暁のスイーパー 〜もっこり提督と艦娘たち〜 (さんめん軍曹)
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プロローグ
動き出す歯車!XYZは魔法の言葉


皆様、初めまして。
そしておはこんばんにちは、さんめん軍曹です。

今までいろんな作者様の艦これ作品を拝見させていただきましたが、自分でも書いてみようと思い、まだどこにも出ていないもっこりスイーパーをチョイスしましたw

これからも皆様の満足に答えることができるように努めてまいります。

では、本編どうぞ!


「ーーーー深海棲艦は、現在も侵略を続けておりーーーーー」

 

 

 

新宿東口。

 

ここは日本最大級のターミナル駅であり、多くの買い物客やサラリーマンで賑わう場所である。

そこにとある女性がやって来た。

 

「今日こそは依頼が来てるといいわねぇ…。ここんとこ最近、仕事がなさ過ぎて貧乏生活まっしぐ…」

 

「キャーーー!!!!」

 

彼女が日頃の愚痴を吐き終わらないうちに、女性の悲鳴が聴こえて来た。驚いて振り向くと、そこには

 

「どこに顔突っ込んでんのよ、このドスケベ!!!!」

 

なにやらキレている様子の若い女性ともう一人、

 

「ん〜〜、可愛いお尻ちゃん♡」

 

スカートの中に顔を突っ込み、変態発言をぶちかましているガタイのいい男が攻防戦を繰り広げていたのである。

 

「ね〜〜いいでしょ〜〜??ホテルでもっこりしよ〜〜?」

 

「この…大変な時に女へナンパする奴がどこにあるか!!喰らえ100tハンマーー!!!!」

 

どこからか出て来たハンマーを手にして、立ち向かって行く彼女。

それを目にした彼は、

 

「かっ、香!!これは誤解だ!!!!」

「問答無用!この万年色情狂!!」

 

と逃げて行くが、香と呼ばれた女性はそれを気にせず弾き飛ばしたのである。

 

派手に地面とキスをした彼が頭を上げると、そこには掲示板があった。

イマドキの駅に掲示板とはこれまた珍しいわけであるが、わざわざ残されているのには訳がある。

X、Y、Zの3文字。これがこの看板の存在意義であり、ここになくてはならない理由でもあったのだ。

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、都内某所ーーーーー。

この煉瓦造りのレトロで巨大な建物は物々しい警備が施されており、都会の真ん中では一際異彩を放っていた。

それもそのはず、ここは日本の防衛を司る場所、大本営であるのだ。

先程のニュースキャスターが述べていた通り、突如現れた謎の艦隊による侵略で今、日本は脅威に晒されている。

政府はそれを“深海棲艦“と名付けた。

 

「元帥閣下、彼はやってくれるのでしょうか…?」

「案ずるな、大将。彼なら、いや彼らならあの忌々しいブラック提督達を、そして日本を救ってくれる。わしはそう信じておるよ。」

「しかし…」

「まあ、今は彼らに頼るしかない。なにしろ、深海棲艦がこちらに攻めている今、表立って行動するわけにはいかんのだから。」

「はっ、失礼致しました。では、私は持ち場に戻ります。」

「うむ、ご苦労であった。」

 

大将が去ると、そこには1人の秘書と元帥の姿だけが残った。

 

「良かったのですか?」

「何がだ?」

「一般市民にこのような重大な任務を任せても?」

「構わんよ、“大和“。一般市民とはいえ、彼らは裏の世界の人間。わしらよりも遥かに場数は踏んでおる。それに…」

「?」

「“シティーハンター“、“冴羽獠“。彼とはちょっとした縁があってのう。」

はっはっは、と笑い外を眺める彼を、彼女は首を傾げつつ見るのであった。




さて、いかがでしたか?

文才は全くありませんが、読み易かったでしょうか?
更新頻度は少なくなると思われますが、頑張って書きますのでよろしくお願いしますb


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ハードボイルド編
追われる少女!都会のスイーパーは神出鬼没【前編】


こんばんわ、さんめん軍曹です。
お待たせして申し訳ございません。
実は今、就活で忙しい身ゆえ、亀更新になるかと思います…

今回は獠と艦娘の出会いを書いてみました。
ヒントは落としますがまだ名前は出て来ません…
焦れったいと思われるかも知れませんが、個人的にはこの展開の方が楽しいかと思いましたのでご勘弁ください…;

では、本編どうぞ!


獠と香は掲示板で依頼をチェックした後、そのまま買い物を終えて自宅に戻る事にした。

愛用のミニクーパーで走行中に、香が先程から抱いていた疑問を口に出す。

 

「しかしあの依頼、怪しいわよね」

「あん?」

「『XYZ 至急連絡求む。昔の友人、日の丸より』…電話番号なんか書いてないのに連絡しろったって、無理な話でしょ」

「あー、ありゃ大本営からだ」

「はぁ?!」

「昔の友人日の丸と言えば、かなり前にちょっとした事で関わった人物がいてな。今は元帥らしいが」

「一体どんなことでお偉方、しかも日本を守るトップと知り合ったのよ?!」

「お前とパートナーを組む前、まだ槇村といた頃にな。あっちのゴタゴタを解決しに行ってたのさ。」

「アニキと?」

「そっ、槇村が刑事になったきっかけも、どうやらその元帥殿にあるらしいぞ。その伝手で依頼が来たんだっけな。そう言えばあいつらは元気にしてるかな」

 

香は思考が追いつかず、考えることを放棄した。

 

「おーい香ぃ、大じょ…ん?」

 

獠がフリーズした香に声をかけようと左へ向いた瞬間、3人程の男に追われている少女が目に入った。

 

 

やっとの思いで脱走したんだ。あの子たちのためにもここで捕まるわけにはいかない。

そう思った彼女はすぐに見えた裏路地に入っていったが、そこは行き止まりだった。すぐに振り向いたが、目の前にはサプレッサーを装着している拳銃を構えた男たちが立っており、なす術もなく後ろの壁へと追い詰められて行った。

 

「やっと追い詰めたぞぉ。さんざっぱら手こずらせやがって、この腐れ兵器が」

「お前が艤装を展開してない間はただの人間と一緒さ。抵抗なんざしてみろ、こいつが火を噴くぜ?」

「さ、大人しく付いてきてもらおうか」

 

兵器と呼ばれた彼女はピクリと眉を動かしたが、

 

「アンタらみたいなハゲ散らかしたゴミに殺されるのも癪だけど、クズ提督の所に戻るよりかここで死んだ方がマシだよねー?」

 

と言い放った。

 

「な…んだと?」

「あのクズの下でしか動けない奴らをゴミって呼んで何が悪いのさ?正直笑えないよね〜」

「……てめぇ…この俺達に向かってそんな口を叩いた事を後悔させてやる…!」

 

禿げ上がった額に青筋を立てた男は、少女に向かって銃を構えた。ここまでか、と観念した彼女は目をギュッとつぶりながら

 

(あはは、もうここまでみたい。ごめんね。提督、熊野。そしてみんな…)

 

と、自分の死を受け入れようとした。だが、それを運命が許さなかったのだ。

 

「あー諸君。ちょっと待ちな」

 

少女が驚いて目を開けると、そこには赤いシャツに水色のジャケットを羽織った男が立っていた。




いかがでしたか?
少女がいったい誰か、わかった方もいるのではないでしょうか…w
自分が今一番、獠と最初に会わせてみたい艦娘ランキングトップですw
また別の展開にする予定でしたが、書いたデータが消えたので書き直すついでにガラッと変えてみました。
それがなければもう少し早めに上げられたかと思います
(申し訳ございません…)

では、またお会いしましょう!


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追われる少女!都会のスイーパーは神出鬼没【後編】

こんにちわ、さんめん軍曹です。

獠を提督にしようと考えていて、2つの大きな問題が。
まず1つ、これはご感想にも指摘をいただいたのですが、艦娘達といれば獠のもっこりは止まらないということ、そしてもう1つは、獠に書類仕事は似合わないということです……!!

なんとかせねばと考えたところ、1つ目に関しては押さえ役として香とか他にそれに向いてそうな艦娘たち(槍を持った軽巡のおねいさん等)
もう1つは、彼は先生もやっているし何とかなるだろうと…
かなり無理やりですけど、そこはご都合主義って事で勘弁してください…!

かなり長くなってしまいましたが、本編どうぞ!


「あー諸君、ちょっと待ちな。」

 

危ないところだった。もう少し遅ければ確実に少女は撃たれていただろう。顔は暗くてよく見えないが、おそらく女子高生だ。死ぬにはまだ早すぎる。

獠はそんなことを考えながら言葉を続けた。

 

「女の子をナンパする時は優しく扱えと、パパに教わらなかったのか?」

「んだと?」

「そんな拳銃(おもちゃ)なんか振り回したって、誰も誘いに乗っちゃくれないさ」

「あ?お前、これがホンモノに見えねぇのかよ」

「俺にはただの鉄クズにしか見えないね」

「そうかい…。なら、てめぇから先に死んでもらうぜ!」

 

男達が一斉に狙いを定めるやいなや、獠はショルダーホルスターから愛銃を引き抜き、相手の銃口に1発ずつ叩き込む。その途端に3人の拳銃が爆発して、それを文字通りただの鉄クズに変えた。

 

「があっ…!」

 

男の1人が獠を見ると、彼の手には硝煙を上げながら鋭く光るコルトパイソンが握られていた。

 

「どんなに性能がよかろうが、素人が持てばただのオモチャと同じさ。さて、この銃にはあと3発残ってる。これでお宅らの脳天に1発ずつブチ込めるが、あいにく女の子の前で残酷シーンは見せられない。失せろ!」

 

獠の殺気に恐れをなした悪党らは、一目散に逃げていった。

 

「フッ…大丈夫かい、お嬢さ」

「あーーーーーー!」

「ぬぉうわっ?!」

 

突然叫び出す少女。

何事かとそちらを向けば、彼女は目を丸くし、口をパクパクさせてこちらを見ていた。

 

「獠ちんじゃん!」

「ん?俺の事を知ってるのか?」

「アタシだよ!ア・タ・シ!」

 

はて、前に会ったかな、と思いながら彼女をよく見てみる。

透き通るような薄緑色の髪に、黄色がかった瞳。ここで獠は思い出した。

 

「まさか…お前は鈴谷か!」

「ピンポーン!あったりー!やっと会えたじゃん?」

「やっと会えた?いったいどういう…」

「りょーーーーーーーう!!!」

 

彼が振り向くと、ハンマー片手に鬼の形相をした香が立っていた。

 

「げっ、かっ、香」

「JKを路地裏に連れ込んでいったい何をしようとしてたんだこの変態!」

「はっ、早まるな!!」

 

獠が言い終わらないうちに、単装砲と書かれたハンマーが彼の顔面に直撃した。彼は地面にめり込み、その一部始終を見ていた鈴谷は冷や汗が止まらなかった。

 

「安心して、この変態をすぐにあなたから遠ざけてあげる」

「あの獠ちんを1発で… あなた艦娘じゃないのに艤装が出せるの?」

「へっ?あなた獠の事知ってるの?!と言うか艦娘ってあなたが?!」

「そう、鈴谷は艦娘さ。」

 

2人が声のした方向を向くと、獠が復活していた。

 

「はっやーい…」

「俺のところに来たって事は、さっきの大本営からの依頼に関するものか?」

「えっ、なにそれ?鈴谷それ知らないよ?獠ちんに用があったのはマジだけど」

「えっ…じゃあさっきのはやっぱり偽物?!」

「それはないな。ただ、なんか裏がありそうだ。何があった?」

「うん、実はね…鈴谷、鎮守府を脱走して来たんだ」

 

突然の言葉に、2人は硬直した。

 

 




さあ、やっと名前が出て来ました。
そう、鈴谷さんです!!
獠と絡ますなら、まずは明るく活発な彼女からかなぁ、と思いました。ちなみに私はまだゲットしておりません…!

そして、そのうち冴羽ファミリー(?)にも出演していただきますw
誰から出てくるかはお楽しみ、ってことでw

チャンネルは決まったぜ?(違)


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悲しみの艦娘 獠の心が震える時

本日2度目のさんめん軍曹です。こんばんわ。
意外と指が進みまして、投稿できるレベルまで来てしまったので連続で投稿させていただきます。

では、本編どぞ!


「さて、詳しい話を聞かせてくれないか?」

 

ここは獠の自宅。新宿の区役所通りにあるこの煉瓦造りの建物は、現在の建物と比べると実に浮いていた。だが、一階部分にはガレージ、地下には射撃場に武器庫など、裏の世界の人間が住むにはふさわしい設備がそこにはある。

3人はリビングの中央にある木組みのテーブルに腰掛けており、それぞれコーヒーや紅茶を飲んでいた。

 

「いいよ。まず、鈴谷がいる鎮守府は知ってるよね?」

「ああ」

「実はね、2年くらい前に元々いた私たちの提督が殺されたんだ」

「なんだって?」

「獠ちんが知らないのも無理はないよ。表向きは深海棲艦の戦闘に巻き込まれて死んだ事になってて、外部のマスコミには漏れないようにもみ消されたし」

「しかし、何であいつが殺されなくちゃならないんだ?誰にも恨まれるようなやつじゃ…」

「うん。でもね、殺される直前に提督はこっそり秘書艦だったアタシだけに言ったの」

 

『鈴谷、聞いて欲しいことがある』

『なーに?どしたの』

『この間、出張で大本営に行ったろ?』

『うん』

『その時にな、偶然通りかかった部屋の前で大隈中将の話を聞いてしまったんだ。全国の鎮守府を乗っ取り、艦娘どもを奴隷にする、と』

『え?』

『今、彼らの息がかかっている鎮守府は全て前任の提督を暗殺してのことらしい。俺もいつ殺されるかわからん。鈴谷、もしそうなってしまったらここにいるみんなを守って欲しい』

『何言ってんのさ。弱気になるなんて、提督らしくないじゃん?それに…』

『いや、いくら俺が元傭兵だからと言っても、相手は一筋縄ではいかない奴らなんだ。俺も気をつけるが、いつまで持つかわからん』

『そんな…そんなのって…!』

『鈴谷、よく聞いてくれ。俺はあんな奴らに殺されるつもりなど毛頭ない。だが、本当に今回ばかりはわからないんだ。だから、俺がいなくなっても彼女達を、俺の娘達を守って欲しい。責任を押し付けるようですまないが、俺が唯一愛したお前ならやり遂げてくれるだろう』

『提督…』

 

 

「最後に提督が言った言葉はね、『困った事になったら冴羽を頼るといい、奴ならきっと力になってくれる』って。ここの住所の紙も渡されたし、提督の字だからお守りとして取っておいたんだ。でも、その次の日に、提督は、乗っていた車ごと砲撃されて…!」

 

そこまで言うと、鈴谷はぽろぽろと涙を零した。

 

「だから獠ちん、お願い。鈴谷を、鎮守府のみんなを助けて…!」

 

そこで何かが切れたのか、わーーーーっと泣き出す鈴谷。

いつの間にか隣に座っていた香までもが、

 

「酷い…酷すぎる!こんなのってあんまりだわ!」

 

と、号泣していたのである。

 

そこまで黙って聞いていた獠。しかし、いつもの様子とは違っていた。

彼が本気で怒っている。ここまで露骨に怒りを見せたのは、相棒であった槇村を殺された時以来だ。最も、獠は単身赤いペガサスのアジトへ乗り込み、壊滅させたが。

 

「そうか、そうだったのか…。鈴谷、今まで辛い思いをして来ただろう。安心しろ。俺の戦友に手をかけた奴らを、君たちを苦しめてる奴らを、俺がこの手で潰してやる…!」

 

彼は立ち上がると、わんわん泣く鈴谷をそっと抱きしめた。

 

「獠、そんなあなたにちょうどいい話を持って来たわ。」

 

玄関から突然飛び込んで来た声。香でも、鈴谷でもない女のそれは、全員の注目を呼ぶには充分であった。

 

「お取り込み中悪いんだけど、お話に出ていた大本営からお客さんが来てるのよ」

「こ、こんにちは…。冴羽さん…ですよね?」

 

玄関には警視庁きっての敏腕女刑事、野上冴子の姿と彼女に連れられた“あの“大和がいた。

 




結構急展開になってしまいましたが、冴羽ファミリー1人目、冴子さんが登場しましたw
大本営とか、そう言う場所からの依頼だと彼女が横にいてもおかしくないなあと、そんな次第ですw
ちなみに、やや辻褄が合わない部分があるかと思いますが、そこはおいおい回収していきますので、ご了承ください。

腐敗組織壊滅に向けて獠が動き出す!悲しみに暮れながらも、無理して明るく振る舞う鈴谷を、そして、絶体絶命の艦娘達を救えるのか!相手があまりに強大すぎると判断した獠は、ある夫婦へと声をかける…
次回、題名はお楽しみ!

チャンネルは決まったぜ?


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艦娘とショータイム!弾丸〈タマ〉の嵐を駆け抜けて【前編】

こんばんは、さんめん軍曹です…

はい、やっちまいましたよ…
急に何かが舞い降りて、こんな短い時間で3話落とすというとんでもないことをしでかしてしまいました…

予約投稿を活用してみますかね…

では、本編どーぞ!


「冴子じゃないか。そこに大和ちゃんがいるってことは、大隈中将関連か?」

「そうね。そこの鈴谷さんがあらかた話してくれたけど、実は佐伯元帥からもあなたへ依頼が来てるのよ。大和さんはその交渉に来たってわけ」

「はい。元帥から以前、冴羽さんにはお世話になったことがあると伺っております。今回もその件に関して、お力をお借りしたいと」

「大和さん…」

「安心していいのよ、鈴谷さん。実はあなたの鎮守府の提督が生前、この事を駒場大将を通じて知らせてくれたの。元帥や大本営もこの事態は重く見てるわ」

「なるほどね。獠、この依頼は受けるの?」

「当然だ。だが冴子、俺1人だけじゃどうにもならん。お前の力も貸してもらうぞ」

「いいわよ。ただし、もっこり3発分はチャラにしてもらえるかしら?」

「ぐっ…い、いいだろう。ただし、まだ20発はあるからな…!」

「獠ちーん、そう言うハナシはここではしない方がいいと思うよ〜?」

 

こちらをジト目で見る鈴谷。この後、何が起こるかをすぐに察した獠の顔が青ざめていく。

 

「しっ、しまった!!」

「言われなくてもわかってるな?獠」

「ごっ!ごめなさっ」

 

三式ハンマーがホームランをかます時、獠の身体は地面にクレーターを作る。

 

「せっかくの雰囲気を台無しにしやがって…少しは恥を知れ!」

(私が言ったのがまずかったかしら…)

「はっ、破廉恥です!!」

「相変わらずブレないねぇ、獠ちんは」

 

割れた窓ガラスなど、いつもの光景なのである。気にする者は誰もいなかった。

 

 

それからしばらくして、とある喫茶店の前に二台の車が止まった。冴子のポルシェと獠のミニである。

 

カランカランと景気良くベルが鳴り、来客を知らせる。

「いらっしゃ…あら、冴羽さんに香さん。それに冴子さんまで。今日は大所帯ね」

「よう、美樹ちゃん!今夜一緒にデートしない?」

「はいそこまで」

 

美樹に飛びつこうとする獠の首根っこを、香が掴み阻止する。

 

「んがっ?!何すんだ、香ぃ!」

「るっさい!お前はまだハンマーを喰らいたいのか!」

 

言い争う2人をスルーして、3人はカウンター席に着く。

 

「ごめんなさいね美樹さん。コーヒー、お願い出来るかしら?」

「はーい、わかったわ。そちらのかわいいお嬢さんたちは?」

「鈴谷は紅茶で!」

「私も同じのでお願いします」

 

言い争いが落ち着いたところで、席に着いた獠が質問をする。

 

「そういえば美樹ちゃん。あのタコ入道はどうしたの?」

「ファルコンなら今、買い出しに行ってるわ。そろそろ帰ってくるんじゃないかしら」

「おーおー、あの図体に合わず使いっ走りか!接客する店員がかわいそうだなあ」

「余計なお世話だ」

 

全員が振り向けば、ピチピチのワイシャツに蝶ネクタイと言う、あまりにアンバランスな組み合わせのゴリマッチョが立っていた。

鈴谷と大和は飲んでいた紅茶を吹き出しそうになる。

 

「おかえりなさい、ファルコン」

「今帰った。だが、外に怪しい車が何台がいる。獠、お前が呼んだのか?」

「いいや、記憶にないね。しかし、この2人のストーカーである事には間違いなさそうだな」

「店の修理代は誰に請求すればいい?」

「あの…私たちが皆さんにご迷惑をおかけしてしまっているので、大本営から出るように手配します」

「冗談じゃないわ!私たちのお店を壊される前にやってやるのよ!」

「鈴谷達も協力するよー!やられてばっかじゃ割に合わないじゃん?」

「いい証拠がつかめそうね。腕が鳴るわ」

「仕返しというわけか。アタシも1発くらいお見舞いしないと気が済まないわ」

「海坊主、彼女達の艤装に使う弾薬はまだあるか?」

「大本営と言っていたが、艦娘なのか?」

「ああ、詳しい事は後で話す。だが、お前と美樹ちゃんの腕も借りたいんだ」

「フン!人使いが荒い連中だ」

 

 

 

獠たちがそれぞれの武器を手にした時、鈴谷が言った。

「まさか艤装があそこまで揃ってるとは思わなかった…」

「前に君達と協力した時に余った弾薬を俺の家に置くスペースが無かったんで、ここに置かせてもらったのさ」

「私の試製51cm砲まで…」

「気にするな。こいつに無理矢理押し付けられただけだ」

「気にしない方がどうかしてるじゃん?!」

 

「お楽しみ中のところ悪いが、そこにいる兵器どもをこちらに返してもらおうか?」

 

来たか、と入口を見れば黒スーツの男が2人、ゲスな笑みを浮かべながらこちらを見ていた。

 

 




海ちゃんご夫婦を巻き込んでの戦闘ですね。
冴子からとばっちりを受けていた獠ですが、1番のとばっちりはこのご夫婦ではないでしょうか…(汗)
シティーハンターならではのシーン。従来と違うのは、そこに艦娘がいるという事ですかね。
ですが、彼女らは土壇場まで何もしないでもらう予定です。なぜなら、街中で連装砲ブッ放したらクレーター作ったりビルを崩しかねないからです:(;゙゚'ω゚'):
そんな事したら流石の冴子さんや大本営でもカバーしきれないので…

あ、ちなみに一般市民は艦娘の存在を認知しています。
それが、1話目の冒頭のセリフと言えるでしょう。
ただ、あくまで艦娘という存在を「知っている」だけで、彼女らの顔とかは一切知りません。だからこそ、彼女らは街を普通に出歩けます。
最も、あくまでそれは都心部での話であり、地方ではその限りではない場合もあります。鈴谷の鎮守府は漁港の近くにあり、漁師さんたちは前提督からの馴染みなので艦娘達の顔も知っています。
ブラック提督になってからはこっそり、艦娘たちに支援をしています。

そこら辺の経緯に関しては、書けるところで書いていきたいなと思っています。

では、またお目にかかりましょう!


