幻想郷は夢を見る。 (咏夢)
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登場人物紹介(?)[最終更新:4/2]

最初に投稿すべきだったのだろうなぁ、とつくづく思います。暇なら気軽に見ていって下さい。

随時更新していきます。



たまに本編の微ネタバレがあります。注意して下さい!

 

【如月魅空羽は夢を見る。】

主人公

name

 

如月 魅空羽(きさらぎ みくは)

[冬の宙を操る程度]

 

school

 

中学3年生。少し田舎にある学校らしい。

文芸部に所属している。図書委員でもある。

 

fashion

 

現実:黒髪に三つ編み付きのボブカット。

澄んだ青い瞳にメガネ。だったが、幻想入り後は星を宿す瞳を持つ。

基本的に清楚な格好。少し背が小さく、平均より小柄。

 

幻想郷:水色の長いツインテール。青い瞳に星が刻まれている(目覚める星の力参照)。

丈の短いワンピースだが、意外と暖かい。

 

heart

 

謙虚で優しい性格。少し気弱だが、素直な言動。

基本的に敬語だが、熱心になると荒れることも。

 

Did

 

かつては自殺未遂など、精神が不安定な面もあった。

 

中学入学後、不思議ちゃん認定されている節があるが、文芸部の仲間とは仲良くしている模様。

 

夏に幻想郷を訪れた、"夢の迷い人"。

 

spellcard

 

"爆風シャイニーズフレア"

 

火の球を出現させて蹴っ飛ばす。その後5秒で爆発するのだが、サッカー経験などが一切無いためコントロールは難しい。ちなみに温度は太陽の千分の一(ただし、作者はどのくらいか知らない)。

 

"オーロラアテンションロンド"

 

オーロラ色のバリアを張る。かなりの強度で、範囲も設定可能。本人をすっぽり包むこともできる。

 

"カストル&ポルックスの絆"

 

二つの彗星が相手を挟むように飛び交い、必然的に距離を取れる。が、そんなに抗力が無いので、ぶち壊されるのが現状。

 

"チェイスプレアデス星団"

 

結構な数の星が、相手を一定時間追いかける。無理やり壊せば爆発する。かなりお気に入りらしい。

 

"冬の大三角―ウィンタートリリンガル―"

 

その名の通り、冬の大三角を準えた魔法陣が出現。無数の星を放つ。魅空羽がよく行う詠唱は、特に技の威力に関係は無いが、想像力を高めるためとのこと。

 

この他、タクトより無数の星や光、オーロラなどを出現する事が出来る。また、魅空羽が作り出した星は、触ると音が鳴る。

 

 

 

【葉月燐乃亜は夢を見る。】

 

name

葉月燐乃亜(はづきりのあ)

[夏の宙を操る程度]

 

school

中学二年生。

夏休み明けから文芸部に入った。

 

fashion

現実:ミルクティー色のセミロング。ヘッドホンがお気に入りで、いつも首にかけている。瞳は濃い赤。少し背が高く、一つ上に見られる事もしばしば。

 

幻想郷:オレンジのグラデーションのワンピース。オレンジのシュシュで髪を結んでいる。瞳は鋭く、焔のような澄んだ色をしている。

 

heart

少し男っぽい口調で、好戦的な印象。しかし、内面はとても優しく、面倒見もいい。かなり常識人寄り。

 

Did

 

幼少期から、言いたいことをすぐ言ってしまうタイプ。そのせいで周りから多少浮いていた。あまり人と関わるのが得意ではない。

 

中学に入って、"夢"を見るようになってからは、少しずつ変わり始めている。

 

冬に幻想郷を訪れた、"夢の迷い人"。

 

spellcard

 

"獄炎彗星―コマンドサテライト―"

その名の通り、燃え盛る彗星が複数飛んでくる。軌道は読めないが、さほど飛距離は無い。

 

"新月オールラウンド"

見えづらい魔方陣から、月の光が放たれる。回転しながら撃たれるのと、驚異の光速スピードなので避けるのは難しい。

 

"カシオペヤクローン"

カシオペヤ座のクローンが現れては飛ぶ。それだけ。

 

"スコーピオンアルバニア"

さそり座が浮かび出て、それぞれの星から弾幕が発射されるいわゆる固定砲台。壊すことは不可。

 

"夏の大三角―サマートリニティ―"

夏の大三角を準えた魔方陣から彗星を放ちまくる。その様子はまるで流星群。

 

また、唄うことで焔を高める事が出来る。

炎には色々種類があり、相手を燃やし尽くす物から、隔離された空間を作り出す物、傷を癒す物まである。燐乃亜がどこまで使いこなせるかは不明。

 

 

name

みぃ(通称ウサギ)

[燐乃亜に付いて回る式神]

 

fashion

 

星を散りばめた紺色のマフラーをした白兎。

……のはずが話したり、空を飛んだりできる。

 

heart

 

頼りになるけど、ちょっと抜けてる感じがある。基本的に優しく、燐乃亜のサポートをしている。

 

Did

 

まったく持って不明。夢の迷い人について、何か物知り顔な所がある。

 

spellcard

 

特に無し。

ただ、雪の結晶を象ったバリアを張ったりと、そこそこの技は出来る。

 

 

 

name

???(謎の魔法使い/如月魅空羽)

 

fashion

 

白と青のワンピースに黄色のタイ。高貴そうなマント。

黒のストッキングに青のショートブーツ。透き通った氷のような水晶の杖を持つ。

大きな魔女っ子帽子がトレードマーク。髪型は水色のツインテールで、どこか見たことのある瞳をしている。

 

heart

 

優しい。一見貫禄ある魔女っ子だが、どこか中二的センスを漂わせる。綺麗な青い瞳は、幻想郷の星空を映し出す。

 

――――――

 

その他、文芸部メンバー。(多分モブ)

 

天宮麗那(あまみやれいな)

部長。黒髪二つ結びの女の子で、パワフル。

 

天宮麗斗(あまみやれいと)

麗那の双子の弟。肩幅の広い体育会系な見た目。

 

羽柴愛結(はしばあゆ)

文芸部のアイドル(自称)。自意識過剰だが、演技力はバツグン。

 

鹿波僚(かなみりょう)

通称メガネくん。名家の一人息子、インテリ系。

 

百瀬あんず(ももせあんず)

フワフワした髪の女の子。間延びした口調が特徴的。

 

瀬戸口カルマ(せとぐちかるま)

 

男の子だが、中性的な口調。お菓子大好きなのんびり屋。

 

(ろと@さんの画像を参考にしています。)

 

 

番外編登場キャラ。

 

【短編 明日の暁―とある迷い人の夢】

 

name

未来禍(あすか)

 

fashion

灰色と群青色をベースとしたワンピース。銀髪で、三つ編み混じりの二つ結び。群青色の瞳は、儚く美しい。

 

heart

無口で、どこか毒舌な節も。何でも淡々とやってのける反面、謎の多すぎる少女。

 

Did(短編ネタバレ注意!)

 

病気によって現実世界で入院している、霜月暁華の理想から生まれた存在。精神を共有し合う、とても親密な関係。

 

現在は、香霖堂で静かに暮らしている。

 

 

 




ありがとうございました!

本編もよろしくお願いします!



この先余談たいむ。

↓↓↓

作者的に歌詞がこの小説と"ベストマッチ"した曲

幻想郷は夢を見る。全体
……ねぇ/パヒューム
  ライオン/『マクロスF』より
  stardusts dream/東方ボーカル

如月魅空羽は夢を見る。
……色は匂へど散りぬるを/幽閉サテライト
  流星ドリームライン/プラズマジカ

葉月燐乃亜は夢を見る。
……月に叢雲華に風/幽閉サテライト
  祈り花/平井大



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如月魅空羽は夢を見る。
少女と夢現


はい!初投稿です!

よろしくお願いいたします!


とある中学校。図書室。夏休みなので、開放されているとはいえ静かだ。

 

その窓辺で、一人の少女が頬杖を付き外を眺めていた。

その名は如月魅空羽(きさらぎみくは)。

 

(あー、ホント退屈……。)

 

窓際から離れて、机に突っ伏した少女は、うわ言のように、

 

「行ってみたいなぁ、異世界とか……」

 

と呟いた。

この少女は、至って普通の空想好きなメガネ女子なのだが、まぁその度合いはダメな方だ。

 

昼下がりの陽射しと空き教室の静けさに負けて、少女はいつの間にか眠りに落ちた。

 

――――――

 

(ここは……?)

 

目を開けると、そこはとんでもない高さだった。

「…………!!?」

 

少女は声を上げようとしたが、あまりにパニックで喉には冷気しか入ってこない。

 

『手ぇ離すなよ!!』

 

頭上から声がした。潤む目で見上げると、そこには…

 

(魔女……?)

 

――――――

 

「んん……魔女……?」

「なぁに寝ぼけてんのよ?起きなさい!」

 

ビシッとした女性の声に顔を起こすと、担任の教師が仁王立ちしていた。壁にかけられた時計を見ると、時刻はとうに開館時間を過ぎている。

 

(えっ……あっそうか……私……)

 

「………すみません。」

「はい。早く帰んなさい。」

 

すっきりとした表情で去っていく担任を横目で見送ると、少女は席を立った。

 

――――――

 

時刻は夕暮れ。親はというと、一人娘の悩みも知らずに旅行中である、何てこった。

 

(んー……気になるなぁ……)

 

結局あの夢は何だったのだろう。夢にしてはしっかりしすぎたあの情景を、少女は忘れられずにいた。

 

広げた手のひらを自部屋の照明に翳すと、あの魔女の姿が目に浮かんだ。その途端に、何とも言いがたい既視感が襲った。

 

「魔理沙……!」

 

その名を口にした瞬間、少女は自分の中の違和感の正体を見つけた。

霧雨魔理沙。少女の大好きな魔法使いだ。夢の中での、だが。

 

私はたまに異世界の夢を見た。私の存在は無かったが、とても楽しくて、よく出てくる魔女に名前も付けた。

 

「いつにも増してリアルだったな……」

 

結局そのまま、少女は眠りに着いた。

その夜は夢を見なかった。

 

――――――

 

「ふわぁ……」

 

よく寝た、と呟きながらも欠伸を噛み殺す少女。

起き上がろうと瞼をそっと開くと、視界に入ったのは教室の机でも、部屋の質素な天井でも無かった。

 

「……え?」

 

まだ夢の中に居るのかと、手のひらを打ち合わせてみるが、朝の冷気でヒリヒリと痛む。

 

「誘拐って訳じゃない……よね?」

 

とりあえずここが何処なのか知りたかった。そして瞬きをひとつすると、衝撃的な事実にまた気付く。

 

「何この格好……」

 

黄色いジュエルの付いた青いリボンで、髪は二つ結びにされ、五線譜と夜空があしらわれたワンピースは丈の短いものだった。中のドロワーズと同じくらいだろうか。

髪の色は、黒ではなく水色。そして、何より少女の目を惹いたのは……

 

「何だろう……これ」

 

太ももに付いたサーベルには、一本の杖のようなものが刺さっていた。

 

 

 

 

 




最後まで読んでくださりありがとうございました!!!

コメント、評価など、気軽に…と言える立場ではありませんが!
アドバイスなども含め、お願いいたします!

頑張って次も早く書きます!


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目覚める星の力

はい!二話目も何とか書けそうです!良かった!

今回からちゃんと主人公目線です!


「どうやって使うんだろ……。」

 

ダメだ。さっぱり心当たりがない…。

まぁそんなことを言ったら、この服装も景色も…なんだけどね。

 

「……えいっ」

 

力任せに振ってみる。瞬間、瞳に焼け付くような痛みを覚えた。私は杖を取り落とし、思わず目を抑える。

 

「~っ!?」

 

一体どういうことなのだろう。ぼやいても仕方ないので、そっと目を開ける。……驚いた。

空中に……きっとさっき杖を振った所だろう、小さな星が舞っていた。私は、触れても大丈夫か、なんて気にせずに星の欠片に触れる。

 

とても澄んだ音がした。もう驚くことはない。ただひたすらに美しいと想わせてくれた。

先程落とした杖を拾い、もう一度今度は優しく振ってみた。

杖の跡を引くように、光が溢れる。その光は、木漏れ日に当たって、小さな星に姿を変えた。

 

「キレイ……」

 

そうだ、と閃く。この状況を、何とか打開できるかもしれない。

私は杖を振るうと、天へと突き上げた。

 

「いっけぇ!!!」

 

案の定、深緑の葉と共に落ちてくる欠片もあった。が、私の狙いは決して、自分で星を浴びる事ではない。

あいにく運動は得意ではないが、近くの木に登る。

ややあって、空を拝める所まで来ると、狙い通り星が上空に舞っていた。

 

「ま、これなら誰か来てくれる……多分。」

 

「おーすげぇな~!」

「全く、今度は何処の輩よ……」

 

声の来る先を見ると、見覚えのあるワンピースの少女と巫女服の少女。二人が空を飛んできていた。

狙いに引っ掛かってくれたようだ。声をかけようとして、ここが山の斜面だということに初めて気付いたが、構いはしない。

 

「あの……!そこの……っ!」

 

巫女服の方は、構わずに山の上の方へ行ってしまった。まるで、面倒事を避けるようだ。

が、ワンピースの方が近寄ってきた。

 

「何だ?お前さん、天狗の類いじゃ無さそうじゃないか。何でったってこんな所に……」

「わっかんないです!」

 

気づけば、反射的に答えていた。

ワンピースの少女はそれを聴いて豪快に笑った。

 

「あはははは!面白いやつだな?名前は何て言うんだ?」

「み、魅空羽。如月魅空羽!」

 

たどたどしくなってしまっただろうか。つい顔を俯かせてしまう。すると、ふいに顎に手を添えられ……

 

(あ、顎クイ?!)

 

戸惑う私をよそに、少女は満足そうに自己紹介を始める。

 

「私は霧雨魔理沙!普通の魔法使いだ!」

 

鼻の下をこすり、屈託なく笑う魔理沙につられ、私も微笑みを返す。

 

「で?何でこんなとこに居るんだっけ?」

「分からないんですってば!」

 

あーそうだったな、と魔理沙はしばらく黙る。

 

「ま、とりあえず霊夢ん所に行こうぜ!そうすりゃどうにかなるだろ!」

 

私もその言葉に異論を持たず、頷いた。

 

「そうと決まりゃあ、ほら!」

 

箒に乗った魔理沙は、少し前にずれると私を誘った。

 

私は迷いもせず(自棄とも言う)魔理沙の後ろに座った。

 

「よぉしっ!そんじゃフルスピードで行くぜ!」

 

 

 

 

 

 

 




やった!同日に書けました!

コメントなどお願いいたします!


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全ては夢のように。

3話目!まだまだ頑張ります!
評価が貰えるその日までっ!


「うっわぁ……!すごい……!」

 

人がゴミ…ゲフンゲフン。豆粒よりも小さく見える。

私は、さっきの星の件もあってか、この高さからの眺めを純粋に楽しんでいた。

 

「へへっ。どうだ面白いだろ?私も、いくら飛んでもこの景色は飽きないぜ……」

 

魔理沙は嬉しそうに言いながら、こちらを振り返った。

私は力強く頷く。が、同時にお願いだから前を向いてくれと強く願う。

時折、雲にぶつかる…というか突っ込むのだが、とてもいい気持ちではない。それ故に避けてほしいという単純な理由だ。

 

「おぉ、すまんすまん。よし!少しスピード上げるぞ!」

 

しっかり捕まれよ、と言いながら魔理沙は急加速した。私は慌てて魔理沙の腰に手を回す。

 

――――――

 

下の景色は移り変わり、ふと霧の濃い湖に通りかかった。いかにも何か出そうな雰囲気に身震いしていると、ふと魔理沙が溢す。

 

「あー……少し急ぐぞ。ここはその……面倒なやつがいてな」

 

魔理沙でも面倒とか思うのか。私は了解の意を伝える代わりに、腰に回した手をより一層強くした。

 

「おい!」

 

ふと聞こえたその幼い声に、私は素早く振り返ってしまう。

 

「振り向くなっ……あー遅かったか……」

 

魔理沙から半ば諦めた制止の声がかかる。

うん、遅い。遅すぎる。もう目が合ってしまった。

 

「こそこそにげるだなんて、さいきょーのあたいにおじけづいたようね!」

 

「あー……まぁな、そんなとこだぜ。」

 

幼い口調の妖精の対応に、魔理沙は対応に困っているようだった。

 

「仕方ないな……魅空羽!飛ばすぜっ!」

 

いきなりの超加速に、当然ながら付いていけずに私は一瞬宙に浮く。

 

「……!?」

 

慌てて箒の枝を掴もうとするが、虚しく宙を掻いてしまう。

 

「あ、魅空羽!?」

 

魔理沙が箒から身を乗り出して、私の右腕を掴んだ。

涙目の私を見て、魔理沙は状況を理解したらしく、

 

「すまんな……大丈夫か?」

 

と、引っ張りあげてくれた。

 

そして、幼い妖精…チルノと言うらしい、を振り切って、眼下に人里が広がる頃。

魔理沙が少し高度を上げながら言った。

 

「そういえばさ、お前さっきよく冷静でいられたな。」

「え?」

 

そういえばそうだ。あんなに高いところから落ちかけたのに…

 

(あれ?)

 

何か無かっただろうか?私は……

 

「夢に出てきたんだ、おんなじこと。」

 

自分で言ってから気付く。あぁそうだ。

こんな風景を私は夢で見たのだ。あの時も薄寒い湖の上だった。

そういえば、この風景も見たことがある気がするが……気のせいだろうか。

 

「へぇ~!お前やっぱ面白いなぁ~!」

 

魔理沙は笑わなかった。それに怖がりもしなかった。

他の人のように、気味悪く思わなかった。

 

ここが全てを受け入れる……異世界なのだろうか。

 

そんなことを思いながら、私たち二人は神社へと降下していった。




ありがとうございました!

コメント、評価お願いいたします!


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品定めと隠された力

感想初めて貰えました!嬉しいです!

これからも励んでいきたいですね!はい!


「おっし!着いたぜ!」

 

魔理沙が元気な声を上げる。地に足が付いたのを確認して、私は超加速で瞑っていた目を開いた。

そこには古ぼけた独特な雰囲気の神社が建っていた。

境内はとてもキレイで、人が来ているのかと心配になるほどだった。

 

「あ、参拝客なんて微塵も来ねぇから気にしなくていいぜ?掃除好きなだけ。」

 

手をヒラヒラしながら、魔理沙は神社に向かって叫んだ。

 

「霊夢~!居るんだろ~?」

 

すると奥で物音がして、神社の脇の家のような所から女の子がひょっこり顔を出した。口には煎餅、手には湯飲みという妙な格好だが、身につけた紅い巫女服には見覚えがあった。

 

「あぁ、さっきのね。人里のじゃ無かったって訳?」

「おう。多分外来人だぜ。」

 

魔理沙が私の事を指差して言うと、霊夢と呼ばれた女の子はお祓い棒を片手に、こちらに来た。

 

「まぁ一応だけれど、私は博麗霊夢よ。宜しくしないけど。」

「へっ?」

 

つい間抜けな声が出てしまう。宜しくしないけどってどういうことだろう?

 

「あー、まぁすぐに外の世界に帰すから、って事なんだろうな。」

 

私の不思議な顔を見て、魔理沙が半笑いで付け足してくれる。あぁそうか。ここが異世界なら、私は帰らなくちゃいけないんだ。

 

「…まぁ一応能力とか調べてみる?」

 

霊夢も少し気まずくなったのかそう切り出した。

魔理沙もそれがいい、と私の手を引いて、中庭へと移動した。

 

―――――――

 

「じゃあ、この札を持って。念じてみて。」

 

念じろってどうするんだろう…そう思いつつ、今までの事を思い出す。

ふと浮かんだのは、木漏れ日に照らされたあの星たちだった。

 

「おぉ……!」

「へぇ……」

 

魔理沙と霊夢の呟きによって、私は慌てて目を開けた。

札には星が描かれ、私の周りにはキラキラとした光が舞っていた。

 

「まだ能力の制御が難しいようね……私がアイツを叩き起こしに行く間に、練習してみたらどう?」

 

霊夢はそう言うが、私はふと疑問に思う。

 

「すぐに戻っちゃうのに、練習……ですか?」

 

霊夢は面倒な顔をして、ポツポツと説明してくれた。

 

「ここに来た以上、帰るまで安全ということはほぼ無いわ。それに、1度ここに来たということは……」

「ここに来る何かしらの原因がある、と……」

 

私は脳内を整理するため、ポツリと口を挟んだ。

 

「そう言うことよ。まぁ別にどうとでもしなさい。いざとなれば、護るくらいはしてあげるし、ね。」

 

私は、少し優しい笑みを口に浮かべて飛んでいった霊夢を見送りながら、ここに来た理由を考えていた。

 

 

 




ありがとうございました!

感想、評価お願いいたします!


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練習台はさいきょーの女

沢山の感想、ありがとうございます!!!

励みにして頑張っていきますね!


「さて、霊夢もあぁ言ってることだし、やってみるか?練習」

 

魔理沙に頷いて、太もものベルトを見る。さっきと同じような杖がしっかり刺さっていた、良かった。

 

「ん?それはマジックアイテムか?」

「さぁ……?」

 

分かんない、とぼやきつつもさっきと同じ感覚を再現し、杖を振る。

 

「のわぁっ!?」

 

杖から飛び出した星は弾幕と化して、魔理沙に飛んでいった。

慌てて魔理沙が横に跳ぶと、後ろでコツンと音がした。

何か壊してしまっただろうか、そう思って私はその音の方へ歩いていった。

 

「いでで……」

 

草むらから出てきたのは…チルノだった。

 

「あ、さっきの」

「ん?……あーっ!!!」

 

チルノは私を見るなり、叫んで一直線に飛んできた。

思わず半歩下がってしまうが、チルノは構わず続ける。

 

「おまえは!あたいからにげたおんなねー!?もーにげられないわよー!」

「え、いや、あれは魔理沙がっ……!」

「私はなーんも知らないぜー」

「何その見事な棒読みは!?」

「やっぱりおまえ!勝負しろ!」

 

……こうなったら自棄だ。練習も兼ねてやってやる。

私は杖を構えた。しっかりした技なんて持ってないし、まだあやふやだ。でも頑張らなきゃ。そう思わせてくれるのは、魔理沙の存在だった。

 

(これ以上、迷惑はかけたくない……)

 

「よし、いいよ!」

「あたいのちから、おもいしるがいい!"アイシクルフォール"!」

 

氷の礫……というべき物体がすごいスピードで飛んできた。

焦った私は、ありったけの中二病センスで叫んだ。

 

「"オーロラアテンションロンド"!!!」

 

もちろんちゃんとした意味なんて無いが、私の杖からはオーロラ色のバリアが飛び出した。バリアは氷の礫を弾き、脇へと流した。

 

「や、やったぁ?!」

「むっ!?あたいのだんまくをはじくなんて、なかなかやるみたいね!なら……"パーフェクトフリーズ"!」

 

吹雪のような冷気に、私は思わず片目を瞑ってしまう。

魔理沙の焦ったような叫び声も、言葉として聞こえてこない。

しかし、この状況だけは意地でも私だけで解決したかった。

 

「"爆風シャイニーズフレアー"……!」

 

苦し紛れに私は叫んだ。この氷を焼き尽くすことが出来ればいい、と。

私の想像を遥かに越える、まるで太陽の爆風みたいな炎が、されど一瞬吹き抜けた。

突如吹き荒れた熱風にたじろぐチルノを見つめ、私は自分で自分を疑っていた。

魔理沙を見ると、目を輝かせながらチルノと私を交互に眺めていた。

呆然とした沈黙を破ったのは、上空からの声だった。

 

「何やってんの?妹紅でも来たのかしら」

「物凄い火柱だったわねぇ……」

 

そこには、霊夢と見知らぬ……おばさんがいた。

 

 

 

 




ありがとうございました!

感想等お願いいたします!


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BBAとスペルと誘いと

お気に入り登録も来てることに気づきました!
すごく嬉しいです!ありがとうございます!

また、指摘があった部分等、少し修正を加えました!



「いや、その……力量を誤ったと言いますか……」

 

ついしどろもどろになってしまう私を、……おばさんは鋭い目で見ていた。

見下ろされるという位置関係もあってか、私はついに口を閉じてしまう。

 

「紫、あんた怖いわよ。」

「あらそう?」

 

霊夢の声かけで、ようやく私から目を離した……おばさんは、ゆったりと降りてきた。

そして、……おばさんが言った。

 

「私はおばさんじゃないわ。紫よ。」

 

と。……あれ。

 

「ど、どうして解ったんですか!?あ、いや思ってないです!違うんです!ごめっごめんなさい!?」

「魅空羽……あんた、そんなに慌てなくても良いのよ?」

 

半ば気圧されたような霊夢の声にハッとすると、おばさん、もとい紫さんは柔らかな微笑み……とは言いがたいが笑っていた。

 

「霊夢ったら、いつにも増して叩き起こしにかかるんですもの。余程の事かと思ったら外来人じゃないの。」

「……別に、私はいつも通りだったじゃない。」

 

ふいと顔を反らす霊夢は、そのまま紫に尋ねた。

 

「で?どうなのよ、実際。」

「うふふ。……気付いてるんでしょう?」

「……勘が良すぎるってのも罪なものねぇ」

 

意味の分からない会話を呆然と聞いていると、魔理沙が前に出た。

 

「意味分かんないぜ……何なんだ?もしかして、魅空羽が特別だったりするのか?」

 

霊夢は、紫に催促の目を向けた。見てとれるほどなのだから、余程の事なのかと息を飲む。

が、紫から発せられたのは予想外の事だった。

 

「霊夢と魔理沙、魅空羽と"弾幕ごっこ"してみて。」

「……は?」「えっ?」「は、はい?」

 

三人が呆けた声を上げるのにも構わず、観戦といった様子で紫は縁側に腰かけた。

ようやく霊夢が紫に突っかかる。

 

「な、何考えてるのよ?そういうんじゃないでしょ」

「そうだぜ!それに魅空羽はまだスペルカードも持ってないんだぞ!?」

 

魔理沙が声を上げると、紫はキョトンとして言った。

 

「あら、スペルなら大丈夫よ。さっきだってどうにかなってたじゃない?」

「そ、それは……!私の俄中二病的センスがっ……!」

「その小2だか何だかは知らんが、さっきのは偶然じゃないのか?」

 

魔理沙もさらに言ってくれるが、紫に気にした様子はない。

霊夢が諦めたように、白い札を渡してきた。じっくり見てみると、少し光るのが分かる。

 

「それがスペルカードよ。まぁ、まだ技が書いてないけど。」

 

そして霊夢は自分のスペルカードを見せてくれた。

"夢想封印"と、達筆で刻まれている。

魔理沙も見せてくれた。"Masterspark"と筆記体で綴られたカードは、とても眩しく見えた。

 

「さぁ、始めましょ。審判は私がするわ。」

 

紫が言うと、魔理沙と霊夢が宙へと舞う。

適度な距離をとり、今までとは違う余裕の笑みでいる二人に、私は初めて恐れを覚えた。

 

 




ありがとうございました!

魅空羽死ぬんじゃ…。

感想等お願いいたします!


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想像の許す限りを

章も作ってみました!
完結したら、他のキャラ目線も作りたいなぁ…なんて。

しばらくはこのままでしょうね、はい。


「それでは……始め!」

 

紫の扇子が上がると同時に、まずは二人とも空高くへ上がっていった。

 

「ちょっ、私だけおいてけぼりなんじゃ…!?」

 

私が慌てていると、紫さんが意味深に呟いた。

 

「想像の許す限り、貴方は飛べるわ」

「想像……ですか?」

 

紫はそれ以上答えずに、二人が飛んでいった空を見上げていた。

 

「想像かぁ……うむむ……」

 

空を飛ぶ方法といったら、やはり翼だろうか?でも、自分に羽が生えるなんて到底……

 

「あら、出来たじゃない。」

「へ?」

 

紫の言葉に唖然としつつも、足元を見ると…私は浮いていた。というか、空を飛んでいたのだ。

 

「……うわぁ」

 

虹色の翼は、五線譜の形だった。

私が思い描くような優雅な動きで光を散らして。

 

「想像の……許す、限り……」

 

そういうことなのか。そういうことなのなら……

私は飛び上がった。とりあえず二人が見えなければ戦いようがない。

 

「おっ来たか。」

「遅かったじゃない?」

 

二人は雲に触れそうな高さで浮いていた。

戦った様子は無いので、私を待っていたのだろう。

 

「うっし。そんじゃ始めっか!」

 

そう言うなり、魔理沙は急移動してスペルを宣言した。

 

「"スターダストレヴァリエ"!!!」

 

そのスペルは、大きな星が魔理沙と共に飛び込んでくる物だった。

私は、必死で翼を動かして避けた。が、魔理沙のスピードは速すぎるくらいで、今にも追い付かれそうな距離だった。

私は周りを見ずにどんどん急旋回を繰り返した。

 

「のわぁっ!?」

「はぁっ!?」

 

二人の悲鳴に振り返ると、止まりきれなかった魔理沙と高みの見物だった霊夢が衝突したようだった。

何はともあれチャンスだ。少し落ち着いて考えないと……。

私は想像する。目指すのは、綺麗でかつ強いスペル。

 

「……"チェイスプレアデス星団"」

 

私は思いのままに呟いた。すると、私の手のひらには、星が一ヶ所に集まるように現れる。

 

「!」

「大体あんたはいっつも……って聞いてるの!?」

 

魔理沙は察して避けたのだが、目を閉じて魔理沙にくどくどと言っていた霊夢は反応がワンテンポ遅れた。

 

「っ!甘いわ!」

 

霊夢は避ける。計算の範囲内だ、もちろん計算なんてしていないが。

私は想像する。もっと強い力で、全てを思い通りにするために。

 

「はぁっ!?追いかけてくるなんてアリ!?」

「ちょっ!こっち来んなよ!?」

 

霊夢と魔理沙は、慣れた動きで避けていく。やはりこの程度では当たらないようだ。

スペルの時間制限がきて、弾幕が消えた。

 

「やってくれたじゃないの……"夢想妙寿"!!!」

 

スペルの余韻に浸りすぎたのか、気が抜けていたのか。

私は虹色の球を諸にくらって、翼と共に意識を放り投げた。

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

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最終までのエピ考えないと…


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不鮮明な衝撃と曖昧な始まり

見てもらえてると分かると、改めて頑張ろうと思いますね…♪

…それだけです、頑張ります!


私はまた夢を見た。

紅い館をただひたすらに歩き続ける夢。

こんなにも暗いのに、怖くはなかった。

皆がいてくれる、

そんな初めての感情に私は包まれていた。

だからだろうか。

私は、目の前に迫る紅い槍を避けきれずに―。

 

―――――――

 

「……い……おー……おーい!」

 

耳元で聞こえる声に、パッと目を開けるとすぐそこに魔理沙の顔があった。慌てて後ろに仰け反ろうとするが、自分が床に寝ているのに気づく。

 

魔理沙にぶつからないよう、ゆっくりと上半身を起こすとそこは縁側だった。

魔理沙たちは茶の間でくつろいでおり、霊夢がお茶のおかわりを取ってきた所だった。

 

「あら、もう目が覚めたのね。丈夫で良いことだわ。」

「ふふ、お帰りなさい♪」

 

意味ありげな紫の顔を見つめ、私は思い出そうとした。

今まで見ていた夢なのに、あんなにも細やかな描写も温もりも……全て消え失せていた。

 

「どうした?まだ霊夢の技の余韻でもあったか?」

 

おちょくるような魔理沙の声に、私はとりあえず、と茶の間に入れてもらった。

 

「さて……どうしてこうなったのよ?」

「何がかしら?」

 

霊夢が何の事を言っているのかは、一目瞭然。

突如始まり、そして私の敗北に終わった弾幕ごっこのことだ。

 

「あぁやって、受け止める準備もしてたってことは、魅空羽が負けて落ちてくるのも知ってたのか?」

「いいえ、知らなかったわ。それに、直前まで別の事をしていたし。」

「はぁ?!勝手にやらせといて見てなかったって言うの?!」

「そりゃないぜ紫!」

 

霊夢と魔理沙の勢いで倒れそうなちゃぶ台を、私は慌てて押さえる。

紫は涼しい顔をして、私に向き直った。

 

「さて、魅空羽……貴女は帰れないわ。」

 

突然の告白だった。しばし固まっていた脳内思考が動き出す時、私と魔理沙は同時に叫ぶ。

 

『えええええ!!?』

「五月蝿いわねぇ……でもどうしてよ?魅空羽は外来人でしょう?」

「そうだけど、そうじゃないのよ。」

「訳が分からないわ。」

 

霊夢の事務的な口調に、私も改まって聞く。

 

「どうして、なんですか?」

 

紫は、そうねぇ、と口元を隠してしばし黙る。

伴うように、茶の間は静かな雰囲気に包まれた。

 

「今言えるのは……霊夢。魅空羽は結界の緩みで来た外来人ではないわ。」

「……そう。まぁいいわ、どうせ詳しいこと聞いたって、私にはよく分からないし。」

「ふふっ。その潔さ、嫌いじゃないわ。」

 

魔理沙と顔を見合わせる私に、紫は穏和な笑みを浮かべて言った。

 

「少し、挨拶回りでもしてきなさいな。貴女は少なくともここに留まることになるのだから。」

「……それなら、紅魔館はどうだ?」

 

魔理沙も諦めたように提案してくれる。それが良いのだろうか。

半ば流されるように、私は紅魔館……とやらへの道を教えてもらった。

 




ありがとうございました!

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見知らぬ紅魔の館へ

今回は紅魔館第1段です!



「うーむ、ここら辺かな……」

 

私は、霧の湖の上を延々と飛んでいた。

案の定、紅い館が見えてくる。

 

「えぇっと……」

 

私は、魔理沙から聞いたことを思い出す。確か門番は寝てるからスルーしていい、とかだっけ。

ホントにスルーしていいのかと迷うが、ふと門の前で安らかに眠っている門番を見つけスルーすることにする。

 

館内はぶきみなほどに赤く、誰もいなかった。

メイド長がいると聞いていたのだが、どこにいるのだろう。どうにも館が広すぎて分からない。

仕方なくどんどん先に進んでいく。怖くない、そう思えた。魔理沙たちに出会って下手すれば数時間だが、ふとした安心感が生まれていた。

 

「……えっ」

 

私は、硬直してしまう。目の前に迫る紅い槍。

 

(夢と、一緒だ……)

 

そう思い出すと、同時に足が動く。

私はカーペットを蹴って横に跳ぶ。そして……

誰かさんの石像に頭をぶつけた。

 

―――――――

 

「そうねぇ……ワイン煮でもいいかもねぇ……」

 

そんな気品ある女の子の声が聞こえ、私は飛び起きる。

 

「食べないでっっ!?」

「あら、お早う。それと、貴女の事じゃないわよ。」

 

涼しい顔で言う女の子は、紅いワンピースを着ていた。そして、何より……

 

「ホントに吸血鬼だ……」

 

魔理沙はてっきり私を驚かそうと言っていたのだと思っていた。吸血鬼は、ムッとして言った。

 

「そうよ、何か悪いかしら?」

「い、いえ。じゃあ、貴女が……レミリア、さん?」

 

紅魔館の主、吸血鬼のレミリア・スカーレット。

私が最初に挨拶回りに来た人物だ。

レミリアは満足げに頷く。ムッとしたり満足したり……忙しい人だ。人じゃないけど。

 

「そう……貴女が魅空羽、ね。」

「はい。」

 

名前を言い当てられたが、そこは驚かない。私はレミリアの能力も教えてもらっている。

 

「それも……"視た"んですか?」

「えぇ。」

 

そう言うと、レミリアはクスクスと笑った。私は首をかしげる。

 

「何がそんなに面白いんです?」

「くくく……石像に、ゴンッって……」

「なっ……!」

 

あの紅い槍を投げた張本人は、レミリアらしい。

それで、私の悲惨な一部始終を見ていた、というわけだ。能力で垣間見ていたのかもしれないが。

 

「咲夜!魅空羽が起きたわ。お茶を用意して頂戴。」

 

ドアに向かってレミリアがそう言うなり、メイド服のスラッとした女性がティーセットを持って現れた。

 

「お待たせいたしました。」

「ご苦労様、咲夜。そうだ、貴女も自己紹介しなさいよ。」

「えぇ、畏まりました。私は十六夜咲夜。ここのメイド長をしているわ。よろしくね、魅空羽。」

「は、はいっ。」

 

とても綺麗な人だった。咲夜さんは微笑むと、一礼して部屋から出ていった。

レミリアは紅茶を一口飲むと、私に言った。

 

「さぁ、少し語らうとしましょう。貴女の事について。」

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

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紅い月と語らいの窓辺

紅魔館第2段!

書いていたら、今回はレミリア回になりました。


「私の事……ですか?」

 

戸惑いを隠せない。いきなり私の事を語らうって言われたって……ねぇ?

 

「ふふ。難しいことじゃあ無いわ。ただ運命を辿る貴女をもっと知りたい、それだけよ。」

「は、はぁ……?」

 

やっぱりよく分からない。とりあえず私は改めて名乗る。

 

「私は如月魅空羽です。」

「えぇ、レミリア・スカーレットよ。」

 

礼儀のように名乗られてしまった。どうしようかと迷っていると、レミリアが言った。

 

「私の能力は、"運命を操る程度"よ。」

「あ、えっと私は……」

 

そういえば、具体的に聞いてなかった。

あれは魔法か?星か?私が二の句を継げずにいると、レミリアがやさしく言った。

 

「貴女は、霊夢の所で調べてもらったりしたのかしら?」

「へっ?あっ、はい!」

「そう、なら話は早いわ。その札を見せて頂戴?」

「は、はい……」

 

私は言われるがままに、魔理沙から借りたポーチから札を取り出す。

ふと気付いたが、私、魔理沙にお世話になりすぎてないか?落ち着いたら、恩返し?もしないといけないな。

 

「ふぅん……なるほどね。」

「えっと、失礼ですが、それから何か判るんですか?」

「あら、判るもなにも書いてあるじゃない?」

 

私は慌てて札を覗きこむ。見逃していたが、下の方に小さく文字が書いてあった……読めないけど。

 

「すいません、あの」

「読めないでしょう?無理もないわ。貴女はここに来て間もないもの。」

「……?」

「ふふ、そのうち分かるわ。貴女の能力はね、」

 

"冬の宙(そら)を操る程度"の能力。

 

それが、私の能力だそうだ。

序に、紫に言われた、"想像の許す限り"という言葉についても聞いてみた。答えは単純だった。

 

「さぁ、分からないわ。ただ、外来人でそういう人はよくいるみたいね。」

「そういう人……?」

「想像の許す限りは、能力を使って何でもありって感じかしら?結構いるわよねぇ……」

「ほえぇ……!」

 

何だか凄いな外来人よ。まぁ私もなんだけど。

 

―――――――

 

ここら辺の地形だとか、たわいもない会話を繰り返し、紅茶のポットが空になった頃。

陽は沈みかけ、アンティーク調の時計が午後四時を告げる。

レミリアは、咲夜を呼んで言った。

 

「悪いけど、パチェに星座表を借りてきてくれる?」

「星座表…ですか?畏まりました。」

 

咲夜さんが行ってしまうと、レミリアはふわりと微笑んで言った。

 

「能力を使うにも想像するにも、知識は不可欠よ。持っていきなさい。とはいえ、日が暮れてから外に出るのも危ういし、泊まっていきなさい。」

「あ、ありがとうございます。」

 

突然の優しさに戸惑いながらも、私は心地よさを感じていた。二人が並ぶ窓辺を、夕闇がゆっくりと飲んでいった。




ありがとうございました!

紅魔館に長居してしまいそう……(^-^;

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夕空と冬の大三角

紅魔館長くてすいません(-_-;)

今回はひどい話、飛ばしても構いません!(T-T)


(やっぱスタンダードなのは、オリオン座とかかな?)

 

私は星座表を片手にシャーペンを握りしめる。

スペルカードを考え始めて、約30分。

私は、思いつく冬の星座と攻撃方法を片っ端から書き出していた。

 

「よくこんなに書くわねぇ……」

 

呆れているとも感心しているとも聞こえるレミリアの声に私は顔を上げる。レミリアがティーカップを片手にこちらを覗きこんでいた。

 

「はい。私も少しは、戦えるようになりたいな、と。」

「そう。ま、頑張りなさいな。」

 

レミリアはそう言うと、部屋から出ていった。私は、客室を借りていた。ふと窓の外を見上げると、一等星がちらついていた。夏の大三角……だろうか?

 

「けどなぁ……私の能力は、冬の、なんだよねぇ……」

 

そう、冬の……ん?

 

「冬の……大三角?」

 

私はもう一度星座表を広げる。そして猛烈な勢いでシャーペンを走らせた。

 

―――――――

 

「それで、どうなったのかしら?」

「はい♪」

 

私は、満面の笑みでスペルカードを見せた。

その中には、「チェイスプレアデス星団」や、「爆風シャイニーズフレア」、「オーロラアテンションロンド」もある。全部で5枚のスペルカードを、レミリアと咲夜は暫し覗きこんでいた。

 

「ふふ……貴女らしいわね。」

「はい、とても綺麗で、外来人らしい発想ですわ。」

 

褒められている……のだろうか?

とりあえず素直に喜ぶことにする。私たちは今食堂におり、夕食の準備をしていた。とはいえ、咲夜さんがたまに時を止めて配膳するので私の仕事は無い。

 

「その様子だと、役に立ったのかしら?」

「あら、パチェ。えぇ、そうね。」

「魅空羽、パチュリー様です。」

「あっ!どうも、その節はありがとうございました!」

 

この人がパチュリー・ノーレッジらしい。

星座表の件で、挨拶しないでお世話になっちゃったし……しっかりしないとな。

 

「レミィから話は聞いてるわ。貴女が魅空羽ね。」

「はい、よろしくお願いします、パチュリーさん」

 

私はスペルカードを片付けると、周りを見渡す。

 

「えーと」

 

まだ挨拶してない人は……いた、寝てるけど。

あの門番の人だ。すると、咲夜さんが近付いていって、ナイフを軽く投げた……って

 

「えっ!?」

 

思わず立ち上がって叫んでしまうが、咲夜さんは平然と通りすぎていく。

 

「あら魅空羽。驚かせちゃった?大丈夫よ」

「危ないじゃないですか?!普通に起こして下さいよ~」

 

門番はブツブツ言いながら、受け止めたナイフをテーブルに置いた。紅美鈴というらしい。

 

夕食が始まろうとしたその時、食堂のドアが半壊しながら開いた。

 

「お姉様!お客さまってホント!!?」

 

 

 




ありがとうございました!

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幼き悪魔と一番星

今回はフランちゃんも出てきます!

テスト期間直前なんだが(笑)


「フラン!?」

「い、妹様!」

「あはは……また派手にやりましたねぇ~」

 

美鈴が席を立ち、少女の所へ行った。

少女は、私の前まで来ると顔を近づけた。

紅い瞳。レミリアと同じはずなのに、どこか哀の色を感じさせる幼い瞳。そんな少女はポツリと言った。

 

「一番星……みーつけた♪」

「え?」

 

私たちがキョトンとしていると、少女は私の手を取り食堂にある姿見の前へと連れていった。

 

「ほら!」

「?」

 

私は自分の顔を覗きこんでみる。

確かに一番星だ。私の瞳には、星がくっきりと小さく刻まれていた。これは新発見だ。

 

「気づかなかった……ありがとう、えーと……」

「フランドール・スカーレットよ♪」

 

レミリアの真似だろうか。ご丁寧にお辞儀も見せてくれた。私も会釈して、席に戻る。

 

「あっ、そうだわ。」

「?どうなさいました?お嬢様」

「あのね……」

 

レミリアは咲夜に耳打ちすると、クスクス笑った。こういうところが、まだ幼いのだろうか。

 

結局、皆で楽しい夕食を過ごすのだった。

 

―――――――

 

「美味しかった……」

「でしょー?咲夜の作る料理スゴいもんねー!」

「そんな……ありがとうございます♪」

 

感嘆の声をもらしていると、レミリアが中庭に出るように言った。私は素直に従う。

 

「さ、パチェ。よろしくね」

「全く……」

 

パチュリーは魔導書を開くと、私とフランをそこそこ広い結界に入れた。

私たちは1度顔を見合わせて、それから気付く。

 

「へぁっ!?ど、どうしたんですか?!まさか気が変わって私をワイン煮に!?どどどうしようっ!?」

 

半ば意味の分からない慌て方をする私に反して、フランはポツリと俯く。

 

「どうして……?」

「ちっ違うのよフラン!これから説明す」

「どうしてっ!?フラン信じてたのに!ううん、やっと信じられたのに!」

「フラン……!」

 

レミリアさんの声も弾くように、わなわなと震えるフラン。私は、目線を合わせるようにしゃがむ。

 

「え、えっと……何か理由があると思うんだけど」

「お姉さんは何も知らないんだよ……だからそんなこと言えるの……!」

 

そこにあるのは、紅い瞳。けれど、くっきりと怒りの色を滲ませている。私は思わず立ち上がって後ろに下がる。

 

「ねぇお願い!話を聞いてフラン!」

「妹様、少しお話を……」

「お嬢様!お、落ち着いて下さい!」

 

レミリアや咲夜、美鈴の悲痛な叫びが中庭にこだまする中、パチュリーが落ち着き払って言った。

 

「フラン、落ち着きなさい。その結界は決して、貴女を閉じ込めるための物じゃ」

「大っ嫌い!閉じ込めようとするお姉様もパチェもみんなみんなみんな!!!」

「っ!魅空羽、後ろへ!」

 

何が起きたのか。そんなことは分からなかった。私はフランのことを何も知らないのだ。結界ギリギリまで下がった私はフランに向き直る。レミリアが結界の中へ入って、フランと対峙していた。この二人はただの姉妹ではない、そう私が覚った瞬間だった。

 

ありったけの声量で、夏の星空の一番星へ、フランは叫ぶ。

 

「そんな皆なんて……壊れちゃえばいいのよ!!!」

 

涙と涙、光の槍と炎の剣が重なった。

私にとって初めての、本気の"弾幕ごっこ"が始まる。

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

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悪魔の哀しみ星の陰

せっかくフランちゃんが暴走したんでシリアスに……しようと思いましたが、まぁ無理でした(笑)

気楽にご覧ください(笑)


「お姉様っなんてっもうっ知らないっ!」

「止めなさいフラン……!魅空羽もいるのに!」

 

炎の大剣を振り回すフランは、レミリアの言葉にも耳を貸さない。

はずだった。フランは私の名前を聞くと、ピタリと手を止めて笑い出す。

そして戸惑う私に向き直ったその瞳は狂気に満ちていた。

 

「あはははは!そうだ、そうだわ!お姉様じゃなくてもいいのよ!外来人なら、死んだって構わないんだわ!」

「……!」

 

その言葉に震える私は、先程のフランと似ていただろうか。思わず絞り出した声と共に、一歩前に出る。

 

「……私だってね、必死に生きてるのよ……それをこんな……まだ見たこともない世界で……」

 

あぁ、そうか。元の世界に居ては、分からなかった命のやり取り。

殺されることの無い中で、幾度も死にたいと願った。そんな思い。

それが今、私の中で壊された。

 

「こんなところで……死んでたまるかァァァ!!!」

 

私はありったけの声を使いきり、それでもまだ叫ぶ。

 

「貴女が何を見てきたのかなんて知らない!何に哀しむのかなんて知らないよ!けどね!」

 

『私だって……必死に生きてるのよ!!!』

 

声が重なる。それが、昔の私なのか、フランなのか、それとも違う誰かなのか。分からない。

突如フランはその場で足掻く。宙に浮かんで必死に叫ぶ。

 

「あ、あぁ……お姉……様……み、くは……ごめん、なさ……わた……を……止め……て……っ!」

 

――お姉様、魅空羽、ごめんなさい……私を、止めて!

 

私はもう迷わない。綺麗事でも何でも吐いてやる。

それで生きられるのなら、何だってしてやる。

私は、フランと距離を取って宙へ舞う。

 

「"爆風シャイニーズフレア"!!!」

「"クランベリートラップ"!!!」

「"不夜城レッド"!!!」

 

私は二人と同時にスペルを掲げる。まだ規模の調節が上手くいかずに、自分までぶっ飛んでしまったが。

ようやく目が慣れてきたと思ったら、今度は紅い弾幕が飛んできた。

 

「ぎゃぁっ!?」

「キャハハハハ!!!ちゃんと避けなきゃダメだからね?」

 

フランはとても楽しそうに言った。さっきのような殺意は感じられないが、完全に人格が違う。

私は宙へ舞う。さすがに私だけ地上に残るというのも不利すぎる。

フランとレミリアはお互いに弾幕を飛ばし合い、口角を上げている。上級者の貫禄というか、結界の外の人たちにも安堵が感じられる。

……間違いなく私、死にそうなんですけど。

 

「えぇい!こうなったら自棄だね!"チェイスプレアデス星団"!!」

「あら、フランに手を出すなんて感心しないわね?"スピア・ザ・グングニル"!」

「そうだよ~?"レーヴァテイン"!」

(不覚にも敵が二人になってるんですが!?どういう事ですか!?)

 

私は必死で空を舞う。さっきの感動的な展開が嘘のようだ……。あれ?もしかして感動的だったの私だけ?

私は、一か八か、向かってくる二人に出来立てのスペルを掲げる。

思い浮かべる冬の大三角。指先に力をこめ、それをなぞる。

 

「ペテルギウス、シリウス、プロキオン……"ウィンタートリンガル―冬の大三角―"っ!!!」

 

煌めく三角形の結界兼魔法陣から大量の星が降ってくる……前に、目の前に迫る2振りの剣が私を貫いた。……酷いな、この世界。

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

次回は永遠亭になりそうです(魅空羽ェ……)

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永遠亭へ行こう!前編

サブタイトルが若干違う気がする……。

永遠亭回です!
公式をあまり知らないので、多少はご了承下さい(泣)



黒い蝶が飛ぶ。

余りの神秘な見た目に、私は手を伸ばす。

瞬間、私は肉体をもがれるような痛みに襲われる。

葬られそうな意識の中、ただ女の人の声が聞こえた。

 

――――――

 

「うぅ……ん……?」

 

私が目を開くと、そこは病院と和室の混ざったような部屋だった。身体を起こして外を見ると、竹林が見える。どうやら知っている所では無さそうだ。

外の景色は置いておいて、私はこれまでの事を思い出そうとする。

フラン、レミリア、紅魔館……ダメだな、あまり鮮明でない記憶を辿っていると、足音が近づいてきて声が聞こえた。

 

「あっ!起きたんですね!今先生を呼んでくるので、大人しく待ってて下さいね!」

「……うさみみだぁ……」

 

私が思わず声を溢した時には、うさみみの人は居なかった。

しばらくして、今度は長い三つ編みの大人の人が来た。この人が先生だろうか。思い切って聞いてみる。

 

「あ、あの……私、どうなって……?」

「あぁ。心配は要らないわ。間もなくあの子達も来るでしょう。」

「あの子達?」

「紅魔館の連中よ。フランが泣きながら貴女を運んできた時はどうしたかと思ったけれど。大した怪我も無くて良かったわ、二人分のスペルを受けて随分丈夫なのね。」

「あー……はい。」

 

あの時、私は諸にグングニルとレーヴァテインをくらった。

パチュリーがさりげなく魔法によって致命傷を避けてくれたのも、フランが泣きながら私を抱き抱え飛び出す中で、落ちそうな私を時々支えてくれたレミリアの優しさも思い出した。

 

一人になった病室で呟く。

 

「またお礼しなきゃいけない人が増えたな……」

「へぇ、外来人なのに随分と愛されてるわねぇ?」

 

ふと聞こえた声に振り向くと、ドアの所に着物の少女がいた。艶やかな黒髪に重ねた着物、レミリアとは対称的なお嬢様だった。

 

「は、はい。お世話になってます……?」

「あははっ!てゐに聞いてた通り、面白いわね!」

 

知らない名前だ。私が首をかしげていると、先生が戻ってきた。

 

「あら、姫ですか。あまりおかしな事を教えないで下さいね?」

「ふふっ。分かってるわよ~。永琳は過保護ねぇ~。」

 

貴女がしっかりしてないからだ、と訴える先生、永琳は、私に向き直って言った。

 

「早速だけど、見舞が来てるわよ。」

「あ、はいっ!」

 

入ってきた人物は、私を見るなり言い放った。

 

「……あんた、バカなの?」

「まぁまぁ、そう言ってやるなよ。私も同意見だがな」

「……すみません。」

 

霊夢の厳しい言葉と、フォローにならない魔理沙の発言に私は項垂れるばかりだった。

そうこうしているうちに、永琳を押し退けてもう一人客が来た。

 

「うわぁぁあああ!!!魅空羽ぁぁぁ!!!」

 

 




ありがとうございました!

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次話投稿少し遅くなるかもしれません(-_-;)


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永遠亭へ行こう!後編

永遠亭の続きです!

ちょっと意味不明なんですが……(-_-;)


「うわぁぁあああん!!!」

 

余りの力で抱き締めてくる少女の背中では、ゆっくりはためく翼に七色のクリスタルがカランと音を起てていた。

 

「えっと……フラン、ちゃん?」

「あのねぇフラン、謝り方ってものがあるでしょう?確かに朝になったらすぐにとは言ったけれど……」

 

レミリアの呆れた声がすると、次の瞬間フランは咲夜に優しく肩を持たれていた。ひどい泣き顔だ。

 

「うぅ……ぐすっ……ごめんなさい……」

「魅空羽、その……体の方はどうかしら?」

 

気まずそうに訪ねるレミリアは、不安そうに羽をパタパタさせていた。無理もない、私を吹っ飛ばしにかかったのは、レミリアとフランその者なのだから。

私はにっこりと笑って言う。

 

「あははっ、大丈夫ですよ!この通りですから!」

「そう……良かったわ。」

 

レミリアが安堵の表情を見せたのは一瞬、すぐにフランに向き直り厳しい目線を向ける。

 

「あ、のね……魅空羽……」

 

無邪気な子供がこうも悄気ていると、何も言わずに許してあげたくなる。それでも彼女の決意の上だ、私はあえて黙ってフランを見つめる。

フランは小さく息を吸うと私にもう一度抱きついてきた。

 

「ごめんなさいっ!!!」

 

フランは意を決したように叫ぶ。私が何も言えずにいると、フランは必死に続ける。

 

「フラン酷いこと言っちゃったんだって、お姉様に教えて貰ったの……あんまり、覚えてないけど……でもね、魅空羽のこと、フラン大好きなの……だから……だからね……嫌いに、ならないで……っ」

 

――嫌いにならないで。

 

私はショックを受けた。

こんな小さな体の中に、人間の心理が、それも一番苦しい感情が渦巻いていたのだ。私が一番分かっているはずの感情で泣いている。そんな少女を目の前にして、フラッシュバックするのは"私"の姿だ。

 

私はただフランを抱き締めた。何か言わなきゃと思ったけれど、何故か涙が出てきてしまって上手く言葉が紡げなかった。

 

「魅空羽……?」

 

泣き止んだフランは、反対に落ちてくる涙に戸惑っているようだった。他のみんなもきっと心配しているはずだ。

 

「ごめん、ね……えっとね……えっと……」

「……しょっぱいね」

「えっ?」

 

フランが小さな牙を覗かせて、口を開けていた。

フランはもう一度言った。

 

「しょっぱいんだね、涙って」

「……そっか」

 

当たり前の事だけど、フランはきっと私を笑わせようとしたのだろう。私はにっこりと笑い、フランの頭をゆっくり撫でた。

 

「ありがとう、フランちゃん。大丈夫だよ、私はね……」

 

耳に口を寄せる。少し照れるけれど、伝えておきたかった。

 

「フランちゃんもみんなも、大好きだよ。」




ありがとうございました!

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次回は……白玉楼に向かいたいです、はい!


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珍道中よ永遠なれ

冥界へ辿り着きたかったのですが……お預けになっちゃいました(-_-;)



結局私は、勢いで紅魔館に居候することになった。

永遠亭での事は誰も触れなかったが、反って好都合だ。

 

「それで、これからどうするのかしら?」

 

昼下がりのティータイム。紅茶を楽しむ合間、レミリアは目を細めて私に聞く。

私は今考えていることを打ち明けた。

 

「はい、他にも挨拶回りに行きたいんですけど……」

「それなら、白玉楼なんてどうでしょう?」

 

咲夜さんが指を立てて微笑む。その指が指すのは……

 

「えっ、と?」

「くくく……咲夜。説明してあげなさいな」

 

笑いを堪えながらレミリアが言う。咲夜もその様子に苦笑いしながら、私の前に横に立った。

 

「まず……そうですね、天国って信じます?」

「へ?あ、あぁ、まぁ……。」

「話が早く進みますね。ここには上空に、冥界という、天国に似た場所があるんです。」

「ほえぇ……」

 

一昨日の事といい、現実離れした世界だ。

咲夜さんは空を見上げて続ける。

 

「その冥界にある唯一の屋敷、それが白玉楼です。どうですか?」

「はい、大体は理解できました、けど……」

「何?ここまで来て怖じ気付いたのかしら?」

 

レミリアの言葉に首を振って、私は言う。

 

「私、そんなに飛べないんですが……」

 

―――――――

 

「めーりん、あとどのくらーい?おんなじ景色なんだけど~……」

「あともう少しですよ~……多分」

 

フランは飽きてきた、とブツブツ言う。

その少し離れた所で、咲夜があからさまにため息をつく。

 

「まったく……適当ねぇ」

「だって分かんないですよ~」

 

美鈴が曖昧な答えしか返せずにいると、フランは少し高度を下げて私の所へ来る。

 

「魅空羽~あとどのくらーい?」

「うん、こっちが聞きたいかな……」

 

そう、私たちは現在進行形で、冥界に向かっている。

私が心配していると、フランと美鈴、咲夜が着いてきてくれた。

 

「……結構だわ」

「どういうことですか?」

「ほら、道案内よ。」

 

そこには見覚えのある妖精ともう一匹の妖精がいた。

 

「ここであったがひゃくねんめ!きょーこそぼっこぼこにしてやるんだから!」

「チルノちゃ~ん……止めようよぉ……」

「あら、あなた百年も生きてたの?初耳ねぇ」

 

咲夜が冷たく言い放つ。チルノは私を見つけるとハッとしたように叫んだ。

 

「やい魅空羽!ここであったが……」

「五月蝿いわよ」

 

結局私に決め台詞を言うことなく散ったチルノよ、永遠なれ。

咲夜さんはというと、もう一匹に向かって道のりを聞いていた。妖精は雲と雲の隙間を指差すと、チルノの落ちた方へ飛んでいった。友達なのだろうか?

