うちの父はLBX開発者です (東雲兎)
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始まり

閲覧感謝です。プロローグなのでLBXは出ません。


お台場ビックスタジアム。

 

そこで、LBX世界大会。アルテミスに三人の少年少女の姿があった。

 

「……」

「バン!無理をするな!俺のいる位置までおびき寄せろ!」

「……了解」

 

バンと呼ばれた少年は仲間の少年であるカズの声を聴き届け、自身の保有する異形と騎士の中間のような出立ちのLBXに指示を出す。バンのLBXはその操作を受け付けて、相手のLBXを二体同時に相手していたのをやめて、背中を向けて走り出す。

 

「逃がすかっ!」

 

相手は僅かに呆気に取られたものの、即座に追撃をかける。故にその姿は無防備となっていた。

それを確認したバンはLBXを走ることをやめさせ、振り返りざまに槍を一閃。その一撃で無防備になっていた片方を屠り、もう片方を槍を振った勢いのままに蹴り上げて動きを制限させる。

 

そこへカズのLBXが放ったライフルの弾丸が何発か殺到し、そのもう一体も屠る事に成功した。

 

進行役がバンたちの勝利と宣言する中で、バンは肩の力を抜いた。

 

「……」

「バン!あんまり無茶すんな!これからもまだ戦いがあるんだぞ!」

「……すまない」

「カズの言う通りよ。バン、無茶しすぎ」

「……アミ」

 

ふたりに責められるもそれが彼を真に心配してでの言葉だという事は理解していたので、バンはそれを甘んじて受けた。

 

「……思えば、遠くまで来たものだ」

「……そうね。あの時にはこんな風になるなんて思わなかったわ」

「……ああ、とんでもない事になっちまったな」

 

カズの言葉によってバンは今までの事に想いを馳せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやら、俺は転生というものを経験したらしい。

 

そんな自覚が出来たのは俺という存在の人格が形成されてからだ。

 

死んだ記憶というのはなかったけれど、十中八九、ろくな死に方じゃないだろう。お世辞にも一般的に良い人生と言えるような人生を送ってないし。

 

別に不幸だったとは言わない。けれども、幸せだったかと聞かれれば首を捻らざるを得ないだろう。元々そういったのにはてんで疎い。

だが、幸せ不幸せに疎い俺でも、今の状況は確実に不幸だとわかる。わかってしまう。

 

父の名は、山野淳一郎。彼はLBXという小さな手のひらサイズの強力なロボットの生みの親だ。

 

ここからわかったのはこの世界は創作の世界であるという事。

そして俺は山野バン。いずれこの世界を救わなければならない存在だ。

 

俺は……どうすれば良い?

 

俺には荷が重すぎる……一体、どうすれば……

 

そんな時だった。

 

父の乗っていた飛行機が行方不明になった事がニュースで公開されたのは。

 

 

結局、俺には何も出来なかったのだ。

 

山野バンがこれを知っていたならば止められたのだろうか?そう、何度も俺は自身に問いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから俺は流されるようにLBXの操作の練習を開始した。それ以外にも体を鍛えるようにした。何があっても良いように。

 

「……ただいま」

「あ、バン!おはよー!」

「……アミか。どうした?」

 

日課の走り込みを終えて、家に帰宅すると客が来ていた。

 

川村アミ、俺の……正確には山野バンの幼なじみだ。

彼女はこの物語、ダンボール戦機において重要な人物だ。

 

「どうした?じゃないわよ。今日一緒に学校行こうって言ったじゃない」

「……ああ、そうだったな。すまない」

 

素直に謝罪して、準備をするためにまずはシャワーを浴びた。

そして、すぐに着替えて彼女の前に立つ。

 

「……準備完了だ」

「その前にご飯でしょ?」

「……母さん」

 

今にも飛び出そうとする俺に待ったをかけたのは山野バンの母親だった。

 

「アミちゃんも食べるでしょ?ほらふたりとも席に座った座った」

「ありがとうございますおばさん」

「……」

 

礼儀正しくお辞儀をするアミ。果たして山野バンはこんなに川村アミと仲が良かったのだろうか?なんて疑問が浮かぶけど、山野バンの母親に促されて俺も席に座る。

 

「いただきます」

「いただきます!」

「……いただきます」

 

それぞれが合掌し食事を摂り始めた。

 

「そういえば、バン。今日、母さん夕方から出かけるから、鍵は持って行きなさいね?」

「……了解」

 

——さて、原作はいつ始まるのやら。——

 

俺の中ではそれだけが気掛かりだった。なので、山野バンの母親の言葉を半分くらいしか理解していなかった。

 

朝食を食べ終わり、アミと共に家を出ると、そこには三影ミカと青島カズヤが待ち構えていた。

 

「よっす、おはよバン」

「おはよ」

 

俺が何かを言い出す前にアミが先制して挨拶を交わす。

 

「ふたりともおはよう!でもどうしたの?」

「いやさ、昨日お前がバンを迎えに行くって聞いてさ。ミカの奴がどうしても私も。と言って聞かなくてな」

「言ってない」

「いやでも……」

「言ってない」

「……はい、言ってません」

 

何やら青島カズヤが追い詰められている。三影ミカがどうしてそこまで彼を責め立てるのかわからない。

しかし原作ではそこまで交友は無かったはずだが、どうしてだろうか?

もしかしてアニメとか以外では意外と仲が良かったのかもしれない。同級生だし。

 

「……さて、行こう」

 

俺の号令で、学校への道を進み始める。さあ、山野バンの日常の始まりだ。

 

 



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原作の開始

すいません短いです。


学校も終わり、取り敢えずは行きつけの書店に向かった。何故かと問われれば、LBXマガジンというものが毎月発売される。確かだが、それが発売された日が原作の開始の日でもあったはずだからだ。つまりLBXマガジンが発売されていれば、原作が開始されたかもしれない一つの目安なのだ

これも一つの理由だが、もう一つの理由として山野バンならそうしただろうという理由からだ。

俺は出来うる限り山野バンに則した行動をするように心がけている。

 

無口なのは元々だからしょうがないとして、それでも少しは山野バンを演じられるように彼の行動を覚えている限りのことをすると心がけているのだ。

 

「……今日発売か……カズに買って行ってやるか」

 

このあとキタジマ模型店に集合する予定なのだ。おそらくカズはこのことを知らないだろうから、買って行ってやるのだ。

 

会計を済ませて、書店を出る。時間的に走らないと約束の時間に間に合わないだろう。

 

だが、ここからキタジマ模型店までは朝のランニングに比べれば軽いものだ。

 

靴紐を硬く結んで、カバンを掛け直す。

 

「……行くか」

 

そうして俺は風になった。

 

 

 

 

「……待たせたな」

「遅いわよバン」

「そうだぜ、何してたんだよ?」

「教えて」

 

いきなり質問責めにされた。隠す事ではないので素直に話す。

 

「……今日発売のLBXマガジンをな。カズに」

「え?マジか今日発売だったか!サンキューなバン!」

 

マガジンを手渡すと、カズに肩を組まれる。そこまで嬉しいのだろうか?

それはさておき、その騒ぎを聞きつけたのか奥からこの店を経営している北島夫妻がLBXの入った箱を持って出てきた。

 

「よ、みんな集まってるな」

「……店長」

「こっち来てみろ。おもしれぇもんがあるぞ」

 

そうすると皆が一斉に駆け寄り出す。俺も別に断る意味もなく、店長の元へと駆け寄った。

 

……待て、この展開何処かで……

 

「ん?どうしたバン?そんなとこで立ち止まったりして」

「……今行きます」

 

店長に促されるように一歩また一歩とその箱に近づいていく。その度に心臓が跳ね上がり、とても苦しい。

 

「見てみろ今日入荷したての新作だ」

「うぉー!すっげえ!」

「バン早く来なさいよ!すごいわよ!」

「真っ白な、機体」

 

苦しい、目の前がクラクラする。喉が干上がる。

 

ゆっくりと近づいて、俺が目にしたのは。

 

——アキレスと言う名のLBXだった。

 

「っっ!!」

「ん、どうしたんだバン。顔色が悪いぞ?」

「調子悪いの?奥で休む?」

 

北島夫妻が心配して肩を叩いてくる。

 

けれどもそんな事も気にする余裕が俺にはもう存在しなかった。

 

「……すみません。用事を思い出しました」

 

そう一方的に告げて、外に向かって走り出す。

後ろから何やら声が聞こえたけれど、気にしていられない。

 

何せ、原作が始まってしまったのだから。

 

走る、走る、走る。

 

LBX、AX-00を持つ女性を捜す為に。

 

 

 

 

 

 

暫く街中を走っていたが、もう体力が尽きかけていた。

 

気づけば川の近くまで来ており、なんというかかなり走ったなと考えていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……っ」

 

息が切れて目眩がする。それでも捜す事を止めるわけにはいかない。

 

しかしさすがに疲れたので一度休憩を挟む事にした。

 

「……くそ、何処にいるんだ」

 

土手の坂に転がり、息を整える。

そんな時、上の道から声をかけられた。

 

「見つけた……貴方が山野バン君ね?」

 

そう言ってこちらに近づいてくる女性。

その女性はまさしく俺が捜していた人物だった。



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襲撃……予想外

お気に入りありがとうございます。




「……貴女は?」

 

駆け寄ってくる女性に一応問いかける。が、そんな事知るかと言わんばかりに、

 

「そんな事はどうでもいいわ……ちょっと来て」

 

そう言われて近くの橋の下に連れて行かれる。そこで女性は片手に持っていた箱を俺に向ける。

 

「時間がないの……今は黙ってこれを受け取ってほしいの」

「……これは?」

「これが世界を救う鍵になる」

「?」

 

山野バンを演じる。演じなければ、俺には価値がない。だから相手に悟られないように山野バンを必死に演じる。

 

「この中には人類の希望と絶望の両方が詰まっている。今は詳しい事を話せないけど……っ!」

『一体何処に行ったんだい⁉︎』

『腹減りません?』

『つ、疲れた……』

『貴様、本当にあの人の部下か?』

 

何やら土手の方から声が聞こえた。その声に弾かれるように身を隠す女性。そして俺もそれに習って隠れる。

 

「もう追っ手が……あれは私が引き付けるからその間にそれを持って逃げなさい」

 

そんな女性に、今一度山野バンとしてだけではなく、俺として問いかける。

 

「……これは相当に不味いものなんですね?」

「そうよ」

「……そうですか。わかりました」

「じゃあ、縁があったらまた会いましょう」

 

『あ、見つけたっす!』

『逃がすんじゃないよ!』

 

そう言うと女性は身を翻して土手の上に駆け上がる。そして、それを追うように足音が聞こえ、それが遠ざかったところで俺は家に向かって駆け出す。

 

もうすぐ日が暮れる。この夕闇がこの身を隠してくれるだろうと信じて走る。

 

ただの楽観にすぎないが……

 

見つかりませんようにと、祈りながら走り続ける。

 

 

 

 

 

 

家にはなんとか日が暮れる前に辿り着いた。

 

だが、そこで問題が発生したのだ。

 

「……アミ、カズにミカも……」

「お、バン!」

「良かった元気そう……」

「?その箱、何?」

 

そう、原作には無かったはずの彼らがいたのだ。何故という疑問が尽きないが、今、家に入れるわけにはいかない。

この後に襲撃がある可能性があるのだ。

危険な事に進んで巻き込むわけにはいかない。

 

「心配したのよ?いきなりお店を飛び出したりするから……」

 

どうやらこの展開は身から出た錆のようだ。失敗したと内心頭を抱えながら、なんとか言葉を紡ぎ出す。

 

「……すまない、心配かけた。だが、俺は大丈夫だ。けど時間は大丈夫なのか?もう日が暮れる。早く帰った方が……」

「あーそうだな……でもその前に悪いけど水飲ましてくれねぇか?お前を探し回って疲れちまった」

「……む」

 

それでも追い返すべきという思いと迷惑をかけてしまったからその程度はすべきという思いが鬩ぎ合う。

刹那のせめぎ合いの後、水程度なら問題ないかと、鍵を取り出す。

 

「……入ってくれ。大したもてなしはできないが」

「おう」

「ありがと」

「お邪魔します」

 

俺が先導し、中に入る。どうやら朝の宣告通り山野バンの母親はいないようだ。

電気をつけながらテーブルの上に箱を置いて、皆んなをソファーに座らせながら冷蔵庫から飲み物を取り出す。

 

適当に取り出したコップに飲み物を注いでいると、リビングの方からカズの声が聞こえてきた。

 

「バン、こいつはなんだ?」

「……さてな、渡されただけだから知らん」

「はぁ?」

 

嘘だ。その中身を俺はよく知っている。最低の野郎だなと自分を責めながらお盆に飲み物の入ったコップを乗せてリビングに向かう。

 

「開けていいか?」

「……俺が開ける」

 

どうせ開けないと気になって帰らないだろうと判断した。幸い……デスロックだったかは俺が、と言うより山野バンが最初に触れれば問題ないはずだ……多分。

 

コップを配り終えた後に箱のロックを開ける。そして中には当然……

 

「LBX……?」

 

覗き込んでいたミカからそんな声が漏れる。俺は素早く違和感を持たれないようにAX-00に触れる。

 

その途端、

 

『ユーザー認証開始……ユーザー確認中……ユーザー確認、使用を許可されます』

 

機械めいた声でそんなアナウンスを聞いて、なんとかなったとホッとした。

 

「何処のメーカーかしら?」

「AX-00、それ以外は何もない」

 

アミとミカが箱を調べるが、それ以外はわからなかった様子。それを横目に俺は試運転をする。この後の襲撃に備えるためだ。

 

「良かったなバン!LBXを手に入れられてよ!」

「……ああ」

 

本当ならば疫病神にしか見えないけれども。なんというか実際に見てみれば案外愛着が沸くものだ。

 

基本的な動作を繰り返して、少しずつ慣らす。

 

「明日、キタジマ模型店で勝負しようぜ!」

「……わかった。だが、今日のところは早めに帰るべきだ。そろそろ本当に日が暮れる」

「おう、そうだな。おい二人とも。そろそろ……」

 

小さな銃声が聞こえた。

 

「キャッ!」

「っ!」

「な!」

「まさかっ!」

 

俺がテーブルに目を向けると、そこにはLBX、デクーがいた。デクーは威嚇射撃を始める。

 

「隠れろ!」

 

俺の号令で弾かれるように三人は隠れる。

 

対して俺はAX-00を放り出して、デクーと相対する。あと二体くるはずだから早めに後衛のデクーを倒してしまいたかったのだ。

 

……だが。

 

「っ!」

 

既に他のデクーが駆けつけてきていた。その数合計して六体。

 

「六体……⁉︎原作と違う……!」

 

一気に殺到してくる前衛のデクー。なんとかAX-00を、全力で攻撃を回避させる。

 

だが、多勢に無勢。少しずつ確実に追い詰められていく。

 

「……不味い」

 

背中に冷や汗が伝う。ここで撃破されてしまえば、原作は崩壊してしまう。そんな事は許されない。勝たなければ俺には価値がない。

 

そんな時、

 

「クノイチ!出陣!」

「行って、アマゾネス」

「ウォーリアー投下!」

 

三人が自身のLBXを操作して助けてくれた。

 

「な、隠れていろと!」

「そんな事言ってる場合か⁉︎」

「仲間外れはごめんよ」

「右に同じ」

 

それぞれが一体ずつを相手にして、こちらの負担が減った。これは好都合かもしれない。利用するようで良心が痛んだが、そんな事を言っている場合ではないかもしれない。

何せ俺は山野バンよりも弱い。猫の手も借りたい気分だったのも事実だ。

 

「……行くぞ」

 

原作を再現しなければならない。

 

己のLBXの得物を構え、駆け出した。




どうか、感想をお恵みください。


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母からの許可

皆様、お気に入り感謝です。そしてザイン様、弐型様、評価感謝です。




鋼鉄棍を振るい、最後のデクーを斃す。

 

見れば他のメンバーもそれぞれがデクーを斃してしまっていた。

というか俺が最後だったらしい。どうやら回避を重視して戦っていたものだから余計に時間がかかってしまったようだ。

 

「バン!大丈夫⁉︎」

「……ああ、俺はな。お前達は?」

 

アミに対して俺は山野バンとして振舞う。本当は無事だと理解した上で安否を気にしているように見せる。

なんと外道な事か。なんと俺は罪深い。最低だ。だが、それを清算するのは全てを終えてからだと、今にも叫び出したい気持ちを抑え込む。

 

「俺たちがあんなのに負けるかよ。な?ミカ」

「うん、一対一なら、負けない」

 

それぞれが無事である事をアピールし、笑いを浮かべている。

だが、これは偶然にすぎない。次同じ事があったとすれば、怪我人が出たとしても可笑しくは無い。

 

原作がどれだけ綱渡りだったのかがわかった。下手を打てば誰かが死ぬ。それは嫌だ。

 

浅ましいけど、目の前で誰かが死ぬのは許せない。俺には原作で死んでしまった人を助ける事ができる機会を与えられた様なものだ。ならば……

 

クソッタレめ、頭の中がグチャグチャになる。なにを考えたいのか全くわからない。

 

「……大丈夫なの?」

 

アミに覗き込まれて、ハッとする。どうも思いつめていた顔をしていたらしい。

 

「……ああ、問題無い……敢えて言うなら、この部屋の片付けだな」

「え?ってうわっ!」

「やべえってこれ!」

 

慌てて他の話題にそらす。

そしてどうやらそれに成功した様だ。

 

「……みんな、早く帰るんだ。俺はその間に片付ける」

「手伝うわ!」

「いや、その間に母さんが帰ってきてしまうと不味い」

 

だからこそ、先に帰ってもらうのだと告げる。それに渋々、みんな従うことにした様だ。

 

そして俺は必死に片付けを開始する。

 

しかし俺の奮闘虚しく、みんなが帰った後すぐに山野バンの母は帰ってきた。

山野バンの母はまず部屋の状況に絶句し、AX-00を見て俺を見据えた。

 

「バン、あなた……LBXを……」

「……はい。その通りです」

 

正座し、甘んじて説教を受けようとするが、山野バンの母はそんな事をせずに、俺に背を向ける。

 

「いいわ、部屋を片付けちゃいなさい」

「……わかった」

 

山野バンの母はそこまで言うと、隣の部屋に行ってしまった。

 

明日、許可が貰えるとはいえ、憂鬱である。

 

「はぁ……胃がいたい……人を騙すのがこんなに辛いとは……」

 

ふと、部屋の隅にクノイチがいることに気づいた。微動だにせず、ただ、鎮座していた。

 

「……アミが忘れたのか」

 

明日にでも渡そうと、手を伸ばすが、ちょうどその時に稼働を始めた。アミが忘れた事に気づいて動かし始めたのだろうか。

 

クノイチを先導し、窓まで誘導する。そして、窓を開けて、クノイチを外に出す。

 

「また明日な、アミ」

 

外にクノイチが出た事を確認して窓を閉める。

 

そして俺は部屋の片付けを思い出し、大きくため息を吐いた。

 

 

 

 

次の日の朝、日課をこなして俺は食卓についていた。

 

「……」

 

緊張の瞬間だ。原作と違ったらどうしよう。

 

「?どうしたのバン?」

「……いや、なんでもない」

 

受け答えにも少しぎこちなさが残る。いや、ボロを出してどうする俺。何やってんの。

なんて考えていると、山野バンの母は優しく微笑みながら切り出してきた。

 

「やってもいいわよ。LBX」

「……え」

「ただし、やるからには……強くなりなさい」

 

その笑顔が穢れている俺にはあまりにも眩しくて、辛かった。

 

「わかった。やってみせる」

 

だけど、俺はその光に負けないように頷いた。

 

 

 

 

「バン!」

「……アミ?どうし、うわっぷ」

 

家を出ると近くの公園で待機していたアミが駆け寄ってきて俺を抱きしめていた。

 

「大丈夫?お腹痛くない?おばさんから許可もらえた?」

「いっぺんに喋るな、落ち着け」

「あいて」

 

アミを押しのけ、頭を叩く。

 

思いのほか強かったのか、涙目でこちらを睨んでくる。

 

「問題ない。許可も貰えた」

「本当⁉︎よかったねバン!」

 

心の底から喜んでいる彼女に、俺は心が痛くなった。何せこれは予定調和というやつだからだ。

こんな辛い思いをこれからもしていかないといけないのかと思うと憂鬱になる。

 

でも今は学校に行こう。あそこは俺の日常が詰まっている。唯一の安らぎだから。




感想ください。それだけで描く気力になります。


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奪われたアキレス

鋭角な鹿様、ひまじ〜ん様、評価感謝です。


俺は、アミからの提案でキタジマ模型店に寄ることになった。

そこではミカがアマゾネスのメンテナンスをしてもらっていたところだった。

メンテナンスの終わったアマゾネスを受け取ったミカ。店長はそれを確認した後に、俺の下までやってきた。

 

「よかったなバン!遂にLBXを手に入れたんだな!」

「……ありがとう、店長」

「見たことのない機種だな……AX-00。バン、何か心当たりとかないか?」

「いや、俺も偶然に手に入れたものだから」

 

俺はあらかじめ考えておいた説明を山野バンとして語る。ここでボロを出すわけにはいかない。

しかし店長は少し悲しげな顔をしてから、何かを思いついたように手を打つ。

 

「カバーパットじゃカッコつかないだろ?お前がLBXを手に入れた記念に、昨日見せたアキレスをやろう」

「……ありがとう」

 

この後の展開を知っているだけに、俺は素直に喜べなかった。無論表には出さないけれども。

 

提案した店長に向かって店長の奥さん……北島沙希さんが告げる。

 

「あ、あれ売れちゃったわよ?」

「何⁉︎何時だ?」

「今朝開けた時に……」

「す、すまんバン!」

 

俺に期待させたと思ったのか、手を合わせて謝ってくる店長。

 

「……店長が悪いわけじゃないです。だから顔をあげてください」

「あー!これ偽物だぁ!」

 

いや、待てよ。タイミング悪くないか?沙希さんや。俺がカッコ悪くなるでしょう?

 

「なに!」

 

無視ですか。そうですか……酷すぎない?

 

なんて心の中で漫才していると、トントン拍子に話が進む。

 

「これ、どう見ても偽物だぞ?」

「ごめん。眠くって」

「つまり、泥棒ですよね、それ」

「アミの言う通り」

「俺が取り戻しますよ」

 

その言葉にみんなが一斉に振り向いた。少し緊張するが、山野バンを演じきる。

 

「俺が取り戻します。だから……」

「わかった。アキレスは今からお前のものだ。だから取り返してこい」

「了解」

「私も手伝うわ!」

「私も……って言いたいけど、今日あんまり時間がない」

 

ミカは残念そうに眉をひそめる。どこまで本気かはわからないけれども、現金なことに俺は彼女への友情を感じていた。

 

……俺って、もしかしなくてもチョロい?

 

まぁ、それはともかく、早く盗んだ相手のことを知らなければ。

昨日の事から、全てが原作通りというわけでもないらしいので、もしかしたら郷田が盗んだのではないのかもしれない。

一抹の不安を胸に沙希さんに聞いてみる。

 

「……その人たちの名前とか分かりますか?」

「えっとね、確か四人組で、その一人が郷田って呼ばれてたね」

 

よかった。そこは変わらないみたいだ。それに反応を示したのはやはりと言うべきかミカだった。原作だと郷田に惚れ込んでたんだっけか。

 

「郷田さん……ミソラ第二中学校の不良グループ「四天王」のリーダーで、番長を張っている。バンと同じ、背中で語る漢」

 

そうか、やはり……って待て。俺が何時からあいつと同類になった。というか何時背中で語ったよ?

 

「あー、背中で語るってバンと同じだね。でもなんでそんな人がアキレスを盗んだんだろう?」

「わからない。けど理由があると思う」

「……取り敢えず会ってみないとわからん。放課後に捜索しよう」

「「わかった」」

 

そうして俺たちは学校に向かう事になった。

 

この事件でカズはウォーリアーを破壊されてしまう。だから、カズを巻き込まないようにしないと……

 

そんな甘い考えを持ちながら。




TSってありなのかな(ボソッ)


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スラム入り口

昼休み、俺はAX-00をカズに見せていた。昨日見たのだが、もう一度見たいのだそうだ。山野バンの母親が俺にLBXをする事を許可してくれた事をカズもまたアミやミカと同じく自分の事のように喜んでくれた。

 

「良かったなバン!今度俺のウォーリアーとバトルしようぜ!」

「……ああ。だがその前に、やらなきゃいけない事がある。郷田からアキレスを取り返さなければ」

 

郷田というワードにカズが明らかに反応する。当然だろう。相手はこの中学の番長なのだから。

 

「郷田って……相手が悪すぎる。あいつは地獄の破壊神何て呼ばれてる化け物だぞ?それでも行くってのかよ」

「……ああ。アキレスは取り返さなければならない」

「たく、しゃあねぇな……俺も付き合ってやるよ」

 

……あれぇ?原作じゃカズは止める筈なのだけど。いや、どうしてこうなった?

そんな俺の思いを露知らず、アミは喜んで、ミカもニヤリと笑った。

 

「じゃあ放課後から体育館裏のスラムに行こう。準備ができたら呼んでくれ」

「わかったわ。じゃあまた後でね!」

「迎えに行く」

 

だからなんでそんなにみんな積極的なんですか?そんなに郷田に会いたいんですか?

正直俺は胃が痛い。ここが初めての正念場だ。原作ではかろうじて勝てたけど、今の俺は山野バンのフリをした偽物だ。そんなやつに同じ事が出来るのだろうか?

 

答えは、わからない。だ。

 

俺は山野バンではないが故に大きな失敗をしかねない。だから俺は常に細心の注意を払っているつもりだ。

まるでそれは常に綱渡りをしているようなものだった。

 

一度でも気を緩めれば奈落に真っ逆さま。だからこそ原作の間、ずっと気を引き締めなければならない。しかもそれは人に相談できない。

 

それがきつい。

 

 

 

 

 

 

放課後、俺たちはスラムに来ていた。そこには原作ではいなかったミカも来ていた。

 

……あるぇ?

ミカさんや、何故ここに?

 

「……ミカ、用事はどうした?」

「ふたりの会合、見逃すわけにはいかない」

 

……そーですか。

 

そうして俺たちはスラムに足を踏み入れる。

 

少し進んでいくと、そこにはふたりの人影があった。

片方はのっぺりとした大男。

片方は背が俺よりも小さい少女。

 

片方の少女が威嚇するように嗤う。

 

「ここはあんた達みたいな優等生が来るとこじゃないんだよねぇ」

「おとなしく教室で予習でもしてるでごわす」

 

それでも帰らない俺たちにさらに笑みを深めた少女は続ける。

 

「ここがどこだかわかってんの?」

「ああ、知ってるさ。それでも来た。郷田ハンゾウを探しにな」

 

あくまで無機質に、受け答えをする。ここでボロを出したらみんなに不審がられる。

アミは俺の言葉を継ぐように、声を張り上げる。

 

「郷田ってやつ、泥棒なのよ!」

 

そうして睨み合いが始まる。それを打ち破ったのは、気味の悪い笑い声だった。

 

「ヒッヒッヒ、リコ、テツオ。こいつらだぜ。郷田君を嗅ぎ回ってるってやつは」

「は、こいつらか」

 

立ち上がったリコと呼ばれた少女とテツオと呼ばれた男に立ち塞がれる。

 

「郷田君に何の用かは知らねぇが、不幸な目にあいたくなけりゃ、とっとと帰んな」

「……お前らが郷田の仲間か」

「はっ、ちょっと違うかな」

「郷田君は同志でごわす」

「んじゃ、この辺で自己紹介と行っちゃう?」

「行くでごわす!」

「やんのかよアレ」

 

そいつらはLBXを取り出してポーズを決め始める。

 

「クイーンのリコ!」

「ナズーのテツオ!」

「マッドドッグのギンジ!」

「四天王!郷田三人衆!」

「「見参!!」」

 

ミカがヤンヤヤンヤと手を叩き、他のメンバーがその名乗りに引いた。

 

「だからヤダったんだよ!」

 

とりあえずギンジに近づいてポンと肩を叩く。

 

「……苦労してるんだな」

「わ、わかってくれんのか……」

「……なんとなくな。今度何か奢ろう」

「す、すまねぇな……」

「そこ!変な友情育まない!ここに入ったやつがどうなるか、思い知らせてやるわ!Dキューブ、展開!」

 

とりあえず定位置に戻ってDキューブの戦場を見据える。

 

「ジャングル……か。アミ、ミカ。やるぞ。カズは全体の指示を頼む」

「「「了解!」」」

 

それぞれがそれぞれの役割を担い、こうして戦闘が始まった。




サラッと読める程度にしてるんですが、もっと文字量増やしたほうがいいですかね?

あと、TSってどうなんだろうか?


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降臨・地獄の破壊神

「ちょっと!あんた、カバーパットの癖に強すぎない⁉︎」

 

リコがそう叫ぶ。いや、俺が強いんじゃなくて、カズの指示が的確すぎるだけなんです。

カズが、原作よりもとんでもなく強くなっている件について。

これ、もしあるとすればエジプト戦は難易度ルナティックになってるんじゃなかろうか?

 

 

とりあえず、CCMを高速ポチポチする。来たるべき山野バンのライバルとの戦いに向けて鍛えなければならない。

 

「とどめ」

 

鋼鉄棍を振るい、リコのクイーンを屠る。その間にアミがナズーを、ミカがマッドドッグを屠っていた。

 

はは、圧倒的じゃないか、我が軍は。

 

……なんて言ってる場合じゃないか。

 

「引き上げるよ!」

 

逃げだしたリコ達。

それにアミは憤慨する。

 

「ちょっと!郷田の場所を教えなさいよ!」

「やーだねー!」

 

その間にも、リコ達は走り去っていく。

 

それを追いかけようとする他のメンバーを俺は制した。

 

「……まずはLBXのリペアだ。この先に、恐らくは郷田がいるだろうしな」

 

原作と違えばいないだろうが、それこそ決定的な事をしでかさない限り、変化はないと思われる。何せここがカズにとっての分岐点になるからだ。

 

「……わかったわ」

 

納得させて少しの間リペアと休憩をとった。

 

「……しかしカズ、どれだけ練習をしたんだ?あんなに的確な指示を出せるとは……」

「おう!少しでもお前に追いつきたくてな。役に立ったぜ」

 

いや、俺に追いつくって、とっくに追い越してませんか?

異常に強いですよ?いや、他のメンバーもだけども。もしかして、俺だけ弱いまま……?