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艦娘とショータイム!弾丸〈タマ〉の嵐を駆け抜けて【中編】

こんばんは、さんめん軍曹です。
今回は前編含め3話構成の予定です。

そしてアクションシーンですので、表現にかなり気を使いました…
UAが2000超、お気に入りが41件と、大変嬉しい限りです。
それに加え、励ましのご感想もいただいて大変恐縮です…!

ちなみに今更ですが、設定は2016年辺りでアニメに準拠、獠の服装はアニメ1期&2期のものを使っています。
あとは、途中から皆様の脳内再生機能を拝借してMidnight lightningが流れます。タイミングはセルフサービスでw

では、本編をどぞ!


「いらっしゃいませ。ご注文は何にしましょうか」

「残念ながら、俺たちは客じゃない。そこの化け物供に用があるんだ」

「はて、化け物などどこにもおりませんが?強いて言うなら、私の目の前に猿供が二匹見えるだけですが。…客ではないのなら、こちらも遠慮する必要はないな」

 

殺気100%の営業スマイルを込めて、海坊主が接客を開始する。そして最後の言葉を合図に艦娘達は艤装を展開、全員が一斉に銃を向けた。

 

 

「遅い!あいつらいったい何してんだ?…お前、様子を見てこい」

「はっ!了解しました!」

 

下っ端と思われる黒スーツが店内へ行こうとした途端、変化が起きた。

ガシャーンと派手な音を立てて、人間が2人路上に飛び出す。

いや、正確には投げ出されたと言ったところだろうか。

外で待機していた敵どもが戦闘体勢をとるが、一瞬遅かった。

中から手榴弾が飛び出し、獠たちの車を掠めて反対側に停めてある黒のベンツに当たったのだ。

自分の足元に転がって来たそれを目視した男達は一目散に逃げ出す。そして、ベンツも巻き込んだ派手な爆発で敵があっけにとられている間に、獠と海坊主が飛び出し、海坊主がMG42、獠がパイソンと、反撃の隙を与えずに掃討していく。

 

獠達がそうしている間に、残りの女性陣はそれぞれの車に乗り込んだ。

特に艦娘2人は艤装を展開しているため、普通の弾丸では効果がない。そこで、彼女らを有事の切り札として、買い物に行った後そのまま停めてあった海坊主のM151に乗せた。

M151とは、いわゆるベトナム戦争に投入されたジープのことで、海坊主の所有している車は幌がないオープンタイプとなっており、艦娘達が遠慮なく砲を撃ち出せる構造である。

 

ミニを香、ポルシェは冴子、そしてジープの運転席には美樹が座っている。

3台のエンジン音を確認した獠たちは、ジープに飛び乗った。

 

「人通りがないな。まさかとは思うが…」

「ああ、そのまさかだ。ここら一帯はやつらの手で封鎖されているだろう」

「やっぱりな。鈴谷、相手の無線を傍受出来るか?何か情報がつかめるかもしれん」

「うん。実はねー、さっきからやってるよ。鈴谷たちを追って5台は来てるみたいじゃん?」

「後ろにいるガラの悪い車がそうじゃないかしら?」

 

バックミラーを見た美樹が声をかける。

後ろを振り向けば、確かに距離を取りつつ張り付いているベンツがいた。

 

「っかぁ〜〜、しつこいねぇ。どうする?」

「俺に任せろ」

 

海坊主は背負っていたグレネードランチャーを構え、後ろに向けてブッ放す。

榴弾は直撃して車を破壊するが、彼は不満な様子だ。

 

「フン!バズーカの方が威力はでかい。こいつは好かんな」

「んなこと言ってる場合かよ!車に乗ったらバックブラストでやられるって言ったのはお前だろうが!」

「るせぇ!女子供を傷つける真似はしたくねぇだけだ!」

「2人とも、喧嘩はやめてください!私が撃ってもいいんですよ?!」

「「道路に穴を開けるのはもっとダメだ!!」」

 

とても追われているようには思えない調子ではあるが、ここで獠のスマホが鳴る。相手は冴子からだ。

獠は話し終えると、全員に向かって呼びかける。

 

「冴子と香は先に例の場所に向かっているらしい!二手に分かれて、俺らが囮役をやれとさ!」

「あの女狐め!今度会ったらただじゃおかん!」

 

鈴谷と大和は同時に溜息をついた。

「「先が思いやられる…」」

 

 




獠と海坊主といえばドタバタですね。
そして海ちゃんにバズーカを持たせたかったのですが、バックブラストの問題がありあえてグレネードランチャーにしました。アニメだとバンバン撃ちまくってますよね(←ぉぃ)
海ちゃんといえばランクル!という方も当然いらっしゃるかと思いますが、私はどちらかと言うとアニメ版のジープが好きです。
ベトナム戦争モノの映画や他のアニメでちまちま見るこの車ですが、正式名称を知る方は少ないと思い、解説の意味も含めて書きました。

では、またお会いしましょう!次回もお楽しみに!


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艦娘とショータイム!弾丸〈タマ〉の嵐を駆け抜けて【後編】

こんばんは、さんめん軍曹です。

すっかり遅くなってしまい申し訳ございません…!
就活で色々とあって、ひどく疲れていました…

さて、それはさておき、これで艦娘との出会い編を終わりたいと思います…!
章ごとに区切る予定ではありますが、ある程度話の投稿が出来るまでお待ちください…!

では、本編お待たせしました!どうぞ!!


高速のインターで二手に分かれた獠達。

彼らは高速に乗り、目的地に行くことにした。その方が、追手を退治するのにもちょうどいいと考えた結果である。

案の定、敵は艦娘がいるこちら側に着いて来た。

 

「さて、周りが開けて銃が撃ちやすくなったから、奴らもそろそろ本気をだす頃じゃないか?」

 

獠がそう言うが否や、こちらに向けて弾丸が飛んで来た。ジープが仇となったのか、獠達は伏せたまま反撃できない。そこへ鈴谷が海坊主の銃をもぎ取り、

 

「鈴谷に任せて!」

 

と言うと、後ろに向かって引き金を絞った。

 

「おらおらおらァ!!獠ちん仕込みの射撃だ!!艦娘が海だけで戦うと思ったら大間違いじゃん?!」

 

と荒ぶる。艤装を身に纏っている艦娘に怖いものはない。ほぼ全ての弾丸がボンネットに当たり、火を噴く。

あっと言う間に全てを破壊した彼女はふふんと鼻を鳴らし、

 

「日頃の恨みはまだまだこんなもんじゃ済まないよ」

 

と言ったのである。

 

 

とある山中。ここには海坊主の2つ目のアジトがあり、分かれた2組は無事に合流した。そして先程のことを全員に話したところ、海坊主と美樹も獠達と同じ反応を示し、協力する事に同意をしたのであった。

そんなこんなで日も暮れたので一先ず解散となり、全員が席を立とうとした。だが鈴谷が立った途端、長い逃避行の疲れか獠に倒れ込む。

 

「おいっ、大丈夫か?」

「あはは…緊張から解放されたから、どっと疲れちゃった。入渠は出来ないだろうから、部屋に寝かせてくれると嬉しいな…」

 

獠が彼女をおぶって行く姿を見ながら、香は呟いた。

 

「あのもっこり男、鈴谷ちゃんに手を出すんじゃないかしら。心配だわ」

「あら、それはないわよ?」

「え?」

「彼女は獠の命の恩人なの。ちょっとした喧嘩はあっても、手を出すような真似はしないわ」

 

香達からすればあり得なかった。あのもっこり男が女性に手を出さないなんて。

確かに、パッと見は女子高生そのものだが、プロポーションは20代そのものだ。服を変えれば、幼い顔をしたそれでも通用する。そうなれば彼とて我慢できるはずがない。

 

「何がどうしてどうなってるのよ…」

「それはね…」

 

と、冴子は獠の過去について語り出すのであった…

 

 

鈴谷を寝かせた後、獠はベランダに出ていた。

1人で物思いにふけっていると、後ろから人の気配がする。

 

「誰かな?」

 

彼が振り返ると、大和が立っていた。

その凜とした出で立ち、だが控えめな立ち居振る舞いは、まさに日本を代表する戦艦にふさわしいと言っていいほどである。獠はいつもの癖で思わず飛びつきそうになるが、必死に抑えた。

ハードボイルドを決め込み、惚れさせようと決意しているのだ。

 

「大和ちゃんか。何の用だい?」

「冴羽さんと鈴谷さんが出会った頃のお話、野上さんからお聞きしました。改めて、あの子…いえ、私達艦娘を…」

「おっと、それを言うのはまだ早いぜ」

獠は大和の手を掴みぐいっと引き寄せた。

「あっ…」

「それより、俺と夜明けのブランデーでも…」

「おっと、そこまでだ」

 

獠の動きが止まる。錆びたロボットよろしく首をギギギと上にあげれば、そこにはハンマーを構えた香と後ろで腕を組んでいる海坊主、そしておでこを抑える冴子が立っていた。

 

 




鈴谷が荒ぶりました。くまのんもビックリですね。
前回で彼女が言った通り、艦娘だからってやられてばかりじゃいられない。そんな責任感が彼女を動かしてたんだと思います。
ですが、話の都合上ブラック提督と戦うまでもう少しお待ちください。
早くあいつを潰して日常回書きたい…()

次回、お楽しみに!
「また会おうぜ?」(だから違)


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さらば ハードボイルドストーリー【その1】

お久しぶりです、さんめん軍曹です。
およそ二週間ぶりですか…、長らくお待たせしてしまい申し訳ございません!
エントリーシートや説明会だらけの日々で、更新する暇が全くございません…
たぶん、これからも落ち着くまで多少時間をいただきますが、ご理解いただけると嬉しいです…

タイトルの通り、この話はほんの少しだけ2期のハードボイルドシティーの要素を参考にさせていただいております。
一応、この話で解決する予定ですのでそれにふさわしい名前を考えた結果、こうなりましたw
ネーミング、もうちっとなんとかなりませんかねぇ…(ぉぃ)

話は外れますが、一昨日3/19はルパン三世の1代目声優である故 山田康雄氏の命日。そして昨日は世界を震撼させた、あの日ですね。私はまだ生まれる前ではございますが、趣味を通じてこの事件を知りました。
ニュースを見て、こういった大きな事件を知る若者が少なくなってきている事を知り、時代の流れとはこうなんだなあ、と実感させられました。犠牲となった方々のご冥福を祈ると共に、風化させてはならない事をしっかりと覚えていきたいと思います。

さて、暗い話となってしまいましたが、長らくお待たせ致しました!
では、本編行っちゃいましょー!


ーーー寒い。寒いよ。ここは…どこ?

ーーーお前は…クズ野郎…!どうしてここにいるの?!なぜくまのんを抱えているの!やめろ!!すぐに離せ!

ーーー足に力が入らない!!なんで…?くまのんが連れて行かれる!早く助けないと…

誰でもいい…お願いだから鈴谷の妹を…誰か…

ーーー『待ってろ、すぐに助けてやる』

ーーー誰?!

ーーー『熊野だけじゃないさ。お前も、いや、艦娘全員を俺がこの手で救ってやる…!』

ーーー懐かしい声。そして何処か頼りになる、素敵な声。この声は、鈴谷の初恋のーーー

 

「……や!鈴谷!!」

 

そこで彼女の意識が覚醒する。ハッとして目を開けると、絆創膏を顔一面に貼ったボロボロの獠が見えた。

 

「ぎゃあっ?!」

「シッ!香にバレたらどうすんだ!」

「どーするもこーするも…。それより、なんで獠ちんがここに?」

「お前を寝かせた後、大和ちゃんをデートに誘ったら香にボコされたからここに来た」

「だから絆創膏なのね…」

「そうだ。次こそは…!」

「元帥を怒らせたくなかったらやめといた方がいーよー。それより香さんたちは?」

「疲れたから寝るとさ。冴子は帰ったが、外は海坊主が見張ってるしお前ももう一回寝ていいぞ」

「いや…遠慮しとくよ…また嫌な夢を見たらやだし」

「そういえばさっき、だいぶ酷くうなされてたな。大丈夫か?」

「鈴谷的にはだいじょばないかも。なんか嫌な予感がする」

 

鈴谷がそういった途端、人の気配がした。それも、ここにいる人間のそれではないものが。2人はその気配を感じとるのが少し遅かった。

 

 

(あんの煩悩男、性懲りもせずに鈴谷ちゃんにまで…!)

獠に喝を入れてやろうとハンマーを手にジリジリと近づく香であったが、後ろから近づいて来る2つの影に気がついていなかった。

 

「もがっ!?ほがむご!」

 

香はハンカチで口を抑えられ、すぐに拘束された。この手際の良さはただの人間ではなく、訓練されたに違いない。

普通ならパニックに陥る状況ではあるが、彼女が咄嗟にそう判断できたのも獠と長い間付き添って来たお陰だろう。だが、そんな彼女でも麻酔薬を染み込ませたハンカチには勝てなかった。

麻酔薬を吸い続け、ついに意識を失った香はそのまま車に乗せられ連れ去られてしまったのだ。

 

獠達はあと一歩のところで奴等を逃してしまう。

だが、持つべきものは腐れ縁だろうか、車に乗った海坊主が駆けつけて来た。

 

「乗れ、このまま逃しておくわけにはいかん」

「海ちゃんナイス!あとで鈴谷のおっぱい触らせたげる」

「な?!おっ…!?」

 

海坊主の頭から蒸気が出る。

 

「うっそぴょ〜ん!にへへ、海ちゃんて、見かけによらずウブな感じぃ〜??」

「るせぇ!!ガキが調子にのるな!さっさと乗れ!!」

 

顔を真っ赤にして怒鳴る海坊主と、いつもの様に振舞おうとする鈴谷を見て獠は複雑な気持ちであったが、今は笑いをこらえる事に集中した。

 

 

ーーー同時刻、とある鎮守府。

 

「鈴谷は確保せず、シティーハンターの相棒を連れ去ったと」

「はい、提督殿。いかがなされますか?」

「そのままこちらへお連れしろ。大事なお客様だからな、奴を誘き寄せる材料になる」

「承りました。仰せのままに」

「俺はこのまま例の部屋へ行く。後は頼んだぞ」

「…了解」

「シティーハンター、冴羽獠。奴を殺せば、俺の名は世界に轟く」

くっくっく、と笑う極悪人を前に、1人の兵士は微妙な顔をしていた。

 

それからしばらくして、鎮守府の地下にある留置場ーーー。

 

ーーーーここは寒いですわ。鈴谷が脱走してからというもの、私はここの部屋に閉じ込められました。足音がどんどんこちらへ近づいて来る。また、鞭で叩かれるのでしょうか。嗚呼、一体いつまで、この辛い時間は続くのかしら…

 

地下にある暗い独房の中、ポニーテールは乱れ、ボロボロになった服に生傷だらけの身体の少女は、天井から吊るされながらもそう思っていた。

 

ギィ、と扉が開けば、そこには豚の様な体型をした人間が鞭を手にして立っている。

 

「さぁ熊野、お仕置きの時間だ。あのバカ娘が戻って来るまで、な」

 

あぁ、また来てしまったか…、とこれから来る地獄を覚悟して目を瞑った刹那、事態は急変した。

轟音と共に建物が揺れ、パラパラと石が落ちて来たのだ。

2人は何が起きたのか、さっぱりわからなかった。

 

 

 

 

 




くまのん登場、極悪非道な提督に虐待を受けております(熊野ファンの方、ごめんなさい)

そして、いつも通りの展開ですねw


事態は急展開!不意をつかれた香は謎の2人に連れ去られてしまう!
しかしそれは、鈴谷たち艦娘を酷い目に合わせている極悪人の部下だった。待ってろ、俺たちが今すぐに助けてやる!

果たして、熊野の運命はどうなるのか!
鎮守府を強襲した獠たちは、鎮守府の艦娘を無事に救えるのか?!

次回、さらば ハードボイルドストーリー【その2】
また会おうぜ?(見ないとハンマーよ!)


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さらば ハードボイルドストーリー【その2】

こんばんは、さんめん軍曹です。

ひとまず落ち着いたので、ちょくちょく投稿できるかと思います。
しかし、日に日に文章力が落ちていってる気がしますね…

でも、踏ん張って書いているので、どうか温かい目で見てやって下さい(何様)

では、早速本編いきましょう!



建物が揺れる少し前ーーー。

 

 

「獠ちん、あいつら見失っちゃったけどどうするの?!」

「大丈夫、あいつをさらったのは大方お前の鎮守府の奴等だろう。なら、このまま直接本拠地へ出向くまでさ」

「でも、どうやって?」

「簡単だよ、お前らに大暴れしてもらう間に俺が閉じ込められてそうな場所に乗り込む」

「そしたら、地下の懲罰房が怪しいかもじゃん?もしかしたら他の子も閉じ込められてるかもしれないから、その時は助けてあげて!鈴谷の超一生のお願い!マジで!」

「言われるまでもない、艦娘はこの手で全員助けてやる!そしてモッk…」

「最後が余計じゃーーーー!!」

 

獠の後頭部に鈴谷のパンチが炸裂した。

 

 

「獠、鈴谷。門が見えて来たぞ」

「んじゃ、鈴谷が1発お見舞いするじゃん?」

「やけにノリノリだが、自分の場所を破壊していいのか?」

「心配ないよ?妖精さんに修理して貰えばいいしー」

「あぁ、そう…」

「さてさて、突撃いたしましょう!」

 

そう言うと、鈴谷は艤装を展開した。

 

「目標は正面!……今だ、撃てっ!」

「うりゃあっ!」

 

獠の掛け声を合図に、鈴谷の連装砲が火を噴いた。

砲弾が門に直撃すると、轟音と共に木っ端微塵に吹き飛ぶ。

鈴谷はそのまま艤装にある無線機をオンにすると、仲間たちに向かって呼びかけた。

 

 

『ただいま、みんな!待たせちゃってごめん!助っ人を連れて助けに来たよ!どっか安全な場所に避難してて!』

 

何事かと飛び起きた艦娘達の耳に、鈴谷の声が響く。

もちろん、その声は熊野の耳にも届いていた。だが、身動きが取れない。そう思った直後にショートカットの女性が目の前に転がされた。疑問に思い極悪提督を見ると、

 

「しばらくその女と一緒にいてもらおうか」

 

とだけ言って、出て行ってしまった。

よく見れば寝間着姿の彼女は、どうやら寝てる間にさらわれたらしい。だが、ここに来た途端に襲撃があったらしく、拘束はされていない。

 

「ん〜、う〜ん」

「もしもし、そこの方!起きて下さいまし!」

「んぐ…はっ!…ここは?」

「お目覚めになられましたか。私の名は熊野。ここは横須賀鎮守府ですわ」

「んっ、これはご丁寧にどうも…。よこすか?はてどっかで…」

 

考える香であったが、1つ思い当たる節を見つけた。

 

「もしかして、鈴谷ちゃんの鎮守府なの?」

「あなた、鈴谷をご存知ですの?!」

「うん、獠の古い友人で、うちに助けを求めて来たんだけど…」

「獠、というのは、もしかして冴羽様のことでございまして?貴女はいったい…」

「やっぱり獠を知ってたか。申し遅れたけどアタシは槇村香。獠のパートナーよ」

 

お互いに自己紹介を済ませるが、足音が聴こえてきて、やがて扉が開いた。2人が見るとそこには、1人の兵士が立っていた。彼が中に入ってくると、マスターキーで熊野の鎖を外す。

自由になった熊野だが、思うように立てずに兵士に倒れ込む。

 

「いったいどういう風の吹き回しですの?」

「説明は後だ。今は逃げるぞ」

 

動けない熊野を、兵士は抱え上げた。いわゆるお姫様抱っこの状態になった彼女は赤面したが、3人で逃げている途中、彼の脇に納まっているものに気が付いた。

 

「あら?その銃、もしかして貴方は…」

「おっ、気付かれちまったか?」

 

香がふと見ると、確かに見慣れたものが納まっていた。

 

「もしかして…獠?」

 

 





今のところ、さらば要素がどこにも見当たらない…w
でも、入れるべきところで入れていきますので、どうかお楽しみにしてください!

さあ、いよいよクライマックス突入ですね…
果たして彼女らに平和は訪れるのでしょうか…!

乞うご期待、です!


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さらば ハードボイルドストーリー【その3】

こんばんは、さんめん軍曹です!

今回は二倍盛りにしてお送りいたします!
新年度と、長らくお待たせしてしまっているお詫びとして…(汗)

その分、ボリュームはあるかと思いますので、どうぞごゆるりとお楽しみください!

では、本編どうぞ!




