天使と悪魔の友達 (ほにゃー)
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1話

世間一般的に天使と聞いて、殆どの人は背中に白い翼が生えていて、頭に光る輪っかが浮いた女性を思い浮べるだろう。

 

世間一般的に悪魔と聞いて、殆どの人は背中に蝙蝠の様な翼が生えていて、頭に角が生えた恐ろしい顔の種族を思い浮べるだろう。

 

天使は神の使いで、善なる存在で、悪魔とは悪の象徴である。

 

俺の貧相なおつむではゲームや漫画で得た知識だとその程度の認識しかなかった。

 

だが、俺は自分のその考えが間違っていたことを思い知った。

 

天使とは意外と悪魔的な考えを持っていて、悪魔は意外と真面目だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ヤベェ。もうこんな時間だ」

 

薄暗い部屋でパソコンを弄ってた手を止め、そう呟く。

 

「おい、ガヴ。もう七時だぞ。そろそろ学校に行く準備しないと」

 

俺は背後で人のベッドに横になり、同じネトゲをしてる少女、天真=ガヴリール=ホワイトに声を掛ける。

 

「学校~?いいよ、今日は休みだから」

 

「勝手に学校を休みにするな。とにかく、俺はもう落ちるからな」

 

そう言って、やっていたネトゲをログアウトし、パソコンの電源を落とす。

 

「てか、毎日毎日学校から帰ってくるたびに、俺の部屋に来てネトゲするの止めろよな」

 

「いいじゃん。直接会ってプレイする方が、連携取りやすいし、ここなら晩飯タダで食えるし」

 

「人の家で実家並にくつろいでるんじゃねぇよ」

 

そう言い、俺は鞄に教科書を詰めて、制服に手を伸ばす。

 

「着替えるから早く自分の部屋に帰れよ。そして、学校に行く準備しろ」

 

「ちぇ~、分かったよ」

 

そう言い、ガヴはしぶしぶとパソコンを手に取り、部屋を出て行く。

 

「…………アイツ、ちゃんと学校に行くのかな?」

 

制服に着替えつつ、そんな事を考える。

 

仕方ないし、家出る前にガヴの部屋に寄るか。

 

制服を着替え終え、簡単な朝食を作りて食べ終えると、家を出る。

 

俺が住んでるのはごく普通のアパートで、ガヴは俺の隣の部屋に住んでる。

 

「あれ?ヴィーネ?」

 

「あ、蒼空(ソラ)。おはよう」

 

「ああ、おはよう」

 

家を出ると、ガヴの家の前に俺とガヴの友人である少女、月乃瀬=ヴィネット=エイプリル、通称ヴィーネが居た。

 

「ガヴを連れに来たのか?」

 

「そんな所。だけど、さっきから全然反応なくて」

 

「アイツ……やっぱり学校に行く気ないな」

 

「仕方ないわね」

 

ヴィーネはそう言い、ガヴには内緒で作った合鍵を使い、扉を開ける。

 

玄関には山積みにされた雑誌が置かれ、廊下はゴミ袋で溢れていた。

 

そんな中を歩き、俺とヴィーネはリビングの扉を開ける。

 

そこでは、ガヴが床に横になりながらネトゲをやっていた。

 

やっぱり学校に行く気なかったか………

 

そんなガヴに呆れながら、ヴィーネは三叉槍を取り出し、LANケーブルをぶった切る。

 

「おおおおおおお!?なっ………な!」

 

「まったく、朝っぱらから何やってるのよ、ガヴ。だらしないわね、天使がそんなんじゃダメなんじゃない?」

 

「ちょ、ちょ、ちょっとヴィーネ、なんてことしてんの!?今、ヴァルハラ王国が危機的状況なんだよ!?」

 

ガヴはそう叫んで、ヴィーネに詰め寄る。

 

「は?ヴァルハラ?なんのこと?」

 

「ネトゲだよ。ヴァルハラって国を舞台にしたRPG」

 

「ソラの言う通り!今、ヴァルハラの民がモンスターに襲われて大変な事になってるんだから!天使ともあろう私が、民を見捨てることになるなんて……罰当たりもいいところだよ!」

 

「それ以前に、天使とあろう者が朝からネトゲやってるんじゃないわよ」

 

違うんだよ、ヴィーネ。

 

本当は昨日の夜からずっとだ。

 

「それより、学校に行く支度しなさいよ。今日も休むのはまずいんじゃない?」

 

「いいよ、学校とか今日休みだから」

 

ガヴはそう言って、新しいLANケーブルを繫ぎ、ネトゲを再開する。

 

「まったく、あんた最初に会った時」

 

『全ての方を幸せにするのが私の夢なんです!』

 

「って言ってたじゃない」

 

「はぁ?そんなこと知らないよ。人類とか勝手に滅んでくださいって感じ?」

 

(こいつ本当に同一人物か?)

