復活信者の転生ログ。 (夢いろは)
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序章
No.0 朝比奈 雫は転生する。


スタートです。
よろしくお願いします!


 

 

 

 私、朝比奈 雫の人生は散々たるものだった。

 

 

 

 私は母親の顔を知らない。父親の顔も覚えていない。

 病弱だった母親は私を生むと同時に亡くなってしまったらしく、子育てを放棄した父親に捨てられ孤児院に入れられた。

 その孤児院では私の髪色が普通ではないあおみどりだったせいで他の孤児からいじめられることになった。大人達に私を庇ってくれる人はいず、頼れる人が誰もいない環境は、私から表情を奪った。

 まるで子供達の玩具のように暴力をふるわれた。

 子供達から嫌われているのをいいことに、大人達はどんどん私に雑用を押し付けた。

 

『お前の髪の色、気持ちわりぃんだよ!』

 

『なんでお前みたいなやつが生きてるんだよ!』

 

『とっとと消えてしまえ!』

 

『『『『化け物!!!』』』』

 

 

 いつだったか、子供達から投げ掛けられた言葉だ。

 言われ慣れすぎて、特になんとも思わなくなっていたけれど。

 

 

 

 9歳の時、転機が訪れた。

 私を引き取りたいと言う人が現れたのだ。

 40歳くらいの夫婦で、優しそうな笑顔を浮かべて「雫ちゃん、家にこない?」と言ってきた。

 孤児院での生活に限界を感じていた私は、すぐさま彼らの手をとった。

 

 手をとってしまった。

 あの夫婦を信じてしまったんだ。

 

 待っていたのは孤児院の生活がマシに思えてくるほどの地獄。

 家事は全て私の仕事にされた。

 細かく決められたルールを一ミリでも破ると、罰として暴力をふるわれた。

 夫婦のストレス発散としても殴られた。

 彼らにとって私は、面倒くさい仕事を押し付けられるサンドバックだった。

 食事はなし。皿洗いのさいに夫婦の皿に少しだけ残ったものを舐めるのが唯一の飯だった。

 寝床など存在しない。というより、家事をする時以外で家のなかに入ることは禁止だった。

 普段は何時も家の裏にゴミ捨て場から拾ってきたボロボロの毛布が私の住み処だった。

 何度逃げようとしたかわからない。そのたびに何故か見つかり、対応はさらに酷くなっていく。

 こんなことなら死んだほうがマシだと考えるようになるまで、時間はかからなかった。

 

 そんな私を支え続けた存在、それはズバリ、漫画である。

 孤児院にいた間、誰もいない部屋にこっそり隠れていた時に見つけた本の山。

 使い古されボロボロになっていたそれらを、時間を見つけては必死に読み進めていたその記憶が私の唯一の癒しとなっていた。

現実では絶対にありえないとこが起こる世界。そこには、私がずっと求めていた夢や希望で溢れていた。

 その中でも、私が特に好きだった作品がある。

 それは、『家庭教師ヒットマンREBORN! 』という、週刊少年ジャンプで連載されていた全42巻の物語だ。

 ダメツナと呼ばれ、勉強ダメ、運動ダメ、優柔不断で逃げ癖のついた主人公のもとに家庭教師でヒットマンを名乗る赤ん坊がやって来て、急にマフィアのボスに祭り上げられてしまう、という、友情努力勝利を綺麗に体現したストーリー。

 彼らの友情に憧れた。

 彼らの覚悟がとても輝いて見えた。

 自分では絶対に持てないだろうそれらは、私がずっとずっと欲しがったモノだったから。

 何度も何度も読み返して記憶に刷り込ませたそれは、私の人生の何よりも大事なモノになっていた。

 

 

 

 そして私は今、死にそうになっている。というかもうすぐ死ぬ。

 いきなり何があったって?簡単なとこだ、信号無視をした車に轢かれたのだ。

 

 

 

 ああ、熱い。凄く熱い。けどどんどん寒くなっていく。これが、もうすぐ死ぬってことなのかな。

 

 

 

《確認しました。対熱耐性獲得・・・成功しました。続けて対寒耐性獲得・・・成功しました。

 対熱対寒耐性を獲得したことにより、『熱変動耐性』にスキルが進化しました。》

 

 

 

 身体中が痛い。こんなに痛いと思ったの初めてだ。

 

 

 

《確認しました。痛覚無効獲得・・・成功しました。》

 

 

 

 ふむ。これは確実に死ぬな。だってほら、意識が朦朧としてきた。にしてもやっと死ねるのか・・・。来世はもっと幸せになれたらいいんだけどね。

 そうだ、今の私は小柄だから、次はもっと大きくなりたい。夢は170、いや180!・・・さすがに大きすぎか。

 あと力も強いほうがいいな。夜何時も繋がれてた首輪を壊せるくらいの握力が欲しい。

 

 

 

《確認しました。大柄で強靭な身体を作成します・・・成功しました。》

 

 

 

 今回はあの夫婦を信じちゃったのが敗因だと思うんだよね。

 来世はそうだな、人の気持ちが読めるようになる力とか欲しいな。

 あと色々感情殺してきたから、もっと自分の欲に正直に生きたい!リボーン読みまくりたい!!・・・いや、今世でも読みまくってたわ。

 

 

 

《確認しました。ユニークスキル『正直者(タダシキモノ)』を獲得・・・成功しました。》

 

 

 

 あれ待って、私今来世があること前提で考えてるけど・・・あるよね?来世。無かったらかなり悲しいんだけど。

 でもま、この命は神様から借り受けたもので、死ぬってことは神様に命を返すことであるってどこかに書いてあった気がする。

 てことは、死んだらこの命は神様のところに戻って、いつかまた別の人間に貸し出されるってことだよね。じゃあ大丈夫かな。

 

 

 

《確認しました。ユニークスキル『貸借(レンタル)』を獲得・・・成功しました。》

 

 

 

 ん?なんか変な声が聞こえる・・。よく聞き取れないな。なんて言ってるんだろう・・・て、なんかこーいう話読んだことあるような気がする。なんだっけか。えーと・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あ、思い出した。転スラだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、朝比奈 雫の人生は享年15歳で幕を閉じた。

 何時思い出しても嫌な記憶である。黒歴史とはこのことか。

 この私が、望み通り転生して新たな人生を手に入れるまであと少し。

 また私が転生したのが人間ではなく魔物だったこと、そしてこの世界が私が今まで生きていた世界とは違う世界であるということに気付くのは、更にもうちょっと先の話である。

 




さて、主人公は何に転生するでしょう?
結構分かりやすいんじゃないかなー。


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第1章 物語の前哨戦編
No.1 少女は現状を確認する。


問 朝比奈 雫は何に転生するでしょう?


ヒント 魔物ランクB相当の人型種族。


 簡単ですね!


 

 

 突然ですが、

 

 

 私、人間やめました。

 

 

 ・・・いや、やめたくてやめた訳じゃないけどね。

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 車に轢かれて死んだ後、周りの騒ぎ声を聞きながら私の意識は浮上した。

 うっすらと目を開けると光が入ってきてやたら眩しい。

 騒ぎ声――どうやら周りではなく私自身が発していたようだ――の奥からうっすらと聞こえる他人の言葉で、少しずつ現状を確認していく。

 ・・・ふむふむ、つまり私はちょうど今生まれたばかりであると。

 

 なるほど、どうやら私は無事転生出来たようだ。

 

 来世ちゃんとあるのかなーなんて心配してたのだが、これなら一安心である。神様には感謝しなければ。

 少しずつ光に慣れてきた目を動かし周りを見渡す。

 只今赤ん坊である私を抱いているおばさん、側で横になっているのは母親だろうか。

 他にも女性っぽい方々が数名。

 ・・・いや、女性、だよね。女性だよね?

 あれ、女性ってこんなに大柄なものだっけ?やたら体格いいし・・・うん、皆でかくね?

 よく見たら母親っぽい人が寝てる台・・・ベッドなのかな?もなんか大きいし。そしてそのベッドを使ってる母親もでかいな。

 そして皆なんか野性味溢れる顔してらっしゃる。

 ・・・もしかしてこいつら、女性のふりした男だったり・・・しないよな、だって胸あるのわかるし。

 そしてもう1つ違和感。正直身体が大きいとかどうとかより、こっちのほうがヤバい気がする。

 

 

 ――皆様、その額の角はなんぞや。

 

 

 一本だったり二本だったりという違いはあるものの、皆一様に角が生えてる。

 髪飾りとかというものではなく、どうやら本物・・・つまり本当に生えてるっぽい。

 勿論、我が母親も同様に。

 ・・・もしかして私にも角があったりすんのかな?

 でも角が生えてる人間って可笑しくね?いやでもここにいる人達皆角あるし・・・。

 まさか、まさかとは思うけど・・・いや、違うよな、きっと違う。

 

 

 

「この子はきっと、強くて立派な大鬼族(オーガ)になりますよ」 

 

 

 

 ・・・違わなかったようだ。残念。

 

 

 

 

 

【驚愕】朝比奈 雫、転生したら鬼になってた!!

 

 

 

 

 

 いやはや、どうしたものかね。

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 私がこの世界に生まれてから約10年が経過した。

 時間たつのはやくねって?そんなもん気にするだけムダさ。

 どうやらこの世界は私が以前読んだことのある『転生したらスライムだった件』という作品の世界のようだ。

 つまり私は転生トリップなるものを経験したことになる。

 本当に人生なにがあるかわからないものである。

 なぜこの世界が転スラワールドだとわかったのか、その理由は幾つかあるのだが、その1つは“世界の声”の存在だ。

 剣の稽古と称して爺さんの修行地獄に明け暮れていた際、突如こんな声が聞こえたのだ。

 

 

 

《確認しました。エクストラスキル『危機察知』を獲得・・・成功しました。》

 

 

 

 いきなり頭に響いてきたこの声を初めて聞いたときは、驚いて思わず変な声をあげてしまったものだ。

 何かあったかと聞いてきた爺さんに説明したところ、それは“世界の声”であろう、と笑いながら教えてくれた。

 ほう、“世界の声”ねぇ、“世界の声”・・・せ、“世界の声”ぇ!?

 

 それってあれじゃん、転スラじゃん!!

 

 てな感じで、今までなるべく見ないようにしてた現実を突きつけられたのだった。

 いやぁ、その前にもなーんか見たことある奴いるなー、とある作品の登場キャラとソックリだー、なんて思うことは多々あったけど、似てるだけだって言い聞かせてたんだよね。無駄だったけど。

 

 

 

 

 

 さてさて、てな訳で転スラワールドに転生した私の現在のステータスをちょっと整理してみようと思う。

 

 

 

 

 

 ステータス

 名前:なし

 種族:大鬼族(オーガ)

 加護:なし

 称号:なし

 魔方:気闘法

 技能:ユニークスキル『正直者(タダシキモノ)

    ユニークスキル『貸借(レンタル)

    エクストラスキル『危機察知』

    エクストラスキル『魔力感知』

 耐性:熱変動耐性

    痛覚無効

    物理攻撃耐性

    精神攻撃耐性

    物理精神攻撃耐性

 

 

 

 

 

 とりあえず、これであっているはずだ。

 名前はない。きっとその内あの偉大なるスライム様につけてもらうことになるんじゃないかなーなんて思ってたり。

 そのためには後に来るであろうオーク共の襲撃から生き延びなきゃいけないんだけどね。

 偶然なのか必然なのか、今世でもあおみどり色の髪をしている私だが、前世みたいないじめはない。

 いやだって、周りを見渡してみてよ。

 赤だったり朱色だったり青だったり紫だったり。

 人間だったら信じられないような髪色の人達、いや鬼達が普通に生活してるんですもん。

 あおみどり?全然フツー。

 この世界、前の世界より私に優しい・・・!!

 

 

 

 閑話休題。

 転生者や異世界人というのは、世渡りをする際に特殊な力を得るらしいのだが、私にもその特殊な力、つまりユニークスキルや耐性があった。

 『正直者(タダシキモノ)』や『貸借(レンタル)』それから熱変動耐性に痛覚無効、物理攻撃耐性といったものだ。

 二つもユニークスキルを持ってるんだから、結構私強いんじゃね?とか思ってたこともあったけど、実際はそうでもない。

 だって剣の稽古してくれる爺さんに一度も勝てたことないもの。

 爺さんは「お主には剣の才能がある」ってよく褒めてくれるけど、あんまり嬉しくない。

 ま、どうせ剣を極めるのなら、復活でいうカス鮫とか野球バカみたいな?超かっこいい剣帝になれたらいいなーみたいな?

 いけないまた話が逸れた。

 私がユニークスキルを持っているにも関わらず爺さんに勝てない理由、それは使い慣れてないってのもあるんだろうけど、そもそもスキルが一対一の戦闘にあまり向いていないのだ。

 

 『正直者(タダシキモノ)

  思考加速、思考読破、虚偽禁止

 

 『貸借(レンタル)

  貸出、借用、組立

 

 これが私のもつユニークスキルの正体である。

 簡単に言ってしまえば、『正直者』は視界にいる相手の思考を読んだり嘘をつけなくさせたりするスキルで、『貸借』は触れた相手から一時的に能力や魔素を借りたり貸したり出来るというものだ。

 そこそこ強力なスキルだと思う。『正直者』とか正に私が前世で死にそうになってるときに来世ではこんな力が欲しいなーって思ってたののまんまだし。

 でも何故か爺さんには通用しないんだよ。

 そもそもスキルのレベルが低いのかなんなのか、まだ表層心理しか読めないんだけど、その表層心理すら爺さん読ませてくれない。これは単純に私自身と爺さんのレベルの違いなのかなんなのか。

 それから『貸借』は、自身に味方がいるときは大いに役立つスキルなのだが、自分一人で戦うときにはちょいと使い勝手が悪い。

 これもスキルのレベルの低さが原因なのか、相手が許可してくれていない場合にこのスキルを使おうとすると、結構簡単に抵抗(レジスト)されちゃうのだ。

 一度このスキルを使って擬似零地点突破・改を試してみたことがあるけど、爺さんには通用しなかった。悔しき。

 どうやら爺さんに勝つには、剣の腕だけでなくスキルそのものも鍛えなければならないらしい。

 でもいつかは剣の腕だけで爺さんに勝てるようになりたいな。私の最初の目標だ。

 

 私が生まれもっていた能力の他、気闘法や危機察知、魔力感知等は剣の稽古中に得たものだ。

 「お主ならその内熱源感知も獲得できるやもしれんのぅ」

というのが爺さんの意見。爺さんは本当に私には才能があると考えてくれているようだ。有り難い話である。

 そして残りの精神攻撃耐性と物理精神攻撃耐性。

 こいつらは『正直者』の副産物みたいな感じで、スキルの練習中に結構簡単に獲得できた。

 精神攻撃耐性はいつか精神攻撃無効に格上げできたらと日々奮闘中だったりする。

 いや、どうしたら進化させられるのかわかんないからどうしようもないんだけどさ。

 

 

 

 

 

 話は変わるが、これらの情報を踏まえて。

 なかなか面白い世界に転生したものだ、というのが私の考えである。

 今はまだ弱いけど、修行での経験がスキル獲得とかいう形で分かりやすいのも気に入っている。

 オーガに転生したからには、いつかあのスライム様に出会って仕えることになるんだろう。

 そうしたら、きっと楽しい生活が待っているはずだ。

 それこそ、私が前世でずっと欲しかったモノがね。

 そんな幸せな日が来るまで、私はのんびりオーガライフを楽しみたいと思うのだった。

 

 

 

 

 

「姉さん、早く行こう。若がまた怒りだす」

 

「おい遅いぞ!今日こそは俺が勝つからな!!」

 

 

 

 

 

 ・・・訂正しよう。

 私のオーガライフに“のんびり”という言葉ほど無縁なものはないようだ。

 




 最後の声は一体誰と誰の声でしょうか!
 ヒントは・・・無くてもわかりますよね?


