幼女の影に這い寄る紳士はペドフィリア (雨英)
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ロリコンはタダでは転生しない。オプションに幼女を所望する。



最初の部分は幼女戦記のあの独特の語り口じゃありません。いやだって紳士って設定なので。なので2話目以降に乞うご期待……。

あと筆者的にはこれ、普通の人も逃げないようによくあるネット小説風の導入にしたという思惑があったり。

ああ、嘘です、嘘です。
逃げなくても大丈夫ですよ。

さあ、深呼吸しましょう。

息を吸ってー。

吸ってー。

吸ってー。


あ、そうそう。
ツッコミはセルフでお願いします。


 気がついて目を開けると、そこは知らない天じy……ではないですねどこだここ。

 

 ただ白いとしか形容できない空間が広がっている。夢の中だろうか? もしかすると昇天していたりして。なんなんだこのテンプレ空間。

 

 そして現る白く豊かな髭の老翁。

 

 

「どなたでしょうか?」

 

「創造主だ」

 

 ふむ、ふむ。……冗談キツいですね。というかそこは『神様です』じゃないんですね。まあ、何にせよあれです。この人は───

 

「嘘ですね」

 

 ─────創造主ではない。

 

「!?」

 

「幼女になって出直してきてください」

 

 何と言おうとも幼女ではありませんからね。そこから間違えているのであればキャラ作りであっても同情の余地はありません。

 

「なんなのだ貴様は!!?」

 

「いや、失敬。ちょっとした出来心でして」

 

「すぐバレる嘘を吐くな。こちらは心が読めるのだ。全く読みたくもないものだがな」

 

「醜きものをひけらかしてしまい大変失礼をば致しました。どうか平に、平にご容赦のほどを」

 

 さて、DO☆GE☆ZAしますか。

 

「………はぁ、貴様らの行動は理解に苦しむ」

 

「……どこかお疲れのようですね?」

 

 まぁ、心を読めるというところからしてお察しといいますか。人が言わないでいることを態々読むわけですから、ね。そもそも他人を理解する必要は無く態度(外側)でそう思わせるよう示しておけば良いと思いますけど。

 

「全く……、貴様らはどうしてこうも共感力が……」

 

 あ、本当に心読めるんですね。まさに赤裸々。

 

「いやはや、照れてしまいますな」

 

「本当になんなのだ貴様は。……はあぁぁ、何故疲れてるか。それはな、お前の前に死んだ者がいつものように信仰心の欠片も無い奴だったのだが」

 

「ナ、ナンダッテー」

 

 ああ、やはり私は死んでいたのですね。うーん、意外と呆気ないものですね。

 

「……やはり貴様らは度しがたい」

 

 あ、すみません。

 

「……彼奴はそれに加え営業努力だなんだと創造主の苦労も知らずに口出ししてな」

 

「やはり日曜日はお休みなのですか?」

 

「ただただ増えよって次々死ぬから休む暇などないわ! どいつもこいつも解脱して涅槃に行こうとせなんだしな!」

 

 宗教者であってもやはり人は人。一般人は推して知るべし。お疲れさまです。

 

「……はぁ、あれは人一倍くちが回る奴でな。科学の世界で、男で、戦争を知らず、追い詰められていないから信仰心が芽生えないなどと言いおったのだ」

 

「大きな力に縋るのが人間ですからね。今の時代では科学がそれにあたりましょう。奇跡とかいうあり得ざる理不尽に縋るのは奇跡を信じる者のすることです」

 

 まあ、私は奇跡の存在を信じていますがね。

 

「……何も言うまい。それで、奴の希望通りに魔法のある、信仰心の芽生える世界に送ったのだがな、───」

 

 

 ───今、何と?

 

 魔法のある、信仰心の芽生える世界に送った、ですと?

 

 

 それはつまり何ですか、よく口が回るはずの彼はうっかり喋りすぎてしまい、魔法少女に転生させられ戦争で追い詰められてしまい─ピーーー─な展開に陥るということですか!!?

 

 

 

 

 諸君!!

 

 幼女だ。

 

 幼女が、いる。

 

 前世と全く異なる姿の自分、性差に戸惑い、年の差、体格差に狼狽える幼女、可愛い幼女。

 しかし時は待ってくれない。先行きの不透明な戦争がじわじわと汚らしい笑みで迫ってきていた。

 そんな時代だ。彼女はきっと不安定な世情に震えてふえぇしているだろう。

 そして辛い世に揉まれ儚げな笑みを零し、発育不良で幼女の姿のまま大人になるのだ。

 

 諸君、幼女だ。

 幼女がいるぞ。

 ぷるぷる震えている幼女がいるぞ。

 

 実にそそるではないかッ!!

 

 おっと、失礼。

 

 実にけしからんではないかッ!!!

 

 

 ……他意はございませんよ?

 

 

 

 さて、さて、さて、主様。あなたは大変に変態な事をしてしまいました。ですが、その罪、僭越ながら私が背負わせていただきたく存じます。

 

 

 

「───どうも不安が拭えぬのだ」

 

「主よ、あなたは無謬でございましょう」

 

「……何が言いたい?」

 

「そして全知であり、全能。これは私も既に知るところにございます」

 

「……うむ」

 

 肯定なされましたか。流石は創造主様。畏れ多くて、顔も上げられません。ああ、肩が震えているのは、そう、主様の威厳に当てられ震えが止められないのです。

 

「しかしながら──不敬を承知で申し上げます──主よ、あなたは信仰の何たるかを理解しておりません。信仰とは何か、正しき布教とは何に拠るのものか、そもそも信仰とは何を元に生まれるか。これは畏敬でもなければ勿論利益の追求でもございません。一言で述べさせていただくならば愛にございます」

 

「……そうだな」

 

 ああ、御理解いただけましたか。それは重畳。

 

「そして、主様の語りを聞くに、先の者に与えるべきは信仰心の育まれる環境だけでなく、無償の愛もであると愚考いたしました。迷える子羊である幼児として、穢れなき者である少女として、母性愛の象徴である女性として硝煙薫る戦場に送れば、確かに信仰の芽生えを促すでしょう。さりとて、種が力強く芽吹くには大地のみならず、水も必要にございませんでしょうか」

 

「ふむ」

 

「私の生きていた現代を過ごしている者にとって、超常的なものとは夢、憧れに見るものであって元々は持ちあわせていない物。神秘があろうとなかろうと、科学に守られる日々を過ごしてきた彼らにはその恩恵を真に理解し感謝することは難儀であります」

 

「確かに、な。全く嘆かわしいが……」

 

 世界は悲劇と喜劇、そのどちらかであり、喜劇は見方を変えれば悲劇であります。だというのに悲劇は悲劇でしかありません。

 いえ、見る者が見れば喜劇にもなり得るでしょうが……今はその話は置いておきましょう。

 これらを総括すれば世界は悲劇で満ちており、喜ぶべきはそれに気づかぬ者のいること、嘆くべきはそれが真実であることでありましょう。

 それでも私は、愛を、幸せを知る者のいるこの世界は祝福されるべきものであると………。

 

 ……ああ。

 

 そう、そうであるならば、彼は。

 

「はい……。そして、そうであるならばやはり彼等の世界にあるもので訴えるべきでございます。彼等の心に根付くもので訴えかけることで心を揺り動かす事が出来るのです。先の彼に信仰を目覚めさせるには、彼も嘗ては持っていたであろう人の愛で以て訴えかけるのが良いでしょう」

 

 愛を知らぬ、否、忘れてしまった、彼は………。

 

「人は、生を受けたばかりの赤子は、数日も独りでいると命を落としてしまいます。栄養が足りないのではありません。寒かった、あるいは暑かったのでもありません。ひとえに愛が足りなかったのであります。これはつまり、人が愛を必要とすることの証明になりましょう」

 

 愛を、欠いているのだ。

 愛に、飢えているのだ。

 

 死してなお、主の御前でさえも。

 

「であればこそ………私は。………私は、彼の涸れてしまった愛に、私の愛を注ぎに行きましょう。枯れた大地は、水を無くして生き返れなどしないのです。主様、どうか私を彼の下に御遣わしください。彼はきっと、主様のような超常の存在を受け入れないでしょうから。もし更に願うことを許されるのであれば、私は彼の隣を寄り添って歩めるよう、彼と何ら違いのない人間へと転生させていただきたいです。年の、距離の、境遇の遠さは、そのまま心の隔たりに繋がりますから。彼の氷の心を、愛の温かみで溶かし、開かせるには……相当の長い歳月が必要となります。ですが構いません。たとえ私の一生が長かろうと、瞬く間に終わろうとも、この命の尽きる最期まで離れない事を約束します。それ故に、どうか、彼を、人を思うのなら、どうか………」

 

「…………御主、どうしてそこまで」

 

「…………それは。その、独りの身の寂しさを、虚しさを私は知っているので……。まして、その事に気づけないというのはどれほどの孤独かと思うと………っ。すみませんっ……少し、気持ちが抑えられなくっ、て…………」

 

「よい、無理に聞き出してすまなかったな。御主の話はしかと聞き入れた」

 

「……っ!! あ…ありがとうっ………ござっ……ま、すっ!」

 

「今から向こうに送る。それまでには気も鎮まっておろう」

 

「はぃっ……はいっ………ありがとう、ございます」

 

 意識が暗転する。

 気が遠くなる。この場合は実際に遠くなっているのかもしれない。

 

 いやはや、それにしても……。

 

 

 クフッ……クックックッ。

 クァーッハッハッハッ!

 

 全く、創造主様とやらよ。

 

 

 あんたがチョロすぎて、笑いが治まらないではないか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 パチリと目を開ければ視界を覆う鴉の顔。

 

 

「おぎゃーーーーーーっ!!?」

 

「クェッ!?」

 

 バサッ、バサッバサッ。

 

 奴が去るとそこに広がっていたのは曇天。

 

 

 

 転生先は、捨て子だった。

 

 

「おぎゃーーーーっ! おぎゃーーーーっ!」

(うわぁい曇り空だー! なんか風も吹いてるー!)