 

「さて、ここが冥界よ。」

 

先を行く咲夜さんが振り向いて告げる。私たちは頷いて着地する。

と、私の目の前を桜が舞う。

次に目を開けた時に私は、年下の女の子に鋭い目線と剣先を向けられていた。

 




ありがとうございました!

次回こそ白玉楼回です!

感想等お願いいたします!


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幼き従者と黒き蝶

白玉楼回の序盤になってます。

少し私なりの思考が入ってます。


「っ……!?」

「貴女は誰ですか?ここは人間風情が来る場所じゃない、それを承知の上で?」

 

底冷えするような声と視線に、私はたじろぐ。

 

「……はぁ」

 

ひんやりとした沈黙を切り捨てたのは咲夜だった。

 

「妖夢、主への忠誠心も程々になさい。」

「……咲夜さんに言われると何とも言いがたいのですが。」

「刺すわよ?」

 

鋭い目線が少し和らぐ。咲夜がつかつかと近寄ると次の瞬間、私の視点が変わる。あまりの激しさに目眩がするが、美鈴が大丈夫か、と苦笑いで返す。

見ると、さっきまでの私の位置に、つまり咲夜が剣を突きつけられていた。

 

「っ……!?」

「ふふっ、分かってたくせに?」

「……はあぁ……」

 

気の抜けたようなため息をつくと、女の子は剣を下ろした。咲夜さんは私にウインクすると、女の子に向き直った。本当に完璧な従者だ。

 

「その、いきなり現れるの止めていただけませんか?心臓に悪いんですが……」

「ふふふ、貴女の反応可愛いんですもの」

「何ですかそれ!?主人に似たんですか?!」

 

さっきの怖さは何処へやら、女の子は咲夜に抗議している。女の子は幼さを滲ませる表情を引っ込め、いきなり私の方へ振り向く。しかし、呆れたような目は私を通り越している様な気がして私は振り向く。

 

「あら、バレちゃった?」

 

いたずらっ子のような表情をした女性は、木の陰にもたれていた。

 

「当たり前じゃないですか……幽々子さま」

「ふふっ。妖夢ったら怖かったわねぇ~大丈夫だった?」

「えっ、えぇっと……」

 

いきなり話を振られてしどろもどろになってしまう私に代わるように、フランが切り出す。

 

「あのねっ!魅空羽は挨拶回しに来たんだよー!」

「挨拶回り、ですね」

 

美鈴のこっそりとした訂正もありつつ、私は本来の目的を思い出す。

それを聞くと女の子は、しっかりとした表情で私に向き直った。

 

「魂魄妖夢と申します。お願いいたします。」

「あっはい、よろしくお願いします!」

 

つい態度が子供向けになってしまう、無理もないだろう。相手はせいぜい13程にしか見えないのだから。

 

「うふふっこれでも私の立派な従者なのよ~」

 

その声に隣を見ると、いつの間に先程の女性が立っていた。女性は扇子を口元に当てながら名乗る。

 

「西行寺幽々子よ~亡霊やってまーす♪」

 

歳に合わないピースサインに私は呆けてしまう。妖夢が後ろで頭を抱えている所を見ると、いつものことなのだろうか。

 

ふと、黒い蝶が目の前を過る。

私は無意識に目で追いかけてしまう。魅惑を感じさせる蝶、ふとその前に小さなリボンが躍り出る。

フランがその蝶に虚ろな目で手を伸ばしていた。刹那、私は反射的に、その手を掴んで止める。

フランも何か虚になっていたようで、私が止めると自分の行動に首をかしげて美鈴の方へかけていった。

 

私の中で、夢幻の光景が、鋭い痛みがフラッシュバックする。少し恐れを感じて、ぎゅっと手を握りしめながら、強ばる表情を解した。

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

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幻桜に何を見るか

今回途中から、過去的要素あります!
意味不明かもしれませんが……今後も出てくる、かな?



「さぁ上がって頂戴♪」

「ようこそ、白玉楼へ」

 

さっきからニコニコしている幽々子の先導で、私たちは白玉楼へ入った。先に中にいた妖夢が声をかけてくれる。手には庭師が使うハサミのようなものが握られていた。

 

「あ、私は一応ここの庭師なんですよ~」

「そうなんですか?」

 

私の目線に気づいた妖夢に会釈して、私は更に進む。

立派な内装の屋敷に圧倒されていると、フランが靴を脱いで縁側へ上がる。

慌てて私たちも上がると、いつの間にか妖夢がお茶を持ってきていた。流石といったところなのだろうか。

 

「さて……それで挨拶回りってどうするの?」

「え?」

 

突拍子もない質問だが、もっともな疑問である。今まで回ったところ(紅魔館しかないが)では、それなりに色々あったので、何も考えていなかった。

自己紹介も門のところで済ませてしまったし、どうしたものかと私が思案していると、咲夜が口を開いた。

 

「そういえば魅空羽、結局あなたスペル発動出来ずに終わったの?」

 

脈絡もない質問にしばし考えてしまうが、やがて一昨日の事なのだと気がつく。

 

「は、はい。弾幕欠片も出ずに終わりましたね……はは」

「あら?何があったのかしら?」

 

咲夜と美鈴が代わる代わる説明していくと、幽々子は楽しそうに笑った。

 

「まぁ~それは災難よねぇ~ふふっ……そう、そうなのね……」

 

突如私の方を見つめて笑みを浮かべる亡霊に、私は思考を覗かれたようでたじろいでしまう。

いや、実際覗かれているのかもしれない。さっき聞いた話だと、この人の能力は……

 

「私の能力、貴女には使わないわよ」

 

耳元に囁かれる声は、冗談抜きで怖かった。私の事をどこまで知っているのだろう?

 

―――――――

 

私は、はっきり言って浮いていた。

夢で見た、という光景をつい口に出してしまった時期があったのだ。よくある事だったのだ、私にとっては。

最初は良かった。みんな幼い笑顔で、面白いね、と笑いあった。

しかし、そんなに長く続かないのが幼少期というものである。

私は、浮いてしまったのだ。

当然だ。意味の分からないことを言い、自分のやることなすこと夢で見たと言い出すのだから。しまいには、異世界にまで話は移り、小学校は最悪の人生を送った。

中学に入っても、同じ小学校出身の友達のせいで不思議ちゃん認定され、私に話しかける人はほとんどいなかった。

 

――――――――

 

私は、死にたかった。全てを捨ててしまいたかった。

 

でも、ある日の宙は救ってくれた。冬の流星群、たまたまだったけれど、私は屋上の特等席で見ることができた。

生きる気力なんて、それっぽっちで湧くものだ。

 

私は、星を宿した目で冥界の幻桜を見上げた。




ありがとうございました!

そろそろやることが消えてきましたよーっと(-_-;)

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今度こそ冬の星空を

スペルカード紹介ですね、はい!
もう先にぶっちゃけます!興味ない方は飛ばしてもらって結構です!


「魅空羽~?」

「聞いてるのかしら?」

「あっ、はいすみません」

 

フランに袖を引っ張られ、私は我に帰る。過去はいずれにせよ、今はこの世界で生き残らなくては。

咲夜は、私から目線を外しポツリと言った。

 

「でも見たかったわ……」

「?何がですか?」

「貴女のスペルカードよ、気になってたのに」

 

確かに、結局まともに使えていない気がする。私の実力が足りないだけなのだろうが。

 

「えっ!もうスペルなんて持ってるんですか?!」

「は、はい。一応、形としては……」

 

妖夢の子供な反応に、場の雰囲気が和らぐ。幽々子がふと手を叩いて微笑む。

 

「そうよ!今から見せて、貴女のスペルカード!」

「はい!?今からですか!?」

「えぇ!だって見たいじゃない!きっと貴女、帰ったら2度と来なそうだし……」

 

そりゃあそうだ。こんな生きた心地のしない場所には二度と来ないだろう。そう思っていると、話は進みに進んで、結局私は中庭でスペルを全て見せることにした。庭が傷つかないように、という半ば不純な動機で妖夢が全て始末してくれるらしい。

 

―――――――――

 

「そ、それじゃあまずは……"チェイスプレアデス星団"」

 

幾つかの星が妖夢を追いかける。妖夢は慣れた動きで引き付けた後、その弾幕を切り裂いた。と、同時にそれは小さく爆発する。

 

「わっ!?」

 

これは予想外だったようだ、妖夢は慌てて後ろに跳ぶ。

 

「よく考えたものよねぇ……」

 

昔見た本で、すばる(プレアデス星団)のイメージが強かったのでこのスペルはすぐに作れた。もっとも狙うというのが反則なのかは怪しいところだが。

 

「じゃあ次いきますね……"爆風シャイニーズフレア"!」

 

炎の玉が私の目の前に現れる。私はそれを思いっきり妖夢に蹴飛ばす。

触れてから3秒、というのが爆発のリミット。私は半ば巻き込まれながらも後ろに下がる。

爆風が収まり、妖夢を見ると余裕といった表情で火を消し去った。流石は死を操る者の従者だ。

 

「えぇっと、次なんですけど……誰か攻撃してもらえますか?」

「えぇ、じゃあ私がやるわ」

 

咲夜さんが快く引き受け、私の目の前に立つ。手にはナイフを構え、投げる姿勢に入っている。

 

「いい?1、2、3で投げるわよ」

「は、はい!」

「1……2……」

 

私はしっかりと両手を前に構えた。

刹那、有無を言わさず飛んできたナイフを半ば強引にスペルを発動させて弾くことができた。

 

「わあぁ"オーロラアテンションロンド"!?」

「あら、さすがね。お嬢様に気に入られただけあるわ」

「いやいやいや!3はどこへ!?」

「言ったわよ……多分」

「……」

 

もういいや、と諦めつつ、妖夢にもう一枚のスペル"カストル&ポルックスの絆"をぶつける。ちなみにこのスペルは二つの弾幕が相手を挟むように飛び、必然的に距離を取れる技だ。レミリアの知恵を借りた甲斐もあり、妖夢は狙い通りに下がった(ついでに植え込みに突っ込んだ)。

 

「じゃあ、最後は……」

 

私は想像の世界を広げた。星空に探す、あの日の大三角……。

 

 




はい、ちょっと中途半端ですいません(^-^;
ありがとうございました!

感想等お願いいたします!

余談ではありますが、早苗の名字、東風谷。
これ、最近まで「とうふうだに」って読んでました///
そしたらある動画で「こちや」であることに気づくこの始末……まだまだにわかですね(泣)

小説に影響がでないように勉強しなくては(-_-;)


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変わらぬ冬の大三角

前回に続き、ほとんど過去話です(T-T)

ごめんなさい、何せやることが消えて((殴

頑張ります!


「"冬の大三角―ウィンタートリリンガル―"!!!」

 

私は叫んで片手を上げる。妖夢も身構える。

私の上には、私でも解読出来ない魔法陣が浮かぶ。特に意味はないけれど、私は空中に三角形を描き呟く。

 

「ペテルギウス、プロキオン、シリウス……発動ッ!!!」

 

魔法陣から三角形が回転しながら無数の星が放たれる。

始めはしっかりと切り裂いていた妖夢も、星が増えるにつれ動きが荒れてきた。そして遂に中庭を光が包み込んだ。

 

――――――――――

 

その後、私は妖夢に土下座した。手加減というものを知らない出来立ての能力は、中庭の植え込みを三分の一ほど吹っ飛ばしてしまったのだ。

 

(ちょっとやり過ぎちゃったよねぇ……)

 

布団の中、私は額に手の甲を当てて微睡む。今までの事を思い返すと、本当に現実離れした世界だ。いや、もしかして現実ではないのかもしれない。

私は夢に墜ちるついでに、思い返す範囲を広げる。

 

 

 

あの日、2月くらいだっただろうか。少し田舎の私たちの学校は、屋上から星が見えた。

その星を見上げながら、私は屋上の柵の外、つまり一歩足を踏み出せば……。

 

『もう……イヤだよ……』

 

私は死にたかったのだ。本気で踏み出そうとした、その時だった。

上空、月の見えないその暗空に一等星、だろうか。

煌めく星が三角形を描いていた。そしてその周りを無数の星が駆け抜けていく。

 

『綺麗……』

 

涙もそのままに、結局誰かからの通報で家に送られるまで、私は流星群を眺めていたのだ。

 

――――――――

 

(あの時からだっけ……異世界の夢を見るようになったのって)

 

そう、あの時から私は異世界……もしかしたらこの世界の夢を見るようになったのだ。もちろん、他の夢も見た。それでも、大体の夢はざっとこんな感じだった。

何か事件が起きる→誰かが(主に魔理沙だったけど)解決しに行く→万事解決

という感じだ。私の存在は無になっていたが、とても面白かった。その夢は私の生き甲斐と言ったって過言じゃなかったのだ。

 

「私はその世界にいるってことでいいのかな……?」

「さぁね、それはまだ解らないわ」

「!!?」

 

布団から跳ね起きると、背後にはスキマに肘をつく紫がいた。

 

「い、いつから居たんですか!!?ていうか読心術あるんですか止めてください!!」

「ふふふ……意識の境目なんて、案外薄いものよ」

 

本当にここは恐ろしい人しかいない。というか、今気づいたがここには人里とか無いのだろうか?人ならざる者にしか会ってない気がしてならない。

 

「まぁ、落ち着いて眠りなさいな。」

 

――貴女の夢はとても貴重なのよ……

 

その言葉は、夢なのか分からなかった。

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

次回は……どうしましょう?
アリスとの回を考えています!


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不思議の森のアリス

私事ですが、やっとテスト終了です!
投稿ペース落とさないように頑張ります!


こんなに色々あって、まだ四日目なのだから驚きだ。

私は、土地の把握や霊夢たちへの報告も兼ねて、博麗神社目指してぶらぶらと歩いていた。

景色は移り変わり、人里を越えた所で道は二つに分かれた。

私は少し迷ってから、右の道へと進んだ。が、後にそれが最悪の選択となることは、知りもしなかったのである。

 

―――――――

 

「うーん……こんな森あったっけ……?」

 

何しろ、博麗神社までの道は、魔理沙が箒をかっ飛ばして以来なので、全く土地勘のない私にはほぼ初見に等しいのだ。

ふと、周りの木々の色が変わっている。私は、ほぼ勘でバリアを張って進む。『石橋は……渡らない方が良い』って言うし。

そうしてサクサク進んでいくと、珍しい色のキノコが沢山生えていた。魔理沙はキノコ好きだったっけ、と手を伸ばした。

 

「止めときなさい。」

「うわっ!?」

 

いきなり聞こえた制止の声に、私は軽く飛び上がってしまう。その先には、洋風の女の子がいた。とても器用そうな指先に、綺麗な肌。まるで人形のような女の子だ。

 

「止めときなさい、聞こえてる?」

「は、はいっ」

 

私は手を引っ込めて、女の子に向き直る。

女の子は私に話しかけるのでもなく、そのまま去っていこうとした。私は慌てて呼び止める。

 

「あ、あのっ!」

「?何、まだ何かあるのかしら?」

「は、博麗神社ってどっちですか……」

「…………え?」

 

女の子は目を丸くして、暫く唖然としていた。そして、大きくため息をつくと、着いてこいというように歩き出した。何やらブツブツ言っているので、私は少し足を早めて聞き耳を立てる。

 

「そう……じゃあ魔理沙が言ってた外来人って……バカねぇ、キノコの胞子を浴びないようにバリア張ってると思えば、今度はキノコに触ろうとするなんて……全く……」

「え、えっと……」

「ん?」

 

良かった。さっきよりは態度が柔らかい。私は一つ息を吸うと、手短に名乗った。

 

「如月魅空羽ですっ!見ての通り外来人ですっ」

「え、えぇ。アリス・マーガトロイドよ」

 

少し食いぎみになってしまった私と対照的に、名前を教えてくれた。きっとアリスもいい人なのだろう。

少し歩くと、鬱蒼とした森を抜けた。アリスは、私を振り向いて言う。

 

「あなた、空は飛べる?」

「えっと、はい。少しなら……」

「そう、なら空から行きましょ。人里を歩いて抜けるより早いし、」

 

あまり人里は通りたくないの、とアリスは小さい声で続けた。聞くと、アリスは魔法使いという種族の妖怪らしい。周りの目はまだキツいと顔を伏せて語るアリスに、私は勝手な同情を抱えていた。

 

 

 




ありがとうございました!

ヤバいです、本格的に考えないと、題名と裏腹にペラッペラになっちゃう(内容が)。

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報告→告白

サブタイトルがしりとりみたいになった……続ける気はZEROです。
そろそろ異変も起きるかな~


「ここら辺で良いでしょう?私は帰るから」

「はい!ありがとうございました!」

「……えぇ」

 

少し頬を赤らめながら、どでかい人形に乗ってアリスは飛んでいった。

私は少しの間それを見送っていると、大きな鳥居へと歩き出した。

 

―――――――――

 

「あら、魅空羽じゃない。どうしたのよ?」

「どうしたって程でもないんですけど……最初にお世話になったので、現状報告といいますか……」

「ふぅん……ま、いいわ。魔理沙も来てるし上がんなさい。」

 

霊夢はそう言うと、箒を賽銭箱(中は空)に立て掛けて、縁側にひょいと上がった。

私も靴を脱いで、縁側に上がる。そのまま目の前の障子を開けると、魔理沙が胡座をかいて、どこから持ってきたのか団扇を使っていた。

 

「よっ!魅空羽、元気にしてたか?といっても、この間永遠亭で会ったばっかだったな」

「あはは……」

 

その節はどうも、と頭を下げて、冷たい緑茶を持ってきた霊夢と席につく。

 

「で?確か、紅魔館に居候するんでしょ?」

「ん?そうなのか?」

 

私は頷くと、先を続け今までの事を話す。

 

「ほぇ~すげぇな何か……よく生きてたな」

「私もすごいそう思います……」

「……」

「?霊夢どうしたんだ?気難しそうな顔して」

 

霊夢を見ると、少し考えているようだった。霊夢はそのポーズのまま、誰に問いかけるでもなく呟き出した。

 

「その夢は予知夢か何かの類いなのかしら……でもそうだとしたら貴女の能力は……?それに、外来人なのに……いくら何でも……」

「何言ってんだかさっぱりだぜ?私にも教えろよ~」

「そうよ~一人で考えていないで、教えてほしいわ~」

「「……は?」」

 

霊夢たちが振り向くと、紫が困っちゃう、というような目線で立っていた。

位置的に、私は気づいていたのだが唖然としてしまったのと、紫が唇に指を当てていたのだ。

 

「紫!?ちょ、どうしてここに!」

「出たなスキマbゲフンゲフン、紫!」

「出たとは酷いわねぇ……紫ちゃん泣いちゃうぞ?」

((BBAって言いかけたのはスルーなんだな(なんですね))

 

紫は許可もとらずに入ってきて、私の向かいに座った。

霊夢も咎める様子がないので、良いのだろうか。

 

「さて……それじゃあそろそろ話さなきゃいけないかしらね。」

「何が……ですか?」

 

薄々感付いてはいた。ここに来てから、ずっと分からなかった事。

 

「貴女の事についてよ。」

「「っ!!」」

 

霊夢と魔理沙も面食らったように、静かになった。

紫は、私を見つめて静かに続けた。

 

「貴女はただの外来人じゃない。夢の迷い人よ。」

 

 

 

 

 

 

 




頑張ります頑張ります頑張ります!!!

大事なんで三回言いました!それだけです!

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夢の迷い人、鮮明な始まり

これどーすんだろ……ハッ(゜ロ゜) 

失礼しました、今回ちょっと独自性が出てきました!
それを踏まえてどぞ!


「夢の、迷い人……?」

 

衝撃的な告白のはずだが、私には全く理解できない。両サイドを見ると、魔理沙は怪訝そうな顔で何だそれ、と呟いた。しかし、霊夢はそっと口を開いた。

 

「紫いわく、夢の中でこちらに来ている人……だったかしら?菫子みたいな」

「あー、そういうことなんだな」

「え?一番理解しなきゃいけない張本人置いてかないで?!」

「おぉ、すまんすまん」

 

半笑いで魔理沙が説明してくれる。どうやらその菫子さんという人は、精神だけ此方に来るのだそうだ。

 

「でもどういう事だ?魅空羽は別に何かしら仕組んで来た訳じゃないんだろ?」

「だから言ったでしょう?迷い人、と」

「あ……」

 

私は気づかない間に、精神だけ此方に来てしまった、ということなのだろうか。だとしたら、彼方の私はどうなっているのだろう?考えるとゾッとした。

 

「彼方の貴女は眠っているわ。貴女が此方にいる限り、ね。」

「そう……ですか。良かった」

 

実際、両親は帰ってこないのだから特に困った事はない。紫は少し和らいだ表情で続ける。

 

「新しい子は半年に一度、一人来るか来ないかなのよねぇ。新しい子は、一定の期間……と言ってもどのくらいかは不明だけれど、ここに居続けることが出来るわ。そして、その一定の期間中は他の夢の迷い人も来ることが出来るの。」

「は、はぁ……?」

 

仕組みは理解できたが、いまいち自覚が持てない。私は選ばれたということなのだろうか。だとしたら、どうして?

 

「特に理由なんて無いわ。ただ人類からまた一人、幻想の存在を知る者が増えただけのこと。」

 

余計意味が解らなくなったが、つまりはそういうことなのだろう。

当分帰れないとはいえ、夏休み中に帰れれば万事解決なのだから、私にとって悪いことはない。

 

「さて、一段落付いたし、改めて自己紹介といきなさいな。」

「はあぁ……そう言いつつ逃げるとか卑怯よね」

「全くだぜ」

 

紫が帰ると、魔理沙が切り替えて私に向き直る。

 

「じゃ、まぁ。私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだ!よろしくな!あ、能力は魔法を使う程度な。」

「博麗霊夢よ。巫女やってるわ。能力は空を飛ぶ程度よ。……宜しくね、魅空羽」

「!……はい!宜しくお願いします!」

「別にタメでも良くないか?」

「えっ!!!」

 

いきなり知らない場所に来たんだから、ちゃんと敬語は使っておこうと思ってた。

 

「えぇっと……それは、でも、えぇ……」

「それがあんたの話し方なんでしょ、いいのよ勝手にして」

「えと……うん、ありがとう霊夢」

「!……えぇ。」

「へへっ♪何だ霊夢ぅ~照れてんのか~?」

「て、照れてないわよ~っ!!!」

 

鮮明な始まりを告げる声は、澄んだ昼の空へ響いた。

 

 

 

 




ありがとうございました!

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不審火か前兆か

今回から異変を始めます!

……これ言っちゃいけなかったんじゃ!?まぁいいです!

どぞ!


「う……ん……?」

 

起き上がると、そこは霊夢の家、もとい博麗神社だった。昨日はあのまま夕飯までご馳走になってしまったので、そのまま寝てしまったのだろう。

 

「せめて朝ごはんくらいはなぁ……」

「作りたいか?朝ごはん」

「うわっ……!」

 

髪を適当に結い上げた魔理沙と、二人で静かに笑い合う。魔理沙は台所に立つと、冷蔵庫を漁り始めた。

 

「魅空羽って料理出来るのか?」

「うーん……まぁ、スタンダードなのは出来るかな」

「味噌汁とか、そういうことか?」

「うん、そういうこと。」

 

暫くして出来上がった渾身の和食に、二人で満足げな笑みを浮かべていると、後ろから眠そうな声がかかった。

 

「ん……おはよ」

「おう、霊夢。おはようだぜ」

「おはよ~」

「……二人で作ったの?」

「「うん」」

「……そ、冷めない内に食べましょ」

 

三人で座る食卓は、やはり暖かくて自然に笑みが浮かぶ。霊夢も心なしか嬉しそうだし。こんな平和な夏休みなら、案外いいかもしれない。

 

―――――――――

 

朝ごはんを食べ終わって、霊夢が紅魔館まで送ってくれると言うので、私達は空を飛んでいた。

朝の風はまだ涼しく、澄んでいる……はずだった。

 

「なーんか焦げ臭くないか?」

「それ思ったわ」

 

怪訝そうな顔つきで振り返る魔理沙に、霊夢も神妙な顔で応える。

言われてみれば確かに、火事のような匂いがする。

 

「……嫌な予感がするわ、少し行ってくる」

「私も一緒に行くぜ!」

「わ、私も!」

「……勝手にしなさい。」

 

結局、霊夢の勘を頼りに、三人で人里に向かうことにした。

 

――――――――

 

「のわっ!?」

 

飛んできた火の粉に、思わずのけ反る魔理沙を見やり、霊夢は呟いた。

 

「見たところ火事のようね。」

「だな~」

 

二人とも暢気なのだが、良いのだろうか。そわそわしていると、魔理沙が言った。

 

「あー大丈夫だぜ、人里には焔のエキスパートがいるからな」

「は、はぁ……?」

 

もう今更誰が来ても驚くまい。そう思っていた私だが、絶句してしまった。火事現場のど真ん中で、炎を手で吸い取っていく女の人が居たのだ。

魔理沙たちはその人……ではなく、避難した住民の先頭にいる、少し変わった服装の女性の所へ降りていった。

 

「不審火か何かかしら?」

「あぁ、そうらしい……。私としたことが、気づくのが遅れてしまってな。妹紅が居てくれて助かったよ」

「けーね!こっち終わったよ!」

「あぁ、すまんな妹紅……」

「ホントお前便利だよな~」

 

私は置いてけぼりを食らいつつ、何か、前兆を感じるのだった。

 




ありがとうございました!

妹紅に関してちょっと独自性ががが……

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女子会(?)と再来

サブタイトルが意味わからないですけど、もこけね追加です


「あっと、そういや魅空羽忘れてたな」

「あぁ、そうね。ついいつも通り進めてたわ……」

「ん?連れが居るのか?珍しいな」

「もしかして、あの……?」

 

私は自分の名前が出たことにやっと気付いて、火事で焼けた住宅から目を離した。

 

「あぁやっぱり。輝夜が言ってた子だな」

「ほう……となると、この子が噂の外来人か?」

「あぁ、そうだぜ!って、魅空羽も何か言えよ……」

「あっ!えっと、如月魅空羽、です!」

「あぁ宜しくな。私は上白沢慧音、寺子屋の教師をやっている者だ。ほら、妹紅も」

「えぇ……私は藤原妹紅。まぁ宜しくね」

 

私は人里の二人に頭を下げると、会話に参加する事にする。

 

「あの、不審火……なんですよね?」

「多分ね、なんでも火がいきなり付いたとかで意味不明なんだけど……」

「まともな証言は見られなかったんだ、もう少ししっかりしておくべきだったな」

「……」

 

続く重い沈黙をぶち破ったのは、魔理沙だった。

 

「なぁ、真面目に考えなきゃいけないのは分かるんだが、腹減らないか?」

「ん、それもそうねぇ」

 

日はもう高く、結果皆で寺子屋の近くの定食屋に行くことにした。

 

――――――――

 

結局議論を交わしながら、おやつを食べながら、夕暮れになってしまった。さっきよりも緩い格好になった慧音が泊まっていってはどうか、と提案してくれたので、ありがたく泊めてもらう事にした。

 

「お風呂空いたよ~」

「んじゃ、私入ってくるぜ」

 

妹紅と魔理沙が入れ違いになった所で、私の目は妹紅の長い髪に釘付けだった。

 

「……綺麗ですね」

「ふぁっ!?」

「ふふ、良かったじゃないか」

「魅空羽の事だから、素直にそう思ってるわよ」

「~///」

 

顔を赤くする妹紅に、にやける慧音。女子会の光景がそこにはあった。

 

―――――――

 

「おやすみなさーい……」

 

魔理沙、霊夢は先に同じ部屋に入り、すぐに寝てしまっていた。

慧音は仕事があるから、と言い居間に残っていた。居間の入り口を出ると、妹紅が柱に寄りかかっていた。私を見つけると、慌てて(慧音には言わないで!寝かされちゃうからっ!)と頬を赤くして言ってきた。ホントに仲が良い人達だ。

 

――――――――

 

事件が起きたのは、午後11時を回った所だった。やっと微睡む私を叩き起こすような足音に、私は布団から這いずり出てそっと襖を開ける。

そこには、妹紅と、寝巻き姿の魔理沙の姿があった。会話を聞くため、更に開けようとするとガタンと音を立ててしまう。妹紅は肩を震わせると、此方を振り向いた。

そして、諦めたようにそっと手招きする。私は足音を立てないように、三人で寺子屋を抜け出した。

 

途中、魔理沙が耳元で緊迫した声で言う。

 

「また不審火が出たっぽいんだ……」

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

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焔との闘い、月に翳す想い

サブタイトルカッコいいけど、そんなにカッコよくないかも(笑)


「急ぐぞ!少し火の手が早い!」

「くそっ!魅空羽、乗れっ!」

「う、うん!」

 

私は魔理沙の箒に追い付き、飛び乗る。目線のやりどころに困り、隣を見ると、妹紅が今朝よりも険しい面持ちで飛んでいた。なんでも、炎を扱えるらしく、今も両翼を象る焔を背中に宿している。

 

「ちっ……私は先に行って火の進行を妨げる!魔理沙も魅空羽、だっけ?落とさないように急いで来て!」

「おう分かった!魅空羽、飛ばしていいよな!?」

「もちろんっ!」

 

我ながら随分頼もしくなったものだ。私と魔理沙が乗った箒は全速力で一際明るい人里の端へ飛んでいった。

 

――――――――

 

さすが魔理沙のスピード、着くのには5分もかからなかった。

見ると、更に人口の多い方へ火が移らないよう、焔を上空に集める妹紅がいた。

口元に余裕めいた笑みは浮かぶものの、直に炎を触る右手は焦げていると言っても過言ではなかった。

 

「魅空羽!呆けてる暇はない。私はこの状況を打開できそうな奴を呼んでくる。避難誘導を頼んでいいか?」

 

遭遇したことのない状況に置かれ、それでも私は頷いた。

避難誘導は、私がやるまでもなく完璧だった。色々考えたあげく、私は燃えそうな木々や看板を火から遠ざける事にした。焼かれるような暑さに噎せ返りながら、私は精一杯の事をした。

 

――――――――

 

(どうすればいいんだっけ……えっと……)

 

いつの間に煙を吸っていたのか、意識が疎い。山から吹き抜ける突風は、明らかに状況を悪化させている。

反対側にいる妹紅の目にも、焦りが見てとれる。

 

遂に意識を放りそうになった時、私は襟元を思いっきり引っ張られた。抵抗もせずに後ろに仰け反ると、そこには冷たい目をした霊夢がいた。

 

「あ……れい、む……」

「全く……あんたらは本っ当にもう……!」

「取った行動はともかく、単体で動いたのには感心しないな、魅空羽」

 

もう一つ聞こえた声に目線を動かすと、慧音によく似た、というかほとんど慧音の半獣がいた。図書館の図鑑にあった、白沢だろうか。

 

「もうこの際開き直るが、私は白沢だぞっ」

「どういう方向に開き直ってんのよ?」

 

もっぱらいつもと変わらない会話だが、満月を背にした慧音の姿はいつもと違う凛々しさがあった。

ふと空中に風切り音が響く。皆で上空を見上げる。

 

「着いたか……!待たせたな、霊夢……!」

「ふふん!あたいがきたからにはもーだいじょーぶよ!」

「チルノちゃん、あんまり下に行っちゃダメだよ……!」

 

そこには、息を切らした魔理沙、チルノ、この前の妖精がいた。そしてもう一人、魔理沙の箒の上に座る人がいた。

 

「あら、また会ったわね。」

「あ、アリスさん!」

 

その後、妖精による吹雪と人形たちによって始まった消火活動を、私は横目に見ながら、おもむろに月に手を翳し誓う。

 

――何があっても、この世界で生き残るんだ。

 

 




ありがとうございました!

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紅い光と時の狭間

異変を進めていくには、1000字程度じゃ足りないのかな……?変える気ないけど。




次の朝、結局しびれを切らした咲夜が迎えに来るまで、私は人里の片付けに追われていた。

 

――――――

 

「全く……博麗神社に行くって言ってから、丸二日も帰ってこないって一体どういうことかしら?とのことです」

「すみません……」

 

まだ眠っているレミリアの、伝言とは言い難い程の小言の連続に目を回しそうになりながら、私と咲夜は居間のソファに座っていた。次はどんな事を言われるのだろうと身構えていると、咲夜が目線を反らして言った。

 

「まぁ、私は特に気にしてなかったのだけれど、ね」

「え……?」

「実はお嬢様に内緒で様子を見に行ってた訳じゃあないわ」

「……!」

 

この人の能力、ホントに何でも出来るな。

 

咲夜に勧められ、私は仮眠を取ることにした。

 

――――――

 

少女は燃え盛る焔を見つめて、憎しみを露にする。

紅い魔方陣のステンドグラスに背を向けて、小さな羽をゆったり動かしながら、唄う。

自分がどうしてそこにいるのか、解りもせずに。

想いのまま、夜な夜な焼き尽くす。

 

――――――

 

激しいノックの音に、私は跳ね起きる。

何か凄い夢を見ていた気がするけれど、思い出せないので放っておいた。

ドアを開けると、いつかのようにフランが飛び付いてきた。その後ろには、レミリアもいる。

 

「お帰り~!」

「う、うん。ただいま、フランちゃん。えっと……」

「はぁ……伝言は確かに聞いたかしら?」

「はい」

 

小言の山だったけど。

 

「しっかりと反省したかしら?」

「はい……」

「……なら良いわ、お帰りなさい♪」

 

柔らかく微笑むレミリアに、私は大人の気品を感じた。

 

――――――

 

二日ぶりの夕食を終えて、美鈴たちにも挨拶をした後、私は切り出した。

 

「あの、それで……」

「人里の不審火の事?」

「は、はい!何で知って……」

「私の能力をお忘れかしら?」

「あっ」

「一応、咲夜に魔理沙を叩き起こしに行くよう命令したのだけれどね、少し遅かったわ」

 

この人……解決するなら最後までやってほしいものだ。

ふとレミリアは思い出したように、目を閉じると、咲夜、とだけ言って部屋を出ていった。

 

「……かしこまりました、お嬢様」

「えっと?」

 

次の瞬間、周りの景色が反転したような色使いに変わる。

 

「!?」

「ふふっ、ようこそ時の狭間へ」

「咲夜さん!?」

 

そこには懐中時計片手にウインクする咲夜がいた。

咲夜は付いてきて、と言うように館内を歩き出す。食堂を出て、大階段へ差し掛かると壁に寄りかかりまるで時が動き出すのを待つようにレミリアが瞳を閉じていた。

咲夜に習って一礼すると、私と咲夜は人里へ歩き出し、遂に駆け出した。最も、時を止めているのだから、走る必要は無いのだが。

 

今度こそ、完璧に救うため。遅すぎないように。

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

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焔球は地の奥底へ

地底を試しに書いてみたくて……それまでの話です、はい


「さて、着いたわね……魅空羽、そこの建物を見てきなさい」

「え?」

 

突然の命令口調に呆けていると、咲夜は早く行った、というように手を振るので、私は仕方なく引き違いの戸を開ける。

 

反転している世界でも解る。そこには焔が一塊、時の止まるのを物ともせずに浮いていた。

一瞬、噂に聞く人魂というやつかと思ったが、そうでもないらしい。

焔は一瞬パチパチと音を立ててから、積み上げてあった薪に飛び火した。焔が飛び出していってから、私は慌てて水を掛ける。幸い、炎はまだ小さかったのですぐに消えた。

建物から出るときに覗いた部屋では、老人が目覚める様子も無く眠っていた。一瞬死んでいるのかと思ったが、時が止まっているのを思い出し安堵する。

しかし、唯一の住人がこの様子では、あの程度の火でも火事になりかねなかっただろう。私はゾッとした。

 

「お疲れさま。よくやったわ」

「レミリアさんはこれを視たんですか?」

「うーん……ただ、老人が火事に巻き込まれている、とだけ言っていたわ」

「じゃあ何でここだと?」

「ふふっ、人間関係って大事よ」

 

答えにならないような答えを返しつつも、咲夜は時を解除しようとしない。私は不思議に思ったが、それは直ぐに覆された。

空中を見回していた咲夜が突如叫んだのだ。

 

「居たっ、追うわよっ!」

「はい!?何をですか!」

「当たり前じゃない!あれよあれ!」

 

咲夜が指差していたのは、紛れもなくさっきの焔だった。

私は慌てて羽を出し、急加速した。そして刺激しないよう、少し距離をとって付いていく。咲夜はいつでも攻撃できるような態勢で地上を走っていた。

 

――――――――

 

焔がフワフワと……フワフワという表現はおかしいスピードだが、飛んでいったのは、妖怪の山の麓にぽっかり空いた縦穴だった。底は暗く、どこまで続いているのか分からなかった。

 

「うーん……困ったわね」

「やっぱり、此処って何かヤバイんですか……?」

「事情を話せば、死にはしないかもだけどね」

「えぇ……」

 

それダメなやつですよ、私死ぬやつじゃないですか。完璧なフラグ立っちゃいましたよ。

 

「まぁ……増援でも呼べばどうにかなるかしらね、解除」

 

周りの世界が動きだし、私はチカチカする目で何回か瞬きする。

すると、鋭い風切り音と共に近くの岩にナイフが突き刺さる。……あれ?ナイフって岩に刺さる物だったっけ?

 

「あぶねぇだろ!!?」

「弾幕級のスピードで飛んでくる貴女が悪いわ」

「だから少しは速度落とせって言ったのに……」

 

おっかねぇやつだな、とブツブツ言う魔理沙に、ゆっくり降りてきた霊夢。二人ともどうして此処が分かったというのだろう。私が首を傾げていると、別の声がした。

 

「妹紅達と話し合った結果、ここが怪しいだろうと踏んでね。来てみたんだ」

「話し合いって……殆ど霊夢の勘だったじゃん」

「慧音さん、妹紅さん……そうだったんだ」

 

霊夢の勘なら納得できる。その霊夢が、私に向き直って言った。

 

「ここははっきり言って、人間の行く場所じゃあないわ。それでも、貴女は行く?」

「……勿論です。」

 

私たちはせーので深い穴……地底への入り口に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

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妖怪の山に入り口があるっていうのは合ってるんですかね?(--;)


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響く唄のそのまた奥へ

地底はやはり難しい(--;)
頑張りたいんだけどなぁ……


「「ぴゃああぁぁぁあああ!!!??」」

 

飛び込む寸前に羽を広げるのを忘れた私と、当然飛べない慧音は、一直線に縦穴を落ちていった。

 

「慧音っ!って?!」

「「「魅空羽ぁ!?」」」

 

ほぼ全員の呆れた声に、自我を取り戻した私は急いで羽を広げる。霊夢が先を行き、背面飛行しながら私に手短な説明を始める。

 

「今から行くのは地底。元地獄って言えば解るかしら?」

「地獄っ!?」

 

ホントに何でもアリなんだねぇ、と神妙に呟いていると魔理沙が霊夢に合わせるように箒に寝っ転がる。

 

「まぁでも人のいねぇ街って感じしかしねぇよな~」

「そりゃ旧都なんだから当たり前だろ」

 

慧音を抱き抱えた妹紅は、行ったことないけど、と付け加える。

とにかく身構えて行かないといけないかも、と私は覚悟を強くしたのだった。

 

―――――――

 

「さて、もうすぐ旧都よ」

「待ちな!」

 

霊夢の行く先、つまり背後に現れたのは、杯を持った……鬼だった。

私が呆気に取られていると、霊夢が心底面倒そうに話す。

 

「今ほんっとに闘ってる場合じゃないんだけど?」

「そうだぜ!急いでるんだ通せよ!」

「んなこと言ったって分かってるんだろう?」

 

鬼はニヤニヤしながら、先頭に立つ霊夢から私達を見回す。相手を見定めるようだ。

 

「鬼ってのは……闘う生き物なんだよ」

「はあぁ……仕方ないわねぇ、咲夜!」

「えぇ!」

 

瞬間、周りの世界が反転した。時が止まったのだ。

うわぁ、という小さな声に振り向くと、妹紅と慧音がキョロキョロしていた。

 

「すげぇな……時が止まってる、のか?」

「えぇ、そうよ。ようこそ時の狭間へ」

 

私達は、反転した世界を鬼の横をすり抜け(咲夜はもちろん頭上にナイフをセットしていた)旧都へ向かった。

 

――――――――

 

「さて……旧都に来たはいいのだけれど」

「ここまでは真っ直ぐだったからなぁ」

「ここからどうするか、だな」

 

実はここからの道が誰も分からないのだ。妹紅、慧音、咲夜、私の四人は、とりあえず道端に座る。

しばらく静かにしていると、慧音が言い出した。

 

「なぁ、何か聞こえないか?」

「そういえばそうだな、普通なのか?」

「「分からない」」

 

そりゃあそうだ。こればっかりは例え霊夢たちが来ても分からない。

はずだった。私は、口をついて出た言葉に自分自身で驚く事となる。

 

「この唄、聴いたことあるかも」

「「「えぇっ!!?」」」

「いや、その~何ていうか?」

 

弁解を試みるが思い浮かばない。諦めて、たった今思い出した事を言ってみる。

 

「ホントに……ただ、夢で見た人が唱ってただけで……っ!」

「夢、か」

「うーん……魅空羽の夢なら、一理あるんじゃない?」

 

うぅ、流石咲夜。よく分かってらっしゃる。

そうなのだ。私の夢は、普通の夢じゃない。

 

私は、しっかりと思い出しながら、道を歩み始める。

響く唄のそのまた奥へ、一人の少女を探しに。

 

 

 

 

 

 




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旧都をさ迷い地霊殿へ

サブタイトルの通りです(笑)

古明地姉妹のキャラ崩壊(?)にご注意下さい


「こっちで……次がこっち……」

 

意外と入り組んでいる道をどんどん進んでいくと、階段が見えてきた。そこを降りようとすると、後ろから声が聞こえた。

 

「止めておいた方が良いですよ」

「そうだよ~」

 

ふと振り向くと、ピンクの髪の女の子と、その妹らしき人が、旧都の中を歩いてきた。思わず身構えてしまうが、敵意は無さそうだ。変に身に付いた反射神経を抑え、私は一歩近づく。

 

「えっと……どうして、ですか?」

「そこは、最近拓いてしまった所でして。何かしらの封印がしてあった場所なんです。それでペットに見張らせていたのだけれど……」

「何かしら不都合があった、と?」

「えぇそうです。久しぶりね、吸血鬼の従者」

「はい、ご無沙汰しております」

 

本当に関係性の見えづらい世界だ、と思っていると、ピンクの髪の女の子が言った。

「レミリアさんとは、宴会で何度かお会いしているんです。まぁ私も、地上の事については分かりづらいと思いますが」

「そうなんですか……え?」

「あら、驚かせてしまいましたね。とりあえず、地霊殿に来ませんか?貴女達の用件も含めて、色々聞かせていただきたいのです」

 

女の子は、古明地さとりと名乗った。私も礼儀として名乗る。

 

「私は如月魅空羽です、よろしくお願いします。さとりさん、それと……」

 

私がもう一人の方に目線を向けると、さとりは目を見開いた。女の子は顔を輝かせて此方にふわふわと来た。

 

「お姉ちゃん、私が見えるのっ?!」

「へっ!?み、見えちゃいけないものなの!?」

「ううん!……でも私の事、話しかけるまで見つけてくれない人もいるからさ」

「そ、そうなんだ……」

 

存在感が薄い、とか……?

 

「こいしの能力によって、です。決して存在感は薄くありませんよ」

「そうなんですね……で、心勝手に読むの止めません?」

「あら、そうですか?こちらの方が楽なんですよ」

「あ、はい……もう勝手にしてください……」

 

古明地こいし、と名乗った女の子は、私の腕に引っ付いて地霊殿に着くまで離さなかった。

 

―――――――

 

「さて……まずは、ここに来た理由を教えて下さいませんか?ここは人間が来るところではないのは、ご存知ですよね?」

「あ、はい。それなんですけど……」

 

心を読めば一発だろうに、私はそう思いながら話し始める。

 

そして、地底に飛び込んだ所まで話すと、霊夢と魔理沙がやって来た。

 

「ちーっす!やっぱ此処に居たな」

「探したわよ、ったく……」

「ごめんなさいね、でも手がかりは掴めたわ」

「そ、なら良いわ」

 

仲間は揃った。後は……勇気。飛び込む勇気。

 

 




ありがとうございました!

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獄炎の中に唄う少女

主犯までの道のり長っ!

以上です、はい。そんな回です。


「で?宛が出来たんでしょ、早く行くわよ」

 

霊夢が私達をドアに寄りかかり催促している。私が席を立とうとすると、遠慮がちに声がかかる。

 

「それなんですが……」

「ん?どうしたよさとり」

「異変が夜に起こるのは分かりますよね?」

「はい……?」

 

確かにそうだ、私と咲夜はさっきその場で阻止してきたのだから。咲夜と顔を見合せると、さとりが先を続ける。

 

「実はペットに調べさせた所、何回かに分けて火を飛ばしているようなのです。」

「ふぅん……って、それじゃあ今からまた止めにいかなきゃならないって事じゃないの?!」

「それなら私が行くよ。私と慧音が居れば、多分大丈夫でしょ」

 

妹紅が慧音の手を取って上に挙げる。それなら……と霊夢が肩を落ち着かせる。が、その前に咲夜が声を発する。

 

「いいえ、その必要はないわ。私が行く」

「は?咲夜が?」

「どうしてだよ?!」

「だって、私が行けば実質時が止まってる間に解決できる訳だし、問題ないでしょう?」

「まぁ、それは確かに一理あるな……だが、里の管理者として、私も着いていくぞ」

「慧音……!」

 

妹紅はまだ何か言いたそうだったが、次の瞬間、咲夜と慧音は消えていた。あそこで待ち伏せして追いかける気なのだろう。

 

「まぁ、そうとなれば……」

「「?」」

「私達は手薄になった所を狙おう……ですか。安全策ではありますね」

「あーなるほどな!でもどうするんだ?流石に私達まであの階段の前で待ちぼうけは嫌だぜ?」

 

それには激しく同意する。第一、あの旧都で突っ立っているだけでも危険だろうに。

 

「そこは問題ないでしょ。あそこから火が出てきたら、咲夜は里まで追いかけて着いたタイミングで時を止めて阻止して、それで時が止まってるまま帰ってくるでしょう。だったら……」

「咲夜たちが帰ってきてすぐに出発すりゃ良いって事だな!流石は霊夢、考えたもんだぜ……」

 

魔理沙は感心しつつ、出されたお茶をすすっている。皆は束の間の休息として、地霊殿で晩御飯を頂いた。

 

――――――

 

一通り近況報告などを終えて寛いでいると、ふと気配を感じ振り向く。

すると次の瞬間、勢いよく扉が開いた。咲夜が真剣な面持ちで立っており、慧音がその後ろで膝に手を付き息を切らしていた。どうやらまた全速力で走ってきたようだ。

 

「あの中まで時が止まってるとは限らないしね。さぁ、行くわよ!」

「はいっ!」

「「おう!」」

「えぇ!」

 

私達は旧都の奥地へと個々の方法で向かった。

 

―――――――

 

「にしても暑いわねぇ……せっかくの夏の夜だってのに」

「まぁな……地底だし、旧地獄だし」

 

ふと、一際熱い熱風が吹き抜ける。私が次に目を開けると、紅いステンドグラスを見上げて唄う少女の周りに獄炎が渦巻いていた。

その少女は、炎を映す瞳で振り向き言った。

 

「あんたたち……私のテリトリーに何の用?」

 

 

 

 




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変わらぬ過去と変わる思い

一人称が同じで口調が違うというのは、なかなか書きづらいですね~……


「何の用?じゃないでしょうが。あんたが不審火の犯人ね」

 

こういうのに馴れた霊夢が突っかかる。そして、周りの焔を消そうと試みるが……さすがは地底。次から次へと灼熱の炎は湧いてくる。

 

「無駄だ、私でもその焔がどうやって湧いてるのか知らないからな」

「どんなよ!?」

「どんなだよ!?」

 

少女は、顔をしかめてからこう続けた。

 

「ここはやっと出来た私の居場所だ。邪魔すんなよ」

「いいえ、ここは貴女の居場所ではありません。麗しき地底の奥深く、紅き憎しみの焔の霊殿。昔より封印されてきた場所のはず……。」

 

さとりさんの言葉は本当らしく、目の前のステンドグラスは焔を宿す魔方陣のようだった。

妹紅や魔理沙はいつでも闘えるよう身構えているが、少女は何も素振りを見せない。ただあっさりとこう言うだけなのだ。

 

「ここから出ていけ。さもなければ焼き尽くす」

「ふんっ!誰を焼き尽くすだって?」

「あんな程度の炎で、私達を倒せるとでも思ってんのか?」

「ちょ、ちょっと!」

「あんたたちねぇ……でも、ただで出てく気は無いわ」

 

妹紅、魔理沙の挑発的な発言に、多少苛ついたのか、少女が声を荒げる。

 

「うるせぇ!出てけって言ってんだろ!」

「私がやるわ、下がって!」

「私にもやらせろよ~」

 

霊夢と魔理沙は前に出た。この位置からでは顔は見えないが、普通の女の子な背中にただならぬ貫禄が滲んでいる。

闘いは魔理沙のスペルで始まった。

 

「さっさと終わらすぞ、"ミルキーウェイ"!」

「分かってるじゃない、"夢想妙寿"!」

 

霊夢のスペルは周りの炎に掻き消されたが、魔理沙の放った小さな星たちは列をなして、炎を突き破った。

と、魔理沙の意に従っていたはずの星たちが止まる。

 

「なっ!どうしてだ?!」

「私をナメてるのか?」

 

少女は初めて笑った。魔理沙の星は色を変え、少女の周りに並ぶ。

 

「私の能力は"夏の宙を操る程度"。それを知っての事か?」

「っ!それって……!?」

「ははっ!一発には一発だろう?もちろん、一発で済むかは知らんがな!"獄炎彗星―コマンドサテライト―"!!!」

「下がって下さい!"オーロラアテンションロンド"っ」

 

炎の彗星とオーロラの障壁がぶつかり合う。ここに来たばかりの私なら、あっさり押し負けていただろう。

しかし、今は違う。本気の戦いでは無いものの、多祥なりとも経験は積んできたのだ。

 

「誰も……誰も私は変えられないんだッ!」

「皆が……皆が私を変えてくれたの!!!」

 

誰に言うでもなく、私達は叫ぶ。

 

「私の過去なんて……あんたには分からないだろッ!」

「私の思いなんて……貴女には分からないだろうけどッ!」

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

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死への渇欲

ここまで読んで頂きありがとうございます!
まだまだ頑張って書いていきます!

それだけです!



「皆、好戦的だな……じゃ、私も。"凱風快晴―フジヤマヴォルケイノ―"!」

「お嬢様のためにも、負けてられないわね……"ルナクロック"!!!」

 

何を目論んだ訳でもないが、不死鳥の炎を纏ったナイフが無数に飛んでいく。これが貫禄というものか。

が、それも束の間、見覚えのあるような星たちが弾き飛ばしてしまう。

 

少女は、笑っても怒ってもいなかった。ただただ来る攻撃を弾き、向かってくる敵を撃つ。それだけの行為に、私は、似たものを感じずにはいられなかった。

もし、魔理沙たちに会わなかったら、私もこうなっていたのだろうか?

 

「隙ありっ!"アースライトレイ"!」

「"夢想天生"!」

「"操りドール"!」

「"不死鳥の尾"!」

 

えげつない量の弾幕(一部ナイフ)が一斉に飛んでいく。少女は、驚きの表情を見せて観念したように顔を伏せた。弾幕は一層加速する。

 

終わった。魔理沙が口元を緩め、酷な物を見まいと慧音(ほぼ観戦状態)が顔を背ける。

少女は弾幕に貫かれる

 

 

 

はずだった。

少女を弾幕がすり抜け、ナイフが後ろの岩壁に突き刺さる。

唖然として動けない私達を、少女はどこか狂った笑みで嘲笑った。

 

「……あはははは!どうだ?私は死なない、私は燃やし続ける。あんたらは一体どうするってんだ?」

「……!」

 

怒り。この世界に来て、新たに目覚めた本当の人間らしさ。それが、それだけが今私を動かしていた。

真夏の太陽にも負けない明るさ、私の手に宿る小さな彗星。私は挨拶代わりに、スペルを掲げる。

決意を表して。

 

「"カストル&ポルックスの絆"……!」

「!」

「魅空羽……!」

「面白い……せっかくなら命を懸けてやるよ!」

 

平和的(?)な私が参戦したからか、皆のどよめきが地下に反響する。思い込みだろうが。

二つの彗星は剥き出しの岩にぶつかり砕け散る。

双方共に、攻撃の当たらない中で少女は吐き捨てるように言う。

 

「ムカつくんだよ……」

「っ……何が?」

 

気圧されながらも、私は聞き返す。今までなら絶対しない、これが私の決意だった。少女は声を荒げた。

 

「ムカつくんだよっ!あんたの何もかも!その欲望でさえ!」

「うるっさい!ふざけないでよ!貴女には分からないの?!」

 

お互いの全てを懸けて願う。祈る。この身がどうなろうと、この平和な日々が終わろうと。

 

かつて、私が感じていたこと。

そして今、どんなことより辛いことだと知った気持ち。

 

己の幻想全てを懸けて、これだけが私の決意。

 

「捨てなさいッ!その死への渇欲をッ!!!」

「捨てろッ!その生への渇欲をッ!!!」

 

一つ息を吸う。笑みさえ浮かぶこの瞬間、ありったけの星が舞う。ありったけの光を放って。

 

『―今、すぐにッ!!!』

 

 




ありがとうございました!

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矛盾した欲望

シリアス……にしようとしたら意味が判らなくなりました。はい。ガチめに意味不です。

暖かーーーーーい目で見てください。
あと今回試しに2000字くらいで書いてみました。


「面白い……面白いな!あんた名前は?!」

「……みぃだよ!」

「本名じゃあないな、まぁいい。私はリンだ!」

「本名じゃあないね!」

 

私達は張りぼての自己紹介を済ませつつ、弾幕を飛ばし合う。何が似て通ったのか、かなりの相殺っぷりだ。

私は必死で、初めての耐久戦闘を乗り切ろうと星を放ち続ける。今の実力では、魔理沙や妹紅が援護に就いてくれてやっと押しきれるくらいだ。

 

少女の方はというと、一向に疲れを見せない。たとえ隙をついて弾幕が当たろうと、すり抜けていくのだから意味がない。そんな絶望的な闘いに、痺れを切らしたのか霊夢が声を上げた。

 

「何なのよもう!ちーと、だったかしら?それでしょ!?」

「珍しいな、霊夢が先に声上げるなんて……。まぁ同感だがな。これじゃあ意味がないぜ」

 

一見放棄したように見える二人の態度だが、むしろ警戒を強めているかのように取れる。掲げ続けた右腕が疲労に悲鳴を上げていたので、私も少し距離を取る。

 

少女は不毛だと言わんばかりに、岩壁に凭れた。その時だった。霊夢が小声で叫ぶ。

 

「下がって!!!」

「「「え?」」」

 

急いで後ろに飛び退くと、霊夢が手を掲げた。途端に岩壁に貼り付いていた札が光を放つ。少女は慌てて動こうとするが、光の鎖に繋がれていた。

霊夢がとどめを刺そうと近づいていく。その上、魔理沙が八卦炉を構えている。超が付くほどの厳重警戒だ。

 

「なかなか手こずらせてくれたじゃない?」

「……!」

「さぁ、行きましょうか"夢想……」

「霊夢、危ないぜッ!」

 

原因不明の爆発と霞む視界の中で、少女もまた驚きを隠せないようだった。

 

――――――――

 

次に目を覚ました時に、私は見覚えのある景色の中にいた。周りは少し秋に近づく木々が鬱蒼と広がり、ぽっかり空いているのは此処だけらしい。

 

「此処は……どこ?」

 

私は魅空羽~、と何処かで聞いたような事を呟きつつ、体を起こそうとする。どこを打ったのか知らないが激痛が走る。私は体を起こすのを諦め、周りを少し見渡す。

 

誰もいない。霊夢も魔理沙も。

当たり前の事なのに、それをいつしか怖れていた。

これからどうすればいいのか、そんなことを考えるまでもなく涙が頬を伝う。

 

私を包んでいた暖かいものは、貼り付けた物なんだろうか。外来人に向けた、ただの……。

そう考える根拠なんて無い。でも、それぐらいしか考えられないほどに、私は疲れきっていた。

 

「もう、いっその事……」

 

投げてしまおうか、何もかも。自分の持つもの全てを。

悲痛な考え方だ、つい数分前に否定した考え方なのに。

意味の分からない事だ、どうしてこうなった。何で何で何で……

 

「何で……私、消えちゃいたいよ……」

「ピィー……」

 

哀しみの隠った声、鳴き声が聞こえる。ゆっくり目線を動かすと、一匹の兎がいた。兎は鳴いたっけ、私はゆっくり撫でた。

 

「君も……一人?」

「ピィー……?」

「そっか、そうだよね……」

「ピィー……!」

 

これも最後になるかもしれない、そう想いながら杖を振るう。

 

「せめて、とびっきりの温かさを……この子に」

「ピィー……♪」

 

星の夜空のような紺色のマフラーが兎の首にゆったり巻かれる。私は兎の背をゆっくり押す。すぐに駆けていく後ろ姿を、私は見送った。

 

もう、何もかも終わった。達成感に身を委ねて、私は少し高い木に登る。途中でまた涙が溢れたが、何も気にすることはない。

 

「……綺麗だなぁ……」

 

夏の夜空には、無数の星が輝き犇めき合っていた。

最高の墓場だな、笑えないけど。口には出せない色々な思いを胸に、私は枝の先端へと足を進めた。

 

「こんなところで何してるんだ?」

「分かんないです……っ、え?」

「……面白い奴だな、でも危ないぜ?そっから落ちたらいくら魅空羽でも死んじまうぞ」

「魔理沙……?」

 

それが狙いです、とも言えずに、私は箒の上に目線を向ける。

少し欠けた月を背にして、大きな帽子を被った少女は私に手を伸ばす。私はその手を掴もうとして、前に踏み出す。

 

乾いた音が鳴った、枝が折れたという事だろう。

実質、私は宙に浮いていた。光が目にちらつき、後ろを振り向けば、透けた羽の向こうに色々な影があった。

 

「霊夢、妹紅、咲夜さん、フラン、ちゃん、レミ、リアさん……っ」

 

その他にも色んな影法師が、妖怪の山に写し出される。どれほどの価値があるのだろうか、多分こんなに暖かい光景は他にない。

 

「魅空羽……♪」

「あ、あぁ……!みんな、みんなっ……!やっぱり、私……私っ」

 

死にたく、ないよ……!