 『正直者』
  思考加速・・・通常の1000倍に知覚速度を上昇させる。
  思考読破・・・視界にいる対象の思考を読む。
  虚偽禁止・・・対象の発言を真実のみに制限する。

 『貸借』
  貸出・・・触れている対象にスキルや魔素、魔法等を貸し与える(時間制限有り)。
  借用・・・触れている対象からスキルや魔素、魔法等を借り受ける(時間制限有り)。
  組立・・・一時的に得た能力を最適化する。また、最適化した能力と元から持っている能力を合わせて新たな能力を造り出す。



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No.2 少女は弟共と修行に励む。

問 前回の最後の声は誰と誰でしょう?

ヒント 紅髪の彼と蒼髪の彼。


もうわかりましたよね?


 

 

 キン、キン、カキーン。

 

 

 模擬刀の打ち合う音が響く。

 只今、毎日の修行の合間に行っている弟弟子との手合わせの最中である。

 片方は私、そしてもう片方は3つほど年下の紅髪のガキ。

 今のところ私はこのガキ相手に全戦全勝中だったりする。

 まぁ、まだ年齢が二桁もいってないようなガキに、爺さんに才能有りと認めてもらった私がそう簡単に負けるわけにはいかないのだが。

 

 「はああぁぁぁぁっ!!」

 

 ガキが勢いよく私に向かって刀を振りかざす。

 迫ってくる攻撃を難なく避けて、狙うは勿論カウンターだ。

 

( 時雨蒼燕流、攻式五の型――五月雨、モドキ!)

 

 一度中斬りを放ちながら刀を持ち替え、放つは変幻自在の斬撃・・・!

 時雨蒼燕流。

 復活に登場する、「最強」を謳う「滅びの剣」。

 決まった。我ながらなかなかの再現度である。

 

「・・・勝負有り、だね。若サマ?」

「・・・っ!」

 

 相手に向かってニヤリと笑ってやると、ガキは悔しそうに顔を歪めた。

 私の持つ刀はガキの首筋でピタリと止まり、当たった部分からはツゥゥと血が滴り落ちた。

 

「ふむ、さすがじゃな。若も動きは良くなってきておられるのですがなぁ」

「勝てなきゃ意味ねーよ。あぁくっそまた負けたー!」

「やはり姉さんは強い。俺達はまだまだだな」

 

 ガキの傷の手当てをしながら話す、私の剣の師匠でもある白髪の爺さん。

 紅髪のガキは大人しく手当てを受けながらも何時もの如く悔しそうに叫ぶ。

 私を姉さんと呼んだのは、紅髪のガキと同い年の蒼髪のガキで、現世において正真正銘の私の弟である。

 

 

 

 

 

 ・・・おわかりいただけただろうか。

 この三人の正体が・・・。

 

 

 

 

 

 紅髪のガキ→後の紅丸(ベニマル)

 

 白髪の爺さん→後の白老(ハクロウ)

 

 

 

 

 蒼髪の弟→後の蒼影(ソウエイ)

 

 

 

 

 あぁ、今日も空が青いなぁ・・・。

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「おい、さっきの型、俺にも教えてくれよ」

「さっきのって?」

「ほら、俺を負かした時の。刀持ち替えてたやつ」

「俺も知りたい。あれも、前に姉さんが言ってた時雨蒼燕流というやつなのか?」

 

 爺さんとの稽古の休憩中、ガキ二人が私に教えを請いに来た。

 この二人、作品中でも言っていた通り、仲の良い幼馴染みであり、実力の拮抗したライバル同士である。

 オーガらしく普通の人間の子供と比べて明らかに大きい身体だが、作品時の彼らと比べたらまだまだ小さい。

 実力もまだ無い。少なくとも私に勝てない間はまだまだだろう。

 

「あぁ、あれね。別にいいけど、今の二人に出来るかなー?」

「この俺様に出来ないことがある訳ないだろ?」

「どうだかね。まあいいや、やるならさっさとやろ」

 

 休憩もそこそこに立ち上がり、私専用の模擬刀を持つ。

 黒好きのおじさん――ええと、後の黒兵衛(クロベエ)のお父さん――に打ってもらったものである。

 まぁ試し打ちしたのを譲ってもらったやつなので決して出来は良くないのだが、今までで一番使いなれた刀である。

 二人も私に習って刀を構える。

 私の持つ技術を盗もうと集中しているのがわかる。

 ・・・こうして二人を見る度に、あぁベニマルとソウエイなんだなぁってしみじみ思うよ。

 表情がね、凄く格好いいんだ。

 それでいて雰囲気が凄く大物っぽい。

 今はまだ、私にすら勝てないただのガキなんだけどね。

 私はガキはそんなに好きじゃない。

 どうしても前世の孤児院での記憶を思い出しちゃうから。

 でも、二人のその強くななりたいってなりふり構わず努力する姿は嫌いじゃないよ。

 

「じゃあ始めるよ。まずこの型は――」

 

 わかりやすいように意識しながら説明していく。

 二人とも頭がいいので、そんなに丁寧にしなくてもすぐに理解してくれるから教えるのはとても楽である。

 刀を振るう彼らに、私がちょくちょくダメ出しとアドバイスを挟む。

 その様子を、爺さんが微笑みながら見守っている。

 ・・・悪くないな、この生活も。

 ガキ共はいつも騒がしいし、稽古はとにかく厳しいけど。

 少なくとも前世と比べたら、今の私はずっと幸せだ。

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 夕暮れになり、今日の稽古が終了した。

 何時も通りの厳しい修行に、終わりの合図と共に少年二人――後のソウエイとベニマル――は地面に倒れこんだ。

 息が上がり、身体が上手く動かせない。

「ふぁーっ疲れた」

 そういいながら汗を拭くのは彼らの姉弟子である。

 やはり経験値の差は大きいのだろう、疲れているのは本当だろうが、彼らのように倒れこむ気配はない。

 手早く刀をしまい、身支度を整える。

 ――やっぱり姉さんは凄いな。

 弟である蒼髪にとって、姉である彼女は憧れであり目標だった。

 

「じゃあ私先に帰ってるから。あんたも少ししたら帰ってくるんだよ?」

 

 そう言う姉に、蒼髪は疲れた身体を必死に動かして了承の意を伝える。

 それを見た彼女は師匠に一言だけ挨拶をしてさっさと帰っていった。

 

「・・・なあ」

「・・・なんだ?」

「あいつ、なんであんなに平気そうなんだ?俺達と同じように稽古してたよな?」

「さぁ、な。姉さんと俺達の間にはそれだけの差があるということだろう」

「あー・・・悔しいなぁ、今日こそは絶対勝つって思ってたんだが」

「そのセリフ毎回言ってないか?」

「言ってる気がする・・・でも本当に悔しいんだって」

「気持ちはわからなくもないがな」

 

 かくいう蒼髪も、姉に一度も勝てたことがない。

 それどころか本気を出させたことすらないのだ。

 姉が師匠と手合わせしているのを見ると、その実力の差を嫌でも思い知らされる。

 彼女は天才だ。それも、師匠が認めるほどの。

 今日教えてもらった型だって、彼女が自分で編み出したものなのだから。

 オーガの一族に代々伝わる朧流の技とは違う技。

 それを一から作り出し実践で使えるだけのレベルに仕上げるだけの自力が、彼女には既にある。

 

「・・・早く、追いつきてぇな」

「・・・ああ、そうだな」

 

 二人が目指す目標は同じだ。

 姉弟子を、越えること。

 今の自分達と彼女との差なんて、痛いほどわかってる。

 ならば、それを覆せるくらい努力すればいいだけだ。

 

「・・・強く、なりたい」

 

 どちらともなく、ポツリとそう呟いた。

 




という訳でベニマルとソウエイ、ついでにハクロウでした!
ベニマルにソウエイ、あとディアブロが私の転スラ好きキャラトップ3だったりします。
次はシオンを出したいなぁ。


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No.3 少女は人間達と戦ってみる。

とある二次創作を読んでいるとき、あとがきに

『チートすぎないチートを目指します』

と書かれていて

それだ!

と思いました。


 それは、今日の朝の出来事である。

 久しぶりに稽古が休みの日で、何時もよりも少し遅い時間に起きた私は、一人自主練をすべく外に出た。

 今日は剣ではなくスキルの訓練をするつもりだった。

 私がこの世に生まれた時から持っているユニークスキル、相手の心を読む『正直者(タダシキモノ)』と力を貸したり借りたりできる『貸借(レンタル)』。

 前は上手く扱えていなかったが・・・。

 いつまでもあの頃の私と同じだと思ってもらっちゃ困るってものだ。

 そう、私はレベルアップしたのだ!

 あの頃よりずっとスムーズに扱えるようになったし、自分と同等レベルの相手であればそう簡単に抵抗(レジスト)されることはないだろう。

 もしかしたら以前は失敗したあの技も今なら使えるかも・・・。

 クフフフ、夢が広がるぜ!

 ということで、某南国果実や某最凶悪魔のような笑みを浮かべながら、強くなったスキルを更に磨くために今日は頑張ろうと思っていた。

 そう、本来ならばそうなる予定だったのだ。

 

 

 

 

 

 一人隠れた場所練習しようと私お気に入りの秘密特訓場へ向かう最中、剣と剣の打ち合う音が聞こえた。

 うげ、もしかして先客がいるのか?

 折角私しか知らないお気に入りの場所だったのに。

 なんだかムカムカしてきて、取り合えず見知らぬそいつらを追い出すべく道を急ぐ。

 そして見えたのは、私の予想とは違う光景だった。

 そこにいたのは、子供のオーガ一人と、冒険者らしき人間が4人。

 なにがあったのかはしらないが、どうやら戦っているようだ。

 オーガの方は女の子で、紫色の髪を後ろで一つに結んでいる。

 ・・・なーんか見覚えがある気がするなー気のせいかなー。

 うん、一回それは置いておこう。

 オーガは戦闘種族で決して弱くない、というかここジュラの大森林にいる魔物の中では上位に食い込む強さだが、子供が4人も相手にするのはさすがに苦しいだろう。

 現に女の子は人間に囲まれて苦しそうな表情をしている。

 あの子、このままじゃ殺られるな。

 同族が殺られるのを見るのは忍びない。

 加勢しようと腰に手をあてて、今日は刀を持ってきていないことを思い出す。

 失敗したかな、と思ったところででふと閃いた。

 そうだ、あいつらに実験台になってもらおう。

 見たところ、4人の人間のうち2人がBで、後の2人がC+といったところだろう。

 あれ位ならば私が負けることはないはず。多分。

 今の私のスキルが何処まで通用するのか、試させて貰おうか。

 ニヤリと口元を歪め、簡単に身体をほぐし、タイミングを見計らって――。

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 Bランクの冒険者であるケインは、目の前の少女のオーガを見やり勝利を確信した。

 オーガはBランクに設定されている魔物だ。弱くはないが、こっちにはBランクが2人、さらにC+が2人もいるのだ、負けるはずがない。

 彼らは特にオーガ退治の依頼を受けている訳ではなかった。

 ただ、途中で出会ったから戦った、それだけである。

 ケインは戦うのが好きだった。

 特に、弱くて意思のある魔物を狩るのが大好きだった。

 自分の強さに自信が持てるから。

 それに人間の敵とされている魔物であれば、殺しても罪にはならないのだ。

 そして今日も、出会っただけの罪のないオーガの少女を、魔物であるという理由だけで排除しようとしていた。

 四人でオーガを囲み、さぁチェックメイトだと気分の高揚したその瞬間、

 

 

 

「――疑似死ぬ気の零地点突破・改」

 

 

 

 知らない声が聞こえた。

 

「うあぁぁあぁぁぁあ?!」

「ガルマー!!?」

 

 いきなり叫び声をあげた仲間のほうを見る。

 ガルマーは力が抜けたように倒れこんだ。

 そこを容赦なく追撃しガルマーを気絶させたのは、今までで相手していたのとは別のオーガだった。

 

「ふぅ・・・良かった。上手くいったね。にしてもやっぱり人間はあんま良いスキル持ってないねぇ」

 

 あおみどり色の髪を首の後ろあたりで小さく結び、左目の下には深緑の刺青があるオーガの少女。

 オーガらしい大きな身体に、額には一本の白い角が生えている。

 

「てめえ、俺の仲間に何してくれてんだ!」

「何って、気絶してもらっただけだけど?別にあんたらなんかどうでもいいんだけどさ、同族(仲間)がやられるのを見逃す訳にはいかないから」

 

 そう言って笑うあおみどり髪のオーガ。

 周りの仲間は警戒し、ロングソードを構える。

 

「ふん、だからって俺達相手にあんた一人で勝てると思ってるのかよ?だとしたら大間違いだぜ」

「そんなことないよケインさん。だって私あんたらより強いし」

「あぁ?ふざけんなよてめえ。殺されても文句いうなよ?」

「言わないよ。だって私死なないし」

 

 終始おちゃらけた態度で話す相手に、ケインは苛立ちが抑えきれなくなった。

 

「やっちまえジェニス、バロッサ!!」

 

 ケインの掛け声により、仲間の二人が攻撃を開始する。

 終わったな、ざまぁみやがれ。そう思った。

 しかし。

 

「うーん、この程度?こんなちゃっちい剣術じゃ私の弟にだって勝てないよ?」 

 

 ジェニスとバロッサの攻撃は全く当たらない。

 何故だ、さっきの紫髪オーガには勝てたのに、同じオーガの子供に何故。

 焦ったように攻撃していく仲間だが、すべての攻撃がかわされ、そして相手オーガに触れられた瞬間、ガルマーと同じように倒れた。

 

「な・・・なんなんだよ、お前・・・!!」

 

 

 

 ケイン達は知らなかった。

 紫髪のオーガに勝てたのは、彼女がまだ戦闘慣れしていない少女だったからであるということを。

 

 ケイン達は知らなかった。

 今目の前にいるあおみどり髪のオーガが、この里において一、ニを争う実力者であることを。

 

 

 

「それじゃー、おやすみなさい、ケインさん♪」 

 

 

 

 ――そういや、なんでこいつ俺の名前知ってんだ?

