異世界転生したカズマは召喚師になりました。 (お前のターン)
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始まりの町―アクセル―
英霊召喚


もしカズマがアクアを選ばずチート能力を貰っていたら?という設定。
「召喚師」という能力名で、様々な英霊を使役できる。
メインヒロインはゆんゆん。
ジャンヌは度々キャラ崩壊するかも?


前略

俺こと佐藤和馬は異世界転生をした。その過程は思い出すと死にたくなるので省かせてもらう。

さて、本題に入ろう。

俺は、やたらと腹が立つ接待をしてくれた一応は女神であるアクアとやらに勧められファンタジー感溢れる世界へと転生した。

この物語は、そんな俺が魔王率いる強敵に立ち向かっていく、いわゆる王道物語……に発展する可能性のある俺の物語だ。

 

 

 

 

 

 

異世界転生した俺は、まずはゲームマニュアルのごとくギルドへと向かった。本来ならコミ障の俺が公の施設に行くことに何の抵抗もないわけが無い。だが、ここは異世界。俺は、生まれ変わったのだ。故に前世に縛られる事欠く自由奔放な生き方が許される。

俺は、そんな淡い期待を持ってギルドの扉を開いた。

 

「いらっしゃいませー」

 

ギルドに入ると、若いお姉さんがそう言って通りすぎて行った。恐らくは従業員なのだろうと思いつつ、受付の方へと向かった。

少し緊張していたせいか、今ごろになって辺りを見る。すると、やはり異世界なのだろう、世紀末の格闘家みたいな奴から魔法使いみたいな奴までいる。重い鎧を難なく着こなし騒いでいるやつ、流石に箒を持っている奴はいないが、ヒラヒラとした服に防具らしい飾りやら武具を身につけた奴など様々な人がいた。

 

「本当に異世界なんだな~」

 

と、呟きつつ俺は足早に受付へと着き、早速冒険者登録を進めた。

手順としては、

始めに登録料1000エリスを払う。

次に冒険者についての概要を聞く。

最後に適正に合った職業を選ぶ事だ。

概要まで聞き終えると、水晶に手をかざせと言われた。その通りにすると、水晶が反応し、カードにデータを記入し始めた。

 

「えっと……佐藤和馬さんですね。ステータスは……ああ、魔力が少し高いですね。それと幸運がずば抜けて高いですね…………」

 

なんだろう?やたらと言葉を濁すが、何か問題でもあるのだろうか?

 

「…………他のステータスが絶望的に低いので、商人をお勧めますが?」

「えっ!!?」

 

唖然としてしまった。まさかの冒険者適正無しで商人を勧められるとは…………まじか?

いたたまれなくなったのか、お姉さんはあわてふためきながら「あ、でもレベルを上げていくとジョブチェンジが出来ますから…………」と、哀れみの目でそう言ってきた。

俺は、突きつけられた現実をどうにか受け止め冒険者で登録した。

しかし、別に俺はそこまで落ち込んではいないのだ。何故なら…………。

 

(転生特典で特殊スキル貰ったし、どうにかなるだろ)

 

そう、いわゆるチート能力だ。これさえあればやっていけるだろうと俺は思っている。ちなみに、能力名は『召喚師』だ。恐らくはビーストテイマーやドラゴンライダーみたいな使役可能な物だろう。

 

俺は、期待と興奮を胸にスキル試しに草原へと向かった。このスキルはポイントに関わらず、初めから取得しているものなので魔力は関係ないそうだ。ただ、使役可能な数はレベルによって増減するらしい。

 

「何が来るかな~」

 

そんな、ソシャゲのガチャ感覚で浮き浮きしていた俺は、特に深く考えることをせず、召喚の為の詠唱を始める。

 

『告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

  聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ』

 

俺は、頭に浮かんだ通りに詠唱をし、僅かばかり感じる魔力を込めた。すると、目の前に先程まで無かったはずの魔方陣が出現し、使役対象となる使い魔が現れた

 

「…………………………あんた、誰?」

「お前こそ誰だよ!!?」

 

召喚されたのは、黒い鎧を身に纏い、どこぞの国の旗を持った色白の女だった。髪は金髪というよりは少し色が薄くなったような銀髪で、俺と身長差はほとんど無い。

召喚された側の女は、何故か気だるそうに開口一番にそういい放ち、「嫌だな~」と、あたかも分かりやすい態度を取っていた。

 

「あのさ、召喚した俺が未熟で嫌なのは分かるけど、名前ぐらい教えてくれよ」

「名前?はっ、嫌よ。何であんたなんかに教えなきゃいけないの?馬鹿なの?」

 

こいつぅぅぅ!!?腹立つな、おい!何でお前えらそうにしてんの?何で魔方陣の上で寝そべってんの?何で使役する方が舐められてんの?

使役する以上俺が舐められる訳にはいかない。上下関係をハッキリさせておかないと後々面倒になる。飼い犬がいい例だ。このなめ腐った態度を改めさせてやる!

 

「馬鹿はお前だ。俺は仮にもお前のマスターだぞ?従わないってなら、それ相応の対応をするぞ?」

「マスター………あんたが?」

「そうだよ。文句あるか?ほら、掌に紋章みたいなのがあるだろ」

転生特典をもらう際に説明してもらった限りでは、これが使役対象への主としての証になるらしい。一応は彼女にも通じるか試しておく必要があるとは思ったので見せてみたが……。

 

「……はぁ、本物ね。わかったわ。一応は従ってあげる」

 

どうやら解ってくれたらしい。先程までの態度を改め、俺と向かい合う。……って、意外と近くでみると美人だな。

 

「サーヴァント、アヴェンジャー。召喚に従い、参上しました。この身はーーー」

 

淡々と話を続ける彼女だが、俺の意識はそこにはなかった。鎧の上からでも分かる巨乳、絞まるところはきっちり絞まっており、そして西洋風の美人顔。

ズバリ、ストライクゾーンです。

 

「……聞いてんの?」

「えっ!?あ、ああ……サーヴァントだっけか?」

「……だけ?ちゃんと聞いてたの?まぁいいわ。それと、あんたの問いに答えるわ」

 

彼女は、一瞬卑屈そうな顔をして溜息を漏らした。何か不満でも有るのだろうか?名前教えたらまずいとか?

若干緊張気味にその答えを待った。そして、意を決した様にハッキリとこう述べた。

 

「私の真名はジャンヌ・ダルク。……正しくはジャンヌ・ダルク・オルタだけど。此処ではない世界でかつて救国の聖女と呼ばれ、その身を焼き滅ぼされた哀れな女よ」

 

嫌悪感を放ちつつ、自らの過去を語る彼女。その過去が壮絶な物だったことは雰囲気だけでなく、その名前からも分かる。ジャンヌ・ダルクと言えば有名な名前だ。かつてフランスを救わんが為に立ち上がった彼女の最後は惨たらしい物だったと聞いている。

 

「その……アヴェンジャーって言うぐらいだからやっぱり恨んでるのか?」

「恨む……ねぇ。あんたは自分を殺した奴に対して殺意湧かない?」

「湧くな」

「そういう事よ」

 

答えはくれるが事細かに言う気はないらしい。この質問は少し無神経だったか?とも思ったが、これから一緒に戦っていく仲間なんだ。少しばかりは知っていたい。……別に美人だからとかそういう理由じゃないぞ?

それから俺達はギルドへと戻った。戦力は整った訳だし、後は実践あるのみだ。

 

「すいませ~ん、この依頼を受けたいんですけど……」

「ジャイアントトードの討伐依頼ですね?かしこまりました。詳細はこの紙に記してあるので、お気をつけていってらっしゃいませ」

 

受付のお姉さんは特に渋る様子もなく受けさせてくれた。正直なところ、駆け出しの冒険者にはまだ早いと言われるのではないかと心配していた。 その間、隣にジャンヌを連れていたのだが、当然ものすごく視線を集めた。主に男性冒険者から。

 

「早くいきましょ、どうせ雑魚でしょう」

 

本人は周りの視線は気にしてないようだ。クエストを早々と終わらせることしか頭になさそう。

 

 

 

 

 

 

「よし、じゃあ頼んだぞ」

「ったく、何で私がこんなこと……」

 

再び草原へと戻ってきた俺達。ジャイアントトードという化け物みたいにでかいカエルと対峙しているのだが、ジャンヌは渋った様子で中々攻撃してくれない。

 

「お、おい……だんだんと近づいて来てるからまじで頼むって」

「はぁ……ああ、はいはい。やればいいんでしょ」

 

すると、ジャンヌは一体何処から出したのか分からない黒い剣を振りかざした。俺には全く理解できていなかったが、遠くを見るとジャイアントトードが燃えていた。

 

「す、すっげ~……。な、なぁお前本当はーー」

「あはははは!!!燃えろ!燃え尽きてしまいなさい!!散り様で私を興じさせてちょうだい!!!」

「…………」

 

ジャンヌはカエルが燃える様を楽しみながら顔を歪め、嘲笑っていた。

もしかして、この子はとんでもないドSなのかもしれない。

 

「ふぅ……終わったわよ。これでいいんでしょ?」

「あ、はい。ありがとうございます……」

「それじゃあ私は帰るから。必要なとき以外に呼んだら張った押して火葬するわよ?」

「う、うっす……!」

 

無意識に舎弟みたく振る舞ってしまった。言うことやること容赦ないドSな元聖女さんとか……どう対処すればいいんだよ。

その後数分ほど途方に暮れていた俺は、我に帰ったあとすぐにギルドへと報告しに行った。そういえば、一頭あたり10000エリスの報奨金は俺が全額貰っていいのだろうか?後から請求されると面倒だが、とりあえずは俺の懐に入れておこう。

異世界に来て初めてのクエストを難なく終わらせた俺は、今度は異世界で初めてのギルドでの晩飯を頂くことにした。いかんせん勝手が分からないのだが、注文形式は何処の世界も共通なので問題なさそうだった。しかし、問題はメニューだ。

 

「…………全くわかんね。シュワシュワってなんだ?クリムゾンビュワって飲み物か?写真とかついてねぇのかよ」

 

そう、完全ゆとり世代なことに加えてこの世界では無知である。字は読めても意味がわからないのだ。実物を見ない限りはな……。

 

「あの……ちょっといいでしょうか?」

「あ、はい……なんでしょう?」

 

振り返ると受付のお姉さんが立っていた。隣には俺より少し年下っぽい黒髪の女の子も。何故かその子は顔を真っ赤にして俯いている。

 

「佐藤和馬さんは、今日初めてのクエストを受けられましたよね?」

「は、はい……」

「率直な感想を教えて貰えませんか?……その、人手が足りないとか、やっぱり火力や安全面に不安があるとか。…………パーティーメンバーが欲しいなぁとか?」

「え?いえ、特に苦戦することなく普通に倒せましたよ。まぁパーティーメンバーがいた方が楽かもしれませんが、今は取り分が減ることは避けたいですし……そういうのは生活が安定してからですかね?」

「うっ……あ、でもいずれ必要なら今からでも…………?」

 

何故かやたらと推してくるんだが?何、そんなに俺のことが信用できないのか?いや、でもお姉さんのひきつった顔を見る限り違う気がする。しかも隣の子なんてもはや涙目だし…………。

 

「やっぱり……私は誰にも必要とされてないんですね」

「「えっ?」」

「私なんかが他の人とパーティー組んだら迷惑がかかりますよね。最初からわかってましたから、気にしてなんか……ぐすっ」

 

えっ?何で急に泣き出すの?

訳がわからなかったので、受付のお姉さんだけ連れて少し離れた場所で問いただしてみた。

 

「な、なんなんですかあの娘?」

「実は……あの方は1ヶ月ほど前に冒険者登録をされたかたなんです。でも、人と話すことが苦手で誰とも話さず、ソロで活動しているんです。あ、でも実力は申し分ないですよ。アークウィザードですし」

 

ふむふむ、典型的なぼっちなタイプだな。

 

「私達も気にはなっていたので何度かパーティーを組んでみないか聞いてみたんです。でも、何度話しても怯えて俯いてしまうので会話が中々成立しないんですよ……」

「お、おう……」

「最近では、話す人がいないせいかのら猫や野良犬、それだけに飽きたらず植物にまで話しかけているのを見かけたのです。これはもう放っておくとどうなるかと思って……」

「…………は、はい」

「……どうでしょう?あの娘とパーティーを組んでは頂けませんか?他の方だと知り合いが多過ぎて腰が引けるっと言って拒否されましたし……もう、佐藤さんしかいないんです」

 

なるほど、言いたいことはだいたい分かった。要はぼっちのあの娘を、まだ知り合いが少なくて話しかけやすい俺が拾ってくれないかと言うことか。

 

「ま、まぁ……いいですけどーー」

「本当ですか!!?では、早速本人にも報告しておきます。ふふ、やっぱり佐藤さんに頼んで正解でした!」

 

俺の言葉をぶったぎり安堵の笑みを浮かべて去っていった。……いや、人の話聞こうよ?曰く付き物件みたく、いざ一緒に冒険したら問題発生しましたとか嫌だぞ。もう少し彼女の説明が欲しいのだが……ああ、遠くで歓喜の笑みを浮かべて喜んでらっしゃる。こりゃもう断れねぇな。

 

「えっと……とりあえず自己紹介からしようか。俺の名前はカズマ。今日冒険者になったばかりの初心者だ。全く勝手が分からなくて困らせる事もあるかもだけど、よろしくな?」

「は、ははははい!こ、ここここちらこっ、こそ!よ、よよろしくおねがっ!……いします!」

 

おい、落ち着け。てんぱってて何言ってるのか全く分からん。途中で舌噛んじゃってるし、本当に大丈夫か?

 

「そんな緊張しなくても大丈夫だって。それで、名前を教えてくれないか?」

「ゆっ……ゆんゆんです!!!」

 

あまりにも余裕がないのか、その名前なのかあだ名なのかよく分からん名前をギルド中に響く様な大きな声で叫んでしまった彼女。俺は、ここで軽く引きそうになったが、きっとそれをしたらゆんゆんの精神が持たないと思い、間をおかずに対応してあげた。

 

「ゆんゆんか……い、いい名前だな、うん……ホント」

 

まずい、強がってはみたが他の冒険者の方々の視線が痛い。思わず目線をそらしてしまった。

 

「あ、ありがとうございます……!名前を誉められたのは生まれて初めてです……」

 

だろうな、人前じゃなきゃ本当に名前なのか問いただしてたぞ。

 

「そ、それじゃよろしくな。ゆ……ゆんゆん」

「は、はい!これから末永くよろしくお願いします!!!」

 

末永く!!?重い、まじで重いんだけどこの娘!誰だよ、こんな重症になるまで放っておいた奴は。

「ねぇ、ちよっと~、早く注文とりなさいよ。お腹がすいて穴空きそうなんだけど」

 

と、何故か席の方から聞き覚えのある声が……。

 

「何やってんの、ジャンヌ?」

「はぁ?腹へったから飯寄越せっていってるのよ。そんな事も分からないの?あんた、私のこと知ってたから世界観は共有できてて少しは話が通じるかと思ってたけど、空気は読めないの?」

 

いや、読めないのはどうみてもお前だろ。しかも、さっきみたいなごっつい鎧装備じゃなくて、休日にOLが着るようなTシャツ姿になってんだけど。いつの間に来たんだよ、お前は仕事終わりのおっさんか。

 

「ねぇ、いいから柿ピーでも枝豆でもいいから早く注文しなさいよ」

「いや、真面目に何いってんの?お前、必要以外に呼ぶなとか言ってただろ」

「腹が減ったんだから別に現界してもいいでしょ?いいから、早く生ビール頼みなさいよ。キンキンに冷えたやつね」

 

こいつ……マジでおっさんかよ。つーか、メニュー見ても分かんないんだっての。

 

「あ、そうだ。ゆんゆん、こいつに何かお勧め物頼んでやってくれよ。俺、メニュー見ても全く分かんないんだ」

「は、はい……!」

「なに、この娘。子供のくせして胸でかいわね。ていうか、あんたこんな娘を捕まえてナニする気よ?」

「何にもしねぇよ!失礼な奴だな……!?」

 

卑屈そうにゆんゆんの胸を凝視するジャンヌ。いや、お前こそなに考えてんだよ。お前にも立派な物が着いてるだろ。

 

「さてと、一応紹介しておくけど……こいつはジャンヌ・ダルク・オルタ。長いから邪ンヌって呼んでやってくれ」

「は、はい!分かりました、よろしくお願いします。邪ンヌさん!」

「ちょっとあんたら、いま互換がおかしくなかった?ジャンヌじゃなくて、邪ンヌって言ったでしょ?」

「よし、それじゃあ注文とるか!」

「あ、ちょっと!?聞いてんの!!?張った押すわよ!!?」

 

こうして、俺はこの賑やかで変わった仲間たちと共に、冒険者ライフを始めたのであった。

 

 




思い付きで書き始めた作品です。
暇なときにでも良かったら見てください。


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頭のおかしな紅魔の子

少し時間が空きましたが、続きです。
当面は仲間内集めかな~?と、書きながら思ったので今回は新しい英霊は出ません。
そしてやはりめぐみんは必須級のヒロインだと思う今日この頃。
ジャンヌも可愛いくていじりがいがありますし、書いてて飽きないです、はい。
ゆんゆん?…………可愛いね(小並感)


こんちには。カズマです。お父さん、お母さん、お元気ですか?僕は元気にやってます。最近では冒険者という職業につき、頼もしい仲間と荒稼ぎしています。危険が伴う職業ですが、不満はありません。だって、昔夢見ていた理想の世界にいるのです、これ以上は我が儘というものです。

さて、不満は無いといいましたが、問題はあります。実力はあるが性格のきつい元聖女様。孤高であることをとても気にする可哀想なぼっち少女。

一癖も二癖もある問題児、僕はこのパーティーいの行く末が不安でたまりません。

…………多くは望まないので、普通のヒロインをください。

 

 

 

「さて……今日はどうする?」

 

冒険者生活を初めて早1ヶ月。俺達は手軽なクエストで生計を立てていた。クエスト報酬を貰ってもその日の晩の酒代に充てるジャンヌ。友達がいないせいか、毎日それに付き合うゆんゆん。まるで会社帰りのサラリーマンのような毎日だ。

かくいう俺も、飲み明かす日が多く、大変自堕落な生活を送っています。

 

「今日ねぇ……………………宴会?」

「連日10日やってんだろ!!?」

 

懲り性もなくそんな事を述べるジャンヌ。流石の俺もまずいと思う。あれだけ憧れた冒険者ライフに行き着いた結果がこれだ。…………おかしくね?

 

「あのさ、クエストは楽勝なんだからもっと節約か貯金とかしようぜ?俺達毎日飲み明かしてるから常に金欠なんだぞ?」

「何お利口ぶってんのよ?あんたも同類でしょうが」

「だからなんだよ!このままのこの生活を続けてたら、いつか借金まみれになるぞ!?」

「ああ、はいはい。お金が必要な時は金融に行くかローンすればいいでしょ?それで駄目なら破産宣告してーーー」

「阿呆か?おい、お前マジでサラリーマンなの?何でこんなファンタジーな世界でリアリティー高いこと言い出してんだよ。お前、あれか?実は生前サラリーマンで、干物女だったのか?」

 

この聖女様ことジャンヌは何故か働くことに消極的で、酒とつまみを何よりも好む駄目な振る舞いばかりみせる。

流石にこうも適当に流されると困る。雰囲気をつくるべく、テーブルをバンッと強く叩く。そして、朝からシュワシュワをゴクゴク飲んでいる干物女に一言申す。

 

「ジャンヌ、お前は危機感が足りない。いいか?ゆんゆんをみてみろ」

「な、なんですか……?」

「なによ……?」

「あれだけソロで稼いでいたにも関わらず、ゆんゆんは全然懐が潤っていない。何故だかわかるか?……それはな、お前がこれ見よがしにお姉さん風を吹かして奢らせてるからだ!ただでさえ、ゆんゆんは友達がいないくて日頃から植物を話し相手に時間潰してるのに、その友達の植物を買うお金までなくなったらどうすんだ!?最終的にはエア友達とか言い出すかもしれないだろうが!!?」

「あ、あの……!?カズマさん、一体いつからその事を知って……えっと、大丈夫ですから。私、エア友達もいけますし、それに野良猫のクロちゃんとか野良犬のタロちゃんっていう友達がいますから」

 

うっ……目から塩水が。可哀想を通り越して哀れに見えてきた。というか、エア友達もいけるのか……。

 

「なによ……もう、分かったわよ。そこのほっち娘が可愛がってるお友達人形を買うお金まで無くなったら本格的に病みそうだし、少しは考えてあげるわよ」

 

おいおい、人形も友達なのか……。もう、何が友達なのか分からなくなってきたよ。友達ってなんだ?馬鹿言い合ったり一緒にはしゃいで楽しめるそんな間柄のことだよな?ゆんゆんを見てると、友達の定義が分からなくなる。

 

「ようし、ジャンヌもようやく理解してーー」

「あの、カズマさん」

「ん?なんだよ、ゆんゆん」

 

珍しくゆんゆんが俺に意見があるそうだ。これは聞かざるを得まい。

 

「私にも友達いますよ?」

「……………………大丈夫だ、ゆんゆん。友達の定義は人それぞれだもんな?俺達はとやかく言わないさ。何もサボテンに話しかけるのはやめろだなんて言わない。野良犬に友達相談するなとか言わないさ。だから、な?……気に病むことないぞ?」

「相当痛い娘として見られてるって事ですよね!!?そうじゃなくて、私にもちゃんと人の友達がいますから!!」

「「えっ……!!?」」

 

驚愕の事実に、俺とジャンヌは言葉を失った。

 

「えっと……私と同い年で、同じ里の出身の子なんですよ。同じギルドに所属していますし、たまに話したりするんですよ?」

「…………ジャンヌ」

「…………分かったわ」

 

俺とジャンヌの間に言葉はいらなかった。俺は、すぐさまシュワシュワを大量に注文し、ジャンヌは本物の聖女らしくゆんゆんに寄り添い、慈悲深い言葉で慰めていた。

 

「貴女は本当によく頑張ったわ。私は、あなたのその頑張りを心から尊敬します」

「え?あの、いつもみたく砕けた感じで話してもらっていいんですよ?それに、私は何もしてーー」

「良いのです。例えあなたに自覚はなくとも、主はあなたを祝福するでしょう。哀れな少女に、魂の救済を」

「あ、哀れ!!?ジャンヌさん、慰めているのか哀れんでいるのか分からないんですが!!?」

「ああ、主よ。私は今だけは貴方に救いを求めます。どうか、この哀れで可哀想な乙女に救いがあらんことを」

「さっきよりも酷くなってる!!?」

 

あの傍若無人で情け容赦の無いジャンヌさんが綺麗な言葉を使っている。それほどまでに、ゆんゆんの在りようが見るに耐えなかったのだろう。俺も、今日はもうゆんゆんを慰める名目で1日宴会をしていい気がしてきた。

 

「……苦労してきたんだな、ぐすっ」

「やめてください、カズマさん!そんな哀れなものを見る目で……ジャンヌさんもです!!」

 

その後、ギルド連中を交えてゆんゆんを慰める会が行われたのであった…………。

 

 

 

「まったく、皆さん過剰に反応しすぎです……」

 

嫌だったのか、それとも大勢の人と話せて嬉しかったのか喜怒哀楽がごっちゃになりながらぼやくゆんゆん。ギルドを出た後もにやけていてずっとこの調子だ。

 

(苦労の多い娘だな……)

 

件の事もあり、現在クエストに出ている俺達。面倒きらいなジャンヌも連れて討伐クエストに向かう。

基本的に前衛をジャンヌが勤め、中盤に俺が待機しつつ、状況を見て援護&指示出しを行っている。ゆんゆんは後方で魔法による援護射撃だ。

 

「ねぇ、あんたがあの娘もらってあげなさいよ?」

「待て。その発想は何処から出た?」

 

唐突にジャンヌの意味不発言。何故そうなる?

 

「生前、色々な人を見てきたけどあんなタイプは初めてよ。あれはもう手遅れ。友達作りは諦めて恋に生きた方が楽よ」

「もっと頑張れよ~……仮にも聖女だろ?」

「その聖女が無理だって悟るレベルなのよ。だから、口説きなさいよ」

「無理だ。俺にはレベルが高すぎる。まともに話してるだけで涙で前が見えなくなる 」

 

人間何事も諦めが肝心だ。そう、無理に合わせる必要も友達を作る必要もない。きっと、大丈夫。いつか理想の友達に出会えるはずた…………来世辺りに。

 

「そんな事言って、本当は可愛いから狙ってるんじゃないの?ほら、胸でかいし」

「ば、ばばばばか野郎!!?何いってんだよ、それとこれは別だろ。可愛いからって何でも許容できると思ったら大間違いだぞ!!?」

「へぇ~……日頃は寝る前にあの娘をおかずにぬいてーーー」

「あああああああああああああああ!!!聞こえない、聞きたくない!!!つーか、何で知ってるんだよ!!?」

「私、英霊だから。霊体になれば余裕でもぐりこめるわよ」

 

なんというプライベートブレイカー!!?こいつ、仮にもサラリーマンまがいな事を言っておいて個人情報保護法も知らないのか。人の恥ずかしい所を見やがって…………は、恥ずかしいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!

 

「何を楽しそうに話してるんですか?」

「カズマがあんたをおかずにーーー」

「やめろよぉぉぉぉぉぉ!!?お前な、そればれたらパーティー解散するレベルだぞ!!?」

「なによ、年頃の男が発情してるってだけでしょう?」

「お前本当に聖女か!?確か聖処女とか言われてなかったけか!!?」

「オルタの私に言われてもねぇ。ところで、ゆ……ゆんゆん、あんたはどうなのよ?」

「えっ?何がですか?」

「夜な夜なベットで初めて知り合った近しい年頃の男であるカズマに迫られる妄想で抜いてるあんたなら、カズマとーーー」

「わあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!知りません!!!わたし、そんな事してませんから!!!な、何を根拠に言ってるんですか!!!?」

「あんなにもはっきりと……あ、ダメ。私たちまだそんなっ……ああん!!……とか言いながら股押さえてたじゃない?」

「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!聞こえない!!!聞きたくない!!!」

 

ゆんゆんが壊れてしまった。意外とエロいんだな、この子。不覚にも少し喜んでしまった自分がいる。

ごめん、ゆんゆん。俺の妄想の中のゆんゆんはもっとあれだから、口に出すのも憚れるぐらいアレな目に合ってる。

 

「さっきカズマにも説明したけど、霊体になって色々と探りいれてたの。だから、誤魔化しは通じないわよ?」

「な、なんなんですかこの人!!?カズマさん、カズマさんは私の事を信じてくれますよね!!?」

「あ、当たり前だーーー」

「そういえば昨日、カズマがあそこ押さえてゆんゆんの名前を言ってたような気がしないでもないような、そうだったような……」

「いや~、ゆんゆん。溜めるのはよくないぞ。ちゃんと人様に迷惑がかからない程度に発散するんだぞ」

「まさかの裏切りですか!!?……というか、カズマさんもですか?」

「………………クエスト、早く終わらせようぜ」

「………………そうですね」

 

無言のカエル狩りが行われたのであった。

ジャンヌというKY女のせいで、俺とゆんゆんは暫くの間、まともに話すことが出来なかった。

 

 

 

クエストも終わり、報酬を受け取った俺達は、晩飯を食べ終え風呂に入っていた。風呂場では話す相手もいない俺は、さっさと上がり、テーブル席で2人を待っていた。……きっと、女子風呂では恋ばなで盛り上がってんだろうな。ジャンヌが平気で猥談するやつだと分かったし、ゆんゆんも可愛そうな目に合っているに違いない。

 

「はぁ……何処かにまともで強くて可愛い娘いないかな~」

 

テーブルにもたれ掛かりながら周りの冒険者を見る。どこを見ても男、男、男……まぁ当然か。この世界で冒険者なんてやるやつは世紀末の格闘家みたいな実力に自信があるやつらだ。お洒落な可愛い娘なんているはずもない。

 

「ふっふっふっ、私をお呼びですか?」

 

振り向くと背丈の小さい黒髪の魔女っぽいロリッ娘が立っていた。服装は丈が短くていかにもパンツが見えそうな赤い服に、魔法使いの象徴とも言えるとんがり帽子をかぶっている。

 

「はぁ~……何処かに美人で常識のあるお姉さんはいないかな~……」

「おい、何故私を無視した挙げ句、要望が変わっているのか聞こうじゃないか?」

 

見るからに頭のおかしそうなロリッ娘が胸ぐらを掴んできた。おい、やめろ。俺に少女趣味はないんだよ。

 

「なんだよ、俺は迷子センターじゃないぞ?子供はお家にかえーー」

「なんなんですかこの人!?初対面のレディーに対して失礼じゃないですか!!?」

「その失礼な人に何のようだよ?」

「うっ……その返し方はいまいち腑に落ちないのですが。コホン、良かったら私とパーティーをーー」

「お姉さん、シュワシュワ一杯!」

「なっ!?」

 

華麗にスルーし、お姉さんの方へと向きやる。だが、それで完全に火が着いたのか今度は後ろから羽交い締めしてきやがった。

 

「いててててて!!!?おい、やめろ!ロリッ娘に襲われるぅぅぅ!!!」

「そのロリッ娘というのをやめてもらおうか!私はこう見えて14歳で立派な大人のレディーですよ!!」

「何が大人のレディーだ、ただ背伸びしてるロリじゃねぇか!?あ、やめろ!!絞まってるぅぅぅ!!!」

 

やばい、本格的にやばぁい!酸素が足りなくなってきた。慎ましやかな胸部の感触に浸る間など無く、秒単位で俺の意識が消えかけてる。

 

「さぁ、認めるのです!立派なレディーだと!!」

「うぐっ……ペッタンコロリ」

「むんっ!!!」

「ひでぶ!!!」

 

更に力込めやがった。おい、マジでやめろよ。ロリのくせしてどんだけ力強いんだよ。

 

「あんた、幼女趣味でもあるの?」

 

と、そこに風呂上がりの干物女……じゃなくて、ジャンヌが戻ってきた。

よし、この際誰でもいい。助けてくれ、頼むから。後で柿ピー奢るから。

 

「む?お仲間ですか……?」

「そうそう。もうお仲間は間に合ってますぅ。どうしてもというなら、そこのドS聖女とぼっち少女を説得するんだな」

「いんじゃない?」

「即答!?なんでだよ、お前だって色物だらけなパーティーとか嫌だろ?」

「カズマ、あんたは私のことをまだ分かっていないようだから教えてあげる。……楽して稼いだお金で飲み明かす、これこそ干物女である秘訣なのよ」

「お前……つまり仲間増やして楽したいだけだろ。困るぞ、お前はウチの主戦力だ。いわば企業の中枢を担っているんだぞ」

「そして使い潰された社員は日に日に病んでいき、果ては鬱になり、結局駄目になる。つまり、最初から頑張るだけ損なのよ。適度に部下を使って楽をする。これこそが長寿の秘訣なのよ」

 

こいつ、真面目になに語りだしてんの?なに、干物妹う◯るちゃん?あの兄妹で足して割った感じの性格してんな。社畜精神を兼ね備えた干物女とか……そんなキャラじゃねぇだろ。そもそも長寿もなにも前世は19歳で亡くなってたろ。永遠の19歳、見た目は聖女、頭脳は社畜、その名はキャラ崩壊ジャンヌちゃん。

 

「め、めぐみん……?」

「ん?ゆんゆん、知り合いか?」

「はい。あの……今朝言っていた友達です」

「「「友達?」」」

「って、おい。なんでお前まで反応するんだよ」

「いえ、一体誰のことを指して友達と言ったのか疑問に思いまして」

「え?私達、友達……だよね?」

 

何故か目線をそらすめぐみん。やめてくれ、ゆんゆんが涙目になってるから。肩が震えてるから。

 

「自称ライバル……の間違いでは?」

「うわああああぁぁぁぁぁん!!!ひどい、ひどいよぉぉぉぉぉ!!!友達と思ってたのは私だけなの!!?」

「あ……えっと、あ、はい。そういえば友達でしたね、私達」

「そういえば!!?もはや投げやりじゃない!!?」

 

ついに号泣会見を始めたゆんゆん。誰一人として彼女に助け船を出してやれないのだ、どうしようもない。ぼっちに下手な同情や情けは逆効果だ。ここは、思いっきり泣かせてあげよう。そして、そのあとは安定の宴会タイムだ。

「それで、パーティーに入りたいとか言ってたけど……真面目に?」

「ええ、もちろんです!自慢ではないですが、私はこの街随一のアークウィザード。火力において私の右に出るものなどいません!!」

「マジで!!?よし、じゃあ頼む。是非とも入ってくれ。ゆんゆんとも知り合いみたいだし、上手くやってくれるとなお助かる」

「何か押し付けられた気がするのですが……いいでしょう!泥舟にのったつもりでいると良いでしょう」

 

泥舟?沈没しそうだな、おい。

めぐみんをパーティーに迎えた俺達。実力は本人いわく俺TUEEEEEEE!!!状態らしいので心配は要らんだろう…………たぶん。

 

 

 

翌日、めぐみんを交えてクエストへと向かった。

クエスト内容は初心者殺しの討伐という、駆け出し冒険者連中には少々荷が重い相手だ。しかし、仮にも俺達はアクセルでは名が売れだした期待のルーキーズだ。負けてはいられない。

 

「ようし、作戦を伝えるぞ」

「作戦プラン何て考えても無駄よ。出てきたら突き殺す。離れた場所で発見したら炎で焼き殺す。二者択一じゃない」

「おい、お前働きたくないみたいなこと言っておいて一番危険なポジ独占してるけど大丈夫か?なに、ツンデレ?」

「能率の問題よ。……べ、別にあんたらに危害が及ばないようにとかじゃないから。全然関係ないから」

 

おや?ジャンヌがデレた。

 

「ジャンヌさん、私達の身を案じて……。ありがとうございます。私もジャンヌさんの足手まといにならないよう頑張ります!」

「……は?馬鹿じゃないの。誰もそんなこと言ってないわよ。能率の問題って言ったでしょ?自分の身の保身のためよ」

「そんな事言って…………本当は日頃ゆんゆんに奢って貰ってるからちょっとは貸し借りとか罪悪感とか感じてるんだろ?」

「ば、馬鹿じゃないの!?別にあんた達の為じゃないんだからね!!?これは……そう、あれよ。ケジメよ」

 

おやおや、ジャンヌさん?確実にデレてますよ?実は素直に好意を向けられることに弱いのか?なんだよ、冗談でも誉め続ければ言うこときいてくれそうじゃん。

顔真っ赤なジャンヌを筆頭に森を突き進む。やたらと嬉しそうなゆんゆん。ことある事に俺とジャンヌに交互に「頑張りましょうね」と、会話を持ちかけてくる。

めぐみんはと言えば……。

 

「悪いな、ジャンヌが無双してるから何にもする事なさそうだ」

「いえ、構いませんよ。私は最高のシチュエーションで戦いたいのです。ふふふ、紅魔の血がたぎります」

(ああ、ちょっと頭の痛い娘なんだな……)

 

よく分からんが、平常運転らしい。

 

「なぁ、ゆんゆん。めぐみんって、どんな娘なんだ?」

「えっ?えっと……えっと、とてもいい娘ですよ?」

「OK、よくわかった」

 

どうやらこのぼっち、生まれてこのかたまともな友達に巡り会えず、精神まで拗らせたようだ。友達紹介しようにも言葉が思い付かず、こんなあからさまにやばそうな娘をとてもいい娘だと言う。

世界って広いな~。と、不覚にもそう思った。

 

「カズマ、あんたやっぱり幼女趣味でもあるの?」

「……は?いや、なんでだよ?」

「端から見たら両手に少女を侍らせてるようにしか見えないわよ」

「べ、別にそんなんじゃねぇから!?」

「う、うん……そうですよ。ジャンヌさん?」

「よ、幼女…………!?」

 

お二方も揃って反応するが、めぐみんは幼女という単語にショックを受けてるようだ。まぁ、体系的にそう見えなくもないが……ダイレクト過ぎるだろ。相変わらず容赦無いな。

「……ん?おい、敵感知に反応した。近くにいるぞ」

「そう」

 

ジャンヌは手短に応えると、小さな声でスキルを唱えた。

 

『竜の魔女EX』

 

パーティー全体の攻撃力を底上げするバフスキルだ。あくまでも使用するのはジャンヌ、マスターである俺は魔力消費はない。だが、ジャンヌの魔力が極端に減ったり、損傷を受けた場合は一部俺の魔力が気力ごと持っていかれるらしい。

 

『激流火葬』

 

ジャンヌがそう唱えると、離れたところにいた初心者殺しという虎みたいな獣に灼熱の炎が襲いかかった。暫くの間悶えると、倒れてピクリとも動かなくなった。

ちなみに、先のスキルも攻撃タイプの固有スキルで、俺の様な冒険者みたく、同じようにスキルポイントで覚えれるようになるらしい。

 

「流石だなジャンヌ。とても干物女とは思えないぞ。社畜も顔負けの働きようだ」

「はぁ?倒さなきゃ金が貰えないでしょうが。あんたも盗賊スキルの敵感知ばっかりじゃなくて、攻撃スキルも使いなさいよ。冒険者といよりもアサシンの方が似合ってるカズマさん?」

「よ、余計なお世話だ!おまえ~、ちょっと顔が美人でスタイルよくて強いからって調子のんなよ~!?」

「別に調子のってないわよ。というか、あんた、私のことスタイルがいい美人って…………へ、へぇ~。そういう風に見てたの?ま、まぁ……別にいいけど。……………………美人、か」

 

あ、やばい。ちょっと、いやかなり恥ずかしくなってきた!!!何で言葉の弾みであんなこと言っちゃったかな、何か気まずい。ジャンヌが綺麗なジャンヌになってる。誰だよお前、本当にオルタか?

 

「へぇ~……カズマさんって、ジャンヌさんみたいなドS美人が好みなんですね。へぇー」

 

怖い。ちょっと怖いぞこの娘。何でいきなり無表情になってんの?何で最後棒読みなんだ?俺がなんか悪いことした?せいぜい酒の席で間違ってゆんゆんのシュワシュワ飲んで間接キスぐらいしかしてな……おっと、相当悪いですねこれ。普通の女子なら「キモッ」とか「ないわー」とか言われてそう。

 

「あの、仲睦まじい所悪いのですが……囲まれてますよ?」

「えっ?」

 

2人の会話に気をとられていて全く気づかなかったが、めぐみんの言うとおり前後左右に囲まれていた。……は?やばくね?

 

「一人、二人、三人…………一人囮がたりな~い」

「なっ!?この人囮の数合わせしてますよ!!?」

「くっ、妖怪イチタリナイ……!!?」

「なんの話ですか!!?」

 

と、冗談はさておき。ここからが俺達スーパールーキーズの本領発揮だ。

 

『ライトオブセイバー!』

 

まずはゆんゆんが先陣を切る。まるで鞭のように伸びる光の剣で正面から真っ二つに切り裂く。赤い鮮血を撒き散らしながら崩れ落ちる初心者殺し……おえ、グロすぎ。やばいんだけど、内蔵とか丸見え。

 

『自己改造EX』

 

再びジャンヌがスキルを発動した。これは自分単体に攻撃補正をかけるものだ。すぐさま距離を詰め、旗の先端で突き殺す。……おい、マジでグロいって。急所狙う必要はあるけど、だからって眼球から脳を貫かなくてもいいだろうが。夢に出そう……。

さて、次は俺だな……

 

『…………潜伏』

「「「っ!!!?」」」

 

盗賊用スキル、潜伏。気配を絶つことで身を潜める。何でここで発動させたかって?…………だって、危ないじゃん?なんだかんだ言って俺だけ最弱職の冒険者だし。ここは、仲間が倒し終わるまで隠れるに限る。

 

「あんたねぇ、男なんだからもう少しシャキッとしなさいよ!隠れてこそこそするなんて、いよいよアサシンに身をやつしたって訳!?」

「カズマさん、サイテーです……」

「あの、どうせなら私も一緒に潜伏を発動させてほしかっーーって、だ、だれかー!?こっちに着てます!やばいです、殺されます!!」

 

みんな好き放題言ってくれやがって……って、うん?なんでめぐみんは反撃しないんだ?仮にもゆんゆんと同じアークウィザードだろ?

俺は、仕方なく潜伏を解除してめぐみんの方へと向かう。

 

 

「お、お助けをっ!!」

「あ~めっちゃ怖い。でも、ヒロインのピンチに駆け付けるのが主人公の役目だもんな」

 

装備していた短剣を構え、正面から突っ込んでくる初心者殺しに向ける。そして、覚えたてのあるスキルを発動させた。

 

『クリエイトアース、からのバインド!』

 

ゆんゆんのライトオブセイバーみたく、まずはクリエイトアースで鞭状に土を生成して形作る。そして、バインドによりその土に捕縛能力を与えてやるわけだ。本当なら、低レベル冒険者の俺がこんな無駄遣いは良くないのだが、相手が相手だけに仕方ない。

 

「よっし、後は喉を切ってやるだけ……だけど、重いなぁ。嫌だな~、動物愛護法に引っ掛からないかな?」

「さっさと殺りなさいよ!?」

 

それから一悶着あったが、どうにかクエストを達成した。

 

「いや~、俺大活躍だったな?」

「そうですねー、すごかったですねー」

「潜伏しなきゃ素直に誉めてあげて良かったけど。正直いってヒールで踏んでやろうかと思ったわ」

 

うっ、仲間からの辛辣なお言葉が……。

 

「私は助けてもらったので、素直にお礼を言いますよ。ありがとうごさいます、カズマ」

「おお、ロリッ娘は話がわかるな。そうそう、こういう素直なところがお前らに足りないんだぞ?わかるか、ジャンヌ?」

「死ねば?」

「ひどっ!!?」

 

本当に容赦無いな。ちょっとデレたと思ったらこれですわ。ゆんゆんも妙に冷たいし、俺の味方は頭のおかしい娘だけみたいだ。世界はいつだって俺に冷たい。ニートしかり、自宅警備員しかり、冒険者しかり、形見の狭い事だ。

 

「ところで、どうしてあのとき魔法を使わなかったんだ?」

「ああ、その事ですか……」

 

めぐみんは悟った顔でこう語った。

 

「私は爆裂魔法をこよなく愛する者。爆裂魔法だけを愛し、止まない者。爆裂魔法以外の魔法は使えませんし、使う気もありません」

「あ、そう…………なの?ていうか、え?使えないんじゃなく、使う気がないと?」

「はい」

「………………………………ゆんゆん、お前の友達どうなってんの?」

「あの、私に聞かれても困ります……どういうことなの、めぐみん?」

「いった通りですが?」

 

なにこの子、言ってやったぜといわんばかりにどや顔してるんだけど。頭が痛いだけに飽きたらず性能もポンコツとかどうなってんの?

 

「カズマ」

「な、なんだよ……?」

 

めぐみんは、俺と向かい合った。そして、満面の笑みを浮かべた。

 

「これからよろしくお願いしますね?」

 

え?なにこの娘、普通に可愛い。頭のおかしさと痛いところが無ければ普通に美少女かもしれない。

俺は、差しのべられた手に手を重ね、答えを返した。

 

「こっちこそよろしくな?」

「はい!」

「…………で、普通の魔法は覚える気はーーー」

「無いです」

 

くっ、強情な。

なんやかんやで俺達のパーティーにまた一人加わった。使いどころを考えれば十分に戦力にはなると思うが、やはり行く末が不安になる。

「………………他のまーー」

「嫌です」

「……………………」

 

訂正。

不安しかない。

 

 

 




どうにか字数を増やしたいのですが、そうすると投稿が遅くなる…………なので、適当な文字数で、話のキリが良くなったら投稿します。(適当ですみません)

ついでに、次回予告のあれっぽいやつ。書いてみました。


こんにちは、ジャンヌよ。
今日も活躍してやったわ。それはもう、働き潰される社畜のようーーコホン、まぁこの話はいいわ。
仕事終わりの酒は最高ね。この至福の一時を邪魔するやつはヒールで踏んでやるわ。…………は?ご褒美です?ちょ、 なにあんた、被虐趣味でもあるの?カズマっていうニートマスターだけに飽きたらず、私の周りには変態が多いわね。

……え?私も大概ですって?
………………ぶっ殺!!!


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ご注文は変態ですか?いいえ、ケフィアです。

お気に入り登録&評価を頂きありがとうごさいます!!!
余談ですが、タグにR指定入れてませんが普通に猥談します。もし、いれておいた方がいいのでは?と思う方は言ってください。即刻入れます。

さて、サーヴァントの選定ですが…………次回あたりに新しいのを出そうと思います。なので、今回はただの日常話です。
ジャンヌもSっ気をどんどん出していければと思いつつ、ゆんゆんもキャラ崩壊させようかな~と思う今日この頃。
それと、一応カズマが強くなる兆しを見せます。


少しだけキャラ設定について説明

 

カズマ

・冒険者

どの職業のスキルも使える万能職(本職の性能には及ばないので器用貧乏)

・EXスキル『召喚師』保有

サーヴァントを呼び出し、使役可能(レベルにより使役数は増減)

 

ジャンヌ・ダルク(オルタ)

・攻撃特化したサーヴァント

・干物女であることを主張する社畜ちゃん

・口では働きたくないと言いながら、仲間のピンチには自分を省みないツンデレ

 

ゆんゆん

・究極にして至高、最強のぼっち魔法使い

・友達がいないことを気にしすぎて本作では病んでいく傾向がある。

・友達の友達という存在を認めない。友達(例えばカズマとか)が他の人と仲良くしてると無表情で見てくる怖い一面がある。

 

※あくまで参考程度に。

 

 

 

 

 

使えない魔法使いを仲間に引き入れてしまった俺達だが、ジャンヌがいるおかげでさほど苦労はなかった。むしろ活躍していることもしばしば。

 

「うちもらしたわ、後衛!頼んだわよ!!」

「了解です!」

 

数が多いとさしものジャンヌもさばききれない事もある。そんな時はめぐみんの出番だ。広範囲に大ダメージを与えられる魔法というのは珍しい。故にゆんゆんでも手に余るレベルは倒してもらっている。

…………俺?潜ぷーーーじゃなくて、指示出してる。

 

『エクスプロージョン!!!』

 

めぐみんがそう叫ぶと、ものすごい爆発が起こった。燃費が悪すぎることが欠点だが、威力は申し分ない。たぶん、これ以上の火力を出せる奴は数えるほどしかいないだろう。

魔法を放っためぐみんはその場に崩れる。それも欠点のひとつだが、問題はそのあとだ。

 

「よし、討伐完了だ。ギルドに帰るぞ」

「では、おんぶをお願いします」

「…………」

 

そう、これだ。誰がめぐみんをおぶって帰るか、だ。

別に嫌じゃないけど、毎度毎度おぶるのは流石にだるい。それに、おぶってると何故かゆんゆんから殺気にも似たナニかを感じるのだ。怖いことこの上ない。

 

「っし、じゃあみんなじゃんけんするぞ」

「「じゃんけーん……」」

 

ジャンヌは何も文句は言わない。たぶん、なんやかんや言って面倒見の良い性格で、さほど迷惑には思っていないはずだ。

とは言いつつも、やれとは言いづらい。俺がおんぶするとゆんゆんがアレだし、選択肢はジャンヌとゆんゆんの2択みたいなものだ。

 

「ほいっ…………今日はゆんゆんか 」

「しょ、しょうがないわね~!めぐみん、ほら、掴まって」

「なんで嬉しそうなんですか……?」

「ゆんゆんって、実は百合もいけるのか」

「えっ?本当なの?ゆんゆん、あんた…………」

「違います!!!カズマさんも変なこと言わないでください」

 

こんなやり取りをしながら、以前と変わらない生活を続けている。ちなみに、金の心配は未だ解決してない。

パーティーメンバーも増え、戦闘に余裕ができはじめたのだが、平均レベルはさほど高くはない。俺とゆんゆんはレベル15、めぐみんはレベル10だ。先日受けた初心者殺しの推奨レベルは20以上だったが、ステータスにおいてそれは俺達には該当しないのだ。チーターの俺は常にジャンヌという護衛がいるし、ゆんゆんとめぐみんは上級職。要は感覚だ。何となくで報酬と労力が見会うものばかり受けている。

 

「はぁ……レベルは上がっているのに、俺だけ弱いままな気がする」

「気がするじゃなくて、そうなのよ」

「な、何をっ!?」

「カズマさん、最弱職ですもんね……」

 

おい、やめろ。ゆんゆんに可哀想な目で見られるとマジで泣きたくなるから。マジでやめてくれ。

 

「もし良かったら……私がレベル上げのお手伝いをしましょうか?」

「ふ、ふん!別にそこまで気にしてないし?ていうか、そもそも俺の本領は知恵というか頭脳?戦略をたてるのが仕事…………なのか」

「自分で言っておいて、勝手に悲しまないでくださいよ……。分かりました。その知力を上げるためにもレベル上げしましょう?」

 

ゆんゆんが優しく微笑んでくる。

ああ、俺……みじめだ。こんないたいげな少女に哀れまれて、手伝ってもらうだなんて…………。

 

「ぐすっ。……ジャンヌ、俺、このパーティにいてもいいのかな?」

「はぁ?あんたがいなきゃたぶん、この娘達はまともにやっていけないわよ?私はそもそもあんたとの契約があるから関係ないけど、ゆんゆんは間違いなく生涯ぼっちの道を歩むわよ」

「そうだな。俺がいる意味はあったな。ありがとう、ジャンヌ」

「さりげに私が問題児扱いされてる……。そんなに私駄目かな?」

「さぁ?そもそも、私はゆんゆんが人とまともに接しているというだけで驚いていますから」

 

うん、そうだな。深く考えるのはやめよう。誰にも欠点はあるし、いいところもある。みんなでパーティーなんだ。俺だけ役立たず何て事はないはずだ。

しかし、俺とて男だ。プライドというものはある。故に、こっそり特訓することにした。

 

 

 

 

「よし、ここらでいいか」

 

あれから数日経ち、有言実行するべく近くの草原へとやって来た。ここは、駆け出し冒険者の街アクセルでは名の知れたレベル上げスポットなのだ。

 

「おい、カズマ。本当にやるのか?」

「おう。もしピンチになったら頼んだ」

 

流石に一人は危険なので、ギルドの知り合いを連れてきた。名前はダストという。このまちでは有名なゴロツキだ。しかし、人は見かけによらないというのも本当で、俺達は気が合い、すぐに仲良くなった。主に猥談していただけだが……。

 

「ふっ!はぁ!とぅ!」

 

順調に雑魚モンスターを倒していく。ダストには手を出さずに後ろで見守ってもらっている。

 

「しっかし、カズマよ。お前、どうやったらあんな美人揃いなパーティー作れるんだ?何か秘訣でもあるのか?」

「はぁ!…………ふぅ、パーティーね……。そんなに美人がパーティーに欲しいか?」

「当たり前だろ!」

 

即答か。

 

「お前は普段から女に囲まれているから気にもならないかもしれんが、周りからみたら、それはもうハーレム状態だぞ」

「んなことねぇよ。美人とは言っても、ゆんゆんとめぐみんは14歳だ。手を出したら犯罪だぞ」

「はぁ?14歳なら結婚も出来るし、やりたい放題じゃねぇか!」

「え?本当に?14歳から結婚も出来るのか?」

 

恐ろしいことを聞いてしまった。つまり、本当に俺はハーレムを形成していたのか。……いや、でもな。色物揃いだしな、素直に喜んでいいものか…………。

 

「まぁでも、あの貴族っぽい姉ちゃんは格が違うからな。へたれなカズマには無理だろう」

「な、なにおぅ!!?」

「おっ、モンスターが来てるぞ」

「こ、こいつぅ……俺がレベル上げしてるのを良いことに」

 

しかし、文句ばっかりも言ってられない。普段はパーティーで攻略にあたるのだが、今日はソロだ。全て自分で倒しきらなくてはならない。

いつかは一人で戦わなくてはならないときが来る、そう勝手に思っていた俺は、いざというときのための備えはしていた。

 

「俺を舐めるなよ、いくぜ!」

 

盗賊用スキルを知り合いの盗賊に一通り教えてもらったのだ。なので、敵感知から攻撃スキルまである程度は覚えている。

 

『暗歩』

 

足音を無くすスキルだ。これと敵感知、暗視、潜伏スキルを混ぜると暗殺紛いな事までできる。

ソロと言いつつ、目に見えるダストを餌に俺は背後から斬りかかり、モンスターを倒す。まさに外道ーーじゃなくて、知的戦術だ。

 

「はぁ!!」

「ぎゃふ!!」

 

短剣で何度か切りつけると、弱小モンスターであるコボルトは倒れた。経験値はそれほどではないが、苦労もない。ローリスクローリターンだが、確実だ。

モンスターを倒すと経験値が貰えるのだが、契約で結ばれているジャンヌにも経験値が貰える。これは逆も同じだ。どうやら俺とジャンヌはポ◯モンで言うところの学習装置みたいなものを装備しているみたいな感じなのだ。

 

「さてと、そろそろレベルも上がってスキルポイントが溜まって…………ん?」

 

と、ここで異変が起きた。

なんと冒険者カードに新たなスキルが表示されているのだ。

それも、EXスキル欄にだ。

改めて言うが、このチート能力はポイントで得るものではないのだ。つまり、表示されたということは、習得したということ。

そして、スキル名はこう書かれていた。

 

『憑依』

 

「…………え?なに、これ?」

 

何か不気味なスキル名が表示されていた。

 

 

 

 

あの後、俺はすぐにきりあげた。新たなスキルを試そうかとも思ったがやめた。こういうチート能力はあまり見せびらかすものではないだろうと思ったのだ。

とはいえ、誰にも見せず、一人で勝手に試すというのもあれなのでジャンヌに聞いてみることにした。

 

「ジャンヌ、これ何か分かるか?」

「憑依?……ああ、降霊術のひとつね。簡単に言うと、私みたいな英霊を身に宿し憑依させる事で能力を得るのよ」

 

だそうだ。ただ注意も必要で、対象となる英霊はクラス毎にランダムだ。ジャンヌみたくアヴェンジャーを宿したい時は、アヴェンジャーと念じる。しかし、限定出来るのはそこまで。後は運頼みだ。

 

「まぁ、俺は幸運だから良いと思うんだが……」

「間違ってもバーサーカーだけはやめなさいよ?知能まで持っていかれるわよ」

「お、おう……。気を付ける」

 

ジャンヌいわく、ルーラーというクラスもやめろと言うのだが、何故だろう?

 

「さてと、それじゃあ今日はもう寝るか」

「おやすみ~。……ああ、今日は覗かないからナニしても大丈夫よ」

「余計なお世話だ!!?」

 

こいつ、一言多いな。

聖女なら聖女らしく慎みをもって欲しいものだ。……まぁ、オルタだから仕方ないか。

それからほどなくして俺は就寝した。

 

 

 

 

 

~ゆんゆんside~

今日はフリーだとカズマさんに言われた。突然どうしたのか聞いたら、レベル上げするのだと言う。

私も同行をしようと思ったのだけど、真剣な顔で『一人でいい』と言われたので仕方なく頷いた。

でも、そう言われても私にはこういう時はやることがないの。だから、バレないようにこっそり着けることにした。

 

「何してるんだろう……?」

 

何やらチンピラみたいな人と話している。それも人通りの少ない路地裏で。

どうしよう?もし本当にカズマさんがチンピラに絡まれて困ってたら……。でも、私もバレるわけにはいかないの。だから、様子を見ながら聞き耳を立てたの。

 

「ーーだよ。ーーだかーーな」

「ーーよ。ーーだし」

 

遠くからなのでよく聞こえない……。

う~ん、どうしよう?

 

「なぁ、ーーでいいから。頼む!」

「…………はぁ、本当にーーだな?」

「本当か!?」

 

う~ん、聞こえづらい。もう少し近づいてみようかな?と、どうしようか悩んでいた矢先、とんでもない光景を見てしまったの。

 

「これ、俺の気持ちだ。受け取ってくれ」

「っ!?……いいのか、俺なんかで」

「お前じゃなきゃダメなんだ」

 

えっ!?何、何なの!?カズマさんがチンピラの肩を掴んで、告白紛いなことを言って…………え?どうして相手も照れてるの?……………………ま、まさか本当に告白!!!?

 

「か、カズマさん…………同性愛は、いけないと思う…………のに、妄想が滞ってーーって、これじゃ私も変態じゃない!!?」

 

私は、衝撃の現場に遭遇してしまった。

どうしよう?実はカズマさんがホモだったなんて…………今度はジャンヌさんにバレないように宿を借りてから妄想しよう。

 

「はぁ……はぁ……カズマさん、私、いけない娘になっちゃいそうです……」

「何をしているのですか?」

「ひゃ!!?」

「…………ゆんゆん、あまり大きな声を出さないでください。カズマにバレますから」

 

振り向くと、めぐみんが呆れ顔で見ていた。

どうしよう?聞かれたかな?

 

「ど、どうしたのめぐみん?こんなところで……?」

「いえ、偶然通りかかっただけですが。ええ、別に知り合いが男同士の絡み合いで妄想に耽って抜いていただなんて所、見てませんから」

「全部みてるじゃない!!?」

 

恥ずかしい……。めぐみんに大変なところを見られてしまった……。

 

「大丈夫ですよ、ゆんゆん」

「……めぐみん?」

 

めぐみんは、普段なら絶対見せないような笑顔でこう言った。

 

「ジャンヌさんから、ゆんゆんがカズマをおかずに週4回抜いていることは知っていますから。今さら、腐女子という事がわかったくらいでどうもしませんよ?」

「うわあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!私、知らないから!!!!そんなの知らないからー!!!!」

「………………行ってしまいましたか」

 

ああ、どうしよう……?

めぐみんにとんでもない秘密を知られてしまった…………。明日からどんな顔でギルドに行けばいいんだろう…………?

この後、私は無我夢中で走り抜けた。気がつけば、カズマさんが寝泊まりしている宿屋まで来ていた。

 

「そういえば…………」

 

ふと、私はあることを思い出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ねぇ、ゆんゆん」

「はい?なんですか、ジャンヌさん?」

「あんた、そろそろ妄想だけじゃ足らなくなってきたんじゃない?」

「はい!!?」

 

ジャンヌさんがとんでもないことを言い出した。

知られているとは分かっていたが、まさかまた干渉してこようとは……。

私は、意味はないと思ったけどしらを切った。

 

「は、はて……?何の事ですか?」

「いいの、語らなくとも分かってるから」

 

そういうと、ジャンヌさんは鍵を渡してきた。

 

「これは……?」

「カズマの部屋の鍵よ。これで、すっきりさせてもらいなさい」

「………………ぐすっ」

「いいのよ、泣かなくても。私はあなたの味方よ」

 

その優しさが私にはとても辛かった。

だってもう、私が変態だという事は否定できないのだから…………。

 

「健闘を祈るわ」

 

私は、ジャンヌさんの後ろ姿が眩しくて見えなかった。

………………もう、どうにでもなればいいと思った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

という事があったのを思い出した。

 

「鍵は…………あ、合った!」

 

何かあったらと思い、いつも持ち歩いていたの。

 

「………………いいのかな?」

 

ちなみに、今私がやろうと思っているのは潜入。カズマさんの部屋から、何かアレに使えそうなものがないか探すつもり…………あっ、嘘です。冗談ですよ?……ふぅ、心の声が漏れるところだった。

宿屋に入ると、主人らしき人に話しかけられた。

 

「おぅ、あんたカズマんところの嬢ちゃんじゃねぇか?」

「あ、はい。そうですけど……」

「丁度良かった。カズマのやつに今度これを貸してくれって言われたから持ってきたのに居やがらなかったんだよ。だから、代わりにこれ渡しておいてくれよ?」

「あ、はい…………」

 

おじさんは、私に袋を渡すと去って行った。

 

「なんだろう、これ?」

 

失礼だと思ったけど、気になるので中身を見てみた。きけんなものだと大変だもんね!

