すべては夢オチ (添牙いろは)
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すべては夢オチ
「第一回、君と私の夢会議~ パフパフドンドンドンパフパフ~! ……パフ」
こ……ここは一体どこなんだ……?
というか、何なんだこのノリ。
「……ああ、うん。自分でもこんな上手くいくとは思ってなかったからついテンション上がっちゃって……」
ということは、これはお前の差し金か、三葉。
「差し金、って失礼ね。これでも気を利かせてやったんだから」
……ほう? だったら話くらいは聞いてやろう。
「ナニを偉そうに……ま、いいケド。えーと……最初に言っとくけど、コレ、夢だから」
ああ、うん、それは何となく判る。いきなりこんな場所にパジャマで放り出されるなんて、どう考えてもおかしいからな。ここは、三葉が作った世界ってことか?
「まあね。実際は、祈祷に使った祭壇がベースになってて――」
繭五郎……だったか?
「よく知ってるわね」
口噛み酒を供えに行ったからな……辛かったぞ、あの山道。
「そっかぁ、ちょうどあの日に入れ替わってたのね。……助かったわ」
テメェ……
「あっ、そうそう! 私が作れたのは見えてる部分だけだから、山頂からは出ないでね。多分その先は断崖絶壁だろうし」
怖っ……で、何のためにこんなことを。
「あのねぇ……入れ替わることでしか意思の疎通が取れないってのは不便でしょ?」
入れ替わり自体が不便で仕方がねェ。
「身も蓋もないことゆーな。これでも巫女の力使ってアレコレ頑張ったんだから」
その結果が、就寝中の対話か。そういうことなら、もうひと頑張りして、入れ替わり自体を止められなかったのかよ。
「……ぅ、ま、まぁ……そこまでは色々難しくて……」
何とも中途半端だな……
「でも、こうして顔を合わせて話し合うのも悪くないでしょ?」
確かに、こういう場の方が決め事も捗るかもしれん。
「あ、でも夢だけに起きたら忘れちゃうから」
……ホント、意味ねェな……
「うるさい。ここで言いたいこと吐き出したら、目覚めもいいかもしれないでしょ」
でもさ、俺、結構言いたい放題書いちゃってるぞ。三葉は何か溜め込んでることあるのか?
「モチロン! えーと……んー……ほら……瀧君、バイト入れすぎ!」
それは、お前が無駄遣いしすぎるから――って、何度目だ、このやりとり。全然溜め込んでないぞ。
「だったら、そうねー……テッシーとあんまり仲良くしないで!」
それも何度も聞いてるっちゃー聞いてるんだが……いい機会だし、普段話してなかったこと、訊いていいか?
「何? あんま変なコトならスルーするけど」
てかさ、お前、テッシーとも友人なんだろ? 何でそんなとこ気にすんだよ。
「だって……入れ替わりから戻ってくると、サヤちんションボリしてるもの」
あー……どうやらあのコはテッシーのことが気になってるみたいだしな。
でも、重要なのはお前たちの気持ちだろ。
「は? それってどういう――」
ようするに、お前自身がテッシーのことをどう思ってるか、ってことだよ。
「そんなの、ただの友達に決まってるじゃない」
冷てェなぁ。試しに付き合ってみてもいいんじゃないか? 楽しくやっていけそうだし。
「サヤちんがいるのに、試しに……なんてできるワケないでしょ」
うーん、そうか? アイツいいヤツだし、何だかんだでこれまで通り三人で仲良くつるんでいけると思うんだが。
「……ねぇ、さっきから何で執拗に私とテッシーくっつけようとすんの? もしかして、瀧君自身が惚れ込んじゃったとか? ホモなの? いま話題の腐女子なの?」
性別まで転換するな。
別に自分の趣味がどうこうではなく……俺なら、お前の力になれると思ってな。
「何の。意味わかんないんだけど」
つまりだ、俺ならお前に彼氏を作ってやれる、ってことだ。
「……バカじゃないの」
バカってナンだ。実際、俺になった時のお前のモテっぷりは知ってるだろ。もし、テッシー以外に好きなヤツがいるなら、ソイツとくっつけてやってもいーぞ。
「瀧君には無理よ」
何だよ、そんなに高望みしてんのか?
「自惚れるな」
どっちが。
「……ハァ、もういい。夢だし。この際だから言わせてもらうわ」
オゥ、言っとけ言っとけ。
「私が好きなのは瀧君だから、テッシーとは付き合えないの。わかった?」
……?
