NARUTO-空- (Teru-Teru boy)
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ソラとイルカ

オリジナル主人公、オリジナル技、オリジナル設定
オリジナル要素はちょくちょく出てきます


「先生、さようならー」

「おお、さようなら」

 

 海野イルカは自分の生徒に別れの挨拶をする。にこやかに笑顔で生徒を見送った後、瞬時に顔つきを鬼の形相に切り替える。

 

「先生、じゃあな」

「お先」

「ひゃっはー」

「おやつ♪おやつ♪」

「さらば」

「お前らは居残りじゃボケェ!!!!」

 

 先の生徒に便乗してそそくさと逃げ出そうとする問題児5匹に怒りの形相で逃げ道を封鎖する。かの問題児は、上からうずまきナルト、奈良シカマル、犬塚キバ、秋道チョウジ、天野ツカイである。

 

「ナルト!!今日お前は何をした!?」

「ええ、なんだってばよ」

「授業を抜け出した挙句火影様の顔岩への落書き!忘れたとは言わせんぞ!!!」

「記憶にないってば」

 

 ゴツ___

 

 鈍い音がナルトの頭から鳴り響く。イルカの渾身の一撃を喰らったナルトは四肢を投げ出して横たわる。頭の周辺には星がいくつも漂っている様だ。

 

「シカマル!」

「寝てました」

「そうだ!今日一日ずっと授業も聞かずに寝てたと報告が来てる!!ちっとは真面目に授業を受けんか!!」

「なんでわかる授業聞かなきゃいけねえんだよ」

「態度に問題だらけだ、忍たるもの規律を守れんでどうする!!」

「はあっ、かったりぃ」

 

 ゴツ___

 

 今度はシカマルの頭から鳴り響き、横たわる人間が一人増えた。

 

「キバ!」

「授業」

 

 ゴツ___

 

「り、りふじん…」

「授業を抜け出して校庭で遊んでいるのが先生方全員に目撃されているぞ、このバカ!!!」

 

 そしてイルカは次なる標的へと視線を向ける。

 

「ヒィ!?僕何も悪いことしてないよね!?ツカイ?」

「授業中にお菓子ぼりぼり食ってるやつが何を今更」

 

 ゴツ___

 

 ツカイに助けを求めたチョウジだったが、ツカイの言葉はイルカの主張そのもので、即座に屍体は4つに増えた。

 

「俺、何か問題起こしたっけ?」

「教室の窓を溶かしておいて何もしてないはずがないだろ!!!」

「先生はわかってないな、この俺、天野ツカイが自分の能力を高める修行をしているのだ。木の葉にとっては窓ひとつ失うよりはるかに有益ではないか」

「授業中に修行をするな!!!」

 

 ゴツ___

 

 結局のところ5人ともゲンコツをもらうのである。

 

「先生、通ってもいい?」

「何だ!?」

 

 ヒートアップしていたイルカは話しかけてきた人物を見て怒りの形相を解く。

 

「ソラか、まだ残っていたのか」

「先生が教室の出口封鎖するから出られなかった」

「ああ、すまん気がつかな…」

「私、先生の視界に入ってたと思うけど?」

「あ、ああ、勘違いだった。すまないな。こいつらが逃げ出すのを防ごうとしていたんだ。ソラには少し時間とってしまって悪かったな」

「いいよ別に、じゃあね」

「あ、ああ、また明日…」

 

 イルカは蒼井ソラが苦手であった。人物像が嫌いとかではなく、ソラの特性が教鞭を振るう際にかなりの厄介なものと化すのだ。蒼井一族に伝わる血継限界のせいで、ソラは空気に溶け込むのが非常にうまい。無意識に溶け込んでいるようなもので、注視しなければソラを見つけることができない。そのせいか、授業中にソラが解答などで当てられる回数は他の生徒に比べても非常に少ない。先生が意識してソラを指名しなければならないからだ。その場で生徒たちを見ながら指名するとソラはまず当てられない。忍として最高の忍ぶ極意を持った一族である。

 

 つまり、イルカはソラに気づくことなくソラの帰宅を妨げたということ。イルカはソラに気付くことができなかったことを教師という誇りから少しだけ恥じているのだ。その少しだけ後ろめたい気持ちを持っているイルカにソラは何も気にせずに帰る。ソラは自分の特性という理由から、イルカがソラを構うことができないこと理解しているのだから。

 

「問題児じゃないんだけどなあ、ソラの気遁は…」

 

 授業においてもソラだけ省いているような感覚がイルカの教師としての誇りに突き刺さる。仕方ないとしてももう少しソラのことを理解できないかと思案する。そして違和感に気付いた。

 

「ああ!?あいつらどこいった!?」

 

 ソラを気遣うよりも問題児5人の方がイルカにとっては重要な案件である。

 

 

 

 ソラが帰宅をして家に着くまでソラは話しかけられることはあまりない。

 

「ソラちゃん!」

 

 あまりないだけで例外はある。それがうずまきナルトであった。

 

「ナルトくん、どうしたの?」

「いや、ソラちゃんのお陰でイルカ先生から逃げられたからな、ありがとな」

「どういたしまして、でも、イルカ先生はナルトくんのためを思って叱ってるんだよ?」

「う、それは…」

「ナルトくんにいいこと教えてあげる」

 

 ソラは稀に起きるナルトとの遭遇が結構好きだった。普段空気の自分に注目して話してくれる存在は貴重だからだ。

 

「いいこと?」

「今からイルカ先生に謝りに行って火影様の顔岩掃除したら一楽のラーメン奢ってもらえるはず」

「それ本当か!?」

「ちゃんと謝ってね」

「わかった!ありがとなソラちゃん!じゃあな!」

 

 騒々しく去っていくナルトの後ろ姿を見届けてからソラは帰宅する。ソラは気には敏感であるからこそ、人の本質に触れ続けるとその人の行動がわかってくる。担任のイルカのこととなれば、それはもう簡単に、ゆえにナルトが反省し掃除をすれば一楽のラーメンをおごるというイルカの行動が読めるということ。

 

「イルカ先生には悪いことしたかな?」

 

 ソラは一言呟いたが、それを感知できた人間は周囲にはいなかった。

 

 

 

 ナルトは一楽のラーメンをすすっている。

 

「なあ、ナルトどうして今日は反省したんだ?何かあったのか?」

 

 5人に逃げられたイルカは説教ができなくなった代わりに明日の教鞭の準備に取り掛かっていたが、そこに反省したナルトが帰ってきて、火影の顔岩を掃除すると言ってきて感動したのだが、ナルトの行動としては不自然だったため、それを今になってから聞いている。ナルトの掃除中は明日の準備をしていたから今になってようやく質問ができた。さらにいえば、イルカはナルトが監視していなくても火影の顔岩を掃除を終えたのを見て感動を募らせていた。

 

「うん?ああ、そのことならソラちゃんに教えてもらったんだってばよ」

「ソラ?ソラがどうかしたのか?」

「イルカ先生から逃げられたお礼を言ったら、ちゃんと謝って掃除すればイルカ先生が一楽のラーメン奢ってくれるって言ってたってば」

 

 イルカは頭を抱えた。

 

 自分より余程ナルトの扱いに慣れている。

 

 そして何より教え子に完璧に行動を読まれた挙句、問題児に甘い蜜を吸わせてしまっていた。

 

 イルカはナルトへの怒りと同時にやるせない虚脱感に襲われた。

 

 いろいろな意味でイルカにとってはソラは厄介な教え子であった。

 

「ああ、そういうこと…」

 

 完全に意気消沈したイルカを見て一楽の店主と店員であるテウチとアヤメは苦笑いである。二人もソラのことは知っているが、同時にナルト以上に特殊な存在として認識していた。ラーメンを食べに来るときは絶対にナルトが誘ったときだけであり、直接見て話したら優等生だが、一人歩きした噂が問題児のような扱いをされている少女だからだ。子どもらしからぬ、されど子どもの特異な存在はやはり特別な見方しかできないものである。テウチは問題ないが、アヤメも何か見透かされているような感覚をした体験もあるため少し苦手な存在である。

 

「ごちそうさま!おっちゃん!また一楽のラーメンおいしくなってるってば!」

「おお、そうか!ダシを少し改良したが常連のナルトにはすぐわかっちまったか!」

 

 テウチはナルトの素直な反応が嬉しく、ナルトとダシについて話し込む。

 

「はあ」

 

 その横でため息を漏らすイルカ。考えていることはソラである。ソラの気遁の性質は木の葉の忍なら大抵のことは知っている。気というものに敏感であり、感知タイプであり、気に紛れることがうまい。ただそれだけだが、気に敏感であることと気に紛れることが悩みの種である。空気を読めるといえば聞こえはいいが、まるで教えることが何もないように感じでしまう。絶対にソラにも悩みの種であったり何かあるものだ。だが、自分はソラの役に立つのが難しい。わかりやすい問題児と違ってイルカはソラに対する距離感に困っていた。そしてその距離感に拍車をかけるのが気に紛れる能力である。探さないと見つからない問題児とは、なるほど面倒な存在だ。実質的には問題児ではないのだが、それもまた距離感がある。イルカは教え子には平等であるべきだと考えているが、ナルトとソラに対する平等性は天と地の差ほど開いている。これではナルトをえこひいきしているとソラに指摘されたらイルカは微塵も言い返せない。そしてソラはそれをしないからこそイルカは困るということだ。

 

「もんだいじさんじょう」

 

 そして空気を読まない空気を読む人物が一楽を訪れた。

 

「ソラ!?」

「先生が私を気にするなんてことあるのかな、って来てみたんだけど」

 

 抑揚の少ない声で流れるようにナルトとは反対の席に着くソラである。

 

 ソラの読みはイルカの想像を越えている。

 

「私はあまり気にしてませんよ」

 

 気を読むことが特異な少女はイルカへの解答を用意している。

 

「う…」

 

 予期せぬ来客に予期せぬ自分の悩みの解答に困り果てるイルカ。

 

「先生がきちんとした教師たることを私は知っています。尊敬しています。本当ですよ。私のことで悩む先生はイルカ先生が初めてですから」

「そ、そうか。俺はソラの先生できてるか…」

「はい、私は自分の能力をオフにできますが、それをしていません」

「え?」

「つまり先生が私に気付けないのは私がそうしているからです」

 

 前言撤回することになるかもしれない。イルカはもう確信していた。

 

「気遁に慣れるために常時展開しているんですよね。お陰で授業中寝てても怒られませんし」

「やっぱり問題児じゃねーか!!!」

 

 急にうるさくなったイルカにテウチとナルトが驚いていた。




さっそくオリジナル主人公と少しだけオリキャラ1名登場。
原作に沿いながら一部外伝風になるかと思います。


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ナルトと九尾

 先日、てっきり血継限界のせいで空気と化していたと思っていた生徒が自分の能力で空気となり、アカデミーの授業をやり過ごしていたことが発覚した。そしてちゃっかり一楽のラーメンをおごる羽目になったイルカだったが、ソラときちんと相対することで生徒と教師の立場をきちんと確立できたことに満足していた。

 

 しかし、そんな感情もすぐさま吹き飛んでしまう。5人の問題児が今日も今日とて問題を起こしたのだ。後数日後には卒業試験もある。特にナルトは体術を除いた成績はどべ中のどべである。このままでは卒業できない。そして卒業間近となって新たに発覚した鬼才溢れる問題児がくノ一クラスにもいることが発覚。授業中寝てようとも注意できない問題児だったが、イルカはことあるごとにソラを注視したため、ソラはこれから真面目に授業を受けるので問題ない。

 

 イルカの悩みが絶えることはなかった。

 

「くそっ、ナルト達どこ行ったんだ!?ソラ!」

「西門と北門の間の柵から外へ出るところです」

「お前ら自習だ」

『やったー』

「自習だと言ってるだろうが!!!」

 

 ソラの感知力はイルカに大層恩恵をもたらせたが、もっと早く知るべきであった。そしてその光景はアカデミー生にはかなり特殊な光景だった。

 

「ソラちゃん、どうしてナルトくんたちが外に行ったかわかるの?」

「私の血継限界で」

 

 生徒たちはソラのことを知らない。ペアを組んだりする際によく相手になるのが、引っ込み思案の日向ヒナタ。そのヒナタがイルカとソラの珍しいやりとりに驚いていた。白眼は気遁を見切る。気配を消しても瞳術からは逃れられない。ヒナタはソラを見つけるのが得意だったこともあり、二人は仲良くなっていた。

 

「ある一定の範囲なら感知できるよ。全員バラバラに行ったらわからなかったかもしれないけど、西門と北門の間でうろつく5人の影なんてあの5人しかいないから」

「そ、そっか。以外と仲良いのかな?あの5人って」

「どうだろうね」

 

 ソラとヒナタのやりとりを聞いていた一人の人物はふんと鼻を鳴らす。

 

「まったく、基本も出来ていない奴らが勉学を怠って忍になれるものか」

 

 超がつくほどの優等生、そして教科書のような存在として認知されている人物だった。

 

「ハザマくん…」

 

 その人物の名をヒナタが呟いた。見た目は優等生っぽくないが、本質がザ・優等生である時任ハザマである。

 

「手裏剣ひとつ投げても真ん中に刺さらん奴らが、僕の勉学の邪魔をされては愚痴も言いたくなるというもの」

「う、うん…、そうだね…」

 

 ソラは面倒な奴に絡まれたと気遁を展開する。ヒナタは生け贄になってしまった。この時任ハザマの近くの席は比較的空いている。理由は嫌いではないが面倒な奴という認識から少し避けられているためだ。ナルトもまたハザマがこの世で一番苦手な奴として認識している。一応嫌いではないらしい。ヒナタは5人が捕まるまでハザマの持論の相手をすることになり、5人が帰ってきた時にはぐったりとしていた。

 

 

 

「ったくイルカの野郎、この俺が力をつけることが木の葉の最大の有益になることを理解していないんじゃねえのか」

「お前が力つけたら被害が拡大するだけだ」

「これだから名家のお坊っちゃまは本質を理解していない。この俺こそが火影に君臨し、木の葉を導く存在となるというのに!」

「人格が著しく火影に向いてねえよ」

 

 天野ツカイと奈良シカマルのやり取りに噛み付いたのがナルトだ。

 

「何言ってやがる!俺が火影になるんだ!」

「技量が著しく火影に向いてねえよ」

「これからどうにかするってばよ!」

「これからってのはいつからなんだろうな、めんどくせぇ」

 

 そしてその横でキバが笑う。

 

「は、火影かよ。お前らじゃ無理だな。天地ひっくり返っても無理だ」

「んだとコラ、キバ!やんのか!?」

「相手になってやろうか?」

 

 キャンとキバの頭上で赤丸もナルトに威嚇する。

 

「どうでもいいけど、僕のお菓子まで燃やしたら許さないからね」

「食いもんを燃やしたら母ちゃんに殺されるからな、そんなことはしねえよ」

 

 なんでそういうところは律儀なんだか、シカマルにはツカイの考えがさっぱりわからなかった。

 

「黙って廊下に立ってろ!!!」

『はーい』

 

 すぐうるさくなる5人に教室から顔を出したイルカの怒声が飛ぶ。

 

「それにしてもなんでこんなに早く見つかったんだ?」

 

 うるさくしなければと小声でキバは問いかける。

 

「確かに、不自然なほど早かったな」

 

 それにシカマルが相槌を打つ。

 

「たぶんソラちゃんじゃないかな」

「ソラ?誰だっけ?」

「何言ってんだ。昨日だってソラちゃんのおかげで逃げられたじゃねえか」

「ああ、あの影の薄い女か」

 

 確信をついたのはチョウジ、以外と機転は悪くないのである。そしてツカイはチョウジの言葉を聞いてソラという存在を思い返そうとするがでてこない。自己中心的な考えが強く他人にはあまり興味がないツカイにとってこの4人以外は名前と顔が一致するのはサスケとイルカを除いていない。ナルトはソラとはよく話す間柄であり、ソラには一楽のラーメンを食べる仲のため、かなり仲が良い。そしてキバの辛辣な言葉だが、それはソラを体現する言葉でもある。

 

「なるほどな、蒼井一族か。聞いたことあるぞ。確か空気を扱う一族だって」

「空気?」

 

 ソラの能力を知らないナルトはシカマルの言葉に食いついた。

 

「ああ、ある程度の距離にいる人物がどこにいるかわかるらしい」

「それなら俺も嗅覚でわかるぜ」

「そう。つまり、キバと同じく感知タイプってわけだ。だから俺たちがどこから逃げ出したかすぐにわかったってこと。にしても、なんで蒼井ソラがいきなり先生に加担したんだ?今までこんなことなかったつうのに、いや逆か、先生がソラの能力に気付いたんだ。蒼井一族は空気に溶け込む力も持ってる」

「空気に溶け込む?」

 

 チョウジも父から蒼井一族のことを少しだけ聞いた程度で詳しくは知らない。だが、先の大戦の一番の被害者ということをシカマルは聞かされているため、蒼井一族には詳しかった。

 

「キバが影が薄いって自分で言ってたろ。それは蒼井一族の能力が原因なんだよ」

「影が薄くなる能力?」

「忍にとって最高の能力だ。隠密の任務だと簡単に熟せるらしいぜ」

「なんかずっこいってば」

「ナルトの言う通りだ。忍の本質を生まれた時から獲得している一族だってこと。まあ、つまりソラの能力でイルカ先生は普段からソラのことを考えなかったが、今日からはソラの能力を使って逃げ出した俺たちを捕まえようって魂胆みたいだな」

 

 シカマルはイルカ先生がソラという武器を手にいれたという。

 

「それってば変、ソラちゃんは最初から教室にいるってば」

「だからそれを認識できないのが蒼井一族の能力なんだよ」

「ふーん」

「お前絶対わかってないだろ…、あーくそ、かったりぃ。ソラのせいで逃げるに逃げられなくなったかもしれんな」

「ソラちゃん悪く言うなよ」

「わーってるよ。悪いのはこっちだし、それにもう少しで卒業だから、今更イルカ先生に捕まるからって気にすることでもねえけど」

 

 ナルトはソラが悪く言われているようで不快感をあらわにしたが、不真面目を体現したシカマルだが、ナルトの意を汲み取り、かつ刺激しないところでソラへの認識を結論付けた。ナルトはソラを気に入っているため、これ以上悪く言ったらまた大声で言い争いになりイルカに叱られる。それはだるいから遠慮したい。逃げ腰ナンバー1の忍者の片鱗はもう現れていた。

 

「え?でもナルトってサクラのことが好きじゃなかったの?」

 

 ソラを庇おうとするナルトにチョウジの率直な疑問だったが、シカマルとキバもまたその疑問を持っている。

 

「うん?好きなのはサクラちゃんだってばよ」

「じゃあ、ソラは?」

「友だちだってば」

 

 ナルトはサクラ以外の女子に敬称をつけて呼ぶことはなかったが、ソラは別らしい。

 

「で、サクラって誰?」

「…お前に火影は絶対無理だな」

 

 ツカイを横目で見ながらシカマルが呟いた。

 

 

 

 卒業試験当日。

 

 ソラは難なく分身の術をパスする。部屋から出る際にミズキの本質を知っているソラは、合格者の中からナルトがいないことを確認し、確信した。

 

 今日、ナルトを嗾(けしか)け、盗みを働く。ソラは合格者たちが受ける講義があるため適当に席に着く。そして気遁を強く展開する。ミズキがナルトを使って木の葉から大事なものを盗み出すのは理解したが、気質は読めても具体性がない。いつどこでナルトが行動を起こすかがわからない。このことを火影に伝えることが一番早いと読んだソラは影分身の術を気遁・姿隠しと併用し、その場を去る。

 

 足早に屋根伝いで火影邸を目指す。速度はそれなりに早い。ソラは体術はそこまで得意ではないというが、くノ一クラスではトップである。瞬く間に火影邸に到着し、見張りの忍に火影の所在を聞く。

 

「ダメだ。火影様はお忙しい身、おいそれとアカデミー生を合わすわけにはいかん」

「そうですか、では事件が起きてから私が証言すれば、あなたは減給になりますよ」

「そういう脅しをいうならもっとうまく言うものだな」

「では」

「え?」

 

 その場をソラは後にする。一番手っ取り早い解決法が断念されたならば次を考える。ソラは頼れる大人の中で一人浮かんでいる人物がいた。もちろんイルカだ。火影と比べると頼りないが、中忍の腕前と自信の能力とナルトへの理解を考えた場合イルカを除いて頼れる存在はいなかった。自分の保護者である祖父母では相手になる実力がない。アカデミーで講習を終えた影分身体から記憶が還元される。講習にミズキはいなかった。すでに接触している場合ナルトはもう行動を起こし始めていてもおかしくはない。

 

 明日から忍の一員。そう言われて額当てを支給された。ソラは一瞬逡巡した後、額当てを付けた。もう涙は流さない。大切な人たちを守る忍。ナルトは私が助ける。

 

 アカデミーの教室を今にも後にしようとしていたイルカの前に息を切らしたソラが立つ。珍しい光景だった。体術においても同世代の同性敵なしだったソラが息を切らしている。そして額当てを付けているのだ。

 

「どうしたんだ?」

「ナルトが、はあはあ、ミズキ先生に、っふぅー」

 

 焦っているのはソラ自身もわかっていた。深呼吸してから落ち着く。

 

「ミズキ先生の気質を読み取りました」

「ミズキの?」

「ええ、今日落第したナルトくんに近づき、何かを盗ませる計画をしています」

「何を言っているんだ、ソラ?だってミズキは…」

「あの人は!あの人は、ナルトくんを利用して騙して、何かを為そうとしています。それはナルトくんのイタズラとはレベルが違います」

「ソラ、少し落ちつ「先生!」」

 

 声を荒げるソラにさすがのイルカも動揺する。

 

「ナルトの味方になれる大人は火影様とイルカ先生以外、私は知りません」

 

 蒼井一族の特性は馬鹿にできないものがある。それはイルカとて理解している。そしてつい先日それを再確認した。

 

「ミズキは敵なんだな」

「間違いありません、幻術に掛かっているか確かめますか」

「すまん、一応な」

 

 軽く幻術を解く印を結んだイルカだったが、それで確信した。しかし蒼井一族は曖昧な状態までしか判断できない。ミズキがナルトを使って具体的に何を為すのかがわからない。

 

「ミズキの口車ならこうか、ナルトに卒業させてやる。言われたことをやれ」

「特にナルトくんにもプラスになることなら説得力は増しますね」

「…禁術の類か?」

「可能性は高いでしょう。ナルトくん自身頭がいい方ではないので、禁術が自分には習得できないって結論までは出ないでしょう」

「…結構辛辣だよね、ソラって」

 

 馬鹿と言っているのに相違なかった。

 

「もしかしたらナルトくんの馬鹿みたいな体力に見合った術とかあれば習得されてしまう恐れもありますね」

「ソラはよく見てるな」

「…蒼井一族は気質に触れられるんですよ」

「…」

「ナルトくんに封印された者の気質にも」

「ソラ!?」

「そうですか、先生も」

 

 意味ありげなことを呟くソラだったが、表に出てきたイルカの隠れた気質に触れ安堵する。

 

「イルカ先生はナルトくんの味方でいてくれるんですね」

 

 屈託のない笑みを見てイルカは理解した。この少女はナルトを助けるために全力を尽くしている。そしてそのために教師である自分でさえ疑いをかけていた。

 

「まったく、ソラは生意気な生徒だな」

「ふふっ、否定はしません」

「俺は取り急ぎ火影様にこのことを伝えてくる」

「お願いします。私は無理のない範囲でナルトくんを見つけることにします」

「ミズキには気づかれるなよ?」

「蒼井一族を嘗めないでください」

 

 二人は各自の行動をとる。

 

 

 

 火影邸についたイルカだが、見張りの忍がいない事態に気づく。中に入ると鼻血を垂らして気絶している三代目火影を起こそうとしている火影側近の暗部が何人かいた。

 

「火影様!」

「イルカ!?何しに来た」

「ナルトのことで火影様に伝えなけばならないことがあります」

「そのナルトだあいつ封印の書を持ち出しやがった。今回ばかりは悪戯では済まされんぞ」

「それだ。これはナルトの悪戯じゃない」

 

 今の今まで気絶したふり(・・)をしていた三代目が起き上がる。

 

「よっこいせ」

「火影様!?」

「まったくナルトのやつなんて術を考えつくんじゃか」

 

 イルカはこの現象に身覚えがあった。おそらく破廉恥な変わり身の術を使ったことが容易に理解できた。火影のヒルゼンが結構スケベな性格をしていることをイルカも知っている。

 

「ほれ、イルカとわしだけで話す。お前らは下がれ」

「ですが!?」

「下がれと言ったんじゃ」

「…はっ」

 

 火影邸に就く忍や暗部はその場を後にする。

 

「ナルトの悪戯ではないとすれば、ナルトは本気で書を盗み出したということか?」

「ええ、ミズキに唆されて、です」

「ほお、ミズキに?じゃが、どうして優秀なアカデミーの教員であるミズキがこのようなことを?」

「それはわかりません。ですが、蒼井ソラがミズキがナルトを唆すことを予知しました」

 

 火影こと猿飛ヒルゼンの目つきが変わる。かの蒼井一族ならば相手の動向を見切ることも容易。そしてそれはヒルゼンの経験からも信頼に値する。何度もピンチを事前に知り、逆にチャンスとして大戦に勝利してきた。最強の間諜の名を持つ一族だ。アカデミー生とて例外ではない。

 

「そうか」

 

 ヒルゼンは下がらせた暗部たちを再び招集する。

 

「任務じゃ、ミズキを捕縛。それからナルトをここへ連れてくるのじゃ。できればアカデミー生の蒼井ソラもじゃ。もちろん無傷でのう」

「火影様!私にも!」

「ほっほっほ、ワシはこの場にいるものに任務を言い渡したはずじゃが?」

 

 真意を理解したイルカは真っ先に動いた。

 

 最低限の護衛が一人、はたけカカシを除いていなくなった火影邸でヒルゼンは嬉しそうに笑う。あのナルトに真なる友がいることを嬉しく思っていた。

 

「ふむ、アカデミーの組み分け考えなおす余地があるやも知れんが、さすがに火影としてナルトだけかまい過ぎるわけにもいかんか」

 

 誰かに呟いたその言葉をカカシだけが聞いていた。

 

 

 

 ソラは感知タイプである。影分身の術を駆使し、里全体からナルトの居場所を感知するまでそう時間はかからなかった。すでにナルトは封印の書を広げ、中身を読んでしまっている。

 

「ナルト」

「ぎくっ!?ソ、ソラじゃねーか。ど、ど、ど、どうしたんだってばよ」

 

 完全に動揺したナルトは背後に身の丈ほどある書物を隠そうとするが、まるっきり隠せていない。

 

「はあ、封印の書を見てしまったのね」

「あれ?ソラ額当て…」

「見てしまった人物を生かしては置けない。任務より、あなたを亡き者にします。ご覚悟を」

「え、ええ!?そんな、俺ってば…」

「嘘に決まっているでしょう」

「えぇ…」

 

 ナルトは脱力する。普段脱力系女子たるソラに目力が篭り、苦無を構えられては本当に殺されるとナルトが判断するのも無理はない。

 

「まったく、誰に教わってまで封印の書を盗み出したのですか?」

「ミズキ先生だってば」

 

 ソラは一瞬だけ目を細める。

 

「なるほど入れ知恵はやはりあの人で問題ありませんね。しかし同時ですか。なかなかどうしてイルカ先生はここがわかったのか」

 

 ソラは近づく二つの気配に気づいた。片方はイルカ、もう片方は件のミズキである。そしてミズキはソラとナルトを見つけると、邪魔と判断したソラに苦無を投擲した。それをしっかりと視界に収め、しかし防御の体制を取らないソラにミズキは疑問を持つ。その疑いはすぐに解決された。

 

「大丈夫か!?ソラ!ナルト!」

「げっ!イルカ先生!ってどうなってるんだってば!?今、ソラちゃんに苦無が飛んできたってば!?」

 

 ナルトはソラに飛んできた苦無の軌道からそこにいた人物を見つける。

 

「ミズキ先生…?」

「ナルトくんに封印の書を盗ませ、その後秘密裏にナルトくんを処理し、封印の書を回収する。穴だらけの作戦にしてはうまくいきましたね。まさかナルトくんが火影邸を正面突破できるとは思いませんでしたが」

 

 ソラの言葉にナルトは訳がわからず、理解するのに時間が必要だった。

 

「ちっ」

「もうお前に逃げ場はないぞミズキ!」

 

 もうすでに自分の所業だということは周知されてしまった。それに気づいたミズキは強行策しか手立てが残っていない。

 

「はっ!アカデミーすら卒業できないドベに、下忍気取りのくノ一に、中途半端な実力しか持たない中忍がいたところで何になる。ナルト!早く巻物をこっちに渡せ!そうすれば俺がお前をアカデミー卒業させてやる」

「ナルト!耳を貸すな、それを渡してしまったらお前は共犯として忍になれなくなってしまう!」

 

 ソラはミズキの言葉もイルカの言葉も正しくナルトに伝わっていないことを理解していた。

 

「はあ…」

 

 ソラはため息をつくと苦無をミズキに投擲する。それを容易に弾くミズキだが、殺気をソラに向ける。

 

「…なんのつもりだ?」

「敵に苦無を投擲するのは忍者の世界では常識でしょう?味方に投げつける忍者なんてまずいません」

 

 ナルトにはわかりやすかった。ソラはミズキを敵だと言っていることを理解する。

 

「で、でもミズキ先生ってば敵じゃ」

「ナルトくん、あなたは騙されたのですよ」

「騙された?」

「ええ、このミズキはナルトくんを誘導して封印の書を盗ませ、その後、ナルトくんからその封印の書を奪う予定だったんです」

 

 ミズキは面白くないという表情を作る。

 

「ったく、変に優秀なくノ一もいたもんだ。どうだ?それだけ優秀なら木の葉より稼げる場所なんてすぐ見つかるぞ?俺と来ないか?」

「失礼ですが、あなたに何言われようとも心変わりすることはありません」

「はあ、ったく利口じゃねえな。そういう奴は早死にするよ」

「あなたほどではありませんよ」

「ちっ、減らず口が」

 

 どっちが、ソラはその言葉を発しようとしたが、瞬時に苦無を構えて手裏剣を弾く。腐っても中忍レベルの実力を持っている。ソラは手裏剣の投擲だけで自分とミズキとの力量差を測る。

 

「ソラ、ナルトを連れてここから離れろ!ミズキに封印の書を渡すな!」

「イルカ、一応実力があるのは認めるが、てめえと俺とじゃ相手にならねえぞ。だがな、てめえを遣るのには足手まといがいた方が片付くの早えだろ?」

「ミズキ!貴様ァ!」

 

 ミズキは背を見せ、ナルトを抱え逃げようとするソラに手裏剣を投擲する。イルカはそれを防ぐため火遁の術を使うが、ミズキにナルト達を追うのを先行される。

 

「さっさとくたばれ」

 

 ミズキが苦無を投げ、それがソラの背に刺さる。

 

「ふん。…なっ!?」

 

 ソラはくノ一クラスで最強の体術使い。変わり身の術の精度は下忍の中でも上位層に食い込むレベル。ミズキはソラの変わり身の術に騙され目標を見失う。

 

「どうやらソラはうまく逃げたようだな」

「ちっ、時間がねえか」

 

 ミズキはイルカを苦にはしないが、上忍が数人くれば万事休すである。できる限り早く決着をつけなければならない。ミズキはイルカをまともに相手をする気などさらさらなかった。

 

 

 

 ナルトとソラが逃げている中、ナルトはソラの額当てをうらやましそうに見ていた。

 

「ナルトくん、今はこれに気をとられている場合ではないのですが」

「でもさ、でもさ、やっぱりソラちゃんってば俺に見せびらかしてるじゃんか!」

「はあ…」

 

 ソラには忍の自負として額当てを任務中は外すのを憚られていた。もちろん正式な任務でもない上に、木の葉に雇われてすらいない浪人のような状態にあることも分かっている。しかし、ソラの意志は固い。外した方がナルトはミズキに集中できるのだが、ナルトは今不安定な状態であること。それを以ってしてもソラは意外と頑固であった。額当てを外す気にはならなかった。

 

「やっと、追いついた!ナルト、封印の書を渡せ!」

「…変化の術なら、ナルトの方が上手いね」

 

 ソラの呟きにさすがにナルトも思考を切り替えた。ホルスターから手裏剣を投擲し、イルカに変化しているミズキに攻撃する。

 

「ちっ」

「イルカ先生はどうした!?」

「あ?イルカのやつならそこら辺を彷徨ってるんじゃねえか?」

 

 ソラはミズキがイルカを巻いた方法を幻術の類と結論づける。

 

「ったく、イルカもイルカだが、お前もなんでナルトのやつの味方になるのか、理解できねえなあ。ああ、間違えたナルトじゃなかった。化け狐のなあ!」

「ミズキっ!」

「遅かったじゃねえか、イルカ」

「お前!?」

「あ?箝口令だったけか?悪いな俺は木の葉の忍じゃないんでな」

 

 頭から血を流して、満身創痍なイルカが駆けつける。そこでミズキは自分の額当てを苦無で傷つけた。裏切りの象徴としてその額当てを身につける。ミズキにも多少の傷はあるが、イルカに比べて随分と傷は浅い。

 

「化け、狐!?」

「ナルトくん」

 

 ソラはナルトくんと一定の距離が離れている。ナルトのそばに近づくにはミズキがいるためあまり身動きができない。

 