 

 

 

 

 

 

「……さて、先に進もうか」

 

奥に進めば何やら大きな扉があり、その中に入れば、何やら他とは違う部屋に出た。

そして、その奥でこちらに背を向けている男がいた。

 

「……お前が……郷田だな?」

「そうだ……」

 

振り返りながらその男は答える。

 

「俺が郷田だ」

 

木刀を持ち長ランを着込んだ漢、郷田は肩にLBXを乗せながら、こちらを見据えていた。

 

「お前達か、俺の事を嗅ぎまわっているっていう一年坊主は」

「……随分と耳が早いな。ならば俺たちの目的も知っているのではないか?」

「さてな。心当たりはあるが、確信はねぇな」

「……ならば言おう。アキレスを返してもらう」

「これの事か?」

 

見せびらかすようにアキレスの入った箱を持ち上げる。

アミはそれに激昂する。いや、原作よりもずっと強めに。

 

「返しなさいよ泥棒!」

「人聞きの悪い事言うんじゃねぇよ。俺はこいつを守ったんだよ」

「「守った?」」

 

カズとアミが声を揃える。

 

「ある人から頼まれたんだよ。悪い大人やお前たちみたいなガキに使われないようにな」

「ガキって……」

「あなたも同じ中学生でしょう!」

 

郷田に対して、怒るアミとカズを制して、俺は一歩前に出る。

 

「……そのアーマーフレームは俺が貰い受けたものだ。返してもらおう」

「ほらよ」

 

郷田はアキレスの箱を投げてくる。それを既に予測していた俺は片手で受け止める。

 

「「え」」

「俺のハカイオーにはそのアーマーフレームは合わなかったんでな。そいつを使って俺と勝負しろ」

 

郷田は自身のLBXを見せびらかす。

 

「あの分厚いアーマーフレーム、それにヘビーソード。相当なパワーが必要。つまり郷田さんはパワータイプ」

「……ああ、その通りだ」

 

ミカの推測を聞いて、恐らくは原作通りだと理解した。俺は片目があまり効かないもので、郷田のLBXを認識する事が出来なかったのだ。

 

背後の扉には先ほどの三人組が配置されている。つまりは

 

「戦わない限り、帰さないと」

「みたい」

 

郷田はニヤリと笑って、条件を提示する。

 

「勝ったらそいつをやる。代わりに、俺が勝ったらコアスケルトンごといただく」

「……いいだろう」

「ハンディとして四対一で良いぜ」

「不要だ。これは俺の戦いだ。お前との戦いにこいつらを巻き込む必要はない」

 

ここで一人で戦わなければ、カズだけでなく他のメンバーのLBXも壊されてしまうかもしれない。それは嫌だ。

 

「待てよバン」

 

しかしそんな決意に待ったをかけたのはカズだった。

 

「ここまで来てのけ者はヒデェぜ?俺たちも最後までやらせろよ」

「そのとおり、私たちも、戦う」

「ここでバン一人で戦わせたら私たち、絶対後悔する。だから一緒に戦わせて」

「カズ、ミカ、アミ……」

「友情ってやつか。はっ、纏めてぶっ壊してやるよ」

 

郷田との対決はもうすぐ幕を上げる。

俺も決断した。彼らと共に戦うと。

 



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運命

カズとアミは原作通り、遠距離型と一撃離脱のチューニングを施し、俺とミカは互いにかばい合いながら戦闘する事に決めた。

 

そして、戦いの幕は上がった。

 

「果てなく征け、アキレス」

「クノイチ!出陣!」

「ウォーリアー投下!」

「行って、アマゾネス」

「行け!ハカイオー!」

 

最初に攻勢に出たのはクノイチだった。

 

「行くわよ!」

「な」

 

いきなりの事で面食らった郷田のハカイオーは初撃をまともに受けた。

 

そして、それを追いかけようとするハカイオーにウォーリアーが銃撃で牽制する。そして俺とミカはその隙を縫って接近した。

 

「うざってぇ!」

 

俺はアキレスのパワーを信じてハカイオーの一撃に真正面から対抗する。

シールドにハカイオーの斬撃が叩きつけられるが、なんとか踏みとどまらせることに成功した。

 

「な、ハカイオーの一撃を止めた⁉︎」

「なんてパワーなの⁉︎」

 

驚きの声が敵味方問わずに上がるが、これは予定調和というものだ。

 

「ミカ!」

「わかってる」

 

アキレスの作った隙間からミカのアマゾネスが攻撃を加える。その一撃自体はアーマーフレームが軽いので、微々たるものだが、ハカイオーのアーマーフレームに傷を与えた。

 

「なろ!」

 

郷田はハカイオーで更に攻撃を加えてくるが、それも全て盾で防ぐ。

 

「どうしたァッ!防ぐだけか!」

「……」

 

煽られても俺は相手にせずに郷田の攻撃を見続ける。

そして、少しずつ、本当に少しずつだが、ハカイオーの攻撃がアキレスに当たらなくなっていく。

 

「まさかテメェ、俺の攻撃を見切ったてのか!?」

「……目は悪いからな、感覚で読むしかないんだよ」

 

事実だ。俺は目が悪い。だからこそ、攻撃をきちんと読まなければ戦うことすらままならない。

 

「くそが、うざってぇ!!」

 

一度離れようとするハカイオー。だが、今距離を取るわけにはいかない。距離をとれば我王(キャノン)が放たれるだろう。そうすれば隙が生まれる。

 

……そうすれば、誰かのLBXがやられる。今の俺には他のメンバーをかばうだけの余裕はない。ならば出来うる限り接近戦を仕掛け、相手に我王砲を撃たせない様にするのだ。

 

しかし、

 

「下がれバン!」

「!」

 

そんな思惑を知らぬカズの援護射撃。それの巻き添えを喰らわない様に下がらざるをえなかった。

 

「は、距離をとったな」

「しまっ!」

 

その瞬間を逃さずに、ハカイオーはその砲撃を解き放つ。

 

「我王(キャノン)!」

「ちぃ!ライトニングランス!」

 

『アタックファンクション・我王(キャノン)

『アタックファンクション・ライトニングランス』

 

それぞれのCCMから音声が出る。それは必殺ファンクションというものの前置きだった。

 

互いの必殺ファンクションが衝突し、あたりがその余波で出来た土煙に包まれる。

 

「しまった!」

「何も見えねえ」

 

落ち着け……原作では狙うは俺のはずだ。周囲の警戒をしておけば、犠牲は出ないはず……

 

だが、そんな俺の思いを嘲笑うかのように世界は変化する。

 

「はっ!もらったァッ!!」

「な」

 

ハカイオーが狙ったのは、俺のアキレスではなく。ミカのアマゾネスだった。

 

「ミカ、避けろ!」

 

それを庇ったのはウォーリアーだった。

 

そして、そして、そして……原作と同じように……俺たちの目の前で、カズのウォーリアーは破壊された。

 

「その目に刻め」

 

この時、俺の心は折れた。原作に抗うという心が。

 

 

 

 

「……とどめだ」

 

カズがやられた後、まるで詰め将棋のように攻め立てていくバン。そして遂に、ハカイオーに致命的な一撃を加えることに成功した。

 

ブレイクオーバーするハカイオー。

 

「馬鹿な……ハカイオーが……」

「……俺たちの勝ちだ」

 

ほぼ一人勝ちのような状態の戦いだったというのに、バンは俺たちのといった。

 

「俺の負けだ。約束通り、それはお前のもんだ」

「……そうか、ありがたく貰い受けよう」

 

互いにLBXをバトルフィールドから取り出す。

 

「縁があったら、また会おうぜ」

 

そして、郷田は後ろの穴から部屋を出て行った。しかしバンは無表情で、アキレスを見つめる。

 

バンはカズに向き直り、頭を下げた。

 

「……すまない」

 

そこにどれだけの思いが詰まっているなんて、私にはわからなかった。

 

「……気にすんな、って言っても。お前には伝わんねぇよな」

「……俺の責任だ。どんな罰でも受けよう」

「待って、それは私が、受けるべき。カズのウォーリアーがやられたのは、私を庇ったから」

「……これは俺が自分から受けた勝負だ。お前らが責任を感じるようなことはないさ」

 

そう言いながら、カズはその場を後にした。それにバンはとても辛そうな顔をしていた。

彼は何かを隠している。

それを含めて、バンは全て自分で抱え込もうとする。なのに、私たちにはそれを助けるすべがない。

 

そう、私、川村アミには何もできなかったのだ。




今回だけ、他のメンバーの視点を少し入れました。不評ならすぐに消します。


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復帰

すいません、悩み悩んだ果で進展がないです。


膝の上にアキレスを乗せながら、俺はベッドに寝そべる。

今朝は何もする気が起きなかった。昨夜は眠れずに、ずっとこの状態で過ごしていた。

 

「俺は……何も出来ないんだな」

 

アキレスを見つめながらそう一人ごちた。山野バンの父がイノベーターに捕まる時だって何も出来ないまま、見送ってしまったし、昨日だってカズのウォーリアーが破壊されることを防ぐことができなかった。

 

ああ、なんて無様。原作を変えることがどれだけ愚かしい事なのかをまざまざと見せつけられた気分だ。

 

深く枕に沈み込み、手で目を覆う。こうでもしなければ自分の無力さに泣いてしまいそうだったからだ。

 

その時、扉がノックされた。山野バンの母親だろう。

 

「……起きてる。後で下に降りるから」

 

今はそっとしておいてくれと、扉の方を見ないままに意識を希薄にする。

 

だが、ガチャリという音とともに扉が開いたような気がした。意識を希薄にしていた俺はそれへの反応が遅れた。

 

そして、ズシリと俺の体の上に誰かが乗った。

 

手をどけて、その乗ってきたものを見やる。

 

「……ミカ?」

「ん、おはよう」

 

俺の上に馬乗りになったミカは、じっと俺を見つめてくる。

 

「……どうした?」

「それは、こっちのセリフ」

 

俺の頬にミカの柔らかい手が添えられる。

 

「酷い顔……寝てない?」

「……ああ」

「やっぱり、気にしてる?カズの事」

「……ああ」

「私の事、好き?」

「……ああ………………ん?」

 

あれ?なんかおかしいような?

 

「言質、とった」

「待て!色々と待て!」

 

慌てて起き上がろうとする俺をミカが上から押さえつける。体勢的な優劣からあっさり押さえつけられる。

と言うより、寝ていなかった弊害がここで出てきている。力が入りにくい。

 

その拍子に、俺とミカの顔の距離はとんでもなく縮まった。互いの吐息を感じられるほどに。

 

俺自身とは違う、異性の顔つきは中学生だとしてもとても艶やかだった。

 

「……どいてくれ」

「やだ」

 

なんとか残っている理性を動員して、ミカに退くようにお願いするが、にべもなく切り捨てられる。

 

「……」

「……」

 

その後は無言のままで、互いに見つめ合う。そして、少しずつ、彼女がその距離を詰めてきた。

後少しで口づけをしてしまうだろう。しかしそれを止めるだけの力は俺に残ってはいなかった。

 

そして、俺たちのの影は重なり……

 

 

 

「させるかぁぁっっ!!」

 

扉を蹴破ってきたお淑やかのかけらもないアミによって防がれた。

 

「アミ……?」

「なに?LBXストーカー女。今忙しい」

「その前に!バンから降りなさいよ!」

「と言うより、なぜふたりはここに?」

「あ、おばさんにお願いしたら普通に上げてもらえたわ」

「うん」

「母さん……」

 

なにをやっているんだ、あの母親。頭を痛めていると、ミカはもう一度、俺の頬にその手を添えた。

 

「バン、一つ言っておきたい。カズのウォーリアーは私を庇ったから、壊された。責任は私にある」

「……しかし」

「だから、一緒に謝ってほしい。あなたがいてくれれば、カズもきっと、それを受け入れてくれるから」

 

確かに、そうかもしれない。けれど俺が問題にしているのは世界に抗う気力が完全に失せてしまった事だ。……こう考えてみると俺は下衆だな。山野バンの友人が心配しているというのに、自分は別のことを心配しているなんて……

 

「あなたがどれだけの事を考え、そして挫折したのかはわからない。でも、それでも、一緒に来てほしい」

「そうよ、私たちにはバンの考えていることはわからないけど、一緒にいてほしいの」

「……!」

 

だというのに、彼女たちは俺に親愛を向けてきてくれた。それがとても嬉しい。

 

 

そうだ、彼女たちやカズ、そしてこれから会う仲間たちの為に、俺は戦わなくてはならない。

 

なんで忘れていたんだろう?俺はただ、一緒にいて欲しかっただけだというのに。

 

たとえそれが俺を見ていなかったとしても。

 

 

「……そうだな、カズに謝りに行こう。それでもう一度、みんなで遊ぼう」

「うん」

「ええ!」

 

そして、俺はもう一度立ち上がった。




次は進展させますので、何卒よろしくお願いします……

Ps.お気に入りが300を突破いたしました!……なにがあったの?


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エジプト戦

エジプトというLBXの武器がアキレスを壊さんと迫る。バンはそれをかろうじてアキレスに躱させるけども、反撃に移ろうとしない。

それはそうだろう。何せ相手はカズなのだ。一体なぜ、彼がこんなことをするのか、私にはわからなかった。

カズは今日、新しいLBXの下見に行ってくると連絡してきたので、てっきり会えないものだと思っていたのだが、彼はいきなり私たちの前に現れて、新たなLBX、エジプトを取り出し、バンに勝負を挑んできたのだ。それをミカと一緒に見ていた私はてっきり、仲直りのバトルだと思ったのだ。しかしその実、カズは狂ったようにアキレスを破壊しようとし始めた。

 

「バン!」

「わかっている!」

 

バンもこのままではジリ貧だと理解しているのだろう。切羽詰まったように返事をした。

 

アキレスは槍を両手持ちにする。なぜなら盾は既にエジプトの刃によってふたつに斬られてしまったのだ。

 

「やれ!エジプト!アキレスをぶっ壊せ!」

「くそ、やりずらい!」

 

そして、本来バンの方がLBXの操作は上手いというのに、こうも追い詰められている要因に、足場が砂であることが挙げられた。砂に足を取られ十分なスピードを出せていないのだ。対してエジプトはもともと砂の上での運用が想定されていたのか、全く砂という障害を感じていないようだった。

 

私とミカはそれぞれLBXを取り出して加勢しようとするも、バンに静止させられた。

 

——手を出すな!——

 

そう言われているように思えた。

 

その間にも戦況は変化し、エジプトはアキレスに馬乗りになる。そして、そのまま刃をアキレスに突き立てようとして……

 

 

 

 

 

いきなりエジプトが吹き飛ばされた。

 

「「え?」」

「クソ!」

 

私とミカはいきなりのことに目を白黒させる。なぜならやられそうになったアキレスはエジプトを吹き飛ばす瞬間に黄金に輝きはじめたのだ。そして、いきなりエジプトを圧倒し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

これは本当に突然のことだったけど、バンはこれも予期していたようだった。

 

彼はずっと隠し事をしている。それはずっと昔からだった。そう、初めて会った時、彼は嬉しそうな、そして悲しそうな顔をしながら、私と握手をした。

 

なんでかはわからないけど、とっても重要なことだと思う。それをバンは隠し続けている。

 

彼は決して、それを話してはくれないだろう。だから私はいろんな手を使ってそれを調べ続けている。言ってくれるのを待つミカとは違う。それをストーカーと呼ばれようとも、絶対に彼の隠していることを知って、共に背負いたい。傲慢だけど、私は彼を救いたい。

いつも一緒にいてくれて、いつだって私たちを導いて、必死に生きている彼を救いたいのだ。

 

彼の秘密がたとえパンドラの匣だとしても、その先に地獄しかなくとも、私は喜んでその道を進み、その匣を開けよう。

 

 

そう改めて決意したと同時にエジプトは爆発四散した。

 

そして、何かから解放されるようにカズが地面へと倒れこむ。それに急いで駆け寄るバンに、私たちは続く。

 

チラリとバンの横顔を盗み見て、私はカズになぜそこまでバンに固執するのかを聞かれたことを思い出した。

 

その時の答えを私ははっきりと覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だって私はバンの幼なじみだもの



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武器選び

お久しぶりです。展開に詰まっていました。


「……アキレスの槍と盾が破損か」

「んー、ここまで粉々だと新しくタイニーオービットに頼んだほうがいいな」

 

エジプトとの戦いで、アキレスの槍と盾が完全に壊れてしまった。

これでは修復まで他の武器を使うしかないだろう。

 

次の事件は確か財前総理の暗殺であったはずだ。あれはカズの強化イベントとも言えるから、俺の活躍は殆どないはずだ。

 

けれどLBXアサシンと直接対決をすることになるだろうから、確かな武器が欲しい。

 

「……店長、その繋ぎの間に使える武器はないだろうか?」

「お、任せとけ。ちょっと待ってな、カタログを出してやる」

 

そう言って、店長は店の奥に入っていった。

途端、カズ、アミ、ミカが詰め寄ってきた。

 

「バン、金はあるのかよ?」

「……一応持ってきてはいる」

「足りなかったらお金貸すよ?」

「……流石に悪い」

「私たち、親友だから、大丈夫」

「そうね、親友だものね」

 

そこ、アミとミカ。俺を挟んで睨み合わない。すっごく居心地悪いから。

そしてカズ、やれやれといった具合の目で見るな。見るくらいなら助けろ。

あと沙希さん、ニヤニヤしてないで助けてください。

 

そこへ店長がカタログの本を持ってやってきた。

 

「ほれ、これだ」

「……意外と分厚いな」

「あったりまえだろう?うちで扱ってる武器の全てが書かれてるんだぞ?」

 

早速、手にとってページを開く。そこにはよりどりみどりの武器や盾が並んでいた。

 

「バン、ナックルなんてどう?」

「やっぱり、使い慣れた槍」

「銃も捨てがたいぜ?」

「……む」

 

いまいちピンとこない。なぜだろう?心が折れて自然と原作に忠実になろうとしているからか?

そんな感じで俺にはあまり良いと思えるものが見つからなかった。

 

 

 

 

暫くして、とりあえずこの話題は置いておくことにした。そして他のメンバーにバトルするように促した。

バトルを見てれば、何か思いつくかもしれないし。

 

「クノイチ出陣!」

「行ってアマゾネス」

 

話し合いの結果、アミとミカの戦いになった。そして、火花を散らすふたりはとんでもない闘志でバトルに臨んでいる。

ふたりの戦いを見守りながら、ふと、店の上のほうの隅に目をやる。

そこに、台座に寝かせられたとある武器があった。

 

「……店長、あれは?」

「ん?お、あれを忘れていた」

 

店長はそちらへと向かって、その武器を取る。

 

「この前アキレスと一緒に入荷した武器、メイスだ。一点ものだったからこうして飾ってたんだよ」

「……メイス……か」

 

黒いメイス。柄頭には4枚のブレードが十字に配置されており、そのゴツゴツした感じがまた重厚感を醸し出している。

 

「先端部にニードルの射出機構を備えているんだ。射出回数は限られているけどな」

「……店長、これいくらですか?」

「ん?さて、考えてなかったな。バン、1000クレジットでどうだ?」

「買います」

 

即答だった。ていうか一点ものなのにすごく安い。店長が気を使ってくれたのかも知れない。

 

 

 

 

「……良い買い物をした」

「よかったの?メイスなんて、ハンマー系はあんまり使ったことがないでしょ?」

「……何とかして見せる」

「豪胆だなぁ」

「そこが……いい」

 

そんな会話をしながら店の外に出る。そこには1人の男が立っていた。

 

「山野バン君」

「……そうですが?」

 

それを聞いた男は体をこちらに向けて、自己紹介を始めた。

 

「俺は宇崎拓也。優秀なLBXプレイヤーの君たちに、見てもらいたいものがあるんだ」

 

どうやらすでに事は動き出していたようだった。




という事で、一時的にアキレスの武装がメイスに変更となりました。

なぜそうしたかって?作者が好きだからさ!


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来たるべき会合

前回についての感想を見て……みなさん鉄血好き過ぎでしょう。


俺たちは、宇崎拓也さんに連れられて、とある喫茶店まで来ていた。名はブルーキャッツ。初代ダンボール戦機のラスボスである男が経営している店だ。その男の名を檜山蓮と言う。そんな男が俺の目の前にいる。こちらに背を向け、カップをふきんで拭いている。

それに俺は柄にもなく緊張していた。あの男は聡い。過去に幾多の不幸を乗り越えてきたからこそ培われた能力でいつか、俺の隠し事を暴いてしまうかもしれない。そんな恐怖があった。

 

「そんなに警戒するな。別に、取って食おうというわけじゃないさ」

「!」

 

まずい、警戒していたのがバレていた。何勝手に相手を評価してんだよ俺は!見当違いにもほどがあるだろう!

 

「すみません」

「いいや、見知らぬ大人から声をかけられ連れてこられた時点で警戒するのは当たり前だ。むしろ当然の反応だろう」

 

だから謝る必要はない。と檜山蓮は言った。なぜこんな人物が、あんなことをしでかすのだろうと、考え、それは意味のないものだと切り捨てた。彼を歪めた元凶はよくわかっている。

 

海道義光、イノベーターの首領。そいつが彼のような人間をあの凶行に走らせた最大の理由だ。

原作云々関係なく、こいつに関しては潰さないといけないだろう。

それ以外にも敵はいる。だが、まずは海道を潰さない限りは無理だろう。

殺す事を視野に入れながら、CCMを弄る。

 

その時、檜山蓮さんはこちらに振り向いていつの間にか入れていたコーヒーを俺たちに差し出してきた。

 

「おごりだ」

「……ありがとうございます」

 

静かにそのコーヒーに口をつけ、その美味しさに驚いた。コーヒーが苦手で泥水と断じていた俺でも素晴らしい事がわかった。

 

「ふ、気に入ってくれたようでなによりだ」

「!」

 

さっきからこの人スゲェな、此方の事をナチュラルに読んでくる。しかもあってるし。化け物かよ。いや、化け物でしたね。

 

そんな檜山蓮さんは俺の事を見つめ、とある事を頼んできた。

 

「君のLBX、見せてくれないか?」

「……わかりました」

 

カバンからアキレスを取り出して彼の前に差し出す。

 

「触っていいかな?」

「……勿論です」

 

彼はアキレスを手に取り、一瞬のうちに様々な事を確認した。

 

「素晴らしいものだな、パーツは最新式、機体のバランスもいい。メンテナンスも充分以上にしてあるようだな」

「……さすがです。見ただけでわかるとは……」

 

店長からLBXを学んでる俺ですらきちんと見ないとわからない事をたった数秒で看破したし。そういえばこの人、開発にも携わっていたっていうし、実は山野淳一郎についでチートなんじゃなかろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺たちは宇崎拓也さんから、LBX・ハンターを見せられ、ある組織の総理暗殺計画について教えられた。

 

「どうか、力を貸してはくれないか?」

「……檜山さんに頼まれたら断れません。俺の力でいいのならば喜んで貸しましょう」

「ふ、随分と懐かれたな」

「茶化すな宇崎」

「スマンスマン。で、君たちはどうする?」

 

宇崎さんはカズ、アミ、そしてミカに問いかける。

 

「私、やります」

「私も」

「俺も……って言いたいんだけど、今俺、LBXが無くって」

「それなら問題ない。この機体。ハンターを使いたまえ」

「え?いいの?」

「ああ、それにこの計画が阻止できた時には君に譲ろう」

「よっし、頑張るぜ」

 

原作だと、躊躇っていたカズだが、ここではむしろ気合が入っていた。

カズの気合に応えるためにも、俺も頑張らなければ。

 

「いい、友人だな」

「……ええ、自慢の友人です」

 




LBXにフレームってあるじゃないですか。それに鉄血のモビルスーツにもフレームがあるじゃないですか。
ならばLBXにガンダムフレームがあってもおかしくないはず(お目々ぐるぐる)


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総理暗殺計画

さて、総理暗殺計画の当日を迎えた訳であるが……カズの意気込みようがとてつもないです。原作だとあんなにも弱気だったのに……何があったんだよ。それはさておき、そろそろ作戦開始だ。

 

「……絶対に阻止するぞ」

「おう!」

「ええ!」

「うん」

 

俺の呼びかけにみんなが応える。そして、皆の意識がこちらに近づいてくる宇崎さんに向いたところで、カズに小さく告げた。

 

「お前が頼りだ。頼む」

「へ?」

 

そのまま宇崎さんの方に向かう俺に、呆然とするカズ。それが最良かはわからないけれど、それでも俺は最短を行きたい。

だからこそ、俺はカズを利用するのだ。最低なことに。

 

 

 

 

「……」

 

狙撃ポイントに到着した俺はハンターのスナイパーライフルで暗殺用LBXに狙いを定める。

 

「落ち着け……俺なら出来る……バンに頼まれたんだ。絶対に成功させる」

 

バンは暗殺用LBXをすぐさま見つけた。だから次は俺の番だ。多分バンはこうなることを予測していたんだ。俺に賭けてくれたんだ。

 

俺は全力でそれに応えたい。

 

「お前はどうだ、ハンター!」

 

俺の思いに応えるようにハンターの照準がさらに正確になる。

 

そして、放たれた銃弾は、暗殺用LBXの狙撃銃と腕を貫通して爆発した。

 

 

 

 

 

「果てなく征け、アキレス」

「クノイチ出陣!」

「行って、アマゾネス」

 

敵は既に片腕のないLBXアサシンとその取り巻きのデクー五機。

 

「……ふたりとも暗殺用LBXを狙ってくれ。取り巻きは俺が潰す」

「わかった」

「了解!」

 

ふたりは自身のLBXをアサシンに肉薄させる。それに反応するデクーだが、アキレスがそれを妨げた。

 

「お前たちの相手は俺だ」

 

アキレスのメイスがデクーの一機を捉えた。重低音とともにデクーの装甲をへしゃげさせながら破壊した。

その次に二機目のデクーにメイスを投げつけ、メイスごとデクーが壁まで吹き飛んだ。そんなデクーに肉薄し、そのまま押しつぶす。

 

爆発四散し、アキレスはそれによって生じた煙によって隠れてしまう。その煙の中心に向かってようやく反応し始めたデクーが自分たちの武器を使って射撃を開始する。

 

銃弾が煙を引き裂いて、その下をアキレスはマントを盾にしながらかいくぐり、メイスを槍のごとく、突くように叩く。

反応するデクーだが、既に遅い。

内蔵された鉄芯が射出され、そのデクーを貫いた。

 

「残り二機」

 

アキレスに反応したデクーはアキレスを挟んで存在してる。

片方がこちらに向かって発砲してきたので、先ほど貫いたデクーを盾にして防ぎ、撃ってきたデクーにむかって盾のデクーを蹴り飛ばして押し付ける。その反動でもう一方のデクーに近づきメイスを叩きつける。その一撃でブレイクオーバーするデクーを片目に最後のデクーに狙いを定める。

 

そして……

 

「潰せ、アキレス」

 

最後のデクーに反応する暇を与えずに叩き潰した。

 

爆発するデクー。その中心にマントをたなびかせながら立つアキレス。

 

俺はそれにゾクゾクと、背筋に鳥肌が沸き立つのがわかった。




オリジナルLBXはいいんですね!?


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暗躍

すんません、短いです。


「開発コード《アサシン》、所内で設計データを見たことがあります」

「わからんな、何故こんなものを見せる?」

 

マントを羽織った男が初老の男に詰問する。

 

「あなたの指示ではなかったのかと、そうお聴きしているのです」

「私の?フッ、バカな」

「あなたにとって財前総理は邪魔者。いなくなった方が都合のいいはずです」

 

それを聞き、初老の男、海道義光はふぅ。とため息をつく。

しかしそれも気にせずにマントを羽織った男は更に問い詰める。

 

「海道先生。これはイノベーターの崇高な意思に反する行為です。いつからイノベーターは野蛮なテロ組織に成り下がったのですか!?」

「全て君の憶測に過ぎん。直情過ぎていかんなぁ、君ともあろうものが」

 

そんな男を海道義光は窘めた。

 

「私もまたイノベーターのひとりとして正義と平和のために行動している。その信念は一度たりとも揺らいだことはない。私は暗殺などしらんよ」

「……信じましょう、その言葉を」

 

これ以上は何も引き出せないとわかり、引き下がる男。そんな男に対して、海道義光は逆に問いかけた。

 

「それで?プラチナカプセルの回収計画はどうなっている?」

「ご安心を、すでに次の策を講じてあります」

「結構、下がりたまえ」

「は!」

 

礼をしてから扉を潜って外へと抜ける男、八神英二。そして誰もいない、監視カメラもない個室へと入り、CCMを取り出した。

そして、ある連絡先に電話を開始した。

 

『八神英二か』

「マスクドB。君のいった通りはぐらかされたよ」

『だろうな。奴はおそらく、お前のことを扱いにくくなったとでも考えているだろうさ』

「しかし、海道先生は崇高な志を持ってイノベーターを設立したお方だぞ。そんな方に限って……」

『人の心は移ろいやすい。それは潔白であればあるほどだ。白いキャンバスが様々な色を受け入れるようにな』

「……」

 

一理ある。八神はそう思った。

 

マスクドBと名乗る者は更に続けた。

 

『だが、既に染まっているお前ならば、奴を止められるかもしれない』

「なに?」

『ああ、正義を志した時点でお前の道は既に決まっているのかもしれないが、お前ならば止められるのではないか?』

「私が、海道先生を?」

『そうだ。今のイノベーターは腐っている。だが、お前は正道を進む人間だ。お前だからこそ、出来ること、いやお前にしか出来ないことがあるはずだ』

「私にしか、出来ないこと……」

『だが、忘れるな。相手は強大だということを……決してひとりで行動はするなよ』

「わかっている」

『そんな君にアドバイスだ。山野博士と会話をするといい。迷いが晴れるかもしれん』

「山野博士と?」

『そろそろ切るぞ。こちらも忙しいのでな』

「あ、ああ。また連絡する」

 

それを最後に電話は途切れた。八神英二の中には様々な感情が渦巻く。彼の中には家族への想いが募っていた。

 

「まずは、山野博士に会ってみるか」

 

そう決意し、その場を後にした。




お久しぶりです。趣味でロボット物を書いてたら遅くなりました。

また投稿を再開していきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。


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その道を征く

わざと話を飛ばしています。なのでちょっと前話から話が飛んでいます。


「果てなく征け、アキレス」

「顕現せよ、ルシファー」

 

俺はエンジェルスター内部でひとりの女と対峙していた。

 

「さぁ、存分に競い合おう山野バン。貴方と戦える日を待ち望んでいた」

「……何者だ貴様」

「神谷コウ。お見知り置きを」

 

LBXの方は知ってはいるが、女だと?馬鹿なこれを持っているやつは男だった筈だ。

こいつから滲み出るオーラはとんでもない。本来ならもっと山野バンが精神的にも技術的にも育ってからかち合うはずの敵なのだ。

だが、負けてやる義理はない。

 

「アキレス、見せてみろよ。お前の力」

「来るか!」

 

黄金に輝くアキレス。そしてアキレスとルシファーが激突する。剣を使うルシファーに対して、アキレスはその剣よりも外側の槍の射程から攻撃をする。だが、あっけなく防がれる。

 

それを狙ったが如く、アキレスは槍を手放した。肉薄するアキレスは盾も捨てボクシングのように拳で攻撃を叩き込んだ。

 

「そうでなくては!ルシファー!君の力、神に選ばれし彼に示すがいい!」

 

その時、ルシファーが膝に内蔵しているドリルを露わにしてアキレスの装甲を抉った。

 

「チィッ!」

 

背中に背負っていたメイスを掴み、それを地面に突き立て、それを基点にその場を離脱する。

 

アキレスの抉られた横腹は中のコアスケルトンが見えてしまっている。たいしてルシファーはフレームにダメージがある程度、油断したとは言わないが、それでも心のどこかで舐めていたかもしれない。女になっていたからその分英才教育は軽減されているのではと。

 

だが、結果はこれだ。失敗したと反省する。

 

 

槍も回収しておいたので、メイスとの二刀流だ。

バランスも考えて最も効率の良い動きを計算する。その間0.1秒。

山野バンならもっと早くできた筈だ。

 

 

またもアキレスから仕掛ける。突きを連続して放つ。其れを危なげなく剣で防ぐルシファー。ならもう一段スピードをあげよう。

 

正確にはスピードを上げるのではなく、無駄をなくすのだ。それによって倍近い速度で連撃を放てる。

 

「ああ……さすがですバン様」

 

相手もさらに速度を上げてきた。こちらは純粋に反応速度をあげたのだ。

そこにメイスを叩き込んだ。

 

「メイスを忘れてはいないか?」

「いいえ。ですが貴方のそれは受け切れる気がしませんね」

 

そう、不敵に笑う。何やら嫌な予感がして、槍を投げつつ後方に退避した。

その直後、アキレスがいた場所に剣戟の嵐、ソードサイクロンが吹き荒れた。

 

「さすがです」

「敵に褒められてもな」

 

少し嬉しい。

 

メイスを構えて、準備する。ルシファーが必殺ファンクション後の硬直から解けたところで、肉薄してきた。

 

やばい、そろそろVモードが切れる。そうなれば機体の性能差で押し負ける。

 

今度はメイスを投げつける。

 

「同じことを」

「ではないさ」

 

Vモードの機動力を活かして背後に回り込む。こんな芸当ができるのは武器を全て無くしたからだ。

 

振り返ったルシファーの顔面に拳を叩き込んだ。

 

そのあと、静寂が訪れた。

 

「……ここまでです。ああ、楽しかった」

「……なぜだ?このままいけば貴様の勝ちだろう」

「いえ、それが父には内緒で来ていまして。バレる前に戻りたいのです」

 

ルシファーを回収して、こちらに背を向ける。

 

「最後に聞かせろ。お前は……」

「貴方に救われたものです。では失礼します。また会いましょう」

 

そして、彼女は立ち去った。

 

まさか、彼女なのだろうか?記憶の奥底にある泣き虫の少女を思い出しながら、俺は先に進んだ。




崇拝系のヒロイン登場。このキャラを出そうか出すまいかでかなり悩んでいた。


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出会い——運命

公式がLBXを擬人化←!?!?

