君のバスケ (JALBAS)
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《 第一話 》

朝起きると、三葉は見ず知らずの男の子と体が入れ替わっています。その男の子は自分と同い年ですが、時間軸がずれています。本来は、その相手は瀧くんなのですが、このお話でのお相手は・・・・“黒子のバスケ”の、黒子テツヤです・・・・




 

「あれ?・・・・」

朝、目が覚めて、部屋を見渡す・・・・・僕の部屋じゃ無い。何で、こんなところで寝ているんだろう?

「お姉ちゃん、いつまで寝てるん?もう起き・・・・」

突然襖が開き、小学生くらいの女の子が顔を出す。

「あれ?・・・居ないの?」

「あ・・・あの?」

「え?・・・うわあっ!」

声を掛けると、その子は驚く。初対面の人は、みんなこうだ。

「い・・・いつから、そこに居たん?」

「さっきから居ました。」

「ほ・・ほんまに?・・・と・・・とにかく、ご・・ごはんやから!」

そう言って、女の子は下に降りて行った。

僕は、少し遅れて、彼女の言った言葉に違和感を持つ。

あれ?・・・あの子、“お姉ちゃん”って言ってなかったっけ?

そこで初めて、体の異変に気付く・・・・胸のあたりが、何か重いような・・・・そっと下を見ると・・・・胸に見慣れない盛り上がりと、谷間が・・・・

それに、僕が来ているのは女物のパジャマだ。こんな物を着て寝た覚えは無いけど・・・・

よく部屋を見渡すと、目の前に大きな姿見がある。僕は、そこまで歩み寄って、自分の姿をじっくりと見る。

「え?・・・・」

そこに映っていたのは、同年代くらいの女の子の姿だった。

こ・・・これが、僕の顔?ど・・・どうなってるの?

考えても何も分からなかったので、とりあえず壁に掛かっていた制服に着替えて、下に降りた。

先程の女の子が、朝食を食べている。その向かいに、お婆さんが座っている。家族はこの2人だけなのかな?お父さんや、お母さんは居ないのかな?

僕も食卓に着いて、ごはんをよそう。すると・・・・

「お姉ちゃん、遅いなあ。」

さっきの子が、そう言ったので、

「来ましたけど。」

「うわっ!い・・・いつの間に?」

また、驚かれてしまった。

食事をしていると、テレビのニユースが耳に入る。

『1200年に一度という彗星の来訪が、いよいよひと月後に迫っています・・・・』

彗星?・・・一月後?・・・そんな話、あったかな?聞いた事が無いような・・・・

 

朝食を終え、学校に行く事になったが、今の自分が誰なのかも分からないで行く訳にはいかないので、さっきの子は先に行かせて、僕は今の自分の部屋に戻った。

学生証を見つけて、今の自分が“宮水三葉”という女の子である事は分かった。学校は、糸守高校。窓の外を見ると、湖を挟んだ対岸の丘の上に学校がある。あそこがそうらしい。

この他、“勅使河原克彦”通称“テッシー”、“名取早耶香”通称“サヤちん”という友達が居ることは分かった。

 

家を出て、1人で通学路を歩く。周りにも、同じ高校の生徒が何人も歩いている。

しばらくすると、自転車に2人乗りした男女が、通り過ぎて行く。

「あれ?今日は三葉、おらんね。」

「先に行ったか、寝坊しとるんやろ。」

会話が聞こえて来た。

あれ?“三葉”って言ってなかったかな?それって、僕の事じゃ無いのかな?

 

学校に着いて、教室に入るが席が分からない。

よく見ると、さっき自転車で通り過ぎて行った男女が居た。近づいてみるが、やはり僕には気付かない。

「三葉、遅いなあ。」

「やっぱ、寝坊しとるんやろ。」

「あの・・・すいません。」

「え?・・・うわっ!」

「み・・・三葉!い・・・いつの間に?」

「さっきから居ましたけど。」

「ええっ?そやった?」

「あの・・・僕の席、どこでしょうか?」

「はあ?」

「ぼ・・・ぼく?」

あ・・・そうか、今は女の子だったんだ。

「あの、私の席はどこでしょうか?」

『はあ?』

今度はステレオで、怪訝な顔をされた。

 

昼休み、校庭の隅で勅使河原くん、名取さんと昼食を取る。今の僕(三葉)を含めたこの3人は、いつもそうしているらしい。

「ねえ、あんたほんまに三葉?」

「はい、多分そうです。」

「た・・・多分って・・・」

「すいません。自分でもよく分からないです。」

「な・・何か、言葉使いも変やよ。」

「や・・・やっぱ、狐憑きか?」

「あと・・・今日の三葉、何か、存在感薄くない?」

「はい、いつも言われます。」

『言ってないって!』

また、ステレオで怪訝な顔をされた。

 

 

 

「ん・・・んんっ・・・・」

な・・・どこ?ここ・・・・

私は、見たこともない、部屋のベッドで目が覚める。もしかして・・・・これも夢?

体を起こして、部屋を見渡す・・・・姿見や、化粧台は無い。置かれている家具や、部屋の装飾を見ても・・・・何か、女の子の部屋っぽく無い・・・・

体にも、違和感を感じる。喉が妙に重い、視線を下に落としてみると・・・・胸が・・・無い?・・・逆に下半身には・・・・何かある?ええ~~っ?

 

壁に掛けてあった制服に着替えて、私は下に降りる。まず洗面所を探し、洗面台の鏡を覗き込む。

え?・・・こ・・・これが、私?

そこには、ちょっと影の薄そうな、大人しそうな男の子の顔があった。

わ・・・私、男の子になってるの?

 

顔を洗って、リビングに行く。テーブルの上に朝食が用意されているが、誰も居ないようだ・・・・と、思っていたら・・・・

「おはよう、早く食べないと遅刻するわよ。」

「きゃあっ!」

いきなり声を掛けられて、私はびっくりして声を上げてしまう。

「どうしたの?」

気が付くと、横にお母さんと思われる女の人が居た・・・・え?この人、さっきから居た?全然、気が付かなかったんですけど・・・・

 

朝食後、一旦部屋に戻った。学校に行くといっても、今の自分の事を何にも知らないで行く訳にはいかない。部屋の中とスマホを調べて、以下の事が分かった。

名前は“黒子テツヤ”。東京都の誠凛高校に通う2年生。部活はバスケ部。主な友達は、バスケ部のメンバー。その他にメル友で、“荻原シゲヒロ”という人が居る。

 

家を出て、学校に向かう。

「うわあ・・・東京やあ・・・・」

夢に見た東京・・・・いや、これが夢なのかな?私は、しばらく見とれていた・・・・更に迷ったため、学校には大分遅刻した。

 

その後は、かなり大変だった。授業中に入るのはバツが悪いので、休み時間を狙って教室に入ったが席が分からず・・・・クラスメイトに話し掛けられても、名前も分からず話も通じない・・・・その上、

“訛ってないか?”

“女言葉になってない?”

“何で認識できるんだ?”

等と言われた。最後のは、どういう意味なのか皆目分からなかった・・・・

 

昼休みは、教室には居辛くて屋上に来ていた。

「はあ~っ・・・・」

と、溜息をつく。

何なんだろう?この夢・・・・夢だよねえ?でも、何で男の子に・・・・

その時、後ろから声を掛けられた。

「あれ?黒子か?」

振り向いて、思わず声を上げそうになった。

2m近い長身の男子が、真後ろに立っていた。テッシーよりずっと大きい。左手はポケットに突っ込み、右手に持ったパンを食べている。

「何か、今日ははっきり見えるな。」

は?な・・・何を言ってるの?この人・・・・同じクラスじゃ無いよね?この背・・・バスケ部の人?

「ん?・・・何で、何も言わねえんだ?」

「え?・・・いや・・・その・・・・」

な・・・何を言えばいいの?な・・・名前も分かんないし・・・・

「ま、いいか・・・・じゃあな、放課後部活でな。」

そう言って、去って行った・・・・そういえば、部活もあるのよね?私、バスケなんて、体育の授業でしかやった事無いんですけど・・・・

 

放課後、部活に出ようかサボろうか迷ったけど、やっぱりボロが出るだけなんでサボる事にした。校門に向かって歩いていると・・・・

「よう、黒子。」

運悪く、昼休みの長身の人に呼び止められてしまった。そのまま、部室まで連れて行かれる。

「・・・・・・」

「どうした?早く着替えろよ。」

固まっていたところに、催促をされた。仕方が無いので、ロッカーを開ける。すると、戸の裏側に写真が貼ってあった。6人の男子と、女の子が一緒に写っている写真だった。ただ、その時は、その写真は気にも留めなかった。

着替えて、体育館に向かって歩いて行くと、ユニフォームのような服を着た子犬が、足元に寄って来た。

「きゃあっ!何?この犬?可愛いっ!」

「げっ、2号!」

私は、子犬を抱き上げて顔に近づける。子犬は喜んで、私の頬を舐める。本当に可愛い!

しかし、長身の彼は、何故か後ずさりをしている・・・・何で?まさか、こんな子犬が恐いとか?

「こらっ!火神、黒子、何やってんだ、早く来い!」

「は・・・はい!」

先輩・・・と思われる人に呼ばれ、名残惜しいけど子犬を離し、体育館に向かう。

そうか、この長身の子、火神くんっていうのか・・・・

 

部活では、また散々だった。

基礎練習までは何とかなったんだけど、実戦練習の際に、チームの人は何故か、敵に向かってパスを出す。当然、ボールは敵に取られるが・・・

「何やってんだ?黒子!」

何故か、私が怒られる・・・・何で?・・・・

 

翌朝、スマホのアラームで目が覚める。

自分の部屋だ・・・・体にも、違和感は無い。起き上がって、姿見の前まで行って、じっくりと見る。

うん、いつもの私だ。やっぱり、夢だったのね。

と、思ったんだけど・・・・下に降りると、お婆ちゃんと四葉の様子がおかしい。

「・・・・今日は、普通やな・・・」

「昨日は、ヤバかったもんなあ・・・」

“今日は普通”・・・“昨日はやばかった”・・・どういう事?

 

学校に行っても、サヤちんとテッシーが・・・・

「今日は普通やね、三葉。」

「あれは、絶対狐憑きや!」

いろいろ聞いてみた感じだと、昨日の私は、まるっきり別人のようだったらしい。

自分で昨日の事を思い出そうとしても、思い出すのは黒子くんになった夢のことだけ・・・ほ・・・本当に夢だったの?

 

 

 

目が覚めると、自分の部屋だった。

着替えて、洗面所に行く。鏡で見ても、自分の顔だ。あれは、夢だったのだろうか?

 

学校に行き、特に誰にも話しかけられず、放課後、部活に行く。

「あれ?黒子君はまだ来てないの?」

「昨日は、おかしかったからな。休んでんじゃないのか?」

監督とキャプテンが、僕の目の前で会話をしている。

「あの、僕ならここに居ますけど?」

「うわっ!」

「い・・・いつの間に?」

「いえ、ずっと居ましたけど・・・・」

「き・・今日は普通ね?」

「ああ、影の薄さもな・・・・」

今日は?・・・・どういう事だろう?

 

 

 

「ん・・・んんっ・・・・」

な・・・ま・・また私の部屋じゃ無い!まさかまた・・・・え?どこ?ここ・・・・

私は、しばらく放心していた。また、黒子くんの部屋かと思ったら、全然違う!男の子の部屋だろうけど、かなり散らかっている。部屋のそこら中に、Hな本も転がっている。

体の感覚は、この間に近い。胸が無く、下半身には・・・・

「大ちゃん、いい加減に起きないと、遅刻するよ!」

階段の下から、女の子の声が聞こえる。

大ちゃん?・・・誰?それ?

とりあえず、制服に着替えて下に降りて行くと、ロングヘアの同い年くらいの女の子が待っていた。

「ほら、早く顔洗って、朝ごはん食べないと。」

「は・・・はい。」

「え?」

素直に返事を返したら、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をされた。な・・・何か、おかしな事言った?“はい”って、返事しただけなんだけど・・・・

「いつもすまないわね、さつきちゃん。」

「い・・いいえ、おばさま。」

台所から、この女の子にお礼を言う声が・・・・お母さんかな?

洗面所に行って、洗面台の鏡を覗き込む。

え?・・・こ・・・この間と、全然違う・・・・

そこには、かなり肌が黒くて、目つきの鋭い男の子の顔があった。

だ・・・誰なの?この男の子は?

 






という訳で、最初に黒子と入れ替わった三葉ですが、次は青峰と入れ替わってしまいました・・・・
さて、いったいどうなって行くのか?この話・・・・

ちなみに黒子のバスケでは、奇跡の世代の面々の家の描写が、全く出てきません(赤司を除いて)。火神やリコの家はしょっちゅう出て来るし、誠凛の他のメンバーの家や家族も、洛山との決戦前に出たってのに・・・・
そんな訳で、奇跡の世代の家の描写は、全部オリジナルです。


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《 第二話 》

朝起きると、三葉は見ず知らずの男の子と体が入れ替わっています。その男の子は自分と同い年ですが、時間軸がずれています。
最初はその相手は黒子くんだったのですが・・・・
何故か、2回目は、青峰大輝になってます・・・・




 

「ん~っ・・・・」

何だ?スマホが鳴ってる?・・・・アラームなんか、セットしたか?・・・・うるせえなあ・・・・

手を伸ばして切ろうとするが・・・・何か、勝手が違う・・・・いつもの場所に無い・・・面倒くせえなあ・・・・

起き上がって、気付く・・・ど・・・何処だ?ここは?俺の部屋じゃねえぞ!

更に、体の違和感に気付く。何か、胸のあたりが重い・・・・視線を下げると・・・・

「何じゃ?こりゃ?」

胸に凹凸があって、谷間がある・・・・試に触ってみると・・・・

「おお、結構気持ちいいな、これ。」

「何しとんの?自分のおっぱいが、そんなに珍しいん?」

「へ?」

いつの間にか右横の襖が開いていて、小学生くらいのガキの女が立っていた。

「誰?お前?」

「何寝ぼけとんの、自分の妹も分からんの?ご・は・ん!はよ来ない!」

そう言って、そのガキは下に降りて行った。

何だ、あれ?さつきの妹か?・・・あいつに、妹なんか居たか?自分の姉と俺を間違えるなんて・・・・いや、俺のこの胸・・・本物だ。それに、何か女物のパジャマ着てるし・・・・

よく部屋を見渡すと、目の前に大きな姿見がある。俺は、そこまで歩み寄って、自分の姿をじっくりと見る。

「な・・・何だと?」

そこに映っていたのは、完全に女の姿だった。

こ・・・これが、俺?ど・・・どうなってやがんだ?

 

訳が分かんねえが、とりあえず壁に掛かってた制服を着て、学校に向かっていた。

妹と言うあのガキは、朝メシの時に“うるせえ!”と怒鳴ったら、怒って先に行ってしまった。

しかし、何で女は、こんな下がスース-する服を毎日着れるんだ?何か、風呂上りにタオル巻いてるような感じで、落ちつかねえ・・・・

「三葉~っ!」

何か後ろから声がするが、気にせずに歩いていると・・・・

「三葉ってば~っ!」

しつこく呼んでいる・・・・何か、うるせえなあ・・・・

「三葉っ!」

「何で無視すんのやっ!」

自転車に乗った2人組みが、俺を追い越して、目の前を塞いで止まった。

何だ?こいつら?

「俺に、何か用か?」

「だから、さっきから呼んどるやろ・・・・お・・・俺?」

「何だ、三葉って、俺のことか?」

「他に、誰がおんねん?」

「で・・・お前ら誰?」

『はあ~っ?』

 

教室で、さっきの2人と引き続き話す。

ここまでの話によると、この2人は勅使河原と名取。今の俺は、三葉という女らしい。2人はその親友のようだ。

「じゃあ、お前は三葉や無い言うんか?」

「ああ、ちげーよ。俺は“青峰大輝”、男だ。」

「何言うとんの、どっから見ても三葉、女の子やないの?」

「そんな事言われても、知らねえよ。朝起きたら、こーなってたんだからよ。」

「あかん、これは重症やわ。」

「絶対狐憑きや!直ぐに、お払いに行った方がいいで!」

「あーもう、うるせえっ!いいから放っとけよ!」

俺は、以後何を言われても、無視を続けた。

 

昼に、勅使河原と名取に一緒にメシを食わないかと誘われたが、断った。俺はひとり、屋上で、婆さんが握ってくれた握り飯を食っていた。

何か、むしゃくしゃすんな・・・・こんな時は、体を動かすのが一番だ。

流石に制服では問題があると思ったので、屋上で体操服に着替え、体育館に向かう。

中に入ると、先客が居た。チャラけた感じの男が、女2人の前で、これ見よがしにドリブルやシュートをしている。一応バスケ部員のようだが、全然大したこと無い腕だ。それでも、女達は喜んでいる。こんなド田舎の無名校じゃ、こんなもんか?

俺が入って行くと、こちらに気付いて、その男は声を掛けて来る。

「・・・何や?宮水、そんな恰好して・・・まさか?バスケやるいうんか?」

「はあ?・・・俺が、バスケしちゃおかしいのか?」

「お・・・俺????」

「別に、お前の邪魔はしねえから、勝手に女と遊んでろよ。」

「な・・・何や、その言い方・・・俺に、何ぞ文句でもあるんか?」

「はあ?ねえよ、そんなもん。だいたい、誰だよお前?」

「松本やろ!喧嘩売っとんのか、お前?」

「売ってんのはそっちだろ!」

話が噛み合わず、口論の末、1on1をやる事になった。気は進まねえが・・・・

「後悔すんじゃねえぞ!」

「どっちがや!バスケ部の実力、思い知らせてやるで!」

「がんばれ~松本!」

「七光りなんて、こてんぱんにしたれや~!」

女どもは、このチャラ男に声援を送っている。しかし、“七光り”ってのは何だ?

