RPGにハマった神様が無茶苦茶すぎる件について (やきそば@nikonikoしてます)
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第1章 出題編【嘘つきは誰?】 プロローグ 1 『神プレイ』

キンッ! キンッ!

 赤く染まった空の色。しかしそれは夕焼けのような優しいオレンジでもなければ、夜の街の光による光害でもない。
 その理由に現在時刻はa.m11時を指している。

「んー三分ぐらいだから一分で平均二十頭ってところかな」

 少年は心無さそうに呟く。さして感動も達成感も感じる事なく、その行為は自分の力を推し量ったに過ぎないと言わんばかりだ。
 そんな涼しげな顔を振り撒くものだから、後ろで待機していた者たちは驚きを隠せない。ーーなにせ自分たちが再三悩まされてきたワーウルフの群れをこんなにもあっさりと、顔色一つ変えずに倒してしまったのだから。

 彼らは目の前に現れた救世主に頭を垂れ、感謝と畏怖の念を込めて
救世主に問う。

「此度は村の危機をお救い頂き誠にありがとうございました。……しかし我々にはその恩義に報いる力も物もございませぬ。どうか、どうかご慈悲を!」

 族長らしき老人の声は震えていた。
 突如彗星のように現れ、村を救ってくれた少年。感謝しても仕切れない恩人となった少年はしかし、見返りを求められれば、途端にワーウルフ以上にタチの惡い悪魔に変貌する。
 そうなってしまえば最後ーー目の前で見せつけられた圧倒的なまでの強さの前に、村の者達に抗う術などあるはずもない。

 固唾を呑み、祈るように手を合わせる大勢の視線を受けながら、今ーー少年が振り返る。

 大衆の目に晒されていることなど気にも留めていないかのように悠然とした立ち振る舞いを見せる少年は清々しい笑顔でこう言った。


『ぎ○がのつるぎ強すぎわろたww』


 そう呟いて去っていく少年に、村の者たちは口を開けたまま呆然とその場に立ち尽くした。

 村を後にした少年は“画面の前”で、頭の後ろに両の腕を組みこむ。欠伸を1つかき、大きく伸びを入れた。伸ばした右手をスナック菓子の袋の中に遊ばせ、残り一枚のチップスを口に頬張る。

「“彼”にはお礼をしなくちゃな……」

 “少女”はそう言った。そこは狭い空間。果たしてここは部屋と言っていいのだろうか。暗闇の中、まるで視えているかのように、彼女はスナック菓子の空袋を正確にゴミ箱に投げ入れる。

「僕は有言実行。絶対に“願い”を叶えてあげなきゃ」

ふふっと口に手を当てて嗤う少女はコントローラーを再度握りしめる。

 今までその少女を見た人間はこの世にはいない。ーーにも関わらず誰もがは彼女を知っている。

「だって僕はそう」

 再び画面に向き合った少女は不敵に笑んだ。

「“神様”なのだから」


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プロローグ 2 『神様との契約』



 インパクトの為だろうか。ページ背景は白一色で他には何も無く、淡白な印象を受ける。しかしそれに反し、中央にはギャップのあるどデカい丸文字で【神様との契約】と書かれていた。

 意味の分からないサイトだなと思いつつも、可愛くデコられた下矢印にそってホイールすると、これまたキラキラとカラーリングされた文字で書かれた謎のURLがあった。

 ……ここで常人ならブラウザバックするだろう。しかし、やる事の無い“彼”は好奇心からそのURLをクリックーー商品名【願い】と、書かれたAmazoonのサイトに跳んだのだった。

「なんだよこれ……」

 彼、川奈《かわな》 悟《さとる》17歳ーー(コミュ障ゲーオタ引き籠もり)は自分自身が嫌いだった。

『この世界に完璧な人間などいない』

 誰しも得手不得手があって、それらを周囲の人間と上手く調和しあって毎日を生きているのだ。それはごくごく普通のことで別段努力する問題でも無い。

 しかし悟にはそれが出来なかったーー否、“出来なくなった”
 中学2年の頃、彼は家の事情による突然の転校を強いられのだ。
 ちょうど肌寒さを感じ始める11月の頭、くぐったことの無い見慣れぬ教室に立った彼は、既に形成されていた友達の輪に上手く馴染めずに孤立。

 強固に連結された歯車の歯は彼にとってあまりに飛び込みづらく、あまりに早過ぎたのだった。

 よくある話ではあるが、その時のことがトラウマとなって今もなお悟の心にすくい続けているという始末。

(俺はそんな自分を変えたいんだ!)

