どうやら腐女子がテイルズオブヴェスペリアの世界にまよいこんでしまったようです。 (rimuku)
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設定とプロローグ

キャラ設定

 

 

森園 よだか

 

 

 

性別 生物学上女

 

年齢 17歳

 

身長 156cm

 

体重 48kg

 

容姿 胸までのストレートな黒髪に焦げ茶色の瞳。顔は可もなく不可もなくでモブっぽい。

 

所属 弓道部

 

メイン武器 よだかの身長と同じくらいの大きさの和弓

 

サブ武器 絵筆

 

筋金入りの腐女子。

穏やかで思いやりのある性格だが、極度のコミュ障。

優れた観察眼を持つ。

オタク気質で、テイルズオブヴェスペリアのゲームはもう十二周以上周回済み。

おかげでストーリーどころかキャラのセリフすらほとんど暗記している。

戦闘では和弓を使い、闇属性の術を中心に攻撃する。

トリップしたことによって時を操る特殊な能力を使えるようになった。

 

 

 

 

 

----------------

 

体育の授業。

わたしはこの時間が大嫌いだ。

 

 

「森園さん!!ボール!!」

「うわっ…へっ?」

 

突然大声をかけられ、ずいぶんと情けない声が出てしまった。

当然のようにボールはわたしの横を通りすぎてコートの外に出ていく。

 

チーム全体が、ため息まじりのがっかりした空気に変わったことがよくわかる。

わたし、なんて間抜けなんだろうか。

 

運動できないんだよなあ。

 

 

「ダッサ」

「うちらのチーム勝てないよねこれ…」

 

何か聞こえてくる。わたしのことだろうか。

ふいに体に冷水をかけられたような感覚におそわれた。

 

聞こえないふり、聞こえないふり…

 

 

 

 

 

 

「…っは」

 

わたしは身を起こした。どうやら勉強しながらうたた寝してしまっていたようで、

手元には教科書やノート、筆記用具が散乱している。

 

スマホスマホ…あった。まだ8時か。

 

ねぼけまなこを擦りながらスマホの電源をつけ、ホームに写し出された数字に目をやる。

窓の外には、もう暗闇にのまれた空に月が登っていた。

わたしの住む都会では、夜は地上の方が明るい。

星たちの明かりは地上に届かず、夜の空はなんとも殺風景だ。

 

寝ているときって、1日の記憶を整理してるんだってどこかで聞いたことがある。

嫌だなあ、こういうの、寝る度に思い出さなきゃいけないのか。

 

なんでわたしってこうも不器用なんだろう。

 

自分の情けない姿を思い出して、言葉では言い表せないような悔しい気持ちになる。

 

 

わたしはしばらく黙ったまま手元のシャーペンを見ていた。

 

わたし、今のままでいいんだろうか。

なんとなく意味もなく生きて、趣味と言えばお絵かきとホモを見て喜ぶこと。

あとポクモンの厳選くらいだ。

 

なんともやりがいのない人生。

 

 

 

ふと、わたしはノートの端に書いたユーリの落書きに気がついた。

 

そうだ!!こんな時はやっぱりゲームだよね!!嫌なことも全部わすれられる!!!

うんうん。今日もフレユリが美味しい。

今日はユーリにねこみみが生えてフレンを誘惑するシュチュエーションを妄想しよう!!!!

 

 

わたしは考えるや否や、 ps3のコントローラーに手を伸ばした。

 

わたしはこういうとき、あえてピクスブなどの絵投稿サイトをみない。

他人の想像を探すのではなく、自らの妄想により理想的なシュチュエーションを見つけ出すのだ。

 

動作ひとつで、言葉の交わし方ひとつで、シュチュエーションは幾倍も素晴らしいものになる。

わたしは、そのcpが最も輝けるシュチュエーションを完成させ、萌え萌えキュンキュンBLスーパーワールドをつくりだしわたしだけの薔薇園を…

 

「…おーい」

「んはぃ!!!?」

 

唐突に声をかけられ、また情けない声がでた。

いけない。またわたし禁断症状がでてたようだ…。

 

声の主が呆れたような声をあげるのがわかる。

それにしても変わった声だ。なんだか合成音声というか、人の声とは言い難いような声。

 

そもそもこの声の主は誰なんだろう。

わたしは、声の主を探して辺りを見回した。

 

 

…というか、声?