 

―――――――

 

その後は余り覚えていない、夜通し泣いて泣いて、最後には寝てしまった。

 

暖かい夢を見た。私の夢と予知夢と運命と、ぐちゃぐちゃで何が何だか分からない夢を。

 

それでも、そこにいたかった。そこを護りたいと思った。

もう、迷わないと誓えたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました(T-T)

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名も知らぬ少女へ

少し遅くなっちゃいました、すみません

今回ははっきり言って、あんまり進みません(--;)



「準備出来たか~?」

「こっちはOKよ」

「あぁ、こっちも問題ないぞ」

「それじゃあ行きましょう。そろそろ時間よ」

 

皆でリュックに荷物を詰める。まるで遠足に行くかのようだが、向かう場所は地底、それも獄炎の舞う、封印されていたはずの旧霊殿だ。

長くなりそうなので、地霊殿に泊めてもらう事になったのだが、明らかに人数が増えている。もう突っ込まない事にするが。

 

私は魔理沙から借りたポーチ(実は無限小物入れだった)を肩にかけると、魔理沙達の後を追って夏の夕暮れに飛び出した。

 

――――――

 

どういうことだ。

 

それが皆の第一声だった。どういう訳か、霊殿への入り口に結界が、それも強力でとても破れそうにないクラスのものが張られていたのだ。

 

「うーん、ちょっと下がってろよ。行くぜ!"ブレイジングスター"!」

 

魔理沙はスペルを片手に箒に跨がり結界に突っ込んだ。そして、霊夢の制止の声も聞かずに、暫く八卦炉から火花を散らして結界と格闘していたが、遂に弾き飛ばされて結界から三メートルほどの家屋に突っ込んでしまった。

 

「魔理沙!」

「だ、大丈夫か!?」

「いつつ……おう、私はいつだって丈夫だぜ」

 

人の心配を他所に、魔理沙はちょっとスカートを払うと結界に目を向けた。今度は霊夢が、陰陽師の力を駆使して結界と格闘していた。

が、結界は一瞬の淀みも見せない。

一体どれだけの術者が施したのだろう?

それに何のために?

 

「うーん……無理そうね」

「諦めるな!まだやれる!と、言いたいとこだが、残念ながら私にも策が無いぜ」

「そんな……」

 

霊夢も肩で息をしている所を見ると、かなりの体力を使っている。だが、仕方ない、帰ろうとポンポン言えるほど事態は軽くない。

思わず結界を睨み付けるが、当然結界は緩まない。

肩を軽く握られて振り返ると、妹紅が戸惑うように話しかけてきた。

 

「あの、とりあえず地霊殿に向かおう、って、みんな先に行っちゃったんだけ、ど……」

「えっ」

 

素早く周りを見渡すと、妹紅以外には誰も居なかった。おのれ妖怪ども、裏切ったな。ん、殆ど人間しか出てないじゃん?……気のせい気のせい。

 

私が礼を言うと、妹紅は頬を真っ赤にしていた。最初から思っていたのだが、すごく可愛いと思う。

話は多少逸れたが、結局その夜は地霊殿で越した。

 

――――――――

 

黒いローブ、異常な程に広がった口。それ以外に何も分からない男は、殺意を狂った笑みに込めている。それは私に向けられた物なのか、はたまたその向こうにいる、倒れた仲間たちへなのか。

 

分からない。

分からないけれど、私はそれ以上に憤怒を抑えきれなかった。

飛びかかる。

飛びかかってどうにかなる問題ではない、決してそうではないのだけれど。

とにかく許せなかった。

私の大切な人を傷つけて、尚笑っているこの男が。

私の大切な気持ちを踏みにじり、尚否定し続けるこの男が。

私の、私の……

 

許せない。

大切な世界を、簡単に壊そうとするこの男が。

 

――――――――

 

目が覚めた時、私は汗に額を濡らして、ただ恐怖を抱いていた。

あの質の悪い男がではなく、何故か仲間が倒れていたことでもなく、ただ、誰かも分からない男をただひたすらに憎んでいた自分が、怖かった。

 

「……おはよう」

 

一人でポツリと呟く。まるで今見た事を無かったかのようにする、そんな響きで。

旧都の向こうが明るくなる。地上に朝日が昇った印だ。それに合わせたように、霊夢の寝惚けた声が背後に聞こえる。

 

「おはよ~……」

「んー……あともう少しだけ寝かしてくれぇ……」

「ダーメーよ……あと10分」

 

霊夢は布団に倒れこむ。二度寝は別にいいのだが、言動が物の見事に矛盾している。魔理沙の布団を勝手に剥いでおいてそれは無いだろう、うん。

まぁしかし、他の誰も起きそうにない。静かに寝室を見渡すと、皆思い思いの場所で寝ていた。

霊夢、魔理沙は布団に潜って早くも寝直している。壁に寄りかかって、相変わらず寝ているのか分からないのは妹紅。紅魔館組は全体的にベッドが多い。……と、そこまで見て気づく。レミリアが居ない。

 

「どこいったんだろ……」

「ここだ」

「!!?」

 

即聞こえた返答に声をあげそうになるが、レミリアの制止で我に返る。レミリアはテラスから顔を出し、手招きをしていた。

 

寝間着のままテラスに出ると、夏の朝はまだ少し肌寒かった。同じく寝間着のレミリアは、遠い目で旧都を、もしくはこれから始まる激闘を眺めていた。私もそれに倣っていると、レミリアがふと口を開く。

 

「ねぇ、貴女はどうしたい?」

「えっ?」

「……お前はどうしたいんだ、と問っている」

 

そこにいるのは、いつも咲夜に引っ付いて散歩している幼い吸血鬼でも、フランを愛でる普通の姉でも無かった。

運命を視る大人びた視線が私を射る。

 

「……私は、助けたいです。あの子を、あの子の心とか、この世界とか、全部。……初めて、そう思えたんです……あの子は、えっと……だから、その……」

 

私は紡いだ見せかけの言葉を呑み込んで、真っ直ぐ、早すぎる一番星の瞳で、しっかり目を合わせた。

 

「助けたいです、あの子を」

 

そうか、と王者のように呟くレミリアを見て、私は恥ずかしくなった。もしかしたら、この闘いの結末も見えているのだろうか。

 

「見えてはいる、でもそれは……一種の可能性に過ぎないのだ。」

「可能性……」

「運命は変えられる、覚えておくといい。」

 

―運命は変えられる

 

それは、私には重すぎる言葉だった。でも、この闘いが終わったら、皆と解っていくつもりなのだ。

レミリアが出ていく寸前に振り返って、彼女の名前を教えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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何人寄ればさいきょー軍団?

サブタイトル意味わかんね(笑)

またちょっと短くなっちゃいましたけど、話も進まないんでゆったり見てって下さい(^-^;


それから10分程経って、私はもう一度目覚めを迎えた。どうやら二度寝してしまったらしい。

 

改めて今回のメンツを紹介しておくと、霊夢、魔理沙、妹紅、慧音、レミリア、咲夜、美鈴、フラン、チルノ……って、チルノ?

昨日はいなかったはずの妖精に、私は話しかける。

 

「あの、チルノちゃん?何で此処にいるの」

「あったりまえでしょ?あたいのらいばるなんだから!」

「すいませんっ!どうしても行くって聞かなくて~」

 

前にも見かけた緑髪の妖精が、必死に頭を下げていた。名前を聞くと、無いというのでチルノと同じように、大ちゃんと呼ぶことにした。

 

「えっと……私が言うのも何だけど、危ないところなんだよ?帰った方が……」

「はなしきいてたの?あたいのらいばるにできて、さいきょーのあたいにできないことなんてないのよ!」

「えぇ……」

「すみませ~ん!」

 

半泣きの大ちゃんに気圧されて、私はとりあえず放っておく事にした。いざとなったら放り出せばいい、はず。

 

「ん~……何だよさっきから、煩いな……」

「そうよ……おちおち二度寝もしてられないじゃあないの……」

「あ、ごめん……」

 

霊夢と魔理沙がぶつくさ言いながら起き上がる。どうせ起きるつもりだったんじゃ、とか言ったら殺されそうだから止めとく。

いつの間にか咲夜が起きていて、美鈴をベッドから引きずり下ろしていた。挙げ句の果てにナイフまで突き付けているが、もう見慣れたものだ。

慧音はまだ寝惚けた顔で、妹紅におはよう、と笑いかけていた。当の妹紅は顔さえまともに見られてなかったけど。

 

とか言ってる間に、今度はチルノが霊夢に羽交い締めにされてたりして、朝から忙しいメンツだ。

さとりさんのペット、お燐さんというらしいが、その人(?)が起こしに来た。

ちなみに食堂に行く途中、お空さんという人(?)にも会った。核融合が何とか言っていたけど、正直何がなんだかさっぱりだった。

 

――――――――

 

皆で朝食を終えると、霊夢と魔理沙はすぐに出かけていった。目的は勿論、昨日の結界を破壊しに行く事だ。

それを聞いていたフランが、一緒に行くと言っていたが拒否されていた。結界を破壊した勢いで、入り口まで無くなりそうだかららしい。

 

こいしちゃん達と話したり、美鈴の持ってきたカードゲーム(何故か物凄い古い物だった)で遊んだりしている内に日は西に傾き始めていた。

 

「魔理沙たち、帰ってこないね……」

「あぁ、手こずっているのだろうか……」

「んな訳無いでしょう?」

「「「「「!?」」」」」

 

いきなり聞こえた霊夢の声に皆が一斉に振り向く。スキマを二つ越えたところに霊夢が立っていた。場所はこの前の結界。魔理沙も霊夢の後ろに立っていて、緊迫した笑みを浮かべている。

 

「……霊夢、どうなったのかしら」

「どうなったも何も無いわよ、結界は壊れた、それだけよ」

「壊した、の間違いじゃ無いのか……?」

 

上から咲夜、霊夢、妹紅の発言である。

霊夢が手招きすると、スキマは更に広くなった。ちょうど人一人通れるくらいに。

 

「ということで、すぐに向かうわ。さ、こっちへ」

「はい!」

 

そうして一つ目のスキマを通ったとき、別のスキマから人が出てきた……というより落とされた。

 

「あだっ!?」

「むきゅっ!?」

「ひゃあっ!」

「きゃっ……!?」

 

小悪魔、パチュリー、妖夢、アリスである。私はとりあえず妖夢に手を差し出すと、他の皆にも確認をとる。

 

「えっと……大丈夫ですか?」

「は、はいぃ……」

「まぁね」

「ああぁぁあ~……」

 

助っ人、と書かれた付箋が妖夢の額に貼ってある。気の抜けた紫の字に、私は呆れて物も言えなかった。あらかた勝手に連れてきたのだろう。

 

「人数多いに越した事は無いでしょう、とか言い出しそうね」

「霊夢お上手だぜ、将来有望」

「何がよ……。さ、行きましょう。時間が惜しいわ」

 

私はもう一度頷き、霊夢の手を取った。

この闘いを終わらせるために。

 

 

 

 

 

 




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仲間はいつも側にいて

ダメだあぁ……。はい。
ぼやいてても始まんないんで頑張ります。

戦闘シーンの描写が俺得にならないよーに、と思い続けるこの頃です。


『あー、あー、妖夢~聞こえる~?』

「ぎゃあっ!?」

 

いきなり縦穴に響く声に、呼ばれた当人が悲鳴を上げる。他の皆も驚いている……と、思いきや、何故か大半が物知り顔だった。

 

『ふふ、通信は上手くいってるみたいね~』

『えぇ。霊夢、説明してあげなくていいの?』

 

笑いを含んだ紫の声に、知らぬ存ぜぬだった霊夢がため息をついた。

 

「簡単に言うと、この陰陽玉でB……紫たちと通信しているの。」

『はぁーい♪紫お姉さんでーす!』

『幽々子もいるよ~♪』

「「はあぁ……」」

 

肩を落とす霊夢と妖夢には呆れの色しか窺えず、私は恐る恐る陰陽玉に話しかけてみる。

 

「あの、それで情報とかあるんですか?」

『あら、良いとこ突くじゃないの。あるわよ』

「!」

 

他の皆にも静けさと緊張が走る。私は無言で続きを促した。

 

『まず、あの子に攻撃が当たらない理由ね。それは……あの子が、この世界にいる自覚が無いからよ。』

「自覚が、無い……?」

「まさか……っ」

『そう、霊夢の勘は相変わらずね。』

『すごいすごーい♪』

「るっさいわ幽霊め、あんたは黙ってなさいよ」

『うわーん、酷いわ霊夢ちゃんたらぁ~……私は幽霊じゃなくて亡霊よ?』

「そうじゃないでしょっ!?」

 

いつの間に始まった陰陽玉越しの茶番に、半ば新情報を諦めていると霊夢が話を戻してくれた。

 

「で、ちゃんと説明してくれるんでしょうね」

『やーねぇ、これから話すわよ』

「早くしないと霊殿着いちまうぞ~」

『えぇえぇ分かってるわよー。あの子は……"夢の迷い人"かもしれないの』

「えっ……」

『あの子は完全に夢だと思い込んでいるんでしょうね。それで容赦もしないし、肉体も象られない。つまりそうねぇ……あれは、あの子の幻影とでも言うべきかしら』

「幻影……ですか」

 

そりゃ攻撃も当たらないはずだ。肉体も無ければ非人道的、なんて有り様なんだ。

そこまで考えて、私は自分達が絶望的状況下に置かれている事に気づく。

 

「え、どうするんですかこれ」

「知らない」

「分からん」

「何とかなるさー(棒)」

「そんなっ!?」

 

この人たち本当に数々の事件を解決してきたのだろうか。それとも、それでこその貫禄なのだろうか。

未熟すぎる私には、まだ理解出来なかった。

 

―――――――

 

『あと半霊25体分くらいよ~』

「分かりました……!」

 

マニアックな問答には着いていけないが、そろそろなのだろう。頬を掠める風が熱い。

皆の間に張り詰める空気が重くなった気がした。妖夢、咲夜がそれぞれ刀とナイフに手を掛けた時、前方を軽く睨んでいた魔理沙が声を上げた。

 

「伏せろっ!」

「「「!!!」」」

 

頭上を焔が豪速で飛んでいく。後ろで刀の振るわれる音がして、今回の不審火が防がれた事を皆理解する。

 

「ナイス魔理沙~」

「おうよっ!」

 

軽口を叩けるのもここら辺まで、そう覚ったのは次の瞬間だった。

今まで背面飛行で、前方を魔理沙に任せていた霊夢が反転し無数の札を勢いに任せて投げる。

奥で鮮やかな光とそれに抗う焔が舞い踊るが、もう楽しむ余裕は無い。

フランとレミリアが加速して皆の前に出ると、今日初めてのスペルを宣言する。

 

「"スピア・ザ・グングニル"」

「"レー……ヴァ、テイン"!」

 

小さな手のひらに生み出した槍と神剣を、二人は姉妹の息を合わせてぶん投げる。その反動で後ろに飛ぶ主を、従者達がこちらも息を合わせて受け止めた。

 

パチュリーとアリスが魔力を集結させて、不思議な紋様の障壁を生み出すと、矢継ぎ早に流星群が飛んでくる。

押しきるようにして縦穴を抜けた先には、先日とは打って変わって上空へとぽっかり空いた穴が広がっていた。

 

今にも崩れそうな岩壁の上から、大きな岩石が降ってくる。まるで隕石のような大きさとスピードに成す術を無くしたと思った瞬間、私たちに降り注いだのは小石の粒だった。

砂埃に噎せ返りながらそっと瞼を開けると、隣でキッとした目で剣を振り切っている妖夢がいた。どうやら先程の隕石を粉々に打ち砕く、もとい切り刻んだ様だ。

 

この下に埋まっては堪らないと、我先に飛び立っていく仲間を追って、素早く夏の星空の下に飛び出す。

改めて並んだ仲間達に背中を押され、私は一歩前に出る……空中なので語弊がある気もするが。

 

「何をしに来た?抵抗は無駄だと思い知った筈だろう」

「その節はどうも、しかし懲りないみたいでね」

 

強気な態度にはしっかりと理由があった。何度も新たにしてきた決意が、今朝固まったのだ。

一つ息を吸って、星々に誓うよう吐き出す。答を添えて。

 

「貴女を、助けに来たよ。リン……ううん」

 

貴女は、燐乃亜。夢の迷い人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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夢なら覚めないで

……書くことがぼやきしか無いので。はい。

どうぞ!


「違、違う……違う違う違うっ!」

 

少女――燐乃亜は、自分の名を忌み嫌うように拳を震わせた。感情に任せるように、燐乃亜はどんどん口を動かす。

 

「私は、此処での私は"燐乃亜"なんかじゃない!あんな……あんな、最低な性格の、臆病で馬鹿みたいなっ……あんな、あんなぁ……っ」

 

燐乃亜にはいつの間に肉体が形成され、荒い息づかいが弾幕を飛ばせば届く距離、すぐそこで聞こえている。それなのに、私達は指一本動かさずに聞き入っていた。

 

「あんなのっ……私じゃ、無いんだよっ!!!」

「うるさぁぁぁぁぁいい!!!」

 

被害妄想に埋もれた空気をぶち破ったのは、明らかに怒りの隠る叫びだった。

 

「いっつまでもぐちぐちぐちぐち、聞いてる此方の身にもなれっ!私はね、あんたがどんな性格だろうと、どんな名前だろうと、心底どうでも良いのよ!ただ、ただね!」

 

巫女服を夜風に靡かせて、夢から覚めてしまいそうな程の光を手に宿して。

博麗霊夢は怒っていた。生死の境を幾度も見てきた一人の人間として。

 

「気にくわないのよ!自分を簡単に否定するような、あんたみたいな奴が!」

「……っ!知らないよ、あんたが私をどう思おうと変わらないんだ!私は私が大っ嫌いなんだよ……!」

「……何ですって?」

 

怖い、本能的にそう思った。私は不安になってつい魔理沙と顔を見合わせようとする。が、口を結んで唯一無二の親友を見つめる横顔に、私は自分がとても小さい事を知る。

強いのだ。やはり、この人たちは。

私よりも確実に、色々な物をこの世界で見てきているのだ。

負けたくない、純粋な対抗心で私は目線を戻す。が、私の恐怖は杞憂に終わる。

 

「言えるんじゃないの、なかなか」

「えっ?」

 

燐乃亜だけでなく、皆が唖然としてしまう中で霊夢は咳払い一つで続ける。

 

「自分で自分が嫌い、それは誰の意見か?」

「わ、私の……ぁ」

「そうよ、貴女の意見。貴女は今、それを叫んだのよ。他人の私に対して、ね」

『……霊夢らしい、実に阿呆な考え方ねぇ』

「は、はぁ?!阿呆って何よ!えぇ?!」

『単純で直接的、でも良いけれど?』

「阿呆て言われた後じゃ説得力無いわよ!」

 

さっきの空気を返せ、と魔理沙を先頭にため息をつく一同。それを他所に陰陽玉を揺さぶる霊夢。

一人ずつ置いてけぼりになった私と燐乃亜は、互いに顔を見合わせる。

変わりそうにない雰囲気の中、先に口を開いたのは……

どちらでもなかった。

出来事は一瞬。気づけば足下は無数の瞳が爛々と輝くスキマ。私達は、敵意も忘れて手を取り合って落ちていった。

 

「イヤああぁぁぁあああ!!!」

「うわぁぁぁあああ!!?」

 

―――――――

 

「うぅ……大丈夫?り、燐乃亜」

「あぁ……」

 

もうただの友達らしき雰囲気になってしまった私達は、見覚えのない景色を見渡す。空が星々で明るく照らされるところを見ると、世界線は変わっていないのか。

 

「危ない!」

「ひゃあっ!?」

 

いきなり燐乃亜が飛びついてくる、後に突き倒したのだと気づくが。

目の前にある燐乃亜の頭上を、いかにもノーマルな弾幕が駆け抜けていく。

 

「何でこんな所に!?」

「燐乃亜……この世界、何でもアリなんだ」

「うん、知ってた」

 

弾幕の来た方を改めて見つめるが、迫り来る光の矢しか見えない。美鈴に前に聞いた、"耐久スペル"というものなのだろうか。

 

「そうすると、本人は居ないってことか……」

「考察中悪いんだけど追い詰められてるよ?」

「はい!?」

 

光の矢との距離は確実に近づいていて、地上にいる私達に降り注いだ。

慌てて羽を広げて、燐乃亜を抱き抱え飛ぶ。かといって、ずっと女の子一人抱え続ける自信も無いので、紫の受け売りを燐乃亜に叫ぶ。

 

「想像の許す限り、貴女は飛べるっ!」

「はぁ?!いや意味分かんないから」

「いいからっ!ほら、飛んだ飛んだ!」

「えぇ……」

 

数秒の間の後、燐乃亜は宙に浮いた。小さなコウモリのような羽が、忙しなく羽ばたいている。

燐乃亜は挑戦的な笑みで私を見る。

 

「ほんっと、何でもアリだな!」

「うん!それじゃあ行くよ~!」

 

正体不明の弾幕に当たったら即終了のサバイバル。

これが終わったら、二人で考える。許可なんて取らずに、一方的でもいいから燐乃亜と話す。

 

そう心に決めた。夢から覚めてしまわぬように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

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修正も加えていくので、少し次話は遅れるかもしれません


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残酷な星空の闘い

書いてたら3000字を越えるという……。恐ろしいなアイツ……っ!

誰のことかはご想像にお任せします。
何にせよ少し遅くなりましてスイマセン。


「わっ!そっち行ったよ!」

「分かってる!前見ろ前っ」

 

まだ飛ぶのに慣れない燐乃亜を心配するどころか、本当に危なっかしいのは私の方だった。さっきから燐乃亜に指摘されてばかりだ。

 

「にしても、いつまで続くんだこれ……」

「うん……耐久スペルとはいえ長いよねぇ」

「「…………」」

 

黙っていられない私達は、とりあえず弾幕の来る方に攻撃をしてみる事にした。

 

「"爆風シャイニーズフレア"っ!」

「"新月オールラウンド"!」

 

私と燐乃亜の放った光は混じりあって、一つの光線になった。威力は正直言って、一人分くらいにしか生らないだろう。

それでも数メートル先で、小さな爆発が起きた。私達は顔を見合わせ、ゆっくりと近づいていく。

 

アイツ――黒いローブの男がいた。

異常な程広がった口、夢で見たままの微笑。

そんな事も知らずに、燐乃亜は男に突っかかる。

 

「おい、あんたか?私らに意味も無く弾幕を飛ばしまくってたのは?」

「ククク……」

 

いかにも悪役な含み笑いに、燐乃亜は怪訝そうな表情で同じ問いを繰り返そうとする。が、男は口を開いた。

 

「あぁそうさ。私だよ、君と遊んでいたのはね」

「遊んでいた?私と?」

「あっはっはっ!本当に気づいていないのかい?どうして君がこの世界で、いきなり強大な力を手に入れたのか!?どうして無意識に人里を襲っていたのか?!」

「えっ……?」

 

無意識、だったのか。道理で非人道的な訳だ。本人に悪意など更々無かったのだ。男は、動揺する私達を弄ぶように次々とネタアカシをしていく。

 

「未熟な夢の迷い人のお前を操るのはとても簡単だったよ。それに君は……」

 

――死にたがっていたじゃないか。

 

その言葉を、燐乃亜が聞いていたのかは分からない。けれども、彼女の瞳は揺れていた。まるで何かに怯え、押し潰されるように。

 

――捨てろ!その生への渇欲を!

 

どうして気付かなかったんだろう。

どこか哀しい唄に、魂の叫びに、悲鳴に、どうして気付かなかったんだ。今更な後悔に襲われ、私は動けずにいた。男は厳かに続けた。

 

「さぁ、人数が多い方が楽しいだろう?君のお仲間さんも呼んであげるよ」

「な、かま……。!」

 

私が気付いた時にはもう遅く、霞んだ空中に幾つもの影が浮かび上がる。

私の仲間達は、この地に落ちるやいなや、思い思いに話し始める。

 

「こんな所にいたのか!」

「お二人とも無事ですか?!」

「ここは、無縁塚……?!」

「何でったってこんな所に……」

 

その他にも、驚きや戸惑い、色々な声が上がっていたが私には上手く聞き取れなかった。まるである思考に囚われたように、仲間を見つめる事さえままならなかった。

それに気付いた魔理沙と妹紅がそっと近寄ってくる。

何か勘づいているのか、魔理沙は私の肩を包むだけだったが、妹紅の方で事は起きた。

 

「えっ、と……大丈夫?」

「触るな……っ!」

 

あろうことか、燐乃亜は妹紅の手をはね除けた。その拍子に星がぶわっと舞い、妹紅は後ずさる。

当の燐乃亜はやはり目を見開いて、己の行動に恐怖を滲ませていた。

 

「おい、どうなってるんだよ魅空羽……」

「少し説明が必要よ?」

「え、あっ……うん、実は……」

 

事細かに説明する時間は無いかと手短に話したのだが、霊夢や妹紅はすべてを理解したようだった。

 

レミリアと美鈴は完全に臨戦体勢にあり、フランは魔理沙に分かりやすい説明を求めていた。

そして最後に咲夜の方を見ると、懐中時計を見つめていた。一見何をしているのか分からないだろうが、ここ数日紅魔館に居た私は知っていた。咲夜はいつも時計を見るフリをして周りをシャットアウト、考えに浸るのだ。美鈴が教えてくれた時は変わったクセだと思ったが、その冷静さが今は心強かった。

 

「話は済んだかい?お嬢ちゃん」

「はい。それと、お嬢ちゃんって気持ち悪いんですけど」

「おや、そうかい?」

 

いちいち鼻につく男だ。耐えきれなくなった私は、いっそ此方から仕掛けてやろうかと思った。その想いは伝染し、魔理沙と霊夢が臨戦体勢になる。

妹紅は少し迷っているようだったが、アリスが肩を叩いた。無言の訴えはあっさり受け入れられ、迷いの無い瞳が男に向けられる。

 

「さっさと終わらせましょ、これが目的じゃないんだし」

「それもそうだな……霊夢」

「……合わせなさいよ!」

 

刹那、二人は弾幕と共に飛び出していき、男は光の中で最期を迎えた。悪役には、それが当たり前の運命だ。誰もが手を下ろした中で、レミリアだけが不安そうな目をしていた。今朝の表情とはまた違う、運命を視る者の瞳に私は吸い込まれそうだった。

 

"イレギュラー"だ。男を表すならこれしかない。

私はそう思った。幻想を破った土埃に目を凝らすと、魔理沙が地面を抉って叩きつけられていた。霊夢もかなり弾かれたのか、私の頭上にいた。

 

「あり得ない……」

 

そう、あり得ないのだ。もはや光速と化した二人を弾き飛ばす等という奇行は。そんなこと、許されないと言っても過言では無いのだ。

 

「貴様……っ!」

「待てアリス!早まるな!?」

 

表情を歪めた魔理沙の制止も聴かずに、無数の人形と金髪青眼の少女が宙に舞う。そして散る。この間わずか一秒にも満たない。

 

言葉を発する間もなく、焔の塊が跳び上がって飛んだ。それ――妹紅は迂闊に近づく事はせずに、不死鳥を象る炎を立て続けに飛ばしていく。固唾を呑んで見守る中、男はそれを片手で振り払った。そして我が物顔で炎を操り、妹紅を燃やし尽くした。思わず小さく悲鳴を上げてしまうが、十秒も経った頃私の後ろで火柱が上がって妹紅が悔しさを滲ませて現れた。

 

「はあぁ……しょうがないわねぇ。行くわよ咲夜!」

「畏まりました!」

「あっ、私も行きますよ~!」

「ずるいよめーりん~!」

「全く……こあ、あれを」

「はい!これですね♪」

 

これだけの場景を見ても決して動じない三組の主従は、一気に空へ舞い上がる。

ふと美鈴の周りの空気、いわゆる"気"という物が違う事に気づく。いつも私と気さくに話している時も、寝ながら門番をしている時の微かな気とも違う。

ほんのりピンク色の霧は拳に集まり、渾身の一撃となる。その勢いで男を背後から羽交い締めにして、レミリアに攻撃を求める。

 

「お嬢様っ!」

「えぇ、"不夜城レッド"!」

 

躊躇無く放たれるオーラは、いつしか密度の高い弾幕と化して男と美鈴を貫く。美鈴の恐ろしいほどの忠誠心に身を震わせつつ、私達は身を寄せあって空を見上げていた。開けた空にはくっきりと紅い十字架が刻まれている。星とのコントラストがとても綺麗で……残酷だった。

 

「"殺人ドール"」

 

やけに響く宣言の声と共に周りの世界が一瞬反転する。何故か一人分の血を纏ったナイフが空を切り裂いて彼方へ消えた。

肩で息をする姉とその従者を背に追いやり、フランが音もなく前に出る。

此処からでは顔が見えないが、その感情を読み取るには握られた掌だけで充分だった。仲間を傷つけた者への怒り、そして微かな狂喜。

全てを語る隙は無い、フランは握った右手を前に掲げて勢いよく開いた。男を中心に"破壊"の爆発が起きる。

 

終わりを告げる沈黙に、皆が目を伏せる。ふと鋭い金属音が響く。ハッと目を見開くと、黙祷を捧げるような集団の先頭で一人、刀を必死に翳す少女がいた。刀一本と大きな弾幕一つ、当然すぐに弾幕は散った。しかし、あの大きさでは、この密度で立っていた私達に直撃すれば最悪全滅もあり得ただろう。

 

そこでまた私は気づく。殆ど皆が同時に上空を仰ぐと、そこには狂った笑みをさらに倍増させた男が無傷で佇んでいた。

 

「嘘、でしょ……?」

 

幼い涙声に地上に目を戻すと、そこには忠誠心に犠牲になった一匹の妖怪が倒れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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色々と杞憂に終わって

何か残念な感じになってます……待たせたあげくにすみません(土下座

他の作者さんのを読み漁ってたとかそういうんじゃないんですっ!ははっ!

春休み突入したんで、投稿ペース戻していきます


「美鈴……さん……?」

「あ、あぁ……!」

 

フランは嗚咽を隠すこと無く泣いた。その他の人員も顔を伏せていたが、私だけはどうする事も出来ずに視線をさ迷わせていた。

 

「妹様」

「さ、くやぁ……め、めーりんが……うぅ……」

「……ご心配なく」

 

咲夜はにこりと笑った。一体何があるというのか、主も分からない様子だ。咲夜はフランの手を引いて、美鈴の傍らへ歩いた。

そして、美鈴の手から何かを取った。それをこちらにちらつかせる彼女は徒に笑った。

 

「そして時は動き出す……解除」

「まさか……!」

 

パチュリーが何か勘づいたように咲夜を見た。咲夜はウインクすると、美鈴に手を差し伸べた。

 

「ほら、さっさと起きろ。」

「さっきまでに死んでた人に言う台詞じゃないですよ~」

「体内時計が止まっただけって言ったでしょう?あと返り血拭いて」

「う~……あ、妹様!ご心配おかけしました。もう大丈夫ですよ~っとぉ!?」

 

ガッツポーズしてみせた美鈴にフランが飛び付く。かなりの勢いだったらしく、美鈴は仰向けに戻ってしまった。

フランは何も構わずに、美鈴の名を呼び続けた。丁寧に一回ずつ返事をしていく彼女もとても楽しそうで、私達は1度現実を忘れかけた。

 

「……と、そろそろぶちのめしましょうか」

「……うんっ、そだね」

 

美鈴とフランはお互い顔を見合わせると、サッと立ち上がった。

今までの状況を見ると、男は私達を待っていたように見える。そして、燐乃亜……あ。

 

「……忘れてた」

「アホ」

 

この展開で忘れてた、なんて本当にただの阿呆である。しかし当の燐乃亜は、男を敵視して空中に浮かんでいた。無意識なのだろうが、地面が燃えている。めっちゃ熱いし暑い。

 

「燐乃亜、っていうんだっけ?あっついわよ~」

「はぁ!?」

「いやだーかーらっ!これじゃただの熱帯夜でしょっての!」

「……あ、あぁ~。はいはい、すみませんねっ」

「……ムカつくわねアイツ。」

 

分からなくはない、ないのだけれど。少々暢気すぎやしませんかね、この人たち。

空気を察したか察しないのか、霊夢が続けて口を開く。

 

「さて、もういいんじゃない?アンタ」

「……何のことだろうね?お嬢ちゃ」

「お嬢ちゃんじゃないし。身ぐるみ剥いであげましょうか?」

 

結構本気で肉の塊にしそうな霊夢に、レミリアが小声で話しかけた。目線は美鈴に向いているので、まだ先程の現象が信じられないのだろう。

 

「ねぇ、さっきから随分と余裕こいてるけど。もしかしてアイツの正体が分かってるとか?」

「えぇ、そうよ」

「はん?……え、今何て」

「知ってるわよ?ばらしてあげましょうか?」

「えぇ……」

 

さっきまでの殺伐としたシリアスな展開を返せ。いや返さなくて良いけど。

霊夢が言い出す前に魔理沙がその口を塞いだ。ものすごく悪戯な表情で、静かに、とジェスチャーを一回り送る。続けて上を指すので、私達は音もなく大空を見上げる。

 

唄が聴こえる。とても綺麗で、どこか哀しい。聞き覚えのある旋律は、男を包み込んだ。そして次の瞬間、辺りは光に包まれた。

 

――――――

 

『なぁ、聞こえるか?』

「うん。聞こえるよ……燐乃亜?」

『もうじき朝が来るんだとよ……殺生な』

「あはは……楽しんでくれたって事?」

『あれの何処を楽しめって?』

「分かんないけど」

『そ。別に悪くは無かったけど』

 

沈黙の中で周りの世界が、光だけが揺れる。私は気づく。燐乃亜はもう片や光と化していた。

そっと羽を動かして、燐乃亜に近づく。表情も分からないけれど、この際都合がいい。もしかしたら此方も見えていないかもしれない。

 

『……暑苦しい』

「そこは暖かいって言ってほしかったなぁ……悪くは?」

『……無いよ。』

 

また沈黙に呑まれる前に、私は燐乃亜を抱きしめたまま呟く。伝えておきたかった、ただの自己満足にならないように。

 

「……死なないでね」

『……善処する』

「……」

 

前の私ならこれで妥協していただろう。でも違う。此処に来て、学んだ暑苦しい程の"愛"。それこそ一瞬にも満たない時間だったけれど。

 

「死なないで、お願い」

『……分かった。約束する』

「……あははっ、良かったぁ。……」

『……何で泣くんだよ』

「だって……っ。友達……だから」

『!……そっか。なぁ』

「?」

『きっと、忘れるけど。でも、最後に顔見せてよ』

「……うん」

 

私から燐乃亜の瞳は見えていない。けれど分かる。

きっと輝いているはずだ。たとえ夢から覚めて、忘れてしまっても。

燐乃亜は最後に何か言っていた。しかし聞き取れなくてそれだけが心残りだったけれど、私は目を瞑った。

 

―――――――

 

「……は!魅空羽!」

「ん……」

「あら、起きたわね。良かった」

「さ、煮るなり焼くなりしちまおうぜ~」

「咲夜、貴女狐捌けるかしら?」

「えぇ、やってみましょうか?」

「わぁっ!きつねのシチューが出来るね♪」

「丸焼きも捨てがたいのよね……」

 

いきなりぶっ飛んだ世界観に付いていけず、皆を見渡す。みんな目が笑っていない、則ち怖い。皆の話題は狐という言葉がちらついていた。

 

「狐って……どこ?」

「物騒な事については言及なし、賢明な判断ね……あ、狐なら彼処よ」

 

咲夜の指差す先には、上海人形に(物理的)金縛りに遭っている九尾がいた。狐……多分女は、抵抗する事もなくただ顔を伏せていた。諦めのような、仲間を待っているような雰囲気に、私はそっと近づく。

危険性について確かめようと、霊夢の方を振り向くと……とりあえずカオスな場景になっていた。

 

「れ、霊夢?何で紫さん縛ってるの……魔理沙はどうしてアリスに襲われてるの?そしてその横で茶会になってるのは……何?これ見世物なの?!」

 

次第に混乱して、半ば悲痛な叫びになっていく私を、慧音がバッサリ切り捨てた。

 

「日常茶飯事、だ」

「アッハイ」

 

「……紫、アンタどういうつもりよ」

「やだぁ、何のことかしらぁ」

「辞世の句はそれでいいのかしらね」

「ちょ、ごめん。ごめんなさい、ね?ね?許してってばぁ~ぁあだだだだ痛い痛い痛い!」

 

「だからっ!この魔導書は危険だって何回も何回も!」

「分かった分かった。悪かったってば~」

「分かってないわ!良い?!これはね……!」

 

「咲夜、紅茶のお代わりを頂戴」

「はい、ただいま!」

「ねね、めーりんそのクッキー取って~!」

「はい、どうぞ~♪あ、咲夜さん私にも紅茶を……おぶあっ!?」

 

ティーポットを顔面に投げつけられた美鈴から目をそらして、私も妹紅や慧音と異変解決を祝うことにした。所謂現実逃避、または便乗というやつだ。

 

結局、チルノがやって来ていきなり見境なく吹雪を降らせるまで、このカオスな情景に変わりは無かったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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全ては夢物語でも

はい、何か色々ありましたけど、この章はこれで終わりです!v(・∀・*)

ここまで書けたの奇跡っ……はいっ。
伏線(?)も書きつつ、次章も頑張ります!


「さて……手荒な真似をしてごめんなさいね?こうするくらいしか、思い浮かばなくって」

「誠に申し訳ない……」

「ごめんなさぁい……」

 

結局、紫さんと式神の藍さん、橙ちゃんが私に謝罪する形でこの騒動は終わった。

私達を襲ったのは、他でもない藍さんが変化していた。私と燐乃亜を和解させる、というか燐乃亜を丸くするという所業だったらしい。正体不明の爆発、誰が張ったか分からなかった結界、それらも全て藍さんがやったらしい。

霊夢と魔理沙は結界を壊しに行った際に話を聞き、あえて本気で手出しをしなかったという訳だ。まぁ流石にやりすぎだということで最後は思い切り怒っていた訳だが。

 

「何はともあれ、無事解決、ね。」

「おう、さっさと戻って呑もうぜ~」

「えっ!魅空羽さんて呑ませちゃダメなんじゃ……」

「妖夢~お腹すいた~」

「……上海、片付けましょ」「シャンハーイ(-_-;)」

 

思い思いに日常的生活に戻ろうとする皆をゆったりと眺めていると、近くで咲夜が眉を下げていた。

 

「お嬢様、そろそろ……」

「えぇ。でも、今すぐには帰れないわよ」

「ですが、もうすぐ日が昇りますよ?」

「だから帰れないと言っているのよ……魅空羽」

 

今の会話からどうして私に話が向くのか分からない。妹紅は何か察した様子で皆を呼び戻した。

一連の流れを見た紫は、スキマから降りてきて言った。

 

「さ、魅空羽。用意はいいかしら」

「え……?」

「お、おい!どういうことだよ?!」

「……。何も説明しないのは関心しないわね」

「気づいているくせに良く言うわよねぇ~」

「……魅空羽」

 

私の名前をもう一度レミリアが呼ぶ。小さな吸血鬼はこの結末を知っている、そう思い訊ねる。

 

「……レミリアさん、私……行かなくちゃダメですか」

「……えぇ、それが貴女の"運命"よ。一つの決まった通過点。」

「行く、って……」

「そっか……帰っちゃうんだ……」

 

何かと察しのいいフランの言葉に、現実がのし掛かってきた。燐乃亜が帰ったのも、私の期限が来たからなのだろう。

紫が気を遣って、皆を一列に並ばせる。私は、霊夢達と向かい合う形になった。

何と言えば良いのか分からなくて、私は一通り皆を見回す。

 

霊夢、魔理沙、アリス、レミリア、フラン、咲夜、美鈴、パチュリー、小悪魔、妹紅、慧音、チルノ、大ちゃん、妖夢、幽々子、紫、藍、橙。

 

誰も皆、私の大好きな仲間だった。

過去形になってしまうのは、少し寂しい気もするが……。

 

「あら、何を勘違いしているの?また来れるじゃない」

「そうよ、一度選ばれたんですもの。歓迎するわ」

 

紫と霊夢の言葉は、あくまで事務的な物だが温かみがあった。

 

私は真っ直ぐ顔を上げて、微笑んだ。ひきつっていないと良いな、と思いながら、息を吸う。

 

「えっと……じゃあ、また来るね……」

「おう!待ってるぜ♪」

 

魔理沙の声と先頭に、色とりどりの声が飛び交う。

 

アリス「今度来たら、もう少しゆっくり話しましょうね」

レミリア「奇怪な運命に、乾杯しましょうね」

フラン「また遊ぼうねっ!絶対だよ!」

咲夜「紅茶淹れて、待ってますね♪」

美鈴「またお手合わせ願いますよ~!」

パチュリー「……楽しかったわ」

小悪魔「また来てくださいねぇ」

妹紅「えっと……またおいでよ。待ってるから」

慧音「次来たときには、寺子屋にも来るといいぞ!歓迎する」

チルノ「ぜーったい!つぎはあたいがかつからっ!」

大ちゃん「えっと……。また、来てください?」

妖夢「今度会ったら勝負です!負けませんよ!」

幽々子「ふふっ。良い人世を送りなさいな」

藍「……今度は何かお詫びをさせて下さいね?」

橙「次は私とも遊ぼーねー!」

 

「……魅空羽」

「霊夢……」

「楽しかったわ。ありがとう」

 

涙腺は緩まなかった。もう散々泣いて怒ってしたからだろうか、少し残念だ。

私はもう一度皆を見回して、最後に伝えた。

 

「本当にありがとう!」

 

――すごく、楽しかったよ……!

 

――――――――

 

「魅空羽~?魅空羽~!」

「ん~……」

「ただいま~……起きてる?」

「今起きたよ~……お帰り」

 

私はベッドから起き上がる。お土産の説明を聞き流して、鏡の前に立つ。ふと、違和感を感じて手を上げる。

そのまま顔に持っていき、思い切り頬をつねる。

 

「いだい……」

 

夢では無い、なのに私の瞳は黄金色の一番星を宿していた。まるで前々からそうであったかのように。

 

「……大事にしなくちゃ、ね」

 

鏡越しに誰かが見ている気がした。振り返らない、そうじゃないと戻りたくなってしまうから。

 

「魅空羽~?ねぇ、あなた学校は~?」

「♪~……え?」

「遅刻するわよ~?」

「えっ、ええええええ!!!?」

 

こうして、私の夢物語――幻想入りは幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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閑話という名の受け継ぎ

サブタイトルの通りです!
二人の目線が入れ替わっていきますが、ご了承下さいな。

現実の方を少し書いてみました!


――魅空羽side

 

「出来た……!」

「おっ!おめでとーう♪」

「マジかよ~魅空羽、早くね?」

「麗斗が遅いんだよ?みっくーと違ってアンタは夏休みも部活来てたじゃん……」

「愛結もそれなりに頑張ってるんだけどなぁ……」

「ファイティンだよっ!あゆゆん!」

 

文芸部室、もとい我が校の図書室には男子三人と女子三人、それと私がいた。

今回は夏休み明け初めての部活。時刻は5時少し前だ。

そして、出来たというのは今年の文芸冊子に載せる小説だ。私は夏休みの部活をとある理由で全欠席してしまったのだが、今までの一時間で何とか書き終えたのだった。

 

 

「あはは……中身がペラペラだからだよ、多分」

「そんなこと無いよ~!ね、メガネ君も何か言ってよ~」

「煩い、今書いてるの」

「んも~……あゆゆんはそう思うでしょ~?」

「もっちろんだよ!もっと自信持てば良いのに~。愛結みたいに、ね?」

「あはは……ありがとう♪でも、麗那もあんずちゃん、愛結ちゃんも文才あるよ~?あ、メガネ君は凄すぎるけど……」

「え、俺は?!」

「もちろん麗斗もスゴいよ!ダイナミックで」

「へっへーん♪」

「バカとも言うよな」

「な!?僚、そんな殺生なぁ……」

「あっはは!麗斗達おもしろーい!」

 

愛結、麗那、あんず、麗斗、僚、カルマ、唐突に始まるいつもの茶番劇。その雰囲気にとても落ち着いていると会話は続く。

 

「そういや、文芸部って二年いないよなぁ」

「そういえばそうだよね……去年の三年生が濃かったから?」

「それは一理ある。一年生は辛うじて入ったけど来ないし」

「あの子達、サボりたいだけだもんねぇ~。教室に押し掛けちゃおうかなぁ……」

「おー!たのしそー!」

 

上から、麗斗、愛結、僚、麗那、あんずの発言である。

それはちょっと……、とカルマが柔らかく却下していると、ドアが少し乱暴に開いた。

 

―――――――

 

――燐乃亜side

 

開け方が少し乱雑になっていただろうか。だとしたら、緊張ゆえの事だと理解してもらいたい、本当に。

 

「失礼します。文芸部の先輩方ですか?」

「うん、そうだよ~」

 

部長らしき二つ結びの先輩がマルっと頭上で手を合わせた。

私は思いきって続けた。

 

「入部希望で来たんですが、大丈夫ですか」

「「……へ?」」

 

先程の女子と顔つきの似た男子と、元気そうなポニーテールの女子の先輩が呆けた声を上げる。

後輩にさりげなく聞いたところ、この文芸部に二年生は未だ居ないらしい。確かに去年の新入生オリエンテーションは酷かったし、無理は無いと思う。

 

「や、やったぁ!?」

「「ぃよっしゃぁぁあああ!!!」」

「わ、わわわ……!!!」

「……よしっ」

 

先輩達のテンションが物凄い。確かにこのタイミングでの新入部員、しかも二年生は奇跡に近い。そうは思うけど、正直言って五月蝿い。

ふと私の目に止まったのは、最後の一人の先輩だった。今まで他の先輩の陰に隠れていたのだが、他の様子を見かねて此方に来た。

 

「えっと……ごめんね、いつもこんな感じなんだ……あはは……」

「別に……」

 

他の先輩よりも比較的関わりやすそうな人だった。それに何故か既視感が滲み出ていた。

先輩も此方をじっと見ていて、少し恥ずかしかった。

 

―――――――

 

――魅空羽side

 

いきなり入ってきた後輩に、皆のテンションは最高潮だった。それは私も凄く嬉しいのだが、皆とても五月蝿い。これじゃあ去年と大して変わらないだろう。

 

「えっと……名前は?」

「……葉月です。」

「よろしく、葉月さん。私は如月です。じゃあこっちに来てくれる?……」

「はい。……」

 

何だかとっても格好いい女の子だ。特別顔立ちが整っている訳ではないのだが、凛々しさを感じさせる。

私は葉月さんの手を取ると、精一杯微笑んだ。すぐに顔を反らして、皆にも挨拶を促す。

 

「麗那だよん!部長やってるから、宜しくねっ!」

「俺は麗斗だ、宜しくな!葉月!」

「こんにっちは~!文芸部のアイドル、愛結だよ~」

「……僚だ。宜しく、葉月さん」

「カルマでぇーす♪あ、男の子だからね?」

「あ、あんずだよ~宜しくねぇ~」

「……えっと、こんな先輩だけど宜しくね!」

「は、はぁ……」

 

スゴい退かれてる気がするのは私だけだろうか。とにかく挨拶は済んだので、皆を放っておいて説明を始める。

 

あと半年、とても楽しい学校生活になりそうだ。

 

 




ありがとうございました!

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葉月燐乃亜は夢を見る。
継がれる夢物語


新章始まりましたっ!

前章が終わる前にこれ書いてあったのは内緒でふ。
ゲフンゲフン。

少し次は遅くなると思います(T-T)


放送室、という名の空き教室。というのも、この学校の放送部は数年前に廃部になったらしい。職員はもちろん職員室を使うので、ここは絶好の独りになれる場所なのだ。

 

いつも此処でヘッドホンを付けて、タブレットを弄る。ちなみに、タブレットは放送室の物だが、制限が何もついていないので、私が使い放題している。

 

私―葉月燐乃亜(はづきりのあ)は放送室を、放課後の溜まり場にしていた。まぁ溜まり場と言えど一人だし、今は冬休みだが。冬休みだ、そうだ。私の家は、両親共働き、それに仕事バカだ。家を何日留守にしようが、知ったこっちゃない。

 

いつも通りタブレットでも良いのだが、私は一冊の冊子を手に取った。この冊子を手にいれたのは、図書室だ。

 

――――――――

 

(ん……何これ)

 

その冊子はカウンター脇のラックに何冊か置いてあった。すると、図書当番の三年生が声をかけてきた。

名札には"如月"とある。そういえば、秋から入った文芸部の先輩だったか。そもそも行っていないのであまり交流は無いが、最初の部活の時にとても嬉しそうに接してくれたのを覚えている。純粋な青い瞳で。

 

「それ、今年の文芸冊子なんです!良かったら持っていって下さい、葉月さん」

「え……と、じゃあ、はい。どうも……」

 

結局よく分からない感じで、私は冊子を持ってきた。

 

――――――――

 

(文芸冊子って言っても、どうせ先輩達の意味わかんないし、新入生は楽そうだから入ったやつらだし……)

「駄作だろ、どうせ」

 

私は本音を呟きつつも、ペラリとページを捲る。やはりどいつもこいつも意味の分からない空想を並べ立てている。

もう読むのを止めようか、と思った矢先、気になる文字が目に入る。

 

『夢に見る幻想郷』

 

その話を半ば無意識に読み進めると、体験談のような話だった。色々なファンタジックキャラ、ドタバタ劇。そんな中に感じたのは……

 

厚かましい程の"生への欲望"だった。

 

何もそんなこと書いてない、下手すればただの空想なのに、それなのに……。

 

「どうして……?」

 

その疑問は更に別の方向へと広がる。そしてある出来事に繋がる。

 

あの夢。夏休みの終わりだっただろうか。私を受け入れたあの瞳。

 

「気のせい……だよな、うん。」

 

私は乱暴に冊子を閉じると、放送機器へ叩きつけた。まるで生を、自分自身を否定するように。

 

――――――――

 

事実、私は変な夢を見ていた。ほんのたまに、残酷な楽園の夢を。生への執着漂うその世界を、私は否定し続けていた。

 

「もしかしたら、あるの……か?」

(異世界、とか……)

 

そのまま考え込むように眠りに落ちた。

 

 

 




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ウサギ、猫耳&九尾、人間

燐乃亜ちゃん幻想入りぃ!
まだ口調が安定しません。そこら辺はどうぞお手柔らかに(--;)


「ねっむ……誰だよ……」

 

冬休みの低堕落な寝起きを邪魔されて、私は思わずその手をはね除ける。フワフワしていて小さくて……。

 

「はっ?!」

「わっ!どうしたの?!」

 

どうしたも何も無い、家には誰も居ないはずなのだ。それなのに私に触れたのは誰だ。しかも声まで聞こえた気がするし。

隣を見ると、白兎が一匹。それもマフラーを巻いている。

 

「あ、そっか。人形な。あーなるほどねぇ……こんな人形持ってないわっ!」

「いたっ!?いや自分で現実逃避しといてそれはないでしょう?!」

「えぇ……マジかよ」

「マジだよ、うん」

 

一言ずつ交わした真意は、色々とある。

これが現実なのか、お前は本当に喋っているのか、とにかくエトセトラだ。

 

「えーっと……とりあえず此所どこ」

「わっかんない!」

 

いやそんな満面の笑みで言い切られても。困る、本当に。仕方なく別の質問をする。

 

「お前誰だよ」

「……ウサギちゃんだよ~♪」

「……燐乃亜だ、宜しくな」

「虚しい、虚しいよ!止めてその優しい目をっ!?」

 

とにかく最悪の場合はこいつを焼いて食おう。そう心に決めた時だった。遥か上空に飛ぶ鳥……ではなく人がいた。しかも二人も。

しかし人というには語弊がある。一方は猫耳、一方は九尾だ。あまりにもぶっ飛んでいる。

ウサギは助かった、と心底嬉しそうな声を上げた。

 

「おーい!藍さーん」

「あぁ、居たか!良かった……どうなっているかと思っていたが。」

 

何が何だか分からないが、此処が酷いところだというのには同感だ。

荒れ果てた地面にガラクタの山。その殆どが古い電子機器や道具だった。一面荒野の、本当に何も無い土地だ。

 

「わぁっ!みぃ~♪久し振りっ」

「橙!久し振り、元気だった?」

「うん!」

 

こっちはこっちで知り合いなのか。それは別に構わないが、お願いだからマトモなの来てくれ。

その願いが通ずるのに、大して時間はかからなかった。

 

「見つかった~?」

「あぁ、博麗。見つかったぞこいつのようだ」

「そ、ならさっさと帰りましょ」

 

人間だ。というか今までの奴等が人外過ぎたのもあるが、この人は明らかに人間だった。

私はこの期を逃すまいと話しかける。

 

「此所どこですか?」

「無縁塚よ、ってそうじゃないわねぇ……えっと、異世界?」

 

結局疑問形で返されてしまった。しかし異世界となると話が深刻化してくるはずだ。

確かに然程焦ってはいない。不思議な経験など、夏休みに腐るほど終えたのだ。もちろん腐りはしないが。

 

「……まぁ良いわ。とにかく1度来なさい。此所にいてどうにかなる問題でも無いし」

「あぁ……」

 

此所に放っておかれるのは、何としても阻止しなければいけない。そう思った私は、この女に着いていく事にした。

女は道中、博麗霊夢と名乗った。話を聞くには、此所に放り出された私とウサギを探していたのだという。

猫耳は橙、九尾は藍というらしい。ウサギの方は相変わらず名乗らなかったが、先程の会話から察するに"みぃ"というのだろう。それも本名で無いのには確信があるが。

 

しばらく歩くと、鬱蒼とした森の前に着いた。霊夢は立ち止まると、森に叫んだ。

 

「魔理沙ぁぁぁああ!!!見つかったわぁぁぁああ!!!」

「分かったぜぇぇえええ!!!」

 

相手方も叫んだらしく、森の中から女の子の声がはっきり聞こえた。

それから暫くしない内に、茂みから何かが飛び出してきた。仰け反って避けてから、そいつを見ると女の子だった。どうやらさっきの声の主らしく、霊夢が即話しかけていた。

 

「いや何で箒使って走るのよ?!まぁ速いのは分かるけど、せっかくなら乗りなさいよ……」

「面倒なんだって!それに地味に引っ掛かるんだよなぁ此所……」

「まぁ何でも良いけどねぇ……で、何だったかしら?」

「あれだろ?見つかったんだろ?」

「あーそうそう。そうだったわね」

 

こいつ本気で忘れてたな……。そう私たちは確信した。

女の子は、魔理沙だ、と手短に名乗って人懐っこく笑った。どちらかというと、霊夢のような人柄の方が私は関わりやすそうだなと感じる。

 

「んで?とりあえず連れて帰るんだろ」

「えぇ。森を抜けるわけにもいかないし、ね?お願い!」

「ま、それで断ってこいつが仔猫みたいになるのも見物だけどな。良いぜ」

 

おいおいおい。今さらっとS発言咬ましたぞこいつ。何なんだ、やっぱりマトモなの居ないのか。

閑話休題。

私は魔理沙の箒に跨がった。予想通り、箒は飛び上がって猛スピードで遠くに見える山腹へと向かった。

 

 




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神社、大妖怪、記憶

新章の展開どうなるんでしょ((殴
……考えながら書いていきます(T-T)

どうぞ!


「おっし!着いたぜ~」

「ったく……あんたのスピードは健在ねぇ」

「あぁ。やっと着いたか博麗」

「お帰り~!!」

 

魔理沙の箒に乗って数分、私は古風な神社に降り立った。当主である霊夢も追いつけない程のスピードだったが、私はこういうアトラクションは大好きだ。

 

「スキマはズルくないかしら?!」

「そうだぜ~」

「ふふっ♪だって私の大事な家族よ?良いじゃないの」

 

答えたのは、藍でも橙でもない妖怪だった。なぜ妖怪だと思ったかと言われれば、妖怪っぽいとしか言い様がないが。

その妖怪は私を見つけると、満足そうに微笑んだ。まるで宝物を全部掘り出したかのような顔だ。

 

霊夢と魔理沙が先に上がると、紫がこそっと言った。

 

「そういえば藍、あの子は?」

「はい、此所に」

 

藍は屈む事もなくウサギを宙に放った。ウサギは無様に落ちることもなく、宙に浮かんだ。よく見ると小さな羽が付いている。

 

「紫さんっ!酷いじゃないですか?!」

「あら、燐乃亜の所に行くと言ったのは貴女じゃなくて?」

「そっそれは……!」

 

ウサギの頬が真っ赤に染まる。というか本当にこいつウサギなのか?どう考えても人間にしか見えない。

私が色々と思考を巡らせていると、霊夢がとりあえず上がるように声をかけた。

 

――――――――

 

「私は八雲紫よ。宜しくね燐乃亜」

「あぁ、宜しく」

「あら?あまり驚かないのね」

「奇妙な体験なんて既に幾つもあったしな」

「……"夢"とか?」

「!?」

「霊夢ったら、気が逸り過ぎよ~♪」

「え、あぁ……ごめんなさいね?当てる気無かったんだけど、つい……」

「……」

 

そうだった気がする。私が言ったのは、箒で空を飛ぶとかそういう事だったのだが。

心なしか魔理沙の表情が少し曇っている。私はこういう顔を知っている。思い出したくないけど思い出してしまった、そんな顔だ。

 

紫はそんな彼女を横目に、私へ話しかけてきた。次は何が告げられるのか、息を飲む。

 

「さて……貴女は帰れない、それは良いわね?」

「あぁ…………ん?」

「じゃあ次に能力査定を」

「ちょ、ちょっと待て!帰れない、って何?!」

「言葉通りよ?あ、でも冬休み中には帰れるわ……多分」

「お、おう……」

 

正直、学校生活に戻れなくても然程困りはしない。まだそう思ってしまうのが現状だ。ふとそこら辺をフヨフヨしていたウサギが入ってきた。

 

「紫さーん?見つかりましたよ~」

「あら、ご苦労様」

「「……紫、こいつは?」」

 

霊夢と魔理沙は、ウサギについて知らないらしい。紫は意味ありげな顔をして、こう言った。

 

「燐乃亜にお供してもらう、新しい式神よ。そうねぇ……名前は強いて言うなら"みぃ"よ」

「お、おう」

「……」

 

魔理沙は無理矢理といった感じで頷いたが、霊夢はより一層表情を険しくするばかりだった。

 

「さて……能力査定は要らないわね」

「ん、どうしてだ?」

「えっ……ま、魔理沙まだ気付いてないの?」

「何がだぜ?」

「ふふ……燐乃亜、貴女の能力はね、」

 

――"夏の宙を操る程度"よ。

 

それを聞いた瞬間、霊夢は何か確信した顔をした。魔理沙は唖然として、何か思い出したようだった。そんな二人を見て、満面の笑みを浮かべる紫と橙。そして何故か私に申し訳なさそうな顔をしている藍。

ただ一人反応の薄い私に、紫がゆっくり訊ねた。

 

「ねぇ、貴女。この二人に見覚えは無い?」

「え……?」

 

私の思考を遮ったのは、意外にもウサギだった。

 

「……全部、話すんでしょう?」

「……ふふっ、相変わらずみぃは察しが良すぎるわ」

「そう、やっぱりそうなのね……」

「となるとやっぱり……」

「あら、そこまで言っちゃあダメよ?そのくらいは自分で見つけてもらわなくちゃ」

 

話の内容が飛躍している、故に着いていけない。簡単な事だ。それを感じとったのか、みぃが何枚か写真を差し出した。

 

「それもこれから話される事だよ、ね?」 

「えぇ……そうね。どこから話しましょうか……」

 

――――――――

 

昔々、といっても半年くらい前かしら?