「ソラだっけか?どうでもいいが教えてやるよ」

「やめろ」

「12年前、化け狐を封印した事件がある。あの事件以来、里ではある掟が作られた。ナルト、お前だけには絶対に知らせてはならない掟だ。そして今のガキの世代にも伝えてはならない掟」

「よせ!ミズキ!」

 

 なんだってばよ。力なく問いかけるナルトをソラは視界に入れる。

 

「ナルトが化け狐だっていうことをなあ!」

「クソっ!」

 

 ソラはナルトに封印されている存在を知っている。大して驚かないソラにミズキは訝しむ。俺が、化け狐?そう呟くナルトからソラは視線を切る。

 

「信じてねえみたいだな。だが、わかるだろなんでナルトが石を投げつけられ、罵倒されるか。ナルトが12年前、里を襲撃し」

「やめろぉ!!」

「イルカの両親を殺し、たくさんの木の葉の里の人間の命を奪い、里を壊滅させた九尾の妖狐なんだからなァ!!!」

 

 ナルトは怯えるようにソラとイルカを見る。ソラが口を開いた。

 

 知っていますよ。ナルトくんに封印された九尾の妖狐のことは___

 

 ナルトは反射的にソラの方を向く。

 

「ナルトくんは九尾の妖狐ではありません。封印された依り代。言わば九尾事件の被害者であり、九尾を封印し里に害が及ばないようにしている存在。英雄といっても差し違いありません」

「はっ?」

 

 ミズキにはソラの言い分が理解できなかった。そしてミズキは封印の依り代という言葉はわかる。ナルトは化け狐本体と嘯いて動揺させ、葬ろうと画策していた行動が止まる。

 

「何言ってんだ?てめぇ…」

「ナルトくんは木の葉の里の英雄です。生まれた日に九尾を体に封印しているのですから」

「気持ち悪りぃ…、さっさとくたばりやがれ!!」

 

 ソラに辟易したミズキはソラへ向かって手裏剣を投げつける。ソラが手裏剣を弾く一瞬でミズキはソラへの距離を詰める。

 

「終わりだ!」

「避けろぉ!ソラァ!」

 

 ソラはミズキの手に持った苦無で引き裂かれる。

 

「ちっ、幻術か!」

「魔幻・鏡像転置の術」

 

 鏡に映るような虚像を見える幻術であるが、簡単に見切られる上、解除が容易い。

 

「解。そんなもんが効く___!?」

 

 幻術を解く瞬間を狙って手裏剣の雨を降らせる。しかし、寸前のところでミズキは瞬身の術で退避する。

 

「ちっ、トラップか」

 

 相手は中忍、避けた先に起爆札を仕掛けていたが、爆発前にバレてしまう。ミズキは変わり身の術で起爆札の爆発から難を逃れる。ソラは攻撃の手を緩めたら負けてしまうことを理解していた。さらに追撃をするかのように苦無を投げようとするが、すぐに異変に気付く。殺気が完全に気遁を展開し、爆煙に隠れた自分を補足している自体に、ソラは幻術を解除する。

 

「幻術返しだ、オラァ!」

 

 苦無の一撃は防いだが、ボディブローを直に受け、吹き飛ばされてしまう。

 

「結構強えな。イルカより強えんじゃねえか?」

「ごほっ、ごほっ」

「ま、残念だったな。才能も開花する未来がなけりゃこんなもんだ」

 

 ミズキはソラにトドメをさすために近づく。そしてソラとミズキの間にイルカが割り込む。

 

「イルカァ、手負いのてめえに何ができる?」

「ミズキ、ソラは殺らせないぞ…」

「そうかそうか、てめえには面白いもんを見せてやるよ。教え子の脳梁が弾け飛ぶ瞬間をな!」

 

 ミズキはイルカを越えた先にいるうずくまるソラへと向かった。

 

「終わり____!?」

 

 ミズキは前に進めていたはずの身体が大きく後退していくことを感知した。

 

「ぐあぁ!?な、なんだ?」

「イルカ先生とソラちゃんに手ェ出すな、殺すぞ!!」

 

 およそアカデミー生の、否、下忍であれ、ここまでの殺気は出すことができない。ナルトのチャクラは倍増し、赤いチャクラが青いチャクラと重なっていた。

 

「多重影分身の術!!」

 

 ナルトは禁術・多重影分身の術を発動した。分身の術すら使えなかったナルトがそれを遥かに超えるレベルの忍術を使ったのだ。

 

「ナ、ナルト…、本当にナルトなのか!?」

 

 イルカも驚愕してナルト本人か疑ってしまう。そして分身した分身体がそれぞれとてつもないチャクラを発しているのがイルカにもわかった。

 

「な、なんだこれは…!?」

「これはイルカ先生の分!」

「ぐはっ!?」

「これはソラちゃんの分!」

「ごほっ!?」

 

 四方八方を囲まれたミズキはまるでナルトの攻撃に対処ができていない。

 

「それから全部俺の分だ!!!」

「私の分少なくないですかね?」

 

 ナルトの分による猛攻によりミズキは文字通りボロ雑巾になるまでしこたま殴られていた。

 

「おいおい、結局一番やられたの俺だけじゃ…」

「イルカ先生は格好良かったですよ」

「ははは、無傷(・・)の教え子に言われてもな…」

 

 殴られたソラは変わり身の術と影分身の術を併用し、殴られたように見せかけただけ、本体はすぐそばの木陰から常にミズキの隙をうかがっていた。

 

 

 

 しこたま殴られ、骨をいくつも折ってあざだらけになって気絶しているミズキを捕縛した後、落ち着いたナルトがこっちを向く。

 

「先生…、俺…」

「ナルト、…ごめんな、…辛かったよな」

 

 イルカ先生は両親を失ってから孤独だった過去を話す。一人が辛く優秀さを持ち合わせていなかった自分は悪戯や失敗で孤独を癒そうと必死だったこと。ナルトの気持ちをわかっているつもりだったのに、辛い思いをたくさんさせてしまったことを詫びた。

 

「大丈夫ってば」

 

 ナルトはそういった。言い切った。

 

「ナルト?」

「ニヒヒ、俺ってば、もう一人じゃない。アカデミー入る前はそうだったかもしれない。でもイルカ先生やソラちゃん、それにバカやってる4人もいるし、他にもみんな俺をバカだアホだって言うけど見てくれてる。俺もう一人じゃないってばよ」

 

 イルカの抱擁を受け止めながらナルトは笑みをこぼした。

 

「最初に声かけてくれたのはイルカ先生だったけど、二番目にソラちゃんが声をかけてくれたんだ。友だちになろうって、それで俺、ソラちゃんと友だちになってからすぐアカデミーのみんなと友だちになれた」

「そうか、そうだったのか…」

「俺もいつまでもガキじゃねえってば」

「そうだな…」

 

 イルカはナルトを離し、自分の頭に手をかける。

 

「ナルト、卒業おめでとう」

 

 自分の今つけている額当てをナルトに渡した。ナルトの顔が驚きから笑みに変わるのに時間はそうかからなかった。




三人目のオリキャラ登場


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第11班とチームワーク

 この男を覚えているだろうか。

 

「ふぅー、落ち着け。大丈夫だ。きちんと僕は修学してきた。大丈夫」

 

 教科書のような存在と揶揄される時任ハザマだ。基礎が疎かでは何事も上手くいかない。そんなセリフばかり吐く男である。しかし、その男には教科書には書かれていない緊張をほぐす方法がなかった。平時を意識するのは幻術にかかった時という知識はあるが、それで緊張を解せない辺りかなり頭が固い人間である。ナルトの真逆をいく人物だ。

 

「昨日を乗り切ったのだ。問題はない」

「何してるの?入るならさっさと入って」

「ふぉ!?蒼井ソラ!脅かすでない!」

「教室入るのに邪魔なんだけど」

「すまん、緊張していただけだ」

「そう、どうでもいいけど、ヒナタはあなたが苦手だからさっさと行ってくれる?」

 

 ソラの言葉にソラの背後にいたヒナタと言われた本人であるハザマは驚いてしまう。

 

「ソ、ソラちゃん!?」

「日向ヒナタ!僕のことが嫌いなのか!?」

「嫌いとは言っていないわ、耳ついてんの?」

「む?そうか、あれ?だが…」

「緊張ほぐれたでしょ、早く行ってよ」

「お、本当だ。すまんすまん」

 

 ハザマは今のやりとりで変に緊張していた状態から解放され、教室に入る。中には誰もいない。それほど早く教室に着いた3人だが、中に誰もいないのを見てソラはため息を吐く。誰もいない教室に入るのに緊張って、時任ハザマという男子はこの先下忍としてやっていけるのだろうか。他人を視る癖のあるソラだが、同情したり補佐したりすることは少ない。ソラは自分の手の届く範囲を極端に低く見ているため、あまり仲の良い相手を作ろうとしない。アカデミーにおいてもナルトとヒナタを除けばイルカくらいなものである。ゆえにハザマが下忍の採用試験に落第しようとソラには関係なかった。

 

 

 

「第11班、時任ハザマ、天野ツカイ、蒼井ソラ」

 

 一緒の班に組み込まれるまでは

 

 

 

「はあ…」

 

 ソラは一大事であった。このスリーマンセルの制度、偏りなくと言いつつも偏りがあり、その背景を視たソラには理解が及んでいるが、これ大丈夫なのだろうか。今年採用されるのは12名、第7班、第8班、第10班、第11班ということよっぽどのことがあれば採用されない事態にはならないだろう。他の連中は暗部かまた別の採用をされることになる。去年は僅かに3人を除いて暗部や忍関連の進学や就職を果たしている。今年は12名に当たりを付け、その人員でスリーマンセルが組まれているのだ。しかし、実のいうところコネのように思える人材分けだが、確かに今年受かった30名の中から多重影分身が使えるようになったナルト、座学トップのサクラとハザマを含む12名と他の18名では実力に多大な差がある。ナルトこそドベと言われていたが、体術では上から数えた方が早く、忍術もかなり上のところまで来ている。サクラやハザマもまた座学の成績は凄まじく、一般家庭出身とはいえ、明らかに非凡。上から12名とそこから下では天地ほどの差がある。本当に二人の分身を増やす程度で終わる実力しかない。下忍にはなれてもCランク任務で命を落としかねない。

 

 何が言いたいかというと、ソラにとって、サクラとハザマは完全に出来レースの中でのダークホースの存在。つまり、第7班と第11班は合格が確定していないのだ。もちろん上に挙げた4班以外にも出来が良ければ忍者として認められることもあるが、その可能性は著しく低い。ソラがため息をつくのは忍の名家が集まるこの年代で一般家庭から出てきた非凡という未知なる存在が自分の未来を妨げる要素になるかもしれないからだ。それと一番の理由は第8班と第10班がもう合格していることに対する怒りを持っていて、それをため息を吐く事で押さえ込んでいるのが真相だったりする。この女子かなりイラついているのだ。

 

「ため息吐くと幸せ逃げるっていうぜ」

 

 そしてハザマに並ぶ問題がもう一人。アカデミー5人の問題児の中でナルトレベルに問題児筆頭候補、大人からすればナルトの方を警戒するが、同世代は一番にこいつを警戒する天野ツカイ。忍術に誇りを持ち、忍術の研究が大好きな少年である。そして平気な顔で教室で忍術を試し打ちするドが付くほどの阿呆である。ソラのストレスは右肩上がりで上昇していた。

 

「よし、じゃあこれからについて説明しようか」

 

 担任の上忍の引率の元、他の班とは離れた場所に集う。ソラは気遁を解かず、担当上忍の思考を読み解こうとする。

 

「気遁、解除してくれるかな?」

「わかりました」

 

 されど上忍、下忍の忍術などたやすく看破してしまう。

 

「なんかしてたのか?」

「探りを入れただけよ」

 

 馬鹿に一言で答え、質問の追加を許さない。

 

「それじゃあまずは自己紹介と行こうか、今日からお前たちの担当上忍となる奈良シカクだ。お前らの代には息子が世話になってるな。ほんじゃ次、そっちの姿勢正しいやつから」

 

 問題児の一人奈良シカマルの父親その人である。指名したのは時任ハザマ

 

「時任ハザマです」

 

 固い、恐ろしく固い。

 

「なんかあるだろ。趣味とか将来の夢とか。あー、そういえば俺言ってなかったか、まあどうでもいいか」

 

 どうでもいいけどさ、三人の心境が合致した。

 

「趣味は修行、将来の夢は三代目火影を超えるプロフェッサーになることです」

 

 シカクは呆気にとられた。そして天野ツカイも驚愕する。一方でソラはハザマが教師に向いている人格と、それを目標としていることを知っているため、驚くことはない。

 

「三代目を超える火影が夢というやつは見てきたが、三代目を超えるプロフェッサーか、面白いやつだな」

「ふむ、こんな奴もアカデミーにいたのか」

 

 ソラはツカイのつぶやきにひょっとしてと探りを入れる。ソラの行動をシカクも見ていたが、沈黙。案の定ソラはおろかアカデミー生のほとんどの名を覚えていないようだ。こんな人間初めて見たとソラはツカイを訝しむ。

 

「次は俺だな。名は天野ツカイ、趣味は忍術の研究。将来の夢は一族の血継限界をさらに強くすること。日向にも負けないくらいに」

 

 シカクは問題児とは聞いていた。そして天野一族はこと戦闘忍術に関してのスペシャリストである。それを強化するのが目標というのは危険思想に分類されてもおかしくはない。比較的平和な木の葉だが、世が完全に平和ならすぐに止められかねない夢だろう。

 

「最後(とり)は私か、蒼井ソラ。趣味はいろいろあるけど、没頭しているものもない。将来の夢は大切な人を守れる強い忍になること」

 

 シカクは表情に出ないまでもソラを観察する。蒼井一族の悲劇を知っているものからすれば、蒼井ソラはかなりのマークがついてもおかしくはない。三大血継限界と呼ばれた内の一つ。最弱と呼ばれていたが、それでも木の葉には有益であり、他の二つの血筋よりも優先して狙われた一族だ。知略を以って相手の裏を掻き、戦場を指揮する自分とはまるで異なる司令塔。蒼井一族の後退がなければシカクは先の大戦で大きな戦果を挙げることはなかっただろう。そしてソラは両親を九尾事件で失うことになった。シカクは深い闇を抱えているはずの少女が強く生きている要素が何かわかった。ソラの祖父母の海(カイ)爺さんと小鳥(ことり)婆さんのおかげだろう。歴戦の猛者であり、先々の大戦で大いに活躍した二人だ。かつてのご意見番の立場を去り、今は隠居して子育てをしている。その子がソラだ。

 

「あー、なんだ好きなものとか嫌いなもの聞き忘れてたわ」

 

 先に言えよ、3人の心境がまた合致した。

 

「まあ、それはおいおいでいいか。じゃあ明日演習するから、このプリントに書かれた通り、解散」

 

 そのプリントには今季の下忍採用人数が”通知”されていた。

 

 9人

 

 今季の採用人数枠から脱落率70%の超難解な採用試験だった。そして12人の枠があるとイルカを通して思い込んでいたソラに衝撃をもたらした。

 イルカが嘘の情報掴まされた可能性が高い。ソラは瞬時にそう判断した。そうなると残り一枠をナルトたちの班と争わなければならなくなる。ソラはため息で怒気を晴らすことさえできなくなっていた。ソラの額に青筋が浮かんでいた。

 

「二人とも話があるんだけど」

 

 シカクが去ってからソラは二人に告げる。

 

「「イエス、マム」」

 

 ソラから漏れ出すチャクラ量に二人にNOという選択肢はなかった。

 

 

 

 ソラは自分の血継限界の特徴を話し、今回の顛末を掻い摘んで二人に教えた。

 

「なんか卑怯な気もするな」

 

 真面目な優等生のハザマはソラが試験の真意を掴んでしまう忍術を持ってるのをずるいと評価する。それにはツカイも同意である。

 

「つまり結局受かるのは班でしかないってことか」

「イルカ先生が個々人も心配してたけど班としても心配してたからね」

「結構便利な忍術だな」

「破壊力の塊とは違うのよ」

「んだとコラ!」

「事実でしょうが、破壊力こそ至高って自慢してるのになんで人から言われたらキレるのよ」

「なんとなくムカツク」

「…」

 

 ツカイは性格に難あり。ソラは心のメモ帳にそう記した。

 

「だが、参ったな。班で受かるってことは…、チームワークか?」

「でしょうね」

 

 ハザマとソラの会話の横でチームワーク?と疑問を掲げる人物に、現状最もな不安要素に、二人が気づいた。

 

「はあ、この馬鹿にチームワークのチの字もないよ」

「結構きつい言葉使うんだな、誤解していた」

「そう、はあ…、まあ、別にどうでもいいんだけど。下忍になるのに遠回りはしたくないんだけど」

「それもそうだが…、まさか僕に?」

「ええ、私異性だし」

「いや、そういう問題ではないだろ!」

 

 ハザマは教えるのがうまい。ただ、それだけではツカイにチームワークを教えるのに手間取っていた。すべて自分の忍術で片がつくと信じているからだ。ツカイは自分たちの一族の現状をよく知っている。蒼井一族と同じように天野一族もまた存続の危機に瀕している。有名な家柄で存続の危機にあるのは、うちは、蒼井、天野が筆頭だ。ツカイもまた自分たち一族の利便性を示し、木の葉に必要だと知らしめたいのだ。そして一族が戦闘特化ということもあり、本人はかなり好戦的である。

 

 故に___

 

「何で演習場来てんのよ」

「どうしてこうなった」

「チームワークが本当に強いなら、俺を倒せるってことだよな?やれるものならやってみやがれ」

 堅物は二人いたということ。これにはソラも思わず天を仰いだ。ハザマの方も厄介だが、ツカイはぶっ飛んで面倒なチームメイトだった。

 

「さっさと終わらせるわよ」

「了解」

「ふん、俺の忍術の前に跪くがいい」

 

 喰らったら死ぬから跪けないと思うんだけどとソラは心の中でツッコミを入れた。

 

「行くよ」

「行くぞ」

「来い!」

 

 もう勝負は決まっていた。ツカイは自分の忍術をあらぬ方向へと放ち、隙だらけなところに二人の拳が腹に突き刺さった。ツカイのダメージが回復したところでツカイが愚痴をいう。

 

「幻術なんて卑怯だぞ」

「「それはない」」

 

 負けは負けなので潔くツカイは二人に従う。確かにチームワークに負けたのだ。いつ、どちらが幻術を掛けたのかツカイにはわからなかった。

 

「どっちが幻術かけたんだ?」

「どっちでしょうね」

 

 面白半分でソラが茶化すが、僕じゃないとハザマが言う。致命的なレベルで正直者である。揶揄いがいのない、とソラがこぼす。

 三人はチームワークを深めるためと夕食を一緒に摂ることにした。ツカイは渋々ではあるが、せっかくの仲間である。共に同じ時間を共有するのは好ましいと考えた。料理が運ばれてくる間、三人の特徴を並べるとそれぞれの致命的な欠陥が見えてくる。

 

「私はくノ一で一番体術は強かったけど、その程度だから基本的に近接戦闘はからっきし、中距離も大した忍術はない」

「俺は基本はできているが、臨機応変な対処ができない」

「単独先行、和を乱す。俺だけなんか違くね?」

 

 それぞれの短所を並べあげた。絶望である。ソラの中ではハザマがまだマシといったところだろう。マンツーマンの実力だけならツカイが一番強い。

 

「長所あげよっか、短所だけだと結構凹むんだけど」

「それもそうだな」

「俺はわかりやすいだろう」

「「…」」

 

 当然としたり顔を貼り付けたツカイが偉そうにふんぞり返っている。

 

「私は参謀向き。…もっと何かあるでしょ」

「すまん、ソラのことよく知らないから」

「今日初めてソラを知ったぞ」

 

 ソラの額に青筋が浮かぶ。

 

「で、次は僕か。ええっとオールラウンダー忍者。まあ、当然か」

「没個性かな」

「特徴がねえな」

「何で長所で悪口言われるのか、凹むんだが」

「でも座学はトップだったっけ?」

「そうなのか」

「ああ、そういえば」

 

 短所からして臨機応変な対応ができないキレものってどういうことだろう。ソラのモヤモヤした感情を持て余す。

 

「最後に俺か、破壊力。うむ」

「「…」」

 

 ツカイは置いておいて、とソラは思案する。自分の言葉は二人にかなりの説得力をもたらしたことは大きく、それで二人の欠点をカバーできる。しかし、それだけで大丈夫だろうか。言い知れぬ不安感が拭えないが、この感情を打破するいい案は思い浮かばない。ソラは思考を切り替える。十分な休息を取らないと明日がきつくなる。

 

「もういいでしょ。私、もう帰って寝る」

「そうだな、しっかりとした休息は必要だ」

「おう、じゃあな」

 

 

 

 

 翌日、演習場に担当上忍である奈良シカク、その教え子の時任ハザマ、天野ツカイ、蒼井ソラが集まっていた。

 

「なるほどな、お前ら見る限り、蒼井の嬢ちゃんの入れ知恵か?やりにくいねえ」

 

 さすがにバレている。

 

「じゃあ、予定通りの演習でいいか」

 

 だが、ソラはチームワークを見る演習とばかりに思っていたが、それは容易くシカクに読まれてしまう。

 

「お前らに課題を設ける」

 

 チームワークのテストではカンニングも同然なソラの能力では下忍へと推し量れることはない。そこでシカクは次の一手を打った。

 

 時任ハザマ 第26演習場にある火水土雷風と書かれた奈良シカクの著名入りの5つの式札を見つけ、ここ第11演習場に戻ってくる。

 天野ツカイ チャクラの形質変化の極意を文書で提出。図書館で調べるのは禁止。800字以上。

 蒼井ソラ  奈良シカクとの近接戦闘で一撃を与える。忍術幻術を使ってはならない。ソラは仲間に口頭の会話を禁止、破れば即失格。

 

「制限時間は今日の暮れまでだ。始め」

 

 やられた。完全にチームワークを発揮できない。個々の試験。これが下忍になる選抜試験と言うのか、ソラは会話を禁止されている。だが、先のことを鑑みるに口頭でなければ伝えることできるということ、裏を返せば、書いて伝えることはできる。

 

 そうして意気込んだソラが二人を振り返るとそこに二人の影はなかった。

 

「…あー、もう」

 

 ソラは天を仰いだ。

 

「さて、嬢ちゃん。試験は挑まなくていいのか?」

「一応試験だし、勝てないとわかってても暇つぶしくらいにはなるかな」

「…」

 

 ソラは二人がこの地に戻ってくることを信じ、ひとまず、自力でどこまで戦えるか試すことにする。体術はくノ一クラスで一番だった。ひょっとしたら一撃加えることもできるかもしれない。その薄い希望はすぐに絶たれる。

 

「はあ、はあ、はあ、はあ…」

「結構やるじゃねえか、息切れかい?」

「ちょっと、はあ、小手調べ、はあ、していただけです。はあ、はあ」

 

 完全に息が切れていた。あと少しで届きそう。そういうギリギリの状態でシカクはソラの攻撃すべてを躱していた。ソラはかなりいい線行っていると勘違いをし、すぐに合格できると踏んでから随分と時間が経ってしまった。

 

 一時間。

 

 アカデミー生のときでも体力をつけるために一時間走りこんでもソラは息を切らすことはなかった。緊張、不安、思考、体力は脳を動かせば動かすほど早く消費していた。ソラは自分の状態を振り返る。

 

 最悪だ。

 

 もうほとんど体が動かない。チャクラの9割以上を使い果たしてしまっている。私は今、何が足りていない。体術か?違う。そういうことじゃない。体術じゃ現状天地がひっくり返っても勝てない。そのことに気づくまでに時間を大いに使いすぎていた。ソラは不測の事態に自分が強いと考えているが、それは誤りである。シカクはそれをきちんと見抜いていた。

 

「く…、ふぅー」

 

 一先ず深呼吸して落ち着く。足がガクガクと震える。こんなに早くへばるとは思っていなかった。ソラは次の一手を考える。そして何故か思考が止まっていたのか驚愕する。

 

 二人を合格させる時間も刻一刻と減っている。

 

「はあ、はあ、こんなことしてる場合じゃないのに、くっ」

「ふ、もう少し考えてみることだ。やり方は一通りじゃねえだろ?」

 

 シカクを見据える。気遁や幻術、結界術も使えればこの課題は比較的簡単になるが、それはできない。自分に何が足りないのか考える。

 

 考える。

 

「は、はは」

 

 ソラはかなりのキレ者、されど自己の欠点というものには気づきにくいことである。そしてそれが今になってわかった。

 

 自分は何か考えて行動していることにまるで慣れていない。

 

 行動方針が明確に固まっているからほとんど思考しない。何故二人が自分より下だと、自分の方が臨機応変に立ち回れるだ。固定観念の塊じゃないか。

 

 蒼井一族特有の思考回路がソラの邪魔をしていた。蒼井一族は気質に敏感である。ゆえに何が正義か何が悪か、善行悪行、善事悪事を瞬時に判別してしまう傾向があり、蒼井の若い世代はさらにいえば、思考の短略化が加速する。蒼井一族は間違った判断はしない。それはすべてが想定の範囲内に納まりやすいからに他ならない。人の気質に触れ、数多ある思考感情から最適解を取る利点がある。ゆえに想定以上のものに出くわす事態には完全に蚊帳の外の出来事となり、それは通常の人間よりも遭遇回数が圧倒的に少なく、不慣れなことである。戦争時に一族が狙われていることは想定内だったが、他の要素があることに気づいた時には完全に一族は滅びの一途をたどっていた。

 

 ソラは凡人か非凡かと問われれば非凡である。いくらシカクがヒントを与えたとして、それに気づける一族の若い連中はいなかっただろう。もちろん今の若い蒼井一族はソラを除いて他にいないが、もしも歴代の蒼井の者に同じ質問をし、自分が固定観念の塊であると気づけた者はいなかったに違いない。

 

 ソラは考える。シカクに昼ご飯を食べると宣言し、その通りに食事を始める。食事をしながら回復に努めつつ、思考の海に浸る。シカクはソラの対応につい言葉が漏れた。こいつは相当な娘っ子だな。その言葉はソラには伝わる事がなかったが、シカクが何か発言したことにソラは気づく。何か言ったか尋ねるが、なんでもないという回答しか返ってこない。

 

「ほんじゃ、まあ、行きますか。私感知タイプだし見つけられるよね?」

 

 食事を終えたソラはシカクに背を向けて走り出した。

 

 

 

 ソラはシカクのチャクラに長い時間触れていたため、シカクのチャクラを覚えている。チャクラの微量な空気への影響をソラは感知できる。それは人それぞれ異なるもののため、よく観察すればシカクのチャクラだと気づく。

 

「ん」

「ソラ!?なんでここに!?」

 

 ハザマは5つある札の1つも見つけることができていなかった。

 ソラは地面に文字を書く。

 

 固定観念に囚われるな、これはチームワーク。

 

「どういうことだ?って会話していいのか?」

 

 私が禁止されているのは口頭の会話のみ、書通であれば問題ない。

 

「そういうことか」

 

 ハザマの課題を熟すのはハザマでなければならないとは言われていない。

 

「え?そんなのいいのか?」

 

 いいの!

 

「そ、そうか…」

 

 こうも簡単にチームワークを試す試験とわかっていながらチームワークのチの字も出てこなかった自分に腹を立てているからか、ソラはかなり憤慨している様子はハザマに伝わっていた。

 

 

 

 5つの札を見つけたソラはハザマを連れて第11演習場に戻ってくる。これで一つ目の課題は終わった。ソラはハザマの首根っこを掴んで、次の目的地に向かう。ソラは座学は優秀な方だが、サクラやハザマほどのレベルではない。アカデミー生を卒業したばかりで里の頭脳と言われてもおかしくない暗号解読班と互角の知識はない。だが、ハザマにはある。形質変化の利点を800字でまとめ上げることくらい容易だろう。それは図書館に通わなくてもだ。

 

 休業中のアカデミーに忍び込み、上唇と鼻でえんぴつを挟んで唸っていたツカイを見つける。ツカイを見つけるまでに2時間も要した二人だが、事の説明をハザマにさせ、ツカイは安心して倒れる。

 

「脳みそ沸騰したぞ」

「…」

 

 とりあえず、ソラはツカイの頭にゲンコツを落とした。ツカイの代わりに文章を書いている。

 

「まだだ、ツカイ」

「なんだ?」

「まだ、ソラの課題が終わっていない」

「ソラの?なんだっけ?」

 

 物覚えの悪いツカイである。

 

「シカク先生に近接戦闘で一撃与える事」

「それってつまり俺が一撃与えてもいいって事か?」

「そういうことだ」

「はっはっは、騙されてこっちも頭にきてるから手加減はできそうにないな」

 

 超好戦的な一族である天野の麒麟児なだけはある。もうすでに性質変化の片鱗がチャクラと共に漏れ出していた。

 そして口頭会話が禁止されているソラは心の中でツッコミをいれる。騙されてんじゃなくて自分たちが勘違いしていただけなんだよね。それにしても酷い。それぞれの課題は与えられているわけではないと気づける方がおかしい。

 

 お前らに課題を設ける。

 

 お前たちそれぞれとでも言えば、確かに個々で課題を突破しなければならないのだろう。だが、そんなセリフは一度たりともシカクは言っていない。勝手に3人が勘違いしていただけに過ぎない。

 

 ハザマはしばらく時間がかかるという事なのでソラとツカイはシカクの待つ第11演習場にきていた。最後の課題を熟すため。

 

「お、今度はツカイを連れて来たか」

「へっへ、形態変化はさっぱりだったが性質変化ならお手の物よ」

「忍術禁止って書いてあるはずだが?」

「え?」

 

 性質変化の忍術をぶっ放す気でいたツカイが一気に脱力する。

 

「そんな…」

 

 地に手をついて倒れ伏す。しかしツカイのコントに付き合っているほど時間の猶予があるわけではない。ツカイに構わずソラはシカクに最後の力を振り絞って立ち向かう。

 

 チャクラの九分九厘まで使い果たしている。最後の最後までソラは力を振り絞った。だが、ないものはないのだ。根性などでどうとかなるものではない。

 

「ぁ…」

 

 最初の攻撃を躱されたところでソラは掠れた声を上げるだけだった。そのまま倒れる。このままでは地に顔から落ちてしまうソラを支えたのはシカクだった。一番奔走していたソラはチャクラ量で見るならナルトに次ぐレベルで保有しているが、最初のノンストップの近接戦闘で9割以上を失っている。ある一定の休息はとってはいたが、限界はもうとっくの昔に来ていた。それでも強い意志だけで踏ん張っていたが、それも限界だった。完全に脱力した人間は簡単に抱えられる。シカクはよく頑張ったと心の中でソラをたたえた。

 

 ただ、空気を読まない莫迦はシカクとて想定外である。

 

「ソラの仇!!!」

「いや、死んじゃ___ぐはぁ!?」

 

 その後意識を取り戻したソラは第11班全員が揃っているのを見る。

 

「あ、あれ?…どうなったの?」

「ふははは、俺が一撃食らわせたから合格だぞ」

「大きいたんこぶ付けながら言われても説得力ないんだけど…」

 

 顔を腫らしたシカクに確かに一撃を叩き込んだようである。

 

「まあ、演習お疲れさん」

「はい」

「今回のことで全員いろいろ考えなきゃいけねえことを理解できただろうが、そいつは後回しだ。とりあえず、お前たち第11班は今日を以って正式な忍班として活動することになる」

「わーぱちぱちぱち」

「棒読みで言われてもなあ、というよりお前らが祝福される側なんだが」

 

 祝うならメシ奢れ。

 

 シカクの頬が引きつった。

 

 そしてわかっていたこだったが、結構怒っているらしい。忍たるものと説教を言う気にはなれない。自分でもかなりインチキくさい採用試験になってしまった。本来ここまでの試験を課すことはほとんどない。書類審査を出す頃にはだいたいの筋書きが通達されている。しかし、今回はかの蒼井一族の忍がいる。テストをすべてカンニングするような一族だ。これには火影も実のところ困り果てていた。蒼井一族が全盛期だったころとは違い、今はたった一人。その子だけ違うテストを用意するわけにもいかない。だから蒼井一族と対抗できる策略家のような存在が必要だった。

 

 シカクは亡き友人の娘のことを頼まれたこともあり、再び担当上忍に返り咲いた。第一線級から外れることは木の葉にとって大きな痛手だが、それでも火影はシカクの希望を許可した。理由は蒼井ソラ対策のテストを用意できる存在であるから。しかしシカクの言葉は火影としても初耳である。若い蒼井一族に見られる傾向を逆手にとれば簡単に術中に嵌められることを知っているかどうかであり、シカクの頭脳はそこまで必要としない。

 

 結果、蒼井ソラは大きく成長するきっかけにもなり、一石二鳥ならぬ、一石を投じた結果ボロボロと鳥が落ちてくるといった具合だ。得られた成果は大きかった。

 

 バカ高い外食料金に頭を痛めつつも、今日を振り返る。そして横を見る。

 

「「はあ…」」

 

 ため息が被る。シカクは息子のため息の理由を理解していたが、反対にシカマルは理解できなかった。

 

「親父が同期の班の担当上忍って、すげぇ嫌なんだが」

「はあ…」

 

 ため息つきたいのはこっちだ。シカマルはかったりぃと呟いて寝室に戻る。シカクはそのシカマルの背中を見ていた。

 

「随分と小せえ背中だな、おい」

 

 かつての自分を思い出して嫌な気もするが、担当している下忍たちに比べてもソラと精神年齢は同等程度、忍の力量に至っては担当する3人に組み込めば圧倒的にどべだろう。ただ一つ自分と同じ才能だけはシカマルの唯一の力になる。