 

 

獠達が香奪還の為に出ていった後、海坊主のアジトでは大和が冴子と電話をしていた。

 

「物音がして目が覚めたら、冴羽さん達が車で出て行くのが見えました。香さんは乗っていなかったので、おそらく鎮守府の人間に誘拐されたものかと」

『そう、わかったわ。私は今から大和さんと美樹さんを迎えに行くわね』

「お待ちしています」

『それから、お願いがあるんだけど…』

 

 

「よぅ、熊野ちゃん、香。元気してた?」

「冴羽様!」

「獠!」

「感動の再会に浸るのはあとあと。さっ、行くぞ」

 

そう言うと、熊野を抱えたまま走り出した。

それと同時に追手が後ろから撃って来たので、右に見えた角を曲がって一旦退避をすると獠はすぐに顔を出しパイソンを敵に向かって撃つ。敵はどんどん倒れて行くが、一向に数は増えて行くばかりだ。

 

「このままじゃ埒があかないわ。その扉の奥に入りましょ」

 

香が提案したので、そうする事にした。最後に獠が入ると同時に扉を閉める。

 

「ここは…」

「提督室だな。なーんか嫌な予感がするぞ。…熊野ちゃん、立てるかい?」

「…先程はバランスを崩してしまいましたが…なんてことないですわ。ただ、中破してるから入渠は必要かしらね…」

 

そう言って自分で立とうとする熊野であったが、やはり後ろに倒れこんでしまった。彼女を香が支えるが、艦娘といえど艤装がない生身の状態では厳しかったのだ。

 

「私とした事が、艤装がないのをうっかり忘れてしまいました。生身ですと流石にキツイですわね…」

 

その時、背後からカチリと音がした。

すぐに反応した獠は2人を庇いながら銃を抜くが一瞬遅く、相手は引き金を引いてしまった。

彼も同時に撃つが、敵の銃口から飛び出した弾丸はそのまま真っ直ぐ左肩を貫き、獠が撃った弾は制帽を弾き飛ばした。

 

「ぐっ…!」

「獠ーーー!!」

「来るな!俺は大丈夫だ!!」

 

駆け寄ろうとした香を止めようと振り向いた獠。だが、振り向けば熊野の顔が驚愕に満ちていた。

それを不思議に思い熊野と同じ方向を向けば、彼もまた驚いたのである。

 

「お前は…!!」

「まさか…そんな!!」

 

目を見開いている彼らの視線の先には、殺されたはずの提督が立っていた。

その時、後ろから現れたのはこの事件の原因である鎮守府の現提督であった。

 

「やあやあ。シティーハンター、冴羽獠くん。どうだね?親友との再会は素晴らしいだろう?」

「…はっ、あいつを死んだように見せかけ、薬で操ってる、ってとこか。つくづくゲスな野郎だよ、お宅」

「彼のおかげで仕事がスムーズに進んだよ。俺は艦娘ごとき兵器を人間としてみている奴が大嫌いでね。所詮は戦艦、ただの兵器もとい奴隷にすぎんのさ。なら、我々の手先で駒のように動くのが正解だろう?」

「そんな…あんまりですわ!私たちの提督をこの様な事に利用するなんて…酷い!酷すぎますわ!」

「アタシもそう思うわ。アンタは相当なゲス野郎ね」

「なんとでも言えばいいさ。さて、ここは彼に任せて俺はトンズラするとしよう。…ああそうだ。さっき、ここに仕掛けた爆弾を作動させた。あと数十分でここは粉々になる」

 

言いながら、横に置いてある先程から忙しなくタイマーが動く大量のプラスチック爆弾に手を置いた。

 

「彼の相手をしているうちにみんなで木っ端微塵だ、親友と死ねるなら本望だろう?では、おさらばだ」

 

そう言って大隈は立ち去り、提督はこちらに銃を向ける。何もできずにただ黙って見ることしかできない3人は悔しいと言う思いでいっぱいになっていた。

ただ、彼らは気づいていないが、熊野の髪留めに内蔵されている無線機のスイッチがONになったままであることが、後にこの場にいる全員の運命を左右する事になる。

 

 

時は少し遡り、獠と別れた海坊主と鈴谷はこちらに向かって撃ってくる大隈の手下たちへ応戦していた。

鈴谷が敵に向かって砲撃し、残ったものを海坊主がなぎ倒していく。

歴戦の元傭兵と戦うことに長けている艦娘が相手では、敵が全滅するのも時間の問題だった。

 

「海ちゃーん!艤装の弾がほとんどなくなっちった!なんか貸してちょ!」

「ほら、これを使え」

 

そう言うと、海坊主は彼の愛銃であるS&W M29を鈴谷に投げ渡した。

 

「でかっ!てか重っ!」

「るせぇ!それで我慢しろ!」

 

予備のクリップも鈴谷に渡しながら撃ち続ける海坊主。

鈴谷もマグナムで応戦するが、一見普通の女子高生が世界一強力と言われていた銃を撃つ姿はあまりにギャップがあった。

そういえば、JKがマシンガンを撃つ映画もあったっけ、と思い返す彼女だが、すぐに状況は一変した。

 

背後からキャタピラの音が聴こえ、振り向いた鈴谷は驚愕した。

 

「伏せろ!」

 

と海坊主が言い終わらないかのうちに彼女は反射的に身を伏せる。その瞬間、耳をつんざくような轟音を響かせてそれは砲弾を撃ち出した。

そう、彼女らの僅か数十メートル先には、なんと日本が採用している74式戦車が砲身をこちらに向けていたのだ。

 

「うっそマジで〜…。超ありえないんだけど〜…」

 

つい彼女が発した言葉は、疲労と呆れが混じっていた。

 

 

 






さて、いかがでしたか?半分まで書いたあたりで気がつきました。このままでは鈴谷と海坊主の存在が薄くなる…!とw
そこで、空いた時間で切ったり貼ったりを繰り返した結果、納得がいくまで修正することに…

でも、今の時点ではこれまでよりか出来はいいのではないかと(自画自賛)
さて、次回予告も出しておきますので、ここから先は見れる方のみで←今更かよ








《次回予告》
順調に戦っていた鈴谷と海坊主だが、突然現れた戦車に対抗手段がなくなった彼らは、太刀打ちできずに追い詰められていく!
一方、獠達は殺されたはずの提督と再会を果たすが、なんと彼は催眠薬により極悪提督の言いなりとなってしまった。
仕掛けられた爆弾のタイムリミットが迫る中、傷付いた3人は必死に提督へ呼びかけるが一向に目を覚まそうとしない。そこへある人物がやって来た…。
彼らは無事にピンチを乗り越えられるのだろうか?!
そして、提督は無事に帰ってくるのか?!

次回、さらばハードボイルドストーリー その4 お楽しみに!


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さらば ハードボイルドストーリー【その4】

お久しぶりです、さんめん軍曹です。

就活やばいですねぇ…
八社受けて半分以上が落選です
あかんです…

やっとクライマックスの部分が完成しました。

早速本編、どうぞです!


 

 

突然の事で動けないでいる鈴谷だったが、いきなり海坊主に腰を掴まれ抱え上げられた。

 

「うおっ、ちょっ?!」

「逃げるぞ、しっかり捕まれ」

「この格好じゃ捕まるも何もないじゃん?!」

 

と同時に走り出すが、戦車はなにも1輌だけではない。次々と現れてくるそいつに、2人はどうすることもできず追い詰められて行った。

 

「チッ、物量作戦ときたか」

「それどころじゃないよ!いったいどうすんのさ?!」

「武器がない以上、どうすることもできん」

「あ〜ん、海ちゃんのバカぁ〜〜!!」

『2人とも!伏せて!!』

「また?!もう飽きた!」

 

ひたすら文句を垂れる鈴谷だが、2人とも確かに砲弾の飛んでくる気配がしたので地に這った。

すぐに砲弾は命中したが、1発だけにしては威力がかなり大きかった。周囲のものを巻き添えにするほどのそれを扱えるのは、艦娘といえどただ1人しかいない。

 

「皆さん、ご無事でしたか?!」

「大和か、俺らは大丈夫だ」

「ススだらけだけどね〜」

「遅くなってごめんなさい、ファルコンに鈴谷さん」

「間に合ってよかったわ。だけど、あちらは話す暇もくれないようね」

 

絶妙なタイミングの救助も束の間、残った残党がやって来た。応戦しようとする大和だったが、そこにまた無線が鳴る。

 

『面白そうな喧嘩じゃねえか!!俺たちも混ぜろ!!!!』

『Oh、ショータイムの始まりネー!皆サーン、Fireデース!!』

 

その刹那、次々と戦車が爆発し煙の中から4人の影が現れた。

 

「んだぁ?張り合いのない奴らだな。この摩耶様を差し置いてチャンバラやってるからって来てみれば、雑魚ばっかじゃねえか」

「おいこら摩耶!そりゃ俺のセリフだ!」

「皆、遅くなってすまなかった。この長門、助太刀に参上したぞ」

「デース!ファルコンにミッキー、お久しぶりネー!」

 

やって来た面々は、摩耶に天龍、そして長門や金剛といった、この鎮守府の中でも戦いには非常にアクティブで頼りになる艦娘達だ。

 

「摩耶っち?!どうしたのさ、逃げてって言ったのに…」

「おいおい、アタシらはダチが一生懸命闘ってんのを黙ってみてられるほど、落ちぶれちゃないんだぜ?」

「他の艦娘たちもそれぞれで敵を殲滅している。…全く、自分1人で抱え込むんじゃない。それぞれが力を合わせてこそ、乗り越えられる事だってあるんだ」

「うぐっ…な、長門さん…」

「泣いてる暇は無いぞ。さ、早いとこ敵を…」

「皆サーン!緊急事態デース!!無線を聞いて、今すぐ!!」

 

その場にいる艦娘全員が無線に耳を傾ける。

 

『お願いですから提督、戻ってきてくださいまし!』

『思い出せ、お前の名を!今銃を向けているのはお前の娘なんだぞ!』

『あんまりだわ!せっかく生きてるのに、これじゃまるで意味がないじゃない!』

 

全員の動きが止まる。提督が生きているのだ。しかし獠達が叫んでいる内容からして、ただ事ではないだろう。

 

「…行け、鈴谷」

「えっ?」

「ここは俺たちが引き受ける。お前は獠達の元へ行け」

「でも…」

「でももへったくれもねえ、そこのオッサンの言う通りだぜ!俺たちに任せろ!」

「鈴谷、ワタシはテートクをとても慕っていました。今、生きていることを知って、とてもhappyな気持ちデース。今すぐにhugしに行きたいところですが、テートクとGoal inしたyouこそ、その資格があると思いマース。なので、今すぐに行ってあげてくだサーイ」

「…うん、わかった!鈴谷、ちょっち獠ちん達の応援しにいくね!」

「おう、行ってきな!アタシらも後から行くよ!」

 

鈴谷は走り出す。その後ろ姿を見送った一同は、敵兵が集まり始めているのもそっちのけで話し始めた。

 

「さあみんな、頑張りましょ。終わったらとびきりの紅茶をご馳走したげる!」

「ミッキーの淹れるteaはいつ飲んでもberry goodデース!」

「ふふっ、それは楽しみですね」

「貴様ら!大人しく投降しろ!」

 

隊長と思われる人物が、痺れを切らして彼女らに向かって叫ぶが、いち早く反応したのはやはりこの2人だった。

 

「あ”?んだテメェら」

「この天龍様に向かってそんな口叩くなんざ、いい度胸してるじゃねえかコルァ」

 

海坊主たちが静かに殺気を放つ中、その凄まじさに動揺した敵はかすかに動いた。

 

「1、2、3…」

「4、5人…」

「6、7」

「eight、nine、そして…」

「10人…ですね」

「今よ!!」

 

美樹が叫ぶや否や、双方から銃声がとめどなく続く。

 

「ここから先へは行かせぬ!どうしてもというのならば、我々を倒してみろ!」

「皆サーン!ここをカバーしてなんとしてもテートク達を守るのデース!」

「「「「「「「応!!」」」」」」」

 

 

獠達は必死に叫び続けていた。彼の帰って来いという呼び掛け、熊野の悲痛な叫び、そして香が必死になって訴えていると、提督に変化が現れた。

銃を持つ手が震え、彼の目から涙が溢れてきたのだ。

 

(あと一歩…!)

 

 

「ファルコン!アレを見てくだサーイ!」

 

金剛が叫んでいるのを聞いて、指を指す方を向く。と、そこには飛んでいくヘリがあった。

 

「あれは…脱出用のヘリ!海坊主殿、あれを逃してはならぬ!極悪提督が乗っているんだ!」

「なんですって?!海坊主さん、これを使って!」

 

冴子が海坊主へワルサーPPKを投げ渡す。

空を飛ぶヘリ相手に向かって、しかもそこそこの距離だ。ハンドガンでは当たらないだろうが、獠と海坊主ならその常識を容易く破ってしまう。特に、海坊主はある確証を得ていた。

 

「…奴は戻って来る」

「なんだと?」

「ただで逃げていくはずがない。お駄賃がわりに俺らを始末してから逃げるつもりだ」

 

その言葉に反応したのか、言い切ると同時にこちらへ機首が向いた。

 

「来るぞ、避けろ!」

 

海坊主以外が横へ飛ぶと同時にこちらへ撃ってきた。

機銃の弾は海坊主の服をズタズタに引き裂くが、それ物ともせずに構える。

 

「じゃあな、クソ野郎」

 

そう呟くと同時に、ワルサーが火を噴いた。

オートマチックの利点を活かし、2発、3発と叩き込んでいく。

それはヘリの床下にある燃料タンクに全て命中し、引火して派手に爆発を起こした。

ヘリの残骸は敵の真上へ落ち、散らばっていく。

慌てて出てきたそれを、ここぞとばかりに仕留めていく彼らであった。

 

 

タイミングが悪かった。

獠が先ほどのセリフを思った瞬間、後ろのドアが勢いよく開く。そこから全ての時間、動きがスローになった。

物音に反応した提督は、銃口をそちらに向け、引き金を絞る。

獠が振り向くと、驚愕に満ちた表情を貼り付けた鈴谷が腹を抑えながら倒れるところだった。

それを見た彼はすぐに我に返り、パイソンで相手の銃を弾く。

同時に駆け出して相手を殴り飛ばし気絶させたあと、鈴谷へ駆け寄る。

 

「おいっ、しっかりしろ!」

「あ…あぁっ…り、獠…ちん…」

「喋るんじゃない!死ぬぞ!」

「いや……いやああああああ!!鈴谷、鈴谷ああぁぁ!!!!」

 

パニックを起こし近づこうとする熊野を香が羽交い締めにしてなんとか押さえる。

 

「落ち着いて熊野ちゃん!落ち着くの!……!!獠、爆弾が!」

「あと2分か。…よし」

 

彼はシリンダーを引き出し、ロッドを押して全ての弾丸を抜いた。

 

「赤か、白か。果たして…」

 

獠は弾丸を一発込め、撃鉄を上げる。そして目標へ向かって構えると、反対側に手が添えられた。

 

「鈴谷…?」

「全て…終わらそ?」

「ああ…。全て、な。聴けよ、皆が…この鎮守府の艦娘達の思いが一つになってるぜ」

『冴羽さん!鈴谷ちゃん!頑張って!!』

『白!白なのです!!』

『冴羽っちー、やったれー!』

『北上さんを、皆を死なせたら…ただじゃおきませんよ?』

『ヒャッハー!冴羽のアニキよ、終わったら鳳翔さんとこで飲むぞ!』

『榛名は大丈夫です!白だと思います!』

『獠ちゃん、もっこり一発なの!イクも応援しちゃうのね!』

『外したら許さないでち!』

『白だクマー!』『ニャー!!』

 

その他にも頑張れ!や、いけ、やったれなどの声が響く。特に多かったのが、白を撃ち抜けという言葉だ。とうとう鈴谷の目から涙が滝のように出て来た。

 

「みんな…みん、な…っ!」

「すげぇじゃねえか。こいつらの絆ってものは…」

「うん…うん!」

「じゃ、みんなのご希望に添えるとしますか…」

 

狙いを定め、2人で引き金を引く。

熊野と香は互いに手を取り、無線を介して聴いていた艦娘達はそれぞれ涙を流す者、膝先づいて祈る者、固唾を飲んで見守っていた。

最後の敵を倒した長門達も、建物の方を向いて真剣な面持ちで眺めている。

 

(頼むぞ、冴羽殿。貴方が頼りだ)

 

飛び出した弾丸は、コードに向かって進んでいく。そこにかつての相棒、槇村秀幸の影が見えた気がした。

 

(あの時と同じか…)

 

そして、.357マグナムの弾頭は白のコードを引き裂く。果たして、獠達の運命は…?

 

 






いかがでしたか?
わかる方にはわかるネタを散りばめまくりました。
シティーハンター以外の作品も盛り込んでおりますw

それから、鈴谷は改2がとうとう出ましたね。
あぁ…ますます欲しすぎる…!

さて、鈴谷の安否はどうなるのでしょうか…?
提督は無事に復活出来るのでしょうかね…?

次回にご期待ください!



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さらば ハードボイルドストーリー【その5】


こんばんは、さんめん軍曹です。
今、モチベーションが上がっております。

鈴谷と提督は、果たしてどうなっているのでしょうかね…?


では、本編行きましょう!




 

 

夜が明け、病室を照らし出す。

窓際に座っていた鈴谷は、ひとり物思いに耽っていた。

艦娘が人と違う点は、もう1つある。それは入渠、つまり普通の人間がするような入浴で傷が癒えるのである。

銃弾を喰らった鈴谷も例外ではないが、獠達に入渠させられた後、検査という名目で目下入院中であった。

 

「はぁ〜、今日も寝らんなかったなぁ」

 

あの日以来、鎮守府にいる艦娘達がひっきりなしに来る。

肩に看護妖精を連れてやって来る者、花束や果物を片手にやって来る者、暇だと言いながら鈴谷の相手をしに来る者など、様々である。

提督がいないので、鎮守府は開店休業状態ではあるが鈴谷も彼女らのおかげで暇は潰せたし、元気を取り戻した姿を見て気持ちが暖かくなるのであった。

妹である熊野も、自身が入渠を終えてからは付きっ切りで鈴谷の看病をしており、今もベッドに寄りかかって気持ち良さそうな寝息を立てている。

 

先日の事件で、この鎮守府の抱えていた問題はほぼ全て解決できた。しかし、彼女が寝ることができない理由が1つだけある。それは、操られていた提督のことだ。

彼は生きていた。だが最悪な形で、だ。薬で自由を奪われていたばかりか、誤射とはいえ鈴谷を傷つけてしまったのだ。

しかし、彼女はそんな事を気にしてはいなかった。

状況が状況、急所は外れていたし、こうやって無事に過ごせている。

問題は今も眠っている提督であり、彼が起きた時にはまだ効力が残っているのか、それとも元に戻っているのか。それが気がかりで寝るに寝れない状況なのだ。

 

「よう、鈴谷」

 

ふと見れば、そこには獠が立っていた。

 

「おっ、獠ちんじゃん。調子はどうよ?」

「バーカ、そりゃ俺のセリフだ。」

「ん…」

「あっ、ごめん熊野。起こしちゃった?」

「いいんですのよ。おはようございます、鈴谷。そして冴羽様もおられるのですね」

「よっ、熊野ちゃん。鈴谷の看病もいいけど、遅くまで起きてるのは肌によろしくないぜ?」

「大きなお世話ですわ。冴羽様は何をしにいらしたのかしら?」

「鈴谷が随分と暇してるみたいじゃねえか、と思ってね」

「お陰様でね」

「もう普通に動けんのか?」

「もちもち。艦娘を舐めないで欲しいじゃん?」

「そうか。んじゃ、ちょいと散歩に出かけるとするか」

「ナイスアイディアだね!たまにはいいこと言うじゃん?」

「たまにっつーのは余計だ。ほれ、行くぞ」

「っととっ。待ってよ獠ちーん」

「行ってらっしゃいまし」

 

そのまま2人は医療棟を出て、鎮守府の裏にある浜辺へ向かった。

 

「こうしてゆっくり歩くのも久しぶりだね」

「ああ。前回は槇村もいたからな。2人だけ、ってのは初めてじゃないか?」

「そーいえば確かに。槇ちゃんどったん?」

「…奴は死んだよ」

「は?」

 

一瞬、理解ができなかったが獠の表情に影が若干かかった事からして、本当の事なのであろう。まずい事を聞いたかなと鈴谷は後悔した。

 

「………そっか、ごめん」

「いいさ」

 

辺りを静けさが包む。波の音を聴きながらしばし黙り込んでいた2人だったが、ふと鈴谷が思い出したように尋ねた。

 

「そいえば、かおりんの名字も槇村だったよね」

「もうアダ名呼びかよ。随分と親しくなったじゃないか」

「まーねー。かおりんの話はちょーおもろいし?…で、質問に答えようか冴羽くん?」

「はいはいっと。…実はな、香は槇村の妹だ。血は繋がってないがな」

「どーいう意味さ?血は繋がってないのに兄妹って」

「槇村の親父が追ってた犯人の娘らしい。そいつが事故死したから、あいつの親父が娘として引き取ったんだとさ」

「ふうん…」

「槇村が麻薬組織に殺された日から、ずっと俺のパートナーをやっているんだ。本当はやらせたくなかったんだが、頑固なもんでなぁ」

「お?お?獠ちんまさかのホの字ですかな??」

「なっ?!ばっ、ばかいえ!!だぁーれがあんな男女!」

 

「悪かったな、男女で」

 

振り向くと、そこには香がいた。

 

 

 

 

 

数秒後、そこには砂浜から頭だけを出した獠の姿があった。

 

「おいこら!なんてことしやがる!俺はギャグ漫画の主人公じゃねーんだぞ!!」

「青葉、見ちゃいましたぁ!冴羽さん、今の気持ちを一言!」

「そうだなあ……デュフフ、ここから見る青葉ちゃんの谷間もなかなかえーのう」

「それでは今の写真を鎮守府中にばら撒きますね。題名は、〔鎮守府を救ったヒーロー、セクハラ容疑で地面に埋まる〕でいかがです?」

「はい、すみませんでした」

 

そのやりとりを見てた鈴谷が、突然笑い出した。

 

「ぷっ…あーっははははは!なにこれおかしーっ!!ちょーーウケるwwww」

「なんでです?」

「君たち見てたら、なんか提督の事で悩んでる鈴谷が馬鹿みたいに思えてさ。いやー、…あっ」

 

誰に向かって話してたのか気づいた鈴谷だが、時すでに遅し。青葉は手に持っていたメモ帳に速記で記入していた。こちらと目が合うと、不敵な笑みを浮かべてこういった。

 

「特ダネですーっ!早速記事にしてきますね!!」

「やめろおおおおおおっ!返せ青葉あああああ!!」

 

それから青葉を鎮守府中追いかけ回し、結局のところは偶然通りかかった長門が差し押さえてくれた。

 

「ぜーっ、はーっ、あ”ー、ムダにはじっだ…」

「全く。傷が癒えたからといって、無理な運動はするもんではないぞ。しばらく休めと言われたろう」

「そうだけどさー。まさか走るとは思わなかったワケですよ…」

「仕方がない。自室へ戻ってゆっくり休め」

「あいよー。長門さんありがと」

 

そういって鈴谷は部屋に入っていくが、いつもと雰囲気が違っていた。

自分が寝るはずのベッドには、提督が横たわっていたのだ。

そう、彼女は間違えて提督が寝ている隣の部屋に入ってしまったのである。

 

「ビンゴ…」

 

 

「くっそー、香のやつ…服の中に砂が入ったじゃねえか」

「ひえぇ…香さんって恐ろしいですね。でも、冴羽さんも自業自得だと思いますよ」

 

獠がひとり浜辺に残され、どう抜けようかと格闘していた所に比叡が通りかかり救出されたのである。

 

「いやあ、そうは言ってもねぇ、比叡ちゃんも相変わらずなかなか美味しそうな身体ですな…」

「私を舐めるように見ていいのはお姉さまだけですから」

「ああ、そう…ん?」

 

比叡にきっぱりと振られ、ふと前を見ると人集りが出来ていた。

 

「なんでしょうね、あれは」

「あの場所に集まるって事は、1つしかないな。どれ、行ってみるとするか」

「ひえっ、待ってください!」

 

獠達が近づいてみると、僅かに開けたドアの隙間から艦娘達が様子を伺っていた。獠は、いちばん手前にいた少女に声をかける。

 

「雷ちゃん、いったいどうし…」

「シッ!今いい所なのよ!冴羽さんも見る?」

「どれどれ……」

 

 

少し前。

こんこんと眠り続ける提督の隣に座った鈴谷は、やる事もなかったので話しかけていた。

 

「やほ、提督。そろそろ起きて鈴谷とナニかする?」

 

反応なし。

 

「てーいーとーく!ほれ、起きろ!」

 

ほっぺをつんつんとつつくが、一向に変わらない。

 

「……ね、提督。鈴谷さ、ずーーっと待ってたんだよ。殺されたって聞いても、実感が湧かなかったんだ。どっかで生きてるって信じてたし、みんなからはもういないって言われまくったけど、それでも待った」

 

鈴谷の視界がぼやける。

 

「鈴谷がこうしていられるのも、提督がここで寝てられるのも、全部、ぜんぶぜーんぶ鎮守府のみんなと獠ちん達のおかげなんだよ。生きてるってわかって、すごく嬉しくって。提督に撃たれた時、一緒なら死んでもいいって思った。でも、みんながそれを許さなかったから、鈴谷泣いちったんだ。今も、また話したい。また、出撃だーって、指示を出してよ…。帰ってきた時に、メンバーによしよししてよ。お願いだよ、起きてよ…」

 

鈴谷の頰を伝ったそれは、提督の顔に落ちた。

 

「うっ、ぐすっ…ひぐっ…お願いだよぉ、神様でもなんでもいいがら、でいどぐをがえじでよぉ…」

 

「ん、うーん…はっ!」

 

奇跡が起きた。

提督が目を覚ましたのだ。

 

「俺はいったい…」

 

彼が左を見ると、涙を流しながら唖然とした鈴谷の顔があった。

 

「鈴谷……そうか。俺は確か、運転中に襲撃を…」

「提督っ!!!!」

「ぐおっ?!」

 

意識を取り戻した提督に抱きつき、熱いキスを交わす。それは何分も続き、鈴谷と提督の左手の薬指は、朝日に照らされてまばゆく光っていた。

 

 

「なんてこった…」

「奇跡よ!奇跡が起きたんだわ!」

「ばか!そんな大きな声を出したら…」

 

注意しようとした獠だが、いつの間にか鎮守府中の艦娘や香達が集まっており、その重さに耐えきれずにバランスを崩してしまった。

 

「「「「「「「「のわーーーっ?!」」」」」」」」」

 

バターーーン!と派手な音を立て、人が雪崩れ込む。

 

「重いですわ!」

「いだだっ!ちくしょう!早くどけ!」

「あら〜」

 

やいのやいのと騒ぎ出す艦娘達であったが、前から2つの視線を感じて動きが止まった。

 

「て、提督、お帰りなさいっぽい…」

「やあ、僕は最上だよ…」

「ハラショー」

 

「お前ら…」

「うっわ…はっずいし…」

 

こうして、横須賀鎮守府に再び平和が戻った。

 

 





いかがでしたか?
これにて、ハードボイルドストーリーは完結です。

長かったぁ…!!
次回からは、しばらく日常に入って行こうと考えております。
鈴谷と提督、感動の再会ですね。
彼女らにはたくさん痛い思いや悲しい思いをした分、幸せになってもらいたいですね←ぉぃ

再び平和を取り戻した彼らですが、この後どうやって題名を回収していくのでしょう…?
乞うご期待!