 

 二度目の人生で最初に行ったのは、現実逃避である。とはいえ、これは流石に仕方なくはなかろうか。

 最初に見たのが両親の笑顔ではなく、鴉の小憎たらしい顔だったのだ。意味不明である。

 咄嗟に大泣きしたから良かったものの、あのままでは目でもくり抜かれてたかもしれない。

 

「おぎゃーーーーっ! おぎゃーーーーっ!」

 

 ガチャリとドアの開く音。

 

「あら……」

 

 そうして、無事にかは分からないが孤児院に引き取られることになる。

 

「また、ですか……。辛い世の中ですね」

 

 二度目の人生、神を馬鹿にし腐って転生してきたのだが。

 憂いを帯びたシスターの顔は不信心な私にも神聖さを感じさせるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◇◆

 

 

 

 

 

 シスター……ここではシュヴェスターと言うべきか?に拾われてから数ヶ月経った。

 院内は物が殆どないスッキリとした所であったと言えばおおよそ察していただけると思う。

 

 

 まずは朗報、戦友は無事でした。

 

 

 おっと、シュヴェスターが来たようだ。

 

  「はーい、ロルフ君。ご飯ですよー」

 

 その後のことは記憶にない。

 ないのだよ、諸君。

 

 良いね?

 

 

 

 さて、取るに足らんことは置いておくとして。

 

 諸君には情報の整理も兼ねて、私の言語の習熟に付き合ってもらいたい。

 

 

 コホン、と咳をひとつ。

 

 

 では、まず、なぜ私がこのような目に遭ったのかということについて考えてみたのですが……、始めは、創造主を名乗る稀代の馬鹿に騙していたのを見抜かれたのかと思ったのです。

 しかし、よくよく考えてみますとあの方は神代以来の伝説的馬鹿……失礼、その話ではありませんね、私は、この孤児院に件の転生者がいるからではないかと気付いたのです。

 

 彼……いえ、彼女の提示した条件を見るに彼女が魔法を使え、かつ徴兵される可能性は高いでしょう。

 

 そして私の望みは彼女から心理的、物理的に近距離の位置にいること、そして彼女と長年連れ添う夫婦になることです。

 

 あの愚者が私の望みを叶えてくださったなら、極めて近い場で2人は育っているはずです。そして、私が孤児院にこの年齢にして預けられたということは、孤児院暮らしに転居はないでしょうから、彼女が既にここにいることを示します。

 

 はい、どなたでもこのような簡単なことは最初に思い付きましょう。ですが、如何せんあの方が色々な意味で人智の及ばぬ者でしたので、ええ。

 

 見た目は白髭の翁、中身は歯も生えぬ童。

 さて、これは何でしょう、分かりますか?

 

 答えはあの方です。このなぞなぞ、答えを知らない方には難しかったのではないでしょうか。

 そうですよね、このような方はいないこともないでしょうが、これは特定の概念を答えるものですから、相当お悩みになられたかと思います。

 

 それほどの大物であったと、少しでも分かっていただけたら幸いです。

 

 

 はぁ……、さて、馬鹿の話をしますと馬鹿になりますので、例のあの人についてはここまでです。

 

 

 ここからはもっと有意義な話をしましょう。

 

 とはいえ、あまり多くは語りません。

 内容は主に彼女になった彼についてです。

 

 さて、件の転生者ですが、金髪碧眼な同い年の女児、ターニャさんであると推測しました。

 彼女には聖堂を見つめる、聖堂の前で故意に泣き止む、といった特異な行動が見られました。

 礼拝中に眉をひそめたりする事もあり信心深い訳ではなさそうでしたので、やはり例のあの人に何かしら思うところがあるのでしょうね。

 恐らく、とはつきますが、彼女が転生者で間違いないでしょう。

 

 ちなみに、彼女とは同い年ということで院内では何かと縁がありまして、コテンと横を向き目が合った際に挨拶をしてみましたところ───

 

 

「だぁ!」

 

「……だぁ」

 

 ───とまぁこのような様子でした。

 

 

 後者がターニャさんです。

 

 どうも内気な子であるようですね。

 

 

 そのターニャさんについてなのですが、私の主への望みに彼女と長年連れ添う、とありましたよね。

 ロリコンの私が彼女と長年連れ添うということはつまり、彼女は一生外見が幼いままであると予想される訳です。

 

 ええ、ええ。

 

 私も、この事に思い至った時、体の震えが止まりませんでした。

 

 

 神は、実在したのです。

 

 

 嗚呼、嗚呼、素晴らしき哉!!

 

 確かな奇跡の存在を私は目の当たりにしたのでした。

 

 

 

 しかし、やはり世の中というのは良いことばかりではありません。

 

 私のいる国はライヒと呼ばれており、拡張主義で軍国主義の帝国(ライヒ)です。

 で、そんな我が国は男女問わずの国民皆兵制。

 どうあがいても兵士になります。

 さて、ここまで話さなくても、気付いた方はいることでしょう。

 

 そう、ターニャさんと同じように、私も戦場へと赴かねばならないのです。

 

 とんだ愚行をしてしまいました。

 

 

 しかし、女神に会うことが出来たのです。

 

 

 悔いは欠片もありません。

 

 そもそも、彼女の境遇を思えば、転生先を選べたかも分からなかったのです。

 

 例のあの人に啖呵を切った以上、半端なことをしては地獄に落とされそうですし、退路はありません。

 

 こうなれば腹を括り、ターニャさんに一生ついていきつつ創造主とやらを扱き下ろすしかないですね。

 

 

 

 ……ああ、少し話し過ぎましたね。

 

 私の得た情報はこれで全てです。

 

 

 

 

 ふぁあ……。

 

 

  失礼、しました…疲れで……眠気が…………。

 

 

 

  (……おやすみ…なさ…い)

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◇◆

 

 

 

 

 

 いくら粋がろうとも体はまだ幼児の彼。

 

 名はRolf(ロルフ)Conz(コンツ)、2歳の夏のことであった。






ここまでお読み頂きありがとうございます。

導入なので幼女戦記成分が薄いかと思いますがご容赦ください。
次はきっと頑張るので、とフラグ建てだけしておきます。

ロリコン戦記?

同志などという言葉を用いるコミーのことは記憶にございません。別の方にお問い合わせ下さい。

ただ、一言だけ。

あのような駄作は読まれないようお勧めいたします、ええ。

あれは私の汚点でし……おっと、私は何か言いましたかな?ああ、そうでしたか。良かったです、本当に、良かった。

さて、さて、次回予告をしておきましょうか。

次回
『ターニャちゃんのレイプ目で今日もレーションが美味い』

ドキドキワクワクの学校生活ですよ、皆さん。
楽しみですね。

1年ほどお待ち下さい。

それでは。


◆◇◆◇◆◇◇◆


自分で解説するという羞恥コーナー第1回


あらすじ

貴官が帝国紳士であるかどうかの試験である


転生する前の場面

存在Xの二人称

貴様…好感度低
御主…好感度高

途中の内心での独白

存在Xの口数が減り心を読まれていると想定したため。
存在Xの読心術は任意発動という設定。

主人公の存在Xへの二人称
主よ、主様、あなた、創造主、例のあの人、etc.

気分であったり語順、語呂の良さで変わる。
ターニャ殿の存在Xという呼称は次話から採用予定。


孤児院での説明会?場面?

丁寧語

シスターの話し方を手本にしたため。
最後の『ふあぁ……』で萌えを狙うため。
次話から「であります」口調の予定なので段階を踏もうと思った、というのもある。

あんなに沢山の語彙やら話し方やら身に付くわけないやろ、というツッコミは勘弁願います。
どうしようもなかった。

ターニャちゃんのローテーションな理由
「………だぁ」

面倒だったが、返事しなければ泣くと思ったから。
彼女は泣かれるのはやたら煩くて好きでない。
という感じでオナシャス。

主人公の名前、Rolf・Conz

全世界のロルフさんコンツさんごめんなさい。
組み合わせたらロリコンぽかったから。

大体こんな感じです。


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ターニャちゃんのレイプ目で今日もレーションが美味い

──キングクリムゾン!

やあ、諸君。久しぶりだね。1年ぶりといったところか。
一昨日8度9分の熱が出てな。インフルとの診断を受け休暇をゲットしたのちこれを書いていたのだ。
誤字脱字、なんか暴走してね?と思ったら遠慮なく教えて欲しい。ああ、もちろん、感想の方もいつでも歓迎しているぞ。

さて、やや、出遅れる形となったが、バレンタインネタも申し訳程度に入れておいた。どのターニャ殿が諸君の好みであるかは大変気になるところであるが……、言うかどうかは諸君に任せよう。

冗長な前書きですまなかったな。
以下、本編だ。是非とも楽しんでくれたまえ。


 やあ、やあ、親愛なる帝国紳士諸君。

 

 諸君は既にバルムンクの手入れを済ましたことだろう……しかしどうか、今一度、全裸で待機してはくれないだろうか?

 

 不躾ですまないが、一つ、聞きたいことがあるのだ。

 

 

 小学生が、中学生や高校生と、組んず解れつの運動をしているのだが、諸君、どう思うかね?

 

 ああ、この表現では端的に過ぎるな。すまない、諸君、今から実況するため、静かに耳を傾けてくれたまえ。

 

 

 ………そこにいたのは、一人の幼女と、獣の集団であった。

 

 彼女と獣には倍ほどの違いがあるだろう。

 この場は、ただ、彼女が蹂躙されるためだけにあった。

 

 充満する互いの匂い、堪えられなかったとばかりに漏れる声、年齢差も、体格差も、まるで違うのに彼らは大人げなく責め立てる。

 

 じわりと滲む涙は、まさにダイヤの煌めき。

 

 汗と汗が混じり合うほどに肌を重ね、濡れた服は体のラインを鮮やかに映し出す。

 

 吐息は荒く、肌は熱く、感覚は鋭敏に。

 

 意識が眩むほどの濃い臭いが立ちこめる中で、彼らは躊躇うことなく己をぶつけ合う。

 

 

 今、この場にあるのは、原始的な生命の活動だった。

 

 

「おい、降参しろ。折れるぞ」

 

「降参です」

 

 

 つまりは、近接格闘演習な訳だが。

 

 

 おっと、その今にも振り下ろさんとする手は、どうか、優しく、貴官のバルムンクに添えてあげてほしい。

 

 私は、ただ、想像力のもたらす可能性を伝えたかっただけなのだ。

 

 

 我々は脳内においては想像の自由を約束されている。

 

 

 それのもたらす物とは、例えば、バレンタインデーのターニャ殿のデレデレ姿やツンデレ姿だ。

 

『ロルフ。バレンタインデーだから、ショコラテだ。貰っておけ。……この場では恥ずかしいから、それを開けるのは部屋に戻ってからにしてくれ』

 

 ターニャ殿ver.デレデレ。いや、これはクーデレ……?

