高坂穂乃果の廃校回避RTA【完結】 (鍵のすけ)
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高坂穂乃果は動き出す
小さな一室で記者と対談する女子高生がいた。明るい色をした髪をサイドテールにしている見るからに活発な印象を与える美少女である。
粘り強い交渉と綿密な日程調整の末に成し遂げることが出来た今日の取材。筆を走らせる手が止まらなかった記者は事前に申請しておいた質問事項をあらかた聞き終え、そして最後に“簡単な質問なら……”と思い、彼女へこう尋ねた。
――何が貴方を、そうさせたのでしょうか?
ほんの少しの間を置き、彼女は花を咲かせたような笑顔でこう答えた。
――こうすれば一番早くなるかなと思ったので!
◆ ◆ ◆
この物語における
桜の花びらが舞う校舎の前、センターの高坂穂乃果がその澄んだ声で視聴者を釘付けにするところからスクールアイドルグループ『μ's』の伝説が始まる――!
「目指せ最速廃校回避! どうせまた歌うシーンあるからここは飛ばすよ!」
――のが本来なのだが、それはそれでこれはこれ。
眼を閉じていた海未、ことりを置き去りに歌いもせず走り、階段から飛び降りる。ここで穂乃果は事前に練習していたモノローグをやや早口で語り切り、場面は全校集会へと移った。
「この音ノ木坂学院は廃校になります」
廃校の“は”の辺りから穂乃果は海未とことりを引きずり全校集会を後にする。“音ノ木坂学院は”の辺りで抜け出したかったのだが、そこを言い切るまでが悔しいかな強制イベント。イライラしつつ穂乃果は廊下の掲示板の前に立ち、明日になると張り紙が張り出される箇所で夜を明かした。
そして再び発生するモノローグ読み上げイベント。穂乃果はさくらんぼのヘタを何度も何度も舌で転がすことによって鍛え上げたその滑舌で流暢かつ迅速に喋り切るやいなや、隣で眠っていた海未とことりを叩き起こし、張り紙へと視線を向けさせた。
「嘘……!」
瞬間、穂乃果は自ら意識をカットした。次に喋るのはことりであるが、自分が喋った時点で意識を飛ばせるのは事前に調査済みである。
「穂乃果ちゃ~ん!」
「この子、自分で自分の首筋に手刀を入れるだなんて……」
何はともあれ、そこは心優しい親友二人。オープニングが流れている間に優しく保健室へ運び込み、穂乃果をベッドに寝かしつけ、教室へと戻っていく。
「目覚めたよ!」
時間にして約一分三十秒。この時間はイライラポイントなのだが、そこはどうしても避けられないポイントなので気にしない。
保健室を飛び出し、全力疾走。超有名アスリートの走行フォームを研究しつくした効率的な走りで、廊下を駆け、大事な友人三人組であるヒデコ・フミコ・ミカを軽く無視し辿り着いたのは教室だ。
「海未ちゃん! ことりちゃん! 中庭に行ってお弁当食べるよ!」
「ほ、穂乃果ちゃん!? 大丈夫なの!?」
「そうですよ穂乃果! それに廃校は――」
「廃校だよね! だから中庭に行くよ!」
「話を聞きなさい!!」
ドン引きする海未とことりを引っ張り、目指すは中庭。海未が現状の整理を提案してきてくれたので、丁寧に断り、穂乃果は逆に廃校についての概要をぺちゃくちゃと語り出す。その鬼気迫る表情と語る内容が大体合っていたのでただただ頷くことしか出来なかった海未は、目の前にいる彼女は本当に自分の親友なのかと疑いの眼差しを向けてしまったのは秘密である。
「今の一年生は後輩がずっといないことになるのですね……」
「ファイトだね。あ、そろそろ生徒会長と副会長来るから海未ちゃんとことりちゃん立つ準備しておいてね」
「ど、どうして分かるの穂乃果ちゃん……?」
黙してカウントすること二分後、草を踏みしめる音が聞こえた。
「ねえ――」
「ちょっと良いですよ!」
「ひゃっ!」
突如立ち上がることほのうみに戸惑いの表情を隠しきれず、妙な声を上げることになってしまったのはこの音ノ木坂学院生徒会長である絢瀬絵里、後ろでくすりと笑うは副会長の東條希。どちらも、序盤の壁であると同時に時間短縮の鍵を握る超重要人物である。
次に来る会話に向け、穂乃果は事前に打ち合わせをしておいたことりへ軽く目をやった。
「……こほん。南さん――」
「わ、わわ私も今日知りました! 何も! 知りません!」
「え、ええっ!?」
賢くて可愛いと評判の生徒会長も流石に聞こうと思っていた会話に対する解を返されては目を丸くし、後ずさるしかなかった。だが自分にもプライドと面子はある。中庭でこちらの様子を伺っている他の生徒達の前で醜態を晒すにはいかなかった。
「……そう。いきなりごめんなさい。ありがとう」
「よし、海未ちゃんことりちゃん! 授業行くよ! 失礼します生徒会長に副会長!」
二人を担いで教室へと走り出す穂乃果の後ろ姿を見送りながら、絵里は隣にいる希へつい聞いてしまった。
「……私、あの子達に喧嘩でも売られていたのかしら」
「って言うには少々違う気もするんやけどなぁ」
それから穂乃果は授業が終わると直ぐに帰宅し、雪穂からUTX学院のパンフレットを見せてもらい、その場で反復横飛び五往復、逆エビ反りからのハンドクラップを三セット行い、その日は就寝した。
これが確実に明日へ繋がっていくのだ。
◆ ◆ ◆
「来たよ! UTX学院!」
すぐさま穂乃果は辺りを舐め回すように散策し始めたので、確信は持っていたがそれでも出会うまではドキドキものだ。これが恋なのかと少々物思いに耽っていると、UTX学院の校舎外に備えられている大型モニターを眺めている少女を見つけた。
「ああ『A-RISE』はやっぱり良いわねぇ……」
そう満足げに感想を漏らすちまっこい黒髪ツインテールの不審者またの名を矢澤にこ。このアイドルオタクと、ついでに彼女の隣でモニターを見上げている小泉花陽と星空凛と出会うのは本来ならばもう少し後の時間になるのだがそこは高坂穂乃果。抜かりはない。
昨日行った反復横飛びと逆エビ反りからのハンドクラップで既に乱数調整は実行済み。実は三人が同時に現れる確率というのは非常に低い。中でも狙った日に三人が現れる時間というのは三パターンしかない。今回穂乃果は最も調整が一手間だが最速の時間帯に現れるパターンを採用した。
