己の罪を (NowHunt )
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理性と牙

疑問点あればお待ちしています。


「ヒッキー行くよ」

 

「比企谷君、早くしなさい」

 

「うるせー。休日くらい寝かせてくれよ。なんで休日返上して俺も行かないといけないの?ここってブラック企業だっけ?」

 

 

 

 

 

2年の3学期のとある日曜日。

 

俺と雪ノ下、それと由比ヶ浜で千葉駅に来ていた。

 

なんでそうなったのかと言うと、金曜日部室にあった紅茶のストックがなくなったのだ。それを買いにいくついでにショッピングしようと由比ヶ浜が言い出し、俺もついていくことになった。

 

 

「ゆきのん。次こっち行こー」

 

「待ってちょうだい。まだ会計が済んでないのだけれど」

 

「ねぇ帰っていい?」

 

「黙りなさい」

 

「アッハイ」

 

さらっと帰る提案をしたが、雪ノ下の一声で封じられた。

 

「じゃあ、本屋に行っていい?」 

 

「比企谷君?」

 

「……ヒッキー……」  

 

「却下」

 

「ダメ、だよ?」

 

やっぱりダメですか。

 

 

 

 

「色々見て回ったねー」

 

「だな」

 

「ええ。少し疲れたわ」

 

「だからこうして飯食ってるんだろ」

 

今はサイゼで休憩を兼ねて昼飯を食っている俺はもちろんミラノ○ドリアだけどな。この値段でこの美味しさはさすがだ。学生の味方よ。

 

 

「あれ?先輩方。こんにちはー」

 

いつの間にか俺らの席の通路から、日本あざとさ全国選手権を優勝するんじゃね?って思ってしまう、あざとい一色がいた。

 

「いろはーどうしたー。……ん?……お、ヒキタ…比企谷じゃないか」

 

「うわっ。ヒキタニくーん。ここで会うとかかなりレアっしょー」

 

一色の後ろから葉山と戸部が現れた。そして、2人ともかなり荷物を持っている。いや、持たされているの方が正しいか。部活の荷物持ちに呼ばれたのか?……なんつーか、ドンマイ。

 

「よぉ」

 

俺は目を合わせず、アイサツを済ます。頼むから関わりたくないという雰囲気を察してくれ。

 

「あ、いろはちゃん達一緒にご飯食べない?」

 

「いいんですかー?」

 

「ねぇねぇ、いいゆきのん?」

 

「……まあ、いいわよ」

 

おい!由比ヶ浜!お前は空気を読むのに長けているんだろ。俺の空気も読んでくれ、頼むから。

 

雪ノ下さんも断れよ。断ってくださいよ。

 

「じゃあ、失礼しまーす」

 

「比企谷。……何だか、ごめんね」

 

「おなしゃす!」 

 

と言い、席に着く。

 

……ワイワイガヤガヤうるせぇ……。

 

 

恐らく今、俺と雪ノ下の心境は似ているはずだ。雪ノ下の顔を見れば一目瞭然。そんな顔をするなら、最初から断れよ。

由比ヶ浜のお願いは断れないってか?そんなにゆるゆりしたいの?百合思考なの?

 

 

 

 

 

サイゼから出て、なぜか俺らは一緒に行動することになった。

 

さっき一色が、

 

「これで荷物持ちが増えた」  

 

って呟いていたけど、俺、利用されるだけなのかな?やべぇ、ものすごく帰りたい。

 

 

雑貨屋で奉仕部とサッカー部どちらも何か買い終わり、どうせならもっと遊ぼうと一色と由比ヶ浜が言い出した。

 

いやいや、面子見てみろ。

相性の悪い雪ノ下と葉山。

特に仲が良いわけでもない俺と戸部。

お互い嫌いと言った俺と葉山。

対極の位置にある雪ノ下と戸部。

 

………この時点で無理あるだろ。

 

ガヤガヤと、俺と雪ノ下以外騒いでいる。俺らは後ろからのんびり歩いているだけだ。

 

別行動、していいですか?俺、ここにいても気まずいだけだろ。

 

 

 

 

 

その時、周りの客がうるさい中、聞こえた。

 

 

 

 

――アノマロカリス

 

 

 

と。

 

 

 

突然、

 

 

「きゃあああ!」「うわあああ!!」

 

誰かの悲鳴がする。叫ぶ声がする。

 

俺たちはそこを一斉に向く。

 

 

そこには怪物がいた。

 

 

 

俺はその怪物を知っている。

 

その怪物は近くにいた男性を殴り飛ばす。その勢いで、赴くままに暴れている。

 

客が叫んで逃げる。中には腰を抜かしている人もいる。

 

怪物は急に立ち止まると、独り尻餅をついている少女に怪物は狙いをつける。

 

「い、いや……」

 

その少女は涙目だ。遠くからでわからないが、どこか見覚えのある少女だ。

 

「葉山、戸部。雪ノ下たち連れて逃げろ」

 

俺はそれだけ言い残し、その少女の元へ駆ける。

 

怪物は俺に気付かず、少女の方に近づいていた。

 

「比企谷!?」

 

「比企谷君?」

 

葉山と雪ノ下の声がした。俺を心配してくれるのか?ははっ、嬉しいな。でも、俺は振り向かず駆ける。

 

 

 

………あれを使うしかないのか。まあ、仕方ないか。

 

 

 

怪物の不意を突くことに成功し、俺は飛び蹴りを怪物に放つ。意識外の攻撃ということもあり、怪物は大きく後退する。

 

 

「えっ。………八幡?」

 

後ろから声がする。……声でわかった。その、少女は鶴見留美だ。千葉村、クリスマス会で会った少女。

 

「離れてろ」

 

留美にそれだけ言う。

 

 

 

そして、ジャケットの内ポケットから2つ取り出す。

 

1つは、ロストドライバー。

 

 

ロストドライバーを腰に巻く。

 

 

 

もう1つは、「牙の記憶」を内包したガイアメモリ。そのメモリのスイッチを押す。 

 

 

 

――ファング

 

 

周りが静かな中、その音声だけが鳴り響く。

 

 

 

それは、T2の「ファングメモリ」だ。入手した理由は……今は語るまい。

 

 

ファングメモリをロストドライバーのメモリスロットに入れる。

 

深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。

 

俺は右手でメモリスロットを傾ける。

 

ロストドライバーから音が鳴る。

 

 

 

――ファング!

 

 

 

 

そして、呟く。

 

 

「変身」 

 

 

――と。

 

 

 

ふと、ガラスに写ってる自分を見る。

 

涙状にラインが走っているのがわかる。

 

ああ、俺もお前ら――ドーパントと本質は同じなんだな。心底そう思うよ。

 

 

 

メモリスロットを開くと俺の体は、変化する。全身白いボディー、赤い目、刺々しいフォルム。肩にはブレードが展開される。

 

 

「ぐっ!くっ…ハァ……ハァハァ」

 

暴走しそうな、思い切り暴れそうな衝動を無理矢理俺の理性で抑える。

 

………大丈夫だ。もう、あんなことは絶対しない。だから、大丈夫だ。

 

 

 

 

ブレードを手で持ち、構える。

 

「八幡?」

 

後ろで留美が

 

「比企谷君……?」

 

「………ヒッキー?」

 

「せ、先輩?」

 

そのまた後ろでまだ逃げてない雪ノ下と由比ヶ浜、一色が。

 

「比企谷、お前は!?」

 

「えっ、どうなってるっしょ!?」

 

3人の手を引っ張っている葉山と戸部がそれぞれ驚く。

 

 

 

それを気にせず、俺はひとっ跳びでドーパントの目の前に移動する。そのまま横一閃でブレードを振り抜く。

 

「うわああ!」

 

ドーパントは大きく吹っ飛ぶ。が、後退しながら、遠距離攻撃を仕掛けてくる。何かの物体をかなりの数を飛ばしている。

 

ガキッガキッガキッ!!

 

それを身体に当たりそうなものだけ、ブレードで叩き斬る。

 

 

勢いに身を任し、畳み掛けるように何回も斬る。胸、肩、首、足を。時折蹴ったり、殴ったりする。

 

ドーパントがふらついた所を狙い、腹を思いっきり殴る。

 

「ぐわああ!」

 

ドーパントは転げる。倒れたまま動かない。

 

もうこいつは満身創痍だ。さっさとトドメにしようか。

 

倒れているドーパントを掴み、上に投げ飛ばす。7mくらい飛び上がる。

 

その間にメモリスロットからファングメモリを抜く。メモリをベルトの右横に付いてあるマキシマムスロットにファングメモリを入れる。

 

 

 

 

――ファング!マキシマムドライブ!

 

 

 

手に持っていたブレードが消え、右足のくるぶし辺りからに鋭利なブレードが生える。

 

ドーパントが落ちてくるタイミングを見計らい、カウンターの要領で蹴り上げを放つ。

 

振り上げた足のブレードはドーパントの胴体に直撃した。

 

閃光が走り、

 

 

 

 

ドゴオオオン!!

 

 

 

 

 

その場で爆発が起こる。

 

 

 

 

 

「ぐはぁ!」

 

メモリ使用者は、大学生みたいな風貌の男だ。メモリが身体から飛び出る。そのまま、メモリはパリィィンと割れた。

 

見ると、その男はメモリを刺したあるうで場所にメモリコネクタ手術を施した痕がない。

 

てことは、

 

「また裏ルートの横流しかよ………」

 

独りでそう呟き、メモリスロットを起こし、ファングメモリを抜く。

 

そしたら、変身から解除され、元の比企谷八幡の姿に戻る。

 

 

 

 

 

元に戻った状態で周りを見渡す。

 

客は逃げてほとんど居らず、いるのは雪ノ下、由比ヶ浜、一色、葉山、戸部、留美だけだ。あと、メモリの使用者。

 

あいつら、逃げろって言ったのに…………。

 

 

「ハァ………」

 

 

俺はロストドライバーとファングメモリを仕舞いながら、ただただ、ため息をつくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やってみたかったの。書いてみたかったの。


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三人は会う。

勉強の合間にちょくちょく書いてます





「とりあえず、拾うか」

 

俺は手袋をはめ、チャック式の袋を取り出す。そのままガイアメモリの破片を袋に入れる。

 

ハァーやだなー。あいつらに説明するのやだなー。

 

そんな億劫な気持ちになっていると、後ろから何人かの足音が聞こえる。

 

 

 

 

 

「比企谷!」

 

………この声。

 

「照井さん」

 

赤いジャケットを着て、レーサーみたいな格好をした人が来た。

 

これでもこの人は刑事。ガイアメモリを扱う風都署に配属されている。

 

他に何人かの警官を引き連れている。

 

「これ、渡します」

 

ガイアメモリの破片が入った袋を照井さんに渡す。

 

「……遅れてすまない。助かった」

 

「気にしないでください」

 

ファングを使わないといけなかったことに少しは恨むけど、それは別の話だ。俺の問題だ。

 

「あの子らは君の友人か?」

 

照井さんは雪ノ下たちを少し見る。

 

「まさか。俺に友人なんていると思いますか?」

 