そう思ってたら、なんと中にはいっていたのは…………大人のおもちゃでした。

 

「……………………………………こ、コホンコホン!………………え?どうしよ、これ?」

 

どうみてもそれだった。

でも、どうしよう?いくら頼まれたと言っても、流石に女の私がこれを渡すのは…………。

 

「…………そうだ!部屋においておけばいいんだ!!」

 

私って天才ね!せっかく鍵を持っているんだからこれを利用しない手はないわ!

有言実行。私は何の躊躇いもなく部屋に入った。

後から思ったの…………私はどうして血迷った事をしてしまったのだろうかと。

 

「お、お邪魔しま~す……」

 

安い宿にしては家具の揃った部屋だった。それに、冒険に必要な装備やそれらを整備するのに必要な道具等、期待していた訳ではないけど…………エッチな物は見当たらなかった。

 

「……え、えっと。とりあえずこれをテーブルにおいてと。これからどうしようかな……?」

 

辺りを見る。でも、これといって変わったものもない。とりあえずアレに使えそうなものを………。

 

「ハンカチ……ううん、流石にばれるかな?」

 

あれよこれよと探してみたけど、手頃な物はなかった。

少し探し疲れたのでベットに横になった。

 

「ふぅ……ん?この匂いは」

 

毛布からカズマさんの匂いがした。

こ、これは…………じゅるり。

 

「…………ん、んん!…………どうしよう、したくなってきた」

 

困ったな…………。べ、別にそんなに溜まってる訳じゃないと思うんだけど……。そうだ!

このまましてしまおう!

 

「そういえば、さっきの袋の中に……あった!」

 

大人の……おもちゃ、ごくり。

…………バレなきゃいいよね?

※良くないです。良い子は真似しないでね?

 

「はぁ……はぁ……んうっ!…………この魔道具、以外と振動が強いのね…………んんっ!?」

 

私は、自分でも分からないぐらい無我夢中になっていた。どうしよう?こんなところ見つかったら絶対変に思われるよね…………?

そのままどのくらいの時間が過ぎただろう?たぶん、一時間くらいかな?流石にこれ以上はと思い、立ち上がろうとした瞬間ーーー。

 

「ふぅ~、 疲れ…………た?」

「……………………………………………………」

「……………………………………………………」

 

時が止まった、気がした。

 

「な、なななななにしてんの!!?」

「いやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

「ぶふぉ!!?」

 

思わずぶってしまった。

だ、だって仕方ないもん!……いきなり帰ってくるだなんて思わなかったから。

 

「あわわわわわわわ…………!!!」

「え?…………ちょ、え?なんでゆんゆんが半裸で俺のベットに?…………って、それなに?」

「み、見ないでーー!!!」

「は、はい!!……すいません」

 

どどどど、どうしよう!!?この状況言い逃れ出来ない……。ううぅ……もういっそ変態と認めてしまおうかな……?

 

「ゆんゆん、俺は何も見てないから、な?だから冷静になろう?」

「…………正直に言ってください。何処まで見ました?」

「……………………………………アレをあそこに当てて喘いでるところ、かな?」

「わああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「や、やめろよ!!?掴むな!揺するな!!俺に八つ当たりするなよぉぉぉ!!?」

 

もう、世界なんて消えてしまえばいいと思った。

 

「ぐすっ…………ひっぐ、うぇ~ん…………」

「なんだろう、俺は何も悪くないのに凄い罪悪感が…………」

「酷いです…………私の恥ずかしい所を、見るだなんて…………ひっぐ」

「いやいや、俺は悪くないだろ?だってここ、俺の部屋だし…………えっ?いや、本当に俺は悪くないよな?」

 

はい、全くその通りかと…………。

ごめんなさい、カズマさん。私が悪いのは分かってます。でも…………でも…………もう、こう言うしかないじゃないですかああああぁぁぁぁぁ!!!?

 

「ねぇ~、カズマ。今日も飲みに………………」

「どうしたのですか、ジャンヌ?カズマがいなかっ……………………」

「「っ!!?」」

 

なんとタイミングの悪いことにジャンヌさんとめぐみんが入ってきた。

 

「あ、あはははは…………今日は、めぐみんと二人で飲もうかしら、ね?」

「そ、そそそそそうですね!ええ、是非そうしましょう…………」

「え?あ、いや……その、これは…………いやちょっと待て!誤解だから!!」

 

二人は、息を揃えて笑顔でこういい放った。

 

「「ごゆっくり」」

「違うからああああぁぁぁぁぁぁ!!!待ってくれよおおおおおぉぉぉぉぉ!!!?」

 

もう…………死にたい。

わたしは、今日、大切なナニかを失った気がした…………。

 

 

 

 




こんにちは、ゆんゆんです。

お父さん、お母さん、お元気ですか?

私は……………………元気です、はい。別に病んでるとか病んでるとか病んでるとかないですよ?至って普通です。毎日楽しい人達と仲良くやってます。……………………え?それが異常?
わ、わたしにだって友達の一人や二人いまっ…………え?どうして皆目をそらすの?え?ええ!?…………………………うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!

………………………………ぐすっ。


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揺るがなき境地『クリアマインド』

すいません。タイトルが思い付かなかったので、適当につけました。
そろそろ敵キャラの一人や二人出すべきと思いつつ、中々行き着かない……。
案の定、またゆんゆんが壊れます。


「さてと、そろそろこのスキルを試さなきゃな……」

 

『憑依』というスキルを手にいれた俺だが、ジャンヌから説明を受けていまに至るまで一度も試していなかった。試さなかった事に理由はある。けれど、それは保身を考えてのことである。仮に得体の知れないサーヴァントを見に宿し、意識を乗っ取られでもしたら大変だ。

 

「そんなわけで、頼んだぞ。ジャンヌ」

「了解。あんたが狂って襲いかかって来たら、遠慮なくやらせてもらうわ」

「こ、怖いこと言うなよ……!」

 

定番のレベル上げエリアで、なるべく街に近いところで実践する。周りにはジャンヌ、ゆんゆんが待機しており、離れたところにめぐみんがいる。この二人なら俺が乗っ取られても即座に鎮圧できるだろうという判断のもと、託したのだが……。

 

「カズマさん、本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫、心配いらないって」

「でもでも、カズマさんはたまに調子に乗って痛い目に合うことがありますし、この前だって雨降らないから大丈夫だって言っておいてずぶ濡れでクエストからかえるはめになっーーー」

「うるさいな!お前は俺のお母さんか!?」

「あっ…………すいません。私なんかが図々しい事言ってしまって……すいません。責任とって死にますので許してください」

「卑屈過ぎるだろ!?べ、別にそこまでしなくてもいいから……!」

 

なんだろう、あの一件からゆんゆんがだいぶ病んだ気がする。俺に対する反応が過敏っていうか、とにかく怖い。俺とめぐみんが話してるときのあの目と言ったらもう…………恐ろしい程に無の境地で見てくる。目に光が無く、口が閉ざされ、両手をフリーにして、臨戦態勢になる。

俺は、このゆんゆんの状態を、揺るがなき境地『クリアマインド』と命名した。

 

「カズマカズマ、ちゃんと成功させてくださいね?」

「おう、安心しろめぐみん。こう見えて、俺は運がいいらしいぞ」

「ふふふ、では楽しみにしておきます。カズマが、一体どのような力を宿すのか……ふっ、我が右目が疼きますね」

あっ、痛い痛い。主に俺の心が。

 

「………………カズマさん、やけにめぐみんと仲が良いですね?」

「えっ?いやいや、仲間なんだからこれくらい普通だろ……?」

「へー……そうですか。そうなんですか」

「…………何?どうした、ゆんゆん?何か今日はやたら暗くね?」

「いえ、別に。カズマさんに私の恥ずかしい所を見られて自暴自棄になっているとかじゃないですから……」

「「うわぁ……」」

「ちょ、ちょちょっと待てよ!!?確かに言っている事は合ってるけども!?そもそもはゆんゆんが俺の部屋でオナーーー」

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!言わないでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「ねぇ、あんたら実は似た者同士なの?カズマもよくゆんゆんをおかずにオナーーー」

「やめろおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!?お前、俺を精神的に殺す気か!!?」

 

せっかくスキル試しに来たのに、何故か開始前から精神的に疲労感が半端ない。つーか、普通に始めさせてくれよ。ゆんゆんが変に突っかかるから、ジャンヌもめぐみんも軽く引いてるぞ。

 

「よ、よし……それじゃ、そろそろ始めるぞ」

「先ずはクラスを念じなさい」

 

クラスとは?

セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー、ルーラー、アヴェンジャーというのがある。

俺は、スキル発動時に以下のクラスから一つ選択し念じるのだ。

 

「スキル『憑依』発動……対象……ランサー」

「次に、力を思い描く。ランダムとは言っても、その思念や概念に沿って英霊は召喚、または降霊するのよ。だから、あんたが使いたいと思う武器を思い描きなさい」

 

ランサーならば槍だ。槍で有名な物って言えば…………あれか?あれしかないよな?

漫画やアニメでよく見るゲイ・ボルグという槍だ。

 

「槍か……ゲイ・ボルグとか?」

「ゲイ…………あんた、ホモなの?」

「お前っ!!?わざとだよな、知っててわざと言ってるんだよな!!?」

 

ええい!まどろっこしい!!さっきからまったく進まん!!!

もういい。俺は、からかうジャンヌを無視し、槍を思い描いた。

 

「よし、なんか来てる…………こう、力がみなぎってきた」

「そう。なら、後は真名を口にするだけでいいわ」

 

俺は、呼吸を整え、真名を告げた。

 

『憑依完了ークーフーリンー』

 

紅く鋭い槍が顕現した。そして、姿には変化はないが、俺は一瞬のうちにその槍の使い方を熟知した。更に、魔力限界値が少し増え、俊敏性がかなり上がった。

 

「こ、これが…………」

「成功ね。クーフーリンねぇ…………なんかあんたには似合わないわね」

「な、なにおぅ!!?」

 

なんか反応がイマイチだ。え?何?そんなに地味なのか?

 

「カズマさん、何か変化はありますか?」

「そうだな~…………うん、なんか早く動ける気がする」

「わぁ、凄いですね!大成功ですね!!」

「いや、まだ戦ってすらないんだけど。冒険者だからって低く見すぎだろ……」

「なに、あんた。もしかして憑依ごときで強くなった気でいるの?」

「…………試してみるか?」

「…………面白い事を言うのね。いいわ、勝負しましょう」

 

俺は、何も挑発に乗ったわけでもした訳でもない。ただ単に気になったのだ。

いまの俺が、英霊であるジャンヌに何処まで戦えるのか。仮にも俺は、憑依で英霊を纏っている状態なのだ。戦える可能性はあると踏んでいる。

 

「言っておくけど、サーヴァントを宿した以上手加減はしないわよ?」

「構わないぜ?俺も、手加減出来そうにないからな」

「あの……カズマさん、何もジャンヌさんと戦わなくても、モンスターで腕試しすれば良いのでは?それに、仲間同士で争うのはちょっと……」

 

おどおどしながら俺とジャンヌの間を取り持つゆんゆん。心配になる気持ちもわかるけど、今は好奇心の方が勝る。だから、イケボで諭してやった。

 

「ゆんゆん。心配するな、俺は絶対に勝つ」

「カズマさん…………………………そんなに見つめられると照れます」

「…………………………ごめん 」

 

う~ん、どうにも絞まらないな……。やっぱり照れがあると駄目だな。

 

「ゆんゆん、残念だけどそいつは私には勝てないわ。サーヴァントとしての格の違いを見せてあげる」

 

ジャンヌは祖国の旗に龍紋を刻んだ旗を靡かせ、魔力を高める。いつも以上に感じる闘気。これが強者のみ感じると言うオーラというやつか…………やばくね?

何となくだが、いまの俺にはジャンヌのステータスが見える。魔力値、攻防力共に異常な数値が表示されているのだ。それこそ、並大抵のチーターでは敵うまい。

 

『竜の魔女EX』

『自己改造EX』

 

重ねがけでバフを盛る。ヤバい…………ひと突きで死にそう。こちとら憑依だぞ?んなスキルまで使えねぇよ。

 

「では、始めましょうか…………先手はどうぞ」

「ぐっ……余裕ぶりやがって。見てろよ、俺の槍でその鎧削いでやるからな」

「うわぁ、あんたが言うとエロく聞こえるわね……」

「せっかく人が雰囲気作ってるんだから乗れよ!!?本当に絞まらねぇな~……ったく。んじゃ……いくぜ?」

 

俺は両手で槍を握り、ジャンヌへと矛先を向け突進した。対するジャンヌは旗を振り回し、タイミングを合わせ、槍の横腹へと当ててきた。

 

「うおっ!?いってぇ……振動も半端ねぇ」

「甘いわね。次はこれでどう?」

 

容赦なく連続で突いてくる。俊敏性が上がった今の俺は、この攻撃を寸でのところでかわす。そして、槍を短く持ち、速攻に備える。

 

「へぇ、槍の使い方が様になってるじゃない?」

「そりゃどうも。なら、ついでにこいつを食らいやがれ!」

 

ジャンヌとの距離を詰め、横凪ぎへと繋げる。当然防がれる事は承知している。狙いはその後だ。

…………俺をただのサーヴァントもどきだと思うなよ?

 

「はあぁ!!」

「ぐっ!?」

 

そのまま勢いよく槍でぶっ飛ばす。そして、すぐさま盗賊スキルの『潜伏』と『暗歩』を発動させる。

 

「はぁ!?…………あんた、ランサーのくせしてアサシンの保有スキル使うとか……ないわぁ」

 

ふっ、何とでも言え。俺は策士なのだ。真っ向から化け物ステータスのお前とぶつかると思うなよ?

俊敏性を活かし、草むらを駆け巡る。どうにか木や背の高い雑草に身を隠しながら攻撃の機会を探る。

 

「ふっ…………流石はカズマだと言っておきましょう」

「そりゃどうも!」

 

一瞬のうちに背後へと回り込み、槍を振り下ろす。

だが、ジャンヌは振り返ることもせず、笑みを浮かべていた。

 

『うたかたの夢』

「なっ……!?」

 

スキルを唱えたのだろう。一瞬でよく分からなかったが、槍による攻撃が無効化され、威力を殺されたのだ。

通るはずの攻撃がすり抜け、勢いを失う。その隙をジャンヌは見逃さなかった。

 

「終わり」

「させるかよぉ!」

 

どうにか槍でいなす。振り下ろされた旗は、思いの外力強く、一瞬だが槍がぐにゃっと曲がりそうになった、

 

「お、お前…………本当に容赦ないな」

「それをご所望なんでしょ?いいから、さっさと倒されて踏まれなさい!」

「一言多いな、おい!?」

 

今度は俺の方が腕力だけで旗で槍ごと吹っ飛ばされた。

うまい具合に着地するが、そこを見越していたかのように間髪いれず突いてくる。

パキィンと高い金属音が響き渡る。本来ならば武器として作られている槍の方が頑丈なはずなのだが、ゲイ・ボルグの方がミシミシと悲鳴をあげている。

 

「な、なぁ……もしかして、まだ手加減してる?」

「どうしてそう思うの?わたし、こう見えて結構魔力使ってるわよ?」

「そ、そうか……なら、そのまま炎系のスキルとか黒剣を出さないでくれると助かる……!」

「ああ…………バレてたのね。なら、お望み通りに」

 

ジャンヌは俺を弾き飛ばすと、後方へと下がった。そして、いつものSっ気な嘲笑いを浮かべながら腕を振り上げた。

 

「燃えろ、灰塵へ帰しなさい」

 

凄まじい豪炎が追尾してくる。

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!!?アリか!?そんなのアリか!!?」

「あははははは!!!逃げなさい、逃げ惑いなさい!!弾圧される民の躍りほど愉快な物はないわね!!? 」

「あ、あいつぅ…………本気だな。こりゃ少しでも手を抜いたら殺されるな」

 

カッコ悪い悲鳴をあげたが、実は肉体的には余裕がある。普段なら絶対かわせない攻撃に思わず条件反射でビックリしたのだ。

しかし、こうして逃げ回っていても状況は好転しない。策を練らなければ……。

 

「終わり!?終わりなの!!?少しは反撃したらどうなの!!?そしたら褒美として串刺しにしてあげるから!!!」

 

嫌に決まってんだろ……。

 

「はぁ……あんまり体力ばっか消費してもしょうがないし、ここは知的戦術で行くか」

『クリエイトウォーター』

「からの……」

『フリーズ』

 

そう、初級魔法によるコンボ攻撃だ。

適当に水をばらまき、それを凍らせる。これで、素早く動けまい。

 

「あははははは!!!馬鹿じゃないの!!?燃えなさい!!!」

 

あ~……そうだった。あんだけ高火力で燃えたぎってたら溶けるわ。……ああ、もういいや。こうしよう。

 

『クリエイトウォーター』

「あっ!!?ちょっと、あんた何濡らしてんのよ!?そういう趣味でもあんの!?」

「うるせぇ!?こうするんだよ!!」

『フリーズ』

 

ジャンヌ本人にフリーズをかけてやった。そう、いくら火が出せようとも自分にはかけれまい。

 

「くっ……!?屈辱だわ、元聖女たる私がこんな下卑た男に濡らされるなんて……!?」

「だからやめろよ、その言い方!?」

 

一応は命のやり取りをしているのだが、相変わらずの調子である。……戦いづらいなぁ。

 

「これで避けれないだろ!?これでもくらえ!!」

「宝具解放ねぇ…………どうやら、本気のようね。だったら……」

 

俺は、最大火力の魔力を槍に込め、滑走する。そして、勢いよくジャンヌ目掛けて必殺の槍を放つ。

 

刺し穿つ死棘の槍』(ゲイボルグ)

 

因果をねじ曲げ、必ず命中するという能力を持つ。だが、カズマが放つと同時にジャンヌもまた反撃を試みた。

 

「手加減してあげるから、存分にその身に味わうがいいわ」

「なっ……!?」

 

ジャンヌは、刹那の一瞬のうちに内包する魔力を解き放つ。それは、普段の戦闘で感じる魔力量とは桁が違うものだった。

吼え立てよ、我が憤怒』(ラ・グロンドメンド・デュ・ヘイン)

 

突如顕現した黒剣を振り上げ、こちらへと向きやる。すると、無数の黒剣が現れ、豪炎と共に襲いくる。

渾身の魔力を込めた一撃は、数多の黒剣に触れ、炎と共に吹き飛んでいった。そして、尚も威力を落とさないそれは、カズマの喉元まで食らい付き、切っ先を立てていた。

 

「チェックメイト。私の勝ちね」

「あ、ああ…………」

 

思わず膝を着いてしまった。寸でのところで止めてくれるとは思っていたけども、やはり死の恐怖を感じられずにはいられなかった。

 

「まぁカズマにしては上出来ね。初めての憑依でそこまで戦えれば問題ないわ」

「お、おう……。でも、やっぱりジャンヌって凄いんだな」

「当然よ。そして、その凄いサーヴァントを呼び寄せたのはあなたなのよ?もっと自分に自信を持ちなさいな」

「……だな。ありがとう、ジャンヌ」

 

やはりジャンヌにはまだ余裕があったのだろうと思う。彼女の屈託のない笑みがその証拠だ。

差し伸べられた手を取り、立ち上がる…………つもりだった。

 

「…………どうしたの?立たないの?」

「……………………すまん、ジャンヌ。非常に言いづらいんだが…………………………」

「……何?」

「………………………………全身の筋肉が痛くて立てない」

「…………………………カッコつかないわね」

 

 

その後、俺はジャンヌに肩を貸してもらい、どうにか宿まで帰った。

 

 

 

 

憑依スキルを用いて戦闘したこの俺、佐藤和馬は現在療養中である。

どうにもジャンヌが言う限りでは、器となった俺の体の方が負荷に耐えきれず、肉体が悲鳴を上げたらしい。そのせいで、俺は冒険に出ることも叶わず部屋のベッドでただ天井を眺めているだけという苦行を強いられている。

 

「はぁ……体中痛い」

「あまり無理しないでくださいね」

「ありがとうな、ゆんゆん。こうして俺の看病に来てくれる何て……アタシャ嬉しいよぉ、しくしく」

「もう、カズマさんったら……お婆さんみたいですよ?」

 

まともに生活出来ない俺のために、ゆんゆんは毎日俺の宿まで看病しにきてくれている。正直最初はドキドキしまくって大変だった。だって俺、童貞だもん。ちょっとしたスキンシップにすら動揺しちゃうお年頃なのだ……。

 

「まったく、やはりカズマは私がいないと駄目なようですね?」

「んん?いや、全く。ゆんゆんが世話してくれるし」

「こ、この男……仮にも看病の手伝いをしている私に向かって平然と言いますね」

「めぐみん、カズマさんには私が着いてるから大丈夫だよ?」

「いえ、ゆんゆん一人だとこの男が血迷って襲いに来るかもしれませんので」

 

こ、こいつ……!?俺を変質者の如く言いやがって……。

 

「大丈夫だよ?だってカズマさんは優しいもん」

 

ああ……天使の囀ずりが聞こえる。誰だ、巷でクズマさんやカスマさんと揶揄される俺を優しいと言ってくれるエンジェルは……?

そう、純情系ヒロインゆんゆんだ。

 

「ああ、これが癒されるということか……」

「この男、何故か泣いていますよ……?」

「めぐみんが酷いこと言うからだよ。ほら、カズマさんに謝って」

「ぐ、ぐぬぬぬぬ……!?」

 

お?なに?めぐみんが俺に謝ってくれるのか?よ~し、いいだろう。日頃のなめ腐った態度はそれで許してやろう。

 

「ご、こめんなさい……」

 

………………え?なにこれ、超可愛い。誰だよお前、可愛いすぎか?

ほほを染めながら上目遣いで見てくるめぐみん。もうなんと言ったらいいのか、とりあえず超絶可愛いですもっと愛でさせてほしいです、はい。

 

「お、おう……。ま、まぁ気にするなよ。俺も対して気にしてないしな」

「ありがとう……ございます」

 

う~ん、美少女に看病してもらうというのも悪くないな。よし、ここは思いっきり甘えさせてもらおうかな。

 

「なぁめぐみん、ちょっと背中拭いてくれよ。流石に風呂に入ってないから汗がな……」

「そ、そういうことでしたら……了解です。では、脱がせますよ?」

「おう、頼む」

 

ふっふっふ、なんたるご褒美。あの異性に全く縁の無かった俺が年端のいかない少女に背中を拭いてもらうだなんて…………異世界様々だな。

 

「あの……上着を脱がせますので、ちょっと身を乗り出してもらいませんか?」

「あ、ああ……」

 

言われた通りに行動した俺だが、無意識に上げた先にめぐみんの顔がすぐそこにあった。あとほんの数センチで唇が触れあうかどうかのすれすれだった。内心ではものすごく焦ってはいたが、動揺を悟られたく無かったので目線はそらした。

だが、そんな俺の動揺を掻き立てるかのような言葉を投げ掛けられた。

 

「カズマ……その、顔が近っ―――あっ、いえ……このままでいいです」

「お、おう……」

 

めぐみんは自分からは離れようとはしなかった。それどころかそのままで良いと言った。

俺の心臓は秒針を追い越す勢いでバクバク鳴っていた。だって、こんな可愛い娘にご奉仕してもらいながら、こんなサービスショット見させてもらってるんだ。動揺するなって方がどうにかしてる。

極め細やかでスベスベとした若い肌、整った顔立ちでまだ幼さが抜けていないにも関わらず、頬を染めることで発せられるロリ特有の色気。そんな魔力が俺の目の前で解き放たれているのだ。

ゆんゆんがいなければ抱き締めていたかもしれない。

 

「脱がせますよ……?」

「んうっ……ふぅ、それじゃあ頼む」

「はい……それにしても、カズマって以外と筋肉ありますね」

「ひゃっ……い、いきなり腹なんて触るなよ。びっくりするだろ?」

 

何の気なしに言ってくるのだが、その無意識に腹に添えられた手がひんやりとする。しかも腹だ。くすぐったいし、ドキドキする。

 

「ふふ、カズマにしては可愛い悲鳴ですね?…………もしかして、カズマは童貞なのですか?」

「なっ……なななな……!?いきなりなに言い出してんだよ!?」

 

ロリッ娘が大胆発言してきた。なに、この子。さっきまでの甘い雰囲気は何処いったの?いきなりエロチックにくるなよ。耳元で囁かれたら勢いで襲っちゃうかも知れないだろ?……ゆんゆんがいなければ、だけど。

 

「な、なぁ……頼むから普通にしてくれよ?正直言って腹筋死んでるから、そうやって心臓によくないことされると本当に痛いんだよ……」

「つまりカズマは、今は抵抗出来ないからやめてくれ、と?……ふふ、なら尚更からかいたくなりますね」

 

えっ……?冗談だろ?本当にナニかする気なのか?

 

「ふふ、余りの色っぽさに動揺するカズマの姿が目に浮かびま―――ん?どうしたのですか、ゆんゆん?」

 

めぐみんに夢中になっていたせいで全くゆんゆんの方を見ていなかった。俺も、どうしたのだろうと思い、ゆんゆんの方へと向きやる。

 

「ねぇ、めぐみん」

 

すると、ゆんゆんはクリアマインドの境地で狂気にも似た無表情で呪詛のごとく話始めた。

 

「どうしてカズマさんにそんなイタズラをするの?いま、カズマさんは怪我人なんだよ?そんな事したら迷惑がかかるでしょ?それに、どうしていきなりらしくもない色気を使ってカズマさんを誘惑しているの?やめてあげてよ、カズマさんも迷惑しているのが分からないの?見ているこっちも苛立つよ?しかも、あれ半ばわざとやってたよね?半身を起き上がらせるのにそこまで顔を近づける必要性皆無よね?シラけるわ。めぐみんはそういうことはしない子だって思ってたのに。恋愛とかオシャレに全く無頓着で気にもしない。男っ気の一つもなかったあのめぐみんがどういう風の吹き回し?なに?もしかして、カズマさんに惚れた?……だったら、検討違いもいいところね。カズマさんは誰にでも優しいの。だから、日頃めぐみんに向けられた優しさはあくまで公平に振り分けられたものであって意識していたものではないのよ?勝手にその気になって、勝手に誘惑なんてしないであげて。カズマさんが迷惑と思うだけよ。いい?めぐみんはただでさえ人のお世話なんてまともに出来ないのだからこれ以上カズマさんに変なちょっかいかけないでね?そういうの、本当に迷惑だから」

 

怖っわ!ゆんゆん超怖い……。え?なに?どうしてこの子いきなり呪詛唱え始めてんの?未だに続いてるけど、俺とめぐみんはドン引きだよ……。

 

「は、はぁ……すいません」

「すいませんじゃないでしょ?本当に謝る気があるの、ねぇ?私だって友達のめぐみんにこういうこと言いたくないけど、めぐみんのために言っているのよ?」

「な、なぁ……もうその辺で、な?」

「カズマさんは黙っててください」

「あ、はい。すいません」

 

すまん、めぐみん。助け船はだしてやれないようだ。嵐・竜巻・ハリケーンが発生していて近寄れもしない。

 

「す、すいません……あ、はい。その節は……はい、本当に……はい。誠に……はい、それはその……すいません」

 

なんだろう、取引先の方に不備で怒られるセールスマンみたいだ。あのやんちゃなめぐみんが敬語使ってる。

…………つーか、いつまでやってんだよ。

 

「あ、あのさ……俺、半裸のままなんだけど」

「あ、すみません……。私が責任をもって拭きますので……めぐみんは帰っていいよ?」

「え?いえ、流石に中途半端ではーーー」

「いいよ?」

「…………はい」

 

怖えーーーーーー!!?

え?誰、この子?愛しのマイエンジェルゆんゆんは何処に?…………ヘ、ヘルプ!!!頼む、めぐみん!!!この場を打開しておくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!

 

「…………はぁ」

 

あっ、完全に諦めてらっしゃる。終わった、終わったな俺!これからヤンデレゆんゆんに付きっきりで看病されるのか!!

………………持つわけねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!

ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!!え?なに?どうしてこうなった?何がいけなかったの?こんなデレなんか求めてないよ?一歩間違えればバットエンド直結系ヒロインとか嫌だぞ?

 

「さぁカズマさん、私が背中を拭いてあげますからね?」

「あ、ああ……お願いする」

「ふふ、うふふ…………うふ腐腐腐腐腐腐腐」

(怖い怖い怖い!え?なにこの子?貞子?ふが腐になってるし、目が笑ってないんだけど!?)

 

「カズマさん、今日は寝るまで看病してあげますからね?」

「え?あ、いや……それはちょっと」

「ん?」

「…………オネガイシマス」

「はい、分かりました!」

 

ああ……ゆんゆん超怖い。

お母さん、お父さん、俺………………今だけオウチに帰りたいです。

その日、俺は怖くて一睡も出来なかった。

 

 





次回予告のネタが思い付かなかったので普通に後書きを書きます……(-.-)

書いてて思ったんですが、実際のところジャンヌオルタはどれ程強いのだろか……。FGOの中では攻撃力においては群を抜いている……らしいのですが。
持ってないから尚わからん!
魔王軍幹部との戦いにおいて、一体どれ程通用するのか……わかりません。そこは、どうにかそれっぽく書こうと思いますが、恐らく、えっ?……てなるかもしれません。
そろそろ新規サーヴァントも出す予定ですので、どうにかこのすばの世界観で表現出来たらなと思います。


追伸
ジャンヌオルタ復刻こないかな~……(;´д`)


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ソードマスター 御剣編

ああ……やっぱりこのすば最高だな~と思う今日この頃。
めぐみんは可愛いしめぐみんは可愛いしめぐみんは可愛いし最高ですね!
※大事な事なので3回言いました。

今回は、御剣とデュラハンが出ます。
このすば見たく、簡単にデュラハンは倒れませんよ!



冒険者においてお金が無いというのは日常茶飯事らしい。

※カズマの悪友ダスト談

俺は、日頃一番飲み食いする張本人であるジャンヌに相談を持ちかけていた。そう、出費が著しく激しいからどうにかしてくれないか、とな。

 

「あのさ……毎日飲み食いばかりで飽きないか?」

「飽きない。なに、あんた。私のお母さん?」

「いや違うけど……。少しはお金の使い方を考えようぜ?」

 

昼間から酒とつまみをテーブル一杯に広げて一人宴会をしている自堕落なこいつに一言申したのだが、やはり効果はいまひとつのようだ。

 

「カズマ、あんたはまだ酒の味を知らないからそんな事言えるのよ。いい?これを見てみなさい」

「なんだよ……?」

 

シュワシュワと柿ピー、焼き鳥を摘まんでみせる。

 

「想像してみなさい。あんたはいま、シュワシュワを飲んでいる。それも仕事終わりに。夏の時期にキンキンに冷えた旨いやつをごくりと……そして、潤った喉に塩が利いた焼き鳥を味わって通すの。どう?想像しただけで涎が出ない?」

「…………ごくり」

「そして、味が終わる前にもう一度キンキンに冷えたシュワシュワを…………んんっ!?ぶはー……旨いわぁ」

「……って、リアルタイムで食ってんじゃねぇ!?」

 

こいつ、俺を諭す次いでに飲んでやがる……。つか、周りがざわざわ言ってるんだけど…………?

ざわざわ……ざわざわ……

 

「お、おい……あれ、旨そうだな」

「の、飲むか…………?」

「…………おい、ジャンヌ。お前のせいで周りにまで伝染したぞ」

「ゴクゴクゴク……んん、ぷはっー!!……あん?何だって?」

 

酔ってるし…………。どうしてくれよう、この酔っぱらいは?

 

「カズマさん。ジャンヌさんは酔っぱらているので、私達でクエストに行きましょう?」

「そうです。私は早く爆裂魔法を撃ちたくて仕方ないのです。さぁ、行きましょう?」

「う~ん、そうだな。いつもジャンヌに頼ってばかりだしな。今回は俺達でやるか」

 

という訳で、今日はジャンヌ抜きでクエストを受けることにした。当然報酬は俺とゆんゆん、めぐみんの3人で分ける。間違っても今夜のジャンヌ用の酒代に当てることなぞありえない。

とりあえずは手頃なクエストを探すべく掲示板まで見に来た。レベルが上がった今の俺達ならばおおよその討伐クエストは楽勝だろう…………若干一名だけ不安が残るが。

 

「カズマカズマ!これなんてどうでしょう?」

「何々……一発熊の討伐?まぁ、いけなくもないが……」

「カズマさん、これはどうですか?」

「伐採の手伝い?いや、農家のお手伝いはちょっとダルい……報酬はいいけど、ろくなものが無いな。討伐クエストにするにせよ、もっと簡単で儲かる依頼とかないか?」

「うぅ……カズマ、どうしてやればできる子なのに面倒くさがるのですか?」

「やれば、な?だがやるのが面倒くさい。だから断る」

「め、面倒くさい人ですね……」

 

世の中面倒くさくない人間なんていないと思うけどな。俺は元よりジャンヌだってそうだ。社畜だの干物女だのうるさいし、めぐみんは爆裂魔法に関すると駄々こねる。ゆんゆんは…………定期的に接してやらないと病む。ほら、みんな面倒くさいだろ?

 

「あの~、ちょっとよろしいですか?」

「あ、はい。なんでしょう?」

 

面倒くさい人間の定義を考えていると、美人受付嬢が話しかけてきた。

 

「実は相談がありまして……」

 

相談?ギルド側の人が、俺に?依頼ではなくて?

 

「近頃、付近の廃城に魔王軍幹部らしき人物が住み着きまして……」

「さようなら、お姉さん。また会う日まで」

「ちょ、ちょっとカズマ!?いきなり何故逃げるのですか!?」

「ちょ、やめろ、引っ張るな。服が伸びるから!」

「せめて話だけでも……ね、カズマさん?」

 

嫌だよ。どうせあれだろ、魔王軍の偵察もしくは撃退か討伐しろってんだろ?阿呆か、俺達はまだ駆け出しだぞ?俺ら程度で倒せるならとっくに魔王軍は滅びてるっての。何が相談だよ、思いっきり厄介事じゃねぇか!?

 

「佐藤さん、どうかお話だけでも聞いていただけませんか……?」

「は、はぁ……。まぁ、話程度なら?」

「ありがとうございます!」

 

受付嬢が礼をし、頭を思いっきりあげると胸が上下に激しく揺れた。俺は、自分でも無意識に自然とそこへ視線が吸い寄せられた。

 

(よく見ると、この人エロい服着てるな……)

「……ごくり」

 

思わず固唾を飲んでしまう。仕方ない、致し方ない事なのだ。だって男の子だもん!エロい事に敏感になっちゃうもん!

 

「この男……思いっきりお姉さんの胸を見てますよ?」

「えっ……?」

「ちょ、ばっかお前!?何デタラメいってんの?俺がそんな事……って、待てゆんゆん!早まるな!?」

「カズマさんはどうしてこうも年上のエッチな女性にばかり寄っていくんですか。あれですか、思春期ですか?エロいのは結構ですけど人様の前でそういうのはどうかと思うんですよ。え?男の子だからしょうがない?…………切り落としますよ?」

「た、頼むから正気に戻ってくれ!…………な?」

「……………………っは!?わたし、今何を……?」

 

どうにか正気に戻ってくれた。正気に戻すのに必死であまり事細かに聞いてなかったけど、この子最後に切り落とすって言わなかった?アレを、俺の聖剣エクスカリバーを切り落とすって。

 

「それで、話って……?」

「魔王軍幹部の偵察、もしくは討伐を――」

「おーい、ジャンヌ!俺も今日は飲んだ暮れるわ!!」

「あ、あのっ……!?」

 

ほらみろ、やっぱりこれだ。異世界から来たチーターがいるのに、どうしてジャンヌを除けばただの冒険者の俺に頼む?なに、俺のこと好きなの?それともお前ら暇だろ的な感じで厄介払いですか?

 

「あの……どうして俺達に?」

「実は他にも有力な変わった名前の方々に頼んだのですが……」

「…………全滅したと?」

「…………はい」

 

…………馬鹿かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?それなのに俺に頼みに来るとかどういう神経してんだ?ああ?無理だろ、どう考えたって無理だろ。武器や防具、能力等の異能を貰った他のチーターでも無理なら俺でも無理だ。

 

「お姉さん、残念ですが他を当たって―――」

「よろしい!この私が引き受けましょう!!」

 

やめろ馬鹿あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!一日一発しか魔法を撃てないお前がなにいってんだよ!!?

 

「本当ですか!?では、よろしくお願いします!!!」

「あ、あの!?…………ああ、行ってしまった」

「ふっふっふ、紅魔の血がたぎります!」

「頑張ろうね、めぐみん!私達なら絶対出来るよね!?」

「当然です!この日のために我が最強魔法を鍛え上げてきたのですから!!必ず仕留めてみせますよ!!!」

 

それフラグだから、絶対に成功しないフラグだから。やめろよ、そんな期待な眼差しで見てくんな。俺は今絶望してるんだよ。無理ゲー押し付けられてなに喜んでんの?ドMなの?ぼっちにロリにヤンデレツンデレに爆裂狂に百合に腐女子に加えてM属性まで加えるのかよ?アピール項目豊富で良かったな。

 

「……それじゃあ、頑張って」

「「えっ!?」」

「俺はジャンヌと飲んでるから……。適当に偵察済ませたら帰るんだぞ?」

 

俺は、問答無用で戦略的撤退を試みた。

俺は悪くない。そう、俺はな。勝てないことを理解して退くのは正しいことだ。命を無駄遣いできるほど、俺はまだ長生きもしなきゃ満足もしてないのだ。

結論を言おう。

カズマ、オウチカエル。

 

「カズマさん!どうして帰るですか!?あれほど夢見ていた勇者になれるかもしないんですよ!?言ってたじゃないですか。『俺、強くなって勇者になる。それで、モテモテになるんだ。ハーレム王に俺はなる』って!」

「やめろよおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?お前、俺を呼び止めるにしてももっとマシな言い方あるだろ!?なんで公衆の面前で恥ずかしい夢暴露してくれちゃってんの!!?」

「まったく、すでに美少女に囲まれているというのに……贅沢な夢ですね」

「えっ?少女はノーカンだろ」

「ぶっ殺!!!」

「いてててててて!!!?おい、やめろ!無駄に力だけは強いんだから手加減しろよ!!?」

「ふふふ、どうです?カズマの大好きな美女とふれ合っているのですよ?もっと喜んでいいのですよ?」

 

羽交い締めされながら喜ぶとか無いわー。

流石に美女が好きでも、羽交い締めしてくるような女には堂々と反撃するぞ。男女平等を謳う俺は、女だからとか男の癖にとか言う輩は許さない。例え、めぐみんだろうと反撃して―――

 

「私の胸の感触で興奮しているのでしょう?全くカスマは嫌らしいですね」

「はぁ!!?」

 

なにこの子?ありもしない胸の感触でナニを楽しめと……?

 

「めぐみん、カズマさんもそろそろ……ね?」

「そうだぞめぐみん。ゆんゆんの揺るがなき境地『クリアマインド』が発動するぞ?」

「うっ……あれは軽くトラウマになるのでこれ以上はやめておきましょうか」

 

めぐみんもようやく納得したのか解放してくれた。

 

「失礼、ちょっといいかな?」

 

俺が安堵していると、後ろから鎧姿の男が話しかけてきた。

 

「君が佐藤和馬君かな?」

「あ、ああ……そうだけど?」

「僕の名前は御剣響夜。ソードマスターを生業としている者だ」

 

何だこのクソイケメンは?なに?ソードマスターヤマト?とりあえず一言言っておく。

 

「殴りたい……この笑顔」

「えっ?今なんて……?」

「いや、何でもないよ。ただ、全世界のイケメン滅びないかなってな」

「何でもないのかな、それ!?」

「出ましたよ、カズマの僻み癖……」

「大丈夫ですよ?カズマさんは中の上ぐらいですよ?」

「うるせぇ!哀れんでじゃねぇよ!?」

 

全く……俺の顔が中の上だって?…………お、おう。思ったより好感あるのか、よし、今度ジャンヌに聞いてみるか。

※掘られそうな顔をしているとたげ言われました。

 

「それで、このクソイケメンは何のようだよ?」

「そ、その言い方はどうにかならないかな……?ま、まぁ今はいいか。良かったら僕とパーティーを―――」

「すまん、無理だ。他を当たってくれ」

「即答!!?」

 

当たり前だろう?俺のパーティーに他の男はいらんのだ。まして、イケメンとか…………滅びればいいのに。

 

「頼む!君は噂のスーパールーキーだと聞いた。どうか、この僕と一緒に魔王軍幹部デュラハンを討ち取ってはくれないか!?」

「え?何で?お前一人でやればよくね?」

「え?あ、いや……ちょっと難しいそうというか、不安と言うか……」

「お前ほどのチーターがびびるやつのところに俺も行けと?なに?俺を殺したいの?」

「決してそんなことはっ……!?それに、君も同じだろう!?」

 

同じ、というのは異能のことを指して言っているのだろう。名前から転生した事は分かる。だが、自らの能力も明かさず、見返りも、危険度も分からない相手に共に挑もうだと?……馬鹿かこいつは。

 

「言っておくが、俺の能力は『召喚師』だ。おれ自身はただの冒険者。どうしても戦いたいならあそこの飲んだくれを説得しろ」

「か、彼女を君が呼び出したのか?……いいだろう。説得して、共に行くと誓う」

 

はっ、罠にかかったな!今のジャンヌはただの飲んだくれだぞ?普段でさえ面倒事は回避する癖があるのに、今の状態で説得なんて―――

 

「いいらしいよ。二つ返事でOKしてくれたよ」

「な、なにっ!!?」

「さぁ……共に行こう」

 

え?なんで……?

俺は、チラッとジャンヌの方へと視線を移した。

 

「……ふっ」

 

あいつぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!?いま、笑いやがった!嘲笑いやがったぞ!?自分は動かない癖に、他人に押し付けやがって…………く、くそぅ。

どうする?逃げ道が無くなったぞ……。

 

「カズマ、僕と一緒に―――」

「俺に触れるな。息を吹き掛けるな。顔が近いんだよ気持ち悪い」

「き、きもっ……!?こ、コホン!…………ぼ、ぼくと―――」

『潜伏』

「なっ……!?」

 

秘技『NIGERU』攻撃!

これは、某モンスターゲームで有名な選択肢だ。

・戦う

・道具

・ポ○モン

・逃げる

俺は、迷うことなく逃げることを選んだ。

 

「甘いよ、僕の俊敏性を舐めないことだ」

「なっ……んだと?」

 

このクソイケメンは、俺の行く手に憚った。まるでおれの行動を予測していたかのように。

すぐさま機転を利かし、『クリエイトウォーター』で顔面を濡らして目潰し効果を与えてやろうかと思ったが、瞬時に右腕を掴み、もう片方の腕で壁へと押される。そして、勢いのままに壁へとぶつけられ、御剣は壁に勢いよく手をつき、こういい放った。

 

「僕と一緒にやらないか!!?」

「ほ、掘られるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!?」

 

もうやだこのクソイケメン!クソイケメンのくせに男の方に気があるとか変態過ぎるだろ!!!こいつ、分かっていってのんか!?分かっていってたとしたらまじでヤバいぞ!!?

 

「か、カズマさんと謎のイケメンさんが…………あ、あわわわわ…………じゅるり」

「ゆんゆん!お前、変な妄想するなよ!?」

「し、してませんよ!?勝手に変態扱いしないで下さい!!!…………じゅるり」

 

いや、口だよ口。言葉で否定して見せても、涎が垂れてるから誤魔化せてないから。

 

「カズマ、僕と一緒に!!!」

「あー、もううるせーな!!!分かったよ、やればいいんだろ!!!」

「本当かい!!?」

「分かったから!!!分かったからこれ以上顔を近づけるな!!!?」

「そ、そんな……!?誤解だ!!」

 

何が誤解だ!?お前、本当にそういう趣味でもあるのか……!?

身の危険を感じ、そそくさと離れた。

御剣は、満足と言った感じでニッコリしてやがる。…………危険だ、こいつからは危険な臭いがする!

その後、納得のいかない俺だったが……このクソ変態イケメンを連れて4人で廃城へと行くことになった。

ジャンヌは案の定酔っ払っているため、連れていける状態にはなかった……。

…………イケメン滅びないかな。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

道中、俺は群がる敵を全てクソイケメンに任せて進んだ。本人は嫌がるどころか本番前のいい肩慣らしだとか言って喜んでいた。いよいよこいつの頭は涌いてるのではと思い始めた俺だが、それを口に出すと今度は俺の人格が疑われかねないのでやめておいた。

 

「カズマさん。あの人、本当に強いですね……」

「そうだな。ほんと、一人で逝けばいいのに」

「カズマさん?互換がおかしくないですか?」

「いや、あってる」

「なおのこと悪いですよ……。全く、元気出してください!カズマさんだって割とイケメンに近い部類ですよ!?……それに、私の好みのタイプ……ですから」

「えっ?イケメン?俺が?…………ていうか、最後何て言ったんだ?」

「な、なんでもないです……!」

 

ううむ……顔を真っ赤にして俯いてしまつった。

これは、アレか?フラグか?

 

「…………あんなこと言っておいて、やっぱり少女趣味じゃないですか。これだから優柔不断は……」

「え?なんで俺が揶揄されるんだよ?何にもしてないだろ」

「……ふん、別に何でもないですよ」

「君も罪な男だね……」

 

なんだろう、このクソイケメンに言われると物凄く腹立つ。

 

「おっと……みんな止まるんだ。見えたよ、あれがデュラハンの城だ」

 

いかにも、というか完全に薄気味悪い城が崖っぷちに立っていた。元々はどこぞの貴族がすんでいたらしく、今はデュラハンとかいう家賃滞納者が我が物顔で使っているわけだ。全く、立ち退きするなら城ごと消えろってんだ。だから、魔王軍幹部なんぞが居座るんだろうが……。

 

「ああ……嫌だな。帰りたいな…………よし、帰るか」

「ダメだよ!?カズマ、僕たちが何故かここにいるのか思い出すんだ」

「敵情視察だろ?」

「それだけじゃない。可能なら打ち倒すんだ。それが、ぼくたち異世界から来た勇者に託された使命なんだから」

 

ぷっ、こいつ何痛い事いってんの?

使命?勇者?知るか、んなもん。なりたきゃ勝手になれ。なんなら推薦までしてやる。

 

「カズマ……あの、ちょっと聞いてもらえませんか?」

「なんだよ……帰るんだから後でも」

「物凄く爆裂魔法が撃ちたい衝動に駆られて押さえられません!!!」

「やめろ馬鹿ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

いつの間にか詠唱を終えためぐみんは、俺達の前に立ち、杖を廃城へと向けていた。

 

「ふっふっふ、我が究極の攻撃魔法を喰らうがいい!!!」

 

そして、最大火力でぶっぱなした。

 

『エクスプロージョン!!!』

 

轟音と爆炎が廃城を包んだ。遅れてやってくる衝撃波が皮膚をピリピリっと伝っていく。

どうするんだよ、これ?どう考えても宣戦布告にしか見えないぞ?え?俺ら魔王軍幹部に喧嘩うってんの?…………まじやばぁい。

 

「す、すごい……」

「よし、ゆんゆん。帰るぞ」

「え?で、でも……いいんですか?」

「ゆんゆん。冷静に考えるんだ。こっちにはめぐみんという負傷者がいる。……正しくは魔力切れを起こした仲間だけど、それでもこの状況で幹部と戦うのが不味いのは分かるな?」

「は、はい!そうですね、この状況で狙われたら大変です。すぐに戻りましょう!」

「そういうことだ、それじゃあ頼んだぞ。御剣」

「……え?せめて君だけでも……」

「は?何いってんだ。こんな痛い気な少女二人に獣道を戻れって言うのか?」

「あ、えっと……ううん、いやそうではなくてだね」

「じゃあな」

 

戸惑う御剣を後目に迷わず退散する。めぐみんも、魔力切れを起こして疲れたのか何も言わない。黙って俺におんぶされている。

とはいっても、元々は先制攻撃を仕掛けたのはこいつなのだから罪悪感が無いわけでもない。すまん、御剣。俺の代わりに生け贄となってくれ。

きっと助けに行く!ギルドの仲間を連れて……んじゃそう言うことで。

 

「ふっ……いいやつだったよ」

「いや、あの……まだ僕死んでないんだけど」

「はぁ!?お前なについてきてんだよ!?」

 

何故か俺達に合流して逃げ帰っている。

おい、いくら廃城からここまで距離があるからってお前まで逃げたら……。

 

「すまない、カズマ……」

「んだよ!?謝るくらいなら――」

「アンデットは管轄外だ……」

「はぁ……!?」

 

振り向くと、無数のゾンビ共が走ってきていた。

怖えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!

おい、なんだよあれ!!あれか?あれがリアルバイオハザードか!!?怖すぎて吐きそうなんだが!!?

 

「か、カズマさん!どうしましょう!!?流石にあの数は私のライトオブセイバーでも捌ききれません!」

「お、おおおおお落ち着けゆ、ゆゆゆゆゆんゆん!!!」

「カズマさんも落ち着いて下さい!!!」

 

無我夢中で走り抜ける。

ここはまだアクセルの街から離れた草原だが、流石に街まで引き連れて帰るわけにはいかない。それこそ、被害が甚大に広がりかねない。

 

「そこまでだ!貴様ら!!!」

 

突如、辺りに黒い霧が発生し辺りを包んだ。そして、その中から男の声が響いてきた。恐らく、こいつらの主であるデュラハンだろう。

漆黒の馬に乗り、全身をガチガチのフルアーマーで守っている。常人では持つことも叶わないであろう大剣を難なく片手で握っている。

 

「で、出たな……!」

「ど、どうしましょう……?」

「僕が切り込む、カズマは間髪いれずに僕に続くんだ。ゆんゆん君は援護を頼む!」

「おい、イケメン。一言言っておくがな……」

「なんだい……?」

「俺は冒険者だ。だから、多彩なスキルを持ってるし、敵のステータスを見るスキルも持ってる」

「そ、それで……?」

「結論を言おう。レベルが違いすぎる」

「な、なんだって……!?」

 

魔王軍幹部デュラハン

首なし騎士として有名なアンデットモンスターだ。だが、その力加減はべらぼうだった。

 

「ふ、ぶさけんなよ……中級魔法以下は無効とか。それに加えて剣士スキルも高すぎだろ……!?」

「ちなみに、カズマからみて彼はどのくらい強いのかな?」

「…………わからん。魔力にかんしてはゆんゆんの3倍はあるだろうな。近接戦闘も得意らしいから勝機は限りなく0に近いかもな」

「…………ふっ、どうやら此処が僕らの死に場なのかもしれない」

「…………冗談じゃねぇ」

「…………え?」

 

腰に据えた剣を握り、アンデットの群れへと向ける。

 

「ふざけるな。せっかく異世界転生したんだ。こんな小物ボスごときに殺されてたまるかってんだ!」

「……はは、君は不思議な人だね。さっきはあんなにも戦いたくないと言っていたのに」

「…………お前みたいな真人間には分からねぇよ」

「そうだね。…………カズマ、僕の背中は君に任せる」

「…………はっ、馬鹿言うなよ。俺の背中はゆんゆんに託すぞ」

 

それぞれの得意の獲物を構え、御剣はデュラハンへ、俺はアンデットの群れへと向く。

 

「ほう、この俺に挑むか?いいだろう、こい!雑兵風情、軽く捻ってやろう!!!」

「うおおぉぉぉぉ!!!」

 

まずは御剣が突撃した。その隙に俺はゆんゆんへと指示を送り、めぐみんを草影に隠す。この間にもアンデットの群れは近づいて来ているが、そんな事は関係ない。

 

「行きます!」

『ライトオブセイバー!!!』

 

眩い閃光の剣を振りかざし、アンデットの群れへと横凪ぎで払う。聖属性では無いが、上級魔法で攻撃をくらった事により即時復活はしない、そのインターバルを利用して俺はスキル『憑依』を発動させる。

 

(この前憑依したクーフーリンじゃ駄目だ。相性が悪い。ここは、御剣に近接戦闘を任せ、後方支援ができるアーチャーだ)

 

だが、前回と違いこれと言った目星はない。なので今回は完全に運に任せる形になる。

 

『憑依』

 

 

 

「はぁ!」

「ふん、その程度か!?」

 

カズマがスキルを唱え、ゆんゆんがアンデットを一掃している間にも御剣とデュラハンとの戦いは始まっていた。

御剣が握る剣はチート性能を兼ね備えた魔剣『グラム』だ。だが、相手は騎士。剣技においてひとつもふたつも上をいっている。

思い切り力を込め振りかぶっても片手で握っている大剣で軽く防がれる。しかも、相手はわざと馬から降り、上方であることと移動性の優位を捨てている。ハンデはすでにもらっているのだ。

 

「くっ……どうして!?」

「ふはは、何故攻撃が通らないか、と言いたそうだな?」

 

今度はデュラハンが反撃に転じる。防いだ剣を勢いをつけて上に振り上げがら空きにする。そして、瞬時につきの構えに変え、踏み込みと同時に突き上げる。

 

「ぐはっ……!?」

「簡単な話だ。…………レベルの差だよ」

「ぐはっ……はぁ……はぁ……くっ!」

(これが魔王軍幹部の実力……!?)

 

実力差は歴然だった。剣を交えて僅か数分で御剣は息を上げていた。傷こそないが、いつ一太刀入れられてもおかしくない。もし、仮にデュラハンの一撃を受ければどうなるか……。例え上物の防具をまとっていたとしても無事では済むまい。

 

「負けて……たまるかあぁぁぁぁ!!!」

 

乾坤一擲。ダメージ覚悟で突っ込む。だが、そんなことなど恐るるに足らないとばかりに仁王立ちで迎え撃つ。

 

「その心意気、嫌いではないがな……。だが――」

「っ!!?」

 

一閃。御剣が振り上げるよりも早く、デュラハンの剣が襲う。間一髪剣を盾に防ぐ事に成功したが、少しでも力を緩めれば貫きそうな力が込められていた。

 

「貴様では役不足だ。その程度の力で勝てると思うなよ?」

「……ふっ、それはどうかな?」

「なに……?」

 

剣を捌き、体制を屈めて懐に飛び込む。

 

「き、きさま……!?」

「喰らえ!これが僕の渾身の一撃だぁ!!!」

 

剣から溢れんばかりの閃光を放ち、最大火力で渾身の一撃を放つ。油断していたデュラハンの心臓部に見事一撃が入った。衝撃と共に弾き飛ばされていく。そして、光の剣の放った魔力が爆発を起こし、辺り一面を吹き消した。

 

「はぁ……はぁ……や、やった……のか?」

 

文字通り渾身の一撃を放った御剣は魔力切れを起こし、その場に崩れた。

 

「うっ……体が」

「その程度か……?」

「なっ……!?」

「ふん、がっかりだな。やはり貴様も他の輩と同レベルか」

 

渾身の一撃を喰らったはずのデュラハンは、無傷でたっていた。

 

「どうして……!?」

「言っただろう?レベルの差だよ 」

「くっ……くそっ!」

「遺言くらいは聞いてやろう。さぁ、早く貴様の断末魔を聞かせるがいい」

「その必要はないぞ、御剣 」

「……なに?」

「か、カズマ……!?」

 

振り向けば、変わった柄の両手剣を握ったカズマが立っていた。

 

(さっきまでと雰囲気が違う……?)

「貴様は……?」

「名前?ああ、そうか。自分を倒す奴の名前ぐらいは知っておきたいのか?」

「ふん、そういうことにしておこうか」

「俺の名前はカズマ。駆け出しの冒険者だ」

「冒険者……しかも駆け出し。はぁ、そんなに死に急ぎたいか、小僧?」

 

問答が終わる前に、デュラハンは血相を変えて襲いかかった。

だが、その刹那にカズマが呟いていたのを御剣は見逃さなかった。

 

『憑依完了ーエミヤー』

 

圧倒的な魔力を込めて振り抜かれたデュラハンの一撃。到底カズマ程度の冒険者では防ぎ切れない。そのはずだった。

 

「なっ……!?」

「痛っつ……だけど、防げないほどじゃないな」

「カズマ、君は一体……!?」

「俺?……ただの元引きこもりだよ!」

「ぐっ!?」

 

短い両手剣を活かし、絶え間ない攻撃を加える。デュラハンは、予想だにしない反撃を受け耐えの一手だった。

 

「はぁ!ふっ!はあぁ!!」

「ぐっ!?馬鹿な……!この俺が、このような駆け出し冒険者風情に!!?」

「確かにお前の方が魔力量も力量も上だろうさ。だがな……今の俺は英霊を憑依している。例えお前が無茶苦茶な強さだったとしても、小回りで機転の利く俺の方が、近接戦闘で上を行く!!!」

 

二刀の剣でデュラハンの大剣を弾いた。

 

「くっ……!おの、れ……!?」

「はああぁぁぁぁ!!!」

「圧倒している!?あのカズマが?……そんな、ただの冒険者なばすじゃ?」

「カズマさん、準備できました!」

「よし、ゆんゆん。頼んだ!!」

『カースドライトニング!!!』

 

「ぐはぁ!!?」

 

黒い稲妻がデュラハンの腹を抉る。本来は貫通性の魔法なのだが、やはりここでもレベルの差が出ているのか貫通には至らなかった。

 

「……けど、上出来だ!」

「小癪な……!」

 

当然この隙を見逃す事はしない。勢いよく飛び、両手剣へと魔力を込め、形状を変える。

 

『オーバーエッジ』

 

「ぐはぁ……!!?」

 

巨大な大剣と化したそれを振り抜き、見事デュラハンの鎧を切り裂く。だが、それでも致命傷になってはいないらしく、すぐさま大剣を振りかざしてきた。

 

「あっぶな……!当たったら死ぬぞ、それ……」

「殺すきでやっているからな!」

幾数の剣撃を交え、少しずつだかカズマの方が押され始める。

 

「くそっ……魔力多すぎだろ!」

「ふんっ!結局はその程度か!?死ぬがいい!!」

「させません!」

「ふっ、また先の魔法か―――」

『インフェルノ!!!』

 

豪炎がデュラハンの体を包む。元より、中級魔法以下はほとんどゆんゆんは覚えていないのだ。駆け出しの連れ程度に思っていたデュラハンは完全に油断し、大火傷を負った。

 

「くっ!!?なん足る事だ……!この俺が、この様な小娘と小僧に!!?」

「あっそ、そのまま寝てろよ!」

「何をっ!?」

 

デュラハンはすぐにカズマの方へと向きやった。

だが、それも一瞬遅かった。

 

「俺の渾身の魔力だ。食らいやがれ!!!」

「きさま―――」

偽・螺旋剣』(カラド・ボルグ)

 

投影された弓を使い、螺旋状の刀を放つ。更に、その矢として放った刀に渾身の魔力を込めた。

デュラハンに直撃し、それは爆発した。爆炎で姿は見えないが、恐らくは命中し、確実に命を削ったはず、そう確信していた。

 

「はぁ……はぁ……これで生きてたらもう知らねぇ。逃げる……つっても、走るのもダルいわ」

「いや、これならやったんじゃ……!?」

「…………と、思ったか?」

「「っ!!?」」

 

仕留めたはず……だった。

だが、かすり傷こそあるが、デュラハンは最初と変わらず大魔力を放ち、凄まじい闘気を放っていた。

 

「途中までは良かったがな。……やはり、お前らではレベルが足りんのだよ」

「く……そがっ!」

 

即座にデュラハンへと切りかかる。

だが、それはいとも容易く凪ぎ払われる。

 

「ほう?まだやるか……そこの雑兵とは違うな。だが、これまでだ」

「ぐっ!!?」

 

今度はデュラハンの大剣がカズマを襲う。両手剣でどうにか受け止めるが、威力を殺しきれていない。

 

(くそっ!くそくそくそくそくそ!!!何でだ!?何が足りない!!?どうして勝てない!!?)