 

(こんなのでも天使なんだな……)

 

そうガヴは天使なのだ。

 

別に、○○ちゃんマジ天使とかの意味ではなく、正真正銘の本当の天使だ。

 

最初であった時は、品行方正で金髪碧眼のサラサラのロングヘアーが似合う美少女だったのだが、今ではネトゲに嵌り、自堕落とした生活を送ってるダメな奴だ。

 

そして、俺の隣にいるヴィーネも人間ではない。

 

ヴィーネは悪魔だ。

 

だが、真面目で困っている人を見ると助けてしまうなど一般的イメージの悪魔からはほど遠い性格をしており、とてもいい奴だ。

 

本人は悪魔らしくないことを気にしているが………

 

お前ら二人とも、中身入れ替えるか、立場変わればいいんじゃね?

 

「私は下界に来て決めたことがあるの」

 

「何を?」

 

「私は天界には帰らない。下界でずっとこの生活を続けて行く」

 

「「はっ!?」」

 

「人間たちの娯楽に触れて気付いたんだ。展開に居た頃の優等生な私は偽りだった……本当の私は怠惰でぐーたらな救いようのない駄目天使、そう、駄天使だってことにね!」

 

言い切りやがった!

 

「そんなわけで、人間が幸せになろうが不幸になろうがご自由に。私は学校には行かないから」

 

「ここまでハッキリ言われると、清々しいわ」

 

「下界にもこういう人間居るから、あながち笑えないな。てか、ヴィーネ、そろそろ行かないと遅刻するぞ」

 

「そうね。じゃあ、私とソラは先に行くけど、ガヴも来なさいよ」

 

「気が向いたらねー」

 

そう言うガヴに背を向け、扉を開けようとすると、ヴィーネがガヴの方を振り返る。

 

「あー、そうそう。学校に来る来ないはガヴが決めることなんだけどさ、だらけ過ぎて天界に強制送還される………なんてことにならないようにね」

 

ヴィーネはそう言い残し、部屋を出て行く。

 

「じゃ、待ってるから来いよな」

 

俺もそう言い残し、ヴィーネの後を追う。

 

「アイツ来るかな?」

 

「どうかしらね。一応忠告はしといたけど、結局はガヴが決めることだし」

 

本当に悪魔らしくないよな………

 

「ところで、ヴィーネ。昨日の宿題で一つ分からない所があったんだけどさ」

 

「ん?何処?」

 

「ここなんだけどさ………」

 

ヴィーネに宿題の事を教えてもらったり、世間話をしているうちに学校に着いた。

 

教室に行くと、何故か誰かの机の周りに男子たちが集まって手を合わせていた。

 

どうしたんだ?

 

「あそこって、ガヴの席じゃない?」

 

「そう言えば……どうしたんだ?」

 

場所がガヴの席だったこともあり、気になり近づく。

 

机の上には女性物の下着が置いてあった。

 

あれってもしかしてガヴのパ「ちょっ!?ソラは見ちゃダメ!」

 

ヴィーネに思いっきり、顔を掴まれ後ろを向かされる。

 

「ぐおっ!?……く、首が!」

 

首を抑え、蹲ってる間にヴィーネはガヴの下着を回収していた。

 

その後、首の事はしっかり謝ってくれた。

 

やっぱ悪魔らしくないな………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なにやってるのガヴ?」

 

「なんで学校にお前じゃなくて、下着が来てたんだ?」

 

放課後、ガヴの家に行くと、ガヴはベッドの上で、布団に包まっていた。

 

「まさか、下着だけ学校に来て、出席になると思ってたわけ?」

 

「思ってないわ!」

 

布団から顔を出し、ガヴが叫ぶ。

 

「だって行けるわけないじゃん!私のパンツが高校デビューしたんだよ!?ありえない!」

 

「まぁ可哀想だと思うけど……(自業自得だけど)」

 

「こうなったら……」

 

ベッドの上に立つと、ガヴはある物を取り出す。

 

「見た奴等を全員消すしかない!!」

 

それは角笛だった。

 

「ちょ、それ世界の終わりを告げるラッパでしょ!?」

 

「お前、パンツ見られたぐらいで世界を滅ぼすつもりか!?」

 

「それも止む無し!」

 

「止む無しじゃねぇーよ!」

 

「とりあえず、落ち着けー!!」

 

結局、ヴィーネと俺で必死に説得し、世界が滅亡することはなかった。

 

こうして今日も、俺、天使(アマツカ)蒼空(ソラ)の一日は過ぎて行った。

 



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2話

「ガヴ、そろそろ俺は落ちるぞ」

 

ログアウトの準備をしつつ、俺は背後のガヴにそう言う。

 

「え?まだ八時じゃん?」

 

「今日買い物に出かける予定があるんだよ。どっかの誰かさんが、容赦なくウチに飯を食いに来るから、俺の計算より食料の減りが早いの」

 

「うっ…………」

 

ガヴに嫌み気味に、言いつつ、ネトゲをログアウトし、ノーパソの電源を切る。

 