 

 しかし、溢れ出る違和感。

 くっ……(ようじょ)よ、どうか、どうか慈悲を……っ!

 

『ロルフか。丁度いい、貴官にもこれをやろう。教官や同期に配っているのだ。ただ、失敗したときのために多めに作り過ぎてな。お前の分が少し大きくなったが、気にせず食いたまえ。………な、なんだね、その目は。わわ、私は他にも配るのでな、失礼する!』

 

 ターニャ殿ver.ツンデレ。饒舌。

 

 まだ、違和感がする。

 デレか。やはりデレがいけないのか!?

 

『バレンタインデー? ショコラテ? ロルフ殿、私には貴官の言っていることが理解出来ないのだが。貴官はそこまで愚かであったのかね? まぁ、数年来の仲だ、一度限り聞かなかったことにしてやろう』

 

 ターニャ殿ver.ツンツン。毒舌。

 

 とうとうデレがなくなった。

 恐るべし、ターニャ殿……、デレの付け入る隙がまるでない。

 

 

 すまない、諸君。

 ターニャ殿は別格であった。

 

 残念ながら彼女は、私の想像力で手に負えるものではなかったようだ。

 

 実際のところ、ターニャ殿と知り合いになってからかれこれ8年ほど経つのだが、彼女がデレたところを見たことがない。

 これは私の不徳の致すところであるが、それにしても彼女は鉄壁であった。

 

 彼女がどうやったらデレるのか、それは人類の永遠の謎であり、研究課題であろう。

 

 

 

 さて、そんな彼女であるが、今は一回り年上であろう女性士官候補生を相手に、回避を主とした時間稼ぎを行っている。

 

 リーチ、体力、筋力、体格、あらゆる点で不利なのにもかかわらず、目からは光が失われていない。

 

 

「……お前、少しは抵抗らしい抵抗をだな」

 

「くっ…、殺せっ」

 

「違う、そうじゃない」

 

 

 その輝きの凄烈さといったら!

 

 神の威光そのものであった。

 少なくとも、私はそう感じた。

 

 

 ……ああ、すまない、その通りだ。

 

 彼女は女神であるからそのようにあって当然だったな。

 

 

 さて、そろそろ真面目にやらねば評価が危うい。日課であるターニャ殿の観察はいったん打ち切るか。

 しかしまだ体力が回復し切っていない。少し、話でも振って時間を稼ぐとしよう。

 

「いやはや、女性が相手なら、多少はやりようというか、やり甲斐があるのですがね」

 

 これについては、要は、降参と言わずに情に訴えればいいのだ。

 

『ぐぅっ……ま、だまだぁっ……!!』

 

『……はぁ、10秒経っても抜け出せなかったら私の勝ちだからね、ロルフ君』

 

 とまぁこのようにして、徹底抗戦の姿勢を示しつつ、乙女の柔肌を楽しむのである。

 教官にはそうと気付かれないようにやってあるため問題ない。

 最近の彼女達はあまり容赦がなくなってきているのだがな……。

 

「おい」

 

「ああ、ですがターニャ殿は違いますね。いつも抵抗できずにやられてしまっています」

 

「抵抗も何も、いつも組み付きにじゃなくて抱き付きに行ってるだろお前」

 

「無抵抗は時に武力よりも勝るのです」

 

「戦争では格好の餌食だな」

 

 ………何処までも私をコケにしたいようだ。よほど女子との触れ合いに餓えていたとみた。

 

 フッ……いいだろうっ!

 

 

「来いよベネット! 銃なんか捨ててかかってこい!!」

 

「俺はいったいどこからツッコめばいいんだ!?」

 

 

 律儀なこの少年の名はベネディクト。御年14歳。

 

 彼の何とも言えない叫びが、演習場に虚しく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 さて、さて、みんな大好きご飯の時間だ。

 

 

 これを食らえば泣く子も黙る(気絶する)味だと噂のレーションなのだが、諸君も一口、どうだろうか?

 

 私は、噂のことは信じずに、自分で感じたことを大切にすることが、予期せぬ出逢いを招くと考えているのだが。

 

 

 

 いやはや、すまない。

 冗談であるから笑って許してくれたまえ。

 

 ところで、貴官は人体の細胞がほぼ1年で入れ替わるというのをご存知であろうか。

 これに従えば私は日々肉体がスパムやレーションにおきかわっていることになるのだ。

 

 どうだろう、涙が出てこないかね?

 

 豊かな食が人の心を潤すというのは、どうやらそういうことらしい。毎度毎度、欠かすことなく溢れるもので顔が濡れなかった日は無い。

 前世では日頃の友であったカロリーメ○トが、ウ○ダーが、どれほどかけがえのないものであったか。

 

 今、切に感じている。

 

 味覚のない連中の作ったスパムなどの軍用食の与える精神的ダメージは計り知れない。

 最強のスパイスである空腹すらものともせず、口を、舌を、喉を、胃を、余す所なく陵辱し、ターニャ殿をはじめとする女性達をレイプ目にする。

 

 この点に関してだけは奴らを褒めてやってもいいだろう。

 

 それだけでなく、環境に恵まれた体格の良い野郎共も吐きそうになりながら四苦八苦して食べるのだ。

 

 

 他人の不幸は蜜の味、幼女のレイプ目はロリコンの秘宝である。ああ、もちろん、少女のレイプ目というのも中々に乙だ。

 

 無理やりというのを好んでいる訳ではない。ただ、表情の死んでいる絶望感が好きなのだ。シュヴェスターに着せ替え人形にさせられているターニャ殿の顔などは最高であった。

 

 この効果を思えば多少の味の酷さは許せるし、口に入れる気力も湧くだろう。しかし、その果てに待つのは言語化不可能の冒涜的な味によって死んだ目になる己の姿だ。

 そうして感情が死に体になっていると、腹の虫が悲劇など感じさせない無垢な響きで鳴き声を上げるのだ。

 

 もっとくれ、僕まだお腹ペコペコ、と。

 

 拷問の続行宣言だ。

 

 

 地獄である。

 

 

 いったい私が何の罪を犯したであろうか。

 

 どうして幼女にこの仕打ちが許されようか。

 

 

 

 全く、流石は存在Xの管理する世界の一つである。

 

 

 とてもとても理不尽だ。

 

 

 さて、さて、そうは言っても、ここは銃後である。いまだ列強の全面戦争となっていないだけで小競り合いや代理戦争は当然の如く在る。

 ならば、ここもまだまだ捨てた物ではないのだろう。

 

 戦争の、それも前線帰りというのは、前世で軽く聞いた限りでも、腕を、脚を失い、……あるいは遺骨や遺品のみで、などといろいろであったようだからな。

 

 五体満足で物を食え、給料までもらえる私は幸せな部類にいると言えるのだ。

 

 

 魔導適性万歳だよ。

 

 

 ああ、すまない。

 ここがどこであるか、まだ言っていなかったな。

 

 丁度良い。

 

 今から特徴を幾つか挙げよう。当ててみせたまえ。

 

 

 ふむ、そうだな。

 

 ここは世界でも有数の教育水準を誇る学校である。

 ここは卒業後の就職活動に困ることはない。

 ここでは学費は必要ない。それどころか給料まで出る。

 

 夢のような所だろう?

 

 さて、この夢の学校であるが驚いたことに世界各国にある。

 

 ちなみに、既に分かっているだろうがターニャ殿や私も所属している。

 

 

 そう、士官学校だ。

 

 

 私たちが入学したのは帝国軍魔導士官学校である。

 

 未だ2桁にも届かぬこの身に白羽の矢が立つとは思わなかった。それはターニャ殿も同じであったのだろう。

 

 苦みの走りきった表情で存在Xへの呪詛を呟いていた。

 内容はとても幼女の話すようなものではなかったが。

 

 まあ、これこそがTS幼女の魅力だ。

 魔法などとは違うベクトルに非現実的で、アンバランスさの目立つ不安定の代名詞とも言える存在。

 この不思議な存在である所が私の心を捕らえて離さない。

 

 ……それはさておくとして。

 

 先ほどから使っていた存在Xという呼称だが、これは例のあの人のことだ。

 

 ついでであるが彼女と私の関係について軽く話しておこう。

 

 彼女とは、存在Xは人を弄ぶ白痴の神であるという認識で一致している。

 ある程度脚色した事実を話すことで、色々あった後に対存在X同盟を結ぶことができた。

 

 脚色した、とは言っても大したほどではない。

 

 存在Xからターニャ殿の処遇を聞き陳情を申したところこの世界に転生させられた、不愉快極まりないといった感じだ。何も嘘は吐いていない。

 

 私に魔導適性があり、共に戦場に征くことになりそうだと話せば、彼女は私を信用してくれた。

 

 

 

 たかがそれだけの理由で、彼女が、お前を信じられるはずがないだろう、か。

 

 

 そうだ、諸君の言うとおりだ。

 

 

 

 彼女が信用したのは、私が魔導適性持ちであるという情報、そして、転生者であるという、私の異常さの根拠のみであった。

 

 

 

 私への信頼は、何一つ、得られてはいなかった。

 

 

 この同盟が成り立ったのは、存在Xに因るところが大きい。奴の余計な仕事が一役買ってくれたのだ。むしろ、決定打であった、と言うのが正確だろう。

 私としては、悔しい……でも感謝しちゃう……っ!といったところか。奴は人を不快にさせるのがとても上手いようだ。

 