…………。
………………!?
「ナニその反応。ビックリするわ」
驚いてんのはこっちだ。
「で、返事は?」
な……なんの……
「だから、私、瀧君のこと好き、って告ったんだけど」
ほ……本気で?
「こんなトコでウソ言ってどーすんの。ま、起きたら忘れちゃうから、瀧君も正直に言っちゃえば?」
軽いなぁ……お前。
「……これでも内心、恥ずかしくて死にそうだっての。もし断られたら、起きたとき訳もわからず泣いちゃうんだろうな、ってくらいには」
プレッシャー掛けんな!
「あ、だからといって、変に気を利かせて心にもないことで取り繕うのはやめてね。無駄に浮かれても、後で余計に沈むし」
……そ、その心配はねェよ。
「なら良かった。じゃあ、ちゃんと言葉で聞かせてくれる?」
も、もういいだろ。伝わったし。
「ダメ。私だってちゃんと言ったんだから」
あー……まあ、俺も、その、ずっと、そうだったらいいなー、とか、頭の隅で密かに考えたり考えなかったり――
「回りくどい。男らしく結論から入りなさい」
チクショウ……なら、言ってやる! 俺も三葉のことが好きだッ!
「あ……あぁ……ウン、ありがと。そのー……ホントに言われると、どう返していいか、ちょっと困っちゃうね」
俺の勇気を返せ!
「や、や、や、いやいや、本気で嬉しいんやよ!? やけど、嬉しすぎて……この気持ち、どうしたらええの!?」
と、言われても……
「じゃあ、瀧君はナニしたい? あ、でも変なこと言い出さんでね。私いま、とんでもなく浮かれてるから……多分、シちゃうと思う。アレでも」
ま、待て! いきなりそんなこと――
「相変わらずヘタレやね。夢なんやから無理矢理押し倒しちゃってもええのに」
そ、そんなことしたら、お前の目覚めが悪くなるだろ……
「ならんわよ」
…………
「ほらー……瀧君がまごついてるから時間切れ。そろそろ朝よ」
お、俺の所為なのか……?
「そうよ。こういうのは男から迫るもんなの」
かもしれないけど……
「ということで、今夜はもうおしまい。次はちゃんと襲ってもらうつもりで、もう一度夢で逢えるように頑張ってみるから」
じゃあ、もしまた上手くいったら……
「その時は、女のコに恥かかせないでね。それじゃ」
***
けたたましい電子音が鳴り響き、俺は微睡みから叩き起こされた。
さすがにもう慣れたもので、この和室を見れば、ここが糸守だということはすぐにわかる。
だが……
何だか今日は、目覚めがいい。
というか、むしろ落ち着かない。
妙に胸がざわつくというか……どうしたんだろうな、我ながら。
見慣れたはずの三葉の身体に、何故だか気分が高揚してくる。
もしかすると、変な夢でも見ていたのかもしれない。
三葉で変な夢……それはマズイな。いくら――だからといって。
無意識下なんて制御できるものでもないが……今後はなるべく、夢には出てこないで欲しい。
妙な妄想を繰り広げていると、次こそはマズイことになりそうだから。
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やっぱり夢オチ
あー……まー……いや、前回、強制パジャマ状態だったから、こうなりそうな気はしていたんだが……
「だったら言ってよ!」
言えるか! 起きたら忘れちまうんだし。
「ともかく……うーん……やっぱり脱げないね、コレ」
眠った時点の服装がそのまま反映されて、固定されるみたいだな。
「仕方ないから、明日からは全裸で寝てね」
風邪引くわ!
「そのくらい気合で跳ね飛ばしなさい。私とヤリたくないの?」
ナニ言ってんのお前!?
「だって……少なくとも夢の中では私たち恋人同士なんだし……」
ま……まぁ……そうなんだよな……。この記憶を昼まで持ち越せたらいいのに。
「ホントに。覚えてないのに、気分だけザワついちゃって変な感じよ」
あんなに面倒だった入れ替わりが、何だか楽しみになってきてるもんな。三葉とやり取りするには、それしかないから。
「うん。これが瀧君の文字だー、ってメモを見ただけで浮かれちゃったりしてるもん」
俺も……まあ……ウン。
「あと、オナニーも激しくなったし」
そゆことゆーなって!
