【更新休止中】Fate/ぐだ×ぐだOrder 〜要するにぐだこがぐだおを呼ぶ話〜 (藻介)
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生前編
人造人間は修羅場の夢を見るか


生前のぐだおの話しを一つ。
終わらないメンテの暇つぶしにどうぞ(ま、これ見る人が何人いるのかってもんですけどね)。


 アテンションプリーズ。

 弊ぐだおの一人称は「私」ですが、ノンケです。

(ただし変態でないとは言ってない)

 

 

 雪吹きすさぶカルデアの朝、廊下で組んずほぐれつしている女性が二人。

 かたや足の先から爪の先、髪の毛の一本に至るまで真っ黒な毒娘。

 かたや制服の上に郷里でよく見かける呉服屋で売ってそうなパーカーを着こんだ、片目の隠れた眼鏡っ娘。

 というか、後者は私の後輩だった。

 起き抜け早々の珍景に虚ろを突かれ、ただただ呆然と立ち尽くす私に後輩が必死の抵抗の末、手を伸ばす。

「せ……先輩、たすけて、助けて……ください」

 その時、私の中の変なスイッチが入る音がした。そして無意識にかつしっかりと、右手を天高く突き上げる。

「令呪を以て命ず!」

 

 

「タマモキャット! 鮭のほぐしとご飯三杯山盛りをここに!」

 

 

「了解だワン!」

 どこからともなく現れる赤い和服に身を包んだ狐耳の少女。もはやネコなんだかイヌなんだかキツネなんだか分からない彼女、その手には光輝く白米の山とみごとに脂の乗った鮭、そのほぐし身。

 それらが放つ芳香に我慢出来ず、ここが廊下であることも忘れて箸とお椀を引ったくり、一言。

「いただきます」

 そこからはまさに狂乱。目前の光景を見て、鮭を乗せ、白米を頬張る。また目の前を見て、鮭を取り、ご飯を口へ。

 稀にそこへキャットがお代わりという名のエクストラアタックを挿し込む。

 ああ、ご飯が進む、進む、進む。

 生きてて良かった。というか、人類史がまだ残ってて良かった。初めてレイシフトしたあの日から今日まで、生き残れて本当に良かった。

 うちにも女神様は数名いらっしゃるけど、これは誰に感謝すべきだろう。いやむしろ、ここは全員に感謝すべきだろうか。ありがとう、特に豊穣の女神様辺り。

 おや? もう二杯目もなくなってしまった。よし、これで最後のお代わり(エクストラアタック)だ!

「……いい加減に、してください!!」

 その声が響いた時目にしたのは、白亜の城に突き飛ばされて共に宙を舞うキャットと静謐の姿、そして顔面近くに迫る熱々のご飯と鮭だった。

 

 

「いやはや、、まさか今は遙か理想の城(ロード・キャメロット)にあんな使い道があったとは……、あれで魔神柱を根っこからひっぺがせないかな?」

「できるわけ無いじゃないですか。アレは先輩特攻宝具です」

 そのわりには若干二名ほど巻き込まれていたような。

「そもそも朝の事は、先輩が招いたことでもあるんですからね」

 はて何かしただろうか。

 改めて食堂へ行く手前、中からとうに持ち直したキャットーー対私宝具というのはあながち嘘でもないかもしれないーーが腕を振るい、ここまでいい臭いが漂って来ている。

 既にかけつけ二杯を食べている身の上、「ご主人はおあずけだワン」とか「報酬にニンジンをいただこう!」とか言われそうなので、ここでマシュの話を聞いておくのも悪くないかもしれない。

「まず最たる原因は、先輩の夜の過ごし方にあります」

 あちゃー、そこからか。これは耳が痛い。

 

 

 それはもう随分と前、このカルデア、ひいては人類最後ーーにしてはいけないのだけれどーーのマスターになってから、一月が過ぎた頃だった。

 当時、うちには問題を抱えた三人のサーヴァントがいた。

 一人はバーサーカー、タマモキャット。マシュの次に契約してくれたサーヴァントで、初期の頃はかなりお世話になった。その後再臨素材が中々集まらず今では前線から身を引いているが、炊事洗濯に種火集めと、このカルデアを縁の下から支えてくれている。

 二人目は言わずと知れたヤンデレバーサーカー、清姫。オルレアンで出会ってから、彼女のために使った令呪は数知れず。平行世界の先輩達曰く、まだまだ甘い、らしい。

 最後に三人目、うちでは数少ないアサシンの一人、静謐のハサン。通称静謐の。生前、触れた生き物は全て死んでいったという彼女の生い立ちを聞き、思わず抱きついてしまったばかりか、その時の反応の余りの可愛さに、当時残っていた聖杯を全て使ってしまった事は後悔していない。

 事件はある日の夜、以上の三人がこんなことを言い出したことから始まった。

「ご主人、今日から一緒に寝ないカ?」

安珍様(ますたあ)、一緒に寝てくださいませ」

「主、その、今夜、お側にいてもいいですか?」

 その時感じたことを率直に言おう。

 貞操の危機。

 いや、キャットと静謐は良いよ。キャットはモフモフ温かいし、静謐は本当にそばで寝てるだけでなにもしてこないし。でも清姫は明らかに既成事実作ろうとしてる目だよね!?

 そして君たち、何を人の部屋で戦争始めようとしてるのかな。嫌だよ、こんな聖杯戦争。後に残るのは血まみれ毒まみれで、その上焼け野原になったマイルームだけだよ!

 容易に想像のついた戦争結果に身震いを覚えつつ、私は二つの条件付きで彼女らの提案を受け入れることにした。

 一つ、三日に一度の交代制(ちなみに順番は宝具の撃ち合いではなく、じゃんけんで決めた)にすること。

 二つ、寝ている間、私はカルデアのシステムで女性の姿になっておくこと。さすがに既成事実を作られるのはまずい。

 以降、分け入ってくる者もなく、たださすがに毎日はきついので、一人だけで寝させてもらえる日を一日作り、結局四日組みのローテーションで今朝にいたる。

 

 

 で、まあ昨日は静謐の日だった訳だが。

「そもそもあの日、マシュと男性サーヴァント連中に念話で助け呼んだのに、誰も来なかったんだけど」

「当然の結果です。先輩はまず自分が男であることを改めて自覚すべきです」

 う……、それを言われるときつい。

 確かに、日頃マイルームで性別変更システムを使って女装を楽しんだりしているけれど。

 あっ、まさか。ダヴィンチちゃんとレオニダスと理想の肉体追究同盟結んでることがばれたのだろうか。もしくは、平行世界の先輩から借りてきたヴラド公を引き留めて、服(女物)を見繕ってもらっていたことの方だろうか。

 ダメだ。思い当たる節が多すぎる。これ以上追究されたらさすがにまずい。

「で、今朝何があったんだ?」

 我ながら中々に苦しい言い逃れだ。

 今は遙か理想の城(ロード・キャメロット)が飛んで来る可能性に目をつむり、後輩の答えを待つ。

「静謐さんが抱きついて来たんです」

 思わずため息一つ。マシュが少し怪訝な顔をした気がするが、そこは華麗にスルー。

「何で?」

「分かりません。……ただ」

 その時、辺りに漂っていたマシュの怒気がどこかに吹き飛んで、何か物悲しさのような感じに入れ替わった気がした。

「寝惚けたような声で、“ありがとう”と、言っていた気がします」

「へえ、何でだろうね」

「ホッホッホ、それは恐らく、静謐めが己の毒を打ち消してくれているのが、マシュ殿のおかげだと知っていたためかもしれませんなぁ」

「「うわぁっ!」」

 突然私たちの背後に、仮面を顔に張り付けた男が現れる。

「呪腕先生、いつからそこにいたの」

「さあ。ずっと最初からいたのかもしれませんし、今さっき来たのかもしれませんぞ」

 ああ、本当アサシンの気配遮断スキル怖い。キャメロットの時敵に回さなくて良かった。

「あの、呪腕さん。それは一体どういうことでしょう」

「おや、私の聞き違いでしたかな。確か魔術師殿の対毒スキル(仮)は貴方の盾の加護によるものだったのでは?」

「あ、はい。そこは分かっています。でも……、

 でもこの盾は、元はギャラハッドさんの物で、私の物ではない。だから本来はその感謝はわたしではなく、彼に向けられるべきだと思うのです」

「なるほど、自分が感謝される道理はないと」

 マシュが静かに頷く。

「では、“代理”というのはどうですかな」

「代理……ですか?」

「そうです。そものこと、私のように人から山の翁になった者共はともかくとして、あやつは生まれたその時から、いやもしくは、生まれる前から山の翁になった者。一度山の翁となった者は生涯、死んでも暗殺のためにしか関係を築くことはできませぬ。だからーーー

 ーーーだから、代理でもいい。戦いが終われば記憶の奥底に沈んでしまうような関係でもいい。その感謝を受け取って、どうか、あやつの初めての友になっては下さりませんか」

「ーーー! はい!」

 笑顔でマシュが走り出す。その背中に迷いは微塵も感じられなかった。

「はて、行ってしまわれましたな。マシュ殿に静謐の居場所を教えそびれてしまいましたが」

「大丈夫だよ、きっと」

「ほう、同族の勘、というやつですかな」

「あ、知ってたんだ、そのこと」

「ええ、情報収集はアサシンの十八番ですから」

 やれやれ、できるだけ皆の前では伏せておきたかったんだけど。やっぱり、アサシンのサーヴァントには、それこそ殺されても敵いそうにないな。

「そのこと、他の皆には?」

「安心なされよ。無論、誰にも伝えてはおりませぬ。ただ、気づいてらっしゃる方は若干名いるようですが」

 やっぱか。無駄に勘が鋭いなうちのサーヴァント連中。

「ささ、我々も食堂に参りましょう。いつまでもこんなところにいるわけにはいきますまい」

「そうだね」

 止まっていた歩みを、再び始める。

「そう言えばさ、さっき友だちがどうとか言ってたけど、先生は友だちいたの? 山の翁になる前は普通に暮らしていたんだから、一人二人はいたんじゃない?」

「そうですな、その頃の記憶はもうとっくに摩耗しておりますゆえ、まあはっきりとは申せませぬが、仮にいたとしても、きっと捨ててしまったはずでしょう」

「何で?」

 仮面の下の表情がどこか渋くなるのを感じた。

「必要だったから、ですかな。

 魔術師殿、言ってはならぬことだと思いますが、私は静謐めが羨ましいのです。私が友を捨て、人を辞めてまで欲した全てを、あやつは最初から持っていた。確かに、あやつは何も得ることはできないのでしょう。それでも私は、何も失うことのなかったあやつが羨ましいのです」

「……そうか、なら」

 なら、私がやれることは一つだ。

「私と、友だちになってくれないかい」

 ハサン・サッバーハ、山の翁になるために人としての全てを捨てた男。でも、その生き方はとてもーーー

「私は山の翁としてのきみの最初の友だちになりたいんだ」

 とても、人間らしいと思った。でき損ないの私なんかより。

 しばらくの沈黙。後、男の笑い声。

「失礼。これほどまで笑ったのはいつ以来ですかな」

「そう、けっこういつも笑っている印象があったけど」

「これは一本とられましたな」

 再び、男の笑い声。

「それで答えは」

「ああ、そうでしたな。それは答えるに及びません」

「え、じゃあーーー」

「残念ながら、私は魔術師殿と友人になることはできませぬ。そものこと、私と貴方は元より魔術師(マスター)とそれに仕える従者(サーヴァント)という関係。それを一番ご存知なのは他ならぬ魔術師殿でしょう。無用な勘違いをなさっては困りまする」

「……そう、か。そうだよね、ごめん。変なことを言ってしまーーー」

「ーーーそれでも、それでもいつか、我々山の翁が不要となった時には、慰みに一杯付き合ってくださらぬか」

 その返答に思わず男の顔を見返す。

 私を見下ろす顔はやはり読み取れない。その顔のまま不自然に長い右腕で私の頭を撫でる。

 その時、今は遙か後輩の声(マシュの忠言)が頭をよぎる。

 ーーー先輩は男としての自覚が足りないんですーーー

 もしかして呪腕先生、私を女だと見ているんじゃ。そんな万が一にもあり得ない懸念が浮かび、急ぎ先生の右腕を頭の上からどかす。それにこの腕たしか宝具じゃなかったけ。え何、殺す気ですか。今度はそんな邪推が私に先生から距離をとらせた。

「魔術師殿?」

 二三歩ほど先行していた私を先生が呼び止める。

「わかった。その時は就職難だろうとなんだろうと、愚痴を言い合おう」

 私の返答にきょとんとする山の翁。でもすぐにいつもみたいな雰囲気を纏って、「ええ、お願いします」と返してくれた。

 そしてまた、私たちは歩き出す。そしていつの間にか食堂までたどり着いた。とそこで、不意に私の負けず嫌いな一面が顔を出す。

「そう言えばさ、先生は私が無用な勘違いをしてるって言ったよね」

「ええ」

「先生も一つ、“無用な勘違い”をしていることがあるよ」

 そう言って私は食堂の一角に近付く。そこでは女性サーヴァントたちが、一同に食事をとっていた。メンバーはマシュ、キャット、清姫、そしてーーー

「彼女はちゃんと自分で何かを得ることができるよ」

 ーーー静謐だった。

「はは、これはまた、一本とられましたな」

 男の笑い声が雪に閉ざされたカルデアに響いた。

 




後日

ぐだお「バラはちょっとどうかと思うけど、百合は結構いいと思う。というわけで」
シャララーン(性別変更する音)
ぐだお?「マシュ〜、ハグしよ〜」
マシュ「センパイ最低です」
ぐだお(がーん)

マシュ「全く、するならそのままでいいのに」(小声)


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その首は、私だけの物

 ネロ祭、皆さんおつかれさまでした!
 さてその興奮も冷めぬうちにやってきた1000万ダウンロードキャンペーン。果たして今度こそエレちゃんは実装されるのか(確認済み)。
 その内の一つ、星四鯖配布キャンペーン! 皆さんは誰にしますか? 私は初期からお世話になっている黒王様の宝具レベルをあげようと思っています。
 そんなわけで本編よりも筆が乗ってしまった番外編。お楽しみいただければ幸いです。


それは、ネロ祭の興奮もまだ冷めやらぬカルデアでの一幕。

 

「マスター」

 廊下を歩いていたらふと、セイバーに声をかけられた。

「どうかした?」

「いやなに、そろそろいい時間だ。食堂でジャンクな食べ物でも食べに行かないか?」

「いいね、私もちょうど食べたいと思っていたんだ」

 食堂に二人して入る。

 お昼時ということもありかなりの人たちが——といっても、その半数以上は世界に名の通った英霊たち、一般職員は実に二割強といったところなのだが——ある者は礼儀正しく楚々として、又ある者は同席した者同士でわいわいと、それぞれの流儀や作法で食事を楽しんでいるようにみえた。

 きっとここにあの大統王エジソンがいたら、これぞアメリカの心だ、なんて言いだしていたかもしれない。

 思い立って隣でメニュー表を観察しているセイバーに言ったら、少し微笑んで、「かもな」なんて言ってくれた。相変わらず、メニューからは目を離してはくれない辺り、とても彼女らしい。

「決まったか?」

「そうだなあ…………、じゃあ、この秋限定月見バーガーにしようかな」

「なるほど、では私も同じものにしよう」

 粗野ではあるものの、手慣れた手つきでウェイトレスを呼ぶ、応じたのは、

「ご注文はいかがしましょうか。ご主人様(マスター)、それに私」

 なんとまあ意外なことにメイドオルタだった。

「どうしたんだ、こんなところで」

「見ての通り、バイト中だ」

「バイト?」

 反転して、その上水着にメイドとは言え、一国の王様(本人は否定しているが)を雇うなんて誰がやったのだろう。というか、誘われたとして一体どうして働こうなんて思ったんだろう。

「雇い主はあの犬だか猫だか分からん狐か」

 そう言い放ったのはセイバーだった。自慢げな金色の瞳でドヤ顔をかましてくるあたり、私の考えていたことまでお見通しだったようだ。

「さすがに直感スキルは伊達ではないか、まったく、惜しいスキルを捨ててしまった。ことのついでだ。私は雇われたのではなく、自ら雇ってもらった」

「どういうこと?」

「なに、単純なことだ。日頃メイドスキルの向上を目指している私にとって、やつの熟練度には目を見張るものがある、特に料理、特に雪見大福。だから、私自ら弟子入りした」

「で、これはその一環だと」

「そういうことだ」

 まあ、それなら納得も行く。理性があるようでないようで、その実いろんなことを考えているキャットなら弟子入りは拒まないだろうし————一部、野菜をマッシュマッシュするイケメンを除けば。

「それよりご注文だ」

「そうだね、じゃあ私はこの『九月限定とれたてゲイザーの目玉焼きを挟んだ月見バーガー』のセットを一つ、飲み物はコーヒー、砂糖二つで」

「こちらも同じものを、そうだな……、とりあえず一ダースよこせ。ジャンクましましでだ」

「承りました。少々お待ちを、お客様方」

 カウンターへと戻っていくメイドオルタ、その様はとても、

「かなり板についているみたいだね」

「どうだかな、正直なことを言えば、なぜああなったのか私にも分からん」

「ああって、ゴスロリメイド服のこと? 私は結構似合ってると思うけどな」

「……っ! まったく! 貴様といると、心が休まる気がしないな」

「?」

 何か言ったろうか。普段青白いセイバーの頬が紅潮して、そっぽ向いている辺り、たぶん私がした何かに動揺したんだろうが全く見当がつかない。

「いい、深く考えるな、貴様のそれはきっと生来のものだ。考えるだけ無駄というやつだ」

「いや、そんなこと言われると余計気になるんだけど」

「よしておけ。それより(アーサー王)がメイドなどというものとして従事することについてだが——」

「——ご注文の品をお届けに上がりました。こちら通常の月見バーガーセットお一つ、それと同品物ジャンクましまし一ダースになります」

 セイバーが何か話そうとした折、横から入り込むようにしてメイドオルタが大量のハンバーガーをテーブルに置いていった。去り際に口角をにやりと上げていたのは、きっと気のせいじゃない。

「ありがとう。ごめんセイバー、なんの話だったけ?」

「…………、いや、そう大したことでもなかった。早く手を付けろ、ポテトが冷めてしまうぞ」

「うん、じゃあいただきます」

 手を合わせず、もっきゅもっきゅと両の手にしたハンバーガーを器用に食べていくセイバー。不思議なことに、彼女の黒いドレスには食べかすが、それこそ塵一つもこぼれない。

 そんな彼女を見やりながらコーヒーの入ったカップのプラスチックの蓋を開けた。コーヒーのどこか安心感を与えてくれるような香りが鼻孔をくすぐる。

「ねえ、セイバー」

「ん、ふぁんふぁ、ふぁふたー(訳:なんだ、マスター)」

「やっぱりメイドオルタって、神の意志か何かの産物だと思うんだ」

 そう言われたセイバーはとても不思議なものを見たような顔をして、口の中の食べ物を飲み込んでから、

「どこぞの聖女みたいなことを言うのだな、貴様は」

 フン、と鼻で笑った。

 

 

「ところで、私を誘った理由って、結局なんだったんだ?」

 セイバーの度重なる(一ダース単位での)お代わりは底を見せず、結局私が止めるまで小一時間ほど彼女はもっきゅもっきゅしていた。ちなみに、お勘定は私持ちだ。後で宝物庫周回に付き合ってもらうことに決めた瞬間である。

 今回は、リンゴいくつで足りるかな。

 会計を終え廊下に出る。些事——彼女に付き合っているとどうにも感覚が麻痺してしまう——を忘れて、私は改めて問いかけた。

「なんのことだ」

 どうやらしらばっくれるつもりらしい。よろしい、それならこちらにも手はある。

「いや、セイバーが食事に誘うなんて珍しいなって思ってさ。何か理由、……そう、話したいことでもあったんじゃないかと、そう考えただけだよ」

「…………理由がなければ、誘ってはいけないのですか?」

「ん? なんて?」

「……っ! なんでもない! 貴様を誘ったのも、そう、偶然、食堂の通り道に貴様がいただけだ。決して、何か聞きたかったわけではない!」

「ええ~~? ホントにござるか~~~~?」

 やったね、煽り成功。どうやら何か聞きたいことが——

「——卑王鉄鎚、極光は反転する——————」

「ストォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォップ! 宝具中止! 中止! ほら、ここ室内だし、もし、もし、道の角から野生の野良ジャンヌがあらわれて軌道そらされたら、もしかしたら食堂に当たっちゃうかもしれないじゃん!」

「む、それもそうだな」

 聖剣が黒い粒子となってセイバーの手元から消える。ふう、死ぬかと思いました。

「しかし貴様、いつの間にあの聖女を呼び出せていたのだ?」

「あ、ああ、ネロ祭の前にね」

 嘘です。呼べませんでした(爆死しました)

「ああ、確かに、あの守りには何度か助けられたな」

「ウン、ソウダネ」

 それ、たぶん別の平行世界(フレンドさん)のジャンヌ。

 閑話休題。

「それで、セイバーは何を聞きたかったんだ?」

「…………………………言わなければ、いけないか?」

 返答までにはだいぶ間があった。こういうしおらしいのは(彼女には絶対言わないけれど)あまりセイバーらしくない。

「セイバーが言いたくないなら、無理には聞かないよ。ただ——」

 ただ。それでも。

「——それでも、気にならないって言ったら嘘になっちゃうのかな。私はさ、君のこと、とてもおこがましいんだけど『相棒』だと思ってるからさ。君のことは、できるだけ全部知っておきたい。私のことも、全部知っていてほしい」

 ああ、なんてわがままなんだろう。自分でも吐き気がしてくる。そんなこと、あるはずがないことなんて、とっくの昔にわかっていたはずなのに。

「ダメ、かな?」

 それでも、聞かずにはいられない。いられなかった。

 セイバーは、下を向いて黙っている。表情が読み取れないがきっと困惑しているのだろう。

 例え彼女が、一国を完全な体制のもとで栄えさせた王だとしても、あれほど側にいた円卓の騎士たちにさえ完全な王であると呼ばれていたとしても、その身にあり得ないほどの膨大な魔力を帯びていたとしても。

 そこにいて、今目の前にいる彼女は、ただの一人の少女に過ぎないのだから。

 だから、彼女に多くを求めることは本来すべきでない、そう分かっていたはずだったのにな。

「ごめん、急にわがまま言ったりして。さて、これからどうしようか? そうだ。イシュタルとか誘って、宝物庫狩りにでも行かない? さっきので正直財布の中身がちょっと——」「——よい」

 え?

「今、なんて」

「…………よいと、無理をしなくてもよいと、そう言ったのだ」

「いや、別に無理なんて」

「だから、それのことを言っている」

 セイバーが顔を上げた。その表情には、いささか憤りが感じられる。

「貴様は出会ったときから、いつも、誰に対してもそうだった。親し気に接してくるくせに、どこか線引きをしてそれ以上は踏み込まないし、踏み込ませない」

「………そう、なのかな?」

「ああ、そうだ。特に私は、人の心が分からないと言われて久しいからな。余計に分からん」

 いや、そんな胸を張られても。それに十分分かってる方だとは思ってるよ。

「だから話せ。そして、もっと近くに寄れ。そうしたら、私も話す」

 そっか、なら。

「話すしかないか」

 こうして、私は傍らの椅子に二人で腰を落ち着け、彼女に私の考えていたことを話すことになったのだった。

 

 

「では、次は私の番だな」

 セイバーはなんの感慨もなく言った。ちなみにこれでも私の話の後だ。

「えっと、セイバーさん?」

 何か感想はないの? とは言えなかった。なぜなら、

「なんだ?」

「いや、何も」

 話す気満々ですね。すっごい目が輝いてらっしゃるもの。

「では言うぞ」

「ああ」

 なんか、こっちまで緊張してきた。

「貴様はなぜ、私をセイバーと呼ぶ」

「え?」

「だから、どうして貴様は私をクラス名で呼ぶのか、ということだ」

「え、そんなこと?」

 それだけのことを聞き出すために、私はあそこまで色々とカミングアウトさせられてしまったのか。なんだかとても馬鹿らしく思えてきたぞ。

そんなこと(・・・・・)ではない」

 身を乗り出してくるセイバー。ドレスの隙間から胸が少し見えそうになって、思わず目をそらす。が、その顔がうまく動かない。何か柔らかいものに当たっているような気がするのだが、それがうまく把握できない。

「いやまあ、最初に来たセイバークラスのサーヴァントが、セイバーだったってだけなんだけど」

「なら、なぜ今もそう呼び続ける? 確かに、私やベディヴィエール卿がくるまでまともなセイバーはいなかった」

 え、他にもいな、痛たたたたたたたたたたたたた、や、やめて。なんかよく分からないけど絞めつけるの止めて。

「だが、今は違う。確かに他のクラスほど充実しているわけではないものの、十分強力な英霊も揃ってきている。認めるのは癪だが、特にあのコサラの王、ラーマといったか。腕も確か、その上で人徳がある。愛する者に会うために愛剣に手を加えてまでセイバークラスになる、その姿勢には感心せざるを得ない。私にはできないことだからな。だから——」

「だから?」

「もう貴様にセイバーと呼ばれるのは私だけでなくていい。貴様の剣はもう、一つではないのだ。もう私だけを(セイバー)と呼ぶ必要はない」

「…………………………」

 セイバーは一切表情を変えず、淡々と言葉を紡ぐ。相変わらず感情の起伏が感じられない。それでも、彼女が不安を覚えていることだけは感情とか理屈とか、そういうのではなく経験で解かった。

「セイバー」

 ほぼこちらにもたれかかるような形になっていた彼女を、一度引きはがす。

「……マスター?」

「私にとって、セイバーはセイバーだけだよ」

「…………っ!」

「来たばかりの時君は、私が膝を屈したとき私の首をもらうと言った。正直、最初はとても怖かった。でも君が支えてくれたおかげで、今日まで何とかあきらめずに歩き続けられた。それはきっと、君のあの言葉のおかげだと思う」

 もちろん、マシュや他多くの英霊たち、カルデアのみんなに、ドクターやダビンチちゃんの支えもあったからだろうけど。

「それでも、辛いときは君が前に立ってくれた、後ろをまかせてくれた、隣にいてくれた。————だから私の剣はセイバーだけで、私の首は君だけの物だ」

 だからさ。

「これからも、一緒にいてくれる? セイバー」

「…………………………………………………………ふっ」

「む、どうしてそこで笑うのさ」

「いや、とてもくさいセリフを言うのだなと」

 う、確かに思い返すとちょっと恥ずかしくなってきた。

「まあいい、なら、くさいセリフついでに私も言おう。それでフェアだ」

「……分かった」

 

「誓おう。

 我が身はあなたの剣であり、我が命運はあなたと共にある。

 もしあなたが膝を屈したならば、その時私はあなたの首をもらい受ける。

 ここに契約は完了した。

 共に行きましょう、マスター」

 

「ああ、これからもよろしく。私の(セイバー)

 

 

 お前の首は私だけの物だ。

 ほかの誰にも譲ってはやらない。

 この世にもし死神がいるのだとしたら、私がそいつからお前を守ってやる。

 もし諦めたお前の首を死神が刈ろうものなら、先に私がお前の首を断ち切って、理想郷(アヴァロン)に持ち帰ってやる。

 なぜなら、私はお前の剣であり、お前は私の——いやこればかりは言葉にできないか。とりあえず大切な主とだけ言っておこう。

 だから、繰り返し言うが、お前の首は誰にも渡さない。私だけの物だ。

 

 ————だから、決して諦めるな。

 

 私はいつだって、お前の剣としてそばに居続けるのだから。

 




ネロ祭、決勝、鬼岩城のBBちゃん

BB「私の変身、みたいですか~?」

水着ニトクリス「かまいませんが」
孔明「ああ!」
マーリン「いいとも」

ぐだ「圧倒的な突っ込み不足!」


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プロローグ
人物設定


ぐだおがサーヴァントとしてどうなってるのか分かりづらいので、人物設定を載せておきます。
ついでにぐだこや、その他ユカイなサーヴァントたちも


・ぐだ男(シェリングフォード/藤丸立香)

 一度人理を救った男。

 コナン・ドイルがホームズをシャーロックと名付ける前に、仮に設定したシェリングフォード・ホームズという名の“出来損ないの探偵の象徴としての存在”の依り代として、ぐだ子に召喚された。クラス及び通称、ルーラー。

 ナイフとガンドを主武装としているが、斥候、偵察向きで戦闘向きではない。

 パラメータとしてはアサシンよりだが、直接人を殺したことはないのでルーラーでの現界となった。

 巨乳は良くない文明。

 

 ・パラメータ

  筋力:D/耐久:C/敏捷:A−/魔力:C−/幸運:B+/宝具:ー

 

 ・スキル

  真名看破:A+/気配遮断:B/気配感知:C/ガンド:C−/推理:A−/投擲(短刀):C/情報抹消:C+/対毒(仮):EX

 

 ・宝具

  ・『出来損ないの人理修復(グランドオーダー・ウィズ・フェイル)

   生前契約した英霊を下位互換(全ランクが一つ低下:A→B)で一時的に召喚する。魔力量的に現界は三体、宝具解放は一体が限界。

 

  ・『花婿失踪事件(ケース・オブ・アイデンティティ)

   なり損ないの探偵の集合体であるシェリングフォードとしての本来の宝具。自身に内在しているなり損ないたちの探偵技能を憑依経験という形で一時的に獲得することができる、ある種、専科百般スキルが宝具として昇華したものとも言える。ただし、元がなり損ないたちのなので、ランクは最高でもB+と低め。

   ルーラーのスキルは生前持っていたものや、死後召喚時や英霊にしごかれた結果得たものを除き、ほとんどがこれによるものが大きい。被った場合は相乗されて上限以上になることもある。

 

 

・ぐだ子(藤丸立花)

 ぐだ男とは別の並行世界のカルデアのマスター。

 男前スキルEX持ち(カーミラ曰く、何処かの子リスといい勝負)。何故か熟年の英霊に縁がある。

 

 

・マシュ・キリエライト

 ぐだ子のデミ・サーヴァント。クラス、シールダー。

 ルーラー(ぐだ男)が気になる。

 

 

・ロマ二・アーキマン

 カルデアの医療部門のトップにして、オルガマリー亡きあとのカルデア司令官。

 ルーラーに正体がバレているかもしれないと薄々感じている。

 

 

・カーミラ

 ぐだ子のサーヴァント。クラス、アサシン。

 カルデアの奥様その一。

 

 

・アルテミス&オリオン

 ぐだ子のサーヴァント。クラス、アーチャー。

 カルデアの奥様その二と、その夫。

 

 

・メディア

 ぐだ子のサーヴァント。クラス、キャスター。

 カルデアの奥様その三。ぐだ子の魔術の先生。

 

 

・クー・フーリン

 ぐだ子のサーヴァント。クラス、キャスター。

 ルーラーのトラウマその一。

 

 

・ジャンヌダルク

 第一特異点で出会ったサーヴァント。クラス、ルーラー。

 ルーラー(ぐだ男)に同じクラスのサーヴァントとして親近感を覚える。

 

 

・セイバー・オルタ

 ルーラーの生前のサーヴァント。クラス、セイバー。

 報酬にジャンクフードを所望する。

 ルーラーが一番良く呼ぶランキング一位。

 

 

・アルトリア・オルタ〔ランサー〕

 ルーラーの生前のサーヴァント。

 報酬にジャンクフードを所望する。

 

 

・イシュタル

 ルーラーの生前の最強のサーヴァント。クラス、アーチャー。

 報酬に宝石を所望する。そのため呼びづらい。

 

