IS×FA 遥かな空を俺はブキヤで目指す (DOM)
しおりを挟む

設定集
IS×FAss設定-十千屋ファミリー


設定資料です。

未読の方はネタバレを含みますのでご了承ください。

あと本編で詳しく出てきてないワードや内容は『  』などの空欄でネタバレを抑える無駄な努力がされていますので、そちらもご了承ください。








では、どうぞ御ゆるりと。


 名前:十千屋(とちや) 雄貴(ゆうき) 《芸名》アーキテクトマン

 

 戦闘スタイル:全距離対応(装備しだい) 基本:中~遠距離

 

 出身地: 国籍:ゲムマ群島首長国 /現住所:アケノ島周辺 個人所有孤島

 

 年齢:23歳

 

 特殊能力(スキル): 英雄の肉体(神的 優良な肉体)超設計樹(アカシックレコード)(ロボ系限定-しかしガバガバ)

 

 所属(出向元/学園内): ナナジングループ・コトブキカンパニー「特殊営業課」

             /IS学園1年1組在籍

 

 

 このSSのオリジナル主人公、IS本編が始まるより前にリアルよりの世界から転生し生まれ変わった。ISは二次創作を読んでいてなんとなく知っている程度の知識であり、現在はほぼ忘れているため役に立たない。

 

 性格は基本マジメ。なのだが…愛と人に飢えていたのか妻兼愛娘が増えてゆく(汗

 だが、それゆえに自分の身内に害が及ぶときは苛烈な反応を見せる。

 あとは、義と愛の人でもあるため某歌詞の「心に愛がなければスーパーヒーローじゃないのさ」も当てはまる。

 

 容姿はガタイの良い大男な感じであり、背もやや高く顔はフツメン。

 だが、体中-特に右上半身には火傷と裂傷の痕(至近距離でミサイルを受け、その熱と自身のFAの装甲がくい込んだ)が酷い。

 他にも戦いの中で傷ついた痕が多数ある。傷跡の付き方のイメージは、某ロシア名のホテル女オーナー、Mr.武士道に近い感じである。

 

 肉体は転生前のやり取りにより神と及ぼしき存在から優良なモノが約束されていたが、程度が()()()()()()()であったため織斑千冬や篠ノ之束などと同等かそれ以上のスペックが秘められており、特に生き残る事と異物を自分のモノへ取り込む事に長けている。

 他の能力として、アカシックレコードのようなものにアクセスし設計図を書き起こせる力があるが内容はロボ系限定となっており、技術が追いついていなければ机上の空論となる。ただし、ロボ系というが範囲はガバガバで何故か玩具から超巨大機動戦艦まで書き起こせる。

 

 

 戦い方は今まで生き残ったやり方、自国の軍役の者に基本は教わってはいるがあくまで基本でありあとは自己流。一度は死んでいる感覚を知っているのか、死への感覚へは敏感だが鈍感でもある。その為、自分が戦闘できる限界ギリギリを冷静に受け止め行動できる。

 一種の命を無視した兵士(ゲシュペンスト・イェーガー)の様な戦闘をする。

 

 

 機体:暫定IS専用機【打鉄カスタム『(イカヅチ)』】

 

 元は打鉄であり、カンパニーで弄り回した外装が元になっている。

 出力などは元の打鉄とは変わらない。が、見た目をFAの轟雷の形をとっているため全身装甲(フルスキン)であり全身各所にユニバーサル規格のハードポイントがある。

 ただし、轟雷とは違い滑腔砲と脚部履帯ユニットが無い。そして、ナナジングループ・コトブキカンパニーの独自技術で拡張領域(パススロット)を膨大なものにしてある。

 

 主な武装はその時々による。

 カンパニー製のM.S.G(モビル・サポート・ギア)と言う拡張パーツのシリーズから通常武装のW.U(ウェポンユニット)エクステンド(後付け)・ブースターを複数持ち、大型武装のH.W.U(ヘビィウェポンユニット)を1~2点入れているのが通常のセット

 

 

 サブ機構:

 

 ・阿頼耶識(アラヤシキ)

 技術の元は《機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ》から。

 原作の機能とリスクは変わらず、十千屋の特異性が無ければ後遺症なしで施術できなかった。彼は合計で5つ施術されている。

 

 ・戦闘型イメージフィードバックシステム(Image Feedback System)

 略称はC・IFS。技術の元は《機動戦艦ナデシコ》のIFSだが十千屋は阿頼耶識から得た技術で戦闘用にバージョンアップさせている。

 元ネタとの違いは、やり取りできる情報量がこちらの方が多いのと、脳と機械との通信ラグの減少と衝撃で外れないようにするために(うなじ)にデバイスがある点である

 

 名前の由来:

 

 苗字は単純にのほほんさんに「とーちゃん」と読んで欲しかったから、名はリアル読み

 

 

 名前:十千屋=(アーヴァル)=リアハ (日本名順)

 

 戦闘スタイル:手先の器用さと超演算による複雑な操作

 

 出身地: 国籍:ゲムマ群島首長国 /現住所:アケノ島周辺 個人所有孤島(十千屋と同居)

 

 年齢:24歳

 

 特殊能力(スキル):超演算能力(スーパーコンピュータ)

 

 所属(出向元/学園内): ナナジングループ・コトブキカンパニー「特殊営業課保険部」

             /IS学園臨時養護教諭(主にカウンセラーとしてカンパニーから出向)

 

 

 十千屋の第一夫人、十千屋が3歳の頃からの付き合いであり、彼からエロ同人誌的な調教がずっとされてきた。が、それも彼の愛情だと真に受けて今に至る。実際に彼が他のメンバーと契るまでは一途であり、対象が複数になっても愛情の強さは両者とも変わっていない。

 籍は入れられる年齢になった時に既に入れたが、結婚式は互いに自活できるように成るまでとしていた矢先に十千屋がISを動かしてしまい出来ないままでいる。

 『  』とは程々に遠い親戚、髪の色や質が似ているのはそのせいである。

 

 

 性格は大人しく優しく朗らかであり、昼間は淑女・夜は娼婦とある意味で男の理想のである。そして、芯が通ってもいる。即ち、理想の女であり妻でもある。

 十千屋のせいで彼に依存しているが、彼も意味深な意味も含めて彼女に依存しておるヤンデレ夫婦である。

 

 容姿はFA:G(フレームアームズ:ガール)マテリア Normal Ver.のほぼそのままであり、外見年齢は14~15才くらいである。幼い見た目の原因は阿頼耶識(アラヤシキ)の副作用であり、外見年齢と一致する時から見た目の成長がほぼ止まっている。

 

 彼女の特殊能力は阿頼耶識とIFSを使った演算処理であり、その量と速さは篠ノ之束も認めるほど。

 

 戦いは得意ではないが特殊能力を使い、複雑な機動をさせる。

 

 

 機体:無し

 

 

 サブ機構:

 

 ・阿頼耶識

 十千屋と同じだが1つだけ。しかし、自身の能力とは合致したが体質が合わなかった為、これ以上増やすことができなかった。

 

 ・IFS

 十千屋とは違いこちらはコンピュータ管制に特化したIFSである。デバイスの位置は同じ

 

 

 歪み:

 彼が5つ目の阿頼耶識手術を受けたと同時に自身も1つ目の手術を受ける。そして、互いに術後の痛みを舐め合うかの様に求め、その時に一子儲ける。

 が、手術で体質が変わったのかそれ以降、子供が出来づらくなる。しかし『シルヴィア』の存在と言葉から(十千屋雄貴)の血を引く子は他の愛してくれている女性に産ませ、自分はその人と共にその子を愛で育てればいいと妄執にとり憑かれており、彼の血の拡大と繁栄の為にハーレム推進派となっている。

 

 

 最近の悩み:

 IS学園では生徒も教師もいい人が揃っているので、どうすればこちら側(十千屋ファミリーの一員)に引きずり込めるか画策中

 

 

 名前の由来:

 

 リアハ・アーヴァル

 リアハ:ゲール語で『灰色』

 アーヴァル:ゲール語で『物質』

 

 各意味は上記の通りで元のモデルがFA:G(フレームアームズ:ガール)マテリア Normal Ver.です。この子は全体的に灰色なので『リアハ』、個体コードが『マテリア』なので別の言語で『アーヴァル』にしました。

 

 

 

 名前:(いかづち) (とどろき)

 

 戦闘スタイル:中~遠距離(主に狙撃を好む)

 

 出身地: 国籍:ゲムマ群島首長国 /現住所:アケノ島周辺 個人所有孤島(十千屋と同居)

 

 年齢:15歳

 

 特技(スキル):超精密狙撃&銃撃戦(ゴルゴ13)

 

 所属(出向元/学園内): ナナジングループ・コトブキカンパニー「特殊営業課機動部」

        /IS学園1年1組在籍 ナナジングループ・コトブキカンパニー企業代表候補生

 

 

 十千屋の義娘の一人、そこに至る前は不幸の連続であった。ISの登場と同時に起こった女尊男卑の風潮、それで母親が蒸発、残された父親は酒浸りのDV化、耐え切れなく逃げた先の孤児院は経営不振と違法行為の摘発により経営者は逮捕された。

 ここまでは不幸の連続であったが、孤児院の所有権はナナジングループに移ったことにより一変する。

 日本を離れなければならなかったが、孤児院の皆も一緒で移った先の言葉も問題なし、環境が歴然と良くなり皆が前を向けるようになった。

 その頃にISとFA:Gの適性検査を受けることがあり、結果は上々。それから十千屋とリアハの下で行動することとなる。

 

 性格は沈着冷静。今までの事があった故か不気味なまでに冷静に周りを見て判断する。冷酷に見えるかもしれないが決して残酷ではない。

 新しく理想の家族として十千屋とリアハを慕い、増えていく兄妹(何故か女の子ばかり)も自分なりに暖かく迎えている。

 十千屋に対しては義理の父親以上の感情を持っているが、一般的にそれは抑えなければならないと思っていた矢先…リアハによって解放され、控えめにアタックする事となった。

 

 容姿はFA:G(フレームアームズ:ガール)轟雷。普段着はパンツルックを好み、カジュアルスーツのキャリアウーマンみたいなカッコをしている。

 IS学園の制服は基本の形のままだが、本人はズボンに変えてもいいかな、と思っている。

 

 彼女の特殊能力は神業的な超精密狙撃、それぞれの銃器の有効射程距離以内であれば1円玉くらいの大きさならかるく狙撃できる腕前。

 それに合わせて、銃器の扱いがとても上手くどのような銃でも使いこなせる。が、本人はガトリングガンの様にバラまくよりも、一発づつ確実に当てる方が好み。

 

 戦い方は上記合わせて銃撃戦、特に狙撃が得意。それはIS無しの生身でも同じであり、実はISに搭載されている標準装置(センサー・リンク)を使っておらず目測で撃っている。

 ISの戦闘は高速状態での射撃が主となっておりハイパーセンサーとの連携が必要になるが…基本使っていない。使うとすれば、生身での死角に撃つ時や超遠距離でのスコープ替わりである。

 

 

 機体:FA:G(フレームアームズ:ギア)轟雷

 

 見た目はFA:G(フレームアームズ:ガール)轟雷のまま。性能は轟雷故に十千屋の打鉄カスタム『(イカヅチ)』に準じる。

 個人のカスタマイズとして狙撃機能を上げている。他には武装のセットも銃器がメインとなり、その中でも半分近くは狙撃可能な銃を入れている。

 機体そのものは飛行が得意ではないので、十千屋と同じようにハードポイントに後付けのブースターやスラクター、飛行が可能になるH.W.U(ヘビィウェポンユニット)が必要不可欠。

 

 

 サブ機構:

 

 ・戦闘型イメージフィードバックシステム(Image Feedback System)

 十千屋と同じものであるが、デバイスであるタトゥーは目立たない色にされている。

 そして、FA:G(フレームアームズ:ギア)を扱う操縦者の全員の基本サブ機構でもある。

 その理由は、阿頼耶識システムより安全で排除する方法も確立されているからである。

 

 

 歪み:

 上記の経歴のせいで理想の家族に飢えている。仲の良い両親、そして両者から惜しみなく与えられる愛情が主な理想。

 家族愛が歪んでいるが十千屋ファミリーに組み込まれた今の生活は大変気に入っている。それゆえにそれを害するものには容赦はない。

 その時は、冷酷を超えて残酷となり敵は恐怖と狂気に追い込まれることだろう。

 

 

 最近の悩み:

 十千屋へのアピールをどうするか悩んでいる。

 自分があからさまにモデルであるFA擬人化美少女プラモFA:G(フレームアームズ:ガール)を見てしまい…十千屋の前だけ自分もスカート履いてパンツを見せるべきかどうか迷っている。

 

 

 名前の由来:

 

 元のモデルがFA:G(フレームアームズ:ガール)轟雷なので、漢字部分を反対にしただけ。ただし、轟雷シリーズが居るのでその子らの苗字は『雷』になる。FAの方のシリーズでも共通する文字がそれなので

 

 

 

 名前:チェーロ・プニャーレ

 

 戦闘スタイル:空中高機動殺法

 

 出身地: 国籍:ゲムマ群島首長国 /現住所:アケノ島周辺 個人所有孤島(十千屋と同居)

 

 年齢:15歳

 

 特技(スキル):バードセンス(鳥に成りきるのデス)

 

 所属(出向元/学園内): ナナジングループ・コトブキカンパニー「特殊営業課機動部」

        /IS学園1年1組在籍 ナナジングループ・コトブキカンパニー企業代表候補生

 

 

 十千屋の義理の娘の一人、本当の出生は不明。十千屋が某国へ営業しに行った時に出会ったストリートチルドレンの一人であった。

 彼女はとある施設にストリートチルドレンの仲間と一緒に潜り込んだ。目的は生活の為の窃盗である。無論、見つかって仲間が次々と囚われる中、彼女はとある機械を使い大逃走劇を繰り広げた。

 その時奪った機体とはFA-スティレットである。それを初めて装着したのにも関わらず自在に空を飛んで逃亡を繰り広げた。その後、十千屋に捕まるがその場でスカウトを受け了承する。ちなみに仲間も十千屋に連れられゲムマ群島首長国で新たな生活を始めている。

 

 性格は天真爛漫、ストリートチルドレンの時から仲間たちのムードメーカーであった。ただのノー天気ではなく考えた上で明るく振舞っている。

 が、感情の振れ幅が生来大きいのか泣きながら怒る事もしばしば。どんな時も前を見て目的に向かって飛んでゆく、空を飛ぶFA:Gに相応しい娘であろう。

 恋愛観はリアハなどのせいで十千屋ファミリーの考え方に染まっているが、個人ではとても乙女チック。まるで世代前の少女漫画や夢見る乙女のようだ。だから、普段はベタベタスキンシップを取っているのにキスは受ける方もする方も頬や額どまりである。

 

 容姿はFA:G(フレームアームズ:ガール)スティレット。普段着はチューブトップ、ショートパンツなど露出度が高いというよりは極限までに動きやすい服を好む。

 IS学園の制服は半袖でミニスカート。最近は鈴の改造制服もイケるかも、と思い始めている。

 

 彼女の特殊能力はホークアイ(鷹の目)と呼ばれる才能をランクアップしたようなもの。ホークアイは空中でどんな体勢でも地面と自分の方角を見失わない、まるで鷹が空から見つめる目の様な才能である。

 だが、彼女の空中戦闘機動の才能はそれを越える。どんな状態でも相手と自分の位置を見失わず、どんな風も読み捉え、攻撃のライン(射線)も読み間違わない。もはや鳥の感性と言い様がないためバードセンス(鳥に成りきるのデス)と名付けられた。

 この才能が有ったゆえに十千屋との初会合であった逃亡劇を繰り広げられたのである。その後は経験不足が原因で捕まったのだが…

 

 戦い方は上記の才能故に高速機動戦闘。とにかく早く相手の死角を捉え、そこから相手を射抜く。または急降下、急旋回といった猛禽類がとるような戦い方もする。

 射撃の腕前は上手い方。接近戦は速度を活かして撫で斬りや斬捨てを得意とする。

 

 

 機体:FA:G(フレームアームズ:ギア)スティレット

 

 見た目はFA:G(フレームアームズ:ガール)スティレットのまま。性能はFAのスティレットと防御以外ほぼ同等、デザイン故にシールドエネルギーが無ければ紙装甲である。

 個人のカスタマイズとしてはセンサーやレーダーの感度を上げている。

 換装武装は空戦FAが使うマシンガンやガトリングガン、ミサイルなど元から空戦用に選ばれているモノが殆ど。とにかく速度が落ちるのを嫌うので本人は重武装はノーセンキューとの事。

 その為、他に使うとすればハンドガンくらい。近接は辻きり戦法のため確りと鍛造された日本刀を使う。

 

 

 サブ機構:

 

 ・戦闘型イメージフィードバックシステム(Image Feedback System)

 十千屋と同じものであるが、デバイスであるタトゥーは目立たない色にされている。

 そして、FA:G(フレームアームズ:ギア)を扱う操縦者の全員の基本サブ機構でもある。

 その理由は、阿頼耶識システムより安全で排除する方法も確立されているからである。

 

 

 歪み:

 とても仲間思いのためそれ故に何かあったら暴走を始める。仇の為なら地の果てまでもだ。

 そして、それに相反するように死に関してはとてもシビア。ストリートチルドレンの頃の生活故にだと思われる。

 まとめると、ファミリーには愛と栄光を、敵には死の鉄槌を、と言えるかもしれない。

 

 

 最近の悩み:

 増えてゆく家族がみな積極的過ぎるので自分もそうした方が良いのか、と思うが恥ずかしくて出来ないのが悩み

 

 

 名前の由来:

 

 元のモデルが『スティレット』なのでそこから連想して。

 語源の「スティレット」は細身の刺突短剣もしくは銃剣であり、それと空戦FAである事を連想し、

 

 チェーロ:イタリア語で『空』

 プニャーレ:イタリア語で『短剣』 と連想付た。

 

 

 名前:基木(もとぎ) 素子(もとこ)

 

 戦闘スタイル:全距離対応(装備しだい) 基本:近接戦(メッチャ好み)

 

 出身地: 国籍:ゲムマ群島首長国 /現住所:アケノ島周辺 個人所有孤島(十千屋と同居)

 

 年齢:18才

 

 特技(スキル):殺人機(キラーマシン)

 

 所属(出向元/学園内): ナナジングループ・コトブキカンパニー「特殊営業課機動部」

        /IS学園3年5組在籍 ナナジングループ・コトブキカンパニー企業代表

 

 

 十千屋の義理の娘の一人、出生は違法デザインベビー。本当の名前は『遺伝子強化試験体β-666』であり、『ドイツの代表候補生であるラウラ』のプロトタイプ()と呼ぶべき存在。

 正確にはその初期ロット最後の生き残り、十千屋が裏で行っていた違法研究所襲撃 兼 自分とFAの練度上げの一環で発見した。

 改造指針は《限界値の探索》。外科的、内科的、薬物的、ナノマシン、機械化など様々な改造を施されたが、個体差か突然変異か分からないが、幸か不幸か試験体の中では最も改造に適していたので生き残れた。

 そして十千屋が襲撃した時には体の中身が滅茶苦茶であったが、研究員の指示で彼を倒そうとするも装備と本人のスペック差で敗北する。そのあとに保護され治療と再調整を受け、十千屋ファミリーに迎えいられた。

 初めは無機質な感じであったが、十千屋たちにより愛と日常を与えられるうちに改善し…今の残念美人の性格となる。

 

 

 性格は天然で残念系。元はほぼ感情がなく、敵を殺し自らが残るという事だけが唯一の行動原理であった。が、十千屋たちと一緒に生活する内に当たり前の幸せや欲を理解していき感情が生まれた。

 しかし、リアハの愛の教育の成果か「ちゃんと責任を取れる範囲の欲であるならば出しても良い。特に愛欲に関しては」という謎の思考回路が組みあがっていた。

 この愛欲には性欲も含まれており、その対象である十千屋とリアハ、ワンランク下がって家族に対して自分の欲がただ漏れになり…どスケベ素直クール残念美人と、とても残念になってしまった。

 それが当てはまらない外行きの見た目はクール系で親しくなると素直に何か言ってくるので素直クールと感じさせられる。

 

 

 容姿はFA:G(フレームアームズ:ガール)アーキテクト。普段着は楽な物を好み、だらしなくダボシャツ、ハーフパンツなど。…例外としてよく十千屋のシャツやパンツまで持って行って着ることが多い(汗

 IS学園の制服は特に改造はしていないが着崩していると言うよりだらしない。ボタンなどは1~2個止めていたり全開だったりしたりなど。最近はジャージとかないかなと思っている。

 

 

 彼女の特殊能力と言うより機能は殺人機(キラーマシン)と化す事。彼女は治療と再調整を受けて健康を取り戻せたが、改造された力はそのままであった。

 少し握れば人の腕などアッサリと握り潰せたり、軽くジャンプすればメートル単位で跳べる。改造人間のテンプレートの様な身体能力であった。その為、普段生活するときは自己暗示により普通の人より力持ちかな?位に抑えられている。

 それを解放し、実験体時代の思考回路を働かせる事で敵を殲滅することに特化する。痛みは鈍くなり思考は敵を殲滅することに最適され命令のままに動く、非人道的とも言える力である。

 素子からすると「自分というロボットに乗って敵を殲滅するゲームのような、現実感が無い感覚」らしい。

 

 

 戦い方は十千屋と同じく経験からくるものであり、我流である。自身の改造人間としてのスペックと戦闘経験()によるもので天衣無縫の攻め方をしてくる。

 兵装は装備さえあればどの距離でも対応できるが・・・本人は打撃と言うよりドつき合いが好みであり、兵装もそれに傾倒している。

 メインウェポンはW.U 27・28のインパクトシリーズ。展開によってナックル・エッジ・パイルバンカーに変更する。これに合わせ追加ブースターを使用し距離を詰めるのが基本。他も使うことがあるが、叩きつけるような攻撃ができないものはお気に召せないらしい。

 

 

 機体:FA:G(フレームアームズ:ギア)アーキテクト

 

 見た目はFA:G(フレームアームズ:ガール)アーキテクトのまま。このアーキテクトはFAの基礎素体であるアーキテクトを模した機体であり、体中に様々な装甲や武装を取り付けるハードポイントが付いておりどんな状況にも対応できるスペックを秘めている。

 さらにこれ自体が基礎素体のため、轟たちの専用機である轟雷やスティレットにも換装できる。が、素子は素の状態が気に入っておりそちらに換装したことはない。他にはFAの腕部が取り付けられる構造にもなっており、巨大なものを懸架する時に使っている。

 個人のカスタマイズはとにかく頑丈にするようにしている。本気を出した時に機体と自分が壊れないようにするためである。

 

 

 サブ機構:

 

 ・戦闘型イメージフィードバックシステム(Image Feedback System)

 十千屋と同じものであるが、デバイスであるタトゥーは目立たない色にされている。

 そして、FA:G(フレームアームズ:ギア)を扱う操縦者の全員の基本サブ機構でもある。

 その理由は、阿頼耶識システムより安全で排除する方法も確立されているからである。

 

 ・阿頼耶識(アラヤシキ)-改良型

 技術の元は《機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ》から。

 原作の機能とリスクは変わらないが、施術の安全性と年齢による制限が取り払われた改良型の方である。

 端子にすると2~3つ分の処理能力があり、端子の露出面はパソコンの端子のような見た目をしている。

 

 

 歪み:

 破壊・被破壊願望あり。自分の手であらゆるモノをぶち壊す、自らが傷つき壊れる、そのどちらとも惹かれている。実験体時代が影響していると思われる。

 命を奪い奪われるのが当たり前であり、奪わなければ生きてられなかった。自らの手で()()()()()()()()安心ができない、そんな日々であったためである。

 逆に自分が壊れれば、()()()()()()()()()()()()()。そんな二律背反でありながら同一願望が彼女の心に根付いている。

 それが化現したのが、必要なまでにドつき合いを好む戦い方であったり、十千屋に求められる時メチャクチャにされるのを好んだりするのがそうである。

 

 

 最近の悩み:

 そろそろ卒業できるので、いつになったら十千屋専用苗床にしてくれるのかを待ち望んでいる。

 

 

 名前の由来:

 

 元のモデルが『アーキテクト』=基礎を連想し、『モト』に成る様な文字を連想した。

 それゆえ、苗字は基礎の『基』を、名前は素材の『素』を使って名前にした。

 苗字はニュアンスで決め、名前はちょうど『素』の字を使っているキャラクターを知っていたのでそこから取った。

 

 

 名前:(いかづち) (じん) コードネーム:カルタムス

 

 戦闘スタイル:近接総合格闘術

 

 出身地: 国籍:ゲムマ群島首長国 /現住所:アケノ島周辺 個人所有孤島

 

 年齢:18歳(予測)

 

 特技(スキル): 認識多重偽装(分身の術)

 

 所属(出向元/学園内): ナナジングループ・コトブキカンパニー「特殊営業課情報部」

 

 

 十千屋の義娘の一人。出生と本名は完全に不明、今の名前は十千屋から与えられたモノである。その為、年齢も予測されたもの。暗殺系の組織に身を置いていた事があり、実は十千屋を暗殺する為に放たれた刺客。

 だが、機械の(センサー)を持つ十千屋に特技(スキル)が通じず逆に囚われてしまった。その後、催眠や洗脳を解かれ観察処分の為に十千屋に引き取られた。

 どこの組織が狙ったかは不明。その理由は指令の伝達に何十のもセキュリティと、彼女自身が洗脳によって指示を受けていたため。

 彼の所で生活する内に影響を受けたのがNARUT●・忍殺等のバトル系ニンジャ漫画と時代劇である。自らの身体能力が高く、漫画の再現が出来るのがのめり込む切っ掛けとなった。

 その後、自らの技能を生かし社と国の諜報部員として働く。

 

 

 性格は篠ノ之箒と同じタイプ=サムライガール。正確には箒が只の女性剣客だとすると、迅は《必殺仕事人》タイプである。

 普段はタダの確り者、だが一度でも武器を手に持てば相手を殺し去るまでは冷酷な人斬りになる。

 しかし、忠義を誓った者に対しては絶対に裏切らない高潔さがある。

 

 

 容姿はFA:G(フレームアームズ:ガール)迅雷。普段着は和服、主に浴衣(ゲムマ群島は南国なので)を着ている。

 また、表向きの仕事着は轟と同じカジュアルスーツであるが、着こなしがドコかのボディガードやSPみたいに成る。

 だが、ニンジャ系のコスプレが密かな趣味…何故か、対●忍、超●閃忍、戦●姫などアレな系統ばかり着る・・・・

 

 

 彼女の特殊能力は自らの存在感を何個も分ける事である。剣客の間の口伝-つまり、噂話では気配だけの斬撃《闘刃(とうじん)》とよく似ている。

 彼女の場合は、自身の気配も攻撃の気配…つまり自身に関する存在感であるならば、何にでも複数にする事ができる。

 が、人がハッキリとした気配を感じさせる分裂は10くらいまで。それ以上だと、「何かよく分からないが複数いる」と感じさせられる程度にまで精度が落ちる。

 しかも、分裂できるのは気配だけなので対人戦に使えても、無人兵器やセンサーには誤魔化しは効かず不能となる。

 

 

 戦い方はヒット&ウェイの一撃離脱や速さで翻弄し一撃を喰らわす高機動戦が主な戦い方。特技と合わせ自動迎撃機との連携をとり相手を翻弄する。

 迎撃機には立体映像のプロジェクターが搭載されており、本当に分身したかのように見せかけることができる。

 主な武装はW.U:11と34を合わせた沢山の刃物。それを特別製のウェポンラックとアタッチメントを使う。

 

 

 機体:FA:G(フレームアームズ:ギア)迅雷

 

 見た目はFA:G(フレームアームズ:ガール)迅雷のまま。しかし、場合のよってはマスクも付ける。

 迅雷は轟雷を軽量化&近接専用にした機体で殆どの装甲が外されており、轟雷としての装甲は頭部・肩・太ももから脹脛までの部位にしかない。腕や胴体、足回りなどは基礎素体のアーキテクトで形成されている。

 無論、防御力はかなり落ちたが速さ、特に瞬間加速力はかなり強化された。他にも様々な武器を懸架できるウェポンラックや、轟雷では背面ラックに取り付けてられていた砲を腕に取り付けられるようにアレンジされている。

 なお、装甲の色は紅色の系統で染められている。

 

 

 サブ機構:

 

 ・戦闘型イメージフィードバックシステム(Image Feedback System)

 十千屋と同じものであるが、デバイスであるタトゥーは目立たない色にされている。

 そして、FA:G(フレームアームズ:ギア)を扱う操縦者の全員の基本サブ機構でもある。

 その理由は、阿頼耶識システムより安全で排除する方法も確立されているからである。

 

 ・アクティブ(A)リパルシャン(R)リベリャン(R)(斥力反発結界)

 試験的に搭載されている装置であり、PICの派生技術の一つである。

 その能力を簡単に言えば、「どこでも弾くことができる」と表現できる。斥力は引き付ける力なのでソレを反発すれば押し出す力として使える。

 が、何に使えるか分からなかったため放置されていたが、迅と藍が「空中でジャンプしたい」と言い出した時に装置の存在を思い出し使用された。

 

 ・自動迎撃機

 迅の能力を生かすために使用されている浮遊型の半自走型ビット。

 カッターとレーザーで攻撃し、その攻撃と行動をプロジェクターで映し出した迅の映像を纏って行う。

 他のもカメラが付いており偵察にも使える。

 

 

 歪み:

 一般的な忌諱-殺人に対する忌諱が抜け落ちている。過去の経歴が原因であるが、彼女の脳内は味方・敵・その他でしか分類されていない。

 敵でコチラに害意を持つのであれば排除することに躊躇いはない。寧ろ、ただ掃除をするかのごとく作業としか思っていない。

 彼女の敵になるのであれば、ただ屠殺されゴミとして処理されるのである。

 

 

 最近の悩み:

 一夏サイドに自分とキャラクターが被る『篠ノ之箒』が居るので、自分はどうキャラ立てるか悩み始めている。

 

 

 名前の由来:

 

 本名は轟雷シリーズから、共通する『雷』を苗字として違う字は名前とした。

 コードネームは諜報部員ぽく付けたが、その元ネタは迅雷のカラーバリエーション『Indigo Ver』と対比するようになっている。

『Indigo Ver』は藍色やその染料からきているので、迅雷のカラー:紅から連想した。

 紅色染料の原材料の『紅花』の学名から取ってきている。

 

 

 名前:(いかづち) (あい) コードネーム:インディゴ

 

 戦闘スタイル:ニンジャ的な体術&エセ忍術(カラテ & ジツ)

 

 出身地: 国籍:ゲムマ群島首長国 /現住所:アケノ島周辺 個人所有孤島

 

 年齢:15歳 (予測)

 

 特技(スキル): 認識偽装(オンギョウ ノ ジツ)

 

 所属(出向元/学園内): ナナジングループ・コトブキカンパニー「特殊営業課情報部」

 

 

 十千屋の義娘の一人。迅と同じく十千屋を狙った刺客の一人で十千屋のファミリーに成るまでの経緯も同じである。

 その当時から二人で行動していた為、日頃から迅とコンビを組むことが多い。

 迅と同じようにニンジャ漫画に影響されているが、迅が現代的ニンジャだとすると藍は()()()ニンジャである。ラインナップとしては忍者●ットリくん、仮面忍者●影など妙に古い物がチョイスされている。

 その為、普段の服装が忍者的になり語尾の口癖が《ゴザル》口調になってしまった。ちなみに本気になると語尾がこちらの《御座る》になる。

 

 

 性格はエセ忍者的な何かと軽く愉悦系が混じっている。普段はのほほんと呑気にしているが、戦闘時や任務時は抜き身の刃の様に鋭い。

 が、問題がなければ遊びが入る軽薄な部分もある。しかし、軽い雰囲気を持ちながらも迅と同じように忠義心は本物である。

 

 

 容姿はFA:G(フレームアームズ:ガール)迅雷 Indigo Ver。普段着は甚平と動きやすい和風系の物を好む。

 仕事着はカジュアルスーツなのだが、きっちり着るよりも着崩すのでチンピラっぽくなる。

 それと、趣味で自ら忍び装束を何着も仕立てて着る。昔ながらのデザインを好むが、要望があれば漫画のニンジャデザインも作る。

 ちなみに…下着は断然フンドシ派、何を着てようがこれだけは譲れないらしい・・・・

 

 

 彼女の特殊能力は自らの気配を消すことに特化している。但し、完全に消してしまうと其処がポッカリと穴が空いたように感じるので、気配を限りなく薄くする事にしている。

 そこまで薄くなると空気と同じようになり、他者は居ても当たり前で何も居ないという様な感覚になる。流石に派手に攻撃すればバレてしまうが、毒針で突いたりすれ違いざまに切り流せば、発覚する事はまず無い。

 完全に暗殺や諜報活動向きの能力である。

 

 

 戦い方は完全にサイレント・キリング(暗殺)。気づかれる前に殺られる前に殺れが基本。一応、刀術や体術に優れているため徒手空拳で戦えなくもない。

 しかし、不意打ちや一撃必殺の方がやり易い為、めったに正面から馬鹿正直に戦うことはしない。寧ろ、余裕があればエセ忍術を使い出し、相手を馬鹿にしながらあざけ笑って勝つ方面に移行する。

 

 

 機体:FA:G(フレームアームズ:ギア)迅雷 Indigo Ver

 

 見た目はFA:G(フレームアームズ:ガール)迅雷 Indigo Verのまま。しかし、場合のよってはマスクも付ける。

 基本的な能力は迅雷と変わらないが、変えられた武装がありW.U:11から06に変更されている。他にもサイズ違いの手裏剣…最小でも一般的なフリスビーサイズなので手裏剣風と言うかも知れないが、サイズ違いで複数ある。

 手裏剣にも種類があり、金属で作られたノーマルな物から蓄光する物、開発段階だがビーム手裏剣も存在する。

 なお、装甲の色は藍色系を主体としている。

 

 

 サブ機構:

 

 ・戦闘型イメージフィードバックシステム(Image Feedback System)

 十千屋と同じものであるが、デバイスであるタトゥーは目立たない色にされている。

 そして、FA:G(フレームアームズ:ギア)を扱う操縦者の全員の基本サブ機構でもある。

 その理由は、阿頼耶識システムより安全で排除する方法も確立されているからである。

 

 ・アクティブ(A)リパルシャン(R)リベリャン(R)(斥力反発結界)

 試験的に搭載されている装置であり、PICの派生技術の一つである。

 その能力を簡単に言えば、「どこでも弾くことができる」と表現できる。斥力は引き付ける力なのでソレを反発すれば押し出す力として使える。

 が、何に使えるか分からなかったため放置されていたが、迅と藍が「空中でジャンプしたい」と言い出した時に装置の存在を思い出し使用された。

 

 ・偵察機

 迅とは違って完全に攻撃能力はない。が、各種カメラやレーダー等が搭載されており諜報向けに調整されている。

 他にもプロジェクターが仕込まれており、藍の映像を映し出して囮にも使える。

 

 

 歪み:

 迅と同じように殺人に忌諱はない。寧ろ、何処か楽しんでいるフシがある。敵が苦しみ不幸に成様が滑稽でしかない。

 が、自分から態々その状態に持ってゆくのは非効率で面倒なので進んでやらない。しかし、余裕があれば敵をおちょくるのはやめられない。

 

 

 最近の悩み:

 自身の能力を活かし、十千屋たちの()()の後に残っているシーツ等を失敬するのが楽しみなのだが・・・

 それを掃除(ついでに自分も楽しむため)するメイド達とカチ合わすことが多いのが悩み。

 

 

 名前の由来:

 

 苗字は轟雷シリーズらしく『雷』、名前とコードネームは全て『Indigo』から連想されている。

 Indigoの意味が、〔【名詞】【不可算名詞】インジゴ,あい色.【語源】ギリシャ語「インド の(染料)」〕とある。

 そこから、本名は藍色で『藍』。コードネームはそのままの読みで『インディゴ』である。

 

 

 名前:シルヴィア・十千屋

 

 戦闘スタイル:超級冥土御奉仕術(正しい~あらゆる意味で間違っているメイドの作法&戦闘術)

 

 出身地: 国籍:ゲムマ群島首長国 /現住所:アケノ島周辺 個人所有孤島

 

 年齢: 20歳(予測)

 

 特技(スキル): 限界突破(愛に不可能は無し)

 

 所属(出向元/学園内): 十千屋家・アーヴァル家の筆頭メイド長

 

 

 十千屋の第二夫人。なのだが、自分には不相応として滅多に自分からは名乗らない。

 元奴隷であり、十千屋と過去に何かしらの交流があり恩義を感じていた闇商人によって、

 タダ同然で彼に売り渡したのが出会いの発端である。

 売られてたシルヴィアは当初は心を閉ざしていたが、彼とリアハの真心に触れてゆくたびに

 開いてゆき数ヶ月後には慕うようになっていた。

 その後、彼らの役にたとうと努力し…結果的にメイドに落ち着いた。

 今では、個人所有孤島にある両家所有の屋敷を切り盛りするメイド長となっている。

 

 

 性格は穏やかで優しく、自分の主人を立てる思慮深さがある。

 そして、努力を惜しまず尽くすという理想の従者だ。

 しかし、根は十千屋達…特に十千屋本人とリアハに依存してる為、危うい部分がある。

 つまりヤンデレ。

 しかも、繋がりを何時でも求めているため、分かり易い繋がり:性愛を求める部分がありニンフォマニア(色情症)のケがある。

 

 

 容姿はとある同人ゲームで、ジャンルを言えば「奴隷純愛シミュレーションゲーム」のヒロインである。

 この為、十千屋に買われる以前はかつての主人から虐待を受けていたため、傷痕があちこちに見受けられる。更に買われる前は栄養失調に陥っていたのか、体格はかなり小柄。

 

 

 彼女の特殊能力は愛故に常軌を逸した学習能力である。十千屋とリアハの役に立つ為に、あらゆる物事を吸収しモノにしてきた。

 従者(メイド)の作法の他に、身辺警護や護身術…各種兵器の扱いやアレな部分では夜の作法など、役に立ちそうなものは全て覚えてきた。

 更に間違っているメイド(変態ども)(=ガイとか 黒い海の冥土とか 成人向けとか)までも対象としているため能力面は立派な逸般人である。

 実は魔窟(パンデモニウム)科学者(マッドサイエンティスト)達に自身の改造を頼んでおり、身体能力は強化人間でもある

 素子の本気に近い。

 改造を願い出た理由は、あらゆる場面で役に立つための身体能力欲しさと、

 自身の『とある生体機能(子宮)』を死守する為である。

 無論、ソレが確実に機能するように良好にする改造も施してある。

 

 

 戦い方は、漫画によくある『戦うメイド』である。様々な武器を用いて戦う。

 最近は量子変換格納機能(四次元ポケット)付きボディスーツを着込み、様々な道具と武器を格納している。

 武器は様々で火器から刃物まで取り揃えており、主に使うのは大鎌である

 H.W.U07:スカルマサカー。他は状況に応じて。

 

 

 機体:無し、だが空いているモノがあれば場合によっては使用する。

 

 

 サブ機構:(武装)

 

 ・量子変換格納機能(四次元ポケット)付きボディスーツ

 ISの量子変換機能だけ付いたボディスーツ。

 入る容量はラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ並み。

 ボディスーツの布地に織り込まれた電子機器によってこの機能を作り出しているが…

 逆に言えばボディスーツ並みの面積が無ければ再現できなかった。

 実は改良されており、改良前はこれに合わせてコートやマントが無ければならなかった。

 デザインは手や足先が出るハイネックのボディスーツ。色は黒一色。

 

 

 歪み:

 今まで受けた事の無かった愛情を特に十千屋とリアハから一心に受けた為、ソレに答え受けようとし立派なご主人様(十千屋&リアハ)至上主義のヤンデレに。

 その勢いは身も心も全て一片たりとも捧げる程である。しかも、リアハの妄執である《ハーレム容認》の原因ともなった。

 リアハが不妊体質になった時に、代理出産を申し出たのが切っ掛け。本人は「旦那様と奥様の愛の結晶が私の(なか)で育まれる。」と言う事に至上の幸福を感じている。

 そして、愛情を欲するがあまりに、物理的な繋がりを求めニンフォマニア(色情症)となっており、ソレを鎮められるのは十千屋とリアハ、その娘の麗白だけである。

 

 

 最近の悩み:

 十千屋がIS学園に出張している為、肉欲を抑えるのに必死。

 彼がいた頃は、鎮めてから約4日でおねだり、約6日で見せつけ、

 約8日で逆レイ●する程だったので耐えるのがかなり辛いらしい。

 

 

 名前の由来:

 

 何の捻りもなく、元ネタとなったヒロインの名を少し変えただけ。




17・4/29:試験的にアップ、こうした方が良いなどのアドバイスがあればよろしくお願いします。紹介文や資料集の書き方がイマイチなので(汗

17.5/1:(いかづち) (とどろき)のプロフィール追加
 個人的にプロフィール内容項目と書き方を迷っていますorz

17.5/16:チェーロ・プニャーレのプロフィールと、ほか細かい所追加

17.5/21:基木(もとぎ) 素子(もとこ)のプロフィール追加
 こちらの感想もお待ちしております。

17.7.8:(いかづち)(じん)/ (あい)のプロフィール追加
ほか細かい所追加

17.8.20:シルヴィアのプロフィール追加。ほか細い所追加

17.11.1:素子のプロフィール追加。

では、此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

本編
IS×FA1ss:テンプレをリアルで体験するのはお腹いっぱい


はい、DOMといいます。
以前からIS系の二次創作を読んでいたりFAが好きだったりしてコレを書き始めてしまいました。
ここに投稿するのも初めてなのでどうかご贔屓お願いいたします。



 諸君らは転生と言うものは信じるだろうか?

 まぁまぁ、信じる人もいるだろう。

 だが、それ以上ではない。

 なぜならば死後というものは絶対的に知りえないことなのだから・・・なぜいきなりこの様な事を述べているかというと、

 

「今、自らに起きているからなんだよな…」

 

 そう、何故か真っ白な空間にいる自分。

 そして、これも何故か自らが死んでいることを自覚できる。

 

「あ、ありのままに起こったことを言うぜ?寝起きたら何故か白い空間にいた、ドッキリ

 とか白昼夢なんてチャチなもんじゃねぇ…事実は小説より奇なりを言葉じゃなくて心で

 理解したぜ」

 

 ふぅ、ポレポレったら少し落ち着いた。

 でも実は心当たりあるのだ、それもテンプレで・・・

 

「チート転生準備待ったなしのテンプレか?」

 

「まぁ、お主らのところではそう言うかの?」

 

 空間にいきなり第三者の声が響く、意外とビビりな自分は肩を引きつらせながら声の方向に体を向けると同時に

 

「さて、よく分かっておるなら早速説明を「消滅か普通の輪廻転生でお願いします」オイ」

 

 土下座しながら振り返りセリフを遮る。

 いや、マジで勘弁なんですこういうテンプレは妄想だから楽しいんであってリアルは地獄なんです。

 自分からは見えないが声の主は一般的な仙人のイメージをそのままにした老人で頬を掻いていた。

 

「いや、いきなり消滅とは穏やかじゃないのぉ。理解が早いのは良いのじゃがそれはどうかと思う

 の?」

 

「どこの異世界かは分かりませんがそこに放り出されるのは嫌です。ならば、いっその事・・・」

 

「それはそうじゃが」

 

「ほんとマジで察してください!このテンプレをリアルで体験するのはお腹いっぱい過ぎて破裂し

 て死にます!!」

 

 土下座しながら声を張り上げる自分、老人は困った表情でそのまま見つめる。

 それから、どれくらい時間が経ったかわからないが

 

「もう、良いかの?」

 

「はい、申し訳ございませんでした」

 

 失望した目で空元気の覚悟終了した自分は始めて老人を見る、かの人は可哀想な人を見る目でこちらを見ていた。

 そして、ため息を一つ吐いて話し始める。

 

「まず、お主はもう死んでいる」

 

「はい」

 

「お主の言うテンプレ状態にある、ここまで良いかの」

 

「はい」

 

「よし、改めて言おう。お主には別世界へ逝ってもらう」

 

「やはりそうですか」

 

 事実内容を確認しそれを突きつけられる。

 やはり気分の良いものではない、その様子を見ていた老人は怪訝な表情で自分を見つめる。

 

「お主、死んだことには何の躊躇いもないのか?大抵の者たちはうろたえたり逆上したり騒がしい

 ものなのじゃが」

 

「狼狽えていますけど、このようなテンプレではたいてい生き返られないしそれに・・・」

 

「それに・・・?」

 

「『自由に生き自由に死にました』が自分の家族の合言葉みたいなものなので、それに未練も俗だ

 らけなどうしようも無いモノだらけだし…あぁ、でも両親が完全にボケて俺がわからなくなるま

 で親孝行できなかったのは残念かな」

 

 妙な達観している自分に老人はまた溜息をつく。

 それに自分もあとを追うようにしてため息をつくとようやく話が始まった。

 

「さて、もういい加減話を進めるがお主には別世界に行ってもらう。」

 

「はい、ですがなぜ自分なのですか?」

 

「それは、相性じゃ」

 

「相性?」

 

 そこから世界に関する説明が始まった。

 自分が選ばれたのは死んでゆく魂の中で送りたい世界への相性が良かったから。

 世界というものは生き物みたいな部分もあり、余りにも違いすぎると異物として処理されるか世界自身がショックを受けてしまうそうだ。

 そして、送られる理由は世界自身の活性化のため。

 此の世にあるありとあらゆるものは「存在力」が全てである。

 例えるならたとえ古い映画でも人々がいつまでも口に出していたらその存在は何時までもある。

 どんな名作でも忘却されれば、存在していても本当に存在したことにはならない。

 ならばどのようにすれば忘れらずに済むかというと、話題を付ければいい。

 それがどんなものであれ振り向き始めれば良い。

 映画が世界、話題が自分とそういう事らしい。

 と、いうのが受けた説明の全てである。

 

「ここで大事なのは、お主の言うテンプレのチート能力も自在に付けれるのでなく、世界と送られ

 る者の相性にもよるということじゃ」

 

「じゃあ、絶望するしかないじゃないですか!?自分はただのへっぽこだって自覚しているんです

 よ!!」

 

「心配せんでもいいわい。肉体的は優良なモノになるくらいはサービスじゃ」

 

「では、本当の力は?」

 

「いまから、調べるから心静かにせいよ」

 

 そう言って老人は自分の頭に触れる。何かを探るように何かを考えるようにしていると感じた。

 もうそろそろ良いかなと自分が思い込んだ頃に手を離し一言、

 

「ロボじゃな」

 

「ロボですか?」

 

「うむ、正確にはメカやロボットと言ったメカニカル系じゃ」

 

 その後、老人は本当に方向性だけで正確にはどうなるかは不明だという。

 言いそびれていたが、この老人は神に値する何者かであろう。

 説明の時、口下手な自分がイメージ通りに伝えられたのは文字通りイメージが伝わっていたとしか考えられない。

 

「では、お主の力は以上でよろしいか?」

 

「はい」

 

「それでは送るとしよう、最低でも定年退職まで生きられるようがんばるのじゃぞ」

 

「はい」

 

「生き方はお主で決めなさい。世界を滅ぼす以外の制約は存在せん」

 

「はい、短い間でしたがありがとうございました。」

 

「うむ、それでば送るぞ」

 

 老人がそう言った瞬間、ゆっくりと意識が遠のく。

 自分からは見えないが体の末端から光の粒子となってこの白い空間に溶け込んでいった。

 

「さて、次の世界の補強じゃな…全く忙しいわい」

 

 

 この次の瞬間、送られた者の世界でひとつの産声が上がった。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。
タイトル通りの展開は次回からになります。
ですが、原作にたどり着くまでオリジナルで行うとなるといったい何時辿り着けるか分かりません。
その為、展開的に原作開始まで一気に飛ぶことになる事をご了承ください。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA2ss:アーキテクトマンです

はい、早々と原作開始です。
色々初っ端から改変・・・いや改悪かもしれませんがなされています。
そこらへんはご了承ください。
では、どうぞ御ゆるりと。


 ワイワイキャッキャっと姦しい新入生の女学生たち、その中で一際ご機嫌な人物がいた。

 光の加減で薄い水色に見える長くて腰下まで届く髪を二つに分けていて、体をゆっくりと左右に揺らし鼻歌まで聞こえてきそうだ。

 

「ねぇねぇ?なんでそんなにご機嫌さんなの?」

 

「んっそれはね、ボクの大好きな人が来てくれるからなんだ!ところで君は?」

 

「ん~、私?私はね~布仏 本音っていうんだ~」

 

「布仏さんか、ボクの名前はチェーロ・プニャーレだよ」

 

「チェーロ、ちぇろんだね~。私のことは本音で良いよ~」

 

「ちぇろん?それってボクのあだ名?」

 

「うんっそうだよ~」

 

「そうか、改めてよろしくね本音!」

 

「えへへ、よろしくね~ちぇろん~」

 

 こうして、交友を深めている女学生の達が沢山いる中ただ一点気まずく異物と思われる人物が一人・・・

 実質上女子高であるIS学園で唯一の男子である人物はまるで借りてきた猫、いや針のむしろに居るようであった。

 そんな彼を本音は指差し、チェーロに問う。

 

「ちぇろん?大好きな人って彼のこと~」

 

「え、違う違う断じて違うよ」

 

「え~、じゃあだれ~」

 

「…あの人は遅れるみたいよ」

 

「あ「ん~だれ~?」」

 

 本音とチェーロの問答に口を出したのは、髪の色素がやや薄いのか黄土色のショートカットをした女学生だった。

 チェーロは彼女が後ろ側に居たため首を後ろへ倒し応対する。

 

「あ、轟ちゃん。それホント?」

 

「ええ、本当よ」

 

「ね~、だれ~?」

 

 共通の話題で通じ合う二人に機嫌が斜めになる本音。

 そんな本音にチェロは苦笑してこの女学生を紹介し始めた。

 

「え~と、この人はボクの姉妹的な人で名前は」

 

(いかづち) (とどろき)よ。読み方を間違えないでね」

 

「ふ~ん、いかちゃん・かづちゃん・とどちゃん・どっき~・・・・う~ん!?」

 

「確かに轟ちゃんはあだ名付け辛いよね」

 

「では、ご~らいお~「待ちなさいっ、それは危険よ!?」ん~?じゃ、づっち~で」

 

 そうやっているうちに朝のSHRになり、背は小さいが胸の大きい女性が教室に入ってきた。

 自らを副担任と紹介し、生徒たちに自己紹介を促す。

 一人づつ名前と簡単な自己PRをしてついに注目が集まっている唯一の男子生徒・織斑一夏の番になったが

 

「……(汗 …!い、以上です!!」

 

 名前を言っただけと成ってしまいクラス中がコケる。

 その瞬間、板状の物を物凄く強打する音が響いた。

 皆その音の方向に目を向けると、男子生徒が頭を押さえうずくまっている。

 後ろには先程まで居なかった凛とした女性が出席簿を持ったまま立ちすくしていた。

 どうやら、その手に持っているもので生徒の頭を殴りつけたらしい。

 

「げぇ!?トゥーハンド・トゥーガン!??」

 

「誰が黒い海のトリガーハッピーだ」

 

「がはっ!」

 

 コントのような流れるように見事なノリツッコミ&ボケ、今度はクラス中が目が点になるが・・・

 男子生徒の姉であり担任がどこかの軍曹のような亭主関白?宣言をすると、次の瞬間黄色い悲鳴の衝撃波がクラスを震わす。

 

「騒ぐな!さて、山田君HRを押し付けて申し訳ない」

 

「いえ、こういう時の副担任ですので。会議の方ももうよろしかったんですか?」

 

「ああ。では、ここからは私が行っていく」

 

 このクラスの担任・織斑千冬が副担任・山田真耶からHRを引き継ぐ。

 このまま進むかと思いきや、

 

「さて、このまま続きといきたいところだが諸君らに紹介しなくてはいけない者がいる。入れ。」

 

 そう織斑千冬が言うと、黒板側の出入り口が引き開けられた。

 そこから一人入ってくる。

 姿はこの学園の制服ではなく深い青のリクルートスーツ、手が見えたが薄い革の手袋で肌が見えない。恰幅は太めだが太っている太さではなく確りとした体つきだ。

 体型からして驚くことに織斑一夏以外にもう一人男性がこのクラスに来たのだ。

 だが、驚くことはソコではない。

 頭が銀色だ、頭部と顎が尖っている、顔のほとんどをバイザーで隠している、いや・・・バイザーの奥でグポーンと青く光るモノアイが・・・・・

 そう、頭部がロボ・・・

 ロボ人間がクラスに入ってきたのだ!?

 しかも、この感じからしてクラスメイトとして!!

 この光景に誰も声が出ない、皆ほうけてしまった。

 

「え~、諸事情により遅れました。十千屋(とちや) 雄貴(ゆうき)・アーキテクトマンです。」

 

 一応、ロボ人間?が自己紹介をするとクラスメイト達は互いに目線を交せ合う。

 皆、オイお前がツッコメよ。いやよ。だったらアンタは?嫌に決まっているでしょ、と無言で押し付け合っていた。

 そんな中、沈黙を破る声が一つ。

 

「はいは~い」

 

「なんでしょうか、萌え袖の君」

 

「布仏 本音で~す。ロボットさんのアーキテクトマンってなんですか~?機体名?」

 

 沈黙を破ったのは布仏本音、彼女であった。

 しかし、クラスの心情はほんの一部を除きこうであろう。

 

(((ツッコムところソコ!?)))

 

「アーキテクトマンは会社の広報用の芸名だ。ちなみに私はロボでない。被り物だ」

 

(((被り物なんだ・・・)))

 

「ん~、とうちゃ「パパっ、パパ!パパ~~!」んさん、ほえ?」

 

「「「パパァっ!!??!」」」

 

 ある種の衝撃発言によりクラス中が同音同意を発した。

 衝撃発言の主はチェーロでとても嬉しそうに手を大きく振り彼に向かってアピールする。

 同じように肘をつき片手を上げて控えめに振る轟も嬉しそうだ。

 クラスが混乱の渦中となり収拾がつかなくならなくなる寸前で千冬が動く。

 

「騒ぐな!落ち着け! 十千屋、説明しろ。このままでは私はお前を未成年者保護法違反としてお

 前を捕まえなければならい。そして・・・チェーロ・プニャーレ!授業参観の子供みたいにいつ

 までもはしゃぐな!!」

 

 世界を取った女傑の一喝に皆が静まる。

 特に名指しで怒鳴られたチェーロは半泣き状態だ。

 クラスに沈黙が降りるとようやく十千屋が弁明を始める。

 

「ええと、はい。チェーロと轟、他にもいるのですが私のことを父親のように慕ってくれる子達が

 いるのです。その度合いは先ほどの事でご存知になったかと」

 

「…っ、毎年のバカ以外にも頭が痛くなる要因があるというのにまだ追加されるのか。まぁいい、

 他に言う事はあるか」

 

「あぁ、他ですか。んと、この被り物と手袋は酷いケガの痕を隠すものでもあります。あと、広報

 用なのは本当ですから」

 

 そのように十千屋が返答すると、同じくほんの一部を除いた生徒たちはとりあえず納得する。

 これ以上触れると何も進まないから放置しようと。

 

 

 この瞬間からIS学園、果てはまた世界が激動を迎える

 この世界の異分子、外来者=十千屋雄貴…IS学園に入学する。

 この年で23歳と成るのだが・・・・・

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。

第二話はいかかでしょうか?
一応、オリ主対セシリアまで書き終えて貯めていますのでそこまでは2、3日の感覚で投稿したいと思っています。
感想や批判も受け付けたいと思っているので。

さて、一応半オリジナルキャラの名前ですが、趣味で買ったファンタジー・ネーミング辞典を使っています。
この子だと、

チェーロ・プニャーレ
チェーロ:イタリア語で『空』
プニャーレ:イタリア語で『短剣』

雷 轟
この子は使う機体をまんま逆にしただけ、その機体には同型機・姉妹機がいるためです。

とまぁ、こんな感じ。
いずれオリジナルや改変・改悪?した設定は纏めて載せようかと思っています。
それでは、今回はここらへんで。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA3ss:今年で23になるな

はい、原作開始から2話目です。
早々に感想も書いていただき感謝感激でございます。
そして、まずは大きい原作剥離を起こしています。
では、3話目を御ゆるりとどうぞ。


 さて、ある意味怒涛の展開を見せた朝のSHRだったがようやく終わりを迎え初授業までの空白時間となった。

 やはり年頃の女の子なのかお喋りが始まる。

 その中心というか誘蛾灯は織斑一夏であり、彼を中心にして女生徒が集まる。

 その一方で十千屋は轟とチェーロに挟まれていた。

 轟はぴったりと寄り添い、チェーロは撫でろとせがむ。

 そのちょっと近寄りがたい雰囲気をものともせず一夏は十千屋に話しかけてきた。

 

「え、え~と見た目とさっきのが凄かったから話しづらいんだけどさ。俺は織斑一夏、同じ男性

 装着者としてよろしくな。」

 

「ん?あぁ、まぁほど程にな。」

 

「お前、同じ境遇の奴にソレはないんじゃないか」

 

「…貴方の方が失礼だわ」

 

「そーだよっ、あんたのせいでパパがどれだけ苦労したか知ってるの。…ほぼ独占できる時間がで

 きたのは嬉しいけど」

 

「どういう事だよ」

 

「すまないが、ちょっといいか」

 

 気軽な雰囲気で話しかけてくる一夏に対して、お座なりな十千屋と彼に敵愾心を剥き出しにする娘(仮)S’。

 その対応にムッっとするが誰かが話しかけて中断される。

 その人物とは長いポニーテールをしている女生徒、篠ノ之箒だ。

 

「一夏を借りたいのだが」

 

「それなら構いませんよ、私の方からは特にないですし」

 

「同上よ」「おなじく」

 

「うん?あぁ、なんだ箒?」

 

「少し話がしたい。着いてきてくれないか」

 

「わかった」

 

 どうやら箒は一夏と二人きりで話がしたいようである。

 二人がこの場から離れようとした時に十千屋が引き止めた。

 そして、自分の鞄のクリアファイルから一通の封筒を出す。

 

「あっ、ちょっと待った。篠ノ之さん、貴方宛に預かり物があったんだ」

 

「預かり物?」

 

「これだけど…ちゃんと読んで欲しい。心中色々あるかもしれないが」

 

 その封筒は、いや形からすると便箋か。

 薄いピンクでレース模様が飾りで付いている可愛らしいものであった。

 宛名は『篠ノ之箒 様へ』で差出人の名前はなく、裏は小さなウサギのシールで止めてあった。

 その品にどこか連想させられるものがあったのか、顔を顰めながら仕舞い込む。

 

「・・・用件はこれだけか」

 

「そうですよ、お邪魔しましたね」

 

「では、行くぞ一夏」

 

「えっあぁ、うん」

 

 そうして教室を出てゆく二人。

 それと入れ替わって次なる人物が彼らに近寄ってきた。

 その人は縦ロールのある長い金髪に透き通った碧眼を持つ女生徒

 

「お久しぶりです、ミスター十千屋。いえスカルマンさん。」

 

「お久しぶりですね、ミス・オルコット。ジェームズ・ボンドとボンド婦人はお元気ですか」

 

「ええ、家族だけの時はこちらも呆れるぐらいの元気で愛し合いっぷりですわ」

 

「パパ、誰この人」

 

「たしかイギリスの代表候補生」

 

 話しかけてきたのはイギリスのIS代表候補生『セシリア・オルコット』

 彼とどこか親しげに話す彼女に娘(仮)S’は警戒心を出し、それを見ていたクラスメイトは興味津々で続きを見守る。

 彼は警戒する彼女らの頭を少し乱暴に撫で、顔は見れないが苦笑して話す。

 

「お前ら何心配してるんだ。ミス・オルコットとは以前イギリスでちょいとドンパチなっちまった

 時の知り合いだよ」

 

「そうですわよ。貴女方の心配するような事は一切ありえませんわ。良くて、見た目は変ですけ

 ど素敵なオジ様という感じですわ」

 

「ふ~ん」「そう」

 

「疑いの目はやめてくれませんこと」

 

 十千屋とセシリアが互の言い分を言い、それを冷ややかな目で娘(仮)S’が見る。

 が次の瞬間、彼と彼女はため息をついた。

 

「しかし・・・」

 

「まぁ・・・」

 

「織斑一夏はありゃ本人も周りも苦労しそうだぞ?」

 

「やはり、あなたもそう思いですか。貴方と比べるとどうしても見劣りしてしまいますわ」

 

「成長に期待するしかないかねぇ」

 

「「はぁ」」

 

 その後、自由時間が終わり初めての授業が始まる。

 ちなみに教室を出ていった二人は、そこそこ遠くまで行ってたらしく遅刻して千冬から出席簿アタックを貰った。

 そして、授業が進むにつれて一夏がどんどん難しい顔をしてゆくので副担任の山田が声をかけるが

 

「織斑君、どこか分らないところがありますか?」

 

「え、えーと……全部分りません」

 

 これの答えには皆の息が詰まった。

 誰もが入学前には基礎中の基礎、候補生などに至ってはもうすでに知っている内容を理解していないというのだ。

 たしかに一夏は特殊な事情で緊急入学したが、それの措置はされていたはずである。

 その確認を千冬は目を鋭くしながら一夏に聞く。

 

「織斑、入学前に渡された参考書は読んだか。必読と書いてあっただろ」

 

「……古い電話帳と間違って捨てました」

 

 またもやあまりな回答にほぼ無意識であろう。

 かの愚か者に向かって無慈悲に出席簿が落とされる。

 痛みに沈んでいる一夏を尻目に千冬は措置内容を言い放つ。

 

「はぁ、再発行してやるから一週間で覚えろ」

 

「い、一週間!?無理だって千冬姉!」

 

 スパンッ!と再び出席簿アタックが一夏を襲う。

 無慈悲な2撃目が落ちた。

 そのままの打ち下ろした姿勢のまま厳しい目で彼を見下ろし口を酸っぱくしていう。

 

「織斑先生、だ。一週間で覚えろ」

 

 授業が始まって何度も出席簿を喰らい涙目になる一夏。

 やり場のない気持ちは他人事みたいに、いや実際に他人事なのだが余裕のありそうな十千屋に向かう。

 

「なんで十千屋の方はそんなに余裕なんだよぉ」

 

「そりゃ、事前学習は済んでるし。しかも、関連事項だけ言えばもう履修し終わっていますし」

 

「え、どういうことだそりゃ?」

 

「織斑、十千屋は一応同級生だがお前から見たらかなりの年上だ。言葉使いには気を付けろ」

 

「え、年上?十千屋が??えぇぇええ??!!!」

 

「そうだな。今年で23になるな」

 

 突然の事実にクラスが騒然となる。

 たしかに雰囲気は落ち着いているように見られたが、性格的なもので本当に老けているとは思っていなかったようだ。

 特に唯一二人の男性装者で親近感を寄せていた一夏にはショックが大きい。

 

「えっマジ、本当にそうなのか!?」

 

「さっきも言いましたが」

 

「何をそんなに狼狽えている織斑」

 

「だって、千冬姉!」

 

 スパンッ!

 

「いい加減間違えるな。織斑先生、だ。」

 

 お決まりに成りつつあるツッコミをしてもクラスの動揺は収まらない。

 その様子を見て千冬は一旦授業を切り上げ、十千屋近辺の諸事情を説明する。

 

「十千屋が言ったとおり彼はお前らよりもかなり年上で通信制といえども大学も卒業済みだ。彼が

 このクラスひいては学園に居るのは保護という名目に近い」

 

「ちなみに内定を貰い、所属している企業の内容でISと類似している部分はもう終わってます」

 

「本当にその部分だけは卒業レベルなんだがな」

 

 いったい彼にはどれだけ驚かせられればよいのだろうか。

 元から彼を知っている娘(仮)S’とセシリア以外は口が塞がらない。

 そんな中で山田先生は一夏に近づき両手を握り締め彼に詰め寄った

 

「お、織斑君。分らないところは放課後なら教えれますので……頑張りましょうね」

 

「はっいい、おっお願いします」

 

 両手を握られた彼は目の前に押しつぶされて迫り出した見事な双丘に目のやり場に困りながら言葉を返す。

 この様子を見かねた千冬は呆れた目をしながら十千屋に言う。

 

「十千屋、アレの面倒をできる限りしてくれ。私と山田君だけでは手が回らない事もあるだろうか

 らな」

 

「拒否権はありますか」

 

「無い。その代わり学習も立場も叩き込んでくれて結構だ。あいつは本当に何も分かっていないよ

 うだからな」

 

「それは学習的なスパルタでも?」

 

「精神的にも両方とも可だ」

 

 両手を握り締められたまま聞いていた一夏は肩と頭を落とす。

 どう足掻いても猛学習という名の絶望からは逃れられないようだ。

 

 

 

 なんやかんやでもう三限目までたどり着く。

 初日だというのに濃い日であったが、最強の爆弾発言を千冬が放つ。

 

「そういえばクラス代表を決めていなかったな。この時間はその選出に当てる、自薦他薦構わん

 早々に決めるように」

 

「はーい!織斑一夏くんがいいと思いま~す!!」

 

「賛成!」

 

「唯一まともな男子だもんね!」

 

「そうそう、それにやっぱり話題性も肝心よね」

 

「ちょっと待て!俺はやらないぞ!?」

 

「却下だ。自薦他薦も問わないと言っただろ?選ばれたのならやれ」

 

 決めると言った瞬間、一夏に向かって票が急激に集まる。

 この短時間でノリがイイというのが分かるクラスメイト達は、もはやアイドルのように彼をはやし立てる。

 クラス担任の千冬も早々と決まるのは問題ないらしくこれにて決定としようとしたところで一声上がった。

 

「はい、自薦と他薦を致しますわ。他薦は十千屋さんを指名します」

 

「ミス・オルコット?」

 

 一声の主はセシリアである。

 彼女は十千屋を引っ張り出したいようであった。

 その内容に娘(仮)S’を除いたクラスメイトは不満な目で見る。

 だが、それを気にせず彼女は言葉を綴った。

 

「ふふ、ミスター十千屋。貴方は企業代表なのでしょ?複数名クラス代表候補者が出れば試合など

 で決めるはず、そこで今の私を見せて差し上げますわ」

 

「あ~、ミス・オルコット大変申し訳ないんだが・・・自分は代表候補生候補みたいな感じでISを

 持っていないんだが」

 

「…え?」

 

「うん、持ってないんだ」

 

「う、嘘ですわよね?貴方ほどの方が専用機を持たれてないなんて…」

 

「いや、本当に無いんだよ。うちの企業の所持数は大盤振る舞いの3つで、一つ目は既にうちの企

 業代表でIS学園最上級生の専用機に二つ目は轟とチェーロ共用の試作量産機に、最後は研究開発

 用に企業に置きっぱなしだ」

 

 彼から理由を聞き口からエクトプラズムが出るかのように呆けるセシリア。

 まさかこんな理由で出鼻をくじかれるとは思ってもみなかったようだ。

 そこに無知な一夏は疑問を投げかける。

 

「三つしか無いなんて、少ないんだな」

 

「織斑、キサマは…今から言うページを読んでみろ」

 

 千冬の指示によってISの基本の文を読む一夏。

 そこでISコアの絶対数が467機分である事を知った。

 さらに詳しい内訳として、322機が実戦配備され145機が開発企業や国家機関に所有されて研究用や専用機に使われている。

 即ち、全世界で自由に使えるコアは145機分ということだ。

 一企業で三つというのはどれだけ凄いのかを推し量ることができる。

 

「まぁいい。クラス代表はオルコットが言ったとおりに試合、総当たり戦で決めることにする。他

 の奴らは異論は無いな」

 

 こうして、一抹の不安があるが勝ち抜きクラス代表決定戦が行われることに決定した。

 開催日は来週の月曜日である。

 さて、ISを持たない一夏と十千屋はどうなるのだろうか。

 




さて、3話目は如何なものでしょうか。
まずの原作剥離はセシリア・オルコット嬢の身の回りですね。
両親が健全で実は結構ヤバげな人達となってしまってます(汗
いや、イギリスでブレイクと言ったらこの方が浮かんできてしまった結果ですけど・・・(遠い目
それ故にセシリアの身分が当主補佐となってしまってます。
ここら辺の話し、というか原作開始前とか学園外でオリ主・原作勢以外の話はいつかEX話として書きたいですね。
それらのネタバレワードとして十千屋は一応、営業マン(物理)だったと言うのが挙げられます。
故に過去の営業が現在に響いてブレイクしている、と言う訳です。
では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA4ss:俺はお前にいい感情を抱いてない

はい、早くも通算4話目でございます。
まだまだ、クラス代表決定戦まで時間がかかりそうです。
あと、ブックオフで原作買ってみました。
まだ1巻も読み終えていませんが、こちらも話がちょいと展開遅いですね。
ある意味、この状態も原作沿いなんでしょうか?

では、どうぞ御ゆるりと。


 さて、クラス代表決定戦予定日が決まった日はとっくに終わり翌日となった。

 但し、詳しく述べないが一夏がラッキースケベを連発し、ついでに専用機を与えられることが決まっていたのは完全な余談である。

 ちなみに十千屋は自らの企業のゴリ押しで寮暮らしを回避、昨日はちゃんと予定を入れておいた客員用の宿泊施設で夜を明かした。

 そして今は既に放課後であり、生徒指導室に十千屋と娘(仮)S’と一夏、箒がいた。

 

「…で、だ。決定戦まであと6日、織斑には学習と特訓を修行レベルで受けてもらう」

 

「えっと、なんで十千屋さんが仕切ってるんですか?千冬ね…織斑先生とか山田先生が補習してく

 れるんじゃないのか?」

 

「そもそも、なんで私がここにいる。それにだ決定戦への特訓は私が面倒を見るから必要ない」

 

「黙りなさい、掃除用具」

 

「パパだって先生の凶行がなければ面倒みないもん」

 

 疑問と不満で何故ここにいるか分からない二人に対し、娘(仮)S’は侮蔑する。

 そんな身内の対応に十千屋は宥めながら話を進めた。

 

「いや、篠ノ之さん貴女のやっている自称特訓、端から見てただのボコ殴りは一応必要だからその

 ままでもいい」

 

「ならばっ」

 

「けど、コイツに今必要なのは体の動かし方を思い出させる他にも、最低でも今の授業内容につい

 ていけるだけの補習も必要だ」

 

「それもそうだが」

 

「掃除用具、貴女は肝心のISでの特訓はどうしたのよ」

 

「それをやる為にもIS練習機を最低2機分にアリーナの使用許可とか必要だよね。それ取れてん

 の?」

 

「うぐぅ!?」

 

「まぁ、取れてないんだろうな。先ほど端末で確認したが空きはないし、それにお前たち二人をま

 とめて呼んだのもちゃんと理由がある」

 

「いい加減そこらへんを教えてくださいよ。十千屋さんが先生たちの代わりに補習の面倒を見てく

 れるのは分かりましたけど」

 

 娘(仮)S’が箒をディスり始めたが全然進まない話に不機嫌になる一夏。

 それもそうかと十千屋もため息をついて切り替えなおす。

 

「まずは織斑は補習と特訓のため、篠ノ之さんは失礼だと思うが授業についていけそうか?」

 

「私を馬鹿にしているのか!」

 

「別に馬鹿にしているわけでもないし軽蔑しているわけでもない。聞かぬのは一生の恥、私は貴女

 達の補習役を任された。今何を言っても恥でも何でもない」

 

「…多少厳しいと思う」

 

 十千屋の問いに激昂する箒だったが、彼のロボ頭で見えないが真剣な目に気圧され目を背けながら返答する。

 その返答に彼はやはりという感じで頷いた。

 

「織斑これが二人一緒の理由になる」

 

「いや、全然分からねぇよ!?」

 

「まあ察しろというのが無理かな、説明するぞ」

 

 彼は改めて説明し始める。

 まずは二人の立場と学習面がほぼ同じということであった。

 立場は両者ともISの始まりとも呼ばれてもよい人物の関係者であること、それによってIS学園へ強制入学されている点だ。

 学習面はその強制入学の為に事前学習をさせられている点であるが、この事前学習は元々IS学園を目指してそして合格したもの向けという前提がある。

 これは十千屋の予想であるが参考書の内容は上記の合格者向けというのは当たり前の事でそれに疑問を抱くものはいない。

 即ち、参考書は元々学園入学希望者かつ合格者以外向けには作られていないという事だ。

 

「なんだよそれ、参考書なのに参考にならないのか」

 

「そうだ、基本的にIS学園を目指すものは日本なら最低でも1年以上前、中2の終わり進路を決め

 た時からがスタートになるだろう。もっと前から希望していたのならそれこそ小学受験位の年齢

 からだ」

 

「ボク達も12・3歳位から勉強させられたもんね」

 

「ええ、企業もISに関わるのなら身内から出したかったから」

 

「ところで篠ノ之さんは何時からその勉強をした?将来IS学園に入学させるから受験勉強しといて

 ね、って通知されたわけでもないでしょう」

 

「ああ、進路をいきなり決められていた。私としてもISに関わるつもりはなかったからな」

 

「え、えぇえとつまり俺が捨てちゃった参考書って」

 

「そうだ事前学習の事前学習が必要なレベルだった、ということだ。お前らからすれば英和辞書と

 文法の例題だけ渡されて難関大学の英語試験をしろという感じだ。」

 

 一夏はそれを聴くとじゃあ捨てちゃっても問題ないじゃんとふと思ったが、すぐさま十千屋が間違えて捨てるのはそれ以前の問題と声を出すと机に倒れ伏す。

 彼はその様子を見てまたため息をつくと一夏に言い放つ。

 

「織斑お前に事前に言っとくことがある」

 

「なんですか」

 

「…俺の教えを受けたくなかったらもう来なくていい」

 

「へ?」

 

「はっきり言って俺はお前にいい感情を抱いてない」

 

「なんだよそれ」

 

「昨日の俺の態度や轟とチェーロの態度を見れば分かるだろ」

 

「だからっ一体何なんだよそれ!?」

 

「これは現在のお前の立場が影響したものだ。同じような事はきっと他にもあるだろう、俺の場合

 はお前が男性装着者になったせいで企業への内定取消の危機とまた高校生のやり直しだ」

 

 十千屋の告白に頭の中が真っ白になる一夏。

 態度は素っ気なくとも色々と助けようとしてくれていた、良い人だと思った矢先の拒絶はショックだった。

 その為、彼は力を無くし目線が下へと落ちてゆく。

 

「こうやって関わろうとしているのは織斑先生の命令もあるが、俺自身の理由は同情と老婆心から

 だ。今のお前は何も知らなすぎて危ない。」

 

「じゃあ、どうしろっていうんですか」

 

「それがさっきの問だ。情けをかける切っ掛けはコレっきり、少しでも嫌で逃げ出したら後はもう

 何もしない」

 

「十千屋!キサマさっきから一夏に辛く当たりすぎだ!!」

 

「「「篠ノ之さん(アンタ/掃除用具)は今は黙ってろっ!」」」

 

 箒は彼の態度に怒りを露にすが三人の静止で気圧された。

 そして、静かになった室内にまた彼が語り始める。

 

「お前の立場というのは物凄く危ういものだ。お前が思っている以上にな」

 

「……っ」

 

「きっと、最初の授業の参考書騒ぎの時こう思っただろう『なんで俺が』って」

 

「そんな事はっ」

 

「無い、って言い切れるのか?」

 

「そんな事は…」

 

「一応、大人気なく攻めているのは自覚している。しかし、お前のこれからを考えると生きていた

 ければどんな恥辱でも屈強でも、それこそ泥水を啜ってでも進まなければならない」

 

「なんで俺なんだよ!?」

 

「これこそお前の立場だ。初のIS男性装着者という存在は人生をものの見事に変えてしまったんだ

 よ」

 

「……うぅ」

 

 彼の語りに一夏は追い込まれてゆく。

 余りにも唐突で考えた事ないことを突き付けられてゆき視界が歪む。

 

「だからこそ、俺に恨まれてようとも教えを乞い自分が這いつくばってでも進むという意思がある

 のなら、力になろうと決めていた」

 

「もし、手を取らなかったら」

 

「別に何もしない。ただの接点のないクラスメイトでお前と俺の関係は終わるだろう。それに俺で

 はなくとも織斑先生やお前に好意を抱くものは力を貸してくれるだろう」

 

「じゃあ、だったら「でも、お前が変わろうとする意志がなければ卒業後無事であるビジョンが俺

 には見えない」…え?」

 

「IS学園の特殊性は生徒である基本3年だけだ。それを過ぎた時、お前はどうなっているんだ?」

 

「え、あれ?どうなるんだ?」

 

「それは俺にも分からん。別に大丈夫かもしれないし俺の老婆心が行き過ぎていただけかもしれな

 い」

 

「えっ、えぇ!?」

 

「…すまんな、いきなり突きつけし過ぎたか。じゃ、二択で行こう」

 

 十千屋は混乱している一夏に向けて手を差し伸べる。

 そして、彼をまっすぐ見てこう言った。

 

「この手を取ればお前が今考えられない事を俺が気づいた限り伝え鍛えよう。もし、取らなかった

 らもうここで関係は終わりだ。一応、授業に着いていけるまでの補習はしてやる」

 

「お、俺は…」

 

「一夏!もうこんな奴は放っておいていいだろう!?」

 

「掃除用具いい加減にしなさい」

 

「ひとなつ、可哀想だから1つアドバイス。パパは絶対に着いてきてくれる人は絶対に裏切らない

 人だよ」

 

 一夏は箒と轟の喧騒を他所に彼の手と目を交互に見る。

 彼の相変わらず見えない目と手はしっかりと自分へと向けてある。

 手袋は相変わらずしているが手を取ればしっかりと握り返してくれそうな気がした。

 自分はどうする?ただの補習を受けるか?それとも・・・

 

「お、俺はっ…!」

 

 一夏は力の限り自分へと向けられている手を取った。

 十千屋へと向けられている目は狼狽えていたりはしない。

 むしろ、様々な熱によって燃えているかのようだ。

 

「あそこまで色々言われて、逃げる理由にはいかねぇよ!」

 

「ふっ、だったら泣き言も弱音も吐いていいが絶対に逃げられないと思えよ」

 

「上等ですよっ!」

 

 十千屋の啖呵に乗り強気に返す一夏。

 男同士の友情とか師弟愛とかそんなものを言うのだろうか、周りに居た女子には分からないそんな空間が出来ていた。

 彼らは手を握ったまま箒に謝る。

 

「すみませんね篠ノ之さん、何をやるのでも彼の意思を確認したかったのでつい強くあたってし

 まって」

 

「なんか心配かけたようでゴメンな箒。俺はもう大丈夫だからさ」

 

「う、うむ…一夏が良いのなら良いのだ」

 

「(ねぇ掃除用具の顔真っ赤だよ)」

 

「(織斑は天然ジゴロよきっと)」

 

 一夏の強い意志を秘めた瞳に紅潮する箒。

 彼は理由を気づかずに首をかしげるだけであったが、娘(仮)S’は彼の天然ジゴロに気がつき始めていた。

 手を握るのをやめ、皆を席へと着かす十千屋は修行の開始を宣言する。

 

「これから、特訓と補習…いや、修行を始めるっ」

 

「「「はい!」」」

 

 




さて、今回の話はどうでしたか?
オリ主が説教くさいのは私が読んでいた二次創作の影響だと思います(汗
某所の神代の作品です。
いや~、あんなふうに世界レベルで話の展開ができればどんなにすごいことやら…
私だと、身の回りまでですよ。書ける範囲は・・・

まぁ、そんな話しはさておき。
基本こんなふうにオリ主が説得と説教の後、調きょ…ゲフンゲフン、指導と教育をしてくのがメインになる感じだと思います。
ここから一気に好みが分かれると思うので、お気を付けください。
あと、自分は最低でもトゥルーエンドで無いと嫌な質です。
その為にもオリ主達にも頑張ってもらう予定です。
それでは、今回はここらへんで。


そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA5ss:うちの企業のパワードスーツ

ようやく5話目にしてクロスオーバーらしさがちょっぴり出てきます。
ここまでちょっと長かった。
クロスオーバーしている作品の片方が完全にロボだからIS機が出てこないことには出てこれなかったんですよ。
生身のキャラクターとしてはFA:Gの方が先に出てきているんですけどね。

では、どうぞ御ゆるりと。

17.5/5 感想欄で指摘があったのでセリフの区切り方を少し変えてみました。


 十千屋は一夏の現状への不理解に危機感を覚え、補習前に彼に発破をかける。

 男性装着者という理不尽の一端を突きつけられた一夏は狼狽するが、彼の説得に耳を貸し強くなることを決意したのだ。

 そして、その第一歩となる修行が始まる。

 

 

「では、()()を始める」

 

「「「「はいっ」」」」

 

「……って、これでは()()ではないか!?」

 

 十千屋の宣言に気合を入れるが箒は気づいた。

 部屋は狭いが学校机に着く自分たちと、黒板前の教卓に立つ十千屋。

 これでは修行ではなく授業風景だと。

 

「いや篠ノ之さん、何の知識もなく何を始めるんだ。往年のカンフー映画みたいにまずは苦しくて

 意味のない修行をしろと?」

 

「いっいやっ、そう聞くと間違ってはいなさそうなのだがイメージとのギャップが」

 

「あ~うん、わかるような気がする」

 

「パパはどっちかというと実践派と言うよりも」

 

「最初は説明から始める論理派よね、父さんは」

 

「ツッコミどうもありがとう、さてまずはどのようにするか順序を決めるか」

 

 箒のツッコミに馬鹿正直に返す十千屋であった。

 彼女もまともな返答に勢いを失いたじろぐ。

 それには皆苦笑するのであった。

 

 順序、この場合は時間割と言えばいいのか。

 まず、5限目が終わる15:00から18:00くらいが修行時間として相応しいであろう。

 あとはこれに約1時間で終わる程度の宿題を付ければ良いと十千屋は考えた。

 15時から18時までの三時間を三等分にしそれぞれを『補習』『体力作り』『実践』に回す予定である

『補習』は文字通りであり、まずは今の授業についていける内容を優先してやる。

『体力作り』は一夏と箒の剣道の時間、これで彼の鈍った体を鍛え直す。

『実践』はISを使った特訓、だが今は練習機も場所も取れないので十千屋が一計を案じる事となる。

 

「では、まずは補習と言いたい所だが…先に織斑の現在の立場について教えてゆくぞ。

 あと、もう言葉はラフでいくので悪しからず」

 

「え~と、さっきのやり取りでなんとなく分かった様な気がするんですが」

 

「あんなのほんの一端だ」

 

「マジですか?」

 

「ひとなつ、本気と書いてマジと読むくらい本当だよ」

 

「掃除用具、貴女も注意して聞いておいたほうがいいわ。彼に付いて行くのならね」

 

「どういう意味だ。あと、いい加減私の名をちゃんと呼ばないか」

 

「私の中で評価が変わったら一考してみるわ」

 

「では、どう言っても悪い例えになるからぶっちゃけてゆくぞ」

 

「…(ゴクリ」

 

 十千屋の語る悪い例という内容は、「例えるなら独裁政権に一本穿った楔のようなもの」であった。

 今の世はIS絶対至上主義から浮き出た女尊男卑の世界である。

 しかしその世界で一夏はISを動かした、いや動かしてしまった。

 これは今の世を謳歌する女性達にとって不測の事態である。

 このまま研究が進んだり、IS自体が男性を認めたりすれば今の世の中を逆転させてしまう。

 そうなれば今の世を是とする女性たちはどうするのだろうか?

 

「ど、どうなるんです?」

 

「拉致監禁抹消」

 

「そ、そこまでなんですか!?」

 

「過激派はそこまで行くだろうな。そうでなくともお前を押さえれば色々な特典が付いてくる」

 

 ここから彼は一夏の価値を話していく。

 彼の価値としてはまずは研究対象、今まで女性にしか反応しなかったISが何故か反応した稀有な個体。

 そして、彼を押さえればもれなく『織斑千冬』が付いてくる。

 さらにそこから繋がっていると思われる『篠ノ之束』の尻尾も掴めるかもれない。

 現に彼はIS学園の特殊性と織斑千冬というビックネームに守られている。

 

「以上だ、何か質問は?」

 

「あ、無いです。と言うか、十千屋さんがヤバイって言っていたのが分かりました。」

 

「いっ一夏!私は何があってもお前の味方だからな!!」

 

「でも、悪く言えばもっと凄まじい内容になるのよね」

 

「勢力差にして全人類の半分対ひとなつ一人だもんねぇ」

 

 十千屋の説明に心が早速折れそうになる一夏、箒がなんとか支えようとするが娘(仮)S’が追い打ちをかける。

 気が沈んでゆく一夏であったがあることに気づいた。

 同じ男性装着者である彼の事は何も言ってなかったのである。

 

「そうだ、質問があります。十千屋さんって俺と同じ立場じゃないんですか」

 

「その答えは、簡単に言えば『似て非なる』だな」

 

 十千屋はまず第二男性装着者であるという事、やはり最初よりも風当たりは多少マシになる。

 さらに決定的に違うのはもう所属が決まっていることだ。

 彼の所属は企業であるが、とある新興国の基幹でもある事業を担っている組織でありなんとか身は守れるレベルのところに身を寄せている。

 そして、今は詳しく語らないが彼がISを使えるのはある外的要因のせいである。

 一夏の様に無造作に無条件にISコアに反応する訳ではないのだ。

 

「こんなところだな、俺の立場としては」

 

「俺も早くどこかに所属したほうが良いんでしょうか」

 

「いや、俺はIS登場前から内縁的な所属していたから何も言われてないが織斑は別だ」

 

「何でですか?」

 

「さっき話したばかりだろ。お前の特典付属のせい。今頃、国際IS委員会が

 四苦八苦してるんじゃないか?」

 

「貴方を何処に所属させても不平不満が出るせいね」

 

「それならば、いっその事どこにも所属せねば」

 

「掃除用具、あんたボクたちの話聞いてなかったの?そんなことすれば

 全人類の半分からいつまでも狙われるよ」

 

「モウダメダァ…オシマイダァアァア・・・(泣」

 

「まぁ、卒業するまでに信頼できるトコ見つけておけよ?流石にこればかりは何とも言えん」

 

 気落ちした一夏を皆が温かい目で見守る中で補習は始まる。

 その中で、彼がソコソコそつなくこなす様子を見て十千屋はほんの僅かだけ安心できたのであった。

 補習が終わると今度は箒による一夏への私刑タイムが始まる。

 彼女自身は鍛え直しと言っているがやはり傍目から見ると私刑(リンチ)である。

 なぜ彼女はそこまで彼との剣道に拘るかを聞いてみたところ、以前は同門どうしだったらしい。

 それが要人保護プログラムのせいで離れ離れになり彼もそれで止めてしまった。

 しかも、一夏は剣道を止めたら家事にアルバイト、学業に友との青春で完全に体を鍛えること自体を止めてしまっていたらしい。

 学業も仕事も頑張る好青年に見えるが、十千屋は疑問に思う。

 当時は分からないが千冬の年収であれば彼は無理して働かなくてよかったのではないかと?

 息絶えたえの彼に聞くと当時の千冬は不意に家に帰ってきては寝て食べてまた仕事に行くという生活だったそうだ。

 その話を聞いていつか三者面談でもしなければならないのかと、十千屋は別の心配事ができたのである。

 

 

 さて、ようやく最後の時間割IS実習が始まるが十千屋は直ぐに移動を促す。

 それに剣道着の二人も急かされ移動した。

 彼らがメインの通りに足を運ぶとそこには小型ワゴンが止まっている。

 十千屋は運転手の女性に声をかけるとその車に乗り込んでいき、残りもそこに乗り込んでゆく。

 

「狭い車でごめんなさい。ちょっとだけ我慢していてね?」

 

「あ、はい。十千屋さんコレどこに向かってるんですか。それにこの人は?」

 

「どこに向かってるか、か。俺の出張拠点と言うべき所かな。そして、この人は」

 

「はい、私は雄貴さんの…秘書といいますか、オペレーター?助手?

 まぁ、パートナーのリアハ・アーヴァルです」

 

「俺はリアって呼んでるな」

 

 リアハ柔らかい笑みを浮かべ一瞬だけ後部座席に振り返る。

 美人というより可愛い感じの女性だ。いや、女性というには少し幼い感じがした。

 薄く灰色のように見えるショートボブと雰囲気がそのように見せたのだろうか?

 車は学校エリアを抜け、港湾地区に入る。

 そして、向かった先はとある船だ。

 

「ぬ、あの大きい船がそうなのか」

 

「そう、私たちナナジングループ・コトブキカンパニー所有の

 海上移動拠点『テーサウルスアルマ』よ」

 

「名前が言いにくいからボクたちは和名で元ネタの『宝船』って呼んでるけどねぇ」

 

 海上移動拠点『テーサウルスアルマ』コレこそが目的地であり十千屋が寮に戻らなくともよい理由であった。

 大きさはタンカーや大型客船までいかないが外洋調査船クラスはある。

 車は後部ハッチにそのまま入ってゆき、乗っていた全員がすぐ近くにあったハンガーまで来た。

 そこには各種プロテクターとゴーグルがあり、すべてがケーブルで真後ろの整備台に繋がっている。

 

「さて、今からやって貰うのはVR訓練だ。うちの企業のパワードスーツFA(フレームアームズ)

 ISと違う点も多いが似てる点もままある」

 

「似てる点ってなんですか?あとFAってどこかで聞いたような」

 

「基本ISは思考制御、イメージで機体を制御する。後は全身の運動とAIの補助だな、

 この点はISもうちのFAも変わらない」

 

「つまり、できない実習はこれで補うということか」

 

「そうだよ。でも、VRだからって甘く見ないほうがいいよ?結構、フィードバックが

 強めに設定してあるからね」

 

「大抵始めてはダメージや体感のフィードバックのせいで吐くわ」

 

「「え?」」

 

「さぁ、時間がない。基本機体で悪いがサクサク()るぞ」

 

「「ちょっとお!?字面がおかしくなかった(か)?!?」」

 

「はーい、テキパキ付けて始めましょうね?」

 

 不穏な言葉を聞き抗議をする一夏と箒であったがリアハに遮られ問答無用でプロテクターとゴーグルを付けられる。

 全てをつけ終わると二人に浮遊感が襲った。

 彼らには見えていないがベストタイプのプロテクターにアームが接続されそれが浮遊感を感じさせているのである。

 その次に感じたのは一瞬の光、それが終わると目の前にはISアリーナが広がっていた。

 

「あーあー、聞こえるか二人共。今のお前たちはFA・轟雷の姿になっている。

 が、轟雷は本来地上戦用なので空は飛べないVR設定を変更し浮かんでいる。

 受ける感じはISの打鉄と同じくらいにしてあるぞ。」

 

「お二人が聞こえますか?なにか異常があったら普通に喋ってください。

 こちらではちゃんとそれで分かりますから。」

 

「・・・何もないようだな。では、3分間自由に動かしてみろ。武装は一般的なIS用の

 ライフルとブレード、轟雷の固定装備の背面キャノンだ」

 

 二人は目の間に広がるISアリーナと完全にロボットのような四肢を見て少し驚いていた。

 互いに前を見ると、全体が角張っていて茶色いロボットが目に入る。

 どうやら二人とも同じ空間で対面に配置させられたらしい。

 聞こえてくる十千屋とリアハの声を聞きながら動き出してみる。

 まず、互いに近づいたり、下降上昇旋回、互いに当たらないように的外れの方向にライフルを撃ったりなどを試してみた。

 

「やっぱり、この機体ってあのゲームというかプラモのだよな?」

 

「どうした一夏?今度はブレードを振るってみないか。どうも銃は性に合わん」

 

「あぁ、そうだな。あと、このロボットって俺が知ってるゲームとプラモのヤツみたいなんだよ

 な」

 

「なに?どうゆうことだ」

 

「数馬-友達が勧めてくれて一緒にやったことのあるMMOなんだけどさ。

 ロボット同士が戦うタイプの。それに出てくるんだよ。基本的な機体の一つとして。

 あと、プラモデルも売り出してるみたいだった」

 

「そうなると、アイツ等がその元締めなのか?ゲームも模型もパワードスーツとやらも」

 

「う~ん、分からない。もしかすると十千屋さんってとんでもない人じゃ・・・」

 

「二人とも、雑談は終わったか?そろそろ実践に移るぞ。あと一夏、

 その疑問は一戦終わったら答えてやる」

 

 一夏が疑問に感じたモノに箒が相づちを打っていると十千屋から静止の声がかかる。

 二人が驚く間もなく対戦相手が用意された。

 相手は一体、全身が青系で染まっており全体的に鋭角的なロボットだ。

 轟雷が戦車だとすると、相手-スティレットは戦闘機を彷彿させる。

 そのまま、試合開始のカウントダウンが始まり二人は身構えることもできずに始まってしまった。

 最初ということで一定の距離からの射撃と回避がルーチン化されていたNPCであったがそれでも二人は苦戦し1対2の現状でなんとか勝利を収めたのである。

 

「「うっっうっぷぅ・・・」」

 

「はいは~い、エチケット袋はこっちだよ」

 

「ざまあないわね」

 

「うぅ、回る回る目が回る~」

 

「あ、頭に銃声と衝撃ががぁがあ…」

 

「ほれ、冷たい水だ。強い3D酔いみたいなもんだから確りしろ」

 

 一夏と箒が一通り吐き戻したあと十千屋が水を用意する。

 実はこのVR訓練機、十千屋の所属企業が所持しているFA部隊専用の訓練機なのだ。

 つまり、軍用なので一般のVRとは負担が桁違いなのである。

 

「はぁはぁ、十千屋さんさっきの質問」

 

「ああ、アレな。プラモもMMOもうちの会社のやつだよ。MMOはシミュレーションでもいいから

 実働データが欲しくてな?密かにゲームと称して集めたのが切っ掛けだな。

 プラモは資金稼ぎと俺の我儘かな」

 

「ふぅふぅ、十千屋さんはもしかすると途轍もない人なのか?」

 

「さぁ?どうだろうな」

 

「ボクたちにとっては一番大事な人だけどね」

 

「うん」「そうですね」

 

 VRに酔って蹲る二人に十千屋が質問を返すと一夏はどこか納得した感じになり、箒はもしかするとマズイのではと思い始めた。

 酔が治まってくる頃に一夏が何か思案顔になる。

 周りの皆はそれに何かと思うが、彼は意を決して十千屋に話しかけた。

 

「十千屋さん、機体の設定を変えることって出来ますか」

 

「ん?出来るが、基本機体の方が慣れ易いと思ったんだか」

 

「そうですけど、さっき言っていたMMOで使っていた機体があるんですよ。

 どうせならそっちの方が動き方のイメージし易いかなって」

 

「そうか・・・このタブレットで変更してくれ。

 変更の仕方はゲームとほぼ変わらないから分かるはずだ」

 

「一夏どうせなら私の機体も変えてくれ、先程のではどうも動きづらい。

 刀を振るえる様なヤツが…いや、最低でも格闘戦用の機体はないか?」

 

「分かった箒。お前のも変えとくよ」

 

 そして数分後、設定し終わったタブレットを十千屋に渡す。

 彼はそれを受け取ってリアハと共にVRの設定をし直した。

 そのし直している最中に彼は一夏に聞く。

 

「なぁ一夏お前はインファイターよりの高機動戦だったのか」

 

「なんでそう思うんです?」

 

「いや、ソードとショットガンを装備した漸雷強襲型なんてちょいと前のめり過ぎやしないか」

 

「あー、友達にも言われました。でも俺ってゲームでもさっきのVRでも射撃ヘタなんで

 近づいて攻撃するのが一番よくって」

 

「なるほどな。他にもそういう機体があったと思ったんだが」

 

「……ランク不足で開放できずにいたんで勝手が分からなかったんです」

 

「まぁゲームだしな。それで箒の方も漸雷なのか」

 

「はい、俺が知っているバランスの良い格闘機体ってそれなので」

 

「了解っと、よし設定できたぞ。次はいいか?」

 

「「はいっ」」

 

「とにかくお前たちには動かすっていう感覚を擬似的にだがとことん慣れてもらう。

 即ち経験値稼ぎ、連戦の連戦でゆくぞ」

 

 一夏と箒は再びゴーグルを身に付けVR空間へと入ってゆく。

 二人の体は新しい姿に変わっており、最初から対戦NPCが用意されていた。

 十千屋の宣言通り一息つく間もなく連戦し、慣れて勝率が上がったら二人は別々の空間に分けられ1対1で戦い、更に慣れたら今度は轟とチェーロが相手となりボロボロにされる。

 そんな事を決戦の日まで続けたのであった。

 

 

 

 ちなみに彼の出す宿題は

 

「「な、何て分かりやすく身に染みる宿題なんだ!」」

 

「な、なぁ箒?」

 

「なんだ一夏」

 

「俺、お前と同じことを思ってると思うんだけどさ」

 

「奇遇だな、私もだ」

 

「じゃあ、いっせーのせっで言ってみるか?」

 

「よしっ」

 

「「い、いっせーのせっ!」」

 

「「十千屋さんって学生じゃなくて先生として入ってくればよかったんじゃ?」」

 

 二人は意思確認をし終えたらすぐさまに宿題に向かうのであった。

 もし、できていなかったら修行が厳しくなると事前に言われていたせいである。




はい、ようやくFA=フレームアームズが出てまいりました。
ほぼチョイ役ですけど、やはりバトルですよね!バトルがないとアームズの方は出てきませんものね!(汗

さて、今回の名前の元ネタは

リアハ・アーヴァル
リアハ:ゲール語で『灰色』
アーヴァル:ゲール語で『物質』

ちゃんと元になっているキャラクターのキーワードを名前に盛り込もうと頑張っています。
けど、旗艦の名前の船の意味は『方舟』なんですよね・・・持っているネーミング辞典に普通の船が載ってなかったんです。orz

一夏の説教と調教は一寸づつ進んでいます。
が、次回はようやく十千屋の機体の話になっていきます。
あと、『娘(仮)S’』ですけどほかに良い呼び名ないかななんて。
では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA6ss:俺に対する嫌がらせ(改訂)

はい、6話目でございます。
まだ、クラス代表決定戦ではありません。
今回はオリ主:十千屋が使うISに関してのお話でございます。

では、どうぞ御ゆるりと。

追記:
感想の方で規約に当たるのではとのご指摘をいただいたのでココが被っているのではないと思われた、第6話目を一部改訂いたしました。
話の筋は概ね逸れていませんのでご了承ください。
そして、コレでちゃんと訂正できた事を祈ります。


 さて、決戦の日まで一夏とおまけに箒は勉強に特訓と濃厚な日々を続けていた。

 一方で十千屋の方は自ら乗るISを整備しに整備室に向かう。

 一夏の方には専用機が彼の方には量産機が当てられる事となっている。

 今日で三日目、彼はようやくこの3年間お世話になる機体に出会えるのだ。

 その量産機は、機動性の高いラファールよりも後付武装(イラコザ)が多い打鉄の方を選択した。

 この辺は完全に個人の趣味だが、打鉄は実際に企業の方で触った事のある機体であるためだ。

 しかし、この選択がすぐさまに彼を救う事となることは全く予想していなかった。

 

「さて、補習以外は俺がいなくても何とかなるだろ。とりあえず機体の全チェックとコトブキに問

 い合わせて武装の発注をと」

 

 彼は独り言をつぶやき自分のやることを確認しながら整備室へと向かう。

 すると、整備から光が漏れ出しており機械の駆動音もする。

 どうやら、先客が居るようだ。

 

「すみません、失礼します。新しい打鉄は搬入されてませんでしょうか」

 

「っだれ?……ひぅっ!?」

 

 十千屋が声を掛けながら入室すると幾つものコンソールとディスプレイに囲まれた少女がこちらの方に顔を向ける。

 が、入ってきたロボ頭男に小さな悲鳴を上げて椅子からずり落ちそうになった。

 少女は内巻の水色のセミロングでメガネを掛けており、どことなく大人しそうというよりは気弱な雰囲気が漂う。

 

「大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫です。貴方は誰ですか」

 

「一年一組、十千屋雄貴です。こちらの方が分かり易いかな第二男性装着者です」

 

「っ貴方のせいで…」

 

「(あ、もしかすると)私に何か?」

 

「貴方には関係ない」

 

「ふむ、関係あるとすれば奥にあるISですか?」

 

「!?」

 

 少女は驚きながら彼と応対する。

 だが、彼が自己紹介すると態度が一変した。

 あからさまな拒絶、彼には覚えがないが直ぐにある可能性を見出す。

 その為に奥にある異物、あからさまに調整いや組立途中のISに目を向けハッタリをかける。

 それに明らかな動揺を見せる少女を目横にISを観察する。

 見たところIS量産機である打鉄だが差異が見られ、改造されているように見えた。

 

「打鉄のカスタマイズですか。でも調整と言うよりも改造ですね、まるで新造するかのような」

 

「そう、これは私の専用機『打鉄弍式(うちがねにしき)』」

 

「やはり、そういう類いですか。でも疑問ですね、何故そのような物がこんな中途半端な状態でこ

 こに」

 

「…!貴方のせいじゃない!!」

 

 少女の感情が振り切れたのかこの打鉄弍式と男性装着者の因果関係を叩きつける。

  彼女は日本代表候補生であり、専用機を与えられる身であった。

  ベースは今までの実績と国産の打鉄として彼女の設計思考を取り込んだ新しいものへと作り替えられる予定であるが・・・

  男性装着者-織斑一夏が現れてから方針が一変する。

  貴重な男性装着者のデータを取るために専用機開発のリソースどころか総力を挙げてそちらに振り替えたのだ。

  少女がそれに気づいたのは春休みの終わり頃で連絡を取った時には全てが終わっていたのである。

  つまり、事実上…日本国家代表候補-彼女の専用機組立は無期中止となっていたのだ。

 その事実に彼女は大いに悲しみ怒り、契約を盾として開発中の自分の専用機『打鉄弍式』を学園に持込み、後は全て自分で行うと叩きつけ今に至るのである。

 

 十千屋はそれを聞いて頭が痛くなる。

 研究所の行動理由は様々であろうが今一番重要なのは国家代表候補生を切り捨てたのだという事実。

 倉持技研は半公営のIS研究所であると彼は知っていた。

 そんな研究所が国の顔に成るかもしれない、いや専用機を与える時点で顔にしようとしていた人物を捨てたのだ。

 しかも、彼女にその後の研究所の対応を聞いてみたところ専用機組立打ち切りに対するフォローも謝罪もなし。

 例え自分の事でなくともひどい頭痛がする。

 

「大変良くわかった。え~と、君は」

 

「ふん…一年四組-更識簪」

 

「更識さんですね。だけど、お門違いですよ」

 

「苗字は好きじゃない…え?」

 

「専用機を与えられるのは第一男性装着者-織斑一夏であって私ではないです」

 

「え?…えぇ、それじゃ私は」

 

「はい、思いっきり勘違いですね」

 

「ぴゃ~~~!??!」

 

 勘違いが分かったのか顔を押さえ直ぐその場に蹲る少女-簪は妙な声を出し続けていた。

 自分の勘違いのせいで全く関係ない人に当たってしまったのである。

 しかも、自分の身内話を叩きつけるように喋ってしまった。

 実は内気で臆病な性格の彼女には恥ずかしすぎる言動である。

 事実、今も蹲り見えない顔もわずかに見える耳先も真っ赤にし今も奇声を発している。

 

「はい、自分の割り振られたのは…ええと、在った。あの打が・・・・うぇ!?」

 

「ひゅっ!?なっナニ!??」

 

 奇行をする彼女に対して十千屋は話を続けるが目的のISを見つけた途端、声が上ずった。

 奇声に驚く簪であったがそんな彼女を尻目に彼はISに駆け寄った。

 そのISは打鉄は・・・・すごくボロかった。

 まるで失敗作、いや不良部品が勿体ないからと組立の練習に使ってそのまま放置したようなそんな有様であった。

 そんな有様に十千屋は呆然となり、簪は悲観する。

 

「これは酷い…」

 

「…はっ!?さらに嫌な予感がっ」

 

 十千屋は嫌な予感がし近くの整備用PCのコードをISに繋げ調べ始める。

 そしたら、いまのISの現状をそのまま言葉にしたような感じでバグが埃を叩くかのごとく出る。

 この事実に彼は愕然とした。

 男性装着者という事で謂れのない嫌がらせを受けるとは思っていたがここまでやるかと。

 彼は現状どうするかを考えながら、システムのコピペと現状の写真を撮る。

 訴えるにしても証拠からだ。

 その様子を隣で見ていた簪はさらにディスプレイを見る。

 

「・・・ひどい、このコードだととても使い物にならない。こんなのISに入れるものじゃない」

 

「ひでぇ…なんてもんじゃねぇよ。ISを何だと思ってんだよ。しかも俺に対する嫌がらせだけでこ

 のレベルだぞ?まさか・・・OSまで弄られちゃないだろうな」

 

「確認してみる」

 

「あ、すまん。どうもありがとうね」

 

「さっきのお詫び」

 

 簪は整備用PCを操作し、プログラムの心臓部であるOS部分を精査する。

 すると、これもまたもう何も言えない状態であった。

 

「な、何これ・・・OSまでがボロボロ、コードを直してバグをとってもこんなんじゃ動かない」

 

「・・・マジかよ、こんなの寄越すなんてキチガイか。こりゃ次は学園の整備も抑えられて使えな

 いとかあるかもな」

 

「そんな事は・・・ない…ハズ

 

 彼が深い溜息をつきながら証拠を集めていくさなか、彼女はある事を決意した。

 彼の前に立ち強い意志の元こう告げる。

 

許さないこんなの許せるはずもない、こんな嫌がらせに負けたくない!だからっ私に手伝わせ

 て!!」

 

「いや、それはありがたいけど自分の事もあるでしょ?それに詫びだったらこの証拠集めの協力で

 十分」

 

「違う、私はこんな事を許したくないだけ。こんな間違っていることに屈したくない(それに見捨

 てられた事は辛いから)」

 

「ありがとう、ならありがたく力を借りるよ。そして、」

 

「そして?」

 

「そして、君に敬意を評して俺の秘密の一部を見せてあげる」

 

 彼はそう言うとISの前に椅子を置き、それに座る。

 ISと対面になり自分の背からコードを引っ張り出し、自分とISを繋ぐ。

 彼女には何が起こっているか分からないが次の瞬間、彼とISの周りに数多のディスプレイが現れログが流れてゆく。

 

「こ、これは一体?」

 

「これが俺の秘密、自らの神経と機械を直接つなげるシステム『阿頼耶識(アラヤシキ)』」

 

「そんなことが可能なの!?」

 

「あぁ、ある手術…と、言っても改造人間レベルの手術を受けなければならないが」

 

「すごい、でもそんな技術があればもっと色んな所で見た事があるはず」

 

「そりゃそうだ。俺が提案し封印した技術だからな。実際使ってるのは俺とその知り合い数名だけ

 だ」

 

「封印?」

 

「あぁ、まず現段階の手法では手術措置できる期間が限られている。そして、最大の欠点は成功率

 が低く死亡率が高い。しかも、手術の負担が大きすぎる」

 

「それって…」

 

「欠陥技術の何物でもないな。成功すれば凄んだが。まぁ、コレの実働データのお蔭でもっと安全

 なシステムもできたんだけど」

 

「なんでそんな物を造って、そして受けたの」

 

「一人でなんでも出来る力が欲しかったからかな。今では傲慢だと思ってるが」

 

 この言葉に簪は衝撃が奔る。

『一人でなんでも出来る』これが今の自分をつくった言葉だからだ。

 一人でなんでも出来る、それは他人に助けを求めないこと。

 幼い頃から優秀な姉と比較され続けながらも、他者に助けを求めるのは甘えと自分に言い聞かせてきた。

 だがしかし、彼のように死ぬかもしれない行為までして貫けるものだろうか。

 

「よし、見つけた・・・どうしたんだ?ぼぉっとして」

 

「…はっ、いいえ何でもない。それよりも見つけたって」

 

「ISコアの自意識みたいなもんなんだが、イジケてるなコレ」

 

「確かにISコアには自意識らしきモノがあるって言われているけど、それに接触できるなんて。で

 も、イジケてる?」

 

「あ~、俺のISを動かす方法ってISコアへの直談判なんだよ。阿頼耶識5端子プラス イメージイ

 ンターフェイス1個でようやく接触できたんだ。コレ、オフレコな」

 

「なるほど、直接交渉できるから男性でも操縦出来るんだ。それでイジケてるって」

 

「そりゃ、こんな不良で不必要な物に閉じ込められればイジケるだろうさ」

 

「かわいそう」

 

「そうだな、以上が俺の秘密だ。明日から行動に移すからこれからよろしくな簪さん」

 

「はい、よろしくお願いします十千屋さん。そういえば口調」

 

「あぁ、怒涛の展開のせいで素が出てしまったな。ごめん、馴れ馴れしかったか」

 

「ううん、こっちの方がやりやすいと思う。今更だけど私もだし」

 

「そうか、さんきゅ」

 

 これからこの二人はともに作業をする事となる。

 急ピッチで十千屋のISを組み立て、それの恩返しに彼は簪の専用機作成に助力することとなる。

 これは先の話となるが彼の疑問の一言で彼女の心の氷が溶け出し、様々な人が彼女を助けてくれることとなる。

 彼の企業代表生とその整備科の生徒、彼女自身の縁から手を指し伸ばしてきた同級生。

 その協力があり専用機が完成した時に独力の限界と人の心の温かさを知る事となった。

 先程も書いたが、それはもうちょっと先の話である。

 

 ちなみに、

 

「そういえば、その頭ってアーキテクトの頭?」

 

「お、知ってるのか」

 

「うん、コトブキカンパニーのオリジナルプラモのだよね。私、かかさず関連商品買ってる」

 

「うちの企業のユーザーがこんな所に居るなんて嬉しいな~。ちなみに楽しみ方は?」

 

「全部のせ、ブンドド、ミサイルてんこ盛りは正義」

 

「いい趣味だ。それに加えて性能度外視設定のロマン兵装もイイよな」

 

「貴方とは性別も歳も超えた友達に成れそうな予感がする」

 

「奇遇だな、俺もだ」

 

「「(ガシッ)」」

 

 どうやら、ロボへの浪漫に共感があったようだ。

 しかも、ヒーローものや特撮、アニメ漫画など共通の趣味が通じ合った。

 故に二人共気兼ねのないオタク友達として深い友情を結んでゆく事となる。

 




はい、十千屋には量産機の方が振り当てられる事になりました。
結果は…ご覧の有様だよ、って感じでしたが。
そして、おそらく人気キャラである簪嬢の登場です。
ロボやヒーローものが好きという事でぜひ絡ませなくてはと思ったキャラクターであります。
しかし、十千屋が原作ヒロイン勢の対一夏フラグを弱体化しているような気がしなくもない。
だが、原作ヒロイン勢の各ルートへは絶対に成らないつもりなので悪しからず。
彼にとっては彼女たちは正真正銘の純粋な娘枠なので。

そういえば、忘れられていると思いますが彼のチート内容はロボ系作品の設定閲覧と現実への書き起こしです。
ロボ系作品なら何でもよくてサイボーグからバイオ技術、自転車から宇宙戦艦までと幅広く設計図を書き起こせます。
ただし、現実で技術力が足りてないと無意味ですが。
そして、メイン機体はFA、装備品は主にM.S.G(モデリング・サポート・グッズ )色んな技術は様々と考えてます。元々、このチートはいろんな設定を使いたいだけにこじ付けとご都合主義の為だけにありますので。

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。

追記:訂正は上手く出来てるでしょうか?
   本人だと分からない部分もあるので厳しくご指摘を頂けると有難いです。
   確りと直していきたいと思っています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA7ss:コイツを見てどう思う?

ようやく、クラス代表決定戦本選が始まりました。
長かった・・・予想以上に話数がかかった(汗
もう七話目ですよ・・・ほんとに・・・
さて、今回は十千屋VSセシリアです。

では、どうぞ御ゆるりと。


 ようやくクラス代表決定戦当日が来た。

 十千屋も一夏も装着するISが決まり、セシリアと別のピットで出番を待っている。

 十千屋のほうはコンテナから出されラックに掛かっているISの設定をいじり微調整している。

 一方の一夏というと、

 

「遅いな」

 

「ああ、遅いな」

 

「こりゃ、戦う順序を変えて貰った方がいいかね?あと、篠ノ之さん本当はピットに居ちゃいけな

 いの分かってる?」

 

「私の呼び方は名前でいい。苗字はどうしてもあの人を連想させられるからな。あと、何故いけな

 い?」

 

 一夏のISの搬入がどうもにも明らかに遅れている。

 試合の舞台となるアリーナは使用時間が限られているというのに。

 最初は一夏対セシリアの予定だったが、これ以上遅れるようであれば順序替えの必要があると十千屋は言うと同時に箒に注意する。

 そう、居ても当然かのように彼女はココに居るのだ。

 しかも、部外者立ち入り禁止という意味が分かっていない。

 

「あれ?なんでいけないんだ」

 

「あのさ、部外者立ち入り禁止って分かってる二人共?」

 

「なに、私は一夏の幼なじみだぞ!?」

 

 ジト目で二人を見る十千屋。

 そして、彼は溜息を吐いて訳を説明する。

 

「箒、お前の言ってるソレって例え悪く言うとだな…『キモヲタがアイドルの控え室に「ボキュは

 幼馴染だからいてもいいんでふぅ!」』ってのと同じだぞ」

 

「「ブッ!?」」

 

「しかも、キモヲタ側が箒でアイドル側が一夏な」

 

「…た、確かにそれはダメだよなぁ」

 

「キ、キモヲタ…私がキモヲタ側・・・・」

 

 彼のキモヲタ音声付きの発言に二人とも同時に吹き出し反応を返す。

 一夏は引き攣りながら納得し、箒はキモヲタ発言に傷ついていた。

 さらに彼は、だからチェーロと轟が居ないと言うとより納得できたのか二人の反応は強くなった。

 すると流石に両手両膝を付いている箒が不憫かと思ったのか彼がフォローに入る。

 

「あー、まぁ初めての試合に知り合いが居た方が少しは気が楽だと思うから、今回は良しとしよう

 な。一緒に織斑先生に頼んであげるから」

 

「そ、そうだぜ箒。次回から気を付ければいいんだからな!やっちまったモンはしょうがないっ

 て」

 

「う…うむ、すまなかった」

 

 そんなこんなしている内に時間が過ぎ、どうしようもないと思い始めた頃に山田先生が走ってくる。

 一夏の名前を連呼し山田双山を揺らし、コントを挟んでようやく彼のISが届いた事を伝えに来たのだ。

 彼のIS-専用機の第一印象は『白』であった。

 真っ白で飾り気のない白、純白の白いISが搭乗者-織斑一夏を待っているかのようであった。

 その名は、名は体を表すかの如きに『白式(びゃくしき)』という。

 

「織斑、早く身につけろ。時間は限られているのだからな」

 

「あ、はいっ千冬ね…織斑先生」

 

 いつの間にか来ていた千冬に急かされ一夏は白式を装着する。

 思考が広がり白式が馴染む感覚を彼は感じていた。

 その正体は、「初期化(フィッティング)」「最適化(パーソナライズ)」である。

 そして、その二つを合わせ「一次移行(ファースト・シフト)」と成り得て、ようやく専用機としての性能を発揮するのだ。

 故に今の白式は専用機であって専用機ではない。

 時間が必要だ、そう思った十千屋は結局こうなるかと愚痴りながら教員らに相談を持ちかける。

 

「織斑先生、戦う順序の変更を提案いたします」

 

「ふむ」

 

「今の一夏には時間が必要です。流石に一次移行していない機体で代表候補生と戦わせるのには酷

 かと」

 

「そうだな」「確かにそうですねぇ」

 

「終わるまで約30分、同情で遅延戦闘は致しません。が、このまま戦わせるのは余りにも不公平

 です。故にまずは自分とセシリアをと戦わせてください」

 

「お前の言い分は分かった。が、本当にわざと時間稼ぎはしないのだな」

 

「ええ、そこまで甘えさせるつもりはありません」

 

 千冬と十千屋のやり取りにハラハラする周りの面子。

 両者とも目を逸らさず真っ直ぐ互を射抜いている。

 それに根負けしたのか流石にこのままは駄目かと思ったのか彼女はその案に乗っかった。

 

「分かった、それを受け入れよう。山田君、セシリア・オルコットと見学に来ている生徒達に連絡

 をお願いします。対戦順序が変更されたと」

 

「あ、はいっ分かりました」

 

 山田先生は直ぐに千冬の指示に従いアリーナ全体に連絡放送をし始める。

 と、同時に十千屋もピット発着場に向かい直ぐに出れる準備をする。

 対戦する両者とも準備が整ったのかゲートの開放が始まった。

 

「箒と一夏、特に一夏。これから行なう戦いをコンマ1秒見逃すなよ。本当に勝ちにいきたいのな

 らな」

 

「「はいっ」」

 

「やれやれ、そう言う台詞は私の役目なのだがな」

 

「ふふっ、でも十千屋君はとても頼もしいですね」

 

「十千屋 雄貴、打鉄カスタム『(イカヅチ)』でる!」

 

 発進の合図が出ると肩とふくらはぎに付けられたブースターを噴かし、彼はアリーナに出る。

 今の彼の愛機と呼べるIS-打鉄カスタム『雷』と共に…。

 

 アリーナに出ると十千屋の目には青が映り、感覚に訴える一文が響く

 

 ―戦闘待機状態のISを感知。操縦者セシリア・オルコットISネーム『ブルー・ティアーズ』―

 

 そう、鮮やかな青に染まっているISとその装者であるセシリアが堂々と待っていた。

 

「ふふっ来てくださいましたのね、おじ様。専用機が無いと聞いた時はどうするのかと思いました

 わ」

 

「ああ、来たよミス・オルコット。そう、これが量産機のカスタムとはいえ俺の専用機と呼べる…

 打鉄『雷』だ」

 

 彼がそう言うとセシリアは彼の全身を改めて見る。

 彼のISは全身装甲(フルスキン)という珍しいものであった。

 ISというのはシールドと絶対防御によって搭乗者が危機に晒される事はほぼ無い。

 そのため、大概のISは搭乗者が露出しているのが普通である。

 だが、彼のISが全身装甲なのは彼女には分かっていた。

 雷と名付けたISの見た目は、肥大した足と少し大きめの手のISシルエットだが見覚えのある形をしている。

 茶色の角ばったロボットらしい見た目と装甲、そう彼の企業が作っているFA-轟雷の姿なのだ。

 このISはコトブキカンパニーで保管されていた轟雷風に改造された打鉄パーツに不良品の中から取り出したISコア。

 そして、簪を始め様々な人が組立あった機体なのである。

 

「では、始めましょう。さぁ、ともに踊りましょう!わたくしとブルーティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)

 で!!」

 

「踊るのは苦手だな。なら、こっちにしないか?機体が打ち出すjazzってのは!」

 

 セシリアは下げていた2mもある長銃『スターライトmarkⅢ』を引き撃ち、それを彼は紙一重で避けて両手のサブマシンガンで撃ち返す。

 だが、彼女は難なくそれを避け撃ち合いの応酬が始まった。

 正確に狙うセシリアとそれを紙一重で避け、撃ちだしてきた軌道を辿る様にサブマシンガンで撃ち返す。

 それを何度も繰り返すが互いに有効打にならない。

 いや、シールドエネルギーはまだ飛行分しか減っていないのだ。

 

「流石ですわおじ様!しかしっ私の実力はまだまだですわ!お往きなさい、ブルーティアー

 ズ!!」

 

「来たな、第三世代特殊兵装-ビット兵器!」

 

 フィン状の4つの肩部パーツがバラバラに動き出し、それぞれの先端に付いた銃口からレーザーを撃ちだしてくる。

 彼女が乗る専用機を含め、今世界が作り出そうとしているISは第三世代と呼ばれ操縦者のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器の搭載を目標としている。

 その中でイギリスはそれを使った自立機動兵器BT(ビット)を主力として作成していた。

 これが彼女のブルーティアーズなのである。

 

 数にして5つの銃口から狙われるようになった十千屋はサブマシンガンのグリップ同士を付け、上下にくっついたマシンガンで牽制しつつ避ける。

 さらに空いた手にはシールドを持ち、どうしても避けきれなくなったレーザーをそれで受ける。

 実は彼の武装のほぼ全てがコトブキカンパニー製だ。

 それはM.S.G(モビル・サポート・ギア)と言う拡張パーツのシリーズでその中の武装類、W.U(ウェポンユニット)07-ダブル・サブマシンガン、これは上下だけでなく連結させライフルに互い違いにくっつけ前後撃ちにと様々な形にできる。

 W.U 10-シールド、一般的なシールドだが裏に武器ラックが付いている。

 他にもあるが彼が今使っているのは以上だ。

 

 セシリアは合体したサブマシンガンに少し驚いたようだが、手は緩めない。

 依然としてブルーティアーズ達の猛攻は続く。

 

「すげぇ…十千屋さんって、こんなに強かったのか。補習と組立に忙しいからって見たことなくて

 知らなかった」

 

「あ、あぁ私もここまでとは思わなかった。ISではないが対戦相手を勤めてくれた轟とチェーロよ

 りも力量は上だと分かる」

 

「ほう、それくらいなら分かるか。だが、まだまだだな。奴は本気を出してはいない、真剣には

 やっているがな」

 

「凄いですね。でも十千屋さんISの実働時間は織斑君とあまり変わらないですよね?」

 

「そうだ。しかし、奴はプロだ」

 

「「「プロ?」」」

 

 一方でこちらは彼が飛び立ったピットである。

 ここには残っていた面子が試合の様子を見て感嘆していた。

 ほぼ一方的に撃たれている十千屋であるがどれも有効打を貰っていない。

 その様子に賞賛する一夏達であるが、ただ一人千冬だけが厳しい目で見つめていた。

 

「そうだ、一般的なISライダー…競技用との絶対的な戦歴差が私たちと奴の間ではある」

 

「戦歴差とは」

 

「奴は軍人…いや、その無縫さから傭兵か。本当の戦いを知り生き抜いた者だ」

 

「「え?」」

 

「あの、彼ってコトブキカンパニーのアルバイトスタッフではなかったんじゃないですか」

 

「皆、ここから他言無用だ。それは表向きだ、私が違和感を感じたのは入学試験のIS戦闘試験の時

 だ」

 

 千冬は試合の様子から目を逸らさずに話だした。

 学園入試には筆記と実習の二つの試験項目がある。

 十千屋は筆記にはあまり違和感がなかったが、実習-戦闘になると違和感を覚えた。

 彼の履歴書にはほとんどISを動かした時間は載っていなかったにも関わらず、やけに場馴れしている感覚があったのだ。

 

「ISのハイパーセンサーと浮く感覚に戸惑っていたが、相手が詰め寄ると見事に避けた。織斑お前

 のマグレ勝ちとは違ってな」

 

「うぐっ」

 

「……もしかして、あのVRか」

 

「そういえば、織斑君の補習に篠ノ之さんもついて行ったんですよね」

 

「そうか、ならFAは知っているな」

 

「はい、VRの時の見た目はそれでしたから」

 

「よし、知っているのならば話は早い。奴はコトブキカンパニー秘蔵FA部隊のエース級だ」

 

「「「え?えぇえ~~~~~!??」」」

 

 違和感を感じた千冬は自費で十千屋のことを調べ始めた。

 コトブキカンパニーがFAというパワードスーツを厳格な審査のもと売りに出していることは直ぐに知れた。

 だが、その誕生から今までにどうしても彼の影がチラついている。

 どうやらかなり深くまで関わっている事を知れたのだが、個人の限界かそれ以上は調べられなかった。

 集めた情報から十千屋雄貴はFAのパイロットであると推定できたのである。

 しかも、様々なFAに関する事件と戦闘に必ず彼の存在が見え隠れしていた。

 

「以上が私の調べた全てだ。ちっ、委員会め男と見下して碌に身辺調査しなかったな。かかった費

 用は絶対に請求してやる」

 

「で、でもちふ…織斑先生それでも絶対に強いって訳じゃないじゃ」

 

「やはり殻の取れてないヒヨコだな。セシリアと奴の表情…いや、雰囲気を見比べてみろ。山田君

 は分かっているぞ」

 

「攻めているのに顔が険しい?逆に十千屋さんの方が余裕を感じる」

 

「はい、それに私も射撃を主戦闘にしているから分ります。彼は微細に動いて全ての射軸から逃れ

 るように動いています」

 

 二人を見比べていた一夏と箒は山田先生の言葉に驚いた。

 守備に回されているのに余裕の雰囲気と教員をも唸らせる機動術、それらが彼のレベルの高さを物語っていた。

 そして、場面は動き出す。

 

「(っ、当たっているのに確実な当たりを撃ち込めない!)おじ様、まだまだいきますわよ!」

 

「いや、もうそろそろお仕舞いにしよう」

 

 確実な当たりが出ないのに焦るセシリア。

 それに十千屋が畳み掛けるかのようにW.U-02のバズーカを担ぎ真正面から突っ込んでくる。

 彼女はそれが誘いだと分かっていても、ここで引くわけには行かなかった。

 

「ティアーズ!一斉射撃!!」

 

「それを待っていたよ!」

 

 ブルーティアーズとセシリア自身による一斉射撃。

 全てのレーザーが重なり合うそのポイントで彼はバズーカを撃ち、相殺させ煙幕を作る。

 一瞬だけ煙にくらむ彼女だがそこから急上昇する彼を見つけると射線を向けた、が・・・

 

「そぉい!」

 

「いぃいっ!?」

 

 上に居る彼が全力でシールドを投げつけてくるのを変な声を出しながら避ける。

 シールドと避けに気を取られている隙に回りから軽い破裂音とベチャっと何かこびり付く様な音が同時にした。

 慌てて周りを見るとビット達がトリモチの様な何かに絡め取られていた。

 そこで彼女は気づく、突進から全てブルーティアーズを絡め取るためのブラフであった事に。

 実は、最初の煙幕ができたとき彼はマイクロミサイルを放り投げていたのだ。

 そして、煙幕から派手に出て注意が自身に向けられている間にミサイルを起動。

 さらにシールドを投げつけて彼女がビットの機動操作まで気を回らなくさせ着弾させる、これが彼の作戦であった。

 しかも、見えづらくするためにビットの真下からミサイルを着弾させるという徹底ぶり。

 だが、彼女にとって不幸中の幸いかビットの銃身は全て塞がられてはいない。

 付いたそのままで再び彼を狙い打とうとするが、二度三度撃った後に警告音が響く。

 

「(オーバーヒート!?)なぜなの!?」

 

「やっぱり、ビットの吸気口と排気口に異常が出れば熱が溜まるものだな」

 

 ISのプライベート回線を使って彼がそう語りかけてくる。

 ビットは機械でしかもレーザー…熱線を撃ちだす兵器である。

 故に熱が溜まりやすい、しかも彼はトリモチの中に断熱効果のある物質まで入れている始末だ。

 その結果の熱暴走(オーバーヒート)、大抵の機械は動作不良となり停止(フリーズ)する。

 彼の声で策に気づいた時にはもう遅い。今度こそ真正面からこちらに向かってくる。

 その速度はモノの数秒未満でこちらの懐に入られるだろう。

 だから彼女はライフルを捨て、手首を捻る動作をさせてナイフ-インターセプターを量子領域から引き出し構える。

 

「俺は効率的なシールドエネルギーの削り方を考えていた」

 

「それが、どうしたことです…のっ!」

 

 十千屋がそう言いながらセシリアへと突撃するが、それを彼女はナイフを真っ直ぐへと突き出し刺そうとする。

 が、身を翻して彼女の上をすれ違うと思いきや頭を両手で掴み、腕を捻って強引に軌道を変え彼女の真後ろに着く。

 至近距離の軽業に呆気にとられるセシリアだったが、すぐに背筋が凍る。

 無防備な背から()られる!

 

「そいつの答えの一つが、こ れ だーーーーー!!!」

 

「ふぇ!てっ…きゃーーー!?!?ぐぇっ!??」

 

 彼女の背を取った彼は相手の腿の外側から、自分の足で巻き込むように挟み、その状態で自分の両手で相手の両手を持ち、引きつけ上げる。

 四肢を逆に曲げられ身動きがとれない、しかもIS故に浮いているが普通であったら大開脚させられた状態で突き上げられていることだ。

 そう、誰が言ったかこの技はプロレスの関節技…ロメロスペシャルである。

 

「ぎぎぎぃ…ガッチリ絡まって動けませんわっ」

 

「そして、エネルギーは削れてるだろ?」

 

「え?何故!?」

 

 十千屋のシールドエネルギーの答えは『絶対防御を()()()()()()ダメージで、()()()()()()()部位に()()()()ダメージを与える』だ。

 絶対防御はシールドを大きく減らすことが出来るが、その分大きなダメージを与えなくてはならない。

 かと言って、普通に与えるのもまどろっこしい。

 ならば壊されては困る関節の部位などに破壊ギリギリのダメージを与え続ければ楽に減らせるのではないか?と考えたのだ。

 

「くっ、ならばブルーティアーズⅤ号・Ⅵ号!」

 

「それは止めときな。同士打ちで不利なのはダメージを負い続けてるオルコットのほうだ。そし

 て、切り札は次の為にとっておきな」

 

 関節をガッチリ固められエネルギーを減らされるセシリアは同士打ち覚悟でミサイルタイプのビットを起動させようとする。

 だが、それは彼に止められた。確かに彼の言うとおりビットを使い自由になってもダメージ差と自身の正常に使える武装は殆ど無い。

 その事実に歯がゆい思いをする。

 

「さて、ミス・オルコット…コイツを見てどう思う?」

 

「すごく大きい(チェーンソー)ですわ///」

 

 彼の言葉に耳を傾けると、ハイパーセンサーで自分の後ろの様子が見える。

 そこには彼の内脹脛のハードポイントに固定され自分の腰に突きつけられた、大きなチェーンソーがあった。

 W.U 26-ダイナミックチェーンソー とにかく大きくごついチェーンソーで一旦稼働したら太く・固く・暴れっ放し間違いなしである。

 

「大きいのはいいから、このままじゃ収まりがつかないんだよな…だから(スイッチを)挿れる

 ぞ?」

 

「そ、そんな大きくてゴツイ物を押し当てたら私が裂けてしまいますわ!?」

 

「い く ゾ♪」

 

「い、いや~~~!?!?!ぎゃっぁああーーーーやぁあああああああああああ!!!!」

 

 四肢を逆に極められ、腰にチェーンソーが押し当てられる。

 腰はシールドエネルギーで守られ、その干渉で火花が散っている。

 逃れられず自分の後ろ…腰から裂かれそうになるのをただ見ているしかできない彼女は狂乱した。

 それがほんの十数秒であったが彼女には何分以上の長い時間に感じた。

 しかし、物事には終わりがくる。

 

『試合終了。勝者―――十千屋 雄貴』

 

 シールドエネルギーが尽きる寸前にチェーンソーを止め、ISが強制解除させられたセシリアを彼は抱きとめた。

 もう彼女は恐怖によって精も根も尽きて真っ白になっているような状態であった。

 彼は元のピットへ戻らず彼女が出てきたピットへ向かった。

 

 これにてセシリア対十千屋の試合が終わったのだが。

 歓声は全くない。

 誰もが超人残虐技以上の組み合わせを見てドン引きであった。

 その中でも・・・戦う予定の一夏は体の震えは止まらない。

 




さて、今回は順当?にオリ主である十千屋が勝ちました。
ネタに走ったのは『ネタを挟まいと死んじゃう病』だと考えてください(汗
いや、普通に封殺しようと思ったんですよ?ビットを封じて自分が考えた効率の良いはずのシールド削りで勝とうと思っていたんですよ?
ですが・・・何故こうなったし(遠い目

あとは、普通に十千屋は強いです。
ちゃんと自分用にカスタムされたFAならば各国の代表選手と同等かそれ以上の実力は持ってます。他に出そうとしているFAライダー達もですけど。
しかし、これ以降の戦いだと十千屋は毎回酷い目に会う予定があります。…強く生きろ十千屋。

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA8ss:だろうな、このバカもんが!

今回はインターバルと軽く流してセシリア対一夏です。
本当は最終戦まで行きたかったのですが予想以上の文字数で・・・


では、どうぞ御ゆるりと。


 さて、十千屋はセシリアとハイレベルな試合を繰り広げた。

 だが、その結末はエゲツないものへと変わる。

 彼女は全ての武器を封殺され終いには恥ずかし固め、キ●肉マンにも登場したプロレス技の改悪極悪版ロメロスペシャルwithダイナミックチェーンソーを喰らった。

 羞恥と恐怖に飲み込まれ気絶した彼女は果たして復帰できるのだろうか?

 そして、その一方で・・・

 

 

 こちらはセシリアが出てきたピット内部。

 十千屋は気絶した彼女の代わりにビットを集めトリモチをとり、ISにシールドエネルギーを再充電していた。

 トリモチだらけになったビットも終盤で投げ捨てたレーザーライフルも問題なしと点検終了している。

 が、肝心の彼女は少し経った時に気絶から回復したのだが・・・

 

「あ~、こちら織斑千冬だ。次の試合をオルコット対織斑で行いたいのだが・・・」

 

「すみません、()り過ぎました(汗」

 

「だろうな、このバカもんが!お前らコトブキカンパニーの選手はトラウマ製造機か!?」

 

「すみません!って、それ初耳ですよ!?」

 

「何故知らん。お前のところの企業代表は『鉄拳』『ハンマーdeath&hell』『ハート鷲掴み(物

 理)』『ソウルクラッシュ』と呼ばれ相手にしたくないランキング学園No.1だぞ」

 

「『鉄拳』は知ってましたし、鈍器というかドつき合いが好きな子だとは知ってましたがマジです

 か?マジですよね…」

 

「ああ、マジだ。アレもお前の娘分なのだろ、確り教育しておけ。それよりも…其方もか?」

 

「其方もって事は、そっちもですか?」

 

「あぁ、こちらの精神状態も考えみて先ずはオルコットと戦わせたい」

 

 不意に千冬から通信が入り、叱咤された。当然である。

 ハイレベルな戦いを繰り広げていたと思ったら、あんな糞味噌なテクニックなオチをつけられ会場全ドン引きさせたのだから。

 しかも彼と同じ企業の代表もトラウマ製造機であったという事実も発覚した。

 そんな裏方のオチも付いたところで現状の確認となるが、通信越しに聞こえてくる両者の選手はというと…発狂していた。

 

「いやぁ、いやぁあっチェーンソーが関節が!?腰がぁあ!??皆の前でしかもおじ様が間近にい

 るのに少しもっ漏れももぉももおおおお!??」

 

「アレと戦う…戦う・・いや、勝ち負け以前だろ?それよりもあのネタ……い、嫌だ。掘られたく

 ないっ掘られたくなーーーーーい!パイルバンッカッアァー♂とかで後ろから…

 い や だーーーーーーー!!???」

 

「確りしろ一夏!大丈夫だ!!きっと次の対戦相手はオルコットの筈だ!!!」

 

「織斑君!落ち着いて、落ち着いてねっね!?」

 

 実に次の対戦選手両名ともSAN値(正気)が吹き飛んでいた。

 一夏側のピットはコレから自身の身に起きる一戦に恐々とし、セシリアは既に起こった絶望に囚われている。

 頭が痛くなる惨状に千冬は十千屋に指示を出す。

 

「こちらは何とか織斑を落ち着かせる。だから、シールドエネルギーの補充が終わるまでにオル

 コットを再起動させておけ。ちなみに分かっているだろうがコレは『願い』ではない『強制』

 だ」

 

「Aye aye ma'am!!」

 

「ココは軍では無いのだが、よし」

 

 そう言って向こうからの連絡は終了した。

 が、画面越しからでも分かる怒気と言うか殺気に十千屋の背は冷や汗でぐっしょり濡れていた。

 いくら色んな場面に遭遇してきた彼も怒った女性というものは怖くて仕方のないものなのである。

 自業自得とは言え先ずはセシリアを何とか立ち直らせなければならない。

 彼は部屋の隅でISスーツのままプリケツ体勢で蹲って腰を擦り、啜り泣いたり絶叫している彼女のもとへ向かった。

 

「ごめん、ごめんなオルコット。もうあんな事は絶対にしないから泣き止んでくれよ」

 

「うぅ、グス…ジュルほんとうに ほんとうにしない?」

 

「あぁ、幾ら何でもハッチャけ過ぎた。女の子にする攻撃じゃなかったよな」

 

ヒッヒィック…おじさまがあやまるのならゆるしてあげる・・・けど、も…もれ、もっれっれぇ~~~

 ビェ~ン!!!

 

「あ~、うん。ソレな、誰にも言わなければバレないと思うぞ。それに妻とのアレの時そういうこ

 と結構ヤッちまうから気にしない、なっ?」

 

「ヒックヒック・・・・・・」

 

 傷心の彼女の隣に体育座りで座って、わざわざ素手にして頭を撫で優しく声をかける。

 返答が返る程度には回復してはいるが、言動からすると若干幼児退行しているらしい。

 彼女とは短いが濃い出会いだったので許してくれそうではあるが、泣き止んで立ち直るまでは至らない。

 こうなればと、彼は自身にできる最終手段を言う。

 

「本当にゴメンな。おじさんが出来ることなら、できる限りなにかしてあげるから」

 

スンスンッ…なんでも?」

 

「あぁ、おじさんができる範疇でな」

 

クチュン…じゃあ、サヨナラした時のこと覚えてる?」

 

「ん?えぇっと、『お礼なら今度ディナーにでも誘ってくれよ』だっけ」

 

「うん、私が一人前の素敵なレディになったらディナーに誘って…て」

 

 十千屋は思い出した。

 ちょいと昔イギリスでドンパチした時にオルコット一家とセシリアと別れた時のワンシーンであった。

 ひと暴れし終わり営業(本物)が終わるまでの数日感、彼はオルコット一家と行動を共にしていた。

 その際にセシリアに懐かれ、別れの時に約束を交わしたのである。

 その内容は『お礼をしたいのなら一人前の素敵なレディになった時にディナーにでも誘ってくれよ、おじさんはそれだけで嬉しいから』と。

 その当時、セシリア本人は12~13の年齢・・・・・完全にロリコンおじさんの決め台詞であった。

 彼は当時の事を思い出しながらアホな別れ台詞だったと自己嫌悪していると、

 

「わたしお母様にお父様にチェルシーにたくさん聞いてたくさん勉強したの。まだ、一人前じゃな

 いけど素敵なレディになったと思うの」

 

「あぁ、スカルマンって声掛けられなきゃ直ぐには結びつかなかいほど大人になったよ」

 

「だから、一緒にディナーにいって。ううん、やっぱりレディとしてはおじ様の方からお誘いに

 なって」

 

「あぁ、分かったよ。アイツ等には話してなんとかセッティングしとくよ。二人きりの方がいいん

 だろ?」

 

「ええ、もちろん」

 

 話している内に口調が元に戻ってきたことを確認すると、彼は膝立ちになり手を差し延べる。

 それに対して彼女はその手を取った。

 

「もう大丈夫か?ミス・オルコット」

 

「えぇ、おじ様。ディナーの件よろしくお願いしまわ。それに素顔でお願いよ」

 

「ぬぅ、それだと本国で。う~ん、グループ傘下の良さげなレストランは…」

 

「ふふっ、それと…」

 

「それと?」

 

 行き成りの無茶な注文に十千屋が唸り声を上げて悩んでいると、座ったまま両手を広げセシリアはイタズラ顔で言う。

 

「だっこ♪」

 

「へ?」

 

 婦女子としては似合わないその体勢と台詞に彼は困惑の声が出た。

 すると、彼女はその格好のまま頬を膨らまし両手を振るう。

 

「まだまだ先ほどの侘びはマダですわよ!ピットを出るまでわたくしの可愛い我が儘を聞いていた

 だきますわよっ」

 

「了解いたしました。ミス・オルコット」

 

「それと…」

 

「次は何だい」

 

「いい加減、わたくしの事は名前でお呼びになって」

 

「ふぅ、セシリア…これでいいかい?」

 

「///…それでいいですわ」

 

 セシリアの何でもない我が儘を聞き届けちょっとずつ少しずつ叶え、射出口まで来た。

 先程、千冬からも連絡が有り一夏も気を取り直し位置についたようである。

 全ての準備が整いまさに二戦目の始まりが今まさに近づいていた。

 

「おじ様、今回の最後の我儘…聞いてくださる?」

 

「なんだい、セシリア」

 

「お、オデコにチュってしてくれませんこと」

 

「What?」

 

「だ~か~ら~っ額にキスをしてくれません!」

 

「いや、だから何故!?」

 

「わたくしの憧れのシチュエーションの一つですのっ。素敵なおじ様に額だけどキスしてもらう

 のが!」

 

「あ~ぬぅ~、分かったけど良いのか?」

 

「良いも悪いもわたくしが許しているのですわ!別に頬とか、くっ唇にしろとは言ってはおりませ

 んし!!」

 

 彼女の必死っぽい様子に彼はどことなく納得いかないが折れた。

 時間も押してくるし、なにより女性にこんな事を言わせているのは流石に気がひける。

 彼は彼女に目を閉じるように言うと、自分のロボ頭に手をかけ殆どを上にあげる。

 そして、彼女の額にかかる金糸のような前髪をかきあげてバードキスをした。

 自分以外の誰かの柔らかい所が触れて離れていくのを感覚で知ると、彼女は目を開ける。

 そこにはロボ頭を既に被り、顎と側面を持って調整している彼の姿があった。

 

「もう満足か?」

 

「ええ、宜しくてよ」

 

 どことなく照れくさそうな声で言う十千屋にご機嫌で声を返すセシリア。

 そんなその頃、観客席で、

 

『キュリリラリュンッ!』

 

「轟ちゃん、今の感じた?」

 

「貴女もなのね?」

 

「(・ω・`*)ネーネー?なに~?何を感じたの~?」

 

「今、姉妹が増えそうな気配がしたわ」

 

「でも、私たちレベルまでいかないね」

 

「えぇ、これくらいならば懇意くらいね。相手は」

 

「先の終わりのままだったらイギリス嬢かな?」

 

「ふぅ~ん?」

 

 チェーロと轟が謎の予感を感じ、仲良くなっていた本音が曖昧な相づちを打っていた。

 

 

 さて、肝心の試合はというと…結果から言ってセシリアの勝ちであった。

 内容は一夏を試すように段階的に己のギアを上げて相手にし、それに何とか食らいついてゆく彼といった感じであった。

 だがレベルの差は歴然であり、まるで詰将棋のように削られてゆく。

 が、後一歩の所でようやく白式の一次移行が終わり、しかも二次移行(セカンドシフト)から発現する個々の専用機IS特有の特殊能力単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)まで発現させた。

 これには流石に驚いたのかセシリアはビットに傷を負わされ懐間近まで接近を許してしまった。

 しかし、そこまでだった。

 その原因は白式の単一仕様能力である。名は零落白夜(れいらくびゃくや)であり能力は、己のシールドエネルギーを使用してエネルギー刃を作りそれに当たった敵のシールドエネルギーを無効化し、その超過分で絶対防御を発動させる、その結果敵シールドエネルギーを大幅に削るというものである。

 しかも、一夏にとっては姉が使っていた力であったため浮かれてその状態で戦い続けた結果…肝心の攻撃をする時にはエネルギーがゼロとなっていたのだ。

 ピットに戻った彼は、千冬に色々と絞られている最中だろう。此方も言いたい、ISは説明文を付けてくれているんだから説明くらい読めと。

 

 此方もピットに戻ってきたセシリア、彼女を待っていたのは十千屋であった。

 ISを解除し、休憩席に座る彼女にスポーツドリンクを差し入れる。

 受け取り一息ついた彼女に対して彼は先程の試合を聞いてみた。

 

「で、どうだった」

 

「ええ、おじ様の言われた通りに試合を運びましてよ」

 

「そりゃ見ていて分かったが、アレはどうだったんだ?」

 

「もぅ、わたくしも丁度良いと乗りましたが労いの言葉くらいはくれませんこと…そうですわ

 ね、」

 

 実は試合が始まる前、十千屋はセシリアに対してある事を頼んでいた。

 その内容は『一夏を()()()()追い詰めてほしい』である。

 彼としてはこの試合、一夏が勝っても負けてもどちらでも良かったのだ。いや、ほぼ勝つこと無いと踏んでいたのであるが。

 それはともかく、彼がこの試合で何かしらの気概を見せるか何かを悟れるかが重要であった。

 一応は鍛えさせる身、一夏がこの試合で何かしら変われなければこのまま鍛えても無駄であると思ったからである。

 それの確認を第三者のセシリアに頼んだ。

 彼女も彼が鍛えさせているのを知っていた為この話に乗りその結果は、

 

「最初はヘッポコでしたけど、一次移行してからは目が少し変わりましたわ。特に最後の覚悟を決

 めた時の目は良いですわね。でも、試合の内容で差し引いて及第点ですわ」

 

「まぁ、そんなものか。まだ精々1週間それくらいなら何とかかね。…そういや、ご機嫌だなセシ

 リア?」

 

「はい、おじ様。あの時見た優しく強い目もいいのですけど、“一夏さん”の強くて熱い目もまたイ

 イものでしたわ」

 

「そうか、アレの相手は色んな意味で疲れるぞ?」

 

「はい♪」

 

 まるで面白いものを見たような声色のセシリアに聞き返すと意外な答えが帰ってくる。

 彼はしょうがないなという感じで再度聞き返すと彼女は綺麗な笑顔で答えたのであった。

 

 




はい、前書きで書いたとおりに十千屋対一夏は次回に持ち越しです。
今回のを書いてる途中で文字数が結構いっていたと気づいたので分ける感じになりました。
そして、何故かセシリアがメインヒロインな回になりました・・・なぜだ?
勿論、十千屋の攻略ヒロインにセシリアは居ません、なのに・・・なぜにwhy?
コレでセシリアに人気が出たらどうしよう・・・(;´∀`)
十千屋のヒロイン達はブキヤ系と決めているのに・・・(汗

そして、ストックが追いつかなくなりそうです。
もしそうなったら2~3日ペースでの投稿は無理になり不定期になりますが気長にお待ちください。

あと、クラス代表決定戦が終わったら人物と設定の設定集を書いたほうが良いのでしょうか?


では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA9ss:『H.W.U』

はい、ようやく最終戦…織斑一夏VS十千屋雄貴です。
本当に長かった(汗
もう9話目、次で終われば話数の区切りがいいかも?

あと、ご指摘いただき六話の一部を改訂しました。

では、どうぞ御ゆるりと。



 さて…短いようで長い、長いようで短いクラス代表決定戦もいよいよ最後の試合となりました。

 女性だらけの理不尽なIS世界に放り込まれた『織斑 一夏』、未だ実力が見えない謎のロボットヘルメットマン『十千屋 雄貴・アーキテクトマン』

 わずか1週間足らずの師弟対決、両者はこの戦いで何を見るのでしょうか?

 それでは始めましょう!アイエスファイト! レディーゴー!!

 

「…で、チェーロ。貴女は何やってるの?」

 

「いや、出番ないからここいらでテコ入れを」

 

「ちぇろん~わたしビックリヽ(´Д`;)ノしちゃったよ~」

 

「わ、わぁっごめんね!?」

 

 いきなり両手を振り上げ謎の前口上を叫びだしたチェーロ。その行動に周りも驚き引いていた。

 だが、次の試合が一夏と十千屋の試合だと気づくと皆納得して座り直す。

 彼女らが十千屋-お父さん大好きなのは周知の事実であるからだ。

 しかも、セシリアとの対決の時は彼女に向かって色んな意味でイイ笑みを浮かべていたのも知れられている。

 

 

 こちらはセシリアと十千屋の居るピット。今度は前試合と逆に彼のほうが射出口に居る。

 彼のISは先程までコトブキカンパニーのコンテナを弄り、量子領域内部の入れ替えをし終わったばかりだ。

 入れ替わった武装とISの調子を確認しながら彼は待っていた。

 

「…良し、(Pi)…良し、問題なし。「おじ様」なんだいセシリア?」

 

「負けることはないですけど、頑張っていらしてね」

 

「ああ、わかってる「そして・・・」よ?」

 

「ぜひ、一夏さんもトラウマ組にしてくださいまし♪」

 

 濁った目でとても良い笑顔でそう言う彼女に対し、彼は見えない表情の中で引き攣りながら頷くのであった。

 その一方で今度は一夏達がいるピットの様子は、と言うと・・・

 

「大丈夫だ…大丈夫、掘られる事はない。なんかすごい攻撃は来そうだけど掘られる事にくらべれ

 ばあぁぁーーーー!!!」

 

「そうだ!確り気を持て一夏!!大丈夫だ。十千屋が先ほど仕入れていた武器の中には杭打ち機ら

 しきものはない!」

 

「おっ織斑君、今度は別方向で冷静になったほうが!?」

 

「何やっているんだこのバカ共は。妄想が変な危機感に繋がっているな」

 

 こちらは変に気合を燃焼し正気を保っている一夏&箒。それに振り回され慌ただしい山田先生とプチ混沌(カオス)であった。

 それにただ一人冷静な千冬は溜息を吐き、十千屋が運び入れた武器のリストを見る。

 一見普通の名が連なっているが、ただ一点…ただ一句だけ不穏な感じがするものがあった。

『H.W.U』この言葉が意味するのは何であろうか・・・

 

「どうやら、トラウマは逃れられないようだぞ?一夏」

 

 

 そして、ついに時が来た。

 互いのピットから発進し、何時でもぶつかり合える位置に身を漂わせる。

 両手を下げながらも不敵な気配を漂わす十千屋、一方で一夏は緊張な趣ですぐさまに己の武器

 『雪片弐型(ゆきひらにがた)』を出せるようにイメージングを繰り返す。

 己の心臓が破裂するかのような間を体感しながら一夏は、

 

『それでは両者、試合を開始してください』

 

「雪片らっぁあああああ!!!!」

 

 試合開始の合図と共に叫びと剣を己の師とも言える十千屋に向け打ち放つ。

 極限まで高められていた集中力は初めからワンオフ・アリビティー零落白夜を発動させ、それを振り抜く。

 

「未知の敵に対し、自分の最大攻撃をぶつける。そこそこ良い手だし、とても主人公的だ…しか

 し」

 

 ガァン!!「!?っ」

 

「とても短絡的でもあるな」

 

 当たりさえすれば大ダメージを負わせられる零落白夜は二本のグルカナイフで止められた。

 確かに当たればいいだろう。だが、そんな事を十千屋は許すわけがない。

 零落白夜のエネルギー刃は本体であるブレードの中心の溝から展開する。

 つまり、二つに割れた部分からが有効攻撃範囲となるのだ。

 

「まずはレッスン1と言ったところか?『零落白夜はエネルギー刃で当てろ』だ。どうなってるか

 説明してみろ」

 

 ギリギリギリ・・・

 

「十千屋っさんが!一歩踏み込んでっ、雪片の根元を受けたっ!!」

 

「そうだ、じゃあ次!!」

 

 W.U 11-ブーメラン・サイズ(鎌)に同封されている二本のグルカナイフでエネルギー刃が出ていない部位で受けた十千屋は彼に問答したあと弾き飛ばす。

 完全に振り抜く前の状態で受け止められていた一夏はそれを抑え込む力が入らずに距離を開けさせられた。

 自身の渾身の一撃をあっさりと防がれた影響かワンオフ・アリビティーはそこで切れる。

 だが、そんな事を気にしている場合ではない十千屋はいつ攻撃してくるか分からないのだから。

 

「レッスン2『それ(零落白夜)を決める時は必中の時のみ』失敗した今どうなってる?あと、補

 足として『必要な時以外は温存しましょう』かね」

 

「(確かに失敗した時の消費エネルギーの量がハンパじゃねぇ!当てるなら確実にか…)」

 

 彼に言われてシールドエネルギーを確認するとダメージを受けているわけでもないのに少くない量を消耗してしまった。

 そして、このやり取りで一夏は気づいたことがある。

 彼はいちいちレッスンと言っていた。この場で白式の扱い方をレクチャーしてくれているのだと。

 だが、それは同時に遊ばれていることを示している。

 

「(ちくしょうっ、これが千冬ねえが言っていた絶対的差ってヤツかよ!?)」

 

「なに気を散らしてる?ドンドンいくぞ」

 

 いつの間にか至近距離に近づいていた十千屋はそれぞれのナイフを順手と逆手に持ち、彼に連続攻撃を仕掛ける。

 それに咄嗟になって対応するがどれも弾かれ、ついでとばかり軽くダメージを与えてゆく。

 一夏は離したいが彼は離してはくれない。ピッタリと剣が振るい辛い間合いで攻撃してくるのだ。

 

「レッスン3『人・IS・武器の間合いは全て違う。間の開け方を覚えよ』拳法で言えば制空圏」

 

「…づぇいっ!」

 

「おっと、次は一夏に考えてもらおう。お題は『剣を振るう時の違和感』だ。制限時間は6分、

 3分たったら言葉でヒントをやる。でも、俺の行動の中にもヒントがあるからよく見て考えるよ

 うに」

 

「おっ…俺でぇ、遊ばないでください!」

 

「何を言う1週間直接指導の時間が取れなかった分の追加指導だ。一応、この問題がいま考えられ

 る最終問題だから確り解け」

 

「くぅそぉおおおおおお!!」

 

 説明をしている時にほんの僅かだけ攻撃が薄れる。

 そこで力任せに破こうとしたのだが、十千屋はあっさり後ろへと避けて今度は問題まで出してくる始末であった。

 完全に格下に見られ遊ばれているせいで気が高ぶる一夏。

 だがそれを冷血なカメラアイが見ているだけであった。

 

 

「一夏っそこだ!ああ!!くっ次はそっちだ!駄目か!?」

 

「完全に遊ばれている…と言うか指導中だな」

 

「はい、やり方はどうかと思いますけど説明は的確ですよねぇ」

 

 こちらは一夏が出てきたピット内部。残っている面子は1名のぞき溜息をついた。

 確かに今の十千屋のやり方は神経を逆なでする方法だろう。

 だが、教える内容は今の一夏に一番必要なIS-白式の動かし方である。

 この極端な専用機を使いこなすにはそれ相応なセンスと努力が必要だ。

 故にアリーナが使えるいま、思いついた限りの最低限のことを実践で伝えようと十千屋は考えたのかもしれない。

 

「ふぅ、篠ノ之。」

 

「なんですか織斑先生!いまはそれどころじゃっ」

 

「落ち着け織斑が今すぐ落とされる心配は今のところない。それよりもお前も考えておけ、十千屋

 の先程の問題をな」

 

「何故ですか?」

 

「お前とアイツの共通する癖はISの枷となる…と、いうことだ」

 

 箒はエキサイトしていたが千冬に言われ、疑問を抱いたら冷静になった。

 自分と一夏と共通するISにとっての枷とは?それを探るため彼女はモニターに目を向けるのであった。

 

 

「くっ!」「はい受け」「このぉ!」「はいハズレ」「当たれぇ!!」「パリィ、っと3分経ったな」

 

 果敢に十千屋へと攻める一夏だが、全くもって歯が立たない。

 戦闘レベルでもそうであるし、文字通りで雪片の(ヤイバ)も刃が立つようには斬らせてはくれなかった。

 それに気づいているのだろうか、十千屋はほぼ一点から移動していないことも。

 そんな無意味な攻撃を続けること3分が立ち、宣言通りに彼が動く事となる。

 

 ガキィン!「っと、どうだ?何かわかったか」

 

「アンタには全然通用しないって事以外分かんねぇよ!?」

 

 十千屋は3分が経った為、一夏の攻撃をわざと受け答えを求めてみた。

 だが、彼は攻撃する事で頭が一杯なのか自分の無力以外は何も感じてないようである。

 すると、十千屋は溜息を付いてヒントを出し始めた。

 

「お前、どうやってソレ振るってるか分かるか?」

 

「振るうって、そりゃ攻撃する為に振るってるに決まっているじゃないですか!」

 

「あー、お前の理解力だとソレじゃ分からないか…何の動きで振るってるかって事だ」

 

「俺の動き?振るい方?剣道のことですか!?」

 

「それな。じゃあ、IS無しと有りの違和感を感じろ。そして、コイツもヒントの蹴りだよ!」

 

 わざと鍔迫り合いをし一夏に次々とヒントを漏らす。

 その最後に十千屋はヒントだと言いながら脹脛に付いてるブースターを()()()()()()()()蹴りを放った。

 それを受けて少し遠くに飛ばされた一夏は先ほど言われたことを考える。

 

「(違和感?剣道?ISの有りと無し?分かんねぇ…いや、すぐに諦めるな。もっと一杯考えろって

 補習のとき言われただろ?先ずは分かりそうなものから!)」

 

 飛ばされた一夏は姿勢を制御するとまた十千屋へと攻撃を続ける。

 その中で、自分が分かりそうなキーワードから考えてみる。

 剣道-これは、自分が過去に箒と共にしていた剣道の事だろう。いや、その前に振り方と言っていた。確かに言われてみれば自分は剣道の型で雪片を振るっている。

 違和感-これだけだと分からないが上文と組み合わせると何かわかる気がする。そういえば、なんだか思っていたよりも威力が出ない事に気づく。確りと振り下ろせば例え十千屋でもナイフ1本腕1本で防げないはずだ。これが違和感なのか?

 ISの有り無し-コレについては全然見当がつかない。だが、先ほどヒントと言った蹴りは鋭く早かった。()()()()()を蹴り()()()()に使ったからだろうか。

 

「(以上で纏めて俺の答えは…)コレだ!」

 

 考えを纏めている間にも何度も打ち合いをし、今も受け流され距離が空いた。

 しかし、これならば思いついた行動を起こせる。

 一夏は彼に向かって飛び、そして彼に向かって攻撃の()()()()()()()()()に後部スラスター翼を使い雪片を振り下ろした。

 すると、予想以上のスピードが生まれこの問答が始まって初めて彼が2本のナイフで攻撃を防いだ。

 

「これが答えか?一夏」

 

「へへっ、言われて分かった事から考えてコレをやったら何だか予想以上に上手く出来たぜ!」

 

「実行は出来た、けど理由は分かってないようじゃ50点だ!」

 

 初めてのいい当たりに上機嫌になる一夏、その攻撃に十千屋は点数をつけたが50点であった。

 100点満点中50点の計算であり、内訳は実践50:理解50である。

 つまり彼はなんで攻撃の瞬間にブースターを吹かせば威力が十分に乗るのかを理解していないが出来たので50点、という訳だ。

 評価を下した後、十千屋は力む一夏に対して体勢と刀身を斜めにずらし受け流す。

 その変化について行けなかった彼は滑り出して体勢を崩す、そして無防備になった背に再びあの強烈な蹴りを当てられ飛ばされた。

 

 

「はあ、実行できたと思ったら何も分かっとらんとはあのバカは…篠ノ之、お前は分かったか」

 

「…一夏の行動と十千屋さんのヒントからすると、攻撃時の踏み込みが関わっているんですよね」

 

「まぁ、そこまで分かるのなら説明してやろう」

 

 こちらは再び一夏側のピット、千冬が弟の馬鹿さ加減にため息をつくと自分が問題を投げつけた箒に答えを聞く。

 彼女は少し考え込んでから答えを言った。一夏の行動と十千屋の発言からの答えは『攻撃の踏み込み』だと。

 それを聴くと一夏よりも分かっていると判断したのか千冬は説明をしだした。

 その説明は、空中での格闘技の型の有効性である。

 人は本来、地に足を付けて生活する動物である。これは当たり前だが、その当たり前は格闘技の中でも当てはまる。

 自分自身が攻撃するというとは、その反作用が自分に伝わるということだ。他にも踏み込むことによって急停止し、その勢いを拳に載せ放つという技術も存在する。即ち、足で踏ん張るという事が重要なのである。

 だが、ISは基本空中に浮いている。そのため、足で踏ん張ろうとしても付ける地面がないのだ。

 IS自体はとても賢いため操縦者のイメージを受け取り、慣性制御などに使うPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)などで挙動のサポートはしてくれるだろう。

 しかし、あくまでそれは補助の領域を出ない。その為に挙動一致の一撃は不一致となり不完全と終わるのである。

 その為、IS戦闘をするさいに剣道の動きしか知らない一夏と箒はISの環境に馴染めずアンバランスなものとなってしまう。

 故に、ISで行なう格闘技の型の攻撃はISの環境に合わせるようにさらなる工夫が必要なのだ。

 

 と、いう説明を箒はこの場で一夏は試合後に聞くこととなる。

 さて、再び場面を試合へと戻そう。

 

 

 今の互いの位置関係はどちらも射程範囲内である。

 両者とも一気に近づいたらあっという間に距離はゼロとなり、刹那見切りと成ってしまうだろう。

 そうなった場合に不利なのは一夏の方である。

 序盤の不発、中盤の無駄となった挙動とシールドエネルギーを使いすぎた。

 普通の攻撃では彼の方が力尽きるのが早いだろう。

 勝つ、いや一矢報いたいのであれば序盤で通用しなかった自身の最大攻撃を当てるしかない。それも残シールドエネルギーを考えればこの1回だけでだ。

 一夏は覚悟を決める。負けるにしても自分の渾身の一撃を当ててからだと。

 

「(…成程ね、セシリアが気に入った目はアレか)」

 

 雪片を正眼に構え、覚悟を決めた彼の瞳を見て十千屋はそう思った。

 真っ直ぐとそして、相手の先にある目標に向かう覚悟が自分を貫いてゆく。それは中々に強烈な感覚である。

 そして、それに答えなければいけないと不意に思ってしまった。

 彼は量子領域にあるとある武器を展開(オープン)する。

 

 一夏は新たに武器を変える十千屋を見つめる。

 何時でも抜き打ち合えるようにだったが・・・展開される時に出る量子光の量と範囲が多く大きい事に冷や汗が出た。

 量子の光は右肩から先、つまり右腕全部を覆い多数のパーツを化現させてゆく。

 そこに現れたのはミキサーの化物を右腕に直付けしたような武装がそこにあった・・・

 

 H.W.U(ヘビィウェポンユニット)02:スパイラルクラッシャー、これは通常時だと両手持ちの大型クローとして使えるが腕に直付もできる。

 そして、説明が遅れたがH.W.UこれはM.S.G内の大型武装の総称であり、その特徴は当たり前だが大きいことそして複数のパーツで構成され組み替えられる事だ。

 その気になればこのスパイラルクラッシャーも分解しそれぞれ独立した装甲や武装とすることもできる。

 

「(や、やばいヤバイYABAI!アレは分かるっ、トラウマ装置だと!!)やるしかないか!?」

 

「さて、どうする一夏?」

 

 緊迫した空気が両者の間に流れる。

 先に攻撃に移るか、後の先とするか、全て一瞬で決まる。

 …十千屋のH.W.Uの一部が軋んだのかガリッとした小さな音が想像以上に大きく聞こえた。

 この瞬間、一夏はスラクターを全開にし十千屋と向かう。間を詰めた瞬間に先ほど覚えた一歩踏み込むような加速も使って。

 その加速は初心者にしては上出来であろう、なにせISの機動技術を知らない彼が瞬時加速(イグニッション・ブースト)の紛いごとを使ったのだ。

 だが、十千屋はその更に上にいる。

 予想以上の加速には驚いたかもしれないがスパイラルクラッシャーの影で密かに展開していたW.U 16-ショットガンの銃口を振り下ろされる雪片の柄頭に向けた。

 ゼロ距離でのショットガンを受け雪片は一夏の手から弾き飛ばされてしまう、と同時にクラッシャーの3枚板=三つの大型クローが開き彼をガッチリ掴む。

 

「くっそぅ!」

 

「最後の一撃、これだけは現状100点満点を挙げられるな。よくやった」

 

「へへっ!これで最後なんて言わせないぜ!!」

 

「いや、最後だ…」

 

 一夏は捕まっても抵抗を続けるが抜け出せない、唯一の武器である雪片も先ほど手放されてしまった。

 そんな彼を尻目に十千屋は飛行速度を上げある場所に向かう。

 

「ちょっと!なんでブースターが増えているんですか!?それにっスピードがっ」

 

「コイツはエクステンド・ブースター!元々、後付けブースターだ!!そしてっ派手に決めさせて

 もらう!!」

 

 十千屋はブースターを背面にも2つ増強し速度を上げる。

 それはPICでも加速度負荷を軽減できず一夏は悲鳴を上げた。

 そして、ここからト ラ ウ マ 確定の処刑が始まる。

 

「スゥパァイラァルゥゥウウウウウウウ!!」

 

「へ!?うぉろろおろっろろっろおおお!?」

 

 クラッシャーの基部が一夏を掴んだまま回りだし、

 

「クゥラッッッシャァアアアアアアア!!!」

 

「ぎぁっ!?ギャァァァアァァァアァァァァアアアアア!!!!」

 

 その掛け声と共に回転している彼を加速しながら壁へと押し付けた。

 しかも、ただ押し付けているのではなく壁に一筆書きをするかの如く磨りおろし続けて飛んでゆく。

 一夏は死を覚悟した。驚異的に回され自分がどこにいるかわからず、数えるのも億劫になるほど壁に叩きつけられ磨られてゆく。

 もし、シールドエネルギーと絶対防御がなければ叩きつけられた時に即死していただろう。だが、そのおかげでこの恐怖を味合うことになっている。

 どちらがいいか、そんな事を思える余裕もなく気絶する直前で最後の時を迎えた。

 

「うらぁああっらああらあああああ!!!」

 

「ぁぁぁぁあああああああぁあああああ!?!?!!?べぶぅしぃっ!!!??!」

 

 

どぉおおおぉおぉおおおおおおおおおんんんんぅ!!

 

『試合終了。勝者―――十千屋 雄貴』

 

 止めの一撃でちゃんとシールドエネルギーがゼロになるように調節して磨りおろし、最後にアリーナの中央底に叩きつけた。

 あまりの叩きつけた衝撃でアリーナの底は窪み、土煙が立ち込める。

 その中から試合終了のアナウンスと共にISが解除され気絶しグッタリとした一夏を掴んだまま掲げ、十千屋は勝利をその姿で表したのであった。

 一夏を掴んでいるのは文字通り彼をスパイラル(回転して)クラッシャー(ブッ壊した)ものである。

 こうして、二人にそれぞれ別のトラウマを植え付けたクラス代表決定戦は十千屋の全勝で終わったのであった。




はい、これにてクラス代表決定戦は全試合終了となります。
今回の決め技はスパイラルクラッシャーでよくSRWでありそうなクラッシャー系の技になりました。

一つの目標としてM.S.G系の武器を沢山使っていきたいと思っています。
機体の方はどうしても出番が回らない出せるように書けない等があるので、せめて武器系だけでもと思っています。

ここまで9話分とえらくかかった様な気がしなくもないですが、次回で大体終了となります。
今後は投稿期間が不安定になる可能性の方が高いですが、機会があればまたお楽しみになしておいてください。


リアル時間的には前々回頃になりますがご指摘があり第6話を改定いたしました。
そちらの方もよろしくお願いします。

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA10ss:では1年1組の代表は

さて、区切りがよく10話目で原作で言うクラス代表決定戦が終われそうです。

では、どうぞ御ゆるりと。



 クラス代表決定戦は終了した。

 戦歴は十千屋は全勝、セシリアは一勝一敗、一夏は全敗という結果である。

 この試合結果はまぁ順当であろう、そう何がいけなかったとかと言うと・・・

 十千屋が若干二名にトラウマを植え付けたのは些細なことであろう。

 

「「良くねぇ(です)わぁあーーーーー!!!!」」

 

 

 さて、試合が終わった夜それぞれの部屋に戻った。

 気になるクラス代表は明日には発表される。

 自室に戻った各々は何をやっているのだろうか。

 こちらは一夏と箒の共同部屋、どちらも寝る前の宿題に勤しんでいる。

 もちろん、この宿題は十千屋から振られた物だ。

 

「え~と、白式の長所と短所・・・つーか欠陥だよなこの短所って」

 

「別方角から同時に狙われた時の最善の機動は・・・一夏、そっちはどうだ?」

 

「え~と、とにかくエネルギーを喰う。っと、う~んまぁまぁかなぁ?それよりも白式の気づいた

 点まとめてレポート書けって宿題なんだけどさ・・・書けば書くほどコレ厳しくねって感じなん

 だけど」

 

「それは私は知らん。お前の鍛え方次第だ。こちらの方が難しいぞ」

 

「あ~、箒のは『自分対セシリア・オルコットの戦闘予測』だっけ」

 

「くぅっ、流石は代表候補生というだけの事はあるか。手詰まりになりそうだ」

 

「「はぁ・・・」」

 

 どうやら宿題の内容はどちらとも今日の試合内容でレポート提出らしい。

 他のメンバーは、

 

「戦闘ログと予測値の対象比較、今度の実習の内容は・・・」

 

「雄貴さん、余り根を詰めないでくださいね?」

 

「リアか、でもなぁ・・・やってやらないと悲惨そうだからなぁ」

 

「・・・分かりますけど、体調は崩さないでくださいね?週末はあの子との約束もあるんですよ」

 

 今日の試合の内容を確認し、次にやる実習の内容を練る十千屋にリアハが飲み物を差し入れに来た。

 彼はそれを受け取ると気を落ち着かせる様にゆっくりと飲み始めた。

 

「あぁ、あの娘の約束もあるけどセシリアともあるんだよなぁ」

 

「それは雄貴さんの自業自得です」

 

「ふぬぅ・・・何処を選べばいいんだか」

 

 チュゥッ「全く、本当に手の掛かるご主人様なんですから」

 

「ぬぅ・・・」

 

 悩む十千屋の頬にキスをし微笑むリアハであった。

 ちなみに、自拠点の個室である為ロボヘッドはさすがに外してある。

 

 最後はセシリアである。

 彼女は今、シャワー中だ。

 自身の自慢であるボディラインにそって流れるお湯、瑞々しい肌が弾く雫と誰もが見惚れる光景である。

 そんな光景を作り出している彼女は物思いに耽りながら湯を浴びていた。

 

(今日の試合・・・)

 

 彼女は今日の試合を思い出していた。

 自らの目標であり憧れの一人であった十千屋とぽっと出の一夏。

 トラウマはさて置き憧れのおじ様に今の自分を見せれた充実感、そして強い眼差しを見せた一夏。

 

「んぅ…はぁ・・っん、良いですわ・・・ねぇ」

 

 悩ましげな吐息を漏らしながら彼女は思い出す。

 最初、自分が見た印象の残る瞳は十千屋のものである。

 イギリスでの事件で自分を抱えて逃走中、彼は自分を庇いながら避けたため顔の左側面を負傷した。

 その時に頭蓋骨を模したロボヘッドが壊れ、その部位から覗いた優しく強い眼差しは忘れられないものだ。

 それは自分を慈しみ守護する力に満ちた瞳で、今日見た一夏とは反対のものである。

 一夏は譲れないもの守りたいものの為に敵を討つ、その様な強さを感じさせる瞳であった。

 

「んんっ・・・欲しいですわ。おじ様はわたくしだけに向けてくれませんけど、一夏さんのあの眼差しがわたくしだけを見てくれたら」

 

 セシリアはその事をそう想像すると背が震えた。

 次に胸が熱くなるのを感じる。そして、不意に頬に触れた手を滑らせ自分の唇に触れると不思議な高揚感が湧き上がった。

 

「ふふっ、いただきますわよ?一夏さん貴方の(眼差し)を」

 

 シャワーの温度と不思議と火照る体は彼女に心地よさを与えていた。

 実は十千屋と深く関わった女性はどこか歪むとどこからか噂されている。

 セシリア、彼女の場合は『眼差しフェチ』と呼ばれそうな性癖を所持してしまったらしい・・・・

 

 

 翌朝のSHRでクラス代表が発表された。

 その結果に一人真顔で受ける者有り。

 

「では1年1組の代表は織斑一夏君に決定です。あ、全部一つながりで験担ぎとしていいです

 ね!」

 

「先生質問です」

 

 そう、一人真顔で受けていたのは一夏であった。

 彼は挙手し棒読みで質問をする。

 

「はい、織斑君」

 

「俺は昨日の試合で全敗したのに、なんでクラス代表になっているんでしょうか?」

 

「それは―――」

 

 張り付いたような表情で平坦に言う彼に対して山田先生は言いかけると、とある方向を見る。

 そこには千冬がいて、続きを言うようにと意を込めて頷いた。

 

「それは、十千屋さんとオルコットさんが辞退した為です。」

 

「何故ですか」

 

「ええと、それは―――」

 

「山田君、それは本人の口から語らせよう。まずはオルコット」

 

 質問の答えは候補者が一夏を除いて全員辞退したからであった。

 さらにその理由を尋ねると千冬が本人達に語らせるとして、まずはオルコットを指名する。

 

「はい、勝負はわたくしの勝ちでしたが別にクラス代表に拘る必要はありませんの。わたくしはお

 じ様と戦うというのが最大の目的でしたから。それに今後の事を考えて一夏さんには戦う事を欠

 かせないクラス代表になって貰った方がよろしいかと思いまして。」

 

「それって何なんだ?セシリア」

 

「それは同じ男性装着者のおじ様に語ってもらいますわ」

 

 セシリアはクラス代表に拘っておらず、寧ろ十千屋と一戦を交わせる事を目的としていたらしい。

 顎に手を当て一々様になるポーズをした彼女は続きを十千屋に渡す。

 

「一夏、お前に専用機が渡った理由を考えたことあるか?」

 

「え、男性装着者だからだろ?」

 

 十千屋は語る前に一夏に質問をしてみたが、相変わらず額面通りにしか受け取っていない彼に溜息が漏れる。

 吐いて下がった頭を一夏に向け直し、感情と連動しているカメラアイを黄色にし一文字に細めて話し始めた。

 

「まあ、その面もあるな。男性装着者のデータ取り、これによってどうせ戦わせるだろうからな。

 でも、その話は後だ。俺個人としてもお前には沢山戦ってISの経験を詰み、強くなってもらいた

 い」

 

「なんでだよ?」

 

「補習の最初に話ししただろ、お前の立場…重要人物に武器を渡す、コレだけ言えばわかるだ

 ろ?」

 

「・・・自衛の為か」

 

「そう、そいつはお前がお前自身を守る道具でもあるんだ。(遅過ぎる気もしなくもないがな。

 第2回大会の事件とか)」

 

 十千屋の問いに一夏は自分が専用機を与えられている理由を初めて考えさせられた。

 男性装着者の専用機は大きく2つの意味を持っている。

 1つは女性にしか反応しないISが何故か使える男性のデータを取るため、2つ目は今の世の中は男性装着者にとって危険であるためその自衛手段としてだ。

 これを聞いた彼は腕に付いているガンレット風のアクセサリー、待機状態の白式を触って神妙な顔をしていた。

 余談だが、この表情を見てクラスメイトに軽くフラグが立つとは流石は天然の女誑しである。

 話は戻し、十千屋は続きを語った。

 

「だから、IS操縦の一番の糧となる実戦を欠かせないクラス代表になって貰いたい訳だ」

 

「わかった」

 

「あと・・・」

 

「あと?」

 

「俺は織斑先生に出禁を食らったからな」

 

「え?」

 

 今までの神妙な空気が一変、彼の出禁発言に一夏を含めほぼ皆が間抜けな表情となる。

 カメラアイが一文字のままだが青に戻っている彼は千冬の方を見つめた。

 すると、彼女は溜息を吐きながら発言する。

 

「はぁ、当たり前だ。十千屋とまともに戦えるのは一年では居ない。居たとしても最上級生の国家

 代表、しかもその一部に限られているからな」

 

「即ち、レベルが違うって言われたんだよ」

 

「当たり前だ。お前と他の奴らでは話にならん。もし自重無しに戦ってみろ、トラウマ製造機の異

 名がお前に付くこととなる」

 

「まぁ、妥当な処置だと思いますよ?それにな一夏、出禁を食らってるけど事ある毎に特別枠で出

 されることも決定してるからな」

 

「そうだ、男性装着者の片方を遊ばせている訳にもいかん。データを寄越せと上がうるさいのも事

 実だ」

 

「てな訳で一夏、クラス代表に成っても成らなくても実践行事には強制参加なのは決定済みだか

 ら、大人しくクラス代表になっとけ…な?」

 

「よく分かりました・・・」

 

 どうしようもない事実に一夏は肩を落として受領する。

 こうして、クラス代表は一夏に決定した訳であった。

 

 

 少し時が経ち、四月下旬の今日はグラウンドで実践授業をしている。

 この授業は千冬が担当し、まずは飛行操縦の実践からであった。

 その見本として、専用機持ちと代表候補生がまずは飛ぶこととなる。

 ISの待機状態から起動させる一夏とセシリア、一応は量産機である為に待機状態に出来ない十千屋はもう身に纏っている。

 そして、

 

「轟ちゃん、ボクにやらせて♪」

 

「はぁ、そうね。飛ぶことに関しては貴女の方が上だものね」

 

 コトブキカンパニーの代表候補生であるチェーロと轟は、チェーロの方が空を飛ぶ事となったようだ。

 彼女たちの専用機はカンパニー特別製の先行量産機であり、互いに譲り合いながら使っている。

 今回は飛行するため、その能力が高いチェーロとそのバージョンのISに決めたようだ。

 彼女は相方から厳重に仕舞ってある鍵の付いた小箱を受け取る。

 それを開けると中からISコアが出てきた。

 そのコアを自分のISスーツの胸に在るまるでコクピットハッチの様な突起に差し込んだ。

 実はカンパニーの面々は普通のISスーツではない。

 普通のISスーツは水着のようなレオタードのような代物であるが、彼女らのスーツはウェットスーツに装甲を付けたようなデザインがされている。

 実際に胸や脇腹、太ももや二の腕に金属系パーツがついており普通のISスーツを見慣れている者達からすれば異質な感じを受ける。

 彼女らはこのスーツを(マテリア)スーツと呼んでおり、ISスーツとは別物だと公言している。

 

 それはさて置き、チェーロがコアを差し込んだ次の瞬間には機体を展開していた。

 青と鋭角、そして翼-FAのスティレットをIS(ロボ娘)化にしたFA:G(フレームアームズ:ギア)スティレットである。

 全ての準備がし終わったのを確認すると、指示が出される。

 

「よし、飛べ」

 

 千冬がそう言うとまずはセシリアから飛び立つ。

 見る間に急上昇し遥か上で静止した。

 その次に一夏が飛び立ったが、彼女よりかなり遅く千冬から叱咤を受ける事となる。

 後の二人だがチェーロは飛び立った中で一番の上昇速度を出し、十千屋はH.W.S 06、支援機から武器・防具まで変形するエクシードバインダーを背に設置し飛び立っていった。

 その間で一夏が飛ぶイメージと原理が分からないと通信で愚痴る。

 

「飛ぶイメージ、イメージなぁ…飛ぶ感覚自体が曖昧だってのに。それにどうやって浮いてんだ、

 これは?」

 

「まぁ、所詮イメージですわ。自らあったイメージを構築したほうが建設的ですわね。そして、原

 理の話は長いですわよ?反重力力翼や流動波干渉などの話もしなければなりませんし」

 

「・・・うん、わかった。説明はなしで」

 

「イメージの補足をしてやろうか?教科書の角錐が分り辛かったら立体的な矢印を思い浮かべろ。

 それの尻に引っ張られる感じで飛び、矢印の大きさでスピード調整、方向は方向だ」

 

「いっその事、漫画やアニメのイメージで飛んでもいいけど…いざって時に融通が余り効かないか

 ら止めといた方がいいよ?コレしたらパパから注意されたし」

 

「一夏さん、よろしければまた補習にお邪魔させてもらって指導して差し上げますわ。その時はマ

 ンツーマンでの指導など」

 

 遥か上空で少しマッタリとした時が流れるが、つんざく様な通信が耳に入り痛くなる。

 その通信、いや怒声は箒のものであり、内容は一夏を名指しでとっとと降りて来いというものであった。

 通信で上空にいるメンバーが地上を見下ろすと、ハイパーセンサーの補正で何かあったのかハッキリと見える。

 どうやら箒が山田先生のインカムを奪って叫んだようだ。

 奪われた山田先生はおろおろしていて・・・あ、今しがた箒は千冬の出席簿アタックをくらった。

 この光景を見ながらハイパーセンサーの優秀さに一夏が感心していると、セシリアから説明が入る。

 その説明はさすが優等生という感じのモノである。ちなみに補習に同席している箒は自分の感覚を擬音オンリーで説明するので全く役に立たない。

 それを一々十千屋が説明を付け加える事でようやく成立する。その為、彼は説明などで一夏に絡みたいなら発表の練習をして来いと言う始末であった。

 

 千冬がインカムを取り返し次の指示を出す。内容は急下降と急停止、目標は地表から10センチとの事だ。

 ちなみに箒は打たれた頭を抱え悶えていた。

 それを受けて一夏以外次々と降りてゆく。

 セシリアは見本となるように難なくこなし、チェーロはミリ単位だが行き過ぎて十千屋は腕を組んだまま落下し目標通りに急停止した。

 彼らの様子を見ていて一夏は集中して一気に地上へ向かったが、

 

「織斑先生、アレ落ちます?」

 

「ああ、落ちるな」

 

「落ちる前の罰ゲームは?」

 

「よし、逝け」

 

 一夏の下降速度と言うより落下速度が早すぎて墜落になる前に十千屋が止めようとする。

 その提案を千冬は許可し、ついでに罰則も許可した。

 請け負った彼はエクシードバインダーのブースターを噴かし、一夏の真下から近づく。

 

「うぇ!?十千屋さっ」

 

「墜落しそうだから罰ゲームな」

 

「へっ?」

 

 疑問を感じる前に頭から落ちてきている一夏を十千屋は両腿を手で掴み、相手の首を自分の肩口で支える状態にして彼とともに落下する。

 そして、本来一夏だけならグラウンドに激突し穴を開けていたが…十千屋の無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きで地面に穴を開けずに尻餅をつくように着地し、衝撃で同時に首折り、背骨折り、股裂きのダメージを与えた。

 

 

ガコォッ!!

 

「ぎゃにゃぁあああぁあああ!?!?」

 

「「「キ、キン●バスターだと!?」」」

 

 

シュゥウウゥウウウウ・・・・

 

 そう、一夏は十千屋にキ●肉マンの48の殺人技の一つキン肉●スターを決められ悲鳴を上げる。

 実際は白式のシールドエネルギー・・・いや、絶対防御のお蔭でダメージはないが悲鳴を上げざる負えなかった。

 リアルな話だと某プロレスラーのインタビューで「以前、試合でキン肉バスターを使ったら、(相手の)記憶が吹っ飛んでしまった」と語るくらいなので、ダメージは推して知るべし・・・

 

「馬鹿者。誰が地上に激突しろと言った。本来ならグランドに穴を開けているところだぞ」

 

「せんせ~、織斑君は精神的ダメージで話を聞けていませ~ん」

 

 千冬が叱咤するが当の本人はバスターを喰らったショックでグロッキーになっていた。

 その様子に箒は情けないと言いそうになるが惨状を見て言葉をついばみ、セシリアは一夏を気遣ってちゃんとした体勢で寝転ばせ頬を摩ったり軽く叩いて看護をする。

 それに対して箒とセシリアの間に乙女のプチバトルが開催されるが、千冬に押しのけられ気が付いた一夏に新しい指示を出す。

 

「織斑、武装を展開しろ。それくらいならば自在に出来るだろう」

 

「う、うぅ・・・うぁ、うぁい」

 

「確りせんか、あと返事は『はい』だ」

 

「は、はい!」

 

「気が付いたな?では、始めろ」

 

 一夏は周りを確認し、突き出した右腕を左手で握り集中する。

 左手が右腕を強く握り締め、集中力が極限に高まった時に手の平から量子の光が放たれ像を結び形を形成する。

 光が完全に収まった頃には彼の手には『雪片弐型』が握られていた。

 が、千冬にとってはそれは遅く、最低目標として0.5秒以下で出せるようにと指導を受ける。

 次にセシリアだが、彼女は手首を下方向に捻ると同時に抜き打ちをするかの様に腕を正面水平になるように動かす。

 その途中で一瞬爆発的に光り、その手には狙撃銃『スターライトmkⅢ』が握られていた。

 しかもマガジンが既に装填され、銃口を正面に向ける迄にセーフティーが外され今は敵はいないが向けたと同時に撃てるまで完了している。

 その動作に千冬は満足そうだが、ふと疑問に思う。

 

「流石だな、代表候補生。―――だが、その手首もスナップは何だ?この前の試合の時にもやって

 いたな。なぜ行うかは分からんがソレは直しておけ。一流のISライダーだと僅かな特徴のある

 動作でも見抜き、ソレはテレフォンパンチとなる」

 

「なる程、分かりましたわ織斑先生。あと、この動作はお母様やお父様が袖口から武器を出すイ

 メージから関連付けていますの」

 

「・・・わかった、他人の家の事情に口は出さん。動作は修正しておくように」

 

「はい、重ね重ね了解いたしましたわ」

 

 彼女から理由を聞いた千冬は一瞬気が遠くなるが、気を取り直して次に移る。

 セシリアの台詞はイギリス貴族の闇が見えたような気がした。

 

「では、次は・・・とち」

 

「「「わぁああぁあ♪」」」

 

「何だ?」

 

 十千屋は自分が呼ばれるのが分かるとすぐさまに武装を展開する。

 だが、彼は右手でナイフを展開し(出し)上に弧を描いて左手に落とすと同時にその手で収納(クローズ)していた。

 それを何種類ものナイフ-W.U 34-ナイフセットでまるでジャグリングするかの様に行なう。

 マチェット、ファンタジーナイフ、ハンドアスク、ククリナイフ、出刃包丁、クナイ、何故かカッターナイフなど様々なナイフ類が出ては消えてゆく。

 おまけにと背面のハードポイントにはサポートメカニックパーツのシリーズであるM.S(メカ・サポート)01・02-フレキシブルアームA・Bが展開され、それぞれのアームの先では銃器類が出たり消えたりしていた。

 そんな大道芸のような光景にクラスメイト達は驚き喜んでいた。しかも、指示前に行動していているので注意を促さなくてはならない山田先生もそれを楽しんでいる。

 それに頭が痛くなりながら千冬はそれを止める。

 

「十千屋、パフォーマンスはもういい。貴様の技量では言う事はないが、指示を待ちちゃんと聞

 け・・・いいな」

 

「了解いたしました織斑先生」

 

 彼女の指摘を受け、十千屋は全てを収納し返答する。

 彼もパフォーマンスは十分だと理解したので素直に引き下がった。

 だが、これの中止に残念だと思う生徒が多数いたが・・・千冬のひと睨みで一瞬で態度を正した。

 ちなみにチェーロの武装展開の技術は可もなく不可もなくである。

 それらを見ていた一夏は自分の技術のなさに不甲斐なさを覚え、いっそうの努力をしなければならないと肌で感じる。

 そして、IS操縦技術をモノにするにはまだまだ先が長いと実感するのであった。

 

 

 授業が終わり放課後が過ぎその日の夜。

 IS学園の正面ゲート前に小柄な体で、それには不釣り合いなボストンバックを持った少女が立っていた。

 夜風になびく髪は左右それぞれ高い位置で結び肩に掛かるか掛からない程度の長さで、金色の留め金がよく似合う艶やかな黒色をしていた。

 

「ふぅん、ここが・・・そうなんだ。待ってなさいよ――織斑一夏!」

 

 再度、四月のまだ暖かな夜風が吹く。が、少女の髪が横にたなびく程の強さであった。

 それは、またこれから強い風がIS学園・・・いや、十千屋や一夏達に吹き荒れるのを象徴するかのようである。




はい、最後はあの娘が登場するような感じで終わりです。
続けば次回から原作で言う『セカンド幼馴染編』に入ります。
相変わらずネタを挟まないと死んじゃう病ですが、大目に見てください(汗
そして、『セカンド~編』から十千屋の関係者がちらほら出てきます。
あの最上級生のトラウマ作成娘も登場予定です。
できれば楽しみにしておいてください。

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA11ss:ア●ネェエエエスス!!

さて、今回から原作で言う『セカンド幼馴染編』に突入いたします。
この章では色々オリジナル部分を差し込みたいと思っていますので、どうぞお楽しみください。

では、どうぞ御ゆるりと。



 クラス代表は一夏に決まり、また一日また一歩と時と進歩を歩み続けるIS学園。

 自らの力を高めるため努力する若人の中で、また同じく努力する十千屋。

 そんな彼らにまた騒がしい風が吹き荒れていくのであった。

 

 

 一夏がクラス代表に決まってからのある日の事、夕食後の自由時間に一夏クラス代表就任パーティーが寮の食堂で開かれていた。

 各自が飲み物を手に盛り上がっている中で、一夏は遠い目をしている。

 何故かというと半ば押し付けられるかの様にクラス代表になった為、どことなく実感の無さと諦めの悪さが微妙な現実逃避を起こしていたためだ。

 なぜか他クラスまで混じってやいのやいのと彼を引き立てるため箒は不機嫌になり、それが余計に逃避が拍車をかけるのである。

 そんな中で新聞部がインタビューに来るが、一夏の頑張りますの一言に物足りないのか適当に捏造すると言い張った。

 そして、次のターゲットは十千屋に定められる。

 

「ではでは、選手と見学者にトラウマを植え付けた拷問ロボット十千屋さん。何かコメントを」

 

「失せろ、マスゴミ部」

 

「・・・へ?」

 

 なるべく目立たないように・・・容姿からして無理なのだが、壁沿いに立っていた十千屋は新聞部の彼女-黛 薫子(まゆずみ かおるこ)を拒絶した。

 先程まで、新しい友達ができて楽しくやっているチェーロと轟の義娘組を雰囲気からして微笑ましそうに見ていたが、今はカメラアイを赤の一文字に変えて黛を睨む。

 それに気圧されるが彼女は睨み返し、反発する。

 

「ちょっちょっとなんですか!人をゴミ扱いして!!」

 

「インタビューした端から、しかも本人の目の前で捏造発言を堂々とする奴をゴミ扱いして何が悪

 い」

 

「こういうのはインパクト-話題性が重要なんです!」

 

「なら、『選ばれた以上、皆さんの期待に答えられるように頑張ります』くらいの盛りなら本筋も

 外れないだろうに」

 

「んな使い古された文面なんてつまらないじゃないですか!」

 

「・・・アンタは芸能ゴシップを書きたいだけなのか?」

 

「違います!私はジャーナリストの卵としてっ」

 

「わかった、アンタのジャーナリズムは捏造と虚偽と笑える作り話なんだな。真実や事実を伝える

 気はないと」

 

 十千屋の軽蔑するかのような発言にショックを受ける黛、このようにハッキリと拒絶されるのは今まで無かったことだ。

 完全否定された彼女は渋々非を認めて、何とかインタビューにこじつけようとする。

 ある意味で話題性たっぷりの人物を逃しては僅かに残った彼女のプライドが許さないからだ。

 堪えるのが分かったのか十千屋はインタビューに答え始め、なんの因果で師弟関係もどきに成ったのか分からないが確り鍛えてみせる、と返答した。

 そんな中で十千屋の携帯電話が鳴り断りを入れてからそれに出る。

 

「はい、十千屋です。ああ、うん。ごめんな、クラスメイトのパーティーに巻き込まれていつもの

 連絡できなかったんだよ」

「うん、おぉ…凄いじゃないか、よく頑張ったな。他に変わったことは?」

「ふんふむ、シルヴィアがクゥンクゥンうるさいか。わかった休日帰ったら相手してやるから」

「ああ、じゃあな。おやすみ、うんうん愛してるよ」

 

 穏やかな雰囲気で電話を切る十千屋にニヤニヤして黛が話しかける。

 どうやら新たな話題を嗅ぎつけたようだ。

 

「十千屋さん、先ほどの電話の相手は誰なんですか?もしかして、恋人ですかぁ?新しい義娘兼愛

 人ですかぁ?」

 

「違う違う、娘だよ実子の」

 

「へぇ、娘さん。・・・ん、実子?」

 

 彼のあるキーワードに引っ掛かりを覚える黛。

 彼女は意を決して聞くこととする。

 

「実子って『実の子供』の事ですよね?」

 

「それ以外に何があるって言うんだ?」

 

「へぇへぇ、実子…実の娘ねぇ・・・・えぇぇエェエエえええええ!!!」

 

 黛の絶叫に皆の注目が集まる。

 声を上げた本人は口をパクパク開閉しながら何とか彼に問いただした。

 

「実の娘って、子供が居たっていうか十千屋さん奥さんがいたんですかぁぁあ!?」

 

「居なきゃ子供がいないだろう」

 

「貴方って幾つでしたっけ!?」

 

「23になるが?」

 

「奥さんって幾つ!?と言うかどんな人ですなんですかぁ!?」

 

「俺の一個うえだから24だな。どんな人って・・・一夏と箒はほぼ毎日会ってるぞ?」

 

 十千屋の発言に会場の視線が一気に一夏と箒に集まる。

 その様子に彼らはビビるが、十千屋の話の内容が理解できずに反論した。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!会ってるって言われても分かんねぇって!!それに十千屋さんが

 結婚してたなんて初めて知ったし!?」

 

「わ、私も知る訳がないだろうが!セシリアっお前はどうなんだ!?以前からの知り合いだろ

 う!?」

 

「わたくしは既婚者だとは知っていましたが、おじ様の奥方には会った事はございませんことよ」

 

「知らない訳無いだろう、訓練の度にお世話になってるだろうが。轟とチェーロ以外でカンパニー

 関係と言えば分かるだろ?」

 

「「リアハさんの事か!?」」

 

 答えに行き着き同音同意を叫ぶ二人、確かに(十千屋)のパートナーと彼女(リアハ)は自称していた。

 それに彼女と彼の距離が近かったと感じていたのもコレで明らかとなった。

 騒ぎ立てる周りに十千屋は携帯電話に入っている写真を周りに見せる。

 

「これが奥さん?うわっ若っ!!」

 

「織斑くん!篠ノ之さん!実際に会ってるんでしょ!どんな人なの!?」

 

「えっえと、なんか穏やかで可愛らしい人な感じかな?」「あぁ、見た目は小柄でヘタをすれば私

 たちとあまり変わらなく見えるな」

 

「って言うか、娘さんいるんですよね!どんな子ですか!?」

 

 騒ぎが絶頂に達している時に十千屋が娘の写真を見せると、うって変わって周りが凍る。

 それもその筈、彼が見せた実の家族だけの写真には母と娘が()()()()()()()()()()()()()()写真であった。

 なんとか一番最初に気を取り戻した黛は人形のように首をギクシャクしながら彼に聞く。

 

「あ、あの…娘さんってお幾つでしたっけ?」

 

「ん?麗白(ましろ)の年齢?12だけど」

 

 再度、問題と成っている写真を見る。

 娘は母親(リアハ)とよく似ている顔立ちで薄い桃色のショートボブでとても可愛らしい笑顔を浮かべている。

 小柄なリアハよりもほんの少し小さく見えるのは、年齢のせいだろう。

 しかし、嬉しそうに父親(十千屋)に抱きつく母娘は姉妹といっていい程よく似ている。

 リアハは黒系のワンピースを着ていて、娘は白系のワンピースを着ていてそれが良く似合っていた。

 麗白と名付けられたのも納得がいく、が問題はそこではない。

 父-23、母-24、娘ー12・・・つまり、娘が生まれた頃の夫婦の年齢はというと・・・・・

 

 「「「「ア●ネェエエエスス!!