 

 

 

 そしてケインは意識を失った。

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 ふぅ、終わった終わった。

 ちょっとは苦戦するかなーって思ってたけど案外早く終わったな。

 疑似零地点突破・改も上出来だったし、相手のパーソナルデータの読み取りにも成功したし、私的には大満足である。

 『貸借(レンタル)』の時間制限が来る前にケインさん達は縄で縛って投げ捨てておく。

 魔素借りまくったから今の私はかなり強くなってると思う。

 今なら爺さんにだって勝てそうだ。

 まぁ本来の実力じゃないから今勝てても嬉しくないけどね。

 

「大変だったね、大丈夫?」

 

 ここでちょっと忘れかけてた紫髪ちゃんに話しかける。

 見たところ、そこまで深い傷はなさそうである。

 無事だったか、よかったよかった。

 

「え・・・あ、大丈夫、です。その、ありがとうございました」

 

 おう。

 思ってたより礼儀正しいな。

 まさか敬語使われるとは思ってなかったよ。

 

「ん、良かった。じゃあ取り合えず傷の手当てしよっか。ついてきて」

「そんな、悪いですよ。大丈夫ですから気にしないで「だーめ、いいからついてきて」・・・はい」

 

 こうして私は紫髪ちゃん――後の紫苑(シオン)と知り合った。

 このあと私の作った朝食の残りを振る舞ったら、彼女にやたらなつかれた。

 

 




戦闘シーン苦手じゃくそぅ・・・。
次はシュナちゃん出したいな。


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No.4 少女は織姫様と仲が良い。

シュナちゃん回です。どうぞ!




名前ないのめっちゃ不便!!!



「まぁ!来てくれたのね。久しぶり!」

「ん。姫様久しぶり~。元気してた?」

 

 爺さんに用事があるとかないとかで稽古が午前中のみだったある日の午後、私はとある少女の元を訪れていた。

 同年代のオーガに比べたら比較的小柄な体格で、朱色の髪と二本の小さな白い角を持つ少女。

 

「わたくしはいつだって元気ですわ。貴女は?」

「勿論元気だよ。はいこれ差し入れ。朝急いで作ったから何時もより雑だけど・・・まぁ許して」

「何時も何時もありがとう。貴女の料理は本当に美味しいもの、何だって大歓迎よ。・・・()()()も、貴女ほどとは言わないけれどもう少し料理が上手くなったらいいのに」

「・・・あ、あはは・・・。多分、無理じゃないかなぁ・・・?」

「お、それもしかしてあんたが作ったのか?旨そうじゃん俺も食べていいか?」

「「若サマ(お兄様)の分はありません」」

「ひでぇ!」

 

 彼女――後の朱菜(シュナ)様――は、今世において私の一番の友達だ。

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 私が初めて姫様に出会ったのは確か4年前。

 私がこの世に生を受けて12年と少したった日だったと思う。

 当たり前のように厳しい稽古を受けたあとの昼休み、彼女が若サマのお昼ご飯をもってやって来たのだ。

 原作知識で知ってはいたけど、あの若サマにこんなに可愛い妹がいるってのはちょっと信じられなかった。

 私と5歳以上歳の離れた彼女だが、その後料理や裁縫の話で盛り上がって、ちょくちょく私が遊びに行くようになって今に至る。

 裁縫に関しては姫様のほうが上手だが、料理の腕前に関していえば私のほうが上だった。

 まぁいすれ姫様は『解析者(サトルモノ)』という「解析鑑定」能力のあるスキルを手に入れることになるので、料理の腕もいつかは抜かされるのが目に見えているのだが。

 まだ今の時点では上である私の料理を姫様は気に入ってくれていて、あげると本当に美味しそうに食べてくれる姫様はやたら可愛い。

 この可愛い姫様が若サマの妹だなんて、やっぱり嘘だよ絶対。

 

 

 

 姫様が入れてくれたお茶で一息付いた私達。

 私が今日持ってきた料理も大好評(若サマがこっそり食べようとしていたのでそれ相応の対応をさせてもらった)で嬉しい限りだ。

 

「そういえば、この前作ってた着物は出来たの?」

「ええ。結構苦労したけれど、その分満足いくものが出来たわ」

 

 見て見て、と嬉しそうに姫様が持ってきたのは、桜色の綺麗な着物。

 触り心地バッチリの肌に優しい着物だ。

 細部まで計算しつくされたそれは、姫様の裁縫の腕がよくわかる素晴らしいものだった。

 

「お~、流石姫様。私じゃこうはいかないよ。やっぱり織姫の名は伊達じゃないね」

 

 私がそう言うと、姫様は嬉しそうに微笑む。

 ・・・可愛いは正義。本当にその通りだと思う。

 

「次は貴女の着物を作ってみようと思うのだけれど」

「あれいいの?」

「勿論!貴女からはいつも料理を貰ってばかりだから、ちゃんとお返ししないと」

「んーそんなに重く考えなくていいのに。でもありがとね、楽しみにしてる」

「ええ。きっと素晴らしいものを作ってみせるわ」

 

 うむ。

 いいねぇ、なんか妹みたい。

 とにかく騒がしい私の周りにおいて、姫様は唯一の癒しである。

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 それは、今から4年ほど前の日でした。

 お兄様にお昼ご飯を渡すため、お父様に聞いて初めて稽古場に行ってみたのです。

 私は余り人前というのは得意ではなく、この稽古場にも私の知らない人がいるようだったので、用事が済んだらすぐに帰るつもりでした。

 木と木の間から様子を覗いてお兄様を探してみます。

 お兄様は、知らない人と手合わせをしているようでした。

 私はお兄様の実力はよく知っているつもりでした。

 お兄様はまだお兄様の師匠である爺ややお父様には敵わないけれど、いつか里の長になる者として認められるだけの実力は持っていましたから、そのお兄様が剣で少し歳上らしき女性に押されている様子を見たときは信じられず立ち尽くしてしまいました。

 その時です。

 

「・・・?誰だ?」

 

 私の存在がバレてしまいました。

 恐る恐る見てみると、そこにはお兄様と同い年くらいの蒼髪の少年がいました。

 私はこの者を知っていました。

 確かお兄様の友人でライバルである者です。

 

「・・・こんにちは」

「・・・!姫様でしたか」

 

 蒼髪さんも私を知っていたようでした。

 それもそうでしょう。私は次期長であるお兄様の妹であり、お兄様よりも上位の巫女なのですから。

 

「このような場所に一体なんのご用ですか?」

「・・・お兄様に、お昼ご飯を持ってきたの」

「そうですか。なら申し訳ありませんが少しお待ちください。あの手合わせもそろそろ終わる頃ですので」

 

 それ以降蒼髪さんは口を開くことなくお兄様達の手合わせを見ていました。

 何故もうすぐ終わるとわかったのでしょう?

 気にはなりましたが、人見知りの私には、よく知らない相手に質問する勇気はありませんでした。

 蒼髪さんの言う通り、手合わせはすぐに終わりました。

 一際甲高い音が響き、お兄様の持っていたはずの刀が弾かれたのです。

 

「フッフッフッ・・・。これで、私の267勝だね!」

「くそっ今日はいけると思ってたのに」

「まだまだ甘いですな若。これは、暫く若だけ訓練二倍にする必要があるかもしれませんのぅ」

「ゲッ・・・」

「頑張れ若サマ!」

「流石姐さんです!かっよかったです!!」

「・・・うん、ありがと。でもあのね、そろそろその姐さん呼び止めて欲しいんだけどなぁ・・・」

「姉さん、昼休み終わったら次は俺とやろう」

「お、やる?いいよいいよ、弟だからって遠慮はしないからね?」

 

 途端、お兄様の周りが賑わい出しました。

 お兄様にあおみどり髪の女性、爺やに蒼髪さん、それから紫髪の女の子。

 お兄様の修行仲間なのでしょうか、なんやかんや言いながら仲の良い様子が見受けられました。

 ・・・いいなぁ、なんだかとっても楽しそう。

 

「ん・・・あれ、お前なにしてんだ?こんなとこで」

 

 そこでお兄様は私に気付きました。

 此方に歩いてくるお兄様に駆け寄り、手に持っていた荷物を渡します。

 

「どうした?」

「これ、本日の昼食です。お兄様、持って出るの忘れてましたよ」

「うわマジか。ワリィなわざわざ」

「いえ。・・・では、わたくしは帰りますね」

「おう、気をつけて・・・」

「ちょっと待ちな姫様」

 

 私を制止する声が聞こえ、そちらを見てみると、発言したのはどうやらあおみどり髪さんのようでした。

 

「・・・わたくしに、何か用?」

「いや、特に用はないけど。折角だし、お昼皆で食べようよ。今日は私沢山作ってきてあるからさ」

「え」

 

 本当にびっくりしました。

 まさか、わたくしが誘われるとは思ってなかったのですから。

 次期長の妹であり、オーガの巫女であるこのわたくしが。

 でも同時に・・・少し、嬉しかったのです。

 このように誘ってもらえるのは初めてで。

 まるでわたくしを受け入れてくれているような、そんな気がしたのです。

 

 

 

 あの日から、わたくしの世界は少しずつ広がっていきました。

 お兄様と蒼髪さんはあおみどり髪さんを越えるため日々練習を重ねていますが、未だに勝てたことはないそうで、いつも悔しそうにしています。

 現在ではわたくしを守る役になっている紫髪さんは以前あおみどり髪さんに助けてもらったことがあるらしく、それ以来姐さんと呼んで慕っているそう。

 爺やは剣を扱えない私に、柔術を教えてくれました。

 まだ上手には扱えないけれど、いつかお兄様達の隣で戦う日が来てもいいように頑張るつもりです。

 あおみどり髪さんの料理はとても素晴らしかったです。

 私も料理には覚えがあるのですが、あおみどり髪さんには敵いません。

 剣も強く料理も上手いとは、あおみどり髪さんはとても凄い人です。

 

 引きこもってただただ織物をしていたあの頃とは違う。

 わたくしは今、優しい友人達と共にとても楽しい日々を過ごしています。

 




次は!多分!若サマ!!


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No.5 少女は「面白い」と笑う。

テストがやっと終わり、転スラの小説を全巻読みました。
正直、読む前に連載を始めたことを後悔しました。
てな訳で変更点です。↓

・『熱変動耐性ex』からex を抜きました。
・『思考解読』を『思考読破』に変更しました。
・No. 2に朧流のワードを追加しました。
・No. 3に登場したグレンダの名前をガルマーに変更しました。
・No. 4に、「シュナ様はオーガの里の巫女である」、「シオンはシュナ様を守る役に就いている」という要素を追加しました。

ちょっとの変化ではありますが、理解していただけると嬉しいです。
もし変更し忘れがあったら教えてもらえると助かります。



 遂にこの時が来た。

 

 

 紅髪の少年オーガは、今目の前にいる眠そうな宿敵を見てニヤリと笑う。

 一年前からゆっくり進行してきたこの計画。

 今まで599回味わってきた屈辱を、今日こそは。

 

 

 

「絶対に勝つ・・・!」

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 今日の私は何時もより機嫌が悪かった。

 弟に何時もより1時間も早く起こされたのだ、当然だろう。

 弟にはそれ相応の対応という名の仕返し(つまりは朝食抜き。紫髪ちゃんにでも作って貰えばー?)をして少しは気が済んだものの、やはり睡眠が足りないというのは私にとっては大問題のようだ。

 自慢じゃないが、私は夜に強い。

 ・・・ちょっと誤魔化してみた。

 正しくは朝に弱い、である。

 朝から昼にかけて、太陽が南の空に登っていくまでの時間はまだ寝る時間だと思う。

 だって眠いし。

 人間の三大欲求のうち、オーガになったことで睡眠欲が大幅に上昇した気がする。

 修行とか何らかの予定がなければ大抵12時位まで寝てるし。

 いやまぁ確かに、ちょっと寝過ぎたかなーって思うこともしょっちゅうだけど。

 よく寝坊して弟に怒られるけど。

 だからって、一時間も早く起こされなければならない意味とは。

 そんなことを考えながら、私と弟は何時もよりずっと早く修行場に向かっていた。

 

 

 

 

 

 大きな楓の木。

 このオーガの里のシンボルとされている綺麗な木の前の広場が、私たちの修行場だ。

 木々の葉が朝日に照らされてキラキラと輝いている。

 ・・・ふーん、ここって、朝はこんなに綺麗なんだ。

 初めて知ったな。早起きもたまには悪くない?

 いや、やっぱ悪いな。寝る時間が足りなくてまだ頭がよく回らない。

 『痛覚無効』のおかげで頭が痛いってことにはなってないだけマジなんだけど。

 朝の空気を思いっきり吸い込んで伸びをする。

 

「お、来たな。待ってたぜ」

 

 不意に声が聞こえ、そちらの方を見てみると、そこにいたのは。

 

「若サマ・・・?」

「おう。ちゃんと約束通りの時間だな」

「一応約束だからな」

 

 約束?

 弟は若サマと私を一時間早く連れてくる約束をしてたってこと?

 なるほど、意味がわからんが私の睡眠不足は弟だけでなく若サマのせいでもあるらしい。

 若サマ、許すまじ。

 でもなんでこんな早く?

 

「よくわかんないけど私になんか用?」

「ああ。今日こそは、なにがなんでも勝たせて貰うからな」

「は・・・どゆこと?」

「・・・お前、本当に頭回ってないな。朝弱いのは知ってたが・・・。まぁちょうどいいか。今から俺と模擬戦しようぜ」

 

 模擬戦?