「だから、お前はもう帰れ。俺はシャワー浴びたら家出るから、それまでに出てけよ」

 

「分かったよ……ま、私もヴィーネと出掛ける用事あるし、少し仮眠取ってから行くかな」

 

「出掛けるって何時からだよ?」

 

「えっと………十時に待ち合わせ」

 

「今、仮眠したら絶対起きれなくなるぞ」

 

「大丈夫だってまだ二時間あるし。それに、いざとなったら寝ないでいくからさ」

 

「たっく………遅刻するんじゃないぞ」

 

そう言い残し、俺はシャワーを浴びに、風呂場へ向かう。

 

風呂から出ると、既にガヴは居なかった。

 

服を着替え、簡単な朝飯を食べ終えて、俺は家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外に出ると、俺はまず駅前の本屋に向かった。

 

「えっと………確か新刊が今日出てるはずなんだけど………おっ、あった!」

 

お目当てのライトノベルの新刊を見つけ、棚に近寄る。

 

「最後の一冊か、ラッキーだな」

 

それに手を伸ばそうとしたら、別の人と手がぶつかった。

 

思わず、顔を見上げる。

 

「あ、蒼空」

 

「あ、サターニャ」

 

そこにいたのは、同じクラスで友人の胡桃沢=サタニキア=マクドウェル。通称、サターニャだった。

 

サターニャはヴィーネと同じ悪魔で、根拠ゼロの自信家だ。

 

悪魔的行為とか言って、様々な悪いことをしているが、俺から言わせてもらうと、しょぼい。

 

誰が見てもしょぼい悪さしかしていない。

 

例を上げると、ペットボトルのキャップを外さずに、ごみ箱に捨てたり、宿題をやってこなかったりだ。

 

「この本、蒼空も買うの?」

 

「ああ、そうだけど」

 

どうやらサターニャもこのラノベがお目当てらしいが、残りは一冊。

 

どちらかが諦めなければならない。

 

「ふ、ふん!べ、別に私はこんな本読まないし!ただちょっと、暇つぶしで読もうかと思っただけ出し………別に本ならなんでもいいし!」

 

そんなに読みたいなら、我慢しなくていいのに。

 

「あ、この本、俺が探してたのと違うな。どうやら、新刊が出る日、間違えてたみたいだわ」

 

そう言い、ラノベをサターニャに差し出す

 

「ほい。サターニャ読んでみたら?これ、結構面白いって有名だぞ?」

 

「そ、そう!そ、そこまで言うなら仕方ないわね!読んであげるわよ!」

 

嬉しそうに本を受け取り、サターニャはうきうきとしながら、レジへと向かっていた。

 

「………本当に悪魔らしくない連中だな」

 

そう呟き、俺は別に欲しかった本を数冊手に取り、レジで会計をした。

 

本屋を後にした後、ゲームショップで新作ゲームのチェックをし、欲しい新作のゲームの予約をしてから、スーパーに向かった。

 

「さて、今日の晩飯は何にしようかな………」

 

買い物カゴを手に、スーパーの中を歩いていると、俺はふとある事を思い出した。

 

「そう言えば、ガヴの奴、カレーが食いたいとか言ってたっけ…………カレーにするか」

 

今日の献立を決め、カレーの材料以外に、必要な物をカゴに入れて行く。

 

「これで買い物は終了っと。早く家に帰って、昼飯にするかな」

 

家に帰ろうと足を進めていると、ヴィーネを見つけた。

 

ヴィーネは一人、そわそわと時間を気にしながら、ぽつんと立っていた。

 

「ヴィーネ、なにしてんだ?」

 

「あ、蒼空」

 

「今日、ガヴと買い物に行くんじゃなかったのか?」

 

「そのガヴが来ないのよ。もう二時間も待ってるのに……」

 

「いや、そこまで待ったら電話しろよ……ってか、もっと早くに連絡しろよ」

 

ヴィーネって真面目過ぎて、本当に悪魔らしくない………

 

「多分、アイツ仮眠取るって言ってそのまま寝てるだろうし、家まで迎えに行ったらいいんじゃないか?」

 

「………ああ、そっか」

 

気付かなかったのかよ…………

 

結局、ヴィーネと一緒に家に向かい、ヴィーネはガヴの家に向かい、俺は買った物を家に置きに行った。

 

「……俺も様子見に行くか」

 

二人の様子が気になり、荷物を置くと、すぐに隣に向かった。

 

部屋の中では、ガヴとヴィーネの二人が掃除をしていた。

 

「ガヴ、何があったんだ?」

 

「いや、ヴィーネを怒らせないように、適当に嘘ついたら何故か部屋の掃除をする羽目に……」

 

「どうせ、部屋掃除していて時間忘れてたとか適当なこと言ったんだろ?」

 

「そうだよ。流石は私の(ネトゲでの)相棒」

 

「はぁ~……仕方ないし、俺も手伝う」

 

「悪いね」

 

「悪いと思うなら、日頃から掃除しろ」

 