「何でよ。瀧君は私でオナニーしてないの?」
それはまぁ……その……三葉のことが気になって……つい……
「でしょ? 私だって、瀧君の身体が見たくて、やたらと全裸になったりしてるし」
……ちょっと待て。少し論点がズレてる気がするぞ。
「そう?」
相手を妄想して自分の身体でナニをしたか、って話じゃなかったか? それだと、俺の身体にイタズラしているように聞こえるんだが……
「ナニ言ってんの。相手の身体にナニをしたかに決まってるじゃない」
オイ! こっちには見るな触れるなと約束させておきながら!!
「え? 守る気あったの?」
信用ねぇなぁ……。だったら、最初からそんな約束させるなっての。
「約束はさせるわよ。女のコなんだから。でも、破ってるでしょ?」
破るような約束させて、何が楽しいんだよ。
「女のコだから、って言ってるじゃない。で、守ってないのよね?」
お……俺がそんな男に見えるのか?
「見える。とゆーか、男がそんな約束守るなんて端から思ってない」
……………………
「これは、瀧君が――なんて言うつもりはないの。男のコが女のコの身体になって、何もしないなんてあり得ないから。常識的に考えて」
手厳しいな……
「もし私に何もしてなかったら、涸れてるかホモかどっちかね」
自分の彼氏にもっと自信持てよ!
「冗談よ。本気で心配してるわけじゃないって。だから重要なのは、ナニをしたかであって……まさか、自撮りなんてしてないでしょうね?」
するかよ!? 流出したらヤバイだろ。
「懸命な判断に感謝するわ。あと……指入れは? 傷とかできたら怖いんだけど」
してねーって! 何なら起きてから自分で確かめてみろ!
「嫌よ。何で自分のそんなとこ覗かなきゃなんないの」
…………
「ま、何かあってもガッカリするのは瀧君だから構わないけど?」
三葉だって嫌じゃないか? 知らないうちになくなってるのは。
「まー……自分の指で済ませちゃいましたー、ってのはちょっと味気ないかもね。でも初めては痛いって聞くし…………あ」
オイ、もしかして……その痛みを俺が変わっといてくれれば……なんて考えてないだろーな?
「えっ!? うん……まあ……」
ちょっと味気ない、はどうした。
「軽く言わないでよね。男子のオナニーは楽だからって」
それは認める。女子と比べれば。
「というか、男ってイクの早すぎない? 自分でしてみてビックリしたわ。野生動物なの?」
むしろ、女のが時間かかりすぎなんだよ。しかも、力入れると痛くなるし。
「女のコはデリケートだからね」
ホント難しいよな。多分、女が一回イク間に、男なら三回はイケる。
「だからって、一緒の時は自分だけ先にイッたらたらダメだからね。私がイクまで我慢すること」
そうは言うけど、そもそもナカイキできるのか?
「知らないわよ。入れたことすらないんだから」
まあ、それもそうか。
「とはいえ、少なくともソコではイケるワケだから……イキそうになったら腰を止めて、クリクリ~って頑張ってくれればいいから」
ォ……ォゥ……
「……さすが、私の身体を隈なく観察しているだけはあるわね。女のコの秘密の場所なんだから、もう少し無知を装ってくれても良かったんだけど」
ス……スマン……
「まあ、気持ちはわかるけど。私も瀧君シコシコしながら、こんなの入れるの? ってドン引きしたもの」
イクのかヒクのかどっちかにしてくれ。
「ヒキながらイケるのよ。男は年中発情中でいつでも準備オッケー、みたいなもんなんだから」
ヒデェな。そこまでサカってないだろ。
「ううんっ、サカッてる! というか、何で毎朝立ってんの。瀧君寝る前に抜いてる? ……私で」
最後の付け足しはナンだ。
「あーっ! 他の女で抜いてたの!? 浮気よ浮気!」
無茶言うなっ! っつーか、最近はお前以外で抜いてねーっての!
「正直で宜しい」
まったく、ナニ言わせんだよ……
「勿論、私も瀧君に抱かれる妄想しかしてないからね、毎晩」
よく飽きないよな、お互い。
「同棲するようになったらどうなっちゃうのかしらねぇ……」
とはいえ、快眠には困らないだろうな。イッた後はよく眠れるし。
「だからこそ、一緒にイケた方が、一緒に眠れていいでしょ?」
な、なぁ……そこまで言うのなら、いっその事、実際に逢ってみたくならないか……?