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新たなる道編
新提督着任?!獠もびっくりの新鎮守府!


こんばんは、さんめん軍曹です。
やっと解決したハードボイルド編。
続きを書きたいと思いつつ、今は自分の事に集中しております。

次話投稿までのスパンが長いですが、ここまでお付き合い頂いている方々には大変感謝の極みでいっぱいです。

ここからは、獠っぽい日常編です。

では、本編いきましょう!




 

「調子はどうだ?相棒」

 

滅多な事では相棒と呼ばない海坊主が、珍しく話しかける。

 

「まあ上々と言ったところだな。だが、いくら命が狙われるかもったって、こうカーテンを締め切ってたんじゃあなあ」

「今は我慢しろ。もうすぐ獠が来る」

 

その時、扉を誰かが叩いた。

 

「待ち人来たる、か。どうぞ」

 

ドアが開き、肩を鳳翔に支えられた獠が入ってきた。

 

「天下のシティーハンターが、なんてザマだ」

「うげぇ…隼鷹に死ぬほど飲まされた…あいつらの肝臓は一体どうなってんだ?」

「だから気をつけてくださいとあれほど言いましたのに…」

 

昨夜は提督が復活し、鈴谷の退院祝いという事で艦娘達が鳳翔の店に集まり盛大な飲み会が繰り広げられた。

その中でも特に酒豪と言われる隼鷹や那智、足柄にしこたま飲まされ、調子に乗った獠はパンツ一丁で踊り出し香のハンマーをお見舞いされるというカオスな展開になっていた。

 

「お前はどうして平気でいられるんだ…」

「お宅と同じだ。あいつらに飲まされてるうちに慣れた」

「へっ、情けねえ。普段から女に気をつけろと言ってるだろ」

「あんだと?!冴子の色仕掛けにしょっちゅうかかってるのはどこのどいつだ?!」

「しっ知らん!あの女狐が勝手に胸を押し付けてくるだけだ!!」

「それで照れちゃう海ちゃんも純粋だねぇ。このっこのっ!」

「フンっ!」

 

鈴谷からのツッコミで照れたのか、まるでゆでダコみたいになった海坊主はそっぽを向いてしまった。

 

「さて、お遊びはここまでにして、獠。海坊主。お前らに頼みたいことがある」

「なんだなんだ改まっちゃって」

「無茶は聞かんぞ」

 

「獠、お前にはここの提督として鎮守府にいてもらいたい。そして海坊主、お前は獠の監視役を頼みたい」

 

ぽかんとする獠を尻目に、海坊主が口を挟んだ。

 

「こんなもっこり男をここに置いていいのか?それに、監視役は香が適任だと思うがな」

「なんだとっ?!」

「いや、なに、監視役というのは建前だ。実はな、ここにお前の店を開いて艦娘達の士気を高めて欲しいんだ」

「俺は構わんが、美樹に聞いてみないとな。大方、金剛あたりが喚いたんだろう」

「うむ、頼んだ」

「ちょっと待て。俺に提督をやって欲しいってのは、何か訳があるんだろう?」

 

探るように見てくる獠に対し、提督はこう言った。

 

「その通りだ獠。今回の件で分かったと思うが、俺は命を狙われている。大隈中将がいつまた俺を殺しにくるかわからん。そこで、俺を死んだことにしてお前に提督をやってもらい、俺が憲兵として動いてくれと佐伯元帥からお願いがあった訳だ。引き受けてくれるな?」

 

ちらと後ろに目線を飛ばした獠。彼はこう答える。

 

「全く。戦友のお前の頼みだし、元帥の依頼とあっちゃあ引き受けないわけにもいかん。それに、ギャラリーもいるわけだしなあ?」

 

その場にいる全員がドアに注目した途端、艦娘達が雪崩れ込んできた。その中でも1番早くに入ってきた、紅い瞳の駆逐艦が獠に向かって飛びついてきた。

 

「冴羽さ〜ん!大好きっぽい〜〜!」

「ぐえっ!!」

 

夕立のタックルをもろに受けた獠は、2mほど吹っ飛んだ。

 

「愛されてるじゃねえか、獠」

「バーロー!!でも、前までガキンチョだったのに随分成長したなあ」

「そうなの!冴羽さんが帰ったあと、夕立頑張って改ニにしてもらったっぽい!」

「なるほどな…おムネもこんなに素晴らしく…ぐふふふふ」

 

鼻の下を伸ばす獠に夕立は顔を真っ赤にしながら、

 

「冴羽さん!どこ見てるっぽい!?恥ずかしいっぽい!!」

 

直後、夕立の右ストレートが顔面にめり込む。そのまま吹っ飛んだ獠は、柔らかいものに当たった。

 

(ムッ?この感触は…)

 

プルプルと震えだしたので上を見上げれば、目に影を落としている戦艦が目に入る。

 

「不幸だわ…」

「山城は妥当だが、駆逐艦にまで手を出そうとするとは。見境がなくなったな?」

 

ニヤニヤしながら聞いてくる提督に、2人は愕然とした。

 

「提督までっ?!」

「ゲッしまった!夕立は駆逐艦だったんだ…。冴羽獠、一生の不覚!!」

「ども、青葉ですーっ!証拠押さえました!!記事にしますーっ!」

「山城ちゃんごめん!そして青葉ァ!そら堪忍やでーーーっ!!」

 

だが獠の努力もむなしく、次の日の朝刊にはでかでかと載ってしまった。

艦娘達によれば、鬼の形相をした香に追いかけられる彼の姿があったという。

 

「くそ…ひでぇ目にあったぜ。まったく…」

 

自業自得な気もするが、気にせず獠は1人で歩いていた。

すると目の前から、サンダルを履いたスクール水着の艦娘が近づいてくる。

 

「おっ、イクじゃないか」

「やっほー獠ちゃん!おはようなのね!」

「何してたんだ?」

「獠ちゃんに伝えたいことがあって探してたの!今夜、みんなで獠ちゃんの就任式?みたいなのがあるから、1800に食堂まで来て欲しいのね!」

「お安い御用だ。美人の顔も拝めるしな」

 

途端に、伊19がジト目になる。

 

「まったく変わってないのね。それから、イクの個人的なお願いがあるの」

「まさかその豊満な胸を見せてくれるってか?そりゃ嬉しいね」

 

瞬間、彼女は獠の鼠蹊部を蹴り上げた。

悶絶する獠。沈み込む彼に伊19はこう言った。

 

「そろそろ殴るのね?」

「もう”殴っでるっで…」

「今のは蹴っただけなのね。イクは久しぶりに獠ちゃんと射撃で勝負したいのね」

「ん?どういうこった」

「ここ最近、アイツのせいでオリョクルばっかしてたからすっかり腕がナマっちゃったの。そこで、獠ちゃんに見て欲しいと思ったのね」

「なるほどな。イクだけか?」

「うん。潜水艦のみんなは寝てるし、起こすのもなんかなぁって。みんなには後で伝えとくなの!」

「わかったよ、俺も暇だし付き合ってやる」

「やったなのね!」

 

 

「ねぇ、みんな。なんか聴こえない?」

「何だい、暁」

「本当だわ!何の音かしら?」

「はわわっ!銃声なのです!」

「銃声?!敵襲なの!?」

「いや、それにしては音が小さすぎるわね。とにかく行ってみましょ?」

 

雷がそう声をかけると、電の手を引っ張って先に行ってしまった。

 

「わわっ、待ってよ2人とも〜!私がお姉さんなんだから先でしょーっ!」

「ちっちゃい事を気にする時点でまだまだ子供だね。おチビさんだけに」

「響まで!?なによ、もーーっ!」

 

そう言って雷電コンビの後を追うが、追いついた先には音の正体があった。

 

「「「凄い(のです)…」」」

「ハラショー」

 

彼女らが見たものは、的の中心を射抜こうと挑戦する伊19と、脇でピンホールショットを決める獠であった。

 

「やーん!また負けちゃったのなのーっ!」

「甘いぞイク。少し慌てすぎだ。照準がブレる原因になるから、撃つ時は落ち着いて目標を見据えろ」

「わかったのなの!」

「よし、じゃあもっかい…ん?」

 

人の気配がしたので入口の方を向くと、4人の少女達と目が合った。

 

「冴羽さんなのです!」

「こんにちわっ!」

「ズドラーストヴィ、冴羽」

「おはよーっ!」

「よう、第六駆逐隊のお嬢ちゃん達か」

「暁はレディーよ!お子様みたいな呼び方しないで!」

「冴羽、私達も君の射撃を見たい。いいかな?」

「わかったわかった。見学しててもいいが、邪魔だけはしないでくれよ」

「「「「はーい!」」」」

 

そう言って、獠たちは練習を再開。しばらく見ていた第六駆逐隊であったが、電があることを口にした。

 

「あのっ…あのっ!冴羽さん!」

「ん?」

「またあの技を見せて欲しいのです。ダメ…ですか?」

「あの技…?あー、あれか!」

 

あることを思い出した獠は、パイソンの残弾を確認して伊19に向き直った。

 

「イク、頼みたい事がある」

「なーに?」

「俺が合図したら、あの的に撃って欲しい」

「それだけでいいのね?」

「ああ」

「わかったのね。お安い御用なのね!」

 

その後、2人はそれぞれの銃を持って的に向ける。

 

「よーし、行くぞ。…今だ!」

 

伊19は合図とともに引き金を引いて、1発撃ち出した。

獠も少し遅れてパイソンをブッ放す。また少し遅れてもう1発。

それぞれの方向に向かう弾丸だが、伊19のそれに当たったものはお互いに角度を変えた。

そして、あとからやって来たものにも同じ現象が起き、最終的には3つの頭部に当たったのである。

 

「すっ、凄いのです!全部真ん中に当たってるのです!」

「ま、ちょっとした遊びさ。ビリヤードショットの応用版、てとこかな」

「新技という訳か。また腕を上げたね。ハラショー」

「この戦法は効率的ではないが、敵の意表をつく時に使えるはずさ」

 

そう言いながら、ホルスターに銃を収める。

その後も続ける彼らであったが、影から1人、それを見つめる者がいた。

 

 

 

 

 




さて、いかがでしたでしょうか?
海のスナイパーと裏の世界No.1を絡ませてみたかったと言う願いですw
最後の影とは、いったい誰なのでしょう?
それから、獠と海坊主、提督は傭兵時代の戦友というわけです。
筆者としては仲間でいてもらいたかったのと、アニメ版ではそこまで明確にされていなかった気もするので設定を作っちゃえ!という(汗)

提督の名前はそのうち出てきます。

では、次回またお会いしましょう!



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強くなりたい!悩める吹雪と叢雲の過去

こんばんは、さんめん軍曹です!
物語の展開を考えていたら、スランプに陥ってしまいました…
困ったもんですねぇ…

一応、書くことができたので投稿します!

では、本編どぞ!





特型駆逐艦1番艦の吹雪は、天龍達と共に毎朝行なっているランニングに筋トレを終えた後、提督に挨拶するため歩いていた。

今日は提督とどんな話をしよう。そんなことを考えながら歩いていると、射撃場から話し声が聞こえて来た。第六駆逐隊だ。

一応区別はされているが、広義では暁達も吹雪の妹にあたる。それもそのはず、それ以降に建造された特型駆逐艦は彼女をベースとしているからだ。

だから吹雪は、そんな四姉妹が楽しそうにしている声を聴いて興味をそそられた。

半ば開いていたドアから覗き込むと、ちょうど獠達が撃とうとしているところであった。

 

「す、すごい…!」

 

ビリヤードショットを見事決めた獠に、彼女は感激していた。

いくら獠が過去にここへ訪問しているとはいえ、彼女は己を鍛えようと出撃を繰り返していたために殆ど彼と会わなかった。

それ故に、獠がどれだけの腕を持っているのかも今回初めて知ったのである。

 

「私もあんな風になれたらなぁ…」

「お悩みかしら?」

「ひゃっ?!」

 

驚いた吹雪が振り向くと、いつの間にか叢雲が壁に寄りかかっていた。

 

「む、叢雲ちゃん…」

「またあの時の事を考えてるのね」

「そ、それは…」

 

「よう。さっきからこっちを見てたようだけど、何か用かい?」

「ひっ!?」

 

さらに驚き振り向けば、獠が立っていた。

既に気づかれていたと思った吹雪はみるみる赤面して、

 

「あっ、あのっ!失礼しますーーっ!!」

 

と、瞬く間に走り去ってしまった。

 

「まぁ、お速いこと… 叢雲、なんの話をしてたんだ?」

「色々と訳があるの。てい…憲兵も交えてないと話せないわね」

「なるほどな。それから…少なくともこの建物は安全だから、わざわざ言い直さなくてもいいぞ」

「悪かったわね。あなたも人を驚かせるような立ち方は控えなさいな」

「昔からの癖だ。それに職業柄、相手が誰かわからない時は気配を消さないといけないしな」

「はぁ…わかったわよ。聞いたとは思うけど、今夜は遅れないようにね。しっかりなさいよ?」

「はいはいっと」

 

そう言うと、叢雲はコツコツと歩いていった。

 

(こりゃなんか、裏がありそうね…)

 

 

「ああ…、ああ。わかった。奴にそう伝えとこう。すまんな、美樹」

『いいわよ別に。暫くはかすみちゃんにうちをお願いすることになりそうだけどね』

「そうだな。慣れて来たらまた考えればいい。じゃあな」

 

ガチャリと受話器を置いた海坊主は、提督の部屋へ向かう。

途中で埠頭を通ると、先の方で体育座りをしている者とその後ろでいくつかの気配を感じ取った。

彼は、昔戦闘中に負った傷の影響で目が見えなくなってしまった。だが、その代わりに相手が持つ独特の気配と声で誰なのかを知ることが出来るのだ。

今回も何人かの艦娘がいる事は知れたが、1人はそれとなく重い雰囲気を纏っている。そこで海坊主は、後ろにいる中の1人に聞くことにした。

 

「天龍。一体どうし…もがっ?!」

「シッ!静かにしろ。吹雪なんだが、どうやら悩み事があるらしい」

「悩み事だと?」

「そっ、だから今は1人に…っておい!」

 

天龍の言葉を無視して、彼は吹雪に近づいていった。

 

「私、だめだなぁ」

 

はぁ、とため息をつく彼女だが、自分を覆う影に気がつくと後ろを見た。そこには、自身の身長の2倍はあるであろうゴツい人間が立っていた。

彼女は声にならない悲鳴をあげると、目に涙を浮かべて硬直してしまった。

 

「驚かせてすまん。だが、なぜ思い詰めてるのかと思ってな」

「あ、あの…海坊主さん…ですよね?」

「そうだ。お前は吹雪だな」

「はい…」

「それで、何を悩んでいる」

「実は…」

 

 

「もっと強くなりたい、だと?」

 

朝の射撃場で伊19が満足すると、獠はその足で提督室に向かいそこで待機していた叢雲と提督、暇をつぶしていた鈴谷と共に吹雪の話をしていた。

 

「そう。吹雪はね、以前任務で鎮守府海域の哨戒に当たっていたの」

「あー、あったよねそんな事。確か、鈴谷がここに来た直後だったっけ?」

「そうね。アンタが建造されてすぐだったわ」

「まーさか鈴谷の初仕事が2人を拾いに行って、風呂場(ドック)に放り込む事だとは思わなかったよね」

「そうだ。もう何年も前になるだろうか。俺が吹雪と共にここに配属されて少し経った頃、この海域にウロついているイ級を排除するようお達しがきてな」

「それで?」

「彼女に海に出てもらっている間、いつまでも1人でやってもらうわけにはいかんから仲間を増やしてやろうと通常のレシピを回した。そしたら、まさかの1時間半が出てきてな」

「1発目の建造で鈴谷か…。しかもオール30とか、どんだけ運がいいんだお前は…」

 

実はこの提督、悪運の強さには定評がある。

戦場で獠たちと戦っていた時は地雷を踏んでも不発だったり、捕虜になって牢屋に入ると、自分のいる独房以外は突然起きた地滑りに巻き込まれて敵が全滅したりなど、数々の伝説を残している。

今回の襲撃に関しても、急ブレーキを踏んだ際にシートベルトがたまたま切れ、同時に着弾時の衝撃でフロントガラスから飛び出すという、とんでもない結果になった。

 

「知らん。続きを話そう」

 

提督は叢雲をちらと見やると、続きを話し始めた。

 

「実はそこにいる叢雲はな、その時海上を彷徨っていたところをうちで引き取ったんだ」

 

獠が目を見開いて叢雲を見る。飲んでいた紅茶を置いた彼女は、獠を睨みながら言った。

 

「何よ、悪い?」

「いや、お前がドロップ艦娘だとは思わなかったんでな。すまん」

「別に大した事じゃないわ。ただ、気がついたら海の上で寝ていただけよ。他にも同じような子がいるわけだしね。問題なのはその後」

「というと?」

「行くあてがないし、仕方なくフラフラしてたら後ろからイ級に襲われたのよ。その時いた場所は、どうやら敵の縄張りのド真ん中だったようね」

「なるほど。お前が轟沈しそうな所を吹雪が助けに来たが、逆に大破しちまったわけだ」

「そう言うことになるわ。あの子が来なかったら私はここにいなかったかもしれない」

 

 

『くっ…このアタシが背後を取られるなんて…!』

『グアァッ!』

『う、動かない…!!動いて!!お願いだから!』

 

叢雲が死を覚悟したその時ーーーー。

 

『私の妹に手を出すなーーーっ!!!!』

『ギャアッ?!』

『…!』

『叢雲ちゃん!大丈夫?!』

『あなたは…吹雪ね』

『良かったぁ!もう少し遅かったら取り返しのつかないことになってたね』

『そうね…。!吹雪、うしろ!!』

『えっ?』

 

 

「その後はよく覚えてないけど、私の姉と鈴谷の話によれば、1人で3体を殲滅した後そこの海岸で倒れてたらしいわ」

「そーそー。日が暮れてもぶっきーが戻って来ないのを提督が心配したから鈴谷が海を見ようと出た瞬間、2人が倒れてたのを見つけたってわけ」

「鈴谷が大慌てで無線を飛ばして来てな。何事かと外に出たらボロボロの2人が倒れてたもんだから、すぐに俺らでドックまで運んだってわけだ」

「気がついたら医療棟にいたわ。私は次の日に目覚めたけど、あの子は3日も寝てた」

「そこから吹雪ちゃんは強さにこだわり始めた、と」

「そーゆー感じかな。改になったからもういいじゃん?って鈴谷は思うけどなー。それよりも、起きないぶっきーを心配してた時のくもっちと提督はウケたわ。2人ともそわそわそーわそわしてたし」

「るさいわねぇ。私はただ助けてもらったお礼がしたかっただけよ」

「そういやあ叢雲はツンデレだってこいつ(提督)から聞いたな。大方、妹って言われて嬉しかったんだろ?しかもさっき、あの子を姉って呼んだしな。だからこの鎮守府にいるんじゃないのか??」

「なっ…!あ、アンタ、酸素魚雷喰らわすわよ!!」

「えっ?いや、悪かったっ!悪かったって!!」

「問答無用!!喰らえ変態!!」

 

獠ごと床に叩きつけた酸素魚雷の音は、埠頭にいた海坊主達にまで聴こえたという。

 

 

 

 

 




さて、今回は獠らしい日常と、この鎮守府の始まりに少し触れて見ました!
オール30で鈴谷とか、実際では無理なことをこの提督はしてしまうわけで…。書いておきながら無茶苦茶だと思いましたよね()

皆様の最初の秘書艦は誰でしたか?筆者は電ちゃんです(゚∀゚)
ではでは、また次回お会いしましょう!!


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いざ開戦!獠と吹雪の真剣勝負

学校からお届けします、さんめん軍曹です。

いつもご覧になっている方、初めて見た方、誠にありがとうございます…!
なかなか書き進める機会が作れないのですが、ご感想や評価をいただき大変恐縮です!

獠の提督就任直前に軽く短編を書こうと思ったら、いつのまにかシリーズ化してしまいました…w
彼はいつになったら提督になるのやら(おい)
でも、書いたからにはシリーズを完結させます!むしろこの話は必要かなあ、なんてw

では、本編行きましょう!!




