおいしく感じられた。

先日見た、昭和の人々の生活を描いた映画の中でも、ある親子が銭湯から出て牛乳を飲むシーンがあった。

風呂上がりに牛乳を飲んだことのない勇太はその意味がよくわからなかったが、今になってようやくわかったような気がした。

「それにしても、うれしいなぁ…。リージョンカップで優勝して、こんな副賞がもらえるなんて…」

「となると、ジャパンカップ優勝の時の副賞が楽しみだね。もしかしたら、海外旅行なんてのがあるかも」

「海外かぁ…。勇太君はどこへ行きたいの?」

「そうだな…僕は台湾かな?あんまり遠くへ行きたくないし」

「そんな理由で選ぶなよぉ!?」

つっこまれた勇太は牛乳を飲み終え、空っぽになった瓶を部屋の出入り口にある瓶入れに入れる。

ここに入れておけば、従業員が持って行ってくれる。

まだ頭痛がするとはいえ、ちゃんと歩けるようになったことから、治ってきていることがわかる。

「あれ…?そういえば、サ…」

「勇太君!一緒にテレビ見ない!?」

「え?どうしたの、急に…」

「いいから!!」

サクラが戻っていないことに気付き、探そうと思った勇太の腕を引っ張り、部屋にとどまらせたミサは机の上にあるリモコンを手に取り、備え付けのテレビをつける。

時代の変化のためか、置かれているテレビはブラウン管ではなく、薄型の物へと変わっており、インターネットにもつながっている。

ミサに手を握られ、出られなくなった勇太は観念して、彼女の隣に座ってテレビを見ることにした。

温泉から出たばかりなのか、彼女からシャンプーの匂いを感じてしまい、おまけに肌もきれいになっているようにみえ、心臓の高鳴りを感じた。

(さーって、7月末に行われるジャパンカップ注目チーム紹介の時間でーす!!)

インターネットで放送されている番組の1つであるガンプラ専門番組『ガンダム万歳』が流れ、ジャパンカップという言葉を聞いたミサの勇太を握る手の力が強くなる。

この番組が毎週水曜日の午後7時に更新されており、ガンダムファンがよく見ていることから、視聴率は下手な報道番組よりも高い。

(今回注目するチームは…彩渡商店街ガンプラチームです!!)

「えっ!?わ、私たち!?私たちのチームが注目チーム!?)

映像には勇太達のバトルの光景が映し出され、それらを見るたびにミサは目を輝かせていた。

(SDガンダムもチームに入っているという変わり種ですが、彼らの最大の武器は何だと思います?)

(それはやはり、粘り強さでしょう。最後の最後まであきらめず、ただひたすらに勝利を目指すところ!うらやましいですねぇー)

(さらには覚醒が使えるファイターもいる、というところも大きいですよね?)

(はい。覚醒が使えるファイターはごく一部ですし、それが与えるアドバンテージが大きいのは確かです。ジャパンカップで覚醒を使うファイター同士がぶつかり合う試合、期待できそうです!)

「期待できるって…。よかったね、勇太…君…?」

嬉しそうに勇太を見つめるミサは彼の顔を見て、動きが止まる。

放送を見ていた勇太の目から一筋の涙がこぼれていた。

「泣いてるの…?」

「え…?」

ミサの質問にびっくりした勇太は違和感を感じる頬に指をあてる。

そこにはミサの言う通り、涙のしずくがあった。

勇太自身も、自分が涙を流していたことに全く気付いていなかった。

だが、泣く理由が思いつくとしたら、1つしかない。

「兄さんのことが…話題にならなかったから、かな…?」

「勇武さんの…?」

「うん。死ぬ前までは、リージョンカップで優勝したりしたから、日本最強のファイターになる可能性のある若きホープって、持ち上げられていたから、僕がチームに入っているってことから、話題になるかなって思ってたけど…」

彼が事故死した後、週刊誌や新聞などのメディアでは若きホープの悲劇として、連日彼のことを話題にしていた。

一部では、この事故が彼の才能をねたんだ人々による陰謀ではないかとささやかれたこともある。

しかし、そのような報道は長続きせず、いつの間にか勇武のことは話題にすらならなくなり、一部のファイターがその名前を憶えているだけで、ほとんどの人から彼の存在が忘れ去られていた。

そうなると、彼の弟である勇太は彼と比較されることがないため、コンプレックスを煽られることはない。

しかし、自分があこがれていた兄が忘れ去られているという事実に悲しみも覚えた。

「勇太君、必ず優勝トロフィーを勇武さんに見せてあげよう」

「ミサちゃん…」

勇太の正面に座ったミサはじっと彼の眼を見る。

サクラとの特訓のおかげか、彼女の眼には強い自信が宿っていた。

必ず、ジャパンカップで優勝するという強い自信が。

「うん…君と一緒なら、できる…」

笑みを浮かべた勇太は優しく答える。

数か月前に会い、一緒に戦った日々が彼のミサへの信頼を構築していた。

一緒なら、どこまでも進むことができる、進化できると。

「「あ…」」

見つめあった勇太とミサは同時に顔を赤く染めていく。

しかし、どちらも相手の顔を見ているだけで、目をそらそうとしない、というよりもできない。

「…」

「ミ、ミサちゃん…??」

おもむろに目を閉じたミサを見た勇太の心臓が激しく動き始める。

温泉でカドマツに卑猥な質問をされた時以上の高鳴りを、今の勇太は感じている。

ミサの顔がゆっくりと近づいていき、それにつられるように、勇太も目を閉じて彼女に顔を近づける。

「ミサー、そろそろピンポンをし…に…」

ガラッとふすまが空き、浴衣姿のサクラの声が聞こえたことでびっくりした2人はゴチンと鈍い音を響かせる。

互いの歯がぶつかり合い、痛みで2人とも口を手でふさいでいる。

(あ…これは、もしかして…)

どういう状況か理解したサクラだが、時すでに遅し。

今のミサから、温泉の時以上にすさまじいプレッシャーが発せられていることを感じた。

「サクラ、この野郎ーーーーー!!!!!ボンキュッボンな体を見せつけるだけでは飽き足らないってのかーーーー!?!?」

「ミ、ミサぁ!?」

「ミサちゃん、落ち着いて!!」

「邪魔を…するなぁーーーー!!」

すっかり暴走してしまったミサを止めようと後ろから抑える勇太にみぞおちにミサの肘が直撃する。

鈍い一撃を受けた勇太は一撃で目を回し、あおむけに倒れてしまった。

勇太から解放されたミサは目をキラーンと光らせ、怪しげな笑みを浮かべ始める。

(ま、まずいわ…。ミサが、ミサが悪魔に…!)

「へへへへ…サークラさーん…。付き合ってあげるよ…ピンポン。泣いて許しを請うくらいに…」

「い…いや…」

ここからどうなってしまうのか、理解できたサクラは2人の邪魔をしたのを心の底から後悔した。

 

「あーあー、またこんなんなっちまって…」

ミサとサクラがいなくなった十数分後、部屋にやってきたカドマツは気絶した勇太をユウイチと一緒に男部屋へ運ぶ。

ロボ太が用意した布団で、勇太は横になった。

「にしても、いったい何があったんだ?急に、ミサの大声が聞こえたみたいですけど…」

「さぁ…?」

ユウイチも何が起こったのか予想できないようで、肩をすくめる。

答えを知っているであろう勇太がこの状態であるため、状況を知ることができなかった。

 

その日、2階のピンポン場が閉まる午前2時に従業員が掃除にやってきた際、床で横になっているミサと壁にもたれて座っているサクラの姿が目撃されたという。

ミサはぐっすり眠っていたのに対し、サクラは顔を青く染めてブツブツと何かをつぶやいていたという。

台の周辺にはつぶれたピンポン玉がいくつも転がっていた。



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第22話 初デート?

「うーん、うーん…」

「サクラ、どうしちゃったの?昨日はあんなに元気で、温泉にも入ったのに、こんなに苦しんで」

ユハラから持ってきてもらったタオルを水で冷やし、布団の中のサクラの額の上に乗せる。

今朝から彼女はずっとこの調子で、熱が出ているわけではないにもかかわらず、真っ青になっていて、かなり苦しそうにしている。

近くに住んでいる医者にお願いして、見てもらった結果は軽度の神経衰弱で、一日寝れば治るらしい。

ミサはその病気の原因が心労であると聞いた時は首をかしげていた。

「にしても、ついてねえなぁ。温泉に入った翌日に寝込むってのは…」

「サクラちゃんは僕とカドマツさんとロボ太で見ておくから、勇太君とミサは遊びに行ったらどうだい?」

「え、ええ!?」

「待って待って、お父さん!?どうして2人っきりで!?」

ユウイチの提案を聞き、2人は一斉に顔を赤くする。

同じ年頃の男と女が2人っきりでの外出、つまりはデート。

分かりやすい2人の反応をユウイチは面白そうに眺めている。

「いや…チームメイトなんだし、これくらい当然だと思うけど…違うのかい?」

「そ、それは…そうだけど…ああ、もう!!行こう、勇太君!」

「ミサちゃん!そんなに強く引っ張らないで!!」

勇太の腕をつかんだミサは彼を強引に引っ張りながら部屋を出ていく。

手まで真っ赤になっているミサのわかりやすい行動をカドマツはニヤニヤ笑いながら見物していた。

「にしても、いいんですか?お宅の娘さん、あの優男に任せて」

ガンプラバトルでは強い勇太だが、本来の彼はケンカもしたことがないような、よく言えば優しい、悪く言えば弱弱しいごく普通の少年だ。

明るいミサとはお似合いだとは思うが、父親であるユウイチがどう思っているのか、素朴な疑問を浮かべていた。

「うーん、任せる任せないというよりは…ちょっとうれしいっていうのが正しいかもしれませんね」

「うん…?まぁ、確かにあいつは…まぁ…」

「女の子らしくない、ですよね」

ユウイチを怒らせないように気を付けて言葉を選ぼうとしたユウイチがニコリと笑いながら、彼の言いたいことを当てる。

努力と根性がモットーで、いまだに男性の人口の方が多いガンプラバトルに熱中している彼女はほかの同年代の少女と比較すると子供っぽい。

人当たりがいいため、同性の友人を作ることは多いものの、異性の友人については勇太が初めてのことだ。

そのため、親として恋人、強いて言えば将来の結婚相手ができないのではないかと心配していた。

退屈にならないように、テレビをつけたユウイチはそれを見ながら答える。

「もしかしたら、見てみたいのかもしれませんね。ミサが信じられる仲間である勇太君とどこまで進むことができるのかを…。カドマツさんも、そのつもりでメカニックを買って出たんでしょう?」

「まぁ、そうですね…」

彼が彩渡商店街にレンタル移籍した理由の大部分は覚醒を使うことができる勇太だが、かかわるにつれてミサの存在も気になるようになった。

覚醒をうまくコントロールできず、悩む勇太を支え、一緒に戦ってきた彼女の存在も、もしかしたら勇太の強さにつながっているのではないか。

そう思うと、彼もまた2人から目が離せなくなっていった。

研究の一環として、定期的にロボ太を家に持って帰り、彼の話を聞くことがある。

彼はトイボットとして一緒に遊ぶという役割以上の意味で、2人と共にガンプラバトルをしたりして過ごすのを楽しんでいる。

そういう、ひきつける何かに2人と1機は引かれたのかもしれない。

もちろん、今ここでぐったりとしているサクラも。

 

「…」

「…」

街へ出た2人だが、どこへ行けばいいのか、そして何をしゃべればいいのかわからず、互いに目線を合わせることなく沈黙している。

「…ね、ねえ」

「…」

「んもう!!何かしゃべってよ!こういう時は勇太君がグイグイ引っ張ってよぉ!!」

沈黙が耐えられなくなったミサが八つ当たりするように勇太に要求する。

そんな無茶な、と言いたげに勇太は困惑する。

勇太には同年代の異性と2人っきりと出かけた経験が一度もなく、おまけに勇太自身は彼女が自分のことを好いているのかがわからない。

勇太自身も、ミサに抱いている想いがチームメイトとしてのものなのか、それとも好きな相手に対しての者なのかはっきりとわかっていない。

ただ、この空気を変えなければならないということについてはお互いに一致している。

「あ、ゲームセンターだ」

「え!?どこどこ!?」

ゲームセンターという言葉に反応したミサはキョロキョロと見渡す。

ちょうど、大判焼きを売っているお店の目の前に小さなゲームセンターがあり、インベーダーゲームやピンボールなどの昭和の古いゲームが置かれている。

2台あるピンボールのイラストは初代のガンダムとTV版Zガンダムのアニメの一場面となっており、初代の方はテキサスコロニーでビームサーベル二刀流となってマ・クベのギャンと戦うガンダムが描かれている。

一方、TV版Zガンダムについては炎上する香港の街で対峙するサイコ・ガンダムとガンダムMk-Ⅱが描かれている。

このような版籍作品とタイアップした台は末期のものであり、操作ミスをしない限りは半永久的にプレイ可能なうえにメンテナンスのコストの都合もあり、現在はほとんどのゲームセンターで姿を見せることがなくなった。

ゲームセンターの出入り口にはドアがなく、入り口の前に立つと、奥で煙草をふかし、パイプ椅子に座って新聞を読んでいる、ゲームセンターの管理人と思われる老人の姿を見つけた。

やはりというべきか、屋内にはいくつかゲーム機が置いてあるだけで、ワークボットの姿もベンチやテーブルもない。

100円玉を入れると、ピンボール台の各種ライトが光りはじめ、アニメで流れたBGMがそこから流れ始める。

「10万点以上で景品か…。頑張るぞー!」

真っ先にゲームを始めたミサは出てくる白いボールをフリッパーで打ち返し、ザクやグフ、ドムが置かれているヒットターゲットに当てていく。

遠距離支援型のアザレアを使っているだけあって、正確にヒットターゲットに当てている。

「僕も、負けていられないな!」

隣の台で勇太もゲームを始める。

バンパーに当たるたびにけたたましく音が鳴り、点が増えるたびに興奮が増していく。

自分たちの親が生まれる前にはやったゲームであるにもかかわらず、2人にはとても新鮮に感じられた。

「よーし、あとちょっと…そこだぁ!!」

トリプルドムが出現し、動くヒットターゲットに狙いを定めてボールを打つ。

一方、勇太が遊んでいる台には3機のハンブラビが現れた。

「僕も、負けていられないな」

このボーナスのヒットターゲットをすべて落として、次に現れるジ・Oを倒せば、目標点にぐっと近づく。

しかし、可変モビルスーツであるからか、トリプルドムと同じく動いているため、当てるのが難しい。

「ここだ!!」

狙いを定めて打つが、ヒットターゲットに当たらずにバンパーを介して何度も壁に当たりながら降りてくる。

しかし、最後に当たった場所が悪かったのか、ちょうどフリッパーとフリッパーの間をそのまま通るように落ちて行ってしまう。

「あーあ、ついてないね」

「まだあと1球残ってる。今度こそ…!」

最後の1球を出し、再びそれをハンムラビに向けて打つ。

ミサもエクストラボールを手に入れたものの、2球落としてしまい、そちらも最後の1球になっている。

プレイしている2人を見た管理人の老人が口を開く。

「2人とも、見ない顔じゃなぁ…。もしかして、恋人同士の旅行か?」

「「こ、恋人!?」」

二人仲良く顔を赤く染め、台に手を放して大げさなリアクションをしていると、両方の台のボールが落ちてしまった。

10万店まであと一歩といったところでのまさかの横やりにミサは激怒する。

「ちょっとおじいちゃん!?なんでここで邪魔をするのーーー!?」

「何を言うておる?社会というのは理不尽なことで満ち溢れておる。それを子供たちに教えるのが延長者の役割じゃろうて」

まるでイラトのような変な理屈で言いくるめてくる。

もしかしたら、ゲームセンターの管理者はみんなこういう性格で、金の亡者なのかと一瞬思ってしまった。

 

「まったくもぉー!なんであんなところで邪魔なんかぁー」

プリプリ怒りながら、勇太のおごりで買った大判焼きの2個目に手を伸ばし、歩きながら口に入れる。

「まあまあ、もう忘れようよ」

「勇太君もちゃんと文句言わないとダメだよ!!もう!あとちょっとだったのにー!」

理不尽なことをされたのに、怒らない勇太に腹を立てたのか、今度は勇太の分の大判焼きまで食べてしまう。

しかし、広場まで出ると見えたきた人混みが気になったミサは食べ差しの大判焼きを紙袋に入れた。

人混みの中心には地球連邦軍尉官の制服を着た青年がメガホンを使って周囲に声をかけている。

「えー、ここでは観光客限定特別ステージによるガンプラレースが行われていまーす!参加したい方はここに集まってくださーい!ただし、使えるガンプラはこちらが用意したパーツで作ったもののみとなりますので、ご了承くださーい!」

「ガンプラレース…」

観光地にはなじまない、メカニカルなシミュレーターと大型のモニターがそこにはおかれており、モニターには群馬の温泉の通りをベースにしたステージを疾走するバクゥやGファイターなどのガンプラの姿があった。

レースと称されているものの、やはりバトルの要素も加わっており、前を行くガンプラに対してライフルやグレネードで攻撃を加える、地雷を設置して後続を断つといった動きもみられる。

「うわぁーー!!こんなところでもガンプラが楽しめるんだー!勇太君!!やろ!!」

「う、うん…」

別にやりたくないわけではないが、ここまでガンプラの波が来ていることに驚きを感じながら、ミサに引っ張られる形でエントリーをする。

次のレースまではあと1時間以上時間があり、その間に参加者はガンプラを作る。

「1時間で作って、レースに参加か…」

「勇太君は20分くらいでバルバトスを作ったんでしょ?もしかしたら、1時間あれば2つは楽勝なんじゃない?」

「あれはただ動かせればいいってレベルででっち上げただけだよ。本当にいい機体を作ろうって思ったら、1時間じゃ足りないよ」

「じゃあ、2人で力を合わせて作る。これで、2時間分!!」

そういいながら、ミサはラゴゥのガンプラパーツが入った箱をニコリと笑いながら見せる。

「複座型か…。じゃあ、やろうか」

「うん!」

道具を借りて、場所を確保した2人はラゴゥの箱を開け、組み立てを始める。

しかし、ただラゴゥを作るだけでは飽き足らず、同じタイプのガンプラパーツを複数調達し、それらを利用した改造が行われた。

 

「それでは!!ガンプラレースの開幕です!!観戦したい皆さんはモニターにご注目ください!!」

1時間が経過し、観客は皆、モニターに映るスタート地点の光景を見る。

ガンダムエピオンやZガンダム、クラウダにジンハイマニューバなど、高機動型モビルスーツやモビルアーマーを中心にガンプラが並ぶ。

その中でマゼンタを基調とした、大型のバーニアを搭載しているラゴゥの姿もあった。

「よし…設定はこれでいいっと。ミサちゃん、準備はいい?」

「バッチリOK!」

後ろにあるサブパイロットシートに座るミサはニコリと笑いながらサムズアップを見せる。

「でも、いいの?君も自分で作ったガンプラで…」

「ううん。今回はこういう形の方がいいの!それに…勇太君も初めてでしょ?こういう形のは」

「まぁ、それはそうだけど…」

初心者の頃は、アドバイスを受けるためにサブパイロットシートに勇武かサクラが座って出撃するということが何度かあった。

あくまでアドバイスを受けるためであるため、機体の操縦はすべて自分でやっている。

そのことを踏まえると、一緒にガンプラを動かすということでの2人乗りは今回が初めてだ。

なお、今の勇太のノーマルスーツはSEED Destiny時代のキラのものになっている。

いつもの耐圧服姿ではかなりギャップが生じてしまうから、というミサの主張により、今回だけこのような服装となった。

かなりサイズに余裕をもって作られた耐圧服にすっかり慣れてしまっていたため、どうしてもノーマルスーツを着ていると違和感を覚えてしまう。

「そういえば、勇太君はどうしていつも耐圧服でバトルをしてるの?」

ミサはずっと気になっていた質問を勇太にぶつける。

耐圧服姿で出撃するファイターはかなり珍しく、タウンカップやリージョンカップでは勇太しかそれを着ているファイターがいない。

そのため。耐圧服のファイターと言えばだいたい勇太だということで意味が通ってしまう。

「うーん…最初に選んだから、じゃあ…駄目かな?」

少し考えた後で、勇太はその質問に答える。

しかし、勇太自身もどうしてこのスーツでバトルをしているのか疑問に思っていた。

ノーマルスーツと比較すると、サイズに余裕があるのは確かだが、それを比較すると重量があり、暑苦しい。

エアコンの機能がそれについていなかったら、もしかしたらミサ達と同じようにノーマルスーツを着用していたかもしれない。

「あ…そろそろ、レースが始まる。準備をして」

「…了解」

先ほどの答えは不満だったのか、少し不機嫌な表情を浮かべながら出力調整を始める。

目の前に信号が現れ、ゆっくりと色が赤から変化していく。

青になった瞬間、出場しているガンプラたちはスタートした。

「うわあああああ!?!?」

「スタートからしばらくは直線だ!!ここで差をつける…!!」

バックパックに搭載されているスーパーバーニアが生み出す爆発的な加速力に耐えながら、2人は突き進む。

4本脚に搭載されているキャタピラとかかとのあたりに補助用に装備された小型の車輪であるランドスピナーが激しく回転し、路上を滑るように走るラゴゥを支える。

「なんだ、こいつ!?めちゃくちゃ早いぞ!?」

「トールギスのスーパーバーニアだって!?だけど…このレースはバトルでもあるんだぜ!?」

ラゴゥのスピードに最初は驚いたGファイターのパイロットだが、このような出る杭は打つべきだと判断し、搭載されているビームキャノンとミサイルポッドで攻撃を始める。

「うわわ!?攻撃してきたよ!?」

「やっぱり、攻撃してくる…。ミサちゃん、ビームキャノンで後ろのガンプラを攻撃して!!」

そういいながら、勇太はラゴゥをわずかに左右にそらせたりして、ビームを回避する。

「りょ、了解!!」

ミサはビームキャノンを180度回頭させ、照準を合わせ、発射する。

ヴェスバーレベルの高出力ビームがGファイターの両翼をかすめる。

「な、なんだってぇーーー!?」

手痛い反撃を受けたファイターは涙目になっており、両翼を失って操縦不能となったGファイターがコース上に転落する。

「よし、今度はビーム撹乱膜を!!」

ミサイルによる攻撃の心配がある程度軽減されたラゴゥの肩部から筒状の物体が複数発射され、2秒後にそれらの物体が破裂して煙幕が出現する。

別のガンプラが発射したビームが黒い煙幕に触れると同時に減衰し、消滅する。

「勇太君!もうすぐ右へカーブ!!」

「うごぉ…ううう!!!」

カーブに差し掛かり、一気に減速させ、向きを変えていく。

スーパーバーニアによって一気に上げたスピードを落としていったことで、2人の体に衝撃が襲う。

「ぐうう…ミサちゃん、大丈夫…!?」

「私の方は大丈夫…だから、思いっきりやって!!」

「了解…!」

再びスーパーバーニアに火が付き、再び加速を始める。

ここからのコースは直線コースが少なくなるため、先ほどと比較すると若干スピードを落として進んでいく。

煙幕を突破したほかのガンプラたちもカーブに差し掛かり、次々と曲がっていく。

その中には曲がり切れずにコースや別のガンプラに接触し、爆発したものもあった。



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第23話 ライバル登場!?

「くう、う…!!」

背後から飛んでくる赤黒いビームを左によけてかわすが、そこへ飛んでくるミサイルがラゴゥに被弾する。

被弾個所はリアクティブアーマーとなっており、本体そのものへはダメージが発生していない。

しかし、回避地点を予測し、撃ってくる背後の2機に対する警戒感が増し、下手にスピードを上げることができなくなった。

ミサはビームキャノンの中央に搭載されているサブカメラから攻撃してきた2機のガンプラの姿を確認する。

1機はMA形態に変形しているレイダー制式仕様をベースとしたガンプラで、その上に載っているもう1機は赤いカラミティをベースとしたガンプラだ。

この2機はある程度走り、レース後半になってから一気に順位を上げてきており、現在は2位につけているだけでなく、3位を走っていたアンクシャを撃墜した。

そのとき、それに乗っていたファイターが「アンクシャがぁ…!」と前作主人公のカマセ犬となった金髪のエースパイロットのような発言を最後に残していた。

「勇太君!レイダーとカラミティ!!」

「フォビドゥンはなし。了解!」

アニメで見た3人のブーステッドマンのことを思い出しながら、勇太は頭の中で彼らに対する戦略を組み立てる。

「ミサちゃん、2機の画像をこっちに送って!」

「う、うん!!」

うなずいたミサはコンソールを捜査して、カメラに映った画像を送るが、同時にレイダーが口からビームを発射する。

急いで右へ機体をそらすことで回避しようとしたが、逸らした方向にビームが1度だけ曲がり、こちらを追いかけてくる。

「く…ビーム攪乱幕を!!」

煙幕を含めたビーム攪乱幕が展開され、ビームは減衰したものの、消滅には至らなかったのか、それがラゴゥをかすめる。

「キャアア!!」

かすめたことで振動が発生し、ミサは悲鳴を上げる。

振動に耐えながら、勇太は送られた画像を確認する。

レイダーの両腕部分に外付けされる形でフォビドゥンのバックパック両肩に搭載されている装甲の一部が取り付けられていた。

「ゲシュマイディッヒ・パンツァーか…!」

磁場によってビームの粒子を歪曲させる力のある装甲が頭をよぎり、先ほどのビームの説明をつけることができた。

(それのおかげで、レクイエムとフォビドゥンの再現を…!)

搭載されているのは両肩の2つのみのため、曲げることができるとしても、フォビドゥンのものと同じ1回だけだ。

あとは相手に回避パターンを読まれないように動けばいいが、それほど簡単にはいかない。

(依存していたツケが回った…阿頼耶識に!!)

ラゴゥにはサブパイロットであるミサもいること、そして鉄血のオルフェンズ由来のガンダム・フレームやマン・ロディ系の阿頼耶識搭載型モビルスーツのガンプラがなかったため、普段使っている阿頼耶識システムが搭載されていない。

当然、バルバトス・レーヴァテインでできた感覚的な動きを発揮することができず、代わりに搭載されている教育型コンピュータに頼ることになる。

原作とは違い、シミュレーターにはある程度学習済みの状態で使うことになるが、逆を言うとパターンができてしまうということになる。

最近のガンプラバトルで感じた、背中に何かがついている感覚があるのとないのとでも大きな差をひしひしと感じてしまう。

「ビームがダメなら、ミサイルならどうだぁ!!」

ラゴゥにオプション装備されている使い捨てミサイルポッドを残弾を惜しまずに発射していく。

しかし、上にのっているカラミティベースのガンプラの盾からGNファングが放出され、それから発射されるビームでミサイルを撃ち落としていく。

「ファング!?あれって、GN粒子がないと使えないはずでしょ!?」

「粒子貯蔵タンクか太陽炉があるんだ!それをファングの使用にだけ集中すれば…うう!!」

ミサイルを撃破したファングが今度はラゴゥに襲い掛かる。

相手はある程度回避パターンを読むことができるファイター、このまま回避するのは難しい。

「阿頼耶識がない分は…覚えてる動きで代用すれば!!」

横にあるコンソールの赤いボタンを押し、教育型コンピュータをカットした勇太はラゴゥを反転させる。

真後ろへ向けて走行を続けつつ、ラゴゥの口に装備されているビームサーベルを回転させる。

回転するビームサーベルがビームシールド代わりとなり、正面から飛んでくるビームを受け止めていく。

横や後ろから飛んでくるビームやファング本体は阿頼耶識搭載時に見せたような必要最小限の動きで回避していく。

 

「嘘!?この動きって…!」

カラミティベースのガンプラに乗るミサと比較すると薄めの茶色いボブヘアーの少女がラゴゥの動きの変化にびっくりする。

OSを2つ搭載することで、動きを大きく変えるというやり方は理論上では存在する。

しかし、不完全なバイオコンピュータと木星式OSの両方を搭載したファントムがそれが登場する作品の主人公であるフォント・ボーと相方AIのハロロの活躍がなければ起動すらできなかったように、相性の悪いOSを組み合わせるのはリスクが大きい。

「ミソラ、もしかしたらあのパイロット、ニュータイプかも」

「ニュータイプって、宇宙に住み始めたわけじゃないんだから、まだ人類はその段階に来てないよ。ツキミ」

「だな。さて、どうやって料理すりゃあいいんだー?」

ハネッ毛のある青い髪の少年、ツキミはこちらに目を向けたまま、障害物のあるコースをバックで走り続けるラゴゥを見る。

ビームキャノンの中央に小型のサブカメラのパーツがついていること、ラゴゥが2人乗りであることから、ガンナーが後ろの障害物の配置を確認して、メインパイロットに伝えていることは確かだと判断できる。

「どうする?このままだと、追い抜けないよ」

このまま先へ進むと、トンネルのある山に差し掛かる。

トンネルの大きなを見ると、カラミティを載せている状態のレイダーがその中に入るのは不可能で、無理に入り、地上すれすれでの飛行を続けたら、ちょっとのミスで機体が壁や路上に接触、バラバラになるのが関の山だ。

そこを抜けてすぐにゴールとなり、こちらは山を上空から越えなければならない都合上、ここでラゴゥを倒さなければ、1位になれない。

「決定打を欠くのがつらいっていうのは、こういうことか!」

 

「はあはあ…阿頼耶識がないから、いつも以上にこの動きをすると疲れる…」

カラミティとレイダーから飛んでくるビームやミサイルを回避しながら、攻撃の手が緩むとたっぷり深呼吸をして申し訳程度の体力回復を行う。

緊張もあって、のどの渇きも感じていて、水がほしくなる。

GNファングはすべて撃破したためか、もう撃ってこない。

「勇太君、もうすぐトンネルに入るよ!そこに入りさえすれば…!」

「トンネル…」

もうすぐトンネルに到達することは勇太自身もこのコースを何週も走っているため、わかっている。

ただ、勇太はレーサーではなく、ファイターだ。

そのためか、別の不条理な欲求が出てくるのを感じた。

(抜きたい…先を走りたいんじゃない。勝ちたい…)

勇太は残った武装と弾薬を確認する。

ビームキャノンはまだ使えるが、ビーム攪乱幕は弾切れで、爆雷は残り2つ。

ビームサーベルも使用限界が近づいており、それ以外の武装についてはスーパーバーニアともども弾切れ、燃料切れで強制排除している。

この状態で、勇太の望むとおりに勝つとなると、懐に飛び込まなければならない。

「ミサちゃん…ごめん。僕…あの機体と戦ってみたい…」

「ええ!?レースなのに?」

目を丸くしながら、ミサはほかの参加者の状況を確認する。

距離が離れているとはいえ、戦うとなると、あの2機相手だと撃破するのに時間がかかる。

その間に追い抜かれてしまうのがオチだ。

「あの2機が強いのは知ってる。これは…僕のただのわがままだよ」

(わがまま…か…)

その言葉を聞いたミサはそのようなことを勇太が言ってくれたのが初めてだということで、びっくりしていた。

これまでのことを考えると、わがままを言うのはミサのほうで、勇太がそれに合わせるという感じだった。

そのことの恩返しをする、ということを考えると、今度は彼のわがままに付き合うというのもよいかもしれない。

それに、このレースで1位を取れなかったからと言って、ジャパンカップに影響が出ることはない。

「もう、しょうがないなー!チームリーダーとして、ウチのエース君のわがままには答えてあげないとー!その代わり…」

「その代わり…?」

「次に一緒に出掛ける時はご飯代とガンプラ代、全部おごって!」

満面の笑みでとんでもない条件を提示され、勇太の体がブルッと震える。

今の勇太は両親からの仕送りと週に1,2回やっているマチオの店でのアルバイトである程度収入がある。

しかし、こういう場合はパフェやら期間限定のガンプラの練習バトル用、家での鑑賞用、店での鑑賞用など複数買うことになるのは目に見えている。

どれだけの出費になるのかわからず、とあるロボットゲームで何度も借金を背負っては返済を延々と繰り返している苦労人と同じような心境になりかける。

「うう…わかった!!ああ、わかった!!」

「やった!」

まもなくトンネルに差し掛かりつつあるラゴゥの足を止め、メインカメラをじっとカラミティとレイダーに向ける。

そんな彼らを見た2機のガンプラも動きを止める。

「ツキミ、あのガンプラ、どうしてトンネルに入らずに…」

「わからない…。戦ってみたくなった、って理由だと、かなりのロマンチストに見えるな」

だが、そんな目の前のラゴゥに合わせるかのように、足を止めてしまったこちらも人のことは言えない。

ロマンチスト、などという言葉を吐いた自分自身に苦笑してしまうそうになる。

現在の3位のガンプラがこちらにやってくるまでの予想時間は2分から3分。

その間にけりをつけることができれば、優勝を狙うチャンスはまだある。

ロマンチスト同士はにらみ合い、先にラゴゥがビームキャノンで攻撃を仕掛ける。

直進し、ビームキャノンを回避した後で、カラミティがレイダーから飛び降りる。

そして、カラミティを下したレイダーは急旋回し、再び曲がるビームを口から発射する。

ラゴゥは右へ動いてビームの直線軌道上からはずれた後、ビームが曲がる前に直進する。

これにより、後ろへ向かうことのできないビームはどう曲がろうとも命中することはない。

「まずはその曲がるビームを発射するガンプラをやる!」

「OK!!」

ミサがビームキャノンの操作を行い、その間もラゴゥはレイダーに距離を詰めていく。

スーパーバーニアがないため、もう飛行することはできないものの、ジャンプして短時間だけ滞空することくらいはできる。

ビームキャノンが2発発射され、レイダーはそのうちの1発の回避には成功するものの、もう1発はよけきれず、ゲシュマイディッヒパンツァーで防御する。

(このまま飛び込んで、ビームサーベルで切り裂くつもりか!?)

「ツキミ!!」

チームメイトであり、幼馴染である彼をやらせないと言わんばかりに、ミソラはカラミティのバックパックとシールドに装備されているビームキャノンを連射する。

特にバックパックに装備されているビームキャノンはエネルギー供給をそこに搭載されている大容量ジェネレーターから直接供給を受けていることもあって、コズミック・イラ世界での従来のビームライフルの倍以上の口径と出力を持つだけでなく、高い連射性能まで持つ高性能なものだ。

その弾幕の中からレイダーの懐へ飛び込むのは難しく、2機に背を向ける形でコースを逆走し、ビームを回避する。

「爆雷、残ったのを全部落とすよ!」

「お願い!」

臀部に盛り上がるように取り付けられているコンテナが開き、2つの爆雷が転がり落ちていき、2機のガンプラめがけて転がっていく。

コンテナを強制排除し、機体を急旋回させた勇太は左腕の装甲カバー内に格納する形で装備したガトリング砲を発射する。

転がる爆雷はビームもしくはガトリングの弾丸に命中することで爆発し、2機のガンプラのカメラに映る景色を真っ白に染めていく。

「フラッシュバン…!?」

「くそ!これじゃあ何も!!」

前に出ているツキミのことを考え、ミソラは攻撃の手を緩めてしまう。

しかし、それと同時にガトリングがカラミティを襲い、トランスフェイズ装甲のおかげで装甲そのものにダメージは発生しないが、コックピットに振動が襲う。

急いでセンサーの補正を行い、カメラが元に戻すが、その時にはラゴゥがこちらに肉薄しており、ショルダーアタックを仕掛けてきていた。

トランスフェイズ装甲と言っても、全速力でそのような攻撃を受けたらコックピットやフレームに強い衝撃が伝わってくるのは明白だ。

さらに追い打ちをかけるように、右腕の装甲カバーが開き、そこに内蔵されたクローが出現する。

そして、ラゴゥは左腕そのものを軸にして一回転してクローをコックピット付近にたたきつけた。

ただし、さすがにこれまでの蓄積ダメージもあって負荷をかけ過ぎたのか、攻撃を終えると同時にラゴゥの左腕がスパークし、勇太の操縦に応えなくなってしまった。

「よし、カラミティへの攻撃はもういい!ミサちゃん、ビームキャノンはまだ使えるよね!?」

カラミティを助けようと、レイダーが撃ってくる機関砲をかわしつつ、ミサに声をかける。

しかし、いつもならすぐに何かしらの形で返事が返ってくるはずなのだが、今のミサからは何も返事が来ない。

「ええっと、ミ…ミサちゃん…??」

ガンナー席に座っているミサを恐る恐る見る。

体はシートベルトがあるため、しっかり固定されているが、手はすっかり操縦桿から離れてしまっている。

声をかけても反応がないとなると、可能性は1つだ。

「気絶…しちゃった??」

シミュレーターは現実のものと比較すると軽減はされるものの、急激な動きや加速・減速をすることでGが発生する。

軽減されているため、死亡事故につながるケースはないものの、そのために無茶な動きを繰り返してしまったがためにパイロットが気絶してしまい、その間に撃墜されて負けてしまったというケースがよくある。

なお、シミュレーターにそのシステムを採用するかについてはかなりの論争が起こり、ガンダムの関係者全員がそれに参加し、賛否両論が巻き起こった。

賛成派はガンプラバトルでもリアルを追求し、かのトレーズ閣下やドクターJら五博士の「人は戦うことによって、なぜ自分が戦うのか、その意味を考える」という旨のセリフを引用し、自分がなぜガンプラバトルをするのか、そしてアニメや漫画でモビルスーツやモビルアーマー、戦艦に乗って戦った人々が何を思い、考えていたのかを問いかけるのにつながると主張した。

反対派はガンプラバトルは子供たちもやるゲームであり、そのゲームで子供たちを危険な目に遭わせるわけにはいかないという意見が大半だった。

長く続いた論争の結果、死亡事故や傷害などのけがを負うような事故が起こることがないように軽減した状態で再現するという方向で一致することになった。

「動きが止まった…今なら!!」

ミサのことに気を取られていることから、ラゴゥの動きが止まる。

猛攻を受けたカラミティのバズーカの照準が補正されていく。

先ほどの攻撃のせいで、ジェネレーターにダメージが発生しており、パワーダウンが発生している。

おまけにバッテリーにも損傷があり、残量がみるみるうちに落ちて行っている。

まもなく機能停止し、脱落することになるが、ただで敗退するつもりはない。

バズーカから放たれるプラズマを帯びた高熱エネルギーを帯びた弾頭がラゴゥを襲う。

「熱源!?しま…!!」

反応が遅れたラゴゥに弾頭が命中し、後ろ足が吹き飛ぶ。

前足と後ろ足を一本ずつ失ったラゴゥの機動性が一気に落ち、コックピットには警告音が響き渡る。

「はは…。なんだか、鏡の中にいる僕とミサちゃんと戦っていたみたいな気分だよ」

残った2本脚だけでは、もう上空へジャンプすることもできない。

勇太はメインパイロットシートのコンソールを操作し、ビームキャノンの操作を自分に回す。

そして、せめて一撃を加えることができればと、こちらに向けて突撃しながら機関砲を撃ってくるレイダーに照準を合わせる。

弾丸はラゴゥに何発も命中しており、激しい振動と照準のブレが生じる。

そんな中で発射されたビームはレイダーの翼部をかすめ、同時にダメージが限界を超えたラゴゥは爆発した。

 

「うーん…」

「ミサちゃん。大丈夫??」

「あれ…勇太君??バトル、どうなったの??」

ベンチの上で横になっていたミサが額に置かれている冷たいタオルを取り、そばに座っている勇太に迫る。

爆雷投下後、急旋回してからのミサの記憶は完全に途切れてしまっている。

「それが…負けちゃってさ」

「…そっか。負けちゃったんだ」

残念そうに、ミサは勇太の膝元に置かれているラゴゥを見る。

本当の意味で、勇太と2人で力を合わせて作った初めてのガンプラ。

2人で一緒に動かしたこともあり、できれば勝ちたかった。

「ごめんね。僕のわがままのせいで…」

「いいよ、私の方こそごめんね。気絶しちゃってさ」

「いや、あれは僕がめちゃくちゃな動きをしたから…」

バルバトスであのような動きを何度も繰り返してきた勇太にとっては少しきついと感じる程度のものだが、砲撃による後方支援がほとんどで、高機動戦闘をあまりしたことのないミサにとってはかなりつらい動きだっただろう。

バトルになる前までも、加速や急カーブなどを繰り返していたこともあり、それが彼女に疲れを蓄積させたこともあるかもしれない。

「でも、たまにはこういうのもいいよね!ただ単純にガンプラバトルを楽しむのも!まぁ…今回の場合はレースだったけど。あ…」

「うん…?」

だんだんミサの顔が真っ青になっていくのを見て、勇太はどうしたんだろうとじっと彼女を見る。

涙目になったミサの頬が膨らんでいく。

「き…気持ち、悪い…!」

「え、ちょ、ま…!!」

次の瞬間、勇太の視界がブラックアウトした。

 

「ツキミ、あのラゴゥ…かなり強かったよね」

レースが終わり、優勝トロフィーを持つツキミと共にお土産屋を回るミソラはトンネル前でのバトルを思い出す。

破りはしたものの、フェイズシフト装甲がなく、飛行機能のないラゴゥのあそこまでの独走っぷりとバトルでの動きには感心してしまう。

仮に正面からのガンプラバトルで戦うことになったとしたら、もっと面白いバトルをすることができたかもしれない。

「もしかしたら、あのガンプラのファイターって…俺たちと同じく、ジャパンカップ出場者かもしれないな…」

今回のレースには時間ぎりぎりになっての参加となり、ガンプラを作っているときも、それに夢中になっていたこともあり、ほかの参加者と話をする機会があまりなかった。

そのこともあり、ラゴゥのファイターが何者であるかは2人とも知らない。

しかし、なぜかツキミにはそう思えて仕方がなかった。

 

 

「…で、どうやって謝ればいいか分からないって?」

「…うん」

「まぁ、わざとじゃないってことはきっと彼も分かってるよ。ちゃんと謝れば…」

体操座りとなり、座布団の上を顔を膝の間に隠すミサをロボ太は励ますように肩の上に手を置く。

なお、勇太は顔を洗い、旅館に戻った後は温泉へ行っている。

ヒロインにあるまじきことをしてしまい、それをあろうことか主人公である勇太の顔面にやってしまうというハプニング。

「まぁ…一緒に作ったガンプラが汚れずに済んでよかったな…」

夕方になり、夕日が差し込む部屋の中で、テーブルの上に乗っているラゴゥはその光に照らされていた。

 

 




機体名:ラゴゥ・ラピドリー
形式番号:TMF/A-803RP
使用プレイヤー:沢村勇太(メイン)井川美沙(ガンナー)
使用パーツ
射撃武器:ビームキャノン(ラゴゥ)
格闘武器:ビームサーベル(ラゴゥ)
頭部:ラゴゥ
胴体:ラゴゥ(ビーム攪乱幕展開ポッド、爆雷搭載コンテナ、リアクティブアーマー搭載)
バックパック:トールギス(EW)
腕:ラゴゥ(左腕にガトリング砲、右腕にクロー内蔵)
足:ラゴゥ(ランドスピナー搭載)
盾:なし

群馬で行われたガンプラレースのために、勇太とミサが力を合わせて作ったガンプラ。
オリジナルのラゴゥと比較すると、リアクティブアーマーや追加武装の存在により重装甲となっており、それによる機動力の低下をトールギスのスーパーバーニアを装備することで補っている。
それによって生まれる殺人的な加速を利用することで先行していき、後続をビーム攪乱幕が混ざった煙幕によってカットするという戦略を可能にしている。
また、仮にバトルに発展した場合はビームキャノンやビームサーベル、ガトリング砲にGサイフォスのヒートソードのパーツを流用して作った、フェイズシフト装甲にすらダメージを与える可能性のあるクローによる多彩な攻めを見せる。
しかし、メインパイロットが阿頼耶識システムを利用した操縦に慣れていることもあり、それが搭載されていないこのガンプラでの操縦はあまりなじまなかった。
パイロットは原作通り、2人乗りとなっており、1人はメインパイロットを務め、もう1人はガンナー役を務める都合上、ガンナー役が気絶してしまうと射撃武装の大半が一時使用不可となってしまう。


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第24話 訓練と混乱

「うおおおお!!」

ロストマウンテンで覚醒したバルバトスが宙返りを披露した後で、クシャトリアを足払いし、一回転させる。

そして、あおむけに倒れたクシャトリアのコックピットを青いオーラが光る拳によって、一撃で粉砕し、撃墜した。

同時にまとっていたオーラが消え、右横のモニターのカウントが止まる。

「はあはあ…覚醒持続時間は3分…。デストロイモードよりも短い…)

特定の条件を除いて、デストロイモードを発動した場合はパイロットへの負担への考慮という設定で、持続時間が5分に制限されている。

覚醒によるサイコフレーム搭載モビルスーツに相当する性能が発揮できる時間が3分とすると、これではデストロイモードの方が継続戦闘能力が高い。

たっぷりと深呼吸をし、シミュレーターに接続しているハロに今回の戦闘データを送ってガンプラバトルを終了する。

 

「勇太君、お疲れさま!はい、スポーツドリンク」

シミュレーターを出た勇太にミサは自販機で買ったスポーツドリンクを渡す。

その間に、ミサは勇太から借りたノートパソコンをハロと接続し、今回の戦闘データを見はじめ、ロボ太はフルアーマー騎士ガンダムに慣れるため、シミュレーターに乗り込む。

群馬での温泉旅行を終え、彩渡商店街に戻ってからは、2人と1機は再びジャパンカップのための特訓の日々に戻った。

「ふぅーん、覚醒していると、オーラがある程度バリアとしても使えるんだね。あ…!持続時間も3分に伸びてる!」

「まだ足りないよ。兄さんの場合は覚醒を5分以上持続させていたし、最終的には10分まで伸ばしてた。どうやったら、これだけ時間を延ばせるんだろう…」

エクシアやデュナメスなどの00の第3世代ガンダムのトランザムと違い、覚醒が終了になったとしても性能低下は起こらない。

しかし、それでも3分しかその状態を維持できないとなると、タイミングを吟味しなければならないし、勇太の体力にも関わることから、1度のバトルで覚醒できるのは1回だけ。

それだけでなく、覚醒はガンプラそのものにも影響を与えており、覚醒の前と後を比較すると、バルバトスの太刀でなければ切断すら難しいほど頑丈なはずのフレームに金属疲労が発生していることがすでに分かっている。

バルバトス・レーヴァテインの場合、ガンプラそのものへの負荷を軽減するために両肩にある放熱ユニットに加えて、頭部にも放熱ユニットを追加したうえ、フレームにも市販されている高齢者用の関節サポーターを参考にしたシーリング処理などを施したが、それでも対症療法としての解決策にしかならず、フレームそのものへのダメージを防ぎきれていないのが現状だ。

「煮詰まると何も思いつかなくなっちゃうし。ちょっとだけ休憩したら?」

「そうするよ。ふう…」

ソファーに座り、背もたれに身を任せた勇太は眠気を覚え、そのまま眠ってしまう。

1分休憩をはさみはしたものの、10回連続でシミュレーターに入り、それらの戦闘で1回ずつ限界まで覚醒を行ったことを考えると、ここまでクタクタになるのは当然だ。

夏が近づき、だんだん暖かくなっており、外はだんだん熱くなってきている。

ミサも特に暑い昼間はジャケットを脱いでいて、オレンジのノースリーブのシャツとホットパンツという露出の多い服装になる。

ただ、それでも女性の色気を感じられないのが悲しいところだ。

勇太に関しては、冬服と夏服を変えるのがめんどくさいからか、相変わらず春と同じ服装のままだ。

「さーてっと…サクラに勝つためにも、頑張らなくちゃ!」

先日、ミサは名古屋へ帰ることになったサクラとジャパンカップで決着をつける約束をした。

それが彩渡商店街に活気を取り戻すことと含めて、彼女のモチベーションを高める大きな要素となっている。

「さあ、行くよー!ロボ太!」

「心得た!ふう…長らくシミュレーターから離れていたから、声がちゃんと出ないか心配だったぞ」

アザレアパワードとフルアーマー騎士ガンダムがサイド6リボーコロニー内部に次々と現れるザクⅡ改やグレイファントムから発進するジムや量産型ガンキャノンと交戦を始める。

量産型ガンキャノンから発射されるキャノン砲をシールドで受け止め、反撃としてビームマシンガンを発射した。

キャノン砲発射のために足を止めていた量産型ガンキャノンがハチの巣となり、爆発した。

(それにしても、ロボ太ってすごいなぁ…。自分のガンプラのメンテナンスまで教えなくてもできるようになってるし…)

ロボ太と一緒に戦うようになり、もうすぐ1カ月がたとうとしている。

シミュレーターの音声データを合成し、スピーカーを使ってしゃべれるようにしたところはかなりびっくりしたが、ロボ太が見せる驚くべき性能はそれだけでは終わらなかった。

バトルを重ねることで、少しずつ動きや命中率、回避率も伸びてきているうえ、勇太やカドマツのパソコンを使って戦術などを自力で調べる用にもなっている。

昨日はなぜかロボ太が将棋に興味を持ち、両親からそれを駒の動かし方だけ教えてもらっている勇太と1度だけ対局をした。

トイボットとはいえ、ロボ太はAIであり、人間はAIとのチェスや将棋で勝ったためしがほとんどないことから、ロボ太が勝つだろうと思っていた。

しかし、結果は勇太の勝利で、なんでAIである彼が負けるのか疑問に思い、一緒に観戦したカドマツに相談した。

彼の考察によると、ロボ太はデータだけではなく、直感でも駒を動かしているところがあるらしい。

そこまでいくと、もはやロボ太はただのAIではなく、人間に近づいていると言っていい。

そのようなことはカドマツも想定外らしく、商品としてはもはや不採用になるだろうと落ち込んでいた。

しかし、同時に自分がそんなAIを作ってしまったことを恐ろしくも思った。

「ミサ!敵増援が来る!こちらの援護を!」

「りょ、了解!!」

フルアーマー騎士ガンダムが増援として出現したケンプファーの軍団に向けて突撃し、アザレアパワードはフラッシュバンを使って、ケンプファーの視界を封じた。

 

「えー、であるからして、この在原業平の和歌、唐衣 着つつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふはこれほど深い意味のあるものであるわけで…」

数日後、彩渡高校2年A組の3時間目の授業は担任の教師による古文だ。

平安きってのプレイボーイ、在原業平が主人公の伊勢物語を題材にしており、現代とは違う平安貴族の常識に興味のある人はびっくりしつつ、質問をしながら理解を深めていく。

しかし、興味のない生徒がいることは否定できず、そうした生徒は教科書などを使い、隠れて早弁をしている。

(覚醒…どうしたら、もっと長く使うことができる…)

数日間、毎日シミュレーターに入って練習を続けたが、あれから3分以上維持できたためしがない。

バルバトスの追加武装が完成し、今日は気分転換としてそれのテストをした後で覚醒の特訓をすることになる。

あの武装があれば、バルバトスはより変幻自在な攻撃が可能になる。

ただ、その武装を手に入れたからといって、覚醒の時間制限の問題を解決できるわけではない。

(ガンプラの問題か…それとも、僕自身の問題?)

特訓の後、家ではハロに保存されている勇武のバトルのビデオを見ている。

しかし、徹夜してすべて見たとしても、なぜ勇武が自分よりも長く覚醒状態を維持できたのかが全く分からなかった。

彼がそのために特別な特訓をしたのかを考えるが、結果は同じだ。

「勇太君、ずっと悩んでる…」

隣の席で勇太の様子を見ていたミサは彼を心配する。

ミサは覚醒を使うことができないため、助けようにもどのようにすればいいのかわからない。

こういうことについては、サクラなどの同じ覚醒が使えるファイターにしかできないうえ、覚醒の感覚はニュータイプなどと同じく、言葉で表現しにくい。

勇太もミサから覚醒をどうしたら使えるようになるかアドバイスしたときも、頭の中で種が砕けるような感じとキラなどのSEED覚醒の演出のような表現で説明しており、実際にどうすればいいのか結局何もわからなかった。

だが、チームリーダーとして、エースである勇太をこのままにするわけにはいかない。

(アドバイスとかはできないけど、気分転換とかなら…)

「さて…沢村!この在原業平の和歌は何を意味しているか訳してみろ!沢村…沢村ー!寝ているのか!?」

「あ…勇太君、当たってるよ!!」

「え…?」

ちょんちょんとミサに腕を触られた勇太の堂々巡りの思考が止まり、正気に戻る。

黒板を見て、今が古文の授業であることを理解し、今の教師の怒っている表情を見て、今の自分の状況を理解した。

「ええっと、その…すみません。聞いてませんでした…」

「沢村…。お前が井川と同じく東京代表としてジャパンカップに出場する、というのは私としても誇らしいことだ。だが、学生の本分は勉強!授業くらいはしっかり聞け!」

「す、すみません…気を付けます」

勇太が怒られるのを見た周囲の生徒は驚きの表情を見せていた。

おとなしくまじめな彼がこれほど怒られるのは初めて見る光景で、実際怒ることになった教師自身も少し驚いている。

「まあいい…。じゃあ、井川。チームメイトの代わりに答えてくれるな?」

「え、あー…。唐衣って中国の…」

「いや、唐衣は十二単の一番上に着る服、いわば女性用の着物だぞ」

「ああ!!じゃあ、着物を着た…」

教科書を見て、ノートをペラペラめくりながらミサはゆっくりと答えを出していった。

 

「カドマツさんー。昨日お願いしてたプログラムのチェック、終わりましたかー?」

「ああ。こいつだ。持って行ってくれ」

「ありがとうございます!じゃあ、上へもっていきますね」

ハイムロボティクスロボット開発部で、カドマツから渡されたプログラム入りUSBを持った新入社員の男性が部室を出る。

彩渡商店街ガンプラチームとハイムロボティクスガンプラチームのメカニックを務めるカドマツの本業は商業用ロボット作り、インフォのようなワークボットが中心だ。

今回渡したデータはキャビンアテンダントのワークボットにテスト用として使われ、来月のテストで合格したら、それが実際に商品に使用される。

会話パターンや聞こえた声や音のデータ化による理解など、ロボットのプログラム作りは地味なうえにやることが多いために時間がかかる。

幼いころにロボットとかかわる仕事をしたいと思って、専門学校でプログラムの勉強をしたカドマツだが、ここまで地味な仕事だとは思わなかった。

昔は真夜中まで残る、もしくは家に持ち帰って仕事をするケースが多いブラックな職種というイメージが強かった。

今ではプログラム作りがよほど複雑なものではない限りはある程度簡易型の教育型AIのサポートを受けることでより短時間でできるようになってきている。

今の時代に生まれてきてよかったと思いながら、カドマツはテレビをつける。

普段はネットで配信されているニュースを見るカドマツは基本的にはテレビをつけることがない。

今では老若男女問わず、インターネットを扱えるようになった時代だから、カドマツのような人はあまり珍しくない。

おもむろにテレビをつけ、見たチャンネルには彼にとって興味深い内容のニュースが出ていた。

「次のニュースです」

最近売り出し中の若手フリーアナウンサーの声がスピーカーから響き、カンペとなっている手元の紙が動く音が聞こえた。

「ここ数日被害が報告されている新型のコンピュータウイルスですが、さらに感染が拡大している模様です。コンピュータのAIプログラムに対し、誤った命令を割り込ませるそのウイルスは自立型ロボットに対して特に大きな脅威となります」

「新型ウイルスか…。ったく、迷惑なことをやってくれるぜ」

机に置いてある缶コーヒーを飲みつつ、うんざりした表情を見せながらテレビを見る。

そのコンピュータウイルスについてはハイムロボティクスの取引先でも話題となっており、先日は納品したばかりのワークボットがそのウイルスに感染してしまった。

本当ならば、そうしたロボットに搭載されているウイルス対策ソフトによって撃退することができるのだが、性質が悪いことに今回のウイルスは新型のソフトであればともかく、それ以外のソフトでは通用しない手の込んだものになっている。

しかも、その新型ソフトのアップデートデータができたのは3日前で、それをまだインストールできていないロボットがいても不思議ではない。

幸い、納品したばかりであることからフォーマットを早急にすることができた。

問題は長い間使われているもので、それについてはフォーマットしづらい。

佐成メカニクスでも、このウイルスが大きな問題になっており、一昨日一緒に彩渡商店街へ飲みに行ったモチヅキがそのウイルスのせいでせっかく作ったロボットが台無しになったと大泣きしていた。

その泣き顔を思い出して苦笑していると、机の上に置いてある携帯が鳴り始める。

ガンダムSEEDの『あんなに一緒だったのに』の着メロが流れ、カドマツは電話に出る。

「もしもし…?わかった、すぐ向かう」

「先輩!頼まれてたマニピュレーターの制御プログラムができました!チェックを…」

「ああ、悪い!ちょっと用事ができた。データは用事終わった後でチェックするからな!それから、足の方も頼むぞ!」

上着代わりの白衣とカバンを手にし、カドマツはプログラムが入ったUSBメモリを受け取って、仕事場から出ていった。

外に出ると、手を挙げて近くにあるタクシーを呼ぶ。

黄色いタクシーが止まり、カドマツは走ってそれに乗った。

「どちらまで?」

「彩渡商店街まで急いでくれ!」

ハイムロボティクスは彩渡商店街と同じ町にあるため、普段は自転車で職場とそこを行き来するが、今回は事情が違った。

 

普段ならば子供たちがにぎわい、時にはイラトへの抗議の声が響き渡ることで知られるイラトゲームセンター。

だが、今日底から響くのは壁や機械を壊す音だった。

「お仕事、大好きー!」

壁に大きな穴が開き、モニターが砕けたり操作スティックが引き抜かれたりして、無残な姿をさらすアーケードゲーム機に囲まれたインフォが更にボロボロになったゲーム機を踏みつけていく。

手足はそうした破壊行動を起こし続けたために塗装が剥げていたり、傷がついている個所が数多く見受けられ、ツインアイは緑から赤に変わっている。

ロボ太が後ろから羽交い絞めにして彼女を止めようとしたが、投げ飛ばされ、頭がUFOキャッチャーにめり込んだ状態になっていて、現在勇太が引き抜こうとしている。

「いい加減にしないか、このポンコツが!!」

普段は黙々とイラトに従い、仕事をこなすインフォがこんなことをするとは夢にも思わなかったのか、イラトは驚きを抱きながら彼女を叱る。

「おほめにあずかり、うれしいDEATH」

「しっかりして、インフォちゃん!」

小さいころからこのゲームセンターに通い、インフォとも長い付き合いであるミサが呼びかける。

こうして呼びかけることで、もしかしたら元に戻ってくれるかもしれないという希望があった。

だが、そんな真っ白な希望にインフォが泥を塗りたくる。

「お前のペチャパイこそしっかりしろよ」

ミサのコンプレックスをインフォの言葉がソーラ・レイのごとく貫く。

「今なんつった!!」

両拳に力がこもり、ツインテールが浮き上がったミサが鬼の形相となる。

ロボ太を助け出した勇太は今のミサの表情を見た瞬間、涙目になって震えた。

そんな中、タクシーから降りたカドマツがゲームセンターに入ってくる。

「待たせたな!…ってひどいなこりゃ」

すっかりボロボロになった店内を見たカドマツはぼやく。

シミュレーターへの被害はないものの、このまま放置すると、このゲームセンターを飛び出して彩渡商店街中を壊して回るという可能性がないとは言えない。

「カドマツ…もう手遅れだよ。インフォちゃんを殺して私も死ぬ!!」

「駄目だって、ミサちゃん!」

怒りで頭の中がいっぱいになったミサがインフォに向かってとびかかろうとするが、勇太が先ほどのロボ太がインフォにやったのと同じように後ろから羽交い絞めにして停める。

「勇太君、放して!!」

「落ち着いてよ!今のインフォちゃんに近づいたら駄目だ!」

「そうだ。ペチャパイくらいで命を粗末にするな!」

「パイは命よりも重い!!」

「ゴルフゥ!?」

ミサの肘が勇太の鳩尾にクリーンヒットする。

鈍い痛みでフラフラとその場に倒れ、ミサは自由の身となった。

だが、ミサの言いたいことも分からないことはない。

女にとってパイは大事で、同時に女性の象徴でもあるからだ。

そんな彼女にインフォがとどめの一撃をかます。

「アップルパイにはアップルが入ってるけど、ペチャパイには何が入ってるのー?」

「何も入ってねーんだよー!!」

「カドマツ、このままだとインフォよりも先にこの娘が壊れちまうよ」

今のミサはジェリドに名前を馬鹿にされたカミーユと同じくらいひどい状態になっている。

殴ってMPに連行されるのであればまだいいが、そこにいるのはジェリドではなくワークボットのインフォだ。

本来なら接客用のワークボットは人を傷つけないために、出力についてはリミッターをかけている。

今はリミッターが解除されており、ロボットの金属製の体も相まって、このような破壊行動が可能になっている。

これは店内に入ってきた強盗などから客や従業員を守るための自衛モードへの変更で可能となるが、今はその自衛モードでのリミッターを超えた出力を出している。

バーサーカーモードとなったノーベルガンダムのごとく襲い掛かったとしても、そんなインフォの前ではロボ太のように返り討ちになって終わりだ。

「ばあさん、こいつのバックアップデータはあるか?」

「ねえよ」

「フォーマットすっかなぁ…」

即答され、頭を抱えながらカドマツはセカンドベストのプランを考える。

バックアップデータがあれば、感染した個所のデータを抹消し、そのあとでそのデータをコピーすることができる。

あとはカドマツが持ってきた最新型のウイルス対策ソフトのアップデートデータをインストールすることで解決する。

だが、バックアップデータがないのであれば、もうそれをやらざるを得ない。

「そりゃ困る!またゼロから仕事を覚えさせるのかよ!?」

それで困るのはイラトの方だ。

ワークボットは接客のための基本的なデータは初期データとして入っている。

しかし、店ごとに接客に関して事情が違ってくる。

そのため、教育型コンピュータを使ってそれを覚えさせる。

インフォの場合は接客だけでなく、顧客データの登録とゲーム機のメンテナンスもしている。

入れなければならないデータ、覚えさせなければならない仕事が多く、今のイラトにとってはきつい。

だったらバックアップデータを用意しとけと心の中で突っ込みながら、カドマツはカバンの中に入れている機材を見る。

これはまだ未完成の部分があり、実証実験も終わっていない。

幸いなことにそれを使う際の人手については特に問題はない。

「仕方ねえ。ちょっと時間がかかるが、待ってろ。お前たちにも手伝ってもらうからな…って、さすがにコイツはまずい!!」

シミュレーターに目を向けたインフォを見たカドマツはそれだけは阻止しようととびかかる。

「お仕事の…邪魔ー!」

カドマツの気配を感じたインフォが彼に向けて右手のディスプレイを凶器に殴りつけようとする。

「まずい、カドマツさん!!」

鳩尾を手で抑えながら、勇太が叫んだ瞬間、インフォはなぜかイラトの方向に目を向けた。

「よし!!」

何が起こったかわからないが、これはチャンスだ。

カドマツはインフォの後頭部にある電源スイッチに手をかけ、彼女を停止させた。

「やった!あれ…でも、どうしてイラト婆ちゃんに?もしかして、心はウイルスに感染してなくて…」

「そんなのねーよ。これじゃ」

そういいながら、イラトは手元にある100円玉を床に落とす。

チャリーン、という音が響き渡り、彼女の足元には100円玉がもう1枚転がっていた。

「…まさか、イラト婆ちゃん。インフォちゃんにこうした落ちたお金に反応するように…」

守銭奴であるイラトならやりかねない。

ジト目になってイラトを見つめる中、カドマツはカバンから機材を出し、インフォの後頭部に接続用のソケットを仮設する。

そして、シミュレーターにも同じ規格のソケットを取り付けると、インフォとシミュレーターを接続する。

「あ、カドマツ!ウイルスがあるインフォちゃんをシミュレーターに接続したら…!」

「このウイルスはロボットに対して有効なモンだ。それに、このシミュレーターはここにとって貴重な稼ぎ頭だ。ウイルス対策ソフトは万全になってる。あとは…お前ら3人だ」

「僕たち…ですか?」

「ああ。これでシミュレーターでこいつの中に入って、ウイルスを直接消去できるようになってる。そして、それを駆除するのがお前らだ」

「私たちでウイルスを消去って…どうやって?」

「とりあえず、シミュレーターに入れ。俺が外から誘導してやっから」

 




機体名:フルアーマー騎士ガンダム
形式番号:ASGT-02SDFA
使用プレイヤー:ロボ太
使用パーツ
射撃武器:なし
格闘武器:炎の剣
頭部:騎士ガンダム
胴体:フルアーマー騎士ガンダム
バックパック:騎士ガンダム(電磁スピアをマウント)
腕:フルアーマー騎士ガンダム
足:フルアーマー騎士ガンダム
盾:力の盾

カドマツが用意した三種の神器が騎士ガンダムに装備されたもの。
星を動かす力が宿っているという設定があるだけのことがあり、それを装備した騎士ガンダムの性能が出力を中心に上昇していて、電磁スピアを薙ぎ払うことで自身よりも重量があるモビルスーツを一回転させることができるほど。
また、バックパックには電磁スピアを装備するためのウェポンラックが増設されており、その都合でマントは取り外されている。
ただし、マントはフルアーマー化に合わせて対ビームコーティングを施しており、状況によってはそちらを装備して出撃することも可能になっている。
なお、電磁スピアそのものの性能に変化はない。


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第25話 インフォちゃん救出作戦

「ほぇー、これがバルバトスの新装備かぁ…」

アザレアのカメラに映るバルバトスの姿を見たミサが興味津々にバックパックに装着されているテイルブレードを見る。

見た目はバルバトスルプスレクスに装備されているテイルブレードと変わりないものの、勇太曰く、接続しているのはワイヤーではなく、ケーブルになっているとのこと。

「まさか、実戦テストがこんな形になるとは思わなかったけどね」

「それにしても、何とまがまがしい空間だ。これも…ウイルスの仕業か?」

ロボ太は周囲に浮かぶ紫色のキューブの塊を見て、血のような赤にそまったサイバー空間に身震いを覚える。

ここはインフォのメモリの内部で、シミュレーターを使って勇太たちはその中に侵入している。

「あのキューブがインフォの中のウイルスだ。こいつらを今から倒せるようにしてやる。ウイルスバスティングの時間だ」

「カドマツさん、別のアニメを始める気ですか?」

某ネットナビと小学生がWで主人公を務める番組を思い出していると、カドマツに手が加えられたキューブが姿を変えていき、紫色の装甲のガフランに変化する。

「ガンプラになった!!」

「ということは、ガンプラバトルでそのままウイルス除去ができると…?」

「そういうことだ。お前らのガンプラにはワクチンプログラムを入れてある。これでウイルスを退治していって、奥へ進んでくれ」

ガフランの1機が勇太たちの姿を見つけ、両手のビームサーベルを展開して突進してくる。

「そうとわかれば…!!」

勇太はバックパックにマウントされているビームショットガンを手にし、突進するガフランに向けて発砲する。

胴体を撃ち抜かれたガフランは青い光を放って消滅する。

「よし、ワクチンプログラムに問題はないようだな。あとはコアプログラムを探して、破壊しろ。そうしなきゃ、いつまでもウイルスが増殖する」

「了解。同胞を助けるために、頑張ろう!」

トイボット、ワークボットの違いがある物の、同じロボットであるインフォはロボ太にとっては初めてのロボット友達だ。

そんな彼女を救いたいという想いが強いのか、ロボ太が積極的に前へ出始める。

「あ、ロボ太!前へ出過ぎ!!」

「仕方ない…サポートに入ろう!」

「了解!!」

破砕砲では加減が効かな過ぎることから、勇太はさっそくバルバトスのテイルブレードを伸ばす。

バルバトスのセンサーにはガフラン2機とマスターガンダム1機、更にはデスアーミー4機の反応があり、いずれも接近してくるロボ太に注目している。

「いけ、テイルブレード!」

牽制のためにビームショットガンを連発しつつ、テイルブレードを操作し、前へ進んでいく。

側面から飛んでくるビームにいち早く気づいたマスターガンダムがマスタークロスを回転させ、それをビームシールド代わりにして防御するが、そのあとで飛んでくるテイルブレードがビームシールドを突破し、そのガンプラを串刺しにした。

マスターガンダムを貫通した後、ブレードが二又の刃のような形に展開し、そこからビームが発射された。

その形はドレッドノートガンダムやXアストレイに装備されているプリスティスに似たものだ。

「へえ、ファングみたいに遠近両用にしたんだねー。でも、さすがに今まで自分に尻尾がなかったのが不思議には思わないよね?」

「まあね。僕は三日月・オーガスじゃないから」

苦笑しつつ、テイルブレードを元に戻す。

ケーブルを長時間露出し、攻撃対象になるのを避けるためだ。

右手に握っている超大型メイスをビームを撃ってくるバクトに向けて突きたてる。

超大型メイスに対して、重装甲型のバクトのビームは通用せず、おまけにガンダムAGE-1のドッズライフルを凌いだ電磁装甲も巨大な質量のそれには意味をなさない。

胴体が粉砕され、頭の四肢だけが原形をとどめていた。

背後から攻撃しようとしたゲイツも射出されたテイルブレードで貫かれた。

「こうなったら私も…負けてられない!!」

フラッシュバンを発射し、閃光によって敵ウイルスの視界を封じ込め、マイクロミサイルランチャーとミサイルポットを撃つ。

ミサイルの雨がフルアーマー騎士ガンダムの周辺のガフランやデスアーミーを撃破していき、彼の障害をつぶしていく。

上空からやってきた紫色のGN-XのビームライフルはGNフィールドを展開して防御していく。

「甘く見ないでよー…ヴァーチェのGNフィールドは堅いんだから!!」

フィールド展開中も、GNキャノンのチャージが可能となっており、チャージ完了と同時にGNフィールドが解除される。

そして、発射された高出力のビームの中に3機のGN-Xは消滅していった。

「うおおおお!!インフォ殿から出ていけ、薄汚いウイルス共!」

バルバトスとアザレアの戦いを見て、より火が付いたのか、フルアーマー騎士ガンダムはダナジンやドラド、ゲイツの集団を前に切った張ったの大立ち回りを披露する。

力の盾がビームを防ぎ、炎の剣を振ることで生み出される炎の鎌鼬が敵ウイルスを両断する。

長距離からビームを撃ってくるレガンナーに対しては接近しつつ、背中にマウントしている電磁スピアのビームガンで牽制する。

レガンナーの細長い両足に小型のビームが次々と着弾し、ついにそのうちの1本が砕け散り、1000トン近い体を転倒させる。

「ウイルスであるならば…爆発の心配もあるまい!」

レガンナーに搭載されている大型ジェネレーターの存在とそれの爆発による周囲への被害への考慮はガンプラバトルでは必要だが、ウイルスとの戦いでは必要ない。

これまで撃破したウイルスは爆発せず、青い光を放って消滅するだけだったからだ。

ロボ太はためらいなく電磁スピアを突き立て、レガンナーを消滅させた。

「さっすがロボ太!!うわっと!!何あれ!?」

壁に貼り付けられるように設置されたビッグガンやトーチカから発射されるビームをGNフィールドが受け止める。

トーチカのビームならともかく、ビッグガンから発射されるビームについては強い衝撃がコックピットを襲い、火力の違いを思い知ることになる。

ノートパソコンでメモリ空間の状況を確認したカドマツもこれらの存在を見ていた。

「あれは元々インストールされてたセキュリティソフトだな。ウイルスに乗っ取られちまってたか」

「破壊しても構わないんですか?」

「ウイルスバスティングが終わったら、すぐに最新のセキュリティソフトを入れることができる。かまわず破壊してくれ」

「了解!」

超大型メイスをその場に置き、ガーベラ・ストレートとタイガー・ピアスの2本をもって、まずはGNフィールドを破る可能性のあるビッグガンに接近する。

ご丁寧なことに、ビッグガンにはそれを操作するザクⅡ(サンダーボルト版)の姿があり、そのウイルスがトリガーを引くたびにビームが一直線で飛んでくる。

「まっすぐな攻撃なら、軸さえずらせば!!」

あらかじめ、コースが決まっているのであれば、ましてやまっすぐにしか撃てないのであれば対策は難しくない。

フルアーマー騎士ガンダムやアザレアに命中すると思われるビームは2本の刀で受け止めて防御し、それ以外は左右にずれて回避していく。

そして、肉薄したビッグガンをザクⅡごと2本の刀で切り裂き、撃破する。

ビッグガンが1基破壊されたことで、接近してくるバルバトスを脅威と認識し、ほかのトーチカとビッグガンが照準を変えようと一時的に攻撃の手を緩める。

「攻撃が止んだ、今なら!!」

「沈黙させる!!」

そのわずかな隙を突く形で、アザレアのビームマシンガンがトーチカをスクラップに変えていき、フルアーマー騎士ガンダムの炎の剣がビッグガンとそれを操るリック・ドム(サンダーボルト版)を真っ二つにした。

 

「なんだか楽しいね、ガンプラバトルでウイルスを除去するのって!」

周囲のウイルスを掃討し、周囲を警戒しながら前進する中で、ミサは高揚感を覚える。

インフォにとっては一大事で、場違いな感情であることは分かっているが、それでもバトルが楽しくて仕方がなかった。

それが人助けにつながるのであれば、なおさらそうだ。

「これから、ウイルスをガンプラバトルで倒せる時代が来るかなー?」

「かもなー。でも、今その時代になるのは勘弁してくれよ。こっちはウイルスとお前らの調整で忙しいんだ」

ノートパソコンで彼らの動きを見つつ、ウイルスデータをバトルで除去できるように調整するのはコンピュータの知識があるカドマツ1人でやっており、それがインフォのメモリ空間だけ侵食しているため、今回はどうにかなっている。

仮に大型コンピュータなどになったら、さすがのカドマツでも助けを借りないとこうした環境を整えることができない。

また、ウイルスの除去がうまくいっているのは勇太とミサ、ロボ太といったバトルの実力がある彼らだからできることだ。

普通のファイターでは、ウイルスに駆逐されてしまうのがオチだ。

「カドマツさん、コアユニットらしく物体を見つけました!」

「おお、勇太。バルバトスのカメラを見る」

勇太からの通信を受けたカドマツは映像をバルバトスのカメラのものに切り替える。

映像の中央には薄紫のバリアに覆われた、巨大なキューブが回転しながら配置しており、それを守るために作られたのか、4機のガンダムヘッドがいて、その口からデスアーミーやデスバッドなどが大量に出てくる。

「うわあ…まるでデビルガンダムコロニーへ行ってるときみたい…」

「デビルガンダムが出たら、余計それっぽくなるよ」

「無駄口を叩いている場合ではない!来るぞ、ミサ!主殿!」

デビルガンダムが生み出した下僕、デスアーミー達の特徴は常に大軍で動き、自らの身を顧みない突撃だ。

早い段階で、一気にたくさん撃破しないと、逆にこちらが不利になってしまう。

「だったら、これを!!」

「勇太君、こっちも!」

破砕砲の照準をガンダムヘッドに合わせる。

GNバズーカもデスアーミーの大軍を薙ぎ払えるよう、既にチャージを始めている。

「いけえ!!」

「うおりゃあ!!」

破砕砲から発射される弾丸がガンダムヘッドの頭部を吹き飛ばし、青い光に変えていく。

そして、アザレアはGNバズーカでただひたすらこちらにむけて全身を続けるデスアーミー達を焼き尽くしていく。

「「ロボ太!!」」

「うおおおおお!!!」

ガンダムヘッドの1機とデスアーミーの多くが撃破されたことでできた道をフルアーマー騎士ガンダムはケンタウロス形態となって、コアプログラムに向けて全力疾走する。

彼の存在に気づき、主であるコアプログラムを守ろうと上空のデスバットが金棒型ビームライフルを連射するが、ケンタウロス形態となり、スピードの上がった彼に当てることができない。

「くらええええ!!」

一太刀でバリアごとコアプログラムを破壊せんと、炎の剣に力を籠める。

ロボ太の闘志を現すように、炎の勢いが増し、バルジを真っ二つに切り裂いたガンダムエピオンのハイパービームソードに匹敵する炎の刀身を手にする。

「うおおおお!!」喰らえ、縦一文字斬りぃ!!」

フルアーマー騎士ガンダムが飛び上がり、炎の剣を縦に振る下す。

モーションは単純だが、相手は動けないコアプログラムであるため大した問題ではないと思っていた。

だが、コアプログラムから赤と黄のビームが飛んできて、胴体に命中したフルアーマー騎士ガンダムが大きく吹き飛ばされる。

「ロボ太!?」

「大丈夫だ、霞の鎧のおかげで、軽傷で済んだ。だが…!!」

「デスアーミー、ガンダムヘッド…となると、出てくるよね…」

破砕砲を今度はコアプログラムに向けて発射するが、今度は紫色に光るモビルスーツのマニピュレーターが出てきて、高速で飛んでくる弾丸を受け止め、そのまま握りつぶした。

破砕砲の威力がかなりのものであったためか、握りつぶした後のその手からは煙が発生し、装甲が壊れて内部パーツが露出している。

しかし、その損傷も徐々に修復されていった。

もはや、正体を隠す必要はないと判断したのか、コアプログラムのバリアが消え、大型化した後で徐々にその姿を変えていく。

「どういうことだ!?」

「カドマツさん、どうしたんですか!?」

「コアプログラムをガンプラに変換できなかったのに、あいつ…勝手に!!」

コアプログラムはバリアがあるせいか、カドマツはそれをガンプラに変えることができなかった。

しかし、無理にガンプラに変換する必要がなく、そのまま放置していた。

ガンプラに変換させる際に入れるプログラムによって、ウイルスがインフォの全プログラムに侵食するのではなく、ワクチンプログラムとなったバルバトス達の破壊を優先させるように仕向けることができるが、その場で動かないコアプログラムにそのようなことをしても意味がない。

コアプログラムを破壊すれば、ウイルスはこれ以上増殖しないことから、このままの状態で破壊すればいいと思ったが、それはカドマツが想像していた以上に厄介な存在だったようだ。

100メートル以上の大きさを誇る、4機のモビルファイターがDG細胞で融合したようないびつなモビルファイター。

「グランドマスターガンダム…」

目の前に現れた脅威の名前を勇太はつぶやいた。




武器名:テイルブレード(バルバトス・レーヴァテイン版)
バルバトス・レーヴァテインのバックパックに新たに装備されたケーブル付ブレード。
元となったパーツはガンダムバルバトスルプスレクスのテイルブレードと同じく、ハシュマルの超硬ワイヤーブレードだが、勇太の手によって、ワイヤーはエネルギー供給のためのケーブルに変更され、ブレード部にはビーム砲への変形機構やドリルのように回転できるプログラム、そしてケーブルを失っても操作及び再回収が可能になるよう改造が施されている。
これにより、プリスティスやファングに近い性質を持つオールレンジ攻撃兵装へと変貌と遂げた。
こうなったのはバルバトス・レーヴァテインの武器のほとんどが実弾で、フェイズシフト装甲を施したガンプラへの対抗手段が限られていること、そして勇太自身が覚醒の特訓がうまくいっていないことから、それの息抜きをするためであることが大きい。
なお、バックパックのベースはバルバトスルプスのものと同じであるため、バックパックのサブアームや武装の懸架はこれまで通り使うことができる。


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第26話 グランドマスターガンダムを倒せ!

「破砕砲の弾丸を受け止めるなんて…」

「あんな大きなガンプラ、どうやって倒せば…キャア!!」

グランドマスターガンダムについている翼から次々と発射される羽根がディビニダドのフェザーファンネルのように3人に襲い掛かる。

ビームを撃ってくるわけではないことから、GNフィールドで防ぐには限界があるうえ、ナノラミネート装甲を貫かれる可能性が高い。

「となると、これは持っていても…!!」

宇宙空間でない以上、軸としての役割を見込めない超大型メイスをダメ元でグランドマスターガンダムに向けて投げつける。

グランドマスターガンダムのコアとなっているマスターガンダムが破壊できれば御の字だが、そううまくいくはずもなく、両手で受け止めた後でダークネスフィンガーを発動し、粉々に砕いた。

「あの手を受けたら、超硬度レアアロイでも駄目か…!うう…!!」

羽根が当たると同時にコックピットに衝撃が襲う。

技量の有るファイターである勇太でも、ニュータイプですら回避が難しいオールレンジ攻撃を回避しきるのは難しく、既に背中や足に2枚ずつ羽根が命中している。

阿頼耶識システムのサポートがなかったら、コックピットをやられていた可能性も否定できない。

「まだ…首を取られるわけにはいかない!!」

ガンダム・バルバトスルプスレクスのラストシーンを思い浮かべながら、勇太はビームショットガンを散弾モードで発射し、弾幕を張る。

ガンダムUC第1話の名もなきスターク・ジェガンのパイロットがやっていたのを真似ているような形だが、やはり対ファンネル戦術としての効果があり、羽根の攻撃を弱めることができた。

しかし、グランドマスターガンダムは4機のデビルガンダム四天王が融合したような形をしたモビルファイターであるため、それだけが武器ではない。

今度はグランドサンダーを発動し、網のような形をした電撃を起こしつつ、破砕砲を超える口径と火力を誇るグランドキャノンを連射し始める。

グランドキャノンそのものは直線、もしくは山なりに発射されるだけで追尾性はないものの、それでもそばを通るだけで機体に振動が襲ってくる。

「当たったらどうにかなっちゃうって言ってたモチヅキさんの言葉、正しく聞こえちゃう…」

グランドキャノンの弾丸に気を取られたアザレアの前に網のようなグランドサンダーが飛んでくる。

「直撃コース…!?」

「集中しろ、ミサ!!」

割って入ったフルアーマー騎士ガンダムがアザレアが受けるはずだっがグランドサンダーを受けてしまう。

激しい電撃が機体を襲いかかり、機体内部にダメージを与えていく。

「ロボ太!!」

「くうう…なんの、これしきぃ!!インフォ殿が受けている苦しみに比べればぁ!!」

炎の剣を振るい、グランドサンダーをかき消したものの、電撃によって左腕の回路にダメージが発生したせいで、ロボ太が操縦桿を動かしてもその腕が動かなくなっていた。

「く…このままだと、じり貧に!!」

どうにかグランドマスターガンダムを破壊できるか力を得るために覚醒しようと集中したいが、次々と襲い掛かる攻撃をかわすのに精いっぱいで、覚醒へもっていくことができない。

(2,3秒だけでも、集中できる時間ができれば…!)

「くうう!!いい加減ダメージを受けてよぉ!!」

ビームやミサイルで攻撃しても堅牢な装甲に受け止められ、傷つけたとしてもDG細胞によって再生されてしまう。

それだけでなく、DG細胞はエネルギーや弾薬も再生可能であるため、時間さえあればグランドマスターガンダムのエネルギーも弾薬も実質無限ということになる。

「ミサちゃん、ありったけのフラッシュバンとミサイルで奴の眼を封じるんだ!!」

「もしかして、覚醒をやるの!?」

「うん…相手はDG細胞の塊。一撃で倒さないといけない。だったら…」

「分かった!!お願い、勇太君!!」

「私は奴を引き付ける!!」

ミサは急いでミサイルとフラッシュバンの残弾を確認する。

ミサイルはまだ10数発は残っており、フラッシュバンはあと1つだけ使うことができる。

「全部まとめて、いっけぇーーー!!」

アザレアから次々とミサイルとフラッシュバンが発射され、ミサイルの1発をビームライフルを撃ちぬく。

撃ち抜かれたミサイルが爆発し、それに巻き込まれるように次々とミサイルが誘爆していく。

フラッシュバンと共に生み出された爆発の光がグランドマスターガンダムを包み込み、わずかに敵が動きを止める。

「…いまだ!!」

深呼吸をし、集中力が高まった勇太と連動するように、バルバトスが青いオーラに包まれ、覚醒する。

光が収まると、破砕砲を手にし、照準を合わせるバルバトスにグランドマスターガンダムが目を向け、尻尾のウォルターガンダムがビームを発射しようとするが、その尻尾をフルアーマー騎士ガンダムの炎の剣が切り裂いた。

「私を見逃すとは、不用心だな!さあ、どこからでもかかって来い!!」

切り裂かれ、地面に落ちた尻尾の上に立ったロボ太が剣を向け、挑発するように叫ぶ。

その挑発が効いたのか、再生途中の尻尾をハイパーハンマーのように振り回し始めた。

「こんのぉぉぉぉぉ!!」

グランドマスターガンダムの視界から外れ、破砕砲の照準をセットした勇太は叫びながらトリガーを引く。

覚醒によって発生したエネルギーが凝縮された一発が激しい銃声を起こしながら発射され、その反動によってバルバトスが吹き飛び、破砕砲も粉々になる。

「勇太君!」

吹き飛んだバルバトスを見たミサは叫ぶが、フェザーファンネルがスラスターに刺さってしまったうえに両足も破壊されていることから、その場を動くことができなくなっていた。

「くうう…どうだ!!」

背後にあるブロックに激突し、激しい振動で胃の中にも衝撃を感じながら勇太は叫ぶ。

覚醒によって破壊力の高まった破砕砲の弾丸がグランドマスターガンダムの頭部に着弾すると同時に大爆発でグランドホーンやグランドキャノンの上半分がバラバラに吹き飛んでいく。

しかし、残った下半分のグランドキャノンから弾丸が発射され、とっさにバルバトスは左手をかざし、覚醒エネルギーのバリアで受け止めようとするが、連続で発射される弾丸によってバリアを突破され、左腕そのものに直撃する。

ナノラミネートアーマーも限界に達し、左腕がボロボロになり、フレームにもガタが来てしまう。

「まだ…動けるの!?」

カメラの倍率を高め、グランドマスターガンダムを見ると、確かに破砕砲によって頭部から上を一気に破壊すること自体は成功していた。

しかし、コックピットが無傷であるため、まだ動くことができる上にDG細胞によって再生を始めている。

「コックピットを狙うしかない…そういうことか!」

ガンダムローズとガンダムマックスターがグランドガンダムを倒した時のシーンを思い出しながら、どうにか機体を起こそうとするが、2門に減ったとはいえ、火力は健在のグランドキャノンの弾幕では起きることさえ難しい。

しかし、2機の間を通るように飛んでくる大出力のビームがグランドキャノンの弾丸を消滅させていく。

「勇太君、行っけぇーー!!」

「ミサちゃん!!くうう…!」

ビームの照射を続けてくれたことで、弾幕から解放されたバルバトスが立ち上がる。

しかし、長時間の照射でGNバズーカに過度な負担を与えてしまったため、砲身が焼けてしまい、粒子残量も機体の四肢を動かせるくらいしか残っていない。

起き上がるのに成功すると同時にビームが消えるが、弾の再生が追い付かないのか、グランドキャノンの動きが止まり、再び尻尾のウォルターガンダムのビームの雨が襲ってくる。

「さっきのに比べれば!!」

飛んでくる弾数は上回っているものの、ビームの威力は先ほどのグランドキャノンの半分以下で、感覚がマヒしてくれたおかげなのか、今の勇太には脅威と感じられない。

左腕を強制排除し、超大型メイスや破砕砲といった重量のある武装もないことからわずかに機動性が上がっており、富んでくるビームを回避し続けながらグランドマスターガンダムに接近していく。

(さっきの破砕砲でだいぶ力を使った。けど…!!)

回避を続けているはずだが、なぜか頭が冷えた感じがした勇太は右拳をイメージする。

バルバトスを包んでいた青いオーラが右拳に集中し、拳が強い光を放ち始めていた。

ビームによる破壊をあきらめたグランドマスターガンダムはグランドキャノンからワイヤー付きのマニピュレーターを発射し、バルバトスを捕まえようとする。

マニピュレーター1本1本がモビルスーツの利き腕レベルの力を持っており、両手であれば並みのガンプラでは握りつぶされてしまう。

「主殿!!」

フルアーマー騎士ガンダムが電磁スピアを突き刺す、もしくはビームガンを連射してワイヤーを破壊していく。

勇太が破砕砲で攻撃し、ここまでくる間に激しい攻撃を受けたせいか、炎の剣は失われており、鎧と盾、電磁スピアにはいくつもの傷ができている。

しかし、ワイヤー付きマニピュレーターはファンネルと同じく、縦横無尽なオールレンジ攻撃で襲ってくる。

前に現れた2本に気を取られたフルアーマー騎士ガンダムが背後から飛んでくる1本につかまれてしまう。

「うおおお!?」

「ロボ太!!」

「行かれよ、主殿!急ぎ、インフォ殿を!!」

「わ…わかった!!」

ロボ太のことを頭から消し、勇太は目の前のグランドマスターガンダムのコックピットを見る。

それを破壊しさえすれば、グランドマスターガンダムを破壊することができる。

拳に宿る光が不安定になっており、維持できる時間は残りわずか。

「吹き飛べぇぇぇ!!」

肉薄したバルバトスが勇太の叫びと共に光の拳でコックピットを貫く。

貫くと同時に光が消え、同時に電撃のようなエフェクトのついた光がグランドマスターガンダムを襲う。

残った覚醒エネルギーすべてを注ぎ込んだ一撃だったのか、それともコックピットが破壊されたこともあるのか、光に包まれたグランドマスターガンダムが消滅していった。

 

「ふぅぅ…こいつでOKだ!!」

ウイルスの除去を確認し、ようやくノートパソコンから離れることができたカドマツはソファーに座り込み、両手で顔を覆う。

眼がすっかり疲れており、目薬がほしくなる。

「カドマツ。インフォはもう大丈夫ってことかい?」

「ああ、婆さん。再起動シークエンスに入ってる。もう大丈夫だ」

「インフォちゃん!!」

シミュレーターから出てきたミサとロボ太がインフォに駆け寄る。

ミサが両肩に手を置き、じっとインフォを見つめていると、ブラックアウトしていたインフォの眼が緑色に光る。

「ミサさん…?」

「インフォちゃん…よかったぁーーー!!」

涙目になったミサがぎゅっとインフォに抱き着く。

抱き着かれたインフォは彼女の背後に立っているロボ太に目を向けた。

「そうですか、あなた方が私からウイルスを…。ご迷惑をおかけしました。…その、ミサさん…」

「ああ、ごめんね!今、どくから!!」

涙を拭いたミサがどくと、インフォは自分の手で後頭部についているケーブルを外し、イラトに目を向ける。

ぐちゃぐちゃになったゲームセンターを見て、インフォは自分がしてしまったことを認識している。

「まったく、この店の有様、どうしてくれるんだい」

インフォから目をそらし、店の惨状を見ながらイラトがぼやく。

シミュレーターが無事とはいえ、ゲーム機がいくつも壊れており、壁にも大きな穴が開いている。

シミュレーター限定で営業できるかもしれないが、完全に直るまでにはかなり時間がかかる。

「マスター、申し訳ありません。私を廃棄なされますか?」

ワークボットであるインフォは己の立場を理解しつつ、イラトに尋ねる。

ウイルスに入られたとはいえ、これほどの損害を店に与えたのだから、一般の企業であれば廃棄されるのは明白だ。

しかも、相手は銭ゲバなイラトだ。

そういう選択をするかもしれないということを、記録したこれまでのイラトの言動から導き出していた。

イラトはため息をつくと、まずは壊れたごみ箱から飛び出したゴミを箒で集め始めた。

「馬鹿言ってないでさっさと片づけな!アンタは壊れたゲーム機をあっちに集めておきな!あとで修理屋に電話するからね!」

インフォに顔を見せないよう、後ろを向いて答える。

イラトの後姿を見たインフォは頭を下げると、すぐに一番近くにある壊れたゲーム機を運び始めた。

「じゃあ、私たちも手伝うよ!」

「おい、勇太はどうしたんだ?」

手をどかし、ミサ達を見たカドマツが尋ねる。

イラトやインフォ、ロボ太にミサの姿は見えるが、肝心の勇太の姿がない。

「勇太君なら、寝ちゃった。無理し過ぎちゃったから…」

「ああ。にしても、すげえな。覚醒の力は。グランドマスターガンダムを倒しちまった」

「うん…。私も、勇太君みたいに強くなりたい」

ロボ太が置いた塵取りにごみを入れたミサは勇太が眠っているシミュレーターに目を向ける。

「覚醒のエネルギーを一点集中できた…覚醒をコントロールできるようになってきた、ってことか…。にしても、誰なんだ?こんなとんでもねーウイルスを作ったのは…」

覚醒のほかに気になったのはそれだった。

ノートパソコンやスパコン、製造機械などではなく、ピンポイントに自立型ロボットを狙ったウイルスで、そんな代物を素人が作れるわけがない。

今は警視庁のサイバー犯罪対策課のホワイトハッカー達が犯人を捜しており、班員が日本国内で有れば、特定するまで時間はかからないだろう。

「そういやぁ…日本以外でもおんなじことは起きてねーのか?」

休み終えたら、海外のニュースを一通り見ておこうと思い、カドマツは眠りについた。



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第27話 開幕前

今回はほとんどガンダムとは無関係のロボットたちが登場します。
別の小説になってるぞ、っていう突込みがあれば…ごめんなさい。


「…ねー、あとどれくらい?」

「ええっと、カーナビだとあと30分くらいかな?」

「これで何度目だよ?さっきも聞いてたぞ」

高速道路を走る車内で、ミサと勇太のやり取りを見たカドマツがぼやく。

1回目は高速道路に入り、会場である愛知県へ向かうところで聞いており、2回目は早めの昼ご飯兼トイレで寄ったサービスエリアで、そのやり取りを聞いている。

効いてくるミサもそうだが、それにまるで機械のように文句なく答える勇太もどこかおかしく感じられた。

ちなみに、昼ご飯のメニューはとろとろ卵丼で、子供の特権ということでカドマツのおごりとなった。

なお、ジャパンカップでは遠隔地からの出場者に考慮し、宿泊費と交通費については領収書を出せば補助してもらえる。

食事代もユウイチから受け取ったお金で支払っているため、カドマツの懐は痛まなかった。

「ねー、勇太君でもカドマツでもいいからさー、何か面白い話をしてー?」

「お前それ、話のフリとしては最低だからな」

「話題か…カドマツさん、テレビのチャンネル変えていいですか?」

「んー?いいぜ」

勇太はリモコンを使い、カーナビのチャンネルを何度か切り替える。

ミサが興味を示しそうな番組を探すが、夏休みが始めった7月下旬とはいえ平日だからか、ニュース番組とテレビショッピング紹介番組、再放送のドラマくらいしか流れていない。

「(科捜研の男は…ミサちゃん、見ないからなぁ…)ん?」

番組表を見て、なければネットから拾ったアニメ『機動戦士ガンダム Twilight AXIS』を流そうかと考えていると、あるニュースが3人の耳に飛び込んでくる。

「先日、アメリカに本社を構える外資企業タイムズ・ユニバースCEO、ウィリアム・スターク氏がニューヨークで会見を開きました。その中で、スターク氏は買収した企業の1つであるセーフティ・セキュリティ・ソフトウェア、通称3S社社長バイラス・ブリンクス氏が不正プログラムを作成したことを告発すると同時に、ブリンクス氏の社長解任及び警察に通報したこと、そして3S社の解体を明らかにしました。その不正プログラムは先日、日本でも多くの自立型ロボットに被害を与えたウイルスです。3S社社員によりますと、ブリンクス容疑者は先日から会社に姿を見せておらず、行方が分からないとのことです」

「この間のウイルスのことか…」

勇太はゲームセンターの修理をしていたときのイラトの言葉を思い出す。

店がめちゃくちゃにされたこと、そしてインフォをあんな目に遭わせたことでかなり怒っており、犯人が見つかったら賠償金を分捕ってやるとまで言っていた。

その相手であるバイラスは行方不明だが、きっと今頃は近くに彼が逃げていないか探していることだろう。

「でも、その3S社はどうしてそんなウイルスを作ったんでしょうか?」

「元々、3S社はセキュリティソフトを開発している会社だ。だから、当然そのソフトの隙を知っている。んで、自分たちでその隙をつけるウイルスを作って危険を煽り、それを克服した新しいセキュリティソフトを作って大儲けって腹だったんだろうな」

都市伝説として、そのような話はカドマツも昔聞いたことがある。

しかし、そんなことを実際にやる人間がいるとは思いもよらなかった。

その犯人である3S社はここ数年でシェアを拡大させてきた企業で、ハイムロボティクスや佐成メカニクスでもその企業が開発したセキュリティソフトを一部使っている。

技術者は生み出した技術を人々、そして明るい未来のために使うべきだと考えるカドマツにとって、このバイラスは技術者の風上にも置けない卑劣な男だ。

おまけに逃走し、罪を償うつもりもないことを考えると救いようがない。

「でも、バレちゃったね。悪いことなんてできないよねー」

「だがよ、ばれたのはタイムズユニバースのCEOのウィリアムって男が告発したからだぞ。ちなみに、お前んとこの商店街が閑古鳥になっているのも、タイムズユニバースが百貨店を開いたせいだったよな」

「こんなところでそんな名前を聞くなんて…」

タイムズユニバースが多角経営を行っているということは、ニュース番組やネットで聞いたことがある物の、まさかセキュリティソフト業界関連のニュースでも聞くとは思わなかった。

そして、話を聞いているともう1つの疑問が浮かんでくる。

「じゃあ、どうして親会社のタイムズユニバースが子会社の悪事を暴いてるの?」

「知らん」

「なんだよ、もう!」

予想を言うことなく、話を続ける気のないカドマツの答えにミサは頬を膨らませ、サービスエリアで買ったポテトチップスの袋を開ける。

「おまけに3Sを解体してる…。3Sの技術が目的なのか、それとももっと別の…」

「別のって言えば、何があんだよ?」

「そこまでは僕も…」

テレビにはタイムズユニバース本社玄関前で行われた会見の映像が流れており、スーツ姿のウィルが数多くの記者に囲まれている中で質問に答える姿が映っている。

(彼が…ウィリアム・スターク…)

若い男がCEOを務めている、という話は聞いていたが、まさかここまで、自分より少し年齢が上の、日本で言えば大学生くらいの年齢の少年だとは思いもよらなかった。

仮に自分がこの役目を果たせと言われたら、きっとプレッシャーに耐えられないだろう。

アメリカを中心に海外で多角経営を行うタイムズユニバースには数多くの従業員の生活が懸かっているから。

(そういえば、あの百貨店には…)

 

これは今から2週間ほど前のことだ。

「むむむむ…」

家族連れやお年寄り、学生など幅広い層の数多くの人々が集まる、広い3階建ての建物の屋内で、ベンチに座ったミサが黒いオーラを放ちながら周囲を見渡している。

フードコートには日本各地の名物を売る店があり、靴やカバン、財布などの専門店が数多く営業を行う。

「こんなに…こんなにお客さんを奪うなんて…タイムズユニバース、コノヤロー…」

「ミサちゃん、帰ろう。敵情視察は優勝してからでも…」

「うるさい!!」

「ひぃ!」

「まだ足りない…。なんでこの百貨店が繁盛するのか、もっと調べないと!!」

立ち上がったミサはロボ太と共にフードコートを出て、3階フロアを見て回る。

ミサに恐怖を抱き、尻餅をついてしまった勇太は起き上がり、彼女の後姿を見た後で、ベンチのそばにあるゴミ箱に目を向ける。

(よっぽど、ショックだったんだな…)

ゴミ箱にはフードコートで買ったたこ焼きや明石焼き、ハンバーガーにコーラといったものの空ゴミがこれでもかというぐらい叩き込まれており、ごみ収集に来たアルバイトがその量を見てぎょっとしていた。

これはすべて1階と2階を見てきたミサが食べたものだ。

実を言うと、ミサが実際にタイムズユニバース百貨店に来たのは今回が初めてで、これまでは商店街のお客さんを奪った宿敵として行く気になれなかったようだ。

しかし、ガンプラバトルでジャパンカップ行の切符を手にし、徐々にお客さんが戻ってくるのを見て、何らかの心境の変化があったのだろう。

メンバーである勇太を巻き込んで、タイムズユニバースの敵情視察に行くことになった。

ちなみにユウイチは店が忙しく、カドマツは仕事があるため不在だ。

「ゲーセン…やっぱり、出てるゲームが多い…」

フードコートのすぐ近くにあるゲームセンターに足を踏み入れると、そこにはカーレース、1VS1のバトル、1度プレイするたびに1枚カードがもらえる、じゃんけんと同じルールで戦う自動販売機名義のゲームなど、最新なうえにオンラインで世界中のプレイヤーと遊ぶことができるゲームであふれていた。

イラトのゲームセンターでそのようなことができるゲームは1つしかない。

そのためか、勇太とミサにはある物の有無がより強く感じられた。

「シミュレーターがない…」

「そうだね。こういうゲーセンなら、今じゃおいてて当たり前なのにね」

2人の言う通り、ここのゲームセンターにはガンプラバトルシミュレーターがない。

イラトのゲームセンターにタイムズユニバース百貨店ができた今でもたくさんの子供が来ている理由はそこにはないガンプラバトルシミュレーターで遊ぶためでもある。

その代わりというべきか、ロボットを自分で操作できるシミュレーターゲームが置かれていた。

「スーパーロボット大戦VSか…」

「知ってるの?」

「うん。自分で作ったガンプラが使えるわけじゃないけど、いろんなメディアで登場したリアルロボットやスーパーロボットを実際に動かして戦うことができるゲームなんだ。といっても、できたのは最近だけどね」

「ふーーん…」

なんだかおもしろく無さげにそのゲームを見る。

自分で作ったガンプラで戦うから面白いと考えるミサなら、そういう気持ちになっても別に不思議ではない。

「そうだ、一回遊んでみるよ。もしかしたら、違うインスピレーションが見つかるかもしれないし」

そういうと、勇太はシミュレーターに入り、100円玉を入れる。

同時に自分が着用するパイロットスーツを設定を始める。

「へえ…耐圧服だけじゃなくて、プラグスーツとかEX-ギア、いろいろあるな…。けど…」

ノーマルスーツの画像を見た限り、やはりというべきか、ガンダムシリーズのものは一つも入っていない。

あくまでガンプラバトルシミュレーターと差別化したいのかと考え、勇太は比較的ガンダムシリーズのものに近いものの、ヘルメットではなくヘッドギアになっているうえに重量のある黒いスーツを選択する。

その後で、今回のゲームで選択できるロボットが表示される。

「うーん…ガンダムに近いリアルロボットだと。うん…?」

ふと、勇太はマクロスシリーズに登場する搭乗型戦闘用ロボット・可変戦闘機バルキリーのYF-29デュランダルに目が留まる。

「マクロス…見たことないけど、こんな機体なんだ…」

架空の金属であるフォールドクォーツにはトランザムバーストやクアンタムバーストと同じように、自分の思いを確実に相手に届けることができる能力があり、デュランダルにはその金属でできたバーツが4か所に搭載されている。

また、デュランダルという名前がSEED DESTINYでラスボス及び黒幕の役割を果たしたキャラの姓と同じだということも、目が留まった理由の1つだ。

「可変機はあまり使ったことがないけどな…」

しかし、群馬で可変機であるレイダーと戦ったことから、これから可変機と戦うことがあるかもしれない。

そう考えた勇太はデュランダルを選択した。

 

「外から中継が見れるのも、ガンプラバトルシミュレーターとおんなじなんだ…」

勇太がシミュレーターに行ってしまい、ロボ太と2人っきりになったミサはゲームセンターを回る中で見つけたベンチに座り、ロボットたちのバトルが流れる大型モニターを見る。

ステージが真ゲッターロボ世界最後の日の部隊の1つである木星宙域になっており、敵役であるインベーダーが数億出現している。

その中をラウンドムーバー装備のスコープドッグとチェインバーが高機動戦闘を披露し、スペースヨーコWタンクのビームをなぜか宇宙にいるビッグオーが両腕のシールドのようなパーツで防御する。

様々な作品のロボットたちが入り乱れる空間の中に、戦闘機形態のデュランダルが飛び出してくるのが見えた。

「戦闘機…デルタプラスみたい…」

 

「くうう…こんなに機動性が違うなんて…!」

デュランダルの加速が生み出すGに耐えながら、勇太は邪魔になるインベーダーたちをマイクロミサイルで撃ち落としていく。

側面から接近し、食いつこうとするメタルビーストに対応するため、一度人型形態に変形し、シールドに内蔵されているアサルトナイフを相手の頭部に突き立て、撃破する。

戦闘機と人型の両方を使い分ける中で、勇太は可変モビルスーツのすごさを感じた。

モビルスーツの汎用性や格闘戦能力とモビルアーマーの大火力と高速機動性という長所を併せ持ち、一撃離脱攻撃を得意とする可変モビルスーツは、特に宇宙世紀のガンダムシリーズでは戦局に大きな影響を与えている。

ただ、可変モビルスーツは当然通常のそれより機構が複雑になってしまうため、整備に膨大な時間と労力がかかるというデメリットがある。

それはガンプラでも当然出ており、可変モビルスーツのガンプラはほとんどの場合、そうした変形機構が再現されておらず、自分でそれができるように作り直さないといけない。

更にモビルアーマー形態も使いこなせるように練習しなければならないというもう1つのハードルの存在から、現在でもファイターの中で可変モビルスーツのガンプラを可変機能まで再現したうえで使用している人は少ない。

しかし、そこまですることがもしできたのであれば、どこへ行ってもエースとして通用するかもしれない。

今の勇太にとって、戦闘機形態のデュランダルはバルバトスを上回るじゃじゃ馬だ。

これでも、パイロットの全身の骨を砕くうえに内蔵を破裂させるトールギスよりもマシだというから驚きだ。

戦闘機形態の加速にある程度慣れてきたところで、後方から飛んできた赤いビームが片翼をかすめ、機体が大きく揺れる。

「後ろから敵機??これは…!!」

急旋回し、ビームの軌道を逆探知して攻撃してきた犯人を捜す。

攻撃予測地点をモニターで確認すると、そこには30メートルを超える大きさのスーパーロボット、轟龍の姿があった。

轟龍は再び持っているビームライフルをデュランダルに向けて発射する。

「やっぱり、僕を狙ってる!!く…!ピンポイントバリアを!!」

高火力のビームを発射するデュランダルに接近戦を挑むため、デュランダルを一気に加速させつつ、ピンポイントバリアを起動させる。

戦闘機形態でのみ使用できる、一部分だけを防御するシステムにすることで燃費を抑えているピンポイントバリアを両翼とコックピットに設定し、轟龍に向けて発射したミサイルをビームを撃って爆発させることでフラッシュバン代わりにする。

爆発の光が轟龍のカメラに映り、パイロットの眼がくらんだのか、一瞬動きが止まる。

「もらったぁ!!」

一気に高度を上げ、轟龍の真上を取ったデュランダルが回転しながらビーム砲を連射する。

30メートルを超える大型機だけあり、強固な装甲は何度もそのビームを受け止めるが、一点集中の射撃が功を奏したのか、装甲を突破することに成功する。

「ぐううう…とどめは、これだあ!!」

急旋回と同時に人型に変形することで発生する強いGに耐えながら、とどめの 重量子ビームガンポッド・バーストモードを叩き込む。

撃ち抜かれた轟龍は大爆発を起こすとともに消滅した。

 

「はあ、はあ…疲れた…」

「んもう、熱中するんならガンプラバトルシミュレーターでしなよー」

1階フロアでジュースを買ってきたミサが不満を漏らしながら、ゲームセンター近くのベンチで休む勇太にそれを渡す。

結局勇太は2時間近く戦闘を続け、デュランダルの性能を存分に満喫した。

「ごめんごめん。そういえば、おもちゃ屋さんは見てくれた?」

「うん。やっぱり勇太君の言う通り、ガンプラ置いてなかったよ。どうしてなんだろう?まぁ、その方が商店街は助かるけど!」

勇太が飲み終えたのを確かめたミサは背伸びをし、近くにある階段まで走っていき、勇太に手を振る。

「早くいこーよー!もうすぐで5時になっちゃうからー!」

「分かった!すぐ行くよ!」

 

(タイムズユニバース…ガンプラに全く手を出していない…)

百貨店でのことを思い出し終えた勇太はスマートフォンを出し、ガンプラバトル世界大会の協賛企業及び出場企業の名前を調べ始める。

その中には、大手企業から聞いたことのない中小企業まで、数多く存在するのだが、やはりタイムズユニバースの名前が出ていない。

(どうしてなんだろう…?今ではガンプラは世界共通になってるのに…)

「勇太、ミサ、見えてきたぞ」

「うわあーーーー!!勇太君、見てよあれ!!」

後ろから座席をバンバン叩く音が聞こえ、考えを止めた勇太はミサの言う通り、左側の景色を見る。

「あれは…」

「ジャパンカップ会場、名古屋ガンプラドームだ」

1分の1スケールのガンダム、ユニコーンガンダム、エクストリームガンダム、ガンダム・バルバトスを四方に置き、地元のナゴヤドームの倍近い大きさのドームが見え、ミサは興奮する。

(兄さん…)

一方、勇太は少し悲しげな表情を見せる。

本当なら、10年前に兄と一緒にジャパンカップに出るはずだった。

しかし、あの事故のせいでそれが幻となり、今ここには勇武がいない。

「勇太君!」

「何?ミサちゃん」

座席の上に手を置き、グイッと頭を上げたミサが上から勇太を見下ろし、ニコリと笑う。

「絶対優勝しようね!!」

「うん…」

ミサの笑顔に釣られるように、勇太の表情が明るくなった。



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第28話 ジャパンカップ開始

「ううーーーん…ついたぁーーーー!!」

駐車場に車が止まり、飛び出したミサは大きく背伸びをする。

サービスエリアで出ることがあったとはいえ、それでも長時間の車内は体にくるようで、勇太もミサ程ではないが体を伸ばしていた。

「んじゃあ、宿舎へ行くぞ。ま…さすがに年頃の男女を一緒の部屋にはしねーみてーだけどな」

荷台からロボ太と2人の荷物が入ったカバンを降し、勇太とミサに自分たちのカバンを渡す。

基本的にはチームメンバーは同じ部屋で滞在するが、チームが全員同性になることは半々だ。

また、ジャパンカップではあらゆる年代のファイターとビルダーが参加している、仮に年ごろの男女が一緒に過ごして何か間違いを起こす可能性も否定できない。

そのため、カップル以外はそのような措置を取られることになる。

「開会式まであと1時間…。ゆっくり行けますね」

「そりゃあ、余裕をもって行動するのが普通だしな」

宿舎の受付に到着したカドマツは受付をし、鍵を2つ受け取る。

勇太とカドマツが入る部屋は512号室、ミサは513号室になっている。

「んじゃ、ロボ太はミサに任せるぜ。1人じゃ寂しいだろうしな」

「私がそんな寂しがり屋に見えるの!?」

「見えるな」

「即答!?ねえ、勇太君はどう思ってるの?そう思ってないって言ってよぉ」

勇太が唯一の味方だと確信したミサが彼の両肩に手を置き、涙目になりながら訴える。

チームメイトであると同時にクラスメートである勇太はミサの日常をある程度知っている。

休み時間は勇太を含め、いつも友達と一緒にしゃべったり遊んだりしており、勇太と対照的に一人静かに過ごすイメージが全くない。

そう考えると、カドマツの考えもあながち間違いと言い切れず、つい目を背けてしまう。

それがミサにとってショックだったのか、フラフラと後ろに下がっていく。

そして、一気に目に大量の涙をためる。

「うわああああああん!!勇太君の裏切り者ぉーーーー!!」

「え、ええええ!?!?」

「もういいもん!勇太君なんか知らない!!」

カドマツから自分の部屋の鍵を強引に奪ったミサはロボ太の手をつかみ、エレベーターに向けて一直線に走っていった。

入るとすぐに扉を閉め、1人だけでそのまま5階へ行ってしまった。

「あーあ…チームメイトといきなり仲間割れしちまったな」

「誰のせいですか!?誰の!!」

「ま、隣のエレベーターがもうすぐ来るから…落ち着いたら謝っとけよ」

まるでこうなったのは100%勇太のせいだと言わんばかりのカドマツの言葉に腹を立てる。

そんな彼のことなど、カドマツはまったく気にしていなかった。

 

「ったく、なんでカドマツの言うことに反対しないの!?勇太君、気が弱すぎ!!」

エレベーターから出たミサはプリプリ怒ったままロボ太の手を引き、廊下を歩く。

基本的にシャイである勇太があまり反発したりしないことはチームメイトとして付き合う中で分かっている。

しかし、自分へのからかいについてだけは反対してほしかった。

「勇太君の馬鹿…」

「勇太が…どうかしたの?」

後ろから聞いたことのある少女の声が聞こえ、ミサは思わず振り返る。

そこには初めて会った時と変わらない、腹部を露出させた白いセーラー服姿の少女がいた。

その姿を見たミサは先ほどまでの不機嫌な態度が嘘だったかのように、明るい笑顔を見せる。

「サクラ!!」

「久しぶりね、ミサ」

ミサの笑顔につられたかのように、サクラも柔らかな笑みを浮かべる。

一緒に特訓した相手との再会はうれしいのだが、残念なのはそれが戦場だということだ。

「ちょうどいいわ、ちょっと話し相手になってくれないかしら?私の部屋、1人だけだから…」

「え…いいの!?じゃあ、ロボ太も一緒に…」

「構わないわ。いろいろ、聞かせてもらうわよ?」

サクラもミサに再会できた喜びから、すんなりとその提案を飲む。

そして、2人と1機は一緒にサクラの部屋へ向かった。

 

「ふうう…荷物はこれで良しと」

カドマツと共に部屋に入った勇太はカバンの中の荷物からガンプラ用の工具や予備パーツが入った、アムロがガンダムに初めて乗るときに手にしたマニュアルのようなデザインの箱をベッドのそばに置く。

朝起きてすぐに自分のガンプラのチェックをできるようにするためで、試合中に不具合が発生する可能性を少しでも防ぎたいという思いがある。

なんでも、これから行われるジャパンカップは勇太にとっては未知の領域。

何が起こっても不思議ではない。

(それにしても、カドマツさんの荷物はすごいな…)

準備を終え、ふとカドマツのベッドのそばに置かれている大きなボストンバッグを見た勇太はその中にある物を見て驚いた。

ロボ太が使用するSDガンダム系のガンプラパーツと武器、更にはロボ太そのものをいざというとき、いつでもメンテナンスができるように彼のパーツやロボット用の工具、そして彼の設計図も入っている。

地元の縁があるとはいえ、カドマツもこのジャパンカップにかける思いが大きいことがよくわかる。

「んじゃあ、俺はトイレに行くとするかな?勇太はどうすんだ?」

「僕はスタジアムの下見をしてから、会場へ行きます」

開会式の会場はスタジアム付近の広場で、既に舞台のセットがされていることから、迷わず行くことができる。

「その前に、ちゃんと仲直りしろよ?バトル中に大喧嘩されたら目も当てられねーからな」

「だから誰のせいで…はぁ…」

ため息をついた勇太はいつか何らかの形で腹いせをしてやると考え、部屋を出た。

そして、隣にあるミサの部屋のドアの前に立ち、ノックをしようと思ったものの、どうしてもためらってしまう。

しかし、どうにかして機嫌を直してもらわないと支障をきたすのも確かなので、深呼吸をした後でノックをする。

「あ、あの…ミサちゃん、勇太だけど…今、大丈夫かな?」

扉越しに中にいるであろう彼女に声をかけるが、一向に返事がない。

「もう行っちゃったのかな…?」

もし、そうだとしたら、会場近くで合流できるかもしれないと考え、まずは下見に行くことにした。

 

「うーーーん…おいしぃーーー…」

一方、勇太が機嫌を悪くしていると思っているミサはサクラの部屋でショートケーキを口にしており、ご満悦な表情を浮かべていた。

それは宿舎近くの売店でサクラが買ったもので、すっかりそれの甘さに上機嫌になったミサは今度はサクラが入れた紅茶を口にする。

ホテルに置かれているティーカップとコンビニで買ってきたプラスチックフォーク、紙皿でどこかあべこべな食器の組み合わせになっているが、それでもミサを満足させるには十分だ。

「ああ…やっぱり、ショートケーキには紅茶だよねぇー…」

「喜んでもらえてよかったわ。すっかり機嫌がよくなったわね」

「あ…」

ケーキを一口食べたサクラの言葉にミサは気が付いたように声を漏らす。

サクラに誘われ、一緒にケーキを食べているとき、ミサの脳裏には先ほどの出来事が嘘のように消えてしまっていた。

しかし、今思い出したことでわき始めたのは勇太への申し訳なさだった。

一気にシュンとしてしまったミサを心配するようにロボ太は見つめる。

「喧嘩でもしたの…?」

空になったミサの紙皿とコップを片付けるサクラからの質問にミサは何も言わずに首を横に振る。

「…何か、あった?」

片付け終え、椅子に座ったサクラは正面からミサに問いかける。

彼女を圧迫させることがないように、柔らかな笑みを浮かべながら。

ミサはゆっくりと受付で起こったことを話し始めた。

 

スタジアムに出ていた勇太は係員の人に許可をもらい、その中に入れてもらった。

観客席からしか下見することが許されなかったものの、それでも多くの参加チームのメンバーがここに来ており、会場の様子を見ていた。

気になったのはシミュレーターで、いつも見ているものと異なり、外側のデザインがオーライザーのコックピット部分のような形に変わっていた。

「あのシミュレーターは…」

「この大会から採用される新型シミュレーターや。よりガンダムの世界とファイターを近づけるってコンセプトらしいで」

ジャズソングと共に見知った少年の声が聞こえる。

「近づけるって…どうやって?ホウスケ君」

ガンガンそんな音楽を流し続けるファイターが一人しか思い浮かばないのか、勇太は振り向くことなく、彼の名前を呼ぶ。

そんな疑問をぶつけられたホウスケはびっくりするように彼の後姿を見る。

「ワレ、知らんのか!?今日のジャパンカップのホームページを見ろや!?」

「あ、そういえば…」

ホウスケに従い、勇太はスマートフォンを手にし、ジャパンカップのホームページを開く。

そこには昨日の深夜に新しく更新されたページがあり、開くと新型シミュレーターに関する説明が載っていた。

「ええっと…コックピットをモビルスーツモードとファイターモード、タンクモードの3つに変更が可能になったうえに、コックピットそのもののデザインも可能になった…?」

「これは大きいで。特にモビルファイターに関しては体で動きを再現できるようになったからのぉ」

ホウスケの言う通り、この変更は格闘技で戦うモビルファイターや今では珍しいものの、戦車などのガンダムシリーズで登場するモビルスーツやモビルファイター以外のガンプラにとって、戦いやすい環境を生み出しかねないものだ。

コックピットのデザインも可能となると、より原作の自分好みなコックピットにすることも、原作にはないオリジナルのものも作れるようになる。

だが、なぜこのタイミングでそのような告知をしたのかと疑問に感じた。

本来なら、早くとも大会開始の1週間くらい前にはそのような告知をするはずだ。

一種のサプライズ要素にしたかったのであれば、理由がつくものの、それなら最初から告知する必要もないはずだ。

「ま…何か裏があるかもしれへんが、俺は目の前の相手と全力で戦って…勝つ。それだけや」

先ほどの気楽さとはかけ離れた、真剣な勝負師のような表情に打って変わり、じっとフィールドを見る。

既にホウスケの中ではジャパンカップが始まっているのだろう。

実際にこのシミュレーターでバトルができるのは予選が始まってから。

そのことを楽しみにしつつ、勇太は腕時計で時間を確認する。

開会式まであと15分程度で、トイレへ行っても余裕で到着する。

「お…そういえば、ミサはどうしたんや?おらんやないか」

「ああ、ミサちゃんは先に会場へ向かってるよ…多分」

「多分?」

「宿舎では部屋が違うから、バラバラになっちゃって…」

まるで言い訳しているかのような物言いが気に入らず、ため息をつくホウスケだが、そんな彼の懐のスマホが鳴り始める。

「ああ…もう呼び出しか。じゃ、戦えんのを楽しみにしとるで!俺の所属チームは大阪ガンプラ同盟じゃ!覚えとれよ!」

高らかに自分の所属チームの名前を宣言し、ホウスケは大急ぎでスタジアムを後にする。

そんな彼の後姿を見送り、勇太は懐から勇武のブルーフレームを取り出し、それに中の様子を見せる。

「見てよ…勇武兄さん。僕、ここまで来たよ。だいぶ遅くなったけど…強くなれた気がするよ」

 

「なるほど…そんなことがあったのね」

「…うん」

肩を落とし、下を向くミサが小さくうなずく。

何か事件が起こったのかと思い、気になって聞いてみたサクラだが、少し安心していた。

聞いた話が思ったよりも、言っては悪いが大したことのない話だったためだ。

だが、ミサにとっては重要な問題であるため、笑うのだけはやめておいた。

そして、ある1つの疑問をぶつけることにした。

「ミサちゃん…一つだけ、シンプルな質問があるけど…」

「質問…?」

「あ、ロボ太君に聞かれないように…」

席を立ち、ミサの隣へ向かったサクラは小声で耳打ちする。

その瞬間、ミサの顔が一気に赤く染まっていった。

 

「皆さま、たいへん長らくお待たせしましたーーーー!!」

リージョンカップでMCを勤めたハルがお立ち台に上がり、明るい口調で言葉を発し始める。

目の前にはリージョンカップを勝ち抜いたファイターとビルダーが集まっており、ドローンやカメラマンのカメラの向こう側には惜しくも敗退した戦士たちとガンプラバトルファンの人々がいる。

日本中が今、この場所を注目している。

「これより、ガンプラバトル選手権、ジャパンカップの開催を宣言します!まずはタウンカップ、リージョンカップを勝ち抜き、見事ジャパンカップに進出したみなさん、おめでとうございます!皆さんは日本一になるにふさわしい実力を持った選手たちです!!」

人気キャスターである彼女の賞賛の言葉に、彼女のファンであるファイターやビルダーたちは歓声を上げた。

「ミサの奴、遅えな…ロボ太と一緒にいるし、場所も教えたから、すぐ来るとは思うけどよ…」

会場で勇太と合流したカドマツは周囲を見渡し、ミサとロボ太を探している。

開始10分前までには来るように電話したが、今も2人の姿が見えない。

「あ…カドマツさん、来ました!!」

カドマツの反対方向を見ていた勇太が2人の姿を見つけ、カドマツに声をかける。

ロボ太に引っ張られる形でやってきているが、ミサはうつむいた様子になっていた。

「どうしたんだ?ミサ、腹でも下したか?」

「なんでもない」

「その…何か、あったの…?」

様子のおかしいミサを心配し、肩に触れると同時にミサはまるで静電気を受けたかのようにビクリと大きく震え、びっくりした勇太は飛び退いてしまう。

「ミ、ミサちゃん…?」

「え、ああう!?ごごご、ごめん…びっくりしちゃって…」

明らかに様子がおかしいミサは一向に誰にも顔を見せようとしない。

分かれている間に何があったのか、気になりながらも勇太は開会式を見ることにした。

勇太から見て左後ろに立つ格好となったミサは脳裏でサクラの質問を思いだす。

(ミサちゃん…あなた、勇太のこと…好きなの?)