さりげなくにこの横を陣取り、声を掛ける。
「あの」
「何? 今忙し――」
「スクールアイドルですねあの人達は」
「んなこと分かってるわよ! いきなり何よあんた!?」
「あ、ちょっと失礼します」
既にフラグを満たした穂乃果は手早くにこと自分の身長を手で測り、鼻で笑い、すぐさま逃走する。
「じゃ!」
「止まれぇぇ!! あんた今にこと自分のどこを比べたのよぉ!? こら! 止まりなさぁぁぁい!!」
にこが全力で追いかけるもホップ、ステップ、ジャンプで加速度的に距離を離す高坂穂乃果に置いつくなどまず不可能な訳で。
日頃から赤い帽子とお髭がダンディーなおじさまが登場するゲームをプレイしている穂乃果にとってはこの程度の動きなど朝飯前である。連続走り幅跳びで一気に学校へ到着した穂乃果はすぐに教室へと向かった。
「海未ちゃん! ことりちゃん! スクールアイドルやろう! スクールアイドルってのはね」
すぐさま穂乃果はノートパソコンを置き、昨夜作成しておいたスクールアイドルについてのプレゼン動画を流し、魅力を熱弁する。
「まあまあまあ海未ちゃん。いきなり居なくならないでよ~」
「なっ……!? 殺していた私の気配に気づくなんて……!!」
教室を出ようとした瞬間を狙い、海未を羽交い締めにしながらそう穂乃果はにこやかな笑みを浮かべた。どうせ言うセリフは同じである。ならば最速を狙うのが当然であろう。
「ほ、穂乃果ちゃんってこんなにすごかった……かなぁ?」
ことりが酷く引いた目で見ていたことは分かり切っていたが、ここで目を合わせてはきっと自分にとって拭い難いトラウマが産まれるのは確実であった。故に、穂乃果はその頬に一筋の水滴を伝わらせるだけに留めておいた。
『アイドルは無し』と海未からのお言葉を頂戴するや否や、穂乃果は次のポイントに向かうことにした。
◆ ◆ ◆
「良し時間だ」
一年生の教室があるフロアのロッカー、ここが一番音楽室に近い。今回のターゲットであるピアノが得意な美少女、西木野真姫はいつも音楽室でピアノを弾くのだが、ただ特攻するだけでは気味悪がられて音楽室に近寄ってくれない可能性がある。
なるべく隠れられて、尚且つ音楽室へ急行できるポイントは唯一このロッカーだけなのだ。いきなりロッカーの扉が開けられて、見ず知らずの一年生達が驚いているが、そこに構ってやれる時間はない。
「いた!」
歌っていた。音楽室でピアノを弾きながら西木野真姫は楽しそうに歌っていた。しかしここですぐに突入するのはNG。彼女の機嫌をそれほど損ねず、かつ最速のタイミングはサビに入ってすぐ。
「うえぇぇ!?」
超一流クラシック演奏楽団顔負けのボリューミーなハンドクラップで真姫の意表を突くなり入室。そしてすかさず一言。
「可愛いね! 何だか昔からピアノ大好きな人の演奏だった気がするね! あと可愛い!」
「ちょ! ちょちょ、ちょっと!? 何言ってんのよ!?」
「スクールアイドルやろ!? ねえやろ!? ちょっとだけで良いから! ちょっとだけで良いから!」
「何それ、意味分かんない!」
「大丈夫! そのうち意味分かる日が来るから! じゃ!」
「あっ! 待ちなさいよ! ねえ! 待ちなさいよ!」
順調にフラグを立てていく穂乃果が次に向かう場所は校舎裏であった。ここへ到着するまでに時間を短縮する隙があることを知っていたので穂乃果は早速廊下の窓を開け、飛び降りた。
「よっ!」
一言気合を発すれば窓の縁に五指を掛け、勢いを殺し。
「ほっ!」
更に一言気合を入れれば己が培った功夫で着地の衝撃を和らげた。真の乙女の姿が、そこにはあった。
しかしこんなことはあくまで一発芸。時間短縮を可能にするために習得した移動術だ。大した感慨はない。むしろ、重要なのはここからである。
「ほいほいほいほいほいほいほい!!!」
わざとらしいダンスの練習をおっぱじめる穂乃果。やってる最中も気配を探ることは欠かせない。
あえて転ぶこと数回。ついに海未とことりがやってきた。つい文句を言いそうになったが、そこは頑張って飲み込んだ。
「一人でやっても意味がありませんよ。やるなら――」
「三人でやらないとだよね! もー分かってるよー! さあことりちゃん海未ちゃん! 行こうか! 生徒会室へ!」
「穂乃果!? ちょ! 何ですかその言い方は!? ちょ! 穂乃果ー!!!」
既に書き終えていた部活動申請書が懐にあるのを確認しつつ辿り着いた生徒会室。耳を澄ませると、絵里と希が仕事の話をしているようだ。
――先手必勝。
ここで少しでも向こうのペースにさせてしまっては今からやることの効果が半減する。だからこそ穂乃果は扉を開け放つ瞬間を天下分け目の決戦と据えた。
「失礼します! そしてこれは申請でぇぇぇぇす!!!」
「えりちかっ!?」
開放一番、穂乃果は丸めた部活動申請書を絵里の顔面へぶつけ、そそくさと生徒会室を後にした。
「どうせ認められないんですよねぇ!? あと二人、頑張りまぁぁす!!」
「ちょっとそこに座りなさい高坂穂乃果ァァァァァ!!!」
あらかじめ設定しておいた隠れ場所に行かなければ今頃は屋上で吊るされていただろう。そんな紙一重のやり取りを交わしつつ、穂乃果と海未、そしてことりは一先ず帰宅するため、校舎の前までやってきた。
「海未ちゃん」
「は、はい?」
「ちょっと『どうすれば?』って言ってもらえる?」
「は?」
「お願い! 早く! 時間無いから!」
「ど、『どうすれば』……」
完璧のタイミングである。これで穂乃果を遮るものは何もなかった。
紡ぎ出すは始まりの歌。ここからまた約一分三十秒のイライラタイムが始まる。だがそれは同時に穂乃果の思考リラックスタイムと同義。
出だしは好調。今のところは可能な限りの時間短縮に成功していると言って良いだろう。しかしまだまだだ。いわばこれはプロローグ。高坂穂乃果にとっての、廃校回避タイムアタックはここからが始まりなのである。
頑張れ高坂穂乃果! 君の音ノ木坂学院最速回避タイムアタックは、ここから始まるのだ!!!