採用試験とか結構雑になってしまった


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演習と連携

 第11班が形成されてから一週間が経過した。この間に毎日Dランク任務を熟していた11班の面々に火影は頃合いとしてCランク任務を言い渡す。横にいた火影の補佐のイルカがCランク任務は早いのではと打診しているところだ。

 イルカは担当の世代が卒業したこともあり、アカデミーの浪人生もとい、進学生という扱いをされている下忍採用試験に落ちた子たちを見る教員役と火影補佐の二足の草鞋を履いていた。

 

「イルカくん」

 

 イルカはなんとかヒルゼンの説得を試みているところ、11班の担当上忍である奈良シカクが静かに告げた。

 

「君ならこの子たちの実力はよく知っているだろう?」

「っ、はい…」

 

 一瞬言葉が詰まるイルカだったが、イルカ本人もわかっていた。今季の下忍4班の中で最も戦闘能力がある班はこの11班である。それに知略にも長けている上、カバーできる任務の範囲も広い。僅か一週間にして成長が凄まじく、担当のシカクでさえ教え子の急激な成長に驚きを隠せない。

 

 紅一点の蒼井ソラは思考の短略化の武器をそのままに思考をする軽いマルチタスクと呼ばれる技能をわずか一週間で身につけた。チャクラコントロールやチャクラの練度も中忍レベル。幻術、封印術、結界術も非凡なもので、弱点はあるが現状で総合的に見てすでに中忍クラスの実力を持っている。今は体術に専念している。

 

 頭の固い優等生と呼ばれたり、歩く教科書と揶揄されていた時任ハザマは教科書忍術だけではこの先やって行く自信がなくなっていたが、基礎はみっちりと鍛えているため、チャクラコントロールとチャクラの練度は中忍から上忍レベル。体術系統も軒並み高水準である。ただ忍術のレパートリーが少なかった弱点が浮き彫りになったため、完璧な基礎を生かす難易度の高い忍術を習得中である。時空間忍術はその最たるものでハザマは絶対に物にしてみせると息巻いている。

 

 究極の問題児、天野ツカイは自分の一族の血継限界の元である火と雷の性質変化を鍛えつつ、チャクラコントロールとチャクラの練度がギリギリ下忍レベルの底辺だったためそこを重点的に鍛えている。もともと体術は得意らしく、近接や中距離では中忍クラスの戦闘力は持っている。ちなみにチャクラコントロールやチャクラの練度について下忍の中でも下から数えた方が早い。

 

 これらの事態を知ることのないイルカだが、アカデミー時代においてソラはミズキと真面から殺りあえるほどに強く、影分身の術まで覚えている。ハザマは体術の強いサクラと思えばそれは確かに強い。一階の下忍レベルではない。そして問題児はというと忍術においては上忍さえ驚愕するレベル。そこに歴戦の猛者である奈良シカクが担当上忍である。Cランクと言わずにBランク任務すら達成できそうなメンツである。

 

「そうですね。失言でした。確かにこの一週間の結果を考えればCランク任務は妥当かと」

「ふむ、イルカも納得いってくれたようで良かったのう、して任務内容じゃが」

 

 結界術や封印術に長けている蒼井ソラがいるということでとある村のそばにある祠の術式を封印し結界を張ってくるという任務だ。里外にでる上に国境付近まで行くのでCランク任務となっている。とはいえCランク任務にしては簡単な方だ。

 

 

 

 さらに一週間が経った。

 

「ふむ、依頼が来てないのう」

「…」

 

 火影が呟く横でイルカが頭を抱えた。頭のおかしい速度で任務を達成している11班のせいで今あるCランク任務は出払ってしまっていた。今更Dランク任務をやれと言われても納得はしないだろう。Cランク任務を毎日達成する班にDランク任務でどうのこうの言うのを指摘する方が恥ずかしくなる。結果、木の葉の里の他の班に依頼する任務だけは確保する必要があるため第11班は暇を言い渡されることになる。

 

 後1ヶ月後には中忍選抜試験が始まる。それに気づくシカクの教え子は一人しかいない。蒼井ソラだ。ソラは中忍選抜試験のために今まさに特訓中である。もちろん、その試験には他の二人もソラの奇行から感づいており、各々修行を本格的に始めている。

 

「第11班は一週間休養を言い渡す」

「い、一週間?少し多すぎでは?」

「ふん、それくらい空けんと任務すら貯まらんわ」

「そう、かもしれませんね。はは…」

 

 イルカがドン引きするほどに第11班の任務達成速度は早い。すでに7つのCランク任務に7つのDランク任務だ。同期のナルト達の第7班がDランク任務5つしか熟していないのにもかかわらずだ。

 

 一週間後という言葉にイルカを除いた5名は同じところに意識が向いている。

 

「どうする?結構時間あるよ。体術の組手やってくれない?」

「時は金なり、時空間忍術の修行だ」

「新しい技の開発に決まってるだろ、他を当たれ」

「お前らに協調性はないのか…」

 

 シカクが呆れる。これでチームワークが発揮されるのだからある意味面白いのではある。しかし、シカクもまた次の段階に進めるのに苦労が見える。蒼井一族の者を騙すことができるのは初対面が効果的であり、それ以外で蒼井一族の認識に大打撃を与え、急成長を齎すことは非常に難しい。ソラに対し効果的な言葉の使い方とかはしているつもりだが、成果はそこまで出ていない。むしろ勝手に修行したり、開発したりする他2名の方が実力はかなり伸びているように感じる。ったく、下忍を受け持った気がしたのは一瞬だったな。その呟きを見たヒルゼンは複雑そうにシカクを眺めていた。

 

 

 

 丸々一週間会わないのは問題として、空いた時間に上忍の任務を達成していたシカクの数少ない休日は招集が掛けられた。やることは演習である。それぞれが独自で成長する班に必要なチームワークを鍛える演習だ。

 

「っと、おいおい、会うたびにお前ら強くなってね?」

 

 子どもの成長は著しいというが、自分や周りにこんな速度で成長する者はいない。シカクはソラの気遁がかなりの副産物を齎していることに気づいた。なるほど、仲間のぶつかる成長の壁にも即座に反応したりするんだろうな。便利な忍術だ。

 

「ソラが見えない…」

 

 気遁で周囲に溶け込むソラを見つけるのは至難の技だ。白眼や写輪眼でもあれば瞬時に見分けがつくのだろうが、奈良家の当主のシカクに瞳術は持ち合わせていない。

 

「火遁・火竜弾の術」

「上忍レベルの忍術を簡単に使いやがって」

 

 ツカイの忍術は完全に同格。シカクとしても同じ土俵で戦えば負けかねない。

 

「雷遁・天衣無縫」

「来たか」

「行くぜ、火遁・炎刀」

 

 火遁と雷遁の武装。ツカイの開発した近距離戦闘用忍術である。まともに相手をすれば上忍とも戦える代物だ。しかし高等忍術二つを同時に展開しているツカイのスタミナは毎秒大きく減っていく。短期に終わらせないとどうしようもない術だ。たとえチャクラコントロールとチャクラ練度の技量が高くてもこの状態を1分持たせられる忍なんて片手で数えられるレベルでしかないだろう。

 

「持って5秒だぞ!?」

「5秒あればあいつらには十分だぜ」

 

 視界の端には影分身を会得したハザマが映る。そしてシカクは参っていた。ソラが見つけられない。考えられる箇所に目を配ったが、ソラを見つけるのに最も厄介なのは隠れられる場所にいないときだ。無意識にソラを認識できないため、何の変哲もない平原に注視する必要がある。シカクはこと戦闘中にそんなことをした過去は一度もない。そして迫るツカイに気を抜けば一撃でやられかねない。一度離した手番はそう簡単には帰ってこない。相手の和を見出せば、そこに勝機が見えるが、ハザマとツカイの連携を妨害する瞬間を狙ってるソラがいる限りそれはできない。できれば、ソラをいなし、ハザマかツカイの妨害ができれば変わるのだが、それもできない現状八方ふさがりである。

 

「忍法・影縛りの術」

 

 漸く動いた。ここからが本番である。ツカイは思考の高速化から瞬時にシカクの影に反応し、シカクの右側から攻め入る。シカクはホルスターから閃光玉を取り出す。目くらましであり、影を伸ばす要素だ。一定の速度で近づく影にハザマはタイミングを取っていたが、閃光玉で加速して伸びる影に捕まってしまう。

 

 閃光が周囲を照らす。

 

 ツカイは目を閉じ、光から視界を守り、光が引いた瞬間から動いた。ハザマを止めたシカクはツカイとの距離を取る。逃がさないとばかりに追跡するツカイにシカクは影縛りで捉えたハザマを使ってツカイにぶつける。だが、光が収まり影縛りで捉えていたのはハザマではなくソラだった。

 

「何!?」

 

 影縛りで捕らえた相手と交差する状態でソラの横槍があったことにここで気づいたシカクは、次に迫る危険性に目を向けるハザマとの距離はもう2mもない。完全に間合いの中である。ハザマ改め、ソラをツカイの妨害に使いつつ、ハザマの蹴りの角度を見切り、横を走る影分身の苦無の投擲を躱す。これで先手が取れる。シカクがそう判断するのは当然であるが、上忍はさすがに不測の事態には慣れている。

 

「捕らえたソラは影分身だったか」

 

 おそらく一番に影分身の術を覚えたのがソラだと検討付ける。教科書の通りに勉学に励んできたハザマが影分身の術を先取りしている可能性は低い。つまり、影分身の術に長けているのはソラだ。今まで一度も影分身の術を使っているのを見たことがなかったが、3人の中で一番に多くのチャクラをもっているのがソラである。シカクは背後からツカイが迫っていた。

 

「土遁・黄泉沼」

「何!?」

 

 広大な範囲を沼地に変えた土遁に足を取られたツカイは自分が使っていた忍術を解く。足を取られた状況では残りのスタミナでシカクに攻撃することすら適わないからだ。しかし4秒、すでにツカイは80%のチャクラを使い果たしてしまっている。

 

「はあ…、はあ…」

「相変わらず燃費悪いな」

「うっせ」

 

 黄泉沼から雷遁を用いて抜け出したツカイは即座に手裏剣を投擲する。何の仕掛けもない手裏剣術ではシカクに何がしたいか看破されてしまう。

 

「その程度じゃ囮にもならないぞ?」

 

 ハザマがシカクの注意が逸れたと勘違いし、攻撃を仕掛けるが、即座に体術を以って影分身を消されて反撃にあう。

 

「ぐふっ!…強いっ」

「俺ごときを強いと言ってるようじゃ先は短いな」

 

 シカクの謙遜にハザマが反応する。ハザマの目標は火影のある一点を越すこと、それがとてつもなく難易度の高い目標であることはわかっている。ならば、どうにかして越えなければならない。目の前の上忍を出し抜く方法を思考する。ハザマの苦手分野である多様性の思考回路を養う特訓にもなる。

 

「まずは退避か」

 

 教科書通りの戦術に落ち着いてしまうのがハザマではあるが、現状を多角的に見ても、まずは気配を消して作戦の練り直しが必要ということは明白である。シカクはもちろん敵ではなく訓練のため、今回はツカイを連れたハザマを見逃す。訓練のレベルが上がればタダで身を隠させることはしないだろう。

 

「次はソラか、見つけられないこともないが、それを使うには早いか、遅いか」

 

 忍術を駆使すればソラの居場所はたやすく判別する。シカクは隙を見せない程度の状態で思考の海に浸る。結論はすぐに出た。

 

「土遁・砂嵐の術」

 

 砂嵐の術は砂が均等に舞う。そのため見えない誰かがいる場合、そこだけぽっかりと砂が舞うことが少ない。

 

「くっ、見つかったか」

「さすがに下忍の隠遁に上忍が見つけられませんでしたじゃ、笑えないからな」

 

 影が伸びる。この砂嵐の中では光を遮る砂が多分に存在する。つまり奈良家の影を操る術との相性がとてもいいのだ。逃げきるには通常の影の数倍から数十倍の距離を移動しなければならない。そして練度の高い上忍のシカクの術は同じ奈良家のシカマルのそれと速度が段違いで違う。

 

 ソラは必死になって逃げるが、敗走する地形に足を取られ、すぐに捕まってしまう。

 

「よし、一人捕まえ、…影分身か。砂嵐程度じゃ影分身は消せないからなあ」

 

 想像以上に頭が回る。ソラはシカクに自分の気遁が看破されることを想定して動いている。シカクにとって戦術を練るのは無問題だが、指導するための戦術を練るのはあまり得意ではない。それができればシカクこそプロフェッサーと呼ばれていただろう。

 

「3人とも隠れたか、次はどうくるか」

 

 砂嵐を解除して3人の行動を待つ。

 

 

 

 一人の暴走により二度目の奇襲はあえなく終了した。チャクラ残量の少ないツカイが戦力にならなかったからだ。

 

「うーん、にしてもツカイは問題だな」

 

 演習の終わった4人はそれぞれが思い思いに寛いでいた。

 

「仕方ねえだろ。俺の忍術の大半が使えねえんだから」

「君の忍術は危険すぎるからね。僕たちも平気で巻き込むものが多すぎる」

「だから身体強化系の忍術しか使ってねえだろ!」

「だからといって高等忍術を二つ併用しては体力が持たないことくらい自明の理だろう?」

「それくらいしねえとシカク先生とじゃ実力が離されてんだ!仕方ねえだろ!」

「君が単騎でシカク先生とやり合うという選択肢から外れてくれないかな…」

 

 言い争いをしているのはこの班の男子陣。

 

「俺の血継限界はもともと広域忍術だ。小せえところに力集めんのは苦手なんだから仕方ねえんだよ」

「だから、そこが問題ではなく、シカク先生も手加減しているんだから、君もスタミナを残しながら連携に協力してくれないと困るんだよ」

「手加減なんかされてて、いつ強くなるってんだ!」

 

 思考の違いである。ツカイはシカクと個人で真正面から戦える実力を望んでいる。それに対し、ハザマは3人でシカクと渡りあえることを想定している。ツカイはチームワークを考えていないわけではない。前提が違うのだ。ツカイは3人が3人ともシカクとやり合える実力があり、3人合わされば楽にシカクに勝てることを想定している。それをチームワークと呼ぶには違和感があることにツカイは気づいていない。

 

「うーん…」

「この二人に薬になることはねえのか?」

「それを考えているんですけど」

 

 言い争いの終わらない二人に悩むソラとシカク。二人の間を取り持つにはまずツカイの悩みが邪魔になっていることがソラにはわかった。

 

「ねえ、二人とも」

「なんだ?」

「なんですか?」

 

 青筋を浮かべて怒りの矛先がソラに向かってもおかしくない表情をしている。ソラはそれを笑顔で受け流す。

 

「二人ともお互いを知ったほうがいいと思う。私もツカイの忍術のこと避けてたから」

 

 ツカイの悩み、それは班員から疎ましがられていた自身の忍術だ。ツカイの忍術はほぼ攻撃型、近接戦闘の補助的な忍術も少なからずあるが、先に見せた二つだけ、それ以外の忍術が演習であれ、任務であれ使うことが躊躇われていた。ツカイは自分の誇りを押し込めてひたすらにチームワークというものを、自分なりに考えていたのだ。

 

「これからはツカイの忍術をうまく活用出来る連携を増やしましょう」

 

 ソラの提案にシカクもツカイの状態を見てなるほどと感心する。こうやって班員の実力を伸ばしているのだろう。蒼井一族の気遁は相手への配慮が抜群に効く。

 

「あ?どうせ無理だろ…、俺の忍術は俺がよく知ってる」

「今までさ、…体術と小規模な忍術ばかりだったでしょ?連携にもレパートリーはあるんだよ。私は結界術に封印術。そしてハザマは時空間忍術」

「…それがどうしたんだ?」

「ようやく、ツカイの忍術に連携を取れる実力は手にしたつもりだけど?」

 

 ツカイはソラの言葉に呆然とした。理由はハザマだ。ソラが結界術や封印術に長けていることは任務で知っていたが、ハザマは最近になって時空間忍術を学んでいただけだ。それが実戦レベルまで押し上げるのに日が浅すぎる。

 

「まあ、ツカイの全部の忍術で連携が取れるわけじゃないよ」

「…そういうことか。…まあ、何にせよ。俺も忍術使っていいってことだな?」

 

 ソラの言葉にツカイが笑顔を浮かべる。それはツカイから重石が外れるということだ。

 

「それの試し打ちって俺じゃねえか」

 

 シカクは参ったなあ、と目頭を押さえた。

 

 

 

 日が暮れる頃には大の字に転がる3人の姿があった。

 

「ちきしょう、やっぱ上忍ってつええな」

 

 ツカイが茜色の空を見上げながら呟く。重石の外れたツカイといえど、シカク相手には通用しなかった。

 

「にしても。…はははっ、チームワークってのはこういうことだったんだな」

 

 ツカイは自身の忍術が2倍にも3倍にも効率的に作用するチームワークを知った。そしてそれすらも通用しない上忍という存在も知った。今まで忍術を十二分に使っていなかったため、シカクに負けるのは仕方ないという考えがあったが、その言い訳は今回は通用しない。血継限界は使っていないが、火遁・火龍弾に雷遁・雷龍弾、その他上忍レベルの忍術を扱い、それを数倍の効率が発揮される場面で使って負けたのだ。血継限界の忍術を使ってもその結果に毛が生える程度でしかない。

 

「今更わかったのか」

「悪かったな」

「いや、僕も悪かった。君のことを理解しようとしてなかったし…」

「なら、お互い様だな」

「そう言ってくれると助かる」

 

 男同士の喧嘩はさっぱりとした最期だった。

 

「ふぅ」

 

 上体を起こし、ソラはシカクを見上げる。

 

「結構いい線行ってませんでしたか?」

「ったく、蒼井の嬢ちゃんには本当に困るな」

 

 身体中から焦げ臭い匂いを漂わせているシカクに意地の悪い質問をぶつけているだけだ。シカクに余裕は然程なかった。気遁でそれを確認したソラはしたり顔。シカクはムッとした表情を押さえ込み、ソラに意地の悪い質問を返す。

 

「下忍レベルの忍術でどうとでもなったけど」

 

 シカクは体術を駆使したり、秘伝であれ、影の術の中でも下忍が容易に扱える忍術。他には幻術や結界術もすべて下忍レベルのもので看破した。もちろん全力の思考で、次の次の次まで実戦で想定しながら戦っていたシカクに、同じく次の次の次まで考えていたソラの戦法は通用しなかった。シカクに考えさせる時間を与えない作戦はかなり機能したにもかかわらず、自分の得意分野である思考の短略化と長期思考のマルチタスクを用いてシカクを自分の土俵で戦わせていたのに、イーブン。むしろ負けていた。シカクに時間を与えていたらもっと早く負けていただろう。早指しの戦いであれば軍配は自分に上がるだろうと想定していたソラも自己評価の甘さを認識した。

 

「まあ、いい勝負だったぞ」

「それはどうも」

 

 シカクはソラの実力が他の二人よりも上昇していないと勘違いしていたが、並行思考(マルチタスク)により、瞬時の判断力と戦況の分析力が飛躍的に上昇していることがわかった。とんでもないガキたちだな。戦時中にこそ天才と呼ばれる類には何度も遭遇した。特に同じ里出身の若い連中には驚かされることも多かった。その最たるはうちはイタチだったが、自分の生徒も彼ほどまではないにしても、十二分に下忍の中ではぶっ飛んだレベルだ。もしかしたら若かりしころのはたけカカシレベルの実力はあるかもしれない。

 

「じゃあ、今日は解散。また明日から任務再開だ。しっかり休めよ」

 

 そういえば明日から任務再開か。ツカイはすっきりした心境で任務に臨むのは初めてになる。夕闇に明日を見据え、興奮が止まらない。

 

「面白くなってきたぜ」

「そういうのいいからへばってるハザマ運んでよね」

「…締まらねえな」

 

 チャクラをお互いに使い果たした男子達でも根性があったのはツカイの方だった。

 

 

 

 翌日、任務を貰いに集った第11班。彼らに渡された任務は初の国外での仕事だった。それも連日、時間のかかる任務である。本来はこの11班に用意した任務はあったのだが、それは代わりに第7班が受け持っている。休暇中に長期のCランク任務が入って、これで11班をしばらく任務を受注させておけると判断していた火影だが、ナルトのわがままで波の国からの護衛任務をナルト達に渡したのだ。

 そしてそれに伴う、もう一つの任務が舞い込んでいた。波の国における重大な任務だ。

 

「ガトーの暗殺任務ねえ」

「うむ、波の国の大名から打診があったらしいのう、大国の大名がそれで頷くとは思えんかったが、火の国の大名が経済援助の見返りを要求したら事がすんなりと通ってしまったという事だ」

 

 つまり、それだけ波の国が切羽詰まっている状態だという事。

 

「もうすでにという事ですか?」

「そうじゃ、実権はほぼほぼ大名にはないであろう」

「ですが、かの大富豪なら」

「うむ、Bランク任務になる」

 

 忍者を雇っていても不思議ではない。小国とはいえ、己の野望で国を乗っ取ってしまうほどのやつだ。そして波の国の現状を見ても、確実に暴君にしかなり得ない。

 

「Bランク任務は基本的には中忍、もしくは上忍の仕事に入りますが」

「そうじゃ、基本的にはのう。しかし、一個小隊ではなく二個小隊ではその限りではない」

「と、言いますと…、第7班あたりですか?」

「そうじゃ、橋職人の護衛任務とはいえ、波の国の事情を鑑みるに、Bランク任務になっていても不思議ではない。そして、カカシからこの通達が届いた」

「ここで見ても?」

「問題ない」

 

 任務レベルの詐称あれど、班員の意志と波の国の事情を総合的な判断で任務続行に取り組むと記載してある。

 

「総合的な判断というのは嘘でしょうね」

「まあ、飾り付けは必要じゃ」

 

 部下の判断で任務続行というのは担当上忍としてあるまじき失態である。だから他の要素を無理やり付け足して、カカシは理由を飾ったのだ。もちろん、バレバレである。

 

「そこで白羽の矢がたったのが我々という事ですか」

「そうじゃ、第11班もまた、他里や抜け忍との戦闘は経験しておいたほうがええじゃろう」

「そうですね」

 

 シカクは先にある中忍試験を考える。

 

「それに先にも言ったように、二個小隊に上忍二人じゃ。問題なかろうて」

「そう言われたら、仕方ありませんね。謹んで任務に当たらせていただきます」

 

 4人が退室する。

 

「ということだ」

「そう言われてもなあ。第7班って言えばサスケのところだろ?」

「それがどうかしたか?」

「んー、あいつが手こずる事でもあるのか?」

「いくらサスケが天才のうちはといえど所詮は下忍だ。それに俺はお前らのほうが強いと思ってる」

「…」

 

 好戦的な表情をするツカイ。自分の忍術がサスケにどこまで効くのか。アカデミーでは組手など本格的な忍術を使っての模擬戦はやっていない。

 

 ツカイの表情を見たシカクはため息を吐く。サスケと戦うわけじゃないんだがなあと呟く。シカクが懸念していることは今までのCランク任務と今回のBランク任務の違いだ。交戦をした任務は一度だけ、それも雇われた浪人相手を殴って縛り付けただけ、命のやり取りをするのには役不足な相手だった。今回は違う。確実に命の危機にさらされるメンバーが出てくる。上忍の自分の実力に疑いはないが、絶対もない。そのことを頭に入れ、シカクは任務への思考を深める。




タイトル変えようかな
適当に名前をつけてしまった。

砂嵐の術は風遁系ですが、土遁にあってもいいだろうという考えからこの作品では風遁と土遁の二種類が存在します。効果に違いはありません。


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下忍と悩み

 木の葉の里の入り口。手続きを終えた第11班はさっそく目的地である波の国へと足を運ぶ。今までの任務は里外のものもあったが、多少の無理をすれば日帰りができる範囲。1日1任務を熟してきた第11班はその感覚に慣れていた。

 

「今回は徒歩ですね」

「波の国に入る手前、そこまでなら急いで行っても構わないが、歩いてでも十二分間に合うだろう。警戒したり、外の地形を頭に入れるのも忍者の仕事だ」

「確かに、慣れ親しんだ地形での戦闘ばかりですから、これはためになります」

 

 優等生はさっそく学習しようと、そこらを見回りながらついてくる。ハザマは自分に足りない要素を早く補完しようとする努力を止めない。たやすく弱点を克服している二人に後れを取らないためだ。

 

「いろいろと柔軟な思考をするにあたって、答えを複数出すってのは基本だ」

「答えを複数ですか?」

「ああ、例えば戦略において、勝率70%、勝率50%、勝率30%の作戦が提案された。もちろん70を取るだろう?」

「ええ」

「じゃあここに推定される殉職者がそれぞれ十人、一人、0人と有ったら、どれを取る?」

「…」

「そうだ、生半可で70%を取るわけにもいかない。かといって30%を取るのかといえば、そうでもない。俺なら回り道して他の案を、時間がなければ30%を取るだろうが、それも状況次第。得られる戦果だったりで代わることもある」

「…そこで回り道ですか?」

「そうだ、時間をおいたり、勝率70%の作戦の一部を30%の方でも使えないかとかな、回り道して見えてくるものもある。最終的には一つの作戦に絞られるが、それを決断するのは隊長の役目だ。この班なら俺だ」

「なるほど」

 

 答えを複数だし、決定権は他に委ねる。決断力のない人には甘えになる行動だが、こうも頭の固いハザマは決断力は結構ある。ならば、足りないものといえば、破棄する思考を拾い集めること。すべては全か無ではない。使えないと判断するものの割合がハザマは大きすぎるだけだ。それを使えるものの割合を大きくすればいい。

 

「戦闘の最中にお前は変化の術を使う場合、どういう効果があると思う?」

「戦闘中ですか?意味ないのでは?」

「ま、そうなるよな。じゃあ、例えば他の術と併用した際に何か効果があったりしないか?」

「うーん…」

「お前が使える術でも応用が利く」

 

 ハザマはその言葉にさらに唸る。

 

「応用ね。俺もあまりわかんねえな。変化の術って言ったら密偵用の忍術だろう」

「空間と時間の把握の訓練をしたのに、この有り様か…」

 

 ツカイがソラに話しかけるが、ソラはハザマの現状に呆れてぶつぶつと何かを言っている。

 

「ソラ?」

「あー、ごめん。なんだっけ?」

「いや、だから変化の術の応用の話だよ」

「それね。多分だけどハザマにはもう少しヒントが必要かな。私が仕込んだ影分身の術が最も応用に優れてるのよ」

 

 答え言うなよとシカクが呆れるが、ソラはその先を用意している。

 

「影分身?」

「ええ、影分身も変化ができるけど、そのとき、本体もしくは分身体が変化する対象でどんなメリットがあるか答えてみて?」

「…え?」

「いろいろあるわ」

 

 なるほどと、シカクは納得する。下忍レベルの思考回路まで落とすのはシカクには難解だ。そのためハザマの思考をすべて考えられるわけではない。適任な人物ならこの班にいるのだから。

 

「もう、メリット答えればいいから。まずは本体が変化で苦無に化けたら?」

「バレるのでは?」

「そういうのはうまく相手の注意を逸らして、影分身とバレてない前提の話」

「それなら、苦無を投げ、弾いたところで解除すれば一気に近づける。相手にバレずに間合いに入り込めるってわけか?」

「それが一番大きい理由ね。それから次に、仲間に変化したら?」

「それなら___」

 

 大丈夫そうだな。シカクは次々に答えられるハザマに安堵する。ソラの特訓はかなり効果的だ。ハザマの思考回路も徐々にだが柔軟なものに変化している。だが、頑固な点というのも時として利点にもなったりするが、忍の世界では柔軟な思考回路の方が望ましいだろう。

 

 

 

 一行が国境付近に着いたのは夕方になってからだ。

 

「外泊は初だな」

「そうだな」

 

 外泊するにはそこそこ立派な宿屋に泊まる。シカクは1度4名を集め、明日の段取りを決めた後、明日からの注意事項を言い渡す。

 

「お前ら、今日ほど気を緩めるなよ」

「「「はい!」」」

「わかっているならいい」

 

 木の葉の里を出る際に男子二人はかなりの緊張感を持っていたが、それを鎮めるのに手助けになったのがソラだ。道中最も緊張感を持っていたハザマをシカクと共にサポートしていた。普段行っていることから緊張感を解くのは基本である。ハザマが最近行っている思考の柔軟化のトレーニングをしていたのは主にこれが理由だ。

 

「ソラ、明日からは気遁を展開することになるんだ。早めに休んでおけ」

「はい」

「俺たちはなるべく注意力をあげず、道中での体力消費を抑えることを忘れるな」

「「はい」」

「戦闘はいつ起きるかわからない。心しておくように」

 

 解散した4人は各々のペースで宿を満喫する。風呂上がりのソラにツカイが声をかける。

 

「ソラらしくないな」

「…うん。ちょっとね」

「暗殺任務だもんな」

「人の命を取るんだもの、任務とはいえ、思うことはいろいろあるわ。どうせ通る道だけどね」

「そうだな」

 

 ツカイは命について考えることは少ない。それはソラ以上に善悪の区別がついているからだ。敵は倒す。そうしなければ自分たちがやられることを本能的に理解しているのだ。それが天野一族である。対してソラは蒼井一族、幼少期の頃から他人の気質に触れ、善悪を多くの他人に委ねた総合的な判断。そこにはソラ本人の意向は少なく。飾られた感情といっても差し支えない。ソラは自分のアンデンティティーが希薄であることに最近気づいていたが、それは蒼井一族に起きる特徴だ。自分を見失うことが多い。それに気づけばいつも悩んでしまう。

 

「私は正しい判断をしてるのかな?」

 

 ソラは呟く。

 

「ツカイはそういうところないよね」

「まあな。敵は敵、味方は味方だ。それ以上でもそれ以下でもねえさ」

「そういうところ、羨ましいなあ」

「そうか?俺はソラのように仲間に気配りできるところとかすげえって思うぞ」

「そう?」

「ああ、俺にはできねえ。俺ができんのは目の前にいる敵をぶっ倒すだけだ」

 

 悩みなさい。自分自身を見失わないようにと相談した祖母の返答はたった一言だった。人には優しくされど残酷性とも取れる思考誘導で悩みの解決案を提示できる。しかし、自分にはそれがない。同じ蒼井一族に相談しても答えてはくれない。

 

「ソラはさ」

 

 黙り込んだソラの横顔を見ていたツカイが言葉を漏らす。

 

「ソラは、悩みを相談しないよな」

「え?」

「俺やハザマが何かに行き詰るとさ、ソラは率先して声を掛けてくれるじゃねえか。まあ、なんか気分悪いなって最初は思ったけど、今じゃ感謝してる」

「そう、ごめんね。それと、ありがとう」

「まあ、それはいいんだよ。そうじゃなくてさ、ソラの悩みは俺たちにはわからねえんだ。だから声に出してくれねえと困る」

 

 ツカイは愚直な少年だ。ゆえに真っ直ぐに思ったことを仲間に告げる。もちろんツカイもまた裏を読んだり、裏の裏を読んだりと忍者らしいことはするが、根は真っ正直な少年だ。

 

「…ちょっと、難しいかな」

「難しい?」

「うん。あまり他人に相談とかしないから、どう言えばいいのか…」

「…他人じゃねえだろ?」

「え?」

「俺はソラの仲間だ。他人じゃねえ」

 

 本当に真っ直ぐだな。ソラはツカイの気質に触れながらもそして、その言葉をも受け止める。あまり愚直な人間に遭遇したことはない。ナルトもその一人だが、ナルトはナルトで歪んでいた。九尾のことや、里のことで、とても真っ直ぐに生きているとは言えなかった。それでもナルトは他の人間たちより真っ直ぐに生きているように思えた。そしてそれにツカイが重なる。

 

「なんかナルトくんみたいだね」

「はあ!?俺をあんな猪突猛進バカと一緒にするんじゃねえよ」

 

 その言葉にそっくりそのまま返そうかと言いたいが、ソラは押さえ込んだ。相談か、そう呟いてから少しずつ話し始める。

 

「…私まだダメみたい」

「そうか…、そのうち聞かせてくれよな。俺だってハザマだって、もちろんシカク先生だってソラの力になりたんだから」

「うん…、ありがとう…」

 

 ソラは自分のことを誰かに打ち明けることをしたことがない。仲間であるツカイにも話そうと思ってもかなりの抵抗を心の中で感じていた。

 

「いつか…、ね」

「ああ」

 

 ツカイの優しさに甘えてしまう。ソラは目を閉じる。ツカイに相談するのに抵抗があるならば、里に帰ってから相談できる人に相談すればいい。だから、この任務は集中して頑張ろう。

 

「うん、今日はもう休もうかな」

「そうだな、おやすみ」

 

 ツカイもソラも気づかない。ソラの心に一抹の不安が残っていることに。2人が気づかない場所でシカクはタバコの煙を吐いてソラ達を見つめる。

 

 

 

 明け方、まだ靄(もや)のある時間帯に11班は行動を開始していた。

 

「ソラ、良い状態だな」

「はい」

 

 ソラは現状適度な緊張感と集中力を以って任務に入る態勢ができていた。こういう姿勢は下忍にはかなり厳しい。まるで上忍レベルの任務に対する調整を見ているようであった。中忍でもここまでできる忍者はそうはいない。今やるべきことがはっきりとしたソラの心境が体現されていた。

 

「他の二人も良い感じだ」

「「はい」」

「出発だな」

 