その質問に、ミサは驚きと疑問のあまり答えることができなかった。

勇太を誘う以前、ミサはカマセをはじめ、様々なファイターと一緒にガンプラバトルをしてきた。

それは自分とやや同じレベルのファイターばかりで、はるかに高い実力を誇るファイターと一緒にバトルをしたのは、勇太が初めてだった。

限られたファイターしか使えない覚醒が使えることもあり、ミサは勇太を頼りにするものの、どこかで彼に対して劣等感を感じていた。

しかし、勇太がミサが自分にない強さを持っていることを認めてくれた時はうれしく、サクラと特訓を積んで実力を高めていくにつれて、勇太と一緒にバトルができるのがもっと嬉しくなった。

だからこそ、勇太への思いがチームメイト兼ライバルとしてなのか、それとも純粋の一人の少年に対する者なのか分からずにいる。

「それではここで、おなじみのミスターガンプラからの激励の言葉を!」

お立ち台にミスターガンプラが登ってきて、彼のファンが歓声を上げる。

ハルからマイクを受け取ったミスターガンプラはアフロヘアを直し、マイクの電源を確かめる。

「よし…えーー、ただいま紹介にあずかりました。ミスターガンプラです。えー、本日このような素晴らしい日に皆さんと共にいられることを心から感謝しています!」

 

「お疲れ様です、ウィル坊ちゃま」

「ん。まったく、いつものことだけど頭が固いな、あいつらは…」

アメリカのニューヨークで、重役会議を済ませたウィルがスーツ姿で社長室に戻り、ドロシーは休む彼のためにお茶菓子を用意する。

椅子に座るとともに口から出たのは重役たちへの不満だ。

死んだ父親の代からの古株の社員が多く、彼らはスリーエスの告発・解体などのウィルの行いが行き過ぎだという声を上げている。

スリーエスのようなことはこのタイムズユニバースでは何度も起こっており、ウィルはこのような悪徳企業を時には買収、時には多角化の名目でその市場に参入するなどして、あらゆる手段で潰している。

スリーエスの場合は結果的にその企業が持つウイルス技術を転用して新しいウイルス対策ソフト作りにつなげることができたため、勢いは弱かった。

ドロシーのこれまでの記憶が正しければ、そのような悪徳企業潰しの買収と勢力拡大のための買収の比率は3:7らしい。

ウィルは角砂糖を1つ入れ、紅茶を飲みながらテレビをつける。

紅茶は死んだ父親も好んで飲んでおり、元々イギリス系移民の末裔であることから『紅茶は英国紳士のたしなみ』などと言っていた。

何代にもわたってアメリカで暮らし、イギリスの土を踏んでもいないのに滑稽だと今更ながら思いながら、ウィルは次々とチャンネルを変える。

最近大統領に就任した、アメリカ第一主義の実業家であり、ウィルにとっては経営の師匠にあたる男性の過激な発言を問題視するニュースや日本の漫画をモチーフとしたアニメなど、様々な番組を見つける中で、とあるニュース番組に目が留まる。

「全世界のガンプラファンの皆さん、今日がジャパンカップ始まりの日です。現在、ガンプラ界の世界的なスターであるミスターガンプラによるチャレンジャーへの激励の言葉が放送されています」

ティーカップを置き、ウィルは睨むようにその映像に映るミスターガンプラを見る。

「何をしてるんだ…アンタは…」

今のウィルの眼にはミスターガンプラがピエロのように見え、その姿に落胆と怒りを覚えていた。

 

「そして…忘れもしない12歳の夏。私は見送りの飛行機で斎藤君に2人で手にした優勝トロフィーを渡し、いつの日か再会を約束しあったのです。それから…」

長時間にわたるミスターガンプラのお祭りの中、カメラマンたちはテープの残り時間を気にしはじめ、次のカメラ付ドローンの準備を始めている。

また、集まった選手や観客の中には立っているのがつらくなってその場で座る、座っている客が居眠りを始めるなど、もはや激励が拷問に変化していた。

しかし、ミスターガンプラの『激励』、というよりも7,8割が自分やライバルのことの回想は終わらない。

「ミスター…あの、そろそろ…数名が貧血で救護室に…」

「ねえ…これ、いつ終わるの?」

ハルがミスターガンプラに注意をする中、ようやく元の調子に戻ったミサが2人に問いかける。

「知らね」

「さあ…?」

延々と続くミスターガンプラの言葉をもう聞く気になれなくなった勇太は既にその場に座っていた。

ここに至って、自分のしゃべりすぎにようやく気づいたのか、ミスターガンプラは咳ばらいをし、話を止める。

「ああ、まぁそういうことだ。では…君たち!ガンプラは好きか!?ガンプラバトルに勝ちたいかーーーー!!」

拳を握りしめ、力を込めてミスターガンプラは問いかける。

まだ元気なファイターは答えるように声を上げたものの、既に疲れ果てた面々については拳を上げるので精いっぱいだった。

「では…最後に。これから始まる戦いに君たちが奮い立てるよう、特別にプレゼントを用意した。既に知っている人もいるだろうが、今回からは新型のシミュレーターが採用される!よりガンプラを、コックピットをより自分の色に染め上げ、勝ち上がってくれ!そして…このジャパンカップ優勝チーム、つまりは日本一となったチームには副賞として…大会終了後のエキシビションマッチとして私と勝負するというものだ!」

「ええ!?ミスターガンプラとバトルができるの!?それに、新型シミュレーターって!?」

まさかのミスターガンプラの言葉に衝撃が広がり、ファイター達は騒がしくなる。

一部の人は既に新型シミュレーターのことを知っていたものの、このミスターガンプラとのエキシビションマッチについては寝耳に水のことだった。

彼は世界初のプロのファイターとして、ガンプラバトルを世界に広げた人物だ。

彼が皮切りとなって世界でプロのファイターが登場し、アマチュアだけだったガンプラバトルをより熱いバトルへと昇華させた。

しかし、8年前に突然引退し、今はバトルをすることなく、ガンプラを広める活動を世界各地で行っている。

引退理由は今も明らかにされておらず、病気説やガンプラバトルを戦争利用しようとするスポンサーへの抗議など、ファンの間では数多くの憶測が飛び交っている。

少なくとも、8年間バトルにおいて沈黙を貫き続けたミスターガンプラが再びガンプラバトルをするというのは会場だけでなく、視聴者にとっても衝撃的なことだ。

「現役を退いて以来、8年ぶりに私の胸は高鳴っている!最強のチャレンジャーを待っているぞーーーー!!」

今まで座り込んでいたファイターも立ち上がり、ミスターガンプラの言葉に応えるかのように叫ぶ中、彼はマイクをハルに渡した。

「勇太君、ミスターガンプラとバトルができるって…!もう、勝つしかないよ!!ねえ!!」

興奮したミサは立ち上がっていた勇太の腕をつかみ、その場で何度も飛び跳ねる。

勇太はミサの言葉に応えず、ただじっとミスターガンプラを見ていた。

「こりゃあ…さすがの勇太も燃えざるを得ないってことか…」

勇太とミサの姿を見たカドマツは笑みを浮かべる。

そして、開会式終了と同時に参加チームは予選のため、次々とスタジアムに入っていった。



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第29話 嵐の予選

「うわあああ…すっごーい!!これが新型シミュレーター!?」

会場に入り、各チームが予選突破のためにガンプラやファイターのコンディションチェックを開始する中、ミサは目をキラキラさせながら新型シミュレーターの中を見ていた。

見た目は全周囲モニターになっているものの、VRを使って好みの設定のコックピットにすることができるうえ、パイロットが機体の外に出で、単独で周囲を確かめに行くこともできるらしい。

中には、専用のヘルメットが備え付けられており、パイロットシートに座り、それをつけることでシミュレーターが開始するという形になっていることから、若干スタートの手順が増えることになる。

なお、ロボ太についてはヘルメットの代わりにケーブル接続してその新型シミュレーターを使用する。

「興奮するのはいいが、ガンプラの準備はいいのかよ?」

「うん。もうバッチリ!アザレア・パワードで勝ってみせるーー!」

1秒でも早くやりたいと思い、シミュレーターに入ったミサはアザレアをセットし、ヘルメットを装着してパイロットシートに座る。

まだ開始時間になっていないことから、それをしても起動することはない。

「そういやぁ、ジャパンカップの予選は1時間耐久バトルだ。おまけに、地球と宇宙の両方がこのバトルのフィールドになる。弾数とか、間違うなよ?」

「ええ…。補給地点はしっかり把握しておかないと…」

ジャパンカップの予選は全チームが参加して行う1時間のバトルロワイヤルで、手段は問わず、1時間の間に生き残りのいるチームはすべて本選進出となる。

地球と宇宙の両方でバトルを繰り広げることになり、大気圏突入の際は大気圏突入用シールドもしくはノッセルのようなサブフライトシステムの使用が必要だ。

しかし、ストライクフリーダムなどのような大気圏の摩擦熱に耐えることのできるガンプラはそのまま突入することができる。

逆に大気圏離脱の際はクロスボーン・ガンダムでトビアとキンケドゥがやったように、ロケットとビームシールドを利用した離脱、もしくは10分おきに宇宙へ向けてマスドライバーによって打ち出されるザンジバルやホワイトベース、あるいはHLVを利用した離脱しかない。

突入と比較すると、離脱の方が手段が限られ、時間的な制約も多い。

また、他に問題になるのは弾薬と推進剤だ。

ガンプラバトルでもそれらの制約があり、長時間の戦闘に入り、それらが尽きたときは敗北に一歩近づくことになる。

そこでこのステージでは、フィールド内に散らばっているベースキャンプや輸送艦などの補給地点に入ることで、そこでそれらの補給を受けることができるようになっている。

ただし、補給中はガンプラを動かすことができず、その間に敵チームから攻撃を受けてしまう恐れがあるため、安全を確認したうえでの補給が必要だ。

他にも、ビッグガンやトーチカのような自分で使うことのできるギミックやCPU制御で各チームに見境なく襲い掛かるガンプラもいる。

戦うか逃げるかの選択が常に課せられるステージで、これはジャパンカップが始まってからずっとそのような形になっている。

「それでは、予選開始10分前となりました!準備のできたチームから、シミュレーターに入って出撃準備をお願いします!」

「そろそろ時間だ…。おい、勇太」

「え…?」

「気負うなよ。後ろには俺らがついてるからよ」

「…はい」

カドマツに頭を下げた勇太はシミュレーターに入り、ヘルメットを装着する。

シミュレーターが起動し、ゆっくりと目の前の光景が真っ黒な球体型の空間から魚などのペイントが施された、機械音のうるさい格納庫へと変化していく。

「ここって…イサリビの格納庫??」

よく見ると、座っているはずの自分がなぜか起立していて、服装も前から設定していた耐圧服に変わっている。

そして、目の前にはバルバトスとアザレア、そしてフルアーマー騎士ガンダムの姿があった。

「これが…新しいシミュレーター…」

「あ、勇太君!!」

「主殿!!」

後ろから声が聞こえ、振り返ると、そこには現実世界と同じ姿のロボ太とノーマルスーツ姿になったミサの姿があった。

通信モニターで何度かその姿のミサの姿は見ているものの、こうして全身で見るのは今回が初めてた。

それはミサも同じで、自分のノーマルスーツとは反対にブカブカで重苦しい耐圧服姿の勇太をじろじろ見る。

「そんなスーツでよくバトルができるね、勇太君って」

「慣れたからね。ええっと…その…?」

勇太は何かほかに言いたいことがあるようで、口に出そうかと迷っている。

気になったミサは前かがみになり、首をわずかにひねって勇太を見る。

そのしぐさをかわいいと思ってしまい、うっかり顔を赤く染めてしまう。

「ねえ、どうしたの?」

「ええっと、あの、その…ミサちゃんのノーマルスーツ…その、似合ってるって…」

眼をそらし、ヘルメットを脱いで頬をほじるようにかく勇太はそう言い残すと、そのままバルバトスに飛び乗った。

これ以上、ミサの前にいると平常心が保てなくなると思ったからだ。

そんな彼の後姿を見たミサは一瞬、時が止まったような感覚に襲われたものの、だんだん顔が赤くなるのを感じた。

 

「バルバトス…こうしてみるのは初めてだね」

気を取り直して、バルバトスの正面に立った勇太はじっと本来の大きさである19メートルもの全高となったバルバトスを見る。

コックピットのカメラからしかシミュレーター上のガンプラを見たことがない勇太にとって、こうしてその中でバルバトスを見るのは初めてのことだ。

そんな巨大なロボットをバーチャルだとはいえ、自分の手で動かすことに興奮を感じずにはいられない。

しかし、同時にせっかく作ったガンプラを壊してしまう可能性に不安を感じていた。

ジャパンカップになると、戦闘で発生するダメージが実際にガンプラにも反映される。

そのため、リージョンカップまでの時とは異なり、整備性も勝てるガンプラの重要な要素の一つとなっている。

プカプカと浮かんでいることとイサリビの中にいることから、スタートは宇宙空間だということは理解できた。

3機とも単独での大気圏突入能力がないため、仮に突入する際は別の手段を手に入れる必要がある。

もう少しその姿を目に焼き付けておきたかったものの、もうすぐ予選スタートであるため、急いでコックピットに入り、シートに腰掛ける。

コックピットはウィングガンダムゼロとガンダムエピオンのようなゼロシステム搭載モビルスーツと同じく、モニター画面のない真っ暗な空間だ。

背中が見えていないものの、阿頼耶識システムが接続されたようで、後ろからカチリという音が鳴る。

「網膜投影…開始」

つぶやき、コンソールを操作すると、自分の視界がバルバトスと一体化する。

これがあるため、モニターがなくても問題にならない。

また、ニュータイプのような動きを可能にする点は阿頼耶識システムとゼロシステムは共通していることから、その設定を選んだ。

ハッチが開き、バルバトスをカタパルトに乗せる。

「沢村勇太、バルバトス…出るよ」

カタパルトが動き出し、バルバトスが真っ暗な宇宙へ飛び出し、同時に予選開始を告げるブザーが鳴った。

衛星軌道上で、ガンダムAGEで登場した地球連邦軍の宇宙要塞ビッグリングが見え、ディーヴァやサラミスなどの戦艦から敵チームやCPUのガンプラが出てくるのが見えた。

「あまり無駄弾は使えないから…!」

破砕砲はそのままに、超大型メイスを構えたバルバトスは手始めに左腕のワイヤークローを発射し、まだこちらに気付いていないレギンレイズ・ジュリアを拘束する。

「な…!?いきなり捕まった!?」

「開始したからと言って、油断し過ぎだ!」

原作でバルバトスの首を取ったモビルスーツ、レギンレイズ・ジュリアを捕まえることができたことに幸先のよさを感じた勇太は一気にワイヤークローを収納していき、その機体を引っ張っていく。

拘束されたのは右肩で、左手は自由に使える。

ワイヤーを切断しようとジュリアンソードを出そうとするが、その前にすでに発射されていたテイルブレードが左腕の関節を貫いていた。

「そんな…!?」

吹き飛ぶ愛機の左腕を見たジュリアのパイロットの表情が恐怖に染まる。

そして、そのまま引き寄せられるジュリアのコックピットをバルバトスの希少金属性の指でできた手刀で貫かれた。

「マオのジュリアがやられた!?おのれぇ!!」

不意打ちに近い形で味方を倒されたことに怒りを覚え、ジュリアのチームメイトと思われるレールガン装備のレギンレイズがダインスレイヴを搭載する。

このレギンレイズのレールガンはガンダムフラウロスのようにダインスレイヴを発射できるように改造されている。

いかに阿頼耶識システムによって反応速度が向上したバルバトスであったとしても、これから放たれる鉛色の閃光から逃れることはできない。

仇討ちと言わんばかりに狙いを定め、引き金を引くが、その前にコックピットがつぶれた状態のレギンレイズ・ジュリアがこちらに向かって飛んでくる。

「鉄血のオルフェンズのモビルスーツは…簡単には爆発しないんだよ?」

原作でダインスレイヴの攻撃を受けたモビルスーツをいくつか見てきた勇太はダインスレイヴがモビルスーツを、というよりは高硬度レアアロイを完全に貫通させるだけの力がないということを知っていた。

実際、発射されたダインスレイヴはジュリアに命中するも、その後ろにいるバルバトスに向かって飛んでいくことはなかった。

無論、投げられたジュリアは命中したダインスレイヴのパワーによって再びバルバトスに向けて飛んでいくものの、そのスピードは恐れるほどではなく、今の勇太であれば簡単に回避できる。

「ダインスレイヴなどという兵器を使うとは…恥を知れ!!」

ロボ太の声が響くとともに、真上からフルアーマー騎士ガンダムが電磁スピアを両手で握って急降下し、レギンレイズの頭部に突き立てる。

「しまっ…うわああああ!!」

バルバトスに夢中になり、他の2機への注意をおろそかにしていたレギンレイズのコックピットに大きなひびが入り、同時に撃墜を告げる赤い光に包まれた。

「ふう…ミサちゃんが見つけてくれてよかったよ」

電磁スピアを抜かれ、暗い宇宙に浮かぶレギンレイズの残骸を見た後で、バルバトスはアザレアに向けてサムズアップをする。

それにこたえるように、コックピット内のミサも笑みを浮かべ、サムズアップした。

彼女の近くには単独で撃破したものと思われるガンダムキマリスヴィダールが漂っていた。

アザレアのコックピットはオーブの量産型モビルスーツのそれと同じ設計になっていた。

 

ビッグリング周辺で彩渡商店街ガンプラチームが戦いを繰り広げているように、バーチャル空間の地球と宇宙で、多種多様なガンプラが戦いを繰り広げていた。

「くそっ、レーダーに反応なしかよ!」

ニューヤークで敵ガンプラを探すジーライン・ライトアーマーが増設されたセンサーを使い、見失った敵を探し続ける。

しかし、その相手はレーダーに反応せず、ジャミング機能特有の雑音もない。

狙撃される危険性があることから、狙撃可能ポイントを割り出してそれらの地点にビームを連射を開始する。

ヘビーライフルの高い出力のビームが狙撃可能ポイントを焼き尽くし、仮にそこにガンプラがいたなら、急いでポイント移動するはずだった。

だが、やってきたのは背後から生じる激しい衝撃だった。

「な…な…!?」

「この鋏で挟まれたら、おしまいよ?」

両サイドから激しい締め付けが起こっていることは分かっているが、その正体が何かをメインカメラで確認することができない。

結局、何の抵抗もできないままスクラップにされ、爆発した。

爆発の光と煙が消えると、そこには真っ白なブリッツガンダム、ブリッツ・ヘルシザースの姿があった。

目の前の敵機の反応が消え、完全に撃破できたことを確認すると、すぐに通信を繋げる。

「こちらサクラ、片づけたわ。そちらはどうかしら?」

「ああ、問題ない。既に沈黙している」

モニターに映る、ガンダム戦記0081で登場するキャラ、シェリー・アリズンのノーマルスーツ姿のサクラを見た金髪緑眼の青年が笑みを浮かべて答える。

そのような欧米人風の眼と髪をしているにもかかわらず、肌の色は黄色であり、日本人と欧米人のハーフであることがよくわかる。

ギャラルホルン一般兵のノーマルスーツ姿の彼が乗っている、バックパックがガンダムヘブンズソードのような大型の翼状のものとなっていて、両足にクローが追加されているガンダム・バエルの周辺にはCPU制御のマゼラ・アタックやザクⅡ、ゲイレールの残骸がいくつも転がっていた。

背後の撃破しきれなかったゲイレールが起き上がり、ライフルを向けるが、真上から降ってきた赤いビームでライフルを撃ち抜かれたうえ、側面からの緑色のビームで撃ち抜かれ、とどめを刺された。

「ふぅ…油断するな。スグル」

両目が隠れるほどの茶色い長めの髪で、無精ひげを生やしたジオン軍一般兵ノーマルスーツ姿の男性がバエルのパイロット、江宮英に注意をする。

「すまん…信頼していたことにしてくれ。ヒデキヨ」

信頼されていることは分かっているものの、そんな油断をされたら心配してもし足りない。

口で言ってもらえたのがうれしかったのか、狙撃したモビルスーツのパイロットの青木秀清はこれ以上言うのを辞めた。

ビルのがれきの隙間に隠れた、暗い緑色で塗装されているザクⅠ・スナイパータイプに搭乗しており、装備しているスナイパーライフルはジム・スナイパーⅡのものとなっていた。

 

「オラオラオラァア!!!」

「こ、こいつ!?むちゃくちゃすぎる…わあああああ!?」

南極基地では、回転するケストレル・フィルインが機体各部から展開するビームブレイドをライフルに転用して連射しながらサンダーボルト版のゴッグとアッガイの集団に突っ込んでいく。

本来なら、直線にしか飛んでいかないはずのビームが一度だけ曲がって敵機に向かって飛んでいき、堅牢な装甲であるはずのゴッグですら、何度もビームを受けたことで装甲が耐えきれず、爆散してしまう。

「よくも…!!」

水中からその光景を見ていたフォビドゥンブルーのパイロットがエクツァーンを連射する。

水中からの攻撃に気づいたホウスケは軌道を変え、弾幕を回避する。

「さすがにケストレルで水中戦は無理や…」

ビーム主体のケストレルでは水中で使用できる武器がゼロに等しく、おまけに水中戦用の装備がない。

コックピット内に響くジャズ音楽が次のものに変わると同時に、ホウスケはレーダーでとらえた敵の位置を送信する。

「大阪ガンプラ同盟の力、見たれ!!」

通信を終えたホウスケはケストレルをフォビドゥンのいる場所から距離を置いていく。

仲間の敵討ちに燃えるフォビドゥンブルーが追いかける。

しかし、この大会で重要なのは勝つこと以上にこの1時間をたった1機になったとしても生き残ること。

全滅した時点で、仇討ちも何もなくなる。

逃げていくケストレルを追いかけ続けるフォビドゥンブルーのパイロットがそのことに気付き始めたその時、真上にあった氷が砕け、その氷がゆっくりと落ちてきた。

はめられたことに気付いたが時すでに遅く、大きな氷に接触し、そのまま氷とともに深く深く沈んでいく。

フォビドゥンブルーはその発展型であるディープフォビドゥンとは異なり、頭部イーゲルシュテルンと腕部アルムフォイヤーをそのまま使用することができる。

しかし、。コクピット周辺にチタン合金製の耐圧殻が採用されていない上に、水中での耐圧をトランスフェイズ装甲とゲシュマイディッヒ・パンツァーに依存しており、仮にエネルギー切れになると水圧により機体が瞬時に圧壊する危険性がある。

テストパイロットからはフォビドゥン・コフィン、禁断の棺桶などという不名誉な二つ名をつけられている。

彼がそんなガンプラを採用した理由はガンプラバトルであるため、命の危険がないことともう1つはコックピット周辺が無事であったとしても、装甲そのものが無事に済んでいるかは別の話であるため、コントロールできなくなれば結局敗北を待つという点に変わりがないと割り切ったためだ。

「まだ…だぁ!!」

座して死を待たないことを信条としているフォビドゥンブルーのパイロットは膝関節を覆っていた装甲をパージし、内蔵されているドリルを露出させる。

南極で戦った場合に備え、そして奇襲のために隠していた武器で、ドリルを回転させながら押しつぶそうとする氷に向けて膝蹴りをお見舞いする。

ドリルの回転とともに氷が削られていき、徐々に水上へと向かっていく。

バッテリーの残量はまだ余裕があり、氷の破壊は可能。

あとは水中からのエクツァーンで攻撃を与えつつ後退し、補給地点に到達すればいい。

そうすれば、バッテリーや弾薬の補給を行うことができる。

あと少しで氷を完全に破壊できると思った瞬間、大出力のビームが氷もろともフォビドゥンブルーを飲み込んでいった。

「ふぅ…これでまた1チームつぶしたぜ」

ビームによって溶けた氷から離れたケストレルの右腕にはメガビームランチャーが装備されていた。

ホウスケはケストレルを水中に飛び込ませ、氷を上からメガビームランチャーをゼロ距離発射していた。

「ホウスケさん!あなたの実力はわかっているつもりですけど…一人で動きすぎですよ!」

ケストレルが離したメガビームランチャーを回収した黄色い木星決戦仕様のアンヘル・ディオナのパイロットであると思われる薄いピンク色のツインテールでラクスのノーマルスーツ姿の小柄な少女、三崎恵子が注意をする。

重力下での飛行能力の確保のためか、ノッセルに乗っていて、バックパックに搭載されているウェポンコンテナにはいくつもの武装が搭載されている。

「うるせーよ!ケイコ!!お前はワタルと一緒に後ろを守ってくれりゃあいいんだよ!それと、これて補給地点を確保したんだ。別にいいだろ!?」

彼に言わせてみると、この単独行動は結果として補給地点の確保に成功し、チームのためになったから、批判されるいわれはない。

ビームを連射したことでエネルギーを消費しすぎたことから、一足先に補給のため、2人のチームメイトに補給地点の座標を送ると一足先に向かった。

「もぅー!いうこと聞いてください!私がリーダーなのにー!!」

「放っておいたれ、こいつはああいうやつや」

ライトブルーで塗装されたレコードブレイカーに搭乗した、新生クロスボーン・バンガードの一般兵のノーマルスーツ姿をしている茶色い角刈りで面長の少年、長谷部渡が仕方なさそうにつぶやき、装備しているムラマサブラスターとアンヘル・ディオナがフォールディングアームでウェポンコンテナから取り出したザンバスターと交換する。

ホウスケを大阪ガンプラ同盟に勧誘したのはワタルであり、周りを見ずに行動するのが玉に瑕ではあるが、実力については信頼していた。

しかし、ここからの戦いは一人で勝てるほど生易しいものではない。

そのことを彼が気付いてくれることを願うしかなかった。

 

「予選開始から10分が経過し、バーチャルの地球と宇宙でいくつもの戦いが繰り広げられています!」

会場やテレビにはリアルタイムで予選の戦闘の様子が映像で流れており、応援しているチームが敗退したと知って残念がる観客もいれば、応援しているチームが勝ち残ることを願い、敵機撃墜の際に自分のことのように喜ぶ観客もいる。

「さて…ミスター、そろそろでしょうか?」

「ああ、そろそろだねぇ」

ハルとミスターガンプラが顔を見合わせ、互いに笑みを浮かべる。

ミスターガンプラは立ち上がると、マイクを手にする。

「よーし、ここから地球と宇宙、両方でボーナスチャレンジを開始する!ボーナスチャレンジはいまと40分経過した時点の合計2回行われる!チャレンジの制限時間は開始から15分!そのチャレンジのどちらの一方を1回クリアしたチームは5分間の戦線離脱の時間が認められ、ガンプラの補修を行うことができる!」

ミスターガンプラの声は戦闘中のチーム全員に伝わり、それを聞いた彼らは耳を疑った。

ダメージがガンプラにも反映されるジャパンカップでは、逆に言えば補修に成功することで蓄積したダメージを回復させ、ベストコンディションで1時間を戦い抜くことができるのと同じ意味となる。

「こりゃあ、こうしちゃあいられねえな!!3人とも、待ってろよ!」

カドマツをはじめ、メカニックの多くが席を立ち、補修用のパーツを探しに出ていった。

「さあ、登場してもらおう!最初のボーナスチャレンジだーーーー!!」

ミスターガンプラの叫びと共に、ソロモン付近とベルリンに巨大なコンテナが出現する。

そして、その中から巨大モビルアーマーがゆっくりと出てきた。



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第30話  巨大モビルアーマー接近中!

「よし…このボーナスは確実に取らないとな!!」

「待てよ、5分間でどれだけ整備できるか…」

「それでもさぁ…!」

ザメル、ビルゴⅡ、サーペントの3機で構成されたチームがベルリンへ向かいながら、このボーナスチャレンジをクリアするか否かで言い争う。

戦闘の回避やダメージの修復にその5分を使うことができるのはこの1時間の耐久戦では魅力的な話ではある。

しかし、問題はそのボーナスチャレンジがどのようなものかで、仮にそれのせいでとんでもない損害を受ける、または敗北するようなことになると本末転倒だ。

他のチームでも、このチャレンジをやるかそれとも避けるかで意見が分かれているようで、同じくベルリンに到着したチームはわずかだ。

「それにしてもでかいな…あのコンテナ…」

ベルリンの中央にドンと巨大な塔のように置かれたコンテナに目撃したファイター達は息をのむ。

彼らにとってそれはパンドラの箱であり、その中に残った希望を手にすることができるのはたったの1チーム。

基本的にはとどめを刺したチームがそのアドバンテージを手にすることになる。

それは分かっているものの、ここでほかのチームと戦うのはよろしくないと判断しているようで、誰も戦闘を始めようとしない。

「そういえば、ベルリンでモビルアーマーと言えば…」

ファイターの1人が何かを言った次の瞬間、コンテナが開放し、その中から巨大な大砲をつけた重量のある円盤型の上半身に足のついた黒い200メートルクラスのモビルアーマーが姿を現す。

「デ、デ、デストロイガンダム!?」

「嘘だろ?!デストロイガンダムって60メートルくらいじゃなかったか!?」

目の前にいるデストロイガンダムは周囲のHGのガンプラから判断すると200メートルクラス。

しかし、本来は60メートルくらいの高さのモビルアーマーで、ザムザザーやゲルズゲーにはない可変機能をなぜ今になってつけているのかという迷宮入りの謎を抱えている。

パイロットのステラがフォウの、デストロイガンダムがサイコガンダムのオマージュであれば、ビグ・ザムではなくモビルフォートレス形態に変形し、盾を装備させればいいだけの話だ。

サ○ライズの裏事情があったのか、原作者でありこの世界の神である冨野様とVガンダム以降の原作者であり神様である矢立様の間に何かあったのか。

そんな作者の下種の勘繰りはさておき、出てきたデストロイガンダムに向けて各チームが攻撃を開始する。

ビームやミサイル、バズーカが次々と着弾するが、全方位に展開された陽電子リフレクターがそれを受け止める。

モビルアーマー形態では全方位に展開できるこの陽電子リフレクターの存在で、余計にモビルスーツ形態の必要なさが証明される中、レーザー対艦刀を装備したアデルMkⅡが接近する。

「こいつでバリアをぶち抜い…!?」

しかし、対艦刀と陽電子リフレクターが接触した瞬間、電撃が襲い掛かり、感電に似た衝撃が再現されたファイターが悲鳴を上げる。

「何をやっているんだ!!透過できないのか!?」

「今やって…そ、そんな!!」

アデルMk-Ⅱのエネルギーゲージが下がっていて、おまけに対艦刀へのエネルギー供給が鈍くなったためか、ビームの出力が徐々に弱まっていく。

「ま、まさか…このリフレクター、マガノイクタチを…!?」

ゴールドフレーム天から装備された非殺兵器を彼は頭に浮かべる。

ミラージュコロイドの粒子を敵機内に送り込んで疑似的に両機を連結状態にし、バッテリーを強制放電させるもので、設定上では原子炉搭載型のモビルスーツであっても電力生産量を超過した放電を行えるため、この装備の効力を受ければ機能を停止に追い込むことができる。

それが最後の言葉となり、デストロイガンダムから分離したシュトゥルムファウストに握りつぶされる形で撃破されてしまった。

「嘘だろ…!?対艦刀が効かないってことか!?」

「おい見ろ!デストロイが…!」

アデルMk-Ⅱの撃墜に動揺が広がる中、デストロイは分離したシュトゥルムファウスト共々その姿を消していく。

あれほど巨大だったデストロイが消えてしまい、静寂に包まれたベルリンで各チームのガンプラのメインカメラがきょろきょろと動く。

「くそ…ミラージュコロイド付か!?」

「どこにいやがる!!浜本の仇を取ってやるぞ!!」

倒された味方のため、何としてもデストロイを倒すと決心するガンキャノン・アクアをあざ笑うかのように、両側面から強く挟む力が発生し、装甲や関節にひびが入りながら、スラスターに火をつけていないにもかかわらず浮かび始める。

「く、クソ!!後ろにいたのか!!」

警告音が鳴り響く中、抵抗しようと必死に操縦桿を動かす。

しかし、関節へのダメージが大きいのか、いくら動かしても手足に反応が届かない。

スラスターを動かし、両腕犠牲を覚悟に脱出しようとしても、パワー差が大きすぎてそれもできない。

しかし、リージョンカップを突破してここまで来たプライドから、彼は座して死を待つ選択はしなかった。

両腕を関節ごと強制排除して無理やり脱出し、頭部バルカンで見えないシュトゥルム・ファウストに攻撃を加えた。

 

「宇宙空間だと、ここか…」

ソロモン宙域付近に到達した勇太は周囲を見わたす。

この宙域はソロモン戦及び星の屑作戦におけるサイサリスによる核攻撃があったためか、連邦軍・ジオン軍問わず、数多くのモビルスーツや戦艦の残骸が散乱しており、それが暗礁地帯にも到達している。

ベースジャバーを調達していたアザレアもさすがにこの暗礁地帯をサブフライトシステムに乗った状態で進むのは無理だと判断し、それから離れてここからボーナスチャレンジがあると思われるソロモン宙域に到達するための最短距離を割り出し始める。

「しかし、主殿。なぜわざわざ暗礁地帯から向かう必要があるのか?」

「移動中にほかのチームと接触するのを避けるためだよ。宙域に入ってしまえば、否応なく協力することになるからね。ミサちゃん、どう?」

「出たよ。これから、ルートを送信するね」

フルアーマー騎士ガンダム、そしてバルバトスと接触回線を開いたアザレアはデータを送信する。

出されたルートと各機体の機動力から判断すると、4分程度で暗礁地帯を超えることができる。

「ロボ太、殿は任せるよ」

「心得た!」

バルバトス、アザレア、フルアーマー騎士ガンダムの順番で一列に並んで暗礁地帯を進んでいく。

(この暗礁地帯…サンダーボルト宙域よりも、マシ!!)

ジャパンカップ前の練習の中で行った暗礁地帯突破の特訓を思い出す。

一番大変だったのはサンダーボルト宙域で、この地帯の倍以上のデブリが集まっていた。

おまけにデブリが集まりすぎた上に帯電した残骸も数多く存在することによる放電現象のせいでセンサーに不具合が発生することもあった。

それと比較すれば、今の暗礁地帯はかわいく見えてしまう。

途中で地球連邦軍が配置した0083版のトーチカをビームショットガンで破壊し、問題なくソロモン宙域に到達することができた。

その間に相手チームと遭遇することはなかった。

「!?高熱原体接近!」

「何!?」

大出力のビームが一直線に勇太たちに襲い掛かる。

ナノラミネートアーマーであればビームに高い耐性を持つが、フレームそのものはビームへの耐性がないうえに長時間ビームを受け続けると高温になったコックピット内で蒸し殺される羽目になる。

機動力の低いアザレアをつかみ、フルアーマー騎士ガンダムと共に射線から逃れる。

ビームは3機がいた場所を通過していき、その先にあるデブリを焼き尽くしていった。

ビームの発射位置を逆探知すると、ソロモン地表からだ。

「戦艦の主砲以上の威力じゃないか…!」

「ソロモンってことは…ビグ・ザムじゃないかな…?」

ファーストガンダムに搭乗したドズル・ザビ搭乗のビグ・ザムとリメイク版の0083で登場した地球連邦軍仕様のビグ・ザムが頭をよぎる。

しかし、この火力は明らかにビグ・ザムを上回っている。

それ以上の脅威がいることを肌で感じながら、勇太たちはソロモンに到達した。

「くそっ、生田は距離を取れ!当たりまくるぞ!」

「なんだよ、あのモビルアーマーは!!」

ソロモンでは数機のガンプラが例のビームを撃ったモビルアーマーに攻撃をしていた。

ビグ・ザムの上半分とドムがつけるような熱核ホバーを大型化したものを取り付けたような大型のモビルアーマーは実弾をその堅牢な装甲で、ビームをIフィールドで受け止め続ける。

そして、わずかに攻撃が止むのを見計らうと全身に取り付けられているビーム砲を発射する。

全方位に向けて次々と発射されるビームは接近戦を仕掛けようとしたガンプラをスクラップに変えていき、地表を焼き尽くしていく。

「勇太君、あれ…グランザム、グランザムだよ!」

「見たらわかる…まさか、それを見ることができるなんて…」

宇宙世紀122年ごろに大規模なテロを起こした火星独立ジオン軍オールズモビルが開発したモビルアーマーの1つ。

モビルアーマーというよりも移動要塞として進化を果たしたビグ・ザムともいえるそれは完成前にオールズモビルが壊滅したことから表舞台に出ることがなく、マイナーな機体として知られている。

ガンプラとして発売された記録もないため、ここでお目に書かれることを勇太は光栄に思った。

「勇太君!見とれてないで戦って!」

「あ、そうだった!!」

動きを止めてしまったことに気付いた勇太は急いでバルバトスをグランザムに向けて接近させていく。

巨大なモビルアーマーであるため、超大型メイスで対抗するのは難しいと判断し、それを手放して太刀を手にする。

(太刀を使うの、久しぶりだな…)

ほっそりとした刀身を見て、少し頼りない感じがしたものの、重量のある超大型メイルを手放したことで瞬間的な機動力は上昇している。

性懲りもなく発射されるビームを避けながら接近していき、あいさつ代わりに太刀で左腕を切断する。

しかし、その間に右手がバルバトスをつかみ、そのまま握りつぶそうとする。

「でも…相手は…」

「主殿だけではない!!」

力の盾でビームを受け止めながら接近に成功したフルアーマー騎士ガンダムが炎の剣で右腕を切りつける。

1度では切断できなかったものの、2度3度の攻撃により、切り裂くことに成功。

拘束されていたバルバトスは右手から解放され、勇太はグランザムの装甲の隙間を探す。

「(どこかに…太刀で攻撃できる個所は…!?)うわあ!!」

後方から衝撃を感じ、コックピット内で揺らされた勇太は後方の様子をモニターで確認する。

ソロモンに隠れていたCPUのRFザクやRFドムなどのオールズ・モビルのガンプラたちがビームライフルでこちらに攻撃を仕掛けていた。

「ミサちゃん!あのCPUを!!」

「りょ、了解!!」

両肩のGNバズーカを発射し、車線上にいた3機のRFドムを消し炭にすることに成功する。

しかし、回避したほかのガンプラが攻撃を仕掛けたアザレアに接近しはじめ、そのうちのRFザクの指揮官機が左腕のスパイクシールドから海ヘビを発射する。

とっさに左手のシールドで受け止めるが、接触と同時に激しい電撃が襲い掛かり、左腕が動作しなくなってしまう。

右腕のビームマシンガンが使えるため、それでRFザクを殴って距離を取り、それを連射して撃破した。

「あとはビームサーベルで…!?」

接近戦に対応するため、ビームマシンガンを手放そうとした瞬間、接近していたRFザク2機が頭上から降ってくる大出力のビームに焼かれ、消滅する。

「え!?何々!?何が起こったの!?」

ミサの目の前にデンドロビウムのそれをほうふつとさせる物干し竿のような長いメガ粒子砲を突き出した、上にガンダム・ヘイズルのシールドブースターをつけている戦闘機が通過し、グランザムに迫る。

新たな敵の出現を察知したグランザムはその戦闘機に向けて次々とビームを発射する。

「おっと、こんなにビームが来てしまうと、避け切るのは難しそうだ」

青いロンド・ベルのノーマルスーツを着用した左右対称になるように分かれた髪形をしている薄茶色の髪をした青年は笑みを浮かべつつ、操作パネルの右側についているスイッチを押す。

そして、ビームが来ることが分かっているにもかかわらず、そのまままっすぐグランザムに接近し始めた。

「ちょっと!そんなに突っ込んだら当たっちゃ…!?」

ミサの警告を消し飛ばすように、グランザムから発射されたビームはそのガンプラに命中する直前に霧散していく。

「Iフィールド…」

「そこの赤いバルバトス!一緒にグランザム、倒してみるかい?」

「え…?」

全身についているビーム砲をロボ太と共に手当たり次第に破壊する中、彼からのオープンチャンネルでの通信が繋がり、突然の提案に勇太はびっくりする。

周囲を見るが、彼のチームメイトと思われるほかの2機のガンプラの姿が見えない。

ソロモンのどこかに隠れていて、闇討ちさせるつもりかと一瞬思ったものの、確たる証拠がないこと、そして自分たちだけでグランザムを撃破するのは難しいことから、ここは乗ることにした。

「生憎、僕のメガビーム砲じゃあ決定打にならないみたいだ。だけど、君の破砕砲と覚醒なら、どうにかなるんじゃないかって思ってね」

「覚醒と破砕砲…」

現段階でのこちらの最大火力としたら、覚醒エネルギーを集中させて発射する破砕砲で、それでならグランザムを破壊することができるかもしれない。

しかし、覚醒にはある程度集中する必要があるうえ、破砕砲を発射するには照準合わせを含めると時間がかかる。

その間にグランザムのビームが飛んできて破砕砲が破壊される恐れがあるため、勇太はそれを実行しなかった。

だが、Iフィールド付の戦闘機ならばどうなるか…。

「君は僕のガンプラの背中に乗るんだ。破砕砲を用意して、覚醒を!時間は稼ぐ!」

「Iフィールドの限界時間は…?」

「もってあと70秒と言ったところかな…?」

「分かりました。2人とも、聞こえたよね?!」

「分かった!勇太君!私たちも時間を稼ぐよ!」

「砲台潰しは任せてくれ!!」

バルバトスを背に乗せた戦闘機は一気にグランザムから離れていく。

ミサはフラッシュバンをグランザムに投げつけ、その閃光でそのガンプラの身動きを封じさせた。

フルアーマー騎士ガンダムは兜にフラッシュバンを受けないようにツインアイを隠すシャッターがついており、それでフラッシュバンをやり過ごした。

ある程度距離を離し、戦闘機はその場で一回転してグランザムに向けて接近していく。

その間に破砕砲の準備を終え、勇太に残された仕事は覚醒することと撃つことの2つだけになった。

「よし…今の僕なら…!」

深呼吸し、集中すると同時にバルバトスの体が青いオーラに包まれていく。

そして、破砕砲の銃口からもまぶしいくらいの青いオーラが宿っていた。

グランザムのビームがたまにこちらへも飛んでくるが、Iフィールドがそれを受け止める。

「弾道のイメージも固まった…いける!!」

照準が頭部メガ粒子砲の砲口に定まり、青い光を発する弾頭を発射する。

発射と同時に激しい反動が襲い、両肩の装甲が展開し、放熱索も白い光を放つ。

弾丸は堅牢なグランザムの装甲を貫き、内部で大爆発を引き起こす。

内部から破壊され、推進剤も燃え上がり、グランザムは巨大な爆発を起こしながら姿を消した。

「ふうう…」

「勇太君!!」

「主殿!やったな!」

戦闘機から飛び降り、覚醒を解除したバルバトスにアザレアとフルアーマー騎士ガンダムが近づく。

「やったね。さすがは沢村勇太君だ。いい覚醒の力を持ってる」

「いえ、あなたの助けがなければこの攻撃はうまくいきませんでした。あの…あなたは…?」

「ああ、僕は六戸清。そして、これが僕のガンプラ、G4S」

「G4S…?変わった名前ですね」

普通の人なら、ガンダムがついたり元となった機体の名前をどこかにつけて名前にするものだが、形式番号のような名前に勇太は不思議な感じがした。

それに、その戦闘機に足がついていることから、少なくとも可変機であることは分かる。

もう少し聞いてみようとしたが、その前にモニターにボーナスチャレンジクリアの文字が表示され、後方には迎えと思われるイサリビがやってきて、ハッチを開いている。

あとはこれに入ることで一度現実世界に戻り、そのうえでガンプラの修理に5分間時間を使うことができる。

「ほら、早く行かないと。イサリビが行っちゃうよ」

「あ…そうだった。じゃあ、ロクトさん…ありがとうございます!」

次に会ったときは戦うことになることは分かっているが、キッチリとお礼を言った後で勇太はミサ達とイサリビに入り、イサリビは煙のようにその姿を消した。

「ハハハ…今年もいいガンプラとファイターが来てる」

「ロクトさんひどいじゃないですか!俺らを置いて先に行くなんて!!」

後方からオレンジ色でレイダーをベースとしたガンプラとその上に乗った、4基のアームド・アームが搭載されたバックパックをつけた白い親衛隊仕様のギラ・ズールがやってきて、置いていったロクトに文句を言う。

明るいオレンジ色のツーブロックで、そばかすを付けた、白いソレスタルビーイングのノーマルスーツ姿の青年、若田徹と黒いアシンメトリーで左目が隠れている、アンジェロのノーマルスーツの男、向井信也で、2人ともロクトの後輩だ。

「はは、ごめんごめん。ボーナスチャレンジだって聞いて、気になって飛んで行っちゃってたよ」

「気になってって…俺らはあの後、CPUのサラミス1隻にそこから出てきたジム改の部隊と相手したんだぞ!?」

「分かった。埋め合わせはちゃんとするからさ」

さすがにチームを置いていったのはまずかったなと今更ながら反省するロクト。

そんな彼の戦闘機がモビルスーツ形態に変わっていく。

ガンダムXをベースとし、左手にもう1枚のシールド・ブースターを装着し、右手には下部にビームマシンガンの銃身が追加され、重量が増したバスターライフルを握ったガンプラで、ツインアイが3人がいなくなった場所に向けられる。

「彩渡商店街ガンプラチーム…沢村勇太か…」




機体名:アンヘル・ディオナ改
形式番号:なし
使用プレイヤー:三崎恵子
使用パーツ
射撃武器:ビームライフル
格闘武器:ツインビームスピア
頭部:アンヘル・ディオナ
胴体:ガンダムAGE-2ダークハウンド
バックパック:アンヘル・ディオナ(メガビームランチャー×2、ツインビームスピア、ビームライフルなどを搭載)
腕:ステイメン
足:アンヘル・ディオナ
盾:なし

大阪ガンプラ同盟のファイターであり、リーダーであるケイコが登場するガンプラ。
味方の支援に特化した機体となっており、バックパックには仲間の者を含めて数多くの武装が搭載されている。
なお、腕と足、及びバックパックにはフォールディングアームを装備しており、それぞれのアームでもビームサーベルを含めた武装を使えるようになっているため、支援機でありながら乱れ撃ちなどの変則的な戦闘が可能であることから、ただの支援機でないことがわかる。
なお、型式番号がないのは元となったアンヘル・ディオナにその設定がないため、そして彼女がこれを完成させたのがジャパンカップまであと2日の状況であったため。


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第31話 戦いの重力

「ミサちゃん、損傷は!?」

「装甲が若干傷ついてるけど、フレームは大丈夫!?すぐに修理できるよ!勇太君は!?」

「バックパックに被弾してるところがある。今のうちに修理するよ!」

声を掛け合いながら、勇太とミサは手に入れた5分のアドバンテージで可能な限りガンプラの修理、及び若干の改造を施し始める。

グランザムとの戦闘で、弾幕をかいくぐって戦った勇太の場合、どこかに被弾している場所があってもおかしくない、

特にバックパックへの損傷はテイルブレードの制御やスラスター出力の低下に直結しやすい。

急いでバックパックを取り外し、損傷している個所のパーツを交換する。

そして、塗料を筆で丁寧に塗り始めた。

ガンプラの出来栄えは性能に直結するというのはその通りで、ナノラミネートアーマーなどの特殊装甲も色塗りの完成度の高さによって耐久度が上下する。

細かいところまで塗りながら、勇太は被弾個所をハロに入力していく。

どういうところが被弾しやすいのかを客観的に数字で見えるようにし、今後の特訓の判断材料にすることができる。

「お疲れさん、ほら飲み物だ」

ジュースを買ってきたカドマツは2人に渡し、ロボ太のガンプラ修理を手伝う。

集中して作業をしているとあっという間に時間が経つもので、気が付くと再出撃まであと40秒という状態になっていた。

「時間ぎりぎりだ!お前ら、行ってこい!」

「了解!!」

「うーん、マガジンを別のにしたかったけど、もうこれでいい!!」

タイムキーパーを勤めたカドマツの一声で勇太たちは急いでシミュレーターに入り、ガンプラをセットする。

「これが…ジャパンカップ…」

この5分の間、ガンプラの修理をしていたミサはこのわずかな時間の間で見えたアザレアの破損個所を思い出す。

勇太もそうだが、実際に損傷がリアルに再現されるのは初めてで、愛着を持つアザレアが本当に傷つくのはミサにとってつらいことだった。

もし、タウンカップやリージョンカップでその損傷が再現されていたとしたら、もしかしたらもっと大きく傷ついたり、バラバラになったアザレアを見ることになったかもしれない。

そして、自分で作ったガンプラが壊れるのが嫌になり、ガンプラバトルを投げ出していたかもしれない。

しかし、今は勇太やカドマツ、ロボ太という仲間、そして自分が守りたい彩渡商店街がある。

もっとアザレアをパワーアップさせて、彼女の強さを証明したいという欲望がある。

コックピットに腰掛け、ヘルメットを治したミサはじっとハッチが開くのを見る。

「沢村勇太、バルバトス・レーヴァテイン!」

「ロボ太、フルアーマー騎士ガンダム!」

「井川美沙、アザレア・パワード!!彩渡商店街ガンプラチーム!」

「出るよ」

「んもう、勇太君。三日月みたいに『出るよ』、じゃなくって、ここは行きまーすとか元気よく!!」

シャイな勇太が大声でそういうことを言うような人じゃないことはミサも分かっている。

シミュレーターの中で、この声はチームメンバー以外誰にも聞かれないということを分かっているとしても。

しかし、これからバトルをすることになるため、ここは景気よくやってほしかった。

だが、行ってしまったものは仕方なく、3機とも再びソロモン宙域に飛び出す。

「…!?敵機!ビームが来る!!」

出撃したばかりの3機の中央を通るように、大出力のビームが直線を描く。

射線上のデブリは爆発とともに消滅し、ロボ太が真上を向く。

「主殿、ミサ!モビルスーツが2機!ストライクノワールベースが1機、GNアーチャーベースが1機!先ほどのビームはGNアーチャーのものだ!!」

先ほどのビームの犯人であるGNアーチャーベースのガンプラはバイザーやフレームの色の一部がオレンジに変更されていて、ランチャーストライクの主力武器である320mm超高インパルス砲「アグニ」を装備した、後方支援型となっている。

もう1機のストライクノワールベースのガンプラはストライクに近い色彩に戻されていて、背中にはトライブレードとシュベルトゲベールが装備された、GNアーチャーベースと対照的に接近戦型の仕上がりとなっている。

「2機だけ…。もう1機は!?」

大型のモビルアーマーやPG機体で参戦する場合、編成できるガンプラは2機までという制約がかけられている。

2人の機体は勇太たちと同じくHG機体で、本来なら3機編成にするのがスタンダードなはずだ。

見落としがないか、ミラージュコロイドやジャミングで感知できていないのか、判断に迷う勇太にストライクノワールが迫る。

「勇太君!」

「…!!」

反応が遅れ、危うくシュベルトゲベールで両断されかけた誠だが、その前に超大型メイスで刃を受け止める。

「へえ…そのバルバトス、かっこいいな!めらめら燃えてるって感じで!」

「まさか…本当に2機だけってことか!」

「勇太君!キャ!!」

勇太を援護しようとしたミサだが、ミサイルが飛んできてそれをバルカンで撃ち落とす。

その間にビームが飛んできて、わずかに後ろに下がったことで直撃は避けることができたが、高熱のビームの光でモニターが白く包まれてしまう。

「ツキミの邪魔はさせないわ!私と…この、ガンティライユが!!」

「ナイスだ、ミソラ!」

「接近戦仕様って分、パワーはあるみたいだけど…!」

ツインリアクターを搭載したガンダム・フレームであるバルバトスもパワーでは負けていない。

パワーを上げていき、鍔迫り合いでは勝てないと踏んだ両者は互いに距離を取る。

すかさず超大型メイスを離すと、バックパックからサブアームで右手に持ってきたビームショットライフルをストライクノワールベースのガンプラ、エンハンスドデファンスに向けて連射する。

拡散して次々と飛んでくるビームにかすりながらも、ツキミはバルバトスの周囲を旋回するように回避していく。

「ツキミ!ここは私と…!」

「駄目だ、今これを使うわけにはいかないだろ…」

あくまで今はこのままで戦えるだけ戦う。

バルバトスが覚醒使いで、それを使われたら一気に性能を高めることは分かっている。

だとしたら、覚醒する前に倒せばいい。

「速いな…」

ビームショットライフルの残弾やこれからの戦いを考えると、このままやみくもに連射をするわけにはいかない。

「ロボ太!ミサの援護を!」

「心得た!」

電磁スピアを手にしたフルアーマー騎士ガンダムがアザレアに攻撃を続けるガンティライユに接近する。

「SDガンダム!?」

後ろから飛んでくる小型のガンダムにミソラは驚きを見せる。

ガンティライユはあくまで遠距離支援を重視したガンプラで、近接戦闘オプションが限られている。

しかし、彼女とツキミは沖縄代表としてジャパンカップに進出した猛者。

バックパックに内蔵されているGNミサイルを後方に向けて次々と発射していく。

「この程度の弾幕など!!」

広範囲に舐めるように飛ぶミサイルを網目をくぐるように回避していき、回避できないものについては内蔵されているビームガンで撃ち落とす。

だが、真上から次々とビームが飛んできて、ロボ太の霞の鎧に命中する。

「ぐう…!?奇襲か!」

「うわわわ!こっちにもきたぁ!」

真上からモビルドールのトーラス5機とビルゴⅡ3機が迫ってきており、無差別に攻撃を始めている。

「CPU!?」

「なら!」

ビームショットライフルをしまい、超大型メイスを回収したバルバトスは前衛となっているビルゴⅡに接近していく。

阿頼耶識システムの恩恵によって実現したパターンに頼らない直感的な動きは動きの単調なモビルドールにとっては対処しづらいようで、何度ビームを撃っても命中しない。

肉薄したバルバトスは超大型メイスをプラネイトディフェンサーを展開するビルゴⅡに向けて突きさす。

複数のユニットで立体フィールドを形成し、ユニットから発生する電気フィールドで防御するそのシステムは指向性の高まった一点集中の攻撃に弱い。

ツインリアクターによる力任せな突きによって突破され、胸部に大穴を開けられたビルゴⅡは機能を停止した。

「うわあ…さすがは鉄華団の悪魔…」

「感心してる場合じゃないわよ!」

モビルアーマー形態に変形したガンティライユの上に乗ったエンハンスドデファンスはアグニを手にし、プラネイトディフェンサーが展開されていない角度からそれを発射する。

ガンティライユのブースターには追加のバインダーが装着されたことで、原型ではできなかったサブフライトシステムとしての運用も可能になっている。

また、これは多くのチームで行われていることだが、マニピュレーターを統一することで互いの武器の使用も可能だ。

「1VS1の勝負に水を差すとは…万死に値する!!」

「あの2人に負けてられない!!」

せっかくのチーム同士のバトルに水を差されたことに怒ったミサとロボ太もCPU部隊との戦闘を開始した。

 

「CPU機体は数多く登場する…。ライバルと一時共闘してピンチをしのぐか。それとも危険を覚悟でみつどもえに持ち込むか…すべては君たち次第だ!その選択の数だけ存在するドラマを私に見せてくれー!!ふぅ…」

しゃべり終え、のどがカラカラになったミスターガンプラはパイプいすに腰掛けて差し入れのコーヒーを飲み始める。

「お疲れ様です、ミスターガンプラ」

「いやぁー、今回はどうも気合が入ってしまってねぇ。…おかげでらしくないことをしてしまったよ」

天井を見上げるミスターガンプラはあのリージョンカップの後にやった行動を思い出す。

コネのある運営委員に依頼して、ジャパンカップ優勝者への副賞として自分とのバトルを無理やり入れてもらった。

もともと、ミスターガンプラは大会にはイメージキャラクターとしては参加するものの、運営そのものはノータッチな態度を貫いていて、依頼された運営委員の男も耳を疑っていたようだ。

「でも、私は楽しみですよ。未来のチャンピオンと世界初のプロファイターの戦い…あなたの復帰戦を」

「復帰戦…か。よしてくれよ。私はファイターを引退してるからね。1度だけさ」

「残念ですね。私…あなたのガンプラバトルが忘れられなくて、この仕事を引き受けたんですから…」

8年前、ハルがまだ中学生の頃、史上初のプロファイターとなったミスターガンプラは世界中の大会で活躍し、その姿は日本中で注目されていた。

ガンプラは男の遊びで、女である自分には関係ないと思っていたハルもその光景に魅了され、なんらかの形でガンプラバトルにかかわっていきたいと願うようになっていった。

そして、大学卒業後はインターネット配信を中心として、ガンプラバトルの中継に数多くかかわることのできる新興の放送局である冨野インターネット放送にアナウンサーとして入社し、今に至る。

残念だったのは8年前にミスターガンプラがプロファイターを引退してしまったことだ。

公式戦でミスターガンプラのバトルを中継したいという思いが強かった分、それが彼女にとっての悔やみとなっている。

「ミスターガンプラ、あなたはなぜ引退したんですか?まだとても若いのに…」

ミスターガンプラを名乗ってからは年齢不詳となっているが、引退したときはまだ20代後半。

まだまだ現役としてはいくらでも活躍できる年代だ。

結婚や親族の死のような、環境が一変するような話も少なくともハルの耳には入っていない。

「プロとして戦う以外にも、ガンプラを世界に広める手段があるんじゃないか…そう思っただけさ」

 

「ぐ…!?なんや、このブリッツは!?」

ギアナ高地でホウスケのケストレル・フィルインがブリッツ・ヘルシザースとビームサーベルで鍔迫り合いを演じていた。

他の味方のガンプラたちは別の相手と交戦していて、援護する余裕がない様だ。

「ミラージュコロイドが効かない相手がいるなんて…驚いたわ」

一度距離を置き、ギガンティックシザースのビームを発射したサクラもホウスケの実力の高さに驚いていた。

ケストレルの出力と全身のビームサーベルを過信した猪突猛進な相手とばかり思っていたが、勘が鋭いようで、ミラージュコロイドを利用したナイフやシザースでの接近戦ではどれもまるで分かっていたかのように回避されるか、わずかに掠る程度のダメージでとどまっていた。

更に反応速度もいいようで、今発射したビームも大きくジャンプして回避し、ガンダムエピオンのハイパービームソードのような大出力のビームサーベルを振り下ろしてくる。

本当は覚醒を使いたいところだが、サクラはまだ公式戦で覚醒を見せておらず、ここで覚醒できることをさらすわけにもいかなかった。

反応が遅れてしまい、横に回避するのが難しくなっていた。

「けど…負けるわけにはいかないわ!!」

ギガンティックシザースを開き、ビーム砲から大出力のビームの刃を生み出し、ケストレルのビームサーベルを受け止める。

「く…出力が互角って、どんな改造をしとるんや!?このブリッツは!!」

「あとは…!」

トリケロスを手放し、自由になっている右手でインパクトダガーを取ったブリッツはそれをケストレルに向けて投げようとする。

短期決戦型のブリッツのバッテリー残量を考えると、ここでトリケロスのビームライフルを使うわけにはいかなかった。

「ぐぅ…!!」

インパクトダガーの存在に気付いたホウスケだが、ここで出力をほかに回すと競り負けてしまう可能性が高く、動くことができない。

「ホウスケさん!!」

「狙撃兵を前によそ見とは、いい度胸だ。特に俺と、このゴースト・ザクを相手にな」

ヒデキヨが乗る黒いザクⅠ・スナイパータイプのビームがホウスケに気を取られたケイコのアンヘル・ディオナ改の右腕に命中する。

右肩関節ごとえぐり取られる形となり、バランスを崩してノッセルから落ちてしまう。

ウェポンコンテナの存在から背中を向けて落ちるわけにはいかず、左腕が下になるように横へ向けて落ちた。

「この機体が積んでいる武器は脅威だ。この場で処分してやる」

スナイパーライフルの照準をディオナに向け、弾道を頭の中でイメージする。

「ゴーストが見えた…今なら!」

弾道を完全にイメージしたヒデキヨは引き金を引こうとする。

しかし、その前に上空から光の翼がはためくのが見えた。

ビームを発射するものの、落下したディオナは光の翼を展開したガンプラ、レコードブレイカー・ブルーシーによって上空へもっていかれ、ビームは彼女がいた場所を通過するだけだった。

「くそ…!」

「よくもうちのリーダーに手傷を負わせてくれたのぉ、狙撃野郎!!」

発射位置の逆探知に成功したレコードブレイカーがザンバスターを連射する。

上空へ高機動で飛びながらの射撃であるため、命中こそしなかったものの、それでも至近弾が多く、このままその場にいて当たらずに済む保証はない。

「く…狙撃ポイントを変更する!」

しかし、自分が倒せなくてもあとはサクラとスグルがいる。

チームが勝利することは撃墜スコアを稼ぐ以上に大事だと考えたヒデキヨはスモークを散布し、その場から姿を消した。

「ホウスケ!!ここで消耗したら生き残れなくなるわ!撤退よ!!」

「はぁ!?まだ戦えるで!あのブリッツさえつぶせば…」

「本選でも戦うチャンスはある。それに、そろそろガスがやばいんやないか」

ワタルの言葉にホウスケはハッとして推進剤の残量を確認する。

これまでの戦闘でかなり推進剤を消耗していたようで、あと少しで警告水準に達する。

高機動戦闘を重視するケストレルにとって、推進剤不足は致命的だ。

「…しゃあないなぁ!!」

バックパックのビームサーベルを1本引き抜き、上に向けて投げてから、腕のビームサーベルをビーム砲として発射する。

ビームが接触すると同時にビームサーベルの中にためていたメガ粒子が拡散し、周囲のガンプラの眼をくらませる。

『サンダーボルト』でイオが東南アジア海上で南洋連合と戦った際にドダイ改に乗っていたクローディアを捕縛するために行った目くらましを再現したものだ。

「潮時か…」

レコードブレイカーとケストレルの機動性を考えると、こちらの足では追いつけない。

スグルが乗っているガンダム・バエルH&H(ヘルアンドヘヴン)の飛行形態であれば追いつくことができる。

だが、この機体の出力ではサブフライトシステムとして乗せることができるのは1機のみで、残り1機を置いていくことになってしまう。

「放っておけ。あくまで今優先すべきことは生き残ること。撃墜スコアを稼ぐのは二の次だ」

「そうね…。けど、隠し玉を使う前に終わってくれて何よりだわ」

無論、それは相手チームも同じかもしれないが、と心の中で付け加えつつ、サクラはブリッツのバッテリー及び推進剤の残量を確認する。

推進剤はまだしも、ビームを使い過ぎたせいかバッテリー残量があと20%で、充電が必要だ。

「ギアナ高地の近くにある補給拠点は…ジャブローね。そこで補給ね」

「いや、ジャブローは既に奴らが向かっている可能性がある。ここはフロリダのケープケネディがいいだろう」

距離で考えると、ケープケネディはジャブローと大して変わりはない。

ジャブローは密林の中であるため、補給中でもそれを隠れ蓑にして補給できるため、できればそこでやりたかったが、やむを得ない。

「よし、スグルは俺を乗せてくれ。サクラ、行けるな?」

「大丈夫よ。ギリギリになるけど、なんとかなるわ」

いざとなればザクの推進剤を借りればいいと考える。

先ほどのような相手と再び遭遇しないことを願いながら、3機はケーブケネディへ向かった。

 

「へぇー、補給拠点ってこんな感じなのもあるんだねぇー」

「宇宙は地球よりもはるかに大きいんだ。こうした補給拠点があるとわかると助かるよ」

ソロモンとテキサスコロニーの間あたりにある宙域の撃破されたムサイの格納庫で、勇太とミサは機体から降りて補給が行われる光景を見ていた。

『漫画版ミッシングリンク』でも、ペイルライダー・キャバルリーを奪取し、ソロモン宙域から脱出したスレイヴ・レイスは同じような場所で補給と整備を行い、ア・バオア・クーにいるペイルライダー、そしてグレイヴとの決戦に備えた。

なお、補給を行っているのは整備メカ『カレル』と小型のトロハチ、そしてそれに乗っているハロだ。

「それにしても、まさか敵チームと一緒に補給をするなんて…」

無重力下で火星ヤシを口にしながら、勇太は隣にいるツキミに目を向ける。

このムサイには勇太たち彩渡商店街ガンプラチームだけでなく、ツキミとミソラの2人だけで結成したORTSガンプラチームも入っていて、一緒に補給中だ。

なお。ORTSとは沖縄宇宙飛行士訓練学校で、そこはいうなれば宇宙飛行士にとってのPL学園だ。

宇宙飛行士としての訓練を積むことができ、宇宙飛行士を夢見る若人が日本全国から集まってくるらしい。

「でも、なんで2人でHG機体なの?それよりもPG機体を使えば…」

「PGを操作できるくらいのアセンブルシステムを作れなくてな。それに、数は不利だけど、俺たちは結構強いぜ」

「強い…か。確かに」

2人が強いことはソロモン宙域での戦闘でよくわかっている。

覚醒を使っていないとはいえ、勇太とツキミのこの戦闘での撃墜スコアは互角で、ミソラの支援攻撃も効果的だった。

一緒にCPUガンプラの部隊を叩き、その後では全力で戦えないと判断した2チームは一時休戦ということで、こうして一緒に補給することになった。

先ほど再出撃したばかりの勇太たちはツキミ達よりも早く補給が完了し、あとは出撃するだけだ。

「できる限り遠くまで行けよ?お前とは…本選で正々堂々と戦いたいからな」

「そうさせてもらうよ。ミサちゃん、ロボ太、行こう」

「了解!じゃあね、ミソラちゃん!」

「うん、私たちが言うのもなんだけど、頑張ってね。ミサちゃん」

勇太とツキミが話している間にすっかり仲良くなったようで、ミサはミソラとハイタッチをした後でアザレアに乗り込む。

カレルの手でハッチが手動で開き、3機は一斉に発進した。

「よし…ベースジャバーがある。あれを使って、次は月面へ行こう」

「月面?どうして?」

「ソレスタルビーイング、グラナダやアナハイム、エアーズ、フォン・ブラウン。補給できる場所が多いし、地球よりも重力は低いからね。それに、いざ地球へ向かうとなったら、そこのHLVを使ってもいい」

「なるほど…勇太君、そこまで考えて…」

ベースジャバーは3機あり、満タンになった推進剤なら、無補給でグラナダまで行ける。

3機はそれぞれベースジャバーに乗り込み、月へと向かった。

 




機体名:ゴースト・ザク
形式番号:MS-05LO
使用プレイヤー:青木秀清
使用パーツ
射撃武器:75mmスナイパーライフル
格闘武器:マニアゴナイフ
頭部:ザクⅠ・スナイパータイプ
胴体:ハイザック・カスタム(スモークグレネードラック装備)
バックパック:ガナーザクウォーリア
腕:ガンダムサバーニャ
足:トリアイナ
盾:なし

ザクⅠ・スナイパータイプをベースに遠距離狙撃のコンセプトを維持して改造したガンプラ。
頭部カメラはエコーズジェガンに装備されたスナイパー・バイザー・ユニットを取り付け、両肩にもカメラがあるガンダムサバーニャの腕を採用することでより高い精度で目標を見ることが可能となった。
また、バックパックがガナーザクウォーリアのものになっているため、出力はベース機とは段違いなうえ、スナイパーライフルの出力も高くなっている。
狙撃ポジションに隠密に移動し、更に移動を可能にするため、ステルス性に優れたトリアイナの脚部となった。
なお、パイロットであるヒデキヨは高いスナイピングセンスを持っているようで、弾道を完璧にイメージできる状態になるのを「ゴーストが宿った」と称したことから、機体名が決まった。
なお、この発言は彼がオリジナルではなく、とある兵士が日本の高校生となって女子高生の護衛をするロボット漫画に出てきた敵スナイパーのものだ。


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第32話 地球を踏み潰す車輪

「ああー…ようやく補給ができて、助かったぜ」

ジャングルの中にある地球連邦軍のキャンプで弾薬の補給を行う青いムラサメのパイロットがコックピット内で背伸びをする。

そばには同じチームのフォビドゥンとドムットリアも補給を受けており、演出としてか陸戦型ガンダムや陸戦型ジムも待機している。

密林が自分たちの姿を隠してくれており、敵の反応もないため、すっかり安心している様子だ。

「なぁ、次はどこへ行く?」

「今度は西へ移動だな。とにかく、戦いは避け続けないとな」

この予選はどんな手段を取ったとしても、とにかく1時間生き残ることが唯一無二のクリア条件だ。

彼のチームは徹底的に敵を避けることで生き延びてきた。

何度かCPUの敵機と遭遇することはあったものの、敵チームと遭遇することはなかった。

「にしても、少しは戦っとかないとなまって…!?」

ドムットリアのセンサーが巨大な熱源を感知し、急いでヘリコプター形態のまま飛行を始める。

「おい、どうした!?」

「な…んだよこれ!?こんなの聞いて…!!」

呆然とするドムットリアを大出力のビームが撃ち抜き、爆散させる。

その時にようやく、2機のセンサーもドムットリアが感知した熱源を感知していた。

「こんなでかい熱源…どうして気づけなかったんだ!?」

拾った反応は戦艦以上のレベルの熱源であり、これほどのものであればもっと遠くからでも感知できるはずだった。

ジャミング機能がついているのか、それともこちらの作りこみが甘いのか、反応を拾うのを遅れ、おまけに一番センサーの反応が良かったドムットリアが撃墜されたことを悔やむ。

だが、熱源を感知できただけで、まだその正体がわからない。

補給を中断した2機は離陸して、ジャングルの上からその正体を知る。

「こいつは…!?」

「そんなの…聞いてないぞーーーー!!」

バキバキと容赦なく熱帯雨林をつぶしていく4輪の巨大タイヤ。

茶色い無骨な色彩で、大型メガ粒子砲8門に対空ビーム砲35門というぜいたくな火力を持つその戦艦が一直線にこちらへ迫っている。

フォビドゥンは誘導プラズマビームを、ムラサメはF91のビームランチャーを発射する。

タイヤの強度のことを考えているのか、いずれのビームもまっずぐブリッジに向かって飛んでいた。

しかし、ブリッジに直撃したにもかかわらず、スケールの大きさがそのまま防御力にも反映されているのか、無傷だった。

「化け物戦艦がぁ!!」

「待て!!」

ゼロ距離から直接ビームを撃ちこもうと、フォビドゥンが仲間の制止を聞かずに突っ込んでいく。

止めようとするムラサメだが、主砲で胸部を撃ち抜かれ、撃墜されてしまった。

飛んでくるビームをゲシュマイディッヒ・パンツァーで弾いていくが、火力が段違いで、何度も激しい衝撃がコックピットを襲う。

戦艦の主砲レベルの火力を次々と歪曲させていく以上、新型大容量ジェネレーターとトランスフェイズ装甲で燃費問題が改良されたはずのフォビドゥンのバッテリーがどんどん減っていく。

ついにはバッテリー残量がゼロになり、ゲシュマイディッヒ・パンツァーが対空ビームで撃ち抜かれて破壊される。

更に主砲で片腕をえぐり取られ、ダメージを受けすぎたためにシステムトラブルが起きたのか、地上へ落下してしまう。

「う、動け!!この…ああ!!」

モニターに巨大なタイヤが近づいていて、その質量の大きさにパイロットは戦慄する。

その状況に、彼は『Vガンダム』で登場したリガ・ミリティアの女性メカニック、ミズホ・ミネガンの最期を思い出す。

彼女と同じ撃墜のされ方で脱落するのかと皮肉交じりに笑う中、フォビドゥンは巨大タイヤに踏みつぶされていった。

 

「よし…ザムス・ガルはつぶした。これでバグは出てこないはず」

超大型メイスを片手に、月面からブリッジがつぶれて墜落を始めるザムス・ガルを見ながら、勇太はミサとロボ太と通信をはじめ、コックピットの備品入れに入っていたビニールの水筒から給水を始める。

VRが現実ではないと認識できたとしても、体全体がそれを理解できているわけではない。

喉が渇いたりおなかがすいたりすることもあり、それ故に現実世界と同じく飲食をしている。

なお、VR空間ではいくら飲食しても太らないうえに味がきちんと再現されるということから、オンラインゲームを中心にスイーツや料理が女性プレイヤーの注目の的になっているらしい。

「良かったぁ。でも、なんで月のバグがいるの!?」

「ラフレシア・プロジェクトでは、フロンティアサイドの後で月や地球にもバグを放出する計画があったから…多分、それが理由だと思うよ」

「人を殺すだけの無人機…仮に子供の玩具に擬態して使われていたとしたら、より醜悪だな…」

周囲に散らばるバグの残骸を見るロボ太はそのようなプロジェクトを考えた鉄仮面、カロッゾ・ロナに恐怖した。

G3ガスを使ったコロニー住民への虐殺、コロニー落としなど、ガンダムシリーズではこうした虐殺行為の描写が多い。

だが、無人機による殺戮の代表格としてはこのバグの印象が強い。

最も、ガンダムバトルシミュレーターではバグが人を殺すようなことはせず、ただモビルスーツを攻撃するだけにとどまる分マシだ。

「けど、これでここも静かに…うん??」

「ただいま、東南アジアのジャングルに巨大アドラステアが登場しました!これを撃破し、地球クリーン作戦を止めるか、それとも交戦を避けて生き延びるか、それは各チーム次第です!予選終了まで残り15分です!」

オープンチャンネルでハルの声がコックピットに聞こえてくる。

同時にモニターにはアドラステアが北へ走っていく姿が映っていた。

「うえええ!?アドラステアってこんなに大きかったっけ!?5倍以上大きいよ!?」

「まさかこれって…48分の1スケール!?そんなアドラステアがあるなんて…!これは?」

映像をよく見ると、そこにはサクラが乗っていると思われるブリッツをはじめとした数機のガンプラの姿があり、彼女らはアドラステアを止めようと動いていた。

中にはリガ・ミリティアが行ったように、機能停止したCPUのガンプラを核爆発させるという手段を見せる機体もあった。

だが、それでもスケールの違いを覆すことができず、満足にダメージを与えることもままならない。

「ま、まさか…月までこれって来ないよねぇ…?」

「いや、あり得るかもしれない…」

アドラステアをはじめとしたモトラッド艦は地球クリーン作戦が地球連邦軍とザンスカール帝国の停戦協定によって中止とされた後、地球から引き上げたことは知っている。

だが、問題はどのようにして宇宙へ戻ったかだ。

停戦協定からエンジェル・ハイロゥ攻防戦が始まるまでのおよそ2週間で。

考えられることがあるとしたら、モトラッド艦に大気圏離脱能力もあることだ。

機体先端に展開されるビームシールドの出力を高め、機体全体を防御した状態であれば難しくない。

実際に、『機動戦士クロスボーン・ガンダム』でキンケドゥ・ナウやトビア・アロナクスなどの地球にいたクロスボーン・バンガードのモビルスーツ部隊はバックパックに大型のミサイルを取り付け、ビームシールドで防御しながら垂直方向で大気圏離脱を成功させている。

「そうなったら危ない…急いで合流しよう!」

勇太は月面にあるマスドライバー基地に進路を向け、スラスターを全開にして移動を開始する。

「ちょっと、勇太君!…もう、本当は戦いたいだけなんじゃないの!?…あ…」

勇太の本音がそれだと叫んだミサだが、ここでチームの勝利を優先するはずの勇太がそのような選択をしたことに驚きを感じた。

もしかしたら、これまでの戦いで勇太にもまた変化が起ころうとしているのかもしれない。

あたかも、ダブルオーライザーに乗り続けてイノベイターへと革新を果たした刹那・F・セイエイのように。

「…もう、しょうがないなぁ。遅れないようにしないとね。ロボ太!」

「承知!おそらく、マスドライバー基地には降下船もあるはずだ」

 

「くぅ…!モトラッド艦なんてものを出すたぁ…運営の奴ら、何考えとるんや!?」

メガビームランチャーすら、堅牢な装甲で受け止めてしまうアドラステアの装甲にホウスケは舌打ちする。

遠慮なしにビームを発射しながら一直線に進むその暴君によって、複数のチームがすでに脱落している。

おまけにモトラッド艦にもVガンダム時代のモビルスーツの標準な動力源であるミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉が搭載されており、ビームが直撃すると核爆発するというとんでもない設定がある。

長きにわたるモビルスーツとともに進化した核融合炉の高すぎる出力の代償といえるかもしれない。

水爆とは違い、核融合炉は重水素とヘリウム3を強力なレーザーで融合させてエネルギーを生み出すシステムになっているため、爆発したとしても放射能の発生はわずかにとどまる。

だが、それでもモビルスーツの核爆発1回でサイド7やインダストリアル7の外壁に大穴が開くほどの破壊力で、モトラッド艦の場合は下手に破壊してしまうとそれ以上の爆発を起こすことになる。

核爆発を起こさせることなく行動不能にするためには、艦橋をつぶす、もしくは横転させて行動不能にするのが妥当だ。

VR空間であるため、放射能の心配はないが、それでも撃破したけれども撃破したアドラステアの核爆発に巻き込まれて脱落ではシャレにならない。

「いざとなれば、勇太がやったように…」

東京でのリージョンカップ決勝戦の映像はサクラも見ており、勇太が覚醒でミサ達をアトミックバズーカによる核爆発から守ったことは知っている。

それを応用して、覚醒エネルギーで爆発を抑え込むことがもしかしたらできるかもしれない。

「そのためにもまずは!!」

インパクドダガーを投擲し、ハリネズミのようにアドラステアの周囲を覆う対空ビーム砲の一部をつぶして火力を少しでも減退させる。

「ケイコ!何かいい武器ないんか!?」

「ありますよ!これを!」

コンテナからメイスを取り出したケイコはホウスケに投げ渡す。

よりによって、以前戦ったバルバトスの主力武器かよと舌打ちするものの、今は選り好みしていられない。

メイスを受け取ると、それで車輪についている砲台を1つ叩き潰した。

だが、やはり砲台もスケールの違い故に頑丈なのか、メイスを見るとひびが入っており、何度も攻撃できるか疑問だ。

「まずいわね…あと少ししたら海だわ…」

アドラステアの進む先には東シナ海があり、そこからは当然海に潜って進むつもりだろう。

水中に入られるとビームが減衰し、余計に攻撃手段が限られてしまう。

おまけに、ほとんどのガンプラには水中戦用の装備がない。

水中に入られた以上はそのまま放置して、逃げてしまえばよいのだが、今の彼らにはそのような選択肢はなかった。

そんな中、急にアドラステアの主砲が何もないはずの上空に向けられ、メガ粒子砲が発射される。

「あれって…降下船!?」

「アドラステアに突っ込んどる!?」

案の定、メガ粒子砲で撃ち抜かれた降下船は爆散する。

しかし、別方向から飛んできた質量弾がアドラステアの側面に直撃する。

あまりの威力に一瞬傾きかけたアドラステアだが、あっという間に制御を取り戻した。

「あの破壊力の弾丸…まさか、勇太!?」

「破砕砲が効かないか…!」

密林の中で超大型メイスを地面に突き刺し、破砕砲を発射していた勇太は健在な姿を見せるアドラステアに驚きを見せる。

メガ粒子砲が発射される前に、既に勇太たちは降下船から降りており、それをダミーとして利用していた。

「勇太!まさか…このアドラステアを倒しに…?」

「それ以外に…何か理由はある!?」

破砕砲による攻撃をあきらめたのか、超大型メイスを構えたバルバトスがアドラステアに向けて接近する。

対艦武器の側面もある超大型メイスの質量攻撃であれば、スケールの違うアドラステアでもただでは済まないはず。

だが、対空ビーム砲の弾幕が激しく、簡単に近づくことができない。

「勇太君!アドラステアの視界をふさぐよ!」

「了解!!」

ミサがアドラステアの正面に立ち、フラッシュバンを発射する。

ブリッジ目前でさく裂した閃光によって、一時的にアドラステアのビーム砲が止む。

「これなら!」

照準補正が行われている間にしとめる。

深呼吸し、バルバトスを覚醒させると、一気にアドラステアのブリッジの前に立ち、青いオーラを纏う超大型メイスを振り下ろす。

これで、あの黄金のジャスレイ号のようにブリッジがつぶれ、アドラステアも止まる。

そう思っていた勇太だが、超大型メイスの直撃を受けたブリッジはひびが入った程度で壊れていなかった。

「く…うわあ!?」

更に側面からアインラッドが突撃してきて、その衝撃でバルバトスがアドラステアから落ちてしまう。

アドラステアからアインラッドやツインラッドに乗ったゾロアットが次々と出撃しており、周囲のガンプラに向けてミサイルやビームで攻撃を仕掛けてくる。

「まさか、CPUのガンプラを積んでいたなんて…!」

「捕まれ!!」

飛行形態のバエルが飛んできて、勇太はその機体の足をつかんで飛行を始める。

「バエルとヘブンズソードのハイブリット…こんなガンプラもあるんだ」

「君か?凛音さんが言っていた覚醒するファイターというのは…?」

「凛音…?サクラさんのこと?もしかして…」

「江宮英。彼女のチームメイトさ。それにしても、予想できないことをするなぁ。まさか、アドラステアと戦うためにわざわざ地球へ降りるなんてなぁ」

地上へバルバトスを下したスグルはすぐにバエルをモビルスーツ形態に切り替え、両翼から赤と黄の羽根を4枚ずつ分離し、アドラステアに向けて発射される。

ファンネルのような兵器のようで、再び動き出した対空ビーム砲の弾幕を避けていき、それぞれがその砲台の1つ1つに突き刺さる。

「まずはその針を折る!」

そう叫ぶと同時に刺さった羽が爆発し、それに飲み込まれた対空ビーム砲が沈黙する。

「あともう一撃与えることができれば…!」

覚醒による超大型メイスの一撃は確かにアドラステアに効果があった。

一撃でダメならもう一撃と考えた勇太だが、問題はあと覚醒がどれだけ持つかどうかだ。

バエルに救出された際にすぐに覚醒を解除したものの、先ほどの一撃にだいぶ集中力を使ってしまった。

もう1度覚醒できるとしても、対艦としてはあと5秒程度が限度だろう。

「勇太、覚醒ができるのはあなただけじゃないわ!」

「サクラさん!」

バルバトスと並び立つブリッツが覚醒し、ピンクのオーラに包まれる。

だが、サクラは自分の覚醒であのアドラステアを倒せるとは思っていない。

自分のブリッツにはバルバトスのような巨大な質量攻撃を与える武器がない。

だが、それでも群がるゾロアットや砲台をつぶすことはできる。

ミラージュコロイドを発動し、ブリッツが姿を消す。

同時に、3機のピンク色のオーラを纏ったブリッツが姿を現し、インパクトダガーをゾロアットやアドラステアの砲に向けて投げつける。

覚醒によって爆発力が上がったのか、次々と砲台をつぶしていくが、それでもアドラステアの装甲を破壊するには至らない。

「あのピンクのブリッツには負けられん!」

ワタルのレコードブレイカーはわざと射線上を光の翼を展開させて高速で飛行を続ける。

巨大なビームサーベルへと転用できる光の翼を脅威ととらえたのか、アドラステアはレコードブレイカーへ次々とビームを発射していくが、圧倒的な機動力を誇るレコードブレイカーに命中しない。

「勇太君とサクラさんにばっかりいいかっこはさせない!!」

アザレアがGNバズーカをアドラステアの側面から発射し、砲台を大出力のビームで焼き尽くしていく。

こちらへの攻撃が収まったのを見て、バルバトスはテイルブレードをアンカー代わりに発射してアドラステアのブリッジに固定する。

そして、スラスターとテイルブレードのケーブルの戻る力を利用して一気に接近していき、間近に迫ると同時に覚醒する。

そして、横に薙ぎ払うように超大型メイスを振るい、アドラステアのブリッジを粉々に粉砕した。

ブリッジを失ったことでアドラステアの動きが止まり、大質量の攻撃を受けた勢いで横転した。

「はあ、はあ…やった…。あ、あれ…??」

バルバトスを立ち上がらせようとした勇太だが、なぜか操縦桿が固く、動く気配がない。

「どうしたの?勇太君」

「いや…バルバトスが動かなくなって…」

「動かなくなったって…どうして!?」

両肩の放熱ユニットが大きく開き、覚醒で放出された熱が一気に出ているためか、真っ白な煙が大量に出ている。

2度による覚醒の全力攻撃にバルバトスそのものが追い付かなくなっていたのだろう。

「まずいぞ…このままでは」

アドラステアを倒すため、一度は共闘したものの、まだ予選は続いているうえ、大阪ガンプラ同盟と選抜チームは損傷しているものの、まだまだ戦える状態だ。

フロントアタッカーであるバルバトスをかばいながら戦わなければならない状況となってしまった。

「こうなったら、私とロボ太で勇太君を…」

「いや、その必要はあらへんで」

「え…?」

「予選終了です!参加者の皆さま、1時間にわたる戦闘、大変お疲れさまでしたーーー!!」

コックピット内にハルの声が響き、モニターの右側に表示されているタイマーが0になっていた。

「現在、生き残っているチームすべてが本選進出のチームとなります!」

上空に大型パネルが出現し、本選進出チームの名前が表示される。

その中にはもちろん、彩渡商店街ガンプラチームの名前も入っている。

「やったーーー!!本選出場決定だぁーーー!!」

「着かれた…」

パイロットシートにもたれた勇太はようやく疲れを実感し始めていて、ヘルメットを外す。

「お楽しみは本選までお預けやな…ミサ、勇太!覚悟しとれよ!」

「それはこっちのセリフ!商店街のためにも、負けられないもん!」

 

「…しっかし、覚醒がここまで熱を発生させるというのは想定外だったなぁ」

宿舎に戻り、バルバトスの修理をする勇太を見ながらカドマツは改めて覚醒が生み出す力を感じていた。

同時に、それがどれだけ機体にも負荷をかけているのかもわかった。

バルバトス・レーヴァテインは確かに放熱手段が増えたことで、ある程度覚醒の負荷に耐えることができる設計になっているが、フレームそのものの強度は従来のガンダム・フレームと変わりはない。

しかも、覚醒の力が初めて覚醒したときよりも上がっているようで、それもバルバトスに深刻な負荷を与えてしまっている。

「今は消耗したフレームを交換したりすればする話だが、戦いが終わる前に熱のせいでまた動けなくなったら…」

「分かっています。今は応急処置にしかなりませんが…」

バックパックの下部にファントムに採用されている強制冷却カートリッジを取り付ける。

これで過剰な覚醒の負荷熱で動けなくなった時に無理やり再起動させることができる。

「装甲の交換をすれば、冷却材循環系の効率化ができますけど…」

明日にはすぐに本選が始まるうえ、ロボ太のSDガンダムのセッティングをしなければならない都合上、新しい装甲を作るのは難しい。

できるとしたら、徐々に冷却材循環系を改良した装甲に張り替えていくことくらいだ。

ファントムが外惑星で入手した希少金属性の装甲に張り替え、ゴーストガンダムに生まれ変わるだけでも2週間近くかかっている。

「あんまり根詰めすぎんなよ。お前には俺やロボ太、それにあいつがいるだろう?」

「ええ…ありがとうございます、カドマツさん」

「そういやぁ、気になったんだが…そのノートは何だ?」

カドマツはバルバトスのそばにあるノートを見る。

『4』と番号が書かれているだけで、気になって手に取ろうとしたが、その前に勇太がシュッと取り、胸に抱える。

「今は…見せられません」

「今は…?」

「はい。本選に間に合うかはわかりませんが…きっとびっくりするものになってますよ」




機体名:ガンダム・バエルH&H(ヘル&ヘヴン)
形式番号:ASW-G-01H&H
使用プレイヤー:衛宮英
使用パーツ
射撃武器:なし
格闘武器:バエル・ソード×2
頭部:ガンダム・バエル
胴体:ガンダム・バエル
バックパック:ガンダムヘブンズソード
腕:ガンダム・バエル
足:ガンダムヘブンズソード
盾:なし


ガンダム・バエルをベースとした可変式のガンプラ。
ガンダム・バエルはアグニカ・カイエルやマクギリス・ファリドが搭乗した際に圧倒的な性能を発揮したものの、バルバトスルプスレクスやキマリスヴィダールと比較すると装備面で見劣りがあり、決定打に欠けていた。
そこで、ガンダムヘブンズソードのパーツを組み込み、フレームに手を加えたことで高機動可変モビルスーツへと生まれ変わらせた。
なお、モビルスーツの全長に匹敵する長さのバックパックはガフランなどのヴェイガン系のモビルスーツのバックパックを元にして3つの関節を追加して折り畳みを可能にしている。
アドラステア戦でヘブンズダートをファンネルのように使用していたことを考えると、残りの技であるウィンドファイヤーやヘブンズトルネードにも何か手が加えられている可能性がある。


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第33話 ニューヤークの空

「ぐー…ぐー…」

「ったく、風邪ひくぞ」

早朝になり、机に突っ伏した状態で寝る勇太にカドマツは掛け布団をかける。

夜11時にカドマツは先に寝たとき、勇太は椅子に座って何かに取り付けれたかのようにノートに何かを書いていた。

自分とロボ太のガンプラの修理以上にそれにうちこんでおり、それが何かカドマツは気になって仕方がなかった。

「ま、寝てるからバレないだろ?」

カドマツは勇太のすぐそばに積み上げられている数冊のノートの内、一番上のノートに手を取る。

ページを開けると、そこにはコックピットとヘルメットの絵が描かれていた。

「へえ、こいつは…」

「んん…」

「おっと、これはまずいな」

もぞもぞと動き出す勇太を見たカドマツはすぐにノートを閉じて元の場所に戻す。

うっすらと目を開けた勇太は頭を動かし、カドマツに向けた。

「あ、カドマツさん…おはようございます」

「おう、ずっとそいつをやってたのか?」

読んでいないように見せるため、あえてはぐらかしながら質問する。

勇太はそれを肯定するように、首を縦に振った。

すぐに机の上に置いてあるスマホで時間を確認するが、まだ6時くらいで、まだ寝ることができる。

今日の試合のため、もう少しだけ今度はベッドで寝ようと立ち上がるのと同時に、ドアの咆哮から声が聞こえてくる。

「おーい、勇太君。起きてるーー!?」

「ミサちゃん?」

ガチャリとドアが開き、そこにはピンクのジャージ姿をしたミサが立っていた。

「おはよう…でも、どうしてジャージ姿?」

「それはね…」

 

「はあ、はあ、はあ…」

「勇太君、もっとペース上げて上げて!!」

ホテルのそばにある公園で、ミサは後ろを走る黒いジャージ姿の勇太に声をかけながら前を走る。

同時に走り始めたのだが、どうやらインドア派の勇太は体力があまりないようで、2周走った今はミサと20メートルくらい距離が開いている。

「はあはあ、これで3周目…充分走ったでしょ…?」

「まだまだ。5周くらい走らなきゃ!」

「え、ええ…?」

「こうして体を動かすことも、ガンプラバトルの練習の1つだよ!」

「そ、そう…?」

勇太はこうしたランニングのような運動よりも、ガンプラづくりや操縦による特訓の方がいいのではないかと思った。

今はミサと付き合う形で一緒に走っているが、どうしてそれがガンプラバトルの練習の1つになるのか、勇太には理解できていない。

そうして走っていると、どこからかジャズが聞こえてくる。

「この音楽…もしかして」

「おお、やっとるな。ミサ、勇太!」

ジャズと声が聞こえた方向に目を向けると、そこにはジャージ姿のホウスケの姿があった。

「まさか先客がおるとはのぉ。まさか…できとんのか?」

「で、できてるって!?」」

「え、ええ!?」

どういう意味に聞こえたのか、勇太とミサは一斉に顔を真っ赤に染めてしまう。

からかうつもりで、あえていろんな意味に聞こえるように意地悪な言葉で質問をしたのだが、見事に釣ることができ、ホウスケはそんな2人を見て腹を抱えて笑い始めた。

「ギャハハハ!!なんや、すげえ赤うなって…あー、腹痛い、腹痛いわー!!」

「もう、ホウスケ君!!」

これ以降聞こえてくるミサからのののしりを無視しつつ、ホウスケはその場でラジオ体操を始める。

体操で体をある程度ほぐしたホウスケはそのまま2人と同じく、公園の外側で走り始めた。

「んもう、なんでホウスケ君も一緒に走るの!?」

「別に構わんやろ。公園はみんなのものや!」

本音を言うと、ミサは勇太と一緒に過ごせる時間がほしくて、彼を無理やりここに誘った。

彼女にとっては今のホウスケはお邪魔虫で、早くランニングを終えてホテルへ戻ってほしかった。

ちょっとだけペースを落としてホウスケを先に走られ、ミサは勇太の隣で走り始める。

「そういえば、決勝トーナメントってどんな形になるの?」

「対戦カードとフィールドは直前になってから決まる形だよ。だから、決勝まではどのチームが相手になるか、そしてどのフィールドで戦うのかは全く分からないんだ。あと、予選で分かったと思うけど、バトルダメージはガンプラにも反映されるから気を付けて…はあはあ」

こうしたルールの関係上、出場チームのガンプラにはある程度どの領域でも対応できるような汎用性が求められることになる。

大きな落とし穴になりがちなのは太平洋やインド洋のような陸地の少ない海のフィールドで、大抵のビームが減衰してしまうことや水中用チューンが不十分なために満足に動けずに撃破されるケースも珍しくはない。

バルバトスやアザレア、フルアーマー騎士ガンダムには水中でも動けるようにチューンを施しており、水陸両用モビルスーツほどではないものの、戦闘できるようにしてある。

それが一番難しかったのはバルバトスで、鉄血のオルフェンズには水陸両用モビルスーツが本編で登場することがなかったことやナノラミネートアーマーがどこまで水中で耐えられるのかわからなかった都合上、どういうチューンが良いのかが分からなかった。

今は関節部をアトラスガンダムやサンダーボルト版のズゴックなどに採用されている多重構造型球体関節をモチーフとしたものに変更し、スラスター廻りを見直すことでどうにか水中でも戦えるようにできている。

ただ、武装がビームショットライフル以外がすべて実弾であることから、火力低下の心配はない。

(そういえば、鉄血のオルフェンズでは水中での戦いが一回もなかったな。ターンエーも同じだったっけ…?)

「おーい、何トロトロしとんねん!おいてくぞ!」

「んもう、そっちが勝手に参加しただけじゃん!ふう…行こ、勇太君」

「うん…」

これはあと何周付き合えばいいのか。

せめてその疲れで今日の試合に負けてしまった何て格好の悪い真似が起こらないことを願いながら、勇太は走り続けた。

 

朝の10時になり、複数のバトルシミュレーターと大型モニターが設置されたスタジアムの中には大勢の観客が集まっていた。

「えー、お集りの皆さま!たいへん長らくお待たせいたしました。これより、ジャパンカップ本選1回戦を開始します!対戦カードとフィールドは試合直前に決定する方式となっております!」

モニターには予選で生き延びた20チーム分の空欄とトーナメント表が表示されていた。

勇太とミサをはじめとしたファイター達は控室のテレビでその様子を見ている。

「あれ?5チームで決勝?」

「総当たりでの決勝戦…ジャパンカップではそうなってるんだ」

「ってことは、3回勝ったら日本一ってこと!」

「そう。けど、1回でも負けたら終わりだ。ガンプラと僕たち自身のコンディションはしっかり維持しておかないとね」

「それでは、1回戦第1試合の対戦カードは…赤コーナー、東京代表、彩渡商店街ガンプラチーム!」

「いきなりか…」

緊張しているのか、勇太はゆっくりと深呼吸をする。

ハーバード大学で考案され、日本の総理大臣が平常心を保つために使ったことで有名になっている4-7-8呼吸法で、ネットで知ることができた。

それで緊張を少し落ち着かせてから、相手チームの発表を待つ。

「青コーナーは…大阪代表、大阪ガンプラ同盟!!対戦フィールドとなるのはニューヤークです!一年戦争の度重なる空襲で廃墟となったこの街で、激戦の火ぶたが切って落とされることになります!」

「ホウスケ君が相手か…」

勇太は近くの席に座っているホウスケら大阪ガンプラ同盟のメンバーに目を向ける。

ちょうと、ホウスケも勇太に目を向けており、ニヤッと不敵な笑みを見せていた。

「負けへんで」

「こっちこそ…」

 

「ホウスケ君といきなりバトルかぁ…」

シミュレーターに入り、ノーマルスーツ姿で格納庫にいるミサは壁にもたれながらアザレアを見る。

勇太も火星ヤシ型の果物グミを口にしながら、自分のガンプラを見ていた。

「前の試合はタイガーに邪魔されて不成立になっちゃったから、この試合で決着をつけることができる。楽しみだ。緊張もするけど」

「もう、緊張しなくていいよ。でも…勇太君がそうしたいなら、他のファイターは私とロボ太で抑えないと」

「え…?でも…」

「大丈夫だよ。勇太君が勝つって信じてるから」

「ミサちゃん…。じゃあ、その信頼に応えないと」

若干顔を赤く染めた勇太はバルバトスのコックピットへ向かう。

バルバトスは固定されたままうつぶせの状態となり、床のハッチが開く。

勇太の眼には真夜中のニューヤークの光景が見えた。

「よし…沢村勇太、バルバトス、出るよ」

固定具が外れ、バルバトスは重力に従うように降下していく。

(やっぱり、地球の重力って強いんだ…!」

落下スピードをスラスターで調整しながら、勇太はシミュレーターで再現される地球の重力に驚きを感じていた。

後からアザレアとフルアーマー騎士ガンダムも降下を始めていて、2機からの着地予測ポイントが送信される。

「ミサちゃんはスタジアム東の高層ビル、ロボ太は…うん?」

ザザ、と通信用スピーカーから雑音が聞こえ、念のため勇太はミサと通信を繋げる。

「ミサちゃん、今変な音が聞こえてるけど、そっちは大丈夫?」

「え…な…よくきこ…!!」

徐々に雑音が強くなり、ミサの声が良く聞こえない。

「どうしてジャミングが…まさか!!うわあ!!」

急に背部で爆発が起こり、機体のバランスが崩れる。

爆発と背中から伝わる衝撃から、バズーカによる攻撃なのは間違いなかった。

「後ろから…この機体は!」

どうにかバランスを直して振り返ると、そこには空を飛ぶ青いレコードブレイカーの姿があり、左手にはバズーカが握られていた。

「ジャミングを発生させているのは…あのレコードブレイカーか!くっ…!」

再びレコードブレイカーがバズーカを発射してくる。

阿頼耶識システムがあるとはいえ、重力下の空中では宇宙でやったような感覚的なわずかな動きによる会費は難しい。

ビームショットライフルを手にし、散弾モードでビームを発射する。

拡散するビームがバズーカの弾頭を破壊し、更にレコードブレイカーをも襲う。

「これでええ、目標達成や」

レコードブレイカーのコックピット内でワタルがそうつぶやくと、その機体はバズーカを投げ捨て、変形を始める。

「この変形は…!」

頭部が後ろに移動し、背部は機体の下部へ移動。

腹部の一部とフロントアーマーを前に股間部を内側に倒す。

脚部を外側に展開し、つま先を伸ばす。

肩部を機体の上部へ移動、腕を後ろに向ける。

木星帝国が生み出した光の翼の未完成機の変形機能がその起源の機体で見事に再現されていた。

変形を終えたレコードブレイカーはバルバトスに背を向けて逃げていく。

「やられた…!」

光の翼を発動し、おまけにモビルアーマーに変形したレコードブレイカーを追いかけるだけのスピードをバルバトスは持っていない。

それ以上に問題なのは、先ほどの攻撃や反撃の影響でバルバトスの着地ポイントにずれが生じてしまった。

このままではミサ達と離れた状態で戦うことになる。

「まさか、あのレコードブレイカーは僕たちを分断するために!!」

そのことを早くミサ達に伝えなければならないが、ジャミングのせいで通信を行うことができない。

「どうにかして、ミサちゃんたちに伝えないと!!」

通信以外で2人にこのことを伝える方法を考える。

そうしている間にもどんどん高度が下がっていて、おまけにレコードブレイカーはミサとロボ太のもとに向かっている。

「そうだ!これがある!!」

超大型メイスを投げ捨てたバルバトスに破砕砲を持たせた勇太はロックオン設定の変更を行う。

そして、ミサの機体にロックオンする。

(気づいて…ミサちゃん!)

 

「ロックされた!?」

勇太と通信ができなくなり、心配するミサは急に聞こえてきた警告音に反応したミサはその方向にカメラを向ける。

その方向には破砕砲の照準を向けたバルバトスとこちらに迫ってくる可変したレコードブレイカーの姿が見えた。

「気づかれた…だが、もう遅い!」

モビルスーツ形態に戻ったレコードブレイカーが今度はザンバスターを手にしてアザレアとフルアーマー騎士ガンダムに向けて発射する。

「もしかして、このガンプラの作戦って。ロボ太!!」

ビームを左腕のシールドで受け止めながら、ミサはアザレアを後ろに下げていき、無理やりフルアーマー騎士ガンダムと接触させて回線を開く。

ジャミングされたとしても、ミノフスキー粒子の影響を受けたとしても、王道である接触回線は有効だ。

「ロボ太!このまま私から離れないで!」

「ミサ。あの機体、我々を!」

「そう!勇太君が教えてくれなかったら、危なかった」

「だが、主殿は…!」

フルアーマー騎士ガンダムがアザレアに掴まったことで、分断されることはなくなったものの、バルバトスだけが離れてしまった。

通信できない状況では、もはや無事を願うことしかできない。

(勇太君…!)

 

「はあはあ…よし、着地した。ダメージは…」

どうにか路上に着地した勇太はバルバトスの状態をチェックする。

バズーカのダメージを受けたバックパックの損傷は軽微だが、ほんの些細なダメージでもスラスター出力の影響が生じてしまう。

「あのレコードブレイカー…バズーカを持ってた。しかも、攻撃を終えたら投げ捨てて…」

レコードブレイカーの武器はクロスボーン・ガンダムシリーズにも使われていたザンバスターのみ。

可変機はバズーカのような長い得物の装備は不向きで、仮にそれを放棄しないまま変形しようとした場合は変形にタイムラグが生じることから捨てたのなら納得がいくが、捨てるくらいなら最初から装備しなければいい。

(最大の目的は…僕の分断を!)