 

・タマモキャット

 ルーラーの生前のサーヴァント。クラス、バーサーカー。

 報酬にニンジンを所望する。

 料理上手い。

 

 

・静謐のハサン

 ルーラーの生前のサーヴァント。クラス、アサシン。

 ルーラー唯一の癒し。

 報酬に添い寝を所望する。

 

 

・サンタ・オルタ

 ルーラーの生前のサーヴァント。クラス、ライダー。

 報酬にターキーを所望する。

 セイバー・オルタと一緒に出すな危険。(最悪抑止力が働く)

 

 

・アンデルセン

 ルーラーの生前のサーヴァント。クラス、キャスター。

 報酬に休みを所望する。でもあげない。

 

 

・マシュ・キリエライト

 ルーラーの生前のサーヴァント。クラス、シールダー。

 何故か呼ぼうとしない。

 



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人物設定ver2

 筆休めと言ってまた書き貯めてしまった。
 ver1の改定(雑談が追加されただけ)と一応今後でるかもしれない人達の設定です(必ず出すとは言ってない)。
 そして新宿、最高かよ!
 新宿のワンコやらおじさまやら、あと亡霊達、オルタちゃん、セイバー、エドモン、そして運営と全国のぐだ男ちゃん&ぐだ子くんに全霊の感謝を。
 ……ん?ガチャ? 
 ええと………………
 ……キヨヒーガタクサンデマシタ。ハイ。


・ぐだ男(シェリングフォード/藤丸立香)

 一度人理を救った男。

 コナン・ドイルがホームズをシャーロックと名付ける前に、仮に設定したシェリングフォード・ホームズという名の“出来損ないの探偵の象徴としての存在”の依り代として、ぐだ子に召喚された。クラス及び通称、ルーラー。

 ナイフとガンドを主武装としているが、斥候、偵察向きで戦闘向きではない。

 パラメータとしてはアサシンよりだが、直接人を殺したことはないのでルーラーでの現界となった。

 巨乳は良くない文明。生前の趣味は女装で一人称も「私」だった。

 

 ・パラメータ

  筋力:D/耐久:C/敏捷:A−/魔力:C−/幸運:B+/宝具:ー

 

 ・スキル

  真名看破:A+/気配遮断:B/気配感知:C/ガンド:C−/推理:A−/投擲(短刀):C/情報抹消:C+/対毒(仮):EX

 

 ・宝具

  ・『出来損ないの人理修復(グランドオーダー・ウィズ・フェイル)

   生前契約した英霊を下位互換(全ランクが一つ低下:A→B)で一時的に召喚する。魔力量的に現界は三体、宝具解放は一体が限界。

後述のセイバー・オルタのように呼び出す英霊は例外なく霊基が彼の生前から続いている。これは宝具の本質が『縁』であり、それをそれぞれの英霊の座の記録に『特別枠』という形で変換、保存(やってることはぶっちゃけ、英霊の座への介入)しているから。呼び出す際は、ここの『記録』を『記憶』として英霊に付与してから呼び出している。

   英霊との間に強固で確かな『縁』があるからこそ許される、彼のみの特権とも言える

 

  ・『花婿失踪事件(ケース・オブ・アイデンティティ)』Cー~B+

   なり損ないの探偵の集合体であるシェリングフォードとしての本来の宝具。自身に内在しているなり損ないたちの探偵技能を憑依経験という形で一時的に獲得することができる、ある種、専科百般スキルが宝具として昇華したものとも言える。ただし、元がなり損ないたちのなので、ランクは最高でもB+と低め。

   ルーラーのスキルは生前持っていたものや、死後召喚時や英霊にしごかれた結果得たものを除き、ほとんどがこれによるものが大きい。被った場合は相乗されて上限以上になることもある。

副作用として、百の貌のハサンの『妄想幻像(ザバーニーヤ)」のように頭痛などに襲われたりする(ルーラー自身は力の代価として割り切っている)。

   元ネタはコナン・ドイル作ホームズ作品の一つの短編小説とその英題より(『シャーロック・ホームズの冒険』収録)。

 

   

・ぐだ子(藤丸立花)

 ぐだ男とは別の並行世界のカルデアのマスター。

 男前スキルEX持ち(カーミラ曰くどこかの子リスといい勝負)。何故か熟年の英霊に縁がある。

 正しいことは正しい、間違っていることは間違っていると言うだけの、ある種の頑固ともいえる性格をしている。

 

 

・マシュ・キリエライト

 ぐだ子のデミ・サーヴァント。クラス、シールダー。

 ルーラー(ぐだ男)が気になる。

 

 

・ロマ二・アーキマン

 カルデアの医療部門のトップにして、オルガマリー亡きあとのカルデア司令官。

 ルーラーに正体がバレているかもしれないと薄々感じている。

 

 

・カーミラ

 ぐだ子のサーヴァント。クラス、アサシン。

 カルデアの奥様その一。女の子じゃなくってだいたいドラゴンをメイデンしている。わかるとも!

 

 

・アルテミス&オリオン

 ぐだ子のサーヴァント。クラス、アーチャー。

 カルデアの奥様その二と、その夫。

 最近夫が他の女のところいくので『射法・玉天射(みこっと)』(知らない人はtype-moon wikiでオリオンを検索)を始めました。

 

 

・メディア

 ぐだ子のサーヴァント。クラス、キャスター。

 カルデアの奥様その三。ぐだ子の魔術の先生。ルルブレ無双(効果、どんな魔術事件も一刺しで解決。ただし、ギャグ補正時のみ)。

 

 

・クー・フーリン

 ぐだ子のサーヴァント。クラス、キャスター。

 ルーラーのトラウマその一。

 

 

・フェルグス・マックロイ

 ぐだ子のサーヴァント。クラス、セイバー。

 ミスター背景。

 基本カルデアではキャスニキと一緒にいることが多い。出番はあまり無い。

 

 

・宮本武蔵

 ぐだ子のサーヴァント。クラス、セイバー。

 ルーラーが真名を外した唯一の英霊。

 

 

・ニトクリス

 ぐだ子のサーヴァント。クラス、キャスター。

 ぐだ子には非情に接しようとするが、根が善人のためたいてい人の良さがにじみ出てくる。

 

 

・アストルフォ

 ぐだ子のサーヴァント。クラス、ライダー。

 狂化してないのにキャット並みに(またはそれ以上に)理性が蒸発しており、ぐだ子が止めない限り心の赴くままに行動する。

 

 

・ジャンヌダルク

 第一特異点で出会ったサーヴァント。クラス、ルーラー。

 ルーラー(ぐだ男)とはそれなりに(ぐだ男→ジャンヌの一方的な)面識がある。

 

 

・セイバー・オルタ

 ルーラーの生前のサーヴァント。クラス、セイバー。

 報酬にジャンクフードを所望する。

 ルーラーが一番良く呼ぶランキング一位。ルーラーにツンデレるランキングも常に首位。

 彼女始め、ルーラーが呼ぶサーヴァントは全て霊基が彼の生前から続いている(参加した聖杯戦争の情報は『記録』として保持)。

 

 

・ベディヴィエール

 ルーラーの生前のサーヴァント。クラス、セイバー。

 ルーラーの次に『マシュ・キリエライト』を知る人物。我らが良心。

 

 

・アルトリア・オルタ〔ランサー〕

 ルーラーの生前のサーヴァント。

 報酬にジャンクフードを所望する。

 聖剣を手放したゆえに大きくなった胸を色んな意味で邪魔に思っており、一種のコンプレックスになっている。なので時々無意識にセイバーの方の聖剣を羨ましく見ていたりする。

 

 

・ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ

 ルーラーの生前のサーヴァント。クラス、ランサー。通称ジャンタちゃん。

 基本ルーラー(トナカイさん)大好き。あとナーサリーとも仲良し。サンタ・オルタはお師匠。

 

 

・イシュタル

 ルーラーの生前の最強のサーヴァント。クラス、アーチャー。

 報酬に宝石を所望する。そのため呼びづらい。

 ルーラーの良き理解者であり、彼の姿をとある男に重ねている(ただしイシュタル自身はその男(エミヤシロウ)を知らず、ただ体が覚えていてその危うさ無意識に重ねているだけ)。その事もあってか、気まぐれに対価を要求しないこともある。

 

 

・アタランテ

 ルーラーの生前のサーヴァント。クラス、アーチャー。

 子供達の笑顔につながることなら、無条件で協力してくれる。

 森林戦闘のスペシャリスト。ルーラーの敏捷値が高いのはだいたいこの人のせい。

 

 

・タマモキャット

 ルーラーの生前のサーヴァント。クラス、バーサーカー。

 報酬にニンジンを所望する。

 料理上手い。ルーラーの好みに合わせ、変化スキルで胸をだいぶ小さくしている。タダシハダカエプロンハユズラナイ。

 

 

・フランケンシュタイン

 ルーラーの生前のサーヴァント。クラス、バーサーカー。

 意志疎通が難しいが、大抵のことは協力してくれる。言葉が分かるのは女性鯖と知り合いの蒸気王のみ。ルーラーもよく分かってない。

 

 

・静謐のハサン

 ルーラーの生前のサーヴァント。クラス、アサシン。

 ルーラー唯一の癒し。

 報酬に添い寝を所望する。

 キャット同様(?)変化(潜入特化)スキルで胸を若干小さくしている。

 

 

・エミヤ(アサシン)

 ルーラーの生前のサーヴァント。

 ルーラーに息子的感情を抱いている。すまないキリツグ、その他家族は今のところいないんだ、すまない。

 都市戦闘、暗殺に特化した抑止の守護者。

 

 

・サンタ・オルタ

 ルーラーの生前のサーヴァント。クラス、ライダー。

 報酬にターキーを所望する。

 セイバー・オルタと一緒に出すな危険(最悪抑止力が働く)。

 

 

・マリー・アントワネット

 ルーラーの生前のサーヴァント。クラス、ライダー。

 一度闇堕ちしたことがある。

 

 

・アンデルセン

 ルーラーの生前のサーヴァント。クラス、キャスター。

 報酬に休みを所望する。でもあげない。のでよくストライキ(召喚拒否)をし、他のサーヴァント(そのおおよそが作家系だったり、幼かったりする。exナーサリー・ライム)をけしかける。

 

 

・ナーサリー・ライム

 ルーラーの生前のサーヴァント。クラス、キャスター。

 人の願いの集合体みたいなモノなので、基本なんでもやってくれる。たまにお茶会を開く。

 ルーラー大好き、ジャンタと仲良し、アンデルセンとはなんだかんだと付き合いがある(ツンデレカップルみたい)。

 

 

・マシュ・キリエライト

 ルーラーの生前のサーヴァント。クラス、シールダー。

 何故か呼ぼうとしない。

 




新宿のおじさま「さあ、やりたまえ、『例の言葉』を」
ぐだ男「……よし、真実はいつもひt」
その場にいる鯖全員&亡霊達「ちがーーーう!」
ぐだ男「え、じゃあ……、じっちゃんのn」
その場以下略&マシュ「言わせるかーーー‼」

~一方屋上組~

オルタ二人「あのマスターは一体何をやっている」


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プロローグ

はじめまして、他の小説投稿サイトでいくつか書かせてもらっている者です。
この小説はそちらでUBWのアーチャーみたく、人理修復後のぐだおを冬木クリア後のぐだこが呼んだらどうなるか、という思いつきから勢いで書いたのです。一応最後までの構想はありますがなにぶん勢いで書き始めた物なので、続くかどうか分かりません。
それでもお楽しみいただければ幸いです。



 なぜだ、なぜこうなった。

 目の前を歩く実に快活そうな少女。その印象を裏付けるように、左でくくられた髪の一房が緋色に輝き揺れている。彼女が今回のマスターらしい。

 そこまではいいとしよう。だがさっき、彼女はなんと言った。

「あ、そうそう。ここには他にもサーヴァントがいるから、自己紹介はそこでよろしく」

 他にもサーヴァントがいる、だと? 待て、つまりそれは……、いやいや、早まるなオレ。世界は広い。生前何度も、それこそ嫌になるくらい思い知らされたじゃないか。

 そうだ、一つの陣営に多数のサーヴァントがいるという状況イコール、あの世界だと決まったわけじゃない。まだだ。まだ諦めるな。

「みんな、新しいサーヴァントがきたよ」

 その一言とともに入った一室では、

「ねえダーリン、次どしよっか?」

「バカ、おまえは顔に出ちまうんだから、何も考えずにやった方がいいんだよ」

「本当よね。まだそっちの方がむやみと高い幸運を有効活用できるわ」

「そんなことはいいから、早く引いてくれないかしら。……はぁ、どうせやるなら、少女とやりたい。血を賭けの対象にして」

 名だたる英霊たちがババ抜きに興じていた。

 何やってんだ、月の女神に裏切りの魔女に伝説的殺人鬼。

 そう思った瞬間、トランプに向いていた(アルテミス以外の)目線がこちらに向いた。心の声でも読まれたか?

「あらマスター、来ていたの。ところでそちらの方はどなた?」

 とは裏切りの魔女。

「メディア、紹介する。こっちはルーラー、今さっき召喚に応じてくれたサーヴァント。真名は……、あ、聞くの忘れてた」

 手刀一閃、マスターの頭上に綺麗に決まった。

「全く。貴方のひたむきな努力は別として、そういうマスターとしての基本はまだ身についていないのね」

「う、ごめん」

 傍らで縮こまるマスターをよそに、こちらの顔を伺う裏切りの魔女、もといメディア。

「今回ルーラーのクラスで現界した、真名はシェリングフォード。シェリングフォード・ホームズだ」

「シェリングフォード……、余り聞かない名前ね」

「だろうな。オレは本来英霊のなりそこない、その象徴のようなものだからな」

 へえ、とメディアが曖昧な返事をした。その時、背後でドアの開く機械音がする。

 オレがどうしようもなく悟ってしまったのはこの時だ。

 分かっていた。

 マスターの着ている全身白ずくめの懐かしい服。それをそのまま写したような、近未来的な、それでいてどこか残酷なまでに暖かい施設。そして多くの英霊を従える一人のマスター。

 分かっていた。けれど、最後まで否定した、いや、否定し続けたかった。

 でも、しょうがない。彼女がいるということは、間違いなく、ここがあの世界だということの何よりの証拠じゃないか。

「すみません。マシュ・キリエライト、三分の遅刻です」

 

 

「えっと……、そちらが今回、新しく来てくださったサーヴァントの方でよろしいんでしょうか」

 とりあえず、首肯。

「初めまして。マシュ・キリエライトです。クラスはシールダーです。よろしくお願いします」

「シェリングフォード・ホームズ、クラスルーラー。ルーラーと呼んでくれ、キリエライト」

「え……!」

 マシュが目に見えて萎縮する。

「ミ、Mr.ホームズ、お会いできて、光栄です!」

「あれ?マシュ、ルーラーのこと知ってるの?」

 とはマスターの少女。立ち直りが早くてなにより。

「はい、先輩。シェリングフォードといえば、コナン・ドイルがホームズにシャーロックと名付ける前に、仮につけていた名前です。まさか英霊となっていただなんて」

 そこからマシュによるホームズ談義が展開されたのだが、これは割愛しよう。ただ一つオレが言えることは、目の前の少女は紛れもなく、かつてこの身を預けた彼女なのだということだ。

 そして数分、落ち着いた頃合いを見計らってオレが口を開いた。

「解説どうもありがとう、キリエライト。だが、買いかぶられてもらっても困る。

 オレという存在はこの世に数多存在した、無数の実在、非実在の探偵たち。その“なりそこない”の象徴だ。いわば、出来損ないの英霊と言ったところだ」

 それでも、というマシュ。その続きを彼女が話す前に獣のような声が割り込む。見れば、青いフードを被ったキャスターらしい男が、上半身裸で螺旋状の剣を持った英霊の隣に立っていた。

「それで、てめぇは何ができるってんだ。出来損ないの英霊さんよ」

「基本は気配遮断と真名看破による、敵情視察と言ったところだろうな。光の御子、クー・フーリン」

 フードの奥で眉がひそめられた気がした。

「あの、いいですか。Mr.ホームズ」

 とはマシュ。

「キリエライト、オレはシャーロックではない。できればルーラーと呼んでくれ」

「分かりました。ルーラーさんは戦闘においては何をするのですか」

「ああ」

 どうやら、この場にいる(アルテミス除く)全員が気になっているようだ。少し頭をかき、それから口を開く。

「オレは戦闘では余り役に立たない三流サーヴァントだ。精々、後ろからガンドやら短刀やらを投げつけて、牽制するのが関の山だろう」

 右手の甲を確認する。よし、ちゃんとある。

「だが、それは“オレが”戦う場合だ」

 オレの周りを魔力が渦巻く。

「たとえなりそこないでも、探偵としては不服なんだが、オレの本質はこっちだ」

 手の甲に刻まれた紅い印が輝く。オレの宝具の一端、令呪。

「マスター!」

「何?」

 うむ、こんな状況下でも落ち着いているのか。メディアはああ言っていたが、案外マスターとしての素質はあるのかもしれない。

「ハンバーガーを1ダース頼む。早急にだ!」

「へ?」

 まあ、さすがにこれにはそう反応するよな。彼女の毒気の抜けた表情を背に仕上げに入る。

「来てくれ、セイバー!」

 その掛け声と共に魔力の奔流が形をなしていく。それは徐々に人の形となり、最後、もやが晴れた後には黒い聖剣を携え同じく黒い衣服を身にまとった少女が現れた。

「問おう、貴様が私のマスター……、なんだ、貴様か」

「ああ、久しぶり……でもないか。とりあえず、呼び出しに応じてくれてありがとう」

「で、敵はどこだ。あのどこぞで見たキャス子か。それとも……、ほう、これはこれは、光の御子ではないか」

 セイバーの顔にとても悪い笑顔が浮かぶ。なんとなく察しがついたので先回り。

「セイバー、それ以上言ったらハンバーガー半ダースに減らすぞ」

 マスターの方をチラと見る。すでにハンバーガーは準備できているようだ(早いな)。

「そうか、それは私としても都合が悪い。約束しよう。たとえ口が裂けても、貴様があいつと契約するなりすぐさま破棄したことは、たとえ目の前にナゲット5ダースを積み上げられたとしても言うまい」

 その瞬間、その場の空気が凍る音がした。その静寂から最も早く脱したのは、やはりというかなんと言うか、光の御子、もといクー・フーリンだった。

 彼の多少は落ちていよう筋力がオレの胸倉を掴む。そして「てめぇ、表に出ろ」とかなんとか罵詈雑言を浴びせてくる。

 そのほとんどを(これまた便利なことに)私の耳は聞き流していたが、カツカツというヒールの音だけは逃さなかった。セイバーだ。

 見れば、主人がこんな状況に陥っていて、あまつさえその原因を作ったにも関わらず、私のマスターの手からハンバーガーを受け取っている。それもちゃっかり1ダース。そして自ら座に還りやがった。オレはここに、あの名言のなりそこないを叫びたい。

 セイバーーー‼︎

 もう誰でもいい。マスター、マシュ、助けてくれ。

 そうして求めた助けは、意外なところから現れた。

「あれ、なんか盛り上がってるなあ。じゃ、ぼくはもう少し後で改めさせてもらおうかな」

 オレは迷わず、その肩を掴んだ。

 

 

「さてと、じゃあ改めて、ようこそ人理継続保証機関カルデアへ。我々はあなたを歓迎します。Mr.ホームズ」

 かつて、ここではない別のカルデアでオレを送り出して来た管制室。その前を素通りし、すぐ隣のドクタールームーー彼曰く、前のところは吹き飛んでしまったから、急遽ここにあった空き部屋を再利用したとのことらしいーーに入り、彼はそう切り出した。

「かしこまらなくてもいい、それにオレのことはどうかルーラーと呼んでくれ」

 実に気弱そうな面構えだ。一体、その裏にどれだけの思惑を巡らせていたのか。それをまた、改めて確認する日が来ようとは夢にも思わなかったが。

「ロマ二・アーキマン」

 表情がとても親身なものに切り替わる。まるでトランプの表と裏のようと言ったのはどこの悪魔だったか。

「いやだな。ぼくのことも、気軽にDr.ロマンと呼んでくれて構わないよ。他のみんなも、大抵そう言ってるし」

「そうか、夢見がちなのだな、ドクター」

「あぁ、なんで英霊の僕に対する評価ってこうも辛辣なんだろう」

 思わずほくそ笑む。実際、その由来を知ってる上で言ったことは黙っておく。

「さて、君とこうして二人きりの場を設けたのは他でもない。

 君はいったい、何者だい?」

 入れてくれた紅茶を一口すする。今のオレの半身曰く、茶葉はいいものを使っているが淹れ方が甘い。

「どうせ監視カメラの映像で見ていたのだろう」

「おや、さすがに目ざといな」

「でなければ、あんなに早く大量のハンバーガーを転送できるはずがない」

 少なくともあの部屋には四つ、うち二つは魔力計付きの隠しカメラがあった。

「そうだ。僕たちはあの部屋で君がやっていたことを見ていた。あれは余りにも規格外だ。

 キャスターでもないサーヴァントがどこからともなく、他の英霊を呼び出す。そんなことが簡単に起きてしまっていいはずがない」

 さらにもう一口紅茶をすする。うむ、やはり半身が生理的に受け入れてくれない。

「もう一度聞こう。ルーラー、君は一体何者だい?」

 オレに問いかけるドクターの表情はどこと無く、焦っているように見えた。全く、質問内容と態度が食い違っているぞ。まあそれも当然のことかもしれないと思う。たとえ目の前の男の正体がアレでも、本質的にはメンタルが豆腐なのだから。

 であれば、ここで不確定事項を追加するのはよくないか。なら……、

「そうだな、確かに普通なら英霊召喚にはそれなりの手順と代償がいる。とても一小節の文言と少しのジャンクフードで呼べたりはしない。だが……」

 右手のにはめられた手袋ーー本来は指紋を残さないようにする程度の、さして特別なものでもないーーを外し、その甲を見せる。

「これは……!」

「そう、“令呪”だ

 オレは生前、とある聖杯戦争に参加したマスターだった。そこでのとある功績が讃えられ、英霊となった。とは言っても、なりそこない達の依り代という迷惑極まりない立場ではあるがね」

「じゃあ、これが君の宝具。しかし、過去に聖杯戦争でそんな大事件が起きたなんて話、いやそもそも、聖杯戦争自体大事件だが、聞いたことも」

「それは簡単だ。ドクター、並行世界という概念は知っているな」

 ドクターは何も言わず首を縦に振った。

「オレはこことは別、合わせ鏡のように連なる可能性の一つ、その並行世界で起きた聖杯戦争でのマスターだった」

 その話に彼はしばらく口をつぐんでいたが、次のオレのイタズラ心から出た言葉で、ついに驚きを隠せなくなってしまった。

「ああ余談だが、オレはさっきのセイバー以外にもサーヴァントを呼び出せる。いや、これは正確ではないな。今回のマスターの魔力容量からして、同時に現界させるのは三体、宝具解放はせいぜい一体が限界だろう」

 ああ、これがいわゆる“開いた口が塞がらない”というやつか。そんなドクターを尻目に紅茶の残り一口を飲み干す。うん、今度キャットにでも淹れてもらおうかな。

「さて話は終わりか。ここに来させたのは、魔力の供給元をここの電力と繋げる意味合いもあったんだろう。全く、今回のマスター、というよりは環境か。不気味なくらい合っているな」

「待って」

 立ち去ろうとしたオレをドクターが引き止めた。

「君は一体、そもそも、一人のマスターが複数のサーヴァントを同時に使役するなんて」

「さあな、案外、他のマスター達から令呪をかっさらっていたのかもしれないぞ。それにーー

 ーー複数のサーヴァントを使役しているという点においては、今回のマスターも似たようなものだろう」

「それは、そうだけど……」

 全く、ここで口ごもるなんて、どこの世界でもチキンはチキンか。

「ロマ二・アーキマン! シェリングフォードでも、その他無数のなりそこない達でもない、オレ個人として忠告する。

 おそらくだが、あのマスターはきっと死後、英霊となるだろう」

 眼を見開き、口を半開きにするロマ二・アーキマン。

「そしてその原因を作るのは他でもない貴方だ。さっきオレに言ったな、“君は一体何者なのだ”と。なら、もしそれを彼女に聞かれた時、貴方はどう答える」

「そんな、僕は……」

「それを恐れるなら! 後に遺される者がどう思うか、考えて選択することだ!」

 ドクタールームの扉が開く。もう誰もオレを呼び止めない。

「すまないことをした、ドクター。つい激情に駆られてありもしないことを話してしまった。ここでのことは忘れてくれ。一応、オレの情報抹消スキルで記録は消しておくが、さすがに人間の記憶まではいじれないのでね。

 とりあえず、オレはカルデアの一員としてマスターとともに戦おう。では」

 背後で扉の閉まる音がした。去り際に彼がなんと言おうとも、その電子音で消えてしまっているだろう。

 思わず、壁にもたれかかる。服装に華美な装飾がついていなかったことを幸運に思う。

 ああ、分かっている、分かっているさ。オレが何をしようとも、ドクターは選択を変えはしないし、マスターとなった彼女はオレと寸分違わぬ方法で、世界を救う。そんなこと、言われなくても分かっている。

 それでもオレは、オレはーー

 ーーできる限りの命をこの手にすくった上で、この聖杯戦争を終わらせる。

 生前ふとした折に出会った、どこまでも純粋で、どこまでも真っ直ぐな少女の言葉を思い出す。

 ーー未来はいつだって、前にしかないーー

 たとえその先が火の海だとしても、オレの望む未来もやはり、前にしかないのだろう。ならば進め。例え這ってでも掴んでやる。

 しばらくそんな、ごく普通のことを考えた後で立ち上がった。

 まずは自室でキャットに紅茶を淹れてもらうことから始めよう。

 




チョコ集めでノッブとか沖田がでてるところで起きた出来事in私の脳内

金のちびノッブ「ノッブ、ノッブ」
チノ「あなたはココアさんではありませんね!」
ここあ?(沖田)「な、なんのことでしょ〜〜」
チノ「とぼけてもムダです。なぜなら本物のココアさんは、ここにいるのですから」
宮本武蔵(CV佐倉綾音)「?」ザシュッ
デカノブ「ノブ〜〜」
ココア(本物)「チノちゃんそれ違う人ー!」

ぐだこ(これが中の人ネタか)


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邪竜百年戦争オルレアン
邪竜百年戦争オルレアン0~2


星5のサーヴァントがほぼ出ないのは、出演しているのがうちのカルデアにいる連中だからです。
無課金のうちにはぐだおとぐだこ合わせて3体しかいないのです。えっちゃんよ、来ておくれ。


ー0ー

 

 彼はいつも、背中ばかりを見てきた。

 背を向け、剣を振るう者。

 背を向け、槍を構える者。

 背を向け、矢を放つ者。

 背を向け、夢と希望で殴打する者。

 背を向け、物語を紡ぐ者。

 背を向け、毒を撒き散らす者。

 背を向け、野生のままに駆けていく者。

 そして、盾を地面に突き立てる者。

 決して並び立つことはなく、無力さは募る。

 それでもいいと、ある者は言った。

 もうダメだと思った時手を繋いでくれた、それだけでいいと。

 最後に彼女は言った。

 もっと、貴方のお役に立ちたかった。

 彼は嘆いた。

 自分だって本当は、肩を並べていたかった。力になりたかった。君を守りたかった。

 彼の嘆きはどこにも届かず、ただ、この広く冷たい世界に溶けてしまった。

 

 

ー1ー

 

「フォウ……? キュウ!」

 んん……、何かに舐められている気がする。眼をそっと開ける。すると、視界は一面真っ白の何かフサフサした物に覆われていた。

 雪? いや、それは室外のことだし。ていうか、これ前にもあった気がする。

「キュ、フウウ……?」

 あ、また舐められた。これはひょっとしなくても。

「おはよう、フォウさん」

「ミュー、フォーウ! キャーウキャーウ!」

 ですよね。

 案の定、白い毛むくじゃらの謎のリス型生命体が顔に張り付いていた。

「ちょっとどいてね。今起きるから」

 そう言うとフォウさんは言葉通り脇に退き、その隙に私は未だはっきりしない頭を強引に持ち上げた。

 しかしこの謎の生命体、人語を理解しているのだろうか。なんかさっき素直にどいてくれたし。しかも確かフォウさん、カルデアを自由気ままにウロウロしてて滅多に人には近づかないってマシュが言ってたような。そんなのからのモーニングコールなんて、うーん、これは幸運ととるべきなのかな。

 寝起きの頭を鈍く回転させる。そんな中、当のフォウさんは私の体の上で丸くなっていた。ああ、これは、暖を取りに来ただけか。

 そう納得した時、フォウさんの耳がピクピク動いていきなり顔をドアの方に向ける。つられて私も同じ所を見ると、ドアが開き、そこから紫髪の少女が入って来た。

「先輩、おはようございます。一緒に朝食はいかがです……きゃっ!」

「キュウゥゥゥ……!」

 フォウさんの胸元一直線ダイブ、マシュは尻餅をついた。

「ごめんなさいフォウさん、避けられませんでした。ですが朝から元気そうでなによりです。ですから、その……」

「フォウ?」

「どいてくれませんか? あの、そこは色々とまずいので…………」

 マシュの今にも消え入りそうな声とは裏腹に、フォウさんは更に顔を擦りつける。うん、やっぱりこいつ知性がある。しかも中身は中々のどすけべ野郎だ。

 これ以上可愛い後輩をセクハラの憂き目に合わせるわけにもいかず、布団から抜け出してフォウさんの首根っこをつかむ。するとフォウさんは「フォウ……?」と不思議そうに首を傾げた。

 こいつ、しらばっくれやがった。

 いや、それともまさか天然でやっていたのか。うーん、ますます分からん。

 このままにしておくのも難なので、とりあえず解放してやる。するとフォウさんは何事も無かったかのように部屋を出て行き、どこかへ消えてしまった。

「ねえ、マシュ」

「……っ! はい、何でしょう?」

 未だ尻餅をついたままの後輩に問う。

「私ってさ、女としての魅力ないのかな」

「………………。さあ、どうなん、でしょうね」

 そう答えるマシュと私の目は虚だった。

「…………」

「………………」

「……」

「…………先輩」

「……何?」

「とりあえず、朝食にしませんか?」

「そうだね」

 

 

ー2ー

 

「先輩、昨晩はよく眠れましたか?」

 食堂へ続く廊下を後輩と二人歩く。いつもなら常駐している職員の方やサーヴァントなんかとすれ違うのだけれど、今日は特に何の気配もない。

「あんまり、何かよく分からない夢を見た気がする」

「夢、ですか」

「うん」

 正直、あんまりいい夢では無かったような。

「マスターは英霊と夢を共感することがあると聞きます。きっとその類いでしょう。一体、どなたの夢だったのですか?」

「うーん、それがあんまり覚えてなくて……。あ、そういえば、何かマシュっぽい人が出てた気がする」

「私……、ですか?」

「案外、マシュの夢だったかもしれない」

 うん、多分そうに違いない。覚えてないのが少し残念だ。

「先輩が、私の夢を……」

「マシュ?」

「……っ! いえ、そんなことあり得ません」

 あまりにも自信のある物言いに、疑問を覚える。

「私は正規のサーヴァントではありません。ですから、私と融合した英霊さんの夢は見ても、そこに私が登場するなんて考えられないことなんです」

 マシュの意見はもっともなものだと思った。しかし、そうなると、あれは一体誰の夢だったのか。余計にややこしくなってきた。そんな中、一つ閃く。

「英霊なのか人間なのかはっきりしないやつなら、他にも一人いるじゃない」

「ああ、ルーラーさんですね」

 ルーラー、真名をシェリングフォード・ホームズ。先日召喚に応じてくれたサーヴァント。自分を出来損ないの英霊と呼び、戦闘は彼がせずに、召喚した他のサーヴァントに任せるという変わった戦い方をするサーヴァント。

「ドクター曰く、彼は生前聖杯戦争のマスターで、その時契約した英霊を呼び出すのが彼の宝具の能力みたいです」

「へえ、生前がマスター。ていうことは私の先輩にあたるわけか」

「はい。ですが、なぜかそう呼ぶことを断られてしまいましたが」

 うーん、フォウさんもフォウさんなら、彼も彼ってところか。本当に謎が尽きないな。

「そういえばルーラーの宝具だけど、名前がよく分からないんだよね」

「え、そうなんですか?」

「うん、正確に言うと宝具だけじゃなくてステータスも。とにかく全体にもやがかかったみたいで、何とかスキルとステータスのランクは分かったけど。本人に聞いても教えてくれないし」

「本当に、不思議な方ですね」

「うん」

 本当に、よく分からないやつだ。

 そうして、何でもない会話の果てに食堂の前にたどり着く。しかし、その日の食堂は少し妙だった。いつもより何やら騒がしい。

 いや、数多の英霊が集うこのカルデアに静かな時なんて、それこそ会議中か夜の間くらいしかないけれど、それでもこの騒がしさは異常だ。何か、常日頃の喧騒とはベクトルが違う気がする。こう、野生的な意味で。

 マシュと視線を合わせる。どうやらマシュも、同じことを考えていたらしい。お互い同時に息をのみ食堂へ足を踏み出す。

 するとそこではーー

 ーーお代わりというフレーズがそこかしこから連呼されていた。

「これは、一体……」

 事前に計ったように棒立ちになる私とマシュ。そこに青いフードを被った男が近づいてきた。キャスターのクー・フーリンだ。

「よお、嬢ちゃん。お前いつの間にあんな料理上手な英霊呼び出したんだ?」

 身に覚えがない。というか、ルーラーを呼び出してから、召喚は控えていたはずだけれど。

 ふと厨房を見る。そこでは狐耳の少女が目にも止まらぬ早業で、食材をさばいていた。知らない。あんなサーヴァント、私知らない。

 そんな中、こちらに気づいたのかその見知らぬサーヴァントが、近づいてきた。

「おお、これが今回のご主人のマスターであるカ。であれば、他の者共よりも一層栄養のあるものを用意しよう。何せ、我らは特段魔力を使う故ナ」

 そう言って、狐耳の少女は厨房へと戻って行った。うん、やっぱり知らない。あんな理性がどこかに吹き飛んだような子、私知らない。しかも、今私何を見た? 彼女、エプロンの下に何か着てたっけ。え、あれがいわゆる、裸エプロンというやつですか?