 早く来てくれぇええーーーーー!!!」」」」

 

「何を人を犯罪者のように、もしそうだとしても時効だし責任はちゃんと取ってるじゃないか」

 

 「「「問題はそこじゃないのぉぉおおお!!?!?」」」

 

 折角の就任パーティーが十千屋のせいで混沌の渦に引き込まれてしまった。

 その中でコッソリと彼の写真を見る者達は、妻も娘も義娘も全員幸せそうに彼に寄り添う写真ばかりであった。

 それは畏怖と感嘆をもたらし、やはり彼は只者ではないと再確認されたのである。あと、全ての写真の彼はロボ頭であった。

 ちなみにリアハは別姓を名乗っていたのは仕事上の関係であり、フルネームは日本の並びだと『十千屋=A=リアハ』であり、娘は『十千屋=A=麗白』となる。

 

 

 あくる日の朝、一夏は十千屋に言われたプチ訓練を熟していたら話しかけられた。

 その内容とは転校生が来るという噂である。

 この時期に転校生が?と彼は思う。今は四月でIS学園に入るのならば転入ではなく入学で入ってくればよいはずだ。

 しかも、この学園は転入条件がとても厳しく国の推薦を得てさらに難しい試験をも合格しなければならい。

 その条件をクリアできるとすればと、考えていたらクラスメイトが中国の代表候補生だと言った、それならば納得である。

 ・・・この思考内容を十千屋に話したら喜ばれるだろう、補習の効果があったと。

 

「で、織斑君は何をしているの?」

 

「ん~、白式使ってのあやとりかな」

 

 そう、一夏は白式の腕の部分のみを展開させあやとりをしていた。

 ISの大きめの手では毛糸は細すぎるので縄跳びを使っている。

 何個か輪を作れたが途中で作り方を忘れたのか箒に尋ねる。

 

「箒、この続きってどうだっけ」

 

「ぬ?あぁ、それは右手に作った上から二番目の輪を左手で・・・」

 

「…篠ノ之さんもやってるし。でも、ぎこちない様な?」

 

「それはですわね」

 

「あ、オルコットさんオハ・・・・」

 

 尋ねられた箒もどこかぎこちない動きであやとりをしていた。

 その異様な光景を解説してくれるのか声を掛けてくれたセシリアの方を向くと、こっちは両手で何かを書いている。

 またもや異様な光景に、ついでに挨拶しようとしたクラスメイトの言葉が詰まる。

 

「…オルコットさんは何をやっているの」

 

「分割思考の訓練ですわね。簡単な四則問題を両手同時にやるというものですわ。ちなみにあちら

 のあやとりもおじ様が指示した訓練ですわよ」

 

 セシリアは小学生が使う算数ドリルに両手で答えを書いていた。

 ちなみに右手は足し算、左手は掛け算のようだ。

 もう、変な光景はお腹いっぱいなのかクラスメイトは張り付いた笑顔で頑張ってねと言って去っていく。

 三人それぞれの訓練内容はと、言うと・・・

 一夏がとにかく自分のISに慣れる様にと細かな動きができるようにするものであり、動かなくても時間が余りなくても出来るものという事であやとりになった。

 箒は彼と似たような内容だが専用機を持っていないため、もしISを装着していたらと考えながら動かすイメージトレーニングである。

 最後のセシリアはビットをより複雑に動かすため、複数の事を同時に考え実行する分割思考のトレーニングである。本当は十千屋は第六感を鍛える様なトレーニングをしたかったが、そんな物は分からないため今の技術を磨く内容となった。

 始業時間が近くなり片付けと準備をしていると箒が一夏に向けて話しかけてくる。

 

「そう言えば来月にはクラス対抗戦があるな、それに向けてしっかり訓練しないとな」

 

「そうですわね。一夏さん、クラス対抗戦に向けておじ様に実戦的な訓練を指導してくれるように

 頼みませんこと?対戦相手は不肖わたくしめが務めさせていただきますわ」

 

 箒の話に便乗してセシリアも乗ってくる。

 彼女はクラス対抗戦に向け、対人式の実戦訓練を重用しようと言ってきた。

 が、話を割り込まれた箒はセシリアを睨み逆に彼女も睨み返す。これは最近のパターンなので一夏はクラス対抗戦に思いを馳せる。

 

 クラス対抗戦とはクラス代表同士によるリーグマッチである。

 その目的は本格的なIS学習が始まる前、つまりスタート時点での実力指標を作る為とクラス単位の交流と団結の為のイベントである。

 そして、学生のやる気を出すために一位のクラスに優勝賞品として学食のデザートの半年フリーパスが配られる。

 その為に一夏以外、クラスの女子+αが燃えていた。

 

「まぁ、やるからには勝ちにいきたいよな」

 

「勝ちにいくではなく、勝ち取るのですわ!」

 

「そうだぞ。男たるもの強気で押さねば!」

 

「「織斑くん(ひとなつ)が勝つとクラスみんなが幸せになれるんだよ~」」

 

「俺も甘いものは嫌いじゃないから、確り鍛えてやるからな」

 

「大福、大福、大福、こし餡、粒あん、クリーム・・・・ブツブツブツ……

 

 一夏はクラスメイト達の反応に苦笑する。

 クラスメイト達のノリもそうなのだが、最近の訓練で基本操縦ですら躓きかけているのが主な理由だ。

 その為に自信に満ちた返事ができないのである。

 やいのやいのと女子が楽しそうに集まってくるので一夏は「おう」とだけ返事をした。

 その騒いでる中でクラス代表の専用機持ちは1組と4組しかいないから楽勝であるという話題が出たが、不意の訪問者とその言葉で途切れさせられた。

 

「―――その情報、古いよ。2組も専用機持ちが代表になったの、そう簡単にさせないわよ」

 

 声のした教室入口を見ていると、ツインテールの少女が腕を組み片膝を立ててドアにもたれていた。

 クラス中の視線が少女に集まり誰?とみな思うが一夏だけは心当たりがあるのか話しかける。

 

「・・・(りん)?鈴なのか?」

 

「そうよ。中国代表候補生、凰 鈴音(ファン・リンイン)。一夏含めこのクラスに宣戦布告に来たわけよ」

 

「ん?あ、猫っぽい娘。無事に編入できたみたいだな」

 

「あ、ロボっぽい人。昨日はありがとうございました。」

 

 鈴が格好つけて張り詰めた雰囲気が、あっという間に瓦礫した。

 その脱力感にクラス中の気が抜けるがその中で一夏だけが十千屋に質問する。

 どうやら彼は特訓後一夏と箒を学生寮に送り届けたあと、迷子になっていた鈴を見つけて学園の総合受付に送り届けたらしい。

 ちなみに互いの容姿で思ったことは前述の通りである。

 

「っ!凰!!クロスガードッ!!」

 

「へっ?…パァン!!!?!?!つぅ!!??」

 

「もうSHRの時間だ。教室に戻れ、ついでに入口を塞ぐな」

 

 十千屋の咄嗟の声と頭をクロスガードする行動に釣られて、鈴も疑問を感じる前に同じ動作をする。

 するとあの何時でも変わらない乾いた打撃音がし、鈴のガードした腕に鈍痛が走った。

 そう、彼女の後ろには我らが鬼教官…織斑千冬が立っている。

 鈴は千冬が苦手なのか及び腰になり、彼女の指示で脱兎の如く自分のクラスに戻っていった。

 そして、一夏が鈴の事を知っているかの様な行動をとったためクラスメイト達が質問の集中砲火をするが・・・逆に千冬の出席簿が火を噴く事となり鎮火させられる。

 ちなみにカンパニーグループは彼女が登場した時に直ぐに席に着いたため逃れることができた。

 

 

 その後、一夏が気になる箒は先ほどの鈴とのやり取りが気になるのか全く授業に身が入らず何度も注意と出席簿をくらった。

 セシリアも気にはなっていたが焦らないように努めていたので彼女よりもマシである。

 が、どちらにせよ一夏と鈴の関係を知りたがっているのは間違いないことだ。

 そして、昼休みの時間となり学食へ向かう一夏と箒、セシリアほかおまけ数名であるが件の彼女が食券機近くで堂々と待っていた。

 

「待っていたわよ、一夏!」

 

「あ~、そこ退いてくれないか?買えないし、それ…伸びるぞ?」

 

「アンタを待っていたのよ!タイミングがズレちゃったじゃないの!もっと早く来なさいよ!!」

 

 待っていたと自ら言う鈴に対して、取り敢えずの返答をする一夏。

 事実、彼女がその場にずっといると食券を買うのに邪魔であるし既に彼女が買っていたラーメンの麺が伸びるのは必須であった。

 そして、全員が買い終えると空いてるテーブルを探しそこを目指す。なにせ全員を含めると十人近くになっていたので時間が少しかかっていた。

 それでも割と直ぐに全員が着けるテーブルを発見できたのは僥倖であったが、なぜ大人数が座れる場所が空いていたは直ぐにわかった。

 いつも教室で見るロボ頭、つまり今居るのは十千屋とチェーロだけだがカンパニーグループの面々が一角を使っていたからである。

 もう、一夏のクラスは慣れたが彼が居る側に寄るのは流石に慣れていない他クラス他学年は遠慮したいようであった。

 

「あの~、十千屋さん。こっちの席を座ってもいいですか?」

 

「ん?え~と…ひのふのみの~、ああ大丈夫そうだな。あっでもソコとソコは使うからそれ以外で

 な」

 

 一夏が代表して彼に聞くと指定した席以外は大丈夫だそうだ。

 運の良い事なのかちょうど全員座ると満席となった。

 ちょうど全員が座った時にお盆を二つ持った轟ともう一人、胸元のリボンの色からすると3年生(赤色)がやって来た。その彼女が空いてる席の片方を使う人物なのであろう。

 

「はい、お父さんカツカレーの大盛りでいいんだよね」

 

「おう、ありがとうな轟」

 

父様(とうさま)、もうちょっと詰めて」

 

「あ、すまんな。相変わらずのメガ盛りか」

 

 轟は自分の分と十千屋の分を持って来て、三年生は彼の言葉からするとメガ盛りが自分自身ので片方がチェーロの分であろう。

 それよりも皆が気になるのは、彼に向かって父様と呼ぶ彼女はやはり轟とチェーロに次ぐ義娘なのだろうか。

 容姿はスラリとしたスマートな体型で、髪の色は加減によっては銀に見えるがほぼ白に見える白銀と言うやつであろうか。

 その白銀の髪をうなじで二つに分けている。瞳の色は赤系で目尻がスッとなる切れ目だが、眠いのか気だるいのか少し瞼が下がっている。

 これらを全て合わすとクール系の美少女という雰囲気だ。

 

「あの、十千屋さん。彼女は誰なんですか」

 

「一夏、聞くのは構わないが構う順番が違うんじゃないのか?ほれっ」

 

「ん?あっ・・・」

 

 追先ほどまで話題の中心であった鈴が放置され、彼女はすっかりむくれており先に自分の分の食事を食べ始めていた。

 流石にこのまま拗ねられると面倒になっていくので一夏は彼女の方に話題をふろうとするが・・・

 

「じゃあ、いただきます」

 

 十千屋の食事の挨拶で皆の視線が彼に集まる。

 それもそうであろう、彼が被っているロボ頭はフルフェイスヘルメットの様に頭も顔も全面を覆うタイプである。

 つまり、食事を取ろうとするのであればソレを外さなくてはならないのだ。

 皆が注目する中で彼はロボ頭の頬の下あたりを両手で挟む。いつの間にか拗ねていたはず鈴も注目していた。

 挟んだ両手で頭を少し上にあげ、親指を内側に引っ掛けると・・・・

 

「「「「だぁああああぁぁあ!!?」」」」

 

「これで良しっと」

 

 ロボ頭の前面に尖っている下顎のパーツが外れ、あご下から鼻先までが露出する。

 被り物が取れると期待していた面々は一気に脱力するが、そんな事を気にせず彼はカレーを食べ始めた。

 

「食事の時もソレ被ってですか!?いい加減取りましょうって!!」

 

ゴクン…いや、本当に怪我の跡が酷いんだって。今日食堂で食べているのだってコイツと食事とるのとリアが本国に行ってるから弁当無い為だし」

 

 全くもってロボ頭を取ろうとしない十千屋に対して一夏がツッコミむが、彼は仕方がなさそうに返答する。

 彼の言い分だと、食堂で食事をするのは予定外のことらしい。事実、何時もは弁当を持ってきていて食事の時だけふらりと居なくなり戻ってくるのが何時もの事であった。

 

「まぁ、納得しないだろうから。ほれ、ココ見てみろココなら被っていても傷跡見えるから」

 

 首を逸らして右頬の下あたりを指差して見せる十千屋、それにならい一夏はそこを覗き込んだ。

 するとソコには・・・火傷の跡だろうか、皮膚の変色と爛れた跡、大小様々な裂傷の跡など見るには耐えない傷の跡があった。

 想像以上の傷跡に一夏は息を飲み、偶然彼の近くにいて覗き込んでしまった生徒は血の気が引いた。

 

「これで分かったろ、こんな傷が顔の右半分を占めてるんだ。他にもあるけど、これ以上の話は飯が不味くなるから此処までだ」

 

 一夏は素直に頷くと自分が座っていた位置に戻るが、雰囲気は寒いものとなってしまった。

 コレはいけないと十千屋は彼と鈴の関係は一体何なんだと話を振る。

 すると、さすがは十代の女子なのか恋バナに似た雰囲気のする話に飛びついた。

 一夏は女子パワーにタジタジになりながら鈴との関係を説明する。

 その関係とは幼馴染というものであった。箒が引越しした後に鈴が転入してきた小五から彼女自身が引っ越した中二までつるんでいた仲だという。

 彼は箒がファーストだとしたら鈴はセカンド幼馴染だと揶揄した。

 それで面白くないのは箒である。自分の居なくなった後にすぐに鞍替えされた様な気分になり、男友達の様な付き合い方だが距離が近しい感じがするのは途轍もなく不愉快であった。

 話の流れでこちら側に踏み込もうとする鈴をなんとかセシリアと共に牽制するも、放課後の約束を一方的に取り付けられしまい、しかも次の話題を十千屋の方に降ったため拒否もできなかった。

 ちなみに一夏は話に置いてけぼりにされ、拒否も肯定も出来ずに流されていた。

 そして、ちょうど話を振られた十千屋と三年生の彼女は食べ終わり近くなっており良いタイミングである。

 それで彼女について語られ始めたが・・・カンパニー、十千屋関係はロクな人が居ないとまた再確認されたのであった。




はい、今回はどうでしたか?
白い三年生は学園常在メンバーの最後の一人となる予定です。
本当は彼女の自己紹介をしたかったのですが、もうすでに8300字近くなっており、ここいらできろうと思いました。
そんなわけで、彼女の詳しいことは次回以降になります。

・・・成人で妻子持ちで学園生徒のオリ主って少ないのではないでしょうか(汗

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA12ss:三年五組-基木素子

今回は前回から引き伸ばされた半オリキャラである(容姿はあるFA:Gの為)白い娘の正体と、日常的な差し話です。

では、どうぞ御ゆるりと。


・・・文字数が過去最大になっているのでお気をつけて


 さて、風を吹き荒らすのは過去の春風か。一夏の第二の幼馴染、凰鈴音。

 かの大陸の大国-中国からやって来た。顔を出すだけでも自由奔放に振りまく彼女はどんな嵐となるのだろうか?

 そして、別方面でも何処となく湿気た風を十千屋はたてるのであった。

 

 

 先程まで話の中心は一夏と鈴であったが、彼女は十千屋側に向かって今度は話を振る。

 当然、その話題は今も食べ続けている白が印象的な三年生の事である。

 彼は食べ終わり、口を拭いてロボ頭の顎パーツを戻すと語り始めた。

 

「さて、この三年生の正体だったな。何となく分かり始めていると思うが、彼女がうちの企業代表

 である・・・素子(もとこ)、自分で自己紹介くらいしろって」

 

ゴクン…ふぅ、分かった父様。三年五組-基木素子(もとぎ もとこ)ナナジングループ・コトブキカンパニー企業代

 表。好きなものは白子」

 

「し、白子ってずいぶん通なと言うかシブイ物が好きなんですねぇ…」

 

 十千屋が三年生に自己紹介を促すと彼女-素子が淡々と当たり障りない自己紹介をしてゆく。

 好物を言うとある生徒が反応するが・・・これがカオスの始まりであった。

 

「そう、私は白子が好き。父様の欲棒から出る白子汁が」

 

「「「ん?ううん!?」」」

 

 この言葉に誰もが思考停止し、我が耳を疑った。

 聞き手たちが内容を理解しかける前に、彼女の冒涜は終わらない。

 

「 ? 分からなかった?じゃあ、私は父様の肉ぼ『スッパーーーン!!』ぉうっ!?」

 

「なに公共の場で暴露してんじゃ!この駄娘!!」

 

「イタイ、何するの父様?」

 

「再度言うぞ。な に を 公共の場で発言してんだ!!」

 

「 ? 何って?父様のご立派様のナニの白濁じ『スッパーーーン!!』r」

 

「ダダ漏らしてんじゃねぇ!」

 

 公共の場と言うか公共良俗に反するようなNGワードを連発しそうに成っている素子を十千屋は、何処からか出したハリセンで物理的に話を遮った。

 その間にも、肉ど『スパンッ!』生オ『スパンッ!』肉べ『スパンッ!』『スパンッ!』と何か言いかけるたびにハリセンが彼女を差し止める。

 そんな光景をあとにして、蚊帳の外にされた面子は代表して一夏が轟とチェーロに彼女の詳細を聞いた。

 

「な、なぁ…あんなに成ってるけどあの先輩って何時もこうなのか?」

 

「あー、んー…(もと)ねぇってパパの前では欲望って言うか色欲?がダダ漏れだから(汗」

 

「ええ、私たちは父さんのハレムの一員みたいな所があるけど素子姉さん程じゃないわ…いえ、

 一人同等なのが居たわ」

 

「「「はぁ?はぁあっ!?」」」

 

 マトモに聞けると思っていた二人からも爆弾発言が有り、また皆が止まる。

 ハレム、ハーレムはつまり一人の男性が愛欲の対象として多くの女性を侍らせたところをいい、日本・江戸時代でいう「大奥」のことであろう。

 この発言を詳しく聞こうにもその当主本人は、未だにNGワードを言おうとする素子を叩き止めるに忙しい。

 なので、いま発言中の彼女らに聞くしかない。

 

「ちょっちょっと!?ハレムって何!?ハーレムの事じゃないわよね!?!?」

 

「いえ、其れで合ってるわ」

 

「一夫多妻という訳か!?なんと不埒な!!」

 

「いや、ウチの国って条件厳しいけど満たせば多夫多妻オッケーだよ?」

 

「皆様方は誤解されてますけど、おじ様の国籍は日本じゃ御座いません事よ?」

 

「「「なっなにぃい!?」」」

 

 次々と投下されてゆく爆弾発言に一同は驚き疲れそうになるがそうも言ってられない。

 ハレム発言に最も強く反応した鈴と箒だったが、次の発言で言及の矛先が変わった。

 ここにいる一同はチェーロを除いたカンパニーグループは全員日本人だと思っていたからである。

 それが否定され、じゃあドコ!?というような感じになった。

 

「じゃあ~、とうちゃんさんは~どこの国なの~?」

 

「ゲムマって言う国よ。30年ほど前に正式に加盟した新興国だから余り知られてないわ。ちなみ

 にカンパニー全員がそこの国籍よ」

 

『ゲムマ』

 南太平洋ソロモン諸島に存在し、大小さまざまな島(火山列島)から構成される島嶼国である。

 元々は原住民たちが暮らす島国であったが、過去、多数の日本人移民者がその技術をもって入植し、発展した経緯を持つ。

 そして、そこに本社を置いてあるナナジングループはこの国の経済に多大な貢献をしており独自の地位を築いている。

 しかも、国と会社との関係は夢物語に様に良好だ。そんなグループの子会社がコトブキカンパニーである。

 

 国の説明を轟が簡単に行うと皆が感心した様子で彼女を見ていた。おい、チェーロお前まで感心すんな。

 さて、国籍の話が終われば一つ戻って十千屋の女関係になった。

 

「さて、所在国の話は宜しいですわね…おじ様のハレムの話をお話になって貰えませんこと?」

 

「ひぃ、セシリアさん…何をスゴんでるのぉ」

 

「別に威圧なんかしてませんわぁ?」

 

「いや、確実にしてるだろ・・・」

 

「なぁにぃか、おっしゃっいまぁしたかぁ?一夏さぁん?」

 

「ひぇ!?何もおっしゃってございません!!」

 

「ではぁ・・・チェーロさぁあん?」

 

「うぅう・・・」

 

 何か凄みを感じるセシリアに対しチェーロは涙目になりながら十千屋のハレム、つまり自分ら義姉妹の事を話し出す。

 チェーロ、轟らは十千屋の本当の娘ではない事は嘘ではない。

 だが、彼に引き取られた娘は皆が普通の理由で家族の一員となったわけではないのだ。

 特殊な事情や人に話せない事情など理由は様々だが、そんな彼女らにとって支えとなったのが十千屋である。

 そんな彼に惹かれて彼女たちは人生を共にすると決めたのだ。

 

「それに本妻はママ(リアハ)だし、ママ自身がハレム推奨派だし・・・」

 

「「「「なっなんだってーーー!!」」」」」

 

「事情が色々あるのよ、一番は母さん自身が娘たちの幸せを願っていること。好きな人と一緒に居

 たいのが当たり前で、それがたまたま父さんだったってこと・・・まぁ、ロクでもなく切実な

 理由だと…ね?」

 

「うん…ボクらはマダだけど、パパって夜凄いんだって///」

 

「三人同時相手にしてT.K.Oにした挙句、次の日には元気に厳しい訓練をこなしたっていうわ。他

 にも武勇伝はあるわよ///」

 

 色々と聞いてはいけないような事を聞いた周りの面々は再度、十千屋と素子の方を見る。

 ソコにはコブラツイストを極めて、もはや物理的に素子を締めている姿があった。

 そのような光景に皆が遠い目になり、そっとしておこうの精神となる。

 さて、実は一夏らは3年生の先輩達からも素子の事を聞いていた。

 普段はクール、親しくなると素直に何か言ってくるので素直クールだとの事、そして全員に共通した内容は模擬戦は絶対に受けないこと。

 なぜ受けてはならないのかを聞くと、「はんまーへる!はんまーへぶん!」「SEが無くなるまで私がgぁあぁあ!!?!?!」「右ですか?左ですか?両方ですか!?Oh!まい☆GOD!!」

 と、トラウマが発生して聞くに聞けなくなったので、あとは察しろの状態である。

 これらで一夏たちは分かった。カンパニー、十千屋関係はロクな人が居ないという事が。

 そして、昼休みが終わりに近づき食堂から生徒たちが居なくなるとそこには・・・何故か恍惚な表情で倒れ伏せている素子の姿があった。

 基木素子-カンパニー企業代表にして、学園のトラウマ製造機。その実態は身内、特に十千屋の前ではドスケベクールの残念美少女である。

 

 

 相変わらずの放課後、すっかり個人教室と化してしまった生徒指導室で今日も補修である。

 そして、何故か今日は千冬もそこに居た。

 

「十千屋、なぜ私を呼んだ」

 

「いえ、今日の特別内容が白式と言うか零落白夜なので元祖にアドバイスをと」

 

「…仕方ない、出番が来たら呼べ」

 

「はい。さて一夏、自分でまとめてみた白式を言ってみろ」

 

「へ?あっはい!」

 

 千冬が居るため緊張しているか一夏は少しとちりながら白式の特徴を言ってみた。

 その中でも特筆するのはワンオフ・アリビティー『零落白夜』が使えることだ、逆の特筆つまり欠点はその為にエネルギーがカツカツな事、ブレード『雪片弐型』しか積まれていないことである。

 それらの事を聞いて千冬は先ず先ずは理解していることに安心する。

 そして、十千屋の教育が実を結んでいる事に感心するのであった。

 

「そうだ織斑、白式はいや雪片搭載機は傍から見たら欠陥機としか見られない」

 

「え…けっ欠陥機!?」

 

()()()()()()だ。私から…ではないな、今の世を見てもI()S()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()。ただ、ほかよりちょっと攻撃特化に成っているだけだ」

 

「いや、織斑先生IS自身の能力だけのアレでちょっと攻撃力が高いだけで済まされないのでは?

 対IS能力であるし、その為に拡張領域(パススロット)も埋まってますし」

 

「え、雪片のせいで埋まっているのか?」

 

「そうだ、本来拡張領域用に空いているはずの処理をすべて使って『雪片』を振るっている。

 だが、その威力は全IS中でもトップクラスだ」

 

 千冬が語る一撃必殺を物語る言葉は実感に満ちている。

 事実、雪片一本で世界を取った人物の言葉であるから当然だろう。

 そして、皆は千冬がIS操縦者としていかにブッ飛んでいるレベルかを認識させられた。

 

「それに、だいたい素人のお前が射撃戦闘ができるものか。篠ノ之は答えられないな。オルコッ

 ト、轟、射撃戦闘に何がだいたい必要か言ってみろ」

 

「「はい!」」

 

「まずはですわね、反動制御、弾道予測からの距離の取り方、一零(イチゼロ)停止、特殊無反動旋回(アブソリュート・ターン)・・

 あとは」

 

「それ以外にも弾丸の特性、大気の状態、相手武装による相互影響を含めた思考戦闘・・・他にも

 挙げますか?」

 

「いや、もう十分だろう。轟が締めた様にまだまだあるが・・・できるのか?お前に」

 

 一夏に射撃戦闘は無理だと言いい、その理由を千冬に促され次々と上げるセシリアと轟。

 その内容の一句一句を聞くたびに彼の頭に熱が溜まり、比喩表現的に頭から煙が立ち上ってきた。ちなみにチェーロは上記の事を全て感覚で完全に掌握しているキチガイである。

 それを生暖かい目で見ていたであろう十千屋は優しく彼の肩を叩くと、彼から「大変よく理解できました」の言葉が上がる。

 そうすると千冬が短く「分かればいい」と頷いた。そして、いつもより優しい顔つきで一夏に語りかける。

 

「1つの事を極める方が、お前に向いているさ。なにせ――私の弟だからな」

 

 彼女のその言葉で彼は強く感銘を受けて、闘志に火がつく。

 この様子を箒とセシリアはときめきながら見守るのであった。

 それを確認すると十千屋が今後の訓練内容を告げる。

 まずはISでの近接戦闘と急加速急停止といった基礎移動技能。雪片つまり『刀』というものの間合いと特性を箒との剣道訓練で再度把握してもらう。

 そして、『射撃』訓練も行なう。

 

「え、千冬ね『スパン!』…お、織斑先生が俺には射撃戦闘は無理だって」

 

「それも言い方が悪かったな。一夏、お前は格ゲーは好きな方か?」

 

「はぁ?何をいきなり・・・人よりはやる方だと思うけど」

 

「ひとなつ、自身が超近接紙キャラなのによく知らない中~遠距離キャラに挑む気?」

 

「あぁ!」

 

「分かったみたいだな。お前もソイツ(白式)も射撃の事を全く知らない。だから撃つ方も撃たれる方も弱

 いわけだ」

 

「じゃあ・・・」

 

「おう、撃ってみたいし追加装備欲しいよな?男の子だもんな」

 

 十千屋の言葉にISを知る千冬、セシリア、箒は反応する。

 白式に追加装備は無理だと、だがそこは十千屋・・・実にらしい答えが返ってくる。

 

「え、でも俺の白式は拡張領域が」

 

「大丈夫だ、そいつはコトブキ式に解決してやるさ。さてと、織斑先生」

 

「なんだ」

 

「白式を一晩貸してくれませんか?織斑先生の監視付きでもよろしいので」

 

「・・・分かった、その条件ならいいだろう。織斑」

 

「期待してるぜ、十千屋さん!」

 

 追加装備可能と聞いて瞳を子供のように輝かせる一夏。やはり何だかんだで男子というのは新しい武器とか好きなのである。

 それを苦笑している様な雰囲気で受ける十千屋であった。

 男の子とそれを面倒見る親父さんの雰囲気に、それぞれの好感度持ちはキュンとする。

 だが一名・・・その雰囲気について行けない者が居た、千冬である。

 

「これが…若さというヤツなのか」

 

 いや、千冬さん貴女も十分若いですからね?リアハと年齢同じですからね?

「子持ちと一緒にするな!」スミマセン・・・・

 

 

 あくる日、十千屋は一夏を連れて整備室に向かっていた。

 彼に連れられた一夏は怪訝な表情である。色々と思い出してみても整備室には用がないからだ。

 白式の整備でもないし訓練用にISを借りた覚えもない。

 少し黙って付いて来たが、彼は聞いてみることにした。

 

「なぁ、十千屋さん」

 

「なんだ?」

 

「整備室に向かってるって事は分かるんだけどさ、俺って必要なのか?」

 

「あぁ、そう言えば理由を言ってなかったな。すまん。連れてきたのはお前に会わせたい人がいる

 んだ」

 

「俺に?一体誰なんだ?」

 

「まぁ…会わす理由が廻り回ってお前に原因があって被害を被った人だからな、それを知って貰う

 為だな」

 

「…男性装着者の業ってヤツかよ」

 

 十千屋が一夏を連れてきた理由を話すと彼は頭がガクッと下がる。

 自分に非がないつもりでも男性装着者という事で様々な厄介事に見舞われるからだ。

 テンションの下げ具合に十千屋は一応、とりなおしておいたからそんなに酷い目にあわずに済むと告げる。

 それにほっとする彼であったが、一撃くらいは覚悟しておけと告げられるとまた頭が下がった。

 

「簪、例の奴を連れてきたぞ」

 

「…分かった」

 

「えっえ~と、君が十千屋さんが会わせたかった人かな。一応、俺は織斑一夏だ」

 

「更識…簪」

 

 整備室に着くと目的の人物-簪にすぐ会うことができた。

 だがローテンションで何処となく不機嫌そうな彼女に、一夏は苦笑しながら自己紹介をするが反応は芳しくない。

 しかし、理由を聞けば納得した。

 彼女に与えられる専用機開発が自分のせいでドタキャンのボイコット、しかも無期延期と言う事実上の契約違反の上での破棄であった。

 流石の内容に彼もまた初めて理由を聞いた十千屋の様に頭が痛くなる。

 

「え、ええと・・・なんて言うかゴメン」

 

「全面的に悪いのは研究所の方、半ば八つ当たりなのは分かってる。だけど、一撃…いい?」

 

「おう、俺も男だ。それでケジメが付けられるならドンと来いだ!」

 

「じゃあ、ちょっと待って」

 

 彼の謝罪にクスリと彼女は笑うと、ケジメの一撃を要求した。

 それに漢気で答えようとする一夏だったが、彼女が取り出したもので冷や汗が流れる。

 

「よいしょっ…と」

 

「あ、あの~更識さん。それは一体?」

 

「苗字は好きじゃない、コレは『ケジメ専用一撃必倒O.W(オーバード・ウェポン)咎螺因怒武靈屠(グラインドブレイド)』」

 

 彼女はメカメカしいその理解不可能機械を背に背負うとスイッチを入れた。

 しっかりと固定するために左側からアームが伸び左肩をガッチリ掴む、背に有って一番大きい右側のパーツは右腕に回され彼女はそれを掴む。

 すると、束ねられていた6枚の板が広がり異様な音と空気を醸し出す。板にはチェーンソーのチェーンの代わりに小さなハリセンが沢山ついている。

 そして、チャージがあるのかに板が円状に並び、豪炎を撒き散らしながらドリルのように大回転を始める。

 

『意味不明なユニットが接続されました。システム(シリアス)に深刻な障害が発生しています。直ちに使用を

 停止してください』

 

「ちょっと!?変なアナウンスが流れてるんですけど!!しかも、それって多分多段ヒットで一撃

 じゃないよな!?!?」

 

「一撃は一撃…ちゃんと受けてよね?」

 

「十千屋さん!?」

 

「一夏・・・グットラック!」

 

「ちくしょうーーー!!」

 

 見た目からしてヤバそうな雰囲気であり一撃を繰り出す本人と周りに助けを求めてみたが無駄であった。

 彼はヤケとなって構える、気分は天下一武道会で大魔王の攻撃に耐える主人公の様だ。

 

「逝く」

 

「来ぉおおおいい!!俺は一撃で殺られるぞーー!!!」

 

 板のドリルの様な回転に加え、板自体もチェーンソーの様に回っており極小のハリセンが一夏のあらゆる部分を叩きつけてゆく。

 一個一個は大したことないが高速で何度も叩かれると結構痛く、勢いもあるのでどうする事もできない。

 

「うぉぉおおぉぉおおお!??」

 

「せいりゃ!」

 

「アッーーーぁぁああーーーーーーーー!!!」

 

 簪の最後の一押しで一夏は勢いに耐え切れず飛ぶ。

 その後、何故か自分の脳内で大爆発するシーンが浮かぶのであった。

 そして、彼は体を縮こませ倒れふした。とある界隈ではヤムチャると呼ばれるような倒れ姿である。

 

「かんちゃ~ん、今日も来たよ~。あれ?いっち~こんな所で寝てたら風邪引くよ~?」

 

 全てが終わった後に、元気よく整備室に本音が入ってきた。ヤムチャる一夏を見つけると突っつきながらそう言う。

 それを皮切りに次々と生徒たちが入ってきた。皆、簪の専用機『打鉄弐式』を組み立てるために集まってくれた有志たちである。

 協力を拒んでいた簪がこうして一人だけではなく、皆と組み立て始めた理由は少し前に遡る。

 

 クラス代表決定戦が終わって少したった後、十千屋は自分の機体を組み立てくれたお礼に簪の手伝いをかって出ていた。

 時間が合うときにはこうして整備室に向かい、主にプログラムチェックと細かい所の組み立てをやってる。

 たった二人きりで組み立てる音しかしない静かな時間が過ぎるが、不意に彼が口を開いた。

 

「なぁ、簪」

 

「・・・なに?」

 

「言いづらいならいいけどさ、こうして一人で組み立てる事に固執している理由ってなんなんだ」

 

「・・・・・・」

 

「すまん、忘れ「いい、貴方だったらいい」ん?」

 

 簪が一人で組み立てている理由を彼は尋ねたが、口を閉じている様子を見て聞き流す様に言おうとしたら遮られた。

 そして、彼女からこうして固執している理由が語られる。

 最大の理由は姉への反骨心だ。実家ではなんでも出来る姉といつも見比べられ嫌気がさしていた。

 だが、好きであった姉に少しでも追いつこうとする日々の中、転機が訪れた。

 彼女の家は古くから続く家系であり、当主制が続いている。その、当主に姉が選ばれた日に彼女は姉から「無能でありなさい」と言われ突き放された。

 この言葉を受けて胸中によぎったのは虚無感と怒りである。支えであった姉への気持ちが反転し思慕は怒りへと変わった。

 そして、反骨心と成り姉が一人でISを組み立てたと聞いたから自分自身もたった一人で組み立ててやる、と思ったのだ。

 こうして、現在に至る。

 

「そうだったのか。でも、ISの(くだり)がおかしくないか?」

 

「・・・え?」

 

 十千屋は簪の過去と理由を聞いて憐敏を感じさせるが何処かが引っ掛かる。

 彼女の過去話は可笑しくはないが、I()S()()()()()()()()()()()()()の部分が妙に感じるのだ。

 

「どういうこと?」

 

「いや、本当にそのお姉さんはたった一人でISを『全て』組み立てたのかなってな」

 

「私はそう聞いた」

 

「でも、そのISは専用機なんだろ?専用機といえば国の顔になるISだ。それを国家代表たった一人

 に組立を任せるか?」

 

「あ・・・」

 

 そう、十千屋が気づいたのはその点である。

 IS専用機は国家の威信を賭けて制作するものだ。いくら優秀な国家代表でも1から10まで全てを任せるはずがない。

 その一人の意味が、特殊兵装の原案なり機体コンセプトなり等なら話は通る。が、設計発注組立を全て一人で賄うというのは無理がありすぎる。

 そして、十千屋はある可能を考えた。

 

「なぁ、簪その話って何処で聞いたんだ?こっちの仕事柄、更識の家の裏は聞いたことがあるんだ

 が」

 

「…実家、という事はつまり」

 

「もしかするとな、いっぱい食わされた可能性があるな」

 

「でも、私は・・・」

 

 十千屋の考えた可能性、それはその一人で組み立てたと言う話自体が簪の姉の狂言ではないかというものだ。

 対暗部用暗部「更識家」これが彼の知っている更識の裏である。

 彼女自身は気づいていないだろうが、彼は優しい可能性も気づいた。彼女が嫌う姉はワザと簪を突き放したというもの。

 危険な家から彼女を遠ざける為に一芝居をうったのであろう。だが、それが彼女にコンプレックスを植え付けたのは失敗なのであろうが。

 そして、そのコンプレックスが彼女を踏みとどまらせる。

 

「頼ることが弱さじゃないさ、それに寄り掛かったままじゃ駄目だけどな」

 

「弱さじゃない・・・」

 

「人は完璧じゃない、簪のお姉さんだってドコか抜けている部分だってあるさ」

 

「・・・(コクリ)」

 

「それでも納得できないなら、簪しか出来ない事で超えてやろうぜ」

 

「私しか・・・出来ない?」

 

 十千屋は自分の作業場から離れ、簪のそばまで来る。

 そして、右の手袋を外し彼女の頭を優しく撫でる。

 

「そう、学生()の手でこの専用機を作り上げるんだ」

 

「でも、私一人じゃ…無理、できっこない」

 

「大丈夫だ、俺が付いてるし。そして何よりも・・・簪には掛け替えのない友達がいるだろ?」

 

「えっ」

 

 十千屋がそう語りかけるが、彼女は無理だと答えた。

 でも、彼はそれを否定し整備室の出入り口を指す。するとそこは見つかって咄嗟に逃げる本音の姿があった。

 ポカンとその様子を見る彼女に笑いかけるように彼は話す。

 

「なっ、人の縁ってモノはバカにできないだろ?それに」

 

「それに?」

 

「話を聞いてる限りじゃお姉さん友達少なそうだからな!ここんトコロは絶対真似できないだ

 ろ!!」

 

プッ…ククク…

 

「ふっ、誰もが驚くようなISに仕上げてやろうぜ?俺たちとこれから増える皆でさ」

 

「うん、私たちとみんなで」

 

 その後、簪は本音を誘ってそれに釣られて気にしていたクラスメイト達も集まってきてくれた。

 協力者がどんどん集まり、実際にあるIS研究所に負けないくらいの熱気で打鉄弐式の製作に乗り出したのである。

 そして、現在は・・・

 

「そこ!接続部位緩いよ!!」「こっちのチェックは!?」

「え~と、詰めるミサイル、ミサイル、ミサイル、ミサ・・・コレはグレネド」

「簪さん、この部分はどう?」「ん、大丈夫」

「10×15のネジ!5×10の六角!20×10のナット!」「はい!はい!はい!」

「いっち~、そっち持って~!」「織斑君!そっちの大きい部品持ってきて!」「ついでにお菓子も持ってきて!!」「了解!って最後のはなんだ!?」

 

 大盛況である。集まった皆が簪と打鉄弐式の為に力を合わせて作り上げてゆく。

 そんな中でまた新しいメンバーが現れた。

 

「三年-基木素子&私の整備チーム、推して参る」

 

「一年生!いい根性してるじゃない!!」「専用機の組み立て…そんな面白い事を独占してんじゃないわよ!」「この先輩にお任せあれ!」

 

「来た!三年生整備課が来た!!」「これで作業が捗る!」「でもって十千屋さんの愛人もついでに来た!?」「おい…(~_~メ)」

 

 十千屋がここで何しているかを聞きつけたのか、素子が自分のISの整備を担当してくている同級生をつれて参戦してきたのである。

 参加した三年生は流石というか、今まで気付かなかった間違いを指摘、ともに作業しながら指導し一年生たちの技術向上もしてくれた。

 更に賑やかになった整備室で十千屋はたった今来た素子に話しかける。

 

「素子、どうしてこんな所に来たんだ?」

 

「父様が色々やってるって聞いたから。それに進路がほぼ決まった三年生は意外と暇」

 

「そうだけどな「それに」それに?」

 

「父様、あの娘が新しい義娘(愛人)候補?」

 

「違うから!彼女の御家族は健在だから!!ちゃんと仲直りする予定もあるから!!!」

 

「大丈夫、ちゃんと分かってる」

 

「全く、冗談が「私が愛人候補の娘をクチュクチュのトロトロにして、一緒に父様にしゃぶり尽く

 されれば良いんだよね」じゃない!?」

 

「うん、美味しくいた『グリィ…』ダァっ」

 

だ か ら !違うって言ってんだろうが!!ルビをそのまま落として、欲望を垂れ流しに

 すんじゃねぇ!!!」

 

 グリグリグリ…「イタイ、イタイィ…流石に父様のチカラでウメボシは止めてぇ」

 

 今日は十千屋と素子が笑いを取りながら時間が過ぎてゆく。

 実際にいつ出来るか分からなかった打鉄弐式は、クラス対抗戦には間に合わないが次の行事には着実に間に合いそうだ。

 皆が楽しそうにだが、真剣に取り組んでゆく。協力している十千屋と一夏は時間が合えば積極的に手伝う事となった。

 本当は出来るまで付き合いたいが、彼らも色々と忙しいのだ。

 だが、製作後の実働データ集めは一夏達の訓練に参加することで集めることを約束したのである。

 

 そんな、整備室を覗く・・・一つの影有り、

 

「(´;ω /| あぁ…簪ちゃんがあんなに笑って楽しそうに……うぅ、私も混ざりた

 いぃぃ・・・・・(泣」

 

 ここに一人IS駄姉が居る。彼女の名はIS学園2年生で生徒会長-更識 楯無(さらしき たてなし)

 妹-簪をワザと突き放したが未練タラタラでストーカー行為(簪ちゃんを影から見守り隊)をする駄姉である。




さて、カンパニー企業代表の素子はどうだったでしょうか?
見た目はクールなのに中身残念をテーマとして書いています。いや、中身下ネタの方が適切か?(汗

十千屋らの出身国は一応オリジナルです。
だけど国名を英語読みに直したら、モデルとなっている国はある系統の人ならば知ってる国です。
無論、現実にある国じゃありませんけどね。

今回は編集のためのタグを含めて1万文字を突破しました。
前半中盤で7千文字くらいで、後半をいれて9千文字位になればちょっと多めだけどいいだろうと思ったら・・・軽く超えちゃったよ(汗
読んで下さっている皆様は何文字ぐらいの話のほうが読みやすいんでしょうか?
3~5千文字位でちょこちょこ話を上げていったほうがいいのだろうか?
そこは要調整ですかね。

そして、次回からはついにセカンド幼馴染編が加速しますね。
一夏の土下座案件とともに(邪笑)

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA13ss:お前は馬鹿なのか?

はい、セカンド幼馴染編の重要案件までたどり着けました。
相変わらず、文字数がちょっとありますがどうぞご覧ください。

では、どうぞ御ゆるりと。

あと、残念美少女が絶好調ですのでそこをお気をつけて


 さて、嵐というものは前触れがあるものだ。

 余りにも静か、風が強くなってくのを感じるなど。

 今回は風が強くなっていく形である。そう、時々嵐の前に妙に強く吹く風のようだ。

 

 

 さて、今日も今日で特訓・・・いや、修行の日々が続いている。

 その中で変わったこと言えば、時間割の修正だろうか。前までは補習-体力作り(剣道)-実践であったが、補習と実践が逆になった。

 その理由はアリーナの使用時間帯が15~16時だからだ。先に補習をしてから体を動かしたかった十千屋であるが、学園の決定事項には逆らえない。

 故に疲れた体で済まないと思いながら補習を最後に回したのだ。

 

「さて、今日は追いかけっこをしてもらおうか」

 

「で、どんなルールが付いてんだ?」

 

「あぁ、追いかける最中に指示が出てくる。それを行って逃げる方を追いかけるんだ。チェーロ、

 デモをやるぞ」

 

「はい、パパ!アイアイサー!!」

 

 いつものメンバーがアリーナに集まり、今日の修行を始める。

 今回のメインは機動術の熟練の為の追いかけっこだ。ただし、タダの追いかけっこではない。

 追いかける側に不定のタイミングで視覚領域に様々な指示が映り出される。

 一夏の場合では、右に避けろ、左に避けろ、ターゲットを切れ、仮想攻撃を避けろ等が出される。

 無論、それだけでは終わらない。時間制限が有り、その間に逃げる側にタッチダウンしなければならない。

 故に今まで培った機動術をフル活用して捕まえなければならないのだ。

 その実演を逃げる側を十千屋、追いかける側をチェーロがする。

 先に彼が飛び出し、ある程度離れるとチェーロが飛び立っていった。

 縦横無尽にある時は物理法則を無視した、まるで魔弾の射手(バルバトス)進化の意思(ゲッター)のように直角軌道変更で飛ぶ彼に対し、バレルロールしながらターゲットを撃ち抜き、はたまた仮想リングを一瞬だけ身を縮めて通る等滑らかに軽やかに指示をこなしてチェーロが追いかける。

 

「どちらも早いな・・・」

 

「しかも、指示全てを手早くこなしていますわ。あ、三つのターゲットを三連同時射撃(トリプルクイックドロウ)で壊しまし

 たわね」

 

「・・・俺…ちゃんと出来るかな(汗」

 

 各人が呆れと感嘆の声を漏らしながらも、彼らの演習は続いた。

 そして制限時間である3分間近くになった頃、両者ともにカーブに差し掛かった時に、チェーロは円周の内側を通るような上昇しそこから十千屋へ向かい最短距離で降下することで再び速度を得ながら追随する。

 現実の戦闘機の空中戦闘機動『ハイ・ヨー・ヨー』の軌道を描き彼女はターゲットである彼を捉えたのだ。

 それをハイパーセンサーで見た彼は逃げ切れないと判断すると、彼女に向かって腹這いになり両手を広げる。これに気づいた彼女は満面の笑みを浮かべて彼に抱きついに行ったのである。

 彼は彼女を両手で体の前に抱き抱え-通称『お姫様だっこ』して見ていた皆の前に着陸し声をかけた。

 

「まぁ、こんな感じでやってもらうんだが・・・」

 

 「「レベルが高すぎて全然参考にならねぇ(ない)!?」」

 

「ですわよねぇ」「まぁ、そうなるね」

 

 一夏と箒が両者ともに全身全霊の声を張り上げる、そしてそれに残りのセシリアと轟は同意するのであった。

 これには失敗したような雰囲気を出しながら十千屋は言う。

 

「あ~、二人共。流石に今日ココまでにやれっていう訳じゃないからね。あくまでいずれたどり着

 いて欲しいレベルのデモであり二人に行って貰う時はちゃんと加減するからね?」

 

「先生、俺…普通に飛びたいです・・・」

 

「高みが高すぎて何も見えないです・・・」

 

「おじ様、素晴らしすぎて凹んでおりますわよ?」

 

「もうちょっとマイルドにするべきだったね。あと、チェーロ…いい加減降りろ(怒」

 

「え~、もうちょっとだけ~」

 

 グダグダに成りかけたが、何とか凹む二人のケツを叩いて立ち直らせ今日の修行を始める。

 十千屋は何度も追いかけられるターゲットとなり、残りのメンバーがそれぞれ追いかけた。

 それを行ってゆくうちにアリーナの使用終了時間となり、皆それぞれ近くのピットへと向かうと思いきや…皆、同じ方向に向かっていた。

 理由は十千屋と離れたくない娘'S、同性で彼と進路が同じな一夏と彼から離れたくない箒、そして両者から離れたくないセシリアという感じである。

 

「一夏、飛ぶ時まだ体が強張りすぎだ。もっと楽に自然体で飛べるようにしないと・・・凄く疲れ

 るぞ?」

 

「はい、実感しております・・・」

 

「ひとなつは緊張しすぎ、飛ぶのってもっとビュ~んとで良いのに」

 

「感覚オンリーで鷹の目持ちの貴女には言われたくないわ」

 

「全く、日頃から鍛えていないからそうなるのだ。周りを見てみろ」

 

「そうですわね、何事も体は資本ですし」

 

 一夏は十千屋からアドバイスを受けるが、慣れない機動を行いすぎて疲労困憊である。

 ここに来て日頃の体力差と言うか鍛錬の差が出ている感じだ。

 ある意味現役の十千屋、代表候補生のチェーロ・轟・セシリアの三人、日頃から鍛えていた箒と疲労の加減に差が出ている。

 箒は汗をかき少し疲れた様子だが、他のメンバーはそれよりも程度が軽い感じだ。

 その事実にちょっとショックを受けている一夏の前に彼女が現れる。

 

「一夏っ!おつかれ。はい、タオル。飲み物はスポーツドリンクで良いわよね?冷えてないの」

 

「おぉ!サンキュ。あ~~、生き返る~~~」

 

「健康に気を配るのは変わってないわね。で、だいぶシゴかれているみたいね」

 

「あぁ、でも当初よりはマシに成ってるのは感じるぜ」

 

 現れた人物は鈴であった。彼女は一夏の為にタオルとスポーツドリンクを持ってきたようだ。

 それを有り難く頂き一息つく一夏は彼女との会話が弾みそうになるその時に邪魔が入る。

 

「一夏っ、一息つくのは良いが打ち込みがこの後あるんだ。早くしろっ」

 

「あ、悪りぃ…箒」

 

「ん?アリーナはもう閉じてるからお仕舞いじゃないの」

 

「そうなんだけどさ。体力作りと刀の修練の為に剣道部で打ち込みをやるんだよ、この後」

 

「ふ~ん、ねぇ…ついて行ってもいい?」

 

「え?俺は構わないけど、更にそのあと補修もあるんだけど」

 

「良いわよ、別に今日は用事があるってわけじゃないし」

 

「あ~うん、十千屋さ~ん!」

 

 邪魔をしたのは箒であり、次が控えているのを理由に一夏と鈴の距離を開けようとした。

 だが、話の流れでこのまま付いてくる事に決定したため何も言えなくなりストレスが溜まる。

 その乙女心のストレスは剣道部で彼をボコボコにする事で発散するのであった。

 そして、最後の項目である補修までたどり着く。

 

「(なによ、コレは?一夏に教えてるって言うロボ頭の人…専属コーチレベルじゃない。しかも、

 特訓も補習もアイツに特に今必要なものばかりを中心にしてる。・・・ウチの国(中国)が欲しがるわけ

 ね)」

 

 補習の内容と一夏の様子を見て鈴はそう思っていた。

 実のところ彼女は最初から彼らの修行を見ていたのだ。理由は自分の国-中国からの指令である。

 彼女が中国代表候補生に選ばれたのは実力だけではない、いや実際に実力は候補生の中で飛びぬけていたのだが。

 それはともかくとして、片方の男性装着者-一夏と顔馴染みであった事が理由の一つである。

 かの国は第一男性装着者である彼を自国に誘致したいがために鈴を選んだのだ。

 そして、第二である十千屋も丸め込めて来いと指示してある。

 

「かの会社はISに次ぐパワードスーツFAなる物を売りつけているそうだ。そのような物、まず我が

 国に差し出すべきではないのかね?なのにっ、アソコは日本・ドイツ・イギリスを主として売り

 つけている!過去の大戦時の同盟のつもりかね!?」

 

「そこで君だ、第二男性装着者はその会社の重要人物らしい。彼の好みは調査済みだ、ロリk…

 ゲフン!幼目の容姿をもった女性が好みらしい、故にひんそ…ゲフンゲフン!小柄な君が

 ゆうw…コホン、様々な手を使い説得して我が国に彼から融資を持ちかけて貰いたい訳だ。

 頼んだぞ」

 

「(Pi.Po.Pa…)え~、凰鈴音代表候補生です。●■担当官がセクハラ発言いたしましたので、お願

 いしたします」

 

 「き、きさまぁあああああ!!?」

 

 鈴はその時をやり取りを思い出し、余計な部分は頭を振るって削除する。

 そして、改めて補習の…いや、十千屋の様子を見た。

 

「(容姿と性癖の一端を除けば、パーフェクトよね。実力も有り、財力も有り、懐も大きいと、

 はぁ…私の好みじゃ無いんだけどなぁ。まぁ、一夏を振り向かせる合間に何とかするか。

 アイツに付きまとえばロボ頭さんとの接点も増えるし、やっぱり信頼関係からよね。なら今は

 雌伏の時ね)」

 

 誰にも分からない彼女の内面はこう結論付ていた。

 そして、補習が終わり寝る前の自由時間に事件が起こる。

 鈴が強制的に一夏と同室になるために箒に部屋替えを提示しひと悶着があった。

 それはまだ良い、問題はこの先である。その時に鈴が一夏にむかって「約束を覚えている?」と尋ねたら、彼がフラグブレイカー(乙女心を叩き折る行為)をし彼女を泣かして去っていってしまった。

 

 その翌日・・・項垂れて座る一夏の前に頬杖を付き足を組んだ十千屋が座る。

 そして、十千屋の言葉が響く…

 

「お前は馬鹿なのか?」

 

「は…反論の余地も御座いません(汗」

 

「馬に蹴られて死ね」

 

「ほんと、刺されて死んじゃえばいいのに」

 

一夏(ひとなつ)に浮かぶは水死体」

 

「本当にレディの扱いがなっておりませんわね」

 

 昨夜の事を一夏は十千屋に相談すると、まずはその一言が返って来た。

 すると便乗するかのようにいつものメンバーが悲傷中傷を言い、クラスメイトからの目も「ダメだコイツ」的な視線で見られる。

 重い溜息を吐き、十千屋はこの朴念仁にむかってしたくもないフォローをする。

 

「はぁ~…まぁ、今に始まったことじゃないが何が悪かったか分かるか?」

 

「す、スミマセン…イマイチ理解できてない」

 

「ふぅ、はぁ~~あぁ…先ずはな、凰さんも女性だってことだよ」

 

「ん?確かに鈴は女性だけど」

 

 この受け答えをした一夏に「あぁ、ダメだコイツ」と思いながら十千屋は説明を始める。

 

「まず、女性と男性の考え方の根本が違うって事を念頭に置け」

 

「そりゃ、他人なんだから男女も関係なく違うだろ?」

 

「そこから違う。俺の言ったのは十人十色では無く、男女差の思考パターンだ」

 

「よく分からないんだが」

 

 十千屋は光量が落ちたカメラアイで彼を見ながら話し続けた。

 男女が違うというのは生き物レベルからの話である、医学、生物学的に全く違う生き物であるという論説も出たくらいだ。

 故に脳が受け取る情報の処理も違うというのは当たり前のことである。

 男同士で通じ合うことでも、男と女の間では通じても受け取り方が若干の差異が出てしまう。

 だから同じ言語でも全く違ってくる、それゆえにその誤差も考えて対話しなければならないのだ。

 

「しかもな、女性は台詞に裏の意味を持たせたがるんだよ」

 

「う、うら?」

 

「あぁ、凰さんとお前とした約束は『毎日、私の酢豚を食べてくれる?』だっけな」

 

「ああ、うん。そんな感じ」

 

「コレは別れるシーンで言ったんだよな?」

 

「そう、だったけな…うん、引っ越す前日だったな」

 

 一夏の話を聞いて、彼はそのシュチュエーションを想像し彼女が伝えたかった本当の意味を探る。そして、それを一夏に伝えるのであった。

 

「俺は本人じゃないから想像だがな、それは『自分のことを忘れないで欲しい』とか『心の支えに

 したい約束』だとかの類じゃないのか?」

 

「あ…」

 

「ソイツをただの奢る約束と履き違えたら、そりゃ怒るわ。しかも、女の子にとって手料理を食べ

 て貰うってのは特別なことだぞ」

 

「え、じゃあ・・・俺は、」

 

「チョイ待ち、俺の言ったのは俺の想像だ。本当の約束の意味はお前で考えろ、それがお前に課せ

 られた義務だ」

 

「分かった、十千屋さんが言ったのは参考程度にする」

 

 十千屋は彼に伝えた事の中で、ワザと伏せたものがある。

 だけどそれは、彼自身が気づくものであり自分が答えるものではないからだ。

 しかし、彼女との約束は特別なものであるというのは伝えておく。コイツ(一夏)はド級の朴念仁であるか故に。

 話を聞き終えた一夏は考える素振りを見せるが、十千屋はまだ足りないと思い更なるアドバイスをまた話し出す。

 

「一夏、凰さんと仲直りしたいんだよな?」

 

「当たり前だ、幼馴染だからな」

 

「なら聞け、お前はつい本音が溢れて余計な一言に成り易い感じだ」

 

「…そうなのか?」

 

「なんか、つい言ったら相手…特に女性の機嫌が変わったなんて事よくあったと思うんだが?」

 

「ある…あった、ああぁ・・・」

 

「覚えがある様だな。だから、勢いに乗らずじっくりと話すようにしろ。今回の鳳さんは意地っ張

 りみたいだと感じたからな。買い言葉売り言葉でややこしくするなよ」

 

「肝に銘じておきます。いや、ほんとマジで」

 

 と、一夏の失言癖を彼は注意してこの話題は終了となったが・・・

 その数日後、十千屋は前と同じように一夏の前に座っていた。

 

「と、言ってたのに・・・何やってるんだ、お前は?」

 

 「返す言葉もござりませぬうぅうう!!(泣」

 

 十千屋は腕と足を組み、カメラアイを暗い赤にして一夏を見下していた。

 見下されている彼はというと・・・地面に堂々と座った構えから、大地に両手をつき、彼に向かって頭を下げていた。

 つまり、●乙女流奥義:猛虎落地勢(土下座)である。

 そう、一夏は彼に注意されたにも関わらず鈴との仲直りが失敗したのだ。

 意地っ張りな彼女の暴言からつい喧嘩を買ってしまい、そこから言葉の売り買いの応酬でさらに一部女性のNGワード(貧乳)を彼が言ってしまったのである。

 本当に…十千屋が注意した事そのままが起こってしまったのだ。

 

「最低だな、一夏は」

 

「もう返す言葉もございませんわ」

 

「朴念仁の神-朴念神」

 

「ひとなつの事、今度からにんじんって呼ぶね?答えは聞かないから」

 

 女性メンバーとクラスメイトの視線が絶対零度まで下がる。

 そう、一夏の評価が『残念なイケメン』レベルまで下がったことを意味していた。

 

「さて本当はしたくないが、凰さんとお前の仲はなんとか俺が取り持ってやる」

 

「ほっ本当か!?」

 

「ただし!判決は有罪っ、クラス対抗戦まで修行のランクを1~2ランク上げて行う!

そしてぇええ!!」

 

 流石に気まずいと思ったのか十千屋が関係の修復に乗り出した。

 だが、その対価として一夏には当面の修行が苦しくなる結果となる。

 そして、執行内容が言われ平伏する彼に十千屋が本音に何か言い、彼女が彼に近づいてゆく。

 

「(・ω・`*)ネーネー、いっちー」

 

「な、なんだ本音?」

 

「いっちーのってちっさいの?」 心境風景⇒)ハアァッ!

 

「グハァ!」

 

 本音から純粋な眼差しでその言葉を言われた一夏は、心の中で血反吐を吐く。

 さらに便乗して、チェーロが純粋さを装って言った。

 

「にんじんは~、包●・短△・早◇なの~?」 心境風景⇒) ハドウケン!ショウリュウケン!タツマキセンプーキャク!!

 

「がっ!?グフっ!がぁあ!??」

 

 心にダメージを受けながら顔をなんとか上げると、そこには轟が立っていた。

 そして、彼女は十千屋と彼の一部分を見比べ…

 

「…ふっ」 心境風景⇒)シンクウゥゥウッハドーケン!!

 

「ゲハァ!!」

 

 鼻で笑った。無論、彼の心には大ダメージである。

 その様子を見て流石に箒が駆けつけた。彼女は彼の肩を持ち確りしろと声をかけたが、それが最後の止めとなった。

 

「いっ一夏!確りしろ!?」

 

「うぅ、箒か?」

 

「私にはどうしてそんなに心に傷を負っているかわかないが…」

 

「ほ、箒……」

 

「私はお前の()()かが小さくても気にしないからな!(`・ω・´)」 心境風景⇒)シン・ショウリュゥウケーン!!!

 

「ゴハァア!?!?!ウァウァウァウァゥァ…ガクッ」

 

「いっ一夏!確りしろ!!一夏ぁああああ!!!!」

 

「完全KOですわ。自業自得とは(むご)いですわね(汗」

 

 心に完全なダイレクトダメージコンボが決まった一夏は、心のHPバーが無くなり気を失う。

 完全に倒れた彼に向かって名を呼び続ける箒、周りは今度は不憫な目で彼らを見つめるのであった。

 そして、この混沌した場に更なる混沌が呼び寄せられる。

 

「 ? 何?この状況?」

 

「あ、え~と三年生の方ですか?」

 

「そう、三年:基木素子。父様に会いに来た。で、この状況は何?」

 

「あ、その言い回し十千屋さんの関係ですね。え~とこの状況は、」

 

 そう、残念美少女枠の義娘姉妹(シスター'S)素子が十千屋に会いに来たのだ。

 彼女は状況を聞き、納得する。馬鹿が一名死にかけているだけだと。

 

「うん、納得した。でも、父様のとアレ(一夏)を比べちゃダメだと思う」

 

「え、何をですか?」

 

「ん…」

 

 聞かれた彼女は携帯を出すと、その中にある画像データから一枚の写真をその近くの生徒に見せる。

 するとその生徒も、興味本位で見に来た生徒も顔を真っ赤にしながら十千屋の方を見た。

 彼はその様子を訝しげに首を傾げると、次にはその生徒らは彼を恐れ敬い、果てには拝み始める。

 これには嫌な予感がした彼は素子に詰め寄った。

 

「おい、一体何を見せたんだ」

 

「コレ・・・」

 

 素子が見せた写真には、彼女がケフィア(白濁の何か)で顔を汚し愛おしげに頬をすり寄せる魔王魔羅の姿があった。

 それには流石に相変わらず見えないが、十千屋の開いた口が塞がらない。

 そして、周りの生徒たちはこう話していた。

 

「大きいです///」「太いです///」「長いです///」

「「「随分とご立派な魔王をお持ちで///(/ω\*)キャ」」」

 

「しかも攻撃力・防御力・HP・MPなどトップクラスで、もはや『大』魔王級。

 実感済み(*ΦωΦ)ドヤァ」

 

「………プライベート中のプライベートの写真を見せンじゃねぇエェエーええぇええ!!!」

 

 あからさまな自らの恥部(生身)を回りに知られてしまった十千屋はその場で崩れ込んでしまう。

 その間にも、キャーキャー言いながらそういう事に興味がある生徒たちが写真を覗き込み拡散してゆく。

 ふさぎ込んでしまった彼に素子はしゃがみこみ、スカートの両端をつまみ上げるカテーシーの様な動作をしながら声を掛ける。

 

「父様、大丈夫?一本ヌく?」

 

「もおぅぅとぉぅ子ぉぉおっ、家に帰ったらお仕置きしてやるぅうう!!」

 

「えっ…そんな、父様お仕置きだなんて・・・・無理やりされるのって…意外と‥

 モえる…・よね(//∇//)」

 

(ぶちぃっ!!)轟ぃ!チェーロぉお!!」

 

 彼のお仕置き発言に彼女は照れながらはにかみながら、小指を加えてうっとりとして言った。

 しかし、その反応に遂に十千屋はブチ切れて二人を呼ぶ。

 

「チェーロ、右っ」「あいさー!」

 

「お?おぅっううう!?」

 

 呼ばれた二人は素子をうつ伏せになる様に叩きつけると、相手の手足をそれぞれ左右一方ずつ相手の腿の外側から、自分の足で巻き込むよう固定し各自で相手の手を持った。

 そのまま後方に自ら倒れこみ寝るようにして体勢を変えつつ、相手の体を吊り上げる。

 そう、以前十千屋がセシリアに掛けたプロレス技『ロメロスペシャル』のツープラトン(タッグ技)『昇技トライアングルドリーマー』だ!

 

「さぁ、悲鳴を上げてみせなさい」「素ねぇはいい加減にすべき」

 

 ギリギリギリ…「ぐぬぬぅぅ・・・」

 

 それぞれのパーソナルカラーのシマぱんが丸見えに成りながらかけるその技はフリーダム娘の自由を奪う。

 二人掛りではさすがに抜け出せないのか、関節を軋ませながら全身に力を入れて素子は抵抗した。その彼女に十千屋が近づいてゆく。

 

「さぁ、釈明を聞こうか?」

 

「粗●ン(仮)とぉ(性的に)素晴らしき父様をっ比べるのは可笑しっいと思ったぁ。反省はっする必

 要がなぁいしっ、後悔は元々なっい」

 

「そうか、遺言はあるか?」

 

「技をぉっかけられる…なら、父様のぉベアバックとかぁツームストン・パイルドライっバーと

 かっの幸せ投げ・締めの方がいいっ!」

 

 十千屋が素子に弁明を聞きだしたら、抵抗しながら彼女は話すため口調が乱れる。

 そしてその内容は反省どころか謝罪も何も無かった。そんな彼女に冷たいカメラアイで見下す彼は技をかけている二人にもっと強くするように指示する。

 それに対して彼女は必死の抵抗をした。そう、普段は自ら抑え付けている身体能力の枷を外しそうになるくらいに。

 だが、それに気づいた十千屋はトドメを刺しにかかった。

 素子のシャツの裾を少し捲くり、下腹部つまりヘソの下あたりを優しく撫で回す。

 

「うっあっアン♪はぁん!そっ、ソコ!もっとぉ、もっと!触って!!私のし…ギュッ!!?

 

 

ごきゅっう!!

 

 撫で回された素子は、十千屋から与えられる心地よさに意識がいって力が緩んでしまった。

 この隙を逃す二人ではなく固定した手足を一気に引き伸ばしトドメを刺す。その瞬間、人体から聞こえてはならない鈍い何かの音がし・・・素子の意識は失われた。

 基木素子戦闘不能(リタイア)。その後、『私は変態です』の張り紙を顔に付けられ廊下に放置と言うか打ち捨てられた。

 

 

 一夏と素子を(しめ)た日の放課後、十千屋はある人物を探すため学園内を彷徨いていた。

 修行の方はどうしたかと言うと、やることは指示してある。

 今頃、白式用に用意しておいたM・S03と04-プロペラントタンク〈角〉〈丸〉を使い白式のSEを増強、回復させ一夏は1対複数をノンストップの連チャンで戦わせられている事だろう。

 きっと使用しているであろうアリーナの横を通ると、男の悲鳴が聞こえたような気がしたが気のせいだ。

 しばらく歩くと目的の人物が見つかった。誰も来なさそうな校舎の隅で鈴が膝を抱いていて泣いている。

 

「やれやれ、やっと見つかったか。リアにハッキングしてもらえなかったら見つけられなかった

 な」

 

ジュン…あによ」

 

 泣き腫らした目で鈴が十千屋を睨むが、彼はそれを介さず彼女を摘まみ上げ肩に担いだ。最近だとお米様抱っこと呼ばれるヤツだ。

 いきなり担がれて彼女は驚くが、すぐに自分の様子を把握し暴れだす。

 

「こらぁ!何やってんのよ!!このロボ頭っ!!」

 

「あの馬鹿(一夏)のせいでムシャクシャしてんだろ?ならアリーナで一戦付き合えよ」

 

「なんで戦わなきゃいけないのよ!?」

 

「ひと暴れして、少しスッキリしようぜ?そのあとにアイツに対する愚痴を聞いてやるさ」

 

 彼の言葉を聞いて心配してくれていると彼女は気づく。

 やり方は強引であるが自分には合っている慰め方であろう。そして、どんなに暴れても確り担いでる力強さには父性を感じた。

 両親の離婚のせいで会えなくなった父も、幼い頃に自分が泣いていた時には力強くそして優しく抱きしめてくれた事を思い出す。

 ただし、今の状態は抱き上げられるよりも担ぎ上げられていると言ったほうがいいのだが。

 少し、しんみりした鈴であったがハッとなり正気に戻る。

 

「訳は分かったから!いい加減に下ろしなさい!!」

 

「はっはー!じゃあ行くぞ~~!!」

 

「だぁーかぁーらぁー!下ろしなさいってばぁあああ!!!

 

 こうして、十千屋は鈴を担いだまま今日一番人がいないアリーナに向かうのであった。

 下ろせと暴れる彼女を楽しそうに担いだまま。




今回は如何でだったでしょうか?
鈴の慰め方は書いてるうちにこうなりました。
あの子はまずは暴れさせてスッキリさせないとと思ってしまったので。
という訳で、次回は鈴と十千屋とのプチ戦闘と一夏と鈴へのフォローが主なお話になると思います。
・・・プチ戦闘のレベルで文字数が収まればいいなぁ(汗

そして、今回は下品すぎましたか?(汗
しゃーないんや、素子が暴走するんやっ(滝汗
あぁ、はやく彼女のマトモな戦闘シーンを出してあげたい(泣

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA14ss:血が滾ったわ!

オリジナル展開として鈴のストレス解消の為のプチ戦闘でしたが・・・
やっぱりプチに収まらなかったよ( ̄▽ ̄;)


では、どうぞ御ゆるりと。


 さて、対話というものは様々である。

 互いに言葉を交わし理解し合うという事は最もベーシックな対話だ。

 だが、それ以外にも対話の術というのは存在する。

 絵や音楽で他者へ問いかけをしたり、変わった所では歌や踊りで神と対話を試みた古代人がいたりする。

 しかし、今から行うのは冗談じみた方法だ。そう、ベタな青春不良野郎の漫画みたいに・・・

 

 

「さて、さぁ!お前のヤツ(一夏)に対する(愚痴の)全てを吐き出すがいい!!」

 

「もうヤダ!テンションについていけてない!!」

 

 さて、前回は拉致るように鈴を肩に担いで一番人の居ないアリーナへ来た十千屋であったが…

 謎のテンションで彼女と対峙している為、連れてこられた本人はソレについて行けてない。

 その原因はこの場に居ないバカ(一夏)のせいだ。十千屋的にはある種の痴話喧嘩に巻き込まれたようなものだからである。

 しかし、余りにも酷かったため手を出さざる負えないのは彼の人の良さのせいであろう。が、そのストレスが彼の情緒を乱しているのだ。

 

「……スマン。だいぶコッチも溜め込んでいたみたいだ」

 

「えぇ、そうでしょうね。あのバカのせいよね…あぁ!もう!!一夏のバァカァーーーー!!!」

 

「そうだ!いっつもボケボケしやがって!!もうちょい回りを見ろってんだ!!

 特に女性関係!!!」

 

「分かってくれる!えぇ、そうよ!あたしが日本にいる時、どんだけフラグ立てる気だったの

 よ!?しかも、無意識で!!」

 

「やっぱりそうなのか!?えぇえい!!鈴っ!こっちに打ち込んでこい!!

 アイツの愚痴と共に!!!!」

 

「分かったわ、えぇ…分かったとも・・・・

 あたしがどんな思いで約束したと思ってんのよぉおおーーー!!!

 

 一旦両者ともに冷静になったと思いきや、共通の不満が共鳴してのか一夏への愚痴が次々と溢れ出し叫ぶ。

 そして、互いにストレスを解消し合うためにぶつかった。

 鈴は青竜刀の意匠を持つ大型ブレード『双天牙月(そうてんがげつ)』を両手に持ち、十千屋はショテルという大きく弧を描いた剣に似た武器をを両手にもって構える。

 それはH.W.U 13:『グラインドサークル』だ。詳細を言うと本来の形が存在し、それはフラフープと丸鋸を合わせたような武器であるが付属の部品を使うことでショテル風の剣『クレセントカッター』へと組み替えることができる。

 彼女が一瞬で距離を突き詰め双天牙月を振るうと、そのクレセントカッターで攻撃と感情の爆発を受け止めた。

 

「あたしだって!引っ越したくなかったわよ!!」「そりゃそうだ!」

 

「でも、思いだけは伝えたかった!!」「乙女心だな!」

 

「なのに!文面だけ受け取りやがってこんちくしょう!!」「マジでそうだ!」

 

「えー!えー!あの朴念仁に通じると思ったあたしも馬鹿でした!!!」

「あいつはただの朴念仁じゃねえ!その神だ!!」

 

「でもでも!しょうがないじゃないっ、流石に恥ずかしかったのよ!!」

「まぁ、乙女心ですね!分ります!」

 

「ようやく会えたと思ったのに…あのバァカァーーーー!」「ぬっ!うぅ!?」

 

「幼馴染初号機が居るし!新しい女が居るし!約束は間違ってるし、最悪よ!!!」

「いっその事、新しい恋でも探すか!?」

 

でもでもでも!!

 それでもあのバカ(一夏)が好きなのよぉおおおーーー!!!

「っ!?しっまぁっ!!?」

 

 鈴は一夏への愚痴を叫びながら武器を振るい、十千屋がそれを受けと共に相槌をする。

 彼女の激昂が武器に伝わってるかのように互いの武器がぶつかると火花と衝撃音が周りに飛び散った。

 それを何度も繰り返していたが彼女の感情が最大限に高まった時にパターンが変化する。

 打ち合って鍔迫り合いになる瞬間に彼女は正面に蹴りいれ十千屋を正面にはじき飛ばす。

 そして、彼女の専用機『甲龍(シェンロン)』の第三世代特殊兵装『龍咆(りゅうほう)』が吼えた。

 龍咆の正体は空間自体に圧力をかけ砲身を作り、左右の翼から衝撃を砲弾として打ち出す衝撃砲だ。その特徴は砲弾だけではなく、砲身すら目に見えないことである。

 そんなモノを彼女は勢いに任せて彼に撃ち込んでしまったのだ。斬撃から間合いを離す蹴りへと繋げ、トドメに衝撃砲を撃ち込むというコンボで。

 

「!? ヤバっ!!ついっ!!!」

 

 鈴は全てが終わってから気づく、うっかりの最大出力の衝撃砲を撃ち込んでしまったという事実に。

 着弾したと思われる場所は煙が立ち込めてしまって何も見えない。

 しかも、この衝撃砲は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()武装なのだ。

 無論、本当に殺せる威力は人命と倫理と競技規定に反するために無い。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そのため彼は生きているだろうが彼女の顔から血の気が引く、自分を思って防御(サンドバッグ)に徹してくれた人を傷つけてしまったのだから。

 煙が晴れると、そこには二重の盾を構えた彼の姿があった。

 肩のジョイントに接続してある他のFAの武装、長方形の盾『六五式 防弾重装甲』とその内側に複数の部品でできた盾W.U 19:『フリースタイル・シールド』を構えている。

 その姿に鈴の内面のスイッチが入れ替わる。ヤツは強者だ、自分と同等いやそれ以上だ・・・と。

 

「危なかった、高速切替(ラピッド・スイッチ)の練習と領域に置き忘れていたコイツらがなかったら…

 ちっ、流石に榴雷の盾も壊れかけか」

 

「大丈夫?ごめんなさい。頭に血が上り過ぎていたわ」

 

「いや、不測の事態ってのはどんな事もあるもんだ。防ぎきれたし気にするな。それと、

 だいぶ気は晴れたか?」

 

「ええ、お陰様で。でも、それと同じくらい血が滾ったわ!」

 

 鈴はバックステップの様な動きで後ろに下がると双天牙月を十千屋に向かって突きつける。

 彼はその行動にどうしたもんかな?と思ったが、そうは問屋が卸さない。彼女は肉食獣が獲物を前にするような目つきと雰囲気で彼と対峙していた。

 

「ふぅ、どうしてもヤル(戦う)のか」

 

「ええ、あたしの冷静な部分が告げているわ。怒りに任せてたとはいえ、アンタには攻撃が全て

 通じなかった。それじゃあ、私のプライドが許さいないのよっ」

 

「まったく、しょうがない。そこの君、試合開始のカウントと合図をお願いできないか?」

 

「えっあ、はい!」

 

 完全に戦闘態勢に入った鈴を目の前に彼も構えた。

 そして、彼らの様子を見ていた生徒は頼まれたカウントを始める。

 

「カウント!3!!」

 

 鈴は双天牙月を上下に構え、

 

「2!」

 

 十千屋は盾を消し、クレセントカッターを呼び出して其々を順手と逆手に持つ、

 

「1!」

 

 互いのスラクターにエネルギーを貯め、

 

「試合!開始(スタート)!!」

 

 開始の合図と共にぶつかり合った。その衝撃は先程までのド付き合いの比ではない。

 アレは言わば戯れあいの様なものだ、今回のは本気でのぶつかり合いだ。

 衝撃と音で合図を出した生徒は短い悲鳴を上げ、周りの練習していた生徒は激しい戦闘になると予測し避難し始める。

 

「やっぱり防いだわね!」

 

「そうじゃなきゃ、面白くないだろ?」

 

「ええ、その通りよっ!」

 

 彼女の発言と共に彼のセンサーが空間の歪みを感知し警告する。

 その警告が出た瞬間、彼はPICを切り自由落下と双天牙月を力の踏み台として、鍔迫り合いしているカッターで自らの体を下へ押し下げた。刹那、彼の頭上に不可視の弾丸が通り抜ける。

 衝撃砲を避けられた鈴は次の行動に移ろうとしたが、彼のほうが早かった。避けた瞬間にPICを復活させオーバーヘッドキックの様に彼女の背面を蹴りつける。

 彼がさんざん一夏に見せてきたブースター補助付きの格闘攻撃だ。その威力でこの場から弾き飛ばされた鈴は身を翻すと同時に衝撃砲を撃ち返す。

 それを頭を下にした彼はそのまま避け、追撃の最中で宙返りをし鈴の同じ姿勢に正す。

 初手から今の追撃の最中の彼の機動に鈴は舌を巻く。

 

「(国から聞いた時は大した期待はしてなかったけど…強いじゃない、血が騒ぐじゃない)

 もっと戦いたくなるじゃない!

 

「やれやれ、意地っ張り娘と思いきやとんだ跳ねっ返り娘だったか」

 

 戦いの高揚感に飲まれる鈴を目にして十千屋は気が滅入った。

 先程までの不機嫌は何だったのかと思うくらい今の戦いにのめり込んでいる。

 彼は次々と己が身を掠ってゆく衝撃砲を尻目に攻略法を考える。そして、選んだ武装はP.U(プラスユニット) P141R:『ミサイルセット』に含まれている後付け式3連ミサイルだ。

 一瞬だけ加速し鈴の方を向きミサイルを全弾射出する。彼女は向かってくるミサイルを2つ衝撃砲で相殺し、残った1つは双天牙月で払い除けた。

 しかし、撃墜されたミサイル全てが壊れた瞬間に白い煙を撒き散らしていった。煙幕と思いきや視界がほどほど通る位の煙しかない。

 

「なに?不良品?残念だったわね!!」

 

「いや、これでいい」

 

 血気盛んに叫ぶと衝撃砲を撃つ鈴であったが、先程までは掠る程度には当たっていたモノが全く当たらなくなった。

 おかしいと思い連射して十千屋に当てようとするが、自分を中心として回る彼に全く当たらない。これでハッキリとする、何かしらのトリックで不可視の射線を認識しているのだ。

 

「ちぃ、いったいどんなトリックよ!?」

 

「まぁ、誰にも真似できることさ。ヒントは空気砲って分かるか?」

 

「国民的アニメのヤツかしら!?」

 

 このままほぼ動かずに当てるのは不可能と考えた鈴は十千屋を追い掛けまわる事にした。

 肩ユニットの龍咆だけでは足らないと判断し腕部小型衝撃砲『崩拳(ほうけん)』も使い弾幕を厚くする。

 しかし、数にして倍になった衝撃砲の砲弾を彼は避け続けた。

 

「違う、ドラ●もんじゃない。小学校の理科の実験のヤツだ」

 

「ああっ、あのダンボールに穴を開けたアレね!それがどうしたのよ!?」

 

「あれ子供心に面白いよな、特に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のは」

 

「 !? 甲龍っ、スキャン開始!」

 

 彼の言葉に彼女はある可能を見出した。それが正しいか確かめるためハイパーセンサーで解析(スキャン)を開始する。

 対象は周りに広がり薄くなっているミサイルの煙だ。その結果は、

 

「っ、してやられたか!」

 

「そういう事だ。カタログスペックを公表してるなら対策くらいするさ」

 

 煙の正体は探査ナノマシンの塊であった。元々、探査ナノマシンは閉所や暗所を解析するために使う。洞窟や遺跡の内部構造を解析するためだ。

 これを彼は設定を変え、空気と空間の歪みを検知する様にし不可視の砲身と砲弾を可視化したのである。

 衝撃は空気を伝わってゆくもの、ただハイパーセンサーを使うだけでは空間の歪みしか検知できないが、そこにナノマシンを加えることで空気と空間を押し退けてゆく様子を鮮明に捉えることだできるのだ。

 

「では、幕引きと行こうか!」

 

「上等よ!!」

 

 彼はまた加速し距離を離した所で、ループしその頂点で背面姿勢からロールして水平飛行に移行するインメルマンターンで彼女と向き合った。

 四つの衝撃砲の弾幕をバレルロールで回避しながら肉薄する。そして、また鍔迫り合いに移行したがある種の勝敗は彼に軍配が上がった。

 

「!? ヤってくれるわね!!」

 

「この形の本来の使い方だ!」

 

 打ち付け合う瞬間に彼はカッターを凹の方向で振るった。その結果、弧の内側で双天牙月を受け止め、その先端は肩ユニットである大型衝撃砲『龍咆』に深く突き刺さっていた。

 そう、弧を描いている為に先端は彼女を通り越し腕の後ろへ伸びていたのである。このカッターのモデルとなっていると思われるショテルは相手の盾を超えて攻撃できるようにも作られていた。

 そして、鈴の甲龍の出力が一瞬だけ落ちる。衝撃砲が傷ついた影響か不調になった隙を十千屋は逃さない。

 

「てぁやぁあ!!」

 

 ガァン!!

 

「またぁあ!?」

 

 彼女を力任せに下へ押しやると同時に跳び箱の要領で頭を越え、また今度は両足で彼女の背を蹴り飛ばした。

 その反動で距離をとり、最後の猛攻とすべくその準備を整える。両肩のパーツごと箱状の物に量子変換し、片手にはW.U 29:『ハンドガトリングガン』を構えた。

 だが、それをただ黙ってみている彼女ではない。残った小型の衝撃砲で彼を撃ち貫こうとするがやはり小型では出力が足りない。

 衝撃砲は威力と距離が比例し、速射性は反比例する。彼を牽制しようと連射している衝撃砲では距離と威力が小さいのだ。小型では尚更である。

 本来は威力と距離が大きい大型をメインとして、小型は牽制と弾幕用に使うのが正しい運用法である。

 しかし、大型は先ほど潰され小型では威力の高い単発は避けられ、連射すると全身装甲である彼には効果が薄い。それでも、

 

「それでも、負けるわけにはいかないのよ!」

 

 鈴は両手に持っていた双天牙月の石突にあたる部分で連結させダブルブレードにして投擲したが、大きい双天牙月はアッサリと避けられる。

 しかし、回転している為ブーメランのように戻ってきた。

 そこを片手は連射、もう片手は威力を高めた衝撃砲で十千屋の動きを抑える為の弾幕を作るが、当たる軌道にあった双天牙月は爆発し落ちていった。

 この現象の正体は彼の背面にある。ハイパーセンサーで近づいてきている事は掌握していたので、背にあるジョイント付きユニットからフレキシブルアームを展開、W.U 12:『パンツァーファウスト・トンファー』に含まれるパンツァーファウストを持たせ撃ち落としたのだ。

 背面から襲いかかる双天牙月の撃墜という事実に彼女は動揺し弾幕が薄くなる。その瞬間、彼が攻勢に出た。

 

 「全弾持ってゆけ!」

 

「うっ!?しまった!?」

 

 ガトリングガンを撃ちっぱなしにし、肩の箱状の全面が開くそこには2×3のミサイルが入っていた。

 それが全弾射出し、途中で爆発しベアリングの雨が彼女に降り注ぐ。W.U 36:『ミサイル&レドーム』ハッチ展開式のミサイルとレーダーユニットがセットになっているモノであるが、更に…

 クレイモアミサイルを撃った彼は、急停止しバーニアとミサイルボックスに付いたスラクターを使い急上昇からの急降下で襲いかかる。

 降下の途中でクレセントカッターの本来の形であるグラインドサークルにして、体ごと彼女に突貫した。

 そして、止めの一撃にサークルを支えていない空いてる片手にとある武器を展開する。パンツァーファウストのセットに入っているパイルガン(杭打機)だ。

 

「トドメ!パイルGO!!」

 

 

ガァキィィイイン!!

 

「きゃぁああああああ!?!?!」

 

 抉り込むように打ち付けたパイルガンは見事、鈴のIS『甲龍』のSEをゼロにして彼は勝利をつかんだ。

 SEがゼロになり甲龍は強制解除され、片手で持ち上げられるような姿勢の鈴はまたアリーナに来た時のように彼の肩に担がれる。

 

「うぅうう…負けたぁ~」

 

「あぁ、俺の勝ちだな」

 

「あぁ!もう!悔しい!!次は勝ってやるんだから!てゆーかっ、降ぉろぉせぇえええ!!!」

 

「はいはい、ピットに戻るまでは大人しくしてような。あと、リベンジは都合のいい時にな。

 もう、アリーナの使用時間が来てるし」

 

「えっ、あれ…本当だ」

 

 ピットに着くと十千屋は鈴を肩から下ろす前に彼女が軽業の様に飛び降り後方宙返りで離れる。

 そして、彼女は深呼吸をすると照れくさそうに頭を掻きながら話し始めた。

 

ありがと、だいぶ気が晴れたわ」

 

「どういたしまして。そりゃ良かった」

 

「アンタ、一夏の為にあたしを慰めにきたんでしょ。お人好しね」

 

「まぁ、流石にこの状況は放って置けないでしょ」

 

「…アンタに免じでアイツが謝りに来たら受け付けてあげるわ」

 

「そいつは重畳、でも明日の放課後の時間は空いてるか?」

 

「何?まぁ、空いてるけど」

 

「今度は凰さんに言葉によるフォローだよ。俺だから気づいた一夏の傾向も話し合いたいし」

 

「分かったわ、あと…アイツと同じように名前で呼んでいいわよ。ヤりあった仲だしね」

 

「了解、鈴。じゃあ、また明日な」

 

「ええ、また明日」

 

 そう話し終えて十千屋は鈴の前から去っていった。

 彼が去ってゆく背中を見て、鈴は己の片手を見て握ったり開いたりする。

 

「ふっ、アイツ(一夏)を負かしたら次はアンタ(十千屋)の番なんだから」

 

 意識していないだろうが、彼女は自然と笑みが溢れる。ただの笑ではない獰猛な笑顔であった。

 

 

 一方、少し時が戻るがその頃の一夏。

 

「死ぬぅ!死んでしまう!やめてくぇえぇえれぇえええーーーー!!!」

 

「さぁ、踊りなさい。私が奏でる弾幕のBeatで」

 

「それは、わたくしのセリフですわ!!」

 

「・・・なら、踊り狂いなさい。私の魔弾の葬送曲で」

 

「もっと物騒になりやがったぁぁぁああ!?」

 

 ただ今、一夏は轟とセシリアの二重弾幕連奏を特等席で聞かされていた。そう、彼はいま弾幕の真っ只中にいる。

 特訓の内容は機動術の熟練と銃撃戦への慣れと戦術であるが、その方法は過激で単純だ。つまり、体で覚えろ(リンチ)である。

 しかも、すぐにエネルギー切れに成らない様に白式のスラスターには十千屋が用意していたプロペラントタンクが備えてあり、エネルギー管理の下手な一夏でもそうそう切らせない量が有る。

 そして、彼に襲いかかる弾丸すべてが低威力な物に差し替えら得ていた。これによりさらに時間が延びる。

 

「さて、被弾率は…こんなものか」

 

「一夏さ~ん!さらに40秒追加ですわ!」

 

「もうかれこれ一試合分は逃げ回ってるんだけどさ!?」

 

「仕方ない、バカスカ被弾する朴念神がいけない」

 

「そうですわね」

 

「色々パワーアップしているお前らにヤられる俺の身にもなれぇえーーー!!」

 

 そう、セシリアは日頃の修練が実り左右どちらかだけだが動きながらビットを使えるようになり、しかもグミ撃ちでなら撃てるようになっていた。

 轟の方はH.W.U 08:『セントリーガン』を装備している。このH.W.Uは自走兵器をイメージした砲台ユニットである。今回はそれをバラして機体に取り付けてあった。

 メインユニットであるビームガトリングランチャーは背後ユニットに副武装の小型ガトリングガンは両腕にそれぞれ付けていた。

 そんな二人が組んで撃ち込む弾幕はブ●イト艦長も(悟った)笑顔にしてくれる納得の量と厚みだろう。

 そして、今回のルールは被弾するたびに訓練時間が伸びるというものであった。最初は2分のはずだったが一夏はずっと避けきれずに永遠と伸び今に至る。

 終了条件は時間切れか、彼女らに一定量のダメージを与えることなのだが・・・

 

「ほらほら、た~んと喰らっちまえ」

 

「一夏さんっ、いきますわよ!」

 

「慈悲はっ、慈悲はないのですか!?」

 

「「ない(ですわ)ね」」

 

「くそうぉぉおおおぉおお!!!」

 

 彼にとって終わりがない終わり的な条件であろう。

 

 

 ついでにチェーロと箒はというと、

 

「一夏、力になれなくてスマン・・・」

 

「ぅおっとっと!?もっぷ~、集中力落ちてるよ~!ついでにボクも落ちちゃうよ!?」

 

「ぬっぅ!?すまん、だがモップ呼ばわりするな!?」

 

「じゃぁ、もっぴ~で」

 

「そちらも呼ぶな!」

 

 今回の箒の修練内容は集中力の鍛錬だ。

 身にまとったISのパワーアシストを弱体化させた状態で、よくしなる板の端に乗っかったチェーロを落とさないように持って走るというもの。

 そう、球が人間となったスプーン競争であった。これにより器用さと集中力、ついでに体力づくりも兼ねるというヘンテコなものであった。

 

 その後も特訓は続き、このアリーナでは一夏の悲鳴が途切れることはなかったという・・・




はい、ちょっとしたオリジナルの小話のつもりで書きましたが…案の定ちょいと多めになりましたよ、こんちくしょう(汗
取り敢えず、十千屋と鈴の心も体も暖まったであろう今回はどうでしたか?
私的にツンデレやんちゃ娘がクヨクヨ泣いているのが違和感があったので暴れさせて見ました。
ついでに歪みのタネも蒔いときました。

それにしても、ノベルのカラーページにある機体設定の項目を見て腕部にある小型衝撃砲を使わせてみましたけど・・・
こんなにバカスカ撃ったのはウチだけかも。
でも、原作的に「いらないから電撃鞭に変えて」だった武装なんですよねぇ…

次回は十千屋が気付いた一夏像と恋のアドバイスですが、実は今回の話の続きだったんです。orz
文字数が多めになったので区切りが良い所でぶつ切りました。
どちらとも六千~七千文字くらい…妄想と勢いで書く結果がコレだよ!!そりゃ切りますよね!?


では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA15ss:あぁ、納得だよこんちくしょう

はい、今回は十千屋が鈴へ一夏のフォロー的なものへとなっていますが、どちらかと言うと十千屋(作者)の一夏の内面の考察みたいになっております。

では、どうぞ御ゆるりと。


 自分を見る自分、他人から見る自分、血縁から見る自分、自分の中の自分・・・

 様々な人は人の様々な有様を見る。その有様は美術館の絵のようだ。

 絵は人それぞれが受け取る思いが違う。楽しい綺麗ツマラナイ意味不明・・・

 さて、彼女たちが夢中になっている絵に彼はどんな評価を下すのであろうか・・・

 

 

 さて約束した放課後、鈴は十千屋のIS学園での拠点であるテーサウルスアルマ(宝船)に来ている。

 授業が全て終了した時に彼が迎えに来て招待したのだ。

 彼らは客間に改造した船室に居り、互い向かいに座っている。

 十千屋はロボ頭の顎パーツを外して用意したお茶を飲んでおり、鈴は落ち着かない様子で座っていた。

 

ズズゥ~ ん、どうしたんだ?借りてきた猫の様になって」

 

「いや、まさかこんな所で話し合うとは思ってもなかったから」

 

「学園じゃ人の目が有ってコッパ恥ずかしいだろ?」

 

「でもっこんな離れたというか!船の中なんて考えられないわよぉお!!普通は食堂の端とか個室

 でしょ!?」

 

「…すまんな、この船自体が学園での俺の個室みたいなもんだ」

 

「もうヤダ!このセレブ!!」

 

 鈴が散々ツッコミ終わるまで十千屋は待ち、それからようやく本題に入る。

 が、その前に彼女のほうが疲労困憊だ。

 

「・・・もう、本題に入っていいか?」

 

「いいわよ…もう、ツッコミ疲れたわよ」

 

「さて、俺がアドバイスしたにも関わらず身体的特徴のNGを言った件は置いといて。

 まぁ、両者喧嘩腰だったから自爆なんだがな」

 

「そっちはもうイイわよ。本題はあたしとの約束の方よ」

 

「あぁ、そっちは額面通りにしか捉えなくてデリカシーの無い一夏が悪い」

 

「そうよ!乙女の純情を踏みいじる、と言うよりも彼方へ放り出して!!」

 

「でも、」

 

「でも?」

 

「アイツにしたら頑張ったほうじゃないかな?」

 

「はぁ?」

 

 十千屋は鈴の意見に同意するが、困った雰囲気を出して一夏の方をフォローし始める。

 乙女心を知ろうともせずデリカシーの無い彼にしては文面だけでも思い出せたのは上出来ではないかと思ったのだ。

 先程も述べた通り、女性の扱いが分からない彼だが文面のみだけでも思い出せた。それは、彼が思い出せるほど楽しみにしていたという事だ。

 そして、何より誤算なのは・・・

 

「アイツが曲解の告白(プロポーズ)が分かる頭はして無いって事は先刻承知だろ?」

 

 「分かってても、アレで限界だったのよぉおおおお!!」

 

「それを踏まえての適切な回答はこうだな」

 

 そう、彼女の約束は正確に述べると『料理が上達したら、毎日わたしの酢豚を食べてくれる』である。これは『毎日わたしの味噌汁を飲んでほしい』という女性側からする遠回しプロポーズの引用であった。

 その様な事は十千屋はアレ(一夏)が理解するのは無理と前提し、問題時の適切解を想像してみる。

 

「あぁ!あの毎日酢豚を奢ってくれるって奴だな!!」(一夏)

 

「ε=(・д・`*)ハァ…ま、言ったセリフはそんな感じか」(鈴)

 

「あれ?違っていたのか」(一夏)

 

「もうちょっと違う捉え方して貰いたかったなぁ…なんてね。約束通りあたしの作った

 酢豚を奢ってあげるわよ♪」(鈴)

 

「え?あれ?違う捉え方って?…お、おい鈴!?」(一夏)

 

「…♪」(鈴)

 

 十千屋は腕を組みながら想像した内容を言い、鈴に聴かせる。

 

「こんな風に余裕を持って切り返してやれば、もうちょっと違う結末だったかもな。しかも、

 アレが持ってる鈴の印象も変えられてたかも」

 

 「ウワァァ-----。゚(゚´Д`゚)゚。-----ン!」

 

 想像で、しかも後の祭りの内容に鈴は泣き出してしまう。

 彼は泣き出した彼女の隣に座り、無言で泣き止むまで優しく頭を撫で慰めるのであった。

 

ヒィックヒィック・・・

 

「まぁ、今回の鈴側の原因は一夏に期待…いや、美化しすぎてたのと自分のカッと成り易い

 性格だな。どちらも悪いと思ってるんだ。あとはお前らでケジメを付ければいい」

 

コクコク…

 

「さてと、あとは俺が気づいたアイツに関すること話してやりたいんだが。一方に肩入れは

 出来ないんだよな」

 

「…?」

 

「つまり、「コンコン… 雄貴さん?よろしいでしょうか、入りますよ?」おっ来たな。

 おうっ!いいぞ!!」

 

 十千屋の言葉を遮るかのようしたノックの音と入室の許可を聞く声がした。

 彼の了承を得ると入ってきたのはリアハと、

 

「なんで、アンタたちが来るのよ」

 

「それはこちらのセリフだ。なぜ貴様がここにいる」

 

「あら?本当ですわ」

 

 鈴と同じように一夏を狙う箒とセシリアである。

 彼は入ってきた二人を鈴と同じ方向に座るように促し自分は先程の席へと戻る、そしてリアハが皆にお茶を出すと話を再開するのであった。

 その前に、

 

「もぅ、雄貴さんたら女の子を泣かしたらダメですよ?」

 

「ああ、スマン。鈴もごめんな?」

 

「別に気にしてないわよ」

 

 いきなり謝られた鈴は気恥しくてそっぽを向くがリアハの話は続く。

 

「それに…」

 

「それに?なんだ ズズゥ~…

 

「泣かして良いのは心通じ合ってベットの中で、ですよ?」

 

 「「「ブゥーーー!!」」」

 

 リアハの突然の発言にお茶を飲んでいた面子は吹き出す。

 

ガハッゴフォ!ゲホォ!!そりゃっ泣かすじゃなくて()()()だろ!

 意味違ぇえよ!つーか!それ以前の問題だよそれ!?」

 

グハッ!ゴホゴホ…

 

ケホケホ・・・ お、奥様…それはどうかと思いますわ」

 

「…はっ!? そうだ、そういやこの人がアレ(ハレム)の元締めだったけ(汗」

 

 咽せたり放けたりツッコんだりする面子を尻目に、「あらあら…」と朗らかに笑うリアハであった。

 そして、皆が落ち着いたらようやく本題に入る。

 十千屋がいつもの一夏サイドの女性メンバーを呼んだ理由は、自分が気づいた彼の事を聞いてもらい恋の鞘当てを頑張ってもらおうと思ったからだ。

 十千屋自身は誰が彼と付き合ってもいいが、その助言となる事をたった一人に伝えるのは流石に贔屓になると思い残りのメンバーも来てもらったのである。

 

「さて、俺が気付いたアイツの鈍感さの事だが・・・」

 

「「「(;゚д゚)ゴクリ…」」」

 

「アイツは言うなれば『レッテル人間』と言ったほうがいいか?思い込んだらこう…と言うか、」

 

 彼は一夏の事をそう評すと顔の両側に手を立て、前方方向にスライドさせてゆく。

 彼が気付いた一夏は自分の中の他人へのイメージが出来上がったら、そのように思い込んだり決めつけてしまう性質()があると感じる。

 しかも、思い込む-自分で付けた他人へのレッテル(印象)はそのまま真っ直ぐでほぼ変わらないときた。

 さらに、

 

「アイツが重度のシスコン(千冬好き)なのも鈍感の拍車を掛けていると思う」

 

「「「あぁ…」」」

 

 彼のシスコンの言葉に嫌でもメンバーは理解させられた。

 一夏にとって織斑千冬とは唯一の肉親であると同時に絶対的な存在だ。それに両親の居ない彼にとって一番身近な大人であり保護者であり規範である。

 彼の性格・人格形成は千冬が大部分を占めており、十千屋が見た教育基本方針は『強く・優しく・正しく』だ。故にお人好しで何が言われようが正しいと思ったことに一直線なのである。

 だが、それが鈍感さに拍車を掛ける。

 

「アイツはこれが正しいと思ったらそれに一直線しか向かわない。他の意志や全部を総無視だ。

 それで全部解決しちまった例を身近に見てきたからだろうな織斑千冬っていう」

 

「え~と、それって千冬さんのせい?」

 

「そう言えるかもしれない。アイツの憧れや目標、規範は全部織斑先生だろうからな。しかも、

 本人から聞いたんだが説教されるとき理論バッチリで一刀両断されるらしい。

 だからアイツは考えてるようで考えていない」

 

「どういう事ですの?」

 

 織斑千冬の教育というのは傍から見ると激しく真っ向からぶつかってゆくものだ。間違いや疑問をバッサリ理論付で即断してしまうほどの。

 そして、それを唯一無二の教えとしてしまうのだ。更にタチが悪いのはソレが間違っておらず大体の場面に当てはまってしまうという事。

 だから、それさえ守ってゆけば考えて行動しなくても良い方向にどうにかなってしまう。

 

「 ? それは良い事なのではないか?」

 

「まぁ、規範としては良いかもしれないけどアイツは幼少期の頃からそれを受けてきている。

 つまり昔から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事だ」

 

「「「!?」」」

 

「本人に自覚は無いだろうからな。どうしようもないのかね?それに他人の家の教育に口出す気は

 ない。以上から、一夏は思い込んだら猪突猛進である。ついでに物事をあまり深く考えてない

 悪癖もあり、と」

 

「「「……」」」

 

 十千屋の評価にメンバー全員が絶句した。皆それぞれ一夏の事を思ってはいるがここまで考えたことはない。今一番頼りになる大人がこう切り出してくるとは思わなかったため、メンバー全員が呆然となった。

 その様子に言い過ぎたか刺激が強かったと十千屋は思いなんとかフォローを言わなければとなる。

 

「ん~、なんかすまん。ちょっと斜めに語りすぎたな。まぁ、君たちに重要なのはアイツが純粋で

 真っ直ぐで恋愛観が小学生並ってことだ。そこに惹かれたんだろ?」

 

「んっまぁ…その、だな///」

 

「まぁ、そのお陰で出会えたんだし///」

 

「そうですわね~///」

 

 恋愛話になった途端に絶句してた者達は愛しの君を思い出したのか、顔を赤くして再起動した。

 それに感触を掴んだ十千屋は恋バナとして重要な事を切り出す。

 

ふぅ、軌道修正できた。さて、一番大事な事を言おうかね。アイツ攻略のヒントを」

 

「「「!!」」」

 

 ヒントの言葉に耳が大きくなる3人、この様子に十千屋は苦笑しながら話すのであった。

 

「まずは、アイツに根付いている三人其々の印象を変えていくということだな。」

 

「どういうことだ?今のままではイケナイということか」

 

「ブッちゃけそう」

 

 彼の言葉にまたショックを受ける三人。こちらの方は予想できたので話を続ける。

 

「アイツの考えてそうなそれぞれの印象ってのはちょいと恋愛に遠い感じだ。一個人の友達として

 の個性レベルだな」

 

「そ、それはどういう・・・・」

 

 彼は聞いてくる箒を手で制して、軽く指でさしながら各個人の印象を言ってゆく。

 

「まずは、箒から」

 

「わ、私からか…」

 

「『侍チックで剣道少女な幼馴染』以上」「(が~ん!?)」

 

「次は鈴、」

 

「あっあたしはどうなのよ!?」

 

「『悪友的中華系幼馴染』かね?」「(ズ~ン…)」

 

「最後はセシリア」

 

「わたくしは、どうなのでしょう?」

 

おじ様(十千屋)大好きなイギリス貴族お嬢様」「・・・なにか納得ですわ ε=(=д=;)ハァ…」

 

 それぞれの評価に沈み込む三人、これもまた予想できたので十千屋は狼狽えたりはしない。

 だが、さらに叩き込ませるような事を言わなければならないのは気が引ける。

 

「ぬぅぅ…コレはイメチェンとやらをしなければいけないのか?」

 

「そうね、そうよね。じゃなければいつまでも一夏にとってあたしは友達扱いなのよね ギリッ

 

「あ~、ソレ逆効果になると思うんだが?」

 

 「「何ですとぉーーー!?」」

 

「アイツの朴念仁レベルは神レベルだってわかってるだろう?ならその反応は、」

 

 彼の評価に自らの印象を変えなければ一夏に思いは届かないと分かったのだが、それは逆効果だと言われ声を上げる。

 何故かという説明に彼は一夏の朴念仁の程度を先ずはあげた。

 一夏の鈍さは皆が先刻承知の様に病気レベルである。そんなアイツにイメチェンで対抗しようと思ったら絶対に斜向かいの方向に感想を述べるであろう。

「なんか悪いもんでも食ったか?」「え~と、うん…いまさら高校デビューか?」「調子でも悪いのか?何かあったら言えよ?」

 など、乙女ゴコロ彼知らずといった感じの感想が次々と飛び出すに決まっている。この予想にアッサリとシックリくる乙女達は気が滅入った。あぁ、納得だよこんちくしょう、と。

 故に彼はこう助言する。

 

「ほらな、急に印象を変えようとしても無駄だろ?だから、長期戦だ」

 

「おじ様、長期戦というと?」

 

「程々ゆっくりと印象に『女性』という属性を付加させてゆくんだよ」

 

「すまぬがよく分からない」

 

 十千屋の助言の意味が分からないと彼女らは言う。それを受けて詳しい内容を彼は話してゆく。

 皆が一夏の事を鈍いだの朴念仁だの言うが、それ以外はちゃんと年頃の男の子だと彼は知っていた。

 十千屋は一夏の事を知るために時間があれば彼の話にのっていた。彼も学園で自分以外の唯一の男性という事でよく相談や雑談をする。まぁ、そのせいで腐女子が湧くのは置いとくとして。

 その話の中で、女子に対するやめて欲しい事などを語る時もあった。寮の廊下を薄着で彷徨くのは止めて欲しいとか、妙に近くに寄らないでとか、女子特有の甘ったるい匂いでちょいと変な気分になるとかだ。

 だから、無理やり印象を変えるのではなくちゃんと一人の女の子だという認識をさせるのが重要だという事である。

 

「これを踏まえて三人、特に箒と鈴に求めることは素直になり余裕を持つことだな」

 

 彼の助言に目からウロコが落ちそうになる三人であった。

 特に昔から一夏に苦労させられていた箒と鈴が涙ぐみそうになる。流石は妻子持ちでハレムの主よく分かっていると謎の感想まで頭に過ぎった。

 

「数々の助言をありがとうございます。それで私はどうすれば?」

 

「先ずは一番簡単なセシリアからだな」

 

「わたくしですか?」

 

 すっかり信用してしまった十千屋に心なしか急かすように問いかける箒であるが、彼は難易度の低い順に話してゆくようだ。

 

「あぁ、セシリアは単純にとある認識を変えればいいだけだからな」

 

「しかし、それが難しいから苦労しているのですが」

 

「いや、セシリアの『好き』って感情が別に()()()()()では無い事に気づかせてやればいいのさ」

 

 十千屋がセシリアが一番簡単だといった理由はそこに有る。元々セシリアに対して一夏はちゃんと女の子扱いはしている。

 だが、自分に向けられている感情が恋愛のそれだという事に気づけないだけだ。しかもその感情は十千屋に向いているものだと思っている。

 だからその好きは恋慕ではなく思慕、一夏自身が()()()()()()()()()()()()()()()()だと気づかせてやれば余計な認識を変えられるのだ。

 故に何かしらの話題で上がったら慕う意味が違うと一夏に告げ、分からなければ何度も言えばあの彼でも気づくだろう。

 難易度が低く、対応もしやすいセシリアに向かって妬ましく見る二人。しかし、当の本人は十千屋の助言に納得した様子で気づいてはいなかった。

 

 そして、遂に箒と鈴の番が来たが内容は難しいものであった。

 それは本人らがしっかりと行動していかなければならない問題であったが故に。

 この二人に関しては長年、友達として幼馴染としての認識が強すぎる。だから今後は日々の中で少しづつ変えていくしかない。

 スキンシップをはかったり事ある毎にちゃんと女の子扱いして欲しいと注意したり、一番難しいのが自分の好きという感情に素直になり余裕を持って接することだ。

 それに対し彼女らは疑問を投げかけるが、

 

「お前ら…照れ隠しが暴力的すぎるんだよ。だれが殴ってくる奴が好きになるんだよ?

 ドMを除いて」

 

「「うっ」」

 

 十千屋の言葉に言葉が詰まる二人、彼女らの照れ隠しの暴力で一夏はどれだけ怖い目にあったのだろうか。

 木刀が目の前に振られ、ドアを貫通してこちらを狙ってくる。いきなりISを部分展開させ壁を凹ませて威嚇してくる。

 自分自身に原因があると気づいていない一夏にとってそれはそれは脅威に見え感じただろう。

 

「だろ?死傷者が出るような威力の照れ隠しって、それはただの攻撃だ。しかも

 必ず殺す技の方な。あと、鈴…」

 

「な、なによっ!?」

 

「感情に任せたIS展開は止めろ。技量の高さは分かるが脅威だし、代表候補生としてIS所有規定は

 知っているし守らないといけないだろ?」

 

「あっあぅぅう!?」

 

 一番の欠点を指摘され狼狽える二人、彼女らは一夏の幼馴染であるが故に手を出すのが容赦がない。しかも武道派だからその一撃一撃がヤバイ。

 だから今一番必要なことは、暴力を振るう前に素直に気持ちを伝えること、それを振るわない最低限でも抑えるために心に余裕を作っておくことだ。

 

 それからも十千屋の話は続き、本格的な男性がグッとくるポイントなどはリアハが指導した。

 それらを食い入るように聞く3人であったが、彼は彼女らにワザと伝えたいない事がある。

 それは、一夏がISを装着できる事に関わってくる内容であり伝えてもどうしようもない事だ。

 十千屋は一夏が何故ISを装着できるかを考えたことがある。その中で千冬と一夏の関係性を焦点とした仮説を立てたことがある。

 その仮説は『織斑一夏は織斑千冬と何かしらの類似点がありそれにISが反応している』というものだ。

 それが遺伝的アルゴリズムなのか脳波なのか、それとも篠ノ之束がISを作るときに記録したであろうの千冬のパーソナルデータなのかは分からない。

 だが、もしそれが本当なら一夏の本質の一部は女性(千冬)なのではないだろうか?実際に彼は家事全般が好きであるというどこか女性的な面を持っている。

 しかし、そのせいで鈍感とかであってもどうする事も出来ないため話題には上げなかった。実際にIS生みの親である束に聞いてみても「実際に作ってみたらブラックボックスだらけで束さんでも分かんな~い」とのことだった。

 

 こんなことが十千屋の頭に過ぎったが、それは直ぐに追いやった。

 いま目の前で姦しく騒いでいる少女らには関係ないことだ。彼は彼女らを暖かい目で見守っていた。…相変わらず他人からは見えないのだが。

 

 

 数日後、一夏と鈴は再び相対して互いに喧嘩したことは謝った。それと同時にどれだけ十千屋に助けてもらったかも実感する。

 だから、喧嘩の発端となった約束の件については互いに譲らずに決着をケジメを付ける事を両者共に決めた。

 その舞台はクラス対抗戦(リーグマッチ)として二人は別れる。

 他人には分からない二人だけの譲れないものの為に、その舞台で雌雄を決する為に当日まで会わずに鍛えることにした。

 

 そして、その当日が来る。

 奇しくも対抗戦の第一回戦目の組み合わせは『1-1 織斑一夏 VS 1-2 凰鈴音』であった。

 

 

 

 




さて、なんか説明回みたいになりましたが簡単にまとめると
『織斑一夏の価値観は小学生の時の千冬の躾で止まっており、未だそのまま』
って、感じですかね。
小学生位で価値観のほとんどが止まっているので自分への恋愛感情が分からない、という感じです。
鈍感主人公らしいと言えばらしいのですが…やっぱり、トloveっている主人公の方がまだ恋愛に敏いですよね。
なんか一夏って勝手に納得して自滅している事が多いような気もしなくもないです。

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA16ss:正体不明機

今回は少し遅れてしまいました。
リアルでちょいと気力切れで・・・

では、どうぞ御ゆるりと。


 さて、決着(ケジメ)をつけよう。

 自分のために貴女のために彼のために、全てここで終わらせここから始める。

 そして、もう一度・・・

 

 

 今日はクラス対抗戦の当日である。それは一夏と鈴のケジメを着ける日でもあった。

 この日の為に互いに干渉を最低限にして、最高の試合にするために努力してきた。

 その結果が今日明らかになる。

 

 一夏は己の出番をピットで静かに待っている。それは鈴との試合は各クラスの第一回戦目の最後の組だからだ。その間の待ち時間は、白式のセッティングと最終チェックを十千屋と轟に手伝ってもらって過ごしている。

 そして、遂に出番が来た。

 

「十千屋さん、ありがとうございます」

 

「なんだ?やぶから棒に。ふっ、行ってこい」

 

「朴念神、ケジメをつけてきなさい」

 

 静かな激励を受けると一夏はピットから飛び出していった。

 すると、ハイパーセンサーが直ぐに相手を捉える。彼女もまたピットから試合待機場所まで飛行中であった。

 そして、互いに位置に着き開放回線(オープン・チャンネル)で言葉を交わす。

 

「一夏、言っても無駄かもしれないけど。今謝れば手心くらいは掛けてあげるわよ」

 

「ああ、無駄だな。やるって決めてた時からもう分かってるんだろ?全力で来いよ」

 

 一夏の発言に嬉しそうに獰猛な笑みを浮かべる鈴、だが彼も同じように不敵に笑うのであった。

 互いに本気でヤリ合うことを確認できたら、彼女がまた口を開く。

 

「忠告してあげる。ISの絶対防御も完p「そいつも分かってる。肩の衝撃砲の話だな」って、

 あら?一夏の事だからそのまま突っ込んでくるかと思ったわ」

 

「十千屋さんの指導のお陰だよ。『俺らの正々堂々は学生レベルじゃない、プロレベルで対抗し

 ろ』ってな」

 

「…アンタには勿体無いくらいね。決着(ケリ)がついたら師匠って呼べば?」

 

「ああ、考えてみるよ」

 

 対抗戦前に一夏は鈴の専用機『甲龍』のカタログスペックを閲覧した事があった。その為、彼女との戦いで一番注意すべき武装は衝撃砲という事を知ったのだ。

 十千屋は相手が(一夏の被害者)でも彼の指導に手を抜くことはしない。むしろ、このような戦いは本当にぶつかり合う前から始まっていることを教え込んだ。

 彼の価値観で正々堂々とは自らを鍛え上げて真っ向からぶつかる事を指していたが、十千屋はその考えを修正する。

 

「お前の正々堂々の内容は結構。だが、それは学校の運動会とか球技大会とか学生レベルの話だ。

 俺らが与えられている道はプロのISライダーである事を知っておけ」

 

 一夏はこの言葉に反発と疑問を出すが直ぐに彼から訂正をされる。

 

「学生だったら、見えてしまった聞こえてしまった相手やそのチームの作戦をもとに対抗措置を

 するのは卑怯かも知れない。だが、プロのサッカーや野球とかはどうだ?」

 

 十千屋はプロのスポーツ選手を例題に出す。プロ野球やプロのサッカーなどでは、過去の試合や公開されているチームメイトの情報などを纏めて相手に対する作戦など立てることは日常茶飯事だ。

 戦いは始まる前から始まっていると古来の軍師や哲学者も言っている。それに公開している情報など知られていても構わないモノばかりだ。情報を集め己の糧とする、故事で言う『敵を知り己を知れば~』というやつだ。

 それを踏まえ、相手の情報を集めるのはプロのやり方であり卑怯ではないと一夏に教え込んだ。

 そして一夏は自分で鈴の専用機の情報を集めて、それを踏まえて考えもまとめたのである。

 

「ふふっ、ますます遠慮は要らないわね!」

 

「あぁ!かかってこい!!」

 

『それでは両者、試合を開始してください』

 

 ビーッと鳴り響くブザー、それが切れる瞬間に二人は動く。接近戦を主としている二人はまずぶつかりあった。

 だが、一夏の様子が普段と違う。それに気づいた鈴は思わず声を上げる。

 

「アンタの武器ってブレード1本だけじゃなかったっけ!?て、言うか随分と嫌らしい攻撃をする

 ようになったわね!!」

 

「全部、十千屋さんのお陰だよ!!」

 

「ほんっっっとに!名トレーナーねっ!!」

 

 一夏の持っている武器は2本のショートアックスだ。それを両手それぞれに持って二刀流にし、鈴が攻撃しにくい彼女の武器の攻撃範囲内側で攻撃をしている。そう、彼が十千屋と初めて戦った時に使われた戦法だ。

 そして、彼女が改めて一夏の全体像を見ると事前に聞いていた白式と異なる物がついてることに気づく。それにショートアックスも腰のサイドアーマーかと思ったら手を伸ばし掴んだらアックスになった。

 彼の攻撃を防ぎながら彼女は後部スラスターと腰に別物があることに気づく、どちらも棒状のモノでたぶん白式に合わせて白く塗ってあるのだろう。

 それが何かは分からないが、今は自分の懐で動いている彼を離すのが先決だ。

 

「っ!つぇい!離せばこっち(双天牙月)の間合いよっ!」

 

「斧だけじゃないんだぜっ」

 

 鈴が咄嗟に間合いを離すと一夏はハンドアックスを腰に戻し、後部スラスターの棒状の物に手を伸ばす。その正体はロングブレードであった。

 彼女の得物と同じ間合いとなりまた二刀流同士の打ちつけ合いがが始まる。

 

「あと不明な武装は一個、でもね…あからさまに付け焼刃の二刀流であたしに勝とうなんて

 十年どころか百年早いわよ!」

 

「んなことっ先刻承知!」

 

 彼女は一瞬出来た隙で双天牙月を連結させ、まるでバトンを扱うかのように彼に猛攻を仕掛ける。彼女が言った通りに彼はこの武器を手に入れてから一ヶ月も経っていない。

 そのため彼は何合か打ち合ったら仕切り直すために距離を離そうとする。が、それは彼女にとっての絶好のチャンスであった。

 

「――甘いわ!」

 

 その瞬間、鈴の肩アーマーが動く。その動きと事前にハイパーセンサーに設定していた空気と空間の歪みを検知した一夏は咄嗟にスラスターを噴かして横に避ける。

 

「へぇ、本当に予習してきたのね。でも、今のはジャブだからねっ」

 

「(分かっていても見えないのって厄介だな!?)」

 

 その後、一夏は衝撃砲で追撃してくる鈴に対して腰の得物、こんどはエネルギーライフルをショットガン設定にして撃ち牽制と退避を続ける。

 

 さて一夏が使っている武装は全部で五つ、ショートアックス×2・ロングソード×2・エネルギーライフルだ。

 だが、これでワンセットの武装でありその正体はH.W.U 05:メガスラッシュエッジである。そう、コトブキカンパニー製の武装だ。

 その特徴はこの五つの武装を組み合わせることによって複数の形態へと変えることができる。

 しかし、なぜ拡張領域が空いていない白式が新たな武装を付けられるかは、IS故の思い込みと十千屋の努力によるものだ。

 普通ISは量子変換(インストール)されていない武装は使うことが出来ない、もし他から貸し与えられてもISの方で敵に武装が渡らないように自動ロックを掛ける仕組みとなっている。

 だが、所有者が武装の使用許諾(アンロック)を許可すれば使える。この状態をメガスラッシュエッジに付与されている。

 その上で十千屋は休日を返上してまで白式のコアへの説得を試みて、その結果エネルギーバイパス兼ハードポイントを白式に設置することに成功した。

 全くの余談であるが彼は疲労困憊で「白式のメインはめっちゃ頑固一徹だったと」愚痴をこぼしている。

 そして、FAの機体の様に各所にハードポイントが付いた白式にアタッチメントを付け各所に武装を配置した。

 そう「なに、武装が容れられない?だったら逆の発想をするんだ、べつに拡張領域(内側)に入れずにハードポイント(外側)に付ければいいんだって」という訳である。

 確かに、皆はISの武装は全部拡張領域に容れればいいと思っているが、それは手ぶらで身軽に出来るという事だけで別にちゃんと持てるのであれば一々全てを入れなくてもいいのだ。

 コレは各所にハードポイントが有りそこに武装を足していくというFAが本来メインの十千屋・・・いや、コトブキカンパニーらしい発想だろう。

 

 その頃、十千屋と轟以外のメンバーはアリーナの客席からこの試合を見ている。

 戦況は鈴が一方的に攻め、一夏の防戦一方であった。

 

「やっぱり、にんじんの圧倒的不利だねぇ」

 

「くぅ、防戦一方…このままでは、一夏のジリ貧ではないか」

 

「しょうがないですわ。実力差は圧倒的、むしろ今までいい当たりを受けてないだけマシですわ」

 

「そう、衝撃砲は見えない、早い、取り回し良しと第三世代型兵器としては最も兵器らしい兵器」

 

「「「(・・・何故、この人(素子)がいるんだ(ですの))」」」

 

 残りのメンバーにプラスして素子も同じ段の客席に座り観戦していた。

 その視線に気付いたのか彼女はサムズアップして答える。

 

「Σd(`・ω・´)こっちに来れば父様と一緒に観戦できると思った」

 

「「(あぁ、やっぱり(ですわね))」」

 

「パパはエキシビション戦のためにずっとピットに居るよ?」

 

「な…な、んだと・・・」

 

 そう、十千屋は特別枠でクラス対抗戦に登録されている。一応、彼は実力者であるため教員たちが生徒に良い経験をさせるために対抗戦に組み込んだのだ。

 そのため、リーグ戦表には1~6組と十千屋の名がある。

 その事実にショックを受けたのか規制音のオンパレードでブツブツと小言を吐き出す素子であったが、急に声を掛けられた。

 ちなみに、ブツブツと言い出した瞬間から周りに居た面子は最低でも椅子一つ分離れてゆく。

 

「あの基木先輩…」

 

ブツブツブツ…何?」

 

「私です、簪です。織斑君が付けているのってブキヤの?」

 

「あぁ、簪さん(愛玩娘予定)か、そう駄イケメンに追加されてるのはウチの武器」

 

「でも、学園に入ってきてるパンフレットにはあんなの記載されてない」

 

「当たり前、一般売り出しと違う。それにアレは父様が用意したカスタム品、で?」

 

「・・・プラモデルと同じなんですよね?だったら使いたい武器があるんですけど」

 

「その要件は直接父様に、父様は営業部長兼開発責任者…他にも色んなものを兼任してるけど。」

 

「分かりました」

 

 実は近くに居た簪が素子に白式が付けている武装の出処を聞く。

 それに対して彼女はブキヤ-コトブキカンパニーの物だと確定した。が、H.U.Wは一般売り出しはしていないため十千屋に問い合わせろと答える。

 実はコトブキカンパニーは武器の販売も手がけているが、それはライフルやバズーカなど一般的に知られている武装ばかりだ。

 十千屋がつかうH.U.Wは、ホビー部門で売り出しているプラモデルに装飾を施すM・S・G(モデリング・サポート・グッズ)の商品を実体化させたもである。

 ただし(玩具)が先か(武器)が先かは聞いていけない。

 それゆえに複雑な機構を持ち威力が段違いであるH.W.Uは一般に存在していないのである。あと、カンパニーの看板表記は『壽屋(コトブキカンパニー)』であるため玩具でも現実でも武器を売っている為に一部界隈では『ブキヤ』と呼ばれている。

 

 そんなこんなで話をしているうちに戦局が動き出していた。互いに動かなくなり、間合いを計っている様な状況である。

 体感的には長く続いたようなその時間は不意に途切れた。一夏が一瞬以下の隙を付いたようで瞬時加速で一気に肉薄する。

 その場面に注視すると鈴の表情がちょいと微妙、きっとまた一夏がやらかした(フラグ強化)したのであろう。

 それは置いといて、そのことが隙となり一夏は瞬時加速で接近し鈴は距離から衝撃砲ではなく双天牙月で打ち払おうとする。

 しかしロングソードで受け止め、片手に展開した零落白夜を発動させた雪片弐型が有効打になる寸前で突然大きな衝撃がアリーナ全体に響き渡った。

 衝撃音の候補は鈴の衝撃砲があるがそんな物の比ではない、範囲も威力も桁違いである。

 そして、その結果ステージの中央からはモクモクと煙が立っていた。これらを省みると『それ』はアリーナの遮断シールドを貫通して入ってきた衝撃波らしい。

 

「な、なんだ?何が起こって・・・」

 

『一夏!試合は中止!!直ぐにピットへ戻って!!!』

 

 -ステージ中央に複数の熱源。IS反応らしき正体不明機。ロックされています。-

 

「なっ…!?」

 

 状況が分からず混乱する一夏に鈴からのプライベートチャンネルが飛んできたと同時に、ISのハイパーセンサーが緊急通知を行ってきた。

 その事実に一夏は息を飲む。アリーナの遮断シールドはISと同じもので作られている。現世界で信用されいる最強の壁である()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そのことに気づいた誰もが危機を肌で感じとった。

 

『一夏、早く!』

 

「お前はどうすんだよ!?」

 

「あたしが時間を稼ぐから、その間に逃げなさい!」

 

「逃げるって・・・・んな事できるわけないだろ!」

 

「馬鹿!あたしより弱いんだからしょうがないでしょ!それに・・・」

 

 チャンネルを使わず反論する一夏に容赦なく事実を叩きつける鈴だったが・・・

 

「別に、あたしも最後までやるつもりはないわ。こんな異常事態、すぐに学園の先生とたぶんアイ

 ツも動き出し――」

 

「あぶねぇっ!?」

 

 会話の途中で熱線で砲撃される。あわやという所で一夏は鈴の体を抱き抱えてかさらった。その直後に熱線は周囲を焦がす匂いを残し通り過ぎてゆく。

 それをハイパーセンサーの簡易解析で熱線の熱量を知った彼は背中に冷たいものを感じる。

 

「ビーム兵器…。しかも、セシリアのISよりも出力が上かよ…」

 

「ちょ、ちょっと!?馬鹿ァ!離しなさいよ!」

 

「お、おい、暴れるな――っ!来るぞ!?」

 

 バシュュッーーっ!!

 

「「へ?」」

 

 てんやわんやしている二人を尻目に煙を晴らすかのようにビームの連射が放たれるが、それと同時に二人の傍を何本のもミサイルが通り過ぎていった。

 だが、ミサイルのいくつかはビームとぶつかり爆発を起こす。と、同時にその影響か一夏と鈴に当たるビームはちょうどミサイルと相殺されたようである。

 そして、いくらかミサイルが当たった…最低でも爆風は受けたはずの射手たる正体不明機は健全な状態でふわりと浮かび上がった。

 

「なっなんなんだ、こいつらは・・・」

 

 姿からして異形だった。深い灰色をしたそれは手が異常に長く、つま先よりも下まで伸びている。しかも首というものがない。肩と頭が一体化している様な形をしている。

 もしハイパーセンサーが捉えたようにIS反応がある=ISであるならば、一番の特異はISならばほぼありえない『全身装甲』だ。

 何度目かになるかもしれないがISならば一部分を除き装甲は必要ない、防御のほとんどはシールドで賄われている。だから、見た目の装甲というのはあまり意味を成さない。

 無論、防御特化のISで物理シールドを搭載しているものもあるが、肌を一ミリも露出していないISは現ISデザインではありえないはずである。しかも、全身装甲が売りの十千屋のIS『打鉄カスタム『雷』』でも肘周りとか膝裏などはインナーが露出している。

 そしてその巨体も、普通ではないと感じさせる要因になっている。腕を入れると二メートルを越える巨体は、姿勢を維持するためなのか全身にスラスター口が見て取れる。頭部には剥き出しのセンサーレンズが不規則に並び、腕には先程のビーム砲口が左右合計四つあった。

 最後に、それは・・・三体いた。

 

「お前ら、何者だよ・・・」

 

「と、答えるわけがない!下がれ二人共!俺が何とか引き付ける!!」

 

「十千屋さん!」「十千屋!」

 

 謎の乱入者は答えないが、そのかわりに十千屋が乱入してきた。彼は二人に指示を出すと全ての敵を引き付ける。

 先程のミサイルの正体である両肩に抱いたW.U 23:大型ミサイルランチャーを捨て去り、W.U 04:マシンガン・ミサイルランチャーを各両手に持って敵らの前に躍り出た。

 

『織斑くん!凰さん!今すぐアリーナから脱出してください!すぐに先生たちがISで制圧しに行き

 ます!あと十千屋さんっ、無茶をしないでください!!』

 

「一番戦える奴が緊急時に無茶せんでどうするんですか!それにこいつらは遮断シールドを突破し

 てきたっ、こいつらの照準が観客席に向いたらどうなります!?」

 

『し、しかし・・・』

 

 よほど慌てていたのか管制室にいる山田先生からオープンチャンネルで十千屋たちに指示が入る。

 が、彼はそれを拒否。囮にならなければ被害がより拡大し悪化することを指摘すると山田先生は言いよどんでしまう。

 さらに、

 

「――山田先生、先生たちが来るまで十千屋さんと俺たちで食い止めます。いいよな、鈴」

 

「だ、誰にもの言ってんのよ。そ、それよりもいいかんげん離しなさいってば!

 動けないわよ!!」

 

「あ、悪い」

 

『織斑くん!?ダメですよ!生徒さんにもしものことがあったら―――』

 

「っ、スマン!一体抜けた!!」

 

 一夏が鈴と共に十千屋へ助成するのを提案しるが、即座に拒否された。だが、言葉は途中で途切れる。十千屋のブロックを抜けて敵の一体が彼らに向かって突進してくるが、二人はそれを避け切った。

 

「ふん、向こうはやる気満々ね」

 

「みたいだな」

 

『こうなったら仕方がない、二人のペアを崩すな!そして、無理はいいが無茶をするなよ!!』

 

「…だ、そうよ。一夏、あたしが衝撃砲で援護するから突っ込みなさいよ。

 射撃は苦手なんでしょ?」

 

「やっぱり分かるか・・・その通りだな。それでいくか」

 

『最後に管制室・・・ツケはカンパニーによろしくお願いします』

 

 一夏と鈴は横並びになってそれぞれ得物を構え、十千屋からの忠告を聞いて即席の作戦を立て飛び出していった。

 そして、十千屋は管制室に居るであろうIS学園教員に謎の一言を残すのであった。その正体はすぐに分かることになる。

 

 ドガァアン!!!

 

「父様…今行く」

 

 IS学園生徒『最恐』の専用機持ち代表-基木素子、始動・・・・

 

 

 




今回は私的に遅れて投稿してしまいました。
今まで一応、コンスタントに投稿できていたので楽しみにしていた…してくれてなのかな?(-_-;)
皆様方には申し訳ないです。リアルで仕事と私生活がちょいと慌ただしかったもので・・・
さて今回は、書きかけを少し書いたらちょうど謎の機体戦手前まで書け、文字数も七千字を突破したのでこうして投稿しました。
でも、ほとんど説明回になっているので私的には微妙かなぁ?


では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA17ss:『鉄拳』

またちょいと遅れましたが、なんとか出来ました。
場面転換が多いですが・・・

では、どうぞ御ゆるりと。


 ギシィ…フレーム()が軋む、ドッドッドッ…エンジン(心臓)が響く、キュイン…カメラ()に敵が映る。

 ガキィン…撃鉄を起こせ、体を向けろ、敵意を表せ・・・そう、私達は今を生きている。

 

 

 突如、アリーナの遮断シールドが破られ謎の敵性体らが現れた。それに対してピットにいた十千屋と試合中であった一夏と鈴は観客側の安全を確保するために遅延戦闘を行う。

 あわよくば制圧ができれば良いのだが・・・そして、『最恐』も行動を開始していた。

 

「もしもし!?十千屋さん聞いてます!?織斑くんも凰さんも!聞いてます!?

 聞いてくださいよーーー!!?」

 

 管制室ではISのプライベート・チャンネルに向かって大声で叫んでいる山田先生の姿があった。ちなみにチャンネルへの応答は声を出す必要は全くないのだが、そんなことも失念するくらいに彼女は焦っていた。

 そう、声を出す必要は無いので、一人で声を荒らげている危ない人に見えるのは間違いないのである。

 

「本人たちがやると言っているのだから、やらせてみてもいいだろう」

 

「お、織斑先生!何をのんきなことを言ってるんですか!?生徒が!弟さんが!!」

 

「だから、落ち着けと言っているだろう。そのような有様では正常な判断はできん。それにISは

 専門外だがアイツ(十千屋)が居る引き際は間違えないはずだ。それに・・・これを見てみろ」

 

「・・・え?このアリーナの遮断シールドがレベル4に設定…?しかも、扉がすべてロックされて

 ―――えぇ!?」

 

「ちっ、これでは避難も救援もできん」

 

 暴走気味である山田先生を千冬がとりなおし手持ちの端末を見せる。そこには今問題が発生している第二アリーナのステータス画面であった。

 そこから読み取れることは出入りが出来ないという事実、実質的には避難も救援も不可能ということである。

 現状を読み取り落ち着いた雰囲気で話す千冬であるが、よく見るとその手は苛立ちを隠せない様にせわしなく端末の画面を叩いていた。

 

「では!緊急事態として政府などに助勢の要請を!!」

 

「もうやっている。現在も精鋭ぞろいの生徒たちがシステムクラックを実行中だ。シールドさえ

 何とかできればすぐにでもだ。それに・・・」

 

「それになんです!?」

 

「十千屋が言っていただろ『ツケはこちらで』と」

 

「はぁ!?」

 

 今取れる手段を全て講じていると言う彼女であったが、画面に一つの変化が現われる。その変化を察した彼女はそれを山田先生に見せた。画面には『緊急事態:隔壁破壊』とある。

 

「うわぁ・・・やっちゃったなぁ、素姉ぇ」

 

「止める暇がありませんでしたわ」

 

「な、成る程…(あざな)が『鉄拳』な訳だ」

 

キラキラキラ…カッコイイ(*´∀`)bグッ!」

 

「かんちゃ~~ん!?この惨状でどうかと思うよ~!?」

 

 観客席に居たいつものメンバーは目の前の惨状に十人十色の反応を返す。彼女らの目の前にはこちら(観客席)側から向こう側まで殴り飛ばされた扉があった。

 もう一度、言おう。殴り飛ばされた扉だ。

 事件が起こり、出入り口を隔壁で閉ざされた瞬間に素子は自分の専用機を起動、そのまま隔壁を殴り飛ばして去っていったのである。

 その後しばらくは避難の手伝いをし、さらに時が経つと生徒たちのクラッキングとピットから来た轟で隔壁の解除(物理含む)が完了した。

 

「・・・っ!」

 

「待ちなさい、どこに行く気ですの箒さん」

 

「決まっているだろう!一夏を助けに行くのだ!!セシリアっお前もそうだろう!?」

 

「・・・はぁ、パターンとは言え一夏さんの事で暴走とは。わたくしも出来るものならそうしたい

 ですわ」

 

「ならっ!」

 

「しかし、わたくしの実力ではあの中に入っていけばフレンドリーファイア(誤射・同士打ち)をしてしまいます。

 箒さん、貴女も実は分かってらっしゃるのでしょう?」

 

「くっ!」

 

 彼女らの視界の先では乱戦の模様が写し出されていた。その中でも、一夏と鈴らの戦闘を邪魔しないように立ち位置を十二分に気をつけながら戦う十千屋と素子の姿がある。

 彼らは一夏たちとその敵の流れ弾も自ら相対する敵からくる攻撃も御しながら戦闘を行っていた。そのバランスは少しでも間違えば崩れてしまうだろう。そんなギリギリの戦いに飛び込めるほど自分らは強くないと分かってはいるのだ。

 

「しかしっだが、しかし!」

 

「あ、お待ちになりなさい!箒さん!」

 

「モップが逃走したー!?」

 

 だが、それでも自らの行動を抑えることは箒には無理であった。制止の声を振り切り何処へといってしまう。追いかけたいのはやまやまであるが未だに避難は完了してはいない。

 それに・・・

 

「セシリア、もしもの時の援護射撃を手伝ってくれる」

 

「ええ、分かりましたわ轟さん」

 

「(父さん、試作のTCS干渉弾…有り難く使わせてもらうわ)」

 

 二人はもしもの場合に備え、観客席に待機した。轟はカンパニーの秘蔵兵器である特殊弾頭を武器にセットしながら…

 

 

 ここで、冒頭に戻る。

 戦闘を開始した一夏組と十千屋であるが状況は芳しくはない。何故かというと、敵の行動が普通ではないからだ。

 敵機は全身に付けられた高出力スラクターでゼロ距離まで詰めれば瞬時に回避し間合いを取る、長い腕はそのまま近接武器となり自ら回転しビームの雨を撒き散らす。それに回避行動も普通ならばどんな者でも不覚を取るような位置からでも、先程のスラクターでラクラクと回避するのだ。

 今わかっている弱点は回転ビームだとビームの射程が半分になることくらいか。一応、今は善戦をしているが避難が予想よりもかかっており競技用のSE(シールドエネルギー)では長くは持たずにジリ貧となる。しかも、敵機のビームの乱射具合から見るにあちらのエネルギーはこちらよりも確実に十全であろう。

 

「くっ・・・!」

 

「一夏の馬鹿!ちゃんと狙いなさいよ!」

 

「狙ってるつーの!ていうか、近接ショットガンの半分は当たったのに大して効いてない!?

 カテーよ!コイツ!!」

 

「っ!(参ったな…回転レーザーに挟まれた!)」

 

 一夏たちは即席のコンビネーションで攻めるが敵の回避力と新たに分かった装甲の厚さで攻めきれずにいた。一方で十千屋は運悪く二体同時の回転レーザーを受けるはめになる。

 雨のように降るビームを以前使ったフリースタイルシールドで避けきれない分を受けながら躱し続ける。シールドは中々に硬いが雨のように振られ続けられる攻撃に歪んできた。

 

「イチかバチか飛び込んでみるか?」

 

 ヒュ~~~~…

 

「父様に手を出すな・・・衝撃のっファーストインパクトっ…」

 

 ガゴキィインッッ!!

 

 進退できない状況に迷っていると片方の敵の肩に何かがぶつかり大きな音をたてる。その音は硬い金属同士を盛大にぶつけたような凄まじいものだった。

 その正体は素子である。破られてた遮断シールドが塞がる前に現場へと文字通り飛んで突入したのであった。そして、音の正体は素子の専用機『FA:G(フレームアームズ:ギア) アーキテクト』の両腕についてる武装 W.U 27:インパクトナックルである。

 FA:G-アーキテクトはFAの基礎素体であるアーキテクトを模した機体で体中に様々な装甲や武装を取り付けるハードポイントがついていて、その気になれば轟たちの専用機である轟雷やスティレットにもできる。素子は追加ブースターや後述するインパクトナックルを好んで使う。

 W.U 27:インパクトナックルは炸薬式のパイルバンカーの杭を握ること位しかできない大型ロボットアームに変えたものである。その見た目を言うなれば、

 「それは 篭手というにはあまりにも大きすぎた 大きく 分厚く 重く そして大雑把過ぎた

  それはまさに『鉄拳』であった」

 と言うしかないだろう。

 

「あと、ネタはマジ。私の背にはプロペラントタンクが3本付いた高出力ブースターがある」

 

「素子…誰に言ってるんだ?でも、来てくれてアリガトな。これでだいぶ楽になる」

 

「で、オーダーは?サーチ&デストロイ?」

 

「避難が先だ。あと、こいつら色んなセンサーも勘も反応しやがる。こちらの総合戦闘力が

 六割切ったらと思ったら潰す。それまでは探る」

 

「了解」

 

 殴った反動で十千屋の側に来た素子と彼はそうやりとりする。実際この敵らは謎が多い、ISのような反応をするがどうも似てるようで違うし動き方は何処かロジック的で人工物っぽい、そしてなりよりも彼が一番気になる反応が出ているのだ。

 かくして、十千屋と素子に一体ずつ一夏組は二人で一体を相手にすることになった。

 足りない速力を補わんかのようにエクステンド(後付け)ブースターを付け肉薄する十千屋と素子のカンパニー組、なかなか有効打が出ずにジリ貧気味な一夏組と対照的であったが何合が交りあったあとで遂にカンパニー組が動く。

 装備上、近接戦の素子は何度も懐に入り殴りつける。だが、その度に違和感を感じていた。

 

「…? やっぱり変、まぁいいか…抹殺のぉ・・ぶべしっ」

 

 追いつき一発叩き込むと残数が決まっている高出力ブースター込の拳撃の二発目を打ち出そうとするが、敵機が回転し長い腕のラリアットを後頭部にたたき込められる。

 その衝撃で殴り飛ばされ彼女は頭からアリーナの側面へ飛んでいった。

 

「平気か!?素子!」

 

「だいじょうV(ぶい)…やっぱり、二発目はダメな子ね」

 

 さすがにこの光景が目に入った十千屋はグレネードで敵に目くらましをしたら彼女のもとへ駆け寄った。が、彼女は壁にぶつかる前に体を反転させ壁に着地?する。

 受けた衝撃が規定値以上だったのか絶対防御が発動し生身にはダメージはないみたいだ。

 

「そこまで元ネタに準じなくとも・・・それよりも、何か分かったか」

 

「シールドバリアにムラがあるって言うか…普通のISよりも不安定で弱い、あと殴った感触が

 おかしい」

 

「やっぱり既製のISコアじゃなさそうだな。で、殴った感触とは?」

 

「浸透勁のノリでぶちかましたけど、生身の反応じゃない」

 

「……アレは大きさに対して生命反応が小さく弱い」

 

「じゃあ、やっぱり?」

 

「ああ、()()無人機と言っていいだろう」

 

 十千屋と素子は戦闘しながらの調査の結果、あの敵機らは全て無人機と判断する。が、ある事が彼らにシコリとなって気にかかった。それは僅かにある小さく弱い生命反応…

 

「ほぼ…か。父様、アレから聞こえたノイズがある」

 

「なんだ?」

 

コロシ…タスケ…掠れてるけどこんなのが」

 

「そうか、素子…枷を外せ」

 

「…? 良いの?」

 

「あぁ一夏も鈴も、もうそろそろ限界だろ。いい機会だ、いっぺんに殲滅する」

 

「了解」

 

 十千屋が相手にしていた敵に向かうのを確認すると素子は薄目になり、自分の体の中へと意識を集中する。すると、自分の体を締め付ける鎖が見え始めた。

 手を腕を足を、と全ての動作を妨げるそれは錠前によって繋がれている。そこに鍵を差込むと…鎖は解かれ機械じけの四肢が見えた。

 心臓(エンジン)を脈動させ、シリンダー(筋肉)を凝縮する。するとフレーム()が軋みを上げた。自らの意思は遠くなり機体(素子)に乗り込んだ様に思える。

 いきなりで悪いが、素子は食べるのが好きだ。寝るのも好きだ。(十千屋)と交じることも好きだ。だが、一番古い好きは何者かと死合う事・・・

 自らの出生の一番古い記憶はひたすら体を(改造)られ試合(死合い)する事、故に彼女が一番好きなことは生きている実感を得ることなのだ。

 一番古い記憶では死合う事で死と生の狭間を感じられた。しかし、十千屋から教えてもらった日常の中で生きている実感を得た。だから、ただのキラーマシン(殺人機)(機能)は要らない。

 だが、今は十千屋の命令と自分と似ている何かの為にその枷を外したのであった。

 

 両腕についているインパクトナックルを壁に押し付け、撃鉄を引き弾く。そうする事によって素子の体は壁から押し出され目標に向かって飛び出した。

 無論、敵機はビームで撃ち落とそうとするが彼女はそれを掻い潜り、二段階加速(ダブルイグニション)三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)の合わせ技をし、相手の回避反応が間に合わない早さで背後を取った。

 そして、片腕のインパクトナックルのナックルをパイルバンカーに変え相手の腹を突き破った。

 

「これで、もう…離せられない。そして、叩き壊せないなら押し切るまで」

 

 腹を貫かれた敵機は無人機と暫定されているため未だ健在、しかしパイルバンカーの杭についている返しが敵機と彼女を繋いで固定する。

 激しくもがいて抵抗する敵であったが、暴れまわる前に彼女のほうが先に行動する。巨大なハサミとなった腕で敵の巨腕を根元からへし折り切り、刃を立てて装甲を毟り取り、抉り取る。

 W.U 28:インパクトエッジ-コレはインパクトナックルと基部を共にし、アームの部分を四本二組の高周波カッターになっているが、素子はカッターをとにかく丈夫にし基部のスライド機構と特殊油圧装置で押し切る方向にカスタムしている。

 素子とインパクトエッジにより敵機は見るも無惨な姿へと切り刻まれてゆく。ハイパーセンサーでこの様子を見てしまった一夏や鈴、まだ避難しきっていない生徒などはこの狂気の沙汰を目の当たりしてしまった。

 そして、頭と思えるような部位を引きちぎると光る何かを見つけた。それは小さめのサッカーボールくらいであった。

 

「そう、それがアナタのコア(姿)なの」

 

 素子が敵の中核を確認すると、敵は錐揉み回転して壁に近づいてゆく。その目論見を瞬時に察知して彼女はパイルバンカーの杭部分を強制排除し離れた。

 切り刻まれ毟り取られた無惨な体では勝機が無いというのに敵機は反転し、彼女へ体当たり-特攻を仕掛けてくる。

 

「でも、もう大丈夫。今からアナタを開放()してあげる。救っ(殺し)てあげる。助け()してあげる」

 

 それに臆することなく、素子はプロペラントタンクの最後の一本を燃焼し始めた。最後の一本は燃料の量も質も特別製にしてあり今までとは比べ物にならない力を持っている。

 そして、十千屋の方も決着を付けようとしていた。

 

「確かにお前らの装甲やビーム砲、機動力は驚異だろう…だが、そんな事は関係ない!」

 

 十千屋も素子と同じようにエクステンドブースターでの加速(イグニション)系の技と最近の十八番となっているマイクロミサイルの足止めで肉迫し、次々とソードを展開し敵の装甲の隙間や全身に配置されているスラクター口に突き刺してゆく。

 この敵機は先程も言ったとおりにシールドが不安定だ。故に破損を防がなくてはいけない箇所も素通してしまう。彼はそこに目を付け装甲の継ぎ目やスラクター口など装甲が覆われてはいない所を破壊してゆく。

 さらに試作のイオンレーザーカッターで前面を切りつけ、レーザーで柔らかくなった前面装甲をこんどは両手持ちの斧で叩きつけて吹き飛ばす。その仕上げとして吹き飛ばす直前に突き刺していた複数のソードを拡張領域に収納し、まだ手にある両手持ちの斧に重ねるように展開する。

 そこにはスラクターが付いた巨大な片刃両手剣があった。H.W.U 03:複合式超大型ソード・ユナイトソードである。鍔にあたるスラクターと自身のバーニアで加速し、先ほど斧で傷つけ亀裂の入った部位をめがけ突貫した。

 

「滅殺の…ファイナル・インパクトっ」

 

「貫けぇぇえええええ!!」

 

 特攻を仕掛けた敵は素子の最後の一撃で急所と思われる光る部位ごと胴体の半分を叩き潰され沈黙し、十千屋は見事亀裂をユナイトソードで貫いた。貫かれた敵は何度か痙攣して静止する。

 その一方で、一夏と鈴も最終局面に入っていた。

 

「鈴、十千屋さんの話し聞こえていたか?」

 

「聞こえていたわよ。でも、()()()()()()()I()S()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そういうものなのよ」

 

「そうだとしても、無人機ならイケる」

 

「はぁ?なに?無人機なら勝てるって言うの?」

 

「ああ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だからな。だから、

 策と賭けに一つノってくれないか?」

 

「…もうちょいすれば十千屋達が来ると思うけど」

 

「でもさ、お荷物のままってカッコ悪くねぇか?後で分不相応とか実力不足とか言われるだろう

 けど…俺は嫌だ。鈴は?」

 

「そこまで言われちゃあ、女が廃るわね。一夏、どうすればいい?」

 

 十千屋達が決着をつける前、こちらも動き出していた。

 実はこの四人は互いの状態がわかるようにオープンチャンネルを開いたままの状態で戦闘している。その中で一夏は十千屋たちがアレが無人機ではないかという話を耳にした。

 彼もこの敵に対してどこか違和感を感じていて、それが機械的だという事に話の内容で気づいた。それが本当であればやりようがあると。

 二人の残っているSEは攻撃用含め心持たない数値である。本当に・・・全てのエネルギーが一括使用というのは不便どころか何かあった時に危険なのではと思うが、その話はさておき。

 現在の二人の火力では敵を機能停止(ダウン)させるには勝率が低い、それを引き上げるためにも強力な一撃が必要だ。その強力な一撃には彼は心当たりがある。白式唯一の武器である雪片弐型だ。

 彼は常々考えていたことがある『雪片弐型』の威力は、零落白夜を含めて高すぎるという事を。そんな物を訓練や学校内の対戦で使うわけにはいかないが、この状況でしかも無人機であるならば最悪の事態を想定しなくてもいい。ただ相手が壊れるだけだ。

 彼の中で判断材料が全て揃った所で、鈴にある事を頼んだ。「自分の合図で最大出力の衝撃砲を撃ってくれ」と。

 彼女は怪訝な表情をするが了承する。それを確認した一夏は突撃姿勢に入ろうとしたがその瞬間、アリーナのスピーカーから大声が響いた。

 

「一夏ぁっ!男なら!!男ならそのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」

 

 大声の正体は中継室から館内放送を使って叫びだした箒であった。彼女は自分にできる事として一夏の応援・叱咤激励をしたとの事だろうが悪手である。

 敵機は館内放送の源を新たな障害物と認識したのか腕…武装を中継室の方に向けた。しかも、タチが悪い事に中継室には彼女が入ってきた時に跳ね飛ばされ気絶している審判役とナレーター役がいる。

 一夏はこの状況に逃げろと言っても間に合わない事を瞬時に理解した。だから、敵を倒すことで状況を打開する。

 

「鈴、頼む!」

 

「了解っ!って!?どきなさいよ!」

 

「いいから撃て!」

 

 「どうなっても知らないんだから!馬鹿ァぁあぁああ!!!」

 

 最早、発射直前の敵に向かって加速する一夏、その直後に指示を受け衝撃砲最大出力の姿勢に入る鈴なのだがその射線に彼が躍り出る。彼女が警告するがかれはそのまま撃てと言う、一刻も争う事態にはんばヤケで彼女は衝撃砲を射出した。

 射線の前に出た彼は背中に高エネルギー反応を受け、『瞬時加速』を作動させた。

 ここで一旦、『瞬時加速』の原理を説明しよう。ISのスラクター又はバーニアなど機動装置からエネルギーを放出、それを内部に一度取り込み、放出する。その際に得られる慣性エネルギーを利用して爆発的に加速する。ちなみに速度はそのエネルギー量に比例する。

 つまり彼の策は、衝撃砲のエネルギーを自分の瞬時加速に足して相手に避けきれないスピードを得る事であった。

 

 「―――ウオオオッ!」

 

 一夏は衝撃砲を受ける感覚を体が軋む音として感じ、右手の『雪片弐型』が強く光を放ちながら敵機に向かって加速する。

 そして、彼は極限状態に入った。感覚、集中力、力が湧き上がり普段は情報で見る零落白夜の発動も感覚で分かる。それは白式との確かな一体感、即ち『人機一対』となった証拠である。

 しかし、悲しいかな・・・彼が加速に入った瞬間に敵機は中継室に向かって死線を放っていた。眩しいまでの光が中継室を飲み込もうとしたが…それを遮る一つの影が有り、それは普段彼らが目にしているロボットの影―そう、十千屋であった。

 彼は自分の相手にしていた敵をユナイトソードで貫いた時にこの状況に気づき、ソードを放ってその身を盾にしに来たのだ。ダメージが蓄積しているフリースタイルシールドを掲げ、致死的なビームをその身に浴びる。

 盾となった十千屋は自身の二つのシールドが融けてゆくのが分かるが、引くわけにも行かない。己の死をも覚悟したとき、一閃が走った。

 

 一夏の必殺の一撃が凶光を発する右腕を切り落とす。だが、それだけではない。

 

「メガスラッシュエッジッ!全開だぁああああ!!!」

 

 左腕に全てのパーツがまとまり巨大なセイバーとなったメガスラッシュエッジが敵の斜め下から斬り上げた。前のめりからの文字通りのアッパーカット、PICの技術が応用され巨大な推進力をもった輝くフィールドソード(力場剣)は敵の右脇腹から左胸までを切り裂く。

 腕を切り落とされ、胴体に巨大な傷を負った敵は機能不全に陥りかけるが反撃を試みる…試みたが、それは叶わなかった。

 

「狙いは?」「バッチリですわっ!」

 

 零落白夜のシールド無効効果によりエネルギーシールドが失くなった状態で、ブルー・ティアーズの4機同時狙撃が貫く。これも一夏の策、先程の零落白夜で遮断シールドを切り裂きブルー・ティアーズによる無人機械には予測できない認識外からの攻撃であった。

 それを行うため事前にプライベートチャンネルでセシリアに頼んでいた。タイミングはギリギリであるが戦ったこともあれば何時も練習を共にしていたからこそ可能だと確信していたのである。

 そして、その同時刻-十千屋の倒したはずの敵機がそちらを狙っていたが謎の爆発を起こし今度こそ機能停止する。その正体はセシリアと同じく援護待機していた轟である。

 

「そちらもお見事ですわ。まさか、アンチマテリアルライフル(対戦車・超長距離狙撃銃)の2丁持ちで狙撃を行うとは…」

 

「使い慣れているから、どうしたこともない」

 

「しかし、その弾頭は・・・」

 

「企業秘密よ」

 

 轟はH.W.U 01:ストロングライフル、カンパニー製のアンチマテリアルライフルでシールドに干渉し無効化する()()のTCS干渉弾で遮断シールドと敵機のシールドに穴を開け、十千屋が開けた傷に炸裂弾を撃ち込んだのである。

 ちなみに弾はほぼ同時に撃たなければシールドの穴が塞がってしまう為に轟は其々の手と脇でストロングライフルを扱うはめとなった。

 

「ふぅ、何とかなったか」

 

「一夏!無事!?」

 

「あぁ、大丈夫だけど…もう休みたい」

 

「それだけ言えれば大丈夫さ。敵を倒そうとしたのは欲張りすぎだが、結果は重畳。

 良くやったな」

 

「「十千屋(さん)!」」

 

 敵を倒した一夏の前にアリーナ内にいたメンバーが集まる。この非常事態を乗り切りったと誰もが思っていた。

 そう、思い込んでしまったのだ。

 

「て、十千屋さん無事ですか!?」

 

「そうよ!あんたビームに飲み込まれて!?」

 

「あぁ、大丈夫だ。ちょっとシールドと腕の装甲が融けて融着してはいるが」

 

「「それは大丈夫だと言わねぇよ(わよ)!?」」

 

 ――敵の再起動を確認! 警告(アラート)! ロックされています!――

 

「!?」

 

「「えっ・・・」」

 

 機能停止したと思われた一夏が倒したはずの敵が再稼働し、残った腕を最大出力形態(バースト・モード)に変形しビームを放った。

 完全に虚を突かれた一夏と鈴は動けず、唯一動けた十千屋は二人を庇い背にその攻撃を受ける。敵自体は素子と轟が完全にトドメを刺したが、一夏はそれを目にすることはなかった。

 十千屋が攻撃を受け、崩れ落ち倒れるのを追うように一夏もまた今までのダメージと疲労で気を失うのであった。




さて、感想で先にツッコまれる前に言いますが・・・
別にアニメで言うと、ED近くの映像でデスポエムが流れたりオールフェエンズとかになっていたりしませんから!
ちゃんと男性陣は快気退院できますから!ついでに入院なんてしませんから!!

さて、今回の反省点は場面転換が多いことですかね?
一応、それぞれの場面が終わってから移ってましたが、話を短くして話数で分けたほうが良かったですかね?
あと、一夏の方がどうしても原作よりな戦闘シーンに成るのもどうにかしたほうがいいか?

そして、《ふたりの幼馴染編》は原作だと後ちょいとで終わりますが・・・ここでは色んな所の挿話があるのであとちょいと続きます。話の内容的には2~3つほど、転校生を待っている人たちには申し訳ありませんが、もうちょっとのお付き合いをお願いしたします。

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA18ss:長くてツマラナイ話しですよ…

はいGW中に失礼します。
ようやく、新しい話をアップできました…が、GWにもう一本は無理かなぁ(汗

では、どうぞ御ゆるりと。


 北欧の主神は叡智を得るために片目を捧げた、ある戦いの神は戦場で腕を失った。

 何かを得るためには何かを失わなければならないのだろうか?

 彼の場合は、何を得て何を失ったのだろう・・・

 

 

「う…ん……?」

 

「気がついたか、体に致命的な損傷は無いが全身が軽い打撲だらけだ。

 数日は地獄だが、まぁ慣れろ」

 

 ココは保健室、一夏は事件が終わった直後に気を失ったためここへ運び込まれた。痛みで目を覚ました彼はぼんやりとする頭でここが保健室だということ、そして千冬がちょうど来たことを知る。

 

「原因は分かっているだろう、お前が受けた衝撃砲だ。最大出力でしかも、お前ISの絶対防御を

 カットしたな?よく死ななかったものだ。同じ意味ではあいつもだがな」

 

「はぁ…んぅ…?」

 

「まぁ、何にせよ無事で良かった。唯一の家族に死なれては目覚めが悪い」

 

「千冬姉、その…心配かけて、ごめん」

 

「ふっ、大丈夫さ。お前がそう簡単に死ぬわけがない。なにせ、私の弟だからな」

 

 彼には千冬から告げられた痛みの原因に心当たりが無い。というか、疑問に感じた。ISの絶対防御はシステムの根茎にありOFF(カット)できないと教わったからだ。

 だが、今千冬が見せる柔らかな表情や妙な信頼からくる照れ隠しは家族にしか見せない姿であり、それを見ていると別段と気にしなくなってきた。

 そうしていると、次々と人が入ってくる。箒、セシリア、鈴、ついでに山田先生と簪たち、つまりカンパニー組を除いたいつものメンバー+αだ。しかし、箒を見ているとどこか怒っているように見える。

 

「あ、えっと…もしかして、心配かけたか?」

 

「おっお前は勝てたから良いものの、何を考えているんだ!そ、それに心配などゴニョゴニョ・・・

 

「あ、勝ったんだ俺」

 

「あんなもの勝ったとは言わん!残心というものを知らんのか!?第一、あのような事故は

 先生方や十千屋さんに任せておけばいいだろう!過剰な自信は身を滅ぼすという言葉を

 知らんのか!?」

 

「わ・・・悪ぃ、ん?十千屋さん・・・」

 

 箒は近づいて来ると一気に捲し上げてくる。内容は本来なら教員が注意しておかなければならないものだらけだ。その剣幕に圧され一夏は冷や汗を掻きながら謝る。

 でも、とあるワードが頭に引っ掛かった。

 

「先生方?十千屋さん?十千屋・・・さん!?そうだっ!十千屋さんはどうなった!?

 俺がここに来る前、あの人が俺らを庇ったはずなんだ!」

 

「落ち着いてくださいまし。まだ確認してないませんが大丈夫です。」

 

「と言うのも、あの直後カンパニーの面子があっという間に運んで処置したらしいのよね」

 

「はい『足りないものがある』と言って船の方に行きましたが、もし重症であるなら保健室と

 いえども放って行きませんと思いますよ?」

 

 一夏が気絶した直前の光景を思い出し狼狽する。その光景とは敵の強大なビームを背で受けて自分と鈴を庇う姿であった。

 そんな彼に対して、残りの面子が現状を説明する。もう既に十千屋も保健室に収納され処置は終わっているらしい。

 それらを伝えきると山田先生は彼が寝ていると思われるベットに近づいていった。

 

「そうだ、私はその十千屋さんの様子を見に来たんでした。十千屋さ~ん、起きてますか~?

 開けますよ~?」

 

 何時ものおっとりとした山田先生の様子を見ると全員が日常に戻ったんだと感じた。が、次の瞬間・・・

 

 「き、きゃあぁぁああああ!!?」

 

「どうした山田君!?」

 

「「「「山田先生!?」」」」

 

「う…ぬぅ…うるさい」

 

 保健室のベット同士を仕切るカーテンを山田先生が開けると彼女の悲鳴が響く。その様子に皆は一斉に彼女の元、十千屋が寝ているであろうベットに集まった。

 確かにそこには十千屋が居た、治療のためだろうか見えてる範囲では最低限でも上半身は裸で何時ものロボメットは付けていない。

 だが、それこそが悲鳴の原因であった。何れかの時に彼が言っていた怪我の痕、その物々しさに彼女は驚き悲鳴を上げたのである。

 いつも言っていた顔は右半分が正常な皮膚をしていない。何とか頭皮と頭髪まで傷痕が及んではいないがそれ以外は裂傷とケロイドの様な痕に、極めつけは右目がカメラアイになっておりレンズの筒部分が少し顔から覗いている。

 右上半身も顔と同じような痕が有り、特に右腕は裂傷と火傷の痕が酷かった。それに唖然としていながらもまじまじと見ていると体中傷跡がない部分を探すほうが難しい。

 そんなこんなで呆然としていると、周りが騒がしくなったのか寝ていた十千屋が起きようとした。

 

「くぅ…(ズリィ…)あっ」

 

 左半身を下にして横に寝ていた姿勢だったので、下にしていた左腕で上体を起こそうとしたらシーツがずれ右半身側からベットの下に落ちてしまう。

 落ちてしまった彼は上に上がってしまった両足をバタつかせ、左手で何かをつかもうとしてもがいている。

 しかし、誰も助けようとはしなかった。何故なら、今度は背中に異様な物がついていたからだ。

 背骨の上をなぞるかの様に金属光沢のする突起が体の内側から生えていて、それらは5つあった。それと(うなじ)には目立ちにくいが白の刺青が彫ってある。

 あからさまに普通ではない十千屋の素顔に全員が戦々恐々とし、考えと行動が追いつかない。その様な事をしていると、十千屋側のメンバーが戻ってきた。

 

「パパ~、戻って来たよ~って、ありゃ…」

 

「あ、父さんっ」

 

「あらあら!ユウさん!?」

 

 そのメンバーはチェーロと轟、リアハの三人だ。素子は授業を抜け出していて一年生側の席にいた事、勝手に乱入した事で三年生担当に強制回収された為居ない。

 チェーロと轟は棒立ちになっている皆を押しのけ、十千屋を抱えてベットに座らせる。リアハはその隣に座り、手に持っていたアタッシュケースを広げた。

 だが、抱き上げる時の違和感に千冬が気づいた。

 

「十千屋、お前には色々と聞きたい事がある…が、お前はもしかすると右腕が動かないのか?」

 

「・・・ええ、()()()()動きませんね」

 

 彼の発言に皆がざわつく、今まで接してきた中では素顔は見せないが五体満足でいたはずなのだ。それが今になって右腕が動かないとはどういうことなのだろうか。

 そんな中でリアハは針金のような細い工具を使って彼のカメラアイを外し、新しいものへと変える。そして、楕円の半円形の機械を彼の背中に付けた。

 

「ユウさん、やっぱり最後の攻撃でピアスが駄目に成ってました。その影響で義眼の方もショート

 したようです。でも、今全て新品に変えましたから…どうですか?」

 

「…あぁ、大丈夫だ。()()、目の方も稼働した」

 

「……十千屋、お前今すぐに話せ。背中のも傷跡もその腕も、()()()()()()()

 

「長い上にツマラナイ話しですよ。まぁ、全部一括して話せますけどIS関係者には特に…ですね」

 

「構わん。それにどうせ場所を改めても、お前が面倒を見ている奴ら全員が聞きたがるだろうから

 今話せ」

 

 背に機械を取り付けたら新品になったカメラアイが起動を知らせる青い光が灯る。それと同時に右手が動くかどうか握ったり開いたりで確認していた。

 そのようにしている彼に向かって千冬は疑問に感じた事を全てを話せと言う。十千屋は渋るが引かない彼女を見ると観念したのか語りだす。

 

「まずは背中のシステムの事を話しましょうか。タトゥーはC・IFS。コレはコトブキカンパニー製

 のイメージインターフェースです。そして、突起は阿頼耶識システムと言います」

 

「別に話すという事はイメージインターフェースと違うのか」

 

「ええ、簪さんには前に話したことがありましたけど、ちゃんと説明するとコレは

 マン(M)マシーン(M)インターフェース(I)の略称ですね」

 

 パイロットの脊髄にナノマシンを用いた外科手術によって金属端子と埋め込み、機体と接続させることでパイロットの神経と機体を直結させ、ナノマシンによって高められた空間認識能力と合わせる事で脳内に空間認識を司る器官が疑似的に形成する。そのため脳内のみで外部情報の処理を可能にさせ、高い操縦性能を引き出すシステムだ。

 これによって、通常はディスプレイなどから得る情報がパイロットの脳に直接伝達され、機械的プログラムに縛られない操作が可能となる。

 

「…簪、知ってたのか?」

 

「前に一度、簡単に言えば神経ブッ込み型のシステムだって事くらいは」

 

 彼からの説明を聞くと以前聞いたことがある簪は聞いてきた一夏にそう返した。だが、その内容に千冬は顔を顰める。

 

「もしや、その不随はシステムの副作用か」

 

「まぁ副作用とは違いますかね。どちらかと言うと不随は過剰使用の弊害ですね」

 

「はい、副作用は成長阻害などがありますね。そのせいで私は幼い感じですし…ココも小さいし

 

「リア、気にするなとは言わないさ。でもどんなお前でも愛してるからな。あと、今夜よろしく

「はい…///」

 

「「「(イチャつくな、このバカ夫婦)」」」

 

「ゴホンっ、ではその有様はどうしたというのだ」

 

「ここからが、長くてツマラナイ話しですよ…」

 

 

 

―――今から約一〇年前 太平洋側某海辺近く―――

 

 

 十千屋をリーダーとしたFA開発チームは遠征用の機材の運用試験をするために、山と海に挟まれた日本の某所に来ていた。

 

「うん、天気もいいしクファンジャルにも問題なし。トルースさん、今朝霧さん、

 そちらはどうですか」

 

「こちらトルース・ロックヘッド。スティレットに搭載された新しいセイレーン(ブースター)に異常なしだ」

 

「こちらは今朝霧スミカ、こちらも良好だ」

 

 空を飛ぶ十千屋の通信に同じく空を飛んでいる男女二人のテストパイロット達が答える。

 どちらもカンパニーに雇われる前は傭兵であった人物だ。男の方はトルース・ロックヘッド、フリーの傭兵でありパイロットでもあった。特徴はどんな機体に乗っても平均以上の成果を出すという地味だかとんでもないものである。女性の方は今朝霧スミカ、彼女もフリーの傭兵であり高い操縦技量を持つこと、低く澄んだ声が特徴だ。

 二人共、新しくセッティングされたスティレットを操り運用データを中継車兼整備車両に送っている。十千屋の方はスティレットの発展型-クファンジャルのテストだ。

 クファンジャルはスティレットの航続飛行距離延長を目的とした改修機で主に脚部装甲の軽量化と出力の向上が改修されている。

 順調に進んでいた運用試験であったが、間が悪いことに彼らは歴史が動く瞬間に遭遇してしまったのだ。

 試験中の三人に緊急の通信が届く、その内容は「2341発以上のミサイルが日本へ向けて発射され、それをFAに似た謎の機体が破壊している」というものだ。

 それこそがこの世にISを知らしめる事となった大事件『白騎士事件』であった。

 この時、十千屋はある決断をする。「謎の機体が撃ち漏らしたミサイルをこちらで処理する」というものであった。

 当然、周りは反対をするが流れ弾が何時コチラに来るか分からない事や、ルートによっては自分らの背後の山を越えたところにある町に落ちる可能性がある事を指摘すると渋々周りは了承した。

 ただし、たった三人で流れ弾-いや、撃ち漏らしの流れミサイル全てを処理できると思ってはいない。だから自分らの手の届く範囲内で動くことしかできなかった。

 その中で悲劇が起こる。流れ弾のミサイルがとある山の斜面に当たるルートを描いていた。そのルート上にハイキングであろうか、登山客の一家が居るのを十千屋はセンサー越しに見えてしまったのである。

 

「破壊する…いや、ダメだ!爆風があの家族を巻き込む!?…こうなったら、南無三!!」

 

 十千屋は全速力でミサイルとその家族を対角線上に結ぶ位置に割り込み、右腕を突き出してその手に持っていたマルチミサイルランチャーでミサイルを撃ち落とす。

 

「うぁぁあああ!?」「きゃぁぁああ!?」

 

 無論、撃ち落とせばミサイルは爆発しその熱と暴風が一家を襲う。だが、巻き込まれた一家は予想よりも軽傷で誰も死んだりはしなかった。

 その理由は、その家族の近くに落ちてきた十千屋である。彼が前に出てきた理由、それはその一家の盾となることであった。爆破位置と距離の関係上、彼が至近距離で爆風を受ければその後ろは放射状に防がれる。そのおかげで一家は無事だったのだ。

 

「ロっロボット…?いや、人が中に入っている!?」

 

「あ、あなた。もしかしてさっきの爆発が思ったよりも弱かったのって…」

 

「な、成る程。おい!きっ君(?)大丈夫か!?」

 

 落ちたロボット-十千屋に近づいた一家は息を飲んだ。それは彼の状態が余りにも酷かったからである。装甲はどこもかしこも爆風の影響で罅が入り煤で汚れている。

 特に右半身が酷い。右腕の装甲はボロボロであり、装甲で守られているはずの腕が露出し装甲の破片と爆風の熱で大怪我となっている。クファンジャルの特徴でもある肩のスラクターも大破しており、極めつけは右顔の装甲も外れかかっており中は腕と同じようになってるだろう。

 

「ぐぅっ…逃げて、ください。どこかはわかりませんが・・・・山の陰なら」

 

「分かった!分かったから、もう喋らなくていいっ。早く病院へ!」

 

「やるべき…事が、残ってます。では」

 

「おい!?待ってくれ!!」

 

 十千屋は一家の主である男性にそう言うと、自社の整備車両へ飛んで行く。奇跡的に無事であった通信装置でミサイルの飛来は一旦収まったと聞いたが、それだけで終わりではないと彼は思った。

 通信の途絶えた彼を心配して車両内は慌ただしかったが、戻ってきたら今度は阿鼻叫喚となる。直ぐ様FAを取り外し、彼への応急処置にはいった。

 

「おやっさん…FAの準備をお願いしたします。基本はスティレットで肩はクファンジャルで…」

 

「バカ野郎!何言ってんだ!?お前にはすぐに本格的な治療が…!」

 

「小林整備長!若旦那!謎の機体相手に各国がおっぱじめたって!!」

 

 その報告に誰もが驚く、今度は謎の機体VS各国の軍の泥仕合が始まったのだ。それを聞いて、重傷の十千屋は思う自分の勘が間違っていなかったと。

 そして、彼はパイロットの二人は今度も流れ弾の処理と謎の機体に問いただす為にFAの準備の指示を出した。

 周りはFA準備の指示に渋るが今までの戦闘行動で消耗している二人では謎の機体に追いつけないのと、補給しての再出撃では間に合わない事を告げる。

 それに観念したのか整備長である小林照二が周りに檄を飛ばす。

 

「治療班は若旦那がもう一回無茶できるように念入りに処置をしろ!整備班はFAを最高の状態に

 仕上げろ!あと、右腕はFAのパワーアシストだけで動くように調整だ!!」

 

「「「ウッス!」」」

 

「皆さん、ありがとうございます。」

 

「ったく、帰ってきたら説教だ。絶対に無事に帰って来い」

 

 どれくらい経ったであろうか、謎の機体-未来では白騎士と呼ばれるISは軍の大半の戦力を無効化しどこかへと飛び去った。が、その帰路を邪魔するかのように一体のFAが立ちふさがる。

 基本はスティレットで作られ肩はクファンジャルのスラクターアーマーでカスタマイズされているFA-奇しくも未来ではコレを正式に調整されS(スーパー)・スティレットと呼ばれた。

 

『若旦那!そいつは内外(OSも装甲も)どちらとも間に合せの機体だ。無茶をしすぎるな!お前の体もだ!』

 

「了解…謎の機体、聞こえるか?もし聞こえていたら返答してくれ。話がしたいだけだ」

 

 十千屋は通信で機体の注意事項を聞き、白騎士に向かって外部スピーカーを使い話しかけてみるが返答はない。それどころか、敵意の様なものが膨れ上がっているように感じた。

 どちらとも武器を下げているが、すぐにでも事を構えることが出来るようにしている。

 

「言い方は悪いが犯行動機を聞きたい。抵抗するのであればこちらも相応の手段を取らざる負えな

 くなるが…そうか」

 

 白騎士は構え、十千屋は懸架されいる武装全ての安全装置を外し白騎士に向ける。そして、戦闘が始まったのだ。

 十千屋のS・スティレットにはスティレットとクファンジャルの武装が全て付けられている。手にはマシンガンとマルチミサイルランチャー、腕のハードポイントには60mmガトリングガンと空対地ミサイルがある。

 その一方で白騎士には現時点で判明している武器はプラズマブレードのみ、武器の射程と種類ならば十千屋側が優っているがそれだけで勝敗が決まるわけではない。マシンガンとガトリングガンの弾幕で進路を塞ぎ、ミサイルで追撃するもことごとく失敗する。しかも、IS特有の随を許さない機動力で武器を叩き切られていった。

 

「(くっ、軍が負けるわけだ。慣性制御されているのかおかしい程の機動力、こちらの攻撃が当

 たっても本体にダメージが通らない防御力(バリア)。このFAの機動力でなんとか食らいついてるが

 ジリ貧…ならば、それ以外で活路を見出す!)」

 

 十千屋は圧倒する白騎士に勝つための算段を計算する。攻撃力と防御力は既に負けている、機動力はなんとか互角、これから見出した答えは反応速度を上げるというものであった。

 ISもFAもパワードスーツであるため生身での反応速度より遅くなる事は確かである。この戦闘中でも動作の速度は同じくらい。ならばその速度を上げることができれば優位に立てるかも知れない。そして、その手段を彼は持ち合わせていた。

 

「(阿頼耶識システム…リミッターOFF、侵度上昇。スティレット、お前の体…貰うぞ)」

 

 彼は阿頼耶識システムのリミッターを切りシステムを自分の脳に侵食させる。これにより阿頼耶識システムが使うリソースが増え機体をよりもっと自分の体へと近づけることが可能になった。

 互いの反射速度を1とすると十千屋の方が0.3~0.5になった程度の差であろうが…達人同士の戦いでは致命的な差となる。

 互角であった差は十千屋が早くなったぶん優位に立った。今まで以上に弾が追いつき当たってくる感触と感覚的な敵機のスピードアップに白騎士は動揺を隠せない。その隙を彼は付いた。

 武装は全て弾切れとなり、無理やり持ってきたスティレットの肩部スタビライザーを右腕のハードポイントに取り付け白騎士に攻撃を仕掛ける。隙を晒してしまったが、それで落ちる白騎士ではない。

 白騎士は即座に突きの様な攻撃をした。それを十千屋は右腕と右顔の装甲に半場喰い込ませながら白騎士へと肉迫し、掴みかかる。

 

「ぐぅううっ、いい加減!ツラを見させてもらうぞ!!」

 

 だが、突如十千屋…いや、S・スティレットに勢いが無くなる。それはガスンッといった感じに彼に衝撃として伝えその正体を知らせた。

 

「…こんなところでガス欠(燃料切れ)なんて、っくそ」

 

 白騎士の顔の後ほんの数センチ、いや数ミリのところまで手が届いていたがそれは重力に引かれてFA-十千屋ごと離れていった。FAはISと違って重力・慣性制御で飛んでるわけではない。飛ぶ技術に関してはとあるFAが完成するまで現行技術の延長線上でしかないのだ。それ故にバーニア・スラクターの燃料が切れれば飛べなくなる。

 白騎士は落ちていって途中で緊急パラシュートが開いた十千屋を見るとそのままどこかへと飛び去ってゆき、世界中から姿をくらました。

 

 

 

―――回想終了―――

 

 

「と、まぁ…情けない理由で引き分け、いや実質的に負けて終わりましたと、さ」

 

 この戦いで十千屋は大きな傷害を負った。右半身の大部分がミサイルの爆風により火傷を負い、装甲の破片で裂傷が残った。右目はミサイルの時に大部分がやられていたが、白騎士の攻撃で止めを刺された。しかし、奥の神経は生きていたので義眼で代用している。

 だが、最も大きな傷害は阿頼耶識システムの過剰使用により脳の一部の運動野と視覚野がリソースとして侵食され、右腕と右目に障害が起きた。コレは阿頼耶識システムに使用領域が取られているので身に付ける背中のスピアに擬似稼働システムを入れ、システムを稼働させることで腕と目を再起動する事に成功している。

 

 それよりも、学園側のメンバーが話された内容に唖然となっている。それもそうであろう、白騎士事件とはISの今の世のスタート地点それに関わっていたとは誰も予想してはいなかった。

 そして、外面には表さないが特に動揺しているのが千冬である。ここにいる誰もが知らないことだが彼女も事件の当事者、いや主犯の一人であるからだ。

 そもそも、あの事件はISを発表したが認められなかった篠ノ之束が起こしたマッチポンプ的事件であった。自らが各国のミサイル管制システムにハッキング、それで発射されたミサイルをIS-白騎士で圧倒するというデモンストレーションである。各国の軍との戦闘はおまけではあったが。

 そのおかげでISは世界に注目された。ただし、『宇宙開発のためのマルチフォーム・スーツ』ではなく、『既存の兵器全てを上回る超兵器』として。当たり前だ、デモンストレーションが暴力的すぎた結果である。

 

 誰もが言葉を告げられない中で一夏がなんとか話しだした。

 

「な、なぁ…俺は白騎士事件の死傷者はゼロだって聞いたんだけど」

 

「んなもん、大本営発表に決まってるだろ?」

 

「だ、大本営?」

 

「ふぅ、世界大戦時のネタよ。簡単に言うと政府が誤魔化したのよ」

 

 十千屋が返した答えに彼はついていけなかったが、轟が直ぐに解説をする。一般に発表されている情報など嘘と虚実が混じっているものだと。

 それはそうだろう。各国は完全制御下に置かなければいけない兵器をアッサリと奪われ使用され、国防と安全保障はなすすべがなかった。しかも、それを担った白騎士を確保または撃破する為に軍を出したが過半数を無効化され逃げられた。

 こんな各国の面子が潰された上でその原因を作ったISを戦力の要とするなんて当時の官僚は気が触れそうになっていたであろう。もしそこで死傷者がいたら世論が暴走しどうにかなっていたかもしれない。

 

「そんな訳で、実際には居るんだよ被害者たちは。それに間接的だがISを起因とする女尊男卑で

 被害に遭ってる人たちもかなり居るしな」

 

 場の空気が重くなる。ここにいるのはIS側の人間たちばかりだ。十千屋もIS側に半場立っているとはいえ実質的な被害者だ。それ故に何も言えない。

 余りにも追い詰められている空気になってきたので十千屋が口を開き告げる。

 

「何を思いつめてるが知らないが、俺はもう平気だぞ?命はある、条件付きだが五体満足で時間と

 金が掛かるが治す見込みもある、これ以上なにを求めろっていうんだ」

 

「しかし、貴様はそれでいいのか?ISを恨んでは…」

 

「起こってしまったものはどうしようもない。出来るのはこれからどうするべきということ。技術

 の暴走は歴史上あることで、それに巻き込まれたのは不運であっただけ。本当に恨んでいたなら

 ISを潰していますよ」

 

 十千屋のスタンスに皆は納得がいかないが理解はした。しかし、どう接していけば分からないでいる。そんな場の空気に彼は思わずため息をついた。

 

「はぁ…コレを話したのはお涙頂戴って訳じゃないぞ?もう過去の事で別段何かあるわけじゃ

 ない。接し方なんて何時も通りでいいんだよ」

 

「…分かったよ、師匠(十千屋さん)

 

「は?師匠?」

 

「えっ?あっ…ええと、十千屋さんにはさ色々と鍛えてもらってるし、俺と十千屋さんの関係って

 こんなんじゃないかなぁ?って。なぁ鈴?」

 

「なんで、あたしに振るのよ。まぁ、そう見えるんじゃないあんたらの関係ってさ」

 

 一夏の突然の師匠発言に今度は別の意味で周りが唖然となって、彼は周りの反応にとっさの言い訳をし鈴に同意を求めた。

 慌てふためく彼に釣られて周りの雰囲気も変わってゆく。

 

「まぁ、いいさ。バカ弟子、今日はしっかり休むんだぞ?織斑先生、これで失礼します。事情聴取

 はまた後日で」

 

「あ、あぁ…分かった。何かあったら直ぐに知らせるようにな」

 

「では、これで皆さん失礼します。リアハ、轟、チェーロ。行くぞ」

 

「「「はい(は~い(^-^)/)」」」

 

 彼の特異性、誰もが分かりかけて来たと思っていた。が、そう思っていただけであった。

 過去話を聞き、その身に刻まれた傷を知り、ただ分かりかけて来たと思い込んでいただけであったと知る。

 十千屋雄貴-彼は一体何者か・・・その答えを知る者はこの場に誰もいなかった。

 

 

 

―おまけ―

 

「そういや、リアハなんでIS学園の制服を着ているんだ?」

 

「ふふ、轡木さんから頂いたの。これを着ていれば学園内に潜り込みやすいって

 (クルッ…ストン)どう?」

 

「( ̄ー ̄)bグッ!…イイ、凄くイイ」

 

「コレは今夜は激しいわね」

 

「イイなーママは」

 

 

 一方、リアハが制服を着ていた事に後で気づいた学園側のメンバーは

 

「なに!?アレが十千屋の配偶者だと!?」

 

「え、しかも成人してるんですか!?全くそうとは思いませんでしたよ…」

 

「そういや、千冬ね…織斑先生達ってリアハさん見たの初めてだっけ?」

 

「「「(アナタが言うなよ山田先生)」」」

 

 教師二人はこの事実に驚くが、二人共今度は別のことに気づいて驚愕する。

 

「まて、名前だけなら聞いたことがあるぞ?たしか、臨時の養護教諭で主にカウンセラーをすると

 かなんとかで」

 

「あぁっ!?」

 

「どうした山田先生?」

 

「あの人って事件が起こった時にたった一人で隔壁をクラッキングしていたような…」

 

「「「な、なにぃ!?」」」

 

「凄い子が居るんだなぁって、思っていたんですけど…まさか、十千屋さんの奥さんだとは

 思いませんでしたよ」

 

 十千屋の本妻、リアハ=(アーヴァル)=十千屋。阿頼耶識システムとイメージインターフェースを用いた超演算力で実はクラッキングなどが得意である。

 そして、一同改めてこう思う。

 

「「「(やっぱりカンパニーの面子って、まともな人がいないんだなぁ~って改めて思うわ)」」」

 

 コトブキカンパニー、今のところ一般人率0%、逸般人率100%であった。




はい、今回は十千屋の秘密と過去話を公開しました。
過去話・・・コレはEX話でするべきだったでしょうか?

そして、FA原作説明書の挿入話に登場するキャラ達がちょいと出ました!
今後も、FAに関係するキャラはカンパニーに関係して出てくるのでまったりとお楽しみにしていてください。どうしても一部変わってしまうところもありますが、まぁそこはお気になさらず。

GW中に2~3本あげたかったのですが・・・無理そうです(汗
積み(罪)の消化が~orz

あと、設定資料の方を更新しました。轟ちゃんですよ~。
今後、というか試しとして設定資料の方を更新しましたら活動報告にあげるようにします。
今後ともお楽しみにしていてください。



では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA19ss:ニンジャ!?ニンジャナンデ!?

はい、今回はギャグ回です。
久しぶりに少なめです。
タイトルから分かる通り、ニンジャリアリティショックをお持ちの方はご注意ください。

では、どうぞ御ゆるりと。


 我らは影、我らは闇、我らは同族食い。

 闇に生まれ、闇で育ち、闇を討つ。

 主の影となり主の闇を切り裂く…それが我らの宿命。

 

 

 十千屋や一夏達が謎の敵機に襲われている頃、誰にも知られない戦いがあった。

 学園の裏から入る工房の様な場所、そこで人知れずに戦う者有り。

 

「うぁああぁぁ!?」

 

「ぎゃあああああ!?」

 

「助けてくれェエエ!!」

 

「全員!円陣を組め!このままでは同士討だ!!」

 

 悲鳴を上げているのは学園の関係者ではない。迷彩服にタクティカルベスト、あとで分かるが製造番号が消された一般流通のライフル、どう見ても一般兵士ではない。しかも、学園が襲われたこの時を狙ったかのようにここへ来たのだ。

 そう、諜報をする特殊部隊の様な出で立ちである。その様な者達だが、今は()()()()()いた。

 

「いっ居たぞ!?ソコだぁあああ!!」

 

「待て!そちらは味方だっ」

 

「どこだ、どこから来る…グハッ!?」

 

 何かを見つけ味方に銃口を向ける者、身構え警戒しているのにいつの間にか攻撃を喰らい倒れる者…彼らの常識が通じない何かに襲われていた。

 ここに来るまでは順調で全てがタイムスケジュール通り、諜報で手に入れた《IS学園襲撃計画》の日程通りに今日襲撃が行われた。

 その混乱に乗じてIS学園に入り込む計画だったのだが、ご覧の有様である。その中でリーダー格の者が何かに気づく「もしや、コレは…!?」と。

 

「全く、父上の方は予想外のモノが釣れたというのに…コチラは雑魚ばかりか」

 

「まぁ、気にするほどでは無いでゴザルよ。入れ食い、入れ食い大漁でゴザル」

 

 リーダー格は聞こえてきたセリフから自分の考えが正しかったと知る。そうコレは罠だったのだ。自分達の様にIS学園を諜報しようとする者達の!

 

「貴様には聞くことが山ほどあるが…」

 

「まずは、お休みなさいでゴザル」

 

 そこでリーダー格の意識は途絶える。彼らの敵は紅と藍の装甲を身にまとった少女であった。

 

「さて、簀巻き具合はこれくらいで良いか?」

 

「おまけに互いの股間に突っ込むように置くでゴザル」

 

「またしてもアレなモノを…もう既に色んなものを剥ぎ取ったのだぞ」

 

「いやいや、心的障害(トラウマ)に成る様なレベルではないと。二度と来ぬ様にゴザル」

 

「だがな…コレでは発見した者が発狂するぞ?」

 

「(なに?私は何を見てるの…いえ、それ以前にどういう状況なのよぉぉおぉ!?『ビュッ』

 へ?)」

 

 少女らは特殊部隊?の装備や服を剥ぐと絶対縄抜けできぬ状態にしてから拘束していった。諸曰く簀巻きと呼ばれる状態なのだが、藍色の少女は言いづらいアレな置き方をしていって相方に苦言される。

 その様子を覗いていた者が居たがあっさりとバレた様だ。

 

 ガッ キキキキキィン!!

 

「(ヒィイイイイイ!?)」

 

「何者だ?」

 

「如何なる防護服だろうとこの刃に貫けぬ物無し、

 例えISだろうが纏う前に殺してしまえば問題なしで御座る」

 

「(なに!?この子等!??ISのハイパーセンサーにはちゃんと二人映るのに

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!??)」

 

 覗いていた者はアッサリと少女らに拘束される。こちらも警戒を怠らずにISを部分展開しハイパーセンサーで見ていたのにも関わらずだ。拘束は生身に当たらぬように、服の余りの部分を幾つもの十字手裏剣が居抜いて壁に貼り付けにされ、次の瞬間直刀と日本刀の様な剣が首に交差して突きつけられた。

 それ以上に心を乱すのは、この少女らの気配がオカシイからである。機械(IS)越しに見れば二人だが、片方は一人なのに()()()()()()()()()()、もう片方は目の前に居るのに()()()()()()()()()()()

 

「(状況は限りなくピンチ。でも、私にはIS学園の生徒達を守るいう義務がある!)」

 

「ぬ?」「おろ?」

 

「「生徒会長であったか(ゴザったか)」」

 

「((・3・) アルェー?)」

 

 ここに来て覗いていた者、生徒会長-更識 楯無は己のピンチが呆気なく終わって気が抜ける。すると、妙な気配が解かれ自分に刃を突きつけていた人物がよく見えるようになった。

 どちらも自分と同じか少し年下の少女である。片方は長い金髪を一本に束ねた少女で、もう片方も灰色?薄い水色?の髪を一本に束ねているが毛先が肩下くらいまでで広がった感じだ。どちらも同じような装甲を身に纏っており金髪が紅、もう片方が藍色である。雰囲気からして忍者をすぐに連想した。

 しかし、装甲の形がどこかで見たような形であり、下のインナースーツもやはり見たことがあるような気がする。が、今一番気になるのは…

 

「こちらが私だと知って敵意を下げたのだらか味方であると分かったわ。

 でも…一番聞きたいのはね。…貴女達のマスクの文字、どうにかならなかったのかしら?」

 

「「なぬ?」」

 

 楯無がそう言うと二人共武器を引いてそれを鏡替わりにして己の顔を見てみる。するとソコには…黒いマスクに『父 愛』『父 I love』と書かれたモノが・・・・・

 

 「「ぬぉお!?しまったぁ!?!コレは宴会用のマスクではないか(ゴザらんか)!!!」」

 

「「「(あぁ、やっとツッコミが入った)」」」

 

「それよりも、いい加減コレ抜いて開放してくれない?」

 

 二人は確認すると絶叫した。まぁ、当たり前だろう…決めていた所なのにツッコミ待ちのようなマスクをつけて戦闘していたのだから。簀巻きにされていた連中もソレにようやくツッコミが入りどこか安堵した。

 二人はアタフタとマスクを変えようとしているが、すっかり空気は白けてしまった。だから、楯無もついツッコんでしまう。

 

「ねぇ、貴女たちって…バカ?」

 

「何を言う!お主こそ父上に色仕掛けをしたら、上下の純潔は奪われずに

 夜伽の作法をネッチョリと教育された恥色形無し(はじしきかたなし)会長の癖にぃ!!」

 

「父君と母君の伽をじっくり堪能したという…なんとも羨まっゲフン!