ガヴが物を片付け、ヴィーネは掃除機をかけ、俺は雑巾で床を拭いていると、ヴィーネがふと口を開く。

 

「しかし、ホント汚い部屋ね。天使ってみんなこんな感じなのかしら?」

 

「失礼な。私だけだっての」

 

「それもどうなのよ………」

 

「しっかし、本当にお前は天使らしくないな。実は、お前天使じゃないんじゃねぇの?」

 

「うむ……その可能性はあるな」

 

冗談のつもりで行ったのに、ガヴはその冗談を可能性があると言った。

 

「お前……本当に天使かよ?」

 

「天使だよ。その証拠に……綺麗な天使の輪っかがあるでしょ?」

 

そう言う、ガヴの頭の上には黒くなっている天使の輪っかがあった。

 

「「真っ黒なんだけど!?」」

 

「あれ!?」

 

「ちょ!?それ大丈夫なの?」

 

「う~ん……どうやら私には堕天の才能があったみたいだ……」

 

それってあったらいけない才能だと思うんだが………

 

「堕天ってちょっとカッコいいし、一度やってみようかな」

 

「アンタ、それ簡単に言ってるけど、それって悪魔になりますって宣言だから」

 

「まぁ、私が天使らしくないのは今更だけどさ………ヴィーネは自分が悪魔らしくないって自覚ないでしょ?」

 

「あー………」

 

思わず納得してしまった。

 

すると、ヴィーネは掃除機を離し、ガヴに詰め寄った。

 

「ど、どのへんが!?」

 

「やっぱ自覚なかったんだな………ほら、世話好きだったり、困ってる人を放って置けなかったり………」

 

「ああ、そうだな。ガヴの世話してるし、学校でも真面目だし、ヴィーネも悪魔らしくないな…………」

 

「ど、どうすればいいと思う!?」

 

悪魔らしくないことに焦り出す、ヴィーネはガヴにそう尋ねる。

 

「それを天使に聞く?ん~、そうだなぁ…………誰か()っちゃえば?」

 

「悪魔かっ!ちょっとは真面目に考えなさいよ!」

 

悪魔かって、悪魔だろ。

 

「だって、悪魔の事なんてわかんないし」

 

「まぁ、それもそうよね………どうすれば………」

 

真剣に悪魔らしくなるのを考えるって凄い光景だな。

 

あ、この本、雑巾掛けするのに邪魔だな。

 

本を退かそうと持ち上げると、その陰からカサカサっと黒い物体が飛び出す。

 

それはGだった。

 

「きゃあああああああああ!!?」

 

Gを見た瞬間、ヴィーネは悲鳴を上げ、下がる。

 

「なに!?どうした!」

 

「ゴッ……ゴゴ……ゴキ……ゴキッ!」

 

「ゴキ?なにそれって………うおっ!なんだこの黒いの!」

 

ガヴはGを見るのが始めてたのか、慌てて飛び退く。

 

「アンタこいつの事知らないの!?これは全ての人々を不幸にするモノ……下界が生んだ過ち(ブラック・ウェポン)!……一たびその姿を目にすると恐怖で夜も眠れない………人間はこいつの存在に日々おののきながら生活してるのよ!」

 

いや、そこまでの脅威じゃ…………確かに、居たら嫌だけど。

 

「ウェポンだが、何だが知らないけど……私の部屋で好き勝手するのは許さん!」

 

ガヴは教科書を丸め、Gを叩き潰そうとする。

 

が、危険を察知され、Gは逃げ出す。

 

そして、ヴィーネの方に向かった。

 

「ヴィーネ、そっちに向かったぞ!」

 

「いやああああ!こっち来ないで!」

 

逃げようとするヴィーネだが、部屋の隅に移動してしまい、逃げ場が無くなる。

 

それでも尚、Gはヴィーネに近づく。

 

「あ……あ……~~~~~こっちに……来ないでええええ!!」

 

ヴィーネは三叉槍を取り出し、Gに向ける。

 

「ちょ!?そんなもの振り回したら……!」

 

ガヴが止める間もなく、ヴィーネは槍を振り下ろし、Gは吹き飛んだ。

 

部屋の中も…………

 

余計に散らかった部屋を見つめ、ガヴはヴィーネに言う。

 

「随分と愉快な空間にしてくれたな。今日は部屋の掃除をしてたと思うんだけど……」

 

「…………あ、悪魔らしく人に迷惑かけて見ました!」

 

「それで許されると思うなよ」

 

結局、ガヴの部屋は天使的な不思議な力で元通りに直った。

 



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3話

「………何してんだろ?」

 

休み時間。

 

俺は自販機で飲み物を買った帰り、俺がお茶を買った自販機とは別の自販機のゴミ箱前で、サターニャが体をくねらせているのを見かけた。

 

「サターニャ、何やってんだ?」

 

「あ、蒼空!聞いて驚きなさい!私は今、世にも恐ろしい悪魔行為をしたわ!」

 