「さあ?だが、君なら、いるのではないか?」

 

「まあ………俺の知り合い、ですよ」

 

「そうか」

 

そこで、照井さんはガジェットを取り出し、画面を見る。

 

「比企谷。明日、時間はあるか?」

 

「暇ですけど………」

 

「そうか。君に会わせたい人物がいる。……どうだ?会ってくれないか?」

 

会わせたい人物か。前々から話を聞いていたが、その人たちだろう。

 

「――W、ですか?」

 

「ああ。あいつらも比企谷のことに興味があるみたいだ。それに、その――ファングメモリのことも改めて聞きたい」

 

そういや、この人と初めて話した時も誤魔化したなー。

 

「分かりました。明日ですね」

 

「放課後。君を迎えに行く」

 

「分かりました」

 

俺と照井さんは、未だに腰が抜けている雪ノ下たちを見る。

 

「これからどうします?」

 

「そうだな。一通り病院で検査してから警察で話を聞こう。…………逃げた人たちもいるんだな」

 

「はい」

 

「それは後日、調べるとしよう」

 

その後、照井さんたち警察は、雪ノ下たちを警察に同行してもらい、全員から話を受けたそうだ。

俺は、受けてないけど。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

あいつらとは別行動をとり、直ぐ様帰宅した。

 

「あ、お兄ちゃん。おかえりー。どうだった?お買い物は」

 

こたつでぬくぬくしながら勉強している小町。

 

俺は小町の向かいに座る。

 

「どうもこうもねーよ。ドーパントが出て、メチャクチャだった」

 

その言葉に目を丸くする小町。

 

「えっ!?ドーパント出たの?……………てことは、お兄ちゃん、変身したの?」

 

「したよ」

 

小町は、過去の「あれ」を危惧しているのだろう。

 

「大丈夫だ。暴走はしてない」

 

「そう。なら良いけど…………」

 

小町はシャーペンを机に置くと、真剣な眼差しで俺を見てくる。

 

「もう、止めてよね。あんなことは。何より、お兄ちゃん自身を大切にしてね」

 

「……………あぁ、分かった」

 

かなり心配させたのか。それもそうか。

 

「それで、小町。明日帰り遅くなるわ」

 

「?何か用事?」

 

「おう。風都市に行ってくる」

 

「へーー。よく分からないけど、いってらっしゃい」

 

「おう」

 

そっか。小町はそこまでガイアメモリについて詳しくなかったな。あまりピンと来ないか。

 

 

 

 

――翌日。放課後。

 

校門前にて照井さんがバイクに股がり、俺を待っていた。

 

昨日被害に合ったあいつらは、検査とかで学校を休むと言っていた。 

 

平塚先生は昨日の事件は知っていても、誰が解決したのかは知らず、「大丈夫か?」と言われただけで、特に絡んでこなかった。

 

 

「比企谷」

 

ヘルメットを投げられ、それを受け取る。

 

「行くぞ」 

 

「はい」

 

バイクの後ろに股がり、照井さんに掴まる。周りが煩いが、無視の方向で。

 

ブゥゥーーン。バイクのエンジン音が鳴り響き、バイクは発進する。

 

 

 

 

そして、数十分後。

 

「着いたぞ」

 

そこには、かもめビリヤード場と書かれた店?があった。

 

「ビリヤードするんですか?」

 

「そっちじゃない」

 

「ん?」

 

あ、鳴海探偵事務所…………こっちか。

 

扉を開けた照井さんに続く。

 

 

 

 

 

 

扉を通り、俺が見た光景とは…………、

 

「亜樹子!!ゴキはどこ行った!?」

 

「ちょ!翔太郎君!そこ!机の下!」

 

「そこかー!……くそっ。ちょこまかとーー」

 

「あ!フィリップ君、そっち行ったよ。ほら、叩いて!さあ!」

 

「ちょっと待ってくれ。亜樹子ちゃん。これには触りたくない」

 

「うるせーぞ、フィリップ!やれ!やるんだ!」

 

と、3人vsゴキとの勝負の途中だった。

 

事の顛末は結局、照井さんが近くにあった靴べらで叩いて終了した。

 

 

 

 

俺は入り口付近にあるソファに腰掛ける。

 

「お茶、どうぞー」

 

「あ、ども」

 

「にしても君、目が腐ってるねーー。病気?」

 

「これが普通です」

 

「…………そう」

 

そんな憐れみの視線を向けないでほしい。

 

「あ、自己紹介始めるね。私、鳴海探偵事務所の所長。鳴海亜樹子――改め、照井亜樹子でーす」

 

「あ、はい」

 

「反応薄くない?」

 

「照井さんから前情報は頂いているんで」

 

「えーー。つまんなーい」

 

「うっせーぞ亜樹子!それでも、自己紹介はするぞ。俺は左翔太郎。よろしくな」

 

「僕はフィリップさ。よろしくね、比企谷八幡君」

 

「お願いします」

 

「左。俺は仕事が残っている。比企谷の送りは任せたぞ」

 

「照井さん、話聞くんじゃないんですか?」

 

「後でそいつらに聞く。じゃ、頼んだぞ、左」

 

「おい!」

 

照井さんは、左翔太郎の言葉は聞かずに、そのまま探偵事務所を後にした

 

「それじゃ、早速だが、見せてもらうぞ。俺も見せるからな」

 

左翔太郎………左さんでいっか。

 

左さんは、色々机に置く。

 

Wドライバー。ガイアメモリ3本。ロストドライバー。

 

フィリップさんはガイアメモリを3本。それと、噂に聞いていた、自律稼働のファングメモリ。

それと空を舞うメモリ。これは……あれか、エクストリームか。

 

対する俺は、T2ファングメモリとロストドライバーを見せる。

 

左さん、フィリップさん、亜樹子さんは目を見開く。

 

「照井の言ってたことは本当だったか………」

 

「それも、ファングだよね?もしかしてT2の?」

 

亜樹子さんが呟く。

 

「そうですよ。………そういえば、フィリップさんはファングで暴走したと聞きました」

 

「………ああ、その通りだ。僕は翔太郎のお陰で乗り越えた。比企谷八幡君は、ファングの暴走を乗り越えたのかい?」

 

その疑問に対し、首を横に振る。

 

「違います。俺の……理性で無理矢理抑え込んでるだけです」

 

「ファングをか!?」

 

翔太郎さんが叫ぶ。

 

「……それは驚いたね」

 

フィリップさんは感心する声を出す。

 

「ファングを抑えるとか……化け物かよ」

 

「正しく、理性の化け物だね」

 

ハハッ。そういえば、言われたことあるな、それ。

 

 

 

 

「それより、これ!どこで手に入れた?」

 

左さんがロストドライバーに指差し、尋ねてくる。

 

「翔太郎。僕が検索するよ」

 

左さんの言葉を遮り、フィリップさんは立ち上がり、目を閉じる。

 

これが、噂の「地球の本棚」か。地球上にある全てを閲覧できるという…………。

 

「分かったぜ。キーワードは………先ずは……比企谷八幡」

 

「やはり人名だとかなり絞れるね。これは興味深い。黒歴史とは何だ?……それに、嘘告白?………本物?」

 

や、止めて!そんなの見ないで!

 

「フィリップ。寄り道すんな。……次はファング、それとロストドライバー」

 

左さんが言ってから、しばし間が空く。

 

「閲覧は終了した」

 

フィリップさんがゆっくりと目を開き、俺を見る。

 

 

 

 

  

 

「なるほど。理解した。ファングは君に惹かれ合い――」

 

言葉を続ける。

 

「………そのドライバーは大道克己から譲り受けた物なんだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続きはいつになることやら…………


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BEGINNING

書かないって決めたのに…………(泣)
平成ジェネレーションズFinalが面白すぎてw
まあ、これは大分前に書いた話で、少しずつ加えたらこうなりました。


言い忘れていましたが、今回の風都の位置関係は

東京都 風都(東京都) 千葉県

みたいな感じでお願いしますm(__)m


「だ、大道克己だと!?」

 

 翔太郎は突然出てきた名前に驚き、大声を出す。

 

「そ、それってフィリップ君たちが倒した……NEVERだよね?」

 

 亜樹子もその名前に驚く。

 

「………ああ。仮面ライダーエターナルだな」

 

 かつて風都を恐怖に陥れた――NEVER。それは人間の死体を科学技術を駆使して強化・蘇生させた生物兵器もしくはその集団。

 そして、大道克己はそのリーダーだった。翔太郎とフィリップと風都を懸けて戦い、激闘の末死んだ男。

 

「確かに僕たちはあの時、エターナルのメモリは破壊した。だけど、その後ロストドライバーがどうなったかは知らなかった」

 

 フィリップは過去を思い出し、冷静に分析する。

 

「てっきり壊れたもんかと思ってたけどな。どういうことだ、八幡?」

 

 この場において真実を知っている男――――比企谷八幡は、口を開く。

 

「俺は直接大道克己って人に会ったことないですよ。貰ったんです。ミーナさんという人に」

 

 軽く笑いながら返答する。

 

「えっ、あの人にか!?」

 

「………ご存じで?」

 

「まあな。つーか、フィリップ。お前の検索結果はロストドライバーの入手経緯は分かんねーのか?」

 

「元の持ち主は分かっても、入手経緯は分からないね。情報が少ないのか」

 

「あー、それもそうか」

 

「少ない情報でここまで割り出したから褒めて欲しいものだね」

 

「はいはい、スゴいスゴい」

 

「それでそれで、八幡君。どうやってファングメモリとロストドライバーを手に入れたの?」

 

 翔太郎とフィリップのやり取りを押し退け、亜樹子が話に割って入る。

 

「順に話しますとファングは拾ったんです。多分、風都がNEVERの襲撃を受けている時かその直前に」

 

 2人のやり取りに苦笑いした八幡はそのまま話を続ける。翔太郎もフィリップも八幡の話を聞く。

 

「夏休みでぐうたらしてた時、欲しいゲームがあったんです。で、近場で探しても無かったんで、少し遠出しました。ゲームを多く扱っている店がありまして。ちょうど千葉市と風都の境目辺りです」

 

 途中、亜樹子からもらったコーヒーを飲み、話を続ける。

 

「まあ、その店にもゲームは売ってなくて。でも、予約はできるから予約だけして帰ろうとしました。帰り道、路地裏で何か落ちてるなーと思って近づいたら……あったのはファングメモリでした」  

 

 八幡は自分の行動を思い返す。だが、何故自分がそこに向かったのかは分からない。ただの気まぐれだったのかもしれない。  

 

「最初は随分大きいUSBメモリだと思いましたよ。まぁ、拾った後交番にでも届けようとしたら、何か………オカマ?みたいな人が来たんです。やたらクネクネした動きの」

 

 八幡のその言葉に翔太郎は心当たりがあるようにため息をつく。

 

「その人が持ち主だって言うから特に疑うことなく返しました。……今思えばあの人もNEVERだったんですね」

 

 メモリを渡したら、そのオカマが去り際に『あなたの腐ってるその目……嫌いじゃないわ!』と言い残したのを思い出し、身震いする八幡。

 

「そうだな。確かあれは映司が…………」

 