相手のやり口を考えている時間はないようで、すぐに警告音が響くとともに大出力のビームが側面から飛んでくる。

ナノラミネートアーマーでビームのダメージを軽減できるが、フレームへの影響が無視できないため、破砕砲を投げ捨てて跳躍して回避する。

「く…!」

高火力武装である超大型メイスと破砕砲を失うことになったことを悔やみながら、バルバトスのカメラをビームを発射したガンプラに向ける。

その機体は勇太の予想通り、ホウスケのガンプラであるケストレル・デルフィンだった。

「こちらに気付いたなら!!」

メガビームランチャーを投げ捨てたケストレルが両腕にビームサーベルを展開して突っ込んでくる。

ビームショットガンを使ったとしても、ビームシールド替わりにそれを使われて防がれてしまう。

太刀を抜いたバルバトスは突っ込んでくるケストレルをそれで受け止める。

「くぅ…!」

「舞台は整ったで!これなら、誰にも邪魔なんてされへん。男同士、1対1のケンカや!」

「そのために…あのレコードブレイカーを!」

「ああ。あんときのままやと、モヤモヤするだけやからなあ!」

右ひざにビームサーベルを展開させ、そのままバルバトスの腹部に叩き込もうとしてくる。

「まだだ!!」

バルバトスの両足の間をテイルブレードが通り、ケストレルの胸部に命中する。

思わぬ一撃を受けたケストレルはバルバトスの後ろへ大きく飛んでしまうが、ホウスケは即座に各部アポシモーターをわずかに噴射させただけで立て直す。

全身のビームサーベルと大出力のスラスターを利用した突撃戦法に勇太はバルバトスとキマリスの闘いを思い出す。

「相性が悪い相手だけど、負けるわけにはいかない!」

太刀を構え直し、テイルブレードを戻したバルバトスのカメラはじっとケストレルを見ていた。




機体名:レコードブレイカー・ブルーシー
形式番号:F-99B
使用プレイヤー:長谷部渡
使用パーツ
射撃武器:ザンバスター
格闘武器:ビームザンバー
頭部:レコードブレイカー
胴体:ガンダムF91
バックパック:レコードブレイカー
腕:ガンダムF91
足:レコードブレイカー
盾:なし

大阪ガンプラ同盟の一員、長谷部渡のガンプラ。
彼自身の設定では、『機動戦士クロスボーン・ガンダム鋼鉄の7人』で木星帝国が奪取したレコードブレイカーの開発データを元に蛇の足が開発したものとなっている。
蛇の足はサウザンド・カスタムの中に光の翼を搭載したモビルスーツが存在する可能性を想定しており、それに対抗するために試作された。
サナリィのスタッフのみで、木星帝国出身の開発者を排除したため、これまでのフォーミュラ計画のモビルスーツと近い姿となっている。
ただし、林檎の花内部の開発機能では光の翼を作ることが難しく、仮想敵であったファントムを奪取したこともありペーパープランで終わった。
なお、ジャミング機能を装備しているのはこの機体の戦闘パターンが相手の懐に圧倒的なスピードで接近し、通信障害を与えることで1対1にもちこむためとのこと。


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第34話 激突する2人

この作品に登場するガンプラ心形流はガンダムビルドシリーズのものと同じ名前ですが、それとは何も関係ありません。
型に囚われず、自由な心でガンプラを作るという考えは共通しています。


「ああ、もう!上からどんどん撃ってきてぇ!」

アンヘル・ディオナとレコードブレイカーの2機の上空からの攻撃に地上でGNフィールドを展開しながら耐えるミサは勇太を助けに行けない自分に歯がゆさを覚える。

レコードブレイカーのジャミングのせいでいまだに勇太と通信を繋ぐことができず、レーダーも反応しない。

GNフィールドの中に入っているフルアーマー騎士ガンダムがアザレアに触れ、接触回線を開く。

「ミサ!レコードブレイカーとは違い、あのアンヘル・ディオナの機動力が低い。あの機体が武器コンテナを背負い、補給しているということは、あの機体を落とせば、あのチームの攻撃力を低下させることができる」

「そっか!じゃあ…!」

ビームと実弾の嵐が収まると同時に、GNフィールドを解除したアザレアはGNキャノンにビームを収束させていく。

「ビーム!させないわ!!」

ケイコはコンソールを操作し、武器コンテナの両サイドに搭載されている小型の筒状の武装からビーム攪乱幕を放出する。

上空にオレンジ色のきらきらと光る粒子が両者を遮るように展開される。

どんなに出力の高いビームでも、ビーム攪乱幕の前には手も足も出ない。

しかし、ミサはためらいなく引き金を引き、GNキャノンを発射する。

ビームはビーム攪乱幕を前にむなしく霧散していく。

「ビームへの守りは基本です!!」

「でも、これで注意はこっちに向いた。ロボ太!」

「うおおおお!!」

ビルの屋上からジャンプをしたフルアーマー騎士ガンダムが電磁スピアの穂先をアンヘル・ディオナに向ける。

スラスターを使わず、純粋に両足だけでジャンプしていたことと前方のビームに気を取られていた恵子はまさかの警告音に目を大きく開く。

「遅い!!」

電磁スピアが武装コンテナを貫くと同時に、高圧電流を流し込む。

とっさにアンヘル・ディオナは武装コンテナを強制排除したため、本体に電流が流れ込むことはなかった。

だが、電流を受けたコンテナ内部の武装は使用不能となり、これで3機の武装の補給は不可能となった。

「これで攻撃手段は封じた!ならば、引導を渡す!」

武装コンテナのないアンヘル・ディオナはそれほど怖い相手ではないはずだった。

「ごめん…みんな!!」

本選1回戦、できれば使いたくないものを使わなければならなくなったことを仲間に詫びながら、彼女はシステムを起動する。

槍で貫かれるはずだったアンヘル・ディオナの本体が姿を消し、驚いたロボ太は周囲を見渡そうとしたとき、背後から何者かに蹴られ、前のめりに倒れてしまう。

「な、何!?これは…!!」

蹴り飛ばされたロボ太は地面に背を向ける形に体の向きを変える。

目の前にはバックパックはV2ガンダムのような形に変形し、光の翼を発生させているうえにツインアイが赤く光ったアンヘル・ディオナの姿があった。

「驚いたで…これをケイコに使わせるなんてなぁ」

ワタルは本選前の模擬戦であのアンヘル・ディオナと戦った時のことを思い出す。

最初はこれまでずっと後方支援をしてきた恵子にそれが使えるかどうかは不安だったが、その模擬戦で不安が吹き飛び、今ではブルッと震えてしまうほどだ。

「ツインアイが赤く光った。EXAMシステム!?」

「EXAMではない…これは、モビルスーツの性能を100%引き出し、教育型コンピュータにより最適解をパイロットに強制的に伝える…HADESシステムか!」

アンヘル・ディオナの顔にひびが入り、仮面のように割れて地面に落ちる。

そして、その奥に隠されていたペイルライダーの顔が露となった。

「まずい…来るぞ、ミサ!!」

通信がつながらないことは分かっているが、それでも危機を知らせるために叫ぶ。

アンヘル・ディオナとレコードブレイカーが光の翼を展開し、猛スピードでアザレアに接近する。

「しまっ…!キャアアア!!」

いつの間に正面にやってきたレコードブレイカーに至近距離からコックピットに向けてザンバスターを撃ちこまれたアザレアは大きく吹き飛ぶとともにコックピット内にも前後に体が大きく揺れるほどの衝撃が走る。

「確かにゼロ距離から撃ったはずやが…」

ワタルはなぜ先ほどのビームでコックピットを貫くことができなかったのかに疑問を抱く。

今握っているザンバスターの出力には問題がなく、手加減した覚えもない。

あおむけに倒れたアザレアのコックピットにカメラを向ける。

そこにはビームで黒く焦げ、剥がれた塗料が見えた。

(なるほど、誰の入れ知恵かは知らんが、ビームコーティングをコックピットにしとったというわけか)

ワタルはブルーフレームセカンドLに採用されたコックピット周辺のみフェイズシフト装甲のことを思い出す。

あの機体についてはストライクルージュ用のフェイズシフト装甲の予備を使った二重装甲という形で、外部装甲の圧力センサーの反応によってON・OFFを切り替えるという形のものだ。

至近距離から発射したおかげで、もうコーティングの機能を果たせなくなっており、次に同じ攻撃をして無事に済む保証はもはやアザレアにはない。

「ううう、勇太君が行ったとおり、分厚くコーティングしといてよかった…」

機体を起こしたミサは機体出力と残弾の確認をする。

GNキャノンは粒子の最充填が必要で、まだチャージが完了していない。

持っていたビームマシンガンは先ほどの攻撃の衝撃で手放してしまった。

使える武器はビームサーベルとミサイルのみ。

「まだ生きてるなら、もう一撃!」

上空を飛ぶアンヘル・ディオナの光の翼がY字の巨大なビームサーベルのような形となり、アザレアに向けて飛んでくる。

Vガンダム本編で登場していないザンスカールの試作モビルスーツ、ザンスパインの光の翼を転用しており、そちらは最初から武器としての使用が想定されているため、V2ガンダムの光の翼よりもビームサーベルへの展開のタイムラグが短くなっている。

ビルや道路をかすめた個所が砕け、放置された車がビームサーベルの熱でドロドロに溶けていく。

直線的だが、その分スピードがある上に巨大なビームサーベルが迫ってくる恐怖から、ミサは機体を動かすことができなかった。

「ミサーーーー!!」

アザレアを救出すべく、フルアーマー騎士ガンダムが走ろうとするが、上空からビームが振ってきて、マントにも命中する。

更に、ビームの弾幕の中に隠れたグレネードランチャーが電磁スピアに命中し、爆発と共にそれが破損してしまった。

「くうう…!」

「これで一機や、恵子!!」

「ええーーーーい!!」

「ミサーーーーー!!」

アンヘル・ディオナの光の翼の中にアザレアの姿が隠されていく。

その場所に爆発が発生し、光の翼を元のミノフスキー・ドライブとしての機能に戻したアンヘル・ディオナが上空で制止する。

「はあ、はあ、はあ…」

光の翼の圧倒的な加速Gを受けたケイコは疲れ果て、痛みを感じながら息を整える。

光の翼のGはトールギスレベルで、HADESによってその加速性能を押し上げているため、より肉体にも影響が出る。

あくまでガンプラバトルのため、内蔵や肉体に影響はないものの、痛みは軽減された状態で再現されるため、体中に痛みがある。

もし現実にHADESと光の翼を組み合わせたとしたら、あまりのGで戦う前にパイロットが命を落としてしまうだろう。

たとえ、Gに耐性のあるコーディネイターや強化人間が乗ったとしてもだ。

自分がどれだけ無茶苦茶なことをしたのかをケイコは改めて感じていた。

(でも、いい…。私も、前に出たいから…)

大阪ガンプラ同盟は元々、ケイコが作ったもので、そこにクラスメートであるワタル、そして彼が誘う形でホウスケも加わった。

元は2人だけのチームで、昨年度まではリージョンカップに出れるか出れないかという状態だった。

しかし、ホウスケが加わったことで一気にジャパンカップ本選出場の切符を手に入れることができた。

(さすがや…ホウスケ。ガンプラ心形流を学んどるだけある)

 

「はあ、はあ、はあ…」

「どうしたんや…息する声がこっちにも聞こえてきとるで?」

「ちょっと休憩しただけだよ…。早く君を倒して、ミサちゃんとロボ太を助けに行く…」

戦闘を続けたことで、何度か被弾したバルバトスの装甲の各所に溶けている部分があり、両手の希少金属製の爪にも刃こぼれが生じている。

ケストレルも左足や右腕にビームサーベルの出力が若干安定しておらず、ツインアイの左目が傷つき、赤いライトが露出している。

その影響がコックピットの全周囲モニターにも影響しており、一部の映像がブラックアウトしている。

どちらも飛び道具を使わず、ビームサーベルと太刀だけで戦い続けており、戦闘スタイルも対照的だ。

出力を利用して一撃離脱を繰り返すケストレルに対して、バルバトスは動きを最小限にとどめて、太刀で受け止める受け身の形だ。

ただ、勇太はこうした形のスタイルを始めてやるためか、要領をつかみ切れていない部分があるようで、実際先ほどの突撃は反応が遅れて太刀で受け止めることができず、やむなく左腕全体でそれを受ける形となった。

実際、装甲にひびが入り、左二の腕のフレームが若干肉眼でも見えるくらいだ。

(バルバトスはバランスが取れた機体…だからその分、一部の性能が過剰に高い…キマリスみたいなモビルスーツへの対応が難しい…。なんでもできるようで、何もできない…か)

父親がよく読んでいたどこかの竜の騎士の物語で、主人公の相棒役の大魔導士が言っていた言葉をなぜか思い出してしまう。

勇者とはどういう存在かを端的の表現したもので、実際今のバルバトスと重なってしまう。

(こうして、戦っていると思いだすで…。初めて、ガンプラ心形流に触れたときのことを…)

小学生の頃、引っ越したばかりのホウスケは内気な性格のために学校になじむことができず、時折学校をさぼることがあった。

そのサボリの中、通学路にある小さな家電屋のショーウィンドウに飾られていたテレビで、彼はガンプラバトルの一派といえるガンプラ心形流の創始者である老庵のバトルを見た。

10機近いガンプラを相手に彼は改造したクーロンガンダム1機で攻撃を受けることなく勝利を収めていた。

元々、ミサの影響でガンプラやガンプラバトルに興味を持っていた彼は両親を説き伏せ、休日に老庵がいる京都のガンプラ心形流道場の門をたたいた。

 

そして、ちょうど自分の誕生日の日に初めて老庵と修業をする日が来た。

「ふぅーーーむ…」

真っ白で長い口ひげを生やし、作務衣姿をした老人、老庵がじーっとホウスケの顔を見る。

当時は引っ込み思案な一面の強いホウスケは怖がりながらも足を動かすことができず、じっと彼の視線に耐えることしかできなかった。

「な、なんですか?僕は…」

「うーん、そうじゃな。よし、まずはそばでも食いに行くか!」

「そ…そばぁ?」

これがホウスケの修行の第一弾となった。

京都にある立ち食いそば屋に連れていかれ、大勢の昼食中のサラリーマン達がいる中でそばを食べることになった。

大勢の知らない人に囲まれたホウスケが縮こまる中、老庵はズルズルと音を立てながらそばを食べ、更にお変わりまで要求していた。

「ほれ、ワシのおごりなんやから早く食え。のびるぞ」

「そ、そんなこと言われても…」

周囲は大人ばかりで、自分のような子供はいない。

とても場違いな空間に感じられて、萎縮してしまう。

「なぁーに、そんなこと誰も気にせん。みーんな、次の取引先で何の話をするか、家に帰って浮気疑惑をどう釈明しようか、夜の店でどこへ行くかを考えておる。周りを気にする暇なんてないんじゃ」

「浮気疑惑って…」

「周りに気を使うのはいいことじゃが、度を超すと自分を見失う。周りに誰がいても、バクバクそばを食うぐらいの自由くらいあってええんじゃないか?」

周りに気を使う、ホウスケにとっては思い当たる言葉だった。

周囲になじむよう、周囲と軋轢を起こさないように…。

当時のホウスケはいつも周りのことを考えていた。

そのため、教師などの大人からの評判はいいが、幼馴染のミサを除いて、転校前の友人はあまりいなかった。

趣味のガンプラも、ミサ以外の友人には教えていないし、大阪ではガンプラの話に入ることも、その話を切り出すこともできずにいた。

場違いなことを言って、嫌われるのが嫌だったから。

「ん…?もしかして、かけそばじゃあ不満か。おーい!」

「へい!」

「この子のそばにトッピングのエビフライとかまぼこ、それから…わかめを追加。それから、天かすをたっぷりとなぁ」

「かしこまりましたー!」

「え、ええ!?」

少し時間が経つと、老庵のおかわりのそばと共に彼が注文した追加トッピングがホウスケのそばに入れられていく。

富士山のように積まれた天かすに息をのみ、もはやメインがそばなのか天かすなのかわからなくなってしまう。

「さあ、これを食ったら、今度は川釣りじゃ。しっかり食って、バテんようにするんじゃ」

ズズズとおかわりのそばを口にする老庵を見たホウスケのおなかが鳴る。

速く食べないと、またわけのわからないトッピングをされるかもしれないと思い、ホウスケはズズズと一気にそばを飲み込んでいく。

だが、いきなりのどに詰まったように、バンバンと胸を叩きつつ、氷がほとんど溶けた水を飲んだ。

「ホッホッホ。若者はこれくらいの食べっぷりでないとのぉ」

 

「ううー、暑いー…」

そばを食べ終え、今度は川に連れていかれたホウスケは麦わら帽子で日よけをしつつ、自分の浮きの動きを見ていた。

隣には老庵が座った状態で釣りをしており、座ったまま姿勢を崩していない。

「釣れないなー…。でも、これガンプラの役に立つのかなぁー…」

釣りを始めて2時間が経過するが、ホウスケのバケツにはまだ1匹も魚が入っていない。

老庵のバケツには既に3匹の魚が入っている。

ホウスケはなぜ自分がこんなことをしているのか、まだわからなかった。

今日はそばを食べるのと釣りをしているだけで、まだガンプラに関することを何一つしていない。

こんなことで何かプラスになるのかと疑問を抱く。

もしかして、彼は教える気なんてこれっぽっちもないのではと疑う中、ウキが動き始める。

「やった、かかった!!あ、老庵師匠!かかって…」

同時に老庵のウキも動いたため、急いで伝えるが、なぜか老庵はウキに視線を向けたままなにもしようとしない。

不動を貫いていて、ホウスケの声にも何も反応を見せない。

(も、もしかして…常に平常心を保つための修行!?これって…!)

ネット上で、老庵とガンプラ心形流は有名で、そんな彼が無駄なことをするはずがない。

テレビで見たようなあのすさまじいバトルを見せる彼だから、他では思いつかないようなこんな修行をしているのではないか。

(じゃ、じゃあ…僕も!)

老庵を真似して隣で座り、どんなに浮きが動いてもそのままの姿勢を崩さないようにし始める。

水と風の音だけが聞こえ、だんだん心が落ち着いてくるように思えた。

(きれいな音…気持ちいい…)

まるで、カミーユがガンダムMk-Ⅱに乗って初めて宇宙に出たとき、帰ってきたかのような心地よさを抱いたような感じだ。

「もしかして師匠!精神統一のた…?」

「…」

老庵を見たホウスケの開いた口が塞がらない。

彼は猫背になり、鼻提灯を作りながらぐっすり眠っているだけだった。

おまけに、ホウスケの竿にかかった魚は既に逃げ出していた。

「ああ、もう!なんて自由な人なんだよ!!」

(周りに気を使うのはいいことじゃが、度を超すと自分を見失う。周りに誰がいても、バクバクそばを食うぐらいの自由くらいあってええんじゃないか?)

急に、そば屋で言われた言葉を思い出す。

老庵は周りなんて気にせず、食べたいものを食べ、寝たいときに寝ている。

こんな図太さは自分にはない。

呆れてしまうものの、どこかあこがれてしまう。

 

(そうや…ガンプラ心形流で、ガンプラバトルで、俺は自分を変えることができたんや)

修行はガンプラづくりとバトル練習をすることがあれば。山登りや食べに行くときもあるなど、とにかく自由で、それに振り回されることがあった。

だが、それによって本当の自分を徐々に解き放つことができるようになっていった。

髪を金色に染め、ジャズ音楽を流すようになったのはそのためだ。

好きなものは好きなのだから仕方がない。

それを我慢することを辞め、さらけ出すことで、友達もでき、毎日に彩が生まれていくように感じた。

(俺が大会に出るのは、楽しみたいからだけやない。自分のバトルが、自分のガンプラが最強で、自由なんやってことを証明するためや!!)

とても単純だが、これこそがファイターにとっての至上の目的。

だが、この根っこがあるからこそ自分は戦える、楽しめる。

ケストレルはさらに速度を上げ、全身のビームサーベルを展開させたまま再びバルバトスに突っ込んでいく。

さらなるスピードで何度も突撃してくるケストレルを再び太刀で受け止めるが、さすがに限界に近付いているのか、ヒビが入り始めている。

このまま防戦一方では、太刀が折れて終わりだ。

だが、勇太も目的がある以上、あきらめるつもりはない。

(兄さんと果たすことができなかったジャパンカップ優勝を目指す。ミサちゃんと一緒に…そのためにも、負けるわけにはいかないんだ!)

志半ばで死んでしまった勇武、綾渡商店街をもう1度にぎわせるために戦うミサ。

この2人が今の勇太の道標。

あの2人だけではなく、カドマツやロボ太、サクラにタケルといった仲間と先輩。

彼らのおかげで、再び戻ってきたガンプラバトルの世界で戦い続けることができた。

今の自分の力は彼らがくれたもの、

それが最強であることを証明したい。

「君はどうだ…バルバトス!!」

勇太の言葉に応えるように、バルバトスのツインアイの光がほんの一瞬強くなる。

そして、覚醒が発動し、バルバトスが青いオーラに包まれる。

「ここで覚醒!?そうや…それを待っておったんや!!」

覚醒した以上、おそらくパワーはケストレルを上回る。

だが、お預けになった全力バトルをこれですることができる。

そうでなければ、ジャパンカップ本選で戦う意味がない。

スラスターを最大にしたまま方向を切り替え、一気に距離を離す。

「これなら見せることができる。ガンプラ心形流で見つけた、俺の自由の力!!リミッター解除や!」

ホウスケの声と同時にケストレルの全身のビームサーベルの出力が上がっていく。

それらのビームサーベルが次第に鎧のようにケストレルを纏い始める。

「ビームサーベルが鎧に!?」

「これが…!これこそが、俺のケストレルの…本当の力やぁ!!」

まるでケストレルがビームサーベルそのものになったような姿だ。

そのケストレルが突っ込んできて、今度は右の拳をバルバトスに叩き込もうとする。

例のごとく、太刀で受け止めるバルバトスだが、その一撃で太刀が粉々に砕け、バルバトスの胴体に拳が命中する。

「うわあああああ!!」

激しい衝撃と共に、ナノラミネートアーマーで強化されたはずの装甲に大きなへこみができる。

吹き飛ばされ、広報のビルにぶつかったバルバトスにはもはや爪とテイルブレード以外の武装がない。

覚醒でさらに強化されたはずの装甲にすらここまでのダメージを与えるケストレルの隠し玉に勇太は驚きを覚えた。

だが、これだけのパワーを生み出しているケストレルも無事であるはずがない。

ケストレルのコックピットは高温になっていて、おまけに装甲にもひびが入り始めている。

(そうや…ビームサーベルそのものになったこいつは長い時間闘うことができへん。こいつは本気の本気を見せるためのものや。こいつになら、それをやることができる!)

(なんだろう…ホウスケ君がこんなに全力を見せてくれている。もし…ここで逃げてしまったら、また僕は逃げていたころの自分に戻ってしまう)

バルバトスは両足を地面につけ、テイルブレードを発射することなく拳を構える。

瞬間的なパワーが覚醒状態のバルバトスを上回る相手に、これから拳で戦おうとしている。

(素手やとぉ!?自殺行為を!!)

いかにナノラミネートアーマーを採用したガンダム・フレームでも、今のケストレルの一撃を受けて無事で済むはずがない。

ひび割れた装甲が肉眼でも見える上に、後一撃加えたら確実にコックピットに甚大なダメージが発生し、撃墜判定が出る。

バルバトスがテイルブレードを放ち、ケストレルを切り裂こうとする。

「そんなもんで、止まらんでぇぇ!!」

左の拳一撃だけでテイルブレードを粉々に砕き、勢いを止めることなくバルバトスに肉薄する。

そして、右拳をバルバトスに向けて伸ばした。

(やった…!!)

これで自分の勝利を確信するホウスケだが、急に正面から激しい衝撃が襲う。

同時に、ケストレルの装甲が内部のフレームもろともミシミシと音を立てながら砕けていく。

「ん、んなアホな!?」

「はあ、はあ…届いたのは、バルバトスの拳だ…!」

接触回線で勇太の声が聞こえてくる。

ケストレルの拳はわずかにバルバトスに届いておらず、バルバトスの青く光る拳がケストレルの胸部を貫いていた。

「なん…でや…」

「君の攻撃がそれだけパワーのある者だった…そういうことだよ」

ケストレルの拳が届くギリギリのところで攻撃し、相手の攻撃力を拳に上乗せする。

正直に言うと、勇太にこれができるかどうか自信がなかったが、満身創痍の状態でケストレルを正面から撃破するにはその手しか残っていなかった。

覚醒エネルギーの拳とおそらくケストレルの最大パワーの攻撃を同時に受ける格好となり、全身をビームサーベルで包んだことによって装甲に大きな負担がかかった以上、無事で済むはずがなかった。

「すまんな…ケイコ、ワタル。完敗や…」

 



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第35話 赤い一撃

「ふうう…どうにか、勝てた…」

覚醒による疲労で勇太の息が荒くなる。

覚醒も解除され、強制冷却が始まる中、カウンター攻撃に使った右腕にひびが入る。

(やっぱりか…無理もない。このカウンター攻撃は…)

これはハロの中に会った勇武の戦闘データの中にあったものをぶっつけ本番で試したものだ。

あの攻撃を行うということは機体そのものにも大きな負荷がかかる。

ひびは装甲だけでなく、内部フレームにもできており、警告音と共にバルバトスの右腕が赤く光る映像が流れる。

ソロモンへの核攻撃実行の余波によって、左腕が動かなくなったサイサリスと同じように、バルバトスの右腕は勇太の操縦に答えない。

ブランと下に垂れているだけだ。

右腕だけでなく、関節部やほかの部位のフレームそのものにもダメージがあり、このままでは全力で戦うことができないことが分かる。

「破砕砲…今のバルバトスでは使えないけど…」

だが、今はミサ達と合流し、残りの2体と戦わなければならない。

破砕砲を左手だけでつかみ、バックパックのサブアームを使ってウェポンラックに取り付ける。

まだジャミングが発生しているせいで、まだミサとロボ太の居場所は分からないが、動かなければ見つけることすらできないため、スラスターは使用せず、地上を走りながら探し始めた。

 

「く…もう、盾が持たない!!」

ザンバスターの一撃でついに限界に達した盾が砕け、次に飛んでくるビームがフルアーマー騎士ガンダムの鎧に命中する。

霞の鎧には若干の対ビームコーティングがほどこされているため、命中したビームを弾いてくれたが、あと何発耐えられるかわからない。

「アザレアの後ろに隠れて!!…ああ、もう!!ミサイルは弾切れなの!?」

フルアーマー騎士ガンダムがアザレアの背後に隠れ、展開するGNフィールドの中に入る。

GN粒子を可能な限りGNフィールドに回すためにミサイルとシュツルムファウストを使い続けるが、ついに弾切れになり、空になったミサイルポッドをやむなく強制排除する。

ミサイルだけでなく、粒子残量もそろそろまずい状態になっており、このままでは動けるだけで、GNフィールドもビームも使えなくなる。

実際、GNフィールドの出力が弱まり始めており、フィールドの層が薄くなっているのが肉眼で見えるくらいだ。

「…!ホウスケの反応が消えた!?」

ケストレルの反応がロストしたことで、ワタルは動揺する。

あの彼が1対1で勇太に倒されるとは思わなかった。

だが、このバトルはあくまでチーム戦。

チームが勝てば、たとえ誰かが負けたとしても問題はない。

「これだけ出力が弱まれば…!!」

アンヘル・ディオナが再び光の翼を巨大なビームサーベルへと変化させる。

この一撃なら、GNフィールドを突き破ってアザレアを両断できる。

正面から光の翼を広げて突っ込んでくるのがミサとロボ太にも見える。

「こうなったら…ロボ太!ここから逃げて!」

「しかし、ミサはどうする!?」

粒子残量が少なく、後方支援向きの装備のアザレアではアンヘル・ディオナの攻撃を回避することができない。

それに、フルアーマー騎士ガンダムの残っている武器はナイトソードのみ。

たとえ自分が生き延びたとしても、あの2機を倒すことができない。

「大丈夫だから!だから、早く!」

「ミサ…」

モニターに映るミサは笑顔だ。

それも悲壮感のない、自信に満ちたものだ。

その自信がどこから来るのか、今のロボ太にはわからない。

だが、それを信じてみたいという思いが生まれる。

「…了解だ!!」

フルアーマー騎士ガンダムがアザレアから離れていく。

同時に、少しでもアザレアにGNフィールドを使わせるために新しいザンバスターを装備したレコードブレイカーが攻撃を仕掛け続ける。

(まだ…まだまだ!!)

GNフィールドの展開可能時間がレッドゾーンに入り、警告音がけたたましくミサの耳に届く。

このままでは持たないことは分かっている。

だが、まだここで使うわけにはいかない。

(もう少し…もう少しだけもって!!)

「これで…終わりよ!!」

ケイコの叫びと共にアンヘル・ディオナが突っ込んでくる。

アザレアがいた場所で爆発が起こり、煙が周囲を包み込む。

「ミサちゃん、ロボ太!!」

2人が戦っている場所にたどり着いた勇太はアザレアがいると思われる場所にバルバトスのツインアイを向ける。

だが、グレネードが飛んできたため、ジャンプしてその場を離れる。

「このジャミング…あのレコードブレイカー!?」

「残念やったな…!ホウスケを倒すとはびっくりしたで。せやけど…!」

今のバルバトスはボロボロで、プランと垂れている右腕からもどれだけホウスケとの戦いでダメージを負ったのかが分かる。

「く…!まだ使うわけには…!」

ビームショットガンでビームをばらまきながら、勇太は背中のバックパックの破砕砲に意識を向ける。

移動中にダメージチェックをして、破砕砲を撃てることは分かった。

だが、左手だけで撃たなければならない以上はバレルを強制排除した状態で撃たなければならず、おまけに撃てるのは一発だけ。

撃ったら間違えなく左腕が吹き飛ぶ。

だが、ビームショットガンの弾数はわずかで、テイルブレードも超大型メイスもない。

「まだか…ミサちゃん!」

「高濃度圧縮粒子、充填完了!!」

煙が晴れると、赤く染まったアザレアが両肩のGNキャノンを背中を向けるアンヘル・ディオナに向けていた。

「この反応…嘘!?」

反応を察知したアンヘル・ディオナのHADESシステムがケイコの操縦に割り込み、強引にアンヘル・ディオナの高度を上げる。

同時に、発射された大出力のGNバズーカのビームがわずかに装甲をかすめた。

「キャアアア、どうして…!?」

急激な操縦によって意識を持っていかれかけたケイコだが、その疑問は赤く光るアザレアが答えてくれた。

「はあはあ…トランザム、だよ!」

ガンダムヴァーチェのバックパックを搭載し、太陽炉を手にしたことで初めて可能になったアザレアの新しい力。

できればこの段階で発動したくはなかったが、相手が悪かった。

尽きかけていたGN粒子が一気に回復していく。

「く…!ヴァーチェのパーツをつけていたから、警戒しておけば…」

「ケイコぉ!!」

「な…!?」

アンヘル・ディオナの胴体を後ろから飛んできたナイトソードで貫かれる。

ビルの屋上にはロボ太の姿があり、2人がミサに気を取られている間にそこへ移動して、たった一発だけの攻撃の機会を待っていた。

軽量化されたアンヘル・ディオナにはその刃に耐えるだけの耐久力を持ち合わせていなかった。

アンヘル・ディオナは上空で爆散する。

「くっそぉ!んなアホな!?うわあ!!」

撃墜されたケイコのことに気を取られ、勇太のことをすっかり見落としてしまったワタルの体が衝撃で大きく揺れ、全周囲モニターの一部が一時的に消えてしまう。

「はあ、はあ…やっと、いい一撃を浴びせられた…」

バルバトスの左手には自身の右腕が武器代わりに握られていた。

シローがEz8でノリスのグフ・カスタムと交戦した際も、攻撃手段として動かなくなった右腕を無理やり引きちぎって攻撃に使った。

頑丈な高硬度レアアロイ製のフレームでは難しい行いだが、今はダメージがあったことが幸いした。

単純だが有効な攻撃のようで、レコードブレイカーの頭部パーツにはひびが入っている。

「くそ…!じゃが、ホウスケとの戦いで消耗しとるな?せやったら!!」

ここで高機動の一撃離脱戦闘で仕留めるだけ。

光の翼を展開させ、再び上空を舞う。

トランザムは長時間は発動できず、解除されるとしばらくは使えない。

トランザム前の粒子残量を考えたら、もうビームを撃つことすらできないだろう。

バイオコンピュータを最大稼働させ、強制冷却を行う。

上空から次々と発射されるビームがバルバトスを襲う。

右腕を盾替わりにするが、エイハブ粒子が届いていないため、ナノラミネートアーマーが機能せず、装甲もフレームも焼けていく。

もはや盾としても武器としても役割を果たせなくなった右腕を投げつけるが、高い機動力を持つレコードブレイカーには意味をなさない。

「もう武器はあらへんな!このまま…!?何?武器があらへんやと!?」

ワタルは目を離す前のバルバトスを思い出す。

その時は確か、ビームショットガンを使っており、バックパックには破砕砲をマウントしていた。

巨大な武器であるため、正面から見てもマウントされているか否かはわかる。

今のバルバトスのバックパックには破砕砲がなかった。

「まさ…」

「遅い!!」

うるさいほどの銃声と共に飛んできた徹甲弾でレコードブレイカーが撃ち抜か、四肢がバラバラに吹き飛んでいく。

徹甲弾の機動を逆探知すると、そこには破砕砲を握ったアザレアの姿があった。

しかし、やはり反動が激しいせいか右腕が吹き飛んでおり、おまけに機体そのものは背後のビルに激突していた。

「はあ、はあ…もう、破砕砲がこんなに反動あるなんてー…せっかくのアザレアの右腕が壊れちゃったじゃない!」

「ごめん…今のバルバトスが撃つよりも、アザレアで撃ってくれたら勝算があると思って…。でも、うれしかったよ」

ワタルからの攻撃を受ける中で、勇太はビームショットガンを弾切れになるまで撃ちまくった。

それは防御と目くらましを兼ねたもので、彼の目を盗む形でマウントしていた破砕砲を外していた。

ちょうど、アザレアの近くあたりまで。

そして、アザレアがそれを手にして、照準を合わせるまでの間にこちらはケイコに気を取られたワタルに攻撃し、ひきつけた。

打ち合わせ無しのギリギリの作戦だったが、うまくいったことで勇太は安心した。

「ま、まぁ…今年ずっと一緒に戦ってるし、それに、リーダーとしてちゃんと勇太君と息を合わせたいし…」

勇太の言葉がうれしかったミサはほんのり顔を赤く染め、バイザーをわずかに開いて人差し指で頬をかく。

「試合終了!!勝者は東京代表、彩渡商店街ガンプラチームだぁぁぁ!!!」

勝者が決まったことで、客席が歓声に包まれていく。

歓声はシミュレーターの中にも届いており、勇太はセットしていたバルバトスを見る。

やはり、ダメージは反映されており、右腕がちぎれているうえに各部に生じているダメージが肉眼でもわかるくらいだ。

早くて明日が2回戦であるため、早急に修理が必要になる。

あのガンプラはまだ完成していない以上はこちらで戦い続けるだけだ。

シミュレーターを出ると、既に出ていたミサが嬉しそうに勇太の隣に立つ。

「やったね!初戦突破だよ!!」

「ミサちゃん…これでまた一歩、優勝に近づけたね」

「うん!あ…でも、ちゃんと修理しないと…」

勝ったのはうれしいが、やはりミサは自分のガンプラが本当にダメージを受けているため、複雑そうだ。

予選以上にダメージを受けたうえに片腕が吹き飛んでしまったのでは余計にショックが大きいだろう。

「一緒に、直そう。修理用のパーツは持ってきてるよね?」

「…うん」

「ったく、やってくれたのぉ、彩渡商店街ガンプラチーム!」

ホウスケ達が勝者である勇太たちの元へ近づいてくる。

ケイコは敗北が悔しくて涙を流しており、ワタルが彼女を慰めている。

ホウスケは勇太をじっと睨みつけた後で、腹部に大穴が開いたケストレルを見せる。

「じゃが…次に勝つのは俺や!!ケストレルを復活させて、必ずお前に勝ったる!そんで、日本一の座を奪い取ったるわ!」

「ホ、ホウスケ君…それって…」

「ほなな!」

ヒラヒラと大雑把に手を振った後でホウスケは2人と一緒に控え室へと去っていく。

ホウスケの言葉はまるで勇太たちが日本一になると思っているように思えて、彼からの激励がうれしかったミサは口元を緩ませる。

「勝たなきゃいけない理由…またできちゃったな」

「いいじゃん!結局は日本一になることに変わりないし!それじゃ、お昼食べに行こ!デンドロビウム丼、今なら食べれるかも!」

「いや、さすがにそれは無理じゃないかな…?」

勇太は近くのフードコートで見つけたその丼を思い出し、顔を引きつらせる。

宇宙世紀0083での化け物といえるデンドロビウムの名前が入ったその丼はご飯がお茶碗3杯分入っていて、そのうえにモヤシ半袋に千切りキャベツの山が乗る。

そして、とんかつが100グラムにヒレかつが100グラム、大きなエビフライが2本に唐揚げが6個。

ローストビーフが塊で2つ入り、追い打ちと言わんばかりにハンバーグまで入っている。

そんな重量のあるものをこれだけのバトルをした後でも食べる気にはなれなかった。

 

「おまたせ致しました。こちら、ヴァル・ヴァロバーガーです。出来立てですので、火傷にはご注意くださいませ」

「やったー、いっただっきまーす!」

目の前に置かれた巨大バーガーに勇太は顔を引きつらせる。

自分の顔ぐらいの大きさのバンズにパティ3枚にチーム2枚、目玉焼き1つにシュレッドレタスが両手掴みくらいの量、そしてとどめに分厚い衣のチキンが2つの大きな鋏付きで挟まっている。

デンドロビウム丼はさすがに食べれない可能性が高いと勇太からの説得を受け、彼女が譲歩した結果がそれだ。

すごいボリュームには変わらず、女の子がそれを食べていいものなのかと疑問を感じてしまう。

「ったく、そんなモン注文しやがって。安くねえんだぞ…?」

「ごめんなさい、カドマツさん…」

「いや、お前の場合はもうちょっと食え。ポテトLくらい付けてもいいんだぞ?」

勇太のトレーの上にあるのは一番安い普通のハンバーガー1つと水が入ったコップだけだ。

おごりで食べさせてもらうということで、遠慮しているのかもしれないが、セットを頼んでくれてもよかったのにと思えてしまう。

そんなカドマツの思いを気にすることなく、勇太はハンバーガーを口へ運ぶ。

勇太がそれだけにしたのは遠慮以外にも、早く部屋に戻ってガンプラを直したいと思っていることも大きい。

フレームがガタガタになった以上は一回ばらして直さなければならず、更なる補強まで必要になる。

勇太の脳裏にはアミダ専用の百錬が浮かんでいる。

アミダ専用の百錬は一般のそれとは異なり、木星メタルがエイハブ・リアクターやフレームに使われているため、強度や反応速度などの性能が高くなっている。

それを組み込むことができれば、もう少しバルバトスをパワーアップできるかもしれない。

そして、今作っているあれにも参考にできるかもしれなかった。

「しょうがねえなあ…すみません。こいつにポテトLを追加で」

「え…?カドマツさん…」

「いいから食っとけ。しっかり食わねえと体が持たねえぞ」

「そうだよ、勇太君!しっかり食べて、英気を養って…もぐもぐ」

「おめーは少しは遠慮しろ」

「はは…ありがとうございます」

2人の気遣いに感謝しつつ、勇太は腕時計で時間を調べる。

そろそろサクラのいるチームの試合が始まる時間帯で、フードコートのモニターにも試合映像が流れ始める。

舞台はドルトコロニーで、コロニー内の重力下地域と周辺の宙域が戦場となる、宇宙と地上の両方の環境が存在する珍しい環境だ。

宇宙にはグレイズやスピナ・ロディの残骸があふれている。

「まったく、この状況はまずいわね…」

デブリに隠れるサクラの頬を一筋の汗が流れる。

仲間2機の反応がまだ残っており、損傷軽微のようで、今は全員コロニー内か宇宙のデブリに隠れている状態だ。

戦闘に入ってから、サクラ達は一度も相手のガンプラを見ていない。

それにもかかわらず、攻撃を受けており、先ほども隠れているデブリの1つがビームで破壊されてしまった。

このメンバーの中で一番センサーの性能の高いザクⅠで調べても、敵の反応を拾うことができない。

「こんなことは初めて…!?」

警告音が響くとともに後方からミサイルが飛んでくる。

数は4つで、急いでビームライフルを撃つが、2発しか落とすことができず、残りがまっすぐこちらへ飛んでくる。

上へ飛んで回避するサクラはミサイルの機動を逆探知するが、その位置に敵の姿はない。

「一体…どうなっているの…?」

 

「角度調整、よし。いつでもいけるぞ」

「3番と6番の角度を上へ2度調整。これで、コロニー内の奴を狙える」

ザムザザーのものと似たコックピット内で、ジオンの一般兵のノーマルスーツを着た2人の男がコンソールを操作する。

メインパイロットシートである一番上の席には真っ黒なノーマルスーツ姿で、顔をルイン・リーのマスクが隠している男性がうっすらと笑みを浮かべる。

「鉄の貴公子は言っていました…。気づいた時にやられている恐怖は大きいと…」

彼はモニターに映る3機のガンプラをじっと見つけていた。

彼らにはこちらは見えていないが、こちらには見えている。

それだけでどれだけの差がつくかを彼は知っている。

そうした戦いのおかげで、予選はほぼ無傷で通過することができた。

「さあ、狩りを楽しみましょうか…」



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第36話 影からの一撃

「一体どうなってるの!?サクラさんのチーム以外のガンプラがいないのに、なんであんなにダメージを受けてるの!?あ、ビームが来た!!」

勇太の服を引っ張るミサはテレビに指をさしながらこのおかしな状況の説明を求める。

今の一撃はビームだが、時にはミサイルも飛んできており、それが不規則かつ正確に彼女たちを狙っている。

ファンネルやドラグーン、ガンバレルでの攻撃とは考えられない。

ビームだけなら、ゲシュマイディッヒ・パンツァーもしくはレグナントに使われたGNフィールドの近似技術を応用していると考えれば説明がつく。

だが、ミサイルはどうして正確に彼女たちに向かっているのかの説明がつかない。

「相手は完全に姿を隠しているな。カメレオンみてえだ…」

「この攻撃手段への対抗策を考えないと、サクラさん達は一方的にやられてしまう…」

スマホで現在サクラ達が戦っているチームの今大会の戦績を調べる。

相手となっているのは三重県代表で、彼らの登録機体はモビルアーマー1機となっている。

しかし、ここまでの戦闘でその姿をフィールド内で見たファイターは一人もいないという。

その姿を目撃する前に撃破されてしまったケースが後を絶たない。

「もしかして、ミラージュコロイドを使って消えてるってこと!?」

「ううん、ミラージュコロイドを発動したとしても、音まで消すことはできない。それに、これまで戦ったフィールドの中には海もある。そこでも姿を見ることができなかった…。ミラージュコロイドは水中では使えない以上、きっと別のものだよ」

問題はその別のもののシステムで、それはまだ勇太の中で答えが出ていない。

 

「くそ…ミラージュコロイドデテクターでも、見つからん。奴らの隠れている手段はミラージュコロイドでも、見えざる傘でもないようだ」

ミラージュコロイドと見えざる傘はどちらも光学迷彩で、そちらもガス状のコロイドを展開する点に変わりはない。

違いがあるのは範囲で、見えざる傘の場合はミノフスキー粒子のように散布することで周囲の味方の姿を隠すことさえできる。

その性質故に、どちらもミラージュコロイドそのものを探知するミラージュコロイドデテクターを使えば、居場所だけはつかむことができる。

サクラのチームは光学迷彩を使う相手に備え、ザクⅠのカメラにミラージュコロイドデテクターモードを取り付けておいた。

原作でのそれはただ近くにいるというだけで正確な位置の把握は不可能な代物だったが、モビルスーツの機能として直接取り付けることで機能性を高め、正確な居場所をつかむことが可能となった。

計算外だったのはそれでも、隠れている相手の居場所をつかむことができないことだ。

「ガス状コロイドを使っているわけじゃないというの…?」

「ミサイル、来るぞ!!」

スグルは飛んでくる3発のミサイルをヘブンズダートで撃ち落とす。

だが、ヘブンズダートが接触した瞬間、ミサイルは強い光を放ちはじめた。

「照明弾か…くそ!!これじゃあばれるぞ!」

「補正を急ぐわ!…?」

センサー補正を始めるサクラは一瞬、白い光の中で何かが動くのが見えた気がした。

正確に言えば角度を変えているだけで、その場所からは移動していない。

光が収まり、照準補正が終わると同時にサクラ達はその場を離れる。

その少し後で、大出力のビームがその場所の真上から降り注いでいた。

(もしかして…彼らが私たちの居場所を見つける手段って…)

試しにサクラは動きを止めて、ギカンティックシザースに搭載されているビーム砲を出鱈目に発射する。

そうしていると、サクラに向けて再びビームが飛んできた。

機体を後ろへ下がらせて回避するが、死角からのビームだったために回避が遅れ、右足の指先部分がビームを受けて溶解してしまった。

「サクラ!なぜ居場所を伝えるようなことを…」

「ヒデキヨ!スナイパーライフルを貸して!」

「何…?いったいどういうつもりで…」

「これで、もしかしたら正体をつかめるかもしれないのよ!!」

「…」

ビームスナイパーライフルでどうやって正体をつかむというのか。

困惑するヒデキヨだが、ここで手をこまねいていたら、一方的にやられるだけだ。

どんな手段で打って出るつもりかは分からないが、今はそのサクラの策を信じるだけだ。

ヒデキヨはザクⅠの主力武器と言えるそのライフルを手渡した。

それを受け取ったサクラはコーボードを展開させ、ライフルのプログラムを入力していく。

「みんな一か所に固まって。攻撃は一切しないように」

「どうするんだ、サクラ?」

「もし、今の私の読みが外れたら、私たちはここで敗退…けど、当たっていたら、ここを突破できるわ」

 

「ふん…急に動きが止まりましたね」

3機のガンプラが一か所に固まって、なおかつ動きを止める。

ガンプラバトルではかなりの下策で、敵チームに集中攻撃してくださいとお願いするようなものだ。

そんな戦法をとるようなチームはもはやジャパンカップにはいないはずだ。

「嫌な予感がします…場合によっては、2つ目のプランを使う必要があるかもしれませんね…」

「2つ目のプラン…決勝で使うあれか?」

「ええ。相手は特別推薦のチームです。油断ならない相手ですからね…」

最も、それを使うとなると戦うのはメインパイロットを務める彼、叢雲恭二1人になる。

ルール上そうせざるを得ないが、彼は特に気にしていなかった。

「これは…高熱原体接近!!」

「こちらへビーム!?流れ弾か?」

「クスリ、どうやら、狙って撃って来たみたいですね」

キョウジが笑みを浮かべる中、飛んできたビームが装甲で弾かれる。

熱源を逆探知すると、そこには放棄されたザクⅠのスナイパーライフルがデブリに挟まる形で置いてあった。

「なるほど…プログラムで一定時間経過後に発射するように調整されていましたか」

パイロットが脱出した後のモビルスーツが一定の動きを自動で行うこと自体は不可能ではない。

かのラストシューティングも、アムロが脱出前に教育コンピュータを応用した自動操縦機能を使って、ガンダムにある程度進んだ後で真上にいると思われるジオングヘッドにビームライフルで攻撃するようプログラムしたことで可能になった。

最も、メインカメラを失っているうえに地の利のないア・バオア・クーでそれができたのは一重にアムロのニュータイプ能力が大きかった。

それを武器単独で行うことも、理論上はできるものの、問題はどうしてここの場所をつかむことができたかだ。

この一発のビームで居場所が分かったのか、バエルとブリッツがこちらへ向かて一直線に飛んできていた。

迎撃のため、隠れていたモビルアーマーがその姿を現す。

その正体は真っ黒な塗装をされたアルヴァトーレだった。

しかし、原作では搭載されていたはずの疑似太陽炉は搭載されておらず、動力源が複数の核融合炉に変更されているうえにサイズも一回り大きい。

スナイパーライフルを受けた個所はもはや光学迷彩の機能を発揮していなかった。

 

「ええっ!?なんか、黒い装甲が宇宙に出てきた!これ、どうなってるの!?しかも、サクラさん、どうやってそこに敵がいるってわかったの!?」

試合映像を見るミサはどういうことなのか理解できず、目を回していた。

大人であるカドマツに説明を求めるように目を向けるが、カドマツもよくわかっていないのか、首をかしげている。

「ミラージュコロイドじゃないとしたら…そうか、オクトカムだ!」

「え…オクトカム…??」

「オクトカム…ああ、なるほど。蛸か…」

勇太の言葉でようやく相手チームの迷彩の謎が解けたカドマツは笑みを浮かべ、そのチームのアイデアを感心する。

「オクトカムは地表や物体表面の見た目から凹凸までそっくりに擬態できるシステムなんだ。まさか、宇宙そっくりに擬態までできるなんて…」

オクトカムの存在は勇太も小耳にはさんでいたが、まだそれをガンプラバトルで完全に実践に使うことができるレベルに達していないとばかり思っていた。

それだけに、三重県代表のオクトカムには驚きを感じ、世界の広さとガンプラの可能性も感じられた。

だが、まだまだオクトカムには課題が存在する。

オクトカムは装甲表面の色を光学技術で変化させる都合上、装甲そのものがダメージを負うとその部分が擬態できなくなる。

おそらく、疑似太陽炉を採用しなかったのはGN粒子がオクトカムの邪魔になるからだろう。

「すごい!それって、カメレオンみたい!」

「カメレオンじゃないよ、オクトパス、蛸だよ」

「え…蛸?蛸とステルスって、あんまり関係ないように思うけど…」

「蛸は周囲の色だけじゃなくて、形まで擬態できるんだ」

「お前、よくそんなこと知ってるな…」

解説しようと思っていたカドマツはまさかオクトカムのほとんどを勇太に説明されるとは思わなかったようで、出番が奪われたように思えて機嫌を悪くする。

だが、オクトカムであればミラージュコロイドとは異なりガスを使わないため、ミラージュコロイドデテクターでも見破れない。

「でも、サクラさんはどうして場所が分かったんだろう…?」

「きっと、これまでの攻撃の探知データを使ったのかもしれない」

おそらく、ファンネルによる攻撃ではないと考え、『曲がる』ことをすでに頭に入れていたのかもしれない。

それでも目星をつけて、しかも逆に奇襲攻撃を仕掛けるところに彼女の恐ろしい面が感じられた。

 

「ここからは俺たちのターン、という奴だな!」

だが、先が見破られたとはいえ、アルヴァトーレは第1期で刹那を苦戦させ、プトレマイオスに先制攻撃を与えた強力なモビルアーマー。

接近しようとする2機に向けて側面に搭載されているビーム砲とミサイルランチャーで迎撃を始める。

更には下から黒いリフレクタービットが数機出て来て、それが機体周囲に展開されていく。

「ビームが曲がる原因はこれか!?だが、ミサイルはどうやって…??」

「ふふ…何もプログラム変更ができるのは武器やモビルスーツだけではないのですよ…」

サウザンド・カスタムの一機であるバンゾのマイクロミサイルランチャーのミサイルの中には反転するようプログラムされたものがあり、直進するビームへの防御に特化したビームシールドが主流となっていたVガンダムの時代にはその死角を突く戦法だった。

展開しているリフレクタービットに簡易的なプログラム書き換え機能を加えていて、それで飛翔しているミサイルのプログラムを書き換えていた。

スグルはそのそんな多機能のリフレクタービットを、本来は機体周囲に展開させるだけの存在であるそれを長距離まで展開させることができるように手を加えた三重県代表チームの技術力と発想に舌を巻く。

もしかしたら、忍者の存在も影響しているのかもしれない。

「だが、こいつはミサイルじゃあないぞ!!」

発射されたヘブンズダートが飛んでいるリフレクタービットのうちの2基を撃ち落とす。

直線にしか飛ぶ必要のないヘブンズダートにはそれが介入する要素がなかった。

「けど…接近は難しいわね…!」

アルヴァトーレの弾幕をかいくぐっての接近は難しく、原作でも刹那はGNアームズを装着した状態でなければ接近することすらできず、しかも接近に成功したころにはGNアームズを失っていた。

「使うしかないわね…覚醒を!!」

深呼吸したサクラは覚醒を発動させ、側面ビーム砲の直撃コースに入っていたはずのブリッツはあたる直前に桜の花びらのエフェクトを残して消えていく。

「ほぉ…あなたの機体も、忍者でしたね…」

サクラはブリッツをアルヴァトーレの機体下部へと飛ばしていく。

リフレクタービットによって起動が変化したビームは機体の真上だろうと真下だろうとどこでも飛んできて、移動する間にもブリッツは何度も被弾したが、覚醒エネルギーがバリアとなってダメージを抑えている。

(リフレクタービットを展開させるとき、下のハッチを開いていた。そこが一番もろいはず!)

核融合炉が動力源となっているおかげで、この機体はGNフィールドを展開させることができない。

トリケロスにビームサーベルを展開させ、それを下部のハッチ部分に向けて突き立てる。

しかし、覚醒エネルギーで増幅させた出力のビームサーベルですら、アルヴァトーレの装甲は受け止めていた。

「なんて強度の対ビームコーティングなの…!?」

「サクラ!!これを…うわあ!!」

ビームとミサイルの弾幕にさらされるバエルが持っているバエルソードの1本をブリッツに向けて投げる。

それを手にしたサクラはアルヴァトーレに思いっきり突き刺した。

剣を受けたアルヴァトーレは小規模の爆発をいくつも引き起こし、サクラはその場から離れると同時に覚醒を解除する。

「はあ、はあ…」

覚醒による疲労で、サクラの息が荒くなる。

これで終わりかと思った彼女だが、いまだに試合終了のアナウンスが流れないのが気になった。

もうすでに敵機の反応はないにもかかわらず。

「どうなってる…?おい、試合が終わったんならさっさと…」

「いいえ、終わっていませんよ」

「何…!?」

振り返ったザクⅠが頭部から縦一文字に切り裂かれ、爆散する。

「ヒデキヨがやられた!?」

「背後を取られた…どうして!?」

「まだ敵がいるということ!?まさか…!」

アルヴァトーレはアルヴァアロンの補助ユニット。

東京のリージョンカップでアプサラスⅡの中から出てきたサイサリスのように、1機でも戦える本体が存在してもおかしくない。

「ふふふ…忍者は、あなただけではないということ。ただ、それだけですよ」

サクラの耳に敵からの通信が聞こえ、それはオープンチャンネルではなく接触回線だった。

センサーには一切反応がない。

「こいつは…!」

何が起こったのかわからないスグルはモニターに見える変化に息をのむ。

ブリッツの背後に真っ黒なガンダムが現れ、ブリッツの首にシュピーゲルブレードを突き立てていた。

やろうと思えば、すぐにでもブリッツを撃破できるというらしい。

「ガンダム・シュピーゲルオクト。本体ユニットです」

「オクト…やっぱり、蛸がつくのね」

「お見事でしたよ。まさか、私たちの居場所をつかむとは…どうやって?」

「攻撃データを計算しただけよ。資料はそちらが提供してくれたおかげで、どうにかなったわ」

記録した射撃データと、現状のガンプラバトルで可能限界のビーム屈折角度。

それらを元に調べる中で、攻撃手段の中にリフレクタービットといった中継機能の存在を予測できた。

ただ、ミサイルの軌道を変化させることができるということについては想定外だった。

プログラムさえ変更できれば、反転・旋回などの軌道を変化させることはいくらでもできるからだ。

その分、特定までに想定以上の時間がかかってしまった。

「ここから、1対1の戦いはいかがでしょうか?同じ忍者として?」

「悪いけど、私は自分を忍者と名乗った覚えはないわ」

「そうですか…」

残念そうにつぶやくキョウジだが、すぐにシュピーゲルはオクトカムで消えてしまった。

次の瞬間、変形して飛行していたバエルの背中に出現し、シュピーゲルブレードを突き刺した。

「馬鹿な…!?くそぉぉ!!」

スグルが無念の叫びと共に消え、バエルのツインアイの光が消滅する。

サクラはあっという間にスグルとヒデキヨが倒したキョウジと彼のシュピーゲルに息をのむ。

あっという間に1対1の状況にされてしまった。

「これで、1対1…お楽しみの時間の始まりです」

「楽しい時間…?あなたにとっては、でしょ?」

冷や汗をかくサクラはキョウジの声におびえる自分を感じた。

あの2人は自分と同じく推薦組で、自分もその実力を認めている。

その2人をアルヴァトーレとの戦いで手傷をおったとはいえ、あっさりと撃破した彼の実力はおそらく今大会でも最強クラスだろう。

彼を突破しなければ、決勝へ行くことは夢のまた夢だ。

「仕方ないわね…応じてあげるわよ。その決闘に!!」

 




機体名:アルヴァトーレ・オクト
形式番号:GNMA-XCVIIOCT
使用プレイヤー:叢雲恭二

ガンダム00に登場する大型モビルアーマー、アルヴァトーレをベースに改造したガンプラ。
ミラージュコロイドではなく、装甲の表面を擬態させることのできる迷彩システム、オクトカムを本格的に採用しており、起動中はセンサーにも反応しない。
それを最大限に活用するため、GN粒子を放出する疑似太陽炉を排除し、核融合炉を採用している。
また、ファングの代わりに搭載されたリフレクタービットにはビームの軌道変化だけでなく、ミサイルの軌道プログラムの変更を行うシステムが加わっており、それによりビームやミサイルでオールレンジ攻撃を行うことが可能となっている。
疑似太陽炉がないことで、GNフィールドの展開が不能になっているものの、その点はリフレクタービットと強化された対ビームコーティングで補っている。
なお、この機体はあくまで叢雲恭二が搭乗する本来のガンプラのガンダムシュピーゲル・オクトの補助ユニットの位置づけに過ぎない。


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第37話 蟹VS蛸

宇宙空間の中、モニターには発射されるビームと弾丸だけが見え、時折聞こえる剣の交差する音が聞こえてくる。

オクトカムとミラージュコロイドを使い、互いに姿を隠したうえでの戦いは見ている側にとっては何が起こるのか、何をしているのか分からない状態だ。

そんな中で、ミスターガンプラはワクワクしながらモニターを眺めていた。

「これは面白い試合だ。お互いの姿が見えないけれど、どちらにも弱点がある」

ミラージュコロイドを使うブリッツはフェイズシフト装甲やビーム兵器も使う都合上、多くの電力を消耗するため、おそらく長い時間闘うことはできない。

一方のシュピーゲルは装甲にダメージがあるとその部分のオクトカムの使用が不可能になるうえ、フェイズシフト装甲のブリッツ相手に有効打を与える可能性のある武器とすればシュピーゲルブレードのみ。

時間稼ぎをして、フェイズシフトダウンを起こしてからがシュピーゲルにとってチャンスになる。

(勝負は時間だ…。それがどちらを味方してくれる?)

 

「ふう、ふう…バッテリーは…」

デブリの陰に隠れたサクラはいったんミラージュコロイドを解除し、バッテリー残量を確認する。

アルヴァトーレとの戦闘のせいで多くの電力を消耗したうえ、覚醒も使ってしまった。

今の体力なら、あと少しだけ覚醒を使うことができるが、それでも可能な限り絞って使ってあと1分半。

それでは相手を殺し切れない。

「フェイズシフトを解除する余裕があるとは、見事ですね」

真下に出現したシュピーゲルがメッサーグランツをブリッツに向けて投げつける。

突然現れた敵に気を取られたサクラはメッサーグランツの回避が遅れ、投げられた3本のうちの1本が命中と共に爆発する。

直撃と爆発によって装甲に回される電力が増え、バッテリーの消耗が速まる。

反撃のため、インパクトダガーを投擲したものの、その時にはもうシュピーゲルは姿を消し、移動した後だった。

「やってくれるわね…あの男!」

電力消耗を考えると、もうビームライフルとビームサーベルは使えない。

インパクトダガーが決定打たりえない以上、シュピーゲルを撃破できる武器はランサーダートとギガンティックシザースだ。

だが、本編では槍として使用していたランサーダートだが、それには炸裂する機能がついているため、フェイズシフトダウンした状態でそんなことをしたら爆発に巻き込まれる、自殺行為だ。

だとしたら、電力の消耗が相対的に低いうえに破壊力のあるギガンティックシザースの一撃を加えるのがベストだ。

問題はそれで挟み殺すタイミングで、当然相手がそれを許してくれるはずがない。

(何かで油断をさせないと…少しでもいい、動きを止められる油断を…!)

残った手札で、とどめを刺すための戦略を練る。

考えている間も、バッテリーは消耗し続け、敗北へのカウントダウンが続く。

2人が撃墜されてしまった今、サクラが倒れることは許されない。

 

「アルヴァトーレを使ってきたから、やってくるかもしれないというのは薄々思っていたけど、本当に使ってきた…」

モニターを見る勇太はブリッツが隠れているかもしれないデブリ帯を見る。

サクラのブリッツはミラージュコロイドを使った超短期決戦型であるため、同じ光学迷彩を使うような、短時間で倒すのが難しい相手に対しては不利な一面がある。

今回はピタリとサクラにとって最悪の相手が登場してしまった。

だが、ガンプラバトルを続ける以上、そのようなことは起こる可能性は常にある。

それがたまたま今回になってしまっただけの話だ。

「こりゃあ、あの嬢ちゃんが勝てる可能性が低いなぁ…あのまま逃げられたら、アウトだ」

「んもう!なんでそんなこと言うの!?サクラが勝つよ!勝つったら勝つ!絶対に!!」

「おいおい、ガンプラバトルに絶対なんてものはねえだろ…」

決勝でサクラと戦いたいというミサの気持ちはカドマツもよくわかっている。

だが、今回は明らかにサクラが分が悪く、勝算も薄いように見える。

「おい、勇太。お前はどう見る?お前から見ても、今回はあの子が負けるんじゃないか?」

「どうでしょう…?確かにガンプラバトルで重要な要素はガンプラの出来栄え、性能です。ですけど、その分ファイターの力量も求められます。そして、出来栄えが相手の方が上回っていたけれど、ファイターの技量で逆転したという話もありますし、その逆もしかりです」

 

「さて…このまま逃げ勝ちという手もありますけれど、それではあまりに味気がないですよね…」

キョウジとしては、このままフェイズシフトダウンしたところを狙って勝利するよりもまだサクラが全力で戦える状態で勝つ方が同じ勝利でも旨みがあると感じていた。

確かに、時間切れを待った方が合理的だが、そこはファイターとしての性質がそうさせるのかもしれない。

フェイズシフト装甲を前には実弾はほとんど意味をなさないが、それでも衝撃による内部へのダメージは発生するし、それが原因で戦闘不能になることだってあり得る。

サクラの居場所にはある程度目星はついている。

「でしたら、せっかくですので、私の技を見せましょう」

シュピーゲルがオクトカムを解除して姿を現す。

そして、背中と胸部の装甲を展開し、そこから十数本のメッサーグランツを発射し、3本のそれを手に取る。

「受けていただきますよ、この攻撃を!」

ブリッツがいると思われる場所に向けて、シュピーゲルが手に持っているメッサーグランツを投げつける。

死角からではない、正面からのメッサーグランツはサクラにとって何の問題もなかった。

「そんなもので!」

ミラージュコロイドを解除し、スラスターをわずかに使って機体をそらして回避する。

しかし、同時にコックピット内に警告音が鳴り響いた。

「ええっ!?」

次の瞬間、十数本のメッサーグランツが降り注ぎ、ブリッツの各部に次々と接触すると同時に爆発を起こす。

「キャアアア!!」

フェイズシフト装甲の効果でみるみるとバッテリーを消耗していき、関節や内部の電子機器にもダメージが発生する。

頭部パーツにもダメージがあり、センサーにも不具合が生じている。

「浴びてしまいましたね…メッサーグランツの雨を」

「どうして…」

「経験則ですよ。今の戦いで、あなたの回避の動きをある程度予測できたので…」

経験則、と簡単に言っているが、ミラージュコロイドで姿を見る機会が限られている以上、そう簡単に経験則を構築できるものではない。

サクラの脳裏に浮かんだのは瞬間記憶能力だ。

見たものを画像のように覚えることのできる先天的な能力で、おそらくキョウジはその能力を持っている。

だからこそ、あのようなベストなタイミング、ベストな場所にメッサーグランツの雨を落とすことができた。

おかげで、今のブリッツはすっかりボロボロになってしまった。

サクラはバッテリー残量を確認する。

(この残量だと、フェイズシフトダウンまでもうわずかしかないわね…。これじゃあ、あと少しで負けるのは私…)

ゆっくりと呼吸し、再びオクトカムで姿を消すシュピーゲルを見る。

今になってようやく、一つこの状況を突破できるかもしれない作戦を思いつく。

これがはまるかどうかは分からない。

でも、やらずに敗北を待つよりもずっとましだ。

サクラは通信をオープンチャンネルに切り替える。

「聞こえる!?忍者のあなた!」

「うん…?」

「よく聞きなさい。今の私のブリッツのバッテリーだと、持つのはあと15秒。15秒後、フェイズシフトダウンして、ミラージュコロイドも使えなくなる!だから…15秒以内に、あなたを倒す!!」

オープンチャンネルで発せられるまさかの宣言に会場に動揺が走る。

「ええっと、これは勝利宣言みたいなもの…なのでしょうか?」

「かもね。けど、彼女にしては大胆なことをするなぁ」

「15秒…嘘の可能性もありますがね…」

通信を聞いたキョウジは一瞬疑ったが、その言葉が真実である可能性が高いと自分の中で結論付ける。

これまでの戦闘による消耗とダメージ、それを考えるともうすぐフェイズシフトダウンを起こす可能性が高い。

それを彼女自身が証明するかのように、ブリッツがわざとビームサーベルを展開してこちらへ突っ込んできている。

シュピーゲルブレードで受けて立とうとするキョウジだが、ブリッツは左足についているインパクトダガーを発射し、それに向けてビームライフルを発射する。

ビームが命中した瞬間、インパクトダガーが爆発し、煙がシュピーゲルブレードの正面を覆い隠す。

「おそらく、あなたはこの状態で…上から!!」

キョウジの予想通り、ビームサーベルを展開したブリッツが真上から切りかかってきて、今度こそシュピーゲルブレードで受け止める。

ビームライフル、ビームサーベルを使ったことでよりバッテリーを消耗している。

このまま使い続けたら、15秒を待たずにフェイズシフトダウンを引き起こす。

そのことを彼女も分かっているようで、ブリッツはすぐに煙に向かってスラスターを噴かせて後退し、その向こう側へ消えていく。

「さあ、あと5秒ですよ!」

ニヤリと笑うキョウジはシュピーゲルを煙の中へ突っ込ませていく。

その向こう側にはライフルを向けるブリッツの姿が見えた。

だが、どうやらバッテリー切れが発生したようで、フェイズシフトダウンを引き起こしている。

「どうやら、時間切れが…む?」

目の前のブリッツを見たキョウジはそれに違和感を抱く。

(おかしい…このような隙だらけの姿をさらすことなど…)

「あり得ない…でしょう!」

「まさか…!」

ハッとしたキョウジだが、機体を動かす前にコックピット内に衝撃が走り、激しく揺れる。

背後にはブリッツの姿があり、左腕のギガンティックシザースがシュピーゲルを挟んでいた。

そして、目前にあるブリッツが煙のように消滅する。

「まさか…あのブリッツはあなたの覚醒で作った…」

「分身よ!!」

叫ぶとともに残りに電力をすべてギガンティックシザースに供給し、シュピーゲルを挟みつぶした。

つぶされたシュピーゲルは消滅し、ブリッツはその爆発に巻き込まれる。

煙が晴れると、その爆発で機体前方を中心に装甲が焼けたブリッツのフェイズシフトダウンした姿が残っていた。

「試合終了ーーーー!!勝者、ジャパンカップ選抜チーム!!」

「はあはあ…きっかり、宣言通り15秒よ…」

シミュレーターが解除され、出てきたサクラの体は汗でびっしょり濡れており、何かにもたれていないと立てないくらいに疲労していた。

「見事だったぞ、サクラ。まさに君あっての勝利だ」

「悪い…あっという間に倒されるとは、油断していた…」

「いいわよ。けど、シュピーゲルオクト、叢雲恭二…強敵だったわ」

選抜チームとして、予選無しで出場することができたチームということから、もしかしたら心のどこかで油断があったのかもしれない。

選抜されなかったとはいえ、日本にも、世界にも強いファイターが数多く存在する。

そのことを実感するという意味では、今回の戦いは有意義なものに思えた。

「お見事です、あの覚醒には見事に騙されてしまいました…」

パチパチと拍手をしながら、キョウジがサクラ達の元へやってくる。

マスクで隠れていた目元はほっそりとした、キツネのような目つきをしていて、それを初めて見たサクラは少し震えてしまった。

「失礼…生まれつきそういう目つきでして、無用な威圧を与えないため、バトルではマスクをつけているのです。しかし…覚醒であのようなこともできるとは…」

「私の覚醒は分身を作ることができるの。それを応用したわ。最も、その分余計に力を使ってしまったけど…」

「なるほど…完敗です。いつか再戦を希望したいですね」

敗北したにもかかわらず、嬉しそうに笑うキョウジは彼女に右手を差し出す。

怖い目つきだったのにはびっくりしたが、立派なファイターの一人だと思えた彼との出会いをうれしく思ったサクラはキョウジと握手をした。

 

勝利をおさめ、力を尽くした戦ったファイターの握手を観客は拍手で祝福している。

その光景がウィルの座席にあるテレビにも映っていた。

眼鏡をかけてそれを見ていたウィルは気分が陰るのを感じ、チャンネルを切り替える。

(あんなの…ただの欺瞞だ)

「ウィル坊ちゃま。ティータイムのお茶とお菓子をお持ちいたしました」

背後にあるスタッフ区間へとつながる部屋から出てきたドロシーがお盆にスコーンと紅茶を乗せた状態でやってくる。

そして、彼の座席前の机にそれらを置いた。

「ありがとう、これで気持ちの切り替えができるよ」

あとはいい番組を見つけて、有意義な時間を過ごしたいと思い、チャンネルを変える。

ジャパンカップクラスの国単位以上の大会の試合の放送権はインターネットテレビ局であるブッホITVが独占しており、それ以外のチャンネルを見れば、少しはマシなものが見れるだろうと思った。

今の切り替えたばかりのチャンネルではテロップでジャパンカップに関するニュースが流れていたものの、好きなアニメが流れていたため、大目に見ることにして、出してもらったばかりの紅茶を口にする。

今2人が乗っているのはウィルのプライベートジェットだ。

この時期の飛行機は日本への観光客やジャパンカップ観戦を目的とした客でいっぱいで、チケットの確保ができなかったことから、やむなくそれを使うことにした。

日本製のMRJで、内装は購入後にタイムズ・ユニバース傘下の企業に依頼して改装している。

乗り心地が良く、周りでガンプラバトルについてペチャクチャしゃべるようなうっとうしい人間がいないため、ウィルはむしろ最初からプライベートジェットで行くよう計画したらよかったと思っていた。

それに、静かにメールのチェックやあるものを作ることができる。

「わからせてやるんだ…あいつに…」

紅茶を飲み終え、スコーンも食べ終えたウィルは隣の席においてある箱に手を取る。

中には左肩に百とJが重なり合っているデカールが貼られている灰色の百式ベースのガンプラとまだ未完成のパーツが入っていた。

ウィルは未完成パーツを手に取り、作業に取り掛かった。

 

「よし…ストーリーの準備はこれでOKだ」

ホテルに戻り、25話分のストーリーと設定を書き上げた数冊のノートを見た勇太はほっと一息つく。

ジャパンカップの試合とファイターたちのガンプラを見たことが自分にとっていい刺激になったようで、設定を一気に書き上げることができた。

たった1機のガンプラを作りたいがために、バルバトス・レーヴァテインの時以上にここまで熱中してしまう自分に自嘲しながらも、そこまでして作り上げるガンプラがどこまで自分にこたえてくれるのかと頭を巡らせる。

ストーリーを作るうえで、主人公機となるそのガンプラ、というよりもモビルスーツの相手、もしくは味方となるモビルスーツもあらかた考えもした。

ノートのそばに置いてあるグレイズベースのガンプラ、グレイズⅡはそのストーリーの中で登場するギャラルホルンの主力量産型モビルスーツといえる。

レギンレイズは量産されたものの、民主化による情勢の相対的な安定化で再びギャラルホルン内部で次世代機開発に及び腰になる空気が広がり、レギンレイズほどの性能も求められなくなったということから、むしろ既存のグレイズのアップデートが行われた、というのがこのストーリーにおけるグレイズⅡの設定だ。

「まぁ、レギンレイズってジュリエッタクラスじゃないと使いこなせないし、それにマグネットコーティングの登場でモビルスーツを扱える人間が限られてしまった、みたいな話をガンダムカタナであった気がするし…」

もうすぐカドマツが帰ってくるかもしれないため、勇太は急いでそれらをカバンの中に入れた。

 




機体名:ガンダムシュピーゲル・オクト
形式番号:GF13-021NGOCT
使用プレイヤー:叢雲恭二
使用パーツ
射撃武器:なし
格闘武器:シュピーゲルブレード×2
シールド:なし
頭部:ガンダムシュピーゲル
胴体:ガンダムシュピーゲル(メッサーグランツ内臓パック×4装備)
バックパック:ガンダムシュピーゲル
腕:ガンダムシュピーゲル
足:ガンダムシュピーゲル

叢雲恭二が使用するガンプラ。
ガンダムシュピーゲルをベースとしており、見た目の変化はほとんど見られない。
最大の特徴が装甲に搭載されているオクトカムシステムで、それを利用して完全に風景に溶け込むことができる。
それを採用したのがキョウジがあくまでガンダムシュピーゲルが利用したゲルマン流忍術はパイロットがそれを習得した人物であるためで、それが使えなければガンダムシュピーゲルもまたゲルマン流忍術を再現できないと考えたため。
オクトカムを利用し、奇襲攻撃を連続で行うことを主軸としているため、武装や走行を必要最小限にとどめ、軽量化と長時間の運用を可能としている、短期決戦型のブリッツ・ヘルシザースとは方向性の異なるガンプラといえる。


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第38話 ガンプラフェスティバル開催

「今だ、ミサちゃん!いけぇ!!」

「うん!トランザム!!GNバズーカ、出力最大!!」

ギアナ高地で、トランザムしたアザレアのGNバズーカにGN粒子を最大までチャージしていく。

ターゲットがリーダー機であるガンダムAGE-FXベースのガンプラへ向かうことを知ったクシャトリアベースのガンプラがIフィールドを利用して支援防御しようと動くが、その動きを呼んでいた勇太に阻まれる。

「いかせない!!」

超大型メイスを振るい、四枚羽根を力任せに破砕する。

胸部拡散メガ粒子砲が発射されるが、ナノラミネートアーマーの対ビーム防御を信頼して装甲のみで受け止める。

「はあああ!!」

超大型メイスを大きく振り回し、逆手に握りなおす。

すると、柄の部分からビームサイスのような鎌状のビームが出る。

「何!?」

「切り裂け!!」

ビームの鎌でクシャトリアが真っ二つに切り裂かれ、爆発とともに消滅する。

その間に、アザレアのGNバズーカが発射される。

発射されたビームをガンダムAGE-FXがダイダルバズーカで相殺しようとするが、トランザムによる粒子量の増加が出力増加に直結したのか、そのまま押し切られる形でビームの中へと消えていった。

「決まったーーーー!!彩渡商店街ガンプラチーム、圧倒的な力を見せ、見事、決勝進出です!!」

「いやったーーーーー!!!!」

勝利が決まり、シミュレーターから飛び降りたミサは両手を上げて素直に喜びをあらわにする。

これまでタウンカップ予選すら突破することのできなかった自分のチームがまさかここまで進むことができるとは思いもよらなかった。

「やったね、次勝てばジャパンカップ優勝で、君の願いが叶うよ」

「うん…!これも勇太君が私のチームに入ってくれたおかげだよ。ありがとう!!」

「それ、優勝するまで取っとかないとだめだよ、ミサちゃん」

「えへへ…でもいいじゃん!うれしいのはうれしいんだから!!」

ニコニコ笑顔を見せるミサにつられ、冷静さを保とうとする勇太も思わず表情を柔らかくしてしまう。

そんな2人のほほえましい光景をカドマツはニヤニヤ笑いながら見つめる。

「うーん、それだそれ。やっぱ、若いやつはこうじゃないとな。ロボ太、よーく見とけ。これが同年代の男と女という奴さ」

カドマツの言っている意味がよくわからないロボ太だが、これも一つの学習なのだろうと思い、首を縦に振った。

 

「あー、さっぱりした…さてっと!!」

風呂から出て、パジャマ姿になった勇太はさっそくバルバトスの修理を始める。

カドマツとロボ太は晩ご飯の買い物のために出ていて、今部屋にいるのは勇太だけだ。

バルバトスの現状を見ると、やはり拡散メガ粒子砲を受けた個所の装甲は焼けている。

塗料を塗りなおしておかないともしかしたらナノラミネートアーマーが劣化してしまうかもしれない。

さっそく持ってきた塗料でバルバトスの装甲を塗りなおす。

(決勝戦は8チームが同時に当たって、最後に生き残ったチームが優勝になる…。弾薬や推進剤の補給は特定地点でできるけど、修理のためのインターバルはない…)

これまでのバトル以上に、自機に負担をかけずに最後まで戦い抜ける状態を作る必要があるルールで、勇太は持ってきたほかのガンプラのパーツを見る。

(フルアーマー化が必要だ。機動力を確保したうえで…)

「勇太君、入っていー??」

「ミサちゃん?いいよ!」

決勝戦のミーティングかと思った勇太はパーツを机の上に置き、部屋の鍵を開けてミサを中に入れる。

「ごめんね、勇太君。勇太君のバルバトスが気になっちゃってさ…って、あれ?勇太君、もしもーし!」

急に黙り込んでしまい、動かなくなった勇太の様子に疑問を浮かべ、ミサは彼の目の前で手を振る。

今のミサはピンクをベースとしたパジャマ姿で、風呂から出たばかりなのか肌や髪がしっとりしていて、いつもは感じないような色気が感じられた。

ミサが至近距離に近づいた際、勇太は彼女のシャンプーやボディーソープの匂いを感じてしまったようで、頭の中でお風呂で体や頭を洗うミサを思い浮かべてしまっている。

ミサの声を聴き、ようやく正気に戻った勇太は頭の中の湯気に満ちた光景を必死に追い払う。

「あ、ごめん。ぼーっとしてた…。疲れたのかな…?」

「そっか、じゃああんまり長くいちゃだめだね」

「だ、大丈夫だよ。それで、僕のバルバトスがどうしたの?」

「うん。さっきのバトルの映像を見たけど、あんなビームを間近に受けても、本当に大丈夫だったのかなって…」

ミサは勇太が座っていた椅子に座り、塗料を塗り終えたばかりのバルバトスを見る。

ビームで一部が融解した超大型メイスも直っており、万全な姿に戻っていることにミサは一安心する。

「大丈夫だよ。武器や装甲の隙間のチェックが必要だけどね。やっぱり、ナノラミネートアーマーはすごい」

「だよねー。あれって滅茶苦茶頑丈じゃん。衝撃とか熱を与え続ける攻撃には弱いっていうのは分かるけど、それでもなかなか爆発しないモビルスーツってだけでも…」

「まぁ、あの作品ではモビルスーツも戦艦も簡単には壊れないって話だし」

「あ…それともう1個あった!勇太君、明日のガンプラフェスティバルで行きたいところは決まった?」

「ガンプラフェスティバルか…あ、まだパンフレット見てなかったよ」

「もう、一緒に回るの楽しみにしてるんだよ?ちゃんと見とかないと!」

「ごめんごめん。今見るから」

頬を膨らませるミサに詫びを入れ、勇太はガンプラフェスティバルのパンフレットを読み始める。

これはジャパンカップの決勝戦前日に行われるもので、ライブや出店、ガンプラ製作教室、バトルステージなどの様々なイベントを楽しむことができる。

もちろん、ジャパンカップの選手たちも楽しむことができ、決勝戦に参加するチームにとっては良い息抜きとなる。

これは勇太がガンプラバトルから離れている間にジャパンカップで追加された余暇で、復帰してジャパンカップについて調べているときに勇太は知った。

「明日、朝ごはんを食べたら早速行こうよ!きっと楽しいからさ!私と2人で!」

「え…カドマツさんとロボ太はどう…」

「別にいいじゃん!2人とは別でも!もしかして、勇太君は私と一緒に回るの嫌なの?」

「そ、そういう意味じゃなくって、ええっと…」

別にミサと2人で行くのが嫌というわけではない。

女の子と2人っきりで行くというのが恥ずかしいだけだ。

だが、こうして口ごもってしまうのがミサにとって不満だった。

 

翌日、スタジアム前の広場は多くの出店が並び、ジャパンカップがきっかけで集まったすべての人々がこのフェスティバルを楽しんでいた。

ライブステージでは現在、ガンダムSEEDのアサギ、マユラ、ジュリそっくりな3人組のアイドルユニット『M1ガールズ』によるライブが行われている。

他にも、ガンダム関連の歌を限定にしたカラオケ大会が行われているステージもあり、そこでは一定の点数以上を出した参加者にガンプラがプレゼントされている。

一緒に見て回っている勇太とミサも例外ではなく、ミサの手にはボールを模した林檎飴やSDガンダムのイラストが描かれた風船が握られている。

「うーーん、おいしーーー!」

「ミサちゃん、よく食べるね」

「いいじゃん!せっかくのお祭りなんだもん!」

「まぁ、そうだね…」

勇太も出店でお好み焼きや焼きそばなどを食べており、ミサのことを言える立場ではない。

なお、ガンプラフェスティバルで使うお金はカドマツから受け取っていて、勇太が管理している。

「(カドマツさんに感謝しないと)あ、ここだここ」

勇太たちがたどり着いたのはガンプラ製作教室で、そこではジャパンカップのスタッフがガンプラ初心者にバリの取り方や色の塗り方などのレクチャーをしていた。

もちろん、初心者以外でも参加は可能だ。

「ん…もしかして…」

帽子とスタッフ用の上着を着ているため、普段とは雰囲気が違うものの、どこか見覚えのある後姿が気になり、勇太はじっとその人を見る。

「そうじゃ。こうやってニッパーを使うと、バリがくパーツを外すことができる。おっと、いきなり次々切ってしまうと後からわからなくなるぞ?」

レクチャーする声は明らかに勇太にとって聞き覚えがあり、それで彼の正体が分かった。

「もしかして…タケルさん?」

「うん?その声は…勇太か?」

勇太の声が聞こえたその人物は振り返る。

勇太の予想通り、彼はタケルだった。

「この人がタケルさん!?でも、どうしてここにいるの?」

「なんじゃ?俺がここにいちゃあいかんのか?」

「そ、そういう意味じゃなくって…その…」

勇太にとっては知人の1人だが、ミサにとっては世界レベルのファイターの1人で、カリスマだ。

少し緊張した面持ちでタケルを見ている。

そんな彼女を見たタケルはハハハと大笑いをする。

「冗談、冗談じゃ。ジャパンカップが呼んだんじゃ。アルバイトとしてな!お前たちもガンプラ、作っていくか?当然、作って終わりじゃないぞ?」

ここにはフェスティバルでも一番人が集まる場所だ。

当然、作って持って帰って終わりというわけではなく、併設されているシミュレーターを使い、作ったばかりのガンプラで無料のバトルをすることができる。

「はーい!こちらはバトルステージでーす!こちらでは誰でも参加可能で、5連勝した方にはプレゼントがあります!ぜひご参加くださーい!」

MCのハルが商品であるジャパンカップ限定カラーのネラティブガンダム(C装備)を紹介しながら、バトルステージの近くを通る人々に呼びかける。

既にガンプラを完成させた多くの子供たちが参加しており、1対1のバトルを楽しんでいる。

「お前らも作っていくか?」

「もちろん!勇太君も、いいよね」

「うん。じゃあ、お願いします。タケルさん」

「おう!」

2人はさっそく作るガンプラを決め、隣り合うように席を確保してから作り始める。

勇太が作っているのはダークグレーのディジェで、ミサはヴェルデバスターだ。

「ま、バトルの参加者資格はないに等しい。できたら、さっさと5連勝して景品もらって来い。あと、勇太。覚醒は使うなよ?」

「分かってますよ」

このイベントでは小さい子供も参加しており、使える人物が限られる覚醒を使ったら大人げない。

それに、勝つのではなく楽しむのがこのイベントのため、さっそく勇太はシミュレーターに乗り込み、完成したばかりのディジェを乗せる。

コックピットは全周囲モニターとなり、ノーマルスーツは今回に限り、ガンダムNTのヨナが着ていたサイコスーツを纏う。

「やっぱり、重たいな…。ノーマルスーツや耐圧服と大違いだ」

サイコフレームが仕込まれているだけあって、着てるだけで体力が奪われるくらい重たい。

中にある機能はすべてカットしているため、ニュータイプに一時的になれるわけではない。

非効率ではあるが、この機体もヨナが搭乗していたということでお遊びとして着込んでいる。

コックピットが開き、戦闘の舞台となる月面の光景がモニターに映る。

「沢村勇太、ディジェ・オービタル、出るよ」

ディジェがカタパルトから射出され、月の低い重力に従ってゆっくりと降りていく。

降りていく中でディジェは変形し、バズーカを背負ったデルタプラスのウェイブライダー形態といったような姿へと変わる。

さっそく、まずはビグロが敵機として出現し、勇太のディジェに向けてメガ粒子砲を発射するが、ウェイブライダーとなって機動性が上がっているディジェには簡単に回避することができた。

覚醒は使わないが、ガンプラづくりもバトルも手加減する気にはなれない。

「もらった!!」

バズーカから徹甲弾が発射され、ビグロの頭部から下部にかけて大穴ができる。

少しの間、スパークした後でビグロはディジェに対して何一つダメージを与えることができないまま爆発した。

「よし…レールクレイバズーカは良好だ。次の機体は…」

続けて勇太の前に現れたのはナイチンゲールで、すべてのファンネルを発射してくる。

10基のファンネルが飛んでくるが、焦りを見せず、すぐにやるべきことを頭に浮かべ、行動に移す。

モビルスーツ形態に変形し、レールクレイバズーカを持ったディジェが周囲に散弾を発射する。

ばらまかれた散弾によってファンネルの動きが制限され、撃ってきたビームも勇太にとっては回避しやすいパターン通りのものだった。

だが、ナイチンゲールの武器はファンネルだけでなく、モビルアーマー並みに巨大化した代わりに得た出力もそれだ。

腹部のメガ粒子砲を発射し、散弾ごとディジェを焼き尽くそうとする。

その前に、再びウェイブライダーに変形して射線から逃れ、ビームライフルでファンネルを撃ち落としながら接近していく。

発射された散弾モードのメガビームライフルの弾幕をかいくぐり、急速変形する。

一気に減速したことで強いGを感じるが、サイコスーツのせいなのか、耐えられないものではない。

左手に握るビームサーベルをナイチンゲールの頭部に突き立てた。

コックピットを失ったナイチンゲールは撃墜判定を受け、消滅した。

「次は…」

「私だよ!!」

「ミサちゃんか…うわ!!」

さっそくあいさつ代わりにと次々とミサイルとビームが飛んできて、大急ぎでバルカン・ファランクスでミサイルを撃ち落として安全な場所を確保する。

月面には両肩や胸部などに内蔵されている火器をすべて展開しているヴェルデバスターの姿があった。

「勇太君、今度こそ私が勝つよ!」

「いきなり攻撃してくるなんて…ミサちゃん相手なら使いたいけど…!」

それよりも、まずはチームメイトのミサの実力をしっかりと見たいと考え、反撃の徹甲弾を発射する。

後ろに下がって射線から逃れたミサだが、徹甲弾が月面に命中すると同時に大きな衝撃がコックピットに走る。

「うわわわ!!やっぱり、これって…」

「破砕砲とレールガンを参考にしたんだ。もっとも、威力が強すぎたかな…」

2発目でレールクレイバズーカの砲身のダメージ警告が響く。

破砕砲のような砲身部分の強化を行うことができなかったがために耐久度が通常のクレイバズーカと同じものになっている。

ノーマルの砲弾と散弾を使うことはできるが、もうレールガンとしての機能は使えない。

トランスフェイズ装甲のヴェルデバスターにそれらの弾を使っても意味がないため、迷わず勇太はレールクレイバズーカを手放し、ビームライフルを発射する。

狙うのは装甲ではなく、持っておるバヨネット付きのビームライフルだ。

(ヴェルデバスターは格闘戦にも対応できるようになったバスター。けど、それが可能なのはバヨネットの付いたビームライフルだけ。それを狙えば!)

あとは弾幕をかいくぐり、接近戦というパターンを作ることができる。

だが、ビームは確かに勇太の狙い通りにビームライフルに命中したが、それと同時にかき消されてしまう。

「ビームコーティング!」

「勇太君がそれを狙うって分かってたから!」

バックパックのビーム砲とガンランチャーをお返しに発射する。

胸部に追加されている姿勢制御用スラスターで後ろへ下がり、弾幕をかいくぐるが、それでも一部被弾し、そのたびにコックピットに衝撃が走る。

「ここでオマケ!!」

弾切れになった両肩のミサイルポットが強制排除され、本来の肩パーツが露になるが、その中から2基のインコムが飛んでいく。

弾幕に気を取られている間に、死角からさらに一撃を叩き込もうとインコムは左右に配置される。

「なら…!!」

勇太はビームライフルに外付けされたリボルビングランチャーから閃光弾を発射する。

アザレアのビームで撃ち抜かれると同時に強い光を発する。

「くっ…光!?」

強い光に視界を包まれ、消えたときにはもうディジェの姿はない。

「どこ!?どこに…後ろ!?しまっ!!」

後ろから飛んでくるビームが両肩から伸びていたインコムのワイヤーを焼き切る。

これで、インコムによるオールレンジ攻撃はできなくなった。

そして、そこからディジェが左腕のシールドを強制排除し、左手にビームサーベルを握った状態で接近戦に持ち込む。

「これだけ近づければ!!」

「くぅーーー!!」

対ビームコーティングで覆われたビームライフルでビームサーベルを受け止める。

「勇太君!どう!?私だって、強くなったんだよ!」

「分かってるよ。それくらい。一番近くで、ずっと見てきたんだから…」

「勇太君…」

強くなった自分を勇太が認めてくれる。

今までで一番うれしく思い、思わず目に涙を浮かべてしまう。

「けど、今は真剣勝負。負けるつもりはないよ!」

「当然!!」

 

「へっ…あいつら、いい顔してやがるな…」

バトルの状況をモニターで見ているタケルは嬉しそうに笑う。

あの勇太がこれほど楽しくガンプラバトルをしている。

きっと、それは勇武が願っていたものかもしれない。

(おい、勇武…。てめえの弟が日本一になるぞ。お前が叶えることのできなかった夢だ…)

「すっげえ、あんなバトルどうしたらできるんだよ」

「彩渡商店街ガンプラチーム!?聞いたことないぞ!!」

「すげえ、俺もあんなバトルしてみてえ…」

子供たちはみんな勇太とミサのバトルに魅了されている。

かつて、自分たちがガンプラバトルに初めて取りつかれたときのように。

その時バトルをしていたファイターと同じことを勇太とミサができるようになった。

(だが、これはまだ途中だ。まだまだいける、そうだろう?)

 

そして、翌日のスタジアム。

開始1時間前にはすでに満席になっており、外には入れなかった観客たちのために急きょ巨大モニターを設置することとなった。

「お集りのみなさん、たいへん長らくお待たせいたしました!いよいよ、今年度のジャパンカップ決勝戦の幕が上がります!!」

「決勝に勝ち進んだ8チームには、総当たりで戦ってもらう!最後まで生き残ったチームが日本一となり、私と戦うことができる!さあ、勝ち上がって来い!そして、私に熱いバトルをさせてくれーーー!!」

このような事態となった最大の要因と言えるミスターガンプラの熱い言葉に会場が今まで以上の熱気に包まれる。

「既に出場者はシミュレーターに乗り込み、出撃準備を開始しています!あと3分で運命の戦いが始まります!!」

 

「勇太君のガンプラ、もうバルバトスの面影がないね…」

「ここまでする必要があったのか…?」

今回割り振られた戦艦、ガウンランドの中で勇太のガンプラを見たミサとロボ太は目を丸くする。

かろうじてバルバトスのマニピュレータを見ることができるが、灰色の増加装甲によって全身が隠れており、頭部に至ってはかぶせられたディジェのような一つ目の装甲によって隠れてしまっている。

バックパックには4枚羽根の展開式のブースターが外付けされており、それには破砕砲やミサイル、ロングライフルにビームライフルなど、多彩でありったけの武装を銃火器を詰め込んでいる。

まるでモビルアーマーのようだが、これでもモビルスーツとしてシステムは認識しているのだから驚きだ。

「何日か前から準備をしていたんだ。可能な限り手数を増やして、最後まで戦い抜けるようにね。ある程度はミサちゃんとロボ太を運べるだけの余裕もある」

「しかし…このブースター、射出することができても旋回すらできないのではないか?」

ロボ太の言う通り、このブースターは自由に飛び回ることを最初から考慮されていない。

下手な旋回をした場合、バラバラになるか墜落するかの悲劇が待っている。

当然、それに捕まって乗ることになるアザレアとフルアーマー騎士ガンダムもただでは済まない。

「出来上がったのは朝6時、だからテストもできてないよ。射出されても仮にブースターがまともに動かせなかったら、もう切り離すしかない。でも、切り離すだけならその場で武装をばらまくことができるよ」

だからこそ、積み込む武装は実弾からビーム、爆発物まで多種多様に選んだ。

相手が複数チームで、しかも実力者ぞろいである以上、逸脱した手段を選ばなければ勝ち残ることもできない。

「勇太君、接触回線を使ってミサイルとかの発射命令をするのとかって、できる?」

「うん。だから、僕の手が回らないときはミサちゃんとロボ太もお願い」

「心得た」

「勝ちに行こう、みんなで!」

もう、これは商店街を守るために立ち上がったミサだけの戦いではない。

勇太やロボ太、そしてカドマツといった仲間たちと一緒に挑む決戦だ。

3人の通信機からカドマツの声が流れる。

「勇太、ミサ、ロボ太、やってやれ!お前らならできる!」

「はい、行ってきます」

先に勇太はバルバトスのコックピットに乗り込む。

しかし、なぜかミサが後からついてきて、コックピットの前で浮かんで止まる。

「ミサちゃん、どうしたの…?」

「勇太君、ちょっとだけヘルメット…取ってくれる?」

「う、うん…いいけど…」

まだ格納庫には酸素が充満しており、あと2分少々時間が残されているため、急げば問題はないだろう。

ヘルメットを外し、ミサを見ると、急にバイザーを上げたミサが勇太の前へ行く。

そして、いきなり勇太の前髪を掻き上げ、額に唇を押し付けた。

「え…?」

「お、お、お、お守り、がわり!!」

一機に顔を真っ赤にし、その顔をバイザーで隠したミサは逃げるようにアザレアのコックピットへ飛んでいく。

コックピットを閉めた勇太はミサにキスされた箇所に手を当てる。

顔を真っ赤にするが、だがなぜか嫌とは思えず、むしろうれしいという感情が沸き起こるのを感じた。

なんとか気持ちを落ち着かせようと、まずは阿頼耶識システムでバルバトスと接続する。

「う…!はあ、はあ…」

やはりサイコ・ザクのバックパック以上に無茶苦茶なスクラッチビルド兼ミキシングビルドで出来上がった展開型追加ブースターを装備しているため、阿頼耶識に伝わるデータ量は一気に増えている。

一瞬めまいがしたが、動かすのには支障がない。

既にアザレアとフルアーマー騎士ガンダムがブースターに捕まっていて、ハッチも開いている。

「よし…バルバトス・レーヴァテインType-B、沢村勇太、出るよ」

「井川美沙、アザレア、行きまーす!!」

「ロボ太、フルアーマー騎士ガンダムで出る!」

バルバトスが飛び立ち、グリプス宙域へと飛んでいく。

ネモやリック・ディアス、ハンブラビにハイザックといった、エゥーゴとティターンズ、アクシズのモビルスーツの残骸が漂う、グリプス戦役最後の戦場の跡地で、役目を終えたコロニーレーザーのグリプス2が再び目覚めの時が来ることを知らずに眠りについている。

射出され、勇太は追加ブースターを起動させようとするが、火が付かない。

「くっ…やっぱり、もっと早く完成させるべきだった!」

「勇太君、敵!!」

同じグリプス宙域にPGのレッドフレーム改とブルーフレームセカンドLが現れ、宙域を漂うバルバトス達に狙いを定める。

「なんだ、この機体!?トラブル起こしてるのか」

「運が悪かったな、PGを前に!」

「主殿!狙われているぞ!!」

「くっ…OSを見ないと」

「そんなの時間ないよ!だから!!」

アザレアは左のマニピュレーターで追加ブースターを殴る。

殴った拍子にシステムが繋がり、追加ブースターが正常に起動する。

「昭和のテレビみたいな直し方…だけど、いい!!」

まっすぐしか飛べないバルバトスが追加ブースターで一気に加速し、正面の2機に接近していく。

「邪魔ーー!!」

叫びながら、追加ブースターに積まれているミサイルを発射した。




機体名:ディジェ・オービタル
形式番号:MSK-008-O
使用プレイヤー:沢村勇太
使用パーツ
射撃武器:ビームライフル(リボルビングランチャー搭載)
格闘武器:ビームサーベル
シールド:デルタプラス
頭部:ディジェ(NT)
胴体:ディジェ(NT)(姿勢制御用スラスター搭載)
バックパック:デルタプラス(レールクレイバズーカ搭載)
腕:ディジェ(NT・隊長機)
足:ディジェ(NT)

勇太がガンプラフェスティバルのイベント用に作ったガンプラ。
NT版のディジェをベースとしており、ウェイブライダーへの変形も可能としている。
武装は閃光弾のみが内蔵されたリボルビングランチャーを下部に搭載したビームライフルや破砕砲やアトラスガンダムのレールガンを参考にして試作したレールクレイバズーカなど、勇太のこれからのガンプラづくりとバトルのための試みも施されている。
設定は逆襲のシャアと最近勇太が呼んだ『機動戦士MOONガンダム』を意識しており、アムロが搭乗していたリック・ディジェをZプラスを参考にして改修し、可変機能などを追加したものの、バックウェポンシステムによる高火力や「モビルスーツは歩兵としての機動兵器」というアムロの認識からリ・ガズィが採用されたために搭乗されることはなかったとしている。
なお、NT版のディジェをベースにした理由は会場にリック・ディジェのガンプラがなかったこと、そして作っている間にその設定を思いついたため。


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第39話 ザクとジム

「勇太君、まだまだ来るよ!!」

「分かってる!ライフル、ガトリングガン、ミサイルの用意!!」

PG2機を蹴散らし、コロニーレーザーへ向けてまっすぐに突っ込んでいく中で、コア・ブースター2機とペーネロペーが視認される。

3機とも、ダミーバルーンをいくつも放出しはじめた。

「勇太君!!」

「まずはコア・ブースターごとダミーバルーンを排除するよ!ミサイルとガトリング準備!!」

機雷が入っているタイプのダミーバルーンが少しでも進路上に残っていたら、まっすぐしか飛べない今の状態ではどうしようもない。

ミサとロボ太が接触回線を使って追加ブースターのミサイルとガトリングの発射準備を整えるとともに、勇太は手にしている2丁のライフルを連射モードにして照準を合わせる。

「勇太君、タイミングはお願い!」

「分かった!!」

「主殿!メガ粒子砲が来る!!」

ダミーバルーンの後ろに隠れたペーネロポーの左腕の砲口に光が見える。

ナノラミネートアーマーがほどこされていない追加ブースターを攻撃されたら、一気に武器を失うことになる。

「主殿!やむを得ない、ここで切り離しを…!」

「いい!!当たらないことを願うんだ!!撃て!!」

ダミーバルーンがペーネロペーの視界をわずかに邪魔している。

それでわずかに照準にズレが生じることだってあり得る。

その幸運を願い、勇太はさっそくライフルを発射する。

ミサイルと銃弾が雨のように遅い、コア・ブースター2機をダミーバルーンもろともハチの巣にしていく。

勇太の予想通り、ダミーバルーンは機雷付きだったようで、次々と爆発して視界を明るく照らしていく。

「破砕砲、用意!これでペーネロペーを破壊する!!」

弾切れになったライフルを手放し、サブアームを利用して破砕砲を手にし、照準を定めることなく発射する。

同時に、メガ粒子砲のビームが追加ブースターをわずかに横切った。

(よし…!少しかすったけど、まだツキは僕たちにある…!)

破砕砲の弾丸はペーネロペーの胸部を撃ち抜き、コンマ数秒のラグの後で爆発した。

「勇太君、推進剤がもう…!!」

「ポイントは見えてきた、そこで分離する!!」

グリプス2の内部は百式とジ・O、キュベレイの3機が戦っていたように、ステージの一部となっており、戦うことができる。

おそらく、宙域にはいなかった別のチームがこの中で戦っているかもしれない。

グリプス2の中に飛び込むとともに、追加ブースターが取り外される。

ミサはその中にあるアサルトライフル2丁を、勇太は超大型メイスと破砕砲をマウントした後でライフル2丁を手にした。

ロボ太は電磁スピアを手にし、3機は固まった状態になる。

「僕たちがここに来た事…もう見られてる…」

「むっ…主殿!!」

何かが見えたロボ太が飛び出し、バルバトスの頭にしがみついて無理やり自分ごと前のめりに倒させる。

同時に、バルバトスのコックピットがあった場所を弾丸が通過し、虚空へと消えていった。

「ありがとう、ロボ太」

「既にみられているという主殿の言葉…どうやら的中したようだ」

弾道を計算し、発射位置を特定したロボ太はミサに位置座標を送る。

その座標にカメラを向けると、そこにはザクⅠの姿があり、銃口からはかすかに煙が出ている。

「サクラさんのチームがいる…ということは!!」

「そう…そういうことよ」

サクラの声が通信機から聞こえてくるとともに、ビームが飛んでくる。

すかさず左腕の装甲でコックピットを守り、ビームは弾かれる。

目の前には、ミラージュコロイドを解除した彼女のブリッツが姿を現した。

「ようやく、戦える時が来たわね…勇太、ミサ」

「サクラ…」

やろうと思えば、このままミラージュコロイドで姿を消したまま闇討ちすることだってできたはずだ。

にもかかわらず、隙だらけな状態で目の前に姿をさらした。

正々堂々と戦おうという意思の表れなのか。

「ずっと待ってた…。こうして戦えるのを…」

「ザクⅠ…ブリッツ…あと1機いるはずだけど…」

「バエルは周囲を警戒しているわ。どうしても、邪魔が入ってほしくなかったから…。合図はもう出してあるから」

合図はおそらく、先ほどのザクⅠの攻撃だろう。

よく考えると、到着してからほかのチームと遭遇しておらず、近づいてくるような反応もない。

彼女の言っていることは真実だろう。

「ロボ太、君も行ってくれる…?」

「心得た。露払いをさせていただく」

ロボ太がその場を離れていくが、ザクⅠは発砲する様子を見せず、2人とも黙って彼を通した。

これで、2VS2となり、機体数から見たらフェアーな状態になる。

「そういう正々堂々としたところ…勇武を思い出させるわね…」

「僕がその方がいいと思ったからやっただけです」

2丁のライフルをブリッツに向け、にらむようにモニターに映るブリッツを見る。

ミサも息をのみ、アサルトライフルを構えている。

ミサにとってはようやくのサクラとのリターンマッチだ。

初めて戦った時は相手にならず、破れてしまったが、今の彼女は違う。

ジャパンカップへ勝ち進み、勇太とロボ太とともにここまで戦い抜いたファイターだ。

それは一緒に戦ってきた勇太が、特訓してきたサクラが一番よく分かっている。

「さあ、始めましょう…。真剣勝負を…!!」

勇太たちは同時にスラスターに火を入れ、まずはサクラが勇太に向けてビームサーベルを展開させた状態で突っ込んでいく。

だが、勇太はサクラを無視して物陰にいるヒデキヨへと飛ぶ。

そして、代わりにビームサーベルを交差させたのはミサだった。

「サクラ…!サクラの相手は私だよ!!」

「やっぱり、あなたが相手になるのね!」

一度距離を置き、ギガンティックアームから大出力のビームを発射する。

ミサも両肩のGNバズーカを発射し、2つのビームがぶつかり合うと同時にその中心にはクレーターが生まれた。

 

「スナイパー相手なら、見つけて接近戦に持ち込めば…!!」

2丁のライフルを腰にマウントし、超大型メイスを手にしたバルバトスがザクⅠに迫る。

実弾であろうとビームであろうと、超大型メイスを盾にすれば凌ぐことができる。

だが、その考えが甘いことを勇太はすぐに思い知ることになる。

「俺の機体がただのスナイパーではないということを、教えてやる」

ザクⅠが持っていたライフルを手放し、両手で超大型メイスをつかむ。

出力を考えると、ザクⅠにはそれに耐えられる力がないはずだが、ヒデキヨのザクⅠは受け止めることができただけでなく、バルバトスもろとも巴投げの要領で後方へ投げ飛ばした。

「うわっ!!この、パワーって!?」

「あの蛸のガンプラに後れを取った反省として、決勝のためにいろいろと手を加えたというわけだ。運がなかったな」

もしその前の試合で当たっていたら、ヒデキヨに対抗策がなく、逃げ回るしかなかったかもしれない。

その理由を後ろへ投げ飛ばされたことでそのザクⅠの背面を見ることができた勇太は理解することになる。

「これは…!!」

マニピュレーターが反転し、左手で握ったスナイパーライフルが変形してツインビームスピアになる。

そして、後頭部がジム・ストライカーの顔になっており、バックパックの代わりなのか、両腰にはツインドライヴが装備されていた。

その姿を見た勇太はリボーンズガンダムを頭に浮かべる。

「これが、俺のガンプラ。ザクⅠ・クロスタイプだ」

「さっきまでGN粒子の反応がなかった…。起動させたのはさっきからか…」

「そういうことだ。サクラがもう戦闘を始めている。こちらも…さっさと始めるとしようか」

 

「ふん…少々粗削りだな。このバルバトスは」

これはリージョンカップが始まるほんの少し前のことだ。

選抜チームとしての内定が決まりはじめたころ、一緒に戦うかもしれないファイター同士の交流会が愛知のホテルの一室で行われた。

そこでヒデキヨはサクラと出会い、彼女から東京のタウンカップ決勝戦の映像を見せてもらった。

タウンカップの試合はテレビでは地元のものしか中継せず、他の地域の試合は結果しか放送されない。

インターネットの専門チャンネルを使わなければ、すべてのタウンカップの試合を見ることができない。

ヒデキヨはタウンカップ程度の戦いにあまり興味がなく、放送も見ていなかった。

ただ、サクラがどうしてもと薦めてきたため、仕方なく見ているだけだった。

「よく見ていて、このバルバトス…ここからが面白いの」

「まぁ、無理やりな改造でここまで乗りこなしている点は評価できるが…」

バックパックはともかく、バルバトスそのものはヒデキヨの目から見るとせいぜいリージョンカップで優勝できれば上等な程度のもので、とてもジャパンカップで本選に出られるようなものには見えない。

ただ、動きだけを見たらやや不安定な部分があるものの、スラスターを使うタイミングや反応速度などは目を見張るものがある。

だが、相手はダブルオーライザーをベースとしたPG機体。

ファイターはともなく、その程度の機体では勝ち目があるようには見えない。

HG、MGの機体でどうやってPG機体と戦うのかをほかのファイターたちと議論したことがある。

その中で出た手段には、ゼロ距離からの大出力のビームでの攻撃やパワーダウンを狙う、死角の多さを利用した接近戦などが出てきた。

だが、正攻法では勝利するのが難しいというのは共通の意見だ。

今の2機にはそれができるだけの力があるようにはヒデキヨには見えなかった。

「今よ…」

その言葉と同時に、倒れたアザレアをかばってダブルオーライザーの拳を受け止めるバルバトスの装甲が青いオーラに包まれていく。

「こいつは…!」

「覚醒よ。彼の…沢村勇武と同じ…」

「沢村勇武…ということは、あのバルバトスを使っているのは…」

「彼の弟、沢村勇太よ」

覚醒してからのバルバトスの動きにはさすがのヒデキヨも目を疑った。

ハシュマルと戦う、リミッター解除したバルバトスルプスかのようにキレのある動きと反応速度、おまけに通常なら反動で不可能なはずの破砕砲連射までやってのけていた。

全力で戦い過ぎているところは減点だが、それでも覚醒のすさまじい力でPG機体であるダブルオーライザーをねじ伏せてしまった。

「覚醒…彼も使えたとはな…。兄と同じく、選ばれし者みたいに見えてしまうな」

ファイターにとって、自分も覚醒をすることが大きな夢の一つだ。

ヒデキヨもずっと覚醒を自分のものにしたいと思い、ファイターとしての技量を磨き、ビルダーとしていくつもガンプラを作り、改造を繰り返してきた。

しかし、今でもそれをかなえることができない。

だから、覚醒が使えるミスターガンプラやサクラ、勇武、そして勇太がうらやましく思えてしまう。

「どうかしら…?私はよくわからないけど…きっと、特別なものじゃないかもしれないわ…覚醒というのは」

 

「さあ、見せてみろ、沢村勇太。お前のその力を!!」

ツインビームスピアを握るザクⅠがバルバトスに向けて突っ込んでいく。

超大型メイスと鍔迫り合いを演じるが、本来なら出力で優っているはずのバルバトスが押されており、ジリジリと後ずさりしていく。

「ツインドライヴ…確か、シングルの倍じゃなくて…」

「2乗だ」

そのおかげで、ツインリアクターのガンダム・フレーム以上の出力を手に入れることができた。

最も、それに耐えるだけのフレームや武装が必要になってしまい、8割以上のパーツを交換しなければならなくなった。

ノーマルのザクⅠでツインドライヴをつけて実際に戦うとどうなるかの実験をしたが、結果としてはビームを1発発射しただけで機体が耐え切れずに機能停止してしまった。

ツインリアクターとツインドライヴのどちらが出力が上かの議論はよくされているものの、ダブルオーライザーやダブルオークアンタが見せたライザーソードの存在を考えると、出力面ではツインドライヴが勝っているというのが結論だ。

それは今、こうして正面からつばぜり合いを演じ、勝利しつつあるヒデキヨがよくわかっていた。

「さあ、こんなものじゃないだろう?覚醒を見せてみろ!!」

「ぐう…!!」

大型化したことで、戦艦を破砕できるほどの破壊力を手に入れることができた超大型メイスだが、鍔迫り合いで逆にこちらが押される側になったしまった時に自分が不利になってしまうことは想定外だった。

妨害のために足払いや蹴りをしようにも、その大きさが邪魔になってしまう。

だが、バルバトスの武器は超大型メイスだけではない。

「いけぇ!!」

バックパックのテイルブレードが動き出し、側面からザクⅠの背後に回り込む。

テイルブレードであれば、改造で追加されたビーム砲を除けば、対して出力を回すことなく、高い切断力で攻撃することができる。

「テイルブレード…!ハシュマルの置き土産…!」

鍔迫り合いを断念し、一気に後ろに下がって真上からのテイルブレードを回避する。

下がりながら両足をバルバトスに向け、内蔵されているビーム砲を発射する。

追いかけようにも、そのビームを防御するのを優先するしかなく、超大型メイスを盾に凌ぎながら、テイルブレードを戻した。

「追いかけないと…!」

防御を終えた勇太はザクⅠが視界から消えた曲がり角へと向かう。

相手はリボーンズガンダムのように、接近戦に特化した姿と狙撃に特化した姿を持つリバーシブルタイプ。

姿を消されたら、どちらの形態になっているかが分からない状態で向き合うことになってしまう。

(ナノラミネートアーマーのバルバトスに対して、スナイパーでダメージを与えるとなったら、装甲の隙間を狙うか、強い衝撃が与えられる弾丸で攻撃するか、ゼロ距離から撃ちこむか…)

死角からの奇襲でない限り、スナイパーがゼロ距離から攻撃するのは現実的ではない。

だとしたら、考えられるのは長距離からの射撃だ。

グリプス2内部なら、隠れることのできる場所が多いため、ヒデキヨが有利に働く。

さっそく、こちらに迫る熱源反応を拾うことができた。

急いで左腕の装甲で受け止めるが、受け止めると同時に熱ではなく激しい衝撃を感じた。

「これは…確かに今、ビームの熱源だと…!!」

受けたときの装甲のへこみと衝撃、これは明らかに実弾での攻撃だった。

おそらく、弾丸の中にビームと誤認するくらいの熱を帯びた何かを入れていたのかもしれない。

(まずい…こんなのを用意されていたら、ビームか実弾の判別がつかなくなる…)

こちらがナノラミネートアーマーで、実弾とビームに対して耐性があるからよかったものの、仮にどちらかに特化した装甲だった場合、あの弾丸を使われたら混乱していたかもしれない。

そんなことを考える中で、警報音が響き渡り、背後の光景が投影される。

「後ろ!!」

ツインビームスピアを握るザクⅠが迫り、超大型メイスでガードをするには間に合わない。

超大型メイスを手放し、、左手の爪で受け止める。

「反応速度はいいが…だが、がら空きだ!!」

「まずい…!!」

ザクⅠの左足がバルバトスの胸部に接触する。

ゼロ距離からのビームをコックピットで受けてしまった場合、当然パイロットは焼け死ぬほどの熱に苦しむことになる。

そして、撃墜判定となって、脱落してしまう。

「うおおおおお!!!」

大声を出しながら、勇太はバルバトスに頭突きをさせる。

思わぬ一撃でザクⅠのモニターが一瞬見えなくなり、復活したときにはバルバトスの姿が見えなくなる。

「何…!?」

「背後からなら!!」

ザクⅠはスナイパータイプで、今ヒデキヨが制御しているのはジムの方だ。

リバーシブルタイプとはいえ、再びザクⅠ側に制御を戻すにはタイムラグが発生する。

その間にバルバトスの爪を胸部に突き立てれば、勇太の勝ちだ。

「ふっ…」

その映像を見たヒデキヨは笑みを浮かべる。

頭突きで危機を脱し、そこから逆王手をかけようとする動きは素直に褒めるべきところだ。

さすがは勇武の弟、というべきだろう。

それに、今彼が乗っているバルバトス・レーヴァテインもいい機体だということは確かだ。

だが、だからこそ惜しい。

まだまだこちらの機体の全容が見えていない間にそのような動きをすることを。

(とった…!!)

「いいや、まだだ」

その言葉と共に、バルバトスの爪が届こうとしたときに、ザクⅠの四肢と頭部、胴体が分離し、その場を離れる。

「ターンXの分離システム…!?」

「まさか、この隠し玉まで使わせるとはな…!!」

分離した手足に内蔵されているビーム砲が次々とバルバトスを襲い、オールレンジ攻撃を始める。

「くっ…!!」

2丁のライフルを手にし、周囲から飛んでくるビームを回避しつつ、弾丸をばらまく。

ナノラミネートアーマーとはいえ、何度もビームを受けるわけにはいかないうえに、特に破砕砲やビームショットライフルを破壊されるような事態は避けたいと考えていた。

ただ、多数設置されている真空管型レーザー発振器に隠れて動かれているせいで、中々見つけることができない。

「やるしかないか…」

弾切れになったライフルを投げ捨て、目を閉じて深呼吸をする。

その間にも、ビームが四方から迫ってくる。

目を開いた瞬間、バルバトスが青いオーラに包まれ、接触したビームがオーラによって消し飛ぶ。

「ふっ…ついに見せてくれるか。覚醒を!!」

上空で再合体を果たしたザクⅠの中で、ヒデキヨはようやく見ることのできた覚醒に高揚感を覚えた。




機体名:ザクⅠ・クロスタイプ
形式番号:MS-05C/RGM-79C
使用プレイヤー:青木秀清
使用パーツ
射撃武器:ビームスナイパーライフル(ザクⅠ・スナイパータイプ)(ツインビームスピアへ変形可能)
格闘武器:なし
シールド:なし
頭部:ザクⅠ・スナイパータイプ(後部にジム・ストライカー)
胴体:ザクⅠ・スナイパータイプ(後部にジム・ストライカー)
バックパック:なし
腕:ザクⅠ・スナイパータイプ(手にビーム砲×2内蔵)
足:ザクⅠ・スナイパータイプ(腰部に太陽炉×2装備、足にビーム砲×2内蔵)

選抜チームの一員である青木秀清が愛機であるザクⅠ・スナイパータイプを改造したもの。
ツインドライヴを搭載したことで、ザクⅠをはるかに超える出力を獲得しており、更にはリボーンズガンダムのように前後をひっくり返すことで全く戦闘スタイルの異なるジム・ストライカー形態への変形が可能となった。
手持ちの武装はツインビームスピアへの変形が可能なビームスナイパーライフルのみとなっているが、手足にビーム砲を内蔵しており、ターンXのような分離した状態でのオールレンジ攻撃も可能となっている。
なお、ザクⅠ・スナイパータイプとジム・ストライカーの2機が合わさった形となっているため、型式番号が2つになっているものの、ヒデキヨ本人はこれまで通りザクⅠと呼んでいる。


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第40話 少女たちの戦い

再び分離したヒデキヨのザクⅠのビームの雨が四方から降り注ぎ、覚醒したバルバトスが高い反応速度を武器に飛び回って回避していき、回避しきれない分を覚醒エネルギーのバリアで受け止める。

反撃のためにテイルブレードで分離しているパーツに切りかかる、ビーム砲で攻撃するが、一発も当たる気配がない。

「くっ…やっぱり、分離している状態で攻撃してもラチがあかない…!」

反撃をあきらめ、テイルブレードを戻して回避に専念する勇太は頭の中で彼を倒す手段を描き続ける。

相手はジム・ストライカーとザクⅠ・スナイパータイプのハイブリットで、おまけにターンXの合体分離機能付き。

攻撃面では隙が無いように見える。

だが、唯一決定打を与えかけたタイミングはある。

(でも、少しカメラにダメージを与えただけじゃだめだ。確実にこちらから注意をそらすことを考えないと…!)

「どうした?その程度のものか?覚醒の力というのは!!」

覚醒したことで、更に歯ごたえのある戦いができるかと思ったヒデキヨは失望したように叫ぶ。

その叫びは確かに勇太の通信機からも聞こえるが、その声を頭の中でシャットアウトする。

今必要なのはただ、彼を撃破することだけだ。

綾渡商店街ガンプラチームの勝利のために。

(ビームショットガンは弾切れ。破砕砲はまだ使えるけど…隙を突かないと発射もできない…覚醒したおかげで、ある程度反動を軽減することはできるけど…)

だが、1発を胸部に撃ち込むことができれば、倒せる確証はある。

あとはどうやって隙を作り、破砕砲を叩き込むかだ。

(そのためには…一度合体してエネルギーチャージをしてこないと話にならない。とてもじゃないけど、分離しているザクに破砕砲を叩き込む自信はないから…)

そのことを考えている間にザクⅠが再合体を果たし、再び狙撃の構えに入る。

それが見えたのと同時に、バルバトスは破砕砲の弾倉を1つ手にし、それを握った状態で覚醒エネルギーを送り込む。

「イメージは固まった…!頼むよ!!」

握っている勝利のピースに願うようにつぶやくと、その弾倉をアンダースローで投げ、バルバトス自身は物陰に隠れる。

「ふっ…隠れたか。だが、隠れたとて、再び分離攻撃の餌食にするだけだがな」

エネルギーチャージまでのタイムラグは十数秒。

覚醒したガンプラの破壊力は知っているため、ここは無理をせずにじわじわとせめて覚醒の限界時間を待つことをヒデキヨは既に決めている。

だが、なぜか熱源反応に妙な動きが見えた。

(うん…?2つの熱源?2つとも止まっているが…どうなっている?)

2つとも、こちらの弾が貫通するレーザー発振器の後ろに隠れており、その正体をうかがうことはできない。

気になるのはどちらも熱源反応が同じだということだ。

どちらもガンダム・フレーム並みの出力の熱を感知している。

「攪乱のつもりか?ならば、どちらも…む?」

2時方向の反応が徐々に大きくなっていく。

バルバトスのテイルブレードには原作とは異なり、ビーム砲が装備されている。

もし熱源が大きくなるとしたら、ビームを撃ってくる可能性が高い。

「そこにいるか!!」

大きくなっている方に向けて、ヒデキヨはスナイパーライフルを発射する。

レーザー発振器を貫いたビームが熱源の正体に迫る。

だが、見えてきたのは破砕砲の弾倉で、ビームが接触すると同時に中に火薬が引火し、大爆発を起こす。

「何!?」

「もらった!!」

完全に注意がそれただけで十分だった。

既に発射体制を整えていたバルバトスがザクⅠに向けて破砕砲を発射する。

こちらに気付き、回避のために分離しようとしたザクⅠだがすでに遅く、弾丸が胸部を撃ち抜く。

破砕砲を付けたザクⅠはバラバラに吹き飛ぶと同時に、爆散した。

「はあ、はあ、はあ…うまく、いった…!」

深呼吸するとともに覚醒が終わり、バルバトスを包む青いオーラが消えていく。

勇太がやったのは覚醒エネルギーを送り込んだ弾倉の熱を高めて、ヒデキヨの寝る現センサーを誤認させた。

以前にカドマツが言っていた、サイコフレームやバイオセンサーがついたモビルスーツが見せたような想定外の現象を引き起こすことができるという言葉を思い出したから、この作戦を立てることができた。

イメージを固めることはできたが、やはりそうした乞った芸当を見せるとなるとそれ相応のエネルギーが必要となる。

そのため、ザクⅠを撃破したと同時に覚醒も解除されてしまい、勇太も疲労を覚える。

おまけにやむを得ないとはいえ、ストックの弾倉を一つ使ってしまったため、破砕砲の弾を無駄にすることがより一層できなくなった。

「慣れないことはやたらめったらやるものじゃない…よね…?」

疲労感だけでなく、吐き気まで覚えてしまう。

ヒートロッドの電撃を受けて嘔吐してしまったイオ・フレミングのように、この空間で嘔吐までが再現されることはないが、それでもかなり気持ちが悪い。

その不快感を少しでも取り除こうと、コックピット内に酸素を充満させ、ヘルメットを脱ぎ捨てた。

「はあ、はあ…網膜投影モード、肉眼に変更。ふうう…」

ヘルメットを脱ぎ、息苦しさが和らいだことで少しだけ気分が楽になる。

「サクラさんはミサちゃんに任せる…僕は…!」

 

「主殿とミサ、そしてサクラ殿とヒデキヨ殿の戦いの邪魔はさせん!!」

ロボ太が電磁スピアを振り回し、スグルはフェザーファンネルを飛ばして2機のギラ・ズール、そしてガンダムXベースのガンプラ、G4Sと交戦していた。

それらのギラ・ズールは勇太たちがグランザムと戦うときに手伝ってくれたロクトのチームのガンプラで、彼らも決勝に進出していた。

(まさか、あの時協力してくれたチームとこのような形で戦うことになるとは…)

グランザムとの戦いでは、ロクトの協力がなければ勝つことができなかったと思っている。

その点では彼に恩があるものの、今は決勝で、勝たなければならない思いは同じである以上は戦うしかない。

「くそぉ!どうして別チームの2機が協力して俺たちを攻撃してるんだよ!?」

「いや、別に反則じゃないよ。決勝ではよくある話さ」

焦りを見せる後輩2人に対して、G4Sに乗るロクトは冷静にこの状況を受け止めていた。

彼の言う通り、決勝戦でこうしてチーム同士が一時的に手を組んで他のチームと戦うようなことは珍しくなく、第4回ジャパンカップ決勝戦では2つのチームが他のチームすべてを倒すために手を組んだという話がある。

その時はそれを認めるか否かで賛否が分かれたものの、現在ではルール上認められている。

「もらったぁ!!」

フェザーファンネルから身を護る中で、ロボ太に対して隙だらけになったギラ・ズールに電磁スピアを突き立てる。

「直撃…しまっ!!」

最後まで言い終わらぬうちに機体が爆発し、フィールドから消滅する。

「トオル!?くっそぉ!!」

飛んでくるファンネルのうちの2機をどうにかビームマシンガンで破壊したシンヤは破壊された仲間のギラ・ズールを見て悔しさで操縦桿を握る力を強める。

ロクトもバスターライフルに追加オプションで装備されているビームマシンガンでファンネルをけん制しつつ、Iフィールドでビームから自らの身を守り続ける。

「あの2機…必死になっているな。この先で何かをやっているということか?」

モニターで全容が見える観客たちとは異なり、ロクト達ファイターは乗っているガンプラのセンサーの範囲内のことしか分からない。

その『何か』で思いつくことがあるとしたら、ファイターとしての性質故に起こる真剣勝負だろう。

勇太とサクラの関係についてはロクトも少しだけ耳にはさんだことがある。

「もしそれが本当だとしたら、少し気が引けるけど…!」

だが、シンヤのギラ・ズールの反応も突然飛んできた炎の中でロストし、ロクト一人になってしまった。

これでロボ太とスグルが圧倒的に有利になったように見えるが、実際はそうではない。

2人には一つだけ見誤っていることがある。

自分たちがそうした手を使うとしたら、相手も同じような手を使ってくる可能性があるということを。

「うん…?センサーに反応、これは…!!」

 

「このぉ!!」

グリプス内部で、アザレアが放つビームライフルをブリッツはギガンティックシザースで受け止める。

対ビームコーティングが施された巨大な鋏であれば、ビームライフル程度の火力ではびくともしない。

(さすがね…ミサ。想像以上に強くなってる)

始めてから数分で、サクラはミサが想像以上に強くなっていることを実感した。

ビームさライフルの精度や機体の動きだけでなく、ガンプラそのものの出来栄えも。

おそらく、サクラとの特訓が終わった後も勇太と一緒に特訓を繰り返していたのだろう。

サクラに勝ち、ジャパンカップで優勝するために。

(成長スピードでは、もしかしたら私や勇太以上。もしかしたら、勇太とも対等に戦える時が来るかもしれないわね…けど、今は!)