 

 

「えっ?もう一度聞いても?」

 

それぞれの視点から話を聞いた2人は、甘味処間宮に叢雲と吹雪を呼んである話をしていた。

 

「獠と俺、そしてお前らでペアを組んで海の上で勝負をする。単純な話だ」

「アホ!それじゃ伝わんねえだろうが!」

「夫婦漫才はいいから、さっさと内容を話しなさいな」

「「誰が夫婦だ!!」」

「うるっさい!いい加減にしないと香と睦月たちを呼ぶわよ!!」

 

途端に、男性陣の顔がサーっと青くなる。

実は海坊主、見かけに反して猫に非常に弱い。本人曰く、その弱々しい姿と鳴き声によって全身の力が抜けて行くのだという。

しかし悲しいかな、本人の元々の性格を読んでいるのか猫達には非常に懐かれやすいのである。

それは、ここの鎮守府とて例外ではない。

ここにきてからというもの、話し方や性格が非常に猫に近い睦月や多摩に懐かれているのである。

椅子に座っていると、どこから現れたかいつの間に海坊主の膝の上や肩に乗っかってくる。

今朝なんか、起きたら多摩が布団の上で丸まって寝ていたのである。彼女曰く、

 

「うみぼーずはちょうどいい大きさにゃ。気持ちよく寝れるにゃ」

 

だそうである。そんなもんだから、彼女が起きるまでの間海坊主は動けないでいたのだ。

 

「呼んだかにゃーん?」

「多摩達はさっきからずっといたにゃ。背後を取られるとは、プロとしてまだまだ甘いにゃ」

 

後ろを振り向くと、多摩たちが鯛焼きを食べていた。中身はバニラだろうか。彼女らはよくここに来ては黙々とバニラ入りの鯛焼きを食べるので、周りからは猫の集会と呼ばれている。

その猫の集会を見た瞬間、海坊主の機関は停止した。

 

「海坊主ー?おーい…。ダメだ、気絶してる」

 

彼が再起動するのを待って、詳しい内容を話していく。

要約すると、先ほど述べた二手に分かれて艦娘対ジェットスキーで、海上にて戦うというもの。

勝負は3回、ペイント弾でどちらかの轟沈判定が多く出れば負けとなる。

審判は鎮守府側から提督と鈴谷、そして天龍が。

獠サイドからはパーティーのために来ていた香と美樹、そして冴子が付く事になった。

 

「吹雪ちゃん、大丈夫かしらね?」

「どうした?香の姐御」

「ほら、自分より強い相手に当たった時、過去のことがフラッシュバックして立ちすくむんじゃないかと思ってさ…」

「そのために出撃を繰り返して改までになったんじゃねえのかな?あいつも一応、どうにかしたい気持ちはあんだろう」

 

軽巡洋艦の天龍は、その性格から駆逐艦の艦娘達に人気がある。そして艤装の燃費が良いためによく遠征に出るが、それもあってだろうか自然と駆逐艦をまとめるリーダー役になっていた。

本人は前線で戦わせろといっているが、それでも

 

「オレがよく遠征に回されるのはどうせ元々が旧型のオンボロだからだろ?でもよ、それでも提督は適材適所と言って仕事を回してくれんだ。だったらその期待に応えなくちゃならねえし、なによりも俺がこの仕事に誇りを持ってるのと同じ気持ちを駆逐艦の奴らにも味わってほしいからな」

 

と、頭をボリボリ掻きながら語るのである。それを聞いた獠は、そりゃあ艦種問わず人気があるわけだ、と思った。

天龍は色々な艦娘をよく見ており、なおかつ自他の戦い方を研究している。そんな彼女だからこそ、審判をお願いしたわけであるが。

 

「だーーーっ、しかしなーんで俺が審判なんぞやらなきゃいけねえんだよ、めんどくせぇ」

「それは自分の胸に聞いてみたほうが早いんじゃないかしら?それに、本当に嫌なら貴女の場合意地でも断るでしょ?」

「ぐっ…うるせー!暇だったから来ただけだよ!」

「あらあら、素直じゃないのね」

「シッ!始まるみたいよ」

 

美樹の声に全員が海を見やると、それぞれの位置に着いた4人が見えた。

 

「4人ともー、準備はいいかー?」

「はいっ!吹雪、いつでも出れます!」

「いつでもどーぞ」

 

「よーっし、じゃ、開戦だ!」

 

天龍の一声とともに、それぞれが一斉に動き出した。

 

「なあ鈴谷。あれ、俺のセリフじゃなかったか?」

「提督ー、細かいことは気にしちゃいけないじゃん?」

「そうか」

 

審判組の気楽な会話とは裏腹に、海の上では猛烈な戦いが繰り広げられていた。

 

「撃ち方はじめ!いっけーー!!」

「沈みなさいッ!!」

 

吹雪達が先制攻撃を仕掛けるが、ボートは軽々と避けてしまう。ちなみに操縦しているのは海坊主である。

 

「甘い!先読み攻撃がなってないぞ!そんなんじゃ日が暮れる!」

「くっ…見てなさい!」

 

言われた仕返しとばかりに、叢雲は4連装魚雷をお見舞いした。そして避けた先には吹雪の砲弾が迫っている。だが、それでもギリギリのところで避けられてしまう。そんな戦闘がしばらく続いていた。

 

「獠…吹雪ちゃん…」

「今は信じるしかないな。奴が吹雪にどう影響を与えるのか。そして彼女らはどんな成長が出来るのかを」

「…!!」

「さえちんどったの?」

「気づいたかしら?獠はまだ1発も撃っていないわ」

「え?うっそ」

「ああ、冴羽はまだ手を出していない。いつ終わらせるかを考えているんだな」

「現実を見せよう、ってわけ?」

「そうかもしれないが、そうでないとも言える」

「てーとく、鈴谷にはむつかしすぎるよ」

「まあ見てりゃわかるさ。ほら」

 

提督に促され、海を見れば丁度獠達が吹雪と叢雲の間を通り抜ける所だった。そして、彼は2人の艤装に向けて発砲。弱点と思われる場所へ見事命中し決着を付けた。

 

一旦休憩ということで、陸に上がった4人は審判の元へ集まった。

 

「結果は…言わなくてもわかるな?」

「はい…」

「勝てなかったら解体するってわけじゃないんだ。そこまで落ち込むなよ」

「わかってます。でも…」

「冴羽達は海で戦い慣れているはずの私達ですらも軽く潰すことができる。こんなに強い相手は初めてだわ」

「だってよ、獠。お前はどうだった?」

「動きは悪くないし、後半はこっちがやられそうだったな。避けるので手一杯だ」

「だが、俺らが攻撃できたって事はそれだけの隙を作ったって事だ。それが命取りになる事を忘れるな」

 

海坊主の一言に各々が反応を示すと、天龍の後ろで控えていた龍田が口を挟んだ。

 

「あら〜、気にする事ないわよ〜。私だって外す時はあるのよ〜?ほら〜、こんな風に〜」

「ほわっ!?」

 

猿も木から落ちると、彼女は獠を使って示した。愛用の武器である槍を一瞬で彼に向かって振り下ろしたのである。間一髪で白刃どりをした獠の顔は青ざめていた。

 

「ほらね〜?言った通りでしょ〜?」

「たっ、龍田さん!これはその、僕の命に危険がっ!!」

「あなたなら大丈夫よ〜。吹雪ちゃん達もここまでとは言わないけど、自分の身はしっかり守れるようにしましょうね〜?」

「はっ、ひゃい!」

 

彼女が2人を案じて言ってくれているのはわかるが、あまりの怖さゆえに吹雪達は震え上がってしまった。

そんなとばっちりを受けた獠であるが、ふと空を見れば黒い物体が飛んでいることに気がつく。見たことのないそれに、彼は不安を覚えるのであった。

 

 

 

 





さて、今回の話はいかがでしたか?
開戦と言っても、今回はそれぞれの艦娘の人間性に注目してみました。
うまく描けていたらなあと思っています。

黒い飛翔体…はて、知らない子ですね?()
ここは読者様のご想像にお任せしますので、次回予告は省略という事で!

…どんな予告をしようかネタが思いつかなかったわけではないです!決して!!(ごめんなさい)



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鎮守府急襲!吹雪と魚雷とツンデレと


おこんにちわ〜、さんめん軍曹です!
時間的にはこんばんはでしょうか?(すっとぼけ)

この休日は家でまったり…小説を書き進めようと思ったらほぼ寝てました()
なんだかんだありましたが、無事に書き上げることが出来ましたので、早速本編行ってみましょー!!




 

「なに、黒い飛翔体だと?」

「ああ、嫌な予感がするんだ。良くないことが起こりそうな気が、な」

「なるほど。お前さんがそう言うのなら警戒するに越したことはないだろう。ちょうどもうすぐ球磨達が帰って来るところだ。演習が終わるまで海を警戒しててもらうか」

 

提督の言葉に頷いた獠はインカムに手を伸ばした。

 

「あー、あー、こちら横須賀鎮守府ー。海の球磨さん達聞こえるかー」

『感度良好だクマ。冴羽、普通に呼んでほしいクマ』

「おーすまんすまん。どうだった?遠征は」

『楽しかったクマよ。ついでに釣りもしてきたクマ、飯もいっぱいあるクマ』

「そいつは楽しみだ。帰る前に一つ、頼みごとをしていいか?」

『なんだクマ?』

「うちの上空に怪しいのが飛んでてな。ここら辺に不審な奴がいないか見張ってほしいのさ」

『お安い御用だクマ。その代わり条件があるクマ』

「?」

『間宮券を5枚だクマ』

「わかった、それで手を打とう。それじゃ、頼んだぜ」

 

無線を切ると、獠は提督達の方に向き直った。

 

「頼れる武闘派が警備をしてくれる事になった。パーティの再開といきますか」

「さすがだな、獠。もう提督の資質が芽生え始めたか」

「よせよ。今夜の就任式があるまで正式な提督じゃないんだから」

「言っとくが、俺も今はただの憲兵だ。今後はお前が俺の娘達を育てていくんだぞ」

「わーってるよ。こりゃ、厄介な事になりそうだな」

 

はははと2人は笑い、獠は吹雪と叢雲に声をかける。

 

「2人とも、準備はいいな?」

「はいっ、さっきの反省を踏まえて負けないように動きます!」

「当然よ。私達だっていつまでもアンタにやられっぱなしじゃないんだから」

「良い心がけだ。それじゃ、海に出るとするか」

4人はまた先程の位置に着くと、いつでも開始できるよう準備を整えた。提督が合図を出すと、また一斉に動き出す。

 

「やっと言えたじゃん、提督」

「セリフはなかったけどな」

「今回はそこそこシリアスな分、鈴谷達がギャグ担当になってるんじゃない?」

「マジか、随分雑だな」

「鈴谷は面白ければナニされたっていいよ」

「そうだな」

 

海上では2人同時にボートへ向かっていたが、叢雲が吹雪に話しかける。

 

「吹雪。さっきの反省点はわかっているわよね?」

「うん、そのつもりだよ」

「じゃ、この後の動きもいちいち説明する必要はないわね」

「うん、タイミングは叢雲ちゃんに任せる」

「そう。…今よ!」

 

獠達まで残り僅かの距離になった時、2人は同時に左右に分かれた。獠が撃ってきた弾が当たるが、小破以下のダメージだ。そして、背後に着くなり魚雷と砲弾の雨を降らす。

 

「…しまった!」

「吹雪の奴等、すぐに成長したじゃねえか。おかげで避けきれなかったぞ」

「大破か…こりゃ負けだな」

 

しかし、吹雪達の攻撃はそれだけでは終わらない。そのままボートの近くまで来ると、前を走っている叢雲が屈んだのである。そして、馬跳びの要領で上へ飛びながら一回転。落下しかけている途中で連装砲を構えた吹雪は、そのまま撃ち出した。

 

 

「ぷっ、くく…」

「よし、判定はお前らの負けっ、だっ、獠っ…」

「あーっはっはっはっは!」

「あの獠が負けるなんて…見ものだわ!傑作よ!」

「ふふっ、ファルコン…」

「天下のシティーハンターも、海の上ではただの人間ね」

 

なぜ、彼らがこんなに笑っているのか。それはペイント弾をまともに喰らった2人が全身ピンク色になっていたからである。そして、あまりに呆気なくやられたせいで、大勢の笑いを買ってしまったのだ。

 

「うーるせぇなー。まさか2人が急にここまで伸びるとは思わなかったんだよ」

「すみません…、やり過ぎました」

「別にいい。今回はお前らを成長させるのが目的だ。俺も久々に本気で操縦していたからな」

 

ニッと笑う海坊主。そして叢雲に向き直ると、お前はどうだと聞いた。

 

「今回ばかりはあなた達に助けられたわね。お礼は言っとくわ。吹雪や私もここまで行くとは思わなかったけど、まだまだ足りない」

「とか言って、本当は嬉しいんじゃねえのか??このっ、このっ!」

「ふぅん…冴羽、酸素魚雷のお代わりが欲しいようね?」

「上等だ!このむっちりツンデレ!」

 

ギャーギャーと騒ぐ一同であったが、突如鎮守府にアラートが響き渡る。全員の動きが止まり建物へ注目すると、大淀と明石が走ってきた。

 

「皆さん、大変です!」

「何が起きた?」

「すぐに球磨さん達に無線を繋いでください!敵が目前まで迫っています!」

 

獠は無線機本体のスピーカー機能をオンにし、周波数を球磨達に合わせた。

 

「おい!球磨型姉妹!誰でもいいから取れるか?!」

『…こちら北上。冴羽っち、今相当やばい』

「状況を教えてくれ」

『冴羽っちの読みは当たってたよ。ヲ級とヌ級が2体ずつ、それとチ級とル級がいる。厄介なことに、全員エリートレベルなんだよね。こっちはアタシが小破で球磨姉が中破、大井っちとくまのん、そして…うわっ!?』

 

北上の悲鳴とともに雑音に包まれ、獠は少し冷静さを欠いてしまった。

 

「おい北上!大丈夫か、しっかりしろ!」

『あー、うっざ…。…ごめん冴羽っち。木曽とアタシ、4人が大破したわ』

「なに?!」

『球磨姉も中破じゃ、いつまで持つかわかんないや』

「待ってろ、すぐに応援を向かわせる!信号弾を撃て!」

『わかった、ちょい待って』

 

全員が沖の方を見やると同時に信号弾が上がった。

 

「位置がわかりました!ここからさほど離れていません!」

「よし、死ぬんじゃないぞ!なんとしてでもお前らを守ってやるからな!」

『冴羽っちのそーいうとこ、好きだよ。それ……待っ……』

 

ブツリと無線が切れると同時に、何者かが2人、海に出た。よく見れば、それは鈴谷と多摩であり、隣にいた提督は地面にノックアウトしていた。

 

「待て、お前ら!」

『こんな時にゆっくり待って』

『姉や妹を見殺しにするようなら』

『艦娘なんて』

『やってられないじゃん!!(にゃ!!)』

 

地面で伸びている提督を見て、ああ、あれは相当頭に来てるな、と獠は思った。

しかし、キレているのは彼女らだけではない。

 

「冴羽殿!命令をくれ!」

 

ふと振り返れば、そこには長門以下艦娘全員が整列していた。

 

「お前ら…」

「さあ、素敵なパーティしましょ…!」

「私より不幸な娘なんていらないの…。でも、奴等にはもっと不幸になってもらおうかしらね…うふふふふ」

 

「よし、提督としては少し早いが、お前らに命令を下す」

「何なりと」

「現時刻を持って、すべての活動を休止し遠征部隊を救援しろ!明石!」

「はい!」

「ここで夕張と修理を担当!助手を何人かつけてもいいぞ!」

「わかりました!」

「青葉ァ!お前は逐一状況を報告だ!」

「合点です!」

「高速戦艦!お前らは現場に急行だ!他にもまだ敵の部隊がいるかもしれん!残りはその捜索及び掃討に専念だ!」

「「「「了解!!」」」」

 

獠の伝達が終わるとともに一斉に散り散りとなる。

残ったのは提督と香達、そして叢雲と吹雪だけだった。

 

「お前ら、まだあと一戦残っていたな?」

「そうね」

「それじゃ、この戦闘で2人がどれくらい成長したか、見させてもらおうじゃないか」

「わかったわ。せいぜい楽しみにしてなさい。吹雪、行くわよ」

「はっ、はい!」

 

2人が海に出ると、香が声をかけてきた。

 

「吹雪ちゃん、震えてたわね」

「まだ過去のトラウマを克服しきれていないんだろ。それを乗り越えられるかどうかは今回にかかってる」

「無事に帰ってこれるといいけど…」

「心配するな。あの2人ならできる」

 

まっすぐに海を見つめる彼らに、少し強めの風が吹き抜けていった。

 

 

 

 





さて、いかがでしたか?
事態は急展開、でも艦娘達の絆ってすごいや…!
普段はフリーダムな北上さんですが、いざ戦うとめちゃめちゃ冷静になります。自分らがやられて獠が焦っているのになぜか冷静です。

実は彼女、筆者の鎮守府では最高練度を誇っております。言うて、改2までは程遠いですが(トホホ)
心の内が読めない北上さんですが、獠に対して意味深な発言をしていますね。今後の彼女に注目かも??

さて、次回予告を置いていきます。




次回予告

事態は急展開!大ピンチの球磨達に鎮守府の艦娘が動き出した!
遅れて現地に向かった吹雪と叢雲だったが、強敵に道を阻まれてしまう!
果たして、吹雪は過去のトラウマを乗り越えることができるのか?そして、艦娘達は無事に帰還することが出来るのだろうか?!

次回もお楽しみに!




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絶体絶命!意外な味方と吹雪の見た先【吹雪編】


こんにちは、昼下がりにお届けしますさんめん軍曹です。
早速ですが、このお話についてお知らせします。
表編と裏編に分けて投下しますので、どうかよろしくお願い致します。
表編は吹雪視点、裏編は球磨たちとなっており、それぞれの視点で物語を進めてまいります。
まずは表編からどうぞ!




 

 

少し遅れた吹雪達は、全速で球磨達の元へ向かっていた。

 

「嫌なくらい静かだわ」

「なんだか怖いね…」

 

そんな話をしながらもなお前へと進む2人であったが、突如目の前の海面が盛り上がった。

 

「冴羽!聴こえる?!」

『どうした?』

「新たな敵の出現です!艦種は…」

 

2人の前に立ちはだかった敵は駆逐艦には違いないが、角ばったその身に纏うオーラは明らかに違っていた。

 

「駆逐ロ級…flagship…」

 

 

「なんてこった…」

「獠!あの2人だけじゃ持たないわ!」

「わかってる!おい、海坊主!!」

「ああ。俺らで敵うかはわからんが、行くしかなさそうだな」

 

2人はありったけの弾丸をボートに積んで、すぐさま出撃して行った。

 

 

「吹雪!行くわよ!!」

「う、うん!」

 

叢雲がそう言うと、目の前にいる敵に向かって一斉に射撃を開始する。だが、相手はflagshipである。2人の砲弾や魚雷も難なく避けてしまった。それどころか、こちらに向かって砲撃をしてきた。

 

「きゃあっ!」

「吹雪!!」

 

まだトラウマが抜けていないのか、動きが鈍い彼女に砲弾が直撃してしまった。叢雲はすぐさま吹雪に駆け寄ると、しっかりと抱き起こした。

 

「いたた…中破しちゃった」

「ばか!しゃんとしなさい!」

「私はまだ戦えるよ…!叢雲ちゃん!」

「え?」

 

 

「間に合え…!」

「獠!あれを見ろ!」

 

2人が見た先には、海面に倒れ込む叢雲と泣きながら呼びかける吹雪がいた。

 

「クソッ!間に合わなかったか!」

「いや、それはないようだ。だが、吹雪の様子がおかしい」

「吹雪!叢雲!大丈夫か!!」

「……」

 

俯いて黙り込む彼女。トドメの一撃を喰らわそうと、ロ級が砲弾を撃ったその時。

吹雪は敵に向かって背を向けているのにも関わらず、後ろに向かって砲撃をした。そして、砲弾同士がぶつかり爆発を起こすと同時に彼女は飛び上がり、驚異的なジャンプ力で敵の背後にまわったのである。

それを見ながらも獠達は、叢雲をボートに引き揚げた。

 

「う、うぅ…」

「無理して喋るな。今は安静にしてろ」

ボロボロの服で、裸同然の彼女に獠は自分のジャケットを着せた。

 

「私は大丈夫…。不覚だわ。吹雪は?」

「あれを見ろ」

 

海坊主がクイと首を向けると、驚異的な速さで敵と戦っている吹雪が目に入る。叢雲は驚きながらもじっと見つめていた。

 

「なんてこと…」

 

よくみると、彼女のセーラー服の柄が変わっていた。そう、彼女は改2になったのである。

 

「よっぽど妹想いなんだろう、あいつは。倒れ込んだお前を見てキレちまったようだ」

「そうなの。…あの子らしいわね」

 

だが、吹雪もさることながら敵も満身創痍だ。

彼女がトドメを刺そうと構えた時、様子が変化した。

 

「弾薬が…0?!」

 

途端に、顔から血の気が引いて行く。

なんてことだ。ここまで来て弾が無くなるとは…!

 

「待て、2人とも。様子がおかしいぞ」

「あの子の弾薬が尽きたのよ!」

「なんだって?!」

「このままじゃ吹雪が沈んじゃう!!」

「くそ、何か方法は…ん?」

 

獠が胸の違和感に気づく。ふと見ると、そこには手のひらサイズの何かが顔を出していた。

 

「こいつは…!」

 

 

2度も妹を守りきれなかった。私ってダメだなあ…。

吹雪は自分の死を覚悟していた。だが、少しでも周りを守る事に貢献できた彼女に悔いは残っていなかった。

 

「諦めるのはまだ早いぞ吹雪ーーーーっ!!」

「?!」

 

突然の大声。吹雪が振り向くと、彼らが全力でこちらに向かっている。

 

「これを使え!今のお前なら出来るはずだ!!」

 

そう言いながら、獠は何かを投げた。

クルクルと弧を描きながら飛んでくるそれをパシリと受け取った彼女は、自分の常識では深海棲艦に効くはずのない物に驚きを隠せなかった。

 

「冴羽さんっ!これじゃ到底…」

「いいから使ってみろ!効き目はあるはずだ!」

 

獠のそんな発言に疑問を持ってはいたが、時間がない。一か八かとコルトパイソンを構えた吹雪は、敵の大きく開いた口に狙いを定めた。

 

「さあ…来い!」

 

ロ級が砲弾を撃ち出す瞬間、吹雪は6発全てを叩き込む。

ピンホールショットが決まり、敵が大爆発を起こす。自分の知っている範囲とはあまりにかけ離れた出来事に、彼女の頭は追いつかなくなっていた。

 

「うそ…なんで?」

「俺も驚いたが、ある物が力を貸してくれたのさ。お前の頭を見てみな」

 

吹雪が頭に手をやると、なにやら感触がした。

手にとってみてみれば、それは妖精だった。

 

「ええ?!なんで???」

「俺にもさっぱりだ。後で奴に聞くしかねえな」

「それより今はお前らの手当てだ。向こうに戻るぞ」

 

浜辺に戻ると、満身創痍の球磨達となぜかキラキラしている金剛姉妹が目に入った。

 

「お前らも終わったか、お疲れだな」

「おかえりネ!久々にBurning Loveしたヨ!でも、ワタシ達だけじゃ到底敵わなかったデース」

「えっ?お前ら以外にいたのか?」

「初めまして!あなたがここの提督ですか?」

 

獠が振り向くと、見たことのない艦娘が数名おり、そのうちの1人に声を掛けられ、自己紹介をされた。

 

「航空母艦、蒼龍です!空母機動部隊を編成するなら、私もぜひ入れてね!」

「おっ、おおおおおぉぉぉ!!」

 

彼女の持ち前である九九式艦爆を見た彼は、即座に顔を埋めた。蒼龍は顔を真っ赤にすると、

 

「えっと、あの…九九艦爆がはみ出ちゃうから…」

 

と言った。そして、後ろの気配に気がついた獠はすぐにそ弁解しようと振り向く。

 

「香っ!これは条件反しゃ…」

「蒼龍に何すんじゃボケーーーっ!!」

「あっ飛龍!」

「ごわあっ!!」

 

香かと思っていた獠だったが、どうやら違うようだ。ハンマーと感触が違い、かつ声のトーンも違っている。

1発KOした彼が上を見てみれば、そこにはオレンジ色の着物を羽織り、髪をサイドテールに結んで、ヒと書いてある飛行甲板を持っている飛龍と呼ばれた少女が立っていた。

 

「……もっこり白パン」

「死ね変態!」

 

彼女は持っていた飛行甲板を、自分のスカートの中を覗き込んでいる男の顔にぶつけた。

 

 

 

 






さて、表編はいかがでしたか?
ちょっとだけ吹雪の設定を弄らせていただきました。

そして凶悪な艦爆を搭載した艦娘がやって来ましたね。例によってもっこりですよ、場の空気を壊しにかかりましたよ。
次回は彼女らがやって来た経緯についても書いていきます。

では、また近いうちに!