あ、お久しぶりです。(シレッ

あと、オリキャラが出ます。お気をつけを。


なぜ俺が神谷工場のエンジェルスターに侵入しているのかというと、時間は今朝にまで遡る。

 

 

 

 

 

 

それは、アミが檜山さん達をLBXで盗聴し、其れを俺とカズ、ミカに聞かせてきた。

 

「あの人たちが言うには、バンのお父さんは天使の星にいる」

「お手柄じゃんアミ!」

「……癪だけど、ぐっじょぶ」

 

カズとミカがそれぞれアミの功績を讃える。だが、それは彼らを危険に晒すことを意味していた。それはあまり得策ではない。そう考えた俺は

 

「……明日までにそれぞれ準備をして、明日潜入しよう」

「わかったわ!」

「おう!」

「うん」

 

そう言って、その場を解散させた。

 

それから先生に早退すると告げてから、すぐさまリニアレールに乗り、エンジェルスターに向かった。そして出てきた作業員の意識を刈り取って、さっさと侵入した。すると何やら制御室のような場所にて神谷コウスケらしき人物である神谷コウと交戦した。それがこれまでの経緯である。

 

……この後にイジテウスと戦わないといけないのかよ。めんどクセェ。早くメンテナンスを終わらせないと……

 

今回のメンテナンスはダメージに対する基本な応急修理だ。これは長居はできない為である。

 

常に周囲を警戒しながらなので、なかなかうまくいかない。

 

「よし、終わった」

 

アキレスに残っていたダメージは大体回復した。コアスケントンはまだ見えているものの、そこさえ庇えばどうとでもなるだろう。

 

アキレスを持ち、CCMを握りしめて先に進む。すると、部屋の前に多くのLBXが待ち構えていた。恐らくこちらの出方を伺っていたのだろう。部屋の方にもLBXが侵入してきた。

 

ああ、面倒だ。

 

「……薙ぎ払え。アキレス」

 

CCMを開き、メイスを装備したアキレスを操作する。そして、

 

「必殺ファンクション」

 

『アタックファンクション———インパクトカイザー!』

 

刹那に破滅を齎した。

 

 

 

○○○

 

 

 

「ん?なんの音?」

 

男は何やらただならぬ衝撃に目の前の書類から顔を上げた。彼はここに捕らえられていい加減飽き飽きしていたのだ。当然、目新しいものに興味を引くのは当然であった。

 

「なんか楽しそうだ。どうにかこっちに誘導できないかな?」

 

いうや否や、男は施設にハッキングを仕掛け始めた。

 

 

 

 

 

○○○

 

 

 

 

「……誘導されてるのか?」

 

敵を薙ぎ払いながら、あいている扉を進んでいる途中、ふと、そ感じた。ただの勘だが、あながち間違っていないと思った。

 

ひときわセキュリティが厳重な扉の前にたどり着き、それをアキレスで破壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「乱暴だな君は!」

 

すると中の瓦礫の奥から抗議の声が聞こえてきた。なんというか抜けた声だ。

 

「失礼な。下手な歴史の著名人よりも優秀だよ僕」

「心を読むな」

「ちょ!LBXを向けるなし!」

 

なんか癪に触る。

 

「で、あなたは何者だ?」

「おっと自己紹介がまだだったね、紫苑博士と呼んでくれ。君は?」

「山野バン」

「そうかい、よろしく頼むよ」

 

なんというか、とんでもなく厄介ごとを引っ掛けたような気がした。



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死神

投稿です(シレッ


「で、あんたは何者だ」

「ん?簡単に言えば山野博士のスペアかな」

 

廊下を走りながら、後ろに続く紫苑に問いかけると、原作にはなかったはずの答えが返ってきた。

マジか。そんなのがいたらバンの父が危険になるじゃないか。

まずいぞ。ここで殺しておくべきか?

 

「ああ、多分だけど。山野博士はもうここにはいないね。もうイノベイターに連れられて脱出したかな。そんな形跡があったからね」

「つまり、お前はそこまで重要ではないと?」

「うん。大した事をしてないからね。何かやらかさないように閉じ込めておくのが良かったんでしょ」

 

うーむ、なんと言えばいいのか。こいつ連れ出して良かったのか?こっちにメリットはあったのだろうか?

 

「メリットはこれから作ろう。例えば君のLBX……アキレスを強化するとかね」

「なに?できるのか?」

「もちろんさ。改造する場所を貸してくれればだけど。どこか素材と道具がある店知らない?」

 

そんな都合のいい場所って……あ、キタジマはどうだろうか?頼めば加工場を貸してもらえるかもしれない。

 

「っと、そこを右だよ。地下から出よう。上は警備が強化されてるみたいだ」

「わかった」

 

確か地下にはイジテウスがいたはずだが、こいつを囮にでもして倒そう。

どんどんと下へと向かう。その最中、LBXの攻撃が何度かあったが、余裕で突破した。

 

「おお、鎧袖一触の強さだねぇ」

「やめろ、それ死亡フラグ」

 

こいつ、余計な事を言いやがって。イジテウスは攻略法があるからなんとかなるってのに、それがなくなるかそれ以上の強敵が現れそうなのだけど?

 

「……」

「……なんかごめん」

 

地下に辿り着き、そして目にしたのは……破壊されたイジテウスと、気絶した操縦者。

 

そして、それを見下す形でイジテウスの上に腰掛けている男だった。

 

「見つけた。お前が山野バンか」

「貴様……何者だ?」

 

いつでもアキレスを出撃できるように準備する。けど、こいつはまずい。逃げろと生存本能が警鐘を鳴らし続けている。

 

「恐れるな。死ぬ時間が来ただけだ」

「ちっ、アキレス!」

 

いきなり頭上に降って来たLBXを避けて、アキレスを起動させる。

その真っ黒な機体は、まさか……!

 

「あ」

「グルゼオン……だと……!?」

「違うな、プロトグルゼオンだ」

 

確かに細部は違う。だが、確かにウォーズに出てくるグルゼオンだった。って待て、さっき「あ」って言ったのまさか……

 

「……おい紫苑」

「……てへ?」

「後で殺す」

「ちょ、弁明させてよ!?」

 

どうしてグルゼオンがプロトタイプとはいえ、製造されているのか、それは俺のようなイレギュラーが存在していたからか。

 

……俺という存在のせいで。

 

「……イノベイターか?」

「否」

「それを聴けただけで僥倖だ」

 

アキレスを疾駆させる。メイスを振りかぶって、叩きつけるが、相手のサイスによって防がれる。

 

「悪いが通してもらうぞ」

「できるとでも?」

 

文字通り死闘が開幕した。こちらが負ければ死ぬ。それだけだ。その事実にとてもゾクゾクした。

 

 



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死闘——???

連日投稿です(シレッ


メキョリと嫌な音を立てて半ばからへし折れるメイス。使えなくなったそれをとっさに投げつけて、その隙に距離を取る。

 

性能はアキレスよりも上であるのに加え、技術は拮抗、もしくは相手の方が上。どうしようもなく勝ち目はない。

 

「だからこそ」

 

そう、だからこそ。やめられない。やめるなんて勿体無い。心からそう思った。

 

ランスと盾を構え、プロトグルゼオンを見据える。

 

「Vモード!」

『アドバンスドVモード!』

 

刹那、CCMが変形し、アキレスが黄金に輝く。

 

「Vモード……なるほどあれの試作か」

 

男はフードの中で一層笑みを深めて、サイスを構える。

その間にも、アキレスはプロトグルゼオンに肉薄していた。

 

こちらのランスによる連続突きがサイスで全てそらされた。

それでもなお、攻撃を続ける。

 

アキレスとプロトグルゼオンが激突する中、紫苑がそれを見て、顎に手を当てながらポツリとこぼしはじめた。

 

「プロトグルゼオンの性能は制作費度外視にしたから、従来のLBXをはるかに上回っている。山野博士のLBXは使用者に合わせた機体であるが故にこの機体の性能には及ばない。なのにプロトとつく理由は機体の反応速度と、CCMでの反応速度にズレが生じるからだ。それをなんとかしない限り使い物にならない。なのにあいつはいともたやすく通常のLBXのように扱っている。これはどういう事なのか……」

 

戦闘の最中としてはとても邪魔な長いセリフ。短くまとめてほしいものだ。

 

「さっさと解明しろ。もしくは明確な弱点はないか?」

「弱点としては、使用者が機体の反応速度に最終的についていけなくなるということか。それこそ特別な能力を持っていない限りね。あとはパーツの耐久性に問題があるってところかな。さっきも言ったようにあの機体、反応速度が異常だけど、今の技術じゃ耐久性が追いつかなかったんだよ」

「どっちにしろ相手の不調頼りか……は、やってやるよ」

 

要するに、相手がボロを出すまでの間、戦い抜けばいいだけの話だ。

 

そうして意識を完全にプロトグルゼオンに向けたところで、ふと、プロトグルゼオンの腕が変形しているのに気づいた。

それがなんであるかを認識した途端。俺はアキレスに防御を取らせた。

 

「武器腕……!」

 

直後、雨のように弾丸がアキレスを襲う。盾がどんどんと削れていく。だが、接近できるまで持てばいい。

 

盾を構え突進する。そして、その勢いで槍を放つ。それはサイスに受け止められるも、盾の裏に隠していたものから意識をそらせた。

 

その盾の裏に隠していたものを、プロトグルゼオンのヘッドパーツに突きつける。

 

「!」

発射(フォイヤ)!」

 

片手銃が火を噴き、プロトグルゼオンの片目を破壊した。

 

力任せにサイスに弾き飛ばされるが、滞空時間にも射撃をしてダメージを与えた。

 

「おお、やるじゃないか!」

「いや……」

 

紫苑の言葉に俺は苦虫を噛み潰したような顔をした。そう、これは奥の手だったのだ。本来ならもっと後で確実に敵の脚などの駆動系に当てられるような状況で使うはずだったのに、相手の武器腕のせいで使わざるおえなかった。

 

「……成る程。想像よりも……なかなかどうして……」

「?」

 

何やら相手がブツブツ呟いている。それに耳を傾ける。そして最後にはっきりとこう言った。

 

「えずくじゃないか」

「!!」

 

その須臾の間にアキレスは打ち上げられていた。

 

「アキレス!?」

 

さらに暴虐は続く。ともに巻き上げられた礫を足場に、プロトグルゼオンは立体機動を、全く見えないスピードで開始し、アキレスを嬲り始めた。

 

どんどんとアキレスの純白の装甲に亀裂が入っていく。そして、片目を潰され、左腕を断たれ、胸部はコアスケルトンがほぼ見えるまで壊された。

 

最後に、こちらへ吹き飛ばされ、俺に直撃した。

 

そのあとは視界が二転三転として、何やら固いものに激突して止まった。

 

そうして俺の意識は真っ黒に染まって行った。

 

 

 

○○○

 

 

 

「終わりか」

「なんだあの反応速度……事実上の人類の限界じゃないか」

 

紫苑はその事実を噛み締めて、目の前の男を睨みつける。そしてそいつの片目を見て、何かに気づいた。

 

「ようやくわかった。神経パルスを直接CCMに送り込んでいるのか。本来ならスーツでする筈のそれを通常のCCMでするには、ああ……成る程」

 

目眩がしたように頭を押さえる紫苑。しかしそれを知ったところで意味はない。

 

「お前たちはここで終わり」

 

故にもうすでに手遅れなのだ。

 

絶望的な状況で、紫苑は目の前の男を睨みつけ続ける。

 

そうして最後の時を迎えようとした。

 

その時。

 

「やらせません。それだけは……!」

 

戦場に堕天使が舞い降りた。




プロトグルゼオンは性能はかなり高いけど、今の技術ではパーツが保たずに壊れてしまう。と言った感じです。

山野博士のLBXはどちらかというと使用者に合わせた性能を持ってて、この作品内ではバン達が山野博士の技術に追いついていく感じ。
素材さえ手に入ればプロトグルゼオンよりも性能の良いLBXも作れる……かも?(某オーレギオンを見ながら)


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疾走

「行きなさいルシファー!」

 

純白の堕天使が戦場に舞い降りた。

そして、死神は純白の堕天使すらも汚さんとサイスを構えた。

そうして開幕したのは殺し合い。先ほどまでと違うのは互いを殺そうとする意志だけ。それ以外は全て同じだった。

 

「……このままではあの娘に勝ち目はないな。どれだけ維持できるかはわからないが、あの状態になられたら必ず負ける」

 

だからこそ紫苑が出来ることといえば……

 

「試作品だけど、使ってみるか……?」

 

手元にある動作点検すらしていないLBX。射撃特化型に改造した、試作品アヌビスと呼ばれる機体だった。

 

「使えるかはやってみなきゃわかんないよな」

 

盗んできた端末を即席のCCMに改造する作業を始めた。一分もあれば充分で、紫苑はいとも容易く一時的なCCMを作り上げた。

そして操作法を勘で掴みながら、両手銃のスナイパーをアヌビスに持たせる。

 

「援護するよー」

「……好きにしてください」

「そうさせてもらう」

 

狙撃で死神の行動範囲を狭めた。これで堕天使の少女も戦いやすくなったことだろう。

 

「時間稼ぎ……にもならないかもだけど」

 

やらないよりかはマシだと自身に言い聞かせながら、紫苑は狙撃を続ける。

 

山野バンの事を考えないようにしながら。

 

 

 

 

○○○

 

 

 

 

意識が朦朧としている。そうだ、俺はさっきまでプロトグルゼオンと戦ってて……それで、何も出来ずに……負けたんだ……

 

畜生が、情けない……畜生……

 

アキレス……山野バンのLBX……俺が使いこなせないばっかりに破壊された。情けない事に、山野バンがやってのけたことを早々に失敗してしまった。

 

アキレス……すまない……

 

 

 

 

 

 

 

俺は、何を言っている……?

 

負けた?まだだ。まだ負けてない。アキレスはまだ動ける。何がすまないだ。それこそ共に戦う同志に失礼だろうが。

 

戦え、戦うんだ。体の負傷がなんだというのだ。そんなもの我慢すればいい話だろうに。

さぁ、立つぞアキレス。お前はまだやれる。いいから寄越せよ、お前の全部を……!

 

 

 

刹那、アキレスのツインアイが赤く光った。

 

 

 

○○○

 

 

 

「ちっ! 退がれ眼帯少女!」

「言われなくとも……!」

 

圧倒的な動きで二体のLBXを翻弄する死神。

アヌビスとルシファーはなんとかそれぞれでカバーしあいながら辛うじて戦いという形を保っていたが、崩れるのは時間の問題だった。

 

「このままじゃ嬲られてやられる……」

「恐れるな……死ぬ時間が来ただけだ」

 

壮絶な笑みを湛えて、二人を見据える男が一番最初にその異変に気づいた。

 

そして、その様子からただならぬ気配を感じた二人も後ろを振り返る。

 

そこには、山野バンと半壊のアキレスが存在した。

 

ただし、アキレスはふらつきながらも、何かただならぬオーラを放っている。

 

「駆け抜けろ、アキレス……!」

 

そうしてアキレスは疾走を始めた。



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脱出

刹那、アキレスが掻き消えた。と思われた瞬間にはプロトグルゼオンは吹き飛ぶ。

 

「なに……!?」

「なんだあの動き!?」

 

グルゼオンの反応速度は凄まじいものだ。だが、今のアキレスもそれに勝るとも劣らない。紫苑は考察を開始する。

 

全身が紅く輝くアキレス。先ほどのアドバンスドVモードの全リミッター解除された姿を視界に収めながらバンの方を見やる。鬼気迫る迫力でCCMを操作する姿はまさしく修羅。

 

しかし、それでもあの動きの説明は出来ないと紫苑は考えた。

 

故に考えつくもので一番確率が高いのは……

 

「アキレスのCPUが山野バンと同調しているのか……」

 

そうとしか紫苑には考えられなかった。しかしそんなことが可能なのは……

 

「成る程、山野博士。息子にそこまで入れ込んでいたのか」

 

面白いことになって来たと、紫苑はほくそ笑んだ。

 

一方、神谷コウはと言うと、何やらウットリとバンの戦いを一瞬でも見逃さぬようにじっと見つめている。

 

「あぁ……」

 

ルシファーでその戦闘を録画し続け、バンの雄姿をCCMで撮影しまくる。

 

そしてバンと、プロトグルゼオンを操る男の戦いは、激化の一途を辿っていた。

 

「オオオオオッッッッ!!!!」

「ちぃっ!」

 

驚異の速度によって塗装を剥離させ、質量を持った残像を残しながら、プロトグルゼオンを翻弄するアキレス。

 

「まだだ……っ。もっと寄越せよ。アキレス!」

「っ! まだ上がるのか……!」

 

アキレスが吼え、もう一段階速度を上げた。と同時にフレームの崩壊スピードも上がる。

 

それに応じて、プロトグルゼオンも速度を上げなくてはならなくなった。すでにグルゼオンのパーツは限界にまで達しつつある。それでも今のアキレスには届かない。

 

「どうしたアキレス!お前の力はこの程度か!」

 

そしてバンの煽りに反応してさらに速度を上げる。

 

「素晴らしい」

 

誰の言葉だったか、それは虚空に消える。

 

 

ついに、プロトグルゼオンの反応スピードを超えたアキレスはその拳でフレームを貫通しコアスケルトンにまで届かせた。

 

刹那、ブレイクオーバーするプロトグルゼオン。ここに、勝負は決した。

 

アキレスとバンの咆哮が、そのエリアに轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

「見事だ」

 

それを、現れた男が搔き消した。

 

「J……」

「ご苦労だったなN。おかげで候補者は見つけられた」

「やはり、奴が……」

「そうだ」

 

新たに現れた男は、バンを見やる。バンは壊れかけのアキレスを叱咤しながら構えさせると、Jと呼ばれた男はCCMを操作しLBXを出陣させた。

 

「とりあえず、回収させてもらうとしよう」

 

そして、そのLBXはアキレスに向かってミサイルを大量に放った。

 

 

 

その刹那、男のLBXとアキレスとの間に突如として現れたサラマンダーを改修したLBX。それが拳を振るい、衝撃波で全てのミサイルを破壊した。

 

「そこまでにしてもらうぞ、死神ども」

「……ほぅ、ここで貴様が出てくるか」

 

紫苑は新たに現れた男を見やる。

 

「君は確か……」

「檜山蓮ですよ、お久しぶりです。紫苑博士」

「そして、伝説的LBXプレイヤー……《レックス》。貴様がこの場に出てくるほどか」

「然り。で、どうする?そこのブレイクオーバーしたプロトグルゼオンを回収して逃げるか、それとも俺とやるか」

 

サラマンダーを改修した機体…Gレックスが臨戦態勢に入る。

 

それにJは首を振り、レックスを見、そしてバンを見る。

 

「ここは引かせてもらおう。このLBXで貴様と満足に戦えるなどと自惚れている訳ではない」

「ならば、さっさと去れ。この国は貴様ら死神がいていい場所ではない」

「ふ、手厳しいな。さてN、行くぞ」

「了解」

 

プロトグルゼオンを回収して、その場を後にする死神たち。

それを境に、バンの緊張はプツリと切れた。

 

自然と崩れ落ちるバンの体。

 

それを受け止めたのは、神谷コウだった。

 

「お疲れ様ですバン様。どうかその身をお休めください」

 

首筋にチクリと刺すような痛みがバンに走り、そのまま気絶した。



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新たな力

俺は豪華で広い寝室。その一角にある椅子に着席し、目の前のテーブルを挟んで神谷コウと向き合っていた。

 

「……いやいや、待て待て」

「? どうかなされましたかバン様。それよりも紅茶はいかがですか?」

「ああ、ありがとう……」

 

神谷コウから紅茶を差し出される。それを受け取り、口に含んで一息つく。

 

「……ってそうじゃなくて」

「?」

「いや、訳がわからないという表情をするな」

 

コテンと首をかしげる彼女をジト目で睨み、質問を投げかけた。

 

「ここはどこだ?」

「ここは私の別荘です」

「俺のアキレスとCCMは?」

「ただ今、紫苑博士に預けてあります」

「なぜ俺はお前の別荘にいる?」

「かなりの重症だったので一時的に匿わせていただきました」

「あれから何時間たった?」

「丸一日です」

 

ここまで一息で問い詰め、ホッと息を吐き、紅茶を口にする。味はわからないが美味いのだろう。確か紅茶は香りを楽しむとかなんとかどっかの誰かが言ってた気がするし。

 

「紫苑の奴もここにいるのか?」

「はい。そしてレックスもまたここに滞在しております」

「レックスが?」

「ええ、恐らく私を見張っているのでしょう」

「お前はイノベーターか?」

「はい。所属上はそうなりますね」

 

ああ、なんというか……想像通りというか。

 

「ですが……」

 

目の前の少女が敵であるということを少し落胆していた時、神谷コウは俺の目を覗き込む。

 

「私はバン様の味方です。何があろうと、この身が朽ち果てようとも。貴方に全てを捧げる所存です」

「まだ、そんなことを言っているのかよ。進歩がないなお前は」

「それは嬉しいです。なぜなら私の想いは何も変わっていないのですから」

 

在りし日の思い出を懐かしみながら、彼女は胸の目の前で両手を固く結んだ。

 

そう、俺と彼女は過去に出逢っている。

 

そしてその時の俺は業腹な事に彼女のあり方を決定付けてしまった。あの頃の俺と会えるのならば全力で殴り飛ばしている事だろう。

 

「……レックスと会わせてくれるか?」

「承知しました。すぐに」

 

うやうやしく一礼して、扉の方に走っていく。恐らく俺の命令が嬉しかったのだろう。全く、可哀想なことをした。

 

「まぁ、致し方ないのかもしれんな」

 

あの時の最善で今に繋がっているのだ。過去は悔やむことしか出来ない。ならばこれからの未来を考えて行動すべきだろうさ。

 

 

 

 

数分後、寝室の扉がノックされた。

 

「よぅ、無事か? バン」

「……なんとかな。あの時は助かった。レックス」

 

グラサンをした渋い声の男が部屋に入ってくる。あの時は彼のおかげで助かったとしか言いようがない。

 

そして同時にあの時に現れた死神を思い出した。

 

「……なぁ、奴らはなんだ?」

「奴ら……か。それを知る覚悟はあるか?」

「無論だ」

「……奴らの名はデスサイズ。各地を転々とする。傭兵部隊だ。奴らの武器は……」

「LBX……?」

「その通りだ。奴らは武器としてLBXを扱う」

「成る程……で?」

「奴らの背後にいるのはワールドセイバーと呼ばれる組織らしい」

「ワールドセイバー……」

 

その名を聞く事になるとは思わなかった。ウォーズで出てきたテロリスト集団。勝てるのか?

 

「一応イノベーターとは対立しているようだがな。奴らのことだ。いつ手を組むかわかったもんじゃない」

「……レックス。頼みがある」

「なんだ?」

「俺と————」

 

その頼みにレックスは目を見開いた。

 

「それは……お前」

「頼む。貴方の力が必要だ」

 

戸惑うレックス。そこへ……

 

「その話。僕も混ぜてよ」

「紫苑博士……」

 

レックスは紫苑の名を複雑そうに呟いた。

 

「山野バン。修理が終わったよ」

「アキレスのか……感謝する」

「ついでに改造しておいたよ」

「なに?」

 

紫苑の言葉を訝しむ。だが、そのアキレスを見て驚愕した。

 

「これは……?」

「アキレス・リュカリオン。近接攻撃に特化した君に合わせたLBXだよ」

 

気高き騎士と攻撃的な人狼が合わさったようなフォルムに俺は驚くばかり。槍とメイスをそれぞれ持った歪な二刀流がまたカッコいい。

 

「バン……僕は君を利用する。だから君も全力で僕を利用してやってくれ」

「ああ、よろしく頼む」

 

アキレス・リュカリオンを受け取りながら、硬く握手する。そしてそこへまた一人やってきた。

 

「私も参加よろしいですか?バン様」

「コウ……ああ。頼む」

「くそ、これじゃあ俺が腑抜けみたいじゃないか」

 

それでようやくレックスは重い腰を上げた。

レックスは俺をグラサン越しに見据え、問いかけてきた。

 

「世界と戦う覚悟はあるのか?」

「当たり前だ。俺は誰かのために生きて死ぬのだから」

「はぁ、全く。トンだ子供だなお前は。良いだろう。ならば力を貸すのも吝かじゃない」

「感謝する」

 

そうして、俺たちは共犯者となった。



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未来へ向けて

まだ完全にはプロットが固まってないけれど、一応投稿。

お久しぶりです(

とりあえず生きてるので、出来る限り投稿します。まだ時間的な余裕はないですけど……


屋敷を移動しながら、俺はコウに問いかける。

 

「コウ。イノベーターの目的はこのアキレスに内蔵されているものなのだろう?」

「はい。CPUに隠されたデータが必要だそうです」

 

CPUに隠されたデータ。それは確か、この世界最高クラスの科学者、山野淳一郎が発明した永久機関のデータだった筈だ。

イノベーターに渡らぬようにデータだけでも持ち出した。

 

だが、あの一件でそのデータを狙っているのはイノベーターだけではない可能性が出てきた。

 

「……デスサイズも俺を狙っていた。そのデータがほしかったのか?」

「だろうな」

 

そう答えてくれたのはレックスである。レックスは頭を掻きながら、データの正体を告げる。

 

「エターナルサイクラーの設計図。それがアキレスのCPUに隠されたデータだ」

「エターナルサイクラー……いわば永久機関だね。大雑把に言えば」

 

レックスの後を継いで、エターナルサイクラーが何であるかを先頭を歩く紫苑が教えてくれる。

その言葉はどこか苛立ちが混じっているように感じられた。

 

「僕としては、エターナルサイクラーはただの基礎だ。それをどの方向に発展させるかは使い手次第さ」

「戦争か、平和か。どちらの方向を目指させるかということか」

「そうだね。兵器にもなるし、生活を支えるエネルギーにもなる。今の人類には早過ぎる代物だよ」

「早過ぎる……か」

 

確かにエターナルサイクラーは理想的なエネルギー装置だ。でも使い手が未熟ならば、どんな理想的な道具でもそこらへんの道具と変わらなくなる。

いや能力がある分、ひどい結果を引き起こすのは目に見えていた。

階段を下りながら、無限のエネルギーがどんな災厄を引き起こすのかを想像し、体を震わせそうになる。

 

「っと、着いたね」

 

階段を下りきった先には色々な機材が置かれた空間が広がっていた。

 

「……凄いな。これ全てがお前個人のものなのか?」

「はい、私が独自にLBXを改造するためにジャンクパーツを流用した機材です。我々の仮拠点としては申し分ないでしょう」

 

我々……つまりはここをこちらに明け渡すという事。俺はかなり広い部屋に所狭しと並べられている機材を確認して判断を下す。

 

「のようだな。紫苑博士。貴方はここで活動できるか?」

「うん、流石にこの程度の機材でアキレスとかルシファーを超える機体は作れはしないだろうけど。LBXの改造パーツとか搭載する部品とかなら作れるだろうしね」

 

機体そのものは作れずとも、それを強化するものは作れる。流石にジャンクパーツから作られた機材ではそれが限界らしい。だが、それで充分だ。

 

「そうか……なら槍の武器を作れないか?今までのランスではメイスとの相性が悪い」

「ほう、なるほどね。じゃあ、質量で押しつぶすのはメイスに任せて、薙ぎ払いや刺突に特化したものを作るかな例えば薙刀とか」

 

腕がなるねぇ。と紫苑は呟く。それから、紫苑はレックスとコウに目を向ける。

 

「あ、良ければだけど、使えそうな機材が手に入ったら持ってきて」

「何故こちらに言う?」

「いや、君たちなら顔広いでしょ?」

 

結構な無茶振りだが、コウは少し思案してから頷き。レックスもまた紫苑に了承の意を伝える。

 

「わかりました。企業のものでも中古ならば市場に出回っているでしょうし」

「ふむ、いいだろう。こちらもあてはある。だが期待はするな」

 

その反応に紫苑は満足そうに頷いて、俺へと視線を戻す。いや正確には俺の持っているCCMにだ。

 

「あと、そのCCMを調べさせてもらったよ」

「なに?」

 

それは一体どう言うことなのか、紫苑は俺に指を突きつける。

 

「プロトグルゼオンとの戦いで、君とアキレスが再起動した理由がCCMの中にあると思ってね。色々と確かめてみたんだが、サイコスキャニングという技術が使われている」

「サイコスキャニング……って」

 

確か灰原ユウヤの使うLBX『ジャッジ』に搭載されている機能のはずだ。

 

「サイコスキャニングというのはLBXと使用者を直接神経接続することでより自由な操作性を会得しようという試みの元に作られたものだ。本来これはまだ試作段階のはずでイノベーターと懇意の組織がCCMスーツを実験段階に移したとか入ってたが、どうやら山野博士は既に完成させてたみたいだね。調べた限り使用者がCCMに皮膚接触する事で擬似神経を構築してるみたいだよ」

「擬似神経を触れただけの間に作るのか?」

「うん、そうだね。

あとこのCCMには脳でイメージされた動作を電気信号として受信するためのナノコンピュータが組み込まれてるんだ。

しかもご丁寧に強化ダンボールと同じ技術で作られた組織によって保護されている。

流石に山野博士は強化ダンボールの製作者じゃないからか本家ほどの強度はないが、壊れる心配はほぼないと言っていいだろうさ」

 

けどね。と紫苑は一度言葉を区切る。

 

「山野博士にもこの前のような使い方は想定外だったろうさ。なにせ君に合わせて作られたはずのアキレスが君の使用速度に追いつけずに自壊を始めたんだから。今回の改修はその速度になんとか耐えれるようにしたいわば応急的なものだ。だからあまりサイコスキャニングの使用は避けるように。わかったね?」

「わかった。武器を壊すほど雑な人間ではないさ」

 

アキレス・リュカリオンを見ながら、紫苑の説明でその歪なフォルムが無理な操作によって壊れないように負担を極限まで減らす為だとおぼろげながら理解する。

 

「ところで、君は目があまり良くないんだね?」

「ん、ああ。視力はいいとは言えないな」

 

紫苑の指摘は的を射ていた。俺は目が悪い。のでLBX戦では基本的に音で判断することが多い。視界は音の情報が正しいかを判断する為に使っている。

眼鏡をかければいいという話なのだが、山野バンは中学生では眼鏡をかけていなかった。だからこそ俺もかけてはいない。

 

「君はどうやら眼鏡をかける事になんらかの忌避感を持っているようだが、これから先、それは致命的なものになる。本当の意味で世界に喧嘩を売るようなことをするなら視力を補助する器具を着けることを進めるよ」

「……わかった。考えておく」

「欲しければ言ってくれ。こっちで作るからさ」

 

用意するではなく作るというところに少し疑問を抱いたが、その疑問を出す前にレックスが口を挟んだ。

 

「で、これからどうする。山野博士がどこに連れていかれたかはまだわからんのだろう?」

「一つ案がある。レックス、日本にルール無用のLBX大会は無いか?」

「……無いことはないが、それを聞いてどうする」

 

俺の意図を察しながらも、あえて問いかけてくるレックス。コウと紫苑も俺の考えに至ってようで、こちらに目を向けてくる。

 

「俺が出場する。この意味、わからないわけじゃないだろ」

「……自らを囮にするか」

「しかし、それでどうする?」

「イノベーターの目をこちらに向けさせる。そうすればコウに動いてもらいやすくなる」

「成る程、では私はその間に……」

「ああ、頼む。次に紫苑博士。博士はアンドロイドの制作は可能だろうか?」

 

話を次のものへと移す。俺の問いかけに紫苑は一度考えを巡らせた。

 

「んー、パーツさえあればこの設備でも可能だね。ここにある機材はどちらかといえば人間大の機械を作るのに適してるし」

「なら皮をかぶせれば人間として通用するものは?」

「あー、ちょっと待って。できないことは無いだろうけど……結構な無茶振りだよそれ。まあやるけど」

 

めんどくセー。と仰け反る紫苑だが、出来るのならやって貰う。お前にはボロ雑巾になるまで働いて貰うぞ。さながらとあるソシャゲの花の魔術師が如く。

 

「うぉう。なんだ今の悪寒」

「気のせいだろう。さてレックス、一度ミソラタウンに戻ろう」

「ああ、今ここにいる理由は無いからな。しかし、問題はどうやってここに戻るかどうかだ。恐らくミソラタウンに戻ればイノベーターの監視がつくだろう。ここを拠点にするならば、その監視をかい潜る必要があるぞ」

「ああ、俺はここには近づかないようにする。コウとの繋がりもバレないように暗号変換での通信のみにしよう。幸い俺のCCMは特別製らしいからな。だからそんなショックを受けたような顔をするなコウ」

「い、いえ……大丈夫です、大丈夫。大丈夫……」

「およそ大丈夫とは言えない顔だねそれ」

「会えないとなるとこんなになるのか……お前、何したんだ」

「言うな、レックス」

 

数分後になんとか持ち直したコウは思い出したかのように、バンへと詰め寄る。

 

「バン様。お会いしていただきたい方がおられます」

「わかった、わかったからそんなに顔を寄せるな。必死か」

「わー、これまた綺麗な時間稼ぎを見たよ」

 

コウに引っ張られて部屋から連れ出される。どうやら俺に人権はないようだ。

 

ふと、CCMがメールを受信する。メールボックスを開くと、そこには夥しい数のメールとバナーに表示されるのはこれまた数え切れないほどの不在着信。

 

 

 

————あ、忘れてた。




って、YouTubeでダンボール戦機が何やら配信されてるようで……ストーリーを思い出すのにとても助かります公式さん。

ジ・エンプレスのプラモデル化はありますか?(純粋な眼差し)


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人は過ちを繰り返す()

………………続き……いります?