 そう何度も思い立った悟だったが、前述したトラウマにより絶賛ぼっち&引き籠もり中である。
 ……たとえどんなに自分を変えたいと思っていても、いざ人前に出るとビビって喋れなくなってしまうのだ。


『神様降臨wwwwでふぅwwww』
『やばい、マジ神様!』
『試しにゴ○ィバのチョコ送ったら彼女出来たんだがww』
『↑嘘乙』
『親父の靴下着払いで郵送したら返送されて来たなう笑』
『嘘じゃなくてマジだよこのサイト』


 試しにこの【神様との契約】というサイトについて調べてみたところ、
どうやら自称“神”なる人物に向けてAmazoonで“供物”を配送すると、それに見合った願いをなんでも叶えてくれるらしい。

「……嘘くさ」

“この三年間幾度となく吐き続けてきた”嘆息。
 ……それにしても何という馬鹿馬鹿しい話だろうか。

 「どうせこんなの送ったら最後、騙し取られるのがオチの詐欺
サイトなんだろ……」

 ポインタの先をウィンドウの【閉じる】へ動かしていく。

 ーーでももし、もし本当に願いが叶うとしたら?

 そんな藁にもすがるような程に追い詰められていた心が、いつの間にかマウスを動かす悟の手を止めてしまっていた。

 ……モニターから顔を話して部屋を見渡す。棚には目一杯にゲームが並べられて、あるいは積まれていた。
 その中でも別格と言わんばかりに小さいショーウィンドウを携えた箱ーーその中に保管されている名作ソフトの数々と暫し見つめ合う悟。

(変わりたいなら捨てろ変わりたいなら捨てろ変わりたいなら捨てろ変わりたいなら捨てろ変わりたいなら捨てろ変わりたいなら捨てろ変わりたいなら捨てろ変わりたいなら捨てろ変わりたいなら……)


【俺を生まれ変わらせてくれ】

 気付くとそう書いた手紙を、注文後送られてきた段ボールにゲームと一緒に詰めて返送していた。それは勿論、この胡散臭いサイトを信用した訳ではない。

 いわばそれは“ケジメ”であった。

 悟は自分を変える為に家から出ない一因であるゲームを捨てたのだ。詰まるところ、それはどちらに転んでも悟にとって良い選択のはずなのだ。
 ……出来れば叶って欲しい。が、叶わなくても構わない

(そうだ。これで良いんだ)

(これで……)

(……)

「ぐおおおおお!! 俺の一番大切な物をやったんだぞ! 等価交換だからな等価交換!!」

 と、ネット弁慶な悟は吠えていた。


 ……しかしこの時、川奈 悟は想像もしていなかったーーそう。この選択が文字通り世界を揺るがす程の事態になるということを。


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第1話 『こちら、ス◯ーク!』



 ガタッガタッガタッ

 目が覚めると唯ひたすらに青い空が広がっていた。
 度重なる夜更かしと不純な生活リズムが手伝って悟は寝覚めが悪い方なのだが、やけに揺れる木製のベッドの寝心地の悪さにしぶしぶ起き上がった。

「……は?」

 寝覚めが悪いとか言っている場合ではない。
 目の前に広がる光景の途轍もないインパクトに無理矢理覚醒させられる。

 ーー先程までベッドだと思っていたそこは、実は何かの荷台の上で、ゆっくりとだが流れる風景から動いていることが分かる。

 ……というかそもそも空が見える時点でおかしい。屋根がなくなって
しまっているではないか。

 周囲の変化にひとしきり反応を示した後は当然次の思考に入る。

『ーーならどうして今自分は外にいて、何者かに運び出されているのか』

 引きニートは出て行け! と家族に家から追い出されたのだろうか? 若しくは誰かやばい人に売られた?
 卑屈のドツボに陥っていた悟は一瞬その考えに囚われるが、すぐにそれはあり得ないと首を振る。
 なぜなら両親とも決して悟に甘くはなかったが、常識人であり少なくともネグレクトするような人達ではなかったからだ。