「へー……どんな?」

 

「ふっふっふっ………ペットボトルのキャップを外さないで捨ててやったのよ!どうよ!この悪魔行為!恐ろしいでしょ?」

 

うっわ………凄い地味……

 

そんなこと律儀に守ってる奴なんてそんないないぞ………

 

ここでそのことを教えてやってもいいんだが――――――

 

「そっか。凄い悪だな」

 

「でしょー!」

 

夢を見せてやるのも大事だよな。

 

そんなことを思っていると、ガヴの奴が缶ジュースを片手にこちらへとやってきた。

 

「うげっ!このジュース、まず……!?もっとマシなの作れよな、悔い改めろ」

 

買ったジュースに文句を言い、ゴミ箱へと投げる。

 

だが、缶はゴミ箱に入らず、そのまま地面に転がる。

 

そして、残っていた中身が地面に零れる。

 

ガヴはと言うと、素知らぬ顔でそのままスルーする。

 

「おいコラ、ガヴ」

 

そんなガヴの襟を掴み引っ張りよせる。

 

「うげっ、蒼空……!」

 

「何勿体ないことしてるんだよ。まぁ、お前の金だからそこに文句は言わないが、せめてちゃんとゴミ箱に捨てろ。見ろ、中身が零れてるだろ」

 

「……あーホントだ。じゃ、片付けて置いて」

 

「自分でやれ。手伝ってやるから」

 

「たっく………分かったよ」

 

ガヴが落した缶を拾い、その後零れたジュースの後始末をした。

 

(落した缶を放置するだけじゃなく、中身を残したまま捨てるなんて………あれだけの悪魔行為をコンボでやるなんて、流石我が最大のライバル、ガヴリール……!そして、人間でありながら天使に怯まず、媚を売ることもしない……逆に天使に掃除をさせるなんて……やっぱり、人間界を掌握するにあたって、蒼空が最大の障害ね!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げっ!」

 

教室に戻ると、突如ガヴが手にした紙を見て、声を上げる。

 

「どうした?」

 

「数学の宿題忘れてた………」

 

「マジかよ。あの先生、怒ると怖いぞ」

 

「仕方ないし、ヴィーネにでも見せてもらうか」

 

そう言って、俺の隣の席のヴィーネに宿題を見せてもらおうと交渉に向かう。

 

だが―――――――――

 

「嫌よ」

 

あっさり断られた。

 

「ええええええ!!?なんで!?」

 

「だって、そう言うのは自分でやらないと意味ないじゃない」

 

「言っておくが、俺も見せてやらんからな」

 

「そんな正論はどうでもいいんだよ。私は見せろって言ってるの」

 

「どんだけ上から目線なのよ」

 

「やり方は教えてやるから、自分で解け」

 

ガヴは渋々としてる席に座り、両隣から俺とヴィーネの教えを聞きながら、宿題に取り組む。

 

「ふふふ、無様ね、ガヴリール」

 

すると、横からサターニャが現れた。

 

「宿題をやっているようじゃ、まだまだね。私は大悪魔(予定)サタニキア!地獄を総べる者(予定)!もちろん、宿題なんてやらないわ!格の違いを見せつけてやるんだから!」

 

「で、ここはこうして……」

 

「ふむふむ」

 

「お前ら、少しは聞いてやれよ………」

 

ガヴとヴィーネの二人はサターニャを無視して宿題を続けていた。

 

「聞きなさいよ!」

 

「もう聞き飽きたよ。私は急いで宿題をやらないといけないんだ。邪魔しないでくれる?」

 

「なっ!?うっ……ぐ~~~~~~~~!!」

 

「サターニャも宿題やったら?」

 

「なんだったら、教えてやるからこっち来いよ。やっておかないと、怒られるぞ?」

 

折角なので声を掛けてやるが、サターニャは不敵に笑っていた。

 

「先生が怖くて悪魔がやってられる?人間なんて下等生物、私の敵じゃないんだから!次の授業で私の偉大さを感じるがいいわ!」

 

そのまま高笑いをしながら、サターニャは席に戻っていく。

 

その後、なんとかガヴの宿題は授業までに終わり、無事提出することが出来た。

 

ちなみにうちのクラスの数学担当の先生はスキンヘッドでグラサンを掛けていて、風貌がヤクザに見える。

 

もちろん厳しい先生だ。

 

「宿題のプリント集めるぞー」

 

後ろからプリントを回していき回収していると、サターニャが手を上げる。

 

「はい!」

 

「どうした、胡桃沢?」

 

「先生、私、宿題をやってないわ。わざとやらなかったの」

 

「………ほう、それで?」

 

「そして、それを詫びる気もまったくないわ!どう!?最高に悪魔的な行為でしょ!」

 

その後、サターニャはバケツを持たされ廊下に立たされた。

 

授業中、時折サターニャが泣く嗚咽が聞こえて来たが、完全な自業自得だった。

 

「私よりあの悪魔(バカ)をなんとかした方が良くない?」

 