「瀧君とは逢いたい。でも、エッチは夢の中でしたい」
そ、そうなのか……
「だって、夢の中なら諸々の心配もいらないでしょ? 安心して楽しめるもの」
確かに……そう言われると……
「だから、ちゃーんと寝る前には裸になっといてね! 私、楽しみにしてるから♪」
***
……この目覚めだけで何となく判ってしまう。今日は、三葉と入れ替わっているんだろうな、と。
どうやら俺は……彼女のことが好きになってしまったようだ。三葉の身体の中に入っている、と自覚しただけで、胸の動悸が収まらない。よくも、こんな精神状態で眠れたものである。
ただ……モヤモヤした想いをしていたのは俺だけではなかったようだ。これまでの取り決めが一つ緩和されたのは、その証左に違いない。
“お風呂とか入ってもいい。止めても無駄だろうから”
三葉のノートに、三葉の文字で書かれているのだから、そのとおりに受け取って良いのだろう。
止めても無駄――というのは少し癪だが、これで言い訳が立つこともある。
仮に裸で眠っていたとしても、それは風呂上がりだったから、と。
実際のところは、
彼女の裸を眺めながら、
彼女の身体を
その果てに、睡魔に負けてしまったとしても。
勝手に妙なことをしてしまって、三葉に悪い……とは思わない。
きっと、あっちも同じようなことをしているだろうから。
しているからこそ、このようなことを言い出したのだろうから。
ならば、今夜は楽しませてもらおう。
そしてそのまま眠りに落ちたなら――
夢の中でも三葉と逢えるかもしれない。
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夢オチじゃない四葉
わかりにくくてすいません。
「おはよー、瀧君っ!」
おはよう……って、アレ、四葉? いや、だが、俺の身体は……待て、これは……どういう……!?
「うわぁ……まさかとは思ったけど……ホントにお姉ちゃんの彼氏なん?」
いっ、いやいや、そんなはずないでしょ? まったく四葉ったら寝ぼけてるのかしら? おほほほほ……
「お姉ちゃんはそんな笑い方せんて……」
だな……。どうして判った? というか、何で名前まで知ってるんだよ。
「何でって……お姉ちゃんが
夢? それってどういうことだ?
「ふぅん、この期に及んで白を切るんだ。そんなら、お姉ちゃんにバラしていい? こないだトイレで……」
わっ、わっ、わかった! 知ってることは全部正直に話すから!
「……ホントにお姉ちゃんやなくて瀧君って人なんね。自分のこと自分にバラすとか、ありえんもん」
***
……ということで、原因はわからないが、俺と三葉は時々身体が入れ替わってるらしいんだ。
「ふぅん……ホントにそれだけ?」
他に何を隠してるって言うんだよ。
「やから、夢のこと」
本当にそれは何も知らないんだよ。むしろ、こっちが教えて欲しいくらいで。
「あ、そ。なら教えたげるけど、瀧君とお姉ちゃん、夢の中でセックスしてた」
……な……っ
「やから、セックスしとったで」
にっ、二度言わなくていい! その……女のコが!
「ヒューヒュ~♪ セックスセックス~♪」
……さすがにそこまで言われたら……な?
「つまらんの。んで、とにかくセックスしとったん」
な……何を根拠に……
「夢に根拠もナニも。でもさ、こちとら何度も同じ夢見るんやもん。勘弁してほしいわ」
それってつまり、四葉の夢の中で、俺と三葉がその……してる、ってことじゃないのか?
「ちょっと待って」
あ、いや……すまんかった。
「もしセックスのこと気にしてるんなら違うから」
ソレ言われるのもさすがに慣れてきたけど……じゃあ何だよ。
「瀧君は瀧君であって、私のお姉ちゃんやないんよね。知らん男の人からいきなり呼び捨てってのも……」
そう言われればそうなんだが、入れ替わっていた都合上、最初から四葉のことは呼び捨てなんだよ。
「瀧君の都合はわかる。でも、都合ってのは時間と共に変わっていくもんだから。瀧君とお姉ちゃんの関係みたく」
妙な言い方すんなよ……。じゃあ、四葉ちゃん、って呼べばいいか?
「……ま、それでええわ。ともかく、私が、瀧君とお姉ちゃんがセックスしてる夢を見てる、って言いたいんやろうけど、多分、それ、違う」
随分強気で言い切るな。何でだ?