「どうした?足りない頭で知恵でも絞っているのか?……だとしたら、滑稽だな。既に答えは出ていると言うのに」

「うるせぇ!真実はひとつとは限らないだろうが!?コ○ン君だって推理を間違えることもあるだろ!!」

「誰だそれは!!?」

 

後ろへと飛び退き、どうにか攻撃をかわした。

だが、まだ追撃が来ようとしている。

 

(もっと……もっとだ!もっと早く!もっと正確に!!もっと強く叩き込む!!!)

「はあああぁぁぁ!!!」

 

もはやカズマには手がなかった。出来うることはやった。後は、剣撃で勝ることだけだ。

だが、無情にもそれは叶う気配すら見せない。

幾度となく打ち込むが、全て受け流されているのだ。

 

「くそおおおぉぉぉぉ!!!」

「どうした、その程度か!!?」

「まだだっ―――」

 

『体は剣で出来ている』

 

「っ…………!?」

 

突如として、頭にその言葉が浮かび上がった。そして、同時に抗いようのない痛みが全身を襲う。

 

「うっ……ぐっ、あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

「か、カズマさん!!!?」

「カズマ!!!一体、どうしたというんだ!!!?」

「ほう、魔力がオーバーフローでもしたか?身に余る力を宿したせいで体が耐えきれなくなったか?だが、そんな事はどうでもいい」

 

無情にもデュラハンは、剣を振り上げる。

 

「これで、終わりだ」

 

激痛のなか、カズマの頭にあるのは痛みにたいする悲鳴とその痛みに対する問いだけ。どうしてこんな痛みが襲ってくるのか皆目検討がつかない。魔力は正常……なのだろうか?分からない。痛みが、全ての感覚をもぎ取っていた。

故に、カズマは気づかなかった。地に刻まれた紋様が、手のひらに刻んだ紋章が光っていることに。

 

「死ね」

 

大剣がカズマを両断する……はずだった。

高い金属音と共にそれは弾かれた。

 

「何者だ、貴様!!?」

「ふむ…………そなたではないな」

「えっ……な、何が起こってるの?」

「彼女は一体……?」

 

知らない女の声。驚くゆんゆんと御剣、そして敵意を強めるデュラハン。三者の反応はほとんど同じものだ。何者かが、デュラハンの攻撃を防いだのだ。

 

「な、なにが…………起こって……?」

 

激痛で薄れ行く意識のなか、カズマが見たのは……。

 

「問おう。そなたが余の、マスターか?」

 

赤いドレスを身に纏った美少女だった。

 

 

 

 




どうも、この度も読んでいただきありがとうございます!
某ソシャゲのRPGゲームがこのすばとコラボしており、そっちに夢中になっていたので続きが遅くなりました。
しかしというか、やはりというかめぐみんが随一の魔法使いというのはあながち嘘ではないかもですね。ゲームでも超強いです。

さて、真面目に後書きを書きますか……。

カズマの『憑依』ですが、基本スペックは冒険者であるカズマでそれに上乗せする形で部分的に英霊の能力を得るだけで、いきなり魔王軍幹部を倒せるほどは強くなりません。
俺TUEEEEEEEでも良かったのですが、それはあまりにカズマの理想の姿と掛け離れていると思ったので調整しました。

追記
めぐみんもいつかは活躍する……予定。


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麗しき暴君 ネロ・クラウディウス

今回は短めです。
すいません。先に謝ります。
今回は下ネタが多いです。予めR15タグ付けておきました。




美しい少女を見た。

彼女は、身の丈に合わない歪な形の剣を振るい、彼の強敵と剣を交えていた。

俺は、苦痛に意識を持っていかれそうになりながらも彼女の戦う様を見ていた。……いや、正しくは見ようとしていた。俺の意識は、いつの間にか途絶え、憑依も解けていった。

俺が目を覚ました時には、戦いは終わり、デュラハンの姿は無かった。

 

「…………あれ?お、れは……?」

「カズマさん!!?カズマさん、大丈夫ですか!!?あ、あのあの……!!あの、とにかく……大丈夫ですか!!?」

「あ、ああ……たぶん」

 

意識が戻ると、真っ先にゆんゆんが飛び付いてきた。

涙をポロポロ流して顔をくしゃくしゃにして、何度も何度も俺の安否を問いただしてくる。

 

「ったく、心配しすぎだって……。大丈夫だから、顔を上げてくれよ」

「でも、でも……うっ、カズマさん……あんなにも辛そうに……。ぐすっ、本当に……大丈夫なんですか?」

「身体中痛いけど、意識はしっかりしているからたぶん大丈夫だ」

 

そう、俺は嘘はいっていない。言った様に身体中痛むが、意識もある。ただ、記憶がはっきりとしていないのだ。俺が覚えているのは、新たなサーヴァントが現れ、彼女が剣技でデュラハンを凌駕する姿だ。

 

「かじゅま~!!」

「うぐっ!?……おい、めぐみん。いくら俺の事が好きすぎて心配で仕方ないからって怪我人にタックルは勘弁な……」

「かじゅま~、かじゅまかじゅまかじゅま~!!!」

 

ああもう、めぐみんもポロポロ涙流しながら抱きついてくるから、俺の服がくしゃくしゃだし濡れてる。なに?どんだけ俺の事好きなの、この子達。

 

「まったく……突然発狂した時はどうなるかと思ったよ、カズマ」

「御剣……。そうか、イケメンは滅んでなかったのか」

「突然何を言うんだ君は!!?……せっかく人が心配しているというのに。少しは素直になれないのか?」

「いいのか、おい?今の俺が素直になれば、この泣きじゃくる二人を抱いてクンカクンカするぞ?」

「それは君の自己責任でね……」

 

というのは冗談だ。

素直に言うと……美少女二人に抱き締められて心拍数がはね上がって超ヤバイです、はい。いいですか?本当にいいんですか?抱いても殴られませんか?殺されませんか?二人にドン引きされて冷たい目で見られませんか?

………………ま、俺にそんな度胸はないわけで。軽く頭を撫でてやった。

 

「ふむ、マスターよ。お主は少女趣味であるか。余の美的感覚に通じる物があるな」

「あ、えっと……君は?」

「うむ、よくぞ聞いてくれた!余の真名はネロ・クラウディウス。ローマ帝国五代皇帝である!」

「…………あ、ああ!なるほど、あのネロか、うん……なるほど」

「ほう、そなたは余の事を知っているのか!?」

(暴君とだけ……な)

「ええと、それで……君が――」

「よい、ネロと呼ぶがよい。余が特別に許可するぞ!」

「あ、うん……どうも」

(やりづらいな~……)

 

どうもこの方は噂に違わぬジャ○アン気質なのだろう。マスターは俺なのに、上から目線だ。いや、別にいいけど。……いいけど、どうして俺はジャンヌといい、ネロといい、いまいち掴み所の無い性格なサーヴァントばかり召喚してしまうのだろうか?

 

「ところで、マスターよ。お主の名前はカズマで良いのか?」

「ああ」

「ふむ。では、カズマよ」

「何?」

「一つ問いたいのだが……」

 

ネロは、俺からゆんゆん達へと視線を写した。どうしたのだろうと思い、よーく彼女の顔を凝視した。……俺のセンサーが反応しているのだ。そう、もしや彼女も―――

 

「その者達を愛でさせて貰ってもよいか!!?」

「…………はい?」

 

そう。変態気質なのかもしれない、と。

 

「余は美少年も好きだが、美少女はもっと好きなのだ!!!」

「きゃ!?」

「な、なんですかこの人!?」

 

ネロは、未だ俺に寄り添っている二人に思いっきり抱きつき頬を擦り付けている。

…………え?なに?百合なの、この子?

 

「うむうむ!よい感触だ!!」

「か、カズマさん!助けてください!!」

「あ、ちょ……そんな強く擦り付けないで下さい!!」

 

う~ん……どうしよう?また変態が一人増えた。

とりあえず、重いので俺は二人を振りほどき離れた。

 

「ふぅ……。そういや、デュラハンはどうなったんだ?」

「彼女との死闘の果て、倒し損ねて逃げられたよ」

「そっか。まぁ、命があるだけよしとするか」

「それじゃ、僕はこれで。君が寝ている間にアクセルの街付近までおぶったから、後は君達でも安心して帰れるだろう?」

「待て。お前、俺をこの百合百合しい雰囲気で置いて帰ろうってのか?」

 

然り気無く帰ろうとする御剣の肩を掴み、無理矢理止める。

 

「カズマさん!お願いです、助けて下さい!!あ、だ、駄目っ!そこは……あんっ!ら、らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「か、カズマ!そこのぼっちは放っておいていいので先に私を……って、ああっ!!?や、やめろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「憂いやつ、憂いやつよの~!どれどれ、ここか?うむ、良い!実に良いぞ!!」

 

俺は、初めてガチモノの百合を見てしまった。ネロの一方的な愛情表現だが……。とりあえず、童貞の俺には少々刺激が強い光景だ。

 

「カズマ…………僕には苦しんでいる人々を救うという使命があるんだ。だから、こんなところで立ち止まってはいられないんだ」

「そうか。なら、目の前で気まずい空気に晒されて苦しんでいる俺を救ってくれ」

「…………」

「…………」

 

御剣は、瞬時に俺の手をほどき走り出した。

 

「待てお前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!俺をおいていく気かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

「離すんだカズマ!!!君の死は無駄にしない!!!」

「勝手に殺してんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!お前、こんな時のためのイケメンだろ!!?場の空気を取り持てよ!!?」

「断る!!!君は寝ていて知らないだろうが、彼女の二人を見る目は明らかにおかしい!!!僕に彼女をどうこう出来る力は無い!!!」

「諦めんなよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!松○修造も言ってたろ!!?諦めんなお前って!!!やれば絶対に出来るって!!!」

「僕はそんな元プロテニス選手なんて知らないし、勇者の僕には管轄外だ!!!」

「知ってるじゃねぇか!!!?諦めんなよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!お前なら出来る!!!絶対に出来る!!!できるできる!!!絶対に出来るから!!!響ちゃんはやれば出来る子だって母ちゃんに言われてたんだろ!!!?」

「勝手に僕の過去を捏造しないでくれるかな!!?」

 

くっ、こいつ!優男と見せかけ本当はずる賢い一面もあるみたいだ。一人だけ逃げ帰ろうとするがそうはさせん。

抵抗する御剣の両手を握り、『クリエイトアース』と『バインド』をかける。簡易手錠の完成だ。

 

「はっはっは!これでお前は逃げられまい!!」

「な、何て卑怯な……!?」

「卑怯?はっ!なんとでもいえ。一人だけ助かろうなんて考えなお前にはお仕置きが必要なようだな~!?」

「お主達……ホモなのか?」

「はっ!?ち、ちがーーーう!!!誰がこのクソイケメンなんかと!!?」

「よい。よいのだ……趣味嗜好は人それぞれだ。お主らの関係にとやかくは言わん……」

「やめろよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!そんな哀れみの目で見るなあぁぁぁぁぁ!!!お前だって百合百合しいだろうが!!!?」

 

結局、御剣は自力でバインドを解除して逃げた。そのあとも暴君ネロによる愛情表現は続き、俺は、涙目になりながらも助けをこう二人を眺めていた。

 

「うっ……うっ……カズマさん。私がお嫁にいけなくなったら、貰ってくれますか?」

 

ゆんゆんはトラウマを背負ったようだ。泣きながら歩く彼女の後ろ姿は、さながら失恋した少女のようだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

魔王軍デュラハンとの戦いの後、俺はしばらくクエストに出ることはなかった。だってまだ病み上がりだし?別に、デュラハン撃退で得た賞金でしばらくは楽をしようだなんて思ってない。ああ、思ってないとも。……嘘だけどな。

 

「カズマ、今日も飲み明かそうぜ!」

「はは、まぁほどほどにな……」

「んでよ、実はこの前とっても素晴らしいサービス店を見つけたんだよ」

「何っ!?……その話、詳しく」

 

こんな風に、悪友のダストと昼間っから飲んだ暮れている。いつも一緒にいるんじゃないかと思うくらいに。しかも、こいつと話す内容はだいたい猥談ばかりで…………最近は女性冒険者の俺に対する目付きが冷たくなった気がする。

 

「それでな?俺は要望に……」

「……なっ!?そんな事も出来るのか!!?」

 

こういう話に付き合う俺もどうかと思うが……好きなものは仕方ない。素晴らしいサービスなのだ、満喫しない手はない。

※淫夢サービスです

 

「ぐふふ……!俺の聖剣エクスカリバーが唸るぜ!!」

「おいおい、まだ昼間だぜ?…………後で教えろよ、俺も行く」

「へっ!しょうがねぇな…………って、なんだよ? 」

「どした?……ああ、ネロか」

 

振り向くと、ネロがキョトンとした顔で俺達を見ていた。どうしたのだろう?何か用でも……?

 

「マスターよ、ひとつ聞くが……」

「……?」

「先程その男が言っていたお○んことはなんなのだ?」

「ぶふぉ!!!」

 

思わずシュワシュワを吹き出してしまった。この人、いきなり何言い出してんの!?しかも公衆の面前で!

 

「それに、ふぇ○チオ……だとか、あ○るだとか……何の事をーー」

「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!やめて!!!やめてくれ!!!!それ以上は言ったら駄目だ!!!!!」

「なっ……!?どうしたのだ、余は何かおかしな事を言ったのか?」

 

言ってる。超言ってる。というか、おかしな事しか言ってない。こんないたい気な少女が平然と猥談してたら普通驚くぞ。まぁ、そういう知識を吹き込んでしまったのは俺とダストな訳で……。

 

「カズマさん、さっきジャンヌさんが呼んでましたよ?」

「むっ?ゆんゆんか。丁度いい、汝に一つ問おう。おま○ことはなんだ?どういう意味だ?」

「ちょ、やめっ……ち、違うぞゆんゆん!俺は悪くな…………ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!?」

「カズマさんちょっと表に出ましょうか?大丈夫です、すぐに終わります。ええ、すぐに終わります。まずは何からしましょうか?そうですね、とりあえずごめんなさいと10000回公衆の面前で土下座しますか?ああ、それでも足りませんね。こんな無垢な方に穢れを教えてしまった罪は重たいですよ。死にます?いっそ死にますか?カズマさんはこういう事はしない方だと思っていたのに残念です。ええ、とても残念です。それでは行きましょうか?大丈夫です、ジャンヌさんには私から言っておきます。安心してください。カズマさんに満足していただけるようにとどめにめぐみんの爆裂魔法を撃ち込んでもらいます」

 

だ、誰かーーー!!?殺されるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!呪詛唱えてるし、まじで殺される!!!ゆんゆんの目が逝ってるんだけど!ゆんゆんの眼が俺を捉えて離さないんだけど!!ポキポキ骨ならしながら近づいてくる!!?

 

「どうしたのだ、ゆんゆん?カズマが言っていることは良くないことなのか?」

「ネロさん、そこのゴミ男達が言っていたことは忘れてくださいね?」

 

こっわ!ついに俺の事をゴミとか言い出したんだけど!!?

 

「まったくカズマは卑猥な事ばかり言うからな~!ハハハ、マイッタナ~!!」

「てめぇ、ダスト!!自分だけ逃れようとしてんじゃねぇ!!?」

「は、離せカズマ!お前、あの子に聞かれてるんだから答えてやれよ~!?」

「ふざけんな!口が裂けても言えるか!!そもそもお前が言い出した事だろうが!!?」

「カズマよ、余は気になって仕方ないのだ。早く教えるがよい」

 

いやいやいやいや!無理、無理です!!男の俺がんなこと白昼堂々と言えるかよ!!ダストも逃げ腰だし、ゆんゆんは超怖いし、ネロは無垢で純情で素直すぎて逆にその態度が辛い!!!こんな無垢な子に言えるかよおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!

 

「ねぇ、ちょっとカズマ。そろそろ今月のお小遣いよこしなさいよ。金欠で酒も飲めやしないわ」

「うむ、この際そなたでも構わんか」

「なに?要件は手短に言いなさいよ?酒が飲みたくてウズウズしてるんだから」

「まぁ、そう邪険にするでない。余が聞きたいのはカズマが言っていたセッ○スとはどういう意味なのかと言うことなのだ。ジャンヌは知っておるか?」

「…………………………ゆんゆん。あいつ、殺しなさい」

「分かりました。カズマさん、ちょっとこっちに来ましょうか?」

「いぃぃぃぃぃぃぃぃやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

駄目だ、もう駄目だ……。ジャンヌまで俺を蔑んでる。これはもう絶体絶命だ。誰も俺を助けてくれない。どうする、まじでどうすりゃいいんだ。

 

「よさぬか。カズマに非はなかろう?勝手に盗み聞いていたのは余の方だ。カズマを責めるのは検討違いであろうに……なぁ、カズマよ?」

(すいません僕が悪いです日頃からこんな話ばっかしててごめんなさい生きててごめんなさい)

「だとよ。良かったな、カズマ」

「ダストさんも後で一緒に来て下さい、ネロさんに卑猥な事を教えたお礼をしたいので」

「えっ?いや、俺は……」

「大丈夫です。楽には逝かせませんから」

 

ゆんゆんはにっこりと笑ってそういい放った。

俺とダストは、もはや恐怖で言葉が出なかった……。

 

「カズマ……あんた、懺悔の用意はできているのかしら?」

「頼む、頼むから許してくれ!ほら、酒代ならここに……」

「ああんっ!!?」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!?」

 

怖い、怖くて怖くて堪らない。俺は、かつてここまで恐怖を感じたことがあるだろうか…………いや、ない。

それほどまでに、ゆんゆんとジャンヌが怖いのだ。二人は臨戦態勢に入り、殺る気満々だ。俺とダストにもはや逃げ場はない。

 

「ねぇ、ゆんゆん?せっかくだから、あんたの新しい魔法の実験台になってもらいなさいよ」

「そうですね、それはとてもいいアイディアです。実は試す機会が中々無くて困ってたんですよ」

「こ、こら!そなたたちは何を物騒な事を言っておる。カズマ達が可愛そうであろう?」

「そ、そうたそうだー!人権侵害だ!!俺達は無罪だ!!!」

「え?何言ってるんですか?ゴミはゴミらしくしててください」

「あ、はい……すいません」

 

最早聞く耳持たずだ。ダストにははなから期待などしてないが、せめて俺の言葉ぐらい聞いてほしい。

 

「なぁ、ゆんゆん?俺が悪かったって、謝るから。この間欲しがってたうさちゃん人形買ってやるから、な?」

「えっ?…………そ、そうですね。カズマさんがそこまで言うなら。仕方ありません」

 

よし!かろうじて俺だけは束縛から逃れたぞ!!

 

「ようし、それじゃあ今から買いに行くか」

「は、はい……!」

「ふむ。そなた達は仲が良いな。もしや恋仲なのか?」

「えっ!!?」

「ははは、違うよネロ。まだ友達だよ、な?ゆんゆん」

「そ、そうですね……!」

 

ふっ、ナイスだネロ。ゆんゆんは完全に照れてペースを崩している。これでペースはずっと俺のターン……。

 

「うむ、存分に楽しんでくるがよい!」

「じゃ、俺達はこれで……!」

 

よし、これで解決ーーー

 

「ああ、そういえばカズマが先程言っていた俺の聖剣エクスカリバーをめぐみんのま○こに突っ込みたいとはどういう意味だったのだ?こればかりは難解過ぎて全く不可解だったのだが……どうやったら聖剣がめぐみんに収まるのだ?」

「…………………………………………………………………………………………」

「…………カズマさん?」

「……………………ハイ?」

「…………いっぺん、死んでみます?」

 

この後、無茶苦茶にされた。

※性的な意味ではありません。

 

 

 

 




ネロ・クラウディウス。
赤セイバーと呼ばれ、青セイバーを凌ぐ人気を持つお方ですが…………可愛いですね(小並感)
暴君といいつつ、可愛いらしく、ワンコの様にそわそわしながらマスターの表情をうかがうとかもう可愛いすぎです。

なお、本作では百合設定かつ無垢な少女です。穢れを知らない彼女が段々とカズマ達に毒されていく……最高ですね(ゲス顔)
実際、原作でも下ネタ多いしたぶんこれぐらい大丈夫だろうと思いました、すいません。


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暇をもて余した者共の遊び

今日もカズマさんは平常運転。
相も変わらず愉快な仲間たちと騒ぎます。


俺は『憑依』というスキルを手にいれた。

元々はチート能力『召喚師』から発生した付属スキルなのだが、現在ではこのスキルを使って使役するサーヴァントと共に戦うのが主流になっている。

だが、最初は苦難したものだ。戦う術を知らず、仲間に全て委ねるしかなかった。だから、俺は知り合いになった盗賊の少女に教えを請うた。

そして、今日はその師匠とも言える盗賊の少女に会う予定なのだ。そう、免許皆伝最終奥義とも言える伝説のスキルを教えてもらう為に……。

 

「うっす、師匠!今日もよろしくお願いしゃす」

「だから師匠はやめてってば……」

「まぁまぁ、頼むよ。クリスの姉御!」

「もうっ……カズマはこういう時だけ調子がいいんだから」

 

短い銀髪に頬キズ、活発であることを象徴するかのような短パン。とにかく露出の多い格好。これが、俺の盗賊スキルの師匠、クリスだ。

 

「それで、今日は何を教えてくれるんだ?」

「ふふふ、私のイチオシ……ううん、盗賊の奥義とも言えるスキル。『スティール』だよ!」

「えー?取得ポイントたかが5の平凡スキルじゃないですかー?クリスなにいってんのー?全然奥義じゃないよぉ?」

「ちょ……!?ど、どうしてそんな反応悪いのかな?」

「だって、俺が予想してたのは……もっと、こう……カッコよくて忍的なものとか?」

「いつになくズバズバもの申してくるね……」

 

いや、最初の駆け出し状態の俺なら喜んでいた事だろう。だが、初心者殺しや他の上級モンスター達、果ては魔王軍幹部やらと互角に渡り合う必要があるのだ。相手のアイテムひとつをランダムに奪うスキルなんて何の役に立つと言うんだ……?

 

「…………ちなみに、運次第でモンスターからレアアイテムをドロップするらしいよ」

「よっしゃ!クリスはよ!はよぉ!!」

「ちょっと現金すぎないかな、キミ……」

 

何を言うんだ、この俺が欲にくらんでいるとでも言うのかね?ううん?

俺は、若干やる気をそがれた感じのクリスを急かしてスキルを教えてもらった。

 

「はい、それじゃあ試しにやってみて」

「よっし…………それじゃあ、いくぜ?」

 

微量の魔力を込め、クリスへと手を向ける。

得られるアイテムはランダムらしいが、生憎と俺は運が良い。恐らく、いや確実にレアなものが剥げるに違いない!

 

『スティール!』

「くっ……!」

 

俺は、スキルを発動させながら思った。

……あれ?クリスって薄着だけど、何かの間違いで下着や胸当て?みたいな布を剥いだらどうなるのかなと……。

 

「……っ!?」

「あ、えっと……………………………………………ごめんな」

「いぃぃぃぃぃぃぃぃやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

案の定、上の方を剥いでしまつった。

俺の手には、クリスが着けていた布が。そして、目の前にはちっぱいを隠すクリスの姿。

………………なんだろう、犯罪臭がする。

 

「最低!!最低だよ!!!どうしてこんなものを剥ぐのさ!!?」

「いや、ちがっ……!?で、でもクリスだって薄着なんだから仕方ないだろ?俺もわざとやったわけじゃ……」

 

う~ん、やっぱり俺が悪いのだろうか?いや、これは冤罪だ。あくまで運、ランダム要素が強いスキルだ。カズマ被告人は無罪を主張します。

 

「何を一人でぶつぶつ言ってるの?いいから早く返してよ、変態」

「変態……!?い、いいのかおい?ここで俺にそんな態度を取ったらどうなるか…………なぁ?」

「な、何をする気……!?」

「クンカクンカする―――」

「かえせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

クリスが涙目になりながら掴みかかってきた。

片手で胸を隠しながら襟元をグイグイ引っ張ってくる。ちなみに、ここは街中だ。人通りが少ないところではあるが、あまりやり過ぎるとやばい。そろそろクリスの悲鳴を聞いて誰か来るかもしれない。

 

「わかった、わかったから……ほら」

「まったく、君、まさかパーティーの娘たちにもこういうことをしてるの?……変態」

「してねぇよ!!?」

 

うん、ちょっとやり過ぎたかも。クリスに少し嫌われたっぽい。目が、声が、態度が冷たい。

 

「それにしても、運が良かったね。こんなところを誰かに見られでもしたら大変だったよ」

「あはは、全く―――」

「クリス?どうして半裸で胸を隠しているんだ……?」

「「っ!!?」」

 

振り向くと、金髪美女が立っていた。高級そうな鎧に腰に据えた剣、恐らく騎士かクルセイダーの方だろう。

ううむ…………ストライクゾーンだな。…………あ、いやいや問題なのはそこじゃない。この現場を見られたのだ。

 

「あ、いえ……その……これはですね!?」

「うわあぁぁぁん!ダクネス!!この変態に脱がされた~!!!」

「なっ……!!?」

 

こ、こいつ!いとも簡単に俺を捨てやがった!?

お、おいおい……それはまじでシャレにならないからやめてくれお願いだから、まじで、本当に!

ほら、そこのクルセイダーの人もドン引きして………………ん?

 

「な、なななな……!!?こんな人通りでいたい気な少女の服を剥ぐなんて許せない!!どうかその鬼畜の所業をこの私にも!!!」

「「…………え?」」

 

何を言っているのだろう、この人は?

前半は相応の反応だったと思う。でも後半は…………気のせいではないと思う、確かに自分にもしてくれと言った気がする。つか、顔がやばい。ハァハァ言いながら興奮してるんだけど。喜んでるんだけど。

 

「さぁ!さぁ!!さぁ!!!」

「や、やめろ!近づくな!!おい、クリス。この人はお前の知り合いだろ!?名前言ってたろ!!?」

「ああ……う、うん。ダクネス?一旦落ち着こう?」

「はぁ……はぁ……是非その鬼畜プレイを私に!!」

 

うん、やばいわこの人。目が、逝ってる。逃げようかな?逃げていいかな?逃げようか?…………逃げるか。

 

「それじゃクリス、事後処理よろしく!」

「あっ!?ちょっとカズマ!!」

「ま、待ってくれ!どうか私にも!!」

「く、来るなぁ~!!!」

 

え?あの娘全速力で追いかけてくるんだけど?ものすごい怖いスマイルでこっちに走ってくるんだけど?なに、新手のホラー?

とりあえず一言言おう…………。

 

「こっちくんなあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ふひっ!逃がさん!逃がさんぞおぉぉぉぉぉ!!!」

「………………コホン、元気でね。カズマ」

 

くっ!?クリスを餌にするどころか俺の方に食い付きやがった!?

俺は、この変態から逃れる為にアクセルの街を駆け回った。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

アクセルの街のギルドにて……。

 

 

「さて、女子会を始めましょうか」

 

ジョッキを片手に意気揚々と啖呵を切るジャンヌ。そして、その回りには軽く呆れた目で頷くゆんゆん達がいた。

 

「あの……ジャンヌさん?昼間から飲むのはどうかと思うんですが……?」

「はぁ?なにいってんのよ、ゆんゆん。そんな堅物だからカズマに下ネタの一つも言われないのよ。めぐみんとかネロは常日頃からカズマの妄想の餌食になってるらしいわよ?」

「あ、あの……別に嬉しくはないのですが。それより、いまめぐみんとネロさんが餌食になっていると言いましたか?」

「お主ら、普通に始められんのか?はよう飲もうではないか」

 

シュワシュワを注いだジョッキを持ち上げ、いまかいまかと待っていた。

 

「わ、私にもそれをください……!」

「む?めぐみんはまだ14歳だろう?子供にはまだ早いぞ」

「なっ!?い、いいではありませんか!!?」

「駄目だよめぐみん。私達はまだ飲まない方が……」

 

どうにか説得しようとするけど、めぐみんは納得してくれない。これも、ジャンヌさんが囃し立てるからだと思う。飲め飲めとジョッキを頬に着けてくる。

 

「ねぇねぇ、早く乾杯しましょうよぉ?」

「ジャンヌさん、もう酔っぱらってるじゃないですか……」

「あぁ!?なんですって!?」

「…………なんでもないです」

 

酔っぱらうとジャンヌさんは面倒くさい。これは、パーティーを組んだ当日に判明した事。酔い始めると歯止めがきかないことがわかった。

 

「ねぇゆんゆん。あんた、まぁだカズマの臭いでアレしてるの?」

「な、何を言い出してるんですか!!?」

「だって、ほら……あんたの部屋にカズマのハンカチとか服があったじゃない?……なんか濡れてたのもあったけど」

「やめてええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!私が悪かっですから!!!じゃんじゃん飲んでいいですから!!!お願いですからやめてください!!!!」

 

やばいです。またジャンヌさんのからかい癖が出ました。この人、言い出すとキリがないんです……。

 

「えぇ~?どうしよっかな~……」

「お、お願いですから!」

「うむ。ジャンヌ話すがよい。余は気になって仕方ない」

「仕方ないわね~、ぐふふ……」

「や、やめ……!」

「めぐみん」

「むんっ」

「っ!!?」

 

ジャンヌさんが合図すると、めぐみんが後から羽交い締めしてきた。抵抗したけど上手く決められてほどけなかった。

 

「あれは確か、一週間前のことだったかしら……」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「うふふ、今日はどれにしようかな?」

 

ゆんゆんの宿屋に忍び込み、私は眺めていたの。

そう、最早習慣となった例のアレを。

 

「ハンカチ、上着、下着……ううん悩むわね」

 

正直なところ、この子の変態癖が直ったのか見に来たのもあったのだけど、もういっそヤりきるまで見物していこうと思った。

 

「ええと、この魔道具のスイッチを入れて…………あんっ!」

 

ゆんゆんは徐に魔道具を股に挟み、喘ぎ始めた。もじもじともがきながら、うねうね動くその姿は…………正直言うとちょっと引いてしまうほどだった。

 

「き、気持ちいい……かじゅましゃん……あんっ!?」

(もうちょっと声抑えなさいよ……隣の部屋まで響いてるかもしれないわよ……?)

「あっ!?あん!き、気持ちいいのぉ……!!」

 

今度は胸まで揉み始めた。

流石に見てられなかった。ハンカチをクンカクンカしながらあそこに当ててる姿は、まさに変態だった。

 

「しゅ、しゅごいのおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

「とまぁ……こんなことがあったわけよ」

「ゆんゆん、貴方はいつ変態にジョブチェンジしたのですか……?」

「…………ぐすっ」

 

涙で前が見えません……。

もう、この人には隠し事はできないんだろうと思いました、まる

 

「ううむ……つまりゆんゆんはカズマの事が好きで好きで仕方ないということなのか?」

「えっ!?い、いえ……あの、その…………」

「なるほど、あいわかった。言わずともよい」

「………………はい」

「そういうネロはどうなのよ?」

「余か?余は…………まぁ嫌いではないぞ、うむ」

「めぐみんは…………ああ、言わなくてもいいわ」

「なっ、何故ですか!?」

 

どうしてかめぐみんには聞かなかった。どうしたのだろうとジャンヌさんの方を見ると、なにやら悟った顔をしていた。

 

「ごめんなさいね、めぐみん」

「どうして急に謝るのですか?」

「だって……ゆんゆんを散々からかっておいて、実はめぐみんもカズマの事になると夢中になって止まないんだものね。ゆんゆんに嫉妬してたんでしょ?」

「勝手な妄想は止してもらおうか!誰がカズマの事をす……好きだなんて…………いったんですか?」

「わたし、好きだなんて言ってないわよ?」

「…………え?」

「夢中になる…………とは言ったけど、好きだなんて言ってないわよ?」

「…………」

「…………」

「…………めぐみん、あんた……」

「………………うむ、なるほどな」

「その哀れむような目で見るのは止めてもらおうか!!?」

 

急にめぐみんが怒り出した。

日頃はジャンヌさんには突っかからないめぐみんが、顔を真っ赤にして掴み掛かっている。

ジャンヌさんは、やれやれと言う感じで澄まし顔だった。

 

「ふ、ふん!そもそもどうしてあんなやる気のない駄目男を好きに―――」

「って、言われてるわよ。ゆんゆん」

「めぐみん、ちょっと表に出よう?」

「ちょ!!?ここでゆんゆんのクリアマインドを利用しないでくださいよ!!どうしてカズマの事になるとそんなに怖くなるんですか!!?」

「愛ゆえに……か。カズマも罪な男よの」

 

ネロさんは無垢なようで恋愛に関しては興味津々のようでした。あくまで純愛を思い描いているようで、細かい事までは言い出さないようでした。…………ネロさんには下ネタは通用しませんでしたし、まさに純情ですね。

 

「そ、そういうジャンヌはどうなのですか!?」

「え?わたし?」

「あ、私も聞きたいです!」

「いや、私は別に普通よ」

「ジャンヌも素直ではないな。この前ひっそりとカズマの看病に―――」

「はっ!!?あんた何いってんのよ!!?だ、誰がそんなこと…………!!?」

「余は見たぞ?満足気な顔でカズマの宿から出てくるジャンヌを」

「「…………」」

「適当な事言ってるんじゃないわよ!!!?」

 

どうもジャンヌさんの反応が怪しい。

あれほど他人をからかって澄まし顔をしていのに、いざ自分に振られると動揺している。

照れ隠しにシュワシュワを飲み干すと、急にしんみりとした顔になり、チラッと見てきた。

 

「あ、あれよ……ゆんゆんとめぐみんが看病に来たのに、私だけ来ないってのはアレかなと思っただけよ」

「照れてますね」

「ですね」

「うむ」

「だ、黙りなさい!私は別にカズマの事を気にしてなんかいないわよ!!!」

「「「へ~」」」

「何よその顔は!!?」

 

ジャンヌさんはからかわれることに弱いみたいで、軽く涙目になってます。

私とめぐみんは日頃のお返しとばかりに攻めることにした。

 

「そういえば、この前カズマさんに美人って言われた時、照れてましたね?」

「なっ!!?」

「そうですね。それに、ジャンヌは他の男性とは一切話さないのにカズマとはいつも親しげに話してますね?」

「か、関係ないでしょ!!?」

「「ふーん……」」

「な、なによっ!?信用してないみたいな目ね、そんなに疑わしいの!!?」

「「はい」」

「なっ……!?ぜ、絶対に違うわよ!!!」

 

照れたジャンヌさんは可愛いですね。私達以上に耐性が無いらしく、動揺が隠せてません。

 

「ゆんゆん、あんたそんな事ばっかり言ってるとばらすわよ!?」

「な、何をですか……!?」

「この前カズマに後から突かれる妄想を―――」

「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!言わないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「騒がしい奴らよの」

「全くですね」

 

やはりジャンヌさんは一筋縄ではいきません。

 

「こっちくんなあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

突如ギルドに響き渡る様な大声が聞こえた。

 

「……あれ?カズマさんじゃないですか?」

「ゆんゆんか!?頼む、匿ってくれ!!」

「え?……」

 

俺は、逃げ込むようにゆんゆんの背後に隠れた。

 

「何処だ!?何処に行ったのだ!?」

「カズマさん、あの人は……?」

「変態だ。俺を追って追いかけてきたんだよ」

「ど、どうしてそんな事になってるんですか……?」

 

説明はしない。だって言ってしまえば俺の所業がばれてしまうから。

 

「隠れてないで出てこい!クリスにしたように、私にも鬼畜プレイをしてみろ!!!」

「あ、カズマさんならここにいますよ」

「おいっ!?あっさり俺を見捨てるなよ!?」

「そこにいたか!?さぁ、早くやってみせろ!!」

 

やばいやばい!目の逝ったクルセイダーが迫ってくる。ゆんゆんは容赦無しに俺をつき出すし、よく見たらジャンヌ達も目が据わってるんだけど!?

 

「どうしてそこまでしつこく俺に迫るんだよ!?」

「どうして……だと?」

「あ、ああ……」

「クリスの服を容赦なく剥いでいたではないか!あんなに辱しめて……しかも公衆の面前で!!羨ましい許せん私にもやってみせろください!!!」

「ちょっと待てえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!わかった、分かったから少し抑えてくれよ!!?そんな事大声で叫ぶなよ!!!!」

「カズマさん、最後に言い残すことはありますか?」

「さぁはやく!!!早く私にも!!!」

「もう放っておいてくれええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

うう……もう俺の面目丸潰れだよ。ゆんゆんは相変わらず怖いし、ギルドの女性連中から蔑んだ目で見られるし、目の前には変態が迫ってるし…………もう殺せよ!いっそ俺を殺して楽にしてくれよ!チキショー!!

 

「屑ですね」

「屑ね」

「屑だな」

 

ぐすっ……ジャンヌ、めぐみん、ネロから罵倒された。誰か、誰か俺に救いの手を差しのばしてくれる人はいないのか……?

 

「む?そこの方々はこの男のパーティー仲間か?」

「あ、はい。すいません、うちの馬鹿がご迷惑をかけまして…………」

「いや、構わん!むしろご褒美だ!!」

「「「えっ?」」」

「ところで、カズマ……だったか?」

「あ、うん……」

「私にも――」

「お断りします」

「んんっ!!……はぁ……はぁ……即答、だと!?」

 

なにこの変態!?どんな攻めにも快楽を感じちゃうのかよ!?顔は良いのに性格は最悪だな!?

 

「カズマ、あんたをご指名らしいわよ?やってあげたら?」

「待てよ、まだどんな要求かも聞いてないんだぞ?それに、とてつもなく嫌な予感がする」

「大丈夫だ。ちょっとしたご褒美を――」

「い~や~だ!!俺は、いくら顔がよくても変態だけは絶対に嫌だ!!!」

「ああっ!!なんて罵倒…………やはり私の目に狂いは無かった!!!」

「狂ってるだろうが!!?」

 

うっ……もうやだ。変態やだ。こいつのせいで仲間からも白い目で見られるし、後で絶対にゆんゆんに殺される……。

 

「私の名はダクネスだ。さぁ、共に行こう!」

「行かねぇよ!?つか、何処に連れていくきだよ!?」

「…………ぽっ」

「ぽっ……じゃねぇよ!?んな卑猥な事に付き合わせんな!!更に汚名を被せられんだろうが!!!」

「ダクネスさん?カズマさんも嫌がっているようですし、ちょっとそれは……」

「ゆんゆん……!」

「どうしてもというのなら、私達がお仕置きを済ませてからという事で」

 

ですよね~。

絶対酷い目に合うわ、これ。目が笑ってないし、ジャンヌも何故か武装してるし、めぐみんは…………あれ?

 

「ちょっと待ってください。それではカズマが可哀想ですよ」

「めぐみん……!」

「へぇ……めぐみんはカズマの肩をもつの?」

「…………ええ、カズマには日頃からお世話になってますし」

「ああ……神よ」

「あの、拝まれても困るのですが」

 

俺は、めぐみんにすがり付いた。この際、プライドは捨てよう。ヤンデレゆんゆんにお仕置きされるくらいなら喜んで泥を被ろう。……だって怖いしな、抵抗できないもんな。

 

「……あの、一応聞きますが、どうしてそうなったのですか?」

「あ、ああ……。実は……かくかくしかじかで」

「なるほど、やはり天誅が必要なようですね」

「ええ~!!!?」

「せめてもの慈悲です。ゆんゆんの弱点を教えてあげましょう」

「な、なに……?」

 

他の奴らに聞こえないように、耳元で囁くめぐみん。

 

「ゆんゆんが貴方の妄想でオ○ニーしていることをネタにすれば凌げますよ」

「ほ、本当だな……?」

「ええ、本当ですよ」

 

俺は、半信半疑でゆんゆんに言ってみた。

 

「なぁ、ゆんゆん……?」

「何ですか?命乞いですか?」

「溜まってるんだろ?ほら、俺の匂いの染み付いた服やるから……な?」

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………後で詳しく」

「お、おう……」

 

よくわからんがゆんゆんの驚異は去ったようだ。

 

「くっ!?ゆんゆんを手駒にするとはやるわね!?どうせまたエロい事を吹き込んだんでしょ!!そうなんでしょ!!?」

「お前俺をなんだと思ってるんだ!!?普通に取引しただけだよ!!!」

「だから、その内容が一発やらせるとかそういう卑猥な内容なんでしょ!!?」

「お前ちょっとだまれえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

ジャンヌまで公衆の面前で卑猥な事を言い出した。こいつ、酔っぱらうと吹っ切れるタイプだったな。

 

「こんないたい気な少女を犯すだと……!?」

「あんたも黙っててくれ!!!?」

「カズマ……また卑猥な事を……余はどうしたら……?」

「ごめんな、ネロ。こいつらが変態だから悪いんだ。ネロは悪くない」

「そうか…………余はたまにお主らの話について行けない時がある。すまぬ」

 

いや、謝るのは俺達のほうだ。

むしろわかってはいけないと思う。いや、でも……めぐみん達ですら話が分かるのは……うん、あいつらは変態なのだろう。ネロは至って健全、これが普通なのだ。

 

「とにかく、俺はそんな事に付き合う気はない!」

「くっ…………まぁいい。今日のところはな」

「ふぅ…………」

「だが、私とて騎士だ。カズマの鬼畜の所業を放っておく事は出来ない」

「らしいわよ。鬼畜のカズマさん?」

「その言い方はやめろぉ!」

 

くっ……ただでは引かないか。騎士だけに正義感も人一倍あるらしい……変態のくせに。

 

「ふむ、よかろう。ではこうしよう」

「ネロ?」

「余とそなたで勝負しようではないか?その勝敗で、事の結末を決めようではないか」

「……いいだろう」

 

よし!これならいける!!あのデュラハンすら凌駕したネロだぞ?絶対に勝てる!!!

 

「私が勝てば例のご褒美――ではなく、要求を飲んでもらう」

「よかろう」

 

いまこの人、ご褒美って言った?言ったよな?

 

「ようし、敗けたら――」

「分かっている。この体…………好きにするがいい!!!」

「おい待てええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!だから音量抑えろよおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「クズマね」

「カスマさんですね」

「二人とも、最近は容赦が無いですね……」

 

こうして、ネロとダクネスの一騎討ちが決まった。

…………ダクネスからすれば、勝ってもご褒美、負けてもご褒美なんだろうな。

まったく、嫌になるぜ…………。

 

 

 

 

 




遂に来ましたダクネスさん。
変態かつ変態な変態さんは大興奮!
カズマのゲスッぷりに喜んでいます。

久しぶりに次回予告のあれを……。

騎士とは常に清く正しくあらねばならない。
例えば、目の前で少女が襲われているのなら身を呈して守らなければならない。そう、我が身を盾に……。
そして、捕らえられた私はあんなことやこんなことを…………ふひっ。

では…………いってくりゅ!!!


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ただ叫ぶだけの物語

叫びます。とにかく叫びます。
ダクネスの変態っぷりは原作を越えます、はい。ドン引きさせるどころか恐怖を植え付けます。
あと、ゆんゆんもちょっと大胆になってます。


例の変態とネロの一騎討ちが行われる事になった。

だが、勝敗が見えている戦いだ。ネロは魔王軍幹部と互角以上に戦える実力を持つ。対するダクネスは駆け出しのクルセイダー。ネロが敗ける可能性など微塵も無いのだ。

 

「とはいえ、相手はあの変態だもんな……。変に感化されなきゃいいけど」

「ぬ?どうかしたか、カズマよ?」

「いんや。ネロは今日も超絶可愛いなって思っただけだよ」

「うむ!そうであったか。ならば、余を甘やかすがよい!」

「おう、よしよし……」

「ぬふふ、くすぐったいのだ……」

 

ネロは大丈夫そうだ。いつも通り、簡単に乗せられてくれるし、手懐けやすい。こうして、頭を撫でてやるとすこぶる気分が良くなるそうだ。

 

「……カズマさん、何してるんですか?」

「ん?ああ、今日もネロが可愛―――って、どうして俺を射殺す様な目で見るんだよ?」

「どうして……?それはこっちの台詞ですよ。例の件を無視して二人の決闘に着いてくるだなんて…………早くくださいよ?」

「…………そんなに欲しいのか?」

 

ゆんゆんの目が怖い。

据わってるというよりは飢えている感じだ。う~ん、どうしてこの子はこうなってしまったのだろうか?

言いたいことは分かる。欲しいのは俺の服だろう。

だが、何故早まる?

 

「カズマさん……意地悪しないで早く下さいよ?わたし、もう……限界なんです」

「え?えっと……?何が?」

「私が週4でアレしてることはご存知ですよね!?…………もう、もう駄目なんです。我慢の限界なんです。目の前に美味しそうなご馳走をちらつかされて勿体ぶられることがどんなにつらいか……分かりますよね?」

 

いや、分からん。

まず、俺の服を馳走と申すかこの子は。ナニしてるとはジャンヌから聞いていたが、ついに俺本人にねだりに来たか……。

 

「カズマさん…………カズマさん、カズマさんカズマさんカズマさんカズマさん!!!」

「ちょ、待って!ストップ!!お座り!!!」

「…………………………………………………………………………待ちましたよ?」

「あ、うん。そだな」

 

どうしよう?ゆんゆんがやんやんになった。

軽くホラーだな、これ。年端のいかない少女に迫られるのは悪くないが、これだと普通に怖い。

断ったら何されるんだろうな?

 

「カズマ?ゆんゆんはどうしてカズマの服を欲しがっているのだ?」

「ん?ネロは知らない方がいいと思う」

「むっ!?何故だ!申してみよ!!」

「いや、だってなぁ……」

「お洗濯するんですよ。カズマさんは放っておくと溜めますから」

「そうなのか?……むぅ、そうならそうと言えば良いものを」

 

それっぽく言って誤魔化したか。

最近のゆんゆんは遠慮が無いからな……。出会った当初はもじもじしてたのに、最近じゃナニするから物寄越せとまでねだってくる始末。

 

「まさかゆんゆんが痴女だったとは……」

「カズマさんだって大概じゃないですか?ジャンヌさんから色々聞いて知ってるんですよ?」

「え?…………例えば?」

「………………か、カズマさんのおっきな聖剣を私の…………その、あの…………あそこに入れる、とか?」

「なんと!やはりおなごに聖剣が収まるというのか!?どうすれば出来るのだ!!?」

「あ、違います……!ネロさんは知らなくていいですから!」

ふむ、流石はネロだ。この子がいればゆんゆんは思うように素が出せない。まさにネロ様々だな。

 

「さてと、そろそろいくか?」

「うむ、そうするとしよう」

 

これから向かうのは変態の待つ場所、草原エリアだ。

どうしてそこを選んだかと聞かれれば特にこれと言った理由はない。強いて言えば、ネロの戦う所を野次馬無しで見たいと思った。凄腕剣士の戦い方を見ておきたい。

これはきっと、『憑依』スキルにおいて役に立つだろう。

 

「ところで、勝った場合は何を要求するつもり何ですか?」

「ん?…………ああ、特に考えてないな」

 

勝者が敗けた方に一つ要求するみたいな賭けなのだが、相手はまぁ……あっち系をご所望らしいが、こちらには特には無いのだ。

 

(その時点で賭けとして不成立だと思うんだが……)

「…………カズマさん?」

「ああ…………あれだ、適当にパシる」

「…………エッチな事を命令するつもりですね?」

「いやいやいや!!!どうしてそうなる!!?」

「見ていたらわかります!カズマさんのダクネスさんを見る目は嫌らしいです!!不潔なんです!!!」

「はぁ!!?嘘つけ!お前な、俺の事が好きだからって嫉妬し過ぎたろ!!?」

「っ……!!!?あ、ええと……あの……その、うう……………………ごめんなさい」

「え?お、おう…………すまん。熱くなりすぎた」

「お主たちは本当に仲が良いな。本当は付き合っておるのではないのか?」

 

ゆんゆんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。二人でこういう雰囲気になると辛いものがあるが、ネロがいるとどうにか場の空気を取り持つことができる。たまにネロ本人が茶化しに来るが、彼女は純粋ゆえに安心できる。何処ぞの聖女みたくズバズバ言ってこないあたり、マジ天使。N・M・T(ネロマジ天使)だ。

 

「しかしカズマよ?……その、エッチな事はやめぬか?」

「しないって!どんだけ信用ないんだよ……」

「そうとは言ってはおらぬ!ただ……カズマがそういう事をするのを見たくもないし聞きたくもないのだ。…………我が儘かの?」

「いや。そんな事はないと思うぞ。俺だってゆんゆんやネロとそういう関係になりたいとか言い出すやつがいたらぶっ殺すもん、やっちゃうよ?」

「カズマさん…………それは素直に喜んでいいんですか?」

「おう、誇りに思ってくれていいぞ」

「は、はぁ…………?」

 

どうにも腑に落ちないゆんゆんだが、俺としては割りとガチで言っているつもりだ。

その後、ほどなくして約束の場所へと向かった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ようやく来たか」

 

草原エリアへ行くと、既に興奮状態のダクネスが剣を地に突き刺して待っていた。

もうこの時点で帰りたいと思ってしまう俺だが…………仕方無いので応答してやる。

 

「お、おう…………来てしまった」

「しまったとはなんだ、まるで来たくなかった、という風に聞こえるが?」

 

そうですが、なにか?

 

「……まぁいい。そちらの方は準備は出来ているのか?」

「うむ!余は既に準備万端だ。何時でもかかってくるがいい」

「ほう?余裕綽々という感じだな?…………余程腕に自信があるとみた」

「ふむ、謙遜するでない。お主とて―――」

「そして私はこんないたい気な少女に一方的に痛め付けられ、鎧を徐々に徐々に剥いでいき、裸よりも扇情的なイヤらしい姿に剥かれるのだな…………んんっ!!!はぁ……はぁ……更には余りの力の差に蔑みの目で見られ、『この豚め!』とか『どうした雌豚が!』などと罵られるのだな…………!」

「……………………何を言っているのだ?」

「はぁ…………!!!最後には賭けに敗けた私は、あの鬼畜のカズマにあれよこれよと卑猥な命令を浴びせられ、心身ともにエロい目に合わされ犯されていくのだな…………!?」

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………余はどうすれば?」

 

余りのダクネスの変態ぶりに、あのネロでさえ反応に困っている。そりゃそうだ、誰だって困るわ。こっちは戦いの前の問答みたく話してるのに、あいつは自らの変態癖を一方的に暴露してくるんだ。話しづらいし、どんな顔をして何を答えたらいいのかまるで分からん。

まるで意味が分からんぞ!

 

「えっと…………とにかく始めようぜ?」

「うむ、そうだな。早いに越した事は―――」

「ああっ!?動けなくなるまで痛め付けられた私は歯向かう事が出来ず、されるがままに卑猥な事をされて辱しめられた上に―――」

「うるせええぇぇぇぇぇ!!!いいから始めろ変態ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

「な、なんという罵倒…………!!?」

 

くそったれが!なんて変態っぷりだ、話が全く前に進まんぞ!!?ネロもゆんゆんも余りの言動のおかしさに返す言葉もなく絶句してるんだが!?

その後も何度か怒鳴り付けて急かしてみたものの、喜ばせるだけで何の進展も無かった。

 

「はぁ……はぁ……どうした?もう終わりか?」

「………………あの、まじで早く始めません?俺が悪かったですから、お願いですから、普通に始めてくれません?もう疲れましたし、帰りたいです。……………………お願い」

「ふっ、いいだろう!だが、私はクルセイダーである以前にエリス様に使える信徒だ。この様な年の端のいかない少女に刃を向けることはできん」

「はっ?今さらなにいってんだよ。まさか、お前最初から勝つ気が無かったのか?」

「勘違いしてもらっては困る。要は私ではなく、その者に敗けを認めさせればいい」

「ど、どうやって…………?」

 

俺は、自分で質問しておきながら薄々気づいていた。

こいつがまたろくでもない事を考えていることに。

 

「簡単だ。とにかくその者から攻撃を受け続ければいい。いくら攻撃をしても倒れぬ敵、そう思わせて戦意を挫く。これが私の勝利への道だ」

「いや、待て待て。それだとお前の方が圧倒的に不利―――」

「構わん!!!いいから早くご褒美―――ではなく、攻撃をしてこい!!!!」

「そっちが狙いか、この変態がああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

なんなんだよこいつ!!?

考える事がとにかくおかしい!なに、攻められたい?ご褒美?正真正銘のドM女か!?

ダクネスは、剣を抜き構えた。だが、対するネロは動揺しまくり。目が軽く泳いでいる。なんかこう…………『え?この人大丈夫?』とか『え?なんか怖い……』とか思ってそう。

というか、一周回って普通に怖く思えてくる。

 

「で、では行くぞ…………?」

「さぁこい!かかってこい!!好きなだけ打ち込むがいい!!!」

「え、えっと…………そ、そりゃ!」

 

あからさまに分かるぐらい手加減を加えてネロが剣を振り下ろす。それでも雑魚モンスターを一掃出きるだけの威力はあるのだが、ダクネスは剣で軽々と受け止めた。

 

「効かん!どうした、この程度か!?もっとビシバシ打ってこい!!この私を屈服させてみろ!!!?」

「な、なんと強靭な精神……!よもやここまでとは…………ではこれでどうだ!?」

 

今度はさっきよりも段違いの威力だった。恐らくは御剣の振るう一撃よりも威力があったと思う。振り下ろされる剣からは途方もない量の魔力が込められ、ダクネスが受け止めると地に亀裂が走り、風がざわめき大気が震えた。

 

「くっ……!?なんと重い一撃、だがこれしき!!」

「な、なんと…………!?これも効かぬか。お主、言動によらず大した実力の持ち主だな」

「はぁ……はぁ…………気持ちいい、ふひっ。もっとこい!いや、もっと強いのを頼む!!!」

 

遂にお願いしてきやがった。

確かにネロの言うとおり、頑丈だし多少は強いのだろう。だが、前情報でクリスからダクネスが攻撃の当たらない奴だと知っている。クルセイダーとは見かけだけのただの変態だ。

これ以下はあってもこれ以上はない。

 

「お主、何故頑なに攻撃を受けだがる!?」

「知れたこと!ご褒美だからだ!!!」

「な、何を言っておるのだ…………!?」

「駄目だネロ!その変態の言う事に耳を貸すな!!」

「変態…………!!?ああ、なんという罵倒。もっと、もっとだ!もっとしゅごいのをぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「逃げろネロおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「く、来るでない!!!お主、こっちに来るでないぞぉ!!?」

「待つのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ネロもようやくダクネスの異常性に気づいたのか敵前逃亡を始めた。

いや、でも仕方ないと思う。むしろこれでいい。ネロには穢れを知らないままでいてほしいからな。間違ってこの変態に毒されたら大変なことだ。俺は容赦なくこの変態に仕返しを…………って、それすらご褒美の内か。嫌になるな、ホント。

 

「はぁ、はぁ……!どうした!?打ってこないのか!!?もっと強いのは打てんのか!!?」

「う、打てない事は無いが…………おぬしが死んでしまうぞ!?」

「構わん!!!ご褒――ではなく、勝負というのなら甘んじて受けよう!!!」

「か、カズマ!こやつ、何処かおかしいぞ!!?」

「大丈夫だネロ!何処かと言わず全ておかしいから!!とりあえず逃げるんだ!!!」

「ふひっ!にがしゅものかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

いやいやいや!何で受ける側が追いかけてきてんだよ!?おかしいだろ、むしろ攻撃くるまで永遠にまちぼうけてろよ!!?

つか、ネロもネロで逃げろとは言ったけど何でこっち向かってきてんの!?頼むから変態引き連れたままは勘弁してくれ!!?

 

「カズマさん、こっち来てますよ……!?」

「あ、ああ…………よし、ゆんゆん。やれ」

「えっ!?何をですか!!?」

「何でもいいからとりあえず攻撃魔法だ!あの変態からネロを救うんだよ!!」

「わ、わかりました……!」

 

この際勝負とか賭けとかは無視だ。無垢であるネロをこれ以上変態で汚されてなるものか!鬼畜と呼ばれようが変態と呼ばれようがどうでもいい、俺は全力でこの変態を止める!!!

 

「ゆんゆん、行け!」

『ファイアボール!』

「あ、あちゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅゅいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

火球がダクネスに直撃するが、喜びの奇声をあげながらもう突進を続ける。

 

「これならどうだ!」

『バインド!!』

「あんっ……!?」

 

予め用意しておいたロープを投げ、バインドで縛り効果を加える。見事にクリーンヒットしたのだが…………ジタバタしながら喜んでやがる。

 

「はぁ…………これで、止まったか?」

「うぅ……怖かったぞ、カズマ」

「よしよし、もう安心だ――」

「だがきかーーーーん!!!」

「「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」

 

こいつ!!?馬鹿力で振り切りやがった!!!なんて奴だ、ただ硬い奴かと思ってたが、力も有りやがるとは!!?

 

「さぁ、もっともっと強めにくるがいい!!!」

「ゆんゆんー!!!ヘルプーー!!!!」

『カ、カースドライトニング!!!』

「んきゅうぅぅぅぅぅぅんんん!!!?しゅ、しゅごいのだああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「にげろおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

このクルセイダーはどうしてか硬い。とにかく硬い。後日談にはなるが、元々魔法に強い加護持ちだったらしい。しかし、こいつの堅さは加護だけじゃない。むしろ加護だけでは説明が付かない。理由は簡単だ、こいつが常軌を逸した変態だからだ!いまだかつてここまでの変態には出会ったことがない、いや普通に会いたくなかった!!