 余計に混乱する私。そんな私に近づく影がもう一つ。

「おはよう。今日は早いな、マスター」

 首をその声のする方向へ向ける。ボサボサの黒髪に青色の瞳。ルーラーだ。

「ん、どうした。鳩が豆鉄砲食らったような顔をして」

 いや、多分全ての元凶はお前だよ。

「あの、ルーラーさん。彼女は一体?」

 代弁ありがとう、マシュ。

「ああ、彼女は……」

「よくぞ聞いてくれたナ。そこな盾娘!」

 説明しようとしたルーラーの会話に割り込み、例の狐耳の少女がマシュのそれに負けず劣らぬ胸を張る。

「我こそはオリジナルの愚行より生まれし野生のキツネ、タマモキャット。趣味はご主人に尽くすこと、主にー、

家事的な意味でー。さあ、キャット自慢の滋養強壮特盛りメニュー、冷めぬ内に召し上がれ、ご主人のマスター」

 そうして強引に席につかされプレートが寄越された。

「あの、キャットさん」

「キャットでいいゾ、ご主人のマスター」

「じゃ、じゃあキャット、これは?」

 目の前のこれは、どう見てもそこまで滋味溢れる物に見えないのだけれど。むしろ、ケーキ?

「うむ。朝から重い物は食べられないと思ってナ、リンゴと長芋をベースにしっとりとしたケーキにして見た。ハチミツヨーグルトもあるゾ」

 へえ、結構美味しそう。

「い、いただきます」

 私がキャットに出された料理を色んな角度から見回している一方で、何やらマシュがルーラーを責めていた。

「ルーラーさん、朝食を用意していただいたのはありがたいのですが、カルデア内での宝具の使用はできるだけ控えてください」

「ああ、すまない。そういえば魔力はここの電力から来ているのだったな、であれば、節約するのも無理はない。すぐに引っ込めよう」

 ええ、引っ込めちゃうんだ。まあしょうがないか、ルーラーはああ言ってるけど、実質私からも何割か持ってかれてるし。総量が減るのはいいこと。

 でもせっかくだから、このケーキの感想くらい聞いてからキャットには帰ってもらおう。

「ぱく」

 

 その後の記憶が、私にはありません。

 気づけば、私はキャットの手を取っていて、目の前にはトマトのように赤くなった彼女の顏があって、周りのみんなはまるで信じられない物を見たように固まっていて。

 その沈黙はドクターにアナウンスで呼び出されるまで続き、道中、マシュは口を聞いてくれませんでした。

 

 




ぐだこの最後の言葉を聞いた各々の感想
クー・フーリン「嬢ちゃん、本当に女か?」
カーミラ「う、頭痛がする」
ぐだお(下手したら、生前のオレより男らしかったんじゃ)
マシュ「先輩、最低です」
キャット「キャ、キャットの純情が〜‼︎」

*三月末の小説新人賞応募の為、しばらく投稿がストップします。


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邪竜百年戦争オルレアン3~5

 えーっと、しばらくです。エクシエです。
 前回の更新から、随分時間がかかってしまいました。勘違いしないでよね、別に、土方さんと玉藻が出たから育成忙しかったとか、まどマギ一気見してたとか、そんなんじゃ全然ないんだからね!
 …………え、まあはい、とりあえず、短い上に内容薄いですが、どうぞ。


ー3ー sideぐだこ

 

『これから毎日、キャットの味噌汁が飲みたい』

 

 流れた音声に大多数はあきれ果て、ある者は黄色い悲鳴を上げ、またある者は頭を抱えた。その視線の先には狐耳を生やした裸エプロンの少女の手をとって、かく語りし少女がいるという映像。

 というか、その映像の後半の少女は私だった。

 (現在進行形で床で悶えています)

 今日だけですでに5回は繰り返し再生されている。なのに余り反応が変わらないのはどうしてだろう。

 ちなみに私の悶えには3回目くらいから回転と衝突の数が多くなるといった進化が見受けられたりする。

 ははは、成長がない英雄たちざまあ。

 え、もう一回? よろしい、ならば戦争だ。

 それではご一緒に、

 ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ! 消えたい消えたい消えたい消えたい消えたい消えたい! 穴穴穴穴穴穴穴! え、無いの? ま、是非もないよネ! ひやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! ヴェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! (‘0言0^)! △○△◆▼▲※◇◎△▲▼※▽△■■▲▽▼▽△←▲▽◎△←▽▼※↓←△△◎▽△▲↓↑▽●◎◇※▲▽▼▼△■→▲◎▲▼※↓↑▲←◎◎◎△▲◇▼↓※◇◆□▼▽! ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼

 

 

ー4ー sideルーラー(ぐだお)

 

「とりあえず先輩が一度落ちたところで、改めてミーティングを始めましょうか」

 絆Lv0のマシュ・キリエライトはかなり怖かったことを、オレは改めて教えられた気がした。

 その上でこれがしっかりと監視カメラの映像に残っているというから、なおのこと質が悪い。おそらくはもう一二度繰り返すなこんな光景。

 ちなみに、ぐだこオルタだった何か(マスター)はその辺の床で(’0言0^)という感じの顔で気絶している。多分生きてるだろう。

 多分。

 そんなマスターをよそに各サーヴァント達の視線は別の画像ーー考えるまでもなく、百年戦争時のフランス全土の地図ーーが写し出されたモニターに集まっている。

 その画像をドクターがレーザーポインターで指しながら説明する。

 そこはおおよそオレが経験したオルレアンと同じようなので割愛する。

 まあ強いて言えば、マスターは始終気絶したままで、そのままマシュにコフィンに投げ入れられた。というのは記憶に無かったな。

 復唱、絆lv0のマシュ・キリエライトはやっぱり怖かった。

 

 

ー5ー sideぐだこ

 

 小鳥のさえずりが聞こえる。

 肌を心地の良い風が撫でる。

 ああ、気持ちいいな。

 このまま寝てしまおうか。

「…………っと……、起きて……さい」

 ああ、誰かの呼ぶ声がする。

「………ャャ、ギ……ャャ」

 おっと、再び鳥のさえずり。少し大きいのかな。きもち吼えるって感じだったぞう。

「……は…く……、」

 ふふ、そう急かさないでくれよ。

 私は眠いんだ、〇トラッシュ。

「ーーーーいい加減にしてください!」

「いたっ! ぶったね、今ぶったね? 乙女の顔をぶったね? マシュにもぶたれたことないのに!

 って、あれ?」

 そこには、あまりにも対照的な物が二つありました。

 一つは緑色の鱗に尖った角と牙、そして大きな翼。まるで絵に書いたようなドラゴン。

 そしてもう一つ、金髪を長い三つ編みでまとめた綺麗な女の人。

 でまあ、当然の帰結として、私の口からはこういう言葉がでるわけで。

 

 

「誰?」

 

 




~その頃の一行~

マシュ「先輩、どこに行ったのでしょうか」
ぐだお(いや十中八九君のせいだろ)


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邪竜百年戦争オルレアン6~8

どうもエクシエです。
いやあCCCクエスト、鎖がガッポガッポとれますねえ。これには止まっていた静謐のスキル育成もガンガン……、QPがない、だと。
とまあそんなことはさておきどうぞ。


ー6ー sideぐだこ

 

 

「私の名前は藤丸立花。さっきは助けてくれてありがとう」

「どういたしまして」

 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合のようとはよく言ったものだなと思う。今の彼女にさっきまでの鬼気迫る雰囲気は微塵も感じられない。

 その彼女が少し横を向いて、そして何かをためらうようにうつむいた。

「私は……その」

「あ、名乗りづらいのだったら別にいいよ」

 まあなんてよんだら分かんないけど。

「あ、いえ。別にそういうわけでは……」

 ん? ならどうしたのだろう。

「そ、そんなことより、どうしてあんなところに寝転がっていたのですか? 服装を見るにこの時代の人では無さそうですし、もしかして、今が戦争中だということをしらないとは言いませんよね?」

 へ、戦争?

「えっと、待って、今西暦何年?」

「1431年です」

 あー、だいたい察しがついた。

 つまりは気絶したまんまコフィンにぶっこまれて、そのままレイシフトしてきたわけだ。大方ドクター辺りの仕業だろうけど、後で一発かましておこ。

 でマシュや他のみんなの姿が見えないことから見るに、はぐれたか。きっとこれもドクターの仕業にちがいない。もう一発追加で。

「あの……、大丈夫ですか?」

 どうやら少し考えこんでしまっていたらしい。彼女のこちらを伺う顔がすぐそばにある。

「ああ、なんとか。それと、一つ聞いてもいい?」

「ええ、構いませんが」

 では遠慮なく。

「あなたはサーヴァント、で間違いない?」

 整った顔が凍りついた。

「あなたはいったい……」

「私は人理継続保証機関カルデアのマスター、この特異点で起きてる事変を解決にきたの」

「マスター……特異点…………」

 それだけ呟いて何やら納得がいったようで、改めてこちらを向いた彼女の顔はとても真剣な面差しだった。

「分かりました。では私も名を明かしましょう。真名ジャンヌ・ダルク、ルーラーのクラスとしてこの時代に召喚されました」

 

 

 

ー7ー

 

 

 彼女ーージャンヌの話によると彼女は数時間前に不完全な形で召喚されたらしい。

 もし完全な形で召喚されていたのなら、ルーラーのクラススキルで他のサーヴァント反応を探してマシュ達と合流できたのらしいのだが、栓のないことを言っても仕方がない。

 実際、こっちもカルデアと連絡がとれないでいるので、どっこいどっこいだったりする。

 それを聞いた彼女の顔は少し綻んでいた。何でもどっこいどっこいという語感が気に入ったらしい。

 そんなことを話しながら森を進む。

 途中見飽きるほどに沸いてくるドラゴンやら人狼(ウェアウルフ)やらをジャンヌにかたしてもらいながらいくと、既に廃棄されたらしい砦が見えてきた。所々崩れていて苔むしてもいるが、敵襲を確認するには十分だ。

 それでも入ることはせず、そばの切り株に互いに腰を落とす。

「じゃあ、とりあえず互いに状況を確認しようか」

「そうですね」

 ジャンヌが頷いたのを皮切りにこちらから話した。

 特異点Fの顛末。

 私以外のマスターが危篤状態に陥り、所長他多くの職員が死んでしまったこと。

 人類の未来が焼却されてしまったこと。

 それを防ぐために特異点となったこの時代に聖杯の回収にやって来たこと。

 それらを聞いたジャンヌの顔は何とも言えないといった感じだった。例え不完全な召喚であろうとも、彼女は救国の聖女(ジャンヌ・ダルク)なのだろう。

「なるほど、ではあなたの目的は聖杯の回収、と言うことですね」

「そうなる。でも今は、他のみんなとの合流が先決かな、……あ、別にジャンヌが頼りないってわけじゃないよ」

「ふふ、大丈夫です。まあ、気にしていないと言えば嘘になりますが」

「? まあいいや。じゃあ、そっちの事情をお願い。特にアレの存在とか」

 そう本来15世紀のフランスどころか、きっとこの世界には存在し得ないようなアレ。

 それを私はここに来るまでに何度も見た。

 ドラゴンーーいやあれはワイバーンだったかな。

「そうですね、それには今のフランスの状況をお話ししなければなりません」

 ジャンヌが両手を前に組む。

「本来の歴史、その上でのフランスをご存知ですか?」

 高校時代の記憶を必死でこね繰り回す。まさかこんな形で世界史の授業を役立てる日が来るなんて、あの頃は微塵も思わなかっただろう。

「えっと、確かジャンヌがシャルル皇子に協力を依頼してイングランドを撃退、百年戦争は終結、その後は……」

「私が火刑に処されました」

 こちらのためらいを見通していたのか、ジャンヌはさっぱりと言い切った。

「…………、ごめん」

「いえ大丈夫です。私は気にしていませんから」

「本当に?」

「ええ」

 迷いのない眼、一点の陰りもない相貌で自身の死を気にしていないと言い切るジャンヌ。

「いずれは、そうなる運命だったんです。むしろこんな小娘を一時でも信用してくれた皇子には感謝しかありません。それに多くの人たちと共に一つの信念を共有できたあの時間、あの時間で、それだけで私は充分なんです」

「………………」

 私と彼女の間に風が吹いた。それに伴って木々のざわめきも聞こえる。

 以前、ドクターに聞いたことがある。ルーラーとはどういったクラスなのかと。

 するとドクターは迷いなく答えてくれた。

 本来の聖杯戦争においてその戦争を管理する役割を担う、いわば戦争そのものが使役するサーヴァント。それゆえにルーラーのクラスに選ばれる英雄は聖杯にかける願いを持たない。

 確信した。目の前の彼女は紛れもなくそれだ。

 

 悔いなく生きて、悔いなく死んだ。だからこうも平然と自分の死を直視できる。

 

 なら、彼はどうだったのか。

 どこか遠くを見つめる蒼い瞳。

 彼にも、聖杯にかける望みはないのだろうか。

 彼も悔いなく生きて、悔いなく死んだのだろうか。

 さらにもう一迅風が吹き、辺りの草花を軽く撫でていった。

 

 

 

 

ー8ー sideルーラー(ぐだお)

 

 

「くしゅんっ」

 ん、なんだか今、誰かがオレのうわさをした気がする。

「おう、案外可愛い音のくしゃみを出すもんだな」

「ニャハハ、わかっているではないか光の御子。こう見えて、ご主人はかなり乙女だゾ」

「うるさい」

 一喝。夕食の仕度をしているキャットは別にして、何もしていないクー・フーリンに言われるのは何か腹立つ。

 そんなこちらを伺ってかマシュが

「宜しければ、お風呂に入りますか?」

 と聞いてきた。

「ん? 風呂なんてどこに有るんだ?」

「子ギルさんが用意してくれました。驚きです、あんな宝具もあるのですね」

「いや、たぶんやつは何でも持っていると思うぞ」

 それこそ昔何かで見た〇次元ポケットみたいに。

 まあ、それはさておき。

「必要ない、サーヴァントは基本そういうのは……」

「いいじゃねえか」

 おい。

「そうだナ、入って来るといいぞご主人。きっと上がる頃にはこの毒抜き済みワイバーンの尻尾シチューも煮えているだろうしナ」

 キャットまで。

「…………」

「ん? どうしたキリエライト」

「……、あ、いえ、その」

 両手を胴の前に組んでもじもじとするマシュ。おい、まさか。

「私も、その、うわさに聞く露天風呂、という物に、少し、入ってみたい、と」

 まじか。

 三人の視線が一気にこちらに向く。

「……………………っはあ、分かった」

 目に見えて明るくなるマシュの表情。

 まったく、これはずるい。

「じゃあ、男女交代で。先にオレとクー・フーリンが入ってくる。キャット、後で火の番を代わる」

「まかされた」

 視線を外した瞬間、視界の隅ににやけるキャットが見えた。

 あ、マシュに露天風呂を話した主犯はコイツか。ずいぶん、ご主人使いも手慣れたもので。

 




キャット「ムッフフー♪ さすがは盾娘、デンジャラスでビーストな体つきをしているナ。ホレホレ」
マシュ「ひゃっ、やめて下さい。それにしてもキャットさん、始めにみたときよりもその……縮んでませんか?」
キャット「? ああコレカ。コレなら変化スキルでそうしてるのだ。ご主人がそういう趣味デナ」
マシュ「え」

以上サービスシーン終了


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邪竜百年戦争オルレアン9~11

 お久しぶりです、エクシエです。
 少しリアルが忙しくて、書けない期間が続きましたが、なんとか復活できました。
 本当、エロマンガ先生のマサムネの速筆が羨ましいです。
 ではどうぞ。


ー9ー

 

 この特異点に着いてからやったことをまとめれば、これ以外には何もない。

 

 状況と敵勢力の把握。

 

 そして、その中でもオレが担当したのは後者。もう少し具体的に話せばーーいつどの時代でも変わらずにーー気配遮断と真名看破の合わせ技で敵の素性を調べる、とまあ、そんな具合。

 戻って来た時には、すでにあちら(カルデア)側との連絡も着いていて、まずはシフト時のエラーではぐれてしまったマスターとの合流を優先しろ、とのご達しだった。

「ーーーーそういうことだから、こんなところで風呂を展開してまで、油を売っている暇はないと思うんだがね」

「だーっ、うっせーな。言われずとも承知の上だっつーの。少しは余裕を持ちやがれってんだ」

「しかしな」

 こうしている間にもマスターの身に何があるか分かったものでは無い。

 一応、彼女の居場所はドクターがモニタリングしており、現在マシュとの三人で連絡も着いている。彼女のそばには一人サーヴァントがいるようだが、油断は出来ない。

「一つ聞いていいか?」

 クー・フーリンが前髪を書き上げこちらを見る。

「なんだね」

「嬢ちゃんの心配をするのは、それがこの作戦の失敗に繋がるからか?」

「ああ、そうだが」

 迷うこともない。即座に答えた。

「なるほど、じゃあ一刻も早く回収しないとな」

「だから、さっきからそう言っているだろう。何が言いたいのかさっぱり分からんぞ、言いたいことがあるなら、はっきりいったらどうだ?」

「じゃあ遠慮なく」

 

「変わっちまったな坊主。いや、フジマルリツカ」

 

「…………、どうして知っている」

「そう構えなくてもいい。簡単なことさね、座の記録を見ただけ、ただそれだけさ」

 咄嗟に構えていた右手をお湯の中に戻す。

「まさか英霊になっていたとは、いや、あれだけのことをしたんだ、別に不思議でも何でもねえわな。

 いや、それでも。余計に腑に落ちねえ」

 獣のそれを思わせる目が、再びこちらに向く。

「てめえ、一体何者だ?」

 何者か、か。さて、それは自分でも知りたいところではあるけれど。それでも、これだけは言っておこう。

「……、光の御子。君は冬木で彼女ーーマスターに言ったそうだな『お前には運命を掴む天運と、それを前にした時の決断力がある』と」

「……ああ、らしいな」

「私は、私には君はそんなこと、言ってくれなかったよ」

 静寂がほんの少しの間、辺りを包む。それは互いを黙らせるのには十分に過ぎた。

 一つの忙しない警告音が鳴るまでは。

 

 

ー10ー

 

「どうした、キリエライト」

 敵感知のルーンによる警告音を聞いたオレとクー・フーリンは風呂から上がり、マシュとキャットと合流した。そして、彼女の視線の先には一人の女性。

 前後ろ均一に仕立てあげられた修道服に身を包み、髪は長く、その手には杖を持っている。その風貌と人間とは一線を隔す魔力量、一見聖人系のキャスターのサーヴァントととれそうだが、彼女のそれはきっと仮面だろう。

 聖人系サーヴァントが前に出る。

「そちらの方が、代表者で間違い無いですか?」

「いや、違うが。ライダーのサーヴァント、聖マルタ殿」

「私の真名をご存じとは、生前どこかでお会いしましたか?」

「いや、名乗り遅れて申し訳ない。私はルーラーのサーヴァント、真名をシェリングフォード」

「なるほど、あまり聞かない名前ではありますが、納得しました。真名看破スキル持ちならば、その解析速度も頷けます」

「お褒めに預かり光栄だ。

 さて、こんな夜分に一体何の用かな?」

「では率直に言いましょう。我等が軍門に下るつもりはありませんか?」

 少し、瞳が雲っている。しかし、それでも眼差しはまっすぐだ。嘘をついているようには見えない。

 何かを言いたそうにしているマシュを制し、問を返す。

「というと?」

「私達はある目的の下、マスターに召喚されました。それに当たり、多くの戦力が必要になってくる。見たところ、あなた方ははぐれサーヴァントのようですが、それならば存在するだけで魔力がいるでしょう。幸い、私達のマスターの魔力は潤沢です。きっと貴女方にとっても悪い話ではないはずです」

 なるほど、互いに利益のある取引、今のところ、受けない理由はない。

「一つ、聞いてもいいか?」

「どうぞ」

「その目的とやらはなんなんだ」

「……」

 少し沈黙。そして口を開く。

「このフランスの破壊です」

 隣でマシュが驚愕に顔を染めた。

「聖女マルタ、なぜ貴女がそんなことに手を貸しているのですか?」

「マスターがそう望んでいるからです」

「……っ!」

「サーヴァントがマスターに従うのは当然のこと、貴女も英霊なら、知っているはずです。いや、しかし、貴女の霊基は少し妙ですが」

 言い返しそうになるマシュを再び腕で制する。

「それで、返答のほどは」

「もし断ると言ったら?」

「そのときは仕方ありません」

 そう言って、マルタが杖を頭上に掲げた。

 ーーとたん、岩のように何か巨大な物が降ってきた。

「これは、ドラゴン! しかし、これまでのワイバーンとは一線を隔す巨大さです」

「『愛を知らぬ哀しき竜よ(タラスク)』か」

「軍門に下らないと言うのであれば、貴女方は私達の敵です。速やかに排除します。タラスク!」

 高高度の跳躍、最高点まで達しこちらへと回転で勢いをつけながら落ちてくる。きっとあれを食らえば、いくら英霊であるこの体ももたないだろうな。

 隣でマシュが宝具開放の準備をする。

 しかし、そんな必要はなかった。

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガーン)』!」

 別の、暴竜の黒い咆哮がタラスクごと吹き飛ばしたからだ。

 マシュとマルタが不意に起きた出来事に口をポカンと開ける。そんな中、咆哮の主は何もなかったように、黒い鎧をガシャガシャと鳴らしながら歩いてくる。

「ふむ、さすがは聖書に名高き鉄鋼竜。聖剣の一撃をもってしてなお耐えるか」

「ナイスタイミングだセイバー」

 これには私も思わずサムズアップ。

「一体どこから、気配も何もなかったはず……、いえ、森の中しかあり得ない。けれど、森にはアーチャーがいたはず」

「む、ああ、あれか、あのケモミミの。弓をまともに使うアーチャーとはまた珍しい物を見た。それなら、先程剣の錆びにしてきたところだが」

「それこそあり得ません……、だって彼女は」

「ギリシャ神話における森林戦闘のスペシャリスト、アタランテ、だろう?」

 少し口を挟ませてもらった。

「確かに森で彼女を相手に戦うにはセイバーは不向きだ。けれど、もう一人スペシャリストがいれば話は別。やってくれ」

 音もなく、林の合間から一本の矢が打ち込まれる。死角から打ち込まれたそれは、こちらに気が向いていたマルタに命中する。痛みに顔を歪めながらもマルタは飛んできた方向へ杖を掲げ魔力弾を発射。しかし、もうそこには誰の存在もない。

「これは……」

「『顔のない王(ノーフェイス・メイキング)』。覆った者の気配を完全に遮断する。もう出てきていいぞ、ロビンフッド」

 何もなかった空間から、緑色の男が現れる。

「全く、うちの大将は無茶言ってくれやがる。あの騎士王のフォロー、かなり骨が折れやしたぜ」

「ありがとう。でも、もう一仕事してもらうよ」

「あいよ。我が墓地はこの矢の先に……森の恵みよ……圧政者への毒となれ。

 隠(なばり)の賢人、ドルイドの秘蹟を知れーーーー

 ーー『祈りの弓(イー・バウ)』!」

 詠唱とともにロビンの弓から無数の枝葉が延びる。それらは一直線にマルタへと向かい、捉えようとする。

 マルタは魔力弾を発射、そのいくつかを撃ち落とし退避を図るが、途端苦痛に顔を歪めた。この機会を逃すまいと枝が巻き付き、そして、爆発した。

 ロビンフッドの弓「祈りの弓」はイチイの木でできている。この木でできた武器を持つことは、森の賢者ドルイドにとって森との繋がりを示す。これにより、彼は弓を介して自然現象に介入することが可能になる。この場合彼が扱ったのは毒素の増幅と流出、そしてその毒を火薬として瞬間的に爆発させること。予め、マルタには行動阻害系の毒矢を撃っておいた。よって、現在彼女は動くことすらままならないはずだ。

「クー・フーリン、キャット、今だ! 畳み掛けるぞ!」

「了解なのだな。味わうがいい『燦々日光午睡宮酒池肉林』‼」

「おう、よく分からねぇがのってやる! 『灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)』!」

 

 

ー11ー sideぐだ子

 

 朝だ。

 昨夜、マシュと連絡が着いた。曰く付近の適当な町で落ち合おうとのこと。それならばとジャンヌが情報収集も兼ねて、オルレアン周辺の街ラ・シャリテはどうかと提案、それに落ち着いた。

「おはよう、ジャンヌ」

「おはようございます、立花。昨晩はよく眠れましたか?」

「お陰さまで。ジャンヌも疲れてない?」

「大丈夫です。サーヴァントは肉体的疲労とは無縁ですから」

 うーん、その辺りまだあんまり納得いってないんだけどな。マシュだって、冬木でそういうのの一つ二つは見せてくれていたし。まあ本人が大丈夫って言うんなら、大丈夫なんだろうけどさ。

「どうかしましたか?」

「いや、何でもない。じゃあ行こうか」

「ええ」

 ラ・シャリテは今いる辺りから山を一つ越えた辺りにあるとジャンヌが言っていた。それを聞いて、私はかなり遠い道のりだと思ったけど、ジャンヌ曰く、フランスの山は日本で言うところの丘に相当するらしく、そう高い物ではないとのこと。本当に険しい山は隣国との間にそびえ立つ山脈のことだそうで、遠目に見せてもらった時には本当に驚いた。

 マシュも、これを見ていてくれているかな。

 彼女は本物の青空を見たことがないと、そう言っていた。私は今回のレイシフトでそれだけは叶えてあげたいなと思っていた。

 けれど、その空には不自然な光の輪。

 これではあの純粋なマシュはきっと勘違いしてしまう。本物の青空にはこのように大きな光の輪が浮かんでいる、みたいな。それはいただけない。

 本当に、鬱陶しいことこの上ない。

 そんなことを考えている内に、丘の頂上が見えて来た。あれを越えれば、ラ・シャリテは目の前だそうだ。

 陰鬱な考えは今は忘れよう。今は一刻も早く、マシュ達と合流することが最優先だ。色々なことを見せてあげるには、それからでも遅くない。

 そう意気込んで、越えた丘の先に見えたのは

 

 

 

 見るも無惨に燃え盛る、街の輪郭だった。




森の中、マルタ戦の少し前

アタランテ「全く、こんなところで倒れるとは、つくづくついてない。結局、二大神に祈りを捧げることもなく終わってしまうなんて」
セイバー「なるほど、確かに不遇だな。だが安心しろ、貴様の信奉する女神ならばここにいるぞ」
アルテミス「ヤッホー! アタランテちゃん元気ー?」
おりべぇ「なわけねえだろ、てめぇの目は節穴か?」
アルテミス「わー、ダーリン辛辣ー。でもそんなダーリンも大好き!」
アタランテ「(゜□゜;)?????」
セイバー「ほれ、遠慮なく信奉するがいい。ほれほれ」

ロビンフッド「(苦労してるな、あっちも)」


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邪竜百年戦争オルレアン12~14

 お久しぶりと言えばそうなような、これでも急げたつもりでいます。どうも、エクシエです。
 いやあ、この一か月も大変でした。
 月初めにパソコン買って、気持ち新たに頑張ろうと思ったら間違えてFGOのデータ消してしまって、マテリアルからストーリー見れないし、復旧用のナンバーも迷惑メールフォルダにあってなかなか見つけられないし(運営さん本当にありがとうございました)。
 そんなわけで、ところどころ脱線していたりしますが、どうか暖かい目で読んでもらえると幸いです。

 P.S.
 水着マリー、あとすり抜けで不夜キャス引けました。
 ちなみに福袋はジュナ男が来ました。ジャックちゃんたち四人でお茶会したかったなあ。



―12―

 

「これは、酷い」

 そう言ったのは、果たしてジャンヌか私、どっちだっただろう。

 この臭いを私は知っている。

 

 むせかえるまでに濃密な『死』の臭いだ。

 

 炎は泣くように燃え盛り、家は死んでしまったかのように崩れ、その合間を縫うように死体が無造作にばらついていた。

 そしてそれを、

「ギャアアアアアアアアア!!」

 ワイバーンたちが貪っている。

「やめなさい!」

 ジャンヌががれきの中へと飛び込んだ。旗の先でワイバーンを突き刺し、払い、刺す。そうしているうちにワイバーンはどこかへと飛んで行ったが、今度は、庇った死体が起き上がり、ジャンヌを襲い始める。

 そのことごとくをまた、ジャンヌは薙ぎ払い、死体へと還していく。

 ふと、死体が持つ一つのナイフが彼女の脇腹を裂いた。

 

 空中を飛ぶ、数滴の血。

 

 それでやっと、私は我に帰った。

 すぐに礼装に記録されている治癒魔術をかける。

「ありがとうございます、立花」

 私に対する気遣いだと、すぐに分かった。

 ジャンヌは、あの傷をさほど気にしていなかった。起き上がる死体のする攻撃は全て受け止め、その上で全てを土に還そうとしていた。だから、きっとどれだけ傷を負ったとしても、彼女は止まろとしなかった。そう思える。