「なんとかしようとは思ってるんだけど…………」

 

「ホント、ヴィーネって面倒見いいな………」

 



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4話

「おばちゃーん、シャーペンの芯をおくれ」

 

「はいよ、108円ね」

 

「どもー」

 

「すみません、このメロンパン下さい」

 

「はいよ。同じく108円ね」

 

購買でシャー芯を買っていると、隣で一人の女生徒がメロンパンを買っていた。

 

「あれ?ラフィ?」

 

「あ、蒼空さん。どーもー」

 

白羽=ラフィエル=エインズワース。

 

この子もまた、ガヴと同じ天使で、ガヴの同級生でもある。

 

「昼までまだ時間あるけど、腹でも減ったのか?」

 

「これですか?違いますよ。これはサターニャさんへの献上の品です」

 

「サターニャへの?」

 

知り合いだったのか?

 

てか、献上ってなんだ?

 

「まぁ、サターニャに用があるなら一緒に来るか?サターニャ、うちのクラスだし」

 

「本当ですか?では、ご一緒します」

 

献上ってのが良く意味が分からないが、俺はラフィを連れて教室へと戻った。

 

「違うわよ!今日は変な奴に嵌められたのよ!」

 

教室に着くと、サターニャがガヴとヴィーネの傍で騒いでいた。

 

何事かと思う前に、ラフィはそそくさにサターニャの隣に移動する。

 

「私の事ですか?」

 

「……な!?なんでアンタが此処に!?」

 

「俺が連れて来たんだよ」

 

サターニャにそう言いながら、俺も近づく。

 

「蒼空、お前、ラフィエルと知り合いだったのか?」

 

「ああ。言ってなかったが?」

 

「ガヴちゃん、こんにちは。相変わらずやさぐれ可愛いですね」

 

そう言ってラフィはガヴを抱きしめる。

 

「胸押し付けんな」

 

「じゃあ、乗せちゃいます」

 

「殺す……」

 

ラフィがガヴを愛でてる。

 

「えっと蒼空、この人は誰なの?」

 

「白羽=ラフィエル=エインズワース。ガヴの天使学校での同級生だよ」

 

「てことは、天使!?」

 

ラフィが天使であると知ると、サターニャは驚き出す。

 

「優しそうな人ね」

 

「全然優しくないわよ!こんなのを放置してるとか、天界は何してるのよ!!」

 

どうやらラフィの被害に遭ったようだ。

 

ラフィは見た目美少女で優しそうに見えるのだが、実はトラブルや揉め事を傍から見て楽しむサディストだ。

 

俺も偶にだが弄られることがある。

 

「あの、ラフィエルさん」

 

「あ、そう言えば――――」

 

そんな中、ヴィーネはラフィに話掛けようと声を掛けるが、その前にラフィはメロンパンを取り出す。

 

「こんな物を買ってきまして」

 

「あ!それは!?」

 

「サターニャさんに献上したいのですが」

 

「え!?て、天使にしては殊勝な心掛けじゃない!貰って上げるわ!」

 

「本当ですか!?では――――――」

 

すると、ラフィは机に座り上履きを脱ぎ、足をサターニャに向ける。

 

サターニャはいつの間にか正座してる。

 

「跪いて、犬の様に足を舐めたらお渡しします」

 

「………え!?何言ってんの?」

 

「だって得意ではないですか。犬の真似」

 

「得意じゃないわー!」

 

ドSっぷりを発揮するラフィにヴィーネは固まっていた。

 

そんなヴィーネにガヴが話掛ける。

 

「話掛けないの?」

 

「……ちょっと、考えさせて」

 

「まぁ、悪い奴じゃないからさ………」

 



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5話

「あ、やっべ」

 

四時間目が終わった昼休み。

 

いつも通り鞄から弁当を取り出そうとして、その弁当が無いことに気付いた。

 

「蒼空、どうしたの?」

 

「ああ、弁当忘れちまった。仕方ないし、購買でパンでも買ってくるから、先食っててくれ」

 

ヴィーネにそう言い、財布を手に購買へ向かおうとする。

 

「あ、じゃあさ、今日は学食行ってみない?」

 

「学食?」

 

「うん。一度行ってみたいの」

 

「なるほど…確かに俺も興味はあったし、行ってみるのもいいか」

 

「じゃあ、決まりね」

 

席を立ち上がり、隣のガヴも誘おうと声を掛ける。

 

「ガヴ、俺とヴィーネ、今日は学食に行くつもりだけど、お前も来ないか?」

 

だが、ガヴは上の空で髪の毛を弄っていた。

 

「ガヴ、どうした?」

 

「具合でも悪いの?」

 

心配になり声を掛けると、ガヴは溜息を吐いて話し出す。

 

「私たちってさ、人間界に来て暫く経つでしょ。それで、実際来て思ったんだけどさ…………人間ってこんなに沢山いらなくね?うじゃうじゃウゼェ……」

 

