魔装機神 THE WIND OF STRATOS (バイル77)
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PROLOGUE 風、再び

新西暦と呼ばれた時代

銀河を巻き込んだ大戦があった――

 

その大戦は銀河大戦と呼ばれ、様々な星系の人型機動兵器や生物兵器が入り乱れる大混戦となった。

混戦によって銀河に溢れたまつろわぬ霊が、太古、一つ前の宇宙にて滅んだ【霊帝】を復活させる事態となってしまった。

 

時空を超え現出した霊帝を打倒する為、異なる星系の人間たちは共に手を組んだ。

そして現れた【因果律の番人】や【光の巨人】の協力によって霊帝は再度打倒され銀河を巻き込んだ戦乱は終わりを告げた。

 

その後、小競り合い程度の争いは起こったが、確かに平和は戻ったのだ。

 

 

【再有生】と言う概念がある。

 

 

宇宙が新生する前、以前の宇宙と同じ存在として生まれ変わることを指す言葉だ。

俗に言われる【前世】と同じ様なものだ。

 

再有生は強固な因縁を結んだ存在であればある程顕著に、前世と全く同じ存在として生まれ変わる。

いくつかの【例外】は存在するが強固な因縁を持つ人間の場合、よりはっきりとした前世の記憶、虚憶を持つ。

 

本人が望む、望まないを選ぶことはできず、戦いのときは近い。

 

 

――――――――――――――――――――

 

20XX年

突如、日本に数千発という凄まじい量のミサイルが降り注ぐという前代未聞の事態が発生した。

自衛隊も突然の事態に困惑しつつ、迅速な迎撃行動を行ったが、数発ならばともかく千を超える量の前にはなすすべもなかった。

 

しかしこの事態は政府の発表では犠牲者を1人も出すことなく終息した。

【空を飛ぶ白銀の人型の機械】の活躍によって。

 

白銀の人型機は日本に降り注ぐミサイルの雨をその手に持つ、剣と粒子砲によって尽くを破壊した。

 

圧倒的なまでの力を示しつつ、犠牲者を1人も出すこともなかったこの人型機を人々は英雄と称え【白騎士】と呼んだ。

それに伴いこの事件も【白騎士事件】と呼称されるようになった。

 

この事件の後、政府にある人物からのメッセージが届けられた。

メッセージの送信者は当時高校生であった【篠ノ之束】と言った。

 

メッセージの内容は【白騎士】

正式名称【IS(インフィニット・ストラトス)】の有用性についてだった。

 

【宇宙空間での活動を想定したマルチフォーム・スーツ】、そしてその可能性についてが公開されていた。

そして同じメッセージを世界中に送っている旨も記載されていた。

 

メッセージが世界中で確認されたと同時に、篠ノ之束から開発を促すために世界へ向けてISの核となる【コア】が合計467配布された。

 

日本はこれに対して、政府主導の下ISの研究を行うことを決定。

また他方面への応用についての研究も同時に進められることとなった。

同様の動きが世界中で実施され、世界は変化していく。

 

また白騎士事件では本当に犠牲者が全くでなかったのかネットの海の中では議論をかもし出すこともあった。

しかし犠牲者の目撃情報や遺族などの言葉も出てこないため時間が経つにつれて有耶無耶となってしまった。

 

 

――そして数年が経過した。

 

 

ISの用途は、本来の目的であった宇宙での活動、宇宙開発が遅々として進まないことから【軍事利用】にシフトしていた。

ISの軍事利用は【アラスカ条約】で禁止される事となったが、各国は暗黙の了解の下、ISの軍事利用を推進。

 

日本では純国産の量産型ISとして【打鉄】を開発した【倉持技研】がそのシェアを握っていた。

しかし【テスラ・ライヒ研究所】、【マオ・インダストリー】、【日出工業】等の有名企業がそのシェアを奪い返そうと日々技術の進歩が続いていた。

 

 

そしてISの普及に伴い、世界にはある思想が広がっていく。

それは【女尊男卑】の思想。

 

ISは女性しか動かすことができない。

故に女性のほうが男性より上の立場であると言う思想だ。

これに過剰に反応した女性権利団体のおかげで、女尊男卑の思想はあっという間に世間に広まってしまった。

 

 

――――――――――――――――――――

数年後 日本 緑川都立中学

 

時刻は夕方、日没の為か辺りは夕焼けに染まっていた。

 

そんな中、数百人は優に入場させる事のできる大きさの体育館の入口で、2人の学生服を着た男子生徒が会話をしていた。

1人は日本人としては珍しい緑髪で端正な顔の少年。

もう1人は同じく端正な顔の蒼い髪の少年だ。

 

 

「正樹先輩、また道に迷ったんですか?」

 

「ああ」

 

 

正樹と呼ばれた少年は日本人としては珍しい緑髪で端正なその顔に人懐っこそうな笑みを浮かべた。

身長は175cm程で、中学生では比較的大柄な体格だ。

後輩と思われる蒼い髪の少年がため息を付きつつ返す。

 

 

「ホント勘弁してくださいよ、何で3年通った学校で道に迷うんですか……。 卒業式の練習は今日で最後だったんですよ?」

 

「ホント悪かったって咲人……あ、やべ、時間がっ! んじゃ、俺用あるからっ!」

 

「あっ、ちょっ、先輩っ!? あー、もう、怒られるの俺なんですよぉ……」

 

 

咲人と呼ばれた少年が驚くが、すでに正樹は走り出していた。

かなりの速さで離れていく正樹を見て、咲人は深く肩を落とした。

 

 

――――――――――――――――――――

5分後 緑川都立中学 正門前

 

 

咲人と別れた正樹が鞄を抱えて、正門前で足を止める。

すると門の上にいた【黒猫】が彼の足元まで駆け寄ってくる。

 

それを見て、手に持った鞄の口を広げる。

すると黒猫は鞄の中に飛び込み、顔だけを鞄から出した。

 

そして正樹の顔を見て少々不機嫌そうに顔をゆがめた後――

 

 

『サキトには悪いことをしちゃったわね、マサキ』

 

 

人語を【黒猫】が発したのだ。

 

 

「んだよ、見てたのかよクロ……反省はしてるっての」

 

 

だが正樹は特に驚いた様子も見せずに、黒猫の言葉に返した。

まるでそれが【当然】の様に。

 

 

『全く……』

 

「今度ちゃんと謝っとくって……そんで【シロ】は?」

 

『シロは【テスラ研極東支部】よ、【簪】と一緒にいると思うニャ』

 

「りょーかい、んじゃ早速向かうぜ」

 

 

【クロ】と呼ばれた黒猫を収めた鞄を背負って正樹が歩き出す。

彼の持つ鞄には【安藤正樹】と刺繍が施されている。

 

 

「ようやく【IS】での【サイバスター】も形になったんだな」

 

『【魔装機】とは勝手が全然違うのに、色々と制限はあるとは言えまさか【魔装機神】を再現するニャんてね、流石【ウェンディ】……っと今は簪ね』

 

「だな」

 

 

いつも通っている通学路を歩きつつ、正樹の言葉にクロが返す。

下校時間であるが周りにほかの生徒は見えないため、遠慮なく会話することができている。

 

 

「しっかし……まさか死んだ後に学生として生活することになるとは思わねーよなぁ」

 

『マサキ、それ、何度目ニャ?』

 

「ほっとけ」

 

 

【安藤正樹】――いや、【マサキ・アンドー】は自身の使い魔(ファミリア)の1匹であるクロに突っ込みを返す。

 

彼の記憶では、【新西暦】と呼ばれる時代が自身が生きていた時代なのだ。

【銀河大戦】と呼ばれる大戦が終結した後、地底世界【ラ・ギアス】の【神聖ラングラン王国】に帰還したマサキは【魔装機神操者】としての務めと、度重なる大戦で傷ついた国を守る責務をその命が尽きるまで果たした。

 

そして命が尽き、仲間達の見守る中、安らかなる眠りが訪れるはずであった。

――のだが、目を覚ましてみると自身は10歳の少年となっていたのだ。

しかも、テロ行為によって失われた両親も健在ときている。

 

生来の方向音痴で様々な【異世界】に転移したこともある彼であったが、流石に死んだはずの自分が少年になっているのには仰天した。

 

ある程度落ち着いたところで、調査を行ってみたところ、どうやら自身が生まれ変わった事と今いる世界が完全な別世界であることが分かった。

新西暦世界では【AM(アーマード・モジュール)】や【PT(パーソナル・トルーパー)】等の人型兵器が跋扈していたが、この世界では人型兵器など漫画やアニメの中の存在であるからだ。

 

閑話休題

 

 

「……さて、簪待たせるのも悪いし、急ぐぜ、クロっ!」

 

『ニャッ!? マサキ、急に走り出すのはやめてニャ!?』

 

 

正樹が走り出したため、担いでいた鞄が揺らされた事にクロが悲鳴を上げる。

それに悪い悪いと苦笑しつつも、正樹は目的地である【テスラ・ライヒ研究所極東支部】を目指して走り出した。

 

テスラ・ライヒ研究所、新西暦世界と同じく最先端の科学技術を扱う企業である。

この世界ではAMやPTではなく【IS】と呼ばれるマルチフォームスーツの開発/研究を主に行っている。

――このISには女性しか搭乗できないという欠点があるが、何事にも【例外】というものは存在しているものだ。

 

彼の運命が再び【戦い】に向かうまで――すでに数時間を切っていた。

 




ユの字「再有生と言う便利な言葉を出したのも……私だぁああああ」

OGMDでサイバスターに色々とフラグが建ってたけど性能が……横にいつでもネオ化できるグランゾンがいるせいでどうしても……。
第3次OGは久保やサキト君、W組と凄い楽しみな要素が目白押し。
サイバスターは精霊復活イベントがほぼ確定してるしあわよくばポゼッションも、そしてアサキムだって来るかもしれないし、第3次OGはよ…はよ…。


次回予告

風が呼んでいる、いつか聞いたあの声が――

「熱風! 疾風! サイバスター」


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第1話 「熱風! 疾風! サイバスター」

数時間後 テスラ・ライヒ研究所 極東支部 正門前

 

テスラ・ライヒ研究所――

新西暦世界のテスラ・ライヒ研究所と同じく広大な敷地の中で様々な最先端科学の研究が昼夜行われている。

この世界では主に【IS】を中心として機体開発と共に、ISから得られる物体の量子化、【PIC(パッシブイナーシャルキャンセラー)】による反重力推進、シールドバリアの他分野への応用等、多岐に渡った研究を行っている。

 

PICと機能的に類似している【EOT(エクストラオーバーテクノロジー)】由来の【テスラドライブ】は開発されていない。

だが【粒子ビーム技術】はテスラ研の研究成果として発表され、すでに実用化もされていた。

 

 

「おっちゃん、お疲れー」

 

 

警備員の初老の男性の前を、正樹は笑みを浮かべて通り過ぎる。

企業であると共に研究機関であり、厳重な警備が敷かれている施設に、正樹は顔パスで入ることができる立場であった。

その理由は――

 

 

「ん、正樹か、1週間ぶりか? その様子だと今日もテストか?」

 

「ああ、ウェン……じゃなかった、簪は?」

 