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絶対絶命!意外な味方と吹雪の見た先【球磨編】


こんばんは、さんめん軍曹です。
前回は吹雪視点、今回は裏で活躍していた艦娘達の視点でお送り致します。

では、本編どうぞ!!


 

 

 

 

「あ〜、見事にやられたクマ。なんで近海にあんなクッソ強いのがいるクマ、ありえないクマ」

 

球磨が愚痴るのも無理はない。周りを警戒している中、目の前にいきなり現れた深海棲艦に集中砲火を喰らい、全員が一瞬のうちに中破または大破に追い込まれてしまったのだ。

だが、近くにあった島に命からがら逃げ込んだ5人はその身に受けたダメージも気にせず愚痴るくらいには余裕を持っている。

 

「あたしと大井っちの魚雷攻撃も効かないなんてねぇ…チートすぎるよねえ」

「本当にその通りよね。それどころか、1発で大破に追い込まれるなんて…」

 

さほど離れていない場所から砲雷撃の音が聴こえてくる。

 

「熊野もすまない。多摩姉がエスケープしたばっかりに巻き込んじまって…」

「なあに、構いやしませんわ。それより、クソみたいに強いアイツらをどうやって捻り潰してやろうかしら…」

 

満面の笑みで物騒な発言をする熊野に、木曽はぞくりと悪寒を覚えるのだった。

 

「くまのん、その心配は無さそうだよ〜」

「?」

「信号弾上げてこっちの位置が分かってるし、冴羽っちの事だからたぶん高速戦艦を前に出すと思う。無線が壊れちゃったからわかんないけど、そんな気がするんだよねぇ」

 

海を見ながら北上は話す。その言葉とは裏腹に、彼女の目は確信に満ちていた。

 

「北上さんって、冴羽さんの事を本当に信頼してるのね」

「ん?そう…まぁ…そうねぇ」

 

「その通りだ。よく分かったな」

 

全員が声のした方向に砲を向けると、茂みから顔を出した摩耶の姿があった。

 

「なーんだ、摩耶っちか」

「砲を向けといてなんだはねえだろう。びびらせやがって」

「敵かと思ったわよ。この状況だから仕方がないでしょ?で、一体どうなってるの?」

 

大井が抗議しながらも摩耶に訊ねると、彼女は答えた。

 

「北上からの通信が途絶えた途端、鈴谷と多摩が提督殴り倒して飛び出してったんだよ」

「ぶっ飛び過ぎですわ…」

「お前だけには言われたくないクマ」

「まあまあ。それでよ、アタシらもたまたまそれを聞いてたからすぐに冴羽んとこに集合したら、鎮守府総出でお前らの救出と害虫駆除を頼まれたわけだ」

 

摩耶から大体の状況を聞いた5人は顔を見合わせる。

 

「なるほど。摩耶、一つ質問だ」

「なんだ?」

「鎮守府の奴ら、どんな感じだった?」

「金剛たちは戦う前からキラついてたし、冴羽を始めとした長門たちは鬼のような顔をしてたな」

「おぉう…」

「みんな情に厚いからねぇ。本気で怒らせたらレ級だって敵わないんじゃない?」

「それもあの提督と冴羽さんたちのおかげかもしれないわね」

「そうだな。とりあえず長門達が奴らの気を引いてる間に戻るぞ。動けない奴はいるか?」

 

 

 

「うおおおぉぉぉぉりゃあああ!!!!」

「シャーーーーーーッ!!」

 

敵の目の前に乗り込むなりいきなりカットイン攻撃をかまして不意をついた2人は、その勢いのまま砲撃を続けていた。

 

「ナッ、ナンダ?!」

「マダカンムスガイタノカ!」

「エエイ、ヒルムナ!ウテ!」

 

いくら初撃で不意をつかれたとはいえ、相手はエリート級だ。すぐに体勢を立て直して撃ち返してきた。

 

「オラァ!航改2が実装されたとか言ってるけどな!設計図がないから改造できないって提督に言われて悲しいじゃん!死ね!」

「ソレハメタハツゲンダ!」

「多摩はエスケープしたから無傷にゃ!元気一杯にゃ!だから沈むにゃ!」

「リフジンキワマリナイ!!」

 

色々とダメな発言が聞こえてくるが、敵が6人に対してこちらは2人である。そんな状況でも互角の戦いを繰り広げていた。

しかし、相手に空母がいることを忘れてはならない。

 

「ヲ…コレハドウ?」

 

ヲ級とヌ級から、一斉に艦載機が放たれる。鈴谷も航空機は持っているが、数では到底歯が立たない。

 

「それ無理いいいぃぃぃ!!ずるいっしょ!」

「酷いにゃ。数で攻めるとか、考え方が雑魚そのものにゃ」

「ソウ…ナラ、オモイシラセテアゲル」

 

そういうが否や、一斉に敵艦載機から無数の爆弾が降り注がれた。

 

「あーーーーやっばい!!多摩にゃんどーするよこれ?!」

「すずにゃ、うるさいにゃ。黙って気合いで避けるしかないにゃ!」

 

周りで爆弾が炸裂する中、2人は懸命に回避しようと試みていたが、遂に鈴谷が被弾してしまった。たまたま当たりどころが良かったのか、小破である事が不幸中の幸いである。

 

「ぎゃあっ?!いったいしぃ…」

「ほら言わんこっちゃないにゃ。黙るにゃ」

「あいたたた…服がボロボロじゃん…あっ、あれっ!やばっ!!」

 

鈴谷が指を指した方向を見ると、こちらに向かって急降下してくる機体がいた。

もうダメかと思った2人だったが、突如機体が爆発する。なんと、その一機だけじゃなく周辺もたちまち墜落して行ったのだ。

何事かと思ってあたりを見ると、黒に混じって緑色の戦闘機が飛んでいる。

突然のことで動揺する2人の無線機に、聴いたことのない声が聴こえてきた。

 

『2人とも!そのまま後退できる?私たちがなんとかするから!』

「誰?!」

『そんな事はあとあと。とりあえず言う通りにして』

「…わかったにゃ」

 

2人はそのまま後ろへ後退すると、緑とオレンジの着物が見えた。あれ?二航戦どころか、正規空母すらうちにはいなかった気がする…。

 

「助けてくれてありがと。鈴谷が知ってる限りだと2人とも二航戦だよね?どうしてこんなところにいるのさ」

「飛龍とふらふらしてたら、たまたま無線のやりとりが聴こえてきたのよ。それで駆けつけてきたんだけど…」

「5人だと思ったのに、見た所あなたたちだけだよね?」

「そうにゃ。その5人は多摩たちの姉妹で、助出しにきたところにゃ」

 

フンスとばかりに鼻を鳴らす多摩。しかし、二航戦の2人は驚いていた。

 

「え?難易度インフェルノな相手でしょ?鈴谷ちゃんでも小破なのに多摩ちゃんはなんで無傷なの?!」

「多摩を甘く見るにゃ。うちには頼りになる提督がいるにゃ」

「まあ、鈴谷たちも勢いで行ったようなもんだしねー…」

 

苦笑する鈴谷。と、そこへ砲撃の音と共に長門たちから通信が入った。

 

『2人とも無事か?』

「すずにゃが小破で、多摩は無傷にゃ」

『そうか、よかった。気持ちはわかるが、無理な突撃は控えろ』

「ゴメン長門さん。だけどこっちも心強い味方がきたよ」

『艦載機がいるようだが、いったい誰だ?』

「初めまして。私達は蒼龍と飛龍です。そちらの無線を傍受、救難信号を発見したので助太刀にきました」

『そうか、ご協力感謝する。出来ればこのまま制空権を確保して欲しいが、頼めるか?』

「私達では力が及ぶか分かりませんが、できる限りの事はします!」

『ありがたい。では、引き続きよろしく頼む』

 

 

「Burning、ラアァァァァブ!!!!」

「気合い!入れて!!行きます!!!!」

 

長門が通信を切った頃、金剛四姉妹が持ち前のスピードを活かしながら砲撃をしていた。

 

「オマエラ!アキラカニカズガチガウダロ!ソンナズルヲシテイイノカ?!」

「はい!榛名は大丈夫です!!」

「ヲ…カエリウチ…」

「主砲!敵を追尾して…撃てェッ!!」

 

実は長門や陸奥、金剛達の他にも時雨や夕立、初雪やら雪風など多数の艦娘が戦闘に参加していた。その中でもひときわ目立っていたのが、ドス黒いオーラを放つ龍田であった。

 

「あら〜、数ではこっちの方が上でも、強さで球磨ちゃんたちを袋叩きにした悪い子はどなたかしら〜〜?」

「ヌァッ?!」

 

実は龍田、相当頭に来ているらしい。頭の上で常に浮かんでいるリングは赤黒く光っている。彼女を知る艦娘たち曰く、本気で怒らせたら味方でも恐ろしいという。下手をすれば大和よりも強いとか。

最初に犠牲になったのはヌ級である。槍でひと突きにされた後、そのまま両断されてしまった。

 

「なんだかスッキリしたわ〜。手が足りなくなったら呼んでね〜」

 

と言うなり後ろに引いていった。

意外とアッサリしているのも彼女の特徴なのだ。

 

そして瞬く間に次々と沈んでいき、最後に残ったのはル級のみ。その頃には、鈴谷たちも合流していた。

 

「クソ…ワレワレガコンナニカンタンニヤラレルナンテ」

 

ギリリと歯をくいしばるル級に、金剛と鈴谷が近づいていった。

 

「ワタシたちは艦の娘。防衛の海上代行者。ワタシたちの使命は、ワタシたちの場所を奪おうとする愚者をその肉の最後の一片までも絶滅することデスーーーAmen」

「小便は済ませたか?神様にお祈りは?岩礁の隅でガタガタふるえて命乞いする心の準備はOK?」

 

どこかで聞いたことのある台詞を並べた2人は、同時にル級を殴り飛ばした。

すると、辺り一面が眩い光に包まれていく。

 

「なっ、なんだ…?!」

「眩しい…目が見えません!」

 

天龍と雪風が目を押さえ、他の艦娘たちも同じような反応をした。

光が止んで海面を見ると、かの有名な一航戦と大和の妹、そして速さを自慢とする艦娘が倒れていたのである。

 

 

 






さて、いかがでしたか?
前回はシリアスな雰囲気だったので、今回はあえてギャグ調にしてみました。
書いていてものすごく面白かったです(((
自分の持っている艦娘達のイメージと、それを活かしたような展開になるよう書きました。
そして、敵が強い分ドロップ艦娘もやばい方たちに…/(^o^)\

少しでも楽しめていただけたなら、筆者としても大変嬉しい限りでございます…!

では、また近いうちに…!!




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新提督の仕事編
束の間の休息 獠は入浴、誰と混浴?!


こんばんは、さんめん軍曹です。
今回はスーパーな話。

獠がスーパー危険な目にあいます()
さて、いったい誰と絡むのでしょう?


では、本編どうぞ!!





「いるみねーぇしょん、ましたにみおーろしーーー♪よるをーのぼってくぅ、えすかれーぇたぁー♫っとぉ」

 

ここは鎮守府の大浴場。大浴場とはいうが、実際の用途は艦娘の入渠であり通称ドックと呼ばれている。

四つあるうちの一つは昼間の戦闘で負傷した艦娘達が使っており、獠はもう一方の大浴場を1人で貸し切っていた。

 

「いやーしかし、こんだけでかい風呂場を1人で貸し切るのもオツなもんだねぇ」

 

夜には就任式があるということで、そのあとは多分また隼鷹達に飲まされるだろうと思った彼は早めに入浴を済ませようと考えたのだ。

そして、今日の出来事について思い返してみる。吹雪の戦いを見届けたあの時、どうして妖精が現れたのか。その存在を聞いてたとは言え、今まで見えなかったはずだが…。

 

「パイソンの妖精…か。とうとう俺も提督の仲間入りってな?」

「やるじゃん冴羽っち」

 

女性の声が聴こえた途端、風呂場の空気が凍りつく。

彼が咄嗟にタオルを腰に巻きながら入口を見れば、バスタオルを巻いた北上と彼女の谷間から顔をのぞかせた妖精がいた。

 

「なっ?!きたっ、おまっ…」

「入る場所間違えたくさい。めんどいし一緒に入るわ」

 

そういうと、彼女は湯船に入り獠の隣に来た。

 

「あ”ーーしみるぅ」

「言っとくけどな、大井と香にバレたら俺が殺されかねないんだぞ…。それにだ、俺は18歳以下には興味がない」

「第二次大戦の(ふね)に年齢の話をするなんて失礼だなー」

「馬鹿言え。第二次大戦だろうと女の子の姿をしてるのには変わりないだろうが」

「それもそーだね。ま、あたしの裸見るのなんて初めてじゃないでしょ。別にいいじゃん?」

「まずあの時はお前が大破して逃げてただけだろうが!」

 

相変わらずの北上のフリーダムさにツッコミを入れるのが精一杯の獠。彼女との出会いは、獠が仕事で来ていた時まで遡る。

 

ブラック提督排除の為に鎮守府へと訪れていた彼と槇村は、艦娘の活動を見てみたいと言い提督と共に船に乗っていた。

彼らが甲板で双眼鏡を覗いて暇を潰していると、リ級を始めとした深海棲艦達に追われている艦娘が目に入る。

彼女を救おうと全速前進していると、逃げていた艦娘は敵の砲撃をまともに喰らってしまい気絶。そしてまずいと感じた獠はすぐさまパイソンを撃って気を引き、そのあとは鈴谷達が排除した。

船に引き上げた艦娘の心臓は止まっており、獠が服を裂いて人工呼吸をする。

 

『死ぬな!生きるんだ!』

 

そして彼が艦娘に口をつけたその時、奇跡的に息を吹き返した。そして、彼女は自分が今何をされているか理解した瞬間、頭から蒸気を出して再度気絶してしまったのだ。

その艦娘というのが今、獠の隣にいる球磨型3番艦の北上なのである。

 

「あの時は右も左も分からないまんまうろうろしてたらたまたま敵にバッタリしちゃったからねぇ。ほんと、どうなるかと思ったよ」

「実際のところ、俺も間に合わなかったらと思うといい気はしないな」

「助けてくれてありがとね」

 

そういうと彼女は姿勢を直した。少しだけ自分に寄ってきた気がした獠は、話題を変えようとする。

 

「まあ、アレだ。北上は海に出るとやられまくるな。今回もそうだが、敵の恨みでも買ってんのか?」

「知らないよー。あたしゃ出来れば戦いたくないんだけどねぇ。積んだだけとは言えアレを見るのも嫌だし…」

 

北上がまだ艦だった時代、ある種の兵器を積んでいた。もちろん、その前には様々な経験をしていたが、最終的にそれ向けに改造されたものの、空襲を受け出撃ができないまま終戦を迎えたのである。

 

「あー、そりゃ、すまなかった」

「いーよ別に」

 

しばらく沈黙が空間を支配する。

聴こえて来るのは、妖精が風呂で泳いでいる音のみだ。

 

「しかしま、今夜だね。冴羽っちがここの提督(ドン)になるのも」

「そうだな。だがとんでもない仕事を引き受けちまったなあ」

「いーじゃん。みんな楽しいし」

「そりゃそうだが、お前は不安じゃないのか?」

「べつにー?ここにいるのもまた恩人に会える気がしたからだし、大井っちもいたからねぇ」

 

そこへガラリとドアの開く音がした。

 

「北上さーん!私がお背中を流しますよー!だから一緒におふ…ろ……」

 

先程まで気持ちよく入浴をしていた獠だが、大井が入って来た今、彼は自分の死を覚悟した。

 

「お、大井くん!これは誤解だっ!!」

「……冴羽さん」

「ひゃいっ!」

 

彼女はつかつかと歩いて来ると、そのまま掛け湯をして彼の隣へ入って来た。そして獠の耳へ口を近づけると、こう囁いたのである。

 

「北上さんを泣かせたら殺しますよ…。この意味、わかりますよね?」

 

彼は物凄いスピードでうなづく。実は彼女、北上がこの鎮守府へ来た経緯を知っており、なぜ獠に意味深な態度をとるのかもある程度は察しているのである。だからこそ、2人が共に入浴していようが気にしないのである。

 

「大井っちー、なんの話をしてたのー?」

「何でもありませんよ?」

「そっか、ならいいや。じゃ後で背中流すの手伝ってねー」

「はい、喜んで!」

 

艦娘に挟まれ、一方は形が良く、もう一方はそこそこ大きなものを持つ彼女らに対して、さすがの彼でも理性が限界を迎えていた。

 

「俺は先に上がるぞ!ちょっとのぼせた!」

 

そのまま風呂場を出ると、脱衣場にはなんと香が立っていたのである。

 

「ぎゃああああああ!!!」

「うっさい!アンタが遅いから呼びに来たんだよ!」

「香!許してくれ!!これには深いわけがあるんだ!!!」

 

いつも通りのハンマーを喰らうかと覚悟をしていたが、なぜかあの一撃が来ない。

 

「…?」

「冴羽っち!どしたの?!」

「冴羽さん?!」

 

風呂から2人が出て来る。だが香の姿を見て、敵ではないと安心した。

 

「あ、北上ちゃんに大井ちゃん。ゴメンね、遅いからコイツを呼びに来たのよ」

「そーいう事ね」

「急に冴羽さんの叫び声が聴こえて来たから何事かと思ったわ」

「あれ?ハンマーはどうした?」

「アンタそれを期待してたの?アタシだってあの話を聞いてりゃさすがに……あっ」

 

それを聞いた獠は、ほーんと言い、

 

「つまりお前は北上の後を追って、俺が襲ったりしないか見張ってたわけだな」

 

と推理した。

 

「ぐっ……うっさい!それもこれもみんなお前の日頃の行いが悪いせいだ!」

「なんだと?!据え膳食わぬは男の恥、美人がいたらもっこりするのが男の義務だろうが!」

「いいからはよ服を着んかいこのスケベ!!時間がないんだよ!!」

 

そう言いながら香は獠の顔に服を押しつけ、そのまま立ち去ってしまった。

 

「冴羽っちも大変だねー」

「もう慣れたさ。それに、槇村の遺していった大事な人間だからな…」

 

そう言われた北上は、何かがチクリと胸を刺したが特に気にはしなかった。

 

「鈴っちから聞いたよ。秀っち、良い人だったのに気の毒だね」

「あんのお喋り…。まあ、槇村を殺した奴らは全員始末したがな」

「北上さん、それ以上は…」

「んあ、そうだった。ゴメンね」

「いいさ。さて、俺は着替えて準備をして来る。お前らも遅れるなよ」

 

彼はそのまま一張羅に着替えて、愛銃の入ったホルスターを身につけると風呂場を後にする。その頭には妖精が乗っかっていた。

 

「さて、背中流すか」

「そうですね。痒かったりしたら遠慮なく言ってくださいね」

「助かるよー」

 

そして彼女らは、シティーハンター冴羽獠の提督就任式に間に合う為、風呂場へと消えていく。

 

 

 




いかがでしたか?
Angel nightは良いですよね。カラオケだとキーが高すぎて筆者の喉は一撃死します(((

そして北上様はフリーダム。フリーダムだからこそ、遠慮がないんでしょうねえ…
大井っちが登場した瞬間、誰もが思ったであろう展開を見事に裏切ってみせました。どうだ!ひっかかったか!!(ごめんなさい)

さて、やっと次回で獠が正式な提督になります。
今回にしようと思ったら、サクサクと風呂場での話が進んでしまいました()
では、次回にご期待ください!!

またお会いしましょう!!




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今宵はドンチャン騒ぎ!!粋な提督と艦娘たち


こんばんは、さんめん軍曹です!
お待たせしました、冴羽鎮守府、始動です…!!

やっと書くことができました…!!
ちょっと感激してますw

着任式、一体どんな流れになるんでしょう…??

本編行きましょう、ではでは!!