 

わたしの部屋に入ってくる人なんておかあさんくらい…

 

 

 

…??

 

 

_____わたしが探した声の主は見当たらなかった。

 

 

だが代わりに、驚きの光景を目にすることになった。

 

 

「なにこれ…」

 

…わたし、浮いている。

 

そして目の前には、もう数百回と見たであろうテイルズオブヴェスペリアのロゴとスタート画面。

ユーリがラピードと共に、丘から帝都ザーフィアスを臨むあの画面だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやら腐女子がテイルズオブヴェスペリアの世界にまよいこんでしまったようです。

 

 

 




ピクスブ…よだかの世界でかなりの普及率を誇るWeb画像投稿サイト。
二次創作などの作品も大量に投稿されており、オタクのユートピアである。

ポクモン…略さないでいうとポクットモンスター。本来は子供向けゲームだが、非常に作り込まれたゲームシステムからよだかのような大きなお友達にも大人気。


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腐女子のトリップ

よし。とりあえず冷静になろう。

 

今までおこったことを整理するんだ。

 

まずわたしは、勉強していて寝落ちした。

それから起きて、ps3のコントローラーを持った。

 

そして今。なんかゲーム画面の空間にいる。あと浮いてる。

 

 

アイエエエエーーーー!?

どう考えてもおかしいじゃねーか!!

コントローラーを持ったところから記憶がないぞーーーー!?

 

「人の子よ。一旦落ち着くのだ。」

 

頭上からまた合成音声のような声が響く。微妙に呆れたような声色だ。

 

「ひょっ!すす、すみません!何が起こってるか分からなくて!」

 

わたしはおどおどしながら姿の見えない声の主におもいっきりお辞儀した。しかしわたしは浮いている。重力がないためわたしの体は縦にくるくると回転しはじめてしまった。

目が回るンゴォ!!

 

「…はぁ。人の子よ。一から説明してやるから本当に落ち着け。」

 

声の主がそういうや否や、わたしの体がピタッと回転を止める。

声の主さん…せめて止めるタイミングに気を使って下さいよ。

 

わたしの体は宙ぶらりんになり、本来とは逆向きの方向に停止していた。

Tシャツとスカートが容赦なくめくれるのを押さえつける。

 

 

ごほん。

 

声の主が咳払いし、早速説明をはじめた。わたしこのままなんか。ねえ。ちょっと。

 

 

「とりあえずだ。まずこの場所。

ここは世界の狭間。世界と世界をつなぐ場所だ。

 

この場所は、その者が望むものが見える。

お主になにが見えておるのかは分からんがな」

 

 

へぇ…

 

世界の狭間…

望むものが見える、てことは…

 

わたしは目の前のスタート画面に目をやる。

やはりあの画面だ。

 

だが間違いなく、それはわたしの望むものだ。

 

 

「お主は自分じゃ気付いてないかもしれぬが、世界を渡る能力を持った時空の旅人だ。

これからお主は、この先の世界、テルカ・リュミレースにトリップしてもらうぞ。」

 

「え、はぁ…」

 

時空の旅人?

新しい単語がいっぱいで、働きの悪いわたしの頭は状況を全く処理できないでいた。

わたしが時空の旅人なんて大層な者なわけ…

 

…というか、

 

え?

 

テルカ・リュミレース?

 

え?

 

「ま、待って下さい!!!!テイルズオブヴェスペリアの世界にいくんですか!!!??

わたしが!!?!?」

 

わたしは驚き過ぎて大声を上げてしまった。

 

まじで!?!?

テルカ・リュミレースと言えば、ユーリたちが住むテイルズオブヴェスペリアの世界だぞ!!!?