貴女のようにこの世界に来た一人の女の子は、とても楽しそうに馴染んだわ。でも事件は起きた。

 

不審火よ。しかも夜な夜な訪れる謎の火。女の子とその仲間たちは、その異変を解決するために色々したの。

そうしたら、女の子たちは一人の女の子に出会った。

 

ふふ、心当たりがあるようね。そうよ、それが貴女。

そこからは思い出したかしら?……えぇ、そうよ。

 

そう、その後女の子は帰っていったわ。あ、ちなみにその子と貴女を襲ったのは藍よ。色々あって……ごめんなさいね?

 

さぁ、これが貴女の全て。この世界の真実。

分かってくれたかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

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目的地、旅立ち、戯れ

投稿ペースが戻らない……だと……?

春休み終わるまでにある程度進むよう頑張ります(泣)



「そう、か……」

 

つまりは、私はこの世界に一度来ていて、しかも結構な事を仕出かしていた。そういうことだ。

私は何とも微妙な気分だった。私には此所にいる資格があるのか?とかそんな事は思っていない。そんなの私の知った事じゃあ無いし、話を聞けば無意識だったのだから。

ただし、多少の良心くらい私にもある。だからこそ微妙なのだ。

 

「大事な事だから、この際さっさと伝えておいたわ。少しでいいから、覚えておいて?」

「あぁ、分かった」

「……さ、この話は終わりよ。そうねぇ、じゃあ次はアレかしら?」

「……あ~!それじゃあーまずは紅魔館はどうだ?」

「は?」

 

何 言 っ て ん だ こ い つ ら 。

 

いやマジでそれしか思い浮かばなかった。うん。

私は出来るだけ丁寧に訊ねた。

 

「……紅魔館って?」

「ヤベェ所。」

「……あ"?」

 

無理でした。こんな奴等に丁寧になんて無理でした。

私はとりあえず疑問を一から並べ立てる。

 

「アレって何?紅魔館って何?ヤベェ所ってどんな?てか何でそんな所に行かせようとしてるんだっ!?」

「お、落ち着け!な?悪かった、悪かったから!」

 

慌てているのが魔理沙だけというのもムカつくが、一応息を整えて半ば睨むように視線を戻す。

 

「えーと……まずお前は今から挨拶回りに行ってこい。それはOK?」

「まぁ行くけど」

「さんきゅ。じゃ、次に紅魔館か。紅魔館ははっきり言ってヤバい奴しかいない。霊夢の名前出せばどうにかなるだろうが、私の名前は使うなよ?パチェ……魔法使いに殺されるから。あと地下にも行くな」

「フリか?」

「違ぇよ!てか霊夢も何か言え!」

「……ま、死なないように頑張んなさい」

「マジか……」

 

拝啓、先輩方。

貴方達の夢、異世界に来て即刻死にそうです。

 

選択肢は無い。私は、魔理沙に道を聞くと、何の躊躇いも無く飛び上がった。

地上で何か言っている気がするが、無視して飛行に集中する事にする。

 

――――――――

 

恐怖心よりも好奇心の勝る道中、一匹の妖精に出会った。しかし、妖精と簡単に言ったがあくまで憶測だ。

大体、どうしてこうもこんな感じの奴等がうようよ居るのだろう?そういう世界なのか?

 

「あーっ!おまえは!……だれだっけ?」

「いやそもそも会ったことねぇし」

「なに~っ?!くっ……あたいがはめられた、だと!」

「いや別にはめてねぇよ?」

「えぇい!おまえ、あたいのらいばるにしてやってもいいぞ!」

「……はぁ。まぁどうぞご勝手に」

 

私がそう言ってスルーしようとすると、そいつは私の前に立ちはだかった。別に小さい女の子一人と変わらないし、退かさなくても通れることには通れる。が、とりあえず私は睨みを利かせる。

 

「……退いてくれる?」

「どかないもん!おまえしらないのかー?こーいうときは……」

「あー"弾幕ごっこ"……とかだっけな?」

 

霊夢が一応言ってくる奴もいるから、と簡単に説明してくれた。ルールは大体覚えたが、肝心の弾幕とやらが撃てないので実質私には不可能なごっこ遊びだ。

 

「しってるじゃんか!じゃあ、あたいとしょうぶしろー!」

「無理無理。出来ないから、ほらさっさと通せ」

「いーだ!通さないもんねー!」

「……っ」

 

自分でも分かるほどに拳を震わせ、私はついにぶちギレた。

 

「こんの……クソガキがぁぁぁああ!!!」

「ぎゃぁぁああ!!!??」

 

――これが私の初めての"弾幕ごっこ"の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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リスタート、紅魔館、門前

戦闘描写、か……。




「だからね?いきなり吹っ飛ばしたらダメでしょ?」

「……はい」

 

私は呆れられつつ叱られていた。あの妖精との弾幕ごっこ、基私がいきなり妖精を吹っ飛ばした件について、だ。

妖精――チルノ、というらしいが、そいつは友達(妖精)に連れられて帰っていった。何か凄い色々言ってた気がするが、その辺は忘れた。

 

「ま、こんなこと言ってても仕方ないわね。さっさと行ってきなさい」

「今から出りゃあ日が暮れる前には着けるだろ」

「あぁ。じゃ」

 

私はもう一度、神社から飛び立った。

 

―――――――

 

何分飛んだだろうか。やっと霧のかかる湖に差し掛かった。私はスピードを上げて、周りの霧をかき分けながら進む。真っ直ぐ進んでいるのかは怪しいが、とにかく湖を抜ければ大丈夫なはずだ。

 

「ちょっと待ってよ~!燐乃亜ってばぁ~!」

「……」

 

私は仕方なくその場に留まり、後ろを向く。そして通り過ぎそうなウサギを片手で捕まえた。

 

「わあぁっ!って燐乃亜かぁ。良かった追い付いて」

「……いや何で着いてきた?」

「言わなかった?私は燐乃亜のサポート式神だよっ」

「……言わなかった。」

「ふぅん。まぁいっか!レッツゴー♪」

 

こうなっては仕方無い。私は大人しくウサギの後を追って、紅魔館への旅路を急いだ。日が暮れたら本当に迷子になりそうだ。

 

―――――

 

それからは十分もかからなかった。私は門の前に降り立つと、目の前に聳え立つ館を見上げる。

バカみたいに大きいし、何しろ紅い。紅すぎる。

私がそのまま入ろうとすると、顔の前にスラッとした脚が飛び出てきてそれを遮った。

その方向へ目を向けると、中国っぽい服装の女の人が立っていた。髪の紅いスラッとした女性だ。

 

「ちょちょちょ!勝手に入らないで下さい?」

「……紅美鈴か?」

「お、私の事知ってるんですね?じゃあ尚更じゃないですか。私の職業知ってるでしょ?」

「居眠り」

「違いますよ!っていうか、せめて門番付けて下さい!」

 

居眠り門番・美鈴はため息を着くと、構えをとった。そして指先を此方から彼方へ、つまり挑発だ。

私は乗ることにした。門番を倒さない事には、館には入れない。RPGの鉄則、というか鉄板だ。

 

「此方から行かせてもらいますよ!」

「やべっ……!」

 

慌てて空へ飛び上がる。そして、そのまま美鈴に突っ込む。やったね、リアルライダーキックじゃん。

そんなもの決まるわけ無く、足が石畳にくい込む。私はそれを石畳ごと燃やし尽くして、走ってきた美鈴の顎に蹴りを入れる。美鈴は後ろに避けて、そのまま二、三歩下がる。

とはいえ、私はこんな格闘技の経験は無い。体育は得意な方だが、それでもただの中2だ。

 

「あの~。自分で吹っ掛けといて何なんですけど、入っていいんですよ?」

「……は?」

「とりあえず用件聞いていいですか?あ、別に咲夜さん呼んでからでいいですよね。咲夜さ」

「ちょっと待てっ!どういうことだ?!」

 

美鈴はとりあえず見たこと無い人だったんで、倒しておこうと思ったらしい。はた迷惑な門番だ。というかただの戦闘狂じゃないか。

 

「えへへ……すみません」

「「はあぁ……」」

 

私の声に誰かのため息が重なる。不思議に思って顔を上げると、こめかみにナイフを突き付けられた美鈴が顔を真っ青にしていた。

ナイフを突き付けている女性は、美鈴が何とか弁明を試みているが動じない。ただ私に向かってにこりと微笑んでマニュアルのように言った。

 

「ようこそ紅魔館へ。話は聞いているわ、入って頂戴」

「どうも……ちなみに誰からですか」

「魔理沙よ」

「やっぱりか……」

 

門の中に入った所で、いきなり目の前の景色が反転した色になる。目眩のしそうないきなりの出来事、その全ては次の言葉を発した女性にあった。

 

「私は十六夜咲夜、此所のメイド長よ。」

 

にこりとさっきよりも柔らかく微笑む咲夜は、私の表情に気づいて苦笑を浮かべた。

 

「ごめんなさい。貴女も時間停止が効かないのね……」

「時間停止?」

「えぇ。私の能力にして最恐の武器よ」

「えげつないな……」

 

思わず呟いた本音に咲夜はクスリと笑った。そして、門前に戻るとナイフを自由自在に操って美鈴のこめかみに当てた。

私を連れて平然と中庭を進み、屋敷の戸を開ける前に右手に持っていた懐中時計を動かした。

 

「ようこそ、紅魔館へ。燐乃亜」

 

外の悲鳴に負けないように声を張り上げる咲夜。その目線の先には気品溢れる幼女がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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吸血鬼、破壊、笑み

書いてたら書きたくなって長くなりました(意味不)

あと投稿ペースが戻ると言ったな?あれは嘘だ。
……すみまっせーん(泣)(土下座)


「ふ、来たか。燐乃亜」

「あぁ。こんなに遅くなるつもりは無かったんだがな」

「くくく……」

 

何が可笑しいんだ、と聞いたらきっと負けだ。私はあえて何も言わずに、ただその幼女を見つめていた。すると幼女は首をかしげて言った。今度は普通の話し方で。

 

「どうしたのかしら?私の事、誰かに聞いてないわけ?」

「まぁ聞いてないな」

 

魔理沙からは紅魔館の位置、霊夢からは弾幕ごっこについて話を聞いた。が、紅魔館にいる住人については門番の名前くらいしか聞いていないのだ。強いて言うなら……

 

「ヤバイやつ?」

「咲夜。魔理沙を刺してきて」

「畏まりました」

「……」

 

本当に私が(マトモな)情報を持っていない事を知った幼女は、私を食堂に連れていった。夕食前なのか、長いローブを着た女が座っており、私を見ると特にどうすることもせずに読書を続けた。

幼女はその態度にむすっとして、その女に声をかけた。

 

「パチェ、燐乃亜よ」

「そう……」

「……そう、じゃないでしょ?何とか言いなさいよ!」

「何とか」

「あ"?」

 

ついに苛立ちを顕にして何処からか槍を取り出す幼女に、ようやく女が顔をあげた。

 

「……はぁ。パチュリー・ノーレッジよ、宜しく」

「あ、あぁ。宜しく頼む」

 

賢明そう、というのが第一印象だった。変な風に気取っているこの幼女より、完璧に知識も豊富そうだ。

何かあったら頼れるようにと、私は何回かその名前を暗唱した。

その間に、咲夜が美鈴を抱えて……いや、引きずって現れた。そしてもう一度消えると、次の瞬間には美鈴が席に、豪勢な料理がテーブルに並んだ。

幼女は席に着くと、誰かを待つように半開きの扉を見つめながら名乗った。

 

「レミリア・スカーレット、この館の主よ。宜しく」

「あぁ。……他に誰がいるんだ?」

 

至極単純な問いに一瞬迷いを見せ、そしてレミリアが答えようとした時、扉が勢いよく開いた。

いつの間にか移動した咲夜が慌てて扉を押さえて、蝶番の外れるのを阻止した。

 

「あーお腹空いたー……って、お姉さまその人……っ!」

「落ち着きなさいフラン。夕食が終わってからよ」

「……うん。」

 

レミリアよりほんの少し背の低い幼女は、フラン、フランドールというらしい。フランは羽をピョコピョコさせながら席に着くと、テーブルの上を眺めた。

 

「よーし、それじゃあ」

『いただきまーす!』

 

フランと美鈴が元気よく声をあげる。咲夜はレミリアのカップに紅茶を注ぎながら、何か話している。ニコニコしているレミリア達を横目に、料理を楽しんでいると、頬をつつかれた。

フォークを置いて振り返ると、ウサギが手を振って……消えた。

 

「~!……」

「あら、式神の方は帰ったのね」

「そのようですね」

 

私は特に気にする事もなく、食事を終えた。

 

――――――――

 

特に大変なこともなく、私は客間に通された。しばらくして窓がノックされた、魔理沙だ。

魔理沙は器用に窓から入ると、箒を壁に立て掛けながら色々と聞いてきた。

 

「初めての晩餐はどうだった?殺されなかったか?」

「まぁな。……やっぱり、あいつらも関わってくるのか?」

「あぁ。あいつらは特に親密だったしな」

 

私たちが話しているのは、私が前に起こした騒動の事だ。先程の様子を見るからに、フランは少なからず私に敵意を持っている。美鈴が襲ってきたのも、もしかしたら関係あるのかもしれない。

 

話は変わるが、私はその戦闘に関しての記憶が無い。

覚えているのは、ただ一人。私を受け入れてくれた蒼い瞳の持ち主だけ。その女の名前すら分からないのだから、ほとんど何も覚えていないといっても過言ではないだろう。

 

短い沈黙の後、魔理沙は大図書館に行く、と言って私を誘ったが断っておいた。その代わりに、私はもう一度食堂に行った。しばらく其所で立ち止まっていると、背後に気配が現れた。

 

「その地図を見ても、お嬢様の部屋は分からないわよ?」

 

咲夜だった。しかも現れて早々、私の図星を突いてくる。私は降参の印に両手を掲げて、咲夜の澄んだ瞳を見つめた。

 

「……」

「……はぁ」

 

今度は咲夜が折れる番だ。着いてきて、と言った彼女は大階段へと歩き出した。

 

――――――――

 

着いたのは、見たところ普通の扉の前だった。これじゃ例え片っ端から開けていっても、一日かかるだろう。

 

「お嬢様、燐乃亜を連れてきました」

「そう……分かったわ。入りなさい」

「失礼します」

 

私が咲夜に続いて部屋に入ると、レミリアは深紅のワンピースを着てベッドに腰かけていた。咲夜が何も言わずに一礼して出ていくと、レミリアは自分の隣を私に勧めた。私が座ると、ベッドは少し軋みレミリアは上下に揺れた。

 

「さて……私はあまり気にしないことにするわ」

「!……そうか、そのつもりで関わって良いんだな?」

「私とは、ね。フランはまだ貴女の事を、良くは思っていない」

「あぁ……そうみたいだな。……」

 

はっきり言って、私はこの気まずい沈黙というのが苦手だ。ベッドから立ち上がって、レミリアに背を向ける。ベッドの軋む音とレミリアの声が重なる。そこに引き留める意思は無く、ただ、気を付けてね、と静かに言った。私はそれに軽く手を振って、異様な雰囲気の地下室へと向かった。

 

――――――――

 

「……フラン。」

「誰?」

 

幼い声に背筋が凍る。まだ顔も合わせていない内にこうなるなんて、私は道に迷わなかった事を後悔した。かと言って、声をかけた挙げ句に立ち去る訳にもいかない。

 

「入って、いいか?」

「……いいよ、ちょっと待ってて」

 

プラスチックなどの触れあう音がして、数秒。扉が開いた。フランはにこりと笑って、扉を大きく開けると部屋の奥へ小走りした。かと思うと、次の瞬間には私のすぐ目の前にいて、一本の杖を差し出した。

 

「みく……じゃなかった、みぃに渡してあげて!」

「みぃ……あー、あのウサギな。分かった」

「ありがとー♪」

 

無邪気な笑みを浮かべるフラン、その奥に隠された私への思い。単純に知りたい、そう思った。

私はフランに声をかけようとした。が、その前にフランが口を開いた。背を向けているが、抱えたテディベアが小刻みに震えていた。

 

「フランね。燐乃亜の事、やっぱり信じていいのか分かんないの。あんなに人里が大変な事になってるの、見たこと無かったから……」

「……」

「……ううん、違うな。フラン、正直人里がどうなっても、あんまり可哀想だなーとか思わないよ。フランが、フランが嫌だったのはね……」

「もしかして……あの女の子の話か?」

「!……知ってるの?」

「あぁ。少しだけど顔も覚えてる」

「そっかぁ……」

 

そこでフランは少し此方を振り向いて、微かに笑った。とてもただの女の子とは思えない。無論、ただの女の子ではないのだが、失う哀しみを知っている笑みだ。この笑みを私は知っていた。

 

「あのね、その子ってね……!」

「うん……」

 

その後、30分程した後咲夜が様子を見に来たらしいが、勿論私達は覚えていない。咲夜によれば、二人揃ってベッドに寄りかかり眠っていたと言う。

 

夢の中、私はあの笑みをもう一度見た。そして決めた。

 

この少女を、必ず見つけてみせると。

 

 

 

 

 

 




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探索、ダンジョン、関係者A

春休みがっ終わってしまったっ(泣)

マジに泣きそうな咏夢です、それではどうぞ!


探索なう。

一言でこの状況を表すなら、間違いなくこうだろう。

今、私は紅魔館を出て湖を越え、人里を歩いていた。朝市が終わって子供は寺子屋へ、少し静かになった商店街もそろそろ終わりが近づいていた。

 

「次は……太陽の畑、だったっけか?」

 

ここに来る前に、魔法の森は少し覗いてきた。博麗神社と無縁塚、ここは経験済みなので置いておく。

とはいえ、地図は出発前にチラリと見てきただけなので、道があまり分からない。

 

「ま、とりあえず歩いてりゃ大丈夫だよな。うん。」

 

そして私は、道成らぬ道をゆったり歩き出した。

 

――――――――

 

(ヤバい……よな、これ)

 

絶体絶命。

今の私にはこれしか無いだろう。慌てて周りを確認するが、見渡す限りの竹竹竹竹竹……。助けは愚か、武器になりそうな物さえない。

 

状況を整理しよう。私と対峙している、もとい私を喰らおうとしている狼に似た化け物。全長約何メートルなど、詳しい情報を目分量で測れるほど私は器用では無いが、捕まれば最後一飲みで逝ってしまうと思う。

 

どうしてこうなったかと言えば、道に迷ったのがいけなかったのだと思う。豪勢な向日葵畑に着くはずだったのに、本当にどうしてこうなった。

 

そうこうしている内に、化け物は目に見えて威嚇体勢をとる。対抗手段が無いわけでは無いが、チルノの時にように竹藪ごと吹っ飛ばしてしまっても困る……よし。この間、わずか1秒。イメージを膨らませ、掌に神経を集中させる。次第に大きくなる炎は、パチパチと音を発てている。規模の調節も眼中に入れておこう、とそのくらいの理性を持ちつつ放とう……としたその時だった。

 

「……は?」

「大丈夫か?」

 

消し炭になった化け物を見つめて、一人佇む女性。その引き締まった横顔を、私は呆然と見つめていた。

行き場の無くなった炎をとりあえず握りつぶして、元化け物に近づく。もはや完全に燃え尽きている。

好奇心に勝るものは無く、顔を上げて女性に話しかける。

 

「おい」

「……何だ?ここから出たいなら此方なんだが」

「いや……まぁそうだな。とりあえず礼だけ言っておく」

「あぁ、気にするな……」

 

結局上手く会話は続かずに、黙々と竹の中を歩いていく。先日も言ったように、沈黙は苦手だ。いつもならその場から立ち去るのだが、そんな訳にもいかない。

少し此方から話を振ってみる事にした。

 

「お前、名前は?」

「……妹紅、藤原妹紅だ」

「へぇ……」

 

ダメだ。このままではQ&A+αで終わってしまう。焦って続ける。

 

「私は燐乃亜だ。さっきも言ったがありがとうな」

「いや、最近目撃者がけっこういたからさ。探してたんだよ。それにしても……燐乃亜、か」

「……そうだ、お前の知ってる燐乃亜だ」

「……そうか」

 

少しは会話が続いたし、考える事案も出来た。そういえば、他には誰が"前の私"を知っているのだろう。

これだけ遠くに来て、知っている奴がいるとなると、かなり大人数だったのだろう。その多くは私の事を理解してくれているが、少し気を付けた方が良いのかもしれない。

 

竹林から出ると、そこは山の麓だった。妹紅によると、この上が博麗神社らしい。確かに山の中腹だったが、ここだとは知らなかった。私はもう一度礼を言うと、小さな羽を広げて山沿いに上へと飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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ぶっちゃけ展開が見えないので、しばらくは挨拶回りしまーす(殴


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悪、風祝、亡霊

キリのいい所が見つからなくて少し長くなりました。

余談ですが今年から中2です。頑張ろー。


「ふぅん……つまり、相手の自分との距離感が掴めないって事?」

「ん……まぁそういう事になる、のか?」

「別に何でも良くないかしら?」

「何でも良くありませんよっ!こういうのって意外と難しいんですから……!」

 

博麗神社に着いて、今までの事を話した。そこには霊夢ともう一人――こちらも巫女が話を聞いて結論を述べた。

 

あんた誰だ、という私の目線にようやく気づいたのか、「東風谷早苗です!」と名乗った。私も名乗ろうとすると、早苗がキラキラした目で止めた。

 

「あなたはあれですよね!たった一人で1回霊夢さん達を殺しにかかったっていう、あの……」

「えっ、ちょっ、その文言は色々と問題が……っ」

「ほらね、つまりはそういうことよ。相手のイメージが間違ってたら言えばいい。好戦的なら戦えばいい。」

「最終的に仲好くなれたら、それは燐乃亜ちゃんの勝ちですよ!負けちゃダメです!」

「……!」

 

――負けたくない。そう思った。

 

このままでは、私はこの世界で"悪"だ。この世界にどのくらい留まるのかはいざ知らず、些か誤解を招く事は避けられない。

 

「ま、要するに適当で良いのよ」

「何でそうなるんですか!まずは善良なイメージ作りをですね……!」

「いや、んなこと言われても出来ないから。」

「そ、そんな燐乃亜ちゃんまでぇ……!」

「……とりあえず、紅魔館に言ったなら次は冥界かしらね?」

「あぁ。じゃ、そうする」

「お二人とも話を聞いてくださーい!?」

 

早苗も最終的には諦めたらしく、冥界までの付き添いを申し出てくれた。日も暮れるので出発は明日にして、今日は早苗と神社に泊めてもらう事にした。

 

 

――――――

 

空をひたすら飛ぶ。厚い雲を突き抜けてから、何分経っただろうか。

霊夢は能力に霊力を付与して、早苗は自身で奇跡を纏って。三人でひたすら飛ぶ。

 

「霊夢さぁ~ん……まだ着かないんですかぁ~……」

「知らないわよ。この頃結界が不安定で、距離が正確じゃないって言ったでしょ」

「うぅ……」

「……うん、ドンマイ」

 

私と早苗の距離は、一晩で随分と近づいた気がする。流石にお姉さんと呼ぶのだけは拒否したが。

そうこう言っている内に、大きなゲートのような石が見えた。霊夢を先頭に飛び込み、とてつもなく長い大階段の前に降り立つ。その上で誰かが手を振っている。

霊夢がそこまでショートカットして、二言ほど話をつける。その誰かも何かを霊夢に伝えると、大階段の奥へと駆けていった。

 

急いで早苗と大階段を上りきり、霊夢へ追いつく。霊夢は先程の人が去っていった方を見つめていた。何かを考えているようにも見えたので、代わりに早苗に疑問をぶつける。

 

「早苗、さっきの奴は?」

「あっ、多分ですけど妖夢ちゃんですね!白玉楼の庭師さんです」

「へぇ……」

 

白玉楼の事は、簡単に咲夜から聞いている。冥界にある和風豪邸とのことだ。少し簡略すぎる気もするが、霊夢が一緒ならどうにかなるのだろう。

人気の無い家屋の間を進むと、和風な門の前で一人の少女が手を振っている。背丈から見て、この子が妖夢だろう。妖夢はこちらに一礼すると、柔らかな笑顔で歓迎の意を述べた。

 

「ようこそ、白玉楼へ。霊夢さん、早苗さん、それと……」

「あ、燐乃亜です」

「はい、話は聞いています。どうぞ!」

 

妖夢が門を開けると、見事な庭とその奥には話通りの豪邸が建っていた。数羽の蝶が舞い、ふよふよと霊がさ迷う。

そんな幻想的な情景の中で、一際強い霊力の塊――半霊が此方に向かって飛んでくる。半霊は私たちの周りをくるりと廻ると、邸への道を先導するように飛び始めた。

 

どうやら、半人の方は邸に居たらしい。半霊が速度を上げたので走って追いかけると、半霊を小脇に抱えた妖夢がもう片方の手にお盆を乗せていた。

縁側からさっさと失礼すると、湯気の起つ湯呑みを配る妖夢と女性が居た。手に扇を持って、ゆったりとした表情で妖夢と話している。霊夢はその人の肩にお祓い棒を突きつけて、無言で到着を報せた。

 

「あら、霊夢。随分と早かったわねぇ……」

「そうでもしないと、あんた忘れるでしょうが?」

「酷いわ、忘れないわよ~……妖夢が」

「……幽々子さま?」

「や、やだぁ♪冗談よ~」

 

同じ主従だが、紅魔館の所とは雰囲気が違う。何というか、お互い立場の域を越えない馴れ馴れしさが身に付いている。

そんな事を知ってか知らずか、お盆を脇に伏せると完璧な座礼の後に妖夢が名乗った。

 

「魂魄妖夢と申します。どうぞ宜しくお願いします!」

「あぁ、燐乃亜だ。宜しく頼む」

「ふふっ♪良かったわねぇ妖夢~練習通りに言え」

「ちょ、幽々子さまぁぁっ!」

「……」

「妖夢ちゃん可愛いですね~♪やっぱり私の妹です!」

「違っ……!そもそも妹じゃないし!?あと霊夢さん目冷たい!」

 

敬語も忘れて妖夢はぎゃあぎゃあと喚く。いや、嘆くの方がいいか。

とにかく、息を弾ませた妖夢は隣の女性をポコポコ叩く。にこにこしながら、その女性は目線を合わせてきた。どこか色の抜けた瞳に吸い込まれそうになるが、そこら辺は自信がある。しっかり見つめ返すと、女性はまた愉快そうに笑った。

 

「ふふふ♪やっぱり似てるようで似ていない……。西行寺幽々子よ、宜しく~」

「あーうん、宜しく?」

 

最初の方は意味が解らないが、とりあえず返しておく。幽々子はお茶を啜ると、扇を高く掲げて唐突に言った。

 

「はい、能力披露大会~!いぇーい!」

「え?」

「は?」

「はぁ……?」

「別に良いですけど……何でこんな唐突に?」

「良いじゃないの~♪」

 

そんなこんなで、妖夢がまず名乗りを上げる。"斬りたいものを斬る程度"だそうだ。要するに何でも斬れるのか、と聞いたらそうでも無いらしい。剣から弾幕が放てるだけ凄いとは思うが。

次に早苗だ。"奇跡を起こす程度"という、何とも曖昧なチート能力だ。とはいえ、かなり強いのは事実で、霊夢もたまに手を焼くと言う。

 

「ふふっ♪改めて聞くと皆凄いわねぇ~」

 

幽々子のその一言に、霊夢と早苗が思いっきり顔をしかめた。そして強く言い放つ。

 

「あのねぇ?あんたがそんな事言ってたら、世の中はチート能力で溢れ返るわよ……」

「そうですよ!何てったって、幽々子さんの能力は……」

 

"死を操る程度"、でしょう……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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彼女、決意、黒蝶

短いッ!
文字数安定しなくてすんません。


瞬間、その場の空気が凍りついた。いや、ただ沈黙が訪れただけかもしれないが、私はそう感じた。

ただ一人微笑みを絶やさない幽々子は、私に手を伸ばした。そして頬をゆっくりとなぞる。

 

「ふふっ……そう、そうなのね……ねぇ?」

「……ッ!」

 

今度こそ空気が凍りついた。妖夢や早苗、あの霊夢までもが、同じ恐怖を感じていた。幽々子は私に目線を合わせてこう問った。

 

「貴女は……この世界で、どうして生きるの?」

「え……」

「貴女の生きる理由を、教えて?」

 

そう言われて、私は咄嗟に思考を巡らせる。

 

冬休みの思い出作り?いや、違う。そんな理由で生きられたら、今までの私がバカみたいだ。

では、何だ?

考える。この世界でしたいこと。この世界でしか出来ないこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

――"彼女"を、見つける事?

 

 

 

「そうか……」

 

そうだ。私は"彼女"を見つける、その為に生きるのだ。

この際言っておくが、リア充になりたい訳ではない。

 

あの瞳を、笑顔を、今もう一度見たい。

 

「その様子だと、見つかったみたいね♪」

「……あぁ。」

「え、えっと……」

「ふふ、じゃあ……」

「?」

「その覚悟、見せて?」

 

 

 

何故か視界が霞む。ピントが合わないカメラの様に、人影が滲む。先に言っておこう、泣いている訳では無い。

 

 

私は立っている。

くっきりとした輪郭が見える。

目で追う。

そこには蝶が舞っている。

黒い魅惑の蝶。

手を伸ばす。

ゆっくりと、逃げてしまわぬように。

 

――死なないで、お願い

 

誰かの声が聞こえる。

 

――友達、だから……!

 

手が止まる。

止められる、見知らぬ誰かの声に。

 

見知らぬ誰か?

 

違う。

少し高くなっているけれど、これは……

 

――そう、"彼女"の声だ。

 

 

 

 

「――あ……り―あッ!燐乃亜!」

「……!」

「わあぁ!燐乃亜~!」

 

私の傍らからウサギが飛びついてきた。いつの間に中庭に転げていて、体の節々が軽く痛む。

いまいち醒めきらない頭を振って、ついでに周りを見渡す。

幽々子にお祓い棒を突きつける霊夢と、

それを見て反射的に剣を抜いた様子の妖夢と、

その手を必死に押さえる早苗。

何とも一触即発な空気に、息が詰まりそうになる。

そしてその空気をぶち破る馬鹿者が一人。いや一匹。

 

「……ねぇ、」

 

「はぁぁあああッ!!!」

「!?よくもッ」

「きゃああああ!!!ストップっ!妖夢ちゃん落ち着」

「離せッ!お前から掻き斬るぞ!」

「ッ!この夜桜亡霊が……ッ!」

「……ッ」

 

もう色々カオス。仕方ないので、私はそれなりの行動に出る事にした。

 

「"獄炎彗星―コマンドサテライト"ッ!頭冷やしとけェェェ!!!」

「「「!!?」」」

 

こうして、白玉楼でのちょっとした大騒動は幕を閉じた。

勿論、この後霊夢にキレられ、早苗に泣かれてと二次災害が起きたのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 




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決闘、魔符、彗星

スペル考えるのは楽だな。
魔理沙のは原作なるべく調べるようにします。



結局、冥界を出たのは夕方8時頃だった。朝8時頃に着いたから、丸半日あの世に居たのか~と呟いていると霊夢に冷やかな目で否定された。

 

早苗とは空中で別れ、霊夢と共に博麗神社に降り立つ。縁側に気配を感じて振り向くと、魔理沙がちゃっかり湯呑み片手に座っていた。

 

「よっ。随分と遅かったな?」

「いや何であんた居るのよ。あくまでも人ん家よ?」

「まぁそう怒るなって。夕飯出来てるんだぞ」

「え、本当!?」

 

現金な奴なのか子供っぽいのか、霊夢はそれを聞くなり魔理沙に向かって走り出した。そして、軽くジャンプすると魔理沙に抱きつく。

 

「ありがとっ」

「ぅわっ!と……どういたしまして、だぜ」

「ふふっ。~♪」

 

数秒のハグの後、上機嫌で廊下の奥に消えた霊夢を見送ると、私は魔理沙の隣に座った。そして少し呆然としているような魔理沙の肩に手を添えた。

 

「……なぁ燐乃亜。あいつ、酒呑んでたか?」

「いや、見てた感じ呑んでた様子は無かったぞ?」

「お、おう。そうか……」

 

やはりいきなりのスキンシップに、多少は戸惑っている様だ。私は改めて魔理沙の肩を軽く叩くと、席を立った。用意してあるとはいえ、準備を手伝いがてら霊夢の様子を見に行こうと思った。

 

―――――――

 

疲れからの奇行だったのか、霊夢はすっかり正気に戻っていて、何とも言えない空気が漂っている。私はそれとなく二人に話題を振ることに徹した。

 

「そっそういえばさ、冥界で能力がどうとかいう話があったがアレって私にも使えるんだったか?」

「あ、あぁー。うん、そういえばそうだったな。」

「え、えぇ……。まぁ私達としてはその能力で一度遣られてるから、あんたが自然に使えてるのに違和感無かったわね」

「あーまぁ。使ってない訳じゃ無いけど、使ってる自覚があんまり無いんだよなぁ……」

「そうだな……特訓か何かしてみるか。スペルも作らなきゃだろうし」

「特訓?スペル?」

 

二人は調子が戻ってきたとばかりに私を口説き始める。話の内容を要約するとこうだ。

能力の制御の練習がてら魔理沙と決闘、つまり弾幕ごっこをしないか、と。

二人の話によると、必ずと言っていい程"スペルカード"とやらの必殺技が必要らしいので、まずはそれを考える事にした。

 

―――少女作成中―――

 

出来た。

声には出さなかったものの、正直疲れた。あえて手札を見せずに、魔理沙と空に向かう。

ふと魔理沙が遠い目をして地上の霊夢に言った。

 

「あの時は五分くらい待ちぼうけだったんだけどな。やっぱ環境が違うのか……」

「?……あぁ~!そうね、あの時は唐突だったし、ね」

 

何の話なのかは言わずもがな解っていた。だからこそ、私は何も聞こえないフリをして改めてルールを確認した。ちょっとした話し合いの末に手札は3枚、被弾はハンデとして私は二回、魔理沙は一回までになった。

 

「それじゃ始めっか!"アースライトレイ"!」

「"獄炎彗星―コマンドサテライト"!」

 

何回か使っている為か、このスペルは比較的コントロールが楽だ。かといって魔理沙が当たるはずも無く、私は弾幕や光線を小刻みに避けるしかなくなる。

 

魔理沙が二枚目のスペルを取り出したのを見て、私は少し距離を取る。魔理沙のスペルは火力で圧すものが多いらしい。なら、距離が有った方が断然避けやすい筈だ。

 

「行くぜ燐乃亜、恨むなよ!"ブレイジングスター"!」

「はっ!?」

 

いきなりのスペル宣言に対応が遅れる。これでもかというほどのスピードに、魔理沙だけを意識してしまったのがいけなかった。霊夢から一回目の被弾報告が挙がる。

これで対等。私も迫り来る弾幕を避けながら、二枚目のスペルに移る。

 

「"新月オールラウンド"!」

 

魔法陣が展開する。基本的に全ての力を扱える"夢の迷い人"だが、私は魔力と妖力が比較的得意だ。

白銀の光線が捻れるように魔理沙を狙う。華麗に避ける魔理沙は、スペルの勢いそのままに光線を引き離していく。流石のスピードだ。

しかし、これからは流れが少し違う。というか、変わることを祈っている。これから私が使っていくのは先程作ったスペル、つまり魔理沙にとっては初見の弾幕だ。

 

「行くぞ、"カシオペヤクローン"!」

「ついに来やがったな……!」

 

皆さんご存知(?)カシオペヤ座を型どった弾幕が次々に現れては飛び、現れては飛ぶ。

複雑な形の弾幕が、まるで無重力下のように縦横無尽に動き回る。"新月オールラウンド"とは、ある意味対称的なスペルだと思う。

これで魔理沙の集中力も少し逸れると良いのだが。そうでないと、フランに聞いた彼女の二の舞に成りかねない。

 

「面白いぜ……規則性が無いとやっぱ動きにくいなぁ。さて、こっちも本気で行くぜ!"メテオドラゴン"!」

「よし……負けないっ!」

 

私は知らなかった。

これは弾幕ごっこなんかでは決して無く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――決闘なのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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熱情、友情、恋情

今回は霊マリ要素がちょこっとあります。
苦手な人は飛ばしてください。
あと迷ったわりには短いです。


蒼い星と紅い彗星がぶつかり合いひしめき合う空中。

お互いグレイズを繰り返し、先程のスペル宣言から何分経っただろうか。ようやくお互いのスペルが切れ、再び距離を取る。

 

「「……。」」

 

風の唸る中、魔理沙と向かい合ってふと気づく。目が違う。

そこにいるのは、私のスペルを見定める事も少女たちの戯れを楽しむ事も忘れている

一人の闘う"普通の魔法使い"だった。

 

真剣な瞳は、それを指摘する事さえも許さない。そして視界には、『敵』である私の姿しかない。

そう、これは本気の"決闘"なのだ。誰も決して弾幕ごっこをしよう、とは言わなかった。ならばこれは、"スペルカードルールに則った決闘"だ。

霊夢はそれを知っていた、と言わんばかりに呑気だった。ただ地上で私達の行動を、第三者として見守っているだけ。

そしてもう一人、霊夢の隣に誰かいる。が、その少女を観察する余裕は全くもって無い。

 

「"ノンディレクショナルレーザー"っ」

「"スコーピオンアルバニア"!」

 

紅く浮かび上がる季節外れの蠍座を、幾つものレーザーが乱していく。もう甘美からはかけ離れた闘い、それでも美しい場景だ。そろそろ時間も尽きる頃、決着を着けなければならないのは分かっている。

分かっているのだけれど。

 

分からないのだ。

 

どうして、こんなにも闘い合うのか?

 

「ちっ、封殺か……」

 

どうして、こんなにも強くなれるのか?

 

「キリがないな……」

 

どうして、こんなにも……必死になれるのか?

 

「そろそろ決めねぇと……」

 

どうして……?

    ...

「って、アイツ寝てるじゃねぇか……ったく」

 

どうして……?

 

「燐乃亜、悪いが続きはまた……燐乃亜?」

「どうして……そんなに闘える?」

「んー……」

 

魔理沙は少し考え込むと、私に言った。意味の通じない質問だっただろうに、意外とさらりと答えてくれた。

 

「好きだから、だろうな」

「……?」

「好きだから。例えば……」

 

弾幕ごっこが、

この残酷で幸せな世界が、

魔法が、

青空の下の宴会が、

 

友達が、好きだから――。

 

「……だから、強くなりたい。」

「……魔理沙は十分強いじゃないか?」

「いや。まだだ。まだ強くなれる、はず」

 

気づいた。

どうしてこんなにも強さを求めるのか。

 

――護りたいから、だった。

大好きな世界を。

大好きな風景を。

大好きな友達を。

 

それが私には無かったのだ。今までずっと、失うことを怖れて。でも……。

 

「……燐乃亜。今から言うことは、霊夢には内緒な」

「……あぁ。じゃあ私も」

 

「私は、霊夢が好きだから、霊夢に追い付きたいから」

「私は、彼女に会いたいから、彼女を護りたいから」

 

――だから、強くなりたい。

 

 

 




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秘密、親密、辛辣

今回けっこうグダグダしてます、あとアリスちゃん出てきます。
以上です炬燵欲しい。


ここに来て何日経ったかなぁとか、そんな誰でも思うような事を長々と考える。

炬燵に突っ伏す三人の少女。その内一人は寝ていて、一人はミカンを摘まんでいる。そしてもう一人が私だ。

目の前に広がるさらさらした金髪をそっと触ってみる。ここら辺は女の子らしいなぁ、なんて失礼な事を呟いていると、霊夢が何回目になるか分からない質問を飛ばしてくる。

 

「ねぇ……結局どっちが勝ったの?ホントに気になるんだけど」

「教えないって。何回目だよ……」

「26回目ね~」

「はは、数えてたんだ……え?」

「いや私別に数えてな……は?」

「さっきで26回目よ。もう、飽きちゃったわ……」

「「ぎゃあっ!?」」

「?何だよ騒がしいな……へぁっ!?」

 

挙げ句の果てに、寝起きの魔理沙までも変な声を上げる。それもそのはず、今までミカンが積み上がっていたところに人の首から上が生えているのだから。

いや、人では無いが。正確に言えば、かの有名な大妖怪基妖怪の賢者さんの首、だ。

私達があまりに驚いたからなのか、紫はいそいそと胴体も出すと軽やかに炬燵から飛び降りた。やっと霊夢が我を取り戻す。

 

「な、何で人ん家の炬燵から出てくるのよ!?普通に玄関から入ってこい玄関からっ!」

「良いじゃないの~。それに、此所の玄関なんて有って無いような物じゃない?」

「うっ……に、にしてもよ!せめて縁側から……」

「こんな極寒の中で障子開けたら、それはそれで怒るじゃないの」

「~……」

 

完全に論破された。小さく笑って、また顎を炬燵に乗せる。暖かい。こうしていると成る程、霊夢達が無気力になるのも納得できる。

何せ外は凩なんてものじゃ無い程の風だ。とてもじゃないが外には出られない。紫はその低堕落さにため息をつくと、霊夢の隣にするりと滑り込んだ。そしてすぐに頬を緩める。やはり妖怪の賢者でもこの誘惑には勝てまい。結局、昼過ぎまでこの至福は続いた。

 

――――――

 

そう、昼過ぎまでだった。この至福は。

そろそろお暇するわ、と言って紫が出ていって数分。障子ががたりと音を発てて、そのまま横にスライドされた。それもかなりの勢いで。

 

「お邪魔しますっ、魔理沙っ!やっぱり此処に居たのねぇ……」

「げっ」

「ん~……何よ、寒いんだから茶番なら外でやってよね……」

「はあぁ……全く、これだからこの子達は……ん?」

「そ、そうだぜ!こいつの紹介も兼ねて入れよ!な?!」

「まーた都合良いように……ま、今回はいっか。お邪魔するわよ」

「んー……」

 

どうやら、霊夢は会話に参加する気は無いようだ。その様子を見た少女は、呆れた目をしつつ鞄を漁った。そして何かを取り出すと、指を一本くいっと動かした。

 

「シャンハーイ!」

「シャンハーイ……」

「さ、行きましょ」

「シャンハーイ?」

「お茶を淹れるの」

「シャンハーイ!」

 

一瞬、私が頭がおかしくなったのかと思ったが違う。

少女は二体の人形を引き連れて、慣れたように冷たい廊下を歩いていった。

 

少女が見えなくなると、魔理沙が大きく息をついた。知り合いであろう魔理沙に名前を聞くと、当人に聞けと投げやりに返された。ものの数分で魔理沙がこうだ、どんな人格なのかは見てとれる。

 

「はい、お茶。溢さないでよ?」

「んー。アリスありがとー……」

「えぇ。ほら、魔理沙も」

「おう、さんきゅ」

「はい、貴女もどうぞ」

「あぁ、ありがとう」

 

とりあえず出されたお茶を飲む。美味しい。少女はさらに鞄をもう一度漁ると、小さな箱に入ったそこそこの量のクッキーを取り出した。早速魔理沙が伸ばした手を、容赦なく叩く。

 

「イテッ」

「説明が終わってから、でしょ。ちゃっかりしてるんだから……」

「わーったよ。こいつは燐乃亜。ほら、アイツと同じような奴だ」

「あぁ、成程ね。新しい子が来たとは聞いていたけど……アリス・マーガトロイドよ。よろしく」

「あぁ、よろしく」

「よーしっ、んじゃ早速」

「「いただきますっ」」

 

魔理沙とほぼ同時に霊夢が跳ね起きて掴む。そういえばぐうたらしていて、昼はまだだった気がする。私も一枚クッキーを手に取ると、アリスに思いきって聞く。

 

「あの人形って?」

「あぁ、上海と蓬莱の事ね?」

「名前付いてたのか……」

「えぇ。私の能力はね、"人形を操る程度"なの」

「へぇ……」

「面白いのよ、ほら。」

 

アリスはそう言うと、指を器用にくるくると動かす。意識的にはもっと複雑な動きをしているようで、人形――上海と蓬莱は手を取り合って踊り始める。一通りくるくる回ったりすると、二体は炬燵に降りてペコリとお辞儀をする。そして鞄の中に吸い込まれるように戻っていった。

 

「スゴいな……」

「あら、貴女の弾幕も随分綺麗だったじゃない?」

「?!……あっ」

「えぇ、昨日ぶりね。」

 

あの時、霊夢の隣に居たのはアリスだったらしい。霊夢が眠そうにしているのを見て代わりに審判を引き受けたが、あまりに長引いたので帰ったのだという。

とりあえず仲良くはできそうなので、他愛ない会話をしているとウサギが廊下の奥からてけてけと歩いてきた。

 

「お前……こんな寒い中外に居たのか?」

「んー、まぁね。それより!」

「「「?」」」

「明日こそは出かけるからね!しっかりしてよ?」

「あーうん。分かった、分かったから」

「!……ふふっ、この子がいれば大丈夫そうね」

「あっ、アリスさん!お久し振りです♪」

「えぇ。……気を付けてね。」

「はいっ。燐乃亜、明日行くところは……」

 

――地霊殿。

 

やけにその響きが懐かしくて恐ろしくて、私は布団の中で蟠りを抱えながら睡魔を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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懐かしくて、恐ろしくて、思い出して

レッツ地霊殿!


妖怪の山。流石に立ち入ってはいけないと言われていたので、今まで来たことはなかった。

その梺に今私は立っている。隣ではウサギが大袈裟に周りを見渡している。いや、小さすぎる体で頑張っているのかもしれないが。

 

「あ、あったあった。行くよ~燐乃亜」

「あ、あぁ」

 

柄にもなく緊張している気がする。どうにも足取りが重い。が、とりあえず入らない事には始まらない。

私は縦穴にウサギと飛び込む。私は小さな蝙蝠のような羽を、ウサギはフワフワで絵に描いたような羽を広げてゆっくり降下していった。

 

――――――

 

「振り切ったか!?」

「ううんっ!まだ追いかけてきてるっ!」

「マジかよ……あともうちょいーっ」

「待てーっ!」

「少し闘いたいだけじゃないかぁ!」

 

旧都の入り組んだ道を全速力で走る。絶賛、捕まったらほぼ確実に死ぬ鬼ごっこ中だ。私達はアイコンタクトを交わし、急停止する。そして――

 

「「せーのっ!」」

 

足元を蹴って、宙へ舞う。そのまま高度を上げて眼下を見渡す。遠くにステンドグラスの填まった窓がキラキラと反射していた。おそらくあれが地霊殿だろう。

 

「彼処だね、行こうっ!」

「あぁ。ってうわっ!?」

「逃がさないよっ!」

 

抉れた地面がそのまま飛んでくる。それを避けつつ、私達は一直線に地霊殿へと降下していく。

 

「「待てええええええ!!!」」

「「うおおおおおおお!!!」」

 

やっとの思いで地霊殿に滑り込むと、真後ろに岩石の落ちる音がして地面が揺れた。私達は強ばった顔を見合わせると、全力で奥へと走り出した。

 

――――――――

 

「……本当に、好戦的な人々ですね。お疲れさまです」

 

開口一番に、ピンク髪の女の子はそう言った。手には赤い瞳を抱えている。名前は確か……

 

「古明地さとりです。そして、妹の……、こいし?」

「ここだよ~」

 

先程私達が飛び込んできた扉から、今度はミントグリーンの髪の女の子が覗いていた。能力があるらしいので、気配がまるで感じられなかったのも無理は無いが。

 

「さとりさんにこいしちゃん、お久し振りです。それと今日はありがとう」

「いえ、まだ未解明の事が多いので……此方としても助かるのです」

「また会えて嬉しいなぁ♪今度はゆっくりお話しできるね!」

「う、うん♪」

 

ウサギは二人と言葉を交わして、私に向き直った。そして、重々しく話し始める。

 

「実は……今回行くのは、焔の霊殿なんだ。」

「っ!……それって」

「うん……。」

 

焔の霊殿。話に聞いた通りなら、私はそこで……。

思考は顔に出るらしいが、その通りみたいだ。気づくと、ウサギらは私の顔を覗き込んでいた。特に、さとりは覚り妖怪なだけあって、心配しているのが見てとれる。私はひきつる頬を無理やり解そうとしたが、上手くいかずに顔を逸らした。そのまま強気に言い放つ。

 

「行こう。日が暮れたら大変だしな」

「え……っと、うん。分かった」

「分かりました。こいし、留守番を頼みますね」

「?うん、行ってらっしゃーい!」

 

無邪気な笑みを背中に受けて、私は足を止めないように時の止まったような街並みを走り出した。

 

――――――

 

「着いた、な……」

「うん……っ」

 

声に出さずとも分かる事実だが、そうせずにはいられなかった。その程度の発言でもしないと、今すぐに引き返してしまいそうな威圧。目一杯に広がる焔の壁が、そこにはあった。

私はそっと腕を伸ばして焔に手首まで入れる。燃え盛る焔と焼けつくような痛みが、されど一瞬右腕を駆け抜ける。それでも姿勢を維持すると、焔はじわりじわりと抵抗を止める。

最初臨戦態勢であった兵達が、味方の大将である事に気づいたかのように。ピタリと音が止んだ焔の壁を私はゆっくりと慎重に手繰り寄せた。焔は私の掌で丸まって、弾となった。やり場に困ってウサギ達の方を見ると、さとりは別に意識が向いているらしい。が、ウサギの方は事情を察したらしく私にそれを差し出すように、と言った。

そっと焔だけを目の前に残すと、ウサギは小さな両手を前に翳して何かを呟いた。何を意味するのかは聴こえなかったが、次の瞬間にも焔は消え去っていた。

小さく肩を揺らしつつも、どや顔を決めるウサギに少し感心しつつ私は先を急ぐことにする。霊殿まではまだ少し距離があるのだ。

 

横穴を無言で進んでいくと、唐突に熱風が吹き抜けて火の粉が頬をかする。思わず目を瞑った後、聞こえたのはさとりの声だった。

 

「すごい……です」

「「……!」」

 

声が出ない、出せない。でも、この場にいる三人の心情は同じのはずだ。

感動。

紅く丸いステンドグラスが焔の光に反射して輝き、それに合わせて焔が躍る。その繰り返しから成り立つ景色は、とても神秘的なものだった。

恐怖。

パチパチと音を発てる焔がにじりよってくる。感覚では表せない怖さが、私達の息を詰まらせた。

しかし、私の胸の内に広がるもう一つの感情は、他には理解しがたい物だろう。

此処はとても……懐かしかった。

ここが私の居場所な気がするのだ。根拠は無いわけではないけれど、それでも異常な程に。

 

私はそっと焔に足を踏み入れる。もう焔が抵抗してくる事は無い。やることは一つ、自己満足でもやっておきたかった事。

 

「あー……」

 

声を出してみると、予想外だった。とても美しい声。儚く夢のように広がる唄が、自分が唱っているものだと、誰が信じられるだろうか。

夢の中で唄っていた歌を、覚えているフレーズだけ何度も繰り返す。懐かしく恐ろしいこの場所を受け入れて、少しでも"私"を知りたかった。

だからこそ、期待こそしていたが困惑している。

一語一句、覚えている。"あの時"何を思っていて、というか"あの時"の場景というのが鮮明に思い出せた。

 

「り、燐乃亜?何があっ」

「聞かないであげて下さい。燐乃亜さんは取り戻しただけですから」

「~っ!……」

 

啜り泣く声に後ろを振り向くと、ウサギがボロボロと涙を溢していた。良かった、と幾度も呟いて、泣き笑いを浮かべる表情。それを何処かで見た気がしたが、今の私にはそれを考える必要は無いと感じた。

ただ一つ一つの場面を噛みしめた今、もう一度皆に会いに行こう。そう感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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眠り、煙、権利

プリパラの精神年齢下がったなぁ……


「……」

 

焔の霊殿に座り込み、沸き出る火を弄ぶ。もちろんさとりさんに許可は取っているし、ウサギには此所にいる事も伝えている。此所にいる時は記憶が鮮明なので、さとりさんに頼まれた焔の対処も兼ねて入り浸っているのだ。そう、此所にいる時は、なのだ。

実質、地底から遠ざかり……具体的に言えば、紅魔館の前辺りまで行った時には、もうほとんど何が何だか分からない状態に陥っていた。多少気落ちはしたが、少しでも分かることを増やすためにも、まずは記憶を整理した方が良いだろう。そう思い、ここ二日ほど地霊殿と霊殿を行ったり来たりしている。

 

「ふわぁ……眠い。体内時計は正確かなぁ。」

「今は九時過ぎくらいだよー?」

「わぁっ!?って、こいしか。ビビった……」

「えへへ~っ♪あ、そうそう。これを届けに来たんだー」

「ん?」

 

こいしはそう言うと、何処からともなく赤いビニールの寝袋を取り出した。思うに、さとりの気遣いなのだろう。こいしに礼を言うと、満面の笑みで姉の名を叫んで出ていき、外から慌てたような声が聞こえた。微笑ましい限りだ。

 

私はそのままモゾモゾと寝袋に潜り込むと、暖かな霊殿で眠りに落ちた。

 

―――――

 

煙が立ち込める商店街兼住宅街。

多くの人が咳き込み、倒れ込む路上で、一人の女だけが懸命に救助を続ける。周りの住民に声をかけ、噎せ返りつつも笑顔を見せる。

 

その遥か上空、女の姿に苛立ちを覚える事を不思議に思わない自分がいる。

苛立ち――ある種の嫉妬と共に、炎は勢いを増して家屋を飲み込んでいった。一通りの人里を焼き尽くしたその炎を引き連れて、妖怪の山へと続く人気の無い道を歩いていく。

罪悪感なんて微塵も無く、まだ足りないという感情だけが燻る道中。夏の星が瞬く夜空を静かに火の粉が舞っている。

 

……意識が途切れた。

 

―――――――

 

目が覚めた時には、私は汗だくだった。真冬の夜とは思えない異常な暑さが襲ったわけでは無い。冷や汗が頬を伝う。

怖かった。

記憶を取り戻した結果がこうだ。それでも向き合わなくてはならないけれど。

未だ恐怖の滲む掌を握りしめ、ただ一人夜を明かす。

今までと然程変わりない筈なのに、この数日で人肌への恋しさを知ったのだろうか。その事実に自嘲ぎみに笑うと、薄明かるい霊殿に響き、また虚しくなる。

 

「会いたい……か」

 

そう、会いたいのだ。

彼女に会って、そして……

 

そして……

 

何がしたいのだろう?

普通で当たり前の日々を過ごすのか?