~高坂穂乃果の廃校回避RTA 完~
続きがあるかどうかは皆さまの反応次第!(RTA顔)
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『第二話』を攻略だ!
節目節目で『前回のラブライブ!』なるイベントが合間に挟まれるのは知識人の方々なら周知の事実だろう。前回の話を見忘れた方も、あらためて復習したい方にも幅広く愛されたイベントだ。
――今回は時間がもったいないので本来挿入されるはずのこのイベントは全カットだが。
オープニングテーマという約一分三十秒のイライラタイムを越えて翌日、高坂穂乃果と園田海未、そして南ことりは生徒会室へやってきた。穂乃果の瞳は並々ならぬやる気で燃えていた。
アニメで言う所の『第二話』にあたる本日。穂乃果的にはここは休憩ポイントである。なんせ今回の目標は『西木野真姫を口説き落とし、曲を作ってもらう事』この一点のみであるのだから。当然、そこに辿り着くまでにこなすべきイベントはあるのだが。……ちなみに小泉花陽と星空凛へ会いに行かなければならないイベントは片手間にこなすつもりである。
「失礼します!」
「あっ! あなたはこの間の!?」
絵里が穂乃果を見るなり、表情を一変させる。無理もない。昨日はいきなり丸めた部活動申請書をぶつけられたのだから。
絢瀬絵里にもプライドはあり、同時にこの音ノ木坂学院最上級生としての矜持もある。彼女には申し訳ないがここは少々キツ目に怒らせてもらおう――そう、決意し、絵里は席を立った。
「講堂使用許可申請書です!! 喰らえェェェェっ!!」
「カシコイッ!!?」
眉間に突き刺さる丸められた紙、星が散る視界に映るは非常にあくどい笑みを浮かべた高坂穂乃果。崩れ落ちる訳にはいかなかった。ここで倒れては隣で行く末を見守る
同時。身の危険を感じた高坂穂乃果は海未とことりの首根っこを掴んで走り出した。
「私達スクールアイドル結成しましたのでライブやります! 講堂使用しますのでよろしくお願いします!」
「そこに直れ高坂穂乃果ァァァァ!!!」
「戯言は聞きませんから!! だって生徒会は! そんなことまで口を出す権限は無いですからね! ファイトだよ!」
「シベリアの氷に沈められるか、私にシベリアの氷で殴られるか選びなさい!!!」
「生憎! 私達はライブをするんですよ!!」
穂乃果は二人の首根っこを掴みながら、校舎の窓ガラスを突き破り、外へと飛び出した。
「へ……!?」
「きゃぁぁぁ! 穂乃果ちゃぁぁぁん!!」
海未、そしてことりの絶叫を聞き流しながら、穂乃果は校舎の壁面へ靴を合わせ、その摩擦で勢いを殺していく。だがそれも数瞬の事で。ふわりと靴底が壁面から離れてしまった。
「ふん!!」
だがそこはご心配なく。赤い帽子とお髭が素敵なおじさまのゲームをプレイし続けてきた穂乃果にとって、この程度の落下の勢いを殺せなくて何がゲーマーであろうか。日頃洋菓子を求めて研鑽を重ねた功夫から成る所謂“発勁”により、着地の衝撃を完全に無へと昇華させた。
幼馴染二人に怪我がないか確認した穂乃果はすぐに次のポイントへと走り出す。
「じゃあね海未ちゃんことりちゃん! このへんは短縮できるポイントだから積極的に時間短縮しに行ってくるね!」
「……ねえ海未ちゃん」
「何ですかことり?」
「ことりの知っている穂乃果ちゃんって、少なくともあれだけ軽やかに走り幅跳びしないと思うんだけど……どう?」
「……ことりの言いたいことは重々承知しています、がそこは言わぬが華というものでしょう。何となくですが」
親友二人のある意味憐憫の視線を背に受け、穂乃果は一年生の教室へと走っていた。
「ここが時短ポイントなんだよ!」
この所謂アニメの第二話はグループ名が決まっていないとか体力がどうとかの話は片手間で終了させられる。どうせ言われなくても明日から毎日アニメ版と同じく体力トレーニングをするのだ。
海未が歌詞担当になる下りはことりに頼み込むことですんなり話は運べた。“おねがぁい!”は最強である。なので、とりあえずは真姫に曲を作ってもらうことに集中すればいいのだ。
「あ、あったあった」
目的地である一年生の教室へ向かう途中、スクールアイドルのポスターの下に置いてあった段ボール箱に手を突っ込み、紙を取り出す。本来ならばもうちょっと飾りつけをした小箱に、かつ『グループ名募集』のような張り紙をしているのだが、実はポスターの前に何でもいいから箱さえ置いておけば勝手にグループ名である『μ's』が書かれた紙が入っているのだ。
「ねえそこの星空凛さん!」
「にゃっ!?」
教室へ入り、今まさに出ようとしている凛の前に立った。あからさまに警戒されているが、それも人見知り故の距離感。穂乃果は深く突っ込む気はない。……誰でもいきなり目の前に立たれれば驚かれるのだが、そこはあえて無視。
「西木野真姫さんは音楽室だよね?」
「は、はい……たぶん、そうです、けど」
「ありがと! じゃ! あ、そこの小泉花陽さん!」
「ぴゃあっ!?」
「私達、頑張るからね!」
「は、はい……応援、してます」
不審者を見るような眼であったが、それはそれ。
ここで語ることはないので、二人を置き去りに穂乃果は走り出した。目指すは音楽室。
「ひゅー!!」
「うえぇぇぇ!?」
立体音響顔負けのフルボリュームハンドクラップでピアノを弾き終えた真姫を讃えながら、穂乃果は入室。ここからが畳みかけポイントである。
「ねえあなたは腕立て伏せ出来る?」
「は?」
「まあ私は片手小指立て伏せ出来るけどね~」
「喧嘩売ってんの!?」
恐ろしく綺麗なフォームで軽く数十回はこなしてみせた穂乃果は真姫へにやついた顔を浮かべる。
「じゃ悔しかったらこれ読んでおいてね! 歌詞だから!」
「ニシキノッ!?」
顔面に丸めた歌詞をぶつけ、穂乃果は音楽室の窓をぶち破り、神田明神へと急ぐ穂乃果。既に海未とことりを行かせ、練習をさせているのだ。この後すぐに真姫はこそこそと見に来るはずなので一生懸命に練習している様をあからさまに見せつけるだけの簡単なお仕事だ。
「あ、海未ちゃんことりちゃんもう良いよ」
「えっと……まだ一時間くらいしか練習してないような……」
「ことりの言う通りですよ! 穂乃果! あなたはこれしきのことで音を――」