 

「頼むからくるなよおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「断る!勝負はまだついていない!!早く攻撃を喰らわせるがいい!!!さっきの炎魔法か!?それとも稲妻で私の肉体を焼くのか!?どっちだ!?早くこい!!!」

「カズマさん!矛先が私に向いてますけど!!?」

「すまんゆんゆん!オレたちに構わず逃げるんだ!!!」

「それだと確実に私の方に寄ってきません!!!?嫌です、私もカズマさんと逃げます!!!」

「よせゆんゆん!お前一人の犠牲で俺達は救われるんだ!!それにボッチは慣れっこだろ!!?ゆんゆんは一人でも頑張れる強い子だろ!!!?」

「好きでぼっちだった訳じゃありませんし、そういう言い方は止めてくださいよ!!?私だってまだまだ子供ですからカズマさんみたいな素敵でイケメンな男性がいないと駄目なんです!!!」

「お前、俺がおだてられれば何でもやる奴だと思うなよ!!!?俺は男女平等を願う者として、戦略的にゆんゆんを餌として使わせてもらうからな!!!? 」

「ふひっ!楽しくなってきたぞおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

「うるせええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!こっちはちっとも楽しくねぇぞおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

もう無茶苦茶だった。

俺はネロの手を引いて全速力で逃げる。しかし、囮にしたゆんゆんが俺達を追ってくるから必然的にあの変態も追ってくる。

………………もうやだ。

 

「カズマさん!カズマさぁぁぁん!?お願いですから助けてください!!!」

「すまんゆんゆんお前はもう無理だ助からないだからここは非常な決断かもしれないが苦難の末にお前を捨てることにした諦めて変態に付き合ってくれ!!!」

「そんなあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

「ふふふ、またしても私はいたい気な少女に痛め付けられるのか…………!?たまらん!こい!!どんとこい!!!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!お願いですから許してください!!!!カズマさんならもっとはげしい攻めを知ってますからぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「あっ!!?おまっ、俺を売るなよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!?」

「なんと!?ならば予定変更!!カズマ、貴様だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

1時間後…………

 

「はぁ……はぁ…………もう、やだ。やめてください、お願いします」

「なんのこれしきっ!どうした!まだやれるだろう!?」

 

この変態はいまだに健在、ピンピンしていた。俺とゆんゆんは既に疲労困憊状態。ネロは辛うじて逃がした。

 

「ゆんゆん…………動けるか?」

「…………すいません、無理みたいです」

「…………だよな」

「カズマ、私はまだお前からご褒美を受けていないぞ!?」

 

もう隠語すら使わないんだな…………こいつ。

俺とゆんゆんが地にべったりと伏しているのに相変わらず要求してくる。地味に片手に剣を持ってるから怖いんだが、特に目が。

 

「ダクネスさん、どうしてそこまで虐められたがるんですか?」

「嬉しいからだ!」

「は、はぁ…………?」

「諦めろ、こいつの理性は俺達じゃ量れない……」

「ジャンヌさんを呼んでくるべきでしたね……」

 

うん、そうだな。そうするべきだった。あのドSなら相性抜群だから解決してたかもしれない。初めから純情なネロで来ることが間違いだった。

 

「あの、俺達もう動けないんです勘弁してもらえませんか?」

「ならば、私の勝利ということだな?」

「もう、なんでもいいです……」

「ふひっ…………!」

 

ダクネス氏歓喜の表情なう。

もう嫌な予感しかしませんっ!!!

 

「ならば特上のご褒美プレイを要求しよう!!!」

「「えっ?」」

「今日のようにいたい気な少女に痛め付けられるのも悪くないが、やはり見下すような目で見られながら蔑まれ、辱しめられ、痛め付けられるのがいい!むしろ推奨だ!!激しく望む!!!だから、カズマよ!!!?」

「…………はい?」

「明日は1日私にご褒美プレイをしてくれ、公衆の面前で」

 

俺の中で、何かが壊れた音がした。

 

「…………カズマさん?聞こえてます?」

「ハハハ、ア~シタゴウウニナ~レ☆!」

「カズマさん!!?」

 

カズマは壊れた。

返事はあるが屍の様だ。

「カズマさん!?聞こえてますか!!?カズマさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!?」

「はは…………ははは、ははははは!!!もう、いいや。終わった。終わった!!!」

 

魔法の呪文

『モウ、ドウニデモナ~レ☆!』

これを使えば大抵の事はどうでもよくなるぞ!

※精神が崩壊した方に限ります

 

翌日、俺は制約に従い…………公衆の面前でダクネスを痛め付けた。

正しくは痛め付けさせられた、だ。

もうなんというか…………皆の僕を見る目が冷たいです、はい。警察は来るわ、ギルドの運営陣も来るわ大変でした。

どうにか刑務所の方で説明は聞いてもらえたので、俺にも弁明の余地ありと見なされ解放された。

事の事情を知らない連中には説明して回った。それでも、女性冒険者から蔑みの目で見られることに変わりはなかった。

……………………俺は悪くないのに。

 

あれから、俺はダクネスを見ると逃げるようになった。体が、脳が、本能が命じるのだ。逃げろと。

そして、俺は今日もほそぼそとギルドのテーブル席の片隅でシュワシュワを飲んでいた。

 

「………………はぁ、世界滅びねぇかな?いっそ消えねぇかな?人理焼却術式発動しねぇかな…………」

「何を怖いことを言っているんですか…………?」

「…………ぐすっ」

「よしよし、カズマさん。私がいるから大丈夫ですよ?」

「ううっ……カズマ、オウチカエル」

「…………あの、私達がいない間にその男に何があったのですか?」

 

俺とゆんゆんのやり取りに不安を覚えたのか、今まで全然、いや全く役に立ってくれなかっためぐみんが聞いてきた。

 

「…………変態にトラウマを植え付けられた」

「すいません、全くわかりません」

「めぐみん、カズマさんは心に傷を負ったの。聞かないであげて」

「しかし、いつまでもそんなウジウジされては困ります!私は早く冒険に出たいのですから……」

「はぁ…………そんな日々があったっけか?」

「どうしたんですか!!?いつものカズマみたく、私やゆんゆんにセクハラ発言や行為をしてみたらどうですか!らしくないですよ!?」

「セクハラ?…………なにそれ、美味しいの?」

「…………本当に大丈夫ですか?」

「…………カズマさん」

 

はぁ…………懐かしきかな冒険者ライフ。

いまの俺にある新しい記憶は、変態には迫られる記憶と、変態のせいで変態扱いされた記憶、果ては変態のせいで犯罪者にまで仕立てあげられそうになった記憶事だけ…………。世界とは無情なり、悲しきかな俺の冒険者ライフ。

 

もうやめて、カズマさんのライフは0よ…………。

 

「ねぇ、カズマ?あんた大丈夫?生きてんの?死んでんの?」

「…………………………は?」

「『は?』じゃないわよ。ちゃんと生きてるのか聞いてるのよ」

 

目の前にはいるのは懐かしのジャンヌ…………。

 

「あんた、目が死んでるわよ。ついに変態にジョブチェンジしたって聞いたけど、鬱にでもなったの?」

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………ジャンヌ、君に決めた」

「は?いきなり何言って――」

「おおーーーい!ダクネスぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!今日からお前へのご褒美はジャンヌが担当することになったから!!!!」

「はぁ!!?何をいきなり訳のわからない事を――」

「逃げるぞゆんゆん、めぐみん!!!」

「はい!」

「はい?え?あの、説明を――」

「いいから逃げるの!!!」

「はいっ!!!」

 

俺は無我夢中で走り抜けた。

 

「ちょっとカズマ!!!あんた、どうして逃げんのよ!!?せっかく人が心配して声かけてあげたのに――って、あんた誰よ?」

「ふひっ!今日のご褒美ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

「なっ!!?ちょ、何よこの巨乳美人!?何で私に向かって突撃して来るのよ!!?ちょ、やめなさい!あっちに行きなさいよ!!く、来るな~!!!」

「はぁん…………!!!今日はいったいどんなしゅごいプレイをしてもらえるのだ!!!?」

「き、きもっ…………!?カズマ、ちょっとカズマ!隠れてないで助けなさいよ!!え?ちょ……あんた、そんな逝った目で近寄らないでよ…………何よ、何する気よ!!?」

「さらばジャンヌ、お前の事は忘れない…………ぐすっ」

「カズマぁぁぁぁぁぁ!ちょっとカズマぁぁぁぁぁぁぁ!!カズマぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ふひっ!にがしゅものかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

その後、美しい二人の女性が如何わしい行為を公衆でしていたと通報があったらしい。

 

 

 




ララティーナお嬢様はいつだってぶれない。
変態の変態による変態の為のご褒美…………それだけが彼女の望み。
ダクネス、恐ろしい子…………!

では、恒例のあれ

うむ、日本のローマ帝国民よ、元気にしておったか?

余は元気である。最近は全く知らない未開の地に召喚されたが滞りなくやっておる。
最近出来た仲間に聞いた話だが、どうも聖剣がおなごの体に収まるというのだ。知人に聞いてみたが誰も言葉を濁して話してくれぬ。…………誰か教えてくれるものはおらぬものかの?
…………ぬ?何?カズマなら出来ると?でかしたダストとやら!今から頼んでくるぞ!!!


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全て尊き百合百合郷

相変わらずカズマは苦難の連続。
今回はちょっとアレなお話…………です。




最近、周囲からの反応が冷たい気がする。

これに気づいたのはここ最近の事だ。別に思い当たるふしがない訳じゃない、ただそうかもしれない程度に思っていた。

しかし、件の問題…………例の変態との騒動以来それが明るみにで出した。

例えば…………。

 

「このクエストを受けたいんですけど…………」

「はぁい、ではこちらの――っ!!?は、ははははい!!!書類はこちらで処理しておきますのでどうぞクエストへ行って下さい!!!」

「…………はい」

 

受付嬢の反応が酷い。俺の顔を見るやひきつった顔で接待しやがる。しかも早く行けと言わんばかりに急かす。

他にも…………。

 

「あぁ……疲れた。……っと、すまん。ぶつかっ――」

「っ!!?いえお構い無く!!!…………ヤバいわ、早く消毒しないと妊娠しちゃう!!?」

「…………」

 

ちょっと肩がぶつかっただけでこの反応ですわ。

酷い時には目があっただけで『妊娠させられちゃう!?』とか言い出す奴も………。

 

「…………俺が何したって言うんだ?」

「元気を出してください。こうして私達のような美人が隣にいるではないですか?」

「ありがとう、俺は幸せだよ…………死にたい」

「どっちなんですか!!?」

 

情緒不安定になってきた。

ダストやキース、男連中とは以前よりも更に仲が良くなったが代わりに大事なナニかを失った気がする。

 

「そうねぇ、カズマは女難の相でもあるんじゃないの?」

「つまりお前らがそういうことになるんだが、いいのか?」

「冗談よ。こんな超有能美人パ作っておいてそれはないわね」

 

自分美人ですって言っちゃうか…………。まぁ、否定はしないけどな。俺がこんな風評被害を受けてるのに見捨てないで構ってくれるんだ、本当にいい仲間に恵まれたんだろう…………。

その結果がこれなんですが、なにか?

 

「それより――」

「それより!!?お前、俺が真剣に悩んでるのにそれよりって言っちゃうか!?言ってしまうのか!!?」

「面倒くさいわね。あんたが変態なのは今更でしょうに。それより、最近めぐみんとゆんゆんが妙に仲が良いのはどうしてなの?出会った当初はあんなにも反発してたのに」

「なんだよそれ、初耳だぞ?ついに百合に目覚めたか?」

「ついにとはなんですか!?まるでその兆しがあったかのように――」

「「あったけど?」」

「ぐっ…………!?」

 

なんとなくジャンヌに乗せられて言っちゃったけど、どうもめぐみんにも少しは自覚はあったらしい。キッパリ言ってやると、何かを思い出したかのように顔を真っ赤にし始めた。

 

「そ、そもそもジャンヌが宴会で酔った勢いで私達に王様ゲームでキスさせたからでしょう!?何を他人事のように言っているんですか!!?」

「え?お前、そんな事させてたのか?」

「えっと…………どうだったかしら?シュワシュワを口移しさせて酔わせた事は覚えてるんだけど…………」

「ひでぇな…………」

 

俺の知らない間にジャンヌはとんでもない要求を仲間たちにしていたようだ。たまに、ゆんゆんとめぐみんが朝から青い顔をしていた事があったが…………なるほどそういうことか。

 

「で?最近百合に目覚めたのはどういう了見だ?」

「目覚めてませんよ!!!…………そうではなくて、ゆんゆんと一緒にカズマの悪評を直そうとしていたのですよ」

「ううっ!!?…………すまない、本当にすまない」

 

ああ…………目から滝のように塩水が!

なんて健気な……なんと嬉しいことか!こんな幼い少女に心配をかけて、フォローまでされていたとは!?

…………涙で前が見えません。

 

「…………で、結果は?」

「…………あの、あくまで一例なのですが」

「…………え?」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「カズマさんの悪口は止めてください!」

 

ゆんゆんが知り合いの女冒険者達に突っ掛かった。それもそのはず、人通りの多い場所で悪評を触れ回っていたのだ。それも、ゆんゆんの好きなカズマの事なら引くはずもない。

 

「え?だって…………ねぇ?」

「何がですか!?カズマさんは優しい人です!何を根拠にそんな事言うんですか!!?」

「…………聞いた話なんだけど。ある女クルセイダーを縛って吊し上げただけに飽きたらず…………こ、肛門の辺りに延延とフリーズをかけ続けてたらしいわよ?」

「そっ……………………………れで?」

「他にも、盗賊の女の子を全裸にひんむいて目の前で下着を嗅いだとか…………」

「………………………………」

「最近じゃあとある店の美人店主を押し倒して気絶させて、その隙に孕ませたとか…………」

「やめてええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!私の中のカズマさん像が崩れちゃううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

 

幾つか合ってはいるものの誤解があるものや、全くの嘘情報があったのですが…………中にはやりかねないと思うものがあったので、ゆんゆんもそれ以上は強く言えませんでした。

なので、ここからは私の番です。

 

「おい、そんな根も葉もない噂でカズマを罵るのはやめてもらおうか」

「め、めぐみん…………!?」

「カズマはそんな事はしません。あの男は人を悲しませる事だけはしないはずで―――」

「いいのよ、強がらなくても。私達はわかってるから」

「お、おい!?何を訳のわからない事を―――」

「これ、あげるわ。あの男に脅されてるんでしょ?いいの、私達は分かってるから。だがら、屈したら駄目よ?」

 

そう言って、女冒険者達は去っていきました。

私の手のひらに避妊具を残して。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「………………完全に性犯罪者じゃねぇかよ」

「カズマ、あまり落ち込まないでくださいね?私達は信じてますから」

「………………そ、そうね!ええ、信じてるから」

「……おい、いま間があったけど…………お前」

「そんなわけないでしょ!?このパーティで一番付き合いが長いのよ?理解してないわけないでしょ?」

 

なんだろう、心の奥底を抉られた感覚がする。

以前はゆんゆんの慰め会とかやってたけど、今となっては逆だ。俺が慰められる側に回っている。

それもこれも…………この世界が悪い。

くそ、あのアマ…………不条理な世界に転生させやがって。

 

「で、二人のその後の進展は?」

「まだ言いますか!?」

「あぁ、それ、俺も聞きたい。最近はゆんゆんがたまに怖い時があるから困ってるんだ。出来ればそっち系に目覚めてくれると助かる」

「嫌ですよ!同性で愛し合うなど…………おえっ、気持ち悪いです」

「そうか?結構絵になると思うけどな?」

「カズマ、たまには私と意見が合うじゃない?」

 

どうやらジャンヌもらしい。

はたから見れば本当に仲が良い、むしろ良すぎだ。抱き合ってても疑問にも思わない。いっそその光景を見てみたい。

 

「ねぇ、カズマ。ゆんゆんに頼んでみなさいよ」

「あぁ…………いけるかもな」

「止めてください!!!さもないと、ゆんゆんの前で『一発やっちゃいました』って公言しますよ!!?」

「おい馬鹿やめろ!冗談でもそれは危険過ぎる!!つか、お前は女なんだからそういう卑猥な事は言うなよ!!?」

「はい!!?男女平等がどうとか言ってたではありませんか!!?私が言ったら不味いのですか!!!」

「少なくとも俺が死ぬからやめてくれ!!!」

 

たぶん、とんでもないことになると思う。

クリアマインドの境地を越えてオーバートップクリアマインドまで行く。闇の先の闇、ダークネスの世界に突っ込んで正真正銘のヤンデレに進化する。

 

「では、百合に仕立てあげるのはやめてもらおうか?」

「うう~ん…………うう~~~ん!………………悩むな」

「何をそこまで悩んでいるのですか!?」

「いや、だってたまには癒しが欲しいじゃん?」

「…………ほ、本当にそれで癒されるのですか?」

「ああ!!!」

「うっ……!?まさか断言するとは思いませんでした。…………いいでしょう、今回だけですよ!」

 

まさかのOKサイン貰いました。

めぐみんもたまには良いことするじゃないか、うん?完全に言っちゃった感があるし、顔真っ赤だけど知らん。…………見たいもんは見たいもん!

 

「カズマ。言っとくけど、ネロは来させたら駄目よ?」

「当たり前だろ?あいつ、百合に関しては五月蝿いからな。たぶん暴走するだろう」

 

仕込みは上々。後はゆんゆんを向かい入れるだけだ。

ここでは不味いので、とりあえず俺の宿に集まることにした。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「えっと…………それで、私は何をすればいいんですか?」

「いつもみたく気持ちよく逝ってくれればいいのよ、めぐみんと一緒に」

「嫌ですよ!!?」

 

ほどなくして集まった俺達だが、当然ゆんゆんからは反感を買った。

 

「ねぇ、どうしたのめぐみん!?めぐみんはそういう事を言われたら嫌がる子だったわよね!!?」

「…………カズマが、私の恥ずかしい所を見たいと言うものでして」

「おいちょっと待てええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!確かに頼んだけど!?違うから、ちょっと意味合いが違うから!!!」

「カズマさん?…………説明、してもらえますか?」

「…………はい」

 

10分後…………

 

「………………そう、ですか」

「あれ?怒らないんだな?」

 

予想では掴みかかって来るだろうと思っていたが…………?以外にも頬を染めてキョロキョロし始めた。

 

「め、めぐみん?…………めぐみんはこういうの初めて?」

「当たり前でしょう」

「そ、そうよね!?うん、だったら私がリードしてあげなきゃ…………ね?」

「「うっわぁ……」」

「えっ!?どうしてそんな反応なの!!?」

 

いやいや…………普通怒るか嫌がるかだろうに。当たり前のごとくリードとか言い出すのはちょっと…………。

 

「あの、物凄く身の危険を感じるのですが?」

「カズマ、以外とゆんゆんはやり手のようよ?」

「うむ…………なんだがAV動画の監督やってる気分だ。ゆんゆん、エロいのは無しで。限界はキスまでな」

「あ、あれ!?…………そんなので満足出来るんですか?」

「「「…………」」」

 

うん、なんだろう?ゆんゆんと俺達三人の間に見解の相違が見られるようだ。

俺達はただ仲良く百合っぽいのが見たい。

ゆんゆんは…………R18指定のエロい事をしたい、逝かせたい、逝きたい、感じさせたいのだろう。

確かにそういうの興奮するけどさ、流石に14歳にそれをさせたら駄目だと思う。

 

「カズマさんはどうなんですか?」

「ごめん、俺が悪かった。だからその質問は止めよう、な?」

「ゆんゆん、あなた一体私にナニをする気だったのですか…………?」

「ええっ!!?ち、違うの?てっきりカズマさんは私達が…………その、エッチな事をしているのを見たいのかと…………」

「最低ね」

「おい!!?唐突に裏切るなよ!!?」

 

いやまぁ……期待しないでもないけどさ。

というか、ナチュラルに始めようとしてるけど、何で誰も止めないんだ?冗談だろ?どっきり程度のもんかと思ってたんだが…………何で二人は寝間着に着替えてるんだ?

………………………………え?

本当にヤるの?

 

「なぁ、やっぱり止めにしないか?正直気まずい――」

「なにいってんのよ!!?こっからが面白いんでしょうが!!!」

「お前、楽しみたいだけだろ!?」

「行くわよ、めぐみん…………」

「あっ…………優しくしてくださいね?」

「お前ら早まるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

何だか分からんが本当に始めやがった…………。

まず、ゆんゆんがめぐみんを押し倒した。すると、めぐみんは両手の指を絡め合わせ顔を近づけた。

 

(お、おいおい……!?マジでやるのか!!?)

「…………めぐみん、行くよ?」

「は、はい…………」

「いいわ、そこでディープキスよ…………!」

「お前、マジで止めろよ。なんか如何わしく見えてきたぞ」

「当たり前でしょ?はっきり言ってAVよ、これ」

「だったら止めろよおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

どいつもこいつも何かおかしい。

俺がジャンヌの悪ふざけに乗ったのもいけないが、そのまま突っ走るこいつらもどうかと思う。

少しは疑問を持てよ。何納得してんの?本当にそういう趣味があるのか…………?

とりあえず、見てられないので止めた。

 

「はい、ストップ!お前ら、マジでするなよ」

「え?ダメなんですか……?」

 

俺が制止すると、ゆんゆんは既に軽く舌を出していた。しかもそこから糸のように垂れる唾液がエロいのなんの…………って、いかんいかん!理性を保て佐藤和馬17歳!!ここで俺が手を出したら大変なことになるぞ!!!

 

「…………あれだ、俺の悪ふざけだから。だから、な?その辺で…………」

「カズマ…………股の辺りがむずむずします。…………私は一体どうしたら……?」

「…………ごくり」

 

エロい。マジでエロいぞこの二人!!?

え?なに、なんなのこの空気?ヤルキMAX百合モードなんだけど?あの二人見つめあってるけど…………?

 

「カズマ、いまいいところ何だから口挟まないで」

「お前な…………これがどういう状況なのか分かってんのか?」

「幼女同士がセ○クスしてるだけじゃない?」

「だけ!!?割りと深刻な問題だろ!!!?」

 

俺がおかしいのか?

どうなんだこれは?目の前には抱き合う直前の少女二人、そしてそれを見る俺とジャンヌ…………。

原因が俺にあるだけに言いづらいんだが……………………………………やめね?

どう見たっておかしいだろ、この状況。

めぐみんは俺とジャンヌが説得してしまった。これは俺が悪いな、うん。しかし、ゆんゆんは?あいつに限って言えば俺は悪くない。たぶん、俺の為に一肌脱ごうって気だろう。いや、それで本当に脱いだら困るが。

 

「めぐみん…………」

「ゆんゆん、だらしのない顔になってますよ」

「めぐみんだって…………欲しがってるくせに」

「ひゃっ……!!?」

 

ゆんゆんがめぐみんの首周りを舐め始めた。

いかんいかん、止めねば。

 

「ちょい待て。俺の要望通りにしたいってなら俺の言うことを聞くべきだろ?」

「あんたの要望なんて、どうせ二人がヤってる所を見たいだけでしょ?」

「お前!?いい加減俺を変態扱いするのはやめろ!!!誰もそんな事頼んでねぇよ!あのさ、さっきのはほんの悪ふざけだったんだよ?だから止めようぜ?普通に考えてこの状況はおかしいだろ?」

「かじゅまさん…………わたひ、なんだかおかしくなって…………あんっ!」

「ここですか?ここが弱いのですか?うりうり、逝ってもいいんですよ?」

「しゅ、しゅごいのおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「頼むからやめろおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

いつの間にか立場が逆転しためぐみんがゆんゆんの胸を揉みながら股の間をさすっていた。

ヤバいんだけど、これ。俺見ててもいいの?絶対に不味いだろ。

 

「おい、ジャンヌ!お前が余計なことを言うからゆんゆん達がおかしくなってんだろうが!!?」

「えぇ?いいじゃない。絵になるってあんたも言ってたじゃない?」

「俺が想定していたのはもっと清楚系な奴だ!誰がガチモンの百合見せろって言った!?お前らも乗せられてんじゃねぇ!!?」

「…………酷いです」

「………………え?」

「私はカズマさんが喜ぶと思って…………!」

 

ゑ?

俺が?百合で?…………まぁ否定はしない。

 

「恥ずかしいけど、めぐみんとエッチな事を二人の前でしているのに!!?」

「うん、だからやめようぜ?」

「もういっそやらせてくださいよ!!終いにはカズマさんが襲ってくださいよ!!!」

「……………………………………………………………………………………え?警察に言わない?犯罪者にならないなら…………いいのか?」

「言い訳あるか!!?あんた、流石に男のあんたが襲ったら不味いわよ。私が主犯になっちゃうじゃない。やめて、私も牢屋に入れられるから」

「はっ!?そ、そうだ…………俺は何を血迷った事をしようと…………!?」

 

いかん、あまりのエロスに自我を失うところだった。

ジャンヌに理性を取り戻されなかったら危なかった、ふぅ。

 

「ゆ、ゆんゆん…………お前は冷静じゃないんだ。落ち着こう、とりあえず、な?」

「私は冷静です!!!さぁ、めぐみん!あなたのおま○こに私の指を入れるわよ!!!」

「おい待てえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!お前、本当にどうしたんだああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

「や、優しくしてくださいね…………?」

「お前もかっ!!?何でお前らその気になってんの!?何がお前らを駆り立てるんだ!!?お前ら、男の俺の手前で恥ずかしくないのか!!!?」

「っ!!!?…………はぁ、そうでした。ゆんゆん、やはりやめましょう?」

「えっ?何を言ってるのよ?ここから楽しくなるんじゃない?」

「か、カズマぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

「ほら言っただろうが!!?ゆんゆんにこの手の事をやらせ過ぎたらとんでもない事になるに決まってんだろ!!!」

 

俺は、無理やりめぐみんを引き離した。

だが、ゆんゆんはそれを許さなかった。めぐみんは救出出来たものの、その拍子に俺に覆い被さってきた。そして、そのまま押し倒され、馬乗りされた。

 

「うふふ、逃がしませんよ?」

「いやいや、冗談きついって。ほら、ジャンヌも見てるぞ?」

「あ、用事思い出したから出掛けてくるわ」

「おい待て!頼むから助けてくれよ!?」

「ふふ、カズマさんったら…………照れてるんですね?」

「いや、軽く引いてる…………」

「…………あの、後に引けないんで乗ってくれません?」

「え?やだ。犯罪者になりたくないもん」

「…………わかりましたよ、もうっ」

 

ようやく解放された。

ゆんゆんは自分の仕出かした事に自覚があるのか、軽く拗ねた感じでそっぽを向いてしまった。

俺はと言うと、とりあえず距離を取った。

 

「なぁ、俺が悪かったから機嫌直してくれよ」

「…………別に怒ってません」

「いやいや、あからさまに怒ってるじゃないか?」

「通報しますよ?」

「………………はぁ、分かったよ。とりあえず、着替えてくれ。んで、晩飯でも食べに行こうぜ?」

「…………むっ、カズマさん上手く誤魔化しましたね」

「いやいや、誤魔化せてないわよ」

「「え?」」

 

声の方を向くと、にやけた表情のジャンヌが立っていた。

 

「…………何でだよ?」

「だってほら、カズマはゆんゆんをおかずに、ゆんゆんはカズマをおかずに。…………むしろ上手く言ってない?」

「お前…………本人目の前にそういうことをいっちゃう?」

「ふっ…………言ってやったわ」

 

なにこの人?何を誇らしげにしてんだよ…………?全然誇らしくないから、むしろ駄目だから。

 

「もう知らん。おい、めぐみん。行こうぜ」

「いいでしょう。今日は蛙肉以外の肉料理が食べたいです」

「俺の財布の中身見てから言ってみろよ」

「…………寂しいものですね」

「おう、軽いから持ち運びやすいぜ?」

「そ、そうですね…………」

 

とりあえず、俺は晩飯を食べるという口実で場の空気を変えた。

さっきまでのエロチックな雰囲気は消え、いつもの愉快なムードに戻っていた。

だが、それもつかの間。何故か町中に鐘の音が響き始めた。

 

「な、なんだ!?」

「何よ騒がしいわね!近所迷惑って分からないの!!?」

「あ、あはは…………ジャンヌさん、ぶれませんね」

「しかし、一体なんなのでしょう…………?」

 

そして、警報の後に受付嬢が話始めた。

 

『緊急!緊急!!冒険者の皆様は直ちに武装し、正門前に集まって下さい!!!』

 

と、真剣味を帯びた声でそういい放った。

 

 

 




次回はシリアス成分多目になるかも?



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VS魔王軍幹部デュラハン

今回の話は前半と後半に分けます。
相も変わらずデュラハンさんは最強やで!
実際のところ、『そんなんチートや、チーターや!!』なデュラハンは幹部の中でもどれくらい強いのかよくわかりません。


警報の後、俺達はネロと合流し正門へと向かった。

 

「なんだこれ………?」

 

そこに居たのは、アクセルの町に住む冒険者達。そして、それと向かい合うアンデットの大軍だった。

 

「来たか、カズマ」

「御剣。これは一体なんだ?」

「デュラハンだよ。彼が大軍を率いて攻めてきたのさ」

「げっ!?…………マジで?」

「ああ」

 

千里眼スキルで遠くを見ると、馬に乗ったデュラハンが見えた。それも、以前戦った時と比べ物にならないくらいの禍々しいオーラを身に纏って。

見る限りでは数は数百……いや数千か?とにかく戦力差は明白。駆け出しレベルで手に負えるとは思えない。そんな最悪な状況だった。

 

「カズマ、こうなったらもう総力戦だ。やるしかない」

「そりゃそうだけど…………誰が指揮を執るんだよ?」

「君がやるんだ」

「ひょ?」

「…………頼む。僕が知る限り、この町に君以上に機転が利く人はいない。だからどうか、君が僕達を指揮して欲しい」

「…………」

 

以外とこのイケメンからの評価が高かった事に素直に驚いた。

俺何かしたっけ?まるで記憶にないんだが、誉められるのは悪くないので素直に受け取っておこう。

いやしかし、それでこんな土壇場に指揮を任されるのはちょっと…………なぁ?

同意を求める意味で後ろにいる仲間に聞いてみた。

 

「…………どう思う?」

「いんじゃない?あんたなら問題ないと思うわ」

「私もジャンヌさんと同じです」

「私もです」

「うむ。そなたが余達を導くがよい」

「みんな…………」

 

あぁ…………マジかー。

感動的な場面なんだろうけど、俺の内心分かってる?

いま超絶帰りたい。帰っておねんねしたい。一人くらい反対していいのよ?てか、してくれ。こんなの任されても迷惑なんですががががが。

 

「佐藤さん、どうか…………どうかお願いします。この町を救って下さい!」

「…………」

 

今度は受付嬢が頭を下げてお願いしてきた。

このアマ…………例の噂で散々俺の心を抉ったくせに、こんなときだけ調子良くないですかね?俺、なんでも屋じゃないんだけど?なんでもかんでも俺に厄介事押し付けないでくれません?

 

「けど…………俺なんかでいいのかな?」

「いいじゃねぇか」

「…………機織り職人のおっさん?」

 

渋い声で割って入ってきたおじさん。

 

「お前にしか出来ない。なら…………そうだろ?」

 

この人、なにいってんの?そもそも冒険者ですらないくせに、なんでこんな危険な所まで出っ張ってるんだよ。

 

「古い言い伝えだったかもしれん。…………地獄の入り口に光が射す。それは、お前さんの事かも知れないな?」

 

違いますぅ。買い被りです、それ。

確かに冒険者って地獄の入り口かもしれない。だって稼ぎは少ないし、稼げるのは実力のある奴だけ。当たり前だけど新人教育とか無いし、お手軽な簡単クエストとか無いしほんとせちがらい。

ホントやめて。元の世界じゃ地獄の入り口所か部屋の入り口から出ることすらままならなかった俺に言うなよ。

 

「…………お前さんにしか出来ねぇってんなら、やるしかねぇだろ?」

「俺に…………しか」

「カズマさん、お願いします。私達を導いて下さい」

「…………ゆんゆん」

 

あっ、何か今の台詞は胸に響いたわ。

やっぱりむさ苦しいおっさんより、可愛い女の子から上目遣いで頼まれる方が断然いい。やる気になるかも…………しれない。

 

「…………しょうがねぇな。やってやるよ!」

「カズマさん…………!」

「ふっ、魅せてもらおうじゃねぇか」

 

なんか上手く乗せられた感があるが、とりあえず冒険者達の先陣に立ち、指示を伝える。

 

「お前ら!相手は魔王軍幹部、それと取り巻きだ!!駆け出し冒険者で真っ向勝負は辛いだろうから、四人一組程度のパーティを作れ、絶対に一人で戦うな!!!」

 

俺が指揮すると、以外にも皆動揺せず従ってくれた。なんだよ、こんな非常事態なら素直に聞いてくれるのか。あんだけ軽蔑してきた女連中も有無も言わず動いてくれている。

 

「よし…………出来たな。作戦は至ってシンプルだ。お前達はアンデットの相手を頼む、その隙に俺とジャンヌ、ネロがデュラハンを叩く!それまでの時間稼ぎを頼む!!」

「おう!任せとけ!!」

「へっ!美味しいところはもっていけ!!後ろは任せろ!!!」

「頼んだぜ、カズマ!」

「…………みんな、頼んだぜ」

 

ああ、これが俺の思い描いていた冒険者ライフなのかも。今まさに、俺は勇者の役割を担っている訳だ。

…………やっぱ、嫌だ。怖い、アニメや漫画で見るだけで十分だわ。

しかし、今更後に引けない。

 

「と言うわけだ。御剣、お前はアンデットの中で強そうなのがいたら率先して叩け。出来るだろ?」

「もちろん。君こそ、相手はあのデュラハンだよ?大丈夫なのか?」

「…………へっ、見くびんなよ。俺の護衛は最強なんだぞ」

「他力本願なのか…………」

 

いや、別にいいだろ。俺は前に闘って負けたじゃん?でも、ネロはアイツよりも強そうだし、ジャンヌだって同じ英霊だ。頼らない方が嘘だ。

 

「…………ゆんゆん、絶対に無理するなよ?」

「はい。カズマさんこそ、絶対に生きて戻って来て下さいね」

「当たり前だろ。こんな頼もしい仲間がいるんだ、死んでたまるかよ」

「カズマにしてはえらく正直じゃない?」

「うむ。存分に頼るがよい。余は全霊を持って応えよう」

「頼んだぜ、みんな!」

 

そして、俺達は走り出した。

先ずは冒険者達に手前のアンデット達を掃いてもらう。

 

『ファイアボール』

『ライトニング』

 

後衛からの援護射撃。それと盾持ちや近接型が白兵戦を挑む。その隙に俺達は親玉の元へと切り進む。

 

「ふっ!はぁ!どくがよい!!何人たりとも余の疾走を妨げることは許さん!!!」

「ちょっと、鬱陶しいわね。もう少し数減らせないのかしら?」

「後ろの冒険者達も精一杯なんだ、我慢しろ。ていうか、お前からして見ればこんなの雑魚だろ?」

 

流石は英霊というべきだろう。群がってくるアンデット共を難なく退けている。彼女達が一太刀振るうだけで吹き飛び、断ち切られ、道が開かれていく。

俺は潜伏スキルを使いつつ、二人の後ろをついて回る。たまに打ち損じた奴がいれば倒す程度だ。

 

「カズマさんの邪魔はさせません!」

「ゆんゆん…………!」

 

後ろからアンデットの悲鳴となんか凄い音が聞こえる。見なくても分かるが、ゆんゆんのスキル『ライトオブセイバー』だ。ビームサーベルみたいにブゥンと音を鳴らしながら鞭のようにしならせ敵を一掃していた。

いつもより張り切っているのだろう、心なしかライトオブセイバーが大きく見える。

 

「凄いわね、あの子」

「うむ。キャスターとてあのような攻撃魔法は中々使えんだろうな」

「そうなのか?やっぱりゆんゆんは凄いな」

「後で抱き締めてあげなさいな。それぐらいのご褒美があの子にあってもいいんじゃない?」

「恥ずかしいし、それ死亡フラグだから。後、俺にはご褒美はないのかよ?」

「踏んであげる。喜びなさい」

「いらんわ!!!」

 

俺達が作戦を開始して10分が経過した頃、敵に動きが見られた。

以前みたくアンデットは盾と片手剣で戦うものかと思っていたが、中には槍で投擲を行う奴まで現れた。

 

「うわっ!?危なっ…………!」

「カズマ、余が全て弾き落とす。後ろに隠れておるのだぞ!」

「頼むぜネロ!」

「全く鬱陶しいったらありゃしないわね……!」

 

とりあえず俺達に問題はない。むしろ、問題なのは前衛と中衛だ。この大軍に槍の投擲だ。しかもアンデットだから味方に当たることなんて気にせず投げてくる。

 

「ぐわぁ!!」

「痛てぇ!!!」

「くそ……!被弾してる、早くなんとかしないと!!」

「カズマ!振り返るな!!君は大将を討ち取るんだ!!!」

「御剣…………!?」

「僕の仲間を傷つける奴は許さない!はあぁぁぁぁぁ!!!」

 

魔剣が光を放ち、敵を一掃した。

だが、そこを狙い打つように雨のように槍が降り注ぐ。

 

「くっ!はぁ!ぐっ……!?」

「御剣、無理するな!一旦下がれ!!」

「僕に構うな!!!」

「っ…………!!?」

「…………行くんだ。奴を、倒すんだ」

「…………馬鹿野郎、かっこつけやがって!」

 

俺は再び前へ向き走り出した。

その刹那に見えた御剣が血に染まる姿を、必死に振り払った。その光景を思い出すだけで、足が止まってしまいそうになるから。

 

「カズマ、頼んだよ…………」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

後衛

 

『インフェルノ!』

 

炎の渦が舞い上がり、アンデットの群れへと襲いくる。そして、その身を焼き焦がし、蒸発させた。

 

「はぁ……はぁ……まだたくさんいるの……?」

「ゆんゆんさん、上級魔法を連発し過ぎです。少し休まれては…………?」

「い、いえ……!このくらい平気です。それに、カズマさんが一番危険なところで頑張っているのに、こんなところで私が休んでなんかいられません!!」

「ゆんゆんさん…………!」

 

再び上級魔法を発動させる。

だが、無理が体にきたのか威力は先程より弱まっていた。

 

「はぁ…………はぁ…………ま、まだまだ!」

「…………カズマさんの事、本当にお好きなんですね」

「はい!!?あ、あああああああのお姉さん!!!?こんな時にいきなり何を言ってるんですか!!?」

「ふふ、いえ。ゆんゆんさんが頑張るのはきっとその為なんだなと思いまして」

「うぅ~…………」

「すみません。急に変なことを言ってしまって」

「い、いえ…………」

「ですが、頑張りすぎるのもいいですけど、もっと他の人に頼ってもいいんですよ?」

「え?」

 

受付嬢の言葉の意味が分からなかった。

彼女の指す方を見ると、いかにも初心者なパーティがアンデットの群れと対峙していた。

 

「は、早く助けなきゃ…………!」

「待ってください」

「ど、とうしてですか!?早くしないと……!」

「よく見てください。彼等も、ゆんゆんさんのように自分に出来る精一杯をしようと頑張っているんです」

「…………え?」

 

見るからにボロボロで、いつやられてもおかしくない状態だった。それなのに、助ける必要は無いと言う。

やはり、言葉の意味が分からないでいた。

 

「きっとカズマがデュラハンを倒してくれる!」

「ああ!それまでの辛抱だ!!絶対に持ちこたえるぞ!!!」

「こんな奴等に、負けてたまるかよ!」

「ええ!それに、あんなに小さな女の子が頑張ってるのに、私達大人がへばってられる訳ないわ!!」

 

明らかに満身創痍な状態なのに、彼等は諦めず戦っていた。

 

「本当に危険だと思ったときは助けてあげてください。ですが、それまでは手を出さないで、あなたはあなたの役割を担って下さい」

「役割…………?」

「はい。総指揮はカズマさんですが、ここを担っているのはゆんゆんさんなんですよ?」

「えっ!?わ、私が!!?」

「後ろにゆんゆんさんがいる、こんなにも強い人が支えてくれる、それだけでいいんです。それだけで戦う人からすれば頼もしいんですよ?佐藤さんだって、そう思ってゆんゆんさんに後衛を託したに決まってます」

「そう、だったんですか…………」

「だがら、一人で抱え込まないで皆で戦いましょう!」

「…………はい!」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

前衛

 

「お、おいおい…………数多過ぎだろ!?」

 

あれから俺達はだいぶ進軍した…………はずだ。

正門は既に遠く、人なんて形がうっすらとしか見えない。なのに、アンデットの大軍はまだ山のようにいた。

 

「ぶさけてるわね…………!」

「うむ。よもやこれほどいようとは…………」

 

ここまで魔力消費を最小限に抑えてきたおかげでまだ魔法は全然使える。だが、先に体力の方が尽きそうな勢いだ。

相手はアンデット、死を恐れず絶え間なく突っ込んでくる。しかも、それらを操っているデュラハンはいまだ遠くで高みの見物ときた。

はっきり言ってきつい。

 

「カズマ、このままだと押しきられるわよ…………」

「やっぱり数が多いか…………」

 

相変わらずテキパキとアンデットを倒しているジャンヌだが、その表情からは余裕が消えていた。同じくネロも疲れが見え始めていた。

 

(…………くそっ、ここで使うわけにもいかないし。でも、ジャンヌ達はどんどん消耗していく)

 

あちらが立てばこちらが立たないといった状況だ。ここを切り抜けたとして、続く第2第3の集団をどう捌くか?これが問題なのだ。

 

「くそっ、とりあえず俺も憑依で――」

「ならん!マスターであるお主が倒れれば余達は全力で戦えぬ、魔力供給がままならなければ現界することすら叶わんのだぞ」

「えっ!?で、でも俺が倒れた後ネロはデュラハンと戦っていただろ?」

「あれは余の残存魔力で戦っていただけに過ぎぬ。あそこで奴が本気を出していれば負けていたのは余の方だった」

「…………マジかよ」

 

とにかくまずい。

今ここで俺が魔力切れを起こしたり、殺されでもすれば二人は全力で戦えなくなるという。それだけはあってはならない。

辺りを見渡す。相変わらず俺達が先陣を突っ走り、それに続く形で少数精鋭のパーティが幾つか後ろにいる。しかし、数が違いすぎる。一体一体は大したことは無いが、それが群れをなして一人をリンチすればひとたまりもない。

 

「…………はぁ」

「ジャンヌ?どうした?」

「私が道を開くわ。その隙にあんた達だけでも進みなさい」

「は!?お前…………何言って、何をする気だよ!?」

「大声で叫ばないで。別にたいした事はしないわよ」

「…………なら何をする気だよ?」

「最大火力で宝具を解放する」

「宝具…………それでいけるのか?」

「一直線に道は作れるでしょう」

「…………その後は?」

「さぁ?…………ま、私が後続を引き留めてあげるわよ」

「お前一人でか?…………死ぬ気か?」

「はっ。馬鹿言わないで、死ぬ気なんて一ミリも無いわよ」

「…………絶対に死ぬなよ」

「…………了解よ、マスター」

 

俺は、ネロの手を掴み『潜伏』スキルを発動させ、ジャンヌから離れた。

 

「…………ったく、社畜の気分になるわね」

 

旗を地に突き立て、魔力を込めた。

アンデットの群れは、それを察知しジャンヌへと狙いを定めた。

 

「あぁ…………シュワシュワ飲みたい」

 

一体のアンデットが槍を構え、ジャンヌへと狙いを定めた。

 

「…………あ、でも金が無かったわ。帰っても飲めないじゃない。テンション下がるわー…………」

 

そして、距離を詰めたアンデットが剣を構えた。

 

「…………決めた。この戦いで貰える賞金で飲み明かす。そんで、今日の鬱憤をカズマとゆんゆんで晴らさせてもらうわ。だがら―――」

 

剣がジャンヌへと振り下ろされる――瞬間。

 

「あんた達には盛大に散ってもらうわ」

 

ジャンヌ・ダルク(オルタ)の宝具が発動した。

 

『吼え立てよ、我が憤怒』(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)

 

数多の黒剣が顕現し、炎と共に降り注ぎ、地からも突き抜く。炎は亡者を焼き、地を焼き、一直線に進む火炎となってアンデットを消滅させた。

 

「消えなさい、亡者共。私の怒りに触れた罪は重いわよ?…………ぐっ!?」

 

宝具を使い、体が悲鳴をあげていた。

 

「ったく…………宝具一回の為に結構魔力込めちゃったじゃない。どうすんのよ、後にも控えてるってのに…………って、あいつらはもう行ったわよね。聞こえてるわけないか」

 

辺り一面は焼け野はら。

そして、そこを埋め尽くすさんばかりのアンデット達が群がってくる。

 

「ははは…………もう、ふざけんじゃないわよ。働いたんだから有休くらい寄越しなさいっての」

 

それでも彼女は退かずに立ち塞がる。

残存魔力は少なく、体力も段々と削られ、立っていることすら億劫だった。

 

「…………さてと、もうひと踏ん張りしてやろうかしらね」

 

そして彼女は再びアンデットの群れへと飛び込んだ。

その姿はさながらサービス残業よろしく社畜ちゃん…………ではなく、一人の英霊のそれだった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ネロ、先手必勝だ。潜伏スキルを掛けてデュラハンに奇襲をかけるぞ!」

「うむ。本来ならそのような手は好かないのだが、今はそのような事を言ってる場合ではない。その一刀で仕留めよう」

 

ジャンヌが切り開いた道を突き進んでいた。

火を放った事で煙が立ち、幸いと視界が悪く視認しづらい。だが、カズマには敵感知スキルがある。それが奇襲を容易にした。

 

「はぁ!」

「ぬっ!?させはせん!」

 

完全に隙をついたはずの一撃はあえなく大剣で弾かれた。

 

「ほう、この俺のところまで辿り着くとは…………流石だ。だが、不意打ちとは些か騎士として疑問に思うがな」

「余の剣には大勢の民の命が懸かっている。その方に合わせる気はない。次で終わらせてもらうぞ?」

「ふん。強がりを…………分かっているのだろう?今の俺に小細工など通用せん事は」

 

馬から降り、剣を構えるデュラハン。そして、大魔力を放ち、大気を震わせる。

 

(なんて魔力だ…………ピリピリきやがる)

「カズマ、打ち合わせ通りにゆくぞ」

「ああ」

「ほう?そこの小僧も戦うのか。では…………お手並み拝見といこうか?」

 

その言葉を合図にネロが切り込む。

一歩遅れてカズマが『潜伏』を発動させ、後ろに回る。

対するデュラハンは動かず、ただネロだけを捉えていた。

 

「覚悟」

「甘い!」

「っ…………!?」

 

ネロが剣を振り上げる前にデュラハンは剣を振り降ろした。だが、明らかに当てる目的に撃った一撃ではなかった。ネロの剣の間合いが一太刀分のところで剣を振り、一瞬の間を作った。

 

「止まって見えるぞ!」

「な、なにを…………!」

 

そして、剣ではなく体術で攻めてきた。剣を一瞬だけ手放したと思うと回し蹴りを入れた。

 

「ぐっ……!?」

「ほう、剣で受け止めるか。だが――」

 

更に再び剣を取り横凪ぎの一撃を放つ。

 

「軽い!軽すぎるぞ!!」

「くはっ…………!」

 

剣で受けるが、それはいとも容易くネロを吹き飛ばした。

 

(嘘だろ!?前は本気じゃなかったてのか!!?…………くそ、でもそんな事言ってる場合じゃない!)

『クリエイトアース』

「ぬ…………?貴様、何を――」

『バインド!』

「ぐぅ!?ぬかった…………!」

 

上半身を縛り、剣を封じた。

 

「よし!いまだ、ネロ!!」

「うむ!この一撃で終わらせる!!」

「甘い!」

 

だが、デュラハンは肉体の力だけでそれを振り切った。

 

(あれを一瞬でほどくか!?だが、今なら―――)

 

剣で防ぐ間を与えず距離を詰める。

そして、内に秘めた魔力を解放する。

 

童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)

 

「なんだ…………!?辺りの景色が―――」

「刮目するがいい。そこは余の世界!余の独壇場!!余の一撃、くらうがいい!!!」

「させん!この程度で―――」

 

 

美しき演舞場が顕現し、ネロの剣に炎が宿る。

ネロから放たれる殺気を直に感じ、すぐさま剣を構えた。

だが―――

 

「そら、何処を見ておる?…………余は既にお主を斬ったぞ?」

「なっ―――」

 

刹那、デュラハンの鎧に亀裂が走る。

そして、大炎舞が起こった。爆発と共に、炎の渦がデュラハンを襲い、身を切り、焦がした。

 

「ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

「ふっ、余の独壇場だったな!…………だったな!!」

 

締めのどや顔を決め、演舞場が消え去った。

だが、今もなおデュラハンは身を焼かれていた。

 

「や、やったのか…………?」

「ふむ、以外にも硬い男よの。余の一撃をくらって尚、 生きておるとは…………こやつ、本当に強いな」

「はぁ……はぁ…………」

「だけど、もう満身創痍だろ?早くとどめを――」

「させんわ!!!」

「なっ―――」

 

デュラハンが叫ぶと同時に魔力を爆発的に放ち、炎を散らす。そして、瞬間的に肉体を強化し、剣を取る。

 

(まずい…………!)

 

その一瞬をネロは見逃さず、剣を構えた。

 

「俺を舐めるな!!!」

「しまっ―――」

 

デュラハンが狙ったのはネロ、ではなくカズマだった。その事を本人は理解することすら叶わず、一瞬だが命を諦めた。

だが、ネロは―――

 

「………………え?何が起こって…………」

「…………カズマ、無事…………か?」

「ああ……無事―――ネロ!!!?」

 

デュラハンの狙いを悟り、身を犠牲にカズマを庇った。

 

「ほう、その男を庇ったか」

 

デュラハンが剣を引くと同時に赤い鮮血が溢れだし、その場に崩れた。

 

「あ、ああ…………どう、して。どうして俺を庇って…………」

「…………言ったであろう?そなたが…………いな、ければ…………余は…………」

「でも!!!それでも…………だからって…………!?」

「安心しろ、貴様もすぐに同じになる」

「「っ!!?」」

 

無情にもデュラハンは猶予を与える事なく剣を振り下ろした。もはやそれに抗う術はなく、今度こそカズマは終わりだと思った。

 

(くそっ!こんなところで俺は…………!)

「カズマ、逃げ―――」

「遅い!!!」

 

魔力を込めた一撃は確実にカズマを捉えた…………はずだった。

 

「…………なんだと?」

「……………………え?」

 

だが、それがカズマに触れることは無かった。

 

「ふぅ、どうにか間に合ったな…………!」

「貴様…………何者だ!!?」

「お前…………どうして!?」

「質問の多い奴等だ。…………ふっ、だかこうして質問責めに合うのも悪くない、ああ悪くない。…………ふひっ」

 

デュラハンの一刀は剣で受け止められていた。

 

「こいつ…………!?」

 

いまの発言に若干寒気を感じたデュラハン。ひとまず距離を取り、体勢を整える。

 

「カズマ、大丈夫か?…………それと、その少女も…………」

「――はっ、ネロ!おい、大丈夫か!?いますぐプリーストのところに連れて行ってやるからな!!」

「案ずるでない。余は…………カズマの中に還るだけ。魔力を回復し傷が癒えれば…………大丈夫だ」

「本当か!?…………は、ははは。本当に良かった」

 

そういい終えると、ネロは光の粒子となって消えていった。

 

「…………さて、私の仲間を傷つけたお前には叱るべき酬いを受けてもらおう」

「ほう…………きさま、名は?」

「ダクネスだ。…………黄泉の手向けに覚えて逝くがいい」

「ふっ、貴様一人増えたところで―――」

「一人ではありませんよ」

「お、お前ら…………!?」

 

声のする方を向くと、そこにはめぐみんとクリスがいた。

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の天才にして、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操りし者!!」

「あっはは…………私も名乗りをあげた方がいいのかな?」

「お前ら…………ったく、遅いんだよ!」

「すみません、カズマ。例の物を準備するのに手間取ってしまいました。ですが、真打ちである私達が来たからにはもう安心です」

「はは…………ヒヤヒヤさせやがって。そうだな、まるで実家のような安心感だ」

 

屈した足を奮い立たせ、立ち上がる。

そして、デュラハンと再び向かい合う。

 

「貴様ら駆け出し風情、最弱共が群がろうと俺の敵ではない!!!」

「そうか…………んじゃ、あえてこう言わせてもらおうか?」

 

腰に据えた短剣、そしてダガーを抜き、構える。

デュラハンを睨み付け、剣を向けいい放つ。

 

「俺達の最弱を持って、お前の最強を打ち負かす!!!」

 

そして再び、戦いの火蓋が切っておとされた。

 

 

 




次回はめぐみんが活躍する!…………予定。

そして、原作無視のまさかのクリスが魔王軍幹部と戦います。
たしか、女神は統治するその世界に深く関わってはいけない設定があったよな……無かったような。
よくわかりません。

とりあえず、次回もシリアス多目で続きます、まる


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昨日の敵は今日も敵

すいません、前半と後編に分けると言いつつまだ続きます。


剣と剣がぶつかり合う。火花を散らし、削り合う。片方は大剣を握りしめ、連続で斬りかかる死霊騎士デュラハン。もう片方は駆け出しクルセイダー、ダクネス。

剣技ではデュラハンが圧倒的だった。しかし、ダクネスは持ち前の頑丈さを活かし耐えていた。

 

「ほぅ?この俺の攻撃をここまで受けて尚倒れぬか」

「くっ、なんて一撃だ……!全身に衝撃が伝ってくる」

「ふっ、耐えるだけで―――」

「だがそれがいい!!!」

「………………ふぁ?」

 

相変わらずダクネスはぶれない。

先程俺を助けたイケメンっぷりは何処へ行ったのやらと、半分アヘ顔みたくなってる。こんな修羅場なのに戦いを―――ではなく、受ける事を楽しんでいる。

 

(相変わらずだな…………ホント、敵にはしたくない)

 

 

だが、味方になれば意外と頼もしい事が分かった。

なにせ、本当にぶれない。いくら攻撃されても倒れないのだ。デュラハンもまさか攻撃される事を喜んでいるとは思っていないだろう。

 

「き、貴様…………一体何を言っている?」

「どうした!!?魔王軍幹部の攻撃はこの程度か!!!」

「な、なにおぅ…………!?」

 

うん、たぶん会話が成立してない。

 

「行くぞクリス。ダクネスが惹き付けてくれている今がチャンスだ」

「了解。久々の連携プレイだね。まさか鈍ってないよね?」

「当然」

 

俺とクリスは『潜伏』スキルを発動させ、デュラハンへと忍び寄る。流石は俺の盗賊師匠だ、冒険者の俺とはスキルの切れが違う。なんというか存在感が無い。景色から色が抜け落ちた様な、まるで透明に溶け込むナニかだ。

 

「攻撃開始」

「あいよ」

 

さて、作戦開始だ。

まずは、既にやっている通りダクネスが正面切ってデュラハンとぶつかり合う。必要なら『デコイ』というクルセイダー特有の惹き付けスキルを使う。これには相当のリスクを伴う。何故なら他のアンデットまで呼び寄せる危険性があるからだ。今のところ、ジャンヌが焼け野はらにしたおかげでその気配はないのだが…………。

そして、第2段階。俺とクリスによる強襲だ。

 

「ぬっ!?貴様ら、一体何処から―――」

『『アサシネイト!』』

「かはっ…………!」

 

二人の渾身の一撃がデュラハンを抉った。盗賊、というより暗殺よりの攻撃スキルだ。刃に魔力を込め切り刻む。

 

「小癪な…………!またしてもその様な小技で俺を出し抜こうという気か!?」

「カズマ、次はあれでいくよ」

「プランTだな」

 

そして、その隙にダクネスが『デコイ』を発動させる。これが、俺とクリス、ダクネスの即興連携技だ。ダクネスが壁になっている間に俺とクリスは気配を断ち、攻撃を仕掛ける。ヒット&アウェイ戦法だ。

更に、ここからクリスによる独壇場が始まる。

 

「何がプランTだ!ただの陰湿な嫌がらせではないか!?」

「ふん、何を勘違いしている?」

「なんだと?」

「それは先程までの戦法だ。あまり私の仲間を見くびるなよ」

 

そう言うと、ダクネスは一旦下がった。そして、俺も気付かれないようにダクネスとめぐみんの元へと行く。

 

「よし、作戦通りだ。頼むぞめぐみん」

「ふっ、大船に乗ったつもりでいるといいでしょう!」

「めぐみん、なるべく早く頼むぞ」

 

めぐみんは呪文詠唱を始めた。

ダクネスはめぐみんの前に立ち、敵からの万が一の攻撃に備える。俺は敵感知で周囲を探る。

そして、その間クリスは―――

 

「…………貴様一人か?」

「まぁね。君の相手は私一人で十分ってこと…………みたいだね」

「ふざけたことを!俺を舐めるのも大概にしろ!!」

 

デュラハンは堪忍袋の緒が切れた様にクリスへと切りかかった。だが、クリスは慌てる事なくそっとスキルを唱えた。

 

『疾風迅雷』

 

全身から魔力を放出した。それだけなら驚くほどの変化でも無いのだが、クリスのそれは尋常ならざる奥義なのだ。

 

「なっ!?消えた…………?」

「こっちだよ」

「何っ――」

 

次の瞬間、目にも止まらない斬撃がデュラハンを襲った。その攻撃は鎧を裂き、空を切り、肉を断った。

 

(な、何が起こって…………!?)