 けしからん未通女(おこぼ)でゴザルか!」

 

「なんで貴女達が知ってるのよぉぉおおぉお!?ていうか、

 その答えでアンタ達がだいたい何者か分かっちゃったじゃないの!!」

 

 何と言うコント臭…ギャイギャイ騒ぎ互いの傷に塩を塗るような罵倒を繰り返していると、簀巻きの一人が哀愁を漂わせてこう言った。

 

 「俺らはあんな胸も小さな少女(ガキ)に負けたのか」

 

(ピクッ)今なんと言ったか」

 

「は?」

 

 ギャイギャイ騒いでいた少女らがコチラに向く、修正された黒布のマスクには《忍 殺》

《滅 殺》と見事な毛筆で白く書かれている。それを見た簀巻きは恐怖のどん底へと落とされた。

 

 「アイエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」

 

 Yes,ニンジャ。No,忍者。イイね? いきなりのニンジャの登場で簀巻きの一人、特殊部隊?のリーダーは色んなものを漏らしながら彼女たちを見る。すると彼女らは手を合わせオジギとアイサツをした。

 

「ドーモ、簀巻きリーダー=サン、カルタムスです」

 

「オナジク。ドーモ、簀巻きリーダー=サン、インディゴです」

 

「ド、ドーモ、カルタムス=サン、インディゴ=サン・・・ナニヨウデ」

 

「「死スベシ」」

 

「え?」

 

「「オトメ ヲ 嘲笑ッタ モノ 死スベシ!」」

 

「な、何ですとおぉぉお!?」

 

「誰が抉れ],じゃあぁぁぁああ!!」

「 ],の無い怪物と言ったのは何処のどいつで御座るかかぁあああ!!」

 

「誰も言ってねぇよ!ぎゃあああああ!!!」

「「「巻き添えかよ!?ぎゃあああああ!!!」」」

 

 その後の光景は死屍累々、死んではいない。まぁ、死んではいないな…たぶん。乙女のあるNGワードがダメだったらしく、言った本人と巻き添えでその周りを蹂躙した二人は気分が晴れたのか切り替えて再び楯無に向き合う。あと、],は誤字ではないキーボードを見て察してやってくれ。

 

「さて、生徒会長。我らの目的は理事長殿と父上との口約で定まったもの。

 貴殿は聞かれておらなかったのか?」

 

「何と言うか…いけしゃあしゃあ、ね。その後ろはどうする気なのよ」

 

「しかし、この慌てよう。何も伝わっておらなかったのではゴザルか?」

 

「ねぇ、ちょっと…」

 

「そのようだな。分かった、お話しよう」

 

「…完全に無視して仕切り直してるわね、こいつら」

 

 後ろのモザイク処理の一山を無視して、ニンジャな二人は楯無にここでの目的を話し始めた。

 簡単に言えば《釣り》だ。嘘のIS学園襲撃の情報を流し、それに釣られてくる敵対勢力を狙ったのである。情報自体もそこそこの力量がなくては入手できず中堅どころが集まってくる予定であった。

 唯一の予定外はアリーナの襲撃が嘘から出た真になってしまった事であろうか。逆に考えれば正面から襲いかかってこれる組織の情報が得られるかもしれないというメリットでもあるが。

 

「そういう事ね。大体の事情は把握できたわ。

 で、結局あなた達の事は何も聞いていないのだけど?」

 

「ふっ、そちらの思っているとおりではないのかな?」

 

「既に依頼主とコードネームは明かしてるでゴザル」

 

 二人の言葉に思わず舌打ちをしてしまう楯無。今までの会話で確かに依頼主とその目的、彼女らのコードネームが明らかになった。その上で彼女らの身に纏っているパワードスーツは轟の専用機『轟雷』によく似ている。

 しかし、装甲は肩と胸、足は脛から下は無しと随分と軽量化されているようだ。これまでの動きを見る限りでは轟雷を近接化高機動化したのがコレなのであろう。彼女は今は知る由もないが名は『FA:G 迅雷(フレームアームズ:ギア じんらい)』という。

 以上のことから、学園内でこんな怪しい動きが出来る背景があるのはたった一人、いや1グループ-コトブキカンパニーの十千屋達であることが容易に予想できる。彼女らは特に父親と思わしき人物を気にしているのでかなりの確率で当たっているはずだ。

 

「さて、我らも裏側の者…生徒会長殿、我らに最低でも協力して頂けなければならんな」

 

「ふんっ、言いなりになれって事?残念ね。私はどんな脅迫も賄賂も通じないわよ」

 

「はてさて?その様な態度、どこまで持つのでゴザルかねぇ。

 …ならば、コレを見るでゴザル!!」

 

「……っ!!それは!?」

 

 多分、十千屋の手駒のスパイ的な二人だと思われる人物は、自分らの行動の痕跡を残さぬように楯無を懐柔して処理しようとするが、それに乗る彼女ではない。彼女とてIS学園生徒会長にして対暗部用暗部「更識家」の当主、学園を危険に晒す事はその義務と矜持が許さない。

 その様な態度をする彼女にインディゴはある写真を見せつけた。

 

「ど、どこでそんな物を!?」

 

「ふっふっふ、良く撮れ出るでゴザろう。お主がマヌケ面で抱き枕に抱きついている姿は!」

 

 そう、それは楯無のプライベート写真であった。ただ、口が半開きになって抱き枕にだらしなく抱きついているならまだ何とか問題ではなかった。その写真は簪の全身プリントされた抱き枕に( ̄ε ̄)ムチューとしながら抱きしめ、だらしなく乙女がしてはいけない顔で写っていた。

 それを「いつの間に撮られたのか」「見た目が色々ヤバイ」の二重の意味で恐怖を感じる楯無。だが、次の言葉は更なる恐怖へと陥れた。

 

「拙者らに組みしなければコレを…簪殿の枕元へ置く!」

 

「なっ…なんて恐ろしい事を!!」

 

 インディゴの言葉に驚愕の表情で言う楯無。妹loveのくせにワザと突き放して距離を取った。

でも、大好きすぎて自分が離れられない彼女にとって、姉妹の溝をさらに深めるその写真はさぞかし恐ろしいものであろう。

 もし、それが簪に見られでもしたら嫌悪の目が侮蔑の目に変わってしまうかもしれない。いや、それはそれで美味しいかもしれないが。ともかく、その様な事は断じて認められない。

 

「ひ、卑怯な…」

 

「ふっ、拙者ら闇に生きるものにとってそれは褒め言葉でゴザル」

 

「それに、別にタダ働きさせようという訳ではない。

 もし、コチラに組んでくれればコレを報酬として売ろう」

 

「今度は!?…はぅ///」

 

 邪悪な笑いをしながら急迫写真を見せびらかすインディゴとは別に新たな写真をカルタムスは出した。すると、今度は逆に至福の表情をしながら楯無は仰け反る。

 今度の写真の内容は『うたた寝をする簪』『ボーッと窓の外を見る簪』『ちょっとはしたなく口を大きく開け、大きなパンを頬張る簪』など、様々な萌えポイントを突いた簪のプライベート写真であった。

 ストーカー行為(簪ちゃんを影から見守り隊)をする楯無であるが四六時中やっている訳ではない。やはり、私生活や学生生活、生徒会長としての仕事などどうしてもそちらに当てる時間が必要だ。その為、この写真らはその穴の部分を埋めるような内容ばかりであるため彼女にとってはレア物である。

 

「では、どうする?生徒会長殿」

 

 「こ、この…この外道がぁああぁあああ!

  10枚下さい!!

   カードは使えますか!?」

 

「勿論でゴザルよ♪」

 

 IS学園生徒会長-更識楯無の堕ちた瞬間であった。彼女は「くそぉぉぉおぉお…!」と叫び、鼻の下に赤い筋を一本つけて己のクレジットカードを天高く掲げてそう言ったのであった。

 まぁ、なんやかんや有り協力体制を取ることが出来た訳であるが、何故ここまでしてこちらの主導権を握ろうとするのかは彼女には分からなかった。

 

「まったく、こんな事をしなくても学園を守るのは私の使命であり義務であるのだから

 協力体制くらい取るわよ」

 

「ふぅ、写真をとても大事そうに懐に入れながら言っても説得力はないぞ」

 

「それにでゴザル。こちらが主導権(弱み)を握らなければ…

 生徒会長殿は絶対にこちらに探りを入れてくるでゴザルよ」

 

「…そ、そんな事ないわよ?」

 

「「こちらの目を見て言え(でゴザル)」」

 

 楯無はやるべき仕事はきっちりやり誇りを持って立ち向かえる人物であるが、平時にはどちらかと言うと飄々として興味本位で行動する性質(たち)がある。

 そんな中、背後関係が謎の協力者が居たら職務のついでに絶対に探りを入れるだろう。カルタムスの立ち位置(ポジショニング)としてはそれは勘弁願いたい。

 元々、(父上)含めこちら側はISに関わる気は毛頭なかった。組織の都合上、轟とチェーロを入学させISのデータ取りをしISの一般販売データとFAに応用する技術を取るだけの予定であった。それがあの一夏(バカ)のせいで全ての予定が狂ってしまい、『毒を食らうなら皿ごと全部、消化してやる!』の方針に変わったのである。

 それ故に、こちらは見敵必殺(サーチ&デストロイ)裏仕事(必殺仕事人)をする為にココに居る。はっきり言って邪魔をされたくないのだ。

 だから、せいぜい利用し合う仲でいるのがちょうと良い。まぁ、彼女(楯無)がこちら側に堕ちてくる(愛玩奴隷化)のであれば別に構わないのだけれども。

 

「さて、捉えた下手人はそちらに任すとしよう。吐いたらこちらにもソレを流してくれれば良い」

 

「あら、いいのかしら?今回は全てそちらが功労者じゃなくて」

 

「ウチで最も吐かせるのが上手いのに任せると、な…」

 

「…全員、男色家(┌(┌^o^)┐ホモォ)になって帰ってくる事に成るでゴザル」

 

「分かったわ。吐かせたらキッチリ社会復帰させるまでを約束するわ」

 

「「相頼む(でゴザル)」」

 

 これにて今回の任務は終わり、後の処理を任せカルタムスとインディゴはどこかへと消えていった。その消え方の身のこなしはやはり暗部というよりニンジャを思わせる見事なものである。

それに感心しながら楯無は、このモザイクの山となった部隊をどう処理するのか悩むのであった。

 一方、拠点に戻ったカルタムスとインディゴの二人はニンジャの仮面を外し普段の生活に戻る。

 

「やれやれ、父上の懸念が的中していて頭が痛いな」

 

「そうでゴザルなぁ、(じん)の姉君」

 

「で、その気後れした雰囲気はなんだ(あい)?」

 

「…すまぬでゴザル!拙者の…拙者の宿題を手伝っては下さらぬかぁ!?」

 

「お前は、またか」

 

「うぅ、理数の理は苦手でゴザルよぉ~゚(゚´Д`゚)゚」

 

 カルタムスの本名は(いかづち) (じん)、インディゴの本名は(いかづち) (あい)と言い、苗字から分かるとおり轟の義姉妹に当たる。そして、彼女らが使うFA:Gも姉妹機に当たる物であった。

 とある経歴から彼女らは十千屋の裏の部隊として戦いに身を投じているのであった。だが、普段は侍クールガールの迅と間違った忍者キャラの藍である。無論、十千屋への好感度は言うまでもない。




楯無ファンの方々・・・どうもすみませんでしたぁあぁああ!!
何故か自分の中のギャグ回だとダメ無しさんが輝くんやぁあ!!
しかも、しばらくはダメ無し、形無しさんが続くんやぁあ!!
うぅ、なんでこう…イジリがいがあるキャラクターになってしまったんや…orz

あと、さり気なくFA:Gは現状だとバゼとフレを残すだけになりました。
その子らが出る前にリアルでフレ・アテが来るんでしょうけど。

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA20ss:俺の役割だ

今回は筆が乗って、6千文字を超えた所でちょうど良い区切りだったので投稿しました。

では、どうぞ御ゆるりと。


 事件が終われば全て良し、という訳にはいかない。

 物事全てには後始末というモノが付いて回る。

 それらは全て人それぞれだが、彼らはどのようになるのだろうか?

 

 

 謎の機体襲撃事件から1日たった。そこから色々な後始末が待っている。アリーナは修復しなければならないし、事件を見ていた生徒には事情聴取や箝口令を出さなければいけない。

 何故、箝口令が必要かというと…そんなもの決まっている、国際的に重要な施設が襲われたなんてやすやすと広めるわけにはいかないからだ。

 学校生活というものは一学期は忙しいものだ。それなのにこんな異常事態が起きてしまい学園教師勢はてんやわんやの大騒ぎ、しかも箝口令の事を十千屋に話したら…「たぶん、今後こんな事件が増えるんじゃないですかね。俺や一夏と言う獲物(イレギュラー)がいますし」の言葉でやるせなくなっても仕方がない。

 そして、その影響は十千屋と一夏のグループにも及んできた。

 

「三日間の謹慎令ですか」

 

「あぁ、とは言ったものの祝日2日間を挟むから実質的に1日だけのだがな」

 

「何故なのですか…」

 

上層部(IS委員会)は御咎め無しと言っているんだがな。理事長先生や織斑先生…俺の独断だ」

 

「十千屋さん・・・」

 

 今この場-生徒指導室に居るのは箒と千冬、そして十千屋の三人だ。箒に謹慎令が出た理由はこの前の事件でしでかした中継室の乗っ取りである。

 本来なら避難しなければいけないのに中継室に行き身の危険を晒しただけではなく、その過程で巻き添えを二人出してしまった。もし、十千屋が身を呈して防がなければアリーナのシールドバリアを突破できる攻撃(ビーム)によって中継室ごと蒸発していただろう。

 その理由を聞き箒は理解は出来たが納得が出来なかった。彼女にとってはあの時は自分の出来る事をしたと思っている。しかし、それを彼は一刀両断する。

 

「箒…お前が一夏の為になにかしたい気持ちは分かる。

 だが、その為に一夏も他の人達も傷つけたいのか?」

 

「違う!私はっ、私は一夏の為に…!」

 

「結果的には敵は最大の隙を晒してくれたが…もし、俺が間に合わなかったら?

 もし、俺が防ぎきれなかったら?もし、敵が倒しきれなかったら?どうなるんだ?」

 

「そ、それは…」

 

「そうさせない為に防いだんだが…俺は命を張ったぞ?」

 

 十千屋は可能性の話をして、いかに無謀で無鉄砲で邪魔だったかを冷たく刺すような言葉で彼女に言う。実はあの時、防いだ彼は一夏と同じように絶対防御を切っていた。

 理由は絶対防御が発動してしまうと防ぎきれないと思ったからだ。ISには強制解除がある。その条件はシールドエネルギーの残量だ。アリーナのシールドを突破できる攻撃を防いだら絶対に絶対防御が発動してしまう。しかも複数回発動したら彼のSEはすぐに尽きてしまうであろう。

 そうしない為に彼は自分のISにハッキングをかけシールドの特性を()()から()()に変更し防ぎ切ったのである。その影響であの場では言わなかったが、防ぎきれなかった熱量で彼は全身軽度の火傷を負っていた。

 箒はそれらを聞いていくと血の気が引いていく、自分が何を仕出かしたのか今度こそ納得しかけるが…そこに彼はトドメを刺した。

 

「お前は…一夏の前で死んで、アイツに一生残る心の傷を付けたかったのか?」

 

「わ、私は…わた・・・し・・・は・・・・・」

 

 座っていた箒は両こぶしを握り締め、俯いて泣き出してしまう。彼女にとっては一夏はある種の絶対的な存在である。その彼に取り返しのつかない傷をつけるのは有ってはならない事だ。だが、それを仕出かした事実は彼女に大きな負担を強いる。

 この状況に千冬は流石に動かなければいけないと思ったが、その前に彼が動いた。何時ものロボメットを取り外し、彼女の側に行き素手の両手を頬に添えて顔を向かせる。顔を向かせられた彼女は恐怖するが、それとは対照的に彼の傷だらけの顔は慈愛に満ちていた。

 

「箒、俺は逆にこの謹慎はチャンスだと思っている」

 

「ちゃ、チャンス・・・?」

 

「あぁ、お前の経緯はだいたい知っている。一夏にどれほどの想いを抱いているのか大体分かる。

 だからこそ、一度自分の思いに向かい合ってみないか?」

 

「自分の…一夏への想い」

 

「そうだ。命短し恋せよ乙女…大いに結構。でも、自分も相手も周りも傷付けるのは駄目だ。

 悩め迷えたっぷりと、そしたらきっと前よりも素敵に成れるさ」

 

「十千屋…さん」

 

「大丈夫さ、何も一人で悩むなとは言ってない。袋小路になったら呼べ。

 俺も俺が信頼する奴も一緒になって悩んでやる」

 

「とぢや・・・ざん」

 

「泣け、叫べ、おもいっきり。助けるのも間違った事をして怒るのも()の役割だ」

 

「うぁ、あぁ…ああぁああ!!」

 

 堪えきれなくなった感情は泣く事によって顕になり、箒は年甲斐もなく泣き叫ぶ。それに対して十千屋は彼女を胸へと抱き入れ、頭を撫で背を摩って強く優しく接した。

 その光景に流石の千冬も息が漏れ肩を落とす。

 

「まったく、お前は…」

 

「すみません、良いところ全部取っちゃいましたか?」

 

「いや、今一番近いのはお前だ。私なんかよりもずっとな」

 

「ありがとうございます。織斑先生」

 

 その後、泣ききった箒は赤く目を腫らしたがどこかスッキリとした表情であった。千冬から謹慎は明日からと予定を聞き帰ってゆく。

 そして、彼女が見えなくなったら二人が話し出す。

 

「十千屋…謹慎はそれだけじゃないのだろう」

 

「えぇ、箒にはカウンセリングが必要だと思います。じっくりたっぷりと」

 

「あぁ、アイツが暴走するのは織斑への恋心だろうが…少し行き過ぎを感じるな」

 

「はい、自分は幸せだった過去への執着のようにも思えます」

 

「ほう…」

 

 十千屋は箒の一夏への恋心の暴走は何か有るはずだと勘が言っていた。自身の歪みや特殊な身の上が多い義娘たちからの経験である。

 彼女の過去を調べてゆくうちに、彼女が一夏に対しての思いが恋だけではないと予測するようになった。

 幼い初めての恋をして、幸せな日々を感じていた矢先の要人保護と言う名の一家離散。無論、それは一夏との別れも含まれる。一人だけとなった彼女を支えたのはきっと一夏への恋心とそれに付随する幸せな過去だったであろう。

 十千屋が調べた内容では政府は要人保護のアフターケアを行っていないように感じた。それ故に自分の想い人で有り、良い思い出の象徴である一夏に執着するのだろう。

 そんな彼女に必要なのは今と過去の区別をつけさせ、その象徴である一夏をどう思っているのか、どうしたいのか、どうして欲しいのか、と心の整理を付けることだと思う。

 謹慎はそんな彼女にはちょうど良い機会であった。一人で考えられるし、いつものメンバーが居ない状態だからこそ吐き出せる何かがあるかもしれない。

 IS委員会は箒になにかした時の篠ノ之束の報復を恐れて何も触れないようにしたいだろうが、んな事知ったこっちゃねぇ。彼は自分の子供でないが、子供を心配し行動するのは親の特権であり、幸せを願うのは当たり前のことだ。

 それ故にこの謹慎令を聞きつけた時、実行するように理事長と千冬に頼み込んだのである。

 

「まぁ、私としても知人の妹が道を踏み外すのは見たくはない。その予防としては分かるが…

 余り無茶な要望はしないでくれ」

 

「そうは言ってもこれから大変ですよ。自分と一夏と言う厄ネタが有りますし、

 IS学園と言う特殊環境下に置いては一般生徒へのフォローも必要になってくると思いますしね」

 

「貴様…十千屋夫人をカウンセラーとして組み込んだのは、こうした理由からか」

 

「必要でしょう?学園の過去の記録や現状を見ると心のケアは余り…みたいですし」

 

「ちっ、貴様は嫌になるほど有能だな。いっその事、今からでも教員として組み込むか」

 

「お断りします。自分が面倒見られるのはバカ(一夏)とその周りで精一杯です」

 

 大人たちの思惑を後にして、箒は謹慎と言う名のカウンセリングを受けることとなる。その主治医を務めたのはリアハであったが…カウンセリング後、ハイライトが無い目で十千屋にお願いしてきた。

 

「ねぇ、ユウさん?お願いがありますの?」

 

「お、おう…?」

 

「うふふふふ、踊って貰いますね。女権団体さん?」

 

 どうやら、アフターケアせずに逆に尋問や軟禁状態にしていた要人保護の政府関係者はリアハの逆鱗に触れたようだ。その後、その関係者はどうなったかは誰も知らない。知りたくもない。

 

 

 

 こちらは一夏と鈴、今二人は人通りが無い校舎を歩いている。とある放課後に鈴が一夏を強引に連れ出しここへ連れてきたのだ。

 

「なぁ、鈴。何処まで行くんだ?」

 

「そうね。もうここら辺でいいわね。じゃ、お話しましょうか」

 

「 ? 何をだ?」

 

「あ、相変わらず鈍いわね!この前の試合よ!勝負よ!決着!!」

 

「あぁ!それか!」

 

 どうやら鈴は事件が起こった時の互いにケリを付ける為の試合について話したかったようだ。ここまで連れてきた理由は二人だけの内容だからだろう。それに他人に聴かせるような話でもないのだし。

 

「でもなーあの試合、無効だってな」

 

「まあ、そりゃそうでしょうね…」

 

 一夏はどうしようかなぁと上の空になり、鈴はそこらへんの壁に寄りかかる。

 

「なぁ、どうする」

 

「どうするって、何をよ」

 

「いや、勝負の決着はどうするかってこと。次の再試合は決まってないんだろ?」

 

「あぁ、そのことなら別にいいわよ。事の発端のアレは試合前に互いに謝ったし、

 この勝負ってどちらかと言うとケジメ付けだしね」

 

「そうだな」

 

「どうしても気持ち悪いってんなら、個人的に受けて立つわよ?」

 

「いや、止めとくよ。そんな気分じゃねぇや」

 

「あら、奇遇ね。あたしもよ」

 

 乱入され事件が起こり互いに不完全燃焼であったが、でもケジメは付いた。これが二人の結論であった。互いの胸中が同じだと分かると同時に苦笑が漏れる。ここにはもう、意地を張って喧嘩していた二人の姿はなかった。

 

「なぁ、鈴…ちょっといいか?」

 

「あによ」

 

「師匠に絞られた時に思い出せたんだけどさ。あの約束って…

 『毎日味噌汁を~』ってニュアンスだったのか?」

 

「うぇ!あ、あの…ええとぉ・・・」

 

「何どもってるんだ?」

 

「違う、違う!アンタの考えすぎよ!」

 

「そうか?そう言うんだったらそうなんだよな。俺の考えすぎか。

 なら師匠が想像した『忘れないで』系の感じか」

 

「そうそう!やっぱり気のあった友達と別れるのって嫌だったのよ!!」

 

 あぁ、哀れ乙女・・・・この朴念神が正しい意味でようやく理解したと思ったのに、気恥しさからつい誤魔化してしまった。こんな千載一遇のチャンスを棒に振った彼女は脳裏で自分を罵倒し続けていた。

 覆水盆に戻らず、このまま話は進んでしまうのである。

 

「やっぱり師匠って頼りになるな。俺の考えじゃ合ってなかったもんなぁ。

 ん?じゃあ、なんであんなに不機嫌になったんだ?」

 

「あ、アンタはもうちょっとデリカシーを持ちなさいよ。久し振りに会った親友なのに

 凄く嬉しそうにしないし、あたしの知らない連中に囲まれて随分と楽しそうだったじゃない」

 

「あ、う…わ、悪ぃ」

 

「はぁ、本当に朴念神ね。まあ、これからも頼むわよ一夏(親友)

 

「あぁ、頼むぜ(親友)

 

 その後、二人は離れていた間変わったことを話しをする。鈴の両親の離婚や今度昔の仲間で遊びに行こうかなど、他愛もない話で一喜一憂していた。

 そこそこいい時間になった時に別れたが、鈴はすぐ傍の曲がり角で頭を抱えた。理由は無論、先ほどのことだ。

 

「(あぁああぁあ!?あたしのばぁかぁああ!!!そこは素直に頷きなさいよ!!

 《素直になれ》ってアイツの言った通りじゃないのよぉお!!)」

 

「そうだな、素直に言えば何馬身も抜けられたのにな」

 

「そう、そうなのよ…はっ!?」

 

「あえて言おう…この ヘ タ れ

 

「何でアンタがここに居るのよ!?」

 

「歩きで船に戻る途中、お前らが見えたんでな。発破つけたのは俺だし、後を付けてみたんだよ」

 

「まさかのハナっから聞かれてた!?」

 

 チャンスを不意にして身悶えている鈴に十千屋が話しかける。どうやら彼は最初から一夏との会話を聞いていたようだ。その評価は…ヘタれずにもっと頑張りましょう、である。

 その事実に彼女は顔を真っ赤にして抗議する。

 

「仕方ないじゃない!朴念仁特有の不意打ちのクリティカルよ!?どうしろってのよ!!」

 

「いや、頑張って受け止めろよ」

 

「あぁ!もう!アンタはどうだったのよ!!」

 

「どうって?」

 

プ ロ ポ ー ズ (告白)!!奥さんがいるんだからした事あるんでしょ!」

 

「…参考にならないぞ」

 

「あによ、それ」

 

 淡々と受ける十千屋に対して鈴は逆ギレし、彼がどんなプロポーズをしたのか問いただす。しかし、その反応は歯切れが悪く、顔はあらぬ方向に向いて唯一素肌が見える首は真っ赤であった。

 

「小学生くらいの頃、リアをいじめる奴らの目の前で…リアの唇を奪って『俺の女』宣言した」

 

 「本当にレベルが違いすぎて参考にならない!?」

 

 答えが斜め方向に成層圏を超えていったので、鈴は思わず声を張り上げてしまった。まさか、そんな幼い頃にあらゆる意味でレベルが高い告白していたなんて…と。

 謎の敗北感に打ち拉がれる鈴に、照れ隠しなのか首筋を掻く十千屋が声を掛ける。

 

「まぁ、頑張れ。恋する乙女。贔屓することは出来ないが、応援はしてるぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「あと…な」

 

「なんですか?」

 

「近いうちに甲龍を見せてくれないか?気になる事があってな」

 

「え、あ…はい。それくらいだったら」

 

「ありがと。まぁ、頑張れよ。またな」

 

 十千屋はそう言うと、去っていった。それと同時に一夏が入れ違いにやってくる。

 だが、鈴の目には何かが宿っていた。

 

「おーい、鈴!お、ラッキー。ココに居たんだな?お前の小銭入れ拾ったからさ。

 明日でもいいと思ったんだけど、やっぱり今日中の方がいいかなって。あれ?師匠がいたのか」

 

「一夏…」

 

「なんだ?」

 

「アリーナに行くわよ…」

 

「へ?」

 

 鈴はユラリと立ち上がると一夏の腕を強引に掴んでアリーナへと向かう。彼は状況が分からず右往左往するが、聞こうとしても彼女から立ち上る様に見える怒気やら闘気やらに腰が引けてしまう。

 

「お、おい…鈴。アリーナはもう閉まってるぞ?」

 

「なら、明日ね。明日、あたしとバトりなさい」

 

「え?あれ?ケジメ付けのやり直しか?」

 

「違うわよ、戦って戦って鍛えるのよ!アイツに勝つくらいに!!」

 

 彼女の発言を聞き、その闘志にまたしても腰が引けてしまう彼。ついでに掴まれている腕には力が入りすぎて痛い。そんな事も構わず握りこぶしを掲げ鈴はある発言をする。

 

「ふっふっふ…待っていなさい、十千屋雄貴!アンタを必ずブチ倒してあげるわ!!」

 

 その後、どんな相手にも戦いを挑み自らを高める彼女の姿があった。どんなに相手が強くても戦いを挑まずにはいられなくなった彼女の事を人はこう呼ぶ…戦闘狂(バトルジャンキー)と。

 

 

 




はい、《二人目の幼馴染編》は次の教師サイドの話をすればほぼ終わりです。

鈴ちゃんは……戦闘狂(バトルジャンキー)になってしまいました。
いや、ちゃんとフラグっぽいモノは書いておいたんですけど…バトジャンの鈴ちゃんはアリですかね?
もしダメだったらセカン党の皆様方…どうもすみません(汗

その後は…ニンジャの言っていた、たっちゃんの濡れ場(仮)でも書こうと思いますが・・・ちゃんと、表に載せられるモノを頑張って書こうと思いますが……裏に完全R18のを作ってら読んでみたいですか?
いや、妄想だと完全に3●状態なんで…(汗 性欲を持て余すby.スネーク

でも、これで《二人の転校生編》に入れる目処が見えました。
そこでも頑張らなければ。

設定集:更新しました
17.5/16:チェーロ・プニャーレのプロフィールと、ほか細かい所追加

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA21ss:('∇^d) ナイス☆!!トゥーミーチュー!!

はい、サブタイトルは巫山戯てますが…内容はシリアスです。
暗めです。ちょっとアレな内容もあるので嫌な予感した人は戻ってどうぞ。

では、どうぞ御ゆるりと。


 私たちには分からない闇の世界があると言う。

 暴力と凄惨で死に満ちる世界が、ほんのズレた所にあると言う。

 表では平和に見えてもその裏では一体何が蠢いているのだろうか。

 

 

 千冬は事件が起きたアリーナの映像記録を何度も見返していた。異形のIS、いやIS()()()()()。現段階でのISの常識が通用しない謎の機械である。

 ここは学園の地下50メートル、その場所はレベル4権限を持つものしか入れない隠された空間であった。その空間にその主となっていた千冬の断りを入れ、山田先生が入ってきた。彼女の用事は謎の機体の解析結果を伝えるためである。

 

「あの機体の解析結果がでました。その結果は無人機であると判断されました」

 

「そうか、ご苦労だった」

 

 無人機-まだ世界中で確立していない技術。遠隔操作(リモートコントロール)独立稼働(スタンドアローン)はたまた両方か、そんな技術があの機体に使われている。その事実は、すぐさま学園関係者全員に箝口令が敷かれるほどだった。

 そのような思考を千冬は繰り広げている間にも彼女からの報告は続いていた。

 

「どのような方法で動いていたかは不明です。織斑くん達の止めの攻撃で

 機能中枢が焼ききれていました。修復も、おそらく不可能だと…

 ただし、不可解な点が多いのも事実です」

 

「なに?」

 

 千冬は山田先生の報告はほぼ予測通りであったが、不可解な点というのが気に掛かり反射的に聞き返した。

 

「中枢と思われる部分が二つあったんです。

 ISコアらしきモノと情報保全の為でしょうか?自壊した有機型コンピュータらしき物が」

 

「成る程、それは不可解だな。ISにはコア1つあれば十全に動く。

 わざわざ複数付ける必要がない」

 

「はい、コアはコアらしくなく。コンピュータの方は…

 言いたくないんですが「脳細胞のようだった…だろ」はい…!?」

 

「誰だ!」

 

 山田先生の言いよどんだセリフを続けるように声が被せられた。その内容に意気消沈している彼女だったが…すぐに第三者の声に驚く。千冬もその声に身構え正体を問いただした。

 声の質からすると男性で方向は出入り口の方である。二人共そちらに目を向けるとこの場に居てはいけない人物が居た。

 

「えっ、え!?何で此処に居るんですか!」

 

「どうやって入ってきた…十千屋!!」

 

「無断侵入は謝ります。あまり聞かれたくない情報を持ってきたので、

 期を見て潜り込ませてもらいました。あと、セキュリティを見直したほうがいいみたいです。

 セキュリティ・ホール(抜け穴・裏口)が結構見つかりましたよ」

 

 その人物とは、十千屋であった。謝罪の意思を感じる声色で彼女らの席の近くに近づいてくる。しかし、ある程度近づいたらそこで千冬が押しとどめた。その目には敵意や不信感を感じさせる。

 

「それ以上近づくな、もし近づくのであれば・・・」

 

「分かってます。ここら辺であれば距離としても十分です。聞かれる前にお伝えします。

 私の目的は今回の件の情報の共有とさきほど言いましたけど、他の件も含めての謝罪です」

 

「他の件・・・ですか?」

 

「私達にとっては事後承諾である《偽情報での釣り》の件の事か」

 

「はい、それに関しての謝罪は私と・・・もう一名居ります」

 

「もう1名、誰のことなんでしょうか?」

 

『('∇^d) ナイス☆!!トゥーミーチュー!!マイッベストフレンド!ちーちゃぁあん!!

 束さんこと篠ノ之束さぁんっだぁよぉお!!』

 

 「「ブゥッ!?!」」

 

 十千屋は何時もの見えない表情で苦笑しながら目的を話す。その話の中で不可解なことを言いだした。今この場にいるのは3人だけ、それなのに1人だけの彼は謝罪を述べるのはもう1人居ると言いだしたのだ。

 その事で首を傾げていた教師組であったが、彼が何処からか取り出した肖像画くらいある巨大なタブレットから一番ありえない声が響いた。声の主は篠ノ之束-千冬と同じく世界を変えた人物で、世界中から狙われ行方を晦ました大()()、千冬にとっては親友(腐れ縁)である女性だ。

 余りにも意外と言うか有り得ない人物の登場に教師組はつい吹いてしまう。十千屋はその様子に諦めた雰囲気を醸し出し、巨大タブレットを遺影のように持っていた。

 

「映像は通信だろうが・・・なぜこの場にいる束!それよりも・・・十千屋っ、

 コイツとはどんな関係だ!?」

 

『工エエェェ(´д`)ェェエエ工、コイツ扱いは酷くないちーちゃん。大親友の束さんだよ~?

 あと、とーちゃんとは技術者としての縁から始まったヌップリと深い関係だよぉ』

 

「あの、織斑先生・・・篠ノ之博士にツッコミを入れるのを後にして貰って良いですか?

 このままだとコントが続きそうな予感が」

 

「まてっ、これだけは聞かせろ。技術者としてと言ったな。それはどんな意味だ」

 

『あー、ISとFAって実は人間で言うと血縁関係と言うか、

 最低でも一緒の家系図に載ってるような関係なんだよ』

 

「おい、初めて聞いたぞ束」

 

『(・3・) アルェー?ちーちゃんに・・・そういや教えたことなかったっけ( ̄▽ ̄;)』

 

 そこから始まった束が語るISとFAの関係の一端、ISとFAは同じ心臓(エンジン)を持つ兄弟である。ISはコア、FAはユビキタス(U)エネルギー(E)・システムという超小型・高効率のエネルギーシステムが心臓部となっている。

 その原材料は十千屋が幼すぎる頃に発見した(チートによるシミュレーション結果)《T結晶(クリスタル)》と言われるものだ。これは結晶配列によって攻防様々な特性を持たせることができるのだ。それを使っているために束はISとFAを血縁関係と言ったのである。

 今まで隠れていた事実に教師組は驚愕する。それが事実であるならばISもFAも同じようなものではないかという事だ。しかし、今はそこを論議する時ではない。

 

「くっ、色々と聞きたい事は山ほどあるがお前らの用件とやらを先に済まさなねばならないか」

 

「はい、お手数をおかけいたしますが、ありがとうございます。」

 

『流石ちーちゃん、イケメ~ン(*´ω`*)』

 

「(耐えろ堪えろ耐えろ、今は我慢の時だ・・・私!)」

 

「あ、あははは・・・」

 

 さてようやく軌道修正され、本件が始まった。十千屋の謝罪はまず、偽情報の作戦はどうしても秘密裏に進めなくてはならなかった事とアリーナ側の襲撃がイレギュラー(想定外)だった事だ。

 本来であれば、十千屋の試合の時に束が作ったISを襲撃させこの学園の・・・特に学生の危機感と現実を煽る予定であった。そう思わせたのはIS学園の生徒たちのISへの認識だ。

 上の学年や代表と候補生などはISの現状-兵器としての認識を持っているが、今年入ってきた新入生はその認識がほぼ無い。ISをエリートの証だったり、とても素敵で無敵なコスチューム扱いだ。

 その事実に彼はどうにかした方がいいと考え、理事長と相談し今回の作戦に踏み切った。ついでに不穏分子を釣り上げる一石二鳥の作戦のつもりであったのだが、嘘から出た真・・・本当に襲撃が起こってしまったのである。

 しかも・・・

 

『いや~待機していた束さんのISで5機中2機を食い止めなかったら危なかったよ~( ̄◇ ̄;)』

 

「しかも、それを鹵獲して調べると・・・こちらの奪われたUEシステムとその劣化版、

 そして篠ノ之博士の超劣化ISコアが出てくるんですから。あ、非人道システムもあった」

 

「おい、聞き捨てならん単語が次々と出ているのだが・・・」

 

「え、アレがもっといたんですか?あれ、超劣化コア?へ、奪われていたUEシステム!?!?

 うぇ?えぇ!?」

 

 次々と明らかになる、あからさまにヤバイ情報のせいで教師組は頭を抱えたくなる。実際に山田先生は話についていけなくなっている。

 順に整理してゆこう。謎の機体は本当は5体あり、それうち束が2体押しとどめた。次に謎の機体の正体を調べると彼女や十千屋にとって自ら処分するべき内容が膨大に含まれていた、ということである。

 

 奪われていたUEシステムは出荷後のFAなどから盗られたものだろう。そして、その劣化版は文字通りだが十千屋が仕掛けた保全仕様で完全なコピーができないように仕組まれている。

 UEシステムは半永久エネルギー機関の側面もあるので、彼が仕込みを入れたのは決して間違いではない。今の世界では色々と問題がある内容ゆえにだ。ちなみに他国向けのFA-UEシステムは最高出力を意図的に下げて販売してもいる。

 

 超劣化ISコアとは、束が資金繰りに困ったときに裏社会にバラ撒いた品である。別にハッキングなどで自らの資金を増やしても良かったが、面倒だったので欲しがる連中にかなり吹っかけて売ったのだ。

 元々、劣化コアは束が正規コアをどれだけ手を抜いてローコストで作れるか片手間で試したものだ。結果は自意識無し、進化なし、シールド不安定、PIC関係の力場発生機能はあるが何とか浮くくらい、しかもエネルギーはバカ食いするわ排熱は高いわ個体差が酷いわで散々な結果となった。

 だが、消費エネルギーと排熱問題をなんとかすればISモドキを作れる可能性があり、さらに超劣化の劣化だったらコアが作れるかも知れない出来であったのだ。その仕様に様々な裏組織が飛びつき最高値を争って買っていったのである。

 

 最後の話題の非人道的システムは、十千屋側から漏れ出したものだ。彼が個人的に集め、直属の部下として研究させている科学者(マッドサイエンティスト)が集まった研究施設、彼が魔窟(パンデモニウム)と呼んでいる場所から出たものである。

 その名はアレゴリー(A)マニュピレイト(M)システム(S)という。阿頼耶識システムと似たような神経ブッ込み型のシステムだが、こちらは機械から脳へ送られる信号を情報として処理できるという特殊な才能「AMS適性」が必要であり、阿頼耶識よりも複雑な他システムが必要である。

 そのシステムと伝達経路を表すと、人体に増設されたAMS→ 統合制御システムであるIRS→  専用制御システムFRS→ アクチュエータ複雑系ACS→ スラスター:モーター:バランサー と、やたら複雑で自らの体と認識する阿頼耶識に対して、こちらは機械の超絶技巧の連携で人間が望む複雑な動きを再現するシステムと言っていいだろう。

 このシステムが考え出された時にはもうすでに阿頼耶識システムが実施試験だけとなっていたのでボツとなった。が、その情報がどこかへと引き上げられた結果が今回使われたモノである。

 

 そして、これらをぶち込んで作られたのが謎の機体という訳である。

 

「くぅっ、まったく頭が痛い仕様だな」

 

「こっちはお腹が痛くなってきましたよぉ」

 

「最大の問題は未だ言っていないのですが」

 

「「まだあるのか(んですかぁ)っ!?」」

 

『さっきメガネ爆乳が言っていた《有機型コンピュータ》の事だよ』

 

 そう、今までの内容ではエネルギーユニットやその制御装置などしか出てきてない。肝心なそれらを動かす指示を与える演算ユニットが出てきてないのだ。

 謎の機体に搭載されている《有機型コンピュータ》・・・嫌な予感しかしない。

 

「先程も言ったとおり《脳細胞のようだった…》ではなく、本当に人間の脳が使われていました」

 

『そうそう、鹵獲した一体はブッ壊して手に入れんだけど、もう一体は手足をブチ切って

 手に入れたから自壊プログラムが働かなったから詳しく調べられたんだよ』

 

「その結果、脳細胞の状態からすると人間の・・・子供の脳だと分かりました」

 

「「・・・・・・っ!?」」

 

『正確には10~12歳くらいの子供だね。この時期は一番脳が良い状態だから、

 演算ユニットに仕立て上げるのにはちょうどいいのかも』

 

 今までで一番、ショッキングな事実に教師組は動揺する。千冬は握りコブシを震わせ山田先生は嘔吐きかかった。人の良識と倫理からすれば絶対許せない所業の塊、それがあの機体だ。

 山田先生は何とか気を取り戻すと束にある事を聞こうとした。

 

「あ、あの・・・篠ノ之博士・・・」

 

『うっ、ちょっとタンマo(TヘTo)』

 

「へ?」

 

 

《しばらくお待ちください》

 

 聞こうとしたが、束の顔色がうって変わり口を押さえて画面から消えるとウサギが走る動画に《しばらくお待ちください》のテロップが映り、3分くらいたったら彼女が戻ってきた。

 

「束・・・お前が体調を崩すとはな、明日は異常気象でも起こるのか?」

 

『ちーちゃんヒドイ(´ε`;) 束さんは確かに細胞レベルからスーパーハイスペックだけど、

 一応ちーちゃんととーちゃんと同じ人間なんだらか良くない時だってあるよ。

 ちーちゃんだって束さんと比べてアノ日が重かったよね?』

 

「よし束…斬る」

 

「「織斑先生!気持ちは分かりますが落ち着いて!?」」

 

「ちっ、山田先生…続きをどうぞ」

 

 束の不適切な発言にキレ掛かる千冬であったが、残る二人に押し止められ舌打ちしながら山田先生に続きを促した。

 

「え、ええと、一体だけ無事だったんですよね?何とか助けてあげられないんですか」

 

『助けるって…あの脳みそを?』

 

「は、はい!」

 

『ん~、確かに脳さえ無事だったら、

 束さんと魔窟の連中でアンドロイドの体作ったりとかできるけど…無駄だね』

 

「そんな!何とかしてあげられないんですか!?」

 

『あ~、メガネホルスタイン。もしかして勘違いしてない?

 あの脳みそはもうある意味人として死んでるんだけど』

 

「え…?」

 

「はい、篠ノ之さんの言うとおり…演算ユニットにされた脳を調べた結果、

 人格が崩壊しており人としては死んでいたんです」

 

『戦闘機械に仕立て上げた洗脳プログラムに侵食されてない部分を引っ張ってきたんだけどさ。

助けてとか 死にたいとか 殺してとか そんな事を永遠と呟いてこっちに全く反応しないんだもん。回復の余地無し(`ФωФ') カッ』

 

「そ、そんな…」

 

 処置の余地なし、この事実に山田先生の瞳から涙が零れる。優しい彼女にとって子供がただの兵器の部品として使われるという事実は許しがたいものであった。せめて何とかしてあげたいと思い束に頼んでみたがそれは無駄に終わった。

 唯一できるのは救う(殺す)事、一つの生命体として生きられないのであれば悪夢を終わらせてあげる事が唯一の救いだろう。

 泣き崩れそうになる彼女を千冬が支えてある事を十千屋に聞く。

 

「十千屋、お前の方はこちらよりもより調べられたのだな。

 ならば、コイツらを寄越した者ないし組織を調べられたのか」

 

「それは分かりません、それに繋がる情報は取れませんでした。」

 

「そうか…」

 

「ただ、調査した過程で裏社会はいま大きく揺れ動いている事が分かりました」

 

『烏合の衆が集まったり、食べて大きくなったりねぇ』

 

「そうか…いずれ近いうちに何かが起こるのかもしれんな」

 

 今回、唯一分かった事はコレが始まりに過ぎないという事であった。裏で動くうねりはやがて表にも伝わっていく、その時には何が起こるのだろうか。

 その時に中心にあるだろうものはISと十千屋、そして一夏だろう。

 

 

 その一夏なのだが…

 

「わ、私が優勝したら―――つ、付き合ってもらう!」

 

「……はい?」

 

 乙女の宣戦布告に、何が起こって何を言われてるのか分からないという感じでマヌケ面をして答えていたのであった。

 




はい、今回は教師側と言うか裏側だったのでほぼシリアスでした。
ハッチャけた口調がデフォな天災がいなければ途轍もなく重い雰囲気になっていたかもしれません(汗

そして、ようやく…次の誰が待ったか待ち望んたか知りませんが、たっちゃんの濡れ場予定が終われば『二人目の幼馴染編』は終了します。
長かった…次のも合わせると、13話分かかったorz
あ、次の話で濡れ場っぽいのは、たっちゃんの一人称で書くつもりです。
あの、テレビとかであった曇りガラス越しの語り…みたいな感じで。

あと、六話であとがきで言っていた。
『原作ヒロイン勢の各ルートへは絶対に成らないつもり~』
が、「あれは嘘だ」になりそうです…
十千屋ファミリーに組みする事になると攻略要因になってしまうので…もし、ダメだと思ったら意見を下さい。(´Д`;)

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA22ss:水着は旧スクよ!(`・ω・´)

前回で言っていた通り、たっちゃんのアレなお話です。
描写はギリギリセーフだと良いのですが…(汗
筆者のチキンレースが始まる!?

では、どうぞ御ゆるりと。


 好奇心猫を殺す、と言う諺があるわよね?

 何故、いきなりこんな話をするかというとね…されちゃったのよ、私。

 殺されてないけど、いえ…飼い殺されたというべきね。

 全部奪われ、全部与えられた。そんな、粗末な話よ…今回は。

 

 

 ここは生徒会室、居るのは2名で今は珍しい光景がひろがっている。普段は仕事をしない生徒会長-楯無が一心不乱に仕事をしているのだ。

 ただし、ガリガリ擬音が聞こえるような勢いでやっているかと思うと、いきなりボスンッと音が聞こえるかのように顔が真っ赤になり、頭を掻いて振り乱しながら奇声を上げる。と、思いきや いきなり吹っ切れたような誤魔化したような感じで仕事に没頭する。

 それはまるで仕事に集中して何かから逃れたい一心のようであった。

 そんな様子を更識家の従者の一族であり、生徒会会計の布仏(のほとけ) (うつほ)は仕事の残りも順調に無くなってきており、何時もサボられているペースでも許容範囲内になってきているのでそろそろ落ち着かせるか、と行動に出る。

 

「楯無生徒会長…お嬢様、いい具合なので一息つきませんか?」

 

「ダメよ!虚ちゃん!!次の書類を持ってきて!!!」

 

「はぁ、お嬢様いくならんでも焦りすぎでは?そんなことではミスが出てしまいます」

 

「うぐぅ!?」

 

「もしかして、なにか嫌な…と言うよりも恥ずかしいことでも思い出したか、

 夢にでも観ましたか?」

 

「あ…」

 

「あ?」

 

「あうあうあぅーああぁああ!?!」

 

「おっと…」

 

 どこか暴走している楯無を虚が嗜めると、一気に何かが弾けたのか楯無は上体を反らしたのち机に向かってうつ伏せになった。そうなる前に虚はタイミングよく処理されていた書類をどける。

 うつ伏せたあと楯無はずっと謎の言語を漏らし続けた。この様子に虚は肩を落とすと、心当たりのある事を言ってみる。

 

「もしかして、十千屋さんの所に探りに行ったあと浴衣姿で朝帰りした時の事ですか」

 

「(ビクン!Σ(o;TωT)o)あうぁうぁ~(ToT)」

 

「はぁ、何を仕出かしたのか話してみてはどうですか?

 そうすれば少しは気が楽なるかもしれませんし、私は言いふらしたりはしません。

 寧ろ、聞かなかったことにしてあげます」

 

「(コクコクコク…)」

 

「分かりました。では、紅茶でも淹れてきますね」

 

 そう言って虚は紅茶を淹れ始め、楯無の前に持ってくる時には彼女は幾らか落ち着いており紅茶を啜りながらポツポツと語りだした。

 

 

 

(ここからは彼女-楯無の視点でお送りします)

 

 

 えぇ、アノ日…私は十千屋雄貴の事を直に探りに行ったのよ。第二男性装着者ととても珍しい人ではあるけど、背後関係を調べるとホコリどころか雪崩だったわ。

 ISの陰に隠れているけど、機動性は負けずISには出来ない量産性と人を選ばずに使える兵器-FAを取り扱っている企業、コトブキカンパニーの実質的な重鎮だったんですもの。

 しかも、私の家にも負けないくらい後暗い所が見え隠れしていたわ。学園の安全を任されている私にとって、不確定要素はどうにかしなければいけない。

 そんな訳で、いつもの調子で相手を空回りさせてイニシアチブ(主導権)を握ろうとしたのよ。彼が部屋と言うより拠点にしている船に潜り込んで、寝室で待っていたわ。

 

「は~い、ご飯にする?おフーローは~、終わってるわよね~。じゃあ、私にする?」

 

 男を(からか)うなら肌エプに見える、水着エプロンで待ち構えて新妻三択で揚げ足を取ろうとしたのよ。まぁ、最初はそっ閉じされたのは予測通りだったんだけどね。

あと、水着は旧スクよ!(`・ω・´)

 その次からが…ある意味、今までの私の人生の中の最大の汚点だったわ…

 

「あぁ、夜にいきなり『そちらの学園生徒会長が痴女的な格好をして、寝室に居るのですが

 どうしたら良いでしょうか』と十千屋夫人から連絡来たのはそのせいですか」

 

「ヴぇ?そんな事があったの…」

 

「はい、お嬢様。それで私は『最近調子に乗っているので、キズ物に成らない程度だったら

 ヤッても良いですよ』って、返したんですよね」

 

「虚ちゃ~~ん!?貴女のアナタのせいだったの!?私があんな目にあった諸原因は!!!」

 

 (ガックンガックン・・・)「お嬢様、あまり揺らさないでください。で、その後どうなったんですか」

 

「くぅ~、この屈辱は…えぇ、その後は―――」

 

 扉の前には居る気配はしてたから、また身構えていたのよ。でも、生で見ると傷跡とかの迫力があるわねぇ。闇夜でいきなりであったら山田先生だったら泣いてるわね。

 まぁ、それはさておき…またゆっくり扉が開いたから、次のネタを言ったの。

 

「私ですか?私ですか?そ・れ・と・も…わ た し?」

 

 いや~、私的には最大級の出来だったと思うのよ。タップリのあざとさとちょっぴりのエロスでいい塩梅だったと思うわ!でも、今にしてみれば…彼、ものスッゴク生暖かく慈愛の目で見てたような気がするわね。

 まぁ、セリフもポーズもバッチリ決まったままで固まってると彼がゆっくり近づいてきて、脇と膝裏に手を差し込んだのよ。後はわかるでしょ?諸曰くお姫様ダッコってやつ。

 有無を言わさず抱き抱えられてちゃって、初めてのパターンだったから思わずさっきとは別の意味で固まったわ。そして、ベットに優しく下ろされて…覆い被されちゃった。しかも、ご丁寧に動きを封じやすい感じでね。

 そしたら、耳元で優しく囁かれたわ。

 

「全く、色々と思って来たんだろうけど…そのやり方は相手を選ばないと、ダメだよ?」

 

「は、はぃいぃぃぃ!?」

 

「それに、夫婦の寝室に…互いに体を綺麗にして共に床に入ろうとする夫婦のやる事なんて、

 分かるだろ?」

 

「……////(ボシュ!)」

 

「男の寝床に入ってきたイケナイ子は、罰ゲームだ」

 

「え、ちょっ…ムギュぅ!?」

 

 えぇ、思いっきり抱きしめられて胸元に埋められたわ。しかも、しかもよ!彼はタオルガウンだったからいつの間にか帯び取っていてほぼ全裸状態だったのよ!しかも、こっちはいつの間にかエプロンを取られてるし!?

 もう頭の中はパニックで真っ白…されるがままだったわ。頭撫でられ、頭頂部に顔を埋められて嗅がれたり、結構まさぐられたわね一番イケナイ所は無かったけど。

 でも、それよりももっとパニックになったのはアレよね…

 

「むぐむぐ…むぐっ!?むぅうう!!?(え、ちょっと!?お腹のらへんで

 何かが大きくなってる!?アレっと言うか何!?じゃなくて、ナニ!?

 どんどん固くて大きくなって熱い!?!)」

 

「…仕方ないだろ?こんな可愛い子が扇情的なカッコして、それを抱きしめてるんだから」

 

「むぐ!むぐ!?むヴぅううう!?(キャ!?キャアアアあああああ!?)」

 

 はい、未確認物体第一次接触です。もう、見えないのに体をピッチリくっつけてるのにそれを割って押し上げるナニかよ。もう、貞操の危機よりも未知への恐怖で一杯だったわ。

 まぁ、直ぐに助け…じゃないわね。次のステージへの中継ぎだったのよ、それは。

 

「ユウさん、何をしてるんですか?」

 

「ん?イタズラ猫会長へのお仕置き兼俺が楽しんでる」

 

「むぅう!(来た、助けが来た!)」

 

「もぅ、ユウさんたらっ!許可が下りたから私も楽しみます!!」

 

「むぅぅう!?(違った!引導引渡しだったぁあ!?)」

 

 もしかしたら、十千屋さんだけだったらあのまま抱き枕状態で済んだかも知れないわね。彼の奥さん、リアハさんだっけ?かなり過激だったわ。

 いつの間にか横向きになってた私たちなんだけど…ピッタリと身を寄せ合っていたのになぜか私だけ亀●縛りに縛り上げられていたのよ!そこからが本番の前哨戦なの。

 縛られたけど解放された私は、腰に手を当てられて寄せられながらしなだれかかる十千屋夫人-リアハさんを目にしたのだけど…凄い犯罪臭がするのよね。

 互いのガウンは帯を取ってほぼ全裸、身体中傷だらけの大男が少女にしか見えない女性を侍らしてる。頭の片隅でうぁ…って思ったのは決して間違ってなんかいないわよ。

 

「さて、生徒会長さん…う~ん、たっちゃんって呼ぼうかしら?

 これから貴方への罰ゲームを始めるわね」

 

「ふ、ふふ…何をするつもりかしら?」

 

「更識さん、真っ赤にして引きつった顔で言っても凄味はないんだが」

 

「う、うるひゃい!誰のせいでこうなっていると思ってんのよ!」

 

「まぁ、それは置いとくとして。たっちゃんって経験あります?

 ストレートに聞くけど…処女ですか?」

 

「な、なぁにを言ってるんですか!?」

 

「うん、ヴァージンですね。良かった」

 

「何が!?」

 

 アレな質問に声が裏返ったわね。何を聞いているんだこの人はと思ったのだけれど、次の言葉で私は言葉を失ったわ、行き成り『性教育』を始めるって言うんですもの。

 何故かって聞き返すと、私の家が対暗部用暗部だからってハニートラップの勉強もした方が良いんじゃないかとかほざき出したのよ。

 だから、男女の交わりを生で見て感じてさらに…

 

「色んな所が処女でも、男の人が満足できる作法も教えてあげますから実施で。

 …でも、やっぱりお尻の方を使えた方がいいのかしら(-.-;)」

 

「o(TヘTo) No!絶対にノゥ!一般的ヴァージンを散らすのも嫌だけど!

 アブノーマルの方も散らすのもイヤァーー!!」

 

「う~ん、流れで決めていく事にしましょうか?」

 

 で…遂に始まってしまったのよ。映画のアレのシーンみたいに先ずはキスから始まってだんだんディープに、互いの体をまさぐって…しかも、こっちに見せつける様な位置取りで続けてゆくの。

 はっきり言ってインモラルだから、目を背けたり何とか逃げ出したりすればいいのに目が離せなかったわ。

 

「なるほど、初めてAV(アダルトビデオ)を見た少年少女のようなものですか。

 結構衝撃的なんですよね、アレって」

 

「そんな例え要らないわ!って、虚ちゃんAVを鑑賞したことあるの!?」

 

「まぁ、それはさておき…直に見ただけでは先ほどの反応にはなりませんよね?」

 

 えぇ、遂に繋がる所からますますヒートアップしたわ。わざわざ私の顔の前で実況付きで接合して、じっくり始めたのよ。動きが目に焼き付き、臭いが鼻に付き、音が耳に残る…はっきり言ってもう現実感がなかったわね。

 そして、リアハさんが何を思ったのか一旦抜いて、寝っ転がったら私の頭をお腹に置いたの。そしたら、また続きが始まったのだけれど、彼女の肉越しに彼のモノを感じたわ。

 先程も見えていたけど、小柄な彼女には元々大きい彼のはキツイのよ。だから、うっすらとお腹に浮かび上がっていたんだけれども、今はそれを直に感じるの。体液を掻き回す音も彼女らの熱さも全て。

 今もずっと真っ白だった頭だっけど、終わりがきたわ。まぁ、スれば出るわよね…アレが。

 ボーッとする頭で終わったと思ったら…違ったわ。十千屋さんが寝転がり、彼女が受け止めたアレを垂らしながらウェットティッシュで彼のモノを拭いて、私の縄を解いて招いたの彼の腰元に。

 場面、場面が目に焼き付いてしまっているけど、目の前でそそり立つナニかは本当に衝撃的だった。呆気に取られている私の手を彼女が取ってソレを握らせたのよ。

 

「(や、やっぱり大きすぎない!?熱い!?硬い!?あ、でもけっこう弾力があるかも)」

 

「どう?ユウさんのって、やっぱり立派なんですって」

 

「あ、あぅ…」

 

「ふふ、じゃあ…ここからこういう風に握りながら……」

 

 見学が終わって次は実践なの。手でスったり、

 

「水着に穴開けてごめんなさい、でも…いいなぁ。私の大きさだと不可能なんですもの」

 

「(し、下からこっちへ突き抜けて…目の間に出たァ!)」

 

 胸で挟み込んだり、

 

「そう、しっかり太ももと付け根で挟み込んであげて…ん~湿り気が足らないかしら?

 んん、んあぁあ~」

 

「(彼のと私のとがピッチリキツキツ!?あぁ、そんなに垂らさないで~)」

 

 デルタゾーンに挟み込んだりしたわね。その合間合間に優しくゆっくりと愛撫されながら色々ヤらされたし、ヤられたわ。あ、でも…キス系と口でするのは止めてくれてたのかしら?まぁ、目の前でじっくり見せられたんだけど。

 彼のが何度も私達に降りかかって、私たちも自らのでヌルヌルになって、いつの間にか水着も脱がされてたし、絶頂()くたびに子供を褒める様に優しく褒めてくれて…本当に頭がどうにか成りそうだった。

 

「そして、お嬢様は…みさくら語を垂れ流しつつアヘ顔Wピースをしたと」

 

「ソコまで酷くないわよ!!せめてなんとか、『トロ顔 らめぇ…』くらいよ!

 って…なに言わせてるし、なにを言っているの!?」

 

「で、その後はどうなったんですか?」

 

「もうヤダ!この従者の今までのイメージが可笑しくなってるの!?」

 

 もうやだ…本当にヤダ。はぁ…色々と気力とか諸々が抜けてグッタリする私を優しく介護してくれて、お風呂で体を洗ってくれたあとは十千屋さんとリアハさんに挟まれてというか添い寝された所で記憶が無くなってるわ。

 唯一覚えているのは、凄く安心感があったこと。まるで子供の頃に戻って両親に愛されながら眠りについたような、そんな感覚ね。

 で、朝は来るものだけれど…今までの事がフラッシュバックして正常に頭が働かない私に、船に備えてあった浴衣を着せてくれて何か持たせてくれてから寮の近くまで送ってもらったのよ。

 

 

 

(これを持って彼女の回想は終わります。お目汚し失礼しました。)

 

 

「それで待っていた私を見た瞬間に張り詰めていた糸が切れて、泣きついた訳ですか」

 

「うぅ、もう本当に最初から最後までもう、いやぁあぁあ!!」

 

「はいはい、ある意味で辛かったですね。まぁ、こうして話せるのならば

 トラウマになってなさそうですし、羞恥心はいずれ時間が解決してくれます」

 

「はぁはぁ、それにしても虚ちゃん。反応からさっするにこの手の話は慣れてるのかしら」

 

「まぁ…その手の教育は、更識家と布仏家の暗黙の了解の(たぐい)のせいでしましたし」

 

「え、何それ。私知らないんだけど」

 

「あら?知らないんですか」

 

 虚の語る内容はこうだ。更識家も布仏家も昔から有り、アレな家系でもある。そのため現代日本の世間一般から見れば少々古い風習やら何やらが多数ある。その中の一つが『専属従者あたりだったらお手付き有り』という現代社会では大分アレな暗黙だ。

 その為、布仏の家では少し早めの性教育が行われてきたのである。

 

「(゚д゚lll)えぇ、マジ?」

 

「はい、今代の楯無(当主)はお嬢様-女性ですし、今の風潮は女尊男卑ですしね。

 其処ら辺は伝えなくても良いと判断されたのではないでしょうか」

 

「本当に知らなかったわ。あれ、もしかすると…あの本音ちゃんも?」

 

「そうですね。本音も受けましたよ。寧ろ、私よりも純粋にのめり込んでいましたよ?

 『好きな人が出来たら、思いっきりイチャイチャするやり方が分かって役立つ』と」

 

「うわ~、なんか昔の世代の歌詞を思い出すわー。

 《可愛いフリしてあの子 わりとやるもんだねと》って」

 

「何となくわかります。あぁ、今は無いですけど更識家の分家も

 その関係の人の集まりだと聞いたことがあります」

 

「分家か…ねぇ、私が物心着く前に断絶したって話は聞いたことがあるのだけれど」

 

「はい、私もそのように聞き及んでいますが、それ以上の事は申し訳ございませんが…」

 

「いえ、少し…ほんの少しだけ気になっただけよ。」

 

 楯無は不意に出た分家の話になると少し遠い目をする。その様子に虚は気に掛かるが、彼女は微笑を混じえて誤魔化してしまった。

 

「さて、いろいろ話したら落ち着いたわ。残りのお仕事もこなしてしまいましょう」

 

「お気が戻られてなによりです。では、続きを持ってまいります。

 今回はいつもより()()()スムーズに終わりそうです」

 

「ねぇ…なんか言葉に棘があるように聞こえるんだけど?」

 

「いつもこのように素直に仕事をこなせば生えませんが?」

 

 虚の辛口に口を引きつらせて苦笑する楯無。主人と従者の関係ではあるが、それとは別かそれ以上の絆を持っている二人なのである。

 今回の話はいつもより仕事が捗った生徒会室の一幕であった。

 ちなみに、虚の方が年上である。楯無は二年生、虚は三年生・・・彼女が卒業したら誰がこの生徒会の秩序を守るのだろうか?

 

 

 

~おまけ:袋の中身は?~

 

 

「そう言えば、あの時持たせてもらった袋の中身確認してないのよね」

 

「まだされてなかったのですか?お侘びの生菓子とかであればちょっとマズイですね」

 

「そうね、気になるし直接ココに持ってきて確認しようかしら」

 

「お嬢様…そのまま逃亡してサボらないでくださいね」

 

「流石に気分じゃないわよ」

 

 

―数分後―

 

「さて、中身は…」

 

 中身は一部を切ってしまったあの旧スクと、それの侘びだと思われる新品が入っていた。他にも侘びの菓子ではなく、ちょっといい紅茶などであったが…次からはアレなものばかりであった。

 

「『ふたりの●ッチ①~③ 以後続刊は買ってね』だそうです」

 

「こっちは…え、『四八手解説書-3Dモデル付』なんなのよコレ(^_^;)」

 

「こちらは…コンドウさん?」

 

「この箱は…ひえぇー!?」

 

「お嬢様!?」

 

 〔熱い!ビクつく!発射する!リアルDX(デラックス)魔羅様(マーラさま)『モデル協力(強制)十●屋』!!〕

      〔アレの色と味と臭いまでリアルに再現したローション付〕

 

「いわゆる張子と言うヤツですね」

 

 「うわ…本当にリアル(精巧)に作られてるし……」

 

「お嬢様?」

 

「(;゚Д゚)!わひゃ!?な、なに?」

 

「最後はお手紙のようです」

 

「な、何かしら?」

 

 手紙の内容はこうだ。

『たっちゃんへ、

 男性を満足させ意のままに操るには修練が必要です。

 そのための御教材を僭越ながら御用意致しました。

 もし、分からない事があったらいつでも聞きに来てください。

 私が手とり足とり、ユウさんナニとり教えてあげます。

                    リアハ=A=十千屋より』

 どうやらリアハが変に気をきかせて、ヤリ過ぎてしまった侘びの品と…教育の為のグッツを用意したらしい。

 この手紙の内容に二人は呆気に取られるが、虚が口を開く。

 

「お嬢様…」

 

「な、なによ」

 

「使います?」

 

「はぁ!?何言ってるのよ!?」

 

「いえ、あの件の後…悶々とムラムラして寝れなかったり、

 寝付け辛そうだったとお嬢様の同室の方が仰っていらしたので」

 

「う…」

 

「う?」

 

 「虚ちゃんがイジメるぅーーー!!▂▅▇█▓▒░(TωT)░▒▓█▇▅▂」

 

 ウワァァ-----。゚(゚´Д`゚)゚。-----ン!と、こんな表記で書き表す事ができるような様子で楯無は生徒会室から逃げていった。その様子を見送った虚であったが、数拍してからある事に気が付く。

 

「あ、しまった。もう少しで仕事が終わりそうだったのに逃がしてしまいました。

 はぁ、誂かい過ぎましたね」

 

 そう言うと彼女は、紅茶は生徒会室に置いて残りは中身が見えないように楯無の部屋に戻す事を決めると、自分ができる仕事の分を終わらせに掛かったのであった。

 一方、逃げ出した楯無はと言うと…

 

「(´;ω;`)クスンクスン 確かに虚ちゃんとは気の置けない関係だけどさ、限度があるじゃないの」

 

「まぁ、普段の意趣返しもあるんだろうな。それよりも…」

 

チ~ン なに?」

 

「いや…まぁ、色々辛くなったらおいでとは言ったけどさ。アレからひと月も経ってないんだが」

 

 そう、彼女が逃げ込んだ先は船。つまりは十千屋の拠点であり彼の部屋であった。アノ一件の時に十千屋は夫婦でそう言ったのである。そして今は、楯無がベットに腰掛けている彼の足の間に体育座りしていた。

 

「確かにえっちぃ事はシたしされたしだけど、一人の女の子として子供として

 優しくしてくれるのって学園だと十千屋さんとリアハさんしか居ないんだもん」

 

「う~ん…(ーー;)」

 

「たっちゃん~、膝枕してあげますからコッチに来ませんか?」

 

「ヽ(;▽;)ノ は~い」

 

 広いベットに新たにリアハが来ると楯無を呼んだ。彼は解放されるかと思ったら、立ち上がった彼女に手を握られ引かれる。それを何かと思うと、彼女はこう言った。

 

「手…握っていて欲しいんだけど」

 

「…はぁ、分かった」

 

 楯無はリアハに膝枕され頭を優しく撫でられる。一方でリアハの隣に座った十千屋は彼女の後ろに手を通して楯無と手を繋ぐのであった。

 これ以降、たびたび楯無は十千屋夫婦に甘えに来るようになった。だが後に、妹との確執が解消されたが諸原因のせいで来る回数が増えたのはもっぱらの余談である。

 




はい、コレにて一応『二人目の幼馴染編』が終了しました。
場面展開は結構原作に近いので、次回は一夏の休日のお話です。
が・・・またちょっとシリアスなお話になってしまうかも?

さて、今回はいかかでしょうか?
なんとかセウトに成らずに済むことを祈ります(((゜Д゜;)))
あまり、興奮できるような直接描写は避け、たっちゃんのリアクションで楽しめるような文脈に結果的になりました。
そのおかげで随分とコミカルになったと・・・思いたいです。

完全R18は要望が高ければ検討したいと思います。なにせ、理想=筆者の描写力じゃないんですよねorz

まあ、それよりもコレがちゃんと通報されずに通るかが問題なんですが・・・


では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA23ss:十千えもんーーー!!!

はい、ようやく新章『二人の転校生編』が始まります。
後半を付けたら長くなってしまったのでご了承ください。

では、どうぞ御ゆるりと。


 理想を語るなら現実を知れ、誰が言った言葉だったろう。

 事実は一つ真実は信じる数ほど、これも誰だったっけ。

 まぁ、それはさておき理想と現実は違いすぎるのが世の常だ。

 でも、現実を知りつつも理想の為に頑張れるのは悪い事ではないはず。

 現実にも理想にも押しつぶされたり溺れたりしなければ。

 

 

 ある日の日曜日、学園はもちろん休日である。そんな日に一夏は久しぶりに学園に入る前の友人の所に遊びに行っていた。

 久しぶりに友人-五反田(ごたんだ) (だん)とゲームをやりながら近況報告をして友情を確かめていると、彼の妹-(らん)が昼食が出来たと呼びに来たのだが、

 その時に一夏が居ると初めて気づき、ラフな格好を見られ慌てて去ってゆく。

 ああ、此処にも居るのか一夏の被害者(フラグ建て済)は。

 

 さて、彼らは昼食をとる為に家の裏口の様な所から出ると表に回りそこには大衆食堂『五反田食堂』の看板がある。名前の通り弾の祖父が店長である店であり、実家でもある。そこに入ると昼食と服装を変えた蘭が待っていた。

 一夏が彼女に着替えたのかと聞くと、彼女はしどろもどろに成り答えられなかった。でも、その様子を見て彼はとある事が浮かび言葉にする。

 

「うん、理由は分からないけどさ。似合ってるよ。さっきのラフな格好も有りだと思うけど、

 髪を下ろしてワンピースと薄手のを着ると清楚な感じがして良いと思うぞ」

 

「あ…はい///」

 

「い、一夏が・・・一夏が女の服装を褒めただとぉぉとぉお!?

 

「煩いぞ!弾!!」

 

 ビュッ―――ガン!「あっがぁ!?」

 

 褒められた蘭は顔を赤くしながら惚けて答え、その光景を信じられなくて絶叫を上げた弾は祖父-(げん)の投げたお玉が直撃し轟沈した。

 が、直様に復活し一夏に問い詰める。

 

「お、おい!お前本当に一夏か!?俺の知ってる一夏は女の服装を褒めたりなんかしねぇ!

 もっと的外れな事を言う馬鹿な奴だ!!」

 

「おい、弾…お前の中の俺はどんな奴なんだよ。褒めたのは師匠に言われたからだよ。

 『女性が一部でも全部でも普段と変わった事をしたら、見て貰いたいモノがぼぼあるから

 ちゃんと褒めて評価しろ』って」

 

「し、師匠…?」

 

 一夏の変貌ぶりに動揺する弾であるが彼の言った師匠の指導のお陰だと知ると、行き成り椅子から降りて床に片膝をつけて祈りだした。

 その行動に全員、食堂に居る一般客もドン引きする。そんな彼を誰が声を掛けるか無言のやり取りが始まり一夏に全員の目が行って、彼は諦めて弾に声を掛ける。

 

「な…なぁ弾、何を祈ってるんだ?あと、師匠に関係するんだったら

 師匠はキリスト系じゃないぞ?」

 

「なに!?じゃあ俺はどうやって一夏が師匠って呼ぶ人(朴念神を正した英雄or神)に祈りを捧げればいい!?

 五体投地なのか!?よし!五体投地なんだな!!

 

「落ち着け!」

 

 ガッ!ビュッ――ガン!「ぐっへぇ…」

 

 何かを勘違いして五体投地を始めようとする弾に、一夏は正気に戻るように祈りながら渾身の力を込めてチョップし同時にまたお玉が彼に直撃した。

 その後、過激なツッコミから復活するのが早い彼は落ち着きを取り戻し、何か憑き物が落ちたような様子で椅子に座ったのである。

 ようやく落ち着いて昼食を食べ始めると、食事をしながらの会話内容が一夏のToloveる学園生活になり蘭が食いついてきた。彼はそうなる理由を分からずに受け答えするが彼女は意を決してある、セリフを言う。

 

「……。決めました。私は来年IS学園を受験します」

 

「はぁ!?お前何を言『ビュッ――ガン!』てぇい!?」

 

「え、受験するって何でだ?蘭の学校って大学までエスカレーター式で有名校なんだろ?」

 

「大丈夫です。私の成績なら問題ないです…て、どうしました?渋い顔して」

 

「一夏、迷ってるんだったらコイツを止めてくれ!この跳ねっ返…

 『ビュッ――ガガン!』連続はキツイ!?」

 

 行き成り蘭はそう言ったが、一夏は少し渋い顔をしてしまう。それに反応した弾はシューティングお玉を何度も喰らいながら妹の説得を彼に促した。

 彼の脳裏に過るのはこの間の乱入事件、そして…様々な傷跡が残る十千屋の姿であった。それらから連想するのは戦いの代償である。その為、彼はすんなりと頷くことが出来なかったのだ。

 

「あ、あの一夏さん…何を悩んでいるんですか」

 

「一夏…本当にどうしたんだよ?」

 

「あ~ん~…悪ぃ、俺からじゃうまく説明できないや。こういう話題やこういう時の最終手段!

 助けて!!十千えもん(師匠)ーーー!!!

 

 一夏は迷いに迷った挙句、十千屋に助けを求めた。彼の携帯に登録されている十千屋のプライベート番号を押して電話を掛ける。

 その電波は空と海を超え、十千屋の実家-ゲムマ群島首長国の一部であるアケノ島周辺、そこに在る十千屋家とアーヴァル家の共同所有の孤島にまで届く。

 十千屋は家族との昼食を終え、マッタリとした時間を過ごしていたが携帯の着信が鳴りその相手が一夏だと知ると気を引き締めて電話に出た。

 

「どうした一夏?緊急の用事か、それとも非常事態でも起きたのか?」

 

「すみません師匠、実はこういう理由で―――」

 

 十千屋は一夏から理由を聞くと受験したいと言った本人に代わって貰い、大きめのタブレットを持っているか聞いた。この問題は家族の問題にもなるので、家族全員と顔を見ながら話のできるTV電話で受け答えする事にしたのである。

 その話を聞くと蘭は家族共同のタブレットを持ち出し、ちょうど客足が遠のいてゆく時間帯だったので食堂の大きめのテーブルに集まる。

 

「行き成りですみませんでした。自分が一夏の師匠分であり一応の同級生、

 第二IS男性装着者-十千屋 雄貴です」

 

「…はっ、失礼しました!私は五反田 蘭です!他は兄の弾と祖父の厳、母の(れん)です」

 

「うぬ」「はい、よろしくお願いします」

 

ア、アーキテクトヘッド?なぁ、一夏…お前の師匠って」

 

「あ、うん。それには触れないでくれ。かなりキツイ傷跡を隠すものだから」

 

 いきなり写ったロボ頭の人物に驚くが、何故この様な話題に成ったかを聞き受け答えをするうちに、格好はともかくマトモな人だという事は知っている一夏以外理解した。

 質疑応答が終わると十千屋は少し悩んでこう言う。

 

「順調な進路の、突然の変更に驚いて押し止めるのは分かるが…

 進学の進路なんて俺が指し示すモノじゃないぞ?」

 

「いや、師匠さん。兄的にISに関わらなくても順調な進学を突然変更するのは止めますよ。

 多分、理由もコレ(一夏)ですし」

 

「お兄?」 「ひぇ!?」

 

「儂は蘭がそうしたいなら、どうこうする謂れはない」

「そうですね。蘭が決めたことなら私からもなんとも」

 

「…チクショウ、味方が居ねえぇ。って、一夏はなんで渋ったんだよ?」

 

 弾がそう言うと、一夏は最近の事で本当に親友の妹をこちら側に招いていいのか不安になったと十千屋に言う。すると彼も唸り声を上げて考え出した。

 その雰囲気に五反田一家は不安になってくる。すると、十千屋はこんな事を言いだした。

 

「分かった、進学の進路をどうこう言う筋合いは無いがIS学園に進むという事をどんなものか、

 俺視点で悪いが話そう。それから本当にIS学園に進学するか決めてくれ」

 

「はい…分かりました」

 

「と、言っても俺は余りIS親派では無いから否定的な事が多いからそこは注意するように」

 

 彼はそう注釈すると、IS学園…いや、ISへの進学へのメリットとデメリットを語りだした。

 

 メリットは、今一番熱い進路である事と超エリート街道であることだ。途中で脱落せずに進めれば一生安泰と言えなくもない将来を約束されるだろう。

 そして、エリート故に社会的ステータスも半端なく上等なモノである事だ。

 

 この事を聞いて蘭は目を輝かせるが、次からは悲惨の一言であった。

 

 デメリットは多岐に及ぶ、先ずは進学のさらなる先の進路である。IS学園は所謂、ISの《専門学校》である。故に卒業後の進路もIS一色に染まり限られる。

 IS学園で整備課に進んだ生徒は未だ潰しが効くだろう。整備科とはエンジニアなのでISを取り扱う職場なら必須であるし、その気になれば普通のエンジニアとしても就職が出来なくもない。

 が、ISライダーに限ってはそうはいかない。企業所属のテストパイロットらへんになるか、日本だと自衛隊()に進むしかない。しかもそれは全世界共通である。

 

 次は女性にとっての一番大事だと思われる結婚事情である。

 IS関係の人口比率はまんま女子専門学校の延長である。女尊男卑の世の中でその象徴であるISであるから自然とそうなるだろう。すると、職場に出会いはなくエリートである彼女達に男性は贔屓目感じて自然と遠のいてゆく。

 しかも女子高のノリでそのままエリートになるので自然と理想の男性像がレベルが高い事に成ってしまう。その結果、未婚の人口が増えているのだ。ちなみにこのデータはコトブキカンパニーの大元である、ナナジングループのブライダル部門の調査の結果である。

 

 次々と上がる事実に蘭はうちしがれてゆく。輝かしいと思ったISへの道がついでに一夏とのキャンパスライフが茨の道に見えるほどの内容であった。

 この内容に保護者である厳も蓮も悩み始める。弾だけはもっと言ってやれと息巻いているが。

 そして、最大の焦点に移った。

 

「まぁ、最大のデメリットを話す前に…蘭さん、貴女はISをどう思ってましたか」

 

「え?うぅん…え~と、カッコいいモノだと普通の人では届かない天上の何かだと思ってました」

 

「…一般的なイメージはそんなモノか。ふぅ、気を確りと持って聞いて欲しい」

 

 

―――ISは《兵器》だ―――

 

「え…?」

 

 一番のデメリット、それは今世界がISに求められている役割…《兵器》としての役目である。

 元は宇宙開発のためのマルチフォーム・スーツとして生まれ、今は平和利用や殺戮兵器としての運用を避けるための条約はあるが、世界が望むのは『既存の兵器全てを上回る超兵器』としての姿だ。

 467機中322機-実に七割近くが実戦配備されてるのがその証拠だろう。一般の人達には受け容れがたいがIS学園とはISを扱う兵士を育成する軍学校の側面も持っている。

 そして―――

 

「そして、ISライダー達は有事の際…戦闘に駆り出される事が決まっている」

 

「え…ウソ…」

 

「嘘じゃない。もしISと同等それ以上の脅威が現れた際、現段階の最強の《兵器―IS》を使うのは

 当たり前の事だ。世界で467機しかなく、使用でき戦えるのはISライダーのみ。

 矢面に立たされるのは当然の結果と言える」

 

「で、でもよぉ…一夏の師匠さん、必ずそうなるって事じゃないだろ?」

 

「可能性はゼロじゃない。それでは不服か?…俺はISとの戦いに入ったことがある」

 

「!?師匠!メットを取るのか!?」

 

 兵器としての事実に五反田一家に戦慄が走っている時、十千屋はその証拠としてロボメットを取った。傍から見れば巫山戯た格好になるロボメットの下から現れたのは有り得ない傷の素顔である。

 

 「ひぃっ!?」「うぬぅ…」「…っ!?」

 

 反応は人それぞれだ。小さく悲鳴を上げもの、息を呑む者、唸るもの、だが思いは同じ誰もが恐怖を感じるだろう。

 これに彼は一抹の寂しさを感じるが、言葉を止める訳にはいかない。

 

「兵士は戦争の矢面に立ち、敵を倒し殺す事が役目だ。

 …既に娘たちを修羅の道に引きずり込んだ自分が言う資格はないが、

 ISを得るという事はどういう事なのかよく考えて決めて欲しい」

 

 悲しみと慈愛の目をした十千屋に蘭は言葉は出ないが頷いて答えた。その答えに彼は満足すると通信を終えようとする。

 

「今はそれでいい。どうも折角の休日を台無しにしてすみませんでした。」

 

「いや、儂らじゃ考えつかん事を教えてくれて感謝する。

 どうやら今の世の考え方にまだ疎かったようじゃ」

 

「はい、今回とても勉強になりました。ありがとうございます」

 

「師匠さん、本当にありがとうございます。自分勝手なノリと勢いで話が始まったけど…

 聞けて良かったと思ってます。」

 

「…本当にありがとうございます」

 

 五反田家が感謝を述べると、十千屋は会釈をして通信を切った。切れた後は暫しの沈黙が続いたが、蘭が最初に声を上げる。

 

「一夏さん、おじいちゃん、お母さん。私、もうちょっと進路を考えてみる」

 

「あぁ、その方がいいじゃろ。アイツの目は戦場を知っている

 儂のオヤジや爺さんと同じじゃった。経験者は語る、よく考えればええ」

 

「なぁ、一夏…お前の師匠ってスゲェな」

 

「ああ、俺も色んな事を教えてもらって助けてもらってる。

 だから、俺はあの人を《師匠》って呼ぶんだ」

 

 光り輝くモノには必ず暗く見えないものがある。事実とは時に残酷な事もある。

 ISという物の見えない部分を知った時であった。

 だが、その暗闇を見つめ続けているだろう十千屋の目は一体何を見ているのだろうか。

 

 

 

 

 さてところ変わって某日のIS学園ここは整備室、この日はようやく皆が待った日がやって来た。

 

「最終起動実験開始!」

 

初期化(フィッティング)最適化(パーソナライズ)用データ送信済み!」

 

「パイロットとISとの同調開始!」

 

「PIC及びその他システム正常です!」

 

「パイロット、IS共にパーソナリティ安定!」

 

「簪!!」

 

「了解…《打鉄弐式》起動開始」

 

 そう、この日は簪の専用機《打鉄弐式》の最終起動実験の日であった。これが上手くいけば後は稼働してからのデータ取りだけになる。

 それだけに今まで簪を含め、この打鉄弐式を組み立ててきた者達は皆が緊張して挑んだ。皆が固唾を飲んでいるため、報告の声と機械の駆動音だけが聞こえる。

 全てのデータが入力済みなので初期化(フィッティング)最適化(パーソナライズ)もモノの数分で終わり一次移行(ファースト・シフト)が完了するはずなのだが…その数分が数十分に感じられた。

 そして…

 

一次移行(ファースト・シフト)完了、打鉄弐式…正常に稼働中」

 

 「「「やったぁああああ!!」」」

 

 簪の報告に周りのメンバーたちは声を上げた。その中には涙ぐむ者、仲間同士で称え合う者、絶叫したままの者など様々であったが皆の感情は一緒である。つまり歓喜だ。

 次々と同じ目的で集まったメンバーは遂に専用機の開発~完成までやり遂げたのだ。その歓声の中で簪が皆に声をかける。

 

「みんな、ここまで一緒に来てくれて…本当にありがとう」

 

 「「「(がふぅ!?)」」」

 

(なに?何なの!?この可愛いのは!?)(高まるぞハート!萌え尽きるほどヒート!)

(クーデレ、最高です!) (ああ、天使だ…)(女神だ…)(結婚したい…)

 

 簪が見せた感謝と感動と労わりを含めた微笑みは周りの人達の心を射抜いていった。普段は物静かでクールに見える簪の柔らかくとても優しい微笑みは破壊力抜群であったらしい。

 その中で一人、彼女を称えながら次の実働テストの準備をする十千屋。どうやら何故か彼だけは軽症ですんだらしい。

 ちなみに一番の重症はストーカー行為(簪ちゃんを影から見守り隊)をしている楯無であった。彼女は部屋の死角から覗き込んでおり、妙に安らかな顔をして出血多量(萌え血ブー)で逝きかけていた。

 

「しゅ、主任補佐(十千屋さん)何故平気なのですか…」

 

「いや、クーデレ系のデレはウチの一部の娘たちで慣れてるし、

 俺にとっての一番はリアハの笑顔だからな」

 

「奥さんのですか?」

 

「あぁ、どんな時も微笑みをたたえて俺を支えてくれて助けてくれる。

 だから俺もその微笑みに答えたいし絶やしたくない。

 まぁ、大概無茶をして泣かせてしまう事もあるんだが…どうした?」

 

「「「「どうも、ごちそうさまでしたザラザラザラ・・・」」」」

 

「あー、すまん(;´д`)」

 

「で…あたしを呼んだ用事っていい加減なんなのよ」

 

 理由と共に惚れ気を吐いた十千屋にこの場にいた全員が砂糖を吐くような気分になってしまう。その有様に憮然とした態度で答えたのは鈴であった。

 彼女は以前彼に言われたように甲龍を見せにココへ来たのだが、このイベントに巻き込まれてしまったようだ。

 

「あー、一応用事の方は終わっている。

 言うと分かりづらいから一緒にアリーナに来てくれないか?

 ちょうど打鉄弐式の実働テストの為に借りているから」

 

「ふ~ん、つまり甲龍の設定をイジったのね。で、もしもの場合はちゃんと元に戻るのよね」

 

「そこに関しては大丈夫だ。ちゃんと丸々コピーはしてある」

 

「了解、何が変わったのかしら?」

 

 で、皆はアリーナに移動しまずは簪からアリーナ内に入った。

 

「観測員は些細な事も逃さないように、一夏とセシリアとISを借りられてた人は

 万が一に備えて簪と共に行動してくれ」

 

「「「了解(ですわ)!」」」

 

「パパ~、私は鈴ちゃんのフォローに回るね」

 

 次々とアリーナ内に飛び出してゆくISライダー達、そしてようやく鈴の番がきた。しかし、彼女は変わった甲龍を試したくてウズウズしているようである。

 

「ようやく、あたしの番ね!甲龍…出るわ!!」

 

「あ、いきなりアクセルを吹かしちゃ…」

 

 「きゃぁぁあああ!?」

 

「あーあ…」

 

 いつもの通りに鈴は一気に速度を上げアリーナ内に飛び出ようとしたが、日頃とは違い勢いが付き過ぎて錐揉みで飛び出していってしまった。

 彼女は悲鳴を上げながらも機体を制御しようとするが、何処を止めようとしても勢いが付き過ぎてそれどころではない。

 設定を変えたからといってこんな風に成るとは思ってもよらず、一夏とチェーロの手助けでようやく止まったのである。

 

「はぁはぁはぁ…さんきゅ、一夏、チェーロ。って、なんなのよコレは~!?

 …うっ!?にゃぁあぁあ!!?!

 

「うお!?誰か鈴を止めてくれ!」

 

 予測していない事態に混乱する鈴であったが、怒声と共に身振りをしたらまたその勢いで甲龍は飛び出していってしまう。

 あさっての方向に飛んでゆく鈴を見て一夏は誰かに助けを求めるが、今度は簪が助けに入った。

 

「大丈夫?凰さん」

 

「ありがとう更識さん…本当になんなのコレは? あと、あたしの事は鈴でいいわよ」

 

「分かった鈴、あと私も簪でいい」

 

「OK、簪」

 

 憔悴した鈴を助けた簪は彼女をゆっくりと離す。すると彼女はおっかなびっくり姿勢制御を試みるのであった。

 その有様は初心者の様でとても代表候補生に見えるものではない。そして、ようやく十千屋にこの有様を追求できたのであった。

 

「で、一体あたしの甲龍に何したのよ、ロボ頭さん」

 

「人の話を聞かず、行き成り飛び出した跳ねっ返りは誰だ?あと、それが甲龍本来のスペックだ。

 瞬間出力と反応速度が全く別ものだろ?」

 

「えぇ!?コレが本物の甲龍なの!?」

 

「そうだ、ちょうどイメージ図が出来たところだ。

 …これがさっきまでの甲龍のプログラム設定の図だ」

 

「「「うわぁ…」」」

 

「なによ、この…締め切り前とか修羅場中のマンガ家の机みたいのは」

 

 十千屋の説明に驚く鈴であったが…次の図解に見えた人は皆が引きが入った。なにせ、資料も道具も書き途中の原稿もごっちゃになっている机がイメージ図として使われているからである。

 説明の続きはこうだ。甲龍の元のスペックは人が扱うのには大変扱いづらいモノであった。試作機や実験機に有りがちだが、色々と詰め込みすぎた結果オーバースペックに成っているのである。

 無論、このままでは使えないのでダウンサイジングなりをして調整するのだが…鈴の国元-中国は修正パッチを当てまくる事で対応したのである。

 イメージとしては、ただ動作修正が出来ればいいとプログラムを一つずつ思いついたものをメモ用紙のように次々と積み重ねていくだけ、と言ったところか。その現状のイメージ図がコレ(修羅場)なのである。

 ISコアはとても賢いのでこの乱雑な机の上から今必要なものを抜き出して実行できる。が、普通のCPU等ではラグが起きまくりのバグが大量発生するだろう。

 その為、十千屋は本来のスペックを発揮できる必要最低限のプログラムとパッチを選定、その結果が鈴と甲龍の暴走であった。

 

「と、まぁ…こんな感じだ。扱いきれないのであれば、

 更に整理したパッチ郡を当てて修正と整理をするが?」

 

「ふ~ん、なるほどねぇ…うぁ、本当に色々容量を食っていたのね。今の空きの拡張領域(パススロット)

 大型武器が2~3つ入るくらい空いてるじゃない」

 

「で、どうする?」

 

「ふっ、決まってんでしょ!今の甲龍を扱いきってやるわよ!!

 誰が手加減された物に乗って喜ぶと思ってんのよ!!!」

 

 十千屋の説明に鈴の闘志に火が付いた。元々負けん気が強い彼女の事だ、自分の専用機と言えども手を抜かれていた事が大層気に食わなかったらしい。

 意気込み身振りをするとまた…変な方向に飛んでいってしまうが、今度は自分で体勢を立て直した。

 すると、姿勢制御して一息ついた彼女からある疑問が浮かび十千屋に問い質す。

 

「そう言えば、何で十千屋さんは甲龍がそんな状態に成っているなんて気づいたのよ」

 

「あぁ、不審に思ったのは鈴と一夏が戦った時だな」

 

 彼は鈴とも一夏とも戦ったことがある。その中でどちらとも鍔迫り合いを起こしていた。その結果、彼の実感的に白式と甲龍が腕力-パワーアシストの出力で拮抗するのがおかしいと思ったのである。

 さらについ最近であるが、鈴が他の一夏メンバーと軽い言い争いになっている時の台詞で疑問を深めた。その台詞とは『同じパワータイプ』というフレーズである。

 一つ言いう事がある、白式は()()()()()()()()()()()()()。パワータイプだと誤認されやすいのは攻撃力が高いためである。しかもその攻撃力は特殊な攻撃-単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『零落白夜』(れいらくびゃくや)の特殊効果のお陰だ。

 それの発生装置『雪片弐型』自体は零落白夜(れいらくびゃくや)が発生してなければ只のISブレードである。一夏がその理論に反論してきたが、千冬のIS-世界を取った時に使われた『暮桜(くれざくら)』リスペクトである白式が単純なパワータイプである訳がないと反論したら、愚の値も出なかった。

 千冬なら単純な力押しではなく、必殺の一撃を与えるための駆け引きとそれを行う為の機動力を優先するだろう。つまりそういう事である。

 なのに甲龍と白式が拮抗する、コレに何かあると踏んだ彼は甲龍を調べた結果…パッチの存在を知ったのである。パッチ自体は高性能過ぎる甲龍の出力を制限したりスラクターや慣性制御で押さえつけているのが分かったが…まさか、こんな乱雑にされているとは思ってもみなかった結果ではある。

 

「…やっぱり、凄いわ。あんたって」

 

「師匠…スゲェ…」

 

 十千屋の考察に舌を巻く一同、そんな僅かな違和感でここまで考えることが出来るのは流石としか言えない。

 その後、簪は打鉄弐式の実働テストと慣熟飛行をし、鈴は本来の甲龍に慣れる為にとにかく動き回った。

 その中で一夏が、ミスや不良を起こした簪や鈴を助けてフラグ建築や強化を行ってしまっていたのは些細なことであろう。

 

 

 

 その頃、別々の国から飛び立つ飛行機があった。

 一つはフランスから飛び立ち、金髪の人物を乗せているがその人の表情は何処か思いつめている。

 もう一方はドイツから飛び立ち、銀髪の人物を乗せていた。

 

「ふふ、もうすぐ会えるな『おやっさん』」

 

 こちらは金髪の人と比べ、どこか嬉しそうな雰囲気がしている。

 それぞれの向かう先は《IS学園》・・・どうやら、またひと波乱がありそうだ。




はい、最後の行の通りに次回から本格的に『二人の転校生編』なります。
もう、お分かりの事でしょうが既に転校生の方は改変が入っています。
それが本格的に分かるのは次回という事で…

さて、食堂の件も甲龍の件も自分が好きな作者様のリスペクトになります。
実際、ISは兵器として使われているのに一般人の扱いの程度がゲーム:『カスタムロボ』並みの試合の為の道具という印象でした。
この辺はそのカスタムロボやメダロットにも言える事ですよね。それを指摘された時に私も衝撃を受けてISの扱いを変えました。

甲龍は面白要素でしたが、コレも上手いと思いました。
しかも、私は鈴の強化方法が分からなかったので甲龍をパワーアップと言うか先祖返り?させてみました。


では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA24ss:転校生を紹介します!しかも二名ですよ!

ようやく、原作レギュラーメンバーがコレでほぼ出揃いました。
ソコまで展開は進みませんが…

では、どうぞ御ゆるりと。


 さて、縁とは不思議なものだ。

 何処からか繋がり、何処かで再び合いまみえる。

 一人だと思ったら誰かに繋がっていた。

 誰かに繋がっていたと思ったら、自分にも繋がっていた。

 あぁ、なんとも不思議なものだ。

 

 

 

 今日も朝から1年1組は騒がしい、まぁ年頃の女子生徒なんてそんなものだろう。

 今回の話題は個人用のISスーツである。IS自体はそのままでも使えるが、その補助をするISスーツを纏った方が効率よく動け、尚且つスーツ自体が保護機能が高い。

 しかし、そんな事よりも自分のISスーツという事実が彼女らにとっては大事なのだ。

 

「そーいえばー?ちぇろんのISスーツっておりむーと一緒で違うね~

 ・・・あれ?ことぱんの人達全員違うや~」

 

「んー、本音。ボク達のスーツってISスーツじゃないからね」

 

「そう、私達のスーツは元々FA用に使われていた物。

 別にISでも使えるからそのまま使っているだけよ」

 

「おー、そうなのかー」

 

 さて、本音が気づいたようにコトブキカンパニー全員が普通のISスーツと違うものを使っている。

 以前にも何処かで語ったような気がするが(マテリア)スーツと言う。ISスーツとの相違点は、ISはそのまま装甲が装着されるがMスーツは胸や脇腹、太ももや二の腕に金属系パーツが付いておりそれも使いながら装着する点だ。

 力場や吸い付くように付くISと違って、それらのパーツを使ってパーツ同士がロックされる仕組みだ。更に元から装甲が付いているのでISスーツよりも防御力が高く、いざという時の為に軽いパワーアシストまでも付いているのだ。これらの事からISスーツよりもより実践的なスーツだと言えるだろう。

 ちなみにFAやFA:G(フレームアームズ:ギア)のスーツはウェットスーツみたいだが、プラモデルのFA:G(フレームアームズ:ガール)の方はISスーツに近く腰周りはIバックの様な下着なので・・・現実の女性らに絶望した紳士達がその素晴らしい造形に魅せられて最近の売り上げが上がっているとかなんとか。

 

 暫く朝の騒がしい時間が流れていたが、教師たちの登場により一旦は落ち着いた。だが、直ぐに騒動の火種が投下される事になる。

 それは千冬が各自のISスーツ申し込みの注意事項を話した後であった。今度は山田先生が連絡事項を言う。

 

「はい、今日はですね…なんと転校生を紹介します!しかも二名ですよ!」

 

「ふぇ・・・?」

 

 「「「「ええええええ!?」」」」

 

 山田先生の発言にクラス中がザワめきたつ、学生にとって転校生とはちょっと特別な存在だ。しかもここは、ほぼ花の女子高生だけのIS学園。噂好きの彼女らにとっては又とないネタであろう。

 しかし、そのザワめきは一人目の転校生が教室に入った途端にピタリと収まった。それはそうであろう、何せ…()()生徒が入ってきたのだから。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国に来たのは初めてなので

 不慣れな事が多いと思いますが、皆さんよろしくお願いします」

 

 自己紹介をした彼の第一人称は『ブロンドの貴公子(ジェントル)』と言ったところか。人懐っこい顔をして濃い金髪をしている。物腰は、礼儀正しい立ち振舞いで優雅だ。

 そして、華奢な体つきと中性的な顔立ちがより美形を拍車を掛けている。まさしく誰が見ても貴公子と感じるだろう。

 そんな、彼の登場に女子生徒たちは・・・

 

「きゃ・・・」

 

「はい?」

 

 「「「きゃぁぁあああ―――っ!!」」」 ボスンッ!

 

 狂喜乱舞した。まぁ、そうなるな。

 

「男子!二人目の正真正銘の男子()()!!」

 

「しかもウチのクラス!しゃーっなろぅ!!」

 

「美形!守ってあげたくなるタイプなのね!!嫌いじゃないわ!!」

 

「受け!?攻め!?リバーシブルが捗るわ!」

「よしっ!コレで同年代の掛け算も捗るわーー!!」

 

 大音声のため、クラスが物理的に震えた。

 騒いでる本人達は平気なのであろうが、この騒ぎについて行けてない者達は被害を被る。それは、カンパニー関係者と一夏と箒、教師組も含まれるだろう。

 箒は耳を両手で塞ぎ、轟はさらにうつ伏せておりチェーロは放心状態だ。一夏も同じような様子であったが、一番の被害者は十千屋である。なにせ、ロボメットの耳に当たる様な箇所から少量の煙が吹き出ているのだから。

 

「・・・・・・師匠、大丈夫なのかソレ?」

 

ボスボスボス…生身の耳は何とかな。しかし、メットの集音器等へんがイカれた。

 ウチの女子生徒たちはソニックウェーブでも出せる音響兵器か何かか?」

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ。あと、十千屋はその煙を何とかしろ。火災報知機が作動する」

 

 一般的な女子とは言い難い千冬は、十代女子の反応が鬱陶しいのか面倒くさそうにボヤきながら注意した。

 さらに山田先生が注意ともう一人の転校生の自己紹介を促すが反応が芳しくない。

 その転校生は、シャルルを金色だとすると彼女は銀色という風に対比できるだろう。

 髪は伸ばしっぱなしだろうが、白に近い輝くような銀髪。レンズが付いている何処かサイバーチックな黒眼帯、開かれている片目は赤いが冷たさを感じさせる。

 体格はかなり小柄な方であろう、男にしては小柄なシャルルよりも小さい。だが、その身から放たれている冷たく鋭い剣呑な気配が実際よりも大きく見せている。

 佇まいからその第一人称は『軍人』と感じさせられるが、間違いではない事は直ぐに分かる事になる。

 未だに口を開かず、教室の女子達を何処か見下した様な諦めた様な目線で見ていたが、静かになり誰かが沈黙が重いと思い始めた時にようやく口を開いた。

 

「織斑教官…いえ、この場では織斑教員と称した方が宜しいでしょうか。私の番で宜しいですか」

 

「ふぅ…ああ、お前の番だラウラ。しかし、言い直したようだが私はもうお前の教官でもないし、

 此処ではお前も一般生徒だ。私の事は織斑先生と呼べ。此処ではソレで統一している」

 

「了解しました、織斑先生。ドイツ軍『シュヴァルツェ・ハーゼ(黒兎隊)』所属、

 ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「・・・・・・・」

 

 クラスメイトは沈黙して名前と学園前の所属以外の内容を待っているが、ラウラはまた口を閉ざしてしまった。

 そのような空気にいたたまれなくなったのか山田先生が出来る限り優しく問いたが・・・

 

「あ、あの…以上でいいのですか?」

 

「以上だ」

 

 彼女の無慈悲な返答に空気は変わらず重いままであった。

 このまま重苦しい雰囲気のままかと思われたが、一夏とラウラの目線が合った時から事態は急変する。

 行き成り彼の席へツカツカと歩き出したら、何処から出したか不明な小柄な彼女の身の丈ほどあるハリセンを取り出し、一夏へ下から振り上げた。

 

「はぁ!」

 

「くっ!?「一夏、起をつけ!」はい!?」

 

Tiger Fang Fraktur Schnitt(虎牙破斬)!」

 

 バシン!「ぷっ!?」パァン!「ペぇっ!?」

 

 振り上げられたハリセンに一夏は身構えようとしたが、何処から飛んできた起立の声に身を固めてしまう。無論、そんな事をすればハリセンがあご下を跳ね飛ばし、更に振り下げる事によって続く二連撃目を脳天に叩きつけられた。

 突然の出来事に周りは唖然になり、ビシッとハリセンを一夏に向けるラウラが妙に浮く。

 

「ふっ、悔しかったら私に認めさせてみるがいい軟弱者。

 あと、ナイスアシストでしたおやっさん」

 

「あー、ラウラ…一応、コピー用紙から羊皮紙レベル位まで丈夫に成った。

 と、いうかしたんだが」

 

「その程度では生温い。あと、おやっさん。この得物を返すぞ」

 

「あー、はいはい」

 

「師匠…コイツと知り合いだったんですか」

 

「まぁ、入学する半年前くらいにドイツに居たからな」

 

 ラウラは挑発的にそう言うと、知り合いだったのか十千屋との話に移った。二連撃を喰らった一夏はというと叩かれた部位を擦りながら会話に入り込む。

 十千屋とラウラの付き合いは彼がIS学園に入学する半年ほど前、今から約一年ほど前くらいになるだろうか。FAの導入を決めたドイツ軍に現地スタッフ兼FAの教導官として出向したのが始まりである。

 当初はIS側といざこざを起こしたが、彼が全てを巻き込んで平定したため無事解決し協力関係を結べるように成ったのであった。

 

「師匠?おやっさん、この軟弱者を鍛えているのか」

 

「そうだ。一般人の癖が抜けないから、鍛えていたら弟子分みたいに成っていてな」

 

「ふっ、ならば私の方がおやっさんに鍛えて貰った時期が早い。私を敬え、軟弱者の弟弟子」

 

「…くっ、このぅ・・・」

 

パンパンッ 旧友を温めるのはその辺にしておけ。では、HRを終了する。

 今日は2組と合同でIS模擬戦闘を第二グラウンドで行う。各人着替えて集合だ。解散!

 あと、織斑。同じ男子だ、デュノアの面倒を見てやれ」

 

 喧嘩腰に成りつつあった両者に割入ったのは千冬であり、彼女はHRを終わらせる事で勢いを折った。そして、一限目の授業内容を告げると生徒たちは移動を始める。

 シャルルの面倒を頼まれた一夏は、男子の着替えは面倒になっているので手を取って急かすように出て行く。その際にシャルルは何処か妙にソワソワしていたが、十千屋はカメラアイ越しに注視していた。

 

「どうした、おやっさん?」

 

「いや、なんでもない。それよりも、『おやっさん』て何だ?

 まぁ、俺の事を指しているのは分かるんだが」

 

「ぬぅ…年上の男性で、まるで父親や叔父の様に導いてくれる人物を

 親しみを込めて呼ぶ呼称だと聞いたのだが」

 

「……誰にだ」

 

「クラリッサとアントンだが?」

 

 十千屋は先程から『おやっさん』と呼ぶラウラに何故そう呼ぶか聞いてみると、このような答えが帰ってきた。それに彼は頭を片手で押さえ天に向かって仰ぐ。

 クラリッサはラウラの所属する部隊の一人、

 アントンはドイツ軍FA部隊『シュヴァルツェ・ヴェーアヴォルフ(黒の人狼隊)』の一人なのだが、両者の趣味が日本のサブカルチャー(オタク文化)なのでよく間違った知識を披露し珍騒動を起こすのが常であった。今回もきっとそれなのだろう。

 彼は訂正しようとしたが、既にドイツ軍では広まっていた為に遅く不可能であった。

 

「…私も気に入っていたのだが、訂正したほうが良いのか?」

 

「いや、広まってんならもう遅いだろう。それに内容自体は間違いじゃないし

 …イメージ対象は初老の男性という以外はな」

 

 「あぁ!転校生と織斑くんを発見!!」「しかも同時出現だとう!?」「者共!!出会えぃ出会えぃい!!」

 「おふぅ!?手、手ぇ繋いどる!!」「黒髪と金髪のコラボレーション!ご飯が進むでぇ!」

 ぶぉおおん!ぶぉおおん!キャーキャー!ワーワー!\オーモイーガー/

 

「……だいぶ騒がしいみたいだな」

 

「はぁ、なんとかしてくる」

 

「うむ、私は先に現地に行っていよう」

 

 先に出て行った一夏とシャルルであったが、女子生徒に行く手を防がれ立ち往生していた。その物言いはまるで武家屋敷。

 イケメン男子に飢えた女子生徒が群がりそうになる今、いまいちピンとこないシャルルに一夏は事情説明をすると正面突破を試みる。もし、失敗すれば鬼教官(織斑千冬)が出る授業には間に合わない。

 物凄く無駄な決心で突破しようとした彼であったが、

 

 「喝っ!!」

 

 この一言で、全ての動きが止まった。正体は十千屋である。彼はロボメットに内蔵されている拡声機能で声を大きくし、一喝して騒動を止めたのであった。

 だが、教室から出てくる彼に誰もが皆が蹈鞴を踏んだ。何せ、彼から放たれる覇気が身に突き刺さる様な感覚がしたからである。まさに修羅か羅刹、本物で本当の意味で修羅場を知らない生徒達にとっては恐怖でしかなかった。

 

「「「……!」」」

 

退()け」

 

 「「「はいぃいいい!!」」」

 

 モーゼが海を割ったように廊下で騒いでいた多数の生徒達が両壁際に寄る。その中で、女子生徒達と同じようにビビった一夏とシャルルが居たので、十千屋は一夏の襟を掴むとそのまま彼に繋がれてたシャルルも一緒に男子更衣室に向かった。

 彼が通り過ぎていったその後、生徒達は腰を抜かしてヘタリ込んでしまう。今まで感じた事が無い本当の気迫というものに驚愕し、千冬と同じ様に怒らせてはいけない人物としてこの学年に彼の存在が広まっていったのであった。

 

 

 ようやく、男子更衣室に着いた三人は着替えに入った。一夏は豪快に脱ぎ捨ててISスーツを着ようとするが、何故か視線を感じる。その感覚を辿ると元はシャルルであった。

 

「シャルル?なにジロジロ見てんだ…って、着替えるの早ぇなぁ」

 

「あ、うん!?ごめんね。そんなつもりはなかったんだけど。

 あと、着替えを見られるのはちょっと…ね?」

 

「う~ん?男同士なんだからソコまで気にしなくてもいいと思うんだけどなぁ」

 

「一夏、それは減点行為だ」

 

「師匠?」

 

 シャルルに一夏は軽く問い詰めてみるが返答はたどたどしくて、いまいち納得が得られない。そんな時、ロッカー越しから十千屋の声が届いた。

 彼は全身の傷跡が酷いのを見せるのは余りよろしくないという事で、人の目に見えないロッカーの向こう側で着替えているのである。

 

「一夏、素直で明け透けなのはお前の美点だが『親しき仲にも礼儀有り』つまり、

 デリカシーが足らんぞ?」

 

「うっ…」

 

「体にコンプレックス持っているのは女子だけじゃないぞ。男子だってそうだ。

 俺は傷跡を余り見せる物だとは思わないし、もしかしたらシャルルは

 自分の体付きが華奢なのを気にしているかもしれないだろ」

 

「おふぅ…」

 

「あと、前にも言ったような気がするがズケズケ自分の感覚だけで歩み寄らない。

 さっきのやり取りを腐女子が見ていたら『ホモはせっかち』とか思わるだろうな」

 

「ぐふぅっ!…ごめんな、シャルル。俺が無神経だった」

 

「そ、そこまで謝らなくてもいいよ!僕は大丈夫だから」

 

「重ね重ねすまねぇ…」

 

「…ほれ、とっとと気を取り戻せ。時間が迫っているんだからな」

 

 十千屋の説教にヘタれてしまう一夏であったが…いや、本当に土下座寸前であったが、彼に急かされて着替えの続きを行った。一夏が着替え終わると3人は小走りでグラウンドに向かう。

 

「はぁ、何で二人はそんなに着替えるのが早いんだよ」

 

「…一夏もしかして、着替えの時全部取り替えてる?」

 

「そうだけど?」

 

「遅いはずだな。ISスーツは基本、ウェットスーツみたいな物で

 着替えやすいものじゃないからな」

 

「いや、それは実感してるけどさ。何で師匠も早いんだよ。

 師匠の方が完全にウェットスーツじゃないか」

 

 そう、一夏とシャルルは腹や肩が露出する様なタイプのスーツで、十千屋はウェットスーツというよりも厚めでプロテクターみたいな部位もあるのでドライスーツみたいである。

 だから、十千屋の方が着替えるのは時間が掛かるハズなのだが、何時も一夏よりも先に着替え終わっている。その答えとは、

 

「いや、授業があったりISを使用すると分かってる日には初めから下に着ているからな?

 あと、背中のピアスの関係で着てることも多いが」

 

「うん、僕もそうしているんだけど…一夏はしてなかったの?」

 

「くそぅ、そんな小ワザがあったなんて。次からはそうするよ…」

 

 ISスーツは直接肌に着けるものなのでインナーとしても優秀である。その為、そのまま着ていて生活していても不快感が無いくらいだ。

 その為、生徒は最初から着てくるのが習慣となっていたが彼はそうでなかった様である。

 一夏はそれを聞くと次からは初めから着てくるよう決意するが、一つ忘れてならないことがある。…下着を持ってくるのは忘れないように。

 やはり、感覚は水着などのスポーツウェアなので全部終わった後は脱ぐのが普通だ。

 その為、下着を忘れると…とても残念な気分になるだろう。

 

 

 ところ変わって少し前の教室…の外。

 女子生徒たちがチラホラと着替え終わって移動中の時の事だ。

 集まって移動しているのは何時ものメンバー+αである。そして、会話の内容は先ほどの事であった。

 

「はぁ?アイツ(一夏)がドイツから来た女に因縁を付けられたぁ?」

 

「ああ、そうだ。お前()の事も含めると()()だな」

 

「うっ、それは…アイツが悪いのよ!結果的によ!結果的に!!」

 

「でも~、かんちゃんの事もあるから~…又しても~が正解だねぇ~」

 

「本当に女性関係のトラブルが絶えない方ですわね、一夏さんは」

 

 そう、一夏がラウラに因縁が付けられた事である。その時の様子から、千冬と十千屋の関係者でもあると分かったが一夏に難を付けていたので、たぶん千冬関係が原因だと推測できた。

 特に鈴は千冬が有名になった後の一夏の周りの様子を知っているので、ラウラが千冬の親派である事は想像できた。偉大な人物が自分の身内にいると比較対象にされるというのはよくあることで、彼もそうである。

 千冬と比較されたり、肉親であるために憧れや妬みも受けたこともある。その様子を知っていたので今回の件は元の原因を辿れば千冬に行き着くだろうと結論付いた。

 

「でも、今までの経緯から…トラブルがToLoveるになって恋敵(ライバル)が増える事になるのね。

 …大変ね、貴女たち」

 

「「「いや、それは…(無い、と言い切れないのが一夏の恐ろしいところ(ですわ)!?)」」」

 

 轟のこの言葉に一夏ラバーズに戦慄が走る。そう、こんなトラブルは一夏にとってのフラグかも知れないと勘づいたのだ。

 彼のフラグ構成力はギャルゲー並なのは今までの経験で分かっている。だから、コレはもしかすると?の不安が拭えないのだ。

 

「ふぅ、そんなに気に成るのだったら早く告白すれば?何で知ったか忘れたけど、

 《恋は戦場》とか《女は恋に関しては『常在戦場』》うかうかしていると寝首欠かれるわよ」

 

「いや…あたしはぁ///」

 

「ぬ、ぬぅ…///」

 

「そう、アッサリと分かって下さる方ではございませんわ ハァ」

 

 ヘタれるラバーズに対して轟はため息がでる。人の恋路に手を出して馬に蹴られるのは勘弁なのだが、こうもいざという時にヘタれる癖に嫉妬からくる行動が過激なのは見ていて相手側が不憫に思える。

 今までの彼女ら(特に箒と鈴)の行動を見ると、放置してこじらせると事件に成りそうなので手助けをしていたが…どうにもこうにもこの様子ではと。そのせいである事が彼女の頭に浮かんだ。

 

「もういっその事、ウチらの家や国を習って貴女たち全員が

 一夏の《セックスのフレンズ》なってしまった方がいいんじゃないかしら」

 

「「「`;:゙;`;:゙`;:゙;`;:゙;`;:゙`;:゙;`(゚ε゚;)ブハァッ!?!?」」」

 

「そうなったら『ケダモノはいてもノケモノはいない』わよ」

 

「すっごーい!『ズッコンバッコン大騒ぎ』なんだねぇ!なんちゃって(//∇//)

 

「ふわああぁ!いらっしゃぁい!よぉこそぉ↑さかんなちほーにぃ~~!」

 

「ようこそ『(さか)りパークへ』ってやかましいわ!上手いこと言ったつもりかぁああ!!(#゚Д゚)」

 

 余りにも超上級者向けの提案に聞こえていた全員が一斉に吹き出した。まぁ、当然である。

 どうやら、轟もコイツらの恋愛事情に疲れていたようだ。

 

 

 

―――おまけ―――

 

 

 その日の就寝前の自由時間。午前中の轟の発言に興味もった生徒たちが彼女に聞いてきた。

 まぁ、年頃の少女がそういう事に興味があっても可笑しくはないだろう。むしろ…おかしいのは轟の方であった。

 聞いてきた彼女たちはキャーキャー(≧∇≦*)ワーワー(o ̄∇ ̄o)♪黄色い悲鳴で楽しめるようなモノだと思ったのだが、出された話は斜め方向へ飛び抜けていった。

 実は轟は前に話した様に処女であるが、リアハからはその手の手解きは十分すぎるほど受けている。その為、リアル生々しいの男女の情事が赤裸々ツラツラと話されたのだ。

 誰もが赤面となり、その日の夜は悶々として寝付けなかったであろう。

 

「ね、ねぇ…ちょっと普通の少女にはキツかったんじゃない?轟ちゃん」

 

「まだ猥談で済まされるレベルよ。これが素子姉さんだったら即アウトよ。

 きっと『真実の愛はここにある (d'∀')』とか言って自分のハ●撮りビデオを渡すわ」

 

「あーうー…それはそうだけど」

 

「私達の恋愛観や性事情が特殊なのは理解してるわよ。でも、ソレがどうしたのよ」

 

「うん、轟ちゃんがちゃんと常識持っているのは知ってるよ?

 けどさ、十代の少女でアノ内容はどうかと( ̄▽ ̄;)」

 

「……そうね」

 

 やはり、十千屋ファミリーはあらゆる面で普通じゃないようだ。

 その後、十千屋は『最終鬼畜ロボヘッド』としての噂が加速したのはしょうがない事であろう。

 




はい、コレで原作メンバーがだいたい揃いましたね。
さて、転校生の二人ですが…ラウラは最初からかなりテコ入れが入っており、性格はある程度丸くなっています。が、スパイダーマンの名言『大いなる力には大いなる責任がある』を意識してまして、IS関係者となっているのに呑気な一年生やニブチン一夏は今は余り好ましく思っていない状態です。
シャルは別の所からテコ入れをしようと思っているので、現時点ではほぼ原作通りです。

そして、ラウラが丸くなっている分…別の方面から事件は起こりますので、楽しみにしておいてください。

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA25ss:attention!

はい、今回の場面は学園の実習風景ですね。
ただし、一夏のラキスケやラブコメは無い…

では、どうぞ御ゆるりと。


 日々は変わりゆくもの、それはタダの変化なのか、それとも進歩なのか…

 そんな事は誰にも分からない。

 けど、一生懸命前を見て走る若者達は昨日よりも歩みを進めていることだろう。

 

 

 

 さて、今日は第2グラウンドでの実習授業なのだが男子3名?は始まる少し前にようやく来られた。

 男は女子生徒達と違い、着替えるために一々アリーナの更衣室を使わなければならないため遅くなってしまうのである。

 今回は間に合ったが少しでもノンビリしてしまうと遅れてしまう、そんな位置わりであった。

 

「で、アンタまたやっかみを買ったんだって?」

 

「仕方ありませんわ。一夏さんはオジ様ほど器用に生きられませんから」

 

「お前ら…俺をそんなに貶したいのか?」

 

「え~?事実じゃない、ひとなつ」

 

「そうね、ある意味で生きづらい性格かも知れないわ」

 

「そうだな。お前たちも静かにしなければ…どうなるか、分かるな?」

 

 一夏の一幕を聞き、さっそく評している毎度のメンバーであったが声を掛けられ全員が一斉に口ずさむ。

 声のした方には…我らが鬼教官である千冬が手に持った出席簿を軽く振るっていたのである。このままでは打たれる事が間違いなしなので各自素早く列に戻った。

 

「ふぅ。では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始するが、

 今日は戦闘を実演して貰おう。そこにちょうど元気が有り余っている奴がいたな。

 ―――凰!オルコット!」

 

「おふぅ!?」

 

「わたくしまで巻き添えですか…チェーロさんと轟さんもでしたのに」

 

「専用機持ちは直ぐに始められるからな。

 あと、その二人の専用機はどちらか手持ち無沙汰になるからな」

 

 渋々といった感じで呼ばれた二人は前へ出るが、戦闘の実演というのに相手が居ない事に気づく。それには呼ばれた二人同士が戦えばいいのかと思ったその時、空気の裂く様な音が何処からか聞こえてきた。

 誰もがその方向を見ると…何かかこちらに向かって突っ込んでくる。

 

 キィィィン・・・・

 

 「あぁあーっ!ど、どいてぇ!?」

 

「轟、チェーロ」

 

「はい」「はいなぁ!」

 

 その正体はISを装着した山田先生であったが…このままでは誰かに突撃して大惨事になってしまうだろう。

 そんな事を予測するよりも早く、十千屋が轟とチェーロに声を掛けると直ぐに行動を開始した。

 

 バクンッ!「あいぁ!?」

 

「チェーロ」

 

「おぅ!」

 

 ギュィイン!「山田先生ゲットだゼェ!」

 

 轟が瞬時にFA:Gを身に纏い突っ込んで来る山田先生に対して正確無比な腕前で眉間にスラッグ弾を撃ち込んだ。

 すると、当たった拍子に怯み速度が落ちた彼女を轟と入れ替わってチェーロが捕獲する。その捕獲方法は思いっきり胴体を掴みに行ったので、着地した時は山田先生は彼女の肩に担がれていた。

 

「…二人の対戦相手は山田先生だ」

 

「大丈夫なのですか?」

 

「ちょっと、やりづらい雰囲気よね」

 

 激突の危機から助け出された山田先生はその立役者のコトブキカンパニー3人組に向かって頭を何度も下げて感謝と謝罪を繰り返している。

 その光景にやる気を削がれる二人であったが、千冬の次の言葉で火を付けられた。

 

「大丈夫だ。それに二人纏めてかかってゆけ。なに、今のお前ら程度なら山田先生は負けん」

 

「「(むっ!)」」

 

「ならば、見せて貰いますわよ。IS学園教員の実力を!」

 

「いいじゃない。かかって来なさいよ!」

 

 やる気を出した二人といつの間にか謝り終わっていた山田先生が揃うと実演が始まった。

 見学者は千冬が出した解説用の質問にシャルルが答えそれを聞きながらであったが、対峙している二人は千冬が言った先ほどの言葉は嘘ではないと体感する。

 自分達の攻撃は予測され外され、逆に防御と軌道を予測され攻撃を当てられている。だが、その事実があっても二人は冷静さを欠かさなかった。

 

「ちっ、拙いわね。まるでアイツ(十千屋)としている気分だわ」

 

「いえ、鈴さん。オジ様の方がもっと厄介ですわ。

 わたくし達対オジ様の多数対一人の経験がなければ、直ぐにやられていたでしょうけど」

 

「どうする?今のあたしは真っ直ぐ突っ込むしか能がないわよ。

 情けない事に未だ本気の甲龍を持て余してるからね」

 

「わたくしは自身とビットを別の軸で同時に回れるように成れましたが、

 山田先生には通じそうにもありませんわね」

 

「…このままヤられるのはシャクね。一矢報いるかも知れない案があるけど、乗る?」

 

「ええ、同乗させていただきますわ。

 丁度わたくしは鍛えて貰ったオジ様に申し訳なく思っていた所なので」

 

 相談し終わった二人は一旦別々の方向に分かれて、再度山田先生に同時に急接近した。この反応に彼女は即座に両手の武器を変更、ライフルから弾幕を作りやすいサブマシンガンに変えそれぞれの標準を向ける。

 普段なら避けそうな二人は弾を喰らいながらも接近を試みる。鈴は双天牙月をセシリアはビットをそれぞれ盾として使い最短距離で縮めてゆく。

 彼女らの戦法に疑問を持ちながらも山田先生は威力の高い武器へ替えようとした時、近づいてきている彼女らから何かを投げつけられた。その正体はハンドグレネード(柄付き)、十千屋から買い受けたW.U38 ボムセットの内容物であった。ちなみに鈴の現地調達である。

 セシリアは両手に1つづつ、鈴は投擲術を習った事があるのか両手の指に挟み込んで複数投げつけてきた。意外な武器に山田先生は驚いたが体は反射的にそれらを排除しようと動き出し、呼び出したライフルの標準を彼女らからグレネードに変更し撃ち落とした。

 すると、当たり前だが周りは爆炎で視認不可能になった。僅かだが戦いに間が空き、その隙をぬって鈴が連結させた双天牙月を振りかぶり突っ込んでくる。

 当たればそこそこ大きなダメージに成りそうな攻撃を山田先生は、彼女の下を潜ることで避けた。

 

「にゃぁな!?あたしの下を潜ったぁあ!?」

 

「(あ、鈴さんの後ろにビットが着いてきてますね。別の方向に避けたら撃たれていたんでしょうか?)」

 

 そう、鈴の提案とは隙を作ったあとジェットストリームアタックを仕掛けることであった。鈴の攻撃が避けらたなら陰に隠れていたビットと離れた所に居るセシリアが追撃する予定であった。

 …が、山田先生が下に避けた事でその目論見が外れる。無意識に上や横に避けると思っていた事と、下に避けられた事で別の場所から見ていたセシリアにとって鈴の陰に入られてしまい視認不可能の攻撃不可になってしまった。

 

「まぁ、勝負は勝負って事ですね」

 

「ぎにゃぁぁああ!?」

「きゃぁああああ!?」

 

 下に避けた山田先生は彼女らが身構える前にリボルバーランチャーで標的-彼女らもビットも撃ち落としにかかる。しかも、ランチャーが空に成ったらそのまま放り捨て別の武器を展開(オープン)する。

 その別の武器とはハンドガトリングガン×2とそれに給弾するベルトリンク×2だ。文字通り、弾を浴びるように喰らい彼女たちは戦闘不可能(リタイア)寸前と成るところで千冬からストップが掛けられる。

 

「ふむ…まぁ二人は頑張ったみたいだが、これでIS学園教員の実力が理解できただろう。

 以後は敬意を持って接するように。ちなみに山田先生は元代表候補生だ」

 

「む、昔の事ですよ。それに候補生止まりでしたし…そんなにヨイショされると恥ずかしいです……

 

 「はぁ、そのあがり症がなければもっと上に行けたんだがな」

 

 その後、専用機持ちをリーダーとして実習班を分け授業が再開された。

 ちなみに山田先生が使っていた武器はコトブキカンパニーからの試供であり、中々の好感触であったらしい。

 

 さて、再開した授業は相変わらずの女子高生パワーのせいで千冬が班を組み直したり、班の数に比べて訓練機が少ないので十千屋が自分用のISを使わせたり、

 一夏の班が間違えて立たせたまま訓練機を降りてしまったため、乗れなくなったのをチェーロがジャンピングムーンサルト(跳躍 後方二回宙返り一回ひねり)で搭乗し解決したり色々あった。

 その中で十千屋はラウラの班と合同で取り組んでいた。

 

 「「attention!」」

 

「「「Σ(・ω・;|||!?」」」

 

「さて、これから君達には今の時間で出来る限りの事をしてもらう」

 

「山田先生が仰った最低限の内容は起動させ歩行する事だ」

 

「「では、各班先頭から行動開始!」」

 

「「「は、はいΣ(゚д゚lll)!!」」」

 

 行き成り十千屋とラウラの雰囲気が変わり、the特訓の様な空気を吹き出す。その勢いに押され班員となった生徒たちは背筋を伸ばし敬礼しながら始めるのであった。

 

「どうした?ISの起動は慣れた者なら量産機でも10秒もかからない。

 初回はそれでいいが、次からは慌てず焦らずしかし的確且つ素早くする様に努力するんだ」

 

「はい!」

 

「よし!そのまま歩行に移れ!10歩、歩いたら戻ってこい!!」

 

「はい!」

 

「訓練以外の何かでグズグズするな!織斑先生に叱られたいのか!

 ただしっ体調不良ならば遠慮せずに言え!!」

 

「「「は、はいぃいい!!」」」

 

 他の何れの班よりも的確にスピーディーに進んでいるが、気の抜けない空気で班員の生徒達は着いてゆくのに必死であった。

 だが、時折のアドバイスは大変ためになる為に頑張る事ができる。

 

「いいか、ISの動かし方のコツは自らの動作()イメージ(精神)の一致だ。

 ISがなんで人型だと思う、自らの動きをそのままIS合わせて伝えろ!」

 

「我がドイツ軍ではISの訓練が出来ない時はイメージトレーニングやシャドウで訓練する。

 自らの間合いとISの間合いを一致させる事によって、

 的確に素早くロスの無い動作ができるようになる。人とISのイメージを一致させ体を動かせ!」

 

 そのままこの合同班は次々と班リーダーの指示をこなしていった。歩いたら後ろ向きで戻ってきたり、指示に合わせて歩調を変えたり、行き成りポージングを取らされたり、ピタゴラスイッチ体操をしたりなどだ。

 傍から見るといい様にやらされているように見えるが、確実に回数をこなしてゆくと生徒たちに動きが良くなってゆく。

 その様子を見て教師たちは、

 

「ふわぁ…十千屋君とボーデヴィッヒさんの班、凄いですねぇ」

 

「あぁ…やはり、アイツ(十千屋)は臨時でもいいから教員枠で入れるべきだったな」

 

「本当ですね。でも、今更変えることなんて出来ませんよ」

 

「……だが、アイツが教師になれば私達に回ってくる仕事の量が減るかもしれんぞ?

 何だかんだ面倒見が良くてよく気がつく奴だからな」

 

「………前向きに検討したいと思います、織斑先生」

 

「あぁ」

 

 やはり、どんな教育施設でも教師は辛いのかこんなやり取りをしていた。

 千冬達は知らない、十千屋はやはり年齢がいっているので事務員や技術顧問としての枠があったことを。千冬達は知らない、面倒で男は一纏めにするという意見が上層部で通り彼は生徒になった事を。

 

 

 時間が進み、ある程度生徒達がこなせてきたのを確認すると十千屋とラウラはある事をさせる為に一旦集める。

 そして、コレからやる事を二人は実演する。ISを身に纏い、互いの手が届く距離でファイティングポーズを取り気を高まる。

 その様子に生徒達は固唾を飲んで見守るが、次の瞬間…二人が動いた。

 

「「最初は…グー!!」」

 

 「「「「だあぁぁあああああ!!!」」」」

 

「じゃん!」

 

「けん!」

 

「「ポイ!」」

 

 十:グー VS ラ:チョキ

 

「あっち()()()そぉい!!」ブゥン!

 

 「「「殴ったぁああ!?」」」

 

「ふん!」

 

 「「「避けたァ!!」」

 

 

「じゃん!」

 

「けん!」

 

「「ポイ!」」

 

 十:グー VS ラ:パァー

 

「あっち()()()はぁ!!」ブゥン!

 

 「「「今度は平手だぁああ!?」」」

 

「くっ!」

 

 「「「今度はあっちが避けたァ!!」」

 

 

「じゃん!」

 

「けん!」

 

「「ポイ!」」

 

 十:チョキ VS ラ:チョキ

 

「シッ!」「フッ!」

 

 「「「両者ともにヤりにいったぁぁああ!?!」」」

 「「「でも、両方とも避けた!!」」」

 

「「……ふぅ、以上の事をこれからお前たちにやってもらう」」

 

 

 「「「スミマセン!理解しましたが、理解できません!!」」」

 

 行き成りのエクストリームあっち向いてホイ…いや、『あっち向け(強引に)そぉい!!』と言えばいいのだろうか?それを行き成り実演し、一通りやり終わった二人が生徒たちに促すが誰も理解できなかった…当然である。

 急にジャンケンを始めたと思ったら、内容は「たたいて・かぶって・ジャンケンポン」だった。しかも強引に相手を向けさせるために殴り飛ばすという、意味不明なルールであった。

 彼が言うにはとっさの状況判断と反射の訓練も含んでいるという。さらに対戦でもあるのであるので心理戦や、そのとっさの動きをISで出来る様にする慣熟訓練でもある。

 つまり、下手な奴は最低でも攻撃が避けられるか防がれるかして、何れかは一方的に殴られるという訳だ。

 それでも納得がいかないので、十千屋は一番重要な所を話すために「絶対安全だから」と注意をしてから…生徒に銃を向けた。

 

「ひゃあ!?」

 

「…どうだ、怖いか?」

 

「は、はい!」

 

「グリップだけを完全に握ってトリガーに指を掛けず、安全装置も掛かっており、

 この銃もラウラから単純に手渡されたもの、つまりISの仕様上では

 絶対に使えないと分かっていてもか?」

 

「は、はぃい!怖いです!撃たれそうで怖いですぅう!!!」

 

「そうだ、怖いものだ。

 だが、お前たちはいずれかコレを持って互いに攻撃しあう事をするのだろ?

 いや、一部ではもうISでの戦闘を自主訓練でやっている奴は居るか」

 

「で、でも…ISなら安全だから」

 

「ふんっ、『ISを纏っていれば安全』?馬鹿か貴様は。確かにISの防御は()()完璧だろう。

 だが、肉を穿ち骨を砕き命を奪うことが出来るブツを使用している事には変わりはないのだぞ」

 

「「「・・・・・・・」」」

 

「ふぅ、今は武器の道徳を話す時間ではないから置いとくとして…このドつき合いは簡単に言えば『度胸を付ける為』だ。攻撃し、攻撃されるのを躊躇わない為のな」

 

「我がドイツ軍では、おやっさんがこの訓練方法を考え出したあと荒事の少ない

 一般上がりの新兵にさせるのが慣習に成りつつあるな」

 

「まぁ、ラウラが言った事は一先ず置いておこう。でも、空いた時間でも考えてみて欲しい

 『ISとは何か、何を望まれているか』を。膨大な規則や法律、

 コアの数以外にも限られた者しか使えない訳を」

 

 十千屋とラウラの言葉に生徒達は押し黙ってしまった。このクラスは国際的なIS学園にも関わらず日本人の割合が大きい、つまり日常から荒事から遠いのである。

 ISはスポーツで活躍しているのが一般的に知られている場面だ。自衛隊で使われていたとしても、それは一般人には遠い世界である。そう、ISの現実(リアル)から遠い者達ばかりなのであった。

 完全に沈黙してしまった生徒達を十千屋は柏手で気を取り直し、訓練の続きを促す。それでも意気消沈している生徒がいたが、十千屋が叱咤激励しラウラがその間訓練の補佐をするという流れで残りの時間は進めていった。

 

「…織斑先生、十千屋君とボーデヴィッヒさんの所やり過ぎじゃありませんか?」

 

「確かにそうだが、ISの理想と現実はいずれブチ当たる問題だ」

 

「でも…」

 

「十千屋が上手くやっている、問題はない。

 それにこの問題は私達教員がいずれ指しせねばならぬ事だ。

 大人といえども生徒任せだけにしてられん」

 

「はい!私たちも頑張らなきゃいけませんね!!」

 

「あぁ…(しかし、十千屋…お前の傷だらけの躰と瞳は一体何を見てきたんだ?)」

 

 自分の受け持った生徒を叱咤激励し歩ませる十千屋の姿は、とても優しいものであったがそれはともすれば贖罪や忠告の様にも見えた。

 自らが歩み、踏み抜いてしまった何かを踏ませないようにその道を辿らない様に必死に教えている。

 そう感じ取ってしまったのは自分の気のせいなのか、互いに知らずに刃を交えた時の罪悪感からなのか…その答えは誰にも分からなかった。




最初に言おう…何故かラストは真面目な話になってしまった、何故だ!?
とある二次作者さんの影響を受けているとはいえ、今回はエクストリームあっちむいてホイで笑いを取ろうとしたら・・・何故かシリアスになってしまった(´Д`;)
アレか?ノリで考えた訓練方法に違和感が無いように真面目っぽく理由付けしたせいなのか!?
ギャグの時は完全にギャクで行きたかったのにorz

さておき、十千屋とラウラの距離が元から近いので暫くはラウラサイドのお話になるかと思います。
あと、思いついた場面が1つか2つ位あるのでシャルルの正体がバレてトーナメントの話になるまでまた少し時間がかかりそうです。

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA26ss:私は貴様を認めん!!

はい、基本原作の大筋は外れないので、今回もだいたい分かっていると思いますが、それでもよろしければどうぞ。

では、どうぞ御ゆるりと。


 己を知る、それはあらゆるモノごとに通じる秘訣。

 己の力を知る、己の技を知る、己の心を知る。

 そして、(相手)を知る。

 (相手)の力を知る。(相手)の技を知る。(相手)の心を知る。

 一体、幾つ知ればいいのだろうか?

 

 

 

 午前中の実習の時間が終わり、今は昼時つまり昼休みだ。生徒達はそれぞれの昼食を済ませるために散らばっていった。

 その中で、十千屋のコトブキカンパニーグループ+ラウラは一夏達と別れ食堂の方に足を運んだ。

 相変わらず十千屋の頭を奇異の目で見るため、彼らが座る席の周りには空白ができるが些細なことであろう。

 

「さて、改めて久しぶりだな。ラウラ」

 

「ああ、久しぶりだ。第二の男性装着者がおやっさんだとは驚いたが…同時に納得した」

 

「うん?なんでだ」

 

「いや、おやっさんのマン(M)マシーン(M)インターフェース(I)の事は知っていたからな。

 ISも機械でプログラムだ、もしや…とな」

 

「そうね、父さんの事を知っているならばそう思っても仕方ないわ」

 

「だが、それ以上に…」

 

「それ以上に?どうしたのラーラ?」

 

ラーラって何だ?ごほんっ、いや……あの人ならそうなってもおかしくないと、

 部隊の皆全員が直感的に察してしまったのだ」

 

「「「あぁ~~~~…」」」

 

「おい、何故そこで納得する?なぁ、なんで周りまでソコを肯定してるんだ!?」

 

 ラウラの語ったその一声の反応が十千屋のツッコミの答えを指し示している。見た目も技量も並でなく、あからさまな《逸》般人…彼がどう否定しようともその印象は覆る事はなかった。

 彼が自分の評価に諦めている時に、Line(ライン)にメッセージが入る。その中身を確認してみると、

 

『オジ様、バターサンドと甘くて濃いカフェオレを教えてくださり、ありがとうございました』

 

()っちまったのか、セシリア…」

 

 その文を読み、十千屋はこの様な事を漏らした。勿論、周りにはまるで分からずいつの間にか居た本音がこの事を聞いてくる。

 

「ね~、とうちゃんさん?セッシーって何をやっちゃったの~?」

 

「あぁ、こっちに来てから知ったんだけどな。セシリアは冒涜なまでに辛党なんだ…」

 

「おやっさん、イギリス代表の嗜好が辛いものだというのはそこまで問題なのか?」

 

「問題なんです…辛いと言われる中華料理の四川料理よりも遥かに辛く、

 もうタダの刺激物を含んでいるようなモノなの」

 

「おっかさん…それは本当なのか?」

 

「ええ、私もユウさんも彼女の手料理をご馳走された事があるのですが…」

 

「あぁ…ヤバかった。それしか言いようがない。」

 

 十千屋の言葉を食堂で合流したリアハが続けた。その内容に周りの人達は急に水を飲み干す者たちが続出する。なにせ、実体験をした二人の雰囲気が何かの終わりを告げるような悲惨なものだったからだ。

 そして、彼は…刺()物を摂取した犠牲者を予想し当てた。

 

「一夏が知っている面子を集めて何処かで昼飯を取ったみたいだから…

 犠牲になったのは、うん・・・・一夏だろうなぁ」

 

 彼の予想に食堂にいる全員が同意し、黙祷を捧げた。一夏…ムチャしやがって・・・・

 ちなみに、

 

「(・ω・`*)ネーネー、づっち~?なんでLineの文章でこうなったの~?」

 

「刺激物の大体は脂溶性-つまり、(あぶら)に溶ける性質なの。

 つまり、口の中に残った辛さを取るためには脂分を含んだものを食べればいいわけ」

 

「「(ノ゚ο゚)ノ オオォォォ-」」

 

「バター自体が脂だし、濃いカフェオレなら牛乳の乳脂肪が入っているわ。

 しかも、牛乳系なら辛味成分を包み込んで取ってくれるからオススメね」

 

 轟のトリビアを聞くと本音とチェーロが感嘆の声をだし褒める。と、同時に今回の騒動の全容が明らかになる。

 偶然的に事前にセシリアの料理の腕を知った十千屋が、もしもの時の対抗阻止として轟が語った豆知識を教えた。

 だが、今回も他人に食べさせる料理の味加減は失敗し地獄の辛さになってしまった。けど、念の為に持ってきた食べ物が不本意ながら役に立ち、それを教えてくれた十千屋にお礼の文が届いた。

 こんな感じであったのである。

 

 

 今日は土曜日、この日は午前授業だけであり午後からは自由時間でありアリーナ全てが解放される。そのため、ISを使用できる者はこぞって実習を勤しんでいた。

 我らがコトブキカンパニーグループと一夏グループも特訓中だ。そして、今しがた一夏とシャルルの軽い手合わせが終わったところである。

 

「ねぇ、一夏…一言、言っていい?」

 

「スマン、分かってるんだ…言わないでくれ」

 

「うん、でも言うよ?一夏ってノーコン?」

 

「俺でも分かってるんだよォォお!?」

 

 そう、一夏はシャルルのアウトレンジの攻撃により一方的にヤられた後であった。一応、彼もメガスラッシュエッジのエネルギーライフルを持っているのだが…全くと言っていいほどシャルルには命中しなかったのである。

 改めて突きつけられる事実に意気消沈する彼にシャルルは原因を考えながら言う。

 

「ええとね、一夏がこうなのは単純に射撃武器の特性を把握してないからだよ」

 

「いや、一応何度も言われて分かっているつもりなんだが……」

 

「う~ん、知識としてだけって感じかな?避け方は何となく分かるけど、

 間合いの詰め方が甘いかな。さっきだってそうでしょ」

 

「すまん、それはこっちのミスだ。コイツ(一夏)が表立って戦うことが多かったからな。

 荒療治で急遽仕立て上げたから逃げ方だけ身に付いたようだ。

 射撃は元々苦手って聞いて先入観もあったみたいだな…」

 

 シャルルが原因を推定すると心当たりがあったようなのか十千屋がフォローに入る。彼が一夏に教え込んでいたのは相手が射撃武器を使ってきた時の避け方が主だった。

 白式は完全格闘オンリー、一応戦術の幅を広げるためにメガスラッシュエッジを外側から付けたがライフルの方は基本的な撃ち方を教えただけである。

 それだけなので戦闘中にじっくり構えている時間などなく結局グミ撃ちが主流になってしまっていた。他にはショートアックスの上手な投げ方くらいだ。

 

「なるほど、じゃあより深く射撃武器の特性を理解しないと。

 そうじゃないと格闘オンリーの一夏が対戦じゃ勝てないものね。

 特に一夏の瞬間加速(イグニッション・ブースト)て直線的だから分かり易いし」

 

「うーん、直線的で分かり易い…テレフォンパンチ状態か。それじゃ読まれるわけだよなぁ」

 

「あ、でも瞬間加速中はあまり無理に軌道を変えないほうがいいよ。

 空気抵抗とか圧力の関係で機体に負荷が掛かると、最悪の場合骨折したりするからね」

 

「うぇ、それは嫌だなぁ…あれ?それだと師匠とチェーロはどうなんだ??」

 

「……アレは例外の一つだと思うよ」

 

 瞬間加速中に無理に軌道を変えると怪我をすると言う話を聞いて一夏は疑問を浮かべた。十千屋とチェーロは瞬間加速中でもかなり軌道を変えてくる、それに疑問を抱いたのである。

 説明すると、瞬間加速のエネルギー量を絞り距離を短くして多段的に軌道を変えているのだが、チェーロは自身の特異な才能で気流の流れを読みそれに乗っかるためスムーズに曲がれる。

 十千屋の場合は全身装甲(フルスキン)という機体の特徴-頑丈さで無理を押して強引に軌道を変えている。それに彼の身体能力は千冬(超人)並なので生身の頑丈さも一般人よりも上なのも理由だ。

 

 一夏はシャルルの説明に相づちを打って真剣に聞いている。今まで彼に教えてきたのは十千屋であったが、彼には少し合わなかったらしい。それでもまだマシだったのだが。

 完全に感覚派(説明文までも)な箒、鈴、チェーロ、完全に理詰めなセシリアと轟…このメンツの中では十千屋が一番マシであったとうだけだ。

 他にも、女性陣ではISスーツ自体が刺激的だったいう思春期らしい理由もあるのだけど。

 

 シャルルを先生とした教えが進み、今度は実際に撃ってみようという話に移っていた。彼は自分の銃を渡し、構え方を教えて一夏の体を触って矯正する。

 銃-五五口径アサルトライフル《ヴェント》を渡したのは、まずはちゃんと銃らしい形をしたモノに触らせて構えから教えようと思ったからだ。

 十千屋から受け取ったメガスラッシュエッジのエネルギーライフルは変形合体が基本にあるので一般的なライフルな形をしていないためである。

 

「うん、そう…もうちょっとコッチに寄せて、これでいいかな。それじゃ聞いて、

 コレは火薬銃だから瞬間的に大きな反動がくるけど、

 ISが自動で相殺するから心配しなくていいよ。センサー・リンクは出来てる?」

 

「ゴメン、白式には付いてないんだソレ…(ーー;)」

 

「格闘専用の機体でも普通は入っているんだけど…本当に100%格闘オンリーなんだね。

 しょうがないから目測でやるしかないか。もしかして、それもノーコンの原因の一つかな?」

 

 ISは高速戦闘なので当然射撃も高速状態で行う事になる。その為、ハイパーセンサーとの連携で補正をかけるのだ。武器とハイパーセンサーを同期させ、ターゲットサイトを含む銃撃に必要な情報をIS操縦者に送ることになる。

 それが白式には搭載されていないのである。だが、そこは十千屋ちゃんと今回は用意していた。

 

「一夏コレを付けろ。結構遅くなって悪かったがセンサー・リンクの後付け補助器具だ。

 これを付ければ最低でもターゲットサイトくらいは映るはずだ。」

 

「お、サンキュー師匠!へぇ、スカウターみたいでカッコイイな」

 

「ゴーグルタイプも考えたんだが…男の子だったらコレだろ?」

 

 十千屋が渡したのは片耳側に機械と掛ける所が有り、そこから透明なウインドウが伸びているモノである。一夏がそれを付けると耳に何か引っかかった感じと吸い付く感じがした。

 頭を振っても外れず、視界にはターゲットサイトとライフルの残弾数が見えるようになった。それを確認すると改めて撃ち方に戻る。

 

「どう?レーザー系の銃とは違うでしょ」

 

「お、おぉ…自分で撃つと結構音がデカく聞こえるんだな。

 それに反動が刀と違う手応えだからそれも相まってバクバクする。

 あと、やっぱり《早い》って感じる」

 

「うん、そうなんだよ。一夏の瞬間加速ももちろん早いよ?

 でも弾丸はその面積が小さい分より早いんだ。だから、軌道予測さえあっていれば

 命中させられるし、外れても牽制になる。それは一夏には分かるんじゃないかな?

 特攻する時は集中してるけど、それでも心のどこかではブレーキが掛かっているはずだよ」

 

「だから、簡単に離されて攻撃し続けられるって…訳か」

 

「そういう事」

 

 一夏が感心していると、控えていたメンバーの呆れ声が聞こえてくる。

 

「あぁ…やっと頭の方で理解したか。体には染み付き始めていたんだけどなぁ」

 

「全く、私が何度言ったと思っている」

 

「はぁ?それすら分かっていなかったって訳…あんたバカァ?」

 

「わたくしは分かりきった上で無茶をしていると思ってましが…」

 

「道理で良い的な訳ね。記録を見ると私の一夏への命中率はほぼ100%だし」

 

「えー?銃なんて銃口が見えていれば避けられるモンじゃないのかなぁ?」

 

「「「「それはアンタと十千屋さんだけだ」」」」

 

 他のメンバーの呆れ声がグサグサと一夏に突き刺さる最中、シャルルによる銃講座は続いてゆく。撃ちながらアドバイスを行ったりシャルルに関する雑談を聞くなどをしながら行っていた。

 今いるアリーナは一夏が居るので野次馬根性でこのアリーナに来ている他生徒の人数も多い、そのため他のメンバーは最低限の動きで攻撃を避ける訓練などをしている。

 一夏が1マガジン使い切った頃、アリーナ内がざわつき始めた。その正体は黒いISを装着した銀髪の人物、ラウラとその専用機《シュヴァルツェア・レーゲン》である。

 そのラウラから開放回線(オープン・チャネル)で声が飛んでくる、話し相手は一夏であろう。

 

「おい、軟弱者。私と戦え」

 

「イヤだ。理由がねぇし、だいいち今は特訓中だ」

 

「軟弱者には無くても私にはある。《ドイツ》《第2回大会》《決勝》と言えば分かるだろう?」

 

「……っ」

 

 ラウラの言ったキーワードはドイツで行われたISの世界大会《第2回IS世界大会 モンド・グロッソ》での事だ。

 世間では公にされていない事件が起きており、一夏はその事件の当事者で被害者だ。彼はその日その時に誘拐され、それを聞いた千冬が決勝戦を棄権、まさかのISを身に付けたまま一夏の救出に向かった。

 その時に誘拐情報を掴み彼女を補助したのはドイツ軍であった。千冬はこの件が()()となったと感じ、その後ドイツに軍のIS教官として一年間そこで教鞭を執る事になる。

 

「一応全て話させてもらう。私はこの出来事とその原因の一端となった軟弱者を嫌悪していた。

 織斑教官の汚点としてだ」

 

「そうかよ…」

 

「しかも、軟弱者の話をしている時の織斑教官は当時の私にとって理解できないものだった」

 

「だが、今は違うんだろ?」

 

 近くに寄り語りだしたラウラから冷たい怒りの様なモノを感じる。それは殺気に近いものであっため気の弱い生徒は怯え出し、戦えるレベルまできている生徒は無意識のうちに身構えていた。

 そんな中、急に十千屋が話に割り込むとラウラの雰囲気が緩和され、彼女は苦笑しながら話し出す。

 

「あぁ、私の独りよがりで押し付けていた偶像(イメージ)はおやっさんに壊された。

 それと同時に人…家族や仲間の暖かさを教えてもらった。今なら完全ではないが理解はできる」

 

「そ、そうなのか」

 

「だが、理解できても納得は出来ん!この軟弱者が織斑教官にとって唯一の者だとしても、

 私にはそれほどの価値があるとは思えないのだ!!」

 

 落ち着いたと思ったらまた怒りが吹き出した。今度は冷たくなく、燃え盛るような熱いものだ。そして、同時に爆発する。

 

 「そして何よりも!話す時に見せた織斑教官を()()()にする軟弱者が許せん!!」

 

 「「「`;:゙;`;・`;:゙;`;・`;:゙;`;・(゚ε゚ )ブゥーーーッ!!」」」

 

「ら、ラウラ…()()()()()()()()()()()()()()()()なら分かるが、

 それは幾ら何でも違くないか?」

 

「何っ?おやっさん、日本語で言うとこうではないのか!?」

 

「あぁ‥うん。それは《ラウラがうっかり見ちゃったディープキス後のリアハの顔》や

 《夫婦の夜の生活を待ちわび恍惚している時のリアハ》とかを表す奴だ…‥」

 

 彼女の爆弾発言に今までの重苦しい雰囲気は爆発四散し、かわりに何とも言えないカオスな雰囲気が沸き立つ。特に一夏に向いてる視線は顕著だ。「…やっぱり禁断の」とか「不潔です!」とか「やはりシスコンか」とか色々であった。

 爆弾を投げつけたラウラは、自らの誤爆に顔が真っ赤になりながら誤魔化す様に捲し立てる。

 

「と、とにかく!私は貴様を認めん!!」

 

 彼女はそう言うとISを戦闘状態にし、左肩に装備している大型の実弾砲《大口径リボルバーカノン》を起動させる。

 それに対してシャルルは瞬時にラウラと一夏の間に割り込んだ。その手にはシールドが握られており、これもまた瞬時に展開(オープン)した物だろう。しかし、彼が思っていた衝撃はやってこない。

 

「ふっ、やるじゃないかフランスの代表候補生。それに比べて・・・・」

 

「全く、タチが悪いよ。ブラフだったんだね、一夏がどう反応するのかの」

 

「そうだ。貴様は合格点だが、軟弱者そのザマはなんだ?」

 

「…くぅ!」

 

 そう、ラウラはリボルバーカノンの標準をロックしただけあった。彼女が見たかったのは突如の攻撃に一夏がどう反応するのかである。

 だが、それに反応できたのはシャルルで一夏ではなかった。彼は突如の出来事に呆然としていただけだ。その様子に彼女はますます落胆する。

 

「悔しいか?なら私と戦い抗ってみろ、勝ってみろ…と、言いたい所だがこんな密集状態で

 戦闘は出来んし、なによりも弱すぎる軟弱者を叩きのめしても逆に気の毒なだけだ」

 

「テメェ…」

 

「一夏、挑発に乗っちゃダメだよ」

 

 ラウラは既に勝ち誇った様な口調で一夏を挑発するが、シャルルが彼を抑える。突如の攻撃に反応できず、メンバーの中でも弱いのも事実、それゆえに彼は歯痒い思いをする。

 彼女は言い切ると何か思い出したような顔をし、十千屋に視線を向けた。

 

「そうだ、今月末に丁度良いものがあったな。おやっさん、確か…」

 

「ん?そうだな。確かに『学年別個人トーナメント』があるが?」

 

「なら、軟弱者そこで私と戦うために勝ち上がって来い。

 なに心配いらん私はそうそう負けんからな」

 

「上等だ、絶対に勝ち進んでお前を倒してやる」

 

「ほう、気概は上々だが私に当たる前に負けるなよ?そしたら軟弱者はその程度だった、

 という事だ。あぁ、専用機と当たって負けたら…まぁ、後日再戦くらいは考えてやろう」

 

 そう言うとラウラはこのアリーナから去っていった。まるで嵐のようであったが、姿が見えなくなると姿が見えなくなると他の生徒たちは一気に気が抜ける。

 やはり、一般生徒達には現役軍人の怒気は恐ろしいものであったらしい。しかし、皆の気が萎み込むなか一人だけ闘志を燃やしているのがいる。

 その人物とは一夏である。

 

「師匠…」

 

「ふっ、悔しいのか?」

 

「あぁ、悔しい。俺はアイツを見返してやりたい」

 

「自分が弱い事を認めるか?」

 

「確かに俺はアイツよりも…みんなの中でも弱いかも知れない。

 けど、このままじゃいられない!」

 

「なら、やる事は分かってるな?」

 

「ああ!厚かましいけど、師匠!俺は強くなりたいっ、

 頼みます…俺をもっと鍛えてください!!」

 

「良い啖呵だ。ならば、ラウラに勝つまで泣き言も弱気も後悔も全てその後だ。覚悟しろよ?」

 

「はい!」

 

「一夏、僕も協力するよ」「私だってそうだ!」「あたしもよ!」「では、わたくしも」

 

「ありがとう!みんな!!」

 

 一夏は新たに決意する、強くなると。ここに来て初めて自らの意思で強くなる決意をした一夏。その結果は約1ヶ月後のトーナメントで披露することになる。

 彼に生まれた反骨心はどれほどのものであるか楽しみである。

 

 

 ちなみに、アリーナを去った後のラウラはと言うと・・・

 

「ぬっ、しまった…大抵の奴には勝つ自信があるのだが、おやっさんが相手だと

 確実に勝てる自信がない(;・∀・)・・・言ってしまったが、どうしよう?」

 

 自らの計画が自らが慕う人物のせいで台無しに成ってしまう可能性に気づいてしまった。

 どうするかと首を捻り悩むが、結局はクジ運に天命に任すしかないと諦めたのであった。

 




はい、今回はラウラの宣戦布告ですね。
ここのラウラは人格面のイベントは終了しているので、大きな問題は起こしません。
でも、話の内容は大筋から外れたないので、あまり面白くないかも?
トーナメントやその手前らへんにちょっと入れていきますので、其処ら辺は頑張っていたいと思っています。

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA27ss:お前はどうしたんだ?

はい、待っていた方々はお待たせいたしました。
今回、少しばかり私生活のリズムが狂っていて遅くなってしまいました。

さて、今回はシャルルの身の回りの説明会です。

では、どうぞ御ゆるりと。


 名はその存在を表すもの。ならばその名が偽りだとしたら、その存在そのものも偽り…

 だが、その偽りの中で感じた心は果たして真実なのか虚偽なのか。

 唯一言えることは、《今を生きている》ただそれだけ…

 

 

 

 只今、一夏はこれまでの人生の中で一番のピンチを迎えている。まぁ、コノ後の人生に何度そう言う経験をするか分からないが、今はそうだ。

 さて、いま彼の目の前にいる人物を見てみよう。上から順に見ていゆくと、金髪が見える、アメジストの様な瞳が見える、顔全体的には中性的な美人…もう、分かるだろうがシャルルだ。

 だが、その下から問題だ。そのまま首を見てその下を見たら…膨らんでる、胸がある、品のない言い方だとおっぱいだ。Cカップ相当の美乳がそこに在る。

 今は服の下にあるが、確かにある。なぜ知っているかと言うと、生で見てしまったからだ。

そう、シャルルが()()だと気づいたのはつい先ほどの事である。

 彼が部屋に戻ってきた時、シャルルがシャワールームを使用中であった。しかし、添え付けの石鹸が無くなっている事を思い出した彼はそれを持ってシャワールームに行く、

 その時ちょうどルーム内に石鹸が無いと気づいたシャルルが出てきてしまい鉢合わせになった。そう、裸の女の子(シャルル?)を一夏はモロに見たのである。このラキすけ野郎…

 

 その後、小一時間ドギマギして進展が無かったがようやく男装の訳を聞くことが出来た。

 その訳とは自身の実家の問題であった。彼…いや、彼女の実家-デュノア社は現在窮地に立たされている。IS量産機の世界シェアが第3位と謳われるデュノア社であったが、その後が続かなかった。

 元々、この会社が大きく成長できたのは後発ゆえの事だ。後から参入したため様々な公開データが有りそれを元に高水準で安定性の高いIS量産機《ラファール・リヴァイヴ》を売り出した。

 その売上は上々だったが、世界は()()()()のIS開発を急務としている。ヨーロッパ-欧州連合も『イグニッション・プラン』と言う各国の協力プロジェクトを開始し乗り出した。

 だが、デュノア社はソレに乗る事が出来なかった。後発ゆえに第三世代を開発するノウハウや時間が無く、このプランに加わることが出来なかったのだ。このままでは自国からの支援も打ち切られ経営不振で潰れてしまう。

 そこで目を付けたのが、第一男性装着者である一夏の専用機-白式だ。どこにも所属してなく一番近寄りやすいと予測され、そのデータを掠め盗る事をデュノア社はシャルルに命じたのである。

 近づくために、また広告塔にするべく男装-偽りの男性装着者となりIS学園に来たのだ。

 

 何故、その役割が自分(シャルル)だったのか・・・その答えはこう答えている。

 

「僕はね、一夏。愛人の子なんだよ」

 

 彼女は自分の出生を愛人の子と言った。この事実に一夏は絶句する。

 彼女がデュノア社に、その社長に引き取られたのは約2年前の事である。それまで唯一の肉親であった母親が病に伏せた事が切っ掛けであった。

 母親の病気は市販の薬や施設では治療できない厄介なもので、このままでは死を迎えるだけであったが日頃から彼女-母親に何かあった時の為の最終連絡先としてある番号がシャルルに教えられていたのである。

 その連絡先はデュノア社:社長-アルベール・デュノアのホットライン(直通回線)であり、母親は医療施設に収容されシャルル自身はアルベールに引き取られた。

 

「まぁ、それで色々あってその中でIS適性が高いって事が分かって

 非公式のテストパイロットをする事になったんだ。でも、あれには驚いたなぁ。

 本妻の人からは何時も睨まれて、その娘には何時も突っかかられたし怒鳴られた。

 その娘って正式なテストパイロットでね、僕に対抗意識と持ってたらしいんだけど・・・」

 

 その後も自分に関する話をポツリポツリと晒してゆく。本当は言いたくない話を健気に喋る彼女に一夏は憐憫とやり場のない怒りが沸いてくる。

 だが、それは何処かへと吐き出せないモノだ。それ故に彼は彼女が話し終わるまで黙って確りと聞いていることしか出来なかった。

 

「と、まぁ…こんな所かな? あぁ、何だか話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう。

 それと、ウソをついていてごめんね」

 

「なぁ、シャルルはこれからどうするんだよ?」

 

「へ?どうするって…時間の問題かな。フランス政府もことの真相を知ったら黙ってないし、

 僕は表の世界から去って良くて牢屋かな…」

 

「それでいいのかよ」

 

「そんな事関係ないよ。僕には選ぶ権利がないから、仕方がないよ」

 

「…3年間だ」

 

「なに?」

 

「だったら此処に居ればいい。IS学園の特記事項二一だ」

 

 訳を全てを話し終わり、泣きそうな笑顔でその後も答えるシャルルを一夏は真っ直ぐと見つめその特記事項を言う。

 その内容を簡単に言えば、

 『IS学園は中立で外部から影響を受けない、だから在学中の生徒も原則同じである』

 というものであった。

 シャルルはきょとん、となるが彼は大丈夫だと笑って答え続ける。

 

「つまり、在学中の三年間は大丈夫だ。それだけあれば何とかなるはずだ。

 それに味方になってくれそうな人も心当たりがある」

 

「三年間は分かったけど、無理だよ…こんな事に味方になってくれる人なんて居ないよ」

 

「もし、そうだったとしても…俺は、俺だけはずっとシャルルの味方だ」

 

「一夏……」

 

 一夏の発言にシャルルは泣きそうになるのを堪えて、彼に熱い視線を送った。

 それに彼は「大丈夫だ」という意味を含めて頷き、とある人物に連絡をする。

 それは・・・

 

「……師匠、こんな時間にすみません。でも相談したい事があって、シャルルの事なんだけど」

 

「シャルルの正体が実は女性だったとかか?」

 

「そうなんだ。その事も含めて・・・えっ?なんでそれを知ってるんだ!?」

 

「何となくそっちの状態が分かった。今すぐにでもそっちに行きたいが…夕食の時間間際だ。

 長話になると思うから、その後の方がいいな。よし、そちらが良かったらまた連絡をくれ。

 直ぐに行く」

 

「え、あぁ…はい、分かりました。また後でかけ直します」

 

 十千屋にこの件で相談に乗ってもらおうとした一夏であったが、アッサリとこの切っ掛けであるシャルルが女性だったいう事実を把握され、しかもその後の予定も指示されてしまった。

 この事で呆気に取られる彼であったが、十千屋の言っている事も一理あるので一旦連絡を切ったのである。

 

「一夏?心当たりって十千屋さんの事なのかな」

 

「あ、うん…そうなんだけどさ。

 何故か向こうはシャルルが女の子だって事気づいていたみたいだ」

 

「…え!?」

 

 シャルルは自身の男装は上手くいっていると思っていた。コレの為にかなりの訓練をして、実際にIS学園の女子生徒達は美少年として追い掛け回していたので不本意ながら自信があった。

 なのにソレがバレていたという事実に彼女は困惑する。同じように色々あって困惑していた両者であったが、セシリアが夕食に誘いに来たのでこの現状を誤魔化す為に奔走したらそのことは何処かへといってしまった。

 

「さて、師匠に連絡してもうそろそろ来るはずなんだけど」

 

「でも、こんな時間に寮に入れて貰えるかな。寮長って織斑先生なんだよね?」

 

「…あ、ヤベェ。不安になってきた(Prrr…)オワッ!?」

 

 夕食も何とか済み、再び十千屋に連絡を入れて待っていた二人であったが、

 今の時間帯の寮に一応生徒とは言え部外者の十千屋が入れるかどうか分からない。

 寮長はあの千冬であり、その恐怖が染み付いている一夏には不安が募ってくる。その時に着信音が鳴り響き、不意を突かれた彼は慌てて電話に出た。

 

「え、あ…はい。分かりました」(Pi…)

 

「十千屋さんどうしたって?」

 

「いや、何か窓開けて待ってろってさ」

 

「窓…ねぇ、もしかして?」

 

「ああ、うん。俺も思った」

 

「「登って来るのか(じゃない)?」」

 

「その通りだが?」

 

「うわ!」「うお!」

 

 窓の外、その下らへんからロボ頭がぬっと出て驚く二人であったが、その正体である十千屋は気にせず登りきる。

 余りに早い到着に呆気に取られるが、彼はそのような事は気にせずに事の顛末の説明を促した。

 一夏とシャルルにより説明が始まると十千屋は静かに聞き、聞き終わると顎?に手を当てて考え出す。

 その様子に不安になる二人だったが、考え込んでいた彼が口を開いた。

 

「どうする?」

 

「「えっ?」」

 

「シャルル…お前はどうしたいんだ?」

 

「し、師匠?一体何を言ってるんだ?」

 

「黙れ、俺はコイツ(シャルル)に聞いてるんだ」

 

 十千屋の雰囲気の変貌について行けてない一夏は口を出してしまうが、一蹴される。

 彼は責めるかのようにシャルルに問い質す。『お前はどうしたいのか?』を

 

「ぼ、僕は…」

 

「お前はどうして()()に居るんだ…?」

 

「師匠!何だってんだよ!?分かったんなら何とかしてくれても!!」

 

「阿呆か、お前…姿勢が見えないんだよ。頼りたいのもわかる。

 だけど、頼ってばっかりで優しさを乞うばかりだと何も出来ないんだよ。」

 

「うっ…!?」

 

 メット越しでは分からないが、確かに責めるような目が一夏を貫いた。それは彼に蹈鞴を踏ませるが、そんな事は気にせずに十千屋は言葉を連ねる。

 

「運命ってのを信じて流されてばっかりで、流され続けてそれだけだと―――辛いぞ」

 

「運命…流される……」

 

「人生を語るなら色々あるが、時には犠牲を払ってでも抗う必要がある。

 自らソレに反逆して掴み取る必要がある。お前にはその―――()()()()()()?」

 

「人生…犠牲…覚悟…っ!僕は!!」

 

「なっ!?シャルル!?!」

 

 シャルルは動揺にながらも十千屋の語る言葉の一部分を反芻し、彼の言葉に耳を傾けた。彼が語るたびに思い出が蘇る。中でも、デュノア社に引き取られた後の悪い思い出が。

 母が助かったことは良かったが、その後は一度も会えていない。いや、一度も会わせて貰えてない。生活は楽になったが常に好奇の目や侮蔑、差別の目に晒された。

 楽ではなかったが母が常に居てくれたあの過去が色鮮やかであるならば、今は何色でもない。

 社長夫人が罪を犯して来いと言った。ならばソレに反逆し、自らの色を取り戻すためには…!

 

 シャルルの覚悟が自らを突き動かす。肌身離さず持っている専用機を腕部だけの部分展開をし、ライフルを十千屋に突きつけた。

 突然の彼女の行動に一夏は驚いて動けない。しかも、彼女も師匠も自分の仲間だ。

 そのような人物らが臨戦状態になっても即座にどちらかに付けられる訳もなく、ただ狼狽えるばかりだ。

 

「僕は!僕は自由になりたい!!罪を犯したくない!あの(社長夫人)の言いなりになりたくない!!

 もし、貴方を脅してそれが叶うならば…僕はっ僕は!!!」

 

「新たな罪を犯してでもか?」

 

「そうだ!それが犠牲ならば償う!でも、これ以上言いなりになるのは、死んでも嫌だ!!

 これが僕の反逆と覚悟だ!!!

 

「シャルル!もうやめろよ!!師匠もやめてくれ!!あぁっもう!どうすればいいんだよ!?!」

 

「ふっ、成る程。もう、煽る必要はなさそうだな。

 OK!お前の“反逆”と“覚悟”―――引き受けるぞ!!

 

「「へ…?」」

 

「もしかして、僕…試された?」

 

「み、みたいだな…」

 

 涙目に成りながら震える腕でライフルを向けるシャルルに十千屋はそう啖呵を切った。すると、その内容を聞いた二人は呆気に取られ彼の真意を何となく察する。どうやら彼に試されていたらしい。

 シャルルが心の底から現状の打破を望み、それに対する覚悟が有るかどうかをだ。

 

「驚かせないでくれよ、師匠。俺、どうするべきがどうか迷っちまったよ」

 

「あははは、今考えると途轍もないことしちゃってたよ僕…」

 

「スマンな。惰性で助けても、そいつに余り良くないからな。それに、

 ライフルを向けられた程度でどうにかなるモンじゃないしな」

 

「「はぁ?」」

 

「ふむ、分からないか。シャルル、ちょっと手荒いマネをするぞ?」

 

「えっ?ちょっと、ま…モガ!?」

 

「うぉおい!?師匠!?!?!」

 

「と、まぁ…手染め的な意味でヴァージン(未経験者)相手なら此れぐらい造作もない事なんだよ」

 

 気が抜けている二人に対して、多少の文句らしきモノを言われた十千屋であったが彼は飄々としている。しかも、十千屋は先ほどの状況でも自らの身に危険は無かったと証明するために動いてしまった。

 シャルルに一言いって動いたが、彼女の返答が終わり切る前に仕上げてしまった。十千屋は片手は彼女の首を掴み、もう片方は未だ消すのを忘れているライフルを彼女の手を捻り上げ、その動作で銃口を彼女の口内に突っ込んだ。

 しかも、そのまま撃てるように彼女の指と自分の指を重ね、ISの使用許諾(アンロック)を誤魔化せる様にだ。それを一瞬の早技で行った彼に対して二人は目を白黒させる。

 

「…本当に僕は、途轍もないことしちゃってたんだ orz」

 

「すげぇよ、師匠。怖ぇよ、師匠…((((;゚Д゚))))」

 

「何をうちしがれてるんだ。早く内容を戻して話し合うぞ」

 

 解放されたシャルルと目の当たりにした一夏は、改めて十千屋の()()()ぶりに気をヤっていると、そんな彼から相談事の続きを促される。

 そして、二人は何とか気を持ち直すと話の続きに戻ったのであった。

 

 

 …ちなみに、

 

「あっ、そう言えば…師匠はなんでシャルルが女の子だって分かっていたんだ?」

 

「いや、アレは見れば分かる人は分かるぞ」

 

「え、マジで(゚д゚lll)」

 

「例えばだな…」

 

 十千屋はシャルルの男装の違和感を次から次へと述べてゆく。

 まずは、歩き方からである。これはもはや生物的な違いでありどうしようもない。骨格上の特徴として男が歩く時は肩が主に動き、女は腰が動く。この為、動きのモーションを見比べれば分かるのである。

 そのモーションは彼のロボメットに搭載されているコンピュータで男女どちらに近いか比較した結果、シャルルは女性と判断されたのである。

 次に、またもや搭載されているサーモグラフィーにより、服の下から出る体温が妙な分布になっていたため何か変装する為に着込んでいると分かった。

 さらに、どう見てもシャルルが一夏に対する反応が男から見ておかしいのである。まるで男慣れしていない女性のようであった。

 

「あははは・・・・はぁ、僕の努力は何だったんだ?」

 

「え、えーと…大丈夫だって!師匠にはバレてるけど、他の奴らにはバレてないんだからさ!」

 

「まぁ…バレてない理由は、超絶に鈍く同世代の男友達に飢えていた一夏とか、

 一夏にしか興味がない連中とか、極めつけは男子に飢えている女子生徒とかが主な理由だがな」

 

「ねぇ一夏…僕もうお家(フランス)に帰りたい(´;ω;`)」

 

「いやっ、さっき帰らないって決めたばかりじゃないか!?」

 

「(まぁ、シャルルだけじゃ無くて周りの情勢もおかしかったんだけどな)」

 

 第一に三番目といえ男性装着者が出たのだ。それが騒がれる事がないと言うのはおかしい。

 どれだけ情報統制されていたとしてもIS学園に入学した後はその情報が解放されてもいいはずなのである。

 だと言うのにニュースどころか噂も経っておらず、IS委員会にハッキングしてもそこら辺の確定情報が掴めなかった。

 まぁ、それ以前にシャルルが転校してきた時の千冬達の様子がおかしかったのが一番なのだが・・・

 

「((あか)く仄暗くカメラアイを灯らせて睨みつけてやったけど…おもいッきり目ェ逸らせやがって。色々ヤっちまった感があるけどさ、俺は外部協力者じゃぁねぇんだぞ!?)」

 

 そう、威嚇のために睨みつけてみたのだが…千冬も山田先生も視線を逸らして、

 あまつさえ『お前に任せた』なんて雰囲気を醸し出していた。

 どうせ一夏に関わることだろうと彼女に対して諜報をやっていたのだが、一応の身分は生徒のはずなのに任せっぱなしというのはいけないだろう。

 そんな事を十千屋は考えていたのだが、これからも(一夏関係)から自分から事件の渦中に飛び込む予感がして頭が痛いのであった。




今回はいつもより遅くなってしまいました。
冒頭で話したように私生活のリズムが少し狂ってしまって、筆が遅くなってしまいました。
本当はシャルルの問題は一応解決まで話を進めようとしたのですが、説明が終わり十千屋の登場で文字数がちょうど良い感じになったのでここで切りました。

今回の話で分かるようにシャルルの身の回りは原作と少し違います。
妄想&設定が浮かんで取り入れてますので、原作組はやはり少しづつ違くなっていますね。

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA28ss:彼らの関係はメル友

最近、遅筆となっておりますが…ようやくできました。
今回も、シャルルとのお話になります。


では、どうぞ御ゆるりと。



 守るという事は、決して裏切らないこと・・・

 そう、裏切らないこと…

 約束とは、果たされるもの・・・

 そう、果たされるもの…

 故に、私は約束を果たすために、決して裏切らず守るために・・・刃を向ける。

 

 

 さて、十千屋はシャルルの意志(反逆)を受け持った。故に状況を打破する手を考え出さなければならない。

 が、彼は又しても考え込んでしまった。

 

「…とは、言ったものの実際にはどうするべきやらだなぁ」

 

「し、師匠…やっぱり駄目なのか」

 

「いや、手はあるんだが此等はシャルルの思っている展開じゃないと思ってな」

 

 十千屋は今すぐに考え出される策は、シャルルの希望に沿っていないと言い出した。流石にそれだけだは二人は分からないので彼は説明し始める。

 一番簡単なのは〔亡命〕と言う手だ。彼女の身分は代表候補生、コレは一企業が任命できるものではない。国が選定し任命しなければ候補生と言えども国の代表とする事は出来ないからだ。

 故に、この不祥事を公にし不義を働いたのはデュノア社と祖国として、自分は被害者であるという様に立ち回れば十千屋の所属国-ゲムマ群島首長国に亡命し保護する事が出来る。

 彼が所属する会社と国との関係はズブズブなので其方のルートを取ることが可能だからだ。

 もう一つは偽装死亡。襲撃されるか自殺を装うかは相談しだいだが、表向きは死んだ事にして又しても十千屋側で保護する、と言う手筈だ。

 しかし、何故コレが彼女の希望に沿ってないかと言うとこれらの案は()()()()()()()()()()()と言う一言に尽きる。

 

「うん、僕はお母さんも助けたい。確り治療されていれば、もう完治している筈だよ。

 それでも会えないってのは僕に対する人質なのかも」

 

「それに、確かに三年間はフランス政府ないしデュノア社が強硬手段を取らなければ

 IS学園内では大丈夫…かも知れない。

 だが、その間にアチラが動かないと言う保証はどこにもない」

 

「しかも、白式のデータ…第三世代のデータを盗ってこいって言ってるのに、

 二~三ヶ月も進展がなければ流石に(つつ)いてくるだろうしねぇ」

 

「…な、何か八方塞がりな感じしかしないんだけどさ」

 

「「いずれ、詰まることは確実だ(ね)」」

 

「じゃあ、どうしろって言うんだよ!?にしても、シャルルっお前やけに冷静だな!?」

 

「いやぁ~、あれだけ騒いだからね。なんか一周回って落ち着いちゃったよ」

 

「とりあえず、ウチの会社の諜報部にデュノア社を探らせてみるが…

 どれだけ掴めるかは今のところ皆目検討がつかないな」

 

「…あれ?師匠なんかヤバイこと言ってないか?」

 

 今の段階では手出しが出来ないとほぼ結論付いて、十千屋とシャルルの両者は首を傾げ唸って考えを絞り出そうとする。

 無論、この様な内政に近い案件を一夏は理解できないため放置されていた。

 そんな彼がせめてお茶でも入れようと動き出した時、十千屋が微かに唸った。

 

「あ、そういや…なんで思いつかなかったんだ?まぁいいか。

 シャルル、お前アルから何か変わったものを受け取ってないか?」

 

「えっ、変わった物?それにアルって誰ですか?」

 

「アルベール・デュノアの事だ。アイツとの妙な約束とこの件が結びついてな。

 その『鍵』をお前が受け取っているんじゃないか、ってな」

 

「…十千屋さんが父の知り合いだったなんて驚いたけど、変わった物ですか?

 変わったモノ?変わったもの・・・・あ、」

 

 何かを思い出したようにシャルルは自分の専用機から、とある武器を量子展開(オープン)する。出し終わると、その手には細やかな装飾が施された小さな拳銃(デリンジャー)があった。

 銃自体は銀色に輝き、それをより煌びやかにするように蔓のような金の装飾が施されたシックながらお洒落な物であった。一夏もやはり男の子なのかそれをまじまじと見つめる。

 

「何かちっちゃい銃だなぁ。でも、物凄く綺麗だ」

 

「上下2連の中折式シングルアクション拳銃-レミントン・ダブル・デリンジャー

 って呼ばれる種類だ一夏。しかし、コレが出てくるとはな」

 

「え、えと…僕の持ち物で変わった物と言えばコレなんです。父が出発直前に渡してきた物で、『いざという時に使え』って…いざって時って自殺か目撃者を殺す時とか思っていたんですけど」

 

「お、おいシャルル怖いこと言うなよ」

 

「一夏、間違っていないぞ。目的の内容的にスパイしに来たんだから使い方として

 間違っていない。それに、これが出てくる話では暗殺や自殺に使われるシーンが多い」

 

「はい…僕もそう思って受け取って、一応メンテナンスをしようとした時に

 弾倉に弾じゃなくてメモ用紙が入っていたんです」

 

「「メモ用紙?」」

 

「うん、内容は〔もしもの時、仮面の男に渡せ〕って」

 

「仮面の男…」

 

「こっち見るな一夏、コレは仮面じゃなくて被り物だっていう自覚はあるから」

 

 シャルルは出したデリンジャーの出処を説明してゆく。コレは彼女の父親から渡されたようなのだが、どうやら武器としてではなくメッセンジャーとして使われたらしい。

 その内容は、どう考えてもこのような状況の時に十千屋にコレを渡せと言うモノにしか聞こえなかった。彼女の手の平で輝く銃はそれを証明するかのように銃身に十千屋を映し出している。

 一同はその不可解な内容に首を傾げるが、シャルルは思い切ってこの銃と父と十千屋の関係を訊く。

 

「あの十千屋さん、父とは一体どういう関係なのでしょうか?

 この銃の事も知っていたようだし、約束って一体…?」

 

「あー、待て。順を追って説明してやるから一旦落ち着こう」

 

 十千屋はそう言って、まずは彼とシャルルの父-アルベールとの関係から話しだした。

 彼らの関係はメル友と言っていいだろうか?ここ最近はやり取りをしていないが、以前は程々にメールのやり取りをしていた。

 そうなった理由は、彼が幼い頃まで遡る。年齢にしてまだ10歳にも満たない時の事だ。その頃の彼はとある若手の技術者の懇親会に出席していた。但し、彼自身が幼かったため親が連れてきたものだと出席者たちは思っていただろう。

 そんな中で話しかけてきた人物が居た、後にシャルルの父となる若き日のアルベールだ。しかし、べろんべろんに酔っ払っていた状態であったが・・・

 だが、いざアチラが話しかけてくると話が通じる上、趣味も同じな同好の士であった。その為、互いの連絡先を交換しメールでのやり取りを行うようになったのである。まぁ…酔っ払っていた本人は誰に話しかけたのかは、ほぼ記憶が飛んでいたため相手が子供だということはだいぶ後になって知ったのは余談である。

 そのやり取りの中で、十千屋が何かの記念に送ったのが今回のデリンジャーであった。

 

「そんな事があったんですか」

 

「あぁ、実はラファールのコンセプトも俺たちの趣味が入っていてな。

 『量産機は高水準で高機動、武装は信頼の置ける火薬式の銃火器だろう』ってな」

 

「確かに師匠の趣味っぽいなぁ。武装の基本セットも信頼性重視だし」

 

「さて、ちょっと長話だったかな?シャルル、すまないがソレを貸してくれないか。

 調べたいことがある。あ、あとあったら銃のメンテナンス道具も」

 

「分かりました、道具も一緒にお貸しします」

 

「・・・なぁ、シャルル。その道具とか、このデリンジャーとかなんでISに入ってるんだ?」

 

「一夏、流石に許可がまだ降りてない個人-私用の武器なんか出して持ち歩けないし、

 個人用のロッカーに入れておくのも気が引けるからね。

 僕のISは容量が余ってるから出しづらい置きづらいのは全部入れちゃってるんだ」

 

「そうなのか、俺には分からない感覚だなぁ。だいいち、コイツ(白式)には全く入れられないしな」

 

 十千屋にデリンジャーを預けると二人は雑談を始めてしまった。そんな中で十千屋は色んな角度から銃を観察し、パーツを外し始める。

 その中で、グリップ内の余りの空間から小さな薬用カプセルと一番小さいサイズのフラッシュメモリーを発見した。雑談をしていた二人も様子を見ていたのでそれらが気になり覗き込んでくる。

 十千屋はカプセルはとりあえず置いておき、メモリーの中身を確かめることにした。ロボ頭の右耳らへんを弄るとコードが引き釣り出され、その先はUSBポート(差し込み口)となっており、ソコに差し込む。

 きっと、ロボ頭の中のディスプレイ等に中身のデータが映っているのであろう。う~むとか、ぬっ…とか、むぅ…とか何か唸りながら動かないでいる。暫くすると、彼は二人に向かい合った。

 

「シャルル、コレは本当にアルから受け取ったんだよな?」

 

「は、はい。そうですけど…」

 

「たく、ここまで語ったネタを使うかねぇアルは」

 

「何言ってるか分からないけどさ、結局それの中身は何だったんだよ師匠」

 

「いいか?他言無用だ。コイツの中身はデュノア社の不正データ。

 裏帳簿から違法行為など過去からこれからの予定までビッチリだ。

 カプセルもソレ系のマイクロフィルムが入ってるらしい」

 

「「…へ?えぇえぇええええ!?!」」

 

「防音が確りとしているからって騒ぐなよ」

 

「いや!だって!?コレはアレであー言うヤツなんだろう!?」

 

「うんうん!そりゃ驚くに決まってるじゃないですか!!」

 

 中身のデータとはデュノア社の裏の記録であった。公にされれば只事じゃ済まないこと確実なモノである。当然、そんなモノが入っていたと知った二人は声を上げて驚愕する。

 だが、慌てふためく彼らを余所に十千屋はしんみりとしてシャルルに話しかけた。

 

「シャルル…お前宛のデータ(手紙)がある。こちら(不正データ)は貰ってゆくぞ。」

 

「あ、はい」

 

「今すぐ読んでやってくれ。他人が居ると気になる内容だからな、

 俺と一夏は少しばかり部屋から出てゆくよ」

 

「は?おい!?ちょっとぉ!!師匠っ行き成り掴んで引きづらないでぇええ!?」

 

 十千屋は彼女宛のデータを本人に送信すると、強制的に一夏を引き連れて部屋を出ていってしまった。それに呆気に取られるシャルルであったが、取り敢えず受け取ったソレを開いて見ることにする。

 が、一行目-差出人の名前を見た瞬間に彼女の動きは止まった。それもその筈、差出人はアルベール・デュノア(彼女の父)であったからである。

 

「なぁ師匠…なんで俺は連れて出されたんだ?色々あってついて行けてないんだけど…」

 

「ん~、そうだな。いろんなネタばらしするか」

 

 男二人は見つからないようにして(特に千冬に)寮内の自販機までやってきた。軽食やお菓子、無論飲み物などがあり軽い休憩所となっているので此処なら時間を潰すのにも苦にならない、と判断した為である。

 そこで飲み物を買って席に着き、一息ついたところで一夏は十千屋に詳しい経緯を聴き始める。

 

「シャルルが来たのは学園でスパイ行動をする為だった、という事までは分かってるよな?」

 

「馬鹿にしないでくれよ、師匠。流石にそれは分かるさ。でも、あの証拠品-

 不正行為のデータは一体何なんだよ」

 

「それを語るには、デュノア社は一枚岩でない事を知る必要があるな」

 

「( ゚ ω゚)フムフム…」

 

 デュノア社は現在、大局的に見れば二つに分かれている。社長派と夫人派だ。十千屋が知っているアルベール(社長)は根っからの技術者で、会社経営を純満に出来るとは言い難かった。

 しかも資金振りや財政界へのコネなどが無く、今の一流企業への道は遠かった。その為、それに通じる家との政略結婚…現在の社長夫人の家と縁を紡いだ訳である。こうして、現在の世界シェア三位の大企業となったのだ。

 ただし、それ故に社の経営は夫人側が握っており自分(アルベール)は飾りの社長となってしまったのである。しかも、夫人の手腕は強引で後暗い事まで平気でやるようなやり方であった。

 

「たぶん、そうなってきた頃かな?メールのやり取りが最後になって、

 一方的に約束を取り付けられたのは」

 

「約束って?」

 

「『道を違える事になったら私を止めてくれ』ってな」

 

「な、なんだよ…それ?」

 

 十千屋はそれを良心の呵責故の言葉だったと思っている。そして、その約束が今回果たされたわけだ。

 このまま行けば立場の悪いシャルルも何れかはどうにかなってしまうだろう。会社の行先も怪しく、只の犯罪行為に走ろうとしている。それなのに自らはどうする事も出来なかった。

 だが、IS学園にはアイツ(十千屋)の影が見える、だからどうか…あの時の約束を果たしてもらえないだろうか・・・・

 

「…そう、思ったんだろうな。シャルルをIS学園に入学させれば自動的に保護される立場になる。

 デュノア社-社長夫人を止める手段は、共に話題にあげたスパイ映画の手法を使えば

 俺が気づいてくれるはず、と…まぁ、こんな感じだな」

 

「そんな事になっていたのか」

 

「あぁ、社内の経緯は不正データと共に俺宛ての手紙が有ったから分かった事なんだけど」

 

「…手紙。そうだ、シャルル宛ての手紙もあったって言っていて、

 なんでこうして連れられてきたんだ?」

 

「そいつは完全に他人の家の事情だからな。俺らが居たら読みづらいだろうし、

 それに…俺の知っているアルなら謝罪や本心を彼女に向けて書いてるだろうしな」

 

「…俺には分からないや、親の気持ちってのは」

 

「今は分からなくていいさ。大切なのはきっと、大切な人とどうなりたいか、

 どうしてあげたいかだと俺は思う」

 

 親子の話題となり、何処か遠くを見ていた一夏に十千屋はいつもどおり顔は見えないがきっとシニカルな笑みを浮かべて、ポスっと彼の頭に掌を載せてそう言った。

 その行動に一夏は気恥しさから少し拗ねた表情を見せたが、何故か悪い気は湧かず暫くはそのままでいたのである。

 そして、そろそろいい時間になったので部屋に戻ると少し泣き腫らしたシャルルが出迎えてくれた。あと、ちゃんとノックして部屋に入ったのであしからず。

 彼女の顔には確かに泣き腫らした跡が見えたが、その表情は先程よりも覚悟を決めスッキリした表情をしている。

 

「どうやら、これからどうするかが決まった様だな」

 

「はい、十千屋さん。貴方を頼り、他力本願となってしまいますが、

 どうか僕らを…僕とお母さんと()()()()を助けてください!!」

 

「で、代償は何を支払う?」

 

「僕には僕の命しかありません。僕を、いやっデュノアの全てを支払います!!」

 

「おいおい…もう既にデュノア社まで勘定に入れてるのかよ」

 

「どうせ、デュノア社は御終いです。

 なら、全部貴方にもらって貰った方がお得だと僕は思いました」

 

「OK、契約条件はお前の覚悟、報酬はお前と(デュノア社)の全て…確かに請け負ったぜ」

 

「ふふ、何か悪魔の契約みたいですね」

 

「悪魔か…確かに。伊達にあの世は見てきてねぇからな。

 さて、いろいろ要請しなくちゃな。忙しくなるぞ」

 

 十千屋はなんとなく聞き返した質問から苦笑が絶えない。シャルルは自分に関する事-デュノア社も全て巻き込む気だからだ。

 ここに悪魔の契約と同等かそれ以上の契約が結ばれた。彼は全てを請け負えると自分の部屋へ帰り、行動を開始する。

 そう、人知れずに一国を巻き込む戦いが此処から始まったのであった。

 

 

 ここは…ゲムマ群島首長国の本島より南東に位置する《ヒモト島》、此処にはナナジングループの本社が有りその中にコトブキカンパニーの本部所がある。

 また、国防総省がありこの国の軍備を司る島でもあった。その一室に初老の男が入ってきた。

 

「我らが若旦那様の特別要請だ。『特殊戦闘規定β』のな」

 

「ヒュー!そいつはオッタマゲだなぁ。で…? デカい喧嘩になりそうか?」

 

「少尉、不謹慎ですよ。それにまだ貴方が出ると決まったわではありません」

 

 この一室は十千屋も所属するコトブキカンパニー秘蔵FA部隊の個室だ。いや、もう既に公に出つつあるからFA特殊部隊と言ったほうがいいか?

 まぁいい、此処は国とナナジングループ及びコトブキカンパニーから選ばれたエース達が集う部隊だ。様々な任務を受け、戦場へと躍り出る兵士たちが勤めている。

 初老の男性はこの部隊の纏め役である『ロイ・エイラム』階級は大尉、

 軽口を叩く男は部隊の問題児『ジャン・B(ベル)・ウィルバー』階級は少尉、

 それを窘めた大柄の女性は『リロイ・ハロルド』階級は准尉であり問題児(ジャン)のストッパーでもある。

 それと、此処には十千屋の過去話にも出てきた『トルース・ロックヘッド』『今朝霧スミカ』も居る。ちなみにどちらの階級も中尉だ。

 そして『特殊戦闘規定β』とは、対企業や対特殊要人を相手にする事を示している。だから、ウィルバーは()()()()()と言ったわけである。

 

「まだ我らの出番はない、お上(ナナジングループ)が先ずはM&A(企業買収)を掛けている最中だ。

 が、いずれ我らが出る時が来る」

 

「ふむ、その話題からすると今回の相手は企業か。

 それもナナジングループが先ずは相手する程の」

 

「そうだ。今回の相手は、IS世界シェア第三位を謳う《デュノア社》だ」

 

「そいつはまた…派手なことに成りそうだな」

 

 エイラムが内容を語っていると不敵な笑みを浮かべながらスミカが言葉を差し込み、その答えで疲れたようにトルースが言う。同じようにリロイも溜息をつくが、ウィルバーは逆にスミカと同じように笑みを浮かべるのであった。

 その様子に彼は何時も通り、と思いながら話を続ける。

 

「そして、武力行使の際の人員は私も含め此処に居る全員が出る。

 トルース・ロックヘッド中尉 今朝霧スミカ中尉 

 リロイ・ハロルド准尉 ジャン・B・ウィルバー少尉 

 この場に居ないその他にはMD(メイルデバイス)を装着した00No.(ダブルオー ナンバー)チーム 

 そして、私-ロイ・エイラム大尉だ」

 

「っと、エイラム大尉お話は以上かい?」

 

「今のところ以上だ…で、どこに行く気だ」

 

「ハンガーだよ。最近、俺のカワイ子ちゃん(愛機)お着替え(改修)したからな。

 デート(作戦)の時にご機嫌斜めにならないように宥めて(メンテナンス)くるのさ」

 

「すみません大尉。私も行きます、コレを放っておいたら何しでかすか分かりませんから」

 

「すまんな准尉。ウィルバー少尉、先に目的を言えば文句は言わん。

 だが、その先で迷惑を掛けるなよ?」

 

「了解、りょーかい。ん、じゃまぁ…行ってくるわ。あ、そう言えば…」

 

「今度はなんだ?」

 

 ウィルバーは出てゆく直前に思い出しかのようにエイラムに次の事を聞いてみる。

 

「若旦那の所のお嬢ちゃん達(直属部隊)は出るのか?あと、最近…つーても1年くらい前か、

 そこら辺で雇われた新人どもは?」

 

「実働出来るお嬢さん達は全員IS学園に何かしらの要件で行っている。

 他はまだ新型機の調整中だ。新人たちは片方は産休、もう片方は体の調整が入っている

 …もう、聞くことはないか?」

 

「サンキュー、もうないぜ!行ってきまーす」

 

「では、失礼します」

 

 彼は答えを聞くと部屋から出ていき、それに伴ってトルースとスミカも出てゆくようだ。いや、トルースは強制的にスミカに連れられていった。

 

「ふっ、体が鈍ってはイカンからな。朝まで付き合えトルース(相棒)

 

「放せ、模擬戦くらいには付き合ってやる。だが、それ以上はやらん」

 

「別にいいではないか、今から戦って汗を流し、夜はベットの上でも汗を流すんだ。最高だろ?」

 

「えぇえい!俺を襲うな!!このバトルジャンキーの色情魔が!!」

 

「逃しはせんよ、お前には公私共に私と付き合う資格があるのだからな!」

 

「そんな事、誰が決めた!!」

 

「私が決めた!!」

 

 廊下から喧騒が聞こえてきたが、これが何時ものやり取りだと思うとエイラムは遠い目をした。そして、おもむろに部屋の私物入れから小瓶を取り出した。

 

「くそ、イギリス空軍を退役した後この話に乗るのでは無かった

 …恨むぞ、過去の自分とジェイムス」

 

 エイラムは元イギリス空軍のエースパイロットであった。退役(定年)に近づいていて、ISに活躍の場-つまり空を盗られた際ジェイムス・B(ボード)・オルコットの勧めと十千屋のスカウトにより此処に居る。

 が、やり甲斐がある仕事には付けたが…部下になったエース達は色々と問題児だらけ、ストレスから来る胃痛の為に胃薬が欠かせなくなった苦労人となってしまった。

 ちなみに市販の薬では効かなくなってきており、魔窟の(マッド)科学者から薬を調合してもらっている・・・・




はい、最近はなんか遅筆ですが…ようやく今回の話を書き終わりました。
段々と《2人の転校生編》のバトルに近づいていますが…原作の展開的にまだちょいとあります。
しかも、最後に出てきた彼らが暴れる話も書かなくては成らないので・・・終わりはまだまだ先の事になりそうです。
まぁ、見てくださる方々が居ればゆっくりでも書き続けてゆきたいと思います。

そう言えば最近、原作の最新刊-11巻を買いました。
本格的に読んでませんが、チラ読みすると…天災ウサギがかなり外道になってきているような?
あと、本自体の厚みが薄くなっていっているような?
まあ、それ以前が読みきれてないので詰みですね。
・・・あぁ、原作もプラモも(詰み)重なってゆく((((;゚Д゚))))
全然、(詰み)清算(生産)が追いついてないぃぃ・・・(´;ω;`)


では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA29ss:刮目するがいい

ちょっと紆余曲折があり、とある話を一旦棚に上げてコチラを書きました。
棚上げの理由はあとがきにでも。

では、どうぞ御ゆるりと。


 ただ言うだけならば簡単だ。だが、それを実行し示すのは容易ではない。

 言うだけで人はついて行かない。示さなければ顔も向けない。

 だから…あの人は言った、実行した、示した・・・・物理的にな。

 

 

 とある日、一夏はとても急いでいた。なぜなら次の授業に遅れそうだからだ。

 授業内容はISの格闘技能に関する基礎知識と応用、ほぼインファイト(接近戦)のみの彼にとっては死活問題となりうる授業になるのは間違いないのである。

 そして、遅れそうになっている理由はトイレが遠い(物理的に)のである。IS学園は女子専門学校だ。つまり、男が使えるトイレは広大な敷地の中に僅か3ヶ所しかないのであった。

 その為、毎度一夏は中距離走の全力ダッシュで行かなければ間に合わない。けど、最近「廊下は走るな!」と叱られたばかりであった。

 十千屋?彼の場合は飲む量などを気を付けて昼休みなど長い休憩時間にするようにしている。どうしても行く場合はパルクール(自在走り)で一直線だ。

 

「は~…毎度の事だけど、この距離だけはどうにもならないなぁ・・・ん?」

 

「織斑先生・・・いや、織斑教官。もう一度、私たちの元へと来てくれませんか」

 

「その話か、分かっていると思うがNOだ」

 

 走っている一夏は曲がり角から聞こえてきた声でふと足を止める。それもその筈、その聞こえてくる声はよく知る人物のモノ。つまり、千冬とラウラのモノであった。

 話の筋からするにラウラは千冬をドイツに連れて帰りたいようだ。だが、千冬は頑なに拒んでいる。

 

「はぁ、やはり来てくれませんか…」

 

「そうだ、私はココ(IS学園)でやる事がある。それを放ってはおけん。

 其れくらい、今のお前なら分かるはずだが?」

 

「一応です。先ほどの話は我が国の上層部も、無論私達も望んでいる事なのです…が、」

 

「が?」

 

「しつこくするとドイツから学園に向けて内部干渉していると言われるから程々にしとけ、

 と先におやっさんから釘を刺されたのでもう止めておきます」

 

「正解だ。たくっ、嫌になるほど先手を打ってくるなアイツ(十千屋)は…

 そう言えば、まだお前がアイツを慕っている理由を聞いたことが無かったな」

 

「そう言えば、そうですね。私が…私達がおやっさんを慕っている理由を簡単に言えば、

『ケツを思いっきり引っぱ叩かれて、尻餅付きながら半ベソかいている時に引き起こされた』

 と言えばいいでしょうか?」

 

「…は?」

 

 此処からラウラの独白が始まった。

 十千屋は千冬が去った後に少しばかり経ってからやって来た。目的はFA部隊をドイツ軍に配備する前の教導官としてである。

 今更な説明になるが、FAとFA:Gは人に装甲を着せた様な姿であり大きさとしては、人より一回り位大きくなった程度である。

 ISと比べて小さいが、それ故にISが入れない市街地や密集地などに適しており、また地上からのISの支援機として運用しようとしたのである。

 だが、IS側が反発し模擬戦(実力)で決定する事を強制したのだ。そして、その模擬戦でラウラの所属部隊-シュヴァルツェ・ハーゼ(黒兎隊)と後のドイツ軍FA部隊-シュヴァルツェ・ヴェーアヴォルフ(黒の人狼隊)&十千屋がぶつかり合ったのである。

 その戦いの結末は、FA部隊・・・いや、十千屋の圧勝で終わった。模擬戦自体は3回行ったのだが、3対3でラウラ側が負け、IS3体 対 十千屋一人でIS(ラウラ)側が負け、終いにはラウラと十千屋の一騎打ちでも彼女は負けた。

 この敗因は、当時の彼女の姿勢に因るものであった。当時のラウラは(ちから)こそが全てで有り、力無き者全てを見下し、他の隊員も兵器の付属品としてしか見ていなかった。

 その為、十千屋は其々の戦いでチームワークで勝ち、彼女が起こす不協和音を利用して勝ち、彼女自身とISの(おご)りを突いて勝ったのであった。

 全敗した彼女は心が折れかけたが、千冬と同じように今度は十千屋が彼女を立ち直らせた。力と千冬への妄執を払い、人との繋がりとそれによって起こせる力を教えたのである。

 それからIS部隊もFA部隊も鍛え上げ、彼が任期を終え去る時には屈強なISとFAの混合部隊が出来上がっていたのである。

 そしてラウラは、彼と出会わなければ自分は只の殺戮兵器か破壊兵器に成っていたかもしれないと、話を括り終えた。

 

 千冬は語られた内容に頭が痛くなる。相変わらず無茶苦茶な過去を持つ彼に頭痛を覚えるが、自身の教え子であるラウラが自分のせいで歪んだ思想に取り憑かれており、それを正して貰った事実のせいで余計に酷くなった。

 もし…彼に出会わず正されてないラウラ来日したら、自分以外には誰であろうが構わず噛み付いてくる狂犬に成っていたであろう事が容易に想像が付く。ある種、純粋な彼女の事だ自分(千冬)(ちから)こそが絶対だと信じ込み問題を起こしたていただろう。

 そうなると、十千屋は思いも知らぬうちに自分の尻拭いをさせたと事になる…千冬はその真実は知りたくなかったと頭の隅へ追いやるのであった。

 

「はぁ…お前が十千屋を慕っているのは、よ~~く分かった」

 

「はい!織斑先生。織斑先生には自信を貰い、おやっさんには本当の仲間を貰いました!