 

「そうだ。お主がいつも見ているゲームの世界は、この世界の数多ある未来の一つを見ているにすぎない。

お主が干渉すれば、この世界はゲームよりいい未来にも、悪い未来にもなり有る。

 

お主は選ばれたのだ。テルカ・リュミレースの断罪者に。」

 

「な、そんな、わたしがユーリたちの世界に干渉するだなんて、しかも未来を変えるだなんて…」

 

色々な意味で震えが止まらない。

ユーリたちと同じ空気が吸える。

だがわたしが干渉してしまえば最悪、世界を滅亡に導くかもしれない。

テルカ・リュミレースを滅亡に導くなんて絶対に嫌だ。

 

…というか。あそこ魔物とかいるよね。

わたし絶対生き残れないよね。

 

 

「あ、あの…でもわたし、運動できませんし、

わたしがテルカ・リュミレースに行ったら、魔物にワンパンで殺されるんじゃ…」

 

「もちろんお主は今のままテルカ・リュミレースに行くわけではないぞ。多少の肉体変化がある上に術式も使えるようになる。

というか、お主は時を操る能力があるではないか。」

 

「な、時間を操る力ですか!!!?ないですってそんな力!!!」

 

唐突な言葉に、また驚く。

時間を操ることなんてやったことないしできるはずもない。

 

 

「何を言っておる。お主いつもやっておるではないか。」

 

「いやいやいやいや、わたしにそんな神の所業できるわけが…」

 

 

 

…あ。

 

ふと思った。

 

わたしはいつもセーブやリセットをやっている。まさか…。

 

「そう。それだ。同じ要領で考えればよかろう。」

 

声の主は満足そうに言った。さらっとわたし心読まれてますね。はい。

 

「と、まあ一通り説明し終わった。

我はこの辺で失礼するぞ。」

 

そういうや否や、声が段々と遠くなっていく。

まてまてまて。急展開すぎる。あと色々雑すぎる。

全然説明終わってない。

意味分からん。

 

 

「待って下さい!あなたは何者なんですか!!それに、」

 

わたしは遠くなっていく声に、声を張り上げて聞いた。

 

 

「我が名はエルシフルだ。」

 

 

 

遠くから声が聞こえた。

 

次の瞬間、わたしは落ちるような感覚に襲われる。

 

目の前が暗転し、わたしの体はめちゃくちゃに振り回されたが

不思議と恐怖を感じることはなかった。

 

エルシフル?エルシフルって確か、人魔戦争の末裏切られて死んだ_________

 

 

そんなことを思いながら、わたしの意識は遠のいていった。

 

 

そうだ。これはきっと夢だ。

 

嬉しいなあ。妄想が夢になってくれるなんて。

 

 

こんな夢が見られるなら、わたしは目覚めなくたって_________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----------

 

 

 

「ふぅ。」

 

わたしは町外れの広場にポツンとあるベンチに腰を下ろし、ため息をついた。

 

 

ここは潮風の香る港町、カプワトリム。

ウミネコの鳴き声と人々の話し声が交差する貿易の町だ。

五大ギルドのひとつ幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)の拠点がおかれている場所でもあり、

多くの貿易船が出入りしている。

 

 

え?

何が起こったかわからない?

わたしもわからないよ。

 

 

わたしが目を覚ましたのはついさっき。

わたしはこの町の裏路地で意識を失って倒れていたのだ。

 

トリップした地点が結界魔導器(シルトブラスティア)の中だったのは非常に幸運と言えよう。

 

 

「わたし、ほんとうにトリップしちゃったのかなあ。」

 

わたしは足をぷらぷらさせながら独り言を呟いた。

この町並みも住人も、みんなゲームで見てきたあの光景と全く同じだ。違う点があるとすれば、わたしがここにいることくらい。

 

まったく、エルシフルさんはちょっと言葉足らずすぎる。

なんか突然変な空間に飛ばされて気がついたらここって。困っちゃうよ。

 

そもそも、時空の旅人ってなんなんだろう。

わたしが突然ここにトリップしてしまった原因は?