 

言葉にする事すら間に合わない。クリスの加えた一撃と思える攻撃は、そこから無数の斬撃を生んだ。あらゆる方向から力を加えられ、それに伴う肉体の衝撃が逃げきらない内に次の攻撃を加える。それが延々と続いた。

 

「かはっ!くふっ!?がはぁ…………!!?」

「…………しぶといね、キミ」

「…………くっ、貴様一体何者だ?」

 

並の人間なら数度切り裂かれ肉片になっていてもおかしくないのだが…………デュラハンは少し苦痛に顔を歪める程度で立ち上がった。

 

「ははは、傷つくね…………結構本気だったんだけど?」

「安心しろ、効いているぞ。後一万回加えれば死ぬかもしれないぞ?」

「…………はぁ、じゃあ次でおしまいね」

 

今度は全魔力を開放した。それは、デュラハンから見れば大した量ではない。何しろ、ゆんゆんの3分の1にも満たないのだ。だが、クリスにとっては全開。全力全開、本気モードだ。

 

「…………空気が変わったな」

「そう?…………やっぱりキミはやりづらいな」

「奇遇だな。俺もそう思っていた………………次で終わらせる」

「あはは、それはお断りさせてもらうね」

「そうか、だが―――」

 

デュラハンの言葉が紡がれる前にクリスは飛んだ。

 

(またか、またしても見失った…………)

 

デュラハンには幾分の余裕があった。何故なら先程までの攻撃は何一つ致命傷に至るほどの威力は無かったからだ。

しかし、クリスの放った殺気がそれを変えた。

 

(なんだ?急に寒気が―――)

『真・アサシネイト』

「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

閃光の一撃がデュラハンの左腕を断ち切った。

 

「くそがっ!」

「わっ!?あぶなっ…………!」

 

沈めたと思ったが、流石は幹部というべきか激痛に怯むことなくクリスに反撃の一撃を放った。

 

「あぁ…………これでも駄目か」

「はぁ……はぁ……当然だ。この程度で屈する俺ではない!」

「そっか、それじゃああの子に任せよっかな」

「何?貴様、何を言っている…………?」

 

クリスは再び『潜伏』を発動させ、目の前から消えた。

 

(馬鹿な。目の前にいたのに見失うなど…………)

「ふっ、次は私の番ですね!」

「…………ほぅ?」

 

クリスが消えた後、後ろにいためぐみんとダクネスが姿を現した。

 

「紅魔の者か。ふん、噂通り目立ちたがりの頭のおかしい種族のようだな。俺の実力は痛いほど知っているだろうに」

「ええ、知っていますとも」

「ならば―――」

「ですが…………」

 

デュラハンの問いに、めぐみんは目の色を変えた。まさに意味通りに紅く光り、感情が高ぶる。

 

「あなたは私の仲間を傷つけ過ぎました」

「戦いとはそういうものだ。余程生半可な人生を送ってきたらしいな」

「…………そうですか。なら、そう思ったまま逝ってください」

 

めぐみんは既に詠唱を終えている。直ぐに杖をデュラハンへと向け、スキルを唱える。

 

『エクスプロージョン!!!』

 

爆裂魔法が炸裂した。

念のために距離は取っていたが、それでも強い振動が空気と地面を伝ってくる。デュラハンを中心とした範囲に撃ち込んだが、それを察知したのか咄嗟に範囲から逃れようと僅かだか後退していた。しかし、あくまでそれはほんの僅か。逃げれるはずもない。

 

 

「ふっ…………決まりました」

「よし、とりあえず作戦通りだな」

「まだ安心するには早い。私の強敵センサーが反応している」

 

なんだそれ?こいつ、何処かに触手でも生えてんのか?

 

「ぐっ……!駆け出しにしてはやるが、それが限界だろう」

 

案の定、デュラハンは立ち上がった。

だが、先程までと違い、禍々しい障気が消えていた。鎧もボロボロで心なしか構えも崩れ気味だ。もしかしたら結構ガタが来ているのかもしれない。

俺は、これを好機と判断し、追撃を試みた。

 

「くらえデュラハン!ネロの仇だ!!」

「甘いわ!この程度かわすまでも―――」

「…………と言うと思ったぜ」

 

真正面から突っ込んできた俺に何の躊躇もなく剣を向けるデュラハン。だが、それこそが俺の狙い。

 

「はっ!くらうかよ!!」

「貴様…………!?」

「手土産だ、もらっとけ!」

 

そのまま突っ込むと思わせ、急に方向転換する。当然奴の間合いに入る何て事は滅多にするもんじゃないし、する気もない。ギリギリの距離で交わしつつ、スキルを唱えた。

 

『クリエイトウォーター!』

「なっ!?き、貴様!まさか…………!?」

 

俺が使ったのはあくまで初級の水を生成する魔法だ。たが、デュラハンはそれを大袈裟に避けた。

 

(やっぱりか………!)

 

ゲームや漫画でよくある話だが、アンデットは水に弱い。あくまで予想だったのだが、今の反応で確信に変わった。

 

「くらいやがれっ!」

「や、やめろ!こんな初級魔法を乱発しよってからに!?なんの嫌がらせだ!!?」

 

俺は問答無用で撃ち続けた。初級だけあって消費魔力も軽量で済む。いま現在レベルが20後半もある俺からすれば余裕だ。まだまだ撃てる。

しかし、デュラハンも馬鹿ではない。流石に何十発も撃つと避けるだけではなく、距離を詰め始めてきた。

 

(やっば……!もし近距離戦になったらまずい!!)

「い、いい加減あっちらこっちら撃つのはやめろ!!!さもないと斬るぞ!?」

 

なんかデュラハンの仮面がとれてきている気がする…………。先程までの余裕も何処へやらと、口調もなんかおかしい。付け加えて言うと、『クリエイトウォーター』をかわす格好がキモい。まるでピエロみたくウネウネ動く。しかも腕に顔を抱えたままで。はっきり言ってホラーだ。

 

「あ、ちょっ……や、やめんか!?」

「うるせぇ!こちとら怒り心頭なんだよ!!お前こそふざけてんじゃねぇ!!!」

「好きでやってないわい!お前が連発するからだろうが!!?」

「…………あの、何を遊んでいるのですか?」

「遊んでねぇよ!…………くそ、あいつ本当に素早いな」

「では、例の作戦といきましょうか?」

 

懐に隠していた袋を出すと、高質のマナタイトを取り出した。そう、これこそが秘策だ。めぐみんは爆裂魔法を撃つと魔力切れで倒れる。ならば、その魔力を何度も補充し何度もぶちかます。相手が倒れるまでやめない。ずっとめぐみんのターンだ。

 

「ふふふ、日に何度も爆裂魔法が撃てるなんて…………はぁ、ははは…………」

 

流石は爆裂狂。悦に浸ってやがる。別にいいんだけど、その杖に股を擦り付ける動作は止めてくれ。わりと卑猥に見えるから。

 

「黒より黒く、闇より暗き漆黒に―――」

 

再び呪文の詠唱に入るめぐみん。

さて、問題はここからなんだよな…………。

 

「よし。行け変態」

「ひゃうん…………!?はぁ……はぁ……悪くない、ああ、悪くないぞ!この扱い、その目!!私を完全に見下す奴の目だ…………!!!」

 

そう言うと、変態は万歳しながらデュラハンに突撃していった。

…………やっぱ変態だわ、あいつ。

 

「な、なんだお前!?何故自ら攻撃を受けにくる!!?」

「どうした!?腕が一本無くなっては本気が出せないか!!もっと根性を見せろ!!!魔王軍幹部の辱しめとはこの程度が!!!?」

「誰もそんな事しとらんわ!!!」

 

ああ…………大変そうだな。あいつとの会話は精神的にくる。まず間違いなく会話が成立しない。だって、こっちは拒否してるのに、あっちはどうしたのだのこの程度だの煽ってくる。意味もわからないが、それよりも目が怖い。逝ってる、本当に逝ってるから。

ダクネスという痴女がデュラハンを追いかけ回している間に着々と詠唱は進む。まるで、あいつが活躍してるみたいだ。あいつという変態が窮地を救う日がやってこようとは…………。

 

「カズマ!準備完了です!!」

「おう。変態!準備出来たから退避しろ!!」

「んんっ!?はぁ…………いい。いいぞカズマ!もっと罵ってくれ!!出きるだけ強く、酷く、吐き捨てる様にだ!!!」

「いいから黙って従えこの筋金入りのド変態が!!!」

「ド・変態…………!!?んきゅうぅ…………いいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

「ふぁ!!?」

「おい馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!なんで敵に突っ込んでいくんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!?今から爆裂魔法ぶちこむっていってんだろうが!!!?」

 

何をとち狂ったか、あの変態はデュラハンへと突っ込んで行った。

馬鹿だ、本当に馬鹿だ。変態ってだけじゃない、知性までイカれているかも知れない。更なる刺激を求めて敵に引っ付くとかもう…………よし、こいつもまとめて撃つか。

それがいい、そうしよう。

 

「よし、めぐみん。やれ」

「はい?いいのですか?まだダクネスが―――」

「彼処にいるのは変態と敵だ。問題ない。仮に問題があったとしても、それは敵を倒すための尊い犠牲として割り切ろう。というわけだ、やってくれ。出きるだけ盛大に」

「…………少し悪意を感じるのですが、まぁいいでしょう!ダクネスは仮にもクルセイダー。必ず耐えうるでしょう。行きます!!」

 

『エクスプロージョン!!!』

 

再び爆裂魔法が発動した。

今度はデュラハン及びダクネスを巻き込んだ強烈な一撃だ。何度も観ていたら分かるのだ、肌を伝っていく振動が強く、全体に響き渡る。大地に走る亀裂、宙に舞う粉塵、そして極めつけは隕石が落ちたような破壊跡。これを何度も耐えるとか正直おかしいと思う。

 

「ぐっ…………!貴様ら、仲間ごと撃ち込むだと!?正気か、お前らには人間の心は無いの―――」

「はぁ……!いい、実にいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

「…………か?」

「こんな攻撃を受けたのは初めてだ!初体験だ!!気持ち良すぎてアヘってしまいそうだ!!?」

 

既にアヘ顔になっている気がするんですが。違うんですか?違うんですね?…………違いませんよね?

 

「…………オ、オマエラ―、ナカマニコウゲキスルナドショウキカー?」

 

デュラハンさんのTake2が入った。

なんかもうカタコトになってるけど、相当参ってるんだろうな。だって、おかしいもん。デュラハンの言ってることの方が正しいはずなのに誰も肯定しない。

みんな『ダクネスにはご褒美』、そう思っている。

 

「まさか我が究極の攻撃魔法を二度もくらって生きているとは…………くやしいです」

「よしよし、3発目も頼むぞ。ほれ、マナタイト」

 

これまた同じくマナタイトからの魔力補給、からの爆裂魔法戦法だ。流石に2発もダクネスに当てると俺とめぐみんが後で批難の嵐をくらいそうなので、少しは誘導してやろう。

 

「おい、変態。いい加減戻れ。お前、顔では喜んでるけど鎧壊れてるからな?結構体力的にはキツいんだろ?」

「…………ふっ、構わん。撃て」

「撃ちません」

「撃て」

「撃ちません」

「撃つんだ、頼む」

「頼まれません」

「撃つしかあるまい」

「ありません」

「「……………………」」

 

一瞬、時が止まった気がした。

 

「カズマ!どうして撃たない!?私はこんなにも欲して―――ではなく、好機というのに!?」

「言い直しても遅いわ!人がせっかく心配してやってんのになんだよその反応は!?」

「だから構うなと言っているだろう!いいから、撃て!!鬼畜のカズマとは異名だけか!?本性を晒してみろ!!!」

「お前っ!!?人が下手に出てたら調子に乗りやがって!?何が鬼畜のカズマだ、頭が逝ってるお前には言われたくないわ!!!」

 

もう知らん。本当に知らん。知ら管だ。

めぐみんに命令し、爆裂魔法を撃ち込むように指示を出す。その際に少しはアレな顔をされたが、これは本人からの要望なので俺は悪くない。だから俺をそんな目で見るな、まるで俺が悪役みたいだろうが。

 

「…………まぁ、カズマに悪気はないのは分かってますから。やりましょう」

 

ようし、なんとか聞き入れてくれた。少しは俺の事を分かってくれているのかも知れない。同情まみれに声のトーンを落としてくる。

 

「貴様ら…………本当に仲間なのか?」

「当然だ。私たちは志を共にした仲だ。共に悪を、お前を撃ち取らんが為に剣を取ったのだ」

「ほぅ…………?」

 

は?志同じ?何いってんだ。誰がこんな変態と…………。

 

「だが、志は高くても実力が伴っていないようだな。貴様らの奥の手やら尽く効いていないが?」

「強がりを。片手を失って何を言う?」

「…………試してみるか?」

 

デュラハンが兜を宙に投げると、そこから魔方陣が広がり、黒く禍々しい目が顕現した。

そして、ダクネスは当たりもしない癖に一丁前にデュラハンへと斬りかかった。

 

「見える、見えるぞ。お前の揺れが」

「はあぁぁぁぁぁぁ!」

 

案の定、ダクネスの剣は空を切った。だが、驚くべき事にデュラハンは避ける動作を最小限にしたかと思うと、一瞬で背後へと回ったのだ。

 

「ぬるい」

「なっ―――かはっ!?」

 

重い一撃がダクネスの横腹を抉った。

 

「あ……あぁ…………ぁ」

「スキル『魔眼』。誉めてやろう、俺に本気を出させたこと。黄泉で誇るがいい」

「だ、ダクネス!!?」

 

流石に今の一撃はヤバい。いくら鎧を身に付けているとはいえ、完全に破壊され血がドロドロ流れ落ちていた。あのドMなダクネスが苦い顔をしている。

 

「まだ……だ!私は倒れるわけには―――」

「そうか、ならば直ぐに楽にしてやる」

 

またしてもデュラハンは宙に兜を投げた。

 

(まずい!?あれが発動したらもう―――)

 

あのスキルは恐らく動体視力を極限にまで上げる能力だろう。加えて視界も広がり、敵の動きも良く見えることだろう。更に、デュラハンは一流の騎士。まさに鬼に金棒だ。

 

『キャッスル・オブ・ストーン!!!』

「何っ!!?」

 

だが、死の瀬戸際とも言える刹那の瞬間にダクネスはスキルを発動させた。

目映い光がダクネスを包み、全てを遮断する。加えて自らも動く事が出来ず、完全に一時しのぎのスキルだ。

 

「…………っは!?よし、いまだめぐみん!!!」

「了解です!我が狂気を持て現界せよ―――」

 

『エクスプロージョン!!!』

 

またも人類最強の攻撃魔法が炸裂した。

 

「ぐっ!!?ぬぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

(効いている!?)

 

先程までは少し怯んだだけで立ち上がっていたのだが、今度はやけに苦しそうだ。それは魔力が切れてきたのか、障気が消えたせいか…………とにくかくチャンスだ。

 

「おのれ、舐めてかかったのが仇になったか……!やれ、アンデットナイト共よ!!!」

 

デュラハンがひと振りすると、地面からアンデットが這い上がってきた。

 

「くそ!だけどこの機を逃したらもう勝ち目はない。ならもう、いくしか…………!」

「カズマ、私も魔力充電すんだよ」

「クリス!よし、最後の攻撃だ。一緒に頼むぞ!!」

「オッケー、これで終わりにしよう」

 

もう俺達には時間の猶予が無かった。這い上がってくるアンデットもそうだが、ジャンヌが払ったアンデットもそこを埋めるように集まってきているのだ。これに囲まれれば最後。命は無いだろう。

 

『疾風迅雷』

『憑依』

 

先程と同じくクリスは魔力を解放する。更に剣には風を束ね威力を上昇させる。隣にいても分かるくらいに彼女の殺気が感じ取れた。それはとても冷たく、静かで恐ろしいほどに研ぎ澄まされていた。

そして、俺はスキル『憑依』を発動した。

もう以前のような無茶はしない。ランサーだのアーチャーだの俺には合っていないのだろう。途中でぶっ倒れるなんてまっぴらだ。だから、今度は無難かつ相性の良さそうなクラスを選ぶ。

 

「カズマ、私は右から叩くから反対はお願い」

「おう、任された」

 

先にクリスが出た。

 

(クラス……アサシン、後は運だ。頼むぞ!)

 

運に身を委ねアンデットの群れへと突撃した。

感じる、少しずつ英霊の力が流れ込んでくる。それはまるで刃物だ。悲しくも研ぎ澄まされた殺意が内から込み上げてくる。

 

(ぐっ!?…………けど、この程度なら!)

「憑依完了…………ジャック・ザ・リッパー」

「なんだ……急に霧が?」

 

憑依した英霊の能力で、霧を発生させる。これは本来何の耐性もない人が吸ったら猛毒なので多少の手加減はする。しかし、それで十分だった。俺とクリスには『暗視』スキルがある。それに範囲もデュラハンとアンデットナイトの群れの辺りまでだ。めぐみん達には害はない。

 

「1、2、3…………多いね」

「ふっ!はっ!…………確かに。後20体はいるな」

 

霧に乗じて攻撃しているのだが、いかんせん相性が悪い。良かれと思って使ったのだが、どうにもこのアンデット達は生命力を目印にしているようだ。切りかかる咄嗟の瞬間に動くのでやりづらい。

 

「くそっ、早くデュラハンのところまで行かないとダクネスが…………!」

「確かあのスキルは魔力が著しく減るからね。ダクネスの魔力が切れたらおしまいだよ」

「ったく、世話の焼ける変態だな」

 

更に刃に魔力を込め、アンデットの群れを切り裂いた

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

中衛

 

「……………………はっ、そろそろ疲れたわね」

 

地に旗を刺し、それにすがるように立っていた。体の至るところから出血し、背中には剣が数本刺さっていた。

 

「ジャンヌさん!!」

「ゆんゆん?あんた、後衛はどうしたのよ……?」

「今は数が減って戦況は安定しています。それより、ジャンヌさんこそ大丈夫なんですか!?」

「あぁ…………駄目かも。体中痛いわ」

「今すぐプリーストのところへ連れていきます。だからもう少し辛抱してくださいね!」

「いいわ、このままで。それと、あんたは早くカズマのところへ行きなさい。ネロがやられたの、このままだと…………」

「ネロさんが…………!?」

「だから…………」

 

あの最強とも思えたネロが倒れた。これがどういう意味を表しているのかは分かっている。けれど、たった一人で数千という群れを相手している彼女を置いていく事など出来るはずもない。

 

「ジャンヌさんはどうするんですか?このままだと―――」

「私の心配はしなくていいわ。死ぬことはないの、カズマの中に還るだけだもの。それに、まだ戦える」

「けど…………!」

「いいから行きなさい!なんの為に私が一人で戦っていると思ってんのよ!!ここを突破されたら終わりなことくらい分かるでしょう!!?」

「っ…………!!?」

「…………だから、行きなさい。私の気持ちが変わらない内に」

 

体を起こすと、黒剣を顕現させた。そして、それをアンデットへと投げつける。するとそこから炎が生まれ、燃やし尽くした。

 

「あんたはまだ戦える。けど、私は満身創痍なのよ。背中に剣が何本も刺さって超痛いし、左腕だってほとんど感覚が残ってないのよ…………頭も痛いし、気分最悪よ。だから…………精々足掻いて、こいつらに一泡吹かせてやるわ」

「ジャンヌさん…………」

「はっ、こんだけ頑張ってるんだから後でシュワシュワ奢りなさいよね」

「…………分かりました。武運を祈ります」

 

そう言い残し、ゆんゆんは前へと進んだ。

 

「祈る…………ねぇ。それはちょっと違うんじゃないかしら?私は信じない、神を、天命を。」

 

血に染まる頬を拭いながら、天を仰ぎ見る。どこまでも澄んだ色、曇りなき空だ。

 

「もし神というものが存在するなら私には罰が下るでしょうに…………ああ、これが罰なのかもね。それでも、私は信じない。私は主を信じない」

 

何十体という群れが襲いかかってくる。けれど、抵抗出来るだけの力は既に無い。

うっすらと見えるゆんゆんの背中、辺りには仲間はいない。いや、遠ざけたとも言える。

 

「次から次へと、これが背信者への報復なのかしら―――かはっ!!?」

 

剣がジャンヌの腹を貫いた。

 

「ああ…………あぁ……痛い……わね、とても痛いわ」

 

残された右腕にもつ旗で凪ぎ払う。しかし、今度こそ地に崩れる。

 

(…………血が、溢れ落ちる。まずいわね、これは)

 

今度は空から無数の槍が降り注ぐ。

無情にもそれは彼女の体を貫き、地に串刺しにした。

 

「がはっ…………ごほっ…………」

 

言葉も出なかった。痛みも感じない。ただ意識が遠退いていく。

 

(…………終わり、か)

 

後目に写るのは後衛へと流れ込むアンデットの軍勢。既に死に体である自分など気にも止めないのだろう。

 

「…………れが…………ご」

 

薄れ行く意識の中、最後にジャンヌが考えた一手。

 

(これが最後。私の血肉を糧とし燃えなさい。これは、私の憎悪によって産み出された一撃。精々足掻いて共に逝きなさい)

 

自滅覚悟の宝具開放だった。

 

吠え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)

 

残存魔力を全てを賭け、更には自身を形成する魔力をも注ぎ込む。

それは、文字通り渾身の一撃だった。黒剣は行く手を塞ぐ様に地から這い出てアンデットを貫く。まるで墓標のようにそびえ立つそれに、串刺しになるアンデットの絵面は地獄を現したようだ。更に、遅れてやってくる炎が逃げ場を塞ぎ、燃やさんが為にじわりじわりと忍び寄る。

 

「…………後は、頼んだわよ。カズマ、ゆんゆん」

 

その一言を最後に、ジャンヌは消えた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!」

「くっ!?」

 

ダクネスの無敵スキルは続いていた。

無駄だと分かっているがデュラハンは何度か斬りつけていた。

隙を見て逃げ出すとでも思っているのだろうか?

 

「待ってろよダクネス!直ぐに助けて―――」

「ああ、すまないが頼む…………別に急ぐ必要は無いが」

「強がるなよ、たまには素直になれ」

「う………正直言うと少し物足りな―――」

「OK、少し黙ってろ」

 

人がせっかく急いで救出をしようというのに、やる気を削がれる言葉だな。

デュラハンの呼び出したアンデットナイトはさほど強くは無かった。恐らく駆け出し冒険者でも相手出来る程度だ。それもデュラハンが弱っている証拠だろう。

 

「ふん、どうやら貴様よりあの二人を先に倒した方が良さそうだな」

「くっ、すまないカズマ。私では時間稼ぎにもならなかった…………」

「気にすんな。お前にはしては上出来だ。だから後もう少し維持してろよ」

「むぅ、そこは『この役立たずが!!!』とか『使えない雌豚が!!!』と罵るところだろう…………」

「お前な、一体俺の事をなんだと思ってるんだ?」

「ふっ、知れた事。やり手の変態エロマだ!!!」

「うるせえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!誰だよそいつ!?だたの犯罪者だろ!!?」

 

あーやだやだ。助けるのが嫌になるわ。変態に変態と言われるとかもう終わってんだろ。しかも、いつの間に俺がエロい事になってるんだよ…………。

気がつけばクリスは周りの敵を片付け、デュラハンの元まで来ていた。

 

「お待たせ、ダクネス。さて、今度こそ終わらせてもらうよ?」

「貴様か。やはり決着を着けねばならんようだな。こい、今度は本気で相手してやろう」

「『魔眼』だっけ?便利なスキルだね。でも、それで私を追えるのかな?」

「そうだな、この霧ではできまい。まずはこの霧を消させてもらおうか」

 

剣を地に突き刺すと、デュラハンは体中から障気を放ち始めた。

 

(はっ!?なんだこれ、霧が黒い靄に上塗りされていく…………!?)

 

霧の様に視界が悪くは無いが、息が詰まりそうだ。しかも心なしかデュラハンの雰囲気が変わった気がする。

 

「貴様に地獄の障気が耐えれるかな?」

「うっ、なにこれ…………気持ち悪い」

「こないのか?ならば、こちらから行かせてもらう!」

「―――っ!?」

 

一瞬で距離を詰めたかと思うと、剣を放り投げてきた。

 

「わ、わわわ…………!?」

「紙一重でかわすか、ならば―――」

 

遠くでアンデットと戦いつつなので見辛いが、デュラハンは剣を投げてクリスに隙を作らせた。そして、かわすことを計算して体術で攻めていた。

 

「はっ!」

「危なっ!?ちょ、スキル無しじゃ反応できないよ…………!」

「俺を剣技だけの輩と思わぬことだ。伊達に貴様らより長生きしているわけではない」

「キミ死んでるでしょ…………!って、冗談言ってる場合じゃない」

「逃がすものか!!!」

 

クリスはギリギリで攻撃をかわしているが、それも辛そうだった。どれも紙一重でしかも次の動きを読まれて先に攻撃を仕掛けられている。魔力を常時解放状態にする『疾風迅雷』でこれでは後の展開がキツい。魔力も切れるが、まずこれ以上の動きが出来ない。いずれ終わりが訪れてしまう。

 

(くそ、早くこっちも終わらせて助けに行かないと!)

 

一方、俺の方は相変わらずアンデットの群れと戦っていた。残りは僅かだか、デュラハンの障気のせいか動きが鈍い。逆にアンデットは強くなった気がする。

 

「よく分かんねぇけど、この英霊はマジで暗殺特化だな。霧があればまだしも、多対一の戦闘には向いてねぇ…………」

 

単純に持ち前の短剣とダガーでアンデットの首を断つという戦法でしか戦えない。クリスみたいに高速で動けるならまだしも、これだと普通に苦戦する。

 

「だぁもう!仕方ねぇな!!」

『クリエイトアース、からのバインド!』

 

アンデットの足元に縄状に生成し、地に縛り付ける。これで、足止めは出来るはずだ。

 

「めぐみん、後で爆裂魔法で処理しといてくれ!」

「了解です!」

 

そして、ようやくクリスの元へと駆けつける。

だが、そこで俺が見たのは…………。

 

「ほう?ようやく来たか」

「か、ずま…………」

「くっ…………すまない」

「嘘、だろ…………?」

 

血塗れで地に横たわる、二人の姿だった。

 

 




さて、このすば二期が終わってしまいましたね…………。
てっきり最後は、ゆんゆんが『カズマさんの子供が欲しい!』と言って終わると予想してたのに…………。

それはそれとして、ようやくデュラハンがスキルを使いました。『死の宣告』は使う場面がないので恐らく作中には使いません。
代わりに『障気』というスキルを付け足しときました。
さてさて、カズマさんはデュラハンに勝てるんでしょうかね~。
シリアス展開のデュラハンは最強やで!


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芸術は…………爆発だ!!!

タイトルに特に深い意味は無いです。

無敵と思われたデュラハンですが、この度御臨終します。しかもなんとあの方が活躍します…………ぼっち、恐ろしい子!




「では、終わりにしようか…………!」

 

無情にも切り捨てられた仲間達。対するデュラハンは腹に大きな傷を負い、左腕を切られ重傷なのだが、到底俺とめぐみんだけでは勝てる気がしない。

 

「そんな、クリスまで…………!?」

「逃げて、カズマ…………」

「そんな事言ったって…………」

 

目の前にはデュラハン。後ろにはアンデットの大軍が迫っている。仮に爆裂魔法でアンデットは処理出来たとして、目の前のあいつをどうする?逃げれる気すらしない。

 

『魔眼』

 

兜を投げた。

時が濃縮したように思考を回転させる。

あれが発動すれば近接戦闘では絶対に勝てない。攻撃はもちろん、避けることすらままならない。二人を置いて逃げれば辛うじて逃げ切れる可能性はある。だが、それでは何の解決にもならない。

ならば宝具で迎え撃つか、とも考えたが今の自分の技量では必ず競り負ける。ダメージすら望めない。

 

「行くぞ」

 

時が動き出す。

デュラハンは、踏み込むと同時に一瞬で距離を詰めた。剣が振り下ろされる。

 

「はぁ!」

「くっ…………!」

 

二つの剣で迎え撃つ。だが、それでも威力は殺しきれない。骨が軋む。肉がわめく。血が沸き上がる。体の至る所が悲鳴を上げる。

 

(死ぬってのか、ここで?)

 

やはり駄目だった。受け止める事はおろか、ここから一歩も動けない。これ以上抵抗出来ないのだ。

 

「消えろ!!!」

「うっ!?」

 

剣を振り抜かれ、吹き飛ばされた。

 

「…………くそ、やっぱり駄目なのか」

「どうした、先程までの威勢は消えたか?ならば、早々に死ぬがいい。貴様は俺の相手に相応しくないのだから」

 

体は動く。魔力も残っている。けれど、戦う術が無い。

 

「…………ごめん、みんな」

「謝らないで下さい、カズマさん」

「ゆんゆん…………?」

 

振り向けば、そこにはゆんゆんが立っていた。彼女は既にぼろぼろだった。恐らくここに来るまでに相当数のアンデットを倒したのだろう。

 

「あの時の娘か。だが、貴様が来たところでどうなる?」

「あなたを倒します」

死の雷(デス・ライトニング)

 

ゆんゆんがスキルを唱えると、右手に黒い電撃の槍が生成された。

 

「なんだ、それは…………?」

「ちょっとした裏技ですよ。あなたが充満させていた障気を使わせてもらいました」

「…………何?」

 

今更ながらデュラハンの発生させた障気が無くなっている事に気がついた。ゆんゆんの言っている事はつまり…………。

 

「これは、あなたの障気と『ライトニング』の魔法を合わせた物です。残存魔力も少ないので利用させてもらいました」

「貴様、正気か?地獄の障気を取り入れるなど、人体には猛毒のはずだ」

「以前、友達を作るた―――コホン、悪魔を使役する為にそういった系統の魔法に手を出した事があるんです。なので、耐性はあります」

「「…………」」

 

二つの意味で驚愕の事実を淡々と述べるゆんゆん。

この子、友達が作れないからって悪魔を友達にしようとしていたのか…………?

 

「…………友達作りの為に悪魔を?」

「ち、違います!悪魔を使役する為にです!!」

 

あ、やっぱり聞いちゃう?デュラハンさん、そこは触れないであげて。ゆんゆんはガラスのハートだから、触れただけで亀裂が入っちゃうから。

 

「と、とにかく!この裏魔法であなたを倒します!!」

「ほぅ?またけったいな物を使ってくるものだな。どれ、俺の剣技についてこられるか…………」

 

じわりじわりと詰め寄るデュラハン。

そして、兜を空中へと投げた。

 

「試してみようか!!!」

「えい」

「ぎゃあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

 

剣と槍でぶつかり合うのかと思ったんだが…………ゆんゆんは迷うこと無く兜へと槍を投げた。

案の定、直撃した兜…………もとい、デュラハンの頭は黒焦げで落ちてきた。

 

「き、貴様!?空気を読まんか!!ここは普通剣でつばずりあう場面だろうが!!?」

「以前、カズマさんが言ってました。『弱点は容赦無く攻めろ。空気を読むのは二の次だ』って」

「お前…………!?」

 

いやいやいや!?確かに言ったけど、そこまで邪険にしなくてもいいじゃん!?馬鹿みたいに空気読んで相手を待つ必要なんて無いじゃん?なら、情け容赦なく攻めるだろ、普通。

 

「くっ、『魔眼』を封じた所で―――」

闇炎渦(ダークネス・インフェルノ)

「ひぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

恐ろしいまでの熱気と色を帯びた豪炎がデュラハンを襲った。本来ならば、赤と黄色の超高温なのだが、黒と少しばかりの紫色の炎が発生した。焼ける、というよりも内から溶かす様な感じで肉体を焦がしていた。

 

「馬鹿な!?何故このような低レベルのアークウィザードこどきに!!?」

「いえ、これはほとんどあなたの魔力ですよ?自分自身の魔力にやられているんです」

「くっ、そういうことか…………!」

「すっげぇ…………!」

 

ゆんゆんが圧倒している。本来ならば、魔力は枯渇しまともに戦えないだけじゃなく、レベル差でダメージすら通りづらい筈なのに、それを敵の力を利用して覆した。

 

「だが、何発も打てる訳が無い!その内貴様の肉体を侵食するはずだ!!」

「…………バレてましたか。確かに限度はあります、ですが―――」

「私がいるという事を忘れないでもらおうか!」

「めぐみん…………!」

「何をする気だ…………!?」

 

めぐみんが詠唱を始めると共に、ゆんゆんは後ろへと回り魔力を流し始めた。

 

「私は紅魔族随一の天才!この程度の魔力、我が糧として従えて見せましょう!!!」

「まさか…………!!?」

 

いまのめぐみんの言葉で直感的にわかった。

二人がやろうとしている事。それは、ゆんゆんをゲートとして障気を魔力として消化した物をめぐみんへと送り込み、その力で爆裂魔法を撃つという事だ。

 

「させん、させんぞぉ!!!」

「ふひっ!」

「ぬっ!?離せ、離さんかこの変態が!!!?」

「なんという罵倒…………!」

 

まさかの瀕死と思われたダクネスがデュラハンの足にしがみついている。ここに来てあの愉悦に浸る顔は流石変態と言う他あるまい。

 

「よし、俺も…………!」

『スティール!』

 

奴の剣を奪えば上出来、兜でもと……思ったのだが。

 

「なんだこれ…………?」

「うっ…………カズマ、流石にこの状況で私の下着を取るのはちょっと」

 

変態のブラだった。

 

「ち、違うわざとじゃない!!!くそ、もう一回だ!!!」

「ぬぅ…………!?」

「よし、成功―――って、重っ!!!」

 

今度こそは成功した。一瞬だけ持とうとしたが重さで地面に突き刺さった。危うく腕とか脚とか持っていかれるところだった。

 

「貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

最後の悪足掻きか、障気を全開で放出し始めた。だが、それも少し遅かった。

 

「準備完了です!」

「よし、いまだクリス!」

『疾風迅雷』

「何ぃ!?」

 

最後の魔力を振り絞り、ダクネスと共に瞬間移動した。

 

「我が力、思いしるがいい!!!」

「めぐみん、私も力を貸してる―――」

 

『エクスプロージョン!!!』

 

ゆんゆんが何か言いかけたが、それを無視してめぐみんは爆裂魔法を発動した。

今度の爆裂魔法はレベルが違った。今までも広範囲だったが、今回のそれは天を衝く様に遥か上空まで抉った。一瞬、巻き込まれて死ぬかもと思ったが、ゆんゆんが俺達の前で障壁みたいな防御スキルを使ってくれたので助かった。まぁ、元々めぐみんが機転を利かして範囲を絞っていたらしいが。

 

「こほっ、こほっ…………!」

「凄っ…………地形が変わってる」

 

煙が晴れると、そこにはデュラハンの姿はなく、大地は抉られ地形が変わっていた。

 

「はぁ…………満足、でぇす」

 

そう言うと、めぐみんはぶっ倒れた。

 

「ねぇ、めぐみん?最後の台詞、あえて私の事を除外しなかった?あの魔法はあくまで私とめぐみんの合体魔法なのよ?」

「なにを細かいことを言っているのですか?これだからぼっちは」

「それは関係ないでしょ!?」

 

この二人は相変わらずのようだ。戦いが終わった直後に口喧嘩を始めるなんて…………本当に仲が良い。やっぱり百合かも。

 

「それにしても、本当に助かったよ。二人とも」

「い、いえ……!カズマさんが指揮しながら戦ってくれたおかげです!」

「いや、皆のおかげさ」

 

俺がそう言うと、皆が笑みを溢した。

流石俺、ヒーローみたいな存在感を放ってる…………気がする。正直言うと、ちょっと恥ずかしい。

 

「と、ところで…………カズマさん」

「ん?どうした、ゆんゆん?」

 

なにやらもぞもぞしている。言葉も詰まり詰まりだし、何か言いにくい事でも?

 

「ジャンヌさんから『この戦いが終わったらカズマが抱きたいって言ってた』と聞いたのですが…………」

「ふぁ!?」

「へぇ~。キミもすみにおけないな」

 

なんかとんでもない事になってた。

あいつ、なんつー嘘を吹いてくれてんの?それを間に受けるゆんゆんもどうかと思うが…………ていうか、俺の知らない所で死亡フラグが建てられていたとは。

 

「それ、ジャンヌが勝手に言ってるだけだぞ?」

「え!?そうだったんですか…………」

「もしかして、本気にしてたのか……?」

「べ、べべべべつにそんな事ありませんから!!?」

(わかりやすいなぁ~……)

 

ああ、可愛い。周りに誰も居なければ本当に抱きしめてしまいたい。しかし、そんな事をしている場合でもなく、皆の所へ戻って仲間の安否確認しなければならない。怪我人もいることだしな。

その後、町に戻った俺達は戦勝を報告した。その過程で失った命は幸いにも無かったそうだ。受付嬢曰く、どこぞのクソイケメンが後衛で頑張ってくれたおかげだったらしい。まぁ、当然敵将を討ち取った俺達の方が手柄は大きかった訳で…………皆から大袈裟なくらいに褒められた。

そして翌日、俺達はギルドへと召集がかかった。

 

「一体、何の用だ…………?」

 

昨日の疲れでほとんど寝て過ごしていた為に意識が完全に覚醒していない。正直、夜までだらだら寝ていたい。

 

「あ、カズマさん」

「おう、ゆんゆんとめぐみんか。早いな」

「カズマが寝過ごしただけでしょう。私は特別早いわけではありませんよ。ゆんゆんはカズマが早く来ないかそわそわしていた様でしたが」

「め、めぐみん!?どうしてサラッとばらしてほしくない事を言うの!?」

「おや、図星でしたか」

「お前ら、百合はほどほどにしておけよ」

「「違います!!!」」

 

二人の声が頭に響く。思わず耳を塞いでしまう。しかしながらその後もガヤガヤ言ってくる。正直うるさいからやめて欲しいし言い訳がましい。今日からこいつらを『百ん百ん』と『百合みん』と命名してやろうか。

 

「聞いているのですか!?」

「ん?あー、聞きたくない。んじゃ、ギルドに入るか」

「ぐぬぬ……!何と腹立つ態度なのでしょう!」

 

ちなみに、ジャンヌとネロは現在、現界していない。重傷を負った事や魔力が枯渇していたこともあり、しばらくは出てこれそうにない。

仕方なく、この五月蝿い二人の幼女を宥めながらもどーどーと接待してやる。すると、それが逆に勘に触ったのか左右に服を引っ張り始めた。

 

「カズマ、そろそろ私達の関係について認識を改めるべきです!」

「そうだな~。仲の良い友達から恋人へ、禁断の愛ってやつか…………ふっ」

「むっか…………!!!」

「カズマさん。私達はライバル同士なんですよ?そういう関係じゃありませんよ」

「いえ、それも違いますが?」

「酷い!!?」

「うんうん、お前ら結婚しちまえよ」

「「嫌です!!!」」

 

ほらみろ、やっぱり息ぴったし仲良し百合良しだ。

流石にこれ以上からかうと収集がつかなくなりそうなので、適度な無視と曖昧な返事を返しながらギルドの扉を開いた。

 

「ようやく来たかカズマ!!!」

「よし帰ろう今すぐ帰ろう直ちに帰ろう」

 

何と扉の先に待っていたのは変態だった。しかも何故か興奮してた。

 

「なっ!?ま、待て!!今回はそういう要件ではない!!!」

「…………今回、は?」

「ああ、そうだ」

 

今回だけか…………はぁ。

 

「ようやくいらっしゃいましたね、カズマさん」

「えっと、急な呼び出しって…………?」

 

受付嬢が一枚の小切手を渡してきた。

 

「ん?……………………こ、これは!!!?」

「え?ど、どうしたんですか!?」

「ゆ、ゆゆゆゆゆんんゆんんんん!!お、落ち、落ち着いてこれを見てみろ!!!」

「とりあえずカズマさんから落ち着いて下さい!」

 

俺は抑えきれない振れを感じながら、ゆんゆんへと渡した。

 

「……………………これは、夢ですか?」

「いいえ、夢ではありませんよ」

 

にっこりと微笑む受付嬢。

 

「冒険者佐藤カズマ一行に、魔王軍幹部討伐の報償金として3億エリスを与えます!」

「いよっ…………しゃああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

俺の魂の叫びが木霊した。

 

「マジかよ!?奢れよカズマ!!」

「カズマ様~、おごって!」

「カズマ!一杯やろうぜ!」

 

やりました、やりましたわこれ。

魔王軍幹部討伐、からの莫大な富獲得。王道ファンタジー世界らしいベタかつ面倒くさい展開を乗り越え、ついに自由の羽を手にいれた。

 

「…………もう、楽に生きようかな」

「え?何を言っているのですか?これからも数多の強敵や他の魔王軍幹部も倒していき、魔王をも討伐するに決まっているではないですか?」

「うん?お前が何いってんの?俺に死ににいけと?嫌だよ、俺は適当なクエストで小遣い稼ぎながら生きていくんだよ」

 

血気盛んな野郎共のもとへと行き、高らかに酒瓶をイッキ飲みする。

 

「お前ら!今日は俺の奢りだ!!飲め飲め、飲めや~い!!!」

「「「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」

 

それに呼応したかのように皆酒を頼み始める。そして、俺を胴上げし始めた。

 

「いやっほぅー!今日から俺は、金持ちだぜ!!」

「カ・ズ・マ!!!カ・ズ・マ!!!カ・ズ・マ!!!」

 

カズマコール入りました。

もはや完全に宴会ムードに入ったギルド。以前の俺の噂も何処へやらと、みんなと笑いあいながら飲み明かした。あの美人受付嬢すら俺に微笑んでくれていた。

 

(ああ、これが讃えられると言うことか…………!)

 

望んでいた展開だったとは言えないが、これはこれで良かったのかもしれない。何度か危ない場面もあったが、頼もしい仲間達に支えられここまでこれた。

よし、なので今日から楽に生きよう!

 

「カズマ!例の一発芸やってくれよ!!」

「え~?しょうがねぇなぁ!!」

 

手をわきわきと動かしながら用意されたハンカチへとスキルを放つ。

 

『スティール!』

 

すると、俺の手のひらにはハンカチ…………ではなく、ゆんゆんのパンツが納められた。

 

「「「ひやっはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

同時にむさ苦しい男共から歓声が上がった。

 

「ぬふふ、また可愛いもんとっちまった―――って、どうしたゆんゆん?」

「…………」

 

何故か俯いて黙ってらっしゃる。泣いているのかとも思ったがそうでもないみたいだ。

 

「あの~、ゆんゆんさん?聞いてます?」

「…………して」

「え?」

「どうしてカズマさんはいつまでも私に振り向いてくれないんですか~~~!!!!!」

「うおっ!?や、やめっ、やめろゆんゆん!揺らすな、苦しい!!絞まってる、絞まってるから!!!」

 

突如発狂して襲いかかってきた。

 

「どうしていつも他の人ばかりにセクハラするんですか!!?どうしてこういう時だけ私にして人前で晒すんですか!!?するならいっそ最後までしてくださいよ!!!めぐみんにと言わず、私に聖剣エクスカリバー射れて下さいよ!!!!」

「待てええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!取り敢えず落ち着け!!!!」

「どうしてダクネスさんは犯して私には一切手を出さないんですか!?胸ですか!!?あのおっきな胸がいいんですか!!?」

「お願いだからやめてくれえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!後、俺を勝手に犯罪者にするなぁぁぁぁぁぁぁ!!!確かに胸は大きい方がいいけど!!!」

 

何をとち狂ったか、ゆんゆんは猥談を始めた。それも、俺の風評被害も交えてだ。これは、是が非でも止めねば俺とゆんゆんが社会的に死ぬる。

 

「おまっ、急にどうしたんだよ!?それに何か酒臭い…………って、まさか!?」

 

よくみると、ゆんゆんの表情か少しおかしい。まず顔が赤い。恥ずかしいというのもあるかもしれないが、どちらかというと酒気を帯びている風だ。

何とか止めようとも思ったが、周りは囃し立てる奴らばかりで皆他人事だ。まぁ、野郎共はちょろっと「見せつけやがって……!」とか呟いてる輩もいるが。それはいいとして、めぐみんも飲めないくせして酒に手を出していた。

 

「おい、お前まで飲むなよ!ゆんゆんでさえこの惨状なんだぞ、お前までこうなったら俺は見捨てるぞ!!」

「何を言うんですか。私は酒ごときに負けるわけ―――」

 

俺の忠告を無視してシュワシュワを飲み干すめぐみん。

 

「負ける…………わけ…………………………………………………………………………………………ひっく」

 

おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!?何か嫌な予感がするんだが!!?全速力で逃げたいんだが!!!?

 

「だぁいひゃい、かじゅまはわたひの事を子供とみてまふね?それぇが間違いなんでしゅよ」

「…………はぁ?」

「いいでひゅか?かじゅまはもっと、わたひのことをレディとひてせっしゅるべきなんでしゅよ?」

「うん、いい子だから寝ようか!?」

「わたひのはなしきいてまひたかー!?」

 

滑舌が回ってないうえにしょうもないから尚更聞きたくねー。

何でどいつもこいつも酔ってんの?俺の話は無視ですか?帰っていいかな、帰りたい。それで、この金で豪遊したい。

 

「おうおう、カズマの野郎、ロリッ子を侍らせてやがる!ロリコンだあいつ!!」

「ロリコンにカズマ、ロリマだロリマ!!」

「おうロリマ!こんどは誰に手を出すんだ?盗賊の嬢ちゃんか!?」

「お前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ちょっと表でろやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ついに俺にまで風評被害が来ましたわ。

まったく、これだから世紀末格闘家共は…………下ネタ大好き変態野郎ばっかで困る。しかも、その頂点に君臨するのが俺だと思われているのが尚悪い。俺がいつそんな事をしたって言うんだ。そんな根も葉もない噂を立てた輩にはいつか復讐してやる。公衆でスティールの刑に処す。

 

「カズマ、お前あの姉ちゃん狙ってたんじゃねのか?ほら、あの胸のでかい銀髪の」

「それはない。つうか、狙ってたのはお前だろ?」

「がははは!俺みてぇなおっさんに狙えるたまかよ!?以外とあちらさんはお前に気があるかも知れねぇぞ?」

「お前、男に気があるやつがそいつに向かって『靴なめなさい』って言うと思うか?」

「ご褒美じゃねぇか?」

「お前に聞いた俺が馬鹿だった」

 

こんな調子で皆が好き勝手言い放題だった。特に俺に関する猥談が後を絶たない…………。

 

「おいカズマ!お前、ついにあのダクネスと禁断の遊びをしたって聞いたが、何したんだ?一線越えたのか?」

「馬鹿か?俺があの変態なんかと―――って、待てゆんゆん!?」

「カズマさんカズマさん?今の話は本当ですか?嘘ですよね?まさか私のカズマさんが他の女とイチャコラするだけに飽きたらず手を出すなんて事はしませんよね?ないですよね?もし、仮に、万が一、億が一の可能性でそんな事をしたと分かったならば私はカズマさんを許すことは出来ませんよ?まず間違いなくあれをもぎますから。容赦なく攻めますよ?だって、カズマさんには私がいるんですから。私以外の女は必要無いんです。話す必要も、目を向ける必要も、同じ空気を吸う必要すら無いんです。私だけ見て、感じて、思っていればいいんです。カズマさんは誰にも渡しませんよ?誰にも。以前、キースさんとか言うゴミ物質と顔を近づけて迫ってましたが、あれも駄目ですよ?前までは目の保養としては受け入れてましたが、今となっては例え御剣さんだろうと老若男女許可しません。私だけをみて、私色に染まって下さい。その分私もカズマさんを愛してあげますから。ね?いいですよね?だって、カズマさんは強くて美人で胸の大きい人が好みなんですもんね?全く問題ありませんよね?ふふ、うふふ…………うふふふ腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐。カズマさんは私だけのもの。わたし、だけの。例えめぐみんだろうとジャンヌさんだろうとネロさんだろうと…………渡しません。カズマさんは、私のものなんですから………………………………………………ね?」

 

物凄く長い呪詛を聞かされた挙げ句、かなり…………いや激しく同意しかねる事を言われたのだが、俺はどうすればいいんだろう?隣にいたはずの野郎はいつの間にか逃げてやがるし、めぐみんは相変わらず酔っ払ったまま五月蝿いし、取り敢えず逃げたい。うん、逃げたい。

 

「ゆんゆん、落ち着け」

「落ちつく?えぇ?何でですかぁ?私はとっても落ち着いてますよ?」

(う~む、これはかなり酔ってらっしゃる。酒と自分にな)

 

さりげなく逃げられない様に服の裾を尋常ならざる力で握り締めている。いまにもこの子の右手が真っ赤に燃えてシャイニングゴットフィンガーを放ちそうだ、俺の精神に。

 

「…………はぁ、どうしてこうなった?」

「それは、君のしてきた事の結果なんじゃないか?」

「御つる…………クソイケメンか」

「わざわざ言い直す必要あるかなそれ!?」

 

ある。大いにあるぞこのクソイケメンが。

 

「んで、さっきのはどういう意味だ?」

「聞いたよ。君が今日に至るまでに行ってきた鬼畜の所業の数々を」

「おい待て、誰に聞いた?」

「ん?知り合いの盗賊の子にだけど?」

 

よし、クリスか。今度あいつと会ったときが楽しみだ、ぐへへへ…………絶対に泣かす。

 

「それで、やはりこの状況は自業自得なんだろうね」

「おい、それはつまり。ゆんゆんとダクネスの病み具合は俺の責任で、めぐみんのあの頭のおかしさと行動は俺のせいだと?」

「あと、銀髪の彼女と飲んで騒ぎまくってギルドを荒らして、ギルドから要注意人物に指定されたのもね」

「べっ、べべべつに彼女じゃねぇし!?つか、それブラックリストだろ!?」

 

勘弁してくれよ…………その内、デ○ノートに名前書かれるんじゃねぇのか? ギルドのプラックリストって…………まさか暗殺リストになったりしないよな?

 

「ははは、まぁそれは大した事じゃないからおいといて」

(何?そうなのか、良かった。マジで金目当てに殺されるか心配したぞ)

「そこの女性方に付きまとわれるのは、君が彼女達に自分のカッコいい姿を見せて惚れさせたからじゃないのかな?さっきのは悪い意味も良い意味も含めて言ったんだよ」

「そうか…………いや、待て。さらっと変態を混ぜるな。断固拒否する」

「そうかい?」

 

ああ、絶対だ。あれは危険だ。よく言うだろ?

混ぜるな危険って。

 

「はは。まぁ何はともあれ、君が元気そうでなによりだよ」

 

そう言うと、手を振って去っていった。

 

「………………滅びろ、イケメン」

「おうカズマ!お前、最近モテてるっ聞いたが、何かの間違いだよな?」

「ダスト…………ふっ、それはどうかな?」

「なにっ?」

 

めぐみんとゆんゆんの肩に手を置き、ニヤリと含み笑いを作る。

 

「ほら、いるだろ?ここに」

「か、カズマさん…………!?」

「まったく…………仕方ないですねカズマは」

 

二人とも、俺にそう言われて嬉しかったのかちょっと顔が赤い。言ってる俺も恥ずかしくなってくる。

 

「………………なんだ、お前ロリコンだったのか、ロリマ」

「「「ぶっ殺!!!」」」

 

三者の意気が重なり、ダストというゴミに制裁を下した。

 

「…………て、てめぇ、カズマ…………容赦はねぇのかよ?」

「許せダスト。俺をロリマ呼ばわりするやつは一人残らず潰さないと俺の気が収まらないんだ」

「ぐっ…………」

 

勝者、俺。

去らばダスト、お前の事は忘れない。たぶん。2日位は覚えとく。

 

(随分と楽しそうね?)

(その声……ジャンヌか?)

(そうよ)

 

体の内から脳に直接響いてきた。これがいわゆる念話というやつか?

 

(それで、どうなのよそっちは)

(デュラハンはめぐみんが倒したから問題なし。まぁ、俺の活躍が以前の所業のせいで揉み消されてるが)

(そう、なら問題無いわね)

 

傷つくなー。サラッと俺の事は流すんだから、少しは心配しろよ。

 

(…………一応聞くけど、今のあんたはどういう心境なの?)

(ん?急に言われてもな…………)

(引きこもりだったあんたが一転、町を救ったパーティのリーダーよ。悪くないんじゃない?)

(そうだな…………悪くない)

 

そう、コレも悪くない。俺の望んだ異世界での生活。

例えるならば…………

 

(ニートが始める異世界労働生活)

(おい!?人の心を読んだ挙げ句変な言い方するなよ!?)

(合ってるじゃない?)

(いや、それでもな?もっといいのがあるだろ?)

(某異世界転生アニメの名前パクる気?)

(すまん。俺が悪かった)

 

ちょっと落ち着こう。こんなしょうもない事で慌てる必要もないだろう。

 

(ぞれで、お前の方はどうなんだよ?)

(ん?あぁ、そうねぇ…………今ようやく6割ってところかしら?)

(そっか…………)

(そうよ)

 

 

どうやらジャンヌが復活する日は遠くは無さそうだ。恐らくネロも。

 

(ところで…………魔王軍幹部討伐の報償金は?)

(ん、ああ、喜べ。3億だとよ?)

(さ、3億!!?3億って言えば、サラリーマンが生涯稼ぐ所得1億6000万のおよそ2倍!!?か、カズマ!絶対にその金には迂闊に手を出さない事よ!いいわね!!?)

(落ち着け!つか、何処情報だよそれ?あと、お前は飲み代が欲しいだけだろ?)

(…………ちっ)

 

こいつも分かりやすいなぁ…………。

 

(と、とにかく!私が戻るまで絶対に荒使いは駄目よ!!いい!!?)

(はいはい…………あ、でも今日はギルドの連中全員に奢りって言ったばかりだ)

(全員火葬しなさい!!!!取り分は減らさせないわよ!!?)

 

こいつの金に対する執着心は一体何処から来るんだ…………?

聖女ジャンヌ、煩悩まるだしなり(笑)

 

(聞こえてるわよ、このロリコン!)

(お前こそ聞いてたのかよ!?)

(べっつにぃ?ロリマとかロリコンとか鬼畜だの聞こえてたっけかしら?)

 

こいつ、全部聞いてやがった……!

よし、こいつにも戻ったらスティールの刑だ。こいつがどんな下着を着けてるか見てやる!そんでもって嗅いでやる。

その後も、俺はジャンヌとワイワイ話していた。はたから見れば一人で考え事しているように見えるだろうが。

 

(…………これだけは一応、言っとくわ)

(……?)

 

最後にジャンヌは、改まった声でこう語った。

 

(私の仲間を守ってくれてありがとう)

(……当然だろ、俺を誰だと思ってるんだ?)

(ふふ、そうね。そうだったわ)

 

思わず微笑が漏れる俺達。

 

(これからもよろしくね、マスター)

 

そう、これが俺の物語。

俺と愉快な仲間達が活躍する物語だ。

 

17歳から始める異世界―――

 

(ニート脱却)

 

生活……………………ふぅ。

 

「いいところで邪魔すんじゃねえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

俺の魂の叫びがギルドに響いた。

 

 

 

 

 

 

 




この度も読んでいただきありがとうございます!

誠に強かったデュラハンさんもカズマ達にかかれば…………という訳で、倒しましたデュラハン。今頃、三途の川でこう言っているでしょう。

『お~い、来いよ!こっち来いよ!!!』

ああ、恐ろしい。

とりあえず一章は終わりという感じですね。
次回からは紅魔の里編に入る予定です…………予定です。
※大事な事なので2回言いました。


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最凶魔王戦線―紅魔―
旅立つ彼等に幸運を!


前回からだいぶ間が空きました。
本当は一度投稿出来る寸前まで書き終えてたのですが、保存せずにLINE開いたら文字化けして無と化しました。
正直なところ、その時点でやる気がかなり削がれたのですが、考えてた内容とまるっきり変えて投稿しました。

小まめに保存してたのに…………文字化けとかないわ~_(._.)_



あれから、一週間の月日が経った。あの間に変わった事はいろいろとあった。以前のような俺に対する偏見がだいぶ減った。あの辛かった日々が嘘のようだ。最近は女性冒険者からもちやほやされるし、美人受付嬢さんとの関係も戻ったし、ようやく前みたいに目を見て話せる気がする。まぁ、結局胸に目がいくけど。

他に変わった事と言えば…………

 

「ねぇ、これどれくらいの大きさになるの?」

「さぁ?とりあえず、皆で住めるくらいはなるだろう」

「はぁ…………まさか、家を建てるとは」

 

そう、デュラハン討伐で得た賞金で家を建てることになった。いつまでも宿暮らしって訳にもいかないしな。どうして同居なのかって?

きゃっきゃ、うふふな展開があればいいなと思ったから。…………ごめん、嘘。1割嘘だ。本音でもあるけど、ただ単に皆バラバラに暮らしてるから、どうせ一緒に冒険に出るなら近くの方がいいなと思った。だって、いちいち連絡取るのもだるいし、面倒くさいし、いざとなったらゆんゆんが家事とかしてくれそうだし?

「…………で?いつ完成するの?」

「ん?3ヶ月だって」

「まだまだ先の話ね………物件を買うとかでも良かったでしょうに」

「まぁそう言うなよ」

 

とまぁ、今は皆と一緒に家がたつ様を眺めていた。特に面白い訳ではないが、なんだか感慨深いなと思った。だって、17歳が家を建てるんだぞ?普通じゃありえなくね?てか、ないな。

 

「よし、それじゃあ帰るか…………」

 

今日はただの下見程度。大工さんの働きっぷりを高みの見物しつつ、とりあえずは仲間に現状報告だ。

流石は金持ちはやることが違う、と周りには言われたが…………別に俺(達)の金なので、問答無用で話も建築も進んでる。よし、数ヶ月後にはひとつ屋根の下で異世界ハーレム生活だ!いやっほぅ!!

 

「―――とか考えてるんでしょ?」

「な、何故わかったし…………?」

「いや、あんたの顔に書いてるわよ。『あわよくば一発やれないかなぁ』って」

「別にそこまで思ってねぇよ!!?」

「うわ。ムキになるって事は本当にそういう事考えてたわけ?プー!クスクス、あんたそんな絵空事考えてたの?あるわけないのに、馬鹿じゃないの?」

 

どうしよう!?女だけど、こいつの顔面をグーで殴りたい!!そんでもって『すいませんでした、カズマ様』って言わせたい!!!

 

「む?『一発やりたい』とはなんの事だ?何をしたいのだ?」

「べ、べべへつに大した事じゃないって!!?ネロ、気にするな!ただ、皆で酒でも飲み明かしたいなぁって思ったんだよ。俺達の家で、水入らずてな」

「そうそう、その後夜のお楽しみも―――」

「おいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!?人が誤魔化してんのに余計な茶々入れんなよ!!!!」

 

不思議そうに首を傾げるネロ。まるで俺の説明が理解出来ていないのか、ジャンヌの言いかけた事に興味を持っているようで、その後誤魔化すのが大変だった。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

その後、ギルドに戻ったが、大金も入って特にクエストを受ける気もないのでテーブル席に座って他の冒険者仲間と世間話をしていた。

 

「おう、カズマ。お前、大金が入ったんだってなぁ?」

「ん?ああ、キースか。おうよ、毎日だらけた生活送ってるぜ」

「流石はカズマだな…………。お前の仲間―――って言っても、あの頭のおかしい紅魔連中だけはクエストに行ってるみたいだぞ?」

「ああ、それはたぶんめぐみんが爆裂魔法を撃ちたいからだろう。ゆんゆんは『友達』とか『親友』ていうワードに釣られてだろうな」

 

めぐみんは元々、ただ爆裂魔法が撃ちたいだけの爆裂教徒だ。特に大金が舞い込んで生活が楽になろうと変わらない。毎日誰かをおんぶ係りにして連れ出しているそうだ。…………この間は確かジャンヌを連れていって『近所の爺婆共に怒られた』って激怒されて、二度と付き添わないって言われてたっけか?