 昨日までの徒歩とは違い、街道を素早く走る。波の国に突入してからの一連の流れは把握済みである。ガトーの戦力に見つからないうちにカカシ班と合流。そのまま、敵が戦力を誤解しているうちに懐に潜り込むというものである。

 

 シカクは見つからないに越したことはないと言っているが、本人は十中八九見つかってもおかしくないという判断だ。カカシ班が戦闘をしたということは増援の危険性もまた相手の頭の片隅にはある。そして話では霧隠れの里の抜け忍相手。靄を使う忍術はまずないので見つかることはないが、これが霧の濃度になれば、相手の感知のための霧の可能性が浮かび上がってくる。そして明け方や夜間はセオリー通りの潜入時間帯。実は特別な警戒をされる時間であったりする。もちろん日中よりは警戒は薄い。

 

 数時間、街道から外れ、森の中まで入り込んで足を進めていったとき、シカクがつぶやいた。

 

「見つかったか」

「え?」

 

 真っ先に反応したのはハザマである。

 

「どうやら口寄せ動物が見張っていたらしい」

「なるほどな」

 

 シカクの視線の先にはサギが飛んでいた。

 

「サギは珍しいですね。木の葉では一般的にはカラスですが」

「元霧隠れの里の忍ってことだよ。水鳥が多い地域だからな。それに霧に紛れれば見つけにくいのも奴らには利点だ」

「なるほど」

 

 シカクはソラへ視線を配る。この隊の司令塔はソラである。シカクは隊長ではあるものの、ソラの補助役ということが多い。ゆえにツカイはソラへと相談する。

 

「どうするソラ?」

「足は止めないでください。敵がわざわざここに向かってくるとも限りません。ここにいれば相手は奇襲されると思われます。このまま目的地であるタズナさんとこの地点の間で戦闘になる。敵は正面からは来ません。戦闘はシカクさんで、次にハザマ、ツカイ、私の順です。後ろから襲わせます」

「それだと…」

「私は感知タイプです。それからツカイにはいつでも雷遁の準備を、できれば雷龍弾を放つ準備でお願いします」

「わかった」

 

 まだ気付かれていない体でタズナの家へ進み、途中で背後から襲ってくる相手を一網打尽にするという作戦だ。

 

「それから」

「まだあるのか?」

「ハザマは影分身で左100mの位置に一体おいてください」

「…了解」

 

 波の国の地形を考えると左から襲われる可能性は著しく低い。そしてハザマの分身を並走させることで左の注意力をハザマの影分身1体という最小限に抑え込み、ソラは右側と後方へ大きく感知を広げる。通常の倍以上の距離を把握する。およそ1kmまで伸びている範囲網にさっそく魚が引っかかった。

 

「…来ました」

「いつでもいいぜ」

「合図をしたら私の後方に攻撃をお願いします」

「オーケー」

 

 比較的速度を抑えめに動いていた一同にすぐに追ってきた敵襲は追いつく。

 

「…散!!」

 

 ソラの言葉が響く。

 

「雷遁・雷龍弾の術!!」

 

 振り返ったツカイの正面からソラが退き、真面に霧隠れの抜け忍が現れる。龍の姿をした雷が木々を縫うように3人に襲いかかる。

 

「しまった!?」

「まずい!?」

「避けろ!!」

 

 3人。ソラの感知は残りの右方向から2人、左方向から1人の合計3人。ツカイの雷遁は森を切り裂き、敵の忍3人を即座に堕とす。

 

「スリーマンセルの2小隊です。右から二人、左から一人来ます。左手はハザマの分身体が応戦するので、このまま右の2名を堕とします」

「おう」

 

 一個小隊そのまま右へ舵を切る。

 

「残り2秒で衝突します。ハザマ!」

「了解。時空術式・叛展」

 

 敵と自分たちの位置を移し替える時空間忍術。対象は2人と4人。対象が増えるにつれ消費するチャクラは膨大となる。チャクラの消費量の割に効果は薄いが、相手の一瞬の隙をつくのには適している。

 

「な!?消え___」

「おい!?どうし___」

 

 二人の背後から手裏剣を投げつける。ソラは変わり身で避けられる可能性を考慮していたが、咄嗟のことで判断が鈍った敵2人はソラたちの手裏剣をそのまま食らう。

 

 脳髄まで突き刺さっており、絶命していることが判明。だが、まだ一人残っている。雷遁・雷竜弾で墜落した3人の忍は辛うじて生き延びていることもあり、ソラは安堵の息を吐かない。まだ終わっていない。

 

 冷静沈着に物事を捉える。チャクラを半分失ったハザマとシカクの二人を堕とした3人に向かわせ、残りの一人の元へソラとツカイで向かう。

 

 影分身体をなんとか倒した忍者は相手の強さに戦慄を覚え逃走を計ろうとしていた。

 

「あいつが逃げる」

「先に仕留めればいいんだろ?」

「ええ」

「いくぜ、雷遁・網蜘蛛」

 

 蜘蛛の巣状に走る雷に逃げる忍だが、予想に反して逃げ切る。水遁の忍術を利用して雷の矛先を誘導していた。

 

「はあ、はあ、当たらなければどうとでも___!?」

「結界術・八方水精」

 

 八つの水の玉からそれぞれを立方体で囲む。

 

「な、なんだこれは!?」

「動けねえなら今度は当たるよな?」

「な!?」

「雷遁・感激波!」

「グワァァァァ!」

 

 水の立方体に雷遁を流し込み、絶命させる。第11班が6人の忍を倒すのに1分も掛からなかった。

 

 

 

 あっけない速度で終わったが、息も絶え絶えになっているのが二人いた。ソラとハザマである。二人は初の実践ということもあり、過度な緊張から解かれると体力を相当に消耗しているのがわかる。一方でツカイは元々の神経が図太いのか、あまり堪えてはいない。

 

「お疲れ」

 

 シカクは一言3人に向けていう。シカクの率直な感想はソラの取った態勢は見事である。もっとも敵に見つかった後の動きとしてはという点だ。もともと朝方に動くというのも、こうしてタズナの場所に向かうというのもすべてソラの指揮の元だ。シカクならまず見つかることさえなかっただろう。潜入捜査の始動は下忍レベルだが、こと戦闘に関しては中忍、ないし、上忍クラスの守備隊形が取れていた。ソラの読みもまるで問題がない。

 

「さて」

 

 一旦言葉を切り開こうとしてシカクは止める。次を催促しているのだ。

 

「シカク先生、私たちに拷問技は…」

「それもそうか」

 

 敵から情報を奪うための拷問の知識も経験もない。生半可な拷問で嘘の情報をつかまされた方が危険性がある。

 

「尋問できないならどうする?」

「ここで始末します」

 

 捕まって意識も翻弄していた忍者たちは抗議する。この6人は下忍だ。中忍以上のいかなる犠牲を負ってでも任務を成し遂げる霧隠れの忍ではない。ゆえの上司にとっては捨て駒だ。生かすも殺すも無価値と判断してもおかしくはない。

 

 シカクは決めかねていた。戦闘中ではなく、拘束後の殺害は心境に多大な負担を与える。班員には何事にも挑戦的な取り組みに賛同してきたシカクだ。

 

「今回は俺が指揮をとる」

 

 今のソラは大きく不安定である。ソラ自身も気づいていることだが、他人の目には明白。こちらに敵意を失っている忍を殺すかどうか悩んで、自己を押し殺してまで、ソラは自分たちの最善を尽くそうとしている。パンク寸前だ。すでに殺人を経験してしまったソラではあるが、その瞬間と、今の瞬間はまた別の意味を持つ。殺意のあった相手と、殺意もなく、命を懇願する相手。気質に触れることのできる少女には、前者の相手ですら殺すのにかなりの抵抗があるというのに、後者を殺すことは特に酷である。高揚した中での冷静さとは異なり、完全なる冷静さを取り戻している状態でもあるからからだ。

 

 忍として任務に就いたなら、その覚悟は相手にある。それを忘れるな。たとえ、今、目の前でそれを恐怖で忘れていようとも。

 

 涙するソラの代わりに捕らえた3人に始末を付け、シカクはソラに諭した。

 

「うぅ…、ぁ…、先、生…」

「まだ任務は終わっていない、わかるな、ソラ?」

「………は、い」

 

 ソラの目から涙が止まらない。

 

 気質に触れる少女は相手の気持ちまで理解してしまう。技は忍者に向き、心は忍者にもっとも向かない一族、それが蒼井だった。




雷遁・雷龍弾
火遁、水遁、土遁、に龍弾という技があるのだから雷遁や風遁もあってもいいだろうという理由。


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暗殺と作戦

 波の国。

 

 タズナの家に着いた第11班だったが、そこにはカカシ班の姿がなかった。タズナの家の人に話を聞くとナルトとサスケは修行中、サクラと病み上がりのカカシは橋職人のタズナ護衛についているとのこと。

 

 サクラが使っている寝室をソラが使うことが決まり、心労を多く抱えていたソラは布団に入るとすぐに寝てしまった。

 

「ソラ?」

 

 シカクが明日の打ち合わせをするためにソラを呼ぶが返事はない。

 

「…入るぞ?」

 

 シカクの視界には寝息を立てるソラがいた。

 

「ソラはどうですか?」

「今はそっとしておいてやれ、ここまで来るのも大変だったんだ」

「そうですね」

 

 ハザマはソラを見ていないが、ソラの心情の負担はわかっている。

 

「カカシ班が帰ってきてくるまでソラは寝かせておく」

 

 時刻は午後の1時。ソラは睡眠が必要だが、シカク達は腹拵えといったところだ。

 

 

 

 ソラ…

 

 誰かに呼ばれた気がして、ソラは目を覚ます。

 

「ここは…」

 

 曖昧な思考回路にチャクラを起こして覚醒する。ソラはここが依頼に携わる家だということを理解し、気遁を使い始める。

 

「起きたか?」

 

 気遁を展開し始めるとすぐに担当上忍のシカクから声がかかった。

 

「はい」

「入るぞ」

「どうぞ」

「大丈夫か?」

「はい、なんとか」

「そうか…」

 

 シカクもソラに対して思うところがある。一旦静寂が場を包む。

 

「当初の予定とは異なり、任務は明日に延長する」

「…詳しい理由を聞いてもいいでしょうか?」

「ああ、理由としては第7班との連絡が取れていないということ。それからお前さんの回復を優先させた」

「わかりました」

 

 シカクの気質を視たソラは安堵する。どこか失態を責められるのではないかという不安があったからだ。

 

「お前はまだ若い」

「…そうでしょうか?」

「お前の年で暗殺任務を熟す奴も忍者の世界にはいるだろうが、そんなのは稀だ。ついでに言えば長生きしない使い捨てのような人生になってしまう。いつか限界が訪れる」

「それでも、中には例外がいるのですよね?」

「負けん気はないと思っていたんだがな…、俺が知る限りそんな奴はうちはイタチ以外には知らん」

 

 ソラの表情が暗くなる。ソラはうちは一族の悲劇に関して少しだけしこりが存在することを知っている。それとは別に、そのうちはイタチの起こした惨劇を目の当たりにした。それを鑑みて今シカクに話していた内容のことで負けず嫌いのようなものを発言するのをやめる。

 

「隣の芝生は青いってのとは少し違うが、自分に無いものってのは光って見えるものさ」

「私には殺人の経験がなく、慣れている人が羨ましく見えると?」

「まあ、そういうことだ。慣れてしまえば、心を痛めることも無い。そういう風にお前は感じ取っている」

「…」

「敵の忍を殺した痛みから逃げたい。そういうことを考えていなくてもお前は感じ取ってしまっているんだ」

「そう、ですか…」

「当たり前の反応だ」

 

 ソラは俯いていた顔を上げシカクを見る。

 

「まだお前は12歳の下忍のひよっこだ。焦る必要はない。もちろん、下忍とはいえ、忍者であることを忘れていいわけではないが」

 

 ソラは思い出す。昨日にも自分の悩みを相談するべきだが、ツカイは時間をくれた。そして今回、新たに忍としての在り方という新しく自分を苦しめる要素が浮上した。

 

「何か悩んでいることもあるみたいだしな。ま、おいおい聞かせてくれ」

 

 この人は蒼井一族かと疑ってしまう。シカクはそれほどに鋭い。

 

「カカシたちが戻ってくるまで休養だ。今は体を休めておけ」

「了解しました」

 

 その時、戻ってきましたという男性の声が耳に届く。

 

「どうやら、休んでいる暇はなかったらしい」

「大丈夫です。結構な睡眠は取れましたから」

 

 カカシ班の担当のカカシと教え子のサクラの帰宅である。何やら居間では騒がしくなっている。サクラの声がよく響く。

 

「なんかトラブルでもあったか?」

「さあ?」

「カカシなら担当の子に事情を伝えていないこともあるけど」

 

 それって、問題では?ソラは疑問にしかならない。伝えても十二分に問題ない任務のはずであると、ソラが頭の中で再確認する。動かないソラを見てシカクが指でついてこいと指示する。ソラたちがタズナ家の面々に加え、班員とカカシたちを見る。

 

「おや、お嬢ちゃんは初めましてかな?」

「初めましてカカシさん」

「うんうん、うちの班と違って真面目だねえ」

 

 サクラがジト目でカカシを睨む。サクラにとって真面目じゃない班員はナルトとカカシである。その1人が不真面目を認めていたら怒りも湧いてくるというもの。

 

「それで、どうして第11班が波の国に、タズナさん家にいるのよ?」

「うーん、俺も具体的なことは聞いてないんだけどね」

「なんで一緒に行動していたカカシ先生が具体的じゃなくても知ってるのよ」

「そりゃ、木の葉と連絡とってたし」

 

 任務の基本情報すら第7班は把握していない。第11班は第7班がCランク任務として扱われた任務がBランク以上の任務と詐称されていたことすら通達されている。ソラたちから見てもサクラはCランク任務の延長くらいにしか考えていないことは容易に想像がついていた。ソラはカカシに気遁を使う。カカシはソラの気遁に触れた瞬間、ソラの方を一瞬睨んだ。ソラは苦笑いして気質の調査を辞めた風を装う。一瞬で十分なのだから。ソラはカカシが変に気張るより、少しだけ緊張感の増した任務を受けている状態をベストとしているようだ。任務内容をはっきり伝えないことにも利点が明確に現れている。

 

「カカシ、やりあった忍ってのは?」

「…再不斬って奴よ。あいつのせいで大変だったんだから」

 

 カカシに聞いているのにサクラが答える。実際のところ、カカシはサクラの前で再不斬のことを話し、それがAランク任務だと第11班の者に指摘される可能性を危惧していたためすぐに口を割らなかったこともあり、サクラが話し始めた。

 

「再不斬?」

「再不斬って言えば、霧隠れの抜け忍で元上忍、鬼人と呼ばれた奴だ」

「それってA___いてぇ!?」

 

 ツカイが迂闊にもサクラに真実を伝えそうになる瞬間、隣に座っていたソラが思いっきり太ももを抓った。ついでにシカクも影縛りの術でツカイを影ながら拘束。身動きのとれないツカイは口を閉じるほかなかった。

 

「ど、どうしたのよ?」

 

 痛いと叫んだのになんのアクションも起こさなかったツカイにサクラは戸惑いながら質問をする。ソラはサクラに気遁を使う。サクラはツカイのことが苦手らしい。自由奔放なナルトに似た性格ではあるが、他人に被害が出るナルトと違い、サクラは一度術に巻き込まれかけたこともある。それでツカイが苦手らしい。むしろ関わりたくないといった感じだ。

 

「ちょっとナイフが太ももに刺さっちゃったみたい」

 

 ソラはそういってツカイに食用ナイフを握らせ、あたかも太ももに当たった体を装う。無理にもほどがある。シカクが影縛りの術を解除すると、ツカイも不服だと言わんばかりの表情を押さえ込んで、ちょっとドジしたと苦笑いをする。

 

「そう。案外、抜けているのね」

 

 そういって興味が失せたのか、シカクの方を向くサクラ。視線から外れた瞬間にツカイの怒りの顔がソラに向く。理由があるの、と小さい声ながら強くツカイに言い聞かせる。これらのやりとりを見ていたカカシは羨まし気な顔でソラを見ていた。

 

「…やらんぞ?」

「いやあ、いい子だなって思っただけですよ」

 

 

 

 カカシから詳しい事情が話される。ガトーに就いている忍の詳細だ。主だった戦力は鬼人・再不斬、そして再不斬を追ってきたと見せかけた追い忍を装った謎の人物。

 

「ガトーの連中にはあまり戦力はないのだな」

「そうですね。俺たちの班でどうにかなる程度の戦力しかありませんから」

 

 どうにかなるというが、かなりの無茶が必要なのでカカシは嘘をついている。再不斬とカカシで戦力が拮抗したとして、他の3人で追い忍もどきの少年に勝てるかどうかはわからない。なにせカカシですら自分よりも隠遁術に長けていると判断した人物だ。カカシはソラを横目で見る。おそらく同等程度の隠遁術が扱える。

 

「そちらの任務内容を聞いても?」

「いや、サクラくんには聞かれるわけにはいかない」

「そうですか」

 

 上忍同士の決定にサクラは不服と言わんばかりの表情だ。

 

「ソラ」

「はい。サクラ、外で待機よ」

 

 サクラだけ除け者扱いするわけにもいかず、ソラ達3人とその場を後にする。

 

「あー、もう。どうして聞かせてくれないのかしら」

「知らない方が請け負った任務に集中できることも多いから」

「そう。あなた達に聞いても教えてくれないのでしょう?」

「伝えるな。そう言われてるからね」

「仕方ない。じゃあ、私、サスケくんたち呼んでくるわ」

「いってらっしゃい」

 

 夕刻になり、外も暗くなっている時間。明日辺りから再不斬が復活を果たすというから、修行に集中できるのは今日まで、サスケとナルトは時間いっぱいまで修行をしているらしい。

 

「修行ねえ、あのナルトが…」

「言っておくが、この班で一番チャクラを練るのも、チャクラをコントロールするのも苦手なのはツカイだぞ」

「うるせえ、そのうちなんとかする」

「はあ…」

 

 この班で最もチャクラコントロールができないのはツカイである。チャクラを練るのも実は下手ということで燃費が著しく悪い。

 

「サスケか…、どこまで強くなってるんだろうな」

「案外ナルトの方が強かったりして」

「それはねえだろ」

 

 ツカイの呟きにソラが反応する。才能という点では、ナルトは群を抜いて一番に躍り出てもおかしくない生い立ちを知っているのはソラだけだ。もちろんうちはの宗家の血筋のサスケもまた才能の塊なのには違いない。

 

「ナルトのバカみたいな体力なら修行をずっと続けられるでしょ?」

 

 ナルトの本当のことは2人には言えない。

 

 組手の授業の後に授業を抜け出して悪戯をし、そのまま里の忍と追いかけっこをしているナルトはソラから見ても異常なスタミナである。もちろん、九尾の影響もあるが、ナルトの才も影響しているとソラは睨んでいた。

 

 

「まあ、確かに」

「それはあるだろうな、あいつはアカデミー時代一番のスタミナを誇ってた」

 

 そしてソラの気遁のような特別な力は持たずとも、ツカイやハザマはナルトのことには以外と詳しいものだった。ツカイはナルトに限らず、仲の良かった4人とサスケに関してはライバル心から相手の特徴を知り得ていた。ハザマは分析能力に元から長けているため、日常生活で目に付くナルトのスタミナくらいは把握している。もちろんナルトの忍術や幻術のスキルの低さも把握している。

 

「チャクラのコントロールという点では、ツカイ、お前は負けてしまうかもな」

「うるせえ、別に忍術が負けなければどうでもいい」

 

 3人が雑談をして時間を潰していると家の中から声が届く。

 

「3人とも入れ」

「「「はい!」」」

 

 サクラのいなくなった後、作戦会議が本格化する。

 

「ガトーの暗殺任務か、まさか新人がこんな任務を受け持つとはな」

「さっきも言っただろう。うちの班はレベルが違う」

「信じられませんよ。アカデミーを卒業して2週間でCランク任務を7つも達成していると言われても」

「ソラが封印術に長けているおかげで色々な任務を受け持つことができたからな」

「はあ、なるほど」

 

 幾ばくか時間を置いて、2人の上忍の目つきが変わる。

 

「それで、明日はどう考えるソラ?」

「私の意見でいいのでしょうか?」

「ああ、お前がこの班の指揮だからな」

 

 今日カカシは何度目かわからない驚愕をする。木の葉の頭脳とも称されるシカクが班の指揮を取っているから任務の達成が素早いと考えていたが、実のところはこの蒼井一族の娘が指揮をしていながら、Cランク任務を次々に熟しているのだ。上忍までエスカレーターのごとく昇進を果たしたカカシではあるが、昨今の平和な期間においてこの優秀さは例外中の例外だ。蒼井、それはカカシですらあまり関わることのなかった一族。ここまでの者か。聞いてきたもの以上である。それほどの衝撃を受けた。

 

「ガトーの忍、再不斬と追い忍を装った少年の2人の行動で作戦を変えます」

「具体的には?」

「ガトーの潜伏している可能性のある箇所は波の国にあるかぎり100箇所ほど、そこへは最短ルートを確保し、しらみつぶしではありますが、私の感知を用いてガトーの居場所を探ります。本来のようにじっくりと作戦を練り、相手の行動を予測した暗殺ができるほどの時間はありません。そして暗殺に就く私たちが再不斬たちと交戦をした際は、ハザマの空間・口寄せの術で、サスケとナルトをお借りします」

 

 カカシの顔が一瞬だけ変わる。援軍の依頼にナルトを指名するソラを訝しむ。それとは別の事柄だが、空間・口寄せとはあらかじめ口寄せしている動物を再度口寄せして自分の側に転移させる際に近くの空間ごと連れてくる大技だ。

 

「逆に再不斬たちがタズナさんの暗殺に動いたとするならば、私たち第11班はガトーの暗殺に専念し、先にガトーを暗殺します。第7班の協力ありきの作戦ですが、私たちが再不斬に遭遇した場合、私とハザマはチャクラを大きく失っているため戦いにはなりません」

「なるほどな…、質問がある」

「なんでしょう?」

「再不斬の居場所をどう伝えるんだ?」

 

 カカシの質問にソラはカバンをゴソゴソと漁る。

 

「こちらを」

「これは?」

「相手に信号で何が起きたかを簡潔に伝えることができる巻物です」

「見たことないが」

「ただの色が着くだけの巻物です」

 

 巻物に刻まれた文字の中に3つの丸い白紙が目立つ。もう一つ広げた巻物の3つの白い空間にソラがチャクラを流し込む。

 

「ほお」

 

 するとカカシが持っていた巻物の一番右に青い丸が浮かび上がる。

 

「言葉を伝える高等なものもありますが、今回の作戦では不要でしょう」

「これに意味を与えるのか」

「はい。こちらが青を示せばガトーの暗殺完了、赤を示せば再不斬がこちらにいる合図です」

「もう1つ黄色があるが?」

「それは不測の事態、例えば再不斬以外にも強い忍がおり、交戦していたり、こちらの任務の遂行が滞っている合図です」

「なるほどな」

「そしてそちらは、赤が再不斬との遭遇、そして黄色がこちらと同じ合図になります。青を示す必要性は私には考えられなかったので、何か必要とあらば付け足しますが?」

「ふむ、まあないかな」

「任務への協力依頼お願いできますか?」

「…火影様への報告は?」

「里を出る前に合同の任務の許可をもらっています」

「さすがだな」

 

 普通の暗殺任務とは懸け離れた内容だった。情報をほとんど集めないと不測の事態に陥りやすい。本来暗殺任務というのは潜伏と情報収集に長けていなければならない。しかしソラはそのどちらも選択しなかった。

 

「今日交戦したんだ。ガトーが新しく忍を雇っても不思議じゃないが?」

「だからです。この国は波の国、この国に忍者がいなければ雇うのは火の国か水の国。それか隣国の小国になります。そして火の国はガトーへの協力はしませんし、水の国は抜け忍の再不斬たちと相性が悪い。そして雇うのに時間がかかるならば、戦力を増やされる前に叩きます。ガトーは波の国の一般庶民を殺す戦力しか持っていない今の方が都合がいいので」

「なるほどな」

「ですが、抜け忍の再不斬たちに報酬を払うことなく、水の国に抜け忍を引き渡し恩賞を得ようとすれば?」

「なるほど、比較的近い隣国に依頼を出す可能性も低い。それに隣国ならば正規の忍、指名手配されている再不斬たちとは相性が悪い。一触即発な状態となり、任務が終われば再不斬たちのことを水の国に報告するだろうな。たとえガトーの意向に添えた結果を残しても再不斬が裏切る可能性が上がるから、逆に水の国以外に依頼するというのは考えられない。そして水の国に依頼するならばガトーにとっては一石二鳥というわけか」

「正規の雇用ならば水の国でしょう。ですが、可能性なら他里の抜け忍ということもあります」

「…それが」

「ええ、不確定要素として黄色の発信を付ける主な理由です」

「そこまで読んでいたのか」

 

 ここまでの情報を推察する能力。師が師なら弟子も弟子というわけか。カカシはシカクを見る。シカクはなんのことかわからないなと惚けたような態度だ。十中八九水の国にガトーは任務の依頼を出す。だが、それだとタズナの暗殺が失敗する可能性もある。タズナ暗殺を諦め、木の葉の忍を撒いた後で暗殺を実行する作戦である。それだと橋が完成してしまうかもしれない。ならば再不斬と同じ抜け忍であれば作戦もうまくいく上に正規の任務依頼ほどに金銭負担が少なくて済む。新たに抜け忍を雇う確率は決して0ではない。

 

「わかった。第7班は今の任務を受け持ちつつも第11班に協力しよう」

「ええ、こちらも任務を優先しますが、第7班への援護を約束します」

 

 作戦が決まった。すると、ちょうどいいタイミングで第7班の面々が帰宅する。

 

「おおー、本当にソラちゃんたち来てるってばよ」

「久しぶり、ナルトくん」

 

 互いに忙しくて下忍になってからは会えていなかった。2週間ぶりの対面である。

 

 

 

「なるほど、木登りの修行か」

 

 チャクラコントロールの講座を第7班から受けているのはツカイだ。

 

「ツカイってば木登りもできねえのか!?大したことねえってば」

 

 ナルトは目に見えて他に優秀な面を持つのは自分の中では初めてのことであるためか自慢げになっている。

 

「サクラは一発で成功したんだ。すごいね」

「私チャクラの扱いには才能あるって言われたわ」

 

 煽てれば気分を良くしたサクラは饒舌になる。その反面少しだけムッとするサクラの思い人がいるのだが、サクラは気付かない。

 

「ちっ、俺だってサクラのようにすぐにチャクラコントロールくらいマスターしてやる。ナルトと違って一週間どころか1日で十分だからな」

「何を!?」

 

 自慢げにされムカついているツカイは根拠のない自信でナルトに言い返す。ナルトはそれにすら反発するくらいには口も脳も達者ではない。

 

「何を根拠に言ってるんだ、この馬鹿は」

「僕としても疑問だ」

 

 ナルトとツカイの2人のやりとりを冷めた目で見るサスケとハザマ。以外とこの2人は相性がいいらしい。

 

「この任務が終わったらチャクラコントロールの修行だ」

 

 最近ではチャクラの練り方を鍛える修行をしていた。その修行内容は精神エネルギーと身体エネルギーを体内できちんと練り上げてから術を発動させるというもの。つまり、じっくりと時間をかけて術を使うという訓練だ。基本的にツカイは実践を想定した訓練をしていたためチャクラを練り上げてから術を発動するまでのタイムラグは上忍レベルに早い。その反面上忍とは打って変わりチャクラが十分に短時間で練ることができないため膨大な量の精神エネルギーと身体エネルギーを消費していた。その改善の修行と並行してチャクラのコントロールを学ぼうとしている。

 

「チャクラも上手く練れないのに何がチャクラコントロールだ」

「おい、それ言うな」

 

 アカデミー生で学ぶはずの事を今になって修行しているという恥ずべき事態を、ハザマが漏らしてしまう。それを止めようとしたが間に合わず。

 

「お前ってばそんなこともできないのかよ」

「黙れ!俺だって上忍レベルの忍術は使えるんだよ」

「へ、俺だって上忍レベルの影分身の術使えるってばよ」

「俺は火遁・火龍弾に雷遁・雷龍弾も使える!」

「つ、使える数じゃねえってばよ!?」

 

 精神年齢ガキじゃねえか、サスケの呟きにサクラとハザマが同意する。そんな2人をソラは別目線で眺めていた。九尾のチャクラを持つナルトはチャクラを練るのもコントロールするのも下手、それがアカデミー時代に判明していた。そしてナルトのような理由はないが、ツカイもナルトと同様である。

 

 この二人がもしもサクラやハザマレベルのチャクラの練度とコントロールを手にすればとてつもなく強い忍者になるのは明白である。ソラは考える。現状のチャクラ量、つまり精神エネルギーと身体エネルギーを混ぜ合わせた総量では班の下忍で一番多いのはソラである。だが、もしもツカイがうまいことチャクラを生み出せるようになればソラは自分の何倍ものチャクラを持つのではないかと予想する。

 

「ふふっ」

「ん?どうしたってばソラちゃん」

「2人ともすごいなあって思ってね」

「ば、馬鹿にしてるってば!?」

 

 ツカイはソラの事を少しずつ理解しているため、人を小馬鹿にするタイプではない事を知っている。だが、ツカイにはソラが何に対して笑ったのかがわからない。

 

 馬鹿にされてきた2人が周りを度肝を抜かせるほど強くなった時、笑ってる3人はどういう表情をするのだろう。それを考えたソラは笑みがこぼれてしまっていた。




ちゃんと推敲しないとなあ
ちゃんとタイトル考えないとなあ
ちゃんと物語考えないとなあ

今更見切り発車だなんて言えない

オリジナル忍術
空間・口寄せの術
説明は本文中


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ガトーの護衛と絶対絶命

 第7班と合流した次の日。

 

「ナルトくんは寝坊ね」

「どうする?」

「うーん、いざとなったらサクラとサスケでお願いします」

「そうしよう」

 

 作戦の一部を変更し、ナルトとサスケを借りる可能性があったが、ナルトの代わりにサクラが作戦に組み込まれた。

 

「それでは先に出発します」

「おう、さっさと終わらせてくれると助かるんだがな」

 

 カカシに見送られる形で第11班は行動を開始する。空はもうとっくに明るくなっている朝7時。ガトーに気づかれないルートで行動を開始する。近くにあるアジトと思しき場所はハズレだった。次もガトーはいない。その次も。時間がかかるが、それが最善として行動している班員に、まだ疲れは見えない。

 

「ハザマ、どう?」

「なんとか持ちそうだ。だが、もし戦闘になるとすればできれば50箇所以内に見つからないときついかもしれない」

「わかった」

 

 ハザマは空間・口寄せ用に口寄せ動物をカカシに預けている。そのため召喚とともに口寄せ動物のチャクラが減っていき、それを補うためにはハザマ本人が口寄せ動物にチャクラを渡さなければならない。今はまだチャクラの消費がない状態であり、口寄せ動物のチャクラの減少量を見てハザマが逆算。ハザマの結論はこの速度では50箇所あたりで空間・口寄せをするだけのチャクラを残せないというものだった。およそ7割のチャクラを消費する大技のタイムリミットは短い。

 

「予定を変更します。50箇所を回ってからは再不斬と遭遇次第退却します」

「「了解」」

 

 4、5、6、…18、19、20。

 

 とてつもなく早い速度でガトーのアジトがあると思われる場所を調べ回る。その中に人影は幾つも存在するが、肝心のガトー本人が見つからない。

 

「行けるか?」

 

 シカクはまだ5分の1しか調べ終えていないにもかかわらず声をかける。

 

「はあ、はあ、まだ、っ、大丈夫です」

 

 気遁を常時使っていることに慣れているソラがすでに息切れしていた。慣れない土地とリーダーとして考えることの膨大な量がソラのスタミナを奪っていた。ソラの状態を見てハザマが懐から何かを取り出す。

 

「ソラ、これを食べろ」

「これは…、兵糧丸…」

「ああ、今のソラはチャクラ量が減っているわけじゃない。体力を一刻も早く回復した方がいいだろう」

 

 ソラはハザマから受け取った兵糧丸をかじる。苦味が口に広がり、それに不快感を露わにするが、表情とは打って変わり体力は徐々に回復し始めた。

 

「これなら」

「大丈夫そうだな」

 

 兵糧丸か…、とソラは呟く。ソラは兵糧丸を持ち歩くことが少ない。あまり必要と感じたことがなかったからだが、この調子ではこの忍具を持ち歩いた方が自分のためになるだろう。そう感じるほどにソラは自分の好調が感じ取れていた。

 

 

 

 第7班の面々が行動を開始した際に、サスケはカカシが持つ動物を尋ねる。

 

「そのカラスどうしたんだ?」

「うん?ああこれ、第11班の時任ハザマくんの口寄せ動物」

「いや、だからなんでハザマのカラスがここにいる」

「まあ、一応波の国での任務だから連絡取り合えた方がいいってことで」

「ふーん」

 

 サスケはそれ以上情報が得られないとして興味を失う。

 

「よし、準備ができたぞい」

「行きましょう」

「おう」

 

 タズナの準備ができたため橋に足を運ぶナルトを除いた第7班一行である。疲れ切っているナルトはタズナの家に休ませ、3人で護衛任務に就く。橋に着けば橋職人たちが何者かに襲われていた。

 

「な、なんだぁこりゃ!?」

 

 タズナは仲間たちが傷ついて倒れている状況に驚愕する。

 