「左さん?」

 

「おーっと、すまない。続けてくれ」

 

「予約してから1週間後、取りに行こうとまたそのゲームショップに向かいました。ゲームを買ってから家に帰ろうとする途中、またその路地裏に来てしまったんです」

 

「そこにまたファングが?」

 

 フィリップの問いかけ。

 

「はい。自分でもやっぱりあの時の行動は意味が分かりません。ただ、何となくですね」

 

「T2のガイアメモリはメモリの適合者と惹かれ合う性質があるからな。八幡がファングの適合者だからだろう」

 

 翔太郎が補足説明をする。

 

「そう言えば、そんなことミーナさんも言ってましたね」

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

「にしても………何だ、これ?」

 

 夏休みある日の夕方の6時、俺は駅の近くのビル郡の路地裏にいる。そこでまた同じUSBメモリっぽいのを拾った。

 

 1週間前、ここに来たとき、何かに導かれる……って言ったら材木座みたいだが、実際そんな経験だった。で、導かれるように路地裏に行ったら、このメモリが落ちてた。

 

 今回はまた落ちてるかなーと、何となく行ってみただけ。

 

 その後、オカマっぽい人が持っていったんだよな。

 ちょっと……いや、かなり気持ち悪かった。というより、恐いという感情が大きかった。

 

 てことはまたあの人がいるのか?まずは大通りに出て探してみよう。あれなら目立ちそうだしな。

 

 夏休みのせいかどこかに出掛けているのかやけに人が少ない駅前に移動する。

 そこそこ大きい駅たとは思うんだがな。それでも主婦とか部活帰りの学生はそれなりにはいるんだけどな。

 

 しかし、見渡してみても、黒いジャケットを着たあの人は見つからない。

 

「まあ、いいか。交番行くか」

 

 確か交番はどこにあったっけな………。携帯で調べるか。

 

 と、スマホの地図アプリを開こうとしたら、

 

「お兄ちゃん」

 

 という声と共に肩をトントンと叩かれた。振り向くと、

 

「小町?なんでいるの?」

 

 妹の小町がニコニコ笑顔で立っていた。

 

「いやー、私も暇だからさ、お兄ちゃんを尾行していたのです。もしかしたら雪乃さんとかと会うのかなーって」

 

「お前な……」

 

「結果は何だかつまらない感じけどね。それで、お兄ちゃん。それ何?美味しいの?」

 

 小町は俺の手にあるメモリを覗きこむ。

 

「知らん。誰かのだろ。つーか、これ多分無機物。美味しいって言ったら食うのか?それと今から交番に届けるとこ」

 

「そんな訳ないじゃん。お兄ちゃん頭大丈夫?よし、じゃあ、小町も行くー!」  

 

「お前から言ったくせに……。おう、行くか」

 

 調べると駅から徒歩10分くらいに交番があるから2人でのんびり歩いてた。

 

 だが、突然、

 

 

 

 

『――マグマ』

 

 

 

 

 という電子音声が、人混みどこからともなく聞こえてきた。

 

「うん?お兄ちゃん、今のは?」

 

 小町が不思議そうに辺りを見渡す。

 

「さあ?」

 

 途端、

 

 

 ――――ドゴオオオン!!!

 

 

 と、あまりに大きな爆発音が響いた。

 

「きゃあ!」「うおっ!」

 

 俺たちはその音に驚き、同時に悲鳴を上げる。

 

 音の発生源を探ろうとしていると、

 

「お、お兄ちゃん。…………何、あれ?」

 

 小町がまるで信じられないというような目で何かを見ている。小町の視線の先を俺も見ると、

 

「………何だよ」

 

 十数メートル向こうに――化け物がいる。炎を、それこそマグマを纏っているような化け物が。

 しかも先程の爆発音のせいなのか近くのかなり深く地面が抉れている。それに加えて燃えている。

 

 ………これは、ヤバいぞ。

 

「と、とりあえず逃げる。走れるか?」

 

「う、うん」

 

 俺は小町を連れて少し離れてる駅構内に向かって走った。

 2人とも磁気カードだからすぐに改札を通れる。金が足りなかったら、その時はその時だ。

 

 周りの人たちも悲鳴を上げながら色んな方向に逃げている。

 

 

 俺たちは一心不乱に走り、駅構内に入った。急いで電車に乗ろうとするが、

 

「ハァ………。小町、悪い。大丈夫か?」

 

 俺が手を引っ張り、無理矢理走らせたからか小町はかなり息が切れている。

 

「ハァ……ハァ………、だ、大丈夫。い、急ごう」

 

 口ではそうは言うが、今にも倒れそうなくらい弱っている。たかが100メートル程だが、あの化け物の威圧が凄まじい。

 

「小町、おぶる………ぞ………」

 

 小町をおぶろうとしゃがんだ瞬間、どこか違和感を覚える。背中が熱い。熱気がここにも来る。

 

 もしかして………、と、後ろを向く。

 

 ゆっくり、ゆっくりだが、確かにこちらに、駅のホームに化け物が近づいている。

 

 ――急がないと急がないと急がないと。これは電車に乗る場合じゃない。電車を待つ時間なんてない。

 

 化け物から距離を取ろうとおぶる時間もなく、小町を抱き抱えて走る。

 

 ――――ドガアァァン!!!

 

 また何かが崩れる音がする。

 

 俺と小町は気づくのが遅かったが、それはちょうど俺たちの真上の天井が崩壊する音だった。

 

 「えっ」

 

 小町から漏れる声を聞くと同時に上を向く。――が、崩れた瓦礫がもう頭上に迫っていた。

 

 瓦礫に確実に当たる。避けられない。――その筈だった。だけど、当たらなかった。

 頭上に迫った瓦礫が勢いよく逸れた。俺たちの数メートル横に転げ落ちた。

 

「こっち!」

 

 長髪の女性が呼んでいる。場所は駅構内にある本屋だ。

 

 すると、また崩れている瓦礫や転がっている瓦礫が化け物の方に飛んでいった。

 

 ――――それはあの女性が操っているように。

 

 化け物は瓦礫のせいで一時的に足止めを喰らっているようだ。

 

 

 

 小町を抱いて女性の元に走る。そのまま本屋に駆け込んだ。

 

「大丈夫?」

 

「何とか………。あれはあなたが?」

 

 涙目の小町を撫でながら問う。

 

「えぇ、まあね。私はミーナ」

 

 正直、なんで瓦礫を飛ばせるのか知りたいが、今はそれどころではない。

 

「比企谷八幡です。こっちは妹の小町。助けてくれてありがとうございます」

 

 そこそこ広い本屋の奥に逃げながら簡単に自己紹介と礼を済ませる。

 

「あれは何ですか?」

 

「ドーパント。……怪物よ。聞いたことない?風都で多発的に出現してた」

 

「聞き覚えは………」

 

 ニュースで少し見たことある。あれがそうなのか。

 

「ガイアメモリと呼ばれる物を躰に差して変貌……す、る…………」

 

「どうしました?」

 

 本屋の奥で腰を下ろし、説明を受けていると、不自然に言葉が途切れる。すると、急にミーナさんが目を見開く。

 

「あなたが持っている物は………」

 

「ん?あぁ、これですか?さっき拾ったんです」

 

「それよ!ガイアメモリは!」

 

 ………えっ?これが?マジで??

 

 俺は『F』とプリントされたメモリを見る。

 

 ――そうか、これが………。

 

「しかもそれはT2のメモリ。………あなたがファングに選ばれ、惹き合ったのね」

 

 ミーナさんは何か、独り言で分からないことを言っている。

 

「あなたなら………」

 

 俺の目をじっと見つめるミーナさんは、

 

「比企谷八幡君。あなた、妹を守りたい?」

 

 そう問いかける。

 

「もちろん」

 

 対する俺は即答する。

 

 その質問にNOと答える兄は絶対いない。

 

「あなたには今、守れる力がある。その――メモリを使えば」

 

「これを………」

 

 もう一度、じっとメモリを見つめる。

 

 ――ファングメモリ。これを使えば、俺は……………。

 

「でも、かなり危険が伴う。そのメモリは人の理性を軽く飛ばす。破壊衝動が溢れて暴れ回る獣になる。その獣と――相乗りする覚悟は、勇気はある?」

 

 ミーナさんの必死の忠告。

 

 

 

 ――――理性?ぶっ飛ぶ?

 

 ――――だからどうした?

 

 ――――俺は、理性の化け物だ。自意識の化け物だ。

 

 

 

「お兄ちゃん…………」

 

 小町の心配している声が…………聞こえる。はっきりと、この耳に。

 

 俺は、大きく深呼吸する。

 

「――やります」

 

 それだけ聞くと、ミーナさんは頷き、ある物を取り出す。

 

 赤色の、俺が持っているメモリが入りそうな形状をした薄い何か。

 

「それはロストドライバー。大道克己の、私の命の恩人の………。それで、あなたに『変身』の力を授ける」

 

 俺の腰にそのロストドライバーを付けるとベルトみたいに巻かれる。

 

 俺は立ち上がり、メモリにあるボタンを押す。

 

 

 

『――――ファング!!』

 

 

 

 音声が静かに響く。

 

 ファングメモリをロストドライバーのに差し込む。

 

「メモリスロットを倒して」

 

 ミーナさんの言葉の言う通りに倒す。

 

 倒した瞬間――――――――

 

 

 

 

 大きく、とてつもない波が俺に押し寄せる。

 

 波は、俺を溺れさせたいように、とても深く、強い。

 

 周りは真っ暗。

 

 光は全くない。

 

 誰もいない。

 

 孤独だ。

 

 この波が、恐らくミーナさんが言ってた破壊の衝動だろう。

 

 もし、この波に流されたら、呑まれたら、俺はきっと暴れ狂う。

 

 そんな感覚が伝わってくる。

 

 でも、今は、何とか、踏ん張れている。

 

 俺は、耐えている。

 

 俺は、抗えている。

 

 その間はまだ俺に理性があるということ。

 

 だから、大丈夫だ。

 

 だから、言おう。

 

 

 

 

 

「――――変身」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

「で、どうなった?」

 

 話を黙って聞いてた翔大郎が口を開く。

 

「ドーパントは何とか倒せました。それで倒した数分後に照井さんが来て、事のあらましを説明しました。ミーナさんはもういなかったからそこは伏せて」

 

「時系列からして僕らと会う前の彼女だね。その彼女はどこに?」

 

 フィリップの質問。

 

「小町が言うには電車に向かったらしいです。後は知りません。そもそもあの時、電車停まってたと思うんですけど……」

 

「つーか、よく照井は八幡のメモリを回収しなかったな」

 

「『お前が持っておけ』と言われました。ま、理由は分かりません」

 

「照井のことだ。何か意味くらいあるだろ」

 

「それにしても、波、か。興味深い。僕は地球の本棚が燃え盛るイメージだった」

 

 目を輝かせたフィリップにため息をつく翔大郎。

 

「おい、フィリップ。それは後でにしとけ。照井が言うんだし、八幡、お前が持っとけよ。………まぁ、とりあえず送るわ。千葉駅でいいか?」

 