 それを加味した上で、前述の考えが全て違うのだとしたら

「え、俺もしかして誘拐されてる!?」

 その考えに至った瞬間、ドクンッ! と大きく跳ねる心の臓に先程まで揺るやかだった呼吸はショパンのエチュードのような激しさを兼ね備え始めた。

「やばいやばいやばい逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ」

 悟は慌てて起き上がった。しかし震える足と揺れる荷台によりすぐに態勢を崩して前のめりに倒れ込む。

「痛ッ!!」

 ドカッと顎から床に倒れ込んだせいで、口内の肉を噛み切ってしまった。恐怖によって痛みは無かったが、口内を切って出た血が床に滴るのを視認して……
「キキッキキキッ!」
「へ?」

 鉄が擦りあったような、鼓膜から直接喉にまで響く高い音。何事かと思い、確認しようとする。
 音のする方向ーー揺れる荷台の動きに併せて木目を沿って流れる血ーーそれを伏せた体勢のまま目で追っていくと、
 流れる血の行き着く先にはーーキキッキキキ! と音を立てながら“悟の血を吸っている”赤い双眸をした白い兎が居たのだった。

「い!? いぎゃあああああああああああああ!!!!」

川奈 悟は気絶した。

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※※

 ーー目を覚ますとそこは見慣れない天井だった。茶色く焦げたコンクリートには亀裂が入っており、寝かされていたと思われるのはベッドの上ではなく、所々が破れて中身の見えたソファだった。

(あれ? 俺何して?)

 起き抜けに、寝ぼけ眼を指で擦るt
「痛っ!!」

 途端、頬に痺れるような痛みが走った。触れてしまった親指を見るが、血がついている様子はない。直接触れた頬に外傷は無いようだが、舌を口の中に這わせると鉄を含んだような確かな血の味を感じた。

「これは……あの時の」

 脳裏に浮かぶ白い兎。
 見た目こそ普通の兎だったものの、伸ばしていた舌の形状は通常とは異なり、円筒状ーーストローのように液体を吸うことに特化しているように見えた。
 事実、悟の血をチューチューと捕食しているのをこの目で見たのだから間違いない。

 自分の血を異形な生物にチューチューと吸われるという、思い出せばかなり精神的にくる絵面だったが、もう一つの懸念を思い出した悟は即座に思考を切り替える。

(ここが一体どこかは分からないけど、手足は自由だし、気付かれない
内に早くここから逃げよう)

 それは自分が何者かによって拉致されているという事実だった。
 荷台の上では興奮しすぎて気付けなかったが、今の自分の服装は紛れもなく昨日寝るときに着ていたパジャマだ。これは悟が寝ている間に何者かに無理矢理連れて来られたということに他ならない。

 寝相でここまで来ちゃいました てへペロ! という可能性も無くはないが、今まで外に出ることを拒み続けてきた悟がもしその様な事をしでかす程の天然なら世話ない。

 出来るだけ物音を立てずにゆっくりと立ち上がり部屋を見渡す。
 天井やソファーの時点でうすうす感じていたが、部屋は全体的に質素なもので、電化製品は冷蔵庫らしきもの以外は一切置かれていない。
 家具らしい家具としては唯一大きめのテーブルが一脚だけであった。

 見るからに狭い家のようなので、家主ーーもとい拉致犯は外出中とみてほぼ間違いないだろう。
 しかし拉致された側というのは余裕の無いもので、心身的に極限状態に陥っていた悟は無人の屋内を息を殺して“匍匐前進”(ほふくぜんしん)。

 明らかにゲーム メタ○ギアの影響を受けている。

(こんな貧乏臭い暮らしをしているって事は、拉致犯の狙いはおそらく俺を人身売買、もしくは臓器提供をすることによる金目当て……)

 思わずゴクりと喉を鳴らす悟。そんな自分の悲惨な未来を想像してしまったのだから無理もない。

「……ふぅーー」

 息を吐いて立ち上がる悟。
 さっきからずっと本気で匍匐前進していたのだが、以外と難しいという事と悟の運動不足が手伝って進んだ距離は僅か30㎝。

「色んな意味で誰も見てなくて良かった」

 馬鹿馬鹿しい事を考えたのも数瞬、悟は目の前にあるものに気付く。

「うう、上に行く階段!?」

 部屋の灯りは豆電球が一つと淋しいものだったので、ブルーライトに犯され続けた悟の眼ではよく見えなかったが、紛れもなくそれは6段程の階段で、他に外へ出られそうな扉は一切無い。