 それが、ジャンヌ・ダルクという、ルーラーとしてではない彼女の在り方だから。

 なのに、ジャンヌはその傷を癒した私にお礼を言った。それはきっと、彼女が、私がマスターとして、魔術師として未熟だと知っていたから。知っていたから、私がこういう場に不慣れだと承知で、単身で飛び込み、そして私が正気に戻り魔術を使ったときに、それを感謝という形で褒めた。

 未熟な私を、慮って。

 それが今はただ歯がゆかった。

 辺りが静寂を取り戻す。戦闘が終わったようでジャンヌが戻ってきた。

「お疲れ様でした」

「お疲れ様」

 のど元まで出かかっていた悔しさを飲み込む。

「一応、もう一度治療しておこうか?」

「はい、ありがとうございます」

 傷は思ったほど深いものはなかった、しかし数が多い、できなくはないけど多少時間がかかりそうだ。

「しかし、どうしましょう」

「なにが?」

「合流です」

 そうだ、突然のことで忘れていたけど、私たちはここでマシュたちと合流する予定だったんだ。辺りを見渡す。がれき、死体、ワイバーンの肉片、刃こぼれした包丁に所々で小さく上がる火。とても待ち合わせに向いているとは思えない。

「うーん。どうしようか」

「一度、あちらと連絡をとるのはどうでしょうか?」

 それがよさそうだ、入れ違いになっても後が面倒だし。腕に巻き付けている通信機を起動させる。そうしてロマンと通信しようとした時、

『————今すぐそこからはなれるんだ!』

 いつもの弱弱しさのかけらもない、ロマンの声が聞こえてきた。

 私とジャンヌはそれに少し驚きながらも聞き返す。

「何があったの?」

『多数の未確認サーヴァント反応がかなりの速度でそちらに向かっているのが確認できた。合流を果たせていない今、単騎でいどむのは無謀すぎる。今すぐそこから退避してくれ。合流はその後だ!』

 なるほど、それはまずい。治癒魔術をかけたとはいえ、ジャンヌはまだ戦闘が終わったばかり、無理はさせたくない。

「ジャンヌ、行こう」

「待ってください」

 その一言が私とロマンの動きを止めた。

「その中に、ルーラーのクラスのサーヴァントの反応はありましたか」

『いや、こちらで確認できたのは数だけだ。その数五騎、だから早く撤退を』

「――いえ、撤退はしません」

ジャンヌがはっきりと口にする。

『何を言っているんだい? このままじゃ君だけでなく、立花ちゃんまで』

「分かっています。ですが、私は問わねばならないのです。これらの惨状を生み出したのが私だというのなら、その真意を。なぜこんなことをするのか。本当に、これが私の望んだことなのかどうか」

 最初からそうだった。いや、少なくとも私にはそう見えていた。彼女には迷い等、みじんもないのだ。

 確かめたい、理由を知りたい、話をしたい。

 より多くを救おうとした自分の、より多くを滅ぼしたいと願っているであろう側面を、理解したい。

 そして、赦したい。

 それはきっと、彼女がルーラーとして召喚されなかったから、一人のジャンヌ・ダルクという少女として召喚された彼女自身の、わがまま。

 なら、自分がどうするかは決まっている。

 彼女の仮のマスターとして、そして、そうである前に————

「ドクター、私も残るよ」

『立花ちゃんまで何を』

「確かに怖いよ、ここで死ぬかもしれないしね。いや、そんな単純なことじゃないんだったけ。私一人が死んだらその時点で作戦は失敗して、人類全部が死ぬんだったね。でも、いまは、今だけはそんなこと、どうでもいい。今は、私はジャンヌのマスターで、それ以前に彼女の友達だから」

 横でジャンヌが驚いていたような気がした。

「友達だから、友達のわがままには付き合う」

 ロマンはとても驚いていた。でもすぐに笑って、

『わかった。君がそこまで言うのなら僕はもうなにも言えない。そのかわり、絶対に生き残ること。マシュたちにも急ぐように伝える。いいかいもう一度言う、それまで絶対生き残るんだよ、これは命令だからね!』

 そこで通信が切れた。静寂が再び戻ってくる。そこで一つ私は思い出した。

「ねえ、ジャンヌ」

「はっ、はい、なんでしょう」

 なぜかジャンヌの顔が少し赤くなっていた。

「さっきは勢いで『友達』なんて言っちゃったけど、迷惑じゃ⋯⋯なかった?」

 そう、ブラフもいいところだ。あのジャンヌ・ダルクの友達だなんて、一般人の私はなんて身の丈に合わないことを言ってしまったのだろう。

「い、いえ、迷惑だなんて」

「いやでもすごく驚いてたし」

「いや、その、それは、ちがって⋯⋯、じつは私、友達だなんて呼ばれたの初めてで」

「へ?」

「確かに、生前戦友とよべるような人はいました、もちろん、家族も。もしかしたら、どこかの聖杯戦争ではそのような関係になるような人はいたのかもしれません、覚えていませんが。でも、今ここにいる私を友達と呼んでくれたのは、あなたが初めてだったんです」

「そう、そうだったんだ」

「だからあの時、私は驚いていたと同時に、とても、そう、——うれしかったんですよ」

 そう言った時の彼女はとてもきれいに笑っていた。まるで向日葵のように。

「そう、なら、よかった」

 私も、それに負けじと全力で笑った。

 

 その一本一本が星の聖剣の一振りに相当する光の環。

その下で二つの向日葵が咲いている。

 一方で、そこからそう遠く離れていないところから黒い蔦が、それらを押しつぶそうと迫っていた。

 それでも、それがわかっていても、向日葵は決して太陽からめを背けようとしない。たとえ、いずれ向くべき方向が違えるとしても、今だけは、同じものを互いに見つめていると信じているから。

 

 蔦はずんずんと、向日葵に近づいていく。

 

 

—13—

 

 刺突、斬撃。

 それらを旗でいなし、逆に切り払うことで距離をとる。

 最中迫る魔弾は、振った勢いのまま旗を地面に突き立てそれを支えに空中へ退避。そのまま体を一回転させ迫るワイバーンたちを同時に足蹴にし、これまた距離をとる。

 遭遇した五騎の敵性サーヴァント。いまだ全員の真名は不明だけど会話内容からクラスだけは分かった。

 今ジャンヌを襲っている二騎、貴族らしい立ち居振る舞いをする壮齢の男性ランサーと妙齢の女性アサシン。傍観に徹している黒いジャンヌと流麗な顔立ちをした女性セイバー。そして、戦闘には直接参戦しないまでも、異様な狂気をはらんだ魔力をあたりに垂れ流している騎士甲冑のバーサーカー。

 その内、アサシンの正体は知っている。伝説の女吸血鬼カーミラさんだ。よくアルテミスとメディア先生とでババ抜きやポーカーなんてやってる。賭けの対象に二人の血を狙っているらしいが、勝てた試しはない。たいがい、幸運EXのアルテミスの圧勝で終わるから。

 閑話休題。

 これだけの戦力差、正直、数分時間を稼ぐので手いっぱいのはずだ。しかし、ジャンヌは上手く耐えている。

 次の攻撃を読み、躱すための行動をとる。躱しきれなかった傷は私が癒す。

 ただそれだけなのに、敵が焦っているのがよく分かる。このままいけばきっといつか対話の機会が巡ってくる。

 ふいに、敵ランサーが舌打ちをした、とおもえば、魔力が高まっているのが見て取れる。まずい、宝具を使う気だ。カーミラさんが距離を置いたところをみると、きっと全体攻撃の類。それで気づいてしまった。

 ——ランサーの狙いは私だ。

 ジャンヌ同じように感づいたみたいで、すぐにこちらに戻ろうとしている。けど、何も分かっていないワイバーンたちが、宝具の射線上でジャンヌの行く先を阻んだ。

 ——どうする?

 ジャンヌだけなら耐えられる。ジャンヌが私のところに来てくれれば、一緒に躱せる。けれど、私だけではどうにもできない。どうする、どうすればいい。

「やめなさい」

 突然ひびいた声。それが乱戦状態だった場をたった一声でおさめた。一言一句、声質まで同じ言葉、なのに込められている感情がまるで違う。間違いなく、これはジャンヌの声じゃない。

「さっきから見ていれば何ですか、あんな小娘相手に。少々どころか、大分遊びが過ぎますよ」

「聖女、余はたった今から本気を出すところだったのだ。それを止めたのは貴様だろう」

「その方の意見に耳を貸すのは癪ですが、そうですわね。わたくしも宝具を開帳すれば、こんな小娘の生き血など、すぐに抜いて差し上げらます」

「まて、その娘の血は余のもの。例え貴様であろうと渡しはせぬぞアサシン」

「いえ、わたくしがいただきますわ、ドラキュラ伯爵。例え先達にあたる方でも、お譲りすることはしません」

「余をその名で呼んだな、血の伯爵夫人。よかろう、貴様との決着、ここでつけてくれる」

「喜んでお受けいたしますわ。元よりあなたのことは気にいらなかったのです。その命、ここで頂戴することにしましょう」

 

「やめなさい」

 

 また、同じ声が響いた。今度は呆れと、多くの怒りを含んでいる。

「あなたたちはやはり遊びが過ぎます。ここは私と、そうですね、セイバーが出ます。あなたたちは下がっていなさい」

 ここだ。

ジャンヌに目配せする。どうやらあちらも同じ考えらしい。

「その前に、一つ聞くべきことがあります」

 こっちにいる方のジャンヌが口を開いた。

「あなたの目的は何なのですか?」

「は」

 一瞬黒いジャンヌの顔が呆気にとられたように固まる。でもすぐに、

「あははははは、ははっ、ははははは!」

 高らかに、とても愉快そうに、なにか信じらない物でも見たように笑いだした。

「ああ、みてジル、⋯⋯ああ、ジルは来ていないのでしたね。とても惜しいこと。あれは何も理解していない。あなた、本当に(ジャンヌ・ダルク)なの?」

「何を言っているのです」

「だから、貴女はなにもわかっていない、そういっただけよ聖女様。まあそれだから聞いてきたのよね。いいわ教えてあげる。私はね、復讐するのよ、このフランスに」

 

 なぜだろう。

 私にはそれが、酷く空っぽに聞こえてしまった。

 

 

—14―

 

「それは違う」

 気付けば、口が勝手に喋っていた。

「何、あんた」

黒いジャンヌの鋭い視線がこちらを指してくる。それでも口は閉じない。

「ジャンヌが、そんなことを望むはずがない。そんなことを望むジャンヌが、ジャンヌであるはずがない」

「何よ偉そうに。あんた、その女のこと、私のこと、何も知らないくせしていい加減なことを言わないでちょうだい」

「それでも――」

 それでも、私の見て来たジャンヌはそうではなかった。確かに、私が見てきたのは彼女のほんの一側面だけなのかもしれない。例え誰にも助けられなくても、誰かを助けようとして、逆にその助けた誰かに傷つけられようとも、彼女はいつだって、前を見ていた。つらい過去もそこにあった思いも受け止めて、それ以上、だれも泣かなくて済むように全力を尽くしていた。だから――

「――だから、そんなジャンヌが復讐なんて望むはずがない!」

「⋯⋯う」

「だから、あなたはジャンヌじゃない! ジャンヌがそんなこと考えるはずない! あなたはだれなの!?」

「⋯⋯う、うるさい、うるさいうるさいうるさい、うるさい! 何なのよあんた! 私は、わたしこそが本物、そこにいる、ただ過去から目を背けているだけのまがい物なんかとは違う! 私が、本物のジャンヌ・ダルクなのよ!」

「じゃあ、貴女の望みはなんなの? あなたが本当にジャンヌ・ダルクだというなら、貴女が本当にやりたいことは何なの!」

 黒いジャンヌが頭を抱え、目に見えてうろたえ始める。それをまっすぐに、今度は私が見つめ返した。

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい! 消えて! 私の前から、いなくなって! ファフニール!」

 と彼女が頭を抱えていたうちの一方の腕を、天高くつき上げた。と同時に辺り一面が巨大な影に覆われる。状況がうまく呑み込めない中、そばにいたジャンヌが声を上げる。

「上です!」

 そこには、これまでのワイバーンとは桁違いに大きな、黒い竜がそそり立っていた。

「これは⋯⋯!」

「ファフニール、焼き払いなさい! 全て、私の邪魔をする全てを、私の目の前にある全てを、私を否定した、全てを!」

 膨大な熱量と魔力を肌で感じる。それら全部があの巨大な竜に集まっているのがわかる。

「いけない!」

 ジャンヌが私の前に出た。直後、集まっていた熱量が竜の口から放出される。

「我が旗よ、我が同胞を守り給え、『我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)』!」

 ジャンヌの旗から出る絶対守護領域、それに弾かれ、竜の息吹はこちらに届かない。それでも、

「⋯⋯くっ、このままでは、持たない⋯⋯⋯⋯!」

 ジャンヌは不完全な状態でこの特異点に現界している。そうなると、もちろん彼女の宝具も劣化しておかしくない。それにこうも連続して攻撃されては。

 ピシッ。

 ジャンヌの話だと、この宝具で受けたダメージはそのまま旗に蓄積されていくらしい。だからもちろん、多用は厳禁だし、連続的な攻撃を受け続けるような状況には相性が悪い。

 ピシ、ピシシ⋯⋯。

 まずい、このままじゃ、本当に持たない。何か、何かないのか。この絶望的な状況を覆せる何かは――

 

「『疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)!!』

 

 突然、ジャンヌの守護領域の上に上塗りされる形で、障壁が張られる。そうして合わさった二つの守護領域は力を強め、迫りつつあった炎を押し返し逆に竜に衝突させた。

「大丈夫ですか?」

 ふわりと振り返る紫の髪。ああ、

「先輩」

「ようやく会えたね、マシュ」




ドクターがぐだことの通信を切ったころ

ロマニ『急いでくれ、早く彼女たちと合流するんだ」
アマデウス「どうしたんだいマリア? さっきからだんまりとして」
マリー「いえ、何でもないの。ただ」
アマデウス「ただ?」
マリー「私の初めて(のジャンヌ・ダルクとお友達になる機会)が奪われた気がして⋯⋯」
アマデウス「な、なんだってー!」

ルーラー(何を受信したんだこの王妃様は)


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邪竜百年戦争オルレアン15~17

先日、近所(十数駅先)のアニメイト行ってきました。
もうね、死ぬかと思いましたよ。危うく帰りの電車代がなくなるところでした。
取りあえずアポクリファ4巻までとウェイバー君の事件簿一巻だけ買ってきまして、現在読んでます。これで戦闘描写向上すればいいなあ。
さて、では今回もどうぞよろしくお願いします。


—15― Sideルーラー(ぐだ男)

 

「やっと会えましたね、先輩」

「うん、うん。会いたかったよ、マシュ!」

 互いに抱き合う二人。一方で敵は敵で動いているはずなのだから、本当はもう少し後にして欲しいのだが。

「取った」

 その予想通り、剣士――シュバリエ・デオンがマスターの背後に立つ。その剣は振り下ろされるが、残念ながら届かない。

「全く、君も甘くなったものだ。真似事とは言えスパイをやっていたのだから、伏兵の可能性くらい考えないのかなあ。――『死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)』!」

 突如、どこからともなく流れた荘厳な音で、その体に重圧がかかったからだ。

「この、悪趣味な騒音はっ!」

「やあ、初めましてシュバリエ。そして竜の魔女。ボクの真名はアマデウス・モーツァルト、君たちの敵で、そこの二人の味方さ。まあ、それでも」

 それでも、アマデウスの宝具で抑えるには限界がある。確実に一人、抑えきれないやつがいる。

「くっ、バーサーカー!」

 重圧に耐えながらジャンヌ・オルタが叫んだ。この中で唯一動けるのは理性の飛んだあれだけというのも読めていた。だから、餌を撒いておいた。

「Arrrrrrrrrrrrrrthrrrrrrrrrrrr!」

「!? バーサーカー、どこへ行くというのです」

 さて、そろそろいいか。

「きっと王様に会いにでもいったんだろうさ」

 困惑している様子のジャンヌ・オルタに言ってやった。

「あのバーサーカーならあり得る話だろう? なあ、竜の魔女」

「あなた、何者?」

 その言葉に、すこし笑みがこぼれてしまったのはご愛嬌ということにしておきたい。

「何者、か。全くこうなってくると、それを何度聞かれるのか、そっちの方が分からなくなってくるな」

「焼き殺されたくなければ、その口を閉じた方が賢明ですよ。さっさと質問に答えなさい」

「そうだな、熱いのはごめんだ。では手短に済ませよう。

 ――ご同輩、と言えばそれで足りるか?」

 どうやら言葉足らずに過ぎたらしい。わけがわからないという顔をしていて笑えて来る。

 と不意に、視界の隅に魔力の高まりが見えて三歩分後ろに飛んだ。見ればもといた場所は数えるのが馬鹿らしくなるほどの杭で埋め尽くされている。

「余を地に伏させ、その上戯言を弄する痴れ者が! この場にいることを後悔させてくれる!」

 やれやれ、狂化が入っているとろくなことにならないな。あの串刺し公、重圧お構いなしに今にも立ち上がろうとしている。

「マスター! 一度退くぞ。村のそばに足を待たせている。彼らに乗せてもらえ」

「分かった」

 マスターは相変わらず二つ返事で助かる。問題は、

「待ってください」

 あの白い方の聖女様か。

「話は済んでいません。私はまだ⋯⋯」

「こちらの目的はマスターの回収だ。残るなら好きにするといい。まあ、君が史実通り玉砕に意味を見出すような人間でないのなら、一緒に逃げることをお勧めするがね」

「⋯⋯⋯⋯分かりました。ここは貴女の言う通りにしましょう」

「賢明な判断だ」

 その一言を合図に各々走り出す。そうなればもちろん、アマデウスの宝具の重圧も消えるわけで、

「逃がすか」

 もちろん敵さんはすぐに追って来るだろう。まあそれでも、

「逃げるさ」 

 あらかじめクー・フーリンにもらっておいた、魔力のこもった植物の種。それを五つ投げつける。ルーンの刻まれたそれは、立ち上がったばかりの敵の足元で即座に芽吹き、一気に枝葉を伸ばして縛り付けた。

 持って数十秒、それでも、英霊になったこの霊基(身体)なら十分だ。

 振り返り際にジャンヌ・オルタの悔し気な表情が見えた。うん、まあこれくらいならいいか。

「またな、ご同輩。どうか、お前の本当の望みが叶うことを祈っておくよ」

 

 

―16― sideぐだ子

 

「お帰り、セイバー」

 騎乗動物――ヒポグリフなんて初めて乗った、今も次元跳躍酔いで吐きそう――に乗ってたどりついた森の中の野営地に、一人遅れてアルトリア・オルタが帰ってきた。その彼女にルーラーが声をかける。

「ああ。貴様には悪いことをした」

「気にしなくていい。それより、どうだった?」

 何のことだろう? ルーラーは時々こうだ。周りを置いて行って自分だけの世界で自分だけにしか分からないような話をする。

ダヴィンチちゃんが言うにはマスター、もとい魔術師や探偵なんてそんなものだ、とのことらしいけど。今は私もマスターなんだから、少しは分かるようにしてもらってもいいのに。

「問題ない、むしろスッキリしたぞ」

「へえ、そりゃよかった。君らは一度、河原でタイマン張るくらいしたらいいんじゃないかとか思っていたんだが、思ったよりうまくいったみたいで安心したよ」

「だから、⋯⋯そのな、今回の供物は⋯⋯⋯⋯」

 不意にアルトリアの顔がほんのり紅くなった。

「ああ、ハンバーガーなら大丈夫だ。すぐ用意しよう」

 そう言ってどこかへ行こうとするルーラーの礼装の袖をアルトリアがつかんで、

「いや! ⋯⋯よい」

「え?」

「だから、よいと⋯⋯⋯⋯いらないと、言っている」

 顔を紅くして俯くアルトリア、呆気にとられてぽかんとしているルーラー。ほうほうほうほう、これはこれはこれは。口の端が自然と緩むのが自分でも分かった。

 と、呆けていたルーラーがいきなりアルトリアの肩をつかんだ。さすがのアルトリアもこれには驚いたようで一瞬びくっと肩を震わせ、紅い顔を上げる。

「アルトリア」

「な、な、な、なんだ!?」

 うわー、盛大に噛んだ。あんな挙動不審なアルトリア初めて見た。いやまあ、分からなくもないけど。さてどうなるのかなあ。

 

「どこか、霊基(身体)の調子でもおかしいのか?」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯は?」

 え?

「いやだって、君が、あの魔力炉心が胃袋と直結している君が、その上戦闘から帰ってきた後にハンバーガーいらないって言いだすなんて、余りにもおかしいだろう。あれか、ランスロットに何かやられたのか? 隠し宝具、カルンウェナンでも持ってて、それを腹部に一発食らったのか? だから」

「――――――卑王鉄槌、極光は反転する。」

「待てセイバー! なんでいきなり宝具解放しようとしている!」

 いやまあ、当然でしょうよ。

「愚か者の戯言になど聞く耳は持たぬ! 唐変木を飲み込め、『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガーーーーン)』‼」

「なんでさーーーーーーーーーーー!」

 黒い息吹、それはまさに逆鱗を触られた竜の怒りの一撃。それに巻き込まれる無数の木々と唐変木(ルーラー)

 うん、えっと、なんというか。

 彼のことを理解するのは、まだ先でいいやと思いました。

 

 

―17―sideルーラー(ぐだ男)

 

 感想。死ぬかと思いました。

 セイバーの宝具の真名解放に――正直、ばかすか撃つのはやめてほしいのだが――周囲の森もろとも巻き込まれる、その直前、マシュがその射線上に入ってくれなければ、たぶん今頃はカルデアの個室に死に戻りしていたところだっただろう。

 尻もちをつきながらそんなことを考えていたらマシュからマスターが呼んでいると伝えられた。何でも、今後の方針を決めるとのことらしい。すぐに腰を上げて向かう。 

たどり着いてみれば、どうやらオレで最後だったらしく、マスターとオレを除いた彼女のサーヴァントたち(私のサーヴァントたちにはひとまず座に戻ってもらった)、そしてこの特異点で出会った同じくサーヴァント、アマデウス、マリー、そしてジャンヌ・ダルクが野営用の火を囲っていた。

「すまないマスター、少し遅かったか?」

「ううん、大丈夫。今から始めるところ」

 言葉通り、彼女はさして気にしていないような顔をしている。ただ、マスター含め、周りの面々に好奇の目で見られているような気はしたが。

「それじゃあ、始めよう。まず、来てすぐで悪いけどルーラー、敵勢力の情報を整理して教えてもらっていいかな?」

「ああ、構わない。

 オレが確認した時の、敵サーヴァントの数は八騎。うちライダーとアーチャー、バーサーカーはこちらで倒した。だから、残るはセイバー、ランサー、キャスター、アサシン、そして黒いジャンヌ・ダルク、こちらのジャンヌ・ダルクと区別するために、仮にジャンヌ・オルタと呼びたいのだが、他の者はそれで構わないか?」

 周りの反応をうかがう。マスターとそのサーヴァントたちはともに異論なし、マリーとアマデウスも同じく、そして最後にして本命、だいたいの予想はついていたものの、やはりジャンヌ・ダルクは他とは違い納得のいっていない表情をしている。

 そしてこれもやはりと言うかなんと言うか、そんなジャンヌの心の内を察してかマスターが一人、自分の意見でもないのに異を唱えた。

「私は納得がいかない。ルーラーの使うオルタっていうのが『別側面』っていう意味だっていうのは、ロマンから聞いてる。私にはどうにもあのジャンヌがそういう風には見えない」

「なるほど、とは言えないが一理あるな。我々がアレと接触していた時間はほんのわずか、マスターとこちらにいるジャンヌの方が彼女を理解しているのは自明だ」

「なら」

「だとしても」

 言い返そうとしたマスターの言葉に言を被せ、反論を押しつぶす。

「だとしてもだ。なんと呼べばいい。その案が無いというのなら」

「ねえねえ貴方」

 と思えば、さらにそれに被せてくる者がいた。マリー・アントワネットだ。

「ヴィ・ヴ・ラ・フランス! 貴方、いえ貴方では不便ねどうしましょうか」

 このままでは、オレの呼び名についても考える羽目になりそうなのでこちらから提案する。

「ボンソワール。オレのことはルーラーで構わない、マリー王妃」

「あら貴方、フランス語も嗜んでらっしゃるのね! もしかしてこちらの英霊なのかしら?」

 大輪の百合のような笑みをこちらに向け続ける。それに対しオレは肩をすくめ謙遜した。

「いや、オレはしがない探偵に過ぎない三流の英霊。残念ながらフランスの出ではないし、あいにく誇れるような出典を持っているわけでもない」

「あら、そうなの? まあいいわ。私のことはマリーでいいわ。雇われのルーラーさん」

「分かった。ではマリー」

「はあい。何かしら?」

 相変わらず白百合の笑みは崩れない、それどころか尚増していくそれは正直まぶしい。

「マリー、君は何か、オレに聞きたいことがあったのではないのか?」

「そうね、そうだったわ。ではお言葉に甘えまして遠慮なく。敵から逃げる前にルーラーさん、貴方は黒い方のジャンヌのことを『ご同輩』と呼んでいた気がしたのだけれど、それはいったいどういうことかしら?」

「――――――」

 それを聞くか。

「同輩、というと、同じ仲間や親しい人のことを指すと思うのだけれど」

「だとするとルーラーは知ってるの? あのジャンヌが一体どういう存在なのか」

 そう口にしたのはマスターだった。さすがに勘が鋭いがこういうときだけは勘弁してほしい。

「――――――ああ、知っている」

「だったら」

「だが、言うことはできない。もしどうしてもというのなら令呪を一画――」

「分かった。なら令呪を以て命――――」

「待て待て待て待て待て待て! 一体君は何をしようとしている!」

「え、だって令呪使えって」

「物の例えだ。こんなくだらないことで使おうとするな」

 そもそも使えとまでは言っていない、というより言えてない。思わず眉間の辺りを押さえてしまう。

「くだらないことじゃない」

「いいや、くだらない。そんなことよりも、今は今後どうすべきかを考えるべきだろう。そちらの方がこの場における正しい答えだ」

「いや違う、彼女がなんであるのか、彼女の望みがなんであるのか、それが分かるまで私は彼女とは戦えない」

「正気かマスター。例え君が戦わないとしても、向こうは問答無用でこちらを襲ってくる。今は細工がうまく功を奏してなんとか足止めできているが、それも一日ともつまい。時間がくれば彼女はきっと君を、そこの聖女ともども殺しに来る。君は君自身の死が人類という種の死であることをまだ理解していなかったのか?」

「そんなこと分かってる!」

「ならば! ならばこそだろう! 今のこの一瞬をもっと有意義に活用すべきだ。それにな、もし仮に争わない選択肢があったとして、どうやって彼女の望みを叶える? 聖杯、万能の願望器にでもなるつもりか。そんなの、全てをすくいとるなんて、不可能に決まっている」

「ルーラーだって願っていたじゃない、彼女の本当の望みが叶うことを。私にはまだそれが何なのか分からない。私は、分かりもしないモノを、知りもしないで諦めるなんてことしたくない!」

 だからそれが不可能だと言っている。何かを望めば、その見返りは望んだものに返っていく。そして誰か他人の幸せを望めば、その見返りは救われた誰かではなく、その幸せを願った自分にやってくる。だから、破綻しているのだ、誰かのために何かを為すという行為は。こんな少女にまで、そんなことをさせることが正しいはずがない。

 ――――だからそんなこと、オレがさせない。

「君は他人のことを考えすぎだ。それではいずれ身を滅ぼす。君は、君自身のことだけを考えろ。分かるものだけを追い求めろ。それで世界が救われる」

「それでも私は――」

 

「はいはいお二人さん、そこまでだ」

 

 白熱した(自分ではそうは思っていなかったが)会話が木製の杖で遮られた。その持ち主に目を向ける。

「なんの真似だ、キャスター。今オレはマスターと話している。要件なら後にしてくれ」

「そっくりそのまま返すぜ、てめぇこそ何してやがる。俺たちは今、今後どうするかについて話をしようとしてんだ。私情なら後にしろ」

「⋯⋯確かにその通りだな。すまない」

「分かればいい」

 言い終えると、杖の矛先は今度はマスターに向かった。

「嬢ちゃんもだ。確かに敵さんが何モンなのか知ることは悪いことじゃねえ。だが、そのために自分を犠牲にしたら元も子もない。ちったあ周りを頼れ。お前を心配しているやつはたくさんいるんだからよ」

 周りを見渡すマスター。きっと彼女の眼にはここにいる全員の真剣で、温かな感情が移っていることだろう。そうして順番に見つめ、マシュの後、最後に向かったのは驚くことにオレの方だった。

「⋯⋯ルーラーも?」

 心配しているのか、ということだろうか。ならここはどちらにしろ、

「ああ」

 そう、答えるしかない。

「そう、ならごめんなさい」

「ああ、こちらこそ」

 罪悪感が気持ち悪い。しかし、それが正しい答えであるのならオレはそうする。オレはもとより、それだけの存在なのだから。

「代価ではないが、せめてもの罪滅ぼしとしてオレに答えられるだけのことは答えよう」

「それは、別に令呪を使わなくてもということ?」

「ああ」

 もとより、マスターにそんなもの使わせる気はなかったのだが。

「なら教えて、あのジャンヌは何なの」

「彼女は、とある男の願いから生まれた存在だ」

 

 

――――そして、このオレも。

 




ルーラーのマテリアルが解放されました。

・属性 中立/善/星
・性別 男
・出典 創作
・地域 不明(多岐にわたる)

宝具により本来持ちうる以上に多くのスキルを保有している。
貧乳はよい文明。


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邪竜百年戦争オルレアン18~20

 三ヶ月粘った割には、そこまで出来のいい話ではありませんが、どうぞ楽しんでもらえると幸いです。


—18― sideぐだ子

 

 黒いジャンヌ達が明日一日行動することはない。

 そう言ったのはルーラーだった。

 聞けば、彼女たちから逃げる際、何らかの細工を――具体的に何をしたのかまでは教えてくれなかった――したとのことで、少なくとも一日はその解除に手間をとられるそうだから、動くならばこの一日だけだという。

 そしてその一日で何をするか。それもルーラーはしっかりと考えていた。

 この特異点を作り出している聖杯。それを所持しているのがあの黒いジャンヌだというのなら、その障害となるのは彼女をはじめとしたサーヴァントと、伝説の邪竜ファフニール、この二つになる。

 うち、サーヴァントたちは同じくこちらのサーヴァントをぶつければ何とかなる。しかしファフニールは別だという。あれを倒すには、竜殺しの逸話をもつサーヴァントに任せるか、複数のサーヴァントを以て当たるかしかない。ルーラー曰く、あいにくと彼はその手の英霊を呼ぶことはできないらしい。よって、ジャンヌやマリーのように特異点に召喚されたほかのサーヴァント、特に竜殺しの逸話持ちを仲間に加えて、ともに戦う。

 そのため、この一日は二手に分かれてのサーヴァント探しとなった。

 

 ――――――――その、はずだった。

 結論から言えば、失敗した。

 息が苦しい。足が痛い。頭も思い。のどの奥で血の味がする。涙と汗と鼻水が混ざりまくって気持ち悪い。それでも、足を止めるわけにはいかない。じゃないと、彼女の犠牲が無駄になる。

 腕に取り付けた端末の液晶に背後の空が映った。小さな黒い影がいくつかともう一つ大きな黒い点が迫っている。

「くそっ、できればこれは使いたくなかったんだがよ……」

 キャスターがぼやいた。

「キャスター、まさか――」

「んなわけあるかよ! あいつから、もしもの時はと託されていたいたもんだ。その時はこれを使って逃げろってな」

 足を地面に突き立て急停止、その間に懐から何かを取り出す。

 あれは――――種?