「助かります」

 

「またねー。比企谷君!」

 

 亜樹子が手を振る。

 

「さようなら。コーヒーごちそうさまです」

 

「うん。じゃあねー」

 

 八幡は亜樹子とフィリップに礼をしてから、鳴海探偵事務所の扉を開ける。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、ここまでだな」

 

 千葉駅前。もう日も落ちている。

 

 八幡は翔大郎のバイクから下りた。

 

「今日はありがとうございました」

 

「いいってことさ。俺も貴重な話を聞けたしな。………でも、お前はファングを乗り越えていない。いつでも暴走する危険性があるってことだ」

 

「分かってます」

 

「気を付けろよ」

 

「………はい」

 

 そのまま翔大郎はバイクで去っていった。

 

「……………寒いな」

 

 家に帰るために歩き始める八幡。

 

 

 

 だが、八幡は翔大郎たちにまだ言わなかったことがある。

 

 それはマグマドーパントと戦った時、かなりの大ケガを負い、小町を心配させたこと。

 初めての戦闘+常に理性と戦っていたことが災いしてマグマの攻撃を喰らいまくったから。

 しかし、これはその内、竜から翔大郎たちに伝わるかもしれない。

 

 そして、これはミーナにも小町にも分からなかったが、マグマドーパントを倒した後、一瞬だが………暴走しかけたこと。目の前にいる小町を傷つけそうになったこと。

 

 ギリギリ変身解除が間に合って小町は無傷で済んだ。

 

 

 ――――最後に、これは八幡も気づかなかったことである。

 

 八幡が戦闘している最中、全身白い服で身を包んだ人が、八幡の戦闘を記録していたこと。

 

 

 

 

 

 

 

「開けたくねぇ………」

 

 鳴海探偵事務所を訪れた翌日の放課後。

 

 比企谷八幡は奉仕部の部室前にいた。

 

 朝に、由比ヶ浜結衣から部室に絶対来るよう釘を刺された。

 

「うーっす」

 

 ゆっくりと、八幡はその扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 




Wのvシネマみないと少し分かりにくかったかもしれません。という作者も見たのけっこう前なんであやふやなんですけどねw

もう受験終わるまで投稿はしないぞ!

質問、疑問点、間違いがあれば報告等頼みます


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……俺が

随分久しぶりですね。
この話から物語は動く……と、いいなぁ。


「……うーっす」

 

 気だるげな挨拶をしながら、奉仕部の部室の扉を開ける。

 

「こんにちは、比企谷君」

 

「おう、雪ノ下。今日は珍しく罵倒はなしか」

 

「ヒッキー、遅いよ!」

 

「せんぱーい遅いですー。待ちくたびれましたよ~」

 

「掃除が長引いたんだよ。それと一色、あざとい」

 

 一色はここにいる頻度は多いが、これまた珍しい奴もいるな。

 

「やぁ、比企谷」  

 

「……おう、葉山」

 

 俺ららしく短い挨拶で済ます。

 

 雪ノ下と由比ヶ浜はいつもの場所に、来客用の場所には葉山と一色が座っている。

 

「お邪魔してるよ」

 

「邪魔するなら是非とも帰ってほしいな」

 

「それは君の話を聞いてからね」

 

「あっそ……」

 

「そういえば隼人君、戸部ッちは来てないの?」

 

「あぁ、翔はサッカー部で僕の代理を頼んでるよ」

 

 あの時いた総武高のメンバーからハブられるとは哀れ、戸部よ。まぁ、新年度や大会に向けて練習忙しいんだろうな。

 

 俺も定位置に座る。

 

 さーて、ここからどうなるんだ。俺に進行役とかやれって言われても無理だぞ。そもそも何を聞かれることやら。

 

「それで、比企谷君」

 

 と、ここで話を切り出したのは雪ノ下。

 

「昨日、私なりにあの怪物を調べたのよ。検査や事情聴取が終わってからそれなりの時間があったからね」

 

「おう。それで?」

 

「あれは一時期、風都で話題になったガイアメモリを用いたドーパントと呼ばれる怪物で合ってるかしら?」

 

 今のネット時代、そのくらいの情報なら簡単に分かるか。俺だってグーグル先生にお世話になった。

 

 照井さんも基本情報くらいしか教えてくれなかった。ガイアメモリを作った組織の名前はミュージアムだったか。あとミュージアムのスポンサーについても少し教えてくれたな。そのくらいだ。

 

 後は自分で調べたなー。

 

「正解。といっても、俺も詳しくは知らないぞ。多分ドーパントに関しては雪ノ下と同じくらいの知識しかない。」

 

 せいぜい、今は裏ルートで横流しされているガイアメモリが急増しているくらいだ。

 

「なら、何故君もそのガイアメモリとかいう代物を持っていたんだい?」

 

「……成り行き」

 

 葉山に適当に返答する。そううとしか言いようがない。

 

「てことはヒッキーはその、どーぱんと?ってことなの?」

 

 次に由比ヶ浜の質問がくる。

 

「俺は違うぞ。ドーパントってのはガイアメモリを体に直接差してある状態の怪物だ」

 

 昨日フィリップさんから聞いたけど、ファングでドーパントになったら、確実に身を滅ぼすまで暴走するらしい。ロストドライバーでも普通は暴走するが、俺はギリギリの所でしていない。

 

 フィリップさんは左さんのジョーカーメモリのおかげでファングとの釣り合いがとれて暴走はもうしていない。

 メタルとかトリガーのメモリならファングとの釣り合いがとれずに暴走するって言ってたな。左さんの相性が良いメモリがジョーカーだとか。まさに切り札だな。

 

「あー、確かに先輩は何かを腰に巻いてましたね。あれは何なんですか?」

 

「……そこまでは教えれない」

 

 照井さんに「一般人には君の情報を言うなよ。どこから君が狙われるか分からない」と、忠告されてる。

 

「比企谷君、その成り行きとやらを教えてもらえるかしら?」

 

 と、雪ノ下。

 

「……ノーコメントだ。誰だって言いたくないことがあるんだよ」

 

 メッチャ睨んでくる。

 

 雪ノ下の睨みは怖いな。そんなに怒らなくても。

 

「じゃあ、雪ノ下。今、この場でお前が過去されたイジメや嫌がらせを全部、細かく言えるか?」

 

「そ、それは……」

 

 その問いに雪ノ下と葉山が微妙な表情を浮かべる。

 

 そっちがその気なら、良い気はしないが、少し卑怯な手をこっちも使うぞ。

 

「だろ?だからあまり詮索してほしくないんだよ。できれば、お前の姉にも、な」

 

 ………あの人なら余裕で調べてきそうだけどな。情報網どうなっているんだろ。人海戦術か?それとも脅し?はたまた自分の足で調べてるんか?

 

「ごめんなさいね。姉さんにもなるべく内緒にしておくわ」

 

「そうしてくれ」

 

 ………あれ、もう引き下がった。突っかかってくると思ったが、素直だな。

 

「ゆきのんはねー、ヒッキーに助けられたから今日は強く言えないんだよ。いつもなら何かを織り混ぜるのにね」

 

「ゆ、由比ヶ浜さん……」

 

 焦りの色を見せる雪ノ下とどこか自慢気な由比ヶ浜。仲良いね、君たち。

 

「由比ヶ浜、よく織り混ぜるなんて言葉知っていたな。そっちの方が驚きだわ」

 

「私もそう思いまーす」

 

「ちょ、ヒッキー、いろはちゃん、2人とも酷い!」

 

「だったら、結衣。空気に含まれている気体を3つ言ってみて」

 

「隼人君!?……えーっと、酸素と二酸化炭素と…………」

 

 由比ヶ浜、オーバーヒート。

 

「さすが由比ヶ浜、安心したわ。答えは窒素な」

 

 葉山まで乗ってくるとはな。案外ノリ良いな、こいつ。……というより、窒素も言えないのか。小学生の高学年で習うだろ。

 

「由比ヶ浜さん、受験生にもなるのに、それも答えられないなんて……。また由比ヶ浜さんの為の勉強会開きましょうか」

 

 あ、由比ヶ浜詰んだ。お疲れ様でーす。

 

「結衣先輩、ご愁傷様です」

 

「あら、一色さん。そう言わずにあなたもどうかしら?テストも近いことだし、教えてあげましょう。生徒会長たるもの、せめて平均点よりプラス10点は目指しなさい」

 

 さっきまでの一色の笑顔が消えた、だと!?余計なこと言うから………。

 

「そのー、今回は遠慮とかは……」

 

「安心なさい。私が教えるのだからそのくらい取れるようにするわ」

 

「……先輩の勉強に影響は」

 

「日々、予習復習はそれなりにしているの。他にも受験に向けて勉強は進めているわ。それにきちんと自分の時間も確保するようにするから大丈夫でしょう」

 

 雪ノ下の容赦ない口撃に俺と葉山、互いに苦笑い。

 

 強く生きろ、一色。

 

「いろはちゃん、頑張ろうね!」

 

 やべぇ、由比ヶ浜。雪ノ下への生け贄が増えたからかメッチャ乗り気なんだけど。

 

 この2人に心の中で敬礼をする。生きて帰れよ。………他人事じゃねーな。俺も勉強しないと。

 

 部室にピコンと誰かの携帯の通知音が鳴る。葉山か。戸部辺りから連絡がきているのか、スマホを見ている。

 

 葉山はすまないが、と前置きをし、

 

「俺はそろそろ部活に戻るよ。押しかけて悪かったね。……そうそう、比企谷。この前はありがとな」

 

 それだけ言い残し去っていった。

 

 咄嗟のことで、俺は何も言えなかった。あいつが俺に礼をか………。

 

「そうですよ!話逸れましたけど、私たちちゃんとお礼言えてません!」

 

 一色はここぞとばかりに話題転換してくる。

 

「いや、別に礼とかいらない……」

 

「そうだね。留美ちゃんからもお礼頼まれてたんだよ」

 

「だからいいって」

 

「ということで、ヒッキー、助けてくれてありがとね!留美ちゃんは照れながら『八幡にありがとうって言っといて』だってさ!可愛かったよ!」

 

 ………話聞けや。つーか、ルミルミもか。

 

「人の感謝の気持ちは素直に受け取りましょうよ、先輩。私からもありがとうございました」

 

「そうわね。あなたが居なかったら、怪我では済まなかったのかもしれない。比企谷君、助けてくれてありがとう」

 

「お、おう……。どういたしまして」

 

 あれだな、面と向かって言われると、普通に照れるわ。

 

 

 

 

 そんな感じで、その後は特に何も事件は起こらず時間は過ぎた。

 

 2月中旬のテストは(数学以外)は無事に乗り越えた。一応数学は何とかギリギリで赤点回避はできたぞ。それでもぶっちぎりで悪いけど。これで進級できる。

 

 テストが終わった直後の由比ヶ浜と一色は魂が抜けてた。雪ノ下の指導大変だったんだろうな………。同情するわ。

 

 テストが終わるや否や、国公立か私立か等の進路選択に向けた授業が始まった。

 

 当たり前だが、この時期になると休む暇ないよな。難関国公立を狙っている奴らは2年の夏休みから本格的に勉強に取り組んでいるらしい。

 

 俺は数学があれなので私立狙いだ。3学期と3年の1学期の途中までは英単語や古文単語、今まで習った世界史の範囲に絞るつもりで勉強している。

 

 

 そんなある日。昼休みも終え、今は午後のウトウトする時間帯の授業だ。しかし、平塚先生の古文の授業だ。寝たら死ぬ。

 

「ここの敬語は二重尊敬にあたるから、主語は中宮定子になる。このように文末の表現から主語を決定できることが多くあるので覚えておくように。…………む、何だ?」

 

 先生が喋っている途中、廊下からコツコツと足音が聞こえる。ハイヒールで歩いてるみたいだ。

 

 ここ、土足禁止なんだが。誰だよ。

 

 俺を含むクラス全員がその音に気を取られ、廊下に顔を向ける。 

 

 ガラガラ!