「簪ちゃんなら第二整備区画にいるはずだが……ん、間違いないな」

 

 

警備員の男性が入場記録を確認して頷く。

 

 

「第二区画だな、サンキュー、おっちゃん!」

 

 

男性に礼を言いつつ、正樹は正門を駆け足で通り抜けていく。

その様子に男性は苦笑しながらも微笑ましく見つめていた。

 

―――――――――――――――――――

数分後 テスラ・ライヒ研究所 極東支部 第二整備区画

 

 

いくつもの区画に分けられた整備区画の中でも最も広く、設備が充実しているのが第二整備区画である。

 

IS用のメンテナンスベッドの上に白銀の装甲を煌めかせる機体が鎮座していた。

その機体から伸びているコードが集束している端末の前に正樹が探している人物がいた。

 

 

「簪、待たせてわりぃ」

 

「大丈夫だよ、お疲れ様、正樹」

 

 

長い水色の長髪、ISに搭乗する際に機体との連携率を高める作用のあるISスーツ、その上から白衣を身につけた少女が微笑みながら正樹に返す。

 

彼女の名は【更識簪】

正樹と同い年の15才でありながら、テスラ・ライヒ研究所の開発主任の席にいる人物だ。

しかもテスラ研所属のIS搭乗者であり、IS日本代表候補生とIS搭乗者としても上位に位置する人間である。

 

また彼女にはもう1つ名前があり、正樹とは前世からの仲である。

 

その名前は【ウェンディ・ラスム・イクナート】

地底世界【ラ・ギアス】はもちろんのこと、新西暦世界で名を轟かせた【風の魔装機神 サイバスター】の開発者である。

 

 

「またその格好かよ、冷えるぜ?」

 

「ん、大丈夫だよ、保温性はあるし空調も効いてるから」

 

「そうじゃなくてだなぁ……」

 

 

苦笑して正樹は返す。

マサキとウェンディは互いに大事な存在である。

前世での苛烈な三角関係を超えて結ばれたのだ、互いの信頼はとても強固であり、姿が変わった今でも変わらない。

 

余談であるが、以前の彼女は正樹よりも【10歳】以上【年上】であった。

それがコンプレックスになりかけていたのだが、今は【同い年】であるためか口調もかなり変わっている。

 

全身のラインがはっきりと出る水着に近いISスーツをテスラ研にいるときは、常に身につけている彼女から視線を外す。

ふと彼女の右肩には白猫が乗っかっていることに気づいた。

 

 

『遅いニャ、マサキ』

 

 

クロと対になる彼の使い魔、白猫のシロである。

 

 

「うるせぇ、これでも急いだほうだっての」

 

『鞄のニャかでかき回されたわよ、マサキ……』

 

 

よろよろと正樹の鞄からクロが這い出てくる。

その様子を微笑みながら見ていた簪が告げる。

 

 

「正樹、【サイバスター】は残すところ最終調整だけだよ」

 

「……みたいだな」

 

 

自然と笑みが浮かぶ。

2人の前に鎮座している白銀の機体の名は【サイバスター】

風の高位精霊【サイフィス】と契約を結んだ、4体の【魔装機神】の中でも最強と言われる【風】の魔装機神だ。

 

正樹が【マサキ・アンドー】として幾多の戦いを共に駆け抜けた機体をモチーフに、現行技術の粋と【魔術】も組み込まれて製作された事実上、彼の為の機体だ。

簪のみでは【サイフィス】との契約を行うことは不可能だが、彼女には心強い【姉】がいる。

2人のおかげで、IS【サイバスター】はオリジナルと同じように、風の高位精霊との契約に成功していた。

 

流石にオリジナルの様に【フルカネルリ式永久機関】をこの世界で搭載することは不可能なため、ISのエネルギー機関とは別個に【大型のプラーナコンバータ】を増設している。

しかし大型のプラーナコンバータを増設したためか、サイバスターの拡張領域はゼロに等しい状態だ。

だがこれによりまさに【疾風】と呼べるだけの機動力を持つ機体となっている。

 

――男性である正樹の為にISの専用機が開発される。

通常ならばあり得ないことだ。

 

しかし、彼はその例外の存在だ。

 

とある間抜けなISとの【接触事故】がきっかけで、彼に【IS適正】があることが確認された。

これを簪を含めたテスラ研上層部は、今世紀最大の発見とも言える事柄の秘匿を決定。

【簪の姉】であり同じく前世から深い間柄の少女も全力で助力、外部に漏れだすのを防いだのだ。

 

そしてそれとほぼ同時期、【ISコア】には特殊な【精神感応金属】が使用されている事を簪は解明していた。

その精神感応金属はラ・ギアスでのみ産出される【オリハルコニウム】と組成がほぼ一致していたのだ。

 

正樹は前世からとても高い【生体エネルギー】、【プラーナ】をその身に秘めている。

その非常に高いプラーナがISコアと感応することで、彼はISを自由に動かすことができるのだ。

最も通常の機体では彼のプラーナに耐えることができないため、こうして【サイバスター】が開発される事につながったのだが。

 

しかし簪や彼女の姉をして、女性しか動かせないという【根本的な欠点】はいまだに解明できていないのが現状ではあるが。

 

 

「ISコアの【オリハルコニウム】を通じて【サイフィス】と交信して」

 

「分かったぜ」

 

 

着ていた学生服の上着を脱いでから鎮座しているサイバスターに触れる。

すると優しい【風】が頬を撫で、頭の中に声が響いた。

 

 

――マサキ

 

 

1度は巨人族の怨念と共に消え、銀河の危機に復活した【風の精霊王】の声。

 

この世界は、ラ・ギアスよりも劣るが、新西暦世界よりも【精霊】が多い。

ラ・ギアスほどではないが精霊信仰も残っている。

そのため、精霊との簡単な交感ならば正樹程の【プラーナ】とサポートがあれば可能である。

 

優しい女性の様な声、その声が聞こえると同時に鎮座していた【サイバスター】が光に包まれる。

ISの機能の1つである【量子化】

 

そして再び形を作っていく。

――閉じていた瞳を開ける。

 

ISとしては表面装甲は薄い部類に入るが、背部のウィングユニットから溢れる緑の粒子は穏やかさと確かな力強さを感じさせる。

全身装甲ではなく頭部など一部生身が露出しているが、鎧の様に身に纏ったその姿からは神聖さを感じさせた。

 

 

各部装甲共に問題なく稼働し、簪が手元で確認するモニターにはエラーなど見られなかった。

 

 

『――ああ、行こうぜ、サイフィス』

 

 

こうして、IS【サイバスター】はその翼を再び広げることに成功したのであった。

 

―――――――――――――――――――

IS サイバスターの初起動成功とほぼ同時刻――

 

 

テスラ・ライヒ研究所極東支部の上空3000mの空間が突如として歪み始める。

その歪みが臨界まで達すると、数m程の【漆黒の孔】が広がった。

 

その中からゆっくり【蒼色】の装甲を持つ【機械】が現れた。

現れたのは、この世界での超兵器の地位を確保した【IS】であった。

 

 

『どうやら、サイバスターの起動は成功したようですね』

 

 

現れた【蒼いIS】、サイバスターに比べると重厚な装甲を身に纏った【紫髪の青年】が口を開く。

すると通信を行っていたのか、空中投影ディスプレイが展開される。

表示には【sound only】と記されているが、女性の声だ。

 

 

『しーちゃん、ゴーレムの準備は大丈夫だよー』

 

 

声色は軽薄だが、その声には喜の感情が多分に含まれていた。

その回答を聞いた青年が心底嫌そうな表情をその端整な顔に浮かべる。

 

 

『束博士、その呼び方はやめて下さいと何度も言っているはずですが……?』

 

『ええー、いいじゃーん、しーちゃん、一応束さんよりも年下なんだから気にしない、気にしないっ!』

 

 

束と名乗る女性の声が通信越しでも、大いに笑みを浮かべているのが想像できた青年は一度話を切り替える。

 

 

『……それではゴーレムの起動はお任せしますね』

 

 

合点と束が通信を返すと通信が切れる。

 

 

『ククク……それでは見せてもらいましょうか、マサキ、この世界で新たに生まれた【サイバスター】の力を』

 

 

蒼いISの両腕に装備されている宝玉の様な箇所が煌めくと、歪んでいた空間がさらに捻じれ、ついには先程青年が現れた際の漆黒の孔が空間に形成される。

続いて、その孔から【全身装甲のIS】が3体続いて現出し、青年の前で浮遊している。

 

 

『3体もいれば十分でしょう……死人が出ない程度に暴れてきなさい』

 

 

蒼いISに搭乗している【青年】の言葉に従い全身装甲のIS【ゴーレムⅠ】がテスラ研へと降下していく。

 

 

『フフフ……さて、私も一旦戻りましょうか』

 

 

ゴーレムの降下を確認した青年が笑みを浮かべた後、再度機体の宝玉が煌めく。

そして漆黒の孔が現れたのを確認して、機体を孔の中に移す。

 

機体が孔の中に消えると、孔自体もまるで最初からなかったかのように消え、空間の歪みも無くなっていた。

 

―――――――――――――――――――

 

サイバスターの起動に成功したと同時に、突如として、施設内に警報が響いた。

 

 

『っ!? 何が起こったっ!?』

 

 

正樹が叫ぶと同時に、簪が手元のコンソールを操作して施設外部カメラの映像を映し出す。

 

そこには3体の【全身装甲のIS】がテスラ研の施設を襲撃している映像が映し出されていた。

しかもISに装備されている武装は【ビーム兵器】、テスラ研以外では開発が非常に難しいとされている技術が搭載されていた。

 

 

「ビーム兵器っ!? そんな、ここ以外であれを実用化できるなんて……っ!」

 

 

簪の驚きの声が漏れると同時に、正樹は行動に移っていた。

 

 

『ディスカッターッ!』

 

 

正樹の叫びと共に実体剣【ディスカッター】が展開される。

サイバスターの近接主武装であり、正樹にとっても最も信頼している武装である。

 

 

『簪、皆の避難をっ!』

 

「分かった! 正樹、気を付けてねっ!」

 

『ああっ!』

 

 

簪にサムズアップして答える。

サイバスターは整備室の壁をその圧倒的な加速力と、ディスカッターで突き破り、屋外に向かう。

 

―――――――――――――――――――

 

警報は依然として鳴り止まず、パニックになった職員や少しでもパニックを抑えようとしている研究員などが屋外に溢れていた。

屋外に凄まじいスピードで飛び出したサイバスターは、テスラ研を襲っている【敵】の存在を確認した。

 

 

3体の【全身装甲のIS】、先ほど外部カメラで確認したISが掌から放たれる【ビーム】によって施設を破壊していく。

外に逃げた職員には手を出すことはなく、施設の破壊だけを目的にしているように見える。

 

 

『どんな理由がある知らねぇが、行くぜ、サイバスターっ!』

 

 

ISの加速技術である【瞬時加速】ではないただの加速、しかし影すら残さない速度でゴーレムに接近し、そのままゴーレムに切りかかる。

 

 

『ディスカッター、霞切りっ!』

 

 

――疾風一閃

 

 