 まあ、しかし、私がいくら奴を嫌おうともだ。

 存在Xの助力により親交を得られたのに変わりはない。

 お陰でというべきかなんというべきか、彼女をシュヴェスターと共に飾り付けたり、私が身代わりにされたりして、最終的に二人仲良く女児服の着せ替え人形になる間柄となったのだがね。

 

 

 

 さて、この存在Xの余計な仕事というのが何であったか。

 

 それについてだが……、諸君もご存知の通り、奴は、底抜けの阿呆でな。

 

 あの日も、聖堂にて、私はいつものように(ようじょ)へと信仰を捧げていたのだ。

 

 代わり映えのしない日常の一コマ。

 

 それをぶち壊しにしたのが奴だった。

 奴は突然話し掛けてきたのだ。その内容があろうことか───

 

 

『すまない、御主の性別だけは変えられなかった』

 

 

 ───などというものだったのである。

 

 

 罵声を浴びせなかった私を誰か褒めてほしい。

 

 なぜ、私が女にならねばならんのだ。

 

 そんなことになれば、私は唯一無二の相()を喪ってしまうではないか。

 

 しかも、私が幼女になるということはだ………うん? 意外と、今のターニャ殿のデレ度を思えば、悪くないのかもしれない。何しろ、幼女の身であれば、ターニャ殿と合法的に密着することも、同衾することもできるのだ。

 幼女と幼女のキャッキャッウフフ……いや、まて、早まるな私。諸君も早まるでないぞ。

 

 あくまで片方は私、紳士である私なのだからな!?

 

 い、いや、確かにTS幼女には私も釣られたクチであるが……。ああ、恐ろしい、恐ろしいから、追及しないでおくよ。

 

 話を、戻そう、戻すぞ、諸君。

 

 

 突然、我が息子の殺人未遂を告白した敬愛すべからざる馬鹿であるが、何のことでしょうと聞けばこう返したのだ。

 

 

『境遇を同じにというのであれば、双子にするべきであったのだ。しかし折悪くそれは叶わなくてな。せめて容姿と性別を同じにせんと思ったのだが止められ、結局男のままあの者と同じ見た目ということになった』

 

 

 全能()と嘲笑えたのなら、どれほど良かったであろう。

 忌々しいことに妙なところで話に筋が通っていた。

 馬鹿にこの世界への転生をさせるべく、自分の背を押させたら、その先には性転換という落とし穴があったのだ。やはり、生粋の馬鹿は予測できないから恐ろしい。奴の暴挙を止めた存在には是非とも謝辞を贈りたい。

 

 この時の私は、驚きのあまり、とぼけるくらいしか出来なかった。が、今では、かえって余計なことを口走らなくて良かったと思っている。

 

 

『貴様、今生ではターニャといったか。お前のことを憂えて、そのロルフもこの地に来た。……同郷の者だ、仲良くしたまえ』

 

 

 仲良くしたまえ、の前の一拍。これこそが奴の存在意義であったと言える。

 そう、奴の与えた決定打とは、このことだ。

 

 何せ、奴が単純であるという認識は、彼女と私の間で共通のものである。つまり、奴から我々には絶対に嘘を吐かないという信頼があるのだ。

 

 あくまで私の想像に過ぎないが、ターニャ殿はこの一拍から、「同郷の者」の意味を「同じ穴の狢」と読んだのだろう。彼女はこれを境に、警戒心を解いてくれるようになる。

 

 

 しかし、私が今でも忘れられないのは、その事ではない。

 

 

 

『あなたは、僕の、仲間なのか?』

 

 

 どこか、嬉しさの見える声音。

 それは軽やかに鳴る鈴の音で。

 

 

 耳を優しく撫でる声が運んできたのは。

 

 懐かしい、言葉の響きだった。

 本当に、本当に、懐かしかった。

 

 世界を越え、転生し、今ではもう帰れない、故郷の言葉。

 

 だから、つい、固まってしまっていたのだ。

 

 

 数秒経って、彼はハッとした様子で言い直した。

 

『Can you speak English?』

 

 

 それがどこか滑稽で──

 

 

 

『私は』

 

 

 

 ───繊細で──

 

 

 

『貴方の』

 

 

 

 ───優しい──

 

 

 

『仲間です』

 

 

 

 ───紳士(大人)の守るべき幼女(子供)に見えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 おっと、失礼。

 

 

 いい話にしようと思っていたのだが。

 

 仕方ない、テイク2といこうか。

 

 

 

 

 グキュルゥーールルルウーー?

 

 

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

 

「なあ、ターニャ殿」

 

「………何だね」

 

「一口交換しないか?」

 

「遠慮するよ」

 

 

 地獄のランチタイムは、これからだ!!




まあ、その、なんだ。

シリアスブレイカーって良いよな。

この幼女戦記の世界に変態性を持ち込むには必須な技能であると思う。

それはさておき。

私の熱望していた男の娘要素をやっと出せたのだが。
ぶっちゃけ愛と狂気の前だと霞む。
折角ターニャ殿と同じ容姿の設定にしたんだがなぁ。

くっ…これが属性力の強さという奴か……っ!

そういう訳で、悪いがあまり男の娘の魅力を押し出せないと思う。
すまない、本当にすまない。
これは私の愛の不足によるものだ。
不出来な私をどうか許して欲しい。

次話ではまことに勝手ながらオトコノコリンを補給させて頂きたい。

時系列としては1話と2話の間になる孤児院での話だ。

なんでそんなことになるのかというと、3話目が、変態的なサブタイトルをはね除けるのみならず、変態性の付け入る隙を全くと言って良いほど晒さないのだ。
狂気万歳、それでも良いかね、諸君?
それとも、やはり紳士であるべきかね、諸君?
私は諸君の正直な所を聞きたい。
可能な限り期待に応えてみせよう。

それでは、またいつか。

─追記─

すまない、大切なことを伝え忘れていた。
評価、感想を送ってくれた方、のみならず拙作を読んで下さっている方、ありがとうございます。
お蔭様で赤バーがつきました。
とても励みになります。
良ければ今後もお付き合い下さいませ。
(>_<)ゞ

─追記2─

暴走して話にガタがみられたので、幾つか文を付け足しました。矯正ともいう。ストーリー的には、なんの変化もありません。

ランキング入りしててびっくりしました。
紳士が大人気。やったね。


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ありし日の孤児院

いや、難産でした。
遅くなってすみません。
いやはや、どうにも紳士性ゲージが溜まらなくてですね。
困ったものです。

言い訳はここまでにして。

駄文かもしれませんが、どうぞ。


 諸君。

 

 諸君は男の娘を知っているか?

 

 世界のHENTAI、日本人の生み出した禁断の果実。

 やがて薔薇園へと導く案内人である。

 

 一般には『こんな可愛い子が男の子な訳がない』というあれであるな。

 オトコノコリンを過剰に摂取したものは『こんな可愛い子が男の子でないはずがない』などと呟くようになるので注意されたし。

 

 うん?

 

 オトコノコリンは毒ではないぞ。用法と用量によっては薬にもなる至って普通の薬品だ。

 

 

 ……諸君、怪しんでいるな?

 

 ああ、なに、評価に影響はせんよ。これは私の説明不足であるからな。

 

 ふむ、そうだな。オトコノコリンはコンソメに並ぶ調味料の二大巨頭であるソイソースと似たようなものだ。

 

 コップ一杯でも飲めば運が悪ければ死ぬ。

 

 あまりお薦めしないがね。

 

 あれはお腹に優しくない。ああ、不浄場とお友達になりたいなら有効なアイテムだぞ。

 

 1口でも飲もうものなら下腹部と頭部が熱をもって疼き出し、暫くはその香りを嗅ぐだけでカーッと顔が熱くなる。

 

 クックックッ、まるで乙女のようであろう?

 

 

 便所姫だがな。

 

 

 さて、そんな恐ろしいソイソースだが調味料としては高い評価を受けている。

 

 オトコノコリンも、そういうものなのだ。

 

 オトコノコリンを恐れるのは、過剰に空気を胸に詰めると破裂して死ぬからと言って呼吸を恐れるのと同じなのだよ。

 

 帝国紳士の嗜みとして、軽くでも男の娘に触れてみるのをお勧めしよう。

 

 そうすると彼、あいや彼女は中々の反応をしてくれるはずだ。

 その時に己の心の動くのを感じたのなら、貴方も立派な紳士になる資質を備えている。日々怠ることなく研鑽を積めば、いずれは紳士の集いに招待されるであろうよ。

 

 

 

 

 

 まあ私は触られるのはご免被るがなッ!!!

 

 

 

 

 

 ああ、そうだ。

 

 そもそも、なぜこのような話をしていたか。

 

 

 それはな、あの至高の馬鹿がやらかして下さったのだよ。

 

 見事としか言いようのないほどの仕事をしてくれたさ。

 

 

 

 

 そう、私は、な。

 変態糞爺のせいでな。

 

 あの、男の娘になってしまったようなのだ。

 

 

 

 誰が容姿まで似せろと言ったよあの爺ィィイイイ!!!