 どちらも私の尊敬する人達であります!」

 

「あぁ…結果的に呼び止める形になって済まなかったな。授業が始まる、教室に戻れ」

 

「分かりました。織斑先生」

 

 喜々として答えるラウラにどこか疲れながらも声色を戻し、千冬は彼女を急かした。言いたい事を全てを言い終えたラウラは足軽に戻ってゆくと、彼女は今度は曲がり角に居るだろう人物に声を掛ける。

 

「そこの男子。盗み聞きとは如何せん感心しないぞ」

 

「ち、違うって!偶然そうなっちまったんだよっ千冬ね―――」

 

 バシーーン!

 

「毎度の事だが、学校では織斑先生と呼べ」

 

「は、はぃ…」

 

 千冬は居た一夏に声を掛けると、内容のせいで彼は慌てて言い訳しながら出てきて…何時ものツッコミが入った。

 どうやら、会話内容ではなく学園内での師弟関係で叩かれたようである。相変わらず一夏は物理的にも精神的にも千冬に対しては頭が上がらないようだ。

 叩き伏せられた彼はトボトボと教室へと向かうが、彼女から声が掛かる。

 

「廊下は走るな。…とは今回は言わん。バレないように走れ。遅れるなよ?」

 

「了解」

 

 どうやら、今回ばかりはルール違反を見逃してくれるようである。姉としても教師としても何処か気に掛けてくれる彼女を嬉しく思いながら、一夏は教室へと急ぐのであった。

 

 

 

 さて、もう既に時間は放課後となっていた。が、十千屋は色々な別件で忙しくなっているため何時ものメンバーには課題を出して自主練習をさせている。

 そんな中で偶然にもセシリアと鈴は同じアリーナで鉢合わせになった。

 

「あら?奇遇ですわね。…鈴さんも狙いは()()でして?」

 

「そうね。今は()()以外に狙うものはあるのかしら?」

 

 とある話題が出ると二人の間に火花が散った。実は今回の学年別トーナメントには妙な噂が出回っており、女子生徒たちはそれによって浮かれながらも優勝を目指している。

 その噂とは『学年別トーナメントに優勝者は織斑一夏と交際できる』と言う内容である。故に一夏を狙う肉食系女子(ヘタれも含む)はヨダレを盛大に垂らしながら牙を研いでいる最中なのだ。

 無論、この二人もそれらの内の一人だ。

 

「優勝するに当たって警戒するべきは専用機持ちのみ、山田先生みたいに

 技量で上回るタイプは今回は出禁になる筈のアイツ(十千屋)のみ・・・」

 

「故にそれに備えるために実戦訓練を行うのが一番よろしい…のですが、」

 

「私達に付き合えるのは、私達のみっていうのが現状なのよねぇ」

 

 二人の間の火花は益々大きくなり、会話の最中にも関わらずそれぞれの得物を構え出してゆく。その雰囲気にアリーナ内に居た他の生徒たちは距離をとり始めた。

 

 「さぁ…手合せと行きましょうか!!」

 「さぁ…手合せと行きますわよ!!」

 

「何やら面白そうな事をしているじゃないか。是非、私も混ぜてくれ」

 

「「!?」」

 

 そして、訓練と名ばかりのトーナメント前哨戦が始まるかと否や、ISのオープンチャンネルにとある声が届けられる。その声に気を取られ、声の発生源を探るとセシリアと鈴の二人に近づく一機のISがあった。

 その正体は・・・黒色の機体『シュヴァルツェア・レーゲン』、登録操縦者―――

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・」

 

 そう、ラウラだ。セシリアは複雑な表情をしながらその名を口ずさむ。国的には欧州トライアルの相手であり、個人的には慕っている人物の一番弟子にあたるかも知れない人物。故に内心複雑な相手である。

 

「で?何の用よ」

 

「なに、お前たちはこれからトーナメントに向けてのトレーニング(模擬戦)を行おうとしていたのだろ?

 それに混ぜてもらえないか?…という訳だ」

 

「ふ~ん…だったら変則的にバトルロワイヤルでもする?」

 

「いや、二人纏めて掛かってくるといいさ」

 

「「へぇ…」」

 

 鈴はコチラに来た意図を聞き出したが、ラウラは軽い口調ながらも挑発してきた。まるで今の二人では自分の相手にならないと言った感じである。

 流石にこれには二人共カチンっとくるが、彼女の余裕は揺らぎもしない。

 

「それはどういう事でして?」

 

「なに、両者ともおやっさんの指導を受けて一般候補生よりもマシになっている様に見えるが…

 まだまだ再調整中では私には敵わない、という事だ」

 

「馬鹿にしてんの?アイツの調整を受けた甲龍は一味違うわよ」

 

「ふん、まだまだ振り回されISの性能を十全に発揮できないひよっこが何を言う?

 いや、織斑先生やおやっさんから見れば全員ひよっこか」

 

「ぐぎぎぎぎぎぎ…」

 

「鈴さん。今はお言葉に甘えて…ヤりましょう?」

 

「そうね…そうよね、二人掛りでいいって言った事を後悔させてあげるわ!!」

 

「ふっ、やる気になったようだな。そこの人、カウントダウンをお願いする」

 

「はひっ!?私ですか!?(なんでまたこんな役割に…)」

 

 ラウラはごく自然な態度で二人の神経を逆なでしてゆく。その為、()る気になった二人は彼女の提案通りに二人掛りで戦うことに決めた。

 この様子をラウラは満足気に見ると、近くにいた生徒に模擬戦開始の合図を頼んだ。

 

「カウント3!3…2…1…開始(スタート)!!」

 

 「「はぁああ!!」」

 

 「ふっ、刮目するがいい…我がレーゲンの《停止結界》に!」

 

 

 

 

 ところ変わって、一夏とシャルルだ。彼らは雑談をしながら今日の空いているアリーナを目指して歩いている。

 

「今日は自習かぁ…」

 

「うん、十千屋さんは急用が出来てちょっと忙しい…って言っていたけど、

 きっと僕の事だよね・・・・」

 

「だろうなぁ…って、なに遠い目をしてるんだ?」

 

「いやね?流石に十千屋さんに投げっ放しはダメだと思って、

 少し前に差し入れくらいはしなきゃって持って行った時があったんだけど、」

 

「けど?」

 

「…部屋に入る前に聞こえてきた話が

 『どれくらいまでなら更地にしていいか?』とか

 『買収は何%進んでいるか』とか

 『取引先や技術者の引き抜きは順調か』とか

 聞いちゃいけないような事オンパレードだったんだよ…」

 

「…シャルル、お前は聞いていなかった。そうだろ?

 師匠は俺達が足を踏み入れられない向こう側の世界にいるんだ」

 

「(゚д゚)(。_。)_。)うん、僕は何も聞いてない。聞いていないよね?」

 

「ああ!」

 

 只の今日の予定話しだった筈が何故か十千屋の闇の部分の話になってしまった。一夏とシャルルは踏み込むべきではないとして強制的に話しを打ち切り、忘れることにする。幸いにもこの会話は誰にも聞こえなかった。

 さて、気分を切り替えアリーナへと進む。途中で最近何故か微妙な雰囲気の箒と合流し、今日の使用人数が少ないと言われる第3アリーナへと向かった。

 暫くして目的のアリーナへとたどり着いたのだが、使用人数が少ないと聞いてた割には賑わっていた。何故かと近寄るとどうやら誰かか模擬戦をしているらしい。

 

「どうも賑わっている原因は、模擬戦を行っているグループが居るせいの様だな」

 

「へぇ、んでその相手はっと…!?」

 

「どうやら、オルコットさんと凰さんのコンビとボーデヴィッヒさんが戦っているようだね」

 

 一夏達が来たのは彼女らが模擬戦を始めてから少し経った位らしい。そして、戦況は・・・二人で戦っているセシリアと鈴が若干不利と言ったところだ。

 その理由は、ラウラのIS『シュヴァルツェア・レーゲン』の第三世代型兵器が原因だ。

 

「ちっ、もう一回!」

 

「結果は同じだ。どうやらお前の衝撃砲と私の停止結界は相性が良すぎるようだ」

 

「こちら的には相性最悪だけどね!」

 

 最大威力の衝撃砲を鈴は撃つがラウラはそれが来る方向に手を掲げると、次の瞬間には何らかの作用によって衝撃砲の不可視の砲弾はかき消されたようだ。

 そこからすぐにラウラは攻撃に転じ、ワイヤーで繋がっている刃物-ワイヤーブレードと言えば良いだろうか。それを両肩のユニットから射出し鈴に迫る。しかも、このワイヤーブレードは操作可能なのか鈴の迎撃射撃をくぐり抜け彼女の武器-双天牙月を絡め取ってしまった。

 マニュピレーター(ISの手)ごと絡めて獲っているので得物を手放して脱出するわけにもいかない。此処から綱引きが始まるかと思いきや、ラウラに向かって多方向からレーザーが襲いかかる。

 それはセシリアの援護であったが、ラウラはグレイズ(掠め)しながら最小限の動きで避け、先ほど衝撃砲をかき消したように両腕をビットに向けて掲げる。すると、ビットは動きを封じ込められた。

 

 衝撃砲の砲弾消失、ビットの停止、これらはシュヴァルツェア・レーゲンの第三世代型兵器-『慣性停止能力(AIC)』によるものだ。ちなみにAICはアクティブ・イナーシャル・キャンセラーの略である。

 これはISに搭載されているPICを発展させたもので、簡単に言えば任意の空間の動きを止める装置である。強力に見えるが欠点もそこそこ有る、がそれは別の機会にしよう。

 

「第三世代型兵器にはかなりの集中力が必要…コレは速く、

 複数動かすためにパターン化させているな」

 

「のんびり観察している暇はありまして!」

 

「無論だ、コイツを返すぞ?」

 

 二機のビットを止める動作をしたため動きが止まったラウラをセシリアは横に動きながら攻撃するが、その進路方向に絡め取っていた鈴を放り投げる事によって妨害する。

 放り投げられる最中に鈴は、絡め取られた腕を収納(クローズ)する事によって脱する。そのせいでラウラは隙を作ってしまい、セシリアと残り二機のビットの攻撃がクリーンヒットした。

 

「…くっ、何もかも分が悪すぎるわ。セシリア、上手く入ったと思う?」

 

「入りましたけど…ちょっとよそ見して調べた結果、

 ボーデヴィッヒさんの装甲は対ビーム仕様なんですの。

 レーザー(熱線)ビーム(粒子)と違いはありますが『焼き切る』のは一緒…つまり、」

 

「少し驚いたが、それだけだな」

 

「…わたくしの攻撃も相性が悪いという事ですわ」

 

 それなりのレーザーを撃たれたと言うのにラウラのISは未だ健全、対してこちら(英・中コンビ)はダメージもそれなりに溜まっており、レーザー主力のセシリアはエネルギーも心持たない感じとなっていた。

 どうやらラウラが言った通りに再調整中で修業中の二人では相手にならない様だ。事前に相性の事を知っていればもう少し結果は違っていただろうが、それはIF(もし)の話だ。悔しいが負けかけているこれが現実だ。

 

「さて、ギャラリーも五月蝿い…シールド越しで音声的には喧しくないが、

 いい加減ここいらで決着といかないか?」

 

「…そうね、相性問題もあってこっちのジリ貧だし一応模擬戦なのに

 ダメージを負いすぎるのも良くないわね」

 

「鈴さん、悔しいですがご好意に甘えましょう。

 わたくし達の技量が彼女に届かないのは事実…でも、次は、」

 

「ええ、次は負けないわ!」

 

「決まった様だな、ならばこのコインが落ちたら最終戦開始だ」

 

 両者ともにその位置から身構えると、ラウラはコインを宙に放る。何秒かは知らないがコインは宙を舞いそして、落ちた。

 

 ゴォウン!!

 

 その合図(落下)とともに鈴とラウラは瞬間加速(イグニッション・ブースト)で間合いを詰め、セシリアはビットを展開する。

 瞬間加速で刹那見切りになると思ったが、ラウラは逆Vの字で急上昇急降下した。

 

二段瞬間加速(ダブル・イグニッション・ブースト)!?いや、ちがっ短いっ!?」

 

 鈴は思っていた間合いを外され調子を狂わせられた。咄嗟に停止をかけ、両手にプラズマ手刀を光らせ懐に入ろうとするラウラを後退で距離を取ろうとする。

 セシリアはなんとか援護をしようとするが二人の距離が近すぎて誤射の危険があり、手出しができない。鈴の方も間合いが近すぎるためにお得意の回転(バトン)攻撃ができずに後退しながら何度も凌ぎを削った。

 鈴は急激な機動変更に依る錯乱、態と懐に飛び込んできて此方の間合いを消すやり方、それらにとある人物を思い出す。

 

「ちぃ!このやりづらさ、十千屋みたいじゃないの!!」

 

「当たり前だ!私はおやっさんの弟子でもあるからな!

 にわかで(最近)入ったお前らとキャリア(年数)が違う!!」

 

 後退を続ける鈴は痺れを切らし、衝撃砲を撃とうとするがそのラグ()のせいで逆に衝撃砲のユニットを撃ち落とされてしまう。それによって更なる隙が生じ、止めのプラズマ手刀が迫るがセシリアがビット一機を犠牲として防ぐ。

 その間に鈴は瞬間加速で離脱し、ミサイルビット含む全ての武装を撃ちだしたセシリアに乗じて最大出力の衝撃砲を何発もラウラに発射した。

 

「ふむ、コレがお前たちの全てか…足りないな、まだ足りない!足ァりないぞォ!」

 

 ラウラは迫り来るレーザーの嵐を又しても最小限の動きで回避し、

 

「お前達に足りないものは、それは~…」

 

 そのレーザーの嵐の中でミサイルビットをAICで停止させ、ワイヤーブレードで確保する。

 

「情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ!そしてェなによりもォ-------」

 

 と、同時にセシリアと鈴に向かって投げ返し、向かってきていた衝撃砲はAICで相殺。

 

 「ご飯が足りない!!」

 

 「「なんじゃそりゃ(ですの)ーー!?

   って、きゃぁああ!!!」」

 

 ラウラ謎の発言にツッコミを入れつつも投げ返されたミサイルビットを避けようとするが…AICで固定され、ミサイルは直撃した。

 爆炎が立ち込め、暫くするとセシリアと鈴が現れるが両者のシールドエネルギーはレッドゾーン、武装も半壊気味でありこれ以上は戦えない状態になっていた。

 つまり、先ほどのやり取りからしてもこの状態は・・・ラウラの勝利と言う事になる。

 

 彼女らの戦いを見ていた一夏は思わず固く拳を握っていた。

 挑戦状を叩きつけてきた相手(ラウラ)の実力を目の当たりにし思うことがあったのだろう。

 表情も険しく戦いの行方を見ていたのであった。

 

「…コレがボーデヴィッヒの実力か。一夏、彼女は強いぞ?」

 

「あぁ、俺は絶対勝つとは言えねぇ…でも、俺の全身全霊を賭けてアイツに挑む!」

 

「一夏、その意気だよ。でも、少し力を抜こ?手が真っ赤になってるよ」

 

「あ、すまん。ありがとう」

 

 一緒に見ていた箒とシャルルもラウラが強敵だと確認しても、一夏の闘志は折れない。いや、以前よりも強くなった。

 そんな、少年漫画の様な燃えるシーンであったが…一夏を気遣って彼の手をとり、固く握り拳を(ほぐ)してゆくシャルルの行動に周りの腐女子は黄色い悲鳴を上げていた。

 更に少し立つと戦っていた三人が同じピットに戻るのを見ると、彼らもそのピットへ向かった。そこに着くと既にISを収納しダメージレベルを調べている三人が見え、一夏は声をかける。

 

「おーい、セシリア、鈴、大丈夫か?」

 

「いっ一夏!?」

 

「い、いいぃい一夏さん何時頃から此処に?」

 

「何時って?セシリアと鈴がラウラと戦っている最中からだけど?」

 

 この一夏の発言に挙動不審であったセシリアと鈴は顔色が青くなって次の瞬間には赤くなって震えだした。

 

「お、おい…二人共?」

 

「「こ…」」

 

「こ?」

 

 「「こんな あたし/わたくし を見ないで(くださいまし)ーー!!!」」

 

 突如の逃亡に一夏は唖然とするが、シャルルは溜息をついて理由を話す。

 

「あ、あれ?二人共どうしたんだ?」

 

「一夏…きっと二人は恥ずかしかったんだと思うよ。たぶん意気揚々と戦いを挑んだけど

 ボロボロに負けて、それを一番仲のいい人に見られて、いたたまれなくなったんだよ」

 

「それは、私でも逃げ出したくなるな…」

 

「なぁ、コレって暫くソッとしておいた方が良いよな?」

 

「うん…」「あぁ‥」

 

「模擬戦で負けても恥では無いのに、何をやっているんだあの二人は…」

 

「「「!?」」」」

 

 二人の奇行に目を追ってしまっていたが、ラウラの呟きで三人は彼女が居ることをようやく思い出した。

 彼女は憮然としているが、慣れた手つきで今できるISのメンテナンスをしていた。それが区切りが良くなったのかこちらに居直る。

 

「ふむ?で、どうだったかな?私の戦いは」

 

「悔しいけどさ、お前が俺を軟弱者扱いするのはしょうがなく思えたよ。けどな…」

 

「けど?どうなんだ」

 

「俺はお前に負けねぇ。負けるにしても絶対にタダじゃ済まさねぇ!」

 

「くくく…なら、楽しみに待っているぞ?チャレンジャー」

 

「ああ、お前もISと首を洗って待っていろ」

 

「くくく…あはは…あーはっはっは!!」

 

 一夏の啖呵が可笑しいのか楽しみなのか分からないが、ラウラは笑い声高々にこの場を去っていった。

 彼はその姿が見えなくなるまで見送る。そして…

 

「箒、シャル、まだアリーナの使用時間は過ぎてないよな」

 

「うん、あと一時間ちょっとって所だね」

 

「ああ、すぐに用意しよう。一夏、分かっているな」

 

「あぁ!今回の短期目標は打倒ラウラ!やってやるぜ!!」

 

 敵が強大であるほど燃えるとはこの事だろうか?今の一夏の目標は学年別トーナメントで勝ち残りラウラを倒すこと、若しくは超える事だ。

 その為に今まで以上に気合を入れて特訓に力を入れるのであった。

 

 

 その頃、悪の三段笑いを決めたラウラは?

 

「…そう言えば、模擬戦後のブリーフィングをしていなかったな。…よし」

 

 ラウラはISネットワークの対戦相手履歴からとある人物たちへメールを送る。内容は

『先ほどの《ご飯》の内容を聞きたかったら夕食時に来い。

 ついでに模擬戦後のブリーフィング(反省会)もするぞ』

 であった。

 

「さて、こうは書いたが時間があるな…おやっさんにFAや装備の新作があるか聞きに行くか」

 

 現役ドイツ軍人のラウラ・ボーデヴィッヒは何だかんだで学園生活を満喫中であった。




はい、今回は原作だとラウラ前哨戦ですね。
原作だと此処から少し立つとトーナメントが始まるのですが、まだちょっとかかりそうです。
それは前書きに書いた棚上げの話になります。
実は、箒にちょっとしたイベントを起こしたのですが…なんか、時系列っぽい事を考えたら少し後の方がいいんじゃないかと思い、今回のを仕上げました。
ですから、次の話はソレか、一応考えてある今回の話の夕食頃の話とかありますね。
後に書いた夕食話だとまた時系列系がアレなのでイベントがまた後回しになってしまいます。
どっちがいいんでしょうかね?

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA30ss:目指すものは!至高のブリュンヒルデボディー!!

今回は話の流れが大体出来ていて、実は勤め先が夏期休暇なので時間があったのです。
だから、早く挙げられました。

では、どうぞ御ゆるりと。


 文武両道、心技一体、三位一体・・・

 まぁ、武道と言うか体を鍛えるのは取り敢えず基本ということだ。

 それと同時にとある元有名選手が言っていたよな?

 

「お米食べろ!」

って、今回はそんな話

 

 

 

「なんか…釈然としないわね」

 

「仕方ありませんわ。ついさっきまで戦っていた相手と夕食を共にするのですから」

 

「…で、なんで俺もなんだ?」

 

「まぁまぁ、一夏。やっぱり二人共不安だったからじゃないかな?」

 

「私としてはこちら側に牙を剥きそうで不安だがな」

 

 時は夕食頃、一夏の固定メンバーと成りつつある面子と共に食堂に向かっていた。

が、その表情は微妙に渋い。

 それもその筈、今一番の敵?であるラウラに鈴とセシリアが夕食を誘われたからだ。誘い方はメールだったが文面的には自由参加みたいである。

 それだから呼ばれた二人は最初は無視しようとしていたが、無碍にも出来ずそれに謎の発言にもモヤっとしていたので了解の返事を返したのであった。

 が、先程まで激闘を繰り広げた相手なので二人きりはどことなく不安なので、同席できるメンバーを二人は誘ったのである。

 

「まぁ、ラウらんはにんじんに嫌気があっても明確な敵意は無いから平気じゃないかなぁ?」

 

「ええ、あの子は織斑を嫌っているだけで回り全てに敵意をもってる訳じゃないわ。

 其処ら辺は父さんに確認済みよ」

 

 そして、このメンバーにチェーロと轟も加わっていた。

 ごく自然に合流したので何も言わなかったが、いい加減疑問に感じたので一夏が聞いてみる。

 

「なんかさ…自然に加わってたけど、どうして二人が居るんだ?」

 

「それはセシり~とリンちゃんに誘われたからだよ♪」

 

「まぁ、その前に貴方達からするとあの後にラウラが父さんの所に来たから、

 この予定も知っていたのだけれどもね」

 

「ふ~ん…あれ?じゃあアイツが来るんじゃなかったの?」

 

「パパは他人の前で食事摂るのは遠慮してるから、元々来ないよ」

 

「それに私達はもしかしたら新しい姉妹になる子とちゃんと話したかったのが本音よ。

 本来は一番しなくちゃいけない自由人がヘタれてるのだけれどもね」

 

「…そう言えば、ボーデヴィッヒさんはオジ様寄りの人でしたものね」

 

 どうやら、チェーロと轟はセシリア達に呼ばれたらしい。正確には十千屋-コトブキカンパニーサイドの面子だろうが。

 しかし、十千屋は被り物と素顔の怪我の跡を気にして来なかったが、代わりにこの二人が来たようだ。その目的を聞いたら、まだ増える義理娘の可能性に一夏サイドは腰が引けたのは秘密である。

 食堂に着くと食券を買い、広めのテーブル席を確保していたラウラの元へ向かう。

 そこには丁度来た人数分のセルフの冷水を揃え終えた彼女の姿があった。

 

「ん、メールの返信どおりの人数だな。まぁ、好きな所に座るがいい」

 

「分かったわよ。じゃあココにするわ」

 

「それじゃ、俺は此処に…」

 

「「「それなら、僕/私/わたくし は此処に…むっ 」」」

 

 鈴が席を引いた隣に一夏が座ったので、残りのメンバーがその隣を狙ったが重複する。

 数秒間の空白の後、シャルルは彼の向かい側に移動、箒とセシリアは目力で牽制しあい結果…

 セシリアが座りシャルルの隣に箒が座った。

 ちなみに、一夏サイドのメンツはラウラから距離を置こうとしたので彼女の近くにはチェーロと轟が座った。

 

「んで?あたし…正確にはセシリアも一緒だけど呼んだ理由は何よ」

 

「別に模擬戦など何か結果の出る訓練後にブリーフィングをするのは常識だろう?

 別に一人でも良かったが、他人の意見も重要だからな。だから呼んだ」

 

「確かに自己分析などは重要ですが、態々敵を呼びますか普通?」

 

「ん (メ・ん・)? お前らは敵ではないぞ?…あぁ、間違いが起こる前に言うが

 日本で言う『歯牙にもかけない』という意味じゃない」

 

 鈴がラウラに呼んだ理由を問い質すが、帰ってきた答えは真面目に訓練する者達が言いそうな理由であり一同は気が抜ける。

 だが、敵対だと思っていてセシリアは次の質問を言ったのだが、帰ってきた答えに一同は唖然とした。

 アレだけやっておいて敵では無いと言い、しかも『雑魚には用がない』とかそういう訳ではなく。ただ単純に敵では無いと言い切ったのだ。

 

「ラウらん。キチンと言っておいた方が良さそうだよ?」

 

「ふむ、そのようだなプニャーレ」

 

「ボクはチェーロで良いよ。たぶん仲間(義娘)なんだし」

 

「私も名指しで別に構わないわ。貴女もこっち(義理娘)サイドに成るのだろうし」

 

「成る程、確かに仲間(十千屋繋がり)だな。よろしく、チェーロ、轟」

 

「うん♪」「ええ…」

 

 ラウラに言葉の意味をちゃんと話した方がいいと言うチェーロに同意するが、仲を深めた会話の意味が微妙にすれ違っているのは何故なのだろうか。

 それは置いといて、彼女は軽く咳払いすると先程の補説を始めた。

 

「《敵では無い》という言葉はそのままの意味だ。

 私はドイツ軍の所属だが今はお前たちと同じ組織(IS学園)の一員であり、しかも凰を除けば

 同じ部隊の者(クラスメイト)だ。そこにあからさまな敵意等持ち込む訳が無いだろう。

 国際的、外交的なドロドロを持ち込みたいと言うのであれば別だがな」

 

「いや、でも…お前って俺を嫌っているんじゃ?」

 

「確かに気に食わないが、隊長である故に気に食わないからといって

 完全に敵対視するものではない。寧ろ、そうであってもキチンと対応し

 ソイツにあった勤務を振り分けなければならない。簡単に言えば《大人の対応》と言う奴だな。

 まぁ、私情はその通りだが」

 

 彼女の補説を聞いていると一夏達は急に肩の力が抜けてくる。どうやら、初対面からのインパクトから見ていたが実は理知的な面も確りあるらしい。

 こちら側が一方的に肩肘張っていたと分かると、残念なような妙に恥ずかしい気分に陥る。

 その為、テンションがダダ下がりに成りそうになるが今度は別の質問をしなければならない。

 

「…はぁ、なんか妙に力が抜けたわ。あぁ、抜けたで思い出したけど。

 アンタの言った《ご飯が足りない》って一体何なのよ」

 

「そうですわねぇ。そう言えば、ソレが有りましたわよねぇ」

 

「その事か、まずは私の食事を見ればわかると思うがその事に起因している」

 

「確かに…」

 

「ちょっと体格からしたら多いいか?」

 

 ラウラに言われて彼女の食事を見てみると、確かに彼女も見た目からしたら食事量が多いというのが分かる。

 それは気のせいではなく、一夏のメンバーでも小さい方の鈴と比べても多い。

 

「ボーデヴィッヒ。それは多すぎではないのか?」

 

「私から言えば、貴様らの方が少なすぎる。IS学園生徒はアスリートだ。

 座学はあるが体を動かす事が多い。しかも私達は未成年で成長期だ。

 動かすエネルギーだけではなく、体を作る栄養もしっかり取らねばならん。

 だから凰は私よりも小柄なのではないか?」

 

「余計なお世話よ!私とほぼ変わらないくせに!!」

 

 そう…実は、ラウラはほんの少しだけ鈴より色々と大きいのである。

 鈴と比べて背とかBとかHとか…W?BとHが見栄える良い数字だが?

 知ってる人は驚くかもしれないが、IS〈インフィニット・ストラトス〉原作だとラウラは鈴よりも小さいのだ。だが、ココのラウラは彼女よりも大きいのである。

 

「まあ、それは置いておくとしよう。私の食事量が多いのは別の理由もある。

 それは私がナノマシン強化体質であるからだ」

 

 そう言うとラウラは眼帯をつまみ上げた。そこには金色に光る瞳がある。

 彼女の容姿も合わせ神秘的な雰囲気に一同は呆けるが、彼女が再び隠すと一同はハッとして話の続きを聴き始める。

 

「私の片目は越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)と呼ばれるナノマシン処置がされている。瞳の色が金なのはその為だ。

 性能はこの話と関係無いため省略するが、関係するのはナノマシン処置を受けた肉体という点だ」

 

「それと食事とどう関係するんだ?」

 

「急かすな軟弱者。ナノマシンの主な動力源は細胞が発する微弱電流-電気エネルギーと

 細胞が作り出すATP-化学エネルギーが主だ」

 

「確かに生体ナノマシンはソレが動力源だね」

 

「その通りだデュノア。しかし、これを纏めると自分の生体エネルギーとなる。

 ここまで言えば分かるのではないか?」

 

「…ナノマシンを植えられると、自分のエネルギーを取られる。と、いう事か?」

 

「正解だ、篠ノ之。一般的な治療ナノマシンならばそこまで影響はないのだが、

 肉体変化を起こすような改造用ナノマシンはそれなりなエネルギー(栄養)を喰われるのだ」

 

 そう、ナノマシンで強化された肉体はそれによって強化という恩恵を受ける。だが、それはナノマシンによって支えられているため、その維持の為にナノマシンを体内で動かし続けなければならない。

 その際に自らのエネルギー源をナノマシンに与えなければ成らないのだ。しかも、ナノマシンは機械なので投与者本人がどんな状態だろうと一定のエネルギーを使用してしまうのである。

 だから、なのでナノマシン強化体質者はナノマシン分のエネルギーを取らなければ、自分に必要な分が減量してしまうのだ。

 

「と、まぁ…コレが理由の一つだ。この減りは一般的では無いのでな。

 おやっさんが気づくまでドイツ軍の管理栄養士も気付かなかったことだ」

 

「まぁ、それは意外と大変ですわね。あら?理由の一つと言うことは他にもありまして?」

 

「うむ。コレは物理的な理由だが、思想的な理由もある」

 

 ラウラはナノマシンの事を理由の一つだというと、次を話すのにタメを作る。その様子に聞き手達は固唾を呑むが…

 

「おやっさんが言っていた。体は何事にも代え難い大切な資本だと。故によく食べ、よく学び、

 よく動き、よく眠る…これらが体を作り、鍛える基本原則にして極意なのだと…

 そして・・・・」

 

「「「(…ゴクッ)」」」

 

 「そして、我らが(ISライダー達)目指すものは!

  至高のブリュンヒルデ(織斑千冬)ボディーなのだと!!」

 

 「「「だぁああああ!!!」」」

 

 息巻いて目を輝かせて言うラウラに一同はギャグ的な感じで気が抜けきる。それはそうだろう、なにせ純粋に目を輝かせコブシをグッと握って掲げて言うのだから。

 今まで毅然とした強敵の様な雰囲気は爆発四散し、代わりに天然な感じがありありと感じるようになったのだから。

 そして、一夏達は思う。コイツ(ラウラ)は生真面目軍人だが…ベース(大元)にあるのは天然ボケであると。

 

「(…モグモグモグ、ゴクン)ちなみに僕たち-コトブキカンパニーの皆はナノマシン強化体質だよ」

 

「正確にはそれ以外も込みなのよね。とりわけ一番エネルギーを取らなきゃいけないのは、

 父さんと素子姉さん、あと家のメイド長かしら?」

 

「だから、内のエンゲル係数凄いんだよねぇ( ̄▽ ̄;)」

 

「まぁ、父さんの利権とか特許とかが凄い数あって、収入がかなりの金額なるから

 そこまで苦じゃないのが救いね」

 

 

 

 取り敢えず、今のラウラの立ち位置は好敵手だと言う事に一夏は結論づいた。それ以外は色々とツッコむと限がなさそうなので置いておくとする。

 気を取り直して食事に戻ろうとした時にこちらに向かってなだれ込んでくる生徒の集団があった。

 地鳴りの様な音を鳴り響かせ来る集団の襲来に皆は呆然とするが、生徒の集まり具合によると目的は一夏とシャルルのようである。

 

 ドドドドドドォッ・・・・!!!

 

 「「「「織斑君!!!」」」」

 「「「「デュノア君!」」」」

 

「な、な、なんだなんだ!?」

 

「ど、どうしたの、みんな…ちょ、ちょっと落ち着いて!?」

 

 「「「「これ!」」」」

 

 状況が飲み込めない一同であったがバンっ!と、とある女子生徒が机に叩きつけ出したのは学園内の緊急告知文が書かれた申込書であった。

 それは今回の学年別トーナメントの申込用紙なのだが、緊急告知事項を箇条書きすると…

 

 ・今回は二人組での参加になる

 

 ・組めなかった生徒は抽選で二人組にされる

 

 …である。つまり―――

 

 「「「「私と組んで!織斑君!!」」」」

 「「「「私と組んでください!デュノア君!!」」」」

 

 何故トーナメントの仕様が変更されたか不明だが、この事を知った一年生女子が学園内で二人しか居ない()()()()()と組もうとこうして雪崩込んで来たのである。

 それ故に飢えた肉食獣の様な剣幕に腰が引ける一夏とシャルルだったが、今この状況で困るのはシャルルだ。

 誰かと組むという事は彼…いや、彼女の正体が露見する事態が起きるかも知れないという事である。

 困って一夏の方を向いてしまいそうになるシャルルであったが、彼女自身これ以上は彼に頼るのは申し訳ないと思い伝えることはできない。

 しかし、一夏はそんな遠慮深さを見抜き、ハイエナの様に群がる女子生徒達に聞こえるような大きな声である事を宣言する。

 この男…自身に向けられる恋愛的好意に神懸かり的に鈍いくせに、何故この様な困ってた事態に対しては敏いのか……

 

 「みんな!悪い!!

 俺はシャルルと組むから諦めてくれないか!!!」

 

シ~~~ン・・・・

 

 この声が響き渡るとデスメタルの様な騒音が逆転し一切無音の沈黙へとなる。

 この一転した状況に一夏は内心マズいと思い始めたが・・・

 

「まぁ、そういう事なら…」

「そうね、他の女子と組まれるよりいいし…」

「男同士が組んで汗を流し戦う…じゅるり

 

 女子生徒達は取り敢えず納得し、各々仕方ないかと口に出しながら一人また一人とこの場を去っていった。

 まぁ、その後は改めてペアを探し出し始めたようで廊下からはバタバタした喧騒が聴こえてくるのだが。

 

「…一夏。仕方がない…仕方がないのだが、ハァ」

 

 だが、此処に逆に落ち込んだままの人物が居る…箒である。彼女自身もこの状況下では仕方ないと思うが、それでも自分が一夏と組みたかったと無念に思う。

 同じように思っていると思われる人物、つまりセシリアと鈴に目を向けるがそれほど落ち込んだ様子は見られない。彼女は不思議に思い二人に聞いてみた。

 

「確かに残念ですけど、逆にいい機会だと思いまして」

 

「ここんとこセシリアと組んで良い成績収めなかったからね。

 ここいらであたし達はこうでも出来るんだ、って示すにはいいと思ったのよ」

 

「ですから、今までのリベンジと言う事でわたくしは鈴さんと組みますわ」

 

 彼女らはこう言ってペア結成を伝えた。確かに山田先生と戦った授業から何かと組んで戦ったが…勝ち星は一つもない。

 コレで別々のペアを組んで逆に良い成績を残したら、互いに逃げたような気分になるのだろう。

 さて、今度は別の事で箒は困る。こうもメンバー内で決まってゆくと自分から組んで欲しいと言える相手が居なくなってしまうのだ。

 残りのメンバーは轟とチェーロだが、彼女らは彼女らで組むのだろう。そう思ってため息をついていると、

 

「ねぇねぇ、スコーパちゃん?」

 

「…もしかして、私かチェーロ。で、なんだ?」

 

「ボクとペアを組む?」

 

「何?良いのか?お前は轟と組むものだとばっかり…」

 

「専用機の特殊性で私とチェーロは組めないのよ。何せ、私達は二人で一つの専用機だから」

 

 ペアの申請をしてきたチェーロに箒は驚く。その理由は轟が話してくれた。忘れられているかもしれないが、彼女たちは一つの専用機(ISコア)を二人で使っている。

 つまり、必然的にどちらかが使用していればもう一人は使用できないのだ。

 

「それは分かったが、轟お前はそれで良いのか」

 

「別に良いわ。こんな特殊性だからトーナメントとか面倒になるのよ。

 それに、一年のトーナメント理由は個人データの指標と聞いているわ。

 なら、教員に直談判して先にデータを採らせてもらうわ」

 

「確かにそうだが、そう簡単にいくか?」

 

「それは相談してみないと分からないけど、私たちで組めば必然的に一機になる。

 別に組めば片方が出ていたらもう片方は出れない。

 せっかく専用機持ちなのに片方に練習機を与えなければならない。

 こう面倒だから何とかなると思うのよ」

 

「…分かった。チェーロ、よろしく頼む」

 

「うん!ボク頼まれた!!」

 

 こうして、大体のメンバーが決まっていった。ちなみにラウラは…

 

「…う~む、ダメもとで聞いてみるか」

 

 取り敢えず、誰かと組むかは決めたようである。あと余談であるが、

 

「チェーロ、先程から私の事を『スコーパ』と呼ぶが何故だ」

 

「ボクの名前の言語がイタリア語だから、そっちで呼んでいるの♪」

 

「…コイツは普通に呼ぶ事はしないのか」

 

 そう、箒のイタリア語訳はscopaと書き、読みは彼女の言っている通りである。

 

 

 

 

――オマケ:何故ペア候補に十千屋が選ばれないのか――

 

 

「いや、組めば勝ち確な人と組めないでしょ」

 

「て言うか…出るならハンデ課さないとヤバイですよ、あの人は」

 

「いや、寧ろ…出されるなら一人だけでやらされるかも」

 

 以上が、他生徒達のインタビュー内容である。そして…ラウラがそれにトドメを刺した。

 

「当たり前だ。おやっさんはシールドエネルギーも無く飛行も満足できないFAで、

 AICが無くプロトタイプのレーゲンとは言え我ら(ドイツ軍人)と3対1で勝ったのだぞ?

 無論、我らが3でおやっさんが1だ。まぁ、一応自分用にフルカスタムしたFAで

 相手取っていたのだがな」

 

「しかも、この様な場ではおやっさんの本当の強さは出ん。あの人の本当の強さは、

 例え手足が吹き飛ぼうが、ナイフ一本だろうが、それを相手の急所に刺し込み(えぐ)り出して

 確実に殺し自分は生き残り勝ち残って帰還する。それこそがあの人の真骨頂だ」

 

 この話が広がると、生徒達は遠い目をする者がほとんであった。そして…

 

「実はサイボーグなのでは」

「いや、戦闘機人なのかも」

「いやいや、異能生存体でしょ?」

 

 「「「ヤベェwww絶対勝てねぇwwww」」」

 

 生徒達はこれぞリアルチートだと痛感したのであった。

 




はい、今回は前書きに書いたとおり時間的余裕と構成的余裕があっため早く書けました。
でも…コチラを書くとプラモも(詰み)が消化できないんですよね・・・
こちらが立てばアチラが立たず…本当にNARUTOの影分身が欲しい日々です(遠い目

さて、次回は前回書いていた箒に対するイベントを仕上げていきたいと思います。
コレで箒と一夏がどことなくマシになって欲しいのですが・・・
予定は未定…どうなるか、いつ上がるか分かりませんが、書いていきたいと思っています。

さて…ワンフェスに身構えないと・・・・・

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA31ss:付き合ってやるって―――

少し、ネタ振りと話の長さで悩んでいました。
少しばかり時間がかかってしまいましたが、今回のをどうぞ。


では、どうぞ御ゆるりと。


 存在を確定するのは《名前》だと言う。

 ほら、よく動物番組で○○の種類という様に固有の名前が付いていないのがあるだろ?

 それと一緒さ。

 だから、名付ける事はとても大切なんだ。

 

 

 最近…変な噂が飛び交っている。それは『学年別トーナメントに優勝者は織斑一夏と交際できる。』というものだ。

 無論、そんな事が出来るわけない。良くて一日デート権が与えられる位であろう。

 一応、男子には秘密っぽいが…十千屋には轟やチェーロ、そして裏方の迅と藍によってその噂を聞きつけていた。

 その噂は一年生だけではなく上級生にまで広がっており『学年が違う優勝者はどうするのか』『授賞式での発表は可能か』など、一年生の情報通に聞きに来ているなどとどまる事を知らない。

 そんな中で憔悴している少女が一人・・・

 

(マズイ…これは非常にまずいぞ・・・・)

 

 その正体は箒である。彼女は血の気が引きながら噂の事を考えていた。元を質せば自分がはんば一夏に叩きつける様に言った約束のことであろう。

 声はソコソコ大きかったが、周りに誰も居らず一夏自身も約束事は言いふらさない性格と踏んでいたので、二人だけの秘密という事に酔いしれながら安心していた。

 だが、結果は無残にもこの有様である。誰が聞きつけたか知らないが、話の整合性を考えるうちに背びれ尾びれが付いていったのだろうと予測はできる。

 もう…こうなったらどうしようもない。花盛りの十代乙女、溢れる情動の暴走を誰がどうして責められるのだろうか。

 ちなみに・・・・もし、自分と一夏が付き合いだしてもあっという間に根掘り葉掘り掘り出されて、学園中に広まると予測できて更に憔悴したのは余談である。

 

(と、とにかく優勝出来れば何とかなるはずだ。うむ!それで問題ない。今回はあの時のような―――あの時とは違う、大丈夫なはずだ・・・)

 

 短慮な解決策が脳裏を掠めるが、それと同時に思い出したくない思い出も掠めてしまう。

 それは、剣道―()()()に反する自らの業であった。ただ己の才能と暴力を振るい、正道をひたすら歩む少年少女達を押しのけ公の場で優勝を飾ったという過去である。

 その頃の箒は荒れていたと言えるだろう。多感な時期に重要人物保護プログラムで自分と縁のある人達と強制的に別れさせ、政府は杜撰で横暴な態度で接していた。

 コレで荒れるなと言う方が無理であろう。そんな自分を自らの剣は鏡のように映し、彼女は唖然とし嫌悪したのである。

 いつも彼女が負う背中のお陰で本当の強さを知っていたはずなのに・・・いや、事実は知っていた()()()だったのだ。

 

(今度こそ、私は…強さを見誤らずに間違えずに勝つことが出来るだろうか―――)

 

 箒は己自身、噂での一夏扱い、他の実力者(専用機持ち)など様々な事で頭を悩ませ…陰鬱な気分で歩いていた。

 この様な精神状態なので、訓練に身が入る訳もなく今日は自由練習となってしまったのである。十千屋自身も別件で忙しく、各自の休憩をとらせた方が良いと判断した為だ。

 だが、一番の要因は彼女の様子が気になるというのも事実であった。

 

 と、いう訳で今日は箒はアテもなくフラフラと学園内を彷徨っていた。無論、彼女も訓練をしようとしたが精神状態を見抜かれ、今日は休んで調子を整えた方が良いと皆から言われ手持ち無沙汰となってしまったのだが。

 逆に何もしないが故にますます自身の内面へと取り憑かれていってしまう。徘徊老人一歩手前の状態で歩いていたら誰かにぶつかってしまった。

 

 ボスン・・・

 

「すっすまない!ぼぅ、っとしていて!…あ」

 

「おっと、いやこっちは大丈夫だ…ん?」

 

 ぶつかった相手は十千屋であった。

 彼がどうして此処に居るかは分からないが・・・箒の精神状態はある方向へ傾いてしまう。

 

「と、十千屋ざぁ・・・んん…」

 

 ぽす…ぎゅっ…

 

「お、おおっと!?どうしたんだ?箒…」

 

 以前、精神的に追い詰められた時に彼女は十千屋に縋り付いた事がある。今回も追い詰められていたため、衝動的に以前甘えることの出来た彼に抱きついたのであろう。

 箒は今年で16歳になるが、なんだかんだ言ってもまだ子供だ。中学生時代に頼りたかった大人()を彼に重ねているのかもしれない。

 

「(ぽんぽんぽん…)落ち着くまでこうしていろ。そしたら、何かあったか聞くからな」

 

「(コクコクコク…)」

 

 十千屋のスーツの前を握り締め、彼にもたれ掛かる様にして箒は静かに泣いており、彼は彼女の背を優しく叩いて成すがままにさせている。とても何処か穏やかで良い雰囲気であった。

 だが、その様子を目撃してしまった者が居る・・・・。

 

(えっ…あれ師匠と箒だよな?箒が泣いて、師匠に抱きついている? ジク・・・)

 

 その正体は一夏であった。元気のない箒がやはり気なったのか探して丁度この場面に遭遇したのだ。

 彼の目に飛び込んできたのは、頼り甲斐のある師匠がいつも自分の傍に居ることの多い幼馴染を抱きしめてる?という謎の光景である。

 この光景は彼にとって不可思議なものであり、理解不能なモノである。しかも、他にも理解できない胸の内の痛みも感じた。

 

((メ・ん・)?何だ?まぁ、いいか…師匠は凄く良い人だし、箒の方も何かあったんだろ。

 それで抱きついて… ジリ・・・)

 

(だから、さっきから何なんだ?こう…胸の奥がジリジリするような?ジクジクするような?

 …はぁ、どうでもいいか。それにしても、箒は師匠と付き合う ジジ・・・

 あー!もう!!何なんだよ!?)

 

 一夏は先程からのよく分からない感覚に苛立ち、手を頭につけて振りかぶる。ダイナミックなヘッドバンギングをかましならが歩いていると、とある教室が目に付く。

 

【相談室】【カウンセリングルーム】

『恋の悩みから些細なことまで、どんなことでも相談してね♥』

 

 相談室の表札の下に紙でカウンセリングルームとあり、扉にはホワイトボードで可愛らしく上記のコメントが書いてあった。

 自身の理解不能な心情に疲れた一夏は普段しないような行動に出てしまう。即ち、入室したのだが・・・

 

「すみませ~ん。お邪魔します。」

 

「あ、は~い…あら?一夏君じゃない」

 

 ダッ()…!シュッ!()()がっ()!?」

 

「あらあら♪出会い頭に逃げ出すなんて…失礼な子ね」

 

「すみません!失礼でした!!だから…この、じゃっ蛇腹剣(ガリアンソード)?外してください!!!」

 

「もうっ、外したら逃げない?」

 

「逃げません!だから外してください!切れそうで怖いんですよ!?」

 

「あらあら、大丈夫よ。ちゃんと刃引きしてあるから♪」

 

「それでもまだ鋭いんですよ!つーか、何処から出したんだコレぇ!?」

 

「うふふ♪」

 

 入室して目に飛び込んできたのは、未だ幼馴染と良い雰囲気でいるであろう師匠の奥さん(リアハ)であった。それ故、先ほどの光景を見たので気まずくなり条件反射で逃げ出したのだが。

 いつの間にか彼女が手にしていた蛇腹剣で胴を巻かれ逃走は失敗に終わった。解放された一夏は席に座らせられ、自分と彼のお茶を用意したリアハは向かい側に座る。

 

「それにしても珍しいわね。どんなお悩みで来たのかしら?」

 

「その前に、さっきの蛇腹剣いったい…何なんですか。

 というか、リアハさんって戦えるんですか」

 

「あら?私は戦うのは苦手と言った覚えがある気がするけど。

 戦えないとは一言も言ってないわよ?あと、蛇腹剣はFAの装備のうちよ。

 本当は娘の方が上手く扱えるんだけどね」

 

「そうなんですか…えっ?娘さんの方が上手い?」

 

「そうなのよ。私は大きい部位に当てたり巻きつける程度しかできないけれど、

 麗白(ましろ)はもっと小さい部位-手足とか狙えるし、それから行動不能へ持ち込めるわね」

 

「一体どう言う娘さんなんですか!?というか、ふと頭に()ぎったけど…

 娘への教育は一体どうなってるんだ!?」

 

「うふふ♪」

 

「うふふ♪じゃないですよ!?」

 

「あらあら♪」

 

「あらあら♪って!!」

 

「あらあら♪うふふふ♪」

 

「ぬがぁぁああああ!??!」

 

 リアハの怪答(かいとう)(誤字にあらず)と暖簾に腕押しな雰囲気に一夏は頭を掻きむしり、奇声を上げる。

 一通り騒ぐと力が抜け切ったのか、彼は机の上にぐったりとしていた。

 

「さて、適度に力が抜けたところで。お悩みはなんなのかな一夏君?」

 

「いえ、適度と言うか完全に脱力したのですが…実は、」

 

 リアハの問いに、バカ正直に先程見た光景と自身の痛み?について話す。

 彼女は何時もの優しいが何処か妖しい笑みを浮かべて、相槌を打ちながら聞いていた。

 そして、聴き終わると…何故か、彼の頭を撫で始める。

 

「な、なんですかコレ。恥ずかしいんですけど」

 

「ちょっと何だか嬉しくなっただけよ。一夏君も年相応に感じるようになったんだなぁ、って」

 

「いや、それよりも…師匠-旦那さんと箒が、」

 

「それは大丈夫だと思うわ。だって沢山の娘たちを私と一緒に育ててきたあの人だもの。

 箒ちゃんの事は心配いらないわ。だから、私はあなたの方をね?」

 

「は、はぁ…」

 

 一夏はどこか誤魔化された様な気がしてならないが、取り敢えず自分の番になったので大人しく聞く。

 しかし、その答えは答えになっていなかった。

 

「ここで私が答えちゃってもいいけど…コレは自分で気づくべきモノなのよねぇ」

 

「え、ここまで来てまさかの放置ですか」

 

「それはあんまりだから…そうだ、名付けをしてみましょう」

 

「名付け?」

 

「モヤモヤしてるのは、それが明確な名前を持っていないから。その正体-名前が付けば

 きっと相対しやすくなるわ」

 

「名付けねぇ…」

 

「私が例えを言ってゆくから復唱してみて。

 その中でしっくりとくるモノが一夏君の心が感じたモノだと思うわ」

 

「わかりました」

 

 リアハは解決策として、感じたモノへの名付けをしてみると提案した。自身の心は答えをもう持っているはず、ならばそれをどう表現すればいいか分かればハッキリする筈だと彼女は言ったのだ。

 彼女は「ユウさんへの~」「箒ちゃんへの~」「一夏君の~」と例題を上げ、その後ろに色んな感情を表す単語を付けていく。それを一夏が復唱してゆく事、数往復…

 

「ユウさんと箒ちゃんへの~『嫉妬』」

 

「師匠と箒への『嫉妬』…ん?んんぬぬぬ??」

 

「あら?当たりかしら?」

 

「いや、ちょっと微妙というか掠っているというか。なんか、こぅ…そこまで激しくないと言うかそこまで重いものでないというか…う~~ぬ」

 

「じゃあ、これならどうかし?ユウさんと箒ちゃんへの~『や・き・も・ち』♪」

 

「師匠と箒への『やきもち』…ん?おお!って…はぁあ!??」

 

「あらあら、大正解(^^♪」

 

「いや、ちょっと…『やきもち』って、ぇええ!?」

 

「何をそんなに驚いているのかしら?」

 

「いやだってさぁ…今考えれば師匠が、悩んでついには泣き出した箒を慰めていただけであって。それだけで俺があの二人に『やきもち』を覚えたって…有り得ないだろ?」

 

 そう、十千屋と箒に感じていた理解不能な感情の名前は『やきもち』。彼はあの二人にやきもちを焼いていたのであった。

 だが、その名前が分かると今度は逆に何故やきもちを焼かなくてはいけないのか彼は理解できない。新旧あるがどちらも自分に馴染み深い存在であるし、十千屋の方は入学当初から色々とお世話になっている。

 それなのに『やきもち』を焼くなど有り得ないと思ったのであった。

 

「あら、そんなの訳でもないわよ?幼い子が一番仲の良い友達が別の子と遊んでいて、

 そこからの疎外感で『やきもち』を覚える事もあるわ」

 

「俺、幼い子…幼稚園児並なのか orz」

 

「別に例えだから落ち込まなくてもいいわよ。

 でも、一夏君は『ユウさんに』か『箒ちゃんに』かはたまた『両方』か。『like(只の好意)』か『love()』か他の何かからきているのかは、君自身で考えなきゃダメよ?私が手伝えるのはここまで。

 どうしても煮詰まったらまたおいでなさい。このベテランお母さんが相手して、あ・げ・る♥」

 

「は、はぁ…」

 

「さてと、こちらのお話はだいたい完了したから、入ってきていいわよぉー」

 

「えっ?ん、なぁ!?」

 

「よう ( ̄Д ̄)ノ」

 

「あ、んぅ…お、お邪魔します」

 

 リアハの解説に生返事で返す一夏であったが、次の瞬間、突如目が見開かれる。

 彼女が入室の許可を出したら、つい先ほどまで諸原因となっていた十千屋と箒が入ってきたからだ。

 まさかの人物たちに動きが完全に止まる彼であったが、次の瞬間…はっ、となる。

 

「ま、まさか。もしかして、全部聞かれていたり?」

 

「俺はリアハから連絡受けて大体は報告されてるけどな。箒とそろって生で聞いたのは、

 お前が自分の『やきもち』に気づいて混乱している頃からだな」

 

「(#0言0;;)<ヴェアアアアアアアア!!! ほとんど、じゃねぇかああ!!」

 

「あ、あの…その、なんだ。別に変な事ではないから気にしなくてもよいぞ、一夏」

 

「変じゃなくとも、俺が恥ずかしいんだよ!

 あと、箒っ!師匠との仲を変な想像してすみません!!」

 

「あ、あぁ…別に気にするな。私でも先ほどの一夏のアレの立場だったら恥ずかしいし、

 一夏の見たソレもそう見えてもおかしくもないだろう。

 しかし、私が十千屋さんに抱いているのは親…いや、一夏にこの表現はいかんか。

 保護者に抱く念と一緒だ。そこだけは、誤解してほしくはない」

 

「あぁ、分かったよ。あと、変な気持を抱いてゴメンな…」

 

「い…いやっ、一夏が私にやきもちを焼いてくれるのは私自身も(やぶさか)かではない、

 と言うかなんというか…」

 

「へ?」

 

「い、いや…その…」

 

パンパンッ はい、積もると言うか()()()話はそこまでだ。

 箒自身もお前に確認したい事があって、お前を探していたんだからな」

 

 一夏の事になると急に臆病になる箒が返答に困っていると、そこからの進展が難しいと知っている十千屋は自分達がここに来た要件を済まそうとする。

 が、未だ踏ん切りがつかない彼は十千屋に聞いてみた。

 

「そうなのか?でも…師匠、俺は一体」

 

「一夏、それは追々考えていけばいい事だ」

 

「でもさ!こう言う気持ちってのはイケナイ事なんだろ!?」

 

「ん~…そこは判断し難い所かな?それで傷つく人がいれば悪いことだし。

 逆にそれだけその人を気にしている、と言う良さげな面ある」

 

「つまり、どう言う事だよ」

 

 十千屋の答えは煮え切らず、一夏はさらに聞き出そうとする。そんな彼に十千屋はこう言い出した。

 

「結果や割り切りの問題点だ」

 

 …と、人と言うのは良くも悪くも色々と割り切って行動するモノだと彼は言う。悪い事があればそこから割り切って行動するし、良い事があっても同様だ。

 この文からは一夏が理解できないため、さらに答える。悪い事があれば、次は失敗しないように何時までも囚われない様に割り切り、良い事があっても何時までも浮かれているのは良くない事だから割り切る。

 例えば、試合に勝ったからといって何時までも浮かれていたら次の試合で負けてしまうかもしれない。だから、気持ちを切り替えて臨むのだと。

 

「人は過去の結果を取り戻せない。それ故に、悪い事はドコに原因があるか突き止め、

 それを繰り返さないために行動し、良い事はより素晴らしくする為に行動する。

 その節々の為に色んな事を割り切っていくわけだ…すまん、うまく説明できない。

 とにかく、今回は誰も傷つくような事は無かった。

 あとはお前の気持ちの整理と割り切りだけだ」

 

「う~~~ん(ーー;) 何となく分かるような、分からないような」

 

「答えの無い人生の命題みたいなもんだから、ユルユル考えていけばいい。

 そろそろ、こっちの要件はいいか?」

 

「あ、うん。すみません、何か長々と聞いて」

 

 一夏の返事に十千屋は大丈夫だと返し、代わりに今度は箒が話だした。

 

「い、一夏…!少しばかり前になるが、私としっした約束を…お、覚え…覚えているか!?」

 

「お、おう…何をそんなに(ども)っていると言うか、錯乱気味なのかは知らなけど、

 あの行き成り言ってきた約束だよな?覚えているぞ」

 

「そ、そうなのか!?」

 

「でもさ、あんなふうに言わなくても付き合ってやるって―――買い物ぐらい

 

「(ず~~~ん… _○/|_ )」

 

「おぅわ!どうしたんだ!箒!?」

 

「(分かっていた、分かっていたし…予想していたが、やはりかっ!?)」

 

 違う、そうじゃないッ…と内心思いながら箒は力なく床へと四肢を着ける。

 本当の約束は『私が(学年別個人トーナメントで)優勝したら、付き合ってもらう』という文面だ。

 普通の人なら分かるだろうが、コレは乙女の宣戦布告(交際宣言)である。だが、やはりこの朴念仁の(一夏)には通じていなかった。

 何故、この男はこうも自分に向けられる恋愛感情には鈍いのだろうか?それを承知で箒は確認してみたが、文面を()()()付き合うの意では無く()()()()付き合うという意味で捉えていた事に絶望した。

 激しく落ち込む箒に一夏は慌てるが、ここで逃げ出すのは何時ものパターン…しかし、今回の彼女は違う!

 

「(そうだ、事前に十千屋さんと話して分かっていた事ではないか!

 ならばっ、この後に私がとるべき行動は!!)」

 

「ほ、箒…?もう、大丈夫なのか」

 

「あぁ、大丈夫だ。一夏は付き合ってくれるんだよな?」

 

「お、おおっ!男に二言はないぜ!」

 

「ならば、付き合ってもらうか…買い物デートに

 

「へっ?えぇえ!?」

 

 そう、()()()()という言葉を言質にして…デートに()()()()という意味で押し通したのだ!

 無論、只の買い物の付き添いのつもりであった一夏は混乱し反論するが、

 

「いやっ!?デートって…なんなんだよソレ!」

 

「わ、私は元々そういうつもりで言ったのだ。

 そちらが勝手に買い物だと思い込んでいたのではないか!」

 

「そ、それでもさ。デートってその…なんだかよ、」

 

「一夏」

 

「なんだよ…」

 

男に二言はないのだよな?」

 

「……あぁっもう!分かった!分かったよ!!」

 

「(( ノ゚Д゚) よぉおし!十千屋さん、上手くいったぞ!!)」

 

 彼の反論は、彼自身が言った矜持の為に不成立となった。自身の勘違いと矜持(プライド)の隙を突く狡猾なやり口は、無論彼女の性格からして出来るものではない。

 その背後には十千屋の存在があった。こうなった経緯は少し前、箒が泣き止んで事情を話した頃まで遡る。

 

「…んで、自分がした約束がたぶん発端となって変な噂が立ち、どうしたらいいか悩んでいたと」

 

「だって、私が一念発起した告白がこんな形になるなんて。

 しかも、失敗しても私が損するだけだったのに…このままでは一夏が

 他の誰かと付き合い始めてしまうっ!」

 

「落ち着け、本人の了承が無いこんな話なんぞデマに決まってるだろうが。

 まぁ、付き合う切っ掛けになるかもしれんが

 

「それでは駄目なのだ!!」

 

「う~む…なら、逆に攻めてハッキリさせてしまう。と、いうのはどうだ?」

 

「え、それはなんなんですか…」

 

「あぁ、多分アイツは思い違いしてるだろうからな。こうやって…」

 

 十千屋の作戦は、いっそのこと約束を確定してしまおう。との事であった。

 無論、噂の事も話さなくてはならないが、噂の元となった約束を確定してしまえばデマだと分かるし言い寄ってきた他の女子にも言い訳ができる。

 この作戦のキモは以下の通りだ。

 一夏は女性との約束内容を正しく理解してるはずがないと踏んだのである。付き合うを交際ではなく、何処かに遊びに行くとか買い物だとかに思いこんでいるはずだ。

 箒はそこはやんわりと否定したかったが、指摘されると反論の余地がなかった。ともかく、そう思い込んでいるのであれば()()()くらいならばその思い込みに押し付ける事が出来るはずだ。

 いくら箒の思っている男女交際は彼にとっては重過ぎるし火急であろう。

 だから、ソコからランクを下げデートにした方が上手くいくと算段をつけた。

 彼が思い込んでいる付き合うを確定させ、ソレがデートであった内容を明かせば引っ込みがつかなく成るはず。そこを押し通せばこの約束は確定される…以上がこのやり取りの種明かしである。

 余談だが、一夏が反論しても丸め込めるレベルであったのは言うまでもない。

 

 まぁ、一番の難所は箒が今までと同じように、イザという時に逃げ出さずに伝える事が出来るかどうかであったが何とかなったようだ。

 流石に一夏がこのままでは誰かと付き合ってしまうのいうのは心底嫌であったみたいである。

 

 その後、デートの約束は学年別トーナメントが終わってからと決まった。

 箒はスッキリした顔でお辞儀して帰り、一夏は腹を括って帰っていったのであった。

 そんな彼女らを十千屋とリアハは見送ったのだが、

 

「ユウさん、試合の形式変更は納得できるのですけど…噂は何処から出たと思います?」

 

「まぁ…形無し会長だろうなぁ。あの娘は面白可笑しく引っ掻き回すの好きみたいだし、

 生徒たちへのカンフル剤として流したんじゃないか、と思う」

 

「迅ちゃんと藍ちゃんに探って貰おうかしら?もし、そうだったら…

 クスクスクス、お仕置き決定ね…たっちゃん♥」

 

「(こりゃ、止められないな)」

 

 何処か、輝きのない瞳で笑う愛妻(リアハ)に遠い目をして悟る(十千屋)なのであった。

 

 

 

 ――後日、生徒会室――

 

 

 

「どうしたのです、バスタオルなんて持って?」

 

「虚ちゃん、ちょっとね」

 

 バスタオルを持って入って来た楯無に不思議に思った虚であったが、彼女がソレを丸め円状にしてイスに敷いた事によってある事を察するのであった。

 

「生徒会長、痔ですか?」

 

「違うわよ!十千屋さんと主にリアハさんにヤられたのよ!!ハッ、しまった!? Σ(゚д゚lll)」

 

 そう、結局噂の出処は楯無であった。それがリアハに知られ…お仕置きプレイとなったらしい。このうっかりの彼女の激白に虚は少し考え言った。

 

「…お嬢様。流石にお腹の中身ぶちまけてのスカト□プレイはドン引きなのですが…」

 

「確かに手足を拘束されてオ●リを突き出して、そこに何か入れられたけど!

 …流石にトイレで出したわよ!!」

 

「では、訴えますか?排泄肛をズタズタにされたって。あと、大人の階段も登りました?」

 

「大丈夫だから!何で持っていたか知らないけど弛緩剤入りローションで広がったから!!

 あと、まだヴァージンよ!!!前は…

 

「え?前は…て、もしや・・・・おめでとうございます。

 今夜、お赤飯でも炊いてそちらに行きましょうか?」

 

「ええ!そうですよ!!後ろは盗られちゃったわよ!!!あと、ソレは要らないわ!」

 

 お仕置き内容は主にオシ●を掘られたらしい…。ああ、なる恐ろしや・・・

 だが、彼女の羞恥プレイは終わらない。沸騰しかかる楯無であるが、誰かが生徒会室に来るのを察知し体裁を整える。未だに顔は羞恥で赤いが。

 

「失礼するでござる。いつものと会長殿宛てに母君からでござるよ~」

 

 来訪者は藍であった。彼女に気づくと楯無は瞬時に近づきいつもの()の隠撮が入った封筒を手早く懐へとしまい、瞬時に定位置に戻る。

 母君-リアハからの荷物は虚が預かり中を確認すると、そこからは後ろを鍛える(調教する)ジョークグッズ(大人のオ●チャ)と調教指南書が入っていた。

 

「ななななぁ・・・(;//Д//)!」

 

「σ(-ω-*)フムフム…成る程。お嬢様」

 

「なによぉ!」

 

「お嬢様がよろしければ、僭越ながら私が(調教の)お手伝いをしましょうか?」

 

「み…みぃっ」

 

「…み?」

 

 「みんなが私のウシロを狙うぅうう!!▂▅▇█▓▒░(TωT)░▒▓█▇▅▂」

 

 従者の手伝い(調教)発言に何時かの様に泣きながら逃げ出す楯無。その様子を見ながら虚は、

 懐からメモを取り出し書く。

 

「お嬢様は今、後ろを調教中…っと」

 

「お主もスキモノでござるなぁ~」

 

 メモには『お嬢様可愛がりメモVol.3』とあり、その様子を藍は生暖かい目で見る。

 一方で逃げ出した楯無は…

 

「(つд⊂)(スンスンスン…)」

 

「あ~、よしよしよし…(昨日の今日でコレかよ。抱きついてる相手分かってんのかな、

 この娘)」

 

「 (;@_@/| 対面座位…いや、それよりもこのままでは第四夫人の座が危うい…!?」

 

 十千屋の学園での本拠地である船の部屋で、これまたいつかの通りに慰めてもらっている。その様子を見てしまった素子は勝手に危機感を募らすのであった。




と、いう訳で…一夏の恋愛脳を小学1年生から4~5年生位まで、いや…もっと低いかも?
まぁ、ともかく内面の成長が今回の話でした。
こじらせると駄目ですが、異性への執着心が無いと恋愛は難しいでしょう。
コレで自分への好意に対する執着や懇意が出てくればいいなぁ…と、思っています。

あと、たっちゃんは(色んな意味で)入れたかったんだ。
オチとしてもエロすとしても…そのせいで、文章が長くなったとしても!!

最後にワンフェスは企業の方は上手く回れ、欲しいものはゲットできました。
でも、個人の方は難しいですね。企業ブースを先に回るとガイドブックで目星を付けていた所は
だいたい終わってました。
しかも、実物を見ると「やっぱり、いいかな?」と思い買わないことも多かったです。
まぁ、楽しかったから良かったです!

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA32ss:完璧《パーフェクト》だ!

取り敢えず、書き上げられました。
今回はトーナメントがようやく開催です。
・・・戦闘などはこの次からですが( ̄▽ ̄;)

では、どうぞ御ゆるりと。


 予感というものがある。

 先の見えない未来をなんとなく感じられるものだ。

 しかし、圧倒的な事実がある場合…その先は予感ではなく、()()と感じるだろう。

 即ち、それを()()と言う。

 

 

 

「いよいよ、だね」

 

「あぁ、トーナメントが始まるな」

 

「それは良いんだが、この更衣室を男子のために貸切りということは…

 何処かでごった返しているんだろうなぁ」

 

「…すし詰めと成っているだろう女子達に敬礼っ」

 

「「(ビシィッ!)」」

 

 そう、いよいよ学年別個人トーナメントが始まる。1週間全生徒対応のトーナメントは直前まで設営がかかり熱気冷めやらぬ状態で始まった。

 更衣室のモニターには観客席の様子が映し出されているが、そちらも凄いの一言である。

 そこには各国の政府関係者、研究所員、企業エージェントその他諸々の顔ぶれが一同に会いしていた。

 彼らの目的は3年生にはスカウト、2年生には1年間の成果を見るため、そして1年生も目立った成績が残ればターゲティングをする為と様々だ。

 

「さて一夏。いよいよ本番だが、気負う必要はない。

 毎回自身とパートナーの力を発揮できるように戦え」

 

「分かった、師匠」

 

「シャルルも今は何も気にするな。アチラは上手くやってる。

 それよりも、一夏に施した改装(カスタム)をちゃんと把握できたか?」

 

「はい!大丈夫です」

 

「よし、それじゃあ対戦表が出るまで待とう」

 

 十千屋は一夏たちにアドバイスをして自らの出番を待つ。それを受けた彼らも自分たちのパートナーと行った訓練やミーティングを思い出しながら待った。

 特に思い出すのは、一夏に備え付けられたH.W.U 05:メガスラッシュエッジだ。

 

 

――約1週間以上前――

 

 

FA(フレーム アームズ)、それはテクノロジーが生み出した、全く新しいロボットである。

 アーキテクトと呼ばれる基本フレームに、

 新型エネルギーシステム ユビキタス(U)エネルギー(E)・システムを搭載。

 更に様々なパーツを合体させることによって、無限の能力を引き出すことができるのだ!

 

♦♫♦・*:..。♦♫♦*゚¨゚゚・*:..。♦!

 

「(すぅ~)デッカく生きろぉ!!」

 

「「いやいや、いきなり何歌いだそうとしてるんですか」」

 

「スマン。興が乗りすぎた」

 

 ここはIS整備室、今日は主に一夏に貸し出しているメガスラッシュエッジの説明を十千屋が行っている。その理由は今度のトーナメントがタッグ戦な為、シャルルにその特性を理解して貰うためだ。

 一夏の説明では不足になるだろうし、一夏自身にも詳しい説明を行っていなかった為である。失礼だと思うが彼に詳しい説明しても分からないだろうし、扱う事が急務だったため使い方以外は省かれていたのだ。

 しかし、今回は武器の造詣が深いシャルルが居るので、パートナー(一夏)のフォローの為にも聞いてもらっているのである。

 だが、先にFAの事を聞かれたので何処ぞのナレーションぽい始まり方となってしまった。

 

「さて、FAの概要はこうだったんだが…コレは本来の仕様で、

 今はサイズダウンしたり強化外骨格のFA:G(フレームアームズ:ギア)として使っている」

 

「え、そうだったのか?」

 

「あぁ、インターネットゲームのを見た一夏は知っているだろうが元は約15mサイズの

 ロボットなんだが…流石にそのサイズを地球で作るのはキツくてな。ほぼ保留にしている。

 しかも今はISが台頭しているから基本思想を同じにして、強化外骨格として売り出したわけだ」

 

「そうなんですか。ではH.W.U(ヘビィ.ウェポン.ユニット)とはなんですか?」

 

「FAに合わせるように作った多機能兵装だな。複数のユニットで分離と合体し、

 さらに規格が合えばどこまでもがコンセプトの」

 

「それが一夏の白式に積まれているんですね」

 

「ああ、こちらの共通規格のハードポイントを白式に付けて積んでいる。

 こうでもしないと白式は…ねぇ?」

 

「ですよね…」

 

「ははっ…いいさ、分かってるさ。呪いの剣装備状態って事は」

 

 十千屋がFAからH.W.Uへと説明を移行させたが、思うところがあるのかシャルルと共に一夏を見る。すると彼は乾いた笑いをだし遠い目をして答えていた。

 元はといえば、白式が何も後付け出来ないが為に付けたメガスラッシュエッジから始まっているためである。

 さて、気を取り直して本来の話筋に戻ろう。

 

「さて、メガスラッシュエッジは五つの武器で構成されている複合武器だ」

 

「剣が二つ、斧が二つ、ライフル一つの合計五つだよな」

 

「そうだ。では、詳しい説明を始めるぞ」

 

 

 名称:H.W.U 05:メガスラッシュエッジ

 

 共通機構はアタックフォトン(攻勢粒子)発生機関であり、ISのPICとビーム技術、コトブキカンパニーのベリルユニットと呼ばれる力場発生兵器の統合装置(良いとこ取り)である。

 しかし、これは一夏に持たせる為にカスタマイズしたメガスラッシュエッジであり、既製品はビーム兵器複合兵装だ。

 さらにカスタム内容として剛性を高め、全てのパーツを合わせた時にそれなりの面積となるので一応盾としても使用が可能。ただし、その時のダメージで使えなくなっても保証はしない。

 

 各武装の説明として、

 

 ロングソードとショートアックスはエネルギー刃を展開しなくとも鈍器としても一応は使える。内蔵バッテリーにより各武装最大出力で三分使用可能。

 

ライフルはエネルギー弾を跳ばすモノとなっており、単発のライフルモード、散弾のショットガンモードがある。ちなみに内蔵バッテリーにより約30発分となっているが、弾は各モード兼用だ。

 

 次に合体後のそれぞれのモードについて説明しよう。

 全ての武器を合体させ、一つの刃として使用するセイバーモード。

 これは外周部にエネルギー刃を発生させ巨大な剣として使用するモードであり、これ自体が巨大な力場なため推進力もある。

 そのため振るったりする時やこのまま突貫する時には加速力が付く様になっている。

 

 次はライフルを二本のロングソードで挟み込んだブラスターモード。

 これは挟み込んだロングソードを誘導装置代わりにしており、長時間照射やチャージショットが撃てるモードだ。

 ただし、最大チャージはエネルギー弾十発分に相当するので三発が限度。照射は長くすればするほどエネルギーを消耗してゆく。

 

 最後はアローモード。ライフルにロングソードらを取り付け、弓の様にした形態である。

 発生装置が全て一方に向き、そこから発生するエネルギーを全てライフルに集中させ貫通力に優れたエネルギー矢を精製する。

 エネルギー矢一本につき、五発分のエネルギーを消耗する。

 

 最後に補足とその他の使い方だ。

 ソードとアックスは力場発生装置でもあるので補助翼としても仕様可能である。

 内蔵バッテリーは白式のシールドエネルギー(SE)とやり繰りが可能で、武器のバッテリーが切れたら白式のSEで充電可能であり、またその逆も可能だ。

 さらに構造上可能な取り付けであればどのような形にしても対応できる。

 例えばセイバーモードを相手に突き刺したら、ロングソード部位を動かして傷口を広げたり、ライフルにソードを一本だけ付けて銃剣スタイルにするなどだ。

 

 

「以上がお前に貸し与えてるメガスラッシュエッジの全てだ」

 

「うわ…俺、全然使いこなせてねぇ。特にアックスなんてブーメラン代わりだし」

 

「本当に使い方は多種多様なんですね…欲しいかも

 

 説明を聞いた一夏は自分がどれだけ使いこなせていないか実感し頭を抱える。

 シャルルは逆にその多機能性故に欲しくなってきてしまった。20もの武器を選別し使い分けて戦う彼女らしい理由であろう。

 この後はどのように使うか、どうすればうまく扱えるかを話し合う。余談としてプラモデルと発売されているメガスラッシュエッジを使って各形態を説明していた。

 

 このような中で十千屋に来客が訪れる。

 飾り気の無いメイド服をきた少女?のようであるが、十千屋と同じように彼女の顔や手の一部の皮膚が変色しており痛々しい感じがある。

 だが、彼の火傷とは違う別の何かによって変色したような色だ。

 

「旦那様、例の物が仕上がりましたのでお届けに参りました」

 

「ほぅ、シルヴィア態々ご苦労だったな。しかし、メイド長のお前が家を離れて大丈夫か」

 

「それには心配お呼びません。きっちりと他のメイド達を教育してありますので。

 旦那様にお会いしたかったのです。…迷惑でしたか」

 

「いや、それはない。嬉しいよ」

 

「ありがとうございます。では、コチラを」

 

 どうやらこのメイドは十千屋の関係者というか、彼の家のメイド長らしい。彼女は二つの大きめのアタッシュケースを荷台で運んできており、片方の中身を彼に見せるられる様に開ける。

 その中にはかなりの大きさの拳銃が一丁収められていた。黒光りするソレはとてつもない威圧感がある。

 

「対IS戦闘用20mm拳銃『シャガール(ドゥオ)』 今まであったIS用または軍用改造弾使用ではなく、

 専用弾使用銃です。無論、もう片方も色違いで同じ仕様となっております。

 全長44cm 重量21kg 装弾数6+1発 もはやISと言えども軽々しくは扱えない代物です。

 専用弾は基本20mm炸裂弾を使用し、旦那様が所望されたATCS弾、徹甲弾も

 ご用意させてもらっています」

 

「弾殻は?」

 

「特殊合金製 Lチタニウム弾殻」

 

「装薬は?」

 

「ベッルス化学薬筒 MMG10」

 

「弾頭は? 炸薬式か? 徹甲か?」

 

「基本炸裂弾、先ほど申しましたようATCS弾、徹甲弾もご使用頂けます」

 

 完璧(パーフェクト)だ! シルヴィア!!」

 

「感謝の極みでございます」

 

 この銃のスペックの応答を繰り返し満足がいく出来栄えから、声高々に十千屋はシルヴィアを褒め称え、彼女は頬を染めながらスカートを摘み上げるお辞儀-カーテシーを行い受け取った。

 何処ぞの漫画の様なワンシーンだが、銃の性能とソレを生身でしかも片手で持ち悦に入る十千屋に一夏らは戦々恐々とする。そして、とある可能性を見出した。

 

「し、師匠…そっちの女性についても聞きたいんだけどさ。でも、こっちが先だよな。

 もしかして、トーナメントに出るのか?」

 

「ああ、俺は別に出なくてもいいと思ったんだがな。色んな制限を付けて出させるみたいだ」

 

「へ…へぇー、そうなんですか」

 

 「おい、シャルル…ヤバくねぇか?」

 

 「ヤバイってモンじゃないよ一夏。あの拳銃の性能、もはや拳銃じゃない。戦闘機の機関砲レベルだよ」

 

 「何かヤバイを通り越してるな。でもさ、今受け取ってるという事は…」

 

 「うん、アレを装備してトーナメントに出るつもりだよね」

 

 「「(ず~~ん)OTZ」」

 

 アレがトーナメントに出ると言う恐怖よりも絶望が二人を襲う。ヤバい人にヤバ過ぎる銃が与えられ「もうダメだ…おしまいだぁ…」の気持ちに飲まれそうになる。

 が、このままではイカンと別の話題を振って立て直そうとした。人、それを逃避と言う。

 

「あ、ははは…でっでさ、そっちの女の子って誰?」

 

「はぁ…若く見られるのは嬉しいのですが、私はこれでも二十歳(はたち)です。

 小柄なのは自覚していますが」

 

「「えっ?」」

 

「彼女は『シルヴィア・十千屋』ウチのメイド長であり、第二夫人だ」

 

「「ええっ?」」

 

「旦那様、嬉しいのですが…私はそんな大層な立場を貰える人物ではありません!

 旦那様と奥様方のただの(奴隷)として置いて下されば!!」

 

「「えええっっ!?」」

 

「シルヴィア。リアハが落ち込んだ時にお前の励ましの言葉で立ち直ったんだ。

 お前が言おうと、誰がなんと言おうとリアハの次に妻として迎えた事に悔いはない」

 

「旦那様…♥」

 

「シルヴィア」

 

 相変わらず次々と爆弾発言が飛び交う自己紹介に流石に慣れてきた一夏は、次の気になる事を聞こうとする。一方で慣れていないシャルルは驚愕の表情のまま固まっていた。

 

「師匠。シルヴィアさんって一体何だったんですか?なんか…奴隷とか聞こえてきたし、

 リアハさんと何かあったみたいだし」

 

「ああ、それはな」

 

「旦那様、そこからは私自身がお答えします」

 

「分かったよ」

 

「では、一夏様…私の身の上話をお聞きください」

 

 そこから、彼女が十千屋の元へと来た経緯が話された。

 彼女は元々は別の人物のもとで奴隷として飼われていたらしい。しかし、その人物は彼女の事を被虐用として飼っており、彼女の傷痕は全てその時に付いたものである。

 幸運だったのだろうか?すぐに飽きられたのか何かしらの理由で、とある闇商人に売られてたのだ。そこから十千屋の元に連れて行かれる事となった。

 実はその闇商人は十千屋と過去に何かしらの交流があり恩義を感じていた。その為、タダで彼女を彼に売り渡したのが出会いの発端である。

 何故タダで売り渡したのかは分からない。恩義か小さな良心か、それは闇商人の胸の内である。

 

 さて、シルヴィアの話に戻ろう。十千屋に売られてたシルヴィアは当初は心を閉ざしていたが、彼とリアハの真心に触れてゆくたびに開いてゆき数ヶ月後には慕うようになっていた。

 だが、事件が起きる。リアハが娘-麗白を産んで暫く経った頃、後天的な不妊体質らしいと診断されたのだ。原因はナノマシン手術によって体質が変わっていたことである。

 子供を更に欲しがっていた彼女は、この事実を知って塞ぎ込んでしまった。塞ぎ込んだ彼女を周りの人達は献身的に支え、その中でシルヴィアはある提案をする事になる。

 

「私は、『奥様の許しさえ貰えれば、代理出産の母体と成ります。

 私の(なか)をどうかお使いください』と」

 

 この台詞を言った時のシルヴィアに一夏とシャルルは寒気がした。彼女がコレを言った時、何もかもが満たされた様な恍惚した顔で言ったのだから。

 普通の女性ならいくら慕っているとはいえ、自分をただ生む機械にしたがるだろうか?

 何度も相手が望むままに別人の子を生産する機械に成りたがるだろうか?

 そこは一夏では上手く聞き出せない為やんわりとシャルルが聞いてみると、何を言っているかと純粋に疑問の顔をして彼女は答えた。

 

「私は旦那様と奥様の(奴隷)です。どのように扱われても不自然ではありません。私の頭からつま先…

 いえ、原子核一個までも私が敬愛する旦那様と奥様のモノです。それに…」

 

「「そ、それに…」」

 

「旦那様と奥様の愛の結晶が私の(なか)で育まれる。

 それを思うだけで…はぁう!あぁっ…んぅっ!!!////」

 

「おっと(ポスン…)」

 

「(//∇//) フゥフゥ…お手数をおかけいたしました旦那様」

 

 自分の体で旦那様(十千屋)奥様(リアハ)の赤ん坊を育て生む。これらを想像しただけでシルヴィアは逝ってしまい、バランスを崩して十千屋に寄りかかってしまった。

 そのまま彼女は、彼の体に寄りかかりながら服の裾を握り締め乞う様に語りかける。

 

「旦那様…私の瞳は貴方を見つめるためにある。

 私の耳は貴方と聞くためにある。

 私の唇は貴方を感じるためにある。

 私のこの手は貴方に触れるためにある。

 私の足は貴方に近付くためにある。

 私の心は貴方と永遠に共にあり続けるためにあるのです」

 

「ああ、分かっているよ」

 

「旦那様…」

 

「シルヴィア…」

 

「「ん…」」

 

 いつの間にかメットを取っていた十千屋は彼女の告白をとても嬉しそうに聞き答えた。

 その返答に感極まったのか、彼女は握った手を(ほど)き彼の頬へと手を伸ばす。

 そして、互いを確かめ合うようにキスをするのであった。

 一見すれば美しいラブシーンの様かもしれない。だが、ソレを見た二人は()()()()と感じるのであった。

 

 

 

 一夏とシャルルは教えられた事を思い出すついでに余計なことまでも思い出してしまった。

 教えられた内容を忘れてしまうほど、あらゆる意味で濃い場面であった。

 その事にゲンナリしているのを十千屋が気づく。

 

「どうしたんだ、二人共。何かゲンナリとして?」

 

「い、いやぁ~…師匠の余りにも濃いキャラしたメイドさんを思い出しちゃってさ」

 

「ああ、シルヴィアか。可愛いヤツだろ?」

 

「あ、あははは…( ̄▽ ̄;)」

 

 アレを可愛いと言う十千屋にやはりと二人は思う。この人は良い人だけど、色々とヤベェ…と。

 そうしている内にトーナメント表が発表される。実は、行き成りのルール変更に機械が対応できず前日に出来るはずのトーナメント表は今日発表される事と成ってしまっていた。

 だから、初戦の相手は一体どのペアと戦うのかは今日初めて知る事となる。

 

「俺たちの初戦の相手は、知らない名前だな」

 

「うん、一組には無い名前だね。しかも、運が良いのか悪いのか、

 何時もよく居たメンバーはかなりバラけているみたいだ」

 

「シャルルの言う通りだな。コレだと一年の専用機と組んでいるペアは

 かなり勝ち進めないと当たらないようだ」

 

 この場にいる三人はトーナメント表の端から見渡し、いつものメンバーのペアを見つけていった。

 

「セシリアと鈴はなんか今月ずっとペアだよな」

 

「まぁ、コレで良いとこ見せるって頑張っていたものね」

 

「箒はチェーロと組んだのか」

 

「雷さんは自身の機体の特性上、今回は辞退したって」

 

「簪は…のほほんさんと!?」

 

「う~ん、布仏さんは整備科志望って言っていたから実質更識さんがメインだろうね」

 

 次々といつものメンバーを見つけてゆくが…次の瞬間、己の目を疑った。

 

『十千屋 雄貴 & ラウラ・ボーデヴィッヒ』

 

「「…」」

 

 そのペアの表記を見て、もう一回見る。

 

 『十千屋 雄貴 & ラウラ・ボーデヴィッヒ』

 

「「……((つд⊂)ゴシゴシ)」」

 

 今度は目を擦ってよ~~く見る。

 

 『十千屋 雄貴 & ラウラ・ボーデヴィッヒ』

 

 「「えぇえええええ!?!!?」」

 

 一夏とシャルルはこのペア表記を見つけて絶叫した、当然である。

 二人共ラウラは現在の一年生の中で最強だと思っている。そんな人物が一年生…

 いや、IS学園の中で()()かもしれない人物と手を組んでいるのだ。

 最強(ラウラ)×最恐(十千屋)=最凶と思える工程式。

 どうやら、このトーナメントは地獄の舞台と変わるらしい・・・




はい、取り敢えずトーナメントは始まりました。
ペアも正式に発表できました。次回からはネタ増しで各ペアを書いてゆくだけですが・・・
どれくらいかかるだろうか?話数的にも制作時間的にも…
いっその事、ネタだけ出してダイジェストっぽくするのが妥当だろうか?

まぁ、とにかく今回はネタ増しでお送りしました。
そして、久しぶりに義理姉妹以外のカンパニー側キャラが新しく出ました。
依存形ヤンデレメイドのシルヴィアです。いずれ、キャラ設定の方にも書きたいですね。
・・・とんでもなく、ヤベェメイドだというのは確定していますが(汗

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA33ss:月甲禍津

いよいよ、トーナメント戦が開始いたしました。
それぞれの戦いの様子は少ないかもしれませんが、楽しんでいってください。


では、どうぞ御ゆるりと。


 さぁ、宴の始まりだ。

 少年少女よ…主に少女ばかりだが、己の力を振り絞れ。

 戦い、勝ち、負け、喜び、悲しみ、様々な経験をして大きくなれ。

 だが、一方で地獄の使者が居ることを忘れてはならない。

 

 

 ついに始まった学年別個人…いや、訂正せしよう。

 学年別()()()トーナメントがついに始まった。

 観客たちは戦いの火蓋が何時切られるのかと心待ちにしている。

 

「一年生 Aブロック 一回戦 一組目、準備お願いしたします」

 

「シャルル、出番だぜ」

 

「うん、一夏。ねぇ、緊張しない?」

 

「するけどさ、こういうのは出たとこ勝負。思い切っていこうぜ?」

 

「あはっ、そうだね」

 

 進行役のオペレーターから一試合目の準備を告げるアナウンスが入る。

 初戦先頭の一夏たちは既にピットに居り、最終チェックを行っていた。

 ほんの僅かの不安からシャルルは一夏に聞くが、彼は笑い飛ばすかのように言い彼女の不安を払う。

 

「さて、頼むぜ。充電くん」

 

「(・_・)b」

 

「…この作業ロボットもコトブキカンパニーのお仕事なんだよね」

 

 一夏が誰かを呼ぶとそこには、コンセントの頭をした平べったい体を持つロボットが立っていた。

 そのロボットは白式に付けるメガスラッシュエッジを分割した形で身に付けている。

 これは『充電くん』。

 コトブキカンパニーが(主に十千屋が主導で)作った『汎用型整備補助ロボット』である。

 主な用途は名前の通り様々な機械への充電だが、高度な自律稼働が施されており整備作業の手伝いもできるのだ。

 他にも、変形して整備用ベットにもなったり、

 

「(`・_・´)」

 

「よし!白式にメガスラッシュエッジを転送だ!!」

 

 FAいや今回はISにだが、専用ベースの傍に立たせることでベース内に立った機体に充電くんが身につけた装備を量子転送することも出来るのだ。

 この機能はFAの素早い換装やパーツのみの整備の為に付けられたものだが、今は後付け出来ずに格納も出来ない白式の為に毎回メガスラッシュエッジを付けたり、外した時に預かったりするのが役目である。

 量子の光がベースから立ち上り形作ってパーツを白式に取り付けてゆく。10秒くらい経つとそこにはメガスラッシュエッジの分割武装を付けた白式があった。

 充電くんは一夏がベースから降りたのを確認すると、ベースを背負い手を振って自らの待機場に戻ってゆく。

 

「サンキュー、充電くん」

 

「うん…慣れた。慣れたけどね、サラッと凄いモノを投入しないで欲しいなぁ。

 十千屋さんもコトブキカンパニーも…」

 

 慣れ過ぎた一夏は戻ってゆく充電くんにお礼を言うが、未だ慣れていないシャルルは何処か遠くを見てこの光景を見るのであった。

 しかし、何時までもこうしては居られない。準備が完了した一夏と気を取り直したシャルルはピットから飛び出し、アリーナへ出たのである。

 

「よろしくね。一夏君、シャルル君」

 

「ふっ、勝った…出番的に勝った!後はもう散るだけのお仕事です!!」

 

「ああ、良い試合にしような」

 

「こちらこそよろしくね。あと、パートナーの方は大丈夫?」

 

 一夏達の初戦の相手は他クラスの知らない女子生徒ペアだったが、片方は楽しそうにもう片方は…何か今にも「我が生涯に一片の悔い無し」とか言って散りそうなテンションである。

 その一人のせいで、回りは少しばかりテンションについて行けないが試合が始まるれば大丈夫であった。

 対戦相手のペアのISはどちらともラファール・リヴァイヴ、全距離対応で扱いやすいISだ。

 そして、アサルトライフル、マシンガン、ショットガンを使い基本的なガンナーとして中距離戦を主とするみたいである。

 シャルルはライフルで応戦。一夏はメガスラッシュエッジを盾替わりに使用し、隙が出来たと思ったらアローモードにして牽制する。まぁ、いくら弾速が早いアローモードの矢でも苦し紛れに撃つようならば余り当たりはしないが。

 しかし、当たればそれなりの威力を持つ矢は十分牽制になったらしく、シャルルはリズムを崩した相手の一方を逃さず集中攻撃しSEをゼロにした。

 

 「我に悔い無しぃーーー!!!」

 

「何言って墜ちてんのよ!?」

 

「何か…うん、ご苦労様です」

 

「さて、残りは君一人だけだけど。降参する?」

 

「いえいえ、折角男性IS装着者二人とバトルできるんだから…

 最後までお付き合いさせて下さい!」

 

「分かったよ。行くよ!!」

 

「(ゴメンな。実はシャルルは女の子なんだよ)」

 

 心の中で謝罪をしながら一夏達は残った対戦相手を追い詰めてゆく。流石に2対1、片方は既存ISと言えどもフルカスタムの専用機、ついでに相方も一夏(専用機)…どこぞの無理ゲーよろしく、対戦相手の女子に勝ち目は無かった。

 対戦相手のSEもいい感じに減ってきていて、一夏とシャルルはとある連携で彼女にトドメを刺す事にする。シャルルはライフルを一旦領域内にしまい、新しい武器を取り出した。

 

「H.W.U06:EXB(エクシードバインダー)!ウィングユニット装着!フルドライブ!!」

 

「メガスラッシュエッジ!ブラスターモード!セミマニュアル GO!!」

 

 シャルルが呼び出した武器はH.W.U06:エクシードバインダー。そう、コトブキカンパニー製の武器である。メガスラッシュエッジを見て物欲しそうな目をしていたシャルルに使い心地のレポートを出すことを条件として、船の中で余っていたコレを貸出したのだ。

 この武器はウィングブースター×2、フォトンライフル、マルチアイテムハンガーで組み合わせられている複合武器である。

 組み合わせにより、シールドブースター、積層シールド、フォトンキャノン、ビックシザーズと支援機から武器・防具まで幅広く対応できるのだ。

 今回はラファールのマルチウェポンラックにシールドブースターを接続し、ウィングを開いて高機動形態をとっている。そして、手にはフォトンライフルを持っていた。

 

「行くぞっシャルル!」

 

「任せて!一夏!!」

 

 二人は猛スピードとなり相手を攪乱する。その隙を突いて一夏が肉迫し、メガスラッシュエッジで挟み込んで抑える。

 ブラスターモードの際の誘導装置代わりとなっているブレードを操作して挟み込んだのだ。

 

「1!」

 

 動けなくなった相手をシャルルがライフルで狙い撃ち、暴れられる前に一夏がブラスターのチャージショットを撃って放り出した。

 

「2の!」

 

 そして、体勢を立て直される前に猛スピードで接近しまずは一夏の零落白夜で攻撃し、その刹那にシャルルのシールドブースターのウィングが叩きつけられる。

 

「「3!!」」

 

 「きゃぁああ!?」

 

 畳み込まれる様な連続攻撃に最後のシールド無効を付けられた2連撃、相手のSEは完全に溶けて消えた。

 

「へへっ、どうだ?連携攻撃『一石二鳥』は!」

 

「う~ん、日本語訳は間違ってないぽいけど…カッコ良さ大幅ダウンだよね、その言い方は」

 

 初戦は一夏達の快勝。次の試合へと駒を進め事となった。

 

 

 一方でコチラは観察室、教師しか入れない部屋で先ほどの試合を千冬と山田先生が見ていた。

 

「ふわ~、凄いですねぇ。2週間ちょっとであそこまでの連携が取れるなんて。

 やっぱり才能ありますよ織斑君は」

 

「ふんっ、アレはデュノアが合わせているから成り立つんだ。アイツにそこまでの技量はない」

 

 山田先生は感心したようにつぶやくが、千冬の相変わらずの辛口評価に苦笑気味で次の事を言う。

 

「でも、ああやって他の人が合わせてくれる織斑君自身も凄いと思いますよ?

 魅力の無い人には誰も力を貸してくれませんから」

 

「まぁ……そうかもしれんな」

 

 千冬の返答はブスとした感じであったが、最近の山田先生はソレが照れ隠しなんだなと気づいた。故に弟さん思いだなぁ、と微笑ましく思うが急に浮かんできた考えで表情が曇る。

 

「あの、行き成りの形式変更はやはり先月の事件のせいですか?」

 

「詳しくは聞いていないが、おそらくは。より実践的な戦闘経験を積ませ各自の自衛力の底上げを目的としているんだろう。何せ、今年の新入生は第三世代のテストモデルが多い。

 無論、事が起これば私達教師が守るがこの数が有限である以上は、自身の身は自分で守らなくてはいけない。特に専用機持ち(テストモデル)達はISも守らなければならないからな」

 

 この会話にはISの条約とその抜け穴に関係する。

 ISの技術というのは基本的に開示していかなければならない義務がある。だが、コレではどんな新発見・新発明しても直に開示しなくてはならなくなり、技術が盗まれるなどして開発元は損だけしかない。

 そこでIS学園が登場する。IS学園は基本的にあらゆる法の適応外となっている。

 このため、世界広しといえどもISの新技術において『データを開示せずに実戦データを集められる』のはココ(IS学園)しかないのだ。

 それ故に各国のテストモデル達がここに集まってくる理由になっている。

 

「(だが、コトブキカンパニーの奴らだけは別だ。FAはISの近似なのだろうがISではない。

 ならば、そこで培った技術はここにあるISの何れ位先までいっているのだ?)」

 

 ISの技術面に考えがいっていた千冬は急にコトブキカンパニーの異常性に向く。

 ISの近似ではあるがISではないFAは先ほどの規定には当たらない。

 つまり、どう開発しようが開示する義務はない。

 一夏とシャルルが貸し与えられているH.W.Uはイギリスなんかは喉から手が出るほど欲しいものであろう。何せ、ビーム兵器と自律兵器の一つの完成系なのだから。

 底の見えないコトブキカンパニーとソコから来ている十千屋達に千冬は漠然とした脅威を感じるのであった。

 

 

「一年生 Bブロック 四回戦 二組目、準備お願いしたします」

 

「はぁ、待ちくたびれたわ。ようやく、あたし達の出番ね」

 

「はい、ですが油断大敵で行きましょう。本命は専用機が居るペア。こんな所で負けては…」

 

「分かってるわよ。馬鹿笑いされるより、生暖かい目で見られる方がキツいわ」

 

「では…行きますわよ!」

「じゃ…行くわ!」

 

 そして、鈴とセシリアは初戦に挑む。戦いの結果は…まぁ、彼女らの圧倒であった。

 国家代表候補の専用機ペア 対 一般生徒の量産機ペア、日の目を見るよりも明らかである。

 ではダイジェストでどうぞ…

 

「セシリア!ちゃっちゃと決めるわよ!!せいりゃっ!」

 

「了解ですわ!ブルーッティアーズ!!展開!!!」

 

「OK!先に行くわ!!」

 

 鈴が全衝撃砲を相手にバラ撒き相手の行動を抑制し、さらにセシリアがビットで相手のペアを一箇所に纏める様に撃ち込む。

 その間に鈴が相手の方に向かって飛び出し、完全に一箇所に固まった相手ペアをセシリアがビットで押し込み、相手が反撃しようとしたら狙撃して封じる。

 

「ブルーティアーズにはこんな事も出来ますわよ!」

 

「そして、最後はあたしの独壇場だぁあ!」

 

 押し固められた相手のペアに頭上から鈴が襲いかかる。動けなくなっているペアは彼女の十八番、連結された双天牙月の回転攻撃を余すことなく喰らいSEがゼロとなった。

 

「へへん!あたしらならお茶の子さいさい、ってね!!」

 

「それは良いですが…このコンビネーションはブルーティアーズに

 傷が付き易いのがネックですわね。フゥ・・・

 

 

 さて次は…箒とチェーロの番だ。チェーロは専用機だが、箒は打鉄を身に付けている様である。

 しかし、彼女の背後には紅い充電くんが立っていた。

 

「頼むぞ、装着開始!」

 

「\(*・_・)♪」

 

「イエーイ(^o^)ノ !」

 

 打鉄は元々鎧武者の様な風貌であったが、充電くんにより一部のパーツが交換または装着されていく。これらが全て終わった時、銀の鎧武者は赤紫の武者へと変わっていた。

 変わったのは肩部の物理シールドで、コレがスラクター込みの水色のクリアパーツがついた物理シールドに交換されており、他にも胸、腕、腰、脛にも装甲が追加されている等だ。

 

「篠ノ之 箒 打鉄-換装装備(パッケージ)月甲(げっこう)禍津(まがつ)…出る!」

 

「チェーロ・プニャーレ FA:Gスティレット…行っくよー (*≧∀≦*)!」

 

 打鉄-換装装備:月甲禍津 は、コトブキカンパニーで作られた打鉄の換装装備である。とあるFAの可変型増加装甲を由来としており、その性能だけで第三世代ISと同等になるという恐ろしいものだ。

 しかし、実際には転用しただけでは作動できず、FAとISの出力差や総エネルギー量

 (つまりUEシステムが付いて無いせい)の関係でそこまでの性能が出せないのが現実である。

 そして、貸し出された理由はこの前のヤキモチ騒動の侘びと…箒が密かに感じていた自身が身に付けるISの性能が周りの専用機達に置いてかれている不安感を和らげるためであった。

 無論、使用後のレポートはきっちり義務となっている。

 

「…不思議な気分だな。まさか貰ったFAのプラモデルと同じ装備を身につけるとは」

 

「へぇー、スコーパちゃん『マガツキ』のプラモ貰ったんだー。アレ?

 アレって普通よりも1.5倍くらい量があるから、初心者向けじゃないよね?」

 

「あぁ、貰ったあと何度も十千屋さんにアドバイスを貰いに行って昨日ようやく完成した」

 

「パパの玩具のFA営業活動は殆ど病気と化してるからねー ( ̄▽ ̄;)」

 

 そう、仲良くなった生徒(主にいつものメンバーだが)に十千屋はFA系のプラモデルを渡したり、割引して売っていたりするのだ。

 だてに役職が特殊営業課ではない。

 そして、(定価でも構わず)よく買いに来るのは簪だったりする。

 

『バトル-スタート!』

 

 さて、対戦が始まったが対戦相手は打鉄とラファールのペアだ。打鉄は完全に近接戦装備で、

 ラファールはスナイパーライフルとスプリットミサイルと完全に遠距離戦装備であるため

 相手ペアは完全分業のスタンスらしい。

 近接(打鉄)は箒が、遠距離(ラファール)はチェーロが受け持った。箒は背にあるラックから一刀を取り、迎撃姿勢に移る。

 

「さて、見慣れない換装装備した打鉄だけどぉおお!?ひっぃいい!!?

 

「ぬっ、受けたか」

 

「な、なんとかねぇ…でも、その馬鹿デカいブレード何よ!?

 打鉄の(ブレード)よりデカくて厚くて怖いわよ!」

 

「戦術迫撃刀『テンカイ』と言うらしい、確かに馬鹿デカいな」

 

「でも、馬鹿デカいから小回りは効かないよね!」

 

 相手は鍔迫り合いをしていた刀を振り払い、スウェーバックして距離をほんの少し取った瞬間に箒へと飛び込んで抜き打ちをした。

 だが、それは叶わなかった。彼女の片手にはテンカイよりも小さな刀が握られており、それによって受け流されてしまったのだから。

 

「戦術要撃刀『サツガ』其れくらい分かっているさ」

 

「くっ!」

 

 ドォオン!

 

「ぷはぁ!どぅよ!流石に素のグレネードを持っているとぉ・・・え?」

 

「確かに少し驚いたが、同じような手を使う人が教えてくれているんでな。

 それほどでもない。そして、この月甲禍津には効かん」

 

「え…えっ、嘘。シールドエネルギーとは違うバリア?」

 

「(やはり、Tクリスタル(C)シールド(S)はエネルギーを喰うな。バッテリーがこれだけで残り八割か)」

 

「体勢立て直して…てぇ!?早い!?」

 

 ガキィイン!

 

「ぬ?防がれたか」

 

「防ぐ!防ぐよ!SEが無かったら真っ二つ攻撃じゃん!?怖いわ!!早いわ!」

 

「コイツは速力がないが敏捷性と防御力を高めてあるからな」

 

「もう、やだぁあああ!!!」

 

 至近距離からのグレネードの爆発、相手も爆風を食らったが超至近距離からの攻撃で多少堪えたと思いきや、箒はSEとは違うバリアを張っていた。

 その正体は、TCS-これはTクリスタルを調整し『壁』とした力場を発生する…

 まぁ、所謂バリア発生装置である。元はFAマガツキ、そう元はそのFAの武装なのだ。

 マガツキは拠点防衛用FA。 敏捷性と防御力を高めた機体で、敵の攻撃を受け止め、粘り、時間を稼ぐことに特化している。

 本当のマガツキは一体だけ作られていのだ。(とある特殊機体以外は、ほぼ試しに一機づつ作られている)

 いつの日かの為に今は小倉入りであるが、その武装はこうしてFA:GまたはISの武装として使われている。

 

「このっこの!当たりなさい!」

 

「う~ん…()れてきたなぁ。やっぱり、嫌でもライフル持って来ればよかった。

 鉄砲(ハンドガン)じゃ、威力不足かぁ」

 

 チェーロを相手取っていた生徒は攻撃の当たらなさ加減に焦りを感じていた。自分の攻撃は当たらないのに、彼女からの攻撃は何度も喰らう。

 言っておくが相手生徒の腕前はそこまで悪くない。ただ、相手(チェーロ)が悪かったというだけだ。

 彼女の読みと機動はただの生徒では力不足である。

 そして、更に焦りを感じる理由は相手の攻撃が()()()()()()()()()なのだ。もしも、チェーロがハンドガンではなくもっと威力の高いライフル等で攻撃をしていたら、とっくに相手生徒のSEは無くなっていたであろう。

 逆に避けてその隙に撃ち込んでを繰り返していたチェーロは、このルーチンワークに飽きてきていた。

 その時、相手ペアそれぞれのSEが少なってきた事に気づいたチェーロは箒にとある提案をする。

 

「ありゃ?イケルかな。スコーパちゃん!みんな派手にやってるみたいだからボクらもイクヨ!」

 

「了解した。だが、呼び方を改めろ!」

 

 箒は相手を切り流すのでなく叩きつける様にして弾き飛ばし、チェーロは急旋回して蹴りを叩き込みこちらも吹き飛ばした。

 そして、飛ばされた相手ペア同士が激突し一塊りとなった時から彼女らの独壇場である。

 

「ボクは(ブレード)もイケるんだよ!ズンバラりんっ!!だよ!!!」

 

「誤って私を斬るなよ!チェーロ!!」

 

 箒は相手ペアを逃がさないようにシールドスラクターを吹かしながら切りつけ、チェーロは急旋回と急降下を上手く使いその間をぬって切り流してゆく。

 この剣戟の乱舞から相手ペアは逃れられず、乱舞の締めである彼女らの同時切りを喰らいSEが尽きて負けた。

 

「抜けば玉散る氷の刃…えぇい、寄るな寄るな・・・って、ボクから寄ってるじゃん」

 

「元は里見八犬伝で使われた言い回しか?チェーロ。だが、そいつは村雨じゃないぞ」

 

 

 今度は簪と本音のペアだが、こちらも苦もなく駒を進めた。

 試合内容は本音が相手ペアに突っ込み錐揉みになったアクシデントと、簪の低速ミサイルを使った一人連携が見所だったといった所である。

 簪の一人連携の内容は先に低速ミサイルを撃ち、自分自身は加速してそれを追い越し背中に搭載された2門の連射型荷電粒子砲『春雷(しゅんらい)』で牽制、それで動けない所を追いかけてきたミサイルの集中砲火を浴びせる、といったものだ。

 この為、本音自身は囮くらいしか役に立っていないが・・・

 

「本音…相手にぶつかったのワザと?」

 

「あれ~、かんちゃん分かっちゃった?」

 

「しかも、接触した相手のISを弄って動作不良起こさせたでしょ」

 

「わ~、そこまで分かってるんだ」

 

 実は本音と相手が錐揉みで回転している際に彼女は触れたISの部分を弄りまわし、動作不良を引き起こさせたのだ。

 簪が気づいたのは一人連携の際に、本音と事故を起こした側の相手の動きが急に悪くなり困惑した表情をしていたからだである。

 そこまで簪が指摘すると本音は笑って答えた。

 

「えへへ~、憧れなんだよね~。こう~、触った所から…

 しゅぱっしゅぱっしゅぱ~って、解体できるやつ~ (´∀`*)」

 

「本音、ソレは人間技じゃない。不可能。」

 

「え~~ ( ̄◇ ̄;)」

 

 布仏本音-整備課志望、どうやら彼女の憧れは顔無し指令(非現実的人物)らしい。

 

 

 さて、何時ものメンバー達は順調に勝ち進んでいる。

 他にも色んな生徒たちが勝ったり負けたりしていた。

 そして、第一回戦目が終盤に差し掛かった時・・・

 

「さて、私が…戦闘教導官主任:織斑千冬が言おう。死ぬな

 

「一年生 Dブロック 一回戦 三十六組目、準備お願いしたします」

 

「さて、行こうか?戦友(とも)よ…」

 

「あぁ、行こう。私たちの舞台(戦場)へ…」

 

『十千屋 雄貴 & ラウラ・ボーデヴィッヒ』ペア出場…さぁ、ここからが地獄だ・・・・




はい、予定と違って『十千屋 & ラウラ』ペア戦まで書けませんでした。
もう、文字数も八千文字位いきましたので、ここら辺でキリがいいと思い次回に回します。
それぞれの戦闘シーンはスパ□ボ系でイメージして書きました。
主に連携攻撃ですね。…簪ちゃんは一人でやらないといけないので違いますが。

次回は、今度こそ『十千屋 & ラウラ』を書き、トーナメント免除の轟の認定試験試合も書きたいと思っています。
後は、予定の予定で…ちょっと簪ちゃんを優遇してもう一戦。
とある作者さんが画いた戦いで、自分なりにアレンジしたのを書く予定です。

そして、原作でのトーナメント事件が起きる前にデュノア社の方を片付けたいとも思っています。

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA34ss:お楽しみはこれからだ!!

ついに本命の登場です。
ある意味、ネタ的にもです。


では、どうぞ御ゆるりと。


 Welcome to this crazy stage・・・

 このロクでもない舞台へようこそ

 君は tough girl に成れるのかな?

 そして、

 Welcome to this Hell・・・

 お嬢様方、ようこそ…地獄へ

 

 

 さて、トーナメントは恙無く進み第一回戦目の終盤に差し掛かっていた。

 そこいらでようやく注目のペアが出てくる。『十千屋 雄貴 & ラウラ・ボーデヴィッヒ』だ。

 だが、彼らが出てくる前に千冬から連絡事項があるようで観察室から放送がかかる。

 

「さて、皆様お待たせいたしておりますが、私…戦闘教導官主任:織斑千冬から連絡があります」

 

 その連絡とは、十千屋に関することであった。

 内容は実力差がひど過ぎるので、ハンディを付けているとの事である。

 ・SEは二割減、つまり総SEは八割となっている。

 ・その八割から計算した三割分SEが削られると退場となる。

 ・ISは軽装甲のカスタムとなっており、結果的に防御力が下がっている。

 ・武器は二丁拳銃、ショットガン、大型武装の三種となっている。

  以上。

 

 この内容から彼の恐ろしさを知る一年生、特に一組はこれなら…と思い、何も知らない観客たちは怪訝な顔をする。

 だが、次の瞬間…様々な期待は外れる事となった。

 

「ご来場頂いている観客の皆様方は知らないでしょうが、十千屋 雄貴は入学実技試験から

 今までで()()()()()()()()()()()()()()と言えばご理解いただけるでしょうか」

 

 千冬の言葉に会場は(どよ)めき立つ。だって、有り得ないだろというのが観客たちの反応だ。

 数拍後に彼女から正確な注訳が入った。正しく言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 十千屋は自分で防いだり、掠ったり、身を挺して庇いワザと喰らった以外は、相手からの攻撃をまともに喰らった事は無いのだ。しかも、今まで無敗である。

 この情報を受けた観客たちは、まぁそれなら…と納得し始めた。

 そして、最後に千冬から彼らの対戦相手と成る生徒たちに告げられる。

 

「本来はこれらのハンデで負い一人で出場させるべきだと思ったが、トーナメント参加人数の

 都合により出来なかった。そして、このハンデ付きなら何とか成ると思ったら大間違いだ。

 軽装甲と言うことはそれだけスピードも上がり、奴なら決まったダメージ量以外のSEを

 全て攻撃に回すに違いない。しかも、武器はとんでもない物を使用しており、

 ペアは実力が高いラウラ・ボーデヴィッヒと組んでいる。

 以上から諸君らに掛ける一言はコレだ。『(精神的に)死ぬな』…以上だ」

 

 最後の千冬の一言で会場は静まり返った。だが、何時までもこうしてはおられず試合のアナウンスが流れる。

 

「いっ一年生 Dブロック 一回戦 三十六組目、準備お願いしたします」

 

「ねぇ…呼ばれてるよ。双葉?何してるの」

 

「ふふっ…遺書をちょっとね。コレでハードディスク内のヤバイやつは見られずに逝けるわ」

 

「ちょっと!?なに覚悟完了してるわけ!!」

 

「川崎…良い人生だったよね?」

 

「双葉京子!確りしてっーー!?」

 

 相手ペアは不幸な事に一組の生徒(クラスメイト)であった。

 ツインテールメガネでオタクの入った少女-双葉 京子(ふたば けいこ)(座席No.18)は目が死んでおり、

 ポニーテールで活発な少女-川崎 綾(かわさき あや)(座席No.4)は彼女の肩を掴み揺らして正気に戻そうとしている。

 何とか試合できような状態に取り直した双葉を連れてアリーナへ出ると、もう相手は待っていた。

 

 第一印象は『赤』と『黒』である。ラウラのレーゲンは黒を基調としているが、十千屋のISも黒だ。しかし、その身をマントの様なサーコートの様な赤い布を纏っている。

 その正体は『八九式防弾布』つまり防弾性を持った布である。そして、それに更にABC(アンチ ビーム コーティング)を施し、赤くしたものだ。

 

 今回の十千屋のISはFA轟雷のバリエーションの一つ、

 『高機動型 軽装甲仕様 近接カスタム 《迅雷》』である。

 そう、迅のFA:G迅雷の元となったFAだ。それ故に装甲が肩、腿、脛、足先しか付いておらず

 他は(マテリア)スーツが露出している。

 防弾布はそれの保護の為の装備であった。ちなみにIS本体は黒に塗装してあり、頭頂部だけは

 防弾布に合わせる為にか赤に塗られていた。

 

 

 試合開始のブザーが鳴り響く、十千屋ペアは互いに付かず離れずを意識して間合いを取り、何時でも抜き撃ち出来る体勢で相手の出方を待っているみたいだ。

 ブザーが鳴った後、直ぐに距離をとった川崎と双葉はその事に気づくと恐怖を押し殺してライフルで攻撃する。ちなみに川崎が打鉄で双葉がラファールだ。

 今まで習った通りの撃ち方で飛ばされた弾丸は、呆気なく防がれてしまう。ラウラは停止結界を使って、十千屋は半歩ズレる様な動きでだ。

 攻撃し始めて自棄(ヤケ)になっていたのか、始まる前はあんなに狼狽えていたのが嘘の様に撃ち続ける双葉であったが、標準のロックが掛かった警告によって我に返る。

 それと同時に川崎がフォローに入った。肩部ユニットにある強固な物理シールドを持つ打鉄で援護防御する為である。まるで援護防御が間に合うかの様に放たれた十千屋の兇弾は、予測通りに

物理シールドにめり込んだ瞬間…爆発した。

 

「きゃあっ!?」

「うわぁっ!?」

 

「あの人の事だからタダの弾丸じゃ無いと思っていたけど…」

 

「うん、炸裂弾だったみたぁ・・・え?」

 

 確りと防御できた双葉ペアは先ほどの攻撃を分析していたが、川崎は物理シールドのダメージを知らせるISの報告に言葉を失った。

 何せ、定評のある打鉄の物理シールドが大きく(えぐ)られていたのだから。

 呆気にとられる二人であったが、今度はラウラから砲撃が来る。こちらは無事な方の

物理シールドで防御できたが、これを皮切りに十千屋ペアに依る攻守交替が始まった。

 まるで差を見せ付けられるかの如くの正確無比な射撃、あっという間に武器ごとマニュピレーター(ISの片手)が、背面のスラクターユニットが、脚部の一部が破壊される。

 まだ戦闘行動が出来るが、大きく戦闘力が削がれてしまった。

 それと共に双葉ペアの戦意も削がれる。だが、十千屋はソレを嘲笑(あざけわら)うかの如くに叫んだ。

 

「さあどうした?まだ脚部がちぎれただけだぞ。かかってこい!武装を呼びを出せ!!

 戦法を変化させろ!!スラクターを再調整して飛び上がれ!!銃を出して反撃しろ!!

 さあ戦いはこれからだ!!お楽しみはこれからだ!!

 ハリー!(早く)ハリーハリー(早く 疾く)!!ハリーハリーハリー(早く速く疾く)!!!」

 

「赤黒でデビルハンターかと思ったらっ…主人公兼ラスボスのドラクル伯爵じゃないですか!?やだぁああーーー!! 。゚ヽ(゚`Д´゚)ノ゚。」

 

「双葉!っくぅ!?」

 

「どうした、お前の相手は一応、私だぞ?」

 

 双葉はすっかり怯え、新しい武器を呼び出すと弾幕を張りながら逃げる。それのあとを十千屋が追った。ペアの惨状に川崎が援護に入ろうとするが、こちらはラウラにターゲティングされてしまっている。

 彼女はブレードで対抗し、ラウラは合わせてくれたのかレーゲンのプラズマ手刀で応対した。

 一発一発づつ丁寧に追い詰められていくペア(双葉)をハイパーセンサーで尻目に川崎は苛立ちながらラウラに言い放った。

 

「あなたっ、軍人(プロフェッショナル)なんでしょ…こんな事せずさっさとすればいいじゃない!」

 

「確かにコレは一時の戯れかもしれないが、私達はこの場(戦場)に居る…鉄火を以って闘争を始める者に素人(アマチュア)玄人(プロフェッショナル)もあるものか!お前たちはただ来た、戦うために 打ち倒すために

打ち倒されるために (相手の希望を)砕くために!!」

 

 やはり普通では無い、彼女の頭の中はそれだけで一杯になった。だが、それが普通ではないだろうか。所詮は、競技の延長線上に居る者(スポーツ選手)なのだ。職業として戦う者(軍人 傭兵etc…)とは、心構えから何もかも違うのだ。普段は相対さない両者が、この(戦場)で交わってしまったのは不幸としか言いようがない。

 

 

「ぎゃにゃぁああ!?今度はワザと掠らせてきたーー!?」

 

「おいおい、もしかしたら普通に外したかもしれないだろ?」

 

「違う!絶対に違う!!て、いうか…ダンナのネタするんだったら、

 オルコットさんと組んでやってよ!?」

 

「セシリアは確かに美人で英国人だ。だが、威圧感が足りない!それ故、

 金髪碧眼褐色美女を連れてこい!英国在住なら尚良し!!」

 

「アンタどれだけ王立国教騎士団(HELLSI○G)が好きなのよ!?」

 

 双葉ペアは劣勢に次ぐ劣勢、これは誰からの目から見ても()()()()にしか見えなかった。

 そうと分かっていても何とか反撃しようとするが、悲しいかな…実力に差があり過ぎてどうする事もできない。

 そして、双葉と川崎が互いに擦れ違いそうになったとき終りが来た。

 

「ラウラ…()()でゆくぞ」

 

「了解、Arten von Waffen…Start!」

 

 双葉を追っていた十千屋は弧を描く様に彼女の前に突然飛び出し、ラウラは川崎の攻撃を受け流して立ち位置を入れ替える。

 ちょうど双葉ペアが十千屋ペアを挟み込む様な配置となった。コレで双葉ペアが有利な立ち位置となった様に見えるが、それが間違いなのは直ぐに分かる。

 

「さて、お楽しみはコレからだ!」

 

「フォローは任せろおやっさん!」

 

 十千屋は二丁拳銃を自在に振り回し撃ち放つ。前後撃ち、腕を交差して両面撃ち、

 揃えて一点集中など様々な撃ち方を行った。化物みたいな威力を持ち、その反動も計り知れない銃をまるで演舞の様に動かして双葉ペアを蹂躙する。

 ラウラは僅かに出来る隙を新しく読み込み(インストール)してあったのか、ソードオフのショットガンで援護(フォロー)していった。

 

「コレで終わりだ…」

 

「ふっ…しておいて何なんだが殆ど大道芸だな、コレは」

 

 蹂躙が終り後に残ったのは背中合わせで残心を極めている十千屋ペアと、恐怖と攻撃のショックで(IS)も心もボロボロにされた双葉ペアとなった。

 試合終了のアナウンスが鳴り響くと蹂躙の光景で言葉を失っていた観客たちは響めき立ち、一年生達はアレを相手にする可能性がある事実に身を震わせていた。

 

 

「えー、一日目無事終了といつものメンバーの勝ち残りに乾杯」

 

「「「乾杯!」」」

 

 今はもう夕食の時間だ。あの後も試合は続き、いつもの十千屋グループと一夏グループの

 メンバーたちは無事にトーナメントを勝ち進み1日目が終了した。

 普段は食堂を利用しない十千屋であるが、無事に全員が1日目を勝ち進んだお祝いにリアハを

 連れてココで全員と一緒に夕食を取る事にしたのである。

 

「はぁー、無事に勝ち進んで良かったぜ。フォロー、サンキューなシャルル」

 

「うん、一息ついた感じだね。でも、まだまだ明日以降があるのだから油断はしないでよね」

 

「分かってるって」

 

 確りと勝ち進んだ事を喜ぶ一夏とシャルル。

 

 

「にしても、アンタいつの間にそんな物を借りたのよ」

 

「本当につい最近だ。未だに振り回されいるさ」

 

「はぁ、ソコは鈴さんと同じですわね。しかし、防御力は破格な機体と成ったようですわね」

 

「うっさい!あたしは、あともうちょっとよ!!しかし、本当にソレよねぇ」

 

「いや、欠点も多いのだぞ?TCSを貼ったら攻撃は出来ないし、何よりも…」

 

「備え付けたバッテリーが持たないんだよね~…時間にもよるけど、

 五回も張れたら良いほうかなぁ?」

 

 互いの試合内容を話し合う鈴とセシリア、箒とチェーロ。

 

 

「勝ち抜きおめでとう。実質一人で戦っているが大丈夫か?」

 

「大丈夫。性能差も相まって一般生徒には引けを取らないから。

 あと、十千屋さんにお願いして貰った()()がまだある」

 

「ああ、アレね…ロマンの塊だが、大丈夫か?」

 

「大丈夫だ問題ない。寧ろ、ソレがいい

 

 こちらも試合内容とこれからの展開を話し合う十千屋と簪

 

 

「あらあら。袖はちゃんと捲らないとダメよ、本音ちゃん」

 

「は~い♪ (≧∇≦)/」

 

「あの…オッかさん。また貴方の料理が食べたいのだが…」

 

「ふふ、良いわよ。ラウラちゃんに合わせてドイツ料理のフルコースを作っちゃう。

 でも、揃えなくちゃ駄目だし今はみんな忙しいから…トーナメントが

 終わってからにしよっか?」

 

「Danke…」

 

 そして、まるで親子のような会話をしているリアハ、本音、ラウラであった。

 と、それぞれが会話を楽しんでいたのだがココで轟に話が振られる。

 

「そう言えば、轟はトーナメントが免除になったんだろ。何やったんだ?」

 

「確かに、このトーナメントは一年生の実力を測るのも目的だったな。

 確か、免除のための実技試験とか言っていたな」

 

 一夏と箒がトーナメント免除となっている轟にその為に何をやったかを聞いてきた。

 彼女は食事の手を止めて素っ気なく答える。

 

「ISライダーとして中堅どころの教師相手に戦っただけよ。ただ…」

 

「ただ…なによ?」

 

「父さんの事をボロクソに言ったから、その代わりにズタボロにしてやったわ」

 

 一同はその一言に引いた。どうやら、実技試験での戦闘はある意味で快勝だったらしいが悲惨でもあったらしい。

 身内であるチェーロも苦笑いしながら聞いていたのだが、とある可能性に気づくと血の気が引いた。

 

「ね、ねぇ…轟ちゃん。もしかして、()()しちゃった?」

 

()()?ああ、《ダルマ堕とし》ね。したわ」

 

「あ、あはは… (;・∀・)」

 

「だるま落とし?」

 

「ううん、字が違う。堕天使とかに使う方の『おちる』だよ。パパ達が考案した拷問的戦闘術…」

 

「「「・・・・・・・ ( ̄◇ ̄;)?」」」

 

 チェーロは否定して欲しかった案件が行われていた事に対して乾いた笑いしか出てこない。

 内容を知らない面子は首を傾げるが、これから話される実話にドン引きとなるのであった。

 

 

 

――轟の回想――

 

 

 トーナメントが行われる前の何時か。その日の放課後に轟のトーナメント免除試験が行われる事となった。

 内容はとある教員とISバトルをするモノ。この試験は現在の実力を測るためにするので、勝敗は関係ない。ただ、確りと戦えれば内申などの多少のプラスには成るだろう。

 轟はFA:G轟雷を身に纏い、相手の教師はラファールを使用していた。

 試験が開始されると、轟は可もなく不可もなく攻防する。彼女にとっては別段に頑張る事では無かったので、ソコソコの実力を持っていると判断されれば良いと思っていた。

 ただし、相手の教師がとある暴言を吐くまでは・・・

 

「はっ!やはりこの程度のようですね!所詮はISの二番煎じ…あの、怪しくて情けない姿の男が作った機体だわ!そして、アンタもねぇっ!!!」

 

「(イぃラぁぁ…)」

 

 教師の暴言に轟は急激に頭が冷え、闘志とは別の何かが体の奥底から沸き上がってくる。

 物凄く冷たく、物凄く鋭く、物凄く恐ろしいもの、それは()()であった。

 十千屋ファミリーは大小あるが、全員が十千屋の事を愛し慕っている。彼を(けな)すなら怒りが沸くし、彼が嫌いなモノは皆も嫌っている。

 この教師は十千屋を侮辱しただけではなく、どうやら彼が嫌う女尊男卑の思想の持ち主らしい。もう、状況証拠だけで十分だ。この教師はどうやら彼女の()()()()

 

 カッ!!

 

閃光手榴弾(スタングレネード)!?でも、ISにはこの程度『ガウゥン・・・ッ!』え?」

 

 アリーナに眩いばかりの光が一瞬だけ満ちる。その閃光はISの防御機能によって防がれるが、

 この一瞬の後…教師が持っていたライフルは撃ち抜かれて使い物に成らなくなる。

 突然の出来事に教師は呆気にとられるが、ターゲティングの警告で我に返りその正体を知った。

 それは、閃光手榴弾で作った一瞬の隙を突いて距離をとり、ストロングライフル(アンチマテリアルライフル)を構えた轟であった。

 

「武器破壊は褒めてあげますよ。でも、コレで調s『ガウゥン・・・ッ!』ぎゃっ!?」

 

「喋る余裕があるなら来なさい」

 

「この餓鬼ゃああ!『ガウゥン・・・ッ!』がっ!?!」

 

 失った武器を再展開(オープン)して補充しようとした教師であったがソレの出現と同時に今度は手ごと破壊され、怒りの叫びを出したら次は体のラインに隠れて見えづらい、背面ユニットのスラクターを破壊された。

 立て続けに攻撃された教師は冷静になったのか、回避行動を取りつつ轟に近づこうとする。

 今まで彼女が使っていた武器は全て遠距離用の銃器、つまりスナイパーの戦闘スタイルと判断したためだ。

 それ故に距離を詰めれば勝ち目はあると思ったのだろう。だが、浅はかだな…

 いったい何時、轟は狙撃手(スナイパー)だと言ったのか。

 

 ガウゥン・・・ッ!

 

「(良し!避けれた。このまま!?)『ドウゥンッ!』があぁ!?」

 

「甘いわね」

 

「(誘導精密砲撃!?避けると分かっていて、その先にグレネードを撃っていたというの!?)」

 

「さて、此方からも行くか…」

 

 そう、彼女はただ狙い撃つだけが能じゃない。銃という性質上は近距離は多少やりづらいが、

 全ての距離を撃ち抜く銃使い(ガンスリンガー)なのだ彼女は。

 避けるならその先を読めばいい。撃ち抜けないなら、通る所を狙えばいい。

 轟はそうやって9割以上の命中力を誇ってきたのだ。

 

 ガウゥン・・・ッ! ガゥン・・ッ! ガン・ッ!

 

「ぎゃあああああ!?」

 

「さて、フィナーレ(拷問)の時間ね」

 

 武器を呼び出せば武器を、手を、足を、スラクターを…ISは操縦者や機能に重大なダメージを

負うと判断しないとSEを使わない。

 だから、轟は破損してもいい箇所を重点的に撃ち壊し、相手の手を足を機動力を戦闘力をまるで少しづつ削ぎ落すかの様に追い詰めていった。

 そして、最後は…

 

「がぁあ!?たすけ‥助けて!」

 

「何で?」

 

 西洋風ソードのセットであるW.U33:ナイトソードによって手足を装甲ごとブチ抜かれ、教師はアリーナの壁に貼り付けにされていた。

 武器は全て壊され、背面も脚部のスラクターも機能不全に陥り、マニュピレーター(ISの手)もボロボロだ。それに突き刺されたソードはかなり深く突き刺さっており、力づくで抜こうとすればソコから崩れ落ちるだろう。

 事実上の戦闘不能。だが、轟は冷たい目のまま武器を下ろさない。例え、相手役の教師が錯乱し助けを請うてもだ。

 

「だって、貴方が怒っているのは先程の侮辱なんでしょ!?それは謝るから…助けてよぉ!」

 

「ふーん、そう。でも、SEをゼロにしなければ試験は終わらないでしょ?」

 

「え…」

 

「じゃあ…ヲヤスミ、ケダモノ」

 

「ああああああ!?!?」

 

 轟はナイフで教師の顔を正面に固定した後、両手にマシンガンを持ち全弾を顔面に向けて撃ちはなった。

 無論、ISの防御機能で怪我は負わないが眼前に広がるマズルフラッシュを、襲いかかる弾丸を

余すことなく至近距離から見た教師はSEがゼロになる頃には気絶していた。

 

「ふぅ…あ、言い忘れてた。FAの方が先よ。白騎士事件以前にはバリエーションで複数出来上がっていたし、訓練すれば誰でも使えるわ。欠陥兵器に縋って威張り散らしている貴方たち(女尊男卑思想)には分からないでしょうけどね」

 

 コレで轟の免除試験は終了した。後日結果は合格だが、それと同時に要注意生徒して

リストアップされてしまった。この事は教師達だけが知っている。

 

 

 

――轟の回想 終了――

 

 

「そう、まるで手足を切り落としてダルマに()()()()()()()の戦闘術。

 それが《ダルマ堕とし》なの (ill゚д゚)」

 

「「「(((((((( ;゚Д゚))))))))ガクガクブルブルガタガタブルブル」」」

 

 恐怖…唯唯の恐怖、話と解説を聞いていた一夏達の背筋は凍りつき寒気が止まらなかった。

ここまでとは、ここまで()るとは思ってもみなかった。

 ソレを平気で聞いている十千屋達+ラウラには戦慄を覚える。

そして、一同が思うことはたった一つ…『十千屋達を絶対に怒らせてはイケナイ』この事だった。

 

「まぁ、基本だな。敵が二度と歯向かわない様にする方法は」

 

「そうね。でも、時間と手間が掛かるからオススメ出来ないわね」

 

「やはり、一番楽なのは絶対的な実力差で蹂躙する事か?」

 

 ちなみに一夏達が震えている時、轟とラウラはこのような意見交換をしていたのであった。

 何はともあれ、トーナメント初日は終了していく。

 

 

 

 

――おまけ:今日のたっちゃん(エロシーン)――

 

 

「さぁって、と。何だか危ないメイドを引き連れてきたと言うけど…どうかしらね?」

 

 さて、こんな事を言っているのは楯無であるが…現在はまた性懲りもなく、テーサウルスアルマ(十千屋の船)に忍び込んだようである。

 今回の目的はシルヴィアが危険人物がどうかの確認を自らすることだ。まぁ、とある意味では超危険人物なのだろうが…。

 しかし、楯無よ…今の時間は何時か知っているのか?

 

「…この部屋ね。 はぅうわぁ!?Σ(゚Д゚;)」

 

 夕食が終わって寝るまでの個人の自由時間。最初の時に何が起こったのか覚えてなかったのか?それとも…ワザとか。

 

「あぁぁ‥はわぁぁぁ… Σ(//Д//;)」

 

 ドアを少し開け、隙間から見た部屋の中では、傷痕だらけの少女を傷痕だらけの男が貪り、小柄な少女がその子を啜っていた。

 食い散らかされるかの如く蹂躙される傷の少女は、獣みたいな声を上げてそこには理性は全く感じられない。だが、とても幸せそうに嬌声をあげ体を揺さぶる。

 この部屋では嬌声が歓喜が悦楽が性愛が獣欲が、全てが混ざり合い淫靡な空間を作り出していた。

 (ケダモノ)の宴に当てられたのか、楯無は目を背ける事も出来ずに無意識のうちに自らの手を体に沿わす。

 やがて、傷の少女は大きな声を上げたと思ったら、力尽きたのか動かなくなってしまった。

 男は突き刺していたモノを引き抜き、少女を傍らに優しく横たわす。そして、啜っていた少女は目撃者へと近づいていった。

 

「あらあら、イケナイ子ね。たっちゃん…あら?」

 

「あ、あぁ…あぁぁ……(//o//;)」

 

 少女‐リアハは腰を抜かしへたり込む楯無にとある事に気がつく。それは、湿り気を帯びたのか部屋の漏れ出る光を反射している彼女の指であった。

 それを見つけた彼女は憂いた表情を見せ、楯無の両頬をそっと撫でる。

 

「ゴメンなさい。私達の空気に当てられちゃったのね。可哀想に…一人で慰めていたのね。

 おいで、私達の所へ」

 

 リアハは手を差し伸べると、楯無は何故か縋るようにその手を取ってしまった。そして、彼女に導かれるまま…男‐十千屋の元へ歩むのである。

 

 

 そして、後日の生徒会室ではアンニュイな気分の楯無は、そっと自分の唇に指を沿わすのであった。

 気怠そうに何処か遠くを見ているような彼女に虚が声を掛ける。

 

「楯無生徒会長。もしもし?楯無生徒会長・・・、お・嬢・さ・ま」

 

「ひゃぅう!耳元で言わないで!?」

 

「 ? あれ、楯無生徒会長。そんなに耳が弱かったでしょうか?」

 

「いや…キスされるまで、十千屋さん達にヤられる(たび)に随分耳元で囁かれたり、

 嬲られたりしたものだからもうすっかり…ハッ Σ(゚Д゚;)」

 

 虚は反応がなかった楯無に耳元で呼びかけたのだが、彼女の予想以上の反応で驚いてしまい、つい聞いてしまう。

 すると、どうやら楯無は耳も開発(調教)済みだったようだ。しかも、言い訳の内容からすると…

 また一つ奪われたらしい。それに気づいた虚は生暖かい目で主人(楯無)を見る。

 

「お嬢様、一言いいですか」

 

「な、何よ虚ちゃん」

 

「『調教(レイプ)から始まる恋愛』って何処ぞの成年向け(R‐18)ゲームですか」

 

「誰がエロゲー攻略ヒロインよ!?…あれ?ヒロイン?恋?愛? えぇ!?」

 

「自覚がなかったのですか」

 

「nゃ…」

 

「?」

 

 「にゃぁぁああああ!?!▂▅▇█▓▒░(//д//)░▒▓█▇▅▂」

 

 自覚のなかった衝撃の事実に楯無は奇声を上げ走り出していってしまった。

 未だにドップラー効果で声が聞こえるため、どれだけの速度と叫び声を出していってしまったのだろうか?

 

「……先ほど物凄い勢いで生徒会長と擦れ違ったのだが」

 

「あら、カルタムス()さん。いえ、最後の(処女)だけになって完全攻略(調教)されかけているのに

 気がついてしまって、混乱してただけですよ」

 

「そうか…」

 

 

 その頃、十千屋組は…

 

「なぁ、ホイホイ増やしているけど…良いのか?」

 

「ふふっ、大丈夫ですよ。ユウさんの愛は一人だけじゃ受け止められない。でも、(こぼ)したくない。だから、もっと一杯の人に受け止めて欲しいんです。それに、たっちゃんはキライですか?」

 

「いや、嫌いじゃないし。寧ろ、色々と可愛いって思ってるし」

 

「なら、イイじゃないですか。ユウさんは確り構えて私達を愛してください。

 私達は受け止めます。それに子供っぽくて、不器用で、頑固で、

 でもとても優しい素顔を知ってるのは()の特権ですから」

 

「…そういうモノかな?」

 

 どうやら、いつもにまして自室でイチャついてたらしい。

 しかも…

 

「で、お話…いや、ほとんどピロートークだけどしてるのに、お前らは何してる」

 

「「旦那様(父様)の珍棒にご奉仕を」」

 

「よし、分かった…そこに直れ!ヤぁああってぇええヤるぞぉおお!!」

 

「「(//∀)人(∀//) きゃーーっ♥」」

 

 いきなり始まったイチャコラにリアハは、つい笑みが溢れてとある事を呟いた。

 

「だから…早くコチラに堕りて来てくださいね、刀奈ちゃん(たっちゃん)

 

 楯無陥落まであと少し…か?

 

 




はい、蹂躙する様というかネタはこのとおりでした。
あそこまで蹂躙するのが似合う御方は居ないと思い、つい殺ってしまいました。
まぁ、苦笑いして許して下さい。

あと、一夏達のクラスメイトの画像を探していたらちょうどいいのがあったので、それを参考として、一夏のクラスメイト(半オリジナル)を作りました。
名前が決まっているのは数名だけですしね。

そして、たっちゃん(調教日記)は長すぎたかな?
約二千文字位ありますからね…(汗
ついやりすぎてしまいました。何処か別の時に書けば良かったでしょうか?

さて、次回はついに『デュノア社襲撃』を書きたいと思います。
FAストーリーを飾った人物たちは伊達じゃない、というのをお見せできれば幸いです。

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA35ss:FA隊は発艦をお願いします

暫くの間、お待たせいたしました。
今回はほぼオリジナル展開『デュノア社襲撃編』となります。

では、どうぞ御ゆるりと。


 さぁ、パーティー(闘争)の時間だ。

 クラッカー()を鳴らし、ロウソク(爆弾)に火を灯し、ケーキ()ナイフ()を刺し込もう。

 角ばった形式なんていらない。ただ、ワイワイ騒いで好きなだけ、ご馳走(敵部隊)食べれ(屠れ)ばいい。

 お上品にする必要なんてないさ。これはパーティー(殲滅戦)なんだから。

 

 

「こちらN・D(ネオ・ドルフィン)号、現在予定航路を飛行中。作戦開始地点まであと30分でエンゲージ(到着)

 

「了解、コチラは配置についた。作戦開始のトリガーはそちらに任せます」

 

了解(ラジャー)

 

 薄暗い作戦指令車両の中でやり取りが交わされる。

 それを傍で聞いていて楽しそうに笑う、短い髪を角刈りにした調子のよさそうな男‐

ウィルバーに、彼を不機嫌そうに見る大柄な女性‐リロイが尋ねる。

 

「楽しそうですね、ウィルバー少尉」

 

「そりゃコレから大騒ぎなんだ。ワクワクするさ。まったく、

 アメリカ軍をクビになってから若旦那に拾われたが、毎日楽しくてしょうがないぜ」

 

「はぁ…不貞腐れてニートしていた貴方を引っ張って来たのは間違いでしたかね」

 

「おいおい、そりゃないぜ。(ゲムマ)(アメリカ)もお前と組めて良かったと思っているんだからさ。

 お前のデカいケツに敷かれるのも悪くないと思っているんだぜ?」

 

「そう思うなら、もう少し真面目になさって下さい。あと、敷かないのであしからず」

 

 リロイの塩対応にちぇーっと口先で言いながら未だに高揚感を隠さないウィルバーに、彼女はため息をつく。

 IS学園でトーナメントをしている頃、フランス…いや、ヨーロッパどころか全世界を震撼させる作戦が成された。違法行為をしていたデュノア社に、コトブキカンパニーのFA特殊部隊が強制捜査に入りデュノア社も私設部隊を投入し戦闘になった事件。

 カンパニーの中ではこう呼ばれていた。作戦名『バカ親を天までブッ飛ばせ』

 ちなみにウィルバー以外には作戦名は不評である。

 

 

 バンッ!

 

 「巫山戯んじゃないわよ!!」

 

 長い金髪で化粧の濃い女性が机を叩き大きな音を出して騒ぎ立てる。そのすぐ近くには手を組み黙秘する男が居た。

 女性は『アムル・デュノア』社長夫人 男性は『アルベール・デュノア』社長だ。

そう、シャルルの父親と義理の母だ。

 ココはデュノア社本社の最上階近くに有る社長室。普段は静謐として、

デスクワークの音しかしないこの空間はヒステリックに騒ぐアムルの怒声で満たされている。

 

「落ち着かないか」

 

「はぁ!何を言っているのアンタは!!フランス政府から代行の強制捜査…

 いえ、既に出来上がっていて強制突入しにくるのよ!?

 しかも、代行元は防げるなら防いでみろと挑発の文書を届ける始末、

 コレで冷静に成れってのが可笑しいのよ!!!」

 

「普段の君らしくない。君のコネで軍からIS隊を防備に回してもらったのではないのかね」

 

「ふん…やっぱり、開発とか以外には頭が足りてないようね。

 代行はこの状況になることを予測して挑発してきているのよ。

 それに政府からの強制捜査と言うことは、私は政府から切られる寸前って訳ね

 …巫山戯んじゃないわよ。散々、誰が甘い蜜を吸わせてやってきたと思っているの。

 代行を処理したら後始末は全部アイツ等にやってもらうわ。このツケは高くつくわよ」

 

 アルベールからの忠告も聞く耳持たぬで彼女は思考を巡らせる。その際の愚痴は全て独り言として溢れていた。

 デュノアの防備はコネを使った軍のIS三体と、私設の警備部隊だ。

軍のISは秘密裏なので外装などは全て別の物にカモフラージュされている。

 流石、IS世界シェア3位だ。在庫は山ほどあるらしい。

 そして、私設警備部隊と名を打っているが、実際は社長夫人の裏仕事の為の部隊だ。

そこら辺の警察や傭兵よりも優れた装備を与えられている。

 もしテロ組織が攻めて来ても逆に叩き出すことが出来る戦力がここにはあった。

 

 

「と、いう事ですので…N・D号に居る大尉達には空でIS隊の相手をしてもらいます。

 私とウィルバー少尉、00No.(ダブルオー ナンバー)チームは被疑者の確保と人質の解放を目的とします」

 

「あー、俺も空でISを相手にドンパチしたかったなぁ」

 

「俺もだよ、改修前の体なら飛べたんだけどなぁ…」

 

「ウィルバー少尉、貴方の今の機体(FA)は空戦タイプではないので仕方ないです。

 あと、ジェットさん。あまり個人プレイに走らないでください」

 

「「へいへい、分かってますよ」」

 

「はぁ…」

 

「ジェット、冗談はもうそろそろ止めないか?もう直ぐなんだしさ」

 

「あいよ、真面目だなぁジョーは」

 

 作戦の最終確認の際に冗談を言う二人を(たしな)めるリロイ。だが、口先だけの答えにため息が出てしまう。それに援護したのは00No.チームの一人であった。

 冗談を言っていた特徴的な髪型をしている『ジェット・リンク』彼に注意したのは好青年を

醸し出している『ジョー・シマムラ』。

 ここに全てはいないが、彼らを含め9人を00No.チームと呼び、部隊を組ませている。由来はカンパニーに来る前に活動していた時期の各人のコードネームがナンバーで呼びあっていたことからだ。

 国籍も人種もバラバラな9人だがチームワークは抜群でどんな任務もこなして来たエースチームである。

 

 そして、作戦開始の時間が来た。

 上空を飛んでいたN・D号の後部ハッチが開き、ハッチ内部に外からの空気が雪崩込んでくる。

 

「N・D号、作戦エリアに到達。FA隊は発艦をお願いします」

 

「了解…今朝霧スミカ、ラピエール ゼファー 行くぞ!」

 

「トルース・ロックヘッド、バーゼラルド 出る!」

 

「了解した。ロイ・エイラム、スティレット・カスタム テイクオフ!」

 

 後部ハッチから上記の人物達がN・D号から発進する。

 ココはデュノア社から十数km離れた上空、ものの数分で三人はデュノア社にたどり着く。

 だが、上空には隠せる物など何もない。三人が近づいている事はデュノア社に待機しているIS隊もとっくに承知である。

 

「リーダー!三時方向から未確認体三っつ近づいています」

 

「上空で超高速で近づくのは今ではISぐらいしかない。よし、私達も迎撃態勢に入るぞ!」

 

「い、いえ…それが、IS反応ではないんです!」

 

「なんだと!?」

 

 IS反応がない、その言葉に耳を疑うが隠せるものがない空ではISのハイパーセンサーは大いに働く。IS隊のリーダーは近づいてくる機影を確認した。

 三体とも全身装甲(フル・スキン)なのは共通している。だが、どれも知らない機体ばかりだ。

 センター(中央)を飛んでいるのは全身にブースターを取り付けてあるえらくヒロイックな外観をした機体だ。

右は両肩にある複数のフレキシブルスラクターが特徴的で、ツインテールに見えるアンテナユニット、大きな胸部装甲など女性的だが…ISではない。

 左は部下の照合確認からコトブキカンパニーから販売されているスティレットと呼ばれるFAに似ているが、細部が異なる。特に色は低視認性塗装多分(Low Visibility)になっておりカスタム機なんだろうと推測出来た。

 これらの点から全てがFAと呼ばれる物だとリーダーは判断すると同時に怒りも沸く。

 

「こんなISの紛い物みたいな強化外骨格が相手だと…

 全機!ISが最強である事をあの勘違い共に教えてやれ!!」

 

「「了解!」」

 

 空手の戦いの火蓋は切って落とされた。

 しかし、このあと直ぐにISリーダーは自身の認識を塗り替えられる。

 ISに叶う兵器が有るわけ無いという事と乗り手の実力を。

 

 

 空で戦いが始まろうとしていた時に地上でも動きがあった。

 挑発…いや、脅迫状か?それがデュノア社に届けられたため一般社員は退避させられ、

いま居るのは社長夫人の私設部隊だけだ。

 正面玄関を見張っていた隊員がこちらに向かってくる何かを見つけた。

 

「…?アレは何だ。バイク?と装甲車・・・敵襲!奴ら正面から着やがった!!」

 

 見張りの部隊は正面入口のシャッターを下ろし、部隊を揃えてアサルトライフルで攻撃する。

 だが、敵機のスピードは落ちずに向かってくるので部隊は左右に逃げ始めた。

 

「リロイ!隔壁をブッ飛ばせ!!」

 

「分かりましたよ!」

 

 バイク?からウィルバーの声がしたと思うと、そのバイクに乗っていたトリコロールカラーの

鎧武者の様なロボットからリロイの返答が戻ってくる。

 そして、そのロボットの肩装甲の一部がスライドすると榴弾が一発発射され、入口のシャッターを吹き飛ばそうとした。

 だが、かなりひしゃげたがたった一発では破るまでいかないみたいである。

 その為、彼女はもう一発撃とうとしたが彼に止められた。

 

「もう一発っ!」

 

「いやっ、イイぜ。リロイ…確りと(つか)まっていな!!」

 

「少尉?まさか!?」

 

「若旦那のマンガ直伝…

ラァイィィダァァアアッ!(ダイナミック!)ブレェエェェエクゥウウッッ!!(お邪魔します!!)

 

 「きゃあああ!?」

 

 バイクはそのまま隔壁(シャッター)を突き破り、ターンドリフトしながら静止する。その間にも装甲車も(なら)って車両ごとビルへと突入した。

 ターンドリフトしている間に鎧武者‐リロイが装着しているFA:レヴァナントアイ・イーギルは飛び降りており、それを確認したバイクは直ぐ様に別行動へ移る。

 

「リロイ!俺はバカ親どもをブッ飛ばしてくるから後はヨロシク!」

 

「少尉!単独行動はっ…ちぃ!?」

 

 階段をモノともせずに軽快に走ってゆくバイクにリロイは警告しようとしたが、私設部隊が

正面玄関のフロアーに展開し始め戦闘になったため制止する事が出来なかった。

 装甲車からMD(メイルデバイス)、FAとは系統が違う強化服を来た00No.チームと一緒にリロイは

一階フロアの制圧に乗り出す。

 

「(単独行動させるのは癪ですが、頼みましたよ少尉!)」

 

 リロイは内心こんな事を思いながらも、自分に課せられた任務を達成するために動いてゆくのであった。

 

 

 

 一方、上空ではIS対FAの戦いが始まっていた。戦況は素人見では五分、しかし実際はFAの方が有利である。その理由は、やはり練度であろう。

 奇しくもそれぞれに合った戦闘距離を持った者同士が戦い合う事になっている。

 ラピエール ゼファー = スミカと戦っているISは近~中距離を自在に移動し安定した空中静止で格闘を仕掛ける彼女に苦戦を強いられている。

 近距離ではスミカの手にある大型二丁拳銃を巧みに使い銃撃と格闘を混ぜた所謂ガンカタで相手を制し、中距離ではその拳銃を使って追い打ちをかける。

 しかもこの二丁拳銃はタダの拳銃ではなかった。

 

「ぐぅう!?(このシールドの減り具合とセンサーから感じる磁界…まさか、

 あの拳銃は超電磁砲(レールガン)だというの!?)」

 

 そう、この大型拳銃は携行できる超小型リニアレールカノンなのだ。普通はISの物でも大砲の様な物や、なるべく小さく作られてもアンチマテリアルライフル並みの大きさになるのが普通である。

 しかし、コトブキカンパニーはそれを大型…いや、訂正しよう銃身の長さが人の腕くらいあるので超大型拳銃サイズと言うしかないが、それくらいまでに小型化できたのだ。

 寧ろ、この大きさと見合うだけの丈夫さもあるので、スミカは好んでガンカタを使っている始末である。

 

 

 スティレット=ロイと戦っているISは純粋なドックファイトに成っている。

 相手の後ろを突き攻撃を仕掛けるといった、戦闘機同士が戦う時代からの戦闘方法だ。

 敵ISは何度もロイの後ろに付くがその度に逃れられ、逆に後ろに付かれてしまうのを繰り返している。

 

「今度こそ。ロック…おっん!?」

 

「ふん、バランスが悪くなるのを承知でコレ(クレイドル)を付けているんだ。

 この程度で驚いてもらっていては困る」

 

 敵ISがロックをした瞬間、ロイは急停止をかけ太ももに設置された増加装甲と推進機と機関砲とブレードを合体させた多機能ユニット、通称・ACSクレイドル(又はクレイドル)を進行逆方向に向け噴射。

 敵と衝突する寸前に肩についているスラクターを出力最大にして、瞬時に横に移動することによって避け敵の後ろに付くという荒技を披露し、逆に攻撃を仕掛ける。

 ドックファイトで元イギリス空軍のエースパイロットを相手取るには敵ISのパイロットでは荷が重すぎたようだ。

 ちなみにACSクレイドルの『ACS』は『Armor Complex Supplying(複合兵装供給)システム』の略語である。

 

 

 バーゼラルド=トルースと戦っていたのは敵ISのリーダーだ。流石にリーダー格だけあって他の二人とは一、二段違う実力を持っている。

 だが、それだけだ。元来、バーゼラルドは高機動な敵を上回る為に開発された機体である。

それがある人物(十千屋)の設定上の機能だとしても、それを頷ける機体性能がコレにはあった。

 そう、例えISであろうともバーゼラルドに追従するのは至難である。

 

「(ありえない…有ってはならない!こんな、ISの紛い物みたいな強化外骨格に

 我ら(IS)が劣るなどとは!!)」

 

 敵リーダーはトルースに張り付こうとするが、あっという間に離され相手の機動に振り回される。バーゼラルドにはPIC等無い。だが、全身に付けられたフォトンブースターが縦横無尽の機動力を生み出しているのだ。

 少し、航空戦力の話をしよう。ISが出るまでの汎用航空戦力の頂点は戦闘ヘリであった。

戦闘機以上の小回りと空中静止(ホバリング)もできる空中機動能力、様々なオプション(兵器)が付けられる多様性と汎用性。これらが頂点と言われた理由であった。だが、ISの台頭により様々な戦力の頂点はIS一色に塗り替えられた。

 戦闘ヘリを越す『機動性』戦闘機を抜く『速度』戦車、いや戦艦並みの『防御力』様々な武装を携帯できる『汎用性と火力』これらによって戦闘兵器の歴史が塗り替えられた。

 しかし、それ故にISを無敵と勘違いしてしまったのだ。

 確かに『現』FAにはISの様なシールド=防御力は無い。だがしかし、それ以外はどうだろうか?

 ISは一応空戦仕様の為、FAスティレットと比べてみる。『機動性』『速度』これらは十分に張れる。『汎用性と火力』は量子格納が無いため数は限られるが、IS用の装備は十分FAでも運用できる。つまり、FAに足りないのは『防御力』だけなのだ。

 それが指し示すことは、

 

「(こんな…こんな、シールドも無い。

 ほんの少しだけでもダメージが入れば堕ちるモノなどに!)」

 

「(と、こんな事を思っているんだろうな。馬鹿か?

 従来、当たれば死ぬ戦いに《ソレ》は御法度な思考だろうに)」

 

 相手(IS)の攻撃を掻い潜れる力量さえ持っていたりすればFAでも十分対抗できるという事である。

 シールドエネルギーの残量圏内なら安全だと慢心しているISライダーと、当たれば調子が悪くなれば死ぬと生死の狭間で戦っているエースパイロットとどちらが上かは考えなくとも分かる事だ。

 そして、更にリーダーを追い詰める事がある。コレは全ISの優位を揺らがせるモノであった。

 

「がフッ!(シールドを()()()()()()()だと!?しかも、非致死性弾だと巫山戯な!

 私を愚弄しているのか!!)」

 

「ちっ(何だかんだで、俺も甘くなったものだな。こんな玩具(非致死性兵器)で相手を倒そうだなんてな)」

 

 そう、トルースの放つ非致死性の弾丸はISのシールドエネルギーを通り抜けているのだ。

 以前、IS学園の無人機事件の際に轟が使った『TCS干渉弾』の完成版『攻性干渉弾(ATCS弾)』をトルースは使用している。干渉弾はシールドだけに干渉して無効化するだけで、その()()()()を通常弾なりで通り抜けなければならなかった。

 しかし、コレは干渉弾と通常弾の機能を合わせたもので、単体でシールドを貫通して攻撃できるのだ。ちなみにT結晶(クリスタル)が発生するシールドとISのシールドエネルギーが極めて近い為、攻性干渉弾が効果を発揮するのである。

 今回は流石に皆殺しにしに来た訳ではないため、通常弾側を非致死性弾に変更している。

 

 

 上空の激闘の最中、デュノア本社ビルの中では二方向に分かれて作戦が進んでいた。

 上層階へと駆け上ってゆくバイクその正体はウィルバーであるが、彼は社長室にいると思われる社長と社長夫人がターゲットだ。

 一方で、リロイは00No.チームと共に下、つまり地下へと向かっていた。

 エレベーターの制御盤を操作し、公にはなっていない秘匿階層へと降りてゆく。

 

 「撃てぇええ!!」

 

 ダァッダダダダダ!!

 

 エレベーターが目的の秘匿階層にたどり着いた瞬間、敵部隊が待ち伏せしていたのか

 エレベーターの扉が開く前にそこに向かって乱射する。

 穴だらけになった扉が軋みながら自動で開くと、そこには誰も居らずただ弾痕だけが残っていた。敵が不審に思い確認しようとした瞬間、白い強化外骨格を来た人物が逆さの宙吊りで現れそちらを攻撃してくる。

 突如の攻撃に敵部隊は瓦礫しかかるが、畳み掛けるように次々と同じ装備をした者達がエレベーターの天井裏から降りてきて攻撃を始めた。

 彼らはもちろん00No.チームである。待ち伏せを予見し、エレベーターだけを先に行かせ

その天井裏で待機していたのだ。あとはご覧の通りである。

 

「ココが要人の軟禁場所の様ですね。ロックはどうですか?ブリテンさん、ハインリヒさん」

 

「いや~、それがどうにもこうにも…」

 

「ワザとレトロな施錠装置にしてやがる。ハッキングとかそういうものじゃない。

 もっと古くて単純なものだ」

 

「じゃあ、爆破すれば」

 

「ジョー、そいつはダメだ。この超合金製の扉を爆破する量の爆薬を仕掛けたら、

 通路も俺たちも保護するべき人も危ない」

 

「アイヤー、そいつはイケないアルネ。ワタシの炎でもダメアルねぇ」

 

 敵を退けリロイと00No.チームは要救助者が居る軟禁部屋にたどり着いたのだが、唯一の出入り口は固く閉ざされている。

 その硬いは比喩ではなく本当に硬いのだ。スキンヘッドのグレート・ブリテン、極端な三白眼と銀髪が特徴的なアルベルト・ハインリヒも開錠を試みるが徒労に終わる。

 この扉は純粋な機械仕掛け、すなわち前時代的な鍵によって施錠されている。しかも扉の材質は特殊な超合金で出来ており硬度は恐ろしいものであった。

 火を扱う事が専門の張々湖(チャン チャンコ)もこの扉にはお手上げだ。しかも、爆破処理で取り除こうとしても爆風で内外どちらとも致命的な被害が出るように設計してあるらしく手出しができない。

 そんな中、声を上げた人物がいた。チームの中で最大の巨躯に褐色の肌を持つG・J(ジェロニモ・ジュニア)である。

 

「俺が何とかしてみよう…ぬぅっ!!

 

 Gが扉の取っ手に手を掛けると、力尽くで扉を開こうとする。普通の人間では無理だが、

00No.チームは人間ではない。

 人間に極めて近く限りなく遠い、人間を超えた肉体を持つ人造人間(サイボーグ)だ。だからといって彼らは

人としての生を奪われたわけではない。

 改造コンセプトの『極めて近く限りなく遠い』の通りに寝食すれば老いもする。

子供だって残せる。ただ、強靭な肉体を与えられているだけなのだ。因みに…シルヴィアも本人の希望で同じコンセプトの改造手術を施術済みである。

 話を戻そう。基本はそれをベースとし、個人に合わせたセッティングが成されている。

Gは頑丈さと力に振り分けられ、肉体一つで戦車部隊を相手取ることが出来るのだ。

 その怪力は扉どころかそれに接する壁も軋みながら押し分け、粉砕しながら力尽くで開いた。

いや、扉が開いたというよりはこじ()けた…粉砕した?と、言ったほうが適切だろうか?

 それはともかくとして、部屋に入るとそこにはベットに座った女性が居た。扉の事で驚いているようだが、特に錯乱したり恐慌している様子がなく物珍しげにこちらを見ている。

 肝が据わっていると言うか、天然だというのかシャルルが年齢を重ねた様に見えるこの女性が

要救助者、つまり・・・

 

「突然の来訪と言いますか、襲撃を失礼します。

 私はコトブキカンパニーFA部隊:リロイ・ハロルド。階級は准尉です。

 彼らは協力者である00No.チーム。貴女はセリシエ・オトンヌさんですね?」

 

「ええ、はい。私がそうです。それでどのようなご要件でしょうか?」

 

「私達は上からの(めい)と、貴女の娘さんと旦那さんの願いを受けて貴女を助けに来ました」

 

「そう、そうなの…あの子はココまで来てしまったのね

 

 そう、この女性はシャルルの母親。デュノア社で軟禁されている女性だ。

 リロイはFAのヘッドを取りセリシエの目線に合わせて話すだが、彼女は喜びよりも

何処か失望したような表情を見せる。

 この対応にリロイは困惑するが、セリシエは意を決したのか彼女を確りと見据え言った。

 

「ねぇ、無茶を承知でお願いしたいことがあるの」

 

「…何でしょうか。余りにも無茶で無ければ何とかしたいと思いますが」

 

「私を……」

 

 

 セリシエが決意を述べているその頃、上層階へ駆け上っていたウィルバーはついに辿り着く。

 

「よう…初めまして。ダメ親父にクソババァ!こういう時はなんて言うんだったけな?

 ああ、若旦那の漫画ならこうか・・・アンタらに不吉を届けに来てやったぜ、てか?」

 

 デュノア社本社、社長室・・・ココにジャン・B・ウィルバー少尉(FA部隊の問題児)が参上した。




本当にしばらくお待たせいたしていました。気力が完全にエンプティしてました…。
本当なら今回で終わらせる予定だったのですが・・・相変わらず長く延びてしまったので、ココで一旦切ります。
今回の字数は8700文字位、またもや相変わらず長い説明文が助長してます。
もっとメリハリが効いた戦闘風景を書き出したいと思っていますが、自分の才と想像(妄想)力が足りずに申し訳ございません。orz

次回はウィルバーの活躍をご期待してください。

そして、誰もツッコマないから言いますが…リロイ・ハロルドさんは原作つまりFAの挿話では、
()()です。
はい、ココでは()()として書かれています。
だって、挿話だと委員長的なキャラで書かれていて、ピンチの度にウィルバーに助けられたり助けたりなんてしていて…無意識に女性だと勘違いしていた経緯からです。
本当に細かく読み返すまで女性かと思っていましたよ…(遠い目



では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA36ss:俺は俺の自由の旗の元で

また暫く時間が経ってしまいましたが、ようやく完成です。
今回で『デュノア社襲撃編』は終わることになります。

では、どうぞ御ゆるりと。


 神に逢ったらブッ叩き、悪魔にあったらブッ(ぱなっ)す!

 ()りたいから()り、ブッ潰したいからブチ潰す!

 大義名分なんぞ、後からどうにでもならぁあ!

 

 

 今現在…ここフランス‐デュノア社本社ビルでは、空で地下で激闘が繰り広げられていた。

 相対するはコトブキカンパニー:FA部隊+αとデュノア社社長夫人の私設部隊+援軍である。

 一般的に見ればISが居る社長夫人側が有利に思えるが、状況は逆だ。コトブキカンパニー側に

戦況が傾いている。

 絶対防御(IS)とお膳立てされた戦いしか経験していない夫人側と、修羅場を超えてきた本当の戦士であり兵士であるカンパニー側では圧倒的な差があるのだ。

 この激闘の最中、メインターゲットであるデュノア社社長と夫人を捉えるべく彼等が居るだろう社長室に激走するモノ有り。

 

「総員!配置に着けー!」

 

「エレベーターが開いた瞬間に攻撃する。構え!」

 

 本社ビルの上層階、ココでは婦人の私設部隊が動いているエレベーターに向かって出待ちをしている。

 ビル下層階を守備している部隊からビルに来た侵入者達が二手に分かれて行動していると連絡を受けているからだ。本社ビルは高層ビルなのでエレベーターを使って移動しなければ厳しい。

 その為、全階を貫いている唯一のエレベーターの前で待ち構えているのだ。

 

 「撃っ」

 

 「部隊長!後ろ!!」

 

「って!?なにぃい?!」

 

 エレベーターがこの階に到着する寸前、攻撃指示を出す寸前に部下の一人が警告を発した。

その理由は身構えていたエレベーターホールの真後ろ、つまり部隊の後ろから件のバイクが突っ込んできたのである。

 部隊は若干の混乱があったにしろ直様に前後を入れ替え対応するが、バイク=ウィルバーはその先を行く。バイクの前輪が浮き、ウィリー状態になった瞬間に後部のスラスターを全開にする。

 すると車体が浮き様々なパーツがスライドして変形を始めた。後輪部のパーツは180°回転して脚部に、両サイドカバーはスライドし両腰のアーマーに、その下から腕がでてきた。

 車輪自体が回転するインホイールモーター構造であるグライディング()・ギア、それを繋げているフロントホークは左右に分かれ肩アーマーに収容されG・ギアは腕が通され両肩に配置される。

 最後にバイクの背に当たるカバーは前後にスライドし、フロントカバーの下からはクリアパーツで覆われたヘッドが出た。

 浮遊してからほんの数秒以下の出来事であるが、バイクから人型兵器への変形に私設部隊等は

度肝を抜かれる。

 そして、その僅かな隙に跳んだままのウィルバーは、背面に装備されている長方形のブレードを束ねた武器《フィンガーマチェット》を両手に装備し部隊を蹴散らした。

 バイクのジャンプからの本当に少しの間に敵を倒した彼は、また小さく跳んで今度は逆にバイクへと変形しさらに上を目指す。

 

 そう、この変形するバイクこそがジャン・B・ウィルバー少尉のFA、

可変型FA『ウィルバーナイン』、正式名称『ジャイヴ』である。

 元は偵察、輸送、戦闘といったあらゆる支援が可能なFAとして開発されたのだが、試作段階で様々な欠点が発覚しそのまま蔵入りになる予定であったが…ウィルバーがソレを発見し自分に宛てがわせたのである。

 流石の十千屋もゲーム内で使うならともかく実際に使うのはどうかと尋ねたが、本機をいたく気に入って積極的に改修作業に関わり、純攻撃型FAとして生まれ変わらせてしまったのだ。

 だが、ウィルバーの仕様変更と特に十千屋の努力の甲斐もなく…二輪形態時の旋回性能が低く、変形を含む操縦の難度が高いという欠点はほぼ据え置きとなってしまっている。

 名前の由来は、彼がアメリカ軍兵士の訓練生時代から色んな機体を乗り換え(本人の機体使いが荒いため)、コレ(ジャイヴ)がウィルバーの九番目の機体だからだそうだ。

 

 

 大型の機材搬入が多いのか、広めに取ってあるビルの廊下や階段を爆走するウィルバー。

 カーブは脚部に搭載されたベクタードスラスターで強引に曲がったり、前後合わせ4つになるG・ギアの回転数を調整したり、変形して壁蹴りする等の妙技でスピードはほぼ落とさずに走り抜けている。

 無論、途中で出会う敵部隊は跳ね飛ばしたり、先程と同じように叩きつけたりして攻略していた。

 そして、ついに社長室にたどり着き、廊下と部屋を隔てる扉を両腕のフィンガーマチェットで

×字に切り裂いて豪快に社長と夫人の前に現れた。

 

 ここから、前回最終場面の続きとなる。

 

「…で?若旦那から聞いた若干腑抜けた駄社長よりも。どうする?意地悪なクソ継母(夫人)さんよ」

 

「ふんっ、態度からしてなってないわね。糞ガキと呼んであげるわ。逆に聞くわ、

 糞ガキはどうして欲しいのかしら」

 

「オイオイ、質問を質問で返すのは0点なんだぜ?

 まぁ、そうだなぁ…白旗振って大人しく捕まってくれればサイコーかねぇ。

 若干、不完全燃焼ぽい気がするがよ」

 

「そう…だったら、油を注いであげるわ!アトラ!!」

 

「っ!?」

 

 夫人が声を上げると、ウィルバーの勘と機体の動態センサーが警報を出す。今まで隠れていたのだろうか、黒を基調としオレンジをアクセントにしたラファールが彼に攻撃を仕掛けてきたのだ。

 彼は無駄に広い社長室だと思ってはいたが、まさかココで戦うことになるとは思ってもみなかっただろう。だが、ウィルバーの行動は早い。

 敵の銃撃からブレードの斬撃と繋ぐ連続攻撃を、銃撃は腰のサイドアーマーで受け斬撃はフィンガーマチェットで鍔迫り合いとなる。

 

「おいおいっ、こんな所で戦闘なんざ。俺とこの嬢ちゃんは良いがアンタら危ないんじゃねぇかなぁ!?」

 

「御心配なく糞ガキ。コチラはアリーナに使うシールドが張ってあり安全地帯となってるわ。さぁ…叩き伏せなさい!アトラ!!」

 

「分かっていますわ、お母様!」

 

 鍔迫り合いの最中、悪態をつくウィルバーに皮肉たっぷりで答える夫人。彼女からの指示を受けるラファールのパイロットはどうやら娘らしい。

 アムル・デュノア社長夫人の娘『アトラ・デュノア』は金髪の碧眼、腰まで届く髪は二つ分けのローテールであり勝気な表情とどこか品の良さが漂う女の子だ。

 ただし、今の表情は戦闘の高揚感に飲まれているのか厳しい顔つきだが口元は笑っていると言う凄まじいものである。

 

 鍔迫り合いで膠着する両者、先に動いたのはウィルバーであった。彼は開脚してワザとバランスを崩すとG・ギアを回しその姿勢のまま片足を振り上げる。

 その動きに虚を突かれ、アトラは必死に避けようとしたが蹴りに当たりSEを削られる。更に彼の攻撃は続き、軸足のG・ギアを駆動し蹴り上げた足のスラスターを噴かせ斜め振り下ろしの回転蹴りに繋げた。

 流石に早い繋ぎとは言えモーションの大きい攻撃だったので、中に浮けるISはスラスターを使い高速のスウェーバックで避ける。

 一連の攻防を繰り広げた両者の間合いは空き、硬直状態を生み出した。

 

「(あっ、危ないですわね…此処まで一人で来たのは伊達ではなさそうですわ。

 それよりも、SEの減少が予想よりも多い。一体何なのですのよあのタイヤは!?)」

 

「(ヒューっ、中々ヤルじゃないかあの嬢ちゃん。防ぎきれなかったとは言え、

 若旦那と仲間内でもバトジャン(戦闘狂)以外には初見殺しのコイツをよぉ。

 クソババァの言う通り、ちょーっと油注がれちゃうかねコレは)」

 

 ウィルバーナインのタイヤは特殊な砂状金属(サンドメタル)のコーティングが施されており、本来の仕様ではないがホイールを挽砕(ばんさい)武器として使用することもできる。

 ウィルバーは脚部での攻撃の際にはホイールを高速回転させることによって相手を削ぎ落とす事が出来るのだ。

 ここから、アトラの防戦一方となる。いくらこの部屋が広かろうともISが自由自在に飛び回れるほど高くはない。精々、約二~三人分くらいの高さしかないのだ。それ故にISの本領である飛行能力が十全に活かせないのである。

 一方でウィルバーはその逆だ。FAは一般的な人よりも少し大きい位に収まり、ウィルバーはスラスターとG・ギアを巧みに使い壁や天井を土台として八艘飛びとも思える変態立体機動で彼女を追い詰めてゆく。

 天井を蹴り飛ばし、その反動で突貫を行ったり、振り下ろしを空振りしたフィンガーマチェットを支えとして、棒高跳びのように飛んで彼女を飛び越しながら攻撃するなど、アクロバティックと褒め称えるよりも変態と蔑ます方がよさそうな動きだ。

 このままではジリ貧だとアトラは感じたのだろう、多少のダメージを覚悟でウィルバーを突貫して掴み掛り…そのまま全面ガラス張りの壁を突き破り外へ彼ごと飛び出ていった。

 

「NoオォオォオオoOoooオオウウゥウ!?」

 

 心底嫌な顔をしたアトラは外に飛び出た瞬間ウィルバーを放し、彼は宙に投げ出されてしまう。絶叫しながら彼はスラスターを噴かして何とかビルの構造物に着地した。

 ココはツインタワー風の構造をしているデュノア社の高層階にある渡り廊下の上。つまり・・・

 

「ココからがISの本領発揮ですのよ!

 今までコケにされた分、ISの真の恐ろしさと力を見せてあげますわ!!」

 

「OK、じゃぁ…第二ラウンドと洒落こもうか!」

 

 ウィルバー達が飛び出して行った後、壁には防災シャッターが下り社長室には静寂が戻る。

 散々、暴れ回れた事に苛立ちながら添え付けのコンソールで各場所の現状を探る夫人は、何処もかしこも押されている状況に更に苛立った。

 そんな中、今まで沈黙していたアルベール・デュノア社長が口を開く。

 

「もう、諦めたらどうだ。政略結婚の仮面夫婦だったとは言え、

 君を止められなかった私にも責任はある。だから、」

 

「だから、何だってのよ。逃げたければ私に全部押し付けて一人で逃げなさい、腰抜け。

 それに私は一切貴方を愛した事なんて一度もないわ。本当に愛しているのは、ただ一人だけ…」

 

「そうか…不躾だが最後にそれは一体誰なんだ?」

 

「…そうね。最後なら教えてもいいかしら。それは、」

 

 最後の夫婦間の会話が行われていたが、核心に迫る場面で入室者があった。

 それは、

 

「アルムさん…」

 

「セリシエ…」

 

「おお…」

 

 ジョーとジェット、二人の00No.チームに守られてここまで来たシャルルの実母‐セリシエである。彼女がリロイと00No.チームに頼んだ事とは『直ぐにでも夫と社長夫人と話がしたい』という内容だった。

 流石に作戦が終わった後ならともかく、作戦行動中では危険を伴う。ここは拒否するべきところだったのだが、彼女の強い眼差しに押されてしまったのだ。幸運だった事に上層階の敵部隊はウィルバーが散々暴れまわったせいか、かなり弱体化していたのだが。

 リロイは彼女を社長室近くまで送り届けたら、護衛を付けて中層階での掃討にあたりに行ってしまってこの場には居ない。

 

「セシリエ、来てしまったのね」

 

「えぇ、もう遅いのね?」

 

「そうよ、行き着く所まで来てしまったわ。悔いはないけどね」

 

「そうね。貴女はそう言う子だものね…なら、あの時(学生時代)みたいに勝負をしましょう」

 

「なるほど、条件や報酬は言わなくても分かるわ。貴女と私の仲ですもの。

 だから、私は私に賭けるわ」

 

「そうね、分かるわ。なら、私は私を助けてくれた人達に…私の全てを賭けましょう」

 

 この場に居る誰も知らなかった事だったのだが、どうやら彼女たちは知り合いだったらしい。

 そして、互いに分かり合っているからこそ…自身の全てを賭けた勝負を申し出た。

 奇しくもこの時、各戦場が収束に向かって動き出していたのである。

 

 

「あのコンバット・パターンを試してみるかっ」

 

 スティレットを操るロイはいったん敵との距離を取って止めの連続攻撃へと乗り出した。

 引き離されて追従しようとする敵を更に振り切って、敵を中心とした円の動きに入る。

 

「円の動きで追い込み、そこへ集中させっ」

 

 円の中心となった敵は何処へ逃れるか判断に迷い隙を晒してしまい。そこへロイからの集中攻撃を受ける。

 ガトリングガンとACSクレイドルに付いている機関砲で牽制し、更に身動きがとれなくなった後にマルチミサイルランチャーと腕に添え付けられている空対地ミサイルの集中攻撃を浴びせられた。

 

「止めは一点集中突破!」

 

 何度も攻撃を受け死に体のラファールにトドメとばかりに真っ向からガトリングガンを打ち続けながら接近し、最後は脚部のACSクレイドルからブレードを引き抜き回し蹴りの様な動きでブレードを打ち付ける。

 

「きゃああ!?」

 

「流石に戦闘機ではこうはいかんな」

 

 最後の攻撃でラファールのSEはゼロとなり、制御力を失いビル内に墜落すると強制解除され行動不能(リタイア)となった。

 

 

 ラピエール=スミカの方も最後の仕上げに入ったみたいだ。

 スミカはワザと敵を引き付け、とある方向に向かって上昇する。すると、敵の目には直射日光が突き刺さった。

 ISの保護機能により眼にはダメージがないが、眩んでしまう。それをスミカは利用し、太陽を背にしながら敵機に向かって急下降した。

 センサーによって彼女の位置を知ったラファールのパイロットは眩みながらもライフルで応戦する。が、スミカはそれを避けながら次々と発砲してきた。

 片腕を支えにして撃ち、避けて足の間から同時撃ち、今度は身を捻って避けての背面片手打ち、身を捻り直し斜め下へと同時撃ちとスタイリッシュな曲芸撃ちである。

 超電磁砲クラスの銃撃を次々と撃ち込まれ、行動不能直前となった敵にトドメが入った。

敵と交差する直前、スミカは両方のハンドガンから手を離し鋭く尖った手:HU(ハンドユニット)シャープハンドの手刀でX字に斬り付ける。

 

「っかはっ!?」

 

「まぁ、たまにはカッコ付けさせて貰うさ」

 

 スミカの手放したハンドガンを空中でキャッチすると同時に、ラファールは保護機能なのか地面へと軟着陸したあと強制解除され戦線離脱となった。

 

 

 最後に残ったのはトルースが相手する敵リーダー機だ。こちらのSEはシールドを素通しする

攻性干渉弾のせいで、防御システムに反応しないのかSEの減りは抑えられている。

 だが…

 

「タフだな。いい加減、諦めたらどうだ。ISスーツの防弾性が良くとも衝撃は消せない。

 骨の二~三本は折れているはずだ」

 

「ぐっうぅ…はぁはぁ、そうだとしても私は引けない!」

 

 そう、干渉弾が非致死性弾となっていてもその衝撃は傷害の可能性を十分には否定はできない。特に近距離から受けた事もあるので楽観視は出来ないのである。

 しかし、敵リーダーは戦意を消失する事もなくトルースを睨みつけている。最後に残ったのは彼女一人だけというのに、何が彼女を駆り立てるのだろうか。

 

「き、貴様は危険だ。(IS)の誇りに掛けて貴様を野放しにできるものか!」

 

「何?」

 

「ISに追従する機動性。ISでないからこそ搭載できる搭乗者への直接攻撃手段。

 こんな…こんなっ!対IS用兵器を逃すわけにはいかない!!」

 

 どうやら、トルース…いや、彼の機体を対IS用兵器だとして危険視しているようだ。だが、そう言い放つ彼女に彼は冷めた目で見ている。

 全身装甲(フルスキン)であるため素顔の見えないトルースであるが、肩を落とす動作により敵リーダーは呆れられていると判断したのか怒鳴った。

 

「何が可笑しい!」

 

「対IS用兵器?そんな物が作られるのは時間の問題だ。早いか遅いかのな。それよりも、

 もうこの戦いは無意味だ。残存勢力はお前のみ。地上の戦力は既に瓦礫と化している。

 お前の戦う理由はなんだ?」

 

「そんなものっ、ISが敗北することなど有り得んからだ!故に私は勝たなければならない!

 選ばれし(女性)なのだからな!!貴様こそ、なぜ戦う!」

 

「…仕事だからだ」

 

「…っ!もういい、死ねぇえ!!」

 

 どこまでも冷めているトルースにIS至上主義であり女尊男卑の敵リーダーは癇に触れたのか今まで以上に敵愾心をむき出しにし、殺気立って襲いかかってくる。

 だが、怒りで我を失っている状態ではトルースには通じるわけがない。ライフルを撃っても、

ミサイルを射出しても彼には届かない。その事実がますます彼女を怒り狂わす。

 トルースは怒り狂う敵にこれ以上の干渉弾は無意味だと判断した。理由は興奮状態に依るアドレナリンの大量分泌のせいで痛覚が麻痺していると予測したからである。

 万が一の為に用意してきたタダの通常弾に切り替えると反撃に転じる。敵の残SEを予測すると

通常弾を全て当てないとダウンに持ち越せないだろうが、まぁやるしかないとトルースは思いながらライフルを握る手に力を入れる。

 

「少しキツいがやるしかないか。マニュアル操作開始、リミッター30秒解除」

 

 避けていたトルースのスピードが上がり敵は付いてこられなくなる。その理由は機体の出力制限(リミッター)を解除したためだ。

 通常なら出力制限は機体やパイロットを守るために付けられる物だが、無論無い方が機動性や

出力が上がる。が、それに比例して負荷も上がってゆくのでオススメは出来ない。

 一時的に制限を取り外したバーゼラルドは通常では有り得ない速度と楕円軌道のバレルロールで敵を撹乱し、その中でも確実に攻撃を当ててゆく。

 

「締めだ。ブーストっ…!」

 

 トルースはフォトンブースターが焼き切れるかと思われるほどアクセルを入れ、最短直線距離で攻撃を続ける。互いの位置が交わる直前で弾丸は切れ、咄嗟にイオンレーザーカッターで抜き打ちをした。

 

「がぁあぁああ!?」

 

「悪く思うなよ。仕事だからな」

 

 これまでのダメージが蓄積していたリーダーのSEはゼロとなり、彼女は屋上に墜落したと同時に意識を失いISも強制解除され敗北を身に刻む事となった。

 

 

 一方でウィルバーは思わぬ苦戦を強いられる事となっていた。理由は単純明快、ウィルバーナインには射撃武器が無いからだ。

 アトラは自由自在に空を飛び、彼のアウトレンジ(射程外)から攻撃を仕掛ける。これほどまでに分かり易い苦境はあるだろうか?

 

「(さて、どうすっかねぇ?助走を付けた跳躍(ダッシュジャンプ)なら届きそうだが、ここじゃ距離もねぇし

 失敗したら真っ逆さまのお陀仏だ…あれ?史上最大のピンチか?)」

 

 ウィルバーはこんな事を思いながら戦闘を続けていた。彼が取れる手段は限られている。

 ①.相手が痺れを切らして近づいてくるのを待つ ②.イチかバチかで跳んでみる

 ③.援軍がくる ④.他に手段を思いつく ⑤.現実は非常である(Deat End)

 

「(俺としちゃぁ、①が一番楽だが…もっと良いのは③か④、⑤は流石に勘弁だけどよう

 現状を変える手っ取り早い方法は②かぁ?でも、失敗したら即⑤なんだよな)」

 

 攻めあぐねていると現実逃避なのか日が差してきたなと思ったら、突如の突風が吹きあられ

ウィルバーとアトラは体勢を崩しかけた。

 かなりの突風だったので両者とも驚いているが、彼には一筋の光明が見えた気がしたのである。

 

「おい、嬢ちゃん。次に跳んだ時には嬢ちゃんの上を飛び越してやるぜ?」

 

「へぇ、それは楽しみだこと…でも、それまで待ってあげませんわ!!」

 

「しゃくらせぇ!」

 

 ウィルバーは会話が終わると上空から撃ってくるアトラに対して引き続き回避行動を取る。暫くすると、また日が差し始めてきた。彼女には見えないがヘルメットの中でニヤついた彼は、

 

「せいっ!」ブゥン!

 

「きゃあ!?って、ええ!?」

 

 アトラの隙を突く為か片手のフィンガーマチェットを振り抜くと同時にパージし、彼女に投げつける。その間にウィルバーはG・ギアとスラスターを全開にし、渡り廊下から飛び出していった。

 

「無謀な男ですわ…くぅっ。えっ!?」

 

 ジャンプに失敗し投身自殺になったかとアトラは思ったが、次の瞬間また突風が吹き荒れ体勢を整える。だが、その時にハイパーセンサーに上へ飛んでゆく影を見つけた。その正体は…

 

「う、うそ…」

 

「獲ったぜ?せりゃああ!!」

 

「このっ!?うっ!!」

 

 彼女の上から現れたのは、飛び降りたはずのウィルバーであった。彼は彼女の肩から胴の位置で脚部のG・ギアを挟み込む様に押し当てながら食い違うように回転、さらに残った片手のマチェットでこれでもかと叩きつける。

 

「(なんで、何で飛び降りたこの男が私の上に居る!?冗談にも程がある。

 風になって逝ったというのに!…風、ビル風?まさか!?)」

 

 振りほどけないアトラは心の中で悪態を付くが、その中でウィルバーが現れた一つの可能性に気づいた。

 コイツは風に煽られて自分の上を取ったのではないかと。…正解だ。

 ウィルバーは吹き荒れた風、つまりビル風によって起きた上昇気流に乗ったのだ。

 日が差すと言うことは、風が吹き始めたということ。

 そのタイミングでウィルバーは助走を付けて跳躍し、更に上昇気流に乗りながらG・ギアをビル壁面に押し当てスラスターを噴かしながらさらに上へと登っていったのである。

 

 マチェットでの滅多打ち、G・ギアでの挽砕攻撃、終いにはそれなりの高度をとっていたので

渡り廊下に叩き付けられた(墜落した)事によってアトラのラファールのSEはゼロとなった。

 その事が分かったのか彼女は戦意を喪失する。

 

「やれやれだぜ…とっおぉぉお!?」

 

「あっ・・・」

 

 最後の墜落した位置が悪かったのだろう。SEがゼロになり戦いが終わったと思った瞬間、アトラとウィルバーは宙に身を乗り出してしまった。

 廊下の端だったのだ。ほんの少しの体重の動きで体勢を崩し滑落したのである。

 

「きゃぁああ!!」

 

「くそっぉお!」

 

 ウィルバーは咄嗟にアトラを掴み、スラスターを全力で噴かした。だが、ウィルバーナインは

陸戦専用機。二人分の体重を支えて100m以上の高さから軟着陸できる性能はない。

 彼もそれが分かっているのかスラスターを使ってビル壁面へと移動、マチェットを突き刺すことによって一応落下は止まった。

 

「ふぅぃぃ…セーフ!」

 

「はっ!何で私は貴方に抱き抱えられていますの!?」

 

「暴れんな!落ちるだろうが!!あと、重たいんだよっ。とっととISくらい外せよ!!」

 

「失礼な!レディにむかって重いとは!!それにISだったらSEゼロでもうすぐ消えますわよ!」

 

「ああっ、うっせ…」ピシィッ

 

「「え?」」

 

 ピシィピシピシピシ…バキィインン!!

 

 「「うそぉお!?」」

 

「あああああ!?」

「きゃあぁああ!!」

 

 今までの戦闘の負荷が溜まっていたのだろうか、ビルへと突き刺したマチェットは折れて再び

二人は落下を始めた。

 ウィルバーはマチェットの基部を排し、何とか落ちて擦れながらも指がビルの僅かな出っ張りに引っかかるが、状態は先程よりも悪化している。

 こんな体勢など何時までも保てるわけがない。すると、アトラが口を開く。

 

「もう…いいですわよ」

 

「はぁ?」

 

「私を放せば助かる確率は上がりますわ。私は負け、社からも追われる。

 もう生きてるか意味など」

 

「はぁ?何言ってるんだお前。そんなもの俺には関係無いっての。俺に指図するな」

 

「何言っているの!?こんな私など見捨てれば!」

 

「だから、うっせぇんだよ。若旦那のマイフェイバリットで言えば『俺は俺の自由の旗の元で』だ。俺は俺の好きにヤらせて貰う!(そうだ、何時もそうじゃねぇか)」

 

 絶体絶命のウィルバーが思うことは今まで好きに生きてきた人生だ。仕方なしの指図は受けるが、それ以外は自分勝手にやってきた。例外としては、今の旗本(十千屋)の下になら居ても良いと感じることだ。

 

「(そうだ、女を見捨てて生き延びたなんてカッコ悪い所…若旦那に見せられるかよ!)くっぅ!」

 

 唯一自分の認めた相手(上司)に格好悪い所を見せるなど、自分のプライドが許せない。

 だが、指は限界に来た。

 

「ちくしょうっ!」

 

「……っ!」

 

 待たしても自由落下に身を委ねる二人、助けは未だ来られない。実はこの時、ようやく空中戦の決着が付いたそばの出来事なのだ。つまり、空戦FAの三人とは距離が空いており間に合わない。

 ウィルバーは悪あがきで何かを掴もうとするが、重さと速度が思いのほか有り上手くいかない。指の装甲も禿げかかってきたその時、

 

 ドガァン!!