 

訳がわからなすぎる。

 

わたしは髪を触りつつ目を細めて考えた。

 

 

それにしても困ったなあ。

 

なしにろわたしは今、武器もお金もなにも持っていない。

しかもわたしの服装はKAMABOKOという変なロゴが入ったTシャツに黒いスカート。

部屋着のまんまだ。

 

トリップものってこういう道具とか武器はご都合主義で神様から貰えるものかと思ってたよ…本当に身一つのトリップとか聞いてないンゴ…

 

時間を操る能力…?が使えるようになったみたいだし文句は言えないけどね。

近所のコンビニまでいくくらいならまだしも、さすがに異世界でこの服装は恥ずかしい。

 

 

わたしはあらためて自分の服装を見直す。

 

無地の真っ白なTシャツに黒字でKAMABOKOってシュールすぎるわ!!

お母さんどこで買ってきたんだこのTシャツ!!

 

 

わたしは一旦息を整えてやるべきことを整理することにした。

わたしは地頭が悪いのか、丁寧にひとつひとつのことを確認してから行動に移さなければ大体失敗する。

 

とりあえず、ユーリたち一行の行動を知ることは最優先であろう。

ゲームの世界では、彼らはこの世界の命運を左右する存在だ。

 

もしわたしがほんとうにこの世界の未来を決める断罪者としてここに飛ばされたのなら、

彼らを影からサポートしつつ観察するのはきっと必要なことであろう。

 

こんな大層な口実でユーリたちの冒険をストーカーできるなんて...フヒヒ...

 

 

と、すると...

 

やるべきこと。

 

 

 

・ユーリ一行のストーカー

 

・この世界に合った服を買う

 

・武器や装備品の入手

 

・ガルドの確保

 

・寝る場所の確保

 

武醒魔導器(ボーディブラスティア)の入手

 

 

 

こんなもんかな。

 

さすがに衣食住はなんとかしなければいけない。

いくら腐っているからといってわたしは生き物である。

 

うーん…

 

やっぱどれをみてもガルドがあることが第一条件だ。

どこの世界でもやっぱお金は重要だよね。

 

わたしは眉を下げて髪を触る。

髪を触るのは癖だ。心配になるとついついやってしまう。

 

ガルドを稼ぐ方法かー…

わたしコミュ障だし、できるだけ人と関わるバイトとかしたくないなあ。

 

かといって武器すらない今の状態で魔物を狩りにいくにも…

 

 

あっ。

 

そうだ。

 

わたしはふっとひらめいて顔を上げた。

 

わたしには時を操る能力がある。

これをうまく使えば魔物も倒せるかもしれない。

 

わたしは考えるや否や、ベンチから立った。

 

これは、能力をいろいろと研修する必要がありそうだな…

 

 

----------

 

 

 

わたしはカプワトリムから少し離れたフィールドマップの平野で、能力を色々試してみた。

さすがに町の中で色々やるのは不味いよね。うん。

 

試した結果、結構わかったことがある。

一言に時間を操るといっても自由に時間をどうこうできるわけではなく、できることはいくつか種類と条件があるみたいだ。

 

種類と条件は以下の通り。

 

<セーブ>

魔導書を召喚し、今までこの世界でやったことを記録することができるようだ。

運がいいと体力や精神力も回復できるみたい。

ただ時間がかかるから戦闘中は使えない。

 

<ロード>

過去に戻ることができる。ただし、戻ることができるのはセーブした瞬間の地点からである。こちらも時間がかかるため戦闘中は基本使えない。

 

<ポーズ>

この世界の時間を停止できる。ただしこの世界の時間はすべて止まるので、ひとつの物体だけにこの能力を使用したりするのは不可能。

わたしはこの世界の者ではないから、ポーズを使っている間も動けるようだ。

また、ポーズ画面のときは自分や他人のステータスを数字として見ることができる。

 

 

どう考えてもチートですほんとうにありがとうございました。

 

ポーズを使って行けばうまく戦闘も切り抜けられるだろう。

 

 

ここまで試してわかったけど、だいたいゲームのシステムと同じと考えていいらしい。

なんとメタ的な能力。

 

 

わたしの世界でもこんな能力があったら、あんな日陰者として生きなくてすむのに…

ふと思ってしまった。

 

せっかくテルカ・リュミレースにこれたのに元の世界のことを考えていてはもったいない。

 