 ーーしまった!これは非常にまずいことになった。

「ここはどこかの“地下”だったんだ……」

 ここにきてかなり痛いミス。
 昼夜の区別がつかず、地下に免疫が無かったのは仕方が無いが、それにしても部屋に窓が一切付いていない事に気づけなかった点は、反省すべきところだろう。

 おそらく上では拉致犯が待ち構えている。希望が絶望に変わった瞬間だった。
 ーーどう考えても犯人と【ご挨拶】を交わさなければならない。

 何か武器になる様な物はないかと辺りを見回すが、有ったのは足下に転がる一本の細い棒切れのみ。

 ……と、

 ガチャリッ!
「!!??」

『階段の扉の鍵が開く音』がした。
 急転直下でバッドエンドーー思わず転がる棒きれを拾い上げ階段下の死角となるスペースに身を潜める。

 ドクッドクッドクッドクッ!

 信じられないスピードで脈を打つ心臓。それに負けずとも劣らず、悟の脳はフル回転していた。

(こんな棒切れでヤれるのか!? いや、この端っこの尖った部分を使えば、俺のこの太○の達人によって鍛えられた豪腕なら……)

 豪腕ーーというには些か頼りない気のする悟の腕だったが、もし上手くいかなかった場合は秒間16連打のドドドッカカカッを食らわせてやると意味不明な意気込みをする悟は息を殺す。

(あ、バチが一本しかないから無理だ……)

 しかしそんな悟の事情を考慮してくれる程、世界は甘くない。

 ……キィーと開くドアの音。

(くそ、もう入って来やがった。けど……あれ?)

 トン、トンと“一段一段ゆっくりと階段を降りる音”が聞こえることに悟は少しだけ安堵する。
 何故なら“おそらく相手は一人で、しかも荷物を運んでいる等、何らかの理由で歩みが遅い”と予想できるからだ。

 悟は深呼吸して目を閉じる。

(……絵面的には、ヤれる!)

トン、トン、トン

 ーー階段の段数は6段なので6回目の音と合わせて飛び出す悟。

「これが俺の【ご挨拶】じゃい!!」

 やるならば思いっきりやれ。そう父から教わっていた悟は思い切り腕を振りかぶって飛び込んだ。

 ーー“麻袋を抱えた猫耳の女の子に”

「「え!?」」

 まるで映し鏡のように同様の反応を見せる猫耳娘と悟。身長や見た目的には同年代か年下か、いずれにせよ絵面的には完全に悟が拉致犯だった。

 あまりに予想外だった犯人の容姿に撲殺を躊躇した悟はなんとか踏みとどまる事に成功し、思い切りフルスイングした棒切れはすんでのところで彼女の前髪を掠めるに留まった。
 ヒットすること無く振り上げ地点から大きく弧を描きようやく静止させる事が出来た右腕に、安堵の息を吐いた悟であったが、

ブオオーーッ!!

「……へ?」

 突如何故か『棒切れの先端から巻き起こった風』が彼女のワンピースを下から持ち上げ、下腹部より少し下と胸部の布きれを露わにしてしまう。

 ……非常に女の子らしく可愛らしい苺のプリントを眼に焼き付けて

(あ、Cぐらいかな)

 モニター越しにしか見たことが無かったにもかかわらず、適当な目算を付けて魔法のアルファベットを思い浮かべていた悟は目にする。

 ーー捲り上がっていた白のワンピースが降りてくるにつれて露わになっていく彼女の隠れていた顔を。

 笑顔だった。
 凄く笑顔がだった。
 凄くニコニコしていた事が印象的だった。

 パチーーン!!

 ーーそれはビンタが頬にめり込む音だった。まぁ、拳じゃなかっただけマシといえようか。

“数m跳んだ”悟は柱に頭をぶつけた。

(また口ん中噛んじまったじゃねぇか……)

 意識が遠のいていく最中、“パジャマのポケットから何か“黒い塊のようなもの”が落ちる”

 悟の意識は途絶えた。


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第2話 『異世界じゃな異世界』




「まぶしい……」

 久し振りに出た外は快晴で、引き篭もりだった悟には少々思うところがあったが、それでも外に出ない訳には行かなかった。

 ーーなにせあの“メール”の内容を確認しなくてはならなかったから……

 パジャマのポケットから落ちたそれは、まるでP〇Pのような携帯型の端末だった。「なんだこれは」と開いてみると、1件のメールが受信されていたのだ。

『やっほー(^O^)
えー川奈 悟 くんだよね? 君が送ってくれたゲームっていうの?
無茶苦茶面白かったんで、この世界ごとゲームっぽく改造してみました( ^ω^ )てへぺろ! ほら、君の願いともマッチしてて最高だよね(*´∀`*)
                  神より (*゚▽゚*)』