ディスカッターで斬りつけ、そのまま斬り抜ける。

ただ単純な斬撃であるが、その速度が圧倒的過ぎた。

加えて正樹が【ラ・ギアス】で広く流布された剣術の流派【神祇無窮流】を真伝まで修めているからこそできる一撃。

 

ゴーレムの胸部装甲にはディスカッターによる斬撃の後がくっきりと残っていた。

 

 

『安心しろよ、手加減はしてあるぜ?』

 

 

ディスカッターを構えなおした正樹が告げる。

相手はIS、それには当然【搭乗者】の存在が不可欠だからだ。

 

しかし、すぐにそれは否定される。

空中に展開された投影ディスプレイに簪からの通信が繋がったからだ。

 

 

『正樹、あの機体、ISだけど人間が乗ってないっ!』

 

『なっ!? ってことは無人機かよっ!』

 

『うんっ、一応生命探知もしてみたけど間違いないっ!』

 

 

彼女の言葉にすぐさま思考を切り替える。

この切り替えの速さは彼が歴戦の戦士であるからだろう。

【DC戦争】や【修羅の乱】、【封印戦争】や【カドゥム・ハーカームとの決戦】、息つく間もない戦乱を駆け抜けたその経験の中で【無人機】など腐るほど相手にしたからだ。

 

 

『なら、今度は3機纏めてだっ! プラーナ最大、魔力最大で行くぜっ!』

 

 

ISは人間が乗るものと言う先入観があった、故に先ほどの一太刀は手加減したモノであった。

無人機ならば遠慮は要らない。

 

サイバスターのウィングに緑の稲妻が走り、その稲妻がディスカッターに流れていく。

サイバスターの搭載する【大量広域先制攻撃兵器】

新西暦世界でもその名を轟かせた【Mass Amplitude Preemptive-strike Weapon】――【MAPW】の代表格。

 

 

『いっけぇえ! サイフラッシュっ!』

 

 

ディスカッターが緑の稲妻と閃光を拡散させるかのように振り払われる。

剣閃と同時に閃光が辺りを包み込み、ゴーレムたちもその圧倒的な光の波に飲み込まれてしまった。

 

―――――――――――――――――――

 

サイバスターのサイフラッシュにより、謎の無人機ISは殲滅された。

しかし、無人機によってテスラ研極東支部には少なくない被害が出ていた。

 

その被害状況を確認していると、驚くべきニュースが飛び込んできた。

 

――内容は、【初の男性搭乗者】が現れたというニュースであった。

 

 




熟練度条件:無人機3機を2ターン自軍フェイズまでに殲滅する。


ここの正樹はウェンディルート。
サイバスターはカッコイイ、ホント色褪せない。
一体何河博士なんだ…!

次回予告

「波乱の学園」


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第2話 「波乱の学園」

謎の無人機のテスラ研襲撃と前後し、とあるニュースが世界を駆け巡った。

 

そのニュースとは、IS史上初の男性搭乗者が日本で発見されたというニュースであった。

搭乗者の名前は【織斑一夏】

 

かの初代ブリュンヒルデで世界最強、【織斑千冬】の実の弟との事だ。

――彼の身柄はその貴重性ゆえにIS学園で保護される事となっていた。

 

―――――――――――――――――――

テスラ・ライヒ研究所 極東支部 第1会議室

 

 

テスラ研の会議室の1つ、その中で正樹は襲撃の混乱収束後から続けて正座をさせられていた。

彼の前には赤紫のワンピースに薄手の白いカーディガンの私服に着替えた簪が立っていた。

表情は優しい笑み――だが、正樹には冷や汗をかかせる圧力があった。

 

 

「正樹、なんで正座させられてるか、分かるよね?」

 

「いっ、いででっ、ちょっ、簪、勘弁……」

 

 

完全に痺れている両足を彼女につんつんと突っつかれながら、正樹は情けない声を上げていた。

 

何故、彼が正座させられているのか、それは会議室のモニターに映されている映像が物語っている。

その映像は、無人機3機を飲み込んだサイバスターのMAPW、【サイフラッシュ】の映像。

 

 

「自分のプラーナが強いことくらい分かってるよね? 魔力とプラーナを最大にしてまだ調整が済んでないサイフラッシュを使ったら、結果見えてるよね?」

 

 

IS【サイバスター】の武装である【サイフラッシュ】は、オリジナルと同じく【悪意】を読み取り、味方には全くの被害を出さずに敵にのみ損害を与えることが可能なMAPWである。

 

だがこの便利すぎる特性は、機構の繊細さと複雑さに直結している。

今回、サイバスターはまだ【初起動】であり武装の調整などは全て後回しにされていた。

 

未調整の武装を、プラーナと魔力を最大にして放った――つまり【壊れた】のである。

 

彼の強いプラーナのせいでサイフラッシュ放射機構が完全にイカれていた。

流石にダメージレベルが一定以上のラインを超えたわけではないので、ISの自己修復機能で修復可能であるがいっそ取り替えたほうが早い。

 

しかし、初回起動を優先したためパーツはまだ組み立て前の状態であるのが問題であった。

サイフラッシュ放射機構は繊細な構造、そして【魔術】を組み込む必要がありかかる工数が全パーツの中でも飛びぬけて高い。

 

現在、急ピッチで組み立て作業が進行しているが、襲撃の混乱もありサイフラッシュの完全な修復にはそれなりの日数がかかると見ていいと判断されていた。

 

 

「相変わらず無茶ばっかり」

 

 

簪が手に持ったペンダントをそっと撫でる。

現在サイバスターは待機形態である【オリハルコニウムのペンダント】となって簪の手の中にある。

 

その形状はかつて、ラ・ギアスでマサキが彼女に送ったペンダントと同じ形状。

――それを見た簪の表情はとても嬉しそうであったと、シロが報告していた。

 

 

「はっ、反省してます……!」

 

『ニャさけないわね、マサキ』

 

「うっ、うるせぇ……っ!」

 

 

洒落にならないレベルで足が痺れているため、正樹もそろそろ限界であった。

簪もそろそろ許してあげようかと口を開いたときであった――

 

 

「ああ、ここにいたわね、良かった」

 

 

女性の声が響き、正樹達の視線が声の下に集まる。

簪によく似た顔、その美少女がやれやれと言った表情で2人を見ていた。

 

髪型は彼女と違い短く、肩まで伸びた水色の髪。

毛先の方は【紅】く、まるでグラデーションされているかに見えるが地毛である。

 

白を基調とした【IS学園の制服】を身に着けており、胸元で腕を組んでいるため彼女の抜群のプロポーションが強調されていた。

 

 

「あ、姉さん、そっちは終わったの?」

 

「ええ、何とかね、まあ、抑えるのは無理だったわ……あの襲撃、今までの偽装工作が全部無駄になったわ」

 

 

カツカツとヒールの音を響かせ簪の姉、【更識楯無】――本名【更識刀奈】が正樹たちに歩み寄る。

彼女も簪と同じく、正樹、いや【マサキ・アンドー】と深い縁で結ばれたもう1つの名前を持っている。

 

それは――

 

 

『テューディ、久しぶりニャ』

 

 

シロが正樹の左肩の上から刀奈に声をかける。

だがジロッと横目で刀奈に睨まれる。

 

 

「シロ、今の私は【刀奈】と、何度言わせるのかしら?」

 

『ごっ、ごめんニャ……』

 

 

視線から感じる圧力にシロが謝りつつも視線を外す。

 

彼女のもう1つの名前、それは【テューディ・ラスム・イクナート】

ウェンディ・ラスム・イクナートの双子の姉であり、出産を迎える前、母体内にいた時点で肉体的に死を迎えた存在であった。

しかし、魂はウェンディの中で思念という形で生き続けており、記憶や感情も共有していた。

妹の成長と共に、彼女の心と精神も発達し、ついにはウェンディの身体を乗っ取るまでに至ったこともあった。

だが紆余曲折を経て、彼女はウェンディと和解し、共に歩むこととなった。

 

この世界で生まれ変わった2人は以前の様に身体を共有しているわけではない。

しかし、彼女達2人の間には確かな信頼が構築されている。

 

加えて、彼女とは共有しているものも存在している。

 

それは――

 

 

「刀奈、シロに悪気はねぇんだ、許してやってくれよ」

 

「……まあ、貴方がそういうなら許すわ、正樹」

 

 

見かねた正樹がシロのフォローに入る。

彼の言葉に刀奈は少し戸惑いつつも、了承の答えを返す。

――簪から見て、その頬に赤みが差していたのは気のせいではないだろう。

 

 

(姉さんも相変わらず……本当は正樹のこと心配で仕方なかったはずなのに……)

 

「……何か言ったかしら?」

 

「いえっ、何にも」

 

 

ニコッと笑った刀奈の笑顔に薄ら寒い気配を感じた簪が苦笑しつつ返す。

 

 

「さて、正樹、簪ちゃんからの報告は聞いたわよね?」

 

 

あの【テューディ】がちゃん付けを使っているのには当初、正樹も大層驚いたが今はすでに慣れている。

彼女曰く、親愛の意味を率直に表すことができて効率がいいとの事だ。

彼女がそれを気に入っている為深く言うこともしなかったが。

 

 

「ずっと正座させられてたが聞いたよ……俺のほかにも男性搭乗者が現れたんだろ?」

 

 

正樹の言葉に刀奈が頷く。

 

 

「テスラ研を襲った謎の襲撃と撃退……貴方のおかげで救われた命もあるのだけれど、そのせいで貴方の存在が漏れたわ」

 

 

刀奈の言葉に正樹の表情は曇る。

 

 

「出資者として、【更識家】として、そして【個人】として色々と匿えてた訳だけど……正樹、これから貴方にはもう1人と同じく【IS学園】に入学してもらうことになるわ」

 

「ってことは卒業式には……」

 

「出られないわね、残念ながら」

 

 

刀奈の返答にがっくりと正樹は肩を落とす。

 

 

正樹がサイバスターを駆って無人機を撃墜したことがすでに外部に漏れていた。

 

正樹と言う存在はテスラ研としても独占したかったが、その為に日本の【暗部】と深い関係になっていると知れ渡ってしまえば企業としてのイメージの低下が発生する。

更識家としても出資者として、また身内の所属企業であるテスラ研のイメージを低下させるわけには行かない。

それを防ぐために更識家とテスラ研上層部はあるシナリオに沿うことにした。

シナリオとしては以下のとおりである。

 

 

【正樹はテスラ研を見学中に襲撃に巻き込まれ、騒動の際に【偶然】新型機であるサイバスターに触れ、何とか襲撃犯を鎮圧した】

 

 

【正樹は本人了承の元、サイバスターの専用搭乗者としてテスラ研が保護】

 

 

【サイバスターを通じて得られたデータは政府、そして国際IS委員会に提出し共有する】

 

 

幸い外部に漏れたのはサイバスターの戦闘映像のみであったため、このシナリオもある程度の説得力を持っており国際IS委員会も深い追求はしてきていない。

つまり正樹は本人の知らぬ間にテスラ研所属のIS搭乗者となっていたのだ。

 

ちなみにサイバスターに使用されている魔術については簪と刀奈がサポート予定である。

もっともあくまで渡すのは機体の稼動データであるためこの部分に対する心配はあまりないのだが。

 