 ・・・あぁ、理解。

 正攻法じゃまだ私には勝てないから、私が朝弱いのを利用して少しでも有利に立とうってとこか。

 なんか意外。

 正々堂々戦って勝たなきゃ意味ねぇ!とか思ってそうなのに。

 今のところ私と若サマの戦績は、599戦599勝だったかな。

 次も勝ったら600勝だ。

 もしかして600連敗はプライドが許さない的なあれかな?

 まぁいいか、実際まだ頭回ってないし、そんなに勝ちたいのなら適当に流して負けてあげようかな。

 

「いいよー、じゃあやろっか」

「随分軽いな・・・。絶対負けない自信があるのか?」

「んー?まあ本気だせば負けないだろうけど、別に勝ち負けに拘ってる訳じゃないし、今回は適当に終わらせるつもりだからさ」

 

 そう言った瞬間、若サマ目付きが鋭くなる。

 あっちゃ、もしかして怒らせちゃったかな?

 まぁ、若サマに勝たせてあげればきっと怒りも消えるでしょ。

 大丈夫、なんとかなるなる。

 

「・・・絶対後悔させてやる」

「あ、そう。頑張れ」

 

 こうして私と若サマの600戦目の模擬戦が始まった。

 

 

 

 

 

 迫り来る刀を受け止める。

 受け流したりかわしたりするよりも受け止めるほうが頭を使わなくて良いから楽なんだよね。

 

「ッチ。朝で手ェ抜いてこれかよ」

 

 若サマの舌打ち。

 ちょっとそれは語弊があるな。

 私は何時もの手合わせの時だって本気だしてないよ?

 実際ユニークスキルは使ってないし、一番得意な型も使ってないし。

 でもそれは師匠と私の手合わせみてたらわかる気がするんだけど・・・うーん。

 にしてもやっぱ眠いな。若サマはこんな朝早くて眠くないのかな?弟も。

 早めに終わらせて少しでも寝るか。

 じゃあバレないように慎重に負けてやるとしよう・・・っておっとこれは?

 

 一度中斬りを放ち、素早く刀を持ち帰る。

 そして放たれるのは、タイミングの狂った変幻自在の一撃。

 

 時雨蒼燕流攻式五の型、五月雨じゃないですか!

 私が昔教えた、五月雨モドキ。

 実戦で使えるようになったんだねぇ。

 ちょっと感動だよ。若サマも強くなったね。

 まぁ、私にかかれば避けられないものじゃなかったけど。

 五月雨を上手くかわして、満足して気が抜けた瞬間。

 

 

 

 背後から迫り来る、ナニカの気配。

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 

 本能と微かに感じた反応に従って降り向きざまに刀を振り上げる。

 カキーンと心地よい音がなり、私と若サマの刀が打ち合ったのがわかった。

 

「マジかよ・・・」

 

 若サマの呆然とした気配がするが、私はそれどころじゃなかった。

 嘘・・・何時の間に?

 『魔力感知』でも感知しきれなかった。

 まさか今の・・・“隠行法”?

 まだ荒削りって感じではあるけど・・・一体何時の間に使えるようになったの?

 今までの手合わせでは全く使ってなかったのに。

 そういえば、何時もより技のキレも増してる気が・・・。

 

 そこまで考えて、ある予想が私の頭をよぎった。

 そして考えれば考えるほど、それが答えだとしか思えなくなってくる。

 弟と若サマの約束、600戦目の手合い、初めて使われた“隠行法”。

 まさか・・・。

 かなり前から私を倒すために計画されてたってこと?

 出来ることは全てやって、確実に私に勝つために?

 わざわざ朝早い時間にしたのは、私が本気でやれない時間だからってだけじゃなくて、私にこの計画がバレないようにするため?

 そこまでして、私からたった一つ白星が欲しかったってこと?

 

 

 

 なにそれ。

 

 

 

 なんなのそれ。

 

 

 

 

 

 面白すぎるじゃん!!!

 

 

 

 

 

 自分の顔がにやけていることを自覚する。

 一体何時からこの計画を立てていたのだろうか。

 私を倒す、ただそれだけのためにどれだけ若サマは頑張ってきたのか。

 考えるだけで楽しくなってくる。

 後にベニマルとして魔王の右腕を担う彼にとっては通過点でしかないであろう私に、そこまでしてくれたことが嬉しい。

 ついさっきまであった眠気なんて、とっくに吹っ飛んでしまった。

 ごめん、若サマ。私は君を見くびってたみたいだ。

 そこまでして本気で勝ちに来てる相手に、適当に終わらせるとか失礼にも程があったね。

 あまつさえ、負けてあげてもいいやとか・・・ごめん、私がバカだったよ。

 よし、今までのお詫びとして、本気で相手をしよう。

 正真正銘、私の全力で。

 だから・・・勝てるものならやってみなよ。

 

 

 

「いくよ、若サマ」

 

 

 

 『正直者(タダシキモノ)』を起動。

 『貸借(レンタル)』も全身に展開。

 『貸借(レンタル)』の対称は私が触れた相手だが、なにも手で触れなければならないというルールはない。

 私の身体のどこか一部が相手に触れていればいいのだ。

 朝早いという最悪なコンディションなどお構いなしだ。

 頭は既に冴えて来ている。

 大丈夫だ。問題は無い。

 『思考読破』で若サマの攻撃を読み、捌ききる。

 私が『正直者(タダシキモノ)』を起動した時点で、若サマの攻撃があたる可能性は無くなった。

 あとは相手に負けを認めさせるだけ。

 狙うは、完全勝利だ。

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「いくよ、若サマ」

 

 そういった瞬間、相手の纏う雰囲気が変わった。

 

「!?」

 

 今までのどこか抜けた空気感から一転した、感じたこともないようなオーラ。

 気を抜けばその雰囲気に押し潰されてしまいそうだ。

 観戦していた彼女の弟である蒼髪も、その圧倒的なオーラに息を飲んでいるのがわかる。

 紅髪は理解した。

 今目の前にいる彼女が、自分相手に本気をだそうとしていることを。

 そして、初めて彼女こ本気を引き出せたことに歓喜する。

 この計画の目標の一つが達成されたことを意味していたから。

 残る目標は勝つことのみ。

 紅髪は今まで以上に集中して相手と対峙する。

 一挙一足、その全てを見逃さないように。

 そして、少しの綻びを見つけたその瞬間、

 

「もらった!」

 

 紅髪はとびだした。

 それが、相手がわざと作った隙であると気付かずに。

 一気に間合いを詰める。

 そして一気に刀を打ち下ろす。

 しかし、その攻撃はかわされた。

 諦めずに何度も攻撃を繰り返すが、どれも全て避けられてしまった。

 なにかがおかしい、でもなにがおかしいのかわからない。

 何時もなら受け流したりするような攻撃も全て避けきる彼女を見て思う。

 しかしその雑念とも呼べるそれが頭をよぎったその一瞬、彼女は動き出していた。

 気付いた時には、身体が宙に浮く感覚。

 慌てて地面に手をつき、受け身をとる。

 どうやら、足を引っ掻けて転ばされたようだ。

 ゆっくりと紅髪を見やるあおみどり髪。

 急いで立ち上がり、ふと自身の『魔力感知』が切れていることに気が付いた。

 何時もよりも視界が狭くなっていたのだ。

 それは、『魔力感知』ではなく自身の目のみで周りを見ている証拠。

 不思議に思いながら改めて起動させようとした。

 しかし、紅髪の顔は驚愕に染まることになる。

 

(『魔力感知』が無くなってる!?)

 

 あり得ないはずのことに呆然とする。

 ついさっきまで使えていたはずのスキルが無くなるだなんて。

 相手の顔を見ると、相手は紅髪を見つめニヤリと笑う。

 決定だ。確実に彼女になにかをされた。

 

「おい・・・一体なにをした?」

「さぁ、なんだろうね?」

 

 楽しそうに笑い、刀を構える彼女。

 そして。

 

 

 

「・・・時雨蒼燕流 攻式八の型――」

 

 

 

 ――篠突く雨。

 

 

 

 それは、今まで見てきたどの型よりも鋭く、力強く、美しかった。

 紅髪の目のみでは決して追い付けない――いや、『魔力感知』すら反応しきれないだろう速度で放たれたそれは、彼と彼女の圧倒的な実力の差を否応なく見せつけてくる。

 刀は彼の喉元寸前で止められ、その風圧が紅髪の頬に薄く傷をつける。

 

 紅髪の600連敗が決まった瞬間だった。

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 静寂が訪れる。

 若サマの攻撃を全て捌き、隙を見て足払いを仕掛けた。

 その足と足が触れた一瞬に全力で『借用』を発動させ、若サマから『魔力感知』を借りる(奪う)

 最後に、私が今使える最強の剣技――篠突く雨モドキ――で叩きつけた。

 誰もが認めるであろう、私の完全勝利であった。

 ゆっくりと刀を喉元から放し、鞘に納める。

 『借用』した『魔力感知』を返すと、若サマは驚いたように私を見た。

 

「・・・姉さんの、勝利だ」

 

 我に返ったらしい弟がそう宣言した。

 途端にその場に響く拍手。

 戦闘中で気付かなかったが、いつの間にか紫髪ちゃんと姫様が来ていたらしい。

 

「あそこまでお兄様に圧勝するなんて・・・さすがね」

「私は姐さんが勝つと信じてました!やはり姐さんは最強です!!」

「見事だ、姉さん。予想以上だった」

 

 それぞれ私の勝利を褒めてくれた。

 いやぁ、そうやって褒められちゃうと照れるな・・・。

 そして、負けてしまった若サマはというと。

 刀をゆっくりと下げて、上を見上げていた。

 

「勝てなかった、か・・・」

 

 何時ものように叫ぶのでもなく、泣き喚くのでもなく。

 ただ一言、ポツリと小さく呟いた。

 ・・・きっと、今日のこの勝負にかけてたんだろうな。

 出来ることは全部やって、格上の私に絶対に勝つために。

 それがわかるからこそ、なんて声を掛ければいいのかわからなかった。

 ・・・いや、もしかしたら考え過ぎなのかもしれないな。

 今の彼に慰めなど無用。

 今の私が彼に言えるのはきっとこれだけだ。

 静かに若サマの前に立つ。

 そして、右手を差し出した。

 

 

 

「楽しかったよ。またやろうね」

 

 

 

 それは、紛れもない私の本心。

 だって、本当に楽しかったから。

 若サマは目を見開き、私を見つめた。

 少しの間を経て、彼は嬉しそうに「おう」と言って、私の右手を握ってくれた。

 その目がうっすらと潤んでいたことは、見なかったことにしてあげようと思う。

 

 

 




この話では、小説版を元に書いていこうと思っています。
これからもよろしくお願いします!


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No.6 少女は新たな武器を得る。

お久しぶりです!

今回かなり短いです。
最後テキトーに纏めた感満載。

最初のシーンが書けたので私は満足です。


 

 

 

 その日は、随分と調子が良かった。

 

 

 

 

 刀が迫る音。

 

 交わる毎に飛び散る火花。

 

 相手の視線、呼吸。

 

 一挙一動。

 

 力の流れ。

 

 心音。

 

 静寂。

 

 

 そして。

 

 

 

 

 それら全てを塗り潰す、甲高い音。

 

 

 

 

「強くなったのぅ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、私が初めて師匠に勝った日。

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「そかそか、遂に剣鬼の旦那に勝ったべか!流石だべや」

「でもまだたったの一勝だし。次はスキル無しで勝てるようになりたいな」

「ほ~っ。目標高くていいんでねぇべか。これからも頑張れよ!で、今日の依頼はなんだべ?」

「その、実は―――」

 

 あの日から数日。

 私が師匠に勝ったからといって今までの関係が壊れるようなことはなく、いつも通りの騒がしくも平凡な日々を送っていた私は、修行を抜け出して黒好きおじさんの元に来ていた。

 え、誰それって?ほらあれですよ、後のクロベエのお父さん。

 クロベエと同じく、この人も刀鍛冶やってるんだよね。

 私が今まで使ってた刀もおじさんが打ったものだし。

 と、それはいいとして。

 

「―――まずはこの刀を見てほしいんだけど」

「ん?これは・・・ヒビが入っとるな」

「そうなんだよね。師匠との手合わせの時にやっちゃったみたいで。それで、師匠に

 

『折角の機会じゃ。刀を新調してみてはどうかの?』

 

 と言われて」

「なるほどな。つまり、新しい刀を打ってほしい、ってことだべか?」

「うん」

 

 これが、私が今日ここに来た理由。

 気に入った刀だったとはいえ、ヒビ入っちゃ直したりしない限り危なくて使えない。

 それならいっそ、ということである。

 師匠が言うには、元々この刀と私の力は釣り合いがとれていなかったとかなんとかで、もっと頑丈なものを使った方がいいと前々から思っていたらしい。

 

「で、やってくれる?」

「そうだな・・・今打ってるのが終わったら少し暇になるし・・・・・・よし、剣鬼の旦那に勝った記念だ、やってやるべ!」

「ほんと!?」

 

 良かった。これで駄目だったらどうしようかと思ってたよ。

 

「で、どんな刀がいいんだべか?」

「えっと、長さはは前と同じ位でいいんだけど、もっと頑丈なものがよくて、」

 

 とそこで閃く私。

 どうせなら、あの刀造ってもらえないかな?

 いや、無理な気がしてならないけど、あのクロベエのお父さんだしなんとかなったりして・・・

 

「・・・普段は竹刀なんだけど、高速で振ったら刃が現れる刀とか」

「意味わからないべ」

 

 駄目だった。残念。

 モドキとは言え時雨蒼燕流を使ってるんだし、夢だったんだけどなぁ時雨金時。

 まぁいいや、だったら―――。

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 それから一月。

 

「ほう・・・それが、お主の新しい刀か」

「そーです!」

 

 私は修行場に来た師匠の元に真っ先に訪れていた。

 

 

 

 新品の黒い二振りの刀を持って。

 

 

 

「まさか二刀流とはのう。驚いたわい」

「前からやってみたいと思ってたんだよね。無理そうだったらやめるけど」

「いや・・・お主には二刀流のほうが向いとるかもしれんな」

 

 あらマジですか。

 ならばとことん練習して早く慣れないとね。

 黒好きおじさんが打ってくれたこの刀、ランクはノーマルだが、それでもレアにかなり近いノーマル。

 今おじさんに打てる最高級のものらしい。

 黒い刃を空に掲げると、太陽の光に照らされて綺麗に輝く。

 ・・・うん、いいね。凄くいいよ。

 頑丈さも、魔力の馴染みやすさも申し分無し。

 この武器と一緒に、私はこれからも頑張っていくんだ。

 手始めにスキル無しで師匠に勝てるようになろう。

 私は、まだまた強くなれる。

 

 

「これからも精進するのじゃぞ」

「・・・はいっ」

 

 

 

 とある師弟が未来を見据えて笑い合う。

 そんな、ありふれたような日常の一コマ。

 

 

 




次は!ソウエイ回!の、予定!!