「ジャンプ音ならいくらでも聞かせてあげるから! じゃあね! 私には一分一秒が惜しいの!! ぴょいーんぴょいーん!!」
真姫が恐らく希に胸を掴まれ悲鳴を上げたところで、穂乃果は練習を切り上げ、帰宅した。どうせもう見てないのだ。この後はぐっすりと睡眠をとり、明日の楽曲作成を待ちわびるのみ。
「おはよう!」
「ふわぁ……って、うわっ!? お姉ちゃん起きるの早いね……」
「雪穂こそ早いね」
「いや、私はちょっとお手洗い……また寝るよ~ふわ~」
真姫が来るであろう最速の時間に立ち会うために起床し、玄関内で体育座りをしていた穂乃果に雪穂はどんびいていた。何せまだ午前四時である。六時前くらいから待機していればいいのだが、これには理由がある。
照れ屋かついじっぱりの真姫が家に来るのは早朝。ここまでは絞り込めたのだが、来るまでの時間に四時半から六時まで幅があるのだ。ここは乱数調整をするより四時から待っていた方が手間もかからないため、これほど早朝から待ち伏せしていたのだ。
――待つこと約三十分。四時半丁度に、真姫がポストにCDを投入した。
立ち去るタイミングを見計らい、穂乃果はポストからCDを取り出した。最良乱数を引けたことに安堵しつつ、彼女は家を飛び出した。
◆ ◆ ◆
「あの!!! まだ朝五時ですよね!? ねえ穂乃果! 今朝五時ですよねぇ!?」
「早すぎるよ……穂乃果ちゃん……はふぅ」
学校の屋上に、ほのことうみがいた。具体的には敷物をしき、三人の前にはノートパソコンというアニメ第二話の最後辺りで見た光景である。
真姫からのCDを手に入れた穂乃果が取った行動とはごく単純なもので。そのまま家を飛び出し、二人の家に不法侵入をし、叩き起こしただけである。ここで常識ある方々が思うことは『鍵は?』であろうが、そこは高坂穂乃果。
赤い帽子とお髭がナイスなおじさまのゲームをプレイしていれば金づちでドアノブを破壊することなど想像に難くないであろう。
「え? 曲を聴きたいって? もう分かっているよー! じゃあ再生!」
そして流れるは次の話で歌うことになる『START:DASH!!』である。第三話の山場で流れたこともあり、未だラブライブ!RTA界では“癒しタイム”と呼ばれる名曲だ。
「これが私達のきょ――」
「さあ! 練習しよう!」
「話聞いてよ穂乃果ちゃぁぁん!!」
「さあやることやったからエンディングテーマ流れるよ!」
避けることの出来ない
「次は『第三話』だよ! ファイトだよ!」
頑張れ高坂穂乃果! 君の音ノ木坂学院最速回避タイムアタックは、良いペースだ!!!
体験版の文字が抜けましたね(RTA顔)
どんどん駆けていきます
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『第三話』を手早く攻略だ!
「第三話を攻略していくよ!」
ラブライブ!序盤にして屈指の燃えイベントである『START:DASH!!』が流れる所謂神回と名高いこの第三話。ここの目的は『ライブをやる』、たったこれだけである。
シンプルなゴールではあるが、それが今の高坂穂乃果にとっては萎えポイントなのだ。
それだけ第三話の完成度が高いと言ってしまえばそれまでなのだが、穂乃果にしてはいい迷惑である。むしろ削れる隙がある話こそが神回なのだ。
「えー。ということでーライブ当日でーす。ちっ!」
講堂近くの更衣室でめちゃくちゃ機嫌を悪くしている穂乃果がミネラルウォーターを飲んでいた。
「穂乃果、貴方色々と酷い顔をしていますよ」
「どうしてそんなに不機嫌なの穂乃果ちゃん?」
当然振られる疑問愚問。だが穂乃果とて聖人を自負している。迷える子羊からの問いに答えてあげるのも立派な走者のあるべき姿であろう。
「今日まで特に時間短縮できるポイントなかったから不機嫌になってただけだよ! けど!!! ようやく待ちに待った時間短縮イベントなんだよ! ということで二人とも衣装はもう着たね?」
そこには既にライブ用の衣装を身にまとったことほのうみ。先程第三話を攻略するなどのたまったが、実はこの回の佳境であるライブシーン直前なのだ。
この話まで読んで頂けた読者諸君ならば既にお察しだと思うが、この物語のコンセプトは“最速クリア”である。このライブシーンまで多少のドラマがあったのは既にご承知の通りであろう。だがそういう過程を求めるのならば、ぜひ平行世界にいる高坂穂乃果
「え、ええ……ですが、やはりこの衣装はその、スカートの丈が……」
「大丈夫だよ! 海未ちゃん足細いし!」
「それもっと前の話で聞かなかければならないセリフの気がするのですが!?」
「……何だか海未ちゃんさっきまで緊張していたように見えたけど、今はほぐれた感じがするね!」
自然と海未が笑っていた。先ほどまではライブまでの緊張で強張っていたというのに、だ。
もしやこれを狙って自分の親友はあんな事を――ついことりは穂乃果を見やるが、親友は既に海未へは目もくれずに何故かハンドクラップ数回とタップダンスを行っていた。
これがライブ終了後に続いていくことは今のことりには分からなかった。いいや、今後も恐らく分かることはないだろう。
「さあ、行くよ!」
「ってあれ? 穂乃果ちゃん、どこ行くの? まだライブの時間じゃないよ?」
突如、穂乃果はことりと海未を連れて舞台まで歩いていく。まだ緞帳も降ろされていない講堂には人一人居らず、ヒフミトリオもまだ集客中なので音響その他諸々もまだ機能していない。
そんな舞台の真ん中に、三人は立つ。
「世の中そんなに甘くない! ひっくえっぐ……!!」
「穂乃果!? 何でいきなり泣き出すのですか!?」
すると、ばたばたと音をあげ講堂へ突入してくる小泉花陽がそこにはいた。
「え、もう!? あ、あれ~!? ライブは~!?」
「ええ、花陽ちゃん!? 何でそんなにわざとらしく入ってきたの!?」
事態は目まぐるしく動く。ことりが驚いている間にヒフミトリオがこれまた慌てたようにそれぞれの配置に付き、トントン拍子で用意されるステージ。
事前に目を通しておいた本来の台本の一つに、『世の中そんなに甘くない』と言ったら小泉花陽が入ってくるように、というものがあった。本来の流れでは緞帳が上がった後に言うセリフであるが、穂乃果はその動きに含まれている