また、正樹のIS操縦技術については問題ない。

元々思考や感覚で動かす【魔装機】とISの操縦方法は似通っているからだ。

そして何よりも刀奈たちに秘匿されつつも、テスラ研でデータ収集に付き合っていた彼にはそれ相応の技術が身についているのだ。

 

 

閑話休題

 

 

「……流石にテスラ研の皆や、簪達にこれ以上迷惑はかけられねえしな、仕方ねえな」

 

「ご両親にはすでに話が通ってるわ……ホントに腹立たしい、今までの苦労が完全に水の泡よ」

 

 

ギリッと刀奈の表情が歪む。

 

 

「まあ、何とかなるだろ。そんなに怒るなって刀奈、綺麗な顔が台無しだぜ?」

 

 

ウィンクしつつ正樹が刀奈に告げる。

すると彼女の顔が一瞬で真っ赤に染まった。

 

 

「きっ、綺麗、正樹が、私を綺麗って……フフッ……!!」

 

 

顔をそらして刀奈が顔を押さえて笑みを浮かべだす。

 

 

『まーた始まったニャ……』

 

「姉さん、ああなると長いからなぁ……」

 

「それにしてもIS学園かぁ……簪が入学する学園だったよな、確か?」

 

「うん、姉さんもいるからサポートは任せて」

 

 

グッと張り切るポーズを見せた簪に正樹が微笑む。

しかし次の刀奈の言葉が衝撃を走らせた。

 

 

「あ、言い忘れてたわ、残念だけど……2人は別のクラスよ?」

 

「「え?」」

 

 

正樹と簪の情けない声が重なった。

 

 

―――――――――――――――――――

1週間後 IS学園 1年1組教室

 

 

【IS学園】とは文字通りIS操縦者の為の教育機関のことである。

 

正確にはISの情報開示と共有、研究のための超国家機関設立、軍事利用の禁止などを定めたアラスカ条約に基づき、日本に設置された特殊国立高等学校である。

 

また操縦者に限らずIS専門のメカニックや開発者、研究者などISに関連する人材は、ほぼこの学園で育成されていると言っても過言ではない。

学園の土地は本土から離れた人工の離島にあり、あらゆる国家機関に属さず、いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されないという規約が存在している。

 

 

「マジかよ……」

 

 

クラスの天井を仰ぎつつ、正樹が心中を吐露する。

本来卒業してから通うはずであった藍越学園の入学は取り消しになっている。

 

移籍タイミングの影響で入学式に出れなかった、すでに授業開始日となりこうして教室にいるのだ。

 

 

先ほどから好奇の視線が自身と、隣で同じように天井を仰いでいる【織斑一夏】に注がれていた。

 

織斑一夏という男性搭乗者が発見された後、全国で一斉に適正者検査が実施された。

正樹はその際に一夏に続いて発見された【第2の男性搭乗者】と言う肩書きになっていた。

 

加えて、正樹は新西暦世界でも黙っていればイケメンといわれるくらいには端正な部類の人間だ。

鋼龍戦隊やラ・ギアスには不思議と容姿の整った人間が多く集まっていた。

彼の容姿はこの世界に生まれても変化がない。

また、一夏も同レベルの容姿である。

 

そして周りにいる女子たちは花の10代――つまり必然的に目立つのだ。

 

 

『凄い視線の数ね、マサキ』

 

『流石のマサキもここまで女の子に囲まれたらきついニャ?』

 

(流石の俺って何なんだよ、シロ、クロ……まあ、確かにキツいけど)

 

 

机の上に乗っかっている2体の使い魔の言葉に心中で返す。

現在シロとクロには【隠行の術】と言う魔術を応用し、正樹や簪達、テスラ研一部の前世を知っている人間以外からは認識できないようになっている。

 

ふと、女子達との視線とは別の視線が自分に向けられていることに気づく。

隣の席にいる一夏からの視線だ。

その視線は興味と話しかけたいオーラに溢れていた。

 

 

「……よぉ、どした?」

 

 

流石に男2人だけの空間は居心地が悪い、よって少しでも負担を減らすため同じ境遇である一夏と話すことにしたのだ。

 

 

「ん、ああ、えっと安藤……だっけ?」

 

「ん、正樹でいいぜ、俺も一夏って呼んでいいか?」

 

「ああ、全然大丈夫だぜ、正樹……良かった、もう1人男がいて」

 

 

心底安堵したような表情で一夏が言う。

それには正樹も心から同調する。

 

 

「俺も同じだぜ、ホントまさかこんなことになるなんてな」

 

「ホントにな……正樹、これからよろしくな」

 

「ああ、何か困ったことがあったら力貸すぜ、一夏」

 

 

この学園唯一の男2人、その2人が自然と手を差し伸べて握手をする。

それに悶えていた生徒が何人かいたが、何故悶えているかは正樹には分からなかった。

 

 

(一夏はイイ奴そうだな)

 

 

握手した一夏の雰囲気はさわやかさに満ちていた。

気持ちのいい奴というのが正樹の一夏に対する第一印象であった。

 

 

――ふと時計を見ると、HRの時間が迫っていた。

 

 

(さてと、何も起こらないでくれよ……頼むから)

 

 

目を伏せつつ、正樹が考える。

 

 

しかし、正樹の望みは適うことはなかった。

 

――何故ならば、この後起こった【波乱】に自ら首を突っ込むことになってしまったからだ。

 

 

 




サイフラッシュが壊れてるのはお約束。


次回予告

「疾風VS蒼き雫」


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第3話 「疾風VS蒼き雫」

自己紹介のHRが終了した後、すぐに1時限目の授業が開始された。

その際1年1組の担任であり現在の世界で最も有名な人物、初代ブリュンヒルデ【織斑千冬】からとある爆弾発言が投下されていた。

 

 

「そうだ、忘れていたが、もうすぐクラス代表戦がある。 だれか立候補する者はいるか?」

 

 

彼女のその言葉にそっと手を挙げる金髪ロールの美少女。

1年1組唯一の代表候補生、英国代表候補生の【セシリア・オルコット】であった。

 

 

「ん、立候補はオルコット……他にはいないな?」

 

 

千冬が教室を見回すが、セシリア以外に手を挙げている生徒はいなかった。

 

 

「それでは推薦はあるか?」

 

 

千冬の言葉に一斉にクラスメイト達が手を挙げる。

 

 

「織斑君がいいと思います!」

 

「同じく織斑君で!」

 

「えっ、俺!?」

 

 

選ばれることはないだろうと思っていたのか、素っ頓狂な声を一夏が発する。

 

 

「私は安藤君で!」

 

「私も安藤君で! サイバスターってISも見てみたいですし……うっ、星の王子様、少女の見た流星……頭が……!」

 

「大丈夫? とと、私も安藤君で!」

 

「はぁっ!?」

 

 

クラス代表に興味などなかったため流し聞いていた正樹も驚きの声を上げた。

他者からは見えないが彼の両肩に乗っていたシロとクロは驚いて飛び降りていた。

 

 

(冗談じゃねえぜ、なんでまたんなめんどくさそうなのを……!)

 

 

辞退しようとした正樹であったが、彼の言葉は掻き消える事となる。

 

 

「納得いきませんわっ!」

 

 

バンッと机を叩きつつ、セシリアが自席から立ち上がったからだ。

その表情には怒りの感情が溢れていた。

 

 

「物珍しいからという理由だけで彼等を代表にしなければならないのですか!?」

 

「自薦他薦は問わないといったはずだ、それではオルコットも含め安藤、織斑の3人か……そうだな、3人で戦って勝った者がクラス代表でどうだ?」

 

 

千冬のその提案にセシリアは笑みを浮かべる。

その笑みは明らかに男子2名を軽く見ているものだ。

 

 

「その様な勝負の結果など見えておりますわ、私の実力ならば勝利という結果に揺らぎありませんもの! 極東の猿など相手になりませんわ!」

 

「よく言うぜ、イギリスだって大した国じゃないくせにさ。料理なんかじゃ英国料理は世界一まずい料理何年1位だよ」

 

 

声高々に勝利を確信し暴言を吐いたセシリアに、一夏が食って掛かる。

 

 

「あっ、あなたは私の祖国を侮辱しますのっ!?」

 

 

一夏の挑発に今度はセシリアが食って掛かった。

 

 

「先に馬鹿にしたのはそっちだろ! 何言ってんだよっ!?」

 

「許しません……決闘ですわっ!!」

 

 

再度バンッとセシリアが机を叩く。

怒り心頭の表情、だが相対する一夏も同じく怒りの表情。

 

 

「そのくらいにしとけよ2人とも」

 

 

一夏とセシリアの2人の間に正樹が割り込む。

当然2人の感情の矛先は割り込んだ正樹に向かった。

 

 

「何でだよ正樹、悔しくないのかっ!?」

 

「別に? けど流石に立場ってもんがあるだろオルコットには」

 

「立場?」

 

 

一夏が怪訝な表情で正樹に尋ねる。

それと同時にハッと何かに気づいたようにセシリアの表情が変わった。

 

 

「代表候補生なんて立場だ、流石にこれ以上はまずいだろ?」

 

 

苦笑しつつも納得してくれと正樹が暗に伝えている。

 

本来、直情的な正樹がこうして立場を気にするようになったのは彼がラ・ギアスでの【魔装機神操者】であったことが大きい。

 

魔装機神操者には、ラ・ギアスの為に自分の意志で行動するという、国家に属する機動兵器の搭乗者としては破格の権利が与えられていた。

だがそれには相応の【責任】が付きまとうものであった。

 

自分と共に笑ってくれた、傍に付き添ってくれた立場を超えた友人であったフェイルロード・グラン・ビルセイアがラ・ギアス統一を目指して暴走した際、マサキはその手で彼を殺めている。

主に紛争の調停・抑止を主任務としていた【アンティラス隊】に所属していたことも大きい。

故に責任の重さについては重々承知しているのだ。

 

正樹の言葉を理解できないセシリアではない。

だがそれを認める事などそうそうできはしない。

そのため言葉が漏れた。

 

 

「……ふん、所詮は貴方も情けない男の1人なのですね、サイバスターとかいうISもたかが知れますわ」

 

「……なんだと?」

 

 

その捨て台詞だけは看過できるものではなかった。

 

【サイバスター】は正樹にとっては相棒であり誇りであり、【愛する大切な人達】から託されたものである。

それを侮辱されたら黙っているわけにはいかなかった。

 

 

「オルコット、その言葉だけは見過ごせねぇ……決闘だったな、いいぜ受けてやるよ」

 

「あら、やる気になったんですの? なら叩きのめして差し上げますわ」

 

「上等だ、痛い目見て吠え面かくなよ」

 

 

正樹とセシリアの視線がぶつかり合って火花を散らす。

 

 

「……あれ、俺忘れられてない?」

 

 

火花を散らす正樹とセシリアを見て一夏が隣にいた少女に尋ねる。

丈が余りまくった女子用制服に、眠そうな表情をした少女。

見るからにゆるく、いうならばのほほんとした雰囲気を漂わせていた。

 

 

「うーん、どうだろうねー、それにしてもマッキーって結構短気なんだねー……かんちゃんやたっちゃん苦労してそー」

 

 