友人(天使)に、存在を否定された…………

 

「天使の言葉とは思えない台詞ね……それより、今日のお昼は学食に行かない?」

 

「学食!?あそここそ、人間のたまり場じゃん!そこに自分から行きたいって、ドMなの?」

 

「違うわよ!」

 

「まぁ行ってもいいけどさ、学食ってお金掛かるでしょ?幾らまで出してくれんの?」

 

「なんで奢ってもらう前提なんだよ……」

 

「それと、サターニャも誘おうと思うの」

 

「サターニャも?………そう言えば、サターニャっていつもどこで食べてるの?」

 

言われてみればそうだな。

 

昼休みになると、教室にサターニャの姿は無く、何処かに行ってるみたいだ。

 

幸いにも今日は、まだサターニャは教室にいる。

 

サターニャの方を向くと、サターニャは辺りを警戒する様に確認し、そして何処かへと向かった。

 

「なんか挙動不審に出て行ったな」

 

「追ってみましょうか……」

 

サターニャの後を付けると、サターニャはどんどん人気のない所へと移動し、そして屋上に繋がる階段の前で止まる。

 

そして、階段に座ると持ってきた包の中からおにぎりを出して食べ始めた。

 

まさかのぼっち飯………

 

いや、人気のない所に移動した時点である程度察してはいたが。まさか本当にぼっち飯だったとは………せめての救いは便所飯じゃないことだ。

 

「アイツ、いつもこんな所で食べてたのか……」

 

「こんなことなら、もっと早くに気付いて上げるべきだった……」

 

「今からでも遅くないし、誘おう」

 

俺たちは頷き合うと、サターニャに近づく。

 

俺達に気付いたサターニャは驚く。

 

「うわああっ!?ガヴリール!?ヴィネットに蒼空!?何でここに!?」

 

驚き出すが、すぐに自分の今の状況に気付き慌てておにぎりを隠そうとする。

 

だが、うっかりおにぎりをまだ手を付けていないおにぎりと共に落とす。

 

「あっ!?」

 

「何やってるんだよ…」

 

「くっ……甘いわね!私にはまだ奥の手があるんだから!」

 

そして、今度はメロンパンを取り出す。

 

「ワン!ワン!」

 

すると何処からか白い犬が現れ、サターニャのメロンパンを奪い、何処かへと逃げて行った。

 

「ああっ!?」

 

「奥の手がなんだって?」

 

「なんで犬が………」

 

「サターニャ……ドンマイ」

 

サターニャは悲しみに暮れ、膝を付く。

 

「サターニャ、ごめんね。一緒に食べる人がいなかったんだね」

 

「なっ!?いや、えっと、その……別に一緒に食べる人がいなかったわけじゃなくて、むしろ私は一人で食べたかっただけで、下等生物共と集団で食べること自体愚の骨頂って言うか!」

 

「落ち着け」

 

涙目でそう言うサターニャを見ていられず、俺はサターニャを止める。

 

「これからは一緒に食べましょう」

 

「だから違うって!そう言うの別にいいから!」

 

「いや、でも本当にサターニャを誘いに来たんだが」

 

「え?私を?本当に?」

 

「本当」

 

「冗談じゃなくて?冷やかしじゃなくて?」

 

「どんだけ疑うんだよ……」

 

誘われたことが嬉しいらしく、サターニャは嬉しそうな顔をする。

 

だが、すぐに自分が締まりのない顔になってることに気付き、いつもの調子に戻る。

 

「私は孤高の悪魔、胡桃沢=サタニキア=マクドウェル!魔界の支配者になる者!そんな私が群衆の中で食事を摂るなんて笑止千万!貴方達とじゃれ合ってる暇はないのよ!」

 

「じゃあ三人で行くか」

 

「う、うん」

 

「寂しくなったらいつでも来いよな」

 

「ちょっ……!?こ、今回は特別に行ってあげてもってちょっと!待ちなさいよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが学食かぁ」

 

「美味しそうな匂いが……人は多いけど」

 

「へぇ~、こうなってるのか」

 

学食に着くと、上級生や同級生が入り乱れて席に座り、昼飯を食べていた。

 

学食なんて初めてで少し新鮮だな。

 

「まずは何をするのかしら?」

 

「ふふ、どうやら私の出番の様ね」

 

「サターニャ、学食に来た事あるのか?」

 

「初めてよ!でも、この学校の形態は既に掌握しているわ!これも全て、我がライバル、ガヴリールに後れを取らない為にね!」

 

「お前って……本当にバカだな」

 

「バカって言うな!」

 

ガヴにそう言うとサターニャは自信満々に俺達を食券の券売機の前まで連れて行く。

 

「この券売機でまず食券って言うアイテムを購入するのよ!」

 

まぁ、なんとなく分かってはいたけど、折角サターニャがやる気なんだし、見守ってやるか。

 

「サターニャ先にやってよ」

 

「私達よく分からないし」

 

「お安い御用よ」

 