「もう穂乃果! 台本と違うでしょ!」
「何だか嫌な予感して戻ってきたらこれだもん!」
「ほらー小泉さんも全力疾走して息切らしてるよ」
ヒデコ、フミコ、ミカがそれぞれ穂乃果へ文句を言いながら、もういつ始めても良い状態になった。穂乃果的にもいつまでもまごついている訳にはいかなかったので、友人たちの手際には感服するばかりだ。こちとら遊びでやっている訳ではない。
「じゃあ海未ちゃんことりちゃん……!」
海未とことりは思考を切り替えた。そうだった。これから始まるのはファーストライブである。観客は少ないが、それはここで立ち止まる理由ではない。親友に応えるように、二人は今まさに歌う準備を終える――。
「ちょっと“やり終えたぜー”って感じで私に寄り添ってもらっていい?」
「え、えと」
「早く! お願いします! お願いしますから!」
「ええ……と、そこまで言うのなら」
「ありがとう! じゃあ音楽は言ったタイミングでお願い!」
海未とことりが訝しげにしつつも、穂乃果へと寄り添った時点で曲は流れた。しかももう曲が終わる所、具体的には最後の余韻となる後奏である。そうなった途端、また海未とことりは己のキャパシティを越える出来事に立ち会うこととなった。
これまた慌てたように講堂へ入ってくる不特定多数。この高坂穂乃果の物語を読んでいる者に対して今更登場人物の説明などむしろ失礼に値するのであえて何も語ることはない。そう、後のμ'sとなる者たちが予定とは違うことに戸惑いながらもついに集結したのだ。
「はい曲終わったよー! 皆拍手ー!」
拍手を急かすと、小さいながらもはっきりとした称賛が穂乃果達へ贈られた。実際まだファーストライブのラの字すら行っていないのに、それでも何故かやった気になるから不思議である。
「ことりちゃん海未ちゃん、私達はやったんだよ? そんな気がしない? いやするはずだよ? ファイトだよ?」
「そ、そう言われると何だかやった気が……」
「私も……何だか一仕事終えたような気がしてきました」
もはや悪質ともいえる洗脳でことりと海未に達成感を植え付けていると、絢瀬絵里がやや小走りで階段を下りて来た。
「はぁはぁはぁ……! ちょ、ちょっとまだ時間じゃないでしょ!?」
「この辺は歌うだけなので飛ばせるんですよ! とりあえず煽ってください! 早く私達を煽ってくださいよ!」
ここは穂乃果の指摘通りであった。歌うことで絵里によるイベントが始まる。つまり、
「……えーと、コホン。――――どうするつもり?」
「やりたいから続けます! いつかここを満員にして見せます!」
本来では約五十秒に渡る決意表明であったがこれはタイムアタック。言いたいことを簡潔にまとめることで早々とEDテーマ『きっと青春が聞こえる』を流した。ここで第三話は終了である。
次はまきりんぱな加入回。ここも早々と駆け抜けることを決意に秘め、穂乃果はとりあえず
「次は第四話だよ! ファイトだよ!」
頑張れ高坂穂乃果! 君の音ノ木坂学院最速回避タイムアタックは、良いペースだ!!!
ぬーん
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『第四話』と『第五話』を攻略だ!
「第四話! まきりんぱなを攻略していくよ!」
ライブ翌日の昼休み。ことりと海未を引きずり、辿り着いたのはアルパカ小屋。珍しさの塊ともいえるこの小屋には一人の飼育員がいる。いち早くその情報を収集していた穂乃果は物陰から目的の人物を待ち伏せしていた。
本人の気質なのか、待つこと数分で彼女はやってきた。
「はーなよちゃぁぁぁん!」
「ひいっ!?」
「ライブに来てた花陽ちゃんだよねぇ~!?」
「は、ははははは、はい! そうです!」
やり取りの一部始終を見ていたことりと海未の感想は共通していた。それも悪い方向で。
「穂乃果! 小泉さんが怯えてますよ!」
「あ、ごめんごめん! ついテンションが上がっちゃったよ!」
すかさず花陽の手を取り、穂乃果は一言。
「アイドルやりませんか!?」
「え、えっと……」
「じゃ! 行こうかことりちゃん海未ちゃん!!」
ここは先制攻撃。言いたいことだけ言ってさっさと穂乃果はその場を後にした。正直、これでもうこの第四話クリアに必要な要素の九割を達成したと言っても過言ではない。
「正直どうして今お昼休みに屋上にいるのか分からないのですが……」
穂乃果達こと『μ's』は屋上で練習をしていた。というより本来ならばこの時間に練習はしないのだが、あえてしていた。何せ今にゲストが来る。
「あの! ちょっとよろしいでしょうか!?」
凛と真姫が、花陽を連れてやってきた。今の穂乃果にとっては鴨が葱を背負って来たような気持であった。ことりにも海未にも見えないような角度で穂乃果は口角を吊り上げる。それはもうニンマリと悪どい笑みで。これが偶然ならばもう少し可愛げのある笑顔の一つでも浮かべられるのだが、これは紛れもなく
本来ならこの第四話は、西木野真姫、星空凛との交流を通して小泉花陽が勇気を振り絞ってμ's加入の申し出をするまでの描写が丁寧に描かれておりファン屈指の回と名高い。――が、これはタイムアタックである。コンマ一秒単位での世界での戦いだ。生憎とそこに高坂穂乃果は関わっていないのでザクザクとカットしていくスタイルだ。
「もう! いつまで迷ってるの!」
来た、と穂乃果の眼が光る。
凛と真姫が花陽に対して最後の気合を入れるシーンだ。ここまで来るともう貰ったようなもの。穂乃果は今か今かとその時を待つ。
「頑張って! 凛がずっとついててあげるから!」
「私も少しは応援してあげるって言ったでしょ」
「私も乱数調整頑張ったんだから早く言って欲しいよ!」
「こ、高坂先輩!?」
いつの間にか隣に来ていた穂乃果が逃げそうになる花陽の肩をガッシリと掴む。
「ううん。逃げなくても良いんだよ? さあ、言ってごらん? 私はその言葉をずっと待ってたんだよ! …………主に調整の苦労的に」
紆余曲折あり、花陽はついに言った。勇気を振り絞ったのだ。だが悲しいかな、穂乃果には逆に言わなかったらどうしようというレベルで分かっていたので、特に感慨は無かった。この一連の流れにカタルシスを抱く方々がいたら深くお詫び申し上げたい気持ちになるが、これはタイムアタック、仕方がないのだ。