 

「ナイスだぜ!」

 

 突如、ウィルバー達の下のビル内から鎖付きハンマーが飛び出してきた。飛び出して垂れ下がった鎖をウィルバーは掴み、九死に一生を得た。

 その事にホッとしていると、ビル内から声が掛けられる。

 

「まったく…無茶ばかりするのですから貴方は」

 

「へへっ、ありがとよ。リロイ」

 

 声の正体はリロイである。リロイはレヴァナントアイ・イーギルに装備されていたハンマーショットガンでビル外壁を破壊、それに付いていた鎖をロープ替わりにしたのだ。

 ハンマーショットガンとは、ハンマーのショットガンではなくハンマーをショットするガンである。巨大なトゲ鉄球を発射する武器であり、見た目の通り色々と無理のある武器だが彼女は何が役立つかわからないと思った。

 

 

 こうして、デュノア社で行われた作戦はコトブキカンパニー側の勝利と終わった。

 そして、コレが示す通りにもう一つの勝負も決着が付いたのである。

 

「あーあ、負けちゃったわ」

 

「ええ、私の勝ちです」

 

「学生時代から何一つ勝てなかったわお姉様(セリシエ)

 

「…そうね。ねぇ、聞いてもいいかしら。今までの事は全部…」

 

「ええ、コイツ(アルべール)と政略結婚したのも、デュノア社を盛り上げたのも、

 全部愛しているお姉様(セリシエ)の為…」

 

 決着が付き、まるで憑き物が落ちた様に今までの動機をアムル・デュノア‐社長夫人は語りだした。

 二人の関係は学生時代の百合的義理姉妹から始まる。その時に色々と良くしてくれたセリシエにアムルは想いを募らせていったらしい。

 そして、大人になり政略結婚の話が上がった時に相手を調べていると、セリシエの名が出てきた。彼女はコレを好機と睨み、セリシエを愛人として呼び込みデュノア社を盛り上げた後にアルベールから彼女を寝取って、彼女を何一つ不自由ない自らの愛で溢れた世界へと招く予定であった。

 だが、セリシエはアルベールの事を思い、自分の存在が邪魔になると考え姿を消したのである。

 

「お姉様がコイツを思っていたのは分かったわ。

 けど、けど!どうして私を頼ってくれなかったの!!」

 

「アルムさん…」

 

 アルムは悲しみと思慕の涙を流しながらそう言った。ココに狂乱の愛で始まった事件は終着を迎えたのであった。

 

 

 作戦行動が全て終わり、今は撤収の準備が成されている所だ。

 あの後、主犯格であるアムル・デュノアは護送され、社長であるアルベール・デュノアは別の時に取り調べを受ける事となった。

 FA運搬用の装甲車にFAを丁度置いて出てきたリロイとウィルバーの元にアトラが訪ねて来る。

 

「あの、あのバイクのパイロットの方ですわよね?」

 

「あ~、嬢ちゃんか。何の用だ?」

 

「いえ、あの…貴方のお名前をお聞きしたくて」

 

「名前ぇ?」

 

 何故か戦った時とは違い、彼女がとてもしおらしくなっておりウィルバーは調子が乱れる。

 どこかモジモジとして居座りが悪そうな彼女に対して、彼は頭を掻きながらぶっきらぼうに答えた。

 

「ジャン、ジャン・B・ウィルバーだ」

 

 「ジャン…ジャン様///」

 

「あ~…そうだ。コレをやる」

 

「これは?」

 

 やはり調子がおかしいアトラにウィルバーは何か思ったのか、ある名刺を渡した。

 受け取った彼女は名刺と彼を交互に見て尋ねる。

 

「一応、あんなんでも両親をブタ箱に押し込んじまった原因はコッチにあるからな。

 なんかあったりしたらソイツを尋ねれば、悪いようにはしないはずだ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

ガシガシガシ…じゃあな」

 

「あ…」

 

 要件が済んだと思ったのかウィルバーは素っ気なく別れの挨拶をして離れていってしまった。

それに対してアトラは引かれるモノが有ったみたいだが、これ以上引き止める理由はなくその背を見送った。

 

 「少尉、ロリコンにでも成りましたか?」

 「はぁ?何言ってんだよ、リロイ」

 

「ジャン様…///」

 

 どうやら、ココに新たなるフラグが立ったようだ。

 

 それはともかくとして、今後デュノア社はナナジングループの傘下の一つとして動く事となった。

 しかしコレは、ISシェア第三位のデュノア社が知る人ぞ知る影のIS経済を担うナナジングループの傘下になった事を示し、世界経済界に波紋を広げたのは…また別の話。

 

 

 

――おまけ:百合姉妹の忠告――

 

 アルムが護送される前にセリシエ対して忠告を言ってきた。その内容とは…

 

「そうそう、お姉様の娘…今はシャルルって名乗らせてIS学園に居るけど。

 私の(アトラ)に気をつけて、って言っておいてくれないかしら?」

 

「何故かって?あの子は私自身みたいなモノなの。だから、きっとあの子もね…」

 

 どうやら、こちらでも別のフラグが立っていたようである。




はい、今回で『デュノア社襲撃編』は終わりになります。次回からはIS学園へと舞台が戻ります。
今回は普段出番がないFAのエースパイロット達を活躍させるための話でしたが…ちょっと難産でした。
完全にオリジナル状態ですし、自身がコレを始めた時に決めた『分かっている範囲内でIS勢をあまり不幸にしない』って目標があるのですが…
セシリアは両親健在、ラウラは原作始まりから部隊の仲が良い、鈴は…ゴメン、思いついてない。
と、まぁ…こんな感じで改変してましたけど。シャルルの母健在。しかし、継母はクレイジーサイコレズ(K S R)に…どうしてこうなった(^_^;)

あと、書くのに時間が掛かるようになってきました。自分でも不定期に成ると思っていますし、タグにもあります。
けど、なるべく早く書けるように頑張りたいです。



では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA37ss:私の切り札

さて、『学年別トーナメント編』に戻ってまいりました。
今回は、どうしてもやりたかったネタ三昧です。

では、どうぞ御ゆるりと。


 見世物の戦いではエンターテインメント性が必要となる。

 中でも、必ず殺す技と書いて『必殺技』と言うのは特に顕著だ。

 煌びやかでど派手で、一種の花形と言えなくもないだろう。

 

 そこに、ロマンはあるのだろうか?

 

 

 

 学年別タッグトーナメントは楚々なく進み、残り試合数もあと少しになってきた。

 既にベスト8が出揃い、誰が優勝するかの話で盛り上がっている。

 ちなみに、どのペアが優勝するかのトトカルチョは禁止された。そう、我らが鬼教官(織斑千冬)の手で…

 

「ふぅ、やっとココまで来たなって感じだな。しかし、何と言うか…見事に身内ばかりである」

 

「仕方がないよ一夏。僕たちの知り合いはほぼ全員が専用機持ちだもの。

 結果は自ずと分かってたじゃないか」

 

「あー…まぁ、なぁ」

 

「あはは、気を取り直してコレでも見てみる?最新の校内新聞だけど、

 各ペアの前評判が載ってるよ」

 

 ベスト8以降の試合前日、出揃ったペアを見ると見事にいつものメンバーで占めていた。

 この結果が何となく予想でていた一夏は何とも言えない予定調和ゆえの脱力感を感じるが、

シャルルがそんな彼を立ち直らせようと別の話題を振る。

 彼女の手には最新の校内新聞が握られていた。その内容は・・・

 

 織斑一夏 & シャルル・デュノア ペア

 

 言わずと知れた唯一の同年代男子ペア。同性同士の気兼ねない心持ちのせいか、ペアとなった

期間が短いながらも息のあった連携をとる。

 爆発近距離火力の白式を扱う織斑一夏君の思い切りの良さと、オールラウンダータイプの

ラファールを()り、ソツがないフォローをするシャルル・デュノア君で、攻勢に回った時の爆発力は見栄えるものがある。

 

「う~ん、改めてサンキュー。シャルル」

 

「どうしたのさ、一夏?」

 

「いや、思い返してみれば凄く助けられてるって思ってな」

 

「ありがとう、一夏。でも、僕も一夏の攻撃力には期待してるんだからお相子だよ。

 それに、まだまだ終わりは先だよ?」

 

「ああ、頑張ろうぜシャルル!打倒ラウラ!オマケに優勝だ!!」

 

「うん、頑張ろう!」

 

 

 凰 鈴音(ファン・リンイン) & セシリア・オルコット ペア

 

 両者とも第三世代IS専用機を操る国家代表候補生ペア。単純な力量と機体性能はとある例外を

除いてトップクラスと言っても過言ではないだろう。

 近距離よりだが全距離対応の甲龍、アウトレンジの鬼であるブルーティアーズ。確りとした役割分担による運用は堅実なモノがある。

 どちらか片方を即座に潰そうとしても、そう易易とはいかない。代表候補生としてISバトルの

運び方は確かに一般生徒より先にあるようだ。

 

「鈴とセシリアも順調に勝ち進んでいるようだな」

 

「そうだね。まぁ、二人とも代表候補生で第三世代の専用機だからね。順当って感じかな」

 

「戦うことになったら、まず近づくまでが大変そうだな」

 

「そうだね。どちらとも第三世代特殊兵装持ちだから、オルコットさんのオールレンジ攻撃の弾幕と、ついでに凰さんの不可視の弾丸も飛んでくるよ…ね」

 

「「ヤバい(ね・な)…」」

 

 

 篠ノ之箒 & チェーロ・プニャーレ ペア

 

 まさかの両者合意で組んだとは思って見なかったペア。よく同じグループに居るのは

分かっていたが、ソレまでと思っていたので予想外である。

 戦いは守りの篠ノ之箒さんに、速度のチェーロ・プニャーレさん。チェーロ・プニャーレさんのスティレットは半専用機であり、コトブキカンパニーオリジナルISである為公表されている

スペックデータ以外は謎であり、また篠ノ之箒さんに貸し出された打鉄用の『換装装備(パッケージ)月甲禍津(げっこうまがつ)』も謎が多い。

 守りきり近づいての一刀両断、速さで翻弄され撃ち切り刻まれる…謎ゆえに今回のダークホースかもしれないペアである。

 

「確かにこの二人が組むとは思わなかったなぁ」

 

「そうだね。でも、記事通りに謎が多い機体って言うのは確かだよ」

 

「月甲禍津のバリアは…零落白夜しか通さなそうだなぁ」

 

「僕としてはプニャーレさんの機動能力の方が驚異だね」

 

「「う~ん…」」

 

 

 更識簪 & 布仏本音 ペア

 

 ある意味で一般的なペア?と言えるかもしれないペア。

 つーか…専用機だけのペアが多すぎるんですよ、今回。

 戦闘面では更識簪さんの専用機‐打鉄弐式がメイン。打鉄の系譜だが、高速機動用に設計し直しているので元とは別物と言っていいだろう。

 手持ちは薙刀である夢現(ゆめうつつ)、2門の連射型荷電粒子砲春雷(しゅんらい)、あとはミサイルといったところで

中~遠距離がメインと成っている。

 だが、ペアである布仏本音さんはバトルが得意でないため囮に徹している面があり、

実質更識簪さんが一人で戦っている。

 しかし、何故か布仏本音さんに接触した選手は機体の不調になる事が多く、何かあると私達は

踏んでいる。

 

「更識さんて、なかなかの腕前だよね」

 

「ああ、俺だと近づけさせてくれなくて…そのまま終わるな」

 

「でも、一夏だと布仏さんの方が大敵じゃない?」

 

「え?あ、そっか…近づかないと俺はダメだから」

 

「うん、それで何か起こったら僕だけになっちゃうよ」

 

 その後の記事での紹介ペアは余りパッとしないものが続く。考えてみれば、まだ出ていない

『例外』ペア以外は例え代表候補生がペアだろうと専用機持ちではないのでしょうがないのであろう。

 千冬に言わせれば、代表候補生だろうと一般生徒だろうとドングリの背比べレベルらしい。

二人で残りのペアの特徴を把握しながら読み進めてゆくと…その『例外』で最も強敵で恐ろしい

ペアの記事まで来た。

 

 

 十千屋 雄貴 & ラウラ・ボーデヴィッヒ ペア

 

 今回の災厄と言っていいペア… 寧ろ、何故組ませてしまったと教師側に抗議を入れたいと

思わせるペアである。

 ラウラ・ボーデヴィッヒさんは現役軍人、十千屋雄貴さんは最近明らかにされた情報だがFAでの従軍経験と言うか…ラウラ・ボーデヴィッヒさんの指導官をやっていた時期があるらしい。

 つまり、現役ISライダー&そのモドキのペア。本職(プロ)はお断りしたいです。

 戦闘面ではどちらとも卓越した操縦技術&戦闘センス、ラウラ・ボーデヴィッヒさんの専用機の第三世代特殊兵装‐停止結界と十千屋雄貴さんの化物銃(シャガールⅡ)と対応に苦戦するものばかり。

 特にシャガールⅡは実際に撃たせてもらったのだが、ISの反動自動相殺機能が殺しきれない反動が襲いかかってきており、

 この現実を認めきれない私達の横で…素顔は何時も通り見えないが、きっと平気な顔で的の

ど真ん中を連射しながら当てていた……一体どういう事なの?

 

「「……・・・あ」」

 

「そう…だった。そうだったじゃねぇかぁ…」

 

「うん、そうだったね。ボーデヴィッヒさんに勝つ前に最大の…

 いや、最恐の壁が存在があったよ」

 

「やべぇ…勝てる気がしない。特に師匠に」

 

「あの人、僕らが複数で襲いかかっても平気でこちらを潰しにかかるものね。

 まぁ、今回は負けてもしょうがないんじゃないかな?」

 

「いや、足掻くだけ足掻かないと…後で師匠に地獄を超えた修行に放り込まれる ((((;゚Д゚))))」

 

「あはははは… (;・∀・)」

 

 嫌な現実にブチ当たった二人は、この日の夜は決めた就寝時間まで他のペア対策そっちのけで

十千屋&ラウラペア対策を必死に練るのであった。

 何故、シャルルまで必死に成っているかと言うと…自身もいつの間にか一夏メンバーに組み込まれており、同じトレーニングを受けている。つまり、無様な戦い方をすれば自分も罰ゲーム(地獄を超えた修行)に放り込まれるのである。

 

 

 翌日もトーナメントの続きである。が、もうベスト8まで出揃ったので残り全試合数は七つ、

今日くらいで終わるだろう。

 トーナメント表を見るとほぼ相手は一般生徒=ノーマルIS組ばかりであり、一夏&シャルル、

箒&チェーロはさっさと勝ち上がった。十千屋&ラウラは最終試合で一般生徒相手なのでまだ出番はなく、盛り上がりはないだろうがとある試合だけは違った。

 その試合とは、『鈴&セシリア 対 簪&本音』の試合であったからだ。

 今回初めてとなる専用機同士の対決に観客の誰もが浮き足立ち、今かと待っている。その熱気はピットで待っている生徒達にも伝わっている。

 

「さて、遂に強敵が現れたわよ」

 

「ええ、『日本の代表候補生』更識簪さんですわよね。

 しかも、今トーナメント初となる専用機の相手ですわ」

 

「あっちがどう出るかは分からないけど、

 事前に決めたポイントはしっかり覚えているでしょうね?」

 

「ええ、簪さんがどちらを相手取るかにせよ。その誘いに乗り抑える。

 その間に布仏さんを墜とすのでしたわね」

 

「ちょっと、抜けてるわよ。布仏とガッツリ接触したらイケナイってのが」

 

「ええ、それも存じてますわ。物理的に弄られてISが不調になるなど試合中では

 恐ろしい事ですもの。あとは、高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変にするだけですわ」

 

「……何かフラグが立ったような?」

 

 鈴とセシリアはピットでコレからの試合の注意点を確認しあい、あとは自分たちのISが十全に

力を発揮できるように最終確認を進めていた。

 一方で簪と本音も自分のIS、本音は学園から貸し出されているラファールだがこちらも其々のISの最終確認作業に入っている。

 

「かんちゃん、ココまできちゃったね~」

 

「ええ、戦力差から考えての予定ラインまで残れた」

 

「でも~、相手がリンリンとセッシーだよ~?専用機だけのペアは流石にキツいよ~

 負けちゃうかも~」

 

「そうね。でも、私にも意地がある。だから、『()()()』を使うわ。

 本音、キツいかもしれないけど手回しをお願いね」

 

「了解なのだ~。ドカンと一発大勝負だよ~!」

 

 どうやら、簪はここ一番の勝負に出るようだ。調整をしながら打鉄弐式を撫で、その瞳には力が篭っていた。

 

 

 試合開始の合図と共に先に行動したのは簪ペアであった。牽制とばかりに簪は連射型荷電粒子砲の春雷をセシリアに撃ち、自分が相手取るとアピールしているようである。

 予定通りセシリアは彼女の誘いに乗り激しい銃撃戦となった。一方で本音を追うのは鈴の役割になったのだが、

 

「いっくよ~!チョウチョの様に舞って~!!」

 

「(ランダム回避を織り込めての接近。意外とヤルじゃない布仏やつ)」

 

「ゴッキーの様に逃げ~る~~っ!!」

 

「だぁああ!?なにヤってんのよアンタはぁあ!?」

 

 蛇行する回避運動を織り交ぜた飛行で接近してきた本音に対して鈴は感心するが、

次の瞬間裏切られる事となる。

 何せ、近づいてきたと思ったら全速力で彼女の前から逃走したのだらから。コレには鈴は器用に空中でコケて、声を張り上げた次の瞬間…

 

「と、見せかけてぇ!ハッチーの様に刺~すっ!!」

 

 ゴガァン!!「あべしっ!?」

 

「で、ゴッキーの様に逃げ~る~~っ!! 三\(≧д≦)/」

 

 「待てやぁあゴォラアァア!!(#゚Д゚)」

 

 無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きに準じるような本音の見事な三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターンの)からの

ドロップキックが鈴に突き刺さる。

 そこからまた逃走を始めた彼女に鈴はキレかかりながら追いかけるのであった。

 そんな、コントとは裏腹なセシリアと簪の銃撃戦は見事なもである。

 どちらも紙一重で避けながら縦横無尽に撃ち続けていた。

 

「(くっ、コチラのパターンを読まれていますわね。

 今の状態が私の最大の攻守(ビットと自分の機動)なのですけど!)」

 

「(パターンは何とか読める…けど、予測よりも早い!一歩踏み込みたいけど、

 踏み切れない!!)」

 

 セシリアはビット二つを外周軌道に乗せて撃ち、残り二つは自分に随伴させ攻撃を行っている。コレは戦闘時のビット操作簡略の為に自分自身の軌道とビットの軌道をある程度パターン化しているためなのだが、今は其々十通り以上のパターンを持ち状況に合わせ随時変更していた。

 その為、このパターンを読み切って避けに入るのは並大抵では有り得ない。

 だが、簪は集めに集めたデータを使いそれをギリギリであるが可能にしている。

 両者は互いの力量を認め、心には同音同意の言葉が生まれた。

 

「「(この人は強い!!)」」

 

 そして、彼女らの流れ弾が飛び交う外周では・・・

 

「わーん!リンリンが本気で追っかけてくる~~Σ(||≧д≦)」

 

「その呼び方で呼ぶなぁあ!!」

 

 相変わらず、コントな逃走劇(トムとジェリー)をやっている。でも、ただ本音は逃げているだけではない。

 鈴が衝撃砲のチャージを始めた時にソレは起こった。

 本音の後ろに量子が集まり、丸い何かを形作って現れたのは手榴弾である。鈴はそれを見ると

回避運動をとり、さらに追加できた物は衝撃砲の標準を本音から外し撃ち落とす。

 このようなパターンを今まで何回も繰り返していた。

 

「(本当に囮って訳ね!自分からは積極的に攻撃せず、あわよければ被弾するような妨害しかやってこない。でも、ブラフの物とか吸着地雷とかトゲ付き鉄球?とか、バリエーション豊富なのは

やめてよね!?)」

 

「ファン・リンイン…ホン・リンイン…ホン・メイリン……チュウゴク!! (`・ω・´)!」

 

「まったく別(キャラ)だぁあ!!」

 

 本当に詳細を見れば高度な逃走なのだが、コミカル臭が抜けない二人である。が、それは唐突に終わりが来た。

 本音が簪からのプライベートチャンネルでの指示を受け、急に軌道を変えたのである。どこかへ飛んでゆくその途中で煙幕(スモーク)による目晦ましが有り、煙を抜けた鈴が目にしたのはペア(セシリア)の後ろ姿であった。

 奇しくも、彼女も簪からの目晦ましを受けた直後であり目標()を見失っていた。棒立ちになった

彼女とそれの背後から突っ込んできた鈴であわや激突になるかと思ったが、セシリアの回避と鈴の急制動で難を逃れる。

 だが、一難去ってまた一難と言うのだろうか?四方八方から光学標準(レーザーサイト)によるロックを受けてしまったのである。

 

「コレは…」

 

「動かない方が良さそうですわね。僅かでも動いたらズドンッというのがお約束ですわ」

 

「そう…でも、()()()()じゃなくて()()()()だけど」

 

 この状況のお約束パターンで一旦動きを止めた二人に簪の声が耳に届く。

 すると、ちょうど覆っていた煙が晴れ周りが見え始めてきた。

 これでようやく状況が細かく把握できる。簪と本音は少し遠い位置に居るが、それよりも異質なのは自分たちの回り約20メートル位だろうか?そこにソフトボール(だい)の何かが浮かんでいる。

 因みにそこから光学標準が出ているみたいだ。これの正体は皆目検討が付かないが、鈴は急に

思い出す。コレは本音を追いかけていた時にブラフに使われたものだと。

 

「で?簪、コレは一体どう言う状況なのかしら?」

 

「鈴…こちらの戦力では、ほぼそっちに勝てない。だから、()()()を切らせてもらった」

 

「そうですか、ならばコレらは自動迎撃のビットでしょうか?」

 

「違う。今から真の姿を見せる。…アイテムポット連動開始、量子展開…全開放(フルオープン)

 

 簪の打鉄弐式から鈴とセシリアを囲んでいる物体=アイテムポットへ交信の為のレーザーが

届くと他のアイテムポットへと次々と繋がり、まるで二人は檻に入れられた気分となる。

 それは、間違いではなかった。全て繋がったアイテムポットは量子を噴出し大小様々な箱型へと変化していく。変化が終わると、箱が二人を囲む。

 

「こ、こりは・・・」

 

「異質な光景ですわね…」

 

「準備完了…コレが私の切り札!!」

 

 この掛け声で箱型の物は次々と一面が両開きで開き中に収められている物が日の目を浴びる。

中は円柱状の物が規則正しく入っていた。

 コレは正しく・・・

 

「ね、ねぇ…」

 

「冗談…ですわよね?」

 

「ふっ…半径20m!ミサイルスプラッシュ!!」

 

 「\カーニバルダヨ!!/ ヽ(‘ ▽‘)ノ」

 

「ミサイルカーニバルです、派手に行きましょう」

 「おやっさん、何を突然?」

 「いや、なんか言わないといけない気がして」

 

 そう、大小様々なミサイルが収められており…それが一斉に鈴とセシリアに襲いかかる。

 

 「「ぎゃあああああ!?!!」」

 

 以前、簪が十千屋に頼んでいたのはこのミサイルポットであった。これは元々、『水中作業用FA グライフェン』を陸戦または空間戦闘用に改修した『アーマーグライフェン』に付けるパーツである。

 アーマーグライフェンの見た目はミサイルポットの過重積載といった感じであり、一機あたりに付けられる最大数のミサイルポットだと174発にも迄ぶ。簪はFAプラモデルで機体自体は知っていたので実物が無いか彼に聞いたのであった。

 結果は有り。こうして、出来合いのミサイルポットを幾つも格安で借りたのである。

 

 さて、話を戻そう。ミサイルの文字通り嵐に見舞われている二人だが、たぶん十千屋の手も

入っているこのミサイルカーニバルはタダものじゃないだろう。

 

「熱い!冷たい!なにか飛んできたー!?」

 

「せめて、ビットを盾に!…てっ、何か貫いてきましたわー!?」

 

 ミサイルと言っても種類がある。焼夷弾(ナパーム)冷凍弾(フリーズ)拡散弾(スプリット)散弾(クレイモア)徹甲弾(フルメタル)と多種多様なものが。

 そう、その多種多様なミサイルが彼女たちに襲いかかっているのだ。その原因は、あの人(十千屋)しかいない。事前のシミュレーションで彼はただのミサイルだけのコレを大破しながら一点集中突破したためである。

 その対策として、動きをあらゆる面で阻害するために各種ミサイルてんこ盛りとなった訳だ。

 

 数分…いや、もっと短いかもしれないがミサイルは全て撃ち出され辺りに爆煙が立ち込める。

その中心に鈴とセシリアの居た。

 余りにも凄まじかった為、観客も生きているか心配になった程だが彼女たちは生き残っていた。

 しかし、ISは大破寸前でSEも残り僅かであろうことは誰の目から見ても明らかである。

 

「はぁはぁ…セシリア、生きてる」

 

「ふぅふぅ…えぇ、今ほど生きてるいる素晴らしさを実感した事はありませんわ」

 

 二人は背を向け合って、無事を確認し合った。セシリアはビットを盾にして、

ミサイルを撃ち落とし続け。鈴は双天牙月を回して回転シールドにし、衝撃砲で相殺し続けた。

 僅かな希望も掴もうとする決死の努力と奇跡で二人は生き延びたのだが、奇跡はそう長くは

続かない。僅かに残ったSEと気力を振り絞って、簪達を仰ぎ見た瞬間に何かの影が見えた。

 それは黒くて丸くてドクロマークがあって導火線がついていて、ついでにもう線には火が着いている。そう、その正体とは黒色(古典的)爆弾であった。

 二人がそれを認識した間もなくに爆発し、残ったSEは吹き飛ばされた。幻覚だろうが、この時

ドクロマークが嘲笑った気がする。

 

「た~まや~…けっ、キタねぇ花火だじぇ~」

 

「本音、野菜王子の真似は止めた方がいい」

 

 これにより、この試合に決着がつき次にコマを進めたのは簪・本音ペアとなった。

 

 

 そして、ベスト8の最終戦は十千屋とラウラの出番となる。二人共ISの最終確認が済み、

ピット内の発着場で出番を待っていた。

 

「さて、コレが終わればいつものメンバーと当たる戦いへと続く。

 今回の相手は一般生徒ペアだが、油断はするなよ?」

 

「ふっ、誰にモノを言っていると思ってるんだおやっさん。無能、怯懦、虚偽、杜撰、

 どれ一つとっても戦場では命取りとなる。故に全力全開といかないでも、万全の用意は

 してある」

 

「じゃあ、」「では、」

 

「「行くぞ!」」

 

 こうして、次なる戦いへと赴く二人… ジジジ・・・ジジ・・・

 だが、二人はまだ気づいていなかった。 ジジジzz・・・・

 この戦いの中に仕組まれた・・・ ジジ・・・チチチ・・・

 悪意のプログラム()を・・・ ジジ・・チチ・・チキッ・・

 

 

 

 

――おまけ:世の中は○――

 

 さて、少しばかり話を戻そう。汚い花火となり、その燃えかすとなった鈴とセシリアはそのまま簪ペアの手によって収容された。

 ちなみに、彼女らが(強制的に)燃え尽きた時のポーズは・・・鈴は車田落ち、

セシリアがヤムチャっていたそうである。

 

「くはぁっ!はぁはぁ・・・あ~、負けたのか。スゲー怖かったわ・・・

 

「う、うぅうん。改めて生きているって素晴らしいですわ。

 ・・・あと、運んでくださりありがとうございます」

 

「いいよ~いいよ~、ISライダー困ったら助け合いでしょ~?」

 

 気がついた彼女らは運んでくれた簪達に礼を言うと、先程のアレはなんだったのか聞いてみた。

 すると、簪は「とある機能の()()()」と答える。

 その機能とは、打鉄弐式に搭載予定だった山嵐(やまあらし)という武装についてである。

 弐式の最大武装で、第3世代技術のマルチロックオン・システムによって6機×8門の

ミサイルポッドから最大48発の独立稼動型誘導ミサイルを発射するものであるが肝心のシステムが完成出来なかったのだ。

 このままだと、使えないので通常の単一ロックオン・システムが搭載する予定であったが、

簪と()()()がネタに走ってしまったのだ。

 彼はこう言い出した・・・

 

「なに? マルチロックオン・システムが完成しないって?だったら、逆に考えたらどうかな。

 別に狙わなくってもいいんだって

 

 その結果、全方位からの過剰一斉放射へと繋がったのである。

 

「・・・・・・だぁぁあ!??!結局、アイツ(十千屋)の仕業かぁぁああ!! ((o(>皿<)o))」

 

「おじ様・・・これ以上、わたくしのトラウマを増やさないでくださいまし (つд⊂)」

 

 謂れを聞いた彼女たちは一頻り怒ったり、泣いたりしてあとは落ち着いたのか次の疑問を尋ねる。

 

「はぁはぁ・・・ふぅ・・・、それにしてもこんなの有るんだったら

 もっと早く使っても良かったんじゃない?つーか、後はコレで楽勝でしょ?」

 

(フルフル・・・)ミサイルの消費量が半端じゃないから次の試合までに納品が追いつかない」

 

「まぁ、確かにねぇ」

 

「それに・・・」

 

「それに・・・?何ですの?」

 

「もう、使わない。いえ、使()()()()

 

「「は?」」

 

 まさに一撃?必殺であるが、これ以降は使えないと言う簪について鈴とセシリアは疑問の声を上げた。

 すると、彼女は手の平を上にしてから親指と人差し指をくっつける。

 

「使用費用が掛かり過ぎて一ヶ月に一回出来れば良い方。それにコレを使うと、

 お金が掛かり過ぎるからって私の懐銭も出て行っちゃう・・・もう、予約用により分けていたお金以外無い

 

 そう言う彼女は、どこか遠くを見つめ・・・何かを悟ったような泣きそうなような顔をし

背中が煤けていた・・・・

 

 「今月、店頭で買おうと思っていたアレやソレも買えない・・・あ、引き落としは来月もだから来月のヤツも・・・・・・」

 

「ね、ねぇ・・・簪?どうしても買いたいんだったら、貸すわよ?」

 

「え?良いの・・・」

 

「赤字覚悟で使ってくれたって事は、それだけ私達を強敵だって評価してくれたんでしょ?

 あ、無論貸したお金は返せるようになったら直ぐに返してね」

 

「わたくしからもよろしいですわ。無期限無利子でお貸し致しますわよ?」

 

「ありがとう・・・鈴、セシリア」

 

 こうして、トラウマを引き換えにより強く友情を結んだ彼女たちであった。

 しかし、この必殺技の欠点を知らない一般生徒達にはミサイルマスターとして恐れられたのは

言うまでもない。

 

 答え合わせ: おまけ:世の中は○ ⇒ おまけ:世の中は金




今回はネタ増し増しでお送りしました。
簪嬢を暴れさせてスッキリしています。だが、まだまだ今後も出番は有るんだぜ?・・・かなり間が空くかもしれませんけど。

さて、書きたかった所は書けたのはいいですけど、短くなると思って書いた蛇足が思いのほか長くなりましたね。
本当に書ききるまで予測が付かないのが未熟な証ですね・・・

まぁ、ソコは一旦置いておきましょう。
次は十千屋とラウラの出番ですが・・・IS学園の行事がこのまま平穏に終わると思っているのか!?
てな訳で、『学年別トーナメント編』のラストバトル予定です。
それが終われば後は、数話やって完全にこの編が終わる予定です。が、予定は未定・・・どうなる事やら。
何だかんだで同じくらいの進みになっている、別の書き手さんに遅れをとらないように進めていきたいです。

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA38ss:おやっさぁあーーん!!

はい、しばらくお待たせいたしました。
今回で『学年別トーナメント編』のバトル部位が終了です。

注意事項として、一万文字を突破してしまいましたので・・・お時間がある時にどうぞ。


では、どうぞ御ゆるりと。



 もし汝の兄弟、罪を犯さば、これを戒しめよ。もし悔改めなば之をゆるせ。

 

 イエス 「新約聖書-ルカ伝十七章三節」

 

 

 ベスト8も、もう終盤戦。

 この十千屋&ラウラペア 対 一般生徒ペアが終わればベスト4となる。

 しかも、ベスト4では今までで有り得ないぐらいの専用機密集戦となっているのでサクサクと専用機(十千屋&ラウラ)ペアが勝ち進んで欲しい、というのが観客の心情だ。

 実力や機体性能差からほぼ勝ち確な十千屋とラウラであるが、自信はあっても奢りはない。

 特に十千屋は実質被ダメージSEが極端に少なくなっているので、致命傷をもらわない為にも気を引き締める。

 両ペアとも開始位置に着き、いつでも始められる状態となった。

 しかし、相手ペアの様子が少し変である。ブツブツと呟き、目も虚ろな感じだ。

 だが、心配になるほど挙動不審ではなく、初戦の惨劇のせいでそれ以降の対戦相手ペアがこう

なるのは度々あった。

 今回も、これからの戦いへの恐怖とプレッシャーに圧されているだけだろうと安易に十千屋達は判断してしまう。

 もっと相手の状態が分かれば・・・・この後の悲劇はなかったかもしれない。

 

 

「ISバトル・・・スタート!!」

 

 試合開始の合図が響き両者とも動き出す。だが、何かかがおかしい・・・相手ペアはラウラには

目もくれず十千屋に襲い掛かり、彼の方は動かなかった。

 そして、動かなかったのではなく()()()()()()とラウラが気づいた時にはもう遅い。

 

 「死んじゃえぇぇえーー!!」

 

 ザシュッ!! ガゥンゥウ・・・!!

 

「・・・!?がっ・・・ぁ!!!」

 

 ブレードで襲いかかってきた方の相手の凶刃が彼の脇腹を切り裂き、ライフルを使って来た相手の兇弾は彼の左膝を砕き抜いた。

 空中で二箇所から鮮血を撒き散らしながら下へと落ちてゆく十千屋は、地面に叩きつけられた

衝撃により二~三回バウンドした後に動かなくなり・・・そこで、血だまりを作る。

 

 「お、おやっさぁあーーん!!」

 

 ()()()()()()()()()()。ISはSE(シールドエネルギー)と絶対防御と言う二つの保護機能で守られている。その保護は元来の目的である宇宙活動を基準として作られており、まさに鉄壁の守りだ。

 様々な有害宇宙線を防ぎ、音速を超えるデブリを防ぐ。開発者(篠ノ之束)の話によると核爆発でも

防ぎきる、との事だ。

 だから、あんなふうに撃ち貫かれ、切り裂かれ、血飛沫が舞い墜ちる事など・・・絶対に()()()()()()()()のである。

 ラウラの絶叫から数拍後、その事を理解し目の前の惨状を把握した観客たちに衝撃が走った。

 

 「うぁああああ!?」

 「きゃぁあああ!?」

 

 観客の悲鳴と絶叫が木霊(こだま)する中、アリーナ内でも最悪な方向へと進行してゆく。

 十千屋を切り裂き、墜とした生徒は呆然としている。彼女の手に持つブレードの切っ先には血が付着しており、何故か正眼の構えをしていた為に手元にその血が伝わってきた。

 

 「おい!貴様!!一体何をした!!!」

 

 「・・・ナキャ・・・シナイト・・・シテ」

 

「貴様っ、聞いているのか!!」

 

 その呆然とした生徒にラウラがくいかかるが、目の焦点が合わず手に持つブレードは震え、

何かを上擦いている。

 そんな状態なので彼女は生徒の肩を掴もうとした時、生徒は彼女をすり抜け飛び去ってしまう。その行き先は、地面に転がった十千屋だ。

 

「あぁ・・・ああぁ・・・ああああ!!」

 

「くっ!?」

 

 ガギィイイン!!

 

 飛行途中でブレードを上に振り上げ、再びその凶刃で今度こそ十千屋の命を切り裂く寸前で

ラウラが間に合いプラズマ手刀で防ぐ。

 手刀とブレードの間で火花が散り、しのぎを削る。火事場の馬鹿力と言うべきか、相手は打鉄とは思えないほどの力でラウラの手刀を押しのけようとしていた。

 

「キィサァマァアア!!一体、何をしようとしたぁああ!!!」

 

 「殺さなきゃ!死なせないと!

 ソイツを殺さないと駄目なのよォォお!!?!」

 

「・・・っ、貴様は!?」

 

 眼前に生徒を捉えたラウラは彼女の異常性を悟る。一言で言えば錯乱状態。女尊男卑主義者で

男を目の敵にし、排除しようとする輩とは違う。何かの強迫観念に囚われ、正常な判断が出来ない状態に見える。それは何か、()()()()()()かの様にも見えた。

 だが、今はそんな事は関係ない。この出来事で学園側も混乱しているのか動きが無い。ならば自分(ラウラ)がやるべき事は生徒(敵性体)を排除し、十千屋(仲間)の応急処置をするだけだ。

 レーゲン(IS)に送られてくる彼の生体情報(バイタルデータ)は何故かぶつ切りでハッキリしないが、ギリギリまだ

生きている事を告げている。

 焦りを何とか抑え、迅速に行動しようとするラウラに追い打ちが掛かった。

 

「ねぇっ!?アンタもアイツを殺してよ!!」

 

「・・・ハッ、そうだ。あ、アレを撃たないと、殺さなきゃ  殺さなきゃ

 

「くぅ、このぉお!!」

 

 鍔迫り合いとなっている相手は自分のペアに殺人を強要する。すると、現実逃避なのか呆然としていたライフル持ちの相手は、ガタガタと震え狙いの定まらない状態でも引き金を引こうとした。

 ラウラはその事を察知すると目の前の相手を蹴り飛ばして離し、リボルバーカノンで

ライフル持ちを狙撃する。ただ浮いている敵であるため良い的となり着弾した。

 しかし、両者に攻撃を仕掛けたのが切っ掛けとなり相手の照準が彼女に絞られる。

 普段の彼女ならこんな一般生徒の二人掛りなど一蹴できるであろう。だが、死に掛けの護衛対象がいると言う事実が彼女から普段の精彩さを失わせていた。

 相手にしろ自分にしろ流れ弾が護衛対象(十千屋)に飛んでいかないように気を配らなければならない。

しかも、(まず)い事にライフル持ちは恐慌状態だ。何処へ撃ち放つか検討がつかない。

 それに気を配りすぎて時間が掛かってもいけない。時間が掛かれば掛かるほど、護衛対象の

生存率が下がってゆく。そして一番最悪なのは、今の精神状態では奥の手である第三世代特殊兵装(停止結界)が安定運用できない事だ。

 第三世代特殊兵装というのは、精神集中がとても必要となる。それなのに流れ弾に気を使い、

十千屋の状態に気を使い、相手の動きにも気を使う、文字通りこんなにも気が散った状態では使えないのだ。

 

「貴様!何故こんな事をする!!」

 

「だって!ISは女性の物でしょ!?こんな、ポッと出でわけ分からない怪しい男が使うのは

 間違ってるの!だから殺さないと!!」

 

「貴様は何を言ってるか、分かっているのか!?」

 

「えっ?だって、殺さないといけないんだもん!殺して、壊してっ!

 ねぇ!?とっととアンタも撃ってよ!?」

 

「えっ!?あ・・・、そうだ・・・・アッチ()を撃てばイイんだぁああ!?!?」

 

 やはり、対戦相手は正常な判断を失っている。どうしても十千屋()を殺すという衝動みたいな目的を果たそうとしているようだ。

 そんな中で錯乱気味のライフル持ちが遂に十千屋を狙ってしまう。が、正常な状態ではないために全ての弾はあさっての方向へと撃ち放たれた。

 運良く当たらなかったが、コレを見てしまったラウラは自分の中で何かが切れるのを感じる。

 

「(・・・っ!倒す!直ぐにコイツらをブチ倒す!力だ・・・力が欲しい!!

 何もかも圧倒する『力』が!!)」

 

 

『――力が欲しいか?――』

 

「(欲しい!今すぐ!何が何でもだ!!)」

 

 

『――力が欲しいのならば――』

 

 

『――クレテヤル――』

 

 誰の声でもない・・・しかしハッキリと脳裏に届く声に応えてしまったラウラは次の瞬間、

ドクンッと何かの脈動を感じ取ったあと体中に痛みが走った。

 何かに身も心も塗りつぶされてゆく感覚、彼女の意識はあっという間に遠のいてゆく。その中で彼女の視界の隅には、こう表示されていた・・・

 

 《 Valkiyrie Trase System 》..... boot.

 

 「あああああっ!!!!」

 

 突如、ラウラは身を裂かんばかりの絶叫を発し、シュバルツェア・レーゲンもまたそれに

呼応するかのごとく激しい電撃が走る。

 観客も異常状態の相手も、誰もかもが何なんだと思った。

 何故ならレーゲンは溶け落ちラウラを、黒く深く濁った泥で飲み込んでいったからだ。

 それは、一つの形となって我らの目の前に現れる。黒い全身装甲(フルスキン)のIS、いやISかどうか怪しい物だ。

 ISは原則として『初期操縦者適応(スタートアップ・フィッティング)』と『形態移行(フォーム・シフト)』でしか変化する事が出来ない。

溶け落ち操縦者ごと巻き込んで変化するなど有り得ない事だ。

 だが、その有り得ないモノは今、目の前のある。ラウラを軸にしたのかボディラインは彼女のものだ。腕と足には最小限のアーマーとして付いている。頭部はフルフェイスのアーマーに覆われ、顔は装甲の下にあるラインアイ・センサーが仄暗い赤い光を灯していた。

 

「アンタも・・・何なのよぉぉお!?」

 

「―――――」

 

 黒のISは真っ先に襲いかかってきたブレード持ち受け流すと、ライフル持ちを狙い行動する。

 自分が狙われたと分かったライフル持ちは自動連射(フルオート)に切り替え撃つ。

 

「い、いやぁああ!?来ないでえぇえ!!」

 

 ガキィン!ガキィン!ガキィン!ガキィン!

 

 今だに狙いが定まっていない照準だが、数打ちゃ当たると言ったもので何発かは黒のISに当たる軌道に乗る。だが、コイツは当たる軌道のみを読み切ってブレードで弾を叩き落とした。

 まるで漫画の様な現実感がない絶技に更に狂うライフル持ち、錯乱したままライフルのトリガーを引きっぱなしにしていたが終わり(弾切れ)が来る。

 そして、それと同時に・・・

 

 「あ、あぁ・・・あぁぁあああ!?」

 

「―――――」

 

 黒のISはたどり着き、常人には見えない程の早すぎる太刀筋でライフル持ちを何度も切り裂き戦闘不能(リタイア)にする。ライフル持ちを倒した直後は棒立ちと成っていたが、数拍おいてブレード持ちの方に向き直った。まるで「次ハ、オ前ダ」と言うように。

 

「ひっ!?」

 

「―――――」

 

 ブレード持ちはペアに起こった惨状に完全に逃げ腰となっており、逃走しようとしたが黒のISはあっという間に距離を詰めてきた。元がレーゲンとは思えない加速力、完全に別物となっている

証拠でもある。

 恐怖に駆られながらも必死に抵抗するブレード持ちであるが、話にならない。黒のISの技量が

飛びぬているせいだ。打ち合えば弾かれその瞬間に何度も切られる。抵抗の意味も成さない有様に自分も同様に沈められると思った最中、一条の風が吹いた。

 

 「あああああ!お前はぁああ!!!」

 

「一夏!待ってよ!!あぁっ、もう聞いてない!?だったら僕はコッチに!」

 

 その正体は一夏であった。メガスラッシュエッジを一纏めにしたセイバーモードで黒のISに

突っ込んだのである。その後ろからシャルルも来たが、一夏が暴走気味で手に負えないと判断すると十千屋(要救助者)に向かった。

 彼らは次の試合のためにピットに居たが、度重なる異常事態に念のためISを起動したままでの

待機命令が下されていた。しかし、飛び出したいのを一夏は今まで何とか抑えていたが・・・黒のISを見た瞬間に暴発する。

 相方(ペア)であるシャルルの制止を振り切って黒のISと交戦し始めた。暴走気味でも技量の差は分かっているのか、ビームを消したセイバーモードを片腕に装着(マウント)し盾替わりに使う。

 でも、所詮は盾の使い手としては付け焼刃であり着実にSEは切り落とされていった。

 

「十千屋さん!大丈夫ですか!?」

 

「くぅっ、シャルルか・・・スマン、上半身を起こしてくれ。

 あと、イオンレーザーカッターも貸していたな。ソイツを貸してくれ」

 

「あ、はい。・・・コレを」

 

「ロックは・・・OFFに成ってるな。くぅう!?」

 

 ジュウゥゥゥ・・・

 

「・・・って、何をやってるんですか!?」

 

 上半身を起こしてくれたシャルルから、十千屋はイオンレーザーカッターを受け取るとイオンレーザー出力と形状を調節し、脇腹の傷口を焼き始めた。

 彼女は突然の彼の暴挙に唖然としたが、理解した次の瞬間に血の気が引いて止めさせようとする。が、既に傷口は焼き固められた後であった。

 

「ハァハァッ・・・良し、コレで止血は出来た」

 

「止血できた・・・じゃ、無いですよ!?何やってるんですか?!?馬鹿ですか!??」

 

「ISにトロイ(時限)型ウィルスが仕込まれていた。さっきまでほぼ全機能停止状態だったんだよ。

 何とかフルマニュアルで多少動けるまで回復したが、

 ・・・生体調節機能回復前に血が()くなりそうでな」

 

 シャルルは驚ろいて上がった血がまた引いたような感じがした。ISの機能全停止・・・それはISがただの物置(アンティーク)になった事となる。

 様々な機能で守られた操縦者、それが無くなった事実に彼女は恐怖を感じた。

 十千屋は相手ペアから攻撃を受ける間際にISの機能が消沈してゆく事に気づいた。

 必死の機能回復を図ろうとしたが、先に攻撃が来る。悪足掻きとして身を捩ったため脇腹は深く切られたが、Mスーツの装甲と防護力で運良く内蔵までは刃は届かなかった。

 そして、落ちながら阿頼耶識システムによってISプログラムに直接介入し、落下直前で一部のPICとSEの復帰に成功、派手にバウンドするもダメージは緩和できた。が、動ける状態にまでには先程まで持ってこれずに倒れ伏していたのである。

 

「早く・・・ラウラを止めないと、廃人に成っちまう。次は膝だな」

 

「止めて下さい!もう、僕が止血します!!マント?の端を切って巻きますから!!」

 

「・・・ビームコーティングしてあるから、タダのナイフの方がいいぞ。

 あと、一夏にコッチに来いって言ってくれ。通信機能がまだなんだ」

 

「はいはいはい!やりますから、やりますからジッとしていてください!!」

 

 シャルルは無茶以上の事をする十千屋を制しながら彼の指示に従う。彼のISが身に纏ったマントを割いて包帯替わりにし、一夏に通信チャンネルで呼びかける。が・・・

 

「一夏!一度こっちに来て!!」

 

「うぉおぉお!!!」

 

「ねぇ!一夏ってば!?」

 

 「あぁぁああ!!!」

 

「ダメだ!聞いてない!!」

 

 「ここから出て行けぇー!」

 

 完全に暴走状態である一夏はシャルルの呼びかけに乗じない。それ故に十千屋は何とか動くようになった体にムチを打ち、手に武器を展開(オープン)する。

 呼び出したシャガールⅡは咆吼し、鍔迫り合いと成っていた黒のISに命中し一夏から引き離す。それに呆気にとられ攻撃が来た方向に彼は顔を向けるが・・・

 

「・・・いっぺん頭冷やそうぜ?」

 

 十千屋の隣に居たシャルルと、聞こえない筈の一夏は彼のその一言に背筋が凍った。

 次の瞬間・・・一夏の顔面にシャガールⅡ専用弾である炸裂弾がぶち当たる。

 絶対防御でダメージは無いが、コレが(十千屋)の催促だと分かると登りきった血の気が最下降まで下がった感じがし、

 

「い、一夏・・・『来い』だって・・・・・・さ」

 

 「はいぃいぃいい!!今すぐ行きますぅぅぅうう!!!」

 

 脱兎の如し、忠犬の如し、瞬間加速(イグニッション・ブースト)を使ってでも一秒でも早く十千屋の元に行くのに必死であった。

 彼の元にたどり着いた一夏は別の意味で驚いた。何せあんなに嫌がっていた素顔を晒していたのだから。聞けばごく簡単に、メット内のディスプレイが駄目に成っただけであったのだけれども。

 

「さて、一夏・・・織斑先生のデータが使われていてムカついているのは分かるが、

 少し冷静になろうぜ?」

 

「はい・・・スミマセン。完璧に頭に血が上っていました」

 

「流石にもうそろそろ学園の介入があるはずだ。だが、俺は直ぐにでもラウラを助けたい。

 お前はアレを倒したい。結果は同じだ。ヤルぞ一夏」

 

「・・・師匠」

 

「あのー、すみません。僕だけ蚊帳の外なのですけど、説明をお願いできますか?」

 

 すっかり土下座ムードの一夏に対して、ため息混じりで進言する十千屋。彼が言うには一夏の

心情も分かっており、手を借りたいと言ってきた。

 それに感動する一夏であったが、すっかり蚊帳の外となり話の内容について行けないシャルルは状況説明をお願いしてくる。

 

「詳しいことは全部後で話してやる。今必要なのは、『黒いアレ(IS)の正体』『どう倒すか』だ」

 

「はい、あの黒いのは一体?織斑先生のデータとか言ってましたけど」

 

「まんまだ。アイツ(黒のIS)は織斑先生の選手時代最盛期のデータが使われている」

 

「ああ、あの太刀筋と動きは千冬姉(ちふゆねえ)だ」

 

「だが、あの超人(千冬)の動きを鍛えているとは言え、普通の人が出来ると思うか?

 出来たらどうなるか想像できるだろ?」

 

「・・・こ、壊れちゃうじゃないですか!?」

 

「そういう事だ。だから一でも早くラウラを助けたい。作戦は簡単だ。

 俺が一撃を入れて体勢を崩す。一夏が零落白夜を使ってアレを引っペがしてラウラを確保する。

 以上だ」

 

「分かった。でも、それだと師匠が反撃を喰らっちまうんじゃないか?」

 

「そこは大丈夫だ。これも後で話してやる。行くぞ!

 あと、シャルルはいつでもフォロー出来るように動いてくれ」

 

「「はい!」」

 

 十千屋が簡単に話をしめて行動を開始する。

 

 黒のISの正体とは『Valkiyrie Trase System』通称、『VTS』と呼ばれるものだ。内容は過去のモンド・グロッソ(ISの世界大会)部門受賞者(ヴァルキリー)の動きを模倣(トレース)するシステムだ。

 だが、このシステムはIS条約で現在はどの国家・組織・企業においても研究・開発・使用すべてが禁止されているのである。

 何故、ラウラのISに積まれていたかは分からない。そして、十千屋が見抜けたのはヤンチャして武者修行(非合法研究・組織潰し)していた頃に同じような所を見つけたからである。

 次に作戦だが、先に書いたように十千屋が崩して、一夏が止めを刺すといった簡単なものであるがコレだと十千屋に身の危険が及ぶ。しかし、彼は安全をほぼ確信していた。

 黒のISと化してしまったラウラの行動だが、先にライフル持ちを倒し、相手に攻撃するたびに自分(十千屋)から遠ざかっていったなど敵を遠ざける行為が見えるのである。

 極めつけは、十千屋が攻撃しても防衛はしてもこちらに攻撃を仕掛けてこなかった事だ。

 以上の事からラウラの無意識が十千屋を守る行動を取っているとふんだのである。

 と、いうのを一夏とシャルルは全てが終わった後に聞いた。

 

 十千屋は今まで出してこなかった大型武装を取り出した。H.W.U(ヘビィウェポンユニット)04:グレイヴアームズ。言うなれば、十字架型の多機能兵装(パニッシャー)である。「パイルバンカー」「キャノン」「サブアーム」など複数のモードに出来る武器だ。

 システムを何とかしていて飛行速度が遅い十千屋の後ろで、一夏は精神を集中させ先ほど言われた事を思い出す。

 

「一夏、大振りなのは必要ない。

 今回必要なのは『糸みたいに細くて――光みたいに速い』攻撃だ。

 俺も含めるが、アレの「()()()()()()」一撃・・・ただ一撃を・・・・・だ」

 

「・・・出来るのかな、俺は」

 

「一夏、なら(師匠)を信じろ。俺の信じるお前(一夏)を信じろ。

 そして、白式を信じろ。ソイツはお前の為に作られた相棒(IS)だ」

 

「師匠・・・」

 

「もう、お前には見えてるはずだ。アレにいれるべき技のイメージが」

 

 一夏は思い出す。千冬が教えてくれた刃の重さを、その教えと箒の姿で学んだあの技を・・・

 その中で不思議な一体感と懐かしさ、全てを捉えられる感覚。初めてISを動かした時の不思議な全能感を感じたが、今は些細なことだ。

 

(白式、今回はデカいのは必要ない。必要なのは速さと鋭さ。

 素早く振り抜ける、洗練された刃だ)

 

 意識の集中のイメージは暗い闇に一条の光が差し込むモノだ。更にそれを細く、鋭く、尖らせてゆく。それと同時に雪片も変化してゆく、膨大なエネルギーの垂れ流しだった零落白夜が細く鋭い刃へと集束されてゆく。

 そして出来上がったは、実体部分が全て消え・・・零落白夜で出来た日本刀であった。

 

(さんきゅう、白式。じゃあ――――行こうぜ!!)

 

 十千屋はグレイヴアームズを確りと抱え、一夏は居合の構えで黒のISに向かう。もう既に黒のISの射程距離だ。

 十千屋は抱えていたグレイヴアームズの一番長い部分を掴み振り上げ・・・迎撃しようとしたが、止まった黒のISのド頭に思いっきり!ブッ叩いた!!

 

 「いい加減、目ェ覚ませ!Dumme Tochter(バカ娘)!!」

 

 「「「ええぇぇええ~~~!?」」」

 

「パイルバンカーじゃないの!?」

 

 まさかのド突き合いに事の成り行きを見守って人達は呆気にとられる。特にグレイヴアームズの仕様を知っていてパイルバンカー(とっつき武装)が好みであるシャルルは落胆が大きかった。

 どこか冗談みたいな雰囲気に包まれたが、極限まで集中していた一夏は別だ。横に倒れるように退()く十千屋と入れ替わるように黒のISの前に現れる。

 

「やれ、一夏」

 

「ふっ!」

 

 急に現れた敵に対し、黒のISは体勢を崩しながらも速く鋭い一撃を繰り出す。流石、ヴァルキリー(千冬)のデータだ。

 しかし、そこには意思がない。ならばそれは一夏にとっては・・・

 

「ただの猿真似だ」

 

 ギィン!斬!

 

 腰から抜き放ってからの横一閃で相手の攻撃を弾き、すぐさま頭上に構え、縦一文字に相手を

断ち切る。コレが一足目に(ひらめ)き、二手目に断つ、攻守一体の構え『一閃(いっせん)二断の構え』だ。

 

 

 私はまた間違えてしまった。あの人と出会い間違えた『力』を正したと思ったのに

 ・・・このザマだ。

 

『あのなぁ・・・一度二度、間違えただけでそこまで落ち込むなよ。

 だったら、何度も師匠に指摘されている俺は何なんだよ』

 

 私は以前に強くなった、力を得た。けど、教官(千冬)が持って欲しいと思った『力』ではなかった。おやっさん(十千屋)に教えてもらった・・・けど、また間違えた。こんな私などただのマシーンでしかない。

 

『もっと単純に考えろよな。お前はどう在りたいんだ?』

 

 どう在りたい?

 

『俺の持論だけど、強さ・・・力っつーのは心の在処(ありか)、己の拠り所だと思う。自分がどう在りたいかを常に思うことだ。師匠も力はタダの付属品、それをどう振るうかは担い手しだいだって』

 

 強いな・・・自分からそう歩けるお前の強さが羨ましい。

 

『まぁ、人生やったもん勝ちと言うけどさ。俺は強くねぇ。全く、強くない』

 

 強いのに何故そう言う。私には理解できない。

 

『う~ん、俺が強いっていうのなら―――そいつは』

 

 ――――それは?

 

『強くなりたいから、強いんだよ。それに、強くなったらやりたい事もある』

 

 ――やってみたい事?

 

『おう。誰かを守ってみたい。自分の全てを使って、ただ誰かの為に戦ってみたいんだ』

 

 ―――それは、まるで・・・あの人たちみたいだな。

 

『そうだな。だから、お前も守ってやるよ。ラウラ』

 

 この時、私の胸は初めての衝撃に強く揺さぶられてしまった。そして、直感的にある文字が当てはまる。それは『ときめき』。織斑一夏は私をただの人だと『女』だと、何時ぞか教官が言っていたことを思い出す・・・これは惚れてしまいそうだ。

 

『話は済んだか、バカ弟子、バカ娘』

 

 急に頭を乱暴に撫でられる感触がする。多分、向こうも同じだろう。ゴツゴツとした傷だらけでもある大きな手。今度は逆に安心感に包まれる。

 

『勢い任せに突っ込む無謀さは若さの特権だ。

 迷って間違えて、それでも突き進むのは子供(ガキ)の権利だ。だから、それを正して導いて助けるのは()の義務だ。だから、お前らもその時までは俺が確り守ってやる』

 

 誰かが笑った気がする。私かも知れないし他の誰かかもしれない。

 けど、あぁ・・・私はこうありたい。

 

 

「・・・なんだ?今の?」

 

 一夏は白昼夢の様な何かを見た。だが、恐ろしいものではない。逆に安心できるような楽しかったような、不思議な感覚だ。

 しかし、直ぐに現実に引き戻される。目の前には見事に一閃二断の構えが入った黒のISがいる。だが、ジジッ・・・・と紫電が走り黒のISは真っ二つに割れラウラが出てきた。

 一夏は咄嗟に受け取ったが、直ぐに気を失ってしまう。けど、一瞬だけ見えた彼女の目は

どこか・・・迷子の子供のような目をしていたような気がする。

 

「まぁ、今回はぶっ飛ばすのは勘弁してやるか」

 

 一夏は思わずそう一人つぶやいたが、そう簡単に幕は下ろさせないらしい。

 操縦者を失った黒のISが泥状の触手で一夏ごと取り込もうとしたのだから。

 咄嗟の事で彼は身動きがとれない。至近距離であるし、腕にはラウラが抱かれていて

攻撃もできない。万事休す、かと思った次の瞬間・・・顔の横に何かが通った。

 

「おい・・・もう、茶番はお仕舞いなんだよ。とっとと引っ込め影法師」

 

 その正体は十千屋が持っていたグレイヴアームズだ。十字架の交わり部分にある持ち手に

手を掛け、一番長い部位の先端にはパイルバンカーユニットが付いている。

 パイルバンカーの杭は黒のISの中枢(ちゅうすう)部を捉えているらしく、とても苦しそうで触手も伸ばせない有様だ。

 

「言ったろ、守ってやるって。

 さぁ、Dust to dust(灰は灰に). Ashes to Ashes(塵は塵に).暗き影は閃光にて消えろ!!」

 

 特製の爆薬で撃ち出された杭はマズルブレーキの部位と接触した部位から激しい火花が散り、

敵の中枢を撃ち貫いた。

 中枢を砕かれた黒のISは痙攣した後、四肢を力無く垂れ下げて落ちていった。

 その途中でレーゲンに姿を戻し墜落する。

 

「サンキュー、師匠。・・・終わったんだよな?」

 

「ああ、心配ない。終わったよ・・・うぅっ」

 

「おおっと、無茶しすぎですよ十千屋さん」

 

「シャルル、ありがとうな。ついでにスマン・・・流石に限界だ。後は頼む」

 

「師匠!?」

「十千屋さん!?」

 

 今回の出来事が終わったか確認した一夏であるが、十千屋の言葉でようやく終わりを確信した。

 そして、全てが終わり限界が来たのか、ふらついた十千屋をフォローの為に近くに飛んでいたシャルルに抱えられる。彼は彼女に一礼すると気を失った。

 力を失い更に重くのしかかった彼を支える彼女であったが、その衝撃か・・・彼から、棒状の

何かかが・・・・・・抜け落ちていったのである。




今回はいかがでしょうか?前書きに書いた通りに『学年別トーナメント編』のラストバトルでした。
本筋は原作と変わってないですが・・・今回は一万文字を突破してしまいました。
色んな説明とか入れると文字数が嵩みますね(;^ω^)
でも、必要な情報は細かく入れていきたい・・・やはり、書き手としての修練不足ですね(;´д`)

今後、書き終わって一万文字位を超えていたら、丁度良い所で切ってしまう方がいいのでしょうか?
今回だと、ラウラが強制変身させられた所ですね。
以前にも同じような質問をした気がするのですけど・・・読み手が読みやすい文量にしていきたいです。

さて、今後は後始末(エピローグ)的な話を数話書いて・・・原作3巻『臨海学校編』に入る予定です。
予定は未定ですが・・・今後もよろしくお願いします。


では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA39ss:異論も反論も認めん!

はい、ギャグ回です。どこをどう見てもギャグ回です。
ちょいと長い気がしますが・・・それでもよければ、どうぞ。


では、どうぞ御ゆるりと。



恋をしたあとの最大の幸福は、自分の恋を告白することだ。

 

 

ジイド 「日記」

 

 

 

 怒涛の学年別タッグトーナメントの事件から数時間後・・・黒のISから助け出されたラウラは

保健室に居た。

 あの後、気を失い此処に収容され治療を受けたが今までダメージで気を失ったままであった。

 

「う・・・ぁ‥此処は・・・?」

 

「気がついたか」

 

 ようやくダメージが抜けかかり目が覚めたラウラの耳に聞き覚えのある声がする。彼女にとって聞き間違える事はない、自ら敬愛する一人である千冬の声だ。

 彼女は自身に何があったのか聞こうとするが、掠れた声しか出せなかった。だが、元師弟の

間柄だったのか察してくれたようである。

 

「全身に無理な負荷がかかった事に因る筋肉疲労と打撲だ。

 まぁ、両手両足がポキッとなって肋骨にヒビが入り、痛みで(うずくま)ったところに(マツコ)・DXが

 伸し掛ってきた訳ではないが・・・暫らくは動けないだろう、無理はするな」

 

 冗談なのだが、そうとは聞こえない口調で千冬ははぐらかそうとするがラウラには通用しなかった。

 千冬は一応これは、重要案件である上に機密事項である事を念頭に置いて今回起きたことを説明する。

 シュヴァルツェア・レーゲンに巧妙に隠されたVTシステムが発動したこと、それを十千屋と

一夏が食い止めラウラを救出したこと、主な事はこうであった。

 

「システムの発動条件は操縦者の精神状態、機体のダメージ、そしてなによりも操縦者の意思・・・と言うより願望か、それらが揃うと発動するようになってたらしい」

 

 ドイツ軍は問い合わせで忙殺中だろうな、と千冬はこう締めくくったのだが、ラウラは片腕で目を隠して震えていた。

 今まで千冬の方を見ていた顔は天井の方に向けられ、まるで会わす顔がないといった様子である。

 

「私が・・・私があの時、『力』を望んだから。何もかも圧倒する『暴力』を欲したからですね。

 教官がくれた、おやっさんが教えてくれた『力』はそんなモノでは無いのに」

 

 ラウラはそう言って黙ってしまった。もう、声を押し殺して泣く寸前のみたいに見える。

 千冬はそんな様子に溜息をついて、わざわざ向こう側にある彼女の耳を引っ張り強制的にコチラに向かせた。

 

「いっ・・・ダダダ!?きょ、教官!?」

 

「織斑先生だ。全く、舐めるな青二才。お前が間違えたら引っぱたいででも正してやる。

 一度や二度、間違えたくらいで泣くな馬鹿者。ココには居ない十千屋もそう言うだろうがな」

 

 馬鹿にしたような、少し怒っている様な表情で千冬は言うが最後の方では、あの家族にしか見せない優しい笑みを浮かべていた。

 呆気にとられたラウラであったが、その表情をこちらに見せられた時に胸中にストンっと落ちるものがある。普段なら千冬の成すがままであったが、つい言葉が溢れた。

 

「いつ、言われたか定かでは無いのですが『どう在りたい』と聞かれたことがあります」

 

「ほう?それで・・・」

 

()()()()()()と言うより()()()()()()なのですが、

 きっと・・・私は、貴女の妹になりたかったのです。その微笑みを私に向けて欲しかったのです」

 

 ラウラは今初めて分かった。一夏にあんなに反発していた訳が、きっと彼女は千冬と姉妹に

成りたかったのだ。互いに認め合い、笑い合えるそんな姉妹に。

 彼女が真顔でそう告げると、千冬はまた溜息をついて今度は彼女の鼻の頭を爪弾く。

 

「あダッ!?」

 

「全く、何を言ってるんだお前は。アイツでの心労が絶えないのに勝手に増やすな。まぁ、教師と教え子と言う間柄だったらこのまま続行しても良いがな」

 

 結構強く鼻を爪弾かれてたラウラは目をつぶり悶える。その間に千冬は既にドアに手をかけているようだ。

 そのまま出て行くかと思いきや・・・

 

「あと、()()()()()()か。コレから文字通り死ぬまで時間はある、

 たっぷり悩めラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

 後ろ姿なのに、ニヤリと笑いながら言ったのは何故かラウラには分かった。そして、千冬が出て行ったあと落ち着くとある事が浮かぶ。

 全く、姉弟そろってズルい。言いたい事だけ言っての言い逃げであるし、どちらも後は自分で

考えろだ・・・ズルいことこの上ない。

 それと同時に、自分は二人に負けたという事も浮かんでくる。しかし・・・何故だろうか、笑いが漏れるくらいに心地が良いのは。

 

 

 一方で十千屋は自らの学園での拠点である船-海上移動拠点『テーサウルスアルマ』に居た。

 正確には船内の手術室だ。彼はこの事件で大怪我を負った。脇腹の大裂傷に出血多量、

ソレを塞ぐためにやった火傷。

 そして・・・

 

「あ~も~、俺は教授(プロフェッサー)であってお前の担当医でも執刀医でも無いんだが!?」

 

「すみません。でも、ロボット工学と生体工学に秀でているのは

 貴方しか思い浮かばなかったんですよ。プロフェッサー=ワット」

 

 手術台の上には十千屋が寝ており、彼の左膝が()()()位置には手術着を来た男が立っていた。

 男はプロフェッサー=ワットと言い、頭巾で見えないがカールした金髪をして何故か輪っか状のLEDライトを頭に嵌めているのが特徴で、科学者(マッドサイエンティスト)が集まった研究施設-魔窟(パンデモニウム)に所属する

一人である。

 今、彼は手術用具と何かの機械を巧みに操って何かをしている。

 

「ちぎれた左足の代わりにアーキテクトの足を付けるなんて正気か、全く。本島に戻れば再生医療だってあるだろうに」

 

「それだと時間が掛かり過ぎてしまいます。今はゆっくりと怪我を治している暇は無いので」

 

「にしても、俺の他にもシルヴィーやPh.D.GERO、Ph.D.アイザック・ギルモアとか居るだろうに」

 

「Ph.D.アイザックはともかく、他の人たちはこれ見よがしに変な改造に走りそうで・・・

 今すぐ来てくれる体力と真面目にやってくれるのは貴方しかいなくて」

 

「・・・そうだな。そういう事だったら仕方ないな」

 

 そう、事件で砕き抜かれた彼の左膝はちぎれてしまったのだ。口径が普通のライフルよりも大きく破壊力の高いIS用のライフルは彼の膝関節を完全に砕き、大穴を開けていた。

 事件を終息し、気絶するまでの間にちぎれなかったのは運が良かったとしか言い様がない。

 そして、完治させる方法は在るにはある。クローニングと生体移植の再生医療だ。

 だが、それだと帰国して数ヶ月も治療に専念しなければならない。

 学園の現状は知っている者からすれば混沌の一言である。様々な要因で専用機や生徒たちが狙われているのだ。

 そんな中でのうのうと、休学して本国に戻れる十千屋ではない。だから、FAの無人機素体であるアーキテクトの足を移植してさっさと復帰することに決めたのである。

 簡単に言えば左膝から下をサイボーグ化手術したのだ。

 

「だったら、お前の所の小娘たちと魔窟の連中が暴走しないように言ってくれ。お前の所の情報部はもう既に動いているし、ここに来る時にはもう魔窟の連中はそれぞれの発明品やら兵器やら生物やら持ち出して、ワクテカしながら処す?処す?って言っていたぞ」

 

「・・・自分の家の方とか抑えるから、魔窟の方を何とかしてくれないか?」

 

「絶対にイヤだ」

 

 どうやら、家庭()危機と世界の危機が同時進行のようである。

 

 それから二日後、丁度トーナメントが金曜だったので今日は月曜日、週明けとなった。

 いつも騒がしい朝のホームルームだが、そこにシャルルの姿がない。理由は単純に『先に行っててほしい』とあり、それを知っている一夏は何があったんだろうなぁ・・・くらいにしか思ってない。

 その事がこれから起きる騒動の諸原因だと知らずに。

 何だかんだしていると、時間が来たのか山田先生が教室に入ってくる。が、何故か彼女はどこか憔悴しているというか煤けているというか・・・とにかく、朝の爽やかな雰囲気とは逆だ。

 

「えー、皆さん。朝のホームルームを始めます。最初に十千屋さんは少し遅れて来るそうです。

 そして・・・はぁぁああああ~~~~、転校生を紹介します。と言っても既に皆さんはご存知なのですが・・・とりあえず、入ってください。」

 

 連絡事項を言っていると、かなり深い溜息をついてやるせない口調で転校生の話題を出した。

 転校生と聞いて生徒達は一斉に騒ぎ出す。

 山田先生の声に合わせて入ってきたのは皆も知っている人物だ。ただし、今日はズボンではなくスカートを履いシャルル・・・いや・・・・

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

「ええ・・・デュノア()ではなく、デュノア()()でした。あぁぁ・・・また、連徹で寮の部屋割りを

 組み立て直す作業が始まります~・・・」

 

 そう、改めて()()()()として転入してきたシャルル改めシャルロットである。

 山田先生はシャルロットの本当の性別を知って、途轍もなく面倒くさい部屋割りの再構成を

憂いてテンションがただ下がりだったのだ。

 この事実にクラスは騒然となり壁を越えて両他クラスまで聞こえるほど騒ぐ。それほどまでのショックだったのだろう。

 そして、ToLoveるが幕を開ける。

 

「なん・・・だと・・・・・・」

「衝撃の事実、デュノア君は女の子だった」

「折角の美少年の絡みが!!」

「んぅんっ!?チョイと待ち、織斑君は同室だから知らないって事は――」

「アレレ?おかしいなぁ~?昨日って確か・・・男子が大浴場を使わなかったっけ?」

 

 騒ぎの内容が、とある一言によって一方向に集約される。それは一夏、シャルロット混浴疑惑である。

 ある女子が言った通りに昨日は、普段は女子専用であった大浴場が男子にも使えるようになった日であった。そのこと自体はいいのだが、昨日まではシャルロットは男子扱い、しかも一夏も

シャルロットも同じ時間帯に使ったという目撃証言もある。

 それは・・・即ち・・・・という訳で、一夏向かって一斉に注目が集まった。彼は最近感じるようになったこの手のトラブルの危機感で脳内アラームが鳴りっ放しである。

 先ずは、教室のドアが蹴破られた様な勢いで開き、そこには鬼がいた・・・。ユラリと闘気、

いや殺気が立ち上っているように見える。

 

「り・・・鈴・・・」

 

「いぃぃちぃぃかぁぁあ?どうやら、とんでもない事を仕出かしたようぉねぇええ?」

 

「お、落ち着け鈴。お前が考えてるような(やま)しい事は一切なかった。だ、だから両手に持つ

 その棍棒?ボールがついたような棒は、さ・・・下げてくれないか?」

 

「あぁたぁしぃいはぁあ・・・とっても落ち着いてるわよぉ?コレは(スイ)って言う中国武術の

 武器よぉお?あと、コレは練習用だからそこそこは()()()()わよぉ?」

 

「だから、落ち着けって!?しかも、それだと逆説的に言えばそこそこは()()んじゃねぇかぁあ!?」

 

 「うっさい!!シャンプー婆ちゃんと大婆ちゃん仕込みの

  錘捌きを喰らいなさぁああいいい!!!」

 

 その正体は鈴、どこかイっちゃてる目で一夏に近づくと得物-錘を振り下ろした。あからさまに練習用とは言え、当たったら痛いだろうなぁ・・・と、現実逃避気味の彼であったが何時までたっても衝撃が来ない。

 その事に疑問を持ち意識を戻すと、目の前には輝く銀髪が見える。

 そう、ラウラがシュヴァルツェア・レーゲンを部分展開しAIS(停止結界)で鈴の攻撃を止めたのだ。

 凄まじい形相で押し通そうとする彼女であったが、諦めたのか後方に跳躍し間合いを計る。

まだまだ攻撃がきそうだが、彼は一旦ラウラに礼を述べた。

 

「助かったぜ・・・本気(マジ)でサンキュ。・・・と、いうか。お前のISもう直ったのか?」

 

「・・・ああ、損傷はそちらの救助の際の攻撃と最後に落ちた時だけだったからな。例のシステムの核はおやっさんが綺麗に貫いていたし、予備パーツを使ったら思いのほか早くな」

 

「へ~。そうなんだ。流石、師匠すげぇ――むぐぅう!?」

 

 先程までの喧騒が嘘のように静まり返った。その原因は、ラウラの行動だ。いきなり一夏の

胸ぐらを掴んだかと思うと、彼を引き寄せ唇を奪ったのである。

 その光景に皆があんぐりしており、誰も何もついて行けてない。

 無論、されている一夏もそうだ。

 

「ん、んはぁ!お、お前は私のにする!!異論も反論も認めん!!!」

 

「え、え~と・・・嫁?婿()じゃなくて?」

 

「日本では気に入った相手を『嫁にする』と言うのが大体の常套句だと聞いた。

 無論、OTAKU知識よりだとおやっさんから聞いたが・・・私の所に来れば苦労はさせない

 という表れでもある」

 

 一夏混乱のあまりに逆に冷静なツッコミを入れてしまうが、彼女はバカ正直にそれに答える。

 会話するということは時間が流れるということだ。つまり、この間にも再起動した人達がいるという事で・・・

 

「あ、あっ、ア・・・!あぁぁああアンタねぇえええええ!!」

 

「待て!俺は悪くない!どちらかと言うと被害者側だ!!」

 

「アンタが悪いに決まってるでしょうが!

 隙だらけで、尚且つ何時も女絡みだとこうなってぇぇえーー!!」

 

「なんだよ!それは!?」

 

 そう、怒り狂う鈴もまた再起動したのである。教室の中で追いかけっこが始まる直前に、入室者が現れた。

 

「おー、おー・・・また、ToLoveるってるな」

 

「おやっさん!」

「父さん」

「パパ!」

 

 直ぐに入室者に反応するのはカンパニーサイド+ラウラ、そう十千屋が入ってきたのだ。

 彼はいつのもリクルートスーツ姿でアーキテクトヘッドだが、左に杖を突いていた。

 それを見ると轟とチェーロは、通行の邪魔になる人や物をどけて彼を席まで誘導する。そして、席に座るとおずおずとラウラが近づいてきた。

 何時もと違う弱々しくモジモジとした様子に彼は彼女が話し出すまでゆっくりと待つ。

 すると意を決したのか話し始めた。

 

「おやっさん・・・今回は迷惑を掛けた。謝って済む事でも無いと分かっている。

 けど、すまなかった」

 

「・・・ふっ。何を今更、お前を助けたのに後悔も無い。

 怪我も後々ゆっくりと治せる可能性もある。ラウラ、お前が無事で良かった」

 

「・・・っ!お、おやっさん・・・一つ良いだろうか?」

 

「なんだ、ラウラ?」

 

 ラウラの謝罪を受け、それを受けながら彼は逆に彼女を包み込むような大きな器であった。

 それに感嘆を受けたのか、彼女は涙ぐみながら更に意気込んで彼に尋ねる。

 

 「あ、貴方の事をVater()と呼んでいいだろうか!?」

 

 またしても喧騒が静まり返る。今度はラウラが十千屋に父宣言したのだ。その事に呆気にとられた彼であったが、フッと息を抜くとわざわざ素手にして彼女の頭を撫でる。

 

「まぁ、その件はコチラも色々と在るんだけどな。別に構わないぞ。

 今更、娘の一人二人増えたところでどうって事ないしな。

 それにラウラだったらこちらも歓迎さ」

 

「・・・Vater」

 

 撫でる十千屋にそのまましがみつくラウラ。その様子を轟とチェーロ、他の皆も微笑ましく見守るが・・・そうは問屋は下ろさない。

 

「さてと・・・改めて、一夏ぁぁぁああ!」

 

「続くのかよ!?いてっ?」

 

 ほっこり終わるかと思いきや、鈴は一夏をシバくのを諦めていなかったようだ。

 鬼ごっこ再開かと思ったとき、彼の後頭部に何かが当たった。

 何かが飛んできた方向を見るとセシリアが手に何かカッコイイ銃らしき物を持っており、

彼の足元にはぶつかった物が落ちている。

 

「輪ゴム?」

 

「ええ、そうですわよ?私もちょっと怒っていますのよ?と、いう訳で・・・

 12連射のセミオートマ、フルメタルラバーガン(ゴム銃)-フェンリル・・・

 さぁ、円舞曲(ワルツ)を踊りなさい!!」

 

「いや、ソレってゴム鉄砲とは言えない代物だと思う・・・とぉ!?」

 

 セシリアがゴム鉄砲を連射し、それで怯んでいる隙を狙って鈴が一撃を入れようとしてくる。

どうやら、タッグトーナメントの経験がよく生きている様だ。

 一夏にしてみたらたまったものではないだろうが。幾ら当たっても怪我しにくいモノとは言え、彼は追い回されるのは勘弁だ。それ故にいっその事、窓から逃げようとする。

 ここは二階であるが、最悪の場合はIS(白式)を起動させれば問題ないと判断し其方に向かって

駆け出すが・・・目の前に何かの一閃が走った。彼は立ち止まり、その元を見ると・・・今度は、

 

「・・・一夏、どういう事か説明を要求する」

 

「まて待てマテ!?ソレを要求したいのは俺の方であって!?ビュン!うひぃい!?」

 

「抜き打ちや居合に対応した十千屋さん制作の・・・私用のハリセン『覇刕穿(はりせん)』をとくと受けるがいい!」

 

「うぉい!?そっちもハリセンであってハリセンじゃねぇえ!?」

 

 一夏は完全に暴走した三人から逃げつつも抗議する。ソレが流れ的に無駄に成るものだとしても。

 

「ちょっおぅっと待った!俺は被害者!!キスをかました加害者はラウラだから!!」

 

(うるさ)い!抵抗せずに受ける者があるかバカ者!それに・・・アレを見て矛先を向けられるか!!」

 

 彼は箒の反論にもなってない反論を受け、彼女の指を差す方向へと視線を向ける。

 そこにはまるで子供の様な幸せな微笑みを浮かべて十千屋に撫でられるラウラの姿があった。

 

「・・・俺には無理だ!」

「だろう!?と、いう訳で・・・」

 

「あ・・・」

 

 「チェストぉおお!」

 「はぁあああああ!」

 「シューート!ですわ!」

 

 お笑いでも目指しているのか、もはや本能であるノリツッコミを一夏はしてしまい多大な隙を

見せてしまう。そこを逃すはずもなく暴走三人娘は一斉に襲い掛かってくる。

 しかし、それは不発に終わった。丁度、その着弾地点から彼を引っ張って助けた人物が居る。

 

「シャルロット・・・お前・・・」

 

「もう、みんな過激だなぁ。一夏、後ろに居て」

 

「さ、サンキュ!シャルロット!!地獄に天使とはこの事だ!」

 

 そう、シャルロットだ。彼女は一夏を自分の背後に隠し、目の前の般若たちに立ち向かう。普段の彼なら女の子の背に隠れるなど矜持(プライド)が許さなかっただろう。だが、追われ怯えている彼はこの際はソレを抜きにしていた。

 

「シャルロットさん・・・邪魔をなさいますの?」

 

「そりゃ、僕だって一夏の無防備加減には少し怒ってるけどさ。無闇に追い立てたって

 しょうがなくはないかな?」

 

「うぐっ」「むぅっ」

 

「はぁ・・・一夏、安心して。今度は僕が守ってあげるからね」

 

 シャルロットの正論にグゥの()もでない般若三体。彼女は天使の笑みを浮かべて、今度は自分が一夏を守ると宣言した。

 が、このままでは終わらないのも学園クオリティーなのか。

 

「しゃ、シャルロット・・・」

 

「そうだ・・・一夏、こんな時に言うのは何だけど」

 

「何だ?」

 

「僕って・・・実は女の子に騒がれるのも、悪い気はしない事が分かったんだよね」

 

「は?」

 

「無論、普通の感性もあるよ?でも、男装の際に一夏がアッチだった時の為の知識も教えられたんだよね」

 

「お、おーい・・・シャルロットさんや~」

 

「そう言えば、一夏のオシリってけっこう可愛いよね?」

 

「・・・(ズリズリズリ)しゃ、シャルロット。お前は何を言ってるんだ」

 

 突然の彼女の話に怪しい雲行きを感じて後ずさりする一夏。その際に腰が引けて、何故か臀部を両手で押さえているのはどうしてだろうか?

 ジリジリと距離を取る彼に彼女は、天使の笑みから妖しい微笑みに変わり彼にこう言った。

 

「うん、じゃぁ・・・直球で言うね?一夏、僕とヤらないか?」

 

「サイナラだ!」

 

 彼女の801(BL)宣言に彼は高速の摺り足で、後ろを見せずにその場から離れるという離れ業をやってのけた。

 いきなりの逃走に彼女は手を伸ばして彼を引き止めようとする。

 

「待ってよ!せめて小指・・・いや、人差し指と中指からで良いから!?」

 

「ブチ込んで広げる気マンマンじゃねぇか!?あアっ、ナル恐ろしい!!」

 

 一夏の逃走先は箒の後ろ、つまり襲いかかってきた側に逃げてきたのである。

 しかし、シャルロットのアレな発言に気を削がれたのか落ち着いた様子だ。

 

「おかえり、一夏」

 

「お、おう・・・ただいま箒」

 

 彼がこちら側に来たのが精神的にも安定するのか、すっかり普段の彼女たちに戻ったようだ。

 そして、今度はシャルロットと対峙する。

 

「安心して、一夏。アイツにアンタは渡さないから」

 

「そうだ・・・このまま私達の後ろに居てくれ」

 

「鈴・・・箒・・・」

 

 自分の危機に立ち向かってくれる幼馴染達にジーンとする彼であるが、ソレも瞬く間に崩れ去る・・・

 

 「一夏の尻は私のモノだぁあ!」

 「一夏の尻はあたしのモノなのよぉお!」

 

 「俺の尻は俺のモノだァああ!!」

 

 唐突に始まった一夏のチェリー&ヴァージン(貞操)争奪戦はブリュンヒルデ(織斑千冬)ニーベルン・ヴァレスティ(正しき制裁)が落ちるまで続いたという。

 一応、原因の一部であるラウラは愛でられたままだったそうな。

 ついでに、シャルロットはあの話題に成らなければとても良い子である事が後日判明した。

 

 

 

――おまけ:女子たちの反応――

 

 さて、シャルル・・・いや、シャルロットが女の子だと判明した後の女子生徒達の反応はと言うと・・・

 

「ぬわぁーっ!!チックショウメェエエ!」

「よくも・・・よくも裏切ってくれたわね!」

「冒涜だよ!コレはぁ!」

 

 文字どうり、阿鼻叫喚の地獄絵図であった。

 

「くそぅ・・・私は僅かな希望も諦めない!」

 

「ちょっと!何するのよ!!」

 

 何かを言って立ち去った女子生徒が一人いたが・・・翌日、

 

「( ;∀;)・・・無かった。お風呂ちゃんと女子の時間に入っていて、ナイスバディだった」

 

 どうやら、シャルロットの確定的証拠(入浴シーン)を見てしまったようである。

 

「ぬわぁーっ!!チックショウメェエエ!」

「よくも・・・よくも裏切ってくれたわね!」

「冒涜だよ!コレはぁ!」

 

 再び、文字どうり、阿鼻叫喚の地獄絵図である。

 

「ふっ、情けないわね。まだまだ修行が足りないわよ」

 

「あ、貴女は・・・」

 

 「「文芸部副部長!!」」

 

 メガネを光らせ、謎の後光を放ち現れたのは文芸部副部長であった。因みにメガネは伊達である。

 

「腐敗と掛け算の女神よりの電波受信をもってすれば、この程度の差異の処置など造作もないわ」

 

「「「((;゚д゚)ゴクリ)」」」

 

「既に私は・・・TS、ふたなり、リバーシブル、レ○プ・調教、逆も可などなど、様々な可能性(妄想)

 追求済みよ」

 

 文芸部副部長の毒電波(妄想)内容を聞いて

 

「ぬわぁーっ!!チックショウメェエエ!」

「オッノーレ!その手があったかぁああああ!」

「冒涜ですよ!コレはぁ!」

 

 またしても阿鼻叫喚の地獄絵図であるが、なんでもOKの腐女子はなぜ色々と追求(妄想)しなかったと嘆き。BLノーマルプレイが至高の腐女子はソレは冒涜-邪道であると嘆く。

 どうやら、IS学園一部の女子の闇は途轍もなく深そうだ・・・・・・




えー、シャルロットのアレを考えていたら・・・彼女は両刀使い(意味深)になってしまいました。
どうしてこうなった?しかも、前のデュノア社の事を考えると・・・薄ら寒いモノが(;´д`)

さて、今後の予定は・・・まだ、ラウラに関して十千屋サイドでまだあるので、それと一緒にある姉妹達の話をちょこっと。
あと、職員サイド-大人の事情サイドをやれば完全に「学年別トーナメント編」が終わりになります。

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA40ss:以前の名前は

まだ、『学年別トーナメント編』のエピローグが終わりません。
今回は複線回収と設置です。

では、どうぞ御ゆるりと。



 切れぬ関係()とは一体何だろうか?

 それは何処に繋がっているのだろうか?

 だから、何よりも強いのかもしれない。

 だから、繋がりたいのかもしれない。

 

 朝のあらゆる意味で一夏のピンチだった騒動はとっくに終わり、放課後となった。

 何時もなら特訓に学習に(半ば強制的に)励むのであるが、トーナメントからまだ二・三日しか経ってはいないので軽く調整して流す事となる。

 しかし、一番の理由はこの後に十千屋がラウラに対して話しがあるのと、教官役である彼は

当たり前ではあるが・・・新しい(機械の)足との接合部がまだ痛む為であった。

 さて、ラウラと十千屋との話であるが、やはりと言うか何と言うかいつものメンバー付きである。

 全員が今日の軽い訓練をやり終わり、身だしなみを整えて食堂に向かう。学園生活ももうすぐ三ヶ月になるので何時ものパターンと言うものが出来始めていた。

 

「さて、私に関する事と言うが・・・はて?なんであろう」

 

「ラウラ、もしかして黒いISになった件か?」

 

「それはないと思う」

 

「ぬ?どうしてだ、簪」

 

「それは、わたくしから答えますわ。おじ様は『どうせ知る事に成るから、聞きたい奴は一緒に

 聞け』とおっしゃいました。その口振りからすると、あの様な秘匿にせねばいけない事件を

 関係者以外に聞かすなどありえないからですわ。ですわよね、簪さん?」

 

「ん・・・」

 

 ラウラの疑問に一夏が推測するが、簪がソレを否定する。その疑問とさらなる答えを続けたのは箒とセシリアであった。

 彼女の答えの推測に簪は首を縦に振り短く答える。そうなると、この前の事件以外で何があるのか一同に考えるが、鈴が苦い顔して言う。

 

「でもさ~、アイツの事だからサラッとトンデモない事を言いそうで恐いわ」

 

「そうだよね。僕も父さんと十千屋さんが知り合いだって事をサラッと言われて・・・

 えっ?となったよ」

 

 何時ものメンバーは各々、十千屋が話す内容を予測するが皆目検討がつかない。彼の交友関係はハッキリ言って一夏達にとって謎である。

 何処にどう言うコネがあってもおかしくはないが、どっちにしろ全員の胸中は一つ・・・どうせ、驚かされる事に成るだろうと。

 そんな事を話しているうちに食堂に着く。辺りを見渡すと、どの様な時も目立つロボヘッドが

見えた。一夏の判りやすいよな~、などと独り言にメンバーは同意しながらも彼のいるテーブルへと移動する。

 

「それでVater、いったい私に何の話が有ると言うのだ?」

 

「まぁ、俺というよりはウチ(ブキヤ)のメンバーでラウラに関係する奴が居て、ソイツからなんだが・・・」

 

 「・・・!」「・・・ッ!?」「ィィ・・・!」

 

「おっ、噂をすれば・・・ウェ(;゚Д゚)!」

 

 十千屋が説明するにどうやら、コトブキカンパニー側のメンバーにラウラの関係者が居り、

その人から話しがあるらしい。

 彼がその人物を呼びつけていたようで、聞こえてくる喧騒から近づいてきたと分かりその方向を向いたが・・・思わず声が上擦ってしまった。

 一夏達もその方向を向いた瞬間、何も言えない様な真顔で固まってしまう。

 

「もうー!往生際が悪いよっ、素姉(もとねえ)ぇえ!!」

 

「素子姉さん、ようやく覚悟が決まったんじゃなかったのかしら!?」

 

「いぃいぃい・・・いざ、会うとなったららぁぁあらああ!?!」

 

 声の主はチェーロに轟に素子のカンパニーガールズ達だ。だが、その格好がイケナイ。

 何故ならば、愚図る素子を強制的に連れてきたために・・・二人がそれぞれ彼女の足を引っ張って引き摺って来たからである。

 素子は制服を着崩すと言うか、だらしなく着るので引き摺られてきた結果いろんな箇所が捲れ上がっていた。

 足は持たれているのでその脚線美と、

 ソレをたどった先にある黒のレースで半分透けているエロティックだが品の良い小さな下着、

 鍛えてスっと引き締まったお腹と可愛らしいおヘソ、

 上着は完全に捲くれ上がり下着とセットのブラもズレて小さいが形のいい胸とその頂きまで丸見えである。

 だが、ポーズがイケナイ・・・足は踏ん張っているのかM字大開脚(がに股)、両腕は肩を張って手のひらでブレーキを掛けようとしている。顔は何時も通り無表情に近いがどうしようもない変な必死さを

まじまじと感じた。

 つまり・・・だ。なんつぅ、色気の無いパンモロとサービスシーンなんじゃぁ・・・という事である。

 流石に一夏達も呆然としていたが、なんとか再起動し一夏の傍に居た鈴と箒がビンタするかの様に彼の目線を防ぐ。

 

 パァッン

 

「見るな、一夏」

 

「そうよ、だいぶアレだけど、見ちゃダメよ」

 

「いつつ・・・ああ、分かったって。でも、アレに欲情するとかレベル高すぎて出来ねぇよ」

 

 その後、抵抗したが集合場所まで引き摺られきった素子は、衣服の捲れを直しただけの身だしなみをして立ち上がる。どうやら、先程までの様子からすると彼女がラウラの関係者らしい。

 そして、奇行により食堂に居る他生徒達からも注目を集める中で、素子はラウラを真っ直ぐ見つめて語りだした。

 

「わ・・・私は、基木素子はラウラ・・・貴女の遺伝子上のなのだよ!!」

 

「「「ΩΩΩな、なんだってぇええ!?」」」

 

「因みに、父は父様よ」

 

「そ、そんな・・・基木先輩が私のMutter()で、Vaterが本当のVaterだったなんて・・・・」

 

 素子の核爆発発言により食堂内は騒然となる。確かに素子の言う通り白銀の髪と赤系の瞳、

それと雰囲気もどことなく似ていた。それにより発言の信憑性が増し誰もが信じそうになった。

 

「え、ラウラが師匠と素子先輩の子供!?」

 

「だが待て一夏!

 年齢を逆算しても私達が知っている十千屋さんの実の娘とかの年齢が合わない!?」

 

「胎児の時にはもう既に生殖細胞の雛形があるらしい・・・

 もし、そこから其々を取ってきて人工授精の人工子宮とかのバイオ的な何かをすれば?」

 

「「「それよ(ですわ・だよ)!!!」」」

 

 何時ものメンバーもすっかり信じきりそうに成りそうだったが、次の出来事で「あ、違うな」と考えを180度変更する。

 だって、言い放ち無表情だけどドヤ顔な感じであった素子を、十千屋がアームロックを轟が

ヘッドロックを極めて、チェーロが彼女の両頬を抓んで伸ばしていたからだ。

 

「素子ぉぉお!どうして、お前はそうなのかなぁ!!

 見ろっ、信じそうになってるし、一部当たっているじゃねぇかぁあ!」

 

「素子姉さん・・・いったい、この頭の中は何が詰まっているんでしょうね。

 胡桃みたいに割ってみる?」

 

「素姉?下らないギャグを言うのはこの口かな?かな?」

 

「みょゅぉおぉううおお~~~~・・・・・・」

 

 うん、この光景を見れば誰だってさっきのが彼女の狂言だという事が直ぐに分かり、食堂内の

ざわめきも直ぐに冷めて行くのを感じる。

 素子は「あ、ダメ。それ以上いけない」と誰かが止める寸前まで極められており、

すっかりダウンして床に倒れふしたのであった。

 

「はぁ・・・全く。自分からラウラに話すと言っときながら場を濁して。

 おい、もう俺から話すぞ?」

 

「待って、父様。今度は逃げたりしない。私から話す」

 

 ため息をつき自分の方から話そうとする十千屋を素子が止める。先程のダメージが抜けずに

プルプルと立ち上がった彼女は、張り詰めるような雰囲気に変わってラウラの前に立った。

 さっきの冗談の時とは違う本気の雰囲気に誰もが固唾を飲んで見守る。

 

「ラウラ・・・さっきの冗談の私と貴女が血縁関係にあるのは本当。

 ・・・よく生きていてくれた、よ」

 

「「「ΩΩΩな、なにぃいい!?」」」

 

 再び食堂内は騒然となる。確かに素子の言う通り~(以下、同文)。

 今度は先程の冗談と違って痛い(迫真)のツッコミもおちゃらけも無い。

 寧ろ、確りとラウラを大事に抱きしめる素子の様子からして本当の事だと分かる。

 

「しょ、証拠は・・・証拠はあるのか!?」

 

「突然の事で狼狽えるのは分かる。DNA検査をすれば分かることだけど、

 今すぐ証明するためには私と貴女にだけ分かる事がある」

 

「な、なんだ・・・それは・・・・・・」

 

 本当の事だと心が訴えているが、頭の方は突然の事に理解出来ていない。

 それ故にラウラは彼女の事を引き剥がし、証拠を求めた。

 すると、直ぐに素子はそれに応じる。が、その目は何処か哀しみを湛えていた。

 

「そう、私の・・・素子は父様から貰った名前。それ以前の名前は《遺伝子強化試験体β-666》

 ・・・非合法研究所から作られた貴女(ラウラ)試験体(プロトタイプ)と呼ばれる存在」

 

「・・・あ、わ‥私は《遺伝子強化試験体C-〇〇37》。そのコード(名前)は私よりも以前の物だ」

 

「分かってくれた?基礎遺伝子は同じものだから、クローンとかと同じものかも知れない。

 けど、同じ(遺伝子)を持った姉妹の様なものだと私は思う」

 

「あ、貴女が私の姉?ファ、Vater・・・本当の事なのか?」

 

「ああ、そうだ。疑うのなら後日、DNA検査してもいい。だけど、もう分かっているだろう」

 

「そう、私は貴女(ラウラ)のお姉ちゃん。実家には妹に当たる子も居る」

 

「そうなのか・・・私にはSchwester(姉妹)が居るのか」

 

「うん」

 

「わ、私は一人ではなかったのだな」

 

「そう、()が居る。父様(十千屋)母様(リアハ)も居る。血の繋がった妹も、絆で繋がった姉妹達も居る」

 

「そう・・・なのか、そうだったのか・・・・・・くぅう」

 

 事実は小説よりも奇なり、素子の正体はラウラと同じデザイン・ベビー。人工的に作られ、鉄の子宮から産み落とされた命であった。そして、素子とラウラは同じ遺伝子を持つ姉妹のような存在である。

 その事は初めは受け入れられなかったラウラであるが、十千屋と彼女の肯定が全てを物語っている。しかも、彼らの家にはラウラよりも後に生まれた妹と呼べる存在も居るらしい。

 血の繋がった家族など一生縁が無いと分かっていたラウラにとって衝撃的なことであった。

 そして、自分には迎え入れてくれる家族がいると分かり、胸の奥から熱いものが溢れてくる。

 彼女は今度は自分から(素子)に抱きつき、溢れてくるモノを涙に変えて喜びを表わすのであった。

 

「家族か・・・まぁ、良いものだよな?」

 

「一夏・・・あんた、良いこと言ってるつもりでも、回りは問題だらけよ」

 

「「(・・・サッ)」」

 

 感動的なシーンだが、一夏サイドのメンバー達は色々とその話題には問題があったり、

過去に問題があった事があるので何名かは目を反らした。

 その反応に苦笑する一夏であったが、コイツはまだ地雷原を突っ走るつもりである。

 

「でもさ、何だかヘビィな境遇だったんだな~って。つい思っちまうよ」

 

「朴念仁、下手な同情は逆に失礼よ。」

 

「そーだねー。まぁ、ボクらにしてみれば、そうだったんだ位なんだけど」

 

「「「え?」」」

 

 一夏の安い同情を注意する轟であったが、その後のチェーロの言葉に皆が固まる。

 何故なら、ラウラの境遇を知っても飄々としており、同じような過去を持つ身内(素子)が居たとしてもかなりドライだ。

 彼女らの様子はまるで、先週に嫌な事があったと聞いたくらいの反応しかない。

 余りにもドライ過ぎるので聞こうとしたら、彼女達から話し出してくれた。

 

「ボク、パパにスカウトされるまでストリートチルドレンで、毎日盗んだり

 小金を持ってそうな気弱なおじさんにタカったりして生き延びてたからねぇ」

 

「私は、女尊男卑の風潮のせいで母親は蒸発。父親はDV化して、それから逃げるように家出して何処かの孤児院に転がり込んだけど・・・悪い奴に目を付けられていたらしくて、施設が犯罪行為に手を染めかけた時に父さんとその親会社に助けられたわ」

 

 「何だか師匠の回りは重過ぎる!?」

 

 十千屋の娘たちから衝撃の告白で、またもや重過ぎる境遇に唖然とする一夏とその周りの生徒たち。

 どんな境遇でも受け入れてしまう十千屋の懐の深さを知る事が出来たが、やはり色々とあらゆる意味で濃いメンツだと再認識する場面となってしまった。

 

 なんやかんやあったが、これ以降はラウラは十千屋のグループとよりよく行動する事となる。

 だが、ある種の純粋培養である彼女に余計な事を吹き込む人物(素子)が増えた事は、今は誰も知らないのであった。

 

 

 

 今の時間帯は就寝時間ギリギリ前だ。それなのに寮の屋上に誰かが居る。黒の長いポニーテールをなびかせて空を見上げているのは箒だ。

 何か思い悩むことがあるのだろうか?彼女は星を見上げているというよりも、ただ呆然と遠くを見ているようだ。

 そして、意を決すると・・・携帯を取り出してとある番号を入力する。

 

 prrr....Prrrrr..P!

 

『はろーはろー、おゲンキ~?今、何してる~の~?

 何もする事ないなら、お姉ちゃんとヤらブツッ!!

 

 prrr....Prrrrr..P!

 

『箒ちゃ~ん・・・調子に乗ったのは謝るから、お話してよ~(つд⊂)

 文通を始めてくれたのは嬉しかったけど、

 ☎で生の声聞けるのはもっと嬉しいから~・゜・(ノД`)・゜・』

 

「―――最初から真面目にやってください、姉さん」

 

 何と箒が電話を掛けた主は篠ノ之束であった。要人保護プログラムが開始されて以降、

箒の方から姉妹の関係は断絶していたが再び話そうとしているのは驚きである。

 しかし、コレにはちゃんと理由がある。束は文通と言っていた、それは入学初日に彼女が十千屋から受け取った手紙から始まっているのだ。

 手紙の差出人は無論、束である。内容は・・・失踪と保護プログラムや回りの評判など、

様々な事で彼女に謝りたいと言うのが主だ。

 勝手な言葉ばかり言って、と最初は無視していた彼女であったが二~三日に一度くる真摯に謝り続ける手紙の内容に少しづつ軟化してゆき、ようやく最近だと文面上では会話できるようになってきたのである。

 

「―――・・・姉さん」

 

『な~に~?』

 

「そちらは楽しいですか?」

 

 最初は何を言うか躊躇っていた箒が声を掛けると、電話の向こうで息を呑む音が聞こえた。

 きっと驚いてではなく、嬉しいからそうなったと思う。

 束からの返答は今まで箒が聞いたことがない純粋で嬉しそうな声であった。

 

『うんうん!楽しいよ!とーちゃんに襲撃して、プライドの()の字まで塗りつぶされて、

 とーちゃんに魔窟(パンデモニウム)と言う所に入れられて、毎日が楽しい!!』

 

「そうですか」

 

『だって、別分野だけど束さんと同レベルの人たちがイッパイ居るんだもん!

 そんな人達と何か作ったり、討論したり、自慢しあったりして、

 今までになく充実してるって言うのかな?とにかく楽しい!!

 あ、そう言えばこの前なんかねぇ~』

 

 箒は束がまるで普通の人みたいに楽しそうに語るのを聞いて、驚くのと同時に嬉しくもあった。過去の束は何時も退屈そうにしているか、狂気の笑みを浮かべているだけであったから。だから、こうして子供の様に楽しそうな彼女は何処か嬉しく感じる。

 最近の文通で何となく分かってはいたが、こうして生の声を聞くとその感情が強くなったと

思う。が、話す内容がヤバそうになっているので自分の要件を伝えて、電話切るべきだと箒は判断した。

 

「姉さん、相談したい事があるのですが」

 

『あーあー!そうだね!ゴメンね!電話もらって嬉しくなっちゃってた!!

 (^-^*)(・・*)(^-^*)(・・*)ウンウン、分かってるよ!欲しいんだよね?

 君だけの唯一(オンリーワン)代用無きもの(オルタナティブ)、箒ちゃんの専用機が!!もっちモチロン!!

 最高級品(ハイエンド)にして規格外能力(オーバースペック)、そして・・・白と並び歩むモノ―――その名は、』

 

「いや、そんな物は必要ないです」

 

 『どんがらガッシャンコ!!』

 

 箒の要件を聞く前に束は彼女がきっと望んでいるだろうと思われる事をまくし立てる。

何時もハイテンションである束がハイパーテンションに変わり、芝居がかった口調で最高に

盛り上がった所で・・・箒に否定された。

 彼女は()ける効果音を自分で言って・・・いや、実際に電話の向こうでは大転けかもしれないが

大きく話の腰を折られてしまったみたいだ。

 

 『ええぇえ!?何でェエエΣ(゚д゚;)』

 

「・・・っ!私には必要な・・・・いや、分不相応だからです」

 

『箒ちゃん?』

 

 大声で聞き返す束であったが、流石に大音量と成っていたのでスピーカーから耳を遠ざけ耳鳴りが静まってから箒はそう返答した。だが、その声は苛立ちと悲しみが入り混じった様に聞こえ束は彼女を案ずる。

 

「私はそのような大きな力を持つ資格は無い。己を律するとか言っておきながら、暴力と自己満足を振り回す私には・・・資格など無いんだ」

 

『箒ちゃん・・・』

 

「力はとは・・・そう、刀のようなものだ。触れれば切れる物だが、達人は斬りたいものだけ斬り、そうでない物は絶対に傷つけないと言う」

 

『・・・そうかもね』

 

「私は十千屋さんにそう教えてもらったような気がするんだ。

 専用機でも練習機でも私達を圧倒し、いざ事件が起きれば敵を倒し・・・私達を守ってくれる。

 真の力の使い方とはこういうものなのだと」

 

『そっか、箒ちゃんもとーちゃんに助けてもらったんだ』

 

 箒は力を、束謹製の強力な専用機を否定する理由を話した。

 今までの自分と、様々な事を教えてくれる助けてくれる恩師の様な同級生(十千屋)を見て考える事が

あったらしい。

 彼女は理由を話すたびに自身の不甲斐なさを思い出すのか、苛立ちと哀しみを覚え声が震えていた。そして、泣き出しそうになるのを堪えて本当に欲しいものを話す。

 

「だから、そのような身に余る力は要らない。けど・・・けど、もしも我儘が許されるのであれば・・・

 皆に置いていかれないだけの翼は欲しい」

 

『翼?』

 

「あぁ、並び立つための力は自身で手に入れる。だが、置いて行かれるのは嫌なんだ。

 だから、置いて往かれない為に、追いかける事が出来るように()()()()()が欲しい」

 

 箒が本当に望んでいる事は力ではない。ただ、皆と同じ場所へ行く為の翼を欲しがっていたのだ。いつものメンバーで専用機を持っていないのは自分だけ。専用機を持っている彼らと比べるとどうしても差を感じてしまう。

 そして、何よりも何かが起こった際に力に成るどころか同じ場所に立つことさえ出来ないのが

悔しかった。

 自身のISの性能なんてどうでもいい。

 けど、彼らと同じ場所まで飛んで行ける翼だけは欲しかったのだ。

 

『そうか・・・そうなんだね。それが箒ちゃんの望みなんだよね?』

 

「あぁ・・・卑怯だと思っている。狡いと罵られると思っている。

 だが、もう嫌なんだ!置いてかれるのも、追う事も出来ないのも!

 だから、姉さん。私だけの翼をくれ!!

 性能なんざ打鉄くらいでいい、いやそれ以下でも十分だ!!だからっ、どうか私に・・・」

 

 『・・・全く、とーちゃんもズルいよねぇ。こうなるの分かって条件付けてたんだから』

 

「・・・姉さん?」

 

『いやいや、何でもないよ~・・・箒ちゃん、』

 

「・・・なんですか、姉さん?」

 

 箒の慟哭を聞いた束は一人でごちる。それは箒にはよく聞こえなかった様で尋ねるが、

彼女は誤魔化し途端に優しい口調になって話し始めた。

 

『うん、君の願いは良く分かった。それでこんな時で悪いんだけどさ・・・

 こっちのお願いも聞いてくれないかな?』

 

「等価交換、いや私の方が貰い過ぎか・・・分かりました。

 私に出来る事で尚且つ怒らない様なものであれば」

 

『あはは・・・手厳しいね、箒ちゃん。

 いや、お願いってのは箒ちゃんのお願いにも通じるんだけどさ・・・』

 

「なに詰まづいているです?貴女らしくない」

 

『いや・・・うん・・・・あのね。()()()束として最後の作品(IS)を貰って欲しいんだ』

 

「な・・・何を言っているんですか、姉さん?」

 

『それはソレを渡す時、ちゃんと箒ちゃんと会う時に教えてあげる。

 だから今は聞かないでくれないかな?』

 

「分かりました。だけど、その時が来たらちゃんと聞かせてもらいますよ」

 

『えへへ ヾ(´▽`) ゴメンね? あ、もうこんな時間だね。

 お休み~、マイスゥイィートシスター箒ちゃ ブツッ

 

 束が出してきた条件?はISを受け取って欲しいと言うことであったが、()()()束として最後のISとは一体どういう事であろうか。

 それを箒は尋ねようとしたがはぐらかしてしまう。だが、ソレを渡す時に全て話すという約束を結んだ。そして、話し終わると直ぐに何時もの調子に戻った束に付き合いきれないと、箒は一方的に電話を切る。

 

「もう、箒ちゃんたら照れ屋で冗談が通じないんだからぁ~。

 ・・・・・・『紅椿(あかつばき)』どうやら箒ちゃんは君のパートナー(装者)の資格を得たみたいだよ?」

 

 束の視線の先には真紅の装甲が特徴的な作りかけのISが鎮座している。

 作りかけ故にコードに繋がれ機体の外に置いてあったISコアは彼女の声に反応したかのように、仄暗い中で優しく輝いていた。

 

 

 

 ところかわって今度は学園での十千屋の本拠地―テーサウルスアルマ。

 今しがたの時間は丁度、夜もふけてきた頃・・・となると、

 

「あぁん!あっっうっっつ!!はぁ・・・」

 

「ぐっぅ!」

 

 あーはいはい・・・今夜も元気そうでナニよりですよ。丁度、互いの確かめ合いが終わったようだ。

 十千屋の上で浅く息を吐いている女性はそのまま脱力し、全てを任せるかの様にそのままとなる。彼は仕方ないと彼女をそのままにし、()()()()の髪を梳くように触る。

 すると、リアハが近くにやって来て彼に膝枕をし、その様子を微笑ましく眺めていた。

 暫くすると、女性は何かを決めたかの様に意を決した声を出す。

 

「私、決めた・・・近いうちにあの人に挑んでみる」

 

「・・・いいのか?」

 

「無理しないでくださいね?」

 

 彼女の宣言に十千屋は真意を問い、リアハは彼女を案じる。だが、彼女の意思は変わらないみたいだ。

 

あの言葉の意味も一緒に考えてくれた。戦い方を教えてくれた。貴方達が勇気をくれた。

 なら、私がやるべき事はたった一つ・・・」

 

「そうか。なら、教えてくれ。そのたった一つを」

 

クスッ 覚悟を決めてあの人との関係をやり直すこと」

 

「それは素敵ですね。頑張ってください」

 

「ん・・・」

 

 彼女はそう微笑みながら言う。その様子に十千屋とリアハも満足したようだ。

 言い終わった彼女は私物を取るために、十千屋の上でうつ伏せになったまま腕を伸ばして辺りを探る。リアハはそれに気づくと()()()()()()を手渡した。

 

「あ、ありがと・・・じゃぁ、もう一回」

 

「あらあら、じゃあ私もお願いしちゃおうかしら」

 

「あいよ、まとめて愛で尽くしてやるからな」

 

 ・・・どうやら、ある女性に空前絶後の危機が迫っているらしい。




あ~~~、まだ、『学年別トーナメント編』のエピローグが終わらないんじゃ~(´Д`;)
次で、次で終わりにします!
次回の内容は、教員というか大人の裏事情サイドです。真面目な話になるので、合間合間でギャグに走って、シリアスとシリ()()のバランスをとりたいです。
諸曰く、ギャグを入れないと死んでしまう病なので・・・

今回で分かった通りに、FA:Gが元ネタの娘達は容姿とか合えばIS原作勢に何かしらの関係を持ってます。
今のところ、もう一人は確りと考えてありますが・・・いずれ、ISヒロインズとコトブキヒロインズがキャッキャウフフ出来るようにしたいです。
あと、IS原作勢の人間関係修復は早めにしています。ギスギスは苦手で書けないので。

さて、最後のシーンは唐突過ぎましたが・・・あの人をイジる布石になるのでどうかご勘弁を!
弄られると輝くんですもの形無し会長!!


では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA41ss:オゥケィ!ちっふー!!

今回は教員サイドです。
これでほぼ、説明的エピローグが終了です。

では、どうぞ御ゆるりと。



 虎の尾を踏む、龍の逆鱗に触れる。

 藪を突けばヘビが出る、犬も歩けば棒に当たる。

 いや、最後のはちょっと違うか・・・

 ともかく、触れてはいけないモノが在るというのは本当だ。

 もし、それに触れてしまったら・・・一体どうなるだろうか。

 

 

 ここは職員室、その中で千冬は難しい顔をして自分の机に頬杖を突いていた。それもその筈、

学園長の呼び出されて今回の事件の指揮を取らされる事に成ったのである。

 事件の後処理は主に、今回の事件の目撃者-主に来賓にする説明と口止め、事件の実行犯の

確保、事件に対する抗議等など、大きく見れば三つくらいある。

 どの処理も学園教員等が手分けして奔走している。前回と違って学園内だけに収める事が

出来ないのが一番厄介だ。そんな事を思っていると、ちょうど経過報告に山田先生が来た。

 

「織斑先生、大丈夫ですか?」

 

「山田先生、いや心配には及ばない。所で其方はどうだ?」

 

「はい、十千屋さんと戦った生徒は洗脳-詳しく言えば後催眠を掛けられていたようですね」

 

「そうなると、アイツら(十千屋&ラウラ)の見立て通りにナニカされていたという事か」

 

「はい、元々女尊男卑の傾向があってソコに付け込むような内容だっと思われます。

 今は人を殺し損ねた恐怖でPTSD(心的外傷後ストレス障害)、所謂トラウマになっており治療が必要な状態です」

 

「生徒の方はそんな感じか。仕方あるまい、命のやり取りなんぞした事のないただの学生だったんだ。問題はそれよりも・・・」

 

「はい・・・試合を見ていた多数の生徒がショックを受けて気を病んでいます」

 

「ちっ、さながら初めて戦場を生で感じた新兵状態だな」

 

 山田先生が持ってきた報告は実行犯?である生徒の様子であった。彼女らはとある状態になると発動する後催眠が掛けられていたとの検分である。

 元々が女尊男卑の風潮にかられており、そこに付け込んだ催眠が掛けられていたようだ。内容は『男性装着者は居てはならない、消さなければならない』とかそういうものであろう。

 今では催眠術は解かれ、過激な行動には出ていないみたいだが・・・

代わりに心に傷を負ってしまった様だ。平和な時代の女子生徒には無理のないことである。

 しかし、さらに問題なのは事件を目撃した生徒らの一部がショックを受けてしまった事である。ISの兵器としての一面、特に殺傷や殺人に対して恐怖や衝撃を受けた。

 それは、ISでの戦闘行動に対してのトラウマや嫌悪感を引き立てるのには十分であった。

学園はこの事態にも奔走しており、十千屋も自分のコネを使ってカウンセラーを呼んでおり、

リアハが筆頭となって請け負っている。

 

「あの、ところで犯行を示唆した犯人の足取りはどうなってますか?」

 

「あぁ、そっちの犯人の目星は付いている。

 が、トーナメントの(なか)ばくらいから足取りを晦ませた」

 

「そう・・・ですか」

 

 山田先生は事件の策謀者の事を千冬に聞いてみたが、ホシ(犯人)は既に行方を晦ましていた。

 その策謀者は学園の教職員の一人であり、何かと女尊男卑的な発言をしていた者であり、

そして調べが進んだ今は(くだん)の生徒に後催眠を掛けた事が分かっている。

 更に十千屋のISの突然の不調にも関わっていた可能性も出てきた。彼のISの不調の原因は、ISにトロイ(時限)型ウィルスが仕込まれていた事に因るが、ではそのウィルスは何処から来たのだろうか?

 追跡調査の結果、今回のハンディキャップをISに登録及び設定を一括してやるアプリケーションに仕込まれていたらしい。そのアプリの製作者が件の教員でしかも作ったのもその人ただ一人との事だ。

 巧妙に隠され、クイックスキャンなど日常点検に使われる点検ソフトには引っかからないように成っていた。ウィルスの内容は指定の生徒-つまり、教員が仕込んだ生徒に当たればISの機能を

落としてゆく設定である。

 

「くそ、完全に後手だな・・・

 早いところ何とかせねば、IS学園どころか日本も拙い事になるというのに」

 

「へ?・・・えぇえええ!?どういう事ですか一体!?!

 

 千冬の言葉に思いがけず大声が出る山田先生。そんな彼女に千冬は机の中からとあるリストを引っ張り出した。

 

「・・・先ずはコレを見てくれ」

 

「これは、納品リストですね」

 

「そうだ。納品物にラインを引っ張ってあるだろう。どうだ?」

 

「ライン・・・何かいっぱいありますねぇ?」

 

 千冬から受け取ったのは学園への納品リストであり、そのほとんど八割から九割に彼女が

言った通りにラインが引かれてある。

 その事を確認できたと感じた彼女は、ため息をしてから次のような事を言い放った。

 

「もし、この事件の対応に学園が遅れたり、疎かにしたりなどしたら・・・・・・配給が止まる」

 

「へぇぇ、ISに関する重要な部品がかなり有るのに止まりでもしたら大へn・・・

 と、止まるんですかぁあああ!!!」

 

「あぁ・・・しかも、どんどん悪手を打ったらその影響が日本にまで及ぶ・・・・・・」

 

「大問題じゃないですか!一体どうして!?」

 

 納品物の中にはISに関わる部品なども多く載っており、もしコレらが学園に入ってこなければ

ISが稼働できなくなるのは目に見えた。

 それは日本とて同じであり、しかも現在の国防はISに重点を置いてある為それらが

動かなくなったら大問題ではない。山田先生が叫ぶわけである。

 

「ナナジングループを知っているか?」

 

「はい、先進技術を多く持っている企業グループですね。それが一体?」

 

「そこが十千屋の親玉だからだ」

 

 ナナジングループ・・・それは数々の先進技術を世に売り出している企業グループであり、

本社はゲムマ群島首長国にある。そして、十千屋が所属しているコトブキカンパニーの親会社だ。

 表向きは色んな業種に手を出している新鋭の企業グループであるが、知る人ぞ知る一面は

現世界に欠かせない高性能な電子機器や超精密部品の利権や独占を多く持っている企業である。

 無論、ISに使われる部品もその多くがナナジングループ製の物であった。

 つまり、ISの部品の支給には欠かせない存在なのだ。

 

「しかも最近、デュノア社を吸収合併した事は知っているな?」

 

「はい、何かゴタゴタがあってそれの結果くらいは」

 

ISシェア世界第三位(デュノア)IS系部品第一位(ナナジングループ)が合併・・・いや、吸収した。

 そんな所が止めると言って来ているんだ」

 

「あわわ・・・一体どうしてこんな事に」

 

「それだけ、ナナジングループにとってヤツは重要な人物だったという事だ。

 ちぃっ、完全にトンデモないモノを踏みつけた気分だ」

 

 ナナジングループにとっての十千屋は、実はとても重要人物である。

 と、言うのもFAのUEシステムや他の様々な高性能部品を手がけたのは十千屋だ。

 コトブキカンパニーと言うのは、重役に縛られるのを嫌った彼がのびのびと制作できるように

ナナジングループが作った子会社である。

 つまり、彼の庇護はナナジングループとゲムマ群島首長国と言う事だ。

 今回の事件の被害で、一番の被害というのは彼の怪我であろう。それを知ったナナジングループは無理難題に近い抗議をしてきたのであった。

 抗議内容の一つとして

『今回の事件におけるIS学園の対応が遅れたり悪い場合には、我が社と契約している納品を取りやめる』とあり、

『こちらの調査よりも遅れて、さらに対応していない場合にはIS学園だけではなく、関係国である日本にも抗議(いた)す』である。

 簡単に言えば、

『とっとと犯人を晒し首にしないとテメーらが大事にしているISを台無しにしてやるぞ』

との脅迫であった。

 

「最低でもヤツに貸し出しているISを一時貸与ではなく、完全な貸与にしなくては」

 

「それも、抗議内容にあったんですか?」

 

「ああ、と言うのも前からヤツに相談されていてな。

 ヤツに貸し出しているISは使用終了後は学園預かりになっていたのだが・・・」

 

「・・・だが?なんですか」

 

「そのISに以前からイタズラ、システムの書き換えや不良部品への交換など相次いでいてな。

 ログや防犯カメラを使って分かっており、使用前にチェックするから問題にならなかったから

 半ば放置になっていた」

 

「そうだったんですか。

 確かにそのような事をされていてはコチラに預けるのは不信に思いますね」

 

「もしかしたら、このような事態になる前に何かしら起きたかもしれないな。

 それもあって、ISを自分の船の中に置いておきたいと言って来たんだ。

 完全な貸与になればそれも可能だからな」

 

 ナナジングループの抗議には頭を抱えたくなるが、千冬は起こるべきして起こった事件だとも感じている。

 以前から十千屋が使っているISへの悪質なイタズラが起きているのは知っていた。それはIS男性装着者へのやっかみを含んでいると知っており、多少注意しても止まない事も分かっていた事である。

彼は事前の整備やチェックを怠らない為、今まで大事に至ったことはなく今まで放置されていた。が、もしもっと早く対処しておけば、例えば彼が所有するあの船の中に収容する事にしておけば、こんな事には成らなかったかもしれない。

 

「今回の事件は私たちの、女尊男卑の思想に関しての見通しが甘くて起こった事件なんですね」

 

「そう・・・だな。先程のリストもそんな考えをしている奴らを脅す為に作った。

 被害者が男だからって手を抜いてるバカ共(女尊男卑論者)が居るみたいだからな」

 

「織斑先生、私この事件解決に尽力を尽くします」

 

「よろしく頼む山田先生。私もそのつもりだ。」

 

「はい!」

 

「さて、次の脅しは・・・まだあのウィルスにISは侵されたままだったな。

 よし、バカ共をそれに乗らせて私とISバトルをさせるか」

 

「お、織斑先生・・・それはちょっと (^_^;)」

 

 この事件を切っ掛けに千冬はIS学園の風紀改善に乗り出すハメとなり、結果さらなる人員不足に陥る事になる。

 が、又しても十千屋によりナナジングループとコトブキカンパニー、ゲムマ群島首長国からの

補充要員が来る事となり、貸しを増やすことになるのは全くの余談であった。

 

 山田先生がこの場から離れて行き、誰も居なく成ったところで千冬はとある所へ電話をかけた。

 その宛先は、

 

 ♦♫♦・*:..。♦♫♦*゚¨゚゚・*:..。♦I have a big gun I took it P!

 

 とある着メロが流れる此処は・・・何と言うか、汚い。物が散らかりすぎて足の踏み場も無い様な部屋だ。

 床には何の部品だか分からないような物が転がり、この部屋の外からは爆発音や、

悪の三段笑いが聞こえてきたりと内外カオスである。

 そして、この部屋の主は着メロが鳴っている携帯電話のあるゴミの山に突っ込みながらコレを取った。

 

「ハイハ~イ!天が呼ぶ、誰が呼ぶ、ちーちゃんが呼ぶ!

 我こそは狂気のマッドサイエンティスト!篠ノ之たb ブッ

 

 そう、部屋の主は束だ。此処は十千屋が魔窟(パンデモニウム)と呼ぶマッドサイエンティストの巣窟で、

束に与えられた個室である。

 彼女はすかさず電話に出たつもりだが、応対した途端・・・一方的に切られた。それ故に携帯を持ったまま、着信履歴にあるちーちゃん(千冬)の文字を見てちょっと呆然とした。

 が、また彼女から掛かってきた為に巫山戯たいのを我慢して普通に出る。

 

「・・・篠ノ之束だよ、ちーちゃん」

 

「その名で呼ぶな」

 

「オゥケィ!ちっふー!!あ、丁度チーフ(主任)と兼ねてるからいい呼び名かも!!」

 

「・・・はぁ、まぁいい。今日は聞きたい事があって掛けた」

 

「何かしら~、ち~ふ~?」

 

「お前は今回の件に一枚噛んでいるのか?」

 

「はて?さて?え?一体なに?」

 

 電話を掛けてきたのは千冬で、とある事を聞きたくて束に繋げたのだが当の彼女にはサッパリの様だ。

 全く分からなそうなので千冬はとあるキーワードを言う。

 

「VTシステムの事だ」

 

「ああ!それ!あんな不細工な代物、私が作るわけ無いじゃん!だって、今回のはちーちゃんのデータでしょ?50%(半分)も引き出せてないじゃん!とーちゃんのアシストがあったとは言え、

 いっくんに負けるような代物なんて無意味だよ~」

 

 束の返答はNOであった。寧ろ、VTシステム其の物を否定してくる。千冬は心情的に楽になったような気がした。腐れ縁(知り合い)が犯罪行為に手を染めてない事に安堵したのである。

 まぁ、束の事だからどうせ他にしょうもない事をしていると思った矢先に、彼女らしい発言をしてきた。

 

「それに私は()()完璧で()()()()全な篠ノ之束だよ?

 即ち、作るものも()()完璧において十全に()()なければ意味がない」

 

「・・・・・・・・・ん?束、お前以前は完璧で十全だとか自画自賛してなかったか」

 

 千冬は黙って束節(たばねぶし)というか、彼女の自画自賛を聞いていたが、とあるフレーズに違和感を感じて聞き返してみた。

 すると、彼女はうっと言葉を詰まらせてボソボソと恥ずかしそうに言い訳を言い始める。

 

「・・・とーちゃんに以前ツッコまれてね。

『完璧で十全ならISはもう発展しないんじゃないか?何もかも完璧ならこれ以上は改良の余地は

 ないだろうし。そもそも、お前・・・自分で付けたISの自己進化機能でどうなるか分からないとか

 言っていたじゃないか。それのどこが()()()()()なんだ』って」

 

「・・・・・・なるほど、そうか」

 

「うん、とっても衝撃を受けたよ。束さんは回りを超越はしてるけど、振り返ったら完璧で十全のモノなんて作れてなかったんだよ。今もバンバン改良できるんだよ!ツッコまれた通りじゃん!!よくそんなんで自分で()()()()()って言ってたよ!!」

 

「だから、『()()』と付けるようになったのか」

 

「うん、だって回りは着いてこれないのは分かってるからね。

 でも、完璧じゃないからそうしたのだよ」

 

「・・・・・・・・・そうか」

 

 今ではほぼ身内にツッコまれた事が大層ショックだったようで、テンションの上げ下げがおかしくなっていた束であった。

 そんな彼女を千冬は、新しいなぁー・・・等とどうでもいい心境で返答している。

 電話の向こうでグズグズしている束が容易に想像できる中で、彼女がふと思い出したように言い出した。

 

「あぁ、そう言えばVTシステム関連で情報あるけど・・・要る?」

 

「なに?」

 

「あ、その疑問符は要るって事だよね?そのシステムを作った研究所ね。もう、壊滅してると思うよ?」

 

「なんだと!」

 

 ポロリと溢れた内容は千冬にとって看破できないモノである。何せ、今回の事件の主幹に関わってくるVTシステム側の害者が既にこの世に居ない事を示しているのだから。

 つい声を荒らげてしまう彼女であったが、束は平気な感じで続きを語る。

 

「今回の件、特にとーちゃんが大怪我した件については、とーちゃんに関わる人たちがみんな憤慨してたからねぇ。みーちゃんさんなんて、ドイツに脅迫してバカ達の殲滅とついでに新しいFAと

 その教官を送ったらしいよ?」

 

「何やら、相当不穏な言葉が聞こえたのは置いとくとしよう。

 だが、ドイツが・・・国が動いていると言うのであれば、システムの開発元がどうなろうと

 私の知る由もない。しかし、『みーちゃんさん』とは誰だ?」

 

「みーちゃんさん?みーちゃんさんの本名はねぇ・・・あ、忘れちゃった (´>ω∂`)てへぺろ☆」

 

「おい・・・」

 

「ヾ(@°▽°@)ノあはは、でもダイジョウ(ブイ)!直ぐに調べればちーちゃんでも分かるから。

 みーちゃんさんはナナジングループのド偉いさんだし、ゲムマの中でも一・ニを争う

 ドド偉いさんだから!」

 

「・・・・・・一体、アイツの人脈はどうなっているんだ」

 

 VTシステムの続きはもう既に国元で片付けているとしり、関与すべきではないと判断しこの件は終了させる。が、束から語られる衝撃の事実が続くせいで気力がどんどん萎えていく千冬であった。

 

「あーあぁー、でも・・・みーちゃんさんのせいで、束さん不発の不完全燃焼の不満足だよ!

 あっちが手を出してきたんだから、それに乗じてケチョンケチョンにしてやれたのに!」

 

 今度は、電話の向こうでプリプリ年甲斐もなく子供の様に不満タラタラな束が見えるようであった。

 しかし、内容がイケナイ・・・魔窟の仲間は「報復だ!復讐だ!ついでに世界征服レッツゴー!!」「レッッッツ!ハルマゲドォオーーン!!」とか騒いでいるらしいし、彼女自身も自家製の

IS無人機に十千屋が少しづつ作っていたアント-アーキテクトフレームの無人機を仕掛けてやろうとか、世界の危機この上ない事だったらしい。

 流石にこれは千冬は声を掛けようとしたが、

 

「本当に・・・とーちゃんが止めなければ、ゴミ掃除出来たのになー」

 

 今までのハイテンションと打って変わって、声の抑圧のないとても冷え切った口調で言った。

 千冬はこの言葉を聞いて寒気がすると同時にやはりと思う。今日再び電話越しだが会って、

十千屋のお陰で少しづつ束は変わっていったと思った。

 だが、その心に根付いている狂気は何も変わっていないのだと、

大事にする範囲が広まっただけで、それ以外はどうでもいいのだと。

 

「・・・ん?どうしたの、ちーちゃん?黙っちゃって」

 

「いや、何でもない。とにかく、VTシステムの顛末は分かった。もう用は済んだ。切るぞ」

 

「≧(´▽`)≦アハハハ、(*^-^*)ノ~~マタネー、ちっぷu ブツンッ

 

 直ぐに束の雰囲気が元のハイテンションに戻ったが、千冬は背筋に冷や汗の感触が残ったままである。

 ともかく、聞きたかった事を聞けた彼女はもう電話を切ることにした。

これ以上、気になる嫌な話題を増やしたくない為である。

 気に障る束の冗談を一刀両断かのごとくに電話は切られたのであった。

 

 因みに千冬は今回の部品問題について、束にISはお前が作った物ではないのか?

と聞いてみたところ。

 

「ISコアは束さんオリジナルだけど、それ以外は既製品だよ~。

 そりゃ、束さんなら一から部品を作る事も出来るけど・・・楽できる所は楽するって」

 

 と、至極当然の事を言い、もうISが生まれる前からナナジングループに敵わないのは決まっていたことだったらしい。

 

 

 

 

――おまけ:魔窟(パンデモニウム)とか様子――

 

「はっーはっはっはっ!わしらに手を出そうとは愚かな!()けい!Wナンバーズ達よ!!

 世界征服とついでに十千屋の仇討ちじゃ!!」

 

「「「「すみませーん、追加の研究資金を稼ぐためのバイトが重ねっているので無理で~~~す!」」」」

 

「どわぁはあ!?なら・・・フォルテよ!お主が行け!」

 

「何言ってやがる、センター禿げ。今日は休日だ、気分じゃねえよ」

 

「ちくしょぉぉおお!?どいつもこいつもーー!?」

 

 

亜魅姫(あみき)?ちょーーっと、回りのAMIDAを鎮めてほしいのだが・・・(^_^;)」

 

「お父さん?この子たちを外に出しちゃダメだって十千屋さんに言われてたよねぇ?」

 

「だから、その十千屋君が殺られたその報復に・・・」

 

「・・・黙れ、行ってAMIDAたち」

 

 ワシャワシャワシャワシャ・・・

 

「ちょっ!待っ・・・!!ぎゃぁあぁあああ!!!!」

 

 

「さて、我がパトロンが卑劣な罠によって倒れた・・・故に我らは動かなければならい!

 が、居るのはΣシリーズだけとはどういうことじゃ!?」

 

「シャドーサン ハ マリア様 二 サソワレテ ルスチュウ デス」

 

「ルージュ様 ハ ホンショク ガ イソガシイ トノ コトデス」

 

「ワレワレハ コノアト マクツ ノ ケイラ ニ イク ヨテイ ガ アリマス」

 

「ぬぐぐぐ・・・」

 

 

「十七朗!一八子!私たちも出るぞ!」

 

「指図するな、ドクター嘔吐物」

 

「貴様ぁあ!生みの親になんという口を!!」

 

「死にかけてる所を助けてもらった事には感謝しているが、誰も改造しろ何て言ってねぇ。

 それにダセぇ名前付けやがって」

 

「行くぞ、オクト」

 

「ああ、セヴァン。私も旦那と娘が待ってるからな。じゃあな」

 

「この親不孝が! ポン おお!十六朗、お主は来てくれるのか!?」

 

「いえ、遊歩道の景観保全のボランティア活動があるので、それで断りに来ました」

 

「ぬがぁあーー!」

 

 

 えー、ただいまの魔窟(パンデモニウム)の様子ですが、いつもに増して混沌としております。

 十千屋が襲撃されたことによる報復活動として暴れたがっていますが・・・

大抵の科学者達が自分の部下や創造物に拒否られている最中です。

 このまま、本人だけで全力前進DA!をやられては困るので、良識のある人たちが止めに掛かるのが日常である。

 

「おお、来てくれたか。みんな」

 

「ギルモア博士、要件はなんですか?」

 

「若旦那を傷モノにした連中の調べは、もう別の所が出てますぜ?」

 

「いや、いつものじゃよ・・・」

 

「またかよ・・・」

 

「愚痴る気持ちは分かるが、やらなければ被害が出るからな」

 

 その良識派筆頭であるギルモア博士と00No.チームは毎度暴走するマッドサイエンティスト共を鎮圧するのがパターンと成っている。

 彼らがため息をついていると、同じようにMD(メイルデバイス)を付けた女性たちも近くに来た。

 

「コチラの方がバカ騒ぎに成ってると思って応援に来ました」

 

「あれ、君たちは十千屋さん所のメイド部隊じゃないか」

 

「あはは・・・」

 

 00No.チームの一人が問いかけると、茶髪のショートカットの女性が苦笑する。

 彼女たちは十千屋の家を守るメイド達で有事の際は戦闘ができるメイド部隊なのだ。

 茶髪のショートカットが『和子(わこ)』、金髪で三つ編みを二つに分けているのが『イリス』、

色白で黒髪の長髪は『サーシャ』、褐色の肌の女性は『マシュウ』と言い、彼女ら四人合わせて『チーム:WISM』と呼ばれている。

 

「いやな、ウチらの所は旦那から連絡が来て暴走は収まったんだが・・・」

 

「メイド長が怖いのでこちらに避難してきた、と言うのが実情です」

 

「いっ・・・いったい、何シテルあるネ」

 

 マシュウが気まずげに頭を掻きながら、イリスが無表情でこちら側の現状を話すと、

一体何が起こったのかと聞き返してくる。

 それに答えるのは、頬に手を当て困った様子のサーシャであった。

 

「旦那様の元には今は行けない。原因を駆逐するのも止められている。

 そんな、フラストレーションを発散する為に仕事の合間を見つけては

 トレーニングルームに篭っているのです」

 

「その様子が怖いんですよ。自分の大得物を振り回しながら・・・」

 

 彼女に続けて語るのは和子であるが、その目が死んでいる・・・彼女が語るシルヴィアの様子とは、

 

 

In living's purpose, an alms.(生者の為に施しを、)

 

It's a bouquet for the dead.(死者の為に花束を。)

 

I have a sword for the justice.(正義の為に剣を持ち、)

 

It's mortal sanction for rascals. (悪漢共には死の制裁を。)

 

I make lay, and, we―――.(しかして我等―――)

 

It isn't added to saint's line. (聖者の列に加わらん。)

 

It's vowed to a name in Santiaguito.(サンタ・マリアの名に誓い、)

 

It's an iron hammer in all adulteries!(全ての不義に鉄槌を!)

 

 シルヴィアは、この言葉をまるで祝詞の様に呟きながら、自分がよく使う大きな武器を振り回し続けている。

 全身から汗が噴き出し息が乱れかけていても、この言葉を途切れさせない。

 それはまるで、祈りの様な怨嗟の様な・・・一途な想いの成れの果ての様に見えた。

 

 この場にいる全員が冷や汗を流した。思い立つものはただ一つ・・・

 十千屋よ、早く元気になって戻ってきてくれ。そして、この暴走を止めてくれ。で、あった。




はい、前書きにあった通りにこれで説明的エピローグが終わり、次の『臨海学校編』に進めるかと思いきや・・・
実は今回、かなり長くなった部分がありまして・・・書き途中でそれらを抜いて今回完成しました。
そんな訳で、次回はFAだらけの粛清戦を書きたいと思います。
さぁ・・・次はドイツだ!

少し書けているので、いつもよりは早く書き終えて上げられれば・・・いいなぁ(遠い目

あと、ナナジングループは色々とヤバいデウスエクスマキナ(ご都合主義)と化しているので、お察し下さい(^_^;)
ついでに英文は、エキサイト翻訳なので誤字、文法間違いがあるかも知れないです・・・
英語補修ギリギリ回避だった私には・・・ちゃんとしたのは、キツイです。orz

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA42ss:手筈通りだ

大変お待たせいたしました。
今回は『ドイツ報復戦』をお送りいたします。

因みに、ISは出てこないのにIS作品とはいかがなものでしょうか?

では、どうぞ御ゆるりと。


 鉄の騎兵が走る、跳ぶ、吠える。機銃が唸り、ミサイルが弾ける。

 鉄の腕が、秘密の扉をこじ開ける。炎の向こうに待ち受ける、ゆらめく影は何だ。

 今解き明かされる、VTシステムの謀略。今その正体を見せる、研究の謎。

 今回、『激震』。兵士達よ、牙城を撃て。

 

 

――ドイツ:某時刻・ドイツ軍・執務室――

 

 IS学園でのVTシステム発覚から幾許かの頃、ドイツ軍執務室にとある部隊の三名に収集が掛かった。

 三人は呼び出される事に覚えがないが、呼び出されてもおかしくない事柄なら知っている。

 それは、IS学園にてドイツ軍IS部隊から出向中の『シュヴァルツェ・ハーゼ(黒兎隊)』所属:ラウラ・ボーデヴィッヒ隊長がVTシステムと呼ばるものによって暴走した件だ。

 これにて役人や軍広報担当などが奔走する事になり、今もそれが続いている。

 

「これは、これは所長。一体何用で?」

 

「此処は刑務所ではない!司令官と呼べ!!」

 

「了解しました。で、何の様です?」

 

 部隊の中の伊達男が軽口を言うと、司令官の傍に控えていた副官が大きな声を上げて注意する。

 伊達男はヤレヤレと肩をすかして、とりあえずの了解と話の続きを促した。

 それを受けて司令官は副官に目配りし、来た三人に資料用のタブレットを渡す。

 

「先ずはコイツを見てくれ」

 

「この資料は、Valkiyrie Trase System?」

 

「いま騒ぎになっているVTシステムって呼ばれてるアレじゃないですか」

 

「確かコイツはISの条約ではご禁制になっているヤツですよね」

 

「そうだ、それがシュバルツェア・レーゲンに搭載されていたのが発覚したところから始まっている」

 

 資料を読み進めている三人の中で一人が合点がいったのか、獰猛な笑みを浮かべて言った。

 

「なるほど、コレを作った奴へお礼参り(粛清)ですな」

 

「おいおい、そりゃ冗談にも・・・」

 

「そうだ、その事を頼みたい」

 

「「「えっ!?」」」

 

 軽口気分の冗談で仲間にも窘められたが、司令官の反応に驚いた。何せ、本当にVTシステムを作った者たちへの粛清だったのだから。

 驚いて固まっている三人に対し、彼は資料の続きを見るように促す。その資料を読み進めるたびに三人の顔は険しくなっていった。

 

「要件は分かったようだな。そうだ、お前達には()()()をつけさしに行って貰いたい」

 

「そりゃ・・・分かりましたが、良いんですかい?

 この案件だと、秘密裏に消せって事だと思うんですがね」

 

「私は奴らが何を作ってようが勝手だと思う。

 だが、ドイツ軍・・・いや、我が祖国の品性まで疑われるのは我慢ならないのだ」

 

「で、表に出して他から(つつ)かれるよりも身内で消したほうがヨロシイ・・・って訳ですな」

 

「まぁ、我々はあくまでも彼らの便乗に過ぎんがな」

 

 資料には、これから行う襲撃作戦の概要がのっており、新たに採用する予定の新型FA(フレームアームズ)

実践テストと言う名目で始末をとる、といったものである。

 そこで彼らは国として不利益を生み出すものは秘密裏に消えてもらう、と察知したのだ。

 そして、ドイツとしては他に無視できない案件がある。新型FAを用意し、その教官を付け、今回の標的の全てを調べ上げ彼らに討たせようする存在があった。

 その存在から様々な利益をもたらされたドイツでは、今回の件を無視できない。だからこうして作戦を立てたのだ。

 

「全く、おっかないですなぁ」

 

「それには同意しよう。・・・全容は以上だ。ドイツ軍からは、貴公ら三名を中心として動け。

 他の人員の調整は任せる」

 

「「「了解しました、司令官」」」

 

 今回の呼び出しを全て伝え終わり、三人は執務室から出て行く。司令官はそれを見送ると自分の席に着いた。

 副官は使い終わったタブレットを戻し、次の仕事へ移ろうとする。が、不意に口が開く。

 

「それにしても、恐ろしい組織ですね。ナナジングループというのは」

 

「だが、味方である限りは頼もしい限りだ。・・・怒りに対する最上の答えは何だと思う?」

 

「それは格言ですか?確か・・・()()だった、と」

 

 副官の言葉に繋げるように話す司令官は更なる問いかけを付ける。

それに首を傾げる彼であったが、思い立ったのか答えた。

 司令官は答えを受け取ると、両手を組んだ腕を机の上に置き何とも言えない表情で言葉を続ける。

 

「そう、『怒りに対する最上の答えは沈黙』だ。彼らはナナジングループは

 今回の作戦の肝となる資料を・・・無言で突き付けてきた」

 

「(・・・ゴクリ)」

 

「その目は『全て分かっているな』と物語っていた。再び、同意しよう・・・恐ろしいと。

 そして、彼ら(ナナジングループ)を決して怒らせてはならない」

 

 今の時期は初夏へと向かう途中であったが、真冬のベルリンを思わせる寒気を彼らは覚える。

今回の件は、敵に成れば有無を言わさず消す・・・そう、ドイツに思わせるものであった。

 

 

 

 

――ドイツ:某時刻・某上空――

 

N・D(ネオ・ドルフィン)号のオペレーター:フランソワーズ・A・シマムラより、FA隊へ。

 作戦開始地点上空まで約三分、エントリー(突入)の準備してください」

 

「「「了解」」」

 

 あの執務室での一件から時間が過ぎ、IS学園で束が話し出す数時間前くらいに作戦は決行される。

 ドイツ軍FA部隊『シュヴァルツェ・ヴェーアヴォルフ(黒の人狼隊)』とナナジングループからの出向した

FA隊員らを合わせ、N・D号に乗りVTシステムを作った研究所を殲滅しに出ていた。

 研究所があるのはドイツの田舎の山奥、あからさまに()()研究所と言われそうな所にある。

 ND号に乗っているFAは、黒の人狼隊のFA-全て基本カラーが黒に塗ってある各隊員に合わせ

カスタムされた轟雷・近接仕様の漸雷(ぜんらい)・砲撃:援護仕様の榴雷(りゅうらい)・改である。

 全てが轟雷のバリエーションであり、この機体の外国向けの名前がウェアウルフ(人狼)となっている為、ここから部隊名が来ている。

 だが、他にもずんぐりむっくりとした如何にも防御特化の機体が載っていた。

その名は『四八式一型 輝鎚・甲(かぐつち・こう)』、海外名は『M48Type1 グスタフ』だ。

 他にもそのバリエーションだと思われる、ヘッドセンサー変え更に装甲を分厚くした蒼と紅の

輝鎚が居る。

 

 N・D号は山奥にある開けた土地が目的地のようだ。特殊なカメラとセンサーで見ると、そこを中心として反応が出ている。

 

「目的ポイント通過30秒前、ハン・マルテロ曹長 グンバン・ドゥン曹長、

 エントリー開始をお願いします」

 

「「了解」」

 

 オペレーターの合図からナナジングループ出向のFA隊員がまず空へ飛び出していった。

 

 

「・・・ちっ、稼働率及び同調率が30~40%台でしかも安定してない。

 所詮は一回落ちぶれた人形か」

 

 此処は薄暗い部屋で男がとあるデータを見ていた。画面に表示されるISのシルエットは

VTシステムで変化したレーゲンである。

 そう、ここは研究所の一室。しかも所長室であった。VTシステムには変化を起こした後に

パーソナルデータを送る機能もついており、この研究所に届いたのである。

 届いたデータを所長が解析していたのだが、思いのほかシステムの稼働率と同調率が低いことに悪態をつく。

 粗方データを纏め終わったので一息入れようとした時、

 

――ドォオン!――

「くぅ!?何だ!警備室っ、この揺れと音はなんだ!?」

 

――ドォオン!――

「くそっ、またか!?」

 

『報告いたします!上空より、中央昇降ゲートに向かって砲撃をなされております!』

 

「な、にぃい!?ぐっ」

 

――ドォオン!――

「警備室!もうここの場所は知れていると思え!偽装を解除っ、迎撃しろォオオ!!!」

 

『はっ!』

 

――ドォオン!――

 

 その頃上空では、二機の輝鎚-その正式名称は四八式二型 輝鎚・(おつ) 狙撃仕様が降下していた。

 輝鎚をさらに重装甲化と反応装甲(リアクティブアーマー)を追加し、狙撃仕様に変更したものである。この二機が遥か上空から山の合間にある開けた土地、偽装された研究所の地下ゲートを狙撃していた。

 二機は腰のブースターで器用に姿勢を制御しつつ、次々と偽装ゲートへ砲弾を見舞っていく。

偽装ゲートは核シェルターと同様の方式で作られているため、ちっとやそっとじゃ壊れない。

だが、輝鎚・乙の持つ重火器も伊達ではない。

 

 百拾式超長距離砲『叢雲(むらくも)』対要塞用の大型砲で、元は迎撃用に建造されていた高射砲をFA様に

改修した狙撃砲だ。

 FA用とはいうものの、そのサイズと重量ゆえに輝鎚(四八式)以外の機体がこれを扱うのは困難とされている。だが攻撃性能は申し分なく、電磁誘導方式による長距離・高貫通力を誇り、FA相手ならかすらせるだけで甚大な被害を与える。

 

 研究所に響き渡る轟音と振動はコレによる物だ。その音と振動が伊達ではないのはゲートの隔壁が証明している。何度も砲撃を受けたゲートは半壊になっており、空いた穴に入った砲弾は更に奥、それが空けば更に奥と破壊してゆく。

 だが、研究所側もヤられてばかりではない。付近に隠していた高出力レーザー砲を起動し、

輝鎚・乙を狙ってきた。このレーザー砲は対ISとしても十分な出力を持っている。

 普通のFAなら装甲を貫かれ装着者(パイロット)の身を危険に(さら)してしまうだろう。その幾重のも火線が輝鎚・乙に殺到する。飛べないこの機体では自由落下中に避けられるものではない。

 誰もが蜂の巣にされ墜とされるのを想像した・・・ナナジングループ以外の者は。レーザーを受けた輝鎚・乙は煙を吹き上げ落下してゆく。が、そのまま何もなかったかの様に二機は砲撃を続けた。

 煙の正体は水蒸気。レーザーを受け溶解した反応装甲から水煙が立ち上ったのである。

 

 少しここでこの世界のFAの扱いについて説明しよう。この世界のFAの基本設定は十千屋が

書き起したものだ。本来はただのプラモのための作り話(バックストーリー)の設定である。

 だが、それを本気(マジ)で現実に作ってしまったのがこの世界のFAらである。

 そして、この輝鎚・乙 狙撃仕様の開発元のFA:輝鎚・乙は普通のFAなどをあっさりと破壊できる光波(ビーム?)攻撃をしてくる高機動FAの攻撃を真っ向から受け止め反撃するために作られた機体だ。

 その持ち味を生かしつつ再設計されたのが輝鎚・乙 狙撃仕様なのである。

 

 輝鎚・乙は対光波攻撃機体、ビーム・レーザーなど光や熱を使う攻撃に対し、反応装甲内に充填された水が光弾の威力を減退させているのだ。

 

 敵も味方も平気で攻撃をする輝鎚・乙に唖然とした。特に敵は止むことのない砲撃に慌てふためいているだろう。

 ゲートの偽装は禿げ、ボロボロに成ってゆくのを確認すると、輝鎚・乙の二機は次の手を()()()

 

「サイト・ゼキ曹長、手筈通りだ」

 

「了解」

 

 砲撃をしている二機の間に赤黒い影がすれ違った。持っている得物は違うがこの影は輝鎚のモノである。

 その影は自由落下によりどんどん加速してゆき・・・ゲートにブチ当たった。

 

 

ガァン!ゴォォン!ドゴォオオォオオオ!!!

 

 幾重にも閉じていたゲートの隔壁が落下してきたモノによって見るも無惨に破砕されてゆく。

その衝撃と音は、ゲートの最下層にたどり着くまで続いた。

 最下層では、破壊されたゲートの破片と落ちてきた()()によって埃が立ち上り、まるで煙のように立ち込めている。その回りを自動制御の自走砲が取り囲み、異変があればすぐに撃てるようになっていた。

 数秒か十数秒か分からないが、煙の向こうから逆U字型のカメラアイの光が見えたと思うと、

煙を横薙ぎに裂いて巨大な何かが自走砲を薙ぎ払った。

 防衛用の自走砲はその一撃で薙ぎ払われた範囲の物は全て破壊される。無事だった自走砲が攻撃を開始するが、カァン!ガァン!等が聞こえ効いている様子は見られない。

そのまま、また何かに薙ぎ払われ全滅する。

 自走砲のカメラに写り、警備室で遠隔操作していた職員が見たものは、赤黒い鉄鬼であった。

 

「・・・・・・試作シールドは着地で全て無くなったか。予定よりも早く無くなったが、

 予感よりも耐えて最低限の役割は果たしたか」

 

 赤黒い鉄鬼の正体は『四八式二型 輝鎚・乙 白兵戦仕様』とその装着者『サイト・ゼキ曹長』である。この機体は輝鎚・乙 狙撃仕様とは真逆の赤黒いカラーで塗られ、その得物は・・・

 

 「侵入者発見!全員・・・撃てぇえええ!!」

 

「無駄・・・だ」

 

 自動自走砲、警備部隊の混成がゼキ曹長を待ち構えていたが自動小銃(アサルトライフル)では輝鎚の、特に装甲を

増したバリエーション機には通用しない。

 発射された弾丸は(はじ)かれるか、装甲の表皮にめり込む程度にしかならない。それは、敵の方も

先刻承知でロケットランチャーを引っ張り出してきた。コイツはこの研究所での個人兵装最強種である。

 

 「コイツでも・・・喰らえぇええ!!」

 

 この通路はそれなりに広く作られているが、元々鈍重な輝鎚は避ける事など出来るはずもないし、その鈍重な輝鎚を無理矢理動かすためのショックブースターを吹かした突撃最中では不可能だ。

 真っ直ぐ発射されたロケット弾は輝鎚に当たり爆炎を発生させる。普通の機体ならば多かれ

少なかれダメージが通るはずだが、輝鎚はそんな生易しい物ではない。

 少し煤が付いた程度で爆炎を突っ切り、その得物を振るう。輝鎚・乙のゼキ曹長の得物は(まさ)しく鉄塊。ブーストダッシュで得た加速力をわざと片足で押し留めてブレーキをかけバランスを崩す。

 そして、鉄塊の先端についた加速用ブースターを点火し自身がコマの様に回る回転運動へと変換し・・・敵部隊に突っ込んだ。

 鉄塊の先端が壁に擦れ様とも壁を(えぐ)りながら進み、機械も人もバラバラに千切りながら進む。

 

 鉄塊の名前は、『試製三式破城鎚』FAの身の丈に匹敵するサイズの巨大な鉈で、先述した通りに先端には加速用ブースターがついている。これも叢雲と同様で輝鎚の重量と補助腕(サブアーム)を使ってようやく振り回せる代物だ。

 そして、名前(破城鎚)の通りに本来は対人に使うものでない。

対要塞、対移動拠点などに近づいて直接ぶん殴る というどこかおかしな運用思想の兵器である。

 そんな訳で・・・無論、FAや人に向けて振るえばオーバーキルもいいとこで、 命中した箇所が

丸ごと消し飛ぶ威力だ。

 因みに破城鎚と銘打っているが見た目は大鉈に見える兵器である。

 

 鉄塊=破城鎚は機械の人の部品を撒き散らしながら相手を屠ってゆく。

敵の目の前の光景は地獄絵図であろう。

 いたる所に血、骨、臓物・・・つまり()()()()パーツが飛び散り、飛んできた機械の破片で死んだと思ったら粉砕機と化した輝鎚で次の瞬間にはバラバラよりも酷い状態になる。

 それを敵部隊の最後尾に居り、たった一人になってしまった敵隊長はこみ上げるモノ撒き散らしながらも構わず逃げ出した。

 だが、そこまでであった。ゼキ曹長は破城鎚の向きを変えると同時にショックブースターを

起動、直線的な動きへと変更し破城鎚の加速用ブースターに火を入れ、敵隊長に追いつき叩き潰す。

 

「・・・敵部隊鎮圧、目標(ターゲット)の再捜索に移る」

 

 敵部隊を全滅させたゼキ曹長は輝鎚のグラインドローラー、地面を削る反動で進む駆動装置で

輝鎚を走らせ最終目標を探しに戻る。そのローラーがナニかを潰しながら進むのには気にも掛けずに・・・

 

 

 時はゼキ曹長が偽装ゲートを粉砕したところまで戻る。

 ゲートを粉砕された影響か迎撃装置は機能停止し、上空で待っていた他の隊員達が降下を始めた。降下した隊員達はすぐに部隊編成を終え、各階層へを鎮圧する為に散ってゆく。

 先に降下し、ゲートを無効化したマルテロ曹長とドゥン曹長は降下先で叢雲を置き、

背にマウントされた30mmチェインガンと六基の小型ミサイルで構成された複合機関砲:

百二式機関砲『火引(ひびき)』を手にし自分たちが組む部隊へと合流する。

 

「お待ちしておりました、マルテロ曹長殿、ドゥン曹長殿。貴方方と組める事を光栄に思います。しかし、アレで良かったのですか?」

 

「・・・ゼキ曹長の事か?確かに()()で先行したのは気になるだろうが、事前に説明したはずだが?」

 

「失礼しました。事前に説明され映像も見せられ、僚機を巻き込みやすい上で単機の方が都合が良いと分かってはいましたが、私情でした。申し訳ございません」

 

「まぁ、分からなくもない。アイツは普段は不器用だが優しい奴だからな、そう心配になるのも

 無理はない。ならば、コチラの仕事を完璧に素早く終わらせる事がアイツの負担を少なくする事になる」

 

「ハッ!全身全霊をもって当たらせて頂きます!」

 

「気負いすぎるなよ。さて、コチラの分隊も行くぞ!!」

 

「「「「了解!」」」」

 

 マルテロ曹長は合流した先でドイツ軍の一人から質問される。その内容はゼキ曹長を単身で往かせて良かったのだろうか?であった。

 それには事前の説明はあったが、どうやら人情からその質問が出てしまった様である。

上記で書いた通りに彼の戦い方は近づいたモノを全て粉砕する戦闘スタイルだ。その為、単身の方が都合が良い。

 それを確認するとドイツ隊員は行き過ぎた提言だと謝り、引いていく。だが、マルテロ曹長は

ソレを咎めず作戦のスムーズな進行がゼキ曹長の手助けになると言って士気を高めた。

 実際にコノ後は予定よりもスムーズに制圧が進み、ドイツ軍FA部隊発足以降最速の作戦となる。

 

 

 一方でゼキ曹長はコノ後も単身で進み続け、最奥にあったアリーナの様な広間に出た。

最初は薄暗く分からなかったが、急に照明が点くとここには数多くのアーキテクトフレームが

立ち並び、手に持ったライフルを彼に向けている。

 アーキテクトが立ち並ぶその向こうの上には管制室があり、そこの逆光のお陰で人影が見えた。そして、そこにいる人物がスピーカーを使いこちらに話しかけてきた。

 

「ふん、此処まで来た事は称賛に当たるだろう。だが、私にもプライドという物もある。

 コトブキカンパニーとやらのオモチャ(アーキテクト)を利用した、射撃部門でのVTSをその身で味わうがいい」

 

 管制室の主―後で分かったことだがこの研究所の所長がそう言うと、アーキテクトが一斉砲火してくる。その狙いは正確で流石は射撃部門のヴァルキリー(世界一位)のデータだ。

 所長は無人機(アーキテクト)には瞬時の判断や思い切りが必要な接近戦は無理でも、射撃であるならば十分にVTSを活かせるだろうと想定し実際にアーキテクトは正確無比な射撃を行っている。

 敵は重装甲であるが、装甲の隙間や可動部などを射貫けば対応できると予想した。

が、鈍重なはずの敵機(輝鎚)の回避行動に追従できていない。

 

「何故だ!何故こうも上手くいかない!?」

 

「・・・狙いが正確過ぎる。これならばよく見れば有効打を避けられる」

 

 ゼキ曹長はショックブースターと破城鎚のブースターで上手く避け、敵が狙っている有効ポイントをズラし重装甲部位で受けながら砲火の中、悠然と敵機へ進んでゆく。

 その中で彼は、この作戦前のブリーフィング(会議)を思い出す。そこでは十千屋が感じたVTSの見解を述べていた。

 十千屋から見たVTSとは「モーションデータの使い方を間違えた欠陥システム」である。

確かに最上級者の動きや戦法を100%トレース(真似)出来き、ソレを誰でも使えればかなりの戦力に出来るであろう。

 だが、最上級者の動きとは本人たちが自分の為だけに極めた動きであって他人が真似できるモノではない。まず、体格が違う。筋肉の付き方が違う。思考が違う。動かし方が違う。

 十人十色と言うが文字通りで何もかもが千差万別だ。それなのにそのままの動きをデータに落とし、実際に現実で再現することなど不可能だ。

 ・・・技と言うモノがある。本人にしか出来ないモノではなく、格闘技の型やそれぞれの技の方だ。オリジナル(本人)をよく観察し、考察し、数多の人が修練を重ねれば出来るように成るまで体系化したのが《技》だと十千屋は考える。

 若い流派でも少なくとも百余年の時間をかけ技を作り出してきた。それなのに、そのまま似せれば最強になれるというのはどうしたものだろうか?

 彼が考えるモーションデータの使い方とは、数多のデータを最適化し普遍的で最適な動きを指導し補助する・・・誰もが使える技を扱えるようにするシステムだと論じた。

 実際に、近接最強のデータを使ったラウラには無視できない反動が残り、無人機で撃たれる射撃データは火線予測システムを見れば避けられる程度しかない。

 その事が分からない研究者が作るものなど・・・

 

「恐るに足らんな」

 

 「なぁああああ!?」

 

 突き進んだゼキ曹長は機体を跳躍させると、次の瞬間には敵機が両断されていた。

しかし、先程の戦いの通りに斬撃というには余りにも粗暴すぎる。多少なりとも装甲の付いている敵機は装甲もフレームもグシャグシャに潰されながら沈み込む。

 ゼキ曹長は破城鎚=大鉈を力任せに引き抜くと、他方の敵へ向き直る。敵側はこの攻撃を脅威と判定し、側面へ回り込む挙動を取った。だが、ゼキ曹長は大鉈を今度は横薙ぎに振るった。刀身の背から噴射光が伸びるや、瞬く間に青白い弧を描く機動で避けようとした敵機は隣り合わせは

愚か、その有効範囲内の敵の胴が分断される。

 大鉈を振り抜いた格好となるゼキ曹長の背後から無事であった別の敵機が襲いかかる。

が、彼も素早く反応していた。腰のショックブースターを噴かすと機体を反転させ、

そのままの勢いで大鉈を振るい又しても横一閃に敵機を引きちぎった。

 

「何故だァ!?何故だぁあ!!

 私が作ったシステムは未完成とは言え、あの程度には十分なはずだ!?」

 

 所長の目には攻撃を悠然と受け、見るからに鈍重な機体を軽々と扱いアーキテクトを叩き潰してゆく(ゼキ曹長)の姿があった。

 監視カメラで得た情報から構築した今回のVTSであれば十分に倒せるはずである。だが、現実はその真逆でこちらの圧倒的敗北であった。

 ものの三分も経たない間にアーキテクト側は全滅、彼はこちらの方を見る敵にビビリ

腰が抜けそうになりながらも管制室の背後にある緊急脱出装置へ逃げ込もうとするが、頭の真上を通った大鉈に装置が潰される。

 彼にとって幸か不幸か、腰が引けていた為に上体が低くなっていた。

その為、助かったのである。そして、恐怖の大本が管制室の窓・・・

いや、窓側の壁や装置をブチ破り鉄鬼がやっていた。

 

「・・・何だ、生きていたのか」

 

「ひぃいい!わ、私を誰だと思っている!?」

 

「関係ない。今作戦ではDead or Alive(生か死か)。別に生きてようが死んでようが構わない」

 

「ななぁなな・・・なぁ、私と、とと‥取引しないか?絶対に悪いようにはしない!」

 

「・・・面倒だな」

 

「なぁ、私の言うことを聞いてくれ!って、なんで両腕を?」

 

「面倒な事をされると面倒だ・・・」

 

「ちょ、ちょちょちょおっと!ま、待ってくれ!ギャぁあああ!!!

 

 

 本日未明:作戦は無事終了。

 研究施設のデータは全て抜き終わった後に爆破処分を実行し、何があったのか分からなくなった。

 投降してきた研究施設員達は軽度が軽いものは一生監視され、幹部クラスは全て秘密裏に処分される事となる。

 研究施設の所長は捕獲時、両腕を何かで握り潰された状態で確保された。

彼は研究施設の洗い浚いを自白させた上で処分される事とになった。

 

 ドイツ軍はM48Type1 グスタフ(四八式一型 輝鎚・甲)をFA部隊機に採用。今後は拠点防衛用や強襲用として活躍する事となった。

 

 上記にあるのがVTシステムにまつわる始末である。

 これにより、ドイツ軍は機密の漏洩、研究施設の抹消、新型機の購入と手痛いダメージを負う事となった。

 

 さて・・・これらの事から、今回の事件は一体誰がトクを得たのだろうか?

 

「コンコン♪恩を受けたら、恩返し~♪アダを受けたら・・・万倍返しなのでございますわよ~♪」

 

 さて、一体・・・誰なのだろうか・・・・・・

 




はい、今回は『ドイツ報復戦』・・・と、言うよりも『ドイツ()()戦』をお送りいたしました。
前回の後書き通りに、長くなりそうなので小分けにしたのが今回なのですが・・・
相変わらず、付け足してして、さらに付け足して、1万文字近くに成ってしまいました(ーー;)
計画性の無さは全くもって進歩してません・・・(;´д`)

さて、今回はど派手にFAが暴れましたが・・・この機体(輝鎚)、原作でもほぼ似たような事をしているんですよ・・・
やっぱり、FAのエースパイロットはスゲェ(ヤバい)奴らばかりですね。

そして、今回でようやく・・・正真正銘、『学年別トーナメント編』は終了です!
長かった・・・本当に長かった!
でも、次の『臨海学校編』または『銀の福音編』の舞台である海に行くまで何れ位かかるのだろうか・・・(遠い目


では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA43ss:素子姉様が言っていた…

大分…お待たせいたしました。
活動報告にあった通りに仕事が忙しく、気力も沸き上がらなったので・・・

では、どうぞ御ゆるりと。


 い~や~らし~い~ あ~さがきた~ ろぉこ~つな~ あ~さ~だ♪

 全く、朝からラブコメやらラッキースケベは止めてほしい・・・(by.部屋隣りの女子生徒

 

 

 

「う~、トイレトイレ!」

 

 今、来客用トイレ(男子トイレ)を求めて全力疾走気味の俺はIS学園に通うごく一般的な男子生徒だ。

 強いて違うところをあげるとすれば、男なのにISが動かせるってところかナ―

 ――名前は、織斑一夏。

 

 そんな訳で、IS学園本館にある来客用トイレにやって来たのだ。

 つーか、男用トイレが此処しか無いのは本当に不便だぜ。

 と、ふと見ると壁際にとある女子生徒が寄りかかっていた。

 ウホッ!いい男装女子(シャルロット)・・・

 

 そう思っていたら、突然その男装女子(シャルロット)は俺の目の前で(何故か着ている)オレンジ色のツナギのホックを外し始めたんだ・・・!

 

「やらないか、一夏」

 

 そう、据え膳で誘われてホイホイついていかないと男じゃない!!

 

「ふふ・・・そうだよ、一夏。先ずは僕に入れて・・・・―――あ、れ?」

 

 シャルロットはぼーっとする頭で回りを見渡すとそこは学園の男子トイレの中ではなく、学園での彼女の自室である。

 彼女はまだはっきりしない意識のままであったが、まばたきし先程のテクニック的な何かが

分かると深いため息が出るのであった。

 

「夢・・・か、はぁ~~~、だったらせめて一夏が僕とドッキングする所まで見せてよ」

 

 目が覚めれば夢の内容なんて忘れてしまうものであるが、その心地よさから執着を引きずってしまう。

 シャルロットは先月の学年別トーナメント以降は本来の性別に戻ったため、今はもう一夏とは

別の部屋になっている。

 けれど、たびたび先程のような夢-ノーマルのモノからちょとアブノーマル的で薔薇色っぽいモノまで、まぁ・・・色々と見てしまい居ないと分かっているのに隣のベットに一夏の姿を探してしまう。

 

「ん、あれ?」

 

 今日も思わず隣のベットを見てみると、今のルームメイトの姿が見えない。

 と、言うよりも今日は使った形跡がない。

 何処に行ったのだろうと疑問は浮かぶが、それよりも・・・

 

「まぁ、いいや。夢の続きを・・・」

 

 もしかしたら、今すぐまた寝付けば夢の続きを見れるかも知れないと布団に潜り込んだ。

 そして、また微睡みに落ちていく最中でふと思うことがある。

 

(三・四日くらい前は、夕焼けの教室で甘酸っぱい感じだったかな?・・・

 う~、度々(たびたび)そういう系を見るって、もしかして僕は欲求不満なの・・・?)

 

「なに思ってんだろ僕・・・恥ずかしいや///」

 

 彼女はちょっとした羞恥を感じながら再び寝付こうとする。

 因みに・・・そのせいで遅刻しそうになったのは言うまでもない。

 

 

 その頃・・・

 

 織斑一夏、今年で一六歳、青春真っ盛りなお年頃であるが・・・常々、史上最大のピンチに見舞われる。

 変哲もない小鳥がさえずり、朝日が柔らかく照らしてくれる時間、眠気が抜けきらない

微睡みの時だ。

 

(あ~、温たっけぇ・・・ん?なんか、温かくて、柔くて、いい匂いがするけど・・・

 まぁ・・・いいか)

 

 ぼーっとし布団の温みが心地よいのは誰でも同じで、一夏もそうである。

 だが、布団の中に何か別のモノが紛れ込んでいるのが気になるが、自らの心地よさに身を任せ

ソレを抱き寄せた。

 

「ん・・・ぁ・・・」

 

(温かい、柔らかくてスベスベだぁ…抱き枕に丁度いい・・・・って、ちょっと待てぇえ!」

 

 抱き寄せたソレの感触を満喫していると確実に別の誰かの声がして、一夏は一気に意識が覚醒する。

 雷に打たれたような予感をビビッと脳天に感じ、抱き寄せていたソレを離すと同時に掛け布団を放り出した。

 ソコにあったのは・・・・

 

 「ら、ラウラぁあ!?」

 

「…ん、朝か。Guten Morgen(おはよう),我が嫁」

 

「な‥ふ、ふ・・・ふふふっ!?」

 

「フッフッフッー?なに、ラマーズ呼吸法か?」

 

 「ふ、服を着ろぉおーー!!」

 

「いや、着ているが?」

 

 ラウラがソコに居た。

 先月から、詳しく言えば学年別トーナメント後から積極的に一夏にスキンシップを取るようになった彼女が居たのだ。

 食事中の同席は当たり前で、入浴や着替えの最中にまで現れる積極ぶり?である。が、それは

まず置いておこう。

 今の問題はソコではない。問題は、着ていても意味のない服を着ているからだ。

 まず、第一印象:白。第二印象:黒のフリル。第三印象:スケスケ。

 即ち、これらから導き出せる答えというのは・・・扇情を誘う目的の下着類-ベビードールであり、彼女の透き通る様な肌とその頂きが透けてほのかに見えるのだ。

 これは端をレースで飾り、胸元の紐と肩紐で留めるタイプとなっており上品だがすぐに脱がしやすいデザインとなっている。それに生地が薄いために曇りガラスの如く色々と薄く見えてしまっていた。

 四つん這いであったため下着がギリギリ見えていて履いていないという事はなさそうだが、

小さいタイプなのか彼女の小振りな臀部がほとんど見えてしまっている。

 所謂、紐パンでありベビードールと対になっていそうでもあり今は見えない前側もヤバそうであった。

 

「それっ!?着ているうちに入らないってんだよ!あと、何でココに!?」

 

「そうか?オススメだったんだがな。

 あと、こういう起こし方が将来結ばれる者同士の定番だと聞いたぞ」

 

「お前に間違えた知識を吹き込んでいるのは一体誰なんだ・・・」

 

「しかし、効果はてきめんのようだな」

 

「はぁ?」

 

「目は覚めただろう?」

 

「当たり前だろう・・・ドコのドッキリだよ」

 

 一夏がため息をついたり、諦めてラウラの事を再度見ていたら改めて彼女の美人さや

ちょっとした恥じらいで心が揺れたが、彼に彼女の積極性を抑制する名案が浮かんだ。

 なるべく彼女の裸体に近い姿を視界に入れないようにソレを実行する。

 

「ラウラ」

 

「なんだ?」

 

「俺は奥ゆかしい女性が好きなんだ」

 

 ラウラはその言葉を聞いて少し驚いた様子で考え込んだ。一夏はその様子に内心自画自賛するがそれは呆気なく(やぶ)れることになる。

 彼女は確りとした意思を込めた瞳をしながらこう言ったのだ。

 

「そうか、それが嫁の好みか…だが、私は私だ」

 

「え?」

 

「そ、それに…()()()()()()と、嫁が言ったではないか」

 

「え、あ~…うん」

 

 どこか自信満々で言い、どこか照れながら自身(一夏)が何かで言った覚えがある言葉を理由にされて

彼は言葉に詰まる。

 その言葉通りに好きにしているのは良いのだが、し過ぎではないかとも思う。好意を隠さずに全力全開(フルオープン)というのは対応しづらいのだ。

 そして、またジロジロと見てしまったのでラウラが反応してしまう。

 

「隠させたくせに、割りとご執着のようだな?」

 

「ばぁっ、バカ!違うっ、そうじゃねぇ!」

 

「で、では・・・見たいのだな?朝から結構大胆だな。あ、あのな・・・コレ(ベビードール)も脱いだ方が良いのか?

 それとも、嫁自身の手で脱がすか?」

 

「だぁ!待てぇい!!ついでにお前に吹き込んだのは誰なんだぁあ!!」

 

 ここまで来る間にラウラにシーツを巻かせて見た目を緩和させていたが、一夏の視線でサービス心を刺激されたらしい。

 それでシーツを落とし、さらにベビードールを脱ごうとしたので彼は取り押さえるために彼女に掴みかかった。

 だが、あっさりと反撃され逆にマウントを取られてしまう。ついでに彼女に巻かれていたシーツも落ちた。

 

「ふむ、お前は組み技の訓練をした方が良さそうだな」

 

「ぐっ・・・軍隊仕込みの体術ってヤツか」

 

「訓練なら私がつけてやろう。ねっ寝技の訓練も私が引き受けてやる///」

 

 一夏はアッサリと組み敷かれた自分に落胆するが、ラウラが顔を赤くしながら言った言葉の意味を数拍空けてから理解し自身も顔を赤くした。

 ただの()()()寝技(サブミッション)なら赤面にならないだろう・・・つまり、そういう事である。

 

ブッ アホぉ!女がそういう事を言うな!!」

 

「な、なるほど・・・嫁は自身の口から言いたいタイプなのだな!?」

 

(ちげ)ぇええ!っていうか、お前は先月俺にあんな事したくせに反省なしかよ!?」

 

「あんな事・・・どんな事だ?」

 

「い、いや、だから・・・その……き、キス…だよ。初めてだったんだぞ…

 

「そうか」

 

 一夏はますます赤面し話の流れで遂には(すぼ)み込んでしまった。意外と古風と言うか純情な彼は

自身のファーストキスを奪ったのが目の前の相手(ラウラ)だと意識して沈黙する。

 そんな彼にシレっと返事したラウラにカッとなるが、声を荒らげて言う前にあちらも赤面し

乙女の顔でこう言った為また沈黙してしまう。

 

「わ、私も…初めてだったぞ。うむ、初めて同士で・・・嬉しくは、あるな」

 

「・・・・・」

「・・・・・」

 

 二人の間に気まずい様な、甘酸っぱい様な微妙な沈黙が下りる。互いに意識してどうすればよいか分からなくなっている空気だ。

 このまま硬直しているのも気まずいのが続くと思った一夏は、とりあえず動こうと思い立ち上がろうとした瞬間に再びラウラにベットへ押さえ込まれてしまった。

 彼は細腕とは思えない力と技のキレと現実逃避気味に思ったが、すぐ彼女によって現実に引き戻される。

 

「お前は…どうして、私の心をかき乱し沸き立たせるのか?ふふっ、素子姉様の言った通りだな。

 この格好も何だかんだ言っても気に入ってくれると」

 

「い、いや…お前は何を言っているだ?全然、分からん……」

 

「嫁よ、『奥ゆかしい女性が好き』と言ったな?」

 

「お、おう…?」

 

ウチ(十千屋家)には、こんな言葉があると素子姉様が言っていた…

 『昼は淑女、夜から朝方にかけては娼婦』と」

 

 いや、その言葉はオカシイと一夏は思ったが、乙女からだんだん別の顔になってきているラウラがそう言うと体勢を前後入れ替え、ベッタリ体を密着し確りと一夏を拘束する。

 流石の一夏も何かしらの危機感を覚え抜け出そうとするが…全くと言っていい程ビクともしない。

 

「サービスだ。今日一日スッキリ過ごせるようにご…ご奉仕してやる///

 ちゃんと素子姉様が自主監修した性教育ビデオ(○メ撮りビデオ)を見させてもらい練習してきたから

 大丈夫なはずだ」

 

 自身の最大級の危機に一夏の脳内でハザードランプと警報音が光って鳴り響く。助けを呼ぼうとしても、自分のあご下にラウラの大事な部分が今にも付きそうな位置にあり、顔を動かせば触れてしまう。特に顔を上げた時など目も開けられない状態になるだろう。因みに…やはりソコも半スケであった。

 そして…何故か急に脳裏に青空が浮かび、そこに写る素子のビジョンは…

 

『ヤっちゃえ、少年』

 

 何時もの無表情だがドコかドヤ顔であり、そのハンドサインは握りコブシの人差し指と中指の

間から親指を出すという…卑猥な意味を持つものであった。

 

 「(だ、誰か助けてくれぇええ!!!)」

 

 織斑一夏、今…史上最大の()()の危機に瀕していた。

 

 

 さて、また別方面に場面転換をする。次は学生寮の裏手だ。ここはポッカリと空いた広場のようになっており、簡単な集会等に使われる場である。

 ここで毎朝、訓練するものが居る。それは、自らの実家から取り寄せた真剣を奮って鍛錬している箒だ。

 以前やらかして十千屋と千冬による三者面談以降は隔日くらいで剣道部に出るようにはなったが、それとは別の腕前を落とさないように真剣を振るっている。

 よく言う剣道と()()は別物だと言うアレだ。

そして、日本刀に近い武装を持つコトブキカンパニー制作の打鉄-換装装備(パッケージ)月甲(げっこう)禍津(まがつ)を扱うようになってから剣術に力を入れだしたのである。

 

(やはり、剣術の方が実践的であると感じるな。ここに来て、篠ノ之流の全てを教え受ける事が

 出来なかったのは痛いな)

 

 朝の日差しの中、その日差しを刀が反射する様を見て彼女はそう思い耽る。相次ぐ事件のせいでより実践的な剣術を求めるようになったのはおかしな事ではない。

 しかし、自らの剣の師匠は実の父親なのだが今は要人保護プログラムのせいで簡単に会う事が

出来ない。

 剣術とはただ聞伝えたり、文献を読み解くだけでは身につかない。やはりそこは師弟の血肉が

通う修行が必要なのである。要人保護プログラムが開始されたのは彼女が十にも満たないころの話だ。そんな幼子の時に免許皆伝などありえず、箒は中途半端の状態で今に至る。

 その為、今は教え込まれた事を忘れないように鍛錬し続けるしかないが、彼女は流派と言う実戦のノウハウを欲していた。

 

(しかし、もう七月なのだな・・・七月――七月か、はぁ・・・一夏め、忘れてはいないだろうな。

 朴念仁でドコか抜けているからなアイツは、いや・・・変に細かい所があるし、だが・・・いや・・・

 でもな・・・ぬぅ・・・)

 

 最近は朝の日差しが強くなるのを早く感じ、加えてじわりとした熱気が早く満ちてゆくのを感じ初夏の訪れを覚えるようになった。

 初夏―つまり、七月は箒にとって特別な月である。そして、その特別に対して幼馴染の一夏にとある期待をしているのだが…あの朴念仁にそこまで期待していいかどうか迷うのであった。

 途中で雑念が入ってしまったが彼女は自分で課した訓練メニューを終えると、

未だ寝ているであろう同居人に配慮し部室棟のシャワールームを使う事にする。

 

「あら、今日も早いわね。おはよう」

 

「おはようございます」

 

 すると、部室棟を管理している教員が朝練を行う生徒たちのために今日もこんな時間から施設を開放してくれていた。

 この教員の名前は『榊原 菜月(さかきばら なつき)』生徒に優しく品行方正、容姿も悪くはないが――

 

「ね、ねぇ…篠ノ之さんって、十千屋さんと仲が良かったわよね?時間があるならチョッと

 彼の事を教えてくれないかしら?」

 

「は、はぁ・・・」

 

 素晴らしく、男運がない。と、言うのも同性からも反応の良くない相手を毎回好きになり、

そのたびに痛い目を見て1人でやけ酒をあおっている。最近は実家が何度もお見合いを勧めてくるのが悩みの種であった。

 まぁ、正確には男の好みが大分アレなのかもしれない。最近の悩みの種であるお見合いの時の

感想はどれも同じで、

 

『良い人なんだけど、ねぇ? 燃えないなぁ・・・』

 

 上記の事から分かるように榊原教員は、平穏を求めな、安定を求めない。トラブルで遊び、

世紀末をはしゃぐようなおしゃまガール(…今年で二十代最後だからガールは無いか)…まぁ、そういう事なのだ。

 故に、変な男にばかり引っかかる。その事には本人も薄々気づいてはいるが、燃えない相手ではどうしても心が弾まないし、草臥れる様な結婚はしたくない…とウダウダしている時に十千屋が

現れたのだ。

 容姿などは置いといて、経済力、包容力、おおよその人格、そして腕っ節全てに置いてパーフェクト。しかも、本人がトラブルを引き寄せるのか自らブチ抜くのか退屈はしなさそう。

最後に、彼の国本は条件はあるが重婚OKで既婚者だから断られる事も少なそうと彼女の要望を

ほぼ叶えられるのである。

 その為、今は教師と生徒と言う関係を一方的に放り出して狙いをつけている。

行き遅れになりたくない女の必死の抵抗でもあった。

 

(と、言われても…私自身も十千屋さんの事を詳しくは知らないのだが、)

 

「では、コチラに就職してみますか?」

 

「うあぁっ!?」「きゃあっ!?」

 

「どうも、朝早くから失礼します」

 

 にじり寄られている箒としている榊原に急に声が掛けられ、彼女らは驚いて後退(あとずさ)った。声の主はシルヴィアであり、汗ばんでくるこの季節に何時ものメイド服を身に纏い飄々としている。

 前に十千屋へ装備品を送り届けた後、度々IS学園に来るようになり十千屋ファミリーの一員として認知されていたため居るのは構わない。だが、今いきなりこの場に居るのは場違いなような気がしてならなかった。

 

「さて、榊原様。旦那様に御近付きなりたいなら、コチラに使えてみてはどうでしょうか?」

 

「え、えぇーと…」

 

「代表的な職種は旦那様直属のメイドですね。一般的な家事炊事掃除の他に、有事の際は私設部隊として同行いたします」

 

「…その話を詳しく」

 

「……さて、私はシャワールームに行くか」

 

 箒はこの際、突如現れたシルヴィアは置いておき当初の目的を果たすべくこの場を去った。居ても自身には全く関係ない事なので。

 さて、榊原の方はシルヴィアの勧誘にすっかり心を動かされつつあった。十千屋直属のメイドとなると給料は今の国家公務員(IS学園教師)よりも安くなるが、住み込みで働く関係で家賃関係は安く上がる。

しかも、手取りの給料は平均よりも多く特別手当や福利厚生も確りとしているのである。

 彼の実家は孤島であるが、移動手段の貸出は容易にできゲムマ本島にも行きやすいとあった。

しかし、一番の魅力は彼へのアプローチOKと言うことであろう。

 たとえ振られても振っても、彼の人脈を使えばコレはまた二癖も三癖もある男性―FAエース

パイロットを紹介して貰えるという夢のような条件であった。

 それ故に…榊原は暫くの間は大いに悩む事となる。

 因みに、後日箒が急に出てきた時の事をシルヴィアに聞くと

「必要な時に御側に控えているのがメイドとしての嗜みで御座いますので」だ、そうだ。

 

 

 さて、箒はシャワーを浴びた後は一夏の部屋へ足を運んだ。理由は朝から好きな人を一緒に

居たい乙女心と言うヤツである。

 彼の部屋の前で何度も髪型を確認したり、深呼吸をしたり、容姿の確認など乙女チック全開であるが…次の瞬間、180°変わる事になった。

 ノックと二度の呼びかけに返事のなさにムッとして、ドアノブに手を掛けたが鍵の感触のなさに不用心だと思いつつ部屋へ入る。

 

「入るぞ、一夏。早く起きて支度をせねば―――」

 

「よ…よし。下着の上から嫁のモノを確認。……ゴクッ ぬ、脱がすぞ?」

 

「ら、ラウラ!そいつは流石にマズ…げぇっ!?」

 

 箒は室内の様子に自らの全てが一旦停止したような錯覚を覚える。

一体何をシている?

裸同然のラウラが一夏に覆いかぶさり、彼の下着を盗ろうとしている?

まて、ソレ(一夏)はワタシノダ・・・

 彼女は驚きと怒りを通り越し、冷静な判断で・・・ラウラに襲いかかった。十千屋とリアハの

教育の成果であろうか。以前なら真っ先に一夏へ攻撃であったが、今は()の排除を優先するようになった。

 それは、一夏への独占欲やヤキモチ等が無くなった訳でなく、単に後から問い詰めればいいと

順番替えしただけの事である。それに、彼に問い詰める時に涙目で訴えたほうが効くとわかったので。

 

「逝ね」

 

「フッ」

 

「ムグゥ!?」

 

 無音の高速歩行術―瞬歩でラウラへ詰め寄り、ハリセンではなくゴム刀で横薙ぎの居合を放つ。横なのは縦だと一夏に当たる可能性が有るからだ。

 ラウラは横薙ぎで迫り来る刀身を上体し起こし後ろへ座るような動きで遠ざかり、

最後は部分展開したISの慣性停止結界(AIC)によって阻まれる。

 

「くっ、貴様…」

 

「やれやれ、折角のふ…夫婦の逢瀬を邪魔するとは」

 

「一夏はお前のモノじゃない!それよりも、その穢わらしい尻を一夏から退けろ!!」

 

「ぬ?」

 

 ラウラは箒の邪魔に落胆するが、箒は激高して反論し指摘する。彼女は座るようにして箒の攻撃を避けた。つまり…

 

「(息するな、見るな、感じるなぁあ!!でも、ラウラのケツって結構柔ら…

 考えるなぁぁああ!!!)」

 

…ぽん おおっ、コレが亭主関白の嫁()尻に敷くと言うヤツか!」

 

 「「絶対に違う!」」

 

 まぁ、そういう事だ。女性の大事な部分を顔に押し付けられた一夏は必死にその現実から目を

背ける。が、ラウラの的外れな知識を披露すると二人は同時にツッコミを入れた。

 これによって集中力が切れ隙が出来たので箒は瞬時に片手にハリセンを持ち、ゴム刀とハリセンでの挟撃を行った。しかし、ラウラはその場から猫の様に跳躍しベット…一夏の上から飛び降りる。

 部屋の出入り口側に着地した彼女と一夏の間を塞ぐように箒は身構え、彼に安否を訪ねた。

 

「一夏っ!(貞操は)無事か!?」

 

「た、助かったぜ箒。ああ、(体は)無事だ」

 

「…ふぅ、興が削がれたな。嫁よ、私は先に行くぞ」

 

 何か意味が食い違っている安否確認をしている二人を尻目に、ラウラは満足したのか気が逸れたのかクルリと背を見せて部屋の出入り口に向かった。

 彼女の気紛れにポカンと呆気に取られる二人だったが、一夏の方が何か気が付いたのかある物を投げつける。当たっても痛くなくパサッと音を立てて落ちたソレをラウラは拾い上げた。

 

「ん、ワイシャツ?」

 

「アホぉ!その格好のまま外に出るつもりか!?せめて、コイツを着とけっ」

 

 一夏が投げつけたのは、彼が寝る前に放置していたワイシャツであった。ラウラはそれを

拾い上げると、少し思順してから羽織る。

 袖を通し、ボタンを留め、袖の余り具合を見て、また彼女は迷言を発する。

 

「なるほど、嫁は今度はコレを着て来いと。彼シャツと言うヤツだな?嫁は前を留める派か?

 あと、下着は付けない方が良いか?ぬ、それだと肌ワイと言うヤツに…」

 

 「「出て行くなら、とっとと行けぇえ!!」」

 

「そうか。では、また後でな」

 

 終始ラウラに振り回されっぱなしの二人は相当な精神的疲労と大声により肩で息をする。

 息が整うと、箒が顔を赤らめてコチラを向いた。

 それに嫌な予感がする一夏は意を決して聞いてみる。

 

「あ、あの箒さん?一体、何用で…」

 

「そ、そのだな…一夏。お前はあーいう格好が好きなのか?わ、私もした方が良いのか?」

 

 彼は一体何を言っているか分からなかったが、理解すると目の前で紅潮し恥じらっている幼馴染が先程のラウラの姿をしている妄想が思い描かれた。

 初日に彼女のほぼ全裸に近い姿を見ているために容易に想像できる。箒のプロモーションは同性も羨むレベルで、特にその美巨乳は異性だけではなく同性も引きつけて()まない。

 その為、彼は一気に赤面し一般的にはイケナイ妄想なので誤魔化しに入った。

 

「違うっ、違う!俺の趣味じゃねぇって!そう、あれは素子先輩の…

 そう!元を辿れば師匠の趣味だよ!!」

 

「そ、そうなのか?」

 

「そうそう!それに無理にやる必要なんて無いってんだ。箒は箒で魅力的なんだからさ!!」

 

 「み、魅力的…私が…‥」

 

 彼女が黙ったのでヤらかしたかと思った一夏であったが、怒っている様でないので一先ず胸を

撫で下ろす。だが、今度は箒との間で気まずい沈黙が流れる。

 どちらもどうしようと思順していたが、また一夏を呼びに来た他メンバーの介入で解除されたのであった。

 その後は遅刻しそうになったり、一夏が相変わらずフラグ立てや強化を行っていたりしての

何時も通りの日常が過ぎ…放課後になる。

 

 場面は生徒会室、最近はわりかし真面目に業務をするような楯無と満足気にそれを補佐する

虚であったが、出入り口から音がしたのでそちらに視線を向けた。

 廊下から駆け足の音がし、扉には封書が挟まっていた。生徒会室内の二人は首を傾げるが、虚が何か言われる前にソレを取りに行き楯無に差し出す。

 持ってみても、透かして見ても何か仕掛けられてる様子もない変哲もない封書であったが、

見た目が違和感バリバリである。

 封書の素材は固めの和紙で出来ているが、手紙を包み折り入れただけのモノ。

そして、正面には見事な毛筆で…

 

「ねぇ、虚ちゃん。コレってどう見ても…」

 

「ええ、()()()()ですね・・・」

 

 そう、『果たし状』と書いてあった。つまり、時代劇でお馴染みのアレである。

 どうやら、楯無にとって避けられない戦いが待っているようだ。




今回はどうでしたか?暫くは『臨海学校編』の前日談である日常シーンが続くと思います。
まぁ、コイツらが大人しくしている筈もないのですがね!
臨海学校に行くまでドタバタとさせるつもりです。
そして、次回は更識姉妹のケジメ(果し合い)を書こうと思います。
買った原作はまだソコまで読み込んで・・・と言うか、4巻序盤で止まったままなのですが、他のフラグも合わせてここら辺でさせなくては成らないのが現状です。
もしかしたら、原作ファンからすればおかしくなるかもしれませんが…ご承知お願いいたします。

最後に、リアルで忙しくて力尽きていて申し訳ございません。
この駄作を楽しみにして頂ける喜びと感謝は言葉に尽くせません。
どれだけ遅くなっても、原作最新巻までは行きたいと思っているので、どうかよろしくお願いします。


では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA44ss:声に成らない絶叫

また…大分、遅くなってしまいました。
仕事の方も忙しい、厄介な状態が続くようで気力が上がらず筆も走りませんでしたが、ようやく
お送りできます。

では、どうぞ御ゆるりと。


 私は、貴女の背中を何時も見ていた。

 私は貴方に…憧れた。目標だった。好きだった。誇りだった。

 そして、嫌いだった。憎んでいた・・・

 

 

 とある日の放課後、ここ第四アリーナは貸切になっていた。

 そこには、観客席に十千屋と一夏を含む彼らのいつものメンバー。管制室に千冬と山田先生の

 教師二名。

 そして、アリーナ内には楯無と簪の二人である。

 

「簪ちゃん、アナタ…私に挑む気なの?」

 

「ええ、そうよ」

 

「アナタは()()()()の肩書きを分かっておいて?」

 

「分かって…る」

 

 楯無は久しぶりに対面する妹の雰囲気の違いに内心動揺を隠せなかった。それ故に自分がIS学園生徒会長-つまり、学園最強の称号を持っていると確認させるが彼女の気概は衰える事は無い。

 姉妹間で今までにないパターンではあるが、彼女は内心を顔には絶対出さないようにし何時もの不敵な笑みを浮かべる。

 そう、彼女()は挑戦者で自分(楯無)はそれを受ける者。ならば、どんな理由があろうともこの勝負に

負けるつもりはない。

 これから始まる試合(姉妹喧嘩)に十千屋達は見届け人として、事の成り行きを見守っていた。

 

 何故こうなっているかは少し前に遡る。数日前に楯無は果たし状を受け取った。

見るからに時代劇に出てきそうな見た目であったが、開封し中身を見た時に一瞬言葉が詰まる。

 差出人は自ら愛する妹-簪からだったのだ。自分と妹の仲は良いとは言えない。とある理由から彼女を自分から遠ざけた以降は、不干渉と言ってもいい。

 それがどう言う心境となりコレを送ってきたのかは、想像もできなかった。

 だが、自分は生徒会長…IS学園最強の者がこの肩書きを得られるのだ。

だから、それに挑戦する者が居れば答えなければこの称号は形骸化してしまう。

 個人的には、どう接していいか分からない妹から逃げたい。嫌いではなく好きだから、

でもどうしていいか分からないから逃げ出したい。しかし、肩書き上は挑戦者から逃げ出せない。

 結局、楯無は二律背反を胸中に秘めたまま今日に至った。

 

 

 試合開始の合図と共に初手は二人共それぞれの近距離用武器をもってぶつかり合う。

楯無は四門のガトリングガンも装備され、特殊ナノマシンによって超高周波振動する水を螺旋状に纏ったランス『蒼流旋』簪は対複合装甲用の超振動薙刀である『夢現』だ。

どちらも超振動系の武器、周波数を互いの真逆に合わす事で振動を打ち消し合い凌ぎを削り合う。

 この打ち合いで楯無は簪が自分の想定よりも腕を上げている事に驚きもするが嬉しくもあった。だが、そんな悠長な事は考えてはいられない。相手()は本気で自分を倒す気だと伝わってくる。

ならば、自分もそれに答え倒しに掛かるのが礼儀だ。

 近距離戦の小手調べは終わり、互いに距離をとり中~遠距離戦に移行する。

 

「…円状制御飛翔(サークル・ロンド)の状態に入ったか」

 

「師匠、円状制御飛翔ってなんだ?」

 

 遠距離戦に入った状態を見て十千屋がそう呟くと一夏から質問が入った。彼は試合から

目を逸らさずにそれに答え説明する。

 円状制御飛翔(サークル・ロンド)とは、今は二人だけだが複数の機体が互いに円軌道を描きながら射撃を行い、

それを不定期な加速をすることで回避する事を言うが、訓練にも用いることが出来る。

 その場合は、上記の状況になったあと徐々に速度を上げながら、回避と命中の両方に意識を

向けることで、射撃と高度なマニュアル機体制御の訓練となる。

 

 さて、試合の方に目を向けなおすと遠距離では簪の打鉄弐式の方が有利に見える。

楯無のIS『ミステリアス・レイディ(霧纏の淑女)』は装備上、近~中距離にセッティングされている為、本格的な射撃武装は蒼龍旋に装備されているガトリングガンしかない。

 だが、彼女の腕が距離の不利を縮めいつ均衡状態を破るかは予測ができない状態でもあった。

 

「なぁ、師匠。簪は勝てるんだよな?」

 

「わからん」

 

 どう転ぶか分からない戦いに一夏は行き先を不安に感じ、また十千屋に尋ねるが彼は予測不能だと即答する。危うく椅子から転がり落ちる一夏であったが体勢を戻して彼に言い掛かろうとするが鈴が口を挟む。

 

「一夏、アンタねぇ。言いたい事は分かるけど、本来なら簪の圧倒的不利なのよ?」

 

「何でだよ、鈴」

 

「一夏さん…鈴さんと戦った事を覚えていないのですの?

 代表候補生の実力を身に染みて感じた筈ですわ」

 

「あ?うん、確かに鈴は強かったけどさ」

 

 鈴とセシリアに窘められて、彼女ら-代表候補生の実力を思い出す。負ける気はないが実際に戦ってみてかなり強いと感じたと返答すると、彼女らはそこまでは分かっているなと頷く。

 

「そう、簪もあたし達と同じ代表候補生だけど…」

 

「IS学園生徒会長-更識楯無は現役のロシア代表操縦者。候補生よりも格上。

 つまり、世界に通用する腕前を持つ

 

「にんじんに分かりやすく言うと、現役オリンピック選手とオリンピック練習生くらいの差があるよ~」

 

 今度は鈴の言葉に轟とチェーロが続く。それによってようやく彼は楯無が有数の実力者である事を察することが出来た。

 

 

「(と、まぁ…実力差はそんな感じなんだけど。本当に簪ちゃんは強くなったわね!?)」

 

 今の戦況は再び近距離戦(インファイト)に移った所である。互いに加速してからの打ち合いをすれ違い様に行ってからまた離れての繰り返しだ。

 ココでは武器の形状から簪の方が有利になっていた。すれ違い様に打ち合うということは、

切り捨てる様な攻撃だということ。つまり、突撃槍(ランス)の形をしている楯無の武器ではやり辛いのである。

 突撃槍は直線的な動きをする武器であり、なぎ払う様には出来ていない。

その為、蛇腹剣『ラスティー・ネイル』(剣形態)に持ち替えて対応しているのだがいかせん薙刀と剣ではリーチが違い過ぎる。

 そして、

 

 ガギィン!