「はあはあ…やっぱり、サクラってすごい!いくら攻撃しても、傷一つ付けれないなんて…」

やれる限りのことをすべてやったうえで臨んだつもりでいたが、想像以上にサクラという壁が高いことを実感する。

特訓の際にサクラが一度もブリッツを使わず、その場で自分が作った新しいガンプラで相手をしていたこともあるのかもしれない。

あくまでもライバルチームのファイターである以上、そのすべてを見せて特訓の相手をするほどお人よしではない。

だから、こうして本来のブリッツに乗るサクラと戦うのをミサは内心楽しみにしていた。

そうして戦うことで、ようやく彼女に自分が強くなったことを認めてくれた気がするから。

2機はどちらもライフルやサーベルで戦っているものの、今この段階ではほかの兵装やシステムを使う気配がない。

どちらも、それを使うときが決着がつく時だと感じているからだろう。

再び2機がビームサーベルで鍔迫り合いを始める。

「どうしたの?あなたの力はまだまだその程度なの!?」

「そんなことないよ!!というより、サクラも出し惜しみしてないで、全部出して…よ!!」

ビームサーベルの出力が上昇していき、アザレアが徐々にブリッツを押していく。

「この出力…ZZのハイパービームサーベル!?」

「そういうこと!!最大出力なら、隕石だって斬れるんだよ!!」

「その勝負に付き合いたいところだけど…今は!!」

ミサが動き始めたというなら、自分も本気で相手をしなければならない。

ようやく楽しみの時がやってきたことに笑みを浮かべたサクラは覚醒を発動する。

その瞬間、桜の花びらのエフェクトがブリッツを包み込み、アザレアのモニターをピンク一色に包みこんでいく。

「覚醒!!これをやってきたということは…!!」

初めてサクラと戦った時の苦い記憶を呼び起こす。

あの時、ブリッツは覚醒エネルギーで分身を作り出して、自分を翻弄していた。

そして、インパクトダガーによる攻撃で一方的にやられてしまった。

エフェクトが収まり、モニターの景色が元の冷たい鉛色の空間へと戻っていく。

正面にはピンク色のオーラに包まれたブリッツがいて、アザレアに向けてビームライフルを発射する。

「なら!!」

左腕のシールドでしのぎ、反撃のビームライフルを撃つが、命中すると同時にその姿がゆがんでいき、消えてしまう。

そして、コックピット内に警告音が響くとともに左肩のGNキャノンに爆発が起こる。

「GNキャノンが!!」

「火力の有る武器は危険よ。排除させてもらうわ!!」

火力を生かした後方支援を得意とするアザレアの得意分野を奪っていき、得意の接近戦に持ち込む。

破壊され、使い物にならなくなったGNキャノンを強制排除し、姿勢制御プログラムが自動的に変更されていく。

「今の攻撃…きっとインパクトダガー。そして、ここからは…!」

「そう…ここからよ」

今度は4機のブリッツが一列に並んで側面に出現し、インパクトダガーを投擲してくる。

飛んでくるナイフのどれが本物かわからないミサは横倒しにするように機体を側面へステップさせて回避するが、壁や床などに当たったナイフはいずれも爆発することなく、消えてしまう。

それらのナイフはすべて幻影、現れていたブリッツも同じくそれだろう。

次の瞬間、真上に姿を現したブリッツがギガンティックシザースを広げ、アザレアの右肩をGNキャノンごとはさ、む。

「しまった…!!」

「ナイフばかりで攻撃するだけが…覚醒したブリッツの戦い方じゃあ…ないのよ!!」

バキバキバキと装甲が砕ける音が響き、モニターには右腕と右肩のGNキャノン部分が赤く光っているアザレアのシルエットが表示される。

操縦桿を動かすが、もう右腕は操縦を受け付けていない。

そのまま右腕を引きちぎったブリッツはそれを明後日の方向へ投げ飛ばす。

ライフルもGNキャノンも失い、左腕だけで覚醒したブリッツと戦わなければならない。

「このままやらせてもらうわ!!」

再び自由になったギガンティックシザースで今度はコックピットをつぶすべく、胴体を狙ってくる。

「私だって、このままじゃ…終われない!!」

叫びと共にトランザムを発動し、頭上のブリッツに向けて左拳でアッパーを放つ。

出力がアップしたアザレアの拳は予想以上に重く、それを受けたギガンティックシザースの鋏の上側がへしゃげてしまう。

「く…やるわね、ミサ!!」

「まだまだぁ!!」

スラスターを全開にしてその場を離れたミサはバックパックのミサイルを全弾発射する。

フェイズシフト装甲のおかげで、受けてもダメージは大したことはないが、エネルギーの問題から何度も受けるわけにはいかない。

コンテナの後ろへ逃げ込み、ミサイルから身を護るが、その間にミサが距離を離していく。

(あの子のこと…逃げるなんてことはしないはず。もしかしたら…!)

ギガンティックシザースで引きちぎったアザレアの右腕を思い出す。

まだビームライフルを握っており、おそらくそれはまだ生きている。

それを回収するつもりなのかもしれないが、サクラは無作為にそれを投げているため、どこへ行ったかは彼女も分からない。

それに、トランザムの時間制限や残った武装を考えると、むしろ接近した方がミサにとっては有利だ。

考えられるとしたら、ミサと一緒に飛んでいたバルバトスが装着していたブースターだ。

「あれに武器が積んであったとしたら…まずいわね」

こちらも覚醒のタイムリミットが迫っており、先ほどのアザレアのアッパーのせいで最大火力のギガンティックシザースにも不具合が発生している。

物陰から飛び出したブリッツは最初に勇太たちが降りてきた場所へと向かっていった。

 

「良かった…ちゃんと積んでた武器は残ってる。左手で使えるか不安だけど…」

分離された状態で放置されているブースターにたどり着き、その中にあるGNビームピストルを左手で握る。

搭載する武装として勇太が作ってくれたもののようで、利き腕でなくても少しなら使える上に取り回しも利く。

銃身には対ビームコーティングがされているうえにビームサーベルの機能まである。

「作ってくれた勇太君に感謝しないと…」

既にトランザムは終了し、通常稼働状態に戻っており、再びトランザムを発動するには時間がかかる。

おそらく、サクラもこちらへ向かっているかもしれないが、少なくともその時にはもう覚醒が限界になっているだろう。

だが、また覚醒を使ってこないとは限らない。

勇太が複数回覚醒した姿を見たことはないものの、それができる可能性もあり得る。

「…!!敵機の反応、来る!!」

「ミサ!!」

覚醒を解除したブリッツが迫り、ビームライフルを撃ってくる。

撃たれたのはブースターで、推進剤に引火すると同時に爆発を起こし、まだ残っている武装が道連れとなっていく。

「これでもう、武器の補給はできないわ!」

「くぅぅ!!」

GNビームピストルを連射するが、やはりビームライフルほどの出力がなく、装甲で弾かれていく。

そして、ブリッツが残ったインパクトダガーを投げつけてくる。

それをピストルで撃ち抜いていくが、その間にビームサーベルを展開したブリッツが懐に入り込む。

バッテリーが限界まで来ていて、確実に倒すとしたらサーベルくらいだ。

今のサクラはもうジャパンカップで優勝できるかどうかなどすっかり頭から抜けていた。

あるのは目の前のライバルであるミサに勝つこと、それだけだった。

それさえ叶えば、サクラは満足だった。

「これで…終わりよ!!」

「やられる!!」

GNビームピストルで受け止めるには間に合わず、このままでは突っ込んでくるブリッツのビームサーベルでコックピットを貫かれる。

機体を動かすにしても、わずかにずれるだけでコックピットを破壊される点は変わりない。

「でも…まだだぁぁぁぁ!!」

「!?これって…!!」

ミサが叫ぶとともに、急にアザレアがピンク色の光を放つと同時にトランザム並みの機動力を見せる。

ビームサーベルの突きを回避するとともに、最小限の動きでブリッツの背後に回り込む。

その時、ミサは何が起こったのか全く分からなかった。

トランザムを使った覚えはなく、粒子残量もトランザムを使えるだけの量は残っていない。

だが、今重要なのは『なぜ』ではない。

今はブリッツの背後を取ることができていて、左手にはGNビームピストルがある。

このチャンスを逃すと、もう勝ちはない。

ガンプラバトルの神様がくれたチャンスをこの最後に一撃に賭ける。

ミサがGNビームピストルの銃口をブリッツの背中に押し付ける。

そして、引き金を引くとともに次々とビームが発射されていく。

(そう…まさか、ミサも…)

ほんの数秒の動きで勝敗が決まり、自分の敗北を察したサクラ。

だが、悔しいという感情はわかず、むしろ楽しかったという思いが強かった。

あの勇太の背中を追いかけていた少女の見せたあの奇跡がこの戦いの何よりの収穫だった。

(ごめんなさい…スグル、ヒデキヨ…。でも、私は満たされてる)

ヘルメットを脱いだサクラは目を閉じ、パイロットシートに身をゆだねる。

ビームは次第に装甲を、機体内部を焼いていき、ブリッツそのものを貫通した後で収まる。

撃ち抜かれたブリッツは爆発を起こし、その爆発でアザレアが吹き飛ぶ。

「はあはあはあ…」

スラスターを噴かして機体の姿勢を調整し、左手のGNビームピストルを見る。

ゼロ距離発射し、爆発に呑まれたことで損傷はしているが、まだ数発なら発射できる。

それに、対ビームコーティングも生きているため、少しだけなら戦える。

だが、問題はミサ本人で、なぜかどっと疲れを感じている。

まるでいきなり疲れやすい体に知らぬ間に入れ替えられたかのように。

(ごめん、勇太君…ロボ太…。ちょっとだけ休んでいい…?すぐ、追いつくから…)

眠気を感じ、徐々にそのまどろみの中に包まれていく。

今も戦っているであろう勇太とロボ太が気になるが、今はその心地よさに身をゆだねていった。

 

「これは…バエルとフルアーマー騎士ガンダム!?」

グリプスを出たバルバトスのカメラが見たのは大破している2機のガンプラの姿だった。

バエルは左の翼を破壊されており、頭部と右腕を失っている。

フルアーマー騎士ガンダムも剣が折れており、盾は左腕ごと切り落とされている。

「ロボ太!!やられたの??」

動く気配はないが、少なくとも撃墜判定は出ていない。

フルアーマー騎士ガンダムに触れ、接触回線を開いて彼に尋ねる。

「ぐう…主殿。すまない、3機…来る!!」

「3機が!?」

「やぁ、やはり君が真っ先に出てきてくれたみたいだね」

「その声は…もしかして」

オープンチャンネルの通信を聞くと共に、3つの反応をバルバトスが拾う。

振り返ると、そこにはG4SがストライクノワールベースのガンプラとGNアーチャーベースのガンプラを引き連れて虚空に浮かんでいた。

「ロクトさん…」

「まさか、決勝まで生き残っているとは思わなかったけど、また会えてうれしいよ。沢村勇太君」

 



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第41話 限界突破

G4Sを中心とした3機のガンプラと勇太のガンプラが対峙する。

数ではロクト達の方が有利だが、彼らが動き出す気配はなく、それは勇太も同様だ。

「どうして…別チームであるあなたたちが協力して…」

ロクトのチーム、鹿児島ロケットとツキミとミソラの所属している沖縄宇宙飛行士訓練学校は当然別チームで、卒業生の就職先の1つという繋がりしかないように勇太には見えた。

ロケットを扱う企業は近年、軌道エレベーターが作られたのが契機となって一気に拡大していっている。

それに伴い、世界各地で宇宙飛行士不足が発生しており、各国ではこぞって宇宙飛行士訓練学校の開設及び拡大に予算を出している。

沖縄宇宙飛行士訓練学校はJAXA所属の宇宙飛行士のOBが講師として開設されたもので、国内にある訓練学校の中でも最大の規模だ。

「悪く思わないでくれ、これも勝負のうちさ」

「そういうことだ。辛いけどさ…勘弁してくれよ!」

「それだけ…彩渡商店街ガンプラチームが脅威だって…ポジティブに考えた方がいいのかな…?」

数では厳しく、モニター越しで見たところ、少なくともロクトのG4Sは厄介なガンプラに見えた。

変形機構を持っているうえに、おそらく共闘したときは見せなかった武器も持っているはずだ。

また、ツキミとミソラのガンプラも、わずかながら損傷はあるものの、戦闘継続に問題がない状態で、それぞれの装備が一方が接近戦型、もう一方が遠距離支援型ではっきりと違いが見える。

「ごめんなさい…でも、それでも、私たちは勝ちたいから…それに、就職したいから!」

「ん…?就職??」

「学校を卒業しても、宇宙飛行士になれる奴はほんの一握りなのさ。でも、ここで勝てば鹿児島ロケットとコネができる!俺とミソラの夢に近づけるんだ!」

宇宙飛行士の需要が高まったとはいえ、それでも宇宙飛行士が狭き門だということには変わりない。

2人がいる学校そのものは簡単な体力試験以外は普通の高校受験と変わりなく、よっぽどの運動音痴でない限りはパスできるが、問題はその先だ。

沖縄宇宙飛行士訓練学校の場合、宇宙飛行士訓練生の資格を取るための試験を3年生の夏に受ける必要がある。

そこでの一次試験のペーパーテストは一般教養と基礎的な専門知識、心理検査が行われ、そこではまんべんなく平均点をとることを条件としたセレクト・アウト方式が採用されている。

そこで半分以上の生徒が涙をのみ、二次試験へ進むとそこではJAXAの部長・課長による面接と心理カウンセラーによる面接、おまけにネイティブ・スピーカーとの英語面接を受け、3日間病院で体が徹底的に調べられることになる。

そうした試験を受けることから、沖縄宇宙飛行士訓練学校は全寮制が採用されており、バランスのとれた食事や徹底した自己管理を叩き込まれることになる。

そうした試験を受けたあとで待っている3次試験では泳力の検査や長期滞在への順応力が問われ、その試験をパスすることでようやく宇宙飛行士訓練生となり、卒業後は1年間の訓練を受けた後でようやく宇宙飛行士として就職することができる。

もちろん、宇宙飛行士になれなかったからこれで終わりというわけではなく、そこから大学受験を経て民間企業に就職するといった進路も存在し、実際に宇宙飛行士にはなれなかったがその学校での経験を生かして活躍している社会人もいる。

しかし、それでもほんの一握りしか宇宙飛行士になれないという現実に変化はなく、仮に訓練を受けて宇宙飛行士として認められたとしても、就職できなければどうにもならない。

ジャパンカップ優勝という称号以上に切実な事情を2人は抱えていた。

「そういうことさ。先輩として、そんな2人の願いをどうにか実現させたいと思っているのさ。だから…勝たせてもらうよ」

さっそく、G4Sが右手で握るバスターライフルをバルバトスに向けて発射する。

ナノラミネートアーマーで身を固めているものの、受けているとしばらく動けなくなるうえにカメラも使えなくなってしまうことから、勇太は真上へ飛ぶことでそのビームを回避し、テイルブレードを射出する。

「おっと…!厄介な武器はどうにかしないと!」

左手のシールドブースターとバックパックのスラスターで一気に加速させ、テイルブレードの刃とビームから逃れるG4Sは攻撃する気配を見せない。

あくまで回避に専念しており、バルバトスのエネルギーの消耗を待っているようだった。

(見た限りでは、近接戦闘武器でバルバトスにダメージを与えることができる武器はサテライトキャノンとミサイルだけ…。サテライトキャノンは危険だけど、ミサイルはナノラミネートアーマーがあるから怖くない。けれど…)

あくまでサテライトキャノンはG4Sのモビルアーマー形態を見たときの形状であると想定しているだけで、実際にそうなのかはわからない。

さすがのナノラミネートアーマーでも、スペースコロニーを破壊するほどの出力を誇るサテライトキャノンを受けたら消滅してしまう。

厄祭戦でそれほどの火力を持つ兵器が存在したかは分からないが。

「接近戦に持ち込めばあ!!」

真上に回避することを読んでいたツキミが自らのガンプラ、エンハンスドデファンスに対艦刀を握らせ、バルバトスに切りかかる。

ビームと実弾の両方の特性を併せ持つその刃なら、ナノラミネートアーマーを切り裂くことができる。

そのことは分かっている勇太は超大型メイスで受け止める。

「まずは装甲をはがさないと!!」

勝つとしても、自分たちの力を見せておきたいと思っているミソラは自分のガンプラ、ガンティライユが握るアグニを発射するとともに対艦バルカンとミサイルを発射する。

鍔迫り合いを突然やめたエンハンスドデファンスが下がると同時にビームとミサイル、弾丸がバルバトスを襲う。

「く、うううう!!」

コロニーの外壁を撃ち抜くほどの破壊力を誇るアグニを受けてもなお、バルバトス本体への損傷はわずかなものの、一気にコックピット内部の気温が上がっていく。

「く、ううう!!追加装甲のダメージが…!!」

「動けなくなった…なら、チャンスだ」

「サテライトキャノン!!」

動けない今の状況を考える中でやってくる最悪の可能性に勇太は身震いする。

彼の予想通り、G4Sはリフレクターを展開するとともにサテライトキャノンを手にする。

月面のフラッシュシステムがG4Sからの通信を受信し、マイクロウェーブが照射される。

マイクロウェーブを受信し、サテライトキャノンのエネルギーチャージが始まる。

「終わりだ…!」

ロクトがつぶやくとともに引き金が引かれ、サテライトキャノンが発射される。

そのビームは身動きの取れないバルバトスを容赦なく呑み込んでいく。

「バルバトス、サテライトキャノンのビームに飲み込まれてしまった!!これは…彩渡商店街ガンプラチーム、万事休すなのかーーー!!」

「勇太…!!」

モニターでサテライトキャノンに飲み込まれるバルバトスを見たカドマツが絶句する。

これで終わってしまうのか、会場が静まり返る。

「やった…!これであとは…」

サテライトキャノンのビームが消滅し、射線上に何も残されていないのを確認したツキミは勝利を確信する。

あとはまだ撃墜されていない満身創痍のアザレアを倒せば、綾渡商店街ガンプラチームの敗退が決まる。

しかし、その中で異変に気付いたのはミソラだった。

「これは…待って、ロクトさん、ツキミ!!反応があるわ!!すごく速い!」

「やっぱり、これだけじゃやられないよね…」

ロクトのモニターにも、ジグザクに飛ぶ光が見え、その光をアップで表示する。

そこには装甲が若干焼け焦げていて、テイルブレードや破砕砲、超大型メイスや増加装甲をすべて失ったバルバトスがいて、ロクト達に迫っていた。

「どうしてだ!?確かにあの時、サテライトキャノンのビームに飲み込まれて…!!」

「おそらく、増加装甲を強制排除して、ギリギリのタイミングで避けたのだろうね…」

焼け焦げた装甲に武装をほぼすべて失った今の姿を見ると、本当に撃墜ギリギリのところで避けたのだということが分かる。

さすがは決勝まで生き延びただけのことがあるが、結局は寿命が若干伸びただけだ。

(超大型メイスも破砕砲も、太刀も、サテライトキャノンで失ってしまった…。爪もボロボロだ。残った武器は…)

武装のないバルバトスにできることがあるとしたら、ナノラミネートアーマーの頑丈さとガンダム・フレーム特有の出力を生かした肉弾戦くらいだ。

だが、サテライトキャノンが装甲の塗料を焼き尽くし、自慢のナノラミネートアーマーの効力も半減している。

そして、おそらくエンハンスドデファンスはトランスフェイズ装甲付きで、実弾では与えるダメージも軽微だろう。

(それでも、やるしかない…!!)

綾渡商店街ガンプラチーム勝利のためにも、今は何ができるかだけを考える。

バルバトスは一直線にまずはガンティライユに向けて突っ込んでいく。

「ええ!?わ、わ、私!?」

追い払おうと対艦バルカンとミサイルを撃ちまくるが、想像以上のスピードと反応速度に追いつけず、次々と避けられ、徐々に距離も詰められていく。

(これまでのバルバトスよりも速いスピード…スラスター出力はフルアーマーの時と同じということか…!)

ロクトは以前読んだガンダムの漫画にあったジム・ストライカーとピクシーの戦いの場面を思い出す。

ピクシーの当時最速の瞬発力と機動力、そして大出力のビームダガーによる格闘戦能力に苦戦するなかで、ジム・ストライカーは装備していたウェラブルアーマーを強制排除、それによって一気に上昇したスピードで渡り合い、最終的にピクシーの撃破に成功した。

それと同じような状況が展開されており、まさかの攻撃にミソラが動揺し、それを照準精度の欠いたミサイルとバルカンが示している。

「このまま一気に…!!」」

「弱い者いじめはよくないな…綾渡商店街の悪魔君!!」

そのバルバトスに割り込んだG4Sがビームサーベルを抜き、バルバトスの爪とぶつかり合う。

「悪魔…僕が…??」

「知らないのかい?今の君は彩渡商店街の悪魔、なんて異名がついているんだよ」

バルバトスに乗っているから、鉄華団の悪魔と絡めてそのような異名がついているのだろう。

そんなことなど露とも知らない勇太はそんな異名をつけられていたことに驚いていた。

三日月の乗るバルバトスの戦闘スタイルならともかく、自分はその悪魔にはあまり似合わないと自己分析している。

だが、今はそんなことを考えている場合ではない。

希少金属で作られた爪でも、サテライトキャノンでもろくなっていることもあり、大出力のビームサーベルを前に刃こぼれが生じている。

「さあ、このまま敗れるか?それとも続けるか…?」

「…あなたにそれを決める権利があるとでも!?」

「だが、もう君の武器はこの爪だけ。それを失えばもう…」

「勇太君!!」

「ミサちゃん…!!」

ミサの声が聞こえ、3機のレーダーに新たな反応が出る。

グリプス2の中から半壊状態のアザレアが出ており、その手にはサクラにとどめを刺したGNピストルが握られていた。

「受け取って!!GN粒子は入ってるから…!!」

GN粒子に対応したセンサー調整がされていないバルバトスではこれは使いこなせないかもしれない。

だが、それでも勇太の勝利につながるかもしれないかすかな可能性を信じて、ノイズが生じるモニターでボロボロなバルバトスを見る。

「武器を渡すつもり!?そうはさせないわ!!」

ガンティライユがアグニをアザレアに向け、照準を合わせる。

そして、一撃で仕留めるつもりでその大出力のビームを発射した。

わずかに残ったGN粒子をすべて推進力に回し、どうにか回避しようとするが、わずかに横にずれるだけで、アグニの光で装甲の一部が焼かれる。

「ううう!まだ!まだ、撃墜されるわけにはいかない!!これを勇太君に渡すまでは!!」

「今度こそ…!!」

「受け取って、勇太君!!」

アグニ2発目と同時に、アザレアの手からGNピストルが離れていく。

「勝ってね、勇太君…」

「ミサちゃん!!」

G4Sの腹を蹴り、無理やり射線上へと向かってGNピストルをつかむ。

同時に、モニターにはアグニで撃ち抜かれ、爆散するアザレアの姿が映った。

「ありがとう、ミサちゃん…アザレア…」

武器と思いを託してくれた戦友に感謝の言葉を口にし、GNピストルをG4Sに向ける。

「まだまだ、勝たせてはくれないみたいだね。勇太君」

ガンプラ越しに感じる勇太の闘志を感じたロクトは優勝への道がまた少しだけ遠のいたことの無念さと同時にまだ戦えることへの喜びを覚えた。

「まだ…戦うのかよ。仲間は2機とも撃墜されて、残ったのは自分だけでもう武器もないってのに…」

「勝たなきゃいけない理由があるのは僕も…同じだから…」

最初はミサの願いに根負けし、それをかなえるために戦っていたが、今は明確な目的が勇太にもある。

勇武が見ることのできなかった夢の『先』を自分が見るため、そのために今は戦っている。

そこへ行くためにも、まだ負けるつもりはなかった。

 

シミュレーターの扉が開き、その中からミサが出てくる。

観客がモニターに映るバルバトスと3機のガンプラの戦いにくぎ付けになる中、カドマツとロボ太が彼女を迎えに来る。

「お疲れさん、ミサ。すげえ活躍だったじゃないの」

他意なしに、素直にミサの健闘を称える。

ロボ太も言葉は出すことはできないものの、サムズアップすることでミサを褒めた。

「ああ、カドマツ、ロボ太。もう、ちゃんと勇太君を応援しなきゃダメじゃん。今ウチの生命線は彼なんだから…」

「ミサ…」

ミサの手にはボロボロになったアザレアが握られている。

サクラとの戦い、そしてミソラの攻撃を受けたことで、今のアザレアを彩るのは華やかなピンクではなく、隅のような黒と灰だ。

だが、それには確かにジャパンカップ決勝で戦った証があった。

「ああ、ごめん。喉乾いたから、ジュース…買ってくるね。すぐ、戻るから待ってて」

「あ、ああ…」

裏へと戻っていくミサをロボ太が追いかけようとするが、カドマツが左肩に手を置き、首を横に振る。

「ロボ太、今は一人にしてやれ。人間というのは…たまには一人でかみしめたいときっていうのがあるのさ」

 

観客の声援がこだまする廊下をミサは1人で歩く。

そして、自販機コーナーに到着するとそこにあるベンチに腰掛ける。

ミサは両手でボロボロのアザレアを握り、それを見つめる。

「う、う、ううう…」

ミサの目が潤み、しずくがポタポタとアザレアに向けて落ちていく。

左手で拭おうとするが、いくら拭っても涙が止まらない。

どんどん涙があふれ出て、鼻水も出ている。

今の姿をとても勇太やカドマツ達に見せることはできない。

「ごめんね…みんな。ごめんね…アザレア…。うわあああああああん!!!!」

我慢から解放され、大声で泣き叫ぶミサ。

その声は静かな廊下に吸い込まれていき、消えていった。

 

「やっぱり、俺に狙いを定めてきたか!!」

GNピストルを撃ってくるバルバトスに対艦刀に内蔵されているビームライフルで迎撃する。

武装がろくにない今のバルバトスが勝つための条件の1つは相手の武器を奪うこと。

そして、一番のねらい目となるのはバルバトスでも扱える対艦刀。

アグニの再チャージを待っていられないミソラもミサイルでバルバトスを狙い、ロクトもビームライフルで攻撃を仕掛けてくる。

「くっ…僕も、覚悟を決めないと…!」

まだ覚醒できるだけの気力が戻っておらず、ロクトの発射したビームがバルバトスの右足を撃ち抜く。

機体制御に乱れが生じる中で、勇太は阿頼耶識でバルバトスのプログラムを検索する。

ガンダム・フレーム由来のモビルスーツの本領を発揮するため、そして勝利のための手段は1つだけだ。

三日月がグレイズ・アインやハシュマルを倒すために使ったリミッター解除。

それをすれば、まさに彩渡商店街の悪魔ともいえる力を発揮できるだろう。

しかし、それを発動するためには機体が損傷しすぎた。

ナノラミネートアーマーもボロボロになっている以上、全力でやった場合は長い時間闘えず、もしかしたら自爆するかもしれない。

だが、もうこれ以外に勝つ手段が考えられない。

「ごめん、バルバトス…」

最終警告を無視し、リミッター解除のパスワードを入力する。

「動きが止まった今なら!!」

動きが止まった今を逃したら、もう攻撃を当てることさえできなくなるかもしれない。

ツキミは対艦刀でバルバトスを両断しようとする。

しかし、刃が当たろうとした瞬間、バルバトスが消えてしまう。

「消えた…うわっ!!」

いきなり側面から衝撃が走り、エンハンスドデファンスが大きく吹き飛ばされる。

バルバトスからの攻撃なのは確かだが、どうやって攻撃したのか、あまりの衝撃でセンサーに不具合が生じている。

モニターを見ると、そこには赤くカメラを光らせたバルバトスが映っていて、スラスターを全開にさせて突っ込んできていた。

「こいつ…!!」

「ツキミ!!ツキミはやらせないわ!!」

ツキミと勇太の間に割って入ったミソラがアグニを発射する。

最大スピードで突っ込んできている今のバルバトスなら、避け切ることはできないと思っていた。

しかし、バルバトスはバッタのように右へ大きく機体をそらしてかわし、ガンティライユを素通りしてそのままエンハンスドデファンスに迫る。

対艦刀は大型であるがために小回りが利かず、ライフルを撃とうとする前に懐に飛び込まれてしまう。

「な…!?」

「まだだ…もっと引き出して、バルバトス…!!」

エンハンスドデファンスの右腕をつかみ、リミッターを失い暴れ馬と化した出力で思いっきり引きちぎる。

そして、残った左腕の関節に手刀を振り下ろして叩き切り、対艦刀を奪い取った。

「ちょうどいい…!」

ビーム刃を作ることはできないが、この重量であれば、3機を倒し切ることができる。

左手にGNピストルを、右手に対艦刀を手にし、次の狙いをミソラに向ける。

「ひぃ…!!」

まさに悪魔に見えるバルバトスに恐怖したミソラはどうにか追い払おうとアグニを発射する。

恐怖に囚われる中でも、ツキミに当たらないように射線を調整できている点は彼女がジャパンカップで勝ち上がった強者であることを表しているだろう。

しかし、枷のないバルバトスには止まって見え、装甲に接触するギリギリのところでかわされてしまう。

そして、一気に肉薄してきて、対艦刀で切り裂かれそうになる。

「やられる…!!」

「ミソラぁ!!」

両腕のないエンハンスドデファンスがガンティライユに激突し、ガンティライユは吹き飛ばされる。

「ツキミ!?」

次の瞬間、エンハンスドデファンスの胴体が自らの武器であるはずの対艦刀で貫かれる。

せめてもの抵抗か、バルカンを撃ってきて、その弾丸の1発がコックピットをかすめる。

「危ない…なぁ!!」

その抵抗すら許さないと言わんばかりで左手のGNピストルをゼロ距離から頭部に向けて発射した。

対艦刀を抜き、その場を離れるとともに頭を失い、胴体を貫かれたエンハンスドデファンスが爆発する。

その爆発をミソラは呆然と見ていた。

決勝まで一緒に勝ち上がってきたツキミが覚醒ではなく、リミッター解除したバルバトスから自分を守るために倒れたという現実が受け入れがたかった。

だが、それを受け入れる余裕を与えるほど今の勇太はお人よしではない。

そのミソラのガンティライユにあっという間に接近し、対艦刀で一刀両断していた。

「ふうふうふう…」

息を整え、こちらへ飛んでくるビームをかわした勇太は対艦刀をビームを撃ってきたG4Sに向ける。

周囲にはバルバトスの装甲の破片が飛び散っており、装甲に走っている亀裂は肉眼でも見えるくらいだ。

「驚いたよ…けど、あと1発当たったら、お陀仏といったところかな?」

「動けるだけ…充分です。はあはあ…」

リミッター解除による負担は勇太に容赦なく遅い、送り込まれるデータや機体の操作によって既に疲れ切っている。

その状態で最大の難関であるG4S、ロクトと戦わなければならない。

「これで1対1。少しはフェアーに近づいた」

「本当は君と1対1で、正々堂々と戦いたかったけどね」

チーム戦故のささやかな後悔を飲み込み、再びビームサーベルを抜く。

バルバトスも奪った対艦刀を構える。

「さあ…最期に立っていた方がジャパンカップ優勝チームだ!!」



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第42話 決戦

「うおおおおおお!!!」

「あああああああああ!!!」

2人の叫びがコックピットに響き渡り、対艦刀とビームサーベルがぶつかり合う。

満身創痍でありながら、鬼気迫る勢いで攻めてくるバルバトスにG4Sが押され気味になる。

「くっ…!」

出力では互角であるにもかかわらず、押されていることにさすがのロクトも冷や汗を流す。

このまま相手に付き合う必要はないと言わんばかりに、バルカンを発射する。

ナノラミネートアーマーがズタズタなバルバトスの頭部にバルカンの弾丸が容赦なく遅い、当たるたびにコックピットのモニターがブラックアウトしていく。

「たかが、メインカメラをやられただけで!!」

やせ我慢のセリフを吐くが、それでも視界の大半を失った状況では圧倒的に不利な状況だ。

その間にG4Sが離脱し、ライフルを撃ってくる。

対艦刀を盾替わりにして防御するが、ものの2発程度で対艦刀が折れて使い物にならなくなる。

「くっ…!なら、もう!!」

コックピットハッチを全開にし、肉眼で見えるようにした状態で飛び回る。

警告音が響き、残り時間が短いことを感じながら、阿頼耶識で疑似的に再現された空間認識能力を活用してG4Sの位置や距離を確かめる。

正確な数値までが出てくるわけではないが、直感でどの程度距離があるのかはわかる。

それが分かれば、もう十分だ。

ハッチが開いたままバルバトスが一気にG4Sに接近していく。

「正面!?自殺行為を!!」

スラスター全開で突っ込むバルバトスの装甲の表面にひびが入り、剥離していくのがモニターではっきり見えており、壊れていく敵機に動揺を抱きながらもそれをおくびに出さずにライフルを撃ちながらサーベルを抜いて接近する。

それに対し、バルバトスは撃ってくるG4SめがけてGNピストルを投げつけてくる。

ビームがそれを撃ち抜くと同時に、GNピストル内に貯蓄されていたビームのエネルギーが爆発し、強い光がG4Sのモニターを真っ白に焼いていく。

「目くらまし…!」

光のせいで、無意識にG4Sのスラスターが弱まる。

その瞬間、コックピットの後方から激しい衝撃が遅い、前のめりとなったロクトを守るように透明なエアバックが展開され、彼の頭を守る。

「一体、何が…!!」

正面にはハッチが開いたままのバルバトスの姿があり、衝撃からの時間を考えると目の前の彼が犯人の可能性が低い。

だが、もう味方機がいない以上、そうした死角からの攻撃ができる手段はファンネルやドラグーンなど、限られている。

「まさか…テイル、ブレード…かな??」

背後ゼロ距離からの熱源をセンサーが感じ取ったことで、ロクトはその正体に気付く。

サテライトキャノンを受けて消滅したと思われたテイルブレード。

それ以外にこの状況が生まれる理由は考えづらい。

「…隕石の陰に隠していたんです。ギリギリまで、動かさずに…。あなたに、必殺の一撃を与えるために」

勇太のバルバトスのテイルブレードなら、ファンネルのように遠隔操作でき、ビーム砲まである。

ゼロ距離からのビームを後ろから受け斬るだけの力はG4Sにはない。

ビームを受けた瞬間、推進剤に引火し、爆発する。

「君の…執念の、勝利だ。おめでとう、悪魔君…そして、綾渡商店街ガンプラチーム…」

敗北を認めたロクトとそのつぶやきはビームの光の中へ消えていった。

「決まったーーーーー!!!激しい猛攻の中、勝利をおさめ、ジャパンカップ優勝の栄光をつかんだのは…彩渡商店街ガンプラチームーーーーー!!」

ハルの試合終了宣言と同時に、モニターには半壊状態のバルバトスだけが映り、会場は歓声に包まれていく。

「勇太君…」

「あいつ、やりやがったな…」

シミュレーターの中から勇太が出て来て、フラフラとミサ達の元へ歩いていく。

「ミサ、ちゃん…カドマツ、さん…ロボ太…やったよ…」

汗だくで疲れ果てた状態でサムズアップする。

左手にはモニターで映っていたのと同じようにすっかりボロボロになってしまったバルバトスが握られていた。

そして、ついに限界を迎えたのか、フラリと前のめりに倒れていく。

「勇太君!!」

駆けだしたミサが倒れる勇太を抱きとめられる。

腕の中で、勇太は無防備な姿をさらしていて、歓声の中にも関わらず眠っている。

それでも、持っているバルバトスを手放すことはないのはさすがとしか言いようがない。

「お疲れさま、勇太君…」

自分の夢をかなえてくれた勇太への感謝の言葉を口にするとともに、いたわるように勇太の頬に触れる。

今のミサも勇太と同じように、周囲に歓声には意識が向いておらず、今は腕の中の勇太のことだけを意識している。

「んんーー!!ゴホン!あーー、お前ら、ちょっといいか??」

わざとらしい咳払いと共に声をかけるが、やはりミサは聞いていない。

セクハラなどと言われるかもしれないが、それでも今の状況を説明しないとまずいと思い、ミサの肩を叩く。

「んもう!!何!?カドマツ!!今、勇太君が…」

「ああーー、それなんだが、モニター…見てみろよ」

首をわずかにひねらせたカドマツはいつの間にか持っていたブラックコーヒーを口にする。

正気に戻ったミサは嫌な予感がし、視線をモニターに向ける。

そこにはミサとミサの腕の中で眠る勇太の姿がばっちり映っていた。

つまり、この甘々な光景がばっちり会場の人々に見られているということだろう。

そのことを察すると同時に、一気に沸騰間近なまでに体温が上がっていく。

見えているわけではないが、顔もばっちり真っ赤になっているだろう。

「多分だと思うが、ネットで中継もされてるぞ」

「ええええええええええええ!!!!!!!!」

 

「うん、ん…」

「ふう、やっと起きたか、この寝坊助」

目を覚まし、ゆっくりとベッドの中から体を起こす勇太を見たカドマツはにやけ面で彼を見る。

状況が飲み込めない勇太は周囲を見渡し、自分がどこにいるのかと時間をなんとなく感じた。

「さっきまでのバトルは…夢…?」

「んなわけねえだろ?勝ったんだよ、お前らは。優勝したんだよ、ジャパンカップで」

「優勝…」

眠ってしまってからここで目覚めるまではほんの一瞬の時間に感じられたためか、勇太は夢だと錯覚していた。

だが、机の目を向けるとそこには夢と思われる光景の中で見たバルバトスの最後の姿がそのままであり、それが夢ではなく現実であることを教えてくれる。

「本当に、僕たちが…」

「信じられないってか。言ってくれるな、あれだけ暴れたのにな。それに…ちゃんとお前のガンプラにも礼を言っておけよ。お前の無茶に付き合って、こうなったんだからな」

まぁ、許してくれるだろうがと付け加えた後で、勇太の夕食を買いに部屋を出ていき、ロボ太もついていく。

1人になった勇太はベッドから出て、スリッパを履いてからテーブルの上のバルバトスの元まで歩いていく。

時刻はもう深夜にさしかかっており、長い時間眠っていたにもかかわらず、疲れが抜けていないのを感じた。

勇太はボロボロになったバルバトスを撫でる。

ジャパンカップに出場し、強敵と戦うことになる以上はこうなることは分かっており、他の参加者のボロボロになったガンプラも見ている。

覚悟はしていたつもりだったが、それでも目の前のボロボロになった相棒を見ると、やはりやりきれないものを感じずにはいられない。

「ごめん、バルバトス…そして、ありがとう…」

謝罪と感謝を口にした後で、勇太はその隣に置いてあるスマホを手に取る。

中には眠っている間に届いたミサからのメールがあり、それを開く。

『勇太君、ありがとう。勇太君がいてくれたから、勇太君が頑張ってくれたから、ジャパンカップで優勝できたんだよ。きっと、天国にいる勇太君のお兄さんも喜んでると思うよ。それと、ミスターガンプラとのバトルだけど、明日の朝11時にやるって決まったよ。こうなったらきっちり修理をして、バトルしないとね。このメールを見たら、電話してね。すぐに行くから!』

「ミサちゃん…ああ、そうか。ミスターガンプラとのバトル…」

白熱の決勝を戦っていたことで、そのことをすっかり忘れていた。

これから修理をしなければ間に合わないが、今手元に残っているパーツだけではバルバトスの修理は終わらない。

急いでミサに電話をし、協力を仰いだ。

 

「ったくよー、なんでこんな真夜中に俺が買い物にいかないといけねーわけ?おまけにそんなに商品もねーなんてな」

コンビニで勇太が食べそうなものを適当に見繕い、帰るカドマツは今のこの状況に愚痴をこぼす。

スーパーではもはや定番なチキン2つとカップのサラダ1つ、そしてホテルのレンジで温めることのできるご飯1つ。

カドマツも研究で深夜まで残業になる際にはよくこのメニューの世話になる。

味は悪くないが、慰め程度の野菜では大した栄養バランスにはならない。

年に一度の健康診断で、医者からもうすぐ大きく体が悪い意味で変化する年齢になっていくから、食生活に気を付けろ、運動をしろと言われているが、そのための休暇ぐらい月に2回くらいは許してほしいものだ。

これだと、一人暮らしで極力自分で炊事をやっている勇太の方が健康的な生活をしていると言わざるを得ないだろう。

コンビニからホテルまでは歩いて5分くらいなため、それで少しは歩数を稼げることを願い、大通りの歩道を歩く。

「うん?あの車…」

向かいの車線でホテル方面へ走るストレッチ・リムジンにカドマツの目が留まる。

街灯はそこかしこにあるとはいえ、暗がりなうえに薄暗い色の窓ガラスをしており、誰が乗っているのかは確認することができない。

だが、この通りを通っても、あるのはジャパンカップやガンプラ関連の施設のみ。

リムジンに乗るようなお偉いさんが来るには場違いで、そのことがカドマツにとって疑問だった。

「こんな時間に誰がここへ…?」

 

「助かった…ポリキャップを統一しておいたから、アザレアのパーツも組み込むことができる」

机の上には修理を終えたばかりのバルバトスが立っており、その双眸を青く光らせる。

欠損した右足パーツは膝から先がアザレアのものになっており、失った破砕砲の替わりとして右手にはリゼルのEパック方式のビームライフルが握られていて、バルバトスのものに戻したバックパックには太刀と滑空砲をマウントし、失った超大型メイスの替わりとして再びソードメイスが握られる。

塗り直しはしたものの、その裏側の破損したりひび割れた装甲やフレームはそのままになっており、リミッター解除をしたうえで見せたあの動きをミスターガンプラに魅せるのは不可能に近く、カモフラージュのためにABCマントを装備している。

「でも、いいの?勇太君。ずっと準備していたあれ、もう出来上がったんでしょ?それに、バルバトスは…」

「だからこそだよ。僕がバトルに復帰してから付き合ってくれたんだ。そのバルバトスで最後まで戦い抜きたい。彼の出番はその後だ」

予想以上に時間がかかったが、あのガンプラは第一形態が完成して、既に出番を待つように箱の中に封印している。

箱の中にはほかにも、そのガンプラを作るために作ったストーリーや設定を書いたノートも入っている。

勇太が作っているのが見え、彼が眠っている間にこっそりその中身を見たが、想像以上に凝った設定やガンプラそのものの出来栄えには驚きを感じるしかなかった。

ガンプラは出来栄えやそれそのものの設定そのものも性能を左右する。

いずれもこれまでミサが見てきたガンプラの中でも、それは最高傑作としか言えない。

それがあまりにも衝撃的で、あまりにも悔しかった。

(全然釣り合ってないな…私って…)

確かにジャパンカップで優勝し、夢だった日本一となった。

今やネット番組では彩渡商店街ガンプラチームが一番の話題となっており、同時に彩渡商店街そのものも紹介され、SNSでもその名前が時折出てきている。

充分ミサの本来の目的である彩渡商店街復活の大きな一歩となったと言ってもいい。

だが、その願いを果たすことができたというものの、どこか満たされないものを抱いていた。

このチームで最も活躍したのは誰か?

誰が言ってもそれは勇太だと、バルバトス・レーヴァテインだというだろう。

決して、ミサとアザレアではない。

だから、そんな勇太にあこがれを抱くとともに嫉妬心を抱いてしまう。

「ミサちゃん、いいの?君もミスターガンプラと戦う資格があるのに…」

「1VS1じゃないとフェアじゃないでしょ?それに、もし私のパーツがなかったら、バルバトスが直せなかったじゃん」

「けど…」

「んもう!!勇太君は何も考えないで、ミスターガンプラとのデュエルを楽しんで!!じゃあ、私は寝るから!お休み!」

「ちょっと待ってよ、ミサちゃ…ん…」

駆け足で部屋を出ていったミサの後姿を見つめる。

(ミサちゃん…泣いていた…?)

一瞬だけ見えた、悲しそうに涙を流すミサの顔。

ジャパンカップに優勝したのに、どうしてそんなに悲しそうなのか、今の勇太には理解できなかった。

 

「はぁーーー!なにやってんだろう。私は…!」

ホテル内の展望台まで走ったミサは袖で涙を拭く。

勇太に今の顔を見せたくなくて飛び出したミサだが、これからどうするのかを何も決めていなかった。

このまま部屋に戻ったとしても、今はどうしても眠る気になれず、外へ出たとしても、この時間はコンビニしか開いていない。

どうしたらいいものかと悩んでいると、展望台に人影が見えた。

今ここにいるミサが言うことではないだろうが、こんな深夜に展望台に人が来るのは珍しい。

今注目なのは彩渡商店街ガンプラチームとミスターガンプラのバトルで、こんな深夜にここで過ごす人は珍しい。

気になったミサは涙を拭くのを忘れ、近づいていく。

そこには涙を拭いているミソラの姿があった。

「ミソラ…ちゃん?」

「ミサ、ちゃん?」

 

「どう…?落ち着いた?」

近くの自動販売機で缶ジュースを2つ買ってきたミサはミソラの隣に座る。

ミソラは何も言わずにそのうちの1つであるアップルジュースを手にし、ちびちびと呑み始める。

泣いていた理由は決勝戦で勇太たちに負けたことだろう。

勝者となったミサがここにいては余計にミソラを傷つけてしまうかもしれない。

放っておけなかったからジュースをあげたが、どう言葉をかければいいのか分からないミサは静かに自分の部屋へ戻ろうとした。

「待って、ミサちゃん…」

「ミソラちゃん…」

「その、ごめんね?決勝戦で、嫌なことしちゃって…。最低だね、私って…」

「嫌な…こと??」

最初はどういうことかわからなかったミサだが、決勝戦のことを思い出していると、ようやく彼女の言っていたことが分かった。

「ううん、そんなことないよ…といっても、正面から闘ったのって、勇太君だけで、私はまともに戦えなかったけど…あはは…」

「うん…。ツキミ、すごく悔しがってた。どうしてあんなに強いんだろうって」

勇太とバルバトスが脅威となる相手であることは分かっていたが、ロクトと手を組んで戦えば勝てるかもしれないと思っていた。

確かに、それ以前の戦いで消耗しており、サテライトキャノンの一撃もあって、バルバトスを本当に撃墜まであと一歩のところまで追い詰めることができた。

だが、最後は勝利への執念からリミッターを解き放った勇太に軍配が上がった。

あの悪魔のような戦い方に翻弄された。

「きっと、私たちと違って、純粋に優勝したいって思っていたから?」

ミソラ自身、優勝したいという気持ちはあった。

だが、それ以上にツキミと一緒に宇宙飛行士になりたいという夢がある。

そのためにジャパンカップを、ガンプラバトルを利用した。

その罪悪感と負けた悔しさがミソラを苦しめる。

「私には、勝つ資格なんて…」

「そんなことないよ!ミソラちゃん!」

「ミサちゃん…?」

「そんなこと言うなら、私だって、勝つ資格ないよ。だって…私は彩渡商店街を復活させるために戦ってたの。宇宙飛行士になりたくて戦ってたミソラちゃんと同じだよ」

ミソラやミサだけではない。

ジャパンカップに優勝して、何かを手に入れたくて、ファイター達は戦っていた。

その思いを否定することはできない。

「だから…勝つ資格がないなんて言う必要なんか、ないと思うよ」

「ミサちゃん…ごめん、ありがとう」

 

「さあ、皆さま!たいへん長らくお待たせいたしました!これより、ジャパンカップ最終日、ミスターガンプラと綾渡商店街ガンプラチーム代表、沢村勇太とのガンプラバトルを開始します!!」

予定時刻の2時間前には既に満席となった客席から歓声が上がり、左右の入場口からそれぞれミスターガンプラと勇太たちが入場する。

「さあ、ミスターガンプラ。長らくバトルの表舞台から姿を消していた彼!初のプロファイターとしていくつもの伝説を作り上げた彼はいったいどのようなバトルを見せてくれるのかぁ!!」

ミスターガンプラはシミュレーターに入り、ガンプラをセットする。

シミュレーター内でも彼の姿に変化はなく、艦内に入るとそこには彼が作った、ケンプファーをベースとし、スターゲイザーのヴォワチュール・リュミエールを背中に装備したもので、これはこの日のために作ったものだ。

「久々のバトルだ。一緒に楽しもうじゃないか。ブレイク・ケンプファー」

乗り込むとともにハッチが開き、ケンプファーをカタパルトに乗せる。

発進前の、バトルに赴く直前のこの緊張感は久々で、肌にビリビリと感じるプレッシャーが今ではとても懐かしく思える。

きっと、それを感じるのは目の前の相手が自分が思っているような強敵と思えるからだろう。

「さて…ミスターガンプラ、ブレイク・ケンプファー、出る!!」

カタパルトから射出されたケンプファーがグレートキャニオンの上空を飛ぶ。

ヴォワチュール・リュミエールが起動し、一気にスピードを上げるとともに高度を下げ、山から山へと飛び移り、重力下であるにもかかわらず、青いバーニアの光を残して猛烈なスピードで飛び回る。

「重力下であるにもかかわらず、通常の3倍のスピード!!まさに赤い彗星のごとき動き!!さすがはミスターガンプラ、衰えを見せていません!!」

 

「ふうう…」

出撃準備を終えたバルバトスのコックピット内で、出撃前にガンプラのスペックの最終確認をする。

武装はいずれも問題ないが、やはりフレームの問題はこのバトルでついて回る。

決勝で見せたリミッター解除したうえでの動きはもう見せることができず、覚醒に耐えられるかも不透明。

だが、今できる最大限の準備はした。

(ミサちゃんの思いも詰まってるんだ。負けるはずがないさ…ミスターガンプラにも)

「勇太君、そろそろ行こう」

「我々は見ていることしかできないが、勝利を願っている」

アザレアとフルアーマー騎士ガンダムも出撃できるものの、今回は1VS1での戦いということから、2人は戦闘に参加することができない。

だが、観客たちとは違ってコックピットの中から直接2人の生の戦いを見ることができる。

「ありがとう、2人とも」

「勇太。せっかく優勝したんだ。後のことは考えず、しっかり暴れて来い」

「はい…ありがとうございます、カドマツさん。沢村勇太、バルバトス・リペアード、出るよ」

全身を包むABCマントをはためかせながら、バルバトスが飛び出し、グレートキャニオンに降り立つ。

向かい合うように2機はそれぞれの山の頂上に降り立ち、ケンプファーは刀を、バルバトスやソードメイスを構え、刃を相手に向ける。

「沢村勇太…君も私も、異なるきっかけがあったとはいえ、今こうして再びバトルの表舞台に出ている。そして、今ここで戦う。私はこの瞬間をとても心待ちにしていた」

「ミスターガンプラ…兄さんがあこがれていた人…」

「沢村勇武…。君のお兄さんは本当にいいファイターだった。いつか戦ってみたいと思っていた分、あの時のことはとても残念だったよ」

「ありがとうございます。でも…僕は兄さんの替わりになるつもりはありません。綾渡商店街ガンプラチームの沢村勇太としての戦いで、あなたに勝ちます!」

「いいだろう!さあ、始めよう!私たちの…バトルを!!」

その宣言と共に、ヴォワチュール・リュミエールの青く光りはじめ、その円盤の中央にその光が収束し、ビームとなってバルバトスに向けて発射される。

バルバトスもビームライフルを撃ち、2つのエネルギーがぶつかり合うと同時にまぶしい光と爆発が生まれた。

2人の戦いのゴングは、今ここで鳴り響く。




機体名:エンハンスドデファンス
形式番号:GAT-X105E+AQM/E-X09SE
使用プレイヤー:神代月見
使用パーツ
射撃武器:ビームライフルショーティー×2(ストライクノワール)
格闘武器:対艦刀
シールド:ガントレッド
頭部:ストライクノワール
胴体:インフィニットジャスティス(角型センサー搭載)
バックパック:ソードストライク
腕:ヴィクトリーガンダム
足:ビルドストライク

沖縄宇宙飛行士訓練学校に所属する神代月見が作った超接近戦型ガンプラ。
一緒にバトルに参加する毛利美空のガンプラであるガンティライユとの連携を想定したもので、アグニによる援護を受けつつ、対艦刀で近接攻撃するというコンセプトとなっている。
頭部カメラが失われたときのため、胴体にも追加でセンサーが搭載されており、両腕に追加装備されているシールド替わりのガントレッドは武装を失った場合には変形させてナックルとしても転用可能になっている。
また、対艦刀には原作では採用されなかったビームライフルの機能も追加されており、ビーム・ジュッテとしても扱えるなど、細部まで改造が施されている。


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第43話 決着、そして…

「さあ、全方位レーザーだ!!」

再びヴォワチュール・リュミエールから発射されたビームが今度は拡散してバルバトスを襲う。

ビームの雨をどうにかグレートキャニオンの山の影を利用して回避していき、ビームが収まったと同時にビームライフルで狙撃する。

しかし、関節に向けてはなったはずのビームは命中したと同時に蒸発し、関節部は無傷な姿をさらしていた。

「やっぱり、関節にもビームコーティングを」

「初期世代の必須アイテムさ!!」

一気に高度を下げ、腰に差している刀を抜いたケンプファーがバルバトスに迫る。

直線で迫ってくる相手に対して、バックパックから滑空砲を出すと、照準をケンプファーの頭部に合わせて発射する。

しかし、やはり相手はブランクがあるとはいえプロのファイターであり、速度を維持したまま最小限に機体をそらすことで高速で飛んでくる弾丸をよける。

おまけに持っている刀で滑空砲を切り裂いてしまった。

「でも…いい!!」

もう使い物にならない滑空砲を強制排除し、ソードメイスと刀がぶつかり合う。

「少し動きが鈍いみたいだ…。けれど、それが君の全力ではない。そうだろう??」

「当たり前です!まだ…全部を見せてるわけじゃない!」

「それでいい!もっと見せてくれ、君の力を!!リージョンカップ決勝から、私は君と戦うのを心待ちにしていた!!」

「リージョンカップ…」

その時、確かにミスターガンプラは勇太の戦いを見ていた。

覚醒エネルギーのバリアでサイサリスの核攻撃から仲間を守り、とどめの一撃を与えた動画は今でもガンプラバトルファンの間で有名になっている。

「待っていてくれたことはうれしいですけど…なら、もっと別の形もあったんじゃないですか??それに、僕は一度…ガンプラを…」

「君は確かに一度、戦う目的を…ガンプラを作る目的を見失った。君のお兄さんのこと、すごくショックだったのだろう。そんな経験がない私がわかるなどとおこがましいことは言わない。けれど、君は戻ってきた。そして、いまの君はお兄さんが果たすことのできなかった夢をつかみ、ついにその先へ向かおうとしている!!私が戦いたかったのは…その先へ向かおうとするまさにその時の君だ!!」

その最高のタイミングがジャパンカップ決勝戦の後のエキシビションマッチ。

その大舞台で互いのガンプラとプライドをぶつけ合う。

理由はただ一つ、自分が作ったガンプラ、自分が戦うガンプラこそが最強だと証明したいから。

「私は…私はただひたすらにうれしい!!こうして戦えることが…ここへ戻ってきたことが!!」

つばぜりあう中で、再びヴォワチュール・リュミエールにビームが収束し始める。

「(どういうことだ…?あのケンプファーの腕のパワーに衰えがない。発射のためのエネルギーを控えていたのか、それとも…)おおおおお!!」

発射直前にバルバトスがケンプファーに頭突きをし、わずかにケンプファーの体があおむけ気味に倒れかけ、発射されたビームが上空へ打ち上げられた。

「フフフ、やはり簡単には通してくれないか」

一時動かなくなったカメラが再びもとに戻り、ソードメイスを構えるバルバトスを見るミスターガンプラはうれしそうに笑う。

VRが生み出す無機質な空間の中で、2人は言葉で表せない熱を胸の中で感じていた。

(兄さん…ここから先に、もう兄さんが作ったレールはない。けど…いいよね?僕で、いいんだよね…?兄さんと一緒にレールのない道を進むのは)

(私に彼の数年間をとがめる資格はない。私たちは同じだ。一度は見失った道を、ガンプラの道をこうした再び歩き出そうとしている。感謝する、君の戦いが私に道を示してくれた)

もう、これ以上の言葉は必要ない。

ただ必要なのはぶつかり合う刃とかすめる弾丸、そして光だ。

「さあ、わかっているだろう。この高まりを持っているならできるはずだ!」

「はあ、はあ…わかって、います!!」

「「勝負だ!!」」

2体のガンプラが一斉にオーラに包まれていき、ケンプファーの両肩や脚部をはじめとした装甲の一部が展開し、一気に放熱していき、装甲と同じ赤のオーラを帯びる。

一方のバルバトスも、一度は青いオーラを帯びていたが、それが次第に炎のようなオレンジへと変わっていく。

「主殿…??」

「覚醒の色が…変わった??」

今まで青だったバルバトスの、というよりも勇太の光が変わった意味が観戦するミサとロボ太にはわからなかった。

まだまだ覚醒のすべてを知ってるわけではない彼らには仕方のないことだ。

「覚醒の光…ここまでは君のお兄さんの勇武君が歩めなかった道を進んでいた。だが…もう彼は沢村勇武の弟ではなく、ただ一人のファイターとして…『確立』した。自分自身を」

「この感覚…これなら、いける!!」

距離をとっていた2機が再び接近し、つばぜりあう。

強烈な覚醒エネルギーのぶつかり合いが衝撃波となって周囲を駆け巡り、岩山にひびが入り、クレーターが生まれる。

しかし、この状況で不利になるのは勇太の方で、そこから再びヴォワチュール・リュミエールのビームが飛んでくる。

ナノラミネートアーマーで、ビームのダメージは軽減されるとしてもモニターが焼かれてしまい、決定的なスキを与えてしまう。

そして、バルバトスによってコックピットを一突きされて沈黙したグレイズ・アインのようになる。

(思い出せ…確か、ヴォワチュール・リュミエールは太陽風を受けて…)

太陽から放出される太陽風や、荷電粒子をリング周囲に展開した微細な量子の膜で受け止め、空間構造への干渉を介し光圧へと変換して推力にする。

これがヴォワチュール・リュミエールシステムであり、微小であったとしても、それを受け続ける限り、機体が持つ限りはどこまでも加速し続けることのできる、外宇宙を目指す人類の夢のシステム。

(だとしたら、もらっているのは機体のエネルギーじゃなくて、その円盤そのもの!!)

外からエネルギーを受け取ることができるからこそ、機体そのものの出力を使わずにビームを撃てる。

「まさか、同じ手段をもう1度使うと思ったかな?」

「え…?」

「今度は…違うぞ!!」

今度はビームではなく、そのまま推力に変換していき、それに押されたバルバトスが後ろに下がっていく。

バルバトスのツインリアクターを最大まで高めても、ヴォワチュール・リュミエールの無制限な加速力と推力に対抗できない。

その力はアポロンAによるプロパルションビームの供給を受けたとはいえ、ストライクノワールを地球と金星のはざままで吹き飛ばす、そこから669時間で元のトロヤステーションまで帰還することができたことからもすでに証明されている。

その推力によってバルバトスが一気に押し込まれていき、背後の岩山に激突する。

「うわああああ!!」

「このままでは、岩山に押しつぶされるぞ!さあ、どうする!?」

「覚醒と…ヴォワチュール・リュミエールのエネルギー…すごい、ぐうう!!」

岩山に押し付けられているバックパックの損傷を告げる警告音が鳴り響く。

覚醒のエネルギーも手伝って、今のケンプファーの推力はバルバトスをはるかに上回っている。

「まだ…まだぁ!!」

「何!?」

ジリジリと背中を引きずりながら機体を下に下げていき、右足を使って巴投げをしてみせ、逆にケンプファーを顔面から岩山に激突させる。

ヴォワチュール・リュミエールをカットしたものの、それでも取り込んだエネルギーを放出しつくさなければ止まらない。

イノシシのように岩山に突っ込み続け、刀にもひびが生じる。

「く…ならば、これでぇ!!」

奥の手と言わんばかりに残ったエネルギーがすべて強烈な光に変換し、ケンプファーの周囲を覆いつくす。

「ぐ…ビームに推力だけじゃなくて、光まで…!!」

「ガンプラは自由…そういうことさ!!」

モニターが光で真っ白に染まり、補正が終わったのと同時にコックピットを激しい衝撃が真正面から襲う。

同時にバルバトスは再び吹き飛ばされてしまい、地面をこするように滑った後であおむけに倒れた。

そこには覚醒の光をまとったままのケンプファーの姿があり、右拳を前に突き出していた。

「やはり、覚醒の力とガンプラの力をシンプルに、そして力強く出すとしたら、これが一番いい」

思わぬカウンターで刀を失う羽目になったものの、今のミスターガンプラにとってはそれは些細な問題だ。

ただ、彼はこの一撃でコックピットを破壊して、終わるだろうと踏んでいたが、まだ撃墜判定が出ておらず、バルバトスそのものも両手を使って起き上がっている。

「なるほど…とっさにコックピットに覚醒エネルギーを集中させて、それがバリアになって撃墜を防いだということか」

コックピットはわずかにへこんでいるだけで、それ以外に損傷していない。

だが、撃墜は免れた勇太だが、だからといって状況が好転したわけでもない。

(ソードメイスはもう使えない…スラスター出力は…ダメージを考えたら3…いや、4は減ってる。太刀は無事だけど…あの拳相手じゃ、焼け石に水か…)

刀身が大きくひび割れたソードメイスでは、こぶしを受け止めることすらできないだろう。

だとしたら、もう相手の土俵で戦うしかない。

それが今できる最高の手段だと考えた勇太はソードメイスを投げ捨てると同時に、もう出番のない太刀を強制排除する。

そして、顔を相手に向けたまま体を横にした。

「半身…空手の基本の構えか。どこかで習ったのかな?」

「授業で教わっただけです。見様見真似ですけど」

「けれど、このまま離れていても何も変わらないな。なら、近づくとしようか」

ヴォワチュール・リュミエールを使わずにケンプファーが歩いてバルバトスに迫り、バルバトスもまた徒歩で近づいていく。

ケンプファーのヴォワチュール・リュミエールにはひびが入っており、おまけに先ほどの岩山に激突した影響で先ほどのような加速もできなくなっている可能性が大きい。

一方、バルバトスはバックパックに著しい損傷があり、勇太の思った通り、大きく出力を低下させている。

そんな状態で推進剤に火がついていないのはもはや奇跡としか言いようがない。

やがて2機が至近距離まで接近すると、互いの既に握りしめた右拳がぶつかり合う。

覚醒エネルギーがこもった拳のぶつかり合いは衝撃波を生み出し、フィールドを駆け巡る。

少し距離が離れていたミサとロボ太にも、機体を介してビリビリとその衝撃が伝わってくる。

「すごい…」

「仮に助けに行けたとしても、これでは…主殿の邪魔になるだけだ」

武装をなくした2機の格闘。

アムロとシャアの最期の戦いを彷彿とさせる彼らの戦いを邪魔することはできない。

「なんで…一緒に勇太君と戦ってきたのに。ジャパンカップで優勝したのに…どうして…」

「世界は…広いのだな」

 

「うおおおお!!」

ケンプファーの右拳がバルバトスの頭部に直撃し、ナノラミネートアーマーに大きくひびが入るとともに左のメインカメラが砕ける。

網膜投影された画面の左半分がブラックアウトし、半分になった視界に勇太は舌打ちする。

「ちぃ!!」

「動きが鈍くなってきたぞ!?もう限界かぁ!!」

続けて左の拳を叩き込もうとするケンプファー。

死角となっており、拳の位置は分からないが、ここでも阿頼耶識システムが生きてくる。

疑似的に脳内にできた空間認識能力で予測し、放たれた拳を左手で受け止める。

「何!?」

「まだまだぁ!!」

受け止めた拳をつかみ、強引にケンプファーを引き寄せるとともに左ひじに向けて右の手刀を振り下ろす。

無理な格闘戦を継続したことで、関節部分への負荷が大きかったのもあるだろう、バキリと大きな音を立ててケンプファーの肘から先の左腕が折れてしまう。

「これは…!!」

「うおおおお!!」

更に叩き負った左腕を武器代わりにしてケンプファーの頭に叩き込もうとするが、その寸前にケンプファーが右手で受け止める。

だが、バルバトスにはまだ自由な左拳がある。

それをコックピットに向けて叩き込もうとするが、そういう攻撃が来ることはミスターガンプラも分かっており、逆に両手でバルバトスの右腕をつかむと同時に先ほどのお返しと言わんばかりの巴投げを放つ。

「しまった!!うわああ!!!」

「これで…お互いに、腕は1本だけだ!!」

投げられたバルバトスの右腕はバキバキと肩から離れていく。

互いの機体のダメージは限界に近付いている。

片腕だけになり、スラスター残量もわずか。

視界についてはケンプファーが健在で、バルバトスに関しては右半分だけしか見えない。

長い時間の覚醒のせいで、二人とも疲労がひどい。

「もう、これ以上時間をかけると泥仕合になりかねないな…!」どうだい?勇太君。ここはもう…拳1発でお互いにきれいさっぱり蹴りをつけるというのは…?」

ケンプファーのモニターには機体ダメージの表示でいっぱいで、もう無事な箇所がどこかは片手で数えるくらいしかない。

それはバルバトスも同様で、超硬度レアアロイのフレームはもう悲鳴を上げていて、ナノラミネートアーマーも殴り合いによってもはや盾としての意味をなさなくなっている。

「そう…しましょう。この一撃で、最後…!!」

互いに生き残っている拳を握りしめる。

そして、機体を包むオーラが消え、互いの拳に覚醒エネルギーが集中し、まぶしい光を放つ。

すべての覚醒エネルギーがこもった状態の腕は徐々にひび割れてきており、それが最期の一撃であることを互いの主に教えている。

「この一撃に、すべてをかける!!」

「決着だ!勇太君!!」

2機が走り出し、拳を深く下げる。

そして、互いに至近距離となると同時に拳を放ち、再び最初の時のように拳がぶつかり合った。

ぶつかり合い、最初に動きがあったのはバルバトスで、左手の甲に大きなひびが入る。

「砕け散れ!!私の魂の一撃で!!」

「砕けるもんか!!バルバトスには…僕だけじゃない!ロボ太の…カドマツさんの…ここまで戦ってきた皆の…」

「何!?これは…!!」

炎のようなバルバトスのオレンジの拳が更に燃え上がっているように見えた。

疲れ果て、限界に達しようとしているのに、まだ覚醒の力が上がることがミスターガンプラを驚かせる。

「そして…ミサちゃんの思いが、宿っているんだぁ!!」

「主殿!!」

「いっけぇぇぇ!!勇太君!!」

「あああああああ!!」

勇太の叫びと共に、ケンプファーの拳にひびが入る。

同時にひびが右腕や胴体、そして頭部にも伝わってくる。

コックピットハッチにも大きな裂け目ができ、そこからミスターガンプラはバルバトスを見た。

驚きの余り言葉を失っていたミスターガンプラだが、疑似的な形ではあるが、肉眼でバルバトスを見たことで今の現象の意味を知った。

「そうか…『若さ』、か。それゆえの特権、というものか…」

フル・フロンタルのセリフを思い出す。

『過ちを気に病むことはない。ただ認めて、次の糧にすればいい。それが、大人の特権だ』

だが、大人に特権があるというなら同時に子供には『若さ』という特権がある。

そのことを、失っていたものを思い出したミスターガンプラは笑みを浮かべる。

「見事…だ」

左腕を失ったケンプファーは機能を停止させ、グラリとその体を横に倒す。

「ミスターガンプラ!!」

阿頼耶識システムを解除し、バルバトスから飛び降りた勇太は倒れたケンプファーのもとへ駆けつける。

すると、自力でコックピットをこじ開けたミスターガンプラが中から出て来て、無事な姿を見せる。

「はははは…見事だよ。勇太君!私の傑作であるブレイク・ケンプファーをここまで叩きのめすとは」

「ああ…そ、その…」

「ははは。気にするな!むしろ感謝している!君のようなファイターと戦えたことを。最高のバトルだったよ」

思いっきり笑った後でミスターガンプラは勇太に右手を差し出す。

曇りのない笑顔で、やり切ったという気持ちが強い彼には敗北の悔しさはみじんもない。

それにつられるように、勇太も笑顔になり、ミスターガンプラに向けて手を伸ばそうとする。

「まったく、はしゃぎすぎだよ。こんな『遊び』に」

「何!?」

急に倒れていたケンプファーが飛ばされ、岩山にぶつかると同時にこれまで蓄積したダメージもあってバラバラになる。

勇太とミスターガンプラの周囲に大きな影ができ、2人はその影の主に目を向ける。

「ゴールドフレーム…??」

ゴールドフレームをベースとし、左手に鞘に入った刀を握るガンプラで、なぜそこに別のガンプラが入ってきたのかは誰にもわからなかった。

右手にはバルバトスが装備していた太刀が握られていた。

「ええっと…ここで乱入の予定はないはずですが??」

思わぬハプニングに会場が静まり返り、ハルも動揺する。

一方のミスターガンプラはそのガンプラを見て、そして先ほどの声で思い出したかのようにサングラスに隠れた目を大きく開く。

「まさか…君はウィル、ウィル少年か!?」

「たまたまテレビをつけたら、引退したチャンプがバトルをしているものでね。チャンプ、どうやらこのバルバトスのファイターに負けたみたいだけど、今回もまた勝ちを譲ったのかい?」

「勝ちを…譲った??」

「違う!私は全力で戦ったよ!!」

「へえ…8年前は僕に勝ちを譲ってくれたのに?」

(8年前…??)

ちょうどそれはミスターガンプラがプロを引退したのと同じ時期。

彼が引退した理由は公表されておらず、今でもファイターの間で一つの謎として語り継がれている。

しかし、勝ちを譲ったと言われたが、実際にボロボロになるまで戦ったからわかる。

彼は手加減なしで戦ってくれたことを。

そして、紙一重とはいえ、自分が上回ったことを。

「やぁ、君よかったね。手加減してくれる優しいチャンピオンで…」

「…!!」

「勇太君、よせ!!」

ミスターガンプラの制止をよそに、再びバルバトスに乗り込み、阿頼耶識システムと接続する。

再起動したバルバトスは立ち上がり、目の前の金色のガンプラをにらむ。

「へえ、戦うつもりなんだ?でも、優しいチャンプがこう言ってるんだ。日本一のトロフィーと…あとこれ、落とし物だろ?これを持って帰りなよ」

右手の太刀を投げ渡すウィルの言葉が勇太を逆なでする。

「黙れよ!!ミスターガンプラを…このバトルを汚すなよ!!」

そして、左手だけで太刀を握った状態で相手に突っ込む。

バックパックの悲鳴を気にかけず、全開にしていた。

「へえ…ボロボロなのにすごいスピードだ」

さすがは勝ち残っただけのことがある。

ほんのわずかしか戦いぶりを見ていないが、それでも強いということは分かる。

それは素直に評価するが、それはあくまでも自分が評価の中に入っていなければの話だ。

金色のガンプラが刀を抜くと、正面から突っ込んでいき、2機が交差する。

交差し、距離を取ったと同時に2人が止まり、地面に着地する。

「止まって、見えたよ」

金色のガンプラが納刀した瞬間、バルバトスの胴体が真っ二つに切り裂かれた。

現地に駆け付けたアザレアのカメラがその瞬間をとらえていた。

「勇太君!!こんんおぉぉぉぉぉ!!」

持っているビームライフルをはじめとした火器を金色のガンプラに向けて一斉発射する。

激しい弾幕の中を金色のガンプラは泳ぐように回避していき、アザレアに肉薄し、その頭を右手でつかむ。

「え…?」

「へたくそ」

見下すような声と同時にアザレアが持ち上げられ、そのまま頭から地面にたたきつけられてしまった。

重量があるはずのアザレアが軽々と持ち上げられ、あの弾幕を一発も当たることなく凌がれたショックでミサは言葉を失い、操縦桿を握る手の力が抜けていく。

「主殿、ミサ!!」

遅れてやってきたフルアーマー騎士ガンダムは2人を倒した金色のガンプラをにらむ。

金色のガンプラがゆっくり近づくが、フルアーマー騎士ガンダムは剣を構えるだけで動きがない。

「へえ、君は力の差が分かっているみたいだね」

「くっ…!!」

歩いてくる相手にロボ太は悔しげな声を出しながらも動くことができない。

そのまま素通りされ、軽く頭を撫でられたことに屈辱を覚えるが、既に彼の思考があのガンプラに勝てないことをはっきりと伝えていた。

そして、金色のガンプラは何事もなかったかのように消えてしまった。

「なんなんだよ、もう…」

空を見上げるミサは何が何だかわからなかった。

ジャパンカップで優勝したのに、勇太がミスターガンプラに勝ったのに、せっかく夢がかなったのに、その喜びがすべて泥を塗り託された。

「すまない…すべて、私のせいだ…」

ミスターガンプラはただ、それだけしかつぶやくことができなかった。

せっかくの戦いを台無しにしてしまった自分が憎くて、仕方がなかった。

 

「お疲れさまでした、坊ちゃま」

「別に。全然強くなかったし」

スタジアムの中にある練習場を出たウィルが先ほど使ったガンプラを左手で握った状態でドロシーと共にその場を後にする。

彼はドロシーにここのシミュレーターの信号を操作させて決勝のフィールドに侵入していた。

今は元に戻して、痕跡もすべて消去させている。

「それで、いかがされます?このままアメリカへ」

「そうだね、もうここでやることは…うん?」

左手に違和感を覚えたウィルは持っているガンプラを両手で包むように手にする。

それを見た瞬間、彼の目が大きく開いた。

コックピットから見て左の腹部にひび割れがあった。

シミュレーターに入る前にチェックしたが、そのようなひび割れはなく、ドロシーも一緒に確認している。

(まさか…あの一撃で)

心当たりがあるとしたら、あのボロボロのバルバトスと切り結んだ時だ。

おそらく、その時にこの傷が入ったのだろう。

そして仮に、ほんのわずかでもその刃が近づいていたら、コックピットまで切り裂かれていた。

「ガンダムセレネスに…こんな傷を入れるなんて」

「坊ちゃま…?」

「ドロシー、アメリカへ戻るのは少し後だ。行かなければいけないところができた」

「はい…??」

「彩渡商店街だ。あそこに行ってから、帰国する。みんなにもそう伝えてくれ」

ドロシーと一緒に迎えの車に乗り、発車する中でウィルはスタジアムに目を向ける。

同時に、持っているセレネスを握りしめた。

(沢村勇太…叩き潰してやる…!本気の君を、ね!!)

 




機体名:ブレイク・ケンプファー
形式番号:MS-18EBR
使用プレイヤー:ミスターガンプラ
使用パーツ
射撃武器:なし
格闘武器:ガーベラ・ストレート
シールド:なし
頭部:ケンプファー
胴体:シナンジュ
バックパック:スターゲイザー
腕:武者ガンダム(両肩にIフィールド・ジェネレーター内蔵)
足:ガンダムヴァサーゴ

ミスターガンプラがエキシビションマッチのために用意したガンプラ。
1VS1での決闘を想定した装備となっており、手持ちの武装はガーベラ・ストレート1本のみとなっているが、その切れ味はフェイズシフト装甲をも切り裂くほどのものとなっている。
また、スターゲイザーのヴォワチュール・リュミエールは推進力にするだけでなく、ビーム砲やフラッシュバンへの転用も可能になっており、これは原作にはない。
ミスターガンプラの『ガンプラは常識に縛られない、自由な発想によるもの』という信念の表れで、おそらくは彼の想像が止まらない限りはさらなる応用を見せる可能性があり、それこそがブレイク・ケンプファーの覚醒に次ぐ大きな武器と言える。


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第44話 ミスターガンプラの懺悔

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)

マクギリス・ファリド事件と鉄華団壊滅から16年。
地球圏を包んでいたはずの安息が1発の銃弾によって打ち砕かれた。
6年前にギャラルホルン代表選挙中にラスタル・エリオンが殺害された。
犯人は捕まらず、正体も不明ということで、多くの憶測を生んでいった。
それをきっかけにラスタルによって一度は作られたはずの戦後秩序が崩壊し、発言力を低下させていた経済圏が再び独立の機運を高めていった。
そして、各地で独立運動及び独立戦争が起こるようになり、地球圏の治安が悪化の一途をたどることとなった。
宇宙では宇宙海賊をはじめとしたモビルスーツ、モビルワーカー、更にはヒューマン・デブリを使った反社会勢力の出現で、安寧の日々がゆっくりと奪われつつあった。

第1話 ロストナンバー
クリュセ郊外のトウモロコシ畑で、暁・オーガスは政治から既に身を引いたクーデリアと生みの親であるアトラの2人の母親、そしてクッキー、クラッカという2人の姉と共に生活していた。
しかし、クリュセに宇宙海賊が襲撃され、混乱が起こる。
暁は家族を守るため、トウモロコシ畑の地下深くに隠された失われたガンダム・フレームに乗り込む。
かつて、バルバトスに乗り込んだ父、三日月のように。




「もう、8年も前になる…。当時の私は多くの国際大会で優勝し、まさにノリにノっていた」

史上初のプロファイターとして認定され、多くの功績を重ねた彼はまさにファイターの理想形として多くのメディアにもてはやされていた。

多くのスポンサーがつき、収入もあって、順風満帆の日々。

特に8年前がまさにその最高潮であり、ミスターガンプラと呼ばれ始めたのもちょうどその時期だ。

「あるとき、私はアメリカで行われた大会に参加し、そこでウィルという少年と出会った」

8年前、初めて彼と会った時のことは今でも記憶に焼き付いている。

純粋にミスターガンプラのことを憧れ、彼みたいになりたいという思いで、ガンプラを始めたと聞いた時はうれしかった。

「私のファンだと言ってくれたその少年は、決勝で私に挑戦すると笑った。私はその子に約束した。力を尽くした素晴らしいバトルをしよう…と。口ではそういったが、まさか本当にその子が決勝に残るなんて思っていなかった。だが…ウィル少年は決勝の舞台で、私の前に立った」

その時は本当に驚いたと同時に、うれしいとも思っていた。

彼が自分と交わした約束を守るために、ここまで勝ち残ってくれていたことに。

そして、その決勝戦で感じた高揚感は今でも忘れられない。

「彼とのバトルは…私が久しく忘れていた、互角の相手と戦う高揚感を思い出させてくれた。年の差なんて関係ない。新たなライバルとの出会いを心から喜んだ。お互いがお互いを高めあい、戦っている間にもさらなる成長を遂げていく。そして、その素晴らしい時間は瞬く間に過ぎ…彼は私に勝った。私はとても晴れやかだった。もちろん、決して悔しくなかったわけじゃない。それ以上に素晴らしい満足感が私を満たしていた」

優勝トロフィーを手に入れ、ミスターガンプラに勝ったことは、その時のウィルにとっては人生最高の時間だっただろう。

もちろん、新たなライバルと出会えたミスターガンプラにとっても。

「しかし、私のスポンサーはそれを許してくれなかった。私がそれに気づいたのは翌朝のニュースサイトを見た時だ」

スポンサーが用意してくれたホテルの一室でくつろぎ、来週からの移動を踏まえてこれからの予定を考えるため、まずは朝のシャワーを浴びてからニュースを見る。

プロとなってからの当たり前のような行動の中で、本当にそれは衝撃的だった。

そして、これまでは自分にお金をはじめとしたものを提供してくれるスポンサーをありがたい存在としか馬鹿正直に考えていなかった自分があまりにも世間というものを知らなかったのだと思い知らされた。

「ミスターガンプラ、少年に夢を与える…確か、そんなタイトルだったか。努力の末に勝ち残った11歳の少年にを勝たせるために、私が勝利を譲った。私は全力で戦ったわけではない…そういうことになっていた」

そのニュースを流したのはアメリカのネットを中心とした大手新聞社であるANS社だ。

記者本人がどのような思いでその記事を書いたのかは分からないが、おそらくこれは会社の指示だったのだろう。

そして、ANS社はスポンサーの1社であり、当時はネット広告にも自分を使っていた。

「私はホテルを飛び出して、彼の元へ向かった…。しかし、我に返ったとき、私はホテルの前に戻っていた。手には傷付き、折れ曲がった、あの大会のトロフィーが握られていた。もう二度と、あの時のようなバトルには出会えないと思った。ならば、私のバトルはもはや、日銭を稼ぐだけの物だ。私はその日、ファイターであることを辞めた。あのバトルは心無い大人の思惑で嘘にされてしまった。だから、せめてあのニュースの見出しだけでも本物にしよう。奇抜なファッションに身を包み、道化を演じてでもステージで皆に夢を与えよう。私はミスターガンプラなのだから…」

 

過去の話を終えたミスターガンプラはミヤコから出されたビールを口にする。

アフロを外し、付け髭のない彼は8年前と変わりのない、若々しい整った顔立ちの青年に戻っていた。

今の苦悩に満ちた表情からはミスターガンプラの、道化の面影はない。

「リージョンカップ決勝戦で勇太君のバトルを見たとき、現役時代を思い出した。あろうことか立場を利用して、エキシビションマッチを予定に組み込んでしまったよ。結局、それが君たちの優勝に水を差すことになるとは…。こんな私がバトルをするべきではなかった。そうであれば、彼もあんなことは…」

「ミスターは悪くないよ。勇太君と全力で戦ってたの、分かってるから」

それはガンプラから見続けてきたミサだから言える。

互いにもう修復不能なまでのダメージを受け、それでもなお動き続け、拳をぶつけ合わせた2人の戦いに魅了されたのだから。

「ねえ、ミスター。その子はどうして突然姿を見せたんだい?」

「私がバトルをするのが、許せなかったからでしょう」

わざと負けて、夢を与えることで約束を破った彼を許すことができない。

あれからウィルとは一度も会っていないミスターガンプラの脳裏に残っているのは、彼の自分を憎む姿だけだ。

「そうかな…そうなのかな?それだけなのかな?」

「しかし、それ以外に理由は…」

「さ、辛気臭い話はそこまで。早く食べないとご飯が冷めちゃうわ」

「おう!そうだそうだ!やなことは飲んで食べて忘れちまえ!!」

「うん…うん、そうだね。私たち日本一になったんだよ!商店街の名前が日本中にとどろいたんだよ!」

「そういえば、クリーニングの荒井さんから電話あったよ。もうすぐ出稼ぎから戻ってくるって」

「うちにも、電気屋の和登から連絡あったぞ!商店街復活も夢じゃなくなってきたな!」

ユウイチたちはすっかりこれから復活し、戻ってくる商店街への活気の話でもちきりになった。

ミサも、その流れの中で、とにかく優勝したという事実を胸に刻みつけようと、食事に手を伸ばした。

「そういえば、勇太君はどうした?どうして、かれはここにいないんだ…?」

「うん。今はバルバトスの修理をしたいからいいって…」

 

「バルバトス…」

暗い部屋の中で、すっかり片腕とフレームが露出した、すっかりボロボロのバルバトスを勇太はじっと見つめる。

誘われたときは修理を理由に断って戻ってきたが、今も勇太はバルバトスに手を付けていない。

「…違う。ミスターガンプラは本気で戦ってくれたんだ。それにしても、あのガンプラは…」

勇太の頭に浮かんだのはガンダムセレネスとウィルという少年だ。

大きく傷ついていたとはいえ、バルバトスを真っ二つに切り裂いてきた。

仮に万全の状態で戦ったとしても、その超硬度レアアロイでできたフレームを切り裂くだけの力を持つあのガンプラとファイターに勝てるかどうかは不透明だ。

「ガンダムセレネス、ウィル…次に戦うときは、僕が必ず勝つ…!そのためには」

彼と戦う機会が来るかどうかは分からない。

彼と戦うだけの技量があるかはわからないが、少なくとも、彼と戦うためのガンプラは既にある。

勇太は大会中、ずっと作り続けていたガンプラを手に取る。

ダークグレーの装甲に身を包み、一本角のようなブレードアンテナを額から後方に下がるようにつけたガンダム・フレーム。

腕部、大腿部、コクピット周辺の装甲が無く、むき出しとなったフレームが見え、バックパックもバルバトスのものに近い貧弱そのものと言える。

そばにはそのガンプラの装備と思われる日本刀と裸の女性のレリーフが刻まれた楯が置かれている。

だが、これこそがずっと作ってきた勇太のガンプラだ。

「バルバトス・レーヴァテイン…。ありがとう。君の魂は新しいガンプラが引き継ぐよ。…ゲーティアが」

 

「聞いて聞いて!!」

「いきなり、どうしたの?ミサちゃん」

数日後、ゲーティアを見せようと店にやってきた勇太にさっそくミサが底抜けな笑顔を見せる。

その様子は帰っている間に見せたふてくされたものではなかった。

本当なら、翌日に祝賀会蹴って木のお詫びもかねて行くつもりだったが、どうしても優勝と敗北の混ざった気持から抜け出せずに、すっかり比伸びしてしまった。

元の調子に戻ってくれたことに安心しながら、勇太はミサの話を聞く。

「どうしたの?朝から元気に…ふああ」

「勇太君が元気なさすぎなの!見てよこれ!!」

ミサがポケットの中から白い横長の封筒を出し、それを勇太に見せる。

受け取った勇太は宛名と住所を見ると、すべて英語で書かれていた。

「ええっと、これは…」

「世界大会の招待状だよ。ほれ」

奥から出てきたカドマツが勇太に紙を渡す。

それはすべて日本語で書かれており、おそらくは彼が日本語に訳してくれたのだろう。

「ええっと、8月20日から25日の5日間の世界大会。会場は宇宙エレベーターで、決勝戦は静止軌道ステーション…えええ!?」

「当然、参加だろう!」

「当然でしょ!勇太君も、そうだよね!!」

「え、う、うん…。世界、大会か…」

急に話でついていけていない勇太だが、少なくともさらなる戦いが待っていることに喜びを感じた。

おそらく、ゲーティアが思いっきり戦える場所だろう。

「当然だよね?君が参加してくれなきゃ面白くない」

「…!」

急に入口から聞き覚えのある、しかも今現在で最も強烈に記憶に残る声が聞こえ、勇太たちがそちらに目を向ける。

そこにはウィルとドロシーの姿があり、表にはリムジンが止まっていた。

そして、ウィルの左手にはアタッシュケースが握られている。

カドマツはジャパンカップ中にみたリムジンを頭に浮かべる。

「えっと…どちら様?」

「やれやれ。商売敵なのに顔も知らないの?」

「商売敵…タイムズユニバースのこと?」

「で、そのCEOだな」

「ええ…!?なんでこんなところに!?」

CEOが少なくとも社長レベルの偉い人間だということだけは分かっているミサは話で軽く聞いていたとはいえ、自分と年齢のあまり変わらない少年がその役目を負っていることに驚くと同時に、その謎に疑問を浮かべる。

タイムズユニバースレベルの大企業が日本の都内にあるとはいえ、小さなさびれた商店街に来る理由が分からない。

「こっちに作った百貨店が振るわないから、視察にね。で、彼女は僕の秘書みたいなものだ」

「お初にお目にかかります。ドロシーと申します。ウィル坊ちゃまが尊大な態度できわめて不愉快でしょうが、なにとぞご容赦くださいませ。わたくしの顔に免じて、何卒」

「ドロシー…?」

まるでウィルの保護者のような口ぶりと彼女のウィルをけなすような発言にウィルは毎度のことながら顔を引きつらせる。

勇太の眼にはドロシーがウィルの保護者のように見えて仕方がなかった。

「は…わたくし、初めての日本に少々浮かれているようです」

そのことは日本に到着してからわかっていることだ。

リムジンの荷台を含めた中の約半分がドロシーが購入した日本土産であふれている。

おまけに泉岳寺やスカイツリー、東京タワーに目を輝かせる彼女は仕事中であるにもかかわらず、仕事をやったうえではっちゃけていた。

「さて、お嬢さん。一つ勝負をしようか」

「勝負?」

「奇遇にも、僕も世界大会の招待状を持っている」

「なんで…?タイムズユニバースにはガンプラチームなんてないでしょ!?」

「うちの一部門が宇宙事業をやっていてね。宇宙エレベーターにも出資している。そのツテでちょっとお願いしたのさ。それで…僕が勝ったら、この商店街立ち退いてもらいたいんだけど」

「え…えええ!?そんな勝負、受けるわけないでしょう!?」

これまでの戦いは確かに商店街を宣伝するという意味合いがあったが、負けたからといって商店街をつぶすことにはならなかった。

だが、この戦いは明らかに負ければ終わりのデスマッチといえるもので、そんなものを受ける理由はミサにはなかった。

ウィルは当然、そんなことに彼女が応じるわけがないとは分かっている。

彼の視線はミサから勇太に向けられる。

「お嬢さんは別に出なくても構わないよ。僕が戦いたいのは…君だからね。沢村勇太君」

「…やっぱり、君があのゴールドフレームの」

「うれしいな、もう覚えてくれたいたのか。あれはガンダムセレネス。この間のエキシビションマッチでは、やってくれたね」

ウィルはアタッシュケースを開け、その中にあるガンダムセレネスを勇太に見せる。

それを見た瞬間、ミサもミスターガンプラと勇太の戦いに水を差された記憶がよみがえる。

「あれ…このガンプラ、ひびが入ってない?」

「消耗していながら、まさか知らないうちにこんなダメージを与えてくれてたなんてね…。君のことを甘く見ていたよ」

もし遊ぶように戦って、時間が伸びていたら損傷部分の爆発でコックピットがやられていた可能性がある。

機密情報を手に入れ、アルビオンへ凱旋しようとするさなかに損傷個所の爆発で最期を遂げたバニングのようになっていたかもしれない。

「これを僕の全力だと思われたくないし、君もあれは全力ではなかったって言い訳してほしくないからね。今度こそ…もう1度バラバラにしてあげるよ。その…君の持っている新しいガンプラをね」

セレネスをケースに戻し、ドロシーに渡した後で、勇太が持つゲーティアに指をさし、不敵な笑みを浮かべる。

たとえガンプラが代わったとしても、勇太をあの戦いのように再び倒せるという確固たる自信を持っていた。

「受けてくれるよね?まあ、駄目ならこの辺一帯を即金で買い上げるけど」

「そんなくだらないことをせずに、素直に戦ってほしいって言えないの?」

「…!」

勇太のにらむような視線と怒りをこらえた低い声に笑みを浮かべていたウィルも表情を硬くする。

「勝負なら、受ける。けれどこの戦いに彩渡商店街を巻き込むな」

「いや…巻き込ませてもらうよ。そうじゃないと、絶対に本気の君を見せてくれないだろうから」

「君は…ファイターを名乗る資格はない」

「君に…ファイターの資格とかなんとかいってもらいたくないよ。お兄さんの死を言い訳に逃げた君にだけはね」

2人のにらみ合い、殺気を宿した眼光のやり取りにミサは戦慄する。

特に穏やかで弱気な勇太がここまで本気に怒るところを見たのは初めてだった。

「その発言…後悔させてあげるよ。じゃあね、宇宙ステーションで会おう。ドロシー、帰るよ」

「では、皆さま。ごきげんよう」

ウィルの後に続くように、ドロシーが一度お辞儀してから店を出る。

リムジンが発車し、エンジン音が聞こえなくなったところで、ミサは今の状況を頭で整理をする。

「ええっと、これって…勝負に応じちゃったってことだよね。しかも、負けたら…」

「どうすんだよ?あいつは勇太と戦えればそれでいいって感じだがよ。けどよ、リーダーはミサ、お前だろ?お前、どうなんだよ」

この会話の中で、ミサはすっかりのけ者にされていた。

ウィルのターゲットは最初から勇太で、ミサは眼中になかった。

おまけに勇太は怒っていたこともあるだろうが、真向からウィルにぶつかっていた。

それがチームメンバーとして心強かったが、同時に悔しくもあった。

「でも…私、エキシビションで勇太君を助けること、できなかったし…」

それに、勇太の場合はウィルに手傷を与えている。

それだけでも実力の差は歴然だ。

「それは勇太も同じだろ?傷を与えただけで、そんなんじゃあ意味がない。バラバラにされた時点であいつの負け。でも、逃げずにぶつかってたよな。あんな強い相手だってのに」

「相手がどうとか関係ないですよ。ただ…僕は許せなかっただけです」

「理由は何でもいいが、頼もしいじゃねえか。闘志を感じる。むしろ、楽しくなってきたんじゃないか?強い相手がまだいるってことによ」

「…カドマツさん?」

徐々にあおるように口調になっていくことに勇太が違和感を覚える。

ミサは我慢するように唇をかみしめ、涙を浮かべている。

「今度やっても、今度は全力でぶつかる。それでも負けるかもしれねえけど、そんなことどうでもいいよな?商店街なんて、ぶっちゃけどうでもいいよな!!」

「なんで、なんでそんなこというの!!」

綾渡商店街ガンプラチームとして、一緒に彩渡商店街のために戦った仲間とは思えないような言動に起こるミサだが、カドマツはどこ吹く風。

更に追い詰めるような言葉を口にする。

「勘違いしているかもしれないから、言っておく。商店街をどうにかしたいのは俺たちじゃない。嬢ちゃんだ。本気でここを守りたいなら、嬢ちゃんが突っ張らねーでどうするんだよ」

「…!!」

カドマツの言葉にミサははっとする。

ガンプラチームを作ったのは自分であり、目的である彩渡商店街の宣伝を決めたのも自分。

勇太をチームメンバーとして選んだのも自分。

すべての始まりは商店街を守りたいと思っていたミサ自身。

彼女が主役であるはずなのに、すっかり勇太頼みとなってしまっていた。

エンジニアについてもカドマツ頼みで、リーダーであるはずのミサの立場がない。

そして、最後の最後に頼りにしなければならないのは、というよりも頼りにならなければならないのは勇太ではなく、ミサでなければならない。

ミサは腕で涙をぬぐい、赤いままの目でじっと2人を見る。

「私、しばらくここを留守にする!!」

そう叫んだミサは大急ぎで部屋へ戻っていく。

その様子を見たカドマツはふぅとため息をつく。

「まったくよぉ、エンジニアの仕事じゃねえってのにな」

「でも…ありがとうございます。ミサちゃんに火がついてましたよ」

「ロボ太のほうは俺に任せろ。しっかりパワーアップさせてやる。あとは…お前だな。お前はどうする?」

「…本当はミサちゃんにこれを試してほしかったですけど、これじゃあ…当分無理ですからね」

さきほどの口調から察すると、ミサはこれから修行に出るだろう。

世界大会までの2週間、強くならなければならない。

勇太も修行が必要だが、問題はその相手をどうするかだ。

もう商店街や生半可の実力のファイターと戦っても意味がない。

「そのガンプラもお前も、もっとパワーアップが必要だろ?そういえば、近々小規模だが国際大会のツアーがある。そこで腕試しするのはどうだ?」

「国際大会…?」

「お前なぁ…そのガンプラづくりに夢中になってたのはいいが、ちっとは情報に敏感になれよ」

呆れたカドマツはスマホでその公式ホームページを開き、それを勇太に見せる。

台湾の首都である台北で行われるツアーで、参加資格はなし。

予選は個人で行い、予選突破したファイター3人で一組のチームを作って決勝まで戦っていくというユニークなやり方であり、その最大の目的はガンプラを使った見知らぬファイター同士の交流というところにある。

だが、世界大会が近々行われることからその意味は少し変わってくる。

腕試しと世界大会でぶつかるかもしれない相手の偵察。

このような国際大会はもはや世界大会の前哨戦だ。

つまり、そこでこけていてはあのウィルとの戦いは遠いものとなる。

「飛行機代とかは俺がどうにかしてやる。お前は帰って準備をしておけ」

「は、はい…じゃあ…」

ゲーティアを手に握ったまま、勇太は店の外へ出る。

まだまだ朝で、少しずつだが人通りもでき始めている。

(強くならなきゃいけない…か)

勇太は手にしているゲーティアに目を向ける。

未完成こそ完成であるゲーティアは今の自分と同じだ。

ここから一緒にパワーアップしていき、一緒に強くなっていく。

それが彩渡商店街ガンプラチームの『第2章』になる。

「ミサちゃんと一緒に戦えないのは、寂しいけど…」

だが、きっと再会したときには強くなったミサと会うことができる。

その楽しみを胸に秘め、勇太はアパートへ戻っていった。

 




機体名:ゲーティア
形式番号:ASW-MS-00
使用プレイヤー:沢村勇太
使用パーツ
射撃武器:なし
格闘武器:太刀
シールド:オリジナルシールド(裸の女性のレリーフが刻まれたカイトシールドで、ベースはセイバー)
頭部:オリジナル(ユニコーンをベースとし、顔部分はバルバトスに近い)
胴体:ガンダムバルバトス
バックパック:ナラティブガンダム
腕:ガンダムバエル
足:ガンダムアスタロト

ジャパンカップ中、勇太がバルバトス・レーヴァテインを上回るガンプラと戦うことになるときの保険として作り続けていたガンプラであり、ガンダム・フレームのプロトタイプという位置づけとなっている。
ジャパンカップ中は完成せず、完成(あくまでも第1話設定の状態で)したのはエキシビションマッチ終了直後となった。
バルバトスと比較すると第1形態のようにフレームがむき出しとなっている部分が多く、頼りなさが目立つデザインとなっている。
これはあくまでも勇太がこれから成長と共に強化していくためにわざとそうしており、それによって拡張性の高さを実現している。
武装はこれまで使っていたメイスではなく、太刀をメインとしたものに変更され、鉄血のオルフェンズの世界ではめったにないシールドも用意されている。
なお、シールドのレリーフの女性のモデルは勇太曰く、『モデルはいない』らしい。
コックピットについてはウィングゼロのようにモニターのなく、ヘルメットはコクピットから出ているケーブルを接続した専用のものを使用する形となっているが、これは阿頼耶識システムのプロトタイプのもので、脳波に干渉することで空間認識能力を高めることができ、網膜投影も可能。
ピアスの施術を受ける必要がないものの、それを可能にするには一定のレベル以上の脳波が求められるうえに、鹵獲運用の危険性を回避するためにその脳波を認証キー替わりにするシステムが負荷されていることから、設定上は暁以外に搭乗不可能なモビルスーツとなっている。
封印されていた理由はパイロットとなるはずだったアグニカ・カイエルの脳波がその基準に合わなかったこと、そしてガンダム・バエルという彼専用のガンダム・フレームが完成したことも大きい。
このガンプラを作る際、世界観の設定まで作りこむために鉄血のオルフェンズ第3期を自分で作っている。


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第45話 強くなるために

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第2話「追いかける過去」
曉が起動させた失われたガンダム・フレーム、ゲーティア。
それは家を破壊しようとした海賊を撃退した。
しかし、いつまでもこの状況を維持できるわけではない。
家族を守るため、クーデリアはある人物にコンタクトを取る。
それはかつて、火星独立の際に世話になった木星の王だった。


「ふうう…これ、大丈夫かな?」

座席に座り、何度も深呼吸する勇太はそれでも落ち着かない胸の鼓動を感じながら、周りをきょろきょろ見回していた。

「本日、リバコーナ航空をご利用いただき、ありがとうございます。当便は台湾経由ホノルル行です。なお、台湾へは…」

機長の低い声による放送が流れる中、勇太の視線が座席左側の窓を見る。

窓から見えるのは滑走路と荷物を運ぶ小型の車両だ。

勇太はこれから、この飛行機に乗って台湾へ行く。

そこで行われる小規模な大会に参加し、修行する。

世界大会に出場し、ウィルに勝つための力をつけるために。

そのために必要なことだということは分かっているが、勇太はソワソワせずにいられない。

勇太が飛行機に乗ったのは今回が初めてなうえに、初めて海外へ行くことになるのだ。

「ったく、カドマツの奴めぇ…」

隣から聞こえるカドマツへの恨み節が聞こえてくるが、今の勇太にはそれに声をかける余裕がなかった。

ガンプラバトルでは何度も空を飛んだりすることはあったうえに、宇宙にも出たこともある。

しかし、あくまでもそれはバーチャルな世界での話。

現実に飛行機に乗って空へ行くというのとは全く違う。

「ミサちゃんには見せられないな…今の姿」

「トイボットの方で手いっぱいだからって、なんで私がコイツのサポートをしなきゃならんのだ…!!」

隣に座るのはいつもならミサかカドマツだが、今は三十路の小柄な少女…いや、女性が座っている。

そして、その隣に座るのはその彼女のリージョンカップでの相棒と言えるファイターだが、彼女の場合はそんなことを気にすることなく、アイマスクと耳栓をつけてぐっすりと眠っていた。

海外に出たことがなく、高校生である勇太一人で海外へ旅に出るのはまずいということで、大人の同行が必要だが、カドマツはロボ太のパワーアップで手いっぱいなうえ、保護者である両親は仕事が忙しいため、同伴は当然不可能。

そこで白羽の矢が立ったのがカドマツの知人といえるモチヅキとウルチの2人だ。

佐成メカニクスでのAI研究が最近うまく進んでいたいことで、気分転換の必要性を感じていたモチヅキだが、さすがにライバルな上にリージョンカップ脱落の原因を作ったカドマツの頼み事は正直聞きたくない。

しかし、宿代や交通費は出すと言ったことで、タダで台湾に行けるということから引き受けてしまった。

「飛行機は子供料金でチケット取ってあるし、挙句搭乗手続きで何も言われねーし!!」

そこで手続きを行う職員からウルチが母親でモチヅキが娘、そして勇太がモチヅキの従兄みたいに見られていた。

訂正して、不足分をモチヅキが支払、パスポートを見せることでようやく納得してもらえたが、それでも何度も子供と間違われる。

子供っぽいことは分かっているが、それでもここまでひどく間違われると腹が立つ。

「おい!!そこのガンプラバカ!!負けたら、二度と祖国の土を踏めないと思え!!」

大人げないことに、子供である勇太に八つ当たりまで始める始末。

だが、勇太は初めての飛行機への緊張から、耳にも入らなかった。

 

飛行機が離陸し、台湾への空路を飛ぶ。

台湾までは7時間程度かかるため、座っている誰もが外の景色を見たり、サービスで出される夕食を口にしたり、座席についているAV機器でテレビや音楽を楽しみ始めていた。

ずっと緊張していた勇太だが、少しずつその緊張もほぐれて来て、隣であれほどいらだっていたモチヅキも日ごろの仕事の疲れのためか、既に唾を垂らして眠っている。

ウルチも相変わらず眠っており、放す相手もいない勇太はイヤホンをつけて、座席についているテレビモニターの電源を入れる。

インターネットチャンネルに入り、そこで放送されているという『機動戦士ガンダム サンダーボルト December Sky』を見ようとするが、その前にCMが流れる。

「ガンプラバトル世界大会がもうすぐ始まります!決勝戦では世界初となる宇宙エレベーターでのガンプラバトルとなっています!世界で初めて宇宙に立つファイターは誰か、そしてそこで栄光を勝ち取るのは誰か!?」

「宇宙エレベーターか…」

太平洋にあるメガフロートから静止軌道ステーション、先端のカウンターウェイトへとテザーと呼ばれる糸でつなげられている。

30年かけて作られた人類の英知の結晶と言えるそれは人が簡単に宇宙に出られるようになっただけでなく、宇宙で高効率で集められた太陽光発電の電気が地球へと送られる。

ガンダム00で見た、宇宙への時代が一歩ずつ進んでいる証拠と言える。

さすがに化石燃料の枯渇とエネルギー問題による戦乱の時代にはならないだろうが。

世界大会はメガフロートにある特設会場で行われ、決勝戦のみが宇宙軌道ステーション

の中で行われることになる。

もうすぐ稼働する軌道エレベーターのデモンストレーションという意味合いでも、特に経済界ではこの世界大会の意義は非常に大きい。

「その大会にウィルが…ガンダムセレネスが…」

自分の先に立つウィルとガンダムセレネスの背中が目に浮かんでくる。

完成したゲーティアで勝てるかどうかは不透明だ。

勝つ力を本物にするためにも、このアジアツアーは大きな収穫になると信じている。

CMが終わると、ようやくイヤホンに独特なジャズが流れるとともに、雷鳴とどろくデブリ帯の光景がモニターに出てきた。

 

「さーーーーあ、台湾のアジアツアーに集まったガンプラを愛する者たちよ!!まずは遠いところからよく来てくれた、感謝の言葉を伝えるぜぃ!!」

台湾の首都、台北の陸上競技場に世界中から集まったファイターや観客たちがスピーカーから流れる若い男の軽快なトークを耳にする。

クワトロ時代のシャアがかけていたサングラス姿で金髪をした緑のタンクトップ姿の男性が放送席でアジアツアーを盛り上げる。

彼はガンプラ関係の専用チャンネルを持つMyTuberのエドワウで、海外を中心にガンプラとガンプラバトルのすばらしさを動画を通じて伝えている。

今回、彼がアジアツアーのMCを務めているのはそのことが理由だ。

「さあ、まずは予選が始まるぞ。まずは一騎当千!群がるモビルスーツ達を制限時間内にどれだけ撃破できるかだ!上位48名のみが本選への進出が許される!そして、本選はチーム戦!本選出場が決まったメンバーで好きなチームを組んで、勝ち進んでいく!!さあ、君たちは生き延びることができるか!?」

「本選ではチームを作る…か。できるかなぁ?」

外に設置されているシミュレーターの中に入り、既にどこかの地下空間で待機する勇太は古ぼけたスピーカーから聞こえるエドワウの声を聞きながら、膝をついて座る形で待機しているゲーティアに目を向ける。

初めて、ゲーティアをこうしてシミュレーターの中から見ることができた。

悪魔のようにも、騎士のようにも見えるように作ったそのガンプラはバルバトスの面影を感じながらも、野性をその高貴な騎士の姿で隠しているように見えた。

マクギリスと戦うために修羅の道を選んだガエリオが主となったキマリスがキマリスヴィダールとなったように。

勇太の姿も、いつもの耐圧服姿ではあるが、ヘルメットは装着しておらず、耳には通信用のイヤホンがついていて、そこからモチヅキの声が響く。

「おい、勇太!お前のその新しいガンプラ、本当に大丈夫なのかよ!?射撃武装無しって!!」

シミュレーター近くでノートパソコンを接続して、ゲーティアのステータスを見るモチヅキが今の装備を見て、不安を感じずにはいられなかった。

オプション装備はないうえに持っているのは刀と盾だけ。

これから行われるバトルは大量のモビルスーツと戦うことになる中で、一対複数で戦える武器がないその装備では明らかに不利としか言いようがない。

ジャパンカップに優勝できるだけの実力を持つ勇太だが、それでも世界にはそれを超えるファイターがゴロゴロいる。

そのことを感じているモチヅキだから、今のゲーティアの装備が不安だった。

「心配いりません。これから強くなりますから。僕も…ゲーティアも」

「はぁ…?」

「それに、阿頼耶識があれば乱戦に強いですから、見ていてください」

開けっ放しになっているコックピットに入り、そこに置かれているケーブルで機体と接続された状態のヘルメットをかぶる。

シートにはガンダム・フレームでは当たり前のように搭載、または後付けされた阿頼耶識システムはない。

モニターもないため、操縦桿を握り、ヘルメットをかぶった状態でコックピットが閉じると、一気に勇太の周りは真っ暗になった。

「ふうう…網膜投影…開始」

その言葉と共にヘルメットを媒介とした網膜投影が開始され、勇太の視界がゲーティアのメインカメラが映し出す景色と一体となる。

「網膜投影問題なし。阿頼耶識システム。空間認識領域形成、確認」

ヘルメットを介した、視神経経由で行われる阿頼耶識システム。

若干の頭痛を覚えながらも同調していき、機体の左右に置かれている太刀と盾を手にする。

そして、真上に広がる天井の一部の、土で覆われているだけの部分に目が行く。

「さあ、第1話の始まりだよ。ゲーティア」

「発進準備はOK…みたいだな。ああ、本当に負けたら二度と日本へ帰さないからなぁ!!」

「さあ、とにかく生き残って、一機でも多くのモビルスーツを撃墜するんだ!アジアツアー予選…開始だぁ!!」

「沢村勇太、ゲーティア、出るよ」

フッドペダルを踏むとともにスラスターに火が入り、ゲーティアが真上の土の部分から天井を突き破り、地下から外の赤い世界へと飛び出していく。

開始宣言早々、トウモロコシ畑が広がるその大地に向けて、スピナ・ロディやガルム・ロディが出現し始める。

「夜明けの地平線団仕様のガルム・ロディが混じってるか…けど!!」

刀を握り、ゲーティアが直近のスピナ・ロディに向けて突っ込んでいく。

ゲーティアに気付いたそのスピナ・ロディがマシンガンを連射するが、わずかに機体をずらしながらも高速で飛ぶゲーティアに当てることができない。

肉薄されると同時に太刀で両断され、地面に上半身部分が落ちた。

更にはその機体が握っていたマシンガンを左手で持ち、周囲にいるガンプラを牽制する。

反応速度、太刀の切れ味、出力共に問題はない。

「あとは、この制限時間の間にどれだけ倒せるか、だ…!」

 

「へぇー。刀と奪った武器だけでも結構やれるんスねー」

モチヅキのノートパソコンから、勇太とゲーティアの戦いぶりを見るウルチはリージョンカップからさらに強くなった勇太に感心していた。

出来栄えもそうだが、彼自身のファイターとしての技量にも磨きがかかっている。

ジャパンカップに優勝し、ミスターガンプラとの1対1の決闘も勝利したのだから当然と言えばそこまでだが。

「ウルチ、お前は参加しなくて良かったのかよ?」

「ええ…?」

「アジアツアーに出場基準はない。お前だってやろうと思えば参加できたじゃないか」

「いいっスよ。今回は。まだガンプラも満足できてないから…」

先日の敗北から、ウルチは来年の大会に備えてモチヅキと共にガンプラを作っている。

モチヅキが理想とする大火力をさらに磨きをかけたそれはまだ未完成で、正直に言うと今の勇太に勝てるかどうかすら怪しい。

それに、今作っているものを出して、手の内をばらすようなことをしたくなかった。

「ま…来年はあっと言わせてやろーぜ?ウルチ!私たちのガンプラで」

「言うまでもないっスよ、姐さん」

 

「さあさあ、どんどん撃墜スコアが増えていくぞー?だが、油断しちゃあだめだ。ライバルもまた、撃墜スコアを伸ばしてる。1機でも多く倒せ!今そばにいるライバルの上をただただ登っていけーーー!!」

「こいつ…!人前なら、帽子を脱ぎやがれぇぇぇ!!」

サイド7内部で、アルジ・ミラージを彷彿とさせる髪形をした黒いジャケット姿の少年が赤く塗装されたガンダム・アスタロトベースのガンプラに装備されているバスタードチョッパーでトリアイナの頭部を叩き潰し、衛星軌道上ではIWSP装備のストライクがレールガンでジンを吹き飛ばす。

シミュレーションの中で、それぞれのファイターが思い思いのガンプラで次々と現れる敵機を撃破していく。

しかし、最初はそれでも良いのかもしれないが、問題はそれが長時間続く場合だ。

この予選での戦闘時間は20分。

わらわらと現れる敵機を撃破する中で、ガンプラは消耗し、ファイターにも疲労の色が出てくる。

その色が徐々に現れ始めるのが後半に差し掛かってからだ。

「はあ、はあ…まだまだ、俺もこいつも戦える…!」

ジェリド・メサによく似た服装と顔つきをした青年は周囲に散乱しているネモやジムⅡの残骸を見渡しつつ、敵機がいないことから愛機であるガブスレイの状態をチェックする。

後半に差し掛かるまでに30機近くの敵機と交戦した影響がもうすでに出ており、肩のメガ粒子砲の砲身が焼き付いてしまっている。

フェダーインライフルも既に失われ、今握っているのは撃墜したネモから奪ったビームライフルだ。

装甲も被弾した箇所があり、ビームの余波で焼けている部分も目立つ。

幸い、推進剤についてはあと10分戦い続けられるだけの量は残っているのが救いだ。

「まだ戦える…武器は残って!?敵機!!」

アラーム音と共に背後の敵機の姿がモニターに映る。

肩部メガ粒子砲がまだ使えれば、振り返ることなく攻撃できたものの、今は振り返ってライフルを撃たなければならない。

そのわずかな時間が命取りとなる。

振り返り切った直前に背後に出現したメビウスからミサイルが発射される。

メビウスを撃墜しようとはなったビームライフルがミサイルを貫通し、メビウスを撃ち抜く。

そこまでは良かったが、問題はそのメビウスが発射したミサイルだった、

撃ち抜かれたミサイルを中心に巨大な爆発が起こり、モニターを真っ白に染めていく。

「しまった…核ミサイル!?」

危険を察知して、スラスター全開で後ろに下がったために爆発に巻き込まれることはなかったが、それでも激しい余波が振動と共に遅い、照準補正もままならない。

目を失っている間に下から今度はDSSDカスタムのシビリアンアストレイが複数機現れる。

「こんな時に…クソォ!!」

不測の事態に悪態をつきながら、下に向けてビームライフルを連射するが、照準もままならない、やみくもな射撃となっており、当たる気配がない。

ようやくモニターが回復したときには、既にシビリアンアストレイに包囲された状態で、銃口はガブスレイに向けられていた。

どうにかそのうちの1機をライフルで撃破するが、そこが限界だった。

次々と矢継ぎ早に飛んでくるビームがガブスレイを撃ち抜いていき、限界を迎えたガブスレイが炎の華へと変わっていった。

 

「とうとう脱落者…。相変わらずエグい予選じゃなあ」

緑であふれるジャブローの岩場の上で、グレーの翼をつけたガンプラが羽根をたたんだ状態で待機している。

グリプス戦役でティターンズが行った核爆発によって基地としての機能を失ったそこは半世紀以上放置され、自然が戻って来たばかりだ。

しかし、その戻ったばかりの自然もまた、ザンスカール戦争の陰で発生していたエンジェル・コール事件により、旧型の水爆が放たれることになり、再び生物がすめなくなる土地へと変化する運命にある。

両翼中央にはドクロが刻まれていて、翼に隠れたその機体は一つ目をした灰色の騎士といえる姿で、その周りに広がる湖にはその機体が撃破したと思われる金色のゾロやゾリディア、ゲドラフの姿があった。

上空にはアインラッドに乗ったゲドラフがビームキャノンを撃ってくるが、灰色の翼に接触すると同時にそのビームは拡散し、消滅する。

「おっと…少し休み過ぎたみたいじゃなあ。被弾するとは…」

モニターに映る獲物にパイロットであるタケルの瞳がギラリと光り、口元を緩める。

同時に翼を羽ばたかせ、灰色の騎士が飛翔する。

ビームキャノンとミサイルランチャー、手持ちのビームライフルをフル稼働させて撃ち落とそうとするが、ビームは翼が受け止めて消滅させ、ミサイルも回避できないものは左腕に装着されているヒートランスに内蔵されたヘビーマシンガンで撃ち落とされていく。

そして、アインラッドの弱点と言える右側面に機体を持っていて、ヒートランスでゲドラフを串刺しにした。

爆発すら許されず沈黙したゲドラフが湖に落ちていき、灰色の騎士を新たな主として迎え入れる。

「さて、休憩は終わりじゃ。トールギス・スカルウィングの力…しっかり味わってもらうぞ!!」

まだまだいる獲物たちを乱獲すべく、右手に外付けられているメガキャノンを発射した。

 

「本当に…数が多い…な!!」

新たに出現したレギンレイズのコックピットを太刀で串刺しにし、側面から飛んでくる弾丸を撃破したばかりのその機体を盾替わりにして防御する。

そして、銃撃が収まると同時に抜いたばかりの太刀を手放し、右手でレギンレイズを握ると、ハンマー投げの要領で力任せに投げつける。

質量のあるレギンレイズとまともに激突したスピナ・ロディとグレイズがナノラミネートアーマーで強固となっているはずの装甲を大きくゆがませ、地面に倒れる。

そして、再び太刀を手にしたゲーティアが起き上がろうとするグレイズのコックピットを一突きし、スピナ・ロディを左腕の盾で殴りつける。

残り5分になり、出現する敵機のペースも上がってきたことで、徐々に被弾する数も増えていた。

「そろそろ、こいつのテストも始めないとな…」

奪った武器を極力使ったこともあってか、太刀はまだまだ耐えられるだけの耐久値がある。

盾も何度か攻撃を受けたことでへこみや傷があるが、まだ使うことができる。

あとは最大の武器を使い、撃墜数を稼ぐだけ。

この戦闘の中で勇太が特に感じたのは背中に感じる寒さだ。

当たり前のようにあった阿頼耶識を背中から接続していないからではない。

それ以上に当たり前の物が今の彼にはいない。

(不思議だな…前まではそんな感じはなかったのに?)