 

 

 

 

 

「ロルフ、どこだ、どこにいる」

 

 

 

「…………」

 

 

「……おかしいな。いつもなら犬のように飛んでくるはずなのだが」

 

 それで、今の私は、ターニャちゃんから逃げて、隠れんぼしてたりする。

 

 あと犬は言い過ぎだ。

 

 

「ターニャちゃんみつかったー?」

 

「いや、まだだ」

 

「…………」

 

 

 原因は、間違いなく、調子に乗ったことだ。

 

 基本的に、ムターの前ではターニャちゃんは大人しくしている。

 それを利用して花の冠のせたりネックレスかけたりブレスレットつけたりしたのだ。

 

 で、計画通りぅおっほん折悪く絵を描くのが趣味のお爺さんがいらっしゃってね。

 

 

 彼女はめでたく絵のモデルとなったのであった。

 

 

 これで終われば良かったのだが。

 まあ、察しはつくだろう。

 

 

『やつも、ロルフも、似合うに違いない』

『あら、確かに、二人ともそっくりだものね』

『あらあら、そうなの? なら、一度見てみたいわね』

『今すぐにでも』

 

 となった訳だ。

 余談としてターニャちゃんが去った後で

 

『ターニャちゃん、ムターのこと大好きですよねぇ。私には全然構ってくれなくて』

『そんなことないわ。貴女ともよく話してるじゃないの』

『そうですかねー……。では私も、ロルフくんを探しに行ってきますね』

『行ってらっしゃい』

 

 彼女がムター大好きっ子だなんだと話されてたり。

 ま、実際はかまい倒されないからだろう。

 あのシュヴェスター可愛いものが好きといっても、あれはさすがにやりすぎである。

 彼女に避けられてても仕方ないだろう。

 

 ちなみに今居るのは話す側の告解部屋。

 さっきまで彼女らがいたのが聞く側の告解部屋だ。

 

 膝掛け入れの箱に入り、膝掛けを上から掛けると意外とバレない。

 

「っくし」

 

 ただ、すごいムズムズする。あーもうこれバレたな。

 

 

「…………ふむ。埒が明かない。シュヴェスターと一度合流するか」

 

 

 ガチャリ、とドアを閉め出てゆくターニャちゃん。

 

 どういうことだ?

 さすがに今のを彼女が聞き逃すはずはない。

 ならやはり、バレていると考えるべきだ。

 

 であるならば、彼女が離れている隙に逃げるべきだが、なるほど。ドアで待っていれば逃げられない、と。

 私は、既に捕まってしまったようだ。

 

 まさに袋のネズミというやつか。

 これは、こっち側の告解部屋内でなんとか、抵抗するしかない。

 

 しかしどうする。

 

 バリケードを築くのはとてもではないが無理だ。

 

 なにせ今この部屋の中にあるのは椅子と、箱と毛布。それだけだ。たとえ築いたとしても焼け石に水である。

 

 だからといって、ドアを開けさせないよう無理に保持すればドアノブが壊れかねない。

 

 それは困る。

 私達の暮らすこの修道院は決して裕福ではないのだ。たかがこんな事で物を壊せばたちまち皆からの白い視線を浴びることとなるだろう。あまり嬉しい話ではない。

 

 そもそも幼児の筋力などたかが知れてる。シュヴェスターが来れば5秒とかからず勝負は決するはずだ。

 

 これはもう諦めて処刑が早く終わるように祈る他ないのか。

 

 

 ……そうだ、懺悔しよう。

 

 その時に奴らが入ってくれば当然お叱りを受ける。

 入ってこなかったら地獄は先に延びる。

 

 これしかあるまい。

 

 

 しかし何を懺悔しようか。

 

 

 私は常日頃後悔の無いように生きている。

 反省は欠かさないがムターに話すべき内容はひとつも無い。

 

 はて、困ったな。

 

  仕方ない、でっち上げるか。

 ちょうどいい。どうせ外で聞いているだろう彼女のあることないことを吹きこもう。

 ごめんよムター、貴女には何の罪もないんだ。

 だけどね、私を追い詰めた彼女がいけない。

 窮鼠猫を噛むというわけだ。

 

 だからどうか、私が嘘を吐くのを、許してほしい。

 

 

「ムター、今、よろしいですか?」

 

「……ええ、どうぞ」

 

「わたしは、いつも後悔しないために、やりたいことをやるということを心掛けています。ですが、人の嫌がることを進んでやっているわけでありません。むしろ、みんな(意味深)が喜ぶことをやりたいと思って、やっています」

 

 

 まず最初に良い子アピール。

 

 

(……急に何を始めた?)

 

「それは……なかなか、立派な志ね」

 

「はい、ありがとうございます。それで、今日もわたしは、いつものようにしてみたんですけど……」

 

(なにか嫌な予感がするな……)

 

 

 そして、かまってかまってとばかりに曖昧に言う。

 

 

「あら、今日も、いつものようにと言うのは?」

 

「それは……ターニャちゃんに、その、お花の冠とか、ネックレスとかを……」

 

(余計なお世話だ。本当に、余計なお世話だ。何故私が人形にならねばならない? シュヴェスターやらムターやらは確かに喜んでたがな!)

 

 お花を女の子にあげたことを恥ずかしがる男の子アピール。

 

 中身が私だと思うとあれだな、吐きたくなる。

 

「まあ、あれは貴方が作ったものなのね? なかなか上手じゃないの」

 

「え、えっと……ありがとうございます。ターニャちゃんには、やっぱり似合ってましたよね……?」

 

(誰が似合うか!)

 

「ええ、とても可愛らしかったわ」

 

(あーあー聞こえないっ!)

 

「はい、可愛かったですよね! あっ……えっと、このこと、ターニャちゃんには内緒にしといてください」

 

(わざとだ……あいつわざとやっているな。いったいどうしてくれよう)

 

「あら、そうなの? 分かったわ」

 

「あの、ですね……ターニャちゃんのこと、なんですけど。あの、ターニャちゃんも女の子みたいで、可愛い服着たいなあって、前に言ってたんです。だから、お花でいろいろ作ったんですけど、それはそれで喜んでくれたみたいなんですけど、やっぱり可愛いお洋服を着てこそお花も映えるって言ってて」

 

(あら、そうだったの。ターニャちゃん、遠慮することはないわ! 何事もやりようはあるのよ!)

 

(そんなわけあるか! やめてくれシュヴェスター! くっ……抜け出せないっ。おのれロルフめ! お前は必ず道連れにしてやる!)

 

「……それ、本当かしら?」

 

「え、は、はい」

 

 息をするように嘘を吐くのは紳士の裏の必修技能だ。私はこれには自信があるが……やはり喋りすぎたか。流石に本音がバレてるとは思えないが……存在Xの敬虔なる信徒ならば警戒すべきだったのか?

 

「嘘でしょう? あの子はそんな我が儘を、ロルフ君が相手でも言うとは思えないもの」

 

「ぅぐっ」

 

(日頃の行いだな。馬鹿め)

 

 単なる己のミスだった。

 どうも話の節々に願望が漏れてしまっていたようだ。

 

 幼女におねだりされたい(真顔)。

 

 はぁ………。

 まったく、ターニャちゃんは小悪魔な美幼女だな。

 こうして幼気(いたいけ)な幼児の心を惑わすのだから。

 将来どうなるか、恐ろしくて想像できないね。

 

 

 

「本当は、ロルフ君も着てみたかったんでしょう?」

 

 

 

 

「……………え?」

 

 うーん、と?

 ちょっとよく聞こえなかったのだが、ムターはなんと言ったのだろうか?

 

 

「まあ、貴方は見た目が可愛いから、憧れるのも分かるわよ。だから、院の外では駄目だけど、中では着ていてもいいわ」

 

 

「………え?」

 

(墓穴を掘ったな。おめでとう、ロルフ)

 

 

「シュヴェスターやターニャちゃんが探してると思うけど、たぶんそちらのドアの外にいるわね」

 

「あ、あの──」

 

 待て、待ってくれムター。

 

 それは誤解だ。

 

 断じて、断じて私に女児服を着る願望などない。

 純然たる幼女趣味で心は満たされている。

 

 私の心の曇りなき様をどうか見てほしい。

 ほら瞳がキラキラしているだろう?

 

「ロルフ君」

 

「はいっ!」

 

 ああ、祈りは──

 

「正直なのが、一番よ」

 

 ──届かなかったようだ……。

 

「はい……」

 

「さて、私もロルフ君が女の子の服を着るのは楽しみね。先に外で待っているわ」

 

「はい………」

 

 

 ガチャリと向こうで閉まるドアの音が物々しい。

 

 

 

 なぜだ。

 

 

 

 いったいどうしてこうなった。

 

 

 私はただ、女装したくなかっただけなのだ。

 

 だというのに、現実はどうだ。

 

 

 ムターのあの口ぶりは、日常的に女装するということではないか?

 元々は今日いっぱいで終わるだったろうおふざけの女装を、地獄を、これから、ずっと、ガチでやり続けると?

 

 

 

 

 ………………。

 

 

 

 

 

 天国の扉は、どちらでしょうか。

 

 ありませんか、そうですか。

 

 

 

 では地獄でもいいです。

 

 あちらですか、そうですか。

 

 

 地獄行きの扉を開けるその前に、立ち止まって見上げてみる。

 重厚な黒檀の色だ。

 黒色というのは、ただそれだけで威圧感がある。

 私の歩む人生という道の途上に、降って湧いた理不尽のように、厳然とそれは聳え立っていた。

 

 いつか前世で見た、地獄の門が如く。

 

 しかしながら、これは新たな世界へ繋がる扉でもあった。

 私は心の中のそれに固く錠を掛け、口を一文字にして地獄の扉を押し開けた。

 

 

「やあ」

 

 するとそこには、人形のようにシュヴェスターに抱えられた、白皙の美貌の麗しき童女が。

 

 

「お前も一緒に、地獄行きだ」

 

 

 誘うように、惑わすように、妖しい笑みで招いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 不覚にも“一緒に”という言葉に喜んでいる自分がいた。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◇◆

 

 

 

 

「あら、やっぱり可愛いわね」

 

「ロルフ君、いや、ローゼちゃん! 可愛いよ!」

 

 

「………ぅうう、なんで、なんで」

 

「ロルフ、中々似合っている」

 

 

 いま着せられているのは、ごく普通のワンピース。

 ひらひらする布が、とても頼りない。

 ちらりと覗く膝も、いつもは気にならないのに隠したくて仕方ない。

 

 スカートをはく女子は、みな痴女なのではないか?

 

 恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしすぎる!

 誰もいなければ、今すぐ座り込むのに!

 

 1枚下はパンツのみ。

 

 緩いワンピースだから、下腹部まで空気がせり上がって、息を吹きかけるように撫でてくる。

 

 すごくきもちわるい! へんな気分になる!