「じゃあ、行くぜ!」

俺のボールでスタート。余裕かましてハンデのつもりだろうが、甘い。

俺は速攻で、チャラ男の横を抜く。案の定、チャラ男は、全く俺の動きに付いて来れない。一気にゴール下に掛けより、シュートを決める。

ほう?意外と反応いいじゃねえか、この体。運動神経は、悪くねえみてえだな。

「な・・・何や?・・・何で?」

チャラ男は、信じられないような感じで、放心している。ギャラリーの女どももだ。

「これで分かったろ・・・・じゃあ、俺はひとりでやるから、お前はお前で楽しんでろよ。」

「ま・・待て!今のはまぐれや!も・・もう1回や!」

「はあ?何度やったって同じだよ。」

「ええから、もう1回や!」

「分かったよ、気が済むまでやってやるよ。」

結局、昼休みの間中付き合わされた。当然、全て瞬殺で、松本とかいうチャラ男はあえなく撃沈。限界を通り越して、床に突っ伏している。こっちは、大して汗も掻いていない。まあ、チャラ男の慌てぶりが滑稽だったんで、気晴らしにはなったが・・・・

『おお~っ!』

いつの間にか、ギャラリーが増えていて、最後の方は歓声も上がっていた。やけに、男が多いのが気になるが・・・・

「ちょ・・・ちょっと、三葉!」

そこに、いきなり名取が入って来て、俺の手を引く。

「な・・・何だよ?」

「いいから、こっち来て!」

名取は、体育館の外まで俺を引っ張っていく。

「あ・・・あんたまさか、着けてへんの?」

「へ?・・・何をだ?」

「だ・・だから、ブラやよ!」

「あ・・・あたりめえじゃねえか。何で、俺がそんなもん着けるんだよ?」

「あちゃ~っ・・・・」

そう言って、名取は、手で顔を覆って俯いてしまう・・・・

 

 

 

「ん・・・んんっ・・・・」

な・・・ま・・また私の部屋じゃ無い!まさかまた・・・・え?どこ?ここ・・・・

私は、しばらく放心していた。また、黒子くんの部屋かと思ったら、全然違う!男の子の部屋だろうけど、かなり散らかっている。部屋のそこら中に、Hな本も転がっている。

体の感覚は、この間に近い。胸が無く、下半身には・・・・

「大ちゃん、いい加減に起きないと、遅刻するよ!」

階段の下から、女の子の声が聞こえる。

大ちゃん?・・・誰?それ?

とりあえず、制服に着替えて下に降りて行くと、ロングヘアの同い年くらいの女の子が待っていた。

「ほら、早く顔洗って、朝ごはん食べないと。」

「は・・・はい。」

「え?」

素直に返事を返したら、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をされた。な・・・何か、おかしな事言った?“はい”って、返事しただけだけど・・・・

「いつもすまないわね、さつきちゃん。」

「い・・いいえ、おばさま。」

台所から、この女の子にお礼を言う声が・・・・お母さんかな?

洗面所に行って、洗面台の鏡を覗き込む。

え?・・・こ・・・この間と、全然違う・・・・

そこには、かなり肌が黒くて、目つきの鋭い男の子の顔があった。

だ・・・誰なの?この男の子は?

 

その後、超特急で朝食を済ませて、学校に向かう。さつきちゃんが待っていたため、今の自分を確認する時間が無かった。でも、さつきちゃんが居るので、学校への道のりは問題無いだろう・・・・ただ、未だに自分の名前が分からない。

“大ちゃん”だから、“大介”とか、“大吾”とか・・・・まさか、“大左衛門”って事は無いわよね?

「ねえ?大ちゃん?」

「は・・・はい?」

呼ばれたので返事をしたが、また、怪訝な顔をされた。何で?この大ちゃん、いつもは返事をしないの?

 

学校に行くまでの間に、このような問答が何度もあり、相当不審に思われた。

そんなこんなで、ようやく学校に着いた。学校は、“桐皇学園高校”だ。この間の、黒子くんの学校とは違う。

さつきちゃんは、クラスが違うようで、私の教室の前で別れた。

その後が、また大変だった。例によって席が分からず・・・・クラスメイトに話し掛けれれても、名前も分からず話も通じない・・・・・ただ、今の私の名前は“青峰大輝”で、バスケ部の所属という事は分かった。何で、またバスケ部なの?

 

昼休み、さつきちゃんが、お昼を一緒に食べようと誘って来たので、一緒に屋上に行った。

「さあ、召し上がれ。」

と言って、渡されたお弁当を見て、私は凍りついた・・・・何なの?これは?と・・・とても、食べ物には見えない・・・・ほ・・・本当に、食べて大丈夫なの?体に、害は無いの?

「どうしたの?早く食べて。」

さつきちゃんは、満面の笑顔で勧めて来る。こんな顔をされると、とても断れない。ここは、我慢して、食べるしか無い・・・・

ひょっとしたら、見てくれは悪くても味がいいかなと思って、一口食べてみた。

「う・・・・」

思わず、吐き気を催して来た・・・・あ・・・味も、最悪・・・・こ・・・こんな物とても・・・・

そう思って、さつきちゃんの顔を見る。天使のような笑顔が、私を攻め立てる・・・・天使のような・・・・悪魔だ!

どうしてもこの笑顔に逆らえず、私は、死ぬ思いでそのお弁当をたらい上げた・・・・

 

午後の授業には、出られなかった。

私はひとりトイレに篭り、そのまま、夕暮れまで出て来れなかった。

 

放課後、体育館で ――――

「青峰はどうした?またサボリか?あの野郎!」

「あ・・・あの・・・・」

「ん?どうした、桃井?」

「だ・・大ちゃんは、わ・・・私のお弁当にあたって・・・・」

 

お腹は辛いけど・・・・部活に出なくて良くなったのは、助かった・・・・かな?

 






話の都合上、松本を勝手に糸守高校のバスケ部にしちゃいました。バスケ部内ではレギュラーですが、まあ、奇跡の世代の敵ではありません。
さつきの恐怖の弁当は、学生時代の青峰は一度も食べていないんでしょうね。実際に食べている描写は無いので、この話の三葉のようになるかどうかは分かりませんが・・・・
さて次回は、三葉はいったい誰と入れ替るのか?


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《 第三話 》

黒子に引き続き、青峰と入れ替ってしまった三葉。
最初は夢だと思っていた体験も、周りの証言から夢では無かったのかと思い始めます。
そして、次に三葉が入れ替るのは・・・・秀徳高校の緑間真太郎です。




 

ん?・・・・スマホのアラームが鳴ってる・・・・?!

私は、思わず飛び起きた。そして、辺りを見回す・・・・私の部屋だ。

や・・・やっぱり夢だったのね。な・・・何で、こんな変な夢ばかり見るのかな?

ところが、着替えて下に降りて行くと・・・・

「・・・・」

四葉が、何も言わない。挨拶をしても、話し掛けても、目を瞑って、全く答えない。

「ねえ、四葉、何をそんなに怒っとんの?」

すると、冷やかな目で私を見つめて・・・・

「自分の胸に聞きい!」

そう言って、そそくさと出て行ってしまった。な・・・何なのよ?あの態度は?

私は、お婆ちゃんにも聞いてみる。

「お婆ちゃん、四葉は、何であんなに怒っとんの?」

「ん?そらあ、あんな言われ方したら、怒るやろ?」

「え?・・・どんな?」

 

お婆ちゃんの話によると、昨日、また私の様子がおかしかったようだ。四葉は心配して、私にいろいろ聞いてきたが、その度に私は“うるせえっ!”と言って突っぱねたそうだ。そんな覚えは、もちろん全く無い・・・・というより、また、昨日の記憶が無い。

更に学校に行って、サヤちん達に話を聞いてまた驚いた。

完全に“俺様”調で、男言葉で、話が詰まると“うるせえ!”を連発。しまいには、バスケで松本を、完膚無きまでに叩きのめしたそうだ。それも、ノーブラで胸をバンバン揺らしながら・・・・聞いていて、恥ずかしくて顔が真っ赤になった。

「松本は、相当ショックやったようやな。今日は、休んどる。」

「三葉、本当に何も覚えとらんの?」

「うん、私、どうしちゃったんやろ?」

「やっぱ、狐憑きか?」

「あんた、そればっかやね?」

「ねえ、昨日の私、他に変な事言って無かった?」

「ん~っ・・・そういや、“俺は青峰大輝だ”とか言っとったな。」

「え?」

青峰大輝?それって、昨日の夢で、私がなってた男の子・・・・じゃあ、あれは夢じゃ無くて、私と青峰くん、入れ替って・・・・

 

「ん・・んんっ・・・・」

翌朝、目が覚めると・・・・な・・・ま・・また私の部屋じゃ無い!く・・・黒子くん?それとも、青峰くん?・・・・え?ここ・・・・ま・・・また、全然違う!

 

直ぐに、部屋の中を調べて、今の自分を確認した。

“緑間真太郎”、秀徳高校の2年生、またもバスケ部だ。主な友達は、同級生でバスケ部の“高尾和成”。

立ってみると、視点が全然違う・・・・背が、かなり高い。黒子くんは、私と大差無かったのに・・・・あれ?な・・・何か、視界がぼやけてない?

辺りを見回すと、ベッドの脇に眼鏡ケースが置いてある。そこから眼鏡を取り出して、かける・・・・あ、これで見えるようになった。

「お兄ちゃん、ごはんだよ!」

下から、女の子の声が聞こえる。この男の子も、妹が居るの?

下に降り、まず洗面所に行って、洗面台の鏡を覗き込む。

こ・・・今度は、眼鏡もあるせいか、インテリっぽい男の子だ・・・・凄く、背が高い。この間の、誠凛の火神くんくらいあるんじゃないの?こ・・・これも入れ替ってるの?で・・・でも、何で、毎回毎回違う男の子と?

 

朝食を終え、家を出る。学校に行かなきゃいけないんだけど・・・・

青峰くんの時は、さつきちゃんに連れてってもらったから良かったけど、黒子くんの時は、かなり迷った。今回は、大丈夫かな?東京って、本当に迷路みたいで・・・・

と、家の前で考え込んでいると・・・・

「あれ?何、突っ立ってんの?真ちゃん?」

「え?」

声のする方を見ると、自転車に乗った高校生がこちらに向かってくるが・・・ええ~っ?

何とその子は、自転車でリアカーを引いていた。何で?

「も・・もしかして、高尾くん?」

「もしかしなくても俺だよ、何言ってんの?」

「い・・いや・・・あの・・・・」

「そんな事より、早く乗って!急がないと、遅刻しちゃうよ!」

「え?」

「昨日の賭け将棋で負けて、今日俺が学校まで乗っけてくって事になったろ。」

「え?ま・・・まさか、そのリアカーに乗るの?」

「何言ってんだよ、いつも乗ってんじゃん?」

ええ~っ?ど・・どういう人なの緑間くんって?友達を、奴隷みたいにこき使って・・・・

「あれ?今日は、何も持ってないじゃん。」

「え?何もって?」

「ラッキーアイテム。」

ラッキーアイテム?な・・・何?それ?

「テーピングもしてないし・・・・」

テーピング?だめ、全然訳が分かんない・・・・

 

そんな問答を繰り返していると遅れるので、“いいから乗れ”と言われて、リアカーの後ろに座らされた。でも、メチャクチャ恥ずかしかった。おかげで、学校には迷わずに行けたけど・・・・

授業中は、できるだけ大人しくして、休み時間には席を外してやり過ごした。

でも、部活の方はそうはいかず、サボろうとしたら高尾君に見つかってしまった。

それでも、基礎練習は何とかこなしたんだけど、問題はその後。緑間君は別メニューになってるようで、シュート練習をやるハメになった。

また高尾君が“賭けに負けたから”といって準備をしてくれたんだけど、いきなりコートの端に立たされて、その位置から、反対側の端のゴールにシュートを入れろというのだ!

何?これ?ひょっとして、いじめ?こんなところから、どうやったらあんな遠くのゴールに入るのよ?冗談じゃ無いわ!

「あれ?どうしたの真ちゃん?打たないの?」

高尾君、ひょっとして、リアカー引かせた報復をしてるの?で・・でも、悪気がありそうな顔には見えない・・・・

「緑間!何をしている!さっさと始めろ!」

いつまでも突っ立ったままなので、主将の激が飛んでしまう。仕方が無いので、覚悟を決めて、打ってみることにする。

「ていっ!」

遠いから、思いっきり投げてみるが、投げ方も良く分かって無いので、ボールはコートの真ん中にすら届かなかった。

「え?・・・何やってんの?真ちゃん?」

高尾君が、とんでも無いものでも見たような顔をする。

「い・・いや・・・今の、なし・・・無しね・・・」

ちょっと手投げだったかな?・・・・もっと、腰を落として・・・・

今度は、腰を落として反動を付けて投げる・・・・でも、やっとコートの真ん中辺りに届いた程度だ・・・・

「まじめにやってる?真ちゃん?」

大真面目ですよっ!こんなの、出来る訳無いじゃない!

心の中で叫びながら、3投目・・・・遠くに投げるんだから、高く上げなくっちゃっ!

今度は、思いっきり高く投げる・・・・ボールは真上に上がって、そのまま、自分の頭の上に落ちて来た。

「い・・・痛ったあ~っ!」

高尾君が、私の肩に手を置いて言う。

「ごめん、真ちゃん・・・・」

え?

「いつも俺が、“ユーモアが無い!堅すぎる!”って言うから、必死に考えてくれたんだね。」

い・・いや、そうじゃ無くて・・・

「よ~く分かった、真ちゃんには、ユーモアのセンス全く無いから、もう、無理に笑い取ろうとしなくていいよ。」

そうじゃ無いの!私はこれでも、必死なんだってば~!・・・・もう、いや~っ!

 

 

 

アラームの音で目が覚めたが、目覚ましの音では無い・・・・

目を開け、体を起こして、部屋の中を見る・・・・何処だ?ここは?・・・・ん?何故、こんなに視界がはっきりしている?眼鏡をかけていないのに・・・・

ふと、体の違和感にも気付く。胸が、やけに重い。下を見ると・・・・胸に凹凸が・・・・

「何だ?これは?」

思わず、声を出してしまった。

「・・・・」

ふと、視線を感じて横を見る。襖を開け、ひとりの幼女が、じっと俺を見ている。

「・・・・ごはんやよ・・・・」

それだけ言って、下に降りて行ってしまう。何だ?あの幼女は?いや、そんな事より、今は体の異常を確認するのが先だ。

目の前に姿見を見つけて、俺はその前に立つ。そこに映っていたのは、完全に女の姿だった。

こ・・・これが、俺だと?ど・・・どういう事なのだ?

 

部屋の持ち物で確認した限り、俺は“宮水三葉”という女になっているようだ。いつまでも動揺していてもどうにもならないので、とりあえず壁に掛かった制服を着て下に降りた。

さっきの幼女と婆さんが、既に朝食を食べている。家族は、この2人だけか?

空いてる席に座って、俺も飯を食べる。横の幼女は、この女の妹なのか?さっきから、何も言わずに黙々と食べているが・・・・

「いい加減に、仲直りしない。」

婆さんがそう言う。何だ?喧嘩でもしているのか?

そんな時、テレビのニュースが耳に入って来る。

『1200年ぶりの彗星の接近まで、ひと月を切りました・・・・』

ふと、時間が気になって、部屋の時計を見る。時間を見て、俺はテレビのチャンネルを変える。

「ああっ、何で変えるん?」

「おは朝の、占いの時間なのだよ。」

「はあ?何なん、それ?もう知らん!」

そう言って、妹は怒って席を立って行ってしまった。何を、そんなに怒っているのだ?

 

朝食の後、学校に向かう。

しかし、凄い田舎だ。紫原の居る陽泉は、こんな感じだろうか?

「三葉~っ!」

後ろから声を掛けられ、振り返る。自転車に2人乗りした男女が、走って来る。おそらくあれが、勅使河原と名取だろう。この女の持ち物で確認した限り、主な友人はあの2人だけだ。

「おはよう、三葉。」

「ああ、おはよう。」

一応、挨拶を返しておいた。

「あれ?また、髪が・・・・」

「ま・・・また、狐憑きか?」

髪?・・・長いので後ろで纏めただけだが、それがどうかしたのか?それに、狐憑きとは何だ?

「ん?・・・な・・・何や?それ?」

勅使河原が、俺の持つ“招き猫”に疑問を持つ。

「ラッキーアイテムなのだよ。」

「ラッキーアイテム?」

「・・・なのだよ?」

余計に、疑念を持たれてしまった。しかし、説明しても理解されるとは思えなかったので、何も答えなかった。

 

学校に行くと、今度は別な男から声を掛けられた。

「おう宮水、この間は、ようもやってくれたな?」

何だ?この男は?この女の友人は、さっきの2人だけでは無いのか?

「松本、何言うてんの?元は、あんたから絡んだんやろ!」

「引っ込んどれ、名取!俺は、宮水と話しとんのや!」

“松本”というのか?唯の、クラスメイトか?

「リベンジマッチや!今日の昼、つきあえや!」

何の事だか分からないが、断ると余計にこじれそうなので付き合うことにした。

 

昼休み、体操服に着替えて体育館に行く。

松本は、バスケットボールを持って待っていた。何だ、俺にバスケ勝負を挑むつもりなのか?身の程知らずもいいとこだな。

「だ・・・大丈夫か?三葉?」

勅使河原と名取も、心配して付いて来た。それだけでは無く、他の生徒も大勢見にきていた。おそらく松本が、呼び寄せたのだろう。

「問題無いのだよ。」

糸守高校など、聞いた事が無い学校だ。こんなところに、俺と対等に闘える選手がいるとも思えん。

「ドリブルは、得意なようやな?せやけど、バスケの花は3Pや!今日は、3Pで勝負や!」

フリースローラインのところに、籠に入れられボールが沢山置かれている。

「まず俺からや!お手本やから、よう見とけ!」

松本は、フリースローラインから、3Pを放つ。

なってないな。フォームが汚い。あんな投げ方じゃ、3回に2回は外す。それに、ろくに練習もしていないようだ、足腰が不安定だ。

ボールは、リングに当たってふら付いたが、何とかゴールに入った。しかし、美しくない!美の欠片も無い、低俗なシュートだ!

「さあ、お前の番や!やってみい!」

あの程度のシュートで、得意そうな顔をするな!虫唾が走る!適当に手を抜いてやろうと思っていたが、こいつは許せん!