「このまま第五話も攻略するよ! 今日は矢澤にこ先輩をゲットだぜ!」
μ'sもこれで六人。あと三人でμ'sが揃うという山場を越えることが出来るので、今日は張り切って矢澤にこ狩りとしゃれ込むことにした。
「ということで皆、ハンバーガー食べに行こう!」
「はぁ? 何言ってんのよ練習はどうしたのよ」
「そうですよ。いくら外が曇りだからと言って、端からそう決めてどうするのです」
穂乃果が言えば、ストッパー枠の真姫と海未が声を上げる。そして今回はことりもそれに倣う。
「穂乃果ちゃん。そうやってふざけていたらまた『解散しろ~』って怒られちゃうよ?」
ああ、知っている。今朝とうとうエンカウントした矢澤にこの件である。進行上仕方がないとはいえ、デコピンを頂くことの屈辱とは言葉を尽くしても語り切れない。だが、穂乃果はこのことに関してはもう憤ることはしない。
どうせこの後、にこを捕まえるイベントがあるのでその時に泣き喚かせればいいだけの話なのだ。
「大丈夫大丈夫! きっとまた会える気がするから! ということでほいっ」
指を鳴らすと途端、雨が降り始めた。穂乃果以外の眼からはまるで穂乃果が降らせたように見えてしまうのだが、そこは安心して欲しい。高坂穂乃果は断じて魔法使いなどではない。
ここでこの物語を見守っている方々の誤解を解いておくことにする。『ラブライブ!』第二期の雨を止ませるというシーンは穂乃果が直接操ったわけではない。いくら穂乃果でも天候を弄ることは不可能だ。そう、あの感動的なシーンの前日に乱数を操作し、あの時間に雨が止む日を選んだだけに過ぎない。
これも、それをなぞっているだけに過ぎない。
「ハンバーガーを食べに来たよ!」
席を取り、注文もし終えるや否や、穂乃果はいきなり立ち上がった。
「穂乃果?」
軽く手をあげるだけで海未の呼びかけに応え、穂乃果はそのまま自分たちが座っている隣の席へと移動した。
「へーい音ノ木坂学院三年生の矢澤にこ先輩こんにちはぁぁぁぁ~~!!」
「んなっ!?」
馴れ馴れしくにこの隣の席に座り込む彼女は、傍から見ればいわゆる
にこはにこで完全に出鼻をくじかれたのか絶句していたが、そこで止まるつもりはない。更に追い打ちをかける事を選択した。
「食べたポテト返してよ!」
「まだ食べてないわよ!」
そして始まるにこの演説。ここは適当に聞き流し、とりあえず解放してやった。追いかけもせずに見送った穂乃果は今日は帰宅をした。その前に、とある打ち合わせだけをして。
◆ ◆ ◆
「あの、穂乃果ちゃん……なんで廊下の影に隠れてるの……?」
「先輩ってたまに良く分からなくなるにゃー」
「しっ! もう来るから! 気づかれるから! 真姫ちゃんと海未ちゃんと花陽ちゃんは打ち合わせ通り後ろから来てね。私とことりちゃんと凛ちゃんで前は塞ぐから!」
ストップウォッチで測ること数分で、目標はやってきた。だがすぐには飛び出さない。獲物の前で焦るなど三流のすることだからだ。しっかりとタイミングを見計らい、号令を出す。
「は!? ちょ、ちょっと何よあんた達!? いきなり何なのよ!?」
「いやぁこうしてもらわないと話聞いてもらえないと思って! アイドル研究部長さん矢澤にこ先輩?」
「の、希が話をしたのね。それならそうと――」
「まだ聞いてないですよ? ただ生徒会長たちからその話されると長いので言われる前に決着つけます!」
にこの抗議も受け付けず、素早くアイドル研究部室の扉を開き、そこに放り込む。いきなり六人が一人の女子生徒を拉致し、入室していく様はまるで悪質な犯罪集団を思わせるが、そこには一切触れないことにした。というより、穂乃果を除くメンバーがあまりにも罪悪感に打ち震えており、考えないようにしたのだ。
「で、何の用? 一応話だけは聞いてあげるわよ。話だけは」
憮然とした表情で交渉を受け入れてくれた時点で既に勝ちは決まった。
「あれぇ? そんなこと言って良いんですか?」
「……何が言いたいのよ」
穂乃果の物言いの根拠が分からず、他のメンバー達はそれぞれ顔を見合わせるばかり。大体よくもそんな数回しか会話していない人相手にそういった態度に出れるのかが分からないのは内緒である。
だが、それは次の彼女の発言で明かされることとなった。
「最近私、可愛い子達と知り合ったんですよね」
「は? あんた何言ってん――」
「虎太郎くん、こころちゃん、ここあちゃんって子達なんですけど……可愛いですよね」
その三人の名前が出た瞬間、にこは固まった。どうして穂乃果の口から出てくるのかも分からなかったが、それよりも重要なのは今この瞬間にその名前が出て来たことであった。にこだって馬鹿ではない。考えられる状況に青ざめていく。
「うちの弟に妹たちよ! 何であんたが知ってんのよ!?」
「偶然お話出来てそこから意気投合しちゃって! えへへ」
「どうするつもりよ……!?」
「にこ先輩、落ち着いてくださいよ。私達はただ、にこ先輩とお話したいだけなんですから」
いや
――というより、下手に口を出せば犯罪に加担しているような気がして誰も前に出れなかったのだ。
「にこ先輩、私達はどうすれば良いでしょうか?」
「はぁ? なんでそんなこと私に聞くのよ?」
「だって、音ノ木坂アイドル研究部所属μ'sの
「え……?」
「私達にはにこ先輩が必要なんです! だから、お願いします!」
気づけば他のメンバーも頭を下げていた。ここでようやく穂乃果の真意を理解できたのだから。同時に恥ずかしく感じていた。まさか犯罪者の誕生に立ち会うのかと内心びくびくしていたが、こういう話ならば諸手を挙げて賛同したい。
「……あんた、最初からそのつもりで。私に話を聞かせるためにわざとあの子達の名前を出したのね」
「そうですよ特に何かしようと思っていたわけではないですよあえてですよあえて名前出しただけなんですからー」
「おい目ぇ合わせてその台詞喋りなさい」
ついに加入した七人目。今回は第四話と第五話を同時にこなせた。それもこれも端折れるところがたくさんあったからだ。これからもどんどん端折っていく。
目指せ最速タイム。六話は恐らく一瞬で終わるよ! 頑張れ高坂穂乃果! 君の音ノ木坂学院最速回避タイムアタックは、良いペースだ!!!