 

 勢いよくここの教室の扉が開く。

 

 入ってきたのは、全身真っ白なスーツを着ていて、雪ノ下並の髪の長さの黒髪の女性だ。随分美人だ。………親にしては若すぎるし、誰かの親戚とかか? 

 

「お、おい、君は誰だね?」

 

 先生が近づくと、その女性は先生をけっこうな勢いで払いのけた。

 

 ………お、おい!?

 

 いきなりな事態にクラスがざわめき始める。俺も何が起こっているのか飲み込めない。

 

 先生や俺らクラスの様子は気にせずに俺らを見渡す。

 

「ここに比企谷八幡はいますか」

 

 ……………は?俺??

 

 当然何を言い出すかと思えば……俺に用だと。物好きもいたもんだな。その前に誰だよ、今まで見たことないぞ、こんな奴。

 

「………君ね」

 

 周りの反応でバレた。全員の視線が俺に集中しているから当たり前か。君ら大半ヒキタニって間違えてるのによく分かるなこの野郎。

 

「比企谷八幡。我々と一緒に来てもらえませんか?」

 

「だから、誰だよ。嫌だ、断る」

 

 当然俺は拒否する。

 

「ふむ。断るというならこちらにも考えがあります」

 

 俺の話聞こうぜ。 

 

 と、俺の思いとは裏腹にその女性はスーツの内ポケットから何かを取り出そうとしている。

 

「……っ!」

 

 直感で、それが危険だと分かる。そのせいで勢いよく立ち上がってしまう。

 

 何故なら、何回かそれを見てきたから。雰囲気で感じる。

 

 ――ヤバい。

 

「我々は、財団X」

 

 その女性はそう名乗る。

 

 その何かとは………金色の、ガイアメモリだ。 

 

 

 財団X。

 

 その名前は確か照井さんが言ってたミュージアムのスポンサーだった企業。今では世界征服とか企むヤバい組織。

 

 すぐにブレザーからロストドライバーとファングメモリを取り出す。

 

 照井さんか左さんに連絡は……できない。そんな時間がない。由比ヶ浜も葉山もさすがに連絡先は知らない。

 

 ロストドライバーを腰に巻きつける。

 

 ――独りで戦うのか。……別にいつも通りだ。大丈夫。さっさと、こいつをここから追い出さないと。

 

 先生やクラスの奴らが何が起こっているのか分からないだろう。ざわついている。

 

 そんな教室に、

 

 

『ナスカ』

 

『ファング』

 

 

 2つの電子音声が響く。

 

「はぁー………」

 

 深呼吸をして、気を鎮める。焦るなよ、ファングに呑まれることになるぞ。

 

 ファングメモリをロストドライバーのメモリスロットに差し込む。

 

 そして、メモリスロットを倒す。

 

 

 

「……変身」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回から戦闘です。分かりやすく描写できるよう頑張ります!


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まだ、まだ大丈夫

風都探偵を読みました。面白い!!
ノッてきたのでこちらを投稿します。三人称視点は難しい。


 比企谷八幡のその身は、白く覆われ、目は紅く、触ったら手が切れそうなくらい刺々しい躰になる。

 

「ひ、比企谷?」

 

 この学校の教師である平塚は教え子の変貌に、目の前で起きている出来事に混乱している。他の生徒も同様に。

 

 由比ヶ浜結衣と葉山隼人、戸部翔だけがギリギリ理解している。

 

 ――比企谷八幡がこれからまた闘うということを。

 

「すいません、先生。教室少し壊します」

 

 八幡はそれだけ言うと、自身の敵を見る。

 

 その姿はさっき財団Xと名乗った綺麗な女性とは似ても似つかない変わった姿である。

 

 ナスカメモリはゴールドメモリと分類される。ガイアメモリの中でも最上級だ。そのメモリを腰に付けてあったバックルに差し込み、ナスカドーパント、レベル2になった。

 

 八幡は軽く跳び、ナスカの首を勢いよく掴みそのまま外に力任せに放り投げる。

 

 ナスカはそれに反応せず、受け身をとる。が、勢いがありすぎて教室の窓を突き破り、校庭に落下する。

 

「ひ、ヒッキー………」

 

「比企谷………」

 

 結衣と隼人の心配そうな声が八幡に届く。

 

 それに応えず、八幡は壊れた窓から校庭に飛び降りる。

 

 立ち上がったナスカに、

 

「……ここから出ていけ」

 

 低い声でそれだけ言う。その直後、思いきりナスカの腹を力を込めてぶん殴る。

 

 その様子は急いで決着を付けようとしているようだ。

 

 

 実際に八幡は早く追い出そうと急いでいた。急ぐのには理由があった。

 

 ファングメモリはあまりの狂暴性を持ち合わせているメモリである。その力を理性で抑えているのが八幡の現状。

 

 時間が経ちすぎると、その理性が徐々に削られ暴走する危険が高まるからだ。八幡の台詞で言うなら、波に呑まれる。

 

 加えて、その正確な時間が分からない。

 

 

「残念ですが、それはできない相談」

 

 しかし、余裕そうに八幡の攻撃をナスカは自分の剣で衝撃を受け流す。

 

「だったら力ずくだ」

 

 八幡の右手首から約1mの鋭利なブレードが生成される。右手を前に構え、一気に飛びかかる。

 

 ガキィィンッッ!!

 

 八幡のブレードとナスカの剣が激しくぶつかり合う。火花が散り、互いにつばぜり合いみたいに踏ん張る。

 その状態で攻撃をいなしながらナスカは八幡の腹に蹴りを入れる。

 

「ぐっ!」

 

 思わず八幡は後退する。

 

 例えファングの方が力も速さも上。でも、戦い慣れているのはナスカ。体捌きがナスカの方が圧倒的に上手い。

 

 その差があるのは今の攻撃で八幡は理解した。

 

 八幡がこの姿に変身した回数は僅か4回。

 

 まずミーナと会った日。

 

 次に照井竜に最初変身した時について後日詳しく事情聴取された日。裏ルートのドーパントが街を襲っていた。

 その時は竜がサポートしながら八幡にドーパントを倒させた。

 

 3回目は奉仕部+サッカー部と出掛けたあの日。

 

 そして、4回目は――今。

 

 本来、一般人の八幡には必要のない経験。それでも、この場で必要とされている戦闘の経験が足りない。

 

 八幡には格闘技や武道も経験がない。

 

 

 ――――だったら、もっと速く、速く。強く、強く。

 

 

 八幡の出した結論はごり押し。

 

 今、自分のできることをする。文化祭や体育祭、修学旅行でもそうしてきた。そう自分に言い聞かせる。

 

 手首からのブレードが消えると、空中にまた出現し、手に持ち換える。

 

「ふっ」

 

 手に持ったブレードをブーメランの要領で投げる。

 

 ナスカは真正面に飛んできたブレードを剣で弾く。ブレードは大きく上に軌道を変える。

 

 ――が、

 

「なっ!」

 

 ここで初めてナスカがろ驚きの声をあげる。

 何故なら、弾かれたブレードがナスカの背中を斬ったから。

 

 その隙を逃さず、八幡は単調だが、一般人なら目に捉えられないスピードで蹴りを繰り出す。

 

 ドゴオオォォォン!!!!

 

 ナスカは腹にモロに蹴りを喰らい吹っ飛ばされる。

 

 蹴りをした体勢を整えると、八幡の手に戻ってきたブレードを持つ。

 

 このブレードは八幡の思い通りに動かせる。しかし、それに気を取られると、今度は八幡自身の動きが疎かになる。まだ自由にブレードと体を操れるほと程こなせない。

 

 だから、斬ったら、動く。動いたら、斬る。その思考の使い方を竜から教わった。

 

 

 

「何故、俺を狙う?」

 

 警戒は解かずに、先程の蹴りでかなり吹っ飛んだナスカに近づく。

 

「それを答えても意味があるのですか?もし答えても、君が我々に付いてくるわけないですよね」

 

「もちろん。ただ、俺なんかに興味を持つとはバカな奴らもいたんでな。気になっているだけだ」

 

「そうやって自分を卑下するのですか。……貴方は貴方の価値を知らないんですね」

 

「俺の価値?……ハッ!仮にそんなもんあったとしても、ゴミみたいなもんだろ」

 

「実に勿体ない。やはり実力行使しかないみたいです」

 

「だな。……っ!?」

 

 それを口にした瞬間、ファングにより研ぎ澄まされた耳が何かの音を捉えた。

 

 

 ――――これは、エンジン音?

 

 

 率直に八幡が思ったことがそれだ。

 

「おや、来たようですね」

 

「いやいや、マジかよ……」

 

 その30秒後に総武高の校庭に3台の大型トラックが突っ込んでくる。

 

 そこから八幡は知らないが、全員がマスカレイドドーパントが降りてくる。スーツ姿に覆面を被っている格好。数は100人以上。

 

 八幡は唖然とする。

 

「増援か」

 

「すいませんね。私が早く来すぎたみたいです」

 

「おい!!」

 

 野太い男の声が八幡の耳に届く。

 

「……はぁ。遅いですよ」

 

 トラックの他に、この校庭に高級そうな車で来ている男がいる。

 

 小太りだが、かなり筋肉質な男だ。

 

「悪い。カーナビが壊れて迷った。つーか、お前が早いんだよ。少しは協調性を持て!」

 

 その男は叫びながらナスカに不満を漏らす。

 

「……おぉ!目標はこいつか!本当にファングになってらぁ!!」

 

 財団X特有の白いスーツからメモリを取り出すと、マスカレイドの集団の中から、

 

『ビースト』

 

 メモリの音声が鳴る。

 

 その男はコネクタ手術を施されている部分にメモリを差す。

 

 青い、獣のような姿になる。

 

 ナスカにマスカレイド多数、それに八幡は実力も能力も知らないビーストがいるこの状況に一言、

 

「ヤバい……」

 

 と、呟く。

 

 持ち時間内に全員倒しきれるかどうか、残りの持ち時間も正確に分からない。窓から八幡たちを覗いている野次馬の生徒や教師も守らないといけない。

 

 気持ちが逸る。焦る。

 

 ゆっくりとマスカレイドとビーストは八幡に近づく。

 

「さて、比企谷八幡。こーんな状況ですし投降しますか?」

 

 平気そうに立ち上がったナスカが提案する。

 

「……断る」

 

「果たして、本当にその選択は正しいのですか?」

 

「この学校の奴らを守りきれるか……ってことか?」

 

 率直に思ったことを尋ねると、

 

「いいえ、違いますよ」

 

 八幡にとって予想外の返事がくる。

 

「ここは進学校なのですし、1つ問題を出しましょう。我々が貴方を知ったのは8月頃です。何故我々は貴方を特定するのにこんなに時間がかかったのでしょうか?」

 

 ――8月。それは八幡が初めて変身した日のこと。今は2月だ。こんなに長い間空くとはおかしい。そう考える。

 

「答えは、なかなか貴方を探せなかった、です。我々も色々な仕事があるものでね。人員を貴方の捜索に割けなかったからですよ」

 

 ――ちょっとショック。俺ってそんなに影が薄いの?