俺は、ボールを持ってコートの中央に立つ。

「な・・・何やっとるんや?ま・・・まさか、そこから打ついうんか?」

「うるさい!黙って見ているのだよ。」

慣れない体だから、この辺が限界だろう。だが、体は柔らかいし、反応は悪くない。何より、今日の蟹座の運勢は最高だ、外す懸念は微塵も無い。

俺は、そこからシュートを放つ。ボールは綺麗な放物線を描き、リングの中央をすり抜ける。うむ、初めての体にしてはいい方だ。

『おお~っ!』

「な・・・なんやと?」

周囲からは歓声が、松本からは、情け無い言葉が発せられる。直後に、体育館中から拍手が沸き起こる。

「み・・・三葉・・・」

「す・・・すげえ・・・」

勅使河原と名取も、驚嘆の声を上げているが、俺にとっては日常の事だ。別に驚く事では無い。

「さて、お前の番だが、まだやるか?」

腰を抜かしてへたり込んだ松本は、言葉を発することができず、首を思いっきり横に振るだけだった・・・・

 






前回に引き続き、奇跡の世代の引き立て役にされた松本くん・・・・
一方三葉は、スーパープレイで、一躍糸森高校のスーパースターになってしまいます。
でも、本当の三葉は、奇跡の世代のスキルを強要される環境下で、散々な目に合っています・・・・
また、入れ替わりのせいで、四葉との姉妹関係にも危機が・・・・


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《 第四話 》

青峰と緑間のせいで、完全な絶縁状態となった三葉と四葉・・・・
必死に関係改善に努める三葉ですが、四葉は取り合ってくれません。
ところが、そんな姉妹関係を修復してくれたのは、以外にも・・・・




 

「ごめんなさい、ね、反省してますから・・・許してっ!」

「・・・・」

「お願いやから・・・ね、四葉、四葉ちゃん、四葉様っ!」

「・・・・」

「四葉ってば~~~」

しかし、四葉は何も答えず、朝食を終えて、そそくさと居間を出て行ってしまう。

「うえ~ん、お婆ちゃ~ん!」

私は、お婆ちゃんに泣き付く。

「仕方あらへんねえ・・・・しばらく、放っときい。」

「そ・・・そんなあ・・・・」

黒子くん、青峰くん、緑間くんと続いた入れ替り。その間の彼らの、妹四葉に対する対応に怒り心頭の四葉は、私とは、全く口を聞いてくれなくなってしまった。まさか、“東京の男の子達と入れ替ってました”等と言っても、信じてくれる筈も無い。どうしたらいいの?

 

「はあ~っ・・・・」

学校に来て、溜息をつく私・・・・

「大丈夫?三葉?」

「全然、大丈夫やない・・・・」

心配するサヤちんに、私はそう答える。

学校内でも、落ち着いていられない。例の松本とのバスケバトルのせいで、今や私は校内で、注目度No.1の女子になってしまった。暇さえあれば、女子バスケ部が勧誘に来る。また、バスケ部だけで無く、その他の運動部までもが勧誘して来た。下級生の女の子には、サインを求められる程だ。

「例によって、何も覚えとらんのか?三葉?」

「うい・・・・」

テッシーの問いに、机に突っ伏して、力無く答える。

覚えている訳が無い。それをやったのは、私では無いんだから・・・・でも、何で、毎回毎回違う男の子と・・・・それも、全員バスケ部で、超一流選手で・・・・え?

私は、ふと思った。そんなに凄い選手なら、メディアでも騒がれているんじゃ?

 

バスケの事は、バスケ部に聞くのが一番だ。また勧誘されるのは嫌だったので、男子バスケ部の人に聞いてみる事にした。クラスメイトの松本がバスケ部なんだけど、こんな状況で松本に聞ける訳も無いので、隣のクラスの子に聞いた。

「ねえ、バスケの強い学校で、誠凛とか、桐皇とか、秀徳って知ってる?」

「おおっ!流石やな宮水、強豪高はしっかりチェックしとるやないか?桐皇も秀徳も、関東の超強豪高や!せやけど、誠凛ってのは知らんな。新鋭の注目高か?」

「え?そうやの?」

誠凛は、強豪じゃないの?そういえば、青峰くんと緑間くんは松本をボコボコにしたみたいだけど、黒子くんは、何もしなかったみたいだし・・・・

「じゃあ、その高校に、青峰くんとか、緑間くんっていう凄い選手がおるの?」

「え?青峰に緑間?・・・・知らんなあ、聞かへんで、そんな選手。」

「え~っ?」

結局、黒子くん達の事は分からず終いだった。

 

家に帰っても、四葉の機嫌はまだ直らなかった。お婆ちゃんの言うように、しばらくは放っておくしかない。それよりも、夜、寝るのが怖かった。また、誰かと入れ替ってしまうのか?そんな不安に駆られながらも、結局は寝てしまったのだが・・・・

 

「ん・・んんっ・・・・」

翌朝、目が覚めると・・・・やはり、私の部屋じゃ無い!またなの?

起き上がって、辺りを見回して、頭を抱える・・・・また、全然違う!

 

今回の私の入れ替わりの相手は、“黄瀬涼太”。海常高校の2年生、当然バスケ部だ。ただ、今迄の男の子と違ってかなりイケメンで、アドレス帳も、女の子の名前が異常に多い。かなり、モテるのだろう。

住所は、東京では無く神奈川県だった。かなり東京寄りではあるが。

東京では無いといっても、田舎の私から見れば殆ど同じで、学校まではかなり迷った。

黄瀬くんは誰とでも気さくに話すタイプのようで、やたらと声を掛けられたが、当然満足な対応は取れず、目一杯周りに不信感を与えてしまった・・・・自分も、黒子くん達の事を文句言ってられる立場じゃ無いなと、つくづく痛感した。

 

放課後は、逃げるように学校を後にした。当然、部活はサボりだ。黄瀬くんがどんな選手かは知らないが、まず間違い無く超一流選手だろう。私なんかに、代役が務まる筈が無い。

 

家に帰ると、今度はスマホに着信の嵐だった。

いきなり、バスケ部の主将から電話が掛かって来たが、

『こっ!なんでんしゅうこない?たんでぞ!』

「は?」

『そで、せいんにかてか!』

何の暗号か分からず、切ってしまった。

その後は、女の子からの電話が何件も、

『黄瀬くん?今から出て来れない?』

『リョー君、何で最近電話くれないの?』

『涼太、今から行っていい?ご飯作ってあげる!』

いちいち、断るのが大変だった。

変わったところでは、モデル会社からの仕事の依頼の電話まであった。流石、都会のイケメン・・・・モデルまでやってるんだ。

その日は、スマホの電源を切って、もう夜の7時には寝てしまった・・・・

 

 

 

「ん~っ・・・・え?」

朝起きると、見た事も無い部屋の中だった。

つうか・・・女の子の部屋じゃねえ?壁に掛かっている制服も、女子のだし、着ているパジャマまで・・・・って、ええっ?

胸には、盛り上がりと谷間がある・・・・触ってみると・・・・感じる、本物だ!

「ほんまに、自分のおっぱいが好きやね。」

「え?」

気付くと、右手の襖が開いていて、小さな女の子が、冷やかな目でこっちを見ている。

「ごはんやよ・・・・」

それだけ言って、下に降りて行ってしまう。誰だ?あの女の子は?

部屋を見渡すと大きな姿見があったので、その前まで行って自分の姿を映す。

「え?」

そこに映ってるのは、同い年くらいの女の子の姿だった。

お・・・俺、女の子になってるの?

 

俺は、制服に着替えて下に降りた。夢だか何だか知らないけど、女の子になるなんて中々経験できる事じゃない。せっかくだから、少しこの生活を満喫してみようかと思った。

「おはよう!」

居間で朝食を取っていた、さっきの子と、お婆さんに挨拶する。お婆さんは返事をしてくれたが、少女の方は無視だ。さっきの様子もそうだったが、何か機嫌が悪いのかな?まあ、ここは深入りせずに、流しておこう。

テレビでは、“彗星最接近まで、あと3週間”とかいうニュースをやっている。あれ?そんな話あったっけ?でも、最近はモデルの仕事も復活させて忙しかったから、あんまりニュース見れて無かったけど。

 

朝食を終え、学校へ田舎道を歩く。建物も少なく、殆ど車も走っていない。かなり山の中のようだ。都会育ちの俺には凄く新鮮で、何だか楽しい気分になって来る。

「三葉~っ!」

後ろから呼ぶ声がする。出る前に、最低限の確認はして来た。今の俺は“宮水三葉”、糸守高校の2年生の女子。友達は、今声を掛けてくれた2人組、勅使河原克彦と名取早耶香。

「おはよう、三葉。」

「おはよう、勅使河原っち!名取っち!」

「勅使河原っち?」

「名取っち?」

2人は、怪訝そうな顔をする。まあ、そんなの俺は気にしない。

「み・・・三葉、その髪・・・」

「ああ、似合うっしょ?」

髪が長かったんで、ドラマ“カインとアベル”の倉科カナ風に纏めてみた。

「いつもの結い方と違うやん。」

「組紐使っとらへんし。」

「たまにはいいっしょ!」

まあ、初めてなんだけど。

「ちょ・・・ちょっと、三葉!」

名取っちが、俺の指を見て驚く。

「ネイル塗っとるの?」

「ああ、一度やってみたかったんス。せっかく、女の子になったんスから・・・」

「女の子になった?」

「あ・・いや、こっちの話っス。」

「だめやよ!校則で、禁止されとるやろ!」

「ええ~っ?」

やっぱ、田舎はそういうの厳しいのか・・・・うちの学校じゃ、自由なのに・・・・

 

昼休みは、勅使河原っちと名取っちと、3人で校庭の隅で昼食を取る。

「いや~、大自然の中で食べるランチ、最高っスね!」

「ね・・・ねえ?」

「ん?何っスか?名取っち?」

「あんた・・・ほんまに三葉?」

「そうっスよ。」

「いや、全然そうに見えないんやけど・・・・」

俺は、そんな2人の事は気にせず、大自然の中の女子高生ライフを満喫していた。

 

「ただいま~っ!」

家に帰ると、例の妹はまだ怒っているようで、全く返事をせずむくれている。

「四葉、いい加減に仲直りしいや。」

お婆さんがそう言っても、無視して行ってしまう。

名前は“四葉”っていうのか・・・・勿体無いなあ、あの子、笑えばとっても可愛いと思うのに・・・・ん?そうだ!

俺は、四葉ちゃんの後を追って、声を掛ける。

「ねえ、四葉ちゃん?」

「・・・・」

凄く機嫌の悪そうな顔で、四葉ちゃんは振り向く。

「何か、食べたい物無い?何でも、好きな物作ってあげるよ。」

「え?ほんと?」

四葉ちゃんは、やっと笑った。やっぱり、笑うとすごく可愛い。

 

 

 

・・・・ん?・・・携帯の、アラームが聞こえる・・・・

「?!」

私は、慌てて飛び起きた。直ぐに部屋の中と、自分の体を確認する・・・・自分に戻ってる・・・・?!

気付くと、右の襖が開いていて、四葉が立っていた。

ま・・・まさか、黄瀬くんも、四葉を怒らせるような事を・・・・

自分の顔から、血の気が引くのが分かった。“何か言わなければ”と思うが、言葉が出ない。

「どうしたん?お姉ちゃん?・・・ごはんやよ。」

四葉は、にっこり笑ってそう言って、下に降りて行った。

「え?・・・・」

私は、しばらく放心状態で動けなかった・・・・

 






青峰と緑間がメチャクチャにしてしまった、三葉と四葉の姉妹関係を、黄瀬が見事に修復してくれました。流石、奇跡の世代の中では、赤司に次ぐ常識人だけの事はあります。
ただ、その次に控えるのが、最も常識の通じない男なんですが・・・・・


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《 第五話 》

さて、今回三葉が入れ替るのは・・・・
“奇跡の世代”の中でも、更に異端児である紫原敦です。
もう、糸守での三葉のイメージはぐちゃぐちゃです。
でも、一番被害を蒙るのは、今回も・・・・




 

「あれ?」

紫原は、朝起きて自分が見た事も無い部屋に居る事に、疑念を抱く。

「どこ?・・・ここ?」

虚ろな目で、辺りを見回す。すると、自分を見つめる少女の存在に気付く。

「あの~・・・・」

「いつまでも寝ぼけとらんで、ごはんやよ。」

それだけ言って、少女は下に降りて行ってしまう。のっそりと喋ったため、彼は、最後まで言葉を発する事ができなかった。

「何か・・・体が軽いなあ・・・・」

のっそりと立ち上がり、姿見の方まで歩いて行く。そして、そこに映っている自分の姿を見る。

「・・・あれ・・・これが、俺?・・・何で?」

しばらく、立ったまま考え込んでいたが、次第に考えるのが面倒になって来たため、彼・・・いや彼女は、壁に掛かっていた制服に着替えて下に降りた。

居間に行くと、先程の少女とお婆さんが朝食を食べていた。腹は減っていたため、三葉(中身は紫原)はそのまま席に座り、朝食を食べた。

食事の途中、四葉が何度か三葉に話し掛けたが、“あ~”とか“う~”とかの片言しか返って来ないため、まだ寝ぼけているのかと思い、呆れて先に学校に行ってしまう。

三葉が、いつまでもご飯を食べていて動かないので、お婆さんが、

「いつまで食べとるの?早よう行かんと、遅刻やよ。」

と言うが、三葉は、

「え~っ?今日は、何かおかしいから、行きたく無い。」

と言う。しかし、そんな我儘が通る筈も無く、最後には怒られて追い出された。

 

「は~っ・・・・どこ?ここ?」

やる気無さそうに、とろとろと歩く三葉。

「三葉~!」

その後ろから、テッシーとサヤちんが、いつものように自転車に2人乗りしてやって来る。

「おはよう、三葉。」

「え?・・・誰?」

『はあ?』

三葉の反応に、怪訝な顔をする2人。

「俺が分からんのか?勅使河原や!」

「早耶香やよ!」

「ああ、そう・・・てしチンと、さやチンね?」

「て・・・てしチン?」

「な・・何か、イントネーションが違うんやけど?」

今日の三葉の髪も、後ろで纏めただけの“侍モード”だったが、もう2人は、そこは突っ込まなかった。

しばらく歩いて行くと、右手に、この町唯一のコンビニが見えて来る。

「あの~~~」

「え?何、三葉?」

「ちょっと寄っていい?」

三葉は、コンビニを指差して言う。

「べ・・・別にええけど。」

待つ事数分、コンビニから出て来た三葉を見て、テッシーとサヤちんはまた驚く。彼女は、“まいう棒”を袋ごと買って来て、既に1本は、食べながら出て来た。

「お待たせ~」

「な・・何や、三葉!そ・・それ?」

「だって・・・・お腹が空くから・・・・」

「朝ごはん、食べて来たんやろ?」

「でも~~~~」

 

そんなやりとりをしながら、三葉達は、町営駐車場の前に差し掛かる。そこでは、三葉の父で現職糸守町長の“宮水としき”が町長選挙の演説をしている。

そんな彼の目に、見っともなく、お菓子を食べながら歩く娘の姿が映る。

「こら!三葉!何だ、食べながら歩いて、行儀が悪い!」

その声に、気だるそうに顔を向ける三葉。

「ん~?・・・・誰?あれ?」

「ちょ・・・ちょっと三葉、いくら喧嘩中やからって、お父さんに“誰?”は無いやろ!」

「え~?・・・でも、俺、三葉じゃ無いし・・・・」

そう言って、三葉は向き直って歩き出す。もちろん、食べ歩きは止めずに・・・・

「こ・・こら!三葉!止めなさいと言ってるだろ!おい、こら~っ!」

としきがいくら叫ぼうと、三葉は、2度と振り向きはしなかった・・・・

 

学校に来ても、テッシーとサヤちんは頭を抱えていた。

流石に教室内では“まいう棒”は食べていないが、三葉は、気だるそうに机に突っ伏して、殆ど動こうとしなかった。

「何なんや、今日の三葉は?」

「今迄の中でも、最悪やわ。」

そこに、クラスメイトの松本が寄って来た。

「み・・・宮水、きょ・・今日こそは、汚名返上したる!昼休みに、もう一度勝負せいや!」

「え~・・・やだ~・・・・」

「な・・・何やと?」

「めんどくさ~い・・・・」

「な・・・何言うとんのや!こ・・このままじゃ、俺の気が収まらへん!いいから、勝負せいや!」

「だから~、やだって言ってるじゃ~ん。」

「そ・・・そんなん、通ると思っとんのか?つべこべ言わずに・・・・」

次の瞬間、三葉の目が据わる。そして、勢いよく立ち上がった三葉は、松本の頭を鷲掴みにする・・・・と言っても、三葉の方が背が低く、手も小さいのでそのような描写にはならないのだが、三葉の発する異様なオーラが、周りにそのような錯覚を見せていた・・・・

「うるさいなあ・・・・あんまりしつこいと、捻り潰すよ!」

「な・・・何すんのや!」

松本は、直ぐに三葉の手を振り解こうとするが・・・・

「い・・・痛い!いたたたたたたたた!」

とても女のものとは思われない、凄まじい力で頭を締め付けられてしまう。

「捻り潰すよ!いい?」

「や・・・やめて・・・わ・・・分かった・・分かりましたから・・・離して!」

そこでようやく、三葉は手を離す。松本は、その場にへたり込んでしまう。その松本を、冷ややかな目で三葉が見下ろす。

「分かったら・・・・どっか行って。」

「は・・・はいいいいいっ!」

完全にたじたじの松本は、脱兎のごとく教室を出て行った。

それをずっと見ていたテッシーとサヤちんは、更に頭を抱えるのであった。

「あかん・・・キャラが、全然違う!」

「ほんまに、どないしたんや?三葉・・・・」

 

 

 

最近は、朝起きるのが怖い。目が覚めると、また別の見た事も無い部屋で、また別の男の子になっているんじゃないかと、心配で夜は寝付けない。

でも、結局は寝てしまい、目が覚めると・・・・まただ!

今日は、こじんまりとした、狭い部屋で目が覚める。ベットを降り、立ち上がると・・・

「え?」

視点がメチャメチャ高い、緑間くんの時よりも更に。ど・・・どれだけ大きいの?この人?

部屋には鏡が無いので、洗面所に行こうと部屋を出る・・・・

「痛っ!」

入り口に、頭をぶつけて・・・いや、ほぼ顔をぶつけてしまった。背が、高すぎるのよ、この人・・・・

部屋を出ると、長い廊下になっていて、同じようなドアがいくつも並んでいる。寮か何かのようだ。多分、バスケ部の寮なんだろう。この男の子も、バスケ部に違い無い。

洗面所を見つけ、鏡を覗き込む。

「こ・・・これが、今日の私?」

身長は2m以上有るだろう。長髪の、あまり目付きの良くない男の子の顔が、そこにあった。しかし、これで、本当に高校生?姿を見ただけで、町の不良も逃げ出しそうだ・・・・

「やあ、おはよう、敦。」

声を掛けられ、振り返る。そこには、この男の子程では無いが、背の高いイケメン男子が立っていた。同じ寮の、バスケ部の子だろう。

「お・・・おはよう・・・」

愛想笑いをしながら、挨拶を返す。すると、思いっきり怪訝な顔をされた。

またか・・・・どうして私が入れ替わる子達って、普通に挨拶をしないの?