弱くなったのかな、そんな直感を覚える。

ウィルに負けたから、余計にそう思っているだけなのか。

彼に負けたことで、心の中にあった、そしてミスターガンプラを倒したことでできたかもしれない驕りがなくなったからなのか。

その答えを出すのは今ではない。

「行くよ…ゲーティア!!」

深呼吸をし、目を見開くと同時にゲーティアの緑に光っていたはずのツインアイが赤く光り始める。

そして、バックパックと両肩の装甲が展開され、そこから青を帯びた光が漏れ始める。

青いオーラがゲーティアを包み込み、覚醒が完了する。

「はああああ!!」

勇太の叫びと共に飛翔するゲーティアがガルム・ロディに突っ込んでいく。

敵機の危険性を感じ取ったガルム・ロディが後ろに下がっていき、その後ろにはダインスレイヴ装備型のフレック・グレイズの集団の姿があった。

ゲーティア1機を落とすためだけに、ガルム・ロディに当たることもいとわずに次々とダインスレイヴが発射される。

重力下であるとはいえ、それでもダインスレイヴの威力と速度は健在であり、容赦なくゲーティアに迫る。

「そんなものでぇ!!」

しかし、当たる直前にフレック・グレイズのモニター上でゲーティアが姿を消し、ダインスレイヴは命中することなく、むなしく後方の岩に突き刺さる。

フレック・グレイズのモニター上ではゲーティアが姿を消したり、姿を現したりしながら高速で接近しており、その不可解な動きに翻弄され、ダインスレイヴ発射の手が止まってしまう。

「沈めぇぇ!!」

接近を許したフレック・グレイズが太刀で切り裂かれ、それだけでは斬り足りないのか、再び瞬間移動するかのような動きでほかのフレック・グレイズの前に出て、ダインスレイヴ諸共切り裂かれてしまった。

ダインスレイヴもまた、モビルスーツと同じ超硬度レアアロイでできている。

それすら斬ることもできる太刀で斬れるのは道理だ。

フレームよりも細い作りになっているため、正直に言うと勇太にとってはフレームの関節を斬るよりもたやすかった。

 

「ふうう…初めてゲーティアで覚醒をしたけど、感覚はいいな」

予選が終わり、休憩所でウルチが買ってきたドリンクを飲みつつ、勇太は先ほどの戦闘での覚醒の感覚を思い出す。

バルバトス以上に覚醒を使うことを前提にして、装甲をすべてガンダム・グレモリーで使われているナノラミネートコートへと変更し、フレームも木星メタルをシングルナンバーの百錬以上の純度のものを使っている。

それを再現するために、シングルナンバーの百錬やガンダム・グレモリーのパーツでスクラッチビルドを繰り返してきた。

失敗も多かったが、それでも今回の試合では満足できる内容になってくれた。

「こんな装備で予選8位通過…。もっと火力がありゃあ、1位も狙えたんじゃないのか?」

「そうかもしれませんね。次の形態では飛び道具もつけますよ」

「次の形態って…ゲーティアもバルバトスみてーに徐々にパワーアップするって形かよ」

(とはいっても、プロトタイプの阿頼耶識にはまだまだ課題はあるけど、それをどう解決するかな…?)

初めての試みと言えるその阿頼耶識は確かにバルバトスと三日月に近いレベルでの動きや反応を見せてくれた。

しかし、勇太にとっては不満足で、到達ポイントがあるとするなら、バエルレベルのものだ。

キマリスヴィダールを阿頼耶識システムType-Eに極限まで負荷を加え、搭載しているアインの脳が焼き切れてシステムそのものが使い物にならなくなるくらいのレベルまで追い込んだだけのものを勇太は欲している。

それだけのものにすることで、ようやくウィルと同じ土俵に立つことができると今の彼は考えていた。

(となると、どうするかな…?コックピットそのものにも手を加えるべきかな?フィギュアが入るようにして、フィギュアのヘルメットをもっと…)

ゲーティアのコックピットを撫でる勇太はゲーティアの強化に思いをはせようとしていた。

「やっぱり、お前もこの大会に来ていたんだな。勇太!」

「勇太君、久しぶり!」

「その声は…ツキミ君、ミソラさん。2人も来ていたんだ…!」

世界は広いようで狭いということなのだろうか。

会うことはないと思っていた2人と会えたことに驚いたものの、同時に嬉しさも感じられた。

台湾は日本人の観光客も多いとはいえ、それでも外国ということで知人や同じ国の人と会う機会が少ないため、どうしかも不安になる。

「そういえば、ミサちゃんは一緒じゃないの?」

「ロボのエンジニアのおっさんもいなくて…いるのは背の高い姐さんとちっちゃい女の子。お前、まさか何股かしてるのか?」

「そんなわけないでしょ?この人達はカドマツさんの知り合いで、今回僕をサポートしてくれているんだ」

やんわりと違うことを伝える勇太だが、ツキミの何股のような浮気男めいた言葉には懸念を抱いた。

まだミサとはそういう関係ではなく、あくまでチームメイト。

それに、百歩というよりも何万歩も譲ってそういう関係に見えたとしても、モチヅキともウルチとも年齢に差があり、勇太にそのような趣味はない。

「そうなのか。で、その女の子は…お前の妹か?」

「かわいーー!ねえ、お名前は年はいくつ?」

「ええっと…紹介するよ、望月小夜子さんと宇留地環奈さん。で…モチヅキさんの年齢はカドマツさんと同じくらい」

さすがにダイレクトに三十路過ぎなんて言うと怒ると思ったのか、やんわりと年齢まで説明する。

カドマツと会ったことのある2人はその説明にびっくりし、モチヅキを二度見する。

「じょ…冗談、だよな?こんな姿でそれって…どんなマジックだよ!?昔のアニメにあった、不老不死の体ってやつか!?」

ツキミの脳裏に浮かんだのは、レトロアニメマニアである友人が見せてくれた火星を中心とした太陽系での賞金稼ぎの旅を描いたアニメで、そこでは不老不死となった少年との対決のシーンがある。

その少年は長い時間をその姿で生きていて、主人公との対決でようやく不老不死が解除され、求めていた死を手にすることができた。

もしかして、モチヅキはそういう体になってしまっているのかと冗談半分に思ってしまう。

「んなわけあるか!!」

「そういえば、ミサちゃん達はどうしてるの?」

「ミサちゃんは強くなるために飛び出していったよ。あのエキシビションマッチのことがあってね…」

「ああ…俺たちも見たよ。すごかったよ。ミスターガンプラとあれだけ戦えるなんてな」

あの戦いを見て、ツキミ達は自分たちがどんな相手と戦っていたのか、嫌というほど思い知ることになった。

だから、次の大会で勝つために強くなろうとミソラと一緒にアジアツアーに来た。

まさかここでその相手となる勇太と会うことになるとは思わなかったが。

そして、手負いだったとはいえ、その勇太を倒したウィルとガンダムセレネスもあの映像で見ている。

「うん。ロボ太はカドマツさんの元でガンプラ共々パワーアップ中なんだ。今いる場所はこの通りバラバラだけど、目的地は同じだから大丈夫…といったところかな?」

「それで、勇太君もここへきたのね。しかも…すごいガンプラまで作って」

「うん。まだまだ未完成といったところだけどね」

「だったら本選でチームを組みましょうよ!アジアツアーのルールだと、本選は好きなファイター3人でチームを組んで闘うことになるんだし!」

「えー、3人もサポートするのかよ!?」

「大丈夫っすよ。俺たち、沖縄宇宙飛行士訓練学校の生徒ですから」

「ハードもソフトも、必要な技術は持ってます」

宇宙飛行士になるための授業の中には機械工学もあり、ツキミもミソラもその授業で得た知識でアセンブルシステムの改造を行った。

プロの技術者レベルではないが、それでも実戦に支障をきたさないくらいのことはできる自信はある。

その実績は既にジャパンカップで証明済みだ。

「なら、サポートはこいつに集中できるな!」

「おう、覚悟しとけよ。組んでいる間にしっかりとお前の技を盗んでやるからな!」

「盗めるのなら、だけどね?」

「言ったなぁ?よぉし、沖縄宇宙飛行士訓練商店街チーム結成だ!」

「宇宙服でも売ってんのか?その商店街」



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第46話 兄の影

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第3話「ヘイブン」
2人の母と共に歳星へと向かった暁。
アトラとクーデリアの保護の条件として、彼はとあるメモリーチップをドルトコロニーにいる組織に自らの手で渡すことを依頼される。
受け取り主はかつて、マクギリス・ファリド事件の前に起こったとある事件で壊滅した組織と同じ名前を持つ組織だった。



「はあはあはあ…」

デブリ帯の中、ゲーティアのコックピットで勇太が荒い息を整えながら、ゲーティアと阿頼耶識が見せる景色を見続ける。

今のゲーティアはむき出しとなっていたフレームをガルム・ロディの装甲で覆った状態となっている。

映っているのはイサリビやブルワーズ艦と同型艦ではあるが、迷彩として黒く塗装された戦艦とエンハンスドデファンス、ガンティライユの姿だった。

ゲーティアはガンティライユに接触し、回線を開く。

「ミソラちゃん、気配がまるでないよ。どこにいるか、分からない?」

「ごめん…まったくセンサーに反応がないの。ここまでデブリが多いし、エイハブリアクターもあるみたいで、熱源反応がいっぱい…」

「少しでも動いているものがあったら、きっとそれが敵モビルスーツだ。大丈夫だよ」

3機の中でも、ガンティライユが一番索敵範囲が広い。

ただ、相手がストライクダガーやジェガンならともかく、ラブルスやグレイズといったエイハブリアクター搭載型のモビルスーツとなるとデブリの中に放置されている数多くのエイハブリアクターと同じ熱源反応となってしまうため、見つけづらい。

撃墜スコアでは残りのモビルスーツが3機となっており、これまで3人で倒した機体数は21となっている。

「護衛対象のダメージと経過時間を考えると、そろそろ終わらせないとまずいぞ!どうする、勇太!!」

「何か、手段があれば…」

もうすでにミッションを終了し、初戦突破を決定しているチームも存在する。

次々と枠が埋まっていく中で、焦りも生まれてくる。

「これまで行った範囲で、ミサイルによる攻撃を行うとしたら、予測ポイントは出せる?」

「やってみるわ!!」

コンソールを出したミソラは護衛対象を軸として対艦ミサイルをハンマーヘッドやハーフビークが使っていたナパーム弾と仮定したうえで予測ポイントの検索を開始する。

デブリ帯とエイハブリアクターの存在から、誘導兵器を使ってくる可能性は考えにくい。

使ってくるとしたら、ダインスレイヴかナパーム弾。

だが、ダインスレイヴでは一発しか攻撃できないために後が続かない。

考えられるとしたら、装備を分離して近接攻撃に入ることのできるナパーム弾。

検索終了と同時にゲーティアとエンハンスドデファンスに特定されたポイントが送信される。

「予測ポイントは3か所…残り、2機…!!高熱源…ナパーム!!」

飛んでくるナパーム弾の予測コースが表示される。

ナノラミネートアーマーの弱点を突かれ、大きなダメージを受けてしまう。

「だけど…!!」

ゲーティアのシールドの裏側に装着された並列4連装型滑腔砲を発射する。

ビームや通常の弾丸と比較すると動きの襲いナパーム弾で、なおかつ発射可能位置を絞り込んだおかげで容易に対策でき、撃ち抜かれたナパーム弾は爆散する。

同時に、勇太は発射してきたポイントに隠れていたハクリ・ロディを見つけ出す。

「デブリの中に隠れられる前に仕留める!!」

周波数の特定を行いながら、ゲーティアがハクリ・ロディを追いかける。

見つかったハクリ・ロディがマシンガンで牽制しながら後退しようとするが、ツインリアクターが生み出す出力によるスピードと阿頼耶識の反応速度の高さにより、かわされるうえにむしろ距離を縮められていく。

「はああああ!!」

再び連装砲を連射し、マシンガンによる攻撃をあきらめて後ろを向いたハクリ・ロディのスラスターに命中させる。

スラスターに命中すると同時に動きに乱れが生じると、刀を抜いてまずはマシンガンを持っている右腕をフレーム事切り裂いた。

そして、いったんハクリ・ロディの正面まで移動した後で、刀でコックピットを一刺しして沈黙させた。

「よし…2人は!!」

「もう1機見つけたわ!心配しないで、私とツキミでできるから!」

「…そのようだね」

護衛対象のところまで戻った勇太は2機を見て、あまり心配することも手助けすることもなく、敵モビルスーツが撃破されるのを見守る。

アグニによって、頭部カメラを焼き尽くられて目がつぶされたランドマン・ロディにはもはや目標を見つけることができず、あたりかまわずマシンガンを連射することしかできなくなっていた。

流れ弾に気を付けながらエンハンスドデファンスが接近し、対艦刀で真っ二つに切り裂いた。

同時にミッション終了となり、経過時間と護衛対象のダメージに基づいたポイント数が計算されていく。

5秒で計算が終わり、数値は初戦通過には十分な数値だった。

「やった。これで初戦通過ね」

「だな!やったな、勇太」

「うん、そうだね…ふうう…」

シートにもたれながら、勇太はログアウトのためにコンソールを操作する。

どうにか勝利したのはいいが、まだまだ勇太にとっては足りない部分も多い。

(まだ、ゲーティアを使いこなせていない。ガンプラの改良もそうだけど、あとは僕個人の問題か…)

予選で覚醒を使い、今回は初めて射撃武器も実装して戦った。

破砕砲のような破壊力は得られないものの、取り回しがよくなっており、接近戦では助けになるという実感は感じることができた。

だが、まだウィルに勝てるような実力を得たとは思えない。

何かが足りない、足りないと心が訴えかけてくる。

「よ!おつか…って、なんだよ?うれしくなさそーな顔しやがって」

シミュレーターから出てきた勇太を迎えようとしたモチヅキだが、彼の顔を見た瞬間、頬を膨らませて不快感をあらわにする。

どうして怒っているのか分からない勇太だが、ひとまず申し訳なさそうに軽く会釈をすると、そのまま1人で会場を後にする。

「あれ…勇太、どうしたんスかねー。なーんか機嫌が悪いっつーか、…ってより、焦ってるっつーか…」

「んなの知るか!ウルチ、さっさとシミュレーターのプログラム修正をすっぞ!!」

「うーっす」

気の抜けた返事をしたウルチは去っていく勇太の後姿を見送ると、モチヅキと共にノートパソコンを操作し始める。

覚醒以外にも、おそらくガンダム・フレーム特有のリミッター解除もあり得るゲーティアがどのような動きに変化するかは分かったものではない。

カドマツから受け取ったデータはあくまでもバルバトスの場合のもので、ゲーティアのものとなるとそれは参考程度にしかならない。

彼からはこのツアーで集まるデータをもとにゲーティア専用のシステム構築を頼まれている。

「大変っすねー、モチヅキさん。こんな難しいプログラムを設計するなんて」

後ろからモチヅキとウルチのノートパソコンの画面を見たツキミが複雑なコードの組み合わせに驚きを覚える。

自分たちでもアセンブルシステムを作ったから、その大変さがよくわかる。

授業や自習で覚えたプログラミング言語を元に改造したが、やはり専門家のものはもっと複雑で、しかもバトルの度に修正を繰り返している痕跡がある。

ここまで徹底することはできておらず、改めて彼女たちのようなサポーターの存在の大きさを感じずにはいられない。

「オラー、突っ立ってるだけなら、お前らも手伝え!」

「ええーー??だって、俺らは自分たちの…」

「んなの知るか!!」

「ああ、姐さんこうなると聞く耳持たないから、あきらめろ」

 

「はあああ…」

スタジアムの外にあるドリンクスタンドで購入したでウーロン茶を購入した勇太は今さらになって気付いたのどの渇きの潤いを感じる。

ミサからタピオカが入った飲み物がおいしいとおすすめされたのを思い出す。

一度だけ飲んだことはあるが、ゴムのような感触が正直に言うと好きになれなかった。

それが好みな人もいるから、おそらくは流行っているのだろうか。

「なんじゃ、そんな陰気な空気で飲んで。観光客の迷惑じゃろ」

「タケルさん…」

「これ以上暗い顔していたら、スルーするところじゃ」

やってきたタケルの手にはタピオカミルクティーがあり、それをストローで飲みながら勇太の隣に立つ。

飲みながらも、彼の視線は勇太が握っているゲーティアに向けられていた。

「ゲーティア…設定ではすべてのガンダム・フレームのプロトタイプ。ええ出来じゃないか。けれど、問題はお前じゃな」

直接闘ったというわけではないが、それでもバルバトス以上に強いことはタケルも認めている。

装備を改良して1回戦で戦っていたのは分かるが、どこか予選と違って動きに迷いがあるように感じられた。

一気に飲み終え、容器をゴミ箱に捨て、勇太の空になった容器を見たタケルは無理やり勇太の腕をつかむ。

「タケルさん、いったい何を…??」

「特訓じゃ、今のお前の根性、叩きなおしてやる!!」

 

「勇太君…ゲーティア、かぁ…」

ヤシの木が大きく壁に描かれてホテルの一室で、備え付けのテレビに映るゲーティアを見たミサは改めて彼の強さを感じていた。

ミサもハワイで行われているアメリカツアーに参加しており、昨日予選を通過してこれから本選に向かうことになる。

アジアツアーとの違いは完全に個人戦となっていることで、最初から最後までミサ一人で戦うことになる。

それに合わせて、アザレアも改良を施している。

「勇太君も…頑張ってる。だから、私も頑張らないと…!!」

 

「ここは…」

タケルに連行される形でバスに乗せられ、連れていかれた勇太は1分の1スケールで作られたアルトロンガンダム(EW版)が飾られた大きな店舗で降ろされた。

そこは台湾のガンダムベースで、ガンプラバトルが世界中に展開されてから始まった世界中へのガンダムシリーズの展開計画であるグローバルガンダムプロジェクトの第一弾として作られた海外第一号のガンダムベースだ。

他にもアメリカやインド、イタリアにフランス、ブラジルなどにも作られており、イギリスのガンダムベースがあと1年で完成する予定とのことだ。

なお、ブラジルの1分の1スケールのガンダムはもちろん、ゴッドガンダムだ。

「おお、タケル。久々じゃないか」

タケルと共にガンダムベースに入ると、さっそく出迎えたのはハロのイラストが中心に書かれたエプロンとは不釣り合いな、2メートル近い巨躯なうえに筋肉質な体つき、おまけにスキンヘッドをしている色黒の男性がジロリと細い目でタケルを見る。

「ろ…老師O…!?」

「アンドレイ・オウ。ここのガンダムベースの店長でガンプラマイスター。ついでに老師Oのファンでこの姿もあれを…」

「やめてくれタケル」

あんまりな紹介に困った顔を見せるオウ。

昔はミスターガンプラと同様、プロのファイターとして戦ってきた男で、現在は作る側でガンプラを広げるため、ガンプラマイスターとなってガンダムベース店長となった。

彼がプロとして共に戦ったガンプラ、シェンロンガンダムレッドファイアはカウンターに飾られている。

「悪い。ああ、オウさん。ここのシミュレーター、使わせてもらうぜ」

「話は聞いてる。空けておいてやったから、好きに使え」

「恩に着るぜ。あとはメシも」

「分かった分かった。用意しといてやるから、さっさと行け」

「待ってください、話がまだ…」

勇太の言葉を無視して、タケルに引っ張られてシミュレーターへ入れられる。

無理やり座らされると扉が閉じる。

「あの、タケルさん。僕、モチヅキさん達には何も…」

「俺から知らせといてやる。さっさとログインしろ。シミュレーターに入って、ログインしないファイターがいるか」

立ち上がって出ようとするが、外から操作されているのか出ることができない。

やむなく持っているゲーティアをセットし、ログインする。

ノーマルスーツ姿になった勇太は格納庫に置かれるゲーティアを見つめる。

1回戦での戦いで損傷した部分は当然治っておらず、へこみや傷が視認できる。

ゲーティアに乗り込み、専用ヘルメットをかぶって網膜投影と阿頼耶識システム接続を完了する。

「勇太、お前がやることは飽きれるほどシンプルじゃ。本気を出せば、おそらくはすぐに終わって帰ることができる」

「どういう…?」

「出撃すればわかる」

何を特訓するのか納得できないままハッチが開き、ダインスレイヴやグレイズシルトの残骸、地面に突き刺さった超大型メイスが放置されたままの火星郊外のフィールドが見えてくる。

「鉄華団最後の戦場…」

自然の操縦桿を握る手に力が入る。

同時にカタパルトから射出され、赤い大地に降り立つ。

しかし、そこには戦うべき相手の姿がない。

「これからお前が戦う相手は1体。そいつに勝てば、この特訓は終わりじゃ。まぁ、今のお前じゃあ勝てないとは思うがな」

「それは…うわ!!」

急に真上から飛んできたビームが特殊塗料が剥離した箇所に命中し、衝撃と共にゲーティアが地面に倒れる。

上を向くと、そこには青いフィンファンネルが飛び回っており、その中央には勇太にとっては印象深いガンプラの姿があった。

「ブル-…フレーム…」

「ブルーフレーム・ハデス。勇武のガンプラをコピーして、改造したものじゃ。ま、出来栄えはあれ以上じゃがな。それに…こいつはCPUじゃが、戦闘データは…あいつのもの」

「兄さんの戦闘データを…けれど」

たとえ強力なパイロットの戦闘データを取り込んだとしても、プログラム通りにしか動くことのできない、読まれればただの人形となってしまう。

それはヒイロのデータを取り込んだメリクリウスと、トロワのデータを取り込んだヴァイエイトをデュオのデスサイズヘルがまとめて倒したことからも証明されている。

だが、その程度のことは今回のバトルのセッティングをしたタケル自身も承知している。

「そんな油断が命取りだぜ?それに、こいつは冥界から蘇ったハデスってことを忘れるなよ?」

「それは…うわっ!!」

再び剥離した箇所へのフィンファンネルの攻撃が飛んでくる。

迎撃のために4連装砲を発射するが、既にいずれのフィンファンネルも戻っていた。

「回収と最充電機能、Hi-νガンダムのフィンファンネルシステム!?それでも!!」

本体を狙うべく、4連装砲を撃ちながらゲーティアを上昇させる。

長時間の飛行ができないとしても、ツインリアクターの出力を最大まで引き上げれば、ジャンプすることくらいはできる。

確実に剥離個所を狙ってくることは分かっているため、弾切れになると同時に盾で守りを固めつつ、刀を抜く。

それに応じるかのようにブルーフレームもビームサーベルを抜き、互いに上空で鍔迫り合いを演じる。

「無駄だ。今の貧弱なゲーティアでは、強化されたブルーフレームにも、勇武の幻影にも勝てない」

「くっ…!!」

今は互角の鍔迫り合いができているが、消耗する推進剤を考えると、長時間この状態を続けるわけにはいかない。

バルバトスであればテイルブレードを使って無理やりここを抜け出すこともできるが、今のゲーティアにそんな武装はない。

「だったら、覚醒で…あれ!?」

「どうした?覚醒…しないのか??」

いつもなら、集中すればできるはずだった覚醒がなぜかできない。

1回戦の時は使っていなかったため気に留めることはなかった。

だが、どうしていつもできることが今できないのか、今の勇太には分からなかった。

(分からない…どうして、どうして??)

「迷っているな…見損なったぞ!!」

「うわあ!!」

腹部を思い切り蹴られ、ゲーティアが地面に落ちる。

再び飛んでくるフィンファンネルを4連装砲で攻撃し、ようやく1基を撃墜することができたが、残りのフィンファンネルのビームが超硬度レアアロイ製フレームを焼く。

ナノラミネートアーマーに守られていない箇所のフレームや装甲には実弾だろうとビームだろうと容赦なくダメージが発生する。

正確無比なファンネル制御、それはまさしく勇武の得意としていた技だ。

CPU相手であるにもかかわらず、一方的に押されている格好だ。

「勇太、迷いの原因はあの敗北か?それとも何だ?兄貴と一緒に行こうとしたところにたどり着いてしまった燃えつきか!?」

「そんなことは…!」

「口と動きがかみ合っていないんじゃ!」

ブルーフレームの両腰に外付けされたフリーダムのレールガンが発射される。

起き上がったゲーティアが辛くも走って逃げる形で高速で飛ぶ弾丸を避けた。

もう残弾のない4連装砲を強制排除し、残された武器である太刀を再び構える。

そして、もう1度呼吸を整えるがやはり覚醒できない状態が続く。

「勇武がいたころと変わらない。お前は意思も、主体性もない!何かにひっついて行ってばかりだ!なまじ実力があって、成長するから、ここまで戦い抜くことができた分、そいつは…始末が悪いんじゃ!!」

上空から降りてきたブルーフレームが放置されていた超大型メイスをつかみ、力任せにゲーティアに振るう。

両足で踏ん張り、太刀を両手で握って受け止める。

太刀の強度はバルバトスに使っていたもの以上のものにしているものの、それでも超大型メイスを凌げるのはわずかな時間。

我慢して受け止め続けたら、粉々に砕けるだけ。

「ひっついて…ばかり…?」

「ガンプラバトルを始めたのも、勇武と一緒にいたいから。捨てたのは勇武が死んだから!そして…もう1度始めたのはあのミサって女の子に乞われたから…。お前自身で目標を定めて、動くことをしていない!だから、あのウィルって小僧に負けた!!」

タケルも映像で2人の戦いを見ていた。

確かにその時のバルバトスには激しい損傷があったかもしれない。

しかし、百歩譲って全力で戦える状態であったとしても、おそらく勇太はウィルに勝つことはできない。

「言い返せないようじゃな?確かに、戦えるとなったらワクワクするだろう?だが、その火はか弱く、小さい。それを燃え上がらせることができていない」

「それは…うわあ!!」

高機動戦闘を開始するブルーフレームのすれ違い際のキックを右腕で受けてしまい、太刀を手放してしまう。

確かに、ウィルと戦い、彼の宣戦布告を受け、彼と戦いたいという感情は芽生えた。

しかし、それはミサと一緒にジャパンカップで優勝を目標として戦ってきた時とは違う。

その時の熱と比較すると、どこか冷めているものを自分の中で感じていた。

「もう1度考えるんじゃ!お前が戦う理由を!お前があの嬢ちゃんと一緒に戦う理由を!!」

再び戻って来たブルーフレームの蹴りを盾で受け止めるが、同時にいつの間にか展開していたフィンファンネルが左腕関節をビームで攻撃する。

関節が焼き尽くされ、肘から先の反応がなくなる。

「僕が…僕が、ミサちゃんと一緒に戦う理由…」

思えば、ジャパンカップで優勝した時点で彼女と共に戦う理由はなくなったはずだ。

ウィルのことはあるが、そのことだけを考えれば、チームを抜けても問題はなかったはずだ。

サクラやタケルの手を借りて、世界大会に出ることも選択肢となる。

しかし、勇太の脳裏に浮かぶバトルフィールドで共にいるのはミサであり、サクラとタケルではない。

「だが、その理由もここで倒されれば終わり!勇武の幻影が引導を渡すんじゃ!!」

動きを止めたゲーティアに向けて、地面に深々と刺さったダインスレイヴを抜いたブルーフレームが投擲する。

マニピュレーターで投げただけにもかかわらず、まるでレールガンを使って発射されたかのようなスピードでゲーティアに向けて飛んでいく。

一直線に飛んでくる無慈悲な敗北の弾丸が勇太の視界に入る。

(まずい…これ、大会でもないのに、人と戦っているわけでもないのに、こんなのって…)

シミュレーターに設置されているゲーティアは既にボロボロで、太刀にも数多くの刃こぼれが生じている。

目の前に迫るダインスレイヴはたとえナノラミネートコートでも守り切れない。

敗北した瞬間、勇太はファイターとしてもプライドを打ち砕かれることになる。

(でも、どうして?どうして僕は春からずっと…ミサちゃんと…)

最初はただ、見ていられなかっただけだ。

3人の不良と不利を承知でバトルして、それでもあきらめない彼女とその状況が見ていられず、割り込んだ。

もう復帰するつもりも、帰るつもりもないガンプラバトルに。

戻ってからは灰色で、何をなすにも熱を感じられなかった毎日に少しずつぬくもりが戻ってきたように思えた。

それは勇武と一緒にバトルをしていた時とは違う、言葉では表せない優しいぬくもりだ。

(勇太君…!!)

なぜかミサのいつもの自分を呼ぶ声が聞こえてくる。

(そうだ…そうだ、僕は!!!!)

ガシリと飛んできたダインスレイヴを右手でつかむ。

螺旋を描かずに飛ぶダインスレイヴであるにもかかわらず、その運動エネルギー故につかんだとしてもなおも貫こうと勢いを止めず、マニピュレーターが発熱する。

「驚かせてくれるが、この程度では…」

「はああ…うわあああああああ!!!!」

収まり切れない衝動を叫びに変えると同時に、ゲーティアの装甲を青いオーラが包む。

だが、そのオーラは徐々に色を変えていき、炎のような赤へと変質し、ゲーティアは炎を纏う悪魔へと変貌を遂げていく。

「これは…」

「覚醒が進化した、という奴だな」

「オウさん」

シミュレータールームに入って来たオウがタケルが見ているノートパソコンの映像を見て、勇太の新たな覚醒に興味を抱く。

勇武やミスターガンプラの覚醒は見たことがあり、勇太が勇武と同じ覚醒を発動することはタケルから聞いていた。

「どうやら、素直になったみたいだな。彼自身が…これが、誰のものでもない。沢村勇太の覚醒、というものか」

「うおおおおおお!!!」

覚醒エネルギーが高熱を発しているのか、握っているダインスレイヴが溶け始め、ゲーティアはそれを力任せに握りつぶす。

そして、ブルーフレームめがけて猛スピードで突っ込んでいく。

燃え上がるゲーティアの爆発的に上昇したスピードからは逃げられないと判断したようで、迎撃のためにライフルとフィンファンネルを連射する。

「が、うあああ、うおおおおお!!!」

おそらく破損個所めがけて飛んでくるビームの雨を急激な横への軌道変更の繰り返しでかわし、同時に激しいGが勇太自身を襲う。

シミュレーターによって再現度が制限されているにもかかわらず、その急激な動きは許容範囲を超えていた。

それでも変わらず、加速を緩めることなく続け、肉薄したゲーティアの燃える拳がブルーフレームの右腕を殴り、肩ごと吹き飛ばしていく。

一気に後ろに下がったブルーフレームだが、なおもフィンファンネルによる攻撃を辞めない。

急激な加速や旋回の繰り返しに体が耐えられなくなり、まっすぐにしか移動できなくなるだろうと思ったのだろう。

実際、そのことは勇太自身も分かっており、今度は一直線に飛んでいるだけだ。

ビームは着弾し、スラスターや左足、胴体にも命中し、アラームが鳴り響く。

本来なら覚醒エネルギーがバリアとなって守ってくれているはずの装甲だが、今は守る気配がない。

「あああああああああ!!!!」

頭部カメラもビームによって焼かれ、視界が真っ暗になる。

だが、もうゲーティアは再びブルーフレームに肉薄しており、あとは右拳を叩き込むだけだった。

ブルーフレームは左腕のシールドで受け止めようとするが、紅蓮の炎を纏うゲーティアの拳はシールドごとブルーフレームの腹部を貫いていた。

腹部を貫通すると同時に撃ち込まれたエネルギーでブルーフレームが粉々に吹き飛んでいく。

そして、残されたゲーティアを纏っていた炎は消え、機体全体から煙が出ていた。

「はあ、はあ、はあ…」

「まったく、これだけの力を隠してるなら、もっと早く出せ…あのバカ」

 

「その…ごめんなさい。ブルーフレームを、その…粉々に…」

「まったくだ。コピーとはいえ、作るのに苦労したんじゃぞ?」

ベランダの飲食スペースで、オウが出してくれた台湾料理を口にしつつ、タケルは粉々になったブルーフレームの残骸に目を向ける。

生き残っているパーツを見ても、フレームには数えきれない傷ができており、関節部はもはや全部交換した方がいいくらいだ。

これについては、勇太が覚醒を本当の意味で自分のものにしたからいい。

問題はゲーティアで、それについては早急に修理を行わなければ、明日の大会に支障が出る。

おまけにバトル終了後、覚醒の影響が出たせいなのか、ガンプラそのものが熱くなっており、しばらく外すことさえできなかった。

覚醒によってある程度発熱することは分かっている現象だが、勇太の覚醒のそれはまさに炎のような熱を発しており、それがガンプラにも影響を与えていた。

「そういえば、一つ気になったんじゃが…」

「何ですか?」

「お前が急に覚醒して、燃え上がったじゃろ?それに、ゲーティアにつけている盾の女…。まさかとは思うんじゃが…」

あくまでそれはタケル本人の予想でしかないが、念のために周囲を見渡す。

もう晩ご飯時で、ここにもご飯に来た客が多くいて、オウが接客をしている。

勇太はジャパンカップ優勝者で、言いふらすようなことをするといろいろと面倒なことになる。

タケルは勇太の隣に立つと、こっそりと耳打ちする。

それを聞いた瞬間、勇太の顔が一気に真っ赤に染まる。

「そそそ、まだそういうわけじゃ…」

「まだ…?」

「ああ、そうだ!!モチヅキさん達を心配させたら行けないから…その、そろそろ失礼します!!ありがとうございます!!!」

机に額がぶつかるほど頭を下げた勇太はゲーティアをもって、大急ぎで店を後にする。

走り去る勇太の後姿を見たタケルはヘヘッと笑ってしまう。

「こりゃあ…あれのモデルはまさに…」

 

「まったく、あいつはどうした!?ずっと連絡なしだと思ったら、閉じこもりやがって!!」

何度ノックしても一向に返事のない勇太の部屋の前で、プリプリ起こりながらモチヅキは売店で購入した3本目の缶ビールに手を伸ばす。

何も言わずにいなくなり、戻ってきたらこの様子。

少しでも心配した自分が馬鹿だった。

こうなったら、今度もう1度いなくなったとしたら、たとえ誘拐されたとして探しに行ってやらない。

そう心に誓いつつ、一気に飲み干していく。

「にしても、どうしてんだ?勇太の奴、あのゲーティアを更にボロボロにして…」

「誰かとバトルをしたのかな?何も教えてくれないからよくわからないけど…」

ツキミもミソラも首を傾げ、閉じたままのドアを見つめる。

そのドアの向こうで、勇太はノートに書き終えたばかりのアイデアとテキストを元にミキシングビルドで組み立てていく。

作っていく中で、勇太は机の上に置いてあるスマートフォンを動かす。

ホーム画面にはリージョンカップ優勝後に4人で撮った写真が写っている。

彼の視線はその中にあるミサに向けられ、表情を和らげる。

テーブルには2丁のハンドガンと2枚の折り畳み式のブレードが左右に取り付けられたバックパックなどが置かれていた。

(やるんだ…勝つんだ。ミサちゃんと、一緒に歩き続けるためにも…)




武装名:4連装砲
ゲーティアの左腕のシールドの裏側に取り付ける形で装備された射撃兵装。
ミサイルと実弾などの撃ち分けが可能となっていることから汎用性があり、マガジンごと交換する形となっているため、リロードの動作や構造はシンプルなものとなっているため、作り直しやすい。
設定上はテイワズが開発した、接近戦用モビルスーツの兵装の一つをゲーティアに追加装備したという設定となっており、ナノラミネートアーマーの存在からあくまでも近接戦闘時の補助としての使用にとどまっている。
こちらの兵装が装備されたゲーティアについては勇太のノートでは1.5形態とされておいる。
そこからデブリ帯での正体不明の宇宙海賊との戦闘を繰り広げる中で、彼らが所有するガンダムフレームであるガンダムレライエに敗北し、パイロットの暁もろとも鹵獲され、彼らの手でゲーティアは第2形態へと変わることとなる。


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第47話 台湾で遊ぼう

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第4話「モンターク」
ガンダムレライエに敗れ、ゲーティアもろとも鹵獲された暁が連行されたのは自らの目的地であるドルトコロニーだった。
そこのスラム街で、彼は仮面をつけた女性、ガンダム・レライエのパイロットであるモンターク夫人と出会う。


「おい、おーい!勇太ー!いつまで寝てるんだよ、さっさと起きろー!」

ドンドンと扉を叩く音とツキミの声が廊下に響く。

アジアツアーが明日最終日となっており、この日は調整日兼休みとなっている。

その間に本選で疲れた体とガンプラを癒し、明日の決戦に臨む。

明日は本選で生き残っているチーム総出でのバトルロワイヤル。

最後に勝ち残ったチームが優勝となる。

「あいつ…いつまで寝てるんだよ?今日は西門通りへ行くって約束なのに」

ガンプラの調整や戦術についてはもう昨日の段階で済んでいて、今日は台湾の西門通りへ遊びに行くことになっている。

既にミソラやモチヅキ、ウルチはレンタカーの用意をして外で待っている。

待ち合わせの時間からもう1時間近く経過しているため、心配してツキミが来た。

ようやくツキミの声が聞こえたのか、ドアが開くとそこにはパジャマ姿のままな上に髪の毛が寝癖でいっぱいになっている勇太の姿があった。

「ああ、ツキミ君…?今、何時…」

「もう11時半だよ。お前、この時間までずっと寝ていたのか?」

「ごめんごめん、ゲーティアの調整が終わってから、別のガンプラ作ってて…」

「別のガンプラって、あのレライエか?お前が考えてる物語に出てくるガンダム・フレームの…」

「そうだよ。ただ、完成度はゲーティアほどじゃないけど」

勇太が考えている第3期の鉄血のオルフェンズのストーリーはツキミも読んだことがある。

今、勇太の部屋の机の上に置いてある、左腕に大型の弓を模したレールガンを装着した緑ベースで細身のガンダムというべきガンプラがそれで、1.5形態のゲーティアと戦闘する際はレールガンなしの状態で圧倒したという設定になっている。

明日には決勝があり、休めばいいのにそんな戦うことではなく、自分が作った物語の設定を取り込んだ観賞用のガンプラを作る勇太に思わず苦笑してしまう。

しかし、そんな余裕がなければジャパンカップで優勝できず、世界大会に出場できないのかもしれない。

「そんなことより、早く寝癖を直して、着替えて来いよ!みんな待ってるからな!」

「待って…ああ、そうだ!!急がないと!!」

「あいつ…どこか抜けてるんだよなぁ…」

大慌てで着替えを探し始めた勇太を見て、もう少し時間がかかると思ったツキミは扉を閉めた。

 

「まったく、せっかく台湾の新宿なんて言われてる西門通りへ連れて行ってやるって言ったのに、ここまで遅刻する馬鹿だなんてなぁ、あいつめ…ブツブツ…」

西門通りへ向けて走るハイゼットの中で、モチヅキはのうのうと遅刻してやってきた勇太への文句をブツブツと口にする。

一番後ろの席に座る勇太はさすがに申し訳ないと思ったのか、隅に隠れる始末だ。

「ああ、勇太。元気出せよ。俺もミソラも気にしてないからさ」

「そうそう。ねえ、お菓子食べない?これ、おいしいよ」

前に席に座るミソラがヌガークラッカーの袋を勇太に手渡し、素直にそれを受け取った勇太は袋を開けて、それを口にする。

台湾では一押しの人気お菓子で、定番なものは今勇太が食べているネギ風味の味だ。

「うっ…ネギの味がきつい…」

「これ、病みつきになるけど、たまにネギがいっぱい入っていることもあるのよ」

「まるで、三日月が食べる火星ヤシみたいだ…」

火星ヤシの元ネタと言われているナツメヤシを思い出す。

北アフリカや中東における主要な食品の一つであり、雨の少ない砂漠でも育つ上に、乾燥させることで長期間保存できることから、乾燥地帯に住むサハラ砂漠の遊牧民やオアシスに住む人たちにとって、大切な食料の1つとなっている。

栄養価も高いらしいが、火星ヤシは実際にそうなのかはわからない。

オルガと1年しか年が違わないはずにもかかわらず年少組よりも少し高い身長しかない三日月の場合、3つのピアスをつけたことによる発達障害もあるため、栄養価があるかないかは判断しようがないのが勇太の見解だ。

「あ、これはおいしい…いい感じの加減だ」

「おーい、菓子を食べるのはいいけど、見えてきたぞー」

「ああ…」

窓から外を見る勇太の視線には多くの歩行者が集まる通りとアムロやカミーユといった宇宙世紀時代のニュータイプとモビルスーツがふんだんにえがかれた門。

今日の西門通りはアジアツアーで開催されているということからガンダムシリーズがメインとなっており、おまけに週末ということで歩行者天国になっている、若者の街となっていた。

 

「どうも、お待たせしました。鹹粥(シェンチョー)を卵トッピングで135円だよー」

日本語のしゃべれる台湾人の気さくな店員に代金を支払った勇太はさっそく買ったばかりのその塩漬けのおかゆを口にする。

卵によってまろやかになった、ほんのりとした塩味が効くダシのスープが少し前に起きたばかりの勇太の胃と食道を温める。

台湾では伝統的なご飯であるそれは白身魚などのトッピングもできることや安さもあって気軽に食べれる人気の食べ物となっている。

「にしても、ここもやっぱりとは思ったけど、ガンダムでいっぱいだなぁ」

売店で買ったアイスを口にするモチヅキはガンプラやガンダムとコラボした土産物を売る店をいくつも見て、万国共通となったガンダムに驚きを隠せなかった。

ガンダムが誕生してから既に50年以上経過しているが、今でも人気は冷めないどころかガンプラバトルによってより熱くなる一方。

映画館では劇場版の機動戦士ガンダム00や逆襲のシャアなどのリバイバル上映までやっており、もし完全な休みでここに来ることができたとしたら、一度は見てみたいと思ってしまう。

ネットでいつでも見れると言えばそこまでだが、やはり映画館で見るのとでは違いがある。

「おいおい、勇太。おかゆだけで満足するなよ?それ食えたとなったら、まだまだ胃袋に入るだろ?」

「それはそうだけど…」

「え…まさか、ツキミ…」

ツキミのたくらみを察したミソラは半歩下がり、顔を引きつらせる。

昨晩西門通りへ行くことが決まって、ツキミがスマホを使って調べ物をしていた。

その際に見た画像をミソラは今も忘れられない。

「ああ、そのまさかだ!!」

 

「これって…」

「おいおいおい、こんなもの食べたら、カロリーで死んじまうぞ…」

ツキミに連れられたとある店で、ツキミが嬉しそうに受け取った商品を見たモチヅキがおびえた表情を見せる。

それが好物の一つである勇太も、さすがにその大きさはあり得ないだろうと思っていた。

「一度食べてみたかったんだよなー。豪大大鶏排の巨大フライドチキン!」

顔よりも大きさそのフライドチキンを売っているその店は本来、士林夜市という台北の巨大夜市でのみ出ているのだが、今回は特別に昼からも営業していた。

その情報を得ていたツキミはどうしてもそれを食べたいと思っていた。

一つ200円から300円くらいで買えることをいいことに、ツキミはなんとそれを5つも購入していた。

「ほら、ミソラも食べろよ!でっかいぞー」

「ええ…その、じゃあ…半分だけ…」

「半分だなんて、遠慮するなよ」

「遠慮するわよ!そんな大きさは…」

とてもじゃないが、一つ丸々食べると油とカロリーで辛いことになってしまう。

半分だけちぎって、それを口にする。

鶏肉そのものの質はかなり良く、香辛料由来の辛味がいい塩梅となっており、日本で食べるフライドチキンとは一味違うそのフライドチキンに魅了されかけてしまう。

「おいしい…」

「だろ?よかっただろ?そんなに怖がらなくて」

こういうおいしさなら何個か食べれると、あっという間に一つ丸々食べてしまったツキミはお代わりにもう1つ口にし始める。

「おいしいのは分かったから、ほどほどにね…」

おいしいのは認めるが、何事も腹八分目が肝心。

そんな勇太のささやかな忠告を無視するツキミを止められるものはいない。

 

「うううーー、ああ…」

「もう、ツキミ!!こうなると思ったわ」

通りのベンチに、背もたれに身を任せた状態でうめき声をあげるツキミにミソラはため息をつく。

結局、そのおいしさから3つも食べてしまったツキミはその油をたっぷり胃に納めてしまったせいで、胃もたれを起こしてしまっていた。

その様子に呆れるミソラだが、顔を青くするツキミを放っておくことはできなかった。

「馬鹿だろ。あんなデカイフライドチキンをたっぷり食うなんてよ」

「若さゆえの過ちっすよ、姐さん」

「おい、今その言葉ぐっさり来たぞ。私がもう若くねえとでも言いたいか!!」

「そういう意味じゃないっすよ、姐さん。まったく…」

ただ単にシャアのそのセリフを言いたかっただけなのに、突っかかるモチヅキにウルチはため息をつく。

そんな2組のじゃれあいを見つめる勇太は苦笑しつつも、どこかで寂しさを感じていた。

(ミサちゃん…勝っているかな?)

今はハワイの大会で戦っているであろうミサの姿を思い浮かべる。

もし彼女が今のこの状況を見たら、楽しそうに笑っていただろうか。

強くなって帰ってくることを信じているのは確かだが、やはり彼女がそばにいてほしいと思ってしまう。

それだけ、勇太にとってミサと一緒だということが当たり前になったというのだろう。

「ああ、そういえば勇太はタピオカは飲まないのか?台湾といえば、タピオカだろ!」

「いや、その…タピオカは、苦手なんです」

「そうなのか?意外だよなぁ。あんなうまいものを」

「好き嫌いは人それぞれ、ですから…」

ネットでも、台湾へ行くのであれば絶対にタピオカミルクティーを飲むべきだというサイトがあるが、勇太はそれでもそれを飲む気にはなれなかった。

一度だけ、タピオカが入った紅茶を飲んだことがある。

その感想は紅茶もタピオカも甘すぎた、というものだ。

甘すぎて胃がむかむかしてしまい、それから一日元気が出なかったというトラウマが勇太に焼き付いている。

おすすめのタピオカで慣らしていくことを学校の友人から教えられてはいる。

それでも、あの甘すぎて気持ち悪くなったあのタピオカ紅茶が頭から離れず、結局今は売店で買ったジュースを口にしている状態だ。

それを飲むくらいなら、野菜ジュースを飲んでいる方がましだ。

「おお、やっぱりガンプラっていうなら、こうだよなぁ」

「いきなりどうしたんだい?ツキミ君」

突拍子もない言葉が気になった勇太に答えを示すように、ツキミが正面にある大きな店舗についている大型テレビに指をさす。

そのテレビには西門通りで行われているイベントの紹介や店舗CMがいつも流れている。

「さあ、アジアツアー開催記念のガンプラバトル大会を開催中でーす!!」

「大会参加者でも観光客でも、みんなで参加できるバトル大会!ただいま、西門紅楼前の特設会場にて大会中!!今も、バトルで盛り上がっているぞー!!」

ドモンとレインそっくりなMC2人がその場所で現在行われているザクⅡ改とシン・フェデラル仕様のフルアーマー・アレックスのバトルの光景を紹介する。

サイド6リボー・コロニー内部の森林がステージとなっており、ザクⅡ改のザク・マシンガンによる攻撃をフルアーマー・アレックスが装備している増加装甲で受け止めながら直進していき、手にしているビームサーベルで両断する光景が描かれていた。

「まずい倒し方をするなぁ。それであのザクが大爆発したら、コロニーの空気が…」

「いや、あくまでガンプラバトルだから心配するなよ」

「今回のバトル大会、5勝したファイターには商品として、現在リバイバル上映中の機動戦士ガンダム閃光のハサウェイに登場するモビルスーツ、Ξガンダムとペーネロペーのガンプラをプレゼント!!なお、ペーネロペーについては外部パーツを取り外すことで、オデュッセウスガンダムにすることもできるスペシャルモデルになっておりまーす!!君は、ガンダムを受け継ぐことができるか―!!」

「こいつはいいな!!なあ、勇太も出るだろ!」

「それはもちろん…」

ツキミが出したエンハンスドデファンスにつられるように、勇太もはにかみながら第3形態のゲーティアを見せる。

「こんな時にもガンプラをもってきてやがる…あのガンプラバカども」

 

「へっ…ちょろいモンだぜ。さあ、次のバトルで勝利して、商品のガンプラをもらってやるぜ!」

ザクⅡ改に引き続き、サイサリスをも倒した、色黒な肌でガンダムカタナでフルアーマー・アレックスのパイロットを務めるコテヅそっくりの髪形をした青年があと少しで手が届くそのガンプラに思いをはせる。

「じゃあ、僕を倒して手に入れないといけませんね!」

「んなぁ!?」

通信機から聞こえる次の対戦相手の声を聞き、相手の位置を探す彼は上空にいるガンプラを見て、口を大きく開く。

空には決勝進出を決めた日本のチームのエースであるガンプラ、ゲーティアがいて、2本のブレードが展開されたバックパックによって空を飛んでいた。

「ガンダム・フレームが空を飛ぶぅ!?」

「アスタロトオリジンだって、空を飛ぶんだよ!!」

だとしたら、ガンダム・フレームのプロトタイプという設定のこのゲーティアでも、それができても不思議な話ではない。

2丁のピストルを手にしたゲーティアがフルアーマー・アレックスに向けて連射する。

「ふん!!そんなピストルの弾丸なら、この増加装甲で…うわ!!」

発射された弾丸の一部が爆発を起こし、急な爆発にフルアーマー・アレックスが思わず体勢を崩しかける。

「炸裂弾が混ざっていたか!!くそ、ついてないぜ!!」

「これで…!!」

体勢を立て直そうとするフルアーマー・アレックスに向けて、ゲーティアがバックパックを展開させたまま突撃する。

すれ違いざまに両翼のブレードがフルアーマー・アレックスの腹部に接触、機体を両断させた。

「う、嘘だあぁぁぁぁ!!」

「翼部も立派な武器なんだ、今のゲーティアは」

真っ二つに両断されたフルアーマー・アレックスがわずかな時間差で爆発を起こし、消滅する。

推進剤節約のため、ブレードを収納したゲーティアが地面に降りる。

「よし、次だ!」

「次は…俺だぜ!!」

ピピピ、と警告音が響くとともに真上からエンハンスドデファンスが対艦刀で斬りかかってくる。

前のめりになる形でその刃を避けたゲーティアはピストルをしまうと、腰に差してある鞘から太刀を引き抜く。

「なかなかの反応だよな。そのゲーティアって。どうなんだよ、ヘルメットでの阿頼耶識って」

「背中からじゃないから、ちょっとバルバトスの頃と違和感があるけど、大したものじゃないよ」

「だったら、手加減はいらないよな!!」

対艦刀に内蔵されているビームライフルを撃ちはじめ、大きく飛び上がったゲーティアは再びバックパックのブレードを展開し、飛行形態へと変化する。

「ツキミ!地上から援護するわ!」

「気を付けろよ、相手はあの勇太だからな!」

「分かってる。もう、あんな目にあうつもりはないわ!」

アグニの上半分が折りたたまれ、その中のリボルバー状の弾倉が白日の下にさらされる。

モニターに映る、エンハンスドデファンスと鍔迫り合いを演じるゲーティアを姿にかつてのリミッター解除したバルバトスの姿がだぶる。

あの時は何もできなかったが、あの悔しさを力に変えるためにここに来ている。

そして、伊達にツキミと勇太と一緒に戦ってきたわけではない。

「私だって!!」

リボルバーバズーカから発射された、赤いラインの入った弾頭がゲーティアを襲う。

「くぅ…!!」

胸部の装甲の一部が展開するとともに姿勢制御用スラスターがむき出しとなる。

それが火を噴くと同時にゲーティアが一気に後方に下がり、それを見たエンハンスドデファンスも被弾を避けるために後ろに下がる。

ゲーティアに命中しなかった弾丸は上空でさく裂し、その中に蓄えられていた1200度以上の熱が拡散していく。

「もしこれに当たっていたら、ナノラミネートアーマーが焼かれていた…」

ヘルメット内蔵モニターに表示される熱源反応の温度を見た勇太は明らかに対ナノラミネートアーマー用の弾頭に冷や汗を流す。

そのリボルバーバズーカ形態のアグニを手にしたまま飛行形態に変形したガンティライユが飛翔する。

「先にミソラちゃんを始末したいけど…うん!?」

再び別方向から、今度は実弾やビームが次々と飛んできて、避け切れない部分をシールドで受け止めて受け流していく。

「いやいや、これはちょっと…」

ゲーティアが次々と拾ってくる敵機の反応に勇太は思わず苦笑するしかなかった。

現在進行形で敵ガンプラが増えていき、中にはレグナントベースのモビルアーマーの姿さえあった。

「ジャパンカップチャンピオンが乗ってるってガンプラだってよ!」

「これ、倒したら自慢できるんじゃないか!!」

「数で押したらなんとかなる!」

「おお、ガンティライユってガンプラ、あれもジャパンカップ決勝戦で…!!」

それらのガンプラに乗っているであろう人々の声が通信機に響く。

先ほどまでゲーティアと戦っていたエンハンスドデファンスも周囲の光景を見て、何かを察したかのようにゲーティアと背中合わせになり、モビルスーツ形態に戻ったガンティライユもアグニを元に形に戻したうえで照準をそれらのガンプラに向ける。

「ねえ、勇太君、ツキミ、これって…」

「有名人になりすぎたのかな…これ」

「なんだよ、俺たちはジャパンカップで戦っただけで…」

「そのジャパンカップだから、じゃないかな…?」

今年のジャパンカップはミスターガンプラによるエキシビションマッチも手伝い、有名になりすぎた。

特に勇太はそのミスターガンプラを激闘の末に下し、それゆえに多くのファイターのターゲットになってしまった。

おそらく、決勝戦とエキシビションマッチの映像は現在進行形でネットに拡散していることだろう。

「こうなったら、あれだな…バトルの方法はこいつらを一機でも多く倒す競争ってことで」

「そうしよう…そうじゃないと、こっちの身が持たないから!!」

「んもう、なんでこうなるのー!!」

現在進行形で増えていく敵ガンプラに向けて、ゲーティアは覚醒を発動する。

炎を纏い、刀を手にしたまま目の前のガンプラに向けて高速で突っ込んでいった。

 

「はああ、疲れた…明日が決勝戦なのに…」

「ったく、せっかく息抜きさせてやろうと思ったのに、これじゃあ息抜きにもなってねーぞ」

ホテルに戻り、くたくたに疲れた3人は食堂の席に着くと同時に机に突っ伏していた。

どうにか野次馬たちを退けることはできたが、その時には全員のガンプラがボロボロになっているうえに推進剤も弾薬も残りわずかな状態になっていた。

長時間の戦いでくたくたになったため、結局ここでの決着はお流れとなり、景品である2つのガンプラを受け取った。

決勝前にここまで疲れると、一晩寝るだけで回復できるか正直に言うと不安になる。

「ま、こういう時はメシを食って回復するだけ。あ、店員さん、ビールお代わり」

「コラ、ウルチ!!お前がお代わりすんなよ!っていうか、私の金だぞ、これ!!」

カドマツからある程度旅費は受け取ったが、もう底をついており、今はモチヅキのポケットマネーで支払いをしている状態だ。

その部分は帰国したら必ずカドマツから徴収してやると心に誓うとともに、メニューとにらめっこを始めた。

「明日が決勝戦、勇太は決勝戦が終わったらどうするんだ?」

「もちろん、日本に帰るよ。それで、世界大会の準備をするよ。2人は帰らないの?」

「俺らは夏休みを使って、台湾の国家宇宙センターで研修をするんだ。2週間だけだけど、外国の宇宙センターでの知識は大きなものになるって、ロクトさんが言ってたんだ」

台湾宇宙センターは最近、日本とも連携するようになり、沖縄宇宙飛行士訓練学校ともつながりがある。

そのため、そこでは短期間であるとはいえ、研修が行われるようになった。

現にロクトも、台湾宇宙センターでの研修を受けたことがあるという。

そこには日本だけでなく、アメリカなどの他国の訓練生とも交流することができるという。

「確かに、俺たちはお前に勝てなかった。けど、それですべてが終わったわけじゃない。まだほかにも宇宙飛行士になる道があるなら、それに向けて走っていくだけだ」

「そうか…だったら、明日の決勝戦は勝って、その弾みにしないとね」

「ああ、そしてお前は未来の世界チャンピオンだな!」

「それを言うなら、僕とミサちゃん、ロボ太とカドマツさんが、だよ」

「謙遜するなよ。あんな炎を纏ったような覚醒、いつからそんなことが…」

「覚醒できるだけでもすごいのに、どうしてそこまで…」

トークが盛り上がり、それは閉店時間になるまで止むことはなかった。




機体名:ガンダム・レライエ
形式番号:ASW-MS-14
使用プレイヤー:なし(物語上ではモンターク夫人)
使用パーツ
射撃武器:左腕部大型試作レールガン
格闘武器:ナイトブレード
シールド:なし
頭部:ガンダム・バエルとトリアイナのミキシングビルド
胴体:ペイルライダー
バックパック:ガンダムバルバトス
腕:ペイルライダー
足:ライジングガンダム

暁を捕らえた海賊組織が所有するガンダム・フレーム。
特徴的なのは左腕の装着されている大型レールガンで、使用する際は外側から内側へ移動した後、巨大な弓矢のような形に展開し、右手で制御して弾頭を発射する形となっている。
バックパックにはダインスレイヴ装填のためのサブアームが装備されており、単独での発射と装填を可能としていたものと思われる。
パーツそのものはダインスレイヴ発射の際の反動を考慮して頑丈な設計であるため、通常時は盾替わりにすることができるものの、可動部を狙われると分解するという弱点がある。
アリアンロッド艦隊が使用するレールガンはこのガンダム・フレームのレールガンのデータを参考にされており、エリオン家で保管されていたが、ラスタル・エリオン暗殺事件の1週間前に強奪されており、モンターク夫人が運用するようになった。
その際の装備はレールガンは取り外されており、ナイトブレード1本でゲーティアを圧倒した。


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第48話 炎の戦士VS骸骨騎士

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第5話「第2次ドルトコロニー動乱」
タービンズ及びテイワズ非正規組織オンブラによるゲーティア奪還作戦が開始された。
オンブラの突入部隊が起こした混乱に乗じて暁はゲーティアを奪還するも、彼の前に新たなガンダム・フレームが姿を現す。
そのパイロットは『三日月・オーガス』と名乗り、暁を襲う。



「ん、んん、ん…はぁぁ、よく眠れたな…」

ベッドから降り、着替えを始めた勇太はさっそくテレビをつける。

日本語吹き替えされたニュース番組が流れ、それをBGMにして着替え終えると、冷蔵庫に入っているペットボトルのコーラを手にして、飲み始める。

そうしていると、ベッドそばの小さなテーブルに置いてあるスマホが振動する。

「メールかな…もしかして」

メールとなると、かかってくるのは両親以外にはわずかしか思い浮かばない。

そのうちの1人はおそらく、ロボ太のメンテナンスと仕事のため、連絡することすら難しい状態だろう。

誰かはある程度見当がつくものの、今日までまったく連絡も何もなかったため、珍しい連絡に勇太の心が躍る。

『久しぶり!!んもう、ずっとメールもしてくれないなんてひどいよ!まぁ、私も連絡しなかったけど…。今、どうしてる?私は明日には日本に戻るよ!早く勇太君とロボ太に会いたいなぁ。勇太君、絶対にウィルに勝とうね!!』

「…カドマツさんが抜けてるよ、ミサちゃん」

「勇太ー!朝ごはんに行こうぜー!」

ノックと共にツキミの声が聞こえ、勇太はスマホをポケットにしまう。

「台湾での最後の朝ごはんか…」

決勝戦が終われば、そのままホテルを引き払って今日中には日本へ戻ることになる。

ツキミとミソラとも、そのままここでお別れになる。

(また会える…けれど、一緒に戦えるかはわからない。だから、この決勝戦をしっかり楽しもう)

ただし、その相手はそんな悠長なことを許してくれるとは思えない。

相手は勇太にとってはよく知っている強敵なのだから。

 

「参加者のみんな、そして観客のみんな、このアジアツアーも今日で最後だ。数多くのバトルを見せてくれた奴らの中で、今ここで最強が決まる!さあ、勝っても負けても文句なし!今回は日本チーム同士のバトルだぁ!!」

MCの流暢なトークと共に、会場には歓声が上がる。

「まずは赤コーナー、骸骨がトレードマークの死神軍団!景浦武率いるチーム・スカル!!さすらいのガンプラファイターはここで嵐を起こして去っていくのかーーー!!」

タケルを先頭にして、3人のファイターがそれぞれのガンプラを手に入場する。

注目が集まっているのはタケルが握るトトールギス・スカルウィングだ。

最近新設された『GUNPLA』というガンプラそのものの6項目、10段階でのステータス評価でも、その機体の性能が高く評価されている。

完成度を現す『Gread』が8と高い評価を受けており、それが性能にも反映されている。

「そして、青コーナー。ジャパンカップ優勝者と準優勝者がタッグを組んで、アジアに牙を向ける。チーム・クロスレイズ!!」

「クロスレイズ??沖縄宇宙飛行士訓練商店街チームじゃないのかよ??」

「長すぎるから、僕で名前を決めたよ」

「クロスレイズって、たしか前に出たGジェネの…」

「いいでしょ?僕たちの元の機体、全部それに出てるし」

「良くねえ!勝手に決めるなよ!!」

「ああーーー!!こんなところで口喧嘩すんな!恥ずかしいだろ!!」

言い合いながら入場するが、歓声のおかげで聞こえずに済んでいた。

旅の恥は掛け捨てという言葉はあるが、ジャパンカップ優勝・準優勝によって知名度が上がっていて、ネットが世界中を包む今となってはその言葉も死語になりつつある。

他の誰にも聞こえていないとはいえ、それでも間近でそんなのを見せられては臨時の保護者であるモチヅキの立場がない。

なんとか全員がシミュレーターに入り、それぞれが自らのガンプラをセットする。

モニターが起動し、アークエンジェルの格納庫の光景が映り、隣にはガンティライユとエンハンスドデファンスが映る。

だが、2機ともジャパンカップやアジアツアーでの経験を元に改修が施されており、装備にも変化が生じている。

エンハンスドデファンスはストライクノワールベースのものなことは変わりないものの、両腕がガンダムレギルスのものに変更されていて、バックパックにはシュベルトゲベールに変わるヴァルキュリアバスターソードに似た装備が取り付けられている。

ガンティライユには上下に稼働するバイザー型のガンカメラが追加搭載され、腕パーツは両肩にバルバトスルプスをモチーフとした廃熱機構がついた、新設したものに変更されている。

他にも主武装がヴァルデバスターの複合バヨネット装備型ビームライフルに、以前のバトルでアグニに追加していたリボルバー形態を追加したものに変わっている。

「いいか、お前ら!泣いても笑っても、これが最後なんだからな!勝って帰れ!いいな!!絶対だぞ!!」

「分かってますよ、モチヅキさん。負ける気はありませんから」

緊張はするが、ここはまだまだウィルとの決戦へと続く通過点に過ぎない。

ここで立ちはだかるタケルに勝てないようでは、ウィルに勝つこともできない。

「さあ、このバトルはギアナ高地でのガチンコ真っ向勝負!!さあ、勝利の女神はどちらに微笑むのか、ハッチが開くと同時に、試合開始だ!」

発進シークエンスに移行し、まずはガンティライユがカタパルトに乗る。

ハッチが徐々に開き、真夜中のギアナ高地の緑が映し出される。

そのところどころには宇宙世紀のモビルスーツの残骸が残されており、おそらくそれはリギンド・センチュリーにおけるものだと思われる。

「さあ…行こうか!!」

ガンティライユ、エンハンスドデファンス、ゲーティアの順番にアークエンジェルから発進していき、3機の発信を見届けたアークエンジェルが姿を消す。

小高い丘の上にはすでにトールギスがヒートランスを手にした状態で待ちかまえていた。

「見えた!まずは私が!!」

さっそくミソラがトールギスを撃とうとするが、その前に警告音が響き、同時に三方向からビームが飛んでくる。

バヨネット部分でビームを受け止めたミソラはその犯人を逆探知する。

「ガデッサタイプのガンプラ…あれが撃ってきたの??」

モニターに映ったのはアルケーガンダムのような赤で塗装されたガデッサで、両肩両足にGNファングが装備されたものとなっていた。

既に手持ちのGNメガランチャーのチャージが完了しており、足を止めたミソラに向けて発射してくる。

「ミソラ!!」

割って入ったツキミのエンハンスドデファンスが両手を伸ばしてビームシールドを展開し、大出力のビームを受け止める。

ビームシールドに完全に出力を回し、身動きが取れない状態であるにもかかわらず、肝心のトールギスは動き気配を見せない。

「あの機体…やっぱり、勇太を…」

「私たちのことは眼中にないってこと!?」

「だからだろうな…ミソラ!!まだ来るぞ!!」

「んもう!!せっかくしっかりガンプラを改造してきたのに!!」

メガランチャーが止まるが、同時に再びファングが襲うとともに森の中から今度は水色に塗装されたバイアラン・カスタムが飛び出してくる。

「ミソラちゃん、ツキミ君!!」

「勇太、こいつらは俺たちがやる!お前はあの骸骨と決着をつけて来い!!」

「あのガンプラも…同じ気持ちみたいよ!!」

接近してくるバイアラン・カスタムベースのガンプラが両腕に接合された形のGNソードⅢを振るい、それをツキミがバックパックから手にしたバスターソードで受け止める。

ミソラもガデッサのGNファングを数発受けてはいるものの、対ビームコーティングでしのいでいた。

「…頼んだよ、2人とも」

仮にも、2人とはジャパンカップで優勝を争ったファイター同士。

負けることはないだろうと思い、ゲーティアに刀を2本抜かせた後で地上に降り、トールギスと対峙する。

「優勝には興味がない…そうですよね、タケルさん」

「当然じゃ。俺はやりたいようにやる。今は本気になったお前と1VS1で真っ向勝負がやりたい…それだけのこと」

ちょうど、今のゲーティアなら短時間は飛行可能となっており、空中戦も可能。

「まずはどうだ…空で銃撃戦というのは」

「…」

「そうだ、それでいい」

納刀すると同時に2丁のハンドガンを手にしたゲーティアに応えるように、ヒートランスを地面に突き刺したうえでドーバーガンを構える。

翼をはためかせ、飛翔すると、ゲーティアは上空へ飛んだあとでブレードウィングを展開する。

両者がスラスターを吹かせるとともに互いの機体に向けて手にしている火器を撃ち始める。

連射性能に優れるハンドガンを連続発射する中で、トールギスは優雅に飛び回りながら弾幕を切り抜けていく。

途中途中で炸裂弾が爆発し、煙が空を汚す。

「火力重視の破砕砲からだいぶおとなしくなったじゃないか!あのバカみたいな火力でナノラミネートアーマーを貫くんだろう?」

「確かにそれもいいですけど、手数があるのも悪くないでしょう!?」

ビームと実弾の打ち分けのできるドーバーガンは早々に破壊しなければならず、勇太は狙いをドーバーガンに絞ろうとするが、翼があるためにできる変則的な動きのせいで中々タイミングを合わせることができない。

「だったら!!」

右手のハンドガンをホルスターに入れると、足に取り付けてあるハンドガン用のホルスターの1つを手にして、上空に向けて投げる。

そして、それを1発で撃ち抜いた。

破裂した弾倉から出てきた弾丸が重力に引っ張られて落ちていくとともに、中に混ざっている炸裂弾が爆発し、周囲を明るく照らす。

「即席のフラッシュバンか!!」

こうなったときにまっさきに狙ってくる。

タケルは頭の中で勇太のここからの動きをシミュレートする。

ハンドガンの弾倉の中には確かに一定確率で炸裂弾が入っているが、次に撃つそれが炸裂弾かどうかはこちらからは予想できない。

むやみに動くと上から降ってくる銃弾の雨を受けるだけ。

止まっていたら、撃ち抜いてくる。

炸裂弾を撃つ場合と通常弾を撃つ場合の二通りで、彼の動きが分かれる。

「だとしたら…ここかぁ!?」

見えないなりに彼の動きを追いかけ、動きの変わるギリギリのコースに向けて通常弾頭のドーバーガンを発射する。

「くう…でも、この程度なら!!」

ドンピシャの位置に飛んできた弾丸に驚く勇太はやむなくハンドガンの1発をその弾丸に向けて発射する。

2つの弾丸がぶつかり合い、爆発を起こすもその中を突っ切ったゲーティアがドーバーガンを至近距離でとらえる。

トリガーを引くと同時に通常弾が発射され、それがドーバーガンの弾倉に命中する。

「へっ…やっぱり、こうでなくちゃあなあ!!」

ドーバーガンはもう持たない状態だとわかり、笑みを浮かべるタケルは迷うことなく爆発しようとするドーバーガンを投げ捨て、一気に後方に下がりながら頭部に増設されているバルカンポッドでそれを撃ち抜く。

内部のEパックに引火すると同時に爆発を起こし、間近にいたゲーティアがそれに飲み込まれる。

「お返しの即席ナパームだ。そして!!」

更に追撃で爆炎の中にいるゲーティアに急速接近と同時に腹部に蹴りを叩き込む。

コックピットを激しい衝撃が襲い掛かり、勇太の体を激しく前後させる。

ゲーティアが地面に落ち、降り立ったトールギスが地面に刺しているヒートランスを引き抜く。

「銃撃戦は確かにお前の勝ちだ。だったら、今度は接近戦だ。まだ動くだろう?」

「くぅ…!!」

強い衝撃で、下手をしたら電子系統が駄目になってしまったかと思ったが、まだ操縦桿はしっかり反応してくれており、メインカメラにも支障はない。

刀を1本だけ抜き、左腕の盾を前面に出して守りの構えに入る。

今の勇太の脳裏には2人のことは消えていた。

今ここにいるのは自分とタケルの2人のみ。

槍を構えたトールギスが翼をはためかせると、正面にいるゲーティアに向けて突っ込んでいく。

盾で受け流し、その隙に刀を突きさすことができれば倒すことができる。

ただ、そんな行動をとることはタケルも分かっている。

必ず正攻法でそれを許してくれるとは思えない。

翼だけを使って飛翔したトールギスが真上から槍を鈍器のように振るい、それを盾でしのぐ。

接触と同時にヒートランスの高温が盾の表面を焼く。

そして、それを地面に突き刺した状態で今度は横蹴りを仕掛けてくる。

「グリフォンビームブレイド!?」

「接近戦こそ、こいつのウリだ!」

よく見ると、トールギスの下あご部分が開き、強制排熱が始まっていた。

エレガントな騎士からかけ離れた、血に飢えた骸骨。

ドクロにこだわるタケルらしい機体に思えた。

だが、このような廃熱が行われているということは、ここから始まるものが容易に想像できる。

「さあ、始めるぜ…極限の接近戦という奴を…」

盾を踏み台代わりにして大きく跳躍したトールギスのスーパーバーニアに火が付くとともに翼を大きくはためかせる。

「はあ、はあ…極限、なら…僕だってぇ!!」

空を舞うトールギスをにらむゲーティアも装甲が青いオーラで包んでいく。

ブレードウィングを展開し、食いつくようにトールギスに迫った。

 

「くっそ!!あのガデッサ、接近戦に持ち込んでもこれかよ!?」

エンハンスドデファンスがバスターソードを分離し、大小の2本剣に変化させると、それに内蔵されているビームライフルで牽制する。

どうにか接近することに成功したが、やはり相手はタケルと共にアジアツアー決勝まで上がって来たということもあり、一筋縄ではいかない。

両腕に内蔵されているGNビームバルカンがサーベルを展開し、グリムゲルデのような小回りの利いた高機動戦闘を見せつけてくる。

ミソラと連携して戦うはずだったが、ミソラもまた別の機体への対応に当たっている。

鍔迫り合いをする中、2機を側面から激しい余波が襲い掛かる。

嵐が過ぎ去ったかのような衝撃に一瞬2機の動きが止まる。

「これは…まさか、勇太か??」

「ツキミ!あれって…あの嵐って…」

同じくそれを感じたミソラと彼女の相手をするバイアラン・カスタムもまた戦うのを忘れていた。

「最大稼働状態で戦っているんだ、どちらも」

「けど、そんなことしたら、どっちもバラバラに…!!」

「それでも、やるつもりなんだろうな、勇太も…勇太の相手になっているタケルさんも」

おそらく、この嵐の中で2機は互いに機体がボロボロになるのを覚悟で戦っているのだろう。

せっかく対ウィルのために完成させたであろうゲーティアを失うこともいとわずに。

実際、ひび割れた破片が飛び散っていて、ツキミの脳裏にかつてリミッター解除をして2機に襲い掛かったバルバトスの姿がよみがえる。

あの時のバルバトスはまさに脅威で、狂戦士ともいえたが、今はその狂戦士同士がぶつかり合っている。

仮にゲーティアがリミッター解除し、おまけにトールギスが覚醒をして見せたらどうなるか、もう考えるのも予想とさえ思ってしまう。

「日本一も…世界も…遠いんだな…」

 

「うおおおおおおお!!!」

「はあああああああ!!!」

もう既に盾を投げ捨てたゲーティアの2本の刀とトールギスのヒートランスがぶつかり合う。

お互いにもう避けることをやめていた。

互いの攻撃を武器と装甲で受け止めあっていた。

避けずにぶつかり合い、強靭な守りのはずのナノラミネートアーマーとガンダニュウム合金装甲が傷ついていく。

お互いに強烈なGを全身で感じており、指先の感覚もあいまいになっていた。

「ありがとうな、勇太。もう1度ガンプラバトルに戻ってきてくれて」

「タケルさん…?どうしたんですか!?急にしんみりして!!」

「たまにはそうなることくらいある!特に…あいつがいなくなってからな」

タケルの脳裏に浮かぶのは今は亡き勇武とのバトルの日々だ。

互いにガンプラでぶつかり合い、作りあい、分かりあってきた。

それについては、勇太も勇武の遺したハロのデータからわかっており、彼の着想や戦い方、戦闘データの多くにタケルの名前があった。

だが、勇武がいなくなったことで勇太がガンプラバトルから身を引いたように、タケルもどこか糸が切れてしまった感覚があった。

「どんなに各地を回っても、どんなファイターとバトルを繰り広げても、俺は満たされなかった。あいつと戦った感動はなかった。馬鹿な話だよな、死者にいつまでも勝てるわけがないってのに」

サイコフレームやバイオセンサー、ニュータイプの力もない以上、死者とつながることは空想の中でしかない。

アムロとシャアがララァという死者に翻弄されたように、ハサウェイが自らの手で殺める結果となってしまったクェスの亡霊にとりつかれ、破滅へと突き進んだように、死者にはどうやら生者に絶対に勝てるような何かがあるらしい。

しかもそれは、生者には絶対に手に入らないものだ。

「だが、お前が戻って来た。一度は捨てたはずの、あいつが進めなかった道をお前が進んだ。そして、俺はそんなお前と正面から闘える」

「けど…たとえ弟だとしても、僕は…」

「ああ、分かってる。お前は勇太だ。勇武じゃない。けれど、ようやく会えた。結局、一番身近にいたんだな…新しいライバルってものが」

「ライバル…タケルさん、それって…」

「おいおい、手が止まってるぞ!!」

思いもよらばい言葉をかけられ、思わず動揺してしまった勇太の手が止まり、隙ができてしまったゲーティアがヒートランスの薙ぎ払いを受けて左手の刀を落としてしまう。

両手で刀を握り直したが、側面からの強烈な攻撃に弱い弱点を突かれる形で、今度はそれを折られてしまう格好になってしまった。

「だから本気でやる。新しいライバルになったお前を今度は正面から倒して、前へ進む!!」

「くっ…勝手な、人なんですね…あなたは!!」

「当たり前だろう!これは…遊びなんだからな!」

「それについては…同意しますよ!!」

トールギスが武器を失ったゲーティアめがけて、ヒートランスを構えて突撃を仕掛けてくる。

そのヒートランスを両手で受け止めたゲーティアのオーラが徐々に紅蓮の炎へと変わっていく。

「僕は…勝つ!!」

「何!?」

白羽取りしたヒートランスを力づくで折り、動揺するトールギスにお返しと言わんばかりに腹部へ蹴りを叩き込む。

今度はトールギスが地面に転落し、タケルは痛みに耐えながらダメージを確認し、その間にゲーティアが降り立つ。

本当なら、そのまま追撃をすることで勝てるはず。

だが、タケルが勝手なことをするのであれば、それをお返ししてやりたいという思いがあった。

「これで…お互いに使える武器は…ない…」

リミッター無視の高機動戦闘の影響で、ブレードウィングとして採用しているデモリッションナイフはコントロールが効かなくなっており、ただのオブジェと化している。

もはや邪魔となったそれを強制排除し、燃え上がる機体をそのままに拳を向ける。

「はあはあ…こちとら、今の攻撃で、翼は故障している…」

お互いにもう、殴りあう以外に使える武器はなく、今の状況を考えると全力の攻撃は1発くらいしかできない。

上空でぶつかり合う4機は消耗しつつも、なおも決着がついている様子はない。

立ち上がったトールギスはこれから行うことで邪魔になる翼を排除し、強制排熱を続行したまま拳を向ける。

「もう小細工はなしだ。最後は拳と拳、どちらが強いかの真剣勝負だ」

「小細工はなしって…最初からないでしょ、そんなものは」

「そうではあるけどなぁ」

フウウとお互いに深呼吸をし、ただ目の前にいるライバルに全神経を集中させる。

そして、お互いにスラスターを吹かせて接近していく。

残っている力をすべてその拳に注ぎ込み、必殺の一撃を叩くことだけに力を向ける。

「はあああああああああ!!!」

「うわああああああああ!!!」

燃え上がる拳と青く光る拳が目の前のライバルに向けてまっすぐ伸びる。

タケルの目には拳が確かに燃えるゲーティアに届いたように見えた。

「やっ…!?」

勝利を一瞬だけ確信したが、次の瞬間バリバリと周囲から音が響き始める。

同時に周囲の電子機器がスパークを起こしはじめ、コックピットにひびが入り始める。

「何ぃ!?」

「タケルさん…あなたの拳はゲーティアに届いていない。届いているのは…僕の拳です!!」

「マジ…かよ。こんなギリギリのところでカウンター…へへっ…」

この一撃を、このようなタイミングで受けたのは何年ぶりか。

一瞬、肉眼に映るゲーティアの姿が勇武のブルーフレームと重なって見える。

心の底から伝わる満足感に身を任せ、目を閉じたタケルは機体の爆発と同時にログアウトした。

 

「うわあああん!!アジアツアー優勝、すげえぜ、お前らぁ!うわあああん!!」

「姐さん、泣きすぎっすよ。それに、周りが…」

空港の中で、子供のようにワンワン大泣きするモチヅキをあやすウルチだが、その周囲からの視線があまりにも痛い。

中には迷子の子供と誤認してスタッフに声をかけようとする人さえもいる状態だ。

「泣かないでくれよ、モチヅキさん。感激してるのは分かるけど…。ああ、そういえば大丈夫なのかよ?ゲーティア。直せるのか?」

「あれだけ派手な戦いをして、それ自体作るのもすっごく大変だったんじゃないの?」

モチヅキをひとまず彼女に任せたツキミとミソラは勇太のカバンの中に眠るゲーティアを心配する。

勝利したとはいえ、手ひどく損傷した機体を修理しなければならず、日本から帰ってから2週間後には世界大会が始まる。

それまでに満足な状態でできるのかどうか、それが2人には心配だった。

「大丈夫。あの戦いでまたデータが手に入ったから、ここから第3形態を作るだけさ」

「第3形態を作る!?まったく、どこまでパワーアップさせるつもりだよ、ゲーティアを」

「まだまだ足りないさ。彼に勝つためにも…」

そのためにも、早々に日本に戻って作りたいと思っている勇太だが、唯一気になるのがタケルの行方だ。

一言お礼を言ってから帰ろうと思ったが、表彰式ではもうタケルの姿がなく、彼のチームメイトにも聞いたものの、帰ってきた答えはもうすでに台湾を発っていることだった。

彼らしいと言えばそこまでだが、チームメイトをないがしろにし過ぎではないかとも思ってしまう。

「じゃあな、勇太。一緒に戦えて楽しかったぜ」

「負けないでよ。ミサちゃんにも、よろしくね」

「うん…2人とも、ありがとう」

ツキミが差し出す手を勇太が笑顔でつかみ、握手をする。

ここから当分会えなくなる。

次に会うときは2人は宇宙飛行士の夢に、勇太はミサと共に世界を獲る夢に近づいているはずだ。

その未来への期待に胸を膨らませていた。

 

「えーーー、それでは久しぶりにみんな揃ったということで…かんぱーい!!」

「「「かんぱーい!!」」

綾渡商店街の夜、小料理屋みやこに面々がそろい、乾杯と同時にそれぞれがコップに入れている飲み物を飲み始める。

そして、ミヤコが出す手料理を口にしながらそれぞれが思い思いに語り合う。

「いやー、しかしすげえな。国際大会で勝ちまくりだろ?」

「ミサちゃんもアメリカツアーで準優勝だったんでしょう?」

「あとちょっとで優勝だったんだけどねー、やっぱり強かったなー、ロクトさん」

「確かに…あの人は強いよ」

成田空港行の飛行機の中で、勇太はミサとロクトのバトルの録画映像を見ていた。

ミサも善戦したものの、ほんのわずかな差で彼が上回っていた。

ただ、ここからは勇太たちの知らないことだが、国際大会における日本人の快挙が各地で話題となっているようだ。

「でも、これならあの百貨店の頭領だって、敵じゃねえな!」

「それはないですよ、マチオさん。彼に勝つにはもっとパワーアップしないと…あ、パワーアップとしたら、カドマツさん。ロボ太はどうなんです?」

「ああ、ばっちりだ。あいつもしっかり修行している。早くお前らと一緒に戦いたくてウズウズしているみたいだぜ。あと…モチヅキ、お前なんだよ。この金の使い方は。5人分使うってのは聞いてはいて、俺もOKしたが、滅茶苦茶だろ?」

にらみつける彼の視線をそらすように、モチヅキがチビチビとビールを飲んでいく。

宿泊費や食事代、レンタカー代などの必要経費についてはカドマツも文句を言うつもりは全くない。

だが、それ以外にお土産代にエステ、化粧品など明らかにモチヅキが使う目的でしかないようなものまで入っていて、その領収書を見たときは一瞬めまいがした。

「別にいいだろー?ボーナス出たっつってたし」

「ボーナスで足りるかよ!?こうなったら、例のものでこき使ってやる」

「やめろぉ!!」

「例のもの…?」

「完成したら見せてやるよ。きっと、びっくりするぞ」

フフンと得意げな笑みを見せるカドマツ。

どのようなものなのかは想像できないが、今はウィルとの決戦が大事なため、特に追及することなく勇太はコーラを口に含む。

「あーあ、私もミソラちゃん達に会いたかったなぁ。ニュースサイトで3人がチームを組んでるって知ったから」

「いや…ごめん。いきなり連絡するのも悪いって思ったから」

「で…どう思った?」

「そりゃあ、私が一緒に出られたらなって思っただけで…」

「ミサちゃんと…かぁ。じゃあ、次のアジアツアーは一緒に…」

「おーおー、なんだぁ、勇太。ガンプラバカのくせにナンパなんて覚えやがってぇ」

「ナ…ナナナナ、ナンパ!?そんなんじゃ!」

「顔に出てるぞ?それにミサもジェラシいなぁ」

「モ、モッチー!そんなんじゃないから!!そんなんじゃ!!」

2人仲良く顔を赤く染めてあたふたと手を動かして否定する姿に周囲の大人たちは見逃さない。

ほんのわずかながら離れていたこともあってか、互いにより意識し始めたように思えた。

「あ、そうだ勇太君。これは君が良かったらの話だけど…世界大会が終わったら、ウチでバイトをしないか?」

「え、あ…バ、バイトですか?」

「そうそう。そして、ゆくゆくは店を君とミサの2人で…」

「な、ななな…!?」

ユウイチの言葉で、一瞬だが勇太はミサと2人でプラモ屋を切り盛りする光景を頭に浮かべてしまう。

子供たちが集まる中で勇太が彼らにガンプラを教え、ロボ太は対戦をするなどして交流を深めている。

そして、夜になって店を閉めたら2階にはエプロン姿のミサがいて、そのそばには勇太とミサに似た子供2人の姿が…。

そんなことをうっかり想像してしまった勇太の視線がチラリとミサに向けられる。

すっかり顔を下に向けているミサだが、分かりやすいぐらいに顔を真っ赤に染めていた。

「ハハハ、ついに娘に春が来たというのはうれしい限り。若さに乾杯!」

「乾杯!!」

「ちょ、違う!まだ、そんなんじゃ…!!」

「まだ…?じゃあ、いつなるんだ?今夜かぁ?」

「んもーーー!!勇太君、何か言ってーーーー!!」

助けを求めるミサだが、もう頭が沸騰してしまっている勇太には助けるだけの力が残されていなかった。




機体名:ゲーティア(第2形態)
形式番号:ASW-MS-00
使用プレイヤー:沢村勇太
使用パーツ
射撃武器:ハンドガン×2(ガンダム・ヴィダール)
格闘武器:太刀×2
シールド:オリジナルシールド(裸の女性のレリーフが刻まれたカイトシールドで、ベースはセイバー)
頭部:オリジナル(ユニコーンをベースとし、顔部分はバルバトスに近い)
胴体:ガンダムバルバトス(後ろ腰にハンドガン用ホルスター装備)
バックパック:ガンダム・アスタロトオリジン(ブレードウィング追加)
腕:ガンダムバエル
足:ガンダムアスタロト(弾倉用ホルスター装備)

設定上はガンダムレライエに敗北したゲーティアを宇宙海賊の手によって改修したもの。
暁を引き入れることを前提としたもので、機動力と安定性の向上のため、入手したガンダム・アスタロトのデータを元に開発された追加スラスターが外付けされている。
大気圏下での飛行については5分程度であれば可能となっている。
また、ブレードそのものは取り外しも可能となっており、2本のブレードに転用可能だが、取り外した場合は自力での再装備は不可能となっている。


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第49話 いざ、ギガフロート

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第6話「三日月・オーガス」
テイワズに救われ、無事に歳星へと帰還した曉。
海賊組織、モンターク夫人、そして未確認のガンダムフレームとそのパイロットが名乗った三日月・オーガス。
敵の正体が見えないままだが、つかの間の休息を家族と共に過ごし、その中で曉は自らの父のこと、鉄華団のことをアトラの口から語られる。
そして、地球のエドモントンにはモンターク夫人が姿を見せていた。



プラモショップにある作業スペース、机の上には無骨な外装パーツとゲーティア、新たな装備のアザレアが置かれていた。

「これを…アザレアの強化外装で装備する、というのは…?」

「えー。重たいし、かわいく見えないよー。それなら、前にバルバトスにやったようにゲーティアにつけたら?」

アザレアに作ってくれた気持ちはありがたいが、ミサにはその装備をどうしても使う気にはなれなかった。

茶色をベースとしていて、鬼のような2本角はアザレアのデザインとは真逆のものだ。

どうせなら、SEEDや00をベースとしたデザインにしてほしかったのにと思ってしまう。

「そうしたいけど、もうアザレアにつけるの前提でパーツとか調整しちゃったからなぁ…」

せっかく作ったにはミサに使ってほしいと思ったが、断られた以上はゲーティアに会わせて再調整しないといけない。

どう再調整するか、というよりもそのその装備がゲーティアのスタイルを大幅に崩してしまうかもしれないため、そこをどう折り合いをつけるべきか。

「それで、これがアメリカの大会での装備か…」

シンプルな装備に終始していた、これまでのアザレアしか見たことのない勇太には今回のその装備はその真逆へと進化していた。

フルシールドによって重量の増した両腕に右手に握られている大型ビームマシンガン。

オプションパーツとして、両肩にはシュツルムファウストにバックパックには2門のガトリングガン、胸部にはフラッシュバンなどが装備されている。

また、出力系統はキュリオスの太陽炉に変わっている。

「かなりシステムも変わっているし、これならトランザムが使える?」

「もっちろん!スピードは少し落ちたけど、トランザムを使えば、前のアザレア以上になるよ!あとは…」

「勇太君、ミサ」

作業スペース入口から女性の声が聞こえ、2人が振り返るとそこにはサクラの姿があった。

「サクラさん」

「久しぶりね、勇太君。ミサ。見送りに来たわ。今日でしょ?アメリカへ行くの」

「はい、ハワイへ行って、そこからは船で…」

ギガフロートはハワイ南西の公海に置かれているもので、国連が十数年前に発動した軌道エレベータープロジェクトを元に作られたものだ。

太陽光発電の新しい方法、天気に左右されることのない宇宙で発電し、それを地球へ供給するという、理論上のみの存在で実現ができないと長い間されていた方法。

軌道エレベーターを作るための高純度・軽量カーボンナノチューブが発明されたことから始めったプロジェクトは国連で臨時機関である国際連合軌道エレベーター開発機関が設置され、日本やアメリカ、イギリス、そしてNASAから出向した技術者たちを集めて、何十年にもわたる技術研究と建設事業の末にようやく完成の目途が立った。

安定した多量のクリーンな電力、一般の人々がようやく宇宙へ行くことのできる入口が今回の世界大会でお披露目となる。

現状はテロ対策も兼ねてハワイが唯一の窓口となっている。

「私は用事があって、すぐにはいけないけど、決勝戦までには追いつくようにするわ」

「そっか…。じゃあ、なおらさ決勝に行かないと!多分、決勝であいつと戦うことになるかもしれないし」

ミサの脳裏に浮かぶのはウィルとガンダムセレネスの姿。

あの時、煮え湯を飲まされた彼と、この彩渡商店街の未来をかけて戦うことになる。

彼と決勝で戦うことになるかどうかは分からないが、サクラも応援に来てくれることはとてもうれしい。

「よ、ミサ!勇太!元気にしとるか」

「ホウスケ君も…!」

「優勝のお祝いと、これから世界大会に出るライバルの顔を見たいと思ってなぁ!」

「ライバルからの激励か…こういう決戦前にはよくある話だよなぁ」

「カドマツ、遅い!!」

「悪い悪い、でも…バッチリ調整したぜ、ロボ太を」

カドマツの後ろにいたロボ太がトコトコと勇太たちの目の前まで歩いてきて、勇太に右拳を向ける。

「うん、おかえり、ロボ太」

「また頑張ろう!ロボ太!」

勇太が笑みを見せて彼の拳に自分の拳を当て、ミサは嬉しそうに抱き着く。

ようやく、いつもの景色が戻ってきたことを嬉しく思うと同時に、勇太はゲーティアをつかむ。

「さあ…行こうか、みんな!」

 

成田空港へ向かう高速道路を、カドマツが運転する車が走る。

夏休みになり、旅行シーズン真っ只中ということもあり、台湾へ行くときもそうだったが、やはり高速道路は渋滞していた。

モチヅキとウルチとは空港で合流することになっていたため、その時はバスで行っていたが、今回は4人で一緒の車で移動するため、渋滞になってはいるが話し相手がいるだけでもマシだ。

「うーん、ナビを見たら渋滞のせいで遅いが、まぁ出発には間に合うぜ」

「早く到着してほしいけど…あ、勇太君。ポッキー食べる?」

「ありがとう、ミサちゃん。そうだ、何か番組をやっていないかな?」

ミサから受け取ったポッキーを口に加え、ネットとつなげて番組を調べる。

世界大会がもうすぐ始まるということもあり、ガンプラ関係の放送局では既に世界大会に出場するチーム一覧の掲載がされていたり、大胆にも優勝チームの予想まで行われていた。

「今回のダークホースは彩渡商店街ガンプラチーム!!沢村勇太選手と井川美沙選手、そして…ええっとトイボットの試作機ロボ太君の3人がファイターとして編成されています!では、カイさん。彼らのチームをどのように分析しますか?」

「うーん、そうですねぇ。2人とも、ジャパンカップ終了後の世界ツアーでは個人で出場しており、その際にも優秀な成績を収めています。覚醒を使い、あのミスターガンプラに勝利した沢村選手もそうですが、メキメキと井川選手の動きにも期待すべきでしょう…って感じで、いいですかね?」

「んもう!ネットだからってそういうことを言わないで!」

「おっと、これは失礼」

2人の会話の後で、ミサのガンプラの映像が流れ、彼女の戦闘映像が流される。

「注目されてっぞ、ミサ」

「強くなってる、本当にすごいよ、ミサちゃんは」

「そ、そう…?そりゃあ、リーダーは私だし、それに…ちゃんと勇太君の隣で歩きたいから…」

「ミサちゃん…」

ほんのりと顔を赤く染め、チラリと隣に座る勇太を見る彼女に思わず勇太の心臓が高鳴る。

思えば、これまでずっと一緒に戦ってきて、ジャパンカップの後は一時的に離れ離れになる中で彼女のことをどれだけ自分も頼っていたのかを感じることになった。

ミサが一緒にいることはアジアツアーでツキミとミソラと一緒に戦った時以上の安心感になっていた。

「はぁー、甘いなぁ、お前ら夫婦は。おかげでせっかくもってきたブラックコーヒーが甘くなっちまったぞ」

「「ふ、夫婦!?」」

「お、ぴったり」

やっぱり夫婦じゃないかとこれ以上いじめてやりたいと思ったカドマツだが、ニューステロップを見ると同時に若干表情が固まる。

「六星アニメーション会社の盗作疑惑の証拠が発表、それを指示していた経営陣がすべて解任の上で会社そのものも解体…」

韓国で最近になって急速に勢いを伸ばしてきた会社で、その会社もタイムズユニバースが買収したものだということは休みの日にネットニュースを見ていたときに知ったことだ。

株価も上昇していたが、ネットでは盗作疑惑がささやかれており、特にその火付け役となったアニメが実は日本のとあるアニメをまねたものでしかないという疑惑まであったという。

最近、そういうタイムズユニバース関係のニュースが多くなったのを感じる。

以前のコンピュータウイルス騒動を起こしたスリーエス社もタイムズユニバースに買収された後に、その悪事が暴露された上に解体の憂き目にあった。

このアニメ会社もやり口は同じ。

自分が買収した会社の膿を取り除いていて、健全化していることをアピールしていると高評価する声は大きいが、どこか腑に落ちないところもある。

「ウィリアム・スターク…か」

そんな彼が今度は彩渡商店街を手に入れようとしている。

ミサに発破をかけるために、彼が帰った後は商店街のことはどうでもいいということを言ったとはいえ、どこか気になるところはある。

確かに同じ地域にタイムズユニバース百貨店を作っている中で、少しずつ昔の勢いを取り戻そうとしている彩渡商店街は商売相手になるだろうが、だからといって買収したとしてもそんなにメリットはない。

ショッピングモールが地元の商店街を買収しないのと同じようなものだ。

それにそもそも、スリーエスや六星のような不祥事なんてやっているわけがないのだ。

(ま…ごちゃごちゃ考えてもしょうがない。後はあいつらがやるだけだからな…勝てよ、お前ら)

 

ハワイにあるとあるホテルの一室。

スイートルームの机に修理を終えたガンダムセレネスとそれの装備品が並べられる。

「坊ちゃま、ガンプラの調整は終わられましたか?」

「もうちょっとだ、もう少し…。できれば、あれの試運転もしておきたかったけれどな」

装備品は勇太との戦いに使った太刀とその時は装備していなかったビームライフル、そして二振りの片手鎌が置かれていた。

ビームライフルそのものはゴールドフレームが使用するものとはあまり大差ないものの、鎌についてはわざわざスクラッチビルドしたものだ。

「よろしいのですか?会場到着後はテストをする時間はありません。でしたら、ハワイにもシミュレーターが…」

「いや、あんまり見せびらかしたくない。あいつと戦うまではね…」

「沢村勇太様、ですね…。あの沢村勇武様の弟君…」

「そんなことはどうでもいい。それよりも…」

忘れられないのはあのセレネスの腹部につけられた傷。

あれのお返しをするためだけに、セレネスを修理するだけでなく、新装備も用意した。

元々、セレネスはあそこでおそらくは勝利するであろうミスターガンプラと決闘するために作ったものだが、この装備はドロシーが見ても、明らかに勇太との戦いを想定したものだ。

「あいつを完膚なきまでに叩きのめす。そうでないと…そうでないとミスターガンプラに勝ったことにはならない…」

「坊ちゃま…」

買収し、叩きのめした悪徳企業に対する態度とは明らかに違う。

路頭に迷い、恨まれようとも歯牙にもかけなかった彼が、今は一人の少年に執着している。

ミスターガンプラに勝利したということもあるだろうが、それ以上に何か理由があるように思えた。

 

「ムニャムニャ…絶対、勝ぁつ…グウグウ…」

「まったく、もう勝負している夢を見てるのかよ」

ハワイ行の飛行機が飛ぶ中、すっかり眠ってしまったミサにカドマツはニヤニヤと笑みを見せる。

彼女の頭は隣に座る勇太の肩に乗っかっていて、幸せそうに笑っている。

ロボ太のガンプラの調整をしたいと思っていた勇太だが、この状態ではそのようなことはできない。

「まったく、エースさんよ。うちのリーダーをどうにかしてくれよ」

「これくらいがちょうどいいんですよ、カドマツさん。僕たちは」

「まったく、甘いねえ。よっぽどゾッコンってわけだ」

「ぞ、ゾッコンって…」

飛行機の中で、他にも寝ている人のことを考えると声を上げることができず、顔を真っ赤にしてしまう。

車の時のように、また甘い空気を漂わせる2人をどうにかからかいたいと思ったカドマツだが、これ以上は勇太がかわいそうだと思い、ロボ太のガンプラを出す。

「お前らが旅立っている間に、こっちで調整はしておいた。バーサル騎士ガンダムだ」

二つに割れてしまった力の盾が左右に装備され、右手にはバーサルソード、左手には片手用に再調整されたリニアライフル内蔵型の電磁ランス、霞の鎧も若干白がかったものへと変更されている。

「パワーアップはしているが、当のロボ太はまだまだ不満足だとさ。こいつの強化装備を頼めるか?」

「それはいいですけど、ミサちゃんのために作ったあの装備を断られて、ちょっと自信が…」

「それはお前が勝手に作ったのも悪いだろ。ま、あの坊主との戦いまでに間に合わせてくれればいい。頼んだぜ、それから…ありがとうな、勇太」

「なんですか、急に…お礼を言われるようなことをしましたっけ?」

「なんだよ、自覚ねえのか?俺を世界へ連れて行ってくれたじゃねえか。ハイムロボティクスは確かにジャパンカップ出場経験はあるが、優勝したことなんて一度もねーんだぞ。おまけに、世界大会へ出るんだぜ?ウチで最初にそれを成し遂げたメカニックってことで、俺もかなり注目されてんだぞ」

ジャパンカップ優勝の時は会社に多大な貢献をしたということで金一封が送られ、しかも同僚たちにお祝いまでされてしまった。

おまけに、世界大会出場が決まり、勇太たちにこれまで以上のバックアップをしたいということで世界大会へ行っている間は有休をとることを決めていた。

しかし、会社からはハワイでハイムロボティクスの宣伝をすること、そして優勝することを条件にその間も稼働日扱いにしてもらうことになった。

カドマツにとって、ガンプラバトルで世界に出ることはあまりにも高すぎで現実にならないと思っていたにもかかわらず、今はこうして現実として舞い降りている。

そのきっかけをくれたのが勇太とミサだ。

「カドマツさんやみんなが助けてくれたからですよ。僕一人だったら、それ以前に挑戦すらせずに、兄さんの影に隠れていましたから」

「もう、お前はとっくに沢村勇武を超えているさ。あいつの弟じゃなくて、沢村勇太としての戦いを見せてやれ」

「はい…そのためにも、彼を…ウィリアム・スタークを倒す」

昔のことがあったとはいえ、ミスターガンプラと自分の真剣勝負を汚したうえに、圧倒的な力を見せつけてきた彼への対抗心が静かに燃える。

アジアツアーに出ている間、彼のことを調べていたが、やはり彼はあの一件から一切、ガンプラバトルをしておらず、大会に出場した記録もない。

となると、ウィルは8年にもわたってガンプラから手を引いていたことになる。

その過去を考えると、タイムズユニバースでガンプラチームがないこと、そしてガンプラバトルのコーナーが一切ないことも説明がつく。

そんな大幅なブランクがあるはずの彼が、ガンダムセレネスを作り、圧倒的な力を見せた。

(それにしても、問題はあのパワーだ…。ミサちゃんが言っていた通りなら、ある程度重量があるはずのアザレアを片手で持ち上げ、たたきつけることができた。あのパワーをどうやって…」

詳しく機体全体を見たわけではないため、判別はつかないがゴールドフレームベースだとしたら機体の素材そのものは発砲金属という設定のはずで、強度はそこそこあって機体そのものは軽量のはず。

動力源は覚醒なしであのパワーを発揮することを考えるとバッテリーではなく、もしかしたら戦艦クラスの出力の核融合炉。

だが、そのようなものをモビルスーツ1機に乗せることができるかどうかは不透明で、そのようなことを借りにした場合、バックパックがかなり大きなものになってしまう。

「単純なパワー勝負を考えたら、おそらくは今のゲーティアと互角…。どうしたら…」

考えている間に、次第にうとうとしはじめてしまう。

目を閉じようとする勇太を見たカドマツはフゥ、とため息をつくと毛布を彼の腰に掛けた。



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第50話 世界大会開幕

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第7話「鉄華団」

何者かからのメッセージを受け取った曉はタービンズと共に火星へ戻る。
そして、かつて鉄華団の基地があった場所へ足を踏み入れる。
そこで待っていたのは三日月・オーガス名乗っていた男だった。


ギガフロート北東部に位置する港に客船が止まり、船から選手や観客たちが次々と降りてくる。

船から出たミサは真っ先に目を輝かせながら見たのは、ギガフロート中央からどこまでも空へと続く軌道エレベーターだ。

「うわぁーーー!!これが軌道エレベーターかぁ。ずっと映像でしか見てなかったから、すっごく新鮮だなぁ」

「ガンダム00の世界だけのものとばかり思っていたけど、本当にこの目で見れるなんて…」

「おいおい、驚くのはこれだらだぞ。将来はこいつがあと2基はできるぞ。それに、さっさと検査を済まさねーと会場に入れねーぞ」

「はいはい。いこ、勇太君」

「うん…」

手荷物検査や金属検査を受けながら、勇太はパンフレットにあったここからの動きを思い出していく。

これからすぐに行われる予選はビッグトレーの戦闘区域から離脱するまでの援護だ。

ビッグトレーそのものは耐久値は無限で、撃沈する心配はないが、ダメージを受けることでポイントがたまっていく。

そして、そのポイントが少ないチームから順番に一次予選通過となる。

そこからの二次予選は生き残ったチームを何組かに分け、更にCPU機体が混ざった乱戦が行われ、その中で残った2チームずつが本選への切符を手に入れることになる。

本選から行われるのはジャパンカップと同様のトーナメントで、その時と違う点は決勝に登れるには2チームのみで、そこでは真っ向からのガチンコ勝負となることだ。

検査を終え、歩いて軌道エレベーター施設に入る。

(皆さま、こんにちは。私は軌道エレベーターコントロールAI『アテナ』です。本大会の進行管理を任せられることになりました。わずかな期間ですが、よろしくお願いいたします)

「AIが大会進行管理?」

「宇宙エレベーターのすべてをAIがコントロールしているんだ。カーゴの発着スケジュールからデブリ回避のマニューバまでな。今回はイベントスケジュールをインプットして、進行管理をさせているんだろう」

「ハイテクだねぇ…」

「本当だねぇ…」

「やぁ、来たね」

近くのベンチに座っていた金髪の青年が隣のメイド服の女性と共に立ち上がり、勇太たちの前までやってくる。

彼の姿を見た瞬間、勇太の視線が彼に向けられる。

「ウィリアム・スターク…」

「沢村勇太。アジアツアー、見ていたよ。ゲーティア、中々のガンプラだったね。そして、井川美沙。意外だったよ。まさか、君がアメリカ大会で準優勝できるなんて…。正直、君のことを舐めてきた。その点は反省しないとね」

「そんなのどうだっていい。それより、約束守ってよね。商店街は絶対につぶさせないから」

ミサにとって、一番大事なのは綾渡商店街だ。

大切な居場所であるそこを守るためにここへ来た。

相手がだれであろうと関係ない。

商店街を守るためなら、たとえ相手が赤い彗星であろうと戦う。

その腹積もりでここまで来た。

「もちろんさ。約束をした以上は必ず守るのはビジネスの基本さ。それが分からないほど愚かじゃないよ。思って以上に楽しめそうだ。行こう、ドロシー」

「はい、それでは皆様。これから宇宙エレベーター見物がありますので」

「ドロシー…」

「はっ、わたくしこのような巨大建造物を前にして、舞い上がっているようです」

「今回のバトルはチーム戦だよ。チームメイトは…そのドロシーさんになるの?」

「ああ、彼女じゃないよ。本当は一人でも十分だけど、それだとフェアーじゃないし、一人都合をつけておいたよ。誰なのかは、予選までお楽しみってね。特に、君たちが驚いてくれることを願うよ」

不敵な笑みを浮かべたウィルはドロシーと共にその場を後にする。

立ち去る2人の後姿を見送る勇太たちのもとへ、今度はハルがやってくる。

「あ、いたいた。こんにちは、綾渡商店街ガンプラチームの皆さん!」

「あなた、確か大会MCの人!?」

「そうそう。覚えていてくれてうれしいな」

「どうしてこんなところに?」

「あなたたちは日本一なのよ。そのチームが世界大会に出場するってことで、レポーターとして派遣されたのよ。さっそくで悪いけど、ちょっとそのままそこにいて」

ニコリと笑ったハルは手元にあるタブレット端末を勇太たちに見せる。

そこにはなぜか今ここにいる勇太たちの写真が写っていた。

「ええ!?どうして??どこかにカメラマンさんがいるの!?」

キョロキョロと周りを見渡したミサに笑みを浮かべるハルは端末を操作し、写真を変える。

次の写真に写っているのはそのキョロキョロとしているミサの姿だ。

「フフ、どうやらカメラの調子はいいみたいね。あとは…うん、あー、テステス。マイクもOK。いつでもOKね」

「え、え、ええ!?」

「ミサちゃん、マイクロドローンカメラだよ」

「ほえ?マイクロドローンカメラ??」

「いうなれば、滅茶苦茶小さいカメラつきのドローンさ」

「みなさん、こんにちわー!私は今、太平洋に浮かぶギガフロートの上に立っています!そう、皆さんもご存じの宇宙エレベーターに来ているのです!」

「え、えええ!?もしかして、これってテレビで…うわあああああ!!」

今ここでの話、そして自分の姿がこれからネットテレビ局を通じて世界に発信される。

そのことを理解したミサの顔が急激に赤くなっていき、緊張のあまり口がパクパクと壊れたレコーダーのように開閉を繰り返す。

勇太もミサほどではないが緊張しており、手が震えていた。

「それでは、チームリーダーの井川美沙さん!今大会の意気込みをどうぞ!」

「ふえああ、あえあ…ええっと、その…優勝目指して頑張ります!」

「はーい、OK!では、沢村勇太さんからも一言お願いします」

「じゃあ…応援、よろしくお願いします!」

「ありがとう!じゃあ、私はほかにも取材しないといけないから…じゃあ、優勝目指して頑張ってね!バイバイ!!」

軽く手を振ったハルはマイクロドローンと共に次のチームの元へ向かう。

2人ともバトルの時以上にどっと疲れを感じ、特にミサは足までふらついている状態だ。

「おいおい、勘弁してくれよ。予選が始まるってのにそんなんでつまずくなよ?」

「は、はい…」

強がりを口にしたいミサだが、もはや緊張でグダグダなのは明白なためにその余裕はなかった。

幸いなのは自分たちの予選ブロックはCで、気持ちを整えるだけの時間は用意されているということだ。

「まずは、休憩と一緒にしっかり相手を見ておかないとな。特にAブロックにはあの金髪坊主が出るからな」

「ウィリアム・スタークとガンダムセレネス…」

「それに、あいつのチームメイト…誰なんだ?」

 

「それでは、予選ブロックAのバトルが始まります。参加チームは中央シミュレーターへ集まってください。繰り返します…」

「いよいよ、始まるわね」

控室にいるほかのチームがゾロゾロと動き出す中、少女はそのようなことを気にすることなく、テーブルに置いてあるガンプラを布で拭いていた。

そんな彼女の前にウィルとドロシーがやってくる。

「やっぱり、これから予選とはいえ世界大会なのに、落ち着いている。そうしたところ、嫌いじゃないよ。直接頼んだ甲斐があったよ」

「そんなことを言って、本当ならあなた一人で出たかったんじゃないの?」

「まあね、けどガンプラバトルは個人戦じゃなくてチーム戦だからね。それに、だとしたら、僕の実力に見合うチームメイトが必要だ。それは君も同じじゃないかな?」

生憎、一緒にいるドロシーはガンプラ経験ゼロで、戦力として数えることはできない。

自分のツテにも、そうした強いファイターを引き抜くことは難しく、プロを金で雇うとなったらゴシップのネタになってしまう。

そこで白羽の矢がたったのが彼女だ。

「…そうね。だからあなたのチームに入った。けれど…忘れないで。あなたがあのエキシビションマッチでやった所業…許すつもりはないから。一人のファイターとしても…一人の仲間としても」

立ち上がり、にらむようにウィルを見る彼女の手は怒りで震えている。

もしもの時があったらとドロシーが前に出ようとするが、ウィルが制止させる。

「そうだね…大人げなかった。反省しているよ。今後このようなことを決してしない。そして、約束は守るよ。君と彼女が真剣勝負できる状態にするって」

「そう…。私も彼と戦える環境を作ってあげる。けれど…もし同じようなことをしたら、その時点で棄権するから」

 

「そろそろ始まる…場所は、地球上のランダムな場所か…」

水上でも荒野でも行動可能なビッグトレーなことから、場所はオデッサやキャリフォルニアベース、ニューヤークなど一年戦争時代の地球の各所にステージが設定され、その中のいずれかに放り出される。

また、CPUのガンプラについては完全にランダムに出現する。

(ランダムになる以上、汎用性がとにかく要求されるのか…。ウィリアムのチームは…)

モニターでは次々と配置されるチームが決まっていき、ウィリアムのチームであるチームアグレッサーが配置されたのはタクラマカン砂漠だ。

(それでは、世界大会1次予選Aブロック、開始します)

アテナの開始宣言と共にモニターには次々と出撃するガンプラたちの姿が映し出される。

さっそくそれぞれのチームが設定した母艦から出撃し、地上へと降りる彼らを歓迎したのは対空ミサイルとトーチカによる弾丸の嵐だ。

「あわてるなよ、当たりそうなものだけ撃ち落とせばいい」

「くそ!降りられるのかよ、これは!!」

まるでジャブロー上空から降下するジオン兵の気持ちになった彼は左手のシールドで身を守りつつ降下していく。

中には大出力のビームで弾幕ごと地表のトーチカを薙ぎ払うチームも存在した。

「はは、CPUなんかにビックトレーはやらせないさ」

地上へ降り、ビッグトレーの直掩に回るウィルが右手のビームライフルで接近してくるラル専用ドムの牽制する。

だが、CPUのレベルにも差があるように、そのドムはウィルのビームを次々と回避し、照準をビッグトレーの艦橋に向けつつある。

だが、突然ドムの足が止まると同時にまるで挟まれたかのように機体がガシャガシャと悲鳴を上げながら内側へと締め付けられていく。

「これって…」

そんな異変を起こしたドムを見たミサの目が留まる。

消える機体、そして鋏。

不意にミサの脳裏にあの少女の姿が浮かぶ。

「邪魔をしないで。あの子と…ミサと戦いたいのよ。この凛音桜と…」

ダメージに耐えられなくなったドムが爆発し、煙の中から攻撃したガンプラの正体が飛び出してくる。

ガンダムスローネドライベースの形状をしているが、ピンク色に塗装されており、ブリッツヘルシザースの象徴ともいえるハサミが両腕に搭載され、腰にはスローネツヴァイのスカートアーマーも装備されている。

「この、ガンダムスローネダブルシザースはね!!」



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第51話 フルフォース

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第8話「モビルアーマーの悪夢」

三日月・オーガスを名乗った男、ライドとの接触から数日。
歳星へと戻るはずだった曉とタービンズの元へクリュセから情報が届く。
放棄されていたハーフメタル採掘場に再びモビルアーマーが出現し、起動したと…。
それはかつて、三日月が倒したはずのハシュマルと同型のものだった。


「思わぬサプライズだ…サクラさんがよりによってウィリアムと組んでいるなんて」

「おまけに現状では1位通過、2位に大差をつけて、か…」

ウィルと戦うことについては覚悟はできたいた勇太だが、サクラも参戦することは想定外で、状況によっては2人同時に戦わなければならなくなることに頭を抱える。

今のゲーティアの完成度であれば、ウィルとサクラ1人ずつであれば対抗できるだろうが、2機同時では勝負にならない。

ただ、サクラが参戦したことで考えられるのはミサへのリベンジだ。

2人の戦いについてはミサから聞いていて、録画映像もしっかり見ている。

特に勇太が気になったのはミサが勝利した最大の要因である1秒だけの覚醒だ。

「ミサちゃん、結局アメリカでのバトルでは覚醒は1度も使えなかったの?」

「うーん、もっとピンチの状態になればできるかなって思って、ロクトさんとのバトルの時は期待してたけど、結局使えなかったの」

「それでも、ロクトさんをあと一歩まで追い込んだんだから、覚醒に頼らなくても、ミサちゃんは強いよ」

「ありがとう、勇太君にそう言ってもらえるのはうれしいけど…」

「だべるのはいいが、そろそろ準備をしろよ。久々のバトルで息が合わなかった、なんてオチはやめろよ」

「私たちがそんなヘマするわけないじゃん!行こ、勇太君!」

「うわっ!?ミサちゃん、ちょっと…」

ミサに手をつかまれ、引っ張られるように連れていかれる勇太とその後に続くロボ太。

2人と1機の様子を見たカドマツはニヤニヤと笑い始める。

「こりゃあ、ミサの奴、勇太と一緒に戦えるのが本当にうれしいようだな。それにしても、あいつらが世界へ…とはなぁ」

そう考えると、今年は本当にファイターの人選を間違えてしまったと思えた。

万年予選落ちチームであり、無名のファイターであるミサについては勇太の存在が起爆剤となり、勇太と肩を並べて戦うことができるだけの力を手に入れた。

それを証明したのがサクラとのバトル、アメリカでのロクトとの一騎打ちだ。

勇太も勇太で、勇武を乗り越えて、本気で勝ちたいという相手であるウィルと出会い、アジアツアーで活躍してみせた。

そうなると、ふと自分はどうなのかとカドマツは考えてしまう。

ロボ太のパワーアップやアセンブルシステムのサポートなど、大人としてできることはやっているつもりだが、それで自分が成長しているのかはわからない。

きっと、自分でバトルをしてそれを感じるという手段もあるだろうが、生憎それができていればそもそもメンバー探しなどしていない。

2人が日本を離れている間、なんだか2人に置いて行かれているような感覚がした。

(なぁ、俺は…お前らのメカニックだって、胸を張って言えるぐらいになれているか…?)