「オラッ! 食らいやがれ!」

 その種がいくつか竜たちが飛んでいる辺りの地面、その少し手前に投げられた。それを確認するや否や、空中にアルファベットのSに似た文字が刻み込まれる。

ユル(芽吹け)!」

 詠唱とともにすさまじい勢いで、一つの巨大な壁のように伸びていく木。わずかに紫がかっていて私の目にも有毒であるのが分かる。実際、それまで飛んでいた竜たちも近づこうとしていない。

「ボサッとしてんな嬢ちゃん! 今のうちに撤退だ!」

「……っ! うん、分かった。令呪を以て命ずる。来てっ、アストルフォ!」

 右手にわずかに走る痛み。それとともに壁の手前側の中空から、ヒポグリフに乗った桃色髪の騎士があらわれた。

「ハイハーイ! シャルルマーニュ十二勇士が一人……うわっ! 何すんのさヒポグリフ。危うく落馬するところじゃなかったじゃないか! ボクが落馬なんて、いろいろシャレにならないよ!」

 いさめても、なおもいななくことを止めないヒポグリフをあやしながら、彼が問いかけてくる。

「で、ボクみたいなポンコツに何のようだい? マスター」

「撤退する。私とマシュを乗せてほしい。いける?」

「もっちろん!」

 風圧で私が飛ばされないように、同時に、なるべく急いで、そんな塩梅の速さで降下してくるヒポグリフにどうにか飛び乗る。

「じゃあマスター、マシュ! 飛ばすから、しっかりつかまってて!」

「うん」

「分かりました」

「いっくよー! 『この世ならざる幻馬(ヒポグリフ)』!」

 二度目の次元跳躍。時間が空間が、いくつにも分かれてねじれていく感覚。私はいつしかその中で気を失ってしまっていた。

 

 

—19—

 

 敵のアサシンを排除した。

 こちらは、探していた竜殺しの英雄ジークフリート、他三名の仲間を得た。

 

 その対価に、マリーを失った。

 

「あちっ」

 誰も、何も言わない夕飯の中、うっかりシチューをこぼした。

「「「だいじょうぶ(ですか)先輩!」旦那様!」小ジカ!」

 マシュと、新しく加わった清姫とエリザベートの声が重なる。

「え?」「は?」

 まあその内清姫とエリザベートの仲はこの通りなので、当然こちらをほっぽいて衝突する。ああ、布巾を通して後輩の優しさが心に染みます。

「先輩」

「何。マシュ」

「先輩はマスターなんですから、先輩の思うようにしていいんですよ」

「………………」

 思うように、ね。

「でもそれで、今回みたいに誰かがいなくなるのはイヤ」

「大丈夫です」

 

「私は、いなくなったりしません」

 

「だから先輩は、先輩が正しいと思うことをしてください。不肖マシュ・キリエライト、先輩が望むならたとえ人類史の果てだろうとお付き合いします」

「……うん、ありがと」

「どういたしまして」

 この時のマシュの笑顔は、きっとどこへ行こうとも、忘れられない気がした。

「もちろん! (わたくし)もどこまでも一緒です、旦那様!」

「ちょっとアンタ! 抜け駆けしてんじゃないわよ!」

「うん。ありがとう、清姫、エリザベート」

「「っ…………!」」

 なぜか赤面する二人。それを好機と思ったのかは私にはわからないけど、一つわざとらしい咳払いをして、

「ではそろそろ、最後の作戦会議を始めようか」

 ルーラーが切り出した。

 少なくともこの夜で、この特異点で私がしたいことが一つ定まったと思う。

 

 

—21— sideルーラー

 

 マシュ・キリエライトは英雄ではない。

 だから、ずっと気になっていた。私が人類史を救うまでの間、彼女が戦い続けられたのはなぜだったのか。

「私が、正しいと思うこと、か」

 その理由を少しだけ知ることができたのかもしれないと、思わず口角が上がる。

「ここにいたのですか、ミスターホームズ」

 夜、林の陰からジャンヌ・ダルクが問いかけてきた。一度気を落ち着けて表情を元に戻してから。

「残念ながら聖女、オレはシャーロックではない。同じクラスどうしすまないが、ルーラーと呼んでくれないか?」

 といつものように切り出して。

「分かりました。ではルーラー、明日は決戦ですがマスターのもとにいなくていいのですか? 目の前で友人が失われたのです。きっと傷心のことでしょう」

「いずれは越えねばならない壁だった。今一人で乗り越えられなければ、今後また、同じところでつまづくことになる」

「そう、ですか」

「ああ」

 俯く聖女と崖の天辺に腰かけているオレとの間に、冷たい風が吹いている。サーヴァントの身の上、風邪をひくなんてことはないだろうが、それでも、見ている分にはこちらが寒い。

「……座ったらどうだ?」

「はい、ありがとうございます」

 そう言って隣に座り込んだ彼女に、オレは問いかける。

「君はどうだっだんだ?」

「なにがです?」

「マリーのことだ」

 一瞬、彼女が遠くを見た。

「どう、なのでしょうね」

 それでも彼女の瞳は、失ったモノを見ていたようには思えなかった。

「確かに悲しいです。せっかくできた友人を失って、少し、ショックです。それでも、しょうがないと考えてしまう私がいるのです。なので、涙が全然出ないんです」

「………………」

「最低ですね、私」

 彼女は笑っていた。月が嗤っているように見えた。残酷なくらいきれいだ。

「最初はきっと誰かの笑顔を望んでいたはずなのです。主のお導きに従ったのだって、本当はフランスなんて大きなものじゃなくて、ただ自分の大切な人たちだけを守れればと思ったから。ただそれだけだったはずなのに、いつの間にか、ずいぶん遠くに来てしまいました」

「そんなものだろう、英雄なんて」

「かもしれません」

 かもしれないではなく、きっとそうなのだろう。

「すいません、愚痴のようなことを聞いてもらってしまって」

「かまわないさ。オレでよければいつでも付き合おう。それこそ君のような聖人なら、逆にこちらから愚痴を言うことのほうが多いかもしれんが」

「ふふ、ではさっそく、一つ目をこぼす気はありませんか?」

 思わず目を見開く。

「全く、これだから同業者は苦手なんだ」

「そうみたいですね」

 そうみたいではなく、きっとそうなのだ。




 月の下、星の瞳と聖女が、かつてどこかで在りしはずの日のように談笑する。その一方で、もう一つの会話があったことを、これをお読みの貴方は覚えているだろうか。
 方や戦いを恐れる無垢な命。方や一つの恋を胸に、魂を最後までは悪魔へと売り渡さなかった音楽家。
 この二人の会話は、どの記録にも残ることはない。
 ――――けれど、記憶には残せる。
 たったそれだけのことで、彼はまだ、戦える。



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邪竜百年戦争オルレアン21~25

 オルレアン編、これにて完結です。
 自己解釈多めですが、楽しんでもらえると嬉しいです。

 次回からは少し飛んで監獄塔編になります。
 また、遅くなりましたが新年のご挨拶を。今年もよろしくお願いします。


―21― sideルーラー(ぐだ男)

 

 外のサーヴァントたちの相手を終えた後、ファフニール含めた竜種たちの相手をジークフリートたちに任せて、城内へと侵入する。

 二度目のオルレアン城内は、一言で言うなら悪趣味だった。

 ロビーからひたすらに螺旋階段を駆け上がり、最上階へ。一際目立つ大きな扉を開ければ、そこには長く長く続く廊下。

 まばらに配置された竜種、屍者(ゾンビ)、竜骨兵が時間間隔を狂わせていく。

 その一方で、次の区画へとつながる扉は比較的等間隔に設置されている。だがもちろんこれも悪趣味な嫌がらせに満ちていて、ドアノブを飾る逆さ十字には器用に紐で腐敗した肉片がつるされている。――――無論、人間の首だ。見るものが見れば、例えば(正直本気で見せる気はないが)サンソンやジャックが見れば、小児のものだとわかるだろう。

「清姫、エリザベート。耳を貸せ」

 廊下を走りながら、マスターとマシュに気づかれないよう、二人にそっと耳打ちする。

「この先、エネミーと同時に扉の方も壊してほしい。できれば、あの二人が見ないように」

「どうしてそんな面倒なこと……、え、この匂い、まさか」

「そのまさかだ。お願いできるか」

「……分かったわよ」

 さすがは、と言ったところか。

「清姫も大丈夫か」

「ええ、問題ありません。ただ、その場合魔力の温存は少し難しいですよ」

「そこは心配いらない。こちらに策がある、まかせてほしい」

「わかりました」

 こちらもどうにかなったか。

「しかし、まさか君が二つ返事で聞いてくれるとは思わなかった」

「勘違いもほどほどに。私はそれが旦那様のためだと感じ取ったから、お受けしただけのことです」

「……驚いたな。そこまで見抜かれていたとは。参考までに、どうして分かったのか聞かせてもらえるか?」

 扇子の奥で口をほころばせる清姫。

「女の勘ですよ。あなたも気を付けた方がいいのでは?」

「…………ご忠告、感謝する」

 やはり、死んでも女の人が怖いのは治らないらしい。

 爆音が響く。見れば、数体の竜が串刺しのまま扉へと投げつけられ、瓦礫の生き埋めになっている。その体は扉に括りつけられた死体ごと、灰になって消えた。

 

 そうして、いくらかの扉をこじ開けた後。

「魔力反応です。おそらく、次の扉の向こうに聖杯があります!」

 マシュがそう伝えた。

「ならば、そこにはジル・ド・レェ元帥、それと、黒いジャンヌ・ダルクもいるだろう。みんな、これがこの特異点の最後の戦いだ。覚悟はいいかい」

 こちらを慮るドクターの声に、マスターが答える。

「……行こう」

 

 

―22― sideぐだ子

 

 剣戟が広いホールに響く。

 ルーラーの呼び出したセイバーと黒いジャンヌが戦っている。状況は五分五分。いや、ややセイバー優勢と言ったところか。押されているジャンヌを支援しようとジル・ド・レェが海魔を召喚するが、それもマシュとこちらのジャンヌで抑えている。エリザと清姫も扉から入ろうとしてくる竜種を食い止めている。

 尚も、剣と剣がぶつかり合う。

 それを私は見ていた。

「どうした突撃女、火力が落ちているぞ」

「うるっ……さい! あんたこそ、それ本気じゃないでしょうに」

「ほう、その状態でも分かるか。確かに、今の私はステータスが若干落ちている。何せイレギュラーな召喚だからな、これくらいは当然だ。だが」

 一度互いに距離を取りセイバーが剣を一振りする。わずかに魔力を放出しただけの風圧、それだけで彼女の周りの炎が消し飛んだ。

「今の貴様相手ならば、この程度、ハンデにもならん」

「こンの……、血の通っていない蝋燭風情が。アンタも、あのルーラーも、そっちの聖女様も、そして何よりもあの生意気なマスターもいい加減、目障りなのよ!」

 叫ぶように吐き出されたその言葉と同時に、黒いジャンヌの周りから出た炎が、彼女ごと燃やさんばかりに猛る。それすらも、セイバーはまるでないもののように進み、またジャンヌと切り結ぶ。

「ぬるい!」

「ぐっ…………」

「あまりにも弱い! 貴様、持ち前の威勢の良さはどこに置いてきた。これでは、蹂躙するこちらが先に萎えてしまうぞ!」

「うるさいっつってんのよアンタ。聞こえてないの? さっさととその口閉じなさいよ、もう!」

「…………ねえ、もしかして、二人って実は仲良かったり」

「「しない!!」」

 まったく同じタイミングでこちらを一睨み。それに合わせて魔力の風圧に乗った熱風も発生し、強制的に二人を引きはがす。

「しかし、貴様と切り結ぶのもこれで何度目か分らんな」

「なんの話よ」

「いや、こちらの話だ。結局、知らず知らずのうちに縁というやつができていたのかもしれんな、と思っただけのこと」

「なにそれ、そんな腐れ縁初めっからいらないわ」

「だな。不満だが、それには同意見だ。ゆえに」

 辺りの魔力が急速にセイバーへと、正確にはその手に持つ剣へと収束していく。明らかに以前ルーラーに撃っていたとき以上の量、いや、それが可愛く見えてしまうほどの密度。

「――今ここで、その縁も斬り潰しておこうとは思わないか?」

「……………………フッ、何よそれ。ずっと思っていたんだけど、貴女相当な脳筋ね。頭にマッシュポテトでも詰まっているんじゃないんですか? まあ、でも、気に入ったわ。上等よ、お望み通り、ここで燃えカスにしてあげる!」

 同じように密集していく魔力。次第に辺りの大源(マナ)まで食い散らかしていき、魔力を自ら生産する術を持たない海魔からも奪っていく。私も体内で最低限の魔力を生産して立っているのがやっとだ。こういう時の対処を教えてくれていたメディアさんに後で感謝しなければ。

「――――卑王鉄鎚、極光は反転する」

「――――これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮」

 一点に集められた力が、暴風となって放たれる。

「『|約束された勝利の剣《エクスカリバー・モルガ――――――――――――――――――ン》』!!!!!」

「『吼えたてよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュヘイン)!!!!!」

 

 

―23―

 

「うたかたの夢、という言葉を知っているか、マスター。

「本来であれば儚い夢や希望のことを意味し、その多くが叶わない。

「これがサーヴァントについての話になると、多少意味が変わってくるんだが、早い話夢や幻とは違い実体を伴ってくるんだ。

「けれど、いつまでもは続かない。

「夢である以上、いつまでも世界には認められない。

「それこそ泡沫(ほうまつ)のように、いつかはあっさりとその姿を消すだろう。

「そんなことは認められない、か。まあ、マスターならばそういうだろうと思っていた。何、手はある。

「もし、君が彼女に消えることを許さないなら、彼女のことを認めてやればいい。誰でもない、世界でもない、君がだぞ。

「そして彼女の願いも認めてやれ。彼女の願い、そして、彼女を生み出したジル元帥が本当に願ったこと、それは――――

 

「……っぐ」

 暴風が止んだ。城の外壁は崩れ、野ざらしになった城内に風が吹き抜けている。

「無事ですか? 先輩」

「うん、かすり傷。ありがとうマシュ」

 二つの強烈なエネルギーの塊がぶつかり合う寸前、魔力を吸いつくされた海魔の対処から解放されたマシュが私の方に滑り込んできて、その余波から守ってくれた。そのおかげであれほどの衝撃にも関わらず、目立った傷は一つもない。

「あの二人は、どうなった?」

「わかりません。まだ土煙が晴れていなくて、サーヴァントの視力でも。……っ!」

 その土煙の中から、ようやく彼女たちの姿が出てきた。

 その片方、セイバーの足元に赤い花が咲いていた。

 ――セイバーの血だ。見れば、彼女の胸には一本の黒槍が鎧を貫通して突き立っている。

「フッ。すべて蹴散らしたつもりだったが、……今一つ、足りなかったか」

 血が、いや血液というべき量の赤色が口から吹き散らされる。そのうちの一滴が宙に浮いた。そこから徐々に実体が出来上がっていき、ただ服の一片についていただけなのだとわかる。ルーラーだった。セイバーの白い体がルーラーに寄り掛かる。

「セイバー、休んでくれ。さすがにその傷ではサーヴァントといえども霊核に響く」

「そのようだ。あれにとどめを刺せないのは、少し物足りんが、まあ、良しとしよう。ああ、それにしても」

 ルーラーの腕の中で、セイバーがどこか焦点の定まらない瞳をして、

「縁を斬る、か。まさか、こんなにも、難しいことだった、とわな。全く、いつまでも、無茶、ばかり、するんですから、シロウ、は」

 そう、ここにいない誰かへの言葉を残して座へ帰っていった。

 そのかけらを無言で、とても尊く思いながらルーラーは最後の一つまで見つめていた。けれど、やがてすべてが空気に溶けるの確認すると、立ち上がって一点を見つめる。その先にいたのは、先ほどのエネルギーの片方を担っていた黒いジャンヌ。

 服の半分が蒸発し、体のあちらこちらが焼け焦げている。旗を地面に突き立て、それに寄り掛かってやっとのことで立って居られている、そんな風に見える。

「ク、クク、クハッ。やっと、やっと消えたわ、あの蝋燭女」

 その彼女に歩み寄る影が一つ。

「ジャンヌ、貴女もお休みください。先ほどの一撃、わざとその身で攻撃を受けながら、必死の一手で敵将に一矢報いたように見えました。であれば、御身はもはや限界のはず。お早く」

「バカを言わないでちょうだい!! 私は、まだ、このフランスを滅ぼせていません。復讐を果たせていません。それなのに、休むですって? そんなことをしてしまえば、私は、……私は」

「無論、消えてしまうだろうな」

 唐突にルーラーが口を挟んだ。

「なんですって」

「言った通りの意味だ。君の行動は全て、他者、自身を魔女と呼んだすべてへの憎悪によって成り立っている。君の存在すらもだ。故にこその復讐者(アヴェンジャー)。それだけに、その憎悪、またはそれに起因する行動をやめてしまった時点で、君は消滅する」

「…………本当なの? ジル」

「……………………」

 ジル・ド・レェ元帥は黙ったままだ。しかし、その顔には気持ち悪いくらい穏やかな笑みが貼り付いている。

「その男は当然、そのことを知っている。なぜなら、君を生み出したのはそこの元帥なのだからな」

「じゃ、じゃあ」

「ああ、君は彼がそうあれかしと聖杯に望んで作られた存在。だから、

 ――きみは、ジャンヌ・ダルクではない」

 その言葉が、とどめだった。

 つかんでいた旗を手放し、派手な音を立てて地面に崩れ落ちる。その瞳から溢れるのは大粒の涙。口から零れるのは呪詛ではなく、

「そん、な。私、私は、私こそが、ジャンヌ・ダルク。かつて、私を火刑に処したこのフランスに、この世界に、復讐する者。……その、はずだ。じゃあ、私は、何? 私は、どうして? ああ、消える。消えていく。私のなにもかもが。イヤ、イヤだ。イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ。私は、まだ」

「消えたくない?」

「誰?」

「また、自分の足で歩きたい? 走りたい? いろんな物を見てみたい? おいしいものを食べてみたい? 友達を作って、おしゃべりしてみたい?」

「私、は」

「貴女は?」

「生きて、いたい」

 彼女の、本当の願いだ。

「自分の足で立って、歩きたい。いろんな物を、フランスの外を、見てみたい。おいしいものを食べてみたい。イングランドの食べ物は……食べたくない。アイツにやり返したい。そして、何よりも」

「何よりも?」

「友達が、欲しい」

「うん。分かった。その願い、叶えるよ」

 右手の甲が熱い。やることはわかっている。呪文もしっかりと覚えている。

「――――告げる。

 汝の身は我がもとに、我が命運は汝の剣に」

 

 

―24― side???

 

 ここに、彼女がいる。

 人の善性を信じ続けた、優しい彼女が。

「待て、どこへ行く!」

 邪竜を退ける黄昏。その光が狂化に覆われていた自我を叩き起こした。

 なら、行かなくては。

 ――すまない。今は、行くべき場所がある。

「……ッ! そうか、そういうこともあるのだな。であれば、行け」

 ――ありがとう。貴方に最上の感謝を。

 翼を広げる。痛みはある。それでも、そこに彼女がいるのなら。

 邪竜は、かくして城へと飛び立った。

 

 

―25― sideぐだ男

 

「させてたまるものかあああああ!」

 マスターが詠唱を完了をしていない中、ジル・ド・レェ元帥が襲い掛かった。

 今、ジャンヌ・オルタの存在は彼女の中にある聖杯によって保たれている。それをマスター(を通じてカルデア)に繋ぎなおしているところだ。もちろん、その中で妨害されてしまえば、ジャンヌの存在の不可は聖杯の所有者である元帥の物。すぐに元帥は彼女をリセットするだろう。

「もちろん、それができればの話だが」

 元帥がジャンヌ・オルタに触れるか触れないか、というところで、突然風が巻き起こった。

「何が」

 それを認識する間もなく元帥はその風の中心にいた黒い巨体の足に踏みつけられ、身動きが取れなくなる。

「あれは……ファフニール? 主人を守ろうというのですか?」

「半分正解で半分外れだ、聖女」

 オレの言葉なんて聞いているとは思えないが、間違いを正したくなるのはこの霊基(探偵)の性だ。一応、補足しておく。

「あれは竜の魔女を守ろうとしているのではない。ただ君に会いに来ただけだ。ジャンヌ・ダルク」

「私に会いに」

 聞いてくれていたらしい。内心よかったと思ってしまう自分がいるのがなんとも言えないが、まあ、良しとしよう。

「それでも、ごめんなさい。私、貴方のことは覚えていないんです。けれど、どうしてでしょうね。覚えていなくて、その記憶に触ろうとしても何も感じないのに、どうして、胸がこんなにも暖かくなるんでしょう」

 ジャンヌが胸の前で何かを握りしめ、そして歩きだす。

「ジル」

「アア、アアア、アアアアアアアああああああ!!」

「もう、いいんですよ。そんなに苦しまなくても。確かに私は頑固でした。周りが見えてなくて、自分のことしか考えていなくて、後に残った者がどんな思いをするのか想像することすらしなかった」

「ア、アああああ、じゃんぬ、ジャンヌ」

「はい、私はここにいます」

「ジャンヌ、私は、貴方に、ただ一人の少女としての幸せを……」

「はい、分かっています。けれど、それは当分叶いそうにありませんね。ですが、大丈夫。私に無理でも、きっとあの子が。それに私だって、いつかきっと。ですから」

 固く握りしめた手のひらが開かれ、元帥の手をしっかりと包んだ。そうしてひとしきり彼に伝わったら、その手を腰の剣へ。

「一緒に行きましょう。ここは、彼女たちの世界です。私たちは退場しなければ」

 柄の先で一輪の花が咲いた。

「――――主よ、この身を捧げます」

 そして、咲き誇る炎。激しくそれでいて苛烈ではなく、ただ包み込むように優しい。

「ルーラー、ありがとうございました」

「いや、オレは何もしていない。すべてマスターが決めたこと。オレはただ提案しただけだ」

「それでも、彼女には道になったと思いますよ」

「…………」

「ですが、導きすぎるのもほどほどに。彼女は、貴方ほど強くはないんですから」

「善処しよう」

 その返しをどう思ったのか、彼女は微笑み、視線をマスターの方へ向ける。

「立花さん、マシュさん、私の友達になってくれてありがとうございます。どうか、あなたたちの旅に主のご加護があらん事を。そして、できれば、その子を、妹をよろしくお願いします」

 再契約はすでに終わっている。今は、魔力を使い果たして眠る二人の傍らにマシュが控えている。

「後は、やはり貴方でしょうね」

 最後に、傍らのファフニールに声をかけた。

「ごめんなさい。こんなやり方で貴方を帰すことになってしまって。熱いでしょう?」

「                」

 誰にも聞き取ることのできない低い音が、竜の口から洩れた。

「そう、ですか。いつか、きっと、貴方に会いに、行きますから」

 こうして、一つ目の特異点は無事修復された




ルーラーのマテリアルが更新されました。

・うたかたの夢(―)
 個人の願望、幻想から生まれた存在であることを示すスキル。
 それゆえに強い生命力を有するが、同時に世界から永遠に認められることはない。
 彼の場合、英霊になった直後は所持していたが、ある事情から、それと同時に失われている。


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新説・監獄塔に復讐鬼は哭く
1 やはり、私はどうしても


遅くなりました。監獄塔編開始です。
例によって、まだ現地には行きませんが。


 胸が、ずっとずっと痛いままだ。

 

「行こう、セイバー」

「ええ、■■■」

 

 私のことを呼ぶ少年。時々忘れてしまうその名前を、今は思い出すことができなかった。どこかの教会前、朝日が昇り彼の顔が逆光で見えないけれど、誓いは確かにこの胸に在って、足取りは軽く石畳を叩く。

 ――――――と、唐突に風が周りの風景を拭い去っていく。そのあとに、私は木造の古い家屋で一つの影と相対していた。

 

「来い、セイバー!!」

 

 どうやら、彼が私を呼んでいるらしい。けれど、後もう少しだけ。それであの影を。そのうちに、別の暗闇へとひきずりこまれた。

 次に目を開いた時、痛みは傷となって実体を得ていた。

 

「――――――――」

 

 傷に何かが沁みている。もう彼は私のことを呼んではくれないらしい。

 それでも、なぜだかとても嬉しくて、誇らしくて、同時に、それら全部を足しても足りないくらい、悔しくて。

 

「強くなりましたね。■■■」

 

 私はそれからずっと、胸が痛いままだ。

 

 

「目が覚めたか、セイバー」

 また、同じところで夢から覚めてしまった。

「ああ」

 それもあってか、多少声のトーンが落ちていたかもしれない。

 まだ眠気の取れない頭を回し周囲を確認する。全体的に白い近未来的な部屋の中、殺風景とも言えるその部屋の印象とは裏腹に、何かの食べかすやその包装紙が辺りに散らかっている。

「汚いな」

君が(・・)やったんだろ」

 私のいる足場――どうやら私はベットに寝かされていたようだ――の傍らで何かの端末をいじっていたらしい染みのような黒髪頭から失礼な返しが飛んできた。

「そうだったか?」

「そうだ。覚えていないとは言わせないぞ。いきなり人の部屋に現れるなり『突然だがこれからは料金を割り増しすることにした。差し当たって、ハンバーガーを10ダースよこせ。文句は聞かない』なんて言ってきて、その上食べかすやらゴミやらをほっぽいて、あまつさえ寝落ちするやつが一体どこにいる」

「さあ、知らないなそんな不敬な輩。教えるがいいマスターよ。今すぐそいつの首を撥ねてやろう」

「なるほど、では自害するといい」

 無論令呪が飾り以上の意味を失っているこいつに、そんなことができるわけはないのだが。そう思い、再び布団に寝転んだのが私の運の尽きだったらしい。

「ふっ、なめてもらっては困るぞセイバー。オレをいつまでもあの純情可憐で無垢でアンニュイな被捕食系一般枠マスター上がりだと思っているならばそれは大間違いだ!」

 突然音もなくヤツの手足が私の顔と胴の左右にとびかかる。全く無駄のない動き。

「これは」

「そう、宝具『花婿失踪事件(ケース・オブ・アイデンティティ)』。過去の実在非実在の探偵のスキルを一時的に獲得する」

「なるほど、ではこれがあれのル〇ンダイブというやつか。全く、恐れ入るなその最低宝具」

「いや、むしろそれ探偵とは対極にある存在だろう。いま獲得しているのはツンドラ委員長ロリ吸血鬼変態中学生浮遊霊反定立(アンチテーゼ)あと妹二人に式神童女に囲まれたハーレム系変態主人公のスキルだ」

「よし、今すぐモルガっていいか?」

 とは言ったものの、位置取りや力の入れ具合まで計算されているらしく、どこに力を入れようと抜け出せる気がしない。まあ、全力の半分くらいの勢いで魔力放出すればどうにかなりそうだが、そうすればこいつも一たまりもあるまい。

 そんなことを考えているうちにもヤツの吐息が顔にかかって、頭の空白が徐々に増えていく。

「このまま君を押し切って、死にたくなるほど辱めてやろうか!」

「くっ……、いいだろう。いつかはくれてやろうと思っていた操だ。だが、ここではまだ渡さん。どれほど凌辱されようと、私はまだ死んでたまるものか……」

「……………………。なるほど、ではしょうがない。オレのヘタレセンサーがこのくらいでやめとけと言っているが、最終兵器を出すしかなくなった」

「なにを」

 そうしてヤツは懐に手を突っ込むとそこから一つの歯ブラシを取り出した。

「フン。大仰な言い草で何を取り出すかと期待してみれば、歯ブラシとは。笑わせる。貴様なら、とある極東の都市民にお見せできない物でも出すかと思っていたのだがな」

「いや、君はオレをなんだと思ってるんだ」

 知れたことを。

「他人やら自分やらをいたぶって遊ぶサディストなのかマゾヒストなのか分からない倒錯変態女装趣味なマスター、だと思っていたが」

「さいですか」

 ヤツが一つ溜息をついた。その顔に不覚にも少し色気を感じてしまったあたり、どうやらこの場の特殊性に少しはあてられてしまっているらしい。決して、普段からそういうふうに思っていたわけではない。

「で、その歯ブラシで貴様は何をするつもりなのだ?」

 気を取り直し聞いてみる。するとヤツはごく当たり前のことを言うように、

「何って、歯を磨くんだよ。歯ブラシって、そういうための物だろう?」

 当たり前のことを口にした。

「ま、まあそうだが。しかし誰が? 誰の歯を?」

「オレが、君の」

「貴様が、私の?」

 ああ、と頷くマスター。まるっきりわけが分からない。まるっきりわけが分からないまま、私を押し倒した姿勢のままで、じゃあ行くぞーと実に軽薄な掛け声とともに手にした歯ブラシを私の口内へと滑り入れた。

 瞬間。

「――――――――――!?」

 あまりの刺激に言葉が言葉にならなかった。

「はうっ! ……ぅぐぅ」

 出るのは、そんな悲鳴とも取れない喘ぎのみ。私の声帯のどこからそんな声が出いるのか、想像以前に理解ができない。

「ふ、ようやく気付いたかセイバー。歯磨きの恐ろしさを」

 歯ブラシの毛先が口内の溝を撫でていく度に、頭の空白領域もゆっくりと理性を侵攻していく。そんな状態だから、正直なところこの刺激に抵抗するのに手一杯で、ヤツの歯磨き講習の内容は半分も頭に入ってこず、結局、単語単語しか聞き取れない。

 その単語から察するに、知らない人に髪を切られるのを嫌がる――髪結の精霊に任せっぱなしな私にとってイマイチその不快感は理解できなかったが、まあ概ねそんな風に、それほど親しくない相手から身体を触られることには一定の心理的抵抗が生じるとのこと。これをヤツはタッチングと言っていたが、それを頭髪や皮膚などの体の外側ではなく、口内というまがいもなく体内でやってしまえばどうなるのか。

 認めたくはないし、言葉にして身も蓋もなく形容するのも癪なのだが無論その結果はこの通り、快感が生じるのである。

 実際問題、肉体のデリケートなところを毛先で撫で回されているのだから、気持ちよくならないわけがない――と、

「まあこれもおおよそ全部受け売りなわけだから、自信満々に言っても虚しさしかないがね」

 そんな風に抜かすものだから、やはり一度その最低宝具ぶっ壊しておくべきだろうなと思ったものの、本来形を持たない宝具にカテゴリされるわけで、使用不能にするにはそれこそこいつのマスターに令呪を使ってもらうか、木の枝のように陳腐なこの肢体ごと吹き飛ばすしかないわけで、しかしそうなると今後こういう情事は二度と起こらなくなるわけで、いや別段、残念がってなど…………、だめだ、思考がうまく回らなくなってきた。

「よし、そろそろ限界だろう。どうだ、死にたくなるほど恥ずかしい気持ちに、なっ、て」

 と、唐突に、無遠慮かつ繊細に口内を闊歩する歯ブラシの動きが止まった。まるで食事中にいきなりそれを取り上げた飼い主でも見る犬のように――とは形容したくなかったが、そうとしか思いつかないほど、この時の私の頭の中は空っぽでその端から徐々に何かの感情、というより一種の幸福感に近いものの浸食を許していたのだから現時点で何を言っても詮無きことだったわけで、そんなだからやはり、やめてしまうのか? などとでも言い出しそうな顔でヤツを見上げてしまっていたのだ。