 

 

夕刻、鎮守府の大食堂。ここは艦娘たちが食事をする場所であり、カラオケや催事が出来るように舞台も作ってある。

トラブル続きであった獠達だったが、もうすぐで提督に着任する時がやってくる。鎮守府の艦娘達や仲間達はもちろんのこと、元帥と大和、大将や冴子の父でもある警視総監に麗香といった野上一家。そしてキャッツアイ本店を臨時休業にしてまでやってきた麻生かすみなど、実に大勢の来賓がやって来たのだ。

 

「こんばんは!鎮守府で艦娘兼記者をやってます青葉です!冴羽さんについて一言をいただければと存じます!」

「獠のこと?そうねえ…。あ、私は野上麗香よ。野上冴子の妹で、私立探偵をやってるの。よろしくね!」

 

麗香はご丁寧にも青葉に名刺を渡した。

 

「ありがとうございます、いただきます!早速ですが麗香さん。冴羽新提督とはどういった関係ですか?」

「私?今は彼の家の隣に事務所を構えているわ。彼とはいわばライバルであり協力関係といったところかしらね」

「実際のところは…?」

「いつもいつも獠ともっこりしようとすると香さんに邪魔されるの!くやし〜い!」

 

麗香は気づいていないだろうが、とんでも無いことを口走っていた。もちろん、青葉はそれをしっかりと記録する。

 

「あら大和さん」

「冴子さん…!あの時はありがとうございました」

「いえいえ。元帥もお元気そうで何よりですわ」

「ほっほっほ。まだまだ若いもんに負けたりせんわい。わしの目の黒いうちは、ブラック提督なんぞに好きにさせんぞ」

「もし必要でしたらいつでもお呼びください。この馬鹿娘がお手伝いしますので」

「まあ、お父様!」

「いい親子じゃのうて。それよりも、槇村くんの事は気の毒だったな」

「ええ。ですが獠が組織を壊滅させましたし、今は特には」

「しっかりした娘さんじゃのう。総監殿も鼻が高いだろう」

 

と、そこへちょうど通りかかった武蔵が声をかける。

 

「大和!」

「あら武蔵。お久しぶりじゃない」

「まさかここで会えるとは思いもよらなかった。どれ、あちらで話をしないか」

「私は構わないけど…」

 

大和は元帥の意思を確認しようと目を合わせる。

 

「行って来なさい。姉妹同士、水入らずで話をしたいだろう?」

 

元帥がそう言いながら歳に似合わずウインクをすると、彼女の顔がぱあっと明るくなる。

 

「あっ、ありがとうございます!武蔵、行きましょ!」

「あっ大和!引っ張るんじゃない!慌てなくてもこの武蔵は逃げないぞ!」

 

彼女ら以外にも思い出やこれからについて語り合うもの、大飯を食らう一航戦たちに群がる者などがいた。

そうこうしているうちに時間がやって来る。

 

「ん、あー。んんっ。み、みなさま、きょうはおこしいただき…」

 

会場の皆が一斉に振り向くと、その体格に似合っていないタキシードを着た海坊主が司会席に立っていた。

 

「ファルコン、しっかり!」

「美樹!俺はこういうのが大の苦手なんだ!」

「冴羽さんの晴れ舞台なんだから、ちゃんとして!」

「あの野郎、こんな仕事を押し付けやがって…。今度会ったらただじゃおかん」

「それは提督さんに言いなさい。ほら、みんな見てるわよ!」

 

海坊主が会場を見ると、大勢の艦娘や知り合いたちがこちらに注目していた。その期待の眼差しを感じ取った彼は、途端に顔を真っ赤にして蒸気を吹き出してしまった。

その様子を見ていた艦娘たちからくすくすと笑い声が聴こえてくる。

 

「ファルコンは不器用デスネ」

「そんな海ちゃんかわいいじゃん?」

「ん、全くもってその通りだねぇ」

「海坊主さん…頑張って…!」

 

吹雪のエールが通じたのか、蝶ネクタイを結び直した海坊主は気を取り直して喋り始める。

 

「さて、おふざけはここまでだ。今から獠の着任式を始める。早速だが登場してもらおう。出てこい」

 

途端に会場の全員がズッコケる。海坊主らしい喋り方ではあるものの、全員の感想を摩耶が代弁した。

 

「これじゃ作戦前のブリーフィングと変わらねえよ…」

 

とは言うもの、しばらく経っても出てこない。どうしたのかと会場がざわついた時、獠の叫び声が聞こえた。

 

 

「いーーやーーだーーっ!離せ!」

「ごちゃごちゃ言うな!みんな待ってるんだ早くしろ!」

「俺はこんなの着たくない!普段着の方が性に合うんだっ!」

「いたたっ!噛み付くなこのぉっ!!」

 

舞台の袖から飛び出してきた獠。そしてすぐ背後にはハンマーを持った香が立っていた。

 

「ここは公式の場なの!ゴタゴタ抜かさずちゃんとやれ!」

 

そして会場に向き直ると、

 

「皆さんごめんなさいね、このバカのせいでグダグダになっちゃって。をほほほほほほ」

 

と言い、袖に引っ込んで行った。

 

「いっでぇー…覚えてろ!」

「ほら、せっかく出て来たんだ、なんか喋れ」

 

海坊主に催促をされ、彼を睨みつける獠。だがすぐにマイクの前に立ち、自分の想いを全員に喋る。

 

「まあなんだ…、どう言うわけか提督になっちまったが、仕事を引き受けた以上は最後までやりきるつもりだ。しかし、これだけは守ること。絶対に死ぬな。無茶な進撃や仲間割れはご法度だ。お前らの前の提督は俺と海坊主の戦友であるからして、お前らも俺の戦友であり娘だ。今回、色々な事件が起きたものの、それに向けて全力で対処した皆に対して、それを率いることが出来るのを誇りに思う。特にブラック提督の排除、武蔵や赤城、加賀と島風がここに来たことと吹雪が改2になったこと、そして球磨達を救い出せたことがその証だろう。それから最後に、俺は提督になってもこれまでと変えるつもりはない。よって、制服は基本的に着ないし呼び方もこれまで通りでいい。さあ、今日は乾杯だ!」

 

乾杯の一斉とともに、その場にいる全員がグラスを持ち上げる。そして、酒豪たちが早くもビールのジョッキを空けてしまった。

 

「いいんでしょうか、元帥…?」

「なんだ?冴子くん」

「この後、元帥から辞令の授与があるのでは…」

「構わんよ。あやつもそうガチガチした事は好まんだろうて。それよりも、今日は楽しもうじゃないか」

 

そう言ってにっこり笑うと、自分もさっさと艦娘たちの中に入っていってしまった。

 

「さえちーん!こっちに来ていい女の極意ってのを教えてよー!」

「暁はレディよ!そんなの聞かなくてもわかってるわ!」

「あらあら、ちっちゃなレディーさん。それなら私にどうやったらレディーになれるか教えてもらえないかしら?」

「ちっちゃいって言うな!」

 

「気合い!入れて!作りました!!」

 

別の場所では、比叡が特製のカレーを駆逐艦たちに振舞っていた。

それを見た最上は、疑問を口に出す。

 

「ねえねえ比叡さん。これを食べて倒れない?大丈夫?」

「いつもは実験してて、それが失敗に終わってるだけです!今日はちゃんとしたレシピで作りました!!」

 

そう言って、カレーの皿を最上に差し出す。

彼女は恐る恐る口にすると、そのあまりの美味しさに驚いた。

 

「えっ、うそ?!美味しいや…」

「私だって元々はお召し艦ですよ!?世間一般ではとんでもない兵器を作ってると言われてますけど、本当はちゃんとしたのだって作れるんですから!」

「比叡さん、お代わりなのです!」

「いつもと違ってうまいわね…」

「この味に落ち度は…無いですね」

 

駆逐艦たちや最上の評価に安心した比叡は、

 

「ひえぇ…よかったです」

 

と、胸を撫で下ろしたのである。

 

「これ、うまいですよ冴羽さん」

「流石に気分が高揚してきました」

「どれどれ…おーーっ」

 

赤城からステーキを一欠片分けてもらった獠は、そのあまりのうまさに感動していた。

 

「この焼き加減、最高だな!牛肉もそれなりのものを使ってるだろう。いったい誰が作ったんだ?」

「主食は鳳翔さんが、サラダやデザートは間宮さんと私が作りました」

 

彼が振り向くと、間宮と鳳翔、そして伊良湖が立っていた。

 

「あらー、そうだったの!こんだけの量作るの大変だったでしょ?」

「いえ、皆さんのためにと腕によりをかけさせていただきました」

「お気に召したようで何よりですわ。良かったら私たち特製のデザートも食べてください」

「美人の頼みとあっちゃ聞かないわけにはいかないさ。良かったら今度、うちの香や美樹ちゃんに教えてやってくれないか?」

「もちろんです。でも、どうして?」

「海坊主と美樹ちゃんは喫茶店やってるんだよ。ここに2号店を作る予定だから、君たちにも手伝ってもらおうと思ってね」

「まあ、それは素敵!ぜひやらせて下さい!」

 

獠たちがそんな話をしていると、彼を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「ヒャッハーーー!!新提督ぅ、飲もうぜ飲もうぜ!」

「行けェ、高雄ォ!!」

「負けるな妙高ォ!!」

 

なにやら盛り上がっているようなので、間宮たちと別れてそちらへ行ってみると、高雄と妙高がビールの一気飲み比べをしていた。

そして、炭酸に耐えきれなくなったのか妙高が盛大に吹き出す。

 

「妙高姉、大丈夫か?!」

「馬鹿め…と言って差し上げますわ!」

「ぐやじい〜〜、負げだぁ〜」

「お前ら、早くもこんなに出来上がりやがって…俺も混ぜろォ!!!」

「「「ヒャッハーーー!!!!」」」

 

そして高雄や隼鷹たちに飲み比べで勝った獠は、そのままの勢いでカラオケを歌い、艦娘たちとデュエットを披露、元帥とダンスをして会場を盛り上げた。

 

「北上ぃ、私たちも行くわよ!!」

「くもっち飲みすぎじゃね?」

「私は沈む前に提督たちと飲み明かしたの!これくらいわけないわよ!」

「あぁ、そう…。んじゃ、やっちゃいますか」

 

そして2人が入れた曲は、なんと加賀岬であった。

 

「重雷装巡洋艦、北上!」

「駆逐艦叢雲改2!」

「「出撃します!!」」

 

イントロを聴いた張本人は、飲んでいた日本酒をぶちまけた。

 

「うおっ、加賀さん?!」

「飛龍、急いで雑巾取って来て!」

「あいよ、ちょっと待ってて!!」

「あぁ加賀さん…、動揺しすぎですよ…!」

「頭に来ました」

 

そして2人が歌っているところに飛び入り参加。3人で歌いきると同時に歓声が上がる。

 

「私も歌いますわ!とおおぉぉぉーーーう!!」

 

鈴谷と熊野がGet Wildをリクエスト、そして歌い終わると、

 

「雪風も負けません!!」

 

雪風が歌うのは吹雪。これはその名の通り吹雪の持ち歌である。

歌いきった雪風は見事100点を出し、幸運艦であることを知らしめた。

 

そのあとは某24時間番組のエンディングテーマ曲を会場にいる全員で歌って大爆笑。

 

まだまだ夜は続くのであった。

 

 

 




さあ、いかがでしたでしょうか…?
今回はあまり喋らせることができなかった艦娘たちにスポットを当てて見ました…!!
それぞれの個性がうまく出せてればと思ってます…!!

獠がいる式典だと、こんな感じになるのかと色々な想像をして書いていたら、ウキウキしてとても楽しかったです…!!

さて、次回は早速仕事に取り掛かってもらおうかと考えております。
皆様も飲み過ぎには気をつけてくださいね()

では、おやすみなさい!
次回をお楽しみに!


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提督も楽じゃない?!一難去ってまた一難




おはようございます、さんめん軍曹です。
朝のラッシュに揉まれながらお届けします。
昨日中に投稿できると思っていたら、まさかの寝落ちをかましてしまいました…

今回は獠が提督になったらどんな事をするんだろう?と考えながら書いております。
また、題名には特に明記しませんが、前後編で1日を書いてお届けします。



では、本編行きましょう!






 

 

 

「ゔえぇ…ぎもぢわりい…」

 

次の日の朝。意識を取り戻した獠は、急激に襲って来た2日酔いに対してどうする事もできなかった。

しかし、なんとか起き上がろうとその手に力を入れると、なにやら柔らかい感触がした。

 

「ん…?なんだこれ」

 

気になったので問題のそれを確かめると、なんと金剛の胸であった。

 

「oh…」

「ヘーイ獠ー。ワタシの身体を触ってもイイけどサー、時間と場所をわきまえなヨー」

「金剛?!おまっ、起きてたのか!」

「あれだけ胸を揉まれれば起きるネ。そんなに夜戦に突入したいなら、仕事を終えてからにしてほしいデス」

「仕事?」

「テートクとしての執務もそうだけど、まずは目の前の惨状をどうにかするデース」

 

獠が辺りを見回せば、かつて見た野戦病院並みの荒れようだった。

テーブルや椅子は位置がずれたり倒れたりしていて、折り重なっている艦娘や力尽きたようなものもおり、その中でも特徴的なのは隼鷹であり彼女は酒瓶を抱いて寝ている。

 

「この後始末が俺の初仕事ねえ…。掃除屋(スイーパー)だけに、ってか?ははは…」

 

彼は引きつった笑いを浮かべると、金剛と共に近くの艦娘から起こしにかかるのであった。

 

 

「で、だ。獠、お前にはまずやってもらうことがある」

「いでで…なんだ?」

 

提督室にて、獠と提督はお互いに水をガブガブ飲みながら話をしていた。

 

「まずお前には秘書艦を決めてもらう。提督たるもの、側に秘書艦はいなければならんからな」

「なるほど。どうやって決めればいいんだ?」

「そこはお前の自由にしていい。少なからずこの鎮守府にはお前に好意を持っている艦娘が多いからな、さっさと決めないと争いが起こるぞ。ただ決めたら決めたで、あいつらも文句は言わんだろうがな」

「ふうむ。当番制はダメなのか?」

「いいところに目をつけたな。当番制もアリ、だ。しかし、どんな風にする?」

「1週間交代。その週を誰にするかは俺の気分で決める」

「なるほど、わかった。しかし条件がある」

「なんだよ?」

「決める時は香を必ず隣にいさせろ。お前だと美人で巨乳の奴らしか選ばんだろうからな」

 

それを聞いた獠はギクリとした。

 

「だいたいお前の考える事はわかってんだ。そうでもしないと差別されてると思う艦娘も出て来るしな」

「わーったわーった。そうしますよ!」

「ほんとかどうか疑わしいから最初は俺が決める。あいつなんてどうだ?」

 

 

「おーっす、冴羽っちー。よろしくねー」

「おうよろしく。…って、最近お前の登場回数多くないか?」

「さーねー。どこぞの作者があたしを出したがるんだよー。部屋でゆっくり漫画でも読みたいのにさー」

「そもそも提督(アイツ)が北上を選ぶって、狙ってるようにしか思えんが…」

「あたしと冴羽っちが混浴したこともなぜか知ってたしね。それに、出会いが出会いだからねぇ」

「どうせまた青葉か香だろう…」

 

『ほぎゃああああああああああああ!!!!』

 

「海坊主か」

「だね」

「いい酔い覚ましじゃねえか」

「うちの姉かむっつーでしょ。海っちってば、猫に好かれるからねぇ」

 

ここで、獠はある事に気付く。

 

「なあ北上」

「あい」

 

彼がシリアス顔で聞いて来るので、思わずごくりと唾を飲む。

 

「提督の仕事って…なに?」

 

北上は派手にコケた。

 

 

「ほい、書類持ってきたよー」

「助かるぜ。お前のことだからてっきり知らんて答えるのかと思った」

「あたしだってそのくらいは知ってるよー。まっ、殆ど鈴っちに聞いたことだけどね」

「へー。どうせ愚痴かなんかだろ」

「あたり。さっ、やっちゃいましょ」

 

というわけで執務を開始するが、ものの数分で根をあげる獠。

 

「ああああ無理ぃ!」

「なんでさ」

「こういう仕事は俺の柄じゃない!」

「変なところでカッコつけるよねー、冴羽っち」

 

彼が文句を垂れていると、ドアをノックして誰かが入ってきた。

 

「りょーぅ、コーヒー持ってきたわよ」

「お、香っち」

「あら北上ちゃん。今日から秘書艦なの?」

「そーだよー。今日から1週間はこのスーパー北上さまが秘書艦やるよー」

「あらあら頼もしいわね」

「ふふーん」

 

北上ピースを彼女がしたと同時に獠が渡されたコーヒーをズズズと飲むと、ある事を閃いた。

 

「なあ、香」

「ん、なに?」

 

「はぁ、どーしてアタシがこんな事をやらなきゃいけないんだよ」

「お前、誰のアシスタントだ?」

「ぐっ…」

「それにだ、ここ数日はいろんなドタバタがあった。その影響で溜まった書類なんだし、どう考えてもこの量は俺と北上2人じゃ終わらない」

 

獠が指をさすと、そこには厚さ5cmほどの紙の束が置いてあったのだ。

 

「はいはい、やりゃあいいんでしょやりゃあ」

「よっ、お代官さま!」

「お主もなかなか悪よのう」

「どっちが悪なんだか…。だめだこりゃ」

 

そして彼らは書類を片っ端から処理していく。しばらく経って、ガチャリとドアが開き球磨が入ってきた。

 

「おーう北上ー。仕事は順調かクマ?」

「球磨姉じゃん。まー、見ての通りよ」

 

2人が獠たちを見ると、精魂尽き果てた2人の姿が目に入る。

 

「酷い有様だクマ…」

「まー慣れてないからねー。しょうがないっしょ。他のみんなは?」

「多摩は海坊主の叫び声を隣で聞いたから入渠してるクマ。大井と木曽は先に食堂で待ってるクマ」

 

食堂、という単語に気がついた北上は時計を見みると針は正午を過ぎていた。

 

「あちゃー。もう昼か」

「そんなに集中してたかクマ?!恐ろしいクマ…」

「2人とも頑張ってたから休憩にするか」

「その方がいいクマ。球磨は先に行ってるクマ」

 

「提督って大変だな…」

「アタシもアンタのアシスタントをずっとやってるけど、こんなに大変なことって無いわよ…」

 

復旧が完了した食堂に着くなり、香とともに昼食を注文する。獠はカツ丼の特盛、香はそばの定食を頼んだ。

獠が注文した時、間宮の顔が引きつっていたのでこいつはこんなもんだと香がフォローを入れていた。

 

「しかしまあ、よくこんな短時間で元どおりに直せたな」

「冴子さんたちが手伝ってくれたのよ。今も裏でご飯を作ってるみたいよ」

「ほう、大変だなあいつらも」

 

獠がガツガツと飯を頬張っていると、後ろから声をかけられた。

 

「冴羽さん!隣いいかしら?」

「雷ちゃんか。座んなよ」

「ありがとう!」

 

彼女は獠の隣にちょこんと座ると、一緒にうどんをすすり始めた。獠はなぜここに来たのか聞いてみる。

 

「さっき声をかけようと思って提督室に行ったんだけど、書類の山が残ってたから大変そうだと思って手伝いをしようと頼みに来たの!」

「本当にか?そりゃありがたいな」

「確かに3人だけじゃ手が足りないわ。北上ちゃんも喜ぶだろうし、お願いしていい?」

「もっちろん!2人とも、もーーっと頼っていいのよ!」

 

彼女の笑顔を見て、まるで天使のようだと思った2人。この後、提督室に戻り4人で仕事を再開するのであった。

 

「かみなりっち。助かるよー」

「北上さん、かみなりじゃないわ雷よ!」

「どーでもいいじゃん。それより、ぱっぱと終わらせちゃいましょー」

 

時計が15時を回る頃、今度は金剛姉妹が部屋に入ってくる。

 

「ヘーイ獠!仕事は一旦置いてティータイムにするネー!」

「そろそろ甘いもんが欲しいと思ってたところだ。お前らはどうする?」

「そうねぇ。アタシはいいわよ」

「あたしもー」

「じゃ、おやつにしましょ!」

 

仕事を一旦置いた4人は金剛たちに近づくと、もう1人部屋を訪ねて来た。

 

「冴羽さんお疲れ様。紅茶でもいかがかしら?」

「ミッキー!Good timingネ!」

「あら、ティータイムかしら?ちょうどいいわね」

「美樹ちゃん!海坊主はどうした?」

「ファルコンなら今、裏で皿洗いしてるわ」

「そうか、良かったら今夜…」

「はいストーップ」

 

ナンパしようとする獠に、香はリード付きの首輪をはめた。

 

「んげっ?!何すんだ香ぃ!」

「何回同じパターンをくり返しゃ気がすむんだ!少しは懲りろ!」

「そうよ冴羽さん!甘えるならこの雷にしてよね!」

「うっ…それはちょっと…」

「遠慮しないでいいのよ!さっ、ほらっ!」

 

そうして雷に強制的に膝枕をされ、頭を撫でられる獠であった。

 

「んー、やっぱりいつ飲んでもミッキーのダージリンはおいしいネー!」

「ありがと。紅茶が好きな金剛さんならいつでも淹れたげる」

「Thank you!」

 

こうして、彼らは久々に平和な時間(とき)を過ごすのであった。

 

 

 

 

 







さて、いかがでしたか?
北上様にズビシと言われてしまいましたね…w
だって、獠と彼女のやりとりって書きやすいし楽しいんだもの()

さてさて、獠たちの平凡な1日は続きます。夜は一体どんな展開になるんでしょうかね…?

では、また次回にお会いしましょう!




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新たな動き 提督(スイーパー)の仕事に休みはない


こんばんは、夜も更けた頃にお届けしますさんめん軍曹です。
今回は、前回の続きと次回につながる展開を書いたので、少し少なめになっております。

では、有無を言わさず本編に行きましょう!