要らないですかそうですか。ならばどうぞ。続きです(天邪鬼)


早朝の肌寒い空気の中、俺はゆっくりとその罪の証に近づいていく。

 

「……ああ、そんな……どうして……」

 

最期まで生きることを諦めず、手を伸ばし続けたであろうその手はもう二度と何かをつかむことはない。力なく地面に落ちているその手を俺は震える手で掴み取る。こうなる事は予測できた筈だ。助けを求めるメールだってきていたのに、俺は終ぞ気付くことが出来なかった。

 

「ごめん、カズ……間に合わなかった……」

 

 

きぼうのはなを咲かせていそうな状態の彼の手を握りしめて、そっと俺は黙祷をささげ「まだ死んでねぇから!」なんと。

 

「よかった。息を吹き返したか」

「川の前で六銭が無かったから追い返されたわこんちくしょう! ていうかバン! 今までどこ行ってたんだよ! お前がいなかったせいで俺は……俺はぁっ!」

「ごめん、本当にごめんなさい」

 

メールから伝わってきたカズのピンチ具合が本当に酷かったのを思い出して、俺は罪悪感で押しつぶされそうになる。

 

カズから来たメールが本当にひどい。もはや最新三件のカズメールは件名しかない。

特に最新の『たすてけ』は俺の腹筋を破壊し尽くした。

 

何があったかは知らない……とは言えない。なにせ原因は明らか過ぎて、足が生まれたての子鹿のようになる。

 

今からでも遅くないので、逃げ出した方が良いのでは?その場合カズの死は確定するのだが。

 

「まって! 見捨てないで! これ以上は冗談抜きでしぬぅ!」

「ちぃ、勘のいいヤツめ……!」

「つうかバン! なんか性格が変わってないか!?」

 

そんなことはない。コウとかの相手をしていて疲れたからこんな言い草なだけで、断じてヤケクソになんてなっちゃいない。なっちゃいないとも……!気が抜けてるとか言わせないぞっ!

 

「とりあえず、ただいま。カズ」

「お、おう。おかえりバン……そっちも大変だったりしたのか……?」

「これ以上掘り返すな。いいな?」

「わかった! わかったからその暗い目やめてくれ! ホラーだよ!」

 

失礼な。少々疲れがたまっているだけだ。断じて俺の目は深淵なんぞではない。ハイライトだってキチンと存在する。

 

「け、けど。なんかやっぱりふいんきが違うような気がする」

「まだいうか。あとふいんきではなく、雰囲気(ふんいき)だ」

 

カズの間違いに少し苦笑する。カズはその指摘に羞恥を感じたのか少し顔を赤くして、「そんなことより」と誤魔化してきた。

 

「だってよ、なんか思いつめてるみたいな顔じゃ無くなってるし。眉間の皺だって薄くなってる。それにその、なんだ……自然に笑えてる気がする」

「……」

 

呆気にとられるとはこの事か。思わずカズを凝視する。その驚いた顔がツボに入ったのか「ぶふぉっ!」とカズは吹き出した。今度はこちらが辱めを受けることになってしまう。仕返しとばかりに俺はカズを半目で睨みつけた。

 

「くくっ! わ、わりぃっ——っ。そんな気の抜けたバンの顔、本当に初めて見たからさ。ププッ!」

「笑い過ぎだ。逃げ出すぞ?」

「すみませんでしたっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土手に座り、カズにここに辿り着く前に買っておいたお茶を渡す。礼を言われながらも、俺はカズに先ほどまでの会話で気になっていた事を問いかけてみた。

 

「しかし、なんだ。そんなに俺は刃物みたいなやつだったか?」

「あー、いや。どちらかっつうと自分を責めまくってて周りに意識を向ける余裕が少ないって感じ……が一番近いのかな? でも、今のバンはそんな感じじゃない気がする」

「そうか…………そうなんだな」

 

どうやら俺はカズに……もしかすると他の奴らや母さんにも迷惑をかけてしまっていたのかもしれない。

情けない限りだ。それと同時に胸のあたりが温かくなった気がした。

 

「俺は、みんなに見守られ、支えてもらってたんだな……」

 

その事実がどうしようもないくらい嬉しくて、頬が緩む。

 

「俺たちだってバンに支えてもらってたよ。バンにはその気はなかったかもだけどな。俺たちもお前に感謝してる」

「ありがとう。その言葉で、俺は救われたよ」

 

俺は今まで山野バンを演じてきた。けれど、ここからは……これからは違う。決して俺は山野バンにはなれない。なってはいけない。その事実を今回知った。

だから、俺は俺のまま自分らしく生きていく。

 

こんな自分勝手な男が、みんなを救うとか烏滸がましいにも程があるのかもしれない。でもそれがやらないという理由にはならない。目の前のカズや、アミ、ミカ。コウやレックス。宇崎さん。俺の母さんと父さん。そして俺の周りにいる人たちみんなに笑顔であってほしい。そう、それが俺の恩返しだ。

 

「バン?」

「カズ。俺、頑張るよ。絶対にみんな笑顔のハッピーエンドを迎えてやる」

「ん、なら俺も手伝うよ。お前は俺の友達だからな」

「———ああ。ありがとう、カズ」

 

そうして俺は空を見上げた。




オリ主君、今回の件で色々と迷って、やり方を変えることに決めた矢先のカズとの会話で迷いを振り切り、主人公《山野バン》の仮面と決別。己として生きていくことを決める回。
これだけ聞くとカズがヒロインみたいやなって……

本当はこの展開を書く予定ではなかったのです。本当は最後まで背負い込んで己を保てずに破滅するという予定だったんですよ。

けど、ミカちゃんの人気っぷりに彼女を悲しませると読んでる人たちに石投げられるわと予定変更。

ここで考えを変えとかないとバッドエンド直行だったので無理やり突っ込みました。

なお、バッドエンドに行かないとは言ってない。


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アングラビシダス編突入

……ちゃうねん、エイプリルフールやねん。

え、日にちが違うから無効? ソンナー


というわけでただいまです。
時たまに投稿再開と相成りました。アングラビシダス編はプロット書いたしいけるっしょ(信用ゼロ)


 アングラビシダス……それはなんでもありのアンリミテッドレギュレーションが採用された闇の大会。主催者が伝説のLBXプレイヤーのレックス(王者)であるとか、とある喫茶店の下で行われているとか、その喫茶店のマスターが実は世界を滅ぼす大魔王とか、いろんな噂があったりする。

 

 そんなこんなで、俺はそのアングラビシダスに参加することとなったわけだが……

 

 

「ふざけるなぁっ! オレがこんなっ!?」

「喚くな」

 

 メイスを投げつけ、使おうとしていたスタングレネードごと相手LBXの腕を抉り飛ばす。

 既に左右のアームパーツ、そしてレッグパーツのキャタピラを破壊された上に、ランスでステージ中央に存在している柱へと磔となっていた対戦相手『首狩りガトー』の『ブルド改』が足掻く中。

 俺のLBXである壊れかけの『アキレス』を『ハンター』のデータと紫苑博士の保有していた『アヌビス』をもとにミキシング改造をした『アキレス・リュカリオン』を中央へと進ませる。

 

「クソっ、クソおっ!」

「名の通り、お前は今までいくつも首を刈ってきたんだろう? それが自身の番になっただけだ」

 

 カズのハンターに近い形状の獣の様な鉤爪の脚をブルド改ヘッドパーツ、つまりは頭に添える。

 

「まぁ、オレは首なんぞ要らんが」

 

 メキョリと装甲とコアスケルトンの壊れる音と共にブルド改の頭はアキレス・リュカリオンによって踏み潰され、直後にオレが勝者であるという宣言と共に会場が湧き上がる。

 

 

 野太い歓声に耳を痛めながら、呆然と壊れたブルド改を見下ろしていた首狩りガトーにステージを回って歩み寄る。

 ガトーは俺に気づいたが、最早睨む事すらなくすぐに項垂れる

 

「ガトー」

 

 そんなのは考慮に値しないとポケットからLBXのパーツを取り出して、ガトーへと放る。

 

 呼びかけたからか投げられたパーツに気づいたガトーは間一髪でそれを受け取り顔を今度は驚愕に染めた。

 

「こ、こりゃ、HGのブルド改ベッドパーツ!? なんでこんなレアモンを!」

「またな」

 

 それだけ言いつけてオレはみんなの方へと歩き出す。そう、別にLBXバトルで相手を潰したいわけではない。だってLBXバトルはとても楽しいのだから。ようやく気づけた、いや認められた事実につい苦笑を漏らす。

 

 世間でもよく言われる『もうちょっと肩の力を抜きなさい』というアドバイスがこうも突き刺さるとは自分自身思いもよらなかった。

 

 物語の山野バンには程遠く、もはやなろうとも思わない。だって俺自身が山野バンなのだから。俺は俺のままに生きて死ぬ。誰に命令されるでも従わされるでもない。俺がここにいて、大切なものが周りにあふれている。だから大切な人たちが生きる世界を悪意によって滅ぼされてたまるかと戦うのだ。ようやく見つけた生きる理由を、心に、魂に刻み込んで観客席で手を振っている仲間たちにふりかえした。

 

 

 

◎アングラビシダス一週間前◎

 

 

 俺、こと山野バン()は家に一度顔を出したのちにキタジマ模型店への道中、混乱の極みに達していた。

 

「ミカ……」

「なに?」

「もう少し離れないか? かなり歩きにくい」

「や」

 

 

 にべもなく、一言で切り捨てられた提案。切り捨てたのは三影ミカ。家で母さんに謝り倒したのちにカズを伴って出立するといつの間にかパーティーに加わっていたのだ。抱きつかれるまで気配も感じなかった有様は自分が情けないのか、ミカが凄いのか……ミカが凄いということにしておこう。俺にも自尊心というのはあるのだ。

 

 無表情がデフォルトの彼女がニッコニコでこちらの胸に顔を埋めてくる。誰だこれ。本当にミカなのか? あのクールビューティーの彼女が恥も外聞もなくデレッデレに顔を綻ばせている。某運命のツンデレ系ツインテヒロイン(あかいあくま)の未来を彷彿とさせるデレっぷりに困惑による精神的疲労が爆発的に増えていく。

 

「?????」

 

 え、まじで誰ですかあなた。別人と言われたほうが納得できるよ?

 

「アミにジャンケンで勝ってお前の独占権を得たのが嬉しいんだろうよ。あとお前が明るいのもあるだろうな……」

「あれ? こうなる兆しなんてなかった気がするが……?」

「お前が気づいてなかっただけだ。諦めろ」

 

 そんなに俺は周りを見れてなかったのだろうか? 好かれる行為などしていなかったはずなのに。ヘルメットをかぶった猫のように受話器に『どうして?』と問いかけたくなった。

 

「カズとばっかり話してないで私を見て」

「あ、ああ……」

 

 しかし流石にこれはないだろう。俺の中にあったミカという寡黙な出来る女、つまりはクールビューティー像がぶち壊され、戦々恐々とする俺。

 いやでもこれはないだろう? 世界に蔓延る悪意へ挑戦すると決意した情熱が冷めやらぬうちにこれとか温度差で風邪をひきそうだよ。

 

 カズは暗い笑いをしながら、遠い目になる。

 

「わかったか? 俺の痛みを」

「まずい、カズの目に光がない……っ!」

 

 まさかこんなところで世界に絶望した目をされるとか思ってなかったので、頭と腹を抱えて呻きたくなる。主に笑うのをこらえる方向で。

 そんなじゃれあいを繰り広げつつ、キタジマ模型店へとたどり着く。カズ曰く三人で俺を探し回った時に店長にも聞いて回ったそうで、店長と奥さんである沙希さんは俺のことを案じていたそうだった。

 ミカを無理やり引き離し、カズには先に謝ってくると目くばせを。意を決して店内へと踏み込む。

 いらっしゃいませ と入店音に反応した接客の声。レジを兼ねたカウンター向こうの奥につながる暖簾から出てきた店長は、入り口に立つ俺を認識すると目を丸くした。

 

「店長。ご心配をおかけしました」

「バン!? 突然いなくなったって聞いて心配したぞ!」

「その節は申し訳ありません。急な用事が出来た際、誰にも連絡をつけず行ってしまったものですからこうして皆さんに迷惑をかけてしまい……」

「馬鹿野郎! 謝罪なんてどうだっていい! ケガとかはないか!?」

 

 あんまりな剣幕に少し気圧されつつも、数分かけて今は何も問題はないと伝えればどうにか落ち着いてくれた。最後にポカリと俺の軽くゲンコツをして肩の力を抜く店長。

 

「心配させやがって、何事もなくて本当に良かった……」

 

 カズの時や母さんの時と同じように心の底から、俺を心配してくれて喜びと申し訳なさで心がいっぱいになる。

 

「……ありがとう」

 

 言葉が出てこなくて、一言だけ喉から零れ出る。それに店長は驚いたような表情、それからなにやら安心したように顔をほころばせた。

 

 

 

 

◎◎◎

 

 

 店に備え付けられた作業用スペース。そこで俺の新たなLBXのお披露目とした。観客は店の外で待機していたカズとミカ、そして店長。アミと沙希さんは不在だ。

 沙希さんは単に買い物で大型デパート『トキオシア』に行ってるらしい。そしてアミはミカに俺の迎えを決めるじゃんけんに負けたのと家の用事で今街にいないらしい。さっき連絡を取ったがメールでは文字数制限まで書き込まれたのが三通。電話では5分ほど息継ぎなしで心配の言葉を投げかけられた。ここまでアミを心配させた自分を戒める。しかし母さんや店長とカズの時のように心の奥があったかくなり、ほんわかとするのは同じだった。カズにはこいつマジかと言わんばかりの顔をされたのは心外だったけど。

 

「これがアキレスの改修型のアキレス・リュカリオンだ」

「こりゃぁ、また大胆な改修、いや改造だな。フレームの種類すら変わってるじゃないか」

 

 今までのアキレスは一般的に『ナイトフレーム』という種別のLBXであり汎用性に優れたいわゆるバランス型なアーマー・フレームだった。だが俺の戦い方は武器以外のつまりは手足での格闘も多様するために運動性の高い『ワイルドフレーム』のほうがあってたりしたのだ。しかしそれは一般的な話。なにせアキレスはワンオフ機しかも某天パの天才科学者(まるで黒幕のような父)が作ったものときた。高性能すぎて市販のワイルドフレームよりも圧倒的に運動性が高く、それ以上を求めようとするとそこそこの中古車が買える程度の金が消えることになるわけで。高い汎用性もそのまんまなんだから使わざるおえないじゃん? といった状況だったわけだ。

 

「ワイルドフレーム、にしては人型によってるな。ナイトフレームとの合いの子といったところか」

「うおぉ、この造形はハンターが元だろ!」

「アマゾネス要素がない……」

 

 しかし今回、壊れかけたアキレスのアーマー・フレームを神谷コウの屋敷にあった機材で修復する際、紫苑博士はレックスと共に装甲そのものの形状を変えることでもともとの性能を保ちつつ、運動性を上げようと試みたそうだ。

 結果、俺のCCMに残っていた戦闘よりアウトプットされたハンターのデータと紫苑博士の持っていたアヌビスの運動性を掛け合わせることで半ワイルド半ナイトフレームの『アキレス・リュカリオン』として生まれ変わったのだ。装甲はアキレス時代には白かった部分が銀がかった灰に、黄色は鈍い銅色へ、青は透明度を上げてある。そこに造形も相まって全体的に狼っぽさを印象付けてくる。

 

 「性能は確かに上がった。だが慣れていない以上、このLBXの性能を十全に発揮は出来ないと断言できる。だからみんな、こいつを扱い切る為に力を貸して欲しい」

 

「おう! まかされた!」

「うん……私も頑張る」

「よし、なら俺も一肌脱ぐとしよう!」

「えー、店長って強いのかぁ?」

「何おー、減らず口を叩くのはこの口かぁ?」

「ひゃめろふぇんちょー!」

「ふふ……」

 

 店長が生意気を言ったカズのほっぺを引っ張り、それに乗じてミカも一緒に引っ張る。餅のように伸びる頬につい笑ってしまい、カズから恨めしそうな目を向けられた。なので、カズをいじめるふたりを宥め、目標への宣誓を行う。

 

「では僭越ながら……目指せアングラビシダス優勝!」

 

「「「その目標は聞いてない!?!」」」

 

「……あれ?」

 

 あれ?

 

 




その頃のアミは柔道家の孫娘と偶然出会った模様。


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アタッカーが3人……くるぞ○馬!

タイトルで遊びましたが、これからこんなノリでも大丈夫ですかね?

キャラを頑張って思い出しながら書いてますが、あんまり自信がないのじゃ……(灰原ユウヤの変遷を見ながら)


 7回目のバトルが始まってからすでに5分が経過していた。ミカの操るLBX『アマゾネス』が加速しながらこちらに背後を取ろうとしてくる。俺は『アマゾネス』に対応しようとするも動きはじめをカズの『ハンター』から狙い撃たれ出鼻をくじかれた。

 弾丸を何とかはじくも狙撃者は俺が一撃目は防ぐことを予測していたのかすでに飛来していた二発目が『アキレス・リュカリオン』の肩に直撃する。

 体勢の崩れかけたそこへ間髪いれずに店長の『ムシャ』が斬馬刀を振りかざしてきた。なんとか対応が間に合い、刃に対し斜めに構えたランスで斬馬刀を滑らすことで『ムシャ』の斬撃を地面へと受け流す。

 だが、息を吐く暇を与えぬとばかりに回り込んできた『アマゾネス』がパルチザンを薙ぐような叩きつけがもろに直撃する。ストライダーフレーム(かなり軽いアマゾネス)半ワイルド半ナイトフレーム(そこそこ重いアキレス・リュカリオン)の重量差で吹き飛ばされることはなかったが、バランスの崩れたところへの攻撃は『アキレス・リュカリオン』を空中に浮かせた。そこへ『ムシャ』が打ち上げるように斬馬刀を振るう。かろうじてランスを斬撃の間に挟めたものの、衝撃は消せずダメージを負いながら空高く飛ばされる『アキレス・リュカリオン』

 世界が回転する中で『ハンター』の姿を捉えた。

 

「必殺ファンクション!」

『AttackFunction:スティンガーミサイル!!』

 

 

 カズの叫びと併せた電子音声がトリガーとなる。『ハンター』は瞳を鋭く光らせ、背部ユニットより放たれるは追尾式ミサイルたち。上昇か落下すらもあやふやな状態の『アキレス・リュカリオン』に躱せる道理はなく。

 

 苦し紛れに投げたランスとミサイルが交錯し、お互いの目標へと着弾。『アキレス・リュカリオン』と『ハンター』は仲良く【ブレイク・オーバー(戦闘不能)】となったのである。

 

 

「やはり三人には勝てんか……」

「ちくしょー! 最後の最後でやられたー!」

 

 カズが頭を掻きむしっている。勝ち確定の状況から唯一やられたことを悔しがっている。足掻きで『ハンター』の必殺ファンクション直後の硬直を狙ったわけだが意外と当たってくれた。まあ負けたのには変わらないのだが。

 

「というか何で毎回俺だけは必ず倒すんだよ! 今のところ全部でブレイクオーバーしてるんだが!?」

「はは、そんな事……ないぞ?」

 

 いや単に厄介だから先に倒さんといけないから結果的にお前が死んでるだけで深い意味はないのだ。別にいやなタイミングに撃たれ続けてイラっと来たわけではない。ただお前を殺すという決意はあったが。

 

「……」

 

 ミカが俺とカズのじゃれあいに揃って微笑ましいといわんばかりの優しい目を向けてくる。今日はいったいどうしたというのか、さっきも思ったがいつもの無表情のクールビューティーどこ行った。

 滅多にみられないミカの姿に恥ずかしくなってつい店長に助けを求める。その意味を汲んでか汲まずかはわからぬが、店長による俺の戦力評価をし始めてくれた。

 

「しかし、1vs1では堅実な勝利、1vs2だと辛勝なら拾え、1vs3ではひとりは必ず持っていく……現状でもアングラビシダスでは通用するだろうが、更に大規模な……例えば世界大会のアルテミスとかならぎりぎりといったとこだろうな」

 

 これからの戦い、現状のままでは世界大会で優勝どころか決勝にすら進めないだろう。

 それだけ強い奴らばかりだ。具体的にはアジアチャンプ的な人とか。

 

 現状、アキレスを極めて行った物語の山野バンとは違い、リュカリオンに乗り換え、新しい機体のクセを馴染ませるところから始めるのでスタートが少々遅れているのもあるが。そもそもLBXの操作を教えてくれた人物が戦闘スタイル的に攻撃に寄りまくっていたのもあるだろう。

 まぁそれについては致し方あるまいと諦めて。先程の戦いを脳内で振り返る。

 

「やはり無理にでもカズを先に倒しておくべきだったな。常に動き始めを狙われる」

 

 近接戦はミカと店長を同時に相手しても勝ちを拾える程度にはなれた。が狙撃銃の弾を目視できない以上予測で防ぐしかない。そこをカズに突かれまくってるのだ。

 レックスに頼んでたメガネはまだ来ないのだろうか。

 視覚をもっと使えるようになれば、ある程度マシになると思うし、何よりカズを一方的にボコれるだろうし。

 父親からの遺伝がこのような形で足を引っ張るとは思っていなかった。全ての元凶がよぉ……

 

 と思考を巡らせていると、店の入り口から視線を感じたもので咄嗟にあの堕天使かと身構えた。が確認できたのはガタイのいい学ランの番長のみ……。

 番長?

 

「って郷田か?」

「応! 久しいなてめぇら! クノイチ使いの女はいねえ様だが、全員いい面になってるじゃねえか!」

 

 俺が気づいたことでズカズカと大股で店に入店してくる郷田。まるで親しい奴と再会したかのような雰囲気に少し呆気に取られ、まぁこいつはそういう人柄なのだろうと納得することにした。

 そんな俺と郷田の間に立ちはだかるように2人が躍り出た。カズとミカだ。

 

「ご、郷田! 何しにきやがった!?」

「……」

 

 俺を庇うような二人に一瞥し、その後同じく警戒する店長へと顔を向け、頭を下げた。さげた?

 

「この前は奥方を騙してアキレスを盗み出すような真似をし、申し訳ありませんでした!」

「あ?」

「い?」

「う」

「え?」

 

 カズ、ミカ、俺、店長の順で声を上げ、郷田の突然の謝罪にあっけにとられる俺以外の三人。いち早く衝撃から立ち直った店長は郷田にその真意を問いただした。郷田は神妙な面持ちでわずかに頭を上げた。

 

「理由は言えません。ですがお察しの通りアキレスは他のLBXとは違う特別製です。そのアキレスを誰ともわからぬ馬の骨に渡すわけにはいかなかった。その為に俺は子分どもに命令して、俺があなたの奥方を騙し、アキレスを盗みました。その罪はこうして頭を下げた程度じゃぁけっして拭えぬモンです。でも俺にできることはこれくらいで……端から許してもらえるとは思っとりません。それでもケジメとしてここに来た次第です」

 

 まあ彼ならそうするだろうな。とどこか他人事のように思いつつも、郷田を庇うために声を上げようとしたその時。

 

「ちょぉぉっとまぁったあ!」

 

 新手がアクロバティックに店内へと滑り込み段ボールを蹴飛ばしながらヒーロー着地をしてきた。よく見覚えのある女性、というか店長の奥さんである北島沙希さんに今度こそその場の全員が唖然とした。

「ちょ、商売道具を蹴飛ばすな!」と店長が怒るも……

 

「あ~ごみんごみん。でも強化ダンボールだし大丈夫でしょ。そんなことよりも……」

 

 悪びれもせず、あっけらかんと言い切りよった。確かに強化ダンボールなのであの程度じゃあ中身どころか外側にすら傷を与えられないだろう。

 

 しかしてあれたしか店長の私物の道具たちだよな。しかも結構高めのやつ。哀れ店長、尻に敷かれた夫に発言権はない……というのは言い過ぎか。ふたりはおしどり!Max夫婦(力の黒と技の白並感)だし。いやでもおしどり自体は普通に浮気するんだっけ。しないのはペンギンだったか? 覚えてないや。いやそんなことどうでもいいんだって。腑抜けすぎだぞホント。

 

「郷田君だったよね」

「はい、その節は大変ご迷惑をおかけしやした。俺だけであれば煮るなり焼くなり好きにしてもらってかまいやせん。が共に居た子分どもは俺が命令して仕方なくしただけです。何卒ご容赦をいだだきたい!」

 

 頑張って使い慣れない敬語を使っているのだろう。ところどころいつもの喋り方と敬語が混ざって任侠じみた言葉遣いになっているが、彼の誠意がきちんと伝わってくる。こういうのが郷田三人衆とかミカとか人を惹きつける魅力なのだろうか。

 

「そんな事どうだっていいのよ」

 

 しかして沙希さんはにべもなく郷田の謝罪を斬り捨てた。郷田と、ついでに店長が絶句してる。そうだね、先達としてかっこよく若人に説教しようとしてたのに台無しだよね。

 それは置いといて、沙希さんは直接騙された人物だ。確かに同じ店を経営する店長よりも忸怩たる思いがあったろうに、それを"そんな事"で片づけられるのは豪胆としか言いようがない。

 さすがというべきかな。とか考えて。続きを待った。

 

「君はアタシを騙してでもやらなきゃいけない事があったんでしょ? 君は曲がったことが嫌いな真っ直ぐな子だって話しててわかるし何よりここに謝りに来たことが証拠だね。そんな子が悪いことって分かった上で、友達を巻き込んででも成し遂げなきゃいけなかった。その理由は深くは聞かない。でも誰かのためだったってことくらいは察しが付くさ。うちの人もそんな男だったからね」

 

 つい店長を見やり、思いっきり目をそらされる。マジか店長。本質的なとこが似たもの同士なのかこの夫婦。

 

 沙希さん郷田の頭をわしゃしゃーっと帽子の上から撫でて、眩しい笑顔を見せる。

 

「だから今回の事については荷物運びとかで手打ちにしたげる。もう二度とするんじゃないぞぉー!?」

 

「——はい! 姐さん!」

 

 

 怒涛の展開に置いてけぼりなミカとカズはすっかり毒気みたいに敵愾心が抜かれて緊張を解いた。

 

「なんつうか、あれだ。沙希さんスゲー」

「だな。店長もだが人が良すぎる」

「それをバンが言うのか? まぁ、自慢の嫁さんだよ」

「……ふふ、ラブラブ、だね」

 

 ————ミカの無表情からの笑顔、破壊力凄いな。いまクラっと来た。と同時に背筋か凍り付くような気配を感じ、今度こそ堕天使だと確信した。安心しろ俺への脈はない。ミカにとって俺は心配ばかりかけさせられる友達枠で、実は面倒見の良い彼女はそんな俺を見捨てないでいてくれるのだろう。って誰に言い訳してるのだ俺は。

 む……?

 

「——今日は千客万来だな」

 

 店の外に明らかに悪意を持った奴らがいる。イノベーターの刺客……にしては幼すぎるので別枠と推測した。

 俺の呟きに反応してその場の全員が外へ目を向け、見るからにやんちゃな奴らが3人我が物顔で店に侵入してくる。その際に沙希さんが吹っ飛ばさなかった荷物を足蹴にしながらだ。その様子にカズが少しひるみながら相手の正体を共有してくれる。

 

「こいつら、一中の不良だ。なんでここに……」

「おうおうおう! テメエら、ここが誰の縄張りか知っての狼藉か?」

「ああ、一年に負けた郷田君だろ? 一中じゃあ有名だぜぇ?」

 

 ケケケケと下卑た笑いで郷田を嘲る不良共。どう見てもやる気満々だ。相手に引く気はないと理解した郷田は申し訳なさそうに、隣まで進み出た俺を見る。

 

「すまねえ、俺が不甲斐ないばっかりに」

「気にしなくていい。話を聞くに、俺にも責任の一端があるようだしな」

「そーね、気にしないの。ウチの商品を蹴飛ばした罪は重いわよぉ?」

「「「沙希(お前)さんが言うな」」」

 

 カズミカ店長の総スカンにテヘペロとしながら俺と郷田に並ぶ沙希さん。相手の3人と店のDキューブを挟んで対峙する。

 

「吼えろハカイオー!」

「行けクノイチ弐式! ぶっ壊せ!」

「果てなく征け、アキレス・リュカリオン」

 

 相手のLBXも出揃い、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 




尚、この後オリ主バン、郷田、沙希さんによる攻撃力過多パーティの蹂躙が始まる模様。


以下オマケ

『アミは意気投合したランという少女と共にアキハバラを散策していると、不良に絡まれていた女の子を発見、LBXバトルに勝利し、少女……リコを助け出した。が相手も諦めが悪く、ここにアキハバラ鬼ごっこが開幕した』



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箱の中の魔術師

ダンボール戦機W、YouTubeにて毎週木曜更新中!
みんな見てね!!


見てたから遅くなったとか言えないけど見てね!


 郷田、沙希さんと俺の即席チーム『焦土』はバトル開始から2分で相手LBXを消し炭にした。郷田が不良三人のうちの一人を胸倉つかんで持ち上げており、沙希さんは不良に足蹴にされていた荷物を片付け、俺は残りの不良をイスにして昼ご飯代わりのワンコインカップラーメンを食べていた。麺が硬めなのは三分たってないからだが、個人的にはこれくらいがちょうどいいと汁に絡めて麺をすする。

 

「バトル始める前に何かしてると思ったらカップ麺作ってたのかよ」

 

 カズが半目で見てくるが、やらんぞ。俺は今無性にジャンクフードを食いたいのだ。堕天使の料理はうまかったが完璧すぎた。端的に雑なやつを食いたくなった。本当はハンバーガー食いたい。

 

「いやいらねえよ。でもスープまで飲むなよ? 体に悪いぞ」

「……カズ。ホントに、私と同い年? 今の、おじさん臭い」

「おじっ!?」

 

 カズに言葉の刃がクリティカルヒット。ついでに店長にも流れ弾が当たったようで胸を押さえていた、健康気にしてたのか。

 

「んだとぉ!?」

 

 そこへ響いた先ほどまでとは質の違う郷田の叫びに、思わずその場の全員が振り返った。

 

「どうした」

「どうしたもこうしたもねぇ! こいつらの仲間がリコ達も襲うつもりだとよ!」

 

 怒り心頭といった様子の郷田。

 成る程、四天王を各個撃破しようとしたのか。さしづめ、こいつらは郷田の足止め役、あわよくばそのまま書きはと言ったところか。数の暴力で殴れば三人衆といえども倒せるのだ。物語のWの最初でカズやアミが暴走したLBXの大群に押しつぶされたように。

 怒る郷田にもはや玩具のように振り回される不良。そんな不良に僅かながらの哀れみと胃の中身をリバースしたら〆ると決意をたぎらせる。

 郷田はさらに情報を引き出そうと怒鳴るのを後目に俺はCCMを開き、友達の中でも情報通である少年と連絡を取る。

 

『もしもし〜』

 

 気の抜けた声。誰が電話をかけてきたのかを見ずに出たな?