「何があった、お前ら!?」

「やはり生きていたか…、そして…、こっちに来ていたとはな」

 

 カカシは巻物を広げ、手をあてがう。それを怪訝そうな顔で見ていたサスケだが、あたりに霧が立ち込めると意識を変え、これから来るだろう忍に集中する。

 

「サスケ、サクラ、来るぞ!」

 

 タズナを守るように3人が一箇所に固まる。

 

「ねえ、カカシ先生。この霧ってあいつの、霧隠れの術よね」

 

 サクラが確認を取る。

 

「待たせたな、カカシ」

 

 鬼人・再不斬に第7班が遭遇した。ハザマのカラスはその場を飛び立つ。

 

 

 

 再不斬がガトーの命令を無視し、勝手に標的であるタズナの暗殺に向かったことに腹を立てていた。

 

「ちっ、タズナを殺せばこのことは不問にしてやる。だが、増援があったとならば話は別だ。おい、あいつらはどうなってる!」

「はっ、今は他の部屋で待機させています。ここの護衛を兼ねてですが」

「まあいい、しばらくしてから橋に向かうと伝えろ」

「は?」

「再不斬共々殺したら再不斬に渡す依頼料の半分をやるとでも伝えておけ。あれも抜け忍、金は少しでも欲しいはずだ」

 

 ガトーはタズナの護衛が増えたと勘違いをし、苛立っていた。そして同時に再不斬への不信感から新しく抜け忍を再不斬に黙って雇っていた。

 

「ふふふ、元土隠れの抜け忍、三獣と恐れられた忍たちなら、再不斬、木の葉の忍、そしてタズナのヤローまとめて皆殺しにできる!!!くくく、ふふふ、はーっはっはっは!!!」

 

 ガトーの手下が三獣と呼ばれる抜け忍の3人の控え室を訪ねる。

 

「お前たちに任務だ…って、いない?」

 

 しかし、待機室はもぬけの殻だった。

 

 

 

 第7班からの赤色の信号が届く。

 

「再不斬たちは第7班の方に現れた」

 

 巻物を見張っていたツカイが声を上げる。ソラは息を整えて指示を出す。

 

「このままアジトを探します」

 

 すでに60以上の地点は回った。その中にガトーのアジトは4箇所しかなかく、そこにガトーはおらず、ガトーカンパニーの社員しかいなかった。次の63箇所目の地点に建物があり、そこを気遁でソラが探る。

 

「巻物をこちらに」

「忍か?」

「ええ、しかも気づかれました」

「気遁に気づけるレベルか…、想定外もいいところだな」

 

 ソラはカカシたちに黄色の信号を送る。巻物をしまい、そばにある雑木林に逃げ込み、敵の行動を注視する。

 

「こちらにまっすぐ向かってきます!迎撃の準備を!」

「早すぎる。お前ら下がれ!」

 

 シカクが急遽指揮を取る。ソラもそれに異を唱えたりはしない。圧倒的に相手の忍が、自分たち下忍とは一線を画するほどの手練れということを感じ取っていたからだ。

 

「敵はスリーマンセル。実力はほぼ全員が同じくらい___」

「ほお、感知タイプか」

 

 一気に距離を詰めてきた相手にソラは戦慄する。

 

「こいつ、一瞬で!?」

「1人じゃねえぞ、ハザマ」

「な!?」

 

 完全に囲まれていた。

 

「つまらねえ護衛任務かと思えば、木の葉の下忍とお付きの上忍様か?」

「この上忍は知ってるぜ、木の葉の猪鹿蝶トリオの1人、奈良シカクだ」

「他の二人がいねえなら問題じゃねえだろ」

「そうかもな」

 

 新たに現れた2人が11班の背後を取っていた。

 

「こいつら…、岩隠れの里の抜け忍、元特別上忍の灰牙(かいが)3兄弟か!?」

「ほお、俺たちを知っているのか。しかし、まさか下忍連れで暗殺ごっことはな。木の葉は忍をなんだと思っているんだか…」

 

 長男と思しきリーダーのような存在がシカクの疑問に答え、そして忍からの護衛と聞いて来た相手が想定外の弱さと判断してあざ笑う。

 

 特別上忍。上忍ではないまでにしても特異な能力で一部の事情ならば上忍扱いされる階級出身ということ。つまり並みの中忍とはレベルが違う。

 

「分が悪いか」

 

 シカクは即座に印を結ぶ。

 

「さっそく開戦か。お前らこいつに好きなようにさせるな!」

「「おう」」

 

 シカクに襲撃する3人は下忍の3人に目もくれず、その上を飛び越す。一番の危険要素から排除する狙いだろう。しかし、11班の下忍は只者ではない。注意を怠り過ぎていた。

 

 動いたのはソラだ。

 

「結界術・風網(かざあみ)」

 

 風のようなチャクラが網状に構成し、それらがシカクの背後から襲い掛かる2人の弟分を捕らえた。

 

「何!?」

「ちっ、面倒な術を」

 

 2人が一瞬だけでも捕らえられたことにより、襲撃のタイミングがずれる。

 

「ちっ、てめえら何してやがる!?」

「遅い。土遁・三重土流壁!」

 

 地中から雑木林を三等分する巨大な土の壁が現れる。木々の十倍はありそうな高さだ。越えようとすれば相手の忍者に攻撃されてしまう。

 

「ちょっ、先生!?これではチームワークが発揮できませんよ!?」

 

 壁の奥にいるシカクにハザマが声をかける。

 

「班として発足してから時間が経ってない俺たちよりも、相手の方がチームワークは上だ。それなら分断した方がまだ勝機はある」

「そ、そういうことですか…」

「いいか、お前ら!俺が一人片付けるまで生き残れ。すぐに向かう」

「「「はい!」」」

 

 シカク、ツカイ、ソラとハザマの三人はそれぞれの相手を見る。

 

 ツカイは相手の出方を疑う。

 

「…ちっ、おい兄貴。上忍相手は厳しいだろ。すぐ終わらせるから待ってろよ」

「早くしろよ」

「遊んでるうちにくたばんじゃねえぞ。ったく、あの嬢ちゃんにはしてやられたな。偶然にも虚を突かれるとはな」

 

 後ろ髪を掻きながら怠そうにツカイを見下げる。

 

「さっさと終わらせるか」

「偶然じゃねえよ」

「あ?」

「ソラはてめえらに隙があると判断したから妨害した。てめえらの油断だ。偶然じゃねえよ」

「…生意気なこと言うじゃねえか。さっさと死にな!」

 

 手裏剣を投げる。ツカイはそれを苦無で弾き飛ばすが、手裏剣に気を取られている内に間合いに入り込まれる。

 

「早い!?」

「てめえがおせえんだよ」

「くっ、雷遁・雷撃!」

「なっ!?」

 

 完全にツカイの懐に入り、確実に仕留めたと確信した敵だったが、一瞬で印を結んで術を発動させたツカイになんとか反応し、掌から放たれる雷撃を反らすため、苦無を握っていない左の手でツカイの忍術が発動する右手を弾き、かがむ。ギリギリのところでツカイの忍術から敵は難を逃れる。

 

「あぶねえな…、てめえ案外つええな」

 

 自分よりも確実に術を発動させる速度がずば抜けて早い。それを見た相手はツカイへの認識を改める。

 

「速度勝負じゃ安全とは言えねえか。てめえ、名は?」

「は?」

「ガキを殺しても自慢にもならねえが、てめえはただのガキじゃねえ。名を知っておけば、土産話くらいにはなるからな」

「人にものを尋ねるなら自分から言え」

「ちっ、可愛げのねえガキだな。この灰牙3兄弟の次男、灰牙銀火(かいがぎんか)が本気で相手にしてやるんだ。つまらねえ結果は残すなよ?」

「木の葉の天野ツカイを舐めんじゃねえぞ」

 

 銀火は手裏剣を取り出し投擲。そのまま印を結ぶ。

 

「さっきと同じ畳み掛けならもう通用しねえ」

「どうかな?土遁・土流槍」

 

 地面から無数の土の槍がツカイを襲う。ツカイはそれを避ける。そのまま空中へと避けた先には先ほど銀火が投擲した手裏剣が飛んできていた。ツカイはそれを避けられない。

 

「あまり変わり身はうまくねえな」

「ちっ」

 

 銀火の右側に変わり身で回り込んだツカイだが、瞬時に変わり身を看破されてしまい、効果がない。

 

「土遁・土龍弾」

「ふっ、雷遁・雷撃」

 

 五行の相性。それはツカイの扱う雷遁は銀火の扱う土遁に強い。龍から放たれる土の弾幕も掌から放たれた雷撃にすべて弾かれる。

 

「ちぃっ」

「五行の優劣関係は忍の基本だぜ」

「まあ、それはそうだな」

 

 背後から聞こえる声にツカイは驚愕する。

 

「土遁・土中映魚の術って言ってな。土の中を泳げんのよ。土遁はな」

「だからどうした!雷遁はてめえの忍術を上回る!」

「やってみな」

「雷遁・網蜘蛛!」

「火遁・火龍弾!」

「なに!?」

 

 網蜘蛛の術を飲み込む上忍レベルの火遁忍術。今まで土遁を使っていた敵がいきなり火遁を使う。意表を突かれたツカイはなんとか直撃は避けるが、衝撃で近くの木に打ち付けられ、火の龍にかすった箇所を火傷した。

 

「他の性質変化が使えねえとは言っていないぜ」

「くそっ」

 

 相手の力量の差にツカイは悪態をついた。

 

 逃げる。

 

 ツカイは決定打を失っている状態だ。隙がないかと攻撃の合間に観察するが、力量が離れすぎているためツカイには銀火の隙がわからない。一方で未だに接近戦に持ち込めない銀火は次第に焦る。遠くからは仕留めきれず、間合いに入っても術スピードでどうしても後手を取ってしまう。

 

「急がねえといけねえし仕方ねえか。下忍相手にこれを使う羽目になるとはな」

 

 そう言って自分の指を苦無で傷つける。一定の距離から攻撃を受けていたツカイは攻撃の雨が止み、銀火を見る。

 

「はあ、はあ、…まさか!?」

「そのまさかだよ。口寄せの術!」

 

 銀火は追い討ちをかけるように口寄せの術を行使した。煙が舞い、それが晴れた時には二本の巨大な犬歯が覗く猛獣が現れていた。

 

「虎!?」

「行くぞ!岩技(がんぎ)!下忍でも甘く見るなよ!」

 

 獰猛な口寄せ動物。それ一体だけでもツカイは相手取るのが難しいというのに、特別上忍レベルの敵がもう一人いる状況。懐に入られたら上忍レベルの忍術を使っては間に合わない。だからといって、中忍レベルの忍術ではどちらか一方を撃退するのが限度。確実に出し抜く手立てがない。それを本能で理解した時、初めてツカイは恐怖した。敵と戦う際に格上の相手をしたことがなかったが、今回は格上も格上、レベルが違う相手だということがはっきりと、今、理解した。

 

 足が震える。

 

「…死んで、死んでたまるかよ!」

 

 震える足を叩き、必死に自己を鼓舞して立ち向かう。

 

「俺は、俺は!木の葉の里の天野一族だ!!!」

「終わりだ小僧!」

 

 虎の爪がツカイを切り裂く。

 

 

 

 ソラとハザマの二人は灰牙3兄弟の三男と対峙していた。先ほど次男の銀火と長男が話していた内容から、シカクとソラ達下忍と対峙する2人がどちらが先に片をつけるかという戦いになってしまったことを把握する。

 

「しゃあねえか、俺もさっさと助けに行かねえとな」

 

 ソラは奥歯を噛みしめる。未知数の敵相手に二人とはいえ、すでにチャクラを大きく使い果たしている下忍では相手にならない。なんとか自分たちの土俵に引きずり込んで、戦いを長引かせる方法を考える。

 

「ソラ…」

「まずは目の前のことに集中して、あの2人なら私たちよりは大丈夫だから」

 

 ソラはハザマの動揺を抑え込む。

 

「なんだ?てっきりガキ一人の方がヤバイ状況にあると思ってたが、お前らの方が弱いのか?まあ、あまり興味がねえんだけど!」

 

 苦無が3本飛来する。

 

「早い!?」

「ソラ!?避けろ!!」

 

 その速度は集中した状態ですら避けるのにギリギリといった速度である。間一髪ソラはそれを避ける。

 

「じゃあ、半分の距離じゃ避けられねえだろ?」

 

 確実に避けられない距離からの苦無の投擲。ソラはそれを避ける。

 

「何?今のは避けられないはず…、ちぃっ、幻術か。いつかけられた!?」

 

 シカクによって分断される瞬間にソラは敵になる忍に幻術をかけていた。

 

「解!」

 

 幻術を解いた時、もうすでにハザマが間合いに入って攻撃していた。

 

「終わりだ!」

「くっ!?」

 

 ホルスターから手裏剣を弾く要領で飛ばし、ハザマの苦無の切っ先を反らす。そして体を無理にでも傾け、チャクラの反発を利用して頚動脈を狙っていた苦無から逃れる。

 

「なっ!?」

「っと、あぶねえ、あぶねえ、寿命が縮んだぜ」

「あの状態から、避けるだと!?」

「随分と手荒な真似するじゃねえか」

「…当然だ。命が懸かっている」

「まあ、そうだな。…俺を殺し損ねた詫びに冥土の土産話をくれてやろう。灰牙3兄弟三男、灰牙銅水(かいがどうすい)の手によって散るが良い」

 

 銅水は印を高速で結ぶ。

 

「もう一人のガキは潜伏しているみたいだが、これで炙り出してやるさ。水遁・水衝波!」

 

 近くの小川から水が集まり、辺り一面を覆うほどの水量が大波を作る。

 

「ソラ!逃げろ!」

 

 ハザマが叫ぶも、ソラは行方知れず。だが、ハザマはソラが水衝波から逃げのびたと信じ、次の交戦の準備をする。辺り一面が水没したため、ハザマは水上に立つ。

 

「水面に立つくらいのチャクラコントロールはできるか」

「元岩隠れの忍って聞いていたんだが…、水遁が使えるのか」

「水遁も、だ!」

「っ!?」

 

 言葉とともに放たれた手裏剣に、ハザマは息を飲む暇もなく回避行動をとる。苦無で一つの手裏剣を弾き、他の二枚はバク転で躱す。

 

「そんな避け方じゃあ隙をついてくださいって言ってるようなものだぜ」

 

 ハザマが後退して躱した真正面に銅水が立つ。

 

「そうでもないよ」

 

 しかし、銅水の背後にソラがいた。

 

「ふっ、そうでもあるだろう。隠れるのうめえのに、出てきたら意味ねえだろ」

 

 銅水の手は印を結んでいた。

 

「しまっ!?」

「水遁・水牙弾!」

 

 抉るような鋭利な水の塊が回転しながらソラを穿つ。

 

「ふん、この程度か」

 

 ソラは血潮を飛ばしながら倒れる。

 

 が、それは変わり身の丸太である。

 

「何!?変わり身だと!?しかも起爆札!?」

 

 変わり身した丸太には起爆札が付けられ、着火していた。

 

「まずいっ!?」

 

 水を巻き上げるほどの爆風が吹き荒れる。その衝撃は急いでその場を離れたハザマが吹き飛ばされるかと感じるほどに強い。水面をえぐる威力の爆発を至近距離でまともに食らった銅水は致命傷を避けられない。

 

「やったか!?」

「まだよ」

 

 ハザマの隣にソラが立つ。

 

「何?起爆札を直に受けたというのにか?」

「水の中に逃げて威力を殺された」

 

 起爆札の煙が晴れると、水中からぼこぼこと気泡が出てくる。そして水の中から水面に立つようにゆっくりと銅水が浮上してきた。側頭部から血を流しているため、ダメージを与えることには成功した。しかし、致命的な傷ではない。

 

「もう、許しはしねえ」

 

 側頭部から流れる血を親指で掬う。

 

「口寄せ!?」

「させると思うか!」

「待って!ハザマ!間に合わない!」

 

 ソラの忠告を無視し、ハザマは走りながら手裏剣を投擲し、印を結ぶ。

 

「間に合わないって忠告、ちゃんと受け取った方が良かったなあ。口寄せの術!来い!岩体(がんてい)!」

 

 召喚された虎が即座に手裏剣を前足で弾き飛ばす。

 

「ぬるいな」

「何!?」

 

 口寄せされた岩体が呟く。ハザマレベルの手裏剣はいくら投げても岩体には通用しない。そして印を結んでいる最中のハザマに身の丈3メートルを超える虎が迫る。

 

「避けてぇ!!」

「遅い」

 

 ハザマが噛みちぎられた。

 

 

 

「参ったね、どうも」

「それは俺のセリフだよ」

 

 敵戦力を分断したのはいいが、シカクは早急に敵を倒す作戦を思案する。

 

「猪鹿蝶の奈良シカク。確か影を操るのが得意だったか?」

「どうだろうな」

 

 互いに沈黙。しかし、時間が経てば経つほどこの戦いではシカクが有利になり、全体の勝敗としては不利になる。焦る気持ちを抑え、冷静に相手を分析する。

 

「確か、灰牙3兄弟といえば口寄せ忍術が得意だとか。そして3人合わされば里長、五影レベルの実力を発揮するとか」

「買いかぶりすぎじゃねえか?五影の連中はみんな化け物だよ」

「まあ、そう言うな。褒めてんだ。だからこそ分断するほかなかったわけだからな」

「賢い選択だな。もっとも、分断したところで互いに不利になっただけ、マイナスの度合いはお前たちの方が大きいだろ?」

「そうでもないさ」

「試してみるか?」

「ああ、お手柔らかに頼むよ。灰牙金雷(かいがごんらい)くん」

「心にもねえことを!」

 

 シカクは苦無を取り出し、分身の術を駆使して残像で目をくらませる。ただの分身ならいいが、歩法と組み合わせた分身の術はどこから仕掛けてくるか咄嗟に判断ができない。

 

「分身の術ごときでこのレベルか!?」

 

 金雷は瞬時に分身の術だと理解したが、すでにシカクの本体を見失う。木の葉の上忍の中でも上位層に君臨するシカクの戦闘力は並外れている。

 

「影は距離を詰めるほど危ねえか…、鼻から全力だ!土遁・土流大河!」

「土遁・土流壁!」

「土遁で?ふん、甘いぜ」

「ん?」

「雷遁・雷鳥」

 

 雷でできた鳥が土流壁をぶち破る。

 

「雷遁が使えるのか…」

 

 その鳥をシカクは右に避ける。

 

「雷遁・雷撃」

 

 避けた先に金雷の掌から雷が走る。その雷はシカクを通過した。

 

「ちっ、分身か…」

 

 金雷はすぐに立っていた場所から離れる。影に捕らえられるわけにはいかないので、素早く居場所を変えることで影に捕らえられる確率を減らしている。

 

「一筋縄じゃいかねえとは思ってたが、どうやら認識を改めねえとな」

 

 木に降り立つと、金雷は苦無で指を切り、印を結ぶ。

 

「口寄せの術!」

 

 二人の弟たちと同様、口寄せ動物の虎が姿を見せる。

 

「俺を呼ぶのも久しいな」

「今回は格上なんでな」

「ほお?どいつだ?」

「あそこにいる」

 

 シカクが隠れている箇所を金雷は指差した。

 

「あいつは木の葉の上忍。猪鹿蝶トリオの奈良シカクだ」

 

 金雷の説明を聞いていた虎は辺りを見回す。

 

「分断したのか?」

「いや、分断された。相手は下忍連れの子守りの最中だったみたいだからな」

「猪鹿蝶が集まっているわけではないのか」

「それなら分断しねえだろ、相手さんもな」

「なるほど」

「やれるか?岩心(がんしん)」

「俺を見くびるな。たとえ上忍とて俺の敵じゃない」

「…行くぜ」

 

 岩心にまたがり、金雷はシカクの隠れている場所に突撃する。

 

「岩心!」

「おうよ」

 

 岩心は爪で風遁の鎌鼬を巻き起こす。そして金雷は雷遁を岩心の起こした風遁に混ぜ合わせる。

「何!?」

 

 それを見ていたシカクは驚愕する。

 

「旋遁・大牙」

 

 錐揉み状の黒い雷を纏った旋風がシカクを襲撃する。その攻撃の早さにシカクは咄嗟に変わり身で避ける。

 

「ちっ、流石に真正面からの攻撃は避けるか」

「そんなぬるい相手ではないだろう。甘く見過ぎだ」

 

 岩心は金雷を叱責し、戦闘に集中させる。

 

「おい、やるぞ」

「もうやるのか?」

「真正面からとはいえ、あれを見てから避けたんだ。そんなやつは今まで戦ってきた奴らの中には誰一人いなかった。万全を期すのは当然だろう」

「はいよ」

 

 岩心に急かされ、渋々といった表情で金雷は印を組む。次はなんだとその様子をシカクは物陰から観察していた。

 

「旋遁・螺旋武装」

 

 岩心とその上に乗る金雷の周りを包み込むように黒い雷と灰色の風が纏われる。そして岩心の足、爪には特に色濃くその二つが渦を巻いていた。岩心が歩けば大地がえぐれる。

 

「おいおい、これが特別上忍レベルだと!?」

「隠れても無駄だぜ、シカクさんよ。俺は一定の距離にいる動かない生命体なら生体電気を感知する俺には居場所がバレバレだぜ」

「そういうことは黙っておくものだ」

「種明かししたところであまり意味ねえだろ?あんたには俺が感知タイプだということもバレてるしな」

「それもそうだ。生体電気を止めては俺が死んでしまうからな」

「それと、もう一ついいことを教えてやる」

「ん?」

 

 金雷はもったいぶって話を切り、薄ら笑いを顔に貼り付ける。

 

「岩隠れの里を抜けたのは3年前だぜ。その時の俺と同じレベルだと思うなよ?」

「…参ったな、どうも…」

 

 金雷の想定外の実力にシカクは作戦を練り直す他なかった。




チームワークとは一体…
ようやく戦闘らしい戦闘


オリジナル忍術

結界術・風網
網状の風で相手の行動を封じる。柔いので相手が忍者ならすぐ脱出される。下忍レベルの忍術。

土遁・三重土流壁
土流壁を3つ合わせる。三重羅生門のような使い方もできるが、今回は術の中心地から仕切る様に三等分した。

雷遁・雷鳥
雷の鳥を標的に飛ばす。ある程度の追尾機能があるが、当たる直前に大きく避けられると対象を見失う。

旋遁・大牙
血継限界。風と雷の性質。暴風と雷の性質を持ち、貫通力の高い殺傷的な旋風で相手を攻撃する。音に近い速度で攻撃するため避けるのが困難。

旋遁・螺旋武装
血継限界。風と雷の性質。対象に纏わせることにより、攻撃力と防御力と機動力を飛躍的に高める。つまり戦闘力が上がる。


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反撃と血継

 波の国。ガトーのアジト付近。木の葉の里の第11下忍班の面々は灰牙3兄弟と戦っていた。分断された戦力が衝突する。

 

「終わりだ小僧!!」

 

 銀火の口寄せ動物の虎、岩技の鋭爪が迫っていた。

 

「避けきれねえ!?」

 

 岩技がツカイを切り裂く。

 

「ちっ、てめえの拙い変わり身なんて意味がねえんだよ!」

 

 ギリギリのところで変わり身の術が間に合い、ツカイは距離をおく。ツカイは覚悟を決めた。

 

「…みんな、巻き込むかもしれねえ」

 

 ツカイの様子が違った。それを見た銀火はツカイを睨む。何か奥の手でもあるのではないかと疑うがそれを否定する。奥の手があるならばもうすでに使っているはずである。そう考えた銀火は様子が変わったツカイを気にせずに攻撃態勢をとる。

 

「崩れるなよ」

 

 トントンと、シカクの作り出した土の壁を叩いてから、ツカイは背後の土の壁に当てていた手を胸の前に置く。その間に銀火と岩技はツカイとの距離を詰めていた。

 

「もう、この間合いなら変わり身の術は間に合わねえ!!」

 

 ツカイが印を結ぶ。

 

「獲った!!!」

 

 銀火が勝ちを確信する。

 

「耀遁・闢轟(びゃくごう)!!!」

 

 光が弾けた。

 

「何っ!?」

「まずいっ!?」

 

 辺り一面に光が溢れる。

 

 網膜を焼き尽くすような強烈な光の本流が駆け巡る。

 

 一面白に染める光。

 

 荒れ狂う力の波が轟き、次第に音が消えていく。

 

 光も徐々に収まり、目に穏やかな色彩が戻ってくる。

 

 そこには惨状があった。

 

「ぅ…」

 

 崩れた岩でできた塊が動く。

 

「うぅ…」

 

 その塊から人間が少しずつ這い出てきた。

 

「ぐ、…くっ…、はあ…、はあ…」

 

 少しずつ息を整えて、震える足で立ち上がる。

 

「………嘘、だろ…?」

 

 全身から血を流すほど傷ついた体をゆっくりと叩き起こしたのは銀火だった。

 

 灰牙銀火の前には草木一本生えず、えぐられた大地の中にいることがわかった。

 

「…ば、…莫迦な!?」

 

 前方にあった雑木林、後ろを振り返っても雑木林、そして後方の奥の方には小高い丘があったはずだ。しかし、後方にはあったはずの雑木林や丘を越えて向こう側にある海が見えていた。

 

 頭から血を流し、全身から流血し、身体中の骨はヒビが入っている。とてつもない速度で岩盤に叩きつけられた体は、思うように動かない。そして、銀火は現状を理解できない。

 

「が、岩、技…?岩技…」

 

 探している口寄せ動物の虎は銀火の視界にはいなかった。辺り一面見通せるほど何もかもが吹き飛んでいるのに。

 

「はあ、はあ、…やるじゃねえか。あの虎」

「なに?」

 

 何もわからず呆然としていた銀火の前に、血色が悪く、足が震え、今にも倒れそうな少年が土砂の中から姿を露わにする。銀火は思い出す。目の前の下忍が何かの印を結んだ瞬間を、血色の悪い状態の木の葉の少年が何かをした。それだけは理解できた。

 

「はあ、はあ、一撃で、屠る気で、いたんだが、な。まさか、耐える、とはな」

 

 完全にチャクラ枯渇をしている状態だった。心身ともに大きく疲労している。ツカイには、耀遁・闢轟という日に一度しか使えないような莫大なチャクラを要求する術を使った反動が大きすぎた。そしてチャクラを十全に持っている状態で使うのが好ましい闢轟を、それまでにチャクラを使っている状態で発動したツカイのチャクラが枯れているのは当然。体に怪我はなくとも、心身共に限界である。そしてそれを防がれてしまった。

 

「岩技…」

 

 口寄せした虎は主人を守って死亡した。土遁の術で耀遁の威力を抑え込もうとしたが、耀遁は血継限界の中で最高峰の破壊力を持つ。一瞬で破られると判断した岩技は銀火をかばう体制をとり、背中から耀遁が直撃。

 

 岩技は死亡した。

 

 その遺体は口寄せの虎の一族のところに帰り、二人の視界にはもう遺体はなかった。

 

「おのれぇ!」

 

 岩技が死んだことを感じ取った銀火が怒りを露わにする。

 

「くっ、はあ、はあ、チャクラはまだ残って、いるのか!?」

「…もう、終わり、だ!殺してやる!」

 

 銀火は火遁の印を結び、チャクラの残っていないツカイはもう忍術が使えない。

 

「火遁・火龍弾の術!」

 

 ツカイに火龍が迫る。

 

 

 

 ソラとハザマと灰牙銅水の戦っている地点。

 

「避けてぇ!!」

「遅い」

 

 ハザマが噛みちぎられる。

 

 ハザマは煙とともに消えた。

 

「影分身だと!?」

「下忍でこの術を使うか…」

「下忍?下忍相手に俺を口寄せしたのか?」

 

 銅水が口寄せした岩体(がんてい)が銅水に怒りを示す。

 

「ただの下忍じゃねえみたいだぜ」

 

 銅水の言葉は岩体にも伝わる。下忍しかも、子どもとわかる年齢で影分身の術など使えばすぐに動けなくなってもおかしくない。それほどにチャクラを消費する忍術を扱える時点で下忍の括りに外れる存在だ。

 

「まあ、確かに2対1の上、幻術までもこうも簡単に口寄せされた俺にもすぐに掛けられるほどか」

「岩体?」

「なに、もう幻術は解けている。影分身を使ったやつじゃない方も中々強いな」

「油断するなよ」

「中忍二人と思えば納得出来る範疇だ。だから俺を呼んだんだろ?」

「金雷兄貴がこいつらの担当上忍と交戦中でな。助太刀いかねえとやばいから急いでいるんだ」

「そういうことは早く言え、すぐ終わらせよう」

 

 その様子を水面に立ち、水没したが地面から生えている木の影に隠れる2人。

 

「どうする?あいつ…、僕たちじゃ相手にならないくらい強いぞ」

「…大丈夫、勝機はあるわ」

「っ!?本当か?」

「確率は著しく低いけどね。でも…!?あいつも感知タイプ!?」

 

 気遁で相手の心情を感じ取ったソラは、銅水が隠れているソラ達の方へ的確に狙いを定めたことで感知タイプであることを暴く。

 

「もしかしてこの水か!?」

 

 水遁で生み出された莫大な水を通して感知しているとハザマが判断する。

 

「違う、あいつってのは虎の方よ!」

「何!?」

「避けるよ!」

 

 隠れていた木の影から抜け出す。すると、そこへ虎が木を爪で引き裂きながら突撃してきていた。その背には銅水もいる。

 

「隠れん坊はこいつの得意分野になっちまうが?まだやるか?」

「いたぶる癖を直せ、さっさと終わらせるぞ」

「わかってるよ。水遁・水牙弾!」

「風遁・鎌鼬!」

 

 水の塊が螺旋回転してくる方向が先ほどとは違う。ソラとハザマの背後からの攻撃だ。そして前方からは銅水が口寄せした岩体が生み出した鎌鼬。

 

「結界術・八方水精(はっぽうすいしょう)!」

 

 水でできた立方体の封印術。その中にソラとハザマがいるものの、水牙弾はその中を通過し、鎌鼬もまた八方水精を難なく貫く。

 

「脆い結界だな」

 

 銅水は勝ちを確信する。

 

「銅水!あいつらは偽物だ!」

 

 岩体は不意に近づく2つの影に気づく。

 

 右後方と左後方から手裏剣や苦無を投擲し、印を結ぶ影を発見する。

 

「何!?影分身か!?」

「ちっ!」

 

 岩体が新たに現れたソラとハザマから距離を取ると同時にその背後で八方水精が四散する。そして中からソラとハザマが出てきた。

 

「何!?」

 

 ギリギリで反応できたのは岩体だけだった。

 

 ソラが水面に4点投げつけた苦無。それを軸に薄い光の幕に囲まれた銅水と岩体。

 

「なんだこれは!?」

「まさか!?」

 

 ソラの投げつけた苦無に書かれた文字を見た岩体は嫌な予感がしていた。

 

「封印術・破口祓い!!」

 

 岩体の体が光り、その場から消える。

 

「なっ?!」

 

 突然乗っていた動物が消え、空中で銅水が体勢を崩す。

 

「ハザマっ!」

「任せておけ!」

 

 ハザマとその影分身、さらにソラの影分身が銅水との距離を詰めた。下忍といえど3対1の体術ならそこまで劣勢に立つことはない。さらにいえばソラもハザマも下忍の中では体術に優れている。

 

「甘いわ!水遁・大瀑布!」

 

 空中で8つの目から死角になる場所で印を銅水は結んでいた。

 

「何!?ぐあぁ………」

 

 ハザマは鉄砲水に飲み込まれた。2つの影分身体も煙になって消える。

 

「ハザマっ!?くっ!?」

「逃がすかよ」

 

 ハザマが流されるところから離れ、気遁で空気に紛れ、隠れようとしたソラだったが、銅水はもうすでにソラを射程に捉えていた。

 

「あの規模の術を発動してたのに、一瞬で!?」

「舐めんなよ。それくらいはできる。そして、てめえが一番厄介だった。ゆえに死ね」

 

 苦無で斬り合いになる。最近、ソラは体術を重点的に鍛えているとはいえ、それでも元特別上忍との力量差はまるで違う。なんとか致命傷を避け、距離を取ろうとするものの、一切距離が取れない。

 

「岩体をどこへやった!?」

「封印した、のよ!しばらくは、口寄せ、できない、でしょうね!」

「ちっ、聞いたことねえ封印術かよ!」

 

 銅水の苦無がソラを切り裂く。手足からたくさんの血を流し、目が霞みながらもソラは戦う。岩体を封じ込めたおかげで格差は狭まったが、それでも自分たちの土俵では戦えないと相手にならない。

 

「なんだ?守り一辺倒か!」

 

 苦無を使った体術の合間、わざと作った隙につけ込ませ、一網打尽にしようと試みた銅水だが、その誘いにソラはそれに乗らなかった。

 

「何か待ってやがるな?」

 

 ソラの狙いを銅水は看破する。

 

「てめえの相方はもう木に打ち付けられて気絶した。まだ上忍は来ねえ。銀火の兄貴と殺り合ってるもう一人は死んでいるかもしれねえ!」

 

 何と言われようともソラは待つ。

 

「無駄だというのがわからねえのか!」

 

 ソラは銅水との戦闘で、現状を打破する要素がない。ならば、待たなければならない。少しでも延命しなければならない。勝てる可能性は0ではないなら諦める必要がまるでない。

 

「てめえの助けは来ねえ」

 

 銅水の猛攻から防いでいた苦無が弾かれる。

 

「っ!」

 