その少女が呟いた瞬間、バンッと手を叩く音が響きクラスメイトの視線は教壇に集まる。

 

 

「勝負ということで話はまとまったな? なら1週間後、第2アリーナを使用してクラス代表を決めるぞ。さて、それでは1時限目を始める」

 

 

千冬の声と共に授業が始まり、仕方なく正樹は席に着いた。

 

―――――――――――――――――――――

同日 放課後 学生寮

 

 

『初日から問題起こすニャンて……刀奈が知ったらなんていうかしらね、マサキ?』

 

「だけどよ、あの言葉だけは見過ごせなかったんだ、仕方ねえだろ」

 

「そんな事があったんだ……クラス別だから知らなかった」

 

 

正樹の部屋、正確には正樹と簪の部屋で2人は今日の出来事を振り返っていた。

ファミリアであるクロとシロは部屋のソファで丸くなっている。

 

 

『簪は4組ニャンだっけ?』

 

「うん……正樹と一緒が良かったな」

 

 

少しだけ寂しそうに呟いた言葉を正樹は聞き逃さなかった。

そして少し照れたように頬をかいて言う。

 

 

「まあ、俺も簪と一緒だったら楽だったけどさ……学校なんだし、しょうがないだろ? それに部屋が同じなんだからいいじゃねえか」

 

「……うん、そこは姉さんに感謝だね」

 

 

励ましているのが分かったのか彼女は笑みを浮かべる。

正樹の言葉の通り、簪と彼の部屋は同じである。

男性搭乗者として一夏と正樹は急な発見であった為、学生寮の部屋を確保できなかったため仕方なく男女共同の相部屋となっているのだ。

 

ただ正樹と簪の場合は、簪の姉である刀奈の手引きによって同じ部屋になっているのだが。

 

 

「英国の代表候補生か……確か国家代表にほぼ内定してるって聞いたよ」

 

「へぇー……そういえば一夏も専用機が用意されるらしいな、それに訓練をつけるのはあの篠ノ之束の妹の箒ってやつらしいし、侮れねぇな」

 

「手ごわそうだね、でもサイバスターにとってもいいデビュー戦になると思う、それに正樹なら絶対勝てるよ、私信じてるから」

 

「おう、サンキュな簪」

 

「うん」

 

 

そう言って簪は正樹の隣に移動する。

彼女のその行動に内心ドキリとしながらそっと肩に手を回す。

 

正樹に身体を預け、簪は彼の鼓動を感じる為に目を閉じる。

その時であった。

 

 

「簪ちゃん、正樹の独り占めは駄目じゃない?」

 

 

その声にビクンッと2人が飛び上がる。

声がした方向は部屋の扉、そこには簪の姉、更識刀奈がいた。

 

 

「ねっ、姉さんっ?!」

 

「いっ、いつの間にいたんだよっ!?」

 

「ついさっきからよ、丁度簪ちゃんが正樹に体を預けたくらい」

 

 

ふふっと笑いながら正樹の左手を取って身体を寄せる。

丁度右側にいる簪と対象になる形だ。

 

 

「私だって正樹と一緒にいたいのよ?」

 

「いや、まあ、別に構わないけどよぉ……」

 

「……!」

 

 

正樹が言うとぎゅっと右手に感じる力が強くなる。

それに答える為に簪と刀奈、2人を抱きしめる。

 

 

「2人とも落ち着けって、な?」

 

「まっ、正樹……っ!」

 

「顔近っ……貴方がそういうなら……そうするわ」

 

 

2人が顔を朱色に染めて、手に感じる力が弱まったことに内心安堵していた。

正樹は簪と刀奈、2人とも平等に愛している。

これは前世の関係が複雑であったからである。

ウェンディの意識の中にテューディがいて、マサキは2人に惹かれていたのだ。

 

しかし以前のようにウェンディ1人で2人と付き合えるという訳にはいかない。

現在は国家代表の仕事のせいで忙しい刀奈より、簪と一緒にいる機会の方が多い。

なので刀奈は正樹には積極的なスキンシップを行っている。

それに対抗して簪も――というループが最近は発生しているのだが。

 

 

(まー、そういうところも可愛いって気付けたのはデケぇよなぁ……)

 

 

かつての自分は相当の朴念仁だったなと自嘲できるくらいには成長している正樹であった。

 

余談であるが、ラングラン王国ではある種の階級制度が敷かれていた。

マサキのラ・ギアスでの名は【ランドール・ザン・ゼノサキス】

ザンは戦士階級を意味し、【重婚】が許されていた。

この世界ではそういった制度はないが、彼等の中では前世から関係が続いている為、交際相手が複数いても何ら問題はない認識であった。

なお、浮気は許さないと2人は正樹に語っているが。

 

―――――――――――――――――――――

そして時間は流れ――

 

代表決定戦当日 第2アリーナ Aピット内

 

試合開始はもう間もなくであり、すでに対戦相手のセシリアは専用機【ブルー・ティアーズ】を纏い、アリーナ上空で待機している。

Aピットでは正樹と簪が試合前の最終確認を行っている最中である。

別クラスである簪がこの場にいてもいいのかと思われるが、そもそもこの代表候補決定戦は他クラスにも情報が開示されている為、いまさらである。

加えて、彼女はサイバスターの開発責任者である。機体の稼働状況をチェックする義務があるのだ。

 

同じく開発責任者である刀奈は国家代表の仕事がある為、不在である。

早朝に学園を発ったらしく、その際ものすごく不機嫌であったとの事だ。

 

 

「正樹、サイバスターの武装についてだけど」

 

「ん?」

 

 

ISスーツ姿の正樹が振り返りつつ尋ねる。

正樹が身につけているのは特注のISスーツであり、鋼龍戦隊の標準パイロットスーツに近いデザインのものだ。

色合いについては派手気味なオリジナルから多少落ち着いた色に変化している。

魔装機の操縦の際には特にスーツの着用などが必要なかったため、彼にとっては新鮮なものであった。

 

 

「【アカシックバスター】と【コスモノヴァ】は使っちゃだめだよ」

 

「……わかってるって、流石にそこまで馬鹿じゃねえさ」

 

「うん、武装にはリミッターを掛けてあるけど念のためにね」

 

 

ISサイバスターの性能はオリジナルの魔装機神サイバスターと比較しても性能の低下は最小限であった。

 

・サイズによる火力の低下。

・オリハルコニウムの装甲からIS標準合金への材質変更。

・永久機関未搭載による稼働時間制限の発生。

 

大まかにあげると上記の3つ程度である。

それ以外は通常のISと比較すればまさに次元が違うスペックを持つ機体である。

 

サイバスターの性能が既存のISを隔絶している理由は簡単な事である。

【サイフィス】と言う高位の精霊王と契約している点と、簪と刀奈が力を入れすぎたのである。

元々2人とも技術者であり、そこに愛する男性の機体という事で必要以上に力を入れすぎたのだ。

特に武装については完全再現されていると言ってもいい出来だ。

 

因果律を計算し、召喚した火の鳥と共に突撃し相手を文字通りアカシックレコードから消し去る【アカシックバスター】

 

光球を放ち対象を莫大なエネルギーと共に破砕する【コスモノヴァ】

 

 

この2つがようやくビーム兵器の普及が始まり始めたISで使用可能なのである。

アカシックバスターについてはその威力も当然ながら高いが、相手の存在をアカシックレコード、つまりは世界から消してしまう事が可能な魔術的要素を含んだ武装。

 

コスモノヴァについては、その後の戦闘機動に影響が出る範囲でエネルギーを収束してようやく1発だけが発射可能な極悪燃費である。だがその分威力は折り紙つきであり、シミュレータでは粒子ビーム用コーティングを施された、小型シェルターを1発で跡形もなく吹き飛ばす威力が出ると想定されている。

 

両方とも直撃すれば【絶対防御】など意味をなさずに、搭乗者ごと消し飛ばしてしまう可能性が高い。

 

故に今のサイバスターの武装には厳重なリミッターが掛けられている。

なおリミッターが掛けられているのは上位武装のみであるため、機体自体はフルスペックではあるが。

 

 

「ディスカッターとハイ・ファミリアだってあるんだ、何とかするって、な?」

 

『任せるニャ、簪』

 

『マサキは私達でサポートするニャ』

 

 

使い魔であるシロとクロが正樹の両肩の上から簪に告げる。

シロとクロは魔術によって隠れている為、傍から見ても簪が正樹と話しているようにしか見えないだろう。

 

 

「うん、頑張ってね」

 

『ああ』

 

 

簪にそう返した正樹は待機形態のオリハルコニウムのペンダントを握りしめ、サイバスターを起動させる。

使い魔であるシロとクロは量子化し、サイバスターの両肩部のハイ・ファミリアに同化する。

1秒にも満たない時間で白銀の鎧を全身に纏った正樹がそのまま浮遊してカタパルトに向かう。

 

 

『安藤君、準備いいですか?』

 

 

カタパルトにサイバスターを接続させると通信が繋がる。

通信先は副担任である山田真耶先生。

 

 

『ああ、準備万端だぜ、山田センセ』

 

『了解しました、それではコントロールを渡しますね』

 

 

真耶の言葉の後サイバスターのコンソールにコンディションOKと表示される。

それを確認した正樹はカタパルトから飛び立つ。

 

 

『GO、サイバスター!』

 

 

白銀の翼から溢れる美しい緑の粒子を残像にサイバスターは空に射出された。

 

―――――――――――――――――――――

蒼のIS、英国で開発された【BT兵器】を搭載した試作型IS【ブルー・ティアーズ】を身に纏い、空中で待機していたセシリアは、カタパルトから射出されたサイバスターを確認して目を細める。

 

そしてサイバスターが眼前に現れると口元に笑みを浮かべつつ、告げる。

 

 

『女性を待たせるとは紳士ではありませんね』

 

『そりゃ悪かったな』

 

 

セシリアが浮かべる挑発的な笑みを無視して正樹が返す。

 

 

『それで、負けた際の言い訳は考えましたか?』

 

『その言葉リボンでもつけて送り返してやるよ、オルコット』

 

 

やれやれと両肩をすくめて正樹が返すとセシリアの顔から笑みが消えた。

 

 

『そうですか……では後悔はなさらないでくださいね?』

 

 

右マニピュレータに狙撃銃【スターライトMk-Ⅲ】を展開しセシリアが構える。

同時に正樹も実体剣【ディスカッター】を展開する。

 

 

『行くぜ、サイバスターっ!』

 

 

正樹の掛け声と共に、試合開始のブザーが響く。

同時にセシリアの視界から相対しているサイバスターがロストした。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

『っ!?』

 

 

AMBAC(稼働肢制御による姿勢制御)を行い、セシリアが体勢を立て直す。

 

 

(何を……されましたのっ!?)

 

 

思考は突然の事態で混乱していたが、しっかりと原因をその目で見ていた。

試合開始と共にブルー・ティアーズが――自身がサイバスターの実体剣による斬撃を貰い、そのまま弾き飛ばされたという事を。

 

 

(速すぎるっ!?)