 

「あいつも、性格さえ良ければただの美少女なんだな…………」

「おい、それは私の事を言っているのか?だとしたら表に出ましょうか、今すぐ」

「よせよ。お前はゆんゆんと仲良く百合よくよろしくしてろよ」

「しませんよ!!!」

 

いつの間にか聞き耳を立てて寄ってきためぐみん。キースも、かかわり合いになりたくないのか去っていった。まぁ…………正しい判断とは思うが。

 

「ていうか、この間のデュラハン戦で使ったマナタイト代をきちんと自分で払うって言ってたけど、わざわざそんな事しなくてもいいんだぞ?」

「うぅ……そう言って頂けるのは嬉しいのですが、高かったのではないですか?」

「ああ、一つ100万エリスな。それを10個だから1000万エリスだ」

「作戦の為とはいえ、それを無償というのは…………」

「いいんだよ。あれを命令したのは俺だし、ここは俺から出しとくよ」

「あ、ありがとうございます…………カズマはたまに、度量が大きい事がありますね。そういうところは好きですよ」

「こらこら。簡単に異性に対して『好き』とか言わない。勘違いしちゃうだろ?」

「ふふ、さぁ?それはどうでしょうかね?」

 

え?なに?本当に好きなのか?しかし、真相は闇の中へと、めぐみんは含み笑いだけ作ってからかうと、同じようにテーブル席について注文を取り出した。

 

「ふむふむ…………今日はこれにしましょうかね」

「お、おい…………気になるだろ?続きを―――」

「お姉さん、注文をお願いします」

 

こいつぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!?人をからからうだけからかっておいて、俺の純情はそっちのけかよ!!?ありえねー…………こんな幼女に弄ばれるなんて、俺のプライドはズタズタだよ。

 

「で、なんの話でしたか?」

「いいよもう…………」

「そうですか?」

 

まるで自分の行いに罪はないかのようにハテナ顔を向けてくるめぐみん。どうしよう、なんだかその頬を捻ってやりたい。

 

「ところで、相談があるのですが…………」

「相談?ああ、分かった分かった。いんじゃね、それで。自分のやりたいようにやれば」

「まだ何も言ってないのですが!!?」

 

なんだかもう面倒くさくなった。

昼時だから、お互いに飯食うために同じテーブルに着いてるけど、どうせまたゆんゆんと爆裂デートにでも行くのだろう。ならば、俺なんかより利用しやすいゆんゆんに頼んだ方が無難だろう。

そう思った俺は適当に返事を返したのだが…………。

 

「真剣な話なんです」

「何?ついにお前ら結婚するの?」

「誰があんなぼっちと!!!そうではなくて、私の故郷から手紙が届いたのです」

「へー、そうか。良かったじゃん」

「何を他人事のように言っているのですか!?紅魔の里がピンチなんですよ!!」

 

は?紅魔の里がピンチ?まるで意味がわからんぞ。誰か分かるように三行以内で説明してくれ。

 

「ピンチ?ホワィ、何故?」

「そのむかっとする言い方は止めてもらえませんか。それと、ピンチというのは魔王軍が攻めてきているらしいのです」

「えー、めんどー。やだよ、せっかくデュラハン倒して大金貰ったのに。まぁた危ない事に首を突っ込むのかよ」

「お願いです!どうか、私と一緒に紅魔の里へ行ってもらえませんか!?」

 

どうしよう?またガチなヤツが来たな…………嫌だなぁ。なんで魔王軍が来るんだよ。働きすぎたろあいつら。ちったぁ有給取って休んでるのか?つーか、そういう事言われても困るんですが。

 

「…………行って俺にどうしろと?」

「えっと、なんとか…………魔王軍を退けてもらえないかなと」

「お前ぇ、仮にも紅魔は優秀な魔法使いの里だろう?そんな奴らが苦戦する敵に俺程度の冒険者が行ってどうなる?ジャンヌとネロだって、現界は出来てるが魔力はギリギリで、とても戦える状態じゃないぞ?」

 

そう、二人とも形だけは元に戻ってはいるが、俺が未熟なせいか総体魔力量が元々少なく、現在も内包する魔力がかつかつなのだ。

正直なところ、行ったところで宝具の使えない彼女達では戦力にはならない。良くて、ゆんゆんぐらいだろう。

 

「そういえば、ゆんゆんはどうしてるんだ?」

「今、ジャンヌ達を説得しています」

「ご苦労な事だな…………ったく、わかったよ。行けばいいんだろ?」

「ありがとうございます!!!流石はカズマですね。仲間が困っている時はちゃんと親身になって相談に乗ってくれるのですね」

「ばっか、お前。俺はな、こう見えて普段から優しいんだぞ?」

「え?」

 

『え?』じゃねぇよ!!?こいつ、良いこと言った後にこの反応はないんじゃねぇの?自分で誉め立てておいて、俺の言葉に素で疑問符浮かべるとか酷くね?マジでそういう風に思われてるのか?

 

「こ、コホン!それで、その手紙にはなんて書かれてたんだ?」

「これなのですが…………」

 

しぶしぶといった様子で手紙を渡してきた。気のせいか、何故か心配そうな顔をしている。それほどまずい内容が書かれているのだろうか…………?

 

「どれどれ……」

 

『拝啓 愛するわが娘ゆんゆんへ』

 

冒頭から既にめぐみん宛じゃない事に質問をなげかけたが、どうやらめぐみんの手紙も似たような内容なので、詳しく書いてあるゆんゆんの親からの手紙を見せたらしい。

 

『この手紙が届いている頃には既に私はこの世にはいないだろう、たぶん。紅魔の里では、最近よくやられに来る魔王軍共が近隣にアジトを作った。恐らく、いや確実に幹部クラスの強力な悪魔が蔓延っている事だろう。まじ、ヤバイかもしれない\(^o^)/』

 

なんだろう?真面目な内容が書いてあるのだろうけど、所々変な茶目っ気入れてくるせいでものすごく破り捨てたくなる。

 

「…………なぁ、これなに?」

「ゆんゆんの親からの手紙です」

「うんそれは見ればわかる。けど、これだと…………本当にヤバイのか分からないだろ?」

「心配をさせないようにあえてそう書いているのでしょう」

「そう……なのか」

 

疑問は残るが、そういう事にしておこう。真剣な眼差しのめぐみんを見て、恐らくマジなのだろうと思い、再び手紙へと視線を戻した。しっかし、どうせまた下らない文章で書いてるんだろう―――

 

『戦況報告。第一部隊、前線にて魔王軍尖兵と交戦されたし。可及的速やかに排除されたし』

 

―――と、思ったら戦争中かと思わせる文体で書かれてあった。

 

「おい、いきなりシリアスになったぞ?」

「ですから、魔王軍と交戦中なのですよ?内容事態は真剣見を帯びていて当然です」

「そ、そっか…………そうだよな」

 

続いて先を読む。

 

『こちら第五部隊。魔王軍幹部と思わしき敵影と接触。即日戦闘許可を。オーバー?』

『こちら伝説の第二部隊。了解した。直ちに撃退せよ。なるたけカッコよく、おば?』

『おう、オーバーオーバー。おばおば』

『おけ、よろぴこ』

 

…………これは、ふざけてるのかな?

余りにも手紙の内容が酷い。何をどう察して紅魔の里が危険だと思ったのだろう?こいつらどう見ても遊び半分だぞ?しかも、手紙なのに通信記録みたいなの載せやがって…………馬鹿にしてんのか?

 

「おい、これやっぱり―――」

「いえ。最後まで見てください」

「………………おう」

 

どうにも納得がいかないが、未だに真剣な顔をしてらっしゃるので要望通り見てやった。

 

『こちら第…………第…………第三部隊?敵影を撃破なう。次なる獲物の行方を教えてけろ』

『こちら第六部隊。了解した。汝はそのまま待機されるがよろし』

『オーバーキル厨のワイ、震えて魔法待機なう。オーバー?』

『おけ』

 

「………………うぅ~~~~~ん?なぁ、これは流石にイタズラ―――」

「待ってください。ちゃんと最後まで見てください」

「………………わかった」

 

面倒くさいので、途中の文章は省いた。最後の辺りから目を通し始めた。

 

 

『で、あるからにして…………我が紅魔の里は前代未聞の危機に晒されている。ゆんゆん、めぐみんよ。我が紅魔の希望よ。どうかお前達だけは生き残って欲しい。決して、決して戻って来てはならない…………ならないのだ』

 

どうして最後二回も言った?しかも、前の文を見てないからなんとも言えないが…………『で、あるからにして』なんて書き方からすると結構余裕ありそうだな?しかも、最後のアレはふりだな。来るな来るなからのこいよぉ、こっちこいよぉ!…………だろ?

「うん、大丈夫そうだな」

「えっ?ですが―――」

「大丈夫大丈夫。今時戦争中に悠長に手紙送るなんてありえないだろ?しかも内容が半分なめてたし。最後に至ってはフリだぞ?あからさまだろ?」

「…………しかし、恐らく交戦中なのは本当かと思います。なので、やはり心配なので行きたいです」

 

いつになく真面目に頼み込んでくるめぐみん。

こういう時だけ可愛い女はずるいと思う。ちょっと涙をちらつかせたら大抵の男は折れるからな。まぁ、俺にその手は通じないけどな。しかし、それが仲間だと話は別だ。

 

「むぅ……まぁ、心配なのはわかる。ゆんゆんも行きたいって言ってたのか?」

「あ、はい」

「そうか。なら、行くか」

「ありがとうございます!」

 

俺が半ば負けた感じで了承してやると、顔をパァーと明るくして喜んでいた。

 

「実は俺は幼女に対して弱いのか…………?」

「ロリマの異名は伊達ではありませんね」

「うるへっ!」

 

こうして、俺達は紅魔の里へと旅立つ事となった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「おーし、みんな準備は出来たか?」

「出来たわよ。みんな準備完了よ」

 

ついに出発する日の朝がやってきた。今回の旅路の予定はこうだ。

先ずは噂の美人店主のところへいく。これには2つ理由がある。

ひとつはマナタイトの代金を払いに来た事。正直、デュラハンの討伐報酬無ければどうしようか焦ってた。

ふたつめは紅魔の里までの中継地点であるアルカンレティアへテレポートで送ってもらおうと頼みに来た。

 

「よし。それじゃあ行くか」

 

人通りの少ない道、何一つ面白気のない店頭が立ち並ぶ場所にその店はある。

 

「こんちはー」

「あ、カズマさん。待ってましたよ!」

「おう、約束通り払いに来たぞ~」

 

扉を開くと、長い茶髪で我が儘ボディな美人店主が駆け寄ってきた。たぶん、紐で胸の辺り縛ってなかったらボヨンボヨン揺れてそうだな…………見たかったな。

 

「はいよ。マナタイト代」

「あ、はい。確かに受け取りました。それでですね、以前カズマさんか言っていた透視アイテムなんですが、ちゃんと仕入れれましたよ!」

「おうまじか!?よし、それを言い値で買お―――」

「カズマさん?それを買ってナニに使うんですか?」

「買おうかと思ったけど、その話はまた今度な?」

 

まったく……ゆんゆんのやつ、超怖いな。

俺が財布からお金を更に出そうとする手を瞬時に掴み、耳元で冷たく囁いてくる。寒気も来るが、掴む力も半端ない。

 

「えっと……ああ、そうだ。ウィズ、頼みがあるんだけど」

「頼み……ですか?」

「実はかくかくしかじかで…………」

「あぁ……はい、分かりました。ですけど、テレポートは基本的に一度に四人しか送れませんので」

 

らしいので、最初の一陣で送るのはめぐみん、ネロ、ジャンヌの3人だ。その後、俺とゆんゆんを送ってもらう。

 

「それにしても、紅魔の里ですか…………なんだか懐かしいですね」

「ん?ウィズは紅魔の里に行ったことがあるのか?」

「はい、以前商談でひょいさぶろーさんという方に会いに行ったことがあるんですよ。まぁ、その時は不在でしたが……」

「ぎくっ…………」

「ん?どした、めぐみん?」

「いえ。なんでもありません……」

めぐみんがそわそわしている。何か思い当たる節でもあるのか?まぁ、そんなことはどうでもいい。さっさと送ってもらおう。

 

「それじゃあウィズ、一つよろしく」

「あ、はい。それでは皆さん集まってください」

 

3人がウィズの前に立ち並ぶ。

 

「…………こうしてみると、格差社会を感じるなぁ」

「おい、何故私の方を見て言ったのか教えてもらおうじゃないか?」

 

悲しきかな、胸の格差社会。めぐみんを挟んでジャンヌとネロが立ち並ぶと、必然的に胸囲の差が目立つ。

 

「なぁに?めぐみん、あんた胸の大きさを気にしてるの?可愛いところあるのね?」

「いえ、私も将来はゆんゆんが泣いてすがるくらいに我が儘ボディに―――」

「「ないわ」」

「むっか…………!?」

 

抗うだけ無駄だと思うが、めぐみんはどうしても認めたくないようだ。ゆんゆんほどまでとは言わないが、もう少し発育が欲しいと言えば、たぶん殺されるだろうな。

 

「では、送りますよ?」

 

ウィズが魔法を発動すると、光が3人を包んだ。すると、スゥと消えていった。

 

「では、次はカズマさん達ですね」

「カズマさん、こっち寄ってください」

「お、おう……」

 

珍しく積極的に来るんだが、ちょっと引っ付き過ぎじゃないですかね?胸とか軽く当たってるんですありがとうございます。

 

「うふふ、ゆんゆんさんとカズマさん仲が良いですね?もしかして、付き合ってるんですか?」

「ええっ!!?い、いえ…………そういう訳では」

「えぇ?本当ですか?カズマさんも、満更でもないんじゃ―――」

「う、ウィズさん!は、はは早く送ってくださぁい!!」

「ふふ、はい。分かりました!」

 

終始俺は黙ってた。だって反応しづらいし、ゆんゆんの反応が可愛かったから。それより、ウィズって以外とからかってきたりするんだな。ゆんゆんの事を常連さんと言ってたし、仲は良いのかもしれない。

 

『テレポート』

 

そして、再び光が俺達を包んだ。

さて、初めてアクセルの街から出るわけだが…………どうなることやら。心配事はたくさんあるが、良いことが起こる気がしない。ていうか、魔王軍が攻めてる所に行くんだから絶対ろくな事にならないな。

悲壮感に打ちのめされながら、俺は新たな街へと旅立った。

 

 

 

 




なるべくアニメや原作の展開には沿らない様に書いて面白くかけたらなと思ってます。

今回は時間をかけた割には短めですが、楽しんでいただけたらなと思います。


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紅魔の名を冠するイタイ種族

今回も短めです。
別にネタが無いとかじゃないですけど、なんとなくこれくらいでくぎろうかなと感じです。

さて、これからカズマのSAN値が削られていきます……。頑張れカズマ!


「逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「いぃやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

アルカンレティアに着いた俺達だが、馬車を借りようと店を探していたら悪質教徒もといアクシズ教徒に追いかけられていた。俺達を見るや、やれ勧誘だの勧誘だの勧誘だの石鹸が飲めるだの…………石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤うるせぇんだよ!!!!!!

 

「なんであいつら目を光らせてストーキングしてきやがんだよ!!?」

「お客様!!!こちらの書類にサインをお願いします!!!書類上のちょっとした手続きで必要な事ですので!!!ほんと、ちょっとした、ちょっとした事なので!!!!」

「うるせぇ!!!来るんじゃねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

半裸の短パン男が追いかけてくる。こいつは俺達がこの街にやってきた100万人目のお客様とか言って景品とアクシズ教徒の入信書を押し付けてきた。しかも、その景品すらパチもんっぽい。要はアクシズ教徒を増やしたいだけだろう。

 

「なぁ、アクシズ教徒ってみんなああなのか!?」

「はい。あんなものです。ですが…………数が多くて尚うっとおしいです」

「だろうな!俺、一回ぶん殴ってやろうかと思ったもん!!女だろうとしばいてやろうと思ったからな!!!」

 

何処もかしこもアクシズ教徒。ちょっと隣を通り過ぎようものなら目を光らせて大声で勧誘し始める。基本二人一組で、片方が商品を勧めて、もう片方が説明と入信を強要してくる。

うざい、マジでうざい。

 

「ちなみに聞くけど、お前らアクシズ教徒じゃないよな!?」

「違います」

「違いますよ」

「余もだ」

「私は背信者よ」

 

若干一人アレだけど、取り敢えずは仲間に悪質教徒はいないようだ。あのダクネスはエリス教徒だったけか?あいつも大概だけど、こいつらは普通にタチが悪いな。

 

「はぁ、まだアルカンレティアに着いたばっかなのにどっと疲れたぞ…………」

 

はた迷惑な奴らを振り切り、どうにか店までたどり着いた。ようやく足を手に入れた俺達。しかし、ここで問題が発生した。

 

「え?案内できるのは途中まで?何でだよ?」

「紅魔の里周辺は強いモンスターが多くいまして…………大変申し訳ないのですが、その少し手前までしか送ることが出来ません」

「あぁ、そういう事か。なら、仕方ないな」

 

行商人の兄ちゃんが申し訳なさそうに謝ってくる。紅魔の里に関して何も知らない俺も悪いが、そういう事があるのなら先に教えて欲しいもんだ。めぐみんとゆんゆんに聞いたら『里のみんなは散歩がてら狩っていたので、そこまで強いと思ってなかった』と供述した。

尚、お兄さん情報によると、『安楽少女』と『メスオーク』には気を付けたほうがいいらしい。理由は…………『メスオーク』の方はぞっとするのであまり話したくない。簡単に言うと、男を襲うらしい。襲ってアレするらしい。あの、雌しべと雄しべが受精する的なやつ。

『安楽少女』は同情を誘い通りかかった人間を死に追いやる人型モンスターらしい。その詳しい理屈は知らないが、出会ったら取り敢えずはぶっ殺せと言われた。さっきの気の優しそうなお兄さんがそう言ってたんだ。それほど恐ろしいのだろう。

 

「仕方ない。そこからは歩いて行くか」

「大丈夫です。里までの道は分かるのでなんとかなりますよ」

「でも、『メスオーク』とかに襲われたら嫌だぞ?俺、チビりそうだぞ」

「大丈夫です。カズマさんにそんな事をしようとする獣は私が一匹残らず駆逐します。塵も残しませんよ」

「お、おおぅ…………助かる」

 

笑顔からの低いトーンで絶対殺す宣言をするゆんゆん。頼もしいが、こっちもこっちで怖いんだよな。本当に殺りかねないし、実際に俺に恋人が出来たらなにしでかすか想像もつかない。

 

「では、私はここまでですので」

「ああ、ありがとな」

 

危険区域の手前まで送ってもらい、お兄さんは帰っていった。その先の地形を見ると、何一つ障害物のない草原が広がっていた。

 

「…………潜伏スキルで行くか」

「そうね。無駄な戦闘はさけるべきだわ」

 

俺を先頭に、ゆんゆん、ジャンヌ、めぐみん、ネロという順番で並んで進む。一応『敵感知』スキルも発動させながら。

お兄さんに貰った周辺の地図とゆんゆんの指示を頼りに難なく進んでいく。しかし、20分ほど歩いた辺りで『敵感知』スキルに反応が合った。

 

(これは…………複数いるな?しかも、この感じは戦ってる可能性が高い。人と…………他はモンスターか?形からしてグリフォンみたいな大型の鳥獣類だな)

 

草原といえど、草がかなり大きく生い茂っており視界が悪い。その為離れた所まで視覚出来ず曖昧な情報しか入らないのだ。現に、後ろにいる仲間は誰かが交戦していることなど気づいていない。

俺がその事を伝えると、めぐみんが『それは恐らく素材収集のために紅魔族が狩りをしている』と教えてくれた。

 

(すげぇな、そんな『ひと狩り行こうぜ!』みたいなノリで危険なモンスターに挑むかよ)

 

慎重に近づいていくと、確かに紅魔族らしき人達が集団でよってたかって上級魔法を撃ち込んでいた。『インフェルノ』、『カースドライトニング』のような上級スペルばかりでフルボッコしてた。

 

「マジかよ。一方的過ぎね?」

「この世界の魔法も侮れないわね。キャスターの宝具に匹敵するんじゃないの?」

「紅魔族は基本、上級魔法しか習得しませんから」

 

確かに危険区域に囲まれても現存しているのも頷ける。これだとそこらの魔王軍じゃ相手にならないだろう。

その後はしばらくそこで戦闘を観戦していた。この人達についていった方が安全だろうしな。

 

「いやぁ~、いい仕事したー」

「ふっ、我の前にひれ伏すがいい」

 

戦いが終わると、それぞれがイタイ台詞や仕事人のような事を呟き始めた。頃合いかなと思った俺は『潜伏』スキルを解いてコンタクトを試みた。

 

「あの~」

「ん?あなた方は…………?」

「俺達、紅魔族の連れの頼みで里に来たんですけど―――」

「おおっ!?めぐみんとゆんゆんじゃないか!?」

「久しぶりじゃないか!?」

 

俺の後ろに隠れてるゆんゆんとどや顔で構えるめぐみんを見て驚く紅魔族の方達。しばらくぶりの再会だろうからあえて俺を無視してそっちに駆け寄っていくのは許してやろう。どうせゆんゆんが俺に引っ付いてるから完全無視は出来ないだろうからな。

 

「いやぁ、本当に久しぶりだな。どうした、里が恋しくなったのか?」

「いえ、そうではなくて―――」

「ふっ、紅魔の宿命というやつか。貴様も、約束の地に導かれたのだろう?」

「ふふふ、我が右目が疼きます。封印されし我が力、解き放つ為に舞い戻ってきました」

「ふっ、やはりか」

 

ああーイタイイタイ。めぐみんも元がそういう奴だと知ってるけど、これ見てて普通に恥ずかしいからな?なんだよ、右目が疼く?眼科行け。封印されし我が力?んなもんあったらとっとと解放して冒険に役たててくれ。無いだろうけど。

 

「えっと…………俺は佐藤カズマっていいます。それでこっちの二人はジャンヌとネロ。めぐみんとゆんゆんも含めてみんな俺の冒険仲間です。それで、あなた達は―――」

 

軽く紹介を済ませ逆に問おうとしたのだが、それに瞬時に反応し、いきなりポーズを取って叫び始めた。

 

「なんだかんだと聞かれたら!」

「答えてあげるが世の情け!!」

「ふぁ!?」

 

何処かで聞いたような台詞だな。

 

「世界の破壊を防ぐため」

「世界の平和を守るため!!」

「おいちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!ポ○モンの台詞丸パクりしてんじゃねぇ!!!」

「カズマ、今いい所なんですから邪魔してはダメですよ!」

「良くねぇよ!?」

 

俺のツッコミでどうにかとどまった。だが、前の二人は不満らしく何処が悪かったのか自問自答し始めた。

 

「はぁ、普通に名前教えてくれよ」

「むっ?そうか。我が名は―――」

「ああそういうのいいんで」

「ぶっ…………ぶっころりーです」

「ぶろっこりー?」

「ぶっころりーです」

「ぶろっこりー?」

「ぶっころりーです」

「ぶろっこ―――」

「ぶろっこりーだ!!!あっ!?じゃなくて、ぶっころりーだ!!!しつこいなアンタ、間違えたじゃないか!!?」

「…………ふっ」

「き、貴様……!?」

 

ちょっとからかってやった。案の定、俺に乗せられて名前間違えてやんの。ぷぷっ!ていうか、ぶっころりーてどういうネーミングセンスしてんだ?めぐみんがまともに聞こえてくるぞ。

 

「で、あんたの方は?」

「我が名は―――」

「ああやっぱりいいよ。どうせマヨネーズだろ?いや、ドレッシングか?」

「違うわ!!!野菜繋がりで勝手に名前を捏造するな!」

「悪い悪い。俺が悪かったよ、エビマヨ」

「もはやマヨネーズ繋がりになってる!!?俺の名前は―――」

「ぶろっこりー、里までの案内してくれよ?」

「おい!?無視か!!?」

「ぶっころりーだと言ってるだろう…………ったく、我ら『対魔王軍遊撃部隊(レッドアイ・デットスレイヤー)』も舐められたものだ」

「ああー凄い凄い。強そう、マジ凄そうだわ」

「「完全になめられてる!!?」」

 

正直こいつらの自己紹介なぞどうでもいい。感性が違いすぎて理解など到底出来るはずもない。

 

「カズマ、あんた結構ズバズバ言うわね?」

「ん?お前からも何か言ってやれよ」

「おや?君、中々活かした鎧着けてるね?それにその旗、いいセンスだ」

「はぁ?イカれたセンスのあんたらに言われても嬉しかないわよ」

「ひ、酷い…………!」

「お前も大概だな…………」

 

ジャンヌも彼らの鬱陶しさにほとほと呆れていたのか、反応が冷たい。たぶん、アクシズ教徒と出会った後だからというのもあるだろうな。

それからは特に問題なく事が進んだ。めぐみんがうまい具合に仲介人役をしてくれたお陰でイタイ奴等の話を流しつつ無事に里までたどり着いた。

 

「ふっ、また我らの力が必要な時は呼ぶがいい。その時は、例え時間や空間を隔てていても駆けつけよう。それが、我ら紅魔の絆、禁忌に触れようと―――」

「ああはいはいそういうイタイ設定とかいいから、はよ帰れ」

「お、お前は俺達に対する態度が酷くないか!?」

「え?超フツーだよ?ナチュラルだ」

「フツーでこれか!?めぐみん、ゆんゆん、お前らはもっと仲間を選んだ方がいいんじゃないか?」

 

最後にぶつくさ垂れながら去っていった。

我ながら大人げなかったかとも思ったが、相手がああいう人種なのだ、大丈夫だろう。明日には忘れてまたあのイタイ台詞を言ってきそう。

 

「さて、まずはどっちから行く?」

「私は後でいいですよ。ゆんゆんからで」

「えっ?そ、そう?ううん…………緊張するなぁ」

「何でだよ?実家だぞ?」

「…………ああ、そういう事ね。分かったわ、私とネロはそこら辺の店で暇を潰してるから、行ってきなさい」

「うむ、ちゃんと紹介するのだぞ?」

「ね、ネロさん…………!?」

「は?お前ら何言って…………?」

「カズマ、たまには男見せなさいよ。親の前だからって萎縮しないことよ」

「親?萎縮?……………………って、ちょっと待てお前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!そういう事か!そういう事なのか!!お前らふざけんなよ!!!そういうんじゃないから!!!その為に来たんじゃないからな!!!?めぐみんも何か言ってやれよ!!!」

「全く、二人ともおふざけが過ぎますよ。カズマなんか紹介されても親御さんが困るでしょう」

「お前もひでぇな!!?」

 

腹立つわ―。こいつら、面白がって人を玩具にして遊びやがって…………マジで緊張してくるだろが。

「ゆんゆん、頼むから普通に紹介してくれよ?あくまで冒険仲間だぞ?わかったな?」

「え?…………あ、はい。わ、分かりました」

「………………おい?なんで目を逸らす?」

「え?…………あ、そういえばもう手紙で紹介してるからカズマさんの事は知ってますから大丈夫ですよ!」

「なんて書いた?」

「………………………………………………………………………………あ、そこの角を曲がった所に私の家があるんですよ!」

「おい、話を逸らすな!真面目に―――」

「それじゃ、後はあんたらでよろしく―」

「おい待てジャンヌ!おまっ―――」

「カズマ、早く進んでください。後がつかえてるんですから」

「おい待てそれはどういう意味―――」

「ただいま、お父さん!」

 

俺の心配を無視してさっさと玄関の扉を開けやがった。めぐみんもサラッと気になること言ってたし、こいつら俺をはめる気なのか?

 

「おぉ、ゆんゆん。帰ったのか、いやぁ長旅だったろう?ほら、早く入ると…………おや?お客さんも連れてるのか?」

「うん!手紙で言って―――じゃなくて、冒険仲間のカズマさんだよ」

「おい、まじて何書いたんだよ。なんで言い方変えた?おい、ゆんゆん」

「おぉ、君がカズマくんか?」

「あ、えっと…………ゆんゆんの『冒険仲間』のカズマです。日頃からゆんゆんには色々と―――」

「ああ、そういう堅っ苦しいのはいいから、取り敢えずは入るといい」

「は、はい…………」

 

ゆんゆんの親は族長らしい。故に俺もその事で少し緊張していた。だが、それに加えて見た目のいかつさから更に気まずい。口を滑らせたら何されるか…………。

 

「まぁ、かけたまえ」

「は、はい……」

 

いわれるがままに接待用の部屋に案内され、畳の上に用意された座布団に座る。

 

「それで、ゆんゆん。帰ってきたのはやはりあの手紙を見たから、なのかな?」

「うん」

「そうか…………」

 

やはり、というか何かを悟ったような感じでしかめっ面を浮かべる。まるで、来てしまったのかという雰囲気だ。

 

「非常に言いづらいのだが」

「……?」

「あれはほんの悪ふざけだったんだ」

「「「へっ?」」」

「いやぁ!なんだかな、ゆんゆん宛の手紙をいつもみたく面白気もなくというのもあれでな?ひょいさぶろーさんと協力してシリアスっぽく書いてみたんだよ。はははははは!」

「「「……………………」」」

「はははははは…………コホン。…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………すまん」

「なぁ、ゆんゆん?お前のお父さん殴っていいか?」

「どうぞ」

「ゆんゆん!?」

 

このクソ親父舐めてやがる……!わざわざこんな危険な所まで来たのに、真相は『茶目っ気いれてみました、テヘッ!』だと!!?

ぷっつんですわー、カズマさんぷっつんですわー。

 

「…………まったく。お父さん、悪ふざけも大概にね?」

「すまん、ワシが悪かった」

 

取り敢えずこれにて一件落着だ。納得はいかないが、手紙に書いてあったような危険はないようだ。

 

「無駄足だったな……」

「ん?ああ、そういえば…………ゆんゆん?カズマくんとは何処までいったんだい?」

「お、お父さん!?」

「いやぁ、娘もいつかは恋をするとは思っていたがこんなにも早いとは…………お父さん感慨深いぞ」

「ち、違うから!あれはその……」

「この前の手紙だけで『カズマさん』という単語が42回使ってあったぞ?それだけでカズマくんの事がとても好きなのだと分かる」

「あ、あの……?」

「うむ、カズマくん。これからはお義父さんと呼ぶといい」

「…………えぇ?」

困ったことにあちらはかなり乗り気のようだ。それからあれよこれよと話すと、『やはりな』といった感じで納得された。全く意味がわからんが。

それからほどなくして、今度はめぐみんの家へと向かった。

 

 




章タイトルに書いてあるように、紅魔編では強敵が結構現れます。シリアスになるまでは今までみたくハチャメチャな内容が続きます。
小説本編ではあまり出番の無かった紅魔の少女達も出そうと思っています。

それでは、なるべく近いうちに続きを投稿しようと思うので次回も読んでいただければ幸いです。


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最強兵器こめっこ降臨

前回と前々回で平均文字数が落ちたので、平均10000文字を維持するためにちょっと多目です。

話の内容は相変わらずハチャメチャ、でもちょっと今後の展開も混ぜておきました。


ゆんゆんの家で尋問のような質問攻めを受けた後、どうにか話を切り終えてめぐみんの家へと向かった。族長からは、『今日は泊まるといい』と何度も年押しされた。

 

「いきなりそんな事言われても困るんだよな…………」

「え?どうしてですか?何か困る事があるんですか?」

「だってなぁ、いくらゆんゆんと言えど女の子の家に泊まるんだぞ?緊張するし、親御さんの配慮が気まずい。普通に迷惑なんだよ。あ、別にゆんゆんが嫌とかじゃないぞ?」

「分かってますよ。カズマさんは優しいですもんね」

 

本当にわかっているのだろうか?俺が言いたいのは、ゆんゆんの性癖が怖いという事だと。あの子のヤンデレ具合は日に日に悪くなってる気がするし、少しでも他の女の話をすると、ゆんゆんと親父さんの顔が険しくなる。ほんと、息が詰まる思いだ。

 

「めぐみんの親はまともなんだろうな?」

「当たり前じゃないですか。どこぞのぼっちと一緒にしないでください」

「え!?どうして私が貶されてるの!?」

「マジで頼むからな。俺は元々人と話すのが得意じゃないんだ。まして親とか…………帰りてー」

 

帰りたい気持ちを抱え、仕方なくといった感じで歩く。里自体はさほど広くないので直ぐに着きそうだ。先の会話で既に手紙がおふざけだと知っているので変に気負いしなくてもいい訳ではない。ゆんゆんみたく、俺の事をあることないこと語っている可能性がある。

 

「着きましたよ」

 

めぐみんに案内され着いた家は、今にも崩れそうなボロボロ物件だった。

 

「…………」

「おい、何故無口になって可哀想な目で我が家を眺めているのか聞こうじゃないか?」

「…………いや、別に何でもない」

「むぅ、家は貧乏なんですよ。仕方ないではないですか?そこのボッチみたく、肥えてないんですよ」

「ねぇ?どうして私の胸を見ながら言うの?これは関係ないよね?」

「さて、入るとしますか」

「無視!?」

 

わんわん喚くゆんゆんは置いといて、玄関を開けると、歴史を感じさせる古びた家特有の匂いが舞い込んできた。中を見ると、やはりといった感じでボロボロで中で誰かが歩いているのかギシギシ聞こえてくる。

 

「帰りましたよ」

 

めぐみんがそう言うと、数秒置いてバタバタと聞こえてきた。

 

「おねーちゃん?おねーちゃんだ、おかえりー!」

「おお、こめっこ。ただいま帰りました。元気にしていましたか?」

「うん!」

 

中から出てきたのはめぐみんを小型化したような小めぐみんだった。ただ、本人と違いその表情にはあどけなさがあり、まさに幼女という感じで仕草も可愛らしかった。

 

「私の妹に発情しないでください、いやらしいです」

「してねぇよ!?やっぱり妹言うだけあって似てるなって思っただけだよ!」

「久しぶり、こめっこちゃん」

「あー、えっと…………えっと……………………誰だっけ?」

「忘れられてる!!?」

「………………あっ!そけっとぉ?」

「違うよ?ゆんゆんだよ、ゆんゆん。昔何度か会った事あるよね?」

「えー?違うの?だってボインだよ?合ってないの?お姉ちゃん、誰?」

「…………………………………………ぐすっ」

 

時に、純情無垢な子供の言葉は心に突き刺さる。まして、それが知り合いの妹となるとダメージが尚大きいのだろう。

 

「まぁまぁ、ゆんゆんもそんな落ち込むなよ。ゆんゆんが本当にほしいのは友達だろ?大丈夫、きっといつかめくり会えるさ」

「カズマさんもサラッと酷いです。いつかと言わず今欲しいんです……」

 

うぅむ、年頃の女の子の気持ちは分からん。というか、友達欲しいならそれ相応の職種に着くべきだったろうに。冒険者で『友達』を作ろうだなんて無茶だし、そういう職種じゃないから。仲間で我慢してほしいもんだ。

 

「えっと、こんにちは、こめっこちゃん?」

「……………………」

「あ、あれ?こめっこ…………ちゃん?」

「……………………」

 

あれ?何故かフリーズしたぞ?俺、なんかおかしい事言ったか?

その後数秒の沈黙を経てこめっこはようやく口を開いた。だが―――

 

「おとーさん、おかーさん、お姉ちゃんが男引っ掛けて帰って来たー!」

「おいちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

こめっこは俺の予想を上回る爆弾発言をしていった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

「さて、先ずは掛けるといい」

「あ、はい…………」

 

あの後、両親が苦笑いしながら出てきた。『この子はまた何を言って…………』という感じだった。だが、俺を見た瞬間何故か真顔になった。そして、渋い声で中に案内された。

 

(それで今に至る訳だけど……………………気まずい!)

 

ゆんゆんの家と違って両親が出てきたのもあるが、こっちの親もまた渋い顔で、それっぽい雰囲気と威厳を発している。隣にいる奥さんはやんわりとした表情でこちらを見ている。めぐみんの親だけあって、40前後と思われるのだが、かなり美人だ。案の定胸囲が寂しいのだが。

 

「何か言いましたか?」

「いっ!?いいえ!な、何も言ってません!!」

 

おかしい、心を読まれた。どうも紅魔の人間は悟いな。めぐみん然りゆんゆん然り、妙なところで鋭い。

 

「さて、カズマくんだったかな?」

「はい…………」

「君の事は手紙で聞いているよ。娘がお世話になっているようだね」

「い、いえ……」

「うふふ、そんな謙遜なさらなくてもいいんですよ?」

「あ、あはは…………そう言って頂けると幸いです」

 

なんだろう、親の圧力とでも言うんだろうか?正直口が重いというか、何を話していいか皆目検討がつかない。精々返事をするのが精一杯だ。

 

「めぐみん、あなたからも紹介しなさいな」

「この二人が私の親です。以上です」

「全く…………すみませんね?家の娘はこうふてぶてしい所がありますので……」

「い、いえ。もう慣れましたから」

「うふふ、まぁそうでしょうね。あれだけ仲が良い風に書かれているんですから」

「………………え?」

 

聞き捨てならない言葉が聞こえた。え?いま、なんて?

瞬時にめぐみんをこっちに引っ張り、小声で問い詰めた。

 

「おい、お前手紙になんて書いた?言え」

「は、はて?私は事実を書いたまでですよ?」

「なんでそこでハテナがつくんだよ、正直に言えよ」

「あらあら、本当に仲がいいんですね?」

「あ、これは、その…………」

 

振り向くと、奥さんの方がニヤニヤと笑っていた。声も表情も優しいのだが、妙に気になる言い方をしてくる。この人、俺に何を見ているんだろう?

 

「そんなにくっついて、いつもこういう感じなの、めぐみん?」

「えっ!?あ、いえ、その…………あ、ああ!そういえばこめっこは私のお土産が気になっていたんですよね!?先に開けて―――」

「こめっこなら先に貴方のお土産を食べてたわよ?」

「なっ!!?」

「すみません、めぐみんの手紙に何が書かれてたのか教えてもらえませんか?」

「いいですよ」

「ちょ、やめ―――」

 

反発するめぐみんの頭を押さえて、奥さんへと問いただしてみた。

奥さんは『うふふ』と笑いながら、頬に手を当てて楽しそうに話し始めた。

 

「例えば…………カズマさんはいつもめぐみんにセクハラをしてきて、私にメロメロだー……とか」

「おい」

「…………」

「他にも、いつも私を見る目がエロいとか」

「おまえぇ……」

「今度一緒に暮らそうって言われたとか」

「「…………」」

「いつもめぐみんをおかずに―――」

「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

秘技『スライディング土下座』

※言い訳が苦しくなったときは迷わず使うんだ!

遂に俺の方まで苦しくなるような事を述べ始めた。最初はまぁ言いがかりと処理できたが、最後らへんは洒落にならない。完全にプロポーズだろ。

 

「すみません、違うんです、許してください」

「いえいえ。責任さえ取っていただければ構いませんよ。めぐみんも、少なからずカズマさんに好意を―――」

「あ、ああ!そういえばまだ友達に挨拶をしてませんでしたね!!行きましょうか!!?」

「めぐみん、あなた友達いないでしょう?」

「「え?」」

「な、ななななな何を言っているんですか!!?いますよ、一人や二人いますよ!!!」

「そうね、ゆんゆんさんと仲が良すぎて百合の花だって、周りから敬遠されてたから…………ゆんゆんさんしかいないのよね……」

「「違います!!!!」」

 

おお……やはり里でも百合扱いされてたのか。仲の良さはさておき、めぐみんが俺に好意を抱いてると奥さんが言いかけた気がするんだが、とりあえず置いておこう。問い詰めると、ゆんゆんが覚醒しそうだからな。目が紅く光ってレーザービーム放ちそうだ。

 

「カズマくん。君は、娘の事をどう思っているのかね?」

「仲間です」

「カズマくん。君は、娘の事をどう思っているのかね?」

「…………仲間です」

「カズマくん。君は―――」

「しつけぇよ!!?あ、いやっ…………その、言わせたいだけですよね?」

「……………………質問を変えよう」

 

何かを決心したかのように顔をクワッと険しくさせたかと思うと、身を乗り出して質問してきた。

 

「3億エリスの話は本当かね?」

「…………へ?」

「めぐみん、本当なのか?」

「ええ、まぁ一応」

「…………そう、か!」

 

次の瞬間、二人は大急ぎで動き始めた。

 

「母さん、この家一番のお茶を出すんだ!」

「あなた、家には一種類しかありませんよ!いえ、でも出来る限りのお菓子は出しましょう!!先行投資ですもの!!!」

「あ、あの…………」

「いやぁ、カズマくん。ゆっくりくつろいでくれたまえ!3億エリスの話はまた今度詳しくするとして……うん、君さえ良ければめぐみんを託そうじゃないか?」

「すみません意味がわかりません」

「いやいや、君と一緒にいれば家は大儲け―――じゃなくて、とても助かるんだ。どうだね?今後とも家族ぐるみで付き合っていこうじゃないか?」

「おいめぐみん。手紙といい、お金といい、お前の父さんいい性格してるな?」

「ええ、そうでしょう。その腐った性根を叩きのめす為にも一発くれてやってください」

「おし、わかった。歯ぁくいしばれぇぇぇぇぇ!」

「ま、待ちまえ!いいか、落ち着くんだ。ほら?ひっ、ひっ、ふー。ひっ、ひっ―――」

「ふーーーーー!!!」

「あうちっ!!!?」

 

思いっきりしばいてやった。

 

「あ、あなた!?」

「すみません、俺の右手が疼いて仕方なかったんです。しばき倒せと轟き叫んでたんです」

「まったく…………あなた?そんなに攻め過ぎてはダメですよ?」

「あ、あれ?怒らないどころか無視―――」

「カズマさん」

「は、はい…………!?」

 

しばき倒しておいてなんだが、まるで状況がつかめてない。奥さんは旦那さんを軽く宥めると一枚の手紙を出してきた。

 

「これにサインしてください。慰謝料はこれで勘弁してあげますので」

「え?………………あの、これ婚約届けなんですが?」

「はい、そうですよ?」

 

いやまるで意味がわからんのだが?つか、慰謝料ってさっきの一撃怒ってるのかな?それとも弱みにつけ込んで更に俺からたかろうってか?

じわりじわりと寄ってくる奥さん。そこで屍となって横たわっているひょいさぶろーもせめてもの反撃として足を掴んでくる。おかげで後ろに下がれず奥さんという驚異から逃れずにいる。

 

「あの、カズマさんも困ってますので…………やめてもらえませんか?」

「ゆんゆん……!」

 

ここでようやく最終兵器ゆんゆんが動いた。よし、やれゆんゆん!お前のヤンデレでこの場を打開するんだ!!

 

「あら?ゆんゆんさんもカズマさんの事が好きなの?あらあら、困りましたわね~、二股は許せませんよ、カズマさん?」

「お義父さん、そういうの許しませんからね!」

「お、俺は悪くないですよ!勝手にその気になっているのはそっちじゃないですか!?」

「あらあら?言い訳とは見苦しいですよ?」

「ちょっと待ってください!ほら、ゆんゆんも何か言ってやれ―――」

 

そこでゆんゆんの方へ助け船を求めたのだが、いつの間に臨戦態勢に入ったのか、杖を持って魔法をつかおうとしていた。

 

「奥さん、カズマさんは渡しませんよ」

「うふふ、ゆんゆんさんったら、余程カズマさんにご執心なんですね~?」

「そういう奥さんはお金にご執心みたいですね?お金と結婚されたら良かったのでは?」

「「うふふふふふふ…………!!」」

 

こっわ、なにこの人達!?女の醜い争いがいまここに起ころうとしている!?

俺が現実逃避しようか悩んでいたのだが、そばでお菓子を貪り食っているこめっこを見て閃いた。

 

「こめっこちゃん、ちょっといいかな?」

「うん?なにー?」

「実はな……」

 

俺は、こめっこを利用してこの二人を撃退する作戦を考えた。卑怯かも知れないが、この無垢な子供を利用させてもらおう。相手が金の亡者なんだ、多少は手段が汚かろうがいいだろう。

 

「おとーさん」

「ん?なんだ、こめっこ?」

「おとーさんなんて大っ嫌い!!!」

「んなっ…………んだとぅ!!?」

 

奥義『無垢なる子供の嘆き』(おとーさん、だいっきらい!)

これは、娘を溺愛している親父さんほど威力が高まるこめっこ保有のエクストラスキルだ。効果としては、麻痺、唖然、攻防ダウン、混乱、意識ダウンなどといった状態異常などがある。

 

「こ、こめっ…………こめっこが…………わしの事を…………きっ…………きら…………きらい?は、はははは…………はははは…………はぁ」

(なんかすごくダメージ受けてる)

 

どうしよう、思いの外ダメージが大きいみたいだ。後が心配だけど今は放っておこう。先に奥さんの方だ。

 

「次は奥さんの方だ。こめっこ」

「うん!」

「流石はカズマ。戦略的にエグい方法ばかりとりますね……」

「うるへ、元はお前のせいだろうが。少しは手を貸せよ」

 

次なる作戦をこめっこに伝える。

 

「行け!こめっこ!!」

『おかーさん、固形物食べたい!!!』

「うっ!!?…………うっ、私だって…………私だって…………食べたいのに。私は悪くないのに。悪いのは稼ぎのないあの人なのに…………うぅ」

 

奥義『無垢なる少女の本音(お腹…………空いたよ、お母さん?)

日頃は家が貧乏な為にお腹いっぱいに食べられない子供の嘆き。本当に言いたい、言いたいけど、親を困らせたくない。そんな無垢な子供の本音をさらけ出すことにより衝撃を与える物だ。これを聞いたものは立ち直れない…………精神的に。

 

「な、なんだか分からないが相当ダメージを受けてるみたいだな」

「カズマさん、今のうちです!」

「お、おう……。こめっこ、後で何か美味しい物買ってきてやるからな。二人の事は頼んだぞ?」

「うん!おにーちゃん、美味しい物たくさんくれるから大好きー!!」

「は、ははは…………この子、将来大物になるな」

 

どうしてこんな状況になったのか最早頭を悩めるレベルなのだが、ひとまずは逃げる事にした。もう、この二人の親には極力関わらないようにしよう。絶対ろくな事にはならない。

 

「い、行くぞ二人とも……」

「はい」

「こめっこ、そこのお菓子はお姉ちゃんの分も残して置くのですよ?」

「…………おにーちゃん、またねー!」

「おう!」

「あ、あれ!?こめっこ、返事は!!?返事はどうしたのですか!!?」

「…………あ、あとそけっともねー!!」

「ゆんゆんだよ!?」

「あ、あの!?こめっこ!!?」

 

後の事はこめっこに託した。

死屍累々となったご両親を一別すると、俺はジャンヌ達の元へと向かった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

カズマ一行と別れたジャンヌ達は近くに合った店で暇を潰していた。

 

「この餅美味しいわね」

「うむ、あんことやらをかけて食べるのもあるが、それもまた美味!」

「おやおや、お客さんはあんこ餅食べるのは初めてかい?」

 

風情を感じさせる店にて里を眺めながら食べていると、店の主のお婆さんが話しかけてきた。ネロはいつもみたく笑顔で「うむ!」と答えたが、ジャンヌは何処かぎこちなくしていた。

 

「え、えぇ……そうよ。それよりばばあ―――じゃなくて、婆さんは店の仕事放り出して呑気に客と会話?」

「言い直さんでも聞こえておるぞ?それと、どのみち暇なんでな。こうしてのんびり構えてる訳じゃ」

「へぇ、あそ。それで、なんかよう?」

「…………お主ら、奥のお客と知り合いかの?」

「「?」」

 

店の主にそう言われて振り向くと、なるほど、普通に怖い感じの客が座っていた。褐色系の肌にタラコ唇、加えて鋭くてそれでいて何かを睨み潰すような視線は怖くて堪らないだろう。その男は物音立てず淡々と団子を食べていた。このお婆さんがこうして逃げるようにこちらへ話しかけてくるのも頷ける。

 

「まったく、怖くてたまらんねぇ……」

「…………そうね」

「……ジャンヌ?」

 

急に声のトーンを落とすジャンヌに疑問を覚えるネロ。彼女の様子がいつもと違い、尋常でないほどの殺気を後ろに向けて放っていた。

 

「お婆さん、勘定はここにおいておく」

「んあっ!?あ、ああそうかい……」

 

男は食べ終えると、そそくさと勘定を置いて外で食べているこちらまで歩いてきた。出口がこちらにあるにせよ、何度かこちらをじろりと見てきた。その事に少しは嫌な感じがしたのだが、ジャンヌの方を見ると端にいる自分には聞こえない程度に何かを呟いていた。

 

(いま、何を…………?)

 

読唇術を心得ている訳でもなく、当然ネロにはその言葉が聞き取れなかった。

だが、ジャンヌは今度は確かな殺意を持って、彼にこう告げた。

 

「相変わらず、悪趣味な武器ね……」

「…………ジャンヌ?」

「何でもないわ。それより、そろそろ行きましょう」

「う、うむ……」

 

何かを言いかけたジャンヌだか、その事について特に問いつめる事はしなかった。暴君と言われたネロだが、さっきの様子から見て安易に触れて良い案件では無いのだろうと思い、聞かずにいた。

それから二人は会話もなく里を練り歩いていた。

 

(むぅ、何か話すべきか……?)

 

あれから何も会話が発生せず、気まずい雰囲気が続いていた。幾度か興味をそそる店がちらついていたのだが、ジャンヌの放つ異様な雰囲気がそれを拒んでいるように見えた。

 

「…………ん?なにあれ?」

「…………?」

 

ようやく言葉を発したかと思うと、疑問符を浮かべて側にある店で何やら男と店員がもめていた。

 

「なぁ、頼む。これ買い取ってくれ!」

「そんな事いったってなぁ…………あんた、なんでこんなに石鹸と洗剤を仕入れたんだ?」

「アクシズ教徒に無理やり押し付けられたんだよ!!!」

「アクシズ教徒…………すまんが、他所を当たってくれ」

「あ、おい!頼む、頼むよぉぉぉぉぉぉぉ!!!もう嫌なんだよ、あいつら俺を見るたびに洗剤と石鹸を勧めてくるんだ!!!これだけじゃなくてもっと数を抱えてるんだよ!もう、もう石鹸と洗剤を見るだけで…………洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!頭がおかしくなりそうだ!!!綺麗になっちまうわぁ!!!!」

「あんた、頼むから帰ってくれ……」

 

お店の前でその男は発狂していた。店主も周りも色物を見る目で避け始めていた。

 

「…………何あれ?」

「分からん。ただ、あれはもはや狂人の域だな。かかわり合いにならない方が無難だろう」

「そうね、早くカズマと合流しましょう」

 

あえて目を向ける事はせず、そのまま歩みを進めた。

それからほどなくして待ち合わせた所へ着いたのだが、少しくるのが早かったのかまだ誰もいなかった。

 

「あいつ、まさか親に乗せられて政略結婚でもさせられてんじゃないの?」

「結婚?齢14で結婚出来るのか?」

「らしいわよ。この前のダストっていう文字通りのゴミ男が豪語してたわ」

「ジャンヌはたまに物言いがキツイときがあるな」

「いつものことよ」

 

特に会話が弾む訳でもなく、端的な会話をしていた。

 

「…………ったく、なんであいつがいんのよ」

「…………ジャンヌ?」

「なんでもないわよ、こっちの話」

「そ、そうか……」

 

やはり先の事を気にしているのだろう。表情が堅いままだった。それに、何故か先程から周囲への警戒をしている。まるで、何者かからの襲撃に備えているかのように。

 

「…………ジャンヌ。お主は一体、何にいらついているのだ?」

「いらつく?そんな生易しいもんじゃないわよ。あんただって少しは感付いているんでしょう?さっきの男のこと」

「…………しかし、勘違いではないのか?余はルーラーでもなければそういった判別スキルもない。詳しい事はわからないのだ」

「…………まぁ、かかわり合いにならなければ問題ないでしょうけど」

 

そして、それからも会話が続く事はなく、そのまま周りから眺めながら待機していた。

ほどなくしてカズマ達が戻ってきた。

 

「おう、終わったぞ」

「そう。どうだったの?」

「手紙は嘘だってよ。茶目っ気いれただけのおふざけだったらしい」

「はぁ!!?なにそれふざけてんの!!?そいつ、ぶっ殺してきたんでしょうね!?」

「お、落ち着け……どした?なんでそんな怒ってんの?」

「別に……なんでもないわよ。それで、今日の宿はどうするのよ?」

「…………………………よし、こうしよう。めぐみんとゆんゆんはそれぞれの家で。俺達は宿をとろう」

「はぁ?どっちかに泊まった方が―――」

「頼む!……………………な?」

「あんたこそ何があったのよ…………」

 

お互いに何かあったのだろうと気を使い、それ以上の言明は避けてくれた。

「カズマさん、私も宿に泊まります」

「え?いや、別にゆんゆんは―――」

「泊まります」

「…………そう?」

「私もそうしましょうかね。今のあの家には戻りたくないですし」

「いや、半分自業自得だからな?」

「はて?なんのことでしょう?」

 

こいつ、白々しく口笛吹いてやがる!?こんにゃろう……その柔らかそうな頬を思いっきり捻ってやろうか。

しかし、俺もそこまで大人なげない事はしない。夕暮れまで時間もあることだし、それぞれに好きな事をさせようと思う。

 

「めぐみん、ゆんゆん、お前ら久しぶりの故郷なんだし誰かに会ってこいよ。友達とかさ」

「「…………」」

「あんたねぇ…………いまのわざとでしょう?」

「え?…………あっ!そ、そっか。そうだったな。すまん、皆で観光巡りしようか」

「……ちょっと傷つきましたよ」

「…………私もです」

 

しまった。忘れていた。二人には会いに行くような『友達』がいないということを。

 

「でもさ、ゆんゆんは以前ふにふら?……だとかどとんこだったっけか?その子達の事を友達って言ってたろ?」

「ああ、それはただかつあげされてた人ですよ。友達という単語をちらつかせて彼女をたかっていたらしいですよ」

「なんだそれ!?酷くね!?」

「うっ…………友達だと思ってたのに」

「ど、ドンマイ……ゆんゆん!」

 

ここで忘れていたリアルぼっち設定の実態が明らかになっていく。ただのぼっちに飽きたらず、たかられていたとは…………これ、大丈夫か?

 

「めぐみん、ゆんゆん、お前ら苦労してきたんだな……」

「認めたくはないですが、苦労してきたのは事実ですね。日々の食糧にすら頭を悩ませ、誰かにねだらなければ栄養失調になる毎日…………固形物なんて、一ヶ月に何度食べれたか……」

「ねぇ?学校の日は私との勝負に勝って毎日弁当食べてたの忘れたの?まるで私の弁当がめぐみんの物みたいになってたけど?」

「おや?そうでしたか?」

「わざとね!?絶対に覚えてるでしょ!?」

 

その後、特に何事もなく宿を取った俺達。部屋分けで俺と女性陣で1対4の割合になるからとゆんゆんが駄々を捏ねて俺と相部屋になろうとしてきた。身の危険を感じた俺は咄嗟にジャンヌを指名してしまった。これはミステイクかとも思ったが、何故かジャンヌは『まぁ、その方が安全ね』と悟った顔でそう言って納得した。この反応には皆驚いた。絶対に罵倒やらなんやらが飛んでくると思ったからな。

 

「どうしたんだ、ジャンヌのやつ?」

「…………実は」

 

ネロから昼間に合った男のことを聞いた。当然、めぐみんもゆんゆんもその男に覚えはなく、外から来たのだろうと結論に至った。

 

(それがジャンヌとどう関係して…………?)