 ソラは息を飲んだ。

 

「終わりだ!!」

 

 銅水は絶望したソラの表情を無意識に連想した。

 

 それが命の尽きる時に見せる人間の表情だからだ。

 

 銅水がソラの表情を見る。

 

 だが、ソラの目は死んでいなかった。

 

 銅水は訝しむ。

 

 振り下ろされる苦無を前に、ソラが嗤う。

 

「来た」

 

 掠れるような小さな声で一言呟いた。

 

 刹那。

 

 ソラと銅水は光の奔流に巻き込まれた。

 

 

 

 血継限界。旋遁。記憶の中からシカクはそのワードを取り出そうとするが、遠い記憶の中に埋もれている。

 

「思い出すのにも時間がかかるか」

 

 灰牙金雷と口寄せ動物の岩心がシカクに絶え間無く攻撃を繰り出していく。

 

「しかし、考える時間もあまりないな」

 

 旋遁・螺旋武装という技を使ってから金雷と岩心の攻撃速度は飛躍的に上昇している。避けた先でまた回避行動、その繰り返しでなんとか直撃を避けている。

 

「分身の術!」

「ぬるい!変わり身も意味を成さんな!」

「なら、影分身だ!」

 

 変わり身や分身、影分身で逃げ切ろうとしたが、それでも相手の攻撃速度にすぐに本体が捕捉される。影分身だけはなんとか1、2秒の間は時間を稼げる。

 

「影分身の術!」

「バカの一つ覚えか?チャクラの無駄遣いして俺に勝てると思うな!」

 

 影分身はすぐに解除されていってしまう。それでなんとか思考を進めていた。シカクにソラのようなマルチタスクの技能はない。着実に分析を進め、考察を深める時間を稼ぐしかない。

 

「影分身の術!」

「あんたが時間稼ぎしてどうするんだ!!」

 

 ジリ貧になって戦う。そしてその様子を金雷に指摘される。

 

「時間を掛ければ掛けるほど俺が優位になる。あんたはもう詰んでいるんだよ!」

 

 5体の影分身体が2秒以内に全滅。稚児の手を捻るが如く、金雷と岩心はシカクの戦闘レベルを大きく突き放していた。

 

「もう、終わりだ!」

 

 再度シカクの影を捉えた。今度は逃さない。苦無を構え、そう決心した金雷。

 

「そうだな」

 

 シカクの顔には勝利を確信した笑みが張り付いていた。

 

「抜かせ!!」

 

 岩心の爪でシカクを切り裂く。

 

「分身だろうと俺の感知、で!?」

 

 切り裂かれたシカクは本体だった。

 

「莫迦な!?」

「遅いんだよ。お前の思考速度がな」

 

 罠。

 

 シカクに出遅れて岩心はその場を退避しようとするが、シカクの攻撃はもう始まっていた。

 

「土遁・土流槍!」

 

 地面から土の槍が出て、金雷と岩心を貫こうとする。

 

「この程度か!」

 

 それを難なく避けるも空中へと誘い込まれる。無防備になる。

 

「お前らの敗因は攻撃速度と自分たちの思考速度の差だ」

 

 シカクの影分身体がすでに空中へ回避した金雷と岩心を囲んでいた。シカクが印を結び、奈良一族の秘伝術、影を操る。

 

「影縫いの術」

 

 空中まで影の槍が迫る。地上からの高さは相当なものであるが、金雷たちと同じく空中にいる影分身の背に、自身の影を投影し、空中に伸ばすのにはそう遠くない距離だ。

 

「ぐぅ!?」

「くっ!」

 

 回避行動をとった直後、防御態勢の整っていないその瞬間を狙った攻撃を防ぐことはできない。

 

「高速で動き回る際に咄嗟の判断力に頼らざるを得ない。つまり、お前たちは今、判断力が低下していたんだよ」

「なんだと!?」

「付け焼き刃な血継限界もどき、実戦じゃ使えねえぞ」

「っ!?」

 

 見抜かれていた。もう20年以上前に滅んだ一族の血継限界を使っている金雷には衝撃なことだった。金雷の使っている旋遁は本来であれば血継限界を持つ一族だけが使える技。だが、それを技術を以って再現していただけで、灰牙金雷自身は血継限界を持っていない。

 

「思い出すのに苦労した。確か湯の国辺りにいた一族のものだ。族名は思い出せなかったが、その特徴は思い出せる。そして、その弱点もな」

 

 高速で攻撃を繰り出す反面、罠に弱い。かの旋遁を使っていた一族は金雷のように真正面から攻撃を仕掛けたりはしない。カウンターを避ける目と思考速度が足りないからだ。だが、一族ではない金雷にそれはわからない。そしてそれまで使ってきた旋遁の成果は、真正面からでも余裕で敵をなぎ倒してしまうほどの弱者との経験。それは逆に自分の忍術に対する危険性の認知が薄れていた。

 

「お前の使うそれは血継限界とは似て非なるもの」

 

 影で縫われ、自由を失った1人と1匹は地面に受身も取れずに落ちる。

 

「ぐっ!」

「うぐっ!」

 

 その光景を冷静にじっと見つめるシカク。

 

「お前らは俺が攻撃を食らう瞬間。影分身体、もしくは分身体だと決め込んだ。上忍レベルがこれまで同様、素直にやられるはずがないという経験からな」

 

 倒れ伏す金雷が自由のきかない体をどうにかしようともがき、顔だけはシカクを睨む。

 

「だから俺が本体であることを認識するのがが遅れた。それはもう致命的にな」

 

 シカクは1本の指を立て、金雷に見せる。

 

「お前の認識が逸れる0.1秒。それがお前らの弱点だ」

「くそっ」

 

 金雷は倒れ伏しながら悪態を吐く。

 

「俺の土流槍も空中への回避が最善と咄嗟に判断したのも悪手だ。思考の時間を取れないお前らを空中へ誘導するのは問題ない。その0.1秒を稼ぐのに払った代償は小さくないが、結果的に見れば安いものだな」

 

 旋遁を直接受け止めるのにチャクラと忍具を使い、ダメージを軽減してなおシカクは両腕から少なくない血を流している。軽症とはとても言い難いが、それでも着実な隙を生むためには肉を切らせるのが手っ取り早かった。

 

「だが、俺はまだ死んでねえぞ」

 

 シカクは目を細める。岩心は地面に縫い付けられながらも眼光鋭くシカクを睨む。

 

「風遁・風切りの術」

 

 全く動けない状態から忍術を発動し、拘束していたシカクの影分身を倒し、金雷の拘束も解く。

 

「金雷!雷遁だ!俺たちの旋遁なら殺れる!」

「雷遁・雷龍弾の術!」

「風遁・風龍弾の術!」

 

 金雷の雷遁と岩心の風遁が空中で重なる。

 

「「旋遁・旋龍弾の術!」」

 

 ただの風とは違い、雷を纏った旋風の龍がシカクに向けて放たれた。

 

 木々を破壊し、削岩機のように地面をえぐり、塵を撒き散らす龍がシカクに迫る。

 

「なるほどな、そうやって血継限界を再現してたのか…」

 

 シカクはわざと拘束から抜け出すのを見逃していた。血継限界を作り出す技法を完全に見切るために。圧倒的な力が目の前で暴れていようとも、シカクは冷静だった。

 

 やがて、龍が森の一角を破壊し尽くした。

 

 塵が舞い、それが次第に晴れていく。

 

「さっさと援護に行かねえとな」

 

 金雷と岩心は影に縫われ、絶命していた。

 

「塵が影を作りすぎた。敵を知っていてもそれを考慮しなきゃ意味ねえよ」

 

 シカクから最後の手向けの言葉が響いた。

 

 

 

 11班に命を狙われるガトーは自分の想定とはうまくいかない現状に苛立っていた。地面に転がる三獣の置いていた荷物を蹴飛ばす。

 

「くそっ!三獣の奴らは俺の指示なしに何で暴れていやがる!?」

「おそらく、木の葉の忍の増援と、ではないでしょうか?」

 

 ガトーの側近が答える。

 

「木の葉の忍はタズナを護衛しているんだろうが!?なんでアジトに現れる!!」

「そう、おっしゃられましても…、私には…」

「くそっ、誰だか知らんが、この俺の邪魔をしやがって、…第2プランだ!ギャングどもを集めろ!!」

「は、はい!」

 

 ガトーの癇癪に怯えながら、ガトーの部下は指示通りに動く。

 

「忍がどうした。多勢に無勢、全員まとめて皆殺しにしてやる!まずは近くで戦っている奴らを仕留める!三獣諸共だ!」

 

 その時轟音が鳴り響き、ガトーのアジトも揺れる。

 

「な、なんだ、何があった!?」

 

 ガトーに冷や汗が流れる。

 

 

 

 光の奔流が渦巻く中、ソラは目を閉じ、気遁を全開で展開した。どこにどの形をした物質があるかが手に取るようにわかる。ツカイの耀遁の余波が少ないため、凄まじい光量だけがソラ達の方に届いていた。

 

「目がっ!?」

 

 振り下ろされる苦無を避け、追尾ができない銅水に手と足の付け根へ苦無を投げ込む。

 

「っ!?」

 

 目を開けられない銅水に普通の人間にはない感知を持つソラは圧倒的に優位に立っていた。この光が尽きるまでなら苦無を投げてからでも長い印を使える。銅水に刺さった4つの苦無に巻かれていた札が青色に光り、札の周りに青い球状の薄いチャクラ膜ができる。

 

「封印術・血晶針点」

 

 その青いチャクラ膜内部にある銅水の体に異変が起きる。

 

「ぐあああぁぁぁ!?!?」

 

 苦無が刺さる痛みを遥かに超えた痛みが続く。痛みに耐えられなくなったように銅水は倒れる。倒れ伏すと同時に周囲の光量は収まり始めた。

 

「く、何が起きた!?」

 

 苦無からの痛みも、網膜を焼くような光量からの痛みも、特に銅水を止めるまでのものではない。多少動けなくなるだけだ。しかし、今の銅水は完全に行動ができていない。

 

「何故だ!?何故チャクラが練れない!?」

「点穴ですよ」

「な、に…?」

 

 普段、戦闘をしていて点穴など意識することはない。銅水も戦闘中に点穴を気にして戦うのは木の葉の日向一族の名前以外聞いたことがなかった。

 

「日向の、人間だったか…、だが、日向ならあの光量で目を開いていられないはず…、どうしてだ!?」

「…そういえば、名乗ってなかったね。私の名は蒼井ソラ」

「日向じゃ、…ない?」

「私の封印術であなたの行動を封印したのよ。点穴を突く封印術でね」

 

 銅水は何も言えなくなった。そんな封印術を聞いたことがなかったからだ。

 

「聞いたことないのは無理ないよ。私たちの一族が封印術や結界術に長けていることを知っているのは木の葉の忍くらいだから。他里の忍にとっては感知タイプで策略家のイメージだし」

「蒼井、一族…」

「だから秘伝の封印術を知らなくてもおかしくはない」

「岩体をどこかへやったのも…」

「そう、口寄せできるなら反対のこともできる忍術があってもおかしくはないでしょう?」

 

 銅水は口を閉ざした。下忍詐欺もいいところだな。そう心の中で呟く。

 

「…ははっ、まさか、こんなところで、こんな護衛任務でくたばるとは、な」

「っ!?」

 

 死期を悟り、今までのことを思い出す銅水の心が晴れていく。銅水の心に触れたソラは驚愕した。前に殺した下忍は死ぬのを拒み、恐怖と絶望が占めていた。だが、目の前の銅水は恐怖や絶望とは違う、多少の愚痴あれど、自分の人生に感謝をしていた。また新たな死にゆく者の心に触れる。

 

「死ぬのが怖くないの?」

 

 ソラは思考を放棄して銅水に問う。

 

「怖いさ。だが、恐怖を打ち消すほどに大事なものも見えてくる。完全に生き残る可能性がない俺は、その時が来るまで人生振り返って暇つぶしてるんだよ」

 

 ソラにはわからない。

 

 故郷を恨み、人を恨み、世界を恨んだ抜け忍が何故感謝をするのか。ソラには銅水が思い浮かべる具体的な情景を知る手立てはない。

 

「…俺の態度が変わったからって生かそうとするのか?」

 

 思い悩むソラに銅水が話しかける。

 

「それはやめておけ、それはお前のためにも、俺のためにもならない」

 

 ソラは銅水の意図を理解しようと考える。

 

「俺は抜け忍だ」

 

 ソラはその言葉で理解した。抜け忍を同情で逃す。さらに言えば完全に危険思考で、岩隠れだけでなく世界の人間に害を齎そうと考える人間をだ。生かしてしまえばその代償を自分で払わなくてはならない。そして、自分を止めて欲しいと銅水の心の奥底で願っていることまでソラは理解した。

 

 銅水は世界に感謝しているが、同時に恨んでいる。その恨みはもう晴れることはない。

 

 殺らなければならない。

 

 そして、死を覚悟し、銅水は死を受け入れている。

 

「蒼井ソラ、強かったぜ」

 

 苦無を振り下ろした。

 

 

 

 火龍が迫り、もう体をどうにか動かして逃げる他に生き残る術がない。しかしチャクラの枯れた状態で逃げ切れる忍術でもない。

 

「ここ、までか…?」

 

 力なく迫る炎を呆然と眺める。走馬灯なんて嘘じゃねえか。何もスローモーションに見えず、何も記憶をフラッシュバックすることなく、眺めていた。

 

「土遁・土流壁」

 

 背後からシカクの声が上がる。

 

 火の龍は土の壁に阻まれる。

 

「へへっ、遅いぜ、先生」

「悪いな、確認したいことがあって手間取った」

「あと一歩、遅かったら、死んでたぞ」

「悪かったな、お前なら生きていると思ったんだ」

「生きて、たぜ」

 

 口は緩み、笑みを浮かべるが、息は整わず、目もうつろになっていた。ここは戦場である。たとえ助けが来たとして体の力を抜いてはいけない。そう考えるシカクはツカイに指導の意味を込めて、強く当たる。

 

「まだ終わってないぞ、ツカイ。気を引き締め………」

 

 言葉を発している途中で異変に気づいたシカクは一旦口を閉ざす。

 

「チャクラ全部使ったのか、それなら無理もないか」

 

 完全に眠っていた。シカクたちの登場で安堵し、気張っていた気持ちも緩んだのだろう。ツカイを叩き起こしてまで、戦場における忍者の心得など、言い聞かせる価値はない。シカクはそういえば下忍だったなとツカイをもう一度見直す。まだ焦る必要はない。今は元特別上忍相手に生き残れただけでも十二分に褒められることだ。それどころか致命傷まで与えている。

 

 シカクはツカイを土流壁に背中を預けさせる形で寝かせ直す。

 

「さて、どうするか。あっちは心配いらなかったが、ガトーも動く可能性があるからさっさと終わらせるか。」

 

 シカクは眠るツカイから目を離し、ツカイの相手をしていた銀火をみる。兄弟の敗北を知り、なんとか逃げようと足を引きずりながら動いていた。だが、ツカイとは異なり、チャクラは残っていても体の傷は酷い。全身打撲に全身の骨にヒビが入っているような状態ではほとんど動けない。

 

「兄貴…、ちくしょう!何でだ!?血継限界まで手に入れたんだぞ!?」

「やはりそうか」

「っ!?」

 

 銀火は殺されてしまった金雷に愚痴を言っていると、逃げる先にシカクが回り込む。たとえ上忍相手にでも負けない力を手に入れておきながら、金雷は敗北した。援護にいかなくても勝てておかしくはない。銀火はそう考えていた。だが、それは覆された。

 

「お前らは岩隠れの重鎮の殺害容疑で指名手配されていたが、どうやら理由は違うみたいだな」

「…」

「吐きはしないか」

「岩を恨んでいるからといって、貴様らにそのことを話し、岩への復讐を成す。そんなこと期待しているわけなじゃねえだろうな」

「少しは期待していたがな」

「兄貴の仇だ。てめえは岩隠れよりも気にくわねえ」

 

 死を覚悟し、どんな拷問になろうとその秘密は吐かない。その決意をシカクは銀火の態度から汲み取った。

 

「血継淘汰の研究資料の窃盗」

 

 シカクの呟きに表情こそ表れないが銀火は動揺する。

 

「それだけの資料がなければ、血継限界を作り出す方法は生まれないはずだ。逆にそれさえあれば血継限界を作り出すこともできなくはない。…資料はどこかに隠しているのか?」

 

 銀火は沈黙を貫く。

 

「どうやら、そのまま死を選ぶみたいだが、死体はよく語るよ、忍に」

 

 金雷が解剖され、秘密を奪われる。猪鹿蝶トリオの猪は人の心に踏み込み、記憶を探る力を持っている。それを思い出した。金雷の死体を始末した上で、自分の脳梁を弾き飛ばすほどのことをしなければならない。

 

 銀火も忍、それはよく知っていた。

 

 自分の脳を破壊することはできるが、金雷はもう不可能である。銀火にそれができるほどの余力はない。銀火は力なく呟いた。

 

「負けたか」

 

 完全に敗北した。それを理解した銀火は違うことを考え始めた。血継淘汰の資料や目の前の仇の木の葉の忍、岩隠れの里のこと、すべてがどうでもよくなっていた。

 

「弟は、銅水もやられたんだろ?」

「俺の部下が倒していた」

「けっ、下忍二人にやられるなんてな。あの世で説教だな」

 

 銀火の態度が変わってもシカクは冷静に銀火を観察する。一呼吸おいてから銀火は語り始めた。

 

「資料はもう燃やした」

 

 意味のない抵抗をするより、銀火はシカクに頼むことができてしまった。それゆえに時間をかけずに情報を与えることでシカクに義を無理にでも通させようと考えた。

 

「血継淘汰は血継なんて言っているが、あれがもし血継で使えるものがいるのなら、そいつの塵遁は土影とはレベルが違うだろうよ」

 

 シカクは急に全てを語る銀火を黙って見守る。

 

「あれは結局技量で作り出した3つの性質変化の融合技。正確には血継ではない」

「つまり、血継淘汰は誰もが修行をすれば体得できると?」

「そうだ。理論上はな。だからその前段階の2つの性質変化の融合技、血継限界を血を使わずに作り出すことは可能であることを証明していた。それを習得するのに一番センスがあった兄貴ですら他力を借りた上に3年かかったがな。俺はからっきしだ」

「なるほどな、血継限界に及ばずとも、それに近しい力が手に入ると」

「ああ、性質変化の組み合わせの血継限界ならば、誰もが使える可能性がある。まあ、本家には勝てないが」

「一々聞く手間が省けた。…わざわざ説明した理由を問おうか」

「あんたは察しが良すぎるぜ」

 

 俺たちを埋葬してくれ。

 

 銀火は自分の願いをシカクが無下にはしないだろうとシカクの反応を見て確信する。

 

 最後の言葉を告げた銀火は自分の首に苦無をあて、自害した。




ツカイ「崩れるなよ」
土流壁「無理ッス」


オリジナル忍術

耀遁・闢轟
はかいこうせん。天野一族の血継限界の唯一の術。

結界術・八方水精
8つの水の珠を頂点に水で立方体の幕を作り出す。そこそこ硬い。水の性質変化が少しだけ必要。

封印術・破口祓い
対口寄せの術、口寄せ動物を送り返し、しばらくの間封印する。口寄せ動物の力量しだいで封印の解除される時間が変わる。蒼井一族秘伝。

風遁・風龍弾の術
火、水、土に龍弾があるなら、風と雷にあってもいいだろうという謎理論より。風で作られた龍で攻撃する。龍の内部は竜巻のような風が渦巻いているので、巻き込まれると風に切り刻まれる。

旋遁・旋龍弾の術
5つに龍弾があるなら、合わせたら名前も統一してみた。鑿岩機のような龍。当たればえぐれる。

封印術・血晶針点
特殊な札を巻きつけた苦無に作用し、その周囲にある点穴をその点穴付近を流れる血液を使って刺し、点穴を突いてチャクラを封じる。点穴を自分で見切る必要はない。強力な反面、印が長く、実戦では使いづらい。蒼井一族秘伝。



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再不斬と白

 ガトーの護衛たちを倒した第11班が集まる。

 

「こいつらを埋葬するにも時間が掛かる。まずは任務を優先しよう」

「ガトーですが、どうやら結構な数の人間を集めているようです」

 

 ガトーのアジトの近くの位置で潜伏している第11班であるが、ソラがシカクに話しかける。

 

「ふむ、俺がやるか。あまり出張りたくもないのだがな」

「すみません」

「いや、いいんだ。先の戦闘自体が想定を大きく超える自体だってだけだ」

 

 そう言ってソラたちをシカクが眺める。

 

 気絶者2人と限界のくノ一が1人。とても敵アジトに侵入し、暗殺ができるような状態ではない。時期尚早でも暗殺任務を請け負ったからには、下忍の誰かにやってもらうことを考えていたシカクだが、自分にその役目が回ってきてしまったことにため息をつく。

 

 別段、急ぐ必要もないか。

 

 部下の成長の早さに焦りを感じていたのかもしれない。実力は上がっていても心が追いついていないソラとハザマには辛い任務だろう。まだ12歳の下忍たちに暗殺を要求するのは酷だ。暗殺任務を受け持った時は、この子たちならできると勘違いしていたようだ。シカクはソラが俯いているのを見て察する。

 

「…」

「あー、…読まれたか?」

 

 自分の考えがソラに伝わる。

 

「私はわかりません」

「いいんだ、そんなに生き急ぐ必要もない。暗殺は俺に任せておけ」

「はい」

「ソラたちはここで待機。どうせガトーはならず者しか集めていないんだろう?」

「忍は1人もいません」

「それなら楽勝だな。2人は任せる」

 

 瞬身の術でその場から、一気にガトーのアジトにシカクが侵入する。見張りが認知できない速度で内部に侵入していくシカク。そしてガトーが大勢の人間を集めている場所へ侵入した。

 

「お前らいいか!忍一人につき千両払う!所詮あいつらも人間だ、殺せ!」

 

 うおおおお、歓喜が上がり、集まった百程の人間の興奮がピークに達する。

 

「任務完了」

 

 わざと集まった百人のギャングたちの前にシカクが姿を現す。突然の出来事に動揺するギャングにわかりやすく、何が起きたかを示した。

 

「ガトーの首はもらった。俺と殺り合いたいなら掛かってきな」

 

 依頼人の死亡。全員が動けなかった。そして首を刎ねられたガトーから血飛沫があがると全員が恐慌状態に陥る。

 

 恐怖で逃げ出す者、足腰の力が抜けその場に倒れこむ者、そして死を覚悟し、生き残る術を敵の排除と勘違いした者がいた。

 

「命はないと思え」

 

 シカクに攻撃を仕掛けた4人のならず者を苦無で切り裂く。怯え、動けなくなった者たちを尻目にシカクは有然とガトーのアジトを歩く。シカクが外に出るとき、そこにある程度の大きさの集団が集まっていた。シカクを見て最初に逃げ出した連中である。その者たちが外を見て怯え、足を止めざるを得なくなったこと。それをシカクが理解した。

 

「通してくれるか?」

 

 シカクの声が集団に道を作らせる。

 

「…これも忍の戦闘で起きた現象だ。気にすることはない」

 

 集団を通り抜けながらシカクは呟いた。丘が吹き飛び、地面がえぐれ、雑木林は見るも無残な光景。さながら災害である。気にすることはないと言うが、その言葉を受け取る側の心境は想像に難くない。

 

 シカクは近くの岩陰に潜伏している3人の部下の元まで足を運ぶ。

 

「終わったぞ。起きたか2人とも」

「ああ」

 

 ツカイは伸びをしながらシカクに答える。口には苦い兵糧丸を含み、嫌々ながら食べているのか眉も曲がっている。もう1人のハザマも同じく兵糧丸の苦みに耐えながら咀嚼をしている。そのためかシカクが声をかけても返事ができなかった。

 

「ソラはどうした?」

「遺体を集めてる」

「そうか…、俺たちもうかうかしていられないな。そうだ。青の信号送らないとな」

「…それって戦闘中に気づけるような代物なのか?」

「いや、無理だろう。無益な争いは必要ないからな。止めに行くか?」

「ソラはそうしたいはずだ」

「俺はツカイとハザマにも聞いているんだぞ」

 

 シカクがソラを言い訳にするツカイと、まだゴホゴホと水を流し込んだりして苦みから逃げようともがいているハザマに聞く。

 

「…俺も別に殺し合いがしたいわけじゃねえからな。避けられる戦いなら避けるべきだろ」

「ん、んー」

 

 同意といったニュアンスのボディランゲージを送るハザマ。それを呆れながらシカクは笑う。

 

「それなら、善は急げだ。埋葬は後にしよう」

 

 灰牙3兄弟の遺体を集めて、戻ってきていたソラにシカクが話しかける。

 

「わかりました」

「ハザマ、行けるか?」

 

 ハザマは兵糧丸を飲み込んで頷く。

 

「気絶しても黒助がチャクラを消費しながら残っていたみたいだ。…たぶんギリギリ行けます」

「よし、ハザマに捕まれ」

「転移・口寄せの術!」

 

 第11班はハザマの口寄せ動物、カラスの黒助の元へ転移した。

 

 

 

 タズナが建てている橋の上でカカシと再不斬が対峙していた。再不斬は口寄せ動物に捕らえられ、逃げ出すことができない。

 

「再不斬、お前の野望は大きすぎた」

 

 水影の暗殺を企み、クーデターを起こした再不斬にカカシは告げる。

 

「報復のための資金作り、そして追い忍の捜索と報復から逃れるため、…そんなところだろう。お前がガトーのような害虫に組みしたのは」

 

 一度言葉を切り、再不斬を見据える。

 

「お前はこの俺が写輪眼だけで生きてきたと思うか?今度はコピーじゃない俺自身の術を、…披露してやる。

 

雷切!」

 

 カカシが印を結び、目で見えるほど濃密なチャクラが雷の性質に変わり、その雷がカカシの手に収束していく。

 

「お前が殺そうとしているタズナさんはこの国の勇気だ。タズナさんの掛ける橋はこの国の希望だ。お前の野望は多くの人を犠牲にする。そういうのは忍のやることじゃないんだよ」

「…知るか」

 

 カカシの言葉を再不斬は無下にする。

 

「俺は、俺の理想のために戦ってきた。そしてそれは、これからも変わらん!!」

 

 カカシが動く。

 

 再不斬の息の根を止めるため、雷切が再不斬を射抜こうとする。

 

 ここまでか…

 

 自分の野望が終わることを感じ、再不斬は諦める。

 

 そこへ瞬身の術で回り込む影があった。

 

 写輪眼でそれに気づいたカカシは止まれる距離ではなかった。

 

 再不斬の弟子である白が再不斬を庇おうと2人の間に体を差し込んだ。

 

 だが、もう1つカカシと再不斬の間に介入するものがあった。

 

「火遁・炎刀百尺」

 

 炎の刀がカカシの雷切を止めた。

 

 

 

 ハザマの口寄せにより第7班の元へ空間転移で急行した第11班だったが、その場所が想定の範囲外だった。

 

「地面がないんだが」

 

 突然の事態に真っ先に言葉を発したのはシカクである。

 

「これ、このまま落ちたら死ぬぞ」

「そうだね」

 

 呑気な表情で宙に放り出されたツカイとソラが会話する。そして重力により加速し、落ち始める。

 

「黒助!空飛ぶなって言っただろうが!?」

 

 珍しく動揺で声を荒げるハザマ。カラスの黒助はそれを聞いて素知らぬ表情をしているようにそっぽを向く。1人と1匹のやり取りを見ずに他の3人が真っ逆さまに落ちながらどうするか思案する。

 

「とりあえず、下に炎刀放ってくれる?特にカカシ先生の技を止めるように」

 

 霧が深いが、多少薄れているおかげか遠目からでもカカシの雷切が目で見て取れる。

 

「おい、俺、今ほとんどチャクラないんだが」

「兵糧丸食べたでしょ?」

「いや、まあいい。一瞬だけなら問題ない技使う」

 

 シカクは地上を見る。地上というよりは橋上であるが、そのまま落ちれば死んでもおかしくない高さだ。

 

「火遁・炎刀百尺!」

 

 30メートルほどの炎の刀がカカシの雷切と衝突する。

 

 カカシは突然の2つの事態に驚き、その場を後退。身代わりとなって死ぬ気でいた白も驚いて反射的に視線を上げる。再不斬は命を投げ出して介入してきた白と炎の方の両方に驚いていた。再不斬の行動を封じていた口寄せ動物たちは雷切が決まると判断した瞬間に帰還しているため、再不斬も回避行動が取れる。再不斬はとっさに白を抱えて後退。

 

「結界術・八方水精」

 

 地上に立方体の水の幕ができ、そこに4つの影が落ちる。

 

「いでぇ」

 

 一番下に敷かれたツカイが肺から息を吐き出しながら愚痴を言う。上に乗った3人の重さで呼吸がし辛いのだろう。

 

「僕も身動きが取れないだが」

「上に乗られちゃ動けん」

 

 一番上に不時着したソラはよいしょという掛け声で橋に立ち、八方水精を解除する。するとシカクに敷かれる形で2人の下忍が橋に倒れる。再びチャクラが空になってしまい、身動きさえ取れない状態だ。

 

「お前が桃池再不斬か?」

 

 2人の子どもの上に悠々と着地したいい歳した大人が口を割る。

 

「新手か、白下がってろ」

「再不斬さん…」

 

 再不斬はシカクを警戒して首斬り包丁を構える。

 

「ガトーの暗殺が完了した。お前にタズナさんを襲う理由はなくなった」

 

 そう告げてガトーの首を晒す。それは決して作り物ではないと判断できるほどに生々しいものだった。

 

「…そうか、俺の手下をやったのもお前らか。だが、解せねえな。あんたがボロボロになるような相手じゃねえと思ったが」

「ガトーはお前共々タズナさんを始末する気でいたようだぞ。岩隠れの抜け忍、三獣を使ってな」

「…ガトーの野郎、そんなことしてやがったのか…」

 

 再不斬は緊張が解かれ、霧隠れの術を解く。

 

「白、引くぞ。ここにもう用はない」

「待てよ!!お前らはサスケの仇だ!!」

 

 再不斬たちが自分たちの仕事は終わったとして去ろうとした時、ナルトが止める。ただで逃しては死んだサスケが報われない。そう考えていた。

 

「ナルトくん、サスケは死んでませんよ」

「へ?」

 

 気質で生きていることを確認していたソラが横槍を入れる。

 

「相変わらず甘いな、白」

「すみません、殺したくなかったので」

 

 ちょうどその時、サスケが目を覚まし、それをサクラが遠くからナルトに伝える。

 

「急所は外しました。時期に動けるようになりますよ」

「な、なんだ…、よかったってば。…サスケ!生きてんなら紛らわしい気絶すんな!」

 

 白と戦う理由がなくなったナルトは、一息吐いてからサスケを叱責しに行く。無理言うなウスラトンカチというサスケの返しが聞こえてきていた。今度こそもう用はないと再不斬は踵を返す。

 

「待て、再不斬」

「…カカシ、俺とお前が戦う理由はなくなったはずだが」

 

 またも止められる。抜け忍は基本的には他里の忍が倒す必要がない。もちろん木の葉にとって害になればカカシは再不斬と戦うが、今回の件、再不斬は任務依頼によってカカシと戦闘を繰り広げているだけだった。そのため戦う理由はない。

 

「お前に聞きたいことがある。お前は何故に霧隠れにこだわる」

 

 背を向けて去ろうとした再不斬が固まる。

 

「お前は何か大きな野望を掲げて、何故それを本気でやろうとしていない」

 

 蒼井一族でもないカカシだが、再不斬の心情を見抜いていた。

 

「何のことだ?」

「お前は俺の雷切に死を覚悟し、それを受け入れた。それが解せない。…お前と戦ったのは2回しかないが、それでもお前の野望の大きさを感じ取った。それを捨てるとは到底思えないほどにだ。何としても争うはずだと俺は思っていた。だが、あの時お前は諦めた」

「本気で死を覚悟したらどんな野望を抱えていようと諦めるものだろ?」

 

 再不斬はカカシに目を合わせずに一般論のようなセリフで反論する。やはり再不斬らしくない。カカシはそう感じていた。カカシの興味本位のことではない。過去に闇を抱えているカカシは血霧の里のことが心に引っかかっていた。

 

「霧隠れの里と呼ばれる前の血霧の里、お前はアカデミーの卒業試験で同期のすべての生徒を皆殺しにした。そして俺はお前がクーデターを起こし、霧隠れの里を再び、血霧の里に戻そうとしているのではないかと最初は考えた」

「そうか」

「だが、それは違うだろう。その程度のことでクーデターを起こしたりはしないだろう」

「…」

「だから解せない。霧隠れの里を血霧の里に戻す。それはガトーに与してまでやることじゃない。お前は何故クーデターを起こそうとした?」

 

 再不斬は黙る。答える必要はないと本来言うべきだったが、再不斬はそれができなかった。

 

「遠い過去に悲しみの誓いを立てたから」

 

 再不斬は目を見開く。ソラの言葉が再不斬の心に触れた。まるで見透かされたような感覚に再不斬はソラへと反射的に振り向く。

 

「ごめんなさい。あまり詮索するつもりはないけど、私は蒼井一族だから」

「…ちっ」

 

 蒼井の特性を知っていた再不斬は舌打ちするだけ。その再不斬の隣に立つ白は再不斬の心情が揺れ動いていることに動揺する。白はこれ以上再不斬に不安を与えてはならないと、再不斬の前に立つ。

 

「何も詮索しないでくれませんか?」

 