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No.7 少女は確かに姉であった。上

お久しぶりです。

さすがにこれは唐突すぎるかなぁ、と書き終わった後も1ヶ月くらい悩んでたんですけど、いい案が思い浮かばなかったのでそのまま投降します。
まぁ二次創作だからってことで許してくださいな。

ちなみに上と下に分かれてます。



 

『いくよ、若サマ』

 

 

 

 そう自信に満ちた声で言う姉の顔が

 

 

 

『楽しかったよ、またやろうね』

 

 

 

 そう言って笑う姉の顔が

 

 

 

『・・・、おう』

 

 

 

 少しの悲しさと多くの喜びをごちゃ混ぜにしたような表情をした若の顔が

 

 

 

 

 

 最近、頭から離れない。

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 弟の様子がおかしい。

 いきなりなんだって思われそうだけど、でも実際そうなのだ。

 具体的に言えば、ぼーっと空中を見つめることが増えた。

 稽古に集中出来てなかったり、人の話を聞いてなくて周りと違う行動をとってしまうなんてことが続いている。

 これはマジで非常事態である。

 だってあの弟だよ?後々のソウエイ様だよ?

 原作では必殺仕事人!って感じだった彼が、まさかのミスを連発しているのだ。

 一体何があったんだか・・・。

 

 

 

「という訳で、相談に来ちゃいました。誰か助けてー」

「なにが『という訳で』だコラ」

「お、なになに?某赤ん坊軍人の真似?」

「は?なにが言いたいんだ」

 

 

 

 通じなかった。悲しい。

 

 

 

「でも、あの蒼髪の彼らしくないというのは最もですわ」

「私も思います!あいつ、この頃は手合わせの最中でも気が抜けていて、正直練習にもなりません!」

「まぁ確かにそうだよなぁ。あんなあいつは初めて見たぜ」

 

 

 

 私が相談相手に選んだ姫様、紫髪ちゃん、若サマがそれぞれ発言する。

 やっぱり、皆おかしいとは思ってたらしい。

 

 

 

「そうなんだよねぇ・・・。弟がなんであんなになったのか、心当たりない?」

「んなのお前のスキル使えば一発だろ。心読めるんだっけか」

「考えたけどやりたくありません。プライバシーの侵害って感じがするし、どうせなら弟の口から聞きたいから」

「ぷらいばしー」

「じゃあ聞けばいいだろ」

「・・・・・・嫌だ」

「なんで」

「無理矢理聞いて嫌われたら辛い」

「あいつそんなんで嫌いになるヤツか?」

「どこに地雷があるかなんてわかんないじゃん」

「姐さんはわからないんですか?あいつが変になった理由」

「わかってたら相談してない」

「・・・確かに」

 

 

 

 そう。姉である私ですら、弟の変化の理由がわからない。

 家族なのに。姉弟なのに。

 

 前世では得られなかった、お互いを想い合い、助け合い、時にはケンカしたりして、一緒に笑ったり泣いたりできる、側にいるだけで安心できるような、そんな存在。

 

 友達とはまた違った、正しく血の繋がった関係。

 

 あいつは、私の弟は、前世で出会ったどの『親』とも『兄弟』とも違った。

 

 初めての家族だった。

 

 力になりたいんだ。

 この世界に転生して、初めて手に入れだ幸ぜを失いたくない。

 家族だと、姉弟なんだと心から思えた存在を、助けたい。

 私なんかに、出来ることがあるなら。

 

 

 

「どうしたらいいかな・・・」

 

 

 

 口から出た声は、私の予想以上に情けないものだった。

 

 

 

 

 

  ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局わからず仕舞いかぁ・・・」

 

 

 

 

 若サマや紫髪ちゃんだけでなく、姫様にもわからなかった。

 「なにも出来なくてごめんなさい」なんて謝られちゃったけど、姫様達はなにも悪くない。

 逆に何度も何度も考えてくれて本当に感謝している。

 そうだ、悪いとすれば。

 

 

 

「やっぱり、私だよなぁ・・・」

 

 

 

 姉なのに、なんの力にもなれない私が悪い。

 弟のことも、知ってるつもりになっていて実はなにも知らなかったのかもしれない。

 私には『転スラ』の原作知識がある。

 この世界の未来を知っている。

 だけど、それだけだ。

 ただそれっぽっちのことを知ってるだけで、弟や皆のことまで知ってる気になってた。

 

 

 

「駄目だなぁ・・・。ホント、バカみたいだ私」

 

 

 

 弟が大変なのに。

 なにもしてやれないことが悔しい。

 

 

 

「・・・あはは、姉失格ってことかなこれは」

 

 

 

 返事が返ってこないことが、こんなに悲しいなんて知らなかった。

 前世じゃ当たり前のことだったのに。

 

 知らないうちに、随分とこの世界に馴染んでいたらしい。

 

 どうしようもないことがぐるぐると頭の中を巡っていく。

 ハロー、前世の私。私は今、弟が悩んでるのを見てるだけしかできない阿呆になっています。なんてね。

 

 

 

「・・・あ」

 

 

 

 カサリ、と音がなる。

 地面の草を踏んだ音。私じゃない誰かが来た音だ。

 

 

 振り返らなくてもわかる。

 だって私達は。

 

 

 

「やっほ。珍しいね、こんなとこに来るなんて」

 

「・・・姉さん」

 

 

 

 ねぇ、たった一人の弟。

 今の私は、貴方のためになにが出来ますか。

 




ちょっと短かった。
代わりに下は長め。


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No.8 少女は確かに姉であった。下

これは上下の下です。
上を読んでない方は前話からどうぞ。


 

 

 

『次の一族の長はお前だ。わかったな』

 

 

 

 そう父親に言われた時

 

 一番始めに心に浮かんだのは、否定の言葉だった。

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 その場は何時になく静かで、自分の呼吸の音だけが響いているように感じた。

 

 

 

「なんだか久し振りにあんたの顔見た気がするよ」

 

 

 

 乗っけから本題になど入れる訳はなく、とりあえず思ったことを口に出してみた。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 返事はなし、か。

 何となくそんな気はしてたけど、やっぱり悲しい。

 弟はさっきからずっと無言で下を見ている。

 私は今あんたの目の前にいるのにね。

 

 

 

「ねぇ、なんか言ってよ。久し振りの会話なんだからさ」

 

 

 

 そしてあわよくば、私に話してほしい。あんたが何に悩んでいるのかを。

 そう心の中で続ける。

 

 暫くの無言。

 

 きっと言ってくれる。そう信じてひたすら待つ。

 辺りはいつの間にか暗くなり初めていて、オレンジ色の光が私達の影を伸ばす。

 

 いつからか、弟が目を合わせなくなった。

 いつからか、喋る機会が減っていった。

 最後にあんたの笑った顔を見たのは何時だったかな?

 覚えてないくらいには前の話だ。

 

 戻りたい。笑ってほしい。

 辛いなら、相談くらい乗らせてくれたっていいじゃない。

 

 私に姉らしいことさせてくれないだろうか。

 

 助けさせてよ、あんたのこと。

 

 

 

 そして弟がゆっくり口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「別に、言いたいことは何もない。・・・先に戻ってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 なにかがプチンと切れた音が、微かに、でも確かに聞こえたんだ。

 

 

 

 

 

 

 そのまま後ろを向く弟。

 一歩を踏み出そうと片足をあげる。

 

 待って、まだ行かないで。

 

 話は終わってないよ。

 

 まだあんたは助かってないでしょ!?

 

 今あんたは、なにを考えている?

 その顔は、今どんな表情を浮かべてる?

 

 

 

 

 

 ━━━きっと、あんたの想像以上にひっどい顔してるよ。

 

 

 

 

 

 

「そこに直れぇっっっ!!!」

 

 

 

 思いのままに勢いよく叫ぶ。

 私の大声が反響して、木々がザワザワと揺れた。

 はは、ここまで叫ぶのは前世を入れても初めてかも。

 弟も目を丸くしてこっち見てるし。

 でも私、これで終わらせる気は毛頭ないので。

 

 

 

「刀持って。手合わせしよう。私が勝ったら質問に答えてね」

「は」

 

 

 

 は、じゃないよ。

 あんたの腰にあるその刀を取れって言ってんの。

 

 

 

「あんた、最近の自分がどれだけ酷いかわかってる?気付いた時にはぼーっとしてるし、修行中も全然集中出来てないし。人の話は聞かないは失敗は増えるは、もう散々だよ。今も凄い顔してるしね。・・・その表情ほんとやめて。気持ち悪いし迷惑」

「なっ」

 

 

 

 嫌われたくない、とか。

 言ってくれるのを待とう、とか。

 もう、どうでもいいや。

 

 

 

「今の状態のままでいられたら、私だけじゃなくて周りの皆にも迷惑だよ。わかってる?」

「・・・っ好きでやってる訳じゃない」

「あ、そう。でもそんなの関係ないよね。剣の修行とかもやる気ないなら止めちゃえば?」

「・・・それ以上は、いくら姉さんでも許さない」

「いいんじゃない?私止める気ないから」

 

 

 

 あんたの意思なんて関係ない。

 

 

 

「ほんとマヌケ面晒しちゃってさ。いつまでバカやってるつもりなの!!!」

 

「ね・・・姉さんに何がわかる!!!」

 

 

 

 勝手に助ける。姉のプライドに懸けて。

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 太陽は沈み、月が少しずつ顔を出す。

 光が刀に反射して地面をキラキラと照らす様はとても綺麗で、何故かいつかの朝に見た光景を思い出した。

 

 

 

「ねぇ、もう終わり?ちょっと情けなさすぎない?」

 

 

 

 そう言って目線を向けた先には、刀を杖がわりにしてしゃがみ、肩で息をしながら私を睨み付ける弟の姿があった。

 

 弟の身体には所々傷があって、私は無傷。

 今までの手合わせがどんなものだったかなんて、言わなくても解るだろう。

 

 ・・・嫌だなぁ、その目。

 前世でよく見た目。私の大っ嫌いな目だ。

 あんたも私にその目を向けるんだね。

 私のこと、本当に嫌いになっちゃったのかな。

 辛いなぁ。もうやめちゃおうかな。

 

 でも、弟が辛いほうが嫌だなんだよなぁ。

 

 なんという矛盾。

 前世であんなにも嫌で嫌で堪らなかったものがあって、それなのにもっと嫌な事ができてしまった。

 それはきっと大切なものが増えた証だ。

 

 そうだ、大切なんだ。

 大嫌いな目を向けられようと、この弟は私の大切なモノだ。

 

 だからまだ頑張れる。助けるまで止まらない。

 

 

 

「あーあ、ねぇ何時まで座ってんのさ。早く立ってよ」

「・・・こんなことに、何の意味がある」

「さぁねー。無いって思ってたら無いんじゃない?少なくとも私には、あんたから話を聞くっていう大事な意味があるけどね」

 

「・・・姉さんなら、スキルを使えばすぐ解るだろう。なんでそうしないんだ?」

 

 

 

 少し間を置いて弟が聞いてきた。

 

 

 

「・・・わからない?結構単純な答えなんだけど」

 

 

 

 現在の私の愛刀である黒い双剣の片方の刃の腹を指でなぞる。

 相変わらず綺麗な刀だ。

 最近は二刀流も大分モノになってきたと思う。

 頑張ったからね、弟がうだうだしてる間にも。

 

 

 

「・・・俺は、姉さんが思ってるほど強くないし、賢くもない」

「・・・」

「だから、姉さんが今なにを考えているかもわからないし、スキルを使わない理由だってわからない」

「・・・」

「こんな手合わせを仕掛けてきた理由も、態々嫌われるような発言をしてる意味も」

 

 

 

「俺はもう、なにもわからない」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーに当たり前なこと言ってんの」

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

「私の考えてることがわからない?そりゃそうだよ。だって私は考えてること何も言葉にしていない」

 

 

 

 少しずつ、弟との間を詰める。

 一歩ずつ、一歩ずつ。

 

 

 

「でも、それはあんたも同じだよね。いつからかよく考えこむようになって、一人辛そうな顔して。あんたが悩んでる理由、私もずっと考えてたけど、結局答えは出なかった」

 

 

 

 あと三歩。

 

 

 

「さっきの質問の答えだけど、それは私にとってあんたが大切な存在だからさ。スキルで結果だけを知るんじゃなくて、あんたの口から、あんたの意思で選んだ言葉で聞きたかった。それが理由」

 

 

 

 あと二歩。

 

 

 

「辛いときは側にいる。道がわからなくなったのならちゃんと教えてあげる。そうして支えあって生きていけるのが、"姉弟"ってモノなんじゃないの?」

 

 

 

 あと、一歩。

 

 

 

「ねぇ、話してよ。私、あんたの言葉が聞きたい」

 

 

 

 さぁ、着いたぞ。

 しゃがんで、目線を合わせて。

 

 その心に、どうか届け。

 

 

 

 

「力になりたいんだ。他の誰でもない、大切な弟のために」

 

 

 

 そして、安心させるように笑った。

 

 

 

 静寂が訪れる。

 でも、最初の時より苦しくない。

 弟の目は嘗てないほどに見開かれていて、ちょっと痛そうだ。

 ・・・目の下、よく見たら隅になってる。

 寝れなかったんだね、辛かったね。

 そんなに悩んだんだ、もうそろそろ楽になってもいい頃だよね。

 

 

 

「・・・一つ、聞いてもいいか」

 

 

 

 静寂を破ったのは弟のほうだった。

 

 

 

「いーよ。答えてあげる」

 

 

「・・・・・・、姉さんにとって、俺はどんな存在なんだ?」

 

 

 

 ・・・何を言い出すかと思えば。

 

 

 

「大切な弟ってだけじゃ足りない?」

「そういうわけじゃ、」

「はいはい。そうだねー、なんて言おうかな」

 

 

 

「んー・・・家族で、負けたくないライバルで、仲間、かな」

 

「ーー!!」

 

 

 

 家族も。

 ライバルも。

 仲間も。

 もちろん、弟も。

 

 前世では、何一つなかった。

 何度だって言おう。

 私は、貴方が大切なんだと。

 

 

 

「・・・俺は、まだ、強くなれる、だろうか」

 

 

 