 そして、まるで何かを考えないように、作業に没頭してその何かを忘れようというように、けれど余計記憶に染み付いてしまっているように、再度蹂躙を始めた毛先は休むこともなく、それでいて丁寧にタップを踏みしめ、さらに私の中に快楽を流し込んでいく。

 互いにうわ言のように互いの名前を呼んだり、粗い息をこぼしたり、言葉にならない喘ぎ声を出してみたり、そんな状態を繰り返し、繰り返し、繰り返し繰り返し、繰り返して。

 そうして、時間を数えるのを忘れてしまった頃。

「………………セイバー」

「なん、ふぁ、……言って、いってみうがいい」

 それまで目的もなくただ並べられるだけだった名前を呼ぶ声に、何かを懇願するような意思を感じた。

「その、……いい、かな」

 それだけで言わんとするところははかれた。

「いいとも」

「私、で、後悔しないか?」

 最初に押し倒した時の威勢の良さはどこへやら、すっかり立場が逆転し、一人称も昔の頃のものに戻っている。全く、何が昔のオレのままだと思うな、か。貴様はいつまでたっても、未熟で、女々しくて、いつも脆い正しさを信じていて、それに縛られていて。全くこいつは弱いままだ。それでも、この弱々しさを悪くないと感じてしまっている自分がいてしまう。けれど、今は、こういう時くらいは。

「シャキっと、ふぃろ。きしににごんは無い。きひゃまが、男であるきひゃまが、それで、どうする」

「……ごめん」

「それでは、こちらがふあんになってしまう、だろうに」

「え……、それって、つまり」

 二度も言わせないでほしい。騎士に二言は無いのだから。

「きさまが、りーどするのだぞ。おとこらひく」

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」

 そうして、互いに心ここにあらずといった感じで、ヤツは私の背中に手を回そうとして、私はその邪魔にならないように両の腕を頭上へと上げて、待ちに待ったその時を待つ。その到来は、

 

「何をしようとしているのだな、ご主人、そして黒騎士王」

 

 思いもよらぬところから邪魔された。

 否、むしろそれはある意味では救いであったかもしれないが――無論私にとっては邪魔だてに他ならないその声の主は、一人でに閉まる自動ドアの扉を背に何とか料理らしきものを落とさずに抱えられてはいるが、その顔は常に東奔西走八面六臂するその性質からは想像できないほどに無、すなわち真顔、それを通り越して顔とすら認識することを脳が許容せず、駅構内の案内ピクトグラムのようとも見える。

「ご主人、黒騎士王。正直に答えるのだな。どうしてご主人は黒騎士王の歯を磨いてあげながら慈愛顔で押し倒し、あまつさえ服を脱がせようと背中の結び目に手を伸ばしているのだ? どうして黒騎士王は辺りにジャンクフードの包み紙をまき散らしながら、その中にあって満足気な顔で押し倒されているのだ?」

 もう一度言おう、正直に答えるのだな。と復唱して、

「場合によっては別にグレてしまっても構わんのだろう? 具体的に言うなら、初対面の相手の口の中に歯ブラシではなくホッチキスを突っ込んで、そのままかちゃりと口を半永久的に閉じてしまうような感じに。より具体的に言うなら、相手の人体の構成元素を並べた立てた上で貴方の価値なんてそれ以下でしかない、むしろもっと別のところに使った方が世のため人のためなんじゃないの? と回りくどく存在否定するくらいに。さらにより具体的に言うなら、上述のようなことをしながらも古典的かつ情熱的に英語で愛の告白をするくらいに。またさらにより具体的に言うなら」

「やめろ! それ以上はいけない!」

 そう長ったらしく垂れ流されるうちに桃色の空気はどこへやらか立ち去り、マウントを決めていたヤツも世界の法則を乱そうとする獣を止めようと、布団の上から退散してしまった。

 後に残された私は、とっくに口から取り出され湿ったまま放置された歯ブラシを見て、舌打ちを何度もしながら体育座りを決め込む。決め込んで、俯いて、柄にもなく思ってしまう。

 どうして、私はいつもこうなのだろうな。と。

(―――――――――――貴方では、■■は救えません)

 深い、深い深い虚に沈んでいる気分だ。生ぬるい泥のような感触がして光も音も通さないのに雨音だけが聞こえてくる。

「やはり、私はどうしても」

「どうしても、なんだ?」

 その泥へ強引に入りこんで来るように一つ声がした。その声に耳を傾けようと俯けた顔を上げればいつの間にか泥はどこかに行っていて、その晴れ目にヤツが申し訳なさそうに立っていた。そこにさっきまでの弱々しいヤツはいない。いつもの、いつもこいつが他に見せる、外面のこいつだ。

「何でもない。それより、あの猫はどうした」

「どうにか事なきを得たよ。危うくセイバーが俯いている間に心中を図られるところだったけど、どうにか説得した」

「よく説得できたな」

「だてに修羅場はくぐってないさ。おかげさまで」

 そうか。と適当に流しておく。

「で、なんだったんだ?」

「なんだとはなんだ」

「なんだとはなんだとはなんだ……ってそうじゃなくて」

 まだ混乱状態から抜け出せていないのだろうか。私の頭の中はまだ三割ほど空白のままで、考えがまとまらない。こいつは何が言いたいのだろう。

「だから、君は用事があってここに来たのだろう? それが何だったのかを聞いてるんだ」

「……それならば、ただハンバーガーをせびりに来ただけだが」

 いや、違うだろ。などとヤツは吐き出すように言った。

「君はハンバーガーなんて、それこそ戦闘中以外は毎時間毎分毎秒食べている」

「いや、さすがに寝るときは食べていない」

 あと入浴中も。ふやけてしまうだろう。

「確かにそういう時があるとしても、わざわざオレのところに来てまで食べにくる必要は無い。食堂に行けば、だれかが用意してくれるのだろうから」

 なぜだろう。無性に胃がムカムカしてきた。いや、これは腹が立っているというのかもしれない。

「そんな君がこうしてやってくるというのは、きっと何か話したいことがある時だ。だから、茶番はこのくらいにして」

「茶番、と言ったか」

 私の返しに唐変木が一瞬固まった。その隙にヤツの襟をつかみ体勢を百八十度回転、背中に回したそれを中天を通して一気に振り下ろす。極東で言うところの背負い投げというやつである。大丈夫だ、問題ない。手加減したし投げた先には先ほどまで二人寝そべっていたベットがある。多少脳髄がシェイクされただろうが、死にはしない。

「……え?」

 そしてヤツはいまだ状況が理解できていなようだ。そんな間抜けに覆いかぶさる。

「えっと、セイバーさん?」

「ああ、そこまで言うのなら聞かせてやる。私はな」

 手足を抑えてつけられて、身動き一つとれないヤツの耳元に私はそっとささやいた。

「私は、マシュ・キリエライトのことがどうしても、苦手だったんだ」

 




ぐだ男の宝具ですが、『探偵』の基準は『広義のミステリー(ホラー含む)において探偵的行動をしたことのある人物』というつもりです。人外化はさせる気はないです。フィードバックが怖いので。

あと余談ですが幹也礼装狙ったらふじのんが宝具2になりました。
たぶん食堂の一角で激辛麻婆豆腐を食べているんじゃないかとか勝手に想像してます。
塵が足りません。


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2 バラのエレジー

遅くなりました。

今回作中で引用している資料ですが、作者はぐだのように熱くはなれませんでした。せめて、選挙制度があれば死なずに済んだのにという具合です



 暗い獄中にあって、その紅い姿はまさに一輪のバラのようだった。

 溜息をつけば/剣を突き出せば、劇場から一人演者が消える。足を踏み出せば/剣を引き抜けば、劇場からまた一人演者が消える。ターンを決めれば/剣を振り回せば、劇場に残っているのは、もはや私だけになる。

 それもすでに過去のことだ。その白首に短剣を三度突き立て、毒矢を四本打ち込んで、最後に火縄銃でハチの巣にした。そうでなくては、そう命じなければ、死んでいたのは私の方だった。今、彼女は床に倒れ伏して埃まみれになっている。けれど、まだ生きている。未熟な私の魔術ではどうにもならないけれど、あれだけの攻撃をその身一つで受けていながら、それでもかろうじて生きていた。

 もしかしたらそこにいたのは私だったかもしれないと、震える足を無理やりに立たせて出口へと歩き出す、直前。

「…………ああ、寂しい」

 動かない体で彼女が最後にぽつりとこぼした。私はもはや聞こえているかどうかも定かではないのに、背中越しで返事をした。

「私には、貴女は救えない」

 

 

「余は! みんなが! 大好きだーーーー!」

 セイバーとの一悶着を終えマイルームを後にした。その出掛けで恐ろしい現場にかち合ってしまった気がする。

「おい、バラの皇帝。何をしている」

「ん?」

 こちらに気づいていなかったのか意味ありげな首の角度で振り向くバラの皇帝、もとい、ネロ・クラウディウス。

「誰かと思えば、あのネコの飼い主ではないか」

「まあ君とキャット――正確には玉藻の前(オリジナル)の方か、で彼女と君の二人には浅からぬ因縁があるようだし、それに関連付けるのも分かるが、その表し方はいかがなものかと思うぞ」

 それはともかく。

「で、何をしていたんだ。こんな誰もいない廊下の真ん中で」

「うむ! よくぞ聞いてくれた。余は発声練習をしていたのだ」

「は?」

 間抜けな声が出てしまった。待て、今なんと言ったこの赤い人。

 …………発声練習、だと。

 それは、時と場合によっては犠牲者が出たりしないだろうか。今となっては遠い昔だが、多くのサーヴァント(変人・奇人・狂人)と同居していた頃、必要に迫られ作成し、使い古した末に魂レベルで暗記することになった英霊対処マニュアルのページが、脳内でパラパラとめくられていく。

 その一つ、第六版から追記された条項、第三種警戒態勢コードエリちゃん『ジョイント・リサイタル』の項。『エリザベート・バートリー及びネロ・クラウディウス、並びに当英霊の別側面について。彼女らの歌唱・歌謡を禁ずる。無論、セッションについても同様である。もしもこのような事例が確認された場合、速やかにマスターに静止してもらうか、間に合わないようであれば、犠牲者を少しでも減らすため該当ブロックの一時封鎖をためらわないこと』。

 顔をできるだけ動かさず、視線だけで周囲を確認。居住区画と食堂をつなぐ廊下の一本、その途中にあるちょっとした休憩所。さっきも言ったようにここには誰もいない。目立った魔力の残滓もない、つまり、すでに昇天したサーヴァントはいないらしい。一つ安堵の溜息をついてから、すぐに引っ込める。

 この状況でするべきは一つ。この後起こるであろう歌謡ショー(宝具解放)に備えてこの一帯を封鎖することだけか。

「ま、さすがに余でも今は止めておくがな」

「そうか」

 杞憂で終わってくれて本当に良かった。

「なんせ一番の上客がいない。観客あってこその舞台だからな」

 なるほど。実に彼女らしい理由である。

「その上客というのは」

「言うに及ばず、マスターのことだ」

「だろうな」

 心なしか、そう言ったネロの表情が暗く見えた。とすれば。

「見てきたのか」

「ああ」

「どうだった」

「はっきり言って、よくは分からなかった。ロマニは医者として皆を何とか安心させようとしていたが、マシュに至っては目に見えて疲れているのが分かる。周りには大丈夫だと言っておるようだが、余はあやつの方が心配だ」

「そうか」

 概ね、オレ()の記憶と一致している。やはりマスターは今頃監獄塔(あそこ)にいるとみて間違いないらしい。そう考えを巡らせる一方で、

「だが」

 と、ネロが言った。

「なんであろうな。どうしてかは全く見当がつかぬのだが、『寂しい』となぜかマスターの顔を見て感じたのだ」

「寂しい」

「そうだ」

「それは、マスターがいないから、ではなくてか?」

「違う。何というか、そういう直近の寂しさではなかった気がする」

 それは、少し妙な話だった。確か監獄塔にネロはいなかったはずだ。であれば彼女がマスターの顔を見てそんなことを感じることもない。カリギュラもネロがいなくてよかったと言っていたはずではなかったか。

 だが今のオレがそんな事情をおくびにも出せるわけがない。そんなオレを他所にネロは先を続けた。

「それでな、すぐにマスターの部屋を出てな、こうして発声練習でもしていたのだ。そうでもしなければ」

 この時、なんとなしにネロの顔を見てしまったのがいけなかった。その顔は、

「泣いてしまいそうだったのだ」

 誰かの顔に似ていた気がした。

「……」

 いつも強がっていて、いや、実際強いけれども。けれどいつ倒れてもおかしくないような危うさがあって、一人にしてはいられない大切な相棒である彼女の、何かをこらえているような顔に。

 であれば、どんな事情があろうとも何もしないわけにはいかなかった。

「話くらいは聞こう。オレでよければ、だがね」

「うむ、……感謝しよう」

 自動販売機にコインをいくつか入れる。まずは自分の分のミルクティー、ネロは何でもいいとのことだったので、とりあえず同じものを買い、目の前に差し出す。彼女はそれを無言で受け取った。

「そなた、余についてはどの程度知っている」

「多少かじった程度だ。生前、ちょっとした機会があってね」

「どう思った」

 プルタブを開けて一口。輸送費込みとは言え、値段に釣り合っているような味でも香りでもない。今更ではあるが、こんなものを皇帝様に出して無礼に当たったりしないだろうか。ちらと様子をうかがう。どうやら考えすぎだったらしい。

 もう一口、さっきと同じくらい飲んでから返答を口にする。

「そうだな、まず何よりも一番最初に感じたのは違和感だったはずだ」

 確かあれは、生前、第二特異点から帰還した時のことだった。縁ができたのであればいずれ会う。会えば多少なりとも互いについて話す。その時に不便があっては困るだろう。そんな理由でマシュに相談しカルデア内の図書室をすすめられた。そして特にこれと言った意図もなく選んで、目を通した。事前に本人に出会っているという大きな先入観を持った上で。

 だから、当時の私が違和感を覚えるのは当然だったと思う。

「それは仕方あるまい。記録と事実がすれ違うのはもはや避けられぬ。だが、全ての悪評を嘘だなどとは、さすがの余も言いきれないのは、辛い所でもある」

「まあ、そんなものだろうな」

「ああ、そんなものだ」

 サーヴァントは過去の英霊そのものではない。あくまで再現にすぎないのだ。きっとそのしわ寄せがこの辺りに来ているのだろう。

「その違和感を無視した上での所感を語るとしたら、君は、いやあなたは間違いなく民を愛していて、民にも愛してほしかった、けれど」

「……」

「民は、あなたが求める意味では、あなたを愛してはいなかった」

 それは資料の最初のページに書かれていた一言がきっかけだった。

 

『一般市民がネロの皇帝就任を歓迎したのは、ただ単に、気分の一新を望んだからである』(1)

 

 これまでの足取りを否定されたように当時は感じた。

 きっと、著者にその気はなかったに違いない。けれどオレ()が見てきたローマはそんなものではなかった。

 誰もが、笑っていた。

 誰もが、上を向いていた。

 誰もが、ネロを愛しているように見えた。

 間違っているはずがない。だってこの目で、この足で見てきたのだから。答えを求めるようにページをめくり続ける。

 けれど、ついぞオレ()の求める答えは見つからなかった。勝利の女神(ブーティカ)は名目上のリーダーでしかなかった。黄金劇場(ドムス・アウレア)は完成しなかった。ネロの死に際のエピソード(インウィクトゥス・スリーピヌス)は省略された。

 そうして次の資料に手を伸ばすことなくマイルームへと戻ったオレ()に、マシュはこう言ったのだった。

「きっと、ロムルスさんならこう言うのだと思います。それもまた――」

 

「それもまた、ローマであろう」

 

 続きは記憶の中のマシュではなく、目の前にいるネロが言った。

「人の形がそれぞれにあり、(まつりごと)の形がそれぞれにあるように、愛の形もそれぞれにある。そして、その全てがローマに通ずる。であれば、余が求めた愛と市民たちの愛の形が違っても、しょうがないことだ」

「……」

 何も、言い返せなかった。というよりは、それ以上は踏み込むべきではないと判断した。きっとこの先の気持ちは彼女だけのモノで、少なくともオレが受け止めていいモノじゃない。

 缶の中身を飲み干す。その安っぽい暖かさが今だけはありがたかった。

「すまなかった。余の私情など聞いて面白いものでもないだろうに」

「いや、とても勉強になった。こちらこそ、勝手な想像を流してくれた寛容さには感謝しかない」

「別に良い。もう、終わったことなのだから。それでもまあ、見返りくらいは許されるのであろう?」

「……わかった」

「そう構えずとも良い。一つ、聞きたいことがあるだけだ」

 聞きたいこと、か。内容によるが、ひとまず聞くだけ聞こうと頷いておく。それを確認したネロはよしと腰に手を当ててから、

「私はいつか、私と似た愛の形を持つ者と出会えるだろうか」

 と言った。

「それを、(オレ)に聞くのか」

「うむ。他ならぬそなたに聞く。フジマルリツカよ」

 情報漏洩の経路は予想ができていた。

「ニンジン一本没収かな」

「あまりいじめてやるでないぞ。アレもそなたのことを思って余に漏らしたように見えた」

「分かってる。ほんの冗談さ」

 これくらいは圧倒的にプラスなままの、日々の感謝から差し引いておくことにする。

「それで質問の返答だが、私にも、そしてオレにも分からない」

「そうか」

「だが」

 だが、それでも。

「貴女を理解しようと歩み寄り、貴女を一人にしたことを誰よりも悔やみ、貴女の隣に寄り添おうと努力し、そして、貴女をただ一人の女の子として愛する者は、必ず、貴女の前に現れる」

 廊下はまだ静かなままだ。マスターの健康を気遣う者たちが一時的に魔力の温存のために眠っているのだと通りがかりの職員が話していた。オレも用件が済み次第、マイルームに戻るべきだろうか。

 空き缶をゴミ箱に入れる、その途中、窓の外を見た。相変わらず吹雪いていて月は見えなかった。見えないけれど、せめて祈ることくらいは許してほしい。

 

 私には、彼女を救うことはできないけれど。

 願わくば、ただ二つ、心からの笑顔が咲きますように。

 




引用文献 
(1)塩野七生『悪名高き皇帝たち ローマ人の物語Ⅶ』第17版 新潮社、2008年、372p。

ノッブ「なんか回を追うごとに怪文書になってきている気がするんじゃが」
ライダーさん「私オレでなにがなんだか」
作者「すみません。本当にすみません。頑張ります」


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3 間違い探し

かなり遅れました。エクシエです。
伏線回収回として書いたつもりですが、よくよく読み返してみればそんなでもなかったです。あと、ちょっとしたUBWリスペクトなセリフもあります。
それでもお楽しみいただけたら幸いです。



 あなたには、全てが許されているのだと、少女は語った。

 やり直すことも、繰り返すことも、好きな場所、好きな時間、好きな人へ会いに行くことすらも、自由なのだと。

 歌うように、謡うように、唄うように、謳うように。時に微笑みすら浮かべて、少女は少年へと語る。

 しかし少年は、決して頷かなかった。

 これは罰なのだと、あの一瞬、ほんの少し、たったそれだけの勇気すら出せなかった。そんな臆病者への罰なのだと。少年は自らを嗤う。

 求めてはいない。

 求めてなんかいない。

 求めてはいけない。

 許しだなんて、救いだなんて、自由だなんて、求めてはいけない。

 少年はやがて青年になった。

 少女は青年に尋ねた。本当にこれでいいのかと。いつまでも甘い砂糖菓子のようなその声が、青年にはもはや聞こえていなかった。

 それでも、少女は尋ねる。かつて白い天文台の中で、何度も、たわいもない話をしていた時のように。

 

「ねえ、マスター。あなたが欲しいものはなあに?」

 

 

 ただの幻想に力はない。何か、しっかりとした基盤があり、ある程度の信憑性や信仰があって初めて、それは神秘をまとう。

 監獄塔。

 劇作家アレクサンドル・デュマの描いた物語に登場する実在の建築物。史実と創作とが入り混じるこの場所もまた、神秘を持つに足る場所であり、今回においては魔術王が邪魔者を排除するための、処刑の場として用いられている。

 いや、ちがう。

 今回に限った話ではない。

 何度も、ここは処刑場として用いられている。それこそ持ち主のいない宝具であるように。建物自体が、一つの英霊であるように。魔術王にとっての罪人と、処刑人とを集める。

 今回の罪人、藤丸立花にそう説明したのは、ここの案内人だった。

 緑ががった黒いコートと帽子の下で不気味にほほ笑む案内人。時折、高らかに声を上げたかと思うと、またすぐに静かになる。立花は彼のそんなところに一種の不安定さを感じていながらも、ここまでともに5人のサーヴァントを倒してきた彼の強さは信頼していた。

「さて、そろそろお目見えだ。我が仮初めのマスターよ」

 暗闇が沈殿した長い長い廊下を抜け、六つ目の扉をくぐった先に広い円形のホールが現れた。これまでの戦闘をふまえると、その中央に処刑人はいるはずだが。

「いな――」

 

「伏せろ! マスター!」

 

 案内人、巌窟王が叫んだ。反射的に後方に避けた立花の右手側に立ち、腕を一振り。見れば投擲用の短刀が二本。一つはさっきまで立花が立っていた場所に刺さり、もう一本は巌窟王の腕にはじかれ空中を舞っている。そのナイフに向かって、巌窟王の手から砲弾が放たれる。砲弾はみごとにナイフに命中、跡形もなく消し飛ばした。

「まったく、もったいないことをしてくれる」

 声が二人の背後から響く。

「今ので底をついた。残っているのなら、ここからそのマスターを刺し殺せたのにな」

「ルーラー?」

 振り返った先にいたのは、ぼさぼさの黒髪に青い瞳をした青年。間違いなく立花がルーラーと呼ぶサーヴァント、真名シェリングフォード・ホームズその人。

 立花は正面に捉えたその人影に問いかけた。

「あなたが、ここの処刑人?」

「いかにも。カルデアのマスター。分かっているとは思うが君のところのオレと、今ここにいるオレは全くの別人だ。温情など欠ける必要はないし、こちらからかけるそれもない」

「わかってる」

 でも。と立花は一言付け加える。

「一つ、教えてほしい」

「いいだろう」

「どうして、あなたはわたしを殺すの」

「オレがここの処刑人に選ばれたから。ここで君を殺すことが、今のオレの仕事だから。そんな、ただの職務上の都合だよ」

「いや、それは違うな」

 反論したのは、立花ではなく巌窟王だった。

「見えるぞ。貴様の怒り、憎しみ、我が仮初めのマスターに対する比類なき殺意。どれほど隠したところで隠しきれるものではない。今貴様は、私怨でそこに立っている」

 それにルーラーは何の反応も示さなかった。ただ静かに彼の言葉に耳を傾けているだけ。

「己の罪状を明かすがいい。当然あるはずだ。なければ処刑人としてこのイフ城にはいられまい」

「もちろんだ。オレに割り振られた罪状は『傲慢』だよ」

「違う違う違う違う!!」

 唐突に巌窟王が吠えた。

「それは! それこそは! 我が罪なれば! 貴様なぞに与えられるようなものでは決してない! 貴様、何の勘違いをしている!」

 まるで炎のように叫ぶ彼にも、やはりルーラーはさほど興味がないようで、やれやれとでも言うように溜息をついている。

「残念だが巌窟王。勘違いをしているのは君の方だ。その誤解を解くために、最も手っ取り早い方法をとるとしよう。さて、唐突だが質問だ、カルデアのマスター」

「何?」

「君はここまで何人の処刑人を倒してきた」

「5人だけど」

「それは本当に? そこの彼とともに倒した分だけではなくて?」

 こちらの内側に浸透してくるような声だった。誰もが無意識に心のうちに隠していることまで、ともすれば、この監獄塔の闇すらもすべて白日の下にさらしてしまえるといわんばかりに、無遠慮な言葉は、立花のうちから、一つの真実を抉り出した。

「……なら、最初の彼女も処刑人だったというのなら、わたしが倒したのは6人だ」

 それに一番敏感に反応したのも巌窟王だった。

「それは本当か? マスター」

 まったく別の二人に、まったく同じ質問を投げかけられるのは、多少なりとも困惑するものだ。どうにも、自分が間違っているのではないかと思えてくる。それでも自分が正しいと思えることをしっかりといえるのが、自分のたった一つの美点だと立花は考えている。

「確かに、私が倒したのは6人だった」

「真名は覚えているか」

「うん。1人目がネロ・クラウディウス。2人目がフェルグス・マックロイ。3人目がキャスターのジル・ド・レェ。4人目がジャンヌ。5人目がカリギュラ。そして最後、6人目が天草四郎時貞だった」

「俺の記憶ではこれまでで5人となっている。マスター、ネロ帝を倒したのは俺に出会う前だな?」

 彼のいうとおりだ。その6人のうち、彼女だけは巌窟王の力を借りずに倒した。

「さて、巌窟王、そしてカルデアのマスター。推理の時間だ。ネロ・クラウディウスにあてられた罪は何だったのか」

 ルーラーにいわれるまでもなく、その疑問にはすぐにぶつかる。彼女はとても苦しんでいるように見えた。傷つけたのだから苦しむのは当然だろうが、彼女は最初から、体ではなく心を嘆いていたように見えた。なら、それを知ろうとするのはきっと間違いではないはずだ。

「消去法で考えるなら、7つのうち色欲、怠惰、憤怒、暴食、強欲、そして巌窟王の、かもしれない傲慢。この6つが候補から消えるから、残った一つ、嫉妬が当てはまると思うけど」

「………………止めろ」

 巌窟王がこぼした。が、そこまで大きな声ではなかったため無視された。

「それがあの皇帝にあてはまると思うかね」

「すこしはあてはまると思う。でも、彼女を代表するような感情ともいいづらい。

 ――――それに、もし仮に当てはまったとしたら、1つ矛盾点が残る」

「それは、何だ」

「…………止めろ」

 また、巌窟王がこぼした。

「罪状をあてられていない処刑人はここにはいられない。巌窟王は自分のことを共犯者といっていた。けどさっきので巌窟王も処刑人の一人だった。そうなると処刑人の数はルーラーを合わせて8人になってしまう。罪状の数が一つ足りない。なのに、誰も自分からは消えていない。そこから導き出される答えは一つだ」

「言ってみるといい」

「……止めろ」

「実際に起きていることと認識しているルールが違うなら、きっとそのルールの認識がまちがっているのだと思う。この場合、それはたぶん『罪状が全部で七つしかない』ということ。ルーラー、何か知らない?」

「無論、知っているとも。かつて大罪は七つではなく八つ(・・)だった時がある。エジプトの修道士エヴァグリオス・ポンティコスが記した『八つの枢要罪』というものだ。七つの大罪はこれを基にしたとされている。内容は色欲、怠惰、憤怒、暴食、強欲、傲慢、憂鬱、虚飾の八つ。嫉妬はもともと含まれておらず、憂鬱と虚飾が他に合併される形で姿を消した後に、新しく追加された」

「その二つに絞りこめれば十分。なら答えは、憂鬱。あの嘆きは間違いなくそれだ」

「ああ、素晴らしい。正解だ。カルデアのマスター。ではそこからさらにもう一つ分かることがあるだろう?」

「それは――」

「いってみるといい」

「巌窟王の罪は」

 

「止めろと言っている!!!」

 

 もはやそれは叫びに近かった。

「貴様、いや、貴様に限らず、裁定者という者共はどうしてこうも俺を怒らせる!」

「すまないな。ナイフを失った今、こうでもしないと君を倒せそうにないんだ。それほど下級の英霊だからな、オレは」

「くどい! あの天草四郎時貞と同程度、あちらの方が人として解せぬところも多いが、分かりづらさでは上をいっているぞ」

 薄笑いがルーラーの顔に張り付いていた。それこそ、今にも「お褒めにあずかり光栄だ」なんていいだしてもおかしくないほどに。

「そういら立つな巌窟王。どれも状況証拠ばかり、決定打にはなり得ない。それとも、

 ――疑われることも嫌かね? 自分の存在のあやふやさを」

 巌窟王の目が怪しく光った。彼の周囲にも火花が散っている。完全に戦闘態勢だ。しかし、それを手で制し、遮る者がいた。

「ストップ。アベンジャー」

 立花だった。

「戦う前にもう一つ、ルーラーに聞いておきたいんだけど」

「さっさとしろ。今の俺では貴様ごと撃ちかねん」

「わかった」

 二歩、立花が前に出た。

「ルーラー、三つ聞きたいことがある」

「いいだろう」

「あなたの本当の名前はフジマルリツカで間違いない?」

「そうだが。なんだ? そちらのオレはマスターである君に真名すら明かしていないのか」

「まあね。いや、一応明かしてはいるのか。ただ、ちょっと『シェリングフォード・ホームズ』って感じじゃなかったから」

「どのあたりが?」

「顔、かな。どう見ても日本人だし。コナン・ドイルが想定していたのが日系男性だったってなら話が変わってくるけど、そんな話聞いたことないし。マシュならもしかしたら、何か知ってるかもしれないけど」

 後ろをチラ見。煙草をふかしている巌窟王の姿があった。待てないといっていたのはどの口だったのか。その煙草をくわえている口だったのは立花の勘違いなのか。

「他にも疑った理由はあるけど、今は割愛。二つ目の質問、ルーラーって千里眼、それも未来視ができるくらいの高ランクのそれ系スキル持ちだったりする?」

「スキルすらも不明。どれだけ信用されていないんだ君」

 うるさい。と、立花がぼやいた。

「それよりも質問に答えて」

「わかった。その答えでは五十点だといっておこう」

「採点してっていったわけじゃないんだけど」

「これ以上は黙秘だ。ありきたりだが、ここのオレを倒してからそちらのオレに尋ねるといい」

「そうする」

「素直で結構」

「じゃあ、最後の質問。とっても個人的なことを聞くから」

 だから、どうしろとは言わなかった。立花と同じように、素直に答えてほしいわけでもなかった。ただ、今の彼の答えを聞きたいだけ。

「あなたは、自分がやってきたことを、後悔している?」

 ここにきて饒舌だったルーラーの口が長らく言葉を発しなかった。迷っているのか、何かを考えているのか。たっぷり二十秒ほど沈黙が場を包んだところで、再びルーラーの口が開く。

「していない。してはいけないと思っている。そんなことをしてしまえば、手を貸してくれた、そしてこれからも借り続ける英雄たちに、顔向けができないからな」

「そう」

 この鈍感。

 彼らが私たち(フジマルリツカ)に求めているのは、そんなことではないのに。胸の内で、立花は最近気づいたことを一人毒づいた。

 彼らは、立花の勇気を買っているのではない。そんなもの、自分には最初からそれほどないことは明らかだ。それでも彼らが自分を慕ってくれるのは、立花がただの人間だからだ。ただ一人の人間として、やれることを精一杯やろうとしている(つもり)の彼女に、彼らは喜んで手を貸してくれているのだ。

 だから、ただの人間である立花はこう答えなくてはならない。

「わたしはいっぱいしてるよ、後悔。もっといい方法があったんじゃないかって。誰も死なないなんてことは望まなくても、それでも、もしここに立っているのがわたしじゃなかったら、もっと少ない犠牲で、ことを終わらせられたんじゃないかって。

 だって、いつも最後に残るのは、今を生きているわたしとマシュの二人だけ。何も残らないことは解ってる。ここで死んだ人たちは、本当はなかったことになってるんだってことも知ってる。それでも、いつまでも覚えてる。後悔せずになんていられない」

「それでも、してはいけないんだよ。でなければ、前に進めないだろう? 多少の犠牲など気にするな。そんなもの大義の前には無意味だ」

 ああやっぱり、わかってないんだ。

 今ようやく、立花は気づいた。いつも全てを見ているように助言してくれていた彼、ルーラーは本当は、本当に大事なことから目をそらし続けているのだと。その結果見えていた全て(他のモノ)を伝えていたにすぎないのだと。

「質問は終わったか。我が仮初めのマスターよ」

 半分ほどになった煙草を捨て、巌窟王は立花に歩み寄った。

「終わったよ。ところで今のこと、アヴェンジャーは知ってたの?」

「さて、何のことを聞いているのか。それすらも俺にはさっぱりだが」

「そうだよね。ごめん」

「かまわん」

「それと、謝るついでに、一つ、わがままをいいたいんだけど」

「いってみろ」

「最後に一発、ルーラーをわたしに殴らせて」

 ふいに、巌窟王の表情が固まる。だがすぐさま、高らかに声を上げて笑い出した。心の底から愉快だといわんばかりのその声は、小さな水音しかなかった監獄に響き渡る。そして、これまたふいに笑い声を止めて。

「いいだろう。この身は仮初めとはいえ、今は貴様のサーヴァントだ。それくらいは叶えてやる」

「ありがとう」

 きっとルーラーは止まれなかった自分のなれの果てなのだろう。なら、それを止めるのは誰だろう。きっと一番の適役は、今回も自分ではないかもしれない。それでも、自分にできることなら。

「行くよ、ルーラー。その捻じれ曲がった根性。ここで叩き直す」

 




「失くしたものがあるとすれば」
「マシュ・キリエライトを守れないフジマルリツカはここで死ね!」
「認めない! そんなの、絶対に認めない!」
「地獄を見た」
「誰かが死んでいた」
「誰かが苦しんでいた」
「その全てに興味がなかった」
「軍神よ我を呪え」
「男の話をしよう。たった一人、止まれなくなってしまった男の話を」

次回、『失せモノ探し』


※ここに登場するセリフがすべて出てくるとは限りません。


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4 失せモノ探し(前)

こんにちは。サマモちゃん引けなかったエクシエです。
傷心のあまりキャットに慰めてもらう小説書いてましたが、イマイチ面白くなかったので消しました。着物に麦藁帽かぶって縁側に座るキャットの膝の上で庭に実った夏野菜を眺めながら扇風機の風を受けたい一週間だった………。
そんなことはさておき、4話目、お楽しみいただけたら幸いです。


Boost(強化). Right leg,and Left leg(右足、左足)

 素人の私にもできる程度の簡易的な強化魔術をかけた両足で、一気にルーラーのもとへと駆け抜けた。そのまま、強化先を変更。なんて、器用なことはできないから、

Fin(強制終了). Boost(強化再開). Right arm(右腕).」

 一度両足の強化を切って、改めて右腕に強化をかけなおす。

「くらえ——」

「下がれ! マスター!」

 アベンジャーの叫ぶ声が聞こえた。

 いきなりいわれても、一度放った拳が止められるわけがない。そう結論を出すまでもなく、ルーラーに当たった拳から帰ってきた嫌な音が、如実に真実を語っていた。

 腕の中に鉛を流されたような感覚。冷たいと思ったすぐ後に、血が沸騰したように熱が内側から溢れる。維持できなくなった強化が解け、その反動による痛みも相乗された。その場に膝から崩れ落ち、腕をおさえる。

「……がはっ、はっ、はっ」

(いまのが、サーヴァントの肉体? 布数枚を生身に巻いただけで、あんな、鎧を殴ったみたいに)

 痛みの片隅でそんなことを考えていた。その頭を持ち上げ、上を見上げる。そこには、

「…………」

 無言で私の首に剣を向ける黒い死神の姿が——ルーラーの最も頼りにするサーヴァント、セイバー、アルトリア・ペンドラゴン・オルタがそこにいた。

 鎧を殴ったような? 当たり前だ。なぜなら本当に私は鎧を殴っていたのだから。

 おそらく、『スケープゴート』によるものだろう。以前、ルーラーにサーヴァント戦における戦術を叩きこまれた際に聞いたことがある。端的にいえば敵意を一か所に集中させるスキルだったか。その際私が、ルーラーも使えたりするのか、なんて質問した時、彼は明らかに話題をそらそうと無理して作り笑いを浮かべていた。

(ランクによっては集団さえもだませるとは聞いていたけど、まさかここまでうまく引っかかるなんて。これじゃまるで幻術かなにかだ!)