 

誰にもジャンヌの悩む訳は分からず、成り行きで相部屋の俺が聞くことになった。

…………嫌だな、緊張する。

 

「カズマさん。言っておきますけど、絶対にジャンヌさんに変な事をしないでくださいね!!!」

「分かってるよ。そんなことしたら俺が殺されるわ」

 

そして、日は暮れて夜になった。

夜になると、ジャンヌは一人で出ていった。まるで、何かに引き寄せられるように、強ばった表情で去っていった。

 

 

 




このすばらしいギャグ展開とFateらしいシリアス展開を書いていると、どっちの路線で書いていいか分からなくなる時があります。基本的にこのすばギャグで下記進めていきますが、シリアスになるとごっちゃになります(´・ω・`)

今後の展開として、これからようやく紅魔の少女達が出てきます。その裏方で敵側の描写も少々……。
では、また読んで頂けると幸いです。


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紅魔、ロリコン、宿屋にて

今回もあまり話は進まない……。
ぐだるのは良くないと分かっていても紅魔の子達が可愛いから書いてしまう。そんな感じでぐたぐたこのすば生活が続きます。


紅魔の里の奥、一つの剣が刺さった場所がある。本来は観光客しかあまり寄り付かない場所だが、そこには人影があった。

 

「…………やはり、来たのかね」

「あれだけガン飛ばしておいてよく言うわね。あんた、性根もそうだけど、見た目も悪いんだから少しは自重しなさい。婆さん、怖がってたわよ」

「おや、そうかね……まぁ、もう二度と会うことはないと思うが。次があれば気をつけるさ」

 

男はそう言うと、剣へと視線を向けた。あるのは岩に刺さった剣。巷ではこれを餌に観光客を呼び寄せているらしい。抜ければ「選ばれし者」だと、そうでない場合は「選ばれし者ではなかった」と諭すらしい。しかしてその実態は紅魔の者が魔法を掛けて抜けなくさせているだけという…………。

 

「知っているかね?これを聖剣だと言って観光客を呼び込んでいるらしい」

「はっ、だから何?」

「聖剣…………まぁ明らかに偽物だとは分かるが、そう言われると、君は誰かを連想するのではないかね?」

「…………喧嘩売ってんの?」

「ふっ、冗談だ。だが、その反応を見る限りやはり君はあの時の英霊に間違いないようだ、ジャンヌ・オルタ…………だったかな?」

「黙りなさい、贋作者(フェイカー)

「おや?気に触ったか…………まぁいい。ところで、君はまた新たなマスターを得たのか?」

「だったら何?」

 

男は気さくな感じで質問を投げ掛けてくるが、その声色にはこれといった感情は見られない。特に興味はない、ただの事実確認といった風だ。

 

「いや、結構。俺には関係のない事だ」

「はぁ?ならどうしてそんな事を―――」

「その男が死のうとも」

「……………………は?」

 

突如として発せられたその言葉はジャンヌの思考を鈍らせた。その男は冗談で嘘や虚言を吐くような人柄ではないと知っているからだ。性格は極めて冷酷。現実主義で端的、常に冷めていて己の目的の為なら犠牲を厭わない。そんな男が意味もなくそんな事を言うはずはないと、頭の何処かで直感していた。

 

「言葉の通りだが…………少々言い過ぎたかね?」

「そんな事を聞きたいんじゃないわよ!あんたがどうしてそう言ってるのか聞きたいのよ!!」

「…………私がいまここにいる意味を考えれば分かることだ、そう頭を悩ませる必要はない」

「ふざけてんじゃないわよ!?それが分からないから聞いているんでしょうが!!?」

 

いつになく起伏が激しい、自分でも頭では分かっている。冷静でないのだと。しかし、彼の補足の足りない言葉に苛立ちを感じざるを得なかった。まして、マスターである彼が死ぬかもしれないと言われているのだ。問わずにいられるはずもない。

 

「オルタに堕ちたとはいえ、俺が現れる意味は変わらない。それは秩序を正す為だ。死後も、堕ちた場合も、俺は霊長の抑止力(アラヤ)の意向に沿って戦い続けた。それは今も変わらない」

「そのあんたが現れる理由…………まさか」

「そう、ここも次期に戦場となる。俺は、秩序を守るために天秤の針が傾かなかった方を容赦なく切り捨てるだけだ」

「その過程であいつが死ぬっての!?」

「さぁ?どうだろうな…………だが、可能性が0の話ではあるまい?この世界の人間も、悪と称される者達も元の世界と違い腕は立つようだ。君一人で守りきれると断言できまい?」

「…………黙りなさい。あんたの御託は結構よ。私は、誰一人死なせやしない」

「ふっ、君はだいぶ変わったな」

「なっ…………!?」

 

男はジャンヌの答えを聞くと、木へと飛び、姿を消した。

 

「ならば、最悪な事態にならないように精々善処することだ」

 

最後にそう言い残して。

 

「…………相変わらず、憎たらしい男ね。エミヤ・オルタ」

 

そして、ジャンヌは彼が居なくなった後も、彼が居た場所を睨み続けた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ジャンヌが一人で宿を去った後、俺はどうしようか悩んでいた。

 

「うう~ん、めぐみん達からお悩み相談受けろって言われたしな…………でも、相手があのジャンヌだしな。下手なことしたら後世にまで語り継がれるレベルで酷いことになりそう」

 

いつになく真剣な表情だった。それはまるで、戦前のよう。そう、例えるならばスーパーのバーゲンセールで時計の針が5時を指すのを待つおばちゃんのよう―――っと、ふざけるのはやめておこう。あいつが本気で怒るときは大阪のおばちゃんの比ではない。槍は飛んでくるわ、周りが火の海になることもある。

 

「はぁ…………無理ゲーなんだよなぁ」

 

綺麗な夜空を見て、俺は空へと愚痴をこぼした。特に意味はないが、誰かが聞き止めてくれないかなとちょっと期待した。マジで一人だと聞きづらいもんな。

 

「…………あの~、お兄さん、こんな時間に一人でぶつぶつ何言ってるんですか?思春期ですか?」

「えっ!?…………あ、いや、そうなんですけど…………君は?」

 

視線を前へと戻すと、めぐみんと同い年くらいの少女が立っていた。まさか本当に聞かれると思ってなかったのでマジでビクッた。一瞬、なんかゾッとした。日も落ちて暗いし、いきなりだと普通にキョドる。

 

「お兄さん。宿の玄関の前を塞がれると困るんだけど?」

「あ、ああ…………ごめん。邪魔した」

「あれ?もしかして、お兄さん他所から来た人?」

「え?そうだけど、どうかした?」

「やっぱり!」

 

その少女は、表情を明るくして俺に近寄って来た。しかも、割りとマジで近い。何かの拍子で転けたらキスしてしまいそうな距離だった。

 

「うう~ん、暗がりでよく見えないけど、お兄さんって、割りと普通の顔だね?」

「初対面で割りと失礼な事言うな……。ちょっと傷ついたぞ」

「あ、いやいや別に悪気はないよ?」

 

当然だ。あったら今すぐこの子の頬を捻っていた所だ。

 

「ふ~ん、でもそうか…………この人が」

 

何やら一人で納得している少女。さっきは玄関の前を塞ぐなと文句垂れてた奴が今度は俺の前を塞いでいる。どうしよう?とりあえず前進して押し倒すか?…………いや、冗談だけど。

 

「あのさ、何か用でもあるのか?」

「あ、うん。一応ね。それより、自己紹介してなかったね」

「あ、ああ…………」

 

割りと別にどうでもいいんですが…………。その少女は少し俺と距離を置くと、何処ぞのアイドルみたく可愛い子ぶった仕草を取りながら話し始めた。

 

「あたしの名前はふにふら。めぐみんとゆんゆんの友達…………?いや、ちょっと違うかな?いやでもめぐみんはともかくゆんゆんはそう思ってるだろうし…………えっと、取り敢えず同期、かな?」

 

ぐだぐだだな、おい。「友達?」とか言われても知らんわ。こちとらお前と初対面だっつーの。

仕方なく、今度は俺からも自己紹介をした。

 

「俺の名前は佐藤和馬。冒険者をやってる。ところでめぐみん達と同期って―――」

「あ、やっぱり!あれでしょ?ゆんゆんの彼氏なのに、めぐみんとイチャコラして相当捻れた三角関係になってると噂の」

「おい待て。何一つ合ってない上にどうしてそんな設定になったのか聞きたいんだが?それと、ゆんゆんの彼氏じゃないからな?」

「えっ?でもゆんゆんの事だから、いつもカズマでシコッて―――」

「みなまで言うな!!!お前、ふにふらだっけか?いきなり変な事言うなよ、宿屋のおっちゃんも目を見開いてこっちみてんだろうが?」

「え?別にいいじゃん?それに、この宿のおじさんロリコンだし。カズマがロリッ娘に手を出したっていう部分に反応したんじゃない?」

 

ああ、やはり紅魔の連中は面倒くさい。これだから頭のおかしい民族は…………ていうか、この子ゆんゆん達と同い年のくせに話す内容がビッチくさいぞ。普通にとんでもないこと言い出すなよ…………。

 

「ふにふら、めぐみん達いた~?」

「ううん、まだ見つからないよ」

 

今度はゆんゆんくらいの身長の子が現れた。赤いリボンで止めたポニーテール、その隣には少しロールのかかったぼんやりとした雰囲気で、若干……というより確実にゆんゆんより胸の大きそうな子がいた。

 

「まったく、私は暇ではないんだけどね……」

「まぁまぁ!あるえだって、久しぶりにゆんゆんと会いたいでしょ?」

「君達は文通もしているだろう?別に夜分遅くに行くことは―――」

「いいの!そういう堅っ苦しいのは抜きにして。それより、この人がゆんゆんの手紙に書いてあった例の人らしいよ?」

「えっ!?うっそ、フツーじゃん!ゆんゆんの事だから変な人に騙されたのかと思ったのに」

 

こいつら、言いたい放題だな……。

何故か俺をそっちのけにして会話が盛り上がる少女達。名前は、ふにふら、どどんこ、あるえというらしい。前者2名は以前少し説明をされたので知っているが、あるえという少女はまるで知らない。まさか14歳でここまで可愛らしくエロい体つきをしているとは…………ごくり。

 

「カズマさん?どうして鼻の下を伸ばしているんですか?」

「ゆ、ゆんゆん!?ち、違うぞ!これは…………あ、あれだ!ちょっと鼻の下を蚊に刺されてもどかしくてでも女の子の手前で中々かけないからどうにか我慢しているというなんとも説明しづらい状況だったんだ!!決してちょっと可愛いなぁとか、エロいなぁとか思ってないから!!ほんと、ちょっとしか、ちょっとしか思ってないから!!!」

「つまりあるえに発情したんですね?」

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!?頼む!許してくれ!!この通りだ!!!」

 

突如として現れたゆんゆんに全身全霊で謝る俺。既にゆんゆんの瞳に光はなく、何故か指をコキコキ鳴らしている。声も当然冷たいし、笑ってない。前にはゆんゆん、後ろには三人の少女達という謎の状況に追い込まれていた。

 

「あれ?ゆんゆんだ。久しぶり!」

「ふ、ふにふらさん!?それにどどんこさんも………」

「あっはは、やっぱりゆんゆんはカズマに首たっけだったね?それで、ゆんゆんはカズマの浮気が許せないって状況なのかな?」

「いや、どちらかと言うとカズマが私の体に発情したことに怒っているのでは?」

「ち、違う!断じて違うぞ!!」

「うっそだぁ~?カズマ、あるえの事を舐め回す様に見てたじゃん?エロッ」

「おまっ!!?幼女体型でまったく大人の女として見られないからって嫉妬してんだろ!!そうなんだろ!お前、実はあるえやゆんゆんみたいなエロい体に憧れてんだろ!!?」

「え?ちょっとこの人何言ってるの?ひくわー」

「ちくしょう違うのかよ!つか、安易に人を死地に追いやるなよ!?お前らゆんゆんのヤンデレ具合を知らないから笑ってられるんだろうが!!」

「え?ゆんゆんがヤンデレ?何言って―――って怖!!?ゆんゆん、あんた何で両手の指をワキワキさせてんの!?目も超怖いし、なんか後ろに覇気がみえるんだけど!!?」

 

ようやくゆんゆんの危険性に気づいたふにふら。慌てて宥めようとするが、当然あの境地に至ったゆんゆんをそう易々と止められるはずもなく、体から迸る覇気の様なものに怖じけついて下がった。

 

「お、落ち着け!話せば分かる!!きっと分かる!!!『あ、そーなんだ!』的なノリで分かるから!!!」

「へぇ~、そうなんですか?分かりませんね。これはじっくり聞く必要がありますね?体に」

「お、お助けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「あ、私達めぐみんにも挨拶しなきゃ!」

「そ、そうだったね!早く行こうか!?」

「おいちょっと待てお前ら!!!頼む、頼むから俺を助けてくれ!!ゆんゆんの眼が既に紅く染まって俺を捉えて離さないんだ!!!」

 

俺は必死にふにふら達にすがり付いた。他人の目など気にせず、がむしゃらに、離れていくふにふらの裾を掴み足にしがみついた。

 

「は、離して変態!こ、このっ!!ちょ、何処触って…………!?」

「ぐふっ!?おい蹴るな!マジで頼むから助けてくれよ!!?あの目を見ろ!俺を殺そうとする奴の目だ!!」

「知らないっての!ゆんゆんの事だから1日ベッドの上で相手してあげたら満足するって!!」

「おい馬鹿!それだと既に事後じゃねぇか!!?駄目だから!それだと別の意味で俺が死ぬから!!」

「か~ず~ま~さ~ん?どうしてふにふらさんの脚にしがみついてるんですか?脚フェチなんですか?でもそれならどうしてふにふらさんにしがみつくんですか?…………ネェ、ドウシテナンデスカ?カズマサン?」

 

ついにゆんゆんが殺気を放ち始めた。しかもその対象は俺だけでなくふにふらも。

 

「え!?ちょっと、どうして私を見てるの!?私何も悪くないから!!この人が勝手に引っ付いてるだけだから!!!」

「ふむ。私達は行くとしようか?」

「そ、そだね!?じゃあ、ふにふら、元気でね!?」

「どどんこ!?あんた、私を置いて行く気!!?ねぇ、お願いだから助けてよ!いつも私の腰巾着だの影が薄いだの揶揄されてるんでしょ!?汚名返上の機会じゃん!!私を救ってヒーローになって、私を霞ませるくらい人気者になれるチャンスじゃん!?」

「ごめん、そこまで命懸ける気はない」

「え?」

 

可愛そうに……、簡単に見捨てられてやんの。まぁ、俺はとしては道連れが減って苦しい状況なんだが。

 

「カズマさん?ふにふらさんの何処がいいんですが?胸ですか?平らな胸が好みだったんですか?」

「ちょっとゆんゆん!?さりげに私に対して失礼な事言ってない!?二人の会話なのに私を傷つけるのやめてくれない!!?」

「安心しろふにふら!俺は巨乳派だ!!」

「ばーか!!誰もそんな事聞いてないっての!!!」

「巨乳派ですか?なら良いです…………ふふ」

「あっ!?いまちょっとだけ私の事を嘲笑ったでしょ!!?ねぇ!?いま『勝った』て思ったでしょ!!?」

「いえいえ、そんな。大切な親友であるふにふらさんの事を嘲笑うだなんて…………まさかまさか」

「ちょっと私の目を見て言いなさいよ!!?ねぇ!!?」

 

どうしよう?普段は温厚なゆんゆんが本格的に壊れ始めた。なんやかんや言って同世代の子や年上、はたまた初対面の人には割りと控えめな所が多い彼女だが、ついに性格も歪んできた。まさか、体型の事で友達(?)をいじり始めるとは…………恐ろしい子。

 

「ちょっと、邪魔なんだけど」

 

その時、丁度良くジャンヌが帰って来た。

 

「お、おうジャンヌ!遅かったな!?」

「…………はぁ、そういう趣味を持つのは自由だけど人前でするのは流石にまずいんじゃない?」

「ち、違うから!これはその……あれだ、ゆんゆんから逃れる為に―――」

「あーはいはい、要するにロリコンで脚フェチなのね」

「全然要してないからな!?むしろ酷くなってるから!!!」

 

相変わらずこの元聖女様は気だるそうにしている。マスターである俺を助ける所が更なる汚名まで被せようしやがる。ほんと、マジでそういうのやめてほしい。状況がどんどんカオスになっていく。

 

「あ、そういえば相部屋だったわよね?」

「え?お、おう…………」

「ゆんゆん、やっぱり私と変わって―――」

「おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!冷静になれ!!!いまこの状況でゆんゆんと相部屋とか冗談じゃないから!!!頼むから冗談でもやめてくれ!!!!」

「私は本気よ。だってその方が面白いじゃない?」

「このアマ!?おま、仮にも俺はお前のマスターだぞ!!?少しは心配―――」

「してるわよ。将来、童貞のままにならならいように今からチャンスを作ってあげようっていう聖女の計らいよ」

「完全にはめてんじゃねぇか!!?」

 

ようやく戻ってきたかと思えば澄まし顔で俺を見捨てようとする。酷い、これが聖女のやることかよ…………まぁ、オルタだからな。ある意味問題ないんだろうけど、でも少しくらい助け船を出してくれてもいいだろうに。

 

「誰?この人?」

「さぁ?手紙にかいてたジャンヌさん…………じゃない?」

 

ふにふらとどどんこはきょとんとしている。先程までのいざこざなど無かったかのようにひそひそと話している。

 

「あなた達は…………」

「ふにふらです」

「どとんこです」

「そう…………大丈夫、まだ希望はあるわ」

「初対面で開口一番にそれ!!?どうして初対面の人に憐れまれてるの!!?」

「べ、別にゆんゆんやあるえみたくなりたいとか思ってませんから!ある程度あればいいと思ってますから!!ふにふらと一緒にしないでください!!!」

「どどんこ、あんた何私をだしに使って自分を美化してんのよ!!?あんたもどうせ巨乳になりたいと思ってるんでしょ!?そうなんでしょ!!?」

「…………哀れね」

「お前、酷ぇな……」

 

ヤンデレ化したゆんゆんもこの状況にきょとんとしていた。水を刺されたというか、気を削がれたという感じで収まってくれていた。ジャンヌの乱入でどうなることかと思ったが、思いの外良い方向に向かったのでよしとしよう。

それからほどなくして、ふにふら達を部屋に招いてめぐみんとネロとも対面させた。俺はその隙に部屋に逃げようとしたのだが、ジャンヌに首根っこを捕まれて強制連行させられた。

 

「まったく、わざわざ夜分に来ることはないでしょうに……」

「だって、どどんこが…………」

「え!?言い出したのはふにふらだったよね!!?」

「え?何言ってるのか分かんない」

「まさかの知らんぷり!?」

 

この二人は仲が良いのか悪いのかさっきからギャーギャー騒ぎまくってる。めぐみんとゆんゆんと似た匂いが…………ああ、あれだな。百合だ。

 

「でもさ、どうしてわざわざ宿に泊まってるの?家に戻れば良くない?」

「「ぎくっ……」」

「よし、俺戻るわ」

「待ちなさい」

「ぐへっ!」

 

華麗に戻ろうとする俺の頭を掴み、無理矢理座布団に押し付けられた。

 

「私もそう思ったのよねぇ…………ねぇ?どうしてだったかしら?」

「「「…………」」」

「カズマ、あんたには黙秘権はないでしょう?責任取って代表して説明してあげなさいな」

「お、俺は悪くない。以上説明終わり」

「あぁ?何か言った?」

「…………くっ、殺せっ!」

 

まさかこんなことになろうとは……。

したくもない説明をさせられ、俺はだんだんと下を向いて言葉のトーンも低くなっていった。

 

「それでそれで!そのあとどうなったの!?」

「え?いや、その…………親御さんから娘を頼むって―――」

「「きゃーーー!うっそぉ!?二人ともそこまでいってるの!!?」」

「…………」

 

この二人にありのままに言うと、当然面白がってぐいぐい聞いてこられた。俺は至って何も悪くないのに。二人の親がとんでもない馬鹿なだけなのに。囃し立てるわからかうわ、俺とめぐみん、ゆんゆんは終始俯いていた。

 

「へぇ?あんた、親にそこまで言わせたの?」

「…………おぅ」

「そう?なら、もういっそヤったら?好きな方と。どうせ溜まってるんでしょ?」

「頼むから自重してくれよ…………」

 

元聖女のくせして容赦ない。あるえを除いて他3名が容赦なく言ってくる。もう、頼れるのは…………。

 

「む、あまりカズマ達をからかうのはよさんか?嫌がっているようだぞ?」

「ネロ、あんたもたまには素直になりさなさいな。本当は聞きたいんでしょ?カズマの本命がどっちなのかって」

「よ、よさんか!それはある意味爆弾発言な事くらい余でも分かるぞ!!」

「ネロぉ…………お前が最後の希望だ。助けてくれぇ」

「よしよし、カズマ安心するが良い。余がなんとしても―――」

「そういうあんたはこのロリッ娘達にハグしたくて堪らないくせに」

「ぐっ…………!?」

 

どうしよう?ネロが痛いところを突かれたのか固まってしまった。そういえば、美少女大好きっ子だったな。

俺は僅かな希望を抱いてネロの後ろへと隠れていたのだが、次第にプルプルと肩を震わせ始めた。

 

「ネロ、誘惑に負けるな!お前はやれば出来る子だ。あんな悪魔の囁きに耳を傾けるな」

「そ、そうだな、うむ。余はやればできるのだ。あんな虚言に―――」

 

すると、ネロは震えながらふにふら、どどんこ、あるえ、めぐみん、ゆんゆんへと視線を向けた。

 

「…………ここは天国か?」

「惑わされるなネロ!!!」

 

誘惑に負けそうになっていた。

 

「ぬっ!?なんという魔の囁き…………屈してしまいそうだ。というより、屈したい」

「諦めんな!!!」

 

駄目だ、もう駄目だ。誰も俺の味方になってくれない。ネロすら手中に納められたらもう…………!

 

「カズマ、あんたはロリコン、ロリマね」

「やーい、ロリマだロリマ!」

「ロリマ…………ぷっ」

 

ちくしょうこいつらしばいたろうか!!?ジャンヌを筆頭に嘲笑ってくる3人。幸いあるえはどちらにも属さずいてくれる。しかし、問題はジャンヌだ。こいつは他人の不幸は蜜の味と言わんばかりに煽ってくる。

 

(腹立つ…………!)

 

段々と苛立ちを覚え始める俺だが、不思議な事にめぐみんとゆんゆんは何も言わない。

 

「おいめぐみん、お前からも何か言って―――」

「…………すぅ…………むにゃ…………」

 

こいつ、寝てやがる。

 

「ゆ、ゆんゆん…………?」

 

恐る恐るゆんゆんに問うてみる。

 

「も、もうっ皆さん言い過ぎですよ私達はまだそこまでいってないのに。あ、でも親からは既に了承は得てますけどカズマさんの意思も分からないので早とちりはできませんし…………あっ、カズマさんの親御さんにも挨拶しないといけませんね。それに子供の数も何人にするかも―――」

 

話しかけるのはよそう。既に自分の世界に入ってらっしゃる。

結局、俺はしばらく3人から質問攻め&卑下された。あれよこれよと好き勝手にいいやがった。ジャンヌにはちょっと怖くて無理だが、あの二人には今度別の形で仕返ししてやろうと思う。具体的にはパンツをスティールしたり、ブラ…………は着けるほどの物をもってないから無理か。よし、パンツを奪って高らかに振りかざしてやる。

 

「お前ら、覚えてろよ…………」

「「え?何?」」

「あ、あのさ、流石にやり過ぎじゃ―――」

「いいの、いいの。カズマにはこれくらい大丈夫よ。それに、憂さ晴らしはゆんゆんがしてくれるだろうし。体で」

「お前ら本当に容赦ねぇな!!?」

「冗談よ。寿退社されても困るし、ほどほどにしておいてあげる。感謝なさい」

「ようし、感謝の証しとしてお前のパンツを貰ってやる、覚悟しろ」

「うわっ、変態だわ」

「うるへー!お前ら言い過ぎなんだよ!!」

 

ようやく俺で遊ぶのをやめてくれた。ふにふらは今度絶対泣かしてやる。ビッチなあいつにはそれ相応の報いを受けさせる。どどんことの百合疑惑を広めてやる。

話し疲れたのか、ふにふら達は大人しくなって帰り支度を始めた。

 

「それじゃあめぐみん、ゆんゆん、また明日ね」

「もう来んなよ……」

「カズマも歓迎してあげるから来なよ?」

「断じていかん」

「あっはは……嫌われちゃったね」

「ふむ、カズマ、良かったら今度小説のネタを―――」

「俺をネタにするのはやめろ」

「…………面白いネタをくれると助かる」

「おい、なんで間を空けた?」

 

ふにふら曰く、明日は同期で集まるらしい。何を血迷ったのかそこに俺も招待するといいやがる。迷惑千万、意地でもいかん。行くとしてもパンツだけスティールする。ピンポンダッシュならぬパンツダッシュだ。

「明日は俺は一人でだらだらする。頼むから俺に関わってくれるな」

「…………カズマ、明日は私とネロと一緒に観光巡りしましょう」

「は?どうした、お前から誘ってくるなんて…………」

「何でもないわ。ただ、そういう気分なのよ」

「…………そうか?」

 

珍しい。あの傍若無人なジャンヌがしおらしく誘ってきた。明日の天気は雪か?あられか?それとも槍か?

3人は家に帰り、ほどなくして俺達も就寝した。

 

(ジャンヌと同じ部屋で寝る、か…………)

 

今更ながら緊張してきた。

 

「何をしてるの?寝ないの?」

「…………お前は緊張しないんだな?」

「緊張?どうして?」

「いや、何でもない。寝よう」

 

うん、ジャンヌはこういうことにあまり意識しないようだ。幸い、というべきだろうな。相手がめぐみんかゆんゆんだったらたぶん一悶着あったかもしれない。特にゆんゆん。

 

(…………寝るか)

 

そして、ようやく長い1日が終わった。

 

 




今回も10000文字を越せず……。
やる気というかネタが続かない……。いい加減、急展開を作ろうか……(冗談です)

さて、やっぱり個性が強いキャラは書いてて楽しいですね。正直書く前はぶっころりーとかそけっとって誰?っていうレベルでした(笑)小説本編は読んでいるのですが、番外編は全くです。4、5巻だけ読みました。

設定としておかしいところもあるかもですが、これからも矛盾やおかしなところなく書いていければなと思います。


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真に迫る覚悟

今回もちょっと短め。

少しずつ今回の敵さんがチラホラ顔を見せ始めます。


翌日、めぐみん達が宿屋から出ていくまで部屋でゴロゴロしていると、ジャンヌから声をかけられた。

 

「カズマ、行くわよ」

「ん?ああ、観光めぐりだっけか?」

「違うわよ。さっさと準備しなさいな」

 

いまいち言葉の意味が分からないままなのだが、ジャンヌに急かされるままにネロを引き連れて岩に聖剣の刺さった場所に連れてこられた。

そこに至るまでに全く会話が発生しなかった事に若干の違和感を覚えつつ、俺はジャンヌの機嫌を伺うように尋ねてみた。

 

「なぁ?ここで何をするんだ?昨日からなんだが張り詰めてる様子だったけど、何かあるのか?」

 

俺の言葉に少しだけ反応を見せた。一瞬だけ口元をひきつらせてしかめっ面になったが、やがて自分を落ち着かせるように溜め息をつくと、真剣味を帯びた顔で語り始めた。

 

「カズマ、あんたはもう少し…………いや、私と渡り合えるくらい強くなるべきよ」

「はぁ?いきなり何言って…………無理だろ、普通に考えて」

「無理と諦めて、いざあんたが死ぬかもしれないビンチに陥ったらどうするの?潔く死ねるの?」

「…………どうしたんだよ、急に」

「どうもしない。ただ、今のあんたは危ういのよ。私やネロが守れる範囲にも限界があるの。特に、魔力が枯渇しているこの状況は危険よ。以前のデュラハンの時だって…………」

「いやいや、急にどうしたんだよ?この里には無駄に強い紅魔の人達がいるだろ?そんな焦る事な―――」

「黙りなさい!!!」

 

突如として激昂し、俺の言葉を遮った。

そのジャンヌの表情は真剣そのもので、冗談や虚勢を許容できるような雰囲気では無かった。

その言葉を引き金に旗を顕現させ、黒剣を俺の方へと投げやった。

 

「あ、危な…………!おい、いきなり何のつもりだよ!?」

「構えなさい。出なければあんたの腹に風穴開けるわよ」

「お前、本気か…………?」

 

返答はなかった。ただ一点、俺の方だけを見て待っていた。この状況の意味を探るべく、ネロの方へと視線を向けるが、彼女も俺と同様ジャンヌの行動の意味が分からないでいた。ただ唖然として、止める素振りこそなけれどその行動の意味を探ろうとしていた。

 

「…………わかった。お前がその気なら」

「…………来なさい」

 

『憑依』スキルを発動させ、英霊の力を身に纏う。

イメージするのは剣、以前選んだあの力だ。二つの夫婦剣を使い、デュラハンとあいまみえた時の、近接及び遠距離に対応できる『エミヤ』の能力。

 

「憑依完了…………『エミヤ』」

「ふん………」

 

気のせいかも知れないが、『エミヤ』という言葉に反応したように見えた。しかし、既に互いに臨戦体勢に入っており、交わす言葉もない。あるのは、相手を倒す意志と武器。そして―――

 

「ふっ!」

「はぁ!」

 

互いの武器が鳴らす鈍い金属音と火花だった。

片方の剣で黒剣の攻撃を受け止めると、俺は瞬時に突きの構えでもう片方の得物を狙った。

 

「ふっ、浅いわよ!」

 

だが、受け止めた方の剣から炎を生み出し、熱と剣圧を振りかざし後退させられた。その隙にジャンヌはスキルを唱え攻撃力を底上げした。

 

『自己改造EX』

 

唱え終わると、今度は黒剣を投げつけてきた。それをどうにか捌くが、その隙に距離を詰め、旗の尖端を使って連撃を加えてきた。

 

「ふっ、はっ!」

「ちょ……!?やっぱり本気なのかよ!?」

「何を今更…………覚悟がないなら切り裂かれなさい!」

「死んでもお断りだ!!」

 

両手の剣で受け止め、そのまま上へと弾く。そこで出来た刹那の時間で俺は『クリエイトアース』を使い、一瞬だが視界を潰した。

 

「くっ、小癪な手を…………!?」

 

攻めいる事も考えたが、俺は冷静になる余裕を作るため一旦距離を取った。

しかし、ジャンヌの目的は、どうすれば彼女に敗北を認めさせられるのか、そこが重要だった。ただ打ち負かせば彼女は収まってくれるのか?そもそも勝機はあるのか?どちらも難解だ、一筋縄ではいかない。

 

(そもそも、俺はこの力をよく知らない…………使う能力だって、未だに底も見えない。ジャンヌの力もだ。知らない事だらけでどうしろってんだよ)

 

今に至って、ようやく自身の借り得た能力に疑問を抱く。

自分の使っている剣は一体何なのか?どうしてこの剣を真っ先に思い描いたのか?何故弓や剣を使う?クラス分けされたのならそれに見合った得物を使わなければ妙だ。アーチャならば、本来は弓で戦う者のはずだ。なのに、先に思い描くのは剣、剣、剣。

彼の中に在るのは、何処まで行っても剣だけだった。

 

「はぁ……はぁ……くそ、もう息が切れて……」

「…………次はとるわ」

 

彼女の持つ旗先に魔力が込められた。

動きが見えないことはない。ただ圧倒されているのだ。彼女の力に、威圧に、気づかぬ内に恐れている。

 

(…………駄目だ、このままだと勝てない)

 

ここでようやく己に問う。この力の使い方を。

これまで憑依させてきたどの英霊とも違う。自身から生みでてくる感情が何もないのだ。それは自分に問題があるのかもしれない。その英霊の真に迫る覚悟がない。それは事実だ。これまでもそうだった。溢れでる力にばかり目を向け、英霊そのものに目を向けることをしなかった。

 

「…………くそっ」

「はぁぁぁぁ!」

 

踏み込みむと、ジャンヌは先端に乗せた魔力を自分へと向けて放つ。穿つは心臓、ではなく得物の方だった。何処まで言っても本当に命をとる気はないらしい。瞬時にそう思った。だが、その侮りをジャンヌは見逃さなかった。

 

「油断、するな!!!」

「うっ…………!?」

 

期待に反し、先端で突くのではなく横凪ぎで両手の武器を両断してきた。その際に右腕を軽くだが斬られ血が飛び散った。

 

「…………いてぇ」

「油断、怠慢、怠惰。哀れねカズマ。私にほんの少しでも手加減や手心を期待したの?だとしたらとんでもない大馬鹿ね。この先も腑抜けた状態で戦うつもりなら容赦なくこの旗でその身を貫くわ」

「本気、ってことか。分かったよ。俺も全力で戦う…………行くぞ」

「来なさい、贋作者(フェイカー)

 

それからの攻防は接戦だった…………あくまで俺の見解だが。俺の攻撃も、ジャンヌの攻撃も互いの得物で防ぎあい、決定打になるような一撃は入らなかった。

 

(また、手加減してるのか……?)

 

俺の脳裏でそんな考えが過った。

目の前の彼女は休む暇なく鋭い一撃を加えてくる。だが、その一撃一撃が俺の知っている彼女のそれと威力がだいぶ異なるのだ。俺の創った出来損ないの刀など一撃受ければ刃が欠けたり粉砕されてもおかしくないはずだ。

 

「…………お前、迷っているのか?」

「はぁ?何を?」

「いや、知らんけど。でも今のお前は―――」

「無駄口叩く暇があったら構えなさい。出なければ、死ぬわよ」

「…………やってみろよ」

 

再び互いの剣が交わる。だが、予想通りその威力は相殺出来る程度のもの。しかも片方の剣だけで受け止められる。自身に攻撃上昇スキルを掛けた英霊の攻撃が、ネロと同じ高みに並び立つ彼女の一撃がこんなにも弱いはずがない。

 

「はぁ!」

 

剣を弾きあげ、隙を作り懐に入る。

 

「くっ……?」

(カズマが押している…………?)

 

この時、ネロも同様の疑問を抱いていた。彼女の言葉通りなら手加減はしていない。ならば、今の彼女が押されているのはカズマが上手ということになる。

 

(しかし、お世辞にもあのカズマがジャンヌよりも強いとは思えない)

(なんだ?この違和感は?やっぱりジャンヌは…………手を抜いている?)

 

両者の疑惑は重なり、確かな答えへと繋がりつつあった。

 

「…………お前、まだ戦える状態じゃないのか?」

「…………」

「ジャンヌ、どうしてそんな無茶を?」

「…………問答は無用よ。続けるわ」

「なっ……!?」

 

攻撃を緩め、剣を降ろした。その合間に問いを投げ掛けたがジャンヌは答えず残った得物である旗で斬りかかる。

(くそっ、どうしてこいつはここまで食らいついてくるんだ?)

 

二つの剣で受け止める。

以前の憑依で、ランサークラスである『クーフーリン』の武器ゲイ・ボルグで受けたときには槍が軋み、大地に亀裂が走る程の一撃だった。だが、いまの彼女の一撃は低レベル冒険者であるカズマですら易々と防げる程度だ。こんな攻撃を放つ彼女が、まともな状態と言えるはずがない。

 

「やめろ!魔力が枯渇しているならそう言えよ!!」

「だからなに!?その程度の私に苦戦してるあんたには丁度いいでしょう!!」

「そういう問答じゃ…………ねぇ!!!」

 

今度こそ、彼女の象徴である龍紋の旗を弾き、武器を奪った。

 

「今のお前は全力出すのはおろか、現界すら危うい。そうだろ?」

「…………はっ、流石はマスター様って訳。そういうところは見抜けるのね」

「ジャンヌ、どうしてこんな事をするんだよ?お前がそこまで無茶して俺を鍛えようとするのはなんでだ?」

「…………」

 

しばらくの間、沈黙が続いた。

俺は、その間に武器をしまい、憑依を解いた。たった数分の戦闘ではあるが俺の体力は殆ど限界まで削られていた。だが、彼女の限界を見切った所で精神的に幾ばくかの余裕が出来たおかげか、不思議とたいした疲労感は感じられなかった。

 

「…………エミヤ・オルタ」

「誰?外国人?」

「何処の出身かは知らないわよ。でも、そいつがあんたを狙う可能性があるのよ」

「…………ネロが言っていたサーヴァントの事か」

 

昨日、ネロから一通りの説明を受けたが、あくまでかもしれない程度の事で特に詳しい事は分からないでいた。知っているのは、彼がサーヴァントであることだけ。

 

「私達英霊は本来、聖杯の寄るべに従い現れる者。あんたは異例中の異例。世界の理から外れた原理でその権利を得ているから。でも、唯一あの男は違う。世界は違えど基本原理に従って現界している」

 

覚悟を決めたように真剣な表情で話すジャンヌ。そんな彼女に俺は、真顔でこう返した。

 

「すまん、まるで意味がわからん」

「「…………」」

 

何故か二人からジト目で見られた。

いや、俺は悪くないだろ?そんなあたかも知ってる前提で話されても困るわ。まず、聖杯とはなんぞや?そこから頼む、解説役のネロさん。

それから、俺は一通りの説明をネロから受けると、漸くかという感じで座り込んでいたジャンヌが口を開いた。

 

「それで、あいつはこの世の秩序を守る為に現れたって事よ、わかった?」

「なんか、急に適当になったな?え?俺のせいなの?」

「黙って空気読みなさい、ロリコン」

「わかっ―――って、待て。それは了承しないからな」

 

どうやら彼の現れる理由と、彼との会話での事がジャンヌを急かしていたようだ。

 

(英霊なんぞに狙われたら俺なんかひとたまりもないぞ……?)

 

その想いはジャンヌも同じだったようで、自身では俺を守り得ないから、俺自らの力を底上げするべく剣を交えた、という事らしい。

 

(ったく、これだからツンデレは。もうちょっと分かりやすく用件を伝えろってんだ)

 

ポリポリと頭をかきながらポンっとジャンヌの頭に手を置いた。

 

「…………なんのつもり?」

「いや、なんとなく」

「どけなさい、恥ずかしい…………」

「おっ?デレたぞ」

「うむ、最高にキュートだぞジャンヌ」

「からかってんじゃないわよ!!?」

 

朗報、ジャンヌがデレた。

というのは冗談として、漸くジャンヌの思惑を理解した俺は改めて問うてみる。

 

「それで、俺なんかで勝算はあるのか?」

「絶望的とだけ言っておくわ」

「それ無理だって断言してるからな!!?」

 

やはりこの方は容赦が無いようだ。ちょっと期待した俺の淡い気持ちはズバッと否定された。まぁ、分かってたけども。

当然だが、ネロが戦うのは駄目なのかも聞いてみた。しかし、クラス相性からして彼女もまた絶望的らしい。その為にほぼクラス相性など関係無いアヴェンジャーである彼女が最有力候補だったのだが…………。

 

「魔力枯渇状態だと…………まぁ、仕方ないだろ?」

「うむ。それに、確実にあやつがカズマを襲うとは限らない。そこまで心配をする必要はなかろう」

「…………まぁ、だといいけど」

 

ふて腐れた顔ではあるが、なんとなく了承してくれたようだ。要は俺の身を案じてるからそう言ってくれてるんだ。ならば、基本的に強い紅魔の里の皆さんの近くにいれば大丈夫だろう。それが他力本願な俺の最善策だ。

うん、全く自分でどうにかしようと思ってない。流石俺、くずいわ。

 

「ほらっ!あんた達早く逃げるわよ!!!」

 

近くで女の人が叫ぶ声が聞こえた。声のする方向を見ると、何やら草木をかぎ分ける音と、数人が駈けてくる音が聞こえた。

 

「ま、待ってくださいよ~!シルビアさ~ん!!」

「置いてかないでくださいよ~!!」

「なら早く来る!!死にたいの!!?」

「「うっす!!!」」

 

しかし、予想に反して、出てきたのは女性だけではなく悪魔もだった。

 

「え?あれ、どういう集団?見るからにあの女の人が悪魔を引き連れてるぞ?」

「そう見えるわね」

 

いまいち状況が掴めない。俺達はただ彼等を眺めていた。

 

「…………ん?人間!!?」

 

どうやら向こうもこっちに気づいたようだ。

 

「あれ?目が紅くない?…………どうやら普通の人間らしいわね」

 

なんだ?その、普通の人間って?表現おかしくね?

 

「ねぇ?あんた達、殺さないから大人しく人質として捕まってくれない?」

「ナンパするならもう少し言葉を選べよ、おばさん」

「いい年したおばさんがする行為じゃないわね?見るに堪えないわ」

「…………余も罵倒しなければならんのか?」

「あ、あんた達!!!私をお、おお、おばさんですって!!?」

「うん」

「うっさいわね、おばさん」

「…………ふ、ふふふ、ふふふふふふふふふ!言ったわね!?言っては言けない事を言ったわねあんた達!!!?」

 

すると、おばさ―――…………シルビアは激昂し、隠していた鞭を取り出した。

 

「あんた達、やっておしまい!!!」

「「へ、へい!!!」」

 

自分で戦うのではなく、部下をけしかけてきた。

 

「お、お前ら!よくもシルビア様が一番気にしてる事を言ってくれたな!?」

「そうだ!ああ見えて心は乙女なんだぞ!!肌だって気にするし、ボディバランスにだって気を着けてらっしゃるんだぞ!!年の癖に無理すんなとか言うんじゃねぇ!!!」

「「言ってないけど」」

「えっ!?…………あ、すまん。それ俺の心情だったわ」

「あ~ん~た~ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?死にたいの!!?」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!?」

 

賑やかな方達だな。とても魔王軍とは思えない。

しかし、それとこれとは話が別だ。命を狙われては抗わない訳にはいかない。

 

「……いけるか、ジャンヌ?」

「ええ、あんな雑魚なら問題ないわ」

「余が先人を切る。カズマ達は周りの雑兵を頼む」

「おう、頼むネロ。頼りにしてるぞ」

「うむ!存分に頼るがよい!!」

 

ニコッと笑うと、刀から火を放ち、シルビアへと斬り込んでいった。シルビアは一瞬だけビクついた素振りを見せたが、意を決したかのように鞭に魔力を乗せてあちらこちらへと振り回し始めた。

 

「あんた達!早くやっておしまい!!」

「余の疾走は何人たりとも妨げる事は叶わず!故に、余は止まらぬ!!覚悟を決めるがよい、おば―――…………ええっと、シルビア!!!」

「わざわざ言い直さなくても聞こえてんのよ!!!なによ、あんたらよってたかって私をそこまでおばさん扱いするわけ!!?これだから人間は!!!」

 

ああ……これは、俺とジャンヌが悪いな。シルビアはおばさんという風潮を広めたせいでネロまでおばさんと言いかけた。別に敵に情けをかけるわけじゃないが、流石にあの状況でおばさんはないわな…………。

 

「憑依―エミヤ―。からの……『投影、開始(トレース、オン)』」

 

先の戦いで使用した夫婦剣を手に持つ。

 

「な、なんだあいつ!?いきなり刀を生成しやがったぞ!?」

「あいつ、ただもんじゃねぇ…………!」

 

どうやら相手さんには好評なようだ、うむ。正直、エミヤという英霊から力を借り得ているだけなのでそこまで威張れる立場ではない。が、そこはあえて虚勢を張る。

 

「ふっふっふ、これは俺が愛用している伝説の両手剣だ。この剣の錆になった奴の数は知れず…………ふっ、お前達もこの最強の剣の餌食になるがいい!いくぞ、虎鉄……いや、菊一文字?いやいや、ここはあえてムラマサで―――」

「おい、あいつ何か一人でイタイ名前言ってるぞ?」

「やっぱあいつも紅魔族なのか?あの変というか若干口に出すと恥ずかしいネーミングセンスはそうだろうな」

「ちくしょうてめぇらぶっ殺してやる!!!」

 

くっ、俺の虚勢がこんなにも早くも見抜かれるとは……!

 

「別に恥ずかしがる必要ないじゃない?その刀を使ってる英霊だっているのよ?」

「けど、使う度に厨二扱いされるとか嫌だぞ!?」

「まぁ、その気持ちは分からなくもないけど…………とりあえず、その力を使って早く倒しなさいな。さっきの戦いで少しは戦い方のヒントはあげたんだから」

「お、おう…………」

 

英霊の力、英霊エミヤの本質、これを見極めなければ真に迫る事が出来たとは言えない。つまり、力の全部を出しきれないわけだ。俺の未熟さも相まってか投影以外の力の使い方をよく知らない。

 

「…………大事なのはイメージ、か」

 

原理は恐らくそうだ。脳裏に想像した物を構造から確かな物として作る。そして、それを自らの武器として操り、放つ。これがアーチャーとしての戦い方のはずだ。

 

「イメージしろ…………投影、開始(トレース、オン)

 

すぐにイメージ出来るのは剣だ。無駄に漫画やアニメで出てくるような強そうな聖剣はやめる。魔力がもたん。

 

「―――憑依経験、共感終了」

 

創るものは剣。何処の武具屋にでも売っている基本的な形のもの。長さは、太さは、持ち手は、構成材質は、すべてをイメージしろ。それを武器とし、造り、放つ。

 

「―――工程完了。全投影、待機(ロールアウト バレット クリア)

「な、なんだあれ!?空中にいっぱい剣が現れたぞ!?」

「はぁ!?なんか怖いし、意味わかんねぇ!!に、逃げろ!!!」

 

現れた剣を維持、そしてその標準を敵へと定める。耐えろ、堪えろ、魔力を暴走させるな。今の俺なら大丈夫、いつかのようにあの言葉に発狂はしない。今は、創った剣を放つ事だけに集中しろ。

大事なのは、イメージだ。いまの(エミヤ)に、出来ないはずはない。

 

「―――停止解凍、(フリーズアウト)全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)……!!!」

 

全ての剣を解放し、敵へと連続で発射した。

 

「うげっ!」

「ぐふっ……!?」

「ちょ!?あ、あんた達!?」

「ぐっ、もう少しだ、もっと、もっとだ!!」

 

想像以上に魔力の消費が激しい。このままだと、俺の魔力は15秒と持たず絶えるだろう。だが、それを知らないシルビアは仲間を守る為に前へと出向き、俺の放つ剣を弾き出した。

 

「なっ、自分から剣の嵐に飛び込むだと……!?」

 

ネロとの攻防から一瞬の隙を作り、仲間の危機を見かねて飛び込んできたようだ。

 

(なっ!?嘘だろ、鞭で弾いてるのか!?)

「うっ!?あ、あぁぁぁぁ!?くっ、この程度!!!」

 

全てを弾けている訳ではないようだ。数発掠り、一刀は右肩の辺りに突き刺さっている。

 

「死なせない、やらせないわよ!!!」

(くそっ、こっちの魔力が…………!?)

 

空中投影した剣は全て消え去り、俺は魔力切れでその場に崩れるように倒れた。

 

「好機!死になさい!!」

「しまっ―――」

 

その隙を見逃さず、シルビアは俺へと鞭を放った。

だが、それを見逃すネロではない。パキィンと高い金属音を奏でる。剣で受け止め、瞬時にシルビアへと強襲する。

 

「はぁぁぁぁ!余のマスターには手を出させん!!」

「このっ!?どきなさい、そいつ殺せない!!!」

 

再び二人は戦闘を繰り広げ始めた。

俺は、腰に据えた剣を持ち、迎え撃つ素振りだけは見せる。丸腰だとひとたまりもないからな。

 

「やれ!弱ったクソガキを殺せ!!」

「シルビア様の仇、俺が伐つ!!!」

「ちょっと私まだ死んでないんですけどー!?」

 

俺を打たんが為に襲い来る魔物達。

 

「まずいわね…………!」

「くっ、俺もジャンヌも魔力が……」

 

窮地に陥った俺達。だが―――

 

『カースドライトニング』

 

正確無慈悲な一撃が魔物の群れを一掃した。

 

「いたぞ!魔王軍だ!!」

「やれぇ!やってしまえ!!」

「捕らえて実験台だぁ!!!」

 

紅魔族の方達が大勢で駆けつけてくれた。

更に畳み掛けるように上級魔法をぶちこむ。容赦無さすぎとも思えるくらいに。その状況を不利と見たシルビアは撤退命令を出し、逃げていった。

 

「はっはっは!正義は勝つ!!」

「我が力の前にひれ伏すがよい……」

「またつまらぬ者をほふってしまつった…………」

 

安定のどや顔フィニッシュ。なんだろう?助けてくれたんだけどあまり素直に喜べない自分がいる。

 

「おや?カズマじゃないか。大丈夫だったか?」

「ぶろっこり―……ああ、助かった。恩にきる」

「ならせめて名前を間違えないでくれ……」

 

間一髪のところで救われた俺達、そのあとは魔王軍をおう側と安全なところまで案内する側に別れた。俺達は里の安全なところに連れていってもらった。

そして、俺は宿に戻ると、倒れるように畳へと寝転んだ。

 

「…………はぁ、疲れた」

「そうね。私も、今日はもう大人しくしてるわ」

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「あっちに逃げたぞ!!!」

 

魔王軍をおう紅魔族、そして流れるように逃げるシルビア一行。

 

「もうっ!なんなのよあのマッドサイエンティスト達は!!?」

「シルビア様…………俺達のことは、置いて…………逃げて―――」

「馬鹿いってんじゃないわよ!!?あんな奴らに殺されるなんて許さないわよ!!!」

「シルビア様…………!」

 

魔王軍とは思えない人情ぶりで信頼を集めるシルビアだが、その表情は硬く、完全に追い詰められていた。

 

「くそっ、もうこうなったら私が戦うしか…………!」

「いたぞ!やれ!!」

「ふるぼっこだ!!!」

 

シルビアへと放たれる強烈な魔法の雨。だが、それを庇うように何者かが立ち塞がった。

 

「あめぇんだよぉ!!!」

「「「なっ、なんだと!!?」」」

 

右腕をスライム上へと変形させ、地面に叩きつけ、壁のように変形させる。全ての魔法を飲み込み、スライムの中で火が消えるようにシュッと音を立てて消えた。

 

「な、なんだあいつは……!?」

「新手か?」

「何者だ、貴様!名を名乗れ!!」

「あぁ?名前だと…………へっ」

 

その男は、怪しい表情で笑うと、体全体をスライム状へと変形させた。

 

「デットリーポイズンスライム、ハンスだ。よろしくなぁ、紅魔の馬鹿共。んじゃ、死んでくれ」

 

そして、濁流のように彼等へと襲いかかった。

 

 




シルビアとデットリーポイズンスラァイムのハンスさんが登場です。
シルビアはともかく、アニメでたいした見せ場のなかったハンスさんはデュランハン同様滅茶強設定で登場します。打撃?魔法?それがなんぼのもんじゃい!!!という風に普通の魔法は効きません。

今回の里での話は彼らだけ倒せば終わるという訳ではないので更に難関です。最終的にはあの人との決着が待っています。

では、今回はこれで。
急いで続きを書きますのでしばしお待ちを!


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黒聖女、黒歴史、黒騎士

だいぶ間が空いたけど、続きです。
もうカズマ一行と敵戦力の差がどうのとかまるっきり考えてない…………嘘です。深く考えてないだけです←同じ意味

今回はだいたい一万文字くらいです。なるべく文字数を落とさず書こうと思います。




魔王幹部との交戦の最中、英霊としての能力を引き出して戦ったものの、俺は対して魔力が長く持たなかった。別に自分を卑下してるつもりも燃費が悪いだの言い訳する気はないが、やはり俺に戦いの才能は無いのだと悟った。

 

「…………でも、戦わないといけない時もある。だから強くなれってか」

 

畳の上に大の字で転がりながらそんな事を思った。ジャンヌはそれを悪いとは言わなかったけれど、死なないように努力するべきだと言った。『自分と渡り合えるくらいに強くなれ』と。

 

(それが出来たら苦労しないっての…………)

 

その彼女は今現在で傍らで外を眺めている。

枯渇している状態で無理したり、ツンツンばっかりしてて、正直言うとそんな彼女の事を未だに全然理解できていない。無理してしようとは思っていないしツンが強くてデレの頻度が少な過ぎて割りに合わないとか、そんな感じで互いに踏み込んだ話はしたことがない。…………別にそうなりたいと思っていないと言うわけでもない。

 

(そう言えば、初めて会ったときのあいつは…………)

 

常に冷めてて、でも飲みの席になるとはっちゃける。そんな訳の分からない社畜女だった。

 

「…………なにこっちみてんのよ?」

「いや、別に。ただ…………いや、なんでもない」

「気になるじゃない。いいなさいよ」

「そうか?それじゃ――――」

 

なんの気ない昔話。前はどうだったの、前よりも打ち解けて話せるようになったなぁと、でもそれでも…………。

 

「やっぱりジャンヌは、何かを恐れてる気がする」

「…………」

 

今回の件に限った話ではない。思えば最初からそうだった。あいつは、自分を社畜だの干物女だのとにかく働きたがらない自堕落女だと言っていたのに、いざモンスターと遭遇すると先陣を切って戦いに臨んでいた。俺はその矛盾をただのツンデレなんだと思い込んでいた。

 

「でも、本当はどうなんだ?お前は、一体何を思って、何のために俺を守ってくれるんだ?」

「何を思って…………か。それをあなたに話して、あなたは私の事を理解できますか?しようと思えますか?」

「…………」

 

いつもと違う言葉使い、いつもと違う雰囲気。それが指し示すところはつまり、『踏み込む勇気が、背負う覚悟があるのか』と意味しているのだと思う。

元々彼女は聖女のような言葉使いで話していたらしい。それが段々と廃れていって今のような砕けた感じになったのだとか。それを今になって持ち出されると変な感じがするが、逆にそれが彼女が本気でそう言っていると思わせる。

 

「…………でも、話さないと伝わらないだろ。何も分からないままより、話されても分からない方がまだいい」

「それは何の解決にもならないし妥協案ですらない気がするんだけど。それで理解されなければただ私の心をさらけ出しただけで私が損するだけじゃない?」

「でも、人間は溜め込んだ物を吐き出すだけでだいぶ楽になるもんだぞ?」

「…………そうね、酒で酔った時もしかりね」

「いや、そんな汚物的な意味じゃなくてだな」

「分かってるわよ、空気読みなさいよ。ロリコン」

「その関係ないワードを持ち出すお前こそ空気読めよな」

 

談笑すると、意を決したように俺と向き合う。

 

「ねぇ、カズマは誰かに必要とされることに幸福を感じる人?」

「いきなり難問だな。…………場合によりけりだな。面倒事を押し付けるやつに必要とされても嬉しくない。でも、可愛い子や美人に頼られるのは悪くない。むしろ推奨」

「つまり人を選ぶけど、そう感じるのね」

「んん…………まぁ、そうか」

「私はちょっと違う」

「?」

「…………そうね、順を追って以前体験した事を話しましょうか」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

全てが憎かった。自分を裏切ったフランスが。魔女と称して汚名を被せ殺し、罵った者達が。

 

だから殺した。慈悲もなく、情けもなく、ただ殺した。殺して殺して殺しつくした。その結果、人類史を正す為にやってきた者達とそれに協力するサーヴァント達によって阻止され、終にはまた命を落とした。

 

それがまた憎らしい事に、ジャンヌダルクという英霊によってだ。要は堕ちた自分を生前の様な聖女である自分が殺したのだ。しかも、自分の正体を看破した上で。

それがまた、更に憎くくて、悔しかった。

 

だってそれは、自分はあるはずのない存在だと突きつけられたからだ。

聖女は言った。悔いはあれど恨みはない、救おうとした人達に裏切られてもそれはいいのだと。それでも私は、彼等に復讐など望んでいないのだと。

 

ヘドが出る。そんな綺麗事を真っ直ぐな瞳で言い放ったのだ。そんなはずはない。理解できない。偽善だ。正義を体現するための抗弁だ。そんな事は、絶対にありえない。

そして、戦いの最中彼女は自分にこう問うた。

 

『あなたは、自分の家族を覚えていますか?』

 

最初は意味の分からない質問だと思った。でも、その言葉を受けて気づく。

 

思い出せない。何も、誰も、あるのはただ憎しみだけ。

 

ここでようやく聖女(ジャンヌダルク)は答えを確信した。そして、言葉にしなくともそれを魔女(わたし)は理解した。

 

つまり私は偽者なんだと。

 

否定できなかった。確かに内にあるのは憎しみだけ。過去がないのだ。英霊と言えど元は人間。生前の記憶を有しているはずなのだ。まして聖女が覚えているのに、こちらだけ無いのはおかしい。バーサーカーならともかく、いまの私は復讐者。アヴェンジャーなのだ。理性はある、なのに記憶が飛ぶなどあるものなのか?召喚に不具合でもあったのか?否、違った。

 

そもそも、私にそんな過去はなかったのだ。

 

そこで再び表現しがたい不安と恐怖に襲われた。ならば私は誰だ?何故彼等を憎む?私は偽者だというのに?そもそもこの感情すら借り得た物ではないのか?

 

そう。やはり、私は(竜の魔女)であっても、(本物)ではなかった。

 

私の存在に対する謎の答えは簡単だった。

とある一人の男が、かつての私を『あるかもしれない一面』を形どって聖杯に望んだもの。それが、私の源泉だった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

「つまりジャンヌは、たった一人の男に望まれて生まれた英霊で、その他の誰にも望まれなかった者だったという事なのか…………?」

「そうでしょうね。自分にすら否定されたのだから。だけど、それでも私は『ジャンヌダルクのあるかもしれない一面』として在り続ける事を望んだわ」

 

いわゆる『Ifルート』ってやつか?オルタの言葉の意味は『反転』らしいが、それを主張し続けたとはという事は、悪性で悪役だと自分から言っているような物だ。

そんなこと、誰が望んでやろうと思えるだろうか?

 

「そう。だから私は壊れているのだと思う。だって、憎しみに駆られて殺しまくって、挙げ句その動機すら借り物でしたって…………笑い話にしても質が悪いわ」

「…………」

 

返す言葉が思い付かなかった。

召喚した際に俺は彼女の事を深く言及する事は無かった。勝手を知らないというのもあるが、そもそも英霊召喚システムについては無関心、無知識だ。真名やその過去が価値ある物だとは知らない。ただ、俺は仲間として誰かを呼びたかっただけだ。だからこそ、俺は踏み込む気も勇気もなかった。

 

「…………それで、ジャンヌは俺に何を望むんだ?必要とされる理由が欲しいのか?」

「どうかしら?昔はそうだったかもしれないけどね…………カズマ達と一緒にいると、そんな事を考えるのがどうでもよくなった気がするわ」

「なんだそれ?じゃあ何で話したんだ?」

「気まぐれよ」

「そうなのか?」

「そうよ」

「…………そういう事にしておこうか」

 

思えば彼女の言うことも分からなくもない。

例えば俺だ。俺は元の世界で死んで転生した。そしてそのままこの世界に流れ着いた。とすれば当然俺を知るものは居ないわけで、誰からも無関心な存在な訳だ。悪く言えばいきなり天涯孤独の身になった訳だ。はっきり言って笑えない状態な気がする。死んで生き返っただけでも儲けもんだと諦める他はない。

そして、ジャンヌダルク。俺に異例な方法で召喚される以外、呼び出される確率は遥かに低かった。更に、彼女も俺と同じで孤独な身だ。互いに似た者同士なのかもしれない。

 

「なぁ?今はどうなんだ?今も憎しみで生きているのか?」

「今は…………違う、とだけ言っておくわ」

「ん?はっきり言ってくれよ?俺達を守る為とか、酒を飲むためとかじゃないのか?」

「あんた馬鹿じゃないの?前者は猛烈に恥ずかしい言葉を言ってる事を自覚しなさい。後者の方は私をなんだと思ってるのか今一度確認する必要性を感じさせるのだけど?」

「ばっか、俺は大真面目だぞ」

「分かった。あんたは私の事を酔っぱらいだと認識してるのね。焼いてあげるから表に出なさい」

 

おっと冗談が過ぎたようだ、やめておこう。これ以上は死傷者が出かねん。

ようやく話も一段落着いたところで気だるそうに立つジャンヌ。どうやらバックからお菓子を漁っているようだ。

 

「…………う~ん、何かなかったかしら」

「直ぐ様お酒を取り出さないあたり、成長したんだな……」

「ねぇ、私を酔っぱらいに仕立て上げるのやめてくれない?そんな事で成長したとか言われても馬鹿にされてるようにしか聞こえないんだけど」

 

しかしながら手を休めない。こっち向くでもなく相変わらずだ。俺と言えば、ジャンヌとの戦いで負った傷をさすりながら横になっている。戻ってきてから手当てはしたものの、痛いことにはかわりない。

 

「ゆんゆんがこの傷を見たら何て言うだろうな~」

 

と、冗談半分で言っていたら……。

 

「カズマさん、今から皆で駄菓子屋さんいきません…………か?」

「お、おう…………?」

 

戸を叩くでもなく、確認するでもなく、いきなりゆんゆんが降臨した。

 

「…………その、傷は…………一体?誰に?ヤラレタノデスカ?」

「…………だ、誰だったけかー?」

 

俺は迷うことなく目を反らした。

 

「カズマさん?こっちを見てくれませんか?それと、ちゃんと思い出してくださいね?」

「え?あ、ああー…………う~ん、どうだったっけかな?」

「ねぇちょっと、カズマ、あんた何処にお菓子しまったのよ。教えなさいよ、そんな傷唾でも着けてたら治るでしょうに」

 

こいつー!?人がせっかく誤魔化そうとしてるのに何地雷踏もうとしてやがんだ!!?