 本当にちっぽけな声。少しでも邪魔が入っていたら絶対聞こえてなかった。

 でも、ちゃんと聞こえたよ。

 たった一文、ほんの少しだけだけど。

 あんた自身の言葉が。

 

 ポン、と。

 弟の肩を叩く。

 それからちょっと強めに頭を撫でた。

 

 

 

 言葉にしないとわからないって、さっき私は言ったね。

 

 でも、声に出さなくたって伝わる想いってのも、確かにあるのさ。

 

 

 

 

 

 久々に、本当に久々に弟の笑った顔を見た。

 今までとは違う、憑き物が取れたような穏やかな表情だった。

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 それは、劣等感というものだったと思う。

 

 

 

 俺の姉は本当に凄い。

 里一番の剣士である師匠に、スキルありとはいえ唯一勝てる存在。

 いつも修行に真剣に取り組んでいて、常に前を見据えている。

 困っている者がいるとほっとけない、優しい鬼。

 それが俺の姉だ。

 姉さんは俺にとっての憧れで、目標で、でもそれと同時に届かない壁のようにも感じていた。

 

 いくら修行に励んでも、いくら勉強しても。

 何時までも近づく所かどんどん開いていく差に、俺は焦っていたんだろう。

 

 

 

 だからだろうか。

 あの日、早朝に楓の木の下で見た、若と姉さんの600回目の手合わせ。

 あの姉さんに本気を出させ、「楽しかった」とさえ言わせた若に、なにかモヤモヤしたものを感じた。

 

 俺が一族の長になると伝えられた日、はじめに思ったのは「俺なんかでは到底無理だ」ということだった。

 「なんで姉さんじゃないんだ」、とも思った。

 

 

 

 昔、まだ修行をはじめたばかりだった頃、若と二人で立てた「いつか必ず姉弟子を超える」という誓いは、今だって忘れた訳じゃない。

 

 けれど、何時までも背中の見えない姉と、強くなっていることが目に見えてわかる若を見て、とにかく不安になったんだ。

 

 

 

 俺では一生姉に追い付けないのではないか、それどころか若にも置いていかれてしまうのではないか、と。

 

 

 

 姉さんにはこんなこと話せるわけがなかった。

 自分の弱さを見せたくなかった。

 貴女の弟はこんなにも弱いだなんて、知ってほしくなかった。

 

 

 

 だけど。

 

 

 

 

『辛い時は側にいる。道がわからなくなったのならちゃんと教えてあげる。そうして支えあって生きていけるのが、"姉弟"ってモノなんじゃないの?』

 

 

『力になりたいんだ。他の誰でもない、大切な弟のために』

 

 

『んー・・・家族で、負けたくないライバルで、仲間、かな』

 

 

 

 

 なぁ、姉さん。

 

 俺はまだ、諦める必要はないのだろうか。

 頑張れば貴女の隣に立てるようになれるって、信じていてもいいのだろうか。

 

 

 

 

 姉さんが俺の力になりたいと言ってくれたように。

 

 俺も、何より大切な貴女の力になりたいから。

 

 

 

 




次から話が進んでいきます。
とりあえずまずはアイツを出さねば。


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No.9 少女は弟と約束する。

お久しぶりです。

前回あとがきで「まずはあやつをださねば」的なことをいったと思うんですけど、

いやね、嘘じゃないです。ちゃんといます。

二言分だけ。


今回復活要素入れられなかったな・・・。
あと糞短い。過去最短の可能性あり。



 

 物語の“開幕のベル”とでも呼べるだろう出来事は

 

 

 

「よし、お前らには特別にこの上位魔人ゲルミュッド様が名前を付けてやろう!」

 

「いらないからとりあえず帰れ」

 

「なんだと!?」

 

 

 

 驚くほどあっという間に過ぎていった。

 まるで何事もなかったかのように。

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 最近、ようやく若サマが師匠に勝てるようになった。

 弟も結構いい線いってるし、あとひと越えってところかな。

 紫髪ちゃんはもう少しかかりそうだけど、元々センスのある子だし、なにより後のシオンだし特に心配はしてない。

 姫様も妖術の精度がどんどんあがっている。

 私も遂にスキル抜きで師匠に勝った。

 頑張って覚えた技術(アーツ)が師匠に通用するレベルにできたのが凄く嬉しい。

 師匠の強さは相変わらず、勝てるようになったとはいえ毎回毎回苦戦させられている。

 黒好きおじさんが造ってくれた刀は今日も絶好調。

 

 いい調子、いい雰囲気である。

 

 今日もいつもと同じように修行をおえて、弟と二人帰り道を歩いていた。

 修行を始めたばっかのころは終わってすぐには立ち上がれずに地面と同化してたのが、今では疲れはしても倒れることはない。

 成長。そう、私達はちゃんと成長している。

 だから、だから多分きっと大丈夫、大丈夫だよね。

 いくら私というイレギュラーがいたって、

 

 

 

「・・・姉さん?」

「!?っ、何?」

「・・・別に、なにもない」

「あ、そう」

「けど」

「?」

 

「・・・なにか、悩んでるだろ」

 

 

 

 ・・・あっちゃあ。やってしまった。

 顔には出さないようにしてたつもりだったんだけどな。

 いや、実際若サマや師匠には何も言われなかった。

 てことは、弟にバレたのは一重に姉弟だからってことなのかな。

 

 

 

「別に大したことじゃないんだけどね」

 

「・・・なんかさ、嫌な予感がするんだ」

 

 

 ごめんね、全部は言えない。

 『もうすぐ豚頭帝(オークロード)の加護を受けたオークの軍勢がこの里に襲い掛かってくる』だなんて、信じて貰えないだろうし何より証拠もない。

 原作知識でいつか起こるってことは知ってたし、その日が来ても対応出来るように、今まで修行もサボらずやってきた。

 そして私達は強くなった。

 原作では若サマ逹6人はちゃんと生き残っているし、私だって自信はあるし、だからその日がいつ来ても大丈夫だと今でも思ってる。

 

 

 

 ただ、その日の存在を目の前に突きつけられてビビってるだけで。

 

 

 

 だってよく考えて見て欲しい。

 私は今まで命のやりとりは一度もしたことがないのだ。

 冒険者に狙われたことはあった、けどあの時は相手が格下だったから特になんともなかった。

 けど今回ははじめから負けるのがわかっているのだ。

 『飢餓者(ウエルモノ)』により強化されたオークは一体どれ程の強さなのだろう。

 原作では鬼人族(キジン)となった皆にコテンパンにされてることからあまり強そうには見えなかったけど、オーガより強かったから里が壊滅したわけで。

 そして今の私は当然ながら鬼人(キジン)ではない。

 本当に生き残れるだろうか。

 弟は、若サマや皆は死んだりしないだろうか。

 例え大丈夫だと思っていても、ただただそれが怖いのだ。

 

 

 

「私達は確かに強くなった、けどもし強くなった私達でも勝てない相手がでてきたらその時はどうしようもないでしょ。・・・なんかねー、うん、よくわかんないけど」

 

「その“もしも”がすっごく怖くなっちゃってさ」

 

 

 

 一先ず今言えることだけを口にする。

 弟は真剣な表情で私を見ていた。

 多分10人が聞いたら10人が『気にしすぎ』とか『んなことになるわけない』って言われるだろう内容なのに、バカにしたりせず、静かに聞いてくれている。

 ・・・そういえば、二年前くらいにも同じようなことがあったな。

 今と立場は逆だったけど。

 なんだか懐かしい気持ちになって、少しだけ気持ちが楽になった。

 

 

 

「・・・俺はまだ、姉さんより弱い」

「?うん、まぁ確かにそうだね」

「俺の目標は姉さんを追い越すことでだ。だから、今すぐは無理でも、」

 

「その時が来たら、俺が姉さんを守るから」

 

 

 

 だから“もしも”の心配など必要ない、と弟ははっきりと言った。

 

 

 

 ・・・なにか勘違いされてる感じが半端ないぞ?

 もしかして自分が死ぬのが怖くて、みたいな感じに思ってないか?

 いや確かに死ぬのは怖いけどね?でも私一度既に死んでるので。

 そうじゃなくて、貴方逹が死ぬのが怖いんだけどなぁ。

 

 ・・・ふふ、でもそっか、『俺が姉さんを守る』か。

 ヤバイ、私の弟マジかっこいい。

 

 

 

「ん、ありがと。・・・じゃあ、私も約束するね」

「?」

 

 

 

「もしあんたが絶体絶命のピンチに陥ってどうしようもなくなったときは、私が絶対に助けに行くから」

 

 

 

 そうだ、弟も、若サマも、姫様も、紫髪ちゃんも、師匠も、皆みんな。

 私が死なせない。

 生きて、また皆で笑おう。

 

 

 

「わざわざ私に助けられたりしないように、頑張ってね」

 

 

 

 

 

 

 そして平穏は終わりを告げる。

 物語の開演はもう目の前だ。

 

 

 




次、どう頑張っても戦闘シーン書かなあかんやつだよな・・・。
なるべくはやく投降できるようにします。
はやく原作突入したい。
せっかくアニメ化も決まったことだしね!


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No.10 少女は世界の残酷さを知る。上

お久しぶりです。やっと書けた・・・!

かなりの難産でした。

上中下の上です。



どうでもいいけど転スラのアニメの作画がちょっとイメージと違った。





 

騒音が聞こえる。

 

あれは大量のオーク供の足音だ。

 

あれはやられたオーガ達の絶叫だ。

 

あれはオークを率いるピエロの嗤い声だ。

 

 

それは、開演を待ちわびた観客の拍手に似ていて。

 

 

 

 

『さぁ、君の運命はどんな未来を紡ぐのかな?』

 

 

 

 

一体、誰の声だったか、決して思い出せやしないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

その日はたまたま修行が休みの日で、私は姫様と紫髪ちゃんと遊んでいた。

 

その日が来る、というのはとっくの昔にわかっていて、その日を迎える覚悟も出来てて。

だから、普段は聞こえないはずの音がしても、私は驚かなかった。

 

里の中心に設置された高台の鐘の音。

それは、紛れも無い「敵襲」の合図だ。

 

 

 

「敵襲〜!!オークの大群が押し寄せてくるぞ!!!」

 

 

 

遂に、来た。

最近は肌身離さず持っていた双剣に手をかけ周囲を見回す。

 

 

 

「て、敵襲??」

「オークって、確かオーガよりランクは下、ですよね?」

「そのはずだけど・・・」

「もしかして、やられに来たんですかね?姐さんの言うMってやつですか?」

「わからないわ。でも、何の勝算もなく大群で押し寄せて来るものかしら?」

 

 

 

二人とも混乱してるね。

出来るだけ早く逃してあげたいけど、さて・・・。

 

 

 

「私は里の様子を見てきます。だから二人は安全な所へ避難を」

「何を言っているのですか!?私はオーガの姫です、今こそ前線でのその責務を果たす時で」

「姫様だから、だよ。万が一のことがあった時、姫様にまで何かあったら困るからね。・・・私達オーガのこれからのために、姫様は逃げるんだ」

「・・・」

 

 

 

納得はできずとも理解はしたらしい姫様に笑いかけ、最後に紫髪ちゃんに「姫様をちゃんと守ってあげてね。 大丈夫だって信じてるから」とだけ言ってその場を駆け出した。

 

後ろから「姐さんも気をつけてー!」と叫ぶ声がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

走る。

 

いつの間にか村に火を放たれたらしく、周りはひたすら真っ赤である。

 

空気が重い。予想以上にオークの数がが多くてなかなか前に進めない・・・。

 

弟は、師匠は、若サマはどこ?

早く見つけて逃げなきゃ。

絶対守るって決めたんだから・・・!

 

オーク供に見つからないように身を隠しながら進む。

 

 

「父ちゃんを離せ!!!」

 

 

 

知ってる声だった。

 

声のした方を見る。

 

 

 

黒い髪。白い二本の短い角。少しくたびれた様に見えるおじさん顔。

 

後の黒兵衛だ。彼が大きなハンマーの様なものを構えている。

 

 

「なにをしてるべさ!早く、にげろ・・・!!」

 

 

 

てことは・・・あのオークに捕まってるのは・・・

 

 

 

 

 

 

『ほ~っ。目標高くていいんでねぇべか。これからも頑張れよ!で、今日の依頼はなんだべ?』

 

 

 

 

 

黒好きのおじさんだ・・・!!

 

 

 

助けに行こう、と思った。

そして、足を踏み出そうとして。

 

 

 

 

 

 

 

思い出しちゃったんだ。

 

 

 

黒好きのおじさんは助けられないってこと。

 

 

 

 

 

 

 

黒好きのおじさんなんてキャラ、原作には出てこない。

てことは、原作で彼はここで死ぬことになってるってわけで。

 

目の前が真っ暗になった気がした。

 

 

 

どうして、大丈夫だなんて思ってたんだろう。

 

みんなは私が守る?またみんなで笑おうって?

 

 

 

 

 

そのみんなは、一体誰だ。

 

 

 

 

 

弟だ。若サマだ。姫様だ。紫髪ちゃんだ。師匠だ。クロベエだ。

 

 

 

 

 

それ以外のことは、全く考えてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『原作知識=最善』だなんて、一体誰が言ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒好きのおじさんを助けに行ったら、原作通りに進むことはなくなるかもしれない。

原作で助かるみんなも死んじゃう可能性が出てくる?

でも、じゃあ、わたしは、おじさんを見殺しにするのか?

私の刀を作ってくれたんだ、私に笑いかけてくれたんだ。

そんな彼を、見捨ててーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ーーー父ちゃん!!!死ぬな!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー時雨蒼燕流、攻式三の型。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・遣らずの雨!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立ち止まってた所からの、一歩。

やっぱり、見捨てられない。

見捨てたくない。

せっかく手に入れた第2の人生。

誰もが認めるハッピーエンドを目指したっていいじゃないか。

原作?いいや、私が目指したいのは、原作以上。

 

 

より良い未来を、寄越せ。

 

 

 

涙を溜めた目を見開いた後のクロベエを尻目に飛び出した。

先程放った刀は、おじさんを捕まえていたオークの左肩を貫いた。

さらにそこから首を狙ってもう一本の刀を構える。

 

 

 

「ああああああぁあぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

 

 

時雨蒼燕流 攻式八の型 篠突く雨!!!