ーー(・ω・`)

 往来を歩く人々は皆RPGの様な服装。店の出で立ちもさる事ながら、通過が『円(えん)』ではなく『G(ゴールド)』だったりする。といっても文字は概ね日本語で書かれいるようだ。

「こういうRPG系のゲームはテキスト必須だからなあ」

 と、黒白のギンガムチェックのパジャマズボンの上に、まるで聖職者の様な黒服を纏うという異様な出で立ちをしている悟は分析する。

 何故そんな服装をしているのかといえば、実は悟が地下だと思っていた部屋は階段の扉を開けると 、“今は使われていない教会” に繋がっていたのだ。
 流石にパジャマ一丁で外に出るのに気が引けた悟は、黒服を少し拝借しているという次第。

「異世界ファンタジーものに有りそうな中世風の文明、往来を武装したりローブを着たりしながら普通に歩く奴ら、俺の格好に何ら反応を見せない……」

「サトルはさっきから何をブツブツと言ってるんですか?」

(ーー極め付けはこいつか……)

「あ。えーと、カナリア……さんは本当に人間じゃないんですよね?」

「はい。何度も言いますが私は獣種(ベスティア)です。まぁ、正確には人間であって人間でないという感じですね」

「それはどういう?」

「まぁ、殆ど人間と同じですから “私は” 」

 そう。カナリアと名乗った少女は人間とは違った“種族”であった。

 腰まで伸びた美しい白金髪は前髪部分で綺麗に切り揃えられており、瞳は淡いエメラルドグリーンに輝くている。オマケに顔も整っているとくればまず間違いなく往来で飢えた男達に声掛けられそうだろう。しかし問題はそこではない。さっきからヒラヒラと動く“尻尾”と“猫耳”に、悟は違和感を禁じ得なかった。

「獣種の人達はみ、皆カナリアさんみたいに、その、動物の耳とか尻尾とかあるんですか?」

「はい。獣種は皆基本的には獣の耳や尻尾はあるものですよ? 幼い頃は無かったりする子も居るんですが次第に生えてきます」

「へ、へぇ」

「ふふふ、気になります?」

「い、いやそんなことは……」

と言いつつ気になりまくっている悟。

 カナリアが歩く度に彼女の尻尾は本物ですよーと自己主張するように揺れていて、思わず悟はそれを目で追いかけていた。
 ……どういった原理で動いているか分からないが、確かにそれらに作り物感はない。

 実は重度のコスプレイヤーでしたというオチは、どうやら無いらしい。

(ーーこれは確定でいいだろう)

 “あのメール、そしてサイト”は本物だったということだ。
 つまり、神様は存在する。さらに言えば、これは単なる異世界召喚ではない。あの気の抜けたような文面に惑わされてはいけないのだ。

『この世界ごとゲームっぽく作り直してみました』という一文がどれだけの意味を持っているか?
 ーーそう。『ここは異世界ではない』ということだ。

(ーーなら今まで普通に生活していた人達はどうなった?)

 万物を支配するという神にとって一生命とはどういった意味を持つのだろうか?
 もし神にとって命は観測して楽しむ為のいわゆる“娯楽”であったとしたら、ハマってしまったというゲームもまた同価値の“娯楽”。
 再構成された世界、幾億の命の消失と誕生。まさしくこれを天災と呼ぶのだろうか。

(そしてその天災を引き起こした要因の一つは俺自身!?!?)

「ていうか生まれ変われせてくれってそういう意味じゃねーー!!」

「おい兄ちゃん、叫んでねぇでさっさと登録済ませてくれや」

 黒いタンクトップにはち切れんばかりの筋肉。禿げるべくして禿げたのかと思うほどに、輝く頭さえもファッションの一部のように扱う強面のおっさん。左目の傷がスパイスの様により一層人相を悪くしている。

(こ、怖えぇ!!)