 

「ぐぅ!(重ぉ!)せいっ!!」

 

 加速が付いて両手持ちである薙刀の威力は十二分であり、その高威力の攻撃を喰らわない為に

楯無は来るたびに受け流し切り返(カウンター)していた。

 が、この状況は不利だと彼女は感じていた。普通ならこのような全力攻撃は受け流していくたびに相手に疲労が溜まっていく訳だが、

 

「(一度でも完全に入れば、かなり良い具合に持ってかれちゃうのよね。なんたって私のミステリアス・レイディ(IS)って防御力薄いし!)て、また来たわね!?」

 

 互いに離れる加速中にミサイルが楯無に襲いかかる。このミサイルは簪が打鉄弐式に搭載した

ミサイルアーマー(KP(コトブキカンパニー)貸出品)から射出した物であり、不定期に襲いかかってきていた。

 加速中だろうが打ち合い中だろうが襲いかかるミサイルは鬱陶しいこの上ない。しかも、自分()に当たりそうなミサイルは量子変換範囲内に到達した途端、その機能で格納され再利用していた。

 

(そして…何よりも薙刀の極意とは、)

 

表裏毅然(ひょうりきぜん)として 刃筋(はすじ)せり合いなし 間合い残心なり」

 

「織斑先生なんですか、それ?」

 

「薙刀の極意を表した言葉だ。―――それすなわち、」

 

 こちらは管制室、楯無を怯ませる見事な薙刀の振りに千冬はこの言葉を口にし山田先生がそれを訪ねた。

 この文は薙刀の極意を表したもので、簪の一撃一撃がそれを体現している。動きは違うが薙刀の描く円の間合いを守り、相手の隙を見逃さずそこへ気合を込めて打ち抜く。

 

「「護身術 それゆえの極意――“捨て身”」」

 

 今まで放たれている一撃一撃が必殺なのは『捨て身』故にだ。いくら切り返し(カウンター)をされようが、

SEが削られようが全てを込めて打ち出さなければ楯無に届かないと簪は知っている。

 より格上に勝つためならば、多少の代償(リスク)は負わなければならないと教えられた。

 

「それにしても、更識さん。あ、どちらも更識でした。え~と、簪さんは凄いですよね。

 楯無生徒会長にあそこまで戦えるなんて」

 

「そうだな。だが、戦い方が()()()に寄り過ぎているのが気に掛かるがな」

 

「アイツって?」

 

「十千屋だ。アイツの本来の戦い方は極端だからな」

 

 千冬は簪の身を削る様な戦い方に十千屋の影を見出した。実は自身の訓練と表して何度か強制的に十千屋に相手させたことがある。

 その戦い方は散発的な攻撃で相手の隙を作り、致命傷以外の全てを賭け(ベット)に上げ相手を完全に殺しに掛かるものだった。

 

「奴にとって自身の命…いや、そこまでじゃないな。どちらかと言うと安全とかか、

 それらは関係ない。どのようにすれば相手を上手く、効率よく殺せるかが問題らしい」

 

「そ、それって…」

 

「あの時は驚いたぞ?何せ、腕に掛かるSEを解除してワザとブレードを貫かせ、コチラの動きを

 一瞬封じた時に杭打ち機(パイルガン)を突きつけてきたのだからな」

 

 飄々と千冬は話すが聞いている山田先生は引き攣った。いくら生身の腕が無いISの腕の部分を

ワザと貫かせるなんて正気の沙汰じゃない。

 自分自身も戦いの材料として戦うことを前提にするなんて普通じゃない。

しかし、殺らねば殺られると言う精神は嫌でも伝わって来るのであった。

 

「そっソレはともかく!この後はどうなると思いますか織斑先生!」

 

「ふむ、奴が教え込んでいるとすると」

 

 

「どうなるか分からないが、お前らを特訓させる間に簪にも充分仕込んでいたんだ」

 

「じゃあ、簪は勝てるのか!?」

 

「そいつは分からないって言っただろうが。簡単な事じゃない。…一夏、相手より強くなるには

 勝つためにはどうしたらいいと思う?」

 

「え、え~っと?」

 

 再び観客席で簪の動きを解説していた十千屋から一夏に対して謎かけが行われた。この謎かけは一夏だけではなく、何時も特訓しているメンバーにも問いかけている様で一同に首を傾げ考える。

 相手より強くなる、相手に勝つ、その方法なんてごまんと有りどの様な答えが正解など分かない。だから、一夏はストレートにこう答えた。

 

「とにかく一杯特訓をする!」

 

「「「・・・・・・・」」」

 

「(・・・ち、沈黙が痛い!?)」

 

「粗チ○、ツッコミ待ち?」

 

「ツッコミ待ちでも粗○ンでもねぇえよ!」

 

 そのストレート過ぎる答えに皆が生暖かい目で一夏を見つめる。そして、素子のツッコミにより彼はツッコミ返しと同時に吠えるのであった。

 そして、その妹からもボケ返しが・・・

 

「嫁よ、大丈夫だ」

 

「ラウラ・・・」

 

「男の象徴の価値は大きさだけではないと、ウチの副官とシュヴァルツェ・ヴェーアヴォルフ(黒の人狼隊)

 参謀も言っていたからな!」

 

「もう、そのネタから離れろぉお!

 ついでにソイツらと素子先輩の言葉をもう真に受けるんじゃねえ!!」

 

 今度は魂の叫びを轟かせ項垂れる一夏を後目(しりめ)に十千屋は解説を続けた。

 

「確かに一番シンプルな答えだが、普通に考えてこちらが強くなる間にも相手も強くなっている。同じ早さで走るのなら先を行っている方が有利なのは当たり前だな」

 

「では、どうすれば良いのですか」

 

「いくつか方法はある。一点特化しそれだけは相手を上回る方法。あとは、大体は奇策だな。

 虚や弱点を突くような」

 

 十千屋は正当法では暗に格上相手に勝ち目は少ないと説明しており、ならば裏ワザ的な方法しかないと言った。

 それに微妙な顔をする一夏と箒だが、彼はため息をついて嗜める。

 

「お前らが真っ直ぐ過ぎなのは分かっているが、いい加減に慣れろ。戦いは非情だ」

 

「・・・そりゃ、分かるけどさ。なぁ、箒」

 

「うむ、性分と言うヤツだな・・・」

 

 十千屋が意地でも考えを曲げたくない彼らに眩しい若さを感じで、今度は別の意味でため息が

出てしまった。

 自分がどれだけ歳をとり汚れているかを示しているようである。

 

「はぁ、確かにコチラはアウトサイダー気味なのは理解している」

 

「ボク達は固いルール苦手でも♪」

 

「決して負けはしない・・・と言えばいいネタだたっけ?」

 

 正統派から外れる宣言をし、戦闘天才集団(バトルハッカーズ)のネタに走っているカンパニーサイドであったが、

その間にも楯無と簪の間に新しい展開が始まっていた。

 

「ぬぬぬっぅ!」

 

「……っ」

 

 今の状況は鍔迫り合いが始まっているところだ。真っ向から互いに斬り結び、切り捨てる様なブルファイト(ど付き合い)を楯無が攻撃を受けた際に全衝撃をシャオリー(消化)して鍔迫り合いに持ち込んだのである。

 相手の力を逸らせてゼロにする―これが中国拳法で言う所の『()』であり、触れた所で相手の

動きを読むことを『聴勁(ちょうけい)』と言う。彼女は簪の攻撃を受け止めた際にその威力と方向を

読み切り、その方向に下がることで相殺したという高等技術を使ったのだ。

 彼女の目的はもう一度至近距離から()と向き合い、その胸中を探る事であったが…まさか、

こんな事に成るとは思ってもいなかったのである。

 

「簪ちゃん、結構デキる様になったじゃない?」

 

「…更識生徒会長」

 

「…ぅ (思いっきり他人行儀にされるのは結構クルわね(´;ω;`)) 何かしら?」

 

「最近…嬉ショ○癖が付いたのって本当?」

 

「……は?」

 

 簪から他人行儀されるのに密かに傷ついている楯無だったが、彼女からの明後日の方向に向いた質問に頭が真っ白になってしまう。

 だが、これは序章にしか過ぎなかった。

 

「他にも…だいしゅきホールドがマイブームだとか、子供心に戻って幼児プレイだとか、

 その際にリアハさんの乳房に吸い付いているだとか、さらに・・・」

 

 「(//д)▂▅▇█(声に成らない絶叫)▓▒░░」

 

 楯無にとっては知られてはならないはずの恥部が赤裸々に妹の口から淡々と語られ、確認させられる。・・・これほどの羞恥はあるだろうか?いや、彼女にとっては無い

 見学者一同は一瞬思考が完全停止する。そして、気がついて次にとった行動とは・・・

 

「ぬがっ!?箒っ・・・何をするんだ!?!」

 

「ええいっ!今は我慢しろっ。

 乙女の情けでこれ以上見せるわけにも聴かせるわけにもいかん!!」

 

「そう言う事!つー訳でアンタの頭をロックさせてもらうわ!!」

 

「では、わたくしは後ろにでも」

 

「ぬ・・・では、私は前にでも座るか」

 

「僕は・・・コッチかな?」

 

 一夏を取り巻く女の子達は彼のあらゆる所に抱きつき、楯無の恥部を見せぬように聞かせぬようにした。

 箒が右から彼の頭を胸の中にかき抱き、鈴はその反対である左から、セシリアは後ろ、ラウラは何故か膝に座り、ドサクサに紛れてシャルロットは腰に抱きつく。

 この圧倒的女肉率に一夏は混乱する。

 

「見えない!?息苦しい!?なんかいい匂いがするような?

 ・・・てっ、誰だ!尻を触ってるのは!?!」

 

 カンパニーサイドの方は「あぁ、なんか可哀想」とか思いながら遠い目をしていると、

管制室から放送が流れる。

 

「十千屋、貴様・・・この試合が終わったら楯無と共に生徒指導室に来い」

 

「・・・拒否h「など、有ると思ったか?」デスヨネー」

 

 千冬は米神をヒクつかせながら放送を流し、通信を繋いでいない十千屋に対し先読みして

逃げ道を潰す。流石に、この内容は教職員として見過ごせなかったらしい。もう一人の教員である山田先生は、顔を真っ赤にし耳を塞ぐ様な仕草をしながらも確り痴話を聞いていた。

 

「おじ様、もしかして・・・コレも貴方の仕込みですの?」

 

「いやぁ・・・な?相手を揺さぶるのに攻撃だけではなく精神的にもヤってしまえ、

 と言ったがこうなるとは思ってなかったよ・・・実際に」

 

 一夏の後ろ側から抱きついているセシリアはジト目をしながら十千屋に問い質すとこのように返ってきた。

 実際に、ただの攻撃だけでは楯無に隙を作らせる事は出来ないと予測しており、精神的にも

何かしらの過負荷(プレッシャー)を掛ける事を戦法の一つとして簪に伝えていたのであるが・・・

 まさか、彼女の性事情を赤裸々に言い放ってくるとは思ってもみない出来事であった。

 だが、効果は抜群である。現に楯無は正気を失っており、簪が語る痴話にギャーギャー、

ワーワー叫んで駄々っ子の様にランスを振り回しており先程の見事な戦いをしていた影はない。

どれだけ叫んでも、彼女がオープンチャンネルで話し観客席まで筒抜けであるゆえに無意味であったが・・・

 

「簪ちゃん!何で知っているかは聞かないし、聞きたくないけど・・・

 それよりもそんなに私のこと嫌い!?(`;ω;´)」

 

「そんな事、『嫌いだった』に決まっている・・・」

 

 今度は簪がワザと鍔迫り合いに持ってこさせ、ようやく追いついた妹に楯無が問い質すが

完全なる拒絶にいま一度、頭が真っ白になった。

 今、自分がどんな表情でどんな事を言い返せば分からない彼女に簪は軽蔑の目で見つめている。彼女が永遠とも感じた数秒後に何とか力なく聞き返す。

 

「か、簪・・ちゃ・・・ん。わ、わた・・・私の事がききき・・・嫌い、なの?」

 

「ええ、嫌いだった」

 

 楯無のランスに力が入っていない事が分かった簪は彼女を弾き出し、ここから物理的にも精神的にも攻勢に入った。

 一方の楯無は無意識的に防御体勢に入るが、彼女の拒絶によって引き起こされた思考の

低下により体が動きが追いついていかない。

 

「な、なんで・・・」

 

「・・・っ、貴女は私に何を言った?」

 

「な・・・なに・・・を?」

 

「貴女は私に言った・・・『無能でありなさい』」

 

 簪が言った言葉に確かに彼女は覚えがある。そして、その言葉をかけた時から姉妹の不和がより感じられるように成ったのも。

 更識家は『対暗部用暗部』と言う国の裏側を支えてきた家系である。

若くしてその頭領-『楯無』を襲名した彼女はその闇を知っていた。

 それ故に、味方からも敵からも目を付けられないように、関わらないように簪に向けこの言葉を掛けたのである。だが・・・

 

「貴女は私の憧れだった、目標だった、誇りだった。

 何時か貴方に追いつき側に立てるように色々と頑張った」

 

 昔から何でもこなし輝かしいまでの記録を残す楯無に簪は尊敬と意念を抱き、

その妹として恥じぬように努力を重ねてきた。

 勉強も例年全国模試に常に上位に入るぐらいに努力したし、運動も色々と人並み以上にできるようにしたし、取れる資格や検定も次々と取っていった。

 だが、どれもこれも更識楯無を知っている者にとっては何もかも劣っている結果に過ぎず

下にしか見られない。その事に挫きかけたが、(楯無)の事が好きだったから頑張れた。しかし、

 

「貴女は私に『無能であれ』と言いつけた」

 

「・・・・わ、わたしはっ」

 

「ねぇ?私は頑張ってはイケナイの?何もしちゃイケナイの?言いなりで居なくちゃイケナイの?貴女(お姉ちゃん)の妹であってはイケナイの?」

 

「わ、私はっ・・・」

 

「だから、この戦いで証明する。私は貴女を倒し、力無き者《無能》ではない事を!

 逆に貴女が勝って証明するといい・・・私が貴女の言いなり(人形)だって事を!」

 

「私はっ・・・!」

 

 簪の悲痛な叫びがアリーナに響き渡り、言った方も言われた側もどこか泣き出しそうな顔で刃を交える。その姿にふざけ合っていたような観客も心を打たれ押し黙った。

 特に十千屋は、どちらとも自分に関わっていた為に彼女らが互いに互いを思いやっている事を知っている。その深さも知っている。すれ違いからくる不和も。

 この戦いは避けれた事かもしれない。だが、始まってしまった。だからこそ願う、この戦いの

先にきっと互いが望んでいた事が有ると。そう思っている彼の手を隣に座っていたリアハが

握り締め、二人は戦う二人から片時も目を離さなかった。

 

 楯無はもう説き伏せる事は無理と判断をせざえるしかなかった。と、同時に分かった事がある。これは彼女()のケジメ付けなのだと。

 何時も一人で頑張っているのは知っていた、自分にコンプレックスを感じているのも何処となく感じていた。そして、そこから救い出して欲しいからヒーローと言う存在を待ち望んでいる事も

何となく。

 しかし、彼女は一歩踏み込んだ。コンプレックスの元である楯無と自分の弱さに決着を付ける為に(楯無)に挑んだのであると。それを後押ししたのは、きっと何時からか自分を抱きしめてくれるあの人なのだろう。

 もう、簪と戦うのは嫌だ。けど、立ち向かってきてくれた妹を受け止められないのはもっと嫌だ。そう思い楯無は今まで目を背けていた彼女()に確り向き合う。

 

 戦いはますます熾烈を極める。今のSEは楯無の若干有利、だが攻撃力と防御力、それらを支えるアクア・ナノマシンの残量が心持たなくなっていた。

 ミステリアス・レイディ(霧纏の淑女)の第三世代コンセプトはイメージ・インターフェイスを用いた特殊ナノマシンの搭載、それを最大限引き出してグストーイ・トゥマン・モスクヴェ(モスクワの深い霧)と呼ばれるISのデータを使いフルスクラッチしたのがこのISである。

 これにより殆どのパーツにナノマシンで構成した水を使用しているため、水を自在に操ることができる。だが、逆に水が尽きれば最低限の機能を持ったISに引き下げられてしまう。

 

 戦いの場はアリーナの底に移行していた。残存SEと水の量を考えると無理矢理にでも大技を当てる必要がある。楯無はたった数拍の間で勝機を手繰り寄せようとした。

 射撃攻撃からの接近戦への強襲、それらを巧みに躱し斬り合いの際に自分と相手の得物ごと腕を絡みつかせる。

 

「ふふっ、だいぶ熱くなってきちゃったわ。でもっ、熱し過ぎには注意よ!!」

 

「・・・想定済み」

 

 絡まれた腕はISの部位だったので簪は部分的に解除し、生まれた隙間からその場から退避した。上手く抜け出したと楯無は感心するが、もう仕込みは終わっている。

 ナノマシンで構成された水を霧状にして攻撃対象物へ散布し、ナノマシンを発熱させることで

水を瞬時に気化させ水蒸気爆発を起こす、その衝撃や熱で相手を破壊する戦闘能力・・・その名は、

 

清き熱情(クリア・パッション)!」

 

「・・・それも想定済み。自爆して?」

 

「え?」

 

 散布していたナノマシンは思った以上に飛んでゆかず自分の周りへと沈下したまま、一度指令を受けたナノマシンは止まることは出来ない。清き熱情(クリア・パッション)は楯無を爆心地として発動した。

 抜け出した一瞬後に起こった水蒸気爆発だが、瞬時加速(イグニッション・ブースト)による退避の御蔭で思ったよりも

爆破の衝撃を受けずに済んだ。爆心地は今も蒸気が立ち篭めているがコレで終わる楯無でないと簪は知っている。

 煙が薄くなり、ソコには肩で息をしていている楯無の姿があった。しかし、表示される相手の

残存SEはかなり減っており、水のタンク兼装甲の元である左右一対で浮いているアクア・クリスタルも試合当初よりもかなり縮小している。

 これから察するに、クリア・パッションの誤作動を瞬時に察知した楯無は間一髪で水の装甲を

形成&増量し爆発に耐えた。が、流石に無傷といかずに多量の水とSEを失う結果になったのであろう。

 

「ふふ・・・流石は私、何とか耐えたわ。でも、何故誤作動を?」

 

「教えてあげようか?」

 

 耐え切り自画自賛していた楯無に多数のミサイルのロックオンと銃撃が襲いかかる。彼女はそれを避けながら今度は簪のネタばらしを聞くのであった。

 

「簪ちゃんの仕業だったのね。じゃあ、お言葉に甘えてトリックを教えてもらいましょうか?」

 

「今の此処(アリーナ)は下水処理施設なの」

 

「は?」

 

「下水処理施設には沈殿池と呼ばれる部位が数箇所ある。微妙な違いはあるけど、

 目的は同じゴミを沈めて取り除くこと

 

「ま、まさか・・・」

 

「水に含まれるアクア・ナノマシンを沈殿池で使われる沈殿凝固ナノマシンで沈めさせてもらった」

 

 「私のアクア・ナノマシンがまさかのゴミ扱い!?」

 

「ありがとう、円状制御飛翔(サークル・ロンド)に付き合ってくれた御蔭でよく混ざった」

 

 簪のとった手段とは、端的に言えばナノマシンの除去である。ミステリアス・レイディ(霧纏の淑女)の水で

構成されたパーツはナノマシンに因って構成されているのは説明した。

 ならば、そのナノマシンの行動を()()できたのならどうだろうか?アクア・ナノマシンで水を

操ると言ってもナノマシン自体が水である訳ではない。水の中に浮かんでいるだけだ。

 そこに微細なゴミに取り付いて塊となるナノマシンを注入したらどうなるだろうか?

結果は、アクア・ナノマシンが身動きがとれずに沈むだけである。その為、先程のクリア・パッションは目標までの散布が届かず自分の周りで誤爆したのである。

 沈殿凝固ナノマシンは簪が度々使っていたスモークミサイルの煙に含まれおり、この空間には

沈殿凝固ナノマシンが充満しており彼女が言った通りによくかき混ぜられ満遍なく満ちていた。

 

 これらの説明を受けて楯無は驚愕した。自らのISの特性を逆手に取られ弱点にされたのだから。今も沈殿凝固ナノマシンがアクア・ナノマシンを捕まえ落ちていっておりそのエラーがISに伝えられている。

 戦闘に使用していたので微細な変化に気づかなかった。と、言うよりもこんな方法で自分の戦法を付き崩されるとは思ってもみなかったのである。

 しかし、簪の猛攻は止まらない。呆然としている楯無に向かって多量の粉が降りかかった。

その量はザバァではないダバァアッと形容できる程に多量である。

 気を取り直し何かと思った次の瞬間、アクア・クリスタルもナノマシンで構成された水のヴェールも縮小またはゲル化して落ちてゆく。この事態に楯無は慌てるが襲いかかってくる簪によってそれどころではなくなる。

 

「今度は各種、乾燥剤、脱水剤、高吸水性高分子を当ててみた」

 

 「簪ちゃんの鬼!鬼畜!!悪魔っ娘!!!」

 

 楯無の周りにはもうアクア・クリスタルも水のヴェールも無い。蒼流旋に付いたガトリングガンの弾も心もたない。残存SEも逃げ切るには足りない。

 無い無い尽くしの彼女はもう自棄(ヤケ)になるしかなかった。その攻撃をワザと受け簪は彼女を捕まえる。しかも何時か十千屋が使っていたM.S(メカ・サポート)シリーズのフレキシブルアームで四肢もガッチリ

掴まれており絶対に逃さないという意思が見えた。

 

「更識生徒会長、一緒にイって貰う。まぁ、逝くのは貴女一人だろうけど」

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれないかしら?」

 

「待たない」

 

 拘束された楯無のハイパーセンサーに表示されるのは、学年別タッグトーナメントで見られた

あのミサイルポッドである。あの時よりも数は少ないが自分の左右と後ろに展開していた。

 引き攣った顔でタンマを言う彼女であったが、無情にもソレは却下される。そして、地獄の蓋が開かれた。

 

 「イヤァアアアア!?!」

 

「くっ・・・」

 

 無情にも抵抗できな楯無に向けミサイルは左右と後ろから一斉に放たれた。恐怖によって彼女は叫び、簪は彼女越しに来る衝撃とミサイルの巻き添えを喰らい声が漏れる。

 次々と爆発するミサイルに爆煙が立ち篭め彼女らの姿が見えなくなる。その中で楯無のSEがゼロとなり簪の勝利となった。

 数拍後、煙が晴れたそこにいたのは目を回している楯無と煤だらけになり煙にむせているが

何処か晴れ晴れとしている簪である。

 

 

 試合後は簪と同じピットに戻った、と言うより連れてかれた楯無であったがその頃にはもう意識を取り戻していた。

 

「更識生徒会長、どう?私は貴女の望んだ通りに無能だった?」

 

「・・・いいえ、貴女は強くなった。決して無能なんかじゃない。

 そして、私が嫌いと言うのもよく分かったわ。もう、()は要らないのね」

 

「・・・? お姉ちゃん、そこの()()の部分をよく思い出して」

 

「はい?」

 

 問いかけて来た簪に楯無はその答えを返す。有言実行し、自分という存在が必要ない寧ろ嫌われていると確認したら彼女から指摘を受ける。

 そこでよ~く思い出してみる。彼女は何といった嫌いと言ったけど、「嫌い()()()」・・・あれ?嫌い()()()()()()・・・過去形?

 

「か、簪ちゃん ヽ(;▽;)ノ」

 

「うん、今では昔の通りにお姉ちゃんの事は好きだよ。

 あの言葉の真意は十千屋さんに教えてもらった・・・けど、他に言いようはあったと思う」

 

「ウッ・・・」

 

 簪の実質上の仲直り宣言に楯無は感涙を流すが、不和の原因となった言葉を指摘されると言葉に詰まる。

 まぁ、今思えば妹に対してカッコつけたがりで年齢的に中二病の最盛期であっただろうから、

そのような言葉選びに成ってしまったのであろう。

 しかし、それで簪は傷ついてしまったし遠回し過ぎの分かりにく言葉のフォローがなかった点についてはヘタれていた楯無が悪い。

 

「でも、コレでお姉ちゃんの側に立てるように成れたと思う。もう、切り捨てる必要はないよ」

 

「簪ちゃん! (T▽T)」

 

 いつの間にかこのピットに集まっていた観客達は姉妹の仲直りに感動し、暖かい目で見守っていた。

 だが、ここから楯無の痴獄(ぢごく)(誤字にあらず)がまた始まる。

 

「うん、私は強くなれた。後ろとか色んな処を弄られて可愛がられてお姉ちゃんがアヘアヘ言っている間に、私は基本的にボッチであるお姉ちゃんと違って皆の力を借りて此処まで来れた」

 

「だから、そこまでイってないってば!何とか未だに、『トロ顔 らめぇ…』くらいよ!って…か、簪ちゃん・・・やっぱり、お姉ちゃんの事嫌いなの!? o(TヘTo)」

 

「ううん、違うよ?」

 

 また楯無の痴情を指摘し、その合間に強くなれたと貶す簪に彼女は別の意味の涙を流しながら

抗議すると・・・今まで自分が見たことのない笑顔で()は否定する。

 その笑顔は本当に楽しそうで普通じゃない意味でイイ笑顔であった。

―――もし、言うなれば()()と言えるかもしれない。

 

「そう、真っ赤になって、恥ずかしそうで、泣きそうな顔になっているお姉ちゃんは

 もっと好きだよ?」

 

「か・・・」

 

「か?」

 

 「簪ちゃんが、かん()しちゃんに成ったぁぁーーー!!!

 ▂▅▇█▓▒░(TωT)░▒▓█▇▅▂」

 

 今までの良い雰囲気は吹き飛び、妹がドSの愉悦に目覚めたと察した楯無は滝の様な涙を流し

逃走する。

 この光景に皆が()暖かい目に変わり、どうしようもないのでその場に立ち尽くしていた。

 その中で一人、簪の目の前に出て来る人が居る。

 

「簪お嬢様」

 

「虚さん?」

 

「仲直りおめでとうございます。そして・・・」

 

 その人物とは楯無の付き人である虚であった。彼女は姉妹の仲直りを祝福すると、

簪が浮かべたような愉悦の笑みを浮かべ手を差し出す。

 

「ようこそ、コチラ(お嬢様をイジリ隊)へ」

 

「よろしく、(お嬢様をイジリ隊の)先輩」

 

 ガッシリと握り合った握手はコノ後の楯無の有様と比例するほど力強いものであった。

 もう、どうにも出来ない雰囲気に周りの人たち皆は自然解散の流れとなり一人、もう一人と帰路へつく。

 

 簪との確執は解消されたが・・・お察しの通りこの後は妹までにイジられ逃走する楯無の姿がよく見られるようになった。

 それ故に甘えさせてくれて慰めてくれる十千屋の元へ来る回数が増えたのはもっぱらの余談である。




さて、今回は今度は姉妹のケジメ付けです。
更識姉妹の出番は原作でも二学期目からなので、早く出番を出していた為に仲直りも早くしたかったので今回のオリジナル話となりました。

けど、その結果が…
簪のミサイル・マスター化、(楯無)専用のドS化
楯無の残姉ぇ(ざんねえ)化、ヘッポコ化
…と、言う謎の現象が起きてしまいましたが、まぁコレはコレで美味しいのでしょうか?

次回は、今回のオマケとして入れる予定であった楯無の完全なる十千屋ファミリー(の愛奴)加入と、思いついたネタを書きたいとおもいます。
それ故に文字数は少なるかもしれませんが、楽しみにしている方がいらっしゃるならお気長にお待ちください。

それにしても、何とか年明け前に書き途中の話を上げられてよかったです。
前書きに書きましたが、仕事が何か忙しい&厄介な事になっており気力が湧かなかったのです。
しかも、その状態が暫くの間続くようで…しかも、仕事始めからさらに厄介に成りそうです(^_^;)
今まで以上に更新速度が落ちると思いますが、続けては行きたいと思います。

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。

最後に皆様方、良いお年を!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA45ss:『刀奈』よ

新年明けましておめでとうございます。
もう、丁度2週間を過ぎてしまいましたが今年度初の投稿です。
今まで以上に更新頻度が不定期な上で遅くてすみません。

そして、今回は楯無(ファン)の皆さん閲覧ご注意かもしれません・・・

では、どうぞ御ゆるりと。


 ん?アイツとの馴れ初め・・・って、なに聞いてるのよ。

 ・・・しつこいから話してあげるけど、最初のインパクトは酷過ぎたわ。

 まぁ、それから色々とエロエロと…なに言わせんのよ。とにかく、色々な事があったわ。

 だけれども、まさか自分がこの言葉に当てはまるなんて思ってもみなかったわ。

 何かって?アレよ、アレ。惚れたの腫れたのした方が…って。

 

 何度も言わせないでよ?結局、私は彼に惚れ(喰べられ)ちゃったのよ。

 

 

 

 柔らかな間接照明が仄かに彩る中で二つの影は一つに繋がり、また離れようともしても互いに

繋がり合う。男の無骨な手指と女の華奢な手指が絡みつき、お互いの口内を啜り合うかのように

口付けを交わす。男は何度も男女が真に混じり合う部位を奥底まで届かせるように動き、女は

決してソレが溢れないように足を絡ませ懇願する。

 獣の様な初源の交わりと吐息の中で二人は最後の瞬間を悟り、決して離れることがないよう、

最奥に全てを届かせるように・・・・

 

 

 バサァ・・・

 

 此処は学生寮の一室、今の音は掛け布団を軽く跳ね除けた音だ。その音の主は楯無である。彼女は自身の体の火照りと多量の寝汗のせいで不快になり靄がかかった頭のまま起きたのであった。

 今の時間は朝と言うには少し早い、いつも起きる時間よりもだいぶ早いが夏に近づいている今では朝日が眩しく入ってくる。

 彼女は寝汗の臭いが気になり、その場で寝巻き代わり着ている安物のYシャツとショーツを脱ぎシャワールームへ向かう。

 そこそこ音を立てる事になるが、一度寝入ると特定の目覚まし音でしか起きないルームメイトの事だ。今も緩みきった寝顔で爆睡しているし迷惑には成らないだろう。

 しかし、特定の音と言うのが…何故、暴れん坊○軍のテーマなのかは全くの謎ではあるが。

 

 シャワーを浴び、不快であった寝汗と気になる臭いは文字通り洗い流した。用意しておいたバスタオルで水気を拭き取り、替えの服を取り出すためにクローゼットに手を掛ける。

 その中には衣類と全身を見ることの出来る姿見()があり、自身の姿がよく見えた。

 一般的に巨乳と言われるサイズの胸だが、形は整っておりただ大きいだけじゃない。腹部は薄らと腹筋が見え絞られており腰とのクビレがいい塩梅だ。腰-臀部も張りがあり柔らかそうに見えてもキュッと締まっている。

 シャワーを浴びて頭の中もスッキリとしてきた楯無は自身のプロモーションに高評価を下し、

自然と調子も出て来た。

 が、自分の下腹部…詳しく言えばヘソの下あたりに浮き出ている紋様に目が移る。

その形は中抜きしたハートが三つならんだ様な形をしていた。三つならんだ左右は中央より

ふた回りくらい小さく、中央のハートに蔓のような紋様で繋がっている。紋様は美白な彼女の肌に違和感のないように薄いピンク色をしていた。

 楯無はその紋様にそっと手を重ね、コレを刻んた時を思い出す。先程まで見ていたあの淫夢は

夢ではない。記憶なのだ、紋様と同じく彼女に刻まれた…。

 

 

 事の起こりは数日前に遡る。簪と試合(姉妹喧嘩)した後の話だ。

 あれ以降に改めて十千屋メンバーと一夏メンバーに挨拶し、彼ら彼女らの訓練に参加するようになった。楯無は簪と居られる時間が増え嬉しかったし、生徒会でも以前から十千屋達が来ていたが簪も来るようになった。

 まぁ、自身の痴態やツッコミどころを従者()()とダブルで弄られる事も度々あるが、以前よりも充実した日々を送っている。

 が、簪が力を示したせいか楯無はどことなく喪失感や無気力感を感じてた。原因はすぐに思い当たる、妹が被保護者の立ち位置では無くなりつつあるからだ。

 好きで大事で、だから遠ざけたのに近づきたくて、その二律背反で縛られた影響による

ストーカー気味な保護欲が行き場を失ったせいである。所謂、妹離れが寂しいと言うものだ。

 ここで問題なのはその桁が喪失感や無気力感を感じる程に大きかった点であろう。

ソレは人恋しさ、人肌の温もりを求めて自然とある場所へ足を運んでしまう。

 そこは…

 

「妹離れが寂しいのも分かる。けど、姉妹の縁は切れないものだろ?」

 

「でも、寂しいのよ。ココに隙間風が抜けるように少し肌寒いの」

 

「大丈夫、時が経てば良くなるわ。それまで私達が温めてあげる」

 

 彼女の拠り所と成りつつある、ほぼ十千屋所有状態である社用海上拠点船(テーサウルスアルマ)の個室だ。十千屋夫婦がこの学園での私生活の場でもある此処は招かれなければほぼ誰も入れない。

 過去に楯無は此処に潜り込んだが、今はほぼ身内となって彼ら夫婦に甘やかされに来る。

 時には仕事、時にはイタズラ、時にはただ甘えるために何度も彼女はここを訪れ愛情とお仕置き(調教)を受けてきた。

 

 今回も心寂しさからフラリと此処に訪れ夫婦の間で抱きしめられている。ただし、十千屋夫婦も楯無も何も身に付けておらず身を隠すのは皆に掛かっている薄いシーツ程度だ。

 この事から分かるように彼ら彼女らは、ある一線を超えた仲であると言えるだろう。

そして、この時に十千屋はとある決断を彼女に迫った。

 

「簪は足を次に踏み出した。俺も踏み出すべきかな…」

 

「どうしたの?」

 

「リアハ、『アレ』を持って来てくれ」

 

「はい、いよいよですね」

 

 十千屋は横たえていた身を起こしそう呟く。楯無は何か分からず聞き返すが、何も答えは返ってこずに彼らは行動する。それに少し不安になるが彼は彼女の頭を撫でて安心させ、リアハはその『アレ』を持ってきた。

 そのモノは無針注射機と半固形タイプのカプセルだ。ソレは楯無のすぐ脇に置かれ、何かと彼女は目で訴える。

 

「楯無…コレは俺らと次の関係に進む際に必要なものだ」

 

「次の関係って何よ?」

 

「お前を俺らの身内側(ファミリー)にする。本当の意味で()()って事だ」

 

 十千屋の答えに楯無は期待と少しの不安が入り混じった心境になった。今まで彼女は色々と手を出されてきたが、真なる意味では抱かれていない。その証拠としてなのか彼らは彼女を処女のままでここまできている。

 それ故に本当の意味で抱くと言うのは、彼女の処女を奪い自分(十千屋)の女にすると言う事だと言うのが想像できた。

 だが、それに必要なものとは一体何だろうか?

 

「たっちゃん。このカプセルは私たちが-ううん、ユウさんが考案してナナジングループが作った

 ナノマシンタイプの避妊薬よ。精子だけじゃなくて、卵子にも作用するから避妊率はほぼ完璧で

 副作用が無いの」

 

 楯無はそれを聞くと「まぁ、必要よね」と思いながらカプセルをつまみ上げ、リアハはそれを

見ながら効果期限や使用方法を説明してゆく。

 カプセルは分かったが、無針注射機は何かと尋ねると説明していた彼女は見てもらった方が早いとの事で、いきなり十千屋と口付けを交わした。

 彼女は彼の口を啜り、自らの秘所を(まさぐ)(たか)ぶらせてゆく。彼も彼女に応えるために受け入れ、自分も彼女の秘所へ手を伸ばした。その様子に楯無は固まるが、何だかんだで艶場を見てきたので逃げ出したりはする事はない。

 数十秒経ち互いの口に銀の橋を架けながら離れると、リアハは両手をヘソの下らへんに添えて

楯無と向き合う。その時に彼女は初めてリアハのソコにハートを象った紋様がある事に気づいたのであった。

 

「たっちゃんは今までテンパっていて気付かなかったでしょうけど、ユウさんの奥さん()には皆

 『コレ(紋様)』が付いているんですよ」

 

 添えていた手は慈しむ様に紋様を撫でいる彼女に代わり十千屋が説明する。無針注射機に入っているのはこの紋様を作るナノマシンが入っており、やはりと言うかこれはタダのタトゥー(紋様)ではない。

 普段は使用者の肌色に合わせて変色しており目立たないようになっており、性的興奮を感じると浮かび上がるようになっている。他のにも…どちらかと言うとコチラの機能の方がメインであるが、ナノマシン製のタトゥーなので子宮の状態に合わせて変化するのだ。

 排卵、受精、着床などそれぞれに合わせ絵柄が変化する。そういう物だと説明した。

 

 それを聞き楯無はコレは証明なのだと、肉も心も子宮さえも彼のモノだと言う事を示すモノだと頭ではなく心で理解する。

 本当は不妊気味のリアハが効率よく妊活する為のモノだったが、彼の奥さんに成った者や成る者がリアハに習い紋様をつけていった。この現状に彼は満更でもなく、そこまでして証明してくれる女性たちを自分から受け入れてゆく。そして、いつの間にかそういうモノと成っていたのであった。

 

「俺が本当に抱くと言うのはこういう事なんだ。無論、拒否していい。

 その代わり…一生この先へと踏み込まないし踏み込ませないと誓おう」

 

 辛くなってここに来たら慰めてあげる事は変わらないが、と彼は言葉を続けるが楯無は俯きながら聞いていた。

 その様子に流石にショックがあったかと十千屋は思うが、

 

 「……わよ」

 

「…何だ?」

 

 俯いている楯無が何かを呟き、十千屋が聞き返そうとした瞬間に彼女は傍に置いてあったアレらを掴むと即座に使った。急な出来事に十千屋達は固まるが、空になった無針注射機を放り出し彼女はこう言い放つ。

 

 ズルいわよ!あんな事したくせに!こんな体にしたくせに!

 今更、何言ってるのよ!つべこべ言わずに私の事を抱きなさいよ!

 臆病もん!!」

 

 半泣きになりながらそう訴える楯無に十千屋は堪らなくなり抱きついた。そして、彼女の耳元でこう囁く。

 

「そうだよ、俺はズルいんだ。来る者は拒まないし、去る者は追わない。けど、怖いんだ。

 嫌なんだ。一緒にいてくれる人が去ってゆくのは。だから繋ぎ止める為に何でもするし、

 証明してくれないと安心できない臆病者なんだ」

 

 楯無は初めて聞く十千屋の弱音に驚くが、何だかんだで似た者同士と思う。自分は簪、彼は彼を取り巻く女性たちや仲間。それらを失うのは何よりも耐え難いのだと。

 最強に見えていた彼の弱さを受け止めると彼女の中に生まれるモノがあった。

 

「もう私は貴方のモノだって分かったでしょ?分かったなら次に進みなさいよ」

 

「ああ、分かった」

 

 いつの間にかキツく抱きしめいた楯無を優しく横たえ、十千屋は彼女に覆いかぶさる。

 

「楯無…」

 

「…待って。私の本当の名前は『刀奈(かたな)』よ。もう私は貴方の女なんでしょ?」

 

 楯無…いや、刀奈はコケティッシュに笑うと自身の本当の名を十千屋に告げる。彼は瞬間呆けるがすぐさま笑みが浮かんだ。

 

「そうだな。『楯無』は()()だもんな。イクぞ?()()

 

「ええ、来て?」

 

 二人の距離がゼロへとなる瞬間に彼はこう彼女に向けて言う。

 

「愛してる、刀奈」

 

 この言葉が耳に入った瞬間、刀奈の背筋に電流が走った様な気がした。

そして、彼女の中に生まれた…いや、()()したモノの正体が分かる。

 それは『愛』と呼ばれるものなのだろう。彼のモノに成る喜び、彼を大事にしたい慈しみ、

彼が自分を求めるという満足感、他にも様々なモノが入り混じった感情を彼女は自覚した。

 それと同時に簪に向けていて、今は空っぽに感じていた愛欲に新しい愛欲が流れ込んでくるのも自覚する。

 

 この時から、刀奈は完全に十千屋の(愛奴)となった。

 そして、愛を囁かれ処女を奪われただけで終わりではなく。文字通り開放されるまで愛し尽くされる事となる。

 あらゆる部位を()で尽くされ、すっかり彼の形も感触も匂いも味も覚えこまされた。途中で自然に混ざり込んできたリアハには女性にしか分からない気持ちよさを引き出される。

 刀奈は脳も心も体も(とろ)けさせられ、彼と彼女が望む形へと(かた)どらされてゆく。

それは、何があろうと引き離すことのできない、依存し合う事しかできない狂気の愛であった。

 

 

 刀奈は紋様…いいや、こう言おうハート(子宮)を象った『淫紋』を刻んだ時の事を鮮明に思い出した。

 自身が『対暗部用暗部「更識家」の楯無』だという自覚はもちろん捨ててはいない。

だが、この淫紋が浮かび十千屋や彼を取り巻く女性(奥さん)たちを思う時には()()()刀奈(女の子)だと自覚する。

 そして、彼と彼女らから愛される事も思い出すと堪らなくなり…時刻と未だ寝ている同居人(ルームメイト)をキッチリ確認してからシャワールームへと(こも)る。

 

「うぅうんっ…ハァハァ、治まらないわね。…校内プレイって有りなのかしら?

 …って、何言ってるのよ自分は。はぁ、ダーリンに毒されているわね、私。…イヤじゃないけど

 

 結局、同居人が起きて物音がするまで篭ったのであった。

 

 

 時間は過ぎ、この日の放課後も刀奈は『楯無』として生徒会長として仕事をしていた。

仕事の進み方はソコソコ、だが刀奈はどこか艶がかった溜息を()きながら作業をする。

 その様子を見ていた虚はこう刀奈に話しかけた。

 

「お嬢様、()()楯無を任命するか、産み育てるまで引退(結婚)しないでくださいよ?」

 

「あー、うん。確かに弟子をとって次を任すか、私が子供を産ん…で、

 って何を言ってるの虚ちゃん!?

 

「そんなに欲求不満な溜息を吐かれていたらそうも思いますよ。

 お嬢様が十千屋さんと付き合いだしたのは知ってますけど、妊娠して学園を中退なんてやめて

 下さいよ?学生デキチャッタ婚-しかも、高校生でなんて犯罪ですから」

 

「言ってる事は分かったけど、色々と話が飛躍し過ぎじゃないかしら!?」

 

 虚の会話内容は分かったが、いづれ来るだろうが今は飛躍し過ぎの話しに刀奈はツッコミをいれる。そして、テンパる彼女に向かって生徒会の仕事を手伝いに来ていた簪がこう提案した。

 

「お姉ちゃん、オススメは第四アリーナの男子トイレだよ」

 

「な、何のオススメなの簪ちゃん?」

 

 ()の分かるけど分かってはいけない提案につい彼女は聞き返してしまった。

そして、簪は分かっているくせにという顔をしながら詳細内容を語る。

 

「発情しているお姉ちゃんにオススメな校内プレイの場所。

 比較的いろんな設備から遠いから人が常時少ないし、特に男子トイレなんて使用率ほぼゼロ。

 しかも、色々汚してもロッカーもシャワー室も近いよ?」

 

 色々と吹っ切れて話してきてくれるようになった妹の苦言?を聞きたくない刀奈は…

最近のパターンである捨て台詞を言いながらの逃走を開始した。

 

簪ちゃんと虚ちゃんのエロエロぉおーー!!

 ▂▅▇█▓▒░(TωT)░▒▓█▇▅▂」

 

 

 実は、今まで(もてあそ)ぶ側であった刀奈は弄ばれる側には弱いのだ。最近は()従者()に弄られる事が多くなったので少しは耐性が出来ると普通は思うだろうが…

 姉妹が不仲な時に色々と強く出れずにフォロー出来ずにヘタれていた刀奈だ。

元から受ける側だと一方的に弱かった可能性が高かったかもしれないという事は推して知るべし…である。

 

(Prrrr....)はい、十千屋様でしょうか?虚です。

 お嬢様が飛び出したので後はよろしくお願いします」

 

「虚さん、このままエロ方面で責めるのは味気がないと思う?」

 

「そうですね。何か新しい切り口を考えなければいけませんね」

 

 そして、この二人・・・全く容赦がない。刀奈が十千屋達の元へよく通う様に成ったのも仕方がないことかもしれない・・・?

 

 

 

――おまけ:十千屋の作戦――

 

「はぁ…どうしよう、私のミステリアス・レイディ」

 

 刀奈は自身のISのデータが写るタブレットを持って溜息を吐いていた。この様子は簪に負けた後でたびたび観られる様になっている。

 理由は、ミステリアス・レイディの根幹システムと言えるアクアナノマシンをメタ攻略された事だ。

 メタ攻略内容はあの時に来ていた人達しか知らないが、いづれ知られる事となったらどうすればいいか不安がよぎる。

 そんな姉の様子に…簪はトドメを刺した。

 

「お姉ちゃん、実は…ミサイルの過剰使用の熱気で水気をほぼ0%したり、

 十千屋さんが作ったナノマシン用麻酔『ナノマンシン』や

 対ナノマシン用ナノマシン『ナノマシンキラー』を使う作戦もあったの」

 

「・・・・・え?」

 

「後は、ただ技量と小手技で叩き込むだけだって十千屋さんが」

 

 「まさかの完全攻略済み!?」

 

 刀奈は戦慄するしかなかった。コトブキカンパニーの対ナノマシンの技術力よりも・・・

自分も自分のISも彼に完全攻略されていると言う事実にである。




はい、新年早々・・・煩悩まみれの話しで申し訳ございません。
しかし、コレでほぼ更識姉妹の問題などは解決し、姉妹揃ってKP(コトブキカンパニー)側確定となりました。
しかも、ようやく次回から原作本編へと軌道修正出来ることになります。

最近は更新が不定期な上で遅くなってしまっていますが、続きは書いていきたいと思っています。

それでは、楯無ファンの襲撃と今回の描写不可による垢バンを恐れながら次を書いていきたいと思います。

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。

ps.以前に書いた作品があるとしたら読んでみたいものなんでしょうか?読者的に。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA46ss:何を騒いで仰るのでしょうか?

だいぶ、更新が滞っておりますが…今回の区切りの良い所まで書ききれたので、
上げたいと思います。

では、どうぞ御ゆるりと。


 うん、時と場合って事があるよね?

 ある意味、お約束ってのがあるじゃないか。

 でも、彼はそれを何も考えていないんだよね…

 

 

 さて、今は夕暮れに染まる放課後、今はもう人の居ない教室に二つの人影があった。

 その正体とは?

 

「う~ん、こういうのも良いな」

 

「え?」

 

「いや、何となく楽しいって事だよ。掃除っていうのは。

 特に普段使っている教室の掃除だと余計に」

 

「そ、そうかなぁ?一夏って変わってるね…」

 

 それは一夏とシャルロットであった。その理由は今朝遅刻しそうになり…つい、ISを展開し

滑り込みセーフを行ったことである。

 そこのどこがイケナイかと言うと、たかが遅刻でISを使用するというギャグにも似た行為に

でもあるが、元からIS学園敷地内でも許可されていないIS展開は禁止されている為だ。

 その罰として二人は教室掃除をさせられている。いわゆる『トイレ掃除』的な罰であるが、

何故『教室掃除』がそれに当たるかというとIS学園はその様な清掃関係は毎日専属の清掃業者が行っているためだ。

 その為、この学園で教室掃除というのは専ら生徒への軽い処分として使われているのである。

 

 さて、二人きりと言うこの環境で一夏がお約束(フラグ強化)をしないと思ったか?作者はそう思わない。

 重くなったゴミ箱でよろめいたシャルロットを支えたり、二人にしかわからない愛称を決めたりと、乙女心を刺激するフラグ建築を着々とこなすのであった。

 そして…

 

「――そうだ、シャル。頼みがあるんだ」

 

「ん?何かな?」

 

「付き合ってくれ」

 

「―――え?」

 

 真剣な眼差しで一夏はシャルロットを愛称(シャル)で呼び確りと手を握っていた。

 この時、シャルロットは確かに世界が止まるような音を聴いたのである。

 

 

「二人っきりの空間(教室)、夕暮れの放課後、そして…告白、コレが意味する事は」

 

「シャル、なにブツブツ言ってるんだ?」

 

「ただのお買い物のお誘いでした!!」

 

 はてさて、また日数は過ぎ今日は休日。シャルロットの乙女心が高まり、世界すら止まったように思えたあの告白は…彼女が落胆した通りに買い物のお誘いであった。

 あのシュチュエーションで何ともまぁ、勘違いを起こさせるような事を言うのかこの男は。

そのせいで事実を知った彼女は一時、目が死んでおりブツブツと呟く症状に襲われる。

 一通り吐き出し、今の現状を認め始めたシャルロットは不意にイイ笑顔で一夏に言った。

 

「乙女の純情を弄ぶ男なんて、十千屋ファミリーに蜂の巣にされれば良いと思わない?」

 

「お、おう…?確かにそんな事をする奴がいれば師匠達の粛清が下るかもな」

 

「それ、鏡を見て言いなよ」

 

 思いっきり皮肉を言ったシャルロットであるが、それで通じる一夏=朴念()ではない。

その事にマリアナ海溝よりも深い溜息が出る彼女であるが、またもや別の事と勘違いしてフォローや機嫌取りをする彼に気を許してしまう。

 スイーツの奢りに何となく差し出した手を握られて、シャルロットは恥ずかしいと思いながら

心地よい乙女心の高鳴りを感じるのであった。

 

「手ぇ…握ってるわよね?」

 

「握ってますわねぇ」

 

「シャルロットには気の毒だけどさぁ?」

 

「何ですの?」

 

アイツ(一夏)()ちゃっていいわよね?」

 

「物凄く同意致したいですが、暴力沙汰はおじ様から厳禁されてますわよ?」

 

 くぅっ、と唸り声を上げている二人…お察しの通り鈴とセシリアである。

二人は一夏とシャルロットが二人きりで出かけると知り尾行したのであった。

 一夏の無自覚なイチャつき振りに尾行を諦め引っ掻き回したい…もとい、フラグ建築士の

朴念神をド突き回したいのをグッと堪える。堪えなければ後が怖い。

 

「お前たちも情報を入手したのか」

 

「「なっ、アンタ/貴女 はラウラ!!」」

 

「追跡か?にしては…目立つ服装をしているな?」

 

「「アンタ/貴女 に言われたくない(ですわ)!!」」

 

 そう、一夏達を尾行するため一同は普段着ないような服を着て変装しているがあからさまに

チョイスが間違っていた。

 

 セシリアは金髪をピッグテールにし、非常にスカートの長い黒いドレスを着ており、足は黒のガーターストッキング、首にはチョーカーを身につけている。

 

 鈴は髪をサイドテールにして、オレンジとグレーを基調としたセーラー服を着ており、

下はホットパンツを穿いている。このセーラー服の裾が短いため、必然的に

へそ出しルックになっていた。 ワンポイントなのか服の胸当てには音楽記号が刺繍されている。

 

 ラウラは髪型をロングヘアーを結んだポニーテールにし、黒うさぎのヘアピンと箸っぽい髪留めを付けている。服はファイアパターンのチューブトップにホットパンツと露出が激しいが、薄手のパーカーを羽織っているので何とかという感じだ。

 

 確かに天然ボケの()がある一夏と舞い上がっているだろうシャルロット相手だと、後ろから

見られれば気付きはしないだろう。

 だが、一見するとコスプレの様な服装は非常に目立つ。

しかも三者三様の美少女である三人であるから尚更だ。彼女らは本当に尾行する気があったのだろうか?

 

「さて…私は一夏を追い交ざるつもりであったが、どうするか」

 

「アンタ、そんな事を考えていたのね。でも、一体何よ?」

 

Vater(父/十千屋)Mutter(母/リアハ)も部隊の皆も言っていた。()()()()だと、ならば新勢力(シャルロット)がどう出るか様子を

 見るべきかな、と」

 

「一理ありますわね。おじ様が仰る通り、朴念仁の神である一夏さんよりも

 新しく来たシャルロットさんの方が色々と手出しする可能性の高いですわね」

 

「あからさまな妨害はアイツと奥さんにしょっ引かれるわね。なら、情報収集よ。

 一夏とシャルロットが今どんな関係なのか見極めるべきね」

 

 どうやら、一夏達を遠巻きに見て観察する事に決めたようだ。昨日の敵は今日の恋敵(とも)と言うべきなのだろうか、ここは飛び出したい気持ちを抑えて次への糧にする事にしたらしい。

 こうして、見た目がオカシイ追跡トリオが臨時結成されたのである。

 

 

 一夏達とその追っかけは駅前のショッピングモール、『総合商業施設:レゾナンス』に来ていた。

 このショッピングモールは各種交通機関の利便性、食事や衣類やレジャー用品などを量販から

ブランドまで幅広く扱っており『ここに無ければ市内の何処にも無い』と豪語される程である。

 彼らはその二階、衣類関係の売り場に来ていた。ここでの目的は臨海学校で使う水着の購入である。

 

「う~ん、やっぱり男の水着は減ってるなぁ。でも、ま…コレでいいか」

 

「一夏、一応セール品を迷わず買うのはやめようよ」

 

「シャル、そんなこと言っても男の水着だぞ?変じゃなければどうでもいいじゃないか」

 

「僕は安すぎるのはやめといた方が良いと思うよ?

 それに臨海学校でどうせ一夏は目立つからちゃんとした物を着て欲しいと思う」

 

 そんものかなぁ?と一夏はワゴンセールから取り出した水着を戻し、辺りを見渡してみる。

女尊男卑の風潮で男性水着売り場は縮小されているがそれでもソコソコの種類はあった。

 変ではなければ安物でも良いかと考える彼にシャルロットは苦笑しながら一緒に探してみる。

すると、彼女の目に留まったものがあった。

 

「一夏…コレなんてどうかな?(//∇//)」

 

「ん、シャ…ルゥ!?」

 

 彼女の両手で広げられている男用の水着は…表面積が小さい、文字にすると『T』か『V』、

とある品物に例えると『ブーメラン』な物であった。

 それを装着している姿を想像しているのか頬を赤らめた彼女から一夏はソレを奪い取るとすぐに売り場へ戻す。

 

「ああぁっ、せっかく似合うと思ったのに」

 

「いやっ色々とヤバイだろ!あんなもん着て見せて誰得なんだよ!?」

 

「少なくとも僕得だよ!一夏のカッコ可愛いお尻を堪能できるんだから!!」

 

 「いい加減ケツ狙いは止めてくれ!!!」

 

 彼が無難な物を確保すると、テンドン(二度ネタ)はしない主義なのか彼女は残念な顔をしながら大人しくする。

 その後は、追跡トリオの存在を感じたシャルロットが咄嗟に一夏を更衣室に連れ込んで

そのまま着替えると言う、高度なプレイ&Toラブるをしてしまったが些細なことだ。

 因みに背中合わせで彼女は着替えた。正面切って視姦プレイは流石に出来る筈がなかったのである。

 

 しかし、本当のトラブルと言うのはここから先の事であったのだ。

 

「そこの男、ついでにコレも買いなさい」

 

「は?」

 

 一夏達が品物の会計に行こうとした時にその買い物カゴに余計な一品が強制的に放り込まれた。その一品と同時に横暴な請求を突きつけられたのである。

 その主は(とう)が立つギリギリくらいの女性であった。ケバ目の化粧をしていて高圧的に当たり前のように彼らに応対する。

 

「いや、何でアンタの物を買わなきゃならないんだよ」

 

「はぁ?男が女の請求を無条件で聞くのは当然でしょう」

 

「いや、当然じゃねぇって」

 

 一夏は面倒臭いのが絡んできたと思うのと同時に、ここまで女尊男卑の風潮で世の中がおかしくなっているのも感じた。一方で女性は当たり前だと思ったことを否定されヒステリックに喚きだす。

 

「黙りなさい!男は女に貢ぐのは当たり前のこと!!私が訴えればアンタは破滅なのよ!!!」

 

「お客様、何を騒いで仰るのでしょうか?」

 

「「あ…」」

 

「丁度良いわっ、コイツが私の事を舐めているのよ!名誉毀損よ!!」

 

「はぁ…分かりました」

 

「はっ、コイツを縛り上げてしまいなさ…いっ」

 

 喚きだした女性がますますいきり立っていると騒ぎを聞きつけたのか店員が声をかけてきた。

店員は女性の後ろから声をかけており、そのまま一夏達に向かって騒いでいたので気付かなかったが彼らはその正体に気づき呆気にとられる。

 そして、女性の要望通りに捕らえられたのは…彼女自身であった。

 

「何よ!なんなのよ!?縛り上げるのはアッチの方でしょう!!」

 

「…お前はやり過ぎなんだよ。過去にも同様の件を起こしているだろう?

 こちらにも訴えとか来ているんだよ」

 

「アンタこそ何言っているのよ!?離しなさっ…ぎゃああ!!!」

 

 女性を捕らえたのは黒服の人物たち、明らかにカタギの者では無いと分かる雰囲気であり

その主と思える店員(人物)も普通ではなかった。彼も同じような黒服で何より異質なのは頭部が

銀色のロボットだったからである。

 明らかに変質者である人物に女性は悲鳴を上げるが、一夏達は落ち着いたものだ。

彼らが知るこの様な被り物をしている人物はただ一人。

 

「師匠…仕事だとは聞いてたけどさ。なんでここに?」

 

「親会社からの要求だ。一番近くにいて今日非番な役員級が俺しか居なかったからな。

 名目上でいいから視察してくれってさ」

 

「親会社、コトブキカンパニーの親会社って言うと『ナナジングループ』ですか?」

 

「そうだ、シャルロット。ここ(レゾナンス)の出資に関わっているからな」

 

「アンタら、私を無視するな!!」

 

 店員-十千屋がここに居る理由を語りだしたが蚊帳の外に成りつつあった女性がまた騒ぎ出す。その様子に十千屋がやれやれといった感じで応対した。

 

「アンタ、私に何があってこんな事をするのよ!?」

 

「何って…お前がやろうとした事は()()()()だぞ?今回は未遂とは言え、

 先ほど言ったが過去に同じ様な事をしているだろう」

 

「ソレの何が悪いのよ!偉い女が男を扱き使って何が悪い!!」

 

「はぁぁあ…所でお前のIS適合ランクは幾つだ」

 

「何言ってるのよ!今すぐ私を開放しなさい!!」

 

 「いいから答えろ」

 

 この女性は過去にも男性を脅し品物を買わせた事があるらしく、しかも何件も行っていたようだ。その理由が女が偉いと言う女尊男卑の捻じ曲がった風潮かららしいが、十千屋は彼女の言い分を遮りこの国の女性であるならば一回は受けたことのある『IS簡易適正検査』を持ち出した。

 話の流れに関係の無い話題に噛み付く女性であったが、彼の気迫に押され口を噤みながら答える。

 

「ディ、Dよ。それが何よ」

 

「お前の主張は話にならない。元々、女尊男卑はISが女しか使えないから、(女性)たちは何より凄い、というのが捻じ曲がった風潮だ」

 

「だから私が正しいのよ!」

 

「だから話にならない。ISが何とか起動できる()()()()と言う以前に…()が凄いんじゃない。

 I()S()が凄いんだ。しかも、I()S()()()()()()()()()が凄いのであり、

 この理由から最低ランクでISを持たないお前がどうして威張れる?」

 

「くっ、だったら…ソイツらはどうなのよ!」

 

 十千屋の理攻めに女性は唇を噛み締め、矛先を一夏達に変える。だが、女性に取ってコレは悪手であった。

 

「一夏、シャルロット。学生証を出しながら、『所属』『ISランク』『機体名』を言ってやれ」

 

「あ、えっえーと…織斑一夏、IS学園一年一組、ISランク『B』、『専用機:白式』だけど」

 

「シャルロット・デュノア、IS学園一年一組、ISランク『A』、

 『専用機:ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』」

 

「…え?」

 

「おめでとうございます。貴女の主張は崩されました。絡んだ相手はIS学園の生徒であり、

 専用機持ち…即ち、ISを所有している人物であります」

 

「う、嘘…」

 

「しかも、彼は()()()()。お前らが英雄、いや神格化している()()()()の実弟です」

 

「う、嘘よ…あ、アンタはどうなのよ!?」

 

 一夏達の答えは十千屋の理攻めが正しいと思える回答であった。彼らは自分よりランクが上で

何よりもI()S()()()()()()()。ついでに自分たち(女尊男卑支持者)が傾倒している人物の弟だった言うのも効いた。

 ガラガラと自分の何かが崩れるような音を聞きながら、再度十千屋に噛み付くが…コレがトドメとなる。

 

「十千屋雄貴、ナナジングループ『コトブキカンパニー支社:社長』及び

 コトブキカンパニー『特殊営業課』に所属し、IS学園一年一組に在籍中、

 ISランク『C+から特定条件でA-』、『専用機:打鉄カスタム『雷』』」

 

 十千屋は懐から図太い財布の様になった免許証入れを蛇腹の様に広げ、その中から学生証を見せた。

これまでの事実で女性は半狂乱に陥った。自身が足元に及べないほど相手が凄すぎたのである。

 

「嘘よ!そんな事あるはずない!!百歩譲って、ソッチの二人は分かったとするわ!

 アンタのは偽造でしょう!?だって、写真の部分を隠しているもの!!!」

 

「はぁ、人がチョッとの良心でこれ以上正気を失わないようにしたのに…後悔するなよ?見ろ」

 

 「ヒィィィイイイイイィイ!??!!」

 

「どうだ、同じだろう?もう、黙れよ…お前」

 

 十千屋は指で隠した学生証の写真を見せるのと同時に、ロボメットを持ち上げ素顔を見せる。

顔の半分を覆う痛々しい(傷跡)、欠損した片目を補完するカメラアイ、普通で有り得ないその素顔に

女性は悲鳴を上げた。

 そして、女性は気を失い黒服たちが支えるだけとなった。

 

「し、師匠…サンキュー」

 

「十千屋さん、ありがとうございます」

 

「良いって事よ。今は一夏もシャルロットも俺から見ればお客様だからな。

(すぅぅ~)お客様方、大変お見苦しい所をお見せ致しました。

 我が商業施設は違法行為と真っ向から戦い、お客様により良い時間を過ごせるように努力し続けます!これ以降も御贔屓お願い致します。

 では、引き続きお買い物をお楽しみください!」

 

 一夏たちが十千屋に礼を言うと彼はそれを受け取ったあと、よく通る大きな声で先程の騒ぎで

集まった人々に向かって施設からの謝罪と意気込みを聞かせる。

 突然の講演に呆気に取られる人々であったが、意味が分かると騒ぎの事も含めていつの間にか

拍手が鳴り響く。暫くすると彼の言った通りに人々は自らの買い物へと戻ってゆくのであった。

 

「オーナー代理、お見事でした。我施設からもお礼を述べさせて頂きたい」

 

「なら、次からはこんなアウトローに視察なんか頼むなって上に言っておいてくださいよ」

 

「クスッ…ええ、ソレがご要望でしたのなら。ご提案なのですが、ちょうど休憩時間になります。そちらの方々と御知り合いの様ですし、ご一緒に昼食を頂いてきてはどうでしょうか?」

 

「では、お言葉に甘えて休憩を取らせていただきます。一夏、シャルロット、一緒に飯はどうだ?と言ってもレゾナンス内だけどな」

 

 人々が散った後に出てきたキャリアウーマンは十千屋を褒めちぎるが、恥ずかしいのか彼は

はぐらかしその様子が可笑しいのか女性は微笑みながら提案する。

 彼はそれに反対する事もないのでその提案に乗っかった。逆に驚いたのはいきなり話を振られた一夏達である。

 

「え、えぇと、俺は別にそれでもいいけど。シャルはどうだ?」

 

「別に僕も構わないけど?」

 

「じゃあ、行こうか。ソコに居る珍妙三人組も含めてな」

 

「「「(ビクッ!)」」」

 

 彼らも同意すると、十千屋は品影に隠れるように居た追跡トリオも誘い昼食を摂る事と成った。

 その前に、千冬と山田先生に出会ったり、一夏と千冬が姉弟の仲を温めていたりしたが些細なことであろう。

 そして、

 

「あっ、一夏!と先生!?お久しぶりです!!」

 

「一夏さん!十千屋さん!ご無沙汰してます!!」

 

 どうやら、この騒がしい休日はもうチョットだけ続くようだ。




どうも、ご無沙汰しております。
最近は仕事が何処となく忙しいのと、チョッと色々とあり気力が欠けていたため遅くなっていました。
前書きに書いた通りに今回の話はあともうチョッと続くのですが、更新が滞っていたのとキリが良かったので投稿いたしました。

次はとあるキャラを含めてランチタイムとなります。
そこで、一夏達の夏休みがコチラのオリジナル話へと傾く布石をさせて頂きたいと思っています。
『夏休み編』の原作ってバトルがなくラブコメに傾倒しているじゃないですか。
そのせいで余り二次創作にも書かれていない事が多くって、全然読み進めていないのも相まってイマイチいい構成が浮かばないせいでもありますが。(;^ω^)

では、今回は此処まででございます。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。

Ps.自身の過去作(黒歴史)の開帳をいたしました。
作者のページから飛べばすぐに見つかるはずです。もし、ご感想を頂き好評であれば連載も考えていきたいと思います。
判断に困るからもうチョッと載せろというのでもOKです。
因みに、追加は不定期なうえ未定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA47ss:じゃあ夏に会おう

え~、約三週間ぶりです…(^_^;)
何とか出来上がったので投稿したいと思います。

では、どうぞ御ゆるりと。


 さて、人生色々であろうが…自分の知らない所で事態が進行していたというのは所々ある事だ。

 今回の話は、そんなところであろう。

 

 

「いや~、こんな所で弾と蘭に会えるなんて思ってもみなかったぜ」

 

「そりゃ、こっちの台詞だ。俺も一夏や先生に会えるなんてコレっぽっちも思って無かったしな」

 

「はい、私もですっ一夏さん!で、鈴?そのカッコは何よ」

 

「…聞かないでほしいわ」

 

 お昼時となり十千屋は厄介事に絡まれていた一夏とシャルロット、それを影から見ていた

ラウラ、鈴、セシリアを交えて昼食に誘った。人数が多いので店には入らずにフードコートで食事を取る事とする。

 そこへ移動する途中に彼らも買い物に来たのだろうか?

 一夏の親友兄妹-五反田弾と蘭に出会ったのであった。そして、ついでとばかりに彼らも食事に誘ったのである。

 

「誘った側として一品は奢ってやる。ただし、一品だけだからな?それ以上は自分で買ってくれ」

 

「おじ様、ソレは悪いですわ」

 

「そうですよ、十千屋さん。私たちまで奢って貰うなんて…」

 

「気にするな二人共。幸い金は持っているんでね。

 大人として男として若輩者に奢らせて貰えないかな?」

 

「「はぁ…」」

 

 しかも、昼食の代金は十千屋の奢りとなっているようである。

彼は一品だけ奢ると言っているが、普通は注文した一品で食事が終わるため全額奢ると言っているのと変わらない。

 遠慮がちになるメンバーもいたが、彼がそう言い切るのならばと一旦それぞれが買いに行き

レシートを彼に渡して代金を引換えてもらった。

 

「それにしても…」

 

「何ですの、おじ様?」

 

「綺麗なドレスだな。セシリアにとても似合っている。

 このままディナーにでも誘ってくれるのかな?」

 

「もぅっ、おじ様ったら…///」

 

 何時もの見えない素顔であるが、微笑みながらセシリアを褒める雰囲気に当事者の彼女は

頬を染めて顔を背ける。

 自然に褒めると言うか何と言うか、そんな光景に一同はやっぱり大人の男なんだなと感じた。

その一方で…

 

「…(じ~) はぁ…」

 

「な、何だよ?」

 

 鈴は一夏を見つめたかと思ったらため息をつき、シャルロットに向き直る。

 その顔は、「うん、分かってるから」と憂いていた。

 

「シャルロット、悪いけどさ…一夏って何時も通り(唐変木)だったんでしょ?」

 

何時も通り(朴念仁)ですわね」

 

何時も通り(朴念神)だったんだな」

 

「あ、やっぱり何時も通り(ザ・唐変木)だったんですね」

 

「あ、あははは……はぁ…」

 

 三者同様のセリフにシャルロットは苦笑い後、盛大なため息をつく。と同時に女性陣は

恨みがましい視線を向けた。

 その視線に一夏は腰が引けてしまうのは無理ないだろう。

 

「な、何だよ…」

 

「ははははは…一夏!テメェやっぱりモテまくりじゃねぇかぁあああ!!モテスリム気取りか!?昔っからお前はそうだったな!?!テメェのモテパワーを寄越しやがれ、コンチキショウ!!!」

 

「何だよ弾!?俺がモテてるわけないだろう!?師匠だったら兎も角さぁ!なぁ、師匠!!」

 

 急に笑い出した親友()に今度は椅子ごと引いてしまう一夏であったが、()()()身に覚えのない暴言につい十千屋に救いを求めてしまう。

 だが、彼の対応は冷ややかなものであった。

 

「…セシリア、何時もの言ってやれ」

 

「はい、おじ様。一夏さん、前から言っておりますけど…

 貴方に向ける好意はおじ様のとは違いますわよ?おじ様に向けるのは憧れや親愛で、

 貴方に向けるのは…それぐらい察してくださいまし/// 

 まぁ、わたくしに貴族のしての(しがらみ)やあの時おじ様が重婚可であったと知っていたら

 今は違っていたかもしれませんが」

 

「ラウラ」

 

「うむ、Vater。私も以前から言っているではないか。早く私のモノになれ、嫁よ」

 

「以上、分かり易いので二名以上居るのにモテて無いだと?

 いい加減、好意の種類や方向性に気づけ」

 

「う、あうぅ…」

 

 何時もより冷たいカメラアイの光が一夏を居抜き、分かり易い実例をあげ封殺されてゆく。

そして…

 

「故に、一夏…お前がモテないと言うのは」

 

「ウソね」「ウソですわね」「ウソだな」「ウソだよね」

「ウソですね」「ウソなんだよ、このフラグメイカーめぇぇ o(TヘTo)」

 

「うぐぅうう!?!?」

 

 同音同意の言葉攻めに彼はグゥの音…は、出たが倒れ伏してしまった。容赦がないと感じるかも知れないが…この男(一夏)、此処までしないと自覚できない(駄目)神感性である。

 

「一夏、お前の対人関係の課題だなこりゃ。面倒見ている(よしみ)である程度は面倒みるが、

 自分で気づいていかないと駄目だぞ?俺の奥さん(リアハ)にも言われただろ」

 

「ドウモ、ゴキョウジュ アリガトウ ゴザイマシタ…」

 

 最後の説法に一夏は燃え尽きたのか、真っ白になり魂が抜けたような口調で答えるのであった。

 彼がそのまま倒れ伏している間に次々と注文した品の呼び出しが掛かり、

皆それぞれが持ち帰った頃にようやく一夏は立ち直りかけてくる。

 しかし、ダメージは大きかったのか食事が終わりかけるまで心此処に在らずの様子であったが。

 

「そういや、何で弾は師匠の事を『先生』って呼んでんだ?」

 

「今更だな、おい。まぁ、いいか…あの後も色々と相談とかに乗って貰ってたんだよ」

 

「へぇ」

 

「お兄はソレだけじゃなくて宿題とかの質問まで答えて貰ってましたけどね」

 

「おい!余計な事は言うんじゃねぇって!!」

 

「あはは、それで『先生』か」

 

 一夏は、なぜ弾が十千屋の事を『先生』と呼ぶのか聞いてみると何て事はない。

自分と似たような感じであった。

 蘭の進学相談をしたあの日の後も彼と交流は続けていたらしい。その中で()()と呼べる様な人物だと思っただけである。

 師匠に先生、どうやら十千屋は教育者としての才が有るのかもしれない。

 

「あ、そういや先生。入隊体験の応募が通りましたんで夏、よろしくお願いします!」

 

「そうか、じゃあ夏に会おう。確りと鍛えてないと辛いのは前に言ったとおりだが?」

 

「大丈夫っす。俺も数馬も先生から与えられたトレーニングを確り続けてますから!」

 

「うん、良い心懸けだ」

 

「師匠に弾…夏って何をやるんだ?」

 

「何ってお前…もしかして、先生から何も聞いてないのか?

 てっきり俺はもう参加してると思ってたぜ」

 

「だから、何をだよ?」

 

「あぁ、一夏にはこれから話そうと思っていたんだ。近々、臨海学校が有るからな。

 行事が終わってからの方がいいと思ったんだ」

 

「そうなんすか」

 

「だ~か~ら~!何をなんだよ、師匠!!」

 

「分かった、分かったから、怒鳴るなよ。

 今年の夏にやるウチの本国(ゲムマ群島首長国)の公開演習&体験入隊の事だ」

 

 十千屋と弾が話だし一夏が何の話をしているのか尋ねたところ、何故か弾は彼が分かっているような口調で逆に聞いてくる。話の中に居るのに蚊帳の外の気分となった一夏は不機嫌になりつつ

再度尋ねた。

 しょうがない奴だなと、そんな感じで苦笑しながら十千屋は母国であるゲムマ群島首長国で

一大軍事イベントがあると告げたのである。

 

「今年のは特に力を入れていてな。陸海空だけではなくて、ISとFAの合同訓練も公開する予定だ。しかも…」

 

「関係国も合同訓練を行う予定だ。つまり、我が軍(ドイツ軍)のIS隊とFA隊も参加する。無論、私もな」

 

「わたくしの母国(イギリス)も参加しますわ。おじ様からFAを受け取っている()ですし。

 ですから、ラウラさんと同じでわたくしも参加いたしますわ」

 

「実は僕も出るんだよね。ほら、うちの会社(デュノア社)の親会社がナナジングループになちゃったでしょ?

 その経緯のせいでね」

 

「なんか色々とスゲェけどさ。

 一夏、体験入隊時に良い成績を修めればFAに乗らせてくれるかもしれないだってよ!」

 

 このイベント内容に自然と呆けてしまう一夏であるが、改めて思うと確かに凄い内容だ。

 陸海空の軍事だけではなく、今のご時世での虎の子であるIS、そしてコトブキカンパニー…

いや、ゲムマ群島首長国やナナジングループの奥の手だと思われるFAがお披露目され、

FA繋がりで同盟国となったドイツとイギリスも参加する。

 まさに一世一代の大イベントと言っても過言ではない。それに体験入隊の事も聞き捨てならなかった。ゲムマ群島首長国は一般的にFAが認知される様に動いてるかも知れないと彼は思う。

 が、なぜ急に弾がこの様なイベントに参加するのか気になった。友人の事を強いて言うなら

今時の高校生男子である。軍事オタクでもないし、この様な事に興味はなかったはずだ。

 

「いや…な。この前、蘭の進路相談をした事があっただろ?

 コイツが進む進路の先の一つが気になっちまったんだ。

 それで、兄貴として知っておいた方が良いんじゃないかって」

 

「そうなのか…あぁ、うん。分かる気がする」

 

 理由は身内への心配である様だ。それは一夏も分かる。自分も家族が危険な道に進むかもしれないと知ったら大人しくしていられない。弾もそうだったんだろう、と想像はついた。

 今までの話を聞いていて彼は決心し、十千屋に話しかけようとする。

 

「師匠、俺も…」

 

「あぁ、分かってる。実は色々と手回しは終わっていてな、

 後はお前の参加希望を聞くだけだったんだ。

 まぁ、参加しなくてもウチに招待するつもりだったんだがな。

 せっかくの夏休みだ。

 夏休みの間、IS学園にほぼ篭りきりに成るいつもの面子はウチに遊びに越させる予定なんだ。

 一応、ゲムマ群島首長国は南国だからな。リゾート地もある」

 

「サンキュー!師匠!!」

 

「だがな、一応ウチは海外だからな。パスポートとかの他の事はIS学園生徒とかの理由とか、

 ウチの裏口系で何とかするが…お前、織斑先生(保護者)の許可を貰えよ?」

 

 流石と言うか、十千屋の根回しは済んでいて参加するかどうかだけになっていた様で、

一夏は感心した様子でお礼を言った。

 しかし、次のセリフで再び倒れ伏してしまう。

確かに、大きなイベントもそうだが海外旅行とかになれば千冬-保護者の許可が要るのは当たり前だ。()だ彼は未成年者なのだから。

 

 後日-一夏は千冬に十千屋からの提案を持ち出した。

どう返事が帰ってくるか分からなかったため彼は必死の形相だったが、アッサリと…

 

「ああ、夏休みのその事はもう既にヤツから聞いている。別に良いぞ」

 

「ホントか!?千冬姉!!」

 

「お前、学園では織斑先生と…いや、プライベートな話だから構わんか。

 何も驚くことは無いだろう。一応IS学園の生徒だが、アイツはいい大人だ。それが面倒をみると言ってきているのだから問題はない。それに…」

 

「何だよ、千冬姉?」

 

「私はお前を旅行とかに連れて行ってやれなかったからな。楽しんでくると良い。

 …ドイツのあの時は回数には入れられないからな」

 

 そう、アッサリと許可は貰えた。実は十千屋の根回しは既に千冬にも及んでいたのである。

 余りにも楽に許可を貰えたので彼はつい聞き返してしまったが、今回の事は保護者同士での

話し合いは終わっているので問題ないとの事だ。

 それよりも、彼女は彼に旅行などの楽しい思い出を作ってやれていなかった事に負い目があったらしい。これも許可を出した理由でもあった様である。

 少し寂しげな笑みを零す千冬に一夏は目を追ってしまうが、その事を指摘してはいけないだろうと思い彼はその代わりに喜びを伝えることにした。

 

「ありがとう!千冬姉!!師匠に伝えてくる!!!」

 

「あ、オイ…廊下は走るな。…たくっ、しょうがないヤツだな」

 

 輝く笑顔で礼を言って小走りで出て行く一夏()に対して小言が出てしまうが、幼い子供の様な反応に千冬()は苦笑が溢れてしまう。

 あんなにも彼が喜ぶ様子を見せたのは一体何時頃だっただろうと思い、彼女はそうさせてくれた十千屋に感謝の念を抱く。が…

 

「そういえば、途中で帰る事になるが私も山田君も旅行自体には参加すると言っていなかったな。まぁ、問題ないだろう」

 

 保護者同伴という事実は旅行前日になるまで彼が知る由はなかった。

 

 

 

 

――おまけ:シュヴァルツェ・ハーゼ(黒兎隊)・別名~――

 

「諸君、集まってくれたことに感謝する」

 

 組んだ手を顎に当て、肘を机に付ける。諸曰くゲ〇ドウポーズをしている女性がそう告げる。

 彼女には薄暗闇の中で下からスポットライトが当たっているために暗闇に浮かんでいるように見えた。

 

「副隊長、今回の議題は?」

 

「うむ、まずはコチラを聞いて・・・」

 

 パチンッ「お前ら、一体何をやっているんだ?」

 

「あっ!グレゴルー・ガロッシュ大尉、何をする!?」

 

「そりゃ、コッチの台詞だ…クラリッサ・ハルフォーク大尉。

 今日の業務はほぼ終わってるとは言え、ウチの参謀と他数名を連れて行きやがって」

 

 上座に座っており、この会議?の議長を務めていたのはクラリッサ・ハルフォーク、シュヴァルツェ・ハーゼ(黒兎隊)つまりラウラが隊長のIS部隊の副隊長である。

 そして、暗闇に包まれた会議室の電灯のスイッチを入られ彼女が抗議した相手は

グレゴルー・ガロッシュ大尉、ドイツ軍FA部隊『シュヴァルツェ・ヴェーアヴォルフ(黒の人狼隊)』の隊長格だ。

 クラリッサとグレゴルーは同じように部隊を率いる身であるため、顔見知りでもある。

 

「ちゃんと本人と周りには了承は取れている。今回の議題には男の感性が必要だったのでな」

 

「なんだよそりゃ…」

 

「ふっ、出遅れたが…まずはコチラを聞いて欲しい」

 

 クラリッサの言い分にグレゴルーは頭が痛くなってくるが、彼女は気にせずにフィンガースナップ(指パッチン)を鳴らす。すると、とある音声が会議室に響き渡る。

 

『クラリッサ。その、だな。わ、わ…私は、可愛い……らしい、ぞ』

 

「なんだ、こりゃ…?」

 

「ふっ、尊いだろ?」ポタポタポタ・・・

 

「「「尊いです!副隊長!!」」」ポタポタポタ・・・

 

「だから、何なんだよ。あと、お前ら…鼻血を拭いとけ」

 

 聞こえてきたのはラウラとの連絡音声のログだろうが、何と言うか…彼女の声は嬉しいような

恥じらっているような、とある筋には堪らない音質をしていた。

 そして、その筋であるラウラ大好き黒兎隊のメンツは鼻血を垂らしながら聞き入っており、

ますますグレゴルーの頭痛は酷くなってゆく。

 

 さて、この会議はラウラが先程の台詞でクラリッサの専用機『シュヴァルツェア(黒い)ツヴァイク()』のプライベート・チャンネルつまり緊急暗号通信と同義の通信をしてきた事が始まりである。

 何故、こんな通信が入ってきたかというと今回の買い物の時に一夏と千冬が二人っきりになって買い物をした時があった。その時に千冬が誘導尋問的に一夏からラウラの事を聞き出したのである。

 彼女にとっては、いつもの面子の中で一番知っている仲であり、比較的常識人かつ好意がハッキリしている為だと思うが、肝心の彼の返答が「ラウラは可愛いよ」であった。

 それを結果的に隠れ聞いてしまったラウラがパニックになり、自分が信頼し普通の女性事情にも詳しい副官-クラリッサに聞いてきたというのが事の顛末である。

 そして、その要請を受けクラリッサは

『ラウラ隊長に似合い、恋愛事情を後押しできる水着デザインは何か』

と、いう会議を開いたのであった。

 

「お前なぁ…」

 

「ふっ、言いたい事は分かるが…結果的には我が軍の利益になる会議だ」

 

「なに?」

 

「ラウラ隊長の相手が()()()()()()()()だという点だ」

 

 彼女の言い分はこうである。ラウラが好意を向けているのは一夏であり、彼を完全攻略出来ればISライダーの神とも言える彼の姉:千冬も関係者となる。

 それにコレは決定事項であるが、ラウラは卒業後になるが正式に十千屋家に迎え入れられる事となっている。つまり、ラウラに通じるパイプは織斑家と十千屋家に通じる事となるのだ。

 ドイツとしてもISとFA両方の重要人物とのパイプが出来るのも強化されるのも吝かではない。

 そういう風に真面目にキメ顔で力説するクラリッサにグレゴルーはため息をつき、もう何も言わなかった。ただし、鼻血を吹きながらの力説だったので台無しであったが。

 

「はぁ…もう、分かったから勝手にしろ。だけど、ちゃんと普段の仕事もこなせよ?」

 

「何を言っている、当たり前だ。では、会議の続きをするぞ!!」

 

 グレゴルーは「もう、付き合いきれん」と会議室を後にする。その後は、白熱していたみたいである。

 

「定番のビキニ!」

「定番すぎる!!」

「紐!!」「ブラジル!!」

「そっちの隊長さんの戦闘力(スリーサイズ)を考えろ!」

「ピンクのフリフリ!!」

「お前の願望だろうが!?」「狙い過ぎて痛いわ!!」

 

 そして、通常業務をこなしつつ三徹しながら決まった水着を速達でラウラの下に送るまでこの会議は続いたそうな。

 

 

――おまけ:シュヴァルツェ・ハーゼ(黒兎隊)・別名『ラウラFC(ファンクラブ)』 完 ――

 

 

 

――おまけ:その頃の更識家――

 

「お姉ちゃん、コレはどうかな?」

 

「うんうん、似合うわ。でも、お姉ちゃん…小さめのビキニって狙いすぎだと思うの」ポタポタ・・・

 

「う~ん、じゃあ…こっちは?」

 

 ブハァッ!ブバァアア…!!

「紐にTバックはやり過ぎよぉお!?

 タダでさえ簪ちゃんのナマ着替え、水着ショーで失血死寸前なのに!?」ボタボタボタ・・・

 

 ここは楯無-刀奈と簪の実家である更識家、今は簪が今日買ってきた水着を刀奈と虚、

本音に選定して貰っている最中のようだ。

 ただし、刀奈が言う通り目の前で着替えてすぐさま見てもらうという行為で彼女は萌血大量失血による失血死寸前の様であるが。

 

「流石にやり過ぎ?じゃあ、こっちは?」

 

「うんうん、ハイグレ気味だけどモノキニワンピースタイプね。イイんじゃないかしら?」

 

「そう?」クルッ・・・

 

「`;:゙;`;・(゚ε゚ )ブーッ!! 後ろがガバ空き!?しかもお尻の谷間初めが見えてる!?!」

 

 簪の狙ってきている水着姿らに痙攣を起こし始めている刀奈であるが不意にとある事が頭に浮かび、彼女の両肩を掴み詰問する。

 

「ねぇ、簪ちゃん。()()ソレ(水着)を見せる気?もしかして、唯一の男の子である彼かしら?」

 

「そんなわけ無い。あんな朴念神なんてお断り。女難の相が出てそうだし?」

 

「ホッ…そうよね、そう…(;゚Д゚)!ハッ、もしかして……ダーリン(十千屋)?」

 

「(//∇//)ポッ…」

 

 「か~ん~ざ~し~ちゃ~~ん!?」

 

 その内容は誰に水着を見せるのかであった。妹大好きな刀奈はこの攻めの水着は誰かの為だと気づいたのである。

 その相手が一夏だと思ったが、当てが外れた。では、流石にないが同性かと思ったがその線は

無い、と思い返した瞬間にとある人物が思い浮かぶ。

 自分の恋人(ご主人様)である十千屋であるが…それは、簪の反応を見れば分かることであり、

つい肩を揺さぶって問い詰める事になった。

 

「なに!?ソレを見せたい相手ってダーリンの事なの!??

 簪ちゃん、ダーリンとドコまでシたの!?(キス)!?(愛撫)!?まさか…(セックス)!?!?!」

 

「お姉ちゃん…未経験だから安心して?」

 

「え…?そうなの…(;´Д`)=3 フゥ」

 

 「アブノーマルプレイは…」

 

「何か言った、簪ちゃん?」

 

「何、お姉ちゃん?」

 

 簪の未経験発言に安心しため息をついた刀奈であったが…おい、妹に騙されてるぞ (~ω~;)))

 

「お嬢様…(´Д⊂ヽ」

 

「ねぇねぇ~?コレなんてどう~?」

 

「…貴女の体つきでアダルト水着はやり過ぎです。そう言えば、簪お嬢様は金欠の筈では?」

 

「今日~買い物に~連れてってくれた~リアはんのお蔭~。折角の臨海学校なのに~新しい~

 水着じゃないのは~可哀想~だからって~」

 

 そう、学年別タッグトーナメントのせいで金欠と成っていた簪が様々な水着を買えたのはリアハのお陰であった。

 一夏達が買い物に行っている間、リアハも自分の娘組と簪たちとで買い物に出ていたのである。そこで、彼女が簪に水着を買い与えたのであった。

 

「はぁ…そうだったのですか。ソレは今度お礼をしなければ成りませんね。

 さて…そのネタ水着はどうする気、本音?」

 

「大丈夫~、みんなの前では~コッチ(着ぐるみ水着)だから~」

 

「そうですか…ん?」

 

「クスッ(^^♪」

 

 どうやら、主従揃って妹に騙されているかもしれなかった。(((゜Д゜;)))




はい、冒頭通りに約3週間ぶりです。
仕事が忙しいと言うか…仕事先が動乱期のようで気力や体力が大幅に奪われていました。
仕事先の施設や設備の解体、改築、人員の異動や出入り、様々要因で忙しくわずわらしい日々を送っています。
そのせいで執筆は鈍り、プラモ系は予約でタンマリ取ってある為…毎月(積み)が嵩張ってゆく有様です…(´Д`;)

さて、今回の話でわかった通りに原作での『夏休み編』が
オリジナル『夏休み-十千屋家:ゲムマ群島首長国』となる事を予告できました。
一夏達が話していた通りに演習&体験入隊や、十千屋周りの話し、コトブキカンパニーの話など、オリジナルてんこ盛りで書こうと思っています。
……どれくらい掛かるのかは聞かないでください。予定は未定なので(((゜Д゜;)))


そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA48ss:悩み事か、そこの女子

・・・ハッ(;゚Д゚)!
前回が・・・一ヶ月近く前だと!?
不定期とは言え、大変長らくお待たせしました。
書いていたら長くなったので、丁度区切りが良い所まで今回は上げさせてもらいました。

では、どうぞ御ゆるりと。


 さて、皆様は夏はどうお過ごしか?

 どんな風に過ごすかは個人の自由だが、夏はレジャーの季節です。

 国内でも海外でも選択肢は同じ・・・『海』か『山』か。

 この物語の主役たちであるIS学園の生徒たちは、どうやら学園ぐるみで『海』のご様子ですよ?

 

 

 

 「「「見えたぁあ!海だぁああ!!」」」

 

 そう声を上げるのはバスの中に居る女子生徒達。トンネルを抜けバスの窓から見えたのは快晴で(きらめ)く海原だ。

 今日は臨海学校初日、天気にも恵まれ照りつける日差しと海から運ばれてくる潮風が暑くも

心地よさを感じる良い日である。

 一夏達が乗るバスの中も浮かれてはしゃぎ出す生徒で一杯だ。

 

「いや~、やっぱり海を見るとテンション上がるなぁ」

 

「そうだね。初日は遊びたい放題だから、普通の旅行に来ているのと変わらないしね」

 

「それに比べて…」

 

「あぁ、うん…そうだな」

 

 一夏がはしゃぐ女子生徒達をみて同意するとシャルロットがその理由を察する。

 今回の臨海学校は三日間であり、初日は移動と終日自由時間なのだ。

つまり今は海に遊びに来ているのと変わらないのである。

 そういう訳ではしゃぐ生徒を尻目にセシリアと箒はとある席に目をやった。そこには…

 

「( ゚Д゚)y (ボ~~」

 

「(´;ω;`) シクシクシク・・・」

 

「お~…ちぇろん、なでなで ヾ(∂∂。 )ナデナデ 」

 

 まるでその一角がこの世界と分断されたかの様に暗かった。

 どこを見ているか分からない目で外を呆然と眺める轟、涙目でクヨクヨしているチェーロ、

そのチェーロを膝枕しながら撫でて慰める本音と、テンションが上がっている回りと真逆で下がりきっている。

 

「なぁ、一体全体アイツらはどうしたんだ?」

 

「ソレは私が答えよう、嫁よ」

 

「ラウラ?」

 

 余りにも違いすぎる世界を展開している様子に一夏が疑問の声を上げると即座にラウラが応対した。

 自然と出てしまった疑問であったために彼は放けたような様子で彼女に向くと、

轟とチェーロが落ち込んでいる理由を知ってるのか彼女も何処か気落ちした様子である。

 

Vater(父/十千屋)Mutter(母/リアハ)も明日の為に目的地へ早く出かけてしまってな。

一緒に旅行気分で移動できると思っていたSchwester(姉妹)に心的ダメージがきた、と言う訳だ」

 

「ああ、成る。そういや師匠も奥さんも朝から見かけてなかったわ」

 

 そう、この一年一組のバスのには十千屋とついでにリアハは乗っていないのだ。

彼らは臨海学校二日目のIS各種装備試験運用とデータ取りがある。その下見とかで早めに目的地へ出発していたのだ。

 その為、彼らとの旅行気分を楽しみにしていた二人はショックを受けてしまっているのである。十千屋は家族サービスには余念がないが、今回は上手くいかなかった様だ。

 

 

 「ヒャァアアッッホォオオオ!!パパ!!ありがとう!!!」

 

「スゲェなぁ。プロみたいな動きをしてやがる」

 

「確かに凄いですわねぇ。

 しかし、おじ様はこちら(海水浴場)側に来れないからとあんな物まで持ち込んでいたなんて。

 あ、一回転しましたわ」

 

「それにこっちはコッチでいい笑顔して掘ってるし、ねぇ?」

 

 さて、IS学園一同は宿泊する旅館に到着。

休憩もそこそこに生徒たちは遊び倒すために海へと突入していった。

 水着に着替えるまでダウナーだったチェーロも轟も海辺に十千屋からの贈り物が有ると本人から告げられると、今までの雰囲気が嘘のように一転する。

 チェーロには帆の付いたサーフボード-つまり、ウィンドサーフィンを、

轟には人の大きさくらいある砂の塊-サンドアート用の正方形に固めた砂が用意されていたのだ。

 チェーロの方はライフジャケットを着込み仲の良い友達を乗せ替えたりして海を疾走し、

轟は造形に興味がある生徒と砂を彫刻していた。

削られていく砂を見てみると、どうやら轟雷が削り作られているよである。

 しかも、パーツのバランスを見ると十千屋のISである打鉄カスタム『(イカヅチ)』が片膝をついているポーズらしい。

 

 それぞれ楽しんでいるのを確認できると一夏も海と夏を楽しみだす。

 セシリアにサンオイルを塗ってドキドキしたり、溺れかけた鈴を助けて急接近したり、

いざとなって恥ずかしがっている水着姿のラウラを褒めたり、

シャルロットと一緒にビーチバレーした時に揺れる双丘に目が奪われたり、と色々だ…フラグ強化ですか?コノヤロウゥー

 

 ちなみに、轟とチェーロの水着はそれぞれのIS-FA:G轟雷・スティレットを連想させそうな

カラー&装甲柄のタンキニである。

 

「あれ、そういや…箒は?」

 

「あぁ、篠ノ之さんはゆっくり海を眺めたいからって一人で磯の方に行ったよ?」

 

「はぁ…しょうがねぇなぁ。チョッと呼びに」

 

「ん~、篠ノ之さんも年頃だし一人きりになりたい時だってあるんじゃないかな?」

 

 ビーチバレーから抜けて少し休憩に入った一夏は箒の姿が見えない事に気づく。

その疑問にクラスメイトが答え、箒を呼びに行こうとしたが彼女に押し止められる。

 確かに箒だって一人きりになりたい事だってあると一夏は考え直した。

 

「それも…そうか。じゃあ、そっとしておくか」

 

「それがイイんじゃないかな?あ、それだったら私とペア組んでビーチバレーの方に行かない?」

 

「…今のアノ状況に混ざれ・・・・と?」

 

「……ゴメン、今は無しにして」

 

 立ち上がりかけた一夏は考え直し腰をまた下ろす。箒の事は気になるが自分から離れたのだからそっとしておいた方がいいだろうと結論づける。

 シートに座り込んだ彼にクラスメイトは一緒に遊ぼうと提案するが、彼が目を向けた方角を見ると反古する。

 彼と彼女の目線の先には、休憩に入り生徒と一緒にビーチバレーで遊ぶ千冬の姿があったが…

スパイクの度にボールとは思えない破裂音、そのボールが砂地に着弾すると舞い上がる砂煙、

ブロックすると宙に浮く生徒たち、そう…そこには千冬のワンサイド・ゲーム(一方的な残虐)があった。

 どうやら、ISで世界の頂点を取った女性()はビーチバレーでも最強らしい。

 

 

「ふぅ…」

 

 昼時だというのに黄昏て歩く箒は磯に打ち付ける波の音を聞いて物思いに耽る。

どうせ自分で考えても答えの出ない事なのに、と思ってもどうしても考え込んでしまうものだ。

 

「悩み事か、そこの女子(おなご)

 

「…っ!誰だ!?」

 

 急に話しかけられて思考の泥沼から引きずり出された箒は声をかけられた方向に向き構える。

そこには女性、いや自分と同じか少しばかり歳上の少女が居た。

 彼女は竿を器用に振るって少し遠くのポイントへと釣り針を飛ばした所である。

その風貌は浴衣を着込み、(すげ)笠を被り小さな折りたたみ椅子に腰を掛けている、という

立派な(江戸時代的)釣り人スタイルであった。

 傍には既に数匹釣り上げたのか携帯バーベキューコンロで魚を焼いており、香ばしい匂いがする。

 そんな箒のとっては予想も出来ないし思いもしない姿に、彼女はつい警戒してしまう。

 

「…ここは旅館の私有地だ。勝手な狩猟は禁止されている筈だが」

 

「きちんと許可は貰っている。()って食うのは食べる分だけだ。

 後はまぁ…フィッシング・スポーツ?と言うものか」

 

「…単刀直入に言おう。お前は「そちらはIS学園の生徒さんだろ?」っ…なぜ?」

 

 警戒の解けない箒は探りを入れるかの様に話しかける。が、元々この手の探り合いは苦手な彼女だ。疑問に感じたことは聞き出せない。逆に直情的に聞き出そうとしたら自分の身の上を当てられ更に警戒するはめになってしまった。

 少女の方は未だに竿を器用に操って釣りを続けながら箒の方へと顔を向ける。

きっと腰下まで届くだろう一本に纏めた金髪が笠の下で振れた。

 

「この時期、ここを利用するのはIS学園しかない。ただ、それだけだ。

 まぁ、コチラは仕事で来ているのから事前に知っていただけの事だ」

 

「そうか」

 

「さて、名も言わずに失礼だったな。私は(じん)、先程も言ったが仕事でここに来た」

 

「…篠ノ之箒」

 

「この後の予定が無いならソコに座るといい。砂浜へと戻る気は無いのだろう?」

 

「はぁ…言葉に甘えさせて貰う」

 

 ネタばらしかの様に名と訳をアッサリと話す迅に箒は気を張っていたのが馬鹿らしく感じ、

肩の力が抜けると同時に警戒心も萎えた。

 箒は彼女の(すす)めで傍に置いてあった携帯用の小さなパイプ椅子に座ると、やる事もなく

彼女の釣りを眺める。

 確かに彼女の言う通り箒は生徒たちが居る砂浜に戻る気はなかった。いや、正確には彼が居る

あの場へと今は戻りたくだけである。

 

「さて、君の悩み事は…他人から見れば取るに足らない事だろう」

 

「…貴女に何が分かる」

 

「そうだな…分かりかねる、かな?(よわい)一八程度だが、人の死に顔は見飽きたからな」

 

「貴方は一体、何をやってきたんだ…」

 

 いきなり話しかけられたと思ったら、箒の悩みの確信へとアッサリと踏み込むものであった。

確かに彼女の今の悩みは叩きつけるように()()文句を言えばハッキリするものである。

 何となくだが彼女は迅が何処の何者なのかは察しがついてきており、その語り方も()()()

似ていた。だが、それは人の道を外れた様な経験からくるものに聞こえ箒は率直に聞き返してしまう。

 

「大なり小なり悩みや未練、それを持ったまま逝く死顔は醜いものだ。

 悩むのも結構だが、分かりきっている答えならば行動した方が吉だぞ?」

 

「そう簡単に行けばいいが。乙女の矜持(プライド)というものがな…」

 

「ははっ、若いな。まぁ、父上ならこう言うだろう『命短し恋せよ乙女』

 それは華にも例えると言う。咲き誇り、実を結ぶと良いな」

 

「若いって、貴方も十分若いだろうが」

 

 何だかんだで話し相手となってくれた迅に箒は最初に抱いていた警戒心など完全に失せてしまう。力んでいたものは全て弛み、それと同時に…

 

 クゥ・・・「ぬぅ…///」

 

「あっはっはっはっ!確かに昼時だな。箒も此処で食べてゆくといい」

 

「それは有難いが。コレは貴方が自分のモノ(昼食)として釣った物ではないのか」

 

「心配は無用だ。足りなければまた釣ればいい事。それに相方も採取が終わって」

 

 ザバァッ・・・

 

「噂をすればだな」

 

「ふぅ…大量でゴザった」

 

 箒の腹の虫が飯はまだかと催促を寄越す。迅はそれに笑いながら此処で昼食を摂っていけばいいと言い、焼き魚となった獲物を差し出した。

 これには遠慮する箒であったが彼女は構わないと言い、その理由がそばの磯から上がってくる。

 迅と同じように髪を束ねた少女が海から上がってきており、手に持った網には貝や海老などが入っており腰に括りつけた魚籠(びく)もきっとそうであろう。

 だが、箒にとってはそれどころではなかった。真っ先に海から上がった少女に言うべきことがある。

 

 「何か羽織れ!不埒者!!」

 

「確かに上は着けておらぬが、下はキッチリ(ふんどし)を締めて…おろ?

 ……ああっ!どうりでスースーする訳でゴザルなぁ!?

 

 そう、上がってきた少女は()()()()と言ってもよかった。自己申告した唯一身に着けていた褌は泳いでいる間に緩み、股布は後ろから前へ跨ぐ様にするタイプであったのか…上から下まで

前面フルオープンである。

 確かにコレははしたない。自分の事ではないが年頃の娘としてはヤってはいけいない事の最上位に食い込むだろう。なのに当事者は笑いながら褌を外して水気を絞り、海で冷えた体を夏の日光とコンロの火で暖めながら調理を始めた。

 その有様に今度は箒の気力が(しぼみ)みきってしまい、黙々と出来ていく野外料理を口に運ぶのであった。

 

(はぁ…コイツらは一体。いや、何となく十千屋さんの関係者だろうと察せるが…

 何をやっているのだろうな、私は。あ、つぼ焼きオイシー)

 

(さて、仕事としては二日目からが本番だが…

 彼女()は自分が被要人保護対象だと分かっているのか?一人でこんな所まで来てしまって)

 

 黙々と食べる箒を見て迅はそう思っていた。

IS学園に居ると忘れそうだが、彼女は要人保護プログラムを受けている身である。

つまり、本来ならボディーガードを付けていなければならないのだ。

 今回の迅の仕事は二日目に行われるISの試験運用時に怪しい者が入り込まないか見張る事だ。

だが、普段IS学園では影からの警護をしている。その対象に箒も入っているのだ。

 それなのに一人でノコノコと集団を離れていってしまうのは警護上問題がある。

いくらここら辺一帯がIS学園の貸切であるとは言え、どこで誰が何で狙っているのかは分からないのだ。それもあって彼女はこの場に留まる様に勧めたのである。

 しかし、それよりも箒と迅の胸中に同じ事が(よぎ)る。それは…

 

((しかし、コイツは(箒・迅)とキャラが被っているんじゃないのか?))

 

 どうやら、どちらもサムライガールというキャラクター性の被りが気になってしょうがない様だ。

 そして、全裸の少女-藍は…

 

「いや~、やはり魚介は日本の物が良いでゴザルなぁ。

 いや、家の近くで()れる南国の魚介も悪いわけではゴザらぬが…」

 

 日本で取れる食材に舌鼓を打ちながら、獲ってきた獲物を調理して腹に詰めるのに夢中になっていた。

 

 

「(・ω・`*)ネーネー、コッチでいいの~?」

 

「うん、こっちで良いはず。看板にもそう書いてあったし・・・」

 

 さてはて、またとある所で集団を抜け出し行動する二人が居た。

彼女たちはある道をたどり何処かへ行きたいようである。

 そして、緩やかな上り坂を登りきった先には彼女らの目的地だろう平屋がソコにあった。




はい、前書きの通り・・・約一ヶ月ぶりです。
仕事が忙しい感じになっていたので、製作意欲が底に落ちかけてました。
それでも、今回ようやく上がり・・・『臨海学校編』が本格スタートしました。
予定ではあと2~3話位で銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)戦に入れると思います。

あとは、今回は書いてる途中で長くなりそうだったので区切りが良い部分で上げさせてもらいました。
それ故に次回はソコソコ早く上げられると思います。多分、きっと、メイビー・・・

まぁ、とにかく・・・最後の方で分かる方が多いと思いますが、とある意外でもないか?
あの娘がファミリー入りを決意するお話になっていると思います。
感想の方で意外と反響があったので。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA49ss:交・ぜ・て~っね

はい、約1週間たって・・・前回の続きが書けました。
・・・途中まで書きかけていたのに、なぜこうも時間が掛かったのだろう?

そして、今回は本音(ファン)の皆さん閲覧ご注意かもしれません・・・


では、どうぞ御ゆるりと。


 わたしは貴女が好き。

 貴方が嬉しいとわたしも嬉しい、貴女が悲しいとわたしも悲しい。

 今まで(過去)これから(未来)も一緒に生きたい。

 だから、貴女が好きな人は・・・わたしも好き。

 

 IS学園臨海学校初日。その自由時間にここにもまた集団から離れ行動するのが二人・・・

 

「(・ω・`*)ネー、かっちゃん。とうちゃんさんってコッチに居るの?」

 

「うん、来たLINEを見ると…十千屋さんとリアハさんは同じ部屋。

 家族やカップルで泊まる()()の方に居るみたい」

 

 生徒たちが海で遊ぶ中でその二人-簪と本音は十千屋が居る方に向かって足を運んでいた。

 実は十千屋とリアハは旅館の本館に泊まらず、離れの方に泊まっている。これは彼の素顔や傷痕を考慮しての配分なのであった。それに夫婦として離れへと押し込めば、教師(千冬)と同じ部屋に泊まる事になった一夏と同じように別段分けなくてもよいと考えたのだろう。

 彼自身も自分の素顔や傷痕などが一般受けしないのを分かっているので素直に従った。

まぁ…自由時間である初日は、ほぼ一日中リアハ()とイチャつけるから(意味深)願ったり叶ったりなのだが。

 そんな中で彼は一応、自分と関係が深い生徒-つまり、いつものメンバーにはLINEでどこに

泊まっているかは伝えていた。だが、連絡しただけで行かなくてもいいはずなのだけれども・・・

 

「ある意味、チャンス・・・」

 

「そーだね~。かんちゃんは~気合入れて~あの水着も~持ってきてるだもね~」

 

「別に本音は付き合わなくてもいいんだけど・・・?」

 

「ううん、付き合うよ~?それに~わたしも~、かんちゃん と とうちゃんさんに~

 二重の意味で興味あるのだぁ~」

 

 雑木林の中の離れと言う感じで平屋は建てられていた。簪たちが歩いてきた海へつづく道や

旅館本館への渡り廊下もあるが、ひっそりそこに存在し世俗から切り離された印象がある。

 彼女たちは平屋に入るが、十千屋とリアハが居る気配はない。

しかし、外側の方からくぐもった声が薄らと聞こえる気がした。

 

「・・・露天風呂?」

 

「あ~、そ~いえば~?

 この離れって、小さな露天風呂が有るって書いてあったよ~パンフレットに~」

 

 本音が言ったように此処には、5~6人くらい入れる小さな露天風呂が付いている。

どうやら彼らはソコに居るようだ。

 簪は一考すると着ている水着を脱ぎだし持ってきた手提げ袋をあさる。その中から出てきたのは、あの楯無を萌血ダクダクにした・・・バックガラ空きタンキニタイプワンピースであった。

 

「あぁあ~~・・・昼間っから露天風呂でダラダラするのもイイなぁ」

 

「はい。それにこんな日の高い時間から二人きりで、

 あの・・・そのぉ・・・くっついて過ごせるのは久しぶりですね///」

 

 気の抜けた声を出し、休暇を楽しんでいるは十千屋である。彼は露天風呂の端に座り足湯の状態にして楽しんでおり、リアハはその彼の膝に座って全身を彼の胸に預けていた。無論、此処は風呂なので全裸だ。

 両者ともイチャつきながらマッタリしている様に見えるが、もし此処がただの風呂場であったのなら・・・汗や湯、石鹸の匂いだけでなく別の臭いも篭っていただろう。つまり、そういう事だ。

 ちなみに十千屋の機械部分は全て完全防水されているので問題はない。後でメンテナンスは必要だろうが。

 

「・・・お邪魔します」「します~♪」

 

「おう、いらっしゃい」「あら?いらっしゃい、かんちゃん♪ ほんちゃん♪」

 

 そうやってまったりネッとりしている夫婦が居る露天風呂に、簪たちが入ってくる。

無論、彼女は勝負(意味深)水着を着て入ってきた。

 そして、彼女らは左右それぞれ彼の横に座る。

 

「まったく、別に来なくてもいいだろうに。友達とのコミニュケーションは大事だぞ?」

 

(フルフル・・・)貴方とこうして過ごしたかったから、それに・・・」

 

「それに?」

 

「貴方の所に行くって言ったら、みんなサムズアップしながらイイ笑顔して

 『いってらっしゃい!頑張って!!』って」

 

「・・・色んな意味で良く分かってらっしゃる事で」

 

 友達と遊んでいたほうが良いと言う十千屋に対して、好意と皆の期待(意味深)を

包み隠さずに話す簪に彼は遠い目をしてしまう。

 彼女はそれを肯定と察し、彼の左腕を胸と腿にかき抱く様にして寄り掛かる。

 

「(ノ゚ο゚)ノ ほぉぉお~!?おっきいんだよね~コレ~?」

 

「そうですね。ユウさんのは棒も玉も平均サイズを逸脱してますから。

 所謂、巨根と言われるサイズです。いえ、それよりも大きいかも?」

 

「こ、これだけ大きいとリア奥たまも大変じゃないの~?」

 

「確かに怒張時はさらに凄い存在感と圧迫感を感じますけど、不思議な事に(なか)に入れた時に

 異物感・圧迫感等による痛みや息苦しさは無いんですよね」

 

「ん~(´-ω-`)?意外と柔らかいって事~?」

 

「いえ、本当に不思議なんですけどガチガチですよ?それこそ作り物みたいに硬いんです。

 なのになんですよ」

 

「Σ(・□・;)ハッ!?もしかして~、コレが噂のマジカルチ〇ポ!?」

 

「成る程、それならシルヴィアや素子ちゃんの時も平気だったと言う謎も・・・」

 

 「おい、堂々と本人の横で。

 しかも、ブツを覗き込みながらY談するんじゃねぇ」

 

 本音はつい、リアハの臀部の下からハミ出す物・・・つまり、十千屋の局部を見て声を上げてしまった。リアハは彼にピッタリくっつく様に座っている。

その為、彼女が言った通り彼の大きい()()がハミ出すように見えたのである。

 本音の言葉に反応したリアハはバカ正直に()()の説明を始めてしまい、そこから()()を話題の

中心とした猥談に発展してしまった。

 

「Y談でも、大事なところはたくさん有るんですよ!」

 

「そーだぁ!そーだぁ!」

 

「・・・例えば?」

 

「ユウさんの玉の弾は一般男性だと約三日でフルチャージですが、

 僅か一日足らずでフルチャージとか!いえ、常時フル生産と言って過言じゃないですね」

 

「おぉおー!?\(◎o◎)/」

 

「その為もはやゲル状のアレを沢山注ぎ込んでくれるとか!」

 

「凄まじいねぇ~(;゚д゚)ゴクリ」

 

「総合して超絶倫&種マシンガン。そして、体力も凄いですから最近だと私含め四人掛りでも

こちらが先に果てるんですよ!?しかも四人中、二人は改造人間、一人は超人のはずなのに!?!」

 

「お、恐ろしいぃ~!?(゚o゚;;」

 

「・・・はぁ、お前ら」

 

 「「ムギュっうぅ!?」」

 

「なぁ、色んな意味でお前たちの頭・・・茹だってないか?

 特にリア、お前・・・完全に発情したシルヴィアみたいになってるぞ?」

 

 謎の勢いと共に十千屋の()能を力説し出すリアハとソレをはやし立てる本音を彼は強制的に止める。リアハは自分の胸に押し付け、片手で本音の両頬を潰すように挟む。

 この光景に簪は苦笑するが・・・彼女もまた、()()を見てしまい赤面しながらも十千屋に擦り寄った。

 

「十千屋さん、ソレ・・・」

 

「・・・あー、うん。この状況でこうならない奴は男じゃないからね。

 色々と逸脱しているのは意識してるけど、俺だって男だからな」

 

 簪がリアハの臀部の下から伸び自己主張する()()を指摘すると、十千屋は気まずそうに言い訳して外方(そっぽ)を向く。最早、茹だった奴にお仕置きする雰囲気でなくなり微妙な間が出来てしまう。

 その中でコレはチャンスと動く人物が居た。それは、本音である。

彼女は、着ぐるみ水着を脱ぎ払い彼にしな垂れ掛かった。

 

「とう~ちゃん~さ~~ん。ソレってそう言う事だよね~?」

 

ブハァッ 本音!?お前、なんて格好を!?」

 

「あら~・・・」

 

「(ドキドキ・・・本音、ここで仕掛けるの?)」

 

 今までにない彼女の様子と格好に十千屋は吹き出し、リアハは唖然とし、簪は内心ついに来たか・・・と思いことを見守る。

彼が吹き出した理由は、彼女が着ぐるみの下に着ていた水着が際ど過ぎた為であった。

 その水着は記号で例えられる。その記号は∀であった。・・・実は本音は凄くスタイルが良い。

いつもダボダボの制服や服を着ているため分からないが、出るとこは出て、引っ込むところは

引っ込んでいる。

 そして、適度なムチムチ感と大変男好きがする-諸曰く、トランジスタグラマーと言うヤツだ。そんな彼女が際どい水着(アダルト水着)を着用し、しな垂れ掛かってきたのである。

これでリアクションを起こさないのは無理な話だ。

 

「ね~、とうちゃんさ~~ん?」

 

「な、なんだ?」

 

 何時もと違い過ぎる本音の雰囲気に十千屋はしどろもどろになった。だが、その目は自分の腕に押しつぶされ変形する胸へといってしまいそうになる。無理もない、∀の横線が少しでもズレれば見えてしまいそうになるソレはインパクトがあり過ぎた。彼も男盛り真っ盛りなもんで。

 

「いま~、かんちゃんと~リア奥たまと~シたくなった~?」

 

「お、お前は一体なにを言ってるんだ?

 大体、年頃の()がそんな格好してそんな事を言うもんじゃ・・・」

 

「シたいか、シたくないか・・・それだけ答えて」

 

 あからさまな態度にろれつが回っていないが嗜める彼に、彼女は何時もの間延びした口調ではなく強い口調と眼差しで確認する。

 この気迫に冗談の類ではないと察した彼はバカ正直に答えることにした。何故ならば、こういう雰囲気時の女性に嘘も誤魔化しも冗談も通じないと経験で知っていた為である。

 

「そりゃ、男の(さが)に逆らえないってんだよ」

 

「良かったぁ~。じゃあ、ね~?」

 

「また、何だよ?」

 

「わたしも~()・ぜ・て~っね♥」

 

 彼の()る気があると確認できると、彼女は心底安心したかの様に話を続ける。

が、その後の爆弾発言に十千屋は理解するのに数拍の間が必要であった。

 ソレを理解した時に何かを喋ろうとしたが、言葉が出てこない。実は彼にとって初めての経験であるのだ。

 不埒な事だが、十千屋は複数人の女性と関係どころか婚姻をしている。が、それまでの女性は地道に手篭めにしたり(リアハ)待ちのフルオープンだったり(シルヴィア&素子)、慰めている間に良い雰囲気になって

なし崩しにと・・・女性がどちらかと言うと受身である事が多かった。

 こんな、関係を持つ前からグイグイと「襲っても良いし、襲われても良いんだよ~♥」なんて

攻められるのは初めての事なのである。

 

「本音!?気軽に遊ぶ様に言うんじゃねぇえ!!大体、簪も友達が目の前で

 アレやコレされるなんて嫌だろう!?!」

 

「わ、私は・・・本音だったら良いよ?」

 

 「簪さんっ!?」

 

 爆弾を投下した本音に対し、彼女の親友()を引き合いに出して思い留めるように言葉を掛ける。

 だが、簪がまさかのゴーサイン(了承)を出し彼は思わず彼女の名を呼び、叫んだ。

 

「うぉい!?本当にそれで良いのかっ簪も!?本音も考え直せって!こんな訳の分からない男に

 身空を売って、一生を棒に振るような真似はっっ!!!」

 

 只今、十千屋の回りには味方は居なかった。本音はコチラへ踏み込む気満々であるし、

簪もそれを了承しており、リアハは彼を囲い囲われる人が増えるのを推進しているから余計である。

 それでも彼は彼女の肩を掴み、必死の説得を試みた。但し、彼自身が一般良俗を色々と

ブッ千切っているのは承知の上なので説得()は無いに等しかったが・・・

 

「ん~、とうちゃんさん。わたしの好みのタイプって~分かる~?」

 

「いや、聞いた事が無いから知らないけど。自分を大事にして甘やかしてくれる人か?

 雰囲気的に」

 

「そだね~?それも~重要なんだけど~~」

 

 本音の急激な話題の変化に幾分か落ち着きを取り戻したのか普通に答える十千屋。

彼は彼女の雰囲気から察せる好みを言い当てようとした。

 この答えは多少なりとも近いのか彼女は一応の肯定を見せる。

だが、足りないのか本筋は違うのか「そうではない」という雰囲気が見て取れた。

 そして、彼の両頬に手を添えながら彼と奥に居る人物を視線に入れながら本懐を告げる。

 

「わたしはね?かんちゃんを幸せにしてくれる人が、好きなんだ~」

 

「簪を?」「私を?」

 

「うん!(^-^*)」

 

 本音の言葉を聞き、十千屋とその奥にいた簪はキョトンとして彼女に聞き返すと満面の笑みで

肯定する。

 

「わたしはね~?かんちゃんとずぅ~っと一緒に居たいんだよ~。

 かんちゃんが嬉しいとわたしも~嬉しい~。かんちゃんが悲しいとわたしも~悲しい~」

 

 十千屋は勿論の事、簪も今まで姉妹に近いような存在であった彼女の本心に聞き入る。今ままでずっと近くに居ながらも・・・いや、だからこそ気付けなかった心うちを初めて聞く。

 

「楯無お嬢様の~残姉ぇ加減で~、かんちゃんが追い詰められていたのは分かってたんだよ。

 でも、わたしじゃ支えられなかった。慰めてあげられなかった・・・」

 

「・・・っ本音、それはちが」

 

「でもね?とうちゃんさんは、そんなかんちゃんを救ってくれた。慰めてくれた。

 今まで以上の幸せを与えてくれた」

 

 いつの間にかあの間延びした口調は消え、彼女はつらつらと言葉を並べる。それは自身では

届かなった後悔の懺悔のようであった。

 その中心である簪は違うと、ただあの時は自分が拗ねて意固地に成っていただけだと

声を上げたかったが彼女の話は止まらない。

 

「かんちゃんの幸せがわたしの幸せ。かんちゃんが好きな人はわたしも好きな人。

 だから、とうちゃんさんが好きなの。都合のいい話だけど、わたしも交ぜて欲しい。

 わたしはかんちゃんのオマケでいい。かんちゃんと同じ幸せを感じられるなら・・・」

 

「本音・・・」

 

 本音の独白が終わると、何とも言い難い雰囲気に包まれる。

特に簪は自身のせいで彼女を縛り付け、苦しめていたのかと胸が締め付けられる感覚がした。

 

「本音、私のせい?私の従者として、私の側に付かれたから・・・」

 

「ううん、違うよ?わたしはわたしで決めたの。

 会った時からビビッときたの、かんちゃんとずっと一緒に居たいって。かんちゃんは悪くない。

 全てはわたしが決めた事だから、何ににも変える事の出来ないわたしの()()だから」

 

 何時もとは違う儚い笑みを浮かべる本音に、誰もかもが腕を伸ばし抱きしめた。

彼女の純粋で尊い思いに応えるかの様に十千屋とリアハは自分たちの間に収まる様に抱きしめ、

簪は彼越しに彼女を抱きしめる。

 

「えへへ、わ~い♪ 抱きしめられちゃったっ。・・・とうちゃんさん?わたしってズルいかな~?」

 

「ああ、ズルいな。こんな事を聞かされたら、応えるほかないだろう?」

 

「わたしって悪女?」

 

「ああ、とんでもない悪女(良い女)だ。だから、どこにも行かないようにしなくちゃな。そして・・・」

 

「そしてぇ~?」

 

 もう、十千屋の答えは決まっていた。それは、リアハも同じだろう。

彼は彼女に顔を寄せ、互いに冗談めいた告白を交わす。

 そして、彼は彼女に特大の口説き文句だろう言葉を言った。

 

「そして、お前を幸せにしてやる。簪と同じ?一緒?オマケ?馬鹿言うんじゃない。

 それぞれキッチリ幸せにしてやる。その上で本音も簪も一緒に幸せにしてやる、愛してやる。

 二人一緒で幸せ倍なんてケチぃ事なんて言わせねぇ。

 お前と簪、リアとみんなで幸せ累乗でしてやるから覚悟しとけ?」

 

「わ~~いっ、俺の女発言?戴いちゃった~。あれれ?何で涙が出るの~??」

 

「本音・・・」

 

「なに~、むぅっ!?・・・ぷはっぁ!」

 

「ほんちゃん?」

 

「ほへぇ?むむぅう!?・・・ぽぺぇっ!」

 

 十千屋の全部何もかも幸せにしてやる宣言と告白に、受け入れられたと本音は嬉し涙を零す。

それが堪らなく愛しくなったのか、十千屋のファミリーの加入を記念してなのか彼とリアハは彼女にキスをする。

 そして、彼女が落ち着くまで皆一固まりになり愛しい時間を過ごした。

 

(ジュル・・・ジュジュジュッ、チ~ン・・・)えへへ~/// 大変、お見苦しい?ところをお見せしました~?」

 

「まぁ、気にするな。家族に成るヤツが多少見苦しいところ見せても気にはしない」

 

「そうですよ、ほんちゃん。それに・・・これから先、もっと凄いところを見せるんでしょうし」

 

「色々と~エロエロと~(・ω・`*)?」

 

「はい、色々でエロエロ含みです♪」

 

「・・・お前ら」

 

 本音が落ち着き、皆が十千屋に寄り添っている中でさっそく会話が始まった。いきなり本音と

リアハが微妙な下ネタトークを仕出すが、どうやら本音は何時もの調子に戻ったようである。

 

「本音・・・今まで以上に一緒に宜しくね」

 

「かんちゃん・・・うんっ!」

 

 本音の本心を知った簪は彼女に改めてこれからもの挨拶をし、彼女も快く返答する。

が、次の瞬間・・・

 

「・・・本当に、これから()()だけど、ね?」

 

「だよね~(。-∀-)」

 

 二人の視線は互いの顔から下に移動し、同じところを見つめる。そこには・・・まぁ、うん。

彼の()()が自己主張激しくある訳で・・・おい、リアハ。視線に気づいたからって腰を揺するんじゃない。

 

「・・・ねぇ、本音?」

 

「分かってるよ~。ねぇ、とうちゃんさん?」

 

「・・・分かるが、言う事なのか?このまま綺麗にしっとりと終わるべきじゃないか」

 

「ううん~。ある意味、仲直りと~コレからの幸せを記念して~ねっ?」

 

「そうですよ。せっかく、ほんちゃんもファミリー()入りしたんですから。

 ・・・それに、ハァハァッ・・・私もある意味で限界です///」

 

「・・・はぁ」

 

「きゃんっ(*≧∀≦*)」

「あぁんぅ・・・///」

「んぅん・・・!」

 

 求めてくる女性に対して十千屋は溜息をつきながらも覚悟を決める。

本音のアダルト水着の下に手を差し込み、彼女の豊満な胸を鷲掴み。

いつの間にか()()を下で咥え込んでいたリアハ()を突き上げ。

簪の脇腹から水着内に手を侵入させ、秘所を探る。

 そして、彼は彼女らに宣戦布告をする。

 

「明日は明日で色々あるからな。そこは加減してやる。

 だが、()()は無事でいられると思うなよ?」

 

「「「きゃぁぁあ!!(≧∇≦*)」」」

 

 彼の宣言を聞き、彼女らは黄色い悲鳴を上げる。

まぁ、それはすぐに嬌声と何かネチョついた水音に変わるのだろうが・・・

 

 

 さて、時間はもう夕方となりIS学園の生徒らは夕食の時間を迎えていた。

 生徒らは大宴会場で夕食を頂いているが、そこにも十千屋の姿はない。

まぁ、夫婦・家族用の平屋のサービスでそこで食べているのだろうが。

 一夏の回りでは何時ものラブコメが始まっているが、それはさておき・・・

自由時間たっぷりネチョられた簪と本音は・・・居た。

 

「・・・ぬぅ(トントントン・・・)

 

「・・・更識さん、どうだったの?上手くいった?」

 

「・・・(//ω//)v」

 

「「「きゃぁあああっ♪(o>ω<o)」」」

 

 どこか座り悪く何度も位置調整したり腰を軽くたたく様子の簪に、あの心地良く送り出した

クラスメイトが尋ねると彼女は口に箸を加えたまま俯き、紅潮した顔とピースサインで答える。

 その反応に彼女の周りは沸き立った。しかし、今は根掘り葉掘り聞き出すような真似をするのは淑女としてはしたない。これは夜の楽しみにまで待っとくべきだとして、クラスメイトは友の成功に喜びの声を上げたのであった。

 

「布仏さん、なにか嬉しそうだね?」

 

「うん、そうかな~?(*゚▽゚*)」

 

「何かあったの?」

 

 こちらは本音だが、何時もよりもご機嫌で笑顔3割増しの彼女に隣に居たクラスメイトが声を掛ける。

 すると、ますます笑顔になって彼女は答えた。

 

「うんっ♪ 今日はとうちゃんさんが かんちゃんと一緒に(あそ)んでくれたんだ~」

 

「とうちゃんさん?ああ、十千屋さんか。かんちゃんは更識さんだったっけ?

へぇ、仲良く遊べたんだ」

 

「うん!(^-^*) 抱っこしてくれたり、撫でてくれたり、一緒に味見したり色々と~!!」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

 「本番はしてくれなかたけど・・・」

 

「 ? 何か言った?」

 

「な~に~?(・ω・`*)」

 

「ん~・・・何でも無いよ」

 

 クラスメイトは本音の小声は聞こえ辛かったのか、気のせいだと思い会話はそこで終了した。

だが、本音と自身の圧倒的な違いに終始気づくことはなかったのである。

 彼女は普段の本音のイメージから小動物系のペットや子供の様に思っていたために

言葉の額面通り受け取ってしまった。

 本当の意味は、(口を貪りながら)抱っこしてくれたり、(秘所・性感帯を)撫でてくれたり、

(互いの体を)一緒に味見したり色々である。まさか本当はこんなんだと誰も気づけはしないだろう。

 皆が和気あいあいと食事をする中で、笑顔の本音の細目の奥に艶がかった剣呑な光が灯った事に誰も気付けなかった。

 

「(にゅふふ~、とうちゃんさん。わたしもかんちゃんも(みんな)も一緒に幸せになろうねぇ~)」

 

 笑顔と小動物的な仕草に隠された、(したた)かに生きる女-布仏本音。十千屋ファミリーに参入・・・

 

 

 

 

――おまけ:(あわ)れ残姉ぇよ・・・――

 

「そう言えば、簪?」

 

「んぅ・・・/// なぁに?」

 

 十千屋は簪にとある事を思い出し尋ねる。すると彼女はどこか艶がかり気怠い返答をした。

 もう、分かっている人も多いだろうが・・・実は簪も以前からファミリー()入りしている。だが・・・

 

「いや、刀奈に自分()もそう言う関係だって、いつ話すんだ?」

 

「・・・そうだね」

 

 実は簪は刀奈()には自分と十千屋との関係をまだ伝えていない。

 何だかんだで刀奈は簪に対してヘッポコで、色々とエロエロと十千屋達に振り回され抜き差しされ、全く彼女が既に陥落済みだと気づいていないのだ。

 彼女は少し考えると・・・姉に対してよく見せるようになった()()の笑顔でこう提案する。

 

「お姉ちゃんが何かしでかした時・・・かな?」

 

「そ、そうか・・・」

 

「うん。何かしでかして、お仕置きの際に暴露して、見せつけて・・・クスッ、はぁ~お姉ちゃん・・・

 どういう顔を見せてくれるんだろう(//∇//)ゾクゾクッ・・・

 

「そ、そうなのか・・・」

 

 すっかりソッチ(愉悦S)に目覚めている簪に十千屋は刀奈を不憫だと思うが、同時に彼女と同じように

刀奈の色々と染まったその表情を見てみたいと思い、自身も彼女と同類だと自覚する。

 

「(まぁ・・・気の毒だが、しょうがないか。今までが今までだったからなぁ)」

 

 あぁ・・・哀れ残姉ぇよ。因果応報で今度は妹が貴女()を追い詰めるようだぞ?




今回の主役とも言える人物は本音ちゃんでした。
とある作者さんの強かでエロい本音ちゃんに心を射抜かれ、ここでもヤる時はヤる本音ちゃんとなりました。
予定は未定ですが、なんだか彼女は色々と裏方で活躍してくれそうなスペックを秘めていると感じますね。

さて、前回も言った通りに書いていたら長くなったので分割した後半部分がコレなのですが・・・
1週間も掛かってしまいました・・・(;・∀・)
一番投稿スピードが速い時と同じくらいかかっている。内容は本音が彼を誘惑する所まで書けていたのに・・・何故だ?

次回の予定は・・・一日目の最終場面『女子会』風景ですね。
もしかしたら二日目の最初まで書けるかもしれません。予定は未定ですけど・・・(;^ω^)
・・・話数的にはあと1~2話、決戦の時が迫ってます・・・ね。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA50ss:・・・飲んだな?( ̄ー ̄)ニヤリ

投稿操作ミスしてしまいました。
前・後書きが抜けてしまいました。

二週間ぶりくらいですけど、新しくかけました。けど、話が進まねぇ・・・(;^ω^)

では、どうぞ御ゆるりと。


 さて・・・修学旅行などの夜など、皆様方はどのように過ごした思い出がありますでしょうか?

 楽しい語らい?素のままで、ハジケた?有りの侭に表した?

 ・・・作者は、明日のために素直に寝てました。

 

 

「はぁはぁ、酷い目に会いましたわ・・・」

 

「仕方ないよ~、セッシーったら~そんな準備バッチリで~部屋を出ていこうとしたんだから~」

 

 夕食の後、就寝時間までの自由時間帯の廊下をセシリアと本音が歩きながらそう話していた。

 セシリアは浴衣の型崩れを正しながら、どこか疲れた口調でそう言い。本音は何時もののほほんとした雰囲気で受け答えする。

 

「全く・・・殿方に出会う可能性があるのならば、確り準備しておくのが()()淑女としての嗜みですわ」

 

「いや~?それでも、高級香水と~エロ下着は~やり過ぎじゃない~?(。-∀-)」

 

「エロ下着とはなんですか!まだアダルト(艶っぽい)セクシー(色っぽい)下着のレベルですわ!

 断じてエロ(バッチコイ,カモ~ン)下着ではございません!」

 

「どーどー、セッシーヽ(ω・`)」

 

 さて、なぜこの二人が一緒に廊下を歩いているかというとセシリアの方は一夏に御呼ばれして、本音は同じようにこっちは十千屋に呼ばれてだ。

 旅館本館で目的の二人(男性)が居るのは教師に与えられた部屋しかないので、揃って同じ場所だったという事である。

 しかも、彼女らは同室だった為こうして一緒に出てきたのだ。

・・・部屋を出る前にバッチリ決めたセシリアを弄りだした(花の乙女のパッション)事があったが。

 その事があり少しプリプリと怒っているセシリアだったが、もう直ぐ目的の部屋の前で・・・

妙な二人が居た。

 

「「・・・・・・」」

 

「・・・何を面妖な事をしでかしていて、鈴さん、箒さん?」

 

「以下、同文」

 

「「あ、やっほ~(・∀)人(∀・)やっほ~」」

 

 目的の部屋の前で、ドアにピタリと耳を押し当て聞き耳を立てている鈴と箒に怪訝な顔をして

セシリアが尋ねる。

 同じように廊下の向こう側から歩いてきた轟も同じような顔をし、チェーロは何時もと同じだったが。

 

「「シッ!」」

 

 だが二人は微妙な顔をする面子に気にもせずに、逆に音量注意と回りを牽制する。

その様子を見て、セシリアらは耳を澄ますと・・・

 

千冬姉(ちふゆねえ)、久しぶりだから大分キツくなってるんじゃない?』

 

『そうっだな・・・!?くっあぁ・・・以前はよくしてもらっていたが、最近はな・・・』

 

『そいじゃ、コッチを攻めるよ?』

 

『くぁあ!そ、そこ・・・はぁっ!』

 

『一夏、そこは()じ込む様にしてやった方がクるぞ?』

 

『成る程っ』

 

『『あぁああっ!!』』

 

『ユウ・・・さん、ソコ強ぃ・・・あぁ、キ・・・キちゃいまふぅっっ』

 

 ・・・・・・・・・?

 

「・・・一夏さん?おじ様?え・・・は?」

 

 聞こえてくる声のせいで、セシリアの思考は完全に止まり、ドアに張り付いていた箒と鈴は

その姿勢のまま通夜の様な雰囲気を出すという変な状態となっている。

 轟は何かを感じたのか遠い目をし、本音とチェーロはこの有様のオチを確認し合い首をかしげていた。

 

『じゃあ次は――』

 

『・・・あぁ、少し待て』

 

 部屋の中の千冬が何かに気づいたのか、一夏の手を止めさせドアを開けた。

 ドアを開けるとどうなる? 知らないのか?

 

 バンッ!!

 

 「「あべしっ!?」」

 

「何をやっている、馬鹿者ども」

 

 ドアに叩きつけられる。そう、この旅館の部屋のドアは廊下に対して()()()

つまり、ドアに張り付いていた二人は殴打を喰らい十代乙女にあるまじき世紀末的な響きを漏らしたのであった。

 

「「はっはは・・・こんばんは!そして、さよならっ織斑先生!!」」

 

 ダメージを受けた二人は脱兎の如く逃走開始――だが、知らないのか?

魔王(千冬)からは逃げられない。あっという間に首根っこを掴まれ逃走は失敗に終わった。

 掴まれた二人は「ああ、終わった。何もかも・・・」と辞世の句を読みそうな雰囲気に包まれていたが、次の千冬の予想外の言葉に目を丸くするのである。

 

「盗み聞きは感心しないな。だが、丁度いいと言えばいいか。」

 

「「はい?」」

 

「お前ら、ボーデヴィッヒとデュノアを連れて来い。そしたら、中には入れ」

 

「「わ、分かりましたっーー!!」」

 

 首根っこを解放された鈴と箒は駆け足で二人を呼びに行く。

これ幸いにと鬼教官(千冬)が見逃した?チャンスを逃がしはしないと。

 それを見送った他の面子は部屋に入っていく。

 

「おお、セシリア。遅かったじゃないか。じゃあ始めようぜ」

 

「・・・い、一夏さん?何を始めるのですか?///」

 

「?」

 

「はぁ・・・一夏。相変わらず説明が足りずに告げてるな?お前の今のイメージはこうだぞ?」

 

 ベットをポンポンと叩いて呼ぶ一夏にセシリアは言葉を詰まらせながら聞いてみる。

彼はどこか恥かしげに紅潮している彼女に不思議な顔をしているだけで何も気づいていないようだ。

 それに溜息を吐きながら十千屋は、自分を背もたれにさせ座らせていたリアハの顎を掴み

・・・何時ものロボメットを取って素顔を彼女の顔へと近づけさせる。その動作は、顎クイキスであった。

 いきなりのアダルトな雰囲気に一同の顔は真っ赤になり、当の一夏もようやく理解したのか

慌てふためき、セシリアはますます顔全体を赤らめる。

 

「あ、アワワワわ!?違うって!?マッサージだよっマッサージ!

 それをセシリアにサービスしようと思ってさ!ほら、セシリアの部屋って班部屋だから、

 それだと落ち着かないと思ってこの部屋に呼んだんだよ」

 

「そ、そうでしたの。なら、お言葉に甘えてマッサージをしてもらいますわ///」

 

「一夏、お前・・・また誤解されるような言い回しで告げたな?」

 

「の様ですね。『後で部屋に来てくれ』ってくらいにしか言わなかったのでは?織斑先生」

 

「やっぱり、こういうオチなんだね~(=_=)」「ね~(。-∀-)」

 

 一夏は自身が招いた誤解の内容を理解し、慌ててマッサージをセシリアに施そうとした事を告げ訂正をはかる。彼女も自身のピンク色な想像を振り切るかのようにいそいそとベットへ横たわった。

 この様子に千冬はまた弟がフラグ建築&ブレイクをした事を察し頭が痛くなり、

誤解された言い回しを轟が予想し、チェーロと本音はオチの評価をするというグダグダ感であった。

 

 セシリアは意外と上手い一夏のマッサージを受け、その心地よさに微睡みに落ちてゆく。

彼曰く、良いマッサージは眠くなるもの・・・だ、そうだ。

 昔から千冬に施していたと言う彼のマッサージは、その一級の腕前までに差し掛かっており彼女は心地良く受け続けている。

 が、いきなりお尻を掴まれ彼女の意識は一気に覚醒した。彼のラッキースケベ以外のあるまじき大胆さに彼女は高まる胸を押さえつけながらそちらを向くと、

 

「白だが・・・随分、年不相応な代物な下着だな、マセガキ」

 

「あ、え・・・きゃぁぁあああ!?」

 

 そこにはイタズラが成功したのか笑みを零す千冬が居り、セシリアのお尻をすくい上げるように掴んでいた。彼女の笑みは悪戯小僧の様な可愛らしいものではなく。

ニヤリと獲物を甚振(いたぶ)(ひょう)の笑みである。

 そして、問題なのは千冬がそういう風に掴んでいたため、浴衣の裾はまくれ上がりセシリアの

豊かなヒップが(あら)わになっていた。無論、そこにある下着も丸見えである。

 タイプとしてはローレグタイプの面積が少ない物で豪奢(ごうしゃ)なレースを編み込んであり、見た目の美しさと絶妙な透かし加減の『魅せる為の下着』というものだ。

 

 叫んだあと呆然とした彼女であったが、一夏の顔を赤らめて視線を()らすという様子にバッチリ見られたことを自覚すると羞恥のあまりに隠れてしまいたくなった。

 それをニヤニヤと眺める千冬に彼女は涙目に成りながら訴える。

 

「せ、先生!後生ですから、お離しになってください!」

 

「やれやれ。教師の前で淫行を期待するなよ、未成年」

 

「い、い、インコぉ・・・っ!?」

 

「は~い、織斑先生。私とユウさんはどうなんでしょうか?」

 

「お前の旦那は生徒であって生徒(未成年)でない。だが、公共良俗は守れ。堂々とするな。

 そして、また聞き耳を立てている二人&新規の三人。そろそろ入ってこい」

 

 アッサリと手放し、今度は下世話な冗談でセシリアをからかう千冬であったが・・・

リアハの堂々としたある宣言に彼女は真顔となって注意をし、扉の向こう側にいる人達に入室を促した。

 どこか、ギクゥっ!?と表すような雰囲気がし多少の沈黙のあとにドアがゆっくりと開く。

立っていたのは箒に鈴、彼女らに呼ばれたシャルロットとラウラ、そして十千屋に呼ばれていたが多少遅れてた簪であった。

 

「一夏、マッサージはそれぐらいでいいだろう。

 ほら、お前らと十千屋に呼ばれていたと思われる更識も好きなところに座れ」

 

 ちょいちょいと彼女に手招きされ五人はおずおず部屋に入る。

そして言われた通り各人好きな・・・と、言ってもベットかチェアの二択、それと一夏側なのか

十千屋側なのかの二種の二択を選択して座った。

 

「ふ~。流石に二人連続してすると汗かくよな」

 

「手を抜かないからだ。少し要領よくやればいい。あと、もう一回風呂に入ってきたらどうだ?」

 

「あ~、流石に汗臭くなっちまうか?

 あと千冬姉、手を抜いたらせっかく時間を割いてくれる相手に失礼だって」

 

「愚直だな。ま、それがお前の持ち味か」

 

「たまには褒めてくれたっていいじゃんかよ」

 

 楽しそうに会話する二人を見て入ってきた面子がやっと状況を飲み込む。部屋の中で響いていたあの艶声は・・・マッサージをしていただけという事に。

 その事に気づき、ある者は脱力したり、妙な強がりを見せたり、何か()()()()想像をして自爆していたり、変わったところで「何もしてないの?つまらない」と冷めている者も居た。

 

「あん?ペラペラペラ…あ、一夏。今の時間帯って女子が風呂を使ってるようだぞ?」

 

「え?マジで師匠?」

 

「臨海学校の旅のしおりだとそうだな」

 

「ぬぅ?ペラペラペラ…

 そうだったな。人数が人数だから男女両方の風呂を開放してるのがアダになったか」

 

 タオルと着替えを持って風呂に行こうとする一夏に何かを思い出したのか十千屋が引き留める。理由は今の時間帯は女子生徒達が風呂を使う時間帯だったと思い出したからだ。

 旅館には大浴場があるが一夏―男に対しては時間割別を設けている。

流石に大浴場でも一学年全員がいっぺんに入れる広さではない。

その為、男女両方の大浴場を開放して使っているのだ。

 そうまでして広く使っているのに一夏と十千屋、たった二人の男のために他の全員が

窮屈な目に合わすのも避けたいために時間別となっている。

 

「ん~、どうしようかな?部屋に付いてるのでもじゅうぶん広いからの使ってもいいけど、

 今からお湯を張るのもなぁ・・・」

 

「だったら一夏、俺とリアハが泊まっている離れの方はどうだ?

 小さいけど十分な広さをもつ露天風呂がある」

 

「それだったら、お願いしても良いか師匠?」

 

「ああ、それに俺もさんざん昼に入浴したが夜は夜で寝る前に入りたいからな。

 お前が嫌じゃなかったらまとめて入るか?」

 

「サンキュー師匠。あと、裸の付き合いってヤツだろ?いい「まぁ・・・」ぜ?」

 

「実際には、俺の入浴介助してもらいたんだがな・・・」

 

 広い大浴場でのんびりするつもりだった一夏は出鼻をくじかれ、どうするか迷う。

部屋にある風呂場も一人では十分すぎる広さがあるが、大浴場があるのにわざわざ湯船に

お湯が張るも億劫(おっくう)であるし、この女性だらけの空間で一人汗臭いのも気が引ける。

軽く悩んでいる彼に十千屋は自分とリアハが泊まっている離れにある露天風呂を使うことを提案し、彼は同意した。

ついでに男同士でじっくり話し合うのもいいだろうと言われ、すっかりその気になっていた一夏であったが十千屋の介助という言葉に動きが止まる。

 

「師匠、介助って?」

 

「お前、忘れたのか?俺は背中の機械を外せば、右目と右腕が不全になり、

 左足なんて無いんだぞ」

 

「あ・・・でも、昼間入ったって言ってたけど?」

 

「完全防水のは今メンテナンスした後に干したままだ。

 念の為に完全に乾燥するまで放置したいからな。

 いま風呂に入ろうとすると、今つけている機械類を外さなきゃならん」

 

「あ、あぁ・・・別にそれでも俺は構わないけど」

 

「ありがとうな、一夏」

 

 すっかり忘れている人も居るかもしれないが、十千屋は色んな部位の障害を持っている。

普段は機器でそれらを補助しているが、防水加工されていないそれらを付けては風呂になんて入れはしない。

 障害の部位を考えれば自然と介助が必要になってしまうのである。一夏は普段の十千屋の様子のせいでそれを失念していたようだ。彼は誘われた手前、断るのもはばかれるし介助もそこまで大変ではないだろうと生返事で了解する。

 

「じゃあ、リアハと皆は女子会を楽しんでいてくれ」

 

「それじゃ、くつろいでいってくれ。って、難しいかもしれないけど」

 

 そう言って男たちは出て行ったが・・・

 

「・・・・・・・・・・・(き、気まずい(;´д`))」

 

 一夏側に居た、現千冬側の面子は言われたまま座ったところで止まってしまっている。

逆に十千屋側、現リアハ側の面子はチェーロと本音は遊びだし、簪はリアハに膝枕してもらったり、轟はお茶を汲みに行ったりと完全にくつろいでいた。

 

「おいおい、葬式か通夜か?いつもの馬鹿騒ぎはどうした。見ろ、あっちを普段通りだぞ?」

 

「い、いえ、そのぉ・・・」

 

「織斑先生とこういった感じで話すのは、ええとですね・・・」

 

「は、初めてですし・・・」

 

「まったく、しょうがないな。私が飲み物を奢ってやろう。

 篠ノ之、何か嫌いなものでもあるか?」

 

「・・・ビクッ! あ・・・あっ、はい!イロモノ系でなければ特に嫌いなものは・・・・・・」

 

「織斑先生、こちら(リアハ側)はお茶を汲んだのでお構いなく」

 

 いきなり名指しされた箒はビクッと肩を(すく)ませてしまい、言葉がつっかえながらも返答した。

それを聞きながら千冬は旅館の備え付けの冷蔵庫を開け、中から清涼飲料水を取り出してゆくが

途中で轟が自分たちの分は要らないと告げられ5人分取り出したところで戻ってくる。

 

「ほれ。キリンレモンとなっちゃん、アクエリアスとジョージア、コレは午後ティーか。

 それぞれ他のがいいやつは各人で交換するか取りに行け」

 

 千冬は戻る過程で近場から配っていったが、受け取った全員はとくに不満はなかったので

そのまま受け取る。

 

「い、いただきます」

 

 受け取った全員が同じ言葉を口にし、飲み物に手をかけた。そして、全員が一口付けたところで千冬がニヤリと笑う。

 

「・・・飲んだな?( ̄ー ̄)ニヤリ」

 

「は、はい?」

 

「そ、そりゃ、飲みましたけど?」

 

「もしや・・・罠でしたの!?」

 

「あながち間違いではないが、失礼な事を言うなバカ。

 口止め料みたいな物だよ、チョッとしたな」

 

 そう言って千冬が冷蔵庫から自分用に持ってきた缶にはキリンのマークがキラリと光っている。それはキリンレモンでは無く・・・

 

「プハァッ!ふむ・・・本当なら一夏に一品作らせるところなんだが・・・居なければ仕方ないか」

 

「織斑先生?良ければ私が作りましょうか?」

 

「十千屋夫人、有り難いですが部屋には簡易キッチンなどは付いてないのでそれには及びません。

 何時もだったら、という愚痴ですので」

 

「あら、そうでしたか。あ、そう言えばユウさんがビーフジャーキーを持ち込んで・・・あった。

 はい、どうぞ」

 

「これはありがとうございます」

 

 千冬が手にとったのは、キリン()()()であった。

彼女は最初に炭酸が漏れ出す景気のいい音を立てて開け、泡が吹きこぼれないうちにそれを一気に喉を鳴らしながら飲み干したのである。

 一旦、缶ビールから口を離すと彼女からツマミの催促があり、リアハがツマミになりそうな物を渡すと上機嫌な様子でベットにかけた。

 他の面子はと言うと、全員がそれの様子に唖然としている。それもその筈、いつもなら規則と

規律に厳格で全面厳戒態勢の()()()()と目の前の人物とギャップがあり過ぎて理解が出来ないのだ。

 特にラウラは、ボケーっとした顔で何度も首をかしげている。

 

「お前ら、おかしな顔をするなよ。私だって人間だ。酒くらい飲むし気を抜く事だってするさ。

 それとも何か?私が絶対無敵のサイボーグにでも見えたか?」

 

「あ、いえ・・・その・・・」

 

「そういう訳じゃ、ないんですけど・・・」

 

「でも、あの・・・その・・・今って」

 

「はい、お仕事中なのでは・・・?」

 

(コクコク・・・)

 

「堅い事を言うな。それに口止め料なら払っただろ?」

 

 そう言ってニヤリとする千冬は飲み物を手に持った面子を流しみる。

そこでやっと女子一同は飲み物の意味に気づき「あ・・・」と声を漏らした。

 

「さて、前座はこれくらいでいいだろう。そろそろ肝心な話をするか」

 

 千冬は二本目のビールをラウラに取りに行かせ、文字通り箒たちを酒の肴にして話し始める。が・・・ここで一夏と十千屋はどうしているか見てみよう。

 

 

「・・・お約束はしとくべきか。一夏、コイツを見てどう思う?」

 

「・・・す、凄く大きいです。って、何をやらせるんだ師匠!?」

 

「いや、お約束だよ。お約束」

 

 離れの露天風呂に来た二人は掛け湯をしていざ入ろうとした気に十千屋がいきなりくそみそネタを始め、ついノってしまった一夏であったが直ぐに疑念の叫びを上げる。

 それに対して、ネタのお約束を出来て満足したのか十千屋は気にせずに杖を使いながら湯船に入っていった。

 一夏はそれに釈然としないというか、からかわれた事にチョッと不機嫌になるが風呂の心地よさに身も心も(ほぐ)れてゆき忘れてしまう。

 湯の中でリラックスする彼はつい横目で十千屋を見る。

彼の裸、正確に言えば上半身だけだったが改めて見るとその身に傷の付いていない場所など何処にもない。

 彼の年齢は未だ二十代半ばに届かない数だ。なのにコレだけの傷を負ったという事は、どれだけの修羅場をくぐり抜けてきたのだろうかと嫌でも思ってしまう。

 

「ん?どうした一夏」

 

「い、いや・・・俺もこれだけ傷つくほど戦い抜けば強くなれるかなって」

 

 一夏の視線に気付いた十千屋は彼に尋ねるが、何となく見ていた故にどう答えていいか迷ってしまう。

 その為、十千屋の一番のイメージ()()を連想させこんな言い訳をしてしまった。

 答えを聞いた十千屋は自傷気味に苦笑する。それはどこか憂いを秘めたものであった。

 

「フッ・・・止めとけ止めとけ、俺の様に修羅道を歩くんじゃない。

 強さを得る前に身も心もボロボロになるぞ?」

 

「でもさ、師匠はそれで強くなったんだろ?」

 

「結果的には・・・だ。色々と生き急いで死に急いでいたからな。

 リアハが嫁になって麗白が生まれて、轟やチェーロ、シルヴィアに鞘華・・・色んな奴と出会って家族になって、ようやく回りを見れるくらいに歩けるようになった」

 

「師匠・・・」

 

「一夏、頑張るのは良いが生き急ぐな。お前もまだ若い。

 いずれお前だけのモノ、お前が求める強さにたどり着けるさ」

 

「そう、なのかな・・・」

 

「ああ・・・。辛気臭い話はここまでにしよう。一夏、体を洗うから手伝ってくれ」

 

「あ、うんっ」

 

 強さを求め何かを求め修羅道を駆け抜けた先駆者の言葉だろうか。

一夏はそれに何かを感じて何も言えなくなってしまう。そんな彼に十千屋は優しく(さと)し、湯船から上がる。

 風呂から上がった十千屋を追うように彼も出るが、先に見える大きく傷だらけの背中も

今はどこか何時もより小さく見えてしまった。

 

「なぁ、師匠。この突起の部分って擦っても平気なのか?」

 

「あからさまにゴシゴシ擦ると駄目だけど、軽く擦れる程度なら大丈夫だ」

 

 十千屋は洗える所は自分で洗い、腕や背など片腕では十分洗えない部分は一夏に任せている。

今は背を洗ってもらっているが、背骨から飛び出す接続端子が気になってるようだ。

 彼は過剰に擦らなければ平気と言い、一夏はなるべく擦らないように洗い出しす。

 

「・・・なぁ、一夏?」

 

「なんだ?師匠」

 

「何時もの面子を含めてなんだが、お前って誰が好きなんだ?」

 

「・・・・・・はぁああ!?」

 

 ゴリィイッ「おがぁああ!?」

 

 背を洗っていた一夏は、十千屋の予想外の質問に手に力が入った状態で滑らせてしまう。

そのコースは見事、端子の列を跨ぎ強く擦ってしまった。

 彼の叫びと共に十千屋は神経に響くような痛みに襲われ苦痛を挙げる。

 

「ぬぅのぉおぉぉ・・・神経に、神経に響くぅうう・・・・・・」

 

「わ、ワリィ師匠・・・って、師匠が変な事を聞くからだろ!!」

 

「いや、大事なことだぞ。今は正真正銘、女性陣が居ないからこその話題だ」

 

「男同士で恋バナなんて、どこに需要があるんだよ・・・師匠、もしかして真面目な話か」

 

「に、なるだろうなぁ」

 

 一夏は一応謝るが原因を思い出して十千屋に噛み付く。しかし、十千屋が真面目な顔をして受け答える姿に姿勢を正した。

 十千屋の予想では今後どこかで必ず誰と付き合うかが問題になる日が来るだろう。

一夏はI()S()()()()()()、色んな意味で喉から手が出るほど欲しがる所が沢山ある。

 それ故に情だの愛などをダシにして確保しようとする奴らも出てくるだろう。

そうなると、彼の()()恋愛は一応条約で守られたIS学園生徒の間しかない。

 

「お前だって政略結婚とか嫌だろう?」

 

「そりゃ、そうだって。・・・はぁ、久々だけどコレも男性装着者の業ってヤツかぁ」

 

「だな。で?誰が好き、まではいかないか。気になっているんだ」

 

「んんぅ・・・あ~」

 

 十千屋の予想に一夏はウンザリしていると、彼は誘導尋問で選択肢の幅を狭めてゆく。

 その結果、やはりただのクラスメイトや友人よりも何時もの面子、

箒・セシリア・鈴・シャルロット・ラウラが少し気になるようであった。

 だが、それは好きか嫌いかで言えば好き、ただのクラスメイトよりも何時もの面子の方が良い位である。

 けど、十千屋にとってはそれくらいで良かった。

 

「その程度あれば、お前にとっては上出来か」

 

「俺にとっては・・・って、師匠~」

 

「そんな恨みがましい目をすんなよ。

そうだな、ついでに俺から見た彼女達の評価も教えてやるか」

 

 一夏の答えに苦笑する十千屋であったが、彼はその反応を見て不機嫌に訴える。が、そんな事はへでもないと十千屋は話を続けた。

 さて、十千屋からみた彼女らの評判は次の通りである。

 

 箒-

 一途な大和撫子と言って言いだろう。

 ただし、一途すぎて多少頑固で素直ではない面も見受けられるため、確り向き合って付き合わう必要がある。

 

 セシリア-

 誇り高き貴族のお嬢様。こちらが未熟でもそれを知って導いてくれる優しさと厳しさ美しさがある。

 しかし、彼女と付き合うと貴族社会と向き合わなくてはいけない事になるだろう。

 

 鈴-

 友達同士の様な軽いノリが一番だろう。けど、距離が近すぎてケンカする事も多いかも知れない。

 けれども一番気軽な相手かも知れない。・・・彼女のバックである国はそうはいかないが。

 

 シャルロット-

 一番そつなくフォローしてくれる安心感。丁度いい付き合い方をしてくれる気遣いの達人。

 但し、そのため自分自身で抱え込む事も多いのでソコは察してあげなければいけない。

 あと、彼女と付き合うとコチラはお金持ちの付き合い方を学ばなければならない。

 

 ラウラ-

 純粋無垢に慕うので、手綱さえ握れば自分の好きな色に染められるだろう。

 但し周りからの悪影響に注意致し。

 そして、彼女の生活基盤が軍隊なので付き合えばそれの関係者に成ってしまうだろう。

 

「・・・と、こんな感じか?」

 

「いや、こんな感じと言われても」

 

 十千屋の評価に一夏はどこかゲンナリとし、どう反応していいか分からない。

彼も良く彼女たちを見ている事は察せれたが、それでどうしろと・・・というのが本音である。

 しかし、彼の話は終わらない。

 

「この中で一番楽なのが箒かね?彼女は面倒な背後関係がないからな。

 逆に鈴本人は良いんだが・・・彼女のバックがな。他の三人は好みとしか言い様がないな。

 まぁ、それぞれ先のマナーを学ぶ必要がある。だけど、この三人は俺との繋がりがあるから

 いざという時はフォロー出来るのが強みかね?」

 

「いや、そうは言っても・・・」

 

「・・・だな。すまん、チョッと勢いが過ぎた」

 

「いや、師匠のお陰で何となくは分かってたものが少しハッキリしたけどさ。

 まだ、分かんねぇよ。それにアイツ等とどう顔を合わせればいいかも分かんねぇ」

 

 十千屋のお陰で一夏は好意を向けられてた事をほぼ確信する事が出来た。

しかし、どこか宙に足が浮いたような感覚で実感がない。恋愛というものが分からないのだ。

 戸惑い気味の彼に十千屋は向き合い、優しげな笑みで彼の頭に手を置く。

 

「そうだな。俺から見ても一夏、お前はどこか心の余裕が無いように思える」

 

「・・・余裕?」

 

「ああ、壁であり憧れである織斑先生を思って走り続けているように見えるし、

 早く一人前になりたいと何処か心で我武者羅な部分があるように思える。

 そんな奴に好きだの惚れたのだの腫れたのだろと感じる余裕があると思えるか?」

 

「・・・いや、無いと思う」

 

「だな。総すれば『自分自身の事で精一杯』って事かね」

 

「・・・・・・俺ってそんなに余裕がない様に見えるのか?」

 

 十千屋になんだかダメ出しされているように感じて一夏の表情は暗くなってゆく。

けれども、彼の優しげな笑みは変わらず頭に置かれた手は撫でる様に動かされた。

 

「いや、ただ闇雲に走っていくのは若さ故の特権だ。

 けれども、自分自身だけで何でもかんでも抱え込むんじゃないぞ?お前を助けてくれる、

 好きだって言ってくれる、一緒に居たいと思ってくれている人たちが居るのを忘れるな」

 

「・・・師匠」

 

「人ひとりで出来ることは限られるんだ。お前が強いと思っている俺や織斑先生もな。

 俺はリアハが居ないとダメだし、織斑先生は・・・お前が居ないと家事が全滅だろ?」

 

「はは・・・どこで聞いたんだよ師匠。いや、千冬姉はそうだけどさ」

 

「強さの話題もそうだが、変に(あせ)る必要はない。お前自身の早さで確り踏み込んでいけばいい。

 けど、お前を気にかけてくれる人達が居るって事は忘れるな」

 

「ああ、分かったよ師匠」

 

 一夏は十千屋が心配してくれて色々と語ってくれる事が何となく分かった。

話の流れ的にダメ出しされる部分が有ったかもしれない。けどそれは、自分の事を心配してくれるからだと分かる。

 色々と心配させてしまう自身の未熟さに苦笑してしまうが、彼の優しさは胸の内を暖かくしてくれた。千冬とは違う暖かさは彼にこんな事を思う。

 

「(兄貴って・・・いや、父親ってこんな感じなのかな?

 千冬姉とは違うくすぐったさと暖かさだけど、うん・・・嫌じゃない)」

 

「どうした一夏?夏とはいえ、このままだと冷えるからな。温まりなおそう」

 

「ああ、今行くよ師匠」

 

 女だらけのIS世界に放り込まれた男同士、そこから始まった師弟と言う名の縁は確かに結ばれているらしい。一夏は十千屋を信じているし、十千屋は一夏を裏切らない。

そんな確証もない事も信じられるモノがココにはあった。

 

「あー、一夏。どうしても誰かを選べないってならウチの国に来い。

 条件は厳しいが多夫多妻OKだからな」

 

「いやちょっと究極過ぎやしませんかね、ソレ」

 

「ん?あぁ・・・変なことに気づいたぞ」

 

「何だよ、変なことって」

 

「何かしらでお前がラウラと縁を結んだらな。一夏、お前が()()()になるって」

 

「・・・あ、あぁ~、そうだった。ラウラってガチで師匠の娘になる予定だった」

 

「どこかあり得る未来で、お前に義父(とう)さんって呼ばれる世界が有るのかねぇ・・・呼んでみるか?」

 

「いや、師匠・・・それは超絶恥ずいって」

 

 まぁ、彼の言った通りにあり得るかも知れない未来では、師弟ではなく父子としての縁が結ばれるかもしれない・・・・・・




はい、今回は臨海学校一日目の夜でした。
原作ではチョッとした女子会ぽかったので、男子会(2名のみ)をしてみました・・・
が、なんだかオリ主の父親力が上がってゆくような・・・(;^ω^)
いや、歳上の頼りになる男って感じで書きたいなぁ・・・と思っていますが、父親じみてくるのはどうしてだ?

そして、話は進まない・・・
一話を一万文字超えたら整理しようとしてるのですが、そのせいか話数が嵩む気がします。
本当にこれで銀の福音戦まで行けるのだろうか?

次回は女子会の続きと二日目の最初の部分まで書きたいですね。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA51ss:やるかバ~カ

また二週間ぶりですね。
そして、また前回思っていた予定よりも内容が進みませんでした…(;^ω^)
ソレはともかく…

では、どうぞ御ゆるりと。


どの年代になっても女の子が好きな話題は変わらない。

それは恋の話し、通称:恋バナ。

そう「恋せよ乙女」だ。

ちなみにこのフレーズは、大正時代の流行歌「ゴンドラの唄」の歌詞のワンフレーズ…だそうだ。

 

 

十千屋と一夏が男の友情・・・と、言うより父と息子の様なやり取りで仲を深めていた頃、

同じく女性陣もそれを確認していた。

 

「お前ら、あいつのどこがいいんだ?」

 

千冬は既に3本目のビールをあけて目の前の女たちに告げる。

あいつとは誰?と言わないでも分かるだろう。

彼女の目線には一夏よりのメンバーしか居ない。つまりそういう事だ。

 

「そうですわねぇ?わたくしはあの真摯な瞳に惹かれたのが切欠ですわね。

 純粋に目の前を見据える・・・おじ様の優しい眼差しと違う野性味?が好ましく思いますわ」

 

「僕――あの、私は、優しいところかな?・・・です」

 

「強いところです」

 

すぐに声を上げたのはセシリアだった。

彼女は少し悩みながら一夏に惹かれた部分をスラスラと答え、シャルロットとラウラがそれに続く。

シャルロットはポツリと小さな声で言ったがその響きには真摯さが見られ、ラウラは短く単刀直入であった。

千冬はそれに関して、自分なりの返答にして彼女らに話す。

 

「ほう。オルコットはまぁ比べる相手が相手だからコメントしづらいな。

 デュノアはそう言うが、しかしなぁ・・・あいつは誰にでも優しいぞ?

 ラウラ、(アイツは)弱いぞ」

 

「そうなんですわよねぇ・・・どうしても初恋であるおじ様と比べてしまうのが悪い癖ですわ」

 

「う、うぅ・・・そうですね。それがチョッと悔しいかなぁ」

 

「訂正します。強くなろうとする()()()です。故に暴力に溺れかかった私よりも強いです」

 

最近ちょっと困った様な仕草が癖になっているセシリア、

照れ笑いしながら自分を(あお)ぐシャルロット、報告するように毅然として言うラウラ。

彼女らは三者三様であったが、それが羨ましいのか悔しいのか見つめる二つの影。

 

「で、お前らはどうなんだ。あいつに言わせると、幼馴染一号と二号は」

 

「わ・・・私はその、別に・・・別に、そうです。せっかくの腕前が鈍っている事が腹立たしく」

 

「あたしは、アイツと腐れ縁なだけだし」

 

視線に気付いたのか千冬は箒と鈴ら本人に向けて尋ねるが、彼女らは気にしているのは

まる分かりなのに言葉を濁す。

その態度に色々と余裕があるのかセシリアが溜息をついて告げ口をする。

 

「箒さん、鈴さん、おじ様に言われたでしょう?少しは素直に成りなさい・・・と。

 自身を誤魔化す様な発言をしていたら何時まで経っても朴念()に届きませんわ」

 

「「うぐぅうっっ!!」」

 

「オルコット、言ってくれるじゃないか。良いぞ、もっとヤレ。そして十千屋夫人と取り巻き、

 面白いからって笑ってやるな」

 

「クスクスクス・・・そう言う織斑先生も笑ってらっしゃるじゃないですか。

 そういえば、いつ一夏君の事が気になったのかオバさんに教えてくれないかしら」

 

セシリアの言葉が胸を(えぐ)ったのか箒と鈴は呻き声を上げ蹲る。その様子が可笑しかったのか

周りから失笑が漏れた。この雰囲気のままリアハが二人に一夏との出会いを聞いてくる。

それに対し二人は誤魔化しても話してもどう転ぼうがロクな結果にならないと踏んだのか、素直に話し始めた。

一夏との出会いと切欠は両者とも同じ、イジメられて、一夏が助けてくれて、その後も味方として真っ直ぐ自分を見てくれた。との事だ。

 

「はぁ~、定型的と言えば良いのでしょうか?う~ん、おじ様が持ってた娯楽本だとえ~と?

 ちょろ?ちょい?ちょろちょろ?」

 

()()()()じゃない?」

 

「ちょろいヒロイン!」「略して()()()()()!」

 

「ちょろい―大阪弁からで大まかな意味は『安易』『甘っちょろい』。故にちょろインは

 攻略や篭絡が非常に簡単であるヒロインの事を言う」

 

「ああ!それですわ!!」

 

「「何故か、 お前/アンタ だけには言われたくない!!」」

 

「なにゆえ!?」

 

セシリアから始まったツッコミの連鎖は、身に覚えのない罵詈雑言となって彼女自身に帰ってきた。きっと別次元的な何かが箒と鈴に囁いたのであろう。

一連の笑劇に含み笑いしながら眺める千冬は、更なる火種を投下する。

 

「くくく・・・まぁ、お前らがあいつをどう思っているかは分かったさ。それは別にして、

 あいつは役に立つぞ。家事炊事はなかなかだし、マッサージだって上手い。そうだろ?」

 

「それに~性格も~朴念仁とか除けば~?、そこそこ良いしね~。嫁・・・じゃなかった~。

 婿として~欲しいポイントは~押さえてるね~」

 

彼女はいきなり一夏本人には絶対聞かせないだろう好評価し、本音が後を付け足す。

それには一夏サイドの面子はうなづいたりして反応した。

 

「というわけで、付き合える女は得だな。欲しいか。ん?」

 

え!?と五人は千冬の方を見つめる。そして、ラウラが堂々と挙手をし尋ねた。

 

「結納は幾らくらいでよろしいでしょうか」

 

「飛ばしすぎだ。やるかバ~カ」

 

小馬鹿にした顔で否定する千冬に、えぇ~・・・と心の中でツッコム一夏サイド女子一同。

 

「女ならな、奪うくらいの気持ちで行かなくてどうする。自分の身も心も磨けよ、ガキども」

 

既に四本目が終わり、五本目のビールを開けながらそう口にする彼女は、実に楽しそうな表情で

そう言ったのであった。

 

グビグビグビ… そう言えば、コチラばかり気に掛けてそちらの事はすっかり忘れていたな。なぁ、良ければそちら(十千屋)側の事も聞かせてくれないか」

 

「お~、校外学習での恋バナって憧れてたんだー!」

 

「良いですが。織斑先生、なぜ急にコチラを?酒の肴がわりですか」

 

「いや、何だかんだで世話に成っている人物だからな。私以外がどう思っているか知りたくなっただけさ。それに、酒の肴がわりと言うのも間違いではない」

 

千冬は酔った勢いなのか、視線に入ったのか十千屋サイドのメンツもこの話題(恋バナ)に誘う。

チェーロと本音は乗り気だが、轟はこちらに話が振られるとは思ってもみなかったのか少し驚いている。あとのリアハは楽しそうな顔をし、簪は彼女の膝枕で眠りかけていた。

 

「と、いうかな…布仏、お前いつの間にそちら(十千屋)側に成った。

 簪はこの前の騒動から何となく分かっていたが」

 

「ん~、前から~かんちゃんが~こっちだったから~こっち側の~つもりだっだけど~、

 正式には~今日から~だよ~」

 

箒が本音に何時から十千屋側なのか尋ねると彼女はそう返答した。彼女の距離が十千屋側に近いのを納得しているまに恋バナトップバッターはチェーロが切ったようである。

 

「は~い、ボクからいきま~す!ボクのパパの好きなところは『器のデカさ』かな~?」

 

チェーロの十千屋に関する好感度ポイントは『器のデカさ』らしいが、一同はよく分からない。

確かに彼は大らかだが…

 

「みんなも知っている通りにボクはストリートチルドレンだったんだよね。

 生きる為にいっぱい悪い事もしたよ。盗みにタカリに殺しちゃいないけどリンチとか…」

 

急に重い話になり、聞き手側は口を塞いだ。それに対して彼女はあくまで軽い口調で話してゆく。

 

「でもさ、パパって『罪を償え』とかそう言う類いの事は言わないの。言ってくれたのは

『これからはする必要は無くなったな』とか『最後の一線を超えずに頑張ったな』とかだね

 ボクのしてきた事は悪い事だよ。けど、生きる為の罪や正しさ『原罪』とか造語で

 ()()()()()()生義(せいぎ)』だって言ってくれた。なんかね、スケールが違うな~って感じたの。

 そこからかな?ボクがパパに惹かれていったのは」

 

相手の今まで生きて来た事を否定せずに全てを受け入れる。コレがチェーロが十千屋に

好意を持つ切っ掛けだったそうだ。

罪を憎んで人を憎まず、いや罪さえも受け入れる()()()()()に惹かれたのだろう。

 

初っ端から重く大きい話題となったので、一夏側は少し胃がもたれそうになっているが…

彼女らは思う、「これは始まり」なのだと…

 

「次は私ね…父さんのゲームであった言葉で言うと『正しき怒り』不義や不条理を許さない心、

 そしてそれを実行できる『力』かしら」

 

箒や鈴、シャルロットにラウラ、彼女らは一夏によって救われた。

同じように轟も十千屋よって救われたのであろう。

どうしようもない不条理の暗い袋小路を叩き壊し、目の前に広がる自由で明るい(未来)へと

背を押してくれた。事件のスケールは違うだろうが、その事がどれだけの救いになるか

箒達は分かっている。それと同時にどれだけ心を掴み盗られてゆくのかもだ。

 

「んんぅ…私にとってはあの人は『ヒーローであり、足長オジさん』だから」

 

轟の話に共感している途中でこのような話しが聞こえてくる。その元へと皆が視線を移すと、

リアハの膝枕の上で寝返りをうちこちらに向かって視線を変更した簪であった。

彼女は半分寝ぼけているようにハッキリとしない口調で続きを述べる。

 

「意地を張っていた私を諭してくれた。

 再び歩き出せるように背を押してくれた、手を差し伸べてくれた。背中で語ってくれた。

 ヒーローはピンチを救ってくれるだけじゃない、その背に希望を夢を見せ、

 辛くって泣いてるのを笑顔に出来ればその人はヒーローに成れる

 でも、雄貴さんはどっちかと言うと『おやっさん』ポジションだけど。

 だから、『足長オジさん』」

 

言いたい事を言い終えたのか簪はまたウトウトし始める。ヒーローだと彼女は言っているが、

本音は自分を有りの侭に見てくれて守ってくれる存在を欲したのだろう。

ただ、彼女の趣味が入って『ヒーロー』という名称になったことが伺えた。

すっかり安心しきって夢心地の彼女の頭を本音が優しく撫でる。

その様子、そして彼女の慈しみの表情に周りの皆はマジマジとまるで別人の様に見た。

この場では彼女の心根を見たリアハ以外には分からないだろうが、これも彼女の一面である。

そして、そのまま彼女は自分の番であると語りだした。

 

「今度は~わたしの~番かなぁ?う~んとね、ちぇろんと被る感じになるけど~わたしは~

『懐の深さ』かなぁ?」

 

本音は今日の昼頃に十千屋達に語った様な内容を話す。

自分の一番は簪である事、何時までも共に居たい事、そうであるべき為にも自分(本音)彼女()

オマケ程度の存在でもいい事などだ。

一体この目の前に居るのは誰だと誰もが思った。普段の空気が抜けている様な天真爛漫の姿からは想像も出来ない姿に皆は唖然とする。

 

「でも、わたしは認めて貰えた。かんちゃんのオマケ(付属品)で無くただ一人の本音()として、

 そしてかんちゃんが大好きで仕方なのないわたし全ても」

 

嬉しそうに語る本音はいつもの表情に見えるが、雰囲気がその目の奥に見える光が教えてくれる。これは()()()であると。

さて、話を戻そう。十千屋は自身に向ける好意ではなく、別の方向()の好意を分かった上で本音を

受け入れた。回り回って自分に来ると理解できる好意ではあるが、普通なら別物であると理解し

納得がいかないだろう。

しかし、それが彼女の愛し方だと分かったから彼は、自身を愛する簪を愛する本音を丸ごと

受け入れたのであった。そこには卑屈や何もかも無い。これが自分(十千屋)の愛する彼女(本音)だからである。

随分と遠回りな言い方になってしまったが、個人を見ながら全て何人も受け入れるさまを本音は『懐の深さ』と形容した。

 

さて、残す事あと一人なのだが今まで聞いていて、一夏側の女性陣は十千屋の事を推し量りそこねていた。いい人である事は付き合ってきて分かっている。けれども、正義とか道徳とか社会的とは言いづらい。

彼女らをどれだけ愛しているのかは見て分かる。だが、幼い頃から刷り込みしたり、未成年に手を出したり、何人も娶ったりと節操がない。

 

「ねぇ、箒…アイツってさ、もしかして性根は()の付く自営業タイプ?」

 

「あ、あぁ…そうだな。正義とか大義とかよりも、仁義や狭義-自分の価値観と家族が

 なによりも優先だと何となく分かる」

 

「うん、何かマフィアっぽいよね。あぁ、十千屋さん達は自分自身のグループの事を

 《ファミリー》って言ってた気がするけど…別の意味に聞こえてくるよぉ」

 

鈴が何となく上げた一例が全員へと染み渡り、戦々恐々する。自分の家族を大事にし、

自身の定めた最後の一線(ルール)を守り、いざとなったら力を振るうのに躊躇いはない。

それはまるでヤクザか何か(アウトロー)の生き方であった。

 

変な方向に進みつつある恋バナ大会であるが…遂にオオトリとなった。なってしまった…。

 

「最後は私ですね。ん~難しいですね。何せ生まれて来てこのかたの付き合いですから、

 酸いも甘いも知り尽くしてしまってますし」

 

「でも、Mutter()Vater()を愛してるから結婚したのではないのか?」

 

「それは勿論ですよ、ラウラちゃん。

 余り良くない所も知ってますけど、良い所もたくさん知ってますし、

 何よりも語り尽くせないほど私を愛してくれてるのは分かってます。それに…」

 

この話のオオトリはリアハであった。恋バナと言うには十千屋とリアハの関係は成熟し尽くしているが、互いに愛し合い思っていることは彼女の雰囲気から伝わってくる。

 

「テクニックも疎かにしませんし、持久力はこちらが満足するまでガッチリ有ります。

 けど、マニアックなのが珠に(きず)かしら?ネコさんとかキツネさんとか、授乳におもらしとか…

 

「お、おば様…?///」

 

が、やはり十千屋とリアハは年齢は若いが二十年以上の付き合いの熟年夫婦。話しが恋バナから

下ネタへと脱線し、セシリアが赤面しながらも軌道修正を試みる。

うら若き乙女達と言えどもリアハが零す内容は何となく分かるものである。

青き性の(ほとばし)りのせいで頬の紅潮はよけられなかった。

その中でチェーロだけは怪訝な表情をし、次の様な事を告げ口する。

 

「ねぇ、ママ。本気で喋ったらどう?」

 

「チェーロ!?それはっ」

 

「轟ちゃん、何だかんだで付き合いが長くなりそうだからボクら側の本性を知って貰った方が

 いいんじゃない」

 

「一理あるけど、普通は引くわよ」

 

「それはそれで良いんじゃないかな?(付き合いが)深くなる前に丁度いい距離感を掴むためにも」

 

「ちょろん~、どういうこと~?」

 

「今に分かるよ。では、ママ…どうぞ」

 

「え~…んぅ~っとね?」

 

チェーロの台詞に轟が妙に反応したが、彼女の言い訳に否定的であるが賛同する。

彼女らのやり取りが分からない皆を代表して本音が聞くがすぐに分かると言い、チェーロはリアハを促した。

分からないままリアハがまた語りだそうとした時、一夏側の女性陣はヒッと短く息を飲んだ。

なぜなら彼女の様子が…

 

「私はユウさんの事を愛してます。その好きな所も嫌いな所も 強い所も弱い所も 堅い所も脆い所も 綺麗な所も汚い所も 優しい所も厳しい所も 温かい所も冷たい所も 明るい所も暗い所も 毅然とした所も情けない所も 気丈な所も気弱な所も 素直な所も頑固な所も 無謀な所も計画的な所も 謙虚な所も横暴な所も 情熱的な所も冷静な所も積極的な所も消極的な所も 鋭い所も鈍い所も 誠実的な所も不誠実な所も 勇敢な所も臆病な所も 博愛的な所も自己中心的な所も まだまだ言い表せない全て 全部 総べて 皆 凡て 全部 全体 一切 総て 何もかも愛してます」

 

要約すればリアハは十千屋の良い所悪い所全て知った上で愛している、と言いたいのだろう。

それは先程の話しと同じだ。

だが、彼女はその対義語を澱みなくスラスラと喋り続けそうになり、極めつけは途轍もなく

穏やかな表情をし澄んだ目をしているが…その目には光は一切なく漆黒に染まっていた。

愛憎すらも生易しい()()()が彼女にはあり、それは十千屋へと向かっていると嫌でも理解させられる。

その中でシルヴィア(ヤンデレメイド長)に会った事あるシャルロットはこう思った。

彼女(シルヴィア)がヤンデレになったのはこの夫婦のせいであると。

チェーロの言っている事はある意味正しかった。彼女ら、十千屋ファミリーは確かに優しいと思う。しかし、そこには何かしらの狂気が渦巻いているのだと知っておかねば、踏み入れた時に

飲まれてしまうのだろう。

 

「…うふふ、もうっこんな事オバさんに言わせて恥ずかしいわ」

 

「あー…うん。相変わらずだよねママは」

 

「ふぅ、簪に本音。こんなのと分かった上で私達に付いてくるの?」

 

「今更、もう私は離れられない」

 

「わたしは~ある意味で同類だから~気にしない~!」

 

狂気と平常を理解し使い分けるのが十千屋ファミリーの強さの秘訣なのかもしれない。

 

「あら?ちょっと刺激が強すぎたのかしら。

 う~…んっと、じゃあ男の子を堕とすアドバイス的な話はどうかしら?」

 

どこか引き攣り気味なメンバーを見てリアハは話題を変えようとする。

話題が話題なので皆は嫌な余韻を振り切るかの様に賛同した。

…が、確かに為になった。共感できる所もあった。しかし、経験者(人妻)による具体的すぎる男女の現実的(リアル)な愛欲・性欲・情欲的な話題に乙女達は今度は別の意味で停止する。

落ち着かなくなる者、取り乱す者、思考が停止するもの、興奮状態なまま聴き続ける者、

よく分からない者、飲み物を煽り続ける者と様々な反応をし続けながら話しは続く。

結局、この話題は十千屋と一夏が戻ってくる直前まで続き、彼らが戻ってきたと同時にこの宴は

お開きとなった。

一夏は十千屋のせいで、箒達はリアハのせいで微妙に顔を合わせづらい妙な雰囲気のまま

皆それぞれの部屋へと戻っていく。

 

「…本音さん、なにナチュラルにおじ様に付いて行こうとするのですか。貴女はコチラですわよ」

 

「やぁっ~~、わたしは~とうちゃんさんと、リア奥たまと、かんちゃんとで~州の字に寝るの~!」

 

「何を羨ま…ゲフンッ 年甲斐もない事を言ってるのですか。戻りますわよ」

 

「やぁ~~らぁ~~~…」

 

「…雄貴さん、寝る?」

 

「今日はもう素直に戻れ簪」

 

「かんちゃん、また明日ね」

 

「はい…」

 

帰り際にこんな事もあったが、ちゃんと全員は指定された部屋へと戻り明日の為に寝に入っていった。

 

「リアハ、アイツから連絡があったか?」

 

「はい、試験運用の為の機材と一緒に予定通り来るみたいです」

 

「本当は家で大人しくしていて貰いたいんだがな」

 

「大丈夫ですよ、シルヴィアちゃんも一緒ですから。

 あまり過保護すぎるのも良くありませんよ?」

 

「…まぁ、アイツにとってチャンスでもあるかな。けど…」

 

「けど?」

 

「絶対にひと悶着は避けられる気がしない」

 

「フフフっ、そうですね」

 

 

…どうやら波乱の臨海学校は続くようだ。明日はIS各種装備試験運用とデータ取りの日。

一体何が起きることやら……。

 

 

 

――おまけ:未来の可能性・・・――

 

女子会の途中、リアハは千冬に向かってこんな事を言い出した。

 

「織斑先生?」

 

「なんですか、十千屋夫人」

 

「一夏君と一緒にウチ(十千屋家)の子になりませんか?」

 

「…… ゴクゴクゴク…フゥ…一体何を言ってるのですか貴女は?」

 

千冬はあまりの話題についてこれず、一拍空け、ビールで喉を潤し、

一息ついてからようやく聞き返せた。

その様子にリアハはごく普通に言い返してくる。

 

「私は先生も一夏君も、もっと大人を頼っていいと思うの。貴女たちを見てると互いに大事にし

 過ぎて動けなくなりそうで怖いわ」

 

「十千屋夫人…お気遣い「それに…」あり…?」

 

「一夏君がお嫁、じゃなかった。お婿に行った後、先生の生活が不安だわ。私生活と家事は一夏君に任せっきりと言うし。この前、私とシルヴィアちゃんで先生の()部屋を片付けた事を思うと世話をしてくれる家族が必要だと思うのよねぇ」

 

「(……ゴクゴクゴク!)」

 

リアハが語った理由が理由なので千冬は持っていたビールを飲み干して誤魔化しに入る。

こうして強制的に一息つかせ、いつものキリッとした表情で彼女に返答する。

 

「十千屋夫人、お気遣いどうもありがとうございます。しかし…」

 

「しかし…?」

 

「私には同い年の母親と年下の父親など、い(())ないっ!」

 

「あらあら」

 

彼女はこう言い返したが…千冬よ。一夏()の攻略ルートによってはそう呼ばなくてはいけない未来がある事を知っているか?

行先は…誰にも分からない……




今回で臨海学校一日目が終了します。
…長い、いったいどれだけ掛かっているんだ自分は。(;^ω^)
しかも予定では二日目のスクランブル直前まで行こうと思っていたのに、この有様だよ。
途中で五千文字を超え、一旦ここらへんのキリの良い所まで書いて終わらせようとしたのに…
結果、九千文字近くに。
趣味だし、予定は未定ですけど、こうも躓くようだったら主要部分までダイジェスト的な感じの方がいいのだろうか。
でも、好きに書いていたほうがキャラが想像しやすいし、悩みます。

さて、次回は二日目に入っていき福音が登場する日になります。
しかし、今の展開スピードでは…あと一・二話掛かるかもしれへんね(^_^;)
でも、次回こそはアノ人が登場します!お楽しみに!!

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA52ss:…おい、束

ゴールデンウィークと言うことで、どんな話にするか決めていたということで、
久しぶりに一週間以内の投稿となります。

今回の注意事項は…オリジナル設定に踏み切った事と、白(たばね)さんです。


では、どうぞ御ゆるりと。


 サプライズと言うものは嬉しいものだ。

 それがビックリの仕掛けであっても。

 ただし…余りにも脅かしすぎると、それはただのドッキリカメラに成ってしまう。

 

 

 今日は臨海学校二日目、この日の予定は文字通り朝から晩まで丸一日かけて

ISの各種装備試験運用とデータ取りに追われる。

 特に専用機持ちは大量の装備を試験運用せねばならないため負担が大きい。

 

「色んなコンテナが置いてあるなぁ…アソコのって師匠の《コトブキカンパニー》のヤツか?」

 

「そうだが、良く分かったな」

 

「いや、あんな格好良いトラックみたいのって師匠の所しかないし」

 

G.T.A(ギガンティック アームズ)の一つG.T.A 05『コンバートキャリアー』

 ギガンティックアームズシリーズの武装運搬車両」

 

「へ~、…って簪は何で知ってるんだ?」

 

「コトブキカンパニーのプラモで」

 

 IS学園の関係者はIS試験専用ビーチに集まっている。ここは四方が切り立った崖に囲まれており、外観はドーム状なのでアリーナを思い起こさせた。

 そして、海側からでは入りするためには水中通路を使うしかないと映画さながらな場所である。

 その中に集合した学園関係者の他に今日試験運用するパーツや武装が運び込まれており、その中で異彩を放っていたのがコトブキカンパニーだ。

 どこかのロボットの胴体を思わせるターレットトラックが置いてあり、外見も合わさって

浮き出っている。

 それを見て一夏がカンパニーの物であると推測すると、簪がその正体を説明した。

彼女が分かった理由は、カンパニーは作り出した兵器をそのままプラモモデル化する特異性の

おかげである。

 

 G.T.A(ギガンティック アームズ)-これは合体変形をコンセプトにした

【M.S.G史上最大級のサポートユニットシリーズ】の事である。

 前後連番となる大型サポートメカが合体変形すると言う大掛かりなものだ。

ちなみに、各所パーツはユニバーサル規格で形成されているため、規格が合えばFAだろうが、FA:Gだろうが、MDだろうが、六角歯車だろうが、白式だろうが何でも付けれる。

但し、過剰積載には注意だ。

 

「へ~、じゃあアレも合体するのか?」

 

「そう、G.T.A 06『ラピッドレイダー』と言う名前のついたバイクと」

 

「正確に言えば、実物の方はまだ変形合体のプログラムが出来てないから手動で

 付けなくちゃいけないがな。それに武装させてないしバイク(ラピッドレイダー)は持ってきてないから

 どっちにしろ無理だ」

 

 十千屋と簪の説明に感嘆したのか「アレが合体するんだぁ」みたいな感じでマジマジと

コンバートキャリバーを見つめる。

 その横で、簪は十千屋に向かって口を開いた。

 

「カンパニーは商売上手。色んなパーツになるからって、合体後の04、合体元の05と06を

 各二個で買ってしまったし、通販限定のカラー&デカール付きのも買っちゃった」

 

「…安心しろ、簪。俺もだ」

 

「「(=◎=)b∑d(≧▽≦*)」」

 

 玩具側のコトブキユーザーにしか分からない共感で、簪と十千屋は互いにサムズアップを向ける。今まさに、二人の心は一つだ。

 

「まぁ、時間がないから(積み)は止まらず加速するんだがな…」

 

「それは言わないお約束。私も実家の部屋にどれだけ(積み)込んでいるか数えたくない…」

 

 ……そう、二人の心は一つである。

 

「ようやく全員集まったか。…だが、遅刻者ども。一体どうした」

 

「「「「「は、はいっ」」」」」

 

 集合時間から五分経過してやっと全生徒が集まり、千冬はその中で遅刻してきた五人へと

目を向ける。

 その五人とは、いつもの一夏サイドメンバーであった。

 

「あ、あの~…すみません。興奮して上手く寝付けず、寝過ごしてしまいました」

 

「フ~ッ、お前ら全員が臨海学校前にやるようなネタを……(察し) 代表してラウラ、

 罰としてISのコア・ネットワークについて説明してみせろ」

 

「りょ、了解致しました!」

 

 そのいつものメンバーでシャルロットが言い訳を述べると、千冬は小言を言いかけたが途中で

察して舵を別方向に切った。

 このメンバーが興奮して寝付けなかった原因を察してしまったからである。即ち、原因は昨日の女子会であり、リアハのせいであった。

 流石にコレを追求するのは野暮であったためスルーすることにしたのである。

 

 さて、急に当てられたラウラは確りと説明でき、千冬も合格のサインを出したので

胸を撫で下ろす。

 その後は解散となり、各班ごとに割り振られた運用試験を行ってゆく。

その中で千冬が箒を呼び止め、専用機持ちの班に招いた。

 

「さて、箒お前がこの班に呼ばれた理由は分かるか?」

 

「……はい、心当たりがあります。()()()がヤってしまったんですね?」

 

「そうだ…心苦しいだろうが、お前も専用機持ちとなる」

 

「「はぁ~…」」

 

「二人して悄気(しょげ)ないでもらいたいなぁ~束さんは」

 

「姉さん・・・!?」「たば・・・!?」

 

 千冬がこの班に招いた心当たりを箒に聞くと、彼女には思い出すものがあったのか肯定する。

そして、二人してそれに対して溜息をついた。

そうしていたら、急にその諸原因となる人物の声がし二人はそちらに向いて名前を呼びかけたが、誰だコイツは!?となり言葉が詰まる。

 

 その人物はISの産み親、今世紀最大の大天()『篠ノ之 束』であったが二人が知っている姿と

かけ離れていたものであった。

 彼女の傍にシルヴィア(十千屋のメイド)が控えているのは良しとしよう。以前から十千屋との関連性があったようだし。

 しかし、彼女の以前お気に入りの服装はウサミミが装着されたカチューシャをつけ、

胸元が開いたデザインのエプロンドレスと独特のファッションセンスだったはず。

それが今は青のワンピースを着て、白のレースストールを掛けている。

 表情も以前とは違い過ぎる。淀んだ眼の下には隈があって眠たげな印象を持っていたが、

今はその隈は無くなり目には生気が満ちていおり、顔つきも少しふっくらとしたのか優しいものになっていた。

 

 だが、それよりも…千冬と箒以外の全員(やはり、十千屋等は除く)が注目するのは()()だ。

だって、それは……

 

「…はははっ、何やら随分と健康そうになったじゃないか。しかし、なんだぁ?