謝罪?いや、違う。

 

―――――――

 

時間も忘れ考え続けて、決める。

 

名前を聞こう。

某映画では無くとも、私にはその権利がある。あるはずだ。

 

ふと横穴から光が射して、古明地姉妹の声が聞こえた。

もう此所に居る必要は無い。私は勢いをつけて立ち上がると、朝へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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人里、寺子屋、上白沢さん

ちょっと遅くなりました


……失敗した。

そう思った。寺子屋の時間だというのは知っていたはずなのに、どうしてこんな昼間に来たんだ私は。

 

私が地底から出発して、最初に会いに行こうと思ったのは、あの女性だった。人里で特徴を伝えると、名前を上白沢さんといい、寺子屋の教師だと教えてくれた。

そうして寺子屋に来たのだ。が、先生が居るということは、当然生徒がおり授業を受けているということだ。全くの盲点だったがために、こういった状況なのだが。

 

「どうするかなぁ……」

 

出直すのにも時間がかかるし、一旦神社にでも寄るかと思った。その時だった。

 

「あの?」

「?!……は、はい?……あ。」

「……やっぱり。こんなところで何してるんだ?」

 

そこには竹林で以前出会った妹紅がいた。違う点といえば、少し身だしなみが整っているくらいだろうか。

私が答えに迷っていると、何となく察してくれたようで寺子屋を覗きこみ妹紅は言った。

 

「私、コミュニケーションって言うのか?人と話すのとか、そんなに得意じゃなくてさ。あーっと……。」

 

コミュ障を自白した直後に黙り込んだ妹紅は、ガラッと人柄を変えた。というか、此方の妹紅が本当の彼女なのだろう。妹紅は竹林の件とは違う、少し引け目な態度で話し始めた。

 

「それで、慧音の所ってさ、いっぱい人が、ていうか子供がいるでしょ?だから、その……たまに遊びに来てるんだ。うん。」

「へぇ……」

 

会話がそんなに成り立っていないようにも見えるが、私達の間ではそれだけで充分だった。

要するに此処で待っていれば、子供たちが遊び始める時間があるということだ。そのタイミングで会いに行けばいい。

 

 

 

それから十数分、寺子屋をバレないように覗いたり人里の様子を眺めたりと、随分不審だったであろう行動を二人して繰り返していると、子供たちの声が外に溢れ出てきた。

 

「せんせー遊ぼーよーっ!」

「ドッジしよーぜ!」

「早く早くーっ!」

「あ、危ないってばぁ……!」

「慌てるなよ~。それと、先生は少し用事があるから、今日は……」

『えーっ!?』

 

三人ほど見知った顔がいるが、そこら辺は無視する。先生――"上白沢さん"は迫ってくる子供たちを慣れた手つきで宥めながら、此方を向いた。それと合わせるように、子供たちの殆どが不思議そうな顔を向けてくる。

その中のまた殆どは、あのお姉さんと知らない人、という認識らしく、すぐさま隣にいる妹紅に飛び付いてきた。

 

「わあぁっ!もこさん!もこさんだぁっ!」

「もこさんっ!もこさんっ!」

「違ぇよ~もこたんだよ~、なっ!もこたん!」

「えっ、えっと……あはは……」

「もこたーん!サッカーしよーぜーっ!」

「え、あ、うん!」

 

ガヤガヤした子供たちに囲まれてあっという間に連れ去られていく、妹紅が一瞬此方を向いて苦笑を浮かべた。

何というか、さっきまで一緒にいた身としては複雑なのだが、(子供たちが)楽しそうで何よりだ。

 

「あぁやって、少しずつ慣れてもらえると良いんだがな。最近は保護者とも話せているようだし……うむ!」

 

いや、何がうむ!なのか分からないが、いつの間にか先生が私の隣に立っていた。ニコニコしているので、本当に子供たちが大好きなのだろうなぁ、と思った矢先、いきなり私の手を掴んで先生がこう言った。

 

「で?君は入学希望者か?!さぁ、中に入ってくれ。保護者の方は居るか?何処に住んでる?!」

「えぇ……」

 

このテンションで何人の希望者を逃してきたのだろうと考えてしまうが、この熱血な感じが人気なのかもしれない。とにかく、本当に入学届を出さなくてはいけなくなりそうなので、先生に負けないように大声で私も言った。

 

「私、別に入りに来たんじゃ……っ」

「良いんだ、良いんだぞ!今からでも遅くない。何なら授業を見学していってくれ?!」

「だからっ!私は、此所に入りに……っ」

「ん?もしかして教師希望か!?いや、すまない。私としたことが、見た目で判断してしまって……」

「こいつっ……人の話を聞けえええええ!!!」

「……あ。」

 

いつの間にか子供たちの好奇心の的になっていた私達はどちらからともなく、寺子屋の中に逃げ込んだ。

 

―――――――

 

「いや……本当にすまなかった。」

「えっ……こ、こちらこそ名乗らずに突っ立っててすみません……」

 

気まずい沈黙。その数秒間で次に話す事を思い出した。

私は慌てて先生、と声をかけると、顔を上げた上白沢さんに此所に来た目的と私の正体を明かした。やはり、その件については関わっていたようで、あの子が……、としきりに呟いている。

 

「……そうか、それで私の所に。」

「はい。……あの、」

「いや、お前のせいじゃないはずだ。気にするな」

「えっ。で、でも……」

「それ以上言うとあぁなるぞ?」

 

彼女が指差した窓の外には、額を大きく腫れ上がらせたチルノがいた。粗方、授業中に何かやらかしたのだろう。私が素直に頷くと、上白沢さんは満足そうに人里の説明を始めた。それから子供たちと少し触れあって、私は寺子屋を後にした。

 

――――――

 

予想以上に話し込んでいたようだ。並んだ瓦屋根の上から射し込む西陽に目を細める。ふと後ろから肩を叩かれて振り向くと、妹紅が優しそうな笑みを浮かべていた。

 

「……よっ?」

「う、うん。よっ。……あのさ、」

「おう。」

「紹介したい、というか、お前を連れてこいって言ってきた奴らが居るんだ。今から……良いかな?」

「まぁ、行く宛も無いしな。別にいいけど」

 

私が正直に快諾すると、妹紅は安堵を浮かべてこっち、と何故か私の手を引いて歩き出した。

自分でもよく分からないほどに、次第に顔が熱くなってきて私は逆に妹紅の手を引いて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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荒業、回廊、光線

ちょっと迷走してます。(泣)


「さて……と。」

 

妹紅と私は現在、竹を少し登った所にいる。何故そんなおかしな所に居るのかというと、この先の地面は色々と罠が仕掛けられているらしいのだ。何でまたこんな人の来なそうな所にあるのか不思議だが、おそらく妹紅向けなのだろう。

が、当の本人はアスレチック感覚でそれを潜り抜けており、いざとなったら燃やせば良いし、とのことだ。

 

「ま、空から行ったら一発なんだけどさ。何となく、ね?」

「はぁ……?」

 

暇潰し程度の事なのだろうか。まぁいいや、と妹紅は呟いて空へ飛び立ち、私に手招きした。竹の先端を蹴って空中へ向かうと、眼下はほぼ全面竹だった。道らしい道も無く、全くもって区別の付かない景色の上を飛んでいく。何の迷いも無しに飛ぶ妹紅が、不安になってくる程だ。

 

「ん、不安か?誰でも最初は色々言ってたからな……」

「こんなところに誰を連れてきたりするって?」

「ははっ……実はこれから行くところは医者やっててさ。ちょっとヤバい奴らなんだけど、腕は確かだと思うよ」

「へぇ……!」

 

今の情報は着く前に知れて良かったと思う。そこからは直線距離だったためか、5分程度で和風の建物が見えてきた。こんな所に建物が……という感じだ。

妹紅は躊躇無く玄関前に降り立つ……直前に止まって、石畳を蹴飛ばした。すると、其所には何と大穴が開いた。一瞬、妹紅が蹴り破ったのかと思ったが、底に竹槍が覗いているのが見えて全力で前思撤回した。

 

「ったく……普通の来客が来たらどうするんだか……」

「その時は貴女が付いてくるじゃない?」

「ッ!!」

 

突如開いた玄関を挟んで、拳がぶつかり合った。いきなりの出来事に、暫く空中に留まっていると、

 

「……」

「え熱っ!な、何何!?え、ちょ待っ」

 

――相手が燃え尽きた。

 

埃を祓うように炎を消した妹紅は、私に向かって何もなかったかのように目線を向けた。そこで漸く反応が出来て、私は穴に落ちないよう妹紅の隣にそっと降りた。

 

「あ、連れてきてくれたんだ。それならそうと言ってよ~」

「はぁ!?いきなり殴ってきたのはどっちだよ!」

「……。」

 

もう今更何が起きても驚かない。そう自分に言い聞かせて、私はとりあえず妹紅を睨み付けた。今にも今度は本気の殴り合いを始めそうだったので、ついでに片手に魔方陣も出しておいた。

 

「……あー、うん。ごめん、燐乃亜」

「……そうそう。連れが居るんだっけね。待ってて」

 

なかなか察しの良い二人はすぐに手を下げて、妹紅は静かに上がり込み、相手方は廊下を歩いていった(「えーりーん!!!」)。

 

――――――

 

数分後、今度は違う人が迎えに来た。頭にはなんとウサミミが生えていて着ているのが制服という、何ともカオスな女だった。

 

「ど、どうぞっ!お師匠と姫は此方です」

「姫?って……」

「あーうん。さっきの奴。」

「お、おう。」

 

姫。こんな和風豪邸に住んでいるのだから、優雅なる大和撫子――と、言いたいところだが、先程の様子を見るにそうではないらしい。

木で出来た廊下を歩いていくと、妹紅がいつの間にか居なくなっていた。きっと姫か何かに拉致られたのか、と然程気にせずに歩いていく。

 

が、そろそろ本当に何かがおかしい。ウサミミは何も言わずに、私の存在が無いかのように進んでいく。かといって、私を追い出す訳でも置いていく訳でもない。奇怪な行動に目を奪われ、私は自分の置かれている状況にすら気づいていなかった。

気づくとそこはただの廊下では無くなっていた。

 

「えっ……?」

「ようこそ、永遠の回廊へ。燐乃亜さん」

「お前……っ」

「鈴仙・優曇華院・イナバ、ですよ。燐・乃・亜・さん♪」

「ッ!?」

 

幻想的な周りの場景を見渡していた私の目線が、無理やり鈴仙に奪われる。紅く赤くどこまでも続きそうな瞳に、私は一時的に支配される。数歩後ろに下がると、鈴仙は何か期待した目で私を見つめていた。

が、私には何が何だか分からない。誰か……特に妹紅が居ないかと、また周りを見渡す。

 

「ど、どうして……」

「?今度は何だ、ウサミミ」

「鈴仙・優曇華院・イナバ!というか、どうして私の"瞳"が効かないんです?!」

「は?」

「……うぅ。分かりましたよぉ……全てご説明しますから、そこに座って下さい……」

 

私は言われた通りに座る。と、同時にスラッとした脚とローファーが飛んでくる。咄嗟に横に転がって避け、すぐさま立ち上がる。

 

「何すんだウサミミ!?」

「鈴仙っ優曇華院っイナバっですよっ!」

「ちょっ!?」

 

本当に意味が分からない。連続で蹴りを入れようとしてくる鈴仙の足を、すれすれで避けながら考える。

確かに此所にはあの姫がいるし、何が仕掛けられてもおかしくは無いのだろうが。それでも唐突すぎる。あまりにも動機が不純すぎるし。

 

「お、おい!分かった鈴仙!優曇華院!イナバっ!」

「やっとっ呼んでっくれましたーねっ!」

「はぁっ!?」

 

どうやら名前を呼んでほしい訳では無かったようだ。飛び交う赤い光線を跳んだり飛んだりしながら避ける。とはいえ狭い廊下のような空間で、そう自由に動けはしない。

何も知らないのに、いきなり拉致られ、名乗られ、騙し討ちを受けて。正直言ってもう限界だった。

 

「……ろ。」

「え?何ですか燐・乃・亜・さ」

「失せろ。」

「ど、どうしたんですか?お、おこ?おこなの?」

「うるせぇっ!!!"新月オール……」

「そこまでよ。」

「ラウンド"って、誰か何か言った?」

「「ぎゃあああああ!!!」」

 

そこには私の懲らしめたかったウサミミと、別に関係なかった姫が、死に物狂いで光線を避けている姿があった。

 

……何だこれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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永遠、罪悪感、非日常

絶賛迷走中。

……年越ししましょうか。


魔方陣を急いで蹴り壊してそのまま呆然と見つめていると、鈴仙とどこぞの……あ、此所のか。姫が立ち上がりざまに私を怒鳴り付けた。

 

「あのね!人が迎えに来たのに何よその応酬は!?」

「……えぇ」

 

いや、私が怒られる所じゃないと思う。だっていきなり攻撃してくる奴が悪いし、そいつにぶちギレただけだし。

 

「……私悪く無くない?」

「……ぷっ。あはははは!」

「え……?」

 

反論すると何か笑われてしまったので、首を傾げているとまた見たこと無いのが出てきた。

 

「姫、そのくらいにしてください。妹紅もすぐに戻ってきてしまいますし……」

「あ、そういや妹紅は?」

「死んだわ、てか殺してきたわ。さっきのお返しだもんねーだ!」

「「……」」

 

何とも子供らしく、微笑ましいとも思えてしまうのは何故だろうか。そんなアホらしい考えが伝わったのか、姫は私の方を向いて満足そうに言った。

 

「私は蓬莱山輝夜。そう!かの有名な『かぐや姫』とは私の事っ!」

「あ、うん。宜しくな、輝夜」

「反応薄っ!?え、外界の人って普通驚くのに!?」

「……八意永琳よ。此所で医者をやっているの、宜しくね」

「ちょっとえーりん!?」

 

出会ったばかりで申し訳ないが、すごく不甲斐ない気がする。そりゃあ見たところ不老不死だし本当は強く美しくなんだろうが、ただの狼狽えている姫だ。

 

「おらぁっ!」

「はぁっ!」

「ぴゃあっ!?」

 

声のした方を見ると、妹紅の拳を輝夜が受け止めており、その二人に板挟みにされたウサミミ――鈴仙が悲鳴をあげていた。

 

不意打ち咬ました妹紅はとりあえず手を下げると、私に近づいてきた。一瞬何かと思ったが、次の瞬間には普通の廊下に立っていた。何が起こったのかには触れない事にしよう、意味が分からない。

 

「まぁとりあえずごめんなさいね?鈴仙が」

「えぇっ!?わ、私は……」

「ね、鈴仙?」

「ひゃっ、はいぃ……」

 

不憫だ鈴仙。私は姫の横暴さにため息つきつつ、客間へと通された。

 

―――――

 

「あー、やっと来た。待ちくたびれちゃったよ、あとこれお茶ね」

「ありがと、てゐ。……はい、鈴仙お茶」

「あ、ありがとうございます。……~!」

 

「あ。」

「毒味オッケーね」

「く、くく……あ、他のは大丈夫だよ」

「そ、じゃあ良いわ」

 

思いっきり倒れた鈴仙を隅に寄せて、机を囲む。てゐと呼ばれていたのもウサミミだが、こっちは垂れ耳だった。悪戯好きな顔をして、抜け目無い感じだ。多分だが、落とし穴や竹槍はこいつの仕業だろう。

 

「さて、此所に貴女を呼んだのはね」

「あぁ。」

「特に意味無いわ。」

「へぇ……は?」

「だって、てゐがまた面白いのが来たらしいって言うから……見てみたくって、ね?さっきの様子だとかなり強そうだし、うん。気に入ったわ」

「はぁ……?」

 

おかしい奴しか居ないんじゃないか、此所は。何にせよ、用がないなら帰ろうかと思った私は、席を立とうとして呼び止められた。

 

「ねぇ、一つ話したいことがあるのよ。」

「?」

「……罪悪感について、よ。」

「罪悪感……?」

「えぇ。」

 

輝夜はそう言うと、永琳とてゐ、鈴仙を部屋から追い出した。もっとも、部屋の外から聞いていることほぼ間違いないのだが、気持ちの問題だろう。

 

「……私達は、永遠に等しい時の中でそれを忘れてしまった。だから……貴女には忘れないでほしいの」

「え……っと……?」

「老いることも死ぬことも許されない、それが私達への罰。」

「ま、罰だと思ってるのはあんただけでしょうけどね、妹紅」

「……知るかよ、んなこと」

「不老不死、か?」

「そうよ。私達は……いいえ、幻想郷の全ては、傷つける事を日常化してしまったわ。非日常に罪悪感を持たず、闘いを遊びにして。それが……」

「弾幕、ごっこ……」

 

私も早々傷つける事に慣れてしまっていたのかもしれない。そう思うと、自分が異世界人にでもなったように思えた。こんな私を、彼女は受け入れてくれるだろうか。

 

「……強くなりなさい、燐乃亜。相手に無駄な傷をつけるのでは無くて、すぐに圧倒できるように。いつか、無駄な闘いを無くせるように。」

「……」

 

今の私には重すぎる宿題だった。ふと思う、彼女は此を出来たのだろうか?無駄な闘いを避け、私を圧倒してくれたのだろうか?

 

答えは否だ。

あの時私達は、お互い傷つけ合い罵り合い、最終的に和解さえしたものの、敵意が滲み出る者もいる。

だが、現に私は彼女に会いたいと思っている。全力でぶつかり合い、感情を露にする。それは一つの、闘いを避ける方法だったのかもしれない。

 

「……まだ、分からないでしょう?」

「……あぁ、分からないよ」

「……それで良いのよ。ただ……」

 

 

 

 

最善の選択が出来るようにしなさい。

 

輝夜はそう言った。まだ分からない優しく恐ろしい理論を、私は胸に留めておく事にした。

もうすぐ、年越しの準備だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 




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大晦日、巫女、宴会①

今回は前後編に分かれました(--;)
展開遅くてすんません

追記:見直していたら、アリスが初見でない事に気づき急ぎ修正しました!当時は気づかないものですね(笑)


「ほらっ!これ、脇に置いといて!」

「ちょっ!そんな一気に持てるわけ……」

「い、い、か、ら!さっさと運ぶ!」

「ぐはっ……」

 

翌朝、博麗神社に降り立つとマフラーを付けた霊夢と魔理沙が、何やら忙しそうにしていた。小さな机やら蓙やらを古い倉庫から運び出している。

すると、霊夢がこちらに気づいてすぐさま声をかけてきた。

 

「燐乃亜!いいところに来たわね、手伝いなさい」

「……はい。」

 

札をちらつかせる霊夢の命令は不可抗力だ。魔理沙と良いようにこき使われてこき使って、気づけば太陽が真上に来ようとしていた。

 

「ふぃー……ちょっと、きゅーけーしよーぜ……」

 

重そうな段ボールを足元に下ろし、魔理沙が空を仰ぐ。そこでようやく霊夢が今の時間帯を自覚した。私と魔理沙を中に招き入れると、茶を淹れに行った。

 

「……にしても、今回はいつにも増して豪勢になりそうだなぁ」

「何がだ?」

「……お前、何も知らずに準備してたのかよ?」

「おう。」

「……ふ、あはははは!!!」

「笑うなっ!」

 

魔理沙を軽く睨み、話を強制的に戻す。

 

「で、何の準備なんだ?」

「宴会だぜ。ほら、年越しの」

「あーそうか。もうそんな時期か……ん?宴会?」

「外界は確か、二十歳まで禁酒とかいう法律があるんだってな。パチュリーの所で読んだぜ」

「お、おう……ってことは、みんな呑めるんだな此処は」

「あぁ。ま、弱いかどうかは人次第だがな。変なのに絡まれんなよ~」

 

そこまで言うと魔理沙は、縁側を立って居間に駆け込んだ。まだ少し早い炬燵に足を滑り込ませて、湯飲みを手で包み、幸せそうな顔をしている。そんな魔理沙を見て、霊夢が微笑ましそうだったのは内緒の話だ。

 

――――――

 

「こんにちは、霊夢。久しぶりね」

「あら、咲夜じゃない。早いわね」

「お嬢様が起きる前にと思ってね、迷惑だったかしら?」

「いいえ。あ、お茶飲む?」

「頂くわ」

 

あっという間にやってきた大晦日の朝、咲夜が来たのは午前8時頃だった。霊夢と会場の掃除をしていた私は、彼女の持ったバスケットの中身を聞いた。

 

「ワインよ。お嬢様に出すことは出すのだけれど、在庫が有り余ってるのよね。だから宴会には毎回持ってきているの。」

「ほぉ~……」

 

相変わらず裕福な豪邸だ。高級そうなボトルを数本持ち上げてみせる咲夜に、霊夢が満足そうに頷いて湯飲みを差し出した。咲夜はそれを飲み干すと、ありがとう、と言って消えた。言っておくが、何の比喩表現でもないし、多分時を止めて帰ったのだろう。

 

「さて……ま、後は待つだけだな。」

「あー、私は紫の所に行ってくるわ。」

「ん?何かあんのか?」

「……まぁね。」

 

やけに不満そうな顔の霊夢を見て、魔理沙があっと小さく声を上げて察したように話題を変えた。勿論何の事だか私にはさっぱりだが。

 

「私はアリスん所に行ってくるぜ。どうせ料理運ぶの手伝わないとだしなぁ」

「そうか……」

「燐乃亜はどうするんだ?此所にいて何か来ても面倒だし……あ。そうだ、魔法の森には来たことあるか?」

 

出てきた地名には聞き覚えは無かった。

 

「……いや、無いな。で?」

「着いてこいよ!人手は多い方がいい。」

「だと思った。……乗せてってくれるよな?」

「しょうがねーな。ほらっ」

 

魔理沙の箒に飛び乗ると、数秒。人生二度目の高速……いや、光速移動が始まった。

 

――――――

 

魔理沙の後を追って、魔法の森を抜けていく。当の魔理沙はというと、暢気に鼻歌を歌いながら障壁を張っているが、道らしき道は見えない。

が、突如少し拓けた所にいかにも洋風な家が建っていた。魔理沙は着いた、と安堵の呟きを漏らして戸を叩いた。

 

「アーリスー!来たぜー!開けろーっ!」

「はぁい!全く、ちょっとは待ちなさいよ……」

「へへっ、すまんすまん。ほれ、燐乃亜」

 

そう言って手を取られたので、私が魔理沙の隣に並ぶと、そこにはこの前の少女・アリスが立っていた。

 

「あぁ。貴女はこの前の……」

「おう。手伝いに来てもらったぜ!」

 

二人が話している間に、二体の人形がバスケットをいくつか持って現れた。

そのうちの三つほどからは香ばしい香りがしており、美味な料理を連想させる。

 

「?やけに少ないな……どうしたんだよ?」

「なぁに言ってるの。ほら、魔理沙の分はこっちよ」

「ちょ、多っ」

 

私の数倍はあるであろうバスケットを、器用に人形達が一枚の布に包む。そして、魔理沙の箒にくくりつけると、観念したように魔理沙は飛び立っていった。

私もバスケットを慌てて持ち上げ、アリスに一礼して羽を広げた。序でに言うと、何の種族だ、と背後から聞こえたがスルーすることにした。

 

――――――――

 

「霊夢さんこんにちは~……あっ、燐乃亜ちゃんも来てたんですね!」

「あ、早苗。と……」

「神奈子様と諏訪子様です♪」

「よろしくね~」

 

小さいカエル少女と体つきのがっしりした女性が、早苗の両脇に立っていた。巫女の早苗が様付けしているから、多分神とかなんだと思う。一応挨拶をして、霊夢のいる方へ声をかける。

 

「早苗の所来たぞ~」

「分かった!あと早苗、こっち来て手伝いなさい!」

「は、はい!」

 

霊夢はどうやら食事を作っているようで、奥から木の杓文字を持って顔を覗かせた。早苗が急いで向かうと、何やら指示をして台所に戻っていった。

 

魔理沙は人形と共に会場作りを進めていて、アリスさんが近くの縁側で指を滑らかに動かしていた。しばらくそれに見入っていると、後ろから微笑が聞こえた。

 

「アリスの人形が気になるの?」

「ん、フランか。まぁ、そんなところ。」

「……アリスの能力って便利だよね~」

「……そうなのか。」

 

私とは違って、と言い出しそうなフランに、一瞬反応が遅れてしまう。フランは日傘を小さな手でしっかりと持っており、そういえばまだ昼間だったなと気づく。冬とはいえ陽射しは暖かく、私はフランの手を引いて木陰に入った。

 

「ありがとー。あっ、おーい!こっちだよー!」

「妹様!よかったー見つけたー……どうも!」

「あ、美鈴。」

 

鳥居を潜ってきた美鈴にフランが声をかけると、慌てて走ってきた。大方咲夜に探すように言われたのだろうが、安心したように私にも笑顔を見せた。

 

霊夢の声がして、宴会料理を運ぶように言われた。目線を向けると、早苗がよろけながら盆を持って歩いていて、あまりに不憫過ぎるので席を立つことにした。

 

――――――――

 

「えーと……ま、話すことは無いか。例年通り楽しんでいきなさいな。以上よ」

 

締まらないがある意味彼女らしい巫女からの挨拶がある。

 

「よーし。んじゃ、かんぱーい!」

 

魔理沙の声にそれぞれが盃やグラスを上げて、15時頃に宴会は始まった。

宴会で酒が呑めない以上、特にすることは無いかと思っていたが、

 

「おーい!こっち来て話しましょー!」

「美鈴、あんたねぇ……」

「くく、良いじゃないの。大晦日くらい」

「ですが、私達の仕事はあくまで従者で」

「堅苦しい事言わないのよ、咲夜?」

「~……はい、畏まりました。」

「そーですよー……あだっ!?」

「なーんであんたまでそういう事を言うのかしら?」

「ぎゃああああ!!!り、燐乃亜さんたふけてーっ」

 

そうでは無いみたいだ。

幸い、年越しまでは後9時間程ある。私は騒がしく新しい空気の中へ踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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大晦日、巫女、宴会②

意味の分からない独自性ごめんなさい。
あとお燐とお空ファンごめんなさい。

魔理沙とパチュリーって組んだら強そうだなぁ……あ、関係ないですけど。


「まだ……起きて、る……もん……」

「「可愛い……」」

 

眠そうなチルノを眺め、ふと空を見上げると日が静かに沈んでいる所だった。ここまで長い気がしたのだが、冬の日没は早い、まだまだ年は明けないようだ。

ここは一度寝かせておこうと、大ちゃんと笑いあった。

 

「よっ、燐乃亜♪久しぶりだねぇ~一緒に酒でも」

「止めて下さい勇義さん。それ怒られるの私なんですから。……お久しぶりですね、燐乃亜さん」

「こんにちはー♪」

 

何回声をかけてきたか分からない鬼を制して、さとりとこいしがひょっこりと現れた。ほんのり頬は赤いが、しっかりとした口調で私と話す。

 

「あ、そうだぁ~。私達のペット紹介してないよね~?」

「そういえば……。着いてきて頂けますか?」

「あぁ、構わないよ」

 

少し歩くと、一匹の黒猫と羽の生えた鳥頭がキャッキャと笑っていた。さとりが近づくと、猫がクルリと振り向き次の瞬間女の子になった。

 

「さとりさま、どうしたんです?」

「さ、さとりさまだぁ!どうしたんですか~?」

「いえ、紹介だけですから。……お空、その件については後程じっくり話を聞きます。」

「うえぇっ!?な、何の事でしょうねぇーははー。」

「……。」

 

身内に覚りがいると大変な事も多いようだなぁと考えていると、さとりが溜め息をついて言った。

 

「お燐と、お空です。挨拶を」

「燐だよ~宜しくね♪」

「空です!宜しくね~」

「燐乃亜だ、宜しくな」

「わーっ♪みんな仲良しだね~」

「友好関係が広いのは良いことです。悪い子達では無いので、宜しくお願いしますね」

 

新しい顔見知りも増えて、少し落ち着いた頃を見計らったかのように、今度は咲夜が声をかけてきた。

 

「燐乃亜。お嬢様が呼んでるわ、来てくれる?」

「ん?そりゃまたどうして……」

「ふふっ。さっきからおちょくられてばかりで、気が済まない様ですから。それで弱みを握っていない貴女を呼んだんでしょう、多分。」

「……何だろう、あいつ本当に館主だよな?」

 

そんなこんなで、レミリアとフランをあやしながら、美鈴や咲夜、パチュリーとも話をした。魔力や気力の概念などと、中2には明らかに解らない話だったが、それなりに楽しめたと思う。ついでに言うと、パチュリーの使い魔、小悪魔とも話をした。少し酔っているようで、途中咲夜に叩かれていたが、頼りにはなりそうだ。

 

 

 

少し会場内を見渡してみる。どの集団もみんな賑やかに楽しんでいて……

 

――眩しかった。

 

私もそこに居るのに、何かが違う気がして。

ただ憧れだけを抱いている自分に、変化を求めている。

要するに、私は"外来人"なのだ。"夢の迷い人"などと銘打っていても、所詮は部外者なのだ。まさに今それを実感しているではないか。

 

どれだけの人と知り合おうと、

どれだけの場所に出向こうと、

 

私はその人の経歴を知らないし、

私はその場所に縁も所縁も無い。

 

淋しい。虚しい。また、独りになった。

 

「燐乃亜?」

「……?」

 

ワンピースの裾を引かれ、私が目線を下げるとフランがいた。私の心を見透かしたように、フランは少し静かな神社の裏へと私を連れていった。

ハンカチを取り出してその上に座るフランは、何だか小さく見えた。

 

「……独りじゃ、無いよ。」

「えっ?」

「だって、そういう顔だったよ燐乃亜。寂しいよー助けてよーって」

「……そうか?」

「……そうだよ。」

 

私達の間では、それだけで充分だった。パチュリーによると、吸血鬼は長生きな上に見た目が比例しないらしい。きっと何十年、何百年と辛い思いをした事があるのだろう。どんなに小さくても幼くても、その思考は私よりも格段深いのだろう。

そう考えると、何だか自分が小さく思えるのだ。格言とかでよくある話だが、実感しているのだから仕方ないだろう。

 

「あんたら、こんなとこで何やってるのよ。そろそろ始めるわよ?」

「はーい♪」

「始めるって……?」

「あぁ、燐乃亜には言ってなかったわね。実は……」

「霊夢~?着付け始めるわよ~?」

「うぅ……。だからいつもの服で良いって」

「貴女の一存で決められる事じゃ無いのよ。ほら、早く」

「……じゃ、後でね」

 

苦々しい表情で去っていった霊夢を不思議に思いながら見つめていると、今度は橙が顔を出した。

 

「早く早く~♪」

「あ、あぁ。何が始まるんだ?」

「"博麗巫女神楽"だよっ!」

「なにそれ?」

「昔は百年刻みで行われていた行事でな、紫様が今年いきなり復活を宣言した次第だ。」

「ほえぇ~!って今年いきなり!?」

「それで出来る霊夢もすげぇよな……」

「うむ……本当に天才というか何というか……」

 

藍も含めた四人で放心していると、表から声がした。どうやら霊夢が出てきたようだ。急いで境内の方へ行くと、そこには白を基調とした神楽衣装を身に纏った霊夢が目を瞑って立っていた。そこには簡単な舞台が作られており、周りには沢山の人や妖怪、亡霊などが集まっていた。これは博麗神社が妖怪神社と言われるのも頷けてくる。

神聖な静けさの中、霊夢の指先が動き出す。魔理沙に言わせればその様子は、まるで別人の様だったという。

               ..

「ホント、貴女にそっくりね……零華。……そう、これが見せたかったのよ……。」

 

紫はそう呟いて、瞳を輝かせていた。何だか私は此処にいてはいけない気がして、霊夢の舞に目を戻した。

 

―――――――

 

気づけば、霊夢の神楽は終わって辺りは焔だけの明るさになっていた。誰かが声をあげて空を指さし、皆が背後を振り返った。

ほんのりと明るい地平線を、皆が思い思いに眺めている。一年に一回のこの瞬間を見逃す訳にはいかないのだ。

 

そして……今年初めての朝陽が顔を出した。眩い光が辺りを包み込み、皆が感嘆の声を漏らす。

ふと、この景色を迎える仲間たちに、まだ冷たい空気を吸い込む人物が一人。

             ...

「明けましておめでとう……燐乃亜。」

「……っ!……うん、おめでとう。」

 

まだ名前も知らない彼女の声が、私を更に幸せにした。

新しい年に、私は、私達は新しい希望を見出だした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

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叫、狂、恐

どうも、お久しぶり、ではない?咏夢です。

GWに全然進まなかった……後悔しかない。いや楽しかったけど。

魔理沙とパチュリーが組んだら強い。(確信)


元旦の翌日、宴会の片付けも終わってやることもないので、霊夢、魔理沙と駄弁っていると、ついに霊夢が口を開いた。

 

 

「それで……年も越しちゃったわよ?どうすんのアンタ」

「……それを言われると何とも言いようが無いんだがな」

 

確かに彼女を探す、と意気込んだはいいが、どうすれば良いのかは分からない。そもそも此所にいて会えるのかも分からないのだ。

 

「とりあえず、彼女の事をもっと知りたい、かな。情報は多い方が良いだろうし……」

「まぁそれが妥当よね。そしたら紅魔館かしら?」

「んーそうだな。お?」

 

噂をすれば、と魔理沙が呟き指さしたのは、大きな日傘片手に焦ったように石段を上り走ってくる人影だった。

 

「……む!れ……む!霊夢っ!た、助けて霊、夢!」

「うわぁっ!?ちょ、レミリア?な、大丈夫?」

「っはぁ、はぁ……っ」

 

猛ダッシュで駆け寄ってきたレミリアは霊夢に飛びつき肩を掴むと、息を切らして助けを求めた。

 

「……てか、レミリアが助けを求めるってどんな事態だよ?お前一人でどうにかなるだろ、普通。」

「そうだぜ。それにお前には美鈴とか咲夜もいるだろ?それが一体何でこんなとこまで……」

「む、こんな山奥で悪かったわね。で、レミリア。何があったのかホントに説明してくれないかしら?」

 

こくこくと頷くレミリアを縁側に座らせようとすると、何故か拒まれた。レミリアはそのまま捲し立てた。

 

「フランがっフランが狂ってっそれで……それで、美鈴が止めにかかったの。いつもなら、それで終わるのに……なのに……っ!……美鈴が、死にそうなの……。」

「「っ!!!」」

「……今は咲夜とパチュリーで結界に閉じ込めてる……でも……それも、いつまで持つか……っ!嫌、嫌よ……私、どうすれば……っあ、あぁ……」

 

膝から崩れ落ちるレミリアに、霊夢もさすがに動揺したのか、日傘を差し直してゆっくり言った。

 

「大丈夫よ、今までだって、パチュリー達……貴女の家族は、フランに負けたりなんてしなかったでしょ?少し落ち着きなさい。さ、入って……。」

 

霊夢がレミリアの手を引いて、丁寧に居間に通す。ふと、魔理沙に肩を叩かれ、私は頷いた。フランを止めに行くのだ。

私は、レミリアの死角の位置に移動して羽を広げた。小さな蝙蝠のような羽に、全神経を集中させて静かに飛び上がる。隣を見ると、魔理沙が既に箒に跨がっていた。

私達はもう一度頷きあい、紅魔館へと加速した。

 

――――――

 

「着いた、ぜ……」

「おう……」

 

分かりきっている事でも口に出していないと、この禍々しい空気に飲まれそうだ。魔理沙は一つ息を飲むと、無惨に砕け散った門へと降りていった。

その後を追うと、中庭や館の外観が見えてきた。中庭の花壇は跡形も無く、ただ数メートルあるクレーターと化していた。館の窓はほぼ吹き飛び、時折小さな火花や閃光が見える。これは急いだ方が良さそうだ。

 

「咲夜ーっ!パチュリーっ!何処だ、返事しろっ!」

「美鈴ーっ」

 

やはり焦りの見てとれる魔理沙は、広い敷地内を見渡して叫ぶ。二人の声が谺する中庭に、忽然と人が現れる。と、同時に館の玄関ホールが大破した。

 

「おいっ!大丈夫か?!……っ!」

「どうしたんだ?!」

「い、妹様が……パチュリー、様を……」

 

時を止めて何とか生き延びた咲夜は、息絶え絶えにパチュリーの危機を伝えた。刹那、私の脇を光が飛んでいく。

魔理沙だ。今までに見たことのないスピードで、開け放たれた扉へと突っ込んでいった。慌てて後を追うと、そこには残酷な風景が広がっていた。

 

花瓶は砕け散り、シャンデリアは原型を留めず、カーペットは音を発てて燃えている。その大階段の上にフランはいた。

 

「っ!パチュリー!?」

「……!」

 

『誰か悪夢だと言ってくれ』そう呟いたのは私か魔理沙か。もしかしたら両方かもしれない。

 

カーペットから転げたような位置に、パチュリーは倒れていた。周りには傷ついた分厚い本が何冊も乱雑に積み重なり、近くに悪魔のような少女が指を微かに動かして同じく倒れていた。

魔理沙がきゅっと唇を引き締め駆け寄ろうとした時だった。何かが、魔理沙の目の前に突き刺さる。その何かは周りを即座に燃やし始め、恐ろしいほどの殺気を放っている。

            ..

「邪魔しちゃダメでしょ?それは私の獲物だもの。」

「……フラン、パチュリーが何だって?」

「!待て魔理沙!今はまだ……っ」

 

魔理沙が突如目の色を変えた、そう気づき声をかけた時にはもう遅い。魔理沙は箒を手に紅い床を強く蹴った。そのままサーフィンのように立ち上がり、八卦炉を持った手を勢いよく上げる。

 

「"マスター……スパーク"っ!」

 

虹色のレーザーは吸い込まれるようにフランへぶち当たる……はずだった。

 

「……甘いわ」

「!?」

「魔理沙!」

 

刹那、大爆発。

私は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

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最近やっとUAの意味が判りました(笑)
ありがとうございます!


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紅き月、清き涙、蒼き星

リンゼル最強ォォォ!……咏夢です。ごめんなさい。

書きたい所まで書いたら長くなりました。楽しかった。
私の中で史上最長なんで、記念ですね。どうぞ!


目を開けると彼女が見えた。

何やら鏡を覗き込んで、目元を触っている。

暫くすると、目線をやや左下に向けてにこりと笑う。 そこには……フランがいた。

フランは嬉しそうに笑って、華麗なお辞儀を見せた。

その可愛らしい様子を見て、彼女がまた笑う。

私は彼女の笑顔に惹かれ、一歩踏み出した。

 

その瞬間、彼女は消えた。

 

まるで私と引き換えるかのように、フランと私の目の前から消えた。

フランは私を睨み、片手を上げる。

私を恨むように、憎むように。

私は意識を放った。

 

―――――――――

 

「燐乃亜!大丈夫か!?しっかりしろ!」

「っ……魔理沙?」

「意識はあるな?立てるか?」

「おう……」

 

なお続く爆風に煽られ、急いで元紅魔館の瓦礫の山を出る。後ろにフランの姿は無く、少しホッとしてしまう。

外では、霊夢とアリスが厳しい表情で立っていた。私たちを見つけると、二人ともハッとしたように駆け寄ってくる。

 

「魔理沙っ!無事?!」

「あー……まぁな。そっちは大丈夫だったか?」

「えぇ。今の爆発、結界に異常を来さないと良いのだけれど。」

 

今の発言は確実にヤバい。魔理沙はとうとうキレた。

 

「んなこと言ってる場合かよ?!フランは、パチュリーはッ!」

「うるっさいわねッ!あんな奴らに構ってられるほど、事態は甘くないの!」

「ッ!あんな奴らって何だよッ……もう一度言ってみろ!」

「魔理沙!」

「落ち着け!」

 

先程もそうだったが、何故魔理沙はこんなにも相手に真剣になるのだろう。滅多に見ない形相で、霊夢に掴みかかろうとしている。

 

被害者がパチュリーだからか?

違うはずだ。きっと霊夢でもアリスでも、例え関係のない人妖だとしても、魔理沙はそうなるはずだ。

だとしたら……何だ?

 

「……魔理沙。その……今のはちょっと言い過ぎた、ごめん。」

「!……まぁ、そーだな。」

「……何よ、今度はにやにやして。変な奴ね」

「変な奴ね、とは失礼な。こちとら大真面目だぞ?」

「あっそ。……行くわよ」

「行くぜっ!」

「あ、ちょっとっ!」

 

そう、簡単な事だった。

 

相手がよく知る友達だから、それだけだったのだ。

本心が聞ければそれでいい、お前はそんなこと思ってないだろ。魔理沙が伝えたいのは、きっとそういうことなのだ。

だとしたら……

 

「「私にだって出来ることがあるはずだ。」」

「え?」

「わわっ……!」

 

背後から声が重なって思わず振り向くが、霧が濃く何も見えなかった。その正体を考える余裕も出来ているのだから、我ながら落ち着いていると思う。

 

気を引き締めて、玄関ホールへと再度足を踏み入れる。そこはもう戦場と化していた。フランと戦っているのは霊夢だ。札と炎が中央で互いに散って落として接戦を繰り広げている。

 

「はは……さっすが霊夢だな。」

「……別に。」

 

魔理沙の一言に霊夢の陣形が一瞬乱れたのは内緒の話として、霊夢は額に汗を滲ませている。一方、フランはまるで新しい玩具を試すかのような表情で、どこかつまらなそうにしている。

その態度に疑問を抱き始めた時、ホールに声が響く。

 

「……つまらないわ。」

「は?」

「つまらないって言ったのよ、聞こえたでしょ?」

 

色のない瞳が霊夢を捉える。怪訝そうな顔をして佇む霊夢に対して、魔理沙が突如叫んだ。避けろ、と。

霊夢も何か思うところがあったのか、横に素早く飛ぶ。狙いを外れた人一人分ほどの爆発が大理石を歪ませると、柄にもなくフランが舌打ちをする。

いつの間にかフランは右手を真っ直ぐ突き出していた。

 

フランは霊夢を壊そうとしていたのだ。

そう、まるで飽きてしまった玩具を放り投げるように。

そして飽きてしまった玩具は二度と相手にはされない。

……相手にされていない?

 

「魔理沙っ飛べ!」

「!?」

 

気づけば訳も分からず叫んでいた。魔理沙は箒にぶら下がるようにして上空に上がると、私に問った。

 

「何だ?一体何があったん、だ……うわぁ」

 

今まで立っていた場所を指差そうと下を見た魔理沙が顔をひきつらせる。

そこには小さなクレーターが二つ出来ていた。再びフランと交戦し始めた霊夢も、此方を振り向いて目を見開いた。私達が無事であることを身ぶり手振り伝えると、霊夢は頷いて戦いに戻っていった。

 

しかし、おかしい。

先程のムラのある破壊の仕方も、手を抜いた戦い方も、私の知っているフランとは違う。もちろん狂ったフランを見たことは無いので、異常とは言い難いが。

 

そこで改めてフランを観察してみると、何か違和感を覚えた。光の射さない瞳は赤黒く、その下瞼には乾いた涙の跡があった。

 

涙が枯れるほどの哀しみに閉ざされ、

大切な人に会えず、苦しみ抜いて、

そして狂う。

 

脳内にノイズが流れて、掴みかけた感覚が消え失せた。

まぁどうでもいいか、と割りきって思考を戻す。

 

「燐乃亜!仕掛けるぞ、いいな!?」

「ん、あぁ!」

「"イベントホライズン"!」

「"スコーピオンアルバニア"!」

 

複雑な魔法陣と蠍座の象形が浮かび上がる。私達は併せて片手を掲げ、フランへと弾を撃ち込んだ。

 

と、もともとガタが来ていたのか、柱の一本が崩れる。三人で顔を見合わせる。霊夢が物凄く冷たい目線を向けてきて、魔理沙は戸惑った挙げ句に開き直ってどや顔を決めた。霊夢の目付きが一層悪くなった所で、館の内装が一気に崩れ始める。

 

「げっ」

「これはヤバいわね。退くわよ!」

「「はいぃっ!」」

 

霊夢の声かけに、全速力で大きな扉へと走る。というか地面すれすれを飛ぶ。ひしゃげて若干狭くなった入り口を通り抜けて、そのまま外壁の辺りまで退避する。

フランも霞む上空にて羽を広げていて、口角を心なしか上げた。ゆっくりと後方へ下がり、霧の湖へと続く小路に立つ。

まだ終わらない、終わらせないのだ。

運命が、狂喜が、この世界が。

そして、身体中がその危険を察知して怯えている。

 

「まだ……終われない。フランを救うまでは、終われないんだ。」

「……あぁ。」

「ま、私としてはさっさと終わらせたいのだけれどね。」

「その通りだぜ。」

「なら、手伝いましょうか?」

「!!!」

 

聞き覚えのある声に霊夢が振り向く。懐中時計を手にしたメイド、随分汚れたチャイナ服を着た妖怪、そして……大図書館の魔法使いがいた。

 

「な、パチュリー!お前……」

「簡単よ。アリスの家まで翔んだ、治癒を受けて……はい、終わり。」

「アリスェ……」

「何にせよ無事で良かったわ。咲夜、美鈴」

「一時はどうなるかと、ねぇ?」

「はは……すみません。」

 

「オハナシ……終わっタ?」

「ッ!!!」

 

数秒の沈黙に割り込んだ少女は、もはや正気の欠片さえ残していなかった。裂けるように広がった口から牙を覗かせ、紅い瞳をギラ付かせる。そんな変わり果てたフランに、私達は言葉を失うしか無かった。

 

恐ろしい静寂を打ち破ったのは、やはり霊夢だった。

いつものように、気だるげに、そして自信たっぷりに言い放つ。

 

「さ、行きましょ。それでさっさと終わらすのよ」

「んーっ……そうだな。遅れるなよ!」

「えぇ。」

「アイヤー!」

「……ん。」

「……あぁ!」

「ミンナ遊ンデクレルノ?デモ……」

 

フランは片手を上げて、ニッと笑った。その目は姉にとてもよく似ていて、従者達に向けられていた。

 

「フラン、ソノ玩具は飽キチャッタナ?」

「ッ!"ルナクロッ」

「サセナイ。」

 

もう見慣れたはずの炎が、より赤く見えた。その場で燃え尽きたスペカとは対称的に、メイド達の姿は無く、無邪気な笑い声だけが響いた。

 

「キャハハハハハ!!!サァ、邪魔スル子ハイナイワ。遊ビマショ?!霊夢、魔理沙!」

「っ……臨むところだぜ!」

「合わせなさいよっ!」

 

目の前から、二人が消える。飛び上がった軌跡を目で追うと、フランが早くも二人のスペカを一枚打ち砕く所だった。

援護を出来る距離では無い。私はただ固唾を飲んで見守るしかなかった。

 

「アー楽シカッタ♪デモ……時間ミタイネ。残念デシタ!」

「は……何言ってんだ?私らはお前を救」

「イラナイ。フラン、全部壊スンダモン。」

「何ですって?バカじゃないの?」

「フラン、全部壊スノ!全部壊ス、全部壊ス全部壊ス……」

「っ……フラン……?」

「何が、起きてるの……」

 

拳を震わせて、うわ言のように繰り返すフラン。動揺を隠せない私達は、気づけば無防備にフランを見つめていた。

 

「全部……壊レチャエバイインダァ!!!」

「きゃあっ!」

「うわっ!?」

 

それがいけなかった。

霊夢と魔理沙の悲鳴に気づいた時には、二人は地面に叩きつけられていた。

 

「霊夢っ魔理沙っ!」

「キャハハハハハ!!!面白イワネ、燐乃亜?」

「この野郎……ッ」

 

もう怒りしか感じない。いくらフランだから、狂気に捕らわれた別人格だからといっても、もう限界なのだ。

地面を蹴ってフランの目の前に飛び出す。私にはもう、理性なんていうものはいらないと、本気でそう思った。

 

「"獄炎彗星―コマンドサテライト―"ッ!!!」

「燐乃亜モ遊ンデクレルノネ!?"スターボウブレイク"!」

「「アアアアアアッ!!!」」

 

叫び散らして、炎と星が行き交う。感覚で撃ちまくり、本能で避けるこの遊びに、私はいつしか相手との格差を忘れていた。

 

「楽シカッタワ……!デモコレデオシマイダヨ?」

「まだ……まだだ!終わらせる訳にはいかねぇっ!」

「鬱陶シイ人ハ、フラン嫌イダナァ……サヨナラ。」

 

Q.E.D."495年の波紋"。スペカ宣言が終わると一瞬、無数の弾幕が飛び出した。それは水面の波紋のように広がり、あっさりと私を撃ち落とした。

地面に叩きつけられて、脳が揺さぶられる。

 

「かはっ……」

「サァ、遊ビハ終ワリヨ?悪イ子ニハオシオキが必要ダモノ、ネ……?」

 

体が震える。奥深く眠っていた生存本能が、今は煩く鳴り響いている。

ただただ怖くて、逃げ出したいのに。

どうやって声を出すのか、

どうやって助けを呼ぶのか。

もう何も分からない。

 

「た、すけて……。」

 

この際誰でもいい。

咲夜でも、アリスでも、紫でも、通りすがりの妖怪だって、何だっていい。

彼女でも……あぁ。

 

「会いたかったなぁ……っ」

「ジャアネ、サヨナラ人間!!!」

 

笑いながら焔の聖剣を構えるフランが、滲んで遠くなっていく。涙はとても暖かくて冷たくて、何の役にも立たずに零れ落ちていく。

恐怖だけに囚われて、ただ楽にしていたかった。

もう何の希望も無い暗闇に、私は瞳を閉ざした。

 

「キャハ、ハハハハッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"アテンションロンド"ォォォ!!!」

 

そう、何の希望も無い暗闇だった。

そこに……

 

彼女が、冬の一番星が現れた。

暖かく綺麗な、流星群に乗って。

 

「大丈夫?燐乃亜」

 

 

 

 




ありがとうございましたぁぁぁ!!!

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魔女っ子、星座、シュガー

やっと会えた……!
以上です。展開早くなってごめんなさい。
感動話なのに短い。今までの展開何処へ。

最後まで駆け抜けるっ!


「あ……」

「間に合って良かった~……え、泣かないでよー」

 

焦ったように私に声をかける様子を見て、何だか可笑しくなってきた。先程までの空気感は何処へやら、私は笑ってしまう。

 

「……ホントに良かった。」

「……?」

「燐乃亜、笑うようになってるでしょ?だから良かった。」

「……まぁな。てか、何でこのタイミング?」

「んー……まぁ、色々あったんだよね。うん。」

 

彼女ははぐらかすように言うと、私に立つように言った。頷いて目線を動かす。

 

「キャハ、キャハハハハハハハハハ!!!」

「うわぁ……もう何か完全に狂ってるねフランちゃん」

「さっきからヤバい感じなんだよな……」

「へぇ……。!?、霊夢に魔理沙?!」

「あー……っと。頑張ろ。」

「……うん。許すまじフランちゃん。」

 

テンションが変わった。事の深刻さを理解してもらえたようで何よりだが、冗談抜きで怖い。

それによく考えると、私の会ったことのある彼女と服装が違う。

白い高貴なマントにワンピース。大きな魔女帽子といった、いかにも魔法使いな感じだ。が、何より目立っているのは、その手に握られたステッキだった。簡単に言うと、スノードームに棒が付いているような、そんな見た目だ。

 

「よし、行こうか燐乃亜。スペカはあるよね?」

「あぁ。問題ない。」

「それじゃ、"爆風シャイニーズフレア"!」

「OK、"新月オールラウンド"!」

 

太陽熱と月光が混ざり合い、なんとも不思議な光景が広がった。レーザーの中を炎が駆け抜けていく、お互いぶつかり合う事もなく。

スペカの時効が切れる。確かスペルブレイクと言ったか、忘れてしまったがまぁどうでもいい。

 

「……フランちゃん。フランちゃん!」

「……貴女ハ誰?」

「え……私だよ、覚えてないの?」

「貴女ハ誰?コノ子ハ誰?ソノ子ハ誰?ネェ、ネェネェ」

 

攻撃によって振り向いたフランに、彼女が語りかける。フランは頭を抱えて、空中で苦しんだ。彼女が手を伸ばしても、何も変わることは無い。

 

「ネェ、私ハ、誰?」

「「!!!」」

 

今度こそ完全に壊れてしまった。もう目の前にいる吸血鬼は、フランではないのだから。そう、ただの狂気の塊と化した妖怪だ。

 

「ネェ、教エテヨ!私ハ、私ハ誰?!」

「うるせぇっ!お前は誰でもないんだっ!"カシオペヤクローン"っ!」

「痛イ、ヨ!ヤメテ、ヤメテ……ッ」

「……っ!」

「攻撃を止めちゃダメ!フランが跡形も無くなる前に、こいつを止めなくちゃ!」

「……あぁ。分かった。」

 

そうするしか無いのだとしたら、私に出来るのは全力の砲撃だけだ。私は精神をスペルに傾けて、次々にカシオペヤ座を生み出していく。

彼女は必死にフランへと手を伸ばしているが、ずっと何かに阻まれている。その何かを壊すために、私は一層攻撃に力を込めた。

 

「痛いんでしょ、苦しいんでしょ!?早く、早く出てきてよ……フランちゃん……」

「……フ、ラン?誰?」

「っ……貴女の名前だよ?思い出してよ!ねぇ、フランちゃん!」

「ワカラナイ。ワカラナイワ……私ハ誰ナノ?」

 

つい攻撃を止めて、二人の会話に耳を傾ける。フラン(?)は、涙ながらに呟いている。

 

「フラン……?私ハ、フランナノ?デモ……私ハ、誰?ネェ……ワカラナイヨ……誰ナノ?」

「……魅空羽。」

「え?」「エ……?」

「私は、魅空羽だよ。」

「……燐乃亜だ。」

「「貴女は……誰?」」

 

二人分の声がどうか届きますように。

 

「こっちに来て、私達は此所だよ。」

 

深い深い闇の、宇宙の果てから――

 

「貴女の名前を教えて……」

 

何億年の時を越えて――

 

「「友達に、ならない?」」

 

キラリと輝く一番星のように。

 

静寂が辺りを包み込む。ゆっくりでいい、でも返事が欲しい。もどかしい空気の中で、そっと誰かが口を開く。

 

「……フラン……」

「!」

「フラン、ドール……?」

「……そっか。それが、貴女の名前?」

 

彼女……魅空羽は優しく問いかけた。

 

「ワカラナイ……デモ……コレハ……チガウ……」

「……?」

「コレハ……コノ子の名前、ダカラ……」

 

「……じゃ、貴女に名前をあげる。」

「燐乃亜?」

「それで万事解決だろ?」

「……なるほど。」

「名前……?」

 

私は魅空羽に耳打ちした。そして手を伸ばす。その指先にはスペカを挟んでいる。

絶対に外せない、ふともう一方の手に温もりが伝わる。もう横は向かない、信じているから。

 

「「スペルカード発動。」」

「"冬の大三角―ウィンタートリリンガル―"」

「"夏の大三角―サマートリニティ―"」

 

星空へと放たれた二つの魔方陣が、ゆっくりと回りだす。それはまるで、四季折々の星座のようだった。

 

「貴女の名前は……」

 

――儚く散る、華のように。切なく、そして甘く。

 

「さよなら、シュガー。またいつか会おうな。」

「……アリガトウ」

 

―――――

 

霊夢と魔理沙の診察を終えた永琳が顔を上げた。

 

「二人とも大した傷じゃないし、直に目を覚ますわ。さすがの生命力と回復力ね。」

「良かった……!」

「にしても、久しぶりね魅空羽。元気そうで何よりだわ。」

「え?あっ、はい。お久しぶり、ですねっ」

「?」

 

魅空羽の少々不審な様子、首を傾げる永琳を笑う輝夜。

何だかまだ色々とある気がして、魅空羽に再度声をかけようとしたその時だった。

 

「そろそろネタばらしの時間かしら?」

「うわあっ!!!」

「!!?」

「やだぁ、驚かせないで頂戴?」

「「こっちの台詞だ(ですよ)!!!」」

「ふふ、元気そうで何よりね。あ、そうそう……」

「何だ?」

「他の子達、お返ししといたから♪じゃあね~」

「は?え、ちょっ!待てスキマ妖k……ったく」

「行っちゃった……。他の子達、って?」

「んー……あ。」

 

そういえば、紅魔館組は揃いに揃って吹っ飛んでいたはずだ。レミリアを除いて、だが。

 

「てか、レミリアはどこ行ってんだ……?」

「レミリアさん?それなら神社で眠って……」

「呼んだかしら?」

「ってうわっ!レミリアさん!」

 

ドアの所からひょっこり顔を出したのは、レミリア本人だった。ちょこちょこと歩いてきて、話し始める。

 

「目を覚ましたら誰も居ないから、心配になってね。それで紅魔館に戻ったら、あの有り様じゃない?これは永遠亭かしら、と。」

「此所にいるのは霊夢と魔理沙だけだが?」

「あ、大丈夫よ。咲夜達は紅魔館の前で再建を始めてたわ。」

「回復力半端なっ!?」

「ふふっ。だから言ったでしょう?お返ししたって」

「お前の所業か……」

「さすが紫さん……!」

 

「……煩いわね……何事よ?」

「ん~……」

「あら、お目覚めね。」

「霊夢!魔理沙!」

「えっ?!み、魅空羽!?」

「やっと会えたな!良かったぜ!」

 

これはまた宴会になりそうだな、と永琳と顔を見合わせ苦笑を浮かべる。こればかりは仕方がないし、改めてゆっくり話し合うのも良いだろう。

 

私は一足先に、博麗神社へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

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あ、あと活動報告の方書きました!期限は設けないつもりなので、コメント下さい!


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再会、最愛、再開

この章の最終話……に、なると思います!
改めてここまで読んで頂き、本当にありがとうございました!

あ、でもまだ書きたい話もあるのでっ
終わってないですから!
また主人公が出来たら始まりますから!(汗)
終わってないですから!(二回目)


「と、いうわけで……」

「異変?解決おめでとうございます!と……」

「魅空羽、おかえりだぜ!つーことで!」

『カンパーイ!!!』

 

かけ声と共に、食器のぶつかり合う音がそこかしこで響き、辺りが一気に騒がしくなる。

 

人妖達は、"魅空羽と私"="夢の迷い人"

つまりは私達に興味津々なようで、宴会が始まるとすぐに話しかけてくる者がいた。

 

「久しぶりね!ふふん、あたいがこえをかけてあげるなんて、こーえいだとおもいなさい!」

「どうも~、お久しぶりです~。」

「チルノに大ちゃん!久しぶりだね~」

「お前らもいたのか……。てかどうしたんだよ?」

「きょうはとくべつに、あたいのトモダチをしょーかいしてあげる!」

 

とくべつに、を強調して言ってきたチルノは、後ろを振り向いて声を上げた。すると、見た目も様々な子供(?)達が駆け寄ってきた。

 

「さぁ、あいさつしなさい!これがあたいのらいばるよ!」

「これって……失礼だよチルノちゃん~……」

「ルーミアだぞー。よろしくなー。」

「リグルです!宜しく!」

「ミスティアですー!宜しくお願いしまーす!」

「……可愛い!」

「?えへへー。照れるんだぞー。」

「そーだ!みんなであそぶのよ!」

「いいね!今日は何するの?」

「私は何でもOKだよー」

「んー……じゃ!おにごっこね!みくはがおに!」

「へっ!?私?……分かった!1、2、……」

「みんな逃げろーっ!」

「わぁーっ!」

「……え、私も?」

 

結局妖精達が飽きて寝つくまで、鬼ごっこやかくれんぼなどと色んな遊びをした。かくれんぼでチルノが竹林に入った時はどうしようかと思ったが、妹紅や慧音も巻き込んで最後はとても面白くなった。私が本気で隠れて、去報が出された時には、さすがに焦ったが。

何はともあれ、朝から始まった宴会は着々と終焉へと向かっていた。

 

―――――――

 

まだ話したことの無かった楽団の三人と話していると、籃が来た。どうやら紫が呼んでいるらしいので、魅空羽にも声をかけようとすると、なぜか隣にいない。とりあえず藍に着いていくと、神社の裏に紫と魅空羽が立っていた。

それで話が始まるのかと言われればそうでは無く、霊夢と魔理沙が橙の小さな手に引かれてやって来た。

私の仕事は終わったとばかりに会場に戻っていく橙を横目に、藍が口を開く。

 

「……燐乃亜、半年前の事は覚えているな?」

「あー……まぁ、一応話としては。」

 

半年前の事といったらアレだ。私が人里を巻き添えにして、魅空羽と出会ったあの事件だ。

今度は穏やかに紫が話し出す。

 

「あの後……というか、貴女がこの世界から還った後、魅空羽がどうなったか分かる?」

「え……?」

「確かに、貴女のように元の世界に戻りはしたわ。夢から醒めて、次の迷い人が現れる時までは、ね。」

 

「どういうことだ?次の迷い人、って燐乃亜なんだろ?」

「そうよ、それに当たり前じゃないの。"現の迷い人が現れている間は、迷い人の時を終えた者も出入りできる"って……」

 

霊夢と魔理沙が首を傾げると、紫は一つ息を付いた。そして魅空羽の背を押す。そのまま半歩前に出た魅空羽は俯かせていた顔を上げた。

 

「えっと……じゃあ、その……座ろうか?」

「え、あぁ……」

 

全員が木の枠組みに腰かけると、魅空羽はそっと話し始めた。

それは、私が"アイツ"と過ごした日々の事だった……。

 

―――――――

 

あの日――燐乃亜がこの世界に、夢の迷い人として現れた日。私は少しだけ早く、此所に来ていたんだ。

またこの世界に来れて、すっごく嬉しかった。

でも私、心配で……燐乃亜は、やっぱり色々あったから……一人で、大丈夫かなって。

もちろん、霊夢や魔理沙もいるし、レミリアさんとかいい人達もいっぱいいるよ?