 

部屋に戻って分かった事だが、彼の名は“氷室辰也”、私と同じ高校2年生。そして今の私は“紫原敦”。共に、秋田県の陽泉高校のバスケ部員で、寮で生活している。

しかし、何で秋田?いきなり、関東から離れちゃったんですけど・・・・

 

寮から学校は近いので、歩いて移動する。まだ9月とはいえ、秋田は結構寒い。

紫原くんは口数の少ない人で、人付き合いも苦手なようなので、話し掛けられる事が無くて助かる。最も、こんな怖そうな巨人に、気さくに話せる人も少ないと思うけど・・・・

但し、氷室くんには、かなりおかしく見られた。

「敦、今日は、何も食べないんだね?」

「え?ちゃんと、朝ご飯食べたけど・・・」

「そうじゃ無くて、“まいう棒”とか?」

「まいう棒???」

どうも、紫原くんは、暇さえあれば“まいう棒”等のお菓子を摘まんでいるらしい・・・

紫原くんて、お菓子が好きなんだ・・・・それとも、体が大きいから、食べる量が半端じゃ無いだけかな?

 

授業中は問題無かったんだけど、やはり、部活ではそうはいかない。サボろうとしても、帰るところが寮なので、そういう訳にもいかない。しかし、流石2mの巨人、普通に動くだけでも、大抵の人は太刀打ちできない。

本当は、私がうまくできていないだけなんだけど、多少失敗しても手を抜いているようにしか見えないようで、“もっと本気でやれ”くらいの激で済んだ。

ところが、会話の方は違和感だらけだった。

特に監督(綺麗な女性の監督さんだった)に指示されて、

「はい、監督!」

と返事をしたら、何か恐ろしい物を見たような顔をされ、おでこに手を当てられ、

「お前、本当に大丈夫か?」

とまで言われた・・・・普段、いったいどういう受け答えしてるの?この人は?

 

それは、翌日に分かった。

四葉や、サヤちん達に聞いたところ、昨日の私は何を聞かれても、

「あの~」

とか、

「え~」

とか、

「めんどくさ~い。」

等、歯切れの悪い、無気力な言動ばかりだったと・・・・それなら、逆にはきはき答えれば異常に見られるだろう。

あと、人の名前を短縮して後ろに“チン”を付けて呼んでいたらしい。確かに私は、サヤちんはそう呼んでるけど、いったい、あの監督を何と呼んでるんだろう?

気が滅入っているところに、松本が声を掛けて来た。

「お・・おい、み・・宮水?」

「はあ~?」

ちょっと落ち込んでいたので、溜息交じりの歯切れの悪い返事になり、目も少し据わっていた。すると・・・

「ひっ、ひいいいいいいっ!」

松本は、突然悲鳴を上げて教室を出て行ってしまった。

・・・・あれ?何で?

 






青峰同様、周りがどうであろうと、あくまで自分のペースでしか行動しない紫原。
おたおたするのは、サヤちんとテッシーの2人ばかり・・・・
一方、いきなり2mの巨人になってしまった三葉。あまりにも控え目な行動に、周りは違和感を感じるばかり・・・・
ただ、どんなに自分のイメージを変えられても、紫原は何も気にしないでしょけど・・・・


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《 第六話 》

さて、最後に控えしは、奇跡の世代のリーダー、天帝赤司征十郎です。
冷静沈着、頭脳明晰の彼なら、いきなりの入れ替りにも苦も無く対応できるでしょう。
しかし、その赤司になってしまった三葉の方は・・・・




 

朝起きて、直ぐに体の違和感に気付く・・・・これは、俺の体では無い。部屋も、俺の部屋では無かった。

部屋の姿見で自分の姿を見て、自分が女子になっているのには、流石に驚いた。

「お姉ちゃん・・・あ、今日は早いんやね?」

小学生くらいの女の子が、襖を開けて、部屋を覗いてそう言った。

「ごはんやよ。」

そう言って、階段を降りて行く。

これは、夢だろうか?いや、意識ははっきりとしているし、この感覚は夢では無い。となると、今のこの状況は何だ?

考えられるとすれば、2つ・・・・ひとつは、何かの要因で前世に飛ばされたか、もうひとつは、良くドラマ等であるが、何処かの他人と入れ替ったか・・・・

見たところ、俺の時代とほぼ同じようだから、前世という可能性は低い。やはり、誰かと入れ替っているのだろう。原因は不明だが・・・・

 

制服に着替えて、下に降りる。居間では、先程の妹とお婆さんが、朝食を食べている。

「おはよう。」

挨拶をして座り、一緒に朝食を食べる。

この入れ代わりが、一時的なものか?継続的なものなのか分からない。今は、この環境に合わせておいた方が無難だろう。

 

朝食を終え、妹は先に学校に行かせて、俺は部屋に戻る。この女子の持ち物を確認し、できるだけの情報を得る。そして、机の上にあった組紐を持って、また居間に行く。

「お婆ちゃん、お願いがあるんだけど・・・・」

 

その後、学校に向かい通学路を歩く。住所を見たところ、岐阜県の糸守町というところらしい。かなり山の中の田舎だ、家もそれ程多く無く、人口も少なそうだ。

「三葉~っ!」

後ろから、自転車に2人乗りした男女が近づいて来る。多分今の俺、“宮水三葉”の親友の“名取早耶香”と“勅使河原克彦”だろう。

「おはよう、三葉。」

「おはよう、サヤちん、テッシー。」

あだ名は、スマホのアドレス帳に書いてあった。

「良かった、今日は普通やね。」

名取が、俺の髪を見て言う。部屋にあった写真では、この三葉という女子は髪を結っていた。やり方は分からなかったが、大概そういうものは親から習うものだ。だから、お婆さんに頼んで結ってもらった。

これで、それ程怪しまれる事は無いだろう。ただ、この地方の方言は真似できない。口数は、できるだけ抑えておいた方が良さそうだ。

 

学校に行き、しばらくは何事も無かったが、休み時間に、ふと自分を見つめる視線に気付く。何列か横の席の男子が、じっとこちらを見ている。だが、目が合うと、顔を背ける。

「三葉、気にしたらあかんよ。松本の奴、まだこの間の事、根に持っとるみたいやけど。」

彼は、“松本”というのか?この間の事とは、何だ?

 

昼休みは、名取達に誘われて、校庭の隅で昼食を取る。

「ほんまに、今日は、三葉が普通で良かったわ。」

朝も言っていたが、“今日は普通”というのは、どういう意味だ?入れ替っていない時の方が、おかしいと言うのか?

「この間の、“捻り潰すよ”は酷かったでな。」

何?

「ね・・・ねえ、テッシー?私、いつも、そんな事言ってた?」

「ああ、また、覚えとらんのやろ?1日だけやったけど、何か無気力で、ぬぼ~としとったのに、いきなりキレて“捻り潰すよ!”とか言って、怖かったわ。」

「その何日か前は、異様に陽気で、“○○っス”の連発やし。」

「“招き猫”抱えて、“ラッキーアイテムなのだよ”も酷かったな。」

な・・・何だ、それは・・・・まさか、俺だけで無く、紫原や緑間も入れ替っていたのか?

 

家に帰り、名取達に聞いた内容を整理する。

どうやらこの三葉という女子は、黒子、青峰、緑間、黄瀬、紫原、そして俺の6人と入れ替わっていたという事になる。今のところ、同じ相手と2度入れ替わってはいないようだ。

これは、何を意味するのか?どうにも情報が少なすぎて、皆目見当が付かない。

まあこれで、2度と俺との入れ替わりが無いのであれば、特に気にする必要は無いだろうが・・・・

しかし、多分今、俺の体にはこの三葉という女子が入っているのだろうが、さぞ混乱しているだろう・・・・後のフォローが大変だ。葉山あたりは“まさか、3人目が出て来たのか?”とか言いそうかな?

 

 

 

今朝は、京都の洛山高校のバスケ部の寮で目が覚めた。

今日の私は、“赤司征十郎”身長はそれ程高く無く、黒子くんと同じくらい。

かなりのイケメンであるが、黄瀬くんとは違う。何か、威厳があるというか、非常に威圧感の高い目をしていて、この目で見つめられて命令されたら、何の抵抗もできずに従ってしまうんじゃないか?そんな事を感じさせる人だ。

でも、いったい、いつまで続くんだろう?この入れ替わりは・・・・いったい、何人の男の子と入れ替ればいいの?・・・・そもそも、何で全員バスケ部なのよっ!

 

朝食を食べようと食堂に向かっていると、背の高い男の人がこちらに向かって来る。

「おはよう、征ちゃん。今朝は遅いのね?」

「え?」

な・・・何か、おネエっぽいんですけど、何なの?この人?

なんて思いながら、食堂に入って行くと、

「おばちゃん!おかわり!」

何かゴリラのような、黒くてゴツイ男が、物凄い勢いでご飯を食べまくっていた。テーブルの上には、空の容器が山積にされている。な・・・何て食欲?紫原くん以上?

「また、朝から食べまくって、限度ってもんを知らねえのかよ。」

後ろから声がしたので振り返ると、少し小柄な(と言っても赤司くんよりは大きいが)陽気そうな男の子が立っていた。

「赤司、主将からも言ってやってくれよ。」

え?赤司くんって、主将なの?だ・・・だって、2年生でしょ?

 

背の高いおネエの人は“実渕玲央”、ゴリラのようなゴツイ人は“根武谷永吉”、陽気な彼は“葉山小太郎”、3人共バスケ部のメインメンバーで、赤司くん共々、昨年からレギュラーだったらしい。しかも、赤司くんは昨年も主将だったそうだ。多分ここもバスケの名門高なんだろうけど、そんな学校で1年生から主将って・・・・どこまで凄いの?赤司君って・・・・

 

学校へは、この3人と一緒に行った。名を呼ぶ時に“くん”付けで呼んだら、物凄く怪訝そうな顔をされた。いつもは、呼び捨てなんだろうか?

皆、同級生なのだと思っていたら、学校に着いたら、彼らは3年の教室に行ってしまった。

ええ~っ!いくら主将だからって、上級生を呼び捨てなの?も・・・もしかして、凄い独裁者タイプなの?

 

教室では、ボロを出さないように、できるだけ大人しく無口でいた。元々、気楽に声を掛けられないような、上流貴族のようなオーラを持ってる人だったので、話し掛けて来る人も少なくて助かった。

 

問題は部活だ・・・・いざ、体育館に集まって、皆の前に立たされたが、何を言って良いのか分からない。バスケ未経験者の私が、強豪高のトッププレーヤーに何を指示できるっていうの?

「え~・・・・今日は・・・・」

皆、黙って真剣に私を見つめている。皆のこの態度を見れば、赤司くんの威圧感の凄さが伝わって来る・・・・だから余計に、それを私がぶち壊したら・・・・だめ!も・・・もう限界!

「・・・今日は、各自考えて・・・じ・・・自分の・・・に・・・苦手なところを、重点的に練習するように・・・・以上!」

それだけ行って、体育館を飛び出す。皆の間では、ざわめきが起こっている。

「おい、赤司、何処に行く?」

監督と思われる人に呼び止められたが、

「ちょ・・ちょっと体調が悪いんで・・・りょ・・・寮で休んでます!」

そう言って、寮に飛んで帰った。

以降は部屋に籠り、殆ど外には顔を出さなかった・・・・

 

翌朝、自分の体で目覚め、着替えて居間に行く。

また、昨日何か異常な行動をとって、その事で何か言われるかとビクビクしながら朝食を食べたが、四葉もお婆ちゃんもいつも通りで、何も変な事は言われなかった。

学校に行く時も、途中サヤちんとテッシーと合流したが、反応は普通だった。

 

そして、お昼。

「今日も、三葉が普通で良かった~。」

「これが当たり前なんやが、普通な日が続くと、心が落ち着くで。」

普通の日が続いてるって事は、昨日は普通だったって事?昨日は、赤司くんに入れ替わってた筈だけど?

「きっと、三葉、ストレスが溜まってたんやね?お祭りの事とか、町長選挙の事とか、気苦労多いに。」

「それか、やっとお狐様から解放されたか?」

「あんたは、そればっかやな?」

う~ん・・・お狐様じゃ無くて、入れ替わりなんだけど・・・・解放されたのかな?また、明日になったら、別の男の子に・・・・

 






周りに何の違和感も感じさせず、入れ替わりの1日を乗り切る赤司・・・・流石です。
一方三葉は、“名門、洛山高校バスケ部の主将赤司”のプレッシャーには、耐えきれず逃げ出しました。
もっとも、赤司の代役なんか、他の奇跡の世代でも務まりませんが・・・・


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《 第七話 》

ようやく入れ替わりの1周目が終わり、待望の(待望か?)2周目に突入・・・
ここで、三葉は入れ替わってる6人が、“奇跡の世代”と呼ばれる知り合い同士である事に気付きます・・・・




 

「あれ?・・・・」

ここは・・・・確か、三葉さんの部屋・・・・また、同じ夢を見てるのかな?

姿見を見ても、あの時と同じ“宮水三葉”さんの姿が映っている。

制服に着替えて、下に降りる。この間と同じように、妹さんとお婆さんが朝食を食べている。

「お姉ちゃん、遅いなあ。」

「来ましたけど。」

「うわっ!い・・・いつの間に?」

この間と、同じ反応だ。

食事をしていると、テレビのニユースが耳に入る。

『1200年に一度という彗星の来訪が、いよいよ2週間後に迫っています・・・・』

あれ?前の時は、ひと月後だったのに・・・・現実と同じように、時間が経過しているのかな?

 

朝食を終え、学校に行く。妹さんと別れて、ひとりで歩いていると。また、勅使河原くんと名取さんが、自転車で通り過ぎて行った。

学校に着くと、2人はこの間と同じ会話をしている。近づいても、やはり気付かない。

「三葉、遅いなあ。」

「やっぱ、寝坊しとるんやろ。」

「あの・・・すいません。」

「え?・・・うわっ!」

「み・・・三葉!い・・・いつの間に?」

「さっきから居ましたけど。」

「ええっ?そやった?」

何か、前の夢を再生しているような・・・・やはり、夢なのかな?でも、時間経過は?

「おい、名取。」

会話の中に、同じクラスの男の人が割り込んで来た。これは、初めてのパターンだ。

「今日は、宮水は来えへんのか?」

「ここに居ますけど?」

「うわっ!な・・・い・・・いつからそこに居たんや?」

「さっきから居ました。」

「え?・・・ほ・・・ほんまか?」

「はい。」

「な・・・なんや、今日は、随分大人しいんやな?」

「そうですか?」

「な・・・何で敬語なんや?」

「いつもそうですけど。」

すると、勅使河原くんも含めた全員が、同時に首を振った。

「な・・・何なんや、名取、こ・・・この宮水は?」

「こっちが聞きたいわ。」

「な・・・何か、気が削がれた・・・もう、ええわ・・・・」

そう言って、その男の人は自分の席に戻って行った。

 

 

 

「ん・・・んんっ・・・・」

な・・・ま・・また違う男の子の・・・・ん?

この部屋は、見覚えがある・・・・黒子くんの部屋だ!じ・・・じゃあ、これで1周?も・・・もう、違う男の子になる事は無いの?

 

考えても答えが出る訳は無いので、私は、とりあえず学校に向かう。でも、一度行っただけなのでよく道を覚えてはいず、少し迷ったのでまた遅刻してしまった。

授業中は相変わらず、クラスメイトの名前は分からず、会話も繋がらない。

今日こそは部活はサボろうと思ったんだけど、また、火神くんに見つかってしまった。

「しかし、不思議だな。」

「え?何が?」

「いや、帰りに黒子を見つけられるなんて、年にそう何度も無いからな。」

何?それ?黒子くんって、保護色でも使って姿隠すの?

部室まで連れて来られ、仕方なくロッカーを開ける。

「?!」

あら、この写真・・・・前は、気付かなかったけど、ここに映ってるのって?

男の子6人と、女の子1人の写真。そこに映っていたのは、黒子くん、青峰くん、緑間くん、黄瀬くん、紫原くん、赤司くん、そして、さつきちゃんだった。

な・・・何?私が入れ替わった6人って、皆、知り合いだったの?学校、全然違うのに・・・・

「ん?何、真剣に見てんだ?・・・・ああ、奇跡の世代揃い踏みの写真か?」

き・・・奇跡の世代?な・・・何なの?それ?

 

 

 

2日後、目が覚めると、そこは、青峰くんの部屋だった。

ま・・・また、青峰くんに・・・・じゃあ、その次は緑間くんで・・・・無限ループなの?

「大ちゃん、いい加減に起きないと、遅刻するよ!」

あれは・・・さつきちゃんの声・・・・私を迎えに来たの?ま・・・待って、このまま一緒に学校に行くと、またお昼に・・・・

私の脳裏に、2週間前の恐怖の昼食の光景が蘇る。

だ・・・だめ、あんな物、2度と食べられない・・・・ど・・・どうすれば・・・・

その時、2日前の、黒子くんのロッカーで見た写真を思い出した。

青峰くんと、黒子くんは知り合い・・・・そ・・・それなら!

私は、青峰くんのスマホの、アドレス帳を検索する・・・・あった!黒子テツヤ!

すかさずコールする・・・・待機音が流れて、直ぐに繋がる。

「も・・・もしもし、く・・・黒子くん?」

『はい・・・どうしたんですか?青峰くん?』

「よ・・・よく聞いて、わ・・私は、青峰やけど、青峰やないの・・・・」

『え?』

焦ってて、自分でも何を言っているのか、よく分かって無い。

「わ・・・私は、み・・・三葉やの!た・・・助けてっ!黒子くん!殺されるっ!」

 

1時間後、私と黒子くんは、近くの公園で待ち合わせた。私もそうだが、黒子くんは私の事を心配して、学校を休んでくれた。ただ・・・・

「テツく~~~~ん!」

「い・・・痛いです。桃井さん。」

さつきちゃんも、付いて来てしまった。彼女は、会うや否や、黒子くんに抱き付いた。

あれ?さつきちゃんて、青峰くんの彼女じゃ無かったの?