 

 しかし、次の一言で八幡の気は変動する。

 

「なので、慎重にバレないように貴方を調べた。…………時に、比企谷八幡、貴方はとても大事な妹がいるそうですね?」

 

「何を急に………………って、まさか……お前!!」

 

 ナスカのその言葉で全てを察した。

 

 

 

 

 

 

 ――――妹が、小町が狙われている。財団Xに。

 

 

 

 

 

 

「………っ!!!」

 

 突如沸き起こる怒りや焦り、不安の感情に理性が揺さぶられる。冷や汗が流れ始める。

 

 このままでは我を忘れて目の前の相手に、後ろに集まっている集団や目の前のナスカに襲いかかってしまう。

 

 でも、その選択をしてしまっては取り返しがつかなくなる。

 

 暴走という波に呑まれそうになる八幡は無理矢理、理性を働きかけてその場に踏み留まる。

 

「……ガッ!……ハァ……ハァ……」

 

 マスカレイドの集団はそんな八幡を取り囲む。

 

 ナスカの隣に立ったビーストは、

 

「おい、俺の出番こんだけかよ」

 

「すいません。その代わり給料は多めにしますから」

 

「……ったくよー。せっかくだし、暴れたかったぜ。ファングと闘う機会なんざねーのによ」

 

 ビーストの文句を聞き流し、ナスカは八幡に向き直る。

 

「………で、比企谷八幡。今度こそ、とうこ―――」

 

 いきなりナスカの言葉が途切れる。それと同時に八幡も気づく。

 

 

 ――――上空から、何かが、来る!

 

 

 見事にこの2人の意見は一致する。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『トリガー・フルバースト!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然降ってきた数多の光弾がマスカレイドに命中し、数を1/3減らした。光弾に当たったマスカレイドは地面に倒れている。

 八幡、財団Xの前に現れたのは、仮面ライダーW、ルナトリガー。

 

 Wは自身のバイクを飛行形態にしたハードタービュラーから降りる。

 

「おお!これがロストドライバーでのファングの姿かー。お前が八幡だよな?」

 

「この声……左さん?」

 

「おう」

 

『それにしても、本当に理性を保っている。驚きだ。だけど、少し危ういね』

 

「フィリップさん……?」

 

 竜から話は聞いていたが、変身した姿を見るのは八幡は初めてだ。

 

『その通り。僕達は2人で1人の仮面ライダーさ。照井竜に聞いているだろう?』

 

「はい。……でも、スゴい違和感が」

 

「だろうな。ま、気にすんな。さあ、相棒。仕事だ」

 

『了解だよ、翔太郎』

 

 そこでWは右半身は赤色に、左半身は銀色に変わる。ヒートメタルにメモリチェンジした。

 

「それにしても、早いご登場ですね。仮面ライダー」

 

 ナスカが声をかける。

 

「まあな。見張らせてたし」

 

「えっ!」

 

 思わず八幡は驚く。

 

 翔太郎は八幡と別れてから今の今までずっとメモリガジェットに属するバットショットを用いて監視させていた。もしもの事を考えて。そして、悪い方向に的中した。

 

「良いのですか?今、攻撃すれば比企谷八幡の妹の命はないですよ?」

 

 冷静にナスカは言う。が、翔太郎は同じく冷静に返す。

 

「八幡の妹には怖いお巡りさんがついてるんでね。ちゃんと保護してくれたよ」

 

 その言葉で八幡、ナスカ両方は察する。

 

「えっ………。照井さんが?こ、小町は無事……?」

 

『もちろん。照井竜も君には世話になったと言っていたからね。このくらいは当然のことさ』

 

「良かった………」

 

 心から安堵する八幡。その様子を見ながら、フィリップはナスカに問いかける。

 

『こちらからも質問がある。もう財団Xはガイアメモリから手を引いたのでは?』

 

「それを答えても我々に利益はありません。……ですが、別にいいでしょう。簡単ですよ。コストが良いからです」

 

「あ?コスト?」

 

 と、翔太郎。

 

「ええ。コアメダル、セルメダル、アストロスイッチ、ガシャット………。我々が開発、またその手伝いをしていた物は軒並み金がかかるのでね。その点、ガイアメモリは設計図もあり我々なら簡単に製造できます。もちろん、他にも理由はあるのですが」

 

 コホン、とナスカは咳払いをする。

 

「では、また別の研究を見せましょうか」

 

 そこから取り出したのはその形状はまるで、

 

「…………錠前?」

 

 八幡の疑問にフィリップが思い出すように、

 

『翔太郎、沢芽市でのあれに似ているね』

 

「あぁ。ロックシード……だったな」

 

 そのロックシードと呼ばれる錠前が開かれる。

 

 ジイイィィィ。ファスナーが開くような音がする。音の発生源は上空。何個も森のような空間への割れ目が存在する。

 

 そこから出現した怪物は沢芽市で初級インベスと認知されていた。

 

 数はマスカレイドのおよそ半分――50体以上ははいる。

 

「おいおい、多すぎねーか?」

 

 あまりの数に翔太郎は文句を垂れ流す。

 

『そこまでして比企谷八幡を手に入れたい理由は何だ……?』

 

「フィリップ!それは後でだ。戦えるか、八幡?」

 

「はい」

 

 小町の安全を知ったおかげでかなり落ち着いた。

 八幡の脳内での波の勢いは変わってないが、踏ん張れる状態。まだどうにかファングを使えると判断する。

 

 ブレードを再び構える。

 

 

 ――――第2ラウンドの始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ええ感じの!サブタイがー!思い付かない!


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いずれは――――

遅れてすいません!



「ふっ!」

 

 八幡がブレードで斬り、ナスカがそれを受け流す。と、同時に迫っているビーストの殴打を八幡は腕で受け止める。

 

「おらっ!」

 

 ナスカと距離を取ると、すぐにビーストが声を荒げて攻撃してくる。

 

 八幡はそれをひたすら避ける。

 

 連続の攻撃が止んだ直後の隙を見つけてブレードでビーストの胸から腹にかけてを精一杯の力で斬りつける。

 

 ――――ザクッ!!

 

 と、肉を抉る生々しい音がする。   

「うっ……!」

 

 あまりの威力に後退するビースト。斬られた部分には深い傷が刻まれる。

 

 しかし、

 

「――そんなんじゃ、効かねぇなぁ」

 

 直ぐ様ビーストの傷は煙をたてて再生する。まるで何事もなかったかのように。

 

 ファングの力を受けてもなお、ビーストの余裕な姿を見て八幡は苛つく。

 

「……チッ」

 

「八幡!そいつにダメージ与えるなら、回復させる隙間なく攻撃するか、もっとデカイ一撃を叩き込め!」

 

『すまない、こちらも手を離せない』

 

 Wである2人はナスカが呼び出したインベスや多数のマスカレイドと交戦している。

 

 1対1なら問題ないWでも100体――これだけの数を鎮圧するのにはかなりの時間を有する。

 

「さあ………どうする」

 

 戦況の悪さに苛つく八幡。

 

 だが、苛ついては理性が削られるのは早まるだけ。冷静になり、自分の最善を探す。

 

 ――――先ずはナスカを。

 

 八幡は厄介な能力を持つビーストを後回しにしてナスカに狙いを定める。ナスカがリーダー格という理由もある。

 

 距離を詰めるために目にも止まらぬスピードで一気に跳び、ほぼ零距離まで近づく。

 

「ハッ!」

 

 八幡が唸る。

 

 八幡とナスカ両者は互いに持っているブレードで、目にも止まらぬスピードで斬りつけ合う。

 

 ――――………イケるか。

 

 これだけ近かったらビーストがナスカを援護するのは難しいと判断する。

 

 八幡の判断は正しく、ビーストは両者のスピードに付いていけずに手を出そうか迷っている。

 

「こっちもそろそろ加勢するぞ」

 

『もちろんだ、翔太朗』

 

 少しインベスの数が減って楽になったWはルナ・トリガーにメモリチェンジする。

 

 ルナ・トリガーの力で無数の弾丸を操り、マスカレイドたちを攻撃しながらナスカにも攻撃を当てる。

 

 その攻撃をナスカは剣を使って防御する。

 

 ――――ガキィィィン!!!

 

 が、その隙を八幡は見逃さずブレードでナスカの剣を弾く。

 

 弾かれた剣は上空に舞う。

 

「うらっ!!」

 

 そのままの勢いで腹に渾身のキックを繰り出す。

 

 ナスカは防御しきれずに大きく吹っ飛ぶ。

 

 八幡は追撃しようとしたが、ナスカに光の羽が生えてくる。ナスカはそれを用いて空高く飛ぶ。

 

 

 ――――俺では追い付けない。

 

 

 そう判断するや否や、次に八幡の元に来る相手は分かる。

 

「今度は俺だ!!」

 

 ビーストが八幡に突っ込んでくる。

 

「………っ!」

 

 八幡は上空にいるナスカを意識しながらビーストを対処しようとする。

 

 空にいるナスカはビーストを援護しようと直径20cmほどの光弾を10発以上を連続で上空から八幡とビーストにに向かって撃つ。

 

 ぶっちゃけビーストもナスカの光弾に被弾しているのだが、持ち前の再生能力でお構い無しに再生するので好き放題に八幡に攻撃できる。

 

 対する八幡はビーストの攻撃を捌きながらナスカの光弾を避けている。しかし、それも完全ではなく、所々攻撃は喰らっている。

 

「……くっそ」

 

「八幡!……フィリップ」

 

『分かってる』

 

 Wがナスカの光弾をルナ・トリガーの弾丸で打ち消しているが、インベスやマスカレイドも迎撃しなくてはいけなく、ナスカに撃てるのは限度がある。

 

 インベスの数は少しずつ減ってきているが、マスカレイドはインベスを盾にいているためまだ顕在だ。

 

「八幡、まだ耐えれるか?」

 

「多分大丈夫です」

 

『実に矛盾した言葉だ』

 

「八幡の援護をする前に、コイツらさっさと片付けるぞ」

 

『それならこれだ』

 

「おう」

 

 トリガーメモリをメタルメモリにチェンジする。

 

 神秘の黄色と鋼鉄の銀色の姿のルナ・メタルだ。

 