 

 

 

懐に飛び込み、一気に切り裂く。

血を流しながら、オークは倒れた。

その際に捕まえていた黒好きおじさんを手放して。

 

 

 

 

『君なら、きっとそうすると思ってたよ。流石、僕が選んだ子だ』

 

 

 

 

 

『けど・・・ごめんね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いくら僕でも、運命を変えることは不可能だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

取り戻したおじさんには、右の手足が無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これが運命。これが定めだ。でも、敢えて言うならーーー君は少し、遅すぎた』

 

 

 

 

 




中に続く!


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No.11 少女は世界の残酷さを知る。中


上中下の中です。
上からお読み下さい。


 

 

 

 

真っ赤に燃える里。

 

暴れ回るオークの群れ。

 

高笑いを残すピエロの男。

 

 

 

いつもそばにいてくれた姉さんは、今はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

俺は、以前姉さんから教えてもらった人気のない広場で一人修行をしていた。

今日は何時もの稽古は休みで、姉さんは姫様の元に遊びに行った。

そこに響いたのは、敵襲を知らせる鐘の音。

 

どうやらやってきたのはオークの群れらしい。

オークといえば、俺たちオーガよりランクは下だ。

確か、D。

昔姉さんがBランクの人間を倒したと言っていたし、オークくらいなら群れでも対処できるだろう。

折角の機会だ、おれの今の実力を試させて貰おう。

そう意気込んで、聞こえてきた騒ぎ声の方に向かって走り出した。

 

 

 

ーーーそこが既に地獄と化しているとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

『逃げろ!!!』

 

 

 

親父はそう言って前を向いた。

目線の先には、他のオーガ供より明らかに強い力を持ったオークと怒った仮面をつけた男がいた。

 

オーク供が攻めてきて、最初は俺たちオーガが圧倒してたけど、オーガ側から初めて犠牲が出た時から戦況が変わった。

さっきまでへなちょこだった奴らが急に強くなって。

 

もう、目の前で何人も殺された。

何人も喰われた。

中には俺の知ってる奴もいて。

 

怖かった。

何時も修行の時にはできてることが、この肝心な時に出来なくて。

爺と親父が居なかったら、きっと俺も既に死んでいたに違いない。

 

 

 

その親父も、たった今やられて喰われてしまったけれど。

 

 

 

爺を連れて逃げる。

振り返っていては追いつかれてしまう。

だからとにかく走る。走る。

辺り一面血と炎で真っ赤に染まり、既に元の里は跡形もない。

 

 

 

悔しい。俺の実力が足りないことが。

悔しい。俺のせいで親父が死んだことが。

悔しい。弱いはずのオークなんかにやられたことが。

 

 

 

悔しい、悔しい、悔しい・・・!!!

 

 

 

「・・・若、心中お察しします。しかし、今は逃げなければ。敵討ちも、里の再建も、生きてなければ出来ませぬ」

「・・・っわかってる」

 

 

 

爺に心配されてしまうことすら、悔しい。

 

 

 

俺は、心の中でオーク供への復讐を誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「そんな・・・」

 

 

 

どちらともなく声が出た。

 

姐さんに言われた通り、姫様を連れて丘の上に逃げた。

安全だという確証もあったが、丘の上なら戦いの全貌が見えると思ったからだ。

そして実際、戦いの様子はよく見えた。いや、見えてしまった。

だって相手はオークだ。格下だ。

そんな奴らに、私達オーガがやられるなんて、想像できるはずもなくて。

 

 

 

見えたのは、オーク供の一方的な虐殺劇。

 

 

「そんな・・・なんで・・・」

 

 

 

姫様の声が震えている。

かくいう私も、きっと酷い顔をしているに違いなくて。

 

あの中で姐さんが戦っていることを思い出して、無性に怖くなった。

 

 

 

どうか。

どうか生きて帰ってきて。姐さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

オーク供の追撃をなんとか振り切って、俺はその場に倒れる様に座り込んだ。

 

何が対処できるだろうだ。

オークがこんなに強いだなんて、聞いてない。

 

 

 

途中で父達とも合流して騒ぎの中心に着いた時にはすでに手遅れだった。

オーガの死体に群がっていたオーク供が一斉にこっちを向く。

そのギラついた目が気持ち悪くて、 後退んだ瞬間オーガ供は一斉に襲いかかってきた。

 

オークを、必死で何体か倒して。

その間に、倒した何倍ものオーガがやられた。

父もやられて、もう無理だと悟って、それからはひたすら逃げてきた。

そして、今に至る。

 

 

思い出しただけで身体が震える。

脚はガタついて、もう動かせそうにない。

強くなったと思っていた。

最近は師匠ともいい勝負が出来るようになって、姉さんにも褒められた。

だから、大丈夫だって思ってたのに・・・!!

 

 

カサリ、と音がして。

振り返ると、オークがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、ここまでか。

すまない、姉さん。

その時が来たら、俺が姉さんを守るって言ったのに。

守れそうに、ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諦めないで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声がした。

ちょうど俺が頭に浮かべていた声。

 

そして。

 

 

 

 

 

今にも俺を殺そうとしていたオークが倒れて、

 

代わりに血まみれの姉さんが立っていた。

 

 

 

 

 

「言ったでしょ。私が絶対助けに行くって」

 

 

 

 

 

 





下に続く!


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No.12 少女は世界の残酷さを知る。下


上中下の下です。
上からお読みください。


 

 

 

 

 

前を向け。

 

これが現実だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「お、じ・・・さん・・・?」

 

 

 

信じられなかった。否、信じたくなかった。

 

 

 

より良い未来が欲しくて、だから原作を無視して飛び出した。

なのに、助けた時には既に手遅れだなんて。

黒好きのおじさんからは、右の手足が無くなっていた。

 

 

 

「父ちゃん!!」

 

 

 

後のクロベエがおじさんに駆け寄る。

その声に反応して、おじさんはノロノロと瞼を開けた。

 

 

 

「父ちゃん、死ぬんじゃねぇべ、今すぐ安全な所にっ」

「だめだ」

 

 

 

弱々しく、でもはっきりと。

おじさんは拒絶の声を出す。

 

 

 

「おいらはもう手遅れだべ。だから、お前らだけで行け」

 

 

 

その目には強い意志が宿っている様に見えた。

だから、ああ、もう無理なんだなぁって、

理解してしまった。

 

未だ泣きわめくクロベエを無理やり担ぐ。

年齢差もあるしちょっと重いけど、これなら行けなくもない。

 

おじさんを見る。

おじさんも私を見て、優しく笑った。

 

 

 

「すまねぇ、息子を、よろしく頼むべ・・・」

 

 

 

「・・・はい」

 

 

 

 

 

今まで、有り難うございました。おじさん。

 

 

 

 

 

泣きたかった。でも、おじさんに涙を見せたくなくて。

 

 

 

叫びたかった。でも、オークに見つかるわけにはいかなくて。

 

 

 

クロベエを担いだまま、その場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さようなら。どうか、安らかに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

どれだけ進んだだろう。

喧騒が大分遠くなったあたりで、私は後のクロベエを地面に降ろした。

 

 

 

「あなたはこのまま逃げて」

「あ、あんたは、これからどうするんだべ・・・?」

 

 

 

戸惑ったように問いかけて来た。

 

 

 

「戦場に戻ります。まだ助けられる命があるかもしれない」

 

 

 

「な、なに言ってるんだべや!?今から戻ったって危ないだけだべ!!死ぬ、絶対死ぬべよ!?」

「うん、そうかも。・・・でも、じっとしてられない」

 

 

 

ごめんなさい、あなたは逃げて。

そう言って、彼の静止を振り切ってもう一度走り出した。

 

おじさんは助けられなかったけど。

他に助けられる者がいるなら助けたい。

 

原作以上を目指すって、決めたんだ。

立ち止まるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

戻ってきて本当に良かった。

あのままクロベエと逃げてたら弟を助けられなかったかもしれないなんて、考えただけでもゾッとする。

 

あのまま戦場に向けて走って、相対したオークから逃げて、切り捨てて、たまたま逃げる弟を見つけた。

そのまま弟を追いかけて、別の方向から弟に向かうオークを見つけて、急いで倒した。

 

目を見開いて驚く弟はきっと、もう駄目だ、なんて考えていたに違いなくて。

 

 

 

「ごめんね、遅くなった」

「姉さん・・・」

 

 

 

座り込んでいる弟に手を伸ばす。

弟は辛そうながらもちゃんと握り返してくれた。

 

 

 

生きてる。

弟は、ちゃんと生きてる。

 

 

 

その事実に、涙が出てきた。

 

 

 

「!ね、姉さん怪我がいたむのか?」

「っちがう、これ返り血だから、酷い怪我はしてない、たぶん」

 

 

 

それよりあんたの方が重症だよ。

そう言って私は弟を抱きしめた。

弟はびっくりした様な声を出して、でもゆっくり抱きしめ返してくれた。

 

 

 

 

 

私達は、少しだけ、声を出さずに泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

丘の上に着くと、そこには姫様と紫髪ちゃん、若サマに師匠、そして後のクロベエがいた。

 

よかった・・・ちゃんと、生きてる。

そう思っているのもつかの間、姫様と紫髪ちゃんの盛大なタックルを受けて倒れ込んだ。

 

 

 

「おおっとぉ!?」

「姉さん!?」

 

「よかった・・・生きてる・・・!!」

「心配したんですからね、姐さん!!!」

 

 

 

女の子二人の涙を受けて、私もまた泣きそうになった。

でもグッと堪えて二人を抱きしめ返す。

 

そのまま顔を上げた。

里の炎はいつのまにか消えていた。

 

オークの死体と、それ以上のオーガの死体と、それに群がるオーク供。

 

あれは、つい数時間前までは生きていた命だ。

 

助けられなかったみんなを、私は見つめ続けた。

 

 

 

 

 

「この仇は必ず取る」そう若サマは言った。

「どこまでもお供します」と師匠が言った。

「私も、もう見てるだけなのは嫌です!一緒に戦います!」と姫様が言った。

 

 

 

 

 

その日、私達の心は、きっと今まで以上に一つになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これから先、君の未来はどうなっていくんだろうね?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空は、憎たらしいほど綺麗な夕焼けで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





あと1話、番外編を挟んで次の章に行きます。
ようやくあの方が出てくる・・・!?


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幕間 どれもこれも結局は歯車の一つ

珍しく早めの投稿です!
いや、もうすぐずっと書きたかったシーンに行くと思うと居ても立っても居られなくてですね。

ついにあの方初登場!あとオリキャラでます注意!


 

 

 

 

 

 

 

 

ぐるぐる、ぐるぐる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「ほっほっほ、というわけでオーガの群れはちゃーんと潰しましたよ!」

 

 

 

そう、怒った仮面の胡散臭い男ーーー中庸道化連の一人、“怒った道化(アングリーピエロ)”のフットマンは心底愉快であるかのように言った。

 

その視線の先にいるのは、彼の仲間であり友人でもある魔王の部下である魔人ゲルミュッド。

ゲルミュッドはその報告を聞いてさも当たり前であると言った様子で頷いた。

 

 

 

(オーガ供はこの俺様を馬鹿にしてくれやがったからな・・・当然の報いだ)

 

 

 

本来ならすぐにオーガの里を襲撃する必要はなかった。

だがしかし、名付けを断られプライドを傷つけられたと感じたゲルミュッドは、すぐにでもオーガ供を叩き潰さなければ気が済まなかったのだ。

だが、予定に無かった行動を取ったからといって、今のところ計画に支障はない。

予想外に早く“暴風竜”ヴェルドラの封印が解けたせいで一度予定が狂ってしまったが、今やゲルミュッドの手の内には絶対の自信となる切り札が存在しているのだ。

 

それは、豚頭帝(オークロード)の存在。

 

世に混乱をもたらす最悪の魔物。コイツさえいれば、計画に失敗はない。

そうゲルミュッドは信じて疑わない。

自らが巻いた種子をオークロードに回収させ、自らに従順な魔王を作る。

それがゲルミュッドの目的だ。

元は彼の仕える魔王より命じられたことではあるが、この計画が成功すれば、ゲルミュッドは遂に支配者の側に立つことが出来るのだ。

 

そして、その計画ももうすぐ仕上げの段階に入る。

自分の野望が叶うのも、もうすぐ。

 

ゲルミュッドは嗤った。

自分が魔王となったオークロードを従えているところを想像して。

いつまでも。いつまでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(そう、そうやって最後まで()()()()()いればいいのですよ。おっほっほっほ・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

『最後のお願いだーーー私を、君の中で眠らせてくれないかい?』

 

 

 

そう俺に言った彼女の望みを叶え、更に彼女の目標と幼い頃の姿を引き継いだ俺は、今現在俺専用の簡易テントの中で、俺の分身を人化させて色々な実験を行なっていた。

男型にしたり、女型にしたり、太らせたり年をとらせたり。

実験とは言ったが、これがなかなか面白い。

息子が完全に居なくなってしまったことだけが少し、いやかなり残念だが、そもそもスライムに生殖機能など存在しないのだからそこは諦めるしかない。

 

 

 

(にしても今更だけど、魂だけで世界超えてきたとか、凄い話だよな。まぁ自分のことなんだけど・・・なんか漫画の世界みたいだな)

 

 

 

ふとそんなことを思った。

世界を渡ったことだけではない。

ドラゴンと友達になったことも、ゴブリンや牙狼族を従えたことも、炎の巨人と戦ったことも、魔法だのスキルだの魔物だの魔王だの、その全てがなんだか二次元めいている。

俺は前世では大人の嗜みとして漫画やアニメの類はよく見ていたが、そのどれにも負けないレベルのファンタジーっぷりである。

でもどうしようもなくこれが現実なんだよなぁ・・・現実は小説より奇なりってのはこういうことか。

と、そこまで考えてちょっといいことを思いついた。

今の人化した俺の身体は、色白で髪が青みがかった銀髪の少女よりの見た目をしている。

これをこう、髪を伸ばして、前髪の分け目を変えて勝気な表情をさせて、『大賢者』に今作らせた小さな三角形の髪留めを装着させれば・・・。

うん、ちょっとコスプレめいてるけど似てる!何に似てるかって、俺が死ぬ前日にちょうど読んでた漫画に出てくる敵役のキャラクターに。

目の色も変えられたらよかったんだけど、流石にそこまでは無理か。

そういえば、あの漫画って高校時代の友達に勧められて読んだんだけど、案外面白かったよな。

死んじゃったせいで最後まで読みきれなかったけど・・・思い出したら続きが読みたくなってきた。無理だけど。

まぁいい、いつか会うだろう異世界人がもし知ってるようなら教えて貰うか。

『大賢者』にかかれば、紙さえあれば記憶を頼りに漫画用意できるらしいし。

一つこれからの楽しみが増えたな。

調子に乗って、コスプレもどきをさせた分身に、俺が覚えてるセリフを喋らせてみた。

 

 

 

「なはーんだ、ちびっこばっかりじゃない。こんなのぜ〜〜んぶブルーベル一人で殺せちゃうもんね!」

 

 

 

・・・この演技力の無さは、喋ったのが分身だからだと信じたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

イングラシア王国にある自由組合の本部。

そこに、一人の少女がいた。

金髪のボブカットの髪に赤い目の、大体15歳位に見える見た目をしている。

その少女は、ぼんやりとした表情で外を見つめていた。

 

 

 

(なんだか、胸の奥が熱い・・・()()()で何かあったかな?)