 

「お菓子はその横のバッグだ。それと、この傷については触れるな。危険だぞ」

「は?何言ってるの?手加減してたから大した事……には…………」

「うふ♥犯人、み~つけた☆!」

 

ついに犯人を見つけたゆんゆんは何処からか杖を取りだし、迷うことなくジャンヌへと標準を定めていた。

 

「え?ちょ、ちょちょちょっと待ちなさいよ!!?落ち着いて、お願いだから!!!私は、良かれと思ってそいつの訓練に付き合っただけで―――」

「うふふ☆イタイノイタイノキエチャエ」

 

狂喜とも言える笑顔で、呪文を高速詠唱し、手に雷の槍を生成した。

 

「残念です。ジャンヌさんはツンが強いだけで絶対にカズマさんを傷つける事だけはしないと思っていたのに。デレの代償としては重すぎますよね?」

「だっ―――誰がツンデレよ!!?言ってる事は合ってるかもだけど、あんたもやろうとしている事は大概じゃないの!!?」

「大丈夫です…………同じ苦痛を味わってもらうだけでいいですから(^-^)」

「嫌よ!!!」

 

そう言うと、直ぐに鎧を身に纏い黒剣を構えた。あのジャンヌオルタともあろうお方が冷や汗をかいてらっしゃる。おお、怖い。怖いぞゆんゆん。あのジャンヌ・デレタさんをここまで震え上がらせるとは。

 

「…………よし、俺は関係ないから寝るわ」

「駄目ですよ?」

「ぐへっ……!」

 

俺の服を掴み無理やり引きずるゆんゆん。

 

「後で一緒に食べに出掛けるんですから、そこで待っていてくださいね?」

「…………は、はい」

「言質、とりましたよ?絶対に破らないでくださいね」

 

ああ、なんて事だ。彼女は優しく囁いているというのに、俺にはこう聞こえる。

 

『逃げたら殺しますよ?』と。

 

(ちょ、ちょっとなんなのよあの娘!?何で急に私に対して攻撃しようとしてるの!?何で私はこんなにも怖がっているの!?そして何で私は彼処で爆弾発言しちゃったの?過去の自分を殴ってやりたいわ)

 

さすがのジャンヌもただならぬ殺気にあてられ同様を隠せずにいる。ゆんゆんが踏み込んだ分だけ後退を繰り返す。されど彼女は歩みを止めず、ただ一点ジャンヌだけを見据えて距離を詰め続ける。

 

「お、落ち着きなさい!あなた、自分が何をしようとしているのか分かっているの!!?」

「はい。軽い、とても軽い懲罰を与えているんですよ?」

 

ほー、そうか。これで軽いのか。あんな禍々しい殺気なのになぁ。これはもう魔王軍幹部クラスだわ。

 

「さらば、ジャンヌ。お前の事は忘れない……」

「え?ちょ、嘘でしょ?ねぇ!?」

「…………あいつは、いい奴だったよ」

「勝手に殺してんじゃないわよーー!!!?」

 

そのあと、ゆんゆんが無茶苦茶した。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「もうっ、ジャンヌさんも泣き止んでくださいよ?」

「べ、別に泣いてなんか無いわよ!!…………ぐすっ」

「…………」

 

完全にゆんゆんという恐怖を植え付けられたジャンヌ。めぐみんも以前『病ん病ん』を垣間見たのだが、それはもう酷く怯えていた。しかし、まさか彼女までもこうなってしまうとは…………正直笑えない。

 

「お、おい……元気出せよ」

「うっ…………誰のせいだと思ってるのよ?ぐすっ。責任とりなさいよ」

「よし、取り敢えず泣きながらその台詞はやめようか?駄菓子屋の婆さんが軽蔑の眼差しを向けてきてるから。めぐみんとかふにふら達まで俺の事を蔑んでるから。俺の評判が臨界点を越す勢いで下がってるから」

 

駄菓子屋で適当なつまみになりそうな菓子を選んでいるのだが、隣で泣きながらすがり付いてくるジャンヌを見てあらぬ誤解を受けている。こんな時、ネロがいればフォローを入れてくれるのだが、生憎と彼女は不在だ。行き先は知らないが『少し出掛けてくる』とだけ残して去っていった。

 

「ねぇねぇ?カズマ、ジャンヌさんにどんな鬼畜プレイ要求したの?」

「人をドSみたいに言うの止めろよ。あと、こいつが泣いているのはある意味では自業自得だから。俺は無罪だから」

「おや?あれだけ『いつかジャンヌをデレさせて、ご主人様って言わせたい』と酒の席で宣っていたのにですか?」

「「「…………」」」

「お、おいめぐみん!!!変な事を言うなよ!!!?いつ俺が言った―――」

「カズマさん?(o^-^o)」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!?ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!生まれてきてごめんなさい!昨日バックにあったお菓子平らげてごめんなさい!!酒も飲みまくってごめんなさい!!!とにかくごめんなさい!!!日頃のジャンヌに対する鬱憤でやったんですごめんなさい!!!!ジャンヌがたまに薄着で俺を誘惑してきてモヤモヤしてたんですごめんなさい!!!!」

「ちょ―――何私を巻き込んでんのよ!!?違うから!!!薄着の件は違うのよ!!?あれよ、ただ暑かったのよ!!?違うからね!?別に色気でカズマを釣ろうとかこれっぽっちも思ってなかったから!!!」

「この二人、どうして急にゆんゆんに土下座しているのでしょうか…………?」

「さぁ?何かあるんじゃない?」

 

俺は謝りつつ、被害を最小限に押さえるべく道連れとしてジャンヌを。ジャンヌは以外とアンポンタンなのか更に爆弾を落としている。

当然、ゆんゆんは満面の笑みだった。

 

「うふふ❤どうして二人して高速土下座してるんですか?」

「「えっ?」」

「私が謝って許すような人に見えますかぁ?」

 

デスヨネー!

うん、読めてた。諦めようか、いっそ逃げるか?

 

「…………ぐっ、いい加減にしないさいよゆんゆん。いつまでもあんたみたいな子供に怖じけついてる訳には―――」

「ん?(^-^)」

「……わけ…………には……」

「はい?(o^-^o)」

「………………………………ごめんなさい」

 

終には謝ったか。だが、今のゆんゆんでは…………。

 

「仕方ありませんね。今回は特例ですよ?(私の)カズマさんにあまりちょっかいをかけないでくださいね?」

「…………了解」

(とうとう立場が逆転したか……。恐るべし、ゆんゆん。ていうか、何か()つけてなかったか?意味深なんだけど?)

 

ようやくほとぼりも冷めたかと思うと、ゆんゆんは俺の隣にべったりと着いてきた。

 

「カズマさん、あまりお菓子の食べ過ぎは良くないですよ?」

「お、おう…………気を付ける」

 

笑えない。彼女は終始笑顔で話しているのに笑えない。背筋に冷たい何かが走る感覚。俺を捉えて離さない彼女の眼。離れるなと言わんばかりに怪力で腕を組んで服を掴む手。

 

どうして、こうなった?

 

「ていうか、ゆんゆんってやっぱりカズマにぞっこんだったの?今に至るまで散々あやふやに答えておいて、そのイチャつきようはなに?付き合ってるの?」

 

おい馬鹿ふにふら言葉を選べよここにおあせられるのは偉大なる魔女教ヤンデレ司教色欲担当のゆんゆんでおあせられるぞ?死ぬぞ、お前の安易な発言で意図も簡単に俺は死ぬるぞついでにジャンヌもトラウマをぶり返すからやめてくれお願いだから後でうまい棒買ってあげるから。

 

「えっと……そう言われても、ねぇ?カズマさん?」

 

はい、来ました死刑宣告。これはあれだな。否定したら殺すんですねわかります。分かってる、分かってるから力を強めないで。腕がミシミシ言ってる。ついでに言うと眼から光が消えて本当に怖いから。そんな病んだ眼差しで俺を見るなよ。

 

「…………そ、そうだな。友達以上恋人みまっ―――ぐふっ!!?」

 

目にも止まらぬ速業で俺の懐に一撃を加えるゆんゆん。一瞬、意識が冥界へと飛びかけたが気にしないでおこう。

 

(しまった。選択肢を間違えたか…………)

 

くっ、これならどうだっ!

 

「友達以上だ」

「ごめん、表現が曖昧すぎて分かんない」

「考えるな、感じろ」

「ごめん、何言ってるか分かんない」

 

ちくしょう。こいつ、以外にも鈍感なのか。

 

「ね、ねぇカズマ?そろそろ昼時なんだから食べに行きましょうよ?ね?」

「お、おうそうだな!そうするか!?」

 

ナイスだジャンヌ!やっぱりお前はいざというときには頼りになる奴だ!!

 

「では、私は肉類が食べたいですね」

「おっ、やっぱりお前はがっつりいくタイプか。ふにふらとどどんこは?」

「えー?どうしよっかー?」

「私は―――」

「カズマさん?」

「え?」

 

無理やりな勢いで質問を投げ掛けたのだが、突然ゆんゆんに袖を引っ張られる。

 

「ど、どした…………?」

 

恐る恐る問うてみる。

 

「どうして、どうして最初に私に聞かないんですか?誰よりも先に聞くべきは私じゃないんですか?」

 

ああもうこいつ面倒くせー!!!

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ネロはカズマと別れた後、再び先の場所へと退き返していた。

そしてそこにあったのは戦闘の爪跡だった。

 

(これは…………草木が腐っている?それに、何かが溶けた様な後と臭い)

 

辺りを見渡せば何処もかしこもそんな有り様。シルビアが逃げたと思われる方向をたどり、森へと入った中でも。むしろそこが一番酷い有り様だった。

 

「ふむ、敵はあの女だけではないという事か」

 

しかし、もう辺りには誰も見当たらない。静かだ。恐らくもう、誰もいない―――

 

「ったく、あいつら即座にテレポート使ってトンズラしやがって…………」

「――っ!?」

 

少し離れた通りを歩いている男がいた。そして隣にはシルビアも。

 

「それにしても助かったわ。まさかあんたがこの里に来てるとは思わなかったけど。あんた、担当はアルカンレティアじゃなかった?」

「そ、そりゃあ…………色々とあったんだよ」

「そ、そう?取り敢えず聞かない方がいいみたいね……」

 

咄嗟に身を隠そうにも周りの草木は枯れている。離れた所に岩壁があるが、とても直ぐに身を潜めれない。故に、彼女のとった行動は。

 

「ったく、もう二度とあの街には―――」

「はぁ!!!」

「なっ―――ぐあぁ!!?」

 

奇襲だった。

 

「くそがっ!!!まだ敵が残ってやがったか!!?」

「あの女、さっきの…………ハンス、油断せずに全力で殺しなさい!」

(右腕を断ったというのにあの気力、やはりただ者ではないか)

 

即座に距離を取る。そして再び敵の全貌を見やる。

 

(敵の数は二人。先の護衛連中はいない。そして…………何故かあの男、切断した腕から血が流れていない?)

 

ハンスの腕を凝視するもやはり出血は見られない。加えて本人もそこまで焦る様子はない。

 

(…………早まったか?)

 

動揺を顔には出さない。静かに剣に火を灯す。更には魔力を込めて殺傷能力を高める。

ハンスの方は未だにこちらの様子を見ている。シルビアは迷うことなくハンスの後ろへと回り、防御に徹する構えだ。

 

「不意打ちとはやってくれるじゃねぇか?」

「ふむ。余とて、好んでそうしている訳ではない。だが、その方が連れている女は魔王軍幹部。そして汝のその精神力と滲み出る圧力。そなたも同じと見た。ならば、容赦はない」

「はっ!小させぇ剣士がほざくじゃねぇか。おうとも、お前の読みは当たってる。んじゃ、殺りあうか」

「―――っ!!?」

 

切断したはずの腕がウネウネと動き始めたかと思うと、突然液状へと変化し始めた。

 

「なっ、これはなんだ…………!?」

「なんだ、知らねぇのか?スライムだよ。まぁ詳しく教える義理はねぇか。んじゃ行くぜ!?」

「くっ……!」

 

横たわっていた腕はその全貌をスライムへと変化し、ハンスの元へと集まっていく。そして、徐々に膨らみ始めたハンスの体はやがて大きなスライムとなり、完全に人の姿を捨てていた。

 

「これは、攻撃が通るのか…………?」

「はっ!!命を賭けて試してみな!!!」

 

そして、大きな波となり濁流の如くなだれ込む。

大きさはあるものの、ネロは瞬時に危険性を察知し回避行動を始めていた。草木は枯れた、だがその胴は残っているため、それを足場に飛んで、飛んで、かわし続けた。

 

「はっはぁ!!やっぱり人間ってのは逃げる事だけは一丁前だな、おい!?」

「くっ…………攻め手が見つからないとは」

 

変形はするものの、一度膨らんだ時よりは体積が増えている訳でもない。だが、肉体を捨てたハンスに体力の限界という物が果たして訪れるのか。

 

(よもや、魔王軍にここまで厄介な者がおろうとは…………!?)

 

押し寄せる本流は木の胴までも少しずつ侵食していた。霧の様に充満する腐った空気。生命を枯らす毒が蔓延しているのだ。長丁場の戦いは不利だろう。

 

「おいおい、どうしたよ!?攻撃してこないのか!!?」

「ちょっと!あんたね、私もいることを忘れてない!?」

「ああ!?生きたけりゃ逃げてろ!!殺すぞ」

「ちっ、あんの糞ノイローゼ男が…………!」

 

回避する片目に彼等の様子を伺う。二人が共闘する様子はない。そもそも、ハンスの方はどうみても単独で戦う方が向いているだろう。同じ幹部でもここまで実力が違えば足手まといになるだろう。

 

「すまぬ、カズマ…………。余は、ドジを踏んでしまったやもしれん」

 

剣を握る手から力が失われていく。

 

「はははははは!!丁度獲物を殺りそこなってなぁ!?憂さ晴らしがしたかったんだよ!ありがとな、俺の為に死んでくれ!!」

(…………せめて、一太刀でも!)

 

そう決心し、地に降りる。そして、剣に宿した炎を膨らませる。

 

「はっ!いいねぇ!!盛大に死ねや!!!」

「はぁぁぁぁぁぁ!」

 

決死の一撃だった。これで最後。この一太刀に全てを込めて放つ。倒せなくとも良い。傷ひとつつければよし、凌げれば尚よし、あわよくば倒せれば、と。

しかして、それは―――

 

「悪手だな」

 

どれも叶わず。

 

「なっ―――にが起こって…………!?」

「ああっ!?んだ、こりゃ…………黒い物体?人か?」

「どれも違うな。だが、知らなくともよい。貴様は消えろ」

 

突如として二人の間に舞い降りたのは、黒い鎧を身に纏い、色白の肌、禍々しい黒い剣を持った少女。そして、寸分たがわずネロ・クラウディウスと同じ顔なのである。

 

「っ!!?てめぇ、ウォルバクの―――」

「消えろ。理性の欠けた汚物め」

 

剣を空高くかざし、逆十字の黒い波動を放つ。そして、手に取る聖剣の名を高らかに唄う。

 

約束された勝利の剣(エクスかリバー・モルガン)

 

その剣が放った一撃は意図も容易くハンスを消し飛ばし、尚もとどまる事を知らず天を衝く十字架となった。

その場にあったはずの地形は姿を変え、ハンスですら腐食という破壊に止まっていたものが跡形もなく消し飛んだ。

 

「…………そなたは、まさか」

「立て。ローマの皇帝よ。脅威はまだここにいるぞ」

「―――っ!?」

「お前の実力、アーサー王アルトリアペンドラゴンが推し量ろう。全霊を持って挑むがいい」

 

告げられた真名に、思わず固唾を飲んでしまう。

しかし、彼女はこちらの意思など酌む気はない。じわりじわりと此方へと歩み寄っている。

 

「…………良かろう。ローマ帝国五代皇帝ネロ・クラウディウスが受けて立つ。余の力、存分に味わうが良い!」

「おうとも。この剣で全て粉砕してやろう」

 

地を踏みしめ、立ち上がる。再び剣に火を灯し構える。

対する相手は変わらず剣を下ろしたまま歩み寄っている。

 

(内包する魔力量、放たれる殺気、王としての威厳と威圧。やはり、反転(オルタ)と言えど王の中の王と称するに値する力の持ち主よ。余は、全霊をとして挑もう。例え勝てぬと分かっていても)

 

「行くぞ、アーサー王!」

 

そして、互いの距離が間合いに入った瞬間に全魔力を解放し、渾身の一撃を放った。

 

 

 

 

 

 




今回も読んで頂きありがとうございます!

二週間くらい間が空いて、そろそろ忘れられてそうーだなと思い急遽書きました。色々と適当になってそう……。

しかして、物語もちょいちょい進めていきます。設定がどうのこうのとか関係なしにやりたい方に突っ走ります。

ではまた、近い内に続きを書くという気概で書きます。


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ツンとデレは7対3。但し、異論は認める。

最早タイトルなど飾りになってきた…………

早く書くという気概と言いつつ、1週間も空きました(^_^;)
が、それもこれも全てFateGrandorderのイベントが…………長かった。


「…………おかわり」

「あいよ」

 

店員が俺の茶碗を取り、2杯目のご飯を注ぐべく店の奥へと消えていく。

 

「…………おかわり」

「あいよ」

 

店員がめぐみんの茶碗を取り、2杯目のご飯を注ぐべく店の奥へと消えていく。ついでに俺の分を置いていった。

 

「…………おいめぐみん。それ、俺がおかわりした分なんだが?」

「何をケチケチしてるんですか?後から持ってくる私の分を頂けばいいではないですか?」

「待て。その間、およそ30秒の空白の代償は?」

「後で特大の爆裂魔法を見せてあげますよ?」

「わー凄い嬉しくないー」

 

迷うことなく茶碗を奪い返す。

だが、めぐみんはそれに直ぐ様反応し、俺と取っ組み合いになった。

 

「おい馬鹿離せよ!お前な、たった数十秒の空腹に耐えられないのか!?子供か、お前は子供なのか!?大人のレディーなんだろ!?」

「いえいえ、私はまごうことなく大人で、立派な、素敵で知的なレディーですよ!」

「はぁ、そうか?そうなのかー!?俺の目には背伸びをしているただのお子さんに見え―――ぶふぉ!!?」

 

俺の懐にめぐみんの頭部がめり込んだ。

 

「おい…………危うく胃から物が逆流するところだったぞ!?」

「おやおや?それは大変ですね?では、とてもじゃないですが2杯目なんて頂けませんね?吐き気を催しているのなら、無理はしない方がいいですよ」

 

そう言うと、奴は俺の茶碗と店員が持ってきた自分の分を受け取り、俺の方を見て鼻で笑った。

俺は悔しさのあまり、瞬時にめぐみんから新しい方の茶碗を奪い取り、ついでにおかずをつまみ食いした。

 

「ああーー!?それは私が最後に食べようと残しておいた分ではないですか!?」

「へぇ?そうなのかぁ?そりゃ残念だったなぁ!?他人の不幸は蜜の味とはよく言ったもんだ!確かに美味いなぁ!!!」

「この男……最低です。人のご飯を奪っておいて、どや顔して論破した気になってます…………」

「はっ!それなんてブーメラン?数秒前のお前に復唱させてやりてぇわ!!」

 

俺とめぐみんによる醜い食い意地争いは激化していき、互いに互いの取り分を食い漁る様になっていた。

 

「おぉ、このヒレカツ美味いな?」

「いえいえ、こっちの茶漬けカツ丼も中々に美味ですよ?」

「「はははははー!」」

 

終いには相手の注文した分だけを食べていた。我ながら思う。よくもまぁ、恥ずかしげもなく年下とはいえ異性の女の子のご飯を横取りしたなと。もうこれ、間接キスだろ?

 

「…………てか、ゆんゆんが何も言わずにこっちを見て目を見開いてるんだけど?」

「いえ、よく聞くと…………何か言って―――」

「か、かかかかカズマさんと、か、かかかか間接キ、きききききき、キス?私のカズマさんがめぐみんと?え?え?え?なんで?どうして?どうして私じゃなくてめぐみんと仲睦まじくイチャイチャちちくりあってるの?え?どうしてなの?ふ、ふふ…………腐腐腐腐腐!ど、どうしようかしら?私も唾液を汁に混ぜてカズマさんと飲ませあいっこしようかしら!?」

「「Oh……」」

 

困るなぁ。こんなところまでそんな性癖持ち込まないで欲しいなぁ。普通にめぐみんと俺とのやりとりが羨ましいんだろうけど、そんな病んだ方向で策を立案するのはやめて欲しいなぁ。

 

「なぁ、そろそろやめね?」

「やめるとは言っても、既にほとんど残ってませんが?それでもですか?加えて言わせて貰いますと、更なる間接キスを引き起こし、更に彼女の逆鱗に触れる可能性が」

「か、カズマさん!良かったら私の―――」

「ご馳走さま」

「あれっ!?今、私が話しかける寸前に急に食べ終えました?」

「あー、美味しかった。ん?どした、ゆんゆん?」

「え?あ、あの…………いえ、何でもないです」

 

よし、勝った。

今回は厄災(ゆんゆん)を回避したようだ。

それから会計を済ませると、やたら後ろで暗くしているゆんゆんと澄まし顔のめぐみんを連れて店を後にした。

 

「…………で、お前はなんでそわそわしてんの?」

「…………ふんっ」

 

振り返ると、ジャンヌが視点が定まらないのか、あちらこちら見ながら若干頬を染めていた。

 

「あの!やっぱりジャンヌさんの胸がバインバインなのは何か秘訣があるんですか!?」

「あれですか!異性に揉んでもらってるんですか!?」

「ばっ―――そんな訳ないでしょう!?いい加減にくだらない質問はやめなさい!!」

 

ふにふらとどとんこが両脇に張り付いて質問攻めしている。その内容は男の俺が聞くと口ごもりそうになるが、それは彼女もまたしかりの様で。目を見て話せてない。

 

「あの!バストはどれくらいですか!?」

「ちょっと、もう少し声抑えなさいよ。あと、どうして私にばかりそう言うことを聞くのよ?ゆんゆんだって…………」

「だってあの子、真顔で『私、何もしてないよ?』って平然と言ってくるんだよ?ムカつかない?あの胸、揉みしごいてやりたいわ」

「…………」

「あっ!ジャンヌさんは別だよ?だって、お姉さんだもん。私達の人生の先輩だもん!」

 

おっと、ジャンヌも察して黙ってますね、これ。明らかに巨乳に対して並々ならぬ憎しみを抱いらっしゃいますね。たぶん、ジャンヌも自然とその胸に育ったから黙ったんだろうな、うん。

 

「ねぇねぇ!ジャンヌさんはどういう事をしてたの!?」

「…………牛乳飲む、とか?」

 

おぉ、なんかそれっぽい事言ってる。でも、どうせなら目を逸らさず言わないとな。ふにふらはちょっと首かしげてるぞ?

 

「でも~、私もそれで試してるけど全然で……」

「あ、あなたはまだ14歳でしょ?希望はあるのだから、早まる事はないでしょう?」

「14歳であんな胸をしてる化物が身近にいるんですが?」

「あれは別格よ。見ては駄目」

 

おい、そんな危険物みたいな言い方はやめてやれよ…………あながち間違ってはないけども。

 

「で、ジャンヌさんってば、どんなイヤらしい事をカズマさんにお願いしたの?」

「「は?」」

「だって、それだけ大きいだもん。何かしてるよね~?ね?」

「…………」

 

待て。そこで俺を見るなよ。

よせ、俺の事を軽蔑の眼差しで見るなめぐみん。

頼むから眼からビームで俺の方を睨むなゆんゆん。

 

あえて言おう。俺は無罪だと!

 

「…………コホン。私は特に何も。…………あ、もしかしたらカズマが私にそう願ったからこのスタイルになったのかも?」

「「「は?」」」

「ちょ!!?おい、何でそこで俺の名前が出てくるんだよ!?俺は特に何もして―――」

 

そう言いかけて、俺はふと思い出す。そう、彼女を召喚した時の事を。

 

(…………あ、そういえばソシャゲのガチャ感覚で、美人巨乳キャラが欲しいなぁって思ったっけ?)

 

懐かしいなぁ…………ん?

 

「「「…………」」」←無言の睨み

「ち、違うから!!!俺は無罪だ!つーか、逆にお前が毎日エロい事考えてるからそんな体型になったんじゃねぇのか!?」

「はぁ!?私は別にそんな事考えてないわよ!!ばーか、ばーか!!!」

「馬鹿って言う方が馬鹿なんですー!はい、論破!!」

「ムカつくわね!!?あんただって私の体を見てたまに発情してたくせに、出会って直ぐに私の胸をガン見してたくせに!!!」

「はぁ!!?言い掛かりだろ!?俺がいつそんな事したってんだ!?お前のそのイヤらしい体はお前の責任だっつーの!!!」

 

ムキになったのか俺の方へとガンガン近づいてくる。あ、ちょ、ちょっと近いです。やばい。思いの外やっきになってつかみかかってきた。

 

「ねぇ!あんた、前から思ってたけど、実は私の胸をいっつも見てるわよね!?」

「はぁ!?」

「他にも、私があんたの部屋でTシャツ一丁で寛いでいる時、ずっとそわそわしてたでしょ!?」

「そ、それは薄着で無防備なお前が悪いんだろうが!?」

「他にも、私と会って間もない頃は私とゆんゆんでハーレム作るぞって息巻いていたじゃない!!?」

「ばーかばーか!!!あ、あとばーか!!!適当言ってるんじゃねぇ!!?」

「はっ!ついに言い訳も苦しくなったわけね!!」

 

ち、ちくしょう……急展開でまったくついていけんぞ。

俺は助けを求めようと辺りを見たが、そもそも周りには女性しかいない。この手の話題で味方する女性はそうそうおるまい。現に俺とジャンヌが至近距離での言い争いを夫婦喧嘩と勘違いして和やかに笑う老夫婦が見える。両隣には若干…………いや、かなり不機嫌なゆんゆんが静かに詠唱している。めぐみんは呆れた顔でどーどーとジャンヌをあやしている。

 

「…………はっ、やっぱりあんたはロリコンなのね。めぐみんとゆんゆんを嫁に貰って、その後も手当たり次第漁る訳ね。この変態が」

「何でそうなるんだよ!?お前な、俺も前から思ってたけど、女絡みの話になると態度悪くなるよな?あれか、実は俺の事を―――」

「ばっ―――ばばばばば馬鹿じゃないの!!?自意識過剰にも限度があるでしょう!?」

 

そうは言うが、明らかに動揺が隠せていない。俺の胸をどんと押すと、後退りするように距離を取った。

俺とて本気で言った訳でもなかったのだが、彼女は俯いて、その言葉に過敏に反応を示した。

 

「ジャンヌさん顔真っ赤だー。可愛いね」

「うん。黙ってると綺麗で、恥じらうととっても可愛い。まさに女の子の理想よね」

「なっ、なななな何を言い出すのよあなた達まで!?」

「だって、本当の事だもん?ジャンヌさん、ヒロイン力高すぎだよ?」

「わ、私は―――っ…………私は、わた…………しは…………」

 

紡ぐ言葉が思い付かないのか、突然胸に手を当てて考え込む素振りを見せる。それがまた、愛らしく見えるのだが…………これを言葉にするのはよそう。どうせ本人以外は分かってる。それに、肝心の本人がそう言われて純粋に喜ぶ部類ではないのだ。

「…………私は、何の取り柄もない一人の女よ。誰かに誉められる事は…………資格なんてないのよ」

「「?」」

(あいつ、まだ過去を引きずってんのか……?)

 

この言葉は俺以外は理解できないだろう。しかし、それをこの場面で持ち出すのはやめて欲しいもんだ。フォロー入れれるのは俺くらいだぞ。

 

「資格なんて知るかよ。ただ単にお前の事を誉めた。この二人はそこまで難しい事は考えてないと思うぞ」

「え?何?」

「私達、誉められてるの?貶されてるの?」

「――――はっ!そ、そうね…………私ったら、どうして脈絡も無くこういう事を話したのかしら?もう、歳なのかもね」

「えっ?歳?ジャンヌさん、いくつなの?」

「永遠の19歳だ」

「え?ちょっと何言ってるのかわかんない」

 

だろうな。だが、俺の言ってる事は間違いではないと思うぞ。しかし、それを証明する手段もその気もない。彼女にさえ、意図が伝わるのであれば。

 

「…………ジャンヌ、何か悩みがあるならいつでも言ってくれよ?俺も含めて、今ある仲間がお前が此処に在る理由なんだから。だから、その…………なんだ、困ってるなら力になるぞ?」

「…………ふふ」

 

俺が死ぬほど恥ずかしい事を言い終えると、彼女は優しく微笑んだ。

 

「そうね。そうだったわね。頼りないマスターさん?」

「お、おい……一言多くね?」

「ならお言葉に甘えて、相談に乗って貰おうかしらね?」

「…………へ?」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

「どう、似合うかしら?」

「…………凄く似合ってる、と思う」

 

彼女は黒いドレスを身に纏い、確認するかのように前と後ろを見せてくる。少し露出が多いのが気になるが、そこから覗く肢体の曲線美がまた彼女を色気強く魅せた。

 

「…………そう。なら、取り敢えずキープね」

「へい!ありがとうごさいます。それで、お客様?次はこちらの御召し物なんていかがですか?」

「ちょっと、誰がそんな悪趣味な服持ってこいと言ったのよ。服は私の思うがままに選ぶわ」

「す、すみません…………」

 

そう言うと、服屋の店員はしょんぼりとして下がっていった。

 

「…………で、これがお悩み相談なのか?」

「ええ、そうよ。たまには着飾ってみたいと思うのは女性として当然でしょう?」

(ジャンヌからそんな言葉が飛び出てくること事態がアブノーマルだと思う俺がいる…………)

「ちょっと、難しい顔をしてないでなんとか言いなさいよ」

「お、おう…………まぁ、その、なんだ…………今日のジャンヌは年相応に可愛いらしい少女に見える」

「年下のあんたに少女って言われるとゾッとするわね」

「例えだよ例え!!!素直に照れろよ。ったく、これだから社畜は…………」

「はいはい、次いくわよ」

「あっ―――ちょ、待てよ!おおい!?」

 

ジャンヌは振り向く事無く、俺を置いて行くが如くずかずか店の奥へと進んでいった。

 

「可愛い、か…………ふふ」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ねぇ、あの二人良い感じじゃない?」

「うん。もう、あれだね。カップルだよ」

 

二人の後を追うようにこそこそと隠れる少女達。地元の店でなければ店員に呼び止められるくらい不自然につけ回していた。

 

「ねぇねぇ!めぐみん、あんたもこのままだとやばいんじゃ―――」

「我が名はめぐみん!最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者!!…………ふっ、決まりましたね」

「何やってんの?」

 

試着室で高らかに名乗りを上げ、マントを翻すめぐみん。こちらの話などまるで耳に入っていないかのように自分に夢中になっていた。

 

「あのね、人がせっかくあんたの恋路を心配して―――」

「結構ですよ」

「…………え?」

 

予想に反して否定する事はなく、何故か悟った風な面持ちで見やる。その表情には焦りや嫉妬はなく、ただ暖かい視線だけ。

 

「今日くらいは、リードしてる分を取り戻させてあげますよ」

「おっ、大人だね~?何、余裕綽々な感じ?」

「まさか。あの男は誰にでも靡く尻軽男ですよ?危険は常について回ってると言っても過言ではありませんよ」

「え?そ、そう?…………あんたも大変なんだね」

「ふっ!恋する乙女はいつだってそうですよ?まだ恋すらしていないふにふらさん?」

「ちょ―――な、なんでここで『さん』付け!?ていうか、あからさまに見下してない!!?別にまだ行き遅れてる訳じゃないからね!!?」

「はて?私によく分からない悩みですね」

「むっか―――!」

 

バンバンと床を踏みしめるふにふら。

 

「ちょ、やめなよふにふら。あたしだってまだ―――」

「うっさい!どどんこも少しは男を探す努力くらいしたら!?あのめぐみんに先を越されてるんだよ!?悔しくないの!!?」

「いや、そう言う訳じゃないけど…………ね?」

「なによ?どうかしたの?」

 

どうにも浮かない面持ちで心配そうに話すどどんこに疑問を覚える。視線の先を辿ると、そこには物陰に隠れて二人の動向を監視するゆんゆんがいた。

 

「あ、ああ、ああああ…………いいなぁ。私もあんな風にカズマさんとイチャコラ―――デートしたいなぁ。いいなぁ、あんなにも楽しそうに笑って。ジャンヌさんは全体的にスタイルも顔も綺麗だから羨ましいよぉ。私も、あんな風に自分に自信を持って、女の子らしい自分でカズマさんと話してみたいなぁ。それで、最後にはキ、キス?とかしてみたいなぁ…………」

 

一人でぶつぶつと呟きながら表情を喜怒哀楽と変わり変わる。二人は見えているのに、そんな自分の不審行動は見えていないようだ。

 

「ね?あんな風にはなりたくないよね?」

「あぁ…………あそこまで依存するのはよくないわね」

「あの子の性癖は、元が友達すらいないことから派生したんだろうとカズマが言ってましたよ」

「あたしらのせいなの!?」

 

感慨深く考える素振りを見せるめぐみんだが、自分が一番の要因だと気づいているのだろうか?と、心配になるふにふらだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ふふ、これもいいわね」

「おぉ…………ワンピースとか、以外だけど似合いそうだな。ていうか、基本素材が良いと大概の服は似合うって聞いたぞ」

「あら、そうなの?…………ふーん?」

 

お、照れてらっしゃる。

 

「お客様、でしたら次はこちらを―――」

「だがらどうしてそんな厨二病くさい服持ってくんのよ!?喧嘩売ってるの!?なによ、これ!全身黒ずくめのマントとタイツ、それに更に黒い短パンって!?何?私に魔術でも使わせたいの!!?」

「いえいえそんな。とてもお客様に似合ってると思いますが…………?」

 

 

真顔で返す店員。以外と似合ってると断言されちょっと流されそうなジャンヌ。

俺も乗るしかない、このビックウェーブに。

 

「そうだぞ、ジャンヌ。そこで更に決め台詞を言えば最高にクールだぞ」

「はっ!?正気なの!?」

「ああ!」

「ぐっ…………!?わ、わかったわよ。…………一回だけよ?」

 

以外にも俺の提案を受け入れてくれた。

そして、ジャンヌはマントの端を持ち、いきおいよく翻して堂々とこう言いはなった。

 

「我が名はジャンヌダルク!救国の聖女にして災厄の魔女!!しかしてその正体は竜の魔女にして、炎を操る者、ダークフレイムマスター!!!」

 

その瞬間、思わず吹いた。

 

「ぷっ―――ぶっ!!あは、あははははははははははは!!!腹痛いわー!!!ちょ、やめっ!!!ぷふっ!!あははははははははは!!!!もう、おまっ―――取り敢えず最高だわ!!!」

「あんたが言えって言ったんでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

 

鬼の形相で掴み掛かってきた。

だが、爆笑している俺に抵抗する気力があるはずもなく、意図も容易く締め上げられた。恥ずかしさのあまり手加減が出来ないのか、そもそもする気もないのか容赦なく壁に打ち付けられた。

 

「痛っ…………!!?」

「ふん、だ!私をコケにした罰よ」

「…………」

「なによ?急に押し黙って…………反省する気になった?」

「…………やっぱり、黒か」

 

下から覗き見えたジャンヌのあれの色を無意識に呟いてしまった。

その後、俺は誰もが震え上がる様な彼女の覇気に当てられながらボコボコにされたのであった。

 

めでたし…………いや、全くめでたくないけど。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「失望だな。これが全力とは…………ふっ、片腹痛い」

「くっ…………!」

 

ボヤける視界の中、剣にすがるように彼女は立っていた。最早力を入れる事すら億劫だと言うのに、体はとうに悲鳴を上げているというのに、目前の敵は息一つ乱さず立っている。

 

(これで…………終わり、か)

 

決着は既に決している。自身は既に死に体。もはや勝ち目などない。

 

「ネロ・クラウディウス。あなたはここで倒れろ」

 

構えた剣から逆十字の黒い光が放たれる。それはとても禍々しく、それでいて儚く、悲しい光。栄光と希望、輝ける彼の剣の威光は堕ち、殺意だけを解き放つ。

 

(ああ、どうして余はいつも―――)

 

静かに目を閉じる。

剣は空高く上げられる。

 

(役にたてないのだろうか)

 

嘆願虚しく、彼女の想いは潰える。

 

『エクス―――』

「がら空きだ」

 

はずだった。

彼女の一撃は、突然の銃撃により阻止された。

 

「…………な、何が起こって?」

「ぐっ、貴様…………邪魔をするのか」

「邪魔?いやはや、それは少し違うな。俺からすれば今の一撃で君を殺せればそれで良かったのだがな」

「つまり、邪魔をする気はなかった。だが、私を殺す機会を伺っていたという訳だな」

「ふむ、概ね合っている」

「…………外道め」

 

セイバー・オルタの鎧には数弾撃ち込まれた後がある。そこからの出血はほとんどない。ならば、ダメージも殆どないだろう。

 

「魔力で編んだ鎧を貫通するとは、余程高度な武器と見受ける。だが、そのような武器を使う英霊を私は知らない」

「当然だ。元より俺は、英霊と称するにはいささか見劣りする者でね。君が知らないのは無理もない。が、それは逆に好都合。何しろ、私は君の事を良く知っているからな」

「ほう、我が真名を知り得た所でどうする気だ?勝ちの目があると思うか、アーチャー」

「…………ふん」

 

再び剣から禍々しい光を放ち始める。

だが、それに怯える様子もなく歩いてネロの方へと向かう。

 

「大丈夫か。たてるのか?」

「む…………そなたが何故?」

「いまはどうでもいい。それより、動けるんだな?ならば、あともう少しだけ踏ん張る事だ。死にたくなければな」

「ふん。だがもう遅い…………」

「ああ、言い忘れていたよ」

「…………なに?」

 

そして再びエミヤ・オルタは彼女の方へと向きやる。

 

「君がいまいる辺りに、草木で隠れていて見えないだろうが細工を施しておいた。存分に味わうといい」

「なっ―――」

 

それと同時に、隠しておいた投影剣に弾丸を撃ち込む。そして、それは爆弾に火を点火したかの様に弾ける。

 

壊れた幻想(ブロークンファンタズム)

 

「しまっ―――」

「もう遅い」

 

退く暇もなく、真下からの爆発を受けて彼方へと吹き飛ばされる。

 

「くっ―――かはっ!」

「…………ふん。さて、これで何分持つだろうかね」

 

騎士王が喰らった一撃はとても重たい様に思えたが、どうにも彼の見立てでは数分の足とめにしかならないらしい。

 

「何故、余を助けた…………?」

「ふん。勘違いをするな。たまたま好機にお前が居合わせただけのこと、礼を言われる筋合いは無いさ」

「…………そうか」

「ああ、それと。君は早く逃げるといい。騎士王の興味は私へと移ったはずだ。ならば、巻き添えを食らわない所までは自力で逃げるんだな」

「まったく、そなたは食えない男よの」

「ふん。お気に召さない様で残念だ」

 

その言葉を最後に、ネロは持ちうる力を振り絞り森を駆け抜けた。決して振り向く事無く、ただひたすらに。仲間の元へと。

 

 

 




さてさて、特に物語が佳境に入っているのか入っていないのか分からない状況ですが…………取り敢えず、まだまだ長いかもと言っておきます。

次回は…………たぶん、早めに投稿します。(定期)


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迫り来る狂気

長らく音沙汰なしにしてましたが、ようやく投稿でぇす。
ちょっと短いです。


目を細めると天国が見える。

あなたは、そんな体験をしたことがあるだろうか?俺はある。進行形で。

 

「何か言い残す事はあるかしら?」

 

彼女はニヤリと笑いながら俺の襟首を掴み持ち上げる。

対する俺は脱力し、なす術もなく吊し上げられる。

 

ああ、世界は残酷だ。力ある者が弱者を蹂躙するだなんて、まさに地獄だろう。

 

「くっ…………殺せっ!」

「あ、そう。それじゃあ一思いに」

「ウソウソウソウソ!!冗談だって!!!」

 

と、現実逃避は止めてちゃんと抵抗する事にした。

その一言を聞き入れてくれたのか、手を離され床に着地した。

 

「…………で、何か謝罪の言葉はあるかしら?」

「あー…………うん。良い柄だったな―――って嘘だって!!!そんな安易に剣を振りかざすな!!!」

「あんたね、素直に謝れないの?何?恥ずかしいの?」

「ばっか、素直に感想を言ったろーが。あとついでにすまんかった」

「ついでって…………はぁ。いいわ、後でゆんゆんに密告の刑に処しましょう」

「すんませんすんませんすんません!!!マジで勘弁して下さい!!!」

 

木造建築の床にめり込むがごとく頭を地に打ち付けながら土下座をかましてやった。だが、それで奴が満足するわけも無く、またもや含み笑いを作ると手の甲を顎に付け、高笑いしながらのたまり始めた。

 

「ははははははははっ!そう、それでいいのよ!!分かったらこの服代を奢りなさい!!!」

「え?いや、最初からそのつもりだったけど…………?」

「…………え?」

「ん?いや、だってこういうのは男の方が出すのが普通じゃないのか?…………たぶん」

 

素直に心情を伝えると、以外だったのか頬を染めながら「フンッ」と鼻を鳴らして明後日の方向を向いてしまった。

 

「そう。分かっているならいいわ…………」

「そ、そうか?」

 

何故だか分からんが、取り敢えず刑に処される事は回避したようだ、

その後もジャンヌはあれよこれよと色んな服を選んでは試着を試した。その度に感想を俺に求め、その度に俺が墓穴を掘りまくって憤怒の炎が舞い上がったのであった。

 

「会計、15万4500エリスになります」

「っ!!?」

 

いざ会計に出すと、驚愕の金額を告げられた。

 

「ジャ、ジャンヌしゃん?」

 

思わずジャンヌの方へ振り返った。だが、奴は知らぬ存ぜずの顔で他の服を眺めては着ようとしていやがる。

 

「あ、あの~…………」

「ん…………これも中々に」

「お~い、ジャンヌさ~ん…………?」

「いや、でもあれも捨てがたい……」

「お~い…………おいって言ってんだろうが!?」

「なによ、うるさいわね。あ、あとこれも買って」

「馬鹿かお前!!?金額!金額がおかしいんだが!?」

 

別に、お金が無いわけではない。むしろ、デュラハン討伐のお金で割りと豊かまであるが。だが、しかしだ。俺は服でここまでお金が掛かるとは思ってもいなかった。というか、ここまでかける必要なくね?

 

「誰かさんが奢ってくれるって、言ってたから」

「誰だよそいつ!俺だよ!!あ~くそ、頼むからもうちょっと抑えてくれ。今手持ちが心許ないんだよ」

「あっれぇ~?さっき真顔で奢るみたいな事を言っておいて、いざ金の事になると怖じ気つくの?」

「ああそうだよ」

「…………言い切ったわね」

「あたぼうよ」

 

ったりめぇよ!いくら懐が豊かになったとはいえ、金にはうるさいカズマさんだよ俺は。思えば、冒険者始めたての頃はこいつの浪費癖が問題で苦労したもんだ。そんな奴が、またもそんな兆しを見せている。ならばそれを未然に防ぐのが一般ピーポーの思考というもの。

 

「とにかく!少しは―――」

「あっ、ゆんゆん」

「おぉいジャンヌ!早く会計済ませるぞ!!ほら、早く」

「おっけー…………ちょろ」

(こいつぶん殴ってやりたい!!!)

 

ああ、ちくしょう…………まったく埒があかない。「ゆんゆん」のワードをちらつかすだけで体が拒絶反応を見せ始めているし、何よりこの干物女であるジャンヌオルタに良いようにされているのが癪に触る。

結局、ゆんゆんなどという邪神は其処に在らず、普通に買わされた。阿鼻叫喚、嗚呼あかん状態。隣を歩くジャンヌは機嫌良さそうに鼻歌を歌っている。対する俺は、誰かさんが買ったはずの誰かさんの分の服を誰かさんの変わりに持っている。

 

…………おい、少しは持てよ。

 

と、言いかけたがやめた。何せここまで上機嫌なのは珍しいからだ。最近は何かと張り積めていたようだし、今だけは良しとしてやろう、このやろう。

 

「なぁ、何でそんな機嫌良い訳?」

「…………べ、別にあんたには関係ないでしょう?」

「あぁ、そうだな。ま、その調子でいてくれ」

「…………?そう、よく分からないけど」

 

分かれ。お前さん、新しい玩具を買ってもらった子供の様にウキウキしてるぞ。

 

(ふふ♪以前ドレスを着たことはあったけど、ここまでオシャレ出来るなんてね…………まぁ今更誰に見栄を張ってるんだって話だけど)

「…………あぁ、そういやこれからどうする?戻るか?」

「そうね…………あれ?そういえばネロは?」

「なんか用があるって言ってたけど、そういや長いな。こんな未開の地で一体何の用事があるんだろうな」

「…………一旦宿に戻りましょう。嫌な予感がするわ」

 

自ずと歩調が早くなる。ジャンヌの一言でふと嫌な考えが過ったからだ。何も最初から全く心配していなかったわけでもないが、それでももしもの事がある。

 

(何事もなければいいけど…………)

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

宿に戻るとネロはいた。

ただ、少し服が汚れていて表情も浮かない感じだ。これは何かあったに違いないと一目でわかった。

 

「ネロ?何かあったのか?」

「うむ。先程の魔王軍幹部と戦ったのだが…………」

「えっ!?」

「どういうこと?説明しなさい」

「実は…………」

 

一通りの説明を受けると、ジャンヌは苛立ちを隠せない様でめつきがキツくなっていた。

 

「そう、あの冷血黒女までいるのね。しかも敵だなんて…………いいわ。会うことがあればその時はこの私が殺してあげましょう」

「知り合いか?」

「まさか。ただ心底嫌っているだけよ」

(知ってんじゃねぇか……)

 

「しかし、まさかあのエミヤオルタという男が余を助けるとは…………実は味方なのか?」

「一概にそうとは言えないでしょう。あいつの行動理念なんて到底理解できないわ。ただ、気まぐれで助けるような奴でないことは分かるわ」

「そうする理由があった…………?」

「そう。例えば、人類に害する者だと判断したとかね」

 

暫くの間、二人の間で俺にはちょっと分からない会話が続けられた。

 

「…………ということになるでしょう」

「うむ。やはりあの男は危険であることに変わりあるまい」

「あの~…………もうそろそろいいか?」

「あら、いたの?」

 

いたよ!しかもお前が買わせた服をぎょうさん持ってな!?

 

「…………む?それは、ドレスではないか!?お主らまさか余が不在の間に買い物をしておったのか!?羨ましいぞ、余にも寄越すがよい!」

「ちょ……!?やめなさい!それは私が選んだものなのよ!!ていうか、あんたは四六時中ドレス着てるでしょうが!?」

「う~!余もたまには他の衣装を着てみたいぞ!!」

 

ああ…………今度は買い物袋に入った服をめぐって争いを始めやがった。

始めにネロがドレスを一着ほど抜き取ると、それに反応してジャンヌが手に取った物と俺の持っていた買い物袋を強奪して俺を盾に隠れた。

 

「カズマ、そこを退くがよい!」

「ああ、俺もそうしたいのは山々なんだが、服の後ろをめっちゃ掴まれてて動けないんだ」

「むぅ……!」

「そもそも、これは私が買ったものなのよ。あんたはあんたで買いにいけばいいでしょう?」

「むむむ……!分かった。では、カズマよ。エスコートせよ」

 

俺かよー。

ここで俺を連れてくのかよー。絶対山盛りに服を選んでは試着しまくっては買い占める気だろ?嫌だよ。そもそも誰かさんが俺の財布の中を涼しくしやがったからそんなに余裕ねぇよ。

だが、ネロはおかまいなく俺の前の服を引っ張りまくる。対抗しようとジャンヌも加減せずひいてくる。

 

「痛い。ちょっと痛いんだけどお二人さん」

「ジャンヌ!お主はもうカズマに用はなかろう!?離すがよい!!」

「関係ないでしょう!?それより、あんただって戦闘の後なんだから休んだ方がいいんじゃないの!」

「余は大丈夫だ!それよりもドレスの新調の方が大事だ!!」

「あんたの頭にはオシャレすることしかないわけ!?」

 

痛い痛い。ちょっと本当に痛いんですー。マジで痛いんですけどー。やめてくれません?

 

「カズマ、あんたも突っ立ってないでなんとかいってやりなさい!」

「そうだカズマ!お主からもこの頑固者を説得するのだ!!」

 

ああもう…………いっぺんに話すなよ。しかも対極の意見言うなよ。どちらかの肩を持てってか?はっ、そんなことしたらどちらか一人から理不尽な攻撃受けるだろうが。

だからこうしよう。

 

「…………胸が当たってる。ので、このままでよろしく。あ、でも引っ張る力は弱めて――――」

 

そこまで言ったところで両方向からパンチを喰らって倒れた。

酷いなぁ。俺が何したって言うんだ?

 

「ネロ、この男は溝に捨ててしまいましょう」

「そうだな。そうしよう」

「お、お前らには人の心が無いのかー!?」

 

拝啓 お父さん、お母さん

僕は今から捨てられるそうで――――って、ああーーーー!ちょっと、ちょっと待って!!本当に待って!!二人して担いで窓から投げようとしないでくれ!!!

 

「次言ったら本当に捨てるから」

 

なんとか捨てられずに済んだようだ。

 

「はぁ…………はぁ…………死ぬかと思った。そういや、さっき言ってたアルトリアだっけ?そいつはまだ里の近くにいるのか?」

「恐らくは」

「なら早く紅魔の人達に言って倒してもらった方がよくね?」

「無理ね」

「…………なんで?」

「まず対魔力のせいで魔法が効きにくい。それと、あいつは恐らく優秀なマスター資質のある者に召喚されている。なら当然スペックは本来の通り怪物並みよ。あいつの宝具ひとふりであらゆるものが消し飛ぶわ」

「無理ゲーじゃん」

 

あれ?悠長に話してるけど、かなりまずくね?この里終わったくね?

 

「とはいえ、あいつが万能かと言われればそれは違うわ。何事にも相性というものがある。それこそ、エミヤオルタはアーチャーよ。可能性はあるわ」

「俺が言うのもなんだけど、他力本願じゃねぇか」

「当然、出来るならば加勢するわよ。あいつの宝具なら当たれば殺せるでしょう」

「まじか!?おうおう、以外とヌルゲーだったか」

 

ここでようやく安堵の声が出た。

ああ、マジでどうしようかと思ったぞ。俺の脳内では既に逃走プランが確立されていたからな。

いざとなればカズマオウチカエル気でいる。

 

「よし。取り敢えず作戦は呪文使うな、それと他力本願で行こう」

「呪文も何もハナから使えないでしょう?あと、どんだけ自分の手を汚したくないのよ。他力他力って、たまには自力とやらを見せてもらいたいわね」

「お、俺はまだ本気を出していないだけだからな。その内、いつか本気だす。だからそれまで待て、しかして希望せよってな」

「あんた、何処でそのネタ知ったのよ?」

「前の世界でWikipedia先生に教わった」

「それは大層物知りな先生なんでしょうね。で、本当にどうするの?」

「どうもしない。里の人には注意換気だけはしておいて、俺達はなるべく里の外に出ないようにしよう」

 

さて、問題はめぐみん達だ。

俺やジャンヌだけなら即トンズラかましてお家カエルんだが、彼女達の里を見捨てる訳にもいかん。…………いや、本音いうと超逃げたい。別に里のエリート連中に任せておけばいんじゃね?って気分なんだけど、その言い分だとめぐみん達はおろかジャンヌとネロも納得してくれそうにない。

 

(どうにか回避できないもんか…………)

 

と、そんな事を考えながら呑気にお茶してた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

「おい、どうするんだ…………?」

 

ローブを被った男が険しい表情で問いを投げた。しかし、一変して誰もが口を開こうとしない。

 

「…………どうするって、どうもできんだろう?魔法が効かないんだぞ?あれでどう戦えと…………」

「里なら3日で直せる。今は避難させることが優先だと思う」

 

木々に隠れ、細々と会話を続ける男達。

その者達の目前には黒い鎧を纏った王が一人、禍々しい魔力を振り撒きながら歩いていた。

 

「…………一旦戻ろう。さっきのスライム型の敵も厄介だ。今ならまだ…………」

 

そっと音を立てないように中腰気味に立ち上がる。

それに続くように隣にいた二人も立とうとした…………。

 

「まったく、今日は厄びだ―――」

 

最初に立ち上がった者の顔面に火の玉が直撃した。それは燃やす事無く、一瞬で頭部を消し飛ばした。

 

「…………えっ?あ、ああ、あああああああああ!!?」

「な、何が起こって…………!!?」

 

消し飛んだ断片から血が飛び散り、男達を真っ赤に染めた。

一瞬の事で脳が状況を読み込めず、惨劇を目の当たりにして叫び、立ちすくむ。

 

「…………し、死んでる?」

「ええ、そうよ?私が殺すために撃ち抜いたんだから」

「だ、誰だっ……!?」

「これから死にゆく人に名乗っても仕方ないでしょう?」

「なっ!?」

「ひっ!に、にげ―――」

『ディンダー』

 

その者が放った魔法は瞬く間に男の体を包み、渦となって焼き付くした。

 

「は!?な、なんで初級魔法でこんな威力が……!?」

「あらあら?あなた達、それでも紅魔族?魔法って、使用者の技量次第でこんなにも強くなるのよ?」

「ひっ……!た、助けて!!」

「駄目よ。逃がさないわ」

 

男はがむしゃらに走った。

とにかく遠くへ。この女から少しでも遠くへ。離れなければ殺される。本能がそう言っている。だが、逃げた先にも未来はなかった。

 

「ほう?ノコノコと私の前に現れるとは……」

「っ!?しまっ―――……くそ、こうなったらやるしかねぇ!!」

 

男は即座に詠唱を始めた。

しかし、それをただ眺めている訳もない。

 

「話にならない。死ぬがいい」

 

僅か一秒足らずで距離を詰め、黒き聖剣を男の心臓へと突き刺した。

 

「がはっ…………!うっ……くそ……お前らなんか、きっと…………族長が―――」

 

その言葉は紡がれる事はなく、男の首は遥か彼方へと消し飛んだ。

 

「あらあら…………やりすぎではなくて?」

「あなたこそ。頭部を焼滅させていたではないですか、マスターウォルバク?」

「ああもうっ、その呼び名は恥ずかしいからやめてちょうだい」

「…………失礼。では、マスターと」

「うん…………まぁ、それでいいわ」

 

赤い髪に人間の外見にそぐわない2つの角、観るものの色欲をそそるかの様な熟れた肢体。されどその身は人にあらず、悪魔である。

 

「それで、あなたは何をしていたのかしら?」

「この周辺で2騎のサーヴァントと交戦していました。あともう少しで一騎は落とせていたのですが…………」

「邪魔をされたのね?」

「…………はい。申し訳ない」

「いいわ。取り敢えず、その邪魔をしたっていう奴の方から殺しましょう?出来るだけ惨たらしくね」

 

ニヤリ、と悪魔の名に恥じぬ陰湿な笑みを浮かべる。

その体からはそれだけでは物足りないと言わんばかりに燃える様な魔力が迸っていた。

 

「……了解した。では、マスター……」

「ええ、そうね。そろそろおいでなさい?」

 

それは後ろに感じる気配へと向けられていた。

 

「…………はっ、てめぇ…………よくもそこの奴をけしかけてくれたな!ウォルバク!?」

 

どろどろに、いまにも溶けて消えてしまいそうに小さいスライム。ハンスがそこにいた。

 

「あらぁ?誰かと思えば…………負け犬のハン…………はん…………なんだったかしら?」

「……殺す!」

「あっ、手が滑った♪」

 

振り向き様に人差し指から放たれたおぼろげな炎がハンスを襲った。

 

「ぎぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?熱い、熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!!!!」

「はははははははは!!!滑稽!滑稽ね!!そのまま惨たらしく絶命なさい!!!」

「……た、助け……助けて……くれ」

「あらぁ?何?あ、いい忘れたけど、その炎はあなたをじっくりと焼いていくからね?ゆっくり、じっくりと、体よりも精神を先に殺す様に私が改良した魔法なの。存分に味わってね、あと8時間くらい♪」

「っ―――!!?嫌だ!殺して、殺してくれ!!いっそ殺してくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「はははははははははははは!!!!堪らないわ!この感覚!!他者を蹂躙しているこの時が一番生きていると実感出来るの!!!ふふ、あなたは一体どれだけ無様な断末魔を聞かせてくれるのかしら?」

 

悪魔。まさに悪魔だ。

ハンスは彼女を見てそう確信した。こいつは、この女は本物の悪魔だ。いや、もはや化け物の類いだ。こいつには逆らえない、敵わない、敵対してはならないと、地獄の業火に焼かれながらそう思った。

これだけの仕打ちを受けて尚、抱くのは憎悪ではなく絶望。底無しの悪意の塊にただ恐怖した。

 

「…………マスター、殺すのならば一思いに」

「あら、セイバー?マスターである私に口答えするのかしら?」

「…………いえ」

「うふふ!さぁさぁ、もっと激しく燃えてちょうだい!!ああ、でも殺さない程度に。それでいて最高に苦しめながら!!あぁ……あぁ……興奮しちゃう♥」

 

その異様な光景を前に、セイバーはただ目を閉じ沈黙していた。マスターであるウォルバクの業の深さに畏怖と嫌悪を抱かざるを得ないから、ただ彼女は目の前の残酷な光景を直視せずに、ただただこの時間が早く終わることを願っていた。

 

(…………ああ、死にたくない。死にたくない…………死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!!俺はこんなところで死にたくない!こんな、何の理由もなく、意味もなく、こんな奴に、こんな死に方を、こんな最後を迎えたくない!!!)

 

消えゆきそうは意識の中、ハンスは願った。

この地獄から解放してほしい、と。

 

「…………なん……で、も…………する」

「はははは!…………え?何か言ったの?」

「なんでも…………する、から…………助け…………て…………くれ」

「…………そう。そうねぇ…………どうしようかしら?」

 

意見を求めるべくセイバーへと向くが、当然彼女の意見など元から聞き入るつもりもない。

 

「…………マスターの思うがままに」

「そっ。なら…………そうね、いいわ。その命乞いに耳を貸してあげましょう」

「っ!!?ほん、とぅ…………か?」

「ええ。私は悪魔よ?悪魔は契約にはうるさいものなのよ?」

「…………な、にを…………すればいい?」

「…………そうね」

 

指をパチンッと鳴らし、ハンスへ掛けていた炎を止める。

そして、またも悪行を企てる顔を浮かべてこういい放った。

 

「この里にいる紅魔族…………とある少女を私の元へと連れてきてほしいの」

「…………わかった。……それ、で…………なまえ…………は?」

「彼女の名は――――よ」

「…………わかった。約束だ。それを成せば俺は―――」

「ええ、もちろん。解放するわ」

 

口元に人差し指をあて、歪んだ口元を止める。そうしないと―――

 

(馬鹿な奴。こんな口約束を信じるなんて)

 

本心が漏れてしまうから。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

「ただいま戻りました」

「おう、お帰り」

 

夕方になるとめぐみんとゆんゆんが戻ってきた。

ゆんゆんの方は相変わらず俺を見るなり母ちゃんみたく「お茶いれますね」と、世話焼きを始めた。

 

もう一度いう。お前は俺の母ちゃんか?

 

「はい、どうぞ」

「おぅ…………あんがと」

「いえいえ、当然の事ですから」

「え?いや、そんな事を頼んだつもりは…………」

「ですから、夜のお世話の方も…………?」

「ぶっ!」

 

思わずお茶を吹いてしまった。

 

「いやいやいや!待て、ちょっと待て!!何かってに口走ってんだ!?」

「うっわ、引くわね。そんな事までさせる気なの?前から思ってたけど、あんたの守備範囲広すぎない?」

「んなわけねぇだろ!?」

「カズマ!余は腹が空いたぞ。何か趣向を凝らした絶品を食べたいぞ」

「注文多すぎな。普通に宿屋の飯でいいだろ?」

「むー、ケチだなカズマは」

「今更だな」

 

その後は、みんなでどんちゃん騒ぎした。

途中、めぐみんが今日は爆裂魔法を撃っていないとかで禁断症状的な状態に陥ってたけど知らんぷりした。結局ジャンヌが無理矢理酒を流し込んで酔い潰した。

 

(ああ、こうしてると平和だなって思えてくるな……)

 

この時の俺はそう思っていた。

だが、こんな甘い日々はあっという間に消える。

翌日、それは現実となった。

 

 

 




次回からシリアスかつ急展開が続きます。

次回は頑張って早めに書きます!(定期)


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