「おらっ!」

 

 翔太朗の気合いの籠った声と共にメタルシャフトが鞭状に伸びる。かなりの勢いを誇る鋼鉄の鞭はインベス、マスカレイドを薙ぎ倒す。

 

 みるみる数は減っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 Wがルナ・メタルに変わり、5分ほど経過する。

 

 八幡はビーストに細かい斬撃を繰り出しているが、ビーストは致命傷を避けて上手に回復している。

 

 ビーストもナスカの援護があっても、ビーストとナスカの攻撃に慣れてきたファングの速さに付いていけずに一撃を叩き込めない。

 

 上空にいるナスカは戦況が圧されているのを確認すると、ビーストへの援護を中止する。

 

「………思った以上に比企谷八幡の自我の持続が長い」

 

 いくらファングに耐えているといっても、ある程度したら暴走するだろうと考えていた。

 

 しかし、ナスカの想像よりも八幡は意識を保っている。

 

 ――――ふむ、どうしたものか…………。

 

 ナスカは飛びながら思考を巡らせる。

 

 これ程の理性を持っているなら、財団の計画には使えそうだとは思う。

 

 だが、これではいずれインベスもマスカレイドもいなくなり、ナスカとビーストではWもいることから比企谷八幡の回収ができない、と判断する。

 

 ――――戦力を増やしておけば………いや、比企谷小町にもっと対策をしておくべきだったか。

 

 内心そんなことを考えながら、一か八かの手段に出ようとする。

 

 ――――無理矢理でも、比企谷八幡に暴走してもらえば状況は変わるか。

 

 ここで、他に何かないかとナスカは調べてきた八幡の情報を思い出す。

 

 今までぼっちだった八幡。それは過去の話。今の八幡には大事な人たちがいる。そのように報告書に書いてあった。

 

 

 ――――確かその人の名前は………『雪ノ下雪乃』と『由比ヶ浜結衣』だ。

 

 

 これは使えると考え、校舎を見て、いるかどうか探してみる。

 

 結果は――――

 

「………いた」

 

 そこには資料と同じ2人の顔が ある。窓から八幡の様子を覗いているようだ。

 

 ナスカは考えた。

 

 ――――いくら比企谷八幡でも、この2人を傷つけたらさすがに動揺するだろう。

 

 ………と。

 

 殺さない程度で攻撃しようとする。

 

 幸いにもWはマスカレイドたちに、八幡はナスカの援護がないことから、さっさとビーストを仕留めようとナスカには意識が向いてない。今のナスカはフリーな状態だ。   

 

 ――――物は試しだ。

 

 

 ナスカの周りに光弾が数発浮かぶ。

 

 その光弾は雪ノ下と由比ヶ浜のいる教室に向かって発射されようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ!」

 

 それを最初に察知したのは八幡。

 

 ビーストから距離を取り、心を落ち着かせようとしたところで、さっきから鬱陶しかったナスカからの攻撃がないことに気づいた。

 

 どうしたものかと上を見上げると、校舎を見ているナスカが八幡の目に映る。

 

 ――――まさかっ!!

 

 猛烈に嫌な予感がする。

 

 そして、八幡は改めて今の状況を認識する。

 

 そうだった。ここは学校だ。俺は生徒や教師全員をを人質にされているようなもの――――だということを。

 

 加勢しにやってきたWの2人の安心感からかその意識は確実に薄れていた。ただ目の前の敵を倒せばいいのだと。

 

 勘違いだった。八幡の勝利条件は財団Xを追い出し、学校の人たちの被害をゼロにすることだった。

 

 さらに八幡は、ナスカの周りに光弾が浮かんでいるのを目視する。

 

 

 ――――ヤバい、止めないと!!

 

 

 そう判断する。すぐに、ブゥゥゥン!!!と、空気が切り裂く音がするほど力強くブレードを投げる。

 

 ダンッ!!と、地面を蹴る音がする。

 

 その音を出した八幡はブレードを投げたのと同時にファングの機動力を活かした跳躍でナスカに向かって跳ぶ。

 

 まず先に届いた攻撃は投げた八幡のブレード。ナスカの足に命中して、あまりの痛みにバランスを崩す。

 

 その瞬間、八幡の拳がナスカの腹にめり込む。

 

 しかし――――

 

「も、もう……遅いです」

 

 ナスカは大きなダメージを負うが、ニヤリと不敵に笑う。

 

「なっ………!」

 

 その学校を狙った光弾は八幡の願いを聞かずに無慈悲にも発射された。

 

 

 

 ――――ドゴオォォォン!!!

 

 

 

 爆発が起こる。

 

 それは教室が壊れる音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 八幡がナスカに攻撃をし、地面に落下している間に、ファングで強化された視力である光景を見た。………否、見てしまった。

 

 ナスカの光弾が教室の窓や壁に当たり、崩れたその瓦礫の下に、血を流した――雪ノ下と由比ヶ浜がいる光景を。

 

「あっ………」

 

 今まで出したことないような、喉から絞り出した、声にならない声を出す。

 

 混乱し、動揺し、そのまま地面に着地できずに背中から落ちる。

 

 落ちた瞬間、かなりの衝撃が八幡に伝わる。

 

 それにも関わらず、まだ立ち上がろうともしない。ずっとピクリとも動かずに倒れている。

 

 サイクロン・トリガーに変わり、迎撃しようとしたが、間に合わなかったWの2人、ビーストとナスカ――財団Xも倒れて動かない八幡の様子を観察している。

 

 その間も八幡は動揺している。

 

 

 ――――俺のせいで雪ノ下と由比ヶ浜が?

 

 ――――俺がいたから傷ついた?

 

 ――――俺が……俺がッ…………!

 

 

 あの2人を守りきれなかったという後悔の念に襲われる。

 

 八幡は自分を責めて、冷静になれずにいる。

 

 ファングを扱うためには冷静さを保たないとならない。だが、それを八幡は今できない状態にいる。

 

「あっ!………ガッ……ハァ……ハァ………」

 

 呻く。のたうち回る。まるで獣みたいに。

 

 今、八幡の理性は削られている。それはかなりの勢いで。

 

 前に探偵事務所で言った八幡の言葉を借りるなら、波に呑まれている。

 

「うっ……!」

 

 

 

 これは………八幡がファングを使ってる時の脳内のイメージの話だ。

 

 八幡は暗い、暗い水中にいた。そこから流れる強い波の勢いに踏ん張って押されないようにギリギリ耐えていた。

 

 しかし、雪ノ下と由比ヶ浜に怪我を負わせたことから動揺した。そのせいで、踏ん張れなくなった。

 

 脚が縺れ、流される。手を伸ばしても何も掴めない。流され、行き着く場所は分からない。

 

 

 

 ――――八幡の意識はここで途切れる。

 

 

 

「フィリップ!これはっ!?」

 

『………間違いない』

 

 マスカレイドやインベスを片付けたW。

 

「おい、ナスカ!これが?」

 

「えぇ。……私自身も初めてです」

 

 地面に降りたナスカ近くにビーストが近づく。

 

 この4人が見たのはさっきまでの八幡ではない。

 

 そこにいるのは全身は白く。瞳はさっきまで紅かったが、暗い紫。より刺々しいフォルムで覆われた別の……何か。

 

 4人は口を揃えて言う。

 

 

 

 

「『「「暴走」」』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




個人的にWは多対一が苦手なイメージ。だから、八幡の様子に気づくのが遅れたということで。

まあ……その、暴走に関してはお約束ってやつです。

アカン、三人称難しい。何か不明、疑問がある箇所があれば教えてください。


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牙の暴走

遅れて本当に申し訳ないです!私生活が忙しい+別のシリーズを書いてたりと色々あったのです。

短いですが、ご容赦を………


 辺り一帯が静かになる。

 

 ここにいる全員が八幡を注視する。

 

 暴走しているであろう八幡に対してどう動けばいいか、Wの2人も財団Xも様子見をしている。

 

 たが、そんな中、八幡――否、ファングに近付く奴がいた。さっきまで戦っていたビーストだ。

 

「あのバカ…………」

 

 ナスカが小さく呟く。

 

 警戒しながら、少しずつ近付く。あと1mほどで触れるその距離まで行くと………

 

「……ッ!?」

 

 

 ――――ザクッ。

 

 

 予備動作もなしにこの場にいる人では目にも追えないスピードで一気に跳び、ファングのブレードをビーストの腹に突き刺す。

 

「うっ………!」

 

 ビーストは恐るべき再生能力を持っている。が、ファングはまるで再生させないようにずっと刺し続け、今までにないダメージを与えている。

 

 右手でブレードを持ち、左手でメモリを取る。ファングメモリをマキシマムスロットに入れる。

 

 その間にも何とか振り払おうとビーストは抵抗しているが、ファングの力が相手では全く敵わない。

 

『ファング――マキシマムドライブ!』

 

 その音声が鳴り響くと、ファングのブレードが蒼白く輝き始める。

 

 ブレードを腹から引き抜くと同時に、ブレード周りの蒼白いオーラが段々と大きくなる。そして、ビーストに向けて一直線に振り下ろす。

 

 一刀両断。この言葉が似合うくらいな強力な斬撃をビーストに喰らわせた。

 

 

 ――――ドガアァァン!!

 

 

 大きな爆発が起き、ビーストメモリは砕け散った。

 

 さっきまでビーストになっていた人間は爆発やメモリブレイクの影響で、ファングの足下で気絶する。

 

 ファングはビーストの撃破を確認なんかぜずに、もう1度マキシマムスロットを叩く。

 

『ファング――マキシマムドライブ!』

 

 またもやブレードは蒼白く輝く。それをブーメランの要領で投げる。

 

 そのブレードは残っているマスカレイドたちを無慈悲に斬り裂いた。

 

 それだけでは終わらない。

 

 

 

『ファング――マキシマムドライブ!』

 

『ファング――マキシマムドライブ!』

 

『ファング――マキシマムドライブ!』

 

『ファング――――マキシマムドライブ!』

 

『ファング――――マキシマムドライブ!』

 

 

 

 マキシマムスロットを何回も叩く。

 

「なっ………!?」

 

 マスカレイドたちを斬ったブレードは、ナスカに向かう。

 

 ファングがマキシマムドライブを発動しながら、何回も切り裂き、攻撃する。

 

「ぐっ!」

 

 ようやく攻撃がある程度収まり、ナスカが剣でブレードを何とか弾くと、ファングはそのままキャッチする。

 

 その流れでナスカを的確に斬りつける。

 

 

 

「おい、フィリップ」

 

『あぁ………。これは僕の時よりも遥かに強いね』

 

 1歩下がりながら、翔太朗とフィリップは状況を分析する。

 

 フィリップが暴走した時はファングの力に呑み込まれ、ただの獣のように暴れていた。しかし、八幡の場合はまるで獣というよりは機械に近い。

 

 それに加えて、あのファングメモリはT2。

 

「とりあえず、どうやって止める?」

 

『比企谷八幡には悪いが、ある程度ダメージを与えてメモリを抜くしかないね』

 

「………だな」

 

 

 Wの2人が話しているころ、ナスカはファングの猛攻を喰らい続けてボロボロになっている。

 

 少しは防御できたが、それ以上の怒濤の攻撃に成すすべなくダメージを負う。

 

「くっ………」

 

 ナスカはWの後ろを旋回しながら飛び、ファングを誘導する。

 

 それは成功し、ファングのターゲットはWの2人に移る。

 

「てめっ、コラ」

 

 ファングの攻撃を凌ぎながら翔太朗は毒づく。

 

「すみませんね。ここは一旦撤退させてもらいますよ」

 

 ナスカはそう言うと、Wがファングに気を取られているのをいいことに、倒れているビーストやマスカレイドたちを無理矢理引っ張りトラックに乗り込ませる。

 

「逃げんな!」

 

『翔太朗、まずはこっちからだ』

 

「分かってるよ!」

 

 メモリチェンジをし、火力の高いヒート・メタルに変わる。

 

「うらっ!」

 

 メタルシャフトでファングを殴りかかる。ファングは紙一重で避け、その流れでWの腹を蹴ろうとする。が、メタルシャフトを器用に動かしそれを防ぐ。

 

 次にルナ・メタルになり、鞭のようにしならせたメタルシャフトでファングの体を巻き付ける。

 

 ――――ブンッ!!