 逡巡の間にも、聖剣から遠慮なしに向けられる無言の殺意が、首元へと近づいてくる。何度目かの死の覚悟をしようとした時。ぐいっと、後ろへと引っ張られる浮遊感と、視界を透明な幕が覆っていく不思議な光景。瞬間、鼻の先数センチを聖剣が切り裂いた。

 見開かれるセイバーの瞳。聖剣が辺り一帯を蹂躙し、小規模の嵐を起こした。

 その突然の変化に戸惑う。あれではまるでこちらが見えていないよう。

(無事か。我が仮初めのマスター)

 念話。声とその特徴的なしゃべり方からして、アベンジャーだとすぐにわかった。

「ア——」

(声を出すな。できるなら、息も止めておけ。このまま距離をとりつつ念話に集中する)

 通っているかどうかさえも怪しい微細な魔術回路に意識を集中。アベンジャーに合わせて足を動かしながら、頭痛に耐えつつ念話を開始。

(……わかった)

(それでいい。さて、何よりもまず、単身で特攻したことについて、申し開きの有無を問い正したいところではあるが)

 うぐ。これ後で説教ルートだ。

(そ、それよりも今は、状況の確認からじゃない? とりあえず、今は安全に作戦会議できるんでしょ?)

(その通り。俺の宝具『巌窟王(モンテ・クリスト・ミトロジー)』によるものだ。情報の隠ぺいと改竄が主だが、応用すればこのような使い方もできる)

(なにそれ便利)

 ハリー〇ッターの透明マントかなにかなのかそれ。

(ではまず初めに、あのサーヴァント、かなりの出力で魔力をまき散らしているが、アレが何か知っているか?)

(うん。アーサー王。クラスはセイバーで超高火力の宝具と魔力放出で強化された重い一撃一撃、それに、直感で致命傷をギリギリのところで回避する。まさに、最優のサーヴァント)

(なるほど、正面からやり合うには向かんな)

(あー、えっと、それを承知で一つ頼まれてほしいんだけどさ)

 これからいわんとしていることを察してか、アベンジャーの顔が曇った。

(まさか、アレと一対一で戦ってこい、などとはいわないだろうな)

(ごめん。そのまさか)

 渋面のまま、黙り込むアベンジャー。けれどここで折れるわけにはいかない。

(……その間、おまえはどうする)

 アベンジャーが再び念話を始めた。即答で返す。

(ルーラーを探して今度こそ殴る)

(どうあれ、そこは譲る気はないのだな)

(当然)

 もし私には変えられないのだとしても、私はフジマルリツカが変わってしまった理由を知るべきだと思うのだ。それはやっぱり、自分のこれからに関わることなのだろうし。

 アベンジャーが溜息をついた気がした。彼が自分で、息まで止めておけといったのだからもちろん、そんなことはないのだろうけど。

(いいだろう。すでに約定は交わした身だ。その上でおまえがこの監獄塔を生きて抜け出せるかどうか、見極めることにしよう)

(ありがと)

(だが、これだけは心に刻んでおけ。お前は一人では、どこまでも無力だ。それでも今のまま、わがままであるのが一番いいのだと)

 それはこれまでと同じようにどこか核心をついた言葉だったのだろう。けれど、目で殺す真の英雄しかり、たいていの場合がそうであるように、言葉足らずでよくわかりにくい指摘だった。

(なにそれ)

 それゆえに、心からのつぶやきが漏れた。

 

 

 

 作戦会議は一分で終了した。

「Boost. Right leg and Left leg」

 巌窟王(モンテ・クリスト・ミトロジー)の範囲内から出るとともに両足の脚力を強化。戦線からの離脱を試みる。が。

「逃がさん」

 当然、みすみすそれを許すセイバーじゃない。魔力のジェット噴射が容易く強化魔術を追い抜く。再び迫る凶刃。だけどそれも想定済み。

 ぐあん。と、金属と別の硬い何かがぶつかる音。

 予定通りに事が進んでいるのなら、今のはアベンジャーがその鋼の拳で聖剣をパリィした音だろう。どうやら、幸運なことにその通りだったようで、背後から頼もしい、高らかな笑い声が聞こえた。

「ありきたりで悪いがな騎士王。ここから先は通行止めだ。通りたくば、その聖剣で押し通るがいい!」

(頼んだよ、アベンジャー!)

(ああ! ここは俺に任せて先に行け、マスター!)

 身体強化で走り出した勢いのまま、私は外周のテラスへと飛び乗った。

 

 

 

 テラスの上は何とも不思議な空間だった。

 博物館のように何かの画像が額縁に入れられ、いくつも飾られている。そのどれもが悲惨な地獄ばかりを映している。妙な静けさに背筋が震えた。なぜか、今も交戦中のはずの、アベンジャーの笑い声も聞こえてこない。

 その光景につい動揺し、身体強化が解けた。軽い反動に足が止まる。

 ふと、そばにあった額縁を見やった。

「え、これ……!」

 映っていたのは燃える街並み。それだけなら、他のいくつかに埋もれていたかもしれない。けれど、その地獄を私はよく知っていた。

「これ、まさかオルレアンなの?」

 町を燃やしていたのは一体の大きな黒い竜とその上に乗り旗と剣を振るう少女。まぎれもなく、ファブニールとオルタ。

 もしかしてと思い。さらにいくつか先まで手を伸ばした。

「ローマ、オケアノス、それにこれは、ロンドン。間違いない、これは、特異点」

Exactly(その通り)!」

 突然アベンジャーとは別の意味で高らかな声が響いた。声の方へ振り向く。

「シェイクスピア?」

「ええ、不肖シェイクスピア。特別ゲスト枠でまかりこしております。あ、ついでにアンデルセン殿もいますぞ」

「ついでというな、ついでと」

 シェイクスピアの背後から現れたアンデルセンは、そう開幕ざま弱めに毒を吐く。

「ルーラーに呼ばれたんだよね?」

「ええ理解が早いようで何より。しかし、物語を動かすための駒を配置したことは何度もありましたが、まさか創作者たる我々が、逆にその駒として配置され、動かされるというのは、何とも新鮮なものです」

「……は?」

 ぶっちゃけ何をいっているのか分からない。

「メタ発言は止めろ。というか、むしろ貴様の場合本望だろうが、役者志望。ああ、そこ。今のは気にするな。でないと消されるぞ、(オレたち)に」

「う、うん」

 よくわからないが、この二人はどこまで行ってもこんな感じなのだろうなと、なんか逆に安心した。

 そしてこうもいわなければならない気がした。

 閑話休題。

「さて、話を戻しましょうか。先ほどあなたはこれらの展示品に映る地獄を、特異点における一幕と理解したと思います」

 指で軽く額縁の内側をたたいて、シェイクスピアが語った。首肯を返す。

「そして、吾輩はそれを肯定した」

 これも頷く。

「ですが、それでは正解とはいえません。正確には、それだけでは正解ではないのです」

「どういうこと?」

「おい劇作家、遠回しな表現は止めろ。こいつにはストレートな方が響く」

「なるほど。ではここからはアンデルセン殿に譲りましょうか」

 青髪の少年がいい声で溜息をついた。

「おい、俺たちとは別のカルデアのマスター。額縁はそれだけではない。続きまでしっかり目を通せ」

 いわれた通り、先ほど見た4つの、となりのいくつかを手に取る。

 一つ目、槍を持った大勢の古風な戦士たちと、それに相対するこれまた大量の機械化歩兵。その抗争に巻き込まれ血を流す住民。

 二つ目、荒れた大地で希望を求めさまよったあげく、聖抜と評して焼き殺される行商人たち。

 三つ目、吐き気を催すほどに不気味な異形の怪物の腕に貫かれ、苦悶の表情を浮かべながら足の先から骨を噛み砕かれる祭司。

「うっ…………」

「まだだ。さっさと続きを見ろ」

 限界は近かった。胃がむかむかして、口の中が苦い。いつ吐き出してもおかしくない。

「それ、これが最後だ。そして始まりだ」

「え、これは」

 差し出されたそれは、これまでとは毛色の違う画像だった。

 どこかの戦場跡だろうか。雲間からのぞく青空の下の大地がきれいに抉れている。その対比は一種の荘厳ささえ感じさせた。特に、真ん中に立つ十字架がより一層神聖さを際立たせている。

 だが、その十字架はよくよく見てみれば、非常に見覚えのあるものだった。

「これ、マシュの盾?」

「ああ。そしてそれが立っていることから、予想がつくだろう? あえてその絵に題名をつけるなら」

 ——それはきっと、大切な人の喪失。とつぶやいていた。

「そうだ。タイトルとしては少し長く押しが弱いが、今は関係ない。重要なのは、これらはすべて、お前と無関係ではないということだ」

「つまり、ここに飾られている地獄は全部」

「そうです。これらはすべて、貴女がルーラーと呼ぶ男、我らがマスターの辿った地獄」

 シェイクスピアがついに明かした。

「これから、あなたが辿るであろう地獄そのものなのです」

 足がすくむ思いだった。

 アベンジャーの言う通りだ。私は、一人だとどこまでも弱い。隣に誰かがいたからこそ、これまで四つの特異点を越えられてきた。

 その誰かが、もしいなくなってしまったら。一番隣で見守っていたいと思える、あの後輩を失ってしまったら。私は、どうなってしまうのだろう。

「ねえ、アンデルセン。シェイクスピア。ルーラーは、その地獄を越えて、どうなったの?」

 俯いた顔を上げて、見えた二人の表情は笑顔だった。

「気になりますかな?」

「うん。知りたいよ。だって何も知らないままでルーラーを殴りたくはないしね。それに、何かを失うのも怖いし」

「わかりました。ではアンデルセン殿」

「いいだろう。仕上げと行こうか」

 二人の手元にどこからともなく一冊の本が取り出される。それは自分から開いて、自身を切り分けるように、辺りにページをばらまいた。

「ではお気をつけて行ってらっしゃいませ。どうか、実りある旅であらんことを」

「これから貴様が見るのは一つの生涯、その延長。心してかかれよ。でなければ飲まれるぞ。貪欲であれ。我がままであれ。自分のつかみたい未来を忘れるな」

 ばらまかれたページは一つの群れのように周囲の空間を泳ぐ。やがて一つの渦となって、視界を埋め尽くした。

「「少年の話をするとしよう。『貴方の為の物語(メルヒェン・マイネスレーベンス)』」『開演の刻は来たれり、此処に万来の喝采を(ファースト・フォリオ)』」

 




設定:ぐだ子の魔術

・装備している礼装や道具の補助なしでは使えない。
・詠唱はシンプルに。
 ※参考:ロード・エルメロイ二世の事件簿、空の境界 矛盾螺旋(前)、Fate/EXTRAのコードキャスト
・解除後に軽く反動がある。


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幕間1 天才の述懐

ここで一旦少しの間、監獄塔から離れて、ぐだ男にまつわる四つの幕間を挟みます。
作家組(主にシェイクスピア)の宝具の効果でぐだ子も見ている体で。


 マシュ・キリエライト。

 

 ロマニ・アーキマン。

 

 西暦2016年12月31日。以上二名の犠牲を以て、人理修復は完了した。

 

 

 ——————

 

 

 その数行を書き終えるまで5秒も使わなかった自分に、内心嫌気がさしていた。

 2017年、1月1日。特別顧問室。

 あの最終決戦で出た被害は、たった二人の死亡だけではすんでいなかった。

 メインコンピューターはオーバーフロー寸前、サブは用意していたおよそ八割が買い替えを余儀なくされ、炉心に至っては安全棒が今朝点検に向かった時点ですでに解け落ちていた。よく持ってくれたと心から感謝の気持ちでいっぱいだ。

 また、そんな暖房器具どころか、電気椅子かなにかの拷問器具と化していた機材に、異次元からの襲撃にも負けずに頑張っていたスタッフたち。彼らの負傷も無視できない。全員、必要な処置と有休を命じて医務室に放り込んだ。

 だから、それほどまでに、あの戦いは激しかったのだから、たった二人の犠牲だけで済んだことに、本来ならば喜ぶべきなのだろうが。

 今の私、万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチは、そういう気分ではなかった。

「まったく、弱くしてくれたもんだよ。なあ、どう責任取ってくれるんだい? ロマニ。マシュ」

 思い背中を背もたれに預ける。何の気なしに上を見上げ、天井に下がる我が発明品の1000分の1スケール模型を眺めた。神秘が無ければ、ろくに飛びもしない欠陥品を。ぼうっとした思考、その聴覚野にコンコンと、ドアのノック音が入った。もちろん、万能の天才たる私には相手がだれかなんて顔を見るまでもない。

「どうぞ」

「失礼します」

「まだ安静にしてろっていわなかったっけ? 立香くん」

 振り返れば、やはりそこにはあいまいな笑顔を浮かべた黒髪の少年。今作戦一番の功労者、藤丸立香の姿があった。

 頭部にぐるぐるに巻かれた包帯に、骨折した左足を支えるための松葉杖。それを持つ左の腕には私特製の魔力(オド)を内へと流す聖骸布が縛り付けられている。またも魔力の使い過ぎで壊死した身体の回復を早めるためだ。

「ごめん。なんか眠れなくて」

 そんな見るのもためらわれるような痛ましい姿で、なんのことはないといい張る。

「だからって、医務室を出てきていい理由にはならないよ」

「だって、退屈で」

「では次の巡回当番、清姫かナイチンゲール、もしくはブリュンヒュルデ辺りにまかせようか。少しは刺激も出るだろう」

「すみませんでした! それだけはマジで勘弁して下さい! その人たちが来たら医務室が完全に心霊病棟と化すから!」

「よろしい。では速やかに戻りたまえ」

 はーい。と、うだつの上がらない声を上げた彼が、松葉杖を不器用にあっちこちについては、何とか出口にたどり着くのを、私は見ていた。最後に、彼はドアの前でこちらを振り返り、

「ダヴィンチちゃん」

 そう呼んだ。

「なんだい? 立香くん」

「私、このケガが治ったら旅に出ようかなって思ってるんだ」

「そうかい、行っておいで」

「うん」

 それが、彼が私についた最後のウソになった。

 

 

 ——————

 

 

 2017年12月31日。

 

「ハッ」

「何がおかしいんです?」

「そりゃあ君、これが笑わずにいられるかい? せっかく守り上げた人類史は、こうもまた容易く奪われるもんなのかってさ。ほんと、いやんなっちゃうくらいに」

 それもそうですねぇ。と、目の前の彼女は心底楽しそうに笑っていた。

 今年の頭から来ることは確定していた査察団。それと新所長。26日、ついに彼らはやってきてそこからは尋問に次ぐ尋問、カルデアの組織としての強度も、これ以上ないくらいにそぎ落とされた。とどめに投入された謎の武装集団。

 何人守り切れただろう。彼らは無事、脱出できているだろうか。その後の再就職がうまくいってくれることを、今は頭の片隅で切に願うばかりだ。

「さて、ここにいるのも重症の貴方一人だけ。いかに万能の天才といえど、ここからの逆転は不可能。と、いうわけで、ちゃっちゃと霊基グラフ、渡してもらえます?」

「ああ、それならほら、そこのデスクの上さ。持っていくといい」

 こちらに向いていた銃口がわずかに揺れた、といっても、大した隙にはなっていなかったけど。

「やけにあっさりしていますね」

「疑うのかい?」

「いえ、別に。(わたし)たちの目的は、貴方達の無力化ですから。英霊なき抑止など意味はない。使える者のいない霊基グラフなら、偽物だろうと本物だろうと、結果は変わりません」

「そうかい。それでも持っていくなんて、ずいぶんまじめなようだ。そういうところはオリジナルと変わらないようだ。安心したよ、タマモナインの一人の誰かさん」

「……ええ、(わたくし)も安心したところです。レオナルド・ダ・ヴィンチ。貴方はやはり、警戒に値すると、たった今確認ができましたから。それでは——さようなら」

 銃声。金属が霊核を貫く鋭い冷たさ。私が瞳を閉じたのを確認して、彼女、タマモヴィッチの気配は本物の霊基グラフと共に去っていく。

 もはや、無用の長物となったそれは、きっともう誰にも読み解かれることはないのだろう。ただ一人呼び出せるマスターは消失し、触媒も失ったここは、襲撃するまでもなく彼らの脅威でも、なんでもなかった。

「…………ごめんよ、ロマニ」

 君の残してくれた光を私は手放してしまった。気づいた時には、立香くんは医務室から消えていて、同時に円卓も紛失。状況から考えて、きっと彼が持って行ったんだろう。まあ、いいけどさ。

 それでも、予兆があったにも関わらず止められなかった。それは明らかに私の落ち度だ。

「ごめんよ」

 誰も聞く者のいない廃墟の中で、私は消えるまでの暇を謝って過ごした。




所変わってデットヒートサマーレース

~マシンパーツ集め、対バーサーカー~


フレンド水着ネロ「でゅあーん、でゅあーん、はっなびがドーン!」

メイドオルタ「食べたアイスの数など覚えていない」

フラン「あついから、さっさとしまつしよ~」

敵陣ど真ん中にいるX「私以外のセイバーぶっ飛ばす!!!」


Xにぶっ飛ばされているエネミーの皆さん「「「(解せぬ)」」」

ぐだ「もう慣れたから、つっこまんぞ」



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幕間2 裁定者、二人

ぐだ男の幕間その2。時系列はApocryphaの空中庭園決戦前のお昼ごろ。

設定に自己解釈が多分に含まれるので、あらかじめご了承ください。

それでは、お楽しみいただければ幸いです。



 

 それは、ルーマニアで行われたかの聖杯大戦において確かにあった、決して記録に残ることのない一幕。

 

 —————

 

「ミスターホームズ。こんなところで何をしているのです?」

 小高い丘陵の上で黒い小筒のような物を目に当てて、どこか遠くを見つめる背中に声をかけた。

「だから、何度もいうがね、聖女。オレはシャーロックではないのだから、そう呼ぶのはやめてほしい。こと、ここではややこしいが、オレのことはどうかルーラーと呼んでくれ」

 うんざりとした口調でいう彼、真名シェリングフォード・ホームズ。このルーマニアの聖杯大戦に関わる、三人目のルーラーのサーヴァント。

 ジーク君とのデー、こほん、囮作戦の折その存在を確認して以降、こうしたやり取りを私は何度か交わしていた。

「それなんですがね、話に聞けば、あなたは場合によってはウォッチャーのクラスでも召喚されることがあるそうではないですか。そうなると、気軽にルーラーと呼ぶのも、どうかと思いまして」

「それは本気でいっているのか?」

 もちろん、冗談だ。誰からもそんなことは聞いていない。一度、彼の役割を聞いて、それならばと自分で考え、そのすぐ後に撤回した案の一つだ。

「貴方の役割は聖杯戦争、ひいては滅びゆく可能性を持つ世界の観測。あくまで観測者(オブザーバー)であり、門番(ウォッチャー)ではない」

「ご明察」

 

 最初に出会った時、彼自身から説明されたことだ。

 

 三人目のルーラーがいる。そのイレギュラーを問い詰めた時、彼は自分のことをそう呼んだ。

 ——抑止の守護者。

 人類という種を守ろうと働くアラヤ、星の寿命を延ばそうとするガイア。そのどちらかから原因となる因子を抹消するために送られてくる者。

 しかし、私の聞くそれは、単なる掃除屋でしかない。カウンター・ガーディアンの名の通り、彼らが呼ばれるのはたいてい、事が終わってからのはずだ。

 その疑問に彼はこう答えていた。

『言い方が悪かったらしい。確かにそちらの仕事を受け持つこともあるが、今回は本業、ガイアが遣わした観測者。ありていにいえばただのカメラマンだ』

 なんとも気の抜けた例えである。けれど、彼の話を聞くうちにその言葉の持つ本当の意味を知ることになった。

 彼の例えに乗るならば、彼はカメラマンではない。カメラそのものだったのだ。

 被写体を選ぶことはできない。星の意志に振り回されて、見たくもない光景を脳に直接焼き付けられる。決して介入も干渉も許されず、そこに彼の意志はない。直接地獄を作り出す守護者に比べれば幾分見劣りしてしまう。けれど、元が人間であるならば、いずれ擦り切れてしまうことに違いはない。

 もしかしたら、その最後まで本当に見たい景色を見れずに使いつぶされてしまうなんてことも。

 

「聖女、おい聖女。どうした」

「あ、すいません。少し考え事を」

「そうか。お互いたいへんなようだ。食べるといい。極東の携行食だ」

「ありがとうございます」

 差し出されたライスボールをありがたく受け取る。塩がまぶされた白米の中から出てくる鮭、高菜、コーンのいろどりがなんとも美しい。

「これはあなたが?」

「いや、うちの者が作った。これくらいならオレでも作れるというのに、どうにも厨房を譲ってもらえない」

 彼が固有の宝具でサーヴァントを呼びだせるのは知っていた。きっと、その内の誰かのことをいっているのだろう。

 風が、丘の上を滑っていった。撫でられたように揺れる草原はあまりにも穏やかで、後に来る嵐のことなど考えていないふうに見える。

 けれど、どんなに祈ろうとも決戦の時はやってくる。

「ルーラー。いえ、ミスター」

「…………」

「一つ、お聞きしてもよろしいですか?」

「……ああ」

「貴方はきっと、一つの願いをもって、その代償に今の役割に殉じているのだと思います」

 彼は頷いた。

「その願いが何だったのかとは聞きません。ですが、その選択を、その責任を、誰かに委ねたいと、そう思ったことはありませんか?」

「ない」

 即答だった。考えるまでもないことだと、その横顔が語っていた。

「この願いはオレの、()だけのものだ。その責任は自分で果たすよ」

「そうですか」

「ああ。そもそも、なぜそんなことをオレに聞く。救国の聖女。それは誰でもない、貴女自身が一番よく知っていることだろうに」

「ええ、そうでしたね」

 望んでいた答えに微笑みがこぼれる。

「私は私の責任で彼を救います。ありがとうございました。これでなんとか、最後まで迷わず進めそうです」

「……そうか」

「はい!」

 意味が分からないと困惑する彼に、私は最後の礼を告げた。

 空が、やけに近く見えた。

 




 ルーラーのマテリアルが解放されました。

 ・星の観測者 A+
  ガイアの観測者として送り出されたものに与えられるスキル。気配遮断と千里眼の複合スキルであり、事象の記録のために誰にも悟られることなく観測ができる。
  星が与えた加護か、潰されたとある視ることを専門とした魔術一族の呪いか、あるいは一人の少女の望みを反映してか。様々な因果により彼は高ランクでこれを有する。ゆえに弊害として、その目は未来、過去、現在における様々な真実を彼に見せる。そこに彼の自由意思は存在しない。それでも彼がつぶれないのは、その全てに興味を持っていないからである。
  また、特権として、過去に見たことのある記憶を引き継ぐことも可能。

 ・真名看破(偽) A-
  生前、死後に出会ったことのあるサーヴァントの真名を思い出すことによって、自力で真名看破スキルを再現している。本来の真名看破とは異なり、相手が正体を隠蔽していても見破ることができる。しかし、彼の経験や記憶量、認識に大きく左右されるため、本来あり得ないサーヴァント(EX、選定事象の女武蔵etc…)に対しては効果が発揮されないなど、ところどころ不安定。


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幕間3 ひと口

ぐだ男の幕間その3。今回は英霊旅装から想像してます。


 時間はそう多く残されているわけではなかった。

 噴水広場前のカフェ出入り口。荷物を足元に置いて、現在レジで精算中のマスターを待つ私、アルトリア・ペンドラゴン(オルタ)の両手には、二つのコーヒーカップが握られていた。

 一方は当然私の物だ。そしてもう一方は、あいつが持っていてと渡してきた飲みかけ。

 右手に持っていたそれをゆっくりと持ち上げる。

 ——持ち上げかけた。

「…………っ!」

 今、私は何をしようとしていた? あいつの飲みかけに、口をつけようとしていた、のか? つまり、それは、俗にいうところのか、かんせゆ、じゃなくて、関節でもなくて、間接キスというやつを、私は、しようとしていたということか?