だけど……それ以上、は行き過ぎかな。燐乃亜を……恨んでる人も、いるから。

家を焼かれたとか、あるいは燐乃亜のせいで私が、消えちゃったんじゃないか……とか。

 

と、とにかく。それで私ね、紫さんにお願いしたの。

燐乃亜の側に居させて、見守らせてって。

そしたら……無理だった。夢の迷い人が二人同時に、しかも隣を歩いている、なんてアンバランスだ、って。

でも……紫さん優しい。私の事分かってくれたの。

交換条件だったんだけど……あ、えっとね。

 

私が紫さんの式になる代わりに、

私を燐乃亜専属の式にする。

 

って。可笑しいかな?

でも私、とっても嬉しかったんだよ!

すぐに燐乃亜の所に行って……ずっと見てた。

過去を乗り越えようとしてる燐乃亜は、すっごくカッコよくて……あ、たまに危ない時もあったよねっ、スキマの中から見ててヒヤヒヤしちゃった。

 

年越しする頃には、皆とも話せてたし……もう大丈夫かなーって。思ったりも、した。

……甘かったんだよね。ごめんね。

フランちゃんが凄く危ないの、私、知ってたのに……何も助けてあげられなくて……。ホントに、悔しかった。

 

だからもう一つお願いしたんだ。

 

私を元に戻す代わりに、

それから一日で帰る。

 

って……。

ごめん、黙ってて。ホントは言わないつもりだったんだ。でも、あともう少しだから、って紫さんに呼ばれた時に、どうしても伝えておきたかったから。今、こうして話してる。

 

私、嬉しかったよ。

最後に、燐乃亜の知ってる私で、一緒に過ごせて。

次の迷い人は……いつ現れるか……分からない。

だから、もしかしたら……

もう、会えないのかも、しれない……よね。

 

―――――――

 

こうして話し終わり、再び俯いている間にも、魅空羽の姿は薄くなっていく。霊夢が戸惑った表情を浮かべる。

だが、もう時間は残されていないのだ。

 

「なぁ……魅空羽。名前は?」

「え……?」

「フルネームが分かれば、きっとまた会える。と、思うんだけど……ダメか?」

「……!燐乃亜っ!」

「ふぎゃっ!?」

「やっぱり燐乃亜天才だよね!ねっ!」

 

はしゃいで跳び跳ねる魅空羽から、光の粒が舞う。魅空羽もそれに気付いたようで、私に向き直った。耳にそっと口元を寄せる。

 

「・・」

「!!!」

 

彼女の名前を聞いて、私は高揚を抑えて同じようにする。少しだけ背の高い耳元に、そっと囁く。

魅空羽は少しばかり目を見開いた。が、すぐに手を離して早口に言った。

 

「ありがとう。それと、また会おうね。」

「あぁ。……また、な。」

 

次の瞬間、光が弾け飛ぶ。最後に残ったのは、キラキラと舞い続ける……星だった。それを手に取ろうとすると、私の手は透けていた。

 

顔を上げると、紫は頷いた。もう私にも時間が無いようだ。

魅空羽は皆に囲まれてこの世界を去ったというが、私にその勇気は無かった。霊夢と魔理沙に向き直り、一言だけ礼を言おうと口を開いた。

 

「ストップ。何も言わないで、……」

「霊夢……?」

「礼を言うなら……魅空羽を連れて来てからにしなさい。あの子と一緒じゃないと、ダメ。」

「……。分かった、約束する。」

 

再会も束の間に去ってしまった友人、その出来事に少なからず悲しみを抱いたのは、私だけでは無かったようだ。二人にもう一度、今度は強く視線を送る。力強い頷きが、私の背中を押した。

 

身体中の感覚が無くなっていく中で、私は誰かの歌を聴いた。

 

 

 

   "夜空に輝く夢の流星を

      同じ場所で見つめていたいね"

 

   "どんなに離れていても心が

         いつか一つになれば"

 

 

 

きっとまた君に会える。私には一つの光があった。

また始まる現実での生活は、今までとは違う日々になる。そんな確信も。

 

「待ってろよ……如月、魅空羽!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました!!!

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幻想郷は夢を見る。(side story集)
あとがき的な駄文


「どうも!いつも読んで下さってる皆さんこんにちは!ここまで一気に読んで下さった方もこんにちは!咏夢です!」

「……あっ、魅空羽です!」

「燐乃亜です。」

 

「三人合わせて~?」

「「……え?」」

「うん、ごめん。決まってないから。ごめん。」

「お、おう……」

 

「何か変な雰囲気になっちゃったじゃん!うp主のバカ~!」

「うわぁぁあっ!ごめ、ごめんなさい!痛、いだいっ」

「……ファイト~」

「こんなときだけ笑みを見せないで!?あ、」

 

「……咏夢がログアウトしました☆」

「おいっ!?何やってんだ魅空羽!?」

「いやぁ~脆いなうp主!」

「違う!きっと違うよなそれ!最強生命体に囲まれ過ぎてただけだろ?!」

「「……」」

 

「えーっと、茶番ばっかりでスミマセン。改めて、ここまで読んで頂いてありがとうございます!」

「うp主も書き始めた当初は、小説読もうゼ!状態だったので、ここまで続くとは思ってなかったみたいです。」

「まだまだ語彙力文章量など、改善点は溢れかえっているこの小説ですが、二章も書けて本当に嬉しそうです!」

 

「そういえば、一章の途中まで書いた時点で二章のキャラ……(私だけど)決めてたよな?」

「あー。そういえばそうだね。その件については?」

「ノーコメントで。ノリと自己満足だったから、ホントにここまで続くとは思ってなかったよ。」

((あ、戻ってきた……))

 

「……話題が無いんだけど。残りの500字どうすんの?」

「メタい話をこれ以上ぶちこまないで。さっきからメタ過ぎてヤバいから。お願い。」

「ウィッス」

 

 

話題①

☆魅空羽について☆

 

「私の作るキャラって、拾い画からメチャメチャな想像を広げる事が多くて、典型的なのが魅空羽かな。」

「と、いいますと?」

「正体も知らずに可愛い!ってなった画像参考にしてたら、実は雪ミクだった。」

「何の規制も入れずに書いて大丈夫なのか……」

「規制下手に入れて指摘されるのコワイじゃん。」

「チキンかっ!」

 

話題②

☆燐乃亜について☆

 

「一章から伏線(?)貼ってただけに、書くのが凄く楽しみだったかな~。生死の価値観とか、難しい所は山ほどあったけど。」

「一章と同じ展開にならないように、とかな。」

「どのキャラと関わった事があるのか分かんなくなったりね……。魅空羽の名前を出すかどうかは、最後まで迷ったけど。」

「結局最後の方普通に呼んでたよな。」

「彼女彼女書くのがちょっとなぁと思っただけなんだけどね。その分最後に名字の案件入れてみました。」

「閑話で下の名前を出さなかったのはその為だったのか?」

「yes!名前バレてたら終わるからねっ、不自然だけど名字だけにしといた!」

 

――――――――

 

「えー半ば迷走しましたが、ありがとうございました!」

「これからも、別視点からの話やイベント物、各キャラとの絡みなど!色々な話を書いていく予定です!」

「可能であれば、募集したキャラも活用させて頂きますので!」

 

『本当にありがとうございました!!!』

 

【SpecialSunkus】

 

・裕霊さん

 

ほとんど毎回コメント下さって、とても励みになりました!お忙しい中、本当にありがとうございます!

 

・輝さん

 

先輩として、色々とアドバイス頂きました!ありがとうございます!

 

その他、お気に入り登録、評価など下さった皆様!

ありがとうございます!

 

……そして!

今見てくださっている、そう!そこのアナタ!

本当にありがとうございます!

これからも精進していきますので……

よろしくお願いいたします!

咏夢でした!

 

 



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生への渇欲

死への渇欲

の少女側storyです!


「皆、好戦的だな……じゃ、私も。"凱風快晴―フジヤマヴォルケイノ―"!」

「お嬢様のためにも、負けてられないわね……"ルナクロック"!!!」

 

 長髪の女とメイドの叫びで、不死鳥の炎を纏ったナイフが無数に飛んで来る。これが上級者の技なのだろうが関係ない。

私が手を振ると、紅く光る星が飛び出して弾き飛ばす。最近使えるようになった術だが、中々役に立つ。

 

少女は必死な顔をしていた。他の者に頼る辛さか、自分の中の闘いか。そんなものは私には関係ない。

 

「隙ありっ!"アースライトレイ"!」

「"夢想天生"!」

「"操りドール"!」

「"不死鳥の尾"!」

 

えげつない弾幕(一部ナイフ)が一斉に飛んできた。流石に驚いたが、私は避けない事を選ぶ。何も問題は無い。ここでの私は……。

 

終わった。そう思ったのだろう。魔法使いが、口角を上げ、女性が目を逸らした。

私を弾幕が貫く――

 

 

 

はずがない。

私を弾幕がすり抜け、ナイフが後ろの岩壁に突き刺さる。

唖然として動けない奇襲者達を、私は心の底から嘲笑った。

 

「……あはははは!どうだ?私は死なない、私は燃やし続ける。あんたらは一体どうするってんだ?」

「……!」

 

怒り。かつては持っていたはずの感情。少し思い出した気もするが、分からない。剥ぎ捨てるように、私は顔を上げる。

先程の少女が、手にスペルを掲げて叫んだ。

 

「"カストル&ポルックスの絆"……!」

「!」

「魅空羽……!」

「面白い……せっかくなら命を懸けてやるよ!」

 

少女の仲間の士気が心なしか上がっている。少女の自覚は無さげで、それがまた腹立たしくて、私は顔を背ける。

二つの彗星は剥き出しの岩にぶつかり砕け散る。

双方共に、攻撃の当たらない中で私はつい吐き捨てるように、少女を睨み付けた。

 

「ムカつくんだよ……」

「っ……何が?」

 

気圧された様子ながらも、少女は聞き返してくる。その様子が一層ムカついて。今まで絶対しなかった、これが私の決意だった。私は声を荒げた。

 

「ムカつくんだよっ!あんたの何もかも!その欲望でさえ!」

「うるっさい!ふざけないでよ!貴女には分からないの?!」

 

お互いの全てを懸けて願う。祈る。この身がどうなろうと、この平凡な日々が終わろうと。

 

かつて、私が平凡に感じていたこと。

そして今、全てを投げ捨てたくなる気持ち。

 

己の感傷全てを懸けて、これだけが私の決意。

 

「捨てなさいッ!その死への渇欲をッ!!!」

「捨てろッ!その生への渇欲をッ!!!」

 

一つ息を吸う。笑みさえ浮かぶこの瞬間、ありったけの星が舞う。ありったけの炎を纏って。

 

『―今、すぐにッ!!!!』

 




ありがとうございました!

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レミリアは夢を見る。―サンタクロースの紋様

わーい!メリークリスマス!

……とりあえず書きたかったんです。ごめんなさい。
時系列は多分一年後ですかね。
……設定の矛盾?
あ、サンタが持っていきました、はい。


「ん……。あふ……」

「~……?」

 

欠伸を噛み殺して起き上がる。隣では燐乃亜がうっすら瞼を開ける所だった。もはや夢の迷い人の概念を無視した私達は、稀に此処――名を幻想郷という異世界を訪れている。

揺れる木々はもう葉を散らしきり、樹皮を剥き出しにしている。朝の弱々しい陽射しと冷たい空気が、今が冬としっかり分からせてくれる。

12月23日土曜日、午前10時。現実とは午前午後が逆転したこの世界での生活時間は貴重だ、充実させたい。

 

「ん……魅空羽?」

「起きた!おはよう、燐乃亜」

「あー、おはよ……。此所は……」

「神社の裏かなー。今日は運が良かったんじゃない?」

「ま、紅魔館の中庭よりはマシだな。」

 

連休に私達を呼び寄せる事は出来て、その呼び寄せる場所を指定出来ないとは困ったものだ。無論、紫の事である。

 

「何にせよ、今呼ばれたって事は……」

「あぁ。多分帰してもらえないだろうな。」

「だよね~……ま、とりあえず霊夢に挨拶しに行こうか」

 

立ち上がって、埃を軽く払う。毎日のように掃除される境内とは、やはり環境が違う。暇なんだから此方も掃除すれば……、と思ったのは内緒だ。

 

建物の脇を通って境内に出ると、食器の触れあう音が微かに聞こえた。きっと、朝食後の洗い物だろう。

障子を開けて声をかけようとすると、廊下の奥から声が聞こえた。

 

「魔理沙?朝ごはんならもう残ってないわよ~。」

「!?……あははっ」

 

思わず吹き出すと、怪訝そうな顔をした霊夢がひょっこり出てきた。私達を見ると、すぐに表情を変えて此方に歩いてきた。

 

「おはよ、また紫が呼んだのね。今度は確か……あっ、着替えてくるわね。」

「うん。お邪魔しちゃうね。」

「はぁい。」

 

白い寝巻きの着物姿が、廊下の反対側に消えた。靴を脱いで近くにあった座布団に座る。

暫くすると霊夢が、今度はいつもの巫女服姿でやってきた。湯飲みを三つ卓袱台に置いて座る。

温かい緑茶をありがたく頂くと、燐乃亜が霊夢に訊く。

 

「で?今度は何するんだ?紅魔館主催のデスマッチ?」

「あれはデスマッチじゃなくてサバゲでしょ。違うわよ。」

「じゃあ何するんだよ?」

「まぁ言い出しっぺが紅魔館なのは変わらないんだけど……ね、クリスマスって知ってる?」

「勿論。サンタさんがどーたらこーたらだろ?」

「そう、それよ。パチュリーの所で何か見つけたらしくてね、レミリア。それで咲夜が困り果てて、こっちに回してきたのよ。」

「つまり今回はサンタさんごっこ?」

「そういうことよ。ま、頑張ってね。」

「「ん?」」

「……え?」

 

呆けた顔をする霊夢の手を、私達はにっこりと握りしめた。

 

――――――

 

「おーい、起きろー」

「何で私まで……」

 

私達は紅魔館の門前に来ている。もちろん霊夢も連れて、今は美鈴を起こす作業だ。

 

「えいっ。」

「あだっ……何ですかぁ?」

 

いつもの事ながら門番らしくない、そののんびりした声に苦笑を溢す。と、何処からか指を鳴らしたような音が重なって二回聞こえた。

 

「さぁ、何でしょうね?」

「みぎゃあぁぁあああ!!!?」

 

そう、紛れもない彼女の登場フラグだ。能力を駆使して突如現れた咲夜は、こめかみに青筋を浮かばせて微笑んでいる。美鈴の目線はその手に持たれた銀のナイフに注がれているが。

 

「はあぁ……あんた、今日の昼食抜きね。」

「うぅ~そんな殺生なぁ~」

「はは……お邪魔しまーす。」

「えぇ、こっちよ。」

 

咲夜に続いて中庭へと入る。後から付いてきた美鈴も含め、全員が玄関前へとたどり着くと世界が見覚えのあるカラーリングに変わった。

 

「ふぅ……。流石に四人も動かすとなると、体力いるわね。」

「その割には特に変わり無いですけど」

「何か言ったかしら?何なら置いていくけど」

「すみまっせーん!」

 

美鈴と咲夜が漫才を繰り広げている内に、一行は大図書館に着いた。咲夜は懐中時計を取り出すと、つまみを押し込む。

先程とは違った静けさが一瞬で流れ込んでくる。咲夜が少し前に出て、声を響かせた。

 

「パチュリー様。到着致しました。」

「分かっているわ。此方に来て。」

「はい。さ、行きましょう」

 

奥の机でパチュリーが顔を上げた。その横では、慣れた手つきで紅茶を入れる女がいた。何処かで見た気のするその少女は、私達に気づくと目線を上げた。

 

「あっ、もしかして私、自己紹介してません?」

「あ、はい。」

 

赤い髪に黒いワンピース。同じく黒い小さな羽は、レミリアに似ている。少し浮かび上がって、クルリと回って一礼。

 

「小悪魔っていいます!こあって呼んでくださいね~」

「宜しく~」

「宜しくな」

「こあは私の使い魔よ。大体は此所にいるわ」

 

パチュリーの付け足しもあって、話が本題へと変わる。

 

「で?サンタさんごっこなんだっけ?」

「えぇ、そうなるわね。こあ、あれを。」

「はいはーい!」

 

小さな羽を忙しなく動かして、こあが一冊の本を運んできた。いかにも重そうな分厚い本で、英語で書かれている。パチュリーが軽く手を振ると、それは日本語に変わった。

 

「あー。良くある感じの……」

「絵本、ていうか童話?レミリア趣味子供だなぁ」

「……お嬢様。今回ばかりはこの咲夜、庇い様がございません故。」

「本人寝てるけどな。で?結局サンタになるのか?」

「それなんだけど……」

 

当然と思っていた構想に、パチュリーが口ごもる。咲夜も苦笑を浮かべているので、何かしらあるのだろう。私は紅茶を一口頂くと、燐乃亜を確認する。何やら先程の童話を読み耽っている様なので、声はかけないことにした。

霊夢は何やら咲夜と話しているが、表情の雰囲気的に『普通の世間話』とやらなのだろう。無論、普通の人間のような話をしていた覚えは一度も無いのだが。

 

「レミィ、何か勘違いしているみたいなのよねぇ。」

「と、いいますと?」

「燐乃亜なら分かるんじゃないかしら?」

「?」

「あぁ。魅空羽、これ見てくれ。」

 

さっきまで燐乃亜が読んでいた本をもう一度覗き込む。やはり良くあるような童話だ……あるところを除いては。

 

「あ、はは……」

「これは……面倒ね。くっ……」

「笑っちゃあダメだろ……~っ!」

 

肩を震わせる霊夢と口元をひくつかせる燐乃亜。無理も無い、これは酷い。

 

『サンタクロースは、プレゼントを運び終えると、空へと舞い上がった。そして、疼く右手を解放した。そこには星の紋様が刻み付けられていたという……。』

 

「何が起きてるんだよっ、中二病かっ……!」

「あーヤバい。お腹痛いっ」

「ふぅ……と、いうわけなのよ。レミィったら信じ込んでて……」

 

つくづく精神年齢が低い。こんな話、小学生でも信じまいと苦笑を隠しきれずにいると、どこかに行っていた咲夜と美鈴が帰ってきた。何やら抱えている。

 

「これが衣装ですね~。それと……」

「はい。其を読ませて頂いて、新しく作ってみました!」

 

咲夜が取り出したのは二つの衣装だった。

サンタのカラーである赤を基調にしたワンピース、マント、リボン(髪留め)、ブーツ。

こちらは紅を基調にしたワンピース、マント、シュシュ、パンプス。

そして何やら包帯らしきもの。

 

「あ、あのさ咲夜……」

「どうしたの?燐乃亜」

「これ、誰が着るのかな?」

「「「貴女達に決まってるじゃない(ですか)」」」

 

燐乃亜と顔を見合わせる。苦虫を噛み潰したような顔をする燐乃亜に、渋々頷く。これはもう強制だ、やるしかない。

 

徐々に騒がしくなる大図書館にも気づかずに眠るレミリアを思い浮かべて、私は少し微笑ましくなった。

 

――――――

 

「さて……用意は良いわね?」

「「はい!パチュリー様。」」

「……大丈夫、です。」

「こっちもオッケーだよ。」

「……だから何で私まで。」

「何も話を聞かされずに引っ張られるよりかマシだろ。」

 

上からパチュリー、咲夜とこあ、燐乃亜、私、霊夢、そして魔理沙の発言である。

もう一つ付け足しておくと、霊夢と魔理沙はいわゆるトナカイ役らしい。勿論本物のトナカイを召喚して躾る、等と色々方法はあったのだが、まぁ致し方ない。

 

「燐乃亜ったら、顔真っ赤だよ~……しょうがないけど。」

「だよな!?こんな上空……敷地内でも無いのに、誰に見られたか分かったもんじゃないし……うぅ。」

「た、確かに……。」

 

パチュリーの言うには、このイベントは今年だけに収める手段がある。との事だが、如何せん意味が分からない。

というか、今更だが何やってるんだ私達は。

 

改めてため息をついて、気持ちを切り替える。下を見下ろすと、こあが赤いライトを小さく点滅させている。移動する合図だ。慎重に――主にマントが脱げないようにだが――羽を動かして、館へと近づく。今頃、咲夜とフランが一芝居打ち始めた所だろう。

これは予測だが、大方の内容はこうだ。

 

「お嬢様、起きておられますか?」

「勿論よっ!……咲夜ね、入りなさい。」

「はい。お嬢様、門前にこれが。」

「こっ……こここれって!ぷ、プレゼント……よね?」

「えぇ、左様でございます。」

「わ、私……いい子にしてた、わよね……?うん、そうよね……きっとそう……!だとしたら」

「お姉さまああぁっ!」

「フラン!?ね、寝てたんじゃ……」

「ま、待ちきれなくって!それより窓開けてっ!」

「へっ?な、何がどうし」

「早くっ!」

「な、何でよ……?」

 

さぁ、いよいよ私達の出番である。窓が開いてレミリアが顔を出すまで、たった二秒。その一コマがゆったりとして見える、たかが子供騙しにこんなにも緊張するとは。

 

まずは、レミリアとバッチリ目が合った所で、自然に隠していた左手を上げた。同時に燐乃亜が響くような男声を出す。

 

「我、汝に祝福を授けん。我が名は、サンタクロース。」

「わあぁっ……!!!」

 

レミリアが目を一気に輝かせる。燐乃亜は今、非常に高難易度の事をしている。魔法を使い、幾つもの灯火を宙に維持して、更にはその明るさを顔が見えない程度に調節。馴れない低音を響かせ、重厚な雰囲気を造る。

ある意味イタズラとはいえ、手は抜けない。私はもう片方の手に魔力を込めて、レミリアへと伸ばす。無論届くわけは無いし、直接触る気もない。

なるべく大人っぽく聞こえるように囁く。

 

「さぁ、レミリア・スカーレット。左手を出しなさい。」

「は、はい……!」

「貴女は、サンタクロースの秘密を知った……。ですから、これから私達は同志になるのです。」

 

目を見開くレミリアを前に、燐乃亜と目線を交わす。このイベントを上手くこなすために、二人で考えた作戦に移る。

 

「Twinkle,Twinkle,little star……」

「How I wonder what you are……」

 

きらきら星、英訳歌詞。本当はクリスマスソングでも歌いたかったが、仕方ないと思う。それに実際今歌ってみると、なかなか場景にマッチするのだ。

歌いながら、二人でくるくると指先を回し合う。しっかりと、何回も練習した紋様を思い浮かべて、魔力を練り合わせる。

 

「「Twinkle,Twinkle,little star.」」

「How I wonder what you are……!」

 

"あなたは一体何者なのかしら!"

 

感動したように涙を流しながら、最後のワンフレーズを歌ったレミリアは、何だかとても可愛かった。

そっと指先を弾いて、レミリアの手の甲に光が染み込む。

 

同じように私達が差し出した左手には……

 

 

星の紋様が、刻み付けられていたという。

 

―――――――

 

「……何か、スゴかったな。」

「同感よ。二人とも気合入ってたわねぇ。」

「ともかく。添付した魔法は成功したのね?」

「あぁ、問題ないはずだ。」

 

あの紋様に込められていた術式は、

『一年毎に、刻み付けられた紋様が光る。』

という物だ。

昔は囚人に罪を忘れないように付ける物だったらしいが、それが今は幼心を持った吸血鬼に宿っているという訳だ。

多分、それでレミリアは満足するだろうし、ちょくちょく会いに行けば良いだろう。それか手紙でも残すか。

 

「何にしても、これで数年は安泰ね……。ありがとう。」

「ううん!楽しかったし、良かったよ!」

「出来ればもうやりたくはないが、な。」

 

燐乃亜の一言に場の雰囲気が和む。

明日だけは、レミリアの話を全部聞いてあげよう。

夢見る少女の夢物語を、笑わずに全部。

 

「メリークリスマス。」

 

誰かが、紅い館に向かって呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




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博麗霊夢は夢を見る。

今までの話のざっくりした視点交換です。
第一段、博麗霊夢編!どうぞ!


あの子が幻想郷に来たのは、真夏の事だった。

特に暑くも無かったが、私はぐだくだと過ぎる毎日を過ごしていた。のだが……。

 

その日は、とある妖怪が来た。魔理沙とお茶を飲んでいる所だったので話を聞くと、何やら人間が迷い込んでいるとの事だった。

正直、物凄く面倒だったけれど、行かない訳にもいかない。どうせ魔理沙がいるのだから、こき扱ってやろう。そう思って、神社を飛び出した。

 

その人間は、山の中腹にいた。魔理沙の弾幕に似た星が、日光に反射してキラキラしていた。その近く、木の上によじ登っていたのを覚えている。

何だか眩しくて、私は魔理沙に後を託した。一足先に神社に戻って、数分はそわそわしていた。

 

暫くして、境内に誰かが降り立った。まぁ、魔理沙なのに間違いは無いが、少し重々しい感じだ。

魔理沙が私を呼ぶので、残りの煎餅をくわえたままで外を覗いた。

 

やっぱりあの人間がいた。

今度は不思議と面倒では無くて、能力査定までした。紫を呼んでくる、と言い残して、アイツを探し回った。

幸いすぐに見つかって、神社まで連れていった。

――この時から、私は少し変わっていたらしい。

 

彼女は魅空羽といった。何だか珍しげな名前だったので、すぐに覚えられた。

いきなりの弾幕ごっこ。

才能を見せつけられて、つい本気で撃ってしまった事。

彼女が普通では無いのを知って、少し驚いた事。

でも……少し、ほんの少しだけ気になっていた事。

全て、鮮明に覚えている。

 

異変が起きたのは、魅空羽が泊まっていた日の朝だった。心配になって、彼女が寝泊まりしている紅魔館まで送ると言ったのだ。

魔理沙と一緒に飛行していたのだが、どうにも嫌な予感がして人里へ向かったのだ。

不審火だった。

一見すればただの火事、だがしかし犯行は夜中だ。普通に火を付けたのであれば、おそらくだが妹紅にバレそうな気がした。そんなのは置いておいて、ただの直感でもあったのだが。

 

慧音と議論を交わした夜、やはり浅い眠りだけが私を不快にさせた。少し外にでも、と思って体の向きを変えると……魔理沙がいなかった。

廊下から物音はしない、ということは外か?

そんなこんなでチラリと玄関から外を覗いた。

向こうに勢いを増す火が見えた。あそこに魔理沙、妹紅、そしてあの子がいる。

本来なら直ぐに行くべきだ。走っていって、助けになるべきなのだ。

まぁでも、そこは気持ちの問題と彼女らへの信頼だ。手早く服を着替えて、慧音――覚醒していた――を叩き起こした。

駆けつけた時には、魅空羽が意識も朦朧とした様子で、少し後悔した。消火活動を行っているのは二人だけ、魔理沙は何処かへ行っているようだった。

とりあえず慧音の貸した着物の襟を引っ張り、現場から遠ざける。

ほぼ同時に増援――アリス、チルノ、大妖精も駆けつけて、それ以上の被害は出なかった。後で妹紅から聞いたが、この時魅空羽は火種になりそうな物資を運び出していたんだそうだ。つくづくバカみたいだと思った反面、必死になれる彼女が羨ましくもあった。

 

後日の議論で、直感的に地底に行くことを決めると、咲夜と魅空羽がいた。炎を追ってきた、と半ば意味不明な説明に戸惑いつつ、縦穴へ。

 

勇義との無駄な戦闘の後、先に行った集団を追いかけた。

 

『霊夢ぅ!やけに早いな!?何かアテがあるのかーっ!?』

『無いわよ!んな物っ!』

 

何かと私の変化に敏感な魔理沙を、速度で引き離すのはほぼ不可能。とりあえず最大限無視を極め込んだ。

心配だったのだ。

何にせよ人間の彼女が、この旧地獄で死んでしまわないか。同行しているメンバーの内二人は、かなりの実力者。一人に至っては不死だというのに、胸騒ぎが止まらなかった。

けろっとしてアジトを突き止めていたときは、流石に恥ずかしくなった。特にウザかったのはやはり魔理沙だ。ニヤニヤしていたので、道中三回ほど蹴飛ばしてやった。

 

一回目の戦闘は、正体不明の爆発で妨害。

私たちは点でバラバラに地上へ逆戻り、だ。いくらなんでも、たかが爆発ごときであんな地底の奥地から地上戻るはずが無い。この時点で少し感付いてはいたが、色々あって忘れていた。

 

そして二回目の戦闘前。

紫から事情を聞いた。次代の夢の迷い人を育てる為に必要な事なのだ、と。

勿論、反対したかった。彼女が危険に晒される、そう思うだけでイヤになった。

他人の事なんて、どうでもいい筈なのに。

たかが一人の人間、たかが外来人なのに。

少し冷酷で、面倒を避けていた私が、何処かに行ってしまったようで……私は条件を呑んだ。

 

それからは、極力顔に出ないように振る舞った。藍が開けた大穴の上空に、藍が変装した偽黒幕――黒幕としては本物なのかもしれないが――が登場。

紫のシナリオ通りに進む出来事……そう、あくまでシナリオ。

なのに、私ときたら。

いつの間にか、全力で相手を潰す……そう考えていた。

 

――――――

 

「思い出すと……何も私らしく無かった、かな。」

「ん~?どうしたんだよ、いきなり。」

「へっ。あ、いや……別に。」

 

思わず顔を反らす。ふぅんと特に気にした様子も無く、また黙る魔理沙を横目に見る。

何だか微妙な気分だ。

こんなときに彼女がいたら……やっぱり思考が変だ。

一眠りしてみようか、そう思ったけれどその前に声が響いた。

 

「こんにちはーっ!」

「ちょ、ま、待って!転ぶっ転ぶからっ!」

「ははっ!魅空羽に燐乃亜じゃねえか!」

 

時刻、午前十一時。

今日も、彼女のせいで騒がしくなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 




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紅霧異変の夢を見る。――東方紅魔郷

第一夜

 

目を開けると、何だか不思議な所だった。

声を出そうとしてみても、喉からは掠れた息。コミュニケーションは諦めて、前に視線を戻す。

 

「おーい!●●~!よっ……と。」

「あぁ、●●●。どうしたのよ?」

「それは私がご説明しますよ、●●さん。」

「あー、あんたも居たのね。●。」

 

巫女服の女の子の前に、白黒の女の子が空中から降ってきた。

もうその時点で本来なら訳が分からないのだが、これは夢だ。楽しむことにしよう。

もう一人、カメラを持った個性的な格好の女の子がニコッと笑う。

 

「霧の湖はお分かりですね?」

「えぇ。あのバカみたいな妖精が棲んでる所よね。」

「あれはバカみたい、じゃなくてバカだろ。」

「はいはい。それでですね……」

「ん?何だ、写真?」

 

女の子は写真を取り出した。私もそっと近づく。

今更だが、私は実体化さえしていないようだ。これ幸いと、写真を覗き込む二人の間に滑り込む。

そこには、物凄く目に悪い紅い館があった。

 

「ありゃ?何だこれ……」

「妖精がまーた何かしら造ったとか?」

「いやぁ、それが違うみたいで……」

 

もう二枚写真を取り出した女の子は、説明を始めた。

 

この館――妖精によると、紅魔館というらしい――は、昨日の夜中にいきなり現れたらしい。

一枚目の写真に写っているのは、佇んで眠る赤髪の女性だった。どうやら門番のようだが、無防備なのに近づけないらしい。何かヤバい雰囲気(カメラ少女談)だそうだ。

二枚目の写真は、ズームインしたらしく少しボヤけている。白髪にメイド服を着た女性で、此方に目線が向いている……のは気のせいだと思いたい。なんと、写真を撮った直後にその女性が消え、悲鳴が聞こえたので全速力で逃げてきたという。

 

「何かもう色々ヤバいじゃないの……。」

「そうなんですよ●●さ~ん!」

「ほへぇ~。何だ、めっちゃ面白そうじゃねえか!」

「はい?●●●さん今何て!?」

「面白そうじゃねえか、その館!」

 

白黒少女は、そのままカメラ少女を引っ張って空へと飛び上がった。

 

―――――

 

第二夜

 

「さーてと……何か珍しい物があると良いんだがなぁ。こんな変な感じの夜に行くんだし、見返りは期待したいぜ……。」

 

白黒少女はお宝探し気分のようだ。

話は変わるが、さっきから白黒少女って何なんだろうか。呼びにくいので名前を考える事にした。

 

(魔理沙……かな。うん、そうしよ)

 

私はそう決めて、魔理沙の後を勝手に追う自分に任せて楽にした。暫く進むと、魔理沙の目の前に誰かが飛び出した。

 

「うがーっ!お前は食べていい人間?」

「違うね。それで?何でそんな手広げてるんだよ?」

「そーなのかー!」

「答えになってねぇぞ……っ!」

 

突如何かが飛び交う。よく見てみると、光る球のような物や光線などを、相手に向けて互いに飛ばし合っているようだ。

 

「"ムーンライトレイ"!」

「しゃーない。本気で行くぞ!」

 

魔理沙が一層加速する。さっきからスピードがあるなとは思っていたが、もう目で追うのがやっとだ。

 

「あわわ……"ディマーケイション"!!!」

「よし、行くぜッ!」

 

闇と光がぶつかり合って、紅くなった空が一瞬白んで見えた。

 

――――――

 

第三夜

 

「たまには夜も良いわねぇ~気持ちがいいわ。」

(あ、霊夢。……ん?)

 

名前が湧いて出てきた感じがした。もしかしたらこの子の本名なのかもしれないが。

 

霊夢は、霧の濃い湖へと飛んでいた。道中、ぶつぶつと呟いている。

 

「本当に……この霧、結界内で収まっていると良いんだけど……。うん、急がなきゃ。」

 

霊夢は茶色い髪を靡かせて、更に前へと進んだ。

 

「この湖、こんなに広かったかしら?もしかして私って、方向音痴?」

「みちにまようのがよーせいのしょい?なのよ。」

「あら、じゃあ案内してちょうだい?」

「むーっ。きょーてきのあたいをまえにしてずいぶんよゆーね!」

「標的の間違いじゃあないかしら?」

「こおりづけにしてやるっ!」

 

水色の女の子が叫ぶと、目の前が吹雪のようになった。それでも霊夢は怯まず、目の前に札を掲げて一直線に飛ばす。その華麗な姿に見惚れていると、水色の女の子が昨日の二人と同じように言った。

 

「くらえっ!"パーフェクトフリーズ"!」

「これで終わりよ。スペカを使うまでも無いわね。」

 

圧倒的な鮮光が、氷の礫を呑み込んだ。

 

――――――

 

第四夜

 

「くそっ、とりあえず逃げるぞ!」

「逃がすぜ。」

 

奇想天外に見えた魔理沙の発言から数分。あの女性にまた会った。

 

「あ、さっきはどうも」

「お久しぶりなのぜ」

「って、いつから私達知り合いになったんです?!」

「さっきだろ?」

「はあぁ~……何か変な人と会っちゃったなぁ。」

「とりあえず、そこは退いてもらうぜっ!」

 

鮮やかな光と蛍光色の星が、戦場を照らし出す。遇に女性が吼える。それに応えるように勢いの増す弾を魔理沙はひょいひょい避けていく。

 

「決めさせて頂きます!"彩光乱舞"ッ!」

「よっしゃ行くぞ!"マスター……スパーク"!!!」

 

光と光、また意識が引き戻される寸前。見えたのは、燃えるように赤い髪の陰で揺れる、見開かれた瞳だった。

 

――――――

 

第五夜

 

霊夢は館の中へと足を進めていた。律儀に玄関から入ったのか、目の前には人影が一つ。

 

「全く……掃除が進まないでしょう?邪魔しないでよ。」

「貴女はここの主人……では無さそうね。」

「こんな時にお客様?通さないわよ。お嬢様に客なんて滅多に来ないもの。」

「貴女でもいいわ。この霧、迷惑だから止めてくれないかしら?」

「私に言われましても。」

「ならお嬢様を呼んできなさいよ。」

「会わせないわ。時を止めてでも時間を稼ぐ。」

 

銀色の刃がが紅い月光に煌めく。女の右手が閃くと同時に、霊夢が真横に飛び退く。カーペットが瞬く間に、ナイフだらけになった。

時を止めてでも、というのは冗談では無いらしく、時々ナイフが唐突に宙へ現れる。それでも霊夢は、一本も喰らう事無く、あるナイフを弾き、あるナイフを砕いた。

 

勝負は長引いたが、ある札が女の左手を捕らえた。ピシリと音を発てるように、女の動きが殆ど止まる。

 

「くっ……"殺人ドール"!」

「無駄よ。"夢想封印"!」

 

苦し紛れのナイフ達を、一筋の光となった霊夢が一閃した。

 

――――――

 

第六夜

 

「さぁて、窓から入ったは良いんだがなぁ……何処なんだ此処は?」

 

どうやら魔理沙は、どさくさ紛れに窓から入り込んだようだ。暗い廊下をそろそろと歩いている。

大きなドアを通ると、最早恐ろしい規模の図書館だった。

 

「おぉ……本がいっぱいだな。後で貰っていこう。」

「持っていかないで。」

「持ってくぜ。」

「人間の消去法は……」

「おっ。勝負といくか!」

 

ここまでの戦闘で、少し自信が付いたのか、魔理沙は口元を緩めた。

が、それも束の間。囁くような詠唱と共に、目の前が光で埋め尽くされる。今までの相手など、足下にも及ばない。

 

「――ッ!?」

「そうね。貴女を採れば、少しは健康になれるかしら。」

 

女の子の持つ本が、紫の髪の女の子が、薄く赤く光る。

炎の球が物凄い勢いで飛びかかってくる。思わず悲鳴を上げるが、相変わらず掠れた息だけが私にだけ聞こえる。ふと光の線が、それこそ光の速度で描かれた。

 

一方的な攻撃の連続を、高速、光速で避けていく魔理沙。少し顔を歪めながら、女の子が書物を変えた。

その隙を彼女は見逃さなかった。

 

「"スターダストレヴァリエ"ッ!!!」

「"エメラルド……」

 

魔理沙の方が一瞬早く、星の輪を展開した。女の子は一瞬にして見えなくなり、魔理沙が近づいた時には床に倒れ伏せていた。

 

「……魔法が得意みたいだな?まだ何か隠し持ってねぇか?」

「病弱、なのよ。」

 

魔理沙は攻撃手段を無くした女の子に肩を貸して、近くの椅子へと座らせた。すぐに立ち去った先には、階段が在った。

 

――――――

 

第七夜

 

ボロボロになったメイドが、部屋の隅に叩きつけられている。霊夢は、それを安堵の表情で一瞬見つめた。

 

「そろそろ姿現しても良いんじゃない?」

「……やっぱり人間は戦力にならないわね。」

「あ、人間だったのね。あのメイド」

 

それには私も同感だ。時を止められる人間メイドが何処にいるものか。……それ以前に空を飛んでいる人間は、目の前にいるかもしれないが。

 

「ふふっ。こんなに月も紅いから、本気で殺すわよ。」

「……こんなに月も紅いのに」

「「楽しい(永い)夜になりそうね」」

 

もうそこからは本当に人間の域では無かった。言い表せない程の、えげつない量の弾。それを霊夢が次々と避けていく。目まぐるしくパターンの変わるそれに、霊夢は順応していった。

 

「これで最後よ!"紅色の幻想郷"ッ!!!」

「させないわ!"封魔陣"ッ!!!」

 

これまでの光など比べ物にならない。

もっと大きく、果てない光。

私の耳に焼き付いたのは、"幻想郷"という響きだった。

 

―――――――

 

第八夜

 

「わっ。揺れたなぁ……もしかして霊夢が?まぁいいか」

 

先の見えない階段を降りていく。時系列としては、霊夢がお嬢様を倒し終わったくらいなのだろう。何にせよ、あれで終わらなかったこの夢に、私は少し驚いている。

 

「待ちなさい!その先は今危険よ!」

「うおっ!……お前か。てか、さっきは止めなかっただろ?」

「今さっき危険になったの!」

「意味が分からん。病み上がりに攻撃する趣味は無いんだ。大人しくしててくれよ~」

「……。この人間なら、あるいは……」

 

紫の女の子は、そのまま階段を上がって行った。不思議そうな顔をしている魔理沙は、そのまま階段を降りていく。

 

暫くして、階段に終わり……正確には部屋の扉が見えた。まぁ、真ん中が大破しているので、扉とは言い難い見た目なのだが、きっと扉だったのだ。

 

「……あら、いつもお姉様と話してる人間じゃない。」

「お姉様?妹か?」

「私、495年此所で休んでいたの。」

 

金髪の女の子は、虚ろな瞳で微笑んで言った。

 

「一緒に遊んでくれるの?」

「いくら出す?」

「コインいっこ。」

「一個じゃ、人命も買えないぜ。」

「あなたがコンティニュー出来ないのさ!」

 

大きく見開かれた瞳は、さっきまでの月のように、紅く、そして哀しかった。

 

―――――――

 

「う、ん……。あー、良いとこだったのに。」

 

目が覚めてしまった。もう一度寝直す訳にもいかないので、私――如月魅空羽は登校準備を始めた。

 

 




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春雪異変の夢を見る。――東方妖々夢

今度は妖々夢です。
プリズムリバーは分けました。


第一夜

 

降りゆく雪。炬燵に二人の少女。

 

前回の夢とは季節感が違うようだなぁ、と思いながら耳を澄ませる。

 

「なぁ霊夢~。おかしいとは思わないか?」

「……思うわよ。ただ、少し様子を見てただけ。」

「そうか。……ま、今日はお暇するぜ。」

 

魔理沙が箒を手に取り、帽子を深く被った。すると、鳥居の方から神社特有の石畳の足音がした。

 

二人が顔を上げて、見合わせる。足音は近づいてきて、ついに姿を現した。

 

「あら、魔理沙も居たのね。丁度良かったわ。」

「んー今から帰る所だったんだがなぁ……まぁいいか。んで、館のメイド長さんが何の用だ?」

「……二人とも気づいているのよね?」

「ん、まぁな~。」

「そうね、気づいてはいるわよ。だから何?」

 

何が起きているのかは分からないが、あのメイド……紅魔館にて霊夢と乱闘を繰り広げていた、女性のようだ。この様子だと、意外と上手くやっているようだなぁと思っていると、魔理沙が深く呟いた。

 

「もう四月……だもんな。」

「えぇ。何でかしらね。」

「……館の備蓄が無くなるのよ。この様子じゃ、貴女達に任せてられないわね。」

 

呆れたようなメイドは、そのまま足早に立ち去った。残った魔理沙は解せぬ表情で問った。

 

「ったく咲夜は、時なんか止められるのに、何であんなにせっかちなんだろうな……。」

「忠誠心とかいうやつでしょ。私には解らないわね」

「……ふぅん。じゃ、またな!」

 

魔理沙はそのまま箒に跨がると、遠くの方へと飛んでいった。

一人残された霊夢は、面倒そうに呟いた。

 

「そろそろ、かしらね。」

 

――――――

 

第二夜

 

肌寒い空の上、メイド服にマフラーをした咲夜が(どういう原理かは知らないが)飛んでいた。

 

時々浮かれた妖精共が襲ってくるのたが、鋭いナイフに貫かれて爆散する。

 

辺りがまた静かになって、吐き捨てるように咲夜が言い放つ。

 

「あぁもう、こんな雑魚倒しても何にもならないわ!さっさと黒幕の登場願いたいものだわ。」

「くろまくで~す♪」

 

茶化すように飛び出してきた氷っぽい妖精。が、今の咲夜に冗談は通じない。眼光を一層鋭くした咲夜は、淡々と言った。

 

「あなたが黒幕ね。それじゃ早速」

「ちょっと待って!私は黒幕だけど、普通よ。」

「黒幕に普通も何も無いわ。今何が起きているのか、分かっているの?」

「雪の結晶が大きいわね。それと……頭のおかしいメイドが空を飛んでいるくらいかしら。」

「そう。やっぱりあなたが黒幕ね。」

 

咲夜がナイフを投擲。一瞬にて闘いが始まった。この戦闘も見慣れたものだが、何を競っているのだろうか。

 

優雅さ?避けにくさ?俊敏さ?

案外どれもしっくり来るので、困る。

 

「あ、ヤバい。"テーブルターニング"!」

「……散りなさい。」

 

時を止め、丹念に配置したのだろう。数える気にもならないナイフの群れが、黒幕(?)目掛けて飛んでいった。

 

悲鳴が響く中で、咲夜はしれっと呟いた。

 

「黒幕、弱いなぁ。次の黒幕でも、探さないとね。」

 

――――――

 

第三夜

 

霊夢も何だかんだ言って、勢い増す雪の中を一直線に飛んでいた。前方に霞む敵を叩き落としながら、脇目も振らずに加速する。

 

「あら。こんな所に家なんてあったかしら?」

「ここに来たら最後!」

「最後?」

 

猫耳に二又の尻尾。幼そうな女の子が霊夢に向かって言い放つ。霊夢はあまり驚かずに首を傾げた。

 

「それはさておき、迷い家へようこそ。」

「で、何が最後?」

「迷い込んだら最後、二度と戻れないわ。」

 

ぽかーんと口を開ける私とは違って、霊夢は大して気にする様子も無い。

 

「そう。あ、迷い家の物を持ち帰ると幸運になれるらしいわね……。よし、略奪開始~。」

「何ですって?ここは私達の家よ。人間は出てって。」

「二度と戻れないわ。……は、どうなったのよ?」

 

戦闘が始まった。幼稚な見た目と裏腹に、知識はそれなりにあるようだ。次から次へと弾が放たれていく。

 

「出てってば!"鬼門金神"っ!」

「煩いわねぇ。はっ!」

 

薄い赤に発光する札を叩きつける霊夢。さすがの猫耳ちゃん(仮)も、その場から消え去った。

何か思うところがあるのか、霊夢は少し考え込んでいたが、すっくと立ち上がった。

 

「とりあえず……身近な軽い日用品でも探しましょ。」

 

誤魔化すようにそう言った霊夢だったが、ものの数分で飛び立っていった。

 

―――――

 

第四夜

 

相変わらず涼しげな空を、箒に跨がって飛んでいる魔理沙。ポケットから取り出したのは、一枚の桜の花弁だった。

その表情に暗さは無く、どちらかといえばまだ見えぬ春に、ワクワクしているようだ。

 

「……何つーか、心地いいな。」

「こんな殺伐とした夜が良いのかしら?」

「良いんだよ。」

 

金髪の少女は、どことなく冷たい瞳で魔理沙を見つめている。顔見知りのようで、魔理沙も素っ気なく返す。

 

「所詮、貴女は野魔法使いね。」

「温室魔法使いよりは良くないか?」

「私は都会派魔法使いよ。」

「へぇ、辺境へようこそだな。」

「田舎の冬は寒いのねぇ。」

「誰の所為でこんな吹雪に遭ってるんだか。」

「ちなみに私の所為では無いわ。」

 

二人の目線がぶつかり合う。

……決して、運命の出会いでは、無い。

 

「そうか。でも、なけなしの春くらいは持ってそうだな。」

「私も、あんたのなけなしの春くらいを頂こうかしら?」

 

人形のような少女は少し皮肉めいた笑みを浮かべて、見えない糸を操るように手を動かした。魔理沙が姿勢を低くする。

 

「"博愛の仏蘭西人形"。上海!」

「っ!行くぜ……っ!」

 

リボンを付けた人形が少女の周りを取り囲み、赤い弾を散らす。辺りは一瞬にして、明るく照らし出された。

魔理沙は心なしかいつもより真剣な瞳で、それでも笑みを絶やさずにそれを避け続ける。

 

パターンはどんどん変わっていき、人形の数も増えていく。魔理沙の余裕が消えることは無かった。

 

「くっ……"首吊り蓬来人形"。行きなさい!!!」

「まとめて吹っ飛ばす!"スターダストレヴァリエ"!」

 

小さな人形達は、驚異の火力には耐えられずに散った。少女もまた宙へと舞って、魔理沙の腕の中へと落ちた。

 

「普通の人間は外に出ない季節なんだぜ?」

「……普通の人間と一緒にしないで。」

「異常な人間か?」

「普通の人間以外!!!」

 

何だかんだ言って仲良さげな二人を見つめ、少し切なくなった。雪はまだ、止まないようだ。

 

――――――

 

第五夜

 

咲夜は相変わらず上空を突き進んでいた。目的地が分かっているのだろうか、もしかしたら時を止めて地図を見ているのかも……上空に地図は無いか。

 

相変わらず厳しい表情のメイドは、忠誠心を糧にスピードを緩めない。本当に人間なのか?いや、咲夜に限ったことでは無いのだが。

 

「上空の方が暖かいのね……。」

「本当ねぇ。この雲の下は猛吹雪だっていうのに。」

「ここはどこ?それと、あなたは誰かしら?」

「質問は一つずつにして。」

「そうねぇ。じゃあ、貴女は凄いの?」

「物凄く普通よ。どうでもいいけど、貴女は誰?」

「風上を目指していたら、ここに辿り着いただけよ。風は此所で淀んでいるみたいだし。」

「うーん……宴にはまだ早いけど、前夜祭といきましょうか!」

 

金管の音が鳴り響くと、波紋のように弾が広がった。咲夜は器用に弾を避けると、ナイフを投げる。

ここから……夢の中からでは、あの音に何か意味があるようには思えないのだが、きっと何かがあるのだろう。

 

「むぅ……"ゴーストクリフォード"!」

「"殺人ドール"。……時よ止まれ。」

 

私に時の狭間を覗く事は出来なかったが、刹那にしてナイフは並び、そして突き刺さった。

 

目の前には大きな扉があったが、咲夜は何か考えて、消えた。時空を飛び越えた彼女のそれからの経緯は分からないが、その後の夢で会うことは無かった。

 

―――――――

 

第六夜

 

霊夢は、昨日と同じ風景の中にいた。違うのは目の前にいる少女だろうか。今回は黒かった。

 

「どうして雲の上まで桜が舞ってるのよ?……誰か答えてくれないのかしら」

「ほら、きっとあれよ。気圧が、下がる。」

「テンションも下がりそうね。」

「……。」

「この扉の先に用があるの。帰らないわよ。」

「貴女はお呼びでない。雑音は排除するまで。」

 

バイオリンがメロディを奏で始める。一瞬顔をしかめた霊夢だったが、すぐに針を投擲し始めた。

 

「"スードストラディバリウス"!」

「……"夢想封印 集"ッ!」

 

辺りが瞬間的にして光に呑まれる。霊夢は何かバリアらしきものに触れて、難なく通り抜けていった。

 

――――――

 

第七夜

 

魔理沙はそのバリアに触れて、軽く唸っていた。時系列としては、もしかしたら霊夢よりも先かもしれないが。

 

「この結界は凄いな。素人には何が何だか……」

「えへへ、企業秘密~。」

「どうでもいいけど、お前は誰だ?」

「どうでもいいじゃん。」

「あぁ、そうだな。どうせ、倒せば扉も開くだろ。」

「よーし、たまにはソロで行くぞ~!」

 

鍵盤の上を滑らかに少女の指が動いていく。魔理沙は素早く弾の隙間をすり抜けていくと、次々と弾を当てていく。

 

「うぅ……"ベーゼンドルファー神奏"!!!」

「"ファイナルスパーク"!」

 

何のタメも無く発射された光線は、小さなピアニストの身体を直ぐ様消滅させた。

 

魔理沙が、扉の上を越えていく事に気づいたのは、それから数分もしない頃だった。

 

―――――――

 

第八夜

 

二夜連続であの魔法使いは私の夢に現れた。大階段を律儀に上りきり、更に街並みが見えてきた。その奥には、七分咲きといったところの桜の大樹。

 

「大分暖かくなってきたな。」

「霊達が騒がしいと思ったら、生きた人間だったのね」

「私が死体なら騒がないのか?」

「騒がない。人間がここ冥界に来ることはそれ自体が死のはずだから。」

「私はきっと生きてるぜ。」

 

魔理沙の暢気な様子に、厳格な表情をより深める少女。緑色の服に黒いリボンを結んだ白髪のボブカット。何より印象的なのは、腰に提げた二振りの剣だ。……ふよふよとした白い気体も気になるには気になるが。

大人びた口調で、微笑を浮かべた少女が言い放つ。

 

「貴女はその結界を自分で越えてきた。その愚かさに霊が騒がしくもなるわ。」

「で、ここは暖かくていいな。」

「それはもう、幻想郷中の春が集まったからね。普通の桜は満開以上に満開よ。」

「死体が優雅にお花見とは洒落てるな。」

「それでも……西行妖にはまだ足りない。」

 

途端に、少女は唇を噛んで悔しさを露にする。魔理沙はキョトンとして訊ねた。

 

「さいぎょうあやかし?」

「うちの自慢の妖怪桜よ。」

「それは見てみたい気もするな。」

「あとほんの微かの春が、満開を一押しするってものよ」

「だが、せっかく集めた春を渡すわけは無いんだぜ。」

「……妖怪が鍛えたこの楼観剣に、斬れぬものなど殆ど無い!」

 

長い方の剣を抜剣した少女は、魔理沙に協力する意志が無いことを悟って、斬りかかった。

 

決め台詞は冗談では無いらしく、街並みが少しずつ崩れていく。

魔理沙も驚きを隠せないようで、スレスレの所で斬撃を避けていく。

 

今度は魔理沙が小さなボムのような物をばら撒く。それを少女は剣を高速で閃かせ、一つずつ切り裂いた。

もう一本の剣を抜いて、目の前で翳して少女が叫ぶ。

 

「"三魂七魄"ッ!!!はあぁぁぁッ!!!」

 

砂煙が上がる。少女に少し余裕が見えた気がして、私は気が気で無くなった。

もし、魔理沙が斬られていたら……。

思わず両手を握り締めた、その時だった。相変わらず舞い続ける煙の中に、チラリと光が見えた。

 

「"マスター……」

「――ッ!!?」

「スパーク"ッ!!!」

 

猛スピードで飛び出してきた影は、後ろに牽いていた虹色の光線を真っ直ぐと少女に向けた。

驚愕の色に染まる少女の顔は、直後苦痛に歪み見えなくなった。

 

薄れ行く視界の中で、魔理沙が煙を上げる機械に優しく息を吹きかけていた。

 

―――――

 

第九夜

 

「ああもう!死霊ばっかでうんざりよ!」

「勝手に人の庭に乗り込んできて、文句ばかり言うなんてね。」

「ッ!?」

 

桃色の髪がフワフワしたフリルのワンピースと共に、風に揺れていた。手には扇を持って、目を細めている。

一見すれば無防備なのに、身構えてしまう雰囲気。

ただ者ではないのだろう、先程まで適当にしていた霊夢が鋭い目付きになった。

 

「少し礼儀がなってないんじゃないかしら?まぁ、うちは死霊ばっかりだけど。」

「さて、用件は何だったかしらね?見事な桜に見とれてたわ。」

「お花見かしら?場所は割と空いてるわよ。」

「あぁ、そう?じゃ、お花見でもしていこうかしら?」

「でも、貴女はお呼びでない。」

 

「そうそう、思い出したわ。」

「何かしら?」

「私はうちの神社の桜でお花見をするのよ。」

「……。」

 

今度こそ険悪な雰囲気が張り詰める。恐怖に怯えているのは私だけだが、二人が超人なだけだろう。

 

「そんなわけだから、見事な桜だけど。集めた春を返してくれる?」

「もう少しなのよ。もう少しで西行妖が満開になる。この程度の春じゃ、この封印は解けないのよ。」

「わざわざ封印してあるんだから、解かない方が良いんじゃない?」

「結界を越えてきた貴女が言うことかしら。」

「さて、冗談はこれくらいにして。

 

……幻想郷の春を返して貰えるかしら?」

「最初からそう言えば良いのに。」

「最初くらいに言った。」

「最後の詰めが肝心なの。」

 

「花の下に還るがいいわ、春の亡霊!」

「花の下で眠るがいいわ、紅白の蝶!」

 

響いた声と共に、蝶が舞う。光が翔ぶ。

 

私には判らない次元で、闘いが繰り広げられる。かろうじて分かるのは、霊夢が圧され気味という事くらいだった。

 

が、それも覆る事になるのだから、もう何も分からない。

 

霊夢は強いんだろうな、と分かりきった事を考えていた時だった。明らかに主導権が霊夢に移った、気がした。

 

慌てて目を凝らすと、虹色に不規則に変色するドームが出来上がっていた。

 

「"封魔陣"ッ!!!」

「"反魂鏡"ッ!!!」

 

ほぼ同時の宣言でパターンが浮かび上がる。

霊夢の押さえつけるような攻撃の嵐に、やがて女の子は諦めたように微笑んだ。

 

意識が光の中へと堕ちていく。

充実した九日間だったと思う。

 

 

 

 




ありがとうございました!