 

その後、私達は近くのファミレスに入った。

「え~っ?じゃああなた、大ちゃんじゃ無いの?」

「はい、宮水三葉といいます。」

「まさか、2人で私を、からかってるんじゃ無いでしょうね?」

「本当です、桃井さん。僕も、2日前に三葉さんと入れ替わってます。」

「ええっ?テツくんまで?」

その後、私は、2週間の間に黒子くんや青峰くんも含めた、“奇跡の世代”と言われる6人とそれぞれ入れ替わった事を説明した。

「ふ~ん、大変だったんだ、三葉ちゃん。」

「ええ。」

「で・・・でも、“殺される”は酷く無い?いくら、私が料理が苦手だからって。」

「ご・・・ごめんなさい、つ・・・つい・・・」

私達の会話を聞いて、黒子くんはくすくす笑っている。

「あ~、酷い!テツくん、何笑ってるのよっ!」

「あ・・・す・・すいません。」

「あ?それじゃあ、今、三葉ちゃんの体の中には、大ちゃんが入ってるの?」

「そ・・・そうなるんやね。」

「ま・・・まさか、三葉ちゃんの体で、あんな横暴ぶりを?」

「うん・・・た・・多分・・・・」

「ご・・・ごめんね!三葉ちゃん!」

「い・・・いや、さつきちゃんのせいや無いから・・・・」

「だけど、何故、僕達6人と、三葉さんが入れ替わるんでしょうか?」

「うん、それが、分からんのやけど・・・・」

「前の時は、僕の後が青峰くん、そして、緑間くん、黄瀬くんの順番で入れ替わったんですよね?」

「うん。」

「これから入れ替わる人にも、この事を伝えておいた方がいいですよね?緑間くんと黄瀬くんは近いから、ここに呼んで話しましょう。」

「ほんと?助かる!」

黒子くんは、緑間くんと黄瀬くんに電話を掛けてくれた。しかし、緑間くんは、“馬鹿な事を言っているのでは無いのだよ!”と言って電話を切ってしまった。黄瀬くんの方は、直ぐに飛んで来てくれた。

「ええ~っ?じゃあ今、青峰っちの中に、三葉っちが入ってるんスか?」

み・・・三葉っちって・・・・

「いや~、でも、糸守いいところっスね!空気はおいしいし、夜は星が凄い綺麗で。」

「そういえば、黄瀬くん、四葉の機嫌を直してくれたんやよね?ありがとう!」

「どういたしまして。俺、末っ子だから、妹って憧れだったんスよ!」

「四葉さんの機嫌って、僕、何かしましたっけ?」

「あ、ううん、黒子くんじゃあらへんよ。」

「きっと、大ちゃんね!」

「緑間っちも、やばいっスね!」

その後、私達は、入れ替った際にできるだけ周りを混乱させないように、ルールを決めた方がいいという話になった。

「まず、言葉遣いね。三葉ちゃんの時は“一人称”は“私”と言うこと!」

「方言は、真似できませんが・・・・」

「それは、大丈夫やよ。短い言葉で話せば、それ程違和感無いと思う。」

「でも、テツくんは、敬語で話しちゃダメね。きーちゃんも、“っス”は禁止!」

「え~っ?」

「三葉ちゃんは、逆にテツくんときーちゃんの話し方を真似ないと。」

「それは、難しくないっスか?」

「そうですね、6人分の話し方を覚えるのは、大変です。」

「ん~っ、そっかあ・・・」

「あの・・・話し方はがんばるつもりやけど・・・どうにもならない問題が・・・・」

「え?何?」

「・・・バスケ・・・・」

『あ~!』

3人共、相槌をうつ。

まさか毎回サボる訳にもいかないので、この3人に入れ替った時は、さつきちゃんに電話をすれば、さりげなくサポートしてくれる事になった。

「緑間っちは、どうすんスか?取り合ってくんなかったでしょ?」

「それも、私が何とかする。同じ東京だし。」

「じゃあ、紫原っちは?」

「ん~っ、ムッくんかあ?」

「氷室さんに、相談したらどうでしょうか?」

「うん、いいわ、それよ!テツくん!」

「ああ、あの人なら、柔軟に対応してくれそうっスね。」

「じゃあ、残るは赤司くんね。」

「本人に聞いてみましょう。」

そう言って、黒子くんは躊躇せず赤司くんに電話をする。

黒子くんって、大人しそうなのに、行動は大胆なのね・・・・

説明に時間が掛かるかと思ったんだけど、赤司くんの対応は、

『そうか、やはりお前達も入れ替わっていたか。』

「気付いていたんですか?」

『ああ。入れ替わりの理由までは分からないがね。』

え?赤司くん、たった1回の入れ替わりで、もう入れ替わりに気付いていたの?それも、他の5人が入れ替わってた事まで・・・・す・・凄い、1年生で名門校の主将を務めるだけの事はある。

『俺と入れ替った時の事は、心配する必要は無い。言葉遣いだけ気を付けてくれれば、部員の練習メニューはあらかじめ用意しておく。あとは、指導しているふりをしていればいい。』

な・・・何て、頼りになる人なの?流石、奇跡の世代を束ねるリーダー。

『それよりも、入れ替っていて、何か気付いた事は無いか?』

「え?僕は、特に何も・・・・」

『そうか?緑間の次は、黄瀬の番だと言ったな。何でもいい、気付いた事を、入れ替った翌日に俺に連絡するように言ってくれ。』

「はい、分かりました。」

良かった、これで、入れ替わっても混乱は少なくて済みそう・・・・でも、本当に、何でこんな入れ替りが起こるんだろう?・・・・

 






やっとお互いに入れ替わって事実に気付き、フォローし合うようになれました。
しかし、6人と入れ替わっていたため、ここまでにかなりの時間が経過してしまいました。
彗星の破片落下の日は、刻一刻と近づいています・・・・

こんな話を書いてる間に、黒子くんとユキちゃん先生の熱愛が報道されてしまいました。ですが、この話の黒子くんは、糸守に行ってもユキちゃん先生にアタックはしません。
あしからず・・・・


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《 第八話 》

入れ替り後の会話の中から、ようやく黒子達は時系列のずれに気付いていきます。
三葉も、週刊誌に載る記事から、黒子達の時間と自分達の時間に3年の時差がある事に気付きます。
しかし、何故その時差があるのかを気付く前に・・・・




 

青峰くんと入れ替わった2日後、また緑間くんと入れ替わり、その2日後に黄瀬くんと入れ替わった。その日は日曜だったので、さつきちゃんに連絡を取り、また皆でこの間のファミレスに集まった。参加者は、私(黄瀬くん)、さつきちゃん、青峰くん、黒子くんの4人だ。

「はあ・・・・・」

会ってそうそう、私は溜息をついた。

「疲れてるみたいね?大丈夫、三葉ちゃん?」

「ま・・・また四葉が怒っちゃって、宥めるのに、大変で・・・・」

「大ちゃん、また、酷い事言ったんでしょ!」

「仕方ねえだろうが!入れ替わってるなんて、知らなかったんだしよ。」

「でも、周りの状況が違うんだから、少しは空気読みなさいよ!」

「俺ばっか責めるんじゃねえよ!緑間だって、怒らせたんだろ?あいつは、何で来ねーんだよ?」

「はい、“入れ替わりの事は理解したが、会って話してどうにかなる事では無いのだよ。”だそうです。」

「もう、ミドリンたらっ!」

「バスケ部や、運動部の勧誘も厳しくて・・・・」

「大ちゃん、少しは自重しなさいよ!」

「あのチャラ男のせいだろうが、やたらと突っ掛って来やがって・・・・そういや、あいつどうした?この間は、姿見なかったが。」

「ああ、松本・・・最近、えらく落ち込んでて、休む日が多いんよ。」

「緑間や、紫原にもやられたんだって?いい気味だ。」

「青峰くん、入れ替わってた時に、何か気付いた事無いですか?」

「はあ?・・・・ド田舎で、遊ぶとこもねえなって事くらいしかねえが・・・・何で、そんな事聞くんだよ?」

「赤司くんが、何でもいいから、気付いた事を連絡しろって。」

「テツは、何かねえのかよ?」

「ひとつ、思い出した事があるんですが・・・」

「何だよ?」

「彗星です。」

『彗星?』

3人でハモった。

 

 

 

翌日、僕は赤司くんに皆で話した事を連絡した。

『そうか?確かに、彗星接近なんてニュースは聞かないな。ありがとう、次に自分が入れ替わる時に、それも確認しておこう。』

「はい、お願いします。それで、黄瀬くんからは何かありましたか?」

『残念ながら、何も無いな。普通に学校に行って、帰って来ただけだそうだ。』

「え?日曜日に、学校に行ったんですか?」

『ん?そうか、確かに、昨日は日曜だ・・・・少し待ってくれ、黄瀬にもう一度確認する。』

食い違うニュース、曜日の違い・・・・これは、もしかすると・・・・

しばらく待つと、赤司くんから、もう一度電話が掛かって来た。

『もしもし、黒子か?黄瀬に確認した。曜日までは分からないそうだが、普通に授業があったそうだ。だから、日曜日では無い。』

「じ・・・じゃあ・・・」

『そうだ、時系列がずれている。』

 

 

 

翌日、私は、教室の窓にもたれ掛って、昨日黒子くん達と話したことについて考えていた。

彗星最接近のニュースは、こちらでは週に2~3回は流れている。それが、東京では全く流れないなんておかしい。だいたい、新聞にだって出てる。まさか、黒子くん達の世界と、私の世界が別世界なんて事は無いよね?

「お~い!宮水~っ!」

廊下から、隣のクラスの男子が声を掛けて来た。この間、バスケの名門校について聞いた、バスケ部の男子だ。

「何?」

彼に歩み寄って、私は尋ねる。

「お前って、本当にバスケ好きなんやな?中坊までチェックしとるなんてよ。」

「え?・・・何の事?」

「とぼけるなや、“奇跡の世代”の事や!」

「え?奇跡の世代?」

「週刊誌にも載っとったで、この記事!」

そう言って彼は、週刊誌の記事を見せてくれた。そこには、帝光中学バスケ部の“奇跡の世代”と呼ばれる、中学生プレイヤーの事が書かれていた。

レギュラーの5人全てが、“10年に1人”の逸材であり、彼らが入部して以降、帝光中学は一度も負けていない・・・・その名前は、“赤司征十郎”、“緑間真太郎”、“青峰大輝”、“黄瀬涼太”、“紫原敦”・・・・あれ?黒子くんの名前が、無い・・・・

ま・・・待って、この子達って・・・・中学2年生?じ・・・じゃあ・・・・私と黒子くん達の時間は・・・・3年ずれていたの?

「そういえば、この奇跡の世代やけど、奇妙な噂も流れとるらしいで。」

「え?ど・・・どんな?」

「何でも、誰も知らへんらしいけど、この5人の他に、5人が一目おいとる“幻の6人目”がおるって噂がな。」

ま・・・幻の6人目?・・・・まさか、それが、黒子くん?

 

 

 

数日後、赤司は、三葉の体で目を覚ます・・・・

 

目覚めた後、俺は、真っ先にスマホを確認した。

“2013年”

間違い無い、俺達の時間の、3年前だ。迂闊だったな、スマホの画面は何度も見ていたのに、年号の違いに目が行かなかった。

3年の時差がある事は分かった。だが、それと入れ替わりがどう関係しているのか?それを調べるには、学校に行っている場合じゃ無いな。

その日は学校を休むつもりで、私服に着替えて下に降りる。

「おはよう、お姉ちゃん。お婆ちゃんが、朝ごはん食べたら、直ぐ出掛けるやて。」

「え?・・・何処に?」

 

今日は、山の上にある御神体に、口噛み酒とやらを奉納する日らしい。

そんな事をやっている場合では無いのかもしれないが、“御神体”という言葉が、どうも引っ掛かった。この入れ替わりの現状は、実際に神懸かりな出来事だ。その“御神体”とやらが無関係には思えなかった。

俺と四葉、お婆さんの3人で出かける。宮水神社の、裏手の山を登って行くようだ。

御神体が神社にでは無く、山の上にある事にも、何か意味があるのかもしれない。普通なら、神社の中か、そうでなくても直ぐ側に置く筈だ。

結構な山道を、ひたすら歩く。まだまだ、先は長そうだが、お婆さんには、この山道は辛いだろう。非常に、歩みも遅い。これでは、いつ御神体に辿り着けるか分からない・・・・

「お婆ちゃん!」

俺は、お婆さんに背中を差し出す。婆さんは、にっこり笑って、

「ありがとうよ。」

と言って、俺の背中におぶさる。

山頂までの道中、俺の背で、お婆さんが日本古来の“ムスビ”の事を語った。

糸を繋げることも、人を繋げることも、時間が流れることも、全部同じ言葉“ムスビ”を使う。それは神様の呼び名であり、神様の力でもあると。では、俺達と三葉の入れ替わりも、何かの“ムスビ”なのか?・・・・

 

ようやく頂上に着くと、そこには、大きなカルデラ状の窪地があった。その中央には、巨大な岩と一体化した巨木があり、それが御神体らしい。

これが御神体なら、神社と場所が離れているのも分かるような気がする。こんな場所に神社を建てても、通うのが大変だ。逆にこんな物を、町の近くまで運ぶのも困難だ。

 

俺達は、その御神体を囲むように流れる、小川の前まで行く。

「ここから先は、隠り世。」

お婆さんが、また語る。この先はあの世、つまりは死後の世界であり、戻るには、俺達の一番大切なものを、引き換えにしなければならないらしい・・・・その一番大切なものが、口噛み酒なのだと・・・・この酒は、三葉と四葉が米を噛み、唾液と共に吐き出したものらしい。これが、三葉達の半分なのだそうだ・・・・

御神体の前まで行くと、小さな入り口があり、下に降りる階段が付いていた。中まで降りて行くと、小さな祠があり、口噛み酒はそこに奉納された。

 

御神体を出て、山を降りると、もう陽が雲の後ろに隠れ掛かっていた。

「もう、カタワレ時やなあ・・・・」

お婆さんが呟く。カタワレ時とは何だ?聞いた事が無い。だが、入れ替わりとは関係は無さそうだ。

わざわざここまで来てみたが、結局何も分からなかった。

「もう、彗星見えるかな?」

四葉が、そう言う。

彗星・・・・そうだな、彗星について調べれば、何か分かるかもしれない・・・・

考え込んでいる俺に、お婆さんが横から声を掛ける。

「あんた今、夢を見とるな・・・・」

いや、これは夢では無いよ、お婆さん。

 

 

 

10月4日、自分の体で目が覚める。この間、赤司君と入れ替わって以降、入れ替わりは起こっていない。今日が、彗星が最接近する日。黄瀬くん辺りは、今日ここで、その天体ショーを見たかったんじゃないかな?あ・・・でも、向こうでも、3年前に見てるんだっけか?

 

夜、祭りもあるので、浴衣に着替えて、サヤちんとテッシーとの待ち合わせ場所に行く。

「遅くなってごめん。待った?」

「ううん、私らも、今来たとこやよ。」

「ほんじゃ、行こか!」

3人で、神社に向かって歩く。空には、彗星が大きな尾を引いて、巨大な紐のような模様を描いている。それはまるで、夢の景色のように、ただひたすらに美しい眺めだった。

「あれ?」

ふと、私は気付く。彗星の描く紐が、2つに分かれているのに。その間隔はどんどん広がっていき、その片方は、赤く大きな塊になっていく・・・・

 






毎回、入れ替わっているのが同じ人物なら、もっと早く3年の時差にも、彗星の破片落下の事も気付けたかもしれません。
結局、各自2回の入れ替わりだったので、流石の赤司も、全てを読み切れませんでした。
しかし、6人全員が入れ替わりを経験した事が、この後意味を持って来ます。

物語はクライマックスへ、次回はいよいよ最終回・・・・ではありません。この話は、まだまだ続きます。


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《 第九話 》

急に三葉との入れ替わりが途絶え、黒子達は不思議に思います。
そんな中、赤司からの呼び出しが有り、黒子達は糸守へと向かいます。
そこで黒子達は、衝撃の事実を知る事になります・・・・




 

もう1週間くらい、三葉さんとの入れ替わりが無い。この間は赤司くんだったので、もし入れ替るのなら僕の番なんだけど・・・・もう、入れ替わりは無くなったのかな?入れ替わりの理由について、赤司くんは、何か分かったのだろうか?

桃井さんも、心配してよく電話を掛けて来る。赤司くんの話では、僕達と三葉さんの時間は3年ずれているらしい。だから、入れ替らない限り、僕達が三葉さんと連絡を取る術は無い。この時間の三葉さんには、いくら連絡しても繋がらない。多分、スマホのアドレスが変わっているのだろう。

その時、スマホの着信音が鳴った・・・・赤司くんからだ。

『黒子か?直ぐに、青峰と黄瀬に連絡して欲しい、桃井にもだ。』

「え?何をですか?」

『大変な事が分かった。詳しくは会ってから話すが、次の日曜日、昼までに岐阜県の飛騨古川駅まで来て欲しい。』

「な・・・何故ですか?」

『それは会ってから話す。俺達、全員に関わる話だ。緑間と紫原には、俺から連絡しておく。』

「は・・・はい、分かりました。」

 

赤司くんに言われた通り、青峰くん、桃井さん、黄瀬くんに連絡して、次の日曜日、僕達は飛騨古川に向かう電車の中に居た。

「で、赤司は何にも言わねえのかよ?」

「はい、会ってから話すって。」

「勿体つけやがって、用件くらい言えってんだ!」

「きっと、三葉っちの事っスよ。赤司っち、入れ替わりの後も調べてたみたいだし。」

「心配よね?何で、急に入れ替らなくなっちゃったのかしら?」

「お前は、入れ替らないからいいかもしれねえが、結構大変なんだぞ!あれ!」

「俺は、楽しかったっスけどね。」

「お気楽でいいな、てめえは・・・・」

飛騨古川駅に着くと、改札口の前で既に、赤司くん、緑間くん、紫原くんの3人が待っていた。

「あれ、紫原っち早いっスねえ?一番遠くなのに。」

「昨日の内に来させて、洛山の寮に泊まらせた。寝坊されては困るからね。」

「流石、抜かり無いわね、赤司くん。」

「そんな事より、こんなとこまで呼んで何の用だ?赤司?」

「百聞は一見にしかずだ。一緒に付いて来てくれ。」

「はあ?何処に行くんだよ?」

「糸守だ!」

『ええ~っ?』

 

飛騨古川駅から、タクシー2台で移動する。電車やバスは無いのかと聞いたところ、以前は走っていたが、今は廃線との事・・・・どういう事だろう?