 

 太腿も、膝も、内股にせざるを得ない。

 スリスリと妙に滑らかな地肌の感覚にも慣れない。

 

 梳かされた髪がサラサラと流れ、耳裏を、首筋を、うなじをくすぐるのも、非常に、非常に耐え難い!

 

 柔らかい布の感触が優しすぎて、逆に気になって身をよじれば、ふわっと広がるスカートの裾。

 

 

 あぁ……ぅああ、あぅ……やっ……。

 

 

 

 もう、やだ。

 

 

 

 うああぁぁぁあああーーーーっ!!!!

 

 

 

「ローゼちゃん、鏡、鏡を見てみて」

 

「ぅう……?」

 

 

 シュヴェスターの指差す方へと振り向けば。

 

 

「………ぁっ」

 

 

 

 煌めく金糸が。

 

 潤む碧玉が。

 

 紅に染まる白磁の頬が。

 

 震える肩を抱く細腕が。

 

 空に舞うスカートの裾の。

 

 下から覗く魅惑の脚が。

 

 

 

 

 私の目を捉えて放さなかった。

 

 

 

 

 

「………ターニャだ」

 

「それはロルフだ」

 

 

 

 自分だった。

 

 

 

「うああああぁぁーーーーっ!!!」

 

 

 マズい、マズい、マズい!

 新世界への門が、開きかけている。

 

 

 おのれ存在X!!

 

 マジで許さん!!!

 

 

 

「えっと、ムター。行ってしまったのですが」

 

「ローゼちゃんはお転婆ねぇ」

 

「え、えっ……。まあ、いっか」

 

(いい気味だ)

 

「よし、じゃあ次はターニャちゃんも綺麗になろ?」

 

「んなっ」

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◇◆

 

 

 

 

 

 

 最悪だ。

 

 

 

 

 

「えっと、ターニャ、どうしたの?」

 

「………」

 

 

 この格好で、見つかった。

 

 

「うーんと、ターニャ、だよね?」

 

 

 どうしよう、どうすればいい、何か、何か手は!?

 

 

「あ、もしかして、ロルフ?」

 

「ち、ちがうよ!」

 

 

 私はロルフであってはならないっ!

 もしバレたら社会的に死んでしまう!

 なにか、なにか、偽名は……あれは嫌だが仕方あるまい!

 

 

「わたしはローゼ、ローゼっていうの!」

 

「そうなの! よろしくね、ローゼ!」

 

 

 

 やった、幼女と仲良くなった。

 

 

 

「可愛いね、ローゼちゃん!」

 

「そ、そう、かな」

 

 

 正直、微妙な気分だ。

 褒められても、喜びがたい。喜んだら、負けなのだ。

 

 

 

 

「でも勝手に女の子の服を着ちゃだめだよ、ロルフ」

 

 

 

 

 バ レ て た 。

 

 

 

 

 

 泣きたい。

 

 死にたい。

 

 埋まりたい。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◇◆

 

 

 

 

 

 後日、ムターによって、ローゼちゃんという新たな孤児院の家族が紹介された。

 

 当の本人はというと目が死んでいて、周囲はというと生温かい目をしていたとか。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◇◆

 

 

 

 

 

 

「はぁ………」

 

 

 空はまだ暗い。

 

 既に近代といえど、今は戦時だ。

 あの東京ほど明るくはなく、星も、散りばめられたと言える程度には輝いている。

 

 月は、前世と同じなのかと思えば場所が違うからか、兎がそこにはいなかった。

 

 

 

 懐かしい夢を見た。

 

 

 そう、懐かしい、そして忘れたくもある、平和で、混沌としていた昔。

 今、ムターは、シュヴェスターは、孤児院の皆はどうしているのだろう。

 

 どうでもいいと言い切れるほど、浅い付き合いではなかった。

 

 

 別に今の生活が嫌なわけではない。

 

 ターニャ殿共々気遣ってくれる相手はいるし、食事は──味はともかく──満足できる量が出る。

 体力勝負こそ辛いが勉強で好成績を出すのは造作もない。

 教官殿も厳しい事はあるが理不尽ではない。

 

 恵まれていると思う。

 

 

 しかし、何故だろう。

 

 あの騒がしさも悪いものではなかったと、そう感じる自分がいる。もし戻れたなら、そんな仮定をする自分がいる。

 

 思い出したなら、ついそれに浸ってしまう自分がいるのだ。

 

 

「お、今日もロルフは早起きだな」

 

「いやー、満月だから、月に吠えてみようかと思って」

 

「アオーンってか?」

 

「キャインキャインって」

 

「子犬じゃねえか!」

 

 年齢差こそあるが、軽口たたく程度の仲ではあるルームメイト。今いる年上ばかりのこの士官学校では、貴重な友人だ。

 

 

 

 ああ、なるほど。

 

 

 もう、あの日々は、私の中で過去になったのだな。

 

 灰色でセピア色。

 しょっぱく、ほろ苦く、甘酸っぱい。

 

 忘れられないが、二度と味わうことのない。

 錆び落ちていく記憶の中で、思い出すだけの過去に。




何故だかギャグが、ネタが生まれない。
そして次々投稿されるレベルの高い幼女戦記SS。
胃がやばかった。

さて、次話ですが、こちらも鈍詰まっておりまして。
半分ほどかけてますが、一言だけ。

ギャグが書けない。

“シリアスはギャグに勝てない”……私もかつてはそう思っていたよ。

こんな感じ。

次回予告「狂気胎動」

ロリコン何処行った、ですと?

いまタ←レルも書いてるので、ifとして上げるつもりです。そちらの方で、紳士性回復を行って下さい。

また長いこと待たせるかもですが、気長に待って頂ければ幸いです。


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狂気胎動

遅くなりました。

色々手直しをしたり、書き直したりしたのもあるのですが。
後ろの方の表現をこのまま上げるかどうかで悩んだ──という箇所は修正しましたので気にせずお読み下さい(追記2)。

それと、ギャグの代わりに、皮肉というか、ブラックジョーク擬きを入れておきました。というか、そのオンパレード、です。

さて、前置きが長くなりましたが。

今回本文も長めです。
なんと驚きの7000超え。

ごゆっくりお楽しみ下さい。


 やあ、やあ、ご機嫌よう、諸君。

 

 時が経つのは早いもので、気づけば入学から1年。申し訳程度の庭にコスモスが咲き、風に揺られる季節がやってきた。

 

 

 つまりは、可愛らしい新入生がやってくる季節な訳である。

 

 

 まあ、年上だが。

 

 あれだ、可愛らしいというのは、おろおろしたり緊張したりしている様子が初々しいとか、そういう意味だ。

 どちらかというと、戦時でも意気揚々と士官学校にやって来て、天真爛漫さを見せる姿が可愛らしいという皮肉の意味合いが強いが。

 

 

 さて、新入生がやってくれば当然、形はどうあれ歓迎せねばならない。

 

 それをするのはもちろん在校生な訳で。

 

 

 今は指導先任となった在校生が前に立ち、代表としてターニャ殿が新入生、つまりは二号生に洗礼を浴びせているところだ。

 

 

 

「栄光ある帝国軍魔導士官学校の狭き門を潜り抜けてきた、諸君。合格おめでとう」

 

 そう、現在、ターニャ殿が二号生に訓辞を述べているはずなのだ。

 

 

 が、しかし、彼女、声も顔も全くの無表情である。

 

 

 お陰で二号生は戸惑っているようだ。無理もない、ターニャ殿はどう見ても祝ってないからな。彼女の機嫌もあまりよろしくなさそうな雰囲気であるし。

 

 今日は何かあっただろうか?

 特にからかったりした記憶は無いのだが。

 

 だとしたら、あれか。

 

 この場に立つと伝えられたのが、1時間前だったからか。あの時、妙に空気が固くなったからな。

 なるほど、理由が分かって安心した。

 

 

「私は、諸君ら二号生の指導先任となるターニャ・デグレチャフ一号生である」

 

 

 ちなみにだが、指導先任に選ばれるのは数人といったところだ。

 私も何を間違えたかその中に選ばれてしまったのだが、ターニャ殿を見ているだけの仕事になりそうだ。

 

 なにせ彼女、年齢に見合わぬほど優秀なのである。それでもって評価のためにキリキリ働く。

 

 そんな彼女と同僚になれば?

 

 いつも姿を見ていられる──のはそうだがその話ではなく。

 私が言おうとしたのは、彼女ができる限りの仕事をこなしてしまい何もすることがなくなるという話だ。

 

 席次は第三席、座学だけで見ればトップである彼女のやった仕事に手を加えるなど、当然できるわけもない。

 

 

 

 学校なんて、転生者で二回目の人生なのだから余裕だ、楽勝だ?

 

 

 そんなことはない。

 

 小学校のテストならともかく、ここは15、6歳の青少年が通う士官学校。高得点を出すのは子供の吸収力があっても楽ではない。

 学習内容だって平和な日本の学校ではまるで耳にしなかったことばかりである。生かせたのは精々勉強のノウハウと数学に物理くらいだった。

 

 それに加えて、そこいらの少年少女に負ける私ではないのだが、競争相手がターニャ殿なのである。競争相手と言っても、私が追い縋る形だが。

 

 

 何故、相手が彼女であるか、か?

 

 

 簡単な話だ。

 

 少しでも、卒業後に彼女の同僚となる、あるいはなれる可能性を上げるためである。

 

 我々が幼児の身である以上、前線に送られる可能性は低い……筈だ。少なくとも、ある程度危険性の低い職場になる……と信じたい。

 

 しかし10にならないというのに士官学校にいるわけだしなぁ……うーむ。

 

 帝国軍の信頼性に欠く倫理観はさておき、士官学校出の就く安全な職務とは内地勤務に他ならない。そこでは並の成績など論外であり、集められるのは天才と秀才、つまりは成績上位者である。

 

 当然それを目指す彼女に、ついていくために私の成績の要求水準も上がる訳で。

 

 仮に、勤務先が違ったとしても、階級は上に行けば行くほど同僚が減る。彼女は確実に残るだろうから、遅れずについていけば結果として会う機会も増える。

 

 

 生き残れたら、だが。

 

 

 何にせよ、ここは、学校は能力をはかるのだから、出し惜しみすればどうなるかは目に見えている。

 

 最初から、結論は出ているという訳だ。

 

 

 しかし、これでもまだ楽勝だと言えるなら、私とは頭の構造が違うのだろう。良い意味でも、悪い意味でも。

 

 いや、別に言い訳ではない。

 これはただの事実だ。

 

 事実なのだ。

 

 良いね?