「やって、私が瀧君の名前知っとるわけないやろ」
……三葉が三葉の時に、ポロっとやらかした、とか?
「聞いとらんで。とにかく、私は夢の中でしか瀧君の名前は知らん」
……で、だから、何なんだよ……
「何なんだよ、やないでしょ!」
と言われても……俺たちだって好きで入れ替わってるわけじゃないし、他の人にこのこと話して、信じてもらえると思うか?
「まあ、それは、そうなんやけど……」
むしろ四葉ちゃんの方が、理解者として俺たちに協力して欲しいくらいなんだが。
「ふっふ~♪ そりゃそうよねぇ……」
何だよ、変に乗り気じゃねーか。
「だったらさぁ~……ちょ~っと私のお願い聞いてくれんかなぁ~?」
断る。何かもう、嫌な予感しかしないから。
「あっ! そゆことゆってええと思ってん? 何ならトイレでやらかしたこと……」
わっ、わっ! わかっ……たから……本当にそれだけは勘弁してくれ……
「やけど、何でトイレで突っ立ったままお漏らししとったかわかったわ。瀧君、男の時のクセで、立ちションしよとしたでしょ」
……あの時はたまたまズボンだったし、急いでたし。取り出そうとしてなかった時は心底焦ったぞ。
「やれやれ。お姉ちゃんに恥かかさんためにも、その身体にも慣れといた方がええよ」
もちろん気をつけるが……で、俺に何をさせようってんだよ。あんまり変なことさせると、三葉にバレるぞ。
「うん、それは私も恥ずかしいから……」
おい……まさか……
「ん。私、瀧君をね……」
ま……待て……それは、さすがに……!
「――お兄ちゃんって呼びたいの!」
……はぁ?
「何よっ! トイレでお漏らししてたのお姉ちゃんにバラしてええん!?」
いやいやいやいや! そーじゃなくて、ちょっと拍子抜けだったから驚いただけだ!
「拍子抜けって……あぁ……期待させちゃってすまんかったなぁ。まさか、お兄ちゃん女子小学生とセックスしたいと思うとは。守備範囲広すぎない?」
ちっ、違うっての!
「何が違うって? じゃあ何と勘違いしてたん? ゆってごらん? んん~?」
例えば、その……キス、とか?
「ぷっ、ぷははははっ! 何ゆってんのお兄ちゃん! そんなんするわけ――」
悪かったな。アホなこと言って。
「……ふむ、そういえば……」
何だよ唐突に。
「コレ、マジで訊くんやけど……夢のこと、ホンっトーに、覚えとらんのよね?」
あ、あぁ……マジだぜ……。だからこそ、四葉ちゃんに教えてもらいたいくらいで……
「❤」
何だよ。
「ま、ええわ。やったらお願いは夢の中でしーとこーっと♪」
ちょっ……お願いって……それならもう……!
「起きてひとつに寝てひとつ、ってことで」
ことわざっぽくゆってるけど、そんな格言ないからな。
「そもそも、夢やったら何でもやり放題っしょ? 但し……こっちは夢のこと覚えとるからね。あんま酷いことしたり、そもそも言うこと聞いてくれんかったら……」
ぅ……わかったよ……でも、本当にあんまり変なことさせるなよ?
「変なことでなければ今頼んどるわ!」
何させる気だよ!
「ま、それは寝てのお楽しみ、ってことで。少なくとも、ここではできないことをお願いするつもりよん♪」
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夢オチだから四葉は見たい
「ねぇ……瀧君、今日はちょっと、大人しくない?」
そんなことないと思うけど……どうして?
「だって、ここは私たち二人だけの世界なんだよ? せっかくお互い裸なんだし、もっとワーっとはっちゃけても!」
充分すぎるほどはっちゃけてるだろ……
「ほらー、やっぱり元気ない! もしかして、起きてるときに気になることでもあった?」
特にないぞ。至って平凡だ。
「起きたら忘れるとはいえ、ここで吐き出しておいても……アレ? 何の音? コレって、え、え――」
あぁ……三葉、スマン。いつもは俺の方が先に起きてるから知らなかったけど……目が覚めた方は、こうやって消えていくんだな。
さて……どこに隠れてるんだ、四葉のヤツ。
「ウンウン、ちゃんと私の指示通りにやってくれたみたいねー」
うをっ、いつからそんな近くに!? てか、そんな小岩覗けばバレバレなのに、何で気づかなかったんだ、俺たち……
「私の方が寝るの早いから、いつもお姉ちゃんたちを待ち構えてたんよ。それに、そこ芝生がふかふかで横になりやすいからって毎回同じところでシすぎ」
と、いうことは……
「お姉ちゃんが喘いでるところも、瀧君が腰振ってるところもずっと全部丸見えやった、ってことー」
うっ、うわぁぁぁぁぁ!! 次から場所変えるしかねぇぇぇぇぇぇ!!!