 健康過ぎて太ったのか()()()は」

 

「もう~、ちーちゃん違うって」

 

「…おい、束」

 

「あ、先に箒ちゃんの用事済ませたいから後でね」

 

「あ、あぁ」

 

 千冬は色んな事を言いたいが、束は箒の要件の方が先だと言って皆を連れて

コンバートキャリバーの方へ向かってしまう。

 千冬も少し遅れて付いて行くが、頭によぎる当たって欲しくない推測により挙動不審であった。

 

「さて、箒ちゃん…束さんと箒ちゃん、二人の約束を果たす時が来たよ」

 

「分かっています。私の我が儘を聞き入れてくれた事に感謝します。

 けど、後で色々と聞かせて貰いますからね」

 

「アハッ、分かっているよ箒ちゃん。では、目ん玉かっぽじってよ~~くご覧あれ!!」

 

 コンバートキャリバーのコンテナが開き、中身が見えてくる。

それは、真紅の装甲をしたI()S()であった。

 赤と表現せずに《朱》もしくは《紅》と言ったほうが良いだろう。全身を朱漆のような深い紅包み、座らせている状態では見にくいが手脚を金の蒔絵のような装飾が施された‘純燗’な機体である。

 この場にいる全員がその美しさに見とれてる一方で箒と千冬は「あ、ヤりやがったなコイツ」と思い、その予感は…

 

「これぞ、()()()束の最新作にして()()()。全スペックが現行ISを上回り、展開装甲を盛り込んだ第四世代。束さんが心血注いで作ったお手製の箒ちゃん専用機…『紅椿(あかつばき)』!!!」

 

 見事に的中した。もう、千冬と箒は頭が痛くなる。

 スペックだけでも現行ISの全てを上回っている、ということは最新鋭機にして最高性能機。

しかも()()()()と言うのは今議題にされ、机上の空論とされている物だ。

 考えが追い付いていないギャラリーを尻目に意気揚々と興が乗っているのか、

束は第四世代の説明をし始める。

 

 現段階のISはこの場にある紅椿を含んで一から四世代に分けられおり、

 

 第一世代-兵器としてのISの完成を目指した機体で、現在はほぼ退役している。

 第二世代-後付武装(イコライザ)によって、戦闘での用途の多様化に主眼が置かれた世代。

現在最も多く実戦配備されている。例としてはラファールや打鉄を挙げられる。

 第三世代-操縦者のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器の搭載を目標とした世代だが、搭載した兵器を稼働させ制御するにはかなりの集中力が必要で、未だ実験機の域を出ない。

即ち、今の専用機(最新鋭機)がここなのだ。

 それを飛ばした第四世代の特徴は、装備の換装無しでの全領域・全局面展開運用能力の獲得を

目指した世代。束が言うには展開装甲や自動支援装備が標準装備される予定である。

 

 ここまで説明されると束と一部除き唖然となる。だってそうだろう?各国が膨大な資金・時間・人材を投入しシノギと身を削って着手している第三世代のIS開発、そしてそれが元になり

出るであろう第三世代の量産機やそこから連なる第四世代への道筋…これらが()()()()()()だと

言うのだから。

 こんな馬鹿げた話はない。例えるならば…高速道路を100km/hで走っていたオレ(各国)達を

()は300km/hで楽々追い抜いていった…そんな感じさ、だろう。

 

 今までの驚きの事実にほぼ全員が止まってる中でようやく千冬が動き出し、この天衣無縫な馬鹿を戒めようとする。

 

「―――っ…はぁ、束、言った「になる予定かも?しれないIS」はず?」

 

「「「は?」」」

 

 だが、ここで束は今までの好評を台無しにするような発言をした。

それには小言を言おうとしたはずの千冬も、他の人々も疑問の声を上げる。

 その反応に満足したのか彼女は箒の手を取り、語りかけた。

 

「箒ちゃんは『力』ではなく『翼』が欲しい、って言ってたよね」

 

「あ、ああ。そうだ」

 

「この紅椿は今は第四世代。ううん、第三世代相当の機能も封印されている。

 ただ単に高スペックなだけのISなの。私ととーちゃんが考えたスタート地点なんだ」

 

「スタート地点?」

 

「ああ、箒…お前が『力』だけを望むのであれば、ただの戦闘スタイルに合わせた高性能機

 渡す事にしていた。でも、力の()()を見失わず答える事が出来た。良くやったな」

 

「うん、だから束さんは紅椿を渡すことが出来た。コレはね箒ちゃん、貴女を守り、

 一緒に成長してゆく相棒(パートナー)なの。だから紅椿を束さんが言った通りの力を発揮するか、

 ただの性能の良いISで終わらすかは箒ちゃん次第なんだよ」

 

 束の話に十千屋も加わり、今の紅椿と箒の関係性を伝える。

どうやら、十千屋が一枚噛んでいたようで彼女の精神的成長が正しい方向へ伸びていれば

紅椿を渡す手筈だったみたいだ。

 彼女らは言う、この紅椿は箒と共に成長するISなのだと。

 これらから箒は察することが出来た。

分相応なISを求める自分、己の力の限りを尽くしたISを渡したい束との妥協点である事が。

 

「…成る程、私と姉さんの約束は確かにこうすれば成立する。そして、相変わらずズルいし

 凄い人だ、姉さんと十千屋さんは。これでは受け取るざるを得ないじゃないか」

 

「箒ちゃん、受け取ってくれる?」

 

「ああ、こうもお膳立てされているのはしゃくに障るが…紅椿、私の新しい相棒。よろしく頼む」

 

 箒が紅椿を受け取る意思が確りと確認されると、束は彼女の手を解いた。

そして、彼女はコンテナの上に鎮座する紅椿に手を置いて言葉をかける。

 こうして、ここにまた専用機持ちが誕生したのであった。

 

「あの専用機って篠ノ之さんが貰えるの?身内って理由だけで?」

 

「だよねぇ、突然で驚いたけどズルくない?」

 

 怒涛の展開に押し黙っていたギャラリーの中から、ふとそんな声が聞こえてきた。

確かにそう思わなくはないだろうが、実際に口に出すのはマナー違反である。

 そして、いの一番に声に反応したのは束であった。彼女は、アゴを上げ背中側に

体全体が反り返り挑発的に見下ろしながら声の主らに言う。

 

「おやおや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それこそ、生命が誕生してからずっと。唯一平等なのは死ぬくらいじゃないかな?」

 

 所謂、シャフ度と呼ばれるような姿勢をし、千冬が以前からよく知っている澱んだ目で

束は声の主らを睨みつける。

 睨みつけられた女子らは短く息を飲み身を竦ませ悲鳴をあげたが、十千屋が割って入り

 束の曲がった姿勢を正し小突いた。

 

「あいたっ。なにするのさ、とーちゃん」

 

「脅し過ぎだ束。あと、女子生徒達。狡いとは思うのはしょうがないが、

 精神的代償でなら彼女()は既に払っているぞ」

 

 十千屋が言った内容に首を傾げる生徒であったが、暫くして理解した。

 この天災(馬鹿)によって一家離散、保護してくれるはずの政府から軟禁と尋問の日々、

保護プログラムのせいで転々とし親しい友人など作れなかった。そして、その諸原因となった奴は既に雲隠れし悠遊(ゆうゆう)としている。

 そんな説明を受けてこんな経験をするのはゴメンだと思うのと、このISがある意味で侘びも

含まれているのだと分かった。そう、今回は()()()()侘びを入れる人物が篠ノ之束だったのと

粗品がISだっただけの事だと理解しとこう、コレが生徒の出した結論である。

ちなみにちゃんと箒に謝りました。

 

 何だかんだで紅椿と箒の初期設定が始まると、今度は展開装甲についての質問があった。

それに対し気を良くした束は専門用語のオンパレードで語り始めるが、見かねたのか十千屋が

概要を説明してくれる。

 展開装甲とは装甲とアクティブ・エネルギー・ブラスターの複合装置であり、

装甲を並び替えたり形を変えたりして攻・防・速と様々な状況に応じて対応できる第四世代の

アプローチを叶えるシステムだという事だ。

 

「で、『雪片弐型(ゆきひらにがた)』にも組み込まれているよ、展開装甲。束さんが作った試作品だけど」

 

「え?本当(マジ)ですか、束さん。一体どうして?」

 

「何かね?白式って後付装備出来ない代わりに第一形態から単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を使えるって

 機体らしかったんだけど、失敗して放置されてたの。だから、束さんが興味本位にちょちょいとソレをね?」

 

「束、機密事項をバラすな。この馬鹿が」

 

 白式に-正確に言えば雪片弐型に展開装甲が組み込まれていると、オマケついでに束に言われ

一夏は呆然となる。その直後に千冬が彼女にツッコミ(強)をいれた。どうやら機密事項に触れていたらしい。

 彼女自身も超人のケがあるが、同じ超人系である千冬のツッコミ涙目になってしまう。

そして、また問題発言が…

 

「いった~い。相変わらず、ちーちゃんの愛情表現は過激なんだから。

 それに機密事項なんだの言ってたら、とーちゃんの方が先にアプローチは違うけど

 展開装甲を作ってるって」

 

「やかま…おい、一体それはどういう事だ」

 

「ん~、ヘイッ!そこの宝塚ガール!エクシードバインダーの使い心地はどうかな!?」

 

「え?あ?は、はいっ!?盾にブースターに射撃にシザーハンズと色々役立ってます!?!」

 

「って、事だよ」

 

「…ちゃんと、せ・つ・め・い しろっ!」

 

 なんと束は展開装甲を作ったのは十千屋-コトブキカンパニーが先だというのだ。

それには千冬は黙っておれずに詳しい説明を求めるが、彼女はいきなりシャルロットに十千屋から貸し出されているH.W.U(ヘビィウェポンユニット)の感想を求めた。

 いきなり珍妙な呼び方で名指しされたシャルロットはしどろもどろに成りながら答え、

束はそれが答えと言わんばかりにふんぞり返る。無論、すぐに千冬からバッシングを受けることになったが。

 

 コトブキカンパニーが開発したH.W.U(ヘビィウェポンユニット)は複数のユニットによって形成されている。

これによって一つの兵装で幅広く対応できる作りだ。

 さて、ここで第四世代と展開装甲のアプローチを思い出してみよう。

…お分かり頂けただろうか?H.W.Uは展開装甲と比べてパーツと展開力に遅れをとっているが、

変形・合体で様々な局面に対応できるのだ。

 

「毛色は違うけど、これらも展開装甲と言って良いと思う性能はあるよね?」

 

「ISとFAらは目指す先が微妙に違いますが、この装備だけを見れば第3.7世代くらいには

 出来るんじゃないかというのが自分と束の結論です」

 

 ああぁ、もう…頭が痛い。これが千冬の心情である。

前から十千屋-コトブキカンパニーの技術力は想定外だと思っていたが、ここまでとは思わなかった。この分ではいずれFAがISと同等に成ってしまうのではと嫌な予感し、それは拭えなかったのであった。

 そんな彼女を尻目に箒と紅椿のフィッティングとパーソナライズが終わり、試運転へと入っていた。既に彼女は空へと飛び立っており、その周りにターゲットとなるドローンが飛んでいる。

 

「箒ちゃん聞こえる?今の紅椿じゃその(IS)本来の固定武装は使えない。

 その代わりに本当なら後付武装(イラコザ)がないんだけど、とーちゃんの方から後付けの拡張領域(パススロット)…ん~、収納領域(イベントリ)って呼ぶね。それを付けてくれて、中に束さんととーちゃんが選んだ箒ちゃん向けの武器が入ってるから、使ってみて」

 

 オープン・チャンネルから聞こえてくる説明に箒は耳を澄ませ、紅椿に武器が無いかどうかを

尋ねるような形で精神を集中する。すると紅椿は二本のブレードと一丁のライフルが備えられていると返答した。

 ブレードの方はW.U(ウェポンユニット)14-サムライソード2、叩き切る様に作られた一本と、

刃の差し替えによって野太刀の様にできる一本でセットになった日本刀モドキのブレードセットである。

 ライフルは、試作ベリルショットカノン「ナカトリ」本来はベリルショット・ライフルの

強化タイプとして作られる予定であったが、急きょ紅椿に積み込んだ試作兵装。

一応、照射は出来ない代わりに連射性能と頑強さはベリルショット・ライフルより上である。

 

 箒はサムライソード2でドローンを斬り伏せ、ナカトリで射抜いてゆく。

その様子はまるで初めて紅椿を動かしたとは思えないほど堂々としたものであった。

 

「どうかな箒ちゃん?紅椿は」

 

「あぁ、思った通りに動いてくれる良いISだ。だけど、薄皮一枚の様な違和感?らしきものを

 感じるんだが」

 

「あれ?パーソナライズのデータは最新のにした筈なんだけどな?ん~…まぁ、箒ちゃんも紅椿も初めて会って初めて動いたんだから未だ息が合わないのかな?いずれ消えると思うよ」

 

 束が調子を聞くと箒は微妙な違和感を訴えた。

それに対して彼女は疑問に思うが、どちらとも知り合ったばかりのせいだとして結論づける。

箒は答えを聞くとそんなものかと思い慣らしの続きを要求した。

 その要求に答え束はターゲットドローンを自動配布する様に設定すると、

一区切り付いたと言わんばかりに千冬が近づいてくる。

 

「はぁぁあああ、束。お前には色々と聞きたいことがあるが…

 その腹は、()()()わけじゃないんだな?」

 

「もぅ、酷いなぁちーちゃんは。違うって言ったでしょ」

 

 再度、千冬は束に彼女自身の体型について尋ねると、再び違うと答えられた。こうなると自分が知っている体型が変わるほどの生理現象は一つしかない

 だが、認めづらい事実に片唾を飲んで千冬は彼女に事実確認をする。

 

「なぁ、前の通信の時…体調を崩した様子を見せたのは、悪阻(つわり)か?」

 

「うん!いや~、驚いたよ~。束さんって普通は平気だけど、

波が来ると一気に気持ち悪くなるタイプだったなんて」

 

 認めたくない、認めたくない。自分(千冬)と同じように一生喪女だと思っていた相手が結婚し、

あまつさえ()()しているなどとは!だが、あと一つ二つ確かめなければならない事がある。

 

「おい、何ヶ月だ?そして…()()は誰だ??」

 

「ん~五ヶ月だよ?あと、相手はね~。えへへ(´∀`*)」

 

 揺ぎ無い事実、束は妊娠五ヶ月を迎えており、しかもシングルマザーでは無く相手は…

少し離れた十千屋の腕を取り、体を預け幸せそうに彼女は微笑んだ。

 

 あぁ…そうか。また貴様か…。千冬の意識レベルは一気に低下し、現世界の問題に

たびたび波紋を起こす人物-十千屋を見据え…頭の何処かでプチッと音が鳴った気がした。

 

 「イチカァアアそいつ(雪片)をよこせぇぇぇ!!!」

 

「ハ、ハィイィイイッッ!?!」

 

 いつの間にか十千屋から離れていた束に、白式の様子を見たいからといって

起動させていた一夏は、女性がしてはいけない剣幕で睨みつけた(千冬)に言われるがまま雪片を渡してしまう。

 それを奪い取るかのように持った彼女は、十千屋に斬りかかった。激昂のまま振り下ろされる

唐竹割りは、飛び避けた彼が居た砂地に突き刺さった瞬間、盛大な砂煙を上げる。

 まるで爆発が起きたようなそれに周りは一目散へと逃げ散った。

十千屋もそのまま逃げたかったが、完全に狂化(バーサーク)した千冬に目標にされておりW.Uのトンファーを装備して退却戦に入る。

 

 千冬が雪片を振るうたびにその剣圧で砂が舞い散り、十千屋が防御すると二人を中心として

衝撃波が立ち上がる。コレだけでバトル漫画の様な描写だが、忘れてはならない…二人は

I()S()()の武装で戦っている事を。普通の人間では振り回せないソレで大立ち回りしている事を。

 

「…なぁ、箒。IS用の武器を軽々と振り回して暴れる千冬姉と師匠を人間扱いしていいのかな?」

 

「すまん、その答えには答えられん」

 

「いえ、身体改造(ガチ)をすれば意外といけます」

 

 現実の光景と思えない惨状に一夏は、現状に気づいて降りてきた箒にたいして問いかけるが…

彼女も答えを持っていなかった。

 代わりにシルヴィアが答えてくれたのだが、答えにはなっていない。

 

「つーか、アイツのメイドさん。コレ出してくれたのは良いけど…どこから出したのよ、コレ?」

 

企業秘密(四次元ポケット)です」

 

 砂煙と衝撃波が舞い散るこの場から身を守るため、ISを身につけていない十千屋と一夏のいつものメンバーは、シルヴィアが出した大きなアクリル製のドームの中に居た。

 助かっているのだが、どこから出したのか鈴が聞くとシルヴィアははぐらかす。どうやらコレもコトブキカンパニーの企業秘密の様である。

 

「それにしても、今ようやく分かった。姉さん、()()()束として最後の作品(IS)という約束は、

お…お嫁に行ったから篠ノ之性で無くなる、という事だったんだな」

 

「うん、そうだよ~。既に日本の戸籍データは消滅してあるし、

ゲムマに『タバネ・トチヤ(束 十千屋)』として入籍済みだよ」

 

「はぁ…それにしても姉さんが妊娠してるとは」

 

「ビックリした?したよね?ビックリサプライズ成功だね!ねぇ、箒ちゃん…」

 

「…なんですか、姉さん」

 

 「やったね箒ちゃん!家族がふえるよ!!」

 

 「「「おい馬鹿やめろ」」」

 

 以前、箒が束と交わした約束の意味がようやく理解でき、そこからいつものメンバーとの雑談が始まる。…目の前でオサレバトルに移行し始めている二人に対しての現実逃避とも言えるが。

 

 束の連れ子的な人物がラウラの姉にあたると言う話や、自分()は一応、十千屋の第三夫人であることや、チェーロに叔母さん呼びにしていいのかと言われ狼狽える箒など、楽しく雑談していた。

ちなみに束がISコアを自分の子供みたいだといい、箒には合計で480以上(ISコア+十千屋チルドレン)の姪っ子・甥っ子?がいると言われ…箒は絶対に叔母さん呼ばわれはさせないと心に誓ったそうだ。

 

 その和やかな雰囲気は、血相を変えて走ってくる山田先生によって終わった。

 

「た、たっ、大変です!お、おおお、織斑先生っ!って、こちらも大変な事になってる!?」

 

 いきなりの山田先生の声に、千冬と十千屋は即座に戦闘を中止しそちら側に向き直った。

 いつも慌てていたりする山田先生だが、今回はわにかけて慌てており尋常でない事が起こっていると物語っている。

 

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働は中止。

各班、ISを片付け旅館に戻れ。連絡が有るまで各自室内で待機すること。以上だ!

行動に移れ!!」

 

 山田先生から小型端末を受け取り内容を理解すると、千冬は生徒に向かって緊急退避の指示を

出す。この不測の事態に浮き足立つ生徒だが、彼女の一喝によって慌てて動き出した。

 

「専用機持ち-いつもの一夏と十千屋のメンバーは全員集合しろ!―――いくぞ!」

 

 突如の事態に理解が追いつかない一夏達は千冬の指示に従って彼女についてゆく。

十千屋は海の彼方を一瞥した後に合流する。

 この緊迫した雰囲気に誰もが不安を感じながら行動し始めるのであった。

 

 

――おまけ:次回?予告――

 

私は思い上がっていた

 お前が居れば、皆が居れば、どんな事も乗り越えられるのだと…

 だが、分かっていたはずなのに、世界は残酷であると…

 次回、

 義兄(にい)さん』

 大事なものほど、手から零れ落ち離れてゆく




はい、今回はどんな話にするか、かなり構成が固まっていたのでスンナリと書けました。
そして、次回からはようやく福音戦へと入れそうです。

…え~、ここでかなりオリジナル設定に舵を切った事をご報告します。

白い束さん&ご懐妊は、原作も終わっておらず、何がしたいか分からない束さんの手綱を握る設定だと思ってくれれば…良いと思います。ご懐妊は決して離れない離さない繋がりと言うことで
お一つお願いします。

そして、最近のISのウィキを読んだら…デュノア社関係が完全にオリジナルとなっている事を
再確認しました。もう、修正が効かないのでこのまま行きます。

原作未完了&読み込み不足で始めたこのSSですが、よろしければこのままお付き合い頂きたいと思ってます。よろしくお願いします。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA53ss:義兄…さん

約一ヶ月近くご無沙汰しております…
5月病か仕事が慌ただしかったのか創作意欲が落ちてました。

そして、今回の話を考えて(妄想)いた頃にこじらせていたモノの影響が物凄く出てます。
注意です。冒頭の謎ポエム(若しくはデスポエム)で嫌な予感した人は…心してください。


では、どうぞ御ゆるりと。


 果てしない空、母なる海、それが交わり彼方まで続くような水平線。

 誰もがこの蒼と青の世界を美しいと思うだろう。

 だが、君は知るだろう…

 この美しさと同じくらい…世界は、残酷であると……

 

 

 此処は遥かな空と雄大な海原の境界、それを割って飛ぶ物体があった。

 

「…!目標、HS(ハイパーセンサー)で確認。30秒後に接触する。覚悟はいいか、一夏、箒?」

 

「「はいっ!」」

 

 超音速とも呼べる超スピードで飛ぶのは、幾つものプロペラントタンクとブースターを

取り付けた機兵(FA)と白と紅のISであった。

 それが目指すのは同じく超音速で飛んでゆく『白銀の福音』である。

 

 事の始まりは、緊急宣言を出した…今から約五十分くらい前の事だ。

 

 

「では、現状を説明する」

 

 旅館の一番奥に設けられた宴会用の大座敷は臨時の作戦司令部になっており、そこに教師陣と

専用機持ちの面子が集められた。

 そして、司令官としての役目を果たすのは無論千冬であり大型の空中ディスプレイで事を説明する。

 

「現時刻より二時間前、ハワイ沖で試験可動にあったアメリカ・イスラエル共同開発の

 第三世代型の軍用IS、名称『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れ暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった」

 

 この内容に面を食らったのは一夏と箒だ。ISが暴走と言うのは勿論、『軍用IS』など自分らの

常識外の事であっただろう。しかし、彼らが横目で他の面子を見渡すと全員が全員、巖しい顔付になっている。

 特に軍所属であったラウラ、同じような立ち位置であるコトブキカンパニーの面子は特に

真剣そのものであった。これが本当の専用機持ち-国家代表候補生の重みであると納得してる間にも説明は続く。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域に五十分後に通過する計算が出た。それにより学園上層部から我々がこの自体に対処するように通達があった」

 

 淡々と続ける千冬であったが、一夏は何か小さな鈍い音を聞いたような気がした。その音は隣に座っている十千屋からの様な気がする。

 

「教員は訓練機を使用し空域の及び海域の封鎖を行い、目標(銀の福音)の制圧もしくは破壊を専用機持ちに担当してもらう」

 

 ガンッ!!

 

 一夏は作戦内容に頭が付いていかない。それもその筈、暴走した()()I()S()を自分たちで止めろと

言うのだから。しかし、頭の中が落ち着く前に大きな音に驚きそれどころではなくなってしまう。

 音の元は十千屋であり、彼が何時も被っているメカヘッドを床に叩きつけた音であった。

その行動に皆の注目が集まる。

 彼は(あら)わにした素顔で、一夏達が見た事のないような形相で千冬を睨みつけている。

 

「おい、分かってるのか?ガキに戦場(死地)に行ってこい…そういう事だな?」

 

「そうだ」

 

「国連からの応援とかは」

 

「ない」

 

「学園からの応援とかは」

 

「ない」

 

「軍…日本でも、諸元のアメリカとイスラエルでもいいが、それも」

 

「ない」

 

「あからさまな陰謀と悪意を感じるんだが?」

 

「貴様の言いたい事は私も分かっている。

 この作戦の成否に問わず遺憾の意を申し出るつもりだ…っ」

 

 今の流れで本当にこの場にいる戦力、訓練機を操る教員と専用機持ちしかいない事を再確認される。

 今回の目標-軍用ISは余り表沙汰に出来ない話しなのは理解できる。

それが暴走した為に秘密裏に処理したいのも分かる。

 しかし、それの第一陣に当たるのが未成熟なISライダー達(IS学園生徒)なのは納得がいかない。足止めし、

本陣の応援が来ると言うのならば分かる。だが現実はそうではない。

成功の確率をワザと下げるような通達には()()()()が感じられた。

 それが分かるから彼はこの場の最高責任者である千冬に難癖をつけたのだが、当の彼女も理解はしている。だがしかし哀しいかな、教員と言うお役所仕事の為に自身の不満や不信感を押さえつけて当たらなければならなかった。

 その様子に取り敢えずの納得をしたのか十千屋はメットをかぶり直し、静かに息を吐く。

 

「分かったよ。お役所仕事はお(かみ)に逆らえないってのはよ。

 …入学させられてから、乗りかかった船だ。俺はどうすればいい?」

 

「…すまんな。さて作戦会議を始める」

 

 敵機-銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)のデータが開示されたが、攻撃と機動に特化した広域殲滅を目的とした

特殊射撃型としか分からない。殆ど分からないが軍事機密なので、銀の福音がどんなタイプか

分かっただけでも御の字だろう。

 下手をすれば全部黒線の塗り潰しの様な書類を目にする事に成るのだから。

そして、福音は超音速飛行中であるためチャンスは一度きりという現状も分かった。

そこから導き出される答えは…

 

「お、俺が行くのか…!?」

 

「そうだ、たった一度きりのチャンスで落とすにはお前の零落白夜(れいらくびゃくや)しかない。

 と言っても、お前を運ぶのに一人とフォローにもう一人くらい必要だが」

 

 主力は一夏に決まった。たった一度きりの電撃戦で最大火力を持つのは白式の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)零落白夜(れいらくびゃくや)』だからである。

 だが、そのワンオフは著しくSE(シールドエネルギー)を消耗するので現場まで彼を運ぶ役目の人員が必要であり、十千屋はさらにフォロー役も要ると踏んだ。

 主力に抜擢された一夏は及び腰になっていたが、千冬の言葉で喝を入れ覚悟を決める。

 次に彼を運ぶ役目を決める事になったが、それには二名が名乗りを上げた。

 

「わたくしのブルー・ティアーズ用の試験装備の中に、

 強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』がありますわ」

 

「こちらはM.S.Gを組み合わせれば即席のV.O.B.-Vanguard Overd Boost(強襲用ブースター)を作成できます」

 

 セシリアはパッケージ-ISの換装装備があると言い、十千屋はこの場で強襲用ブースターを作成できると発言した。

 彼らが名乗り出た理由は超音速下で移動している目標に追いつける速度が出る装備がある事、

超高感度ハイパーセンサーを兼ね備えてる事だ。

 以上の理由から二人が候補に挙がり、千冬は次の事を確認する。

 

「オルコット、十千屋、超音速下での戦闘訓練時間は?」

 

「二〇時間です」

 

「実戦を何度か。あと、飛行だけだったら毎週末にやってます」

 

「そうか、ならばオルコットと十千屋で…ん?」

 

 確認したのは熟練度であったが、セシリアは及ばず十千屋はやはりと言うか問題が無かった。

その為に一夏を加えたこの三人でと思ったが、彼女は違和感を覚え口を止める。

 十千屋が超音速下での戦闘経験があるのはまぁ良いだろう。しかし、毎週末に強襲用ブースターを使ってるとは何ぞや?それをシャルロットが聞くと、こんな答えが返ってくる。

 

「あの、十千屋さん。なぜ毎週末に強襲用ブースターを使ってるんですか?」

 

「母国の()()()()()為にだな。いちいち飛行機で飛んでいくのは金も時間も掛かる。

 だから、IS学園から直近で飛んでいくんだよ」

 

「なぜ貴様が週末に専用に貸し出しているISの使用許可を取っているのかが分かったが、

 何と言うかな…」

 

 今さらの確認だが十千屋は()()を持っている。IS学園に居る娘分は平日構う事が出来るが、

実家に居る実の娘や他の家族とは学園に居る間は触れ合えない。その為、休日前になると学園から実家まで強襲用ブースターを使ってまで直帰し家族サービスをしているのであった。

 無論、登校も強襲用ブースターを使って学園に戻ってくるのだ。

ちなみにリアハはSEで保護された補助席を彼に括りつけて一緒に登下校している。

 

「まぁいい、とにかく今作戦は一夏・オルコット・十千屋で行うが異論は無いか?」

 

「織斑先生、一つだけございますわ」

 

「何だオルコット」

 

「そのパッケージですが…まだ量子変換(インストール)されてないのです」

 

「…所要時間は」

 

「量子変換に二十分、調整に十分くらいかと」

 

「十千屋の方はどうだ」

 

「製作含め全部で十二分、いや一〇分で済ませます」

 

「時間が惜しいな。

 だが、代案も思い浮かばない「あの~、ちーちゃん。チョッといいかな?」なんだ束?」

 

 ほぼ決まりかけた所で大問題が発生する。なんと、セシリアはこのままでは出撃不可という事であった。それもその筈、必須であるパッケージにまだ換装し終えてないのである。

 出撃可能に掛かる時間は大まかに見て三〇分程度、今回は出来るだけ迅速に進めなければならない為このタイムロスは痛い。時間が惜しく代案が浮かばない千冬は顎に手を当て思案するが、

束から催促が掛かった。

 

「チョッと不安なんだけどさ。スペック上なら紅椿ならものの一〇分足らずでいけるよ?」

 

「なに?」

 

「束さん言ったじゃん。紅椿は()()()()、『パッケージ換装を必要としない万能機』。

 即ち、即時万能対応機(リアルタイム・マルチロール・アクトレス)なんだよ」

 

「…超音速下での性能は?」

 

「う~ん、と…この装甲をこうイジって、と…こんなもんかな?」

 

 束の提案とは紅椿の本来の特徴である特殊兵装を使った作戦である。()の健やかな成長を願って紅椿にはリミッター(制限)が掛けられているが、本来は第四世代のISであり、その本質は万能機。

特殊兵装である展開装甲を使えば超音速機動が可能になる、との話であった。

 彼女が試算したスペックは十分に今作戦への参加が可能なものであった。この事からセシリアに代わって箒が出る流れになったのである。

 

「姉さん!これでは制限を掛けた理由が!?」

 

「う~ん、でも緊急時だけどいい機会だよ?その(紅椿)が持つ本来の力の一端を感じておいで。

 明確な目標が出来るのは良い事だよ」

 

「だが、しかし…」

 

「箒、不安になったり反古され感情的に納得がいかないのは分かる。

 だが今はお前も紅椿も為すべき事、出来る事をこなすんだ。それにコレは一時的開放だ。

 束も言ったが目指すべき頂きを感じるのは悪い事じゃない」

 

「そして、箒さん。このわたくしの代わりに出るのですから確りなさっておいでなさい」

 

「…分かりました。一心一意で挑ませて(いただ)きます」

 

 第四世代機をアテにした作戦に箒は反発するが、十千屋と束はそんな彼女を宥める。

今回は一時的に機能を開放する事、そして第四世代の力の一端を知るチャンスである事を告げると渋々納得し始め、セシリアの一喝で彼女は覚悟を決めた。

 

「よし。では本作戦では織斑・十千屋・篠ノ之(しののの)の三名よる目標の追跡及び撃墜を目的とする。

 作戦開始は三十分後。各員、直ちに準備に取り掛かれ!」

 

 各員は千冬の掛け声でそれぞれの作業に移ってゆく。

箒は紅椿を起動させ、束が超音速機動形態へと調整し、一夏は白式の点検とエネルギーチェック兼補充、他の面子は臨時作戦司令部の拡張にあたった。

 少しすると手持ち無沙汰に成った一夏に対して、十千屋がセシリアに高速戦闘のアドバイスを貰った方が良いと助言すると彼女が簡単なレクチャーを始める。

 

 一に、高速戦闘用に調整された超高感度ハイパーセンサーによって感覚が鋭敏化し、

全てが遅くなった気がするがすぐ慣れるので慌てないこと。

 二に、高速戦闘ゆえに何時もよりエネルギー消費が激しいため、ブーストの消費量及び残量に

注意すること。特に瞬間加速(イグニッション・ブースト)を多用し、エネルギー管理が下手な一夏は特に注意すること。

 三に、凄い速度で動いているので何かに当たったら甚大なダメージが入るため気を付けること。

 

 と、簡潔に纏め話す彼女に一夏は呆然としながら聞き入っていた。

 

「と、まぁ…詳しく話せばまだまだありますが、今のところコレぐらい覚えておけば

 何とか成るでしょう。…聞いてらっしゃいますの?一夏さん」

 

「あ、ああっ!大丈夫だ!!でも、随分と分かり易くなったなぁ…って」

 

「ふぅ、わたくしも一夏さんが分かる様な説明の仕方がようやく分かってきたところですわ。

 けど、ちゃんと一夏さんも専門的な勉強は確りと身に付けるべきですわ。

 IS装着者としての義務ですから!」

 

「分かった!分かったから!!ちゃんと勉強も頑張るからっ。

 とにかくアリガトなっ、セシリア!」

 

 チョッと小言で小突いてしまったセシリアであったが、一夏の謝礼に機嫌が良くなる。

その後、ちょうど回りいいた面子が集まってきて作戦会議となり、自身のために

一生懸命になってくれている人達を見て彼は決意を新たにしたのであった。

 

「…ユウさん」

 

「リアか、どうした?」

 

「あの子達も動かすのですよね?」

 

「あぁ、キナ臭いし嫌な予感が離れない。だったら手札は多い方が良い」

 

「…私も嫌な予感が離れないんです」

 

 自身のISとV.O.B.のチェックをしていた十千屋にリアハが何処か不安げな表情で彼に近づいてきた。十千屋側の手札(カード)を切るという提案から話が入り、互いに不安を感じているとの話題になってしまう。

 すると、彼女も同意し言葉に詰まり不意に彼に抱きついた。彼女は今回の作戦に異常な恐怖を

抱いている様である。それ故の行動であった。

 

「リア、確かに嫌な予感が止まらないが…死ぬ気は更々無い。

 何度も心配かけたり泣かせちまったりしたけど、絶対に帰ってきただろ?」

 

「それでもです…」

 

 傍から見れば百戦錬磨の彼が愛する妻にそう優しく語り掛けるが、彼女の不安は晴れない。

彼は先程よりもより強く抱きしめられた細腕に繋がる肩に手を添える。

 そして、仮面を脱ぎ去った彼は彼女の不安を吸い出すように深いキスを結ぶ。

 

「…っ。あ、ユウさん?」

 

「大丈夫だ。俺の帰る場所は唯一、お前の傍しか無い。それだけは絶対に約束できる事だ。

 何せ、どんなに離れていても…リア、ここ()が繋がっているのは事実なんだからな」

 

「…はいっ!」

 

 彼の約束が違わぬよう、今度は彼女からキスを返し契りを結ぶ。こんな映画の様なワンシーンに生徒-一夏達は大人的なアレに当てられたのか思考停止し耳まで真っ赤になっていた。同じように純な教職員-代表して山田先生らへんも同じ様な反応である。

 既婚者や余裕が有る人たちは「熱いなー」「吐くなー」と扇いだり、死んだ目をして砂糖や砂を吐いている。一番ひどいのは…まぁ、アレだ。清姫や橋姫や炎の装飾が施されたマスクを付けそうな人たちである。「リア充爆発シロォ…」「憎しみで人が殺せたらぁ…」と怨嗟の声が唸る様であった。

 

 そんな中でちょうど箒と一夏が調整を終え出揃った所で十千屋が話しかけてきた。

 

「一夏、箒…今回の作戦前に伝えておきたい事がある」

 

「なんだ、師匠」

 

「何ですか」

 

 何時も通り素顔の見えないロボ頭だが、何時になく彼の張り詰めた雰囲気に自然と二人は

身を引き締め耳を傾ける。

 だが、次の彼が言った言葉は耳を疑うものであった。

 

「今回の作戦では俺はお前たちと目標以外、切り捨てる事にしている

 

「「え」」

 

「よく分からなかったか?例え作戦海域に乱入者が現れようが要救助者が出ようが、

 お前たちの安全と作戦の遂行以外は全て無視する、と言ったんだ」

 

 この言葉は、特に一夏にとっては聞き捨てならない事であった。今まで何があろうと自分の身に危機が迫ろうとも助けてくれた、厳しくも優しい頼り甲斐がある人物が()()()()と公言したのである。

 一夏は喉が急に渇き、掠れるような声で尋ねた。

 

「なぁ、師匠…一体、何を言っているんだ?」

 

「はぁ…今回の戦いは今までとは違う。何があっても即座に誰かが助けてくれるなんてありえない。自分の身は自分で守るのが前提条件だ。戦いの最中は一体何が起きるか分からない。

 だからせめてお前たちを守り、作戦を遂行するので精一杯だ」

 

「っ。ほ、箒も何か言ってくれよ!こんなの何時もの師匠らしくないって!!」

 

「一夏…私も納得はいかないが、理解は出来たつもりだ。十千屋さんの言う事には一理ある」

 

「な、なんだよそれ…っなぁ!何なんだよ!!」

 

 正真正銘の実戦に挑むため、十千屋は自分の中の線引きを同行する二人に伝えた。

自身に託されたのは目標(銀の福音)の制圧もしくは破壊。その中で二人を無事帰還させる事も彼の役目である。

 だが、今回は敵と実行メンバーである三人しか居らず、実戦では何が起きるかわからない。

故に十千屋の手の届く範囲以外は伸ばさないと彼が言ったのであった。

 理由は分かるが納得できない、そんな一夏は回りに同意を求めるが誰も賛同はしてくれない。

彼も分かってはいる。極限の戦闘状態では何が起こるか分からないくらいの事は、その中で

自分たちを守ってくれるのがどれほど大変な事が。しかし…

 

「師匠…師匠、そんな事は言わないでくれよ。目的以外はどうでもいいって、そんな事で俺は師匠を嫌i…「フッ そうだ、お前はそれでいい」へ?」

 

 一夏は俯き握り締めた拳と同じように声を震わせながら喋るが、急に十千屋の優しい口調が聞こえ顔を上げる。

 

「そう、一夏。昨日言ったばかりだな、『俺の様には成るなって』。

 確かに割り切って行動することは必要だ。時には切り捨てる事もな。

 だが、お前はそいつは嫌なんだろ?」

 

「ああ、強いからって要らないからって、それだけで見捨てるのは嫌だ」

 

「そうだろうな。だから、お前はお前のまま強くなれ。優しさも甘さも弱さも

 全部包み込んだまま、それを超えられる様に成れ。俺が傍に居る間は助けてやるさ」

 

 一夏はようやく気づいた。彼は自分に現実を教えるためにワザと突き放すような事を言ったのだと。けど、その上で自分が成したい事を助けてくれるのだと。

 そう答えてくれる彼に一夏は嬉しく思うと同時に情けなく思う。自分の理想とも思える強さと

優しさを向けられ胸の内が温かく思うが、未だ彼の手助けがなければ満足に何もできない自分の

不甲斐なさに腹が立つ。

 だから、一夏は誰よりも強く優しくなれるように、(十千屋)(千冬)に並び立ちそして追い抜き、

逆に守れるようになる事を強く胸の奥に刻む。

 

「そして、最後に二つ。正確には三つか。コレから戦う二人に伝えることがある」

 

「なんだ、師匠?」

 

「実戦の心構えと言うヤツかな。一つ目は『己の最優先事項を決めとけ』だ。

 戦いってのは極限状態での選択の連続…と、いうのはだいたい察しが付くな?」

 

「はい」

 

「自分が最も大事にしてる事は人によりけりだ。命、使命感、金、闘争への欲求、矜持(プライド)、仲間、恋人などなどだが、何故これらの優先順位を決めとくのかは後悔しないため」

 

「後悔…」

 

「回りに流されるまま決めた、どれも選べず終わってしまった。

 それよりも俺は、()()()()()()後悔したほうが良いと思う」

 

 彼の心構えに誰もが耳を澄ませる。誰でも考えつきそうなアドバイスだが、彼の雰囲気により

何とも言えない説得力が伝わってきた。特に向かい合ってる二人にはより強く感じるだろう。

 

「そして、『躊躇うな、いざって時は迷わず行動しろ』

 決めたのなら、為すべき事があるのならば躊躇わず迷いなく行動しろ。いいな?」

 

「「はい!」」

 

 十千屋の激励とも思えるアドバイスに一夏と箒は力強く返事し、今作戦が開始された。

…これが冒頭より十分前の出来事である。

 そして、現在――三人は銀の福音と交戦状態にあった。

 結果的に強襲は失敗。十千屋の高速ミサイルでの牽制し、本命の零落白夜で切り捨てる攻撃は…

 

「敵機確認。迎撃モードへ移行。『銀の鐘(シルバー・ベル)』、起動」

 

 一夏の光の刃(零落白夜)は銀の福音に当たる直前に紙一重で避けられたのだ。これは慣性制御機能(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)

標準搭載されているISであっても高度な操縦技術を要する動き。それを()()()()である福音がした。

 この急な制動を可能にしているのは福音に備えられた大型スラスターであるが、高出力の多方向推進装置(マルチスラスター)と言うのは他にも多く存在するものだ。しかし、ここまでの精密な急加速を

可能にしたものは見たことがない。改めて任務に当たる人員は『重要軍事機密』の意味を思い知らされる。

 だが、怯むわけにはいかない。今作戦は一撃必殺(ワンアプローチ・ワンダウン)、つまり時間が掛かれば掛かる程にコチラが不利となる。

 

「箒、追いかけてくれ!師匠っ、ゴメン!フォロー頼む!!」

 

「承知!」「任された!」

 

 一夏は移動用の土台と成ってくれている箒と、V.O.B.を切り離し別の後付け高出力ブースターを取り付けた十千屋に声を掛け、一団となって銀の福音を追いかけた。

 一夏はまるで舞うかの様に自在に動く福音に翻弄され、フォローとして弾幕を張った十千屋に

対しては()()で応戦する。

 銀の福音のまるで銀翼の様なスラスターはただのスラスターではない、これは砲口の役割も

果たしていた。翼を広げるかのように動き、そこから放たれる羽型のエネルギー弾は着弾と同時に爆発する性質を持ち、弾幕を形成できる十分な連射性を持つ驚異的な性能である。

 一進一退の攻防戦、だが先程も書いた通りに時間が掛かるほどコチラの不利。

攻撃の要となる零落白夜の使用限界が刻一刻と迫る。

 

(クソっ、メガスラッシュエッジを電池替わりに使って、最小容量にしたプロペラントタンクも

 使い切って、後は自前のSEのみ!)

 

 一番焦りを感じているのは要を持つ一夏であろう。

彼が言った通りに少しでもSEの水増しとして付けた装備は既に空となり、高速戦闘も合わさって急激に減少していくSEに危機感を覚える。

 そして、更に自体は悪化した。

 

「 !? 何でアソコに船が居るんだよ!!」

 

「此処は既に封鎖された筈、密漁船か何かか!」

 

「二人共、俺はヤツを追う!15秒以内にどうするか決めろ!!」

 

 そう、この戦闘区域を掠める様に一隻のボロ船が航行している。

この場はIS学園の教員らによって封鎖され普通の船や飛行機などは近づけない。

即ち、普通の船じゃない()()()船。それから連想させられるのは密漁船だ。

 一夏と箒は突如の事態に攻撃の手を緩めてしまう。だが、それに喝を入れたのは十千屋だ。

彼は銀の福音を追うと言い、一夏らには何を選ぶのか強制する。

 一夏は彼から伝えられたアドバイスを思い返す。自分が最も後悔しない行動をし、躊躇わない。そして、彼が取った行動は…

 

「箒、すまないけどあの船をどっかにやってくれ!俺は福音を追う!!」

 

「それがお前のしたい事なのだな、無理するな!アレを追っ払ったら直ぐ戻る!!」

 

「ゴメン、箒!恩に着るっ」

 

 例え犯罪者だろうとも見捨てる訳にはいかない。

それが一夏の本心であると分かっている箒は船に向かい、彼は一足遅れて銀の福音を追った。

 ボロ船の前にたどり着いた彼女は罵声の様な叱咤を浴びせ領域から撤退するように叫ぶが、

ボロ船ゆえかエンジントラブルが起きていてスピードが出ない。無意識のうちに歯軋りをしてしまうが、彼女は流れ弾から船を守る。

 本心は不本意だが、一夏の望んだ事を叶えるため怒りを飲み込み守備へと回った。

 

 銀の福音を追う二人の攻撃は僅かながらであるが当たり始める。

しかし、足止めを主とする十千屋の攻撃では決定打に成らず、その決定打としての一夏の攻撃も

掠るばかりだ。

 その時、別方向からの援護攻撃が来た。件の船を逃し、再び戦闘に参加した箒である。

彼女は試作ベリルショットカノン『ナカトリ』と紅椿の自動支援攻撃を使い銀の福音に迫った。

 

 だが、あぁ…悪い事とはこうも続くのだろうか。三対一となり戦局がこちら側に傾いた時に突然箒の攻撃が止んでしまう。

 

「どうしたっ!?紅椿!?!」

 

「これは…具現維持限界(リミット・ダウン)!? マズイ――!!」

 

 箒の紅椿が攻撃を停止させ、彼女が握っていた細身の火縄銃―ナカトリは光の粒子となり消えてしまった。ISは量子を操りデータ化した武装を具現化し扱っている。それが光となり消える、

具現化が出来無くなる――具現維持限界、即ちエネルギー切れ。

 今の紅椿は必要最低限の力しか残っていない。SEが無いISはタダの空に浮かぶハリボテでしかない。そして、今は()()だ。

 

 銀の福音は三体となった敵に対し全方位攻撃を仕掛けた後、いま一番最弱と成った箒へと攻撃を絞った。紅椿が絶対防御分のエネルギーを確保していたとしても、銀の福音の連射攻撃を受けたらひとたまりもない。

 一夏は残っているSEを全て瞬間加速に回し、箒に当たりそうなエネルギー弾は零落白夜で

斬り払い彼女を庇う様に抱きしめる。その瞬間に後続の攻撃が届いた。

 

 「ぐあぁああああ!?」

 

 一夏の背にあの爆発エネルギー弾が突き刺さり、彼を削ってゆく。白式に僅かに残ったSEでは

焼け石に水だろう。その事を知ってか知らずか、銀の福音はエネルギーの連射から()()へと変化させた。

 目が焼けるような光が二人に降り注ぐ、箒は死を直感し目を塞いだが…死を告げる光は一向にやって来ない。彼女は恐る恐る目を開けると、

 

「…スマン、遅れた。無事か?」

 

「あぁ、私は一夏のお陰で。一夏は傷ついているが白式が守ってくれた様だ。

 今は気を失っている」

 

「そうか…それは良かった」

 

「だが、だがっ…」

 

「どうしたんだ、箒?」

 

 「貴方の腕がぁあぁああぁ!!」

 

 彼女の目の前に立っていたのは十千屋である。彼が光線を防いでくれたのだ。きっと身を顧みずコチラに来たのであろう彼のISの装甲はどれもヒビが入りボロボロである。そして、光線を防いだと思われる左腕は…肘の上くらいから焼失していた。

 自分のせいでまた庇われ、彼に取り返しのつかない事をしてしまった。

その思いと一夏が傷ついた現実に彼女は前後不覚に陥りそうになる。

 

「…作戦は失敗だ。箒は一夏を連れて撤退しろ」

 

「あ、あぁ…分かった」

 

「お前たちを安全圏に撤退するまで俺が殿(しんがり)を務める」

 

「馬鹿な事を言わないで下さい!十千屋さんも一緒にっ!!」

 

間違うな!戦闘不能なお前が残ってどうする!いま抱えている大事な者を忘れるな!!」

 

 十千屋が撤退を指示し箒はそれに賛同するが、次に言った彼の言葉には反対した。

戦闘不能である箒と一夏を逃すために殿-敵の足止めをすると言ったのである。

 無論、全員で撤退すると思っていた彼女は反論するが彼から叱咤を受け縮こまる。

確かに彼の言う事は分かる、今は間合いを計っているのか銀の福音は攻撃をしてこない。

だが、全員が逃げる最中で追撃を受けたら全滅するだろう。

 戦闘可能なSEが残っていない箒、戦闘不能と成った一夏、

ボロボロで重症だが何とか戦える十千屋…この中で殿を務められるのは十千屋だけだ。

理解は出来る、怒られたのも分かる、でも…しかし、と箒は思い詰めるが急に十千屋から優しく声が掛けられる。

 

()にさ、義兄(にい)ちゃんの良いところを見せさせてくれよ」

 

義兄(にい)…さん……くっ!」

 

 彼女に振り向いた時に彼のメットが剥がれ落ち、安心できる優しい笑顔と眼差しが覗き込むことができた。

 箒は溢れそうになる涙を堪え、十千屋を置いて撤退を始める。だが、それを逃す銀の福音ではない。

 

 ズガンッ!

 

「待てよ、行かす訳ないだろ?」

 

 彼は満身創痍ながらも不敵な笑みを浮かべ、銀の福音と対峙する。

 

 

 

私は思い上がっていたのかもしれない

 

「うぅ…あ、ほ…箒?」

 

「一夏っ、気がついたのか!?」

 

 

お前が居れば、皆が居れば、どんな事も乗り越えられるのだと…

 

「うっ、くぅ…どぅ・・なっ…」

 

「無理に喋るな、傷に触る。…作戦は失敗、撤退中だ。十千屋さんは殿を務めている」

 

「そっかぁ…また…し・・しょうに助け・・られちまった…か」

 

 

分かっていたはずなのに、世界は残酷であると…

 

 残っている僅かなエネルギーを頼りに撤退している箒の腕から微かな声が聞こえた。どうやら、まだ意識ははっきりしないが一夏が気がついたらしい。

 彼女は現状を伝え、彼はそれを理解し言葉を綴る。

 

 

大事なもの程、まるで水の様に手の内からこぼれ落ちてゆく

 

「強く・・なり…たい・なぁ…だれ…より・・も、み…んな・・を・・守れる・・よぅ…」

 

「あぁ、成れるさ…お前なら」

 

 

だから…

 

 一夏がまた気を失った時に、一際輝く光りが満ちた。そして、箒は今ほどISの性能に恨んだ事はない。良く見えすぎるハイパーセンサーで見てしまった。

 銀色の何かの近くから、海原へと落ちてゆく()()()()()()()を…

 

 

コレだけは、この温もりだけは離すまいと

 

 「っっ!」

 

 一瞬、息を呑み込んだ彼女から慟哭が響く。それはこの果てしない蒼穹の彼方まで響くようであった。

 

 

抱きしめる事しか、出来なかった

 




さて、今回は何も申し開きはありません。これがヤリたかった。ただ、それだけです。
そして、オススメBGMは…
箒が十千屋の腕を見て叫んだところから『オルフェンズ〇涙』『フリ〇ジア』
終盤、謎ポエムが始まったところから『Separati〇n[Pf]』『〇夜行路』
これらが作者からのオススメです。
他にも皆さんが考えるBGMがあったらあててみてください。きっと、(別の方向で)盛り上がるでしょう。

うん、まだ形に成ってない頃に妄想して、やりたい場面を作ってたら当時の観てたものの影響なんだ…すまない。


そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA54ss:各員!出撃スタンバイ!!

約二週間ぶりに上げられました。
今回で銀の福音二戦目に入れると思ったのですが…そうじゃありません。
そして、オリジナル設定が酷い?回になるかもしれません。

では、どうぞ御ゆるりと。


傷ついた者は安らぎを求める。

だが、今求めるものは何だ?

求めても、求め得ぬもの。望んでも、望み得ぬもの。

それ故に、彼らは彼処へ走り出す。

 

 

 ここは旅館の一室、そして時刻は午後四時前になろうとしていた。この部屋の使用者は二名、

箒と横たわる一夏である。

 彼はもう既にあの撤退から三時間以上も目を覚まさずにおり、彼女は表情を無くしてずっと彼の傍に座っていた。

 

 今回の戦いで一夏の負った傷は致命傷ではないが軽くもない。

出来る事なら病院へ搬送したいが、緊急事態中なためそうもいかない。

 その為、束がISの裏ワザ-本来は装着者が重傷になった場合に起動する、ISの生体保護・

調整を使い装着者に救急措置を行う機能を使ったのである。

 これにより容態が急変する事はまず無くなり、装着者が峠を越しISのエネルギーが回復すれば

自然と目が覚めるはずだ。

 

 しかし、時間がたった今でも一夏が起きる事はなかった。それにより、状況の変化があるまで

各自現状待機を言い渡された箒はこうしてるのである。

 

「一夏…私はどうすればいいんだ?紅椿は何も答えてはくれない」

 

 彼女は眠り続けている一夏と、手の平に乗っている金と銀の鈴が一対になってついている赤い紐-紅椿の待機形態を見続け、答えが返ってこない問いかけを呟いていた。

 先程の戦闘でいつも髪を結い上げているリボンが焼け、そのまま垂れ下がった髪は

今の彼女の心境を表している様である。

 

「何をいつまでウジウジしてるの」

 

 ばしん!

 

「あだぁっ!?な、何をするんだ!轟!!」

 

「それはコッチのセリフよ」

 

 塞ぎ込んでいた箒を文字通り叩き起したのは轟であった。後頭部に衝撃を受けた彼女は即座に

そちら側に振り向き、抗議する。が、逆に憤慨していたのは轟であった。

 彼女は腕を組み、持ったハリセンを揺らしながら据えた目で箒を睨む。

 

「大方、自分たちだけ助かっての後悔だろうけど…それは父さんに失礼極まりないわ。

 あの人は例え自分が傷ついても助けた事に関しては絶対後悔しないわ。

 それなのに貴女ときたら」

 

「っ!ああ!後悔してる!!私が足でまといになって撤退に至った!

 私なんて放って置けば良かったんだ!!」

 

 ばしん!

 

「黙りなさい。貴女は父さんに助けられたのよ。なら胸を張りなさい。

 『あの人が助けてくれる価値が私に有る』のだと。

 そして、その為に為すべき事をしなさい。貴女に出来る事はそれ以外認めないわ。それとも何?やるべき事を出来ない軟弱な臆病者なの?」

 

「随分と言ってくれるじゃないかっ。でも、どうすればいい!

 為すべき事が銀の福音を倒す事であるならば、ヤツは一体どこにいる!!」

 

 轟の叱咤を受け、逆にいきり立った箒は今にも彼女に掴みかかりそうな勢いでまくし立てる。

今までとは打って変わって一瞬即発な雰囲気に互いにピリピリとするが、急に轟の表情が柔らかくなる。

 

「為すべき事はアイツ(銀の福音)へのリベンジ。それでいいのね?」

 

「ああっ、そうだ!戦えるならば、戦ってやるさ!!」

 

「だ…そうよ。みんな」

 

 箒が銀の福音へのリベンジを決意したのを確認すると、轟はその報告を廊下側に声をかける。

そこには何時ものメンバーが出揃っていた。

 

「うんうん、スコーパちゃんはそうでなくちゃ。ダイジョブ、ジョブ!ウチの親会社(ナナジングループ)の衛星と」

 

我が軍(ドイツ軍)の衛星がヤツを確認した。目標はここから沖合上空三十キロ、

 ステルスモードに入っていたが光学迷彩は搭載されておらず光学(普通の)画像で発見した。

 だが…軍事衛星(ドイツ軍)よりも民間衛星(ナナジングループ)の方が早かったのは納得がいかない」

 

 既に目標を見つけ出したと語るチェーロとラウラ。

 

「さすがドイツ特殊部隊。やるじゃない。けど、そっちに関してはもう気にしては駄目よ。

 あたしは諦めた」

 

「あぁ、Vater()を実質雇っているところだものな…ところでお前の方は準備出来ているのか」

 

「当然のパーペキよ。甲龍(シェンロン)の攻撃特化パッケージはインストール済み。他の皆は?」

 

「もちろん、既に完了させてありますわ」

 

「うん、僕もだよ。けど…念のため、何かあったらすぐに出られるように準備しとけっていう、

 十千屋さんの言付け通りになっちゃったね」

 

「流石、雄貴さん…抜け目無し」

 

 そして、他のメンバーも銀の福音退治の準備は出来ているようだ。どうやら、残す事は箒に発破を掛ける事だけだったらしい。

 その事が分かると箒は口をパクパクしながら紅潮してゆく。

手の平の上で転がされていた事に気づき恥ずかしくなってきたみたいだ。

 

「あと、貴女に良い事を教えてあげるわ。父さんは()()()()()

 

「!? 本当なのか!!」

 

「そだよ~、パパが墜とされたら一番発狂しそうな人がしてないじゃん。

 それに一応、根拠が有る事だよ」

 

 轟から伝えられた吉報に箒は即座に反応する。

そして、吉報-十千屋生存の根拠をチェーロが述べる。

確かに彼女が言う通り、十千屋に万が一の事が起きたらリアハが異常をきたすだろう。

 だが、実際には静かなもので逆に狼狽えた束を宥めながら彼の捜索にあたっている。

更にチェーロは続きを述べた。

 

「なんかね?電波か量子か分からないけど、特殊なパターンでパパとママは繋がってるんだって」

 

「深層心理まで読み解く事は出来ないらしいのだけれども、互いの体調や気分、

 どの方角に居るか位は察知出来るらしいわ」

 

「何でそんな事になっているかと言うと、全く同じナノマシンを使った手術をしたからとか?」

 

「正確に言えば、ナノマシン手術後-ナノマシンが固着する前に大量に互いの体液を交換したからとか、高ぶった精神の波長をナノマシン越しに互いに覚えたとか色々と仮説はあるけど…

 仮説の域を出ないわ」

 

 どうやら、理由は不明瞭だが十千屋とリアハは互いの存在を感じれるらしい。

つまり、彼女が彼を「死んだ」と言わない限り生存は確定しているみたいだ。

 こうしてまた、十千屋夫妻の非常識を知った皆は遠い目になるが…仮説の中身を連想した

一部の人は耳まで赤くなっていた。うん、本当に術後に色々あったんだ…あったんだよ。

 

「まぁ、らぶちゃんのパパと同じかその近似値かもしれないパパがアッサリ死ぬとは思えないけどね~」

 

「…雄貴さんは、遺伝確率250億分の1。不死なる生命体?」

 

「そうね。不死身の男とか陰で言われてるものね」

 

 あっけらかんと彼が死ぬはずないと冗談めいて言う彼女らに他のメンバーは冷や汗を流すが、

急にチェーロが「あっ」と何か思い出しかの様に話す。

 

「そうだ、出るなら早くした方が良いよ?パパの要請によってお姉ちゃん(十千屋の娘分)達が動き出していると思うし」

 

 「「「よし、急ごう。そうしよう!」」」

 

 チェーロの言葉に特に一夏側のメンバーは慌ただしく行動に移る。彼女が言った通りならばヤバ過ぎる人(十千屋の娘分)達がこの(戦場)に押しかけてくるという事だ。

 多分、味方であり強力な助っ人なのだろうが…それと同時にどうする事も出来ない何かを一緒に連れ込んでくるはずだと、今までの経験で知っている。

 特に最悪のケースは、意気揚々と出撃したら既に終わっていたという事態だ。

それだけは何としてでも避けたいと、慌てず騒がずスピーディーに銀の福音へのリベンジに向かう。

 

 さて、噂をすれば何とやら…轟が箒に発破を掛ける少し前、とある場所で動きがあった。

 

 それはソロモン諸島に近い、ゲムマ群島首長国のアケノ島周辺にある個人所有孤島の一つである。

 この島の外見は(ほとん)どが岩山とジャングルに包まれた小島と言うには少しばかり大きめな島だ。

この島には富豪の別荘にも見える家が建っており、とある家族が所有している。

 

「まったく、学校が半休だったから良かったものの。

 お父さんたら、相変わらず無茶苦茶やってるんだから!」

 

「あはは…何もフォロー出来ませんね。でも、旦那様が頑張っているのは確かなんですから」

 

「分かってるわよ!でも、何かあった時に趣味丸出しなのはコッチが疲れるの!!」

 

 少しばかりご立腹なのは薄い桃色のショートボブの少女、それについて歩くのは

十千屋のメイド部隊の一員である和子(わこ)である。

 

「では、麗白(ましろ)お嬢様…お願い致します」

 

「はいはーいっ、①と③を同時に押し続けて開放ボタンを五連打!」

 

 この少女の名は十千屋 麗白、そう現在のところ唯一一粒種である十千屋とリアハの間に出来た実の娘である。

 ここは、彼女らの家族+αで住んでいる十千屋の実家-ライチョウ島。

そして、麗白がエレベーターを変に操作すると立体映像ウィンドウが現れ、それを操作する。

 すると、本来存在しない地下へと向かってエレベーターは動き出す。

 

 エレベーターが止まるとそこはまるで基地の様になっており、二人はその廊下を進む。

途中で和子が持っていた軍服の礼装上着を麗白は受け取り羽織った。

 そして、とあるドアの前に立つ。

 

『ようこそ、中央司令室へ』

 

 機械音声の案内が流れるとドアは自動で開き、彼女らを招く。

招かれた彼女たちは麗白が上座の席へと座り、和子は他のメイド達が居る下座のオペレーター席に座る。

 

「サーシャさん、お姉ちゃん達の準備は?」

 

「三名とも準備は完了しております」

 

「後は、司令官代理の麗白お嬢が声を掛けるだけだぜ」

 

「そう…じゃあ、お願い」

 

「了解しました。各員に告げます。今回はV.O.B.を使った電撃作戦です。ここから目標へと接近、そして撃破してください」

 

「目標が移動した場合、こちらから自動的に進路データを随時変更するのでナビゲーション通りに飛べば問題ありません」

 

「なお、使用後のV.O.B.はインテリジェンスコアの収納領域(イベントリ)に格納されるのであしからず」

 

 麗白の指示によってオペレーターとなったメイド達は今作戦の概要を伝え、格納庫に居る彼女らへと伝えられる。

 格納庫には、新しいFA:G(フレームアームズ:ギア)を纏った少女達がいた。

 一人は肩下まで伸びた薄い金髪の少女で、FA:Gはトルースが使っていたバーゼラルドのパーツに似ている。そして、それを赤にカラー変更されているものを黒髪の少女が纏っていた。

 最後の一人は青いクリスタルの様なパーツが幾つも付いているバイクの様な物に跨っている。

 それぞれの機体の後ろにはV.O.B.が備え付けられており、何時でも出撃できる状態だ。

 

「ここから目標までV.O.B.巡航速度ならば約二時間半で到着します」

 

「お姉ちゃん達、お父さんをお願い」

 

 司令室の巨大ディスプレイに格納庫の様子が写っており、通信も繋がっている。

そのため、麗白の懇願も彼女らに届き皆は頷いて返答した。

 

「…うん、各員!出撃スタンバイ!!」

 

「三機ともシステムオールグリーン!」

 

「目標までのナビゲーション、OK!」

 

「第二ゲート、開放!」

 

 麗白の号令によって、事は動き出した。オペレーター達は最終チェックを終え、格納庫のゲートを開く。

 格納庫では彼女らの前方の二重ゲートが動き出し、準備に当たっていた充電くんやアント-

アーキテクトフレームの無人機は退避場所へと移動した。

 その頃、この島の外では大きなバルコニーが付いた建物の下-岩壁が下がり、その中に隠されていた格納庫が姿を現す。

そして、その前に広がっていたセスナ等の小型飛行機が離着陸出来る滑走路は、端が地面ごと跳ね上げられ大型輸送機が離着陸出来る幅へと変形する。

 格納庫から出てきた彼女らは一定位置に来ると、V.O.B.に火を入れる。

すると次は、後方部にアフターバーナー用の遮蔽板がせり上がり、前方の滑走路は上り坂へと変形した。

 

「FA:G バーゼラルド!行っきまーす!!」

 

「FA:G バーゼラルド・ルベル…出るっ!」

 

「FA:G フレズヴェルク・サイドワインダー形態。出るわよ!」

 

 彼女らはそれぞれの機体名を高々と名乗り、出撃していった。さらに、ここでも…

 

「父様、今行きます」

 

 IS学園に停留しているテーサウルスアルマ(ほぼ十千屋用の社用移動拠点船)の甲板が開き、その下から伸びたカタパルトによって素子も出撃した。ただし、右手のインパクトナックルの手が妙に()()()()()が。

 

 

 そして、こちらもリベンジ(自己出撃)をする為に箒達は砂浜に出てきた。

 各自ISを展開し、パッケージも装着済みだ。しかし、何か違和感が…

 

「ん~あれ?おかしいな…轟さんとチェーロさんが()()にISを展開してる様な?」

 

「はっ!言われてみればそうですわ!?」

 

「まさか、冗談だろう?だが、Vaterなら…有り得る」

 

 そう、轟とチェーロは一つのISコアを使いまわして各自のISを使用している。

故にどちらか片方が使用中ならもう片方は使用不可の筈だ。

 しかし、今はどちらもISを展開している。その事を指摘されたチェーロはドヤ顔になり胸を張った。

 

「んっふっふぅ~。そう、いつも使っているISコアは轟ちゃんが使っているのだ!」

 

「チェーロ、やっぱりコアの方は貴女の方が」

 

「え~、だってその子(コア)と同調率が高いの轟ちゃんじゃん。ボクはコッチでいいの~」

 

「アンタらとっとと説明しなさい!いや、本当はして欲しくないけどさ!

 でも、やっぱり、もしかして、なのね!?」

 

「あ、そうだった…そう!パパは束ママの力を借りずにISコアシステムを解読し

 作れるようになったのだー!!」

 

 話がズレかかっているのを鈴が修正し、詰め寄って説明を促す。そして、チェーロは核爆弾発言を言い放ったのだ。

 無論、聞いていた面子は大いなる衝撃を受ける。この発言は世界の軍事バランスを崩す事になる大変タチの悪い話だ。

 今の世の中はたった467個のISコア=ISによって軍事と平和のバランスが保たれている。

コレを突き崩す発言だからだ。

 

 それ故にチェーロは「内緒にしてね?」と声を掛け、説明の続きをする。

 正確に言えば、十千屋はISコアの機能を限定的に再現し、ISコアを再現する事に成功した。

との事である。

 結果的に一つに纏められずに三つに分割し、それを一機に搭載することでISを再現した。

 PICやシールドなど、行動するために必要な機能をつぎ込んだ-ストライク()コア。

 複雑な演算処理をする超AIシステムと拡張領域などを司る量子領域をつぎ込んだ-インテリジェンス(I)コア。

 そして、それらのエネルギーを賄うためにユビキタス(U)エネルギー(E)・システムを使った。

副事物として、エネルギー問題はこれによって解消された。

 後付け出来るハイパーセンサーや、通常なら必要ない進化機能、コアネットワークを排した

IS()()()これが今のチェーロの愛機-FA:G スティレットなのである。

 

「パパが言っていたんだよね~。

 『現段階で全部再現しようとするから無理が有るんだ。

  何故、出来る所から分割してやらない?』って」

 

「けど、私たちには先にT結晶の技術があったから分割再現できた部分があるけど」

 

「通常では必要のない部分を削り、戦闘に特化した機能だけを残した…って事でいい?」

 

「そうね。地球上なら数千キロを見渡せるハイパーセンサーや、どこに居てもやり取りできる

 独立したネットワークとか必要ないわよね?環境変化に合わせた独自進化も」

 

 十千屋サイドの面子が新システムについて話し込んでいるが、それを傍から聞いている

他メンバーは「やっちまった感」が猛然とする。

 ここに女尊男卑のIS信者がいれば狂乱して殺しに掛かってくるだろう。それくらいマズイ内容であった。

 しかし、ここで少し注釈しておこう。IコアとSコア、これらはどちらか片方を使用するのであればエネルギーさえどうにか出来れば誰でも使える。

 が、何故か二つのコアを同時に使おうとすると適正が無ければ使えなくなってしまう。

まぁ、男女平等に確率があるのでソレだけでもISにとっては後暗いのだが。

 

 とにかく、戦力が増えたのは心強いと今は全力で不穏の種から目を背け、

今度こそ出撃しようとした時に何かが近づいてくる気配がした。

 無断で飛び立とうとした彼女らは、目撃者であるならば少し悪いが寝ていてもらおうと行動するが…それは人ではない。

 

「じゅ、充電くん?」

 

「しかも、赤って事はアンタ()のじゃない。月甲(げっこう)禍津(まがつ)積んでるし」

 

 そう、箒が普段から使っていた打鉄に換装装備(パッケージ)を付ける為に使っていた充電くんであった。

 彼?が箒の近くに歩いていくと、目の前で手を差し伸べる。

 

「充電くん、すまないがそのパッケージはもう使わないんだ」

 

 箒が必要ないと断るが、彼は手を差し伸べたまま動かない。

何をしたいか彼女にはサッパリであったが、その格好からすると。

 

「手を、握手をすればいいのか?」

 

 充電くんは変わらない表情で頷き、箒は疑問に思いながらも手を握る。

すると紅椿と充電くんの間で情報のやり取りが始まった。

 

「な、何だ!?」

 

『更新データを確認。更新データに必要な装備を確認。…再フィッティングを開始します』

 

 箒は驚くが紅椿の手が充電くんの手から離れない、しかもその間も情報のやり取りが止まらず

彼が付けていた月甲禍津も量子となって紅椿に取り込まれていく。

 何が起こっているが分からない彼女であったが、何故かやり取りしてる情報の中身は分かった。コレは自分の記憶だ。いつも使っていた()()の記憶だと。

 一分に満たない間にやり取りは終了し、最後には量子の光がここに満ちた。

光の中心となった箒に誰もが目が眩み彼女が見えなくなってしまう。

 光が収まり誰もが箒の姿をみると紅椿の形が変わっており、これには彼女自身も驚いていた。

 手足には追加装甲が付き、背面にある花弁のような一対の大型バインダーには月甲禍津の

肩部シールドにあったクリスタル状の装置-TCSオシレーターⅡ型が煌めいている。

 

「な、何だ…コレは?『月装-大屋毘古(おおやびこ)』?第二形態移行(セカンド・シフト)していないのに変化した?

 しかもコレは…月甲禍津と私が使っていた打鉄のデータを使って?」

 

 箒の困惑をよそに紅椿はより強く、しかも彼女に近づくために変化した。受け取った情報と装備を取り込む形で。

 そして、今まで欠けていた何かが埋まるかの様に彼女と紅椿を隔てていた薄皮一枚の違和感も

消えていた。

 

 この時は彼女らは知らなかったが、紅椿には束が独自開発した『無段階移行(シームレス・シフト)』システムが組み込まれおり、元々蓄積経験値により性能強化やパーツ単位での自己開発が随時行なわれるようになっている。

今回は蓄積経験値を打鉄から貰い、そこから導き出される自己開発を月甲禍津をベースに行った…というものであった。

 

 だが、そんな事は関係ない。

コレは紅椿が打鉄が充電くんが自分の為にしてくれた事だと分かれば箒は十分である。

 

「あぁ、これで私はもっと戦える。ありがとう、充電くん。紅椿。そして…いや、この礼は全てが終わってから直接伝えよう」

 

「…で、もういいのかしら?」

 

「ああ!私も飛べる!!それにどうやら…思っていた以上に、

 見えないものや無意味に見えていたものに守られていたり、知らずに愛されていたらしい。

 今の私は…迷わない!」

 

「はぁ、どうやら本当に吹っ切れたようだね」

 

「そうですわね。今の彼女の眼差しは一夏さんにそっくりですわ」

 

「そんじゃ!勢い付いた所でっ、行っくぞー!!」

 

「張り切るのは良いけど、作戦は忘れないように」

 

「そう、だね。でも、この雰囲気…嫌いじゃない」

 

 吹っ切れた箒で皆に笑みが溢れる。自分たちはやれる、果たす事ができる。

そう確信し、彼女らは自らの意思で戦場に身を投じた。

 

 

(ここは…海、なのか?)

 

 一夏は何処か現実味のない、ぼぅっとした思考の中で辺りを見渡す。

素足の裏に感じる砂の感触と熱気。海の潮の香りと波の音。

ジリジリと照りつける太陽の熱を拭ってくれる心地よい涼風。

これらによって彼はここが夏の海だと思った。けど、ここがどこか今がいつなのかが分からない。

姿もそうだ、制服をきてズボンは裾まくりして、素足だからなのか手には靴を持っていた。

姿だけを見れば学校帰りに海に立ち寄った様に見えるだろう。

 

「フゥ――ラァ、ラン♪ララン♪ラララ――♪」

 

 不意にとても綺麗な歌声がし、一夏は気になって導かれるようにそれを辿る。

 そこには波打ち際で踊り、歌う、白いワンピース白い髪の少女が居た。

踊るたびになびく白の髪と服は陽の光で輝くように見えて、無垢な美しさがある。

 彼は声を掛ける気には成らなかった。むしろ、声を掛けるのが無粋であるような気がした。

その為、近くにあった白くはげ上がった流木に腰を下ろす。

 一夏は白い砂浜、白い少女、白い雲がはっきり見える夏の空をぼんやりと眺めていた。

 

 

「ごべんなぁ、ごべんなぁ…今のわたずざぁ、だづげられねぇ…」

 

(君…は?)

 

 十千屋は自分の頬を濡らす何かで気づき、薄目だが目を開けた。

 そこには、そばかす気味で本来なら愛嬌のある少女が顔をクシャクシャにしながら涙を流し、

謝り続けている。

 それを見て彼は、彼女の涙を悲しみを止めたいと思った。

 

 




はい、冒頭でも書いた通り約二週間ぶりです。
前回よりも早く上げられましたが…第二戦まで届かなかった!?
そして、オリジナル設定をブチまける回となり…申し訳ない。
こんなクソ設定でもご覧になられてくれている皆様方には感謝しかありません。

そして、どこかでもデウスエクスマキナ(ご都合主義)が出るでしょうが勘弁してもらいたいです。

さて、次回の予定は…銀の福音二戦目前半と、一夏と十千屋のコアへの邂逅を書き上げたいと思います。


そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA55ss:一斉攻撃

…前回は、2ヶ月前だ…と?

どうもスミマセンでしたぁあ!!OTZ

色々とグダグダしていたらこんな日数に…エタなったと思われても仕方ないですね。(^_^;)
言い訳などは後書きにでも…


では、どうぞ御ゆるりと。


 福音の鐘が鳴り響かせるのは天使のラッパと同意義か…

 だが、その音色が破滅を導くのならば決して響かせてはいけない。

 戦乙女達は鐘がこれ以上、鳴り響かぬように戦場へと舞い降りる。

 

 

 

 様々な想いを乗せ動き始めた状況の中、十千屋は(おぼろ)げな意識の中で目覚めた。

 

(体の感覚が無い…ほどじゃ無いが、鈍くて動けない。今の状況は一体なんだんだ?)

 

 意識がだんだんハッキリとしてゆく最中に自分の体を確認する。今は動けないまでに力が入らず鈍く感じ、何もする事が出来ないのが分かった。

 だからだろうか、今の状況になる前まで覚えている事を確認したのは。

 

(俺は銀の福音から箒と一夏を逃してから、それから…)

 

 

―― 箒・一夏 離脱後 ――

 

「待てよ、行かす訳ないだろ?」

 

 十千屋は離脱した二人を追撃しようとした福音に銃撃を当て、意識をコチラに振り向かせる。

 彼の手にはタッグトーナメントから使っている愛銃が有り、硝煙が立ち上っていた。

 箒達を庇った彼の体はもう戦闘に耐えれるものではない。各所の装甲は焼け(ただ)れヒビが入っている。極めつけは箒達を庇った時に負った左腕の焼失だ。

 自分に対抗する戦闘力は残されていないはず、福音のAI(自意識)はそういう風に判断する。

 しかし、何故だろう。こうして、目が離せないのは…?

 

「お前はこう思ってるだろうな。『もう死に体』だと、確かにそうだな。

 だから、無茶を通して道理を引っ込ませて貰う!」

 

 十千屋は一瞬で福音との間合いを詰め、スラスターで加速させた蹴りで福音を蹴り飛ばした。

 この行動に驚いたのは福音の方だろう。何故ならば、先程観測していた()()()()を上回る動きをされたのだから。

 

(少しばかり、占有させて貰うぞ!雷!!)

 

 彼はあの時(白騎士事件)と同じようにISと自分を繋げている阿頼耶識システムの侵食率を上げたのだ。

 普段はISと対話出来る程度、阿頼耶識システムを付けた当初ぐらいの侵度で使っている。

 だが、今は自身の脳を侵食し運動機能等のリソースをシステム用に明け渡す様な使い方だ。

 そう、右目と右腕の運動野を失った時の侵度である。

 ISからは阿頼耶識システムの過剰使用による警告や困惑、装着者を守る為の妨害があったが、

彼はそれらを押しのけてIS側に自分を割り込ませていく。

 機械が生身になるような感覚、ISの不調が自分自身の不調に感じ幻痛(ファントムペイン)で吐き気や眩暈がしそうだ。

 あぁ、だが…

 

(何時もの事だな)

 

 そう、彼にとっては()()()()()

 自身を刻む痛みも、心を削ぐ気持ち悪さも今までの戦いの日常だ。

 自分の命を投げ捨てる様に見えるが、だったらその先でまた掴み戻せば良い。それが彼の日常(狂気)である。

 

 十千屋は武器をマシンガンに換えて一分一秒でも時間を稼ぐため福音を翻弄する。

 足りない速度は反応速度で、足りない手数は弾幕(武装)で補う。

 乱射される光線をくぐり抜け、ありったけの弾を浴びせ彼の十八番に成りつつある煙幕を張る

ミサイルで福音の視界を奪った。

 視界ゼロとなった福音は咄嗟に煙の中から抜けようとするが、全身に攻撃を受けてしまう。

 突如の猛攻に福音は狼狽えるが、そのタネは自身の超高感度ハイパーセンサーが教えてくれた。

 自身の回りには煙と()()()がばら蒔かれており、その金属片に敵から撃たれた弾が反射-

『跳弾』する事によって全方位攻撃を可能にしているのだと。

 十千屋のネタ技(宴会芸)の一つ嵐の円舞曲(ストーム・ワルツ)

 弾性の高い金属片を敵の回りに蒔き、弾丸を跳弾させ全方位弾幕を実現させる技である。

 が、跳弾角度の計算が複雑であり本来は二丁拳銃で細かく調整しながら撃ち続けなければならない。そんなところを今回はマシンガン一本で使用した為、薄い攻撃となってしまった。

 

 思いのほか軽いダメージで済んだ福音は薄くなり始めた煙幕から離脱しようとする。

 その時に真正面から衝撃を受けた。

 

「ようやく捕まえたぜ?この距離なら撃てないな!」

 

 十千屋は福音を真正面から齧り付き逃がさないように捕まえる。片腕の代わりは自身のISの各所に付いているハードポイントから補助腕(フレキシブルアーム)を伸ばし、雁字搦(がんじがら)めし絶対に逃がさない格好だ。

 フレキシブルに動き全方位攻撃を可能にしている福音の砲もゼロ距離には向ける事は出来ない。そして、腕に付いている砲は確りと抱き締められ使えない状態であった。それ故にデタラメに動き彼を振りほどこうとする。

 振り回され、死に体に彼は近い必死にしがみ付く、だがその中で何かの叫びを聞いた。

 

「…福音、お前は」

 

 コアネットワークも()()()、全通信機能がほぼ停止している福音からこの()()の全てを語られる。これは福音からのゼロ距離通信、いや互いの体の隙間さえない状態での接触通信であった。

 十千屋は自身の予感が当たり歯ぎしりを鳴らす。そして…

 

「大丈夫だ、福音。今の俺にはお前を止める力は無い。

 けど、あいつらがお前を止めて(助けて)くれる筈だ。だから…」

 

 十千屋は優しく、だが通信が途切れぬように福音を抱き寄せると同時にフレキシブルアームのハードポイントからさらに補助腕を伸ばし…その先には、

 

「だから、今は停まっとけ(眠っとけ)

 

 補助腕の先はマニュピレーター()ではなくミサイルポットがあり、それが一斉に火を噴いた。

 至近距離での爆発、ISと言えどもただでは済まない衝撃と熱量が両者に襲いかかる。

 箒が見た爆発はこれであった。

 福音と一緒に自爆した十千屋は力尽き、福音を抱いた腕は力なく垂れ下がり戦闘用ではない

補助腕は全て壊れて落ちてゆく。

 そして、彼もまた…紺碧の海原へと落ちていく。

 福音は落ち行く彼に僅かに腕を伸ばすが…それは届くはずもなく、自身の傷を少しでも癒すかのように自身を抱き抱え一時の眠りへと入ったのであった。

 

(そうだ…少しでも福音を止める為に自爆行為(バンザイアタック)したんだっけな)

 

 彼は自分が何を仕出かしたのか思い出すと、ボヤける視界に自身に涙を流す少女の姿が見えた。

 

「君…は、誰 なん・・だい?」

 

 十千屋は掠れる声で言い、()()()()()()左手を少女に伸ばす。

 

 

 太陽が南中高度を過ぎ海と接触し始めた頃、海上二〇〇メートル…それは居た。

 銀の福音は膝を抱く様に丸めた体を、守るように頭部から伸びた翼が包む。

 だが、その翼の一部は破損しており傷ついた天使を思わせるようであった。

 

『――… ---?』

 

 膝を抱えていた片腕を解き、手の平を見つめる福音は不意に頭を上げる。

 次の瞬間、福音頭部は爆発を起こした。それは一度では収まらずに次々と福音に襲いかかる。

 

「初弾、次弾、後続もろもろ命中。流石、轟。良い腕だ」

 

「ありがとう。排熱処理は終了…次いくわ」

 

Jawohl(了解)!」

 

 爆発の正体はラウラと轟が撃った砲撃である。

 そして、両者の機体は特殊装備へと換装されていた。

 ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンは、八〇口径レールカノン《ブリッツ》を両肩にそれぞれ二門装備し、さらに遠距離からの攻撃に対する備えとして四枚の物理シールドが左右と正面を守っている。

 これが砲撃パッケージ『パンツァー・カノニーア』だ。

 轟の方も同じような装備をしている。

 両肩には長距離砲 六七式 長射程電磁誘導型実体弾射出器、

 両肩には実体盾である六五式 防弾重装甲を取り付けた『Ver:榴雷・改』。

 そして手には大口径狙撃砲である H.W.U 17:リボルビングバスターキャノンが握られている。

 

 敵襲を知ると福音は即迎撃態勢に移行した。

 両者の間は五キロ離れているが、福音は彼女たちの予測を上回る速度で迫ってくる。

 その間も彼女らは敵への砲撃を行っているが、撃ち落としと回避のせいで半数は無効化され、

当たった数発は有効打にすらなっていない。

 距離にして三〇〇メートル、福音は腕部砲を向け更に加速。

 砲戦仕様はその反動相殺の為に機動との両立が難しく、機動性に特化した福音からは逃れられないだろう。対抗策として轟は実体盾の裏にエクステンドブースターを取り付け瞬発力を確保しているが、焼け石に水だ。

 

 福音の凶弾からラウラと轟は避けきる事はできない。

 だが、ラウラは不敵に笑い、轟は表情を崩す事はしない。何故なら…

 

「――セシリア!!」

 

「――チェーロっ!!」

 

 今度は上空からの狙撃により福音の攻撃は中断され体勢を崩される。

 青い二つの機体――『ブルー・ティアーズ』『FA:G スティレット』両機体によるステルスモードからの強襲だった。

 こちらもパッケージを変更しており、ブルー・ティアーズはビットを全てスカート状に腰部(ようぶ)

接続されスラスターとして運用、バイザー状の超高感度センサーを装備し、ビットを使えない分は大型BTレーザーライフルで補っている強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』だ。

 だが、今回はレーザーライフルを持たずH.W.U(ヘビィウェポンユニット) 01:ストロングライフルを持っている。

 スティレットはH.W.Uで魔改造(カスタマイズ)されており、背中の推進器『セイレーン mkⅡ』を

自動支援戦闘機 H.W.U 11:キラービークに使われているアクティブウィングに変更し、

脚部スタビライザーはH.W.U 06:エクシードバインダーのウィングスラスターへと変更されている。

 この高機動パッケージもどきをチェーロは「これがボクの(スーパー)スティレットだ!!」と言っている。が、FA(フレームアームズ)の方でSスティレットは実在し、装備も違うためコレは『ボクの考えた最強の

スティレット』感が拭えない。ちなみに武器はリニューアルW.U(ウェポンユニット) 01:バーストレールガンである。

 

『敵機 複数認識。排除行動に移行』

 

「残念、まだ居るんだよ」

 

 セシリアとチェーロの射撃を避ける福音は別方向からの攻撃に(さら)される。

 それはセシリアの影に居たシャルロットであった。彼女もステルスモードで待機し強襲したのである。

 福音は背に近接射撃によるダメージが入り姿勢を崩すが、一瞬で立て直しこの新たな敵機対して《銀の鐘(シルバー・ベル)》で反撃した。

 今ここで改めて説明すると、銀の鐘とは大型スラスター 兼 広域射撃武器を融合させた

新型システム。福音の頭部に接続されている36の砲口をもつウィングスラスターである。

 これは、高密度に圧縮されたエネルギー弾を全方位へ射出するとともに、常時瞬時加速と同程度の急加速が行える高出力の多方向推進装置(マルチスラスター)だ。

 この機動性や攻撃力は今まで見てきた通りに驚異的であり、狙われたらタダでは済まされない。

 

「でもね。悪いけど、この『ガーデン・カーテンズ』は、そのくらいじゃ落ないんだよ」

 

 リヴァイヴ専用防御パッケージは、実体とエネルギーシールドの両方によって福音の猛攻を防ぐ。そのシルエットはノーマルのリヴァイヴに近く、二枚の二種のシールドがカーテンの様に前面を遮っていた。

 が、ここでの話…このパッケージは原案デュノア社、改修コトブキカンパニーなので実体シールドはH.W.U 19:フリースタイル・シールドとなっており、これは装甲板を連結させた盾で強烈な

攻撃に対しては連結部で破断させることで衝撃を和らげることができる。

 無論、ブキヤらしくバラして再配置でき増加装甲にも使える。

 その為、シャルロットの得意技である『高速切替(ラピッド・スイッチ)』により破損部の即時交換、

盾そのもの形状変化が出来るため原案よりも防御力と継続能力が上がった。

 そして、エネルギーシールドもブキヤ製のH.W.U 35のヤツなので取り回しがより良くなっている。

 

 迎撃の為に全方位攻撃を仕掛けた福音は()()動きが止まった。

 

「その隙…逃さない」

 

 また別方向から福音にとっては敵機が現れる。その機体は両肩に装備されたミサイルポットで

多数のミサイルを射出し、それはまるで生き物の様に福音の全方位攻撃を掻い潜ってきた。

 コレには福音もたまらず攻撃を中止するかミサイルに標準を合わせると思ったら、同じ方向から今度は間髪入れず砲撃を受ける。

 

高速切替(ラピッド・スイッチ)よりも武装変更が早くて簡単…流石、ブキヤ」

 

 敵機の正体は打鉄弐式(うちがねにしき)、簪だ。

 ただ、背面には本来搭載されている筈の二門の連射型荷電粒子砲『春雷(しゅんらい)』ではなく、

用途によって先端ユニットを選択できるH.W.U 15:セレクターライフルを同じ数だけ搭載している。

 先に仕掛けたミサイルはセレクターライフルのミサイルランチャーユニット、次の砲撃は榴弾砲(ハウザー)ユニットによる攻撃だ。簪が言った「高速切替よりも簡単」というのはH.W.Uは単品での組み換えが基本なので、切り替えは自動化されている為である。

 

『――優先順位変更。現空域からの離脱を最優先』

 

 (ことごと)く行動を阻害される福音は排除行動よりも強行突破による離脱を選択し、全スラスターを

開いて噴かそうとする。

 が、海面が膨れ上がり()ぜたその中から何かが現れた。

 

「逃す訳ないでしょうが!!」

 

「離脱はさせん!叩き落とす!!」

 

 飛び出してきたのは『赤椿』-箒とその背に乗った『甲龍』-鈴である。

 鈴はその背から飛び降り、箒は福音に突撃する。降りた彼女は二門に増設された衝撃砲-

機能増幅パッケージ『崩山』を戦闘状態へと移行した。

 そして、放たれた衝撃砲は特徴であった不可視の弾丸ではなく、赤い炎を纏い福音に勝るとも

劣らない弾雨となって目標(福音)へと降り注ぐ。

 福音からすれば、突撃してきた箒が緊急離脱したら炎の弾雨――言うなれば熱殻拡散衝撃砲が

目の前に広がっていた、と思うだろう。

 箒の突撃はフェイント、本命は鈴の衝撃砲であった。離脱した彼女も直ぐに反転し、

リニューアルW.U(ウェポンユニット) 02:ハンドバズーカで追撃する。ちなみに弾頭は鈴の衝撃砲と合わせて拡散(クレイモア)だ。

 

「やりましたの!?」

 

「セッシー!それフラグ!?」

 

「そうね!まだよ!!」

 

 怒涛の強襲から拡散衝撃砲の直撃を受けてをなお、未だ福音は健在。その機能を停止させてはいない。

 増える敵機と波状攻撃、福音は離脱を諦め()()殲滅へと戦闘思考(ロジック)を切り替える。

 

『脅威レベル上昇 《銀の鐘(シルバー・ベル)》最大稼働――開始』

 

 両腕を左右いっぱいに広げ、さらに翼も自身から見て外側へと向けた。

 その刹那、エネルギー弾の一斉射撃が始まり眩いほどの光が爆ぜる。

 防御するには難しい全方位攻撃、防御パッケージを付けたシャルロットと月甲(げっこう)禍津(まがつ)から

受け継いだTクリスタル(C)シールド(S)を持つ箒が援護防御に回っても、被害は少なくはないだろう。

 しかし、彼女達の()()()はこれで終わりではない。

 光が爆ぜた瞬間、今度は彼女らも福音も含めて海から立ち上った多量の水柱と水飛沫を浴びる事になった。

 

「全機 ―― 一斉攻撃」

 

「「「狙い撃つ(よ/ますわ)!!」」」

 

「箒!行くわよ!!」

 

「委細承知!!」

 

 光子だろうが粒子だろうが熱線だろうが、多量の水はエネルギーを減退させる。

 事実、水の中に居ると思わせる量の水柱に閉じ込められた福音のエネルギー弾は最低でも

一撃必殺の威力から減退してしまった。

 それは学園側のメンバーも同じであるが、質量兵器の運動エネルギーならばそこまで減退しない。

 その為の全機H.W.U(ヘヴィウェポンユニット)W.U(ウェポンユニット)―総称M.S.G(モビル・サポート・ギア)、コトブキカンパニー製の武装である。

 今回が装備試験運用 兼 臨海学校だった為コトブキカンパニーから多種多量のM.S.G(モビル・サポート・ギア)を持ってきていたのは運が良かった。

 そして、水柱の仕掛けは海中に仕込んであった簪のリモートミサイルである。

 

 福音の《銀の鐘(シルバー・ベル)》による攻撃が減退した隙を逃さずに彼女たちは一斉攻撃を仕掛けた。

 箒と鈴を除くメンバーは一斉射撃をし、二人はそれぞれ上下から福音へと突撃する。

 全方位攻撃をし、足の止まった福音は一斉攻撃を仕掛けたと思ったら、仕返し返された。

 何とか緊急離脱を試みるがもう時すでに遅し。

 

「「これで!!」」

 

 上下から来た箒と鈴の狙いは翼-頭部に接続されたマルチスラスター《銀の鐘(シルバー・ベル)》。

 拡散衝撃砲とバズーカでダメージを与えすれ違い様に刃を突き立て翼を叩き切り、破壊した。

 さらにその場で回転し福音本体へ戦術迫撃刀『テンカイ』と双天牙月による斬撃によって斬り捨てられる。

 

 「「終わり だ / よ!!」」

 

 翼をへし切られ、本体も斬り払われた福音は海へと落ちていく。

 ISにはPICがあるが、機動力を司っていたマルチスラスターを失い本体もダメージを負った福音は体勢を立て直す力も無かったようだ。

 

 今までの激闘が嘘の様に静まり返り、誰もが勝利を思い込んだ…その瞬間、海面が強烈な光の(たま)によって吹き飛ばされる。

 球状に蒸発しそのままの海の中心で、紫電は迸りながら『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が自らを抱くかの様に(うずく)っていた。

 

「一体、何が起こっているんだ…これは!?」

 

「福音――エネルギー値急上昇?」

 

「もしや…まずい! 『第二形態移行(セカンド・シフト)』か!?」

 

 ラウラは福音が第二形態移行(セカンド・シフト)をしていると声を荒げると、まるで声に反応したかの様に福音は顔を向けた。

 今更だが、福音は全身装甲(フルスキン)タイプのため無機質なバイザーに覆われた顔からは何の表情も読み取れない。けれども確かな敵意を発して彼女たちを見ていた。

 敵意と異様な雰囲気を感じ、各ISも操縦者も警鐘を鳴らす。

 しかし―――遅い。

 

 『キャァァアアラァアアアア・・・!!』

 

 まるで獣の咆哮の様な声を発し、先程までの位置――即ち、彼女らの中心へと舞い戻った。

 一瞬の隙を晒してしまった彼女達だが中心位置へと来たのを幸いにと、また一斉攻撃を仕掛ける。

 でも、攻撃は届かなかった。福音はその場で回転し、頭部-元マルチスラスターがあった場所から()()()()()()()()()()()()()攻撃も、そして彼女たちも薙ぎ払われた。

 

 エネルギーの羽が舞い散り、光り輝く羽を伸ばして雄大に佇む『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)第二形態移行(セカンド・シフト)

 ――戦闘開始。




どうも、二ヶ月ぶりです。
本当に色々とグダっておりここまで掛かってしまいました。

どうもスミマセンでしたぁあ!!OTZ

いやね…仕事内容と場所は変わらないのに所属会社が変わったりね。
元所属会社の退職関係に関するクソ対応とかね。
ウチって下請け会社だから、職場提供している大元会社のクソ采配とかね。
とにかく、二か月前から仕事関係で気力が下がっていた…との理由もあるにはあります。
そのストレスのせいか、スター〇ウンドにハマっていたってのもあったり…。(;^ω^)
SSも(積み)プラもそのせいで制作する気力が完全に萎えてました…。orz

銀の福音戦は書きたかった場面は色々と妄想してたので、話自体は脳内にあります。
…が!それに仔細に書き込んでく作業で結構、詰まるんですよね。
イメージと文章力との差異や細かい所の描写付け等で時間がかかったりするんですよね。

とにかく、次は最低でも月単位で間が空かぬ様にしたいです。(((゜Д゜;)))

あぁ…早く、俺式の白式第二形態移行(セカンド・シフト)をお披露目したい……
あ、『ヴ』って全角でしか入力出来ないんだァ…(逃避)

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA56ss:貴女は下がってなさい

…はぁ、また一ヶ月近く経ってしまいました。
最近の気力喪失が激しくてキツイです…。
故に少しながら半端ですが、投稿しました。


では、どうぞ御ゆるりと。


 青と蒼との境界線

 青海と蒼穹の果てに何が待つのか

 ただ一つだけ分かっている事がある。

 敵は彼処だ。煩わしい、鐘の音を鳴り響かせる。

 敵は彼処だ。

 

 

 一夏と十千屋、そして自らの為に銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)へリベンジを挑んだ少女たち。人数と武装、念入りに仕組んだ作戦で福音を圧倒する事が出来た。

 しかし、喜びもつかの間…撃墜された福音は第二形態移行(セカンド・シフト)を起こし、新たな翼を広げて少女たちへと立ち塞がる。

 

「はぁはぁ…全機!被害を報告しろ!!此方は右方のシールドは全損だっ!!」

 

「うぅ、もうパッケージはボロボロだよ。けど、破損のを重ねれば…あと2~3回はっ!」

 

「ですが、弾倉もSE(シールドエネルギー)も心持たないですわ…」

 

 第二形態へと至った福音は苛烈の一言であった。

 その証拠に十分も経たずに少女達のIS全機の損傷具合(ダメージレベル)は危険領域まで近づいてきている。

 パッケージを取り付けた者は所々が欠損し、実弾武装をした者は残り弾を数える。

だが、一番危機的なのはISのエネルギーであるSEだろう。

 

 状況は変化前の福音と戦った時の真逆-圧倒的な不利。だが、ここで心を折っている暇などありはしない。

 

「どうも、こうも…もっ、じゃないわ!

 絶対に喰らい付いてやるわ、ここで引いたら女が(すた)る!!」

 

「状況的に撤退は出来ないし、させて貰えないものね」

 

「…って!?また、アレが来るよ!かんやん!!」

 

 血気盛んな鈴は強がって()え、轟が苦笑しながら構え直す。すると、福音の動きを注視していたチェーロから警告が来る。

 ()()()()から生えた翼を震わせ、福音はエネルギーで出来た羽を撒き散らす。

一見すると光り輝く羽がゆっくりと舞い散る幻想的な光景だが、実際はその逆-地獄の光景である。

 第二形態となり、胸部、腹部、背部から生えた小型のエネルギー翼と合わせて撒き散らされた羽は、緩やかに舞い散る様な速度でその場に留まり敵対するIS-箒達を傷つけていった。

羽自体が極薄のエネルギー刃であり、その場に居るだけでダメージを受けるスリップ(継続)ダメージ

ゾーンへと変化をする。

 Tクリスタル(C)シールド(S)を持つ箒と物理シールドを持つラウラ達は、羽に()る被弾箇所を出来るだけ少なくなるように動き、福音を狙う。

 羽自体の耐久力は皆無だ。ぶつかったり、攻撃の余波を受ける傍から消滅してゆく。

しかし、その消滅分は焼け石に水であり、福音を攻撃するついでの排除行動では根本的な解決ではない。

 

「あわわわぁわぁあ!?SEが溶ける!スリップダメージがキツイぃ!?」

 

「簪っ、何とかしてくれ!こちらもTCS用のバッテリーが無くなった!」

 

「今は我慢、フィールド除去魔法は…今!!

 

 スリップダメージに因る無視できないダメージを受ける彼女らに福音は進化した銀の鐘(シルバー・ベル)を鳴り響かせる。元はスラスター 兼 射撃武装であったが、第二形態移行によってビーム翼となった。

 そう、翼…いや、()()()()()が銃口なのである。そして、無数に発射されたビームは舞い散る羽に乱反射し彼女たちに襲いかかった。

 一撃あたりのダメージは形態移行前とは格段と下がるだろう。だが、被弾率は上昇した。

スリップゾーンに閉じ込められた者は羽による()()で三六〇度の全方位ランダム攻撃を受ける事になる。

 一撃・二撃当たれば御終いではない。何処から来るかも分からない攻撃が止むまで耐えなければならず、効果範囲外に逃げようとすれば福音が形態移行前の銀の鐘と同じ砲撃で逃さないようにする。

 一見脱出不可能なこの攻撃も、()()()ならば何とか凌げる。

簪は福音がこの跳弾攻撃を行った瞬間、海に浮かべていたリモートミサイルを爆発させ水柱を幾つも立ち上させた。

 羽は水飛沫によって消滅し、銀の鐘の攻撃も減退する。羽の脆さという弱点を付いた行動だが…

 

「ごめんなさい、ミサイルはもう在庫()切れ…」

 

「なら援護に回れ!全機!!簪が作った最後のチャンスだ!!」

 

 要のミサイルはこれで打ち切りとなり防ぐ手立てを失ってしまった。これが最後のチャンスと

司令塔となっているラウラが声を張り上げ、彼女らは一斉に福音へと襲いかかる。

 しかし、同時に福音も動き出していた。福音は連携の要となっている司令塔役のラウラを狙って最速で動き出す。

 

「なっ!?速過ぎるっ――「ラウラ!」ぐっ!」

 

「相手は!」「ラウらんだけじゃないんだから!」

 

 ラウラは福音の速さに対応できず接近を許してしまう。福音の頭部にあるビーム翼が腕の様に

伸び、彼女を切断しようとしたところを傍に居た轟が蹴り飛ばす事で難を逃れる。

 だが、素通りするビーム翼から多数のエネルギー弾が飛び出てラウラの残っている物理シールドを半壊させた。

 彼女はその衝撃で飛ばされてしまうが、飛び込んできた隙を轟、シャルロット、チェーロが狙う。轟はシールド裏のブースターを噴かし勢いをつけてリボルビングバスターキャノンで殴りつけ、チェーロはバーストレールガンを殴打用に変形させ、シャルロットはエクシードバインダーをシザーハンズにして襲いかかる。

 しかし、全ての攻撃は各所から生えたビーム翼に阻まれてしまい、逆にそこから射出されたエネルギー弾で手痛い反撃を食らってしまった。

 

「ビーム翼に爆発反応装甲(リアクティブ・アーマー)機能でも付いてんの!?」

 

「そうかもしれませんがっ、この性能…軍用とはいえ、異常過ぎま――!?」

 

 次々と被弾してゆく味方の為に高機動からの援護に回ろうとしようとしたセシリアの目の前に

福音が迫る。ラウラの時と同じような急加速、『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』だ。

しかも、両手両足の計四ヶ所同時に着火による爆発的加速である。

 

「くっ!」

 

 長大な銃は接近されると弱い。このレベルの敵において、距離を置き銃口を上げようとするのは十千屋との模擬戦で悪手になると学習した。この時の為のビットは高機動スラスターとして使っている。

 この場合の最適答は…セシリアは距離を空け銃口を起こす。が、その砲身を福音が真横に蹴り飛ばしてしまう。

 

「掛かりましたわね!!」

 

 砲身()()蹴り飛ばされてゆくストロングライフルの銃口は福音に向けられ、残り弾の全てを吐き出した。H.W.U(ヘビィウェポンユニット)は複数のユニットによって形成されている。そう、彼女は銃身の接続部のロックを外し()にしたのだ。

 

「セシリア!やったわね!!…セシリア?」

 

「私とした事がうっかりしましたわ…何時もの感覚で胸部や胴体を狙ってしまいました」

 

「それって」

 

「ソコにはビーム翼が有るというのにっ」

 

 「「きゃあぁっ!?」」

 

 攻撃を受けた反動で跳ばされた福音は途中で体勢を立て直し、二人は最大出力の銀の鐘に曝されてしまう。セシリアの起死回生の攻撃はビーム翼によって阻まれた。全てが防がれた訳ではないが福音を黙らせるほどのダメージには至っていない。

 順に堕ちてゆく彼女たち、次の標的は…

 

「…っ、来ないで!」

 

 簪であった。福音は学習しているのか瞬間加速からの三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)で背面をとり、その間にまたスリップゾーンを形成、動きに躊躇(ためら)いがでた彼女に砲撃タイプの銀の鐘で()りにいく。

 簪のミサイル切れは福音にとっては知る由もないが、自身の最大の攻撃を何度も防いだ彼女を

潰すのは最優先事項だ。彼女を助けようとする箒の位置は余りにも離れすぎている。このまま新たな撃墜者が出てしまうかと思われたその時…上空から何かが飛来し彼女の盾となり、ついで言わんばかりに光学兵器で福音を撃つ。

 水色の髪、クリスタル状の装置、紫紺の装甲――目の前に現れたIS?のイメージが簪にとって

一番身近な者を想像させ、つい口に出す。

 

「お姉ちゃん?」

 

「…っ、私は貴女の姉ではないわ」

 

 簪からは見えないが、助けてくれた彼女は何処か悲しげな表情で彼女に返答する。

この返事に簪は我に返り、ようやく彼女の全体像が見渡せるようになった。

 肩と腿に付く大型スラスター、幾つもの緑柱石(ベリル)のように見えるパーツ、鋭角的な紫紺の装甲――簪…いや、ブキヤユーザー、コトブキカンパニーファンなら知っているこの特徴的なシルエットは、

 

「フレズヴェルク…」

 

 そう、コトブキカンパニー創作作品のプラモデル『NSG-X1 フレズヴェルク』によく似ていた。その姿を纏う女性、つまり――

 

 鞘華(さやか)姉さん!」

 

 轟が声を上げ、彼女の名を呼ぶ。そう、十千屋の関係者、彼の義娘、新たなコトブキカンパニーの機体『FA:G NSG-X1 フレズヴェルク』その装者『十千屋 鞘華』である。

 

「私たちもっ!」「居るんだよっ!!」

 

 新たな敵に距離を測っていた福音に弾幕が襲いかかる。

その先には体の至る所にスラスターがあるヒロイックな機影、これも簪は知っている。

 

「バーゼラルド…と、赤いバーゼラルド?」

 

 「まどっち!フィーちゃん!!」

 

 そして、FA(フレームアームズ)の世界設定においてフレズヴェルクに対抗すべく設計された機体

『YSX-24 バーゼラルド』を基にした『FA:G YSX-24 バーゼラルド』。

 ノーマル色の装者はプラチナブロンドの少女『フィロ S 十千屋』、機体識別コードとして

ルベル()と与えられた方は『マドカ O 十千屋』だ。

 

「貴女は下がってなさい」

 

「あ…」

 

 鞘華は簪にそう言い残すと福音に向かってゆく。

この場に残された彼女は何処かで見たような気がする後ろ姿に手を伸ばすが、その手は掴むことは無かった。

 

 

「あーもー!羽が鬱陶しいよぉ!!」

 

「でも、私たちなら十分避けられる」

 

「当然!」

 

「TCSに頼りっきりなこの機体だけど、ソレ自体を破れないみたいね」

 

 羽を撒き散らしたスリップゾーンであるが、密度は(まば)らでくぐり抜けられる場所も存在する。

だが、普通なら戦闘しながらくぐり抜けられるギリギリのサイズを通るなど、極小の針の穴に糸を通すようなものだ。

 しかし、全身にスラスターがあるバーゼラルドと高次元な操縦技術を持つフィロとマドカならば十分に可能である。またTCS=バリアを貼れるフレズヴェルクを操る鞘華も強引に押し通れた。

 ただし、走・攻・守の多くをTCSに頼る実はかなり危うい機体であり、使いすぎはクールタイム(強制待ち時間)を招くが鞘華はそこの管理が上手い為にこのような強攻策が取れるのである。

 

 マドカがビームサーベルとサブアームに付いたシザーブレードで接近戦をこなし、フィロが二機の周りを飛び回りながら遠距離攻撃をする。そして、鞘華が遊撃手となり福音の行動を阻害するのであった。

 この三対一で拮抗状態に陥り、横槍など入ればどうなるか分からない。

海面スレスレの位置に退避した何時ものメンバーは下唇を噛む事しか出来なかった。

 

「悔しいわね…ただ見ているだけしか出来ないだなんて」

 

「しかし、今の私たちでは邪魔にしかなりませんわ…」

 

「もう、弾も武器も…何と言ってもSEがキツイからね」

 

「あぁ。だが、いい兵士だ。我々に送った指示も理に適っている」

 

「さや姉たちの実力もそうだけど、FA:Gのモデルの機体もボクと轟ちゃんより上だからね~」

 

 戦場から少し離れた場所で鈴、セシリア、シャルロット、ラウラはやるせない思いのまま戦況を見守っていた。海面スレスレの高度を保っている理由は、この位置の方が福音の攻撃を避けやすいからである。

 今回の戦いで一番厄介なのは羽の結界(スリップゾーン)であるが、それを作っている羽は水飛沫で消し飛んでしまうほど脆い。つまり、海中には羽を撒けないのだ。

その為、この高度なら三六〇度の警戒を二分の一-一八〇度まで減らすことができ、いざとなったら海中に逃げ込めばエネルギー弾による致命傷は避けられるのである。

 

「情けない。紅椿も皆も頑張ってくれたというのに、私は…」

 

「箒、それは違うわ。前半は思った以上に上手くいったし、異常事態(イレギュラー)が起きても生き残れた。

 貴女は運が良い、生き残れば先があるわ。…アレは?」

 

 落ち込んでいる皆の中でも一番沈んでいるのは箒であろう。

福音とは形態移行の時の区切りをつければ三回も戦っている。なのに仕留めきれてない事実が彼女に重く伸し掛っていた。

 どちらも死んではいないが、一夏と十千屋の仇討ちのつもりであったのに結局倒しきれずにいる。そんな自分が情けないと呟くが、轟がそうではないと慰める。

 しかし、その最中で何かに気づいた様だ。自身のハイパーセンサーに此方に向かってくる影が見える。彼女が反応すると回りも気付き、そちらを見ると…

 

「あらロケットかしら?」

 

「普通に考えてISでしょ?」

 

「でも、あの形状って…」

 

 どんどん近づいて来るに連れて姿かたちがハッキリしてくるが、その招待に一瞬呆然となるのであった。

 なぜ?アレが飛んでいるか分からない、その正体は…

 

 「「「おっきいゲンコツ!?」」」

 

 そう、握り(こぶし)-所謂、『ゲンコツ』が此方に向かって飛んできている。

それは彼女らの真上を通り過ぎ、乱戦中の福音にアッパーで入った。

 突如の謎すぎる乱入者に混乱する福音をよそに、巨大な手は広がり指先にカギ爪をつけて襲いかかる。慌てて避けると、今度は指先が砲身に変わっており、

 

四連メーサー砲(カルテットレーザー)、斉射」

 

 至近距離から親指を除く指からレーザーが発射された。

 この未知の乱入者に対し、福音は距離を置いて正体を見極める。

 

「シェルインパクト・バースト パッケージ。私、参上」

 

「素子さん…相変わらず、ね」

 

「あぁ…そうだな」

 

「素子ねぇ、やっほー♪」

 

「やほ♪」

 

 その正体は素子であった。ただし、装備が違っている。

何時もの巨大な手甲-W.U 27:インパクトナックルのアームハンドがH.W.U(ヘビィウェポンユニット) 16:オーバード

マニピュレーターとなっており、右手だけの装備となっていた。

 他にも背中の推進器は大型スラスター一個となっており、普段使いのアレから元ネタ準拠の様である。

 鞘華たちはどこまでもブレない彼女の様子に苦笑しているようだが、福音からすればたまったものではない単純に敵が増えた。

 未知の戦力に対する福音の行動は、『全力で攻撃してみる』である。

 

 『キャェェェエエレェエェッェエ・・・!!』

 

 全身のエネルギー翼を震わせ、今まで以上に羽を撒き散らし乱れ撃った。

 跳弾と言う反射を使った三六〇度全方位攻撃、ビームの嵐による円舞曲が掻き鳴らされる。

 

「なんで、轟のネタ技(宴会芸)使ってるの?コイツ」

 

「トーさんでも使える、だろっ」

 

「じゃあ、ダディが使ったのを見て覚えたの!?」

 

「可能性は大でしょうねっ。もう、雄貴さんの戦犯!」

 

 そう…実はこの反射による全方位攻撃は、十千屋が使った嵐の円舞曲(ストーム・ワルツ)を喰らった福音が学習し

応用したものであった。

 恐るべきはIS独自の進化機能か、福音が秘めていたスペックか…何にしろ定かではないが、実に厄介な事になっている。

 

 素子達は高度を落とし、遠巻きに見ている箒たちの様に海面スレスレに飛び被弾率を下げる。と、同時に武器を海面に突き立てながら飛行し水切りによる水飛沫を盛大に立てた。

 簪がミサイルで作った水柱よりも効果は低いだろうが、それでも目晦ましや撒き散らされた羽の処理には使えるだろう。

 

(…レベルが違う。私は一体、何のために居るんだろうな。なぁ、一夏…)

 

 どんどん次元が違う戦いへと進みゆく中で、蚊帳の外の箒は不意に一夏の事を思った。

 

 

「うわぁあっ、あぁああ!?皆さんの無断出撃だけでも大変なのに、

 十千屋さんの娘さん達が乱入して、福音がセカンドになって!?!」

 

「落ち着いてください、山田先生。こうなったら、成るように成るしかない」

 

「でもっ、色々とマズイですよぉお!?!」

 

 ここは旅館に設けられた臨時の作戦司令室。箒たちの無断行動はとうにバレており、この部屋でモニタリングされていた。

 だが、戦況の混雑さは山田先生のメンタル許容量を超えており、涙目でパニックとなっている。

 

「あちらを見習った方がいい。私たちはいざという時に冷静さを失ってはいけないのだからな」

 

 もう一杯一杯な彼女に千冬はこの部屋の一角を占領し活動をしている方を例えにあげ(いさ)める。

 そこには十千屋捜索に全力を挙げている二人の姿があった。

 

「束ちゃん、捜索隊は出たのね?」

 

「グジュグジュ…うん、かーちゃん。束さんの無人機とアント、

 各数機をかーちゃんが感じている方向に向かわせたよ。

 念の為に(インテリジェンス)コアに色んなの詰めといた」

 

「良いわ。潮の流れの計算、ISコアの信号の探査、出来る事は虱潰しで行って」

 

「ヴん、かーちゃん…」

 

「大丈夫、あの人は滅多な事では死んだりはしないわ」

 

 その二人、リアハと束は十千屋を救助すべく様々な手を尽くしていた。

少しでも精神的衝撃が与えられれば泣き崩れそうになる束を支えながら、リアハは何かに耐えるように真剣な表情で機器を操作する。

 どこもかしこも右往左往する中で、不意に警告音が鳴った。

 

 Piiii-------!!!!

 

「ISコアの反応!?」

 

「何!?」

 

 この場で同じように作業していた教員がモニターを見ると、急に活動し始めたISがある事を物語っていた。

 

 

―― 同時刻 ――

 

 白い夏の世界に居た一夏であったが、不意に歌うのを止めた白い少女を不思議に思った彼は近づいてみる。

 

「どうかしたのか?」

 

「呼んでる…行かなきゃ」

 

「え?」

 

 空を見上げながらそういう少女に釣られて、一夏も見上げるのであった。

 

 同じように同時刻…海中では何かが胎動し、

 

「ぎゃははっ、見せてみろよぉ。お前の力をさぁ?」

 

 傍観者は自分(IS学園)たちだけでは無かったという事だ。




え~、今回は新しいFA:Gのお披露目だったのですが…気力が萎えていて良い戦闘シーンが思い描けずアッサリになってしまいました。
そして、前書きにある通りに気力が萎えていてもう少し書き込めそうなのに…力尽きて投稿してしまいました。
文字数にして約7300文字、普段ならちょうどいいのでしょうけど、新規FA:G組の戦闘シーンや一夏が進化した白式で出てくるところまでが目標だったので、不完全燃焼でした。

次回は、()()()は終われれば良いなぁ…と、思っています。
あぁ、投稿が遅くならないと良いなぁ…

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA57ss:俺の仲間は…絶対にやらせねぇえ!

はい、何とか…今月中に二本目出来ました。
なげぇ…長ぇよぉ……

では、どうぞ御ゆるりと。


 貴方の望みは?

 貴方の願いは?

 何故にと問います。故に答えなさい。

 私は貴方を知りたい。

 

 

 ここは何処か分からない白の砂浜。いつの間にか居た一夏は、

 これはまたいつの間にか居た白い少女と静かな時を過ごしていた。

 しかし、突如白い少女は言う「呼んでいる」「行かなきゃ」と。

 

「え?呼んでいるって、誰がだ。…あれ?」

 

 一夏は少女が言った事に疑問を投げ掛けるがそちらに向くと誰もおらず、まるで最初から

誰も居なかったかの様にこの場は波と風の音しかしなくなる。

 彼はよく分からず左右を振り向くが人影は見当たらない。誰も居ない。

 疑問に思いながら、とりあえず海から上がろうとした彼の背中に声を投げかけられた。

 

「力を欲しますか?」

 

「え…」

 

 誰も居ないこの場に突然問いかける声に一夏は急いで振り返ると、波の中―(ひざ)下まで海に浸けた女性が立っている。

 先程の白の少女に合わすかの様に、彼女も白―白く輝く西洋甲冑(かっちゅう)を身に(まと)った騎士だと呼べる出で立ちであった。

 大きな剣を自らの前に立て、その上に両手を預けている。しかし、顔は目を覆うフェイスガードによって下半分しか見えない。

 

 その騎士はもう一度、一夏に問いかけた。

 

「力を欲しますか?それは…何のために?」

 

「ん?ん~あ~…難しい事を()くなぁ」

 

 彼は女性の何処となく漠然とした問いかけに首を(かし)げる。

内容が内容だけに取り留めなく浮かんできた事を口に出した。

 

「…そうだな。家族?友達?―――うん、仲間だ。仲間を守るためかな」

 

「仲間を…」

 

「そう、仲間をな。何て言うかさ、世の中って結構色々と戦わないといけないだろ?

 物理的だけじゃなくて精神的にとか経済的にとか、色んな面でさ」

 

 一夏は問い掛けられて纏まっていない事を話しているつもりなのに妙に饒舌(じょうぜつ)が良い事に

少し驚きながらも喋り続ける。

 と、同時に「自分はそう思っていたのか」と自身の無意識を自覚していった。

 

「そういうのって…さ。不条理な事も多いじゃんか。道理のない暴力や押し付けって結構多いぜ?そういうのから、出来るだけ仲間を助けたいと思う。この世界で一緒に戦う――仲間をさ」

 

「…そう「あぁ、そうだったんだな」…他にも何か?」

 

 女性が静かに答え頷きかけた時、一夏は自らの言葉に何か見出したのかソレを続けて彼女に告げた。

 

「いや、さぁ?確かに()()は俺の思ってた事なんだけどさ。それを先にやってた人が居たな…て」

 

「…貴方が師匠と呼ぶ人物ですか」

 

 彼の言葉を聞き、その誰かを問いかけると力強く頷いて返答がくる。

 

「そっ。師匠を慕うアイツ等を思うと正しく俺がやりたい事をしてきたんだって分かるんだよ。

 だから…俺は決めたよ」

 

「何を…ですか?」

 

「千冬姉より師匠よりも強くなりたい。

 そして…守るのも、世界中の人を守る何てたいそれた事は言えねぇし出来ないし、

 けど自分の握れるほどなんてタカが知れてる。だから、俺は両手で抱えきれないほどの人、

 仲間達を守りたいんだ」

 

「それが貴方の力を欲する理由、そして決意なのですね」

 

 凛とした雰囲気であった女性が何処か柔和な雰囲気となり、一夏に聞き返すと彼は「あぁ!」と再び力強い返答がきた。ただし、「まぁ、師匠に『俺の様には成るな』って言われているけどさ」と少し困った様な感じで締まらなかったが。

 

「だったら行かなきゃね?」

 

「え?」

 

 また後ろから声を掛けられ振り向くと、白の少女が立っていた。

 

「ほら、ね?」

 

 無邪気な人懐っこい笑みを浮かべ、一夏をじっと見つめながら手を差し延べている。

 彼はひどく照れくさい気持ちに成りながら「ああ」と頷き少女の手を取った。

 

「それに応援してくれている人も居るみたいだよ?」

 

「?…それって、あ―――」

 

 一夏の手を取った少女はそう言ってある場所を指差し、彼はその先へと視線をやる。

そこには純白のメガスラッシュエッジが()()()砂浜に突き刺さっていた。

 彼はそれを用意してくれた人を思っていると――空と海、いや世界が眩いほどに輝きを放ち始める。

 何かと思うが真っ白な光に抱かれて、目の前の光景が徐々に遠くぼやけていき、彼は夢の終わりなんて言葉が不意に思い浮かぶ。

 

(あぁ、そういや…)

 

 その終わりに一夏はこれもまた不意に思う。あの女性は誰かに似ていると。白い―騎士の女性。

 

 

 戦いの定石とは一体なんであろうか。RPGであるならば補助・回復役を先に潰せ、

リーダーを潰せ、そして真っ先に思うのは…弱い奴から潰せ、だ。

 

「はぁああ!!」

 

『……!』

 

 これまで長引いている銀の福音との戦いはまた変化していた。

 敵は増加した戦力を考えみて、ある決断を下す。

 それは、一番弱いと推定できる者から墜とす事であった。

 その標的とされたのは箒、銀の福音から見て最弱だと判断されたのである。

 事実、箒の紅椿は最新鋭機であるが()()であるが故の弱点があった。その弱点とは圧倒的に

経験が足りない事である。

 武器――いや、道具全般に言える事であるが道具のスペックを最大限まで引き出すには

使っている道具に対する知識と経験がモノを言うのは間違いない。

 例えば、カッターで何かを切る事に対しても素人と普段使い慣れている人と比べれば目に見えて分かるだろう。

 そして、ISはISコアと装着者の相互理解がモノを言う部分がある。

 それならば、此処に居る誰よりも箒と紅椿は劣っていた。…彼女らの出会いはまだ一日も経っていないのだから。

 

「ちぃ!?(紅椿っ、スマン!まだ頑張ってくれるか!?)」

 

 現在は箒と福音が互いに回避と攻撃を繰り返す格闘戦へと移行している。

 新たな戦力に福音は不意を突いて負傷している側へと攻撃を移した。

 多分、敵勢力の確実な排除と場の混乱を狙ったのであろう。

 不意を突かれ逃げられた鞘華達は追いかけるが、戦いの最中また成長した福音は羽の結界(スリップゾーン)

自分を中心として動かす事を身に付けた。

 箒以外の負傷していた皆は残存SEを顧みて羽の結界に飛び込む事も出来ず、鞘華達も牽制の為に放たれる乱反射攻撃に阻まれている。

 無論、箒もタダではやられはしない。紅椿は状況を見て本来の武装である、ふた振りの刀を箒に持たせた。

 打突(だとつ)に合わせて(やいば)部分からエネルギー刃を放出する対単一武装『雨月(あまづき)』。

 斬撃に合わせて帯状の攻性エネルギーをぶつける『空裂(からわれ)』。

 今まで借り物であった武装とは違い、これは箒と紅椿専用の武装だ。

 即ち、一番実力が発揮できる武器である。

 しかし、それは()()()()()であったなら…

 

「!(まだ…だ!まだ保たせてくれっ、紅椿!!)」

 

 ふた振りの刀は端から僅かに粒子が立ち上り始めていた。

 これは福音と初めて戦った時にも起こった具現維持限界(リミット・ダウン)である。

 紅椿の特徴である展開装甲(てんかいそうこう)は使用時のエネルギー効率は余り良くない事は前回で分かった。

 その為、今回は事前に機能を制限して省エネを(はか)ったが格段に良くなったとは言えない。

 むしろ、この連戦で既にSEは枯渇してきている。

 それこそ、刀の能力を使えば尽きるほどに…

 

「ぐぅっ…がはぁっ!?」

 

『……』

 

 福音の貫手を交差させた刀で防ぐが、その拮抗は一瞬であった。

 恐れていた具現維持限界が起こり、そのまま伸ばされた貫手が広がり箒の喉を締め上げる。

 SEが尽きかけている紅椿にはなすすべがなく、彼女の薄れゆく意識は自分が福音の羽で包まれ

トドメがさされる現実と走馬灯を見せた。

 脳裏に今までの嬉しかった、怒っていた、哀しかった、楽しかった想い出がごちゃ混ぜに流れてゆく。

 その最後の方に映るのは二人の人物、身を挺して守ってくれた一番新しく頼りになる男の人…

 

義兄(にい)さん…」

 

 古い記憶から何時も求めていた男の子…そして、今一番に会いたい人、

 

「いち、か……」

 

 友が何か叫んでいる、新しい仲間が足掻いている。

 何もかもが手遅れになった、終わったと思った時…来る。

 

『ギィイィイィィィィ…!?』

 

(な、何が起きて…)

 

 突然、福音は箒から手を離した。解放され息と意識が戻った彼女は信じられないモノを見る。

 強力な荷電粒子砲(かでんりゅうしほう)によって吹き飛ばされる福音の姿であった。そして、追撃と言わんばかりに今度は二条の荷電粒子砲が福音に襲いかかる。

 戸惑う箒も唖然とする皆も粒子砲が来た方向へと目を向ける。そこには、

 

 「俺の仲間は…絶対にやらせねぇえ!」

 

 皆が、何よりも箒が願い思って()まない彼が居た。

 

 「「「一夏!!」」」

 

 白く輝く機体を身に纏った一夏が!

 

「い、一夏…一夏なのだな!?体は、傷はっ…!」

 

「おぅ!待たせたな。あー、泣かせちまったか?後で師匠にどやされるな…」

 

「な、泣いてなどいない!この馬鹿者がっ…」

 

 涙が溢れるのを誤魔化すかの様に目元を拭う箒に、一夏は優しく頭を()で慰める。

 本当は心配している筈なのに強がりばかり出てくる様子は彼女らしいと彼は思う。

 しかし、何時もの髪型でないのが少し気になり持ってきた物を手渡した。

 

「ちょうど良かったかもな。これ、やるよ。誕生日おめでとう」

 

「これ…は、リボン?誕生日…あ」

 

 今日は七月七日-箒の誕生日であった。

 朴念神ゆえに自分の誕生日などは忘れいるだろうと思っていた箒は驚きながらも素直に受け取る。ちなみにこれはシャルロットによるアドバイスによって決まったのが、彼らしいところなのだが。

 

「じゃあ、行ってくる!」

 

「あぁ!行って終わらせてこい!」

 

 一夏は箒に笑いかけてそう言い、彼女も彼にそう檄を飛ばした。

 

「さぁ、再戦といくか!」

 

 《雪片弐型(ゆきひらにがた)》を右手だけで構え斬りかかるが、福音は仰け反って躱す。

 だが、第二形態移行(セカンド・シフト)した白式の武装はもう()()()()()()()()

 左手に現れた新兵器《雪羅(せつら)》によって追撃をする。指から伸びたエネルギー刃で襲いかかるが

福音は咄嗟に片腕のビーム翼で防ぐ。

 雪羅は複合武装であり、先程の荷電粒子砲や指一本一本にエネルギー刃を形成しクローモードとする事も出来る。

 

「防がれたっ、ならこうだ!」

 

『…!?』

 

 防がれた事を瞬時に判断した彼は防がれた腕で自分を押し下げるように動かし、福音の下を潜る様に動きオーバーヘッドキック、その反動で上体を起こす途中で捻りを入れ瞬時に回し蹴りへと繋いだ。

 しかも、今の白式の足の甲にはメガスラッシュエッジのショートアックスが取り付けられており威力が増している。

 

『敵機の情報を更新。攻撃レベルAに上昇させ対処』

 

 福音は復活した一夏と白式を驚異と認め、彼らを最優先排除目標とした。回りに漂う羽の結界を全て彼に向けて放出し、即席の掃射反撃にする。

 

「そう何度も喰らうかよ!白式!!」

 

『――雪羅、シールドモードへ切り替え。相殺防御開始』

 

 甲高い変形音を鳴らし左腕の雪羅が変形、そこから光の膜が広がり、撃ち放たれ当たった羽は()()してゆく。

 これは雪羅の武装の一つ-エネルギー系を無効化する()()()()()()()()()である。

 当然エネルギー消費は激しいが、エネルギー系攻撃を完全無効に出来るのは福音相手にとっては大きなアドバンテージとなる。何せ、福音には実弾兵器が一切ないのだから。

 

「お返しだっ!月輪で上へ回してくれ!!」

 

 彼の両肩、両脇にはそれぞれアンロック式の三日月状のウェポンラックが存在する。

 このウェポンラックに備え付けられた武器は三日月状のガイドレールによって自在に動く。

 今、備え付けられている武器はそれぞれメガスラッシュエッジのライフルである。

 既にブラスターモードへと変形させており、背後から上へと回されたメガスラッシュエッジはショルダーキャノンの様相で粒子砲を撃ちだした。

 

 自分の攻撃を無効化され、追撃を受ける事になった福音は一時的に回避を優先しようとしたが

白式を振り切れない。

 白式の第二形態移行はスラスターも強化されている。メガスラッシュエッジのロングソードやショートアックスを制御翼として使用する事も可能な大型複合式三連ウィングスラスターとなっていた。

 これが備わった白式は二段階瞬間加速(ダブル・イングニッション)どころか三段階瞬間加速(トリプル・イングニッション)をも可能にした高高速機となっている。

 複雑な動きをする福音も、常に最高速での回避が可能な訳ではない。

 今の白式であるならば十分過ぎる程に追いつける。

 

『状況変化。現状-最大攻撃力使用』

 

 福音の機械音声がそう告げると、それまでしならせていた翼を自分を包むように折り畳み始めた。

 一夏はそれに嫌な予感がするが、呆気なく霧散する事になる。

 

『…!?!?』

 

「全く、驚き過ぎてつい見物してしまったじゃない」

 

「あぁ、無様な姿を見せてしまった…」

 

「あっ、やほ~。君が新しいお兄ちゃん候補?」

 

「主人公は良いとこ取りするのがお約束」

 

 怒涛の展開について行けずに止まっていた助っ人達―コトブキカンパニーの面子による一斉掃射によって福音の行動は阻害された。

 

「雄貴さんに頼まれたのは助っ人。なら、決着は貴方が付けなさい」

 

「ああ、助太刀感謝するぜ。ええと、」

 

「鞘華よ。あっちはフィロとマドカ。詳しい事は全て終わってからよ」

 

「やほほ~♪」「ふんっ…」

 

「よろしく頼むぜ」

 

「あと、●漏…今回、一番先にイった故に。それはともかく、アッチからも何かあるって」

 

「素子先輩っ、いい加減下ネタで呼び掛けるの止めてくれねぇか!?」

 

 一夏は鞘華の紹介により現状の戦力を確認できた。

 しかし、微妙に気になる。鞘華は更識姉妹によく似ている様な気がするし、機体の元ネタを模したバイザーをつけているマドカも何処かで見たような気がする。しかも、割と身近でだ。

 そんな既視感(デジャヴ)を素子が無意識に一刀両断し、彼は彼女が言った方向へ気を向ける。

 

 「くぅらああ!一夏ぁあ!!アンタ、あたし達を庇おうとしたわね!?

 自分の身は自分で守れるっつーーの!!余計な心配はせずにさっさと片付けちゃいなさい!!」

 

 鈴の怒鳴り声が通信にも海上にも響き渡り彼を一喝する。彼女は腕を組み無い胸を張ってこちらは平気だと表し、他の負傷組も頷いてそう答えていた。

 

「…良い仲間じゃない」

 

「あぁ!鈴!箒!みんな!!分かった、行ってくるぜ!!」

 

 仲間を信じる事しか出来ない、そんな不甲斐なさと何処からか来るか分からない頼もしさが一夏の心を奮い立たせる。

 そして、彼は十千屋が紡いだ縁も信じて彼女らと共に再度福音へと飛び込んでいった。

 

 

「織斑先生!こんどは織斑君が!織斑君が!?」

 

「分かってる。だから、そんなに揺らさないでくれっ山田先生!」

 

 福音との戦いを見守ってた旅館の臨時司令室だが、戦闘不能(リタイア)の筈だった一夏が現れ大騒ぎになっていた。

 山田先生は既に心の余裕を無くしており、千冬は動揺を顔に出さない為に必死になっており

無表情をきめている始末。

 

「織斑先生!やはり部屋には織斑君は居ません!!」

 

「だろうな…白式から送られてくるバイタルはどうだ?」

 

「戦闘に因る軽い興奮状態でありますが、それ以外は正常です。

 いえ、正常なのが異常なのですが」

 

「…帰還したら精密検査が必要だろうが、現状問題ないなら良い」

 

 福音と戦っている一夏が本人であると確認できると千冬は少し安心する。

 が、内心では病み上がりでの戦闘など言語道断と怒り、逆に理由は分からないが一夏が復活したのを喜んでいた。

 ただし、帰ってきたら必ず説教すると漆黒の意思に染まってはいたが。

 

「織斑先生、篠ノ之…

  「十千屋、若しくは束で」

 …束博士の無人機の誘導によって十千屋さんが居ると思われる海域に到達しました」

 

「了解した。そのまま捜索を…「 ! クラス代表選の時の無人機を確認!?」なにっ!?」

 

 一方で十千屋捜索も進展があったようだ、悪い方向にだが。

 束の無人機を追いかける事を命じられた教員は打鉄を一機借りて十千屋捜索を行っていた。

 やはり、海流に流されたのかと無人機を追いかけて福音と戦った所から離れた場所を飛んでいると、クラス代表選の時に襲ってきた無人機が数機かたまって浮遊しているのを目撃する。

 運が良かったのか、あちらはまだ気づいていない様子だ。

 

「ちっ、もしかすると撃墜された十千屋を回収するために現れたのか?

 束!お前の無人機で迎撃できるか!?」

 

「モチのロン!とーちゃんには装甲一ミリ単位以下も触れさせねーぜ!

 …て?あり??海中に居るはずのアントの信号が途絶えた?」

 

「なに?」

 

 「きゃぁあああぁあああ!!?!」

 

「今度は何だ!…な、」

 

 海中から幾つも何かが伸ばされ、それは敵性無人機や束の無人機を絡めとり海中へ引きずり込んでいった。

 異様な光景に誰もが唖然としていると、引きずり込まれた地点から何かが浮かんでくる。

 機械をバラバラにした後にグチャグチャにして丸めたような物がユックリと浮かび上がってきたのだ。

 

「こ、これは…一体なんなん「ふふ…」十千屋夫人?」

 

 「あはっ…」「かーちゃん?」

 

 理解も出来ない状況で誰もが黙り込んでいると、急に含み笑いが聞こえてくる。

 その方向に目をやると声の主はどうやらリアハの様だ。

 この状況で笑いだした彼女に不気味に思いながらも千冬は尋ねる。

 

「うふふ…あははっ…」

 

「と、十千屋夫人。一体どう」

 

 「アハハハハははあっぁあhははぁhhァはハハッ!

  はhぁあっハハハはぁははぁははああああahaHAahHHH!!

  ははははぁははハHァHhァhァh!!!

  ははははあぁははぁあははははあ!!!!」

 

 狂った様に…いや、実際に狂っているのだろう。狂気の歓声をあげるリアハに束を除く誰もが恐怖する。

 

 「ユウさん!あぁっユウさん!!

  貴方を愛して良かった!貴方に愛されて良かった!

  貴方は何が起こっても私の元に帰ってきてくれる!!

  焼かれようが()げがようが、

  その身が化物になろうが帰ってくる!!

  愛してます!全身全霊、愛してますっユウさん!!!」

 

 そう言うとまた狂ったように笑い出す彼女に回りは恐怖、畏怖、嫌悪など様々な感情に支配される。唯一の例外は束だけだ。彼女もあの不気味な物体を見て輝かしい笑みを浮かべている。

 だが、重要なところはソコではない。リアハは何と言った。あの物体を見て何と言った?

 

「…くそっ、頭が追いつかん。アレが()()()だと言うのか?」

 

 状況はあざけ笑うかのように刻一刻と変化する。こうしている間にも一つの戦いが終わろうとしていた。

 

 

 一夏とコトブキカンパニーの助っ人、合わせて五人は有利に福音との戦いを進めていた。

 素子のFA:G アーキテクト以外は全て高機動の機体であり、一夏の白式、

鞘華のフレズヴェルクは相手のエネルギー系攻撃を完全に防ぐ事が出来る。

 だが、福音は敵が強ければ強いほど、集まれば集まるほど攻撃を過激化してゆき一歩も引かない不気味な強さを見せつけていた。

 

「白式!早いだけじゃ駄目だっ、オールレンジモードに切り替えてくれ!!」

 

「あー、アタシのマネっこだー!?」

 

「フィロっ、言ってる場合か!?」

 

「それよりも貴方(一夏)、SEの管理は大丈夫かしら?ガス欠に成り易い機体だって聞いてるけど」

 

「童●の早●ゆえに出しきるのも早い」

 

 白式は一夏の要望に答え両肩それぞれの三連ウィングスラスターは三分割され、それぞれ肩・腰・脹脛(ふくらはぎ)にアンロックのスラスターとして配置される。

 そして、スラスターの両側面からサブスラスターが飛び出しす。先程よりも最高速度は劣るが

機動性を重視したオールレンジモードへと変更を完了した。

 分割されたスラスターを見るとフィロが自分の機体:バーゼラルドの真似と言い出し茶化すが、実は一夏達も余裕が有るわけでもない。

 特に白式の欠点と言われるSEの大量消費癖は第二形態移行した後も変わらない。

 寧ろ、スラスターの数が増えたぶん以前よりも深刻かもしれない。

 

 だが、絶望はしてない。いや、しない。誰もが絶対に勝つと胸の内の炎を燃やしている。

 そして、ここにも心火を灯す者がいた。

 

(一夏が駆けつけてくれた!)

 

 そう、箒である。嬉しいという感情は既に飛び越えていた。心が熱を持ち跳ねる、躍動する。

 そして、戦う一夏達…いや、彼を見て何よりも強く願った。

 

(私は思っていたじゃないか!隣に立ち共に戦い、あの背中を守りたいと!!)

 

 ISを紅椿を願ったのはその為ではないかと、強く、さらに強く、彼の姿を見続ければ続けるほど願いは強くなる。

 彼女の願いを汲み取るかの様に紅椿の展開装甲から赤い光に混じって黄金の粒子が溢れ出してきた。

 

「これは…?紅椿!」

 

『《絢爛舞踏(けんらんぶとう)》、発動。展開装甲、TCSオシレーターⅡ型とのエネルギーバイパス構築―完了』

 

「ワンオフ・アビリティーだと?ふっ、本当に紅椿は私には過ぎた相棒だ。

 ありがとう、まだ戦える!」

 

 箒の様子が変わった事に気づくと退避していた負傷組は驚くが、皆が急に納得し笑みを浮かべる。

 

「箒さん、行かれるのですね?」

 

「僕らの分まで頑張ってきて!」

 

「嫁を頼むぞ、箒」

 

「って、事よ。んじゃ、やっちゃいなさい!!」

 

「あぁ!皆の思い、願い、全て受け取った!! 行くぞ!紅椿!!」

 

 皆の激励を受けて箒は茜色の空を金色の光で切り裂くように飛んでゆく。

 その行先は戦場、いや彼の隣りへ。

 

「…私達のSEが僅かに回復している?もしかして、紅椿のワンオフの効果?」

 

「でしょうね。燃費の悪い展開装甲に対する答え、っと言ったところね」

 

「でも、思いっきり白式との連携前提のワンオフでもあるね~?

 まぁ、ボクたちはUEシステムがあるからエネルギー切れはどうにかできるけど」

 

「そうね、チェーロ。最近は新規格で統一したTCHG(Tクリスタル ヘキサキグラム)も作っているし」

 

「…そこ、アッサリと世界の軍事均衡を崩す話題をしない」

 

 何処か冷めた十千屋側(コトブキ)のメンバーの発言に鈴はツッコミを入れざるを得ない。

 それが途轍もなく物騒な話題でもあってもだ。

 

 

「一夏!」

 

「箒!?お前、もう――」

 

「大丈夫だ、一夏!それよりも、私たちの力を…お前に!!」

 

 福音から一旦距離をとった一夏のもとに箒がたどり着く。

 彼は彼女が負ったダメージを心配するが、それを遮り彼女の――赤椿の手が白式へと触れた。

 その瞬間、彼は白式を通して全身に電流の様な衝撃と炎の様な熱が駆け巡る。

 一瞬、視界が大きく揺れるがそれ以上の異常が起きそれに気をやった。

 

「な、なんだったんだ? は?エネルギーがSEが回復!? 箒、これは――」

 

「今は考えるな!義兄さんが言っていただろう!

 『躊躇うな、いざって時は迷わず行動しろ』って!!」

 

「お、おう!!」

 

「あら、お話は終わったかしら。彼女が来てくれて自分もISも元気百倍の様ね?」

 

 有り得ない事態に一夏は目を丸くするが、箒の言葉により目を福音へとキッと向けた。

 その様子に気づいたのか鞘華が確認するついでに茶化しに来る。

 

「か、かかぁか…彼女!?」

 

「いや、鞘華さん。俺と箒とは…その、そんなんじゃねぇってか…」

 

「ハイハイ、ご馳走様。で、一つ提案なのだけど…もう、この戦いを終わらせない?

 もう持久戦、消耗戦は嫌なのよ」

 

「私も鞘華姉さんに賛成だ。成長を続ける福音にこのまま戦い続けても厄介になるだけだ」

 

「ハイハ~イ!ワタシも賛成!!疲れたーー!!!」

 

「はぁ、父様にもみくちゃのヌチャヌチャにされてとっとと寝たい」

 

 彼氏彼女の関係だと振られた一夏と箒はしどろもどろになるが、鞘華はそれを受け流し、

一気に攻勢に出て決着を付ける事を提案した。

 他のメンバーもその意見に賛成する。事実、福音は戦い続けるほど攻撃が激しく複雑に成っていっている。このまま戦い続けても勝算はあるだろうが態々相手のペースで続ける意味はない。

 それに一夏と箒も賛同し身構える。

 

「作戦は簡単。私たちが道を切り開くわ。後は、貴方の伝家の宝刀(零落白夜)で決めなさい」

 

「ふん、私たちがお膳立てしてやるんだ。失敗などするなよ」

 

「マドカちゃん。マドカちゃんの分のスラストアーマーを貸してくれない?」

 

「じゃ、やろうか?元気百倍になってビンビンのギンギンなヤツをブッ刺してイカせてやって?」

 

「あぁ、分かった (…素子先輩のは無視だ、無視っ!!)」

 

「うむ (い、一夏のビンビン、ギンギン…)」

 

 各々が思うポジションに着くと、福音も勝負を付けに来ていると感じたのか大量の羽の結界を

用意し、何時でも殲滅出来るよう身構える。

 両者が睨み合ったのは何分…いや、何秒も満たない時間かも知れない。

 その沈黙は一際大きな波が立った事によって崩れた。

 

『ギャラァラァァァアアア!!』

 

 福音が羽の結界を引き連れ、広げた翼は今まで以上に輝かせて襲いかかってくる!

 

「これ、ものスっっっごく疲れるんだからね!!」

 

 フィロは両肩と後ろに備えたスラストアーマー三つ、マドカが持っていたスラストアーマー

三つ、計六つをビットとして使いオールレンジ攻撃を仕掛ける。

 更にサブアーム両方をショット()アームに変え、自身も二丁拳銃を使い福音の結界を削ぎ落としてゆく。

 フィロのオールレンジ過剰砲火によって薄くなったところで、素子が真っ向から突撃する。

 

「シェルインパクト・バーストっ なんちゃって

 

 彼女はこの戦いに飛び込んできたと同じように握り拳となって福音へと迫る。

 それに対して福音は迎撃を行うが彼女の勢いは止まらず、(すん)で避ける事で回避した。

 だが、その影から飛び出してきたものがいる。

 

「二爪二刃!切り刻む!!」

 

 それはマドカであった。彼女のサブアームは両方ともシザーブレードになっており、

それとビームサーベル二刀流で福音を切り刻んでゆく。

 福音も負けじと応戦するが、単純に手数が違う。起死回生と大きなビーム翼―頭部のビーム翼を輝かせたが、翼は何処からか攻撃を受けて穴が空き不発へと終わる。

 

「やっぱり、最大の武器はその翼ね…だから、頂くわ!!」

 

 いつの間にか鞘華は福音の後方上空に陣取っており、そこから攻撃したらしい。そして、彼女は二丁のベリルショット・ランチャーの銃身を左右の翼へ向かって振り下ろす。

 ベリルショット・ランチャーはTCSオシレータが使われており、TCSを弾丸として発射する。

その為、TCSオシレータで形成されている銃身下部などのエッジ部分はTCSを纏わせることで

格闘武器として使用できるのだ。

 武器でもありスラスターでもある頭部ビーム翼を失い福音は体勢を崩す。

そのダメ押しと言わんばかりに、マドカはビームサーベルとシザーブレードの四連同時刺突、

鞘華は腿のスラスターに内蔵されたTCSオシレータのエッジを突き刺す。

 

 多大なダメージを受けた福音は大きな隙を晒してしまう。

 そして、この時を待っていたとばかりに二つの影が接近する。

 

「さぁ!いまだ!!」

「さぁ!いまよ!!」

 

 「「はあぁあああ!!」」

 

 白と赤、白式と赤椿-一夏と箒だ。

 

「せぇいっ!」

 

 箒が先行し、帯状の攻性エネルギーをぶつける空裂で更に福音を足止めし、すれ違いざまに切り裂き。

 

「ぜりゃぁあ!」

 

 ワンテンポ遅れて一夏が逆方向から切り裂いた。

 二人共その場で体の方向を入れ替え、一夏は雪片の零落白夜と箒は雨月と空裂の二振りの刃を

突き立てる。

 エネルギー刃特有の手応え、シールド干渉による反発力を感じながら二人はここは正念場と

力の限りを込めた。

 

 「「これで…終わりだあぁああああ!!!」」

 

 福音はエネルギー翼の復帰、そして最後の足掻きと正面に居た一夏へ手を伸ばすが、

彼の眼前で…停止した。

 動かなくなった福音を確認すると二人とも荒い息をして呼吸を整える。目の前で福音の装甲(アーマー)は粒子化して消えてゆき、ISスーツだけの状態になった操縦者が宙に放り出された。

 二人は咄嗟に操縦者を抱き留めて落ないようにするが、キャッチして一息つくと互いの

顔が近いことに気づき両者ともに恥ずかしくなり…つい、手を離してしまう。

 

「「あ…」」

 

 そんな事をすれば操縦者は下、海に落ちてゆくが轟とチェーロがキャッチし直して危機を回避した。

 

「あんたらね~、なにラヴコメやってんのよ!?」

 

 一連の動きを見ていた鈴からツッコミが入り、他から一夏と箒に向かって野次が入る。

 皆の気が緩み、怒ったり笑ったり泣いたりと全てが終わった事を物語っていた。

 だが、世界は優しくは無いらしい。

 

 今日も日が傾いてゆき、今は茜色の空へと成りつつあった。その赤と海の青が交わり黒く見える。

 そこから人よりも二回り大きな球体が幾つも海中から出現し、戦い終わった彼らを取り囲む。

 

「…おいおい、今日何度も言ってる気がするけどさ。一体、何なんだよ!?」

 

 黒く見える海底から()()達が顔を覗かせた。

 

「へぇー、やるじゃん。でも…もっとイケルよねぇ?ぎゃははぁはっ!」

 

 悪意はまだ彼らを逃そうとはしない……。




はいっ、今回で()()()は終了です!!()()()はね…。

今回の福音戦で悩んだのは…IS学園側-つまり、主人公勢の戦力が増大してる事ですね。
一夏も十千屋も第二形態移行(セカンド・シフト)させて活躍させたい、ある意味一学期の最後の山場でもあるからFA:G勢も出したいと、欲張ってしまってます。
それ故に、一夏と十千屋に()()()()見せ場を用意しようとしました。

だから、次回は…十千屋の出番です。
あぁ…オリジナルの敵対勢力にオリジナル話……IS原作で言う『銀の福音編』は一体何時まで掛かるのだろうか…。orz

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA58ss:まずだーの為にやる!

…また、また1ケ月以上経ってしまった。orz
しかも、長い、終わらない…先が見えない…
え~…そんなこんなでよろしければどうぞ。

では、どうぞ御ゆるりと。


 

 

 男は微睡む…それはまるで胎児の様であった。

 既に(なり)は大人だが、薄暗がりの中で身を縮める様にしている。

 しかし、ボロボロに近いウェットスーツを着ていて…()()()()()()()に幾つものコードが繋がっている。

 いや…男はコードが繋がっている背以外の部位は、其の物が()()

 コードは欠損部を補うかの様にその断面から幾つも伸ばされていた。

 周りは電子部品の微かな光と音で満たされており、彼に繋がれたコードから漏れる光ははまるで血管に流れる血の様に壁と彼との間を行き来する。

 その有り様は鉄の子宮の様であった。

 この男の名前は十千屋、十千屋雄貴…彼がこうなったのは銀の福音と戦い、自爆紛いの攻撃を仕掛け海に墜ちた所まで遡る事になる。

 

 

 

――???――

 

「それじゃ君は俺が纏っているIS-正確に言えば《ISコアの人格》でいいんだな?」

 

「んだぁ、まずだー。わたずが名称:打鉄カスタム『(イカヅチ)』に使われでるコアだぁ」

 

 十千屋は何故かそばかす気味で愛嬌のある少女と対面していた。

 周りの光景は石造りで何故か演算処理装置(サーバー)などが沢山置かれた部屋に()り、

 互いに冷たい床に直接座っている。

 

 彼は福音と戦い海に墜ち、

 「あ、こりゃあ…今回は本気(マジ)で死ぬかもなぁ?」

 と、何処か他人行儀に思った所で記憶が途絶えている。多分、そのまま気を失ったのであろう。

 意識が戻りかけた時には何故かこの空間に居り、目の前で泣いている少女が気に掛かり

 語りかけると…もっと泣かれた。

 何とか慰め落ち着けた所で色々と尋ね、冒頭に繋がる。

 

 少女が言うには自分は十千屋が身に纏っていたISのISコア人格である事、此処はISコアと

 十千屋の精神を同調させた事に生まれた精神世界であるとの事だ。

 彼は(にわか)かに信じがたいし、死ぬ直前の泡沫(うたかた)の夢と思ったが、ISコアと装着者がより深い同調をする現象『深層同調(ディープ・シンクロ)』が存在する事を思い出す。

 なら前向きに考えてソレを起こしていると考えた方がいいだろう。

 何せ、彼が意識を取り戻し生きていると知って元から泣いているのに更に泣いた少女の事だ。

 これが走馬灯か何かと言ったらまた泣き出してしまうだろう。

 とりあえず、少女が何者か、此処は何処かは分かり彼は頷いた。

「さて、どうするか…」と独り言を呟き考えると、少女の表情が曇る。

 

「ごべんなぁ、ごべんなぁ…今のわたずざぁ、だづげられねぇ…」

 

「どういう事だ?」

 

「まずだーの怪我は思った以上に深いんだぁ。

 わたず-ISには操縦者の生体保護・調整機能があどぅよぉ。

 げどな、まずだーの怪我は()()()程度の機能じゃ追いつかねぇ。

 せめて、わたずが()()()として調整ざれていだら…」

 

 さて、ここで話は逸れるが全てのISは全て()()()()のISコアが中枢として動いている。

 それならば専用機量産機の違いとは何であろうか?

 答えは『ISコアに入力される設定が一個人に対して特化しているか』である。

 ISは宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツだ。

 その性能、信頼性、操作性、何よりも最も身の近くにいるパートナーとして、

篠ノ之 束-現:十千屋 束はISを設計・開発した。

 飛び立てば自分とISしか居ない、成層圏をたった一人と一機で()く事になる。

操縦者を守り、操縦者と共に考え、操縦者と共に生きる、それを目指し目標としてISを作った。

 そうでなければ果てしない成層圏(Infinite Stratos)を飛び越えてゆく事など出来はしないと思ったのであろう。

 

 だが、たった一個人に向ける()()()()()()と相反する事となる。

 量産性は誰であろうと誰が使おうと一定の性能を保証するものだ。

故に専用性を高めているISコアで量産性を求めているのは筋違いもいいところである。

 しかし、現状は束しかISコアを作る事が出来ない。(十千屋サイドは例外中の例外)

 量産に向いたISコアなど夢のまた夢。故に現状で何とかするしかなく、今の技術者は泣く泣く

今の一部機能に制限(リミッター)を掛け誰でも一定の能力は使えるISコア()()()にして使っている。

 制限した機能の例として初期化(フィッティング)最適化(パーソナライズ)等が挙げられる。

 

 つまり、十千屋が負った怪我は量産機レベルの機能では追いつかず、体の隅々まで知っており

調節出来る専用機レベルでないと対処出来ないと少女(ISコア)は言っているのだ。

 彼はその説明を聞いて難しい顔をし、手を握ったり開いたりしながら何かを確認している。

目覚めた当初は体が鉛の様に重かったがなんとか起き上がり座り込む事まで出来た。こうして指先にも力も戻ってきている。

 右腕全体は0と1の文字列で形作られているが、阿頼耶識システムによって浸食された事を表しているのだろう。ここまで確認できると彼は少女の服を掴んだ。

 

「な、なにずるだ?まずだー??」

 

 少女の服は拘束服であり、身動きがとり辛い程度に拘束されている。

腕の0/1(データ)化、少女の拘束服、十千屋はシステム的な状態がこの空間で現れているのを察した。

 ここには鏡が無いので彼が知る由もないが、彼の右目も0/1化している。つまり…

 

「ぬぅんっ!」

 

「ま、まずだー?もじかじで、(リミッター)を破ごうどじでるんげ!?」

 

 ここでその象徴を変える事が出来れば、それに合わせてデータも変更される筈だ。

 少女の拘束服=量産機にする為のリミッターを無理矢理でも破壊すれば自分の生存率が上がると彼は直感している。

 だが、拘束服は強固だ。ありったけの力で引っ張ってもビクともしない。

 

「…普通じゃ無理。なら、こうだ!」

 

「ま、まずだー!()()はっ、()()だけはやっちゃだめだぁ!やめでくんろっ、まずだー!!」

 

 少女の目の前に居る十千屋の輪郭がブレ始める。

それと同時に彼の()()()が粒子として消えていく。しかし、消えていった分は0と1で埋まっていった。

 この異常事態を少女は正確に把握しているのか必死に彼を押し止めようとする。

が、彼は止まらない。

 そして、彼の右半身全てが0と1で形作られた瞬間…少女の拘束服は引きちぎられ、彼女は自由となった。

 

「どうだ、これで思った通りに出来るだろ?」

 

「うん、うん…これでわたずは思った通りにでぎる。げどなぁ、まずだ~…」

 

「生き抜くのに手段は選んでられない、気にするな。さぁ、思いっきりやってくれ!!」

 

 十千屋の半身が0/1化した事に少女は泣き出しそうになるが、彼の有り様に気を奮い立たせ顔を上げる。

 すると、薄暗かった部屋が明るくなり機能停止していた演算処理装置が動き出す。

 と、同時に十千屋は体に力が張る様な感覚を覚える。

 

「ごれでだいじょうぶだぁ。時間が掛がるがもじれねぇけど、死ぬごどはねぇ」

 

「…なぁ、即座に治す方法は無いのか」

 

 全機能を使える様になった少女の回りを様々なデータが映されているディスプレイが浮かぶ。

そして、危険領域から脱した事を告げた少女に十千屋はそう質問した。

 少女はそれを受けて考えるが、申し訳ない顔をする。

 

「ISコアネットワークに回復機能を施じだISのデータがあるんよ。

 げどぉ、難じい。再現じようどじでもエネルギーも資材も何もがも足らねぇんだ」

 

「回復系のプログラムを(こしら)える事は出来ても、物理(ハード)的に足りないか…ん?」

 

「何だぁ?わたず達に向かって(通信)が聞ごえるなぁ?」

 

 彼の願い事に応じられないと意気消沈している少女であったが、不意に二人に自分たち以外の声が聞こえてきた。

 外部からの通信であり、それは人影としてこの場に写し出される。人数はおよそ六人くらいだ。

 

「誰だ」

 

「「「ボクらを殺して(助けて)欲しい」」」

 

「「はぁ?」」

 

 人影たちは理解できない内容を発し、十千屋と少女が「どうしてなのか?」と尋ねても同じ内容しか繰り返さなかった。

 彼はどうしたものかと頭を傾け始めたが、少女が外界の様子に気づき察する。

 

「まずだー、こいづらトーナメントの時の無人機だぁ」

 

「…そう言う事かよっ、クソ」

 

 少女は外界、現実世界で十千屋が沈んでいる場所の上、海上に居る無人機であると告げる。

 トーナメントの時の無人機と言えば人影らはそれに使われている生体ユニット(子供)を示しているのだろう。

 以前に捕縛した無人機を調べた時に分かったが、生体ユニットにされた彼らの人格は崩壊している。そして、僅かに残った意識は解放()を望んでいた。

 部品として組み込まれ、機械として強制的に操られる地獄から逃れたいとただそれだけを望むが、彼らを運用する者達はそんな事を知る由もない。

 もう既にそのような者達からすればただの生体ユニット(機体の部品)なのだから。

 

「まずだー、新だらじい機影が見えだよ。あんど(アント)姉妹だち(束の無人機)だぁ」

 

「…後で束には謝るか。なぁ、こうする事は出来ないか?」

 

 十千屋は人影らの境遇に憤りを感じていると、事態が変わってきている事を少女から告げられる。

 それに合わせ彼は考えるが、ある一案を思いつき少女に告げた。

 

「…理論的には可能だぁ。だども上手ぐいぐがどうがは分がらねぇども」

 

「出来るか出来ないか…それを考えて少しでもできる可能性があるならばやる。

 こうしてる間にもきっと一夏や箒、他の皆も戦っている筈だ。

 だから、不可能に近くとも俺は動き成し遂げる。俺はあいつら(子供達)を放っておけるわけない。

 俺は大人()だからな」

 

 十千屋の案に少女は何処か否定的だ。彼の提案は無茶が過ぎる。

が、彼を見ると百も承知、己が成すべきものの為に全力で行く姿勢が見て取れた。

 

「まずだー、上手ぐいぐがどうが分がらねぇ。でも、わたずを信じでぐれるげ?」

 

「ふっ、俺はお前が信じる俺を信じてるし、逆に俺が信じてるお前を信じる。

 自分の(ISコア)を信じない親なんて何処に居る?」

 

 少女は自分を信じてくれる十千屋に胸の奥が熱くなる。

数多く居るIS装着者の中でも自分の娘だからと、絶対的な信頼を委ねるISコアは自分しかいないという事実も無意識のうちに熱さを加熱させる。

 これから行う事は無茶苦茶かもしれない。

でも?だから、どうした?十千屋はこんなにも自分を信じてくれる。

ならば出来る出来ないではない、やるのだ!それしかない!!

と、少女は胸の奥の熱さで決意を焼き固めた。

 

「わたずはやる!わたずを信じでぐれる、まずだーの為にやる!!」

 

「ありがとな。てな、訳だ…俺を回収しに来た無人機たち、お前達を助けて(殺して)やる。

 けど、お前たちの全てを貰うぞ?」

 

 少女が決意を固めた事を十千屋は確認すると、彼は人影に向かってこのような事を言った。

人影は壊れた機械のように繰り返していた言葉を止め、一瞬身を震わせる。

 影であるから分からないが、十千屋と少女には歓喜が伝わってきた。

 

「あげるっ」「あげる!」「全部!」「だから…」

「「「ボクら・ワタシたちを助けて!!!」」」

 

「契約成立だな。準備は良いか?やるぞ!!」

 

「分がっだんだな!まずだー!!」

 

 十千屋の号令を受け、少女は己が持てる全ての力を解放する。部屋は隅々までくっきりはっきり分かるほどに明るくなり、演算処理装置はまるで音楽の様に光と駆動音を鳴り響かせていた。

 そして、少女にも変化が現れる。引き裂かれ襤褸(ぼろ)となっていた拘束服は色彩は暗いが品位のある浴衣へと変わった。ただし、可愛さ演出なのかミニスカ浴衣であったが。

 

「あんどの通信機能から侵入じて…掌握。此方に引き寄ぜる」

 

「そしたら、隅から隅まで量子に変換し此方に補完しろ。

 …出来たらアントの手足を繋げて触手状態にして、海上の彼らも引きずり込んで()()()()

 

「分かっだだ。姉妹だちは?」

 

「同じ様に引きずり込め。コア以外の部分は全て使わせてもらおう」

 

「どんどん、いぐんだな!」

 

 哀れにも引きずり込まれた(機体)たちはある者は量子に変換され、ある者は作業補助の為の

外部周辺機に組み直され、またはこれが終わるまでの外壁として張り出される。

 その中心となっている現実世界での十千屋と少女の本体でもあるISは負傷箇所、

破損箇所を量子へと分解・変換し、新しく得たエネルギーや部品をそこへ再構築してゆく。

 無論、あの人影であった無人機から採れた有機物(生体部品)も量子変換し、十千屋の傷を埋めてゆく。

 

 十千屋が思いつたモノは量子変換機能を使った物質の再々変換であった。

ただし、コレは人体改造に近しい行為である。

 自らの体もただの部品の一つとして使用し、更にそれに()()()()()()()()()()()()

すぐさま怪我を治し、戦闘に復帰する為だけに自ら望んで改造する。

その様な行為を普通は行えるだろうか?

 常人では不可能と言い張るほど嫌悪するだろう。だが、彼はやる。

自らを突き飛ばす程の生存本能、そしてその先で行われる戦いに挑む闘争本能。

何よりも狂気じみた()()()()が彼を止めることを知らない。

 

 これが冒頭の光景までに至った経緯である。十千屋は自らが作った鉄の子宮、はたまた繭の中で生き抜くため戦い抜くため己を作り替えていたのだ。

 身体が出来上がるまであとどれくらい掛かるかは分からない。

だが、包まれたまま海上へと浮遊した彼は感じた。

銀の福音を戦い抜いた一夏達にまた悪意が振り落とされたのを…

 

 

「一体なんなんだよ!?コレは!!」

 

「口よりも手を動かしなさい!」

 

「すまないっ!私の装備はもう使い物にならない、だから銀の福音の装着者(パイロット)は私が預かる!」

 

「比較的軽症者は私の予備の武器を受け取って!シャルロット!!」

 

「了解!僕の予備も使って!!」

 

「箒!さっきのワンオフ使えないの!?」

 

「スマンっ!経験不足のせいか使いたくても発動しない!!」

 

 今の一夏達を言い表すのならば阿鼻叫喚。やっとの思いで倒した銀の福音の代わりの様に現れた幾つもの人よりも二回り大きな球体、これが襲い掛かる。

 攻撃方法は主に二つ内臓武器による攻撃と、連結する事によって蛇の様な体躯になり

それを活かした質量攻撃‐体当たりや締め付け等だ。

 球体事態はさほど強くない。普通の兵器よりは強いだろうがISやFAならば脅威には感じない。

しかし、いくら倒そうが追加でされていく数の利ともう一つ…

 

「マドカちゃんっ、あの緑の()()()ってなんなの~!?」

 

「私が知る由もないだろうが!」

 

「ビームっぽいものは効きやすいようだけど、ガン()じゃイマイチっぽい!?」

 

(ISが放射線警報を出してる?嫌な予感がする…)

 

 そう、謎の障壁(バリア)だ。緑色に発光する粒子が膜の様に球体らを包んでおり、ISのシールドバリアと違う反応をしているがそれが攻撃を阻んでいるのである。

 鞘華のベリルショット・ランチャー、つまり光学(ビーム)兵器や轟が主に使うスナイパーライフル等の

貫通力が高い兵装は比較的に効果が出ている。

 だが、何よりも彼らを追い詰めているのは…

 

「きゃぁあ!あぶなっ!?」

 

「鈴!?大丈夫かっ!? うおっとぉお!?!」

 

「大丈夫?月山錦?」

 

「ありがと、素子先輩。でも、月山錦って俺の事ですか?」

 

「一夏っ、気を抜くな!」

 

「ゴメン!箒っ」

 

「ちなみに月山錦は白っぽい色をしているサクランボの品種の一つ、つまりホワイトチェリー。

 白いの(白式)チェリー(童〇)を掛けてみた。さらに詳しく品種の説m…」

 

「素子っ、下ネタ披露は止めなさいって!

 (しかし、状況が悪いわね。いえ、皆の()調()(かんば)しくないわっ)」

 

 今日、一日中通して行われた連戦に弾もSEも体力も消耗していた。

 普段なら避けたり防げる攻撃が容易に当たり始まる。その事実が彼らを追い詰めていく。

 

(師匠の言っていたISの一番の弱点…ってヤツかよ!)

 

 追い詰められていく思考の中で一夏は、以前十千屋が言っていた

「一番のISの『弱点』とは何だ?」という話を思い出していた。

 

「ISの一番の弱点?」

 

「はぁ?何よそれ」

 

「…SEか?Vater()は以前から「エネルギー一括は非常時に不味過ぎるだろう」と、

 溢していたからな」

 

「まぁ、それはISの()()の弱点かな。他にはどうだ?」

 

 普段から十千屋から鍛えられている面子は彼からの問いかけに頭を悩ます。

それを見た彼は悩んでいる代表として一夏に何かを手渡した。

 

「師匠、これって携帯ゲームか?」

 

「そうだ。中身はあの大乱闘ゲームだ。

 その中の『百人抜き』モードを自分が少し難しいと思う難易度で十回連続でクリアしてみろ」

 

「…それがヒントなのか」

 

「あぁ、さっき言ったのは何だが別にクリア出来なくてもいい。

 だが、その時にどんな感じに成ったかを覚えとけ」

 

「分かった師匠」

 

 それから数日、携帯ゲームを持ってない者はゲーム機を回してやり、

持っていた者は早速やり込み始める。その後…

 

「…はぁ、クリア出来た一夏?」

 

「いや、3~4回までは連続で抜けるんだけどさ…その後が続かねぇ。箒は?」

 

「……聞くな」

 

「ふっ、嫁よ私は出来たぞ」

 

「あはは、ラウラってばのめり込み過ぎだったよ。何せ、眼帯を外して両目でしてるし」

 

「っ、シャルロット!」

 

「チート使ってんじゃないわよ。で、シャルロットはどれくらい出来たのよ。

 簪とセシリアは聞かなくていいみたいね。互いに逆の意味で」

 

「ぶいっ(*^^)v」

 

「うぅ…一度もクリア出来ませんでしたわ~」

 

「うん、本当に両極端だね。ちなみに僕は最高連続9回まで」

 

 どうやらそれぞれが阿鼻叫喚の内容だったようだ。

 それを目の前にして十千屋がどんな感じだったかと聞いてみる。

 それらを総じると「気力、集中力が十回連続クリアまで持たない」であった。

 その答えに彼は満足して頷き、今回の問いの答えを説明する。

 ISの一番の弱点とは人であると言った。

 人それぞれには癖だったり苦手な戦い方があったりするだろう。それは何とか矯正出来る。

 しかし、体力や精神力、そして集中力というのはどうにか出来るものではない。

 戦いが長引けば長引くほど、激しければ激しいほどに比例的に消耗してゆくものだ。

 鍛えれば限界までの時間は長引くかもしれない。だが、終わりは必ず来る。人は機械ではないのだから。

 

「人の緊張感、言い換えれば集中力か。極限の状態はそれほど長続きするもんじゃない。

 頭も体も使う戦闘なんぞスグにな」

 

 人そのものがISの弱点。人ゆえのすぐにくる()()。それこそが弱点なのだと、十千屋は言う。

 自分がもしISを倒すならば逃げられないように布陣し、その上で消耗戦を仕掛ける。と、持論していた。

 

 まさに今の状況が彼の言った通りである。

 逃げ切れない状況、尽きない敵、消耗に消耗を重ねている自分たち、まさにジリ貧。

 一夏は口の端を切りそうになるくらい食いしばって戦い続ける。

 

「くわぁ!」

「きゃぁあ!!」

 

「っ、誰かやられたのか!」

 

「もう撤退するしかないんじゃない!?」

 

「…そうだな。それは賛成だ。でもな、ヤツらが逃がしてくれると思うか、フィロ?」

 

「む~…」

 

 敵は攻撃を仕掛けながら一夏達を一塊にするように追い詰めてゆく。

 見渡す限り逃げ場は狭められ、もし一丸になって撤退しても誰かが脱落するのは想像するのに難くない。

 一夏達、IS学園メンバーも轟を始めとするカンパニーメンバーも誰かを置き去りに、

犠牲にする事は出来もしない。

 狭まる間隔、触れ合いそうになっている背中、誰かが覚悟を決め不敵に笑った時に『ソレ』はやってきた。

 

 最初は何の音かと思った。チョッと遠いところから聞こえた爆発音、それが連続して聞こえ

次第に近づいてくる。

 その方角に味方も目が何処にあるか分からない敵もそちらに振り向く。

 何かかが敵である球体を壊しながらやってくる。その何者かは一夏達の最前列の敵を爆散させ、爆炎の中から現れた。

 彼らの眼前で急上昇し、彼らの真上に陣取る。

 その姿は紫色の騎士のようであり、その正体は誰かが呟く…

 

「NSG-Z0/E ドゥルガーⅠ…」

 

 十千屋が語るFA世界の月面の守護騎士が彼らを守るように舞い降りた…。




もうちょっと、もうちょっと進めるはずだったんだ…
良ければ今回で戦いが終わるようにするつもりでした。
でも、気力の低下と先月末くらいからの先代ノートパソコンの不調…
ええ、動画を見てたら突然、ブツンッ、ブー…、ブラック⇒ブルーのセーフモードへと……
これを機にデスクトップパソコンに買い替えたりしました。
良いパソコンですよ。前よりも画面広いし、処理速度などは比べ物になりませんしね。

…言い訳はともかく、また1ケ月以上お待たせしてしまって申し訳ございません。
次回こそは十千屋無双をしてこの戦いを終えたいと思っております。
福音戦でこの長引き…ほぼオリジナルで占める夏休み編はいったいどうなってしまうのだろうか……:(;゙゚''ω゚''):


そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA59ss:フレームアドベンド

ちょいと駆け足気味なのでいつもと比べて短い?です。

では、どうぞ御ゆるりと。


 護り人、護り人よ。

 お前は何処にいる?何処へ向かう?

 何を守りたいのだ。答えてくれ…

 気高き衛星の護人(Noble Satellite Guard)よ…

 

 

 ここは一夏達がいる場所からほんの少し離れた場所、正確に言えば十千屋が沈んでいた場所である。

 そこには、ただ一人ポツンと取り残された者がいた。

 

「な、何だったの…いったい」

 

 彼女はIS学園の教員の一人、墜ちた十千屋の捜索を命じられていた。

 少し前に此処へ到着した時は、空には敵機と一応の味方機(束の無人機)、海の中にはコトブキカンパニーの無人機(アント)と沈んでいる筈の十千屋が居り一触即発の雰囲気であった。

 しかし、海中から現れた機械の触手‐‐それと呼ぶには無骨なアントの手足を繋げたマニュピレーターが敵も味方も全て絡め取ってゆく。

 その直後に現れたスクラップを丸めたような奇怪な物体、臨時指令室から聞こえてくる狂い笑いからは()()は要救助者であった十千屋であったらしい。

 機械の低い様な高い様な駆動音が妙に不安を誘いたった数分が何倍もの時間が経ったように思えた。

 だが、臨時指令室から生徒たちの無断行動によって銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を機能停止させたと通信が来た。ただし、その直後に謎の機械に襲われたと同時に知らされたが。

 

 連続する不測の事態にいい加減にこちら(教員側)も動くべきだと思う反面、目の前の物体をどうするかも指示されていない。

 最高責任者(千冬)にお叱りを受けるのは承知の上で、ここは見送り生徒たちを援助するべきだと物体に背を向ける。

 そうした瞬間、何かの拍動が響いたのを全身で感じた。そして、すぐさまの逆光。

 ちょうど背を向けていたので眩しくなかったが、この光量では眼が潰れていたとも思えた瞬間――光が彼女を越えて飛び去って行った。

 呆然と一筋の光を見つめる彼女、周りには光が残していった量子の粒子が雪の様に振る。

 

「もうっ、いったい…なんなのよぉぉおお!!」

 

 理解を超えた事態に彼女は憤りを大声にして表す。

 声が木霊しきった後に聞こえてくる小波(さざなみ)が妙に耳に残った。

 

 

「ドゥルガーⅠ?」

 

FA(フレームアームズ)の世界では第一部の敵勢力である月側の最新鋭機の一体」

 

 突如現れた紫紺の騎士、彼?は敵である球体の包囲網を突っ切り囲まれていた一夏達の真上を陣取った。

 予想外の乱入者に球体のAIは混乱しているのか動きはない。しかし、一夏達も同じこの騎士が

 何者なのか見当がつかず動かない。

 そして、彼が再び敵陣へと飛び込んだ時に一夏達へ機体情報が届く。

 

【十千屋専用機 フレームアドベンド】

 

 この情報に誰もが目を見張った。行方不明になっていた彼が今目の前に現れ、自分たちを守っている。

 彼ら彼女らにとって蒼天の霹靂とはこの事、信じがたい出来事に自分たちの状況も忘れ十千屋であると表示された騎士を見つめる。

 

『織斑たち!応答しろ!!』

 

「…ハッ!?千冬姉!師匠が!師匠が!?」

 

『落ち着け!いい加減、黙認している状況じゃなくなった。そちらの状況も理解している。

だからこちらの指示に従え』

 

 呆然としている彼らを引き戻したのは臨時司令部からの千冬の声であった。

 思考停止から一気に現実に引き戻され混乱する一夏を彼女は窘め指示を送る。

それにより一旦落ち着きを取り戻した。

 

()()が十千屋なのかどうかはモニターしている此方でも確認した。間違いなく…奴だ』

 

「そうなんだ…」

 

『感極まっているところ悪いがそれは後だ。束、お前が知っている敵の情報を聞かせろ』

 

『あいよ~ん』

 

 一夏達は十千屋が開けた包囲網の穴を突破しながら、何故か敵の情報の一部を持っていた束から解説を受ける。

 

『あのマン丸の事は分からないよ?でも、アレに使われてるバリアは知ってるよ~。

とーちゃんが作ったマッドサイエンティストの巣窟、通称魔窟(パンデモニウム)で研究してた物質を使ってるね。発見した人の名前をとって《コジマ粒子》って名付けたよ。

コジマ粒子発生機構を用いて“コジマ物質”に定量で安定した電気エネルギーを加えることで発生させるの。あ、コジマ物質の定義はね~』

 

『束、いま必要な情報を頼む…』

 

『束ちゃん、なる早の今北産業でお願いね♪』

 

 長い解説に成りそうだったのを千冬とリアハが抑え、束は首を傾げながら約三行に纏めてみる。

 

『昔、研究した物質でコジマ粒子っていうよ!

 高い軍事活用の可能性が見出されてるよ!バリアとか!

 それは超絶に体と環境に悪い放射線の一種だらか早く離れてね!←今ココ』

 

 「「「それを早く言えぇええええ!!!」」」

 

 三行目の一番大事な部分を聞いた直後に全員が叫ぶ。そりゃ、生体活動に深刻な悪影響を及ぼす環境汚染原と言われれば誰でもそうなるだろう。

 つい、そのツッコミで足を止めてしまった。包囲網を抜ける寸前だったというのに行動を止めたら…

 

「あっ、ヤバァッ!?」

 

 敵の正面?が一斉に振り返り、彼らを狙って撃ちだした。

 満身創痍に近いメンバーを庇い、フォーメーションを変更する暇などなく無防備に攻撃を受けそうになった時に何かが割り込んでくる。

 それはドゥルガーⅠ-十千屋であった。それを確認できたのはホンの一瞬、全員が来る衝撃と

惨状に目を瞑って再び目を開いた時に見たのは違う光景であった。

 赤みがかった紫色の鎧武者が此方への攻撃を防いでいる。鎧武者ははバリアを張っているのか、敵からの攻撃は途中で何かにせき止められその背後に居る一夏達へまでは攻撃が届かない。

 その光景で箒が一番目を見張ったのは鎧武者の大袖(おおそで)。胴の左右に垂下し、肩から上腕部を防御する楯状の部品だ。

 その形はよく目にした事がある。今は紅椿に吸収されてしまったが十千屋から貸し出された打鉄のパッケージ:月甲(げっこう)禍津(まがつ)そのものだったから。

 そして、鎧武者自体もよく知っている。何故か十千屋からプラモデルをプレゼントされ何故か

一生懸命作ってしまったFA、その名は…

 

「NSG-Z0/D マガツキ…」

 

 その名をFAの世界観に詳しい簪がまた呟く。そう、月甲禍津のイメージ元であるFAだ。

 機動力を高め積極的に攻撃を加える役割に特化しているドゥルガーⅠとは逆に、敏捷性と防御力を高めた機体で、敵の攻撃を受け止め、粘り、時間を稼ぐことに特化しているのがマガツキである。

 それを証明するかのように敵の一斉砲撃をバリア-Tクリスタル(C)シールド(S)で完全に防いでいた。

 砲撃が一瞬やんだ瞬間にマガツキは飛び出し、一番近い敵を巨大な刀-戦術迫撃刀『テンカイ』で切り捨て、さらに別の敵へと飛び出した瞬間に姿が変わる。

 全身がISの粒子変換時特有の光を放ったと思ったら、その姿はドゥルガーⅠへと変化した。

 

 その様変わりに一同は顎が外れるような思いをした。それもそのはずだ、アレが十千屋だとすると機体の正体はF()A()()()I()S()のはず。それが全く違う姿へと変わってしまうのはISの常識ではあり得ない。

 

「え、は…?何なのよ一体!なんでISが別の姿へと変わってるのよ!」

 

「粒子の発生の仕方からすると高速切替(ラピッド・スイッチ)の様に見えたが」

 

「無理ムリむりっ!元ネタのFAが基礎フレーム流用の武装組み換えだったとしても、

 全身が一斉に変えられる高速切り替えなんて僕は聞いたことないよ!?」

 

「シャルロット、理解できない事はわかるけど…目の前でやられたわよ」

 

 こうしている間にも敵はその数を減らしていった。

 ドゥルガーⅠとマガツキには遠距離武器はないが無駄のない動きと、攻撃を寄せ付けないTCSで一方的に墜としてゆく。

 その中で誰かが「敵のバリアっぽいのはどうなった?」と呟くと、束から説明が入った。

 敵が使っているバリアは『プライマルアーマー』とい呼ばれていると答える。

 機体周辺に散布したコジマ粒子を安定的に還流させることで、慣性抑止フィールドとも呼べる

力場を形成、自機に向かってくる各種攻撃の速度や威力を減衰させて受けるダメージを軽減・

無効化させる防御機構だとの事だ。

 特徴や弱点なのど説明できる事は幾らでもあるが、なぜ十千屋が敵のプライマルアーマーを突破し攻撃できるかどうかの説明はこうであった。

 TCSでPA(プライマルアーマー)に干渉している為だと。

 ドゥルガーⅠの突撃槍《戦術駆逐槍「ヘイルラング」》はTCSオシレータ(TCSの発生装置)を

搭載しているためPAへ干渉、その結果貫通させている。

 マガツキの武装にはTCSオシレーターは付いていないが、機体そのもののTCSをPAにぶつけて

相殺したところを切り裂いているらしい。

 バリア同士の干渉で無効化するなどISの防御機構では難しい。似たような方法で無効化しているだろう方法は一夏の白式―つまり単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)零落白夜(れいらくびゃくや)であるが、エネルギー消費が激しいという弱点がある。

 同じようにバリア同士の干渉で無効化というのは同じエネルギーでプラスマイナスゼロによる差し引き、つまりエネルギーが大きければ大きいほど消費する事となる。

 だが、新たな十千屋の専用機《フレームアドベンド》はSE(シールドエネルギー)の消費がほとんど見られない。

その理由はカンパニー側は気づいていた。

 彼の機体からユビキタス(U)エネルギー(E)・システム、FAなどに使われている一種の半永久エネルギーシステムの反応がしているからである。

 

「すげぇ…エネルギーチートかもしれないけど、あんなに居た丸いのがあっという間に減ってる」

 

「まぁ、ボクらと仕様が違うからねぇ。でもね、にんじん?あれがパパの本気じゃないから」

 

「「「は?」」」

 

 機体解説をFAに詳しい簪やカンパニーの面子から受けていると、信じられない事をチェーロが言い放つ。

 十千屋を詳しく知らない学園側は間抜けな声をだして彼女の方に振り向いた。

 

「父さんのFA時代の専用機…主に使っていた武装の組み合わせは、陸戦型の強襲用パックだった。

 つまり、あんな突撃を繰り返す攻撃方法じゃないの」

 

「そ、そう言えばVater()が教習してくれていた時はそのような機体だったな」

 

 本来と違う戦闘スタイルであそこまで戦える十千屋に戦慄を覚える学園側一同であったが、

それを他所にこの戦いの幕が下りようとしていた。

 

 球体が十千屋の周りを不規則に飛び、彼を取り巻いた。

彼が一機墜とす隙を狙って連結し蛇の絞め殺しの様に圧殺を狙う。

 だが、逆に絞め殺す前の一瞬の緩みを彼は逃さない。またドゥルガーⅠからマガツキに変化し、戦術迫撃刀『テンカイ』二刀流回転切りで切り刻み脱出。

 多数の傷を受け、動作不良を起こした敵は連結解除による回避が間に合わない。

そのため、再びドゥルガーⅠに変わった彼によって先頭からまるで紐を通すかのように貫かれていった。

 

 敵は多数の爆発やショートを起こしながら海へ沈んでゆく。

静かになった海上で十千屋は構えたままであったが、少し経つとその態勢を解いた。

 今度こそ、本当に終わったのである。

 

「師匠!」「義兄(にい)さん!」「「十千屋さん!」」

「父さん!」「パパ!」「Vater!」

 

 全てが終わった十千屋の元へ各自の彼の呼び方を叫びながら近づいてゆく。

 近くに来た彼ら彼女らを見渡すと、彼は見渡し頷くと…ガクンと力が抜け、ISが解除し落ちかける。

 それを近くにいた面子が支えた。どうやら彼は気絶しているらしい。

 無理もないだろう。此処へ来る前の状態を考えれば彼は重傷の筈だ。

 ISのアンダーウェアはボロボロに近いし、今回失った左腕は剥き出しのアーキテクトフレームの腕へと置換されている。

 誰もが「お疲れ、ありがとう」と思う中で…彼を支えている面子は微妙な違和感を覚えた。

 それは、彼が大柄だからといってこんなに()()()()だろうか?

 そんなよく分からない疑問であったが、戦闘が終わった解放感でそんな疑問も吹き飛んでしまう。

 

 今日一日を掛けて行われた銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)討伐戦、これにて終了。

 

 

「ハハハ!見てたよルーキー(学生さん)!今はまぁこんなところかな?

 まだカリメロ君(カラ被りひよこ)レベルだし、機体(IS)発展途上(ゴミムシ)だしね」

 

 ここはIS学園が貸し切っている旅館がある海岸線の何処か。

 そこから全てを覗いていたものが居る。

 

「でもまぁ、なかなかやるじゃない?ちょっと時間かかったけどね。

 まぁ丁度いい腕かな?ゴミ虫(量産無人機)の相手にはさ!」

 

 傍観者としてはあまりにも異質な青くずんぐりむっくりした人型の機体。それが見ていた。

 

「でもねぇ…アレはヤバいんじゃない?」

 

 機体の視線の先、望遠機能で見つめる先には支えられ回収されている十千屋の姿がある。

 

「そうだな、貴様がな」

 

「曲者だぁ、であえであえっ、で…ゴザル」

 

「アレ?」

 

 観察に夢中になり過ぎたのか、機体の首に鎌と日本刀らしき物が後ろから引っかけられる。

 得物を持つ正体はコトブキカンパニーの特殊営業課情報部(諜報=ニンジャ部隊)の一員であるカルタムス=(じん)

インディゴ=(あい)であった。

 彼女らの仕事はIS学園、ひいては十千屋達を狙う不届き者を消す事である。

 まさに、今がその時だ。

 

「さて、色々と不穏だが…貴様の口調から察するにあの丸いのは、貴様の手勢らしいな」

 

「嘘を吐いても良いでゴザルよ?その時は直接脳を取り出すだけで御座る」

 

「ギャハハッ。アレ?もしかして、ピンチってやつ~?でもね、ポイっーと!」

 

 最終通告になっていない台詞を吐かれ、機体は狂ったように笑う。そして、肩の装甲から何かが飛び出し辺りを眩ませる。

 

「くっ」

 

「ぬぅおぅ…目がぁ、目がぁ、でゴザル~」

 

「ギャハハッ!残念でしたー!またどっかで遊んでやるよ~!」

 

 目の眩みから立ち直ると遠くにはスラスターの発光、足元にはあの機体の頭部ユニットがあり、そこから捨て台詞が流れていた。

 直後にユニットが爆発し、迅と藍は後方に飛び退く事で回避する。

 

「迅の姉君…カルタムス、奴は一体。人みたいであったが、気配が無かったで御座る」

 

「あぁ、気軽に頭部を破棄するといい、人間ではないのかもな」

 

「やはりそう思うで御座るか、カルタムス」

 

「あぁ、どうやら…何やら動き出した様だな」

 

 姉妹は気配を消して、この場には何もなかった様な静寂が戻る。

 だが、何かが裏側から、闇の中から動き出しているのは…確かな様だ。

 

 そして、誰も知らぬ場所で――また…

 

 銀の福音戦―初戦で水を差した密漁船、それが何処かの軍艦に寄り添って止まっていた。

 それを見つめる小さな小さな、手の平くらいしかない影が見つめている。

 

「見たにゃぁ、見たのにゃあ…ご主人様にご報告なのにゃ」

 

 様々な陰謀が見え隠れしつつ、今日という日が過ぎてゆく。




はい、今回で銀の福音戦を――正確に言えば戦闘シーンを終えたかったので駆け足気味です。
いやぁ…新調した十千屋さんにバリア特化の無人機だけでは十分活躍しきれなかった感が。(;^ω^)
ともかく、色んなフラグをばら撒きつつエピローグや大人サイドの裏話などに移りたいと思います!
はぁ、何とか一月以内に投稿できた…。
うぅ…ようやく【銀の福音編】の終わりがみえたよ~・・・

……会社の年間休日予定の関係で連休なのに、半日以上寝過ごしてしまうし、作る気力が湧かないし、アリスギアに何となくハマっているし、(積み)が重なり続けている~~~!!(´;ω;`)ウッ…

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA60ss:ありがとう、一夏

何処か中途半端ですが…我慢できなくなったので投稿します。
過糖に成り過ぎて死ぬかと思った…

では、どうぞ御ゆるりと。


 戦いが終わり、戦士たちは安らぎに身をゆだねる。

 戦い終わり、平和が訪れるかもしれない。

 だが、また新たな戦いの幕が上がるかもしれない。

 そんな事は誰も知らず、知る事もできない。

 あぁ、けど今は…オヤスミ。

 月がそう答えている。

 

 

「なんだろうな…」

 

 都会と違い、満月の明るさが良く分かる海辺で物思いに耽る少年が一人。

 言わずもがな、一夏である。

 激戦を生き抜いたり、結構大事な内容だったような気がする夕方に見た夢が思い出せなかったり、日常を感じた夕食では自分が慕う師匠が居なかったり…と、ハードすぎる一日を終えかけて

非日常と日常のギャップにモヤモヤしたものを感じていた。

 

「はぁ、それにしても師匠は大丈夫だったのかな」

 

 一夏達は激戦を終え、旅館に帰還すると千冬からの説教を真っ先に受ける事となった。

 それは当然だと言えるし、甘んじて受けなければならない事でもあるので反論はない。

 しかし、それよりも気掛かりだったのは十千屋の事である。

 彼はコトブキカンパニーによって緊急搬送させられた。

 いつの間にか呼ばれていたのか、胴体が丸ごとコンテナとなっている妙に平べったい飛行機に

搬送され、臨海学校の為に持って来た機材も助っ人に来てくれたメンバーも同じ様にそれに乗って行ってしまったのである。

 一応、学園側と十千屋の世話になっているメンバーには

「命に別状はない。ただし、精密検査は必須」

と連絡されているので無用な心配であるが、心情は別だった。

 今回の戦いでは考えさせられる事も整理するべき事も沢山ある。

だが、大人と子供の間である多感な時期でもある一夏は、自分に出来たかもしれない事、

分からない事などを考えてしまい浮足立っている所がある。

 それが妙な心のざわつきになっているのかも知れない。

 

「そこに居るのは一夏、か?」

 

 突然名前を呼ばれ、一夏はそちら側に振り向く。

 月明かりのせいで姿が浮かんでみたのは、水着姿の箒だった。

 

「箒…?そういえば、昨日海で見かけなかったけど……」

 

「あ、あんまり、そう見ないで欲しい…お、落ち着かないんだ……」

 

「す、すまん」

 

 彼女としては大人しい抗議に彼は慌てて体の向きを変える。

 しかし、彼の目は彼女の水着姿を鮮明に映していた。

 白い水着、それも彼のイメージからすれば珍しいというよりも絶対に着なさそうなビキニタイプ。(ふち)の方に黒いラインが入ったそれは、かなり肌の露出面積が広く――とても艶やかで魅力的である。

 

(い、いかんぞ、これはかなり気恥ずかしい…)

 

 彼は先ほどとは別の意味で酷く落ち着かない気分をどうにかしようと誤魔化そうとするが、

あまり上手くいかない。

 さらに一メートルほどの間を開けて隣に座った箒が、どうしても気になり意識してしまって

ますます心は乱れる。

 

「……」

「……」

 

「なぁ、一夏…」

 

「なっ、なんだ?」

 

「もう少し、傍によっても良いか…」

 

「あ、あぁ…箒が良いんなら」

 

「そうか…」

 

 普段と違う雰囲気と姿の彼女に彼は生返事気味に返答し、それを落ち着いた様子で受け取った彼女は距離を詰めて座った。

 その瞬間、彼の心臓は張裂けそうなくらい高鳴る。何故なら…

 

(ちょっ、ちょっとぉおぉお!?箒さん!近すぎじゃありません!?!)

 

 箒と一夏の距離は肌が触れ合うぐらい、いや既に素肌の腕同士が触れ合っているぐらいの距離まで詰められたからだ。

 彼は今までにない展開にどうしたらいいか分からず、ただ固まっているしかない。

 そんな中で箒から口を開いた。

 

「一夏、怖くなかったのか」

 

「え、何が?」

 

「今回の戦いだ。一夏はどうだったのだ」

 

 間近にある彼女の素顔に彼はドギマギするが、憂いを帯びて揺れる彼女の瞳のせいか浮ついた心は抑えられてゆく。

 そして、いったん目を閉じて自身の心に問いかけその答えを口に出す。

 

「怖かったか…どうか、か。『分からない』って答えるのが妥当かな。

 やるべき事、なす事に追われてそれどころじゃなかったかもしれないな」

 

「そうか」

 

「でも…」

 

「でも?」

 

 一夏の答えに何処か納得した感じで箒は受け止める。

 だが、彼の答えの続きに今度は彼女が胸が高まった。彼は真剣な表情でその答えの続きを語る。

 

「結果論みたいだけど、俺ができる事が出来ない事。お前()や皆を、守る事が出来ないのは

 途轍もなく怖いと思う。…そうじゃなくて、本当に良かったぜ」

 

「一夏、…あぁ、分かった。お前らしいよ」

 

 一夏の答えに箒が微笑むと、彼もつられて口元が緩む。互いに思う、彼を/彼女を守れて良かったと。

 

「なぁ、箒。こんな事を聞くなんて、なんつうかさ…お前らしくないってゆうか。

 いや、ごめん。今回は仕方がない…か?」

 

 普段と違う雰囲気と語りかけに一夏はつい箒に原因を尋ねてしまう。

しかし、尋ねるうちに今日の戦いを思い返すと仕方がないと思い謝罪する。

 今日の戦いは本当に危険で今まで以上に激しかった。

十千屋も自分(一夏)も正真正銘、撃墜してしまっていたかもしれない。

 それが彼女の心に多大な負担になってしまったのではないかと思ったのだ。

 それ故の謝罪であったが、その言葉は途切れさせられる。

 箒が一夏へ縋る様に抱き着いてきたからだ。

 

「ほぉっ!?箒さん!?え、うぇえっ!?!」

 

「ああ、私は怖かったんだ。

 本当に怖かったんだ…義兄(にい)さんが、何よりもお前が一夏が居なくなってしまうかもって

 …怖かったんだ!!」

 

 嗚咽が混じるような告白に一夏は何も言えなくなってしまう。こうさせてしまった事に対しては自分にも非がある様に思えるし、泣きついてきている女の子を恥ずかしいからと突き放す様な真似は出来るはずがない。

 自分に出来る事、それを思った時に彼の片手は優しく彼女の肩に触れる。

 ビクリと肩を震わす彼女に対して、そのまま優しく語りかけた。

 

「大丈夫だ。俺は此処に居る。師匠だって、絶対に黙って居なくなったりしないさ」

 

「本当…か」

 

「あぁ、俺は此処に居る。何故か怪我が治っちまっているし、体の調子だっていい。

 師匠は…師匠の家族への溺愛っぷりを見てれば分かるだろ?師匠は義妹()を置いては行かねえよ」

 

 一夏からは見えないが語りかけに箒は安心したのか表情が、何よりも雰囲気が柔らかくなる。

これに安心したのか彼は肩を撫でおろすが、再び緊張させる様な事を彼女が言う。

 

「一夏…」

 

「なんだ?」

 

「良ければ…私を抱きしめて欲しい」

 

「うぇ…え、えっとぉ」

 

「ダメか?」

 

 今度は『抱きしめて』ときた。この男、朴念神の身なれどちゃんと男としての欲などはある。

こんな美少女に抱き着かれ、しかも今度は甘えるかの様にねだられたら…そりゃ、もう分かるだろう?

 だが、傷心気味である少女に付け込む様な真似は(おとこ)としての矜持(プライド)が許さない。

故に、一夏は恐る恐る箒を抱き寄せる。

 緊張感とその他諸々から逃れるために頭の片隅では、

(師匠なら慰めると同時にイタダいちゃうんだろうなぁ…)

と失礼な事を思いながらであったが。

 

「こ、こんな感じで…良いのか?」

 

「もう少し…強く……」

 

「お、おぅ」

 

「…居る。一夏は此処に居る。ありがとう、一夏。大好きだ

 

 ただ純粋に嬉しいと彼女の(ぬく)もりと鼓動で伝わってくる。

彼にもそれが伝わり自分の事の様にうれしく思うが、確かにか細い声であったが聞こえた。

 その内容に一夏は何度目かの度肝が抜かれそうになる。

流石の朴念神でも彼女が自分(一夏)をどう思っているかは理解した。

 今までは一番親しい仲間と感じていたが、何度かあった十千屋夫妻による男女間の情操教育、

ド直球に好意をぶつけてくる面子、それによって素直に告げられれば察するくらいには矯正されたのである。

 もう、思考回路は停止(ショート)寸前の状態だ。それなのに箒と目が合ってしまう。

 

(え?えぇぇえ!?箒さん、何で目を閉じて、唇をやや上向きにして

 突き出してるんですか!?!……やっぱり、箒って綺麗だし、可愛いよな)

 

 場と今までの雰囲気に流され、彼の目には彼女しか映ってない。

濡れ鴉のようなしっとりした黒髪も白磁の様に綺麗な肌も、閉じられた瞳を飾る震える睫毛も、

自分の事を待ちわびる桜色の唇も…彼女の何もかもが魅力的に感じた。

 だから、月明かりで伸びた二人の影は…一つに重なった。

 ほんの数十秒、いや数秒かもしれないがこの時の気持ちは永遠を感じられた。

 

「ほぅほぅ…あたしは出し抜かれた様ねぇ?」

 

「ぃぃぃいぃいぃい!?りりりりり鈴!?」

 

「あ…はっ!鈴!!何故此処に!?」

 

 至近距離で掛けられた声によって一夏と箒は現実に引きずり落される。

 抱き合ったままであるが両者ともに顔を離し、声がした方向に向くと鈴が居た。

 二人の行為をマジマジと覗きこむ様に(かが)んで両頬杖をついて、本当に至近距離でコチラを見ている。

 細目で「そうかそうか」と変に納得してるが不機嫌そうに覗き込む彼女に、二人は気まずい気持ちで視線を逸らすが…ソコにも、居た。

「あらあら」と片手を頬にあてて此方を優しく見守る様子は淑女だが…目は笑っていないセシリア。

 腕を組み仁王(ガ〇ナ)立ちでこちらを見張るラウラ。

 この場の雰囲気とこの後に起こる惨事を予想し、頬を軽く掻きながら苦笑気味のシャルロット。

 一夏にはあまり自覚は無いが、いつもの面子の中で自分に好意を持ってるメンバーが勢揃いしていた。

 

 一夏と箒、互いに真顔になり真夏の日中でもないのに汗が大量に吹き出す。

そう、冷や汗という名の汗だ…。

 修羅場、大惨事大戦、今日は死ぬには良い日だ…謎のヤバ目のフレーズが次から次へと彼の頭の中に浮かんでくる。

 下手に動けば()られる。それも一夏と箒の共通意識なのか、固まったままだ。

 その中で鈴が両手を伸ばし、彼の頭を固定する。あ、こりゃ…首コキャ(折り)されるな、と?

思いきや…

 

 ぶちゅうっ!ちゅ~~~ぽんっ…

 

「「「おっおぅ!?」」

 

 確かに首筋を痛めそうなくらいの勢いで一夏の顔面を鈴は引っ張ったが、その勢いで彼と自分との唇を重ね合わせ吸い上げる。

 いきなりの行動に回りは素っ頓狂な声を上げ、やられた彼の思考回路は停止(ショート)した。

 キスしてるのか吸い付いてるだけなのか分からない彼女のとのやり取りは、気が済んだのか

小気味よい音をたてて唇を離し、彼女は彼を突き放す。

 勢いは軽くであったが思考停止していた彼は大きく仰け反り、彼女は腰に手を当てて指を突きつけながら彼を見下した。

 

「あたしのキスは安くないわよ!そこんトコロ、よ~~くっ!考えなさい!!