 

 

 

 

 しかし、ターニャ殿は本当に優秀だぞ?

 

 それこそ、彼女の先任が、廃人となるくらいには。

 

 

 いやはや、不幸な出来事であった。

 

 

 彼は悪くなかったよ、恐らく。ああでも──死体蹴りの趣味はないのだが──頭の出来は彼女より悪かったな。

 幾つも年の離れた子供にあらゆる点で負かされ、ポッキリ心が折れたらしい。いつの間にか消えていた。

 

 彼の名前を覚えていなかったからターニャ殿に聞いてみたところ、彼女も覚えていなかったらしい。

 彼女の中での彼の評価は、無能でも有能でもない、毒にも薬にもならない奴、だったのだろう。

 

 その“何でもない”という評価がトドメだったに違いない。

 

 どこまでも哀れな奴だった。

 

 

 彼女はわりとそういう類いの話に疎いからなぁ。

 

 

 

「はっきりと言おう。我々は、実に困難な情勢において、常に最良の結果を求められる」

 

 

 さて、それほど優秀であるからこそ、彼女の“常に最良の結果を求められる”という台詞は重い。

 だがノコノコと死にに来た気楽な二号生には、分かるはずもないか。

 不穏な情勢の中で、死者も出ている軍にどうして入ろうと思えるのか、不思議で仕方ない。活気溢れる若者の愚行、というものなのだろうか。

 後悔先に立たずとはよく言ったものだ。

 

 

 

 しかし、最良の結果、か。

 

 

 私にそれを出せる自信はない。

 

 ああ、確かに最良の結果を出せると思うのは増長以外の何ものでもないがそういう話ではない。

 自分で思うのだ。私は士官に向いてない。集団を取り纏めるのが好きでないからな。

 

 単独任務を黙々とこなすのが性に合う。

 

 やりたいことをやる。

 思うがままにやる。

 バレずにやる。

 

 それが、私の好きなことだ。

 

 

 何で軍に入っているのだろうな、私は。

 

 いやまあ、何故ってそんなのは自分でも分かりきっている。

 それしかなかったから、だ。

 選べないというのは、精神的負荷である。だが同時に、“選べなかった”という逃げ道たり得る。精神を崩壊させないように圧力をかけるなら、うってつけだ。

 

 おのれ、存在Xめ、上手くやりよる。

 

 何とも、面白くないものだ。

 

 

 

「だが、安堵してほしい。我々は、貴様らに期待しない。だから私としては、望む。私を絶望させるなと」

 

 

 存在Xの話はやめだ。何も得られるものがない。

 

 

 さて、さて、さて。

 

 今の彼女の優しい言葉だが間違いなく誤解されるだろう。私が今年の二号生であったなら、期待されてないならやりたい放題だななどと言って、幼女を可愛いがる計画を立てていただろうが。

 

 彼らはどんな反応をするの…だろう……な………はぁ。

 

 

 なんとも、まあ。

 

 彼ら、泣けるくらいに予想から外れてくれない。

 

 何人か、顔が真っ赤になっている奴がいる。額から湯気が出ててもおかしくなさそうだ。

 野郎ども、幼女に興奮していやがるのである。変態だ、士官学校に何しにきたこの変態。慎み隠すという行為を知らんのか馬鹿どもめ。

 

 しかもそれだけではない。顰めっ面の奴も、決して少なくないのである。

 その険しい眉間の奥でいったい何を考えているのだろうな。思春期の猿というのは想像を絶するほどあれだから恐ろしい。

 

 

 

 ああ、変態やら、猿やらは、冗談だ。

 

 笑い話にでもしないと、やってられん。

 ……センスが悪いのは認めよう。あまり、冗談を言う機会がなくて、その、練習とかができんのだ。

 

 別にスベるのが怖いわけではない。

 

 

 笑えない冗談はさておき、彼らについてだが、負の感情をこうも簡単に表に出すのは子供のすることだ。子供はここにはお呼びでない。帰ってくれるなら、飴でも何でもやるのだが。

 

 感情を微塵も隠さないというのは、好ましいことではない。勿論、全否定するつもりはないがな。時と場合による。例えば、部隊のストレス解消には多少なりとも効果的な手だ。常に押し殺せと言っている訳ではない。

 

 だが、今話しているのは一般常識である。

 

 この場では奴らは配属が我々一号生の下。ただ感情的な理由で、上に対し不満たらたらの表情をするなど、あり得ない。これは、相当の教育が、必要だ。

 

 教育というのは分かりやすく言えば対人戦だ。

 抵抗が多いほど相手にするのが面倒になる。

 手の掛かる子ほど可愛いというが、二年しかない本校の教育においてそれはただの邪魔者だ。

 

 ああ、全く以て嬉しくない。

 

 ああいうのは部下にいれば御しやすい戦力(使い勝手のいい駒)になるのだが……志望先を間違えてないだろうか?

 

 

「断わっておくと、私の使命は、帝国軍の防疫である。すなわち、無能という疫病を、帝国軍から排除することにある」

 

 

 帝国軍は、軍の戦略を聞けば分かると思うが、軍が機能する前提として個々人の働きが正常であることが求められる。在り方は精密機械のそれと同じだ。

 異物混入、動作不良、どんな些細なものであっても一つ狂えば全てが狂う。

 

 無能とはこの中では動かない歯車だ。

 故に軍はこれを淘汰しなければならない。

 

 たとえ蟻のように、無能の存在が生物として必然のものであっても、我ら帝国軍においてその存在は許されない。

 許せば、残るのは蹂躙された自国民の亡骸だけ。

 

 味方の無能こそ、最大の敵なのである。

 

 

「かかる情勢下において、帝国軍に無能が蔓延するを許すは、罪ですらある」

 

 

 しかし恐ろしいことに、無能というのは自分の無能に気づかない。厄介なのは言われてもなお認めようとしないところだ。

 無能の耳は非常に良くできている。特定の言葉への遮音性は素晴らしいとしか言いようがない性能を誇る。

 

 無能は無能であるほど、無能であることを認めようとしない。

 

 忌々しい。

 

 

 

 切羽詰まった戦時の今、無能であれば殺されて死ぬ。

 

 敵は勿論言うまでもない。

 それのみならず、味方からの不幸な誤射というのも珍しくないのだ。部下も自分の命が懸かっているからな。

 

 私は己が無能でないか気が気でないが、二号生の彼らは自らが無能でないか、露ほども疑わないらしい。もっともらしく頷く奴らの頭には何が詰まってるのやら。

 

 名は体を表すというが、であるならば彼らの名乗るべき名前は馬鹿か阿呆だな。可哀想だ。祈りを込め、立派な名を付けたであろう、彼らの親が。

 

 

「諸君は、48時間以内に、私の手を煩わせることなく、自発的に退校可能である」

 

 

 これは所謂、入校辞退だ。

 裏で後ろ指さされようとも、表向きには辞退した形となる、この帝国軍士官学校の良心と言える制度である。

 これを過ぎて追い出されるような連中は人生を無駄にしてきたような者達だろう。

 その後の彼らは前線に送られ、有象無象の一人として散ってゆくと、どこかで聞いた。

 戦時とは、まあ、そんなものだ。

 

 

「誠に遺憾ながら、48時間有っても、自分が無能であると判断できない間抜けは、私が間引かねばならぬ」

 

 

 ターニャ殿がやってくれるそうな。

 よし、よし、言質はとったぞ。

 

 が、かと言って、何もしなければ当然無能の誹りを免れえない。

 そうだな、分かりやすい馬鹿を適当に煽って見せしめにしようか。

 少しは教育が楽になるだろう。

 

 

 なんで9歳の餓鬼が、五、六歳年上の奴らに教育するんだとか、そういう前世の常識は投げ捨てる。

 

 郷に入っては郷に従え、実力主義ここに極まれり。

 

 巫山戯た世であるが、存在Xの創った世界ならば、仕方ないと思うあたり、相当疲れているな。

 

 

「まあ、ヴァルハラへ行くまでの短い付き合いではあるが、新兵諸君、地獄へようこそ」

 

 

 地獄、地獄か。

 

 その通りだ。

 

 

 ここは、同じ人同士で殺し合うために、出来るだけ多くを殺すために、その与えられた高い知性を狂気に浸す、そのための場だ。

 

 

 平和ボケしていた私には些か刺激が強く、精神が不安定にもなったさ。

 

 戦争はどこまでも浪費行動である。それに加え、人同士で殺しあう行為が肯定されるとはつまり、殺される未来が幾らでもあり得るということ。

 

 死にたいのか何なのか知らないが、私からすれば不合理の塊だ。

 

 

 だが、ここは、その狂気が、溺れるほどに溢れた世界なのである。

 少し言い過ぎであるかもしれないが、大差は無い。

 

 

 いったい、彼ら新兵のうちの何人が、ここに来ることの意味を理解しているのであろうな。

 

 

 同期でさえも、時々、帝国軍の士官として活躍する夢を誇らしげに語る者がいる。

 

 夢は、無責任で、無垢で、華美なものだ。

 

 期待に胸を膨らます。

 己の雄姿を思い描く。

 栄光を手にする未来を見る。

 

 そして彼は今日も訓練を受ける。

 

 なんと残酷だろう。

 

 未来の名誉は緋色の絨毯の先なのに。

 夢が魅せるのはどこまでも眩い光なのだ。

 

 一将功成りて万骨枯る。

 

 果たして彼は屍山血河を越えられるか。

 

 私はとうに越えることを決心しているが、さて、どうだろう。

 少なくとも、覚悟なくして受け止められるほどの軽いものではない。

 

 

 しかし、私の決意とやらも、戦争の狂気の前ではどれほどのものか分からないな。

 

 

 

 いつか、呑まれるだろう。

 

 

 

 そんなことを思った。

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◇◆

 

 

 

 

 

 

 今朝は朝食が少なかった。

 

 不味いが貴重な飯が減ったのを喜ぶべきか、惜しむべきか。

 育ち盛りなこの体を思えば惜しむべきだが、精神的ダメージの軽減はどうあっても喜ばしいことである。

 

 

 去年の通りならばそろそろ1回目の死刑執行であったから、それなのだろう。

 

 

 気づいてない者は皆無ではなく、不満顔がいくらか見られる。察したまえよ、君ら。士官候補生なのだろう?