そう言ってサターニャは券売機の前に立つが、結構メニューが多くある為、どれを買えばいいのか迷っていた。

 

迷った末に普通のうどんを買った。

 

そして、何を思ったのか“まとめ買い”ボタンで四人分のうどんの食券を買っていた。

 

「なんで私たちまでうどんを食べないといけないのさ?」

 

「あ、貴方たちの分まで買って上げたんだから、感謝なさい!」

 

「まとめ買いって文字が読めなかったのか?罰としてお前の奢りな」

 

「そんな!?」

 

「もう許してやれって」

 

「それより、ガヴ。割りばし取って」

 

「うん……はいよ。蒼空とサターニャも」

 

「ありがとう」

 

「サンキューな」

 

ガヴから割り箸を投げ渡され、それをキャッチする。

 

だが、サターニャは割り箸をじっと見つめ、ガヴに文句を言った。

 

「ちょっと!これ一本でどうやって食べろって言うのよ!嫌がらせ?」

 

「は?もしかしてサターニャ、割り箸知らないの?」

 

「それ、半分に割って使うお箸なのよ」

 

「そ、そうだったわ!こんなの常識中の常識よね!」

 

サターニャは誤魔化す様に笑い、そして、割り箸を横に割った。

 

「どうしてその形状からそう割ろうと思った………」

 

「いいから食べなさいよ!」

 

サターニャが改めて新しい割り箸を割ったのを見て、俺たちもうどんを食べ始める。

 

「うん、美味しい!」

 

「これは中々……」

 

「あの値段でこの味か……文句なしだな」

 

うどんの味に舌鼓を打つ中、サターニャは一人ドヤ顔していたが、ある物を見つけた。

 

「ん?ななあじ……からこ?」

 

「七味唐辛子な。それ、七回掛けると丁度いい辛さになるんだぞ」

 

「ち、ちょっとガ――」

 

ヴィーネがガヴに注意しようとするが、ガヴがヴィーネの口を押える。

 

「サターニャ、掛け過ぎると辛過ぎて食べれなくなるから……って遅かったか……」

 

俺が注意する前に、サターニャは七味唐辛子を掛けていた。

 

「振り方が甘い。やり直し」

 

「そう?一、二、三、四……」

 

「もっと大きく」

 

「一、二、三、四、五……」

 

「もうワンセット」

 

「随分沢山かけるのね」

 

ガヴの言葉を鵜呑みにし、結局サターニャのうどんには七味唐辛子がたっぷりと掛かっており、スープが若干赤く染まっており、白いうどんの面にも赤い粒がびっしり付いていた。

 

「なんか七回処じゃ済まなくなったけど、まぁいいわ。いただきます」

 

そう言って、サターニャは七味まみれのうどんを啜る。

 

「んっ!?」

 

「ちょ、大丈夫!?」

 

「水飲むか!?」

 

俺とヴィーネは思わず立ち上がり、サターニャを心配する。

 

だが――――――――――

 

「美味しいっ!」

 

「「「えっ!?」」」

 

これには俺とヴィーネだけでなく、ガヴも驚いていた。

 

「辛さがうどんの味を引き立ててるわ。悔しいけど、中々やるわねガヴリール」

 

「そ、そうでしょ………もっと面白い反応を期待してたんだけどな……」

 

「サターニャが味音痴でアテが外れたわね」

 

「意外な形で負けたな」

 

苦笑していると、サターニャはガヴのうどんのどんぶりを掴み、自分の手元に引き寄せる。

 

そして、七味をたっぷりと掛け始めた。

 

「ガヴリールのにも掛けてあげるわ。七回じゃ足りないわよね」

 

「うわー!止めろー!」

 

ガヴの叫びもむなしく、ガヴのうどんには大量の七味が掛けられていた。

 

「どうしろってんだよ、これ………」

 

七味まみれのうどんを前に、ガヴは呆然とする。

 

自業自得とは言え、流石に可哀想だな。

 

「ガヴ、俺のうどんと変えてやるよ」

 

「え?いいの?」

 

「辛いのは割と平気だし、それにお前も無理して七味まみれのうどんは食いたくないだろ?食い掛けだが、まだ一口だけしか食ってないから大丈夫だろ?」

 

「頼むわ」

 

そう言ってガヴから七味まみれのうどんを受け取る。

 

ついでに割り箸も一緒に受け取る。

 

「あ、ガヴ。割りば―――」

 

「ん?ろうひた(どうした)?」

 

既に俺の割り箸で、俺のうどんを食っていた。

 

流石に新しい割り箸を割るわけにもいかないし、このままこの箸を使うか。

 

ガヴが使っていた割り箸を使い、七味まみれのうどんを啜る。

 

うん………辛いし、噎せる…………

 

(あれ?今更だけど、私、蒼空と間接キスしてね?…………まぁ、子供じゃあるまいし、間接キス程度で騒がないっての。………騒がないけど……なんか顔が熱いような………風邪か?)

 



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