 

 

機体のハイパーセンサーでサイバスターを感知してみればすでに背後に回り、再び斬撃の体勢を取っていた。

 

 

『後ろっ!?』

 

『でぇいっ!』

 

 

上段から振り下ろされたディスカッターを左マニピュレータの装甲で防御する。

装甲の一部分が破壊され、シールドエネルギーが減少する。

だが防御したことでサイバスターの動きが止まっていた。

 

 

『っ……そこっ!』

 

 

右のマニピュレータに持っていた狙撃銃をサイバスターに突き立てる様に突き出し、トリガーを引く。

しかし次の瞬間にはサイバスターは射線を外れ、距離を取っていた。

 

 

『なんて機動性能ですの……あの機動力ではこちらの攻撃が……っ!』

 

 

当たらないという言葉を何とか飲み込んだセシリアにサイバスターから通信が繋がる。

 

 

『どうしたよ、この程度じゃないだろ?』

 

『っ! 私を本気にさせましたわねっ!』

 

 

正樹の挑発の言葉に乗ったセシリアが叫ぶ

すると、背部スラスターが切り離されて、浮遊砲台へと姿を変える。

 

 

(凄まじい程の機動性ですが、逃げ場をなくしてしまえばっ!)

 

 

これがブルー・ティアーズに搭載された【BT兵器】

オールレンジ攻撃が可能な無線誘導自立砲台だ。

 

 

『お行きなさい、ティアーズっ!!』

 

 

セシリアの叫びと共に4つのティアーズが高速でサイバスターに向かっていく。

 

当のサイバスター、正樹はブルー・ティアーズから切り離された遠隔自動砲台【ティアーズ】を見て少々驚きの表情を浮かべていた。

 

 

『ハイファミリア……じゃねえな、ビット兵器か』

 

 

しかしすぐに驚愕は収まった。

ビット兵器、新西暦世界にも同様の武装を搭載していた機体がいたからだ。

また一時迷い込んでしまった世界のガンダムと言う機動兵器も類似したファンネルとかいう武装を積んでいたことを思い出した。

 

 

(……動きが鈍い? 試作型だって聞いてたが……)

 

 

正樹がそう思ってしまうのも仕方ないだろう。

ブルー・ティアーズのBT兵器はまだまだ試作段階の代物である。

戦場で使われ苦渋を舐めさせられた兵器、味方として何度も援護してもらったモノとはどうしても劣ってしまう。

 

 

『なら、こっちもだっ! クロ、シロっ! 頼むぜっ!』

 

 

サイバスターの両肩部から小型の機動砲台が射出される。

 

 

『ファミリアづかいが荒いニャぁ』

 

『つべこべ言わず行くわよ、シロッ』

 

 

【ハイ・ファミリア】

それは魔装機神に装備されたファミリアが使う機動兵器の総称。

 

 

『BT兵器っ!? まさかそんなっ!?』

 

 

セシリアの動揺の声が響く。

ハイファミリアは正確にはBT兵器ではないが、オールレンジ攻撃が可能な点が共通している為、彼女の誤解も致し方ないだろう。

 

ティアーズがハイファミリアの小型粒子ビーム砲によって機関部や銃口を撃ち抜かれて墜落していく。

本体であるセシリアの動揺がBT兵器に伝わることで動きがより鈍くなる。

 

それを見逃す正樹ではない。

動きの鈍ったティアーズをディスカッターで切り裂き、本体であるセシリアに迫る。

 

 

『なっ、同時制御が可能だというのですかっ!?』

 

 

彼女の驚きも当然だ。

BT兵器の第一人者でもある彼女ですら、ティアーズ操作中は動けずに無防備になってしまうからだ。

ハイファミリアはあくまで同化したシロとクロが操作するため、正樹が直接動かしているわけではないのだが、それを知らない彼女には自身が使えない技術を使われたというショックを与えることとなった。

 

 

『そらよっ!』

 

『ちぃっ!』

 

 

振り下ろされたディスカッターを何とか回避し、瞬時に爆発的な加速を生む【瞬時加速】を用いてセシリアは正樹から離れる。

 

 

『逃がすかよっ!』

 

 

同じように瞬時加速を用いてブルーティアーズに追いすがる。

そしてディスカッターの一閃がセシリアを弾き飛ばした。

 

 

『きゃぁっ!?』

 

 

弾き飛ばされ落下していくセシリア、だがすぐさまAMBACで姿勢制御を行い復帰する。

そしてサイバスターと相対する。

 

 

(……強い、認めざるを得ないほどに……!)

 

 

情けなさなど微塵も感じさせないその戦いぶり、世の男とはまるで異なる堂々とした態度。

 

 

(ですが私も……代表候補生、そして誇り高いオルコット家当主、負けられない、負けたくないっ!)

 

 

ここまで誰かに負けたくないと感じたのはいつ振りだろうか。

損壊したライフルを格納し、代わりにショートサーベルを展開する。

 

 

『安藤さん、少しよろしいでしょうか?』

 

『……何だよ』

 

『私の全身全霊、受けてもらえますか?』

 

 

サーベルを構えつつ笑みを浮かべる彼女の雰囲気が変わったことを正樹は感じていた。

それに不思議と笑みがこぼれた。

 

 

『いいぜ、受けてやるよっ!』

 

『それでは……参りますわっ!』

 

 

瞬時加速からの攻撃、それはただ真っ直ぐな刺突であった。

だが刺突から感じる気迫は並大抵のそれではなかった。

 

咄嗟にディスカッターで突きを受け流す。

だがそれこそがセシリアの狙いであった。

 

 

『ティアーズはまだ2基ありますわっ!』

 

『なっ!?』

 

 

残っていたティアーズ、ミサイルビットを至近距離で起動させる。

本来は遠距離から操作して相手を攻撃するための武装をこの距離で爆破させれば当然、彼女も巻き込まれる。

だが、それは覚悟の上――

 

 

『はあっ!!』

 

『ぐっ!?』

 

 

この試合、初めての正樹の呻き声。

サイバスターの胸部装甲に刺突の一撃が突き刺さった。

スナップさせることでそのまま連撃に移行し、ディスカッターを弾き飛ばす。

 

 

『ちぃっ!』

 

 

先程セシリアがやったように瞬時加速によって距離を離しつつ、姿勢を立て直す。

ディスカッターは弾き飛ばされ落下し、アリーナの地面に突き刺さっている。

今の彼女が回収させてくれるとはとてもじゃないが思えない。

 

 

(勝機っ!)

 

 

近接武装がなくなったことで、反撃手段を失ったサイバスターにセシリアがショートサーベルを構えつつ突っ込む。

 

だが――サイバスターの腰部分から緑の魔法陣が現れ、そこから剣の柄が2つ現れた。

それを勢いよく抜き、二刀流の構えをサイバスターは取った。

 

片方はサイバスターの全長に届き得る大型の実体剣。

もう片方はディスカッターと同等の長さの細身の実体剣。

 

2つの剣には宝玉がはめ込まれており、剣の背には連結機構が見て取れる。

 

 

『【バニティリッパー】ッ!』

 

『二刀流……ですが負けませんっ!』

 

 

残ったエネルギーで瞬時加速。

先程と同じ最大加速からの刺突。

 

しかし――勝負はあっけなくついた。

細身の方で刺突を受け流し、そのまま大剣と連結。

鍔迫り合いは一瞬、バニティリッパーはそのままショートサーベルを斬りおとして、ブルー・ティアーズのシールドバリアを切り裂いた。

 

 

『あぐっ!?』

 

 

衝撃に弾き飛ばされると同時に機体のエネルギーが尽きる。

ブルー・ティアーズはゆっくりと降下を始めている。

 

 

『やるじゃねえかよ、オルコット。 自爆からの一撃はビビったぜ?』

 

 

降下を始めていたブルー・ティアーズをサイバスターが抱え上げる。

パーツ交換で修復が可能とはいえ、ティアーズは全機大破し墜落、ミサイルビットによる自爆で各部装甲にも少なくないダメージが見て取れる。

整備課には深く深く頭を下げる必要があるだろう。

 

 

『当然ですわ、ですが安藤さん……いえ、正樹さん(・・・・)はお強いのですね』

 

 

試合前とは打って変わった、どこか吹っ切れた様な彼女の顔。

その表情に笑みを浮かべつつ正樹が返す。

 

 

『まぁな、もっともサイバスターを造ってくれた皆がいるからこそ俺はこうして戦えたわけだから、俺1人が強いってわけじゃないけどな、セシリア(・・・・)

 

 

正樹の笑みに、彼女もまた笑みを返す。

そしてサイバスターに身を任せることにした、彼ならば信頼に足ると分かったからだ。

 

 

(本当にお強いのですわね……ああ、それにしても……)

 

 

代表候補生として、オルコット家当主として、全力で相対した。

しかしそれでも正樹とサイバスターには一撃与える事しかできなかった。

機体性能もあるだろうが、それを手足の様に、いや完全に自分の身体として操作する能力。

完敗――しかしセシリアの顔には陰りはなかった。

 

 

(こうまで手も足も出ないとなると、逆にすっきりしました……彼のような男性もいるのですね……まるで風の様に全てを吹き飛ばしてくれる殿方も)

 

 

女尊男卑の考えなどすべて吹き飛ばしてくれた。

そして心には風が吹いている――さわやかな春風のような心地よい風が。

 

 

『試合時間5分43秒、安藤正樹の勝利です』

 

 

サイバスターがBピットに降下すると同時に、試合終了のブザーが響いた。

 

 

 




セッシーは援護攻撃高レベルで持ってそう。


次回予告

「重力の魔神」

『フフフ……マサキ、貴方は相変わらずですね』

『テメェ! なんでこの世界に居やがるんだっ!?』


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第4話「重力の魔神」

Aピット内

 

 

「……はっ!?」

 

 

ぽかーんと口を開けていた一夏であったが、意識を取り戻した。

セシリアを抱えたまま、正樹はBピットに帰還している。

 

 

「正樹、凄いんだな……サイバスター、だっけ?」

 

「ああ。テスラ・ライヒ研究所という企業で開発された新型。こうも一方的とは思わなかったが……それにしてもあの剣技、安藤正樹、只者じゃないな」

 

 

篠ノ之流剣術を納めている箒からすれば、正樹の剣は見たことがない流派のものだ。

もっともそれも当然である。

 

神祇無窮流(じんぎむきゅうりゅう)】は、ラ・ギアスでは【不易久遠流(ふえきくおんりゅう)】と共に広く広まっていた剣術の流派だが、この世界では存在すらしていないのだ。

そのため使用できるのは【真伝】を会得している正樹と、その正樹から直接手ほどきを受けた簪の姉、刀奈しかいない。

 

ちなみに簪は、自分には剣は合っていないとの事で遠慮していた。

 

 

「……勝てるかなぁ、俺」

 

「一夏、そんな弱気でどうするんだっ!この1週間私と共に修練していたじゃないか!」

 

 

箒の怒声に苦笑いで一夏が返す。

するとAピットに真耶が飛び込んできた。

 

 

「来ましたよ、織斑君の専用機がっ!」

 

――――――――――――――

Bピット内

 

 

「お疲れ様、正樹」

 

「おう」

 

 

サイバスターを解除した正樹をドリンクを持った簪が迎える。

それを受け取って一口。

 

ふぅと息をついた正樹を見て、簪は微笑みながら口を開いた。

 

 

「サイバスターの調子、良かった?」

 