今わたしはユーリたちと同じ空気を吸えている。これを存分に楽しむべきだ。

ん、待てよ。ほんとだ。

やばみ。尊い。

ユーリたちと同じ空気だぁ…デゥフヒヒ…フヒッ

 

 

「はっ…」

 

わたしは気がついたら四つん這いになってにっこりしていた。

くっ…また禁断症状が…

 

 

 

我に帰ったわたしは地面から手を離し、

手についた砂をはらった。

 

とにかく、ポーズで時間を止めて魔物たちを倒しつつガルドを稼ごう。魔物よ申し訳ない。

卑怯とかいうなや。こっちは丸腰なんや。せめて時間止めさせてくれや。

 

わたしは時間を止め、魔物をちまちま攻撃する作戦でいくことにした。

 

いくら時間を止められる能力があろうが、わたし自身の強さは変わらない。

わたし弱っちいからなあ…

一匹倒すのに何時間かかるんだろう。

 

わたしは自分の非力さにため息をつきながら少し歩く。

さっきから魔物にまったく会わないのは運がいいのか悪いのか。

 

「おっ」

しばらく魔物を探して歩いていると、

砂浜のほうにクラブマンを見つけた。

 

クラブマンは赤いカニ型の魔物で、大きな体格とハサミ、硬い殻が特徴だ。

いきなり素手じゃ倒せそうにないんですがそれは。

 

わたしはさっそくポーズを使い、魔物の動きを止めることにした。

わたし特有のこの術は武醒魔導器(ボーディブラスティア)を必要としないのがありがたい。

 

「ポーズ!」

 

わたしがそういうと、わたしの足元に紫の魔方陣が出現した。

よくわからない文字列が入った立体的な魔方陣が、わたしの周りに組上がっていく。

 

なんとも美しい光の乱舞。

さすがテイルズ世界。無駄に厨ニ心をくすぐる演出だ。

 

キュイイン、という音とともに

テルカ・リュミレースの時間が動きを止めた。

さっきまで聞こえていた波の音も、風に揺れる木も。

全てが停止している。

 

辺りの物音が消えるとこうも静かなのか…。

この静けさは、一種の不気味さを含んでいる。

 

わたしはとりあえずクラブマンに殴りかかった。

慣れていないのでフォームがなんともマヌケだ。

 

「せいっ」

 

力いっぱい殴る。

わたしの拳がクラブマンの硬い殻に当たった。

 

 

 

バキャアァ!!

 

 

 

 

ファッ!?

 

クラブマンの殻が、ものすごい音をたてて砕ける。

わたしは状況が理解できず、口をぽかんと開けた。

 

なんだこれ。なんか余裕で殻砕けちゃったぞ…

魔物ってこんな軟弱な生き物だったのか?

 

 

...まさか。

 

わたしは自分のステータスみてなかったことに気がついた。

 

自分のステータスメニューを開こうとわたしが手をかざすと、

それに呼応するように光が集まって、パーティーメンバーのステータスがみられるあの画面が宙に現れた。アニメ調の自分の絵があって恥ずかしい。

 

というか無個性だな。まさにモブって感じの見た目じゃないすか。

さてわたしのステータスは…

 

 

 

 

よだか

 

Lv326

HP9999 MP9999

 

…あ…察し

 

 

HPもMPもカンストしてるや!!わあああい!!!

 

わたしはMPのあたりまで見て色々察した。

 

わたしのレベルはなんと、わたしがやっていたテイルズオブヴェスペリアの最新データのユーリと

同じレベルだった。

 

 

わたしは確実に理解することができた。

 

 

わたしがプレイしたヴェスペリアの“ゲームデータ”が、今のわたしに影響しているんだ。

 

 

 

いやでもこれ、わたし今のところ技なんて大層なもの覚えていないぞ。

 

ただ腕力つよいだけじゃねえか。ゴリラかな?

腐女子からゴリラ系腐女子に進化かな?