 

「リュウ、俺だ。いきなりで悪いんだが、手を貸して欲しい」

『うぉっ!? バンか! みんな心配してたんだぞぉ!?』

「それについてはすまん。が今は人助けを優先させてくれ」

 

 ほんとごめんけど、今は時間が惜しい。今度埋め合わせするから勘弁してくれ。

 

『お、おう。というか手を貸して欲しいって。なんで俺なんだ?』

「俺の知る中でお前は情報の取捨選択という分野で他の追随を許さんからだ」

 

 確かに彼はただの情報通でしかなく。情報収集という点は宇崎さん率いるシーカーその他組織達に遅れをとるだろう。けど彼、大道寺リュウが凄いのは数多の情報の中で正しいものを持ち前の豊富な知識から正確に拾い上げる所だ。だから信用できるし、付き合いもあるから人柄的も含め信頼できる。

 

『わ、わかった。何が知りたいんだ?』

「ミソラ一中の不良が商店街周辺で騒ぎを起こしている。その場所を片っ端から教えてくれ」

『一中の不良!? お前なにやったんだよぅ……うぅ、みんなに聞いてみるけど期待しないでくれよぉ?』

「頼りにしてる」

 

 情けない声を上げるリュウに発破をかけて、一旦切るぞと通話を切断。みんなに目配せをして、未だ口を割らぬ不良から情報を得ようとしている郷田に制止をかけた。

 

「落ち着け郷田、片っ端から探し出そう」

「ちっ、それしかないか!」

 

 ミカが持ってきたロープで不良を縛っておき、その場を店長たちに任せて商店街に飛び出した。リュウから送られてきた位置情報を頼りに移動を開始する。

 

「お前たち、わかっているだろうがサーチ&デストロイ、サーチ&デストロイだ。奴らに後悔させてやれ……!」

「「「おう!」」」

 

 ダウナー系のミカすら応えてくれるほど波に乗った俺たちは店の前から一気に商店街の道を走り抜け、階段を駆け上がる。リュウの情報と自身の耳を頼りに妙に騒がしい場所を探し出す。

 

 走り、走り、走り。ゲームセンター前で郷田の仲間である爬虫類っぽい郷田の仲間、ギンジと彼を囲む一中の不良六人を発見し、最初の一人にとび膝をかました。

 

「郷田くん!? それにお前らは!?」

 

 突然の介入に目を丸くするギンジに不敵に笑って見せ、不良共に刑を宣告する。

 

「喰い荒らせ!」

 

 俺の後ろから三人が躍り出て、Dキューブを展開しそれぞれ戦闘へと突入する。

 

 

 

 

◎神谷重工某施設・医務室前◎

 

 

 某堕天使こと、神谷コウは表向きは父の会社である神谷重工お抱えの施設、裏ではイノベーターの基地となっている場所へと訪れていた。目的は当然、バンからの命令を果たすため。

 目的の一つを達成するために、施設の一角にある医務室に入る。清潔感あふれる室内にベッドが点在し、その一つに初老に入るかどうかと云った男性がいた。コウは全身に悔しさを滲ませているその男、強化ダンボールを生み出した霧島平治にこそ用があった。

 

 

「はじめまして、具合はいかがですか? 霧島さん」

「……君は、」

「私は神谷藤五郎の娘、神谷コウと申します。父がいつもお世話になっております」

 

 丁寧な受け答えにより己にされた教育が良い事を示す、つまり発言内容の説得力を強めた。コウは自身を魅力的に見せ、目の前の相手にその価値を売り込む為だ。

 

「神谷社長の!? 留学中と聞きましたが……お帰りになられてたのですね」

「六日前に戻って来まして、世界の広さを思い知らされました」

 

 コウは苦笑を演じて、相手に親しみやすさを与える下地を作る。こういった人間っぽさを先に見せておき、その後は人形の様な印象を与えられる様に努める。そうすると相手は基本困惑し、話の主導権を握りやすくもなる。がさすがに相手も元とはいえ一企業を率いていた者。困惑しながらも話を進めようとする。

 

「そ、それで何故一介の作業員にすぎない私の元へ?」

「はは、強化ダンボールの開発者が一介の作業員にすぎないというのは少々無理があると思いますよ?」

 

 起伏なく笑うコウ。対して顔を強張らせた霧島。その様子にコウは霧島の未練からくる憎しみが前情報通りだと確認する。

 髪をかき上げる動作で耳につけたピアスに触れる。ふりをしてその裏に隠された骨伝導式の通信機で合図を送る。

 

『大丈夫、偽装はうまくいってるとも』

 

 聞こえてきたのはノイズが雑ざった紫苑博士の声。盗聴をされぬように加工してる故のノイズ。少々鬱陶しいものの、聴き取れる程度なので問題はない。

 

 現在、紫苑によってコウはイノベーター施設の記録上から消えている。正確には他の部屋でLBX『ルシファー』を完成させる為に躍起になっていると偽装してあるのだ。つまりこの時にコウが霧島と会談している事は記録に残らず、しかも神谷重工社長の娘であるからスパイ行為をしている疑惑すらかけられない。

 

 

「本題に入りましょう。今回霧島さんに会いに来た理由は、真実をお伝えすべきと考えたからです」

「真実……ですか?」

「ええ、今回の事件。その発端、そして現れたテロリストの存在を」

 

 その言葉にまずは僅かな毒を仕込もう。彼の中にある憎しみを腐らせる毒を、そして疑心を植え込む。いずれ彼自身の意思であの方の役に立つように。

 

 

 

◎ミソラ商店街・ゲームセンター前◎

 

 

 

 ついさっきまで続いていた不良とバトルが終わり、歯応えのなさに少し拍子抜けしつつもギンジと情報共有を手早く済ませた俺たち。そこで他の三人衆、リコとテツオも襲われていると聞かされた。。

 カズ、ミカ、そして郷田の仲間であるギンジの3人を残りの三人衆を助けにいってもらい、俺は郷田と共にゲームセンターの中へと入ることとなったのだ。

 

「じゃあ頼んだぞ。カズ、ミカ」

「おう、任せろ! デストロイだな!」

「……見敵必殺」

 

 両拳をみぞおち前で打ち合わせるカズに、シュッシュッとシャドウボクシングを行うミカ。確かに俺はサーチアンドデストロイとは言ったが、いや殺す必要はないだろ。ただの比喩だって……あれ、この場合は比喩であってたか?

 ……やめとこう、俺が馬鹿なのが露呈するだけだ。

 

「ギンジ、案内をしてやれ。リコとテツオを頼んだぞ」

「あぁ、郷田くんも気を付けてくれよ、どうやらこの騒動の発端は一中の奴らじゃない」

 

 何故別れたのか、それはギンジからの情報にゲームセンターの中に一中の不良、その親玉がいるそうなのだ。

 というわけで、俺と郷田で親玉を抑え、他のメンツで四天王の残りの2人を助けに行ってもらう事になった。

 

「ギンジのやつはリコとテツオが囮となった事に気づいてここに強襲しようとしたらしいが、黒スーツの仮面野郎どもに邪魔されて見つかったらしい」

「仮面……イノベーターか?」

「分からん、が邪魔したんだ。すぐいなくなったとはいえ、味方というわけじゃあねぇだろうな」

 

 俺たちが作戦会議している中で郷田がギンジからさらに聞き出していた情報を俺に共有してくれる。成る程、別行動していても行動は阿吽の呼吸——流石は郷田三人衆。しかし、邪魔したやつはすぐにいなくなったか。どっかからまだ見ているかもしれないということだけ頭に置いておこう。

 ゲーム音があちらこちらから聞こえて来る店内を進むと、不良が3人。ちょっと前に設営されたLBXバトル用のステージでこちらを睨んできていた。

 カードをいじっているやつが苛立ったように吐き捨てる。

 

「ちっ、情けねぇ。外の奴らは後で焼き入れねぇとな」

「一中の番長だな?」

「そういうお前は郷田を破った山野バンだな?」

「ふむ、破ったのは俺ひとりの力ではないが……名前はその通りだ」

 

 寧ろ単体で勝つなら今くらいでないと無理だったし。

 

「なら、お前に勝てば、はれて俺はここら一帯の頭になれるわけだ」

「オイ、俺を忘れんなよ? 仙道ダイキ!」

「は! こっからは上を決めるバトルだ。負け犬はすっこんでな!」

「ンダトォ!?」

 

 すぐに頭に血が上った郷田を腕で静止し、仙道ダイキに向けてバトルルールの設定を決めに入る。

 

「郷田、挑発に乗るな。仙道とやら、バトルは2v3、レギュレーションはゼネラルでいいな?」

「ほぉゼネラルレギュレーション、アルテミスと同じか。いいぜ乗ってやるよ。どうせ箱の中の魔術師の奇術に翻弄されるしかないんだよお前らは! 行け『ジョーカー』!」

「ほざけ! 奇術なんぞぶっ壊せ『ハカイオー』!」

「果て無く征け『アキレス・リュカリオン』」

 

 さあ、タネの割れてる手品でどれだけやってくれるかな?箱の中の魔術師よ。

 







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魔術師と破壊神と狼騎士、あとワイバーン

 ダンボール戦機×ACのMODを作った付け合わせのミックスベジタブルもといpec兄貴の動画を見てたら遅くなりました。
 というのは半分くらい嘘で、今回はすごく難産でした。

 脳内で満足できる描写が出来ず、何週間も書いては消してを繰り返したものです。

 正直もっと練れたんではとか思わんでもなかったですが、先を書きたくなったので投稿しちゃえと言って次第です。

 生暖かい目でよろしくお願いします。


「む……」

 

 

 フードを被り、濃ゆいサングラスをした男。彼の名はレックス。伝説のLBXプレイヤーと謳われる人物だ。彼が路地裏を歩いていると、視線の高さに純白のLBXが突如として現れた。すぐさま警戒態勢を取り、『G・レックス』で対応できるようにポケットの中でCCMを握る。

 

 しかしLBXは何をするでもなくその場で停止した。

 

 数秒の間隔、動くべきかとレックス脳内で逃げる算段をつけているとようやく白いLBXが行動を開始した。

 

 

『やあ、檜山君。いや、レックスと呼んだほうがいいかな?』

 

「宇崎———悠介か。なんの用だ」

 

 

 少しノイズの混ざった声。そこからレックスはシーカーで仲間ある男の兄であると認識する。何用だと、こちらに暇はないのだと。態度で伝える。それに苦笑したのかわずかに笑うかのような声がLBXから漏れる。

 

 

『そう邪険にしないでくれ、こちらとしても君に接触するのはかなり無理をしているんだ。手短に行こう』

 

「ならさっさとしろ。後の予定がつっかえている」

 

『君のはそもそものスケジュールが無理のあるものだと思うがね』

 

「放っておけ、で結局何をしに来た」

 

 

 無駄話が過ぎるとレックスはLBX越しの相手に先をせかす。

 

 

『ああ、先日の話だが、うちの研究員の一人が外部からのハッキングを防いだ』

 

「イノベーターか?」

 

『私も最初はそう思った。だが調べを進めると、明らかに別の証拠が見つかった』

 

「別?」

 

 

 イノベーターではない、ならばワールドセイヴァーかとレックスは思考し、何でもかんでもワールドセイヴァーのせいにしようとするのはいけないと中断する。なにせ、この世に蔓延る邪悪は奴ら以外にも山のようにいる。いずれ奴らにはふさわしい末路を与えてやると憎悪から頭が熱を持つ。

 

 レックスは目を瞑って思考を中断、相手の情報を頭に入れる為にクリアにする。1秒にも満たない間に、己の中の激情を握りつぶす。慣れたものだと心の中で溜息をついた。

 

 

『ああ、ハッキングを仕掛けてきたのはバーチャルLBXだったのだ』

 

「バーチャルのLBXだと?」

 

 

 そこからレックスが思い至るはLBXのデータ化。そのような技術、まだ完成はされていない。筈だが、世界には山野淳一郎のような天才はいるものだ。もしかすれば完成ともかく雛形程度の技術を個人で持っている存在がいるやもしれない。故にあり得ないと断じることができなかった。

 

 

「発信源は?」

 

『判明している……というより、そのバーチャルLBXが我々のサーバーをインフィニティネットを通してハッキング、そこにデータを保存していった。そしてその情報を信じるのであれば、彼は我々に対して救援を求めているようなのだ』

 

「彼……バーチャルLBXによるハッキング。まさか……」

 

 

 そんな技術を生み出せるのはあの山野淳一郎に準る技術を持った存在なのだが、同時にハッキングもできる存在となるたった1人だけレックスは心当たりが存在していた。

 しかし、ほぼ都市伝説レベルの人物のため信じられないという感情が先行する。

 

 白いLBXはその心当たりを肯定する。

 

 

『そう、発信源はアキハバラ。彼は来訪者の安全を引き換えにこちらに協力しても構わないと伝えてきたのだ』

 

「来訪者……だと?」

 

『ああ、しかし私は表立っては動けない。そして不肖の弟の組織は——』

 

「内通者がいる……か」

 

『確定ではないが、可能性は極めて高い。これはTO社にも言える』

 

 

 外にも内にも敵だらけかと、世の中の世知辛さにレックスは溜息を吐く。

 

 

「つまり俺しかいないわけだ。それで? 保護した後はこちらで勝手に匿えばいいか?」

 

『ああ。だがこちらでも用意する準備もある。そちらでやり易い方を選んでくれ』

 

「了解した。何とかしよう」

 

 

 白いLBXから詳細のデータを受け取る。マップに反映されたそれらを確認して、問題がないと判断した。

 

 

『頼む。何か必要なものがあればこちらで準備しよう。ウチの秘書は優秀でね。影山に悟らせない程度だが、支援させよう』

 

「ならば脚を用意してくれ。こちらで管理できるのをな」

 

 

 移動手段の手配を頼んだレックス。それ以上言うことはないとそのまま踵を返して白いLBXと別れる。

 

 尚、彼は本来の予定をすっかり忘れており、後に神谷コウと合流した際しこたま叱られたのは余談である。

 

 

 

○○

 

 

 

 

 

 

 

 三機に分身した仙道の操る『ジョーカー』を相手に『アキレス・リュカリオン』は逆手に持ったランスで対応を続ける。

 

 

 

「ちぃ、対応が早い」

 

「あまりにぬるいぞ、慣れてきた。この様では魔術師ではなくピエロと名乗ったほうが正しいだろうよ」

 

「なんだと! よりにもよって道化と呼ぶか!? この俺を!」

 

 

 

 的確に『ジョーカー』の攻撃を防ぐ俺に悪態をつく仙道。彼の思考を鈍らせるために攻撃を弾くとともに煽りを与えれば、想像以上の効果を発揮した。怒りで思考を鈍らせてくれるのは助かる。しかし、エンジェルスターで戦ったあいつとコウの屋敷から出る前に簡単な稽古してもらったレックスの強さが本当に別次元なのだと思い知らされる。これに関しては比較対象が悪いんだけど。

 

 俺の仙道が使う分身への対策は至って単純なもの。相手が三体に増えるなら対応速度を三倍にしてやればいい。つまり沙希師匠直伝にして俗にいう脳筋戦法だ。先の強者二人との経験があった故に出来た芸当だもあるし、結構性に合っているのでおそらく俺は脳筋だな。と無駄な思考をしつつ、相手の動きを感じ続ける。

 

 

 

「必殺ファンクション!」

 

Attack Function/我王キャノン!

 

 

 

 と、郷田が取り巻きのふたり(のLBX)をミンチにしたようだ。自分のことながらこいつによく勝てたなと『我王キャノン』の威力に戦慄する。

 

 

 

「待たせたなバン!」

 

「いや、丁度いいくらいだ」

 

「ちぃ、役立たずどもめっ」

 

 

 

 仙道が倒された仲間に悪態をつきつつも攻撃の手を緩めていないのは賞賛すべきか。攻撃を弾きつつ、仙道の卓越した操作技術に心の中で舌を巻く。先ほどは慣れたと煽ったが、いまだ俺は反撃に転じれていなかった。怒りで動きが単調になるかもと期待をしていたのだが、相手は常に動きを打ち寄せる波のように変化を与えてくる。それを『アキレス・リュカリオン』の運動性のおかげで対処できている。

 

 

 郷田の『ハカイオー』は本来の物語では一度仙道に破壊され、敗北を喫している。これは『ハカイオー』の運動性が低かったのと分身が初見であったからと考えている。

 

 事実、郷田は二回目のバトルにおいて仙道へ対し、勝利を収めているのだ。

 

 

 

「戦いじゃ、わからん殺しを押し付けられれば勝ちだからな……」

 

「あ? なんか言ったか、バン」

 

「郷田、試したいことがある。失敗したら頼む」

 

「なんだ? 何するってんだ。まぁ任せな!」

 

 

 

 こちらもわからん殺しをしてやるって話だ。それに今なら失敗しても後詰めの郷田がいる。ならば、後は実行するのみ……

 

 

 

「行くぞアキレス! スキャニン―――」

 

 

 

 背筋が粟立つ。システム準備から駆動へ一気に駆け上がる瞬間、悍ましい気配を感じとる。いつから隠れていたのか、むしろ最初からかもしれないとギンジの言葉を思い出す。

 

 ギンジは『この一件は一中の連中が発端ではない』と。そして彼を邪魔した仮面黒スーツの奴らのことも脳裏によぎる。

 

 

 

「誰だっ!」

 

「なんだ?」

 

「いきなり何をっ―――!?」

 

 

 

 相手は認識されたことを察知してバトルフィールドに降り立った。爬虫類のような鋭さを覚えさせるフェイス、一見羽のような刃を備えた背部ユニットに恐竜のようなボディ。まるでワイバーンのごときそのシルエットに強烈な見覚えがあった。

 

 

 

「キラードロイド……だと!?」

 

 

 

 未来において俺たちに立ちはだかるはずの対LBX用兵器。それが今この瞬間に現れた。その衝撃の大きさたるや、頭が痛くなりそうだ。

 

 

 

 しかし、よく見れば細部が以前戦ったグルゼオンもどきと同系統の技術が見え隠れしている。つまり、こいつを作った相手は。

 

 

 

「ワールドセイヴァーか……!」

 

「こいつは一体!?」

 

「LBX……なのか?」

 

 

 

 LBXをはるかに超える巨体は呼吸をするように周囲の空気を吸い込み、次の瞬間緑の光とともに炸裂した。

 

 

 

「ぐぅ!?」

 

 

 

 あまりの眩しさに思わず目を庇ってしまい、気づけば緑に波打つの半球体状の壁に閉じ込められていた。確かKフィールドだったか。未来で開発されるDエッグの機能とほぼ同じで相手を閉じ込めるものだったはず。つまりこれで逃げられなくなった。出るにはキラードロイドを倒さなくてはならない。

 

 

 

「厄介かっ」

 

「バン! こいつは!?」

 

「恐らく俺達と仙道達を戦わせようとしていた奴らのだ!」

 

 

 

 キラードロイド《ワイバーン》実物はこんなにも悍ましいものとは。竦む思考に喝を入れ、仙道へ依頼をする。

 

 

 

「おい仙道! 一旦休戦を申し込む!」

 

「なに!? ふざけるなよ、なんでお前らと!」

 

「お互いこんな訳の分からない状況でやられたくはないだろう!」

 

「来るぞ!」

 

 

 

 郷田の怒鳴り声に、慌てて仙道からキラードロイドへ注目を移す。

 

 

 

 キラードロイドは前足の射撃武装の乱射を敢行しており、回避をしつつ直撃弾はメイスで弾く。

 

 それだけでメイスの一部が欠けて、その威力を物語る。

 

 

 

「何度も受けられんか! っ散れ!」

 

「「!!」」

 

 

 

 キラードロイドが刃翼を前に向け突撃形態を取っているのを察知できたので、その場から飛び退る。何とか乱射を凌いだ二人も俺の必死な声に素直に従ってくれ、それぞれでキラードロイドの攻撃範囲から逃れようとする。

 

 

 

 キラードロイドの狙いは俺のようで、回転し地面を抉りながら『アキレス・リュカリオン』に向けて突進してくる。しかも無理やりではあるが軌道修正をしながらなので、逃げても逃げても攻撃範囲から逃れることができないでいた。

 

 

 

「―――『V』モード!」

 

 

ADVANCED・V!!

 

 

 

 直撃がよけられないと悟った俺は巻き込まれる寸前に、手札の一つ、特殊モードを切る事を決断させられた。折角、もう一つの切り札を使う副産物として完全制御できるようにしてもらった切り札の一つを早々に消費せざる負えなかった状況に、舌打ちしたい気持ちでいっぱいになった。

 

 

 

「必殺ファンクション!」

 

Attack Function/ライトニングランス!

 

 

 

 特殊モード発動による必殺ファンクション即時解放。放たれた光の槍―――いや撃ち出すという意味では鑓とか鎗と称した方がいいか……がキラードロイドの突撃に真っ向から激突し、僅かな拮抗ののち突破された。

 

 しかし拮抗を保った一瞬を糧に、回転する進撃から『アキレス・リュカリオン』は離脱した。

 

 

 

 躱されたと認識したキラードロイドが脚部と剣翼を地面に突き立て制動を行う。その静止の瞬間『ジョーカー』が無防備な相手の頭にサイズを叩きつける。鈍い音を立てるサイズ。だが衝撃までは受け止められなかったか、キラードロイドは僅かな怯みを見せた。

 

 

 

「仙道!」

 

「勘違いするな! 手を組んだ方が効率的だからだ!」

 

「へっ! それで十分だろうよぉッ!」

 

 

 

 続けて郷田の『ハカイオー』がキラードロイドの頭を顎下から打ち上げた。さすがにブロウラーフレームの一撃はダメージにはなったのか。さらなる怯みを生み出した。

 

 

 

「今だ! 必殺ファンクション!」

 

Attack Function/ライトニングランス!

 

 

 

 特殊モード、『アドバンスドV』の恩恵(Cゲージの自動回復)を存分に活用し、二回目の必殺ファンクションを放つ。狙いはもちろん『ハカイオー』に顎をはじかれた為に、ガラ空きとなった胸部にて輝くコアだ。

 一射目すら超える速度とエネルギーを伴った閃光は目標へ吸い込まれるように激突する。

 完璧な動作で正しく放ち、エネルギーも特殊モード分も上乗せされ、会心の一撃を確信する。

 

 激突、そして爆発。あまりの威力にフィールド外の俺たちにまで爆風が届いた。

 

 

 そして端的に言ってしまえば、会心の一撃はキラードロイドに僅かな傷を与えるに留まったのだった。しかしそれでもその一撃でその場の皆が理解する。

 

 

「やはり胸の部分が脆い!」

 

 

 比較的ではあるが。狙いは決まった。

 

 返礼とばかりに煙幕を穿ちながら放たれる弾丸。乱射され、層を成すように弾幕となる。対して俺は周囲の瓦礫を飛ばし、弾道が微かに逸れることで生まれた僅かな安全地帯に機体を滑り込ませて回避する。が次は躱せない。

 

 

 

「郷田ァ!」

 

「応! 必殺技ファンクションっ!!」

 

Attack Function/我王キャノン!

 

 

 

 このメンツで唯一遠距離武装を持つ『ハカイオー』。照射として使用した『ハカイオー』のキャノンが敵の弾幕を蒸発させ、風穴をあける。そのままキラードロイドの少し手前に着弾。そこから薙ぐように破壊の煙を撒き散らしながら、キラードロイドに直撃する。

 

 

 

『Pipipopi』

 

 

 

 機械的な嘶き。煙の中から現れたのは汚れただけのキラードロイド。ダメージらしきものは見当たらない。

 

 

 

「無傷かよ!」

 

「装甲が硬いんだ! 胸のコアを狙うしかない!」

 

「ならばっ!」

 

 

 

 仙道の『ジョーカー』が動く。先の我王砲の爆煙に紛れ、接近に成功していた。

 

 どうやら考えることは同じようだと俺も『アキレス・リュカリオン』を続かせた。

 

 既に三機に分かれていた『ジョーカー』が(サイズ)を同時に振るう。

 

 『キラードロイド』の反応を上回れたのは仙道の腕前もあるが、俺の知っているものと違い、AIを使っていない。そもそも動き方が人間じみている。というかこれ手動操作だ。

 

 というか、なぜ『キラードロイド』なのだ。一年先だろうに。たった一年だが、それでもこの世代は技術の進歩が恐ろしいほど速いというのに。

 

 そんな理不尽への怒りを込めて、仙道の動きへ合わせる。

 

 胸部コア、先程《ライトニングランス》を当てた傷に1ミリのズレもなく三連続で打ち据えた『ジョーカー』サイズは僅かながらのダメージと亀裂を与えた。

 

 そこへ一白置いて、飛来した『アキレス・リュカリオン』が取り付く。メイスが突き立てられ、内臓パイルバンカーを2回打ち込んだ。流石に刺さりはしなかったが、さらに広がる亀裂。もう一方の腕に持つランスで追加と言わんばかりに抉ってやる。

 

 流石にそこまでされてはキラードロイドも黙ってはいない。周囲のLBX達を振り払い、同時にバックステップからの刃翼の叩きつけ、狙いは特殊モードの時間切れを起こした俺の『アキレス・リュカリオン』だ。

 

 振り払われ、体勢を崩した『アキレス・リュカリオン』ではその一撃は避けきれない。

 

 しかし、俺は1人ではない。

 

 

 

「させっかよぉ! 必殺ファンクション!」

 

Attack Function/パワースラッシュ!

 

 

 

 郷田の『ハカイオー』が駆けつけ、本来は飛ぶ斬撃として放つ《パワーエッジ》を破岩刃に集束させたまま刃翼を迎撃した。

 

 相打ち気味にお互いが弾かれ合い、重量の差から『ハカイオー』が吹き飛ばされていた。が、吹き飛ばされた割には『ハカイオー』のダメージは少なかった。いやダメージを逃す為、余計に吹き飛ばされたのか。

 

 

 

「助かった!」

 

「良いってことよ!」

 

 

 

 先ほどから郷田は防御役として俺たちのサポートに回ってくれている。というのもこの中で最も頑丈なのが『ハカイオー』だからだ。郷田もそれを理解し、即興で対応してくれていたのだ。

 しかし衝撃を逃がしたとはいえかなりのダメージとなったようで『ハカイオー』にリペアアイテムを使わせる郷田。彼を尻目に仙道と僅かに目を合わせる。

 

 

 

「やれるか?」

 

()ってみせるさ」

 

 

 

 短く質問され、こちらも短く返答する。キラードロイドとのにらみ合いが続く。何故相手は動かないのか、理由は単純、時間はキラードロイド側の味方だからだ。

 

 なぜなら必殺ファンクションの連発や高機動を保ち続けていたこともあり、既に全員のバッテリーがレッドゾーンに突入していた。

 これ以上戦いが長引けば長引くほど不利だとこの場の全員が理解しているし、むしろここまで拮抗していたのが奇跡の様なものだった。故に先程作ったコアの亀裂に賭ける他ないと。経験から弾き出し、仙道も察していた様だ。

 

 だから作戦を二人に伝える。危険な、しかしもっとも可能性の高い作戦を。

 それを聞いた仙道は視線を敵から外さずに、俺に問いかける。

 

 

 

「なるほどな、確かに可能性は高いは高いが、それは比較的という枕言葉が付くだろう?」

 

「しかし、これ以外はほぼ無理だろう。俺が攻撃を受け続ければ……」

 

「だがよぉ、この中アレをブチ抜ける貫通力があるのはバン、お前だぜ? お前が攻撃に回ったほうが可能性が上がるはずだ」

 

 

 

 郷田の指摘はもっともだった。槍の必殺ファンクションは武器の性質上貫通力が高いのがほとんどだ。そしてコアを破壊するためには面の破壊よりも点の貫通のほうが重要に思えた。けれどこれを譲るのは心情的にいやだった。

 

 

 

「……提案したのは俺だ、なら危険な役割は俺が引き受けるのが筋だろうよ」

 

「そんな甘いことをこの期に及んで抜かすんじゃねえ! その役割はオレがやる。オレの『ハカイオー』がこの中じゃあ一番堅ぇのはさっきまでのを見てわかってるはずだ」

 

「だがっ」

 

「ごちゃごちゃ抜かすな、時間がない。それで二中の番長、やれるのか?」

 

「当然! 逆にぶっ壊してやるよ、何せオレは―――」

 

「地獄の破壊神だからか? は、バカらしい」

 

「んだと!?」

 

 

 

 郷田が仙道に食って掛かる。が仙道はそんなのに取り合うことなく。いや、むしろこのピンチに燃える漢としていい笑いで続けた。

 

 

 

「だが自分でも意外なんだが……嫌いじゃないらしい。そんなバカはな」

 

「!」

 

「任せるぞ、郷田」

 

「ははっ、足を引っ張んじゃねえぞ。仙道!」

 

「――――」

 

 

 俺の意思むなしくふたりは覚悟を決めてしまった。いやそうじゃない、そうじゃないんだ。むしろ俺がヘタレだったんだ。危険だからと遠ざけ、引き受けようとした事が郷田と仙道への、二大番長への侮辱だったのだ。つくづく自分の愚かさに嫌気がさすが、一度息を吐き思考をリセットする。

 

 

 

「郷田」

 

「あん?」

 

「任せた」

 

「へっ、応よ!」

 

 

 

 バッテリー切れ間近なのでCゲージが溜まりにくくなってもいた。高かったのだが……仕方ない。『アキレス・リュカリオン』にチャンスリチャージというアイテムを使わせ、Ⅽゲージを増幅させる。

 

 合計で必殺ファンクション一回分のCゲージ。大切に使わねばと気合を入れ直す。

 

 

 立て直したキラードロイドに対して仙道がタイミングを計り、俺たちに号令をかける。

 

 

 

「行くぞ!」

 

「ああ、合わせる!」

 

「恥かくんじゃねえぞ!」

 

 

 

 郷田の発破で膠着から動き出す。三機の『ジョーカー』が惑わす様にキラードロイドに走る。その動きはまるで幻を見ているかの様に揺らいで見える。

 それに距離感を惑わされたのか、キラードロイドは迎撃とした刃翼を空振りとした。

 

 地面にたたきつけられる刃翼。砂埃をかき分け二機の『ジョーカー』は一気に展開する。キラードロイドも対応せんと動くも。

 

 

 

「オオオラァッ!!」

 

 

 

 正面からの『ハカイオー』の突進がその動きを封じる。先ほどと同じように顔を打ち上げられ、コアが無防備になることを防ぐためか。突進を刃翼で迎撃する。

 

 『ハカイオー』の破岩刃はキラードロイドの刃翼と正面からぶつかり合い、持つ腕ごと破壊される。

 

 

 

「必殺ファンクション!」

 

Attack Function/デスサイズハリケーン!

 

 

 

 『ハカイオー』の腕を犠牲にした時間稼ぎの間に展開していた『ジョーカー』二機が同時に必殺ファンクションの黒い竜巻を発生させ、キラードロイドを両面から削りとる。

 キラードロイドは竜巻に拘束されながら、尻尾で発動し終わり無防備となった『ジョーカー』達を一撃で破壊する。

 

 

 

「やっぱ分身じゃねえじゃねえか!」

 

「ふ、今更か。バカの相手は疲れるな」

 

 

 

 なんて会話しながら二人は不敵に笑い、己のLBXをキラードロイドに走らせる。

 

 竜巻に削られるキラードロイドはせめての抵抗か、定まらない照準のまま腕部の銃を撃つ。

 

 直撃弾は少ないが、なかったわけではなかった。しかし竜巻が消えるまでという僅かな決着を果たさねばならぬ故に、避けるという選択すらできない。

 

 だから『ハカイオー(郷田)』は『ジョーカー』の前に飛び出る。残った片腕で胴体を守るように直進を続ける。

 

 一撃目、腕が弾けた。

 

 二撃目、横腹が抉りとられた。

 

 三撃目、頭部の半分が消し飛んだ。

 

 

 

「仙道ォッ!!!!」

 

「よくやったぁっ!」

 

 

 

 最後の一撃で胴体を撃ち抜かれ爆散する『ハカイオー』

 

 しかしそれでも、仙道に繋げた。意地を貫き通したのだ。

 

 だからこそ仙道も残っていた余力すべてをキラードロイドに叩きつける。

 

 

 

「必殺ファンクション!」

 

Attack Function/スイングハンマー!