 

シミュレーターに乗り込み、仮想空間にダイブした勇太は格納庫へと向かい、そこでゲーティアの隣に立つアザレアを見つめる。

「どう?勇太君、私のアザレア…フルフォースは!」

遅れてやってきたミサは胸を張って自分のガンプラを紹介する。

デュナメスのフルシールドによって防御力を向上させ、裏側のウェポンラックには大型ビームマシンガンを取り付けることができるように調整されている。

また、両足にはミサイルポッド、バックパックにはガトリングガンを2門装着し、両肩にはシュツルムファウストを外付けされている格好だ。

なお、フルシールドの弱点である大出力のビームやビームサーベルへの対策のためなのか、左腕には追加でペイルライダー用のスパイクシールドまで装備されている。

あくまでも汎用性のある武装だけを選択し、ビームと実弾をうまく使い分けることのできるような設計に舌を巻く。

だからこそ、余計に勇太は自分が作った追加アーマーをミサに使ってほしかったと思える。

それがあれば、もっと選択肢を広げることができたのだが。

「バックパックはデュエルアサルトシュラウドのものか…うん、ちょっと待って?少し、形が違う…?」

「やっぱり、勇太君にはお見通しだね。ちょっとした仕掛けをつけてて…。勇太君もゲーティアをちゃんとパワーアップさせてるじゃん。これが第4形態になるんだっけ?」

「うん。重力下での対モビルアーマー戦を想定したものだよ」

そのことを示すかのように、ゲーティアのバックパックには新たにソードメイスらしき武装が追加されており、それに合わせてバックパック側面にそれを搭載するためのウェポンラックまである。

ブレードブースターについては小型化され、切り離し機能を廃止したシンプルなものに戻っている。

追加武装のせいか、構造が若干バルバトスに近づいているようにも見える。

「ねえ…勇太君」

「どうしたの、ミサちゃん」

「その…ありがとうね。勇太君にはずっとお世話になりっぱなしだから。勇太君がいなかったら、私…きっと商店街のこと、あきらめてたかもしれない。だから…」

万年予選敗退でタウンカップから出ることすらできず、それがずっと続いていたらさすがのミサもチームを解散させていたかもしれない。

だが、勇太と出会い、共に戦うことですべてが変わった。

弱小チームであるはずの自分たちが今、日本を飛び出して世界に向かっている。

少し前の自分では考えられない場所まで、今は来ている。

そのことで、勇太には感謝の気持ちでいっぱいだ。

「…お礼を言うのは、僕の方だよ。君と出会わなかったら、僕はガンプラを辞めていた。兄さんのことを乗り越えることができずに、ずっと後悔しながら生きていたかもしれない」

「勇太君…」

「でも、これで終わりじゃない。そこからまた始められるってことを教えてくれた。だから…」

「ゆ、勇太君!?」

いきなり正面から抱きしめられたミサは驚きと同時に顔を真っ赤にする。

ノーマルスーツ越しで、仮想空間の中とはいえ、異性に、勇太に抱きしめられていることに恥ずかしさを覚え、アスランに抱きしめられたカガリのようにじたばたしてしまう。

格納庫で、まだ映像に出ているわけではないが、それでもここは世界の舞台の一つ。

そのことで余計に恥ずかしさが増していく。

「ご、ごめん…今は、これだけ…。…じゃあ、行こうか」

ミサから離れた勇太は背中を向け、ゲーティアのコックピットに向けて走っていく。

そして、大急ぎでハッチを閉めると専用のケーブル付きヘルメットを装着し、阿頼耶識システムとのリンクを完了させる。

ボーッとその様子を眺めるミサの頬はほんのりと赤くなっていて、その場に立ち尽くすだけになっていた。

そんな中、遅れてやってきたロボ太の声が聞こえたことで、ようやく正気に戻ったミサは真っ赤になった顔のまま両手をじたばたさせてごまかしていた。

 

「網膜投影完了、ブレードブースターOS確認終了…全システムオールグリーン。ゲーティア、発進準備」

重量と機動力の問題から最初にアザレアが発進し、続けてロボ太のバーサル騎士ガンダムも発進していく。

その後でカタパルトに接続されたゲーティアに発進タイミングが譲渡される。

「よし…沢村勇太、ゲーティア、出るよ」

勇太の淡々とした言葉と同時にカタパルトから射出されたゲーティアは新型のブレードブースターを展開して飛行する。

地表にはすでに防衛対象であるビッグトレーが作戦エリア内に入っていた。

「勇太君、地形データと狙撃予測ポイント、送るね!」

ミサの通信に前後してデータが転送され、狙撃予測ポイントが次々と表示される。

自分たちが戦闘を行うことになるフィールドはタクラマカン砂漠で、フィールドそのものは高低差は大したことがないが、砂煙に隠れて狙撃される可能性も否定できない。

(ミサちゃんのアザレアはともかく、ゲーティアで砂漠戦にどこまで対応できるか…)

「勇太君、熱源反応!!」

「まずいな…もう来ているのか!!」

真下から飛んでくるミサイルをハンドガンで撃ち落としつつ、地上に向けて降りていく。

地表には対空ミサイルランチャーを装備したザク・デザートタイプの姿があり、こちらに命中するミサイルがないことが分かるとすぐにハンドガンの照準をザク・デザートタイプに向けて連射する。

その中に混ざっている炸裂弾が着弾し、機体内部で爆発したことで爆散したのを見届けたゲーティアが指でアザレアに合図を送り、アザレアがビッグトレーの真上に着艦する。

「ドダイに乗ったモビルスーツの姿もある!砂で視界が悪いけど、狙える?」

「任せて!」

砂嵐が吹き荒れ、見えづらいがそれでもうっすらと影は見える。

ホログラム型のガンカメラが機動し、うっすらとわずかに浮かぶ敵影からデータ照合が行われ、搭載モビルスーツを含めて特定していく。

「このビームマシンガンなら狙撃もできる…よしいっけぇ!!」

収束したビームが大型ビームマシンガンから発射され、それが乗っていたディザート・ザクを撃ち抜く。

後ろに吹っ飛び、落ちていきながら爆発した搭載モビルスーツに制御を依存していたドダイ改はそのまま落ちていくはずだったが、その前にブレードブースターをたたんだゲーティアが乗り込み、その制御を掌握する。

そして、乗り込んだまま飛行しつつ、ドダイ改に内蔵されているミサイルを空中にいるモビルスーツに向けて発射する。

火力はモビルスーツのライフル程ではなく、センサーも阿頼耶識システムの特性上感覚で直していくことになるため、照準も不安定だが、それでも落とすだけでもビッグトレーの安全を向上させることはできる。

そんな勇太の予測通り、ミサイルが命中したザクⅠ・スナイパータイプはドダイ改から地表へと転落する。

転落したザクⅠ・スナイパータイプがビームを撃とうとするが、その前にドダイ改から飛び降りたゲーティアの太刀で縦一閃に両断された。

そして、その場でジャンプして再びドダイ改へと戻ることはできたものの、やはり砂漠ということもあり、どうしても足場は液体状に近い。

おかげでふんばりがうまくいかないところがあり、今回はうまくジャンプできたが、これは阿頼耶識システムのおかげというところが大きかった。

キラのようにOSをその場で書き換えて、砂漠に適応するなんて動きができるわけがない。

「ドダイの推進剤は…OK、まだ大丈夫。ロボ太、砂漠戦だけど、バーサルは問題ない?」

「問題ない。既にセッティングは完了済みだ。む…岩陰からミサイル!!」

ヒュウウウと3発のミサイルがビッグトレーの右側に向けて飛んでくる。

砂嵐とミノフスキー粒子のおかげか、2発は外れたものの、1発が直撃コースを飛んでおり、それをアザレアがガトリングで撃ち落とす。

そんな中で、ひときわ大きな警告音が響き、これまでの敵機と比較すると大きな熱反応を感知する。

「モビルアーマー!?」

「形状から見ると…これは、ライノサラスだ!!」

砂漠とマッチする黄土色の装甲をした、木馬のような形の戦車にザクⅡの頭がついたというべき、戦艦クラスの巨大モビルアーマーが進路上に立ちはだかる。

おまけに バストライナー付のB型で、最大出力のビームを受けたら、さすがのビッグトレーでも轟沈してしまう。

ルール上は今回、沈むようなことはないが大幅なマイナスとなり、予選敗退は明白だ。

この機体を撃破しなければ、ビッグトレーは離脱することはできない。

更に追い打ちをかけるような事態が起こる。

「ええー!?反応が増えた!!ライノサラス…3機!?」

「これは厄介だ…」

ライノサラスの背後に隠れるように配置されていたもう2機のライノサラスが左右にずれるように動く。

ケーブル接続して牽引していて、おまけに先ほどまで核融合炉を停止させていたこと、そして砂漠の特性からミサも気づけなかった。

「まずいぞ!先頭のライノサラスが既にエネルギーチャージをしている!!ちぃぃ!!」

目の前のライノサラスの登場を皮切りに、左右から一気に部隊が突入してくる。

突入するドム・トローベンの数機はシュツルムファウストを装備している。

「右はどうにかする!ミサは左を!」

「う、うん!そうする!!」

ビッグトレーから飛び降りたバーサル騎士ガンダムはザクマシンガンで牽制しながら接近するドム・トローベンを左手の電磁スピアに内蔵されているリニアライフルを発射する。

バチバチと放電と共に拘束で発射された青い弾丸がドム・トローベンの分厚い装甲を貫き、爆散させた。

だが、破壊力があるとはいえ内蔵式リニアライフルの弾数には限りがある。

右手のバーサルソードもGNソードのようにビームライフルにすることはできるが、それではドム・トローベンを1発では倒し切れない。

「ならば、まとめて吹き飛ばす!!」

弾幕をかいくぐり、敵部隊のほぼど真ん中まで入り込む。

そして、バーサルソードの剣先を空に掲げると、刀身が青く光り輝き、バーサル騎士ガンダムを中心に竜巻が発生する。

竜巻は徐々に勢いを増すとともに、電気を纏う。

激しい竜巻が周囲のモビルスーツを巻き込んでいく。

「必殺トルネードスパーク!!」

バーサル騎士ガンダムの必殺奥義が炸裂し、電気と真空の刃が竜巻に閉じ込められたモビルスーツを切り裂いていった。

その大技は機体に負担をかけるために連発できない。

だが、それでもビッグトレーの守りを固めつつ、周囲を薙ぎ払うには十分だ。

「いいよいいよ、ロボ太!!私だって…いくよ、トランザム!!」

アザレア内部の太陽炉が作り出していた高濃度圧縮粒子が解放され、機体が赤く包まれていく。

そして、大型ビームマシンガンの銃口をビッグトレー左側の敵モビルスーツ部隊に向けるとともに、両肩のGNフルシールドもそれに追随するように動く。

大型ビームマシンガンの銃口のGN粒子が集中していき、戦艦の主砲を彷彿とさせる大出力のビームが発射される。

ビームの奔流に飲み込まれたモビルスーツは砂と共に消し飛び、その周りにいたモビルスーツにも装甲を焼き、センサーを狂わせる。

「よし…!うまくいってる!!あとは…」

あとは勇太が道を切り開くのを期待するだけ。

ライノサラスに向けて接近するゲーティアが乗っているドダイ改から離脱し、ドダイ改だけがライノサラスに向けて特攻する。

ライノサラスは巨大な分、装甲も分厚いものの、あくまで急造品。

冷却システムに問題があり、その分ほんのわずかなダメージでパストライナーが使えなくなる可能性もある。

それを避けるために、即座にわずかに砲身を動かし、ドダイ改を巻き込むように発射する。

「今だ…いけぇ!!」

ドダイ改の真後ろの離れたところにいた勇太は覚醒し、左手のシールドで胴体をカバーしつつ、パストライナーに備える。

大出力のビームはドダイ改を消し飛ばし、覚醒したゲーティアを襲う。

覚醒によって生み出したバリアを壁のように展開し、パストライナーのビームを受け止め続ける。

(2機のライノサラスもB型、融合炉が起動して間がない分、パストライナー発射まで時間がある。今撃っている奴の冷却時間を考えたら…やれる!!)

ビームが収まるとともにゲーティアがシールドを投げ捨て、ハンドガン2丁を連射しながら中央のライノサラスに迫る。

頭部への集中連射によって、ザクⅡのメインカメラは損傷し、やがて頭部パーツが吹き飛ぶ。

そして、ライノサラスに取りつくとそれによって開いた穴にめがけてもう1発だけ撃ち込み、すぐに離脱する。

コックピットへの直撃弾となったようで、コントロールを失ったライノサラスは機能停止する。

そのことを確認した勇太は弾切れになったハンドガンを投げ捨て、バックパックに背負うソードメイスを手にする。

それでまずは右側にいるライノサラスの、いちばん脅威となるパストライナーを叩き切る。

そして、両足をライノサラスの両肩に当たる部分に置き、覚醒エネルギーが宿ったままの刀身で今度は胴体部分に突き刺す。

ここに来て、肉薄しているゲーティアが脅威と判断したのか、最後の生き残りのライノサラスが回頭して、もはや死んだも同然な2機のライノサラスを巻き込むことを承知でチャージを終えたばかりのパストライナーを発射する。

突き刺したソードメイスに見切りをつけ、大きく跳躍したゲーティアは上空で両腰に差している2本の太刀を引き抜く。

二刀流となったゲーティアが重力と全開となったスラスターで一気にライノサラスに向けて落下していく。

近づかれる前に仕留めるべく、ミサイルポッドとマシンガンで弾幕を作り出す。

放射線を描くように落ちるゲーティアはライノサラスの背後にとりつき、そこから始まるのは解体ショー。

まずはミサイルポッドが斬られ、続けてパストライナーも根元から切り落とされる。

前面に火器が集中しているライノサラスの側面と背後を守ることができるのは後ろ脚部分にある砲台のみで、それも既に太刀で刺され、破壊されている。

各部から炎が上がり、もはや生きている兵装はマシンガンのみで、もはやそれでは取りついたゲーティアを止めることはできない。

最後に真正面にやってきたゲーティアは2本の太刀を交差するように斬り、その瞬間ライノサラスのノイズが走っているカメラ映像がブラックアウトした。

 

「んんんん…ああーーー!!おいしい!やっぱり買った後っておいしいよね!!」

「おいおい、酒かよ」

試合が終わり、自販機で買った缶ジュースをおいしそうに一気飲みするミサはカドマツは呆れた様子を見せつつ、一緒に買った缶コーヒーを口にする。

サクラとウィルのチームにはわずかに差があるものの、それでも上位での通過は確実なものになり、ほんの少しだけ気持ちに余裕ができた。

「それにしても、驚いたな…フルシールドにクラビカルアンテナを仕込んでいたなんて」

「トランザムしたときしか使えないのが課題なんだけど、うまくいってよかったぁ。欲を言えば、GNフィールドを展開する機能もつけたかったけどなぁ」

「いろいろ機能をつけすぎると故障率が上がるし、アルヴァアロンの場合はライフルとサーベルだけを装備していたから、GNフィールドにエネルギーを回す余裕ができたのかも…」

そう考えると、エクシアに一方的にやられる形になったアルヴァアロンは完成度の高いモビルスーツといえたかもしれない。

ヴァーチェの場合は太陽炉を搭載していたものの、GNコンデンサーを機体各部に搭載しなければ、GNフィールドを機体全体を包むような形で作り出すことができなかったのに対して、アルヴァアロンは疑似太陽炉1つでそれを可能にしている。

おまけに、戦艦の主砲レベルのビームを発射可能なのも大きく、仮にエクシア以外で戦った場合に勝てたのかは勇太も疑問を抱いている。

「まぁ、これ以外にも仕掛けはあるけど、それは追々、本選で戦う中でのお楽しみに!ってことで」

「そうするよ。それに、ゲーティアもバーサル騎士ガンダムにもまだまだ強化の余地はある。できることをやって、明日の本選に…」

「勇太、ミサ。いいバトルしていたわね」

「その声…サクラさん」

2人の視線が声が聞こえた方向に向き、そこには水筒を持っているサクラの姿があった。

ハワイで日本以上に暑い場所なのにもかかわらず、相変わらず上着を着ていて、そのくせ暑そうな感じを少しも見せない。

勇太もミサも、熱中症を避けるために薄着になっていて、ミサに関しては上半身はシャツ1枚になっている。

露出度が上がり、男もよってくるのかと思ったものの、やはり何も入ったないつつましさが災いしているのか、現状反応を見せる男性陣は勇太を除くと一人もいない。

「悪かったわね、私も出場しているってことを黙っていて」

「やっぱり…出場するのはミサちゃんへのリベンジ、ですか?」

「ええ、そうよ。負けっぱなしは性に合わないから」

だからこそ、2人が海外へ出ている間、サクラはリベンジのためのガンプラの製作を行っていた。

その結果として完成したのがこのガンダムスローネダブルシザースだ。

「相変わらず、鋏をつけているんですね。ピンク色のモビルスーツには似合わないように見えますけど…」

「結構便利よ、鋏って」

ここまで鋏にこだわるか、というほどサクラのガンプラには鋏を装備したモビルスーツが多い。

初めて作ったガンプラがその鋏を持ったモビルスーツ、ガンダムアシュタロンだったことも大きいだろう。

勇武とチームを組んでいたときはその鋏の破壊力を利用したパワープレーを得意としていた。

「あら…そろそろ戻らないとウィリアムに怒られるわね、行かないと。勇太君、必ず勝ちなさいよ。それからミサ、首を洗って待っていなさい」

ミサに対しては指をさしてリベンジを宣言し、サクラは去っていく。

こんなに間近でしっかりと宣言されたということは、サクラはミサをライバルとして意識しているのだろう。

「そんなの…分かってる。けど、勝つのは私!!カドマツさん、ステーキ!!」

「なぁ…!?なんだよ急に…」

「しっかり食べて、バトルして勝つ!!それにハワイはステーキのメッカ!!勇太君も、いいよね!?」

「う、うん…」

「おいおい、いったいいくらするんだよ…昼飯だけで」

世界選手権ということで、会場には特設のフードコートが設けられており、すしにラーメン、ステーキにケバブなど世界中の料理が集まっている。

どうか安い値段であってくれと願いながら、カドマツは勇太とミサの後に続いた。



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第52話 幻の羽根

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第9話「ゲーティアの目覚め」

タービンズ及びテイワズによるゲーティア迎撃作戦が行われる中で、アリアンロッドの介入が始まる。
過去に起こった悪夢の再現がされるかのような戦場で、暁は母の制止を振り切り、ゲーティアのリミッターを解除する。


「で、この式を解くためにはまずここで場合分けをするんだ。例えば、このxが2以上の場合と2以下の場合で…」

夜のホテルで、勇太が教科書を手にしてミサがにらめっこしている問題の箇所の解説を行う。

予想はしていたが、ミサは熱暴走を起こしている様子で、シャープペンの動きは止まっている。

今の勇太とミサは世界大会の選手であるが、その前に高校生だ。

当然、帰国したら補習が待っていて、そこでは進学校ということもあり、模試が待っている。

そして、その補修や模試のための課題や予習復習もしなければならない。

勇太はある程度済ませており、あとは帰国後に済ませることができるようにしたが、残念なことにミサは山積みとなっていて、こうして持ち込まなければならなくなった。

1人でやるのは無理だろうと思い、最初はカドマツに助力を求めた。

ハイムロボティクスに勤める彼なら、理系の勉強をしているミサの助けになるだろうと。

だが、なぜかカドマツから断られ、なぜか勇太にやれと言われた。

勇太は文系で、化学や物理などは理科総合で学んだ程度の知識しかない。

その部分については難しいが、数学と国語、英語と現代社会なら教えられる。

「ううーー…勇太君、休憩ー…」

「まだ。今日は少なくとも、あと4ページは進んでおかないと、後が大変だよ」

「そんなぁー、勇太君の鬼ー」

「強くなろうという気持ちは分かるけど、やることはやっておかないと…。一般常識がない大人の例って、ガンダムでも現実でもいっぱいあるよ」

その例で典型的といえるのはフランクリン・ビダンだろう。

ガンダムMk-Ⅱを開発するなど、科学者としては能力があるかもしれないが、マルガリータという愛人と不倫しており、息子であるカミーユに対して父親らしいことを何一つしていない。

彼個人の人格の問題もあるだろうが、一般常識というものはオールドタイプだろうとニュータイプだろうとXラウンダーだろうと必要だということだろう。

ミサもそんなことは分かっているが、それでもやりたくないという気持ちが強くなる。

ただ、否定ばかりしていると委縮したりやる気をなくすのは事実。

そこで勇太は机の上にタブレット端末を置き、とある動画をいつでも再生できるようにセットする。

映像のタイトルにはガンダムスローネダブルシザースと書かれている。

「終わったら、これを一緒に見よう。どうやって戦うかを一緒に考えるんだ」

「勇太君…よーし、なら!!」

「ひとまず、今の問題は後回しにして、解ける問題からやっておこう」

勇太の助言を元に、ミサは詰まっている問題に一度見切りをつけるかのようにページをめくる。

室内にある冷蔵庫の中から缶ジュースを2本だし、そのうちの1本をミサの机に置くと、勇太は椅子に座ってジュースを口にする。

「明日は2次予選。ここを通過すれば、本選に入る。ウィリアムとサクラさんが見えてくるか…」

 

「フフフフ…よしよし、ハッキングも完璧だ。選手用のIDもできた。これで、私たちは立派な世界大会の選手だ」

暗い部屋の中でノートパソコンをいじる音だけが響き、完璧に偽装された自身の選手データを見つめる男はほくそ笑む。

紫のスーツとネクタイをつけた、若干後ろに下がった薄めの黒髪をした男性はさっそく仲間とチャットをつなげる。

これから、彼は自らの仲間たちにこのデータを暗号化したうえで送信する。

仲介用の偽装メールアドレスを複数経由させたうえで届く仕組みにしており、それらのメールアドレスも目的を果たしたら履歴ごと抹消される。

さっそく仲間の一人から連絡が来る。

「おい、これで目的を果たしたら…分かっているな?」

「ああ、当然さ。既に都合はつけてある。新しいきれいな体が待っているぞ。だから、目的を果たすまではきっちり働いてくれ」

「ああ…。約束を忘れるなよ?バイラス・ブリンクス」

「そのつもりさ…。まったく、心配性な男だ。よっぽど自分のやったことを恐れているようだ」

彼からの確認の連絡はこれで5回目になる。

かつての秦の名将である王翦は天下統一の総仕上げのため、楚を攻略する際に主である秦王、嬴政の持つ度を過ぎた猜疑心から自らの身を守り、天寿を全うするために用心して生きていたという。

今の彼の慎重さはそれ並だが、逆にそんな人間ならあんな大それたことはしないだろう。

とある国の大統領選の際にフェイクニュースを大量に流して、事実が明白である対抗馬による不正行為を隠し、現大統領の再選を阻止しようと動いたらしい。

昔はそれで多くの人を動かすことができただろうが、ネットが普及した今はその効果は薄い。

再選阻止に失敗した挙句、その際の報道によって、彼やその関係者から民事訴訟によって多額の損害賠償を請求されることになった。

おまけに、その報道が偽計業務妨害罪や信用棄損罪、名誉棄損罪、詐欺罪に接触し、刑事訴訟までされてしまった。

SNSによるデマでさえ、罪に問われることがある。

マスコミもフェイクニュースを流して、実害を与えてしまってはその罪から逃れることはできない。

これについては流した人間も拡散した人間も対象となり、現に彼以外にも対抗馬を含めて罪に問われ、実刑で刑務所に叩き込まれる、財産のほとんどを失った人間は山ほどいる。

このご時世にフェイクニュースを流しても、罪に問われて前科がつくうえに損害賠償や慰謝料で金も失うだけで、割に合わない。

かつては表現の自由への配慮から、特定の人物や法人の利益を害した場合にのみ刑罰の対象となったフェイクニュースだが、時代錯誤という声が上がり、最近の法改正によって不特定多数の利益の侵害や心的苦痛に対しても刑罰の対象になりつつある。

報道の価値を貶め、マスゴミ呼ばわりされるだけで終わる、SNSで匿名でデマを流す以下のレベルの馬鹿な行為。

最も、彼の場合はほかの連中と違って幸運だ。

こうして自分との約束を守ることで、人間的、霊的に生まれ変われるかは別としても、社会的には生まれ変わることができるのだから。

「ウィリアム・スターク…。ただ父親の跡を継いだだけで、世間やビジネスというものを知らない若造め…」

あの時、自分が敗れ、警察から逃げ回る日々を送っているのはすべて彼のせいだ。

父親から受け継いだ金と事業があるだけで、それ抜きであればただ帝王学を学んだだけのボンボン息子のくせに。

本来ならこうして復讐の機会をうかがうことすらできなかったかもしれないが、幸運にも自分を助けてくれる人物がいた。

その人物のおかげで、今は身を隠し、こうして復讐の機会を得ることができた。

どんな思惑があるのかは知らないが、莫大な金をはじめとした援助はバイラスには大きい。

「待っていろ、ウィリアム・スターク…。お前を破滅させてやる…」

 

「みなさん、お待たせいたしました!!まもなく、1次予選で生き残ったファイター達によるバトルロワイヤル、2次予選を開始します!!」

「ふあああ…眠いぃ…」

待機室で待つミサはうとうとしていて、一瞬グラリとして隣に座る勇太の肩の上に頭が乗る。

「おいおい、勇太。確かにミサに勉強させろとは言ったが、こんな状態になるまでしろとまでは言ってねえぞ」

眠たそうなミサの様子にカドマツはため息をつき、原因の一端を作った勇太は申し訳なさそうに体を小さくさせる。

確かに勉強を終わらせることはできたが、その後で見ようと約束した動画をミサは夢中になって何度も繰り返し再生した。

そして、気づいた時には夜が明けていて、ミサもこのような状態になってしまった。

内心、勇太とミサを接近させてやろうと思ってやってみたが、こうなるのならやっぱり自分が教えるべきだったとカドマツは後悔している。

もしそんな理由でベストコンディションで戦えず、挙句の果てには予選敗退となって彩渡商店街が乗っ取られる事態になったら、ユウイチ達に合わせる顔がない。

「ミサちゃん、開始時間まで少し時間があるから、顔を洗って、コーラも飲んできたら?」

「ん…そーするー…」

フラフラと待機室を後にするミサを念のためにロボ太が追いかけていく。

そして、小さくなっていた勇太はどうにか落ち着こうと行きがけに買った缶ジュースを一気に飲む。

「そういえば、勇太。お前…どうなんだよ?あいつに勝つための手段は見つかったのか?」

「ヒントになりそうなものはあらかた…。あとは、僕がそれを実行できるかですけれど…」

「そうか…。ま、お前ならどうにかなるだろ?」

「簡単に言いますね…」

「当然さ。それだけ信頼してるってことさ」

信頼されるのはうれしいことだが、時には重たく感じてしまう。

ミサがエースを自称していた時期があるが、エースは周囲からはより多くの成果を求められるうえに敵からはターゲットにされやすい。

それをはねのけたうえで名乗るなら格好がつくけれども、それができる本当のエースは少ないものだ。

「ああーーー、すっきりしたー。これで、予選の準備バッチリ!」

「途中で寝るなよな?」

「そんなヘマしないって!そろそろ行こ、勇太君!」

「うん…」

勇太たち2人と1機が共に待機室を出て、会場のシミュレーターへと足を運ぶ。

「まったく、若いってのはいいもんだな。多少なりとも無理ができる。年を取ると、そうもいかなるなるんだけどなぁ」

三十路になったが、まだまだ若いと思っていたカドマツだが、最近受け取った健康診断の結果の一部を見て絶句したことを覚えている。

ある程度の年齢を迎えると、体が大きく入れ替わってしまうという話があるが、それは既に体内年齢を確認済みだ。

そんな嫌なことを思い出してしまったが、すぐに切り替えようと思い、首を振ると勇太たちの後に続いた。

 

「えー、それでは2次予選のフィールドを説明します。フィールドは月面!基本的には宇宙での戦闘となりますが、フォン・ブラウンなどの都市部のような重力下のフィールドも存在します!各チームはステージ内にある補給地点からの出撃となります。補給地点では弾薬や燃料の補給ができますが、破壊されるともう使用することができません。破壊して他のチームの補給を阻止するか、奪って自分たちの回復に使うかの判断はお任せです!!」

「補給地点あり…だいたいは同じか」

ジャパンカップ予選での戦いでそういうルールでの戦いは経験済みだが、相手はそれ以上の手練れぞろい。

おまけに一定数のチームの生存が確認された時点で予選が終わるルールのため、時間制限については違いがある。

そして、ここでのバトルでもしかするとウィルと遭遇するかもしれない。

シミュレーターに入り、イサリビの格納庫で愛機を見つめる勇太のそばにミサがやってくる。

「勇太君、バックパックが変わってるね」

以前のゲーティアのブレードウィング付きのバックパックではなく、デスティニーに近い翼のような構造の新たなバックパックをミサは興味津々に見つめる。

地味な灰色でカラーリングされたゲーティアの新しい装備を無重力を利用して浮かんだ勇太がそっと触れる。

「ミサちゃん、エイハブリアクターが生み出すエイハブ粒子が機体のエネルギーと重力を生み出すことは知ってるよね?」

「うん。そのおかげで、ポスト・ディザスターの戦艦って重力下みたいに動けるんでしょ?」

口では簡単にそういうが、最近はそうした動力炉でとんでもないものがいろいろ出たような記憶がある。

エイハブウェーブやナノラミネートアーマーなど、その時代の戦闘の要としてなくてはならないそれらにもエイハブリアクターがかかわっていて、おまけに物理的に破壊することが非常に困難となるともはや動力源としてはチートと言えるだろう。

太陽炉やフォトンバッテリーも似たようなもので、もしかしたらコアファイターそのものではなく、動力源そのものがガンダムの象徴となる時代も来るのではないかと錯覚してしまう。

「うん、そして生み出したエイハブ粒子は短時間でニュートリノやμ粒子といった素粒子に分解し、超高速で周囲に飛び散ってしまう。それがエイハブ・ウェーブになる。本当はそのエイハブ粒子を圧縮してナノラミネートアーマーを無力化するγラミネート反応を利用したγナノラミネートソードのように、武器に転用できるけれど、技術的課題が多かったし、技術レベルが後退した時代では実用性を完全になくした…けれど、その圧縮エイハブ粒子をほんの少しの時間維持するだけでいいなら、別の使い方もあるかもしれない」

そして、重要なのはそのエイハブ粒子の中に重力因子の性質があること。

これがあるからモビルスーツを稼働する際にパイロットにかかるGを緩和することができ、百里やキマリスなどのような高機動戦闘も可能になっていた。

それがあるからこそ、このバックパックを作ることができた。

「圧縮エイハブ粒子をスラスターに蓄積させて、それが崩壊すると同時に発生する重力因子で機体を前進させる…エイハブウィング」

「エイハブウィング…」

「…なんてかっこつけて言ってるけど、まだテストもしてないからうまくいくかわからないけどね」

理論上は光の翼を発生させたV2のようなスピードを出せるはずだが、それがうまくいくか、そしてそれに自分が耐えられるかは分からない。

だが、少しでもウィルに有利に立ち回ることを考えると、少しでもプラスになるなら入れていく。

「それ…本当に大丈夫なの?」

「大丈夫じゃないかもしれない。けど、保険はあるから、足は引っ張らないよ。そろそろだ…行こう!」

ゲーティアのコックピットに入り、ケーブル付きのヘルメットを装着するとともに阿頼耶識システムとのシンクロが始まる。

エイハブウィングの採用によってより複雑になったシステム。

光信号によって伝達される情報が勇太に頭痛を生じさせる。

「ふうう…出来栄えもそうだけど、僕自身にも課題を突き付けてくるな…これは」

鼻血まで再現されたら困るが、その心配はないことに安心するとともに、網膜投影が開始される。

先にカタパルトに接続されたアザレアが発進し、その後でバーサル騎士ガンダムが飛び立つ。

「ったく、エイハブウィングとは、いったいどれだけ拡張性をもたせてるんだよ」

「どこまでも、ですよ…。だって、設定上はバエルよりも前に開発されたガンダム・フレームそのもののプロトタイプ、性能を追求したものですから…」

「無茶すんなよ?お前がいないとミサがうるさいからな」

「これくらい、無茶をしないと…彼には勝てませんから。沢村勇太、ゲーティア、出るよ」

カタパルトから射出されたゲーティアが月面宙域へと飛び立つ。

同時にバックパックが展開されていき、そこから間近であれば肉眼でギリギリ見えるかのような細やかな光の粒子が発生する。

そして、その粒子が集まっていくと羽ばたく羽根のようなエフェクトが発生し、同時にゲーティアを急速に前へ押し出していく。

「くううう!!すごい、加速だ…!!2人とも、ちょっと開けてぇ!!」

「何…!?すごい接近してくる…キャッ!!?」

「うわあ、主殿!?」

後ろからの反応をキャッチしていたアザレアとバーサル騎士ガンダムが危うく左右によけ、開けた道をゲーティアが突き進んでいく。

「すっごい速い…」

「うむ…あの加速、主殿は大丈夫なのか…?」

「この加速…!まだ機動変化は難しいけれど!!」

突き進む中で、さっそく敵機の反応をキャッチする。

月面の警備をしているものと思われるダガーL3機がゲーティアの接近に気付き、バックパックの装備されているキャノン砲を発射する。

この加速の中での実弾攻撃にはさすがのナノラミネートアーマーでも、普段以上のダメージを受ける。

細やかな動きが難しい分、バッタのように大きく跳躍して弾丸を避け、放出された粒子の残滓だけをその場に残し、敵モビルスーツに向けて接近していく。

「これで…両断だぁ!!」

すさまじいスピードのまま、すれ違いざまに太刀でダガーLを切り付ける。

元々切れ味の良い太刀がスピードで上乗せされたことで更に破壊力が増し、3機とも仲良く両断されて消滅する。

消えていく敵機に目を向けないまま、勇太は次の敵COMと敵チームを探し始めた。




システム名:エイハブウィング
ゲーティアのバックパックに新たに装備された追加装備。
エイハブ粒子の持つ重力因子を利用した、ポスト・ディザスター版の光の翼と言える装備で、理論上ではV2のようなスピードを生み出すことが可能となっている。
ただし、V2のそれとは違って巨大なビームサーベルを生み出すことができず、あくまでも現段階では、推進剤を極力消費せずに更に加速できるか確かめるための試作パーツに過ぎない。
だが、加速を生み出すために圧縮エイハブ粒子を放出していることから、それに伴う偶発的な現象が発生する可能性は否定できない。


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第53話 毒持つ伝説

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第10話「厄祭」

モビルアーマー騒動から2カ月が経過した。
意識が回復した曉は休む間もなく新たな戦いに駆り出される。
それはテロリストが強奪したモビルアーマーの奪還だった。


太陽の光によって輝く月を汚すように戦艦や機動兵器のデブリが漂う。

優しい大地を穿ち、その重力に引っ張られるように斜めに倒れている十字架のような衛星が立っており、それはまるでこの宙域で命を散らした兵士たちを弔っているかのようだった。

この十字架に見える衛星はこの宙域での大規模な戦闘の原因となった機動要塞メサイアで、この中にはデュランダルの夢の象徴であった遺伝子情報研究施設もある。

SEEDの世界での月面は幾度にわたり激しい戦闘が行われていて、その設定が反映されているかのように月面各地には数多くのデブリが漂っている。

最近の作品では、月面付近で激しい戦闘が繰り広げられることが多く、これがもし地球で行われていたらと思うとぞっとすることになる。

「はあ、本当邪魔なデブリだぜ…」

黒く塗装されたガンダム・ヘッドが手ぶらになっている右側のサブアームを利用してカメラ近くを漂う車のデブリをどかす。

レクイエムで使うゲシュマイディッヒ・パンツァーの残骸の影に隠れているその機体は右腕にGバードを装着し、こちらに気付いていないだろう敵機をそれで蒸発させる。

周囲にはハロを有線式で漂わせて、敵機の位置や種類をそれから送られる情報で把握する。

「本当…幽霊なんてものがいたら、ここらへんに化けて出てきそうだなぁ」

あくまでもその光景を再現した仮想現実に過ぎないが、ここまで精密な映像となるとそう思っても仕方ない。

そんなことを考えているとピピピとハロから敵機接近を伝える通信音が伝わり、モニターには探知した敵機の姿が映る。

「紫のモビルスーツ…鬼の角付きのレジェンドか?あいつ、気づいていないのか?」

こちらのチームの戦術では味方機2機が居場所をつかみ、足止めをしてこちらがGバードを撃ちこむ。

仮にその2機が居場所をつかめず、敵機の接近を許した場合でも2機のハロで居場所を探す形になる。

ミラージュコロイドや見えざる傘のようなステルス機能を使っている機体には見えず、それに気づかないのかと口には出さないが不満を抱える。

だが、近づかれてドラグーンシステムなんて使われたら、機動力のないガンダム・ヘッドでは勝てない。

幸い、射程に入っていて、気づいている様子は見られない。

Gバードの照準を紫のレジェンドに向け、必要最低限まで低めた核融合炉の出力を高めていく。

「よし…いけぇ!!」

射線上に味方機がいないため、迷うことなくGバードの引き金を引く。

ヴァスバーをはるかに上回る出力のビームが射線上のデブリを焼き尽くしていき、紫のレジェンドを焼き尽くそうとする。

やった、と撃墜を確信したと同時にコックピットを激しい揺れが襲う。

その瞬間、コックピットに穴が開き、ガンダム・ヘッドの機能は停止した。

背後には下手人と思われる紫のガフランの姿があり、動かなくなったガンダム・ヘッドを蹴り飛ばす。

撃墜されたガンダム・ヘッドは宙域を漂い、やがてその姿を消した。

 

「PG機体のパワーを…舐めるなぁ!!」

「うわわわ!!」

PGのドズル専用ザクⅡが振り下ろす大型ヒートホークを辛くも横に避けたアザレアだが、そこから発せられる高温が月の大地を焼く。

世界大会ということで、カマセ以上のPG機体の登場についても覚悟はしていたものの、やはりその性能もプレッシャーも今まで戦ったPG機体やモビルアーマーを上回る。

「やっぱり、破砕砲がないとだめか…!」

これからのバトルに備えて、ゲーティアにも破砕砲を装備することは考えていたが、ウィルとのバトルに意識が向きすぎて、エイハブウィングづくりを優先してしまったうかつさをかみしめる。

太刀ではその機体の装甲を貫くことができず、仮に貫くことができるとしても、おそらくはジェネレーターやコックピットを直接狙うやり方を取らなければ撃破できないだろう。

「ほらほらどうしたぁ!?こんなんじゃあ、俺は倒せねえぞぉ!!」

距離を取ったとしても、PGに合わせて大口径となったザクマシンガンの弾幕にさらされる。

「こうなったら、覚醒で…」

「待って!勇太君…ちょっとやってみたいことがあるの!ロボ太、囮をお願い!」

「了解だ、ミサ!!」

ミサがこれから何をしようというのかはわからないが、何かをしてくれると信じたロボ太は敵PG機体の射線上を飛び、左手の電磁ランス内蔵にレールガンを発射する。

PG機体相手では衝撃を与える程度のダメージしか与えることができないが、それでも手首を狙えば武器を落とさせることができるかもしれない。

「ちょこまかと動き回って!ぶっ壊されたいのかよぉ!」

ドドドドとザクマシンガンを撃ちまくるザクⅡ。

着弾と同時に小規模のクレーターがいくつもでき、土が舞い上がる。

一旦レールガンによる攻撃を止め、回避に専念するバーサル騎士ガンダムだが、弾丸が近くを通るだけでロボ太にブルブルと強い振動が襲う。

「これは…たとえナノラミネートアーマーで身を守ったとしても…!!」

ダインスレイヴを受けるほどではないとしても、おそらくはバルバトスにメイスをぶちのめされる程度の惨事に見舞われていただろう。

ロボ太に敵機の視線が向けられている間にクレーターの影に隠れ、ミサはコンソールを操作する。

「これ、初めてやるからできるかどうかわかんない。でも…火力がないとPGには勝てないから…!」

「ミサちゃん、僕がおとりになってもよかったんじゃ…」

「勇太君と一緒じゃなきゃダメなの!この機能を使うためには、モビルスーツじゃないと…!」

「わ、分かった…」

「うん…システムはこの感じで、関節部への負荷計算も…OK!!これなら、耐えられるし、戦闘も継続できる!!」

関節固定機能も問題ないと判断したミサはさっそく、フルフォースとなったアザレアの新たな力を発動する。

「さあ…行くよ!アザレアシステムチェンジ!コード・ブラスター!!」

コード入力完了と同時にアザレアのバックパックが外れる。

それと同時に変形していき、両足が連結した状態となり、足底が展開して2つの銃口となる。

やがてアザレアそのものがGバードをほうふつとさせる巨大なビームライフルへと変形し、ゲーティアの右腕と合体するような形で装着される。

「これは…」

「アザレアブラスター!彩渡商店街ガンプラチームの必殺武器の1つだよ!いっけえ、勇太君!!」

「分かったよ!うおおおお!!」

クレーターから飛び出したゲーティアはふらつきながら飛行し、勇太は機体姿勢制御の調整を行っていく。

右腕がモビルスーツ1機分重量が増していて、稼働している太陽炉の重力低減機能を活用したとしてもやはり姿勢が大きく崩れるほど重たい。

元々、モビルスーツと同じ重量の武器を片手で使うことなど想定されておらず、そのプログラムへの自動変更プログラムも入れているはずがない。

それでも、どうにか即席で修正していき、少なくとも月面の低い重力下で動かしても問題ない程度にはしていった。

仮に地球やコロニー内部のような重力下では、今の状態では運用などできないだろう。

「こそこそ隠れていた奴が今更…!!」

右腕におかしな大砲をつけたゲーティアに違和感を抱いたものの、そんなもの恐れる必要はないと言わんばかりにゲーティアめがけてザクマシンガンを撃つ。

直撃を避けるべく動き回るが、激しい振動が機体全体を襲い、右腕をかばいながら飛ぶ中で装甲と弾丸がかすめ、体が大きく揺れるほどの衝撃が襲う。

「くぅ…近くを通るだけでもこれか!これだと足を止められない!」

「うおおおおおお!!」

勇太とミサを援護すべく、ロボ太が注意が2人に向いた隙にザクマシンガンを握っている右手に取りつく。

そして、グリップに向けて炎の剣を突き立てる。

確かにPG機体は大型化したことで圧倒的なパワーを獲得するに至ったが、同時にそれに合わせて武装も大型化する必要が出てきた。

その分、装備でどうしても弱い部分…例えば銃を撃つための引き金といったところも大型化して、やろうと思えばそれを狙うこともできる。

「しまった!ええい、離れろぉ!!」

ロボ太の動きに驚き、ザクが右腕を大きく振ってロボ太を地面にたたきつける。

そのわずかな間に照準合わせを終わらせることに成功する。

「ミサちゃん!!」

「了解、トランザム・ブラスター!!」

アザレアに内蔵されている太陽炉が起動し、ブラスターモードと化したアザレアが赤い光に包まれる。

ブラスターモードとなったことでトランザムによって生まれる高濃度圧縮粒子はある一点にのみ使うことができる。

「よし…」

「「いっけぇぇぇぇぇ!!!」」

2人の叫びと共にアザレアから大出力のビームがザクに向けて発射される。

フェイスバーストモードとなったセラヴィーが放つクアッドキャノン以上ともいえる大出力のビームはザクの胸部を貫いていき、その衝撃でザクの四肢を吹き飛ばしていく。

ビームが収まると、合体していたアザレアがトランザムを解除し、分離すると同時に元のモビルスーツ形態へと戻る。

「すごい…てこずっていたPG機体を一撃で…。そうだ、ロボ太!」

月面にたたきつけられた彼は大丈夫かと倒れているバーサル騎士ガンダムに駆け寄り、接触回線を開く。

「大丈夫!?ロボ太!」

「ああ…主殿、心配ない。ここが地球やコロニーの中であったら、即死だった」

損傷も思っていたよりは軽く、戦闘継続には問題ない。

ロボ太をゲーティアが起こしている間に、アザレアはバックパックを装着しなおした状態で戻ってくる。

「それにしても、ミサ…。まさかアザレアが主殿の武器になるとは…」

「もっとアザレアの火力を引き上げることができないかって考えたときに思いついて…勇太君の助けがなかったらできないのが弱点だけど…」

「ウィリアムとの戦いで使えるかはわからないけれど、いろいろと使い道はあるよ。頼りにさせてもらうよ、ミサちゃん」

「…うん!あとは…サクラさん達を見つけないとね!決勝じゃないけど、戦えるなら、戦いたいし!」

「それよりもまずは補給だよ。今の戦いで消耗しているし…」

もし戦うとなっても、消耗していた状態ではいい勝負なんてできない。

まずは記録した補給地点の座標データから、一番近い場所を割り出していった。

「右腕のフレームへのダメージは軽微…。急ごう!ミサちゃん!」

吹き飛んだザクのパーツが消えていく中、3機は補給地点に向けて飛んでいった。

 

「ミサの奴、すっかり成長しやがったな」

ノートパソコンで勇太たちのバトルを見守るカドマツはミサの成長に感心するしかなかった。

初めて会ったころは正直に言って頼りなく、あくまでもどこにでもいる普通のファイター程度としか思っていなかった。

実際、手伝ったのは勇太への興味が大きい。

だが、勇太と共に戦い、激戦を潜り抜ける中でミサは一気に成長していった。

ジャパンカップの時点ではまだ火種程度だったかもしれないが、アメリカ大会でロクトと互角に戦い、世界選手権に出場したことで爆発した。

3機が補給地点で銃弾や推進剤の補給を受けているのを見る中、カドマツは軽く見続けていたことを心の中でわびた。

彼らの補給に協力しているのはビグ・ラングで、今はバーサル騎士ガンダムがクレーンアームによってコンテナに運び込まれ、推進剤と弾薬を補充されている。

「すごいな…モビルスーツの連携プレーかよ」

「さっすがジャパンカップ優勝チームだ、目の付け所が違うぜ…!」

観客たちはさっそく、2機のPG機体を撃破した彩渡商店街ガンプラチームのことを話題にする。

すっかり注目の的になっていることを嬉しく思うカドマツだが、妙な映像を見たことでその表情が消える。

「こいつは…妙だな。嫌な動きをしてやがる…」

 

「くそ!くそ!くそぉ!当たったはずだろ!?ダメージを与えているはずなのに、どうしてぇ!?」

青いEx-Sガンダムに乗っているファイターは目の前の機体の異常の性能に戦慄する。

目の前にいる角付きのレジェンドに対して、彼は何度もビームスマートガンで攻撃を加えている。

先ほどリフレクターインコムを利用して死角から一撃を加えたはずなのに、あの目の前のモビルスーツは無傷だ。

ハイメガキャノンを上回る火力を誇る一撃を何度も受けてもそれでは、おかしいと思って当然だ。

ふと、彼の脳裏に似たような状況のシーンが頭に浮かぶ。

機動戦士ガンダムカタナでの最終決戦の場であるサイド7に到着する前に、フルアーマーストライカーカスタムとシン・フェデラル仕様のサイサリスが交戦した際、サイサリスは動いている様子を見せていないにもかかわらず、ストライカーカスタムのフカサクによる連撃をすべて回避して見せていた。

実際のところは天地鳴動一心という2機のモビルスーツのパイロットが身に着けているツルギ流の動きを再現したもので、サイサリスは必要最小限の動きでストライカーカスタムの攻撃をかわしていた。

他にも、サイサリスのパイロットは距離を取った状態でビームサーベルの剣先を相手に向け、左手を刃に添える構えを披露し、その状態で距離を縮めていないにもかかわらず、あたかも見えないビームライフルを撃ったかのようにストライカーカスタムにダメージを与えるなど、オカルトに近い動きを見せていた。

それを同じことを相手パイロットがしているのか、それともただチートを使っているのか。

「いい機体だ…。ちょうど、もっと味方がいてもいいかなって思っていたんだよ」

角つきのレジェンドのコックピットの中で、ザフトの白服用のノーマルスーツ姿をしたバイラスが舌なめずりをするかのように混乱する敵モビルスーツを見る。

そして、バックパックに搭載されているドラグーンを射出する。

「さあ、私に力を貸してもらおうか!!」

「ドラグーン!?くっそぉ!だけどなぁ!!」

どこかのタイミングでドラグーンを使ってくることは分かっており、機体に搭載されているIフィールドを展開する。

Ex-Sガンダムはモビルスーツとしては初めてIフィールドを搭載した機体で、本来は胸部のみを防御できる設計であったが、彼の場合はジェネレーター出力を強化したことによって、全身を守ることも常時展開することも可能にしている。

最も、Iフィールドそのものがエネルギー消費が多大で、状況によっては石潰しになりかねないものであることから、めったに使おうとは思わないが。

射出された4基のドラグーンのうちの3基がビームを発射するが、こうした小型のオールレンジ攻撃用の兵器共通の弱点である火力不足がIフィールドを前に浮き彫りとなっており、機体に命中することなくかき消される。

「こんなのを相手にしてられるか!さっさと逃げるに限るんだよ!!」

残ったチームが規定数になった時点で本選に出られる以上、無理に戦う必要もない。

Gクルーザーに変形し、そのまま逃げ去ってやろうともくろんだが、変形が終わった瞬間、ガンと何かがぶつかった衝撃が襲うとともに、コックピットを警告音と赤いランプの光が包んでいく。

そして、Gクルーザーが動きを止めてしまった。

「おい、おいおいおいおい!!どうなってんだよ!?く…!!」

ガチャガチャと操縦桿を動かすがうんともすんとも反応しない。

「おい、大丈夫かよ!今助ける!!」

彼の仲間である赤いジェガンがやってきて、右手のフェザーインライフルのギロチンバーストでドラグーンの1基を撃ち落とす。

もう1基の仲間であるギラ・ズールも懐から取り出した煙幕弾を投げて視界を封じ、逃げる時間を稼ぐ。

「今のうちに逃げるぞ!この煙でビームも無力化できる!あのレジェンドにはそれで…」

安心させようと仲間に語り掛けたジェガンだが、次の瞬間モビルスーツに戻ったEx-Sガンダムがコックピットにビームスマートガンを突き立てる。

そして、何の躊躇もなくゼロ距離からビームを発射し、仲間のはずのジェガンを無惨にもデブリへと還した。

「おい!?何やってんだ!気でも狂ったのかよ!?」

「違う!違うんだ!俺がやったんじゃない!俺が…!!」

赤く染まったコックピットの中で、彼は奥歯をかみしめながら操縦桿を動かす。

愛機はそれに従う気配はなく、今度はビームキャノンでギラ・ズールを攻撃し始める。

「どうなってんだよこれ!?まさか…ネオ・ジオングの…!?」

頭に浮かぶのはネオ・ジオングとⅡネオ・ジオングが行った敵機へのジャックだ。

有線式大型ファンネルに内蔵されている三本爪のワイヤーアンカーで敵機を捕まえ、意のままに操る。

仮にそれを可能にするのであれば、ファンネルの出来栄えもそうだが、ジャックしている機体を遠隔操縦するだけの技術が求められる。

そもそも、ファンネルはシンプルにビームを撃つこと、動くことだけを命令するものが多く、それを複数機操るだけでもパイロットに負担がかかる。

フル・フロンタルやゾルタン・アッカネンができたのは、はっきり言って人の領域から逸脱していたからだろう。

その仮説が正しいならば、今のEx-Sガンダムは角付きに操られている。

だとしたら、その機体を倒すしかない。

ビームスマートガンが効かないその機体をどう倒すべきかはわからないが、仲間をこのまま放っておくわけにもいかない。

「お前ぇぇぇぇ!!!」

「あーあー、無様だなぁ。こんな直進をするなんてねえ。スマートじゃない」

ビームマシンガンを連射しながら突っ込んでくるギラ・ズールにバイラスはため息をつく。

どんなに撃ち込んだとしても、この機体には傷一つつかないのに、無駄なことを。

「邪魔だから、消えてくれたまえ」

シッシと手を振ると同時にレジェンドが左手に握っているビームサーベルでギラ・ズールのコックピットに穴をあける。

穴が開いたギラ・ズールはコントロールを失う中、レジェンドは回り込むように動いて回避し、出力を絞ったビームライフルを何度も発射する。

「そんな…俺たちは、世界大会に出るために戦って…勝ってきて…」

こんなわけのわからない結末に納得できない彼はログアウトされ、同時に核融合炉に被弾したことでギラ・ズールは大爆発を引き起こした。

 

「なんだこいつ!?相手の機体を操ってるぞ!?」

「どうやってるんだろう…?おまけに滅茶苦茶硬いじゃないか!?」

「チートでも使ってるのか!?」

観客席のモニターにも先ほどの顛末が流れ、この理不尽極まりない動きを見せるレジェンドに騒然とする。

レジェンドを中心とした紫のモビルスーツがジャックしたEx-Sガンダムに触れると、その機体の色がレジェンドと同じ紫へと変化していく。

そして、バックパックに突き刺さっていたドラグーンが外れ、レジェンドのバックパックに戻った。

「あれは…全部とはいわんが、何機も同時に操っているのか?これは…チートの匂いがするぜ」

自らの機体を動かしながらも、ジャックした複数の機体も一緒に動かすなど一人の人間にできる芸当ではない。

だが、問題はそれをシミュレーターが見逃していること。

アセンブルシステムの改造については、一定のルールが課せられており、仮にそのルールから外れた改造をした場合はそもそもシミュレーターが使えなくなる。

シミュレーターに入った状態でシステムを入れ替えた場合でも、その時点で操縦にロックがかかり、強制ログアウトとなる。

そうした壁を突破して、公然とチート機体を入れてきたとなると、相手はかなりのハッカーになる。

「あいつらに伝えねえと…おい、勇太、ミサ、ロボ太!聞こえるか!?紫のモビルスーツ軍団とは遭遇してないよな!?」

「ど、どうしたんですかカドマツさん。いきなり…」

「よく聞け!紫の軍団が来たらすぐに逃げろ!おそらくは…お前らでは勝てない!!とんでもねえチートを使っているぞ!!」

「チート!?世界大会に、それに…このフィールドにぃ!?」

「今から映像を送る。これでわかるだろうよ。そいつの異常っぷりが!」

「これは…」

いつ敵チームが来てもおかしくないことから、カドマツから送られた映像を倍速で見た勇太は紫のレジェンドが行った所業に操縦桿を握りしめる。

同時に、全機体に向けて緊急アナウンスも入る。

「やっぱり、チート機体で…ええ!?強制ログアウトも機体停止もできないぃ!?」

「倒すことができない…。救済措置として、その機体に撃墜されたことで脱落したチームには敗者復活戦でチャンスは与えられるようだが…。何が目的でこのようなチートを!?」

「都市に入って、隠れよう。それでやり過ごすしか…」

チートプレイヤーは許せないが、正面切って戦うわけにもいかず、やむなく勇太は見つけた隠れ場所へ向かった。

 

「さあ、どんどん仲間が増えていくなぁ」

レジェンドのドラグーンを受けた敵チームが次々とバイラスのコントロール下に入り、自らの軍団ができたことにご満悦な様子だ。

だが、この軍団を作った目的は一つ。

そして、ターゲットは緊急アナウンスで注意喚起されているにも関わらず、まっすぐにこちらへやってきている。

「来たか…ウィリアム・スターク!!」

「ふざけたことをしてくれるね…バイラス」

正面から僚機と共にやってくるガンダムセレネス。

彼こそが順風満帆になるはずの人生を滅茶苦茶にした男。

この男さえいなければ…。

胸の中でブクブクと膨らむ怒りを抑え込みながら、バイラスは叫ぶ。

「これで貴様を破滅させてやる!この…ヴェノムレジェンドでぇ!!」




機体名:ヴェノムレジェンド
形式番号:ZGMF-X666SV
使用プレイヤー:バイラス・ブリンクス
使用パーツ
射撃武器:高エネルギービームライフル
格闘武器:デファイアント改ビームジャベリン
シールド:ビームシールド
頭部:レジェンドガンダム(鬼の角をオプションパーツで装備)
胴体:レジェンドガンダム
バックパック:レジェンドガンダム
腕:レジェンドガンダム
足:レジェンドガンダム

ウィルへの復讐のため、身分を偽装して世界大会に参加したバイラスが持ち込んだガンプラ。
紫をベースとしたカラーリングに変更されていること以外に、外見上はベース機体との変化はない。
最大の特徴は彼の細工が施された堅牢な装甲とドラグーンであり、ビームスマートガンを受けても無傷な姿を見せ、ドラグーンについては敵機に一度突き出す必要があるが、内蔵されているウイルスを侵食させることでジャックすることができ、ジャックした機体はたとえドラグーンが外れてもバイラスの支配下となる。
なお、どちらについても規定に反したチート行為となるため、本来なら即失格となり、強制ログアウトされるはずだが、それについても対策しているようで、現状はこの予選が終わるか、彼を撃破しない限りは止めることはできないだろう。
なお、機体そのものはバイラスが作ったわけではなく、プロファイター登場と共に裏世界に現れたとされるガンプラマフィアに外注したものと思われる。


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第54話 毒と正義

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第11話「角笛」

モビルアーマーを追って、タービンズとともに地上に降りた曉。
アーヴラウにて、元政治家であるラスカー・アレジの仲介により、ジュリエッタ・ジュリスと接触する。


「フフフ!!まさに飛んで火にいる夏の虫、というべきだなぁ。ウィリアム・スターク!!」

奪い取った機体と一緒に潜入した仲間の機体のガフランとGN-Xがスローネドライとセレネスを襲う中、バイラスも距離を置いた状態でドラグーンシステムを発射する。

「いやな感じのするドラグーンだ…。サクラ、こいつに当たるなよ?」

「ええ…まったく、ドラグーンというだけでも厄介なのに!」

ガフランの1機を左腕の鋏で握りつぶしたサクラはハンドガンを手にし、ドラグーンに向けて撃つが、ドラグーンそのものの装甲が強固になっているせいなのか、それともハンドガンの出力の問題なのか、いくら撃っても損傷する気配がない。

だが、サクラもそれでドラグーンをつぶせるとは思っていない。

彼女が気になるのはそのドラグーンの動きで、確かにビームを撃っているが、それは徐々に距離を詰めていっている。

接近するドラグーンと周囲にいるほかのチームのものと思われる機体。

「そういうことね!!」

近くでこちらにライフルで攻撃してくる紫になったステイメンベースのガンプラを左鋏を伸ばして捕まえ、近づいてくるドラグーンに向けて投げつける。

投げられたステイメンとぶつかる形になったドラグーンがそれに突き刺さり、空いていた右鋏に内蔵されたGNキャノンを発射する。

ステイメンが大出力のビームの中に消えていき、ドラグーンもそれに巻き込まれる形で消滅する。

「ちっ…腕利きを組み込んでいたか」

「まったく…陰湿なことをするね、あなたは!」

バイラスは明らかにターゲットをウィルに集中しており、ドラグーンや機体の数もサクラを狙っているものよりも多い。

セレネスを拘束しようとするドラグーンを日本刀で両断し、そのあとで背後からの警告音に従い、大きく機体の高度を下げてビームライフルを避ける。

「君の行いのほうが、よほど陰湿だろう!!」

「僕は正義をなしただけさ」

「私は君のせいで会社も、財産もなくした!!私だけじゃない!ここにいる者たち全員だ!!」

「あくどいビジネスをしているからさ!」

同じ経営者として、会社を発展させ、存続させるためにあらゆる手を尽くすことについては否定しない。

だが、そのために数多くの人々を不幸にする悪行を行うような輩を許すことはできない。

それに鉄槌を下す必要があり、そのための力がある。

間違っていることに罰を与えるのは至極当然のことだとウィルは考える。

たとえそれで何もかもを失うことになっても、何も同情する必要はない。

「バイラス、君はコンピュータウイルスの自作自演。それで君の会社はもうかるだろうが、その代わりにどれだけの経済損失が世界中で出たのかな?ノブリス・ゴルーグ、君は兵器を戦争中の両軍に売っていたね。ヴィルヘルム・フォークナー、君は小惑星不動産詐欺。これについてはさすがの僕も驚いたよ。地球に接近する小惑星のレアメタルへの先物取引を呼びかけるなんてね。そして、植村隆治、君はニュース記事の捏造。何百本も会社ぐるみでありもしない過去の事件を捏造して、国家間の関係を破綻させた。実にばからしいことをしたね。みんな相当の報いを受けて当然さ」

いずれも多くの人を不幸にしたもので、大手メディアに賄賂を贈る、もしくは忖度させて事実をもみ消してきた。

SNSによる人々の声とタイムズユニバースが作る独自の情報網。

それに基づいて真実を突き止め、そのことごとくをつぶしてきた。

「すべてビジネスさ!!善悪で語られるものじゃない!!」

「黙れ!薄汚い金の亡者どもが!!士魂商才の言葉を知らないようだね!」

ビームサーベルを手に、接近してくるガフランを日本刀で両断する。

続けて突っ込んでくるGN-Xに切りかかる。

だが、GN-Xは撃破されることを承知の上で間合いを詰めて胴体に刃を受け、その状態でセレネスに抱き着く。

「何?!」

「それでいい、そのまま抑えろ!!」

「自爆するつもりか!しつこい!!」

「ウィリアム!!」

バルカンを連射して抵抗するウィルを援護するため、サクラはGN-Xの腕をハンドガンで攻撃して拘束を緩めさせると、そのまま蹴り飛ばした。

蹴り飛ばされたGN-Xが地面と激突して爆散し、残った日本刀をセレネスは回収する。

何機かの機体とドラグーンをつぶしたとはいえ、相手はまだまだ数がある。

「このまま…ジワジワなぶってやるぞ!!いけぇ!!」

どんなに強力な相手だったとしても、圧倒的な物量をぶつけ続ければいずれ力尽きる。

そして、こちらはチートも使って期待を強化しているため、負ける要素自体が見つからない。

だが、それはあくまでも二人だけが相手ならという話。

ここで横槍が入ると話も変わってくる。

ウィルに向けてビームライフルを連射して接近する3機の黒いゼダスRをどこからか飛んできた大出力のビームによって焼き尽くしていく。

「何!?伏兵がいるというのか!?」

「この出力のビーム、けど…この機体番号は!」

「ミサ…?」

接近してくる機体はいずれもサクラにとっては覚えのある機体。

乱入してくるSD機体を含めた3機を見つけた紫のドーベン・ウルフが光信号で注意を呼び掛ける。

「なんだ…?どうして助けに来たんだ?こそこそと隠れていればよかったのに…」

仮に自分が逆の立場なら、放っておいたかもしれないのに。

敵に塩を送る勇太達の動きをまだウィルは理解できなかった。

 

「このまま僕は前に出る。ミサちゃんは冷却が終わり次第、動いて」

「ん…今のアザレアの状態だともうブラスターは使えないけど、トランザムなら1回だけ使える!いけるよ」

2回目のアザレアブラスターを使うことは想定していなかったミサは分離を行いながらアザレアの状態を確認する。

もうアザレアブラスターに耐えられる状態ではないが、それを行わない限りはまだまだ戦うことができる。

ハンドガン2丁を連射して体勢が崩れたダナジンがバーサル騎士ガンダムの電磁スピアでコックピットを貫かれて破壊される。

アザレアも狙撃モードに切り替えたビームマシンガンでマラサイを撃ち抜く。

「ええい…私の邪魔をするな!貴様らにとっても、これは絶好のチャンスだろう!?」

機体照合によって、余計な邪魔をしてきた相手が彩渡商店街ガンプラチームだと知り、激高したバイラスはドラグーンを放つ。

両者の関係についてはすでに自分のスポンサーの情報網から収集済みだ。

ここは協力してウィルを倒せば、彩渡商店街を守ることができる絶好のチャンスだというのに、どうしてそのチャンスをむざむざ捨てる真似をするのか。

ドラグーンに警戒して、勇太とウィルが自然に背中合わせの格好となり、接触回線が開く。

「おい、どういうつもりだ!?」

「どういうつもりって…?」

「僕は敵で、僕が勝てば商店街がどうなると思っているんだ?」

「わかってる。けど…こんな勝ち方しても、うれしくないからね!!」

これはミサともロボ太とも合致した意見だ。

隠れて見逃すという手も取れたが、それでは二人ともすっきりしない。

サクラがいることもあるが、それ以上に2人がジャパンカップが終わってから特訓してきたのはウィルに勝つため。

こんなバカな形でその機会を失うわけにはいかない。

「はあ…馬鹿なやつ。気をつけろ。あの親玉のレジェンド…あいつにはどんな武器も効かないからな」

「なら、どう倒せばいい?僕が覚醒を使うとか?」

「それもいい。けど…もっと効果的なものもある。あんまり使いたくないけど」

セレネスの左腕に外付けされたガントレッドにメインカメラを向けたウィルはフゥとため息をつく。

決勝のためにも、あんまり手の内を明かすことなく勝利したいという気持ちはあるが、この状況では仕方がない。

「まあ…使うには蛆虫が邪魔だ。2人でつぶすぞ!」

「…わかった」

蛆虫という言い方にとげを感じるが、荒くなっている口調からウィルが本気でバイラス達を嫌がっていることは分かった。

勇太も口に出さないが、ガンプラバトルに汚いものを持ち込む彼らを許すつもりはなかった。

まずはドラグーンのけん制をすべく、左手のハンドガンをしまうと予備弾倉を手に取って上空に向けて投げる。

それを右手のハンドガンで撃ち抜くとザクⅡのSマインのように弾丸が月の重力に引っ張られて落ちていく。

地球の重力と比較すると十分な効果が発揮されているとは言えないが、それでもドラグーンの動きを制限することはできる。

軌道パターンを限定させたことで、右手のハンドガンを2発撃ちこんでドラグーンの1基を破壊した。

対してセレネスは散弾を放てる装備はないが、後ろ越しにマウントしているビームトーチガンをマシンガンのように連射することで破壊していった。

「くそ…ドラグーンでは無理か!各機、数で押しつぶせぇ!!」

仲間の機体、そして操っている機体の多数を一斉に2機に襲わせる。

接近してくる機体を見た二人はともに飛び道具を捨て、それぞれの主力武器である刀を抜く。

「へえ…やっぱり2本使うんだね。それで、盾についているレリーフ、まさかとは思うけど…」

「今は関係ないでしょ!負けないでよ!!」

「ああ…。まったく、大した余裕だよ。盾だけとはいえ、ノロケ込みだなんてね!!」

こうなったら、徹底的に八つ当たりをしてやろうと考えたウィルは襲い掛かる敵機を次々と斬っていく。

斬られた味方機の消える姿を見た生き残りの機体たちがたじろぐが、それでもウィルは容赦しない。

「ど素人め…そんな腕で僕に勝てると思うなよ?」

 

「くそ…数が多いうえに機体性能も…!!」

ヤクト・ドーガと剣で鍔迫り合いを演じるロボ太の周りには彼が既に撃破し、徐々に消えていく機体の姿が4機あった。

勇太とウィルの大立ち回りが始まったことで、ミサたちを襲う機体の数は減ったものの、それでもまだまだ残っている機体だけでも十倍の差がある。

いくら3機でもこれ以上戦い続けると限界がある。

「もうもうもう!!そんなにアイツに仕返ししたいなら、ガンプラバトル以外でやってよぉ!!」

「疑似太陽炉の限界稼働時間を考えると、このまま戦い続けるのは…」

だとしたら、ここから敵を一網打尽にするしかない。

その武器はミサが持っているが、それをやり遂げるには相手の身動きや連携を断つ必要がある。

幸い、それを可能にする武器が今のサクラのガンプラにはある。

「ミサちゃん、ロボ太、時間を稼いで。大逆転の一手を打つわ」

「大逆転!?何々??」

「いいから、これは準備が必要なの!!敵を近づけないで!!」

「りょ、了解!!」

両肩のシュツルムファウストが発射され、接近しようとしていたギラ・ズールとグスタフ・カールを吹き飛ばす。

2機に守られたスローネダブルシザースのスカートアーマーから発射されたGNファングが彼女を中心に円陣を組む。

コックピット側面に格納されたキーボードを出したサクラはシステム調整と計算を開始する。

「味方への被害が及ばず、敵機に最大限の効果を発揮する粒子放出量…放出限界時間を計算…」

ウィルのものについてはあらかじめ計算しているが、勇太達については共闘を想定しておらず、SDガンダムと太陽炉搭載機、エイハブ・リアクター搭載機と種類も異なるために計算が想像以上に困難だ。

「くっ…電磁スピアがもうもたない!!」

GN-Xに突き刺したと同時に嫌な音が聞こえ、大きなひび割れも見えたことでバーサル騎士ガンダムはやむなく電磁スピアを手放し、残ったバーサルソードを構える。

小型機であるものの、接近戦主体といえるバーサル騎士ガンダムはどうしても被弾してしまうために、霞の鎧もバーサルソードもひび割れ、左肩の力の盾はすでに失われていた。

「まだまだあああああああ!!!!」

しかし、ロボ太の闘志は冷めておらず、それにこたえるようにバーサルソードが赤々と燃え上がる。

それがエピオンのハイパービームソードのように長い刀身となり、それを振るったことで複数の敵機を焼き尽くしていく。

「サクラさん、まだなのぉ!!」

「もうちょっと…よし、これならいける!!いくわ…トランザムミラージュ!!」

疑似太陽炉から一気にGN粒子が放出されていき、同時にスローネダブルシザースとGNファングが赤く光り始める。

桜の花びらのような形となったGN粒子がまさに桜吹雪のようにフィールドを包み込んでいく。

宇宙空間ではありえないその空間の中で、ドラグーンの毒牙にかかり、その奴隷となり果てていたガンプラ達は動きを止め、バイラスの仲間たちが乗る機体にも異常が生じる。

「な、なんだ!?どうなってる!!センサーが反応しない!敵機も消えたぞ!!」

「ステルスフィールドとかいうやつか!くっそおおおおおお!!!」

ガーガーと雑音ばかりが通信機から鳴り響き、味方機の反応も消えてしまう。

味方も敵の居場所もわからず、動けない敵機をすでにトランザムを発動したアザレアが捉えていた。

「いくよー…高濃度圧縮粒子解放!!」

膨大なGN粒子が大出力のビームに変換され、大蛇のような光と熱の本流が放たれる。

ビームに全身が包まれた敵機が文字通り蒸発し、ビームを維持したアザレアはそのまま薙ぎ払っていく。

やがてトランザムが解除され、ビームが収まると周囲には敵機の残骸だけが残り、そのいずれも熱を帯びていた。

「はあ、はあ、はあ…やった…」

「やったわね、けど…やっぱり疑似太陽炉にトランザムは…」

トランザムミラージュが終わったスローネダブルシザースの状態を確認したサクラはまだまだ改良の余地のある愛機に笑みを浮かべる。

粒子残量は動くだけの量は残っているが、再び元の稼働状態に戻るには時間がかかる。

トランザムミラージュの補助を行っていたGNファングもGN粒子を使い果たしていて、自力でスカートアーマーに戻ることができない状態だ。

「あとは…勇太とウィリアムがどう終わらせるか…」

 

「ちぃ…厄介なものを。まぁ、私のガンプラなら、あまり問題はないがな」

トランザムミラージュで次々と味方機が消えていくのを見たバイラスだが、余裕の態度をとっていた。

既に自動的にセンサーの調整が行われており、元通りになっている。

それに、この機体には無敵の装甲が搭載されている。

それがある限り、いつまでも戦っていられる。

限界のあるほかのガンプラとは大違いだ。

「バイラス、つまらない戦いはこれで終わりだ。観念してもらうよ」

味方機がいなくなり、ようやく動き出したヴェノムレジェンドだが、もう対象が動くには遅すぎた。

上空に飛ぶセレネスの左腕のガントレッドが変形し、長弓のようなレールガンへと変貌する。

その中央部にビームトーチガンが取り付けられ、照準がヴェノムレジェンドに向けられる。

「ふん!大仰な武器のようだが、そんなものでヴェノムレジェンドを…!」

「君ご自慢の装甲、これなら…撃ち抜けるよ」

頭の中で屈辱でゆがむバイラスの顔を想像しながら、ウィルは引き金を引く。

カチリとビームトーチガンの引き金から音が鳴るが、連動しているはずのレールガンから何かが発射される気配がない。

「ふん…こけおどしか…!?」

笑ってやろうと息を吸ったバイラスだが、取り込んだ酸素は次の瞬間、激しい衝撃と同時に追い出される。

何が起こったのか一切わからず、ただわかっているのは何らかのものを撃ち込まれたということ。

それにより機体に大きなひびが入り、そのままクレーターの壁にたたきつけられたことだ。

「ウィリアム…その武器は…」

「今は話しかけないでくれ。集中できないだろ」

まさかこんな奴のためにとっておきの隠し玉を、よもや勇太の前で披露することになるとは思わなかった。

だが、見せてしまった以上は存分にその破壊力を魅せるだけだ。

再びビームトーチガンの引き金を引き、それがヴェノムレジェンドの頭部を粉砕する。

「な、なんでだ!?なんでだなんでだなんでぇ!!チートを使っているのに!ビームも、GN兵装も、実弾も…ヴェノムレジェンドなら一切効かないのにぃ!!」

「残念だったね、バイラス…君はここで脱落だ。あとは警察と刑務所が君の舞台だ」

無様に叫ぶバイラスの声はウィルの耳には届かず、次の一射によってヴェノムレジェンドのコックピットが粉々に吹き飛んだ。

バイラスの部隊が全滅し、ウィルはレールガンをもとのガントレッドに戻した後で刀を抜き、それをゲーティアに向ける。

勇太もセレネスをにらみ、刀をウィルに向ける。

お互いにピリピリとプレッシャーを放ち、今にも互いに切りかかりそうな様子だ。

「勇太君…」

「ウィリアム…」

「主殿…」

戦いが終わり、2人のもとに駆け付けた3人はこれから何が起こるか、ピリピリと感じるプレッシャーに耐えながら見つめる。

だが、最初に刀を下ろしたのはウィルだった。

「やめた…。こんな状態でバトルをしてもただの消化試合だ。けれど、次に会ったときは必ず君と戦うよ」

「…ウィリアム。あのレジェンドもどきは集団で君を襲っていた。どうして…?」

「さあね。くだらない金儲けをしていた輩に正義の鉄槌を下していたらこうなった。いつものことだよ」

このような妨害はガンプラバトルに限った話ではない。

父の代からの取引相手が突然、これ以降の取引を打ち切ったり、ターゲットの会社の株を買収していた際にデマを流されて予算内で済まなくなるなど、陰からの嫌がらせもある。

ウィルにとってはそれが日常で、気にする話ではない。

むしろ、調査することで自分たちをターゲットにしてくださいと教えてくれるようなものだ。

「確かに、正義の元に行動を起こすことは素晴らしいことだ。だが、度が過ぎた正義は自分も他人も不幸にするぞ」

「…トイボットが何を言ってるんだ。ま、肝に免じてはおくけどね」

ロボ太のロボットらしからぬ言動と忠告に苛立ちを感じる中で、時間切れを告げるサイレンが鳴る。

「ここで…イレギュラーありの二次予選は終了しました。生存したチームは本線への進出となりますが、今回はこちらの脆弱性をつかれ、違法なチームの介入を招いてしまいました。彩渡商店街ガンプラチームとタイムズユニバースチームの活躍によって退けられました。しかし、不幸にも彼らに敗れたチームもあります。ですので、大会規定に従い、翌日に急遽敗者復活戦を行い、その翌日に本選を行うものとします」

「やれやれ、1日自由時間ができたか。これなら、もっとこいつの調整ができそうだ」

この秘密兵器の存在を勇太に見せることになったのは誤算だが、結果として戦闘データを手に入れることができた。

それを踏まえてさらに完成度を上げて、ゲーティアを叩き潰す。

「じゃあね、ミサちゃん。本選で戦えることを楽しみにしているわ」

「サクラさん…」

ウィルとサクラの機体がログアウトし、残った3機はじっと2機が消えた場所を見つめる。

(あの弓のような兵器からは、確かに何かを感じた…。たぶん、あれは…)

ウィリアム・スタークはかつて、現役時代のミスターガンプラを倒した力量を持つファイター。

だとしたら、彼もまた覚醒が使える可能性が高い。

しかし、今回のバトルで彼が覚醒を見せることはなかった。

あの弓を使ったためなのか、それとももっと別の理由があるのか?

ミサもまた、サクラの新たな機体の力を間近で見たことで焦りを感じていた。

「サクラさんも、ジャパンカップの時から格段に強くなってる…。それに、トランザムミラージュでセンサーをつぶされると、アザレアだと不利…」

ウィルと同じく、サクラもまた使えるはずの覚醒を使っていない。

トランザムミラージュと覚醒を併用してきたらどのような状況になるのか、想像するだけでも震え上がってしまう。

(明日の一日…きっとこの一日をどう使うかで、明暗がはっきりと分かれる。エイハブウィングもまだ完全には至っていない。必ず完成させて見せる!)

「こうなったら、かえって特訓だね!勇太君!」

「…うん、その前に、アザレアをしっかり調整してとね。ブラスターを2回使ったし、トランザムまで使ったから…」

「はーい…でも、ブラスターを使ったのは勇太君だからね!」

 




機体名:ガンダムスローネダブルシザース
形式番号:GNW-003DS
使用プレイヤー:凛音桜
使用パーツ
射撃武器:GNハンドガン
格闘武器:GNビームサーベル
シールド:なし
頭部:ガンダムスローネドライ
胴体:ガンダムスローネドライ(腰部にガンダムスローネツヴァイのスカートアーマー装備)
バックパック:ガンダムスローネドライ(GNコンデンサー装備)
腕:ガンダムアシュタロン・ハーミッドクラブ
足:カオスガンダム

世界大会参加のためにサクラが用意したガンプラ。
ガンダムスローネをベースとしており、攻撃力の不足と両腕のギガンティックシザースと追加装備されたGNファングで補っている。
現状、判明している最大の武器はトランザムミラージュで、桜吹雪のようなエフェクトとともに敵機のみのセンサーをピンポイントで使い物にならなくする。
なお、その時のGN粒子の調整をGNファングも行っていて、逆に言うとそれが破壊されると調整が難しくなる可能性が高い。
なお、覚醒も可能だが、おそらくその際には以前の愛機と同じく分身を使ってくる可能性があるだろう。


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第55話 祖父よ、再び

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第12話「傷だらけの華」

アーブラヴに突如として出没し、局地的な攻撃を繰り返す謎のガンダム・フレーム。
ジュリエッタの依頼により、その調査を行うことになった曉はそのガンダム・フレームと遭遇する。



「日本からの出場チームの中では最年少となる彩渡商店街ガンプラチームですが、昨日の予選を見事通過し、本線への出場を決めました。彩渡商店街ガンプラチームは昨年までは日本で行われたタウンカップにおいて予選敗退を続けていたチームでしたが、今年は…」

「ふふ…いいものだな。こうして活躍を見ることができるというのは」

座席についているテレビに映るアザレアとゲーティアの活躍を見ながら、ゴーグルで目を隠した、青い髭と逆立った髪型をした老人が唇を緩ませる。

通りがかった金髪のスチュワーデスがテーブルにある空っぽになったコップを手に取る。

「お飲み物、お代わりされますか?」

「うん…さっきのと同じものを頂くとするかな」

「かしこまりました。お客様、もう10杯目ですよ。日本からハワイまで、これほど同じ飲み物をお代わりされたのはお客様だけです」

新しいコップに老人が先ほど飲んでいたジュースを注ぎ、テーブルに置くとさっそく老人はそのコップを手にする。

「せっかく1人気ままに海外旅行をする上に、乗っているのがハウンゼンなんだからな」

「ふふ…ここはハウンゼンではありませんよ。それなら、ここにいるお客様全員が特権階級かその関係者ですよ。それに、薄着にされてはいかがですか?今のハワイは暑いですよ」

スチュワーデスが立ち去り、飲み物を飲んだ老人は窓からハワイとそこから続くギガフロートに目を向ける。

スチュワーデスの指摘通り、茶色い羽毛入りのジャケット姿はとてもハワイに行くものとは思えない。

おまけに老人がそれを着て暑いハワイで遊ぶのは自殺行為だろうと彼女には思えたのだろう。

「妻に無理を言ってきたんじゃ、楽しませてもらうとするか」

 

「うーーーん、やっぱりギガフロートばっかりだと息苦しいって感じがするし、やっぱりハワイに来たんだから、ビーチで楽しみたいね!」

ギガフロートからの連絡船を降りたミサは背伸びをし、近くにあるビーチを見る。

普段はネットやテレビの映像でしか見ないビーチをこうして生で見れるだけでも本当にハワイに来たんだという実感がわく。

さっそくその景色をスマートフォンで撮影する。

「おい、いいのかよ勇太。せっかくもらった一日をこんな形で使うのはよぉ」

はしゃぐミサをよそに、勇太ともども荷物を持つカドマツが意外そうに勇太を見る。

いつもの勇太なら、こういう日はガンプラの調整や練習に費やすとばかり思っていた。

だが、こうしてビーチに行って遊ぶことを提案したのは勇太本人だ。

「まぁ…ミサちゃんのいう通りだなって思うところがあったので…。練習とか勉強ばっかりに使うと煮詰まってしまうので。それに、ずっと頑張っていたから、ほんの少しだけ落ち着いてもいいって思いましたから」

「ふうん、まあ…そういうことにしといてやるよ。さ、早く行くぞ。ミサのやつにどやされる」

「…ですね」

走っていったミサを追いかけ、ロボ太とともに2人はビーチへと続く歩道を歩いていった。

 

シーズン中となっているハワイのビーチは日本人を含め、数多くの外国人たちが集まり、思い思いに過ごしている。

サーフィンに興じる人がいれば、パラソルの下で横になる人もおり、遠泳を試みる人もいるだろう。

あまり泳ぐつもりのない勇太は下をトランクスにし、上を青い無地のTシャツで身を包んでいる状態だ。

「ほぉー、やっぱり水着姿の美人がいる場所というのはいいなぁ。心が休まる」

「そういう楽しみ方もありだとは思いますけど、僕は…」

「勇太くーん!!」

おそらく、着替え終わったであろうミサの声が聞こえてくる。

一番最初に、かなり早くに到着したにもかかわらず、一番遅くまで着替えに時間がかかっていたことが気になりながらも、立ち上がった勇太はパラソルから出て、ミサの声がした方向に目を向けると同時に言葉を失う。

ミサの姿がオレンジのラインの入った白いビキニ姿をしていた。

カドマツは特にミサに対して反応はないが、勇太はすっかり顔を赤く染めてしまっている。

「そ、その…勇太君、どう、かな…?」

「ど、どうって…」

「その…私の水着、変じゃない…よね?」

「そ、そんなわけないよ!その…か、かわいいよ…似合ってる…」

「そ、そう…あり、がと…」

ミサも勇太もすっかり顔を赤く染めてしまい、ぎこちない会話の後はお互いに沈黙するばかり。

そんな様子の2人にカドマツはふぅとため息をついてしまった。

 

そのあとは3人と1機でビーチで楽しい時間を過ごし、カドマツとロボ太がその光景を撮影してくれた。

海で泳いでいる様子や顔に海藻がくっついた状態の勇太を見て爆笑するミサ、突然起こった大きな波にびっくりして思わず勇太に抱き着いてしまったミサやカドマツが作った焼きそばに舌鼓を打つ2人の様子などの写真がデータベースに乗せられる。

帰国後にカドマツがプリントして、2人に渡す手はずになっている。

ビーチである程度遊んだ後で、勇太たちがやってきたのはハワイにできたアメリカ初のガンプラベースだ。

ガンダムWで登場したハワードに似た姿をしたアロハシャツの店長が出迎え、中には名古屋のガンプラベースに負けず劣らずのラインナップのガンプラや工具が置かれている。

「これは…サンダーボルト版のジオングか。初めて見たときはびっくりしたけど」

「これこれ!!これってゼハートカラーのレギルスだよね!これ、買って帰りたいなぁー!」

「買うのもいいけど、もうここで作ってもいいんじゃないかな?シミュレーターもあるし」

「賛成ーー!ロボ太、一緒に作ろ!」

「あんまり無茶なことをするなよ?明日から本選なんだからな」

2人と1機がそれぞれガンプラを購入し、ベース内にある制作コーナーでガンプラの作成に入る。

ミサにとっては設備や工具などは店にいるときと変わりないが、なぜかこうしてガンプラを作っているとはにかんでしまう。

「どうしたの?ミサちゃん」

「ううん、なんだか懐かしいなって思って…」

「懐かしい…?」

「そう、昔は何も考えずにただ楽しくガンプラを作ってたんだ。今は楽しくないってわけじゃないけど、なんだか昔とちょっと違う感じがして…」

ミサが初めてガンプラを作ったのは小学生の頃で、ただ単に勇武へのあこがれからガンプラを作っていた。

色を塗ったり出来栄えを考えるようなことはせず、ただ説明書通りに作り、直組みに近い形だったが、それでも作っているときも、完成して鑑賞しているときも楽しかった。

ガンプラバトルがはやり始め、ミサもそれを初めて、自分で自分の作ったガンプラを自由に動かせた時の感動は忘れられない。

「でも、今は商店街を守らなきゃって思いもあるし、負けられない理由がある。小さいころのように楽しむことはできないんじゃないかなって」

その時のような無垢な自分に戻りたいというわけではないが、その気持ちに戻れないことへのむなしさがある。

何かに縛られてしまった自分というのは感じられる。

「その、ごめんね。急に変なこと言っちゃって…」

「ううん、そんなことないよ。僕も…似たような感じだったし、僕の場合は兄さんが死んだこともあって、10年も逃げ回っちゃったから…」

「勇太君…」

「でも、さ…。それって、昔よりも成長した、大人になったっていうことじゃないかな?」

「大人、に…?」

「うん。うまく言えないけど、きっと今だからこその楽しみがあるんだよ。それは将来、大人になって、家族ができて…その時その時にしか味わえない楽しみもある。だから…そんなに悲観することじゃない、そんな気がするんだ。もし、そのことにもっと早く気づいていたら、もっと早くにガンプラバトルに戻ってこれたかもしれないけど…」

だが、そうしていたらきっとミサと出会うことはなかっただろう。

出会った可能性があったとしても、一緒に戦う未来はなかったかもしれない。

そして、こんな気持ちをはぐくむこともなかっただろう。

(兄さんはいなくなってしまったけど…今の僕には一緒に戦いたい人がいる。力になりたいって思える人がいる。勝ちたい相手がいる…。僕は幸せ者だよ)

「…じゃあ、今を楽しまないとね!勇太君、シミュレーターへ行こう!ロボ太も!」

自分のガンプラを完成させたミサはすっきりとした笑顔を見せ、さっそくシミュレーターへと走っていき、ロボ太も追いかけていく。

そんな仲間の様子をほほえましく思いながら、勇太もシミュレーターに入った。

 

大会で使われているものとは違い、普段のゲームセンターにあるものと変わらないシミュレーターで、久々に思える感覚に戸惑いながらも、勇太は新たに作ったガンプラの中で起動の準備に取り掛かる。

「アスタロトかぁ…やっぱり勇太君は鉄血系のガンプラだよね」

「こっちのほうがしっくりくるんだ。阿頼耶識はないし、義手での神経接続もできないけど、どうにかなるよ。ミサちゃんはノーベルガンダムなんだ」

「うん!ロボ太はGファイターかぁ…」

「戦闘機というものがどういうものかが気になったのでな。支援なら任せてもらおう」

今回はステージを進めるのではなく、ランダムでシミュレーターにログインしているプレイヤーと対戦する形式になっている。

ランダムに出現する形式となるため、どの機体が登場するか、初心者か上級者かもわからない設定だ。

「大会じゃないんだ。楽しもう。沢村勇太、アスタロトで出るよ」

トリントン基地近辺へ飛び出したアスタロトは左手で対物ライフルを構えた状態となって警戒する。

本来は腰部ハードポイントと接続することで安定度を増した状態で運用することが求められるものだが、その場合は姿勢制御用に装備されているブーストアーマーを撤去しなければならないことからマニピュレーターのみで運用している。

遅れてノーベルガンダムとGファイターも戦場に現れ、やがて最初の対戦相手が出てくる。

ブルーディスティニーベースのガンプラはツインビームスピアを構え、真っ黒に染まったM1アストレイというべきガンプラはあいさつ代わりにトリケロスにと右手に握っているドッズガンを発射した。

 

勇太とミサがバトルを始めるほんの少し前、ハワイのとあるバー。

スーツ姿の男が強い酒を飲んでいる中、その隣の席に茶色いコート姿で頬や顎に髭を生やした男が座る。

その男の姿を見ないまま、スーツの男はコンコンと指でカウンターを叩くと、バーテンダーは同じ酒をコートの男にふるまう。

「あの男から話は聞いているよ。ガンプラマフィア…そんな生き物がこの世界にも存在するとはね」

「いかなる場所にも裏社会というものは存在する、ということだ。たとえ、それが子供の遊びから始まったものだとしても」

顔の上から半分を覆うような形のサングラスをつけた彼の表情を知ることはできず、ふるまう酒を一気に飲む彼にスーツの男はニヤリと笑う。

あくまでこれはスーツの男が聞いただけの話だが、ガンプラマフィアは表や裏で行われる大会において、バトルの妨害工作や闇取引、違法賭博などを行い、中には対戦相手となるファイターを不慮の事故の被害者にすることもあるという。

そして、このコート姿の男であるGはあるツテで知ったガンプラマフィアで、その腕は折り紙付きだという。

「私はこれから潜伏しなければならないが、どうしてもやり返したい相手がいるのだ。彼らを代わり始末してほしい。方法は任せるよ」

スーツの男が懐から出した写真。

それに映っているのは勇太たち綾渡商店街ガンプラチームのメンバーだった。

「まだ子供だな。だが…ウィリアム・スタークがターゲットではないのか?」

「奴への復讐はもう完遂している。だが、あのガキに協力したこいつらは許せん。私は完全主義なのでな…。これが前金だ。残りは仲介人を通じて渡す」

小切手と一緒に2人分の酒代をカウンターに置く。

そして、スーツの男は席を立ち、何も言わずにその場をあとにする。

1人になったGはフッと笑った後でお代わりをバーテンダーに要求する。

「沢村勇太、か…。あの少年の弟がターゲットとは、因果なものだ。バイラス・ブリンクス」

 

「よし、これでダウンだ!!」

ツインビームスピアを投擲したナイフで破壊し、左手で握ったデモリッションナイフでペイルライダーを切り捨てる。

真っ赤に染まっていたカメラから光が消えていき、機体は爆発・消滅した。

「はああああああ!!ヒートエンドぉ!!」

一方でミサも、ノーベルガンダムのゴッドフィンガーでM1アストレイの撃破に成功し、上空のGファイターが周囲の警戒を続ける。

「ミサちゃん、格闘主体の機体でも戦えるじゃん。アザレアとは真逆のコンセプトなのに」

「ふふん、私だって強くなってるもん!」

「油断するな、ミサ。うん…?この反応は。それに、この音は…??」

Gファイターのセンサーが新しい敵機を感じ取ったと思ったら、急にザザッと雑音が混じり始めると同時にその機体の反応が消えてしまう。

雑音は一段とひどくなっていき、それは勇太とミサのガンプラも同様だ。

「何、これ…ジャミング!?」

「イフリートのものもあるけど…これは!?」

モニターに映る光景にもノイズが発生し、トリントン基地だったはずの光景の一部がジャブローやテキサスコロニー、崩壊しつつあるノーラなどへと次々と変わっていく。

何が起こっているかもわからない間に弾丸が飛んできて、何発かがアスタロトのナノラミネートアーマーを叩く。

「くっ…!」

「勇太君!」

「敵機、どこにいる!?うわあ!!」

ガンッとなのかがのしかかった音がしたと同時にGファイターの高度が下がる。

真上に敵機がいることはこの衝撃と重量で分かり、モニターにもようやく映ったものの、センサーには反応することがない上に、Gファイターには真上を攻撃する装備がない。

「ロボ太!!」

「まずは1機…!」

両足に内蔵されたパイルバンカーが起動し、2本の杭がGファイターに突き刺さる。

甚大なダメージを負ったGファイターは墜落し、敵機体は飛び降りるとともに勇太たちにマシンガンで攻撃を仕掛ける。

「あれが敵機!?それに、ロボ太が不意打ちされるなんて…」

「あの機体は…いったい…?」

陸戦型ガンダムをベースとしていて、ガトリングと追加スラスターが搭載されているためなのか、腕と脚が若干太いイメージがある。

スパイクシールドと100mmマシンガンという標準的な装備の機体の中で、Gはニヤリと笑う。

「遊んでもらうぞ…」

追加スラスターを吹かせ、大きく跳躍した陸戦型ガンダムが地上のアスタロトとノーベルガンダムに向けてマシンガンを連射する。

相手が見えている分、まだ回避に余裕があったために射線上から外れることは容易だった。

だが、回避して地面に足をつけた瞬間、その場で爆発が起こる。

「うわああ!!地雷?!仕掛ける時間もなかったはずなのに…!」

「え…!?何何!?何がどうなってるの!?」

地雷によって足にダメージを負ったアスタロトに動揺するミサに今度はミサイルが襲う。

ビームフラフープを投げてどうにかミサイルを破壊することができたが、その間に接近してきた陸戦型ガンダムがツインビームスピアで切りかかり、ミサはどうにか不完全ながらもゴッドフィンガーを発動させた状態でビームの刀身を受け止めた。

「ほぉ…この攻撃に反応し、防御するとはな…。去年までの弱小チームのリーダーとしての姿はもうない、ということか」

ガンプラマフィアであるGだが、弱い相手よりも力のある獲物と戦う方がやる気がわく。

仕事に相手は選べないことはわかっているが、こうしたときは楽しみたいという気持ちが出てくるが、それでも仕事は完遂させなければならない。

「だが、これはどうかな…?」

そうつぶやくと同時に陸戦型ガンダムのツインアイが怪しく光る。

すると、急にノーベルガンダムのモニターがブラックアウトし、わずか1秒で元の状態に戻る。

「ジャミングってそんな効果も…って、これって!?」

モニターに映っている光景にミサの目が大きく開く。

モニターに映っている機体はなぜかすべてアスタロトに変わっていて、機体がとらえている反応もすべてアスタロトのものへと変わっていた。

そして、目の前ではアスタロト同士がデモリッションナイフでつばぜり合いを演じているようにミサには見えた。

「このフィールドの異常に、いつ設置したかわからない地雷…!!何者なんだ、あなたは!!」

正規のファイターとは思えず、答えがもらえないことはわかっているが、それでも問わずにはいられない。

おまけにそうして動けない間にも、勇太の周辺には地雷が出現しつつあった。

「答える義理はない。かわいそうだが、ここで果ててもらうぞ」

「誰が…!!」

「お前たちのシミュレーターには仕掛けを施させてもらった。バトルに負けた場合、お前たちは閉じ込められ、死ぬまで出ることはできない」

「何…!?カドマツさん、カドマツさん応答を!!」

「無駄だ。エンジニアとの通信も遮断させてもらった。このバトルの光景も、外の人間には見ることはできない」

「なんで、そんなことを…!まさか…」

このような手段をとってくる相手として真っ先の頭に浮かんだのは、ウィルを襲ったバイラスをはじめとして一派だ。

ウィルと協力して彼らを退けたことで、恨みを持たれた可能性は否定できない。

「それに、知ってどうする?知ったとしても、無駄なだけだ」

ふいに腹部に蹴りを入れられ、後ろへと吹き飛ばされたアスタロトは壁に当たると同時に壁に仕掛けられた爆弾が起動する。

爆発によってバックパックが損傷し、対物ライフルが故障してしまう。

「しまった!貴重な射撃兵装が!!」

前のめりに倒れたアスタロトは使い物にならなくなった対物ライフルを強制排除する。

幸いにもデモリッションナイフは無事なため、それを手に接近してくる陸戦型ガンダムと格闘戦を演じる。

「くうう…ミサちゃん、援護を!!」

「え、援護って…どっちを!?」

援護したい気持ちはやまやまだが、ミサには今戦っている2機のアスタロトのどちらが本物なのかの判別がつかない。

確かに勇太からの通信は届いているが、なぜか2機同時に通信が届く形になっていて、それが余計にミサを混乱させる。

「く…ミサ、主殿…!」

墜落したGファイターのコックピットの中で、その光景を見るロボ太は拳をモニターにたたきつける。

今のGファイターは撃墜判定こそされていないものの、動ける状態でないうえに兵装も使用不能な状態だ。

こうして指をくわえてみていることしかできないことに腹立たしさが感じられた。

 

「おい、勇太!ミサ!ロボ太!!どうしたっていうんだ!くそ!!」

通信がなくなり、シミュレーターの状況を見ることができなくなったことで嫌な予感がしたカドマツは必死に通信を送ると同時に、シミュレーターにいる3人を出そうとノートパソコンでの操作を試みる。

だが、パソコンからの命令をシミュレーターはすべて拒絶しているうえに、緊急事態発生時のための強制解放装置まで動かすことができない状態だ。

「どうなってやがる…さっきまでバトルの状況を見ることができてたってのに…クソ!!」

新しい乱入機体の登場とほぼ同時に切断されたことから、おそらくはその乱入者が原因であることはわかる。

だが、それが勇太たちを罠にはめるとは思いもしなかった。

いつもなら、普通にできる外部との通信もできなくなっているとなるとかなりの異常だ。

「うん…?どうしたのだ?大の大人が焦っているではないか」

「誰だか知らねえが、今は忙しいんだ!!遊ぶならほかのところで…!」

背後から聞こえる声から、老人だということはわかるが、今はそれを相手にできる余裕はない。

どうにか別方向から命令を送れないかとパソコンを操作するカドマツを後目に、老人はシミュレーターに触れる。

「なるほど…厄介なことをしてくれたものだな。どれ…私が力添えをしてやろう」

「力添え…?爺さん、あんたに何が!?」

「空いているシミュレーターを借りる。あとは任せてもらおう。こう見えても、私は強いからな」

「何…!?」

カドマツの言葉を無視してシミュレーターに入った老人は懐から出したガンプラをさっそくセットする。

「さあ…出してもらおうか。…私の孫を!」

 

「くっ…こうなったら、覚醒を…!」

大会ではないため、覚醒はあまり使わないように心がけていた勇太だが、この正体不明の相手に対してはもうそのようなことは言っていられない状態だ。

「そうだ…使ってこい、覚醒を」

覚醒の兆候が見られたことで、陸戦型ガンダムが後ろに下がり、アスタロトが炎のようなオーラを宿そうとする。

だが、その瞬間に陸戦型ガンダムの両腕のシールドが分離する。

そして、2枚のシールドが半分に分離して4枚になるとアスタロトを包囲する。

4枚のシールドから発生する虹色の光はアスタロトを包み込むと同時に、機体を包むはずの覚醒エネルギーが消えていく。

「どう…して…!?」

覚醒が使えなくなると同時に、勇太の体全体を縄で無理やり縛るような痛みが襲う。

その状態でどうにかアスタロトを動かそうとするが、いくら操縦桿を動かしても機体は満足に動くことができない。

「これって、サイコジャマー…!?」

「覚醒など使わせんよ、沢村勇太」

縛り付けられたアスタロトに向けて、陸戦型ガンダムはビームサーベルを抜いて接近を始める。

いくらナノラミネートアーマーで覆われたアスタロトでも、コックピットにゼロ距離で突き立てられたら無事では済まない。

「終わりだ…うん!?」

ピピピと新たな機体反応を見つけたGは機体が出現した方向に目を向ける。

その瞬間、4本のビームがアスタロトを拘束するシールドを貫き、爆散させるとともにアスタロトを解放する。

「何!?あのガンプラの攻撃ではないな…これは!!」

カメラでとらえたその機体はガンダムAGE-1をベースにしたと思われるガンプラだった。

だが、両腕にはグランサから装備されていると思われるシールドライフルを装備していて、両肩にはタイタスのパーツ、脚はシグルブレイドと追加スラスターを外付けした状態のスパローのものになっていて、背部にはグラストロランチャーを装備と、アニメ版ガンダムAGEでこれまでフリットが運用したAGE-1の集大成と思える姿を見せていた。

「この、ガンプラって…」

「邪魔をするな…!」

GはAGE-1ベースのガンプラに向けてマシンガンを放つ。

上空からグラストロランチャーと両足のスラスターでスピードを上げるAGE-1はその攻撃から逃れ、混乱するノーベルガンダムの元へ向かう。

状況がつかめないミサの前に立ったその機体の胸部のAが強い光を放ち、アザレアを包み込んでいく。

視界が元に戻ったミサの目に映るのは光を放った機体と追い詰められていたアスタロト、そしてアスタロトを襲う陸戦型ガンダムの姿だった。

「元に戻った…ガンダムが助けてくれた?」

「初めまして、だな。井川美沙さん」

接触回線で通信をつなげてきたその機体のパイロットの姿がモニターに映り、ミサが見たそのパイロットはノーマルスーツを着用していない、老年期のフリットをほうふつとさせる姿をした老人だった。

「おじいちゃん…誰?」

「私は風間明日夢。孫がいつも世話になっているな」

「孫…え?」

「まずはあの不埒な輩を追い出すとしよう。援護を頼む」

「ちょ、ちょっと孫って、もしかしておじいさんって、勇太君のおじいちゃんなのーーー!?」

機体は普段使っているものと全く違うのにどうしてすぐにわかったのかも理解できず、手を伸ばして制止しようとするミサを無視して、機体は陸戦型ガンダムに迫る。

「風間明日夢、AGE-1FC、目標を破壊する!」

AGE-1FCがシールドライフルにビームサーベルを展開した状態で陸戦型ガンダムに切りかかる。

ビームサーベルで受け止めることには成功した陸戦型ガンダムだが、機動力や出力の違いが出ているのか、陸戦型ガンダムが押されている格好だ。

「ぐ、うう…!」

「孫が世話になったな、G。ゴキブリのような名前のガンプラマフィアめ」

「ちっ…貴様が邪魔をしなければ沢村勇太をしとめることができたものを…!やむを得んか…」

相手が明日夢である以上、手加減することはできないと考えたGはパスワードを入力する。

すると陸戦型ガンダムを中心に一瞬強烈な衝撃波が発生してAGE-1FCを吹き飛ばす。

そして、陸戦型ガンダムを赤い血のようなオーラが包み込んでいく。

「これは…EXAMシステム!?」

「いや…EXAMではない。それに、覚醒でもない。これは…」

「ふっ、プロトタイプだが、使えるじゃないか」

オーラをまとった陸戦型ガンダムが一気にAGE-1FCに接近し、ビームサーベルをふるう。

危険を感じた明日夢はシールドライフルを手放すと両肩に搭載されていたタイタスのビームショルダーを両腕までスライド移動させ、そこからビームサーベルを発生させた状態でつばぜり合いを始める。

シールドライフルの時とは違い、重量とパワーを増加させることができたものの、それでもギリギリ受けることができた程度。

「受け止めたか…だが!!」

陸戦型ガンダムの胸部に搭載されているマルチランチャーから閃光弾がゼロ距離で発射され、それが2機を覆う。

光に目がくらんだAGE-1FCが動きを止めてしまい、光が収まると同時にバックパックに強い衝撃が襲う。

背後に回り込んだ陸戦型ガンダムがビームサーベルでグラストロランチャーを切り裂いていた。

すかさずグラストロランチャーを分離させ、それが生み出す爆発から逃れたAGE-1FCは両脚に内蔵されているニードルガンを発射してけん制しつつ、どうにか動けるようになったアスタロトの元まで向かう。

「勇太、動けるな…?」

「その声…じいちゃん!?なんでここに…」

「詳しい説明は後だ。アスタロトの武装、まだ使えるものは…」

「デモリッションナイフは使える。ナイフはあと1本だけ。それ以外はもう使えないよ」

「十分だ。デモリッションナイフを借りる。お前はそこで休んでいろ、あのフィールドの影響から完全に出られたわけではないだろう?」

「それは…」

明日夢の言う通り、どうにか動けるようになったアスタロトもまだぐらついた状態になっているうえに覚醒もあのフィールドで力を奪われたために、まだ使える状態になっていない。

相手は覚醒らしき力を使っているため、今加勢したとしても明日夢の足を引っ張るのではないかと思える。

せっかく世界大会に出られるだけの力を手に入れたのにこの体たらくに怒りを覚える勇太のアスタロトの頭をAGE-1FCが自由にさせた右手でそっと撫でる。

「お前はよくやった、さすがは私の孫。任せておけ」

「じいちゃん…」

グラストロランチャーを失ったことで機動力と遠距離戦闘の火力は落ちたが、まだ戦闘の継続はできる。

受け取ったデモリッションナイフを手に、AGE-1FCは再び陸戦型ガンダムに向けて飛ぶ。

「ふん…覚醒を使えない人間に何ができる。覚醒を手に入れたこの俺に」

「それはどうかな?覚醒の存在がガンプラバトルの決定的な差ではないことを教えてやろう」

デモリッションナイフで切りかかってくるAGE-1FCの刃を見たGは回収したツインビームスピアを構える。

真っ黒な光の刃を放つそれでデモリッションナイフとつばぜり合いを演じ、その中で再び胸部のマルチランチャーで攻撃を仕掛けようとする。

「そのような動きはもう見ている!くらえ!!」

その言葉とともにAGE-1FCの胸部からミサに放ったものと同じ光が放たれる。

光を浴びた陸戦型ガンダムの黒いオーラが消えていくと同時に、上昇していたはずの出力も低下していく。

「何…!?貴様、いったい何をした!!」

「そんなことを気にしている場合…かね!!」

一度わずかに後ろに下がったAGE-1FCがツインビームスピアを握る手に蹴りを入れ、それを吹き飛ばす。

それに動揺しているところを見逃すことなく、デモリッションナイフを振り下ろした。

真っ二つになった陸戦型ガンダムは一瞬スパークした後で爆発・消滅した。

「すごい…じいちゃん、あの機体を…でも、どうしてハワイに?」

母方の祖父であり、鹿島でのんびり過ごしているはずの彼がなぜここにいるのか。

勇太の脳裏にいる明日夢はあまり外出せず、のんびりしている様子しかない。

たまに訪ねてきたときは嬉しそうに出迎え、たまにお小遣いをくれる優しい祖父のイメージが強い。

「少し、訳ありでな。…いい連れを持ったな、勇太」

「えっ?」

「おっと、これから行かなくてはな。また遊びに来い、ミサちゃんと2人でな」

そう言い残し、デモリッションナイフを手放したと同時にAGE-1FCは消えてしまう。

落ちていくデモリッションナイフを拾った勇太はポカンとして、ミサがくるまで立ち尽くしていた。

 

「まさか、乱入者が入ったことでしくじるとはな…。ええい」

飛行機に乗るGは拳を握りしめ、タブレット端末で明日夢の映像を見る。

ミスターガンプラの師匠であり、ガンプラバトルの黎明期に活躍した男。

世界初のプロとなった彼に対して、明日夢はアマチュアであり続け、ミスターガンプラに注目が集まったことで明日夢についてはメディア嫌いな性格もあり、あまり言及されなくなった。

「風間明日夢…老いてなお健在か」

最低限の目標は達しているが、このことはGにとっては大きなしこりになる。

いつか再戦の時が来たら、完膚なきまでに叩き潰すと心に誓う。

(そのためにも、完成させなければ…マスフレームを)

 

「逃げられたか…逃げ足の速い男め」

夜のハワイの街中では明日夢は一人で裏路地を歩いていた。

彼の持つタブレットにはGの姿が映っていて、少し前の連絡によってGはすでにハワイを出発してしまったことを知った。

「まったく、年を取りたくないものだ。もう10年若ければ…。それに、G…お前だけは…私の手で捕らえなければならない。勇武のためにも…」

「おいおいジャップの爺さん、一人でなんでこんなところにいるんだよ?」

路地裏でたむろしている若者4人が明日夢を囲む。

彼らの口から伝わる嫌な臭いに顔をしかめる明日夢はギロリと正面の若者をにらむ。

「どこへ行こうと私の自由だ。どいてもらおうか」

「ならよ、通行料!財布頂戴よ」

「俺ら、こうして危ない路地裏のパトロールをしてるんだからよぉ、だってさ、俺らがいないと…ブスリ、バーン…だからな」

後ろから聞こえたガチャリと重い音が響き、何かが後頭部に当たる感触が走る。

それが何かはわかっているが、それでも明日夢は動じない。

「だからさ、さっさと」

「…どけと言って居るのが聞こえないのか?」

「…はぁ?」

「警告はしたぞ。私は今、とても機嫌が悪い!!」

 

「じいちゃん、どこへ行ったんだろう…?」

どうにかシミュレーターからでることができた 勇太は明日夢の姿を探してあたりを見渡す。

だが、もうすでに彼の姿はどこにもなく、いるのは観光客や地元民の姿だけ。

遅れてミサとカドマツ、ロボ太もやってくる。

「見つかった?」

「ううん、じいちゃん…どうして…」

「まさか、あのじいさんがお前の祖父だとは思わなかったぜ、それに…ガンプラマフィアか。いやなモンと出会っちまった」

「ガンプラマフィア…本当にいたなんて」

「厄介なもんだよな、ま…それだけ有名人になっちまったってことだ。用心しろよ、2人とも…それから、勇太。これはじいさんからの預かりものだ」

明日夢が立ち去る際にカドマツに紙切れを渡していた。

勇太に渡すようにと言われたその紙切れを受け取った勇太はさっそくその内容を確認する。

「これは…」

「ん…なんだよ、面白いものか」

「作れるかもしれない…今の僕なら、ウィリアムに勝てる刀を」

 

「まったく、なっていないな…これは」

路地裏を出た明日夢はふぅとため息をつきつつ、歩道を歩く。

彼がいた路地裏にはいくつも痣を作り、手錠をかけられた状態で気を失っている若者たちの姿があった。

「なめられたものだ…。だが、勇太がいい連れをもったこと、ガンプラバトルの道を進んだ姿を見ることができてよかった…。帰国して、あの男の情報を集めなければ」

ハラリとコートがずれ、それに隠されたガンダムの頭と天秤を重ねたような形のバッジが見える。

そこにはIGPO、国際ガンプラバトル警察機構の名前が刻まれていた。




機体名:陸戦型ガンダムType:G
射撃武装:100mmマシンガン
格闘武装:ツイン・ビーム・スピア
頭:陸戦型ガンダム
胴:ブルーディスティニー3号機
腕:パワードジムカーディガン
脚:パワードジムカーディガン(ビームサーベル×2装備)
バックパック:陸戦型ガンダム
シールド:シールド(フルアーマーガンダムサンダーボルト版)×2
不明:マスフレーム

原案者:ライザー・S・フィールドさん、ありがとうございます!