 

 一方、我らがターニャ殿はというと優雅に読書中だ。

 

「……何だね」

 

「腹の虫が泣きそうでね。ターニャちゃんのお腹の虫のご機嫌はどうだろうかと」

 

「お前の虫ほど肝が図太くはないさ」

 

「えー、それはどうだろう。だって私とターニャはほぼ違いが無いだろう?」

 

「それはそうだが」

 

「食べる量にいくら違いをつけても変わらないってのは困ったよねぇ、スリーサイズもまだ一緒だったりして」

 

 

 ちなみに一時期馬鹿食いしてたのはターニャ殿の方である。

 

 涙目でお腹に詰め込んでいたのは可愛かった。

 

 矮軀では容易く死ぬと思ったから、とのことで。まあ、少食の子供が頑張ったところで入る量は大したことない。

 成果はなく腹が辛いだけだったようで、2週間もすればいつも通りの量を食べていた。

 

 

 

「さあな」

 

 おっと、乙女の心は硝子なのだ。

 幼なじみの気安さがあっても、土足で踏み入れてしまってはいけないというのに。

 

 うーむ、気を付けなくては。

 

「うーん……朝食足りないなぁ。事の後にでもおやつか何か貰えないかね」

 

「それはないだろう」

 

「あー、やっぱり?」

 

「どれだけおめでたいのだお前は」

 

「バレンタインデーを夢想するくらいには」

 

「本当におめでたいな」

 

「あはは…………今日は、何人吐くんだろうか」

 

「……察せない馬鹿はまず吐くだろうよ」

 

「……違いない」

 

 

 あと、青ざめている奴も間違いなく吐くな。

 人を好んで殺す者など、そうはいない。

 

 あまり考えすぎるなと心配そうに言っておけば、人前で吐くことは無いだろう。後で声をかけておくべきか。

 

 

 いや、しかし、さすがは帝国軍士官学校だ。

 

 今日も今日とて、戦術理論(人殺し)の勉強をすることになっているのである。処刑の後であっても。果たして授業になるかは疑問だが。

 

 

「ターニャ、そろそろ行こう」

 

「ああ」

 

 

 パタンと本を閉じ毅然と立ち上がる彼女。

 

 少なくとも、彼女に関しては、如何なる心配も杞憂に過ぎないだろう。

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、これより死刑執行である。

 

 

 死刑囚の罪状は強盗強姦致死だとか。

 不幸な一家が犠牲になったそうだ。

 

 誰でもよかったなどと声高にほざいた、弁護側も手を出せないほどの黒。弁護士殿も大変だな、こんな奴庇いたくなかったろうに。

 殺すのは誰でもよかったと、そういうのなら自分を殺してくれと思うのだが。

 

 困ったことに、死刑という抑止力の意味をもつ極刑こそが彼の求めてやまないものだったらしい。

 

 前世の中国の宮刑とかがふさわしいのではなかろうか。死ぬまで後悔してくれるというのなら、飼育費こそ惜しいがなかなか悪くない余興だ。

 

 

 

 おっと、冗談だったのだが、伝わらなかったかね?

 ふむ、英国のブラックジョークは帝国紳士の私には難しかったようだ。慣れぬことはするものでないな。

 

 連合王国に赴くことがあれば、是非とも詳しくコツを聞いてみたいが、それはさておき。

 

 

 こういう輩には弾の一発をやるのでも勿体ないと思うものの、これは規則だ。

 どうせ死ぬに変わりないというのに餓死でも水死でも斬首でもなく、銃弾を我々から何発か、ようは銃殺に処すわけである。

 

 銃殺の経験をさせるために、なのは分かるがそれでも気が進まない。

 

 

「えー、分隊の諸君。これから死刑執行であるが」

 

 

 まあ、これも仕事だ。

 

 

 公私の切り替えをしなくてはな。

 

 

 こうやれと言われたら訓練生の身では従うのが義務である。今回は教官殿による気遣いか、同情の余地の無い下種が出荷されてきた。

 

 これを利用しない手はない。

 

 

「死刑囚は、強盗強姦致死の罪を犯している。犠牲者は、一家四人、全て。無辜の民が、殺されてしまった。帝国臣民の平穏な日常を一つ、奴は(いたずら)に奪ったのだ」

 

 

 義憤を煽れ。

 慈悲の涙で頬を濡らせ。

 

 

「彼は、法廷で“殺すなら殺せ”、と。そんなことをのたまったそうだ。どこまでも語るのは自分のことばかり。犯した罪を省みず、殺せ殺せと、汚く喚いていた、と記録にあった」

 

 

 殺意を植えろ。

 憤怒の火で胸を焦がせ。

 

 

「この世には人権などという素晴らしい概念がある」

 

 

 だが、一拍。

 思考に空白をつくらせる。

 

 

「それによれば、人は誰しも、絶対不可侵の生きる権利を有しているそうな」

 

 

 そこには、水を流し込むのだ。

 

 

「そう、人ならば、生きる権利を有していると、そしてその権利を犯してはならないと、そういう訳だ」

 

 

 冷静を装い、正義を騙る。

 

 

「人が、人である限り、人権を有しているのだが、果たして」

 

 

 氷より冷たく、炎よりも熱い。

 

 

「この生物は、我々と同じ人でありえるだろうか?」

 

 

 獣の持たぬ人の性を。

 

 そう、則ち、狂気を。

 

 

 

 

 

「………いえ」

 

 

 

 一つ、花が咲く。

 

 

「…ありえません」

 二つ。

「そんなこと許せませんっ」

 三つ。

 

「決して、認められません」

 

 そして、最後。

 

 

 

 あアぁ、上出来だァ。

 

 

 

 実に、実に素晴らしい!

 

 

 体の芯が、優しく疼いて、淫らに爛れて、甘く痺れる。

 快感で、手足の先から脳髄に至るまで、全身がグズグズに蕩けていく。

 いまだかつて感じたことのないほどの歓喜に、身も心も堕とされてしまいそうだ。

 

 ああ、嫌だ、嫌だ、どうしようもなくだらしない顔なんて、恥ずかしくて見せられない。

 

 まったく、いけない、いけない。

 

 

 ここで笑顔を見せれば、台無しになってしまう。

 

 さあ、この感情を縛り付けて。

 

 

「ああ、全く以て、その通りだ。諸君、これから殺すのは人ではない。人の皮を被った怪物である」

 

 

 頷いて、目を見据え、その狂気を肯定しよう。

 

 どこまでも、この深みへと引き摺り込み。

 

 

「ふむ、時間になったようだな」

 

 

 底無しの蒼に染め上げて。

 

 

「これより、殺処分(死刑)を執り行う」

 

 

 

 

 ───ュ──ス─と──の──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───────。

 

 

 失礼、どうも気を失っていたようだ。

 

 時々、こうして、記憶が飛ぶのだ。

 孤児院では無かったことなのだが、士官学校に来てから発症?している。

 健康診断では異常なしと出ているが、どうにも不安が拭えない。

 

 まあ、今それを考える時間はないから、この話は置いておこう。

 

 

「分隊の諸君、生きた人型の的だと思えばいいよ。使い捨てだから、上手く中らなくても気にしなくていい。何より、対象は排除すべき害悪だ。気に病むことはない」

 

 

 適当に声をかけて、では死刑執行へと──

 

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 

 ──おっと、なかなか意気盛んなご様子。

 

 

 

 いやはや、戦争というものはやはり恐ろしいな。




いつの間にか狂気のベクトル変わってるんですよねぇ。

泣きたい。
果たして収拾がつくのかどうか。

謎です。

趣味全開で行こうとして、加速が速過ぎてすっころんだ感じ。

─↓修正しました↓──
最後の■■■■■■■■■■■■、にルビが無いのは仕様です。
他の所も隠したままにしようと思ってましたが、やべぇ黒塗り大杉ということでルビ振りを。
別にそこは隠すつもりなかったので。
─↑修正しました↑──

さて、次回予告です。

『if編、紳士レルゲンは職務を忠実にこなす』

そう、番外編です。
紳士分補給回。
if編、とついてるように本編のレルゲンは帝国紳士会に入っていません。
ターレルの対抗馬としてタ←レルを立ち上げようと思いまして。

番外編の次、ですか?
………書けてないです。
だって番外編もまだ全然なんですよ?
しかも時間が取れなくなるので更新速度はますます落ちますごめんなさい。

のんびりお付き合いいただければと、はい。


─追記─

存在Xに対してや、ぽやっとしてる二号生への皮肉とかって、アンチ・ヘイトに入りますかね?
ちょっと不思議に思って。
暫くはつけないでおくつもりですが。

─追記2─

またもや上げた後に手直ししました。
内容に変化はありません。

─追記3─

内容を多少書き足しました。ストーリーにさしたる影響はありません。

◆近況報告◆

学年末試験、未提出課題、修学旅行のジェットストリームアタックを喰らってました。世界史の試験とか酷かったんですよ。解答用紙の3分の2が記述です。B4で。普通に死ぬ。………たぶんきっと進級できるはず。


◆進捗状況◆

1度、四千字まで書いたのですが、没。
途中から、ロルフとターニャが宇宙人みたいにテレパスしてたので、さすがにこれは、と。
で、書き直してます。今は二千字程。
どっかに執筆速度ブースト落ちてないかな……。

まあ、こんな感じです。

ではでは。
申し訳ありませんが、もう暫くお待ち下さい。(T_T)ゞ


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