 

 

 

わたしは嬉しいのか悲しいのかよくわからない心持ちで、

魔物狩りに励んだ。




森園よだか…腐女子の主人公。たまにネットで使われるような変な口調になる。


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腐女子と出会い

わたしは頬にべっとりとついた魔物の血を手でぬぐった。

 

もうどれだけの魔物を殺してしまったんだろう。

最初はわりと魔物を殺すのはおっくうだったが、なんだかなれてしまった。

 

一発で殺せるのはありがたい。

 

 

「...はっ」

 

しばらく魔物の死体を見ながら立っていたわたしは、ふと我に帰った。

素材素材...。

 

わたしはこう見えてもヴェスペリアは十一回以上周回済み。

素材の名前も覚えているので、だいたいどこが売れる素材になるかわかる。

 

いやあ、まさかこんな知識がリアルで役立つ日がくるなんてなあ...

なんだか変な気分だよ。

 

 

死体からは臓物が飛び出ているが、素材の部分は無事だった。

倒した魔物から素材を剥ぎ取る。

 

我ながら素手でうまく解体できるようになったと思う。

 

解剖なんて中学のときやった理科の授業でのイカ以来だよ...

授業のとき、サイコパス気取ってた厨ニ病の男子がわざとらしく笑いながら解剖してたのが随分印象にのこっている。

 

わたしは昔のことを真顔で思い出しつつ手をはらった。

服には魔物の血がべっとりとついてしまっている。この服はもう使えないや。

 

 

十分過ぎるくらいに素材もあつめたし、

なんでこんなに持っていたのかは謎だが、魔物が結構ガルドを落としてくれた。

 

装備やアイテムもこれだけあればなんとか揃うだろう。

わたしは大量の素材をもってカプワ・トリムへと歩みを進めた。

 

 

 

-----------

 

「アッ...アヒョッ...これくだしゃい...」

 

うわずった声でわたしは店員に尋ねた。

 

ああああ!!噛んだ!!

こんな場面でもコミュ力が必要になるとかわたし涙目。

 

わたしは服と武器を一通り買い揃え、今夜の宿となるカプワ・トリムの宿屋に向かった。

 

買ったものは防具を兼ねた服一式、武器になりそうな大きな弓、アップルグミなどの回復アイテムだ。結構買い込んだが、相当数の魔物を狩ったお陰でまだだいぶガルドには余裕がある。

 

 

わたしは買ったばかりの大きな弓を触ってみた。

漆黒の艶やかな弓に美しい装飾がなされていてなかなか芸術的だが、大きさが半端じゃない。

なんとわたしの身長と同じ位。

 

わたしは弓道部だ。わたしには明らかにサイズが大きいが、わたしが唯一扱える武器っぽいものは弓だけなので、買わざるを得なかった。

むしろ和弓っぽくて好都合かもしれない。

 

武器屋さんによると、この弓は闇属性の攻撃や術の効果を高めてくれる効果があるらしい。

武醒魔導器(ボーディブラスティア)がないからどうしようもないんだけどね!

 

 

 

夜の戸張が降りたこの町は美しく、

建物から漏れる光に紛れ、夜空の星が凛々と輝いている。

凛々の明星はどれだろう。

 

昼間はあんなに活気に溢れていた通りは静まり返り、耳に心地よい波の音だけが響く。

 

 

今は何時くらい...っていうか、

ユーリ一行はどこにいるんだろう。

 

見たところ町にある結界魔導器(シルトブラスティア)も起動していたし

空に星喰みも現れてなかった上、この町からでもみられるカプワ・ノールの天候は悪くなかったから

今は多分ゲームで見れた期間の序盤か中盤辺りのはず。

 

運が良ければユーリたちを生で見られるかもしれない。グフフ...

 

 

わたしはとても気持ち悪い笑みを浮かべつつ、ちょうどついた宿屋の扉に手をかけた。

扉についた鈴が、チリンチリンと音をたてる。

 

わたしは猫背でいそいそと宿に入った。

 

 

宿の中はクリーム色の清潔感のある壁に、漆の塗られた艶のある木の床の

なかなかイケてる内装だ。

 

テイルズの建物っておしゃれだよね。

これぞRPGの宿。

 

 

「おういらっしゃい。お嬢ちゃん一人かい」

「へっ!はい!」

 

 

宿屋のおっちゃんに話しかけられてビビる。

 

ひきつっているであろうわたしの顔を気にもとめず、

おっちゃんは話を続ける。

 

「お嬢ちゃん変わった格好だねえ!