ガンプラマフィアであるGが運用するガンプラ。
陸戦型ガンダムをベースとしたもので、ツインビームスピアを除くと武装そのものは標準的なものとなっているが、それゆえにGの高い操縦技術を直接反映することが可能となっている。
また、ジャミング機能が搭載されていることでステルス性を獲得していると同時にそれを応用したツインアイの閃光は至近距離でないと効果を発揮しづらいものの、受けた相手の通信機能やセンサー、カメラに障害を与えてほかの機体すべてを味方機体か、ソロの場合はType:Gとなり、通信もすべての機体から同時に伝わる形になるなどの効果があり、それによって連携を分断させることも可能となっている。
シールドについてはローゼン・ズールのサイコジャマーのような機能が搭載されており、相手機体の覚醒エネルギーを吸収し、その力でその機体を拘束することができる仕組みとなっていて、仮に抜け出すことができたとしても、しばらくはその影響から抜けることができない。
そして、G本人はプロトタイプと称しているマスフレームにより、疑似的な覚醒が可能となっていて、それによって機動力を中心に一気に機体性能を高めることができるなど、そこの知れないガンプラとなっている。
なお、この機体の正式名称は上記に書いた通りのものだが、G本人が言うことがなかったために勇太たちが知ることはなかった。



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第56話 決戦の火ぶた

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第13話「ギャラルホルンの落日」

謎のガンダムフレームの正体、それはマクギリス・ファリド事件から消息を絶っていたフラウロスのものだった。
敵援軍の妨害を受け、フラウロスを取り逃がす曉。
そして、月面では新たな事件が勃発する。


「はああああ!!」

ゲーティアの刀がPGのグリーンフレームの右腕を突き刺し、握っているビームライフルが離れていく。

そのダメージが電子回路にも到達したせいか、マニピュレーターが誤作動を起こしてブルブルと震え始める。

「くそ!!どういう切れ味なんだよその刀は!!」

発砲金属を採用しているため、SEEDの世界観では装甲の耐久力が低い傾向にあり、フレームも一部むき出しになっている箇所のあるアストレイシリーズだが、それでもPGで運用することで装甲とフレームが強靭化しているのは確かだ。

そんな装甲とフレームにダメージを与え、かつ電子回路にも達するほどに突き刺したその刀には驚愕するしかない。

そして、勇太に注意が向いている間に、アザレアに対して大きな隙を与える結果になってしまった。

「いっけえ!!!!!」

トランザムで放出される大量のGN粒子を圧縮し、大出力のビームがアザレアから発射される。

ゲーティアをどかそうと左腕を伸ばしていたことで、それが盾替わりとなっていたものの、最大出力で発射されたそのビームはそんなものをものともせず、左腕から胸部を貫いていく。

ビームが収まると、左腕と胸部を失ったグリーンフレームがそこにあり、撃墜判定によって消滅した。

「綾渡商店街ガンプラチーム!敵PG機体を撃破!!これにより、決勝進出の切符を手にしました!」

「やった…これで」

勝負がついたことで一息ついた勇太はグリーンフレームを攻撃した刀を見る。

整備を何度も続けてきたそれだが、限界を迎えたようで根本から大きなひび割れを起こしていた。

その刀を鞘に納め、走ってくるアザレアとバーサル騎士ガンダムに体を向ける。

「やったね!これで決勝進出だね!」

「うん…いよいよだ」

この試合の前に、ウィルは既に決勝進出を決めている。

次の試合は軌道エレベーターから宇宙へ向かい、人工衛星で決勝戦を行う。

「いよいよか…」

今倒した対戦相手には悪いが、今の勇太には決勝戦で立ちはだかるウィルのことしか見えていない。

確実なものではないが、勝ち筋はある。

綾渡商店街のこともあるが、それ以上にウィルに勝ちたい。

そのためにここまで来た。

 

「んん…ふうぅ」

控室でついさっき自動販売機で購入したコーラを一息に飲み干す。

冷たい刺激が喉に伝わり、いまだに高まっている神経を冷ましていく。

机の上には、先ほどの戦闘での損傷がまだそのままになっているゲーティアとボロボロの刀が収まった鞘、そして火縄銃を模したかのような形状で、側面には『麒麟』と刻まれたライフルとバスタードソードに近い長さを誇り、『左文字』と銘が刻まれた大太刀が置かれていた。

「これが新しいゲーティアの刀と銃か」

「ええ。今の僕の全部を出して作ったものです。これなら…」

「にしても、問題はあいつの武器だな。あの左腕についていた弓矢みてえな…」

あの試合の後、勇太とカドマツ、ロボ太で試合映像をもとにあの見えない攻撃のことを調べた。

解析によってわかったことは、発射前にビームトーチガンから送られたエネルギーは通常のビームで、レールガンを経由することで別の『何か』に変換されていること。

そして、少なくともそれがミラージュコロイドではないということ。

その正体がわからない以上、ナノラミネートアーマーの強靭な守りをあてにするわけにはいかないだろう。

それから、サクラのトランザムミラージュについては特にミサにとって不利な状況を生み出す。

不安要素もあるが、おそらくそれはウィル達も同じことだろう。

考える勇太の隣に座るミサが彼の顔を覗き込む。

「ねえ、勇太君」

「ん…?」

「勇太君、ガンプラの修理が終わったら…その、私と2人でちょっとだけ出かけない?」

ちょっとだけ顔を赤く染めたミサからの誘いに勇太も誘われるように顔を赤く染める。

もうお邪魔だろうと思ったカドマツとロボ太はそろって控室をあとにする。

「えっと…カドマツさんと、ロボ太は…いいの?」

「いいの。その…勇太君と2人で行きたいから…」

モジモジとして、ほんのりと赤い顔を向けるミサにますます顔を赤く染める勇太にもはや断るという選択肢は存在しなかった。

 

ホテルにある自室で、風呂から出たばかりのウィルはバスローブ姿で窓から外の景色を見る。

そばにある机の上にはセレネスが置かれ、既に決戦への支度は整っているといわんばかりに武器を手にしている。

「坊ちゃま。お食事の時間です」

部屋に入ってきたドロシーが食事を乗せたカートを押してベッドの近くにある机まで来て、そこに食事を置いていく。

既に食事の時間で、普段ならばここからすぐに席について食事をとるはずのウィルだが、今日のウィルは外の景色を見るばかりで席に着こうとしない。

「坊ちゃま、料理が冷めますよ。坊ちゃま…」

何度も声をかけるが、一向に反応を見せないウィルにため息をついたドロシーは一緒に持ってきた調味料の中からタバスコを手に取る。

それをスープの中に注ぎ込もうとした。

「待て、ドロシー。わかったからそれはやめてくれ」

ドロシーの手が止まり、ようやく観念したウィルは席に着くと出された料理を食べ始める。

「坊ちゃま、いよいよ明日でございますね」

「ああ…。イレギュラーはあったけど、まぁおおむね予定通りだ。沢村勇太を倒す…」

漫画のように決勝で、ということまでは望んでいなかったが、やはり現実というものは小説よりも奇怪なもの。

望み以上の状況が明日生まれ、そこで勇太と雌雄を決するときがくる。

「坊ちゃま、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「何かな?」

「坊ちゃまがあれほどまで沢村勇太に執着されるのは…」

「執着なんかしてないよ」

スープを飲み干したウィルはばっさりと否定する発言を見せるが、ドロシーにはそんなことが嘘だということなんてすぐにわかる。

ジャパンカップでの一件、そしてわざわざ綾渡商店街に赴いてまで行った彼らしからぬ宣戦布告。

そして、空いた時間を見つけては何度も勇太のバトルを見続けてきた。

そんな様子をずっと見てきたのに苦しい否定をする彼はやはり素直ではない。

「…沢村勇太。沢村勇武の弟、か」

理由は異なるとはいえ、お互いにガンプラバトルから一時は身を引いていた人間同士。

勇太は目標であった兄を失ったことによる喪失感、ウィルは汚い大人たちによってバトルを汚され、ミスターガンプラが豹変したことへの憎しみ。

だが、勇太はそのブランクをはねのけてジャパンカップ優勝を果たし、そしてミスターガンプラに勝利した。

あのバトルから、しいて言えばプロファイターを引退してから一切バトルをしてこなかった彼が挑んだ男。

どうしてあの時、相手を自分ではなく彼を選んだのか。

どうして自分を選んでくれなかったのか。

もちろん、今更目の前に現れて、もう1度バトルをしてくれと言われても素直に応じたとは言えない。

だが、それでも踏ん切りをつけることができたはずだ。

どんな理由があったにしても、彼自身にそんな意図がなかったとしても、ミスターガンプラをたきつけ、彼と戦った沢村勇太が許せない。

彼を倒すことで、ようやくあの忌まわしい記憶を消し去ることができる。

「沢村勇太…必ずお前を倒す」

 

「うーーん、おいしいー…」

フードコートで大きなパフェを口にし、頬を左手で撫でながら幸せそうに咀嚼する。

正面の席に座る勇太はちょっとだけ薄くなったポケットの中身のものを気にしながらも、目の前で幸せな表情を見せるミサに思わず表情が和らいでいく。

「ねえ、勇太君も食べなよー。おいしいよー?」

「う、うん…でも、いいの?」

「だってこんなに大きなパフェ、1人じゃ食べきれないから」

ミサのいう通り、今回注文したパフェはバナナやチョコソース、大きめのバニラアイスが5つにスライスされたイチゴの山、ポッキーなどデザートのオンパレードで、3人前くらいの量はある。

そんなものをたとえ甘いものが好きでも一人で食べきれる保証はない。

だが、どうしても食べようとすると目の前のミサのことを意識してしまう。

ミサ以外にも、同年代の少女は何人か見てきたつもりだが、こんな感情を抱いたのはミサが初めてだ。

スプーンを手に取り、ミサのスプーンと当たらないように気を付けながらアイスをすくい、口に運んでいく。

チョコとバニラの甘味が口全体に広がっていく。

「あの、さ…ミサちゃん。もしかして、このためだけに僕を…?」

「そうだよ。だって、こうじゃないと、食べられないもん」

「そ、そりゃあ…このパフェって2人分だけどさ…」

別にこのパフェは2人いないと注文できないものではなかったはず。

メニューを見ても、2人以上で食べることが推奨されているだけで、制限までされているわけではない。

思い浮かぶとしたら、会計の時にミサが出したクーポン券だ。

(えへへ…勇太君と2人っきりで食べたいって願い、叶っちゃった…)

あの時ミサが出したクーポンは男女1組でこのパフェを注文すると30%引きになるというもの。

クーポンに描かれたイラストから、明らかにそれはカップルのものだ。

「ねえ、勇太君…」

「何?」

「勇太君に、お願いがあるの…。チームに入った時の約束って、覚えてる?1シーズンだけ、入ってくれるって」

勇太が入るとき、最初彼はそれを条件として出した。

それを承諾したことで、勇太はチームに入ってくれた。

だが、この世界選手権が終われば、シーズンは終わる。

そうなれば、勇太はこのチームにいる理由がなくなる。

「だから…もし、勇太君がいいっていうなら、これからも…私と一緒に…」

「いいよ」

「へ…?」

「わかってる…。いや…むしろ、僕からお願いしないといけないこと…かな」

勇太も、最初はこのシーズンが終われば完全にガンプラバトルから身を引くつもりでいた。

だが、何度もミサとともに戦い、激戦を潜り抜けていく中で、彼の中にミサをはじめとしたチームに明らかなつながりができていった。

それは勇武とのつながりとは違うけれども、確かに強いもの。

それが根付いていることは感じている。

「正直に言うと、最初はただ放っておけなかっただけだったんだ。それに…なんであきらめないんだろうって…」

たった1人でタイガーとその取り巻きと戦っていた時もそう。

初心者狩り自体は言っては悪いが、当たり前のように起こっているもの。

戦っているミサの当時の技量を考えると、無茶なことだった。

「きっと、僕がいなくてもやろうとしていた。それで、放っておけなくて。結局、僕が中途半端だったってことなんだよ」

最初は入らないと言っておきながら、ミサの涙ながらの懇願を断ったというのに。

そんなかつての自分を思わず自嘲してしまう。

「でも、君と一緒に戦う中で思ったんだ。もっと、一緒に戦いたいって。それで、いつの間にか…君と一緒に戦うことが僕にとって、当たり前なことになって…」

「勇太君…」

「これからも、君と一緒にガンプラがやりたい。だから…」

「うん、ありがとう…。そのためにも、絶対に勝とうね」

「うん…君と一緒なら、必ず勝てるよ」

「勇太君…」

勇太に確かに信頼されている。

そのことを感じたミサは恥ずかしくて顔を赤く染めながらも、うれしさに思わず表情が緩んでしまう。

勇太も自分が先ほど何を言ったのかを振り返り、つられるように顔を赤く染めてしまう。

言い出しっぺは自分なのに何をしているのか。

しばらく沈黙が流れ、次に口を開いたのはミサだ。

「あの、さ…勇太君。大会が終わったら…さ。私、勇太君に伝えたいことがあるの…。私たちのことで」

「僕たちの…こと?」

「うん。そのこと、覚えておいて…」

「…わかったよ、ミサちゃん」

 

 

翌朝、太陽が輝く中でギガフロートから伸びる柱を2台のリニアトレインが地表から離れていく。

大気圏を超え、その先にある人工衛星で決戦が行われることになる。

「ねえ、見てよ勇太君!ロボ太!!地球が見えるよー!!」

窓から見える景色はすでに地球の表面が見え、それを見ることで自分たちが宇宙へ出たのだということを実感する。

かつては虫歯があると宇宙飛行士になれないという話があるほど、宇宙へ行くことには多くのハードルが存在していたが、今はこの軌道エレベーターの登場によって将来的にはロケット以上に効率よく地球と宇宙を行き来できるようになる。

「気を引き締めておけよ、お前ら。人工衛星に到着したら、そこからは決戦なんだからな」

「わかってる!絶対に負けないもん。ね、勇太君!」

「うん。絶対に勝つよ」

リニアトレインが到着し、そこにある特設のシミュレーターからガンプラバトルが行われる。

さすがに観客まで人工衛星に連れていくことは難しいことから、観客にはギガフロートの会場でライブ中継される形になる。

また、世界中のテレビ局や動画サイトでも今回の世界選手権の番組が組まれており、当然勇太達と縁のある人たちもこれからのバトルを見ることになる。

勇太は懐から2つのガンプラを手に取る。

ゲーティア、そしてジャパンカップでの激闘の果てにボロボロになってしまったバルバトス。

「僕は勝つ…勝ってみせるよ」



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第57話 決戦の地

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第14話「崩壊」

大型戦艦ギャラルホルンが強奪され、搭載されたダインスレイヴによるテロ事件が各地で発生する。
事態収束のため、ジュリエッタ・ジュリスはテイワズに協力を要請する。


∀ガンダム決戦の地であり、黒歴史時代の核弾頭が眠る禁断の地であるロストマウンテン。

月光蝶システムを持つ2機のモビルスーツがぶつかり合ったこの地で、勇太たちは対峙する。

「待たせたね…ウィリアム」

「ああ…待っていたよ。沢村勇太」

「リベンジマッチね…ミサ」

「今回も、絶対に勝つからね。サクラさん」

お互いに因縁のある相手、その相手に勝つためにここまで勝ち進んできた。

それはロボ太も同様だ。

彼の脳裏に、あの時ウィルによって勇太とミサが倒されたにもかかわらず、何もできなかった苦い記憶が浮かぶ。

「ウィリアム・スターク。もう二度と…あの時の私に戻りはせんぞ!」

「へえ…ちょっとだけ変わったみたいだね、そこのSDガンダムも…。さあ、始めようか。ついてくるんだ」

ミサとサクラの対決の邪魔をすることがないよう、ウィルはスラスターを吹かせて移動を始める。

勇太も同じ考えで、ウィルを追いかける。

「勇太君、絶対に勝ってね!」

「ミサちゃんもね…行こう、ロボ太」

「ああ…主殿!」

勇太とロボ太が行き、残ったミサはメインカメラをサクラのスローネダブルシザースに向ける。

今のアザレアの姿はこれまでのものとは大きくかけ離れたものとなっている。

ドムのような大きな熱核ホバー付きの脚部パーツになっていて、全身が赤黒い装甲とABCマント、クリアパーツのつぎはぎ状態な上に、両腕にはそれぞれガトリングガンとビームキャノンと二連装マシンガンの複合兵器を装着したうえで、頭部は二本角で左目にのみゴーグルを装着したものへと変貌していた。

アザレアの強化装備として勇太が作ってくれていたこのヴォルケーノアーマーはその容姿からあまり好みではなかったが、サクラを相手にする以上はそんなことを言っている場合ではなく、この装備こそがサクラを相手するのに最善のものだ。

「さあ…始めるわよ!」

さっそくダブルシザースに内蔵されたビームキャノンがアザレアを襲う。

回避すべく操縦桿を動かした瞬間、ミサの体を強い衝撃が襲う。

同時に、アザレアは左側面へいきなりトップスピードで滑るように移動した。

「早い…!!」

「くうう…すごい加速…!遠慮なしのセッティングじゃん…勇太君…!!」

まともに試運転しておらず、そのことを勇太から警告されていたために覚悟はしていたが、それでもこの衝撃はミサにとって想定外だ。

だが、これだけピーキーなセッティングを使いこなして挑まなければ、サクラには勝てない。

 

ロストマウンテンの中にある、巨大クレーター。

核ミサイルの爆発によって生まれたそのクレーターの中で、ゲーティアとセレネスが刃をぶつけては距離を置くを繰り返す。

大太刀と太刀がぶつかり合う中、ウィルは目の前の相手ににやりと笑う。

「大太刀でスピードが対等…やるね、沢村勇太!」

「お前との決着を、ここでつける!!」

(あのライフル…まだ使う様子がないな)

勇太が使う左文字も麒麟も、当然ここまで使ってこなかった武器であり、ウィルのデータにもない。

勇太が使うライフルの中で一番思い浮かぶのは破砕砲。

あの兵装は両手を使わなければ扱えず、機体への負荷があまりにも大きいがその破壊力はわかっている。

麒麟もおそらくは破壊力重視のライフルとみていいだろうが、破砕砲と比較するとかろうじて片手で扱えるくらいの大きさ。

破壊力は破砕砲レベルとはいかないだろうが、それでも警戒するに値する。

「それにしても、左文字なんてね…」

つばぜり合いを繰り返し、勇太の大太刀に刻まれた銘には苦笑してしまう。

左文字、持ち主の変遷故に三好左文字、宗三左文字とも呼ばれるその太刀は元々は戦国時代に京都で力を持っていた武将、三好政長が所持していたもので、それが武田信玄の父である武田信虎へと譲られ、やがて信虎の娘が今川義元に嫁ぐ際に婿引出物として譲られた。

やがて、桶狭間の戦いで織田信長が義元を討ち取った際にそれを手に入れて愛刀とし、やがて本能寺の変で信長が没したのちは豊臣秀吉が、大坂夏の陣で豊臣家が滅亡した後は徳川家康が手にした。

天下人、そして天下人に最も近い人間が手にしたことから天下取りの刀とも呼ばれている。

やがて明治維新が起こり、明治天皇が信長をまつる神社である武勲神社が立てられると、左文字は寄進されることになり、現在は同神社が所有し、京都国立博物館で保管されている。

なお、信長が所有することになった際、元々80センチ近くあった刀身は67センチ程度に短く磨り上げたうえに、茎の表裏には『織田尾張守信長』『永禄三年五月十九日義元討捕刻彼所持刀』と刻まれたとされているが、当時の信長は上総介を名乗っていたために史実かどうかは疑わしい節がある。

ゲーティアが手にしている左文字はおそらく、義元が所持していた時代のものをモチーフとしているのだろうが、この銘は明らかに自分がガンプラバトルの頂点に立つと宣言しているようなもの。

遠回しにウィルを倒すとも言っているようで、勇太にはらしからぬ大口といえる。

「けど…これだけじゃあラチはあかないか!!」

一度刀を鞘に納め、後ろ腰につけている2つの鞘に入っている片手鎌を出し、それをゲーティアに向けて投擲する。

回転しながら飛ぶそれらを見た勇太の脳裏にソードストライクのビームブーメランが浮かぶ。

「回避しても、虚を突かれるくらいなら…!」

叩き切るだけだと左文字をふるうが、その瞬間鎌が左文字の刃から逃れるかのように突如として軌道を変化させる。

「まさか…誘導兵器!?推進剤もなしで…」

「君のために用意してやったんだ…。せいぜい楽しんでくれよ!!!」

ユニコーンやフェネクスが使っていたシールドファンネルと同じものかと考える勇太だが、2本の鎌によるファンネルに気を取られている間にセレネスが距離を詰めて刃をふるう。

左文字では対応できず、左腕に装着したシールドで受け止めた勇太だが、2本の鎌が左文字を握る右手を襲う。

ナノラミネートアーマーで守られたゲーティアでも鎌による衝撃は装甲を傷つけ、マニピュレーターの力が緩んだことで左文字を落としてしまう。

「くそ…!」

「左文字を落としたんだ…!これで、君の勝利はないな!!」

「そんなこと!!」

「主殿!!」

ゲーティアを襲う鎌に向けてバーサル騎士ガンダムがライフルで攻撃し、それを避けるために鎌がゲーティアから離れていく。

「主殿はウィリアム殿を攻撃せよ!私はあの鎌を抑える!」

「頼んだよ、ロボ太!」

「ならば…これを!!」

己以上の長さを誇る左文字を両手で手にしたバーサル騎士ガンダムがそれをゲーティアに向けて投げつける。

シールドをふるってセレネスを遠ざけたゲーティアは左文字を再び手にし、今度はこちらからセレネスに迫る。

「主殿…ご武運を!」

セレネスともども離れていくゲーティアを見送るロボ太はこちらに牙を向ける鎌に目を向ける。

「離れたとしても、動きを止めぬか…。主殿の邪魔はさせん!!」

 

「あったれーーーーー!!」

ホバー移動をつづけながら左腕のビームキャノンをダブルシザースに向けて連射するアザレア。

威力は抑えられているが、次々と襲うビームの中にはダブルシザースの装甲をかすめるものもあり、そのたびに機体が揺らぐ。

「まずは動きを封じるわ…ファング!!」

スカートアーマーから射出されたファングがいったんダブルシザースの周辺で動きを止めてからアザレアを襲う。

縦横無尽に飛び回るファングによる突撃とビームに対して、ミサが左腕の複合兵器に搭載されているマシンガンをばらまいて対応する。

「トランザムミラージュ!!」

サクラの声に呼応するかのようにダブルシザースが赤く光り、同時に桜吹雪のようにGN粒子があふれ出していく。

さっそくその影響がアザレアに現れていて、モニターからファングとダブルシザースの姿が消えてしまう。

「来た…トランザムミラージュ!!」

バイアスとの戦いで既にそれを使う姿を見たミサはこのような状態になっても驚きはするが慌てはしない。

(ミサ、これの対策をしてきているんでしょう…?)

相手がトランザムミラージュを対策していて、そのためにこのような不格好な装備をしていることはわかっている。

だが、それでもトランザムミラージュはダブルシザース最大の切り札。

そして、勝負を決めるのはこのハサミ。

加減する必要がない以上、ファングによるGN粒子の調整も必要ない。

「くうう…GNファングまで来てる!!」

さすがにビームまでは消せないのか、赤い光が次々と襲い、それが増加装甲やABCマントに当たる。

(まだ…まだここで使うわけにはいかない…!)

ダメージが増加装甲に蓄積されていっているのはわかっている。

だが、ここでこの兵装を使ってはサクラには勝てない。

視覚センサーが使い物にならない以上、頼ることができるのは音響センサーと熱源センサー。

近づいてくる大きな熱。

「そこおおおおおおお!!!トランザム!!」

アザレアが赤く光り始め、同時にクリアパーツにGN粒子がたまっていく。

そして、クリアパーツから繰り出される稲妻のようなビームが周囲を飛ぶファングを撃ち落とし、ダブルシザースはハサミをシールド代わりにして身を守る。

「これは…全方位レーザー!?」

フォトンバッテリーの大容量のエネルギーを持つG-セルフが使ったそれは機体各部のフォトン装甲をビーム砲に転用することで放っていた。

だが、普通のモビルスーツが同じことをしてしまうと、一気にエネルギーを使い果たすことになる。

それをトランザムが生み出す膨大なGN粒子を利用し、なおかつグラビカルアンテナを活用することで使用できるようにしたのだろう。

「そこぉ!!」

ビームがおかしな動きを見せた場所を特定したミサは即座にそこに向けてガトリングガンを発射する。

どうにかその場を離れたダブルシザースだが、何発か被弾してしまい、装甲に傷がつく。

「けれど…トランザムがどこまで持つかね…!」

お互いにトランザムを使った状態での勝負となったが、通常の太陽炉や疑似太陽炉を使用しているというなら、限界稼働時間はダブルシザースとそれほど変わらないだろう。

そして、仮にトランザムが限界を迎えたとしても、サクラには覚醒という切り札もある。

(最も、ミサも使える可能性があるかもしれないけれど…)

 

「どうしたんだい…?その銃は飾りかな?」

これが何合目なのか分からないくらいぶつけ合うが、あのオールレンジで動く鎌を除くと、お互いにそれ以外の武器を使う様子はない。

勇太もウィルも、このまま刀をぶつけあうだけでは勝利はないことはわかっている。

ウィルもあの見えない攻撃を使ってくるそぶりがない。

ついにセレネスがゲーティアに向けて蹴りを入れてその勢いをつけて距離をとる。

そして、左腕のガントレットを展開し、それにビームトーチガンを取り付けた。

「さあ、僕の一撃を受けてもらうよ!」

引き金を引き、それと同時にゲーティアの装甲に大きな衝撃が走る。

「来た…!見えない一撃が!!」

ほぼ発射と同時に着弾する一撃はナノラミネートアーマーに大きなひびが入り、衝撃で吹き飛ばされたゲーティアは地上に転落する。

続けて第2射、第3射撃が行われ、それを避けるべくゴロゴロと地面を転げまわる。

(この一撃…覚醒のバリアで防げるのか…?)

見えない一撃から身を守ることをイメージするなど困難な話で、弾速など想像することすらできない。

しかも障害物のないクレーター内では隠れることもできない。

「どうした!?君の力はその程度か!」

そんな力でミスターガンプラを倒せたというなら、彼も落ちぶれたものだ。

このままとどめを刺してやろうと、引き金を引き、見えない一撃がゲーティアを襲う。

「くっ…こうなったら!!」

どうにか起き上がることのできたゲーティアに背中に背負っているライフル、麒麟を握らせた勇太は動きを止めることなくまずは呼吸を整えていく。

完全に覚醒を発動させた状態を前提とした麒麟。

赤いオーラに包まれたゲーティアの手で発射された弾丸が一直線にセレネスへと飛ぶ。

「くうう…やっぱり、破壊力重視か…!」

誘導性のないその弾丸を避けたウィルだが、避けた位置に続けてもう1発が発射されていた。

その一発をやむなく見えない一撃で破壊しようと引き金を引く。

だが、その瞬間にそれを受けた弾丸が大爆発を引き起こした。

「この爆発…まさか…擲弾!?」

「HEIAP弾だ…!」

徹甲弾、榴弾、焼夷弾の三つの機能を持った弾頭であるHEIAP弾。

着弾時に先端部が焼夷剤に火をつけ、爆薬の起爆を誘発させるまでは通常の榴弾と変わらないが、第2の焼夷弾薬であるジルコニウム粉にも火をつけることでさらに燃え続けることになる。

そこにダメ押しと言わんばかりに砲弾内部のタングステン弾芯が標的の装甲を貫通し内蔵されている炸薬に点火し被害を拡大させる。

今回は見えない一撃を受けたことで装甲に命中させることはできなかったが、それでもこの爆発はウィルに隙を作らせるだけのものがある。

その間に飛翔したゲーティアは麒麟の銃口に向けて左文字を差し込む形で合体させる。

これによって太い幅を持つソードメイスというべき兵装と化したそれを持った状態で高温の炎を突っ切り、セレネスに肉薄する。

「くっ…!」

「うおおおおお!!」

大剣となったことで、若干大振りにしなければならなくなったが、それでも左文字と比較するとその攻撃力は大きい。

やむなく防御のために差し出したセレネスの左腕を容易に切り裂いて見せた。

「くそ…!」

「これでさっきの一撃は使えないよね…!」

「まったく、やってくれるね…!」

握っていたビームトーチガンを手放し、地上へ降りたセレネスは残った右手で刀を抜く。

飛び道具を失ったものの、それでもウィルはその程度で敗北するとは思っていない。

さらに本気を見せることがこれからできるのだから。

それがうれしい。

「これが本気じゃないんでしょう!?ウィリアム・スターク!」

「当り前さ…見せてあげるよ、君の上を行く本気を!!」

見えない一撃によって消耗はしているが、それでもこれを使うことへの影響はない。

ディスプレイにNT-Dが表示され、金色の光を放つ。

そして、バックパックとなっているアームズアーマーXCが展開したその時、コックピット内を警告音が響きわたる。

「何!?」

「これは…!!」

セレネスが起こす異常は対峙する勇太にも見えた。

アームズアーマーXCからあふれ出る赤紫色のキューブがあふれ出る。

それは一向に収まる気配がない。

「ウィリアム!!」

「これは…まさか!?沢村勇太!バックパックを斬れ!!」

「う、うん!!」

今溢れているキューブはかつて、ミサとともにインフォちゃんの中に入った時に見たウイルスの塊。

それを放出しているアームズアーマーXCを野放しにするわけにはいかない。

彼の要望を聞き、勇太は一度左文字と麒麟の合体を解除すると、左文字でアームズアーマーXCを切り裂いた。

ウイルスの大本となったそれが破壊されたことで放出は収まったが、放出してしまったウイルスはフィールドを覆い、月夜と大地を赤黒く染めていく。

「勇太君!」

「ウィリアム!!」

「主殿!!」

フィールドに起こった異常を目にしたミサたちも急遽バトルを中断し、勇太たちのもとに駆け付ける。

(フフフ…ウィリアム・スターク。君がこの声を聴いているということは、どうやら私のウイルスが機能したようだね)

「その声…バイラス!?」

セレネスの通信機能もウイルスでジャックされ、それによって開かれた回線で録音されたバイラスの声が響き渡る。

(人類初の宇宙旅行、行先は知らないが、せいぜい楽しんでくれたまえよ。ハハハハハハ!!)

「宇宙旅行…まさか、このウイルスは!!」

(おい、みんな!!聞こえるか!!)

「カドマツさん!!」

(決勝は中止だ!すぐに戻ってこい!やばいことになっているぞ!!)

焦りが隠せないカドマツの顔がモニターに映る。

これから何が起こるのかわからないまま、勇太たちは赤黒いロストマウンテンからログアウトした。

 




武器名:左文字
ウィルとの決戦のために用意したゲーティアの新たな大太刀。
これまで使用していた太刀と比較すると大型化しており、両手でも片手でも扱えるバランスに調整されている。
最大の変更点はもう1つの兵装であるライフル『麒麟』との合体機能で、これによって大剣モードへと移行することができる。
その状態で右手を介して送られるエイハブ粒子を圧縮し、γラミネート反応を発生させることが可能となっており、理論上ではフェイズシフト装甲だろうがナノラミネートアーマーだろうが叩き切れるようになっている。


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第58話 正義を胸に

「カドマツさん、今…ステーションは!?」

「緊急離脱プログラムが起動してやがる!こっちから中止命令を送ってるが…御覧の通りだ!!」

必死にノートパソコンとコンソールを接続した状態で命令を送るカドマツだが、何度キーボードをたたき、コードを送ってもプログラムの進行を止めることができない。

(緊急離脱プログラムにより、これより地上用テザーとの切り離しを開始します)

「あのぅ…いったい何が?緊急離脱プログラムというのは…?」

「宇宙エレベーターに備わっている機能でな、近くで大規模な事故やテロが起こった時に施設の安全を確保するために一時的にステーションを軌道から離脱させることができるんだよ」

「じゃ、じゃあその事故が起こっていて…?」

「そうじゃない…!コンピュータウイルスが強制的にプログラムを開始するように制御AIを仕向けたんだ!くそ…これじゃあラチがあかないぜ!!」

「そんな…」

カドマツに説明されるまで、事態を飲み込み切れなかったハルは今自分の身が置かれている事態にめまいを覚え、その場に座り込んでしまう。

「ああ…テザーが…」

窓から宇宙の様子を見ていた勇太の目に次々と強制排除されていくテザーのパーツが見える。

やがてステーションがゆっくりと回転していきながら地球から離れていく。

このステーションがどこへ行くかは誰にもわからない。

このまま宇宙を漂うのか、太陽に飲み込まれるのか、地球以外のどこかの星に流れ着くのか。

いずれにしても、一つ言えることはこのままでは全員ステーションの中で一生を終えることになるということだ。

「くそ…なら、軌道修正だ!軌道修正プロセス起動!!」

緊急離脱プログラムが止められないなら、そのあとに必ず動くことになるものがある。

このまま離脱を続けると地球へ戻れなくなる。

それを防ぎ、なおかつ元の位置に戻すために軌道修正プロセスは必ず備わっている。

(アクセス、拒否します。安全を確認できません)

「安全も何も、そんな事態は起こってねーんだぞ!軌道修正プロセス起動!!」

(アクセス、拒否します)

「うわーーー!くそっ、お手あげだ!!」

カドマツの脳内でいくつもの手段がシミュレートされつつあるが、いずれも軌道修正プロセス起動への道筋を作れない。

おそらくウイルスは制御AIのもっと根深い、母体の部分を侵食している厄介なもの。

いくら外側から刺激を加えたところで、そこへ入り込むすべがなければどうしようもない。

緊急事態に備えて、そこへのバックドアも探したが、そこもウイルスが封鎖している。

「カドマツでもどうにもならないなんて…」

「おい、ハルさん!地上との連絡はできるか!?」

「地上…ああ、はい!今…!」

呆けていたハルだが、どうにか正気に戻ると持っている端末で地上への連絡を試みる。

テレビ局から支給されたもので、これで宇宙から地上への連絡も可能だ。

(おお、ハルさん!大丈夫かい!?)

「それが…ステーションが緊急離脱プログラムで外へ行ってしまって…地上がどうなっているのか、こちらでもわからなくて…」

(何も起こっていないぞ!?軌道エレベーターがどうしてこんなことになったのか、今NASAも調べているが…軌道修正はできないのか!?)

「それが…今こちらでエンジニアの方にしてもらっていますが、軌道修正ができない状態です!!」

(何だと…!?NASAも地球から軌道修正プロセス開始命令を送っているが、何も応答がない!これでは…)

「そんな…」

軌道エレベーターとギガフロートを委託管理されているNASAでも手詰まり。

突然の事態に混乱が続いている中で、地上から助けを得られるか不透明。

「くそ…!ウイルスがどうにかできれば、俺からでもNASAからでも軌道修正プロセスを実行させることができるが…」

だが、こんなウイルスをどうやって破壊するか。

今手持ちのウイルス除去プログラムを入れたくても、そもそもその命令が拒否されている状態だ。

(ウイルス関係のプログラムじゃあ、入れない…。クソっ!!)

「まさか、僕の機体をキャリアにされるなんてな…」

背中のアームズアーマーXCを砕かれたセレネスを握るウィルは己のうかつさを恥じる。

まさかガンプラのパーツにこのような時限爆弾を仕組まれるとは思わなかったが、考えてみればそれができる状況でもあった。

バイラスとの戦いで、バイラスの仲間のガンプラに組み付かれたときに仕込まれたとしか考えられない。

「度が過ぎた正義が身を亡ぼすか…。だが、俺たちまで巻き込まれるのは御免だ!何か手段がないか、何か…」

「まさか、ガンプラバトルがしたくて来ただけで、こんなことに…」

徐々に離れていく地球を見つめるサクラはフゥとため息をつく。

ガンプラバトルをする中で、プログラムを学んだことはあるものの、カドマツほど専門的な知識のないサクラはもはやカドマツに託すことしかできない。

後輩やライバルがいる中で、何もできない自分が腹立たしくなる。

「ねえ、勇太君…」

ミサの声が聞こえ、ぎゅっと握られた手に目が言った後で、そこからミサへと視線を向ける。

快活なミサも、さすがに今回のようなことでは不安がいっぱいで、小刻みに震えている。

「ミサちゃん…」

「私たち、このまま…」

「言わないで、ミサちゃん…。僕も、何かできればいいけど…」

ガンプラバトルでは確かにウィルと勝負でき、覚醒まで行える世界レベルのプレイヤーであっても、結局はただの高校生。

現実では何もできない、そんな自分を恨む。

隣にいる少女を勇気づけることさえできない。

「ねえ、勇太君…。私、本当は大会が終わってから言いたかったけど…でも、もう何が起こるかわからないし、何も言わないで死んじゃうなんて嫌!」

「ミサちゃん…」

「勇太君、私…勇太君のことが…」

「皆さん、お茶をお持ちいたしました」

ミサの覚悟の言葉などお構いなしに平常心のドロシーの声がナーバスになりつつあるステーションに響く。

どこにあったのか、配ぜん用のカートを押して入ってきたドロシー。

「おいおい、んだよこんな時…!?」

のんきに茶でも飲んでいる暇があるなら、少しでも解決策を探す。

そのつもりで突っぱねようとしたカドマツだが、カートの上にあるものに目が留まる。

紅茶の入ったポッドに7人分のティーカップ。

そして、切り分け用のナイフと一緒に用意されているのはひときわ大きな…。

「ドロシー、なんでアップルパイまであるんだ?」

「宇宙で飲むお茶菓子を楽しみにしておりましたので。紅茶には甘いものが欲しくなります」

「ああ…ああ、そうだ。パイだ!アップルパイだ!!そうだ、そうだぜ!!」

何かを思いついたカドマツの表情が明るくなり、すぐにノートパソコンにもう1本線をつなげる。

そして、パスワードを入力した後でその線をシミュレーターと接続し、プログラムを構築していく。

「アップルパイがお好きでしたか?」

「ああ…そうだな。アップルパイにはリンゴが入っているが、ペチャパイには何が入っているか知ってるか?」

「おいコラ、カドマツ…」

「イギッ!?」

先ほどまでの物悲しい空気はどこへやれ、急に目元が黒く染まったミサの勇太の手を握る手に力がこもり、何か嫌な音が聞こえた勇太は同時にそこから激痛を覚える。

「ハッ、シリコンでしょうか?」

「それはあとから入れるんだよぉ!!」

「や、やや、やめてミサちゃん!手が、手がぁ!!!!」

「ペチャパイがどうしたんだ?」

「ああ…コンピュータウイルス退治を可能にしてやる!!」

確かにこのウイルスはウイルス対策ソフトやそれに関係するシステムの介入に敏感だ。

だとしたら、その間のクッションとなり、隠れ蓑となるものがあればいい。

その条件をガンプラバトルシミュレーターが補ってくれる。

「よし…お前ら、準備を!!やることはわかってるだろ!」

「痛た…わかりました、ミサちゃん!急いで準備だ!今できる範囲でガンプラを強化するんだ!」

「わかった!!」

「私たちも手伝うわ、ウィリアム、あなたもよ!!」

「ああ、わかってる…。この不始末の原因が僕にもある以上、何もしないわけにはいかない!!」

「できる限り、急いでくれよ!時間がたてば、軌道修正プログラムが効かなくなっちまうからな…!」

 

どす黒い紫の霧に閉ざされ、その中を同じ色のGN-Xやプロヴィデンス、レジェンド、アルケーなどのモビルスーツの姿を模したウイルスが徘徊する。

ウイルスは内部にあるウイルス対策プログラムまで変質させており、それらは迎撃用のビッグガンとそれを制御するザクⅡへと姿を変えていた。

その不気味で一切に色彩のない空間にひびが入る。

そのヒビに1機のウイルスが気づいたと同時にヒビは大きな裂け目へと変わり、そこからトランザム状態のプトレマイオス2改が突入する。

遺物に気づいたウイルスたちはビームやミサイルなどでプトレマイオス2改を迎撃し始めた。

攻撃の余波は格納庫にも響き、コックピットにも衝撃が伝わる。

「まさか、こんなプログラムがあるなんて…。ガンプラバトルでウイルス退治か…」

V2のバックパックを装着し、両肩と両足にGNシールドビットとGNライフルビットを複数装着した状態のセレネスの中で、ウィルは予想外のウイルス退治の解決策に舌を巻く。

プレイヤーの技量に左右されるとはいえ、それでも専門知識なしでウイルス退治ができるそのシステムは画期的で、どうしてそれを広めようとしないのかとさえ思うほどだ。

「カドマツの奴…乙女の傷をえぐるようなことをしやがって…ブツブツ…」

「ミサちゃん、落ち着いて、それよりも、今は…」

ミサに握りつぶされかけた右手を左手でさする勇太はゲーティアの装備を状態を確認していく。

今のゲーティアは全身を覆うようにグレーの色彩のディジェと言わんばかりの外装に包まれていて、背中に装備している左文字と麒麟がなければ、おそらくはゲーティアと認識できないだろう。

両足はドムのように大型化し、両腕には二連装レールガンを装着されている。

バックパックにはデスサイズヘルのような羽根をつけ、より悪魔としての印象を深めていた。

「わかってるよ!もう…。サクラさん、装備はどう?」

「ええ、問題ないわ。さすが勇太ね。こんな短時間でいい装備を作れるなんて」

「そんなことないですよ、ミサちゃんとロボ太の協力もあったし、それにウィリアムもパーツをくれたから」

サクラのスローネはサクラの花びらが刻まれたGNアームズが装備されていて、GNキャノンが内蔵された進捗可能の大型のハサミが左右に装備されている。

「それで、ウィリアムはいいの?私たちみたいにフルアーマーにしなくても」

「フルアーマーの装備はあんまりなじめないからさ。慣れない装備を使うよりはこれの方がマシさ」

「いいか、お前ら。相手はこのステーションの中枢に侵食することができたウイルスだ、生半可な相手じゃねえ。でも、お前らならやれる。必ずやれる。頼むぜ…お前ら!」

「うん…!井川美沙、アザレア行きます!!」

「バーサス騎士ガンダム、ロボ太で出るぞ!」

「ウィリアム・スターク、セレネス出る!」

「凜音桜、スローネ出るわ」

「沢村勇太、ゲーティア出るよ」

勇太たち5人のガンプラがプトレマイオス2改から飛び出していく。

その様子がカドマツのノートパソコンの映像にも表示される。

「よし…中には入れたな。ハルさん、今の俺たちの状況を地上に知らせてくれ!少しでもあいつらを助けるためにも…」

「は、はい…!ええっと、マイクロドローンは…」

端末でマイクロドローンの位置を確認し、カメラを起動させる。

道筋を作ることができたカドマツだが、それだけでは不十分だ。

大人として、勇太たちのためにもっとできることがあるはず。

「火力で道を作るわ!」

「いっけええええええええ!!!」

スローネのGNアームズの後方に外付けされているミサイルランチャーから次々とミサイルが発射され、ミサも左手に装備されているビームキャノンと右手のガトリングガンを同時発射する。

射線上のウイルスが変異したGN-XⅢやアヘッド、プロヴィデンスなどが激しい実弾とビームの猛攻に撃墜されるか、撃墜されなかったとしても、武器や機体のどこかに大きな損傷を受けることとなった。

 

「おい、ユウイチ!!」

「勇太君とミサちゃん、大丈夫なの!?」

ガンプラショップにマチオとミヤコが駆け込み、店にあるテレビを見るユウイチに声をかける。

二人とも決勝戦の放送を見ており、ウイルスによって試合中止になったと同時に映像が途切れたことで疑問を抱いていたが、つい先ほどステーションが地球から離れていっていることが報じられた。

その放送は既にユウイチも見ていて、テレビには今のステーションの位置が図解された上で専門家によって説明が行われている。

「では、本来ならば安全が確認されてから元の軌道へ戻るためのプログラムが起動するはずだということですね?」

「そうです。しかし、問題はそのプログラムが起動しないこと。そして、安全か否かを判断するのはAIだということです。それに備えて、人の手でプログラムを起動する手順もありますが…ウイルスによってそれが阻まれている以上はそのウイルスを除去しなければ…」

「勇太君、ミサ…ロボ太…」

テレビの映像を見るユウイチの手に力がこもる。

最愛の娘とその友達が下手をすると地球へ二度と戻れなくなるような事態になっているというのに何もできないことが歯がゆくて仕方がなかった。

「これは…嘘だろ!?たった今、ステーションから映像が届いています!こちらをご覧ください!!」

割り込むように表示されるのはユウイチ達にとっては見たことのない紫のまがまがしいフィールドとそれとほぼ同じ色の砲台やガンプラの数々。

それらに相手をしているのは5機のガンプラだ。

「地上の皆さん、この映像が届いていますか!このバトルは今、地上から遠ざかりつつある静止軌道ステーションで行われています!コンピュータウイルスによって暴走した制御AIに対して現在、ガンプラバトルシミュレーターを使ってウイルス除去が行われています!!」

「ガンプラバトルでウイルス除去!?そういや、それって…」

「ええ、ミサちゃんが言っていたわね。それでインフォちゃんを助けたって…」

「じゃあ、ミサたちは戦っているのか…?」

敵ガンプラを次々と撃破していくゲーティア達だが、相手は百単位。

数的には圧倒的に不利で、増加装甲や武装によって継続戦闘能力を引き上げても限界がある。

「悪い、ハルさん。マイクを貸してくれ!」

「ええ、ちょっと!?」

「地上にいる誰でもいい、聞いてくれ!この宇宙エレベーターは30年以上かけてようやく完成したものだ!それが心無いものの手によって失われつつある!これから始まる宇宙の時代とその命綱になる宇宙エレベーターをここで無くすわけにはいかないんだ!今、必死に戦っているこいつらに俺たちがガキの頃に夢見た未来を見せてやりたいんだ!こいつらに命を懸けさせるためにこんなものを作ったわけじゃないんだろ!?だから誰でもいい、頼む!力を貸してくれ!!」

「カドマツさん…」

人類の財産であり、可能性の象徴である宇宙エレベーターへの想い。

その開発にかかわったわけではないが、それを作った人々の思いは理解しているつもりだ。

その善意と祝福を呪いに変えるわけにはいかない。

「ミヤコ、お前の客の中に宇宙関係に強い奴はいねえか!?誰でもいい、あいつらに助けを…」

「ユウイチさん、皆さん!!」

「ミスターガンプラ…」

「力を貸してほしい…助ける方法は、まだある…!」

 

「そこをどけえええええ!!!」

両腕に連装レールガンを発射し、放たれた弾頭がGN-Xの胴体を撃ちぬき、機体そのものを真っ二つにする。

飛んでくるビームや実弾を外装のナノラミネートアーマーが受け止め続け、敵中に深く切り込むとともに外装の羽根にはバチバチと電気が走る。

「薙ぎ払ええええええ!!!」

勇太の叫びと同時に羽根から激しい電撃を放出していく。

激しい電撃が周囲のガンプラを薙ぎ払っていき、道を作っていく。

「へえ、やるじゃないか!!」

敵陣の大穴が開き、それを見届けたウィルはセレネスの新たな装備である光の翼で亜光速レベルの機動力を見せつける。

アームズ・アーマーXCがなくなったことで低下した反応速度をミノフスキードライブの光の翼の機動力向上で補ったセレネスのスピードにウイルスが追いついておらず、すれ違いざまに光の翼によって両断されてしまうほどだ。

だが、どんなに機動力を高めたとしても相手の数が段違いでウィル自身もウッソのようなニュータイプではない。

被弾することもあり、そもそもウィル自身も光の翼はぶっつけ本番。

「GNシールドビット展開だ、僕を守れ!」

機体に装備されているGNシールドビットとライフルビットが展開され、飛んでくるビームや実弾をシールドビットが受け止め、ライフルビットが長距離の敵を撃つ。

「はあああああ!!!」

ロボ太は電磁スピアとバーサルソードに二刀流でGN-Xを切り裂き、襲い掛かるドラグーンのビームを受け止める。

「まとめて吹き飛ばしてくれる!!はあああああ!!!」

電磁スピアを一度地面に突き刺したバーサル騎士ガンダムが両手でバーサルソードを手にして空に掲げる。

バーサルソードにバチバチと電気が発生するとともに彼を中心に竜巻が発生する。

電気を帯びた竜巻は周囲のガンプラを吸い込んでいき、感電させるとともに切り裂いていく。

「受けよ、我が奥義トルネードスパークを!!」

竜巻が収まるとともにバラバラになったガンプラが降ってきて、撃墜判定となったためか消えていく。

「カドマツ殿、まだか!?」

「ああ…もう少しだ。どこだ…入り口は…!」

地上へ声掛けを終え、カドマツが行っているのは深部への道の特定。

そこから生みされたウイルスの大群はそこで生まれ、ここにきている。

どんなにここでウイルスを駆除したとしても、大本を絶たなければ何の意味もない。

「カドマツ急いでぇ!!」

「頼みます…!」

ウイルスを少しでも駆除し、見つけやすくするためにも、勇太たちは力をふるう。

ゼクスとノイン、そしてガンダムのパイロット達が大量のサーペントをパイロットを殺さないという制約がかかった上で戦っていたように。

だが、次第に外装の装備も底をつき始め、弾切れのレールガンを強制排除する。

「邪魔を…しない!!」

サクラはGNギガントシザースを起動し、ギガンティックシザースの倍の大きさをしたハサミが2機のGN-Xに食らいつく。

大型化したことで単純にパワーも上がっているそのハサミは2機のモビルスーツを一気に挟みつぶしていく。

そして、両肩部分に存在するGNキャノンが発射され、接近してくる敵ガンプラを薙ぎ払っていった。

 

「よし…あいつらが暴れてくれているおかげで俺への警戒が緩くなった!もう少し…もう少しだ…!」

アップルパイをかじるカドマツは最深部へのルートづくりを完成させていく。

このデータを送れば、勇太たちは大本を叩くことができる。

だが、大本のウイルスがどれほど強大なものかはカドマツも想像できない。

かつて、バイラスが放ったウイルスに感染したインフォの場合、大本のウイルスはグランドマスターガンダムの姿となっていて、圧倒的な力を見せていた。

今回はそれと同じか、それともそれ以上に強大な存在になっていることは確か。

だが、あの時と比較しても勇太たちはかなり強くなっていて、サクラとウィルもいる。

世界レベルの実力者たちなら勝てる。

「よし…道はできた!お前ら、待たせたな!!今からルートデータを送る!そこから奥へ突入しろ!!」

 

「よし…ありがとう、カドマツさん!!道がわかった!みんな、いい!?」

「了解…!道は、こちらで作るわ!!」

GNアームズを強制排除したサクラはそれを指定されたルート上にいる敵に向かって飛ばす。

GNコンデンサーに残存するGN粒子でGNフィールドを展開したままにしていて、その質量による突撃は進路上のウイルスを破壊していき、道を阻む壁にぶち当たる。

衝突と同時に爆発を起こし、その先に隠れた道が見えた。

「突入するよ!!」

「ああ!」

「了解!!!」

勇太とウィルが先頭に立ち、5機は飛び込んでいく。

その先は真っ暗な闇のみが存在していた。




武装名:GNアームズTYPE-S
ガンダムスローネダブルシザースへの追加装備として勇太たちが作ったGNアームズ。
疑似太陽炉搭載機であるダブルシザースと機体の色に合わせてGNコンデンサーとカラーリングを調整したうえで、両腕部分には大型化したGNキャノン内蔵型GNギガントシザースが装備されている。
後方には外付けでGNミサイルポッドとプロペラントタンクが装備されており、それについては弾切れになれば自動的に強制排除される形になっている。
機動力以上にGNフィールドの出力と火力を優先したことからダブルシザースと比較するとステルスフィールドが使用できず、機動力が低下する形となったが、近距離長距離での戦闘に対応でき、継続戦闘能力の向上につながっている。
ただし、GNアームズそのものの制御は不可能であり、分離後の再合体は不可能になっている。


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第59話 赤い悪魔

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第15話「ヴィーンゴールヴの落日」

各国メディアのハイジャックが発生し、そこで映像に現れたのはかつて鉄華団の一員だった男、ライド・マッスだった。
彼岸花を名乗る彼らはダインスレイヴによるヴィーンゴールヴへの直接攻撃を宣言するとともに、1発目が発射される。
ジュリエッタはヴィーンゴールヴ陥落を阻止すべく赴くが、ライドの駆るガンダムフレーム・オリアスがそれを阻む。


「邪魔をするな!!」

モビルスーツ2機がギリギリで隣り合って飛ぶことができる程度の幅の道を進みながら、ゲーティアのレールガンが進路を阻むトーチカを撃ちぬく。

だが、トーチカを1機や2機つぶしたところで次々と新しいトーチカが現れて道を阻み、フルアーマー化しているゲーティアとアザレアがセレネスとダブルシザースの盾になることで被弾していく。

ミサのアザレアに装備されている外装、ヴォルケーノアーマーはガスマスクを装備した茶色い装甲とその隙間を隠すような黒いマントが特徴的で、フルアーマーでありながらも極力機動力を確保しようとしたものだ。

マント部分はサンドロックの対ビームコーティングマントのため、ビームへの守りはあるものの、実弾に対しては申し訳程度だ。

「内部に突入するまで持ってくれれば…!!」

迎撃できるトーチカをレールガンで破壊しつつ、ルートデータと損傷率を確認する。

あと少しで中枢にたどり着けるが、それまでにはもう外装は限界を迎える。

そして、最後の壁だといわんばかりに大量のバグが正面から飛び込んでくる。

「損傷率がひどい…今度は僕が道を作る!!」

前に出たゲーティアの外装が展開され、その中に内蔵されているミサイルがあらわになる。

銃身へのダメージを無視してレールガンを連射すると同時に内蔵されたミサイルが全弾発射される。

ミサイルの暴風雨が襲い掛かるバグを蹴散らしていき、その熱に惹かれた生き残りのバグの一部が集まっていくのをアザレアのビームキャノンが討ち取る。

「コントロール艦…やっぱりあった!」

ミサイルを撃ち尽くした外装を強制排除して近づいてくる残りのバグを薙ぎ払いつつ、左手で麒麟を握り、ターゲットをバグを出撃させるガル・プラウに向ける。

発射された弾丸は一直線にそこに向けて飛び、艦体を貫通させる。

大きなダメージを受けたガル・プラウは爆発とともにその姿を消し、それをよそに5機は通過していく。

通路を抜けた先に広がるのはかつてのウイルスに侵されたインフォの中枢部に似ている。

違いがあるとすれば、その周囲には数多くのモビルスーツや戦艦のデブリが漂っていることだ。

「ここだ…ここが中心部だ!」

「でも、本丸が見当たらない。ミラージュコロイドでも使っているのか…!?」

インフォの時にはここにグランドマスターガンダムがいて、それを撃破することでウイルス駆除を完了することができた。

だが、ここには誰もいない。

熱源反応も何もない中、ロボ太が何かを見つける。

「皆、あれを見ろ!!」

ロボ太が指をさした方向に4人の目が行く。

そこには人間の姿があった。

黒いジオンの制服を模した衣装姿で、真っ黒な髪をした美女。

「死神…!?」

勇太の脳裏に浮かんだのは重力戦線で登場した死神。

連邦ジオン問わず、強烈な悩みや復讐心を持つ兵士たちに甘い言葉で近づき、そして煽った挙句に不条理な死を与える存在。

おそらくはこれがウイルスの本体。

「なるほど…これがガンプラバトル。これがガンプラファイター…見ているだけでは物足りません」

「まずい…!!」

危険を感じたサクラが死神に向けてGNシザーズからビームを放つが、彼女に命中する直前でビームは霧散してしまう。

両手を広げた死神の体が徐々に巨大化していくとともに、黒いオーラに包まれていく。

「私も…私のガンプラで挑戦させてもらいます」

オーラの中から現れる存在に勇太たちは戦慄する。

「サクラさん、これは…」

「間違いないわ…ここで最悪の存在を相手にすることになるなんて…」

オーラを突き破り、巨大な腕が最初に現れる。

赤い巨大な六本腕にある指は1本ずつがメガ粒子砲となっているとともにファンネルでもある。

腕の後から出てきたのは100メートルを超える巨体にメガ粒子砲をこれでもかと積み込み、足を持たないユニット。

ラプラス事件ではバナージとリディを阻む最後の壁として現れ、不死鳥狩りではゾルタンの憎悪とシンクロして地球とコロニーすべてを崩壊させようとした存在、ネオ・ジオング。

その中心には例の死神が乗り込んでいる格好だ。

「まさか、ネオ・ジオングを出すなんて…」

「あんなの…倒せるの!?」

「臆するな!スケールがガンプラバトルのすべてではない!!」

「では…試してみるがいい…」

死神がそうつぶやくと同時にネオ・ジオングに搭載されているメガ粒子砲が火を噴く。

大出力のビームの雨が次々と5人を襲い、その弾幕をくぐりながら接近していく。

「奴にはIフィールドがついている!勇太、君のその銃なら効果があるはずだ!」

「わかってる!当たるかどうかまでは保証できないけど!!」

機体に当たりそうなビームを右手に持っている左文字の刃を盾にして受け止め、照準をろくに合わせることなく麒麟を1発発射する。

本来へのコースとはならなかったものの、それでもプロペラントタンクの1つに着弾し、それに気づいたネオ・ジオングが爆発寸前のタンクを切り離す。

「遠距離の脅威…威力重視の実弾ライフル…排除する」

ビームの雨を納める気配がないネオ・ジオングが今度は上2本の腕を出し、指先に装備されているワイヤーが射出される。

ワイヤーは浮遊している戦艦やモビルスーツの残骸に突き刺さり、同時にそれらの既に死んだはずの動力がよみがえり、メインカメラに明かりがともる。

「さあ、行け!!」

「何…これ!?」

ネオ・ジオングにジャックされた戦艦とモビルスーツの残骸が修復されていき、それらが勇太たちに攻撃を仕掛けてくる。

「カドマツさん、これは…!?」

「あのウイルスめ…侵食する際に破壊したウイルス除去プログラムを再利用しているらしい!おまけに修理までしてやがるぜ!!」

「ネオ・ジオングだけじゃなくて、他の機体の相手もするのか!?」

ライフルビットを展開して遠距離から攻撃を仕掛けるギラ・ドーガを撃墜していき、接近してくるグフイグナイテッドに刀で応戦する。

だが、そちらに注意を向けているとネオ・ジオングのファンネルやメガ粒子砲が飛んでくる。

あのファンネルを撃ち込まれたらどうなるかは誰もが理解している。

「こうなったら…!」

「ミサ!」

スラスターを全開にしたアザレアが目の前にいる敵機だけをガトリングで仕留めつつ、それ以外を無視してネオ・ジオングに向けて突撃を仕掛ける。

襲い掛かる弾幕を装甲と対ビームコーティングマントが受け止めていき、ダメージが限界に近付いている装甲を強制排除し、弾切れになったガトリングを手放す。

「Iフィールドがあっても、ゼロ距離なら!!」

どんなにIフィールドで身を守ることができるとしても、至近距離からのビームに対しては守ることが難しい。

そこから左手のビームキャノンで攻撃を仕掛ければ。

「無駄だ」

2機のドラッツェがビームサーベルを展開し、アザレアに向けて突っ込んでいく。

「まずい、ミサちゃん!!」

「くうう…こうなったら、やるわよ!!」

ファングを展開していたダブルシザースだが、それらを機体周囲に配置させる。

隙だらけになりつつあるダブルシザースに向けて周囲の敵機が攻撃を仕掛けるが、ウィルが彼女の護衛に回る。

「さっさと使え!こんな数を正攻法で相手するだけまずい!!」

「ええ…トランザムミラージュ!!」

GNファングたちのサポートを受ける中でトランザムを起動したダブルシザースから桜吹雪のような高濃度GN粒子が放出される。

その粒子で障害を受けた機体や戦艦は動きを止めていき、ミサに迫っていたドラッツェも彼女を見失ったことで動きを止める。

至近距離に到達するアザレアだが、ビームキャノンを握る左手の増加装甲のダメージは限界に近く、発射すればどうなるかは明白だ。

「それでも…えええええい!!」

最大出力でビームキャノンを発射し、同時に増加装甲が限界を超えて自壊する。

ほぼゼロ距離のビームはネオ・ジオングの装甲を貫き、腕の1本を破壊する。

「やるほど…目をつぶして攻撃か」

センサーに不具合が出たとしても、攻撃の手段がある程度わかっていればその攻撃が位置を教えてくれる。

ファンネルを収納した1本の腕がアザレアをつかむ。

「く、ううううう!!!」

「やはりそこにいたか、このまま握りつぶして…」

「そんなこと…させない!!トランザム!!」

トランザムで赤く染まったアザレアが絞殺そうとずるネオ・ジオングの腕を力づくで開いていく。

増加装甲によって守られていたアザレアだが、それでもすべてのダメージをそれで相殺できたわけではなく、損傷している箇所があり、トランザムを利用した力づくの突破によって、損傷個所を中心に負担が重くなっている。

「ミサ!今助ける!!」

弾幕をかいくぐったロボ太が援護のために指の関節を狙って剣を突き立てる。

指の1本でも関節にダメージがあれば、その分楽になる。

どうにか突破したアザレアは左手のビームキャノンを投げ捨て、バックパックに装着されているビームマシンガンを手にし、自分を拘束した手に向けて連射する。

あくまでも本体にしかIフィールドが施されておらず、力技で突破されたことでダメージを負っている腕にはビームマシンガンに雨に耐えるだけの力はなく、爆散した。

「ミサちゃん!よかった…」

「安心している場合か!?まだ来るぞ!!」

「なかなかやるな…ならば、これはどうだ?」

ネオ・ジオングの両肩とリアスカートからパーツが分離し、そこを中心に死神から放たれる黒の混じったサイコシャードが展開されていく。

ナノサイズのサイコミュ用コンピュータチップを中心に生み出される結晶型疑似サイコフレームといえるそれは光輪のような形状で展開されていき、赤黒い周囲の光景に黒と金の光が混じっていく。

「サイコシャード!!うわっ!!」

「キャア!!」

サイコシャードの光が一瞬だけ放たれると同時にセレネスのライフルビットが爆散し、シールドビットに装備されているビーム砲の粒子貯蔵タンクも爆発し、刀も折れてしまう。

ファングも刃が折れ、ビーム砲も爆発し、さらには強制排除したギガンティックシザーズも大爆発を起こす。

セレネスとダブルシザースだけでなく、ゲーティアやアザレア、バーサル騎士ガンダムもまた、兵装のすべてが折れるか爆発し、使用不能となってしまった。

まるで戦意喪失だけを目的とするかのように。

「武器が使えないなら、もう肉弾戦しか!!」

「肉弾戦だって!?冗談じゃない!この弾幕をくぐらなきゃならないうえに、ネオ・ジオングの出力は測定不能なんだぞ!?」

「それでも…やるしかないでしょう!!」

負ければ、永遠に宇宙をさまようことになる。

少なくとも、ミサだけでも地球へ返したい。

そう願う勇太の操縦桿を持つ手に力が入った。




装備名:ヴォルケーノアーマー
アザレアの強化装備の1つとして勇太が作ったもの。
アザレアの少女らしい様相とは真逆で、ガスマスクをつけた2本角の鬼というべきフルフェイズのヘッドギアと茶色をベースとした装甲とその隙間を覆い隠すように黒の対ビームコーティングマントの切れ端が接合されたような恰好をしている。
左手部分には手持ち式のビームキャノンが装備されていて、手持ちにしたうえで銃身を可能な限り短くすることで取り回しをよくする代わりに反動がヴォルケーノアーマーで受け止める設計となっていることからアザレア単体での発射は不可能(万が一発射する場合はどうなるかはビームマグナムを撃った後のデルタプラスの腕がいい例になる)。
右手には大型のジャイアントガトリングを装備しており、ビーム耐性を持つ機体への対応策となりえる。
外装そのものは強制排除可能で、そのあとで本来のバックパックにマウントしているアザレアの装備を使用することになる。


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第60話 世代を超えて

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第16話「彼岸花の怒り」

ヴィーンゴールヴ陥落とアリアンロッド艦隊の敗走。
この事実は世界中に駆け巡り、様々な勢力の思惑が加速する。
そして、彼岸花はそれだけではとどまらず、地球各地のギャラルホルン基地へのダインスレイヴ攻撃を開始する。
敗軍の将となったジュリエッタは恥を忍び、かつて討った男の息子のいる歳星へと赴く。


「くそ…サイコシャードシステムまで完全再現かよ!!」

モニターから勇太たちが窮地に陥っている光景を見るカドマツは拳を机にたたきつける。

武器を失った状態でネオ・ジオングと戦うのは不可能に近い。

原作では、武器を失ったユニコーンとバンシィ・ノルンに対してはそこからは兵装を利用せず、腕だけで勝負を受けたフロンタルとは違い、あのウイルスは遠慮なく兵装を使用してくる。

特にファンネルビットによって掌握された周囲の戦艦やモビルスーツによる攻撃も待っている。

まさに絶体絶命だ。

「何か…何かできることはないのかよ!?」

ネオ・ジオングを倒すための武装を届け、なおかつそれらを無効にするサイコシャードを破壊できる存在。

それがなければ、勇太たちは負けて、この宇宙を永遠にさまよわなければならなくなる。

「坊ちゃま…」

「どうなっちゃうの…私たち…」

なすすべなく、沈黙が流れる。

その中で、カドマツのノートパソコンに1通のメールが届く。

「このタイミングにメール…?こいつは…!?」

 

「まったく、邪魔をして!!」

四方八方から襲い掛かるジェガンのビームライフルをどうにか回避するサクラだが、回避しきれずにかすめたりしたことで装甲が傷つき、サクラも疲労が増していくがネオ・ジオングに届かない。

それはウィル達も同様で、どうにか拳や足で襲い掛かるファンネル・ビットやモビルスーツを排除することができても、それ以上のことができない。

「まったく、このままじゃあの2人はともかく…」

「僕とウィリアム…ロボ太がガス欠する!!」

もし外装を装備して出撃していなかったら、今頃推進剤はレッドゾーンに突入していただろうが、今の状態でもそうなるのはもう時間の問題だ。

おまけに覚醒しようとしても、あのサイコシャードによって覚醒エネルギーまで遮断されているのか、覚醒もできない。

「せめて…あのサイコシャードを!!…!!」

遠いネオ・ジオングをにらむ勇太だが、周囲のギラ・ドーガとジェガンの部隊の動きを見たと同時にアザレアに視線を向ける。

周囲を囲まれたアザレアに向けて、敵機の銃口が向けられていた。

「やられちゃう…!!」

「ミサぁー--!!!」

ゲーティアが囲まれたアザレアを守るべく身を乗り出す。

ナノラミネートアーマーでビームから身を守れるゲーティアだが、多くのダメージを負ったと同時に塗料も消耗している。

どこまで耐えられるかわからないが、それでも何もしないわけにはいかない。

だが、攻撃しようとしたモビルスーツ達が側面から飛んできたビームの雨を受けて爆散していく。

「ビーム…どうして!?」

ここには自分たち5機以外には味方がおらず、兵装もすべて破壊されているためにこんな芸当はできないはずなのに。

「これは…!!」

「ミサぁー--!!!」

聞き覚えのある声が聞こえ、同時にフルバーニアンをベースとした青いガンダムがビームサーベルを抜いて突撃し、生き残っていたギラ・ドーガを一刀両断した。

モニターに映るのはコウ・ウラキのノーマルスーツ姿をしたユウイチの姿だ。

「パパ!?」

「ユウイチさん、どうして!?」

「インフォちゃんとミスターに助けてもらったの…さ!!」

突然の侵入者に対して、ウイルスからの命令でジェガン達がターゲットをユウイチに向ける。

サイコシャードを展開している状態で、それでも武装を使用できる彼は今、一番脅威となる可能性の高い存在だ。

それを破壊しようとしたジェガンだが、側面からボクサーを模した改造が施されたガンダムAGE-1タイタスというべきガンプラ、猛烈號の体当たりを受け、バラバラになる。

「おっと、俺らを忘れてもらっちゃあ困るぜ!」

「腕は鈍っていないわね!」

2機にターゲットを定めたファンネル・ビットがミリタリー調のカラーリングとなったジェスタ、ジェスタ・コマンドカスタムのスナイパーライフルが放つ1発のビームで撃ちぬかれた。

猛烈號、ジェスタ・コマンドカスタムのパイロットも、勇太たちの知り合いだ。

「マチオおじさんに…ミヤコさん!?」

「懐かしいなぁ!!今の時代のシミュレーターってのはノーマルスーツも装備できるのか!?」

アルゴ・ガルスキーのファイタースーツ姿になったマチオにトライスターのノーマルスーツ姿のミヤコ。

それぞれがかつての楽しかった日常と、それから離れた時間の長さを感じていたが、今はそれを懐かしんでいる場合ではない。

まだまだ数多くのジャックされた機体と戦艦が残っていて、それらが3人を狙っている。

「カドマツさん!僕たちはどうしたらいいですか!?」

「あ、ああ!!今のあいつらは何もできない!あのでっかいリングをぶっ壊さない限りな!できるか!?」

「よし…みんな、できるか!?」

「おうよ、了解よ!」

「んで、ぶっ壊した後は…」

「はい、私が皆さまに武器を渡します」

シミュレーターに待機するドロシーは白黒のカラーリングとなっているガンペリーで出撃準備を整えていた。

中にはミサイルの代わりに武装コンテナを搭載していて、その中には勇太たちの武装をありったけ入れている。

すべては来るべき時に備えるために。

 

「くそ…!くそぉ!!」

襲い掛かるファンネル・ビットとモビルスーツ達に拳を振るうことしかできないウィルが声を上げる。

ミノフスキードライブを最大稼働にしてもビームサーベルを発生させることができず、武装もない今となってはこうすることしかできない。

だが、とうとうセレネスの周囲をモビルスーツとファンネル・ビットに囲まれる。

「くっ…!!」

歯をかみしめるウィルだが、この状況を脱する手段を見つけることができず、とうとうセレネスの拳が下がる。

だが、攻撃しようとしたモビルスーツ達は真上から降ってきたビームの雨によって、ファンネル・ビットもろとも消し飛んでいった。

「腕が落ちたんじゃないか?ウィル」

唐突に聞こえた懐かしい声。

久しぶりにテレビで聞いたときとは違う、8年前に戦った時と同じ声。

「あんたに言われたくはないよ」

もし、あの時の彼なら、ボロボロだったとはいってもこちらの不意打ちに対処できたはず。

そもそも、ここまで勇太とのバトルでボロボロにはならなかったはず。

背後に現れたブレイク・ケンプファーに振り返るそぶりを見せないウィルに言葉をかける。

「ウィリアム・スターク。私はあの時、君とは全力で戦ったよ」

「…」

「神とガンプラにかけて誓う。ファイターとして恥じることはしていない」

「なら…ならどうしてファイターをやめたんだ!?」

8年前からずっと聞きたかったこと。

ため込んでいたものを吐き出すとともにようやくウィルはミスターガンプラと向き合う。

本当はわかっていた、あのバトルは本当に正々堂々、全力で戦ったものだということくらい。

ずっと忘れられなかった、刃と刃を交え合う感触とバトルの果てにボロボロになったお互いのガンプラ。

そして、敗北したにもかかわらず見せてくれた屈託のない笑顔。

嘘偽りがないというなら、ファイターを引退する必要もなかっただろうに。

メディアに対しても、そう声を挙げればよかったのに。

「それに…それに、どうして…勇太とはバトルを…」

バトルするのにふさわしい相手がもうすでにいたのに。

確かに8年前と比べると腕は落ちたかもしれないが、それでも戦えることは既に示している。

ミスターガンプラだって、8年近くも前線から離れていたにも関わらず、勇太と戦えた上に覚醒だってすることができた。

せめて、一声かけてほしかった。

「ウィル…君もファイターならわかるはずだ」

腰にさしてある刀を鞘ごと外し、ウィルの前で手放した後でゆっくりと近づいたミスターガンプラが彼の肩に手を置く。

「チャンプ…」

本当に些細な理由。

ファイターとしては当たり前の、自分と対等に戦えるかもしれない相手と全力で戦いたいという思い。

それは、この世界選手権で勇太と戦いたいと思ったウィルと同じ思い。

「違うぞ…ウィル。今の私は…ミスターガンプラだ!!」

 

「ステーションとの回線接続状態、しかし、ウイルスがこちらの回線の存在に気づきました」

「こっちでウイルスを妨害する!!どうにかするぞ!!」

「くそ…どんなウイルスだよ、これぇ!!」

4つのシミュレーターに接続されているインフォを経由してつながったパソコンを操作する白衣の男たち。

白衣に着けられている名札にはハイムロボティクスの社員証がつけられていて、彼らは全員カドマツの部下だ。

「接続限界時間まであと3分ってところか…」

「頼むぜ…俺たちもどうにか時間を稼ぐからよぉ!!」

 

「いくぞ、ユウイチ!のんびりしている暇はねえぞ!!」

「わかってるさ…。すまない、ミサ…。こうして近くにいるように見えるのに、本当はずっと遠くにいる。僕たちにできるのは…これが精いっぱいだ」

モニターに映るミサと勇太の顔。

きっと、父親としての役目で言うならば、ここでかっこよくあのネオ・ジオングを倒して娘を救うのがベストだろう。

だが、自分はそんなことができるようなニュータイプでもなければ、物語の主人公でもない。

その役目を果たすことのできる人間、ミサを守り抜くことができる人間はもう、すぐそばにいる。

「勇太君…御覧の通りのやんちゃだけれど…自慢の娘だ。これからも…この子のことを、頼むよ」

「ユウイチさん…」

「パパ!!」

ユニバーサルブースターポッドを展開し、一気に加速してネオ・ジオングに向けて突撃していくユウイチ。

彼がいた場所にはライフルとシールドだけが残されていた。

 

「何者だ?お前たちは?」

接近してくる、本来ならばあり得ない増援に向けてネオ・ジオングが左手のビーム砲を発射する。

1発1発が圧倒的な出力のビームを散開して回避する4機。

だが、周囲に散らばっているスクラップと比較すると生きのいい存在で、それらをコントロールすればあのイレギュラー達に対する勝率が上がる。

ファンネル・ビット達がユウイチ達を操ろうと襲い掛かる。

「それはもう見切っているさ!!」

刀のないブレイク・ケンプファーは背中のヴォワチュール・リュミエールを展開し、拡散ビームを発射する。

ビームの雨を受けたファンネル・ビットが次々と爆散していき、ケーブルを切断されたものについては制御不能となって宙を舞う。

「そこよ!!」

ファンネル・ビットの対処をミスターガンプラに任せたミヤコはスナイパーライフルをネオ・ジオングの左腕に向けて最大出力モードで発射する。

Iフィールドの守りがない状態のそれに向けて放たれた、ビームマグナムに匹敵するビームは大きな穴を穿ち、破壊した。

大出力のビームを放ったスナイパーライフルからは自動的に赤熱化したバレルが自動排出され、バックパックに装備されているサブアームによって自動的にバレルが装てんされる。

だが、ネオ・ジオングが持つアームは4本。

たとえ1本つぶされたとしてもまだ3本あり、しかも破壊された1本も徐々に再生していく。

「そう簡単に、再生なんてさせねえぞおおお!!」

だが、そう簡単にすべてを再生できるはずがない。

再生しようとする腕にダメ押しといわんばかりに猛烈號のビームラリアットが襲い掛かり、もう1本の腕に対しては体当たりをして止める。

だが、猛烈號の頭上にはもう1本の腕があり、そこからファンネル・ビットが襲い掛かろうとする。

「いくぞ、ゼピュロス!!EXAMシステム、起動!!」

(EXAMシステム、スタンバイ)

ゼピュロスに備えられたシステム、EXAMの軌道とともにツインアイが赤く染まり、猛烈號を襲おうとしたファンネル・ビットに接近するとバルカンで破壊していく。

接近しようとするゼピュロスに対処しようとネオ・ジオングのウェポンコンテナが展開され、その中に備えられているビームライフルとロケットランチャーが連続で発射されるが、赤い残像だけを残して瞬間移動のような機動で回避していく。

だが、それらの弾幕はたとえゼピュロスでも接近することが難しく、その間にもタイムリミットが迫る。

そんな中でゼピュロスはビームサーベルを抜き、それをネオ・ジオングに向けて投擲する。

サーベルは展開されていないものの、ゼピュロスに装備されているそれはアイドリングリミッター機能が搭載されているタイプ。

インパクト時にのみ刀身が展開されるそれの接近を危惧したネオ・ジオングがビームライフルでそれを破壊する。

破壊されたビームサーベルから拡散する粒子は強い光となってネオ・ジオングの視界をつぶす。

「娘に…何しやがるんだ、馬鹿野郎!!」

ユウイチの怒りに満ちた声が響くとともにEXAMの力が強まり、ゼピュロスの右拳が赤く光る。

フルスピードで突っ込んだゼピュロスの拳はサイコシャードを粉々に、発振器ともども破壊してしまった。

だが、それと同時にゼピュロス達は回線を切断されたことで、姿を消してしまった。

 

「はあ、はあ、はあ…」

「ユウイチ…」

シミュレーターから出たマチオが最初に見たのはユウイチの後姿だった。

本当は最後まで戦いたかっただろう、最後まで娘を守りたかっただろう。

サイコシャードを破壊したことで、活路を生み出すことまではできただろうが、あくまでもそれだけ。

そこから勝利へ、地球へ還る道を作ることができるのはミサたちしかいない。

「大丈夫、帰ってくるさ…みんな…」

「ええ、もちろんですよ。彼らは…最高のチームなんですから」

「当然です!それに、先輩もいるんスよ」

「早く帰ってこないと、次の納期までの仕事が間に合わねえんだから…」

不安はある、だがそれ以上に帰ってきてくれると信じているから。

 

「お待たせしました、皆さま。反撃の時間でございます」

サイコシャードが破壊され、出撃したドロシーのガンペリーが中心部に突入する。

そこから次々とウェポンコンテナがばらまかれていく。

「そうか…これが、これこそがガンプラバトル。そして、ついに見つけた…!最強のガンプラを!!これで、私のガンプラは完成する…!!」

今まで無人となっていたコア部分が強い光を発し、そこに現れたのは浅黒い装甲となった、勇太にとっては一番見慣れているガンプラ。

「これは…」

「そうだ、お前だ。お前という最強のガンプラを取り込み、私のガンプラは最強となる!!」

ゲーティアが搭載され、同時にネオ・ジオングが覚醒を発動する。

破壊されていたファンネル・ビットも大型アームも再生され、続けてサイコシャードもよみがえらせようとする。

だが、サイコシャードについてはなぜか再生しない。

「何…?どうなっている?」

「悪いが、もうそのサイコシャードは使えねえぜ」

 

「お疲れ様、インフォちゃん」

「いえ、私もあの時のお返しをしたかったので」

ハイムロボティクスの技術者によって事後のメンテナンスを受けるインフォが思い出すのはあの時のペチャパイ…ではなく、暴走事件。

その時のウイルスと今回ステーションに入れられたウイルスの制作者が同じであることが幸いだった。

どんなに強力なウイルスを作ろうとしても、作る人間が同じであるならば、似た傾向や癖のようなものがある。

そして、ウイルス除去を行った際に同時に収集したデータを元に、即興のウイルス対策ソフトを作った。

たとえウイルスそのものを破壊することができなかったとしても、勇太たちを援護するため。

そのソフトによってネオ・ジオングの再生機能の一部に障害が現れ、結果としてサイコシャードを使用不能に追い込んだ。

「お返しなぁ…ロボットがそんなことを言うとは思わなかったが…」

 

「サイコシャードがなくとも、最強のガンプラを手にした私の敵ではない」

サイコシャード再生をあきらめたネオ・ジオングが覚醒エネルギーを利用した大出力のビームを次々と発射しつつ、両手にはコピーした麒麟2丁が出現し、勇太たちに向けて発射する。

激しい弾幕の中を飛びつつ、ゼピュロスが残したビームライフルを放ちながらコンテナに接近するゲーティア。

接近したゲーティアに反応するかのようにコンテナの外装が外れ、その中に収納されている合体状態の麒麟と左文字を手にする。

「仕切り直しだ…!!」




機体名:ガンダム・ゼピュロス
形式番号:RX-ZP
使用プレイヤー:井川雄一
使用パーツ
射撃武器:ビームライフル(フリーダム)
格闘武器:ビームサーベル(νガンダム)
頭部:ブルーディスティニー3号機
胴体:デュエル
バックパック:フルバーニアン
腕:ビルドストライク
足:デュエルアサルトシュラウド
盾:シールド(フルバーニアン)

ミサの父親であるユウイチが所有するガンプラ。
機動力中心の設計となっていて、フルバーニアンのユニバーサルブースターポッドの恩恵によって劇中のフルバーニアンのようなバッタめいた機動を見せることも可能。
また、ブルーディスティニー3号機の頭部を装備していることからEXAMシステムも使用可能。
機体そのものが作られたのは20年近く前であり、それゆえか塗料が剝がれているなどによる性能は当時と比較すると低下している。


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第61話 決着

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第17話「怒り」

ギャラルホルンとの協力の条件、それは鉄華団がかつて保有していたすべてのガンダムフレームの返還、そして彼らの名誉回復であった。
ジュリエッタが持てる権限すべてを使い、テイワズにもたらされた3機のガンダムフレームの残骸。
アトラとクーデリアはそれを見ながら、愛する者たちの在りし日を思い出し、そして彼岸花を名乗る彼らの怒りを理解する。


(馬鹿な…馬鹿な…?)

ウイルスには、今自分が置かれている状況を理解しきれずにいる。

サイコシャードを失ったとはいえ、それでも最強のガンプラをネオ・ジオングのコアユニットとして迎え入れたことで性能は大幅にアップしているはず。

サイコシャード発動前と比較すると、これで自分がさらに有利になったはず。

なのに、ファンネルビットでジャックしたモビルスーツや戦艦たちは次々と破壊される一方で、今度は手傷を負わせることができない。

それに、相手の攻撃が何度も当たっていて、Iフィールドによる守りと再生能力がなければ、既に戦闘不能に追い込まれている。

「いける…いけるぞ、主殿!!」

バーサルソードを襲い掛かるアームユニットに突き刺し、からめとろうと襲い掛かるファンネルビットを電磁ランスから発生させる竜巻で吹き飛ばすロボ太の目には勝ち筋が見えた。

あのウイルスにはなぜ追い込まれているか理解できていない。

普通のAIにはない、ガンプラバトルへの愛情とそれを汚そうとする存在への怒り。

そして、地球で待っている人たちへの想い。

それが今の勇太たちを突き動かしている。

「終わらせろ、沢村勇太、井川美沙!!」

「さっさと終わらせて、帰るわよ!地球へ!!」

アームユニットを切り捨てたウィルに守られたサクラはトランザムミラージュを発動する。

GNファングを全機喪失した状態での調整となり、近くにいるウィルが巻き込まれることになるものの、それでもこれでネオ・ジオングのセンサーは力を失い、ファンネルビットも使用不能になる。

「勇太君!」

「ミサちゃん!!」

ブラスターモードへと変形したアザレアがゲーティアの右腕と一体化する。

トランザムが起動し、高濃度圧縮粒子が銃口へと集中する。

「私が…私こそが最強のガンプラだ!!」

これから発射されるビームをまともに受けたら、敗北するという計算結果が出たウイルスは少しでもそれを抑えるべく、最大火力であるハイメガ粒子砲を発射する。

「いっけええええええ!!」

「うおおおおおおお!!!」

ほぼ同時に発射されたアザレアブラスターのビームとハイメガ粒子砲がぶつかり合い、お互いに限界まで出力を引き上げていく。

「絶対に帰るんだ、みんなで!!力を貸して、ゲーティア!!力を貸して、僕の…ガンプラ!!」

勇太の声にこたえるかのようにゲーティアのツインアイが光る。

炎のようなオーラがゲーティアとアザレアを包み込み、それによってアザレアブラスターの出力がさらに引き上げられる。

ハイメガ粒子砲を上回る出力のビームと化したそれは一直線にネオ・ジオングを貫いていく。

灼熱のビームの中で徐々に溶けていくネオ・ジオング。

やがてビームが収まると、そこには黒く焼けたネオ・ジオングとかろうじて分離したゲーティアのコピーが浮かび、やがてスパークした後で爆散した。

 

「よし…こいつで…どうだああああああ!!!」

ウイルスの本体が動きを止め、大きなチャンスを得たカドマツによってウイルス除去プログラムが打ち込まれる。

制御AIに侵入していたウイルスが消えていき、正常稼働へと戻っていく。

「やったぜ…お前ら…」

「現状分析の結果、緊急離脱プログラムが作動していますが、原因と思われる事故などの報告はありません。私は、誤作動を起こしたのでしょうか?」

「お前が悪いんじゃない、コンピュータウイルスに汚染されていたんだ。だが、もう大丈夫だ」

シミュレーターから出てきた勇太たちの姿を見たカドマツは笑みを浮かべる。

地上で心ある人たちからの助けもあったが、何よりも地球へ戻るために奮闘した勇太たち。

彼らがいたから、この人類の夢たる軌道エレベーターを守ることができた。

「申し訳ございませんでした。ウイルスに汚染されたとはいえ、皆さまを巻き込んで軌道を離脱するようなことなどあってはならないことです。私はどうすればよいのでしょうか?」

「軌道修正プロセスを実行するんだ。静止軌道まで戻れば、あとはテザーを接続して解決だ」

「了解しました。軌道修正プロセス実行。カウンターウェイトパージ…カウンターウェイト係留デバイスが見つかりません」

「何!?」

「カウンターウェイト係留デバイスが見つかりません」

二度伝えられるさらに最悪な通達にカドマツはノートパソコンで軌道エレベーターのインターフェースを確認する。

ウイルスを除去することにばかり気を取られていた自分に腹を立てる。

そして、脳裏に一瞬よぎった最悪の事態が現実であることがわかってしまった。

「くっそ!どれだけ周到なんだよ!!カウンターウェイトへのインターフェースが丸ごと消されている!どんだけ周到なんだよ!!」

バンと両拳を机にたたきつけるカドマツ。

そんな彼の様子に勝利で高揚していた勇太たちの心が凍り付いた。

「ね、ねえ…聞きたくないけど…どういうこと…?」

「カウンターウェイトを切り離さない限り、今のステーションのスラスター出力じゃあ元の軌道へ戻れない…。つまり…」

「僕たちは…帰れない…」

「そんなあ!!」

せっかくウイルスを除去できたのに、ようやく見えた蜘蛛の糸が切れたことにハルはその場に座り込む。

「おい、何か手段はほかにないのか!?」

「ありません」

「物理的にテザーを切断できないのか!?」

「備え付けの工具にテザーを切断できるものはありません。また、皆様の中にEVA(船外活動::Extravehicular Activity)経験者はいらっしゃいません」

「ここまで…かよ…」

すべての望みが絶たれ、沈黙が流れる。

きっと、すべてのザクⅡを倒したと思ったとある対モビルスーツ特技兵小隊長も隠れていたもう1機のザクⅡが現れたとき、同じ絶望を味わっただろう。

彼の場合はせめてもの抵抗として拳銃を乱射していたが、今の勇太たちにはそのようなことのできる気力は残っていない。

「私、お茶を用意いたします」

「ドロシー…」

「今度のお茶菓子はどのようなものがよろしいでしょうか?何をお出しすれば、この状況を打開できる閃きが得られますか?」

この状況に役立つ知識や知恵を持ち合わせていないドロシーにできるのはそうしたことだけ。

あのアップルパイとは違うお菓子やお茶があればいいのか。

どうすれば助けになるのか、それを求めるドロシーに彼らは何も答えられなかった。

「そう…ですか。そうですね。それでも、皆さま。せめてこの星空を見ながらお茶を…」

絶望に落ち続けるよりも、ほんのささやかであったとしても安らぎをもたらすこと。

それしかできないとわかったドロシーは星空を眺める。

地球から見るのとは全く異なるこの宇宙の景色。

それをこんなに恨めしい気持ちで眺めることになるとは思いもしなかった。

「あら…?私、このような事態においていささか動揺しているようです」

「どうしたんだ…?」

「窓の外に…RX-78が飛んでいるのが見えます」

「RX-78…?」

「ガンダムが…冗談だよな、ドロシー…」

さすがのドロシーもこんな状況で混乱するのはわかる。

だが、こんな状況でヒーローのようにガンダムが現れて助けてくれるなんて妄想してしまうとはとあきれてしまう。

だが、ドロシーにつられるように窓を見ると、星ではない何かが近づいてくるのが見えた。

徐々に近づいてくるそれはドロシーの言う通り、ガンダムそのものだった。

「な、なんじゃこりゃあああああ!?!?」

まるで宇宙世紀にタイムスリップしたかと思わせるその状況にミサは頭の整理が追いつかない。

そんな中で、カドマツのノートパソコンに通信がつながる。

「おーう…そろそろ、ランデブーポイントだと思うぞぉ…」

「モチヅキ…!?」

画面に映る目にクマのできたモチヅキ。

もう今はこうして話すのがやっとなのか、フラフラと体を揺らしていた。

「姐さん…私、もうダメ…。寝る」

画面外からバタリと倒れる音が聞こえてくる。

モチヅキの背後で作業員と思われる帽子をかぶった男性が彼女の元へと走っていくのが見えた。

「この前の罰ゲームで散々手伝わされたそれを仕上げて…飛ばしたんだ…。私ももう何日寝ていないかわからん…。限界だ…通信、代わる…」

バタリと倒れたと同時にモニターの映像が変化し、今度は勇太たちがよく知る3人の姿が映る。

「どうも、鹿児島ロケットです。この度は弊社のロケットをご用命ありがとうございます。なんつって」

「ロクトさん、それに…」

「ツキミ君、ミソラちゃん!」

「よくこんなに早く飛ばせたな。宇宙ロケットだぞ?」

いくら鹿児島にいるとしても、あれを飛ばすためのロケットを準備するだけでも長い時間がかかる。

それに、今は簡略化されたとはいえ、発射許可をもらうだけでもいくつもの手続きが必要だ。

それにもかかわらず、それができたことにカドマツは驚きを隠せない。

「ああ…あなたの演説を聞いた社長の命令ですよ。よそに回すロケット…話をつけて使っちゃいました。それに、最近雇ったバイトも頑張ってくれましたから」

「お前ら、生きてるよな!?俺たちもどうにか助けられないかなんとか考えるからよ!やれることがあるなら、なんでも言ってくれ!!」

「ロケットだって、何台でも飛ばしてあげるから!!」

「ありがとう…みんなで必ず帰るよ!!」

「いや…十分だ!勇太、ガンダムに乗れ!!操縦はシミュレーターと一緒だ!!ガンダムの収容、急いでくれよな!!」

「了解しました」

 

「ミサ…勇太君、カドマツさん…」

「ユウイチ…」

家にはマチオ達が集まり、祈るようにテレビを見るユウイチのそばにいる。

今の自分たちにもうできることがあるとしたら、こうして祈ることだけ。

それが何かに通じて、助けになるならと。

「ステーションはいまだに静止軌道に戻ることができずにいます。現在、取り残された人々を救出するための準備が…いえ、少々お待ちください!静止軌道ステーションから通信が入りました!これは…!!」

「待てよ、これは!!」

「ガン…ダム?」

ステーションのシャトル受け入れ用のハッチが開く映像が流れ、そこに映るのは皆が知るあのガンダムの姿だった。

ビームライフルもシールドもない丸腰だが、それでもその姿はあのガンダムそのものだ。

「すごいすごい、動いた!!」

「ったく、なんで嬢ちゃんまで乗ってるんだよ?」

「いいじゃん!!こんなの、乗らないわけないでしょ!」

「ったく、勇太。今送った座標のテザーを切るんだ、いいな!それと、リアルなんだからシミュレーターの時のような派手な動きはすんなよ!ミサも乗ってるんだからな!!」

「はい…じゃあ、沢村勇太…ガンダム、出ます」

「ええー--!?勇太君、そこは行きまーす!でしょー!!」

「ミサ!!勇太君!!」

ミサたちの声がテレビから伝わると同時にガンダムが発進する。

想像のつかない光景が繰り広げられる中で、ハルの声が入る。

「皆さま、ご覧になられていますか?今、私たちの前でガンダムが飛び立ちました!!宇宙時代への扉を、その手で開くために!!」

テレビに映る今のガンダムのスピードはアニメで見たあのガンダムと比べるとはるかに遅い。

だが、小さいころから夢見ていたあの時代に大きく近づいたのを、その一歩をミサたちが踏み出していることにユウイチは感動を隠せずにいた。

 

 

「ガンダム…」

窓から飛び立つガンダムの後姿を見つめるウィルの口から思わずこぼれる。

大昔は実物大を作ることができてもわずかに動かせる程度で宇宙に飛ばし、実際に動かすなど考えもしなかっただろう。

それに、たとえ今そんなものを作ったとしても採算が取れない。

きっとウィルもそんな企画が用意されたとしても却下して実現させなかっただろう。

そんなものが今、宇宙で飛んでいる。

ライバルたちを乗せて。

だが、いくら経営者となって現実を見てきたとしても、やはりこうしてみると心のざわつきを感じずにはいられない。

「坊ちゃま、よろしかったのですか?」

「何が…?」

「ものすごく、乗りたそうだったじゃないですか」

「僕はそんなに子供じゃない」

「ふふ…お茶、入れてきますね」

ちょっと感情のこもった声に笑いを隠しながらドロシーはその場をあとにする。

そして、入れ替わるようにカドマツがやってきて、自慢げにガンダムを眺めていた。

「どうだ?すげえだろ」

「あれ…ずいぶん昔に作られた奴だろう?よく残っていたね」

かつて、日本のお台場で披露された史上初の実物大モビルスーツの展示物。

ガンダムが皮切りとなり、シャア専用ザクⅡやユニコーンガンダムなども現れ、多くの話題を呼んだという。

ウィルも小さいころに父親からそれを聞いたことがあるが、それらが展示が終わってからどうなったのかは全く分からずじまいだった。

「ああ…実際、解体後はパーツとして残ってはいたが…待っているのは廃棄処分だけだったからな。それをハイムロボティクスが引き取って、俺たちが業務が終わった後で暇作って、作り直したのさ。今度は動けるガンダムを作ってやろうってな」

その活動が始まったのはカドマツが入社する数年ほど前で、この活動には定年退職した元社員も参加している。

最近になってようやく完成のめどが立ち、モチヅキらの協力を得てようやく動かせるところまで来た。

「物好きだな」

業務時間の活動で、一日二日でできるようなものでもなく、いくら頑張ったとしても利益にもならないというのに。

ただ、面白そうだからというだけで団結し、実際にここまで仕上げだ。

これにはウィルも脱帽してしまう。

「あれは…あの商店街と同じだよ。時代の流れの中で忘れられようとしていた奴だ。でも…忘れない奴もいるし、残したいと思うやつもいる」

「…」

「そうしたら、運よくこんな日が来ることもある」

もっとも、こんな事態になって、よもや救世主となるところまでは想定していなかった。

これは大きな自慢話にできるが、それは地球へ戻ってからだ。

カドマツの話の中で、不意にウィルの脳裏に浮かんだのはミスターガンプラとのあのバトル。

確かに燃え上がり、楽しかったあの時間。

「僕も…取り戻せるだろうか?」

もうあの時のような子供ではなく、背負わなければならない責務もある。

同じようにとはいかなくても、無垢に楽しめたあの頃をほんのわずかでも今できたら。

「…簡単さ、無くしたものを思い出せばいい。ただ、それだけさ」

 

各作品のガンダムのパイロットが身にまとっていたノーマルスーツとは違う、ブカブカで重量のある宇宙服だが、それでもモニターに映る宇宙と地球の光景、そして握る操縦桿の感触に勇太は心奪われる。

コックピットはケーブルまみれで通信も緊急事態用の備え付けのトランシーバーが備え付けられ、モニターはパソコン用のものを取り付けたようなもので、アニメのものとは程遠いが、それでも今は十分だ。

まさか、シミュレーターではない本当のガンダムに乗る日が来るとは思わなかった。

こうしてガンダムを動かせた時が来たなら、もしかしたらモビルスーツが実用化される時代も来るかもしれない。

その時はきっと、年を取っているかもしれないし、それができたときにはもうこの世にいないかもしれない。

だが、こうしてその先駆けの当事者になることができたことに幸せで胸がいっぱいになった。

「もうすぐ指定されたポイントだよ」

座席のそばにしがみつく宇宙服姿のミサの言葉を受け、ようやく正気に戻った勇太は改めてモニターを見る。

指定された場所でガンダムを止め、そこで青い地球を見つめる。

「うわあ…地球だぁ。私たち…人類初のモビルスーツパイロットだよね…」

「うん…」

「ガンダムに乗って、宇宙に来て…すごい未来に来ちゃったよ…。勇太君…」

身を乗り出したミサがモニターと勇太の間に入り、正面から勇太を見つめる。

狭いコックピットの中で、お互いの宇宙服が密着していて、ほんの少し前へ動いたらバイザーがぶつかり合うほどだ。

「勇太君、あの時…君と会えてよかった。あの時、ゲーセンであえて、こうしてチームになれて…本当に良かった。私を…ここまで連れてきてくれて、ありがとう」

ミサの脳裏に浮かぶ勇太と出会ってから今日までの日々。

喜びと挫折をいくつも味わいながら、果たせないと思っていた夢をこうして実現することができた。

こうして運命がまわっていったのは、勇太と出会えたから。

「…お礼を言うのは、僕の方だ。…ミサちゃん」

「え…?」

「兄さんが死んで、ガンプラバトルをやる甲斐をなくした僕はずっと、何にも打ち込めなかった。兄さんの死を引っ張って、逃げ回っているだけの臆病者だった。でも…君と出会って、もう一度ガンプラバトルを始めようという気持ちになって、今ここにいる…。僕を連れて行ってくれたのは…君だよ、ミサちゃん」

操縦桿のそばにあるボタンを押し、空気が入ってくる音が響く。

コックピット内に空気が充満し、意を決したかのように勇太はミサを見つめる。

操縦桿から離れた腕がミサを包む。

急な出来事に驚くミサの顔が真っ赤に染まり、わなわなと両手足が動き、コックピットにぶつかる。

「君と会えてよかった、ミサちゃん…。大好きだ」

「勇太…君…」

耳元で確かに聞こえた勇太の言葉。

緊張でいっぱいだった心に甘酸っぱいものが広がっていく。

徐々に目にたまっていくもの気づき、それがやがて水玉となってヘルメットの中で浮かぶ。

「あ、あれ…?すっごくうれしい…うれしすぎて…涙が出てきちゃった…」

「ミサ…」

ネオ・ジオングとの戦いの中で無意識に呼び捨てにしたのを今度は自分の意志で呼ぶ。

それに対してミサは決して嫌がっていない。

「私も…私も、勇太君が大好き。だから…これからも…ずっと一緒にいようね」

「うん…」

お互いにヘルメットのバイザーを開き、ミサの涙が空気とともに流れ、ダクトへと消えていく。

涙の代わりに目いっぱいの笑顔を見せるミサと勇太の顔が近づいていき、互いの唇が重なる。

旅館でのアクシデントの時とは違う、ちゃんとした恋人同士のキス。

しばらく唇が重なり、名残惜しそうにゆっくりと離す。

「あげちゃった…私のファーストキス…」

「ぼ、僕も…」

「あー--。お前ら、二人だけの世界を作ってないで、さっさと始めてくれねえか?」

「え…あ、カドマツさん!?」

「本当にそうね、ヤけてきちゃうわ」

「サ、サクラさん!?」

「さっさとやれ、夫婦の共同作業だ」

「ふ、夫婦って!!もう、からかわないでよカドマツぅ!!あ、これだよ!ビームサーベルのボタン!!」

二人仲良く顔を赤く染め、ミサがボタンを押すとバックパックのビームサーベルの持ち手が展開される。

ミサが横に戻り、改めて操縦桿を握る勇太がそれを抜く。

手にしたそれは確かにビームサーベルの持ち手。

だが、出てきたのはビームの刃ではなく、電動ノコギリの刀身だ。

しかも長さもピクシーのビームダガーと同じくらいと言えた。

「ビームサーベルじゃないの?!」

「あるわけねえだろ、そんなもん」

「そっか…まだまだ未来はこれからだね」

操縦桿を握る手にミサの手が重なる。

隣にいるミサの笑顔につられ、勇太も笑う。

モビルスーツと名乗るには外回りだけで、内側はまだまだ完成には程遠い。

だが、それでも可能性があるならそれで充分。

その可能性を実現するのが未来のある自分たちの役目だから。

「うん…僕たちが作る未来だ」

 

 

そして、僕たちはステーションを静止軌道に戻すことができた。

それからNASAのロケットによって救出されるまでには数日かかり、それまではこのステーションで過ごした。

無事に救出され、地球へ戻って待っていたには数週間の入院生活だ。

訓練をまともに受けておらず、このような事故に巻き込まれたことで心身にダメージがあった場合にということで行われ、無事に退院して帰国できた時にはもう夏休みはほぼ終わりかけていた。

帰ってきたとき、ユウイチさんはさっそくミサを抱きしめて無事を喜び、そして僕にびっくりするような提案をされた。

しかもその話はもう僕の両親にも伝わっていて、了解までもらっている始末だったのが…。

「勇太君、そろそろだよー!」

「うん、今行くよ、ミサ」

ペンを動かす手を止め、カバンを手にした勇太が部屋を出る。

正面にあるのはミサの自室で、そのそばにある階段を下り、外にいるミサの元へ急ぐ。

「勇太君、どう…?準備はばっちり?」

「大丈夫。今の僕の全部を出し切ったんだ、それに…ミサやみんなも手伝ってくれたから」

「当り前じゃん!今日のためだもん!」

ひょこっと前に出たミサが勇太の顔を見ながら笑う。

カバンの中で待っている今のゲーティアはあの決戦の後で今日のために改修をしてきたもの。

このガンプラと勇太であれば、必ずウィルに勝てるという確信がミサにはある。

「そ、それに…リーダーとして、チームメイトの勝利は信じてるし…その、この…こ、恋人、なんだし…」

「ミサ…」

顔を赤くするミサにつられるように勇太の顔も赤く染まる。

思わず立ち止まってしまい、そこから沈黙が流れる。

赤くなった顔を隠すため、勇太の手を握ったミサは引っ張るように彼をゲームセンターへと連れていく。

中には既にツキミやミソラ、サクラにタケルなど、勇太たちを知る面々が集結していた。

当然、ウィルとドロシーの姿もあった。

「待っていたよ…勇太。今日という日をね」

「うん…僕もだよ。決着をつけよう…ウィル。僕たちの戦いに」

「ああ…。これが世界選手権の本当の決勝戦だ」

「さあ、お集りの皆さま!今日まで中断していた世界選手権の決勝戦がこれより始まります!今回は両者の要望として、1対1のバトルとなっております。さあ、ステーションの危機に立ち向かった2人の勇者が今、ここで最強の名を懸けてぶつかり合います!!」

ハルの開始宣言に集まった面々が歓声を上がる。

「優勝者への特典を、ドロシー」

「はい、来月からのタイムズユニバース百貨店と綾渡商店街のコラボキャンペーンで先に名前を書くことができます」

「なんだよ、それ!!つまんねーよ!!」

「何を言うんだ?そもそもウチと肩を並べるだけでも、商店街的には破格の条件だろう」

このコラボの企画の調整のために、どれだけ重役への説得に苦労をしたのだろうか。

ガンプラバトル2強ともいえる存在のコラボは大きな宣伝効果となり、結果としてタイムズユニバースにとっても利益になる。

今まで進出しなかったガンプラバトル業界に食い込む大きな機会になるというのが彼らへの言い分だ。

もっとも、その理由は経営者としてのもので、ウィル個人としてはかつての自分を取り戻すための第一歩を与えてくれた勇太たちへのお礼だ。

そんなことは口にするつもりはないし、伝える必要もないだろう。

「んだとー!つぶしてやんぞ!あの駅前ビルをよぉー!!」

「では…私からも用意しよう。優勝者へのトロフィーを!!」

「これって…」

ミスターガンプラがアタッシュケースを開き、披露したトロフィーにウィルの目が大きく開く。

8年前、ウィルが確かに勝ち取り、大人たちの汚い心に踊らされたことで捨ててしまった優勝トロフィー。

どんな形で捨ててしまったのかは思い出せないが、ミスターガンプラの手にあったそれは修復された痕跡があり、乗っているガンダムの像は最終回で見せたラストシューティングの様子そのものと言えた。

「捨てられなくてね」

苦い思い出だったかもしれない。

だが、ミスターガンプラにとっては勝利以外のガンプラの道を与えてくれた思い出であり、今はこうして再びウィルとのつながりを取り戻すことができた。

そんな大事な思い出の印を捨てることなどできない。

「さあ、お前ら。シミュレーターに入れ。いいバトルを見せてくれよ」

 

イサリビを模した格納庫の中に入った勇太の目に映る新たなゲーティア。

テイルブレードが搭載されたバックパックにルプスレクスの両腕と片刃包丁の形状をした、超大型メイスと同じ長さの大剣。

ゲーティアの姿をとどめつつも、かつて勇太が乗っていたバルバトスの意匠を受け継いだ、今の勇太の到達点。

そのコックピットに乗り込み、ヘルメットを装着した勇太は網膜投影を開始し、阿頼耶識システムで一体化する。

「沢村勇太、ガンダムバルバトスゲーティア…出るよ」

射出されたゲーティアが大剣を握りしめ、エイハブウィングで上空を舞う。

本当の王者を決めるために。

 

 

「ええ…必要なものの用意はできました。しかし…チャンスは一度です。そう…その通り。絶対に失敗は許されません。私もあなたも…。あのウイルスがまさか駆除されるとは想定外でしたが…。それでは、指定された日時に実行に映ります。ご安心ください。うまくいきますよ。では、幸運を祈っていてください。必要であれば、また連絡させていただきますよ…では」




機体名:ガンダム・バルバトスゲーティア
形式番号:ASW-MS-00/B
使用プレイヤー:沢村勇太
使用パーツ
射撃武器:麒麟
格闘武器:バスターソードメイス(左文字内蔵)
シールド:オリジナルシールド(裸の女性のレリーフが刻まれたカイトシールド)
頭部:オリジナル(ユニコーンをベースとし、顔部分はバルバトスに近い)
胴体:ガンダムバルバトス
バックパック:ナラティブガンダム(テイルブレード、エイハブウィング搭載)
腕:ガンダムバルバトスルプスレクス(強制冷却機能追加)
足:ガンダムバルバトスルプスレクス

ネオ・ジオングとのバトルで損傷したゲーティアを改修したもの。
かつてのバルバトスに搭載されていたテイルブレードを再度装備し、近接武器としては新たにバスターソードメイスを追加した。
ソードメイスを超大型メイスレベルに大型化したとともに、左文字の鞘としての機能も兼ねたもので、左文字と麒麟の合体機能も健在で、アザレアブラスターに対応するために両腕については強制冷却機構を追加している。
バスターソードメイスとテイルブレード、ルプスレクスの両腕の希少金属によるクローは近接戦闘において圧倒的な強さを与え、かつての鉄華団の悪魔の再来を想定させながらも、騎士のような顔立ちと女性のレリーフのある盾により騎士としての側面も見える、悪魔騎士と呼べるものといえる。


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第62話 新しい影

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第18話「幕開け」

ヴィーンゴールヴを失ったギャラルホルンが残存のアリアンロッド艦隊を中心に再編成が行われる。
その一方、火星の混乱を納めるために帰国したクーデリアの前にタカキが姿を見せる。


「ん…この感じで、いいかな。いや、もうちょっとこうしたら…」

「そんなに自分のガンプラを作るのに夢中になっていたら、お客さんに気づかないわよ?勇太君」

「あ…サクラさん」

顔を上げた勇太の目の前にいる彼女の名前を呼んだ勇太はすぐに腕時計を見て、頭を抱える。

カウンターの上に置かれているあらかた完成しつつある、右腕を喪失して、ランサーダートを片手に突撃するブリッツとその一撃を避けようとしながらその胴体を対艦刀で斬りつけつつあるソードストライクにその光景を見る、倒れたイージス。

これをちょっとだけ作ろうと考えていて、すっかり夢中になった上にこうしてサクラが声をかけてくれるまで気が付けなかった自分が情けなく思えてしまう。

「ジオラマね…お店に飾るの?」

「うん、バイトってことでね」

帰国して、落ち着いてからユウイチから誘われる形でガンプラショップの手伝いを始めた勇太だが、大きく変化した生活にまだまだ追いついていない感じがした。

アルバイトはこうして展示用のジオラマを作ることや店に来た客へのガンプラづくりのアドバイスに接客対応で、それらについてはまだよくて、バイト代もくれることには感謝している。

ただ、まだついていけていない変化は住む場所が井川家であることだ。

部屋が一つ空いていて、しかもミサと恋人同士になったんだからということで、両親の許しもあるうえに退院したときにはすでに引っ越しまで完了しているというあまりの準備の良さ。

高校男子特有のエロ本のようなやましいものはないとはいえ、勝手に引っ越しまで完了させられていることにはさすがに頭を抱えた。

おまけに話を聞いたミサはそこからの生活をうっかり想像してしまい、あまりの恥ずかしさに一度気絶してしまった。

「大丈夫、お客さんは来てないわ。それより、ミサはどうしているの?」

「休憩でゲームセンターにいってるよ。多分、まだまだ戻らないんじゃないかな」

「ゲームセンターって…恋人同士になっても暮らしは変わらないわね。…じゃあ、このガンダムエアリアルを一つ」

「別に無理して買わなくていいよ」

「買いたいから買うのよ、ちょっとだけ売り上げに貢献してあげてもいいじゃない。…でも、安心したわ。商店街もちょっとずつだけどいい感じになってきて」

「世界一…か。あまり実感がわかないけど」

勇太たちが戻ってきてからの綾渡商店街は世界一のチームが出たということで一度は大盛況になった。

ガンダムファンが聖地巡礼などといって、勇太たちのいるガンプラショップに立ち寄り、さらには彼らが過ごした店ということでミヤコの店に飲みに来る始末。

最近までは商店街の衰退に対して何も対策ができずにやる気をなくしていた連盟も重い腰を上げてミサがつけてくれた火を消さないためにも、まずはガンプラを利用した商店街づくり計画を始めていて、会社とも交渉を行っている様子だ。

「サクラさんも、頑張ってるじゃないか。この前のインドの大会での試合、すごかったよ」

「負けはしたけれどね。本当に世界は広いわ。サポートメカを使うことも考えないといけないのかしら」

「サポートメカ、か…あると便利だけれどね」

ガンプラバトルシミュレーターの最近のアップデートで追加されたサポートメカシステムはサブフライトシステムやミーティアのような追加装備や補助機体で、一つのガンプラに対して1機だけ同行することが可能というものになっている。

初心者の場合は作戦行動範囲拡大や推進剤の節約のためにドダイ改やウェイボートなどのサブフライトシステムを採用することが多いが、ある程度成熟したファイターはサポートメカにモビルスーツ用の装備や追加装甲を取り付けることで、かつてのストライクやインパルスが行った空中換装を可能にし、かつてのガンダムバトルのゲームで見せた連続換装攻撃などもできるようにしている。

最も、サポートメカについてはマニュアル制御が必要となり、戦闘中にサポートメカを操作することが困難であることから、本体の動きに集中するためにあえてサポートメカを採用しないというファイターもいるとのことだ。

勇太もサポートメカの存在を知り、それが生かせるならとゲーティアに改良を加えていたが、結局ウィルとのバトルまでには間に合わなかった。

「サクラさんはどうするの?まさか、このエアリアルでサポートメカを作るとか?」

「それも面白そうだけれど…どうするかは内緒よ」

 

「へえ…新しい機体が出るようになるってのかい。その…なんだって?」

「追加プログラム、アドオンデース」

ゲームセンターの裏にある事務室でイラトと向き合うように座る黒いスーツの男性がノートパソコンを彼女に見せながら、アドオンについて説明する。

瞳や肌の色からは中東系と思われるが、流ちょうに日本語を話している。

ブッホ・プラグラミング社のナジール・アル=タラムと書かれた名刺がイラトの手にあり、最初に名刺を受け取った時は聞いたことのない会社に外国人の営業マンということで、あまり乗り気にならなかったものの、彼の言う新しい機体の出るプログラムには心が惹かれた。

ゲームセンターで最も多くの売り上げを出すシミュレーターをさらにバージョンアップさせれば、もっとイラトの財布に金が入る。

商店街に客が増えてきて、この流れにさらに乗りたいというタイミングでいい話を聞いた。

一昔前はパソコンゲームでユーザー達を中心にお気に入りのゲームに適用可能なプログラムを作成することがはやっていた。

MODと呼ばれるそれについての反応はゲーム会社によって異なり、とあるゲーム会社はパソコンだけでなく、通常のゲーム機にもMODを導入できるようにし、とあるゲーム会社では自社のゲームの価値を守るなどの理由でMODに対しては排他的な傾向にある。

ガンプラバトルシミュレーターの場合はチートの問題からMODを許可するか否かについて賛否両論があった。

その結果として、MODは認められないものの、既存のシミュレーター内部のプログラムを拡張するアドオンは認められることとなり、シミュレーターを管理しているバンダイやバンダイから許可を受けた個人や企業がアドオンを作成し、それらを導入しつつある。

あいにく、イラトの場合はそういうプログラムを作れる知り合いはカドマツくらいだが、彼は本業とガンプラチームのエンジニアで手一杯だ。

おまけにタイムズユニバースではようやくガンプラバトルシミュレーターが設置されるようになり、傘下の企業でアドオンの開発が行われつつあるという話を噂で聞いている。

「ブッホ・プログラミング社製のアドオン『Build Beginning』は世界中で導入されていマース。そして世界中からお便りが届いておりマース。例えば…」

ナジールがタブレット端末で記録しているお便りのデータを1つ引っ張り出す。

そして、表示された文字を読み始めた。

「先日、ウチのワイフと些細なことで喧嘩になっちまったんだ。このままじゃ、家庭が冷え切って今年の冬を越せそうにないんだ。そこで僕は自慢の金時計を質に入れて、このアドオンをプレゼントした。しかし、妻は僕の金時計に合う鎖を買うために、彼女が大切にしていたガンプラバトルシミュレーターを売ってしまったんだ。結局、僕らが送りあったものは無駄になってしまった。けれど、2人の愛を再確認することが…これ、読むお便りを間違えてマース」

応接室が冷たい空気に包まれ、痛々しい静寂がナジールに突き刺さる。

そんな中で口を開いたのはイラトだ。

「まあ、儲かるってんだったらなんでもいいさ。そのアドオンっだっけか、好きにやっとくれ」

「ありがとございまーす!」

「どうせ入れるんなら、とびきり難しい設定にしとくれ。その方がもうかるからねえ、ヒャヒャヒャ!!!」

 

「アドオンかぁ…。いろんな設定のステージがあるっていうのは面白いけど、バンダイも管理が大変になるだろうね」

(まあ、それも織り込み済みでやってるんだろうさ。ウチもいろいろアドオンを作ってるけど、やはり先を越されまくりで正直苦戦してるよ。まあ、新しい領域だし、やるだけのことはやるさ)

テーブルに置いてあるスマホから聞こえるウィルの声に耳を傾けつつ、勇太はジオラマを作成する。

サクラに注意されてからは接客を頑張ったため、今はやり残したところを作ることで、明日に間に合わせる。

あの決戦を終えてから、時折勇太は電話番号を交換したウィルと電話でやり取りをしている。

ガンプラバトルの世界に戻ったウィルはミスターガンプラから自分の後継者にならないかと言われたが、タイムズユニバースのCEOとしての責務を理由に断り、その代わりに経営者としてガンプラバトルの面白さをできる範囲で伝えていくことを決めた。

アドオン開発の開始はその手段の一つで、世界選手権での功績がいい宣伝手段になったが、それでも既に開発を始めているライバル会社の存在から苦戦している。

(まあ、僕の話はいいんだ。それで、君たちはどこまで進んだのかな?一緒に住んでるんだろう?)