「どうやってお姉ちゃんに提案すんのよ。いまさら手遅れやから、これからも私の前でパコパコしてなさい」
さすがに……知ってしまったら無理だろ……
「ホントもー手遅れだってのにー……。それよりもさ、いま夢の外は朝六時なんでしょ?」
あ、あぁ……休みも構わずその時間に目覚ましをセットし続けたからな……いつ入れ替わりが起きてもいいように。お陰で毎日寝不足気味だ。
「やったら瀧君も早く寝て、私に先と……あ、やっぱええわ。その最中にお姉ちゃんと出くわしても嫌やし」
三葉に見られて嫌なことするつもりなのかよ!
「そりゃそうよ。てかぶっちゃけ、瀧君やって起きた後まで記憶残してるよーならこんなことせんし」
う……ぅ……で、俺をどうしようっていうんだ……?
「えーとね、まー、単刀直入にゆって、チンチン見たい」
それならもう見てるだろ。
「やなくてね、ほら、今は下向きでしょ?」
そーだな。
「で、お姉ちゃんと抱き合ってる間は、上向きやったやん」
そゆことゆーなよ!
「って思い出しただけで上向いてくるの? がんばれ❤ がんばれ❤」
と言われても……さすがにマジマジと観察されたら緊張するし。
「あ、また下がっちゃった。そうやって変身するとこが見たかったのに」
変身って……つまり、勃起させて欲しい、と?
「人体の神秘、って感じやん♪ で、どうすれば立つん?」
刺激があれば反応はすると思うが……
「つまり、蹴飛ばせって?」
そんな乱暴なことすんなよ! もっとこ……優しく、だな?
「うーわ、小学生相手にナニ考えてんの。ドン引きー……」
自分でヤるわ! 誰も四葉ちゃんにシてくれなんて言ってねーだろ。
「どちらにせよ、触るのはナシね。チンチンの力だけで変わってく様子が見たいんやから」
さすがに人前だし、この状況じゃ無理だな……
「ねぇ、エロいことせんと立たんの?」
何のために立たせるのか、知っているのならそこから察してくれ。
「うーわ、下衆っ! 男子ってやっぱ下衆いわー」
生理現象だから仕方ないだろ。というか、むしろ他にどうやったら立つと思ったんだ?
「えっ!? いや、ほら、そのー……女のコのことを好きー、って感動したら?」
女のコのこと好きだと思ったら、やっぱそっちに頭が傾くしなぁ。
「……やっぱ、男子って下衆い」
ホント勘弁してくれ……
「まあええわ。自分の義兄になるかもしれない人が特別下衆いなんて思いたくもないし」
逆に、エロくなくて立ちそうなことって何だよ。
「例えば……うーん……ハグとかキスとか?」
その辺はエロくないのか?
「やって、映画のラストを締めるシーンやよ? それを変な目で見るとか……うわー……瀧君サイアクー」
あーあー、わかったわかった。エロくないエロくない。じゃあ、四葉ちゃんのこと抱きしめればいいのか?
「軽くゆってくれるね。っつーか、くっついたらチンチン見えない」
ってことは……キスの方か。
「まあ、そうなるね」
いいのか? 俺となんかで。
「瀧君やって、なんやかんやでチューしたそうやったやん?」
そんなことあるワケないだろ。むしろ、こないだの話から引っ張るってことは、四葉ちゃんの方が……
「バ……バカなこと言わんで! お漏らしのこと、お姉ちゃんにバラすよ!?」
わっ、悪かったから、それは勘弁してくれ!
「……ああ、いや、ゴメン。私も熱くなりすぎたわ」
こっちこそ……ウン。
「だいいち、夢でゆったこと、瀧君は起きたら忘れるんやもんね」
まあ、そーだな。
「そんなら、ゆっちゃうか」
何を。
「私、瀧君とキスしてみたい」
……はっきり来たな。
「それも、舌と舌でグニグニするヤツ」
お……俺と、か……?