 顔が妙に熱い。中天に浮かぶそれのせいではない熱を払おうと、首を左右に二振り、念のためもう一振り。そこまでしてようやく熱が引いたのと同時、無意識のうちに鼻で笑っていた。

 生娘でもあるまいし、何を今更、間接キスなんかで恥ずかしがったりなどしたのだろう。不本意ではあるが、あの(不)愉快な老人にいっぺん通りのそういう知識は教わっている。それに、生前には妻も持った。結局、うまくいった記憶はなかった(それどころか国が一つ滅んだ)が、それでも一つだけ言えることはある。

 キスだけでは、子どもなんてできたりしない。

 まあ、この身はサーヴァントなんだし、キスとか子どもとかそれ以前の問題ではあるのだけれど。

「(……なんか、自分で言ってて悲しくなってきますね。コレ)」

 窓ガラス越しにマスターの姿を確認。店員に何やら質問をしているようだった。他の連中への土産でも選んでいるのだろう。

 噴水の縁に座る。自分の分を傍らに置いて、改めて、やつのコーヒーを両手で包んだ。すでにぬるくなっていた。

 ここで私が、この飲み口に口をつける理由が、果たしてあるだろうか。

 のどが渇いたのなら、自分のを飲めばいい。そのあとで、足りなかったからと、マスターの分を飲む。きっとあいつは、仕方ないな、などといって許してくれるだろう。

 また、カップを持ち上げた。けれど、途中で下ろしてしまった。

「(前までの私ならば、きっとできたのだろうな)」

 何を意識することもなく、ただあいつを守る剣でさえあれたら、それだけでいいと思えていた頃の私ならば、あるいは。

 時間神殿から泣いて帰ってきて、私たちに黙って勝手に旅に出て、そのままあいつは帰ってこなかった。私は誓いを守れなかったのだ。

 一度ならず、二度目も失敗して、三度目に甘んじている今の私には、果たしてこの一口はどういう意味を持つのだろう。

 しばらくの間、流れる水音に任せて考えていた。その間にも手元の熱はどんどん冷めていって、それを吸収したはずの私の手先は、いつも通りの寒々しい白を保っていた。

「セイバー」

 結局、それだけに時間を費やしてしまった。答えは見つからなかった。

「ああ、今行く」

「オレの分は?」

「それなら——」

 一瞬思いとどまって、

「そら、これだ」

 傍らに置いていた方を渡した。

「ありがとう。見てくれてて」

「かまわん。それで、目的地はどこだ」

「ちょっと離れてるんだけどね、まあゆっくり行こう」

「そうだな」

 縁から立ち上がってマスターの横に立つ。かつては私より少し高いくらいだった身長も、もうずいぶんと伸びて、見上げるのに苦労するようになった。その背をかがめて、置いていたコーヒーを手に取ったやつは、なんの疑いもなく残り少ない中身に口をつけた。

「ぬるいね」

「ああ、そうだな」

 そういって今度こそ、私は手元のコーヒーを飲み干した。




スカサハ・スカディ「スカサハ様と呼ぶがいい」

ぐだ「じゃあ、スカディさんで」

スカディさん「近所のお姉さんか私は!」

強化が来たキャット「(それはそれで羨ましいのだな)」

ぐだ「それはそれとして塵の要求数をどうにか」

スカディさん「ならん」


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幕間4 つまるところ

かなり遅くなりました。
今回で幕間編終了。次回からは、監獄塔に場所を戻してぐだ子vsぐだ男の戦闘になります。



 巧くできた映画でも見ているような気分だった。

 見てくれだけの映写機が映し出したのは、ほんのいくつかを除いて、見も知らない遠い国での出来事ばかり。けれど、そのほんのわずかの見知った風景が、どうしようもなく告げてくる。

 これはすべて本当のことで、これから、私自身が歩む道のりなのだ。と。

 

 閑散とした空気、気のせいか薄ら寒ささへ感じる客席。その中に、もう一人の観客を見つけた。

 

「少年は少女を守れなかった。つまるところ、たった一行で済むお話だったんだ」

 

 観客の青い瞳はひどく憔悴しきっていた。ここに来る前に感じていた殺意など、すでに萎えきってしまっているよう。

 その隣に座る。

 

「貴方にとっては、本当に、それだけのことだったんだね。目の前で繰り返される惨劇も、誰かの犠牲も、えんえん見せ続けられる悲劇も、何もかも、あなたは、本当の意味では見ていなかった」

 

 観客の青年は、ああ、と、うだつの上がらない声で返答した。

 

「ずっと後悔ばかりしていた。彼女を守れなかった自分を恥じた。いつか、永遠に続く時間の中でなら、きっと彼女を守れるような自分になれるのだと思っていたよ」

「なれなかったの?」

「ああ、まだ、そこにはほど遠い」

 

 スクリーンには今も、遠い国の悲劇が映し出されている。誰かの泣き叫ぶ声が聞こえる。けれど、それを見ているのは私一人だけ。

 

「フジマルリツカ」

 

 青年がポツリと、私の名を呼んだ。

 

「改めて聞く。ここで、死んでいく気はないか?」

 

 考えるまでもなかった。

 

「ない」

「そうか」

「そもそも、そんなやる気のなさそうな声で言われても」

「はっ。確かに」

 

 青年はくつくつと笑う。心底おかしなものでも見たというように。

 私には、青年が自分自身の在り方さへも笑っているように見えた。

 

「もう行くよ。いつまでも、アヴェンジャーを待たせるわけにはいかない」

「いいだろう。だが、その前に一つ聞かせろ」

 

 私が席を立つ前に、彼はそう言った。

 

「お前の戦う理由はなんだ?」

「そんな決まり切ったこと、聞く?」

「ああ」

 

 客席には、灯りがともりつつあった。そろそろ、閉館時間なのかもしれない。

 

「生きるためだ。マシュもドクターもダヴィンチちゃんも、カルデアのみんなも、そして、私も。みんなで生きること。それが、私の戦う理由だ」

「……合格だ」

 

 彼のその言葉を待っていたように、突如、劇場が崩れだした。

 慌てて、席を立つ。

 

「自身の運命を見て、それでもそう言いきれるのなら。これから何があろうと大丈夫だろう」

 

 出口にたどり着き、ふと、振り返ってみる。

 落ちてくる瓦礫の中で、青年は尚も、席に座ったままだった。

 

「行くがいい。そして、ただの殺意ごときに負けるなよ。マスター」

 

 劇場の扉が完全に閉まった。そのうち、扉も光の中に消えていく。

 あまりのまぶしさに目をつむる。

 

 

 次に目を開けた時、そこはほの暗い監獄。どこかからか、鋼と鋼が打ち合う音。そして——

 

「ようやく来たか。待ちくたびれたぞ、カルデアのマスター」

 

 その青い瞳に爛々と殺意を巡らせた、もう一人の私、ルーラー、フジマルリツカ。

 

「さて、お目覚めのところわるいが、手短に死んでくれ。マシュ・キリエライトを守れないフジマルリツカに意味はない。マシュ・キリエライトに守られるだけのフジマルリツカに価値などない。故に——————

 (オレ)が、ここでおまえを殺す」

 

 もはやその狂気は、復讐者と呼んでも過言ではないほど。大切な人を守れなかった自分が憎い。大切な人に守られてばかりだった自分が憎い。どこまで行っても、自己完結していた憎悪が、今だけは、こちらに向いている。

 なら、それを全力で叩き潰すほかない。

 

「悪いけど、そういうわけにはいかないんだ」

 

 根性を叩き直す。なんて偉そうなことを言ってしまったけれど、その正体を知った今は、はっきりと分かる。

 あれは、私の手には負えない。

 それでも、一度は自分にできることだと信じたなら、せめて、やれるだけのことはやってみよう。それに。

 

「貴方と約束してしまったんだ。最後まで、生きるって」

 

 暗闇の中で、二つの赤い光が瞬いた。 

 

 



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5 明日への動機

向こう(Fate/sn×デレマス)の方の続きがまだなので、先にこっちのストックから消化。
英雄王に全力出してもらうために色々と迷走した記憶しかないので、自分で直していても拙さが目立ちましたが、それでも良ければ、暇つぶしにでも。


sideルーラー(ぐだ男)

 

 サーヴァントを従えるマスター同士の戦いにおいて最も戦況を左右する事柄は何か。

 もちろん両者の実力に差があれば、能力の高い方が有利になるだろう。けれど、それ以上に風向きを変えるのは、やはりサーヴァント同士の相性をもって他にない。

 竜種と交わった逸話を持つ者には竜殺しを当て、高い神性を有する者には神秘殺しをぶつけ、明確な弱点を持つ相手であればそこを容赦なく突く。

 それゆえ、多くの英霊と契約を交わした稀有なマスター同士では、相手のサーヴァントに強いサーヴァントを出し、相手もまた、こちらが呼び出したサーヴァントに強いサーヴァントを出す。

 言ってみれば、いくらでも後出しの聞くじゃんけんと同じ。

 どう転んでも、どうあがいても、結局はそれの繰り返し。

 だから、彼女がこういった手を打ってくることは、最初から分かっていたことだ。

 

 黄金の鎧をまとった赤い蛇の瞳を持つ男。

 

 互いのサーヴァント()を打ち合うことすでに十数回。遅すぎたと言ってもいい。その果てに彼女は決意を固めた。その表れがアレだ。

 かつてこの世のすべての財を手にし、その蔵にありとあらゆる英雄殺しの宝具を集めた、人類最古の英雄王。

 アーチャー。ギルガメッシュ。

 彼に勝てる可能性のある英雄はオレの知る限り一人しかおらず、その一人をオレが呼び出せないことを彼女はよく知っている。彼女の呼び出した別の自分が心底恨めしい。

「ごめん、王様。ちょっと訳ありなの。初めから、手加減なんてできる状況じゃないんだ」

 彼女、藤丸立花の口からそうこぼれた。

「ほう。貴様がそう言うからには、相当根の深い事情があるのだろうが、まあ聞くまい。だがな、雑種」

 英雄王の赤い瞳が彼女のマスターを睨む。

「よもや貴様、たかが雑種の事情風情で、我にエアを抜かせようというつもりではないだろうな」

「————————」

 藤丸立花は答えない。けれど、その沈黙こそが何よりも雄弁に語っていた。

 そこまでしてまでも、彼女はオレという存在を認められない。けれど、彼との信頼関係を犠牲にしてまで、自身のエゴを押し通すべきか悩んでいる。

「フン、よかろう。今はその葛藤だけで十分だ。それに免じて、手加減をするのは控えてやる。乖離剣を抜くかどうかは我が判断する」

「うん。ありがとう、王様」

「たわけめ。すでに選んでいるのというのにまだ迷うか。そこで見ているがいい、雑種。その選択が行き着く先をその目にしっかりと焼き付けてゆけ」

 その言葉を言い切るか否か、英雄王の背後から飛んでくる無数の宝具。

 槍、槌、長剣、戦斧に巨大な岩の塊なんてものまで、もはや数えるのも馬鹿らしい凶器の雨。その合間に体を滑り込ませ、一つ二つは回収したダガーで弾く。そのうえで、尚も武器がふってくる。

 能力上、避けるだけならば相当の自信と自負がこちらにはある。高い敏捷と千里眼による望まない未来予測。絶対に避けられない、必中の宝具なんてものを持ってこられないかぎり、まず当たることはない。もちろん相手はあの英雄王なのだから、きっとそれに類するものも山のように持っているはず。

 そんなものを出されては殺されるのはこちらの方なのだから、その前に決着をつけるか、さもなくば弾いてしのぐしかない。

 それがいつまで続くのか。決まっている。きっとそう長くはもつまい。

「そら、これで終わりだ」

 英雄王が指を鳴らす。それと同時に、オレの周囲すべてが砲門で埋め尽くされた。たとえ単純な射出であろうとそれは躱しきれるものではない。必中の宝具なんて出すまでもない。逃げ場なんてどこにもないのだから。

 なら、全てを防ぎきるしかない。

 胸に手を当て、そこにあったものを強く握りしめた。

 

 

side藤丸立花(ぐだ子)

 

 敵を囲っての全方位射撃。私の知る限り本気に限りなく近いそれを王様、ギルガメッシュは何のためらいもなく打ち放った。

 それは、まだどうしようもなく甘い私自身への叱責。一度決めた道であるのなら、迷わずに進めるだけの覚悟を持てという、あの王様なりの激励。

 それでもまだ、私は決断できない。だってそういう覚悟の果てにあるのが、英霊フジマルリツカという自分のなれの果てなんじゃないのか。

 彼にはどうしようもなく迷いがない。そのかけらも感じられたことがない。

 この迷いを消し去ってしまったら、その瞬間、私は彼と同じ道をたどることになる。その恐怖がどうしても拭いきれない。

「何度も言わせるな、たわけ! 目を離すなと言ったであろう!」

 いつの間にかうつむいていた視線を、その声が強引に上に引っ張った。

 目に映ったのはいまだ土煙の舞う射出後の戦場。やがて晴れるその向こうにはきっと何も残ってはいないはずだ。

 ————けれど、その期待はたった一瞬で裏切られた。

「マ、シュ……?」

 十字の盾。見間違えるわけがない。これまで私を何度も救ってきたその盾が、英雄王の射撃によってできたクレーターの中に、そそり立っていた。その足元には円形に振り回したのか、丸く削れた痕がある。きっとあの盾でルーラーに降り注いだ宝具全てを弾いたのだろう。

 いいや、問題はそんなことじゃない。

 どうして。

「どうしてあなたがそれを持っているの? ルーラー」

 その盾を握っているのか。

「答える必要はオレにはない。そもそも、君はすでにその答えを持っているだろう?」

 盾を持ち上げ、構えなおしたルーラーの上に再び宝具の雨が降る。それをルーラーは飛びのいて躱し、止んだところで前進する。当然その前進が簡単に許されるわけもなく、その進行方向に向けて再び射出されるが、今度は躱すことなくその盾で弾き、英雄王に肉迫する。

 上段から振り下ろされる盾、激することなく冷静に剣を抜き対応する英雄王。停止するルーラーの頭上に落とされる無数の宝具が、王への追撃を許すまいと降り注ぎ、ルーラーを後退させる。

 私のよく知る盾の使い方とは、とても同じとは言えない。けれど、現に彼は、自分一人であの英雄王に迫っている。自分の願いのために、その願いを一度忘れて、ただひたすらに最善手を取り続ける。自分のために自分を殺すそれが、英雄王との絶望的な差をただ防御においてのみ埋めている。

 その姿に、認められない相手との闘いの最中だというのに思い知らされた。

 

 ————彼が大切にしていたものも、間違いなく私の後輩のマシュ・キリエライトと同じものだったのだ。

 

 誰よりも戦いを恐れながら、何かを守りたい一心で恐怖を殺し続ける。

 彼らは敵と戦うものではなく、弱い自分を打ち負かすもの。

 なら、彼と、彼のマシュの根底にあったものが同じなら、彼はあの盾を使える。

 では私は? 私が戦うべきものは?

「ソレを考えている時点で貴様に勝ちの目は無かろうよ。雑種」

 今まさにルーラーとのつばぜり合いの最中だった王様が、淡々とつぶやいた。

 ……というか、割りと余裕あるんですね、王様。

「ハッ! 観測の未来視程度で我が倒せるか。いずれにせよ、どの未来においてもこの世のすべてが我の物であることは変わらん。まあ、今目の前に迫りつつあるこの盾をどう捌くかについては、今もって検討中だがな」

「集中! 王様、集中して!」

「フハハハハハハハハハ!! そう急かすな」

 剣をしならせ、体勢を崩したルーラーに宝具を射つ。それがあらかじめ見えていたように、不安定な体勢のまま腰をひねり、盾に宝具がぶつかった反動でルーラーは後方に飛びのいた。そしてまた、彼は宝具の雨の中に戻る。何度も繰り返してきたことだ。きっと二分もしないうちに抜け出してくるに違いない。

「さて雑種。聞いてやろう。貴様が我を呼んだのであれば、それは確実に勝つ気でいるときだけ。それ以外の場に呼びつけることなどあるまいし、もしそのような場に呼ばれても我は応じぬ。後で貴様の首を宝物庫に収めるだけのことよ。我をまがいなりとも期待させた人類最後の雑種としてな。であれば、当然この戦い、勝算は見えているだろうな?」

 ルーラーがもう一度迫ってくるまで、そう長くはない。今は判断を遅らせる時ではない。返事は即決で返す。そのあとに首が飛んでいようが、その時はその時だ。

「はっきり言って、勝つことはできない。このまま続ければ、負けることはないけれど勝てもしない。そうなったらじり貧だ。っていうか、今の状態がすでにそれだ」

 一息に答えた。目をつむりたくなるのを我慢して、それでも意識を自分の外に向けて、待つこと三秒。さらに二秒かけてゆっくりと自分の首がつながっていることを確認した。

 生きているって、やっぱり素晴らしい。

「良い。分かっているではないか。そものこと、今この状態に陥ったことこそが貴様の不手際だが、それを正しく認識していただけ良しとしよう。この件は帰ってから存分に聞くことにする」

 ……やはり英雄王は甘くはなかった。ここに来て初めてカルデアに帰りたくないとか思ってしまった。

「さて、その上でだ。雑種。貴様、アレに負けることに納得できるか?」

「そんなのできるわけがない」

 今度も即答だった。けれど、さっきとは違う。さっきは理性が反応していたけれど、今のは本能。打てば響くように、胸の奥が反応していた。

「私は、あのフジマルリツカを許容できない。あれが私の行き着く先だなんて言われても、そんなの、絶対に納得なんてできない」

 そもそも、前々から突っ込みたかったのだけれど、私とルーラーでは性格如何の前に性別が違うのだし。あれか、英霊の座には時間の概念だけじゃなく、性別の概念すらないのか?

 閑話休題。

「いずれにしてもだ。貴様はアレに負けたくないのだろう? なら、答えはたった一つしかないはずだが?」

「…………」

 紅い蛇の目がほんの一瞬、こちらをねめつけた。

「でも…………」

「いい加減目を覚ませ、この戯けが! よいか、貴様はどこまでも愚かだ。この世に並み居る愚昧な雑種と何一つ変わらん大バカ者よ。だが、戯けではあるが貴様は腑抜けではなかった。それだけを、我は評価していたのだがな」

「……王様」

「もう一つ教えてやろう。王の忠告とありがたく受け取るがいい。貴様も、ついぞ向こうの雑種も気づかなかったようだがな、フジマルリツカは戦うものではない。貴様のかわいい後輩についても同じことが言えようよ。では貴様は何なのか、戦うのではなく、何を、するものなのか。

 答えよ。貴様はなぜ、人理を正すなどという途方もない旅に出たのかを!」

 それは。きっと————

 

「————自分にできることだと信じたから」

 

 ああ、そういうことか。

 私にはきっと迷いを捨てる必要はないのだ。

 私はただ、自分にできることをするだけ。自分にできる最善を探して、そこに必死に手を伸ばす。

 迷いながら、悩みながら、苦しみながら。きっとそれでも私は、私に行けるところまで、決して立ち止まらずに歩いて行ける。

 だって、私には多くの英雄()たちが力を貸してくれているのだから。

 きっと支えてくれる。励ましてくれる。引っ張ってくれる。どんなに落ち込んでも彼らとなら、きっとどこまでだって。

 だから、私は、自分にやれる最善を探せばいい。たったそれだけが、この先にある新しい明日を見せてくれると信じて。

「フン。ようやくか、立花。さて、貴様の望む最善とやらを言うがいい。我も我慢が限界に来ていたところだ。その令呪でもって、存分に望め」

「ありがとう。王様。————令呪を持って命ず、英雄王、乖離剣であの私を思いっきりぶった斬って!!!」

「フハハハハハ!! そうでなくてはな! さてそこな星の瞳よ。全力で行くぞ悪く思え。恨むなら、ここまで我をじらした雑種か、果ては我の憂さ晴らしに出くわした己の運を恨むのだな!」

 ルーラーをただ迎撃するだけだった砲門がすべて閉じた。それと入れ替わりにルーラーの周囲を囲むように並ぶ。また宝具の掃射かと構えるルーラーに襲い掛かったのは剣や槍ではなく鎖。盾を構えるルーラーの手足に絡みつき、彼の回避を許さない。

 その間に、英雄王の手元から暴風が生まれる。吹き荒れる砂塵の奥で、ドリルのような形をしたそれは三層に分かれた各パーツをそれぞれが違う方向に回転させ、英雄王を中心とした巨大な嵐を形成する。次第に嵐は成長し、指向性を持った一つの強大な竜巻となって周囲を飲み込み、さらに肥大。この空間そのものが壊れるのが先か、英雄王がその一撃を放つのが先か。使えと命じた自分自身でさえそう不安に思った時、ついに英雄王はその柄をつかんだ。

「————死して拝せよ。『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』を!!!!」

 その言葉とともにふり下ろした一撃。絶対の火力を持った暴風。

 一度放てば後には何も残らない破壊がなされるその前に、私はほんの小さな声を聴いた気がした。

 

「真名、偽装」

 

 直後、とんでもない熱量を持った光の柱が、エアの風圧に触れた。

 



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6 いまだ堅き雪花の壁

監獄塔編、完結です。

順当に行けば次はキャメロットの予定なのですけど、まだプロットすらできていませんし、モチベもまた別の物の方が高いので、今のところ未定です。
続きに関しては、長い目で気長に、尚且つ期待しないで待っていただければと。

それでも良ければ、どうかお楽しみください。


sideぐだ男

 

 どうしようもない嵐が出来上がりつつあるのを、オレは見ていた。

 直感する。あれは、自分一人ではどうやったって防げない。仮に奥の手があるとして、それを使ったとしても無理だ。

 ゆえに、勝てる相手を探して手伝ってもらう。勝てなくてもいいから、せめてアレに負けなかった逸話のある誰か。

 星の知識にアクセス。シュミレート。候補一、失敗。候補二、失敗。候補三、成功、だがその後のアフターケアに問題あり。

 ————そんなもの知るか。

 どうせこの一撃に耐えなければ、フジマルリツカを殺す前にこちらが死ぬ。この一撃のその後こそが最大の好機。それさえ迎えられるのなら、もうなんだって構わない。

「……令呪を持って命ず。オレを依り代として顕現できる最高の霊基を以て、ここに現れろ。アルテラ!」

 オレの隣に白いヴェールを纏った剣姫が姿を現す。その手に握られた軍神の剣は、今にも張り裂けそうなくらいに刀身を眩く輝かせている。

「召喚に応じ参上した。マスター」

「アルテラ。頼めるか?」

「いいだろう。貴様の覚悟、我が軍神の剣を以て成すとしよう」

「ありがとう」

 オレもアルテラもそれ以上は何も言わなかった。何かを尋ねることもなかった。ただ、今目の前にあるどうしようもない災害を、自分たちの全てで迎え撃つと決めただけ。

 星は記録にて語った。かつて、地上のどの神話体系も勝てなかった存在がいたと。文明という文明を焼き尽くし、神々のことごとくを打ち負かして軍神の剣を手に入れた後、星の光に倒れた巨人。のちにフンヌの大王として西方から破壊をもたらしながらも、草原をかけることを夢見た少女。

 その来歴ゆえに、あらゆる神話体系に対して彼女はアドバンテージを持つ。だが、サーヴァントとして地上に呼ばれた彼女では、その力を十分には生かせない。けれど、手を伸ばすくらいなら、きっとできるはずだと信じて。

「重ねて令呪を以て命ず。アルテラよ、オレを通じて聖杯より魔力を汲み上げ、軍神の剣の真の力を解放しろ」

「了解した。火神現象(フレアエフェクト)。マルスとの接続開始。発射まで、一秒」

 それは、たった一度の自爆宝具。地球の衛星軌道上に存在するもう一つの軍神の剣。そこから放たれる極高圧縮レーザーこそ、軍神の剣の本当の使い方。

 端末であるアルテラの剣を座標として送り、ここに光の柱を立てる。

 その炎がたとえアルテラ自身を焼き尽くすとしても。

「————軍神よ、我を呪え。『涙の星・軍神の剣(ティア―ドロップ・フォトンレイ)』!!」

 

 

sideぐだ子

 

 光の柱、それは突然現れた。

 こちらの攻撃を阻むように壁となってそそり立ったそれは、今度は剣として、正面から襲い来るエアの風撃を斬っている。

 それは圧巻の一言。今私の目の前で、かつてこういうことがあったのだと、その二つは激しく語り掛ける。けれど、今回は完全な再現とはいかないらしい。

 エアの風圧が、徐々に光の柱を押しのけている。このままいけば、あと十秒もしないうちにルーラーに届くだろう。

 そう考えてから、十秒、それと五秒かそこら経っていたかもしれない。光の柱は、だんだんと細くなって、ついに消えた。三割ほど勢いを削がれたものの、人一人圧し殺すには十分なエアの斬撃がルーラーがいた場所に炸裂した。

 目を焦がすほどの閃光。それに目をつむったほんの数瞬のうちに、吹き飛ばされるような爆発音と突風が私の体を襲う。それに必死に耐えて、やっとのことで目を開ける。いまだ土煙に覆われるそこには、きっと何も残っていないはずだと、ここにいる誰もが思い、晴れるのを待つ中。

 ————それは、何も残っていないはずの土煙の中から現れた。

「……城壁?」

 質感はなかった。ネロの黄金劇場のように、そこに実際にあるのではない。光が集まって、それを象っているような、そんな感じ。現れる箇所すべてが透明でとても頑丈そうには見えない。そんなものが、エアの爪痕にそそり立っている。

「伏せろ! 雑種!!」

「え」

 王様のいつになく張り詰めた声がする。

 とっさに振り返った私の眉間に短刀が向けられていた。

 

 

sideぐだ男

 

「一手、足りなったか」

 握り締めた短刀の感触が右手から消え去る。なんのことはない、その右腕ごと切り取られただけなのだから。

 当の昔に忘れてしまった痛みに叫ぶ暇なんてもうない。右腕の次は右脚、ついで左脚に左腕とまどろむうちにだるまにされてしまった。防ぐための盾も、置いてきてしまったのだから仕方がない。

「それなりに、きつく縛りつけたはずだったのだがな」

 動けないオレに、黄金鎧の彼は語った。

「オレが、天の鎖なんてたいそうなモノに、くくられるような立派なヤツじゃなかったってだけさ。気にすることはないよ、英雄王」

「戯けが。貴様のような雑種が我らに気を遣うな。貴様は、今に生きる者すべては弱いが、王であり、英雄たるものが守るべき財貨である。守られることを良しとしろ、とは言わぬ。だが、守られることを厭うべきではなかった。それが貴様の全ての敗因と知れ。フジマルリツカ」

 全く、本当にその通りというしか(オレ)にはできそうにない。けれど、それさえも言葉にならなくて。

「今は消えるがいい。あれの令呪の通り、エアで斬られる光栄をその身に刻んで眠れ」

 永遠にも感じられる一瞬が何度も過ぎて行った。肉を混ぜ切られる感触。そのうちにひどく懐かしい思い出を垣間見る。

 ウルクの賢王の信頼を得るために、様々な労働に身をやつした日々。砂漠に荒地に山地、ある時は徒歩であるときは空路(アーラシュ・フライト)で東奔西走した日々。最終決戦の編成に悩んで、看護師とともに散歩した夜。

 どれも苦しかったけれど、どのどれもにやりがいがあって、その多くの瞬間、隣に彼女がいた。

 その悲しみも、苦しみも、全てを彼女とともに愛していた。

 それを、もしかしたらその先まで、もう一人の私は歩めるのだろうか。

 

 ————ああ、それは、なんて羨ましい。

 

 一つの永遠がそこで幕を閉じた。

 

 

sideぐだ男(カルデア)

 

 何かが、ちろりと首筋の後ろをかけて行った気がした。

「ん。どうした」

 ぼうっとしていたらしい。ともにマスターの部屋を後にしていたバラの皇帝、ネロ・クラウディウスがそんなオレを気遣ってか、ありがたくも声をかけてくれた。「なんでもない」と返して、先を急ぐ。

 その先から、四つ足で廊下を走ってくる影を見つける。

「キャット。そんなに急いでどこに行くんだ?」

「キャットも歩けば尋ね人にエンカウントする。ナイスタイミングなのだな、ご主人」

「えっと、つまりオレをさがしていたと?」

「正確にはご主人だけではない。カルデア中を走り回ってはありとあらゆるサーヴァントたちに伝令して回っている所なのだ。ゆえに、そこな皇帝を探していたともいえる。」

 相変わらず容量を得ない会話を繰り出すキャット。

「で、何を伝えて回っていたんだ?」

「うむ。いつもなら話を急く男はモテないぞ、などというところだが、今はことがことなのでやめておこう。自重、キャット覚えた。まあ五秒後には腹のニンジンとともに消えることなどどうでもいい。ご両人、一度しか言わないのでよく聞け」

 その狂言回しの末に、キャットは語った。

「ご主人のご主人、藤丸立花嬢が目を覚ました。繰り返す、藤丸立花が目を覚ました。ふっ、一度しか言わないと言ったなあれは嘘だ」

 最後まで聞くヒマもなく、オレたちは来た道を引き返した。

 数分後、到着したマスターのマイルーム前は、知らせを聞いたサーヴァントたちでごった返していた。ジル・ド・レェ卿にカリギュラ帝、フェルグス・マックロイに聖女ジャンヌ・ダルク。その他大勢に混ざって、珍しい顔があった。

「こんなところで君に会うとは思わなかったよ。天草四郎時貞」

「それはこちらも同じですよ。シェリングフォード・ホームズ。同じルーラークラスのよしみとして、あなたの人となりは把握していたつもりだったのですけれどね」

「それは天地がひっくり返ってもあるまい。我らがお互いを完全には理解できる日など、永遠に来やしないよ。今だって、ここにいるのは一体どんなたくらみあってのことなのかと、疑っているほどだ」

「とんでもない、などと言っても、その疑いは晴れないのでしょうね。今回は完全に、一部の淀みもなく、マスターの体を慮ってのことだったのですが。オオカミ少年の気持ちが骨身に沁みて分かるという物です」

「オオカミ少年の自覚がある時点でどうかと思うがね」

 軽口を叩き合う。探偵と犯人の関係は、ほんの少しのしがらみさえなければこんな感じなんだろうか、と思考の隅で考えていると、閉まりっぱなしだったドアが開く。

 中から出てきたのは、快活そうな印象を与える緋色の髪をたなびかせた少女。このカルデアのマスター、藤丸立花。

 数日眠りっぱなしだったとは思えないほど、しっかりと一人で歩いていた。一先ず、その様子に安心。

「話がある。付き合ってくれる? ルーラー」

「いいとも」

 かけよるサーヴァントたちに断りを入れて、オレとマスターは自動販売機の辺りまで歩いて行く。

「この辺りでいいだろう。人払いなら十分だ。何も、本当に自販機まで行くこともあるまい」

「だね。じゃあ遠慮なく」

 互いに足を止めて、向き合った。

「ルーラー。あなたも私を殺したい?」

 そう切り出された辺りで、なんとなく察していた。

「向こう、監獄塔で、別のオレにでもあったか?」

「うん」

「そしてその様子では、随分と過激な手段をとったらしい」

「みたいだね」

「まあ、こちらのオレとしては、その手もあったか、というのが正直なところだ」

 そう聞いて、身構えるマスター。

「落ち着け。最初の質問に答えるなら、無論、オレにも君への殺意はある。ただ、それとオレがやろうとしていることを天秤にのせた時、殺意の方に傾かないだけだ」

 マスターは首をひねる。

「とにかく、オレは君に何かをする気はない。監獄塔にいたオレと、ここにいるオレとでは目的こそ同じだが、手段は全く違う」

「……つまり、今ここに立っているルーラーにその気はない、ってこと?」

「そういうことだ」

「…………」

「……」

「………………はぁぁぁぁ」

 心底安心したという溜息がマスターの口から吐き出された。

「何はともあれ、お疲れ様、と言っておこうか。マスター」

「うん。ありがとう」

 本当に脱力してしまったらしい。その場に座り込んで天井を見上げている。そんな彼女の手を取って立たせた。

「そういう危ない橋を渡るなら、護衛の一つくらいつけてほしいと、これで何度目になるのだろうな」

「でも誰にも聞かれたくなかったんでしょ?」

「まあ、そうだが。それにしてもだな、……いや、止めておこう。今この場は、マスターの厚意に感謝しておくさ」

 二人してマイルームへと引き返す。

「ねえ、もう一つ聞いていい?」

「いいぞ。なんだ?」

「その、ルーラーのやろうとしていることってなんのか、教えてくれる気ある?」

「それがあると、マスターは本当に思っているのか?」

「ううん。絶対教えてくれないって思ってた」

「それならいい」

 こう引き際をわきまえてくれるようになったのも、最近のことだ。実に都合がいい。

「それがマシュの為なら、私には何もとがめられないから」

 ……前言撤回。こういう鋭くて妙に鈍いところ、オレに似てきて大変不愉快。思わず足を止めてしまった。

「そこまで知っていて二人きりになったのか、頭痛がしてくるな」

「今すぐ私を殺しとく?」

「……いや、止めておく。むしろそこまで知ってくれているなら、これからやりやすくなるだけのこと。とがめられないのだろう?」

「そうだね」

 そこまで言って、再び歩き出す。

「マスター。こちらからも聞こう、君にとって、マシュ・キリエライトはなんだ?」

「マシュ? 大切な後輩だけど、それ以外にある?」

「ああ。オレにとって、いや、私にとって、その背中はもう手の届かない場所にあるものだ」

 道の先から大勢の人影が見えてきた。その中にマシュの姿もある。

「せめて、後悔だけはしないようにな」

 マスターの背中を叩いて、彼女を待つ人たちの中へと促す。溶岩水泳部の面々に絡まれているようだったが、まあ、マスターなら大丈夫だろう。そう安心して自室に戻ることにする。

 その背後で、四つ足の足音がした。キャットだろうか。

「お疲れ様、と言いたいところだが、これから部屋に戻るところなんだ。できれば紅茶を入れてほしい」

 そう言いながら振り返ってみても、そこには誰もいなかった。いや、視界に映らなかっただけで、足元に何か(・・)がいた。

 ————白い毛玉。どことなく、あの花の魔術師を彷彿とさせる襟巻をつけている。

「フォウ?」

 オレの足元をすり抜けて、マスターのもとへと駆けていく。彼女の肩に乗るとその顔をペロリとなめていた。その小動物を伴って、彼女たちはマイルームへと入っていく。

「アレは、……何だ?」

 誰にも答えられず、その問いは廊下の奥へと消えた。

 




別シリーズを誤投稿していた件を報告してくれた方、本当にありがとうございました。

こちらは続くのかどうか未定で、向こうもほとんど終わりかけですけど、またよろしくお願いします。


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