 

 

 

 必殺ファンクションを利用した変則的なかち上げ。それがキラードロイドの頭にクリーンヒットし、サイズの破壊と引き換えにコアへの道を開いた。

 

 ああ、やってくれると信じていた。信じて溜め続けていたとも。

 

 

「行けェッ!!!!」

 

「果てなく征け―――アキレス・リュカリオンっ!!」

 

Attack Function/グングニル!

 

 

 

 無理やり届かせた領域(レベル)の一撃。本来は稲妻の槍と同様に撃ち放つ主神の槍は未完成故に突撃技となり、人狼の騎士はキラードロイドのコアへと真っ直ぐに墜落する。

 

 

 

 

「オオオオオオオオオアアアアアアアッ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 そして人狼騎士はついに破壊の翼竜を打ち滅ぼした。

 

 

 

 




初期量産型キラードロイド《プロト・ワイバーン》を撃破。

こちらの被害

『アキレス・リュカリオン』必殺ファンクションによる右腕自己崩壊。

『ジョーカー』三機中二機破壊。

『ハカイオー』完全破壊


なお、中ボス戦でしかない模様。


あと来訪者というのは既にどこかで名前が出てたりします。


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悔しい、羨ましいーーー妬ましい

今回は話を動かさない回です。遅筆でごめんね?





「ああ、くそ! 何体いるんだよ!」

 

 『ハンター』の狙撃が敵LBXを撃ち抜いて、一息つく暇すらなく次の敵に照準を合わせる。カズはあまりのうっとおしさに耐えかねて苛立ち交じりの愚痴をこぼした。

 

 隣のミカが『アマゾネス』で相手から奪った武器で敵LBX達を串刺しにしてだんご三兄弟を作りあげてから反応する。

 

 

「ん、だるいね……。でも、早く片付けないと、バンたちの決着に間に合わない」

 

「だな、けどこの数……ホントに一中のやつらの仕業なのか?」

 

 

 物量戦による戦い、既にカズとミカだけで二十は撃破していた。ここら辺の不良どもを纏めたとしてもかの数の説明をつけるには若干不足を感じた。

 

 こんな時にアミがいてくれていれば何かを察してくれていたかもしれないが彼女はいまアキハバラだ。

 何やら家族に頼まれた買い物だとかなんだとかそこらへんは詳しくはわからないが、宇崎さんからもなにか頼まれていたので、こんな修羅場にいないことを責める気に友達であるカズは、全くなれなかった。むしろ心配しているくらいだ。

 

 

「全く、アミはこういう時にいない……」

 

 

 しかしてミカはアミと友達であると同時にライバル関係なので、結構ズケズケと言い放っていく。カズは思わずムッとしたが、すぐに思い直す。

 一見無表情でいることが多い彼女だが、同級生組のリュウを含めたいつもの五人の中で一番の仲間想いであることをカズは知っている。

 単純に関係性の違いだろう。手を取り合うか、競い合うか。どちらがいいともいえるようなものではない。

 

 

「全く、ミカはアミには結構容赦ないよなぁ。アミにも言えるけど」

 

「……当然。私はあの物の怪には絶対負けない」

 

「物の怪って……いや違うっていえねぇのがホント……」

 

 

 ご近所であるのをいいことにLBXを使ってバンをひそかに監視してるやつだもんなぁと内心カズは頭を抱えた。あとそれを知ったときアミが「バンの全てを管理したい(意訳)」などとぶっちゃけたのも未だにカズの脳裏にこびりついてる。ああいうのを背筋が凍るというのだろう。バンが行方不明になっていた間の濃ゆい時間はカズのSAN値(正気度)を確実に追い詰めていた。いや、元々そんな気はしてたのでバンへの同情を更に加速させた面が強かった。(ついでにミカも怪しいし)どうにか守ってやらねばとカズはキリキリと締め付けられる感覚に従い、胃のある部分を手で押さえた。

 

 

「何やってんだい! 次の敵が来るよ!」

 

 

 うへぇと静かに胃を痛めていたカズの意識を、共に戦っていた郷田三人衆のリコががなり立てて戦場に引き戻す。対象ではなかったミカもその声で敵の増援に気付き、直後に連続した爆発が起こった。

 

 

「ごわすぅっ!?!?」

 

「ぬおおおっ! リコっ早く援護をっ テツオがピタゴラスイッチみたく連鎖で吹っ飛んだゼ!」

 

「ああもう! 世話が焼けるねえ! ミカにカズ手伝いな!」

 

「わかった……って多すぎだろ!」

 

 

 追加でさらに三十はゆうに超えるLBX達。結構限界が近くなっていたのでこれはまずいと。リコを含めた三人は顔を顰めた。先ほどまでは郷田三人衆のテツオが愛機『ナズー』の水中型特有の堅牢さで戦線を維持できていたのだが、先ほどギャグの様に吹き飛んだためすぐには復帰できない。

 

 このままでは押し切られるとその場の誰しもが考えたとき。

 

 

「起動せよ『ジ・エンペラー』!」

 

 

 黒き騎士が外套を靡かせ、手にした大槌で敵LBXを粉砕しながら戦場へと降り立つ。その瞬間、戦いは蹂躙へと変貌を遂げた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 グングニルによって(コア)を貫かれ、胸元から下の吹き通しが良くなったキラードロイド。二度と動くことはないだろうが、しかして辛勝とすらいえない

 

 

「痛み分け……よりもひどいな。郷田、『ハカイオー』は?」

 

「……完全にスクラップだ。吹っ飛ばされた片腕が辛うじて残ってるくらいだな」

 

「そうか、仙道は?」

 

「『ジョーカー』達なら二つは同じくスクラップ。残ったのもブレイクオーバー寸前だ」

 

「そうか……二人とも、すま―――いや、ありがとう。二人がいなかったらあの怪物は倒せなかった」

 

 

 今持てる敬意と感謝を込めて頭を下げる。先ほどまで猛威を振るっていた相手はキラードロイドの恐らくは雛型とも呼べる個体。だとしても兵器としては優秀であることには変わらない。何せエンジェルスターにいた大型作業機械イジテウスを破壊できるLBXを容易く壊せてしまえるのだから。

 

 ……冷静に考えるとやっぱりLBXの性能が頭おかしいよな。

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 郷田は完全に破壊された『ハカイオー』に少しの落ち込みを見せていたが、俺に応えようと快活な笑みを作ってみせた。

 

 

「ああ、なんとかなってよかったぜ。あんなの相手によく勝てたもんだ」

 

「ふ、当然だ。俺が協力してやってたんだ。負けるはずがないだろう?」

 

「はは、言うじゃねえか。だがお前の活躍は俺が守ってやってたからというのを忘れんなよ?」

 

「―――くくっ」

 

「あん? バン、なに笑ってやがるんだ?」

 

 

 つい笑いがこぼれた。失敗したなと少し反省して、弁明の言葉を考える。いや考えるまでもなく、自分の中でさっき感じた思いが単語として固まっていた。

 

 

「いやすまない。思ったよりも仲良さそうだな、と」

 

 

 結構、物語初、中期の険悪な雰囲気とは明らかに違う。強敵を打ち倒し、乗り越えたことで目に見えない繋がりが結ばれた気がした。こういうのを絆とでもいうべきなのか。それをいの一番にうれしいと感じたのだ。

 

 そこで思い出したかのように仙道がバッと俺達から離れた。

 

「な、んっ。いやそうじゃない。よし、共闘もここまでだな! さあ喧嘩の再開と行こうか!」

 

「いや、今更か。というか俺の『ハカイオー』は腕だけになっちまってるし」

 

「俺の『アキレス・リュカリオン』だって片腕ないしな。それになんか戦える雰囲気でもなし。また今度というわけには?」

 

 

 思ってたより仙道は絆されていたようで、つい微笑ましくなる。仙道のほうが肉体年齢上だけど。精神年齢は知らん。多分肉体に引っ張られてるから俺が下だろう。

 

 

「くぅ……いいや! これはケジメだとも。バトルを受けやがれ山野バン!」

 

 

 なんか戦う流れになってしまった。是非もなし(しかたないにゃあ)、と肩をすくめてからそのバトルを受諾した。だがその前に。

 

 

「先に応急処置をさせてくれ」

 

 

 さすがにこのダメージは、店長に頼まないと完全な修復はできないだろう。それでもある程度のメンテナンスをしてやりたかった。おそらくCPUがほとんどイかれてるだろうし。モーターとバッテリーがだって酷使し続けたのだからとてもバトルできるような状態ではないのだ。

 

 

「―――そうだな、そうだったな。俺も『ジョーカー』も戦闘不能(ブレイクオーバー)寸前だったか」

 

「マジで勢いだけだったのかよ……」

 

「うるさいぞ郷田(バカ)! サッサとしてバトルをするぞ」

 

 

 呆れた郷田という珍しいものに笑いをこぼしつつ、近くの机を借りることにした。

 携帯していたメンテナンス道具を用いて『アキレス・リュカリオン』の装甲を解体する。

 

 コアスケルトンの胴体にあるコアボックスを開けると焦げ臭いにおいがかすかに広がる。やはり内部パーツがかなりイかれてる。

 郷田が座る俺の頭越しにその惨状を覗き込んできた。

 

 

「うお、モーターが焼き付いてやがる。こんなにひでぇのは初めて見たぜ」

 

「……必殺ファンクションの連発が原因だろうな。特に最後のがマズかったか。CPUがほぼほぼ壊れてる」

 

 

 プシューと体に悪そうな臭いの煙を上げるCPUをピンセットで外し、拾い上げる。こんなの初めて見た。そもそもCPUって焼けるものなのか。これは捨てないとだめだな。高かったんだが……

 けれど『プラチナカプセル』は別の場所であるためになんら影響がないのは幸いか。

 

 

「バッテリーの充電は?」

 

「ない、がまだ使えそうだ。充電を頼んでいいか?」

 

「りょーかい。仙道、お前のは?」

 

「む、ならついでに任せる……細工をしようなんて考えるなよ?」

 

「誰がするか、誰が」

 

 

 呵々と笑う郷田は俺たちのバッテリーを受け取り、店の充電器を借りに行った。こういったLBXバトルができる店は整備するための設備や道具が用意されている場合がほとんどだ。バッテリー充電器とかは一回の使用ごとにクレジットを取られるが、バトルフィールドを使わせてもらうのはただなのだから文句など出るはずもなし。

 焦げをふき取り、予備のパーツへと付け替える前にメンテナンスグリスで―――

 

 あ、ない。消費アイテムを模型店で補充するのを忘れていた。

 

 

「仙道、メンテナンスグリスの小さいやつはないか?」

 

「なに? なくなったのか? 間抜けめ」

 

「かもな。中くらいのと二個で交換しよう」

 

「Mサイズとなら4個だ、貸しにはしない」

 

「感謝する」

 

 

 受け取る際に、仙道の手元を見やる。『ジョーカー』のアーマーフレームが外されたコアスケルトンが目に入る。そのカスタマイズに思わず唸った。

 

 

「なるほど、関節にそんな加工を」

 

「ほう、わかるか」

 

「ああ、整備の為に齧った程度だがな。だからあの大鎌を持ちながらあの挙動が可能なのか。しかし……」

「お前が考えることもわかる。懸念は強度だろう? だが問題ない」

「む、もしや。フレームか?」

「正解、パーツごとに一部分だけパテモリを施すなどで負荷の分散、および補助をさせている」

「なるほど、対して負荷の少ない部分は削って重心のブレを無くしているのか」

「俺の戦いはトリッキーさを売りにしているからな。裏を返せばピーキーな動きを多用する。それに合わせるにはどうしても同じくピーキーなカスタマイズが必要なわけだ」

「ふむ、俺の求めた運動性とは別の方向か。しかし、俺でもわかるほどの完成度。素晴らしいな」

「だがまだ発展途上であるのは確かだ。お前のも見せてみろ」

「ああ、いいぞ」

 

 頷きながら『AX-00 改』を見せる。『アキレス・リュカリオン』に強化された際に改造されたコアスケルトン。

 

 ところどころレックスや店長、カズたちの手を借りて俺用のチューニングを施しているがまだまだ粗削りであることは当然である。なので仙道に見てもらうことで何か新たな発見を得られないかと愚考したのだ。

 

 仙道は片腕のないコアスケルトンをまじまじと確認し、「ほぉ」と漏らした。

 

「なるほど、齧った程度というのには納得だ。確かにこんな特殊なLBXは初めて見るな……上半身と下半身で別フレーム種を使ったのはないこともないが、ここまで混ぜ込んだのは前例がないんじゃないか? こんなもの、整備するにしてもある程度の知識が必要というわけだな」

 

 

 仙道はこのLBXの複雑さを瞬時に見抜き、そして勝手に勘違いしたのだった。多分このいびつなLBXのせいだろう。俺の知識は父親の影響なのだが、今はあんまり関係ないので黙って肯定も否定もしないようにしておこう。コアスケルトンの構造に夢中な彼をわざわざ現実に戻す必要はないのだから。とても楽しそうだ。

 

 ああ、だめだ。心の底から湧き出る感情、俺は仙道を羨ましがっている。いいや仙道だけじゃない。みんなのことが羨ましい。俺はそんな余裕がなかったから。義務感で腕を磨いていたから。だから楽しめている彼らが羨ましい妬ましい、本当に悔しかった。けれどそれを表には出さない。出したらきっと歯止めが利かなくなってしまう。

 

 まぶしいなぁ、本当に……

 

 




ちょっと最近、異聞帯インドから平安京まで走り抜けてたので、情緒をかき乱されまくってました。いやぁ、最近ぐだが曇ってるのいいなあって。分身系の主人公だったはずなのに、いまでは推しに成り果てました。

と関係ないことをつらつらと書いたところで、今回はこれくらいで。


PS.ULTRAMANが参加できたんだからダンボール戦機は出ませんかスパロボさん?


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幕間《レックスは苦労人》

あけおめ!(4ヶ月遅れ)
取り敢えず先に書き上がっていたものを投稿。
本編も書いてはいるのですが、なかなか納得いかずに書き直しているといつのまにかこんなに経ってました。仕事が辛いねんな。

多分近くに次の話は投稿できると思います。多分……きっと、メイビー


 辛うじて原型がわかる程度まで破壊され尽くしたキラードロイド2機(・・)を足蹴にして、レックスはため息を吐く。

 

 

「こんな玩具もどきで、オレを倒せると思っているのか?」

 

 

 言外にこんなものは玩具にも劣る出来の悪い粗悪品でしかないと言い切り、目の前の操作者、死神部隊のメンバーとLBX。そしてキラードロイドを使っていた下部組織構成員たちを睨んだ。

 

 

「対LBX兵器をこうも容易く……!」

 

「これが伝説か!」

 

「聞くに堪えん、さっさと失せろ」

 

 

 貴様らが囀る称賛など耳が腐るとばかりにGレックスが拳を振るう。地面へと叩きつけられたそれは必殺ファンクションにも劣らぬ程の衝撃波となって敵を吹き飛ばす。しかし相手も百戦錬磨の猛者である死神部隊のひとり。特に狼狽えた様子もなく受け身をとって、無様に転がる手下へ命令をくだす。

 

 

「撤退!」

 

 

 既に目的は達成しているが故にこれ以上化け物に付き合う必要などないと、その場の面子を引かせる。逃げる者らを後目に、死神部隊の女は挑発するように薄ら笑いを浮かべる。

 

 

絶対強者(レックス)。今度はまともに戦うとしよう」

 

「吐かせ、死神気取りの獣畜生(テロリスト)風情が。獣と語らう口などない」

 

 

 言葉を先ほど砕き作った礫に乗せて文字通りたたきつける。

 

 相手も素直に当たってやる気もないとLBXに防がせ、そのまま回収に来た車輛と共に死神部隊たちは離脱して行く。

 

 レックスはその気配が消えるまで睨みつづけ、それから力を抜いた。

 

 

「あんな物を作っているとは、奴らめ。何を隠している?」

 

 

 脳裏によぎるは先ほどの対LBX用兵器(キラードロイド)だ。

 これまではなかったであろう考え方から生まれたLBXを壊すための兵器。

 

 今回戦った物については雑も雑、技術士の檜山蓮としては到底認められるものではない出来であった。だが処理する中、読み取れた根底の設計思想は素晴らしいとも感じていた。

 設計者の怒り、憎しみ、そして深い絶望。どれほどの悲劇を経験すればこれに到達できるのか。想像も出来なくもないが、思わず憐憫を抱いてしまった。

 そしてそれをあろうことか獣どもに穢され、使われている事実にレックスは気が狂いそうになるほどに嚇怒する。

 その冒涜を許してはならないと怒りを燃やし原動力とする。 

 

 

 そうして怒りに呑まれそうなとき、一人の危なっかしい少年を思い出す。

 尊敬する人の息子にして、どこか思いつめた顔をする子ども。その顔がかつて父や妹がそんな顔をしていたという後悔から放っておくことのできない相手。その姿を思い出し、奴に怒りに呑まれないように頭を冷やす。

 

 彼が本来計画していた各国首脳の暗殺、それはこの状況下ではやってはいけないと判断した。なにせワールドセイヴァーが既に表に出てきている。

 世界のトップ達が消えることで人々に考えさせるのが目的であるはずなのに、それを果たせないに加え、世界の主導者をワールドセイヴァーにとって代わられる事態になりかねない。

 

 奴らの天下になってしまえばどれだけの人が犠牲を強いられるか、想像するだに恐ろしかった。

 

 さて思考を巡らせるのは終わりだと、背後に庇っていた子どもたちへ目を向ける。

 あっけにとられた様子の三人のうち、唯一の顔見知りへ声をかける。

 

 

「無事だったか、川村アミくん」

 

「ひ、檜山さん? どうして……」

 

 

 アミがあっけにとられているのはおそらく、まだバーテンダーとしての顔しか見せていなかったからだろうとレックスは推測し、早めに慣れてもらわねば困るなと、これからかかる面倒にちょっぴり憂鬱になった。

 

 

「アミちゃん、知り合い?」

 

「う、うん。ミソラ商店街にあるブルーキャッツっていう喫茶店のオーナーさん、のはずなんだけど」

 

 

 戸惑うアミ、後ろからの問いかけはオタクロスからの依頼、そのターゲットたる少女。容姿は知っているので、それだけはわかった。

 

 

「ていうかさっきレックスって言われてたよね!? あの伝説のLBXプレイヤーのレックス!?」

 

 

 『レックス』の名に対して一気に燃え上がるのは、知り合いでも保護対象でもない赤髪をポニーテールに纏めた少女だ。

 顔立ちが幼く、アミよりも年下であるように見える。が重心のブレが少ない。格闘技の経験者かとレックスは推測し、己が駆けつけるまでの間に奴らから逃げきれていた要因のひとつであると感じ取る。

 その興奮に首を傾げたのは依頼対象の少女。

 

 

「伝説って?」

 

「うん!」

 

「さてな、それに関してはお前たちの想像に任せるとするさ。でだ。オレは檜山蓮、カフェのバーテンダーをしている。お前たちを助けたのは依頼されたからだ」

 

「えっとぉ、依頼、ですか?」

 

「ああ、オタクロスというハッカーから君を助けてほしいというな」

 

「お、オタクロスさん!? オタクロスさんもこっちに来てるんですか!?」

 

 

 依頼における保護対象の少女は半信半疑といったように首をかしげ、レックスの口から出た名前に目を白黒させる。

 さらに事情を聞こうと詰め寄ろうとする彼女だったが、赤髪の少女は両手をグッと握り、興奮を最高潮にした事で遮られる。

 

 

「うー! さすが伝説! 漫画の中の話みたいでカックイィー!」

 

「ら、ランちゃん、落ち着いて落ち着いて!」

 

「なにいってるのリコさん! あの伝説のレックスだよ!? 全LBXプレイヤーの憧れ! 最強のLBXプレイヤーなんだよ!? 興奮しないなんてある!? いやないに決まってる!」

 

「そうなんだ……ところで伝説って?」

 

「うん!」

 

「落ち着け、会話でドッジボールをするな……すまんが自己紹介を頼む」

 

 

 興奮する赤髪の少女を宥めようとして、名前すら知らないことに気付く。そもそも急ぎだったというのもあり、貰った情報が少ない。

 

「はいはいはーい! あたし花咲ラン! サインください!」

 

「ぶれないわねラン……」

 

 呆れるように、いやある種の尊敬すら込めたアミの呟きを無視して詰め寄るラン。

 

「子どもに元気があるのはいいことだ。だがサインは諦めろ」

 

「えー!?」

 

 

 ぶー(不満を)垂れるランを宥め、レックスはグラサン越しに、残る少女を見やる。どうやら相手も知っている名前(オタクロスのこと)を口にしたレックスに一応の信用を、降って表れた蜘蛛の糸もとい頼みの綱に頭を下げて

 

 

「えっと、信じてもらえないかもしれないんですけど! 私、この世界の人間じゃないんです!」

 

 

 名前の前にとんでもない爆弾をぶち込んできやがったのである。

 





???「伝説って?」

???「ああ!」


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『はじめてのおつかい』in ミソラ商店街




《注意》サブタイトルは今回の本編の内容には関係ありません。


 仙道という男は真っ直ぐに好意を向けれるのになれていない。不良の頭をしているだけあって義理堅い一面もあるため対応しない等言うことはありえず、しかし素直に返せるわけでもなく、結果、こじれて捻くれた対応になる。

 

「とどのつまり、仙道、ツンデレイイ奴。OK?」

 

「OK」

 

「お、おう、そうか……ミカもノリがいいな」

 

「あいつ帰っててよかったな。聞いてたら憤死しただろ」

 

「郷田先輩、そんな難しい言葉知ってるんスか」

 

「郷田でいい、というかカァズゥヤァ? そりゃどういう意味だァ?」

 

「ぐぇぇっ! ご、ごめんって首絞まるぅ!」

 

 あんまりな俺の言いようにノリノリのミカと少し引いたカズ。

 そして先ほど帰った新たな戦友(ライバル)に同情する郷田は驚きのあまりつい失言してきたカズにヘッドロックを仕掛けながら、目の前の強化ダンボールパノラマで行われているバトルに意識を戻した。

 

「援護するよ! 二人とも突っこみな!」

 

「任せたぜリコ! テツオ、追い詰めろ!」

 

「オッス! 任せるでごわす!」

 

 

 片やリコ、テツオ、ギンジの郷田三人衆の面々。抜群のコンビネーションでたった一機のLBXへと迫る。

 

 

「――――――!」

 

 

 相手となる黒い騎士をモチーフとしたLBX『ジ・エンペラー』

 扱うのは物語の中で山野バンの大きな障害となったライバル『海道ジン』その人である。

 

 ―――いや、少し早くない? しかも何で四天王三人とバトルしてるの?―――

 

 などと思考が速度と熱を帯び、何巡かしそうだ。最近そういうの多い、多くない? 気のせいじゃない? 気のせいか。

 

 郷田に倣い、秒殺の皇帝さんのLBXをみる。どうやら海道ジンはカズ達を助けてくれたそうで、この世界での無双系ゲームことLBX無双の再現みたく大暴れしたそうなのだ。

 LBX無双は今、最新作が開発中で、自分のLBXをスキャンしバーチャル化させて遊べるようになるという風のうわさを耳にしたが真偽のほどはしらない。オタクロスでも関わらなければ無理だろうが、なんともロマンのある話である。確かにロマンがあるとも。

 

 

「しかし、強いな。あの海道ジンってやつは」

 

「え? 防戦一方にみえるけど」

 

 

 郷田の呟きにどういうことかと質問するカズ。ふむ、なるほど確かに。郷田に言われてから気づいたが、これはほぼ一方的だ。

 

 

「見てみろカズ。彼はあの状態で一回も攻撃を受けていない」

 

「え、あ。確かに躱しきってるな」

 

「…しかも攻撃してない、三人も頑張っているけど」

 

「ああ。相手が悪い」

 

 

 ミカの呟きに郷田の冷徹とも取れる言葉で返した。直後に『ジ・エンペラー』は動き出し、近くへと誘導されていた三人のLBXが、瞬きの刹那に大槌でパノラマの大地に叩き伏せられた、いやはや凄いね、まったく。

 

「確かに凄いとも」

 

「な、一瞬で……」

 

「秒殺の皇帝、その名は伊達じゃないらしい」

 

 

 チックショー!と三者三様に悔しがる郷田三人衆には目もくれず、ジンはこちらに目を向ける。相手は俺のようだ。

 

 

「……バトルを」

 

「了解した」

 

「おいコラ。待て、バン」

 

 

 最低限の言葉でバトルが決まる。望むところだと前に出ようとする俺を首根っこを掴んで引き止められる。のどが絞まり、ぐえっと呻き声をあげる俺。そのまま体勢を崩し、尻もちをついた。

 

 

「お前LBXは限界のところで、さっき仙道とのバトルで更に酷使したんだ。模型店の店長さんにオーバ-ホールを頼むべきじゃぁねえのか?」

 

「う、しかし。折角バトルを申し込まれたのだ。受けないわけには……」

 

 

 ほら海道ジンも目を丸くしてるじゃないか。だからバトルさせて…

 

 

「バカか! 不調の状態でやったとして、たがいにとって気持ちのいいバトルができるわきゃねえだろ! ちったあ断ることをしやがれってんだ!」

 

「ま、前向きに検討しようと思う」

 

 

 まるで失態を犯した政治家の弁明のごとき返し。咄嗟に出たことながら信用ならない。言いくるめすらできずに郷田による説教が開始された。

 

 

「悪いな海道。バンの奴、バトルできそうもない」

 

「―――気にする必要はない」

 

「……私たちだけで良ければバトルしよう」

 

 

 カズからぶっきらぼうに顔をそむける海道ジン。物語でもこんな人だったかな?と疑問を持つが、あれが女であったのに比べれば気にするほどでもなかろうてと、ミカがバトルを申し込むのを最後に意識を目の前の郷田に戻す。

 

 しばらく正座の体勢でオカンの如き説教に耐え忍んでいると、店の外より駆け込んでくる人影があった。

 

 

「無事か君たち!」

 

「宇崎さん!」

 

 

 息を切らせる彼は見慣れてはいないが知り合いではある。レックスの話だと俺が一人勝手に侵入したエンジェルスターの一件の後始末というか、帳尻合わせ、もしくは辻褄合わせをしてくれていたらしい。がどうやら今回の襲撃を察知し、慌てて戻ってきてくれたようだ。

 

 

「宇崎さん。ご無事で」

 

「こちらは問題ない! だが君たちは直接狙われただろう! 怪我はないか!?」

 

 余裕なさげな姿は心の底からこちらの面子を心配した事の表れであり、いつもは冷徹に徹しようとしてしきれない彼本来の優しさが如実に表れていた。

 

 

「幸いにも、こちらの被害はLBXの破損関連です。郷田と協力者一名の尽力もあり、アキレスは片腕の破損で済みました。しかし代わりに郷田のハカイオーが完全に破壊されてしまいました」

 

「……そうか、郷田君、よくやってくれた」

 

「いえ、戦友(ダチ)のためっすから。気にせんでください」

 

「それでもだ。大局の為に自分の大切なLBXを犠牲にしてくれた。その事実は百や二百の感謝の言葉では足りないだろう」

 

 真摯に頭を下げる宇崎さんを前に郷田は照れくさそうにほほを掻く。ラッキーだ、説教から解放されるわ、もろたで工藤!

 

「いや、工藤って誰だよ」

 

「ん? どうしたバン君……む?」

 

 宇崎さんの目に留まったのは先ほどまでカズとミカを相手にしていたジンだ。どうやら説教している間にふたりをケチョンケチョンにしていたらしい。まだバトル初めて5分経ってないのでは?そのふたりがそんな短時間でやられるとかありえるのか? ありえたんだよなぁ……

 

 

「君は……」

 

「海道ジン」

 

 

 宇崎さんへ短く名前だけ答え、ジンは視線を俺たちに向ける。

 

 

「ではバトルは次の機会に」

 

「……わかった。ならばアングラビシダスでどうだ? もうすぐ開催らしいからな」

 

「いいだろう」

 

 

 俺は手を差し出し、握手を求める。が華麗にスルーし、海道ジンは店から退出した。その態度、凍土もしくは寒地高原(ツンドラ)が如く。

 

 すこししょんぼりとなりながらその背中を見送り、さっきから殺気立っている宇崎さんを窘めた。

 

 

「宇崎さん止まって、捕まえないでください」

 

「そういう訳にいくか! 君はあの子どもが誰か分かって言っているのか!」

 

 

 今にも店を飛び出しそうな宇崎さんは怒りを燃やしながらも、こちらに耳を傾けてくれている。そこら辺の自制心はきっとイノべーター相手に今まで散々辛酸をなめさせられたから、そして子ども相手にそんな手を使いたくはないという彼の善性なのだろう。これはただの想像にすぎないけれど。きっとそうだとオレは信じたい。

 

 だから俺は彼が止まる理由を見せなければならない。

 

 

「ええ、仲間を守ってくれた人です」 

 

「海道義光の息子だとしてもか?」

 

「当然。今はまだ敵ではないのですから」

 

「何か企てを持って接触したとしてもか!?」

 

 

 吐き出すように、唸るように、後悔とともに吐き出された言葉は、海道義光によって失ったものを思い浮かべているからか、それともこんなことしか出来ない自分を責めているからか。彼の内面を正確に推し量るにはまだ関りが少ないため想像するしかない。があながち間違いではないとも思った。

 

 

「そん時は俺達全員でその企てとやらをぶち壊しゃあいい、だろ? 宇崎さんよ」

 

「郷田君……」

 

 

 郷田は宇崎さんの肩を軽く叩いた。たとえ目上の人だとしても落ち込んでいるならば喝を入れぬ理由はないと彼は快活に笑った。

 アンタだけの責任じゃない。みんなで背負ってみんなで解決しよう。

 凄く単純にしてとても難解な方法を深く考えることなく提示した。

 そこにはリーダーとしての気質、一種のカリスマとも呼べる引力があった。だから郷田三人衆を含め、いろんな人が魅かれるのだろう。

 

 

「そうだよ、アタシらは助けてもらったっていう色眼鏡をかけてたとしても、あいつはバトルを楽しんでたのはわかるさね!」

 

「なら、悪い奴じゃあないでごわすよ。LBXが好きなのは間違いないんでごわすから」

 

 

 リコと二人も郷田に感化されるつつも、自分の思いの丈を伝える。バトルをして自分たちだけではなく海道ジンもまた楽しんでいたと感じていたからだ。

 

 

「だから、宇崎さんばかりが思いつめる必要はないんです」

 

「バンがそれ言うんだ……」

「……ね。どの口、だよね」

 

 

 なんかヒソヒソと話されてるが気にしない。俺は強い子。この程度じゃめげないし、しょげない……しょげたりなんかしない。

 

 

「ど、どうしたいきなり落ち込んだりして」

 

「いえ、なんでも、なんでもないんです。ホント」

 

「そ、そうか」

 

 

 なんか変な空気になったというか、ミカズコンビからの視線が痛い。

 

 

「そう言えば、バン。アングラビシダスに出んのか?」

 

「あ、ああ! そのつもりだ」

 

 

 郷田からの救いの手とばかりに話題変更になんとかしがみつく。あのままだと明らかに針の筵だったろうからな、俺は詳しいんだ。

 

 

「アングラビシダスだと? ルール無用の闇大会じゃないか! 何故そんな危険を……」

 

「はい。その優勝賞品が欲しいと考えましたので」

 

「確か、今回は世界大会《アルテミス》への出場権と聞いたが」

 

 

 そう、今回必要なのはアルテミスに出る事。陽動として最高の舞台である。ついでに副産物として『メタナスGX』をゲットしておくのだ。つまり端的に言うと。

 

 

「そうです。世界一獲ってきます」

 

『『はぁ!?』』

 

 

 その場の全員が愕然とする。あ、こういう驚かれるの結構気持ちいいね。

 




???「あ、おかえりジン!」

海堂ジン「ああ、ただいま」

???「ブロッコリーやキャベツとか買えた?」

海堂ジン「問題ない」

???「そっか、なら、おつかい大成功だね! 凄いな、はじめてなのに」

海堂ジン「当然だ」

???「………ん? あれ、ジン。これキャベツじゃなくてレタスだよ? しかもこっちはブロッコリーじゃなくてカリフラワー……」

海堂ジン「!?」



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どうでも良いであろう間話

取り敢えず仕事の繁忙期が漸く終わりつつあるので、書き溜めに肉付けする作業を開始しておりまする。

頑張るDeath


 

◎ミソラ商店街路地◎

 

 

「またおまえ達か……」

 

「またとは何だい! あんたと顔を合わせるのは一応これが初めてさね!」

 

「嘘、だろ……?」

 

「……あの人たち、隠れられてたつもりだったんだ」

 

「てか他にもいたような気がするけど、今回はいないんだな」

 

 

 ゲーセンからの帰り道、俺たちはイノベーターのへっぽこ三人組こと仮面の工作員。時折追跡されていたのをみんな知っており、いつの間にか馴染んでいたので忘れていたが、こうして相対するのは初めてだったかもしれない。

 

 

「すでにあんたのLBX……えっと何て名前だっけか」

 

「アキレス、アキレスっすよ姐さん!」

 

「そう! アキレスがボロボロってのはわかってんだ! つまり飛んで火にいる夏の虫ってやつ!」

 

「使い方……あ、いや……まあ間違いでもない、のかな?」

 

「……大丈夫じゃないかな、多分」

 

 後ろのカズとミカのなんとも言えないゆるふわ会話を聞き流して、Dキューブを放る。

 

「おや、殊勝な心がけじゃないか。行きな、デクーエース!」

 

「行くっすよ、デクー改!」「了解、行けデクー改!」

 

「果てなく征け、アキレス・リュカリオン」

 

 パノラマ内に展開するLBX達、真紅のボディを持つデクーエース。青い装甲のデクー改のバズーカを持った方とハンマーを持った方。そして欠けた方の腕の代わりにブロウラーフレームの片腕がついたアキレス・リュカリオンだ。

 

 

「「「へっ?」」」

 

「ハカイオーの腕、どんな動きになるか試させてもらうぞ!」

 

 

 以下、蹂躙。もはや語るのも躊躇われる程度には酷かったとだけ記すとしよう。

 

 

 

「ハカイオーの腕っていつ着けたんだ?」

 

「仙道と意見交換をしてる際に、郷田がな、よけりゃ使いなと」

 

「……へぇ、流石郷田さん……カッコいい」

 

 

 うんうんと後方理解者面をするミカに対して、呆れた顔を見せるカズ。Dキューブに残されたデクー改の残骸を拾いあげたかと思うと懐に仕舞いつつ、俺に問うてきた。

 

 

「この後、つうかこの時間だと明日か。明日はどうするよ?」

 

 赤く染まり始めた空を見上げ、カズはそろそろ帰宅するべき時間だと判断した。確かに今日は激戦とも呼べる戦いだった。みんな疲れているし、解散でもいいかもしれない。

 

「確かにな。で、明日からだが。アングラビシダスに向けて調整するとも。ブロウラーフレームの腕にも慣れておきたい。暫くは模型店に通い詰めになると思う」

 

 

 頭の中で描いていた予定を拙いながらも口に出す。意外と言語化が難しいねんな……

 

 対してカズは「ほーん」と頷いて、

 

 

「そっか。なら俺は別行動をしてもいいか?」

 

 

 珍しくそんな断りを入れてきた。なんとなしに一緒に準備してくれるだろうと思い込んでしまっていた俺には寝耳に水であった。ホント、ビックリしてハカイオーアームでロケットパンチできそう……ロケットパンチ? って違う違う思考があさっての方向に飛びすぎだ。ロケットだけにってか、やかましいわ

 

 

「構わないが、何処へ?」

 

 

 親友のつもりだし、頼もしい仲間であるカズが自分から別行動をするというのは実は初めてでは? アミもいないし寂しい。もしかしてミカもいなくなる? むむむ、そうなったら仙道を呼ぶか? 連絡先教えてもらったし。

 

「ギンジさんに頼まれごとをされててな。それをこなしてくる。ミカは?」

 

「……私、バンに付き合う。アマゾネスの強化、したいし」

 

「そっか、じゃあ俺はここで。また今度な」

 

「ああ、またな。カズ」

 

「お土産期待してる」

 

「いや、遠出する訳じゃねえっての!」

 

 

 カズの別れ際の叫びについ噴出した。

 

 しかし良かった。ミカがいてくれるならボッチにならずに済みそうだ。それはともかく郷田……はハカイオーを直すために離れてるから、仙道は呼ぼう。ツッコミ役として不足はないだろうし、賑やかな方がいいに決まってる。―――ふむ、存外に俺は寂しがりであるらしい。なんか恥ずかしいな。やっぱり仙道を呼ぶのはやめておこう。今思うと友達が少ないな俺。ん? 友達? なにか忘れているような?