「……ウン。あ、でも、好きとかそんなんやないよ!? お姉ちゃんと瀧君取り合うつもりもないし」
なら、何で……
「それは……わからん!」
と、胸を張って言われても……
「ただ……あーもー、どーせやから全部言っちゃうか!」
ゆっとけゆっとけ、俺の方は起きたら忘れるし。
「木陰でチラチラ覗きながら……カッコイイ彼氏やな、って思ってたんよ、ずっと」
そ、そういうことを面と向かって言われると、流石に照れるな。
「私かて恥ずかしいわ」
…………。
「でも、ゆっちゃう。せやから、オトナのチューとかしても、別段気持ち悪くはないよ。むしろ、瀧君やから大丈夫、というか」
それでも、好きってことはないんだよな……?
「正直、そういう感覚がよくわからんのよ。ただ、こうやって裸のトコをペタペタ触ってみたい気はするかな。これって、性欲ってヤツ? あ、でもさすがにチンチンは無理」
むしろそこは触らずにいてやってくれ……
「と、いうことで……チューしながらチンチン観察させてもらうから、瀧君は膝立ちになってくれる?」
こ、こうか……?
「そんで、目は閉じといてね。私は開けとるけど」
お、おぅ……
「じゃ、いくで」
…………
「ん、ん……ん、んふぅ……」
ンっ、ン、ン……
「むふ……ふ……ん、ん……ん♪」
っぷは。もう充分だろ!?
「あ、立つのは見なくても判るんだ」
自分の身体のことだからな……で、これで満足か?
「……うん❤」
お、おい……まだ何かありそうな顔しやがって……
「あるっちゃーあるけど……えいっ♪」
おいっ、膝が……イテ……ってコラ!
「ゴメン。関節キメるつもりはなかったんやけど」
で……俺を押し倒してどーするつもりだ?
「別に。ただ、こーしてくっついてみたい、ってだけ」
……そーか。ただ、それ以上のことは考えんなよ。
「それ以上のことってナニ? もー、瀧君てばえっちー❤」
何なら、試してみるか?
「うわ、瀧君てば小学生相手にヤバイヤバイ。でも、今の私なら本当に……って、アレ?」
フ、夢の中は寝ている間の姿に固定されるんだ。脱ごうにも脱げまい。
「ってことは、お姉ちゃん……昨日の夜から素っ裸で寝てた、ってこと……?」
まぁ、そうなるな。
「うーん……さすがに私には裸で寝る勇気はないかも……風邪引きそうやし」
ということで、このくらいで満足しておけってことだ。
「ま、ええで。その代わり……さっきのキス、もう一度シてくれる?」
それはいいけど……うーん……そう何度も求められると、子供相手とはいえ、あまり健全ではない気がしてくるな……
***
ん、あぁ……この天井は……糸守か。どうやらまた入れ替わってしまったらしい。そういや四葉のヤツ、今度夢の中でナニかやらかす、って言ってたけど……俺は一体ナニをされたんだ? まあ、夢の中ならどーとでもなるんだろうけど。
「お、おはよう……瀧君」
ふすまを開けるなり、いきなり断定か。もし違ってたらどうするつもりだよ。
「それは……大丈夫。さっきまで、夢で瀧君と逢ってたから」
で……そこで俺とナニをシてたんだ?
「いっ、言えるわけないやろ!? やからこそ、夢の中でお願いしたんやから!」
そ、そうか……なら、俺も訊かないようにしておこう……ってどうした? そんなにベタベタと。三葉の身体で何か気になることがあるのか?
「うんにゃ。中身は瀧君やってわかっとるけど……身体はお姉ちゃんなんやね」
まー……そうだな。
「……つまらんっ!」
まあ、面白いもんでもないだろ。
「やっぱ、瀧君の身体に入った瀧君でないとつまらんわ! ということで……もう少し早起きは続けてくれる?」
マジでか……。てか、不用意に早く起こすと、三葉からもクレーム来そうなんだが。
「お願い! もう一回だけ試したいことがあるんよ!」
ったく……それを済ませたら、また起床時刻は元に戻すからな。
「んふ、ありがと♪ あ、それと……」
なんだ?
「コレ、本気でお願いするんだけど……私が寝てるときは、無理矢理起こしたりしないでね。勝手に布団を剥がすとかマジ厳禁」
? まあ、いいけど。起こす機会なんてそうそうあるとも思えないし。
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