それに魔物の血がついてるってことは...

どっかのギルドの奴か?」

 

「ま、まあそんな感じです!

その、ちょっと魔物討伐の依頼がありまして...

今夜泊めて下さい!」

 

「おうよ!まいど!」

 

怪しまれないよう適当に言い繕う。

今のわたしは買ったばかりの大きな弓も持っているので

それっぽく見えるはず...

 

 

宿屋のおっちゃんに部屋を案内してもらい、

わたしは崩れ落ちるようにベットに寝転がった。

今頃になって緊張が溶け、どっと疲れが押し寄せる。

 

思えばわたしはいきなり知らない土地に放り出されたんだ。

今まで自分は、不安で仕方無かったのだとようやく気がついた。

 

...家が恋しい。お母さんに会いたい。

 

 

わたしは気がついたら目を閉じて、深いねむりの中に落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

-----------

 

 

 

翌朝。

 

カーテンを閉め忘れてしまっていたのか、

窓から射し込んだ朝日が眩しくてわたしはすぐに目を覚ました。

 

「んー...スマホスマホ...」

 

わたしは手探りでスマホを探す。もはや癖だ。

しばらく手をふらふらとさせてわたしは気がついた。

 

そうだった...ここにそもそもスマホない...ここテルカ・リュミレースだよ...

 

 

わたしは枕に顔を埋めて落ち込む。

よくよく考えてみれば、この世界にはゲームどころかネットもない。

 

ネット環境がないのはわたしにとってなかなか由々しき事態だ。

フレユリが補給できない。ワイ死んでまう。

 

そういえばいきなりここに来てしまったせいでツイッターを放置しちゃってるなあ。

フォロワーさんがリプくれてたらどうしよう...なんの報告もしてないから申し訳ない...

 

 

 

わたしはもそもそと昨日買った服に着替えはじめた。

TAKENOKOシャツは念のため洗って持っておく。

 

昨日買った服は暗い紫を基調とした緩やかなローブだ。袖は振り袖のように大きく、全体的に和風な印象を受ける。どうやらこのローブは灰色のマフラーがセットになっているようなので、ローブに似たような雰囲気のマフラーを巻いてみた。暖かい。

左側に紫の花がついた(かんざし)のような髪飾りをつけ、わたしは鏡のまえで髪を整える。

 

...すごい。わたしの顔がテイルズ風になってる...

 

鏡に映ったわたしの顔は、ステータス画面で見たあのアニメ調な感じになっていた。

 

服はモブっぽくないはずなのになぜか全体的にモブっぽい。意味がわからないよ!

 

 

わたしがほったらかしになっていた他の荷物を整理していると、

隣の部屋から物音と話声が聞こえてきた。

 

隣の部屋に誰かが泊まっているようだ。

それにしてもお隣さんいい声だな...

まるでcv鳥海さん...

 

 

...まてよ。

 

ここはテルカ・リュミレースだ。

 

そしてこの世界でcv鳥海さんのキャラクター。

 

...。

 

 

 

ユーリィイイイ!!それユーリじゃないですかやだ!!!

 

 

い"え"あ"あ"あ"あ"あ"!!

どうしよう!!!

お隣にユーリたちが!!土下座するか!!!

 

 

わたしは一人興奮しながらベットの上で土下座した。

それは、他人から見ればさぞ訳のわからない光景だっただろう。




森園よだか...腐女子主人公。ツイッターのフォロワーは400人くらい。

ユーリ・ローウェル...テイルズオブヴェスペリアの主人公。黒髪長髪。


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腐女子とカルボクラム

しばらくわたしは部屋の壁に向かって土下座していた。

 

隣の部屋からはユーリのほかにエステルやリタ、カロルの声が聞こえてきた。

フレンの声は聞こえなかったのでたぶんイベント後だ。

 

と、いうことは...もうすぐカルボクラムに行くところかな。

 

 

わたしは記憶をたぐり寄せ、ここらで起こるはずのイベントを思い出していった。

ここら辺はユーリとフレンが一緒に話すイベントなので、なかなか鮮明におぼえている。

 

生フレユリが見られなかった...もう少し早ければ...