 

 

「……バン、CCM 鳴ってる」

 

 

 ん、あ、リュウからだ。そういえばゲームセンター突入前連絡したのが最後だっけ?

 

 

「連絡忘れてた……!」

 

 

 

 

 

◎神谷家別荘LBX『アヌビス』音声ログ◎

 

 

 

「で、結局のところ。あなたは何者なの? 紫苑博士」

 

「唐突だね。まあ、想定してなかったかと問われれば、していたけどね」

 

「寧ろ遅いくらいじゃないかな」

 

「そうかい。どうでもいいけどね」

 

「それで? こちらとしては()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……はまた今度として」

 

「おや、今度でいいのかい?」

 

「今のそちらには答える必要性がないでしょう? なら必要性がある質問をしたほうがいいと考えるのは普通の思考だとおもうけど?」

 

「そうかい、ならばその質問とはなにかね?」

 

「あなたの目的、その根底にあるもの」

 

「ふむ、そうきたか」

 

「ええ、あなたとこちらが利用しあう間柄であるのには動機の方向性が重要だから」

 

「なるほど道理だね。たとえ道が交わらずとも方向さえ同じならば利用できるがそもそも向いた方向が違えばそれすらできないという訳か」

 

「ミステリーの探偵と犯人みたいに一つの事柄に矛先が向いているのか、か、そもそもゴールが別の方向なのか。それを判断させ得る返答を」

 

「―――そうだね、ならばまず行動原理からだが、単なる私怨だよ」

 

「私怨……?」

 

「そうだとも、その怨恨を晴らす為になさねばならない事柄があるのだが、その前提として君たちにこの事件の解決をしてもらわなくてはならない」

 

「だから協力すると?」

 

「そうだとも、そしてその期間は決して裏切ることはしないと約束しよう。なんなら誓約書でも作るかい?」

 

「意味ないでしょう。特にあなたは。その顔だって別の人間のものなんでしょう?」

 

「ふふ、やはり君は優秀だ。お察しの通り、この顔はどこかの誰かのコピーだ。名前だって私怨をもじって紫苑というくらいには適当だとも」

 

「胡散臭いのだけど」

 

「今戻った」

 

「む、檜山君。おか~」

 

「後ろの娘は? 誘拐?」

 

「お、おじゃましまーす」

 

「誰がするか、客人だ、もてなしてやれ」

 

「自分でやってよ……」

 

「ほう、君は……なるほどなるほど。来訪者か」

 

「そ、そんな、なめまわすように見なくてもぉ、助けてくださいよぉレックスさぁん……」

 

「あきらめろ、そいつは変態だ」

 

「人聞きが悪いぞ檜山君!?」

 

 




次話からアングラビシダス突入。ガトー戦はカットじゃ。


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闇の大会だからと言って闇鍋になっていいわけではない

繁忙期おわったよな? なんでこんなに忙しいんだ……?(ヒント:一時的に人手が激減してるから、ついでに資格試験も有)

なんて近況と共に謝罪をば、次こそもっと早く書きます。信用はないだろうけど……


◎スラム一角、郷田三人衆拠点◎

 

 ギンジは自LBXの『マッドドッグ』とカズの『ハンター』を調べていた。装甲に残るへこみ―――奴、海道ジンのLBXたる『ジ・エンペラー』のハンマー痕だ。

 殴られた部分をスキャナーで読み取り、痕跡からどこの企業で作られた武器に近いのかを調べる。

 オーダーメイドであろうとも企業の癖というものはどうしても残るものだ。しかもここにはカズが回収してくれていたイノベーター製LBXの足パーツがある。二つの結果からある程度の精度で情報を得られるだろう。

 

「ヒット、ハンマーは神谷重工のものに類似したものが数点、足パーツはこの会社の他LBXのノウハウを使っていると推察できるか……他のイノベーター製LBXもここの製品に類似してたし、確かバンの奴が潜入した工場も神谷重工の傘下だったか。こりゃあ、かなり黒めかねぇ? まあ所詮、類似というだけだがね、ヒヒヒ」

 

「すげー、こんなのでわかっちまうのか」

 

 手に入れた情報たちを前に漏れ出たカズの感嘆の声。ギンジは少し得意げに、喉をならした。

 そしてこれらの判断材料から海道義光(イノベーター)と神谷重工が繋がっている可能性を示唆している。その上で、海道ジンのLBXが神谷重工製ともなれば、あくまで血縁や類似しているだけという証拠でしかないがこれは黒に近いといってもいいだろうとギンジは考える。

 脳裏に少し前の宇崎氏とリーダー(郷田)たちの会話がよぎった。

 

「ヒヒヒ、信じ切るのも問題だと思うがねぇ……」

 

「ギンジさんはジンの事、反対なのか?」

 

 ギンジの顔色をうかがうカズ。彼の瞳にはかすかな不安が混ざっていた。もしかすると敵対することになるのかという不安だ。

 

「ギンジでいいさ、四天王の一員としてリーダーの意向に従う。けどな、チームってのは時に反対の事柄を言う奴が必要なのさ、ヒヒッ」

 

「そんなもんか?」

 

「ヒヒッ。そんなもんさ、お前さんも覚えときな」

 

 チームのバランサーとなるならやってみせろとカズを小突いた。

 

「……うっす」

 

 少しでも先達から学ぼうと、必死に画面に羅列する情報を理解しようと、カズはバンの真似として眉間にしわを寄せて、知恵を振り絞るのだった。

 

 

◎アングラビシダス会場◎

 

 

 

「……一回戦突破おめでとう」

 

「さすがだぜバン! あのガトーをあんなあっさり!」

 

 首切りガトー戦を終え、会場を降りた俺に駆け寄ってくるミカとリュウが拳を突き出してくる。

 一つ質問いいかな? いつものカズとアミ

 

「ああ、アイテム警戒が功を奏した。リュウの情報収集のおかげだ。感謝する。それで次の試合はミカか」

 

 アキレス・リュカリオンはタンク相手に運動性でメタを張っているのと、リュウのおかげでガトーの奥の手であるスタングレネードの事を思い出せたのもあり、すんなりと突破できた。リュウには拳をぶつけて感謝を、そしてミカには応援の意味も込めて応える。

 

「……うん、それにトーナメント上ではバンより先に海道ジンと当たる」

 

 どうやらミカはすでにジンを倒すのではなく削る方向で考えを進めているようだ。というのも、自身の新しいLBXの調整が間に合わなかったのもあり、アルテミスを見据え手札の温存を図ったのと、俺の勝利のために少しでも消耗させようとしてくれているのだ。

 

「なぁなぁ、あの転校生ってそんな強いのか?」

 

 なお、リュウはそんな事まったく知らないのである。知らないのにつれてきたミカは控えめに言っても鬼では?

 でも知ってたらこやつは大会に来なかったじゃろうて。しょぎょうむじょーじゃよ。

 いや、祇園精舎の鐘の声も聞こえないし、なんか使い方違くない?―――消えよネタの俺! 最近脳内漫才が増えた気がする。

 

「そうだな。短期決戦では俺より強いだろう」

 

「げ!? そんな強いのと俺は二回戦にあたんのかよぉ!?」

 

 今回もトーナメント戦では俺はAブロック、海道ジン、リュウ、ミカ、仙道はBブロックなのだ。偏り過ぎでは?などと言っていけない。不正はなかった。いいね?

 

「頑張れ頑張れ、陰ながら応援している」

 

「心こもってない!? せめて普通に応援してくれよぅ!」

 

 リュウの悲鳴にミカと一緒に笑う。お調子者なのにすぐ弱気になるリュウのおかげで弱音を吐きたくなる気持ちがどんどんと小さくなるのが認識できた。これならミカも適度な緊張感で試合に臨めるだろう。

 

「なんだ、面子が変わっても相変わらず気の抜けた奴らだこって。このザマなら優勝はもらったようなものだな」

 

「ああ、ツンデレ(仙道)か」

 

「あ゛あ゛ぁ゛ん!?」

 

 やべ、口に出てた。

 

 

 

 

 

 

 

 なんとか仙道の怒りを鎮め、一同でミカの試合を観覧する。流石というべきか相手を速度で圧倒するのは見ていて気持ち良いものだろう。

 

「しかし仙道。手品の用意をこの短期間で出来たのか?」

 

 前回の戦闘で二体のLBXを失った仙道。魔術師の特徴ともいえる三機同時運用がないのであれば、こちらの勝率は7割は堅いだろう。しかしある場合は厳しい戦いになるのは疑いようがない。なのでそれとなく煽りを交えて尋ねた。

 というか、仙道にはつい煽りが出やすくなる。なにせ煽り煽られの関係が楽しいのが悪い。仙道も同じようなのだが何も言うまい。また怒られる。

 

「ふん、心配されずとも万全の状態でお前を、そして海道ジンを粉砕してやるよ」

 

「クハッ、楽しみにしておくさ」

 

「ほえー、バンいつの間に他校の番長となかよくなったんだ?」

 

「仲良くねぇよ! テメェの目は節穴かクソデブ!」

 

「ひえぇっ!!?」

 

 リュウがわざわざ虎の尾を踏みに行きやがった。なんというか締まらないなあとか思いつつ、ミカの『アマゾネス』が槍で相手をブレイクオーバーにする流れを見届ける。こっちに無表情でVサインを向けるのに苦笑しつつ手を振って返してやる。

 

 と、そこへ。

 

「やあ、君たち。さっき海道ジンとか言ってなかった?」

 

「ん、そうだが……ミッ゜!?」

 

 魂消た。ほんとに心臓ないなったかとおもた……心の中のネタの俺が消し飛びかけるくらいびっくりした。

 

「あん? お前は確かAブロックの……」

 

「こんにちは、仙道くんであってる? 僕はユウヤっていいます。もし勝ち進んで試合になった時はよろしくね。山野バン君」

 

「あ、ああ。よろしく頼む」

 

 もしもしサポセン? なんか灰原ユウヤがいるんだけど。不具合ですか??

 

 




『サポートセンター』
  A.仕様です。


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完全なる不意打ち のち思考停止

◎アングラビシダス会場◎

 

「……君は海道ジンの知り合いかなにかか?」

 

 内心ガクブルしつつも表には出さずに対応して見せるゲボ吐きそう。脚なんて生まれたての小鹿になりそうなのを手摺によりかかることで誤魔化すので精いっぱいだ。

 

「ああ、僕は海道ユウヤ。ジンは弟でね、弟の名前が聞こえたから気になって声をかけたんだ」

 

 無理、ゲボ吐く。

 

「海道ジンと、ねえ……お前もこの大会に参加してるのか?」

「君は、確か仙道くんだったかな? そうだよ。僕もLBXやってるんだ」

「ほう、成程ね。トーナメントのブロックが違うのが悔やまれるな。対海道ジンへのいい予行演習になっただろうに」

「嘗めすぎだよ。毎日弟に扱かれてるからね、こう見えて結構強いと思うよ、僕」

 

 あぁ、漸く波が落ち着いた。喉がイガイガする。というかいつの間にか仙道がユウヤとバチバチにガンくれあってる。ユウヤのほうは笑顔だけど。 いや違う、目は笑ってないぞ! やめてよぉ、元々エンジェルスターから帰った後は本調子じゃないのに、キラードロイドやら色々予想外の出来事の連続で胃袋死にそうなんだから!

 

 まるで談笑する机の下で脛を蹴りあっているかのような光景にキャパオーバーしそうでござる。ござるじゃねえよ、LBX的に侍じゃなくて騎士だろ俺。……いや違うそんな事を考えたいんじゃない。

 

「とは言っても、この中じゃ、いの一番に当たるのはそこの山野君だね。その時はよろしくね」

 

 うひぃ、こっち見んな。お前強さがよくわかんないから戦いたくねえでございますわよ。うぅ、まだ気持ち悪いのが喉奥に残ってるから今にも吐きそうだけど、答えないのも不審に思われる。ちくしょうめ……

 

「まぁ、(お互い)勝ち上がれたらな」

「言うね。(僕が)勝ち上がれたらか。その挑戦受けるとも」

 

 なんかギラついておられる。何怖、これがキレる10代ですか……?

 

「オレは空気読めないって言われるけど、これはわかる。バンの奴、なんか絶対変なこと考えてるぜ」

「だな、付き合いの浅い俺でもわかる」

「……私は当然わかる」

「「いつの間に戻ってきてたんだ(よぉ)」」

「……私の特技はスニーキングキル」

「殺すな殺すな」

「誰キルすんだよぉ~、クラスメイトが怖いんだけど」

「というかデブ。次の試合だろうがさっさといけよ」

「わひゃぁ! マジじゃん! 行ってきまーす!」

「……てらー」

「期待はしないが、見るくらいはしておいてやるよ」

 

 後ろうるさい、仲良すぎなんだよ。仙道もなじむの早いって。この前まで敵だったじゃん。一瞬で仲間になってるんだけど。……喉奥から酸っぱいの上がってきた。

 

「そろそろ僕も戻らないと、さっき降りてった太めの彼の試合が終われば二回戦だ。そして君と当たるのは四回戦だから続きはその時に。じゃあまたね」

 

「んー」

 

 フラフラと手を振って送る。ぞんざいに見えるが、結構きついで仕方ないだろう。というわけで俺はトイレに直行するのであった。

 

 

「よっしゃ! 俺勝った! 見てたかよバン! 俺だってやれば出来るんだぜー! ってアレ、バンは?」

 

「トイレ向かった」

 

「なんだよもー!?」

 

 

◎海道邸◎

 

 

 生活感を感じさせない無機質な部屋。監視カメラが稼働し、四六時中監視されている彼こそはLBXの生みの親、山野淳一郎博士だ。

 

 用意された数少ない家具であるベッドに座り、メガネ型のコンピュータによって、静かに、ばれぬように、仕込みを続ける。脱出のための準備、そして脱出した後のセーフティーゾーンの準備、そしてオーディーンの設計、そして更に次のLBXの設計。

 

 愛する息子が戦う相手はあの力を持つものばかりであることは確定している。今でこそ到達していないが、脳をいじり、強制的に発現させる術を奴らは手に入れるだろう。

 

 故に本来は無人LBXの試験用システムだったVモードをまったく別物レベルまで改造したのだ。

 

 

 

 

 

 ———Vモード第二段階、それは大きく分けて二つの機能を搭載している。

 

 ひとつは学習式補助システム。表面上はLBXが自己で思考する。というシステムで、一見コレまでのVモードと変わらぬように見えるのだが。

 真実はLBX側が使用者の動きを学習し、システムを自ら改造、使用者に最適化させる事で操作の補助を行う自己改造型の学習システム。

 

 コレはAX-02と呼ばれるLBXに使用される予定だったシステムを山野博士が改造し、敵からではなく使用者から学習する様に仕上げたシステムだ。

 本来ならば山野博士であろうともこの学ぶAIという技術は現状において実装不可能だったろう。だが、とあるAIの雛形と自立可動用のVモードと組み合わせた事でなんとか実用レベルまで漕ぎ着けることが出来た。

 

 ふたつめにLBXとの使用者の直接接続システム。これはそのままだ。

 漂流者と呼称される少女からLBXとの一体化のデータも得れたのが幸いし、使用者の思考を直接LBXと接続するシステム、イノベーターの研究者が言うにはサイコスキャニングと言われる技術を安全性を高め、かつ高性能に発展させた物だ。

 

 しかしどれだけ安全性を高めようとも、元となる技術があまりにも危険すぎる為、接続システムの100%同調稼働は山野博士を持ってしても使用者への負担を消しきれなかった。

 

 そこでひとつめの学習システムだ。コレが使用者の思考を補完する事で同調率50%であろうとも、学習システムなしの100%と同等の動きをする事が可能になったのだ。

 

 敵が常識を超えた反応速度で来るならば、こちらはLBXをもう一人の自分へと改造する事で親和性を高め、対抗する。

 

 それはそれとして、とりあえず彼、山野淳一郎はうっかり開発出来てしまった永久機関『エターナルサイクラー』を悪人共の手に渡さぬように。日夜奮闘しているのだった。

 

 なので自分を捕らえている屋敷に爆弾を設置するのは仕方のないことなのだ。

 

「……」

 

 ……一応、良心から人的被害が少なくなるように調整はしておくのだった。

 

 

 

◎アングラビシダス会場◎

 

 

 海道ジンによる無双、全てを吐き出してスッキリした事で精神コマンドひらめきと熱血状態の俺。相手の行動を学習しながら確実に勝利を重ねるユウヤ。ジンとの試合を控えるミカ。ジンとの戦いだけを見据え、淡々と勝つ仙道。そして雑にやられたリュウ。

 

 多くの試合を経て、やって来たるはバン()対ユウヤ。

 

 

 その火蓋は既に切って落とされていた。

 

 槍と盾が火花を散らす。

 

「く、速いね!」

「舐めるなよ。俺のアキレスは伊達じゃない」

 

 八度目の交錯の際に盾の上から相手を蹴り飛ばす。

 

 ジオラマである砂漠に脚で二つの線を描きつつ着地するユウヤのLBX。

 

 叙事詩にて脚速きと謳われるアキレス、その名に引けを取らない運動性と機動力を『アキレス・リュカリオン』は相手のLBX『グラディエーター・C(カスタム)』に見せつける。

 

 そこに加えて足癖の悪さ。これは俺のスタイルのせいだが、こういった荒々しい動きこそ狼らしいといえるのではないだろうか。……いや適当言ったな。

 

 しかしその速度をもってしてもユウヤの反応速度を振り切れない。

 

 オレが間髪入れずに放った槍を盾で弾き、更には反撃を加えてくる。身体を捩り、回避するも微かに切先が装甲に掠ったのか、CCM上に表示されるHPがほんの少し減少した。

 

「これも反応するか!」

「伊達にジンにヴォコヴォコにされてたわけじゃないさ!」

「ヴォコ? ああボコボコか」

 

 変な言い方を勝手に納得する。なんかユウヤが少し赤くなっているが、恥ずかしいなら言わなきゃ良いのに。

 バッテリーの余裕を確認し、アキレス・リュカリオンを疾走させる。

 

 既に九つを超え、十の激突に入った俺達。趨勢は今のところこちらが有利だが、決するまでにはいかない。単純な出力差で押し切り、今一度距離ができる。

 

 無意識のうちに強張っている息を吐く。

 

「結構強い、というのも卑下し過ぎじゃないか?」

「ふふ、天才が家族だとこうもなるとも!」

 

 ランスを地面に突き立て、背負っていたメイスを両手に出す。今足りないのは盾ごと粉砕する火力だ。―――と判断したと思わせる。

 本能で分かる。このままだといずれこちらの動きに慣れて対応される。漠然とした危機感がそう警告している。

 

「潰す」

「はは、凌ぎきってやる!」

 

 メイスを振りかぶる。反射的に『グラディエーター・C』が防御態勢をとったのを視界の端に捉えながら振り下ろす。灰原ユウヤには悪いが狙うは地面だ。

 

 全力の一撃は土煙を立てるのには十分な威力だった。それにまぎれ、『アキレス・リュカリオン』の姿を相手の視界から消失させた。

 

「なっ、そう来るの!?」

「卑怯とはいうまいな(葦名並感)」

 

 リュウの家でやった(2050年代では)レトロゲームの言ってみたかった台詞第八位を言えて満足。

 

 メイスを野球バットの様に持ち替えて―――

 

 

葬らん(ホームラン)!」

 

 

 突き立てた槍へ振りぬいた。

 

 

「えぇ!?」

 

 

 縦回転しながら襲い来る凶器に面食らう灰原ユウヤ。しかし伊達に先ほどまでの攻防を繰り広げてはいない、この程度は反応しきれると盾をパリィの要領で弾き、後方に受け流した。

 

 

「隙ありだ 灰原!」

 

 

 間髪入れずにメイスを横抱きにした突進。全開の速度で、パリィで生じた盾の隙間を縫うようにグラディエーターに激突した。メイスと拉げる装甲を挟んでグラディエーターとアキレスがにらみ合う。

 

「このぉっ!」

「離すか!」

 

 ユウヤは反撃に転じようとする。グリップを捻り、パイルバンカーを起動させる。肩の付け根部分を撃ち抜き、決定打とは成らずとも動きの阻害は果たせた。

 

 それでもと抵抗を続けるグラディエーターをハカイオーの腕で地面にたたきつけた。

 

「こなくそぉっ!」

「なに!?」

 

 その程度で終わるものかとグラディエーターがまだ動く部分を総動員してアキレスを巴投げのように投げ飛ばした。

 

「やるな!」

「負けてやるもんかっ!」

 

 背中から倒れた状態からどうにか体勢を整えるもメイスが手を離れ、飛んで行ってしまった。相手が立て直すまでに何とか回収せねばと走るが、目標のメイスを突如として飛来した盾が更に遠くへ弾きとばす。

 その光景に虚を突かれ、一瞬動きが鈍る。結果生まれた空白を埋めるかの如く、アキレスが衝撃を受け、よろけた。目を向ければアキレスの胴体に片手剣が生えていた。

 

「武器を投げるか!?」

「君が言うのかい!!?」

 

 それについてはさもありなん。

 唐突な衝撃と足場が砂によって、バランスを崩しかけるもなんとか持ち直す。

 

 ———せっかくだ。使わせてもらおう。

 

 刺さった剣を抜き取り、構える。標準的な片手剣なので扱いやすいのが幸いした。

 

「———な」

 

 ダメージによる動きの阻害がどの程度か確かめ、問題なしとこちらへ迫るグラディエーターに目を向け、驚愕した。

 

「隙ありぃ!」

 

 灰原の裂帛の気合と共に振り下ろされるグラディエーターの片腕(・・)

 

「腕引きちぎるとか08小隊か何かか!?」

「やられたらやり返す、倍返しだっ!」

「それは別のミームだろうが!」

 

 倍返しはあってるが致命的に違う。とか考える暇もなく斬り返す。衝撃が抜け切らずもなんとか灰原からの暴を剣で受け流す。

 

「オオッ!」

「セイヤァッ!」

 

 雄叫びと共に剣と片腕の激突を繰り返す。何度も、何度も行われる交錯に会場のボルテージが最高潮に達しようとした。

 

 そうして、実に10のぶつかり合いの末、勝負を分けたのは。

 

「必殺ファンクション!」

 

『Attack Function/ソードサイクロン!』

 

 

 得物による必殺技の有無であった。

 

「うわぁっ!?」

 

 哀れグラディエーターは爆発四散……はしなかったものの、剣の嵐に上空へと跳ね飛ばされ、ズベシャと砂に力なく墜落した。

 

 

『グラディエーターっブレイクオーバー!! 勝者、山野バンッ!』

 

 

 ぷぅ、と張り詰めた神経をほぐすように息を吐く。皇帝前にとんでもない激戦だった。

 

「はは……やっぱり届かなかったか」

「良いバトルだった。またやろう」

「……こちらこそ、弟の敵に対して言うのはなんだけど、ジンとのバトルも頑張って」

「は、まぁ、なんだ。こんな強敵を降したんだ。なら優勝する以外ないとも」

「ははは、言うね。まぁウチのジンの方が強いけどね!」

「ブラコンか」

「かもね? じゃあまた。機会があったら」

「ああ」

 

 踵を返し、ステージから降りていくユウヤ。俺もそれに倣ってステージを降りた。その先で海堂ジンが待ち構えていた。

 ———海道ジンがいる! なんで!? いや敵情視察か。そりゃそうか。

 

 彼の瞳は真っ直ぐにこちらを見据え、いや睨みつけている。

 

「先ず、決勝進出おめでとう。山野バン君」

「感謝する、海道ジン君。そう言えばカズから聞いたぞ。ジェット機で登校してきたんだって?」

「ああ、第一印象はインパクトは大事と聞いたからな」

「……いや、多分それは違うと思うのだが」

「………そう、なのか?」

「………恐らく、悪目立ちの方、ではなかろうか?」

「………そうか………………そう、か………」

 

 んー、もしかして凹んでる? いや少し天然か? この人。物語の方では結構しっかりものだった気がするが。そこらへん家族が増えて変わってたりするのだろうか? それともコレ元々の素質?

 

「まぁ、それはそれとして。決勝で待っているさ。仙道か君か、どちらであろうともオレが勝つ」

「いや、お爺様の為にも僕が勝つとも。それに」

 

 チラリと何処かに目をやる海堂ジン。それを追うとユウヤがトボトボと会場の外へと歩いていくのが見えた。

 

「家族の仇か。なるほどそれは強い理由だ」

「ああ、姉の仇打ち、させてもらおう」

 

 それだけ言い残し、そのまますれ違う。ステージに上がった海堂ジンに会場が湧き上がる。さすがだなと、既に待機していた対戦相手の仙道に頑張れとエールを送り、そしてお返しとして「あ゛あ゛ん?」と言わんばかりに顔を顰められた。

 

 さて、ミカとリュウの所に戻ろう……? あれ、なんか変じゃなかった?

 

「……ん? んんん??」

 

 あれ、さっき海道ジン、ん? んんんんん????

 





……殺せ。いっそ一息に楽にしてくれ!

 どんだけ時間かけてたんだとか言われそうですが、本当にすみません。

 書き溜めが全て消失(PCと共に破損)し、この半年の間、執筆を辞めようと思ってました。ですが未練ったらしくまた書き始めました。
 この蝙蝠男がと罵られそうですが、ごもっとも……!

 まぁぼちぼちと記憶を掘り下げながら書いていきますのでよろしくお願いします。


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惑わされる魔術師と一方その頃の話


 お久しゅうございます皆様。私は現在リハビリ的な感じでいろんな所で短編を書き綴ってみたりしながら過ごしています。
 あと消え去ったプロットを思い出しながら出力しておりますが中々どうして上手くいかないものですね。
 文の書き方が分からなくなってきましたが、1日でも早く復帰できる様努めて参ります。


 追記:誤字報告ありがとうございます



 

◎神谷家別荘◎

 

 「助かりました。匿って頂き、本当にありがとうございます」

 

 「いいえ、気にする必要はない。あなたの為だけではないから」

 

 フフフ、アハハとふたりの少女、コウとアミがティーカップを片手に団欒といそしんでいた。両者とも顔はとてもにこやかにしているものの、目はまったく笑っていない。中身のない会話で相手の隙を探っていた。

 

 そして部屋の隅にプルプルと震える少女と何やらワクワクしているランがいた

 

「ら、ランちゃん。あのなんか二人こわいよぉ……」

 

「うん、ありゃ達人同士のやり取りだね。お互いに一撃必殺の間合いを確かめてる」

 

 「おバカちゃん達、理解を放棄して脳死でやり取りしないでくれたまへ」

 

 そして彼、紫苑もまた部屋の隅へと紅茶片手に追いやられていた。

 

 「誰がおバカちゃんですか! 至ってまじめですよ! えっとー、そういえば貴方は……?」

 

 「あ、僕の名前? 自己紹介してなかったっけ? 