 あと、こんな事…誰でも良いってわけじゃないからね!!!」

 

 鈴は怒った様に言い、言い終わったら終わったで大股で旅館の方へ帰ってしまう。

 でも、十分に明るい満月の光は鈴の顔が真っ赤である事を鮮明に照らし出していた。

 

 ちゅっ「ふふっ、答えは急ぎませんわ。せめて卒業までには確り決めて下さいませ」

 

 セシリアは呆然とする一夏の頬にライトキスをして、そのまま優雅に去っていく。

 

 チュチュチュッ!

 「ははっ、僕が言えた事じゃないけどさ。きちんと愛してくれれば、愛人ポジでも構わないよ」

 

 セシリアとは反対の頬に、ワザと音を出し細かいキスを何度もするバードキスをサラリとし、

これまたサラリと問題発言をしてシャルロットは軽やかな足取りで旅館へと戻っていった。

 

「まぁ、なんだ。嫁がどう答えを出すか分からんが、覚悟があるなら究極のVater()方式…

 全員と付き合うやり方もなくもないからな。では、セカンドキスを」

 

 あからさまに唇を押し付け強引にキスし終わると、ラウラは堂々と歩いていく。

 

 怒涛の展開に一夏の頭は思考停止どころかポンコツ寸前である。

その時に至近距離、というより隣からため息が聞こえてきた。

 そのせいで一夏はある事実を思い出し、そちらへ油の切れた機械の様に首をギクシャクさえながら動かす。

 そう、隣にはずっと箒が居たのだ。彼女は冷めた目でコチラを見ている。

 今までのパターンからすると…死亡フラグは建て切ってあとは俎板(まないた)の鯉、どうすることもできない。と、一夏は諦めかけたが…

 

「はぁ…私が言いたい事はだいたい奴らが言って行った。私の話を聞いてくれて感謝する。

 では、また明日だな一夏」

 

 仕方ない奴だ、といった雰囲気で箒は体についた砂を(はら)って行ってしまう。

 予想した反応と違うため一夏は呆然とする。

 そして、彼は今までの事を思い出し、悶え、困惑し、また呆然となる。

 奇々怪々な動作を繰り返す彼、そんな彼を月は柔らかい光と湛え見守っていた。

 

 そして、次の日…

 

「うヴぁ~~~、じんどい・・・」

 

 ゾンビの様な声を上げているのは一夏である。昨夜は怒涛のラブコメ展開で身もだえし、

そもそも昨夜浜辺に居たのは旅館を抜け出していたからで…教師(千冬)にバレ大目玉。

 そのせいで睡眠が全くとれなかったのだった。

 辛そうだな、と同じクラスの一夏ラヴァーズが動き出そうとした時、一夏達が乗るバスに

見知らぬ女性が入ってきた。

 

「ねぇ、織斑一夏くんって居るかしら?」

 

「あ、はい。俺ですけど、なにか?」

 

 彼は一番前に座っていた為に即座に返事をする。

 その女性は、だいたい二十歳くらい。一夏達よりも確実に年上で、十千屋や千冬と変わらないくらいに見える。

 容姿は夏の日差しで煌めいて見えるくらい鮮やかな金髪、格好はカジュアルタイプのブルーの

サマースーツを着こなし、開いた胸元で大人の女性としてのオシャレと色気を出していた。

 掛けていたサングラスを胸の谷間収納し、腰を折って一夏を見つめてくる。

その視線は品定めというよりは純粋な好奇心からくる感じを彼は受けた。

 

「へぇ。君がそうなんだ」

 

「あ、はい。そうですけど…あなたは?」

 

 美女が覗き込んでくる姿勢と彼女から僅かに香る柑橘系の香水(コロン)と彼女自身の香り、色気(セクシャル)満載な彼女に対して一夏は落ち着かなくなる。

 そして、彼女からの返答も落ち着かなくなるものであった。

 

「私はナターシャ。ナターシャ・ファイルスっていうの。

 君にもっと分かり易く言えば…『銀の福音(シルバリオン・ゴスペル)』の操縦者よ」

 

「え――」

 

 全く予期してない人物の登場に彼が困惑していると、頬に柔らかな感触を感じた。

 

 チュッ「ふふ、これはお礼。ありがとうね、白い騎士(ナイト)さん」

 

「え?は…うぅ?」

 

「じゃあ、またね。bye(バーイ)

 

「は、はぁ…」

 

 何か上手くいったのか上機嫌な様子でひらひらと手を振ってバスから降りるナターシャ。

 一夏はそんな彼女をボーっとしながら手を振り返して見送るしかなかった。

 

「…一夏、また新しい女でも引っ掛けたのか」

 

「………」

 

 夏の日差しの様に鮮烈な印象を残していった彼女に一夏はボーっとしていたが、

誰かに声を掛けられ嫌な予感がした。

 そこには、いつもの四人が冷たい目でこちらを見ている。

 

「……。え~~と」

 

「お茶、しんどそうだったからな。要るか?」

 

「あ、はい。アリガトウゴザイマス」

 

 嫌な予感は離れないが、しんどいのは事実なので彼は箒からお茶が入ったペットボトルを受け取り口に含んだ。

 

「まぁ、それは私たちが回し飲みした残りなのだがな」

 

(ブゥっ!?……ゴクリ)

 

 彼女から告げられた事実に、口に含んだお茶を吹き出しそうになる。

だが、咄嗟に車内を汚してはいけないと思って何とか飲み干した。

 計四人分の間接キス、その事に一夏は羞恥で頬が熱くなっているの感じながら困惑の表情で四人を見る。

 だが、見なければ良かったとすぐにそう思った。

 

「ふふ、お前にしてはよく我慢したな。もし、吹き出したのなら…なぁ?」

 

 飲み干す以外の何かの反応(リアクション)した場合、何かするつもりだったらしい四人を代表して箒が彼に語り掛ける。

 冷たく嗤う彼女らの手には、その()()()だった時の得物が握られていた。

 箒はすっかりお馴染みになったハリセンだが、厚紙と厚手のテープで補強され更に痛く大きな音が出るようになった物を持っている。

 セシリアは前に見たステンレス製の立派なゴム鉄砲だが、二丁拳銃となっており両手で上げている。

 ラウラは訓練等に使われるゴム製ナイフを手遊びしている。

 シャルロットはビー玉が数珠つなぎになっている棒の様な何かを頬にあてて持っている。

 

 色んな意味で身の危険を感じた一夏はこの後、ビクビクしながらIS学園への帰路につくのであった。

 

 

「・・・・」

 

 バスから降りたナターシャは、目的の人物を見つけてそちらに向かった。

 

「おいおい、余計な火種を残してくれるなよ。ガキの相手は大変なんだ。

 …特にあいつ等は()()()の影響を受けて特にな」

 

 そう言ったのは千冬。どうやら彼女に会うのも目的の一つだったらしい。

 ナターシャは、その言葉に少しだけはにかんで見せる。

 

「思ってたよりもずっと素敵な男の子だったから、つい」

 

「やれやれ…だな。それよりも昨日の今日だが体調は大丈夫なのか?」

 

「ええ、それは問題なく。――私は、()()()に守られていましたから」

 

 彼女の言う『あの子』とは、つまり今回の事件を引き起こした福音の事を指す。

 それを察した千冬の表情は険しくなった。

 

「―――やはり、そうなのか?」

 

「ええ。あの子(福音)は私を守るために、望まぬ戦いへと身を投じた。

 強引な進化(セカンド・シフト)、孤立の為のコア・ネットワークの切断…あの、父性を感じた囁きを聞くまで正気を見失っていた」

 

 言葉を続けるナターシャは、先程までの陽気な雰囲気を一変させ、鋭い気配を纏っていく。

 

「私は許さない。異常に気が付けても止められないほどにあの子の判断能力を奪い、

 (すべ)てのISを敵に見せかけた元凶を――必ず突き止め、報いを受けさせる」

 

 色白な手が更に白くなるほど手を握り締めて、彼女は話し続ける。

 

「あの子を凍結処理にする?…ふざけるんじゃないわよ。

 何よりも飛ぶことが好きだったあの子が、翼を奪われた。

 相手がなにであろうと、私は許しはしない」

 

「そうか…」

 

 自分すらも死地に追い込むような決意の彼女に千冬は声を掛けた。それと同時に…

 

「だが、それは徒労で終わるぞ?」

 

「えぇ、はぁっ?」

 

 それと同時に切迫した雰囲気は微塵も残さずに消えた。

 なぜ千冬がそう言ったのか分からないナターシャは詰め寄る。

 

「え、はぁ!?どういう事なのよ、それっ!?!」

 

「こういう事態に動かない筈がないのが居るからな。

 まぁ…果報は寝て待てと、日本の(ことわざ)にもある。

 二・三日待てばお前とそいつ(福音)にとって吉報が届くんじゃないか?」

 

「いや、訳が分からないわ…一体、どうなったらそうなるのよ」

 

「…私だって分からない。いや、分かりたくもない。

 下手すれば大国の経済活動が破滅させられる事が出来るヤツらなど…」

 

「え……ナニソレ、コワイ」

 

 千冬が顔を押さえたまま、仰いで語る内容に…ナターシャは素に戻って無表情で寒気を感じるのであった。

 

 

 その頃、海上の何処か…一体のIS無人機が何かを探していた。

 受信されるとある()()を頼りに海原を行く。

 暫くすると、信号元を発見しそれを抱きかかえる。大きめのリンゴ位の透明なカプセルであった。

 その中には、猫がモデルと思わしき薄緑色を基調とした手の平サイズのロボ娘が入っている。

 彼女?は両手を大きく振って無人機を歓迎していた。

 そして、新たに届いた彼女からの信号は…

 

「我、重要情報入手完了…ニャ」

 

 通信内容に無人機が頷くと、二体は揃って帰路につく。

 二体は妙に平べったい飛行機に収納されていった。




はい、何とか一か月以内に投稿完了しました。
前半のラヴコメに耐え切れずに出してしまった感が半端ねぇです…。
強制的にですが、一夏ラヴァーズの内模様はとりあえず落ち着けました。
この結果がどう作用するかは…自分にもわかりません。(;´∀`)

さて、次回は今回の裏話――と、言って大人サイドの話を1~2話して今度こそ『銀の福音編』を終えたいと思います。
その後、2~3話くらいオリジナルして、感想欄でも良くしてくださる
『インフィニット・フレームアームズ~俺アームズでブンドド~ 』の作者『たちゅや』氏との
コラボSSを書きたいと思ってます。
そして、ほぼ完全にオリジナル編となるだろう小説IS四巻目にあたる『夏休み編』へ入っていく
予定です。
ハードな(自身の労力&能力的に)予定ですが、こんな感じで進めたいと思います。
…一応、四巻を読み切らないとなぁ。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA61ss:良妻賢狐

小難しい話は苦手です…それ故、また丁度いい長さに成ったので投稿です。

では、どうぞ御ゆるりと。


 政治に野心がある、好策がある、結党がある、政治は清浄を愛し、

 潔白を求むる者の入らんと欲する所ではない。

 

 内村鑑三 「所感十年」

 

 

 暗闇から急に開けた視界は青と蒼が一面に広がる。

 蒼には人型ロボットが此方を見て頷いていて、周りを見渡すと白と紅、白銀の天使のようなISが戦いを繰り広げていた。

 青に目を向けると、みすぼらしい小船があった。どうやら、ソコが到着点らしい。

 

 視界は展開しつづける。空母に横付けされた先程の小船、そこから空母へ吊り上げられてゆく

不釣り合いな高価そうで複雑な機械。

 中身が空となった小船が雷撃処分される。空母の乗組員らは()()()敬礼で挨拶を交わしてゆく。

 これらは全て人の足元から見上げたような視点である。

 

 一際小奇麗で大きめの部屋へついた。どうやらここは…船長室らしい。

 そこにあったパソコンからデータを抜き取り、机の上にあった指令書を写真に収めてゆく。

 それらには、《アメリカ大統領》の証印があった。

 

「さてはて?これは一体どうゆう事なのでしょうか??」

 

「……」

 

 俗称、白い家の主は特別会談用に用意されたディスプレイを無言で睨めつけている。

 そこに映るのは露出度が高く青い着物を身に纏う妖艶な美女であった。

 彼女は揶揄(からか)う様に、上記の光景-先程ながした映像を右下にリピートしながら問う。

 

「あらあら、だんまりですか~?先程から何度も問うてるじゃないですか

 『銀の福音(シルバリオン・ゴスペル)の暴走事故を起こし、IS学園ないし日本を威力偵察』した事を」

 

 彼女は子供の様にころころ笑うが、目は剣呑な光を湛えている。

 

 さて、いま語られているのは今回の事件『銀の福音暴走事件』の裏だ。

 福音の暴走は偶然や人的ミスではなく、意図して起こされたモノである。

 実働テスト中にとあるプログラムで福音の管制プログラムを改組し全てが敵に見えるようにし、逃亡ルートを臨海学校中のIS学園組とIS学園そのものを一直線で結んだ経路にする。

 あとは、暴走を秘密裏に解決してほしいと関係各所に圧力を掛けるだけだ。

 密漁船はそれに見せかけた調査船である。この中には沢山のレーダーと解析装置がつんであった。

 そして、それらを回収したのはアメリカ海軍である。

 

「……貴公の望みは何だ?ナナジングループ理事長-ミコト・アマテラ」

 

「あら、やっとお口を開いてくださいまして?アメリカ大統領様」

 

 この世界情勢を揺るがしかねない情報を持ってアメリカ大統領に映像会談を臨んだ妖艶な美女。

 彼女こそがコトブキカンパニーの親会社であるナナジングループの理事長、

そしてゲムマ群島首長国の大氏族の一人でもあるミコト・アマテラである。

 大統領からの反応があった事にワザとらしく驚いてみせ、要求を告げた。

 

「大国の主ともあろうお方がこんな卑劣な手を使い、未来ある子供たちと(わたくし)の大切な子飼いを手に掛けよう等と言語道断。出来ればこの事実を(おおやけ)にしたいところでございますが…世界的な混乱を生む事は必須」

 

「…何が望みなのだ」

 

「あらあら、()かしては嫌われますわよ?

 だから、此方は涙を呑んで…先ずは私の関係する国と社、

 それとIS学園に裏からチョッカイする事を止めて下されば黙秘して差し上げましょう」

 

「……何の事だ」

 

「あらあら、まぁまぁ!此方もダイジェスト動画をご用意して差し上げなければ存じない?!

 では、お待ちください、確か此方のファイルに作っておいたはず」

 

 国家機密の内容を平然と喋り、しかもそれを押し止め様とするミコトに大統領は米神を押さえながら制止させる。

 ディスプレイの先でウキウキと端末を操作しようとしていた彼女はその反応を見て、

大変残念そうにして姿勢を正した。

 

「はぁ~、ではそちらのご様子からして黙認という事で宜しくて?

 それでは、次の要求…と、いうよりは商談になりますねぇ」

 

「商談?脅迫の間違いではないのか?」

 

「いえいえ、あからさまに搾取するとお互い(わだかま)りが残ります。

 内容は簡単に言えば、トレード(交換)ですわ」

 

 先程までの彼女の様子からみれば、まだ真面(まとも)な提案に大統領は腹芸を警戒し気を引き締める。

 そして、彼女から出た言葉は…

 

「今回、問題を起こした()()()()()()()銀の福音のISコアと、

 我社が所有している研究用のISコアのトレードを提案させて頂きます。

 おまけとして、装着者(ナターシャ)も込みで」

 

「装備もISコアに残されているだろう我が国の機密を奪い取るつもりか」

 

「そんな事は御座いません。奪う積もりならトレードなんてしないですわ。

 コアもISコア()()、機密に関わる情報部分は消去してもなんら問題ございません」

 

「…純粋にただのISコア同士の交換という事か。一体何を企んでいる」

 

「あぁ…企むだなんてそんな積もりではございませんのに。

 ただ、ウチの子が、お友達同士が大人の勝手な都合で別れさせるのが可哀想だというから…」

 

 銀の福音そのものを接収する腹かと思い大統領は探りを入れるが、ヨヨヨ…とシナを作って

心外だと言い張るミコト。

 わざとらしさと彼女特有のテンションに精神疲労を感じながら、大統領は提案を呑むしかないと溜息を()いた。

 

「…正式な書面は後で作らせる」

 

「あらまぁ。それではコレで宜しいという事で?」

 

 憤慨だが、要求を呑むしかない。これが大統領の選択であった。

 せめてもの反撃で、要求を断った時にはどうしたのか…これを尋ねるとミコトはうすら寒い微笑を浮かべて答える。

 

「そうですねぇ…手始めはそちらに点在する我社を半分くらい撤退ですかね?

 あ、環境船は全部ですね!」

 

「……なっ」

 

 彼女の答えに大統領は息が詰まる。アメリカでのナナジングループの経済活動の収縮。

 これには大変な意味があった。

 グループはアメリカが手廻しきれてない中の下以下の所得層への福祉・保険事業を担っている部分がある。

 国民の大半を占めるだろうその所得層が放置される、国は国民を見捨てたどころの騒ぎで済まされないだろう。

 

 他には、アメリカ国内では生産不可能であった高性能半導体などの生産工場でのリストラや閉鎖も国民を圧迫させる。

 

 極めつけは『環境船』だ。これはリサイクルを司る海上基地(メガフロート)である。

 あらゆるゴミを分子レベルで再変換、ゴミを各種金属や物質のインゴットやビーズへと再資源化(リサイクル)させる。

 例えば、電子機器ならば鉄、銅、金などの金属インゴット、プラスチックビーズへと変換されるだろう。

 さらに大気汚染にも対応しており、二酸化炭素は通常の空気成分へ調整、余剰分の炭素は極細のハイパーカーボンチューブへと再資源化となる。

 環境船自体の環境への配慮も完璧だ。船のエネルギー元はUEシステムで賄われており、

消費による環境汚染の心配は殆どない。

 因みに、ゴミの分子変換による再資源化は元は束が作った部品再利用ロボットであり、

 それを十千屋が再設計することによってこの環境船が完成した。

 

 この環境船は各国に貸し出しされており、今や様々な国の沖合に浮かんでいる。

 貸し出し料金は要相談、それと同時に再資源化されたモノを数パーセント渡す事だ。

 

 そう、アメリカも勿論この環境船に頼っている。もしそれが引き上げられたのなら、ゴミ問題、環境汚染問題が真っ先に降りかかってくるだろう。

 

 ハッキリと言おう…ナナジングループが撤退すれば、アメリカは立ち行かなくなる可能性が高い。

 恐ろしすぎる事実につい大統領は声を荒げてミコトに詰め寄った。

 

「貴様は我が国の国民を何だと思っている!?」

 

「別に?何も?」

 

「…なぁっ」

 

「我社、いえ我が国は国民を食べさせてゆけるだけの力はありますから。

 他国がどうなろうとあまり気にしませんね。

 そちらだって、自国の裏にある他国が大変になっていても別に構わないですわよね?

 まぁ、人道支援くらいは私達もしますけど」

 

 飄々と淡々と自分の会社が撤退して起こる影響に対して興味がないと彼女は言った。

 元出張先の国民が自分たちの撤退のせいで飢え様が喘ごうが、最悪死んでしまっても…

なぜ気にしないといけないのかと逆に訊ねてくる。

 背筋が凍る様な思いをする大統領、改めて思い知らされたかもしれない。

彼女らに弱みを握られるとはどういう事なのだろうと。

 ギリッ…と、歯ぎしりをさせて大統領は彼女の要求を呑む事しか出来なかった。

 

「この魔女が…女狐がっ」

 

「はいはい、私のハンドルネームはCaster(魔術師)で、任せて安心、良妻賢()なので合ってますわ~♪」

 

 せめて、せめてもの悪態をついたが…軽くいなされ、顔を歪ませながら会談を終わらせる事しか大統領は出来なかった。

 

「はぁ~、ヒーロー気質で一番じゃないと我慢できない風土の所派は難儀ですねぇ」

 

「ミコト様…企業系のやり取りとはいえ、外交問題になりそうな発言は控えて欲しいのぉ」

 

「まぁ、ボウズが再び傷物にされた事に腹を立ててるのは分からんでもないがの」

 

「あら、ロジン・ナンセイ、フクジュ・ナンセイ、言いますねぇ」

 

 しょうもない男だと悪態つくミコトに、背が低く長頭で長い髭を生やした老人-フクジュと、

逆に背の高くフクジュとよく似た老人-ロジンが彼女を窘める。

 

「だが、此方の利益を妨害されたのも事実だな」

 

「うむ、彼は我ら…いや、この国に利をもたらす存在だからの」

 

「ええ、エビス・イサナ、オオクロ・オオクニらの言う通り。

 まだまだ成長の余地ある金成る木-それがユウキ・トチヤという存在ですわ」

 

 一方でミコトを擁護する者たちもいる。

 釣りが好きなのか魚や釣竿の刺繍が入っている着物を着たエビス・イサナ。

 彼らを囲む円卓に小袋をのせ木槌のキーホルダーを手遊びしているオオクロ・オオクニであった。

 

「でぇ、手討ちは向こうが手を出さないで良いのか。今までの事を考えればもうちょいよ」

 

「よしな。

 余計な(わだかま)りは足を引っ張る事になるんだ。やるべき事はまだまだ沢山あるんだからね」

 

「もう、タモン・シテンは警備・軍需の担当だからって血の気が多すぎますよ。

 サラ・イチキシマの言う通り、まだまだ道半ば…彼が提案した夢物語はまだまだ続くのですから」

 

 中国武将の様な強面-タモン・シテンは今回の会談の確認とチョッとの欲を出したが、

少しキツめの美女-サラ・イチキシマに窘めミコトも同意する。

 そして、十千屋から与えられたものは大きいと暗に言った。

 

「まぁまぁ、皆の者…彼の者も助かり、会談も無事に終わった。

 気を立てるのはもう止めようではないか?一番の功労者にまだ礼も述べておらんしの」

 

「ふぅ~…カイシ・ミロクの言う通りですわね。おチビちゃん、え~と…シルフィーシリーズの」

 

「あいにゃ!

 十千屋 雄喜 所有のD-Phoneの内の一体、シルフィーシリーズ・スカウトのアイズにゃ!!」

 

「ふふ、ご苦労様でした、アイズちゃん。

 我が社はアナタとそのご主人様に礼を述べさせて貰います。ありがとう。

 我が社は貴方のままであれば力を貸す事を(いと)わない事をご主人-十千屋君に伝えておいてくださいね」

 

「あいにゃあ!!わかりにゃした!!」

 

 映像会談の為に薄暗くしていた室内はいつの間にか明るくなり、個々の全容が明らかになる。

 ナナジングループの理事長、社長、七人の重役が円卓に座っており、その中心にキャスター付きのデスクが置いてあった。

 その上に全長約八センチの少女?が立っている。

 

 会談によって少々気が立っていた皆を背が低く、笑うとに額や鼻のまわりにシワが寄る愛嬌の良い表情が特徴的なカイシ・ミロクが宥め、ミコトが情報提供者である小さな少女-アイズに礼を述べる。

 今回の情報を得た経緯はこうだ。

 銀の福音との初戦時に十千屋は装甲下の格納スペースに居れていた彼女を不審船に侵入するように命令した。

 その後は、彼女の装備である光学迷彩とシルフィーシリーズ・スカウトの装備を使ってそのまま諜報開始、諜報後は自身が入るカプセルを再物質化(ダウンロード)し束の無人機が回収したのである。

 まさか、誰もが小人によって諜報させられていた等と思ってもみないだろう。

 

 さて…A.I.Doll-Phone、通称「D-Phone」の詳しい説明はまた次の機会…

という事で、今は意思を持った全高8cm前後の少女型携帯電話だと知っておけばいい。

 

 

 褒められてホクホク顔のアイズはミコトの秘書によって持ち出され帰宅となった。

 そして、ナナジングループを支える者たちは次の議題へと移る。

 

「ミコト、米国の方はこれで分かったけど…イスラエルの方はどうなっているんだい?」

 

「はいっ、旦那(社長)様。この様に致しましたわ」

 

 次の議題とは、イスラエルへのアプローチであった。

銀の福音はアメリカとイスラエルの()()()()なので、矛を向ける先はそちらにもあった…

と、いう訳である。

 話を促したのはミコトの夫であるハクノ・アマテラ。妻が理事長で夫は社長、そして七人の重役というのがこの会社のトップ陣営だ。

 彼の容姿は髪の色は茶系で、学校のクラスで言えば3番目くらいに整っており、目立たず、

かといってモブすぎない…というどこか普遍的な感じである。

 が…この男、若く見られる事が多いが……九人の(狂的ファザコンな)娘持ちであった。

 

 

 …話を戻そう。

 

 ミコトが手元の端末を操ると円卓に座る各自の目の前に空中ディスプレイが表示される。

 そこには彼女が考えた対イスラエルへの概案が載っていた。

 

「例の特区に関する条件を多少厳しくしたのかい?」

 

「ええ、あの国は資金力はともかく国内問題が割とですから。

 ですので、それを考慮しない条件付けを提示させていただきました」

 

「まぁ、元々簡単に渡すわけがないからの。

 特区の住人は元からあそこら辺の帰属意識も殆ど無いからのぉ」

 

 彼女の提案内容に各自は直ぐに出来て妥当なものだと判断してゆく。

 その内容とは、グループが中東で運営している経済特区の事である。

 この特区は元は難民キャンプの密集地を整理して作られたものだ。

十千屋が不意に何か思ったのか、【ジオフロント技術】【テラフォーミング技術】

【食物工場(プラント)技術】の論文を持って来たのが切っ掛けである。

 彼は難民問題を単純に考えたら「とにかく安心して定住できる場所があればいい」と思案し、

既にほぼ定住状態になっているキャンプ地の大改造を思いついたのだ。

 そこに住むのは難民三世や四世、既に帰るべき家も土地も忘却の彼方となってしまった彼らに

衣食住を約束出来れば最低限の協力をしてくれるだろうとの見込みであった。

 現在は紆余曲折を経て、()()()のTクリスタルの結晶炉を中心とした工業都市となっている。

 大発展したそれらは運営しているグループが経済特区として事実上の支配をしている。

だが、そこの土地や人は元はと言えば中東のモノであったはずなので、地域の国々がちゃんと運営できるのであれば譲渡する用意はあった。

 しかし、この地域は大小様々な問題があり過ぎるので条件を満たした国はまだ存在しない。

しかも、物理的に奪おうとする国やテロリストが絶えないのも問題である。

 

 新たなエネルギーや数段先に進んだ技術を持った都市、誰もが喉から手が出る程に欲してやまないだろう。

 だからこそ、今回の件に対しての対抗策となった。

 結果、米国と共同したイスラエルは夢の都市を手に入れる事が難しく成ったのである。

 

「しかし、あの国が直接なにか仕出かす可能性は否定できませんね。

念のため、特区の議長と何故か十千屋君を慕ってた私設部隊に連絡を入れときましょうか」

 

 ミコトがそう締め括ると全員が賛同し、銀の福音事件に対する協議は一応の終わりとなった。

 けれども、彼女らの会議はこれで終わりではない。

これが終われば次、次が終わればそのまた次とまだまだ決めるべきものは沢山ある。

 彼女らは自らの会社、社員、果ては自分の国の為にこうして営業と暗躍を続けるのであった。

 七つの神の名を冠し、それをまとめ上げる彼女らの目指す明日とは…一体、何であろうか?

 

 

「…って、感じのお話だったって」

 

「おい束、怖い事を聞かすんじゃない」

 

 十千屋の事を聞くために千冬は束から預かったD-Phoneで連絡を取ったが、

 何故か今回の舞台裏-社会の闇への話となり、ただ一人で戦慄するのであった。




はい、今回は…実は恐ろし過ぎるオリ主の親会社―ナナジングループに焦点を当てた話となっております。
今回見て、分かった方は分かるのかなぁ…?7人の重役達は七福神を基にした名づけにしてあります。
オリ主の会社が《コトブキ》なら似た関連で目出度いのは…で、七福神です。
そして、7人で社長は違うと思い、7人の重役とそのまとめ役を考えました。
それでスポットを浴びたのが…太陽狐女神様でした…(;^ω^)

大人サイドの話はあとちょっと続きますが、あと2~3話で『夏休み編』に入れる予定です。
その前に前回書き起こした通りにコラボの方をやりたいですね。
では、今回の話は此処までです。

…今回は上手く書けたのだろうか?政治と陰謀の話はニガテナンジャー…(;´・ω・)

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA62ss:もう壊れちゃったんだもん

今年最後の投稿となりますが、人によっては胸糞悪い展開があるかもしれません。

では、どうぞ御ゆるりと。


 敗北とは、心が折れた瞬間の事を言うのであろう。

 事実が、理性が負けてはいないと語っていても、心が認めていなければ…それは勝利ではない。

 故にそれは、謎の敗北感と言うのであろう。

 

 

 腐海の中に落ちている物を一つ、また一つと拾い上げる。

 これはまるで、今まで自分が投げ捨ててきた物を救い上げるかのようだった。

 

「私は、一体…何をしてるんだろうな」

 

「はいはい、変に黄昏てないでドンドン片付けましょうね~」

 

 皮肉な笑みを浮かべて()()を拾い上げる女性に、コンセント頭のロボットの頭頂に乗る人形から叱咤を受ける。

 ゴミを拾い集める女性は千冬…そう、いま彼女はIS学園の自室の掃除を(強制的に)やらされていた。

 

 

 事の始まりは波乱の臨海学校から帰ってきたところからである。

 臨海学校最終日の次の日が休日になる様に調整されていたので、生徒も教員もIS学園に着くと

足早に自室へと向かう者が多かった。

 千冬もその一人で、仕事が終わると一直線にIS学園で用意されている自室へと向かう。

 臨海学校での疲れもそうだが、一人きりに成りたい理由もあった。

 

「…もう、いいぞ」

 

「はいっ、…て、うぁぁ」

 

 千冬は部屋に入ると鍵を掛け、自分一人である事を確認する。

 彼女は確認し終わると、バックを机の上に置いた。

 すると、中から手の平サイズの人形の様なモノが声を出しながら出てくる。

 人形は女の子のようでバニーガールとナースとメイドをごちゃ混ぜにした様なデザインであった。

 が、・・・・・千冬の部屋の荒れ具合にドン引きする。

 腐海、ゴミ部屋、干物女の末期部屋など、女性に対しては思ってはいけない事が少女の頭に(よぎ)った。

 

「さて、お前は一体何なんだ?束から通信用に預かったのだが」

 

「はい、私は束様のD-Phone、フレア・ナビットのシロウサと申します。けど…」

 

 少女の名前はシロウサ、束が所有する少女型携帯電話だ。

 フレア・ナビットシリーズの色は何種類かあるが、この子は全身が白と基調とされ名前から

連想する通りに白兎をモチーフにされているようである。

 愛くるしくどこか儚げに見えるD-Phoneであるが、今の表情は苦虫を噛み潰したような見た目と相反するものであった。

 

「けど、なんだ?」

 

 「何なんですか!この部屋は!?」

 

「いや、何だと言っても普通の部屋だが」

 

「普通の部屋?

 こんなゴミだらけの部屋が普通であってたまるものですか!!」

 

「…ぬぅ」

 

 そう、シロウサが驚いたのは部屋の汚さであった。

 そこら中に脱ぎ散らした綺麗か汚いか分からない服、ゴミ箱は溢れすぎて埋もれている、

幾つもある半透明のゴミ袋の中身はちゃんと分別されているか分からない。

 …この一言で言えばいいだろう。足の踏み場がない程に散らかった部屋、コレが千冬の部屋であった。

 はっきり言ってしまうと、千冬は私生活困難者だ。

 仕事中は凛とした女性であるが私生活はだらしなく、幼かった一夏が家事で姉を支えようと決断したくらいである。

 

 「掃除」

 

「なに?」

 

 「掃除します!ええ!!何が何でも、掃除します!!!」

 

「いや、別に掃除などしなくても。それよりも大事な要件が」

 

「嫌です!絶対に掃除します!!

 だって、千冬様が今度の夏休みに束様(自分)のお家に遊びに行くまで、私はずっとココに居るんですよ!?

 こんなゴミだらけの所なんて嫌です~~!!こんな見た目でも私は精密機械なんですからぁ!」

 

「ぬっ、う~ん…」

 

「私、充電君を借りてきます!千冬様はゴミ袋と掃除用品の準備でもしてください!!」

 

 シロウサはそう叫んで千冬に部屋の出入り口を開けさせると、自分の飛行ユニットを再物質化(ダウンロード)しIS学園に停泊されたままのほぼ十千屋の私用の社用船(テーサウルスアルマ)に充電君を取りに行った。

 小さいが故にあっという間に見えなくなる彼女を見送った千冬は、しょうがないと掃除のための準備を始める。だが、その準備の為にますます部屋が散らかったのは言うまでもない。

 

「別にキッチリ掃除などしなくても大丈夫なんだが…」

 

()部屋に住むのは女性として、と言うか人として終わってる感があります」

 

「くっ…」

 

「そこぉ!なんで、空の段ボールを必要エリアに入れてるんですか!」

 

「いや、まだ使え「使うかどうか分からない物は廃棄候補です!!」る…」

 

 この後もシロウサの叱咤を受けながら、千冬は部屋の掃除を進めてゆく。

 実際に彼女よりも指示を出しながら充電君を操って掃除するシロウサの方がテキパキと片付けていった。

 

「ふぅ、とりあえずスッキリです。本当は拭き掃除もしたいですが」

 

「…この部屋、こんなに広かったのだな」

 

 なんということでしょう、あんなに汚かった汚部屋が…並みのビジネスホテルの一室の様になりました。

 これで一息つけるとシロウサは胸を張り、千冬は綺麗に片付いた自室に妙な感想を抱く。

 

「まぁ…ともかくだ。これでようやく聞き出せるな」

 

「そうですね。早速、束様に連絡をとりますか?」

 

「その前に気になる事があるのだが」

 

「はい?」

 

「お前、D-Phoneとはなんなんだ?私には少女型の小さなロボットにしか見えないのだが」

 

「パンフレット等の謳い文句的な説明しか出来ませんよ?」

 

 元々、シロウサは銀の福音事件の直後に緊急搬送された十千屋に付いて行った束から預かった物である。

 この臨海学校で込み入った話をすると彼女は思ってたのだが、そうも言ってられなくなった。

 その為に自分に秘匿直接通信が出来るからとシロウサを千冬に預けたのである。

 見た目から束か十千屋、はたまた両者の趣味だと千冬は思ったが…

喋るわ、自室の駄目だしするわ、色々と感情豊かでまるで生きているようだ。

 その為、彼女の今一番の興味はシロウサに移っていた。

 

 とある島国で画期的な携帯端末が開発された。

『A.I.Doll-phone(Artificial lntelligence Doll-phone)』通称『D-Phone』

『人工知能内臓』-つまり“意志を持つ”携帯電話『D-Phone』は、

『超・情報技術革命(Super IT revolution)』と評された。

 人々の生活をより高度で豊かなものへと導く“携帯秘書”-それが『D-Phone』である。

 

『D-Phone』最大の特徴は【万能情報管理庫(アーカイブ)(Archive)】から【情報顕現伝送網(ネットワーク)(Network)】を介し情報を【多機能装甲(アプリケーション・アーマー)(Application-armor)】として【再物質化(ダウンロード)(Download)】し、機能を拡張する点にある。

 これにより『D-Phone』はありとあらゆる情報・機能を取得でき、家電・機械や兵器にとどまらず、史実に記された遺物や架空のキャラクターなど“有形無形に問わず”全てを拡張装備として纏う事が可能なのだ!

 

「…と、まぁ。コレが私達(D-Phone)の謳い文句ですね。実際には再現できる限界がありますけど」

 

「なんだ、それは…ある意味でIS並みにマズイ気がするんだが」

 

「ちゃんと独自セキュリティ【3D(Disaster&Disclosure&Defender)】が組み込まれてるので、

 私たち“意志を持つ”携帯端末による『災害・事故の抑制/情報漏洩』はまず起こりえません。

 その基本概念は“拡張機能の悪用”“指定外端末のとの接続(リンク)(Link)”の禁止です」

 

 千冬は思いっきり溜息をついてしまった。たった全高約8cmに秘められた超技術に頭が痛くなってくる。

 D-Phoneのあり様はまるで()()ではないかと、連想したが…束が絡んでいると思い浮かぶと、

それは否定できなくなってきた。

 臨海学校だけでも疲れたというのに、これ以上疲れたくないと彼女は早々に話を切り上げる事にする。

 

「……束との連絡はまた後でだ。もう、疲れた。寝る」

 

「あら?おやすみなさいませ、千冬様。

 あっ、束様への連絡でしたら二・三日後の方が宜しいかと。

 雄喜様の御検診が終わってると思いますし」

 

「そう、だな。そうする――おやすみ」

 

「おやすみなさいませ」

 

 千冬はスーツを放り投げ、楽な格好になるとベットへ身を投じる。

 今までの疲れか、久し振りに綺麗になった自室の清涼感のせいかあっという間に睡魔が襲い掛かってきた。

 そして、明日の朝にスーツを放り投げた事をだらしがないとシロウサに怒られるのであった。

 

 

 後日…

 

「はろはろ~、束さんですよ~?ちーちゃん、シロウサ?元気~」

 

「はい、()()()()良い干物女のお世話をしてますが、元気です」

 

「…お前って、意外と性格がキツいんだな」

 

 さて、二日程が経ち千冬は改めて束に連絡を取った。

 シロウサが自分の背面とタブレットをコードで繋ぎ、通信を始まる。

 直ぐに通信は繋がり、元気そうな束と返答が何気にキツイシロウサとの会話で始まった。

 最初に話す内容は、まずは懸念事項である十千屋の体調である。

 結果は健康上は問題なし。但し、ISを使った自己修復のせいで色々と体質が変わったらしい。

 肉体の金属系原子含有量の増大、骨密度・筋肉繊維の密度の上昇――それに伴う肉体の頑強さの向上。

 阿頼耶識システムの度重なる過剰使用によって、機能不全が右半身全体に及んだこと。

 左腕肘上までの焼失は左足と同じ様に義肢で補う事になった。

 

 色々と問題しかないようだが、命には別状無し。

 新しい義肢や専用機に()()()()()()()ISの調整が終われば直ぐにでも復帰できるらしい。

 これらの報告を聞いた千冬は微妙な表情になるが、一応の納得をしておく。

 もう、彼がある種の改造人間になってゆく事にツッコムのはもう疲れていた。

 今年に入ってから事ある(ごと)に問題が起きているため、本来は喜ぶべき報告にも眉間に皺が寄る感覚がする。

 彼女は皺をもみほぐしながら、思っていた事を口にした。

 

「なぁ、お前は…私の知っている()()()束なのか?」

 

 一体、何を言っているんだ…と、彼女は自分の発言に嫌悪を抱くが、

束はキョトンとした顔を一瞬してから透明な笑顔でそれに答える。

 

「う~ん、それだと…そうじゃないって答えた方がいいかな」

 

「束?」

 

「だって、篠ノ之束はもう壊れちゃったんだもん」

 

「……(パクパクパク)」

 

「あ、驚いてる?」

 

「お、驚くに決まっているだろうが…。それだとお前は一体、()()()()

 

 何でもないかの様に話す彼女であったが、その内容に千冬は言葉を失った。

 珍しい物を見たという表情をしながら束は千冬を(うかが)うが、困惑気味な彼女はオウム返しの様な返答しかできない。

 そして、千冬の質問は――十千屋と束の出会いまで話が遡る事になった。

 

 今から約三年前、束が467個のISコアを残して全世界から失踪した時まで遡る。

 最初の数週間は自由気ままに逃亡生活を楽しんでいたが、ふと思い立ち十千屋に接触しようと思った。

 ISコアの基礎構造はTクリスタルに繋がっており、世間的には彼の父親が発見した事になっているが本当は十千屋が発見した事を調べ上げていた。

 だから、直接会いに行ったが…まさか、ワンパンKOされ囚われるとは思ってもいなかった。

 ↑ここの時点で既に千冬はドン引きである。

 彼はIS発表直後から束の動向を気にしており、いずれ来るだろうと待ち構えていたらしい。

 監禁された束は、そこで壊された。

 

「ねぇ、ちーちゃん。拷問の肝ってのはね、心をへし折る所に有るんだよ」

 

 気絶している間に身体検査を受けたのか、彼女の持っていた道具-無論、隠し持っていた物を含めて全部取り上げられ、貫頭衣を着せさせられた。

 その姿で、ベット、トイレ、シャワー、簡易な食事が出てくる穴しかない白い密室に閉じ込められたのである。

 そして、彼女にはとある()()が掛けられていた。

 その内容は【想定できる現実に起こりえる、最悪の未来の想像】である。

 

 その想像は、今の世の中に不満を持つ奴らが暴走した世界。

 ISコア(篠ノ之束の思い)は全て(否定)され、見せしめにISの象徴、其の繋がりである千冬、一夏、箒は殺される。

 これだけでも、心を壊すのは十分かも知れないが…優秀過ぎる束の脳は他の可能性を綴り続けた。

 それは、千冬、一夏、箒の誰かが生き残り、この様な世の中を生み出した束に対して復讐しにくる。暴走した者達の対束の最終兵器(操り人形)にされる。

 この想像は彼、彼女らが殺された時とは別の方向から心を蝕む。

 そして、寝ても覚めても最悪な想像は止まらない。

 何故なら、彼女の脳は常に覚醒状態…いや、暴走状態だからだ。

 彼女の意識が在ろうが無かろうが、脳は思考する事を止めない。

 だから、暗示(提示)された【最悪の未来の想像】の想定を演算し続ける。

 自分で考えられる故に、心が最も傷つく想像を思い浮かべ続けた。

 

 彼女が思いもよらず自分を責め続け、廃人の一歩手前で十千屋とリアハが現れた。

 彼らは彼女の起こした罪を見つめさせ、どうすれば最善であったかを教える。

 

「実はね、白騎士事件を起こした日から一週間後に国際宇宙ステーションの全世界への生放送が

 予定されていたんだよ」

 

 白騎士事件は学会にISを発表したが、認められなかった事で自棄を起こして仕出かしたものである。

 しかし、それを押し止めその生放送にISで乗り込めば、全世界がISを見る事になっただろう。

 想定されたスペックを現実で発揮されている所を見せつける事が出来れば、

学会の嘲笑など吹き飛ばす事が出来たはずだ。

 ISは机上の空論ではない、現実で在ると学会の頭でっかち達に突きつけられる事が出来るのである。

 だが、束はそこまで考えつかなかった。自分の感情に振り回され、ISの理想とは反する世界を

結果的に作ってしまったのだ。

 

 その事実を知らされた彼女の心は遂に…砕け散った。

 心砕けた彼女は自分の可能性を求めて、幼児化してしまう。

 そうしてしまった彼女を育て直したのが、十千屋達である。

 元から優秀な彼女の頭脳と体は、十千屋とリアハから褒められたらり叱られたり、()()()()()と同じ様に接されながら急激に成長した。

 それと同時に肉体の制御も教えられ、人並みの感性を得られた。

 こうして、今の()()()束が誕生したのである。

 

「束…お前はっ」

 

「あ、とーちゃんとかーちゃんを責めるのは止めてよね。」

 

「だがっ!」

 

「こうでもしないと()()()()は止まらなかったし、ちーちゃんが驚いた異常に普通の感性を持った私は生まれなかったんだから。うん、()()()って偉大だね!」

 

「……そうするしかなかった。その事については、そうしておこう。

 だが、やはりお前は篠ノ之夫婦の事を」

 

「あー、その遺伝子提供者でしかないモノね。

 私の父ちゃんと母ちゃんはとーちゃんとかーちゃん(十千屋とリアハ)だから」

 

 彼女の口調から、本当の親である篠ノ之夫妻の事は何とも思っていない事を知る事になった。

 彼女の言い分はこうである。

 篠ノ之流に固執している祖父の言いなりである父親、

その夫に付き従い自分の理解を超えていた束を見て見ぬふりをし続けた母親。

 こんな者が親といえるだろうか?

 それに比べ、正しい事を誉め、間違っている事を叱り、束を正面から見つめ続けた十千屋と

リアハの方がよっぽど親らしいではないか。

 

「それにね?ちーちゃんと違って、本当に叱ってくれたのはとーちゃんとかーちゃんだけだもん」

 

「なに?」

 

「だって、ちーちゃんが私を叩き付けのって()()()()でしょ?

 私は別に他人が居ても居なくても関係ないし。

 でも、とーちゃんとかーちゃんは何がイケなくて、どうしたらいいかを()()()に一生懸命に教えてくれたもん」

 

 千冬は気づけていなかったからかも知れないが、束は認識欲に飢えていた。

 親も回りも異常な束を拒絶するか、存在を無視している。

 その為、自分にいつも突っかかって自分に付いてこれる千冬を認めていたし、

何の思い込みもなく接してきた幼い箒は大切なものであった。

 そして、その二人に関係する一夏も自分の認識内となった。

 だから、ISと言う自分の存在を否定した学会(世の中)に激昂し、興味を失ったのである。

 

 だが、千冬による束の矯正は彼女自身に届いてはいなかった。

 千冬は社会の常識と自分の正義感(独善)により、反社会的な束を叱り付け矯正しようとしたが、

彼女にとってはどつかれるのが嫌だから従っただけである。

 束にとっては余計なお世話、自分のお気に入りであった千冬だから聴いてみただけ、

結果的に得をしているのは他人の方。

 だから、束にとって千冬の行動は()()()()であった。

 

 しかし、十千屋とリアハ、その周りの人々は束の事を普通に扱い、理解しようと向き合った。

 特に十千屋とリアハは束を自分の子供様に扱い、彼女の心を育てていく。

 

「こうしたとーちゃんとかーちゃんの真実(狂気)(洗脳)を受けて、このニュー束さん。

 ()()()束さんが生まれたのだ!」

 

 一度壊し、作り直す。人にそれを行う事は洗脳と言っても過言ではないだろう。

 その事に千冬は恐怖し、それと同時に後悔もする。

 当時の自分がもっと束に対して近寄って考えていたら、違った結果になっていたのではないかと思わざるおえなかった。

 

「どうしたの、ちーちゃん?」

 

「いや、いい加減この話が長くなったからな。話を切り上げようと思っただけだ」

 

「そう?じゃ、他に聞きたい事はあるの?」

 

「ああ、お前のISとD-Phoneは()()()()()()()()って事だ」

 

 自意識を持つ超AI、電子情報を具現化する能力、全ての関連するAIが繋がりネットワークを形成する。

 これらは全て、ISとD-Phoneの特徴だ。

 

「アハハ!やっぱり、ちーちゃんもそう思った?」

 

「ああ、気味が悪い程に似すぎている。…その態度だと、そういう事だな?」

 

「うん!D-PhoneはISの技術を利用して、束さんととーちゃんで作った物だよ」

 

「…危険だな」

 

「あー!ちーちゃん、D-PhoneをISコアの代わりになると思ったでしょ。それ、無理だから。

 ISコアとD-Phoneは似て非なる物だから流用出来ませ~ん!!」

 

 束から告げられたISとD-Phoneの関係性に危機感を覚える千冬であったが、それは束から否定された。

 もし、D-PhoneがISコアの代わりになるとしたら、とてもマズイ事になったかもしれないがソレは回避された様である。

 しかし、「ISとD-Phoneを同時に使って面白い事は出来るかもね~?」と、

不安になる様な事を束が言っていたのは聞き流したいが。

 

「で、もう聞きたい事は無いの?」

 

「そうだな、今のところはもう無いな」

 

「じゃ、折角の通信だし世間話でも~」

 

「た、たばちゃん!お願い、加わって!!」

 

 千冬にとって頭と心が痛む束との会話が終わろうとしたとき、束が居る部屋の右奥に隣部屋の

ドアがあったのかリアハが飛び込んできた…全裸で。

 束はなに?という感じで振り向いていたが、流石に千冬は吹いた。

 

「今回のユウさんは、凄すぎ「RuOOOOOOONNNNNN!!!」きゃーー!?」

 

 隣部屋から飛び出してきた彼女であったが、何かの咆哮が聞こえたと思ったら出てきた部屋へ引きずり込まれる。

 そして、開きっぱなしのドアからは…獣ような叫び声と何かを(はた)く様な音が聞こえてきた。

 

「かーちゃん…今、束さんが行くからね!!」

 

 束は通信中にも関わらず、その場でマタニティドレスを脱ぎ去り、下着を放り投げ、リアハが消えていった部屋へ駆け出す。

 千冬は束の裸体、張ってきた乳房、黒ずみ出した乳首、肥満と違う膨らみの腹部、

それを間近で見てしまい目が点と化した。

 その十数秒後、

 

「とーちゃんっ、注ぎながらうごかさないでっーー!?」

 

 「UurrOooOoooOOooooo!!」

 

「あぁっ、あぁん!あぁあん!!!」

 

 ケダモノの咆哮、束の嬌声、何かがぶつかり合う音、粘着性の何らかの音が響いてくる。

 もう、何も言えない雰囲気が千冬の部屋に漂う。

 

「あ、あの…もう、通信を切りましょうか?」

 

「あぁ…頼む……」

 

 シロウサが何かを察し、通信を切る事を尋ねると千冬は了承した。

 彼女は通信が切れた後も、組んだ手の上に額を乗せて黙ったままである。

 何かこう…女性として負けた気がして、何もする気が起きなかった千冬であった。

 それに苦笑しながら見守るしかなかったシロウサであった。

 

 因みに、何とか復帰した千冬が向こう側で一体ナニが起きたのかをシロウサに聞いてみると。

 十千屋は死に掛けて復帰すると、種の存続欲求の塊となり野獣(ケダモノ)と化すビーストモードと女性陣から呼ばれる状態があるらしい。

 そして今回、ここ近年一番死にかけたのに、それを検査の為に抑圧していたのが家に帰って解き放たれたようだ。

 もう、野獣を通り越して魔獣となった彼は自分の妻や愛人達を食い散らかしていたのではないかと、シロウサは考察する。

 それを聞くと、また謎の敗北感を千冬は味わい……その日は何もやる気が起きなかったみたいだった。




はい、今回の大人サイドは学園側--というより、千冬・束のお話でした。
原作でも、巻末にだいたい束サイドのお話があるので流れ的に書いてる感じですね。
あとは裏話的な要素も兼ねてます。

しかし今回は、原作ISファン・束ファンにとっては胸糞な展開かもしれません…
自分の限界でした…あの理解不可能で病んでる束を真っ白に漂白するには、
一度人格再構成する方法しか思い浮かばなかったのです!
スマヌ、こんな展開しか浮かばなくてスマヌ!!

本当に今年最後の話がこれになるなんて、申し訳ない気分です……

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FAxxss:存分に楽しんでいってくれたまえ

お久し振りと言ってしまってもいいと言うくらい間が開いてしまいました。
今回は特別編-コラボ企画となっております。
お相手は-
【インフィニット・フレームアームズ~俺アームズでブンドド~ 】

『たちゅや』氏

-と、成っております。

普通なら出会わないオリジナル主人公たちの邂逅をお楽しみください。

では、どうぞ御ゆるりと。


 限りなく近く遠い世界。

 決して交わらない世界。

 しかし、それがもしも擦れ合う事があったとしたら?

 

 

 何も無い、何も無いと確信できる真っ白な空間。そこに十千屋は立っていた。

 そして、この感覚を知っている。

 

「あれ?死んで…いないな。あの時の虚無感と言うか、『死んだ』って何故か分かる感覚がない」

 

 彼は真っ白な空間に棒立ちになっており、どこか変な懐かしさを感じている。

 この空間は彼がまだ彼でなかった頃に来た事があった。

 だが、いま居るのはおかしい。

 ココは諸曰く、空間の裂け目、世界の狭間、転生の間…そうだ、最近のライトノベルにある死後の空間だ。

 彼もここに一度来て、今を生きている最中である。

 

「…手紙?」

 

 どうしたものかと辺りを見渡していると、急に足元に茶封筒が現れた。

 先程までは無かったはず、そう思いながら拾ってみると宛名書きは自分になっている。

 

「…なるほど」

 

 彼は念の為、用心しながら封筒を開け手紙を読むと全てを察した。

 すると、意識が遠のくと同時に夢から醒める感覚を受ける。

 

「おもてなし、かぁ…」

 

 そう呟くと彼の姿は薄れてゆき、持っていた手紙だけ残った…

 

 

――IS×FA 遥かな空を俺はブキヤで目指す特別編――

 

――IS×FA × ブンドド コラボ企画――

 

――限りなく近く遠い二人――

――【前編】――

 

 冷たいリノリウムの床の感触に一人の男が目を覚ます。

 体格は良い方で、イケメンと言うよりは爽やかな好青年と言った方が似合うだろう。

 そんな彼だが起き抜けのボーっとした状態から一変して覚醒状態に入り、飛び起きて警戒しながら壁に背を付けた。

 

(状況確認…、体調確認、所持品…!?)

 

 ()()()身に着けていたはずの物が無く、その事実に冷や汗が出始め顔をしかめる。

 そして、顔を上げると…安っぽい大型のポスターに使う用紙がいつの間にか張ってありそこには、

 

『お探し物、こちら →』

 

 と、微妙に下手な文字でデカデカと書かれており、また廊下にも業者ご用達-

 ニ〇バン 養生テープ(ペンキ塗ってる時によく使われている半透明緑色のガムテ)で作られた

矢印が等間隔で並んでいた。

 このいかにもなのに安っぽすぎる誘いに青年は苦笑を浮かべながら、その跡を追う。

 

(コレが罠でも乗るしかない。掛かっても食い破る!

 …けど、この安っぽさはなんだかなぁ、っと言った所かな?」

 

 その様子をISアリーナのピットからロボット頭(アーキテクトヘッド)の男-十千屋 雄喜が見ていた。

 彼はモニターに映る青年の表情と動きから内心を読み取り、被り物(ロボット頭)から苦笑を漏らす。

 今回の件はある意味で()()()()()だ。何も罠に嵌めようとなんて気はサラサラない。

 だが、モニターに映る彼はそんな事など知る由もなく…曲がり角でチラ見をするなど、

警戒心バリバリで進むのであった。

 

 青年が導かれている頃、

 

「う、うぅ~ん…」

 

「あら、お目覚め?」

 

 外跳ね気味のショートボブの少女-更識楯無は自分と同じ様な髪色の少女に見守られながら目覚めるのであった。

 …何か後頭部が柔らかいもので支えられている感じもしているが。

 

 さて、青年が陳腐な目印に導かれるままに歩いていると遂に終点へとたどり着く。

 此処までの分かれ道や小部屋の出入り口は閉まっていたり、シャッターが降りているなどして

実質的な一本道であった。

 ここまで彼は自分の置かれている状況を推理しているが全くといって何も掴めていない。

 相手の狙いは分からない、場所はIS学園に酷似している場所か、それとも()()()()

間取りや景観は同一であったからそのどちらかであろう。

 すると、この先は…と、彼は思いながら扉を開ける。

 

「…やはり、アリーナのピットか。っ!?俺のバーゼラルド!!」

 

 ピットのハンガーには彼の専用機であるFA(フレームアームズ)型IS:バーゼラルドが鎮座されていた。

 彼はすぐさま駆け寄るが、何かの違和感を感じ…近づいてマジマジとISを観察する。

 

「おい…なんで先行試験カラーになってんだよ!?しかも、その仕様の増加装甲(ブラストシールド)付き…って、

 この状態だと先行試験仕様ゼルフィカールじゃねぇか!!」

 

 全身にあるスラスターが特徴なヒロイックな機体バーゼラルド、そして彼の言う通り増加装甲が付けられたバージョン-ゼルフィカールがあった。

 だが、その全身はホワイトとネイビーブルーを基調としたカラーでは無く、高彩度かつ

ミスマッチな配色のカラーに塗り替えられている。

 これも彼の言う通り先行試験仕様カラーと呼ばれるもので何故このカラーリングに改まられているのか意味不明だ。

 つい、叫んで脱力し四肢を床に付けた彼を嘲るかの様にモニターが映る。

 

 

やあ (´・ω・`)

 

ようこそ、宴の席へ。

 

このカラー変更はサービスだから、まず落ち着いて欲しい。

 

 

うん、急に呼び出してなんだ。済まない。

 

仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

 

 

でも、このカラーを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。

 

殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい

 

そう思って、このカラーリングにしてみたんだ。

 

 

じゃあ、本題といこうか。

 

 どこぞの釣りスレの先頭に書く定型文として使われるような始まりから始まったモニターに映る文章の続きはこうであった。

 自分を言い表すなら『観察者』である事、彼が興味深い存在なので、ぜひ会わせてみたい人物がいる事。

 その為の余興としてISバトルを予定している事、…彼の専用機のカラーリングを変えたのは

余興の余興である事などである。

 

 

では、存分に楽しんでいってくれたまえ。秋野 龍也(あきの たつや)

 

 その文章が述べ終わると、彼-秋野 龍也は無言で立ち上がり自身のISの確認をする。

 それが終わるとISを装着しカタパルトへ移動した。

 

 そして、発進のシグナルが点灯すると…

 

「確かになぁ…こっちもカッコいいとも思ったさ。けどな…」

 

 

ぷちっ♪

 

 「ふざけんじゃねぇぞ!ゴラァ!!」

 

 少し、切れ気味でアリーナへ飛び込むのであった…。

 

 ピットからアリーナへ飛び出した龍也が目にしたのは紫色の騎士-ドゥルガー(アイン)

 相手もFA型ISとあって、彼は苦笑を隠せない。

 なるほど、本当に自分の為に用意された茶番であると。

 マガツキとは戦った事は在る。かなりイレギュラーだったが…それはともかく、その対となるドゥルガーの事もよく知っている。

 それが…()()()()()()()()()()()()()

 そして、自分のISに目の前の対戦相手の情報が映し出された。

 

 

『専用機:フレームアドベンド』

 

「(ドゥルガーじゃない?まぁいい…)アンタが俺の対戦相手か?」

 

「・・・・」

 

「だんまり…か」

 

 

 

「まぁ、いいか」

 

 

 

「やる事は変わらない」

 

 

 

「アンタを倒すだけだ!!」

 

 

 

「…!」「セイハァッ!」

 

 試合開始の合図で火蓋を切る。両者、ほぼ同時の抜き打ちであった。

 ドゥルガーⅠ-十千屋は背面のTCSオシレーターⅡ型が内蔵されているメインブースター:

イオンブラスターを最大出力で噴かす。

 ゼルフィカール-龍也はセグメントライフル(の形をしたただのレールガン)を抜き放った。

 十千屋はほんの少し身を捻って弾丸を回避しながら突撃、龍也は彼が捻りを入れた僅かな隙と

幅を利用して紙一重で躱す。

 龍也に避けられた彼はそのまま急上昇し高度優勢-突撃に有利な相手より高い場所を取ろうとし、そんな彼を追うかの様に体中に付けられたフォトンブースターユニットを噴かし龍也は飛び出した。

 

「なぁろぅっ!」

 

 元々、高機動型を相手取る為のゼルフィカールであるがドゥルガーの背面を中々捕る事が出来ないでいた。

 その事実にメット内部の龍也は苦々しい思いをしている。

 そんな彼を嘲笑うかの様に十千屋はドゥルガーを巧みに操り、滑らかな円を描いて機体を反転し彼へと襲い掛かってきた。

 ドゥルガーはブースター配置の関係で小回りが利かないはずだが、十千屋はそれをものともせずに旋回してくる。

 この動きの肝はドゥルガーのイオンブラスターへの細やかな操作だ。

背面両隣りに添え付けられているメインブースターの出力を細かく調整しながら飛んでいるのである。

 もし、右に曲るのであれば右を強くし左を弱くする。左に曲がるのであればその逆だ。

しかし、言うは易く行うは難しである。

 イオンブラスターの左右の調節がダイヤルでの調整ができるとしよう。綺麗に小回りに回るのであれば、その回っている間は左右別々でコンマ何ミリ以下の調節をし続け、しかも戦闘機に匹敵する速度であるためにコンマ何秒以下で全てを操作しなければならない。

 そして、今は戦闘中だ。ただ飛んでいるだけではないのである。

それなのに流れるかの様に飛ぶ。

 その鮮やかな腕前に龍也は舌打ちをし、迎撃と回避を繰り返していた。

 

 幾度かの応戦の後、ようやく目が追い付いてきた龍也は吶喊(とっかん)してきた十千屋を紙一重で避ける事に成功する。

 馬上槍に似た戦術駆逐槍「ヘイルラング」が彼の目の前スレスレを通り過ぎ、半歩ズレて避ける体勢を通り過ぎる十千屋を追従するように振り向き入れ替えてゆく。

 ドゥルガーの機体特性上、急激な反転は出来ない。だから、これは千載一遇のチャンス。

 無防備なその背中にありったけの弾を撃ち込む…事が出来なかった。

 弾ける様な量子の奔流、それと同時の背筋が凍るかの様な悪寒。

ほとんど本能もしくは反射的であったが、セグメントライフルを盾にし前面に付けられたスラスターを一気に噴かす。

 龍也のライフルは何かに横一文字に両断されてしまうが、これが邪魔となりライフルを叩き切った攻撃は外す事が出来た。

 もし咄嗟にこの行動をせねば彼の体の方が叩き切られていたであろう。

 その事に冷や汗を掻きながら、改めて敵の姿を見据える。

そこには、赤みがかった紫色の鎧武者が大きな刀を振りぬいていた。

 

「なっ、マガツキ…だと!?」

 

 ドゥルガーと対なす月の"鬼神"【NSG-Z0/D マガツキ】がそこに居る。

 マガツキは大きな刀‐戦術迫撃刀『テンカイ』を振り被り一気に龍也へと接近した。

 いきなり姿が変わった敵-十千屋に驚いてしまった彼は接近を許してしまう。

 加速はドゥルガーに負けるが、敏捷性と瞬発力はマガツキに分がある。

 彼は自分の失態に舌打ちしながらも、ゼルフィカールの拡張領域(パススロット)に入っていたH.W.U 03:ユナイトソードを構成しているソードを呼び出し対応した。

 互いに剣を打ちつけ合い火花を散らし、躱し、振るうといった剣戟へ変化してゆく。

 その中で龍也は違和感を感じ、ワザと距離を取った。

 離れてゆく彼を十千屋は追いかけずに、マガツキの背面ラックにあった試作ベリルショットカノン「ナカトリ」で追撃する。

 撃たれる側の龍也は何度もギリギリで通り過ぎてゆく光弾に肝が冷やされた。

まるでゲームで言われる『置き撃ち』の様な見事な偏差射撃。

 だが、一方で…先程の剣戟はそちらの腕には僅かに及ばない事に気づいてしまう。

 間違いが無い様に言うが、十千屋の腕前は決して下手ではない。だが、接近戦においては超一流の龍也に比べると届かないのだ。

 それに龍也の見立てでは十千屋の動きがどちらかと言えばナイフ等を使う軍用格闘技系であり、長刀を扱い慣れているとは言いづらい。

 つまり、互いの得意な間合いは‐龍也:近~中、十千屋:中~遠といった感じだ。

 そこに龍也は勝機を見出す。ドゥルガーもマガツキもどちらとも至近距離向けの機体だ。

マガツキの方にはナカトリが装備されているが、逆に言えばそれしか射撃武器が無いと見れる。

 ならば、彼が取るべき行動はたった一つ…接近戦で有無を言わさず叩きのめす事だ。

 

 今はゼルフィカールとドゥルガーとの追い駆けっこに成っていた状態から、龍也はスラスターの向きを急激に変え小回りで十千屋に襲い掛かる。

 ほぼ反転ともとれる急旋回に因って引き起こされるGで、自身の体が軋む様な感覚を覚えるが見事に敵の側面に付いた。

 側面を捕られた十千屋は直ぐに機体をマガツキへと変化させ対応するが、それが彼の狙いだと十分に承知である。

 幾重にもと思える剣戟を何とか凌いでいる十千屋であったが、やはり僅かな地力の差が現れ細かな傷を負ってゆく。

 逆に龍也は決して逃さないと、何とか凌ぎ切り距離を立て直そうとする彼に追いすがる。

 徐々に当たり始める攻撃に彼はイケると思ってしまった。その、ほんの些細な慢心が…アダとなる。

 

 十千屋の防御を上回る幾多の剣戟、その中で確実に胸に叩き込んだと思われた一撃が当たったと思った瞬間…爆発が起きる。

 龍也は驚きながらも反射的な防御姿勢をとり、爆発とそれによって拡散される()()()()()()()()を防いだ。

 自らの攻撃に爆発する要素は無かったと困惑しながら、爆炎の隙間からそれは現れる。

 カスタマイズされた轟雷‐いや榴雷に似ているか?そいつが三連式バイザースコープを光らせ、ダブルバレルマシンガンを撃ち込んできた!

 

 その機体はマシンガンを乱れ撃ちにし、龍也の退路を塞ぎながら当てて行く。

 距離が近づいたら、旋回と同時に左肩に配置された煙幕装置(スモークチャージャー)を使って己の身を隠すと同時に又もや牽制の為に左腰に配置された小型ガトリングを撃ち放つ。

 視界が()たれた龍也は動くのが躊躇われた次の瞬間、彼からは見えないが上方からマシンガンと右肩に装備されたミサイルポットによって攻撃された。

 

 何故かは分からないが、敵は煙幕に(まぎ)れた自分の位置が分かるらしいとの事と、

自分の考えが間違っていた事に対して苛立ちが隠せない。

 敵-十千屋のIS【フレームアドベンド】はドゥルガーとマガツキに瞬時変換するのが能力ではない。

 あぁ、自分の思い込みだったのだと気づく。確かにドゥルガーとマガツキは()()()()で構成されているのは間違いない。

 だが、もっと根本があったじゃないか…FA(フレームアームズ)は例外を除き全てフレームアーキテクトが()()()()じゃないか!

 だからシリーズ名がFrame(素体) Arms(武装)なのだ。

 そして、十千屋の専用機の名前は【フレームアドベンド】‐訳すれば【素体 降臨】となり、

字面(じづら)Frame Advent。

 まったく、笑わせてくれる。十千屋のワンオフアビリティはきっと、自らを素体に見立て、

そこに武装を瞬時着装&変換させる能力なのだ。

 それは即ち、FAを体現させている能力(ワンオフアビリティ)なのである。

 

 龍也が考察を頭の隅で纏めている間にも、十千屋からの猛攻は続いている。

 薄くなってきた煙幕とミサイルの爆風が入れ替わる様な瞬間、十千屋は瞬時に彼の居場所を

確認すると正面から吶喊してきた。

 三連式バイザースコープの機能を切り替え、右腰に添えられたマルチミサイルを撃ち放ち、

次いでマシンガンと左肩後ろに折り畳まれていたH.W.U 01:ストロングライフルを展開させ一斉射撃となる。

 十千屋の目にはミサイルの爆炎と弾丸が撃ち込まれる有様が映り込み、至近距離へと近づいてゆく龍也の姿を捉えた。

 此処で逃せられる訳ないと、左腰に添えられた小型ガトリング以外を繋がっているオリジナルバックパックから解除(パージ)し、腿に付けられたエクステンド・ブースターを噴射させる。

 避け切れない勢いとなった十千屋に彼は押し込まれ、ついでとばかりに小型ガトリングに撃たれながら壁へと打ち付けられた。

 ISの衝撃吸収機能(ショックアブソーバー)が殺し切れない衝撃が彼を襲い、肺から空気が押し出され意識がとびかかる。

 そして、止めとばかりに十千屋は愛銃となったシャガール(ドゥオ)を至近距離で撃った。

 

 一瞬の静寂、もし誰かが見ていたらコレで決まったと思ったであろう瞬間…ゼルフィカール-龍也は動いた。

 

「よくもやってくれたな!借りは返させて貰う!!」

 

 彼は先程の猛攻で壊れた追加装甲をパージし、十千屋を突き飛ばした。

 傷だらけのゼルフィカール、いやバーゼラルドはソードの二刀流で十千屋を凌駕してゆく。

 

「まだ、こんなもんじゃないぞっ!!」

 

 二刀の連撃の締めで十千屋を大きく吹き飛ばし、今度は二丁拳銃で追い詰める。

 十千屋の誤算は、追加装甲の防御力を完全に抜けきれなかった事であろう。

 実際に龍也は倒される寸前であるが、逆に言えばこの最後の猛攻をしかけられる力を残してしまったのだ。

 

 十千屋もリベンジと言わんばかりの猛攻をただ受けているだけではないが、先の自身の猛攻による疲労、ドゥルガーへと変身させられない程の猛攻、何よりもこの状態に適したマガツキは爆散させてしまった。

 如何する事も出来なくなってしまった彼は龍也の攻撃に貼り付けにされてしまう。

 龍也は身を回転させランダムに弾丸を浴びせ続け、彼を追い越すと瞬時に反転、手には合体状態のユナイトソードが握られていた。

 

 「コイツで終わりだぁああ!!」

 

 バーゼラルドとユナイトソードのスラスターを全開にし、彼は一撃を今度こそ確実に叩き込む。

 この一撃は十千屋の正中線を捉え、スラスターの加速度、龍也の膂力、重量、全てが完全に乗った完璧な一撃だ。

 その結果、刃は十千屋の装甲に食い込みひび割れさせ、凄まじい勢いで地面へと叩きつけられる。

 

 彼が叩きつけられた場所はへこんでおり、かなりの勢いだった事を物語っていた。

 龍也はもう起き上がってくるんじゃないと思いながら其処を見つめている。

 だが、装甲が崩れ落ちながら敵はゆっくりと起き上がろうとしていたが…。

 

 

『フレームアドベンド 残量SE:0 ゼルフィカールWIN』

 

 十千屋が何とか立ち上がった時に龍也の勝利を告げる電子音声がアリーナに響き渡る。

 それでようやく、龍也は構えを解きホッとした。

 下を見てみると、装甲が剥がれフレームアーキテクトに似た姿となっている十千屋が敬礼をしている。

 龍也はその返礼をすると彼は頷いて、自身のピットへ戻って行った。

 

 その様子を見て龍也は思う。コレが()()で良かったと。

 今回の戦いはIS学園に入学してから今までで一二を争う激しいものであった。

 だが、彼の勘では十千屋は真剣であったが全力ではないと告げている。

 これがもしも生死を賭けた()()()であったのならば、負けるつもりは無いがただでは済まなかっただろう。

 願わくば試合以外では絶対に戦いたくはないものだと、そう思いながら自分もピットへと戻るのであった。




はい-と、言う訳でコラボ企画:前編【バトル編】で御座いました。
今回のゲストである『秋野龍也』君の産みの親であるたちゅや氏には彼らの行動の指導や添削などを担当していただき、どうもありがとうございました。

まだ後編である【お茶会編】は執筆中です。
どれくらいかかるか分かりませんが、確りと出したいと思っております。
内容は、十千屋夫婦と龍也カップルとの掛け合いを予定しております。

これからの執筆にたちゅや氏にはご足労おかけいたしますが、どうかよろしくお願いいたします。


そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FAxxss2:楽しんでくれたかな?

約一か月ぶりとなりましたが、ようやく完成です。
特別編-コラボ企画(後編)です。
お相手はお引き続き-
【インフィニット・フレームアームズ~俺アームズでブンドド~ 】

『たちゅや』氏

-と、成っております。

普通なら出会わないオリジナル主人公たちの邂逅をお楽しみください。

では、どうぞ御ゆるりと。


 

――IS×FA 遥かな空を俺はブキヤで目指す特別編――

 

――IS×FA × ブンドド コラボ企画――

 

――限りなく近く遠い二人――

 

――【後編】――

 

 増加装甲(ブラストシールド)を失いつつも勝利したバーゼラルド‐龍也はようやく一息つけるとピットに降り立つ。

 

「ふぅ、まだ解放されな…ん?」

 

 彼は自分に充てられたピットに戻ると深いため息を()く。

 激しい戦いであったためしょうがないだろう。

 だが、ため息を吐いて下がった頭を上げるとそこには空中ディスプレイが浮かんでおり、

 それを見た彼は急に駆け出した。

 誰も居なくなったピットで所在なさげに浮かぶ空中ディスプレイにはこう書いてある。

 

 

「やぁ、試合ご苦労様。楽しんでくれたかな?」

 

「実は他にもサプライズがあってね」

 

「君の大事な人をゲストとして呼んであるんだ」

 

「場所は食堂-カフェテリアだから、君も来ると良い」

 

 全身全霊で駆けてカフェテリアへと急ぐ龍也。あの書置きを意味深に読めばしょうがないだろう。

 なにせ、どうとっても人質を捕られてる様な文面だったからだ。

 だが、それも…()()()()()()()()だが。

 

 「刀奈!」

 

「あら、龍也。何を急いでるの?」

 

「ふふっ、この人が刀奈ちゃんの旦那さんなのね」

 

「ちょっ!お姉さま!?!まだ私と龍也はそんなんじゃ…いずれはそうなりたいけど

 

 朗らかにティータイムを楽しむ恋人-更識楯無・本名:刀奈とそれを楽しそうに見る

小柄な女性を目撃した彼は気が抜けバランスを崩す。

 そうなれば、盛大にズッコケるのは仕方のない事であった。

 

「龍也…埃をたたせないで。折角の紅茶が台無しじゃない」

 

「いや、お前なぁ…お前なぁ~……はぁ~~~、俺にも一杯くれ」

 

 自分の深読み過ぎで自爆したのを刀奈はそれと知らず責めるが、

彼は自分の自爆だとちゃんと分かっていたので何とか気持ちを切り替えて彼女の横に着席する。

 着席と同時に傷跡だらけのメイドから紅茶が差し出されるが、隣にいる刀奈は顔を(しか)めながら

彼へと顔を近づけた。

 

「どうした、刀奈?」

 

「(スンスン)ねぇ、試合の後ちゃんとシャワー浴びた?」

 

「いや、急いでこっちに来たから着替えてそのまま…」

 

「今すぐシャワーを浴びてきなさい!お茶会の雰囲気をぶち壊しじゃない!!」

 

「いや、もう別にいいだろ」

 

「汗臭く爽やかにって…高校球児じゃないんだから!

 貴方の匂い嫌いじゃないけど、TPOを考えて!!」

 

「いや、替えの服が」

 

「どうぞ、替えのシャツと下着で御座います」

 

「あ、どうも…」

 

 激戦で普通の汗も冷や汗も掻きまくった龍也は、やはり汗臭かったらしい。

 それを刀奈から注意されるが、今までの疲れで此処まで来たのだから遠慮したいのである。

 けれども、替えの服まで用意されて渋々と近場のシャワー室へ足を運んだのであった。

 そして、綺麗にサッパリと身を整えて戻ってくると…

 

 (変なのが居るっ!?)

 

 自分の恋人と楽しそうにお喋りする女性の横に男が座っていた。

 身長が高めで体格ががっしりしているリクルートスーツ姿の男。それだけなら、まだ良しとしよう。

 だが、頭がロボだ…。しかも見覚えがあり過ぎるロボ頭だ。

 そう、フレームアーキテクトのヘッドパーツを被った男が居る。

 

「あ、龍也。戻ってきたのね。ほら、そんな所で立ってないでこっちに来なさい」

 

「ああ」

 

 彼女に言われるがままに着席する彼であったが、何かを溶かした様な顔で座るのであった。

 暫く朗らかなお茶会が進むが…彼は遂に我慢できなくなる。

 

「いやっもうツッコもうぜ!?このロボ頭、つーかアーキテクト頭は誰だよ!?!」

 

「「「あ、ようやくツッコんだ」」」

 

「グルか!?お前ら全員グルだったのか!?!?」

 

 ツッコミの叫びは、遊ばれている事に気づき上げた絶叫へと変わった。

 その反応に満足したのか女性陣はコロコロ笑い、男は含み笑いをする。

 

「さて、ついさっきぶりだな。十千屋 雄喜という。よろしく」

 

「うふふ、初めまして。私は十千屋=(アーヴァル)=リアハよ」

 

「もう知っているかもしれないが、秋野 龍也だ」

 

「あらためて、更識 楯無…いえ、刀奈でいいわ」

 

 被り物(ロボ頭)によって表情は見えないが不敵に笑っているように思える十千屋、

握った手を口元に当て外見とギャップを感じさせる艶やかな笑みを浮かべるリアハ。

 先程まで敵であった彼に対して気を抜かず姿勢を正して言う龍也、

どこか猫っぽい雰囲気をかもしながら答える刀奈と三者三様の自己紹介であった。

 

「で、《さっきぶり》と言ったな。つまりアンタがさっきの対戦相手って訳か」

 

「そうだな。とても良い戦いだったと思うが、君はどう思う?」

 

「久し振りに背筋が冷える様な戦いだったぜ?

 それよりもアンタ「龍也!お姉さまの旦那様に軽口たたかないで!」おぅ!?」

 

 どう見ても警戒し十千屋に話しかける龍也を刀奈が窘める。

 彼はその反応に怪訝になりながら反論した。

 

「いや、刀奈…こんな訳も分からない状況でのんびり出来るか?」

 

「理由は分かるけどね。お姉さま達に悪意があったらもう既に私たちは無事でいられないわ。

 それに龍也達が戦っているのを見ながらお話をしていたけど、そういう(たぐ)いのものは

 微塵も感じなかったし」

 

「それはそうだけどさ。お前…いったい何でこんな短時間であの女の子に懐いてるんだよ」

 

「いっ…色々と相談にのって貰ったのよ」

 

「そうか?」

 

「(い、言えるわけないじゃない。ハレム(愛の巣)の良好な運営方法なんて…)

 んんっ、それよりも見た目がアレだから強くは言わないけど…一応、お姉さま達は年上よ」

 

「え、マジで?」

 

 自分の恋人が警戒心を解いてる様子と訳を知り、少し身構えを解くがそれよりも二人が年上だという事に驚いた。

 十千屋は被り物のせいで年齢不詳だが、どうみてもリアハは外見年齢が13~14くらいにしか見えない。

 そんな二人をマジマジ見ていると、彼女たちから疑問の返答がきた。

 

「ええ、織斑先生と同じくらいよ」

 

「二十四歳、子持ちの人妻です♪」

 

 ビシリッ…と、リアハの外見と実年齢の余りのギャップに龍也は固まった。

と、同時に外見からそぐわない艶やかさも心のどこかで納得する。

 

「ちなみに俺よりも一つ年上の幼馴染み系姐さん女房だな」

 

「やだっ、ユウさんったら」

 

 十千屋の余談に恥ずかしりながらもツッコミを入れる彼女たちの様子を見て、

彼は『熟年新婚夫婦』という謎の単語が頭に浮かぶ。

 そして、彼の警戒心は無くなった。

 いや、この雰囲気のせいで()()()と表現した方が適切かもしれない。

 別の言葉で例えるなら、『毒気を抜かれた』という状態だろう。

 謎の敗北感に(さいな)まれながら、彼はうつ伏せどこか参ったという風に両手を挙げる。

 

「あーうー…分かりました。えぇ、何か良く分からないが分かりました」

 

「あら、普段通りの喋り方で構いませんよ?そんな厳格なお茶会でもありませんし。

 刀奈ちゃんもそんなに(かしこ)まらなくても平気だから。

 それに、少しヤンチャな方が可愛いでしょ?」

 

「「あ、ハイ…」」

 

 どうやら場の主導権を握っているのはリアハらしい。

 彼女のどこか掴み所のない雰囲気に押され気味な二人であった。

 その様子を見て含み笑いする十千屋に二人は気まずさを感じながら話を戻そうとする。

 

はぁ~…苦手だなこの感じは。で、聞きそびれた感はあるがアンタは何でそんなモン被っているんだ?」

 

「ふむ、まぁ…見てもらった方が早いか」

 

 聞きそびれていた龍也の疑問に十千屋は答える。

 少し考えるそぶりを見せたが、被り物(ロボ頭)を外し傍にいたメイドに受け渡した。

 そして、彼の素顔をみると龍也と刀奈は息をのむ。

 当たり前だろう。彼の顔の右半分が見るに堪えない傷跡まみれだったのだから。

 右全体に及ぶ火傷と裂傷の痕、極めつけは右目が機械に置き換わられている。

 人としての人相とは思えない、それほどの傷痕だったのだ。

 

「アンタ…()()はいったい」

 

「まぁ、若気の至りと言うか…戦闘してちょっとな」

 

 引き気味な二人に彼は何処か寂し気な苦笑をしつつ、原因を語り出す。

 彼らにとって大事件である()()()()()…その端で起こった戦闘が原因であった。

 白騎士(ISの祖)初期FA(ただの強化外骨格)で挑んだ時の名残り(傷痕)である。

 もう少し詳しく言えばその前後も含まれるが、まぁ些細なことであろう。

 

「そうか…アンタ、いやアンタ()は」

 

「おっと、言わんでも分かるだろう?」

 

 龍也は驚きながら十千屋の語りを聞き、それが終わると十千屋とリアハを真っすぐ見つめ何かを言おうとする。

 龍也たちからしても白騎士事件は世界のターニングポイントと言える大事件であった。

 それ故に調べる機会もあり、そんな楽屋裏の様な戦闘があったとしても知っている筈なのだ。

 だが、()()()()()()()()()()()()()()

 もしかすると調べきれてないかも知れないが、I()S()()()()F()A()()()()()()()()()()()()()

コレはどうしようもない事実だ。

 その事と自分たちを此処に呼んだ()()、それを加味すれば自ずと答えが出てくる。

 が、彼はそれを押し止め「全て分かってる」と言わんばかりに口角を上げた。

 

「そう、俺とリアは君たちから見れば…」

 

「「別の歴史を辿る平行世界」」

 

 彼の台詞に被せる様に龍也も同音同意の台詞を言った。

 それに十千屋は驚くが、してやったりと笑う龍也に彼も笑みを浮かべる。

 本当に何かの気まぐれ。だが、出会ってしまった幸運なら楽しんで良いだろうと龍也は気を抜くことにした。

 

 そこからは本当の意味で穏やかなお茶会が始まった。

 

「で、いい加減聞きそびれていたんだけどな。なんでそんな被り物を被っているんだよ」

 

「ああ、被り物自体のデザインは自分がオモチャとしてのFAの営業担当でもある為だが、

 一番の目的はコレの方が()()()に出来るからだな」

 

「ギャグ?」

 

「傷痕を隠すために包帯や、目出し帽みたいな物も考えてやってみたんだがな…

 どう見ても()()()()()()()()()()感が拭えなくてな」

 

「それでアーキテクトヘッドって訳か?」

 

「そう、これなら冗談で済まされるからな。

 営業担当と言っても外部露出はイベントや告知の為のブログしかやってないし、

 本当の仕事と言えるのは開発と設計だしなぁ」

 

「…意外と深い理由があったんだな」

 

 ようやく、気になっていた事を聞いたり…

 

「そうだ、自分の好きなFAは轟雷だが…龍也はどうなんだ?」

 

「そんなのお互いの専用機を見れば分かるだろ?俺はバーゼラルドだよ。

 正確に言えばその系譜になるのか?あの主役機って感じのカッコよさがな。

 そういうアンタはどういう理由だ?」

 

「轟雷の()()()()(ぜん)としたデザインだな。無骨さがロボットであり兵器でもあるって感じが良い。さらに言えば量産機と言うのにロマンを感じる。

 あぁ、ムセるっていう雰囲気も好きなのもあるなぁ」

 

 互いの趣味を語り合ったりなどをしていると…

 

 

「うにゃぁあぁあああああ!??!」

 

「なんだ!?」「どうしたんだ!?」

 

 同じ様に仲良く話していた女性陣から絹を裂く様な、でも珍妙な悲鳴があがった。

 反射的に男性陣がそちらへ向くと、振るえて指しながら顔を真っ赤にして固まる刀奈、

アラアラとちょっと困った様子で彼女を見るリアハがいる。

 どうやら本当にピンチと言うより、ギャグ的な何かと察する事ができ緊張感はあっという間に霧散した。

 

「リア…お前、何やったんだ」

 

「ええと、こちら側のかんちゃん()かなちゃん(刀奈)が仲良くしてるか、

 刀奈ちゃんは気になったみたいなの」

 

「あぁ、俺の所(龍也サイド)でも(こじ)れてたからな。そっち(十千屋サイド)もか?」

 

「平行世界という事でお察しだな。ちょっと最近まで仲違いしてた。

 けど、ちょっと派手な姉妹喧嘩して解決済みだが」

 

「ええ、その話題が出て『もう大丈夫』よ、って証拠の写真を見せたのだけど…

 刺激が強すぎたみたい」

 

 事の詳細を聞いていると、別世界の自分たちが気になった刀奈はリアハに聞いてみた所…

何か刺激が強すぎる物を見せられたらしい。

 その物-スマートフォンに映った写真をリアハが彼らに見せると、

十千屋は「あー…」と苦笑しながら納得し、龍也は何か吹き出るモノを抑えるため鼻を片手で覆う。

 それもその筈、その写真には十千屋サイドの簪と刀奈が映っていた…此処までは良い。

 だが、簪が椅子に座り片膝を立たせた挑発的なポーズで、その身は女王様…ボンテージルックである。

 その膝元では、刀奈が目隠しをされ大事な部分を隠さない逆ボンテージルック…

しかも手を後ろに回され締め上げられていた。

 もっと危ないのは、そうやって床に座らせられている刀奈は(おとがい)を反らし舌を伸ばす、

その先は()の股の間に()たされている棒へと向けられている。

 そして、()(刀奈)の首輪に繋がれているリード()を握り頬を紅潮させ嗜虐的に嗤い、

一方の姉は被虐的に肌を紅潮させていた。

 

 どうみてもポルノ(R-18的な)写真であった。…どうもありがとうございました。

 何故ならこうなっているかはまた別の機会にでも…

 

 「はっ!?龍也っ!見ないでえぇえーーっ!!!」

 

 (グギィイ!)ぐえぇえ!?!」

 

「ねっ?仲良しさんでしょう」

 

 「どんな仲良しさんですかぁああ!?!」

 

 正気を取り戻した刀奈は自分の恋人が件の写真をマジマジと見ている事に気づき、無理やり顔を逸らした。

 龍也の首がコキャリ(折られ)そうになっているが、それすらも気にせずに会話を続けるリアハに彼女は

絶叫気味にツッコむ。

 

「あ、他にも刀奈ちゃん的には複雑だろうけど、私にユウさん、かんちゃんで、

 かなちゃんの上下前後全穴責めしている仲良し写真も…」

 

「いやぁぁああ!?お姉さま、止めてぇえぇえ!!

 別世界の自分のハ〇撮り写真を見せられるのってどんな羞恥プレイよぉおお!?!?」

 

「…アンタの奥さんって色んな意味で凄いんだな」

 

「褒め言葉として受け取っておく。リアは好きになった女の子に対してはちょっと…

 揶揄(からか)って泣かせたり鳴かせたりするのが好きだからな」

 

「『なく』が普通のと十八禁的な意味のと両方聞こえた気がしたんだが」

 

「その感覚で間違いない」

 

「マジかよ…」

 

 やいのやいのと騒ぐ女性陣を他所に寝違えた様に首が一定方向から曲らな龍也と、

どうしようもないと諦めて苦笑する十千屋はこの場を放っておくしか出来なかった。

 

 その後も、止めればいいものを向こう(十千屋)側の更識姉妹の事を聞き出す刀奈。

 そのたびに人妻は悪意にも似た善意で事細かに答え、彼女の精神(SAN値)を削ってゆく。

 ある意味で信じたくない意地で彼女は聞いているのだろう。

 なお人妻(リアハ)には悪意など無い…。

 

「あはは、嘘よ…別世界と言え、私がマゾヒズムに目覚める訳が無いわ。

 いえ、そこは千歩以上譲って…譲って在りだとしましょう。

 龍也に拝み倒されたり、激しく求められたら可能性が無いわけじゃないし。

 けど、何で私の天使()がサディストに成ってるのよぉぉおお!!!

 アレじゃ『簪ちゃん』じゃ無くて『かん()しちゃん』じゃないぃぃいい!!」

 

 お~いおいおいと泣き崩れかけそうになっている刀奈。

 どうやら、別世界の自分と妹の変貌ぶりにかなり()たらしい。

 

「私はノーマル!龍也もノーマル!簪ちゃんもノーマル!なんだから!!

 でも、龍也や簪ちゃんがあんな蔑んだ目で見てきたらドキドキしちゃうかも…

 はっ!?だからノーマルなの!決して私はアブノーマル(変態)じゃなぁあいい!!」

 

「なぁ、龍也…刀奈の彼氏なんだろ?慰めてやれよ」

 

「いや、あんな状態は初めてだから…どう声を掛けてやればいいのか分かんねぇよ」

 

「「あ」」

 

 この、ご覧のあり様にどう対応すべきか足踏みしている男性陣を他所にリアハが刀奈へ近づく。

 しかし、男たちは直観してしまった…コレが止めになるだろうと。

 

「刀奈ちゃん…」

 

「お姉さま、私はどうしたらいいの?全く関係が無い事なのに…

 何故か『次はお前だ』っていう予兆が脳裏から離れないの」

 

「大丈夫、大丈夫ですよ」

 

「お姉さま…」

 

「正道でも邪道でも、愛欲に堕とされ溶け逝くのはとても気持ちいい事なの」

 

 「お姉ぇさぁまぁぁぁああああ!?!」

 

 あぁ、哀れなり刀奈よ…既に(病み)へ堕ち切った彼女には何もない。

 ただ彼女の出来る事は、同じ闇へ手招く事だけなのだ…。

 

「なぁ、お前の嫁だろ、早くなんとかしろよ」

 

「本当に申し訳ない。確かに…彼女(リアハ)がああ成ったのは俺の責任だ。

 だが、俺は謝らない。何故なら俺は彼女の過去()現在()未来()、全てを愛しているからだ」

 

「やだっもう!ユウさんったら!!」

 

 決め所では無いのにキリっとして言い放つ十千屋()に、それに照れてイヤン♡イヤン♡と

身を(よじ)リアハ()

 龍也は真顔のまま冷や汗を掻きながらこう思う。

 

(それはひょっとして、ギャグで言っているのか?

 それはともかく、駄目だこの夫婦…早くなんとかしないと…)

 

 このカオス過ぎる場の惨状に、彼は如何する事も出来なかった。

 

「皆様方、お時間で御座います」

 

「あら、もうそんな時間?」

 

「楽しい時間はあっという間に過ぎるものさ」

 

(あぁ…やっと解放される)

 

アハハハ・・・

 

 メイドがエプロンのポケットから懐中時計を出し、彼らに閉会の時間を告げる。

 それと同時に彼ら以外は白けてゆき、存在そのものが薄まってゆくような光景が広がった。

 リアハは後ろから刀奈抱きしめ、愛で撫でていた手を止め、十千屋は仕方ないといった風に話す。

 龍也は終盤のカオス具合から解放される事を心から安堵し、刀奈は遠い目をしたまま薄ら笑いをしたままであった。

 

「さて、この愉快な供宴はお仕舞。楽しんで頂けたなら幸いだ」

 

「そうだな、終盤はアレだが確かに楽しませて貰った」

 

「うふふ、もしも『また』がありましたら会いましょう」

 

「ア、ハイ。オ姉サマガタ・・・」

 

 完全にただの白い空間と化した場で、二手に別れ最後の挨拶となった。

 十千屋はリアハの腰に手を回し、彼女は彼に寄りかかり、メイドはすぐ傍で会釈をしている。

 龍也も刀奈とピッタリくっ付く様に立ち、互いに指を絡めながら彼らを見送った。

 

「最後に伝える事が在る。龍也と刀奈さんが目覚めたら…俺たちが選んだお土産が届く様に成っている」

 

「龍也君へはユウさんが、刀奈ちゃんへは私が選んだものが届くわ」

 

「「え」」

 

「じゃあな。そちらでも頑張れよ」

 

「お元気で。龍也君、刀奈ちゃん」

 

 「「ちょっと、待ったぁあ!!」」

 

 互いの姿が殆ど消えかけた時に十千屋達は気になる事を言い放ち、それに対し龍也と刀奈は

同音同意のツッコミを入れた所で意識が無くなる。

 そして、意識が戻った時には…自分の部屋で目が覚めた時であった。

 

「うぅん。あ、リア…おはよう」

 

「おはようございます、ユウさん」

 

 十千屋は微睡から目覚めると、既に先に起きていたのか胸元から此方を覗くリアハ()と挨拶を交わす。

 彼女も返答し、軽いキスをしてから寝床から降りて行った。

 

 此処はすでに十千屋達の世界だ。

 眠りから目覚めるとあの二人に会っていた記憶が夢の様に思えるが、

それは決して夢ではないと確信できる。

 あれは何かの気まぐれ、そして奇跡であった。これだけで十分だ。

 

「ふぅ、そういえば二人へのお土産って何を用意してたんだ?

 互いに同性相手への品しか用意していなかったから、リアが何を詰めていたのか俺は知らないな」

 

「そう言うユウさんは何を詰めたんですか?」

 

「あぁ、俺はだな…」

 

 十千屋が龍也に用意したお土産は、以下の通りだ。

 

 ・YSX-24RD/GA ゼルフィカール/GA

 ・FA:G(フレームアームズ:ガール) フレズヴェルク

 ・FA:G イノセンティア

 ・FA:G フレズヴェルク Bikini Armor Ver.

 ・上記を刀奈風にするためのガレージキット『髪型、胸パーツ、小物詰め』

 ・コトブキカンパニーニッパーを始めとする、プラモデル作りが捗りそうな備品詰め

 ・FA:G画集

 

 基本、龍也が好きになってくれそうなプラモデル関係(コトブキオリジナル系)ばかりであった。

 FA:Gの種類が多いのは刀奈と似ているフレズヴェルクを色んな意味で楽しんで欲しいからである。

 ちょっとした下心?としては、FA:Gが向こう(龍也)の世界でも流行らないかな、

と実物と画集を入れたのはあるが…。

 

「以上だな。リアは?」

 

「私は刀奈ちゃんに龍也君用の実用品…と言った所かしら?」

 

 リアハが刀奈に用意したのは、以下の通りである…。

 

 ・(文字頭に【エッチな】と付く)服・コスプレ・下着、多数

 ・妊活用(淫紋)ナノマシン

 ・避妊用ナノマシン

 ・上記二つの予備&設計図

 ・(十千屋世界の)刀奈のグラビア写真集

 ・()活用品&玩具

 

 …何も言うまい。察しろ。

 ちなみに自作グラビア写真は項目の一つ目の服を着た(十千屋世界の)刀奈がセクシーアピールしている写真だらけだ。

 オマケに巻末袋とじには…それらの服で今度はセクシー(R-18)ポーズをしてる。(無修正)

 全て、恥ずかしそうな表情で写っており…その手のモノたちは滾る一品と成っていた。

 

「名付けて『()春大応援グッズ』かしら♪」

 

 彼女が輝かんばかりの笑顔でそう説明するのに対して、彼はアルカイックスマイルを浮かべるしかなかった。

 今頃、あちら(龍也)の刀奈は絶叫しているだろうが…彼女も龍也も色んな意味で頑張れとしか言えない十千屋であった。




はい-と、言う訳でコラボ企画:後編【お茶会編】で御座いました。
今回もゲストである『秋野龍也』君の産みの親であるたちゅや氏には彼らの行動の指導や添削などを担当していただき、どうもありがとうございました。

これで今回のコラボ企画を終了とさせて頂きます。
()()()()ので御座いますが。( ̄ー ̄)
実は、今回のコラボ企画に際してこの作品を相互関係にしようと、たちゅや氏に思案させて頂きました。
コラボ話の流れを此方で作って、そこからコラボ先‐たちゅや氏のキャラクターである龍也に掘り下げて貰おうという案です。

何故そうしたかというと、此方でたちゅや氏のキャラクター達を動かしてイメージ等を崩さない為に、出来るだけ表面上の動きだけにしたかった事。
やはり、龍也たちはたちゅや氏に描いてもらいたい事。
折角のコラボ企画なので相互作用を持つ作品にしたかった事などが挙げられます。
その為、たちゅや氏には今回のコラボ話での龍也視点を書いて貰えないかとお願いしました。
あちらがキャラクターの一人称視点だというのも理由に入ります。

これからもたちゅや氏にはご足労おかけいたしますが、どうかよろしくお願いいたします。

そして、こちらの(病み)属性夫婦がハッ茶け過ぎた事を…改めてたちゅや氏にお詫び申し上げます。( ̄▽ ̄;)

さて、長々と裏話的な話をしてしまいましたが、次回からは通常の話に戻ります。
夏休み編との事でオリジナルルートに成ってしまいますが、宜しければお付き合いください。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA63ss:説明に入るぞ~

…一か月半!?
コラボ回も終わって気が抜けすぎだってばよ。orz
さて、今回は説明会です。文字数が多いです。
ゆっくりした時に楽しんでくれればと。

では、どうぞ御ゆるりと。


語らねばならない。

新たな力を翼を…あの白き姿を!!

そして、その影に佇む複数の陰を。

 

アリーナのピットに発進許可が下りる。

その電子音と共に一夏は顔を上げ、白式 第二形態(セカンドシフト)雪月華(せつげつか)のスラスターをトップギアまで噴かした。

この勢いでピットから出ると数多のミサイルに晒されるが、三日月状のウェポンラックの月輪に

備え付けられたメガスラッシュエッジのライフルと雪羅(せつら)の荷電粒子砲で迎撃する。

攻撃によって爆散したミサイルの爆炎から彼は現れると、大きく雪片を振り上げ見栄を切り停止した。

それは大きく手足を開き、画面左側あるいはカメラ方向へ武器を向けた見得切りポーズ…

所謂、種ポーズである。

そして、『IS インフィニット・ストラトス』のタイトルコールが被さった。

 

「と、言う訳で…いつものメンバーを揃え、新しくなった白式の説明だ」

 

「「「すみません。いったい何がそういう訳なのかサッパリです」」」

 

IS学園の幾つか在る視聴覚室を貸し切り、先程のアニメオープニングバングみたいな映像を背に

十千屋がそう始めると、一部除きツッコミが入った。

そうだろう、何せ…重傷?を負い終業式まじかに復帰してきた十千屋の第一声がこうなのだから。

普段のトレーニングかと思いきや、行き成り視聴覚室に集合させられ良く分からない映像を見せられたらもうツッコムしかない。

あと、一部例外は…この映像を撮られた一夏本人は照れながらも目を輝かせてみており、

アニメ等に詳しい簪はキレがまだ悪いと映像の評価をしていた。

 

「いや、本当になんでこうなのかサッパリなんだけど」

 

「最近はシリアスが続いてたからな。こういうガス抜きもいいだろ?」

 

「おじ様…もう少し、休んでいてもよろしいのですよ」

 

すっかりツッコミキャラと化した鈴音は肩を落とて言い、負傷した様子を知るセシリアは十千屋のキャラ崩壊ぶりに多少嘆きながら休暇を勧める。

 

「しかし、Vater()。白式の性能をこうも公開していいのだろうか?」

 

「あと、いつの間に調べたんだろうね?白式を借り切って調べさせたれた覚えもないし?」

 

「カタログスペック程度なら直ぐに分かるし、問題ないだろ?

 それにこの程度、ISコアネットワークを通じれば何時でも手に入れられる。それに…」

 

「「それに?」」

 

「俺の愛妻の一人を思い出してみろ」

 

「「「あ~~…」」」

 

ラウラは此処に居るメンバーだけとは言え、白式の性能を広めていいか疑問に感じ、シャルロットは何時そこまで調べ上げたのかを疑問に感じた。

それに対し彼は、その程度など軽いもんだと言い。愛妻となった束の存在があると仄めかすと一同は納得する。

ISの産みの親である妻と、それの類似品を扱う夫、二人に掛かればカタログスペック(仕様上の能力)程度を調べるのは苦にも成らない事であった。

 

「さて、じゃあ…説明に入るぞ~」

 

――『白式・雪月華』――

 

第二形態(セカンドシフト)によって機能増設された白式。

増設部分は、

・左腕部多用途武装『雪羅(せつら)

・大型複合式三連ウィングスラスター『六華(りっか)

・三日月形ガイドレール付きウェポンラック『月輪(げつりん)

・メガスラッシュエッジ×2

・各所にエネルギーバイパス兼ハードポイントの追加

と、成っている。

 

「こう見ると、にんじんの白式も見た目も中身も結構かわってるんだねぇ」

 

「そうね。けど、雪羅以外は全部ウチ(コトブキ系列)の影響が丸分かりね」

 

「否定できない事案が発生。()式なのにコトブキ色に塗り替えられつつある」

 

「チェーロ達も色々と言うけどさ…ちゃんと強くなってるから良いじゃねぇか」

 

「まぁ、最大の欠点は据え置きなんだがな」

 

「「「は?」」」

 

コトブキカンパニー側の面子が変わった仕様にそれぞれ茶々を入れるが、それを一夏は不服そうに言い返す。

が、十千屋の冷や水によって全員がそちらに向く事になる。

 

「其処もちゃんと説明してやるから、順番にな」

 

彼はそう応対すると、各武装への説明に入った。

 

・左腕部多用途武装『雪羅(せつら)

 

格闘のビームクロウ、狙撃の荷電粒子砲、防御のビームシールドに変化する複合武装である。

特にビームクロウとビームシールドのエネルギーはシールドエネルギーを無効化する単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)零落白夜(れいらくびゃくや)』と同一である為‐燃費は良くない。

 

「相変わらず攻撃力特化だねぇ~」

 

「だが、そこに浪漫が在ると思う。前のめり的に」

 

「補足として、クローモードは指一本一本にビームブレードが、

 手刀状態にしてブレードモードもあるが…雪片のワンオフと同時使用すると消費が倍になる。

 当たり前だがな…」

 

・大型複合式三連ウィングスラスター『六華(りっか)

白式の高出力ウィング・スラスターが大型&変形・分離できる様に成ったもの。

各スラスターは以前の倍以上の出力を持ち、対のスラスターは各三分割・計六分割に分離できる。

分離したスラスターらは自由に配置でき、本体からもサブスラスターが出るためフレキシブルな対応が可能。

基本は対に纏めた通常(ノーマル)形態、

肩・腰・脹脛(ふくらはぎ)にアンロックのスラスターとして配置される全方位(オールレンジ)形態、

全てのスラスターを連結させた加速(ロケット)形態などがある。

他にもメガスラッシュエッジのブレードやアックスを制御翼にでき、

統計的に加速・機動性は上がったが、燃費に関しては改善されていない。

 

「…そこは改善されなかったんだね」

 

「やはり白式は玄人向け過ぎるな」

 

「ああ、増々一夏のエネルギー管理能力が問われる仕様に成ったとも言えるな」

 

・三日月形ガイドレール付きウェポンラック『月輪(げつりん)

・各所にエネルギーバイパス兼ハードポイントの追加

月輪は肩から脇に掛けて弧を描く様な形のアンロック式のウェポンラックである。

左右に配置されており、『C』の様なその形状の外周を自在に移動するハードポイントがある。

積載量はそのままガイドレール分であるが、稼働の妨げにならないように適当にするべし。

 

各所に配置されているハードポイントは以前よりも位置が洗練されており、

使わない時は自動でカバーが閉じるようになった。

 

「固有の武器以外は全部此処に集約されているといっても過言じゃないわね」

 

「そうですわね。白式の弱点である『武装の少なさ』を補うための機構ですわ」

 

「そして、ただのウェポンラックじゃない。自在に稼働する事で砲台にする事も可能なものだ」

 

そして、ここからが補足説明になるが…白式の拡張領域(パススロット)に空きが出来た事である。

 

「「「…え?」」」

 

「そうなんだよ!メガスラッシュエッジが二個も入ってる分が在るから、

 空きが同じくらいのH.W.Uが一個しか入らないんだけどさ!

 いや、でもメガスラッシュエッジが収納できるだけでも嬉しいんだけどな!!」

 

白式の拡張領域が空いた。この出来事に説明役の十千屋以外全員が信じ難い目で一夏を見る。

当の本人は今まで不可能だった事が可能になり、それが嬉しくてはしゃいでいるが他の面子はどういう事なのか十千屋に説明を求めた。

白式の拡張領域は単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)零落白夜(れいらくびゃくや)』の発現の為に全て使用されている。

この為に白式は後付装備(イコラコザ)が出来なくなっている。

これは第一形態から単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が発現できる仕様の副作用なのだが、第二形態になっても白式である為に変わらない筈だ。

なのに拡張領域が空くといった事態は何なのか、それを皆は説明を求めたのである。

こうなる事は予想できたのか十千屋は直ぐに応対した。

 

「第二形態移行はより装着者に合わせる形で進化してゆく、ここまでは良いな?」

 

「「「(コクリ)」」」

 

「しかし、合わせるといってもそれは単体でのやり取りだ。決定的な不足分は補えない

 …と言うのが、俺と束が出した結論だ」

 

真相を知りたい皆は十千屋の言葉に頷きながら聞くが、束の名前が出て来た所で冷や汗をかき始める。

 

「ならば、形態移行(フォームシフト)した時に欠点を補える()()()()()()が在れば

 それを取り込んで進化できないか?という話題になった」

 

「「「(ゴクリ…)」」」

 

彼はそう話を続け、画面を操作する。

画面には形態移行する前の白式とクリスタルみたいな何かが映った。

クリスタルには吹き出しが添えて在り、そこに拡張領域の文字と二振りのメガスラッシュエッジのイラストがある。

 

「臨海学校前に白式は形態移行しても良い位に一夏のデータを溜め込んでるのは分かっていた。

 その為、俺と束は一計を講じる」

 

画面に映る白式とクリスタルの間に『(プラス)』が表示され(イコール)の先には第二形態となった白式が表示される

 

「白式に圧倒的に足りない拡張領域を、此方の超AIシステムと拡張領域など量子領域を司る-インテリジェンス(I)コアで補完すればどうなるかと」

 

答えが返ってきた瞬間に全員が一夏を――正確には彼が身に着けている待機状態の白式を見た。

彼も腕を持ち上げマジマジと見つめている。

 

「実は俺も事後報告だったんだがな。一夏が『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』に倒され、

 寝床に横にされた時にコッソリとIコアを白式に添える様に置いてたらしい…束が」

 

さらなる事実に全員が唖然としながらも納得する。彼女()ならやりかねないと。

 

「と、まぁ…これまでを纏めると白式は機動力・火力・拡張性を強化する事が出来たんだが、

 一方で零落白夜の欠点の据え置き、火力の強化と大型・複雑化したスラスターによって

 使用エネルギーが激増した。

 つまり、燃費が悪いと言う欠点は据え置きのまま色々と強化されたというのが実態だな」

 

「ウゾダドンドコドーン!」

 

十千屋が纏めた結論に一夏の慟哭が響き渡る。

それもそうだろう…自分の愛機がパワーアップしたと思ったら、一番の欠点は改善されず

RPGで言えばただ強い武器に置き換えただけという事なのだから。

この光景を見てた面子は、皆が生暖かい目で彼を見るしかなかった。

それ以外にどう見ろというのだろうか。

 

「はっ!でも、空いた拡張領域がある!それで武器とか何とかやり繰りすれば!?」

 

「あ~、レーザーとか白式からエネルギーを引っ張ってくるのは無理だぞ。

 武器その物にバッテリーがあっても使い切れば結局は白式から取る事になるんだしな」

 

「……(д゚)」

 

「案としてはメガスラッシュエッジを全て降ろして、空いた容量にプロペラントタンクや

 エネルギータンクを入れて消耗を誤魔化したりしながらとか」

 

「チックショウメェェェエ!!!」

 

再びの慟哭、まぁ…無理もあるまい。

 

一夏の叫びを見守って、彼が落ち着いたら今度は十千屋の専用機となってしまった打鉄の話へと移った。

映像もそれに合わせて彼の専用機へと変化したが、一同が首を傾げる。

全員が思っていた形とは違うのだ。

誰かは騎士-ドゥルガー(アイン)の姿を、誰かは武者-マガツキの姿が映ると思っていた。

他には、FAに詳しいものはその両FAの装甲を外した共通素体が映るのだろうと。

だが、どの想像からも予想が外れる姿であった。

体の各所を覆う装甲は戦闘用だとは思えない程貧弱で、特徴的な所と言えばハードポイントが異様に多いところだろうか。

一見するとフレーム(骨格)の様な印象を受けるそれは素子のFA:G(フレームアームズ:ギア)にも似ている。

この中で一番FAに詳しい簪はふと口に出す。

 

「フレームアーキテクト?」

 

「そうだ。学園から貸与されていたISをコアと俺がF()A()()()()第二形態にしたIS…

 俺の専用機『フレームアドベンド』だ」

 

前回の事件『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)暴走事件』の際、撃墜された十千屋とそのISが深層同調(ディープ・シンクロ)を引き起こした。

途中経過は省くが、彼がISのOSに侵食し量産機としてのリミッターを解除したことによって 第二形態(セカンドシフト)する。

ISは彼のFAに対する知識と情熱に反応し、FAの特徴を最大限に再現した。

そのため、FAの全()()()()としてのフレームアーキテクトを基礎形態とした姿になったのである。

最大の特徴としては第二形態をした際に()()()吸収したために膨大な拡張領域を獲得した。

その容量はなんと-超重装パッケージ(積載量超過)IS六機分を丸々と収める事が出来るほどである。

こうなった原因は、撃墜された彼を探すために来たIコア搭載した無人機型フレームアーキテクト-通称アントを何機も吸収したせいだ。

このアントにドゥルガーⅠとマガツキのパーツが搭載されていたため、形態移行後に即座に使えたのである。

 

「なるほど、確かにFAらしい」

 

「しかも、それに対応した単一仕様能力に目覚めたしな」

 

「「「ナ ナンダッテー!! Ω ΩΩ 」」」

 

フレームアドベンド-単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)選択接続(コネクト・セレクト)

FA-フレームアーキテクトの最大の特徴、様々な換装を最大限に活かすために発現した単一仕様能力。

その能力を簡潔に言えば高速切替(ラピッド・スイッチ)の発展型である。

()()選択しておいた換装先へ高速に切り替える能力だ。

予め選択しておくのと、武装を展開させる手順に人が介入する部分が少なくなるため高速切替よりも早く正確な展開が可能となる。

簡潔に言えばパソコン等のショートカットキーを使うようなものだ。

 

「な、なるほど…あの全身高速切替はコレが理由だったのか」

 

「この単一仕様能力のショートカットがどれくらい登録できるか分からないけど、

 便利な能力だね」

 

ただし、欠点としては…単一仕様能力使用時に少ないがシールドエネルギーが消費してしまう事、その消費がどれも()()くらいある事である。

手持ちの武装でも、全身の武装切り替えでも()()の消費分が在るという訳だ。

…まるで、どこかの通販の様な欠点である。あとは、攻撃的な単一仕様能力でないのでそこら辺は上がっていない点だろうか。

 

「…べ、便利なのか不便なのか良く分からない能力ですのね」

 

「しかも、武装を出したり入れたりするだけだからなSE量は変わらん。

 まぁ、全部切り替えた時にそれぞれ増槽(タンク)が付いていればまた別だろうが」

 

「だが、相手からすればかなり戦い辛いISだぞ。

 相手の手の内さえ分かっていれば一人アンチ部隊が作れる」

 

補足として、専用機となったので待機状態となれる。

 

「そうか…ん?だったら師匠は専用機を身に着けているんだよな」

 

「でも、十千屋さんをパッと見てもそれらしい物が無い。もしかしてメット?」

 

「あ~ちょっと、失礼するぞ」

 

ISの待機状態は大抵アクセサリーとして変化するが、十千屋を見てもそれらしい物を持っていない。

その事を一同が不思議に思っていると、行き成り彼は一言を入れて背を向き…脱ぎだした。

その様子に皆は騒ぎ出すが、彼は気にも留めない。

その背には阿頼耶識システムの接続端末装置(ピアス)が付けられている筈だが、形が違う。

以前のは半円状でもっと大きい物であったが、今は背から突き出した阿頼耶識システムの端子を

包む分だけ盛ってる様な小さいものだ。見た目は背骨に沿ったカバーの様である。

 

「あ~、誰かコレをゆっくり引っ張ってみてくれ」

 

「「「‥‥‥(ジロ)」」」

 

(えっ、俺!?)

 

「「「(コクリ)」」」

 

行き成り半裸になり背に付いた物体を引っ張れと言われ、一夏を除く全員が彼を見る。

見られた本人は困惑するが、面子の無言の圧力により仕方なく十千屋に寄り物体をゆっくりと引っ張ってみた。

物体は肌に吸着してくっ付いているのか何かを剥がす様な感触がし、全部剥がし終わったら物体と阿頼耶識システムの端子を結ぶコードが出てくる。

しかし、見た目が小さな物体の何処に収められてのか分からないぐらいに、引っ張れば引っ張るほどコードがズルズルと出てきた。

 

「うぁあっ!?」

 

「「「キモッ!?」」」

 

この様子に何とも言い難い悪寒がし、一夏は物体を離してしまい他はつい声を上げてしまう。

しかも、落ちたソレは掃除機のコードの様に引き戻ってゆき再び十千屋の背にくっついた。

 

「と、まぁ…コイツ(IS)とは切っても切れない関係と成っている訳だ」

 

「切っても切れない関係(物理)じゃねぇよ!師匠!!」

 

「いや、右半身不全になったから助かっているし、

 以前のピアスよりも小型でスマートだから邪魔じゃないし良いんだがな」

 

「俺とは違うタイプの呪いの装備じゃねぇか!?…って、右半身不全!?!」

 

着なおしている十千屋を一同はマジマジと見つめ、彼は困ったような感じで理由を話す。

ISのOSを侵食した際に阿頼耶識システムを使った訳だが、処理能力が足らなかったために阿頼耶識を過剰使用した。

その結果、阿頼耶識システムが彼の脳を侵食。右目と右腕だけだった身体不全が右半身全体に広がったのである。

その事をISコアが不憫に思ったのか、いつの間にか待機状態がピアスとなっており彼にくっ付いていたそうだ。

 

十千屋の身体障害悪化に皆が暗くなっているが、彼は切り替える様に手を叩いて注目させる。

 

「ほれ、気にしない。本人が気にしてないのにお前らが気にしてどうする」

 

「けどさ、師匠…」

 

コイツ(IS)を身に着けている限り以前と変わらない。変に気にするだけ疲れるだけだ」

 

十千屋はそう言って強引に話を切り上げると、今度は今後の課題の話をし始めた。

 

「さて、今度は今後のお前たちへの課題の話だ。まずは…一夏」

 

「あ、はい!」

 

「複数あるが、まずは両手それぞれを使った戦い方に慣れろ。

 二刀流を習えとまでは言わないが、片手で刀を振るコツくらいはまずは知らないとな」

 

「二刀流か」

 

「ああ、どう見ても雪羅になった手は刀を握り辛く見えるし、

 武器が単純に増えたからそれの扱い方を考えないとな。

 あとは、タッグトーナメントの時に使った光の刀は覚えてるな?」

 

「ラウラが黒いISになった時のか」

 

「後で調べたらそちらの方がエネルギー消費量が若干少ないみたいでな、

 形も固定化されてるし振り回しやすそうだから出来たら良いなと思った」

 

一夏へは武器への習熟と零落白夜への提案がされた。

 

「箒と簪は他の面子よりも専用機の稼働時間が短い。

 出来るだけ稼働させ、自分とISとの相互理解を深める事が大切だな。

 特に箒はアイツ()特製だから余計に必要かもしれん」

 

「「はい!」」

 

箒は臨海学校から、簪はタッグトーナメント前くらいから専用機を使い出したので今は自分と機体への理解が先だと言われた。

ISとは装着者とISコアの二人三脚であるため、稼働時間=理解しあった時間となる。

その為、他の面子よりも稼働時間が少ない二人はまずはそちらが先である。

特に箒は稼働時間が少なく、しかも束特製であるためにより深い理解が必要であろう。

 

「セシリアとラウラは第三世代特殊兵装への更なる習熟か」

 

「はい、ビット操作はかなり複雑なパターンは組めましたわ。

 偏向射撃(フレキシブル)は訓練中ならば撃てる確率は上がってますわね」

 

「こちらはハイパーセンサーによる肉体的な死角への停止結界が成功しています。

 …セシリアと同じく訓練中の話しですが」

 

「良し。訓練中に使えれば本番(戦闘)中に使えるようにするだけだ。

 それに合わせて、セシリアは偏向射撃だけではなくて拡散などの形状変化に挑戦してもいいかもしれないな。

 ラウラはハイパーセンサーを使った複数同時に停止させる、マルチロックオンみたいなものに挑戦すればいいと思う。

 が、どちらも今習熟中の技能を優先するように」

 

「「了解(しましたわ)」」

 

セシリアとラウラは自身の専用機に組み込まれている第三世代特殊兵装の更なる習熟を指摘される。

以前から取り組んできたものは形になりつつあるため、それの完成と更なる発展を言われた。

 

「シャルロット、轟、チェーロ、素子は基礎を含めた全体的な技量の向上としか言えないな。

 機体は特に特出しているモノはないからな」

 

「分かりました」「「了解(だよ~)」」「OK」

 

「ただし、夏休み中はコトブキカンパニーでの仕事が在るかもしれない。その時は頼んだぞ」

 

「「「はいっ!」」」「もち」

 

シャルロットとカンパニーメンバーは全体的な技量の向上を言い渡された。

それぞれのISのスペックは特徴があると言っても第三世代以降の物ほどではない。

それ故に個人個人の技量を向上させるくらいしか指摘できなかった。

だが、このメンバーはコトブキカンパニー所属の為(シャルロットは会社が彼らに取り込まれたため)、夏休み中はそこから何かしらの要請があるかもしれないと連絡する。

 

「…で、あたしはどうすんのよ」

 

「鈴も同じく全体的な技量の向上だな。甲龍(シェンロン)はクセが余り無いから。

 …寧ろ、そのバックというか開発元というかソレらと折り合いをつけた方が良いかな?」

 

「あ、ああぁぁぁあ‥‥orz」

 

「まぁ、お国の風土がアレだから厳しいかもしれないが…

 コチラでやってる事を色々とチョッカイをだされるとな?」

 

「ちくしょう。あたしはコレで良いって言ってんのになんで余計なパッチや装備を送ってくんのよ、あたしの母国(中国)は!?」

 

彼は鈴に前のメンバーと同じく技量の向上を指摘したが、本音は彼女の背後関係を整理して欲しいだった。

彼女の専用機『甲龍(シェンロン)』は以前彼が調整し、鈴に合わせた設定にしたのだが…

彼女の母国-中国のIS開発元が気に食わなかったらしく何度も再調整の要請を突き付けてきたのである。

本当に自分に合わせ整理整頓された設定を受けた彼女にとって、本国の物はどうしても使いづらい物にしかならなかった。

その為、再び彼に調整して貰う。けど、本国から要らないパッチが送られてくる。

また彼に、さらに本国から…と、堂々巡りに成っていたりする。

無視しようとしても本国は無理やり押し付けてきたり、ウィルス状態なパッチを送ってきたりと要らない事ばかりだ。

何かと一番厳しい指摘だったのは彼女だったかもしれない。

 

「と、全員に言い終えたか。もうすぐ夏休みだが気を抜かないように。

 むしろ、だらけた夏休みを過ごした分だけ新学期時に弱体化したと思え!」

 

「「「はい!」」」

 

「夏休みはウチの国-ゲムマ群島首長国で色々とするから、それで集まるからな。

 そうは成らないかもしれないけどな。」

 

さて、あと数日で夏休みが始まる。

彼、彼女らにとって学園生活初めての夏休みだが、ある意味でとても()い夏になるかもしれない。




前回から一か月半くらい経ってしまいました。
本当に申し訳ない。(;^ω^)

今回は説明会ですね。
白式も十千屋の機体も拡張性というか…ブンドド出来る様に成っております。
いずれちゃんと整理して設定集に載せたいですね。
…設定集も「ファミリー勢」「原作勢」「機体などの他設定」と分けなければならないかも。(;´∀`)

さて、次回からほぼ夏休み編ですね。
まぁ、入る前にたっちゃんがやらかした話を入れようと思っていますがね。(邪笑)


そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA64ss:ダーリン、しばけない!

に、二ヶ月…:(;゙゚''ω゚''):
弁明はあとがきで……

では、どうぞ御ゆるりと。


まぁ…言葉足らずとか、早合点というのは妙な誤解を招くものだ。

そして、その結果良くない事が起こるのがお約束だろう。

今回はそんな話だ。

 

 

今日も時は過ぎゆき、もうこのIS学園も放課後となった。

この日は大型貨物もなくIS学園:港湾施設も辺鄙な様相だったのだが…

 

「ISを装着していれば致命傷にはならない筈なので…殺す気でやらせて貰います」

 

「ちょっとぉぉお!?なんでメイドちゃんがこんなに強いの!?

 …ぎゃぁあ!目の前で何か掠ったぁああ!?!?!」

 

「私は悪魔でメイドですから…と、返すのがお約束と聞きました」

 

「それって元ネタはガチの悪魔だからね!って、なんで宙で飛び跳ねれるの!?」

 

「私は悪魔(十千屋)のメイドですから」

 

「ルビに納得できるぅう!?!」

 

コンテナが並ぶ港湾施設で戦闘が発生してた。

宙を飛ぶのは刀奈であるが、彼女(IS)の相手しているのは()()()

それは空中に居る彼女を撹乱するためにコンテナ間の宙を走り、飛び跳ね、攻撃を仕掛けている。

H.W.U(ヘビィウェポンユニット)07:スカルマサカー 大鎌-デスサイズを振るい刀奈を追い詰める人物はメイド服だ。

体のあちこちに痛ましい傷跡のあるメイド-そう、十千屋家のメイド長-シルヴィア・十千屋である。

 

彼女らが戦っている様子を十千屋は母船(テーサウルスアルマ)からどうしたものかと見ていた。

同じ様に簪も彼の隣で同じような顔をして見ている。

 

何故こうなったかは少し前に遡る。

 

…放課後、ここ生徒会室で刀奈ら生徒会役員は日常業務をこなしていた。

今日は簪が来ている事もあり、刀奈は上機嫌で仕事を終わらせてゆく。

彼女の普段が色んな意味でヘタレている所を見せていたので、姉としての名誉挽回と言ったばかりに張り切っていた。

その様子を普段からこれくらい仕事を一生懸命やってくれればと、(うつほ)は冷ややかに見ている。

簪は彼女の視線から普段がどうかと察していたので、無駄な足掻きであった。

ふと、仕事の合間の清涼剤として刀奈が簪に話しかけなければ…こんな事にはならなかっただろう。

 

「ねぇ、簪ちゃん?」

 

「なに、お姉ちゃん」

 

「実際、ダーリン(十千屋)とはどうなの?」

 

「どうっ…て?」

 

コケティッシュな感じで彼女は妹に尋ねる。

姉妹揃ってと思わなくはないが、十千屋は既に彼女らにとって大事な存在だ。

妹もそうだろうと姉は聞いてみたが、

 

「どう…って、(//∇//)ポッ…」

 

「ううん、やっぱりそう来たか。で、実際は?」

 

簪の頬が一瞬で赤みがさすのを予測通りとする彼女であったが、次の瞬間…固まった。

 

「ええと…雄喜さんとは、」

 

「(*-ω-)ウンウン♪ダーリンとは?」

 

「大事なモノを交換し合った仲…かな」

 

「へぇー、大事な…(;・∀・)ハッ?」

 

妹の顔が照れだけではない。どこか恥じらいつつも艶を感じる女の顔に見える。

今まで全く見たことが無い彼女の表情に刀奈の心は何処か焦りを感じた。

 

「だ、大事なって。簪ちゃん?」

 

「うん。私にしかないモノ、雄喜さんにしかないモノ、色々と交換し合った」

 

此処にて刀奈の奇病が再発する。そう…シスコンという名の病だ。

そりゃあ、そうなっても可笑しくない状態だったし?

いずれ姉妹丼の可能性が高いと不本意ながら感じていたし?

でも…そうなら義理人情、詫びを(刀奈)に入れるべきだろう!

っと、姉としての(駄目な)愛情によって頭が沸騰する。

だが、それは露にも出さず彼女は笑みを張り付けたまま一気に今日の仕事を終わらした。

そして、

 

「虚ちゃん、今日はコレでキリが良いから此処までで良い?」

 

「確認いたします。…よろしいかと」

 

「ゴメンね~簪ちゃん。お姉ちゃん、急用を思い出しちゃった」

 

「うん、分かった。大丈夫?」

 

「大丈夫よ~。今日だけで済む事だから」

 

理想の姉っぽく優雅に笑みを絶やさず生徒会室を出てゆく刀奈。

誰も居ないが廊下は走らず生徒会長として模範的な立ち振る舞いであったが…

 

「キエェェエェェェェ( #`Д´)ッェエェェエエエ!!!!」

 

本当に誰も居らず、何か仕出かしても大丈夫な事を確認すると…あろうことかISを展開して奇声を発して何処かへと飛んで行った。

その時、姉妹としての勘だろうか?不意に簪が打鉄弐式を起動すると、

ISコアネットワークのログにミステリアス・レイディ(刀奈のIS)の起動記録が載る。

彼女は瞼を伏せ、少し思案すると、

 

「これはお姉ちゃん事案発生?」

 

「そうですね。お嬢さまの行動パターンから察するにその可能性が高いと思います」

 

「そして、お仕置き案件?」

 

「十千屋様は何だかんだ甘いのでそれなりで済ませそうですが、簪お嬢さま」

 

「うん、雄喜さんの所に行ってくる。多分、朝帰りになると思う」

 

「分かりました。お気を付けください」

 

この少しの事で全てを察すると、簪は姉が向かったと思われる十千屋の居場所へ足を運ぶ。

色々と問題のある行動をしている刀奈にしょうがないと思い呆れるが、二人は同じ様に嗤っていた。

 

「こぉんのぉお!!

 ボォケェエ、ダァアリィィイイイイインゥゥッッッ!!!」

 

「なぁっ!?なんだぁあ!?!?」

 

十千屋は開きっぱなしになっている船の後部ハッチ、格納庫内で作業中であったが

轟音の様な怒声に驚きそちらへ振り向く。

すると、女性がしてはいけない剣幕でISを身に纏った刀奈が剣を振り上げて襲い掛かって来ていたのであった。

作業中なのも相まって身動きが取れずに彼は彼女の凶刃に曝される。

…振りかぶられる剣は腹側だったのは最後の良心なのだろうか。

下手に避けると別の物に被害が出る事は明らかなので、彼は甘んじて受ける事にする。

しかし、

 

「っ、退いて!メイドちゃん!!ダーリン、しばけない!!」

 

同僚(愛奴)と云えども、流石にコレは無視できませんよ?」

 

「だって、だって!ダーリンがいけないんだもん!!」

 

「はぁ…完全に頭に血が上ってますね。少し、頭を冷やし(ド突き)ましょうか」

 

「う~~っ、こうなったらメイドちゃんを大人しくさせちゃうんだから!」

 

「ここでは被害がでます。こちらへどうぞ…追いつければ、ですが」

 

「上等よ!」

 

シルヴィアは人間と思えない跳躍力で後部ハッチから後部甲板へと跳び移り、刀奈は飛んで後を追う。

怒涛の展開に少し呆けていた十千屋であったが、巻き込まれないように船内を通って追い駆けた。

 

元々この船は某国からの払い下げで購入した大型海洋観測船を改造したものだ。

その為、後部甲板は今でも様々な物が設置されておりISが戦うのには少々手狭である。

だから少しは冷静になったのか刀奈は蒼流旋(ランス)ではなくラスティー・ネイル(蛇腹剣)を用いた。

蒼流旋を自由自在に振るうには手狭であるし、他人の船を傷つけたり

人間相手に射撃武器を使ったりするのは躊躇われた為である。

一方でシルヴィアは小柄さと俊敏さを武器に遮蔽物をうまく利用して彼女を翻弄した。

船を傷つける恐れがある為、こちらも射撃武器を使わないが両手に持った峰が妙にトゲトゲしたファンタジー的な大型ナイフで応対する。

 

「意外とお手元がお留守ですよ?」

 

「くっ、こぉのお!!」

 

そして、何よりも刀奈が思った以上にシルヴィアは手練れであった。

この場所では狭すぎる大柄な(IS)の内側に入り込み、何度も斬り付けてくる。

ISの仕様故に腕が延長されている。その懐こそが死角と言わんばかりの攻撃であった。

 

さらに刀奈を焦らす要因がある。シルヴィアの攻撃が()()()()()()

少女の様な外見からは想像もできない腕力がシールドエネルギーを予想以上に削り取ってゆく。

だが、彼女もやられてばかりではない。

 

「これくらいなら、許されるわよね!」

 

剣先に水が集まり水球となって勢い良くシルヴィアに向かう。

ミステリアス・レイディの第三世代型兵器によって生成した、高圧圧縮された水の球だ。

当たれば普通の人間なら悶絶するか、下手をすれば骨折くらいはするほどの攻撃力を持っている。

互いに遠距離攻撃が出来ない状態でのロングレンジアタック、完全に不意を突けた筈だ。

()()()()()

 

「せいっ…」

 

「ちょぉお!?嘘でしょぉお!!」

 

水球に銀閃が何度も奔ったと思った次の瞬間、水は弾けて(しずく)となって消え去った。

客観的に見ればシルヴィアが両手のナイフで水球を何度も振り払って消しただけ、となるだろう。

ただ、高速で接近するバレーボールくらいの水球を、これもまた高速で近づく彼女が打ち消した。

この様な事実が絡むと現実感が無くなるが。

 

「このままだと船の設備に悪い影響がでますので」

 

「あっ、ヤバ!?」

 

再び刀奈の懐深く潜り込んだシルヴィアは、彼女の頭を掴み…空高く()()ジャンプした。

 

「おろろろろろぉおお!?」

 

高速回転する前宙の軌道で振り回される彼女は堪ったものではない。

ISによる姿勢制御を咄嗟に出来ない程のものである。

目に映る風景がまるでドラムロールの様に流れてゆく。

 

(とう)っ…」

 

「きゃぁあああぁああああ!?」

 

この勢いのまま投げ飛ばされた刀奈は全身が回転しながら、コンテナが積まれているIS学園の港湾施設飛んで行く。

しかし、嫌な言い方だか腐っても彼女はIS学園最強(笑)、直ぐに体勢を整えシルヴィアのいる方向に目を向けた。

 

「っく!い…いぃぃいい!?」

 

()っ…」

 

無表情のシルヴィアが彼女の身の丈ほどもある大鎌-スカルマサカーを振りかぶって

此方へ飛び込んでくる光景であった。

咄嗟に両手で持て踏ん張りがきく蒼流旋を展開(コール)させ防御する。

両者共に勢いづいていたが、地面に激突する前に互いに弾き飛ばし着地した。

彼女らは得物を構え、対峙する。

 

「もう頭は冷えたのだけど、コレだけやられてるのに終わるってのは不完全燃焼な気がするのよね」

 

「そうですか。ですが、錯乱していたと言え…

 旦那様に刃を向けた事に対する仕置きがまだですので、丁度いいです」

 

そして、港湾施設のコンテナ置き場に舞台を移し戦闘が再開される。

シルヴィアの馬鹿力と小回りを利かせた近接攻撃に分が悪いと考えたのか、刀奈は一旦距離をとった。

それを今まで見せていた跳躍力で追い駆けるシルヴィア。

刀奈は届く範囲から一歩後ろに移動する事で避けるが、彼女は落ちながらナイフを投げる事で追撃する。

これも避けるのだが、ナイフの軌道が横薙ぎに急変されシールドエネルギーを削られた。

あり得ない動きに驚く刀奈であるが、空中-コンテナの間に浮いているシルヴィアから、

スカルマサカーを変形させた大型手裏剣を投げられそんな暇もない。

顔を引き攣らせながらコレも避ける彼女であったが、大振りに避けたためシルヴィアの接近を許してしまう。

絶対防御が働くほどの衝撃、パンチを受けコンテナの間に落下する。

その際に、何かを引きちぎる様な感触でシールドエネルギーを失った。

止めと言わんばかりのまたナイフの投擲が来たが、彼女は紙一重で躱し()()()()()()()()()()()()からまた空中へと退避した。

 

「はぁはぁ…色々と言いたいのだけど、メイドちゃんのトリックは暴いたわ」

 

「その様ですね」

 

「トリックの種は()()()()()()()

 コンテナの間に張り巡らせる事によってまるで宙に浮かんだ様に動き、

 武器に結び付ける因って急激な軌道変更も可能にした。

 ダーリンの会社(コトブキカンパニー)のだろうからただのワイヤーじゃないだろうけどね。

 それにしても蛇腹剣を使っている私が言えないけど、縄鏢(じょうひょう)なんてマニアックね」

 

「お見事です。が、事態は好転しませんが」

 

「ああっもう!メイドちゃんはいったい何者なのよ!?あの馬鹿力と言うか身体能力はなに!?」

 

「話した事は御座いませんでしたか。私は

「シルヴィアは改造人間(サイボーグ)とかそういう者だ。

 正式名称と言うか、改造を担当ししたPh.D.GEROは『新人造人間0号』と称してたな。

 『人間に極めて近く限りなく遠い』をコンセプトとした改造人間で、細胞レベルでの機械と融合を目指したらしい。

 志願した理由が…若気の至りで鉄火場とか修羅場に殴り込む俺をみて

『旦那様の隣に立てる様に、旦那様と奥様以外には何人たりとも侵されないようにする為です』

 だそうだ」

 

「流石、雄喜さんの奥さんの一人…病み()が深い。で、あの量子変換みたいな武器の出し方は?」

 

「インナー-ボディスーツの布地に織り込まれた電子機器が量子変換機能を司っている。

 容量はシャルロットのIS(ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ)並みだ」

 

「ほほぅ」

 

シルヴィアと刀奈が激闘?を繰り広げているのを観戦しているのは、十千屋と簪であった。

刀奈を追い駆けてみた彼女であったが、到着している時には既に戦闘が始まっていたので

こうして彼の隣に居る。

彼から解説を受けながらすっかり観戦ムードであった。

既に彼女らの戦闘は冒頭であった様にグダグダ感が増してきている。

これ以上長引かせても無意味だと思った彼女はISのプライベートチャンネルを開いた。

 

「お姉ちゃん」

 

「ちょっ、簪ちゃんっちょっと待ってて!意外とお姉ちゃん忙しいから!」

 

「…お姉ちゃん、誤解してると思うよ?」

 

「はぁっ!?誤解ですって!簪ちゃんの《放送禁止用語の羅列》を貪るなんて、

 ダーリンのなんてうらや…ゲフンゲフン!けしからん事よ!!」

 

「あ~、やっぱりそういう風に誤解してたの。お姉ちゃんのエッチ」

 

戦闘中でも関わらずこうして会話できるのは刀奈のハイスペックを表してるのだろうか?

それとも、シスコン(ちから)か…。

それはともかく、急な妹からの通信に彼女は慌てるが、何だか会話の流れが可笑しな方向に成っているのに気づく。

 

「え、エッチって…」

 

「雄喜さんと交換したのはプラモの『限定パーツ』の話」

 

「は?」

 

「だから、お姉ちゃんが脳内ピンク過ぎて誤解しただけ」

 

簪の事実に刀奈は一瞬呆けるが、自分の誤解に気づいて顔は真っ赤に染まる。

 

「はぁ!じゃあ、なんであんな風に言うのよ!?」

 

「失敬な。モデラーにとって、数量限定、時期限定、初回限定などの『限定パーツ』や

 『特典パーツ』は大切な物だよ?」

 

「ああ、それがカラバリ商法や促進販売と言われようが多々買ってしまうのが…ファンだ」

 

「だ、ダーリン…簪ちゃん…馬鹿なの!?バカなのね!?!」

 

「「積み()を積もうとも、多々買()わなければならない!(ω・´)キリ」」

 

「カッコイイ事、言った積もりかぁああ!!!」

 

簪と途中で割り込んできた十千屋のモデラー系ファンの心情は刀奈には理解できない。

自身の誤解による羞恥を誤魔化すように彼女は大声でコトブキユーザーのバカ二人にツッコムのであった。

 

「しょうもないですが、隙アリです」

 

「ああぁ!?しまった!?!」

 

そのツッコミは大きな隙となり、易々と刀奈は足元にシルヴィアの侵入を許してしまう。

身を屈めたシルヴィアは何度も彼女を蹴り上げ、高度を上げてゆく。

そして、蹴りの誘導によってコンテナ用のクレーン近くまで行くとこれを蹴り出して真下へと飛び出す。

無論、この時に刀奈をワイヤーまで使い確りと抱き締めあげており、彼女は脳天から真っ逆さまに落とされた。

 

「最近、こんなのばっかりよぉぉおお!!(TДT) ぐふぅ…

 

「おお、決め技は飯綱落(いづなお)としか!」

 

「ううん、ワイヤーで雁字搦めにしてあるから…表蓮華?」

 

それなりの高度から脳天直撃な落とし方をされた刀奈であるが、ISの保護機能により無事だ。

…逆立ちして力尽きたようなポーズで気を失っているのを除けば、だが。

シルヴィアは服の埃を払うと、すっかり観客と成っていた十千屋達に一礼すると彼女を回収する。引きずってだが…。

 

「ねぇ、雄喜さん?」

 

「何だ、簪」

 

「お姉ちゃんのお仕置きも兼ねて()()しよう?」

 

「…良いのか?」

 

「うん、バクバク カミングアウト タ~イム♪」

 

この様子に簪は手すりに体重を乗せながら、上機嫌でそう答えた。

他人から見ると表情が乏しく見えがちな簪だが、今は誰から見ても楽しみだという雰囲気が伝わってくる。

上機嫌な彼女、回収された刀奈、これらから今後の事を考えると苦笑する十千屋であるが、

彼の中では愛情と獣性がかま首を持ち上げていた。

どうやら、刀奈の受難はこれで終わりではなさそうである。




どうも、前回のあとがきを覚えていらっしゃるなら、今回が「たっちゃん、やらかし回」です。

…本当に、本当に
二ヶ月もお待たせして、申し訳ございませんでした!_| ̄|○ illi

ある意味、このISの二次創作で山場となる福音編が終わって…気力がつきかけていた事が一番の理由だと思います。
でも、ちゃんと続けていきたいとは思っていますので、どうか宜しければ気長に御待ち頂けたらと思っています。

実は、次はもう出来ていると言いますか…1万文字前後になったので分けた、と言うのが本音であります。
次回は、ここでの『たっちゃん、サービス(お仕置き)回』です。
意味は、分かるな?
そして、先に言っておきます。
楯無(ファン)の皆さんごめんなさい。&筆者と運営とのチキンレースです。

嫌らしくも感想待ちの為、数日後には投稿いたしますので。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA65ss:…お嬢さま?(;^ω^)

さぁ、予告通り受け取ってくれ。
『たっちゃん、サービス(お仕置き)回』だ。
覚悟はいいな?俺は…出来てる。

では、どうぞ御ゆるりと

注:投稿画面での最終確認である『プレビュー』で上手くいかないタグがありましたので、
  ご承知おきください。


彼女は言った。

「全て、この日で決まったの」だと。

落ち逝く様は悪夢の様だ。

だが、住めば都、喉元過ぎればなんとやら…。

あぁ、此処が自分の求めた地獄(パラダイス)なのだと……。

 

 

とあるギャグ的路線からしこまたやられた刀奈。

翌日、姉妹揃って十千屋の(部屋)から戻ってきたのだが……

刀奈はある意味で重症のままであった。

 

「・・・・・アハッ?」

 

FXで全て溶かした顔と言うか、(゚ワ。)←こんな、何もかも呆けてしまったと言うか…

人として何かを失っていた。

 

「…お嬢さま?(;^ω^)」

 

クールな(うつほ)も表情が顔文字になるくらいには動揺している。

だが、仕事の進み具合は何時もよりも良いというのは何処か不気味だ。

声を掛けても反応しないが、そっと書類を傍に追加するとそれを処理し始めるのでどうしたものかと彼女は思う。

暫くすると簪が生徒会室に来たのだが、真っ先に反応する刀奈は…未だ不動だ。

今まで一番の重傷だと虚は思い、簪に相談すると直ぐに彼女は動き出す。

 

「お・ね・え・ちゃ・ん?ふ~

 

「うひゃぁぁあ!か、かかぁかかかっ簪ちゃん!?」

 

簪は姉を後ろから抱きすくめると、耳元に猫撫で声で囁く。

すっかり性感帯と成ってしまった耳に熱い吐息と声の振動を受け、彼女は驚き飛び上がった。

 

「ねぇ、お姉ちゃん?何でこんなにボォ~っとしてるの?」

 

「な、何でって。簪ちゃん…だって昨日……」

 

「昨日?な~に?ちゃんと言ってくれないと分からないよ」

 

「だ、だだだだっっててててっ、昨日…簪ちゃんが…」

 

「私が?」

 

簪が刀奈にこうなっている原因を聞くと、彼女は歯切れが悪く上手く喋れない。

寧ろ、言葉が詰まれば詰まるほど顔が紅潮してゆく。

そんな彼女を簪は楽しそうに妖しく嗤う。

そして、抱きすくめる腕も物欲しげに動いていた。

上半身に置かれた手はブラウスのボタンを一~二個外すと、より強く抱きしめるためかその隙間へ。

下半身に置かれていた手はより深く抱きすくめるため、スカートの下へ滑り込まれていった。

その様にしている間も、

「ねぇ?」「お姉ちゃん?」

と、自分が囁く時の吐息さえも感じるくらい身を寄せる。

妹の妙な急接近に刀奈は正気を失っていった。

耳から感じる簪の息遣いと温度、密着しているから分かる匂い、鼓動、温かさ。

彼女が自分の素肌に触れるくすぐったさ…羞恥とも甘美とも取れる感覚情報に困惑し続ける。

 

「お姉ちゃん。また、可愛がってあげようか?」

 

不意に言われたこの一言で遂に刀奈は……

 

「うにゃぁぁぁあああぁぁ!!!」

 

「わっ!?」

 

爆発した。

その拍子で簪の拘束が緩み、彼女は猫の様に飛び上がって壁際に逃げ、これまた猫の様に威嚇する。

この様子に簪はやり過ぎたかな?と、思っていると刀奈は口を開く。

 

「ふーっふーっ、か、簪ちゃんの…っ」

 

「私の?」

 

「スケベっサドーーー!!!▂▅▇█▓▒░(TωT)░▒▓█▇▅▂」

 

「でも、満更じゃない自分が居るのがイヤ~~~っ」

 

何時ものパターンと成りつつある『涙チョチョ切れて逃走』となった。

その様子を暫く見ていたが、ようやく虚が諸因と思われる簪に聞く。

 

「簪お嬢さま、一体…お嬢さまに昨日なにがあったのですか?」

 

「ん~、私が雄喜さんのモノだっていうカミングアウト兼お仕置き?」

 

そう、あの戦いで気を失った刀奈は回収され…色々とあったのだ。

その内容は、一般人はドン引きの内容である。

 

気を失った刀奈が起きた時に見た光景は、我が目を疑うものであった。

それは十千屋と簪が互いに貪り合う姿である。

この事実だけで気が動転した彼女は気づけなかったが、十千屋は簪を後ろから抱き締めながら求めていた。

つまり、この光景を彼女に()()()()()()()していたのである。

そして、起きたタイミングが良かったのか悪かったのか…()に愛しの彼のが注がれる時であった。

彼は妹を抱きしめながら一旦、あの一部を離す。そこからは、愛した結果が滴り落ちる。

 

一連の場面に現実感のない刀奈を他所に、妹は彼女に見せた事が無い女の笑みで、

淫紋を刻んだ下腹部を愛しく撫でながら語る。

自分は既に彼と愛し愛され合う仲だと、姉よりも先に彼を自分に招き入れる仲に成っていたと。

衝撃の告白に刀奈は言葉が出ない。そんな彼女に満足なのか、簪は恍惚の微笑みを浮かべていた。

 

「…何と言うか、どギツイですね」

 

「当然。これくらいしなきゃ、お仕置き兼カミングアウトにならない。

 でも、ここから楽しかった」

 

「何がです?」

 

放心状態の彼女を前に簪は十千屋にもう一度と乞う。

彼は刀奈に同情するが、腕の中でねだる簪に苦笑交じりで答えた。

既に受け入れる状態であった彼女はそのまま重なろうとしたが、誰かに押しのけられる。

その正体は刀奈であった。

彼のモノを強引に咥え込むと、(むせ)ながら嘔吐(えず)きながら吸い出そうとする。

出されたモノを飲み干し終わると、咽ながら荒い息をしながらへたり込んだ。

かなり煽ったといえ、普段の彼女からすると突拍子もない行動から周りが唖然としていると、

 

「だ~ヴぃ()ん、がんざじじゃんを()っじゃやだぁあ~~!」

 

がんじゃじぃじゃん(簪ちゃん)も、だ~~びぃ()んをどぅ()っぢゃ、やぁあああ~~~!!」

 

鼻を啜り、涙をボロボロと落としながら刀奈は泣き喚く。

 

「うん、もうガン泣き状態。幼児退行したかの様だった。お姉ちゃん、可愛かったなぁ」

 

「今までの流れは何も言えませんが、その幼児退行お嬢さまは見てみたかったですね」

 

「大丈夫、この時の為に色々と()()()()いたから」

 

「お心遣いありがとうございます。…で、やはり続きが在るのですか?」

 

「うん。アフターフォローかな?あの後みんなでお姉ちゃんを慰めて愛し合ったよ」

 

感情を発露させた刀奈にその場に居た全員、十千屋・簪・リアハ・シルヴィアは彼女を身も心も

慰め愛し合った。

自分が彼女を愛してるかを示すように、囁き、触り、味わい、抱きしめ合う。

彼女もそれに答え、握り返し、口を付け、抱き締め返す。

 

「興味本位ながら、お嬢さまが一番悶えたプレイは?」

 

「一番効いていたっぽいのはアレかな?」

 

虚の質問で蹂躙とも捉えられる愛欲の宴の中で、最も刀奈がイキっぱなしに成っていたモノを思い出す。

それは、刀奈の両脇から十千屋と自分で愛し合った時だろう。

彼女の下は彼のモノと自分はそれを模した双頭で塞ぎ、片手は彼女の頭部を固定して、

「好き」「愛してる」と自分たちの方向にある彼女の耳を舐め回しながら、愛を囁く。

無論、空いた片手は彼女の様々な性感帯を愛撫しながらだ。

 

昨日のあの時のテンションはもう、肉の宴と書いてサバトと読む勢いではなかったか?

その様に思う。

そして、行き過ぎたテンションは時折とんでもない事を仕出かす、と簪は思った。

その一つの結果を彼女は虚に見せる。

 

「で、ノリに乗っちゃって…最終的にやり過ぎたのが、コレ」

 

「…こ、コレは流石に (;´・ω・)」

 

簪がスマホを差し出すと、そこには衝撃的な写真が写っている

あの美麗な刀奈の顔は汗に涙に鼻水、涎、その他で汚れており、目は白目を剥く一歩手前だ。

口はだらしなく開き、舌が垂れ下がる。

弛緩しきった体は無論、情事の最中だったので何も身に着けていない。

が、()れている事は一目で分かった。

足はガニ股のまま、おっぴろげになり…前後は開き気味で何かが漏れ出している。

そして、力の入らない指先を簪とシルヴィアが片手づつピースサインの形にして固定されていた。

 

そう、|乙女としての尊厳をズタボロにされた冒涜的な姿《ガン●マリ ア〇顔ダブルピース》である。

 

これは流石にお嬢さまを弄り隊を自称する虚も引いた。

 

「お、お嬢さま…おいたわしや……」

 

「流石にやり過ぎたと反省している。だが、後悔はしてない」

 

姉のあられもない姿を見せる簪は何処か満足気である。

この様子を見て虚は、この姉妹間のパワーバランスは完全に逆転した事を悟ったのであった。

 

楽しみであるが、愉悦的ではあるが、今後この姉妹はどうなってしまうか頭が痛い所だ。

しかし、彼女は気を取り直して先程から気に成っていたいた事を簪に聞く。

 

「あの、先程から片手に握っている()()何なのですか」

 

「これ?」

 

簪は片手に握り込んでいたソレを広げる様に持つ。

ソレは布地だ。広げると蝶の様な形でそれぞれの端は紐に成っている。

レースで飾り付けされているが最小限で、シルク系の肌触りの良い面の方が多い。

 

「ソレって、もしかして。もしか…します?」

 

「うん、さっき抜き盗っちゃったお姉ちゃんのパンツ。

 最近の雄喜さんの好みのタイプだね、コレ」

 

「お嬢さまはもしや…穿いてないのに駆け出した?」

 

「さっきはブラのフロントホックも外したから、実質ノーブラ」

 

簪の悪戯に別の意味で頭が痛くなる虚であった。

そして、なぜこんな事を仕出かしたか聞くと、

 

「お姉ちゃんが爆走するのは予想済み。そして、行先も」

 

「…もしかして」

 

あんな姿(Noパン&ブラ)狼さん(雄喜さん)に会ったら…どうなるんだろう。+(0゚・∀・) + ワクテカ +」

 

従者としてどう主人達に今後付き合っていけば良いか、本気で考え直す必要を思う虚であった。

一応、節度をもって彼女らをエロエロにするのは百歩譲って良いだろう。

だけど、妊娠だけには気をつけてください。ガチでお願いいたします。

と、思っている彼女をしり目に…今頃、しゃぶられているだろう(刀奈)を思って、

その話題で盛り上がる妹たち(簪&本音)であった。

 

 

――おまけ:彼女(本音)の愛――

 

暫く(刀奈)をダシに使った猥談で盛り上がっていた簪と本音だったが、急に本音の機嫌が急変する。

 

「あ、むぅぅう…(#^ω^)」

 

「どうしたの、本音?」

 

そんな本音を不思議に思ったのか簪が聞くと、彼女は頬を膨らませてそっぽを向く。

ぷりぷりっ、ぶーぶーと何とも子供じみた反応だ。

 

「だって~、話からすると~かんちゃん、昨日とうちゃんさんとイチャイチャラブラブ~、

 したんでしょ~?」

 

「うん。それがどうしたの?」

 

「ず~る~い~っ!!わたしは~っまだ、貫通式&捺印の時だけぇー!

 わたしも、とうちゃんさん と かんちゃんとラブラブ~イチャイチャ~ヌチョヌチョ~!

 しぃ~~たぁ~~いぃ~~!!」

 

「えーと?単純に自分の回数が少ないって?」

 

「そーだー!何だかんだでかんちゃんシてるでしょお~!」

 

どうやら、自分(本音)にお声掛けが無いのが大変ご不満らしい。

簪は、「あー…」と苦笑しながら文句を聞いている。

十千屋が復帰し、夏休みまで少なくなった登校日の中で彼女は彼をそれとなく誘惑し、やや爛れた青春を送っていた。

それとは逆に本音はお呼ばれする方が嬉しいのか、ポーズは取っているが待ちの体勢である。

その為、爛れた青春で惚気ている簪に対してちょっと嫉妬しているらしい。

 

怒っていても怖くない、寧ろどこか可愛らしい本音に答えたくなる。

今まで色々とあっても傍にいた彼女だ。

なら、それに答えてやるのが自分-主人の役目ではないかと簪は思う。

 

「じゃ、今度は一緒にイこ?」

 

「むぅ~。(。-`ω-) 絶対だよ~?」

 

「うん、その時は本音がしたい事を優先的にヤろ?」

 

「…許してあげる~」

 

「ありがとう、本音。で、どんな事をシたいの」

 

「え~~っと、ね~~」

 

約束を取り付け本音のご機嫌取りをすると、どんな事が彼女の望みなのか聞きたくなった。

本音は頬を紅く染め、もじもじと乙女チックモードで答える。

 

「やっぱり~、みんな~スッポンぽんなのは当たり前だよねぇ」

 

「まぁ、大体そうだよね」

 

「で~、とうちゃんさんは~座ってる~わたしの肩を~抱き寄せて~欲しいなぁ」

 

「お肌の触れ合い、本音は好きだものね」

 

「それで~、かんちゃんは~わたしの膝枕にいるの~」

 

「まったりイチャラブ3プレイ?」

 

「そして~、わたしは~かんちゃんを~抱き上げてあげるから~、かんちゃんは~わたしの~

 おっぱいを~吸って~゚・*:.。..。.:*・゜(*´∀`)。. .。.:*・゜゚」

 

「……ん?ちょっと待って、イチャラブwith(私は)授乳プレイ?何故に??」

 

本音がやりたい事を聞きながら相槌を打っていた簪だが、想像図がおかしくなってきたので詳細を求める。

 

「とうちゃんさんが~旦那さまで~、

 かんちゃんは~赤ちゃんみたいに~甘々させたいの~(*/ω\*)」

 

彼女的には恥ずかしいポイントがあったのか、両手で顔を覆い体を揺らす。

だが、見える頬と耳は確りと紅潮している。

そして、確信へと話は続く。

 

「かんちゃんは~、とても頑張ってたの~。一人で頑張ってたの~。

 だから~いっぱいっ、よしよしヾ(・ω・`)して~、甘々に甘やかして~、

 ラブラブ~したいんだよ~」

 

彼女は本音を言いきったのか、恥ずかしくてその場でしゃがみ込んでしまった。

これを聞いた簪は彼女なりの愛情と母性なんだろうと納得する。

ならば、する事は一つだろうと(変な)覚悟完了した。

 

「本音?」

 

「あうあうぅ~(*ノωノ) なに~かんちゃん~?」

 

「その時は、いっぱい甘えるね?本音()()

 

「(*''▽'') うん!いっぱいっ、あまあまして~!!」

 

意外な所で絆を深める簪と本音、その様子を虚は微笑ましく見ていた。

・・・内容はガン無視の方向だったが。

それはともかく、簪も本音も何だかんだで良い方向に行っているみたいだ。

その事は一人の姉として嬉しく思う。

だが、虚は本音に言いたい事があった。惚気(のろけ)ながら情事を()に報告するな、と。

ロストバージンと服を(めく)って下腹部の淫紋を嬉しそうに言ってきた時は、本当にどう返せばいいか悩んだのは記憶に新しかった。




はい、運営とのチキンレースが始まりました。
ちょっと性的表現が個人的に濃い気がするので…もし、BANになったら何とかします。(;^ω^)

さて、コレで正式に更識姉妹が十千屋ファミリー入りしました。
だけど、お気づきの方がいらっしゃるでしょうけど…まだ、更識組に加入メンバーが控えています。
それを書くのは『夏休み編』のあと、二学期:原作では『運動会編』と呼んだらいいでしょうか?そこら辺です。
それまでちゃんと書ければいいなぁ…。( ̄▽ ̄;)

最後に…やはり…更識姉妹ファンの方々、のほほん党の方々、どうもすみませんでした!
彼女らが可笑しな方向に爛れて逝ったのは自分の責任です。
でも、やり過ぎたと反省しています。だが、後悔はしてません!
こんな作者ですが、これからもよろしくお願いします!orz


そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA66ss:通学風景

…よし、ギリギリ前回から一ヶ月以内だな。
オリジナル回と成ります。

では、どうぞ御ゆるりと


待ちわびる時も愛おしい。

それは幸せな明日を感じているからだ。

だから、来る時を待ちわびるのである。

 

 

今日も今日とて朝が来る。

ここIS学園では、朝食を学園の食堂でとる事が普通だが例外もいた。

 

「学食も悪くないんだが、やっぱりリアハが作ってくれた方が良いな」

 

「と言っても、凝ったものではないんですけどね」

 

「そこは朝だから仕方ないだろう?」

 

そう、十千屋とリアハである。

リアハはほぼ毎日、船の中にあるキッチンで朝食を作っていた。

夜に仕込んでタイマーで炊いたご飯に、サラダ、ソーセージ数本にベーコンエッグ、

これが彼らの朝食である。

 

「ついに明日で帰れるな」

 

「ええ、明日が一学期の終業式。色々とあり過ぎて長かった様な短かった様な…ですね」

 

愛妻が作ってくれた朝食を食べながら十千屋はふと思った。

彼女が言った通り、色々とあり過ぎた学園生活も明日を過ぎれば一時停止である。

終業式が終われば船ごと帰国する予定だ。

 

「あぁ、そういや」

 

「どうしたんですか?ユウさん」

 

「いや、麗白(ましろ)も通学中かなって」

 

「ふふっ、そうですね」

 

「あ~~、早く家に帰りたい」

 

「ですね♪」

 

明日の終業式から連想していき、自分達が帰るべき家へと思いを馳せる二人。

今回は、そちらの方を覗いてみよう。

 

 

―ゲムマ群島首長国のアケノ島周辺:ライチョウ島―

 

 

「行ってきます!」

 

「はい、行ってらっしゃいませ。麗白お嬢さま」

 

此処は十千屋とリアハの実家が在るライチョウ島。

孤島にある豪邸の様な家から今日も元気な声がする。

玄関から元気に飛び出したのは麗白、十千屋とリアハの実の娘だ。

それを見送るのは三つ編みの小柄なメイド-イリスが恭しく見送る。

麗白が数歩駆け出すと、彼女から量子の光が溢れ出す。

光から抜け出すと彼女の姿は、パールホワイトを基調とし金色の装甲をした(マテリア)スーツへと変わる。

そして、さらに大きく踏み出すと背中からピンク色のエナジーウィングが発現し、

地面をけり出して空へと飛びあがっていった。

これが彼女の()()()()である。

 

「イリ~、お嬢さまは出掛けたかぁ?」

 

「はい、丁度」

 

イリスが外に居る事に気づいたのか玄関から声がする。

それはメイド仲間(同僚)の褐色肌のマシュウであった。

彼女も外に出てゆき遠くに見える麗白を見てこれからに思いを馳せる。

 

「あ~、あと数日で賑やかになるんだよなぁ」

 

「はい、旦那様、奥様、お嬢さま方は夏休みになり帰省しますし、

 お客様もいらっしゃいますからね。久し振りに忙しい毎日になりそうです」

 

「ま、退屈しなさそうなのは良い事だ」

 

世間が夏休みになり、子供が居る家は忙しくなる季節だ。

それは此処でも変わらないらしい。

 

「そういえば、イノお嬢さまはどの様な手段で通学を?」

 

「イノ嬢は改造ラピッドレイダーでバイク通学だ」

 

「……あのゴツく盛ったアレですか」

 

「そう、旦那が趣味で改造してたヤツ。ガー●ンドとかモス〇ーダとかを目指してたけど、

 結局は二人羽織みたいになる強化外骨格に成るやつ」

 

この家に同居している他の学生の話題が出たが…兵器を使って通学とは如何に?

と、イリスは黙り込んでしまう。

問題を起こさなければ、十千屋関係の事柄に対して大目に見て貰ってるので気にしない事にする。

 

「海上も移動できますが、良いのでしょうか」

 

「イノ嬢も旦那が好きだからねぇ。好きな相手が作った物を乗り回したいんだろうさ」

 

「それはともかく、仕事に戻りましょう」

 

「だな。朝とはいえ日差しがキツくてかまわんし」

 

通学を見送った二人は戻ってゆく。今日の仕事はまだ終わっていないと。

 

さて、通学中の麗白だがもう本島に差し掛かっていた。

ある一定の高度をとっていると航空機や飛行ドローンの邪魔に成ってしまう。

それ故に、一般的なビルより高く、学校に通じる道の上を飛ぶ事を課せられている。

彼女が街中に入り、道なりに飛んでいると厳ついバイクを見かけた。

自分と同じMスーツを着た姿は直ぐに関係者だと分かる。

 

彼女達はどちらもゲムマ群島首長国の本島にある学校に通っている。

近くの島には学校施設は無く、良い教育を受けさせたいと十千屋達は思い其処へ通わせた。

当初はメイドたちが船と車を使ったりしていたが、Iコア・Sコアが作れるようになりISモドキを使っての登校に変わる。

諸事情の問題は先程もあったが、十千屋関係なのでご察しを。

 

暫く飛行していると学校が、いやかなり大きく『学園』と言った方がしっくりくるかも知れない。

『国立総合学園 リーフ』である。

字面の通り国営であり、幼稚園から大学院までの超マンモス学校であり様々な子供や人材が通う

教育施設だ。

麗白は自分の初等科がある校舎の屋上へと着地する。

着地と同時に量子に包まれ、学園の制服へと変わった。

襟や袖に軽めの刺繍がされている品の良い半袖ブラウス、首元には幅の広い赤のリボン、

裾にレースが飾られたチェック柄のフレアスカートである。

拡張領域(パススロット)から鞄をだし、教室へ向かう。

 

「おはよう!」

 

「おはよう」

 

「おはようございます」

 

「お~、我が学園の天使様のご登校だぞ~」

 

「なによ、天使って」

 

「いや、羽を羽ばたかせて学校に来るし」

 

麗白が自分の教室に入ると、口々にクラスメイトが挨拶を返す。

それに彼女も答えながら自分の机へと着いた。

 

「~~♪」

 

「麗白ちゃん、ご機嫌だね」

 

「うんっ、お父さんとお母さんがあと数日で帰ってくるからね」

 

「あ~、両親揃ってIS学園へ出張だったっけ」

 

「そう、あっちもあと数日で夏休みになるから久し振りに長く家に居られるって」

 

「麗白ちゃんって、結構お父さんとお母さんが好きだものねぇ」

 

「あはは、まぁ…自慢できる両親だもの。けど」

 

「…自慢出来る所のレベルじゃないと思うけどねぇ。で、『けど』?」

 

「お母さん達と仲が良いのは良いけど、イチャつきレベルを落として欲しい。

 子供心ながら恥ずかしくて…」

 

「それは、う~~ん……」

 

少年少女の和気藹々とした声が今日も教室を飾る。

さて、もう一方もそろそろか…

 

麗白が上空から確認したバイクも学園の駐車場へと入ってきた。

乗っていた人物はバイクにロックを掛けるとそのまま降りて歩き出す。

すると、此方も量子の光に包まれ学園の制服姿となった。

麗白と同じ制服、ただ胸元のリボンが細いタイプであった為ここの高等科の生徒だと分かる。

彼女はプラムに近い髪色のツインテールを揺らしながら高等科の玄関へと歩いてゆく。

 

「おっはよ~っ、イノ!」

「おはようなり!」

「にゃはは、姉貴おは~」

 

「おはよう、アンタらは朝から元気ねぇ」

 

玄関で声を掛けたのはクラスメート、

ポニーテールの『アオ ゲンナイ』、

ツーサイドアップの『ブキコ コトブキ』、

肩下まである髪をうなじで適当に結び付けた『レティ オルテ』だ。

そして、声を掛けられたバイクに乗っていた少女、あからさまに十千屋の関係者(身内)であるのが

ありありと示されていたこの少女は『イノ アーヴァル』

苗字で分かる通りリアハの妹であり十千屋の義妹(ぎまい)である高等科一年生の少女である。

ちなみにレティとの関係は従妹で本島に住んでいる。

 

「それにしてもアオ、アンタは日に日にご機嫌になってくわね」

 

「ふっふ~ん♪夏休みになれば(ごう)ちゃんが帰ってくるからね!」

 

「あぁ、アンタは(とどろき)好きだものね…」

 

「ちなみにアオは轟の事を『ごうちゃん』と呼ぶのは、

 読みとか色々と考えてコレが一番可愛いとのことなり」

 

「にゃは~、出た~ブキコの第四の壁破り~」

 

「アンタらね~~…」

 

あぁ、何時ものノリだとイノがうんざりしているが彼女らは止まらない、特にアオが。

 

「だって、轟ちゃんと一緒に進級かと思ったらIS学園に行っちゃうんだもん。

 だから、この夏は轟ちゃんと一緒に十千屋おじさんの御手付きにならないと!」

 

「おい、何故そうなる」

 

「そりゃあ、轟ちゃんとずっと一緒にいれる伏線だよ。私も十千屋おじさんの事は嫌いじゃないし手を出されても良いくらいだし、そして何よりも超玉の輿だからね!!」

 

「アンタの愛はおかしいわ…」

 

「そう言うイノも十千屋さんに向けてる愛情は歪んでるなり」

 

「そして、日々ご機嫌になってくのは姉貴も同じにゃ」

 

話題の矛先が自身に向けられると、ちょっとツリ目のイノの目が更に吊り上がる。

まぁ、変態?扱いされれば当然だが…それを指摘した二人の目は冷ややかであった。

 

「姉婿をNTL(寝取●)するのに燃える義妹の事を愛情が歪んでいると言って何が悪いなり」

 

「日に日に微笑んでいたり鼻歌を歌ってたりする回数が増ているのにゃ」

 

「レティのは置いておくとして、ブキコのは心外よ!」

 

「何がなりか~」

 

「ただ私は!お義兄(にい)さんの心のランキング一位を姉さん(リアハ)じゃなくて私に塗り替えたいだけよ!

 けっして、姉さんや他のお嫁さん、子供たちから奪いたいわけじゃないわ!!」

 

「世間一般ではソレはNTL(寝取●)と呼ぶにゃ」

 

「どう聞いても愛情が歪んでいるなり」

 

「うっさいわよ!お義兄さんの部下たち!!」

 

がー!っと怒りを露わにするイノに素知らぬふりで歩く二人。

蚊帳の外であるアオは轟とプラスαである十千屋との蜜月を妄想し顔が歪んでいた。

こんなのが彼女らの日常である。

あと、レティとブキコが十千屋の部下だという話は、レティが新型のMスーツのテストユーザーで、ブキコは玩具サイドのコトブキカンパニーのアルバイターである為だ。

 

何とも姦しいやらだが、自分達の教室に着く頃には多少治まりイノがスライドドアを開けて入ろうとしたが…。

その瞬間に陰鬱なオーラを感じで後ずさった。

この様子を見て全員がそろそろ音をたてないように入る真似をする。

そして、このオーラの出どころは…。

 

「オサレ オサレ オサレ オサレ オサレ オサレ オサレ オサレ オサレ オサレ オサレ オサレ オサレ オサレ オサレ オサレ オサレ オサレ オサレ オサレ オサレ オサレ オサレ……ブツブツブツ」

 

ブツブツと自席で俯きながら何かを発している大きなツインテールの少女だ。

比喩表現だが彼女から滲み出る陰鬱な暗いオーラは夏の日差しさえも遮ってしまうようである。

 

「…らぶちゃんが拗らせてる」

 

「久し振りの登校だってのに何やってんのよ…」

 

「まぁ、原因は察せるなりよ…」

 

「お~い、らぶや~ん!」

 

「あっ、あのバカ!」

 

オーラの諸因である彼女らの言う『らぶ』にドン引きであったが、唯一レティがそれをモノともせずに近づいてゆく。

一応、此方に反応する程度には思考があるのか近づいた彼女にらぶは視線を向ける。

 

「らぶやん、この前の番組カッコよかったよ~!

 1054P(プロ)の二人とあのお姉さんと一緒に戦車乗ってさ~『ガシッ!』にゃ?」

 

「オサレが…オサレが足りないのよぉおおおお!!!」

 

「にゃぁぁああああ!?!」

 

行き成り立ち上がり、近づいてきたレティの肩を掴み大きく揺らしながら叫び出した。

 

「最近はオサレなPVが増えてきたと思ったら、

 思い出したかの様に【むせる】が入ってくるのぉおおお!!」

 

「らぶやんっ、落ち着くにゃぁぁあ!!」

 

「いかん!らぶ様がご乱心だぞ!?」

 

「あぁっ、やはりこうなったか!」

 

乱心し凄まじい勢いでレティを揺らす彼女にクラスメイト、特に男子が騒ぎ立てた。

彼女『らぶ キュービィ』はヤマハプロダクションが企画したアイドル計画:初音プロジェクトに参加しているアイドルである。

【画一でありながら画一でない】と訳の分からない題目を基に『初音ミク』というアイドルを

多方面に展開した。

『初音ミク』という基本的な特徴を押さえる画一、そして個人個人で醸し出す『味』で勝負している。

所属アイドル全員が『初音ミク』な為、個別で分けるときは『~式』と分けた。

その中で彼女は『らぶ式ミク』という芸名で所属している。

 

閑話休題し、なぜ彼女が乱心しているか話を戻そう。

彼女の見た目は特徴としては『初音ミク』だが、使われる方面は例外を除き【オシャレで可愛い】方向で売り出している。

が、その例外が…炎の匂いが染み付くときに起きる、最低野郎(ボトムズ)どもの生理現象を彷彿とさせる

()()()だ。

彼女の覚悟を決め、戦いに臨む時の表情がそれを喚起させる。

以降、鉄と硝煙の匂いがするようなバトル系の企画に駆り出される事となった。

本人は【オシャレで可愛い】方向で行きたいのに、望まぬ【むせる】方向も熟さなくてはならないのである。

そして、そのストレスが今ここで爆発したのであった。

あぁ、【むせる】に向かうは…コトブキカンパニーに所属している彼女の父-異能生存体の(さが)なのだろうか。

 

「オサレ!オサレ分が足りないのよぉおおお!!」

 

「ぶにゃあ…」

 

「らぶ様!お口直しに一曲どうぞ!!」

 

暴走しているらぶに親衛隊(ファン)の男子が気分直しにオシャレな曲を掛けて彼女の気を落ち着けさせようとする。

それを聞くと彼女はピタリと止まり、待ちの姿勢となった。流石、プロアイドル根性である。

ちなみにレティは揺すられ過ぎて落ちた。

 

~~~♦♫♦・*:..。♦♫♦*゚¨゚゚・*:..。♦

 

「おい、何で肩を落とした鉄の背中が続く様な曲を掛ける」

 

「しまった!()サレ曲集のファイルにしたままだった!!」

 

待ちの姿勢だったが、イントロが流れると目が据わり筆箱を拳銃の様に持ち男子生徒に突き付ける。

どうやら慌てていたのか曲のファイルを間違えたらしい。

後の彼はこう語る。まるで劇中の彼女の愛銃である大型特殊拳銃(アーマー○グナム)を突き付けられた気分だったそうな。

 

「いい加減!わぁたあしぃいいにぃぃいい!!

 オサレな仕事だけを寄越しなさぁあ~~~いいい!!!」

 

「あ~~…らぶ、真面目な話ちゃんとしたステージの話はあるわよ」

 

「え?」

 

再び暴走したらぶに向かってイノがそう言うと彼女の動きが止まる。

そして、瞬時に相手に詰め寄った。

 

「ほんとにホントに本当に!?」

 

「観客はむせてるだろうけどね。

 夏休み中にある、連盟国を集めてやる大型公開演習の慰問コンサートよ」

 

「確かにそれなら【むせる】衣装で【むせる】曲をやらなくていいかも…」

 

「衣装ならFA:G(フレームアームズ:ギア)を流用したコイツだから大丈夫じゃない?

 FAの操縦が出来るらぶなら使いこなせるでしょ」

 

「こ、これは確かにオサレ衣装!しかも歌って踊って空も飛べるだと!?」

 

「詳しい事は実際にプロダクションに問い合わせてね。身内情報だからこれ以上は知らないわ」

 

「こ、これで脱むせるの一歩を…!!」

 

イノがもたらした情報により、らぶの暴走は完全に止まった。

だが、彼女は知らない…

 

(元がFA:Gだから武器持てば使えて【むせる】んだけどね)

 

(それにその時に使う大型舞台装置である『オーダークレイドル』も

 大型兵器のコクピットに出来る品物にゃ~)

 

あぁ、やはり彼女は戦い(むせる)から逃れられないのだろうか…

 

 

 

――中東:某所:経済特区――

 

 

「はい、はい…いいえ、ありがとうございます。……ふぅ」

 

「……議長さんよ、反応はどうだったんだ」

 

此処は中東に在るナナジングループが仕切る経済特区、そこの議長室である。

議長の席には金髪の女性が先程まで電話対応をしており、その反応を髪が逆立った浅黒い肌の男性が問う。

 

「ごめんなさい、完全に止められないかもしれません」

 

「いや、アンタは良くやってるよ。万が一の場合は俺らに任せろ。その為の俺たちだ」

 

「ありがとうございます。しかし、諦めずに手は尽くします」

 

「ああ、頑張れよ。クーデリア議長」

 

「頼りにしています。オルガ団長」

 

そう言葉を交わす彼らには確かな信頼をあった。

そして、男性-オルガが部屋から出るとその脇で待っていた人物が彼に語り掛ける。

 

「オルガ、クーデリアは何だって?」

 

「俺らがやらなきゃいけなくなるかも、だとよ」

 

「ふ~ん…それで?」

 

「決まってんだろ。仲間を家族を守るんだったら、たった一つだミカヅキ」

 

「うん、分かったオルガ」

 

「と、言ったものも…コトブキの若旦那に頼らざるを得ないだろうな」

 

「…すると、()()()が帰ってくる?」

 

「あぁ、あの腹ペコわんこが来るかもなぁ」

 

待っていた人物-男性としては小柄なミカヅキがオルガと話しながら廊下を歩く。

どうやら、ナナジングループの会議の時に懸念していた事が起こるかもしれない。




どうも、何とか前回から一か月以内に投稿できました。
今回はオリジナルというか、夏休みに向けての十千屋サイドの紹介?みたいな感じになっとります。
…まぁ、あのキャラとかあのキャラとかおかしい事になっとりますけどね。(;^ω^)

さて、次回からオリジナル編である『夏休み編』言い換えれば『十千屋のご実家編』に成ります。
ツッコミどころ満載な設定が山ほど出てくると思うので、ご許し下さい。:(;゙゚''ω゚''):

…オリジナル編だから筆の進み具合はどうなるかなぁ。(遠い目)


そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS×FA67ss:十千屋家ご招待御一行様

…一年近く放置、だと。(戦慄
本当にお久しぶりです。
チョイと気力が折れてた感じに成ってたので…
余り振るった感じがしない話かもしれませんが、どうかよろしくお願いいたします。

では、どうぞ御ゆるりと


学生時代の夏とはとても特別なモノだ。

その中でも夏休みは格別なモノだろう。

夏の日差しで青春の汗を流し、自由研究で思い出を作る。

あぁ、何とも特別な季節だ。

……だが、学校から出た本当の課題はやり忘れるなよ。

 

 

「あ~…うん、殆ど面子が変わらないなぁ」

 

「それはそうだろう、一夏。鈴を除く海外組が居ない事を除けば何時ものメンバーだ」

 

「当たり前、全て雄喜さん繋がりだもの」

 

「あ~、う~…でもなぁ」

 

「でも、何なのよ一夏」

 

夏休みとなって数日たった今日、学園に残っている一夏、箒、鈴と生徒会メンバーは空港に来ていた。

以前から計画されていた海外旅行-十千屋の実家へ遊びに行くためである。

外国籍のメンバーの殆どは一旦帰国したが、集まる面子の代わり映えの無さに一夏は何処か釈然としない。

そして、最も釈然としない理由は…

 

「直前の連絡だったせいとはいえ、千冬姉(保護者)達が同行するのが納得が!?」

 

「寸前まで忘れていた私も悪かったがな。流石に人数が人数だ。複数の保護者が必要だろ、

 未成年者共が」

 

「え~~っと…何かごめんなさい、織斑君」

 

一夏が少し視線をずらすと其処には千冬と山田先生の姿があった。

千冬はサングラスにノースリーブのポロシャツ、薄手のパンツルック。

山田先生はサマーワンピース、手にはツバが広めの帽子があり避暑地でのお嬢さんを思わせる。

確かに理由は千冬が言った通りなのだが、この旅行を楽しむ気を全く隠す気が無いのが彼の気に障った。

 

「お~い、一夏なに項垂れ…っ」

 

「一夏さん、鈴、久しぶり!他の皆様方…って、兄貴?」

 

「…ヤベェ、此処だけ美女度数が半端ねぇ」

 

IS学園組に近づいてきたのは同じ様に十千屋に誘われている、五反田兄妹と御手洗 数馬(みたらい かずま)

一夏親友組だ。

集まっているIS学園組を見つけ寄ってきたのは良いのだが、五反田兄妹の兄‐弾は息を呑み一点を見つめている。

 

「あの、私に何か?」

 

「いっ、いや!いいえ!?お、俺はいっ一夏の友達のごぅっ五反田 だ弾と申します!

 今日から、よろしくお願いいたします!!」

 

「はい、()()()さん?」

 

「すいませんっ!()()です!!」

 

クス はい、よろしくお願いいたします」

 

弾の視線の先には虚が居り、彼女が尋ねると上擦りながら彼も答える。

それが可笑しかったのか彼女が微笑むと、彼の顔は真っ赤になっていた。

 

「なぁ、弾のヤツ」

 

「はい、お兄はあのお姉さんに一目惚れ…ってヤツだと思います」

 

「そうね、弾のヤツ完全に舞い上がってるわね」

 

弾の狼狽振りを見て、一夏と鈴、五反田妹‐蘭は小声で確認し合う。

どうやら、彼に春と夏がいっぺんに来たようだ。

 

そんな青春模様を醸していると、またこのグループに声を掛ける者が来る。

 

「コトブキカンパニーのアイツが集めたのは此処か?織斑先生、宜しく頼むぜ」

 

「よろしくお願いするっス」

 

ラフな感じに話しかけてきたのは金髪で長身、涼しいと言うには露出度が高い服を着ている美人。

IS学園の3年生‐アメリカ代表候補生‐ダリル・ケイシー。

何処か丁稚の様な口調で三つ編みを結ったぼさぼさの髪型に、猫背気味の小柄な少女。

IS学園の2年生‐ギリシャ代表候補生‐フォルテ・サファイア。

IS学園ではそれなりに名の知れたコンビである。

 

「お前らはどうして此処に居る」

 

「いや、センセ。どうやらロボットマン(十千屋)の所にオレの関係者が居るみたいでさ。

 この旅行に便乗して来いって言ってんだよ」

 

「うちはダリルに連れられてス。許可済みらしいス」

 

「えーと、十千屋さんが許可してるなら問題ないのでは織斑先生?」

 

「そうだな、ヤツの奇行など考えるだけ無駄か」

 

今まで十千屋に関する縁が無い二人に千冬は怪訝そうに尋ねるが、

どうやら向こう側が呼んでいるらしく無理やり納得する。

そして、どうやらこのメンバーが旅行のフルメンバーらしい。

未成年組は一夏を中心として盛り上がっており、保護者組はそれを微笑ましく見守っている。

 

「で、織斑先生?」

 

「なんだ、更識生徒会長」

 

「折角の旅行ですから、親しい中にも礼儀ありレベルのラフさでいきませんと。

 名前だけで宜しいですわ。苗字被りが多いみたいですし」

 

「あぁ、そうだな…で?」

 

「あの方が十千屋さん(ダーリン)が寄越した「言うな、認めたくない」――分かります」

 

楯無と千冬が横目で確認し合う先には、熱烈歓迎 十千屋家ご招待御一行様とデカデカと書かれた

一人用横断幕を掲げているメイドが居た。

金髪で二つに分けた三つ編みしているメイドは、此方を確認したら横断幕を掲げたまま――

小走りで近づいてくる!

実はメイドが気づく前に今回のメンバー全員が気づいていたが、見なかった事にしておきたかった。余りにも…痛過ぎるので!!

メイドがある程度近づく、一夏達はある程度移動する。

メイドが少し程度近づく、一夏達は少し移動する。

メイドが早歩きで近づく、一夏達は早歩きは移動する。

コントの様な事を2~3回繰り返してから、メイドが横断幕を片付けてから近づいたので

今度こそ合流した。

 

「皆さま、IS学園御一行様でございましょうか?」

 

「そうだ。お前が十千屋の使いだと言うなら問題ないだろう」

 

「はい、私は旦那様の直属メイドの一人‐イリスと申します。

 …どうやら、ご集合頂けたようですね」

 

イリスと千冬が確認し合うと彼女は再確認し、一同を案内する。

空港ターミナルを歩き、飛行場に降りるとバスがありそこに搭乗した。

バスの内部は席を広くとって在り普通の観光バスの内装ではない。

普通?の家庭である一夏から見ても高そうなバスと思うだろう。

 

「何だか金を掛けてありそうなバスだな」

 

「はい、飛行機のファーストクラス、VIPクラスの内装となっております。

 但し、旦那様のご意向で過剰な装飾を取り払いシックに纏めてありますが皆様方、

 御席はご自由にどうぞ」

 

事実、かなり資金を掛けたバスだったようだ。

何気に口に出した一夏にイリスが答え、一同に着席を進める。

各々が好きに着席したのを確認すると、彼女は運転手に声を掛けた。

 

「ハイリンヒさん、お願い致します」

 

「了解、出すぜ」

 

バスは動き出すと、飛行場内を進んでゆく

 

「ふむ、一夏。搭乗口から飛行機に乗るんじゃないんだな」

 

「バスで飛行機に近づくんじゃないか箒?」

 

「はい、そこら辺の疑問はこれからのフライトプランの説明でお答えします」

 

一般的な飛行機への搭乗の仕方ではないので一夏と箒が疑問に思うと、イリスが説明し始める。

 

「皆様方、今回は旦那様の提案にご足労いただきありがとうございます。

 これからの事をご説明いたします」

 

今回は十千屋が所有する飛行機、社用機という名の自家用機でゲムマ群島首長国へ移動する事になっている。

その理由はVIPに相当する面子が集まっているので、一般交通機関を使用するのが望ましくないと判断されたためだ。

今回のメンバー十四人中十一人がIS学園関係者、その中でも国家代表や代表候補、

ブリュンヒルデ、IS男性装着者など…

何かの事故やテロに巻き込まれたりすれば一大事な面子がわんさか居る。

それを聞いた一般人枠‐五反田兄妹と数馬は「まぁ、そうなるな」と遠い目をした。

飛行機に搭乗したら、ゲムマ群島首長国へ直接行き、その空港で検疫を受け、

十千屋の実家へ移動する、というのが大まかな道順だ。

 

その説明を受けながら、バスは目的の飛行機へと近づいた。

その飛行機はIS学園一年生たちは見た事があった。

臨海学校でチラッと見えた胴体が丸ごとコンテナとなっている妙に平べったい飛行機である。

臨海学校の時は負傷した十千屋を運んだ時のみだったため確りと見れなかったが、

今はバスの窓越しにその一般的な飛行機と違う様相がはっきりと見える。

一夏と弾、数馬は何処かで見たようなフォルムにデジャヴを覚えた。

何か…こう…幼い時に夏休みとかで、古いテレビ番組の再放送で見たような?といった感じだ。

 

バスはコンテナに入り、そこで固定される。

次に振動が伝わってきており、コンテナが飛行機――いや、もう誤魔化して言うのは止めよう。

奇形の輸送機にコンテナが接続されたのを察せられた。

すると、コンテナ内しか見えない風景だった窓が飛行場周辺を映し出す。

実はバスの窓自体がディスプレイとなっており、コンテナ内でも風景が楽しめる様に成っていたのだ。

普通は広く見えない飛行場の様子を一同は楽しみながら、輸送機は飛び立ってゆく。

 

「皆様方、今回はライチョウ弐号にご搭乗頂き誠にありがとうございます。

 当機が安定飛行に移りましたので、シートベルトをお外し頂いても構いません。

 お手数ですが、前方に配置してありますタブレットを御手にお取りください」

 

暫くして、輸送機の飛行が安定するとイリスが一同に指示を掛ける。

皆がタブレットを取ると、画面に何かが映し出された。どうやら何かのパンフレットらしい。

 

「今、画面に映し出されているのは我が国で流通しているD-Phoneで御座います。

 簡単に言えば、高性能AI搭載の擬人化携帯電話と言った所でしょうか。

 旅のお供として大変便利だと思いご用意させていただきました。

 実際の御引渡しは目的地に着いてからなのはご了承ください」

 

デフォルメ感のある美少女フィギュアなD-Phoneに一同は少し戸惑うが、せっかく用意されているのだしと選び始める。

なお、簪は何の躊躇いも無く選び始めていた。

 

「う~ん…と、性能は微妙な差がある以外は一緒か。基本的なヤツで良いか?

 色は…自由に決めていいのか。

 白を基調にしたパターンから選ぶかな。箒、鈴。そっちはどうするんだ?」

 

「私も基本的なモノ…シルフィーシリーズからで良いか。…携帯のメールで姉さんが

 『フレアナビットにしよー!(*'▽') お・そ・ろ・い♡(*´▽`*)』

 無視、と。色は…紅椿に合わせて朱を基調にしたパターンで」

 

「あたしは…っと、フレイヤシリーズか。色とかはこっちのが好みね。

 うん、これにしよ。あたしもISのカラーリングを真似るかぁ」

 

 

「拡張性…メモリ増強、ドレッドシリーズ。うん…これ」

 

(簪ちゃんとお揃いよ!…海外出張にも強い性能なのも良いわね)

 

「可愛い♪可愛い♪ネコ耳ガ~ル 」

 

「どれを選んでも損は無さそうですね。

 持ち主に合わせて心理テストからAIの性格を決められるサービスもあるのですね」

 

 

「フィギュアっぽいなぁ…」

 

「まぁでも、可愛い子が多いから良いんじゃない?お兄」

 

「…腰回りやお腹部分に匠を感じる」

 

三者三葉とか十人十色で気に入ったD-Phoneを選んだり、風景や機内食を楽しんだりと

皆フライトを楽しんでいった。

楽しいフライト時間は過ぎてゆき、海と空、青と白の風景に緑と人工物が混じってくる。

 

「皆さま、当機をご利用いただきありがとうございます。

 間もなくゲムマ群島首長国領域に入ります」

 

大小様々な島が見えており、輸送機はその中でも大きな島‐首都が置いてある本島への空港に

飛んで行く。

当初の予定通りこの空港で検疫を受け、引き続きこのバスで十千屋の実家に向かう。

その途中、街中を走る事に成るが一夏達にとってこの国は衝撃的であった。

 

「あの荷物運びしてるのって、コボルドか?」

 

「一夏、あちらではフレームアーキテクトが交通整理してるぞ」

 

「うわ、凄いわね。道行く人の殆どがD-Phoneを持ってるわよ」

 

「ダーリンの影響が酷いのね、この国。…・・ひぃいっ!?」

 

「お姉ちゃん!?…シュトラウスの馬車?」

 

一夏は親子の後ろを歩いている、大人の腰上くらいの大きさのロボット‐FA(フレームアームズ)コボルドが

荷物持ちしているのをマジマジと見つめ。

箒は頭を工事のヘルメットカラーにして交通整理員をしているフレームアーキテクトに呆然とした。

鈴は街行く人々がD-Phoneに話しかけているのに若干引く。

どう視線を変えても十千屋の影響が見える光景に楯無は眩暈を感じ、ふと窓に顔を向けると

恐竜みたいなロボットと目と目が合い悲鳴を上げる。

姉の悲鳴に反応し簪は其方へ振り向くと、太く長い二脚に小さな手、長い首に細長い顔という

異形のFA‐シュトラウスが居た。

その後ろには貨物らしき物があり、馬車の様に使われて居ると判断できる。

目が合ったのは丁度、赤信号で停まっていたからの様である。

 

街中を進むが何処を見ても十千屋が何かしら関わっているのを感じ、コトブキカンパニー及び

その親会社であるナナジングループの影響力に戦慄を覚える一同であった。

 

「お兄、十千屋さんってこの街に住んでるんじゃないの?」

 

「何だか港っぽい所に来たな。もしかして別の島か?」

 

「そうですね、国名に群島首長国とありますしそうかもしれませんね」

 

「ハイッ、ソウデスネ!?」

 

市街を抜け、海が見えて港に向かっていると知ると本島に十千屋の実家があると思っていたので

疑問に思うが、港でクルージング艇に乗り換えると別の島だと推測できた。

そうした会話が出来た弾と虚のやり取りに兄の青春を感じた蘭は肩をすくめたが。

此処から少し時間が掛るという事で一同は今度は船旅を楽しんでいると、船内放送が流れる。

 

「皆さま、間もなく十千屋家とアーヴァル家の共同所有島‐名称『ライチョウ島』に到着します」

 

この放送に一夏達は見えてきた島の方へ視線を向ける。

確かにあの島に豪邸と思われる建物があるのが分かったが、放送内容に理解が追い付かない。

共同所有島…十千屋とその妻‐リアハの家系が所有する島……つまり、

 

「「「島、丸ごとが実家!?」」」

 

一夏達は豪邸までなら予想できただろう、だが島を丸ごとだったのは誰が予想できようか。

クルージング艇が船着き場につき、一同はキョロキョロ見渡しながら豪邸へ歩いてゆく。

唯一の例外は千冬だろうか、何事にも動じずに歩いていた。

 

島の感じは正に南国といった感じだ。

そして門を通り過ぎ、玄関の両扉が開かれるとそこは広めのホールに成っており両脇にメイド達が控える。

非現実的なお出迎えをされて、お嬢様とその従者である更識・布仏姉妹以外は圧倒される。

が、次に起きた出来事で全員が凍り付いた。

 

「い、いらっしゃいませ!お客様方!!精一杯、ご奉仕致しますネ にゃん♡」

 

肩と胸元が露出しているミニスカメイド服を着ている、腰まで届く赤髪のツインテールの美女、

此処まではギリギリ良いだろう。

それが、片足で立ち手足を曲げて()()を作って媚びたネコキャラクターの様なポーズをとり、

付けられたネコ耳とシッポは髪に合わせて赤色。

とどめに媚び媚びの猫撫で声&ニャン言葉で現れる。もう、何が何だか分からない。

そして、彼女は何とか作った笑顔のまま紅潮しそのままのポーズで固まってしまっている。

きっと恥ずか()の直前だろう。

 

この凍った時の中で一番困惑したのは千冬だろう。

何故なら知った顔だからだ。だからこそ、なんでこんな所に居てこんな事をしているのか分からない。

 

「何故…居る。アリーシャ・ジョセスターフ」

 

自分と二分するブリュンヒルデ(世界最強)は…答えない。

 

 

 

――オマケ:富の不均等――

 

時は全員が集合した頃。

数馬は何処かもの哀しさを感じていた。

一夏の周りには同じ年頃の女の子が集まり、弾は少し年上のお姉さんに夢中になっている。

男女比率は圧倒的に男は少ないはずなのに一向に話し相手が居ない。

つーか、少しでも女の子とお喋りしたいのにその雰囲気がいっこうに掴めない!

 

「ねぇ~、かずかず?」

 

「何かな?え~と、布仏 本音さんだっけ」

 

「そうだよ~」

 

彼は話しかけてくれた本音に紳士的にモテ男みたいにと気を付けながら言葉を返すが・・・

 

「このメンバーで~、モテたい~なんて思わない方がいいよぉ~?」

 

血の涙が出そうなくらいの死刑宣告でした。

 

「な、なぜ…!?」

 

「あそこは~イッチーに夢中~。ダダッダンはお姉ちゃんに夢中~。

 楯無お嬢さまと~かんちゃんは~、大人の男性に夢中~だよ~?」

 

確かに感じていた普通の人A(モテない)の感覚、自覚されるのはキツイ。

本音に指摘されてない人、ダリルとフォルテの方を見るが、

 

「あぁ、コイツ(フォルテ)はオレのコレだから手ぇ出すんじゃねえぞ?」

 

「ハゥゥっ…ス」

 

ダリルはフォルテの肩を抱き寄せ、空いている手で彼女の顎をクイッと自分の方へ傾けた。

美女による美少女への顎クイ、絵になるが…絵になるがそういう関係なのだと分かる。

女尊男卑のこの時代、そういうカップルは少なくない。

 

「織斑先生と~、やまやんは~?」

 

「いや、千冬さんはある意味で論外だろ。あちらの山田先生も…と言うか、学校教員を口説くってマズいだろ常識的に考えて」

 

うん、大人の女性二人の職種を考えれば普通に除外だろう。アニメや漫画じゃあるまいし。

 

「で、話しかけてきてくれる君はどうなんだよ?」

 

「あ~…わたしは~」

 

本音は主人とその姉が夢中な人と同じ人にもう囲まれている、と告げた。

優しくて、懐が広く深く、お金持ちで、社会的地位も高い、とても良い人なのだと。

 

「チクショウ、チクショウォォオオオ!!」

 

膝と手を付き、慟哭する。

思春期男子、モテ差の貧富に叫ばずにいられなかった。




はい、ほぼ一年ぶりの投稿はどうでしたでしょうか?(;^ω^)
余りにも久し振り&完全にオリジナル編突入といった感じで上手く纏められなかった感がします。
これ以降は時系列関係なしに思いついたまま書く感じに成りますので…夏休み謎空間としてお読み頂けたらなと思います。

いや、去年くらいから運勢的に厄年っぽい感じなんですよね。
大殺界とかなんとか…
去年の九月くらいに市内で引っ越し、
職場でなんやかんや、
妹の離婚騒ぎ&コロナ禍で離婚&調停の裁判が進まない
今年、六月ごろコロナ禍で人員二分の一最中に転落事故
肩の筋を痛めただけかと思ったら…内部で骨が欠けていた
手術後、療養中 ←今ココ

ココロ折れて腐りそう…:(;゙゚''ω゚''):
最近夢で、勉強や仕事が嫌になって変な風にジャンプして、頭から落下するようにして死にたくなったのを見たし……
早く骨が繋がって欲しい……(ω;`)


そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。