 

 

 

少女は転生者だ。

しかし、少女は前世の記憶を持っていなかった。

持っているのは、自分がこの世界に転生させられた理由と、何故かずっと心に燻っている、言いようのない憎しみの感情だけ。

なぜ、自分はこんなに人間が憎いのか、それは彼女自身にすらわからない。

しかし、これが自分なのだと受け入れることができた今は、特に重要なことではなかった。

重要なのは今自分がとある少年の元で生きている、という事実。

この憎しみの感情があったから、彼と仲良くなれた。

そして、この感情も己の力も全て、彼のために使うと決めた。

たとえそれが自分がこの世界に来た理由に反するものだったとしても。

自分を救ってくれた少年の役に立つために。

彼女にとって、少年以上に大切なものなど存在していないのだから。

 

 

 

(まぁ、なんだっていいか。()()()がどうなろうと、私は私だ)

 

 

 

 

 

「おーい、ちょっといいかい?話したいことがあるんだけど」

 

 

 

「うん!今行くね、ユウキくん」

 

 

 

 

 

胸の熱さは気にしないことにして、少女は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さぁ、世界を動かそう。

 

 

 

 

 

 

 




次から新章突入です!ひゃっほい!







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第2章 森の騒乱編
No.13 少女は「はじめまして」を口にする。


お久しぶりです。
大分前話から間が開いてしまいましただ、エタるつもりはないので気長に待っててくださると嬉しいです・・・

アニメ化2期決定おめでとうございます!!!




小説版の内容がだいぶweb版と違う展開になっててハラハラする・・・次の巻が待ちきれないぜっ


 

 

風によって水色の髪が静かに靡く。

 

 

 

 そこには、ゴブリンや嵐牙狼族といった魔物達を従え、仮面を着けた少女───否、人間に擬態したスライムが此方を警戒するように立っていた。

 

 

 

 

 

 あぁ、やっと会えた。

 

 

 

 

 

 はじめまして、リムル様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 あの日から10日が経過した。

 

 あの惨状によってできた身体の怪我や心の傷がまだ治りきってない中、若サマがこのまま止まっている訳にはいかないと立ち上がったのが8日前。

 あれから私達は若サマの指示のもと、北西の方角に向かって進んでいた。

 北西と言えば、オークの王国オービックの反対側。具体的に何があるというわけではないがオーク共にリベンジするにはまだ早い、という判断の様だった。

 昔の若サマなら、形振り構わずオーク共の元に突撃しに行ってたんだろうなぁと思うと、こんなときでも何だか嬉しい。

 そんなこんなで私達は皆で支えあいながら、復讐のための力を蓄えるべくジュラの森を進んでいた。

 

 10日経った今でも怪我は完全には治ってないし、皆の服や鎧はボロボロだ。

 あの日から3日の間よりはマシにはなったが、精神的なダメージもまだ治りきってない。

 私も未だにあの日のこと、助けられなかった黒好きのおじさんのことを夢にみる。

 

 悲しかった。辛かった。

 

 悔しかった。

 

 けど、どんなに悩んだってあの日は戻ってこない。

 なら前を向くしかないんだ。

 前を向いて生きなきゃいけないんだ。

 きっとそれが生き残った私達の使命であると信じて。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで森を進む私達。

 そろそろお腹空いてきたなーとか言いたいけどあの日以来ちょいと空気悪くてな?

 自分以上に落ち込んでる皆を見てると逆に冷静になるって言うか、さすがに10日も経ったんだしそろそろ元の皆に戻ったらどーかなー?なんて思うんだけどなー。

 黒好きおじさんの息子さんとかあの日以来殆ど黙りだしね。

 大事な人が死んで辛いのはよくわかるけど、私もとっても辛いけど、ずーっとこのままの空気ってのもちょとねぇ・・・。

 なにか重い空気がバーって出ていってしまうような出来事があったらいいんだけど。

 私じゃ何も出来ないしなぁ・・・精々弟のほっぺつついたり若サマの髪引っ張ったりくらいよ?これ以上空気明るくは出来ないよ?

 てか前世がほぼずーっと暗い空気の中生きてきたもので空気を明るくする方法なんて知らんでな!!

 あー辛いわーちょっと前までは皆で笑い合えてたのになーオーク共絶対許さん。

 というか本当に腹減ったんだけど?え、言っていいかなお腹空いたって言っていいかな全く言える空気じゃないけど言っても許されますかータスケテー!?

 

 

 

「止まれ!」

 

 

 

 色々考えてるうちに師匠が急に叫んだ。え、何事?

 

 

 

「何か近づいてきております」

 

 

 

 何かが近づいて・・・あ、ほんとだなんか集団でいる。なんだろ、集団ってことはここらに住んでる魔物達なんだろうけど、あ、来たし。

 近くの茂みがワサワサと動き中から現れたのは───ゴブリンと牙狼族の集団。

 ・・・は?ゴブリンと牙狼族?自分で言ってて意味わからんぞ?牙狼族って確か少し前入手した情報じゃゴブリン狙ってなかったか?なんかただの牙狼族より強そうだし。ゴブリンもただのゴブリンより知性が見える。え、どーゆーこと?

 てか待って、ゴブリンと牙狼族の組み合わせなんか覚えがあるぞ、いや違うあれは牙狼じゃなくて嵐牙狼族、嵐って言葉めっちゃビビっと来るものあるな、こいつらもしかして、もしかしなくても、

 

 

 

「なんでオーガがこんなところに・・・」

「何者だ。何故ゴブリンと牙狼族が共に行動している?」

「・・・俺の"名"はリグル。リムル様の僕だ。牙狼族達は俺達の仲間だ」

 

 

 

 ほらやっぱりー!!!リムルって、リムルって言った!!!

 そういやすっかり忘れてたけどオークにやられてから数日でオーガってリムル様と合流するんだね!!

 

 

 

 私、この世界に転生して約二十数年。

 ようやく主人公に会えるようです。

 

 

 

 とか感動してたらいつの間にか戦闘になってた。ちょっと待ってー。

 ・・・どうでもいいけどお腹空いた!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 弱い。

 いやまぁ仕方ないけどな?ちょっとは進化したとは言えゴブリンと牙狼族にオーガが負けるはずもないし。

 でも予想よりは強かったかな?特に最初に名乗ってたリグル君と弟が相手してるランガ君。あと師匠になんとか食らい付いてるゴブタ君。もうすぐ終わりそうたけど。

 とりあえず最後に気絶させたゴブリンを木にもたれさせておく。敵じゃないの知ってるし、これくらいいいよね。

 そう、敵じゃないの知ってるから戦う理由もないんだけどねー、今のピリピリした皆に水を差すようなこと言えなくて・・・。

 今も若サマと姫様が話しこんでるし・・・あのオーク共となにか関係が?って聞こえる。ないよありませんよ。

 早めに否定しておかないと面倒くさそう。空気がどうのとか言ってる場合じゃなさそうだな、仕方ない。

 

 

 

「あー、若サマ、姫様?ちょっといい?」

「なんだ」

「このゴブリンと牙狼族達なんですけど」

「何か視えたか?」

「まぁ。取り敢えず結論から言うと──」

 

 

 

 ガサッと音がした。

 音の方を振り向く。

 

 水色の髪に、不思議な模様のお面。

 大体人間で10歳くらいの身長。

 そこにいたのは、紛れもなく。

 

 

 

 

 

 ・・・来ちゃったよ、リムル様。

 

 

 

 

 

 間違いなく、原作主人公リムル様ご本人だった。

 しかしこのタイミングかー。ここで会うって覚えてればよかったな・・・。そしたらもっといい出会い方が出来たかも知れないのに。今さら言っても仕方ないけど。

 リムル様は近くで騒いでたゴブタ君に回復薬をぶっかけた後、ランガ君とリグル君に戦うのを止めるよう伝えた。

 それはいい。リムル様優しいし強いし、何より敵じゃない。

 敵じゃない、だからね、

 

 

 

 

「なんという邪悪な魔物でしょう!?皆の者、気を付けるのです!」

 

 

 

 だからね・・・

 

 

 

「おいおい、ちょっと待て。俺が、邪悪な魔物だと?」

「しばらっくれるつもりか?そこの邪悪な者達を使役するなど、普通の人間に出来る芸当ではあるまい。見た目を誤魔化し、妖気も抑えているようだが、甘いわ!!我らを騙せると思ったか!?」

「姫様の目は欺けぬぞ、正体を現すがいい!」

「黒幕から出向いてくれるとは、好都合というもの。この少人数ならば、我等にも勝機はある」

 

 

 

 ・・・・・・。

 

 

 

 リムル様は敵じゃなーいよー。

 戦う必要はなーいよー。

 

 

 

 ・・・・・・。

 

 

 

 もういっか、放置で。

 終わるまで木の上で待ってよ。

 

 あぁ、お腹すいたなぁ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 リムル様は絶対大空だよね。だって大魔王だし。リムル様だし。なんたってリムル様だし。

 若サマは赤いし嵐かなぁ。リムル様の右腕ポジになるから。性格もぽいよね。

 弟は・・・なんだろ。色的に考えると霧なんだけど、別に幻覚使えないし。でも分身ってある意味有幻覚ぽい?いや、分身は霧より雲のが合ってる気がする。雲の特性は増殖だし。

 紫髪ちゃんは雷かなぁ。なんとなく。原作だと最後のほう一撃の威力ヤバイことになってたはず、だよね、たしか。

 姫様は妖術とか使うから霧だと思う。というか霧以外の姫様が想像つかん。

 師匠は・・・え、なんだろ?あ、雨・・・?刀使うし・・・いやいや刀使うヤツ全員雨はおかしい。じゃあなんだろな・・・晴れって感じでもないし・・・うーん。困ったわからん。雨でいっか。

 そしたら息子さんは晴れかな。残り物ってのもあるけど、刀打つから、鋼を活性化させる、みたいな・・・あれ?

 

 

 

 なんて暇潰しにリムル様とみんなの戦闘眺めながら妄想してたら、急に視界が暗くなった。

 ・・・おお!あれが黒炎か!でけぇ!こっからでも熱い!すげぇ!あれ見て諦めない若サマある意味凄いと思う。

 姫様の「お待ち下さい!」が入ったし、そろそろ戦闘も終わりかな。

 枝に寄りかかっていた上半身を起こす。

 

 

 

「この方が異質なのは違いありませんが、おそらく、里を襲った者共とは無関係なのではないかと・・・・・・」

「なんだと?だが、言われてみれば・・・・・・」

 

 

 

 さて、そろそろ声かけますかね。なんだか私の存在忘れ去られてるっぽいし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 全然人の話を聞かないせいでオーガ達との戦闘がはじまっちゃったが、なんとかなりそうだ。

 現に桃髪に説得された赤髪が、戸惑ったように俺を見てくる。

 だから言っただろ、と言おうとした瞬間、斜め上の方向から突然声がした。

 

 

 

「姫様の言う通り、彼らは私達の敵じゃないですよ、若サマ」

 

 

 

 急に聞こえた声に、そこにいた全員が声のほうを向く。

 俺たちが戦っていた場所から少しだけ離れた大きな木の上に、1人のオーガが座っていた。

 あおみどり色の肩ぐらいの長さの髪を後ろで雑に結び、藍色の瞳の下には左目のほうにのみ深緑の刺青のような模様が見える。

 間違いない。最初に見た瞬間に一番ヤバいと思ったオーガだった。

 それから意識はしてたんだが、なぜか彼女だけ戦闘に参加せず木の上でぼんやりしてたからいつの間にか忘れてたな・・・。

 

 

 

「お、おま、なんでお前だけそんなとこで寛いでんだよ!?」

「だってねぇ、最初から敵じゃないってわかってる相手と戦う必要ないじゃん?かなり強そうに見えたし、実際物凄く強かったし」

「は?」

 

 

 

 わかってた・・・だと?どういうとこだ?

 『大賢者』、わかるか?

 

《・・・・・・》

 

 ん?なにかあったのか『大賢者』?

 

《・・・告。なにもありません》

 

 ならいいけど。そういや、さっき初めてあのオーガを見たときも一瞬反応してなかったか?あのオーガにはなにかあるんだろうか。

 

 

 

「わかっていたとはどういうこと?」

「そのまんまの意味だよ姫様。はじめにゴブリンと牙狼族が集団でやって来たときから、彼らは敵じゃないってわかってた。だって視えてたし」

「わかってたんなら早く言えよ!」

「だって、その方の仮面みた瞬間みんな見事に殺気立っちゃって言える雰囲気じゃなくなっちゃって。でも一応伝えようとはしてたんだよ?」

 

 

 

 あおみどり髪のオーガは木の上から降りて赤髪の隣に立った。そして、俺に向かって軽くお辞儀をした。

 

 

 

「はじめまして。“魔物を統べる者”たる貴方に会えて光栄です。先ほどは私の仲間が失礼致しました」

 

 

 

 ん?“魔物を統べる者”・・・?

 

 

 

「“魔物を統べる者”なんて大層なもんじゃないけど、とりあえず話聞く気になってくれたみたいでよかったよ。俺はリムル・テンペスト。あんたらは?」

「我々など、名もなき一介のオーガでしかございませんよ、リムル様」

 

 そう言ってあおみどり髪は微笑んだ。

 ・・・と、そのとき。

 

 

 

 

 

 グゥゥゥゥゥ~

 

 

 

 

 

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

 

 

 

 

 

「お前、戦闘に参加しなかった理由ってまさか・・・」

「ちがっ、違うけど、しょうがないじゃんお腹すくのは生理現象なんだからぁぁぁ!!!」

 

 

 

 真っ赤な顔で叫ぶあおみどり髪と、彼女を優しげな表情で見つめる赤髪、桃髪、白髪の三人。

 

 仲良いんだな、こいつら。

 少しほっこりとした。

 

 




ようやっとリムル様正式に登場。
主人公に名前が付くまであと少し!


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