スーパーロボット大戦V面白いですねぇ(目逸らし)
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『第六話』と『第七話』を一瞬で攻略だ!
「第六話だよ! ファイトだよ!」
ここで第六話をおさらいしておこう。
この回は主に二つのイベントで構成されている。一つ目は各部のPV撮影、そして二つ目はμ'sのリーダー決めである。
そこで穂乃果は悩むこととなった。PVは白目剥いてカメラの前にいるだけで良い。何ならノー映像、ノー音声の動画を提出するぐらいでちょうどいい。出したという結果が重要なのだ。過程は後からついてくる。
となれば、重要なのはμ'sのリーダー決めであろう。このリーダー決めというのはにこが色々と皆に勝負を吹っ掛けて、最終的には穂乃果がやっぱりリーダーにふさわしいよねという結論に終わるという流れである。
つまり、この第六話はもう終了したようなものだろう。
「私がリーダーで良いよね~!?」
『異議なーし!』
これでもう第六話終了である。
にことはリーダー決めをさておいて、唐突に妹と弟の話題で楽しくお話ししたかったのだが、なぜかその話をすると『あんたがリーダーで良いです! 文句ありません!』というありがたい言葉を掛けてくれたのだ。これで特にこの回を終えることに不安はないだろう。
「ということでこのまま第七話突入だよ!」
翌日、穂乃果達は理事長室前へと集結していた。スクールアイドルの甲子園たる『ラブライブ』に出場するためである。ここで重要なのは最初の出だし。
「穂乃果ちゃん、お母さんのとこにいきなり行くだなんて……」
「え? 目指さないの? ラブライブ」
「そ、そそそ、それはぜひ……! けどけどけど! やっぱり私達は……」
「大丈夫だよ花陽ちゃん! むしろさっさと行かないとどんどん話をしづらくなっちゃうよ!」
まだ踏み切れない花陽を言い包め、ひとまず生徒会長もいるであろう理事長室の扉をノックすることにした。
「コンコンコンコンコンコンコン!! 失礼しまぁぁぁぁぁす!!!」
「うるっさいわねぇ! 何なんですかいきなり!」
鬼の形相で絢瀬絵里生徒会長が出てきたが軽く無視をし、穂乃果は理事長の元まで歩いていく。
「理事長! 私達はラブライブに出場します! 認めてください!」
「良いですよー」
「ちょっと待ってください理事長!!」
内心舌打ちしたが、そこは紳士ならぬ淑女高坂穂乃果。穏便に事を済ませるため、あえてにこやかな笑顔を作った。
「何ですかー生徒会長? 私は今、理事長とお話しているんですけど~? その辺ちょっとだけ読み取って欲しかったなぁと思います。ファイトだよ?」
「表出ましょうか高坂穂乃果さん」
「ちょ、ちょ! エリちストップ! 高坂さんも煽らないでやって!」
「先輩、上級生ですよ?」
真姫が呆れていた。何だか以前自分が言われたような気がしたのだが、今の状況を見るとどうしても言いたくなってしまったのだ。
「ちっ。でも! 理事長から許可貰ったのでもうこっちの勝ちで~す!」
「一々煽らないと気が済まないのかしら……!? 大体あなたは――」
「ごめんなさい! 言い過ぎました。謝りますよ」
「えっ、え、ええ……」
「でもこっちだってタダで許可がもらえる訳ではないんですよ。具体的には期末試験で一人でも赤点出たら出場は認められないんですよ? そこら辺は読み取って欲しいですね。ファイトだよ?」
「高坂穂乃果ぁ!!」
ファイトだよ、という単語に込められた煽る力は一体何なのだろうか。絢瀬絵里は今過去史上最高に“腹が立つ”という感情に支配されたことはない。
だが、希の無言の肩叩きで何とか感情を取り戻すことは出来た。そうだ、冷静に対応しなければならない。自分は生徒会長なのだ。すべての行動は学校の為に。
「……えーと、良いかしら?」
「はい理事長!」
「よく私が言おうとしていたことが分かりましたね……」
「期末試験が近いからそうかなぁ~って!」
「ええ、まあ、そうです。一人でも赤点を出したら出場は認めませんからね」
「分かりました! じゃあ皆行こう! 勉強の時間だよ!」
ここからはしばらく穂乃果は積極的に出る場面がない。――つまりイベントスキップが出来るのだ。この物語を見守ってくれている方々には何を言っているか分からないだろうが理解は出来ていると確信し、穂乃果は断腸の思いでスキップを選択する。
「何だかテストが終わったような気がする! ということで次のイベントを発生させるために理事長室を覗きに行くよ!」
スライディングの体勢で廊下を滑る穂乃果の姿を、生徒たちは絶対に目を合わせない。余りにも奇怪なスタイルだったので何だか見たら呪われそうな予感がしたのだ。
「音ノ木坂学院は来年より生徒募集を止め、廃校とします」
ようやく第七話終了のゴールテープを切ることが出来た。これで第七話も終了することとなる。
ここで思い出していただきたいことがある。この物語のタイトルを。『高坂穂乃果の廃校回避RTA』。RTAの部分はさておいて、これは廃校回避までのタイムアタック。
つまり、次回で最終回なのだ。
頑張れ高坂穂乃果! 君の音ノ木坂学院最速回避タイムアタックは、ついに終わりを迎える!!
次回最終回!