 道具として自分を見ている少年は今、再不斬の前に立ち、再不斬を助けるべきだと考えていた。だが、ソラはそれを許さない。

 

「きついことを言うけど、あなたよりも私の方がこの人の心に詳しいよ」

 

 白は一瞬何を言っているのか理解できなかった。そして侮辱され、自分の中で決して赤の他人が踏み込んできたら許せないことだと気づく。白の怒りがチャクラになって溢れ返る。

 

「やめろ」

 

 怒りが行動を起こす前に、再不斬から白へと停止の命令が出される。

 

「ですが!?」

「やめろと言ったんだ」

 

 白は自分の心が完全には制御できていないが、再不斬に言われたことを厳密に遂行する道具としてなんとか感情を押し殺す。

 

「カカシ、知りたいことは教えてやる。その代わりに一つだけ要求を呑め」

「…無理のない範囲ならな」

「白を木の葉に連れて行け」

 

 白はさらなる衝撃を受けた。

 

 

 

 橋の修復をするため厄介払いになった忍達は、傷付いた者達の応急処置を済ませ、カカシ班とシカク班と再不斬達は橋の見える丘にいた。白を木の葉に連れ出して欲しいと願った再不斬が、自分のクーデターの理由を話し、それを考えた上で、白が再不斬に賛同して行動を共にしていたことを問題とするかどうか。それを話し合う会合となった。なぜ再不斬の事情を話すかといえば、白が再不斬につきっきりであり、その価値観が崩れていないか、木の葉に敵対心がないかを知るためである。

 

 語るにあたり、再不斬が木をなぎ倒し簡易的な椅子として切り株を作り、腰掛けてしばらく、口を最初に割ったのは再不斬だった。

 

「俺のクーデターの動機か。ま、ただの復讐だな」

「復讐?」

 

 その言葉に一番敏感なサスケが反応する。

 

「ああ、それも復讐とは言えない。ただの八つ当たりだがな」

「八つ当たりって…」

 

 予想外な言葉にハザマが呆れる。これでは白を木の葉に連れて行くのに賛成できなさそうだとハザマは考える。

 

「霧隠れがまだ血霧と呼ばれていた頃、三代目水影の時代から、アカデミーの卒業試験は殺し合いをしてきた。それが他里の連中はよく知っていたみたいだが、実際は違う」

「階級制度か」

 

 事情を少なからず知っている年長者のシカクが口を挟む。

 

「よく知ってるな。そうだ、霧隠れは当時、厳密な階級によって支配されていた。三代目と四代目水影が恐怖政治で支配していた。そして殺しあうアカデミー生は全員が最下層の階級出身者のみで行われていた」

 

 ナルト、サスケ、サクラ、ハザマ、ツカイには衝撃的な内容だった。ソラはそれを予想していたため驚きはしなかったが、聴いている身として気分のいいものではないと顔を歪ませる。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれってば!じゃあなんだ?再不斬はお前と同じ最下層の身分の奴らを皆殺しにしたのか!?」

「ああ、そうだ」

「っ!?どうしてだ!同じ境遇の仲間じゃないか!!」

「…」

 

 再不斬は沈黙する。それに勘のいい者は気づいた。

 

「…まさか、お前!?」

「…カカシ、おそらくお前の想像のとおりだろう」

 

 カカシは息を飲む。

 

「俺は別に同期の卒業生を全員殺したいと思って殺したわけじゃない。俺もガキだった。当時はな。最下層民の虐げられてきた生活をどうにか変えたいと願っていた。だから突拍子もないことを考えついてしまった」

 

 再不斬は一息ついて再び口を開く。

 

「卒業生を皆殺しにしてしまえば、上層部の奴らが困り、この悪習を止めざるを得ないだろうと、な」

 

 行き過ぎた正義とでも称されるそれに、誰もが言葉を失った。それを考えてしまった再不斬は、それを実行したことを全員が知っている。他里である木の葉にすら周知された事件だ。

 

「同期を殺すことに抵抗はもちろんあった。だが、それで俺は確信した。革命を起こせば霧隠れの里の悪しき身分制度を廃止にできるとな」

「そうか…」

「当時はガキだったから余計に衝撃だった。味をしめた俺はそれが間違った道だと気づくことはできなかった」

「間違った道?」

 

 純粋に疑問になってしまったサクラは、恐怖していたことすら忘れ、再不斬に興味で聞いてしまう。

 

「間違っていたと気づいたのは最近になってからだ。忍に正式に登録され、上忍まで上り詰めた俺は、予てからの計画である里を変えるためのクーデターを起こす準備に取り掛かった」

「うん?待て、それならお前がクーデターを起こし、お前が血霧の里に終止符を打ったんじゃ?」

 

 話の内容を予測すると、現状の霧隠れの里は血霧の里と蔑称されていない。再不斬がクーデターを起こし、里を変えたと聞いた方が辻褄があう。

 

「違う」

 

 再不斬は自分は何もしていないと否定した。

 

「クーデターを起こし、身分制を廃止させることを考えていた矢先だった。クーデターを起こす前に、血霧の里という蔑称が付けられる原因となった四代目水影の恐怖政治が終わり、身分制度がなくなった」

「どういうことだ?」

「理由は知らん。だが、いきなり身分制がなくなり、恐怖政治も終了し、俺たちが目標としていた里に変わっていった」

 

 心境を察したハザマが再不斬の八つ当たりという言葉を思い返し、再不斬に問う。

 

「それは受け入れられなかった、ということですね?」

「そうだ。俺たちの手で掴みとるはずの未来を、憎き上位層がその未来を横取りした。霧隠れから身分制がなくなるのは賛成だが、だからと言って今まで散々虐げられ、その張本人どもがこれからは手を取って仲良くやりましょうと言ってきたんだ。ふざけんな!!!」

 

 いきなり大声で怒鳴った再不斬に何人か驚く。激昂した再不斬は一息深呼吸を入れ、冷静さを取り戻す。

 

「身分制で愛する者を失った者達、粛清され、全滅した一族すらいる」

 

 サスケの体がわずかに跳ねる。

 

「到底許せることじゃない。そして俺たち最下層民のやり場のない怒りが爆発するのに時間はかからなかった。爆発のきっかけは問い合わせた水影から里が変わることになった理由を、その明確な解答を得られないということだった。暴走した俺たちはクーデターを起こそうとしたが、事前に察知され、襲撃されてあえなく敗走となった。俺自身アカデミー時代に殺した同期の両親や一族に恨まれているからな。最下層の者達が全員クーデターに賛成したわけじゃねえ。だからクーデターの協力を断られ、里側に着いた最下層民に計画が筒抜けになるのは仕方なかった」

 

 木の葉の忍達は何も言えなくなった。再不斬の立場を考えるとやりきれない。

 

「クーデターに失敗し、逃げる時、何故同じ最下層の者達が霧隠れ側に着いたのか疑問だった。それを理解したのは里を抜けた後だ。抜け忍となった直後は抜け忍として生きる過酷さを知り、あいつらは賢い生き方を取ったんだと勘違いした。それは違った。抜け忍として生きる俺は激情に甘えた。耐え忍ぶことができなかった。耐えて耐えて、憎しみの連鎖を継なげないように怒りを飲み込んだんだよ。里に残った奴らはな。俺は元上層部の奴らを恨み、復讐することで憎しみを継なぐことしかできない。里に残った奴らは立派だ。奴らを目の前に俺は仲良くするなんて到底できそうにない。里に残った元最下層の身分の奴らが一番に正しかった」

「…なんでだよ」

 

 納得がいかない。聞いているだけで復讐する理由はある。手を取り合って生きる。憎しみの連鎖を継なげない。それらすべてがサスケには理解できなかった。

 

「なんでだよ!?虐げられ、殺され、殺させられ、なんでそんなことをしてきた奴を憎まずに生きて行けるんだよ!?復讐すべきだろうが!!」

 

 復讐に囚われているサスケが再不斬に反論した。その怒りの形相に同じ班員のナルトやサクラも驚いてしまう。ハザマとツカイもサスケの復讐心に触れるのは初めてなので驚いていた。

 

「何も憎んでいないわけじゃない。里に残った連中は上層部を必ず憎んでいる」

「じゃあ、何で…?」

「上層部にいた奴らが、身分制度のない世界で悠然に過ごせると思うか?」

「え…?」

「暴力、武力に頼るだけが復讐じゃない。自分たちの価値観が通じない世界に放り出され、それを求めていた者達と求めていない者達。勝つのは求めていた価値を知っている連中だ。身分差別のない里で成功するのは虐げられてきた連中だ。逆に上層部の連中は過去の栄華に囚われ、里では生きるのも息苦しいだろうよ。四代目水影も含めてな」

 

  サスケには何も言えなかった。

 

「別に本当の意味で仲良しこよししようってわけじゃねえからな。裏では恨みつらみもあるだろうが、正面から正々堂々武力にすら頼らずに自分の成功を収めていく。それだけである意味復讐になるのさ。自分たちの方が幸せに生きてると見せつけてな」

「それでも…」

「ああ、言いたいことはわかっている。報われることのない悲しみを背負う者。そいつらが復讐をしない選択をしたことは薄情に思えるか?俺も最初はそう思った。だが、悲しみを背負ってでも奴らは前を見たんだよ。未来を見たんだ」

「未来を?」

「ああ、いつまでも過去に囚われ復讐をすれば、また復讐される。それじゃ結局全滅してしまう。何が自分の中で今、未来、何を守りたいか考える。何もないって奴だけが復讐の魔の手から逃れられない。俺には何もなかったからな」

 

 サスケは過去にカカシに復讐は何も得ない、という言葉だけで復讐をやめるように諭されていた。だが、再不斬の話を聞いて復讐を別の角度から捉えられるようになっていた。

 

「俺にはなにもなかった。だが、今はできた」

 

 再不斬は隣に座る白の頭に手を乗せる。白は再不斬がどんな苦悩を持っているのか知りもしなかったが、白には再不斬が自分の知っている再不斬ではないように感じていた。そして、再不斬の行動は白を一層驚かせた。目を見開いて再不斬を見つめる。

 

「どうやらお前も復讐に囚われているみたいだな。やめろとは言わない。だが、大切な者を作ることを恐れるな。俺からお前に言える忠告はこれくらいだろう」

 

 サスケは黙り込んだ。白は予想外の再不斬の言葉に頬を染める。

 

「話を戻して悪いが、それならガトーに付く必要はなかったんじゃないか?」

「言っただろう。俺はやはり割り切れない。復讐というよりは八つ当たりだけどな」

「ああ、クーデターじゃないってことか」

「霧の市民や憎き上層部の関係者とかは別に巻き込もうとは思ってない。上層部の一族を滅ぼそうという考えも捨てた。だが、それでも当時から生きている上層部の連中を許せないのさ。もちろん水影も含めたな」

「なるほどクーデターではなく私情の復讐。暗殺か」

「そうだ」

「結局、復讐は止められなかったのか?」

「そうでもねえ。惰性で金を集めていただけだ。どこか暗殺を計画してはいたが、まるで実行する気にはならなかった」

「そうか」

「金は必要だったからな。ガトーの依頼といえど熟す予定ではあった」

 

 白の頭をガシガシと撫でながら、再不斬は吹っ切れたような表情で笑みを浮かべる。

 

「お前の聞きたいことはこういうことでいいのか?」

「ああ、どうやら一つ引っ掛かりが出てきたからな」

「お前が霧隠れに対し、なんらかの事情を抱えているみたいだが、どうやら俺と同じ疑問を持ったようだな」

「水影の改心の理由」

「そうだ。それだけが俺の復讐計画が頭から離れない最大の理由だ。だが、それは一体なにが起きたのかはわかっていない。だが、ぶっ飛んだ事情があったってのは確かだろうな」

「ああ」

 

 再不斬のクーデターの話はひと段落がついた。元々はカカシが血霧の里についての情報収集が目的であるこの会合だ。カカシと再不斬以外はおまけにすぎないのだが、ここからが本題になる再不斬の木の葉への依頼だ。

 

「白を木の葉に入れたいってことだな?」

「ああ、これだけ事情を説明すれば、白には問題がないことくらいわかるだろう?白は木の葉に恨みはもたねえよ」

「だがな…」

 

 白は再不斬を中心に動いている。再不斬が快楽殺人鬼だったということもなく、白は抜け忍であること以外特に問題がないが、白自身が再不斬と離れて木の葉でやっていけるビジョンがカカシには見えなかった。

 

「いいじゃん、いいじゃん。それにカカシ先生も約束したってば。俺、白が木の葉に来るのに賛成!」

「修行の相手になる。俺は構わない」

 

 話半分に聞いていたナルトと復讐のことを考えていたサスケが、白の木の葉入りに素早く賛同した。

 

「僕も構いません。というよりあまり白さんを知りませんが」

「俺もいいぜ。結構強そうだし、仲間になるなら心強い」

 

 ハザマとツカイも再不斬の事情を聞いて賛成してもいいと判断した。

 

「私も再不斬さんが本当に悪人とは思えないし、反対する理由はないわ、ソラは?」

「私も賛成です」

 

 気遁の使えるソラが賛成すると、さすがに説得力が違う、ただ賛成と言っただけだが、上忍2人を頷かせるだけの能力があったからだ。

 

「どうやら合格らしいが、後は白くん次第だ」

 

 白は思い悩む。今までの価値観を崩され、再不斬は道具としてではなく一人の忍、人間として自身を見るようになった。

 

「別にべったりと再不斬さんに甘えたければ、来なくてもいいのですよ?」

 

 ソラの一言が決定打だった。

 

「どうやら僕は君を木の葉で懲らしめなければならないようですね。再不斬さん、僕は大丈夫です」

 

 即決だった。橋上でのソラの挑発がここで生きる。白は15歳であり、ソラは12歳。年下にしかも蒼井の特性で長年連れ添ってきた再不斬の本心を知らなかった白に対し、それを垣間見て再不斬の理解者を気取るソラ。白はソラが嫌いだった。そして3歳年下の女の子に年下扱いのようなことを言われれば、さすがに白も再不斬にわがままが言えない。白の本心は再不斬に付いていたいが、再不斬は白のためを思い、抜け忍暮らしではなく、木の葉の里の忍として幸せを願った。それを無下にはできない。背中を押したのがソラだっただけだ。ソラを理由に白は再不斬と離れる道を選ぶ。

 

「再不斬、お前はどうするんだ?」

「俺はこれまで通り抜け忍として暮らす。それは変わらねえだろう」

「俺が言ってるのはお前が木の葉に来るかどうかだ」

「は?」

 

 シカクからのキラーパスに再不斬は呆然とする。

 

「いや、馬鹿か?俺の悪事はだいたいの里にしれ回っている」

「一般人はお前の顔なんて知らないし、暗部としてなら顔を見せなくてもやっていけるだろう?」

「頭いかれてんじゃねえのか?」

「聞いてみるか?木の葉の里の忍びである。この9人に?」

 

 9人とは再不斬以外の人間の数である。もちろん白も含んでいた。




再不斬のクーデター事情は捏造。具体的なこと書かれていないから捏造しました。大変だった。


オリジナル忍術

転移・口寄せの術
逆口寄せができない口寄せ動物のための逆口寄せの術。術者が口寄せ動物の元へ飛ぶ。

火遁・炎刀百尺
火の性質変化とチャクラの形態変化を必要とする、炎でできた刀を百尺ほどの長さまで伸ばしたもの。


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修行と蒼井

 波の国に繋がる橋が完成する前で2日ほど掛かるらしく、第7班とは違う任務を請け負っていた第11班は一足早く帰還することになった。別れの挨拶を一晩泊めてもらったタズナたちに伝えるため、完成間近の橋に一同が集っていた。

 

「それでは先に失礼します」

「おう、超助かったわい」

 

 第11班を代表してシカクがタズナに別れを告げる。

 

「迷惑かけたなジジイ」

「ふん」

「長生きしろよ」

「どの口が言いやがる」

 

 シカクの挨拶に続くように再不斬が別れを済ませる。仲悪そうなやり取りを見せる再不斬とタズナだが、これはこれで仲がいいなとソラは苦笑いして、その光景を眺めていた。ふと、ソラが視線をそらす。ソラの視線の先には第7班と白がいた。

 

「白、帰ったら俺と修行だってば」

「白、俺と戦え」

 

 白はナルトとサスケの自分の取り合いに苦笑いし、サスケが白に取られるという薔薇の世界を想像し、やきもきしているくノ一が1人。ソラにはいらない妄想の気を感じ取り、おそらくサスケと白で妄想しているサクラが頭に浮かんだ。

 

 別れを各自済ませ、第11班と再不斬たちは木の葉を目指す。

 

「白、嬉しそうだな」

「はい」

 

 白を知らない人が見れば再不斬という悪人面に惚れている少女にしか見えない。だが、それにちゃちゃを入れるような不粋なマネはさすがにソラもしない。白が喜ぶ理由はもう抜け忍として再不斬に危害が加わることが大きく減るという理由だ。ソラとシカクは帰還する途中で木の葉の里にたくさんの通信をし、根回しを済ませる。あくまで再不斬は抜け忍、しかし、敵の多い里の事情を考える限り、霧と同盟を結ぶ手段になる再不斬を、仲間に引き入れておきたいソラとシカクは2人で使える人材に根回しをしていた。

 

 二日後。

 

 彼らは木の葉の里に着いた。

 

 帰郷早々に家に帰れるというわけもなく、第11班は火影邸にて事の顛末と、再不斬と白という戦力を組み入れてギブアンドテイクをなそうとしていることを話した。

 

「なるほどのう…。お主ら素性の知れぬ者、そしていくら上忍といえど、それだけではワシは再不斬と白をこの里に招き入れることはできんかった。じゃが、蒼井ソラが認めたとならば話は別。蒼井の力はワシもよく知っている。再不斬、白、お主ら両名はワシの専属暗部としてしばらく活動してもらう」

「了解」「了解しました」

 

 再不斬と白が同時に返事をする。事がすんなりと進んで行く様に再不斬はソラとシカクを見る。さすがだな、と口を動かしかけていた。

 

「蒼井の発言力ってこんなにあるのか」

「僕には発言力というよりは信頼性って感じたけどな」

 

 ツカイとハザマがもっぱらオマケの立ち位置、話し合いの横で感想を言っているだけだった。

 

 

 

 再不斬と白が正式に木の葉の忍として活動を開始するまで、少し時間があり、2人は第11班の面々の修行を見ていた。

 

「酷いですね」

「ああ、これは酷い」

 

 再不斬と白が同じ見解をしたのはツカイである。ツカイはチャクラを練るのもチャクラをコントロールするのも下手。下忍といえどチャクラを練るのが下手な忍はまずいない。だからこそ酷いと称される。

 

「だが、なるほど、この酷さでこれか」

 

 再不斬は背後の演習場についた傷跡を見る。常人には術が発動しないであろうチャクラの練度で、演習場の一角を弾きとばす上忍レベルの忍術を高速で繰り出した。そのあべこべ具合は褒められたことではないが、術の習熟度に再不斬は感嘆する。

 

「彼がチャクラを扱いに慣れればその強さは倍増どころではないみたいですね」

「お前がすぐ抜かれてもおかしくはない」

「ええ、ですが僕も彼らには負けません」

 

 白のいう彼らはツカイたちだけではなく、ナルトとサスケも想い起こされていた。ツカイはひとまずチャクラを練り上げる訓練とコントロールの訓練にあたる。ゆっくりとチャクラを作り出す訓練と木登りの業だ。ツカイの術の荒さは使い慣れている術ならば大してブレたりすることもないが、使うのを制限されている血継限界ではまるでコントロールができていない。そのせいで攻撃範囲外まで力が暴走させてしまった。それを矯正するのに耀遁を使い続けて慣れる方法を取れば、木の葉の里の地形が変わってしまう。ツカイがやってきた修行とは異なる、今までとはまったく違うアプローチで、術の制御を学ばなければならない。

 

「ナルトでも木登りは高さ30メートルの木に登ってたらしいぞ」

 

 木登りの業どころか水面にも難なく立てるシカクがツカイを煽る。ツカイはムキになって木登りを開始し、すぐに落ちる。それを何度でも繰り返す。

 

「馬鹿の一つ覚えみたいだな…」

「あれがあいつの長所だ」

 

 その光景にさすがに呆れる再不斬にシカクが長所だと断定する。

 

「長所、か?」

 

 目に見えて成長していないツカイに再不斬はシカクの言葉を疑う。本当にしばらくしても成長の兆しが見えず、他の班員を見て回る。

 

「時空間忍術か」

「理論構成がメインの忍術ですから読書ですね」

「ああ、なんで読書しながら腕立てしているかは謎だがな」

 

 ハザマは時空間理論の勉強と同時に体を鍛える。体は鍛えているというよりも体を動かしながら勉強をすることになれているため、ただのハザマの勉強のスタイルである。現在時空間忍術の基礎を習熟し終えた程度だが、時空間忍術の基礎でも中忍レベルから禁術まで、つまり基礎の段階でレベルが高い。今は上忍レベルの時空間忍術を習得していた。

 

「ふむふむ、こうか___」

 

 理論を理解し、その術を行使した瞬間。ハザマが消えた。

 

「は?」

「あれ?」

 

 再不斬と白は目が点になる。それなりに目のいい2人にもハザマが消えたように感じた。

 

「またか」

 

 シカクは呆れる。

 

「どこいったんだ?」

「さあ?」

「さあって…」

「あいつがどこかに飛んでいっちまうのはいつものことだ」

 

 すると突然、ハザマは戻ってきた。

 

「おお、なるほどな。こいつは便利だ」

 

 完全に1人の世界に入って時空間忍術を勉強していた。

 

「あれをどう指導しろと?」

「じゃあ、ソラの方に行くか」

 

 シカクがソラの名を出すと白の表情が曇る。白にとってソラは天敵である。

 

「僕はツカイを見ています」

「ダメだ」

 

 ソラのところに足を運ぶのを拒んだが、それを再不斬が拒む。苦手意識をいつまでも持っていては木の葉の里の新参ではやっていけない。それにソラは再不斬や白にとっては味方である。

 

「ソラ」

「あ、シカク先生」

「今、何やってたんだ?」

「新しい術の習得です」

「まあ、お前はハザマと同様基礎が完成しているからな。技のレパートリーを増やしたほうがいいだろう。また結界術や封印術をか?」

「いえ、性質変化___」

 

 性質変化です。と言おうとしたソラの前に1つの影が現れる。

 

「これはチャクラ紙という」

「どっから現れた…」

 

 先ほどまで演習場の少し離れた場所にいたツカイがソラの前に現れていた。ソラは性質変化の忍術の専門家と化しているツカイに、若干拒絶するかのような表情を作ってしまう。

 

「私は火と水の性質変化です。チャクラ紙で調べる必要もありません」

「火の性質変化なら火遁の___」

 

 珍しく熱く語るツカイの後頭部にシカクがチョップを食らわせる。ツカイはシカクの言わんとすることを理解し、自分の修行に戻る。火と水の性質変化に再不斬が反応した。

 

「照美一族の沸遁の性質変化が火と水だったな。気遁は風の性質変化が入ってると思ったが、違うのか?」

「いえ、気遁は遁術ですが、性質変化の組み合わせはわかっていません。木遁と泥遁のように沸遁と同じ組み合わせかもしれませんが、祖父は水と風で白と同じ性質変化ですし、詳しいことは叔父がずっと調べていますが、わかっていませんから」

「そうか」

「それでですね。水遁を教えてくれませんか?」

 

 再不斬に水遁を教授できないかと聞く。ソラには火遁もあるが、それを教えられる存在はツカイのみ。逆に水遁は再不斬と白がいる。再不斬は教えることは構わない、という態度だったが、待ったがかかる。

 

「僕が教えましょう」

 

 ソラを嫌っている白がソラに水遁を教えるという。どういう風の吹き回しか、と問いたくなる白の積極性だが、その真意をソラに読み取られてしまう。

 

「じゃあ、お願いできますか?」

「ええ」

 

 ソラの水遁は白が教えることに決まり、再不斬とシカクは他の2人を見て回る。白と2人きりになるとソラが口を出す。

 

「結構、独占欲、嫉妬心、強いんですね」

「なっ!?………やはり、僕はあなたが嫌いです」

 

 しばらくの間修行に専念すると性質変化の素養があったためか、水の性質変化をある程度巧みに使う。ソラの修行が一段落すると、白は修行中にソラのことを考えていた。ソラは相手を言葉巧みに誘導して利になることをする。今回、再不斬に師事を仰いで白を修行相手に引き出したが、うまくやれば白より水遁に長けている再不斬に指導をしてもらえるはずだ。

 

「…ソラは、なぜ、僕に師事させたのですか」

「それはシカク先生が言っていたことが理由だよ」

「…まさかっ!?」

「そのまさかです。私は風の性質変化を持つ口寄せ動物と契約して、白と同じ氷遁を習得するのが目的です」

 

 それは波の国で戦い、白もソラも直接見たわけではないが、火影邸でのシカクの報告を横で聞いていたことだった。灰牙金雷が習得した血継淘汰の技術を用い、血継限界を使う方法。それを聞いたソラは解明されていない血継限界の写輪眼より、白の性質変化の組み合わせである氷遁なら、真似ができる可能性があると踏んでいた。ゆえに自分で水遁、口寄せ動物で風遁を合わせれば氷遁が扱えることになる。もっともその技術の詳細は、忍術開発部という寂れた機関で開発が始まったらしいが、実績を上げるようには思えない。

 

「シカク先生曰く、口寄せ動物でもチャクラの扱いに長けていれば短期間に習得ができる見込みらしい。特にチャクラをエネルギーの配分を変化させるまで得意な種族じゃないといけないけどね」

「僕の氷遁を…」

「私が氷遁を真似るのは嫌?」

「う…、別に構いませんけど…」

 

 白はソラを嫌っているが、それは苦手意識にすぎず、好意的な視線を向けられると白は弱かった。

 

「それにあの話では血継限界をわざわざ習得する時間と労力を考えれば、そこまで有用じゃないって話ではありませんでしたか?本物の血継限界には及ばないみたいですし」

「それはそうだけど、使える手札が増えるし、それに血継淘汰への足がかりにもなるかもしれないよ?」

「血継淘汰、3つの性質変化を持つ忍術ですか…」

「そう、もしも白の氷遁に火、土、雷のどれかが加われば」

「とても現実的な話ではなさそうですが、そこまでの力って必要でしょうか?」

「たぶんね。今は木の葉が一番安全な忍び里って言われているけど、逆に言えば木の葉の安全を脅かしてしまえば、戦乱に巻き込めます。それに不穏な空気には私は敏感ですよ」

「そうでしたね」

 

 白とソラは再び修行に戻っていった。今度は白が氷遁を見せていた。

 

 

 

 第11班の修行が3日経ち、木の葉に第7班の面々が帰ってきた。

 

「それじゃあ、俺は報告があるから。お前らは帰っていいよ」

「白はどこにいる?」

「いや、俺も帰ってきたばかりだから流石にわからないよ」

「ちっ、何か聞いてるはずだろうが」

「うーん、11班の人間は知ってるんじゃないかな」

 

 それを聞くとサスケはその場を後にする。

 

「ああ、サスケくん!デート…」

 

 恋愛に興味深々のサクラの言葉など、サスケに届くはずもなく、サクラは肩を落とす。サスケに無視されたサクラを見て、ナルトは好機とばかりにサクラに声をかける。

 

「サクラちゃん、サスケなんかほっといて俺とデートしようってば!」

「死ね!」

「ガーン」

 

 あまりにも直球な拒絶に、口から感情が漏れるほどナルトはショックを受ける。そんなナルトを放置してサクラもその場を去る。カカシも火影に報告しにその場を去る。

 

「サクラちゃんとデートができないし、…そうだ。俺も白と修行の約束してたってばよ!サスケ!っていねえよなあ…、ソラちゃん家どこだっけ?ハザマん家もわかんねえし。あ、そうだ!ツカイん家ならわかるってば」

 

 ナルトは元悪戯仲間であるツカイの家の場所を知っていた。木の葉の里の中心街に近い自分の住んで居るアパートとは打って変わり、天野一族の住んでいる地区は外れも外れ、周囲の住宅が閑散とし、大きな畑が見えて来る。

 

「ここか」

 

 玄関のチャイムを鳴らすと中から厳格ないかつい顔をした大男が現れる。

 

「…九尾の小僧か。どうした?」

 

 九尾の小僧と呼ばれ、むかっと来たナルトだが、ふと冷静になって箝口令の事を思い出す。

 

「上がりなさい」

「は、はい…?」

 

 箝口令のことを思い出していると、中にすんなり通される。動揺しているナルトは、居間に案内され、和室に座る。お茶が出てきて、いよいよ頭の中がこんがらがる。ナルトにとってこのような対応をしてくる大人は初めて見る。しかも普通に接するような態度でありながら九尾の小僧と呼ばれる。ナルトはツカイの親族と思われる男との距離を測りかねていた。

 

「ツカイは数分で帰ってくる。それまで待っていなさい」

 

 ナルトは事情を伝えるまでもなく、ナルトの事情を読み取った大男は和室の隣にある作業台で苦無のようなものを研ぎ始める。

 

「おっちゃん、ツカイのお父さんか?」

「そうだ」

「それ、何作ってるってば?」

「これか?これはチャクラ苦無だ」

「チャクラ苦無?」

「ああ、チャクラを通常の苦無以上に通しやすい苦無だ。下手をすれば爆発してこの家くらいなら簡単に吹き飛ぶ」

「あぶねえってばよ!?」

 

 抑揚のない言葉から想像を絶する危険性のある苦無、それを作っていることを漏らす大男にナルトはビビる。

 

「ああ、危険だ。だが、それはお前とて同じだ」

「え?」

「どうやら九尾が封印されていることを知ったようだな」

「う、うん」

「九尾は危険だ。だが、お前は危険か?」

「そ、それは別に、俺、何もしねえってばよ?」

「そういうことだ。それも正しく使えば問題はない」

「そ、そうなのか?」

「まあ、ツカイのようなチャクラの扱いが下手くそな忍が使えば吹っ飛ぶがな」

「いぃ!?」

 

 耀遁を使えば、というセリフをツカイの父親は飲み込む。するとそこに噂をすれば影が差した。天野ツカイが帰ってきた。

 

「あれ?ナルトじゃねーか、どうした?」

「そうだ。俺、白と修行の約束してたんだってば。白の居場所は第11班が詳しいっていうから家知ってんのツカイしかいなくてさ」

「おいおい、ナルト。白との修行もいいけど、俺も結構強くなったぜ。白とやる前に俺と戦え」

「えぇ…、嫌だ。ツカイってば木登りの業どころかチャクラの練り上げもできねえんだろ?忍術以外じゃ相手にならないってばよ」

「それなら昨日終わったぜ。それにこのチャクラ苦無も親父から借りれば、お前なんて一網打尽さ」

 

 苦無を回し、それを構えるツカイに、先ほどまでツカイと会話していたナルトから冷や汗が流れ始める。この家くらいなら簡単に吹き飛ぶ。頭の中でリピートされた文句がナルトの顔面を蒼白させていく。

 

「おおおおお落ち着け!ツカイ!それを置けってば、それお前が使うと危ないってば!?」

 

 急に態度のおかしくなったナルトにツカイは眉根を曲げて訝しむ。

 

「どうした?いきなりビビってるじゃねえか?」

「お前にビビってるんじゃねえってば!?」

「じゃあ、何にビビってるんだよ」

「そそそ、それだってばよ?!」

「どれ?」

 

 ナルトの指差した方向を延長し、自分の背後を振り返り、何もおかしいものがないのを確認したツカイはナルトの指差しているものに気づかない。

 

「ナルト、幽霊でも見れるようになったのか?ついに頭イカれたか…」

「イカれてるのはお前だってば!!!」

 

 ナルトの動揺が落ち着かず、それに笑いを堪えていたツカイの父親がついに堪えられなくなって笑う。

 

「くくく」

「親父?」

「はーっはっはっは、…いや、面白くてな」

「何があったんだ?」

「チャクラ苦無が爆発することを小僧に教えただけだ」

「…ああ、そういうことか」

 

 ツカイは納得して苦無を回したり、ジャグリングのようにしたりして弄る。ナルトの慌てる様を楽しんでいる。それにチャクラの練り方もうまくなり、チャクラコントロールもそこそこ使えるようになったツカイは暴走させる心配はなくなっている。暴走させる心配がなくなったからこそ、ツカイの父親はチャクラ苦無をツカイに渡した。

 

「これはチャクラ苦無。制御できない莫大なチャクラを込めれば暴発して爆発するが、まあ、確かに俺の血継限界流し込んだら爆発するだろうな」

「血継限界?ツカイも血継限界持ってるってば?」

「ああ、あまりに危なすぎるから普段は使わねえし、模擬戦じゃ使ったことないぜ。…まあ、元特別上忍相手に使って相打ちには持ち込めたがな」

 

 実際は寸前のところで負けてしまったが、ツカイはナルトを挑発するため少しだけ誇張表現でいう。

 

「特別上忍?」

「ああ、中忍よりも強く、上忍には一歩及ばないくらいには強い忍者だ」

「ツカイってばその特別上忍に引き分けたのか!?」

「元だよ元。だが、まあ俺は下忍でありながら特別上忍レベルの強さってわけだ」

「お、俺だってば、中忍は倒したってばよ!」

「なんだ。中忍は倒せたのか?だが、俺の方が上だな?」

「ちきしょう…!!負けねえってば!!」

「じゃあ、勝負しようぜ」

 