 

 それに対して思うように動けないファングはメタルシャフトを片手でギリギリ掴み、ただただ力任せにぶん投げる。

 

「嘘だろ!?」

 

 翔太朗がそんな声を上げると同時にWは空高く舞う。

 

『流石だね』

 

「感心してる場合か。だったら………」

 

 空中でWの基本フォームの中で最高火力を誇るヒート・トリガーの姿に変わる。

 

 そのまま火炎弾を撃ちまくるが、サイクロン・トリガーのような速い弾速はなく最小限の動きで避けてしまう。

 

 それでも、火炎弾のせいでファングはWに近づけずにWは無事に着地する。

 

 

 

 

 そのような攻防がしばらく続く。

 

 Wは途中、何度もメモリを変えながらファングの攻撃を凌いでいる。しかし、なかなか決定打となるようなダメージは与えられていなく、ファングの勢いはさらに増していく。

 

 ルナ・トリガーで弾幕を増やし、ファングから大きく距離を取る。

 

「おいフィリップ、埒が明かねーぞ。それどころか、俺らがやられてしまうかもよ」

 

『仕方ない。こうなったらエクストリームで一気に決めようか』

 

「そうするか」

 

 そう言った直後、Wの元にエクストリームメモリが飛んできた。

 

 次の瞬間――――

 

「何ッ!?」

 

『あれは………?』

 

 

 

 

 

 

 

 天からオレンジ色の光が降り注いできた。

 

 そして、その光はやがてオレンジ型の球体となり、ファングをその中に閉じ込めた。外から見ると、それは薄いオレンジ色の膜だ。

 

 ファングはその光の膜を殴り、蹴りかかるが………ビクともしない。

 

 今度は球体の中から謎の植物が複数生えてくる。

 

「フィリップ」

 

『………検索をかけているが、分からない。あれは地球上の植物なのか? 興味深いね。ゾクゾクするよ』

 

 その植物はファングの四肢に絡み付く。ファングは抵抗を試みるがまるで効果はない。

 

 その内の1本がロストドライバーのメモリスロットを元の位置に戻し、ファングメモリを抜く。

 

 変身は解けて比企谷八幡の姿に戻る。

 

 それを確認すると、Wも変身を解き、翔太朗に戻る。エクストリームメモリにいるフィリップも校庭に降り立つ。

 

「何だったんだ、あれは……? 味方、なのか?」

 

 翔太朗の呟きに、

 

「詳しく調べてみる必要がありそうだ。それよりも翔太朗、比企谷八幡は僕が見ておくから君は救急車を呼んでくれ」

 

「そうだった。……分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、高評価よろしくお願いします。めちゃくちゃ喜びます



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己の罪は――

 激しい波が、俺に押し寄せてくる。

 

 流されないように踏ん張る。

 

 でも、あっさりと、俺はそれに呑み込まれる。

 

 どれだけもがいても、止まれない。

 

 どこまで流されるか分からない。

 

 その途中、ふと横を見ると、俺と同じく流されている雪ノ下と由比ヶ浜がいる。

 

 必死に手を伸ばす。けど、何も掴めない。全く届かない。俺の手では。

 

 2人を呑み込んだ波は、やがて激しくなり、どこか遠くへ流されてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 …………………俺の、せいで。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

―――――――

 

――――――

 

―――――

 

――――

 

 

 

 

「………」

 

 目を覚ます。今のは夢か。

 

 俺の目に映るのは天井だ。ここはあの有名な台詞を言うべきか……いや、この天井は知っている。学校の保健室だ。

 

 あれ? つーか、何で、俺は保健室に……? 何があったんだ?

 

 まだはっきりとしていない意識を働かせ、記憶を整理する。

 

「……うっ!」

 

 記憶が鮮明になっていく。

 

 ――――そうだ。雪ノ下、由比ヶ浜が……俺のせいで怪我を。あいつらどうなった? というか、あれから何があった?

 

 カーテンを捲り、急いでベッドから出る。外を見ると、もう夜に差し掛かる時間帯だった。

 

「よう、平気か?」

 

 保健室のソファーに座っている左さんが声をかける。

 

「えっ……まぁ、はい。そ、それより!」

 

「分かってる、分かってる。じゃ、あれからのこと話すぜ」

 

 左さんは俺を宥めつつ、話を進める。

 

 

 俺はあそこで意識を失い、案の定暴走を始めてしまった。

 

 それから財団Xは撤退し、俺はよく分からない誰かのおかげで変身を解除してもらったらしい。

 

 その後、授業は途中で中止になり、怪我人は救急車で運ばれた。その中には雪ノ下と由比ヶ浜もいた。

 

 運ばれた生徒に命に別状はなく、そこまで酷い怪我ではなかった。

 

 俺は気絶してたが、特にこれといって怪我はなく、ここ――保健室のベッドで寝かされていた。

 

 そして、小町だが、照井さんが小町を保護してくれた。また狙われる可能性があることから、小町はしばらく警察で世話されることになった。何でも、亜樹子さんが面倒を見てくれるらしい。

 

 

「と、まぁこんな所だな」

 

 とりあえずあいつらは無事なんだ。

 

 そこだけは、良かった。本当に。

 

 でも、俺がいたから財団Xはここに来た。そして、結果としてあいつらに怪我を負わせてしまった。

 

 その――俺の罪は、絶対に消えない。俺に一生付きまとうことになる。

 

「色々と、ありがとうございます。それと、ごめんなさい」

 

 か細い声で伝える。

 

「いや、一般人のお前を戦わせてしまった責任が俺たちにもあるからな。それぐらい当たり前だ」

 

「……ファングはどうしたらいいですか?」

 

 まだ俺の手元にあったメモリとドライバーに目を向ける。

 

「財団Xの目的はT2のファングじゃくて八幡っぽいからなぁ。できれば持っててほしいんだが……やっぱ厳しいか?」

 

「…………いえ、大丈夫です」

 

 答えるのに大分時間がかかった。

 

 左さんの手前、そう言った。

 

 けれど、またこれを使って、周りの誰かが傷付けば……俺の大切な人たちがこれ以上傷付けば…………。

 

「……っ!」

 

 今まで感じたことのない寒気に襲われる。鳥肌が止まらない。歯が震える。

 

 初めての感覚だ。今まで生きてきたなかで、俺の行動の結果で不幸……と言えば変だが、直接誰かの命に関わるような結果にはならなかった。

 

 だが、今回思い知った。俺がいることで誰かが、俺の大切な人が死ぬかもしれない――その事実に。

 

 ファングを手にしてしまったことの重大性に、ファングを使うということの意味を、戦うことの怖さを……俺はやっと理解した。

 

「今日のことは色々すまなかった。家まで送るよ」

 

 そんな思考を遮るように、左さんにヘルメットを渡させる。

 

「は、はい」

 

 

 

 

――――――

 

―――――

 

――――

 

 

 

 

 

 

 左さんに送ってもらい、家の前で。

 

「そうそう。明日は学校休みって言ってたぞ。警察が色々と捜査にあたるからよ」

 

「そうでしたか」

 

「また明日の朝にでも迎えにいくよ。これからの対策をフィリップとも練らないといけないしな」

 

「そういえば、フィリップさんは?」

 

「事務所で色々調べてるが……」

 

 突然、頭を抱える左さん。

 

「どうしたんです?」

 

「お前が助けられた時の状況言っただろ?」 

 

「確かオレンジの膜とか謎の植物ですよね」

 

「あぁ。それに夢中になっててな。今はマトモに話せる状態じゃねーんだよ」

 

 知識の暴走列車だったか。フィリップさんの知らない対象が現れると、それを調べ尽くすまで左さんとかの話は全く聞かないらしい。 

 

「だから、話は明日からだ。ゆっくりと休んでくれよ。八幡の思ってるよりもずっと、体は疲れてるはずだからな」

 

「は、はい。それでは」

 

「おう、じゃあな」

 

 そう言って左さんは去っていった。

 

「…………………」

 

 休めって言われたけど、到底そんな気分になれない。まだ俺の心の整理はできていない。

 

 正直、左さんと普通に話せたこと自体が驚きだ。そのくらい俺の心が追い詰められていることが、嫌でも分かる。

 

 ――――目の前の景色が色褪せて見える。

 

 玄関の鍵を開け、明かりのない暗い空間のリビングにただ独り佇む。

 

 カマクラは小町と一緒に預かってもらっている。誰もいない。静かな家だ。

 

 その最中、やっぱり頭に浮かぶのは罪悪感だけ。それも、時間が経つごとに増していく。

 

「クッソ…………」

 

 これ学校で、いつも通り……いや、それ以上に、もう全員から「来るな!」って言われるだろうな。もっと罵られるだろうな。雪ノ下と由比ヶ浜以外にも怪我をした生徒もいる。俺の責任だ。俺の、俺の…………。

 

 文化祭とかの時は陰口程度で済んだけど、今回は訳が違う。俺を恨む奴がたくさんいるに違いない。絶対にいる。

 

「…………」

 

 ドサッとソファーに倒れ込む。

 

 いっそのこと、逃げるか? 全部投げ捨てて。まぁ、今となってはそれもアリだな。でも、いずれはまた財団Xから狙われるかもしれない。そんなの、ただのいたちごっこだ。何も解決しない。

 

 だったら、この問題自体を解決するために財団Xと戦うか? ……それこそ厳しい。

 

 もうファングを使うのが怖い。とても怖い。二度と使いたくない。あれ以上ファングを使えば――――

 

「俺が、俺でなくなる」

 

 恐らく、ただの戦闘マシーンに成り下がる。フィリップさんはよくこれを乗り越えたよな。俺にはムリだ。

 

 …………これから先、俺の罪と、どう向き合えばいいだろう。

 

「誰か教えてくれ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。そのわりに短くてすみません…………

実はここで八幡が逃げてオカマパティシエに雇われる……みたいなルートもありました


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