タクシーで1時間弱、廃校となった学校の前で降りる。その学校名を見て、僕達は愕然とする。

“糸守高校”

「な・・・何で廃校になってるんだよ?3年で、そんなに過疎化が進んだってのか?」

赤司くんは、どんどん先を歩いて校庭の方へ行ってしまう。僕達も、慌ててその後を追う。

校庭の端、勅使川原くんや名取さんと昼食を取っていた辺りに行き、町を見渡して、更に僕達は驚愕する。

「な・・・何だよ?これは?」

「ひ・・・酷い・・・・」

そこに、町は無かった。糸守湖は、元の円にもうひとつ大きな円が重なった、瓢箪状に姿を変え、湖畔の町は、全て瓦礫の山と化していた。三葉さんの家や、宮水神社のあった所は、新しい円の中心辺りだ。その辺りは、町がごっそり無くなっている。

「な・・・何なんスか?これは?」

「ティアマト彗星だ。」

『え?』

僕たちの問いに、赤司くんが答える。

「黒子が言っていた、3年前に地球に最接近した彗星だ。その最接近の際に一部が分裂して、破片が日本に墜ちた。その墜ちた場所が、この糸守だ。」

「何だと?」

「そ・・・そういえば、確かに、3年前にそんなニュースあったっス。」

「町は壊滅、住民の約1/3が巻き込まれて亡くなったそうだ。」

「じ・・・じゃあ、三葉ちゃんも?」

「その1/3に含まれている。」

「そ・・・そんな・・・・」

「本当に迂闊だった・・・・彗星の話を聞いた時に、思い出せば・・・いや、直ぐに調べれば良かったんだ・・・・済まない・・・・」

「もしかして・・・・あの入れ替わりは、この事を僕達が三葉さんや糸守の人に伝えて、皆を避難させるために・・・・」

「そう考えて、間違い無いだろう。」

「じゃあ俺達は、その期待に応えられなかったって事か?」

「そんな・・・三葉ちゃん・・・・」

とうとう、桃井さんは泣き出してしまった。他の皆も、唇を噛み締めている。

「も・・・もう、どうにもならないんスか?」

「入れ替わりは、もう無くなった・・・・万事休すなのだよ。」

「いや、まだ可能性は残されている。」

「何?」

全員が、赤司くんに顔を向ける。

「本当か?赤司?」

「ああ、皆を呼んだ、本当の理由はそれだ!・・・付いて来てくれ。」

そう言って、赤司くんはタクシーのところに戻る。僕達は、それに続く。

 

タクシーは、糸守の廃墟を迂回して、糸守高校と湖を挟んで反対側の山道に入る。かなりの悪路を進み、それ以上は車で移動でき無くなる所まで行く。そこからは歩きで、山を登って行く。頂上に付くと、そこはカルデラ状の窪地で、真ん中に岩と一体化した巨木が立っている。

「あれが、宮水神社の御神体だ。」

『御神体?』

「あの岩の裂け目から、下に降りられる。そこまで行くんだ。」

僕達は、赤司くんに続いて歩いて行く。御神体を囲むような円状の小川を渡り、岩の裂け目から、御神体の中に入る。そこには、小さな祠があり、瓶子が2つ供えられていた。

「これは、口噛み酒といって、糸守に古くから伝わるお神酒だ。三葉と四葉の姉妹が、米を噛み、吐き出して瓶子に入れた物だ。」

「噛んで吐き出した?おえ・・・・」

「ちょっと、失礼だよ!大ちゃん!」

「供えたのは俺だ。最後に、三葉と入れ替わった時にね。左が三葉の物、右が四葉の物だ。俺が供えたのは1週間程前だが、ここでは3年経っている。もう発酵して、お酒になっているだろう。」

「それで、これが何なのだよ?」

「あの日、お婆さんが語ってくれた。糸を繋げることも、人を繋げることも、時間が流れることも、全部同じ言葉“ムスビ”を使う。それは神様の呼び名であり、神様の力でもあると。俺達と三葉の入れ替わりも、何かの“ムスビ”だろう。入れ替わりが無くなったのは、それが強制的に切られたからだ、彗星の破片の落下によってね。」

『・・・・』

皆、真剣に、赤司くんの話に聞き入っている。

「もうひとつ、お婆さんが言っていた。この口噛み酒は、三葉と四葉の半分・・・2人の分身のような物だと・・・・だとすれば、これを飲む事により、もう一度俺達と三葉を“むすぶ”事ができるかもしれない。」

『?!』

皆、この言葉に衝撃を受ける。

しばしの沈黙の後、僕は、三葉さんの口噛み酒の入った瓶子に手を伸ばす。

「じゃあ、これを飲めば、もう一度三葉さんと入れ替われるんですね?」

「絶対では無い。その可能性がある、というだけだ。」

「ま・・・まさか?飲む気か、テツ?」

「はい、だって、これじゃ、三葉さんが可哀想すぎます・・・・本来なら、僕達は、三葉さんを助けなきゃいけなかった・・・・それが、彗星の破片落下に気付く事もできなかったなんて・・・・このままじゃ、悔いが残ります!」

「ん~、まあ、そうだけどよ・・・・」

「気付いてても、青峰っちじゃ救えなかっただろうっスけどね。」

「うるせえ!一言多いんだよ、てめえは!」

僕は、瓶子の蓋を開け、その蓋に中の口噛み酒を注ぐ。

「待て、黒子。」

僕が、蓋を口に近づけようとしたところを、赤司くんが制止する。

「お前ひとりでは大変だろう、俺も一緒に行く。」

そう言って、赤司くんは、もうひとつの瓶子を手に取る。

「ちょっと待って、赤司っち、それは・・・・」

「三葉の妹、四葉の口噛み酒だ。」

「あの、ガキと入れ替るつもりか?」

「仕方が無いだろう。口噛み酒は、この2つしか無いんだ。人口が少ないとはいえ、1500人を避難させるんだ。人手は、ひとりでも多い方がいい。」

「ありがとうございます。お願いします、赤司くん。」

「ちょっと待て、テツ!」

「はい?」

今度は、青峰くんが僕を制止する。

「お前じゃ不安だ、俺が代わる!」

『え~っ?』

周りの皆が、驚きの声を上げる。

「お前じゃ、影が薄くて、皆が気付いてくれないと困る。その点、俺なら目立つ!」

「それなら、俺の方が目立つっスよ!俺が行くっス!」

「でしゃばんな、引っ込んでろよ、黄瀬!」

「なんでっスか?俺だって、三葉っち助けたいっスよ!」

「待て、どうもお前達は遊び半分に思えていかん。俺が行くのだよ。」

「え~っ?何言ってんスか、緑間っち?」

「だいたいてめえは、全然非協力的だったじゃねえか?」

「何にも分からない状態で、議論しても無駄だと思っただけなのだよ。目的がはっきりしているなら、ここは副主将の俺が適任なのだよ。」

「そんなの中学時代の話だろ!今は関係ねえ!」

「そうっスよ!」

3人で、口論を始めてしまった。

「ムッくんは参加しないの?」

「だって~、めんどくさいし~」

しかし、3人共全く譲らないので、いつまで経っても決着はつかない。

「俺だ!」

「俺っスよ!」

「俺なのだよ!」

「あ~もう、ストップ!」

痺れを切らして、桃井さんが口を挟む。

「それなら、三葉ちゃんに選んでもらいましょ!」

「え?」

「いねえ奴が、どうやって選ぶんだよ?」

「だから~・・・・」

そう言って、どこから出したのか、桃井さんは、お猪口を4つ取り出す。それぞれに三葉さんの口噛み酒を注いで、青峰くん達にひとつずつ渡す。

「これで、皆で飲むの!」

「はあ?」

「そんな事したって、入れ替れるのはひとりっスよ?」

「そう、きっと、一番三葉ちゃんと“むすばれてる”人が入れ替るわ!」

「何で、俺まで~?めんどくさいんだけど~」

「文句言わないの!さあ、飲んでっ!」

そこで、じっと待っていた赤司くんが、ようやく口を開く。

「話は決まったようだね・・・・桃井、うまくいけば、三葉と四葉が入れ替ってここに来る筈だ。多分混乱するだろうから、君が説明してあげてくれ。」

「は・・はい!」

「では、皆、行くぞ!」

「はい!」

「おうよ!」

「いいっスよ!」

「いいのだよ!」

「めんどくさいのに~」

全員で、口噛み酒を一気に飲み干す。

「何だ?この変な味は?」

「まず~い!」

「いまいちっスねえ。」

皆、文句が多い・・・・

しばらくすると、徐々に意識が遠のいていく・・・・こ・・これは?・・・・

 






既に、三葉が亡くなっていた事を知り、衝撃を受ける黒子達。
今度こそ、三葉と糸守を救うために、口噛み酒を飲みました。
赤司は四葉と入れ替る事になりますが、三葉と入れ替る事ができるのは、黒子か?青峰か?黄瀬か?緑間か?はたまた紫原か?・・・・


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《 第十話 》

三葉と糸守を救う為、口噛み酒を飲んだ黒子達・・・・
赤司は四葉と入れ替わりますが、三葉と入れ替わるのは誰か?
まあ、そこは主人公なので、当然黒子になるんですが、たった2人で果たして糸守を救えるのか?
ところがそこに、思わぬ援軍が・・・・




 

「・・・・んっ?」

目が覚めて、慌てて飛び起きて、部屋を見渡す・・・・三葉さんの部屋だ!

自分の体を見る・・・・女物のパジャマで、胸も有る・・・まだ生きている時間で、入れ替われたんだ!

「・・・・黒子か?」

気が付くと、右の襖が開いていて、四葉さんが立っている。

「あ・・・赤司くん、ですか?」

「そうだ。」

僕は、ある衝動を抑えようと、必死にお腹を抑える。

「く・・・くく・・・・」

申し訳無いけど、それでも、抑えきれない・・・・

「笑うなよ・・・・自分でも、滑稽だと思っている。」

 

着替えて、一緒に居間に降りる。テレビが付いていて、ニュースが流れている。

『いよいよ、今夜、ティアマト彗星が地球に最接近します・・・・』

「墜落の当日に来たようだな・・・・だが、まだ時間はある。」

「はい。」

そこに、お婆さんが入って来る。お婆さんは、僕達を見るや否や、こう言った。

「あんた達・・・三葉と、四葉やないね。」

「え?分かるんですか?」

「どうやら、入れ替わりは、宮水家に代々引き継がれている力のようだな・・・」

 

その後、お婆さんに僕達の事を話し、今夜彗星の破片が糸守に墜ちる事を説明したけど、お婆さんは“そんな事を言っても、誰も信じ無い”と言うだけだった。

僕と四葉(赤司くん)は、とりあえず学校に向かっていた。

「どうやって、皆を避難させますか?」

「お婆さんの言うように、普通に話しても信じてはもらえないだろう。何か、偽の災害でも起こして避難させるか・・・・」

その時、後ろから声が聞こえて来る。

「黒子っち~!赤司っち~!」

振り向くと、名取さんがこちらに向かって走って来る。でも、この呼び方は・・・・

「ふう・・・や・・やっと追い付いた。」

前屈みになって息を整えている名取さんに、四葉が尋ねる。

「お前?・・・黄瀬か?」

「な・・・何で、黄瀬くんが、名取さんに?」

「知らないっスよ、目が覚めたら、この娘になってたんス!」

「ほう?これは、もしかすると・・・・」

「でも、よく三葉さんと入れ替わってるのが、僕だって分かりましたね?」

「そんなの、歩き方見りゃ分かるっスよ!あと、ちょっと認識し辛かったっスから。」

すると、更に後ろから、勅使河原くんが歩いて来る。何故か、袋ごとの“まいう棒”を抱え、ひとつは食べながら・・・・

「おはよ~~~」

「紫原か?」

「まさか、みんな誰かに入れ替わってるんですか?」

「ええっ?じゃあ、青峰っちと、緑間っちは?」

そんな話をしていると、今度は、前からこちらに向かって来る人影が・・・・あれは、確か松本くん?

「よう、三葉に入ってんのは、テツか?」

「あ・・青峰っちスか?」

「ったく・・・何で俺が、このチャラ男なんだよ?」

「やはり、全員、この糸守に来ているようだな?」

「で・・・でも、緑間っちは?」

「その内現れるだろう。皆、三葉の所に集まっていると、思うだろうからね。」

 

その後、僕達は町営駐車場の前に差し掛かる。駐車場では、また、三葉さんのお父さんが、選挙演説をしようとしていた。ところが、僕達が通り掛かると、それを止めて僕達に歩み寄って来る。それを見て、四葉が声を掛ける。

「・・・緑間か?」

「何で・・・俺だけおっさんなのだよ?」

『ぷっ!』

松本くん(青峰くん)と、名取さん(黄瀬くん)は思わず吹き出してしまう。僕は、流石にこれは笑えなかった。

「そうか、これは好都合・・・・いや、そうか!そういう事か?」

何だか知らないが、四葉は、ひとりで納得している。

「皆、学校に行くのは止めだ!緑間、町長室を貸し切ってくれ!」

四葉の指示で、僕達は、糸守町役場に向かった。

 

 

 

「んっ・・んんっ・・・」

な・・・何か、背中が痛い・・・石の上にでも寝ているような・・・周りも暗くて・・・・

少しずつ目を開いていくと・・・あれ?誰かが私の顔を、覗き込んで・・・・

「さ・・・さつきちゃん?」

「・・・やっぱり、テツくんと入れ替わったのね・・・ちょっと、妬けちゃうな。」

「え?」

気付くと、黒子くんの体だった。私、また入れ替わったの?え?でも、ここって・・・・

そこは、御神体の中だった。

「きゃあああっ!何なん、これ?」

突然の悲鳴に、驚いてそちらを向くと、そこには赤司くんの姿が。え?でも、今の喋り方って・・・・

「うわっ!何やこれ?」

「ええっ!どうなってんの?」

「な・・・何だ?これは?」

「何なんや?これ・・・・」

更に、後ろからも悲鳴が・・・・振り向くと、青峰くん、黄瀬くん、緑間くん、紫原くんが・・・・でも、皆、喋り方が・・・・

「ええっ?ど・・・どうして、大ちゃん達まで?」

さつきちゃんまで驚いてる・・・・どうなってんの?

 

 

 

僕達は、町長室を貸し切って、避難計画について話し合っていた。

「で、どうする気なんだよ!赤司!」

「3年後で見て来た通り、糸守高校は無事だった。だから、破片の落下時に、住民全員が糸守高校に居るようにさせればいい。」

「どうやって、避難させるんスか?」

「避難させるのでは無く、集めればいい。例えばだが、今夜、糸守高校で“レディーガガ”がコンサートを開くと聞いたら、住民達はどうする?」

「それは、見に行くでしょうね。」

「そうだ、別にファンで無くても、その名前を知っていれば、興味本意で人は集まる。滅多に有名人の来ない、こんな田舎町なら尚更だ。」

「だけどよ、必ず全員来るとは限らねえぞ。全く、興味無い奴だっているだろ。」

「だから、それを町の行事に組み込む。幸い、今夜はお祭りだそうだ。半ば強制的に、全住民を糸守高校に集める。」

「できんのかよ、そんな事が?」

「できる!町長の権限を使えばな!」

『あ?』

皆、一斉に、町長に入れ替わっている緑間くんの方を向く。

「緑間が、町長と入れ替わったのも偶然では無いだろう。俺達6人が三葉と入れ替わり始めた時から、仕組まれた運命だったのさ。」

「待って下さい、赤司くん。いくら何でも、僕達で“レディーガガ”を糸守に呼ぶ事はできません。」

「ああ、それは単なる例えだ。俺達が呼ぶのは、別な者達だ。もちろん、今日の内にここまで来れる人間だ。」

「いったい、誰を呼ぶ気なんスか?」

「帝光中学、バスケットボール部・・・・奇跡の世代だ!」

『な・・・何~っ?』

「糸守高校で、帝光中学とバスケの親善試合をするんだ!」

「ばか言ってんじゃねえぞ、こんな弱小高のバスケ部が、いくら中学時代とはいえ俺達の相手になる訳ねえだろ!」

「相手をするのは、糸守高校バスケ部では無い!」

「ま・・・まさか?」

「そうだ、俺達が闘うんだ!3年前の自分達と!」

「す・・・すげえ・・・奇跡の世代VS奇跡の世代っスか?」

「待て、赤司。お前は、帝光中学が親善試合に応じる前提で話をしているが、こんな田舎の無名校との親善試合を、帝光が受けるとは到底思えないのだよ。」

「いや、必ず受けるね。」

「何故だ?」

「あの当時の、俺達を思い出してみろ。練習試合も、公式戦も、満足のいく相手が居たか?どの試合も、不完全燃焼の連続で、事務的にこなしているだけでは無かったか?」

「そ・・・それは、そうだが・・・・」

「お前はどうだ?青峰?お前が一番、強敵に飢えていたんじゃないのか?」

「まあ、そうだな・・・“俺に勝てるのは、俺だけだ”なんて、言ってたな。」

「そのお前が、お前の相手をしてやるんだ。受けない筈が無い!」

「じゃあ、僕達の正体を教えるんですか?」

「全員に話したところで、信じはしないだろう。だが、俺ならば、“赤司征十郎”なら信じる。」

「ふっ、そうか・・・そう言われると、何か燃えて来たぜ!」

「腕がなるっスね!」

「めんどくさいけど、面白そうかも~」

「分かった、人事を尽くすのだよ。」

「しかし、3年前の俺達なんだろ、スキルもまだ未熟な頃だ、逆に俺達の相手になんのか?」

「侮るなよ、スキルが上でも、こっちは慣れない他人の体だ。身体能力も、圧倒的に低い。下手をすれば、一蹴されるのはこっちの方だ!」

「そんな事言ってるが、目が自身満々じゃねえのか?」

「まあ、やるからには、負けるつもりは毛頭無い。ただ、この試合のキーマンは、俺達じゃない。」

「はあ?」

「黒子、お前だ!」

「え?」

四葉が言う事の意味を、この時は、僕はまだ理解できなかった。

「俺と緑間は、ここに残って色々な手続きを進める。お前達は、糸守高校に行って、親善試合の準備を進めてくれ。」

「でも、学校が許可してくれるでしょうか?」

「糸守町長の要請だと言えば、大丈夫だろう。後で、緑間に電話させる。」

「バスケ部の方はどうすんだ?俺はいいとして、部外者や女やおっさんが選手として出るのを、すんなり認めるとは思えねえ。」

「それは、お前と黒子で説得してくれ。特に、三葉は糸守ではスーパープレーヤーだ。その三葉が頼めば、何とかなるだろう。」

「そんな、うまく行くかね?」

「それで無理なら、多少のアピールはやってもいい。」

「ほんとっスか?」

「ああ、今の体での、ウォーミングアップもしておいた方がいいだろうからな。」

「あ~あ、めんどくさいのに~」

「あ、それから・・・」

「まだあんのかよ?」

「以後は、人前では本名を呼ばないように。周りが混乱する。俺は“四葉”、黒子は“三葉”、青峰は“松本”、黄瀬は“サヤちん”、紫原は“テッシー”と呼ぶんだ。」

『え~っ?』

「赤司、俺は?」

「“お父さん”に決まってるだろ?」

『ぷっ!』

また、松本くんと名取さん、勅使河原くんも一緒に噴き出した。申し訳ないけど、僕も・・・・

 

三葉達が出て行った後、町長室で・・・・

「赤司、ちょっと聞いていいか?」

「何?お父さん?」

「2人の時はやめろ!」

「悪かった、冗談だ。」

「お前はさっき、“赤司征十郎なら必ず信じる”と言ったが、そこまで言い切れる根拠は何だ?常識的に考えて、未来の自分が他人に入れ替わってる等、普通信じないのだよ。」

「ふふ、もうひとりの俺を覚えているか?」

「ああ。」

「この時間の俺を支配しているのは、もうひとりの俺だ。自分が負ける事など、絶対に有り得ないと驕り高ぶっていた頃のな。そんな俺でも、一目おいていた者が居た。本当は優劣を付けたいが、闘いたくともそれが叶わない相手・・・・」

「それが、今のお前だと言うのか?」

「そうだ。だから、そこを突けば必ず食い付いて来る。信じ難い、突拍子も無い話でもな。」

 

 

 

私達は、さつきちゃんに言われて、山の頂上の縁に上がった。

「え?」

「な・・・なんやの?これ?」

「ば・・・ばかな?」

皆、その光景に驚嘆の声を上げる。そこに、私達が知っている糸守は無かった。瓢箪型に姿を変えた糸守湖と、その周りに広がる、瓦礫の山があるだけだった。

「さっき言ったように、3年前に彗星の破片が墜ちて、糸守はこうなってしまったの。」

「わ・・・私達は、死んだの?じゃあ、な・・・何で、今ここに?」

「あなた達の、口噛み酒を飲んで・・・・テツくん達が入れ替わったの。皆は今、破片が墜ちる前の糸守に行っている・・・・三葉ちゃん達を、助けるために。」

「わ・・・私達のために?・・・・く・・黒子くん達が?」

「し・・・しかし、どうやって助けるんだ?こんな事、実際に見なければ、誰も信じないだろう?」

「それは、私にも分かりません。でも、テツくん達は、絶対に糸守を見捨てない!必ず助けます!」

そうだ、今は、黒子くん達を信じるしかない・・・・お願い!がんばって、黒子くん!