 白熱するバカ2人を尻目にツカイの父親は外でやれと文句を言う。ツカイの父親に追い出される形で家を後にした2人は体術組手をするために演習場の貸し出し要請をしに、火影邸にある受付に来ていたが、もうすでにすべての演習場の貸し出してしまっていた。

 

「空いてるところねえってよ」

「じゃあさ、じゃあさ、林の中でやろうぜ」

「体術だけなら問題ねえか」

「俺の朝練場所なら誰もいないってばよ」

 

 2人の間で話が決まった直後に背後から声がかかる。

 

「ナルトくん、演習場使いたいの?」

「お?ソラちゃん!」

 

 演習場を使用したいかどうか尋ねたソラにツカイが反応する。

 

「もしかしてソラは演習場使うのか?」

「うん。サスケと白が戦うんだって」

「ほお、邪魔してもいいか?」

「いいけど、使用者の名前、書き直さないといけないから。ちょっと待ってて、ナルトくんも来る?」

 

 行くってば、羨ましさと悔しさを兼ね備えた顔ではあるがナルトは元気良くソラに返事をする。ソラは演習場の使用者リストにナルトとツカイの名前を付け足す。ソラが戻る前、待てと言われたのに、気になるからという理由でナルトは演習場に走り始めてしまう。

 

「おいおい、俺との体術組手はどうしたんだよ…」

「お待たせ、ナルトくんは?」

「あいつならもう演習場に向かったよ」

「はあ…、追いかけますか」

「ああ」

 

 2人はナルトの影を追う。

 

 

 

 火影邸。任務の報告を終えたカカシはヒルゼンに呼び止められ、シカクが来るのを待っていた。火影邸の一室に暗部もなしに、3人だけで話したい事柄とはかなりの事情と見受けられる。カカシはシカクの名を聞いて例の件だと当たりをつけていた。

 

「遅れました」

「おお、待っておったぞ。なに、遅くはない」

「この会合は例の件でよろしいのでしょうか?」

「うむ、灰牙3兄弟の長男、金雷についてじゃな」

 

 金雷は岩隠れの里の先代土影が開発した血継淘汰の理論を用いた血継限界を使用していた。それはつまり、血継淘汰には至らないまでも見過ごすことのできない案件で、これを公表するかどうか、木の葉にも取り入れるべきか否か。数々の問題を抱えていた。

 

「本来血継淘汰なんぞ、普通の忍では習得もできん。じゃが、その理論から1つランクを下げれば、およそ特別上忍レベルで血系限界が使用可能ということじゃな」

「しかし、理論だけ見れば中忍レベルなら誰でも習得はできるかと…、ただ、実践的ではありません」

「ふむ、口寄せ動物の協力あっての血継限界だったということじゃな」

 

 ヒルゼンは緑茶を口に運び、一息つく。そして昔を思い出すかのように目を細め、天井を見る。もう何年も前の話じゃな、と呟いてから2人に顔を向ける。

 

「じゃが、奴は、両天秤の土影は、口寄せ動物の協力を介してはおらん。しかも血継限界を超えた血継淘汰でじゃ」

「…そうですね。それだけ鑑みれば、口寄せと合わせて、本来の血継限界には及ばないレベルの血継限界しか使えない。あまり脅威には見えませんね」

 

 ヒルゼンの指摘に賛同し、カカシも独自の解釈を話すが、その真意は真逆である。

 

「だが、同時に口寄せ動物を介した血継限界を習得した者が、口寄せ動物を介することなく血系限界の術を使えるようになったり、万が一にも血継淘汰にまで至る可能性も出てくるということだな」

「ええ、やはり公表は控えたほうがいいでしょう」

 

 シカクとカカシの2人の意見にヒルゼンも納得する。危険な術が広まるのは防がなければならない。

 

「しかし、木の葉だけがその技術を取り入れていない状態だと、後々厄介になるやもしれん。木の葉には敵が多い…」

「そうですね…」

「敵とは言わんが、岩隠れとは同盟関係もなく、彼奴等とワシらは敵対しておる。木の葉の血継は他里とは格が違う。ゆえに考案した対策手段の1つを奪われたと知れば、岩と木の葉はより和解が遠のくであろうな」

 

 ヒルゼンはため息をつく。

 

「そういえば、お主らの班員はどこまで知っておるのじゃ?」

 

 ヒルゼンは思い出したように2人に問う。

 

「私の班員は全員知っています」

「そうじゃったな、報告の時にも居たしのう」

 

 ソラたち11班と再不斬と白は、この件を知っている。そしてシカクは、ソラが血継限界の習得に意欲的であることを看破していた。

 

「あの子らには事情を説明し、血継限界の習得をさせぬようにしてくれんか?」

「それは少々、いえ、かなり無理そうですね。蒼井ソラがかなり意欲的にこの技術に取り組んでいます。他2名もそこまでではありませんが、時任ハザマもまたこの血継限界には興味を示しています」

「ふむ、天野ツカイはそこまでではないのだな」

「ええ」

「まあ、2人のなるようにしておけ、いつかその力が必要となるやもしれん。それに蒼井の者ならば、この血継限界の危険性はよく把握しているじゃろう」

「おそらく、我々よりも」

「ふむ、蒼井ゆえ致し方ない」

 

 緑茶の水面を眺めていたヒルゼンは茶を啜る。

 

「私の方は私以外はまだ知らないことですね。何せ知らせるにはまずい2名がいますから」

「ふむ、ナルトとサスケか…」

「ええ、ナルトはまだしも、サスケは何を仕出かすかわかりませんので」

「ならば、第7班には伝えるのは控えてくれ」

「はい」

 

 カカシは3名の下忍の中でサクラを気がかりにしていた。やはり世代が悪い。名家の跡取りの多い中で一般人出身の今期の忍は、サクラとハザマのみ、そしてハザマはサクラの2歩も3歩も前を進んでいる。この技術をサクラにだけ伝えるのは現時点では難しいと考える。だが、サクラの成長に1つのアクセントを加えておかないと、他2人にどんどんと実力を離されてしまう。カカシは気がかりなサクラのことを考えているのをヒルゼンに見抜かれる。

 

「春野サクラじゃったか?」

「え?」

 

 突然声がかかったカカシは驚いてヒルゼンを見る。

 

「サスケはいざ知らず、悪戯小僧もなかなかに成長しているみたいだしのう」

「ええ、とてつもない速度で」

「ナルトに九尾が封印されていなければ、才能だけならサスケにも引けを取らん。もしナルトが九尾のチャクラさえもコントロールできるようになれば、サスケ以上の忍になる」

「はい」

「その傾向は見て取れるんじゃろ?」

「ええ、さすが先生の子どもといった具合です」

「ミナト…、…ならば2人に遅れを取る春野サクラが気がかりじゃと?」

「…ええ、あの2人と同期ですが、それにサクラは自分を足手まといだと、近々どこかで思い始めてしまうでしょう」

「ふむ、ではそのくノ一にのみ、この技術を伝えてはどうか?」

「その申し出はありがたいのですが、習得できるかどうかよりも、1つ問題がありまして」

「問題?」

「ええ、おそらくその技術を伝えればサスケの耳に入ってしまうかと」

「なるほど…、さすがにそれは看過できん」

 

 キセルに火を付け、一服する。ヒルゼンは1つだけ思い至る要素があった。

 

「蒼井ソラならば、うまく取り成せるやもしれんがのう…」

 

 ソラの気遁でサクラの心情を誘導し、サスケに知られることなくサクラを成長させることは容易だろう。

 

「性質変化と口寄せだけならばサスケに勘ぐられることもないでしょうが、その先となれば白かツカイの協力は必要ですね。そのための仲介役ですか?」

「そういえば、1つだけ疑問だったのですが、ナルトとサスケの2人に合わせるならば、サクラではなくソラではダメだったのですか?」

 

 シカクはソラの利点を瞬時に判断し、それにカカシが反応する。ナルトの境遇とサスケの抱える闇を鑑みれば、サクラには悪いが、ソラの方が明らかにナルトとサスケには適している。

 

「あのお二方から言われたのじゃ、ナルトとサスケにソラを関わらせるな、と」

「そうですか…」

「元ご意見番で今尚、発言力のあるあのお二方にはこちらも頭があがらん」

「海様と小鳥様ですか…」

 

 ソラの祖父母の海と小鳥。元ご意見番であり、蒼井の没落以後木の葉に関わることは少なくなっていたが、可愛い孫娘のためなら里への口出しは控えない。

 

「ああ、かの一件から木の葉に対して彼らの信用はなくなった。それでも尚、木の葉を守ってくださる御仁じゃ、無下にはできん」

「ですが、ソラとナルトはもう互いに大きく関わっています」

「あの方々も本人同士で関わるのは気にはしとらんよ」

「なるほど、里が彼女を利用するのを防ぐ意味合いがあるのですね」

「ふむ、蒼井の力はワシとて欲しいぐらいじゃからな。しかし、まあ、1人の人間として、里の指導者としてそれはあってはならんことじゃ。しかし、ナルトとサスケに直接は関わっておらん。それならば、彼らの意向を無下にしたわけでもないじゃろう」

「さすがに揚げ足取りのような気もしますが…」

「問題ないじゃろう。それにもし彼らが気に食わなければ何かしら忠告は飛んできてるころじゃろうて」

「え?」

「蒼井の力を甘くみるでないぞ、カカシ。この会合もかの御仁らには筒抜けじゃ」

 

 蒼井の気遁の本当の力を知らないカカシには理解ができなかった。だが、ヒルゼンの言葉が正しければ、木の葉において秘め事は意味をなさない。

 

「気遁は年齢とともにどんどんと成長していく。衰え知らずでじゃ、だからこそ、あやつは蒼井を警戒していた」

「なるほど…」

 

 聞いていた以上の能力だ、とカカシは心の中で呟き、冷や汗を流した。




さすがに毎日更新は無理

オリジナル要素が増えていく


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登場人物紹介・オリジナル要素解説(波の国編)

蒼井ソラ

12歳

誕生日:5月5日

血液型:O型

身長:155cm

体重:46kg

性格:大人しい

好きな食べ物:果物全般

嫌いな食べ物:辛い食べ物

戦ってみたい相手:日向ヒナタ

好きな言葉:平和

趣味:読書、勉強、修行、散歩、絵画、生花、ファッションなど他多数

 

容姿:アップの黒髪(艦これの電と同じ髪型)、たれ目、二重、少し大きめのパーカーを着ている。任務に取り組むときだけ額当てをする。普段はネックレスのように首に巻いている。ヒナタと格好が似ている。

 

特徴:アカデミー時代に友だちがナルトとヒナタしかいなかった。気遁の修行のせいでぼっちになっていた。血継限界の気遁を使う。一族の秘伝に結界術や封印術があり、それらを習得している。また、幻術適正もあるためそこそこの幻術も使える。総じて後方支援の要素が強く、くノ一クラスで一番の体術レベルだが、下忍ではそこまでの強みはないため、完全にアウトレンジのスタイル。灰牙金雷が産み出した血継限界を取り入れレベルアップを図っているため水遁を習得中。水と火の性質を持っている。

 

 

 

時任ハザマ

13歳

誕生日:4月2日

血液型:AB型

身長:160cm

体重:55kg

性格:堅い

好きな食べ物:精進料理

嫌いな食べ物:栄養バランスの悪いもの全般

戦ってみたい相手:三代目火影

好きな言葉:義

趣味:修行、勉強

 

容姿:イノに近い色の金髪、短髪、一重、額当ては額にしている。奇抜な衣服を着る。金髪と短髪のせいかナルトと少しだけ似ている。

 

特徴:ガリ勉。奇抜なファッションは動きやすい服を追求したせい。アカデミー時代から基本に忠実でその練度は凄まじく、チャクラの練度とコントロールならサクラと同レベルかそれ以上、体術もかなり強いが、サスケよりはレベルが些か劣る。教科書忍術だけではこの先やっていけないと判断し、最も習得の難しい時空間忍術を勉強している。

 

 

 

天野ツカイ

12歳

誕生日:7月7日

血液型:B型

身長:151cm

体重:42kg

性格:自由奔放

好きな食べ物:砂糖菓子

嫌いな食べ物:野菜

戦ってみたい相手:うちはサスケ、蒼井ソラ

好きな言葉:勝負

趣味:忍術開発

 

容姿:赤みがかった茶髪。二重。額当ては額にしている。簡素な色彩の衣服を着る。

 

特徴:ずぼら。体術はそこそこだが、チャクラの扱いはナルトよりも下手。だが、得意な忍術はあまりの使用回数のせいでチャクラの扱いがマシになる。基本をすっ飛ばして、実践を想定ている修行のせいで、成長が空回りしている。何度も反復して使っていない血継限界の耀遁は、練度が低いため暴発する。血継限界を使える自分の一族を誇りに思っているため、同じ血継限界持ちのサスケとソラに対抗心がある。興味のないことに関心を示さないため、興味のない人の顔を覚えるのが苦手。日向ヒナタが血継限界を持っていると知っていれば、プロフィールの戦ってみたい相手にヒナタもいた。逆に興味のあることには執念さえあるため、忍術の知識が深いが、チャクラの知識は浅い。火と雷の性質を持っている。

 

 

 

灰牙金雷

26歳

灰色の髪色に、厳つい顔相をしている。虎の口寄せ動物と契約する一族。兄弟三人の連携は影レベルに達するほどと称される。

3年前に兄弟たちと岩隠れを抜ける。岩隠れの秘蔵の血継淘汰に関する巻物を盗み出した。血継淘汰の技術を習得できなかったが、その理論を用いて、口寄せ動物の協力を得て血継限界を習得する。シカク相手に優位に立ち回っていたが、血継限界の術を過信しすぎ、弱点を突かれて敗北。土と水の性質変化を持ち、風の性質変化を持つ口寄せ動物と組み合わせた旋遁を扱う。

 

灰牙銀火

25歳

年子の兄弟に挟まれている次男。灰色の髪色に、少し痩せている容姿。顔つきは鋭い。

抜け忍になり、金雷と銅水とともに生き残るための血継限界の開発を援助していた。まだ血継限界は使えていなかった。ツカイ相手に侮り、至近距離で耀遁の一撃を喰らい、口寄せ動物を失い激昂したが、すぐに駆けつけたシカクに勝機を失くし、傷ついた体では逃走もできずに敗北。土と火の性質変化を持つ。灼遁の開発途中だった。

 

灰牙銅水

24歳

灰色の髪色に少々太った容姿をしている。残忍さが顔に出ている。

抜け忍となり、金雷と銀火とともに生き残るための血継限界の開発を援助していた。ソラとハザマを相手にしたが、ソラの忍術に翻弄され、戦場の主導権を握れず、ハザマを撃退し、ソラを追い込み、寸前のところでツカイの忍術に不意を打たれ逆転されて敗北する。土と水の性質変化を持つ。氷遁の開発をしていた。

 

 

 

気遁:相手の気質に触れ、感情を色で判別する。その感情から相手の置かれた状態を考え、相手の考えや行動を見切る。しかし、感情から考えや行動を見抜くのは容易くないため、行動の先読みは若いころにはできない。また、空気にも触れることができ、ある一定の範囲内で動くものを感知できる。ただ、感知で相手を識別するには相手の気質を知っていなければならない。

 

耀遁:火と雷の性質変化の組み合わせ。超高火力の攻撃性を持つ血継限界。耀遁の忍術はたった一つしか伝聞されていない。

 

旋遁:風と雷の性質変化の組み合わせ。機動性と攻撃性に優れた血継限界。旋遁を使う一族は既に滅んでいる。

 

 

 

チャクラ苦無:普通の苦無よりチャクラのエネルギーに対する強度が高いメリットと、性質変化を纏わせると少し多くチャクラを使うデメリットがある。

 

 

 

血継限界もどき:血継淘汰の技術を用いる血継限界のこと、本家の血継限界よりも効果は落ちる。




誕生日とか血液型とかかなり適当に作りました。
現時点で判別してる分だけ書いてあるはずなのでネタバレはないはず


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夢と火影

 木の葉の里に戻ってきてから1週間。難易度の高い任務を受注することなく、Dランク任務を即座に終わらせれば、やることもなく書店や花屋をぶらぶらと歩く。ソラの表情は晴れない。

 

「なあ、俺、手裏剣百発百中になったぜ」

「嘘つけ」

「嘘じゃねえよ」

「俺は苦無で百発百中だけどな」

「そっちこそ嘘だろ」

 

 まだ幼いアカデミー生が帰り道に他愛もない会話をしているのが耳に入る。ソラにとっては手裏剣や苦無を扱う技術以上に、忍者というものを鑑みて、心にしこりを抱えていた。

 

 火影の顔岩を正面に右手端にある展望台に足が進んでいた。ソラの好きな里を見回せる場所だ。そこでソラは里をぼーっと眺める。

 

 ここは好きな場所であり、嫌いな場所である。この展望台に来てしまうとソラは自分の弱さが出てきてしまうことが嫌いだった。しかし、同時にこの展望台は里を眺められる好きな場所である。

 

 里を眺めていると、木の葉の里に帰ってきた時のことを思い出していた。波の国の任務で自分のことを祖母に相談したときのことを。

 

 

『ソラ』

『何ですか?お祖母様』

『…』

『…』

 

 沈黙する祖母の瞳はまるでソラの心を見透かしているようだった。

 

『あなたはとても優秀ですね』

『そんなことはありません』

『なぜ優秀ではないのでしょう?』

 

 小鳥の質問にソラは答えあぐねる。

 

『私は…』

『ソラは?』

『私は、自分が優秀だとは思えません』

『それはなぜ?』

『…』

 

 どんなに言葉を探しても口からは出ない。自分が優秀だとは微塵も思わない。優秀な忍びはハザマやツカイのことを言うのではないだろうか。ソラは暗い思いをしまいこむ。

 

『私は、…おそらく忍には向いてないのでしょう』

『いえ、私から見ればあなたはとても優秀な忍です』

『そうでしょうか』

『ええ、何故だかわかりますか?』

『いえ、わかりません』

 

 小鳥の言いたいことはわからない。小鳥ほど気遁がうまくは使えない。相手の感情から、相手の思考を読み解く技量が違いすぎる。

 

『ソラ、あなたは自分で自分に今、必要なものをわかっているからです』

『…』

『あなたが今、何に悩んでいるか、それすらあなたは気づいています』

『…』

『だから、あなたは優秀なのですよ』

『…』

『私から言えることは、あと一歩を踏み出すこと、それが難しいのであれば、それができることを考えればいいのです』

『…よく、わかりません』

『あなたは優秀ですよ』

 

 

 小鳥にソラが悩んでいることは見抜かれて、それに必要なことを教えてくれたのだろうけど、ソラはそれを認めることができない。

 

「どうすれば…」

 

 ソラは何をすべきか、何が自分のためになるかを理解しておきながら、それを行動に移さない。移そうとしない。1人になると、こんなにも弱い部分が出てくる。ソラはそれでもその弱さをどこかで吐き出す必要があった。ソラは柵に手を置き、それを枕代わりに頭を埋める。

 

 波の国の任務で相手の忍者の命を奪い、暗殺任務を達成した。今までの任務とはやはり違う。封印術を使用するCランク任務は多く、護衛任務も忍の護衛が分かれば相手は迂闊に手を出してこれなかった。本格的な戦闘はソラに多大な影響をもたらした。しかし、それ以上に頭からこびりついて離れないのは、戦意のない下忍を殺害することだった。気遁で心に触れなければ、自分は悩まなかったかもしれない。ソラは頭を過ぎった仮定の世界の想像をやめる。意味はない。

 

 忍は軍事力。相手戦力と衝突すれば命がけの戦いになる。それを否定しては自分が死ぬだけだ。あのときの選択は正しかった。だが、正しいことをしたと、自分の感情が認識することはない。感情は任務を遂行するとき邪魔になる。

 

 心を殺せ。先人達はそうしてきた。

 

 だが、ソラは目の前の少年と1人の敵忍者を救える可能性があるとわかり、木の葉に導いた。しかし、そのとき触れた敵の忍者、再不斬は心を殺し、任務にはついても完全に自己を失ってはないない。そして感情も持っている。下忍は感情を露わにするのは仕方ないと判断していたが、上忍のカカシやシカクも感情を完全には殺していなかった。

 

 忍も人。ソラはそれをわかってはいるが、もし人としての感情を持ってしまうと、暗殺任務には今後一切、就くことができなくなる。ハザマもツカイも同じ下忍なのに暗殺任務、敵方との交戦で死に至らしめても、自分ほど深い悲しみに囚われはしなかった。

 

 なぜ、こんなにも自分の心は弱いのだろう。

 

 なぜ、同じ下忍の2人は心が強いのだろう。

 

 なぜ、ナルトはあのような状況にあって…

 

 心が最も強いと感じたナルトのことを思い出す。それ以上は想像をしたくない。ソラは自分の心の弱さが嫌いだった。なぜ、みんなと違うのだろう。私は優秀な一族に生まれながら、どうしてこうも戦えないのだろう。

 

「でも…、そうだね。わかってるよ。お祖母様…」

 

 祖母の言うことをソラは理解していた。そして自分に起きている悩みにもしっかりと気づいた。

 

 自己同一性の喪失。

 

 蒼井一族は気遁の性質上、自己の形成に他人が大きく関わる。そのため、いつの日にか自分というものがわからなくなる。自己を見失いかけたソラは、自分の心理的症状を調べ、客観的に看破したが、その心理的状況から抜け出せないでいた。

 

 すべてわかっている。私というものが曖昧で、それをしっかりと地盤に固定するものが必要だ。それを見つければ、私は迷うことはない。ソラはそこまで理解し、自分に必要なものを見返した。必要なのは確固たる信念。ソラには大切な人を守れる忍になるという信念がある。だが、それもまた、他人が九尾の被害で負った心傷に触発された信念である。

 

 それは自分の本当の信念だろうか。

 

 疑い出せばキリがない。結局、ソラは自分がわからなくなる。思考の海に浸り、夕闇も空を覆い始めてきた。

 

「ここにおったか」

 

 周りに気遁を展開していなかったため、いきなり現れた人影にソラは気づかなかった。

 

「お爺様」

 

 祖父の海であった。かなりの高年齢ながらもしっかりとした姿勢で、威圧感さえ感じる厳格さに、ソラは慌てて姿勢を正す。

 

「よい、楽にしなさい」

「はい」

 

 展望台にある椅子に腰掛ける。

 

「自分を見つめ直すのはいいが、それだけでは前には進めん」

「…お爺様、うち若き小娘の感情は見ないでください」

「自分で小娘なぞ言うものではないわ」

 

 海のお節介にソラは即座に反応する。

 

「どうやら相当参っているようじゃな。任務中でも己の心情を殺し、無理して臨んでいるようじゃ」

「…はい」

「説教するわけでもない。楽にしなさい」

 

 それを言われソラは肩から力を抜く。

 

「ソラよ。お主は夢と聞いてどのようなことを思い出す?」

「夢、ですか?」

「ああ、お前じゃなくてもいい。誰かの夢でも構わない」

 

 いきなりの話題の転換だが、ソラは思考を切り替える。

 

 

『火影になって、里のみんなに認めさせてやるんだ!』

 

 

 ソラの頭にナルトが思い浮かんだ。

 

「うずまきナルトか?」

「…はい」

 

 思考を読み取られてむすっとした表情をソラが作る。自分も相手の感情から相手の思考を読み解くが、やはりやられる側になれば嫌なものである。

 

「火影になりたい、とのことです」

「まあ、ワシも知っておる。じゃが、彼の者は火影になりたいだけではないだろう?」

「里の人たちに自分を認めさせる?」

「そうじゃ、それはとても曖昧で抽象的なことじゃが、彼の夢には同時に成せる具体的な目標がある」

「それが、火影になること」

 

 ソラは自分の夢、大切な人を守れる忍とは一体何か。具体的なことが何もないことに気づく。

 

「お主は否定しているのじゃよ。自分の夢も」

 

 ソラは雷に打たれたかのような速度で、地面を見ていた顔を持ち上げる。目線の先には海が微笑んでいた。気遁が海の感情を読み取ってしまう。そこから導き出される思考さえ想像がついてしまう。

 

 やめて。

 

 それ以上は言わないで。

 

 それを言葉にはできなかった。

 

「いつまでも自分を偽り続けるのは良くないことじゃ」

 

 見透かされたことに息を飲む。

 

「そうじゃ、お主は自分の夢には続きがある」

 

 ようやく自分が自分を否定している要因にたどり着いた。わかっていたのだ。わかっていながら、その夢を掲げてくなかった。ただの子どもの我儘だが、ソラはそれをしたくなかった。言いたくなかった。初めてできた友の夢を阻むと勝手に考えていたからだ。

 

「彼に負い目を持つ必要はない。逆に、負い目を持っていればお主は失礼なことをしておる。それはわかるな?」

 

 ソラは息を飲む。

 

「お主は否定していたかもしれんが、”大切な人を守れる忍になる”とのことじゃが、お主にとって大切な人とはどこまでおるのじゃ?」

 

 九尾に殺された人たちの痛みに触れた。

 

 もう二度と悲しむ心を見たくない。

 

 悲しみの感情で包まれる世界が嫌いだった。

 

 誰も悲しむことのない___。

 

「私は…」

 

 ソラは大切な人を守れる忍びになる。ソラが掲げた夢の本質は、”里に住む人たちそれぞれの大切な人さえも守れる忍になる”という、彼女の大きな夢があった。それをソラ自身がずっと否定してきた。口に出すことを阻んでいた。

 

 ナルトが掲げた夢だから。

 

「そうじゃ、お主がその夢を追うということは___」

「私が火影になる」

 

 もうソラは迷わない。

 

 

 

 ソラはナルトを探しに一楽のラーメンへと足を運んだ。ナルトの住むアパートに行く道中にあるからついでに探していると、そこには違う人影があった。

 

「イルカ先生」

「あ、ソラじゃないか」

「イルカ先生はラーメンですか?」

「ああ、ソラも食べていくか?」

「ええっと、用事があるので」

「いいから遠慮すんな」

「ナルトくんにですね…」

「なら丁度いい」

 

 イルカに引っ張られ、一楽の暖簾をくぐると中にはナルトがいた。待ち人来るというよりは待ち人居たという感じだ。

 

「あれ?ソラちゃんもラーメン食いにきたのか?」

「ナルトくん…」

 

 ソラは少し想定外の場面であり、決心したことを告げるタイミングを見失ってしまった。

 

「ナルトに用があったんだろう?」

「…」

 

 何をいえばいいのかわからず、少し黙り込んでしまう。

 

「俺に用?」

「もしかして?」

 

 イルカの言葉にナルトと一楽の店員であるアヤメが反応する。ソラはアヤメの疑心を即座に感知する。

 

「アヤメさん、そういうことではなく。真面目な話なので」

「またまた、馬に蹴られたくないので黙っていますね?」

「人の話を聞いてください」

 

 アヤメはソラがナルトに告白しようとしていると勘違いしてしまったらしい。それをようやく理解したイルカもまた勘違いし、あたふたし始める。少女の一大決心に親心を見せているようだ。

 

「…イルカ先生?」

「ソラ、俺のことは気にするな。うん、空気だと思ってくれ」

「私のこと空気扱いしていた先生のセリフはなかなかにユニークですね」

「ぐはあっ」

 

 ソラの予想外の方向からの攻撃に、イルカが地に手をついてうなだれる。ナルトはそれに目もくれずにラーメンをすする。ソラもまたイルカのお金でラーメンを頼む。

 

「Cランク任務の報酬ですか?」

「ん?んぐ、そうだってばよ!Cランク任務達成で奢ってもらってたんだってば!」

「そうですか…」

「そういえば、俺に何か用なのか?」

「食べ終わったら話します」

 

 ソラは静かにラーメンを食べ始める。隣でおかわりしているナルトはすでに4杯目だ。これではイルカの財布に大打撃である。おかわり1回に替え玉1回頼んでるナルトの腹はもう十二分以上だろう。それでも別腹と言わんばかりに食べる。

 

「ごちそうさま」

「はやっ!?」

「イルカ先生、ごちそうさまです」

 

 俺のお金…、と呟いてうなだれているイルカを半ば無視して、ソラはナルトが食べ終わるのを待った。

 

「イルカ先生ごちそうさま!」

「はいはい、どういたしまして」

 

 元気のなくなったイルカは目から汗を流しながら麺をすする。うまいなあ、と哀愁漂う声には店主のテウチも苦笑いである。

 

「少し席を後にしますね」

「え?ソラちゃん?」

 

 ソラに引っ張られてナルトも席を立つ。さすがにナルトも困惑してこれって告白だろうか、と疑い始める。俺にはサクラちゃんという心に決めた人が…、と呟いているナルトをまったく人気のない場所に連れ出す。

 

「私はナルトくんにどうしても言わなければならないことがあるのですが…、何から話したらいいのでしょうか…」

「ごくっ」

 

 真剣なソラの表情にナルトは直立不動、珍しく姿勢が整う。

 

「ナルトくんには言っていませんでしたが、私には夢があります」

「え?」

 

 考えていたことと違う話の切り出しにナルトは虚を突かれる。

 

「大切な人を守れる忍になることです」

「大切な人…」

 

『人は大切な人何かを守りたいと思った時、本当に強くなれるものです』

 

 白の言葉がナルトの脳裏を横切る。

 

「私は木の葉の里が好きであり、嫌いです」

「え?」

「でも、この里は私にとって大切な人たちの住む場所でもあります」

「…」

 

 ナルトはソラのいつものソラではないことに違和感を覚える。ソラは目を閉じる。自分の言葉を自分で噛み締めているかのようである。

 

「大切な人を守れる忍って何でしょうか?ナルトくんならわかりますね?」

「それって…」

 

 ナルトの視線は自然とソラの背後にある顔岩に移る。ナルトも直感が悪い方ではない。ソラの言わんとしていることを察知できた。

 

「…ソラちゃん」

「ナルトくんは友達です。だから、言っておかなければならなかった」

 

 ソラは目をゆっくりと開いた。

 

「私も火影になりたい」

 

 ナルトの顔が驚愕に染まる。

 

 そして、時が止まるかのように周りの空気が静まるのを2人は感じ取った。

 

 ナルトにとってソラは特別な間柄がある。アカデミー時代に最初に話しかけられ、最初に遊び、最初に友達になった友人。そしてどんなに惨めな思いをしようともソラは決して自分を笑わなかった。もともとソラが笑顔を見せることは少ないが、それでも他人を嘲笑うようなことは一切しなかった。そんなソラだからこそ、ナルトは心を開くことができた。特別な友達、親友といって相違ない。そのソラがわざわざ自分に会いに来て、火影になりたいと言ったのだ。それがナルトには衝撃的であった。

 

「私はちょっと前までナルトくんの夢を応援していた。でも、それは自分の夢を諦めることになる。私は本当は火影になりたかった。木の葉を変えたかったって、思い出した」

 

 ソラの独白を一言一句聞き逃さない。

 

「木の葉が好き。でも嫌いなこともあるから、それを変えたいってナルトくんに会うまでは思ってた。でも、いつの間にか、ナルトくんの夢を応援していて、自分を抑えていました」

「そうだったんだ…」

「でも、もう私は決めたから」

「うん!」

「ナルトくん、今日からライバルだからね」

「わかったってばよ!!!」

 

 一際大声でソラに返事をする。

 

 ナルトは嬉しかった。

 

 ソラは親友ではあるものの、性別が違ったり、近いようで遠い存在と距離感が最も掴めなかった。サスケやサクラとはまた異なり、それでいて距離感を掴み損ねていた。それが一気に縮まり、そして自分を本当に認めてくれている。イルカや第7班のメンバー以上にそれを感じ取った。木の葉丸にもライバル視されたが、それ以上に自分を認めてくれている。

 

 どうしてだろう。

 

 いつも自分を認めてくれている友人。それが不思議でならない。蒼井ソラは自分以上に自分を理解する。でも、ソラだから。それでナルトは結論付けられる。それ以上は別に追求することではない。

 

 そして、もう1つ重要なことがある。木の葉の里が好きであり、嫌いである。その言葉にナルトはさらに共感できた。ナルトにとって木の葉の好きの比重はソラとは真逆だろう。好きな部分は少ない。嫌いな部分が多く見える。でも、ソラも同じように里を嫌いな部分がある。ナルトは自分と同じだ。同じ思いをしているから、すんなりとソラが火影を目指すことを理解できた。

 

「へへっ」

「どうしたの?」

「なんだか嬉しいんだってば」

「そう」

 

 ナルトは手を頭の後ろに組み、にしし、と笑う。ソラはその横を歩く形で一楽のラーメン屋に足を運んだ。

 

 

 

 物陰からナルトとソラの動向を気になって覗いていたイルカは、ソラの決心に驚愕した。そしてそれをナルトに伝えに来ていた。そしてそのことを嬉しいと言うナルト、前にカカシにもうナルトはあなたの生徒じゃないと言われた。その通りだ。人は成長する。イルカはもう、手間のかかるナルトと実は問題児だったソラの成長に感嘆した。そして最もナルトを身近に見てきたイルカにとって、ナルトを認めてくれるソラの存在は嬉しいものだった。

 

「な、なんかちょっと覗いちゃいけなかったような…」

 

 一楽をほっぽり出してきたアヤメは自分の想像とは別の熱い友情に触れてしまったことを後悔した。これって見ないほうが良かったのではと考え、それが口に出る。

 

「あはは、そうですね。無粋なことはやめにして戻らないと…」

 

 イルカは嬉しく笑顔を浮かべるが、その背後はわずかに寂しさがあった。




ようやく主人公し始める。
すごい難産でした。新章として一発目にソラの一大決心を書いておきたく、少しだけ時系列が矛盾したため、回想を使ってみました。


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