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活動報告の方、まだまだ募集しています。

テスト前になったので、投稿は出来ないかも。


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博麗霊夢と夢を見る。

暫くは陰陽玉の方を連載していきます。すみません。

ネタの方があれば、活動報告にお願いいたします。


「おはよう……霊夢、起きてる?」

「えぇ。上がって来なさい」

「わ、ありがとう。お邪魔するね」

 

 博麗神社、時刻は午前10時。いきなり登場した私を、霊夢は驚きもせずに迎え入れてくれた。

 靴を脱いで上がり込むと、美味しそうな香りがする。

 

 とりあえず座って待っていると、霊夢が朝ごはんを持って出てきた。

 

「おはよう、魅空羽。今日は?」

「あ、自分で来たかな。紫さんには、呼ばれてないと思う。」

「……じゃあ、暇かしら?」

「えっ?うん、多分」

「そう……。」

 

 ちょっぴり意味の分からない質問に、首を傾げること数秒。もしかして、と霊夢に言う。

 

「私と何かしたいの?」

「ふぇあっ?!」

 

 何だか凄く可愛らしい声がした。私が男なら惚れかねない表情に、慌てて言葉を続ける。

 

「いいよ!やろう、霊夢の好きなこと!」

「え?で、でも」

「いいの!一日くらい、霊夢とも話してみたいでしょ?」

「う、うん……。ありがとう。」

 

 本当に可愛い、可愛すぎる。抱き締めたくなるレベルの可愛さだ。恥ずかしさを紛らわす様に、味噌汁を勢いよく煽る霊夢の横顔を、暫しの間見つめていた。

 

「ぷはぁ……待ってて。着替えてくるから。」

「うん!じゃあ外で待ってるよ。」

「分かった。」

 

 何だか女子みたいだな、ストラップシューズを履きながらそう思った。

 

 確かに私も霊夢も、れっきとした女の子ではある。

 だが、ここまでの生活でそれを感じたことがあったかと言われれば、否だ。

 

 そこまで考えて、自分はこれまで霊夢の事をどう見ていたのかという疑問が生まれる。

 

超人?まぁ、強ち間違ってはいない。

巫女?確かにそうではあるけれど。

強者?……そうだ。

 

 私よりもずっと強く、とても格好いい。それが霊夢のイメージだったのだ。

 

だったら……

 

「お待たせ……うわっ!?」

「れーいむっ!今日は楽しもうね♪」

「わわわ分かったから!ちょっ、離してよ~!」

 

――このイメージをぶち壊してみる。

 

そんな一日にしようと、私は思った。

 

――――――

 

「さて……本当に何も決めてないのよね。どうしましょうか?」

「うーん、それを言われるとどうにもなぁ。」

「「……。」」

 

 開始早々、目的に行き詰まった。人里に着いたは良いのだが……。

 

「ん?お、博麗じゃないか!」

「その呼び方止めない?……慧音」

「あはは、こんにちは~」

 

 慧音が寺子屋の戸を開けて、此方に声をかけてきた。霊夢と近づいていくと、微かに子供たちの声がした。

 

「あれ?今日って土曜よね?」

「授業、あるんですか?」

「月一日の土曜授業だ。まだ登校していない生徒もいるが……」

 

「ひゃっはーーーーー!!!すたっ。あたい、とーちゃくっ!」

「え、チルノちゃん。遅刻してきたのにそれは無いって……」

 

 上空からダイブ、一回転して着地したチルノは胸を張り、その後ろから大ちゃんがフワリと降りてくる。

 なるほどコイツらか、と言いたげな霊夢を横目に、私も全く同じ事を考えていた。

 

「おはよう、チルノ。荷物を置いたら職員室に……いや、今すぐ入れ。」

「はぁい……。」

 

 笑顔で言い放つ慧音に抗う余地は無い。

 壮絶な雰囲気に対して、私たちは二人して吹き出してしまった。

 

――――――

 

「人里って大きいよね……。」

「そうねぇ。端から端まで、なんて歩く気にもならないわ。」

「あ、じゃあそれにしよっか!今日の目的!」

「分かった。じゃあ行きましょ。」

 

そんなこんなで、今日の目的は、人里巡りになった。

 

 まず最初に立ち寄ったのは、呉服屋だった。私に着物を着てほしいと、霊夢が言ったからだ。

 なので私からも、少しお願いしてみる。

 

「ねぇ。霊夢は巫女服以外着ないの?」

「うーん……あまり着たこと無いかもね。」

「じゃあお揃いにしようそうしよう!」

「こう話してみると、魅空羽って何か安直よねぇ。」

 

 呆れたような目をしながらも、OKしてくれた霊夢を連れて、店内へと進む。

 そして、水色にパステルカラーの星が散りばめてある私の着物と、ピンクにパステルカラーの華が散りばめてある霊夢の着物を買った。

 

 霊夢の手を引いて店を出ると、すぐの甘味屋に見覚えのあるエメラルドグリーンの髪を見つけた。

 手にした団子を頬張って、顔を綻ばせている。それ故に周りへの関心が疎かだ。

 

則ち、これはチャンスだ。

 

 別に急襲して傷を付けるとか、そういった物騒な話では無く、あくまで女子同士の戯れとして、だ。

 霊夢と顔を見合わせて、コクりと頷き合う。そろりと近づいて、早苗が怪我をしないようにタイミングを見計らう。

 

……今だ。

 

「「わぁっ!」」

「ぴゃああぁっ!!?」

「……あはははは!!!」

「さ、早苗。あんた……ふふっ」

「ひ、酷いじゃないですかぁ!」

 

 予想を遥かに超えた悲鳴に、一頻り笑う。

 ぷくっと頬を膨らませた早苗、それを見て控えめながら肩を震わせる霊夢。

 

 そういえば、霊夢が笑っているのは珍しいかもしれない。まぁ私が覚えていないだけなんだろうが。

 

「むぅ~……ほ、ほら!二人とも座って下さい!」

「あはは。はーい♪」

「全く……お昼前なのに?」

 

 ぼやく霊夢はさておいて、早苗は頼んでいた団子を二本渡してきた。それを並んで腰かけ、戴いてから、粗方機嫌の直った早苗に提案する。

 

「ねぇ。お団子食べてた所悪いんだけど、お昼一緒にどうかな?」

「ホントですか?!是非!」

 

 ということで、巫女に挟まれて近くの定食屋へと赴く。軽く雑談しながら腹を満たす事にした。

 

―――――――

 

「人里巡りですか……やったことないですけど、ステキですね!」

「……早苗も一緒に来る?」

「え、えっ!?れれれ霊夢さんホントですかっ」

「何よ。行かないの?」

「是非とも!この東風谷早苗、行かせていただきます!」

 

 一人増えて賑やかになった私達は、人里の端目指して、また歩き始めた。

 霊夢と一緒に居るのが、よっぽど珍しいのか、道行く人達が次々視線を向けてくる。が、さほど気にした様子も無く、霊夢と早苗は色々な店を教えてくれた。

 

 雑貨屋、鍛冶屋、質屋、道場などと、中には紅魔館御用達といった看板まであった。随分種類が豊富だなぁと思いながら、てくてくと歩いていく。

 

 と、入口と似たような門が見えてきた。だんだん日も落ちてきたようで、揃って西日に目を細める。

 人里を出ると、早苗は妖怪の山の方へ歩いていった。早苗の住んでいる神社は、なんとその上なのだと言う。

 

ふと、自分も自分で、時間が残されていないことに気づいた。慌てて霊夢を振り返ると、穏やかな笑みを浮かべていた。少し切なそうな瞳を覗くようにして、声をかける。

 

「えっと……今日は」

「今日は、ありがとね。付き合ってくれて。」

「……ううん。此方こそ、楽しかったよ!」

「じゃあ、ね。」

「ふふっ。近いうちに、また来ます♪」

「……えぇ♪」

 

今度こそ満面の笑みを浮かべた霊夢を、最後まで焼きつけておこうと、私は目を開いていた。

 

 

 

 




ありがとうございました!

感想等お願いいたします!

東方陰陽玉の方も閲覧可能にしますので、どうぞよろしくお願いいたします!


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八雲藍は夢を見る。―まだ見ぬ星を見上げて

番外編の短編を書くにあたって、とりあえず予告を。

短編にするので、もう少し遅くなる予定です(T-T)
一区切りつく感じ、ですかね。


 夢の迷い人に、選考基準は無い。

そもそも選ぶのは誰でもないのだから、当たり前だ。

 

 

 だが――

 いや、だからこそ、この一年間は凄まじいモノだった。

 

 夏のとある朝。

 彼女は、妖怪の山に降り立った。それに気づいた妖怪が、霊夢と魔理沙を山へ向かわせたのだ。その時、彼女に魔理沙が気づき、予想通りに、博麗神社へと連れてきた。

 

 それからの彼女の行動も、ある意味異例だったといえる。

 いきなり紅魔館にて、スカーレット姉妹と戦闘。その後は、至って親しげな様子が見受けられたが、そもそも生きていたのが驚きだ。

 次に向かったのが、これまた驚きの冥界である。紅魔からの付き添いもあったが、終始危なっかしかったので、何度も声をあげそうになった。

 もうその先は色々あった、としか言い様がない。

 次代の迷い人が現れるというのは、かなり異例だったし、異変の元凶になるなど……まぁそれは割かし私の仕業なのだが。

 

 

 その点で言うと、冬に訪れた彼女もなかなかのモノだった。

 いきなり無縁塚に現れた時はハラハラしたが、すぐに捜索が完了。恒例(?)の挨拶回りに送り出して、後は個人的に色々あったらしい。年を越す頃には、前代の迷い人を捜したいと言っていた、すぐ傍に居るのに。

 その後、フランドールが暴走したという話が流れてきた。彼女は魔理沙とすぐさま紅魔館へと向かい、その惨状に深く感じ、前代の迷い人と共に解決してみせた。

 これは彼女達の知らない話だが、あれから幻想郷全体でも、夢の迷い人が深く認知されるようになった。ただ、幻想郷に居られる時間は区々なので、次代の迷い人は一日限りで帰ってしまった。まぁ、妖怪に喰い殺される寸前だったというので、幸運だったかもしれない。一夜限りの悪夢では、相手方も何ら変わりなかっただろうし。

 

「……藍?」

 

 思考が脱線に脱線を繰り返していた。すみません、と一言謝る。紫様は頷くと、話を続けた。内容から察するに、さほど聞き逃してはいないようだ。

 

「紫様。予兆があるのは解りましたが……どうするのですか?」

「……どうしようも無い、かしらね。」

「と、いいますと?」

「こう言うも何も、元々やることなんて無いわよ。例え相手が、どんな状況であっても……ね。」

 

 紫様は、とても苦しげな笑みを浮かべた。それは手に取るように分かるのに、その奥にある情報が読み取れない。私は、彼女の式なのだ。しっかりしなくては。

 

「紫様。何でも、お申し付け下さい。八雲藍、この身が朽ち果てようと、成し遂げてみせますから。」

「式が朽ち果てたら、どうなるのかしらね?」

 

 優雅な仕草で、くすくすと笑う。子供らしくて、どこか儚い。そんな主のために、今日も私は動くのだ。

 

「……乾杯しましょう。次代の夢の迷い人に。」

「はい、紫様。」

 

 けれど、もしこの場に彼女達が居たら、なんて考える私は、式として少しおかしいのかもしれない。

 けれど、今は素直に、あの星の輝きが恋しかった。

 

「彼女達は、来てくれるでしょうか?」

「さぁ、分からないわ。彼女にどれだけ時間があるのか……」

 

 

 




ありがとうございました!

感想等(こんな短いものですが)お願いいたします!


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短編 明日の暁―とある迷い人の夢

お待たせしました!

舞台は本編から一年後!(多分)

森近未来禍の物語、どうぞ!
(短編初挑戦なので、暖かく見てくださいね)


 幻想郷には、一人の少女が住んでいる。

 

 瞳に湛える灯は、夢見る幼子のまま。

 

 家族の帰りを待つ、あの日の雨を見つめながら。

 

―――1―――

 

「あーいてーるぜー?」

「此所の店主は僕だろ……?」

 

 響くノックの音に暢気に答える魔理沙。それを苦笑いで咎める霖之介。いつものやり取りだが、今日は普通ではなかった。

 

 その少女は、外の雨でずぶ濡れになりそれでいて無表情だった。

 魔理沙はうわぁ、と言った限り何も出来ずにいる。

 霖乃介は慌てて奥からタオルケットを持ってくると、少女を招き入れた。そして、少し躊躇った後、魔理沙と一緒に奥の部屋に通した。

 魔理沙の行動も迅速で、数分後、少女はしっかり乾いて出てきた。ついでに髪に三つ編みが増えたのは触れないでおこう。

 

「えーと……お前名前は?」

「……?」

「どっから来たんだ?」

「……?」

「こーりん、宇宙人とテレパスする機械無いか?」

「そんなわけないだろう」

「ちぇっ、もう少しノってくれたって良いじゃんかぁ」

 

 魔理沙が目を離した隙に、少女は店内を歩きはじめた。霖乃介も仕方なく席を立ち、少女の覗きこむ所へ行く。少女は一つの小さな箱を手に取っていた。

 

「えぇと、それは"オルゴール"だね。」

 

 霖乃介が半自動的に説明をしようとすると、まるで何もかも知っているような手つきで、少女はオルゴールを鳴らしてみせた。

 魔理沙もこれには驚いて、目を輝かせた。

 

「驚いたな。どっかの魔法使いは、いくらやっても……」

「使い方教えてもらえるのと使えるのは違うんだよ!」

 

 ムッとしたような魔理沙の隣で、少女は初めて笑顔を見せた。とても可愛らしいその様子に、魔理沙は心惹かれて言った。

 

「なぁこーりん。名前、つけてあげろよ。」

「えぇ?何でいきなり」

「仮だよ、仮。ほら、何にする?」

 

 いきなり話を、しかも無理難題を吹っ掛けられた霖乃介は暫し考えると、口を開いた。

 

「未来禍。とかどうだい?」

「アスカか。いいな!そんじゃアスカ、宜しくな!」

「……よろしく?」

「おぉっ!喋った!」

「……失礼な。」

「はははっ!すまんすまん……」

 

 ん、と片手を差し出した魔理沙に、未来禍も握手で応えた。相変わらず苦笑混じりだが、それでも受け入れたような霖乃介。

 色白な右手を、同じく右手で勢いよく振り回していた魔理沙だったが、ふとその手を止めて、今気づいたように言った。

 

「そうだ、霊夢ん所にでも連れていかねぇとな。」

「それなら早く行ってきた方がいいんじゃないかい?随分日も落ちてきたし、何より、アスカが人里の子だった時に困るだろう。」

「おう、そーするぜ。行くぞアスカ!」

「……分かった。」

 

 小さく頷いた少女・アスカは、魔理沙の箒の後ろへと躊躇無く座った。脇の下に細い腕が回るのを確認すると、魔理沙は地面を蹴った。

 ふと締め付ける感覚が緩くなり、魔理沙が振り向くと、アスカはぐんと手を伸ばして、眼下の香霖堂の軒下に立っている霖乃介に、大きく振っていた。

 きっとこーりんは心配してるだろうなと思いながら、魔理沙はスピードを緩めながら、山の中腹へと飛んだ。

 

―――――――

 

「霊夢ーーっ!!!」

「あー魔理沙ね……はあぁ?!」

 

 明らかに緊迫した魔理沙の声を、あわよくばスルーしようとした霊夢は、上空を二度見した。

 そりゃあそうだ。何せ、やけにフワリと降りてきたのは、魔理沙ではない女の子だったのだから。

 

 だが霊夢はいかなる時も冷静だった。アスカが間合いに入ったのを見て、彼女の体内霊力を操作する。

 次の瞬間、ぼんやりとした淡い群青色の光が、アスカを包み込み、安堵のため息が二重に響く中、平然と宙をさ迷うアスカ。

 無論、霊夢の矛先は魔理沙へ向かった。

 

「ちょっと!何落としてくれてんのよ!?」

「な、落としてねえよ!自分で飛び下りたんだよ!」

「それこそ訳分からないじゃないの!全く……」

 

 大体誰よアイツ、と内心続けた霊夢に、魔理沙がふふんと笑う。そして未だ霊力飛行しているアスカを指さして言った。

      . .

「アイツは、森近未来禍だ」

「……嘘を付くならもう少しマシなのにしなさいよ?」

「まぁ、そう言うなよ。強ち間違っちゃいないし。」

 

 今度こそ怪訝そうにアスカを見つめる霊夢に、これでもかというほどの早口で、魔理沙は状況説明を終えた。

 霊夢は、思考を追いつかせるのに精一杯だったが、やがて一つ頷くと言った。

 

「いや何よそれ、結局誰よアイツ?」

「分かんねぇからお前の所に連れてきたんだろ。」

「全く……もう良いわ、入んなさい。そこのあんたもね」

 

 開き直った魔理沙を、結局いつものように迎え入れようとする霊夢。だが、茶の間には、思わぬ先客が居た。

 

「待ってたわよ、魔理沙」

「うわっ!てか、霊夢じゃなくて私をか?」

「どちらかといえば貴女の連れてきたその子をね。」

 

 八雲紫は、閉じた扇子で未来禍を指した。

 魔理沙達が振り返ると、当人は何故か紫を睨んでいるように見える。普通怯えるのが人間の道理だろうが、未来禍は違った。

 明らかな敵意を滲ませて、紫にだけ囁いたのだ。

 

――貴女、私を知ってるの?

 

 紫は目を見開いた。その色は、憂いや戸惑い、哀れみ、何より怯えを纏い、未来禍を視ていた。

 

「……!」

「……紫?ちょっと、紫ってば」

「……いつも通り、能力だけ確かめておいて。」

 

 そう言い残した紫に、霊夢はただ怪訝そうに首を傾げた。魔理沙はさして気にしてもいないようだったが。

 対して未来禍は、先程の会話さえ忘れてしまったかのように、首を傾げた。

 

「一体何があったっていうのかしら……?」

「さぁな。ま、能力が何とやらって事は、人里の子じゃないんだよな。とりあえず調べてみようぜ!」

「……そうね。」

 

――――――

 

「ふぅ……まぁ、色々分かったわね。」

「そーだなぁ……メシにしよーぜ。」

 

 彼女は、やはり能力持ちだった。

 『ありとあらゆるものを使いこなす程度の能力』、だそうだ。エネルギーとしては、霊力が高く、妖力は感じられない。まぁ、普通の人間なのだろう。

 が、続く結果に霊夢は違和感を感じていた。

 

(霊力が、どう考えても低すぎる……)

 

 そう。人間の子供にしては、霊力の値が低すぎるのだ。死期の近づいた老人ならまだしも、この年で平均を大幅に下回る等ということは、今まで無かった。

 それとは別に、彼女の勘はピンと来ていた。

 

「貴女は、"夢の迷い人"なの……?アスカ。」

 

 霊夢の微かな呟きは、桜の予感がする風に流された。

 

******

 

 私は一人じゃない。

 

 マリサとコーリンが、私を見つけてくれたから。

 

 でも、"僕"は独りぼっち。

 

 きっと、幸せな夢を見ているだけ。

 

 また息が苦しくなって、微かな電子音が聞こえる。

 

 嫌だ、帰りたくない。ずっと、ここに居たい。

 

 偽りの優しさだけで、あと何回耐えればいい?

 あの痛みに、あの寂しさに、あの……静けさに。

 

******

 

「紫さまーっ!ねぇ紫さま、聞いてください!」

「え?あ、あぁ。どうしたの?橙」

 

 どこか沈んでいるようだった紫は、どこかに出かけていた様子の橙に声をかけられた。

 

「魅空羽を見かけたんです!もう時間が無くて、会いに行けないのは残念だけど、皆に宜しくって!」

「!……橙、その話はもう誰かに話したかしら?」

「いえ、紫様に早く教えて差し上げたくて!ついさっきの事ですし……」

「そう。橙、その話は私との秘密にしてくれないかしら」

「えっ?わ、分かりました。秘密なんですね!」

 

 キョトンとした様だったが、深入りせずに頷いて出ていった式に、紫は思わずため息を溢す。

 まだ誰にも知られてはいけないのだ。もしかすると、霊夢は気づいているかもしれないが、彼女は何かと察しがいい。公の場で私やアスカを問いつめたりなんてことはしないだろう。

 

「でも、どうすれば……」

 

 一度夢から醒めてしまえば、まず助からないであろう事は分かっている。けれども、望みなど最初から存在しないのだ。どうしてこんなにも情を入れるのかは、自分でも分からないが、何かを変えられないかと思っているのも事実。紫は、今までにない事例に頭を抱えた。

 

「魅空羽……燐乃亜……」

 

 懐かしい名前が、今は何よりも頼もしく聞こえる。今なら、彼女達を呼び出す事は容易だが、あれだけの異変に関わった二人には、これ以上の事は任せられない。

 

 やはり、受け入れるしかないのだろうか。

 彼女の"現実"を。

 

―――2―――

 

「おーい、起きろ、アスカー」

「……」

「アスカってば、朝飯出来るぞ」

「ぁ、ぅぁぁ…………」

 

 昨日とは打って変わって、怯えるような明日禍の声音に、魔理沙は戸惑いつつ声をかけた。

 

「アスカ?」

「……ま、りさ……」

「此所に居るぞ。」

「ぃ、ゃぁ……」

「どうしたんだ、アスカ?」

 

 うっすら開かれた瞳には揺れる光が射して、今にも灯の消えそうなランタンのようだった。魔理沙は、そっと布団の脇に放られた明日禍の手を取った。自分の手が、弱々しく握られて初めて気づいた。

 冷たい。思わず自分の胸に抱きしめてしまうほどに、冷えきっている。昨日は、雨に濡れていたので、さほど気にならなかったのだろうか。

 

「……マリサ、おはよう。」

「!」

 

 魔理沙がハッとして視線を上げると、不思議そうな顔をした明日禍がいつの間にか起き上がっていた。思わず瞳を覗きこむが、先程の怯むような光はもう見えず、部屋の灯りさえ映らない闇が広がるばかりだった。

 

「どうしたの、マリサ。」

「い、いや、何でもない……訳でもないか。もう朝飯にするぞって、こーりんが言ってたからさ。」

「……分かった、行こうマリサ。」

「あ、あぁ。そうしようぜ。」

 

 心なしか、昨日よりもハキハキと喋る明日禍は、毛布を手早く畳むと、魔理沙の手を引いて食卓へ向かった。

 

 その日、明日禍は紅魔館へと訪れることになった。

 

――――――

 

「…………。」

「いい加減起きろよバカ!アスカ、もう行こうぜ……」

「…………。」

 

 眠りこける門番の頬を、突っついたり引っ張ったり。

 明日禍は少しむすっとした表情で、数分前から何とか目の前の女性を起こそうと努力していた。

 いくらやっても、居眠り門番の名は伊達では無く(決して褒めてはいない)、ちっとも動じない。

 明日禍を引っ張って行く訳にもいかず、一番不憫なのは魔理沙だが、そんな彼女の怒りもついに爆発する。

 

「あぁぁっ!!!分かったアスカ!ちょっと下がってろ!」

「了解、マリサ」

「恨むなよ!"マスター……スパーク"ッ!!!」

「ぎゃあああああああ!!?」

「おー……すごいねマリサ」

 

 言葉とは裏腹に、いつも通りのテンションで明日禍はパチパチと手を叩いた。魔理沙は、今までの苛立ちを皆ぶつけて、満足そうにクルリと振り向いて明日禍を促すと、館内へと歩き出した。

 

「此所にも……私を、知ってる人が……」

 

 微かに声音の違う明日禍の呟きは、誰にも届くことは無かった。その視線の先には、紅い館がそびえ立つ。

 

――――――

 

「お嬢様、魔理沙と客人が一人。お嬢様にお会いしたいとの事で……」

「待ってたわ、入りなさい。」

「だそうよ。私は仕事があるから、これで。」

「あぁ。ありがとな、咲夜。」

「えぇ、また貴女とも話したいわね。」

 

 その場から消えた咲夜にもう一度感謝すると、魔理沙は明日禍の手を引きながら部屋へと入った。目の前のソファには、魔理沙にとってとても見慣れた小さな吸血鬼が座っている。

 魔理沙は、帽子を手近なテーブルに置くと、明日禍へ先に座るよう促した。何故か明日禍の表情は少し曇っていたが、それに気づく様子もなく魔理沙は片手を上げて声をかけた。

 

「よう、レミリア。何か久しぶりだな。」

「貴女が正門から入らないからでしょ、まぁ最近は宴会も無かったしね。それで、紅茶は何が良いかしら?」

「美味しいなら何でもいーよ」

 

 俯き加減で座った明日禍と、その隣に背もたれを飛び越えて座る魔理沙。もうそれを注意する気も無くなり、霊夢の気持ちが少しだけ理解できたようなレミリア。

 

「さてと、まずは名乗らなくちゃね。私は、レミリア・スカーレットよ。この館の主である、吸血鬼。」

「……私は、アスカ。」

「ふぅん、驚かないのね。」

 

 自分の正体を明かしても、表情一つ変えない明日禍につまらなそうな顔をするレミリア。それも一瞬のことではあり、魔理沙は口を開いた。

 

「で、一体何の用なんだよ。急に呼び出しておいて。」

「あら、偶然ではなかったのね?」

「あんなに分かりやすくしといて、そりゃないだろ。」

 

 実は、魔理沙に昨夜届いたものがある。それは、彼女を叩き起こし、一度は、即刻紅魔館へと飛んでいこうかとも考えさせた。瞼の裏まで紅く染まった……のは気のせいだったが、とてつもない妖気の波動だ。

 どうやったのかと聞けば、内緒だとはぐらかされて、少々ペースを乱されつつある魔理沙。未来禍に向けられる視線に気づいて、話が逸れない内にと言葉を足す。

 

「アスカに用なら、私は外すが?」

「いえ……まぁ、そうね。じゃあそうして頂戴。別に、手を出すつもりも無いし。」

「その場合はマスパ一発じゃ済まないからな?」

 

 怪訝そうな表情を浮かべる魔理沙に、ひらひらと手を振って、レミリアはメイドを呼び出し紅茶を入れさせる事にした。

 

******

 

 微笑と何かを見透かすような目が、ずっと離さない。目を背ける事も出来ずに、ただ私は無表情に見つめ返しているだけ。

 

「貴女、いくつなの?」

「……知らない。」

 

 そうだ、それでいい。"私"――未来禍は、何も知らなくて良いんだ。ただ踊るように、過ごせばいい。考えるような吸血鬼の表情だって、全部、全部夢なんだから。

 

 苦しむのは、"僕"だけでいいんだ。

 

******

 

 あっという間に、幻想郷は夜を迎えて、魔理沙が書斎に戻ってくると、レミリアは先刻と変わらない姿勢で、ソファに座っていた。チラリと目線を上げて、ティーカップを置く。

 

「寝ちゃったわよ、その子。随分マイペースなのね。」

「ん……そうか。じゃ、帰らしてもらうぜ。」

「えぇ。……魔理沙」

 

 どこからともなく取り出したブランケットで未来禍を包む魔理沙に、レミリアはふと声をかけた。振り向くとレミリアは、月を見上げてこう言った。

 

「冥界には行かない方が良いわ。」

 

――――――

 

 どういう意味だか分からないが、どうせ彼女お得意の占いとやらなんだろう。いや、アイツの場合はもう予言に近いか。

 

 魔理沙は、家路を(仕方なく徒歩で)辿りながら、ふっとレミリアのように月を見上げてみた。

 

「おぉ。満月じゃねえか、綺麗だな……」

 

 ふと、それを横切る影。風に揺れるワンピース、その背中で一生懸命に羽ばたく小さな翼。月明かりに照らされた、焔のような髪。

 

「燐乃亜……おーい!」

「?」

 

 声が聞こえたように、くるりと宙で向きを変えた少女は、此方を見つけると同じく手を振って降りてきた。

 

「魔理沙!久しぶりだな。元気だったか?」

「おう、燐乃亜も元気そうで良かったぜ。髪伸びたか?」

「少しね。多分あと数分だったし、会えて嬉しいよ。」

 

 幻想郷と現実世界は、昼夜が逆転しているという性質がある。夜10時である現在、燐乃亜達の住む世界は、朝の10時。何故こんな時間に?と訊ねると、休日だから、と燐乃亜は答えた。それでもあと数分、それが過ぎれば目覚め、現実世界へと戻る。

 

「ん、その子は人里の子?」

「いや。私が預かってるだけなんだぜ。記憶喪失って訳じゃ無さそうなんだけどな……」

「ふぅん、じゃあもしかしたらその子が……あ。」

 

 話の続きはまた今度だな、と燐乃亜は少しだけ寂しそうに笑った。魔理沙は頷くと、その手を一度しっかり握って、ニコリと笑った。

 

「さて、と。遅くなっちまったなぁ」

 

 魔理沙は再び、歩き始めた。

 

―――3―――

 

 春の陽が瞼を擽る。魔理沙は自宅のベッドで起き上がる。未来禍は昨日のうちに、勝手に香霖堂に押し込んできたので、いくら寝ていても怒られはしないのだが。

 

(あ、霊夢……どうしてるかな。紫の様子も変だったし……見に行ってみるか。)

 

 霊夢の様子を見に、本音を言えば朝食を集りに、彼女は手早く髪を結わえると、箒を手にとって外へと出た。

 

 魔法の森の上空を、涼しい朝の空気を浴びながら移動していく。暖かい昼間の和やかな空気とは違って、鋭く肌を刺すような冷気に、すっかり目も覚めた頃、鳥居が山腹に見えてきた。慣れた手つきで降下すると、魔理沙は欠伸を噛み殺しながら、境内を遠慮なく進んでいく。

 

「霊夢~おはよ~……霊夢?」

 

 いつもなら不機嫌な顔で、それでも返事くらいはしてくれるはずの霊夢が、今朝は何も反応が無い。魔理沙は何故か少し不安になった。

 

「おい、霊夢……まだ寝てるのか?霊夢……?」

「――!」「――。」

「……!」

 

 居た。もう一人居る。少し意識を集中させると、声色によく聞き覚えがある、紫だ。障子の奥で何やら叫んでいるようなので、さすがに押しかけはしない。魔理沙もわざわざ入っていって、険悪なムードをぶち壊せるほど器用ではないのだ。

 かといって、このまま帰るのもどうなのかと思った。少し考えた魔理沙は、中の様子を探りながら、待つ事にした。多少不謹慎ではあるが、こうなると出直すも億劫だ。

 

「さて、と……何話してんだろうな……一体。」

 

――――――

 

 何を言っているのか。

 

 霊夢が叫び、怒りを露にする。しかし紫は俯き黙ったままだ。事はものの数分前、ちょうど魔理沙が目を覚ました時と同じくして、紫が博麗神社を訪ねてきた。

 

「――?ん、紫じゃない」

「!なかなか、早く気取るようになったわね。」

「そりゃ、いつから押しかけられてると思ってるのよ。ちょっと待ってて、着替えてくるから。」

「いえ、そのままでいいわ。話があるだけよ」

「……そう?まぁアンタがいいなら、別にいっか。」

 

 布団から起き上がってぼんやりとしていた霊夢は、紫の訪問を見抜いた。そして、白い寝巻きのまま、畳の上に座る。いつもと違い、当然ながら下ろしている髪を肩から払いのけて、すっかり切り替わったように紫と目を合わせた。

 

「で?どうしたのよ一体。こんな朝早くに、異変かしら」

「……いえ。それよりも事は深刻、かしら。」

「何よ、酷い顔するわね。ホントにヤバい話なの?」

 

 からかうような発言だったのだが、打ち菱がれたような顔をする紫に、霊夢は眉を潜める。ただ事で無いのは分かるが……解らない。いっそ魔理沙とかだったら、勘でどうにか話題を察せるのだが。

 

「まぁ、急ぐ話じゃないなら、お茶でも淹れましょう。本当に酷い顔よ、アンタ。……ほら、来てよ」

「えぇ、ありがとう」

 

 正直言って、気味が悪い。いつもあんなに自分を導き使い潰す彼女が、後ろを歩いているという状況すら、朝の空気よりも冷たい寒気を覚えそうだ。

 しかし、本当にどうしたというのか。霊夢は心当たりを探すが、これといって事件は無かった、はず――。

 

(あ、在ったわね……忘れてた訳じゃ無いけど)

 

 あの外来人だ。確かにあの時も紫は変だった。複雑に瞳を曇らせて、弱々しい佇まいで。何か知っているようだったが、魔理沙も居たせいで聞き損ねていた。それに霊夢の勘は、事態があまり軽くない事をも悟った。

 結局、考えるのを止めて、次の機会にでも話を聞こうと思っていたのだが、そういえば彼女は一体、どういう存在なのだろうか。ただの人間には見えないし、と霊夢は少し引っ掛かりを覚える。

 

「ちょっと座ってて。すぐ戻るからね」

 

 台所に早足で向かう。何にせよ今は紫の事だ。精神が狂って果てには異変でも起こりました、なんて笑い話にもならない。いやまぁそんな事にはならないだろうが、霊夢は最悪時の事を想定して、懐に何枚か常備している札に霊力を流した。万が一すぐに結界を張れれば、後は問題無いだろう。

 

 温かい湯呑みを二つ両手に持って、来た廊下を戻る。紫は少し俯きがちに座りつつも、案外いつも通りの様子で待っていた。顔色もいくらかマシになった気がする。

 やはり、彼女はこうでなくては、霊夢も調子が狂うというものだ。少しホッとしながら自分も座布団に座った霊夢は、茶を一口啜ると優しめに話を切り出した。

 

「それで、どうしたの?依頼では無いようだけど……」

「えぇ。伝えなければいけないこと、なの。貴女と――」

 

 魔理沙に。心なしか不安そうな声で、意外な名前が。霊夢は疑問符を浮かべたが、今咎めては話が進まない。紫もそれを察したのか、少しの沈黙から言葉を探るように目線を左右させると、口を開く。

 

「気づいているかもしれない、アスカの事よ。」

「!」

「彼女は……普通の外来人では無いの。それは判る?」

「まぁ、何となく。感じてはいたけれど」

「そう、よね。」

 

「それで……?」

「彼女が……"迷い人"であることも、気づいていたの?」

「!……まさかとは思ったけれど、そうだったの。私の勘も捨てたものじゃないわねぇ」

 

 少しおどけたように言ってみせたのは、紫の声色が前より少し沈んだから。そして霊夢の感じた事は、やはり正答だったようだ。

 彼女、未来禍は、"夢の迷い人"なのだ。

 しかし、話がそれだけであったなら、今には至らないはずである。紫は決心したように、顔を上げて句を紡ぎ出していく。

 

「アスカには……外界の記憶が無いの。」

「それは、まぁ見たら分かるけど……?」

「霊夢には、何故だか解る?」

「え……それは、何だろう。現実を忘れている……いやもしかして……忘れたい、だけ?」

「さすがね。」

 

 解らない。霊夢が今まで出会った外来人は、幻想郷に居ることを望む事は有れど、現実を忘れたい、その果てに記憶を無くすなど、聞いたこともない。

 未来禍……夢の迷い人なら尚更だ。夢の中に居て記憶を無くすとは、どういう了見なのだろう。

 

「彼女は、彼女の現実は……あまりに辛すぎる。」

「辛すぎる……だから、忘れたっていうの?」

「……逃げている、と言うべきかしらね。アスカは……彼女の本質ではない。別人格、もしくはそれ以上に疎遠な存在よ。」

「ど、どういうこと?アスカは、アスカじゃない?」

 

「恐らく、"理想"なのでしょうね。」

 

 紫はそう言うと、目を伏せた。霊夢は未だ理解が追いつかなかったが、これから語られる事こそが、重要性を持つ事は感じた。朝の陽射しが凍りついた空を溶かしていく中、告げられるのは辛すぎる現実と真実。

 

 

「アスカの命は、あと一週間……それだけよ。」

 

 

――――――

 

「何言ってるか分かってるの?!」

「……。」

「ねぇ、何とか言いなさいよ。紫!」

 

 信じたくもない。今まで妖怪の命を奪う事すら、躊躇してきた霊夢には、あまりに重すぎる意味を持つ、その発言を、受け入れるわけにはいかなかった。それでも紫は、すっと背筋を伸ばして唇を動かす。

 

「彼女は今病院で、最期を迎える病棟に入っているわ。もう、現実では助からない。だから……」

「ふざけないでっ!!!」

 

 怒声が響きわたる。霊夢はその赤い瞳を燃やして、紫に対峙した。今までの優しさなど、どこにも無い。人間の少女として、あるいは巫女として、霊夢は訴えた。

 

「せめて夢の中では、幸せに過ごすってこと?それこそ一番の苦痛だわ!最期に家族とも愛人とも会えずに、何が幸せよ!?」

「それでも、これは彼女自身が望んだ事よ。」

「アスカが……?どういうこと、アンタは何をしたの?」

 

 紫は次第にいつもの調子を取り戻し、厳しく諭すような口調で、淡々と事実を告げていく。霊夢の核心を突く問いに答えようと口を開き、そして動きを止めた。

 

 突然の出来事だった。障子が突風に大きく音を発てて揺れる。嫌な予感だ、霊夢が外に顔を出すと、見慣れた背中が小さくなっていく。朝の蒼空を駆けるその姿は、最悪の事態を指している。

 

「――!」

「"一時的に相手の動きを阻害する"か。弾幕ごっこじゃ使えないけれど、面白い魔法だわ」

 

 知られてはいけなかった。彼女には――魔理沙にだけは。今日はここまでにしましょう、と紫は言った。霊夢は引き留めるのも忘れて、ただ彼女が飛んでいった虚を、揺れる瞳で見つめていた。

 

――――――

 

「アスカ……少し休んだらどうだい?」

「……やだ。」

 

 もう何回目のやり取りだろうか。朝から未来禍は店の戸口に立ちっぱなしだ。魔理沙を待っているのだろう、しかし今日に限って彼女の来訪が無い。霖之介はため息を吐くと、せめて座るようにと木製の椅子を置いて、茶の入った湯呑みを小さな両手に握らせた。

 魔理沙とは親しく話していたが、自分とは出会った時以来の会話は無い。あまりに不思議な彼女の出で立ちに興味は涌くばかりだが、そんな事訊けるはずも無く。彼は結局、当たり障りのない話題を選びつつ、未来禍の隣に座った。

 

「昨日は、何をしていたんだい?紅魔館に行ったそうだけど。」

「……話してたら、寝ちゃった。」

「え……誰と?まさか、吸血鬼とか」

「そう。吸血鬼……れみりあ、っていう」

「館主の方か……何ていうか、魔理沙も魔理沙だな。」

「……あ、のね。」

「ん?」

 

 ふと、彼女の見た目にそぐわない、幼い声がする。隣で温かい湯呑みを抱える未来禍を、霖之介は少し驚いたように見下ろした。

 

「あの人……私を知ってたの。」

 

 人じゃないけど、と口の中で付け足す未来禍の言葉の真意を、霖之介は汲み取る事が出来ずに黙る。未来禍を知っているというのは、どういう意味なのだろう。彼女が此処に来たのは、一昨日――あるいは、それより少し前の事だ。それなのに、人里などとは疎遠なレミリアが彼女を知っていたとは、一体。

 

「きっと、私を此所に連れてきた人と同じ。」

「……君は、誰なんだ?」

 

 思わず声に出してしまう。霖之介には、その少女の声がとても遠くに感じられたからだ。儚く透けそうな色白の手が、そっと彼の一回り大きな手を握りしめる。まるでしがみつくような仕草に、霖之介は彼女の顔を覗き込んだ。

 

「私は、私……香霖は、そう思わないの。」

 

「そう、だね。すまない、アスカ。」

 

 初めて何かを孕んだような声に、霖之介は頷き、少女の銀髪を手で鋤いた。しばらくして、こてんと肩にその頭が預けられ、確かな鼓動を伝えるように、右手がより強く握られた。

 微かに伝わる震えが、何に怯えるものなのか、霖之介には分からない。その事実をただ噛みしめることしか出来ない彼の気持ちもまた、未来禍には分からない。涙を流して彼の手にすがり付くのは、彼女では無いから。

 

******

 

 偽りの優しさにはない温もりが、両手に伝わってくるから、思わず涙が零れた。この世界から獲るモノは、外の世界――現実では、何も感じられない。

 

 どれだけ熱を持ったように聞こえる言葉も、一度本人を目の前にすれば、他人の心の内など透けて見える。眼を見れば、何を考えているのかなんて、紙に書いて見せられているも同然だ。

 

「なのに、どうして……」

 

 あぁ、そうか。この人は"僕"を知らないんだ。

 震える両手に伝わる熱も、向けられた眼差しの輝きも、全て。"未来禍"と名づけられた"私"に贈られたモノなのだ。

 知られてはいけない。マリサにも、コーリンにも。私の心の奥底に、今も横たわる僕の存在を。今はただ、熱を持ったこの世界を、感じていたいのだ。どんな報いも僕が受ける、未来禍は踊っていればいい。

 

 僕が造り出した小さな両手には、この辛さは抱えきれないはずだから。

 

******

 

「……藍。」

「は、はいっ!」

「これ、片付けておいて」

 

 ダメだった。もっと上手く伝えるはずだったのに。

 紫はため息を吐いて、式に後を任せるとマヨイガへとスキマを開いた。とにかく今は疲れてしまった。少し、休んでいたい気分だ。紫の足音に気づいたのか、橙が顔を覗かせる。

 

「紫さまっ……あっ、おいそがしいですか?」

「……いえ、大丈夫よ。どうしたの、客間で何をしてるの?」

 

 紫の表情を見て心配そうな目をしていた橙だったが、紫が微笑みかけると、パアッと明るい笑顔を見せて手を招いた。

 

「?」

「ねぇ、紫さま来たよ!」

「「えっ」」

 

 聞き覚えのある声だ。それも二人分、客間から聞こえてくる。少女らしき声音が囁く。

 

(まさか……)

 

「やっぱり勝手に上がってよかったのかなぁ……」

「いや、お前な。今さらそんな事言われたって……」

 

 耳を疑った、やはり彼女達の声だ。立ち尽くす紫の耳に聞こえてくるのは、懐かしくも新しい、少し成長した二人の少女の話し声。

 

「よし、挨拶しに行こう!」

「え、ちょっ。引っ張らないで……っ!?」

「大丈夫だよ~、早く来てってば♪」

 

 上機嫌な声を上げるのは、冬の流星を司る少女。

 それに対して戸惑うのは、夏の彗星を司る少女。

 

「お久しぶりです、紫さん!」

 

 障子を清々しく開け放って、水色の髪が覗き、次いで星を宿す瞳がキラリと眩しく光った。人懐っこく笑顔を浮かべた少女に続いて、オレンジの髪をふわりと揺らして顔を覗かせるもう一人の少女も、微妙な表情で呟く。

 

「久しぶり、です。」

「声が小さいよ、燐乃亜!」

「えぇ……先輩、じゃなくて魅空羽がいきなり引っ張り出すからだろ……?」

 

 如月魅空羽。それと、葉月燐乃亜。

 先々代の迷い人である燐乃亜と、そのまた先代である魅空羽。彼女らの背は、見ない内に少し伸びたようだ。少し印象が違うのは、燐乃亜の短髪がかなり長くなっているからか、もう短髪ではなくセミロングくらいだ。

 

 紫は、自分でも分かるほどぎこちない笑みを浮かべ、ふいと目線を逸らした。あの混沌と怒涛の一年を経た二人だからこそ、こんなに眩しいのだ。この光を幻想郷から絶やしたくない。未来禍を……どうにかして助けたいのだ。

 

「紫さん?どうしたんですか、何か……」

「魅空羽。」

「は、はいっ」

「燐乃亜。」

「え、な、何?」

 

「貴女達に、もう一度だけ、助けてほしい事があるの。」

 

――――――

 

 揺れる瞳と心模様を写したように、時々箒が不安定にぐらつく。その柄をぐっと握りしめて、目を瞑った。三月の空は薄ら寒いが、それ以上に両手が冷えきっていた。ふと彼女の身体の冷たさをリアルに思い出して、さらにきつく目を瞑る。

 

「魔理沙ーー!」

「!?」

 

 最悪のタイミング、声をかけられた魔理沙はより強く箒を握りしめると、急降下の姿勢に入った。いつもの癖で向かう先は香霖堂にしてしまったが、今止まったら声の主に捕まる事間違いない。

 

「お願い、待って!魔理沙、魔理沙止まってよ!話を――」

「話すことなんて無いだろ。帰ってくれ」

「……っ!」

 

 自分でも驚くほど冷たい声が、空によく響いた。息を鋭く吸う音が聞こえた。しまった、と魔理沙は少し、後悔していた。声の主……霊夢への発言にではなく、目の前の状況を見たからだった。

 

「魔理沙……?」

「~~!」

 

 霖之介の心配そうな目線から顔を背けると、隣に座っていた未来禍に目が行った。霖之介の肩に頭を預けて、どうやら寝ているようだ。

 魔理沙は自分の立場も忘れて、思わず呟いた。

 

「アスカ……」

「あぁ、朝からずっと、魔理沙を待っていたんだよ。」

「私を……?」

 

 ふと、彼女の言動がフラッシュバックする。怯える声に冷たい手先、彼女の中の消えそうな灯。目の前が霞みゆくのを、魔理沙は嫌でも自覚した。

 

「……魔理沙。来て、話をしましょう」

「嫌だ。」

「魔理沙っ!」

 

 吐き捨てるような拒否に、霊夢は魔理沙の肩を掴んで引き寄せた。魔理沙は、何かを噛み締めるように俯いていたが、暫くして小さく呟いた。

 

「10時に私の家だ、霊夢。」

「……片付けておいてよ」

 

 それだけ話すと、二人は別の方向へ飛び去っていったが、後に残された霖之介は、何か嫌な予感、余寒を感じていた。

 

――――――

 

 各々で事が動き始めたのと、時を同じくして。

 

「……嬢様……!」

「……なさい……しっかりしなさい、レミィ!」

 

 意識の奥底から帰還、レミリアは咲夜とパチュリーの呼びかけに辛うじて手を上げた。安堵と呆れのため息が二重に響く中、レミリアは目を開けた。

 咲夜の腕に抱えられ、傍らには少し息を切らしたパチュリーが立っている。本来レミリアしか立ち入る事のできない、予言の間……という名のまぁ、見かけばかりの部屋ではあるが、能力を使用する際には意外と役に立つ此所。レミリアは"彼女"の運命を詳しく読み取るために数分前、咲夜と共に入室した。といっても、咲夜の役目は単なる見張りであり、特に必要ないと思われていたのだが――。

 

「良かった……お嬢様……」

「咲夜……ありがと。でももう大丈夫よ、紅茶を淹れてきてくれる?」

「はいっ、畏まりました」

 

 そっとレミリアを立たせて、咲夜はぱたぱたと廊下を走っていった。咲夜にはかなりパニックな状況であっただろう。況してや占いなどとは無縁の彼女だ。どうしていいか分からずパチュリーを呼んだのか、通信用の魔法具に魔力の痕跡がある。

 

「……それで、何か視えたの?」

「キャーでワーでアー、よ」

「レミィ?」

「冗談。咲夜が来てからにしましょう」

「あの子にも聞かせるのね……意外だわ」

「当たり前でしょう、私の従者よ」

 

 話の内容を半ば察したようなパチェに、レミィは椅子に座り直して軽く笑った。咲夜は人間でありながら、人らしさを感じさせない。だが、パチェは少し心配そうな目線をレミィに向けていた。

 

「……あの子が動き出すのは明日の朝よ。それまでに、整理がつかないようだったら、咲夜は置いていく。それでいい?」

「えぇ。分かった、それならOKよ」

「すみません、遅くなりました」

 

 妥協案に至った二人の所へ、咲夜が早足で戻ってきた。まだ少し困惑しているのか、時を止めるのを忘れているようだ。

 

「さて……私達がどうするべきかが決まったわ。咲夜、悪いけど美鈴を呼んでくれる?今回はアイツも動かそうと思う。」

「はい。」

 

 そう聞くと、咲夜は徐に窓を開けた。日光は射し込まない設計なので、外の暖気だけが流れ込む。風切り音が鋭く響き、ちょうど真正面の門から悲鳴が聞こえる。

 

「アイヤァァァ!!?」

「美鈴ー!!!まーた寝てたでしょアンタはぁぁぁ!!!」

「あ、あはは……でっでもいきなりナイフ投げるのは」

「つべこべ言わずに来いッ!!!」

「はいぃっ!!!」

 

 一頻り怒鳴り合いが終わると、パタンと窓を閉める。いい笑顔を見せる咲夜に、二人もそれぞれ微笑んだ。

 

―――――

 

 所変わって、魔法の森の奥、魔理沙と霊夢は真剣な顔で机上を見つめていた。

 

「……それで、どうすればいいの。」

「何だよ」

「私は今、どうしたらいいのよ。」

「……知らねえよ。自分で考えりゃいいだろ」

「だって……私――

 

 

 

 

 

 

 チェスのルール解らないし。これ、どうすればいいのよ?」

「だから自分で考えりゃいいだろって!」

 

 純粋に首を傾げる霊夢に、魔理沙は深くため息を吐きながら天井を見上げた。元は手持ちぶさたになるのが嫌で、ガラクタの山……ではなくコレクションから引っ張り出してきたゲームなのだが、これでは一向に話が進まない。止めだ、と言って盤と駒を再び部屋の奥へと投げ捨てた。

 小さな家は再び森の静けさに呑まれ、霊夢はチラチラと光る木漏れ日を、さして暖かくもないのに眺めていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

 

「……アスカって、どんな感じ?」

「……何考えてるか、ちっとも解らない。何か寂しそうっていうか……今考えりゃ、分かりきってるな。」

「それはどうかしら?」

 

 魔理沙が怪訝そうに顔を上げると、霊夢はちらと目線を戻して、人指し指を立てた。

 

「例えばの話ね、アスカの事を全て、紫が知っていたとしたらよ?そうしたらアスカは、紫に保護されるのが、筋ってものでしょ?」

「そう……だな。」

「でも、紫はそうしなかった。否、出来なかったのだと思うの。」

「……?」

 

 魔理沙は、より一層怪訝そうに眉を潜めた。霊夢は、とある仮説を導きだしていた。

 

「逃げたのよ。アスカが、自分の意志で。」

「なっ……んなバカな事できるのか?だって」

「そうね。もし紫が匿っていたんだとしたら、確実にそこはスキマの中。逃げることは不可能……でも思い出してよ魔理沙。」

 

「……!そうか、"能力"か!」

 

 未来禍の能力、"ありとあらゆるものを使いこなす"。それはスキマとて例外では無い。とんだチートだな、と魔理沙は苦笑した。

 

「そうしたら、香霖堂に行き着いたのも納得がいく。」

「なるほどな……でも、待てよ。何でわざわざアスカは逃げたんだ?スキマの中は確かに退屈かもしれんが、安全性はこの上ないだろうに」

「恐らく……紫がアスカの事を知ってしまったから、でしょうね。」

 

 魔理沙は最悪のビジョンを脳裏に描いた。もし自分や霊夢が彼女の事を知ってしまったと、アスカが気づいていたら?

 間違いない、彼女はまた逃げるだろう。どこに向かうかは分からないが、彼女は無防備すぎるのだ。まず確実に、野良妖怪どもに……

 

「っ!」

「そうさせないように、私達は動かなきゃならないのよ。魔理沙……あと、一週間なの」

「その件については認めない、が。その前に死なれちゃ困るのは確かだ。一応は協力するぜ」

「……熟哀れなものね、人間ってのは」

「同類のくせに、よく言うぜ。」

 

 紅白の巫女と白黒の魔法使いは、余裕の笑みを取り戻した。

 

―――4―――

 

 そして恐れていた夜は来る。

 

 決して殺戮が始まるわけでも、異変が起きるわけでも無い。しかし確かに、妖怪たちはざわめいていた。濃厚な死の気配、それは自分達に降りかかるものではない。

 

 ならば、行こう。そして喰らおうではないか。その肉から溢れ出る血を啜り、死す瞬間に零れる霊力を、余す事なく味わい尽くす。黒々とした狼のような群れは、一斉に山を駆け下りた。

 目指す先は、本能が教えてくれよう。その身から捧げられる言葉のままの死力に、妖怪達は飢えていた。

 

 

 

 時を同じくして、少女も駆け出した。裸足のままで夜の闇へと、決して大きくはない商店を背にして走る。

 

((もう、此所には居られない。))

 

 一人の少女は、それを悟ったから走る。

 一人の少女は、それを感じて涙を流す。

 

 何かから逃げるように、どこに行くわけでもなく走り続けて、ふと立ち止まる。月が照らす小道の先は、どこともしれない開けた土地だった。

 

「……。」

 

 辺りを静かに睨むと、確かに感じる。妖獣の気配だ。妖怪には主にあの館で会ったことがあるが、それよりか弱そうだ。ならば、今の自分で相手取れるやもしれん。

 

 少女は強まる威嚇の声に、ただその場に立っていた。次の瞬間に、妖獣・グリムの群れは四方から一斉に飛びかかった。

 

「グルアアアッ!」

「っ!」

 

 群青色の瞳を鋭く細めた少女は、狂ったように宙から押し寄せる黒い塊に、手に握っていた刀を横に凪いだ。香霖堂から勝手に持ってきた護身用ではあるが、流石というべきか中々の威力である。

 敵意を見せた標的に向かい、グリム達は牙を剥いた。剣術の心得など何も持たないが、闘うしかあるまい。

 

 柔らかな月光を吸い込んだ銀髪が、夜風に凛と靡く。少女の能力の前に、刀の柄はしっかりと手に馴染んだ。

 未来禍は、目の前の大群に向かって大きく刀身を上へ振りかぶる。ぎゃあぎゃあと喚くアイツ等を切り刻み、もっと先へと進まなければならない。夜が明ければ、彼らは自分が居ないことに気づくだろう、と。そうなれば事態はまた、深刻で厄介で、未来禍の一番望ましくない結末を迎えるだろう。

 

 彼女は思わず強く目を瞑った。嫌だ、それだけは。

 

 この世界で作り上げられた"未来禍"の存在だけが、今も夢現の境界を越えた彼方で眠る"彼女"を生かしているのだから。幻想郷で感じた温もりを、此所で絶やしてはいけない。あの優しい笑顔は、躊躇なく差し出された掌は、次の来訪者を導くためにあるのだ。

 

「……ごめんね、魔理沙。」

 

 今までとは違う声音、現実へと引き戻されつつある己の精神を研ぎ澄まし、未来禍は一歩前へ踏み出した。

 

――――――

 

 ゆったりとした寝装束に身を包み、ふらふらと廊下を歩く霊夢。寝ぼけているのか疲労からなのかは解らないが、そんな意識を叩き起こす声が響いた。

 

「霊夢っ居る!?」

「は~?居るに決まってんでしょ、ていうか何よ……橙?珍しいじゃないの……」

 

 もう夜でしょ、とジト目で嗜めるが、橙は勢いのままに捲し立てるばかりだ。しかもその大半が伝わらない。仕方ないのでお祓い棒片手に一発軽く叩くと、力加減を間違えたかそのまま境内に突き刺さった。これには霊夢も少し……ほんの少し反省したが、深く考えることは無かった。簡潔に言おう、彼女は眠かったのだ。

 

「ん~……でも紫を呼ぶのも面倒だし……ちゃっちゃと寝ちゃいましょうか。明日は久々に大仕事だし……良いよね?」

 

 その大仕事が早まったとは露知らず、平和な少女巫女は驚くほど手際よく眠りについてしまった。……念の為付け足そう、魔理沙も同様である。

 

「~~~~!!!(ら、藍しゃまぁぁぁ!!!)」

 

――――――

 

 幻想郷時間午後10時、グリムと未来禍が衝突した。

 

 レミリア率いる紅魔館、和解に至った霊夢と魔理沙、そして紫達は、その運命の行く末を、残り僅かな命を、最後まで残る希望的観測を護るために、各々に動くことを決意している。

 

……はずなのだが。

 

「動かないわね……このままじゃちょっと危ない?」

「はい。立ち回りがまるで素人ですから、明日まで持つかどうか……」

「そうよねぇ。どうせなら宝刀とか掘り出してくれば、まだ勝ち目があったはずなんだけど。」

「それはちょっと……無理がありますよ。幽々子様」

「あら?そうかしら、妖夢」

 

 ふふ、と柔らかく笑いながら、宙へ映した戦況から目を離した幽々子に、苦笑と頷きを返す妖夢。自身の刀・楼観剣を磨きながら、何度目かの欠伸を噛み殺す従者の姿に微笑ましく思う暇は在れど、状況は依然として良くないのも事実。

 

「早くしないとあの子、ホントに駄目になっちゃう……最悪の場合は私が行きましょうか?」

「えぇ……その必要は無いと、信じたいものだけれど。」

 

 妖夢は瞳を曇らせながら、膝に乗せてある二振りの刀を見下ろして問った。頷く幽々子も、あまり乗り気では無さそうだ。はぁとため息を吐いて、幽々子は溢す。

 

「あんなに可愛い子なのに、ホント残念よねぇ。紫からは、無闇に関わらないようにって言われちゃったし。皆して酷いわよねー?」

「あ、はは……紫様からしたら、あれも生死の"境界"、なんでしょうね。干渉できるからこそ、その重みが感じられる……のでしょうか?」

「……かもね。私達にとっては、些細な事かもしれないけれど、必死で生き急いでるあの子達には……少し辛いのかも」

 

 冥界の主は、儚げな笑みを浮かべると、再び戦況へと興味を戻した。妖夢があっと声を上げる。

 視界を埋め尽くすのは、懐かしい星の輝きだった。

 

――――――

 

「よっ……いつ振りだろうな。闘うのなんて」

「んーと……あ、紅魔館のデスゲームじゃない?」

「そんなのもあったな……まぁ鈍ってないようで良かった、のか?」

「うん……すごく、微妙だけど」

 

 何せ二人とも普段は普通の学生なのだ。特に嬉しい訳でもない。余談だが、魅空羽は高校一年、燐乃亜は中学三年へと、今年進級している。燐乃亜からすれば、

「何が悲しくて、受験生が丸一日寝てんだよ……」

と、言わざるを得ない。

 

「よーしっ!殲・滅・完・了☆」

「頼まれてたのは確か"護衛"だったよな?」

「うん……紫さん、女の子って言ってたけど」

 

 魅空羽は、ステッキをくるくる回しながら、死屍累々といった感じの現場を見渡す。道は絶えているが、広い土地だ。どうやら見当たらないので、先に進んでいるのだろうか。

 

「何があったかは分からんが、とりあえず死なせちゃあいけないな。急ごう、魅空羽!」

「了解!」

 

 燐乃亜は地面を蹴ると、蝙蝠のような羽を広げて飛ぶように走った。魅空羽はステッキを一振りして、星形の盤を作り出して、ひょいと飛び乗った。

 

「秘技・星サーフィン!」

「何だそれ。」

 

 呆れた目で燐乃亜は呟くが、魅空羽は割と楽しんでいるようだった。にこりと笑うと、魔力をブーストして、速度を上げた。

 歴戦の夢の迷い人は、夜空の下を並んで駆けていく。彼女達の運命は実に奇怪だ、と紅魔は言った。それは、数少ない招かれし者として、幻想郷へ招かれた事だけではなく、その存在が周囲に……幻想郷に与えた影響の事を言うのだろう。

 星を司る力を持った少女らは、結ばれるべくして絆を作り出した。それは強く互いを奮い立たせ、いくつもの試練を乗り越えてきた。

 

 それを今、彼女に伝えることが出来たなら。

 

 同じ夢の迷い人である少女・未来禍を追って、二人が足を踏み入れたのは、先程よりも大規模な獣の群れだった。

 

「"爆風シャイニーズフレア"!そーれっ!!!」

「……お前、護る気あるのか?」

 

 まぁいいか、とぼやきながら、燐乃亜も焔の霊殿から召喚した火球で、辺りを荒らしていく。

 そこら辺を飛んでいた氷の妖精が、余波で燃え尽きたのは、また別の話である。

 

――――――

 

 耳障り、不快、睡眠の邪魔……そうだ、消そう。高級感溢れるベッドに潜り込んでいたレミリアは、ガバッと起き上がった。

 

「さくやぁ……咲夜ーっ!!!」

「は、はいっ!」

 

 すぐそこの廊下に居たのか、ドアの向こうから焦ったような声が聞こえる。どうやら話していたのは、妖精共ではなく咲夜だったようだ。何故こんな夜更けに?と、レミリアが首を傾けていると、ドアが開いた。

 

「レミィ!起きたのね、丁度良かった。すぐに出る準備をして頂戴。」

「え?何で?」

「……本当に気づいてなかったのね。」

 

 あからさまにため息を吐いた声の主――パチュリーはベッドに歩み寄ると、指先に魔力を籠めてレミリアの額を弾いた。

 

「痛っ」

「いい?貴女は間違えたのよ、レミィ。貴女は、彼女が動き出すのは確か、明日の朝だと言ったわよね?」

「え、えぇ。だってそう視えたから……」

「でも違った。それは別にレミィの予言が外れた訳じゃ無いわ。当然の事だったのよ!」

 

 レミリアは、咲夜の持ってきたいつもの服に着替えてパチュリーの語彙が少し強まるのを聞いた。自分も一瞬で支度を済ませた咲夜は、理解が追いつかないという顔をしてパチュリーを見た。

 

「咲夜、今何時?」

「10時です。」    . . .