 そんなゴリゴリのおっさんが眉をしかめて催促してくるものだから、悟は従う他ない。

 ……カナリアに連れられてやって来たのはこの【冒険者専用ギルド】だった。ここで冒険者としての登録を行って、依頼をこなしたり何か業績を上げると金が入ってくるらしい。
 冒険者になる為の資格などはなく、誰もがなれる職業ということで、無一文だった悟は飛びつくしかなかったのだ。

 おっさんに差し出された紙には『冒険者登録証』と書かれていて、その下に諸々の項目があった。

『冒険者は掲示板に貼られたクエストを受注し、達成すると報酬が与えられる』

『冒険者は一定の人数により“パーティ”を組んで共に活動する。構成人数は1人以上。つまり、1人居ればパーティとして認知される』

 と、ここまでは定番の良くある設定。

 しかし登録証に書かれた冒険者の基本要項欄には幾つか気になる点があった。

『モンスターを倒して得られたクリスタルは必ずギルドにて換金する』

(モンスターを倒すとクリスタルを落とす、そのクリスタルを換金して生活の糧とするのは分かったが、“必ず”ってなんだ?)

『ステータスにより受けられるクエストは分けられている』

 ステータスの存在ーーやはりRPGといえばこのレベリングやらステータスやらは必須といえよう。

 そして、

『パーティ管理者は貴族に限られる』

 パーティには管理者がいて、それは貴族である必要があるという、階級
社会を匂わせる記述。

(……待てよ、これがもし守られているのなら“俺の管理者”は誰だ?)

 悟が一通り読んでサインしたのを確認した後、急に「書けましたか?」と、カナリアがずいっと顔を寄せてくる。
 予想外に良い匂いが鼻孔をくすぐってドギマギする悟であったが、聞かねばならないことが一つ。

「すいません、冒険者になるのは自由って聞きましたが管理者が貴族の方に限られるというのは……」

 目の前のおっさんに話を聴くのは少し怖かったのでカナリアに目配せする悟。

「あ、それでしたら心配しなくても大丈夫ですよ?」

「え?」

 とても嬉しそうに笑うカナリアが見せて来たのは、
『CAT(カナリア様愛してるマジ天使)』という思わず頭が痛くなるようなパーティ名と、

 ーー構成員 カワナ サトル 種族(物)

「ってなんでやねん!」

 チーム名もツッコミどころ満載なのだが、それよりも勝手にパーティに加えられてたことと、種族(物)のインパクトがでかすぎる。

「パンパカパーン! おめでとうございまーす! 貴方は我がパーティ CAT(カナリア様愛してるマジ天使) の第一メンバー当確でございまーす!」

 ツッコミを完全にスルーし、ぱちぱちぱちと拍手するカナリアに対して、流石に腹が立った悟は激昂。

「チーム名、メンバー云々も突っ込みどころ満載なんだが、まず種族が
物ってなんなんだよ物って!」

「はい? だって貴方は我がパーティの設立祝いとして “贈られてきた
物” なのでしょう?」

 さも当然と言わんばかりに意味不明な言い分で悟を物呼ばわりするカナリア。
「異議ありっ!」と逆◯裁判並みの抗議をしようと悟が手を挙げると、
「とにかく」っとカナリアは人差し指を悟の口に当てて塞ぐ。

「もし貴方が我がパーティに入って頂けないのでしたら、今朝のセクハラを訴えてしまうかもしれません」

「えぇ……」

(こいつ無茶苦茶じゃねぇか!! ヤケに初対面の俺に優しくしてくれるなぁと思ってたらそういうことかよ! ……タチの悪い宗教の勧誘と同じだぞこいつ)

 とはいえ、此処でカナリアに訴えられてしまえばまともな生活は送れなくなる、どころかいきなり人生のバッドエンドを迎えるもしれない。

(ーー何故ならおそらくパーティ管理者であるカナリアは貴族
だから……)

 時代背景が中世で階級社会であり、あのフザケタ神の作った世界なら些細なセクハラ行為も最悪斬首を覚悟しなければならないかもしれない。

 ニコッと悟にビンタをかました時と同じ笑顔を見せるカナリアに、恐怖を感じた悟は泣く泣く了承する。

 (こいつ悪魔だ)

「ほらよっと。この後の事は全部二階でやれっからよ」

 おっさんのデカすぎる手に反して、小さい判子が押された。

「あんた(おっさん)が冒険者しろよ……」

 かくして、俺たちCAT(カナリア様愛してるマジ天使)の活動は幕を開けたのだった。




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