「ああ、問題ないと思うぜ。ただそれでも一撃貰っちまったけどな」

 

「うん、でもあれは仕方ないと思う。オルコットさんのあの一撃、剣については素人の私でも凄いと思った。ラ・ギアスの剣士の中でも早々出せるものじゃないと思う。それにあの自爆覚悟の行動、いなされることも計算に入れてなきゃできないよ」

 

「ああ、予想の上をいかれちまったな。ディスカッターも弾き飛ばされてバニティリッパー使うことになっちまったし。こりゃうかうかしてらんねーな」

 

「そうだね」

 

 

正樹と簪が先の試合についての感想を話し合っている場所から数m離れた所で先の対戦相手であるセシリアはその様子を眺めていた。

 

 

(……正樹さんとお話になっているのはもしやテスラ研の更識簪さん?それにあの雰囲気……ああ、最初から勝てない戦いだったのですね)

 

 

先の戦いの中で少なからず正樹に惹かれていたセシリアであったが、彼と簪の様子を見て淡い感情が消えていくのを感じていた。

 

そんな彼女に話しかける人間がいた。

 

 

「セッシー、お疲れさまー。どうしたのー?」

 

「セッ、セッシーとは私の事ですか、布仏さん?」

 

 

丈の余りまくった制服を身に着けたどこかのほほんとした雰囲気を纏う少女、【布仏本音】だ。

簪の侍女であり、幼い頃からの親友でもある。

 

また正樹も彼女には何度か会ったことがあった。

 

 

「うん、セシリアだからセッシー。はい、ドリーンク」

 

「ニッ、ニックネームですの?」

 

 

ドリンクを受け取りつつ、セシリアが尋ねる。

それに気づいたのか簪と正樹が視線を2人に向けた。

 

 

「うん?本音じゃねーか、ピットに来てたのか」

 

「かんちゃーん、マッキー。お疲れー!」

 

「本音、まさかオルコットさんに変なニックネームを……!?」

 

「……いえ、いいのですよ、更識さん」

 

 

本音に詰め寄った簪にセシリアはそう告げる。

 

 

「ニックネームなんて今まで付けてもらったこともありませんでしたから、新鮮な気持ちです」

 

「それならいいんだけど……」

 

「それに、私の事はセシリアで構いませんわ。私も簪さんと呼ばせてもらってもよろしいですか?」

 

「……うん。なら私もセシリアで。失礼だけどなんというか試合前とは別人な気がする」

 

「お恥ずかしながら、先の試合でようやく目が覚めましたわ。そういう一切合切を吹き飛ばしてくれた正樹さんには感謝しています。お二人の仲、応援してますわ」

 

 

セシリアが最後にそう簪に聞こえるくらいの声量で告げると、彼女の顔が朱色に染まった。

 

 

(何だよ、うまくやれてるじゃねぇか)

 

(うれしそうね、マサキ)

 

 

正樹の足元にいた2匹のファミリアの内の1匹、クロが正樹に念話を送ってきた。

 

 

(そりゃな。試合前にはバリバリの女尊男卑って態度だったからな)

 

(試合の中でそういう考えを全部捨てれたってことニャ?)

 

(俺との試合なんて切欠に過ぎないと思うけどな。ま、何はともあれってやつだ)

 

 

そうクロに返した正樹はドリンクを一気に飲み干した。

 

 

――――――――――――――

正樹とセシリアの試合から1時間後

 

セシリアのブルー・ティアーズはパーツ交換に時間がかかるため、先に一夏と正樹の試合が行われることとなった。

 

 

すでにエネルギーのチャージと修復が完了したサイバスターは、ピットから射出されアリーナ上空で待機していた。

 

 

『へっ、ようやくかよ』

 

『待たせたな』

 

 

Aピットから射出された純白の機体を纏った一夏が笑みを浮かべて正樹に返す。

【白式】、それが一夏の纏う専用機の名である。

 

唯一の武装である【雪片弐型】を一夏は構える。

 

 

『今の俺でどこまでやれるかわからないけど、全力で行くぜ、正樹っ!』

 

『当然だ、全力で来いよっ!』

 

 

同じくディスカッターを構えた、正樹。

試合開始のコールが響く直前であった。

 

 

オープンチャネルでアリーナ全体に声が響いたのは。

 

 

『【グラビトロンカノン】発射』

 

 

チャンネルから聞こえた声は若い男性のそれ。

瞬間、サイバスターと白式のセンサーが異常を検知した。

 

機体にまるで押しつぶされる様な重圧が加わる。

 

 

『うおおおっ!?』

 

『ぐぅっ!?こっ、この攻撃は……それに今の声っ!?』

 

 

突然の事態に白式はなすすべもなく落下し、地面に激突する。

シールドバリアのおかげで一夏は無傷であるが、動こうとしても動けないようだ。

 

 

(マサキ、機体全体に大幅な重力異常を検知したニャっ!)

 

(スラスターへのエネルギー供給にシールドバリアの出力上昇、完了。何とか動けるはずニャっ!)

 

 

ファミリアであるシロとクロが細かな調整を行い、サイバスターは機体の出力を全開にして重圧に耐えている。

超高速での機動が可能なサイバスターだから何とか耐えられるレベルである。

現行の第2世代機では恐らく耐えられずに落下してしまうだろう。

だがその影響か、エネルギーは瞬く間に減っていく。

 

しかしそんなことは些細なことであった。

 

正樹はこの攻撃を知っている。

そして先の声を知っている。

 

それは半ば本能に近いレベルで、【誰】がこの攻撃を行っているのか理解していた。

 

アリーナのシールドバリアはまるでガラス細工の様に破壊されており、観客席の生徒たちは混乱に包まれていた。

教師である千冬や、真耶は生徒たちの避難誘導を行っている。

 

そんな中、ピットの簪は自身の【IS】を部分展開して空間投影ディスプレイを高速でタイピングしながら、現在のアリーナの状況を分析していた。

 

 

「なっ、何が起こってますのっ!?」

 

『アリーナのシールドバリアが一瞬で破壊されてるっ。しかも試合エリアに重力異常っ、限定してのにっ、200Gっ、これはまさか……っ!?』

 

 

多種多様に存在しているISでも、重力操作を行うことができる機体は存在していない。

テスラ研で最先端のIS技術に触れている簪でもそんな機体は聞いたことがない。

 

だが、1機だけ、それが可能な機体を知っている。

まだウェンディとして、姉であるテューディと一心同体だった頃、共に戦ったことがあるのだ。

 

 

「じゅっ、重力異常ですのっ!?」

 

『っ、あの機体は……まさかっ!?』

 

 

サイバスターと白式、それを見下ろすように濃紺の機体がいつのまにかアリーナ上空に存在していた。

他のISと比べて重厚な装甲、機体各部にはまるで宝玉の様なパーツが備え付けられている。

 

そしてその機体を纏っているのは、紫髪の美青年。

まるで正樹を試しているかのような笑みだ。

 

 

『【グランゾン】……っ!?』

 

 

【重力の魔神】

かつてラ・ギアスに災厄を振りまく【魔神】として予言されたこともある機体。

 

 

『フフフ……マサキ、貴方は相変わらずですねぇ』

 

『シュウっ! テメェっ! なんでこの世界に居やがるんだっ!?』

 

 

シュウと呼ばれた青年。

稀代の天才【シュウ・シラカワ】が自身のISである【グランゾン】を纏い、現れた。

 

 




更新が大変遅れてしまい申し訳ありません。
ぷつっとやる気が切れていましたが、更新再開します。

ISデスティニーと、ISMDともどもよろしくお願いします。
スパロボX、サイバスター強いですねぇ…。


次回予告

「災厄の予兆」

『これで決めるっ!!』

『フフフ、見せてください。そのサイバスターの力を』




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第5話「災厄の予兆」

現れたシュウに向かい、正樹が口を開いた瞬間であった。

グランゾンの右マニピュレータの宝玉に高エネルギー反応を検知。

 

咄嗟に機体のスラスターを噴かせて回避を選択。

刹那の差で、サイバスターは発射された【グランビーム】を回避する。

 

 

『シュウっ、テメェッ!』

 

 

回避機動のまま加速して、振り下ろされる神速のディスカッター。

 

だがグランゾンは避ける気配を見せなかった。

正確には避ける必要もないからだ。

 

突如、ディスカッターがまるで見えない何かに阻まれたかのように弾かれた。

ISのシールドバリアとは文字通り次元が違う防御力を持つその機能を正樹はよく知っていた。

 

 

『マサキ、その程度ではグランゾンに傷一つ付けられませんよ?』

 

『歪曲シールド……っ!シュウ!何で学園を襲う!』

 

『……このIS学園が、鋼龍戦隊の様な一騎当千の戦力となるかの見極めですよ。と言っても今回の目的はアナタとサイバスターですが』

 

 

端正な顔に笑みを浮かべた青年、シュウが正樹に告げる。

グランゾン、シュウが右腕を掲げるとマニピュレータに装備されている宝玉が煌めき目の前の空間が裂ける。

 

同時に、サイバスターの周囲360°いたるところに同じように空間が裂け、孔が現れる。

 

 

『ククク……マサキ、見せてください、そのサイバスターがどの程度の力を出せるのか。【ワームスマッシャー】』

 

 

グランゾンの胸部から凄まじい量のビームが放たれ、目の前の孔に吸い込まれていく。

サイバスターに奔るロックオン警告、その数はざっと100。

 

機体周囲の孔全てから、グランゾンの放ったビームが転移し、襲ってきたのだ。

 

 

『ちぃっ!』

 

 

数瞬前までサイバスターがいた空間をビームの嵐が薙いだ。

瞬時加速とAMBACによってワームスマッシャーを回避していく。

 

しかし数発掠ってしまい、その分エネルギーは消耗してしまった。

だが、ワームスマッシャー相手にこの程度ならばむしろ僥倖であった。

 

本来の【グランゾン】が使用するワームスマッシャーはこの比ではない。

それは対峙した経験のある正樹がよく知っている。

 

 

『成程、既存の第3世代機とは隔絶した機動性があると。当然でしょうね、仮にもサイバスターを名乗る機体なのですから……では、これならどうです?』

 

 

胸部の装甲が展開し、内部にある宝玉が煌く。

 

凄まじいエネルギーが宝玉から溢れ、黒い球体が生成される。

少しずつ大きく、まるで空間に空いた孔が辺りの空間を飲み込みつつ巨大化しているようにも見える。

 

 

『事象の地平に近づけば、相対時間が遅くなります。あなたにとっては一瞬でしょうが、こちらでは永遠です。理解できましたか?』

 

 

グランゾンが両マニピュレータを掲げる。

同時に不安定だった孔は球体として安定した。

 

底の見えない黒い球体。

それは触れたものすべてを飲み込む【マイクロブラックホール】

 

これがグランゾンの代名詞でもある【ブラックホールクラスター】

先のシュウの言葉はこの武装に必要となる呪的言霊の置き換え、つまりは魔術的な詠唱でもあった。

 

その様子を生徒の避難を終えた千冬と真耶が管制室でモニター越しに確認していた。

 

 

「あの黒い球体が周囲の重力場、試合エリアに限定して、深刻な重力異常を発生させてます!つまり、あの武装は……【ブラックホール】を生み出してますっ!」

 