  まあいいや、オホン……ふーはははっ!! 僕―――もとい私こそは悪の科学者にして愛の喜びの伝道者! 自称、紫苑ブローディア博士、紫苑博士とお呼びなさい!」

 

 「紫苑うるさい」

 

 一呼吸おいてからの口上に、コウから黙れとばかりに個包装されたクッキーが投げつけられ、ランはあーこいつあらかじめ用意してたんだなぁとか白い目をする。

 対して口上になにか引っかかった少女は、頭で疑念をかみ砕き、疑問にたどり着いた。

 

 「って自称なんですか!?」

 

 「うわ、愛の喜びとか胡散臭い……顔はイケメンなのに」

 

 「モグモグ……ふふふ、最近は若作りに力を注いでいてね。私がイケメンなのは当然のことなのだよこのクッキー美味しい」

 

 「え、もしかして意外と年取ってるんですか?」

 

 「何歳に見えるぅー?」

 

 先ほど投げられた事で砕けたクッキーをモグモグしてから、えへーと頬に両指をたててぶりっ子を演じる成人済みの男性。

 紫苑はガタイ自体はよくない方で、顔立ちも中性じみてるとはいえ、ぎりぎりアリよりのなしだな。とランは鳥肌を立てた。

 

 「ウザー。えーっと、40歳とか?」

 

 「残念! その2倍以上はいきてるZE!」

 

 いわゆるジョ〇ョ立ちでピシッとラン達に指を突き付ける。唐突なシュールにふたりは思わず噴き出す。

 

 

 「わははっ! 流石に嘘だぁ、それは若作りとは言わないって、もはや化け物だよー!」

 

 「ぷぷっ!」

 

 「おや、漸く笑ったね。よかったよかった」

 

 

 どうやら先ほどまでの流れは緊張の取れない二人を気遣ってのものらしい。どこまで本気にしていいか分かったものじゃないなと、コウは張りつめていた神経を一段緩ませた。そして前にいるアミに向かって

 

 

 「ハッ(嘲笑)」

 

 「あ゛?」

 

 

 お互いがCCMを取り出し強化ダンボールのパノラマへと向かう。負けられない戦いがそこにはあった。

 

 

 「邪魔するぞ、頼まれていた荷物だが……どういう状況だこれは?」

 

 「あ、お帰り。ちょうどいいや、レックス、キミにきめた!」

 

 「ピッ、ピカチュウ!……とでも言えばいいのか?」

 

 「ほわぁ! あのレックスの声真似!? 滅茶苦茶レアじゃん!」

 

 「言ってくれるんだ……レックスさんて意外と愉快な人? あと薄々わかってたけどランちゃんミーハーだね?」

 

 「行けレックス! アミ嬢とコウに十万ボルト(拳)!」

 

 「あー。なるほど。待ってろ。三十秒で終わらせる。決勝までに戻らなくてはならないしな」

 

 

 渋い声でやってきた理不尽の化身がコウとアミを蹂躙するまであと十秒。戦いは数秒で完結したのだった。

 

 

 

 

 

 

◎アングラビシダス会場◎

 

 皇帝への挑戦。それは仙道ダイキにとって目標の一つであった。

 LBXプレイヤーの間で噂される強者のひとり、それこそが海道ジン。

 

 強者と聞けば挑まずにはいられないのがLBXプレイヤーのサガである。

 

「やれ! ジョーカー!!」

 

 高速移動からの3機に分身。

 本来ならば分身ではなく3機のLBXを操作して相手を翻弄するのだが、他の2機は以前の事件によって完全に破壊されてしまっており、アングラビシダスまでに新しく補充する事は叶わなかった。

 

 

 完全ではない、寧ろ条件的には悪い。しかし、この大会を通して自分は強くなっていると仙道は実感している。

 

 攻撃、回避、防御、その全てが最悪のコンディションで戦い続ける中、どんどんと研ぎ澄まされているのがわかる。と同時に自らの技術に胡座をかいていたと実感した。

 

 今まで頂上に登ったと思い込んでいたが、どうやら己は自分の上っていた山の大きさを勘違いしていたらしく、更にその先があった事実にようやく気付けた。つまりはまだ己は先に行けると歓喜と共に不敵に笑う。

 

「さぁ、ショーの開幕と洒落込もうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石だな、仙道。秒殺どころか良いバトルだ」「うわぁ、凄いね彼。うちのジンとバトルになってる……」「フッフッフーこの地域の二大番長は伊達じゃあ無いんだぜー?」「……なんでリュウが得意げ?」「お前あんまり仙道と関わりないだろ」「そ、そんな事ねぇよぉバン! さっき連絡先交換したし!」「は? 仲良くなりすぎじゃないか?? まだ俺も交換してないんだが???」「……安心して、バンには私がいる」「それの安心要素どこだい?」「というかなんでいるんだ海道ユウヤ」「敵情視察」「………………そっか」「バン、思考停止は良くないとリュウ思う」

「……ミカもそうだそうだと言っています」「何かの映画のネタ?」「ゴジラ」「ゴォズィラ……」「昔の怪獣映画だろ? ほら今度リメイクされるやつ」「怪獣知らない人もコレは知ってるっていうタイプ」「……レトロ感満載、古き良き映画達」「へぇ、オススメなの教えてよ」「……良かろう。汝に叡智を授けよう」「辞めろよミカ(昭和オタク)世間知らず(海道ユウヤ)を染めるの」

 

 

 

 

 

 

 

「(うるッっっせェーッ!!!!?!)」

 

 あんまりな会話(それら)に思わず内心で絶叫した。

 

「(何だあいつら、ホント何なんだよ!? 応援? 応援のつもりか?? ならせめて試合の話題にしろよ!? 何関係ないことペラペラと! あとユウヤとやら! お前だお前! なんでお前はそこの馬鹿どもと一緒に和気藹々としてやがる!? せめてギスれよ! ベストは海道のやつの後ろにいやがれ! さっきトボトボと会場外に歩いてったろうが! なに山野バンの所にノコノコと戻ってるんだよ!?)」

 

 ピキピキと頭の血管が浮き出るのがわかる。というか既にプッツンと来ててもおかしくないようなストレスだ。

 荒く息を吐いて、目の前のバトルに集中しなお「彼、なんか荒れてるね。オコなの?」冷静に「ホントだー、仙道さんなんか怒ってる」れいせ、い「……(パシャ」しゅ、しゅう「いきなり撮るなよミカ。仙道だとしても一応失礼だろ?」ちゅ「……ごめんなさい。あまりにもレアだったから」う……

 

ウガァッッ!!

 

「隙あり」

 

「あ」

 

 

 この後、仙道は頑張って立て直し、腕一本奪い取るくらいの善戦したものの負けた。

 

 

 

 

 

 

◎???◎

 

 

 コツリという固い音、小さな石を蹴り飛ばしてしまった音に、思わず身体をこわばらせた。

 

 隠密行動中だというのに音を立ててしまったという緊張。初めての経験に想像してるよりも消耗し、注意力が散漫になっているとカズは汗を拭った。

 

「すんません……」

 

「気にする必要はねぇよ。こういう潜入は初めてなんだろ?」

 

「ヒヒ、そうそう。お前さんは後輩らしく俺らの後ろをついてくりゃ良いのさ」

 

「——ウッス!」

 

 郷田とギンジにフォローされる。なんというべきか、関わり合う前まではこの2人の先輩に恐怖まで抱いていたというのに……大切にしていたLBX『ウォーリア』を破壊されて内心恨んでいた筈の相手だというのに、今では尊敬に近い感情を向けている。

 

 「(人生って予測不能なんだなぁ……)」とか若いくせに思ってみたり。

 

 張り詰めていた思考をこのまま悟りを開けば潜入に役立つかなぁとか関係なさげな思考へと変え、カズは『ハンター』をいつでも出せるようにポケットに突っ込んでいた手を握ったり開いたりと緊張での強張りをほぐす。

 

 現在、カズ達はとある施設への潜入していた。

 そこは恐らくイノベイターの研究施設の一つであり、以前確保したイノベイター製LBXの破片の塗料の製造元からの追跡、そしてギンジの集めていた不審者の情報や物資の不可解な流れを見つけ、探り当てた場所である。

 

 「(もしかすればここにバンの親父さんがいるのかもしれない)」

 

 カズはここを探り当てると同時にハンターへと届いたメールを思い出す。

 

 送り元は山野淳一郎とあり、そらを受け取った時の驚愕は未だに抜けきっていない。

 

 内容としては、『その施設の奥に囚われた者がいる。この施設の稼働は夜間であり、日中は人が少なく、地下水道からの侵入であれば容易い』との事でともに部屋の位置情報も送られてきた。

 

 どうやらこれは山野博士がこの付近に山野博士製のLBXが近付くと受信できるように設定していたのだ。これはもしや山野博士からのSOSではないかとギンジと考察し、四天王招集とあいなった。

 

 現在イノベイターからの注目はアングラビシダスに向けられている。故にこちらはノーマークであると、連絡を受けた郷田は考え、レックスにこれから潜入することを伝えた後に二ルートからの侵入を試みたのであった。

 

 しかし潜入が何もしていなくてもここまで消耗するなんて思いもしなかったとカズは額の汗を拭う。ひとりだったらこの重圧に耐え切れないかもしれないとも考えた。

 

 バンはひとりでエンジェルスターに乗り込んだんだよな。とその事実を更に重く受け止めた。

 それはつまり下手をすればイノベイターに捕まってしまっていたであろう事実だ。そんな危険な行動に怒りと頼ってもらえなかった自分への情けなさに胃のところがきゅぅっと絞まる感覚がする。

 

 だからこそ今度は頼ってもらう。決して一人でどこか遠くへ行かせない。そう胸に刻み込み、施設の奥へと進んでいく。

 

 そんな覚悟を、郷田とギンジは察したのか、顔を見合わせてフッと笑いあった。

 

 

 途中梯子を見つけ、ギンジのLBXで偵察を行った後に施設への侵入を開始する。

 

 いきなり明るくなった視界に目がくらみつつも、どうにか周囲を警戒するカズ。しかしその警戒の隙をつくかのように小さな影が襲いかかる。カズが気づいた時には相手の鋭い爪が目玉めがけて振り下ろされようとする瞬間だった。

 

 「だっぶねえなぁ!?」

 

 しかしそんなことを許すほど、カズの先輩達は甘くはない。

 

 郷田の出したブルド改にハカイオーの足を付けた『ブルド改Ⅽ(カスタム)』がハカイオーの武器『破岩刃』で影を斬りつけた。

 影は両腕でガードする。郷田としてはその防御ごと叩き斬るつもりだったのだが、不幸にも武器と一体化した腕、『武器腕』の一種であった様で、弾き飛ばすだけにとどまった。

 

 「逃すかよぉ!」

 

 ギンジが『マッドドッグ』を繰り出し、弾き出された影、敵性LBXに向かって追撃を試みる。

 

 相手は空中で無理やり身体を捩り、両腕から弾丸を撃ち出して『マッドドッグ』の行動を牽制してくる。だがギンジは知ったことかと飛来する弾丸を爪で弾きながら突き進む。ダメージを負いながらも『マッドドッグ』の射程圏内にまでたどり着く。

 

 「しゃらぁ!」

 

 『マッドドッグ』の鋭爪とそれを迎撃する敵LBXの刃爪がかち合い、地に足着けていた『マッドロック』に軍配が上がる。防御を崩し、その勢いで床に敵LBXを叩きつけた。

 

 「ッ! こいつ硬ぇ!」

 

 しかしその一撃はろくに装甲を傷つけることができず、防御力の高さに思わずギンジは舌を巻いた。

 LBXのカメラ越しに、敵LBXの肩にあるカメラと目が合う。瞳孔のように拡大と縮小をしたカメラから反撃が来るのを察知し、背後に『マッドドッグ』を逃がした。直後に振るわれた爪がかすめるように空を切る

 

 「おぁっらぁ!!」

 

 反撃が外れたところで入れ替わるように郷田が突貫する。両手で破岩刃を力任せに粉砕せんと頭部へたたきつけた。

 

 「クソッ、パワーが出ねぇ!」

 

 だがハカイオーであればいざ知らず、代用のLBXでは装甲を突破できず、決定打にはなりえなかった。

 代わりにどうやら頭部と目に当たる部分が破損し、視界を奪えたようだったのは幸いというべきか。

 

 このまま押し切れるか? という考えがよぎったところで、郷田の『ブルド改C』が蹴り飛ばされ、間髪入れずに射撃を開始する。

 

 「見えてもねぇはずなのによぉ!?」

 

 「郷田くん、肩だ! 肩のやつもカメラだ!」

 

 「チィ! そういうことかよ!」

 

 それぞれ正確に射撃してくる敵LBXに武器を盾にして、どうにか防ぐが、ガードの上からじわじわと削られ、当たり所が悪かったのか『マッドドッグ』の片腕が装甲に罅が入る。

 

 それでもどうにか凌ぎ続け、反撃の機会を伺う。

 武器腕の射撃は存外にカツカツで、無限に撃ち続けられるわけではない。

 特に今、武器腕を使っているギンジはその隙をよく知っていたし、郷田も仲間たちが使っている武器種についてある程度の知識はあった。

 

 賭けにはなるが、その刹那に必殺ファンクションを叩き込む。現状の攻撃力では突破できないのは先ほどの攻防で確認済みであり、ならば瞬間的に火力を出せる必殺ファンクションに賭けるのだ。

 

 問題は発動時の隙にリロードが終わって再度攻撃が開始された場合だ。

 ふたりにとって初めて見るタイプのLBXであり、リロードにかかる時間なんてわかるはずもなく、場合によっては近接に切り替えてくるかもしれない。

 

 敵LBX……『インビット』がどの程度ここに配備されているのかもわからないし、操作する人間がどこにいるかもわからない。

 もしかしたらそもそも操作者はいない自立型の可能性も考えなくてはならない。

 

 どちらにせよ接敵した際に周囲に救援を発信しているだろうし、自立型ならば既にLBXの機動力を生かしてここに向かってきていることだろう。

 ならば連戦の可能性も考えられ、あまり消耗したくない。とギンジは考えていた。

 

 だが想定外の硬さと粘りを見せられてしまった事で状況が変化した。このまま攻めあぐねていれば敵の仲間が到着してしまい、数的不利になると判断できた。

 それくらいならばいっそ賭けに出ようとギンジは目で合図を送り、それを察した郷田はうなずいた。

 

 そして、『インビット』はリロードの為の排熱を行う。その刹那―――

 

 

 

 

 

 ―――『ブルド改C』と『マッドドッグ』の間を縫うように二発の銃弾が通り過ぎた。

 

 銃弾は正確に肩部のカメラを射抜いており、視界を失った『インビット』は混乱したのか壊れたように上半身をぐるぐると回転させていた。

 

 二人が振り返ると、膝立ちのカズがハンターを伴って『インビット』を見据えていた。

 

 「二人とも今だ!」

 

 「へっ! よくやったぜカズヤ! ギンジ、やるぞ!!」

 

 「おうともさ! 必殺ファンクション!!」

 

 

 Attack・Function/旋風!

 

 

 身体を回転させ、相手を足元から掬いあげるように下から上に爪拳を何度も打ち込む。最後をアッパー気味に放てば『インビット』は空へと打ち上げられる。

 

 「トドメだ、必殺ファンクション!」

 

 Attack Function/パワースラッシュ!

 

 

 そして『ブルドC』によって放たれたエネルギー体の斬撃が、打ちあがった『インビット』を腰から上下に分断し、一瞬の空白の後に爆発の閃光と共に四散した。

 

 爆散した『インビット』から右腕パーツが足元へと転がってくる。

 

 それが戦闘終了の合図となり、肩から力が抜ける。郷田が腕パーツを拾い、ギンジに投げつける。

 

 「お前が持っときな」

 

 「おうさ、任されて。キッヒッヒ」

 

 「カズヤもよくやった。いい腕じゃねぇか!」

 

 「ウッス!」

 

 それぞれLBXを回収し、増援が来る前に走ってその場を離れた。

 息をひそめ、交代しながら警戒とLBXの調整をし、どうにか消耗を回復させてから潜入を再開する。

 

 

 

 

 

 それからはスムーズに事が運び、数度の遭遇戦、『インビット』との戦闘があったものの、一度目の戦闘で動きや特性を理解し、対策が出来たこともあってやけにあっさりと勝利できた。

 

 「やっぱ初見の相手ってかなりきついんだ」

 「そらぁな。なんもわからねえ相手は対策の取り様がないからな。どうしても後手に回っちまう」

 

 独り言のようにこぼれたそれを郷田は周りを警戒しながら拾い上げた。

 

 現在廊下の影で小休止を取っている。先ほどギンジの『マッドドッグ』が片腕の不調をみせていたからだ。

 どうやら初戦での乱射を防いでいた時に当たり所が悪かったようで、その証拠とばかりに装甲のひび割れが目立っている。

 

 なのでギンジは最初に装甲を予備のパーツに変えようとしたのだが、蓋を開けると、コアスケルトンにも異常が見られたため、右腕すべてを外す羽目になったのだった。

 幸いにもパーツそのものは先ほどの『インビット』から奪っており、仕掛けもないようなのでそのまま使うことにしたのだった。

 

 「ヒヒッ 同じフレームでもアキレスとウォーリアの動きは全然違うだろ? パーツを1個変えるだけで動きが別物レベルで変わっちまうことだってある。動きが違えば対策だって変わる」

 

 「あぁ、確かに」

 

 「それに操作する側だって動かし方を慣らさないといけねぇ、色んな奴が安易にカスタムしない理由だな。お前さんだって『ウォーリア』から『ハンター』に乗り換えた時、苦労しなかったか? それと同じ苦労をパーツを変える度にしなくちゃなんねえ」

 

 「その乗り換えの原因は『ウォーリア』を先輩にぶっ壊されたからっすけどね」

 

 「おう、悪かったな!」

 

 「素直! まあ、もう気にしちゃいねーっすが」

 

 他愛のない会話ができるほどまで精神的な余裕を得たカズは、CCMで相手してきたLBXの動画を見ていた。

 性能的にはアキレスやハカイオー、ハンターなどのハイエンドほどではないのだが、複数で当たられるとハイエンド達でも食われかねないだろう。

 今回、データを取れたのは幸運だった。これがあるだけで対処法を確立できる。あとで皆に共有しなくてはと休憩中に特徴の箇条書きをしておく。

 

 「そろそろ行くぞ、のんびりしてりゃあまたアイツらが湧いてきちまう」

 

 「あいよ、付け替えも終わったが、1、2戦は慣らしをさせてくれ」

 

 「サポートは任せてくれギンジさん」

 

 「頼りにしてるぜ、後輩」

 

 尻を叩いて埃を払う。

 しばらく廊下を進み、やっとこさでメールにあった位置情報の部屋にたどり着く。

 

 管理室っぽいところを片っ端から鍵っぽいのを拝借しながら通過したり、何やら物々しい電子操作の扉を二度くぐったが、ギンジのLBXでのハッキングに対しても特に敵影らしい敵影は出現せず、静寂に満ちていた。

 

 最後の扉は意外にもアナログ式であり、明らかに増設された南京錠でロックされていたが、管理室から拝借した物で簡単に解除できた。

 

 「周囲に敵影無し、伏兵もなしだ」

 

 『マッドドッグ』が周りの偵察を終えてギンジの肩に戻ってきたところで突入の準備をする。

 

 

 「お前ら、準備はいいな?」

 

 「ウッス、いつでも」

 

 LBXをいつでも展開できるように握りしめ、顔を見合わせてタイミングを計る。次の瞬間には郷田が扉をあけ放ち、内部へと一気呵成に畳みかけんと突入した。

 

 

 そしてそこにいたのは

 

 

 

 「ちゅるちゅる―――んん!?」

 

 

 

 そこにいたのは……!! 

 

 

 ベッドのうえで胡坐をかきながらカップ麺のうどんを啜る少女だった!!!

 

 

 「はぁ……??」

 

 カズ達は思わずそう漏らしたのだった。

 





 特に深い意味はありませんが、どん兵衛って美味しいですよね。特に天ぷらそばの汁がダシが効いてて大好きです。
 いや、うどんも好きですよ。うどんだと香川県のを食べた時に『これが有名な讃岐うどん……』と感動した覚えがあります。


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アングラビシダス決勝


 おかしい、もっと簡潔にバトルをまとめるつもりだったのに……なんか決着までいかなかっただと?

 脳内でノリで考えてるのがダメなのか? 教えて! 戦闘描写の上手い方!!



 

 歓声の中、決戦場へと足を進める。自分の双肩にかかる世界の危機という重圧と、これから相まみえる強敵とのバトルへのワクワク。不謹慎かもしれないが、実はとても楽しみだったのだ。彼、海道ジンとの勝負は。

 

 強化ダンボールのジオラマを挟んで睨み―――いや、見つめ合う。

 

 「山野バン、とても不思議だ。こうして向き合うと、今まで考えていた義務やしがらみがどうでもいい事のように思える」

 

 「俺もだ、今はただひたすらにお前と戦いたい……いいや勝ちたい!」

 

 『両者、己がLBXを手にせよ!』

 

 進行役のアナウンスに従い『アキレス・リュカリオン』を握る。興奮と旋律で武者震いをしながらも、自然と笑みがこぼれる。

 

 『アングラビシダス決勝戦! バトル、スターーートッッ!!!』

 

 

 「果てなく征け、アキレス!」

 

 「行くぞ! エンペラー(・・・・・)M2(・・)!!」

 

 

 双方のLBXがフィールドにて対峙する。そしてバンは内心にて

 

 

 「(あっるぇぇー!?)」

 

 

 滅茶苦茶困惑してた。

 

 

 

 

 

 

 最初に動いたのは『エンペラーM2』、突如としてハンマーを地面と平行に構え、頭頂部からミサイルを発射した。『ジ・エンペラー』の発展機である『エンペラーM2』の専用兵装のハンマーは、ミサイルランチャーとの複合兵装でもある。その威力は絶大で、物語で初登場したアルテミスにて猛威を振るった。

 来襲するミサイルたちを目前に、『アキレス・リュカリオン(L)』はいきなり黄金に輝き始める。

 

『【アドバンスド・V】!』

 

 CCMからの機械音声と共に、ミサイルの前から『アキレス・L(リュカリオン)』が消滅した。

 

 「っ!」

 

 ジンは咄嗟にハンマーを横に構え防御の姿勢を取った。その瞬間に、『アキレス・L』のメイスが叩きつけられ、『エンペラーM2』は城壁へと弾かれた。

 片腕で城壁を支えにバランスを取り直す『エンペラーM2』はレンガの隙間を取っ掛かりとして、はねるように城壁の上に跳躍する。飛来したメイスが城壁を砕き、破片が周囲に弾丸のようになってまき散らされた。

 

 『エンペラーM2』は破片をマントでいなし、下方向の『アキレス・L』ミサイルを打ち下ろす。

 その反動と爆風でうまく城壁に着地した『エンペラーM2』は爆心地に目を向けるが、そこにメイスしか残っていなかった。悪寒を感じたジンは咄嗟にバックステップでその場から回避する……がわずかに遅く上空より飛来した『アキレス・L 』がランスでマントをレンガの地面に縫い留めた。

 

 行動が制限されたわずかな時間、その瞬間に蹴り飛ばす。メキリとわずかな音と装甲に喰い込むハンター譲りの脚部の爪。マントを千切れさせながら、城壁の上を転がる『エンペラーM2』に追撃をかまそうとして、転がる勢いのまま振るわれたハンマーに薙ぎ払われた。

 

 城壁の下へと墜とされた『アキレス・L』は受け身を取りつつ、ランスで急制動を行い、対する『エンペラーM2』は床に転がった状態のまま、相手にハンマーを向け、ミサイルを撃ち放ってくる。

 

 「必殺ファンクション!」

 

 バンの叫びと共にエネルギーが発生、発射前の段階として槍を手首ともに回転させる。その回転とエネルギーで発生した力場がミサイルを防ぎ、続けて攻撃へと転じる。本来なら爆風でダメージを受けるが、ハカイオーアームの頑強さに物を言わせほぼ無傷で防ぎきった。

 

Attack・Function/ライトニング ランス!

 

 放たれた光の槍が城壁ごと『エンペラーM2』を打ち砕く。破砕による土煙によって『エンペラーM2』の姿は見えなくなる。

 『決まったか!?』 と周囲から興奮の声が上がるが、バンは冷静に次の行動に移り始め、それを静止する様に煙の中から上空に向かってミサイルが撃ち放たれた。

 

 降り注ぐミサイルの雨を見上げ、バックステップで回避する『アキレス・L』の背後に『エンペラーM2』が出現する。『アキレス・L』は持ち前の反射の良さで振るわれたハンマーをランスで弾く。

 

 「やるな。流石だ」

 

 「そちらこそ……ちっ!」

 

 

Attack・Function/インパクトカイザー!

 Attack・Function/ライトニング ランス!

 

 いきなり至近距離で放たれた必殺ファンクションを、『アキレス・L』はV系のモード達の特徴であるCゲージ上昇による必殺ファンクション連射で対応する。

 

 二つのエネルギーが激しいぶつかり合いの末、周囲に破滅をもたらし、大きなクレーターを生み出し両者を城壁にの上にはじき出した。双方空中で勢いを殺すために一回転し、しっかりとした様子でと城壁の角へと降り立った。

 

 仕切り直しと言わんばかりに互いに武器を構え、城壁の縁から相手に向かって跳躍した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「バーン! がんばれー!」

 

 「ジーン! ふぁいとー!」

 

 「うるせぇ! 俺の横で叫ぶな! せめて挟むな!!」

 

 「仙ちゃんうるさい、応援しにくいよ」

 

 「だれが仙ちゃんか!?」

 

 

 高度高密度な技の応酬し合う会場のふたりに会場のボルテージは最高潮だ。そこかしこで「ぶっこわせ」だの野蛮な言葉が飛び交っている。わからないでもないとミカは内心ワクワクしながら会場の戦いを見つめる。LBXプレイヤーならばこの世界でも高レベルであろう戦いを見てワクワクしないなんてできるはずがない。

 

 ミカの隣に移動してきた仙道も一秒たりとも見逃すものかとばかりにバトルの様子を睨んでいる。この会場で数少ないあの二人に挑むことを、勝つことを諦めていない一人である彼は、二機のLBXの動きを吸収しようとしている。

 対してリュウとユウヤのバカ二人組は呑気に応援している。リュウはどちらかと言えばバトルが本職ではなく、実際バトルもあんまり強くはないが、バンを中心した友人グループ内では技術的な面で秀でている。事実、とある組織にその腕を買われ、勧誘されるほどだ。なので呑気に応援するのはミカにとっても特別気にはならない。 しかしユウヤのほうは別だ。

 ミカはバンと海道ユウヤの戦闘を参考に『イノベーター』の手先である可能性の彼女を仮想敵として、何度も脳内で戦いをシミュレートしていた。きっとリュウの隣で呑気にしているのもこちらを油断させるためだろうと見当をつけ警戒を厳にしている。

 

 いつ戦ってもいいように、何度もバンとユウヤの戦いをリフレインし……

 

 「(……あれ? バンは彼女の名前をなんて言っていた……?)」

 

 わずかな違和感。しかし喉に刺さった小骨が如く主張してくるそれに、ミカは視線を下げ必死に思い出そうとする。

 

 「確か……ハイバラ、ユウヤ……」

 

 小さく呟き、そのまま目線を海道ユウヤに上げると、ミカを瞬きせずにジッと見つめるユウヤの姿があった。視線がぶつかるとユウヤはニコリと笑顔を見せ、会場へと注目を戻した。

 ミカの背筋に寒気が走る。一体いつからこちらを見ていた? いつからこちらを見つめていた? こちらを何故見ていた? もしかしてこちらの考えを読んでいた? 理解のできぬ正体不明な恐怖にポケット内の『アマゾネス』を握りしめ必死に自分を落ち着かせる。

 

 やることは変わらない。敵ならば打ち倒すだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そこっ!」

 「っく!」

 

 一瞬だけ出来た攻撃の隙間にねじ込むがごとく槍を突き出す。『エンペラーM2』は首を捻り、回避するも僅かに遅れたのか頬を掠め、装甲の一部が削り取れた。

 

 「(やはり、LBXが海道ジンに追いつけていない!)」

 

 先ほどの一撃は、海道ジンは反応できていた。それでも躱しきれなかったのは、『エンペラーM2』がジンの操作に追いつけていないからだと推測できた。彼に追いつけるLBXなど現行の中には存在しえないだろう。

 

 そこは少し残念なのだが、せっかくの弱点だ。突かない選択肢はないとバンは次の一手の準備をする。

 

 『アキレス・L』の黄金の輝きが徐々に収まっていき、Vモードの持続時間が終わる。つまりジンが防御に徹する時間が終わるということであり、ここからが本当の勝負だ。とバンは一度大きく呼吸した。

 大きく後ろへと飛びずさり、城壁に刺さっていたメイスを回収する。と同時にランスを投げつける。

 流石に動きがバレバレだったのか余裕をもって弾かれるが、二の矢として『アキレス・L』そのもので突貫する。メイスを横抱きにしながらの突進。

 『エンペラーM2』はハンマーを盾にしてきた。即座に対応してくるのは流石だが、どうやらVモードでの猛攻を捌き切るのにかなりCPUを酷使したようで、僅かにだがジンの指の動きと『エンペラーM2』の動きがかみ合っていない。

 ハンマーとメイスが火花を散らし、出力勝負になる。そうなれば当然パワーが上の『エンペラーM2』が押し勝つのは当然だった。

 

 そのまま押し込もうとしてくるジンにバンは力を下に逃がし、ハンマーが地面に激突すると同時に、ハンマーを支えに跳躍する。

 

 ここは瞬発力の高い『アキレス・L』だからこその動きだ。故にジンは反応できても『エンペラーM2』は反応できない。

 

 「ようやく一撃!」

 

 背後に着地し『エンペラーM2』にメイスを振るう。それまで防御を崩せなかっただけあって決定打になりうる一撃を漸く放てたとバンは歓喜し、すぐに冷や水を浴びせられる。

 

 『エンペラーM2』は地面に振り下ろしたハンマーからミサイルを発射したのだ。爆風でロケットのように背後の斜め上へとすっ飛び、『アキレス・L』に激突し、道ずれにすっ飛んだ。メイスもインパクトの瞬間を外され、ミサイルでの自爆のほうがダメージになっているほどに無力化されたのだ。

 

 「判断が早いなおい!」

 

 少し考えれば致命になりうるメイスよりダメージにしかならない爆風がマシなのは当然なのだが、先ほどから存在するジンと『エンペラーM2』のラグを考えるとほぼノータイムで判断し、行動に移したのだと考えられた。これを判断が早いといわずして何と言うのか。

 

 とある地点までは上昇し、次に墜落を始める2機。示し合わせたかのように、空中で互いに武器を不格好ながらも振るい、反動でそれぞれの方向に吹っ飛んだ。

 

 「距離をッ!」

 

 距離を取られたと歯噛みをし、着地後すぐに回避できるよう体勢を取る。如何せん相手のハンマーミサイルはまともに受ければ一瞬で体力が消し飛ばされる。

 ジンも同じように体勢を整え、発射準備を終えた。息つく暇も与えないとミサイルの引き金を引く。

 

 「!?」

 「は、女神がこちらに微笑んだか!」

 

 しかし、トリガーが沈み込もうとも一向にミサイルが解放される気配はない。

 ―――先ほどのミサイルの自爆で射出機構に不具合が出たらしい。必要経費だったとはいえ、牽制もできる遠距離武器がつぶれたのは痛かろうとバンは笑う。 

 

 回避の姿勢から突撃へ切り替え、即座に狼が如く地を駆け突進する。

 ジンもすぐに持ち直して近接戦の体勢に移る。直後に始まる衝突はハンマーとメイスが火花を散らして何度も行われる。その度に互いに姿勢が崩れるが、『エンペラーM2』は力で強引に、『アキレス・L』は運動性を生かし、互いに立て直しては激突を繰り返す。

 

 ハンマーの上段からの振り下ろしに勢いをつけたメイスの刺突で迎撃する。その瞬間、ジンの目にメイスの先が映った。

 

 「必殺ファン―――」

 

 「一手遅い!」

 

 わずかなラグ、それがメイスより発射された鉄針の直撃を招いた。穿たれた『エンペラー・M2』の頭部が半壊し、コアスケルトンまで深々と突き刺さっている。

 LBXの頭部はパーツの中でもかなり重要な位置に当たり、コアスケルトンまで損傷すれば一気にブレイクオーバーまでなだれ込むような大事なパーツ。

 これで決着だと、その知識を持って判断し―――

 

 「クション!」

 

 Attack・Function/インパクトカイザー!

 

 「!?」

 

 だからこそ その判断を覆すように、そのまま損傷が広がるのもかまわず大技を放ったジンに驚愕した。ほとんど無意識で指が動き、回避行動に移る。

 

 しかし、至近距離からの必殺ファンクションに対して完全に致命的なほどに遅い回避。

 

 

 振り下ろされた皇帝の一撃が『アキレス・L』の半身をえぐり取った。

 





 戦闘描写は苦手なので、上手くなりたいなあ……

 あともうちょい仕事を早く終わらせて時間が欲しい。


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