「そう。それなのよ、幻想郷では午後10時なの。」

「あっ……」

「っ!」

 

 眠気が吹き飛んだというように、レミリアは目を見開いた。察したような薄い笑みを浮かべて、パチュリーと咲夜は頷いた。レミリアもやがて口の端に笑みを浮かべて絞り出すように言った。

 

「……運命、上等じゃない……!行くわよ、咲夜!」

「仰せの通りに!」

「はぁ……レミィってば調子いいわよね、ホントに。」

 

 呆れたようにパチュリーは呟くと、館を猛スピードで後にした二人を、静かに見送った。

 

―――――

 

「……夢さん、霊夢さん!」

「ん、ぁ……?」

 

 そよ風のような声に揺さぶられて、霊夢は意識を引き戻された。まだボンヤリした視界に、若葉色の髪と燐光が舞う。

 

「……何で妖精が居るのよ、ん?てか大妖精じゃない」

「霊夢さん!せ、戦争が、チルノちゃんが!」

「はぁ?戦争?チルノはどうでもいいけど、戦争って?」

 

 慌てたように捲し立てる大妖精の、戦争という物騒なワードに目をつけた霊夢は、一応上体を起こして、話を聞く事にした。

 

「霧の湖の手前に、広い更地があるじゃないですか。」

「うん」

「そこに黒い狼みたいな妖怪がいっぱい居て……」

「うん……?」

「その群れを相手に放火魔してる人間が居たんです!」

「え」

「戦争ですよ!余波でチルノちゃんは吹き飛んじゃったし、私どうすれば……」

 

 霊夢の行動は実に迅速だった。乱れた髪もそのままに巫女服へと袖を通すと、枕元のお祓い棒をひっ掴み外へ飛び出した。少し飛んで宙で振り返ると、大妖精が赤い髪留め片手に追いついてきた。

 

「ありがと……着いてきなさい、大妖精。チルノでも何でも助けてあげるから、魔理沙を呼んできて。」

「わっ、分かりました……!」

 

 いくら妖精が馬鹿でも、叩き起こすぐらいは出来るだろう……出来るはずだ。冷たい風にふわりと靡く黒髪を結わえ、霊夢は再び決戦の地へと飛び出した。

 

******

 

 息が苦しい。現実の私は今、どう感じているのだろうか。同じく荒い呼吸を繰り返しているのか、ただ安らかに眠りについているのか。

 そこまで考えた未来禍は、顔をしかめた。何を考えているのだろう?現実の私って、何だ?と。

 

 幻想郷に生まれた、理想と夢想に縁取られた少女は、その存在を揺らがせた。

 初めて、現実の世界で夢を見る、自分の宿主について意識した。

 

(気づいたの……?)

「貴女は……誰?」

 

 この瞬間、無意識下で一体化していた未来禍と少女は、互いを認め合ってしまった。そして、未来禍は完全な自我を手に入れたのだ。

 

(僕は……っ)

「どうしたの……?」

(う、ううん。僕は、キョウカ。)

「キョウカ……どう書くの」

(暁に、華で、暁華。)

 

 刀を振るいながら未来禍は、自分の中に語りかける、少女の名前を訊いた。暁華はどこか苦しそうに答えると、途切れ途切れに話し始めた。

 

(良かった……僕、心配だったんだ。まだ、時間はあるみたい、だね……っ)

「何を……?」

 

 独りごちるような口調の中に、時々息の詰まるような声がする。何を言っているのか分からない、未来禍は胸の奥で疼く痛みに気づくこと無く、獣の群れを叩き斬る事に専念した。

 

(皆は、来てくれるのかな……僕、期待しても、いいのかな……?)

「……」

(あはは、そうだよね……っ。此所には、もう……居られないんだよ、ね。気づいてるよ、でも……でも……っ!)

 

 啜り泣く声、グリムの姿は絶えて、未来禍はその場に立ち尽くした。そして、頭の中で踞る暁華の声に静かに耳を傾けた。

 

(……怖いよ。まだ、帰りたく、ない……暖かくて、皆が優しく、て……幻想郷なら、僕……生きていける気がしたんだ…………!)

「キョウカ?」

 

 ついに声は途切れて、浅い呼吸だけが聞こえる。いつの間に、暁華と未来禍の息遣いは重なっていた。地面に膝を付き、胸を押さえる二人の姿は……重なった。

 

「ーーー!」

 

「居たっ!あの子だよね?!」

「多分な……あれ無事なのか?」

「分からない。だといいけど……」

 

 少し遅れて、少女達の声が響いた時には、暁華の意識は無かった。七日の猶予はもはや残されていない。

 

―――5―――

 

 幻想郷の夜はついに、日付を越えた。

 

 獣の屍が転がる草原を眼下に、霊夢は空を駆けていたのだが、ついに兆しが見えた。遠くに、虹色の光が立ち上っているのだ。

 

「あれは、魅空羽の……!」

 

 さらに加速して、無数の星が示す草原の一角を目指す霊夢。が、その下にある光景に愕然とした。

 

「……、!お前は……」

「え、霊夢っ!久しぶり……じゃなくて、えぇと」

「事情は大体察したわ。燐乃亜は続けていて。」

「あ、あぁ。」

 

 魅空羽と燐乃亜は、降り立ってきた霊夢を見るなり、声をかけたが、説明は不要だと言われると、活動を再開した。優しい色合いをした炎が、燐乃亜の両手から溢れゆく。そして、横たわる未来禍の身体を包み込み、傷を癒していくようだ。いつの間にそんな優れた魔法を……と思ったが、確か彼女は焔の霊殿を度々訪れていると、萃香に宴会場で聞いたことがある。

 

「それでその、魅空羽。状況は?」

「一高校生に判るのは、あんまり良くないって事ぐらいだよ……。でも、まだ間に合うは」

「無理よ。」

「――ず……え?」

 

 楽観視した笑みを浮かべようとする魅空羽に、霊夢は思わず言葉を遮ってしまう。一転キョトンとした表情になる彼女から目を逸らし、激しく後悔を覚える。仕方が無い、と割りきって、霊夢は実情を語ろうとしたのだが。

 

「ま……だ、闘、わ、な……きゃ……」

「「「!!!」」」

「生きて、いなく……ちゃ……魔、理沙……」

 

 違う、未来禍の声じゃない。いや、確かに未来禍の口から零れ出る言葉なのだが、声音はまるで違った。霊夢はショックで何も言えなかった。

 弱々しく投げ出されていた右手が、転がっていた刀を握り直す。慌てて燐乃亜が手を離すと、それを地面に突き立てて、支えに立ち上がる。汚れた頬をぐいと拭うと振り向いて、初めて優しい笑みを浮かべた。

 

「……アスカ。あんたは、一体……」

「霊夢……キョウカだよ。」

「っ?」

「僕の名前は、キョウカ。アスカじゃ、無いんだ」

 

 ごめんね。

 

 震える唇がそう囁く。未来禍……暁華の目線の先には新たなグリムの群れが立ち塞がっている。それだけではない、どうやら囲まれてしまったようだ。

 各自武器を持ち直し、魔力を練り直し、臨戦態勢へと移行する。かなり釈然としない霊夢だったが、まずは敵を打ち倒してからだと気持ちを切り替えた。

 

「わああっ!」

「「「?!」」」

 

 緊迫を破ったのは、魅空羽の奇声だった。前方には、彼女のスペルカード"オーロラアテンションロンド"。

 それから1秒と経たなかった。その障壁を切り刻む勢いで、無数のナイフが飛翔してきたのだ。風切り音と共に飛んできたソレは、弾かれて背後の軍勢にも影響する。

 

「一瞬だったのに、よく気づいたわね。」

「咲夜さんっ!だから、3はどこへ?!」

「誰も3で投げるとは言ってないわよ?」

「え、えぇ……」

 

 何か色々とぶち壊してくれやがった人物の正体は、何でだか知らないが咲夜だった。霊夢が呆れたように見ているのに気づいた魅空羽は、慌てて弁解する。

 

「さ、さっき時が止まったんです!だから、嫌な予感がして……」

「普通に投げても避けるでしょう?これ」

 

 ひょいと目の前の屍をつまみ上げ、咲夜がイタズラに笑う。実際上は、超高速のその刃から逃れられるのは、霊夢やレミリア達ぐらいだろうが。

 はぁとため息を吐く霊夢に背を向けて、魅空羽があぁと声を上げた。切り裂かれ、大きな穴となった大群の間を、悠々と歩いてくる一行。

 

「……少しばかり、到着が遅いんじゃないの?」

「すまないね、どうやら今宵は裏切られたようだ。」

「運命とやらに?笑わせるわね。」

 

 霊夢の軽口に、強ち嘘とも言えない言葉を返す幼き妖は、妹とその従者、親友とオマケを引き連れて合流を果たした。そう、紅魔館の一同である。

 

 次いで到着したのは、一筋の流星だった。その傍には若葉色の燐光が遅れがちに飛んでいる。どうやら仕事はしたようだ。

 

「ありがとね、大妖精。」

「魔、理沙……」

「……よ、早いじゃねーか。」

 

 肩で息をする大妖精に、労いの言葉をかける霊夢。共に降り立ってきた親友には、ノータッチの方向性で即決した。銀髪の少女は、瞳を曇らせて言葉を探すが、無理に笑おうとした魔理沙の声に含まれた複雑さを感じて、視線を外す。

 美鈴に付き添われてきたフランが、魅空羽に抱きつくと無邪気に言った。

 

「ホントは今すぐお話したいんだけど、まずは狼さん達をやっつけなくちゃね!」

「フランちゃん……うんっ、そうだね!頑張ろ燐乃亜!」

「えぇ、何で私に……まぁ、やるけどさ。」

「よーし、久しぶりに本気でいきますよ~!」

 

 美鈴が拳を打ち鳴らすと、各自にようやく戦闘欲が生まれる。最近は宴会も異変も無く、退屈していた所だ。最終目的は何にせよ、今は周りの雑魚妖怪相手に遊戯と行っても良かろう。

 

「ま、話は後って事ね。……合わせなさいよ!」

「……あぁ、任せとけ!」

 

 肩を少し小突いてやると、魔理沙も戦闘態勢へと移行した。ミニ八卦炉を片手に構えると、全員が背中合わせになった。それぞれの温もりが伝わっていき、レミリアが少しむず痒そうに羽をちらと動かした。

 

 その温度の中で切なそうに顔を歪める少女は、ついに冥いカウントダウンへ入ってしまう。暁華は刀を大きく振りかぶって……力の入らなくなった両足から、地面に崩れ落ちた。

 

――――――

 

 正直、人間の命を繋ぐことは容易だ。境界は何にでも存在して、自分はそれを操れるのだから。けれど、自分はそうしてこなかった。それほどまでに、生死の境界はあやふやで、重いものなのだ。

 紫はそう、自分に言い聞かせた。スキマの奥では、命の灯をすり減らしながら、必死で立ち上がろうと足掻く一人の少女がいる。

 

 彼女に自ら会いに行ったのは、確かに紫である。

 しかしながらその理由は、彼女を……現実世界で病に苦しむ暁華を、護りたいとか助けたいとか、況してや命を救おう等とは、決して考えてはいなかった。ただ単純に、次の迷い人に早く会いたかった。それだけだった。

 

 彼女――未来禍と出会うまでは。

 

 まだ名前も無かった彼女は、暁華の理想だった。微弱な生命力を持った少女、儚く美しい群青色の瞳は、一切の光を受け付けない。それと同時に、宿主である暁華の願い……少しの温もりを求めているような気がした。

 紫が訪れた夢の世界では、二人は手を繋ぎにこやかに談笑していた。僕、と喋る暁華の方は淡く透き通って、未来禍よりもさらに華奢だった。

 

『貴女は招かれた、暁華。私と一緒にいらっしゃい。』

『あれ、お姉さんは誰?此所はてっきり、この子の部屋だと思ってたよ、僕。』

『あらまぁ、それはお邪魔してごめんなさいね?それと私は、八雲紫。幻想郷の賢者です……貴女を迎えに来ただけよ。何も心配要らないわ……』

 

『それなら。この子を連れていってあげて。』

『?』

『僕が死んだら、この子は独りぼっちになっちゃうの。そんなの僕は嫌……だから、幻想郷って所に隠しておいて、お願いユカリ!』

 

 とても冗談を言っているようには見えない。紫は暫し考えた後、銀髪の少女を抱き抱えてスキマを潜った。

 

 そして、あの二人は今、目の前で一人の少女の器へと収束している。暁華と未来禍、似て非なる少女達。宿主と空想、何より最愛の友である二人。

 

 未来禍は、主の望んだ通りに、暁華の存在を知った者から逃げ続けた。そして未来(あす)を掴もうと、必死に手を伸ばしているのだ。

 

 その先にあるものを、照らすくらいなら。

 

「許される、かしらね。」

 

 紫は呟き、力を借りるべく白玉楼へと急いだ。

 

――――――

 

 こんなに狼狽える魔理沙は初めて見たと、そう霊夢は本気で思った。肩を揺すり、金色の瞳を揺らす親友の姿には、少しばかり苦しいものがある。しかし今は、人間と妖怪の間に立つ者として、一人の巫女として、冷静でいなくてはならない時だ。

 

「いい加減にしなさい、魔理沙。見苦しいわよ」

「っ!霊夢、お前……!」

 

 いつか見たような激情の色が、顔を上げた魔理沙の瞳に燃えている。あぁ、確か燐乃亜が来たときの狂魔異変(今名付けたが、あの異変の事だ)の時、紅魔館の前で見せた表情だ。数多くの友人を大切にして、人間らしい情を持つ魔理沙だからこそ見せる、怒り。

 自分にはきっと分からないものだろうと、霊夢はそう割りきった……はずだった。柄にもなく紫に喰ってかかった昨朝の事を思い出して、少しげんなりする。だから今回だけは、霊夢も手を貸そう。

 

「立ちなさい。アスカを助けたいなら、そうすればいいでしょ。まずは片付け、手伝いなさいよね」

「な……」

 

「……、今回は魔理沙の負けね。咲夜、貴女にアスカの護衛を任せるわ。私は暴れてくるから、あと宜しく」

「畏まりました。」

「あーっ、私もやる!お姉様だけじゃズルいわ!」

「勿論ですよ、妹様っ」

「どうして私まで来なきゃいけなかったのか、ようやく分かった気がするわ……こあ、後ろは頼むわよ。」

「は、はいっ!お任せくださいパチュリー様!」

 

「魔力も全快だし、今度は全力でいくよー!」

「ま、久しぶりに本気といくかな……魅空羽。」

「うんっ、宜しくね燐乃亜!」

 

 紅魔の主従三組の内、咲夜は未来禍の身体の護衛を、その他は殲滅を開始する事に……訂正する。パチュリーと小悪魔はその制御に徹するようだ。

 魅空羽と燐乃亜はそれぞれの全力を以て、後輩になるべき少女を救うことを決意した。そして固い信頼の下に背中を合わせた。

 

「……合わせなさいよ、魔理沙。」

「…………あぁ、やってやるよ――

 

 私は、人間なんだからな。」

 

 いつもの無駄に不敵な笑み、そうだ、それが似合う。霊夢はふいと顔を背け……背中を預けた。数多の異変を解決し、死線を潜り抜けてきた二人。その出会いもまた幻想郷の中では、一つの異変であった事を思い出した。その時間の中で二人の人間は成長し、ぶつかり合う事も少なくなかった。けれど……そういうものなのだ。人間というのは、生きているという事は。

 

「全員、本気でやりなさいよ!今回は私が許可するわ!」

「言ったわね?博麗」

「壊しちゃうぞー!」

 

 今宵の月は明るく、西の方へと傾き始めている。その次に昇る朝日を拝めるかどうかが、勝負の分かれ目。

 黒い獣達は、この豪華軍勢を前にしても怯むこと無く牙を剥き出していた。紅魔、博麗、魔法使い。そして、二人の外来人。

 

「……行くぜ!」

 

 虹色に輝く細いレーザーが、夜空を一瞬切り裂いた。それが合図となり、全員が一斉に飛び出していく。

 

「"夢想封印 散"っ!」

「"吸血鬼幻想"!」

「"恋の迷路"!」

 

 いきなりのスペルカードの連鎖に、グリムの屍が宙を舞う。札が飛び、弾が回る。その威力も去ることながら美しさも競われる遊戯としては、稀に見る迫力であっただろう。

 

「"クロックコープス"……!」

「"サイレントセレナ"。」

「お手伝いしますよー、っと!」

 

 咲夜とパチュリーはその場から動かずに、援護と護衛に力を注ぐ。小悪魔もその背中を護るべく魔力を用いた体術で、グリムを蹴飛ばし捻り潰していく。

 そして反対側では、最早全てを諦めた燐乃亜と、最初からそのつもりだった魅空羽が、スペルカードを高らかに宣言した。

 

「"新月オールラウンド"ッ!」

「"カストル&ポルックスの絆"!」

 

 月明かりに紛れるような魔方陣が展開され、それとは対称的な光線がぐるぐると放たれる。そして二つの流星が幾度も柔爛しながら、群れを乱していく。

 

 圧倒的な戦況に笑みを浮かべる一同だったが、たった一人魔理沙だけはどこか不安げな表情をしていた。未だスペルカードを使わずに、魔力を抑えているように感じる攻撃だ。レミリアは前線を美鈴に交代すると、その腕を引いた。

 

「魔理沙、何かあったの?」

「……っ。」

 

 隣に浮遊しながら並んだレミリアにそう訊かれると、レーザーの標準が少しぶれた。少し目を逸らして、気にするなという風にしていたが、横顔を紅魔の瞳は離してくれない。運命を視る彼女からは逃れられないという事か、魔理沙は諦めが付いた。

 そして、少しの震えを含んだ声で吐き捨てるように、レミリアにだけ聞こえるように呟いた。

 

「此所が人里だったら、とっくに全員気が滅入ってると思うぜ。死の気配ってのは、こういうものなのか?」

「……気づかなかったわね。フランの狂気にも似ているけど……?」

 

 辺りに漂う濃密な障気。原因はどうやらグリムのようだが、それに慣れすぎた霊夢や咲夜では感じなかった。妖怪達など、日頃から気にしてすらいないだろう。

 かつては純粋な人間であった、という人材は、正確に言えば魔理沙だけなのかもしれない。

 

 近づいてくるさらに濃く、凶悪な気配。魅空羽は手を止めると、思わずそちらへ振り向いた。燐乃亜は静かな夜空を見上げ、襲い来る本能的な恐怖を追いやろうと、白い息を吐いた。

 

「これだから、幻想郷は……!」

「嫌になっちゃうよね……っ」

 

 白亜の杖を握り直すと、魅空羽は羽を広げた。五線譜をモチーフにした透き通る二対の輝きは、遠くからでもよく見えるものだ。フランは目の端にその光を捉えると攻撃を止めて後ろを振り返る。美鈴もそれに釣られて、敵を一掃した後に背後の気配を伺った。

 

「これは、また……久しぶりに見たなぁ」

 

 美鈴は、苦笑に片頬をひきつらせた。妖怪である彼女さえ、出来れば闘いたくはない。死者への執着は、これほどまでのものだったのか、と少々退いてすらいる。

 対してフランは、その数の多さに目を輝かせた。破壊する事は容易だ、しかしその為の"玩具"はそう簡単にはやって来てくれない。絶好の機会だ、と小さな牙を見せ笑う妹に、レミリアも満更でも無さそうだった。しかし運命はその先を見せた。

 

 彼女は、ナイフを巧みに操る咲夜に寄ると、加勢するとだけ告げた。パチュリーや小悪魔の助力もあって苦戦はしていないが、と疑問に思うがまぁ、主人が自ら力を貸すと言うのなら、と咲夜は遠くの敵を見据えた。

 

「あ?何よあれ。聞いてないんだけど」

「お、多くないですか……その、私死にますよね?」

 

 霊夢とその傍で戦っていた大妖精も気がついて、片や至極面倒そうに、その数の多さを愚痴った。片や黒々とした大群に怯え、戦線離脱を望むが……この状況下ではまず受け入れてもらえないだろう。

 

 ここからが本気だ。総員横並びになる陣形で、未来禍を後ろへ隠すように立つ。ついに射程圏内に入った群れの先頭も、敵意と牙を剥き出しにしている。

 普通の人間なら、まず卒倒するであろう空気の中で、霊夢は指先に挟んだ札に力を籠めた。

 

「これ、割とアブナイのよね……あんた、試してみる?」

「いいえ、遠慮しておくわ。アブナイもの。」

「そう。ならこう、ねっ」

 

 妖にとっては、赤く底冷えするような光を放つそれを、レミリアにちらつかせると半笑いで拒まれた。霊夢はつまらなそうに、ノーモーションで地へと投げ捨てたと同時に片手で印を結ぶ。

 

「……"博麗の名において命ず"。……失せなさい」

 

 赤く赤く、鮮やかな血のような色をした光が、辺りを照らした。巫女の無慈悲な瞳は、奇しくも同じ色に輝くと、目の前を軽く睨んだ。

 次の瞬間、光は制裁の炎へと変化して、群れの3分の1程度を焼き払った。疲れたように息を一つ吐く霊夢に、レミリアが口を開く。

 

「で、今の何だったの?」

「あー……そうね、必殺みたいなものかしら。まぁ私が"博麗"になってから使えるようになったから、そういうものなんでしょ。前線は任せたわよ」

「たまには悪くないわ、心得た。」

 

 ひらひらと手を振る霊夢に、レミリアは愉快そうな声で応じ、美鈴とフランにも目配せする。無邪気に両手を上げて喜ぶフランの羽が上下すると、硝子細工のような虹色の結晶が、死神の笑うように音を発てた。

 

「さっさと終わらせましょ。"スカーレットマイスタ"」

「"カタディオブトリック"!」

「"華想夢葛"!」

 

「"シュート・ザ・ムーン"!」

 

 魔理沙もようやくスペルカードを発動し、かなり弾幕の威力も上がってきている。今までの攻撃とは、格段に違う。

 

「"ラーヴァクロムレク"!」

「"ザ・ワールド"!」

 

 しかしながら、敵の個体も桁違いの瞬発力、耐久力のようで、徐々に前線を掻い潜り始める。今はまだ、咲夜やパチュリーの働きで潰せているが、全ては時間の問題だろう。

 

 そう、全ては……。

 

―――――

 

 霊夢は、未来禍の近くに膝をつくと、その細い腕へと触れた。霊力の波動は弱々しく、出会った時よりもさらに少なくなっている。防衛戦に入った咲夜の背中を眺めつつ一時の休息を取る霊夢だが、本当はあの妖怪どもを一瞬で焼き払ってやりたい。そして、未来禍を手遅れにならない内に、――助けたい。

 

「はぁ……」

「あのねぇ、黄昏るなら手伝ってよ。此方まで来てるんだけど」

「嘘でしょ?あいつら仕事してるの?」

 

 慌てて前線を確認すると、一見余裕そうに見える美鈴や魅空羽の足下をすり抜けて、グリムが向かってきているのが分かった。何も彼女達だけではない、全員が勢いに圧されているのだ。

 

「これは、何ていうか……まずいわね。」

「そうね……っ、"操りドール"!」

 

 ついに時を止めたのだろう、視界が一瞬ぶれて今までの比ではない数のナイフが一直線に飛翔した。しかし、獣の体力――生命力は、半端では無いようで。

 

「……止まらないわね。」

「冷静に見てるなら助けてくれない?勝った頃には皆、動けませんじゃあ意味無いのよ?」

「分かってるわよ。」

 

 そろそろ霊力も回復した頃だろう。熱った両手を冷気に晒して冷ますと、いくらか気力も湧いてきた。無双とまではいかないだろうが、たまには何も考えずに暴れても許されるはずだ。

 

「よし、全員本気で潰すわよ!」

「言われなくても、親玉も出てきたし……な!」

 

 前線の列に加わると、魔理沙は清々しい笑みを見せ、獣の群れの奥を示した。

 居る。莫大な負のエネルギーを抱えた、真に化物だ。

 

「じゃ、本気で良いわね。本気で」

「マジと読むってか?」

「どこで覚えたの……」

「何それー?」

「覚えなくていいですから。」

「面白いじゃない……ぶち壊してやるわよ、運命を」

「操るもの壊していいのかしら?」

「無くすのも"操る"の内よ」

 

 いつもの軽口の応酬に、心なしか空気が軽くなっていくようだった。レミリアは、本人に言わせればカリスマというやつなんだろうが、正直言って妖力が威圧を生むだけの風格を纏いながら、紅く紅く微笑む。

 

「今宵の月は紅く染まる……"レッドマジック"!」

「それじゃ……"極彩旋風"ッ!」

 

 迸る紅い光、賑やかな光弾が舞い散る。先陣を切ったのは、紅魔の主・レミリアと、居眠り門番改めれっきとした妖・美鈴だ。

 

 それに続くべく、列の後ろから参戦したのは、時空のメイド長・咲夜と日陰の少女……少女というには知識に溢れすぎている気もするが、魔女・パチュリー。二人のスペルカードブレイクを見計らい、前線を交代する。

 

「こんな所で使うとはね……"賢者の石"!」

「散りなさい……"エターナルミーク"っ!」

 

 終わらない探究の末に生み出された究極ともいえる、パチュリーの正真正銘の大技が繰り広げられた。魔理沙にはその凄さがありありと感じられた。多分、二度とは見られないだろうなぁとただただ見惚れる。

 一方で、時を超えた銀の刃が次々と放たれては、獣の命を削り取っていく。人間の定義とは、と思わず尋ねたくなるような光景である。

 

「"過去を刻む時計"……きゅっとして、どかーん♪」

 

 静かに告げられた"破壊"が、甘い響きを帯びて伝わると、獣の群れは小さな手の中で握り潰された。それでも無尽蔵のように前へ出てくる獣に、次なる攻撃が襲いかかる。

 

「"冬の大三角―ウィンタートリリンガル―"」

「"夏の大三角―サマートリニティ―"」

 

 背中合わせの二人が掲げたのは、まさに夜空の星座達を呼び出すような、魔法。雪のように白く輝き、彗星のように強く燃え盛る。星々は煌めきを残して、強大な力を以て多くのグリムを吹き飛ばした。

 

 残るは、親玉の一体のみ。

 

 霊夢と魔理沙は、音もなく前へ踏み出した。その瞳には圧倒的な光があった。その背中を、レミリアは小さく祈るように見つめていた。

 

******

 

 深く、もっと深く潜れ。

 

 この命が尽きる前に。

 

 何のためかなんて、知る由もない。

 

 ただ、もっと深くまで、行かなくてはならない。

 

 そんな気がしている。

 

『――――』

 

 ……誰?

 

『――――』

 

 ユユコ、っていうのね。

 

 私、貴女を知らないけど。

 

『――――』

 

 何で、止めるの?

 

 逃げなきゃ、逃げなきゃいけない。

 

 今なら思い出せる。

 

 暁華は私に、逃げてって言ったの。

 

 だから……

 

『――違うわ。』

 

「え……貴女が、ユユコ?」

『ふふ、それも少し違うわね。これは仮の姿よ、アスカちゃん。私の従者に頼んで、貸してもらったの。』

 

 意味が解らない。目前をふよふよと漂うソレは、たまに暁華の話してくれた、幽霊に似ている。

 

『やあねぇ、幽霊じゃないわよ……あ、幽霊かしら?』

「どっち?」

『じゃあ、どっちも。』

「……ワガママな。」

 

 思わず、そう毒づいた。

 

 どっちも、なんてあり得ない。生きるか死ぬか、ただそれだけの世界。だから、暁華は苦しみ、涙を流して、私を何度も抱きしめた。

 

 暁華の願いは、私が叶えなくちゃいけない。

 

『それなら尚更、貴女はそっちに行っちゃダメよ。』

「どうして……そっちには、私を」

『知らない人がいる。確かにそうね、でも……ダメなのよ。此処じゃない場所だからって、無闇に行くものじゃないわ。』

 

 諭すような口調。

 

 やっぱり解らない。"ふよふよとしたやつ"を押し退けようとするけど、ふと腕に力が入らなくなって止めた。崩れる身体から暖かさが消えていくようで、何だか怖くなった。

 

「どう……して……」

『貴女が行くべきなのは何処?』

「暁華を、知らない所。何も知らない、私を……愛してくれる人の所。それが、暁華の……」

『それでいいの?』

 

 暁華は、私にとって唯一の友人であり、家族だった。だから、逆らうなんてあり得ない。私はただ、話を聞く

だけ、抱きしめられるだけ。気の利いた事なんて、何も言えずに。

 

 

『暁華が望んだのは、貴女の未来よ。』

 

「え……」

『どうして?って思ってるでしょう。当たり前よ。彼女にとっても、貴女は唯一の友人だったから』

「暁華が……?」

 

 暁華。今まで忘れていた、忘れたかった、忘れようとしていた記憶。その中にたった一人で、いつも微笑んでいた少女。

 

 ――救いたい。

 

 初めての感情だった。ふよふよから、微笑んだ気配がする。その柔らかい声が響く前に、私は口を開いた。

 

「どうすれば、助けられるの?」

『貴女も、暁華も、私達なら助けてあげられる。』

「私、……此処に居て、いいのかな。」

(僕、……生きていて、いいのかな。)

 

 無意識の中で重なった問いに、ユユコは魅惑的な詞で答えた。

 

『……"幻想郷は全てを受け入れる"。』

 

 さぁ、いらっしゃい。

 

 その声に弾かれて、私はもう一度立ち上がった。

 

******

 

 ひしめくように突撃していたグリムは、残すところ後一体となった。これで、闘いは終わる。魅空羽はそう、確信していた。

 

「さっさと決めてやるぜ!"ファイナルスパーク"ッ!!!」

「当たり前……!"二重弾幕結界"!!!」

 

 虹色のレーザーは、吸い込まれるようにグリムを呑み込み、その周りを札が隙間無く囲む。霊力と魔力が互いに爆発力を高め合い、燐乃亜は親玉グリムの木端微塵な姿を、確かに脳裏で描いた。

 

 しかし。

 

 運命は覆らずに、皆を絶望へ着々と追いやっていく。

 

「嘘……!」

「生きてる、のか……?!」

 

 謂わば妖怪にとっては"必殺"のスペルカードの嵐を、耐えきったというのだ。魅空羽は数歩後ろへ怯えるように下がり、信じられないというように首を横に振った。燐乃亜はその場に立ち尽くし、ただ黒い化物を凝視していた。

 

「グルルルルルルルルルルルルァァァ……」

 

「はっ、上等じゃない。」

「……あぁ、やってやろうじゃねーか!」

 

 獣の嘲笑うような咆哮に、奮い立つ歴戦の少女達の、正真正銘、最後のスペルカードがそれぞれ掲げられた。

 

「"スカーレットディスティニー"!」

「これで終わり……"495年の波紋"。」

「はあああぁぁぁっ!!!」

「……ッ!!!」

「爆ぜるといいわ!」

「この命、お使いください!」

 

 霧の湖畔の紅魔の館。そこに住まう者達の究極の幻想が、辺りを紅く染め上げた。

 レミリア・スカーレット、ラストスペルカード。――"スカーレットディスティニー"。

 フランドール・スカーレット、スペルカード。――Q.E.D."495年の波紋"。

 紅美鈴、最大限の気を込めた渾身の一蹴。

 十六夜咲夜、能力を活かした無数の刃の猛攻。

 パチュリー・ノーレッジ、全身の魔力をかき集めた、完全爆裂魔法。そして主のため、その身を魔力へと還元する小悪魔。

 その全てが破壊力となって、獣の身体に降り注ぐ。

 

 しかし、コレの耐久力は思い知らされている。次なる一手を、早急に打たねばならない。だが、レミリア達に余されている力は無い。

 グリムは、爪の一振りで空を抉り、斬撃を飛ばした。

 

「あ……」

「っ、"オーロラアテンションロンド"!」

 

 それは、魔力を使い果たしたフランの後ろ背を切り裂こうとしたが、同じく魔力で出来た壁に阻まれた。相殺された障壁の欠片が砕け散ると共に、二つに結わえた、水色の髪を揺らし、少女はその場に崩れ落ちた。

 

「あ、はは……」

「魅空羽……!」

「フランちゃん。良かった、間に合って……」

「お前、ホントに……」

 

 フランを抱きしめ優しく笑う魅空羽に、呆れたような諦めたような表情でため息をつく親友。そして二人の傍に寄ると、ひょいとフランを抱き上げた。次いで魅空羽にも肩を貸して、紅魔の面々と一緒に座らせた。

 両手を翳して何やら詠唱すると、焔のようにはためくワンピースが、同じ色した髪が、暖かな光に包まれた。輝きは全身から、少女の広げた両手に集まり、次々と炎へ姿を代えた。

 

「何それ……?」

「……さぁ?」

 

 久し振りに見る挑戦的な笑みに、レミリアは面白そうな表情で見守る。薄紅色の炎は、燐乃亜の合図で大きなドーム状になった。すっぽりと包み込まれた一同は、陽のような暖かさに呑まれ、これが癒しの力を持つ結界だと解った。

 

「まぁ……お前らを護りきるくらいなら、私にも出来るだろ。精々、大人しくしてろよ。」

「燐、乃亜」      ..

「……大丈夫だってば、先輩。」

「~~……その言い方は、ズルいよ。」

 

 あの冬休み最後の日、交わした約束を果たした瞬間、現の世界でも繋がれた二人。その関係は、日常を彩るに有り余る温かさをくれた。

 魅空羽を"先輩"と、そう呼んだ燐乃亜。夢でも現でも変わらない、星を宿した瞳が濡れる。最高の信頼、慈愛の温もりに抱かれて、魅空羽はそっと目を閉じた。

 

――――――

 

――面倒だなぁ。

 

 霊夢は目の前の敵を視界に捉えると、そう思わずにはいられなかった。馬鹿みたいな耐久力は無論、攻撃力はなかなかのモノで、移動も素早い。生半可な攻撃では、倒れてくれないだろう。

 魔理沙も時を同じくして、全く同じ事実を受け止めていた。いくらレーザーを放っても、全て避けきってみせるどころか、反撃まで寄越してくる始末だ。

 

「面白いやつだぜ、ホントに。」

 

 片頬で笑いながら、魔理沙は砲撃をピタリと止めた。そして、霊夢と肩を並べると、くるりと指を回した。空に現れたのは、暗い中でも虹色に輝くスペルカード。

 横目で見ると、霊夢も隣で宙を叩く。透明にも見える儚い光は、博麗の霊力が見せる幻視なのか。魔理沙は目を少し、眩しそうに細めた。それに気づいたわけでは無いだろうが、霊夢が肩を竦める。

 

「ほら、さっさと終わらせるわよ。」

「勿論だぜ。合わせろよ、っ!」

「こっちの台詞……!」

 

 霊力と魔力――霊夢と魔理沙がぶつかり合い、互いを高め合っていく。火花が散って、燐乃亜は結界を強くしなければならなかった。

 

「"博麗弾幕結界"!」

「"ファイナルマスター……スパーク"ッ!!!」

 

 博麗霊夢、スペルカード――"博麗弾幕結界"。

 霧雨魔理沙、スペルカード――"ファイナルマスタースパーク"。獣の姿は見えない。世界の色が飛ぶほどの光が辺りを照らし出したが、あのシルエットはどこにも無かった。

 

 荒ぶる結界を必死に繋ぎ止めながら、燐乃亜は霞む目で目の前の草原を捉えた。二次災害が凄そうだな――現に自分は意識ごと吹っ飛ばされそうな訳で――と、頬をひきつらせる。それでもまだ強くなる余波に瞼を焼かれながら、ふと燐乃亜は考えた。

 

――結界の中に、未来禍は居ただろうか?

 

――――――

 

 もう指一つ動かせない。髪を焦がす残り火を払いのけ大地に背中を預けると、魔理沙は脱力感に襲われた。

 極限まで高まった力を解放した反動を受けて、身体中が悲鳴を上げているが、どうにか目線は動かせる。相棒を確認すると、こちらもぺたりと可愛らしく座り込んでいる。魔理沙に気づくと、気恥ずかしげに顔を背けたが口を開いた。

 

「随分お疲れみたい、じゃない……?」

「説得力が無いぜ、説得力が」

 

 肩で息をしながら言われたんじゃ、と魔理沙は笑う。掠れた呼吸が暫く響き、二人は顔を見合わせて無言で拳をぶつけ合った。何も交わす必要は無い、これで全ては――。

 

「霊夢、魔理沙……!」

「あ、レミリア。」

 

 終わって――。

 

「んー、遅いお目覚めで」

「こっちに来て、早く……!」

「寝ぼけてんじゃないの?ていうか治ってないし……」

「おいおい。まだ休んでろよ、……、?」

 

 片手をついて上体を起こしていた魔理沙は、レミリアを笑うと立ち上がろうとした。しかし、力が入らない。まだ動けないのか、と自分の力不足を笑おうとした、のだが。震えている。指先だけではない、身体が、心が。人間としての本能が、叫んでいる。

 

 

 ここにいてはいけない、と。

 

 

 次の瞬間、怯える紅い瞳のその先で、二人の人間が宙に舞った。突き飛ばすように地面が隆起して、夜の獣を造り出す。それは最早、"影"そのものだった。

 

―――――

 

 終わってなんか、いなかった。力尽きた燐乃亜を抱き上げた魅空羽は、呆然とその場に座り込んだ。

 もう誰も闘えやしない、紅魔の面々はまだ回復しきっていない。もちろん自分も含めて、と魅空羽は襲ってくる眠気を何とか押しやった。霊夢と魔理沙も今の一撃でやられてしまったはずだ。

 ふと、草を踏みしめる音がする。隣を見れば、フランが険しい目付きで立ち上がっていた。

 

「フラン、ちゃん……!」

「えいっ!」

 

 小さな手のひらが握りしめられる。これなら……と、安堵したのも束の間。フランの表情が焦りに染まる。

 

「あ、れ……何で……!?何で壊れないの?!」

「無駄よフラン!アイツは最早幻影に過ぎない。貴女の能力じゃ壊れない!」

「そんな……!」

 

 レミリアは紅い槍で何とか攻撃を往なすと、立ち尽くすフランにそう叫んだ。影の猛攻は止まらず、吸血鬼を圧倒する驚異のスピードで相手を切り裂かんとする。

 

「っ!」

「お嬢様……!」

 

 咲夜の声が響くと同時に、視界がぐらつく。咲夜が時を止めたのだ。最後の霊力を振り絞ったのか、レミリアに抱き止められ意識を失った彼女に、美鈴が駆け寄る。

 

「咲夜さん……!」

「貴女達も十分に働いたわ、ありがとう咲夜。」

 

 レミリアは咲夜にそっと囁くと、美鈴にその身体を預けた。そして、また立ち上がると新しい槍を創る。妹の制止も聞かずに飛び出そうとする幼い身体を、魔力の壁が受け止めた。レミリアにとっては、感じ慣れた親友のものだ。振り返ると、真剣な目をしたパチュリーが、息絶え絶えになって立っていた。

 

「パチェ……!」

「私の、役目は、貴女を、止めること。昔から、そうでしょう?レミィ……」

「やめて、分かったから。もう、喋らないで……」

「いいえ。私たちは、勝てない、アイツには、判ってるでしょ?それを、視たのは……貴女でしょう、レミィ」

「……えぇ。そうね、パチェ。貴女の言う通りだわ」

「どういうことよ?」

 

 霊夢がやっとのことで立ち上がり、パチュリーの目を閉じたレミリアに問う。魅空羽もハッとして、燐乃亜の身体を咲夜の隣に寝かせると、霊夢の隣に立った。

 

「あの、私も知りたいです!レミリアさん」

「魅空羽……。そう、まずは久しぶりね。」

「え、は、はいっ。」

「こんな形で再会したくは無かったけれど、少し移動するわよ。着いてきて!」

 

 レミリアは地面を抉るようなスピードで、紅魔館の方角へ駆け出した。慌てて霊夢、魅空羽、魔理沙、フランの四人は地を蹴った。

 魔理沙の箒を必死に追いかけながら、霊夢は自分の中で渦巻く"違和感"を、どうしてか拭いきれずにいた。

 

――――――

 

 橙は必死に闘っていた。何と、といえば、闇と。幼い身体を動かす度に、傷口から力が失われていく。しかしこれは主の命令なのだ、倒れるわけにはいかない。

 

(紫さまのためだもん、頑張らなくちゃ!)

 

 ただ主のため、と爪を振るい続ける橙は、背中に庇う少女をちらと確認した。霊力感知もうまく利かないような弱々しさ、それなのにしっかりとその場に立っているその傍らには、(恐らく)半霊が浮かんでいる。

 

『頑張ってね~。大丈夫よ、もう少しで……ふふっ』

「は、はいっ!」

 

 幽々子のそんな声に背中を押されながら、襲いくる闇を振り払う。この少女を狙っているようなのだが、何せ周りは真っ暗で、敵がどこから来るのか分かりづらい。橙は腕を振り回しながら、辺りを窺うものの、実体を無くした敵には当たらない。

 

「……っ!」

 

 背中が浅く切り裂かれるだけで済んだのは、日頃の成果だと言えるだろう。最近は、魅空羽や燐乃亜との手合わせも増えた。すぐに反撃に移ると、切り裂いた闇の奥に、自然の光が見えた。橙が思わず手を止めると、穴はすぐに塞がってしまったが、幽々子は嬉しそうに言った。

 

『あらあら……!もうちょっとみたいね、もう下がっていいわよ、橙。』

「ですが……!」

『大丈夫よ。さ、此所に座りなさい。きっと、あの子も急いでいるはずだわ。』

 

 主の親友にそう言われては、橙は引き下がる他ない。代わりに自分の傷の治癒に専念することにした。未来禍は、主の元から逃げ出した。それは知っている。籃と共に捜索を頼まれたからだ。弥生の空は耳が凍りつきそうだったり、陽射しに眠くなったり、色々と大変だった。

それでも主のため、と駆け抜けてきた橙には、目の前に立っている少女の真意が、よく解らなかった。

 

「あと、どのくらい?」

『そうねぇ……あ、動いた。よくあんなに走れるわね、羨ましいわ。』

「え……移動してるの?何で?」

『恐らくだけど、負傷者が多いのでしょうね。だから敵を引き付けて、第二ラウンドへ入ろうとしている。』

「……!魔理沙は?!レミリアや霊夢は無事なの!?」

『極めて劣勢ではあるけれど、ね。』

「そっか……。皆、僕のため、なんだ……」

 

 けれども、この少女は、愛されているのだ、ということは、嫌でも分かった。

 

――――――

 

「はぁ……はぁ……っ」

「此所まで来れば、話くらいはできそうね。」

「んで?どうするんだよ、こっから。」

 

 五人は、霧の湖畔まで来た所で、立ち止まった。魔理沙は、レミリアに厳しい顔でそう問うと、一同をぐるりと見渡した。レミリア、フラン、霊夢、魅空羽、魔理沙の、たった五人。幻想郷の中では、実力者揃いではあるが、対抗策があるとはあまり思えない。

 

「……壊せない敵なんて、私お姉様くらいしか見たこと無かったのに……何か、嫌な感じ。」

「同感ね。強すぎるでしょ、アイツ。ああいうのは、封印しても後から出てくるタイプね。」

「そんな……でも、アイツを倒さないと、未来禍、いえ暁華ちゃんは……」

 

 魅空羽が泣きそうな声でそう言う。少しの沈黙の後、レミリアが口を開いた。

 

「……、本当に、そうなのかしら?」

「え?」

「暁華、というのは、現実に住む女の子でしょう?」

「えっと、はい。」

「未来禍、というのは、いわゆる"想像"なわけで、それが幻想郷に来て、自我と命を持った。そうよね?」

「暁華ちゃんの理想、なんですよね。」

「そう。だから、暁華にはそれを見守る権利があった。」

「一体、何の話をしてるんだ?」

 

 魔理沙が痺れを切らしたように、そう訊ねる。レミリアは顔を上げると、その瞳を真っ直ぐに見つめて答えた。

 

「未来禍は本当に、霜月暁華であるか、ということよ。」

「つまり、その……=(イコール)じゃないってことですか?」

「そうよ。限りなく近い存在……それこそ、感覚を共有してしまうくらいには。でも、同一の存在では、無いと思うのよ。」

「うーん……じゃあ、暁華と未来禍と、両方を助ければいいの?」

「そういうことになるわね。ただ、外界に手出しはできないから、まずは未来禍の事を考えましょう。」

 

 未来禍を助ける。当初の目的にようやくたどり着いた一同は、やがてあることに気づいた。

 

「あれ、未来禍は?」

「はっ?」

「居ない……?!」

 

「ええええええええ!!?」

 

 慌てる五人の所に、すっと現れる影。霊夢はそれに逸早く気づくと、振り向き様にお祓い棒を構えた。

 

「っ!」

「いやねぇ、驚かせないで頂戴?せっかく話をしに来たのに……」

「何だ、アンタか。驚かせないでよね。」

 

 霊夢は敵の再来かと身構えたのだが、そこに居たのは紫。スキマから上半身を覗かせて、辺りを見回す。

 

「あら、逃げたの?」

「悪かったわね!てか、何で今さら来たの?」

「貴女達が困っているようだったから……。未来禍の事でしょう?」

 

 紫はにこりと微笑んだ。ふっと目線を逸らした先には、――アイツがいた。顔を歪める一同に、追い打ちをかけるように紫が衝撃の事実を告げる。

 

「未来禍なら、アイツの中よ。」

「はあぁ!!?」

「おいおいマジかよ……」

「えぇ……私に、勝ち目は……あああ……」

「魅空羽、しっかりなさい。とりあえず私とフランで、何とか動きを封じてみるから……」

「その必要は無いわ。」

 

 紫はレミリアの肩に手を添えると、夜空を見上げた。いつの間にか月は西に傾いている。夜明けも近いと思われるその空に、ポツリと人影が出来た。

 

「「「!」」」

 

「紫さん――っ!」

「よく来てくれたわ。」

 

 白い髪、緑の服。二振りの刀を腰に提げ、その少女は地に足を付いた。サッと顔を上げると、ばつの悪そうな顔で言う。

 

「すみません。少し、霊達が暴れていまして……遅れてしまいました。」

「いいえ、大丈夫よ。幽々子も無事だし……多分。」

「多分っ!?」

 

 若干の不安材料が出来たが、まぁ致し方ない。少女、魂魄妖夢は目を丸くした一同に向き直ると、まずは礼儀として一礼、そして魅空羽に駆け寄った。

 

「魅空羽さんっ!お久しぶりです……!」

「妖夢!久しぶりだね、来てくれてありがとう!」

「は、はいっ!お役に立てれば!」

 

 嬉しそうな笑顔を見せた妖夢は、敵に向き直ると、刀を抜いた。磨き抜かれた楼観剣の曇りない光に、グリムが少し怯んだように見える。

 

「"業風閃影陣"、ハッ!」

 

 気合いと共に降り下ろされた刃が、赤や紫の弾を散らしてグリムに迫る。さらに妖夢は大きく踏み込むと、己の身を投じた。

 

「"斬れぬものなどあんまり無い"ッ!楼観剣!」

 

 妖夢の宣言と共に、白銀の刃が振るわれる。黒い獣を深々と切り裂いて、飛び出してきたのは見覚えのある霊体だった。

 

「は、半霊!?」

「そういや連れてなかったな、そういうことか……」

 

 息を切らして半霊を両手に抱えた妖夢は、肉体を再生させつつあるグリムから距離を取ると、宙にそっと置くようにした。すると、淡い桜色の光が飛び出してきて、あっという間に亡霊の姿を取り戻す。

 

「ん~!やっぱり外は良いわねぇ~。待ってたわよ~、妖夢♪」

「幽々子様……!」

 

「あ、ごめんなさいね紫。やっぱり連れてこられなかったわ。今は橙ちゃんが、結界でどうにかしてると思うけど……」

「……そう。まぁ、想像の範疇ね。」

 

 紫は親友にそう告げると、先ほどグリムが現れた方を見つめた。それに応えるように現れたのは、複数の人影と大量のシルエット。

 

「は?あれって……人形?」

「あっ、あそこに乗ってるの、燐乃亜!?」

 

「お嬢様ーー!妹様ーー!」

「め、美鈴?!」

「美鈴~!こっちだよ、こっちー!」

 

「よっ、魔理沙。随分やられたみたいだな?」

「いくら巫女と言えども、あまり無茶するなよ。霊夢。」

「あ、あんたら……!」

「妹紅に慧音じゃねーか!」

 

 数々の増援と、仲間の復活を驚きつつ歓迎する一同。巨大飛行型上海人形の大群は、やがて上空に押し迫ると消えて、仲間達が降ってきた。

 

「燐乃亜!」

「ん、魅空羽。ありがと、もう大丈夫。」

 

「咲夜!パチェ!」

「ご迷惑を……十六夜咲夜、戻って参りました。」

「どうせまた無茶する気だったんでしょ。私が側に居ないと、ね?」

 

「美鈴は何してたの?元気だったじゃない!」

「ああ、少し気を操ってグリムから皆さんを隠してたんですよ~……アリスさん達にはすぐに見つかりましたけどね。」

「当然じゃない。……その後は私が全員の治癒を受け持ってたのよ。幸い、皆大した怪我じゃなかったから。」

 

「人里にも変な奴らが来てさ、どうなってんだって紫に問い詰めたら、親玉がこっちに居るらしいだろ?慧音は連れてくる気は無かったんだけどね……」

「私も当然付いてくるだろう!里にまで影響が及ぶような事なのだからな。それに、皆の一大事となれば、駆けつけない訳はない。」

 

 アリス、妹紅、慧音、そして妖夢。四人が加わった事で、状況はいかに良化するのか。紫は正直判らなかったが、このメンバーが集まればどうにかなるだろう、という楽観的思考も少なくない。

 

「さて、さっさと片付けちゃいましょうか!」

「ええ、全員集まった事だしね。」

 

 不思議と負ける気がしない。一同は顔を見合わせるとグリムと迎え撃つように向き合った。全ては一人の少女のために、二つの尊い命のために。

 

 そうして、ついに攻撃が始まった。

 

 数えるのもバカらしい弾幕が、黒い巨体を撃つ。人形がグリムの手足を塞ぎ、軽い磔状態だ。星が流れて光が舞って、まるで天ノ川だと魅空羽は思った。

 

「あたいを燃やしたのは、お前かぁぁぁぁぁ!!!」

 

 一人一人のスペルカードとは格が違う。妖夢の能力で切り裂いた傷を、すぐに不滅の炎が侵食していく。そこを無数の弾幕が抉り、グリムはついに悲鳴をあげた。

 

 始まってしまえば、あとは呆気ないものだ。数分後、耳障りな奇声を残して、グリムは消え去った。

 

******

 

「未来禍……っ!」

「魔理沙……ありがとう、……!」

 

 魔理沙は駆け寄ってくると、私の事を思い切り抱きしめた。そのせいで何を言おうと思っていたのか忘れてしまったけど、もう大丈夫だ。

 

 だってこんなに暖かい、この世界に居られる。光が頬をくすぐるので、ふと隣を見ると、懐かしい少女が微笑んでいた。夢から覚めていく彼女は確かに、これからの未来を生きていくだろう。

 

「私は、未来禍。この世界で生きていく……魔理沙と、香霖が付けてくれた、この名前で……ね、魔理沙。」

「っ……あぁ。そうだな、未来禍。帰ったらアイツにも謝らないと、な……」

 

 魔理沙の声が途切れる。さらに強く抱きしめると、肩がぽつりと濡れた。誰も何も言わなかった、ただ私の腕の中で、魔理沙が涙を流すだけ。

 

 それでもやっぱり、この世界は暖かかった。

 

******

 

 紫が言うには、暁華は無事らしい。今は容態も安定していて、確実に良くなっている。いったい何をしたのかと妹紅が聞くと、ちょっと励ましただけよ、と紫は笑った。

 

 皆は未来禍を囲むように歩いて、香霖堂と人里への分かれ道まで来た。その時、誰かがあっと声を上げた。

 

「わぁ……!」

「こんなに、綺麗だったっけ……」

 

 白んだ空から、朝陽が顔を出す。毎日の出来事なはずなのに、その日の光はとても美しかった。それを目一杯に浴びた未来禍は、目を細めて立ち尽くした。魔理沙がその隣に立って、ふと切り出した。

 

「なぁ、未来禍。」

「何?」

「お前の名前さ、変えようぜ。」

「え……」

 

 きょとんとしている未来禍の正面に回り込み、魔理沙は太陽のような笑顔を見せた。

 

「未来に、華で、未来華にしよう。」

「!……うんっ」

 

 よろしくね、魔理沙。未来華は手を差し伸べた、あの日のように、トモダチの証として。今日からの、家族の証として。

 

 魔理沙はしっかりとその手を握ると、二人で香霖堂へと入っていった。否――帰っていった。

 

 木製の扉の前を、一筋の初桜が通りすぎていった。

 

―――0―――

 

 幻想郷には、一人の少女が住んでいる。

 

 椅子に座って、オルゴールを鳴らす。

 

 瞳に湛える灯は、夢見る幼子のまま。

 

 曇りない光が、ふっと窓辺に向けられる。

 

 家族の帰りを待つ、あの日の雨を見つめながら。

 

 未来に渦巻く可能性の中で、咲き誇る華のように。

 

「ただいま、未来華。誰も来なかったかい?」

「うん、お帰り。香霖、魔理沙も。」

「ただいまだぜ!」

「君の家じゃないだろ……」

 

――今日もこの世界は暖かく、全てのものを受け入れている。

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

感想等お願いいたします!!!

(久しぶりにこれ書いた)


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真のあとがき

 こんにちは。咏夢です!

 

 本編終了時に書いた駄文が、あまりに酷かったので、こうして改めて書くことにしました!

 

 一章・如月魅空羽編、二章・葉月燐乃亜編、そして番外編を閲覧いただき、ありがとうございます!

 

 生死や自殺願望といった、少し難しい題材を入れた作品ですが、作者自身はそんなに病んでません!(笑)楽観的なただの人間です。

 

 番外短編・明日の暁では、主人公が色々と難しい事になってましたが……作者も書いててよく分からないような、そんなゆるふわ設定です。なんか残念な気もしますけど……そんな作者なんです。すみません。

 

 さて、話は変わります。

 

 前に書いたあとがき的な駄文でも言いましたが、最初は他作品を読むためにハーメルンに来ました。二次創作が大好きで、自分でも書いてみようかなーなんて始めたら、かれこれ一年と二ヶ月は経ちます。タイミングは逃してしまいましたが、一年も続くとは思ってませんでした。

 ネタが浮かばなくて、消しちゃおうかな?なんて思った時も、皆さんのお気に入り登録を見て、申し訳なさすぎる!と奮起していました(笑)ありがとうございます!

 

 今こうして書いていると、どれだけの人が読んでくれているのかなー、と気になります。一人でも多くの人に読んでもらって、私の文章力も上げていって、少しでも高い評価を貰えるように頑張って!

 そんな感じで駆け抜けた、この小説でした。

 

 といっても、終わらせる気はないのです!未完結とあるように、番外編はまだまだ書きたいのです!もう一つの自作品がメインになってきてしまうので、投稿頻度は確実に下がりますが……必ず戻ってきます!待っていてください!

 

 そして。この小説に出てくるキャラクター達。魅空羽や燐乃亜、未来華など……。皆、私の大好きな子達で、私のやりたいことを詰め込んだ話の中で動いています。妙に厨二っぽかったりするのは、私のせいなのです(笑)

 

 それでは、最後に。

 

 皆さんから頂く感想やお気に入り、少しの評価で、私の小説は成り立っています。貰った感想には全部返信をして、いつも一人できゃーきゃー言っているのです。

 画面越しの先輩達に支えられて、ここまで書くことができました。本当に、本当にありがとうございます。

 

 幻想郷は夢を見る。が、これからも沢山の人に読んでもらえるように、私も頑張っていきたいと思います!

 

 世間知らずのにわかが書き始めた小説を、一話だけでも読んでくださった皆さん!

 いつも感想で応援してくださった皆さん!

 成長期のこの小説を、お気に入り登録してくださった皆さん!

 

 そして……あなたです。今この文を読んでくださったあなたに!最大の感謝を!

 

『ありがとうございました!

 

 感想等お願いいたします!!!』

 

咏夢

 

 

 

 

 



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