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最終話
「廃校!? ついに来た! ついに来たのですね!」
「高坂穂乃果!?」
絵里の言葉を軽く無視し、穂乃果はずんずんと理事長へ詰め寄る。
「廃校ですね?」
「い、いえ……まだ確定ではないですけどね」
「分かりました! じゃあ明日でどうにかしてみせますとも!」
本来ならば一週間や二日で、などと抜かす場面だがそんな後ろ向きな発言をするつもりはない。一日だ。一日あれば事足りる。
「じゃあ行きましょうか生徒会長さんよぉ!」
「ちょ、あなた一体誰なの!? 高坂穂乃果よね!? ねえ高坂穂乃果よね!?」
肩に腕を回し、絵里を引きずっていく様はさながら
屋上へと連れて行った穂乃果は一言こう告げる。
「さあ稽古付けてください! 生徒会長!」
「な、なに言ってるのよ貴方!?」
「お願いします! もう生徒会長しかいないので! さあ! さあ! さあ!!」
皆には無言でただ絵里を見てもらう事を指示している。この手のタイプは口でベラベラ喋るより、力強い眼をしておけば落とせるものと相場が決まっているのだ。
「お願いします! そのバレエ仕込みの腕前で私達を鍛えてください! お願いします!!」
「最近思ったけどあなたってすごくごり押しが上手いわよね……」
要は折れたということである。時間が惜しかった穂乃果はすぐに絵里へ練習を促した。
本編では何やら長い練習シーンが挿入されていたようだが、実はあれはアニメ向けに編集されたイメージ映像である。実際は某野球サクセスゲーム並みの恐ろしく手軽な練習の末にダンス能力が向上するのだ。友情努力を求めていた人たちには大変申し訳なく感じるのだが、そこはタイムアタック。ぜひご理解願いたい。
「生徒会長……ううん、絵里先輩!」
屋上から決して逃がさないように絵里を取り囲む七人。さながら八話の終盤を彷彿とさせる。さりげなく希もその輪を遠巻きに見守っているのを見逃さなかった穂乃果は状況が整ったことを知る。
「μ'sに、入りませんか!」
「……何を言っているの、私は……」
「生徒会長、ううん絵里先輩。私、すごく可愛い子と知り合ったんですよ」
「可愛い、子?」
「はい! 亜里沙ちゃんっていうんですけど、今たしかお家で一人ですよね?」
にっこりとそれはもうにっこりとした笑顔で穂乃果はその子の名前を挙げた。だが生憎と逆光でその可愛らしい笑顔が良く見えなかったのは残念と言えるだろう。
ゆらりと、絵里の隣へ歩いていく。
「貴方、どうしてそれを……」
「亜里沙ちゃんから聞いたんですよ! いやぁお家に一人! 一人って……怖いですよね」
「どうするつもり……!?」
「どうって……私はただ亜里沙ちゃんの話をしただけですよ? 私がしたいのは絵里先輩から受ける練習です!」
言葉を失った。同時に穂乃果以外のメンバーを見やる。そこには皆等しく、同じ意思を感じられた。今まで自分がしてきたことについて何一つ恨み言を言わないばかりか、それどころか迎え入れてくれている。
こんなこと、あり得るのだろうか。
「エリち」
「希……」
感動的な場面であるが、大体知っていた場面なだけに穂乃果の表情だけは非常に白けていたので、さっさと切り上げる意味を込め、絵里へと手を差し出した。
「さあ時間がもったいないです! 行きましょう!」
「……ええ!」
良い話風に切り上げ、シーンはグラウンドのライブ会場へと移った。いつこれほど大勢の客を集めたのかも分からないが、そこはイベントスキップ中になんやかんやがあったのだろう。気にするほどではない。
舞台にはライブ衣装に身を包む九人の姿があった。良い感じの練習ムービーでこの物語を見守ってくれている方々には努力が伝わっていることだろう。
そんな皆へ伝えたい、見てもらいたい。穂乃果はそれっぽい演説を終えたあと、その努力の結晶である曲名を宣言した。
「それでは聴いてください! 『僕らのLIVE 君とのLIFE』!」
――現時点を以て、廃校回避が確定した。それはつまり、高坂穂乃果がゴールテープを切れたということで。
◆ ◆ ◆
気づけば穂乃果は一面花が咲いている場所に立っていた。どこを向いても花が咲いている平原がどこまでも続いているだけのこの場所。
一度強く風が吹くと、花びらと共に、自分と同じような髪の色をした女性が佇んでいた。
「や、また会ったね」
「あなたは……」
「あぁ、分からないか。そりゃ当然っちゃ当然か」
「会ったことが……あるんですか?」
「遠い昔や、近い未来でね」
「えっと……」
穂乃果がどう答えようか悩んでいると、女性は近くの湖と、そして隣に何故かある木製の扉を指さした。
「どちらかを選べるよ。扉を開けば本来あるべき時間の流れへと帰ることができ、湖を越えればまた時間への挑戦が出来る。けど、扉を選べばもう二度と挑戦は出来ないってのは言っておくわね」
そう前置き、女性は穂乃果へ問うた。
「どっちにしたい? ここはどこでもあってどこでもない場所。ま、時間ならたっぷりあるしゆっくり考えると――」
「もう決まっています」
一歩前へ出ると、穂乃果は往くべき場所を視界に入れる。
女性に驚きは無かった。むしろこうでなくては、という思いすら抱いていた。なれば、それを笑顔で見送る以外、何をしてやれようか。
「今回も、答えは見つかったようだね」
答えは当然聞かない。聞くことすら失礼とも言えよう。だから女性はこう添えた。
「眼を閉じて」
「こう……ですか?」
「また飛べるよ」
「飛べる……? ――っ!!!」
走り出した穂乃果の背中へ女性は最後の言葉、激励を飛ばした。
「飛べるよ! 何度だって飛べる! あの時だって、そしてこれからも!!」
「行けぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
何度も走る。走り続ける。いつか自分が納得するまで、納得できるまで。過去も未来もそして現在も。挑戦をし続けられるのならし続けたい。
誰に言われた訳でもなく、穂乃果は飛んでいた。目の前が眩い光に包まれていく中、穂乃果は確かにあの女性の声が聞こえていた。
――また、会えると良いね。
一人の少女がいた。誰にでも等しく分け与えられ、また等しく過ぎていく時間に挑戦をし続ける心はまさに鋼鉄。一秒を重んじ、一秒との掛け替えない友人である彼女はこれからも納得し続けるため、立ち向かうことを止めないだろう。
その先にいる女性に胸を張って『もう良いです』と言える日が来るまで、この身の研鑽を重ねていく。
これは、そんな高坂穂乃果のいつ終わるともしれない、そしてこれからも楽しく続いていくRTAのほんの一幕なのだろう。
~高坂穂乃果の廃校回避RTA 完~
さて、くっそ早く終わりました。
こんなにも早く終わってしまうと悪質な焼き増しと思われるかもしれませんがこれもRTAということでぜひともご了承願います。
こういうRTAは長々とやるのもなんだか違う気がするのでこのRTAは終わりになります。
これを読んでいただけた方々が今度は違うチャートを開拓してくれることを祈り、この作品を〆させていただきたいと思います。
短い時間でしたが、ご愛読ありがとうございました!
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