 






何と、6人同時に、彗星の破片落下当日の糸守に来てしまいました。
奇跡の世代同士の夢の対決は、果たして実現できるのか?

ちなみに、赤司が“周りが混乱するから、以後は本名で呼ぶな”と言いましたが、本当は“読者が混乱するから”です。あしからず・・・・


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《 第十一話 》

糸守住民を彗星の破片落下から救うため、帝光中学バスケ部“奇跡の世代”との親善試合を企画した三葉(黒子)達・・・・
かくして、奇跡の世代VS奇跡の世代の夢の対決が実現する。
果たして、勝つのはどちらか?そして、計画はうまく行くのか?




 

今夜、糸守では豊穣祭が開催される。通常なら、祭典は宮水神社で行われ、神社の境内に出店が並ぶ。ところが、今年は祭典は糸守高校で行われ、糸守高校の校庭に出店が並ぶ。そして、祭典の目玉は、19:30より糸森高校体育館で行われる、帝光中学バスケットボール部と糸守選抜チームによる親善試合である。

いくら糸守町長の勅命とはいえ、祭典当日にこのような大幅な企画変更は普通通らない。何より、神社側が承諾する筈が無い。しかし、三葉達の素性を知っている、宮水神社神主でもある一葉が、難色を示す町の長老達を説得してくれたおかげで実現できた。逆に若者達は、週刊誌でも騒がれている“奇跡の世代”が見られると、喜び勇んで糸守高校に集まって来た。

夕方になって、糸守高校の校庭には出店が並び、大勢の人々が集まっている。空には既に彗星が大きな尾を引いて、綺麗な模様を描いている。住民達は、それも眺めながら楽しんでいる。

本祭りは講堂で行われる。そちらのしきりは、神主である一葉が行っており、三葉達は体育館で親善試合の準備を行っていた。

そこに、四葉(赤司)がようやく到着する。

「あか・・・四葉・・・」

「何とか、説得はできたみたいだね?」

「はい、結局、最後はサヤちんとテッシーが、バスケ部員を一蹴する事になりましたけど。」

「じゃあ、もうウォーミングアップは済んでいるな?」

「帝光中学とは、話はつきましたか?」

「大丈夫だ。もうそろそろ着く頃だろうから、出迎えの準備をしよう。」

「みど・・・お父さんは?」

「もう直ぐ来る。出迎えには、やはり町長が居ないと失礼だからね。」

 

体育館を出ると、丁度バスが学校内に入って来た。帝光中学の、遠征用のバスだ。

町中の人達がバスを囲み、体育館まで人混みの花道が出来上がる。そして、バスから選手達が降りて来ると、大きな歓声と拍手が沸き起こる。

糸守町長の宮水としき(緑間)が、先頭に立って帝光中学の選手達を迎える。引率者である真田監督と握手を交わす。

「今夜は、突然の要請に応えて頂いた上、遠い所からお越し頂き真にありがとうございます。」

「いえ、こちらこそ、お招き頂きありがとうございます。」

しかし、としきは、真田監督の顔が決して笑っていない事に気付いていた。

“そうとう不満そうだな、監督は・・・・それはそうだろう。いきなり、こんな無名の田舎の学校に呼び出されては・・・・だが、それだけ赤司の発言力が、帝光を支配しているという事か?”

真田監督に続き、選手達は体育館の中に案内されて行く。そんな中、歓迎の人波の最前列にいる四葉を見つけ、赤司はその前で足を止める。

「・・・君が、そうなのか?」

「そうだ・・・良く来てくれたね。」

「君の思っている通り、僕は一度君と闘いたかった。そのチャンスが今日しか無いのなら、何を押しても逃す訳にはいかない・・・・だが、随分と可愛らしい姿だね。それで、満足に闘えるのか?」

「心配には及ばない。俺達のスキルに、対格差は関係が無い事は分かっているだろう?」

「ふっ、それはそうだが、限度というものがある・・・あんまり、幻滅させないでくれよ。」

「分かっている。」

まるで、“ラスボス同士の宣戦布告”が終わり、選手達は体育館に集まる。

 

三葉達のところに、宮水としきが、似合わないバスケのユニフォームを着て現れる。

「ご苦労だったね。」

「お父さん、お疲れ様っス!」

「やめろ!」

「そんなおっさんの体で、本当にプレイできんのか?」

「流石に、走るのは辛いがな・・・シュートするぶんには問題無いのだよ。」

「あか・・・四葉達は、ウォームアップはしてあるんですか?」

「準備の合間に、多少は済ませてある。元々スタミナが無いから、これくらいが丁度良いだろう。」

そんな三葉達を、冷やかな目で、帝光中学の奇跡の世代達が見つめている。

「何だよ?あの相手は?高校生どころか、女やおっさんやガキの集まりじゃねえか!」

「赤司、かつて無い強敵だと聞いたから、従ってここまで来たが・・・・これでは、まともな試合ができるとは思えないのだよ。」

「ところで緑間っち、その“干し椎茸”は何スか?」

「今日のラッキーアイテムなのだよ。」

「向こうのおじさんも持ってますね。」

良く見ると、宮水としきも同じ“干し椎茸”を持っていた。

「まさか、あのおっさんまで“ラッキーアイテム”とか、言ってんじゃねえだろうな?」

としきの“干し椎茸”に、サヤちんが茶々を入れる。

「お父さん、何スか?その“干し椎茸”は?」

「わざとらしく聞くな!ラッキーアイテムに、決まっているのだよ!」

糸守側のチームを見て、真田監督は血相を変えて赤司に詰め寄る。

「赤司、こんな話は聞いていないぞ!何だ、向こうのメンバーは?こんな色物じみた試合ををしたら、帝光の評判はがた落ちだ!理事長に何と言われるか・・・・向こうには申し訳ないが、こんな茶番は断るんだ!」

しかし、赤司は氷のような目で、監督の提案を却下する。

「監督、この試合に関しては、一切口出し無用とお願いしてある筈です。」

「し・・・しかし・・・」

「責任は、全て僕が取ります。心配しなくても、帝光の評判が下がる事はありません・・・むしろ、後から賞賛される事になるでしょう。」

赤司は、もうひとりの自分から、この試合の本来の目的も聞いていた。

「お前達にも、一言だけ言っておく。」

赤司は、奇跡の世代のメンバーの方を向いて話す。

「実際にプレイを見るまでは信じられないだろうが、この相手は、今迄のどの相手よりも手強い。姿に惑わされていると、足元を掬われるぞ。」

『はあ?』

奇跡の世代のメンバーは、未だに赤司の言葉が信じられなかった。

 

試合開始の時間が近づく。四葉(赤司)の計画通り、この時間には糸守の全ての住民が糸守高校に集まっていた。お年寄り達は、本祭典の講堂に。殆どの住民は、親善試合の体育館に。バスケに全く興味の無い者は、校庭の出店に。体調の悪い者には、保健室や教室が開放されていた。町の消防団は、町長の命により、糸守高校から人が外に出ないように、学校の周りを固めていた。

「それでは、これより帝光中学と、糸守選抜チームの親善試合を開始します。」

糸守高校の体育教師の号令で、いよいよ親善試合が開始される。

帝光の先発メンバーは、赤司、緑間、青峰、黄瀬、紫原の5人。対する糸守選抜は、四葉、としき、松本、サヤちん、テッシーの5人だ。

ジャンプボールに飛ぶのは、帝光は紫原、糸守はテッシーだ。

“ピーッ!”

開始の笛で、紫原とテッシーが同時にジャンプする。当然、紫原の方が高く飛んだが・・・・

「何?」

確かに、高さでは紫原が上だった。しかし、ベストのタイミングで飛んだのはテッシーの方だった。紫原が降下し始めた頃にテッシーは最高点に達したため、ボールを奪ったのはテッシーの方だった。

「も~らい。」

テッシーが奪ったボールを、すかさず四葉が拾う。

「お父さん!」

ボールはとしきへ。

「その呼び方は止めろ!」

としきは、すかさず超ロングシュートを放つ。綺麗な放物線を描き、ボールはゴールリングの中央を通過する。

“ピーッ!”

「な・・・何だと?」

「あ・・・あのシュートは?」

驚愕する、奇跡の世代の面々。体育館内には大歓声が上がる。

「ちょ・・・町長凄え!」

「流石、宮水の父ちゃんや!」

「やってくれるじゃねえか!」

青峰が、高速ドリブルで反撃に出る。瞬く間にディフェンスを抜きゴール前に、すかさずシュートに行くが・・・・

「やらせないよ!」

テッシーの壁が立ちはだかり、青峰のボールを叩き落す。

「な・・・何だと?」

「ふん、何腑抜けたオフェンスやってんだ、こうやるんだよ!」

ボールを拾った松本が、お返しの高速ドライブで帝光ゴールに迫る。

「させないよ!」

こちらも、紫原がシュートコースを塞ぐ。

「へっ!」

松本は、完全に不安定な体勢から、そのままシュートを放つ。ボールはボードに当たってから、リング上を一周してそのままリング内に落ちる。

「な・・・あれは?」

「青峰っちの、型無しシュート?」

体育館内からは、またもや大歓声が沸き起こる。

 

その後、帝光は糸守に圧倒されっぱなしで、5-15と点差が開いたところで、1回目のタイムアウトを取る。

「これで分かっただろう?」

「赤司くん、あ・・・あの相手は、もしかして・・・・」

「そうだ!あのチームは僕達自身だ!」

『な・・何っ?』

「正確に言うと、3年後の僕達だ。訳あって、今日1日だけ、あのメンバーと体が入れ替っているんだ。」

それを聞いていた、真田監督が口を挟む。

「な・・・何を言ってるんだ?3年後の人間と入れ替ってるなんて・・・本気でそんな事を言っているのか?馬鹿も休み休み・・・・」

「いや!」

監督の言葉を、緑間が遮る。

「あのようなプレイができるのは、今現在では、俺達以外には有りえないのだよ!」

「信じられないっスけど、目の前であんなプレイ見せられたら、信じるしか無いっスね!」

「はっ、確かに、こんな相手は今迄に居なかった・・・最高に燃えて来たぜ!」

「どうでもいいけど・・・あいつらムカつく。」

「絶対に、負けたくありません。」

奇跡の世代のメンバーの闘志に、ようやく火が点いた。

 

一方の糸守サイドでは、

「へっ、あいつら面食らってやがるぜ。」

「いい気になるなよ。今迄は彼らは、完全にこちらを嘗めていた。ここからは、本気になって攻めて来る。今迄のようには行かないぞ。」

「望むところなのだよ。」

「このままじゃ、こっちだって拍子抜けっスからね!」

「ムカついたら~、捻り潰すだけだし~」

「松本、お前にひとつだけ忠告しておく。」

「はあ?何だよ、改まって?」

「この試合、どんな事があっても、ゾーンには入るな!」

「はあ?」

「いいな!」

「あ・・・ああ、分かったよ。」

「それから、三葉。」

「はい?」

四葉は、三葉のところに寄り、何かを耳打ちする。

「え?」

「頼んだぞ。これができないと、この試合、多分最後まで持たない。」

「は・・はい、分かりました。」

 

タイムアウト直後、奇跡の世代の本領が発揮され始める。

「ここからは本気でいくぜ!」

青峰の高速ドライブ、さっき同様にディフェンスを抜いてゴール真下へ。

「させないって言ってるでしょ。」

テッシーが、再びシュートコースを塞ぐ。

「へっ!」

体を完全に仰け反って、ゴールが見え無い状態でシュートを放つ。しかし、ボールは真っ直ぐゴールに向かって行き、見事にゴールに収まる。

体育館内に、驚嘆の声が上がる。

「す・・・凄え!」

「何で、あんなシュートが入るんや?」

更に、緑間の超ロングシュート、黄瀬のスーパープレーも炸裂し、一気に点差は詰まって行く。

「まだまだ行くぜ!」

「させるかよ!」

遂に、青峰と松本の1on1となる。

「へっ、俺に勝てるのは、俺だけだ!」

「だから、俺が相手してやってんじゃねえか!」

激しい高速ドリブルの攻防、スキルで上回る松本だが身体能力の差が物を言い、わずかに及ばず抜かれてしまう。青峰は、そのままテッシーも交わしゴールを決める。

「へっ、その程度か?」

「や・・・やってくれるじゃねえか!」

松本の目から、青い稲光が迸る。

「いかん!止めろ、松本!」

四葉の制止を聞かず、松本はゾーンに突入する。

「おかえしだ!」

ゴールポストの真下から、帝光ゴールに向かって突進する松本。

黄瀬も、緑間も交わし、再び青峰との一騎打ち。

「な・・・何だと?」

しかし、青峰ですら、その反応スピードに全く追い付けない。紫原も難無く交わした松本は、そのままダンクを決める。

その圧巻の光景に、体育館内は一時言葉を失う。が、一瞬の静寂の直後に、割れんばかりの大歓声が沸き起こる。

「馬鹿が!」

そんな中で、四葉だけは叱責するような呟きを放つ。

「へへっ、どう・・・・え?」

突然、体中の力が抜けたように、松本はその場に倒れ込む。

「ま・・松本っち?」

「な・・・ど・・どうなってやがんだ?・・・か・・・からだが・・・」

体に全く力が入らず、松本は起き上がる事すらできない。そこへ、四葉が歩み寄る。

「だから、ゾーンには入るなと言ったんだ。ゾーンは心・技・体、全てが究極に高められて初めて発揮できる力だ。借り物の鍛錬の足りない体では、負担が大きすぎる。直ぐに体力の限界を通り越して、当分満足に動く事もできなくなる。」

「さ・・・先に、それを・・・言えよ・・・」

「交代だ、お前はしばらく休んでいろ。」

そうして四葉は、三葉の方を向く。

「お姉ちゃん、出番だ!」

 






遂に幕を開けた、奇跡の世代同士の夢の対決。
しかし、第1Qでいきなり松本(青峰)がガス欠になってしまい、糸守選抜は大ピンチ!
そこに、颯爽と秘密兵器、三葉(黒子)の登場・・・・果たして、三葉はこのピンチを救えるか?


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《 第十二話 》

帝光中学校バスケットボール部、その輝かしい歴史の中でも特に“最強”と呼ばれ、無敗を誇った10年に1人の天才が5人同時にいた世代は“奇跡の世代”と呼ばれている。
今、その“奇跡の世代”に、3年後の彼らが借り物の体を使って闘いを挑む・・・・




 

糸守高校のバスケ部員が、動けない松本をベンチまで運ぶ。代わって、三葉がコートに入り、四葉のところまで歩み寄る。

「すまない、もう少しベンチで観察させてやりたかったんだが・・・」

「いえ・・・」

「それで、どうだ?」

「もう少し、観察が必要です。」

「そうか、申し訳ないが、続きはプレイしながらやってくれ。」

「分かりました。」

“ピーッ!”