「ブラックホールだとっ!?」

 

「信じられませんが、事実です。そんなモノが放たれたら、アリーナだけじゃなくて学園そのものが……っ」

 

 

グランゾンが発生させているブラックホールクラスターの威力試算から、被害が尋常なものではない予測がはじき出され真耶は言葉を詰まらせる。

 

 

『フフフ、見せてください。そのサイバスターの力を』

 

 

ブラックホールクラスターの発射準備は完了した。

正樹は驚愕の表情でシュウに叫ぶ。

 

 

『シュウ、本気かっ!?』

 

『正樹っ!』

 

 

紫のISがサイバスターに寄り添う。

相手は簪、彼女もISを身に纏っていた。

 

紫色の装甲に両肩部には巨大な展開砲塔が非固定浮遊部位として浮いている。

 

 

『あれはグランゾンなのっ!?』

 

『ああ、けど詳しいことは後だっ。簪っ、ネーゼリアでアカシックバスターのリミッターを解除してくれっ!』

 

 

正樹が怒鳴り気味に返す。

それに頷いてすぐさま彼女は空間投影ディスプレイで操作を行う。

 

彼女の身に纏うISの名前は【ネーゼリア】

かつて姉と一心同体であった際に作り上げた霊峰の精霊と契約した魔装機がモチーフとなっている。

 

 

『ネーゼリアからサイバスターへのアクセスを確認。アカシックバスター、プロテクト解除……いけるよ、正樹っ!』

 

『サンキュッ!』

 

 

簪からの返答を聞いてサイバスターはディスカッターを構える。

そしてディスカッターから魔方陣が展開されていく。

 

 

(出力安定、アカシックバスター起動用プログラム実行ニャッ!)

 

(マサキ、行けるわよっ!)

 

『これで決めるっ!!』

 

 

ハイファミリアに同化しているシロとクロの2匹が武装の出力を調整する。

展開された魔法陣は複雑な模様を描きながらも迅速に展開された。

 

 

『アカシックレコードサーチっ!』

 

 

魔法陣が完全に展開されたことを確認した後、ディスカッターを差し込む。

すると魔法陣から火の鳥が放たれ、グランゾンに向かう。

 

同時にサイバスターも機体を加速させる。

 

 

『サイバードチェンジっ!』

 

 

正樹の音声認識によって、正樹の身体が量子化し、真の意味でISと1つになる。

搭乗者が消えたサイバスターであったが、その形状を大きく変えていく。

 

鎧にも見える形状はそれぞれのパーツが稼働することで、まるで鳥のように見える形状に変化した。

 

サイバスターの長距離飛行モード【サイバード】である。

 

 

『ブラックホールクラスター、発射』

 

 

サイバスターの行動を待っていたかの様にグランゾンはブラックホールをサイバスターに向けて発射した。

圧倒的な破壊のエネルギーを秘めた黒い球体が、サイバードに向かう。

 

 

『アァァァカシックバスタアァァァーッ!!』

 

 

召喚した火の鳥と共にサイバードが翔る。

サイバードと火の鳥が一つとなり、巨大な炎を纏ったサイバードは発射されたマイクロブラックホールに向かう。

紅き炎はその高温からか蒼き炎に変わり、火の鳥も同じく蒼き姿に変化する。

 

 

『貫けぇぇぇっ!!』

 

 

一瞬の拮抗の後、サイバードはブラックホールクラスターを貫いた。

単純な物理的な破壊力ならばブラックホールクラスターが圧倒的に上である。

だがアカシックバスターは、単純な破壊力も高いが、魔術の要素が強い武装である。

アカシックレコードに接続し、そこから対象だけを削除することでその存在を消し去ることが可能だ。

 

つまり今回の場合ならば、ブラックホールクラスターをなかったことにしたのだ。

 

サイバードが人型に戻ると同時に搭乗者である正樹の身体も再び実体化する。

 

 

(武装の面ではオリジナルのサイバスターと遜色ありませんね。姿が変わっても流石ウェンディといったところですか)

 

 

ブラックホールクラスターを打ち消された事など微塵も感じていないシュウは、サイバスターとネーゼリアを駆る簪を一瞥した後、機体を上昇させる。

 

 

『今回はここまでですね、マサキ』

 

『ぜぇ……まて、シュウっ、まだ終わりじゃねぇ……っ!』

 

 

サイバードから実体化した正樹の呼吸は荒く、汗は滝の様に流れている。

目立った被弾はなく機体自体のエネルギーもまだ十分に残っている。

 

正樹のこの疲労は急激に大量のプラーナを使用した為だ。

ブラックホールクラスターを消滅させるために、自身のプラーナを大量に使用してしまったため、身体に影響が出ているのだ。

 

 

『相変わらずの強がりですね……ウェンディ、彼の事は頼みましたよ』

 

『クリストフ、待って!』

 

 

そう告げたシュウは、簪の声を無視してグランゾンを操作させる。

するとグランゾンの背後の空間に黒い孔が開き、シュウはその孔に消えていく。

 

グランゾンの機体が孔に完全に消えると、最初からなかったかのように孔は消え去った。

 

 

『クリストフ……っ!』

 

『あの野郎……っ!』

 

 

そう悪態をついた瞬間、正樹の意識はブラックアウトした。

同時にサイバスターも展開が解除され、待機形態に戻る。

 

 

『正樹っ!』

 

 

落下する正樹をネーゼリアが抱えて、急いで地上に降下する。

蒼白な顔色の正樹だが簪は、彼の症状を把握していた。

 

 

(プラーナの急激な消費による疲労、あの時と同じなら……!)

 

 

魔装機神サイバスターがその能力を全開にしたとき、マサキは急激にプラーナを吸われ続けて現在と同じ症状になったことがある。

その際に彼女が自身のプラーナを彼に与えることで回復させた。

その方法は――

 

 

「んっ……」

 

 

彼の頬に口づけして、自身のプラーナを以前と同じように渡す。

流石に直接のキスは憚られた。これでも充分彼を回復させる事は可能だ。

 

顔色の悪かった正樹が見る見る間に回復していく。

そしてすぐに意識を取り戻した。

 

同時に簪も離れる。

 

 

「正樹、私のプラーナを渡したからもう大丈夫」

 

「……悪ぃ……」

 

「ううん、大丈夫。クリストフの事は気になると思うけど、今はゆっくり休んで」

 

「……そうする」

 

 

苦笑しつつ再び目を閉じる。

 

 

『おい、正樹っ!大丈夫かっ!?』

 

『正樹さんっ、大丈夫ですかっ!?』

 

 

シュウが撤退した事により、アリーナを襲っていた重力異常は解除されている。

その為、グラビトロンカノンの影響下にあった白式も復調していた。

セシリアもISを展開して駆けつけてくれた。

 

 

「正樹を保健室に。織斑君、力を貸して」

 

『あっ、ああ。抱えればいいんだな』

 

「お願い」

 

「お供しますわ、正樹さんの事も気になりますので」

 

 

白式のマニピュレータで気を失っている正樹を抱え上げ、移動して行く。

簪とセシリアはそれに付き添う。

ちらりと管制室のほうに視線を移すと、管制室から出て行く千冬と真耶の姿があった。

 

 

(今回の事で、色々と追求されそう。謎の男性搭乗者とISが学園を襲った訳だし……)

 

 

正樹を安全な所に移したら色々と追求があるだろうと簪は思う。

あまりに突然の事態であったため、正樹も自分もシュウについて知らぬ存ぜぬを通せぬ態度をとってしまっていた。

しっかりと映像も残っているだろう。

 

だがそんな事よりも大事な事はある。

何故、シュウは学園を襲ったのか。

以前の様に、邪神に縛られている気配はなかった。それに彼が同じ過ちを2度起こすとは到底思えない。

 

 

(……クリストフ、いえ、シュウ。貴方は一体何をしようとしているの……?)

 

 

憶測や推測が頭の中を飛び交うが、どれも確信を得るには弱かった。

 

――――――――――――――

 

某所

 

何処かに存在する施設、一見すると格納庫の様にも見える場所。

突如としてその空間が割れ、中から現れるのはグランゾンを身に纏ったシュウ。

 

それを出迎えるかのように待っていたウサギ耳をつけエプロン姿の女性――天災【篠ノ之束】がシュウに話しかける。

 

「しーちゃん、おつかれー」

 

「特に疲れてはいませんよ」

 

 

それに笑みを浮かべながらシュウは答える。

IS【グランゾン】を待機形態に切り替えて懐にしまう。

 

 

「あれー、少し嬉しそうじゃない?」

 

「そうですか?まあ、グランゾンは及第点を超えましたからね。当然改良は続けますが」

 

(それもそうだけど、マーちゃんとは色々あったとか聞いてるし……ま、藪を突いて魔神を怒らすのはカンベンだね)

 

 

とぼけた様に返すシュウに束も笑みを返す。

 

 

「さて、束博士。【ゲート】の様子はどうですか?」

 

「ん、特に異常なしだよー。起動もしてないし、する気配もないよん。しっかし南極の下にこんなのがあるなんて束さんびっくりだよ」

 

 

束が空間投影ディスプレイを展開する。

そこに映るのは巨大な円状の物体。

 

その名は【クロスゲート】

莫大なエネルギーを抽出することも、平行世界への転移門として使用することもできる先史文明のオーパーツ。

新西暦世界ではその性質上、たびたび厄災を招いていた。

 

例を挙げるのならば、クロスゲートより現れた絶望の王、ペルフェクティオ。

クロスゲートをその身に取り込んで新人祖となったユーゼス・ゴッツォ。

クロスゲート内の負念を吸収して暴走した巨人族XN-L。

 

新西暦世界の地球、衛星軌道上にあったクロスゲートは鋼龍戦隊の想いを束ねた【グランティード・ドラコデウス】のインフィニティキャリバーで破壊されたが、バルマー帝国やほかの星系にもクロスゲートは複数存在していた。

 

そしてこの世界にもクロスゲートは存在していた。

幸いなことに起動の気配はなく、南極の深海数千mに存在している為かまだ先進国にもその存在は明らかになっていない。

 

 

(クロスゲートを破壊するだけの力を今のグランゾンで出すことは叶いませんね。サイバスターが精霊憑依(ポゼッション)できるのならば可能性はあるでしょうが)

 

 

そもそもオリジナルのグランゾンやその完全体でもある【ネオ・グランゾン】でもクロスゲートの破壊は不可能だったのだ。

それよりも性能が低下している今のグランゾンでは土台無理な話である。

サイバスターが真の力を発揮すれば可能性はあるが、それでも低い。

 

 

「今は観察とゲートを封印するための装置を開発しなければなりませんね。束博士、引き続き協力をお願いしますよ」

 

「とーぜん!対等な取引だからねー、グランゾンのデータとか色々貰ってやる気満々だよ!おーっと、まずはご飯だ!くーちゃーん!」

 

「ふふ、それは何よりです」

 

 

そう言ってデスクの上に置かれていたコーヒーにシュウは口をつけた。

 




第3次OGはよ。
クォヴレー来て。


次回予告

「学園の日常」


「おっ、お前、鈴かっ!?」

(うへぇ……一夏、お前もかぁ)


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