我一生の不覚!!

 

ガチャリと音がしたので、ユーリ一行はもう発つようだ。

わたしもストーカーするため立ち上がる。

 

 

しかし、わたしは何をすれば正解なのだろうか。この状態こそまさしく、一寸先は闇というものだ。

わたしがこの世界に呼ばれたのには、きっと理由があるはず。

 

ふと、エルシフルの声が甦ってきた。

 

「お主は選ばれたのだ。テルカ・リュミレースの断罪者に。」

 

 

もしわたしがなにもしなくてもゲームの通りに時が進むなら大団円だが、そんな簡単にいくものなのか少し疑問だ。

まあゲーム通りならわたしがユーリたちに干渉するのは間違いだろうなあ。観賞はするけど。かんしょうだけに。

 

 

 

わたしは考えつつも<セーブ>を使った。

 

やはり紫に輝く魔法術式が組上がったあと、光が編み上がってできた本のようなものがわたしの前に浮かびあがる。

わたしの髪や服が重力に逆らいゆらゆらと揺らめき、幾つもの光の筋が部屋を満たしていった。

 

セーブできたのかな?

 

 

わたしはしばらくきょろきょろと辺りを見渡した。

不確かではあるが、確かにセーブできたようななんとも言い難い安心感がある。

 

わたしは部屋の外に出て、宿のチェックアウトを済ませた。

宿の受付の店員さんは商人の格好の女の人で、昨日のフレンドリーなおっちゃんではなかった。

時間帯で変わるのは...当たり前か。ついゲームと同じように捉えてしまう。

 

 

物陰からわたしはユーリ一行の後ろ姿をのぞきこんだ。

 

 

あああ~皆さん美しいよ~~無理~~~

萌え~~~~

 

 

遠くからでも分かるあの一行の存在感にわたしは無意識に土下座しそうになる。

 

あぶねえ...

テルカ・リュミレースには土下座という文化がないから、他人から見たらわたしは変なポーズをとる気持ち悪い人になってしまうだろう。

いやわたしの世界でも街中でそんなことしてる人がいたら相当気持ち悪いけどね?

 

 

 

ユーリ一行がカプワ・トリムから出ていくのをみて、わたしもあとをつけた。

 

街の外に出たが魔物は全く襲ってこず、わたしはいい感じにユーリ一行を尾行できた。

ここら辺の魔物はものの見事に狩りまくったために、魔物がわたしを恐れて逃げて行く。

なんかちょっと強くなった気分だ。んふふ。

 

わたしはちょっとかっこよくマフラーをめくりあげながら歩いてみた。

 

 

...ンゴッ!!

 

大きくめくりあがったマフラーが木の枝に引っ掛かり、わたしの首を締める。

わたしはびびってなぜか腕を上げたが、その腕は虚しく空を切り木の幹にぶつかった。

 

我ながらマヌケなポージングだ。

いくらレベルがあろうともマヌケなのは変わらないんすね...悲しい...

 

自分にため息をつきつつマフラーを枝からとり、ユーリたちのいた方向にもう一度目をやった。

 

 

...っていねえ!!?

 

 

 

わたしがパニクっている間に先の方へ行ってしまったようだ。

むしろこれだけ木の軋む音がうるさかったのに、気付かれなかったのはラッキーだ。

 

 

わたしは大急ぎでカルボクラムへと走った。

 

わたしの足は元の世界にいたときの何十倍も速く動き、

息切れも全く起こらない。

なんだか体がとても軽いのだ。

 

そういえば、昨日魔物をあれだけ倒したのに全く筋肉痛にもなっていない。

自分の身体能力が格段にあがっているのをひしひしと感じる。

 

 

カルボクラムは確か、表向きは地震で滅んだと言われている町だ。

真相はアレクセイの実験で滅んだ町なんですけどね!

小説も読破済みのわたしに死角はない!

 

あのダンジョンで起こるイベントは確か...

魔狩りの剣に合うのとフェイタルストライク、グシオスとの戦闘くらいか。

あと鎧ジュティスちゃんの登場。

 

 

 

更新中



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