「え、ああ…それはその…」

(はは、いつか日本に来た時にでも聞かせてくれ。じゃあね)

歯切れが悪くなった勇太の反応を笑ったウィルが電話を切り、スマホをポケットに入れた勇太はため息をつく。

実際にどこまで進んだのかを言ってしまっては、次の対戦でそれをネタにされるかもしれない。

それで動揺するのを彼は見逃さないだろう。

それに、そのことを話すのはあまりにも恥ずかしく、思い出すだけで頭の中が沸騰してしまう。

「勇太くーん!ごはんだよー!」

「あ、はーい!今行くよー!」

下から聞こえたミサの声。

はたから見ればもはや家族のような会話をした勇太は部屋を出て、ミサとユウイチの待つ居間へと向かった。

 

「アドオン、かあ…。まあ、ライバルが多い分燃えるっていうのもあるけどね」

電話を終えたウィルは背もたれに身を任せつつ、今後の展開を考える。

やはりガンプラバトル事業に新規参入し、同時にアドオンにも関与することについては、既に事業にかかわっている会社と比較すると出遅れてしまうのは明白だ。

タイムズユニバースの技術や規模を生かした、良質なアドオンを開発することはできるだろうが、ライバルは世界中に存在し、それは企業だけでなく個人も存在する。

この熾烈なガンプラバトル業界は頭を使うことにはなるが、いい刺激にも感じられた。

「それにしても、問題はバイアスだ。あいつはどこへ行ったんだ…?」

軌道エレベーターの事件は最悪の場合は宇宙開発をとん挫させかねない事件で、現在バイアス一味は国際指名手配されており、最近になってバイアスの協力者や部下が逮捕されたという話は聞くが、肝心のバイアス本人の行方が分からない状態だ。

逮捕した協力者もバイアスがどこにいるのかわからない様子と聞く。

「奴の暴走は僕の責任でもある。インターポールが動いても難しいとなれば…」




サポートメカのルール

世界選手権終了後に行われたアップデートにより、これまではステージごとに設置されていたサブフライトシステムなどのサポートマシンをファイターが自作し、ガンプラと同時に出撃させることが可能となった。
ただし、無制限にサポートメカを出撃させることができるわけではなく、以下の制約が設けられている。

●同時に出撃できるサポートメカはファイター一人につき1機まで。
●オートパイロットにすることはできず、サポートメカについてもマニュアルで操縦する必要がある。
●サポートメカはサブフライトシステムやオーキスのようなアームドベースなどを指し、モビルスーツやモビルアーマー、戦艦、SD機体をサポートメカとすることはできない。
●PG機体を使用する場合はサポートメカを使用できない。


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第63話 アドオン

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第19話「散りゆくものたち」

彼岸花、そしてその組織を中心とした反ギャラルホルン連合とギャラルホルンによる決戦が始まった。
まずは戦艦ギャラルホルンによるダインスレイヴの一斉射によって、ギャラルホルン月面基地は壊滅。
合流したテイワズに求められたミッションは戦艦ギャラルホルンの破壊である。


「アドオンによる追加ステージか…。こいつの試運転にはちょうどいい」

シミュレーターに乗り込み、格納庫でバルバトスゲーティアのそばに置かれているサポートメカに目を向ける。

GNアームズをベースとしているものの、粒子貯蔵タンクの代わりに通常のスラスターとプロペラントタンクを搭載し、左右と上部に橙色と白、ピンクのコンテナがそれぞれ設置されている。

「主殿、コンテナの中には武装が…?」

「まあ、いろいろと入れてあるよ。これからのバトルで見せられる…かな」

バルバトスゲーティアに乗り込んだ勇太はコンソールでサポートメカ『グリモワール』の状態をチェックする。

こちらからの遠隔操作は問題なくできそうで、あとはステージを進む中でどのようにサポートメカを動かしていくかが課題になる。

「よーし、私もパワーアップしたアザレアの力を見せてやる!!」

気合を入れるミサのアザレアはこれまでのアカツキをベースにしたものと変わり、頭部がジャスティスに変更されているが、スタンスそのものはこれまでと同じで、純粋の性能も向上しており、トランザムも引き続き使用可能となっている。

世界大会が終わり、勇太とウィルの決戦を見たことがミサに新たなモチベーションを与えていた。

いつか、一緒に戦ってくれている恋人の勇太に勝つ。

チームである以上はこれからも一緒に戦うが、同時にライバルとしても勇太と立っていたい。

そんな思いを今のミサは抱いている。

「よーし、井川美沙、アザレアリバイブ、行きまーす!!」

「沢村勇太、ガンダムバルバトスゲーティア、出るよ」

「ロボ太、バーサル騎士ガンダム、出撃する!」

3機がカタパルトから射出され、その後でグリモワールも発進する。

戦艦から飛び出して見えてきた光景はこれまでもよく見ているジャブローだ。

「ステージそのものは変わっていなくて、追加機体があるっていうのがイラトおばあちゃんが言ってたことだけど…」

「新しい機体か…それって、『水星の魔女』とか、『クロスボーン・ガンダムDUST』のミキシングビルドのモビルスーツとか…?」

いずれの作品の機体も、最近になってガンプラの種類もそろいだしてきて、シミュレーターでも出すことが可能になった作品ばかりだ。

他にも、昔勇武が遊んでいたゲームであるGジェネレーションシリーズで登場するトルネードガンダムやフェニックス・ゼロ、フェニックスガンダムなども最近になって注目されだし、ガンプラも登場している。

そんな機体が出てくるとばかり思っていた勇太だが、バルバトスゲーティアに映る敵機体はリーオーやサーペント、マラサイなどのこれまで登場したモビルスーツばかりだ。

「そう簡単に新機体を見せてはくれない…か!!」

上空から降りてくるバルバトスゲーティア達にビームライフルやドーバーガンで迎撃を仕掛けてくる。

「そんなもので!!」

スラスターを吹かせ、一気に地上へ降りたゲーティアが両手で握ったバスターソードメイスを振るい、マラサイを一撃でバラバラにする。

地上に降りたゲーティアのその攻撃力に脅威を覚えたOZ仕様のリーオー複数機がドーバーガンをゲーティアに向けて放ち、その弾丸をバスターソードメイスの刀身を盾替わりにして受ける。

上空への攻撃が弱まっている間にミサは地上に隠れるように設置されているトーチカを探しだし、それらをレールキャノンで破壊していった。

今回のステージのクリア条件はジャブローのトーチカをすべて破壊し、現れるターゲット機を破壊すること。

もしかしたら、それが追加機体の一つかもしれない。

「うーん…歯ごたえがない…」

地表のモビルスーツを撃破しつくし、バスターソードメイスを肩に担がせた勇太は消えていく敵機の残骸を見て、新ステージであるにもかかわらず拍子抜けな状態に少しため息をついた。

少し前まで世界レベルの相手と幾度も戦ってきたせいなのか、こうした普段のシミュレーターのステージの難易度では満足できなくなっていた。

ミサやロボ太も同様で、アザレアも騎士ガンダムも目立った損傷がない。

「これじゃあ、あとは侵入ルートを見つければ地上でやることはなくなっちゃうね」

「確かに、もう敵機の反応は…うん??主殿、ミサ、敵機だ!!」

「敵機…?でも、これって…」

ゲーティアのセンサーにも新しい敵機の反応をキャッチしたものの、妙な反応に困惑する。

その敵機の反応は1つだけだが、それが現れたり消えたりを繰り返していた。

ゲーティアに麒麟を手に取られ、勇太はその奇妙な敵機に警戒する。

「どこだ…どこから攻撃してくる…」

引き続き反応は出現と消滅を繰り返し、カメラで追いかけてもその姿を見つけることができない。

探している次の瞬間、上空から一条のビームが麒麟に向けて振ってくる。

「何!?」

嫌な予感を感じ、麒麟を手放した勇太の目に映ったのはビームで撃ちぬかれる麒麟が爆発する姿だった。

左文字と一体化させ、大太刀としてふるうことも想定して設計している麒麟は通常のライフルよりも強固に設計しており、本来なら並のビームライフルでは破壊が難しいはずだ。

だが、このビームは一撃でその麒麟を破壊してしまった。

ナノラミネートアーマーでビームへの守りがあるとはいえ、それでもその出力のビームにどこまで耐えられるかわからない。

「!!ロボ太、下がって!!」

「うおっ!!助かった、ミサ!」

ロボ太が下がった直後、彼がいた場所にビームが落ちる。

アザレアのレーダーのおかげで、かろうじてビームライフルらしきものを発射する直前の敵機を捉えることができた。

だが、その反応はすぐに消えてしまう。

「円陣を組むんだ!死角をできる限りなくすんだ!」

3人が背中合わせに円陣を組み、勇太は森の中に隠したグリモワールの状態を確認する。

(この距離なら、こちらから命令を出せる。敵機は多分、グリモワールじゃなくて僕たちを狙ってる。今のゲーティアで無理なら…)

 

「ふふふ、いいデスね。さすがです」

タイムズユニバース百貨店5階にあるネット喫茶。

鍵付きの部屋の中でナジールは手持ちのノートパソコンから戦闘を行っている勇太たちの様子を見る。

ナジールはキーボードを操っている様子はなく、ただ単に彼らの戦いぶりを見ているだけだ。

「多くのファイターの戦闘データを参考にしたAI、そしてあなたたちとの戦いを想定して作り上げたガンプラ。さあ、どこまでやれるデショウか…」

 

「へええ、これはたまげた難易度のミッションだねぇ。あの3人でも防戦一方だなんてねえ」

ミッションの様子をインフォが用意したお茶を飲みながら見るイラトはその様子を見てニヤニヤと笑う。

大会に出ていないファイターでも、こうした高難易度ミッションには挑みたくなり、同時にそれをクリアするファイターの姿を見たくなるというもの。

苦戦が避けられず、いまだクリアできていないということが分かれば、なおのことだ。

いいものを置いて行ってくれたとあの営業マンには感謝しかない。

「にしても、ちょっと不満なのが…相手がよく見えないことだねえ…」

ビームを撃ってくることはわかるものの、それ以外で敵機の正体がイラト達観戦者でさえも分からない。

ほんの一瞬、シルエットみたいなものは見えたが、それだけだった。

 

「くっ…耐え忍んでも勝機はない。それに…僕もどうにか捉えられる状態にしないと!」

となれば、今の装備ではだめだ。

勇太はバルバトスゲーティアをグリモワールに向けて走らせる。

「ええ!?勇太君!?」

「主殿、何を!!」

突然の敵前逃亡のような動きを見せた彼に2人は困惑する。

だが、ミサは勇太が向かっている先にあるグリモワールに目が留まる。

「そっか…なら、足を止めないと!!」

左腕に装備されているシールドに内蔵されているビームサーベルを引き抜いたミサは上空に向けてそれを投げる。

これまで撃たれてきたビームの軌道からわかることは、少なくとも敵機は上空から撃っているということ。

曲がる軌道がないため、ゲシュマイディッヒパンツァーやレグナントの疑似GNフィールドの心配は少ない。

投げたビームサーベルに向けてビームマシンガンを1発撃ち込むとビームサーベルは爆発とともに内蔵されたビームがまばゆい光とともに拡散する。

これが効果があったのか、ビームが撃たれる様子が見られない。

その間にグリモワールにたどり着いた勇太がコマンドを入力する。

「換装開始、アーマー…フラウロス!」

入力完了と同時に低空飛行を開始したグリモワールがコンテナをリボルバーのように回転させ、真上にピンク色のコンテナが配置される。

コンテナが開くと同時にレールガンが装着されたバックパックが排出され、共に両腕パーツと両足、頭部に外付けする装備、2丁のマシンガンも同時に排出される。

バルバトスゲーティアのバックパックと両腕が外れ、排出された各パーツが装着される。

変更されたばかりの両手でマシンガンを握り、浮遊を終えたグリモワールを移動させるとともにゲーティアにツインアイを覆うように青いスクリーンが展開され、網膜投影された勇太の目に敵の正体が映る。

「見えた!!」

機体各部に青い水晶状のパーツが取り付けられた、オレンジ色のガンダム。

こちらに視認されたことに気づいたのか、そのガンダムはライフルをこちらに向けてくる。

麒麟を破壊するほどの破壊力のビームが襲い掛かるが、ホバー移動を開始したゲーティアはそのビームを避け、同時に2丁のマシンガンをその機体に向けて連射する。

襲い掛かる銃弾を見たガンダムは鳥のような姿に変形するとともに弾幕を回避していく。

「主殿!その装備は…」

「うん、フラウロスアーマー。おかげで分かったよ。相手はスクランブルガンダムだ。ガワだけは…だけどね」

ビルドファイターズシリーズにおいて、新型バトルシステムの実験機として作られたガンプラ。

アドオンの登場とシミュレーターアップデートによる新しい可能性が生まれた今の環境にふさわしい追加ガンプラと言えるが、気になるのは姿が消える手品だ。

プラフスキー粒子の暴走により、原作ではコロニーレーザー攻撃やフィールド変化などを見せたスクランブルガンダムだが、これはシステムの影響であり、スクランブルガンダムそのものによる攻撃ではない。

だとしたら、どうして消えたり現れたりの芸当ができるのか?

「確か、サクラさんが言ってた。ミラージュコロイドはミノフスキー粒子と同じ特殊粒子の一種。なら、あのクリアパーツに入っているものが…」

放出されるミラージュコロイドを機体に付着させるためのエネルギー確保のため、展開中は攻撃しない、するとしても消耗の少ないレールガン以外の実弾のみ。

そして、ミラージュコロイドで消せないものもある。

「ミサ、音だ!音で特定して!!」

「勇太君…うん!!」

アザレアが感知したモビルスーツのスラスター音。

それを元に音の発生源を割り出していく。

そして、割り出した機体の位置、そして予測ルートを勇太に送る。

「よし…いける!!」

マシンガンを投げ捨てたと同時にバックパックの下部左右、レールガンの真下あたりに外付けされた銃身を短くしたケルベロスというべきビーム砲2丁が両脇の下を通過し、逆手で持ち手をつかむ。

左右から発射されるビームが予測ポイントへと向かい、そこに出現したスクランブルガンダムがビームライフルを放つ。

麒麟を撃ちぬいたものとは違う、最大出力でのビームが放たれ、2つのビームはぶつかり合う。

「避けれたら…良かったね!!」

ぶつかり合う状況こそが、フラウロスアーマーの最高の状況。

フラウロスの最大の武器である2門のレールガンが最大出力を放つべく足を止めているスクランブルガンダムに狙いを定める。

「いけええええええ!!」

左右から発射された弾丸が動けないスクランブルガンダムに向けて襲い掛かる。

弾丸を受けたスクランブルガンダムは大きく吹き飛ばされるが、装甲が大きくへこんだ様子が見えるだけで致命傷を負ったようには見えない。

スクランブルガンダムがもとになっているのはZガンダムとデスティニー。

それ故にデスティニーのヴァリアブルフェイズシフト装甲があっても不思議ではない。

しかし、スクランブルガンダムが戦っている相手は勇太だけじゃない。

「ミサ、とどめをお願い!!」

「了解!!いっけえええええ!!!」

アザレアの新装備であるメガキャノンが展開し、最大出力でスクランブルガンダムを襲う。

巨大な資源衛星を一撃で破壊できるそのビームはスクランブルガンダムを飲み込み、消滅させた。

「はふううう…やったぁ…」

「見事だ、主殿、ミサ。それにしても、主殿が作ったサポートメカ…ゲーティアの装甲と武装を搭載しているとは…」

「うん、でも…逆に言うといきなり使うことになるとは思わなかったよ…」

まだ使っていないアーマーがあるとはいえ、この追加されたステージの1つ目がまさかの強敵になるとは思いもよらなかった。

ミラージュコロイドの抜け穴のことを知っていなかったら、このままじり貧になって倒されていただろう。

 

「ふふふ、やはり倒されまシタか。ですが、そうでなければ」

映像を止めたナジールはPDFファイルを開き、そこに描かれている複数のスクランブルガンダムの画像を見る。

それらを見つめつつ、テーブルにあるコーラを口にするナジールはキーボードを操作する。

「まだまだステージは続く。サテ…その間にどれだけの情報を手に入れてくれマスか?スクランブルガンダム…」




機体名:ガンダム・フラウロスゲーティア
形式番号:ASW-MS-00/F
使用プレイヤー:沢村勇太
使用パーツ
射撃武器:マシンガン×2
格闘武器:アサルトナイフ
シールド:なし
頭部:オリジナル(ユニコーンをベースとし、顔部分はバルバトスに近い)(スクリーンガンカメラ搭載)
胴体:ガンダムバルバトス
バックパック:ガンダムフラウロス(ビームランチャー搭載)
腕:ガンダムフラウロス
足:ガンダムバルバトスルプスレクス(外付けホバーブースター装備)

サポートメカシステムの追加に伴い、ゲーティアに追加した換装システムにより、フラウロスアーマーへ換装したもの。
バルバトスゲーティアと比較すると、両腕とバックパックを切り替えており、バックパックのレールガンとビームランチャー、両手のマシンガンにより遠距離戦闘が主体となっている。
追加装備であるホバーブースターにより、地上で水上での高機動での移動が可能。
コンバットパターンの1つとして、相手を2門のビームランチャーで攻撃し、その後で最大出力のレールガンを放つというもので、レールガンについては麒麟や破砕砲の技術が応用されたことで、最大出力での破壊力はダインスレイヴに匹敵する。
その攻撃を行う都合上、フラウロスにあった変形機構については採用していない。


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第64話 陰謀の影

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第20話「怨念」

かつて、鉄華団と名乗る少年兵の集団がいた。
今、ここにある華はその亡霊であり、彼らを弔う花々。
仇であるギャラルホルンを滅ぼすべく、忌むべき兵器を起動させる。


「うお…!今度は、そうくるのか!!」

ジャブロー内部のステージの中で、勇太たちを襲うのは幾重にも分身したスクランブルガンダムの姿だ。

以前見たそれと違いがあるとすれば、両腕に装備されているのがビームガンではなく、シュピーゲルブレードであることで、おまけにそれはふるうと同時にビームのような剣閃が飛ぶ仕組みとなっていた。

そのせいか、スクランブルガンダムの動きはガンダムシュピーゲルに近いものとなり、分身や隠れ身などの忍術のような技を使ってくる。

だが、分身でいくら数を増やそうとも、隠れ身で姿を消そうとも倒すべき本体は1機であることには変わりない。

そして、それを見つける役目があるのは勇太ではない。

「勇太君!これから攻撃してくるスクランブルが本体だよ!」

「よし!!」

背後からシュピーゲルブレードで切りかかろうとするスクランブルの位置を読んだ勇太がバルバトスゲーティアの左文字で振り返りざまに縦一文字に切る。

攻撃が当たるギリギリのところでの一撃となったことものの、やはり強敵の機体というべきか、それでも撃墜判定にならず、大きく傷ついた機体表面とコックピットがバルバトスゲーティアのメインカメラに映った。

そして、とどめの一撃が振るわれる前にスクランブルガンダムは煙のように姿を消した。

「また、姿を消した…」

「ミッションはクリアだけど…だけど、すっごい消化不良!!」

ヘルメットを脱ぎ捨て、再び逃亡したスクランブルガンダムに対して不満をあらわにする。

アドオンによって追加されたステージで、勇太たちは何度もスクランブルガンダムと交戦した。

だが、いつも撃破するギリギリのところで逃亡されてしまう。

そして、新しい装備や戦法を手に再びやってくる。

それを繰り返していると、たとえミッションをクリアできたとしても、嫌な消化不良が残り続ける。

それはミサだけでなく、このシミュレーターで遊ぶ他のファイターたちも同様だ。

「なあ、あのスクランブルガンダム、倒せたか?」

「倒せねーよ!あいつ、めちゃくちゃ強いし、おまけに逃げるし、何なんだよあれ!!」

「勇太さんたちでも倒せてねーんだってよ、ああー…どうしよう、もっと小遣いがねーと…」

ファイターとして、スクランブルガンダムを倒した時に何が起こるのかを見たいという思いは強い。

だが、どんなに願ってもそれを阻むのが次々の小遣いの限度だ。

ガンプラチームとして活躍している勇太たちはともかく、それ以外の子供たちはなけなしの小遣いでガンプラとシミュレーターで遊んでいる。

時には誕生日プレゼントやお年玉をすべてそれに使う猛者もいたりはする。

そんな彼らを刺激し、ささやかなお金をブラックホールのように吸い込んでいるのがこのアドオンだ。

「ひっひっひっ、狙い通りだ!笑いが止まらないねえ!!」

アドオンが入ってからの収支を見たイラトは過去最高の利益と、スクランブルガンダム撃破を狙って小遣いをつぎ込む子供たちの姿に高笑いする。

以前のインフォ暴走による店の修繕費による損失をカバーするにはまだ足りないが、これが続けばその分の回収ができる。

それを実現してくれたのがこの無料で入れてくれたアドオンであり、それを提供してくれたナジールにはもう足を向けて寝ることができないとさえ思えてくる。

「マスター、現在の難易度では勇太さんたちならともかく、カジュアルプレイヤーでは対応できません。少し、調整すべきではないでしょうか?」

実際、アドオンの追加ステージにおけるカジュアルプレイヤーのクリア率(あくまでも、スクランブルガンダム撃破については度外視したうえでの数字)はこれまでのステージと比較するとかなり低い。

スクランブルガンダムの性能もそうだが、NPC機体も強めの調整が入っているのも大きいだろう。

このままではカジュアルプレイヤー達がクリアできないことによってモチベーションが下がってしまい、シミュレーターから遠ざかってしまう可能性がある。

「インフォや、それではいけない」

「しかし、それでは長期的に見ては客離れの原因に…」

「難しいゲームがここにあり、財布には小遣いという挑戦券がある。そして、ガキ共には何よりも何度でも困難に立ち向かえる若さがある。昔のゲームってのは、みんな難しかったが、それでも何度もゲームオーバーを繰り返して、ようやくクリアできたものさ」

ゲーム黎明期におけるコンピューターゲームは難易度が高いのは当然の話であり、それを当然と思うプレイヤーもいたが、中には何度もゲームオーバーになることにストレスを感じてコントローラーを投げたプレイヤーもいる。

ゲームが発展し、ストーリーやプレイヤーのゲームへの没入感が追及されていくようになると、ゲームオーバーに対するストレスの増大につながったことから、難易度の低い死なないゲームへの追及が始まっていった。

今ではゲーム容量が増えたことにより、難易度設定も導入されたことでその問題はある程度解決したといえるだろう。

だが、それ故にクリアが容易になり、それと引き換えにクリア後の要素を盛り込むことになるという、ある意味では本末転倒な有様になりつつあった。

それに一石を投じたといえるのが高難易度ゲームの登場で、実際にそれがぬるいゲームを嫌うコアなゲーマー達に刺さり、大ヒットを記録した。

イラトもかつての難しかったゲーム達を思い出していた。

「だから、あたしゃ心を鬼にして言うよ。この困難を乗り越えて、ゲームの本当の面白さを、ガンプラバトルの面白さを知れ、そして強い大人になれと。そのキラキラ光るなけなしの小銭を人生というレースで、自分に賭け続けるのだと。今ここで小銭を渋って、この先起こるもっと大きな選択の時に自分に賭けられるのかと。…わかるね?」

「わかりません」

 

「うーん、困った…」

結局その日もスクランブルガンダム撃破に至らず、家に帰ることになった勇太はユウイチが用意してくれたご飯を食べ、風呂に入って今日まで戦った様々なバージョンのスクランブルガンダムのことを考える。

まるで、F90のミッションパックのような引き出しの多さで、それ故にその場その場での攻略が必要になる。

仮にサポートメカシステムがなければ、換装による対応ができなかっただろう。

そんなことを考えながら浴槽につかる勇太の耳に風呂のドアの開く音が聞こえる。

「え…ユウイチさん、もう先に入っ…ええ!?」

自分が入っていることを知ったうえで入ってくる、この家の人間はユウイチぐらいだろうと思って視線を向ける勇太の目に飛び込んだのはタオルで体を隠し、顔を赤く染めるミサの姿だった。

慌てて後ろを向いた勇太だが、脳裏には既に今のミサの姿が焼き付いている。

「な、なんでミサが入って…」

「い、い、い…いいじゃん!!恋人同士なんだし、これくらいしたっていいじゃん!!それより、もしかして…考えてたでしょ?スクランブルガンダムのこと」

「あ、ああ…うん。どうやったら倒れるのかなって…やっぱり一撃必殺で仕留めるくらいじゃなきゃダメなのかなって…」

シャワーとタオルと肌のこすれる音が聞こえ、見たいという気持ちを抑えながら勇太は先ほどまで考えていたことを口にする。

だが、一撃必殺についてはそれに相当する行為を既に初戦で行っている。

そして、そこで結果が出ていたならば、もうすでにスクランブルガンダムとのいたちごっこは終わっている。

「でも、早く倒さないと、どんどんあれでお小遣いがなくなっていく子たちが出てくるよ。みんな、イラト御婆ちゃんの財布の中に…」

「うん、けど…そんなこと言ったら戦っている相手がスクランブルガンダムじゃなくて、イラト御婆さんに…って、ミサ!!」

体と頭を洗い終え、再びタオルを巻いたミサが浴槽に入ってくる。

正面から入ってきて、その様子にゆでだこになったかと思わせるほど赤面となっていく。

サクラとは違い、ミサのスタイルは良いというわけではないが、それでも勇太にとっては今のミサの姿は刺激的だった。

「ああああ、もう出るから…あとはミサ、ごゆっくりー!!」

慌ててタオルで下半身を隠し、大急ぎで風呂場を脱出する勇太。

そんな彼を見送ったミサは脳裏に浮かぶ慌てふためく勇太の姿に思わずクスリと笑うとともに、逃げ出した彼に不満を感じていた。

 

「あああー…明日、ちゃんとミサと顔を合わせられるかなー…」

部屋に戻り、パジャマ姿でうつぶせにベッドに倒れた勇太は先ほどのミサの姿が頭から離れず、両手両足をばたつかせる。

先ほど逃げたことで、少なくとも勇太はプラトニックを保つことができただろう。

だが、逃げずに進むことでミサとの刺激的な思い出とより一層進んだ関係を得ることができたかもしれない。

そんな水星の魔女の母親の祝福とも呪いともとれる言葉をこんなとんでもないタイミングで考えてしまう勇太はまだ平常心でないことを実感する。

どうにか気持ちを落ち着かせようと、パソコンを開いた勇太は某動画配信サイトの歴代ガンダム作品のタイトルを見ていく。

スクランブルガンダム撃破につながるヒントになりそうなものを探すも、似たようなシチュエーションなどあるはずもない。

姿を消した後、そのステージで再び姿を見せることがない以上、姿を消される前に捕まえることも考える必要がある。

「ダメ元で、作ってみるかな…」

明日もおそらく、ゲーセンでスクランブルガンダムと戦うことになる。

ミサもそうだが、勇太自身も逃げられっぱなしなのには納得は行かないし、このまま指をくわえているつもりもなかった。

 

「う、ううん…ああ、寝ちゃってたか…」

差し込む日の光を感じ、机に顔を突っ伏した状態だった勇太の体がモゾモゾと動き、顔を上げる。

時計を見るとまだ午前7時で、休日であることから時間はそれほど気にしなくていい。

それよりも気にすべきは机の上にあるであろう装備の状態で、途中からの記憶がない勇太はそれに目を向ける。

記憶がなくなっている時間帯もあり、きっちりできているかの不安はあるが、見た限りでは問題のない出来栄えだ。

「あとは実際に効くかどうかを確かめたいところだけどな…」

 

ガンダムSEEDで、サイクロプスによる惨劇が引き起こされた後のアラスカ基地。

巨大な湖だけが遺されたその基地には遺体を残すことなく消えてしまった人々の怨念が宿っているであろう。

アドオンで追加された、湖と周囲に広がる森だけのシンプルなステージにやってきた勇太たち。

だが、ステージに降り立ってからは敵機の存在が確認できず、静寂のみが続いている。

「おっかしーなー…前のステージまでNPCの機体がいっぱい出てきたのに、つまんないなー」

「不具合であろうか…もう3分も経過しているのに何もいないとは…」

アザレアのレーダーでも敵機の存在を確認できず、この異様な静けさの中で勇太はこのステージに入る直前にゲーティアに搭載させた新装備に目を向ける。

腰にマウントさせたそれはアスタロトオリジンが使用しているショットガンそのものの形状ではあるが、これを使用する目的はあくまでもスクランブルガンダムを倒すための物。

「…勇太君、敵機が来る!!スクランブルガンダムだよ!」

「来た…!!」

ウェイブライダー形態で一気にステージに突入してくるスクランブルガンダムの姿をアザレアのレーダーがつかむ。

ゲーティアとアザレア、バーサル騎士ガンダムを見つけると、モビルスーツ形態へと移り変わる。

やはりというべきか、装備は以前のものと全く違うものになっていた。

見た限りでは、両腕の固定装備が取り払われて、代わりに2種類のアームド・アーマーになっているうえにバックパックについているシールドもおそらくはアームド・アーマーDE。

「今度はアームド・アーマーのてんこ盛りか…!」

地表にいるゲーティアに向けて、アームド・アーマーBSが放たれ、湾曲するビームが地表を薙ぐ。

ジェネレーター直結型となっているために、その出力はビームライフル以上だ。

「けど、ビームなら…ゲーティアのナノラミネートアーマーを突破できない!!」

バスターソードメイスを手にしたゲーティアが上空へ向けて飛び立ち、鉄塊のようなメイスを振るう。

超大型メイスに匹敵する質量の攻撃だが、左腕のアームド・アーマーVNの展開された腕がそれを受け止める。

これだけの質量の攻撃を受け止めたとなっては、たとえ頑丈なサイコフレームは大丈夫だとしても、それ以外の部位に大きな影響が出る。

左腕の関節に大きな負担がかかり、外れるなんてことも起こるはず。

だが、そんな一撃を受けたにもかかわらず、スクランブルガンダムの左腕には目立ったダメージが一切発生していない。

「嘘…!!」

ダメージがないとなると、このままではと思い、とっさにバスターソードメイスから左文字を引き抜く。

同時にアームド・アーマーVNの超高振動の爪が高硬度レアアロイの鞘を砕く。

サイコフレームの強度と超高振動の合わせ技だからこそのできる技といえる。

「バスターソードメイスを受け止めて、壊しちゃった…」

「前と同じではない…そういうことだな!!」

勇太が下がったと同時にミサがスクランブルガンダムに向けてビームマシンガンを連射し、ロボ太も上空へ飛行するとともに超電磁スピアに内蔵されているレールガンを放つ。

だが、スクランブルガンダムのバックパックに追加されたサブアームが背中に装備されているシールドを左腕部分に移動させ、レールガンとビームをそれで受け止める。

レールガンの弾丸は直接受ける形となったが、ビームマシンガンのビームはシールドに接触する直前で消滅した。

「アームド・アーマーDE!?」

「もう生半可の火力ではだめか!!」

麒麟を発射するも、0から100に一気に加速したスクランブルガンダムには当たらず、そのまま機体各部に装備されているクリアパーツから青いビームの雨がゲーティアに向けて放たれる。

1発1発のダメージは大したことはないが、それでも関節部に命中した際の影響が無視できず、上空で回避行動をとり続ける。

やがてスクランブルガンダムが接近し、ビームサーベルと左文字による鍔迫り合いに発展する。

「今度こそ…今度こそ逃がさないよ…スクランブルガンダム!!」

相手がNPCのため、そんなことを言っても無駄だということはわかっている。

だが、こう何度も逃がし続けてきてしまった以上、何らかの形で宣戦布告をしたいという気持ちが強かった。

問題なのは、どうやってスクランブルガンダムに一撃を浴びせるかだ。

今回のスクランブルガンダムはミラージュコロイドのように姿を消すそぶりは見せず、装備しているアームド・アーマーで攻撃を仕掛けてきている。

以前と比べると攻撃のチャンスは増えた装備だと言ってもいい。

それを当てることができたら、という話ではあるが。

至近距離まで近づいてくれたスクランブルガンダムに向けて、バックパックのテイルブレードが襲う。

側面からの突然の一撃に吹き飛ぶスクランブルガンダムだが、ただそれだけで目立ったダメージには至っていない。

だが、この距離がちょうどよかった。

「今だ!!」

マウントしていたショットガンを手にし、スクランブルガンダムに向けて放つ。

バラバラと放たれる黄土色の弾丸がスクランブルガンダムを襲うが、それも先ほどのテイルブレードやバスターソードメイスと同じく目立ったダメージに至らない。

一発撃っただけでショットガンを手放し、テイルブレードで攻撃を継続しつつ麒麟を手にする。

(よし…これでいい。ショットガンの役目はこれで終わり。あとは…)

「はあああ!!」

麒麟から放たれる高い破壊力を誇る弾丸に目を向けるスクランブルガンダムにバーサル騎士ガンダムがバーサルソードで切りかかり、さらにアザレアが飛行しつつ、ビームマシンガンとレールガンで追い打ちをかける。

3機による立て続けの攻撃を前に、さすがのスクランブルガンダムも回避することに集中するほかなく、ウェイブライダー形態となってその場から逃れようとする。

しかし、変形しようとしたところでギチギチと関節部を中心に変な音が響き始める。

スラスターにも機能不全が起こり、地上へ落ちるスクランブルガンダム。

転落したその機体はなおも動こうと腕を伸ばすものの、その動きもぎこちない。

「うまくいった…一発勝負だったけど…」

先ほどショットガンから放った弾丸はスクランブルガンダムを倒すためだけに用意したもの。

装甲の隙間に入り込んだ弾丸の中に入っているゲル状の物質が放出・膨張・硬質化することで機体の動きを阻害する。

アトラスガンダムに採用されたメデューサの矢で、これによって3機のズゴックを同時に撃破することに成功している。

だが、やはりこれまで多くのプレイヤーを阻んできたスクランブルガンダムだけのことがあって、なおも抵抗すべくクリアパーツからのビームがゲーティア達を襲う。

その抵抗も、これから放たれる一撃で終わりだ。

ほぼゼロ距離まで近づき、麒麟の銃口を向ける。

「爆ぜろ!!」

発射された弾丸が胴体にめり込むと同時に四肢を吹き飛ばす。

コックピットが完全に破壊される形となり、判定としても撃墜として認められる。

そして、勇太たちの目の前でスクランブルガンダムは爆散した。

「やった!!やった!!スクランブルガンダムを倒した!!」

「確かに…けど、今回の装備で出てくれていなかったら、危ないところだったけれど…」

この弾丸は午前中も作業をしても、1発分しか用意することができなかった。

今後こういう相手が出てくることはあまりないかもしれないが、そんな綱渡りな状況にならないように準備することも課題として思い浮かんだ。

「だが…これで終わりだろう?今回出てきたのはスクランブルガンダム1機のみだが」

「けど…またクリア判定が出ない…」

 

「すっげー!姉ちゃんたちがスクランブルガンダムを倒したー!!」

「やっぱ強えよ、彩渡商店街チーム!!」

モニターで勇太たちの戦いを見ていた子供たちが歓声を上げる。

こうして倒した様子を見ることができただけでも、彼らにとっては十分すぎるくらいの喜びだ。

「なーんだい、もう撃破しちまったのか。このゲーセン泣かせめ、大概にしな!!」

勇太たちがプレイしているため、もしかしたらこうなるかもとはイラトも思っていた。

だが、思っていたよりも早くスクランブルガンダム撃破をしてみせたことは誤算だ。

「自分じゃあ、勝てなかったけど…こうして倒したのを見るだけでも満足だよな!」

「だな!ちょっと使いすぎちゃったし、しばらく節約を…」

「ガキ共、しみったれたことを言うんじゃあないよ!目の前の困難を他人任せにしても、前には進めないんだよ!!これから訪れるいろんな出来事を全部だれかが代わりにやってくれると思ってるのかい?お前たちがあいつを倒すことができなかったのはクリアに値する胆力を…小遣いを持っていないからだよ!!」

「結局金じゃねーか!!」

「毎月の小遣いのやりくり、大変なんだぞー!!」

「黙りな!悔しかったら家の手伝いでもして、小遣いを増やすんだよ!!」

イラトと子供たちによる小遣いをかけた口撃が始まり、その様子はシミュレーター内の勇太たちも見ている。

「あ、あははは…イラト婆さんらしい」

「それより、もうクリアでしょー?早くリザルト画面出てよー!!」

いつまでもこのままの状態が続き、ミサは思わずモニターを叩いてしまう。

それと同時にモニターに砂嵐が発生する。

「え、ええ!?どうなってるの?もしかして、私が叩いたせいで!?」

「いや、違うぞミサ!これは…主殿!!」

「ステージが…」

アラスカ基地が徐々に砂嵐の画面に侵食されていき、それが空をも覆い隠していく。

砂嵐に覆われる中でメッセージボックスが勝手に開き、モニターにその内容が表示される。

『スクランブルガンダム撃破、おめでとう。だが、これで終わりではない。ファイターよ、真の戦いはこれから始まる。君に挑戦する勇気はあるか?』

メッセージボックスが消えると同時に、ステージ画面が戻ってきて、同時に新しいステージが追加される。

そこに映っているのは、物干し竿のような砲台を背負い、左肩部分にレドームが搭載され、さらには機体後方のプロペラントタンクと大型ブースターが装備されたスクランブルガンダム。

その様相はペーパープランに終わったSガンダムの強化プランの1つ、ディープストライカーをほうふつとさせるものだった。

「これって…」

「嘘、だろう…??」

新たなステージ、そしてスクランブルガンダムの強化体。

それに子供たちの希望に満ちた笑顔が凍り付いていき、中にはひざを折る子供もいる。

そんな中、高笑いするのはイラトのみ。

「ヒャー、ひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

「マスター、救急車呼びましょうか?」

「あたしゃ正気だよ!!あの兄ちゃんやってくれるじゃないか、こんな仕掛けがあるとはねえ。ガキ共!さあ、どうすんだい!尻尾を巻いて逃げ出すかい?」

「まだ…先があるのかよ…」

「こんなの…今のありさまで、この先の人生…もうハードモードじゃねえかよぉ…」

ゲームでさえこれほどの状態だというのに、この先の人生のことを考えるともう嫌になってくる。

それは生きる意志を奪うのに十分な破壊力と言えた。

「これが絶望…機械の私にもわかります。このお客様方の瞳から輝きが失われていくのが…」

「さあ、ガキ共!財布を開けな!小遣いを入れな!!奈落より深く底の見えないコイン投入口にねえ!!!」

怪しい光がイラトの目に宿り、吊り上がった口角と相まって、もはや人間ではなく悪魔へと変貌していくように感じられた。



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第65話 ディープスクランブル

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第21話「鎮魂歌」

彼岸花が起動させたモビルアーマー、サタナエルによって蹂躙されるギャラルホルン艦隊。
サタナエルを止めるべく、ジュリエッタと暁が挑む。



月面都市のひとつ、エアーズ市。

地球連邦政府から自治権が認められているその都市には月面の裏側に初めて建設された観測基地が存在し、その隊員を祖とする住民が大多数となっている。

それ故か、地球至上主義者が多く、グリプス戦役ではティターンズに協力し、ペズンの反乱ではニューディサイズを受け入れたことで戦場となった。

強化装備が施されたスクランブルガンダムがその上空を舞い、地上には撃破されたガンプラの残骸が転がる。

本来であれば、撃破されたガンプラは消滅する。

だが、今回のステージは特殊で、この強敵に敗れたガンプラの残骸はフィールドに残り続ける仕組みとなっている。

「ウヒャヒャヒャヒャ!!笑いが止まらないねえ!圧倒的だねえ!!」

シミュレーターから出てきた子供たちがその圧倒的な存在に涙を流すことさえできず、抜け殻のようにベンチに座り込む。

「どうすりゃ、勝てるんだよ…これ…」

「レイドしても無理なのかよ…」

シミュレーターのイベントとして、ネオ・ジオングやデストロイガンダム、ガデラーザなどの巨大ボスとの戦いの際には4人チームではなく、オンライン上でマッチングしたファイターを含めた合計8人チームでのバトルになるステージが出てくることがある。

今回の強化型スクランブルガンダム、ディープスクランブルは選択式で8人チームとなることが認められているが、そのチームですら今回、このディープスクランブルに手傷を負わせることさえできなかった。

そして、その分だけこのエアーズ市には敗れたファイターたちの亡骸が転がることになる。

このステージが現れて1週間。

多くの子供たち、そして彼らの仇を討つべく挑む大人たちもこの強敵の前に砕け散り、その度にこのベンチにうずくまるようになった。

「なんということでしょうか…機械である私にもわかります。絶望がここだけではなく、世界各地に広がっている…」

インフォが持つタブレット端末にはSNSが表示されており、そこには今回のステージに関してのコメントやバトル動画が数多く寄せられている。

いずれも敗れたことを証明するもので、コメントも絶望一色。

更なる絶望を誘ったのがプロファイターによるバトル動画だ。

そのファイターは世界選手権にも出場した経験があり、愛機であるノイエ・ジールで戦いを挑んだ。

最初こそは互角に戦っていたが、次第に性能差で押されていき、最終的には主砲砲身ユニットによる最大火力のツインバスターライフルに匹敵する出力のビームで撃ちぬかれる形で敗れた。

その残骸もまた、フィールドに残っており、プロでさえ勝てないという事実を容赦なく突きつけた。

 

「まさか、世界選手権クラスのファイターでも勝てないなんて…」

昼休み、学校の屋上でミサと一緒に昼食をとりながらスマホでそのバトルの映像を見る勇太は改めて、今子供たちを絶望に陥らせているディープスクランブルの強大さを感じていた。

認めたくはないが、今の自分たちのチームが束になってもあれには勝てない。

「スピードもあって、火力もあるうえにIフィールドまで…接近戦に持ち込めば少しはやりようはあると思うけど…」

強化装備が施されたことで大型化したなら、どうしても動きが雑になり、近接戦闘においても不利になる。

ゲーティアの武器であれば、接近することでどうにかディープスクランブルを攻撃することはできるだろう。

しかし、圧倒的な火力と弾幕をどうかいくぐるか。

ナノラミネートアーマーであっても、今のディープスクランブルの火力に耐えきれる保証はない。

「ああ、だめだ。煮詰まってしまう…。昼ごはん食べてしまわないと」

一度スマホをポケットにしまった勇太は弁当に入っているウインナーを口にする。

「ど、どう…?勇太君。おいしい?」

「ん…おいしい。おいしいよ」

「そっか、よかったぁ」

おいしそうに弁当のおかずを食べていく勇太の姿にミサは安心したように表情が緩む。

ミヤコに頼み込んで弁当の作り方を教えてもらい、何度か失敗を重ねながらようやくできたものだ。

作っている中でミヤコからからかわれたことを思い出す。

「それで、勇太君、私たちもレイドで戦う?ウィル達も誘ってみる?」

「ウィリアムは難しそうだ…あとのみんなにも、声をかけてみるけど、タイミングが悪そうだよ」

ツキミとミソラは鹿児島ロケットのバイトの研修期間中で、彼らの面倒を見ているロクトも新型ロケット開発で忙しい。

ウィルはCEOとしての仕事がある以上は抜け出せず、サクラは大学の集中講義を受けている真っ最中。

タケルについては連絡が取れず、ホウスケも海外へ武者修行の旅に出たとのことで連絡が取れなくなっている。

勇太たちの活躍を見たことで火が付き、学校を休学してまで旅立つという覚悟には頭が下がる。

ホウスケの親御さん曰く、当分は帰ってこないらしい。

連絡先を交換すればよかったと後悔してしまう。

「勇太君、ミスターガンプラはどうなの?」

「あの人もダメだよ。今、宇宙で仕事中」

あの事件以降、修理が行われている軌道エレベーターの宣伝ということでミスターガンプラは動画配信サイトやSNSを利用して宇宙におけるガンプラバトルの可能性というテーマで配信を行っている。

宇宙に出ることで人間の今まで使われていなかった脳が活性化し、それがガンプラバトルにも新しい可能性を与えるとのことだ。

そんな仕事の真っただ中だから、助っ人に行きたくてもいけないだろう。

「じゃあ、私たちだけでどうにかするしかないんだね…」

「早くしないと…でないと、もっと大変なことになるよ」

あれから1週間、あのディープスクランブルを倒す作戦を練る中で絶望に染まる子供たちの姿を何度も見た。

最近では大人たちにも絶望が波及し、その一方でイラトの懐が温まっていく。

このままで人々に夢を与えるはずのガンプラが絶望の象徴に変貌してしまう。

「となると、完成させないと。アザレアの新しい装備を…」

 

「さあ、そこだよ!!やってしまいなぁ!!」

「うわあああ!!また、負けたぁ…くそぉ!!」

モニターに映るディープスクランブルがブルデュエルに急速接近し、右手に握るビームライフルを放つ。

シミュレーターの明かりが消え、ミューディーに似たノーマルスーツ姿の女性ファイターが悔しがりながらコンソールを叩く。

倒れた仲間の姿にヴェルデバスターが全身の火器を遠慮なしに解き放つ。

ビームとミサイルの雨あられが襲う中でも、ディープスクランブルは搭載されているIフィールドでビームをしのいでいき、主砲や本体に当たりそうなミサイルだけをビームライフルで破壊していく。

その中でストライクノワールがビームブレイドを引き抜いて接近する。

「へっ…肉薄すりゃあ、あとは…」

このチームで接近戦に最も強い彼ならやってくれる。

そう信じるヴェルデバスターを四方八方から赤と白のカラーリングのファングが襲い掛かる。

先ほどの一斉射撃によって、バッテリー切れとなったヴェルデバスターにはそれを受け止める力も避ける力も残っておらず、ただビームと本体によって穴だらけにされる形で散る。

道を切り開くために倒れた仲間たちのためにも、あのディープスクランブルにとどめを刺すべく切りかかるストライクノワール。

だが、AIがそのような思いをくみ取ることはなく、左腕の動きを阻害するシールドとビーム砲を強制排除し、左腕のビーム砲からビームトンファーを展開してフラガラッハを受け止める。

二刀流となっているフラガラッハ2本をまとめて受け止めるだけの出力が今のディープスクランブルには存在し、動きを止められたことでこのチームの勝利を打ち砕く。

ヴェルデバスターを蹂躙したファングが戻ってきて、バックパックをビームで攻撃し、スラスターに小規模な爆発が起こると同時に推力を失ったストライクノワールが地上へと転落していく。

月面故か、それは地球の重力と比較するとゆっくりであり、力なく落ちていく愛機に銀髪のファイターは唇をかみしめる。

「こんな敵が…ステージに登場するというのか…」

落ちていくストライクノワールに照準を合わせたディープスクランブルの主砲から大出力のビームが放たれる。

胴体と頭部が消し飛ぶほどの火力のビームが無人のエアーズ市に突き刺さり、そこを中心にクレーターが出来上がる。

そして、その周辺にはストライクノワールの手足が転がっていた。

 

「嘘だよな、あれ、チームPPだよな?県大会にも出てた」

「負けたのか、そりゃあ…プロでも負けてる奴らがいるしなぁ」

もはや、敗者たちが気持ちを落ち着かせるためだけに存在しているとさえ思われるシミュレーター前のベンチに、戦いに敗れた3人が真っ白になってうずくまる。

ここ以外の、あのアドオンを手にしたゲームセンターのシミュレーター付近にもこういう場所があるのかもしれない。

そして、その光景に喜びを見いたしているのは一人だけ。

会計日記帳に嬉しそうに今日の儲けとあのステージの挑戦者の人数を記載しているイラトのみ。

「どうだいどうだい?ゲームをなかなかクリアできない、痛さと怖さを十分教わっただろう?さあ、まだまだチャンスはあるよ。小銭がある限りねえ!」

ここにいる面々誰もが、このディープスクランブルとの戦いに何度も挑んでは敗れている。

小遣いを使い果たすか、その前に心が折れた戦士たちはここで戦いと現実の無常さを思い知り、そして店を後にする。

だが、どんなに無常を知りながらもレイドがあることで一抹の可能性にかけ、そしてクリアという未知の光景を見たいという好奇心が再び再起させる。

それを何度も何度も叩き潰され、無意味だと知りながらも挑むしかない悲しい性がイラトの売り上げに貢献する。

「さあ、次はだれが挑むかね?誰がこのブラックホールに小銭を…」

「私たちだよ!!」

バンと扉が開き、大声で守銭奴に宣戦布告するミサに全員の視線が向かう。

ミサと勇太、ロボ太が入ってきて、3人はシミュレーターに乗り込む。

レイドバトルで、ランダムマッチを設定したうえで小銭を入れ、ガンプラをセットする。

イサリビの格納庫のような空間に移動し、勇太はグシオンリベイクフルシティに似た装備のゲーティアに乗り込む。

バルバトスアーマー、フラウロスアーマーに続く、ゲーティアの新しいアーマーであるグシオンリベイクアーマーは防御力と攻撃力を重視したもので、バスターソードメイスの扱いに最もたけているといえるもので、備え付けられているそれを軽々と手に取る。

いつもならバルバトスアーマーで出撃し、状況によって換装するつもりでいたが、今回はそれほど様子を見る必要はなく、あの主砲を受ける可能性を考えると、この装備の方がいい。

一方のアザレアとバーサル騎士ガンダムはアザレアと似た色彩のメガライダーに乗り込んでいる。

アザレアが前の座席に乗り込む形で、その後ろにバーサル騎士ガンダムが頭だけを出している状態で装着されている格好だ。

「ロボ太、どう?そっちからでも操縦できるようになってる?」

「問題ない。最も、手足が自由に動かせないというのには違和感があるが…だが、このような形のサポートメカもあるとは…」

「ルール上、サポートメカを自動操縦することができないからね。さあ…行こうか。沢村勇太、グシオンリベイクゲーティア…」

「井川美沙、アザレアリバイブ!」

「ロボ太、バーサル騎士ガンダム!」

「彩渡商店街ガンプラチーム!!」

「出るよ」

カタパルトが起動し、勇太たちが飛び出し、その後でゲーティアからの操作でグリモワールも飛び出す。

先に倒れたファイターたちのガンプラの残骸があふれるエアーズ市にレイドによってマッチングされた5人のファイターも現れる。

「おお、あの世界選手権にも出た彩渡商店街ガンプラチームと組めるなんてな、ついてるぜ!」

「油断してはだめよ、相手が相手なんだから」

「わかってるって、ありえない強さだってことくらい」

アレックスの女性ファイターにたしなめられるザクⅡ改のファイターも、これまで何度かディープスクランブルと戦い、負けてきたことからその強さは嫌というほど知っている。

負けては何度もシミュレーターで練習し、同時にガンプラも改良を重ねてきた。

今度こそ、今度こそと甘い毒に踊らされていることはわかっている。

だが、それでも勝利という希望が見えるのであれば、そんな毒は飲みつくしてやる。

他にも、デルタプラスとその背中に乗っているジェスタ・キャノン、ガンダムファラクト、グエル専用ディランザの姿もある。

彼らの戦うべき相手であるディープスクランブルはさっそくあいさつ代わりと言わんばかりにビームライフルとビームキャノンで攻撃を仕掛けつつ、機体下部に搭載されているファングを射出する。

激しいビームの弾幕を前に、全機が散開していく。

「なめるなよ、このディランザはある程度のビームには耐えられるんだよ!!」

エアーズ市の道路に着地し、ホバー移動を開始するディランザを2機のファングが襲うが、命中することなど歯牙に駆けずに突き進む。

水星の魔女第1話で確かにスレッタのエアリアルのGUNDビットにハチの巣にされる形で敗北したグエルのディランザだが、今見せているホバー移動による機動力にシンプルな兵装、そして高い耐久性の存在から、決して弱い機体などではない。

そして、今のディランザにはゴーストガンダムに採用された耐ビームコーティング付きリアクティブアーマーが全身に施されている。

色彩そのものはグエル専用ディランザと同じものになってはいるが、さらに堅牢になった守りについてはファングからのビームを受けても、何ともなく、サーベルを展開して突っ込んできてもリアクティブアーマーとしての機能が発動し、ファングを道連れに爆散し、本体を守る。

「Iフィールドで機体が守られているなら、こいつを使うだけだ!!」

ビーム主体のディランザの通常装備ではIフィールドで弾かれて終わるだけのため、新たに装備したドムトルーパーのギガランチャーで死角となりえる下部から攻撃を仕掛ける。

実体弾による攻撃で機体下部に設置されているファング射出機をシュトゥルムブースターともども破壊することには成功した。

当然、それが破壊されることは想定されている設計になっているのか、補助のスラスターが展開されると同時に真下にいるディランザを現状においての最優先排除対象と認識するディープスクランブル。

まだ残っているファングがギガランチャーとさらには背中に装備されている、ケンプファーアメイジングから流用した武装コンテナを襲う。

コンテナとギガランチャーには装甲と同様の措置を施すことなどできず、やむなく損傷したギガランチャーを手放し、使用不能になった予備のギガランチャーの入ったコンテナをディープスクランブルに向けて射出する。

当然、彼とて単独で攻撃しようとしたわけではなく、彼の突撃を援護するためにデルタプラスやアザレア、ジェスタキャノンが前方から攻撃を仕掛けて注意を向けていた。

だが、今回のディープスクランブルに搭載されているAIはかなり賢い分類に入っていた。

ディランザへの対応をファングで行い、正面からの攻撃に対してはミサイルやビームライフルで対抗していた。

そして、ビームコーティング付きリアクティブアーマーへの対抗策としてファングをぶつける手段をためらいなく取り、それによってファングとアーマーが相殺していく。

「くそ…まだ落ちるわけにはいかねえ!こいつを撃ち尽くすまでは!!」

幸い、今回は頼もしい味方として彩渡商店街ガンプラチームもいる。

彼らがいるなら、何か奇跡が起こるかもしれない。

かつて軌道エレベーターでの事件で奇跡の生還を果たした時のように。

無駄に避けても、機動力の高いファングには無意味だと考え、ギガランチャーを撃つことだけに集中する。

やがてファングはそのギガランチャーをビームで破壊すると、むき出しになった本体をビームの十字砲火が襲う。

水星の魔女のディランザと同じやられ方になるが、それでも傷の一つでもつけられたこと、それがほんの少しでもレイドしている彼らの助けになることを願いながら退場した。




機体名:グリモワール
勇太が制作したゲーティアのサポートメカ。
小型化したプトレマイオスというべき形状をしており、搭載されている3つのコンテナにはそれぞれバルバトスアーマー、グシオンリベイクアーマー、フラウロスアーマーの装備が搭載されている。
前線においては状況に応じてアーマーを放出し、ゲーティアに装備させることが役目となっており、戦闘そのものは想定していない。
GNフィールドを展開できるよう粒子貯蔵タンクは搭載されているが、非武装のため、狙われた場合は勇太が遠隔操作するか、ゲーティアや仲間に助けてもらう必要がある。


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第66話 危機を超えろ

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第22話「鎮まらぬ魂」

サタナエルとの攻防は続く中、戦艦ギャラルホルンとテイワズ・ギャラルホルン残党連合艦隊が血で血を洗う激闘を続ける。
ライド駆るガンダム・オリアスと刃を交えるのはかつてのタービンズで触れ合った名瀬の子供たちの成長した姿であった。


「う、うおおおおお!!」

ディープスクランブルから放たれるメガ粒子砲のビームがゲーティアを襲い、装甲に接触する直前で弾けとび、周囲のガレキやモビルスーツの残骸を焼いていく。

「ナノラミネートコートで作った装甲なんだ。これでビームなら…!!ミサはファングを!!」

「了解!このファング…サクラのものとは違って、読みやすい!!」

サクラのファングはトランザムミラージュの制御装置という意味合いが強いものの、スローネツヴァイやアルケーガンダムと同様に武器として扱うことも可能で、サクラと決闘をする中でそのファングの動きをいやというほど見てきた。

ディープスクランブルは強力なガンプラで、CPUの難易度も高く設定されているが、AIであることには変わりない。

それ故にサクラのものと比べると若干ましだ。

あとはある程度絞った軌道予測位置にビームマシンガンの弾丸をばらまくことで、ファングを撃破していく。

メガ粒子砲とファングが封じられ、ゲーティアとアザレアに攻撃を集中させたことへの付けはすぐに回ってくる。

デルタプラスの背に乗ったザクⅡ改が脚部のミサイルポッドを全弾発射しつつ、側面から接近していた。

Iフィールドでは防げない実弾のミサイルがメガ粒子砲の砲身に接触する。

ビームを放っている最中でのミサイル攻撃にはさすがの本体も耐えられずに爆発し、最大の攻撃力を失ったディープスクランブルだが、反撃のビーム砲がサブフライトシステムとなっていたデルタプラスを貫く。

爆発するデルタプラスから飛び降りたザク2改がディープスクランブルに取りつき、右手にヒートホークを握る。

先ほどの攻撃でミサイルは使い果たし、マシンガンも既に弾切れになっていることから捨てている今はこれしか武器が残っていない。

だが、ザクⅡ改のヒートホークはガンダムNT-1にとどめを刺したガンダムキラー。

頭部にとりつくことができれば、そのまま頭をつぶしてメインカメラを失わせることができたが、残念なことにとりつくことができたのは後部ユニットで、頭部には届かない。

それでも武装の大半の根元となっている後部ユニットをつぶすことができる。

しかし、ファイターにはあり、AIにはないものがあり、それがバトルでも影響を与えることを彼はあらためて思い知ることになる。

感情のあるファイターがモビルアーマーに乗り込み、敵のモビルスーツにとりつかれると、わずかに動きや判断が鈍ることがあるだろう。

それに対してAIは感情がなく、パターンがある以上は瞬時にパターン通りの動きができる。

ためらいなくストライカーユニットを強制排除し、本体であるスクランブルガンダムがビームスマートガンを手にすると排除したユニットから距離をとっていく。

そして、ユニットに内蔵されている自爆装置が起動し、それに飲み込まれる形でザクⅡ改が消し飛んでいった。

 

「また味方が!!」

「でも、もうこれでファングもメガ粒子砲も使えなくなったよ!スクランブルガンダムだけなら、姉ちゃんたちは負けないよ!!」

「いけー!俺たちの小遣いを守ってくれー!!」

モニターに映る勇太たちの戦いぶりに、先ほどまでは絶望に染まっていた子供たちの瞳に光がよみがえってくる。

「ええい…情けないね!さっきまでの戦いぶりはどうしたんだい!これでおしまいじゃないだろうねえ!!」

相手が勇太たち綾渡商店街ガンプラチームであるため、押されることくらいはわかっているイラトだが、まさか切り札であるディープストライカーのユニットそのものを失うことになるとまでは思わなかった。

このままでは押し切られる可能性が頭をよぎるイラトはナジーンに言われたもう1つのコードを思い出す。

これはシミュレーターにアドオンを入れてもらった後、別れ際に教えてくれたコードだ。

(いいデスか?このコードは…いわゆる隠し玉デース。1度だけシカ使えませんガ、きっとファイターも、アナタも、びっくりするこト、間違イありませーん)

「本当にびっくりさせてくれるだろう…ねぇ!!」

タブレット端末に教えられたコードが入力され、その影響は即座にディープストライカーユニットを失ったスクランブルガンダムに発生する。

「う、ウソ…」

「何これ…??」

スクランブルガンダムがバリアに包まれ、その中でまるでデビルガンダム細胞に侵食されたかのように変異をしていく。

質量を無視した巨大化にクリアパーツでできた翼の出現。

バリアが解除され、そこに現れたのはウィングゼロのような翼を生やしたPGクラスのスクランブルガンダムといえる存在。

ディープスクランブルを上回る全長となり、スクランブルガンダムをはるかに上回る性能であろうことはその出来栄えとPGの姿からも明白といえた。

「来るぞ!全機、散開しろ!!」

ロボ太の叫びが通信機に響くとともに、スクランブルガンダムがともにPG化したビームスマートガンを放つ。

PGとなったそれの破壊力はサテライトキャノンに匹敵し、エアーズ市にビルも撃破されたモビルスーツの残骸も容赦なく消し飛ばしていった。

外壁を突き抜け、宇宙の果てまでとんでいくそのビームには勇太も戦慄せざるをえなかった。

(あんな出力のビーム…グシオンリベイクアーマーでも耐えきれるかどうか…)

問題なのはあのビームスマートガンの次弾発射までのインターバルだ。

ビームスマートガンとビームライフルに違いがあるとしたら、ムーバブルフレームを介してモビルスーツに接続されているか否かといえる。

ムーバブルフレームが採用されている時代のモビルスーツの多くが装備しているビームライフルはEパック方式を採用しており、それにより戦場でもEパックを交換するだけで容易にビームライフルの再利用が可能となっている。

それに対して、ビームスマートガンは一年戦争から使われている旧来のエネルギーCAP方式を採用しており、ライフル内部に存在することから弾切れになると戦場での再チャージはできず、母艦や基地に戻ってチャージを待つか、予備のライフルを持っておくかをしておかなければならなかった。

一年戦争時代の地球連邦軍でビームライフルの仕様が少数にとどまった理由の一つがそれで、大気や何らかの塵によって遮られてエネルギーと集束性が減衰しやすいことに加え、直進性の高さゆえに稜線などの障害物を越える曲射が行えない点も相まって、本格的なビームライフルの採用はEカップ方式が採用されるグリプス戦役の直前頃まで待つことになった。

しかし、ビームスマートガンの場合はムーバブルフレームそのものにエネルギーCAPへのエネルギー供給用の動力チューブや相互のセンサーのデータをやり取りするコネクターをとりつける必要があるものの、モビルスーツとの接続を行うことで、銃身を機体本体に固定することができることから近距離から長距離までの精密かつ安定した射撃が可能な仕組みになっている。

そんなものがサテライトキャノンのような出力まで増強された状態で発射されたとなると、どれほどの脅威かは想像できるだろう。

「あんなのを撃たせるわけには…!!」

ガンダムNT-1が内蔵されている腕部ガトリング砲を展開し、ビームスマートガンを握る手に向けて発射する。

耐久性に課題があったとはいえ、ケンプファーをハチの巣にすることのできた兵装であるそれでなら、ある程度のダメージを与えることができる。

実際、その攻撃に対して警戒すべきと判断したのか、スクランブルガンダムは左腕のビーム砲を使ってガンダムNT-1に攻撃を仕掛ける。

マグネットコーティング等で引きあがった反応速度を使い、そのビームを回避するガンダムNT-1だが、ファイターはPG機体とHG機体の出力の差を身をもって味わうことになった。

確かにビームの奔流からは逃れることはできただろうが、ビームマグナム然り、ガンビットライフル然り、それだけでは安心できないのが大出力のビーム兵器の怖さだ。

かすめただけのはずのギラ・ズールが爆散し、本流から逃れたはずのデスルターの両足が消し飛んでいる。

その例が今回も示されており、本流に近い位置にあったガンダムNT-1の左腕が消し飛び、さらには頭部パーツの左半分も焦げ付き、メインカメラも損傷させた。

そのせいで全周囲モニターの左側の大部分がブラックアウトする。

「まだ…右側は見える!!」

ガトリングの残り弾数とこのダメージでは、もうこれ以上の戦闘は難しいだろう。

だが、せめて一矢は報いて見せるとガトリングによる攻撃を続け、さらにはバルカンでも攻撃する。

武装の大半を失い、それでもネオ・ジオングにバルカンを斉射しながら突撃したシルヴァ・バレトのように。

その無謀な突撃をあざ笑うようにスクランブルガンダムの左拳がガンダムNT-1の胴体を貫く。

頭部と四肢が宙を舞い、破砕された胴体パーツの残骸があたり一面に転がった。

ほんのわずかな時間で、一気に3機の味方を失うことになった。

「このエネルギー反応…まずいな。もう発射可能だなんて」

PGとなったことで小回りが若干悪くなっているとはいえ、エネルギーチャージを終えたあのビームスマートガンを発射しようと動くスクランブルガンダムにファラクトのファイターは表情を変えず、パーメットスコアを3まで引き上げて、コラキを放ちつつ、ビームアルケビュースの照準をビームスマートガンに向ける。

ガトリングの攻撃で若干損傷はしているとはいえ、それでも発射に支障のない状態の右腕だが、彼が狙っているのはそれではなく、ビームスマートガンの銃口だ。

「商店街チームのみんな、頼みがある。残念だけど、とどめは君たちに任せることになる」

「一体、どうするつもりなんです??」

モニターに映る、アスティカシア学園の通常のノーマススーツ姿のファイターの、強化人士4号をほうふつとさせる口調での通信に勇太が答える。

「この1発はどうにかして避けるけれど、またあのビームを発射する可能性がある。けれど、それが最大の好機になる。で…今の装備では…僕が一番狙撃に向いてる」

「確かに、それはそうだけど…」

フルフォースの装備であれば、狙撃能力ではファラクトと互角であろうアザレアだが、リバイブ装備となった今は違う。

火力増強と引き換えに狙撃の機能が若干犠牲になっている。

「あれはサテライトキャノンレベルの破壊力。それは、わかり切ってる話だよね」

「それはそうだけど…うわっ!!」

再び飛んでくるビームスマートガンのビームの奔流がゲーティアに直撃コースで飛んでくる。

焼き尽くされ、パーツが徐々に吹き飛んでいくが、それはグシオンリベイクアーマーのもので、それが盾となってゲーティア本体へのダメージを防いでいく。

ビームが収まると同時にもう守りとしての役割を果たせなくなったアーマーを強制排除し、バスターソードメイスから左文字を引き抜く。

本体へのダメージは最小限に収まったものの、サテライトキャノンの熱によってナノラミネートアーマーは無力化された。

すぐにでもグリモワールに戻ってバルバトスアーマーを装着したいところだが、むやみに動けばグリモワールを真っ先に狙われることになる。

「作戦はこう…。ちょうど、おとりになるものもあるし」

いつの間に作ったのかわからない、対PGスクランブルガンダムの作戦プランのデータが各機に送られる。

そして、ファラクトが射出したコラキが電磁ビームを形成してスクランブルガンダムに接近する。

本来の機体相手であれば、コラキの電磁ビームによって一時的に機体の一部に動作不良を引き起こす。

だが、スクランブルガンダムのクリアパーツから放出される青い粒子がバリアとなって電磁ビームを防ぎつつ、バルカンでコラキを撃ち落としていく。

ビームアルケビュースによる狙撃、アザレアのメガキャノン、ゲーティアの麒麟、バーサル騎士ガンダムの電磁ランス内蔵レールガンもそのバリアを貫くことができない。

接近しようにもそれは無理なようで、バリア内部へ突入しようとしているコラキがバリアに触れた瞬間、スパークを起こして爆散する。

「バリアだって、無限じゃない。それに、あのビームを撃つなら、いつまでもバリアにエネルギーを回したくないだろう?覚悟を決めるさ…」

最後の行動をとるなら、もうデメリットはあってないようなもの。

ためらわずにパーメットスコアを一気に6まで引き上げるとともに、ファラクトのシェルユニットの色が赤から青へと切り替わる。

バトルシミュレーターにおいても、パーメットスコアの引き上げについては実装されているが、さすがにデータストームによって命を落とすというところまでを再現するわけにはいかない。

パーメットスコアゲージという独自のゲージが設定され、スコア2までは動きはないものの、3以降になるとスコアを引き上げるにつれてゲージが低下していき、0になると強制的に撃墜扱いになる仕組みになっている。

今のファラクトの出来栄えでは最大のスコアは6で、それが危険であることを指し示すかのように猛スピードでパーメットスコアゲージが低下していく。

だが、彼はもう長期戦をしようという気持ちはない。

より精密な動きが可能となったコラキがバリアに阻まれて無意味だということはわかっているにもかかわらず電磁ビームを放ち続け、時折バリアへの突入を図り、爆散する。

エアーズ市の外壁を自ら破壊したことや街そのものの損傷により、月面の土であるレゴリスが市内に流入している。

電磁ビームを幾度か受けることで電磁化した機体にレゴリスが付着して動きが阻害されるというケースがあり、実際にファラクトと対決することになったディランザはそれによって動きが鈍ったところでコラキで完全拘束され、そのまま敗れていく。

PG機体の場合は若干レゴリスが付着しても動くことができるが、大量のレゴリスを受けた場合はその限りではない。

現にゲーティアは麒麟の照準をスクランブルガンダムではなく、その足元に向けていて、弾丸が道路を砕き、その下に隠れている土を巻き上げていく。

ここは倒すべき相手をファラクトとしたスクランブルガンダムがビームスマートガンの銃口をファラクトに向ける。

エネルギーをビームスマートガンに注ぐためにバリアを解除する必要があり、それによって残りのコラキの電磁ビームが当たる可能性はあるが、機体の電磁化は電磁ビームを何度も受けることで発生するイレギュラーなケースであり、バリアを解除する時間と本体であるファラクトの撃墜を考えるとリスクは低い。

「バリア解除を確認。あとは…」

スコアを6まで引き上げたことで知覚リンクの精度も引きあがっており、ビームアルケビュースの銃口をビームスマートガンの銃口に向け、ビームを発射する。

ロックオン兄弟の狙い撃ちと早撃ちを混ぜたような技は、本来であれば両立できるはずのないものだが、パーメットスコアを6まで引き上げ、機体制御に完全に思考を向けたことでそれが可能となった。

「全エネルギーをビームアルケビュースに集中…発射」

ファラクトから放たれるビームはビームスマートガンの銃口へと吸い込まれていく。

内部に大きなダメージを負うことになったビームスマートガンは蓄積されているエネルギーが暴走し、大きな爆発を引き起こす。

「はあ、はあ、はあ、はあ…これで、限界か…」

これほどの爆発を間近で、バリアなしで受けることになったのであれば、さすがのスクランブルガンダムでもダメージを避けることはできないだろう。

エネルギーを使い果たすことになったファラクトが地面に墜落し、同時にパーメットスコアを2まで低下させる。

スコアゲージを使い果たしてもいいと思っていた彼だが、まだわずかにゲージが残っており、3以上に引き上げることさえしなければ、継続戦闘は可能だ。

「無欲の結果…というもの、かな」

「いけるよ、勇太君!」

「ああ…やろう、ミサ!!」

グシオンリベイクアーマーを強制排除しているゲーティアは既にアザレアブラスターの発射態勢に入っていた。

爆発の煙が晴れていき、そこには右腕と右半分が爆発の影響でダメージを受けたスクランブルガンダムの姿があった。

まだ左腕は生き残っており、その姿はまるでスレイヴ・レイズに羽交い絞めにされた状態で自爆攻撃を受け、大ダメージを受けながらもなおも戦闘を継続しようとしたペイルライダーとも重なる。

無事な左腕に内蔵されているビームガンを放とうとする様子だが、もう遅い。

「「アザレアブラスター、発射!!」」

アザレアブラスターから放たれる大出力のビームがスクランブルガンダムの胸部へと襲う。

ダメージのせいでもはやバリアを展開することができず、撃ちぬかれたスクランブルガンダムがバラバラになる。

「な、な、な、な…なんだってえーーーーーー!!!」

イラトの叫びがこだまする中でバラバラになったスクランブルガンダムが爆散し、ゲーティアから分離したアザレアブラスターが元の状態に戻る。

「やったぁーーーー!!やったね!!」

「うん」

ゲーティアとアザレアがハイタッチを決めた後で、墜落した状態のままのファラクトの元へと向かう。

ファラクトのコックピットが開き、その中からファイターが出てくる。

「ありがとう、あの狙撃のおかげでスクランブルガンダムを倒すことができた」

「別に…このまま何もできずに負けるのが嫌だっただけだし…じゃあ」

「待って、せっかくだから…名前を教えてくれる?」

「…遠見、映司…」

名前を言い残し、エイジと名乗ったファイターとファラクトがログアウトしていった。

 

「希望は…あったんだ!!」

「綾渡商店街ガンプラチーム!ありがとう!!」

シミュレーターから出てきた勇太たちを子供たちの感謝の声が迎え入れる。

ロボ太には子供たちが群がり、彼らの笑顔にミサも笑顔で応える。

「かぁーーーー!!なんだいなんだい、隠し玉を出したのに、クリアしちまうなんてねえ。まあいいさ。他の客で稼いでやるさね」

一組クリアしただけなら、それを使ってクリアできる可能性があるから挑戦できると宣伝できる。

世界選手権に出場した彼らがクリアしたこの最難関ステージをクリアできたなら、彼らと肩を並べることができることの証明となる。

そうなれば、小遣い小遣いとうるさい子供たちよりも、腕に覚えのあるファイターを集められる。

その計画を練るイラトだが、モニターに新たなメッセージが入ってくる。

「真のスクランブルガンダムを倒せし者よ、君の力に敬意を表する…」

「なお、このステージのクリアをもって、このアドオンは自動的に消去される。プレイしてくれてありがとう…ええ!?」

「な、なんだってえ!?」

「ああー、遅かったかぁ」

大慌てでゲームセンターに入ってきたカドマツがモニターを見た瞬間、一歩遅かったかと肩を落とす。

「カドマツ、どうしたの?」

「いやな、最近あちこちのシミュレーターに導入されたアドオンがな、クリアしたとたんに消えるって聞いてな。そんな仕掛けなんて普通なわけないだろ?ということで、ちょっと興味があったんだが…タッチの差でクリアされて、消えちまったってわけだ」

「そうですか…なんだか、すみません…」

「いや、お前らのせいじゃない。そもそもおかしいしな、そんなアドオンなんて。おい、婆さん。アドオンのことなんだが…なぁ、婆さん、婆さん?」

隣にいるカドマツが何度も声をかけても、返事をすることがないイラト。

じっとモニターを見つめ、耳元から声をかけても応答することはない。

「婆さん…?おい、救急車を呼べ、婆さん、白目をむいてるぞ」

 

「ふーん、やはりクリアされましタカ。やはり、ここの場合はこの難易度が正解だったみたいデスねぇ」

とある町の個室喫茶店で茶を飲むナジールがスマホで勇太たちの戦いぶりを見る。

裏コードに仕込んでいたPGのスクランブルガンダムまで倒してしまうとは思わなかったが、ナジールにとってはそんなことは重要ではない。

問題はもう1つで、既に導入したアドオンの多くの消去を確認済みだ。

スマホに非通知の番号が入る。

「もしもし、首尾はどうでしょうカ?」

「上々だね、ナジール。パケット追跡によってガンプラバトルシミュレーターのネットワークシステムの解析。しかしまあ、よくもまあ数多くのシミュレーターにアドオンをインストールできたねえ」

「新たな敵、強い敵と聞けば、挑戦せずにはイラレナイ。ファイターのスピリットを逆手にとっただけデース」

「ははは、なるほど。これだけのデータがあれば、次の準備ができる。次の仕込みができたら、また連絡するよ」

「ふふふ、引き続き、頼みマスよ、ミスターバイラス」




機体名:ガンダム・グシオンゲーティア
形式番号:ASW-MS-00/G
使用プレイヤー:沢村勇太
使用パーツ
射撃武器:麒麟
格闘武器:バスターソードメイス(左文字を内蔵)
シールド:シザース内蔵リアアーマー
頭部:オリジナル(ユニコーンをベースとし、顔部分はバルバトスに近い)
胴体:ガンダムバルバトス(ナノラミネートコート製増加装甲装着)
バックパック:ガンダムグシオンリベイクフルシティ
腕:ガンダムグシオンリベイクフルシティ
足:ガンダムバルバトスルプスレクス(外付けホバーブースター装備)

ゲーティアにグシオンリベイクアーマーを装着したもの。
バルバトスゲーティアと比較すると重量化に伴って機動力が低下している。
それと引き換えにナノラミネートコート製の増加装甲によって高い防御力を獲得するとともに、パワー重視のOSに切り替わっていることから重量のあるバスターソードメイスを片手で軽々とふるうことができるようになっている。
そのことから、バルバトスアーマーと比較すると避けたり受け流すことは少ない。
また、サブアームも健在であり、両腕とそん色ないパワーを誇ることから仮に両腕を破壊されたとしてもサブアームによって継続戦闘が可能であり、必要であればダリルバルデのイーシュヴァラのように両腕パーツに移動させて代替することも可能である。
この機能をわざわざ搭載したのは綾渡商店街ガンプラチームの最大火力といえるアザレアブラスターを使用できるようにするためである。


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第67話 原点へ

ガンダムバトルシミュレーター発祥の地、お台場。

30年前に行われた大型イベント、ガンダム・グレート・フロントにて初めて公開され、自分で作ったガンプラを操作し、実際に戦うことができるというコンセプトに多くのファンが熱狂した。

もちろん、現在と比較すると操縦性などが粗削りで課題も多く存在したが、これがあったからこそ、今のガンプラバトルがあり、数多のガンプラとファイターが生まれることとなった。

その跡地には現在、GGF博物館が建てられており、ガンダムの歴史のすべてをそこで知ることができるという。

そして、この週末が博物館の完成記念日であることから、とあるイベントが開催される。

 

「おおーーー!もうすぐお台場、GGF博物館!なっつかしいなーー!」

レインボーブリッジを渡る車の中で、マチオは窓から見えてくるGGF博物館を目に焼き付ける。

隣に座るミヤコも声には出していないが、緩んだ表情で当時を思い出していた。

「確かに、懐かしいね。30年前を思い出すよ。親に内緒で一緒にお台場まで行って、ガンダムバトルシミュレーターで遊んで…」

「今日は30年前のステージの一部を遊べるのよね。操縦は今の物と同じだけれど」

「あの、ユウイチさん。ここまで来てなんですが、僕も来てよかったんですか?」

助手席に座る勇太の手には今日のイベントのパンフレットが握られており、それにはかつてのイベントで実際に行われた戦闘の画像の一部が掲示されている。

ガンプラバトルの始まりを見ることができることについては勇太も楽しみだが、大の大人3人に自分が混ざっていることは場違いなように思えた。

「いいさ、君がいたらどんなステージもクリアできると思うから。それから、いい加減『お義父さん』とか、呼んでくれていいのに」

「待ってください、ユウイチさん。まだミサとはそこまで…。ああ、でも、ミサは残念がると思いますよ、一人だけお留守番なんて…」

「まぁ…仕方ないよな。あんなやらかしをしちゃあ…」

 

数日前の夕方、店の営業時間が終わった店内で、珍しく怒っているユウイチと首をかしげるミサの姿を勇太は目撃している。

勇太は今日、商店街のイベントとして行われる小学生向けのガンプラ製作教室の手伝いに参加しており、それを終えて帰ってきた時だ。

「ミサ、父さんがなぜ怒っているのか、わかっているね?」

「んん…?」

「帰りました…ユウイチさん、どうしたんですか?」

「ああ…おかえり、勇太君。…ミサ、勇太君のところへ逃げるのは、だめだよ」

帰ってきた勇太に笑顔を見せかけたミサだが、ユウイチに釘を刺され、不満げに頬を膨らまれる。

勇太の記憶において、怒った顔を見せるユウイチを見るのは世界選手権での軌道エレベーターの騒動以来だ。

「胸に手を当てて、よく考えなさい。自分が何をしたのか」

「ええっと…棚に展示してあるガンプラを勇太君のものを除いて、全部旧キットに変えたとか?」

「え!?そうなの!?」

目を丸くしたユウイチが大急ぎで展示されているガンプラを見に行く。

一つ一つ棚から出して確認するが、確かにミサのいう通り、旧キットのガンプラがいくつも入っていた。

勇太が造ったターンエーガンダムと手をつなぐ旧キットのカプル。

メガライダーに乗っているガンダムMk-Ⅱについても、Mk-Ⅱが旧キットに差し替えられている。

いつの間にそんなことをしたのか、全く気付くことができなかったユウイチが感心して眺めているが、そんなことじゃないと切り替えて再びミサの前へと向かう。

「え…?もしかして、違う?じゃあ、どれだ…?」

「ミサ…どれって、何をしたの?」

「仕入れの発注書、勝手にいじっただろう?」

「げっ!?ばれちゃった…?」

「今度発売されるPGアルビオン、あんなの店に入らないだろう!」

放熱板を除くと300メートル近い全長を誇るアルビオンの六十分の一のガンプラとなると、それ一つで店の多くのスペースを使うことになる。

「だってー、1回見たかったんだもん。勇太君と一緒に作りたかったからー」

「問屋から確認の連絡があったからよかったものの、そのまま届いていたらどうなっていたか…」

「ごめんなさーい」

「罰として、今週末は店番していなさい。父さんはお台場へ行ってくるから」

「えーーーー!!!」

 

「ひどいよねー。自分は勇太君と一緒にお台場へ行って、私だけ置いていくなんてー」

「確かに、ひどいですよね」

「でしょー!」

「無いものに手は当てられませんよね」

「…何の話?」

「なんでもありません」

ゲームセンターでインフォ相手に愚痴をこぼすミサの手には勇太が今持っているものと同じパンフレットが握られている。

本来なら同じ日時に大人たちとは別に勇太と二人でイベントを見て回っていたはずなのに。

そして、イベント終わりの夕方には二人きりでかつてのカミーユとフォウのようなキスをしたかったのに。

不満を隠さずにはいられない彼女だが、店番の約束をしていながらなぜゲームセンターにいるのだろうか。

「ところで、店番は良いのですか?」

「ロボ太に任せてるから平気!」

「それは…平気なのでしょうか…?」

トイボットで、おまけにシミュレーターの中でなければコミュニケーションをとることすらできないロボ太のことを心配せずにいられなかった。

きっと、ばれたら店番だけでは済まされないだろう。

 

「おーし!ファーストステージの準備はOKだ!頼むぜ、猛烈號!!」

シミュレーターに入り、ガンダムAGEシリーズの連邦軍のノーマルスーツ姿となったマチオがハンガーにかけられている自分の猛烈號を見つめていた。

軌道エレベーターの一件では急いで家から持ち出し、ろくに整備をする時間がなかったため、塗料が剥がれていたりなどしていたが、今日のために修復したそれの姿にかつてのガンプラバトルを楽しんでいた自分を思い出す。

それはミヤコとユウイチも同じで、3人とも今日のためにこうして準備をしてきた。

「勇太君はゲーティアでもバルバトスでもないね。それに、サポートメカもなしでいいの?」

「ええ…イベントの時に実装されたのはAGEまでで、バルバトスとか、鉄血のオルフェンズのガンプラは未実装でしたからね。どうせやるなら、同じ条件でって思っただけです」

レッドフレームをゲーティアと同じ配色にしたような姿で、グレーのABCマントで身を包んだそれはクロスボーンガンダムX-0を彷彿とさせるものだった。

コックピットに乗り込んだ勇太の衣装もまた、オーブ軍一般兵のノーマルスーツを灰色にしたものだった。

「行こうか、みんな!!」

ユウイチの号令と共に4機のガンプラは一斉に発進し、ジャブローに降り立つ。

それに前後して敵ガンプラが次々と出現し、それらはザクやドム、グフといった初代ガンダムのジオンのモビルスーツの大群だ。

「おおーーーー!!」

「初めて見たときはびっくりしたわね。テレビの中だけの存在だったモビルスーツが目の前にいるって感じがして」

「ああ…震えたよ。自分のガンプラで戦えることに!!」

ユウイチの乗り込むゼピュロスのユニバーサルブースターポッドが生み出す大出力がドムとザクが生み出す弾幕をかいくぐるとともに、手にしているビームライフルを連射する。

速いスピードで動きながらであること、そしてユウイチ自身もガンプラバトルに対してかなりのブランクがあることから精密な射撃を行うことが難しいものの、それでも3発のビームで確実にザクを撃破することができた。

「あんまりライフルを使いすぎちゃだめよ、Eパック方式じゃないでしょう?」

「わかってるよ。必要なら、自力で調達するさ!」

「ハアアア!!」

水中から飛び出したゴッグを勇太のガンプラの刀が一刀両断する。

両断されたゴッグの爆発を背に、マントをはためかせるガンプラは静かに左手に握る鞘に納刀した。

「デモンズフレーム…これなら、やれる」

納刀している隙をつくべくグフがヒートロッドを放つものの、ビームが根本を貫き、コントロールと動力を失ったヒートロッドが地面に落ちる。

デモンズフレームの腕に内蔵されているビームガンがヒートロッドを撃ちぬいていた。

「遅いよ」

次に発射されたビームがグフのコックピットを正確に撃ちぬく。

撃墜判定となり消えるグフを見届けた勇太は再び抜刀し、まだまだ現れるジオンのモビルスーツ部隊に挑んだ。

「みんな、侵入可能ポイントを送るわ!奥にいるPGのガンダムを倒せば、クリアよ!」

ミヤコの通信と共に送られた座標データ。

3機が戦闘を行っている間に最もステルス性のあるミヤコのジェスタコマンドカスタムがジャブロー侵入口の特定に動いていた。

「よっしゃあ!そういうわけだから…どいてもらうぜえ!!」

ビームラリアットを展開させた猛烈號の一撃がドムの頭部を粉々に砕き、メインカメラを失ったドムはそのまま地面にあおむけに倒れる。

目を失った以上はもう構う必要はないと猛烈號がミヤコの元へ急ぎ、その後をゼピュロスとデモンズフレームが続いた。

 

一方、商店街のガンプラショップでは…。

「…」

「…」

勇太たちの様子を見に来たサクラとしゃべれないロボ太が向き合い、互いに目を合わせているが、しゃべる様子を見せない。

店の営業時間だというのに誰もおらず、いるのはロボ太のみという不用心な状況。

もし泥棒に入られてもしたらどうするのか。

「店を開けているから、勇太かミサがいるとは思うけれど…」

「こんにちはー!」

表から子供たちの声が聞こえ、サクラが振り返った時には数人の小学生が小遣いの入った財布を手に店に入ってきた。

事情を知らず、営業中の看板を置いている以上は客が入ってきても不思議ではない。

「あ、もしかして世界選手権に出てた凛音桜さん!」

「嘘!?もしかして、今日はこの人が店番を!?」

「あ、違…」

「ねえねえ、俺、かっこいいガンプラ作りたいんだー!おすすめのを教えてくれよー!」

「あー、ずるい!私も聞きたいことあるのにー!」

「ま、待って。一人ずつ聞くから…(ミサ…勇太…どっちでもいいから早く帰ってきて…)」




機体名:アストレイデモンズフレーム
形式番号:MBF-P00
使用プレイヤー:沢村勇太
使用パーツ
射撃武器:なし
格闘武器:正宗
シールド:ABCマント
頭部:レッドフレーム
胴体:レッドフレーム
バックパック:レッドフレーム
腕:ユニコーンガンダム
足:クロスボーンガンダムX-1

お台場でのイベントのために用意したガンプラ。
パーツは自作の正宗以外はすべて当時のシミュレーターで実際に採用されたもののみを選抜している。
バッテリー駆動故の行動時間の制限の弱点を武装の可能な限りの最小化によって補っており、正宗についてはゲーティアの左文字を参考に作っている。
左文字は麒麟やバスターソードメイスとの兼用を前提にしているのに対して、正宗は本体のみでの戦いに特化しており、合体・分離機能を排して単純化と強靭化を施しているため、刀単体の攻撃力では左文字を上回る。


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第68話 ゲームセンターガールズ

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第23話「生き延びた意味」

サタナエルが破壊され、すべてが終わるはずだった。
だが、サタナエルが隠された機能を発揮し、ガンダム・レライエと一体化する。
モビルスーツとモビルアーマーが融合したそれは厄祭戦を上回る悪夢となる。


「カジノのルーレットの上でのバトル…これは、確かボーナスステージの…」

「そうだ、特定の条件をクリアすると入ることができて、レアなパーツが手に入るから、みんな入りたがっていたよ」

「私たちが入れたのは1度だけだったけど、いい思い出だわ。みんなが欲しかったパーツを1つずつだけど手に入れることができて…」

「ま…その分、敵の数はあったけど…な!!」

襲い掛かってくる敵モビルスーツをビームラリアットでバラバラにしたマチオは次々と飛んでくるZガンダムのビームを両腕のビームラリアットの出力を上げて生み出したビームシールドで防いでいく。

ただ、ユウイチ達が少年時代に経験したシミュレーターとは異なり、現行のシミュレーターでは変形機構を使うことができる。

ZZガンダムやZガンダムの集団は変形し、ガンダムMk-Ⅱがその背に乗る。

跳躍してそのうちの一組を正宗で両断した勇太だが、これまでいくつかのステージを回って感じたのは登場する敵機の種類の少なさだ。

初期は扱えるデータ量の限界などの事情で、採用できるガンプラの種類が限られていた。

そのため、主人公機を中心とした人気上位のガンプラを中心に採用せざるを得ず、量産機についてはザクやジムなどの一部のみとなってしまった。

他にも、人気があるものの複雑な機構を持つガンプラもそれ一つを採用するために多くのデータ量を必要とすることから泣く泣く不採用とするか、一部をオミットする形をとらざるを得なかったケースもあるという。

確かに現行と比較すると見劣りのあるものがあるかもしれないが、それでも自分が造ったガンプラを動かせることそれ自体に大きな意義があったといえる。

 

一方、そのころの綾渡商店街のゲームセンターはというと…。

「へえ、今回は一人で日本に来たんだね」

「はい、久しぶりに休暇を頂きましたので。この国は興味深い話がいくつもあって、退屈しませんね」

隣に座っているドロシーの話を興味深そうに聞くミサはきれいなティーカップに入った紅茶を口にする。

テーブルにはアップルパイやケーキなどがいくつも置かれており、遊びに来た子供たちの中にはうらやましそうにそれを眺めている子供も存在する。

「でも…休暇中もなんでそんな格好なの?」

ミサが気になるのはドロシーがメイド服姿のままだということだ。

休暇なら、もっと別の私服を着てもいいはずで、購入できるはずの給料はウィルからもらっているはず。

こんな姿で秋葉原へ行ったならコスプレとして溶け込むだろうが、そこ意外では浮いてしまうだろう。

「これは普段着です」

「そうなの?てっきり、ウィルの趣味かと思った」

「そんなに特殊な性向は持っていませんよ。坊ちゃまは。少々中二病を患ってはいますが…」

どこでそんな言葉を覚えたのか、と思ったミサだが、なぜか納得できる気がした。

まともそうに思えるが、どこかかっこつけというかなんというか、そんな気がする。

そんなことを本人の前で言うつもりはないが。

「それで、ウィルとドロシーさんって、どんな関係なの?」

「は、雇用主と従業員の関係ですが?」

「ええー、本当にー?」

ポーカーフェイスのままのドロシーだが、どうにも二人がそういう関係以上の物とミサには思えた。

ウィルの財力があれば、ドロシー以外にもメイドを雇うことができるだろうが、ウィルと同行しているにはドロシーのみだ。

年ごろの男女が常に行動を共にすれば、ミサが想像する関係に変化しても不思議ではない。

「ふう…なるほど、そういうご質問ですか。ミサさんはいかがですか?今日はおひとりのようですが」

「え?わたし?」

「はい。あんなに恥ずかしいカップル成立を見せつけて…。あの後も人目もはばからずにイチャコラされているのですか?」

あの時のことを思い出したミサが一気に顔を赤く染めてしまう。

軌道エレベーターでの告白の際、実はコックピット内でのやり取りについても音声のみではあるが、ハルによって全世界に生中継されていた。

かのGガンダムでのドモンの世界一恥ずかしいプロポーズに匹敵するそれは音声のみで、さすがに二人のキスを含めて映像まで出ることはなかったものの、動画配信サイトを中心に拡散されることとなり、コメント欄には目いっぱいの祝福の言葉で彩られる事態になった。

それを知った時はもう外を歩けないと思えるくらいの衝撃を受けた。

「ちょ、なに言ってるの!?ないないない!何もないよ!!」

「本当ですか?インフォさん」

「いえ、あの後、お二人は同居されています。ユウイチさんも歓迎されていて、ゆくゆくは勇太さんにはミサさんと結婚して、ガンプラショップを継いでほしいと…」

「うわあああああああ!!!インフォちゃん、言わないでー!!」

「なるほど、もうそんなところまで…」

さすがに別々の部屋ではあるだろうが、同じ年ごろの男女が一つ屋根の下で生活するとなると、いつもユウイチをはじめとした大人の目があるとは限らない。

そんな時に恋人同士でやることとすれば…。

「果たして、どちらが先でしょうね?」

「ああああああ、勇太君助けてー…」

 

「ハクション!!」

「あれ?どうしたんだい?風邪でも引いた?」

くしゃみと同時に一瞬動きの鈍ったデモンズフレームの様子にユウイチが通信をつなげる。

さすがにシミュレーターの中で埃があって、それに反応してくしゃみをするなんてことは起こるはずがない。

確かに今いるステージは密林だが、そんなことも関係ない。

「大丈夫です、風邪とかじゃありませんから」

一度バイザーを開き、鼻をこする勇太には風邪を引いた気はしていない。

「誰か僕のこと、噂してるの…?」

「もうそろそろマウンテンサイクルだ」

「ここからだよなー、俺らが何度も撃墜されるようになったのは。敵が強くてなぁ」

「撃破されるとせっかくこのステージで手に入れたパーツデータのいくつかを失うことになってしまうから、クリアしてほしかったパーツデータがなくなったってリザルトが出たときは頭を抱えたよ」

「一応、町一番のチームだったんだけどなー」

「仕方ないわよ。私たち、まだ小学生だったんだし」

「今の実力であの頃に戻りたいよ」

密林を抜け、マウンテンサイクルが見えてくる。

ターンエーガンダムにおいて、ナノマシンの残滓が大量に堆積し、長い時間をかけて形成された山岳地帯にはカプルやボルジャーノンをはじめとした機動兵器が眠っており、それらはミリシャの大きな戦力を提供してくれた場所。

マチオ達の言う通り、そこからはストライクフリーダムをはじめとした高性能のモビルスーツがいくつも登場するようになり、勇太にとっては歯ごたえの増す場所となった。

特にスーパードラグーンは近接武器しかないデモンズフレームにとっては脅威であり、ジェスタ・コマンドカスタムがカバーに入る。

「勇太君は本体を狙って、ドラグーンはどうにかするから」

「お願いします!」

ジェスタコマンドカスタムのバックパックに増設されているガトリングガンが火を噴き、スーパードラグーンを撃ち落としていく。

撃ち落とすことができずとも、弾幕によってドラグーンの動きを制限させることができ、その間にデモンズフレームは本体であるストライクフリーダムに接近する。

しかし、ストライクフリーダムの武器はスーパードラグーンのみではない。

腹部に搭載されているビーム砲にエネルギーが集中していき、それが正面にいるデモンズフレームに向けて発射される。

「おおおおお!!!!」

勇太が声を上げてスラスターを全開にさせ、デモンズフレームがバッタのように空中で飛んで射線上から逃れる。

そして、手にしている正宗を逆手に握り、右肩のあたりから胴体に向けて突き刺した。

正宗を引き抜き、機能停止したストライクフリーダムを蹴り飛ばすと、地上に落ちたその機体は爆散した。

まだまだ難易度についても粗削りなところがあるのか、そうしたストライクフリーダムをはじめとした数多くの高性能のモビルスーツがいくつも出現するようになっては、たとえ強い小学生でも挫折するようなことがあってもおかしくはない。

これでは、最終ステージに到達することのできたチームが少ないのも納得できるだろう。

 

一方、そのころのガンプラショップでは…。

「そう、こういう感じに切れば、きれいにパーツが切れるわよ」

「わあ…」

ロボ太が子供たちと一緒に遊び、サクラはガンプラや工具を購入した子供たちに作り方を教える。

最初は戸惑うばかりだったサクラだが、ガンプラづくりを教えることについては慣れたもので、ガンプラが上手にできた子供がお礼を言ってくれた時はうれしいと思えた。

「ほーぉ、妙なサプライズがあったもんじゃのぉ、まさかお前がこんな場所でガンプラ教室やるなんてなぁ」

「あなた…タケル」

「よぉ、サクラ。なんじゃ、アイツはおらんのか」

ズカズカと店に入ってきたタケルが背負っていたナップザックを乱雑に置き、置かれている勇太作のジオラマを見ていく。

「なかなかいい出来じゃなぁ」

「でしょう?もしかしてあなた、勇太と戦いに来たの?なら、残念ね。彼は今、お台場よ」

「ああ…あのイベントのなぁ…。サクラは行かんでよかったのか?」

「行ってもよかったけれど、ここを放っておくわけにはいかないでしょう?」

教えを受けている子供たち、そして世話をするロボ太の様子を見たタケルはああ、と納得した様子を見せる。

言葉でのコミュニケーションが取れないトイボットだけではお金のやり取りをはじめとした接客は難しい上に防犯についても心配がある。

ミサたちの姿がない以上、この状態を放置することがサクラにはできなかった。

「しょうがないのぉ…サクラはこのまま教室をやれ。それ以外のちょっとしたことは俺がやる」

「できるの?」

「ひどい言いようじゃのぉ。俺でもそれくらいできる」

妙なことになったものの、これはこれで楽しみではある。

手が空けば、おそらくは商店街内にいるであろうミサを探しに行こうと考え、二人による臨時のガンプラショップが始まった。

 

またまた、ゲームセンター。

「なんだこれ…?なんでゲーセンで茶を飲んでるんだ?」

「いやぁ、なんでだろ?いつの間にか、こうなってた、あははは…」

飽きれるモチヅキを後目にミサはドロシーに入れてもらった紅茶を飲み、ドロシーはケーキを口に含む。

もはやここは喫茶店なのかゲームセンターなのかわからなくなるモチヅキにも紅茶が出され、出されたものを飲まないわけにはいかないと口に含む。

「それで…モチヅキさんとカドマツさんは、その後どのような感じなのですか?」

「な、ななななな何の話だ!?」

この流れでその話の意味は一つしかなく、真っ赤になって動揺するモチヅキはもう見た目通りの年齢にしか見えない。

「いーじゃん、教えてよモッチー」

「誰がモッチーだ!!ガキが色気づいてんじゃねーよ!どうせ、お前いつも部屋で勇太とシクヨロしてんだろ!?」

「そ、そそそそそそそんな!べ、別に…勇太君と、その…ええっと…っていうか、大声でそんなこと言わないでよー!」

勇太を話題に出され、一気に劣勢となるミサ。

離れた場所でその様子を見るウルチはうんざりしながら髪をかく。

「ああ…こりゃ、もう女子会だこれ。すみません、姐さん。私、もう失礼します」

「逃げんじゃねえよ、助けろよ!」

「ぶっちゃけ、めんどくさ・・・ちょっと用事を思い出しました」

「なるほど、これが噂に聞く女子会。データベースに登録しておきます」

逃げるようにゲームセンターを後にするウルチを恨めしそうに見送るモチヅキにさらなる追求の毒牙が襲う。

「で、結局のところどうなんですか?少なくとも、勇太さんとミサさんは深く関係を結んでいるのですから、大人としての貫禄を見せてください」

「い…言わない…」

「えーセンパーイ、てゆーか女子会でコイバナ拒否るとか、ぶっちゃけサゲサゲじゃないですかー」

「やめろそのしゃべり方!!」

「で、どうなんですか?」

「絶対言わない!」

「モチヅキさん、そんなに遠慮することはありません。いくら女子というには苦しい年齢だとしても」

「喧嘩売ってんのか!?」

 

「ぶえっくしょい!!ああ、なんだぁ?埃かぁ?」

カドマツが生活する都内のアパートの一室。

仕事と綾渡商店街ガンプラチームのサポートで多忙だった日々にひと段落がつき、その間すっかり放置していた部屋の掃除を終えたはずなのに襲ってくるくしゃみ。

鼻をさすりつつ、手にしていた掃除機をしまう。

空腹を感じたため、ひとまず遅めの昼食をとろうと冷蔵庫を開ける。

「ああ…そういやぁ、あんまし残ってなかったんだった。仕方ね、カップ麺にするか」

台所に置いてあるケトルに水を入れ、湯を沸かしている間に今日食べるカップ麺を棚の中から選ぶ。

そんな中で頭に浮かんだのはロボ太の様子だ。

今朝、いきなりミサから電話があり、半ば強引にロボ太を借りていったのだが、何に使うのかについては聞いていない。

「大丈夫なのか…ロボ太の奴。無茶なことはさせられてねーとは思うが…」




機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第24話「アルミリア・モンターク」

究極のモビルスーツでもあり、モビルアーマーともなったサタナエルの猛攻により、ギャラルホルン・テイワズ連合軍が窮地に陥る。
混乱する戦場の中で、ジュリエッタは一つの決断をする。


第25話「鉄の華」
戦いは終わった。
過去からの因果によって生じた戦いの末、ギャラルホルンは完全に力を失うこととなった。
曉が向かうのは死んだ鉄華団の戦士たちが眠る場所。
そこにはこの戦いを影から操っていた男、タカキ・ウノが待っていた。


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第69話 過去の特権 未来の特権

GGF博物館完成記念日の目玉といえるのは再現された30年前のステージの再現とかつて実際に採用されたガンプラの復刻版の販売。

だが、あくまでもこれらは目玉であり、それだけがこの記念日のすべてではない。

 

「すげえ…これ、マジモンなのかよ!?」

「この1枚1枚が…」

ホワイトベースの艦内を彷彿とさせる廊下を通り、その先の広間に展示されているものにマチオだけでなく、勇太も食い入るように見ていた。

展示されているのは1979年に放送された『機動戦士ガンダム』から続く歴代のガンダムアニメの絵コンテやラフ画などで、他にもボツとなった案のイラストなどもある。

平成のファーストガンダムであるガンダムSEEDで登場したジンも、別の案としてマッシブな体つきで灰色の装甲、ザクのような頭のような形もあった。

かつてのザクの古き良きデザインを引き継いだといえるそれは採用されなかったが、おそらくそこからザクウォーリアなどのモビルスーツにつながっていったのだと思いたい。

現在、シミュレーターは満員となっており、どうにか最終ステージの手前まではクリアできた勇太たちだが、そこからは順番待ちとなったため、今はこうして展示物を楽しみ、あとは食事をして待つことになる。

「撮影禁止なのが残念ですよ、ミサに見せたかったのに…」

「今度みんなで行けばいいさ。もちろん、今度はあんなことはしなければ…だけどね」

「あははは…」

そんなことをしない保証がなさそうで、乾いた笑いを見せる勇太の脳裏に、おそらくは店番をしているであろうミサの姿が浮かんだ。

 

 

しばらく展示物を楽しみ、お土産のイラスト集を購入した勇太たちはアークエンジェルの食堂を模したフードコートでそれぞれが気になった料理を購入し、席に合流する。

「おいしい…やっぱり、GGF博物館なら、こういうのが一番おいしいわ」

ミヤコが口にしているのはサンダーボルトで登場したいなり弁当にガンダム作品ではよく登場するスープとサラダだ。

サラダの材料は各作品によって異なるが、よくあるのはキャベツとトマトで、スープについてはコーンスープとなっており、皿に入っている形だ。

ミヤコがそれらはゆっくりと咀嚼している一方、マチオはガツガツとトレーにたっぷり入った料理をほおばっていた。

こちらは鉄血のオルフェンズで三日月が食べたアトラ特製のごはんであり、アスパラガスにハム、ミートボールにコーンペーストだ。

サラダはミヤコのものとは異なり、きゅうりやニンジン、ミニトマトとジャガイモをぶつ切りにして放りこんだ食べ応えのあるもので、『イサリビスタミナセット』という名前らしい。

なお、さすがにコーンペーストだけでは主食としては足りないと思ったのか、追加のハンバーガーも食べかけの状態で置かれていた。

なお、ちょっとしたネタメニューとして存在するのが『ケバブダブルソース』で、こちらはキラが食べることになってしまったチリソースとヨーグルトソースがぶちまけられたケバブで、キラ曰く『ミックスもなかなか』らしい。

ちなみに、ケバブをパンで挟む形はドイツが発祥であり、それがケバブの本場であるトルコにも逆輸入され、更に世界に広まったものだ。

ハンバーガー風やサンドイッチ風、春巻き風など様々な食べ方があるが、作者の記憶の範囲においては、ケバブが出てきたのはSEEDのそれのみだ。

実際にそれがおいしいか否かについては、勇太たち4人は手を付けていないため、誰にもわからない。

なお、フードコートにはいくつもモニターが設置されており、現在のシミュレーターでのプレイ映像やガンダムビルドシリーズのアニメが流れている。

「そういえば、僕たちの順番の時間はどうなってましたっけ?」

「1時間後だね、食べ終わったらガンプラの手入れをしておかないと」

「だな!あ…ちょっと待ってくれ、おかわりを…」

おかわりの1品を求めて席を立つマチオを見送り、グラナダ名物の月面ピザを食べ終えた勇太は待っている間にデモンズフレームの確認を行う。

このガンプラを使うのはこの機会しかないかもしれないが、自分で作った以上はもっといい感じに仕上げたいと考えていた。

月面ピザが登場したガンダムZZにおいてはトッピングもソースもないただの生地のみのピザとして映っているが、このフードコートにおいては無重力化でも食べられるように生地の中にトッピングやソースを入れた、サンドイッチのような構造のピザだと解釈されているらしい。

ただし、そんな映像だったのは当時のアニメにおける技術の限界、もしくはモビルスーツなどに労力を割いた事情といったところがあり、実際はそんな形ではなく、細かく刻まれたトッピングのピザだという意見もあるという。

 

「はあーーー、おいしかったぁー。おなか一杯!」

一方のゲームセンターでは、お茶会の次に始まった昼食会を終えたミサたちがくつろいでいた。

ピザにゼリー、ポテトサラダなどを食べ終えた食器がドロシーによって片付けられ、テーブルも拭かれている。

なんでお茶会だけでは飽き足らず、昼ごはんまでするのかと言いたかったモチヅキだが、おいしかったことから突っ込むのをやめていた。

「ミサさん、そろそろ店に戻られてはいかがです?」

「いいのいいの、ロボ太が頑張ってるんだし、私はここで…」

「ミサ!!」

自動ドアが開くとともにズンズンと足音を鳴らしながら迫る何者かの気配。

ミサの正面に立ったその何者、サクラが目の奥に真っ赤な光を宿しており、ミサは見たことのないサクラの姿に戦慄する。

(な、ななな、なんでサクラさんが!?なんで、怒ってるの!?それに、こんなの、バトルでも見たことがないよ!!)

「お店、戻るわよ…」

「え、お店?いったい何のことか…」

「戻るわよ」

「…はい」

言っている意味が分からないミサだが、今のサクラに逆らうのはまずい。

シュンとしたミサを引きずるようにサクラは連れ出していく。

その様子をインフォ、イラト、モチヅキ、ドロシーは何も言わずに見送った。

 

最終ステージ、お台場。

かつてのお台場をそのままステージとしたその場所にデモンズフレームをはじめとした4機のモビルスーツが降りたつ。

「このステージはラスボスを倒した参加者の中の、更に選ばれた人だけが参加できたんだ」

「それ以外の参加者はこのステージを外で見ていたのよ。お台場を投影した実物大のホログラフ映像で」

「すごかったよなぁ!まるで、目の前でマジでガンダムが戦ってるみたいでよぉ!ま…本当は参加したかったけどな」

「確かに、実際にそこで戦っていた人たちを見て、うらやましいって思ったよ」

そのホログラフで流れた最終ステージでの戦闘の光景はガンプラの新しい未来を示したといえるだろう。

感傷に浸るユウイチ達だが、まもなくセンサーが出現する敵ガンプラを示す。

現れたのは2機のPG機体、ユニコーンとνガンダムだ。

ユニコーンはさっそくデストロイモードへと変化し、νガンダムはフィンファンネルを分離し、執拗なオールレンジ攻撃を仕掛けてくる。

「この程度のファンネルなんか!!」

刀一本のみが武器ではあるが、襲ってくるフィンファンネルはあのネオ・ジオングの猛攻と比較するとまだマシだ。

それに、大型化した分、動きも読みやすい。

フィンファンネルが動く位置に先回りして刀で両断して、数を減らしていく。

「すごいパワーとスピードね…昔の私たちで、勝てたかしら?」

「どうだろう…ハハ…」

「んだよ、ユウイチ。急に笑いやがって」

「まさか、30年ぶりの悲願が達成できるってことで、感傷に浸っているとか?」

「いや、そうじゃないんだ。確かに、30年前に立てなかったこの場所に立つことができたのはうれしいよ。ただ…なんというか、30年前に最終ステージをクリアして、今日それを思い出すのと、今のこの気持ちは、きっとイコールじゃないんだよ」

「30年前と同じじゃないから…ですか?」

30年の時間は、かつてはガンプラを愛する子供だったユウイチ達を大人にした。

そして、このステージはあくまでも再現されたのみで、30年前のようにホログラム映像でお台場に映し出されるわけではない。

参加者たちが確かに感じた熱まで再現できるわけではない。

「うん、うまくいえないけどさ。子供のころに残した特別な思いって、大人になってからじゃ取り戻せない。そう感じたんだ」

「んじゃあ、来ない方がよかったってか!?」

あおむけに倒れたνガンダムの胸部に拳をたたきつけてトドメをさしたマチオの言葉にユウイチは首を横に振る。

「今日、みんなで今、この場所で味わっている気持ちは、やっぱり今日しか得られないものだ」

「クリアできなかった昔、最終ステージに参加できなかった悔しさを思い出すのも、俺は悪くないと思うぜ」

「そうだね…それもクリアしていたら味わえなかった思いだ。それも、きっと特別なものなんだ」

「なーに、それ!結局、なんでもいいじゃない…の!!」

ユウイチがシールドを破壊したのを確認したミヤコはリミッター解放したスナイパーライフルから放たれる大出力のビームでユニコーンの胴体を撃ちぬく。

2機のPG機体が撃破されたものの、それで終わりなはずがなく、続けてゴッドガンダムとウィングゼロのPGが出現する。

「苦い思い出も、苦いなりにいいものさ」

「だな、人生ってのはそういうものさ!」

「人生、か…」

「だからさ、勇太君も、もしこれからもずっと、ミサと一緒にいてくれるなら、どんな味であったとしても集めてほしい。思い出を。それができるように、僕たちが助けるから」

「…はい」

 

「おーい、ミサー、おーい」

イベントが終わり、帰宅した勇太たちをまず待っていたのは、真っ白になったミサだった。

椅子に座り、勇太がいくら呼んでも反応を見せない。

そして、タケルとサクラ、ロボ太にユウイチは笑顔を見せる。

「すごい…君たちが手伝ってくれたおかげで、一日の売り上げが今回最高記録だ!」

「そんな…私たちは、ただ簡単なガンプラ教室をやっていただけで…」

「俺は、ロボ太の接客をサポートしただけです」

「謙遜しないで、ほら、3人とも、これバイト代。よかったら、またよろしく。それから…ありがとう。ミサを連れ戻してくれて」

「あははは…」

ゲームセンターから連れ戻されたミサはその後、2人と1機によって馬車馬のように働かされることになった。

営業時間が終わり、閉店準備を終えた時、電池が切れたかのようにこんな状態になってしまった。

「(思い出…か…今日のことも、いずれいい思い出になるのかな…)おーい、ミサー、しっかりー。お土産あるよー」

「ゆ…た…く、ん…」

「あはは…一日、お疲れ様」

 



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第70話 ロボ太の迷い

月面、フォン・ブラウン近郊。

デラーズ紛争の際に、フルバーニアンが初陣を飾ったその場所にゲーティア、アザレア、バーサル騎士ガンダムが降り立つ。

宙域にはドラッツェやリック・ドムⅡ、ゲルググMといったデラーズ紛争時代のモビルスーツ部隊が出現する。

「おらおらー!悪い敵はいねえがー!でてこいや、コラーー!」

「頭でも、ぶつけたのか…?」

急にわけのわからない言葉を発しながら、アロンダイトで敵に切りかかっていくミサの様子にロボ太が困惑する。

マシンガンやバズーカの弾幕にひるむことなく突っ込む様子は勇ましくもあり、狂気じみた何かも感じられた。

「そんなんじゃない!」

「では、どうしたというのだ?そんなにイライラして」

「昨日、父さんに怒られた。店番、さぼっただけなのに」

「ミサが悪い」

「なんだよもう!勇太君だけじゃなくて、ロボ太までそっち側か!!!」

「そっちとは、何時の方向だ?」

「方向じゃない!父さんの味方なのかってこと!!」

デラーズ・フリートのモビルスーツ部隊をなぎ倒していくミサだが、それでも心が晴れない。

きっと、サウザンド・カスタムのように一騎当千を果たしたとしても、まだまだ物足りないだろう。

「そもそも、店番という役目を放棄したのだ。罰を受けるのは致し方あるまい」

「大人の意見か!?そんなの聞きたくない!!花も恥じらう17才が、おとなしく店番なんかしてられるかー!!どうせ、あと少しでのんきに遊んでいられなくなるのにさ」

「む…?」

「来年の今頃は受験勉強か…。ああ、つらい時が見せる!」

「来年…受験…進学…」

勇太とミサが通っている学校は進学校で、時折受験のための模試も行われる。

勉強中心のクラスでは、既に受験のための勉強を開始するために教科書を終えて、赤本やセンター試験の過去問、進学塾が行う模試の過去問を連日解いているという。

これからどんどん遊ぶ時間が減っていく未来をミサは受け入れられない。

「…主殿、ずっと黙っているが、何か言ってくれぬか?このままではミサが…」

「ごめん、ロボ太。今は何も聞かずにミサのサポートを…」

ヘルメットに隠れた勇太の頬には真っ赤な手形がついており、仮想空間の中であっても痛みを感じていた。

 

(ハイムロボティクス商品開発室で、初めて起動したときのことを覚えている。右も左もわからない若輩ながら、彩渡商店街のとある玩具屋にて、ロボ太というパーソナルネームを授かった。ロボットであることをそれとなく主張しつつも、古風な響きで大人の覚えよく、短くて子供にも覚えやすい。中々な名前だと思う。これが製造番号のまま呼ばれていたら、私の毎日は今より色あせたものとなっていたかもしれない。名前を授かり、それと同時に主と出会い、多くの強敵とガンプラバトルを戦う日々。人と共に遊ぶために作られた、トイボット冥利に尽きるというものだ。しかし…私は知っている。この素晴らしき日々が永久に続くものではないということを。人は、いつしか大人になり、玩具から卒業していくことを)

 

「うーん、こいつは妙だな…」

マンションの一室で、カドマツはデスクトップPCのモニターに表示されるログをキーボードを打ちながら解析していく。

勇太たちを招いたことはないが、ここがカドマツの家であり、職場に近いことからここを選んだ。

あまり服装に気を使っていないことから、普段の仕事用の研究着姿ではあるものの、休みであることからネクタイはつけていない。

「なぁ、お前はどう思う?」

「休みに突然自宅に呼び出して…やることはトイボットの解析かよ!?」

パソコンデスクに腰かけるモチヅキはギリギリと歯ぎしりをしつつ、拳を握りしめる。

独身で同年代の異性が休日に外のどこかではなく、自宅に呼び出す。

大人の場合、いくら友人であったとしても異性相手にそんなことをするのはめったにない。

そんなことをするのは恋人に対するもの。

朝に急にカドマツからメールで呼び出されたとき、モチヅキは驚きを隠せなかった。

何度も冗談じゃないかと思い、確認したが、返事は『早く来い』、それだけ。

もしかしたらと思い、いつもよりも身だしなみに気を使ってからカドマツの家に来たが、待っていたのはログ解析。

身だしなみに気を使ったといっても、デート用の服なんて持っているはずのないモチヅキの服装もまた、カドマツと同じく仕事着という残念さがあるが。

「ん…?なんだと思ってたんだ?」

「え…いや、その…」

とても勇太とミサみたいなことを考えていたなんて言えるはずもない。

カドマツの様子から、モチヅキに対してそんな感情を抱いているとは到底思えなかった。

「トイボットのログ解析だよ!!!」

「だったらいいじゃねえか。なんで怒ってるんだよ?」

「別に怒ってねーよ!」

「そうか…んじゃ、続けるぞ。最近、ロボ太の思考ログに頻繁に現れる単語があってな。それについて、第三者の意見が聞きたいんだ」

モニターに表示されるログはロボ太のもので、現在ロボ太は部屋の隅でスリープモードに入っている。

専用の装置で充電をしつつ、ロボ太の思考ログ等をパソコンにコピーしていく。

ガンプラバトルをするトイボットのロボ太の存在はハイムロボティクスにとっては大きな宣伝となっており、世界選手権では世界中のSNSで話題となった。

また、定期的にそうしたログデータなどを時折カドマツが解析をして、職場に提出している。

それに基づいて、今後正式に生産されることになるトイボットの開発が行われる。

ただ、最近になってロボ太の思考ログに妙な動きがあり、それについてフラットな意見をしてくれる存在として真っ先に脳裏に浮かんだのがモチヅキだ。

勇太とミサでは、ロボ太と一緒にいる時間が長いために感情移入してしまう。

だとしたら、ロボ太のことを知りつつも大人として意見を出してくれる人間がここでは最適だ。

怒るモチヅキはカドマツの入れたコーヒーを飲みながらモニターを見る。

「自己…存在理由、現実、理想…思春期?」

ロボットらしくない、まさに思春期の少年少女のような言葉。

何も考えずに、率直に口にしたモチヅキの言葉にカドマツは目を光らせる。

「なんてこった!?俺が造ったAIには思春期が来るのか!やはり、俺が天才か!?」

「呑気か!?もうちょっと真面目に考えろ!」

「ん?何をだ?」

「もし仮に、これが人間の思春期としたら、自分と他者の関係を強く意識し始めるはずだ。他者を見て自己を認識し、そこから自分がどうありたいかを考え始める」

「何が言いたいんだ?」

「ロボットってのは最初から何か目的を定めて作られるものだ。自分がどうありたいか、なんて考えても仕方ないだろ?」

最初から人を乗せて道路を走ることを目的として作られた自動車が運転手や同乗者、そしてすれ違う他の車や人々を意識した結果、飛行機になりたいとしても、そんなのは改造されない限りは不可能で、それを自動車が求めたとしても、人間が必要と感じないか好奇心を抱かない限りはそんな酔狂なことはしない。

その車に乗せたAIがどんなに願ったとしてもだ。

「トイボットはトイボット以外にはなれない。なったら、商品として問題だぞ」

「トイボット以外…か…」

ロボ太を作り、テストという名目で勇太とミサに貸し出し、一緒にガンプラバトルを続けるようになってから、いつからか無意識にカドマツもロボ太をただのプロトタイプのトイボットとみることができなくなっていた。

自分が造った、交流したという愛着も確かにある。

そして、交流の中でロボ太にトイボット本来の目的である、子供たちと一緒に遊ぶロボット以外のものを求めている。

モチヅキと話す中で、そんな己を認識した。

「…あと、ちょいちょい出てくるこれは何だ?店番、宿題、お使いって…」

「あの嬢ちゃん…ロボ太に何やらせてるんだ?てか、勇太の奴も、一緒に住んでるなら、止めろよ!あいつ…だんだん嬢ちゃんに甘くなってきたかぁ!?」

 

(私は…人を喜ばせるために作られたものだ。だが、私自身がこの毎日を好ましいものとして過ごしている。この、身に過ぎた毎日をこのまま安穏と過ごしていいものなのだろうか?いずれ、主殿とミサは大人となる。社会人となり、あの様子であれば…ゆくゆくは結婚するだろう。そして…私と別れる日も必ず来る。その時のことを考えてしまう。それは、めでたいことのはずだ。人の成長は素晴らしいとデータにも書いてある。しかし…その時私はどうなるのだろうか?電源を落とされ、倉庫にしまわれてしまうのか?二度と起動されない、永遠に続くスリープ状態とはどういうものなのか?ああ…それならば、いっそのこと、解体され、リサイクルされた方がマシなのではないか?この…この気持ちは何だ?わからない…)

 

「…あ!!」

夜の自室で勇太が造っているバーサル騎士ガンダムのスペアパーツだが、勇太の手元が狂い、バリ取りの際にパーツの一部まで切除してしまった。

ニッパーを置き、切れてしまった部分を見つめる勇太。

「あっちゃー…このパーツ、まだ在庫あったかなー…?」

「勇太君、お風呂空いたよー」

ノックと共にミサの声が聞こえる。

一度パーツを机に置いた勇太はベッドの上に用意してあるパジャマとタオルを手に取る。

「わかった、すぐ入るよ」

別のドアが開閉する音を待ってから、パジャマを持った勇太が電気を消し、部屋の外へ出る。

机の上には作りかけのスペアパーツの他に、チーム全員で撮った写真が入った写真立てとバーサル騎士ガンダムが置かれていた。



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