プレイが再開されるや否や、

「お返しっスよ!」

早々に、黄瀬がカウンターショットを決める。

それに対する、糸守選抜の反撃。四葉は、いきなり誰も居ないところにパスを出す。

『?!』

そのパスは、突然信じられない方向に軌道を変え、としきの手に渡る。としきは、すかさずロングシュートを決める。

「な・・・何や今の?」

「ボールが、変な風に曲がらんかったか?」

体育館内には、どよめきと歓声が入り混じる。しかし、これを見ても帝光は動じない。

「俺達本人って事は・・・」

「当然、テツも居るよな。」

「ふっ、そうで無くては面白く無い。」

三葉の加入で、帝光の猛烈な追い上げを多少は緩和できたものの、松本を欠いて得点力の落ちた糸守は、どんどん差を詰められていく。第1Q終了時には、得点は22-22のイーブンになっていた。

ベンチで休む糸守のメンバーを、四葉は冷静に分析する。

“やはり、相当に体力を消耗しているな。俺は小学生、緑間は中高年、黄瀬と黒子は高校生とはいえ女子だ。次の第2Qは、かなり厳しい闘いになる。”

一方の帝光ベンチでは、

「へっ、あっちの俺は早々にガス欠で退場か?ざまはねえな。」

「だからと言って気を抜くなよ。体力が無い事は最初から承知の上で、闘いを挑んでいる。何か、企んでいるかもしれん。」

「分かってるよ、久々に本気でやれるんだ。最後まで、楽しませてもらわねえとな。」

 

第2Q開始早々、帝光の攻撃は更に激しさを増す。

「おらよっ!」

「もらったっス!」

青峰と黄瀬の速攻で、どんどん加点して行く。これに対し糸守は、四葉のパスで帝光の隙を突くが・・・・

「甘い!」

「何?」

としきのシュートを、“天帝の眼”で赤司が遮る。赤司は、そのまま糸守ゴールに迫る。

「やらせない!」

テッシーが防ごうとするが、

「頭が高い。」

「なっ・・・」

“天帝の眼”によるアンクルブレイクで、テッシーは尻餅をつかされてしまい、難無く赤司はシュートを決める。

四葉は、赤司よりも優れた“魔王の眼”と同等の“天帝の眼”を持つが、圧倒的に身体能力の劣る小学生の体では、自分で切り込む事は出来ない。そのため、赤司に一歩遅れる事になっていた。

「やられっぱなしは、我慢ならないっス!」

サヤちんが、痺れを切らして奥の手を出す。青峰が、行く手を阻むが・・・

「何だと?」

サヤちんのアンクルブレイクで、青峰は尻餅をつかされてしまう。ゴールに向かうサヤちんに、今度は紫原が迫るが・・・

「なに~?」

青峰のごときドライブで、これを交わす。そして、ダンクに飛ぶ。

「させないっスよ!」

黄瀬が、させまいと立ちはだかる。

「うおおおおおっ!」

しかし、サヤちんは“破壊の鉄鎚”で黄瀬を吹き飛ばしたままダンクを決める。

「ば・・・馬鹿な?」

「き・・・奇跡の世代の技は、俺だってコピーできないのに・・・・」

だが、第2Qで奇跡の世代が驚くのは、ここまでだった。ゴールを決めたサヤちんに、四葉が忠告をする。

「サヤちん、“完全無欠の模倣”はもう使うな。」

「え?何故っスか?」

「ゾーンまではいかないが、“完全無欠の模倣”も体力の消耗が著しく激しい。今の体で連発すれば、たちまち松本の二の舞だ。」

「しかし、このままじゃ離されてく一方っスよ!」

「俺に考えがある。今は我慢するんだ。」

“完全無欠の模倣”を封印されたため、以降のサヤちんは帝光に圧されて行く。それでも、中々点差は開かなかった。それは、糸守チームで唯一身体能力で劣らない、テッシーのディフェンスのおかげだった。

「何度もやらせないよ!」

中学時代の紫原に近い長身、バスケ部では無いが家業の手伝いで鍛えられた腕力、それに現在の紫原のスキルが加わったテッシーは、奇跡の世代の紫原に勝るとも劣らない存在だった。

そこで、帝光は黄瀬に変えて黒子を出し、かく乱も交えて攻撃して来た。単調な攻撃から連携による攻撃に代わり、徐々に差は開き始めた。第2Qが終わる頃には、50-32と大きく差をつけられてしまった。

第2Qの終了時に、赤司はすれ違いざまに四葉に話す。

「この程度とはね、幻滅したよ。ひょっとしてその姿は、負けた時の言い訳のためだったのかい?」

「ふっ、この程度は想定の範囲内さ。お前達のプレイが今のままなら、まだまだ恐れるに足りない。」

「何?」

そう答えて、四葉は飄々としてベンチに戻って行く。

 

「へっ、拍子抜けだぜ。やっぱり、体がおっさんや女子供じゃこんなもんか!」

「もう決まったっスね、この試合。」

「赤司、これ以上試合を続ける意味があるのか?向こうは、もう限界なのだよ。」

「そうでしょうか?」

もう相手に見切りをつけていた青峰達の言葉を、黒子が否定する。

「はあ?何言ってんだよ、テツ?」

「向こうの僕ですが、プレイの間中、ずっと僕達を観察していました。」

「だから何だってんだ?弱点でも、見つけたってのか?」

「それは分かりませんが・・・・」

「仮にそんなもんがあったって、そこを突く体力が向こうには残ってねえよ!」

 

一方、糸守側のベンチでは、

「どうだ、三葉?」

「はい、もう大丈夫です。」

「そうか、では、第3Q開始から行くぞ!」

「いったい、何をやる気なのだよ?」

「何と言ったらいいかな?“擬似魔王の眼”とでも言おうか?」

『はあ?』

としき、サヤちん、テッシーが首を傾げる。

 

第3Q、帝光中は糸守を速攻で下すべく、黒子を下げて再び黄瀬を入れて来た。だが、これこそ四葉の思う壺であった。

黄瀬は速攻でサヤちんととしきを交わす。テッシーのディフェンスも巧みに交わして、フリーになったと思った瞬間、ボールを三葉に奪われる。

「何?」

「やるな!」

直ぐさま、青峰が三葉に迫るが、

「なっ?」

青峰の視界から、三葉が消える。“消えるドライブ”だ。青峰を交わした三葉は、すかさず四葉にパスを出す。それに対し、赤司は既にとしきへのパスを読み動いていた。だが・・・

「何だと?」

としきは、ボールを持たずにシュートのアクションに入っていた。そして、シュートを放つ寸前のところに四葉のパスが入り、そのままシュートを放つ。ボールは吸い込まれるように、ゴールに突き刺さる。

「な・・・何だ?あのシュートは?」

驚く緑間。しかし、赤司はそれ以前のプレイに衝撃を受けていた。

“何故、向こうのテツヤは、涼太の動きを読めた?最初からあそこに来る事が分かっていなければ、涼太の動きに付いて来られる筈が無い!”

今度は、青峰が糸守ゴールに攻め込む。高速ドライブでディフェンスを抜いていくが、

「何だと?」

またしても、三葉にボールを奪われてしまう。

攻撃を悉くカウンターで返され、点差は徐々に詰まって行く。痺れを切らした赤司が、今度は自ら切り込んで行く。その行く手を、四葉が遮る。

「無駄だ!君の身体能力では、僕の動きを読めても止められない!」

「俺ひとりならな!」

「何?」

四葉を交わした先に、既に三葉が回りこんでいた。赤司のボールを奪った三葉は、すかさずサヤちんにパス。そのままゴールと決め付けて、青峰と黄瀬はディフェンスに飛ぶ。

「テッシー!」

だが、サヤちんは囮で、ボールはテッシーへ、

「させないよ!」

「捻り潰すよ!」

紫原を押し退け、テッシーがダンクを決める。

糸守チームの脅威の追い上げに、体育館には割れんばかりの大歓声が湧き起こる。

三葉(黒子)の“擬似天帝の眼”これは、長い間培った仲間との絆があって、初めて可能になる連携プレイである。本来なら誠凛の仲間との間でしか使えない技であるが、昔からの仲間であり、ライバルであり、共に“Jabberwock”とも闘った今の奇跡の世代との間では使えるようになっていた。

更に、今の敵である帝光中学の奇跡の世代も、三葉は長年観察して癖を知り尽くしていた。それでも、3年の時差があるため、試合の前半を使って細かい誤差を修正した。今の三葉は、相手の帝光中学の動きも予測できる。つまり、この試合に限っては、本家“天帝の眼”と同様の能力を持つ事になった。

これに、四葉の“天帝の眼”によるサポートも加える事により、三葉・四葉の姉妹は、現在の帝光の全ての攻撃の先回りができるようになっていた。

但し、これが可能になったのは、現在の帝光がチームプレイを捨て、個人のスキルに頼った力押しの攻撃に終始していたためだ。もし彼らがチームワークを駆使して、お互いを信頼して連携を取っていれば、こううまくはいかなかっただろう。

 

敵陣に中々切り込めない帝光は、強引なシュートが多くなり、ミスが目立ち始める。

緑間が、超ロングシュートを放つが、わずかに軌道がずれてリングに弾かれる。

「ちっ!」

リバウンドをテッシーが奪う。すかさずサヤちんにパス。ドリブルで敵陣に切り込んで行くが、マークが付いたところで敵に向かってパス。これを三葉が捻じ曲げ、ボールは四葉に渡る。四葉から後方のとしきに戻され、そこからロングシュート。ボールは吸い込まれるようにゴールに収まる。

「くそっ、何であのおやじのシュートは外れねえんだ?もうへばってるくせによ!」

それは、四葉の“完璧なパス”による物だった。しかも、ゾーンに入らないように、微妙な微調整も入れてパスを出していた。

 

この糸守のプレイを、ひとり興奮気味に凝視している者がいた。帝光の“幻の6人目”、黒子テツヤだ。

“む・・・向こうの僕達は、お互いを信頼しきってプレイしている。だから、あんな凄い連携ができるんだ・・・・あの人達は、3年後の僕達と言っていた・・・・という事は、今はバラバラな僕達だけど、3年後には、また昔のように・・・・“

 

“ピーッ!”

ここで、第3Qが終わる。20点近く開いていた点差は無くなり、この時点で、得点は58-58のイーブンになっていた。

ところが・・・・

「み・・・三葉っち、だ・・大丈夫っスか?」

第3Q終了と同時に、三葉が倒れてしまった・・・・

 






完全に形勢逆転していたところで、まさかの三葉のリタイア。
第4Qを残し、メンバーをひとり欠いてしまった糸守チームの運命は?

ここ2話ばかり、三葉本人が全く出て来てません。(体は出てますが)まあ、出て来ても御神体の頂上で、おろおろしてるだけなんですけど・・・・
原作ではカタワレ時に頂上で会って元に戻るんですが、この話ではもうカタワレ時過ぎちゃってますので・・・・それに、戻ったらボロ負けするだけですし・・・・


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《 最終話 》

白熱する試合のさなか、遂に彗星の破片が糸守に落下します。
入替った黒子達と糸守住民の運命は?・・・・
いよいよ、最終回です。




 

第3Qが終了しベンチに戻ろうとした時、突然、三葉が倒れる。

「み・・・三葉っち、だ・・大丈夫っスか?」

テッシーが抱えてベンチに運び、ベンチに座らせる。

「第3Qの間中、全神経を集中して、敵味方全員の動きを予測していたんだ。疲れは尋常では無いのだよ。」

「だ・・・大丈夫・・・です・・・す・・少し休めば・・・」

「いや、借り物の体で、これ以上の無理は避けた方がいい。ご苦労だったね。」

「で・・でも、四葉っち、三葉っちが抜けたら、第4Qはどうするんスか?」

 

この光景を、反対側のベンチで奇跡の世代達が見ていた。

「何だ、向こうのテツもガス欠かよ?」

「でも、2人抜けたらもうメンバー足りないっスよ。」

「流石に、今度こそ試合はここまでのようだな?糸守高校の部員が代役で入っても、俺達の相手にはならないのだよ。」

しかし、赤司は、黙って相手ベンチを見つめていた。

“どう見ても、もう限界だ。だが、何故あいつは平静を崩さない?こんな状況で、まだ何か奥の手があるとでもいうのか?”

 

「お・・俺が出る・・・」

ベンチの後ろから、そこまで横になって休んでいた松本が、おぼつかない足取りで寄って来る。

「ばかを言うな!そんな状態で、とても最後までもつとは思えないのだよ!」

「三葉にも言ったが、借り物の体に、これ以上無理をさせる訳にはいかない。」

「で・・・でも、第4Qはどうすんスか?」

「それを気にする必要は無い。そろそろ時間だ。」

『時間?』

その時、突然凄まじい轟音と共に、体育館全体が大きく揺れ出した。

「うわあああっ!」

「な・・・何だっ!」

「きゃあああっ!」

あちこちで悲鳴が上がり、窓ガラスも割れ、電気も消える。皆、立っていられなくなり、床に蹲るようにして揺れが治まるのを待つ。時間にしては数十秒程だったが、体感した者は何分にも感じられただろう。

ようやく揺れが治まったところで、消防団のひとりが体育館内に入って来る。

「町長!大変です!す・・・直ぐに来て下さい!」

としきは、四葉とアイコンタクトを交わし、直ぐに呼び掛けに応じて外に出て行く。この辺の対応は、事前にとしきと四葉の間で打ち合わせは済んでいた。

「な・・・何が起こったんスか?」

「彗星の破片が落下したんだ。」

「ああ・・・そういや、そうだったな?」

松本達は、試合の事で頭がいっぱいになっていて、その事を完全に忘れていた。

 

少し遅れて、四葉達も校庭に出る。既に3年後で見て来たとはいえ、今しがた起こったばかりの大災害を目の当たりにして、彼らは改めてその悲惨さを実感する。但し、住民全員が糸守高校に集まっていたため、誰ひとりとして亡くなった者はいなかった。

茫然と廃墟を見つめる住民達を見ながら、三葉(黒子)は安堵の息を漏らす。

三葉の横に立っている四葉のところに、赤司が寄って来る。その姿に気付き、四葉は声を掛ける。

「申し訳なかったね、こんな騒ぎにまで巻き込んでしまって。とても、今夜中には東京に帰れないだろう。」

「それは、始めから聞いていた事だから問題無いが・・・最初から、第4Qは行えない事を知った上でこの試合を組んだのかい?」

「・・・・そうだ・・・」

「やられたよ・・・だが、あのまま続けていれば、勝っていたのは僕達だ。そう考えて構わないよね?」

「構わない。但し、あくまで試合にはという事だ。それは、お前達自身が良く分かっていると思うが。」

「言っている意味が分からないな、勝負は結果が全てだ。試合の勝ち負け以外に、何があると言うんだ?」

「今は、分からなくてもいいよ。いずれ、誠凛の光と影が、お前達の前に立ちはだかり、その事を教えてくれる。」

そう言って、四葉は三葉に顔を向け、笑みを浮かべる。それを受け、三葉は優しい笑みを返す。赤司は、未だに納得のいかない顔をしているが、四葉は、もうそれ以上は語らなかった。

「町長?どうしたんですか?」

役場の職員達が騒ぎ出す。宮水としきが、突然意識を失い倒れたのだ。

「もう時間のようだ。お前達の協力には感謝する。」

最後に、赤司に向かってそう言って、四葉も意識を失い、倒れる。三葉、松本、サヤちん、テッシーも同様だ。糸守の住民達は、訳が分からず騒ぐばかりだった・・・・

 

 

 

急に、周りの景色が無くなり、真っ白い何も無い空間になる。そして、僕達の体は、元の自分達の体に戻っている。でも、体が軽く、実体感が無い。

「こ・・・これは?こ・・・ここは?」

「もしかして、意識だけの空間か?」

赤司くんが言う。気が付くと、目の前に人影が・・・・それは・・・・

「み・・・三葉さん?」

「く・・・黒子くん?」

僕達6人と向き合って、入れ替っていた三葉さん達6人が現れる。

「き・・・君達は?」

「しばらくの間、あなた達の体をお借りしていました。」

三葉さんのお父さんの問いに、赤司くんが答える。

「く・・・黒子くん、い・・・糸守は?町のみんなは?」

「大丈夫です、三葉さん。彗星の破片の落下時には、皆、糸守高校に居ました。皆さん無事です。」

「ほんと?よ・・・良かった・・・ありがとう・・・・」

三葉さんは、目に涙を溜めている。

「な・・・何とお礼を言ったら良いか・・・・」

三葉さんのお父さんが、僕達に感謝の意を表す。

「いえ、礼には及びません。俺達も、本来なら味わう事のできない、貴重な体験ができました。」

「最高の闘いが、味わえたっスからね!」

「俺は、2度とごめんなのだよ。」

「めんどくさかったけど~楽しかったかも~」

「皆を助けるためとはいえ、かなり常軌を逸した行動を取ってしまいました。皆さんの、糸守での印象も大きく変えてしまったと思います。申し訳ありません。」

「そんな事・・・私達のみならず、住民皆を救ってくれた事に比べたら些細な事だ。あとの事は、私達で何とかする。」

「宜しくお願いします。」

「四葉ちゃん、元気でね!勅使河原っちも、名取っちも!」

「え?お兄ちゃん誰?」

黄瀬くんの言葉に、四葉さんは戸惑う。

「そ・・・その呼び方は?」

「あ・・・あの時の三葉は、あなた?」

勅使河原くんと名取さんは、以前黄瀬くんが入れ替わった三葉さんを連想する。

「チャラ男、元気でな!俺が言うのもおかしいが、もう少し真面目に練習しろよ!」

「え?チャラ男って?・・・誰や?あんた?」

松本君は、訳が分からず戸惑うばかりだ。

「黒子くん・・・青峰くん、緑間くん、黄瀬くん、紫原くん、赤司くん・・・み・・皆、本当にありがとう!・・・ま・・また、会えるよね?」

「はい、3年後になっちゃうと思いますけど・・・・」

「うん・・・うん!」

相変わらず三葉さんは泣いているが、その顔は、喜びに満ちている。

段々、皆の体が透けるようになってくる・・・・そして、意識も遠のいていく・・・・

 

 

 

気が付くと、僕達は、御神体の山の頂上の縁に立っていた。

「あ・・・あれ?」

「も・・・戻ってるっス。」

僕達が元に戻ったのに気付き、桃井さんが聞いて来る。

「み・・・皆?・・・お・・お帰りなさい!う・・うまく行ったの?三葉ちゃんは?」

「大丈夫です、桃井さん。三葉さんも、糸守の皆さんも無事です。」

「本当?良かった~っ!」

「ご苦労だったね、桃井。」

桃井さんは、嬉さで少し涙ぐんでいる。

「え~でも~、町はぐしゃぐしゃなままだけど~」

3年前の糸守に飛ぶ前と、変わらぬ景色を見て紫原くんが言う。

「彗星の破片の落下自体は止められていないからな、町は廃墟のままなのだよ。」

「住民はとっくに避難して、どっか他に住んでんだろうよ。」

緑間くん、青峰くんがそれに答える。

「でも、いい所なのに糸守、勿体無いっスねえ。」

と、黄瀬くん。

「何、心配はいらない。人が残っていれば、町はいくらでも再建できる。いずれ、昔のような糸守が蘇る可能性はあるさ。」

「はい!」

赤司くんの言葉に、僕は頷く。こうして、僕達は糸守を後にした。

 

 

 

 

 

黒子達の糸守救出劇から、少し時間は遡る。

“VORPAL SWORDS”と“Jabberwock”の決戦の最終局面、シルバーのラフプレイで負傷した紫原に代わって、黒子が登場する場面。その黒子に、熱い声援を送る女性が居た。

「黒子くん、がんばれ~っ!」

火神と黒子は、声援を送る女性の方を向く。

「知り合いか?黒子?」

「いえ、知らない人ですが・・・・どこかで、見た事があるような?」

それは、1年前から東京の大学に通っていて、本当の意味での再会はもう少し先になるが、久しぶりに“奇跡の世代”がチームを組んで闘うと聞いて、居ても立っても居られずに駆け付けてしまった“宮水三葉”であった。

「黒子くん、みんな~っ!がんばって~っ!不良外人なんかに、負けるな~っ!」

 






ここまで読んで下さって、ありがとうございました。
今迄のクロスは、全部最後の入れ替わり無しで話が終わってたんで、今回は“君の名は。”原作と同じように、一度糸守が壊滅してからの“やり直し”パターンで書いてみました。
奇跡の世代同士の闘いを書きたかったので、無理やり6人同時に入れ替わるようなムチャクチャな設定にしてしまいました。“何で、サヤちんやテッシーと入れ替われるんだ?”とか、“四葉やとしきの体で、奇跡の世代の技が使える訳が無い!”とか思われるかもしれませんが、その辺は二次創作なんでご容赦願います。


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