 

 

 

 

ティータイムを終えた獠たちは執務を再開。慣れてない2人とマイペースな北上は悪戦苦闘してたものの、そこに雷が加わったことによって大幅に効率が良くなった。

 

「冴羽さん!未処理のはここに置いとくから、ハンコ押したら反対側においてちょうだいね」

「ほい」

「香さんは書類を読んで、良ければ北上さんに、わからなければ私に回して!」

「は、はいっ」

「北上さんは私達の書類を冴羽さんとこに運んで、要らないのはシュレッダーにかけて欲しいわ」

「あいあいさー」

 

とまあ、こんな具合に進んでいった。

しかし、日が暮れた時点でもやっと半分を超えたばかりだ。

そこへまた新たな艦娘がやって来たので、獠たちの目はぎらりと光った。

 

「獠、夕食を持ってきたわ…よ…」

「叢雲ぉ」

「んなっ、なによ…」

「え、XYZ…」

「「「「「頼むから手伝って!!」」」」」

「あー…って、朝からやってこの量なの?!なっさけないわねぇ。アイツらも呼んでくるから待ってなさい」

「すません…」

 

「獠ちん、最初からこうすればよかったんじゃないの?」

「うるせー。大体なこんな仕事は俺に合わないっつの…」

「まだ言ってるー。冴羽っち、いい加減諦めなよ」

「こんな事2度とやるかっ!」

「俺も最初の頃はそう思ってたな。今じゃもう慣れたが」

 

次々と文句をぶーたれる彼だが、誰かしらに論破されている。次第に集中力が途切れた獠は散歩に出ることにした。

 

「んあぁ…、久々に外の空気吸ったぜ」

 

今まで室内に缶詰だった彼は、数時間ぶりに吸う外の空気に酔いしれていた。

ズボンの裾を引っ張られたのでそちらを見てみると、妖精が乗せて欲しそうな顔をしていた。

 

「おっ、悪いな…ほれ」

 

獠がしゃがんで手を差し出し、妖精がよじよじと登って行く。今までではあり得なかった光景に彼はフッと笑いを漏らす。

 

「今でも信じられないぜ。まさか長年使ってきたお前が、とうとう妖精として目の前に現れるんだからな」

 

頭に乗っているそれは、ドヤ顔をしてこちらを見ていた。

 

「実際のところ、そんなに優しく扱ってなかった気がするがどうだった?」

 

妖精はふりふりと首を振ると、親指を立ててポーズをした。

 

「そうか。そう思えてもらえるだけでもいいさ。確かに今まで触ってきた銃の中で一番俺の言うことを聞いてくれたからな」

 

月夜の空の下、さざ波の音が響いていた。

ふと彼が前を見ると、埠頭の先端に影が見える。

誰かいるのか?そう感じた獠は少し警戒をしながらも近づいていった。

 

「………」

「よう、こんな時間にそんなところにいるなんて、感心できないな」

 

人影がバッと振り向くと、正体は吹雪だった。

 

「なんだ吹雪ちゃんか。また悩み事か?」

「いえ。でもここにいると、自然と心が落ち着くんです。前回は悩んでいたんですけど、今回はまた別で」

「と言うと?」

「はい、先日の件で改2になったのはいいんだけど、まだ実感が湧かなくて…」

「ああ、そんなことか。自分が強くなったかどうかなんて、実感が湧かなくて当然さ」

「冴羽さんもですか?あんな技をこなせるのに…」

「そりゃそうさ。確かに俺は裏の世界No.1とまで言われるし、それを誇りに思っている。…だが、それとこれとは話が別だ」

「?」

「どこかの大食らいが言っているだろ?慢心してはいけないと。実はその通りで、そう言った評価がもらえるのは日頃の鍛錬があってこそなんだ」

 

「はっ、はっくしょん!!!」

「赤城さん?」

「風邪でも引いたかしら…」

 

「俺もそんな評価はされているが、訓練だけは怠っちゃいないんだ。筋トレもすれば、射撃だってする。吹雪ちゃんがあまり俺と会わなかったのも、出撃を繰り返していたからだろ?」

「そ、その通りです…」

「だからこそ、改2になれたんじゃないかなあと俺は思うね」

「冴羽さん…!」

「まあ、こんな時間にふらふらしないこった。こわーいお姉さんたちがいつ襲ってくるかわからん。叢雲や北上みたいにはなりたくないだろ?」

「…はい!では、寮に戻ります!冴羽さん、ありがとうございました!」

「いいって事よ。おやすみぃ〜」

 

吹雪が駆け足で去って行くと、獠も

 

「さて、またあそこに戻ってめんどくさい仕事片付けるか。な、相棒?」

 

と言った。妖精がうなづいたのを確認してから彼もまた提督室に向かって歩き始めるのであった。

しかし、彼はひとつ重大なことに気がつかなかった。

すぐ背後の浜辺で何かが倒れていたのである。

その何かがこの後、彼の提督兼スイーパーとしての初仕事に繋がるとは誰も考えなかった。

 

 

「あ”ーーーー終わった」

「マルヒトマルマルだね。お疲れさまー」

「北上を始めとしたみんな、こんな遅くまで付き合わせてすまなかったな」

 

既に提督室の中は、死屍累々であった。

 

「北上は疲れてないのか?」

「そりゃ疲れたよー。でもま、楽しかったかな」

「やっぱ謎だなあ、お前ってやつは」

「よく言われるよー。そろそろ帰っていーい?」

「おう、みんなもありがとな。自室へ戻ってくれ」

 

その声とともに一同は、ゾンビのような歩き方で自分の部屋に戻っていった。彼はそれを見送ると、自分もまた寝室に入っていったのである。

 

しばらくして、彼はふと目が覚めた。

獠は一度寝るとなかなか起きないので香がいつも苦労をしているのだが、ある条件を満たすと一瞬で意識が覚醒する。

その条件とは、不審者の侵入であった。

彼は枕元に置いてあるパイソンに手を伸ばすと、それを構えながら入り口に向かった。

音もなく扉の前に立ち、人の気配を確認する。

 

…やはりいるな。ドアの前か。

 

そう思うなり、彼の行動は速かった。

左手でドアを思いっきり引いたのである。

それと同時に、何かが倒れこんできた。

 

「誰だ、こんな時間に。何の用だ?」

「………て」

「あん?」

「た…す………けて…」

 

その一言で敵ではないと認識した獠は、とりあえず部屋の電気をつけた。

そうすると、彼の目に入ったのは明らかに虐待を受けていたであろう傷が生々しく付いた、鈴の髪留めをつけたサイドテールの艦娘だった。

 

 

 

 






いかがでしたか?ここではあえて名前を記しませんが、新たなツンデレ要員が実装されました…!!(ぉぃ)
しかし、やっぱり獠が書類仕事を書くのは物凄く考えられませんよねw
そうとわかってて、やらせてみたら面白いと思った確信犯です(ごめんなさい)

彼には書類仕事よりも、スイーパーとしての仕事の方が向いてますよね。と言うことは、そう言った事務作業はどうなるのでしょうか…?w

と言うわけで、次回からはまたひとつの鎮守府を救うためにみんなが奔走するお話です。ご期待ください。

また会おうぜ?(cv.どっかの大泥棒)


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怒れる鎮守府 艦娘(ロンリーガール)に救いの手を



こんにちは、さんめん軍曹です。
今回は獠達が他の鎮守府を救うお話です。
出来るだけそれぞれの色が出るように書きました。


では本編をどぉーっぞ!






 

 

 

「明石、聞こえるか?」

『冴羽さんですかー?バッチリ聞こえますよ!』

「遅くにすまない。ドックまで来てくれるか?」

『いいですよ。何があったんです?』

「来てから話す。夕張は隣にいるか?」

『ええ、2人で工廠の整理をしてたら遅くなっちゃって』

「そうか。悪いが、2人で来てくれるとありがたい」

『わかりました。すぐ行きます』

 

そこでブツリと通信が切れる。この様子であればすぐにでも来るだろう。

先程自室へと侵入してきた艦娘が獠の腕の中で気絶したので、すぐさまトランシーバーを持ってドックへと急いだのである。

しばらくすると、2人分の足音が聴こえて来た。

 

「お待たせしました!」

「すまないな。こんな時間に呼び出しちまって」

「どうしたんですか冴羽さーん?」

「俺が寝てたら誰かが入って来たんだが、明らかに虐待を受けたと思われる艦娘だった」

 

2人とも驚きの表情を浮かべ、

 

「なんてこと…」

「許せない!」

 

と怒りを露わにしたのである。

 

「とりあえずその子は入渠させてあるんだが、一体どんな名前なのかが知りたい。そして、徹底的にそのクソ提督を叩きのめしてやる」

「いいですね。私もウズウズして来ました…!」

「そいつには私の新兵器の餌食になってもらいましょうか…うひひひ」

「夜が明けたらすぐにでもみんなで会議するぞ。まずはあの子を確認して来てくれ」

「「了解です!」」

 

そして朝、全メンバーを会議室に呼びつけた獠は某最高司令官のポーズをしながら開口一番にブラック鎮守府が存在する可能性を明らかにした。それを聞いたその場にいる全員の意見は見事に一致。曰く

「ギッタギタにしてあげちゃう」

とのことである。

 

「さて、明石たちの話によればその子の名前は【駆逐艦 曙】と言うことだ」

「それって…」

「そう言うこと。つまり、特型駆逐艦の括りで言えば吹雪ちゃんの妹に当たるな」

「そんな…」

「冴羽。とすると私達の姉ということになるのかい?」

「その通りだ。さすがだな、ビェッ…ベッ…ブゥエッ」

「ヴェールヌイ。非常に言いにくそうだから、これまで通り響でいいよ」

「本当に言いにくいのです」

「黙ろうか電」

 

響は余計な一言を発した電の頭にゴスリとチョップを喰らわせた。

 

「り、理不尽なのです…」

「冴羽さん。質問です」

「大井くんか。どした?」

「九三式酸素魚雷はいくつ持って行ったほうがいいですか?」

「それ、あたしのセリフ…」

 

 

そろそろ集中力が途切れたか。どうすっかな…

そんなことを考えていると、海坊主が口を挟んだ。

 

「お前ら。気持ちはわからんでもないが、今は目の前の事をどうするか考えろ。段取りを組まなければ潰そうにも潰せない」

「そうだな。まずは大淀と俺、それに海坊主や冴子に武蔵でそれぞれのルートを使って情報集めだ」

「情報戦か…。私はあまり得意ではないのだが?」

「大和ちゃんがいるだろ。大淀が大本営を、そして俺と海坊主が」

「知り合いの情報屋だな」

「そゆこと」

「私は警視庁の内部ね」

「頼んだぜ。みんな、しっかりやってくれたら海坊主の店が開いた時に無料でご馳走だ」

「なっ?!何を勝手な事を…!!」

 

だが時すでに遅し。艦娘達からはギラギラとしたオーラが放たれていた。

 

「ぬうぅ…」

「海ちゃん、そういう事でよろしくぅ〜」

 

獠にそう言われた海坊主。彼は目に見えぬ速さで獠の身体を押さえ込んでコブラツイストをかましたのだった。

 

 

「ブラック提督の排除かぁー」

「そうですわね」

 

なんやかんやとあったが会議は終わり解散。鈴谷と熊野は廊下を歩いていた。

 

「でも、酷い目にあってる子が助けを求めてりゃ、そら本気になるか」

「私の時もそうでして?」

「ならないわけないじゃん?!それどころか、みんなを助けたいって気持ちでいっぱいだったし」

「今は鈴谷だけでなく、みんながその気持ちを抱いているのですね」

「そりゃーねー。…くまのんは時々おっちょこちょいでブッ飛んでるけど、鈴谷にとっては大事な妹だよ。傷つけるやつは絶対許さない」

「まあ、酷い言われようですわね」

 

熊野はクスクスと笑いながらも、いい姉を持ったなと思った。

 

「もちろんくまのんだけじゃないよー。もがみんも大切なお姉ちゃんだし、まだ来てない三隈ねえも鈴谷にとっては掛け替えのない姉妹じゃん?」

「それどころか、ここにいるみんなは家族、でして?」

「あったりー!いいカンしてんじゃん!」

 

2人がそう言いながら歩いていると、廊下の先から騒ぎ声が聞こえて来た。

 

「落ち着いて下さい!」

「離せぇっ!!アタシはみんなの所に行かなきゃいけないんだっ!!」

「あなたが単凸したって無理に決まってるでしょ!!一旦座って!!」

 

一夜明けて気がついた曙。しかし彼女の精神は錯乱していた。

 

「どしたの?!」

「一体何が……!!」

 

騒ぎを聞きつけた2人が駆け付けると、そこには明石に羽交い締めにされる曙と前から抑え込む夕張の姿があった。

 

「あちゃー…」

「私、冴羽様を呼んできますわ!」

 

熊野が走り、鈴谷は明石達に協力をしようと近づいた。

 

「早く行かないと…みんなが…みんなが!!」

「気持ちはわかるけどもさ、1人じゃ無茶だよ?」

「うるさい!お前らに何がわかるんだ!!」

「そーりゃわかるよ。だってここも少し前まではブラックだったし?」

「そんな証拠がどこにある!」

「ここにあるさ」

 

全員が振り返ると、壁に肘をついた獠と提督、そして熊野の姿があった。

 

「ちょうど近くを歩いてたら熊野ちゃんが慌てた様子でここから出て来たから、一緒に来てみたらやっぱりこうなってたか。…こいつはここの元提督だ。ブラック提督達に命を狙われてるから、今は俺が代わりをやっている」

「あっ、アンタは…」

「昨日のことを思い出したようだな?」

「あたしは…アンタの部屋に…」

「そうさ。鈴谷」

「なーに?」

「お前が俺に助けを求めた時、どんな気持ちだった?」

「一寸の狂いもなくこの子と同じだったじゃん?でも、獠ちんと会ったら不思議と落ち着いたよ」

「だそうだぞ曙。お前も少し落ちつこうぜ」

 

2人に論され、少し我を取り戻した彼女。だが、ここでふと気になったことを言った。

 

「獠って…アンタまさか」

「俺のことを知ってるのか?」

「知ってるも何も。シティーハンター、冴羽獠。あのクソ提督が口に出してたのを聞いて、なす術がなかったアタシはアンタに助けを求めた」

「どうやらあちらさんも知ってるようだな。良ければ君の鎮守府の話を聞かせてくれないか?」

「…わかったわ」

 

曙が重い口を開き、全員が黙って聞いた。彼女の口から出たものは想像以上に壮絶であり、その場にいたもの誰もが驚愕している。

要約すると、その鎮守府の提督は駆逐艦しかおらず、その艦娘達を連日出撃させて休む暇もなく働かせた挙句に手に入れた金で私腹を肥やしているのだという。

 

「他にもネタは沢山あるけど、1番許せないのはそれで名声を手に入れていることと、夜、必ず1人づつ艦娘を提督室に入れている事ね。アンタを狙っているのも、シティーハンターを殺して裏の世界NO.1の座を奪いたいのかもね。…あいつはアタシが気に入らないのか、誰もいない隙を狙って殴ったり襲われたりしたわ。ここに来た時もその隙をついて脱走したのよ」

 

それがどういう事を意味するのか、皆が理解していた。特に獠に関しては無表情だったが、握っている拳からして尋常じゃなく頭に来ていることは明白だ。

同じく怒りを感じていた明石達ですらもたじろぐ程の殺気である。

 

「冴羽さん…」

 

そこへ海坊主達が入ってくる。

 

「獠。電話でテツに聞いた所、ここから離れていない所に噂の鎮守府があるらしい。情報屋の間でも最悪の評判だぞ」

「そうか」

「こっちも本庁に聞いたわ。証拠が集まり次第ガサ入れをするみたい。急ぎFAXで資料を送ってもらったから、後で見て欲しいの」

 

そう言いながら冴子は持っていた資料を獠の側の机に置いた。

 

「冴羽さん。私と武蔵さんで大本営に問い合わせた所、ここ最近で急激に功績を伸ばしている鎮守府があります。海坊主さんのいう通りここからそんなに離れておりません。私の口からお話しすることもできますが、どうされますか?大和さん曰く、いきなりの成長に元帥も不審がられているとか」

 

大淀の話を聞いた獠は、曙の方へと向く。

 

「曙ちゃんよ、君の口から場所を聞かせてもらえないか?辛いかもしれんが、それで俺らは動ける」

「…アタシも行く」

「ん?」

「アタシも行きたい!ここで黙って見てるほど屈辱的なものはないわ!」

「危険が伴うがいいのか?」

「構うもんか!アタシだって今まで一緒に苦労を共にして来た仲間を助けたいの!アンタが嫌でもアタシは行くわよ!」

「わかった。その心意気、気に入ったぜ」

 

獠はフッと笑った。

 

「………っ!…それから、アンタ達にまだ言ってなかったわね」

「なんだ?なんでも言いな」

 

そこで曙はすうっと息を吸い、獠達をしかと見つめて言葉を続ける。

 

「XYZ。もう後がないの。お願い、一緒にあの子達を助けてちょうだい」

「その気持ち、しかと受け取ったぜ。任せな」

 

そういうと彼は、書類を持ちジャケットを翻して廊下へと出るのであった。

 

 

 

 






いかがでしたか?
少しでもシリアスでカッコよく、時々お茶目な感じに書けてればなと思います。
北上様だけでなく響も自分のワールドを展開しちゃってます。故に、お互い違う方向のフリーダムさがあって筆者は好きでございます。
獠は女性に弱いから、これからも彼女達に振り回されそうです。

そして、海坊主のコブラツイストは死んでも受けたくないですね()

次回からはしばらくシリアスな展開が続きます。一体彼らはどう動くのでしょうか?

次回をお楽しみに!




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怒れる鎮守府 ゲスな提督に堕ちる本気の鉄槌



こんばんは、さんめん軍曹です。
今回は表現をちょっと生々しくしております。
それが苦手な読者様、誠に申し訳ないです…

最初に書いた通りアニメをベースとしておりますが、今回の話の流れは原作寄りとしました。
文字も多めに書いているので、読み応えはあるかと…

では、本編どうぞ!!






 

 

昼下がりの午後。2回目ではあるものの、獠の招集がかかったので艦娘達は嫌な顔一つせずにまた会議室に集まった。

 

「何か進展でもあったのかしら?」

「ああ。その前に香の事についてだ。あいつは今、曙の側にいる。あいつならあの子の本音を引き出せるだけの力を持っているからな」

 

そして彼は解散後、なにがあったかを話した。出来れば駆逐艦達には聞かせたくはなかったが、現実として受け入れてもらうためにも全てを話したのである。

そしてそれが終わると、1人拳を机に叩きつける者がいた。

 

「クソッ!!オレら艦娘をなんだと思ってやがんだ!!!バカにしやがって!」

「天龍ちゃ〜ん…」

「天龍の言う通りだ。だがしかし我を忘れるな。見失ったら最後、お前が大変な事になる」

 

そう言うのは武蔵。天龍はその言葉に喰ってかかろうとしたがやめた。理由は、自分が何を言ったって武蔵の言葉の通りにしかならないからだ。

 

「…わかったよ武蔵さん。悪かった。ついアタマに血が上っちまった」

「仕方ないさ。私だってこの手で八つ裂きにしたいところなんだからな」

 

武蔵のその獰猛な笑いを見て、天龍は少し悪寒を覚えた。

それと同時に香がドアを開けて中に入ってきた。彼女は獠の元へ行くと、耳に口を近づけ囁く。

 

「獠。曙ちゃんがね…」

 

香から一通りの事を聞いた獠。彼は皆をこちらに注目させた。

 

「実はな、曙もここに来て参加したいってい…」

「「「「「「「もちろん!」」」」」」」

「お、おう…」

 

そして香は曙を連れて来た。

 

「アタシの名前は曙。特型駆逐艦18番艦、綾波型の8番艦、曙よ。事情は聞いてると思うけど貴方達の力を借りたいの」

「もちろんだ。なんでも言ってくれ」

 

提督がうなづく。

 

「ダー。言われなくてもこちらからお願いしたい」

「よし。問題はいつ動くかだがーーーー今夜だ」

「えっ?」

「曙。お前の言う通りだとすれば、今日だってまた奴の毒牙にかかるかもしれないだろ?」

「う、うん」

「これ以上奴の好きにさせてたまるか。そうだろ皆?」

 

獠が振り向くなり、全員拳を突き上げ雄叫びをあげた。

 

「あったりまえだクマ!」

「うおぉぉっしゃ!血が騒ぐぜ!!」

「出来れば沈む前に助けたいのです…!」

「慢心はダメ。今のうちに航空機の手入れをしましょう?」

 

皆がそれぞれの気持ちを話している中、獠は曙の肩に手を置いた。

 

「ひっ…?!」

「おおっとすまん」

「ふん。どうって事ないわよ」

(なんだろう。こいつの手はなぜか暖かい…)

 

今までなかった経験に、彼女はこれまでとは別の意味で涙を堪えるだけで精一杯だった。

 

 

「こちら多摩、潜入完了だにゃ。曙の言う通り中の警備が手薄にゃ」

『金欲しさに大事なところをケチったか。どうせそんなこったろうと思ったぜ』

 

夜になり、曙が教えてくれた建物内の図を頼りに通気口から侵入を果たした多摩。彼女はその特徴から、音も無く建物に侵入するのは容易いことであった。

 

「配電盤の前まで来たにゃ。冴羽達は配置についたかにゃ?」

『おう。いつでもいいぞ』

 

そして獠の一声を合図に、建物の電気が一斉に消える。

 

「今だ!門を壊せ!」

「ウラーーーーーーッ!!!!」

 

響が連装砲を発射すると、派手な爆発と共に門が消え去った。

獠たちを乗せたジープは急発進して侵入すると、気づいた警備兵から銃弾の雨が降り注ぐ。

 

「オラァッ!!艦娘は銃弾なんか効かねぇ!!この天龍様を怒らせた以上はタダじゃ帰さねえぞ!」

 

あとから入ってきた天龍達。他の艦娘が機銃で応戦する中、彼女は自分の刀で次々と相手を容赦無く斬る。

 

「冴羽殿っ!あれを見ろ!」

 

長門が指を差した先には、M72 LAWを構えた敵がいる。それをみた彼らは一斉に飛んだ。

と同時に、発射されたロケットがジープに直撃する。

 

「やりやがったな…この!」

「修理代は高くつくぞ」

 

獠と海坊主が両サイドの敵を倒す。

 

「全員怯むな!とっとと倒して前に進むぞ!」

「「「「「「ウラーーーーーーッ!!!!!!」」」」」」

 

 

「ひぃっ?!一体なんだ、何が起きてる!?」

「ここの状況を聞いた横須賀鎮守府がお前を始末しにきたにゃ」

「だ、誰だ!!」

「軽巡、多摩にゃ。冴羽獠提督の命の元、お前を拘束しにきたにゃ」

「へっ、そうか。あのシティーハンターが…クックク…」

「何がおかしいにゃ。気でも狂ったかにゃ?」

「そう簡単に僕はやられない。後ろがガラ空きなんて…それでも艦娘かな?」

「にゃっ…?!」

 

多摩が後ろを振り向こうとするが、気がつくのが遅かった。

 

「がっ……!」

 

首筋に強い衝撃を感じると共に、彼女の意識は遠のいていった。

 

 

「多摩。そちらの状況はどうだ?……多摩?」

 

長門が問いかけるが、返事が返ってこない。

 

「多摩、どうした?!返事をしろ!おいっ、多摩!多摩!!」

「長門、何があった!」

「多摩からの応答がない!」

「なんだと?!」

「多摩が危ないそ冴羽殿!」

 

獠が入口を見ると、目の前にバリケードが建造されておりそこから重機関銃の弾幕が張られていた。

 

「長門、あれを破壊できるか!」

「やってみよう!」

 

長門が1発発射するが、バリケードはびくともしない。

 

「ダメだ冴羽殿!どうやら私の砲弾が効かないようになっているらしい!」

「それじゃ、ちっと早いが奥の手だな。おい武蔵ィ!!」

「どうしたァ!」

「お前の出番だ!アレを破壊しろ!」

「合点だ!この主砲の本当の力、味わうがいい!」

 

そして彼女は姉譲りの試製51cm連装砲を連射した。耳をつんざくような音が響き、煙が晴れると入口付近は跡形も無くなっていた。

 

「礼を言うぞ武蔵!全員、この長門に続け!!」

「「「「「オオオオォォォ!!!!」」」」」

 

 

「ん…」

 

多摩は意識を取り戻すと、周りを見た。

 

「ちくしょう…やられたにゃ」

「お目覚めかな?」

 

声がした方に振り向けば、そこには先程のブラック提督とは違う男が立っていた。すぐに殴りかかろうとしたが、手足共に壁に縛られておりまともに動けない。

 

「誰にゃ!」

「初めまして。私はシリアルキラーと申します。ここの司令官に冴羽獠とその手下を始末するよう依頼を受けております」

「あくまでアイツは自分の手を汚さないのにゃ?まったく、ゲス野郎にピッタリの殺し屋だにゃ」

「お言葉ですが、貴女は今自分の立場を分かっておいでですか?」

「当たり前にゃ。ドジりはしたけど、ここの子たちはみんな助け出すにゃ。そして、お前らは冴羽に葬られるにゃ」

「ハッ!この状況でもそんな世迷言を…。どうやら痛い目にあいたいらしいですね」

 

「オラアアァァァァッ!多摩姉を返せえええええ!!!!」

 

普段滅多に怒らない木曽ではあるが、今回は違っていた。

なんと彼女、一切武器を持たずに素手で敵兵を殴り倒していたのである。

 

「私、木曽があんな風に戦ってるの初めて見たわ…」

「普段怒らない子がキレるとやばいよねー」

「北上。お前も人のことを言えないクマ」

「まーねー。よっと」

「ぐわっ!」

 

北上は真顔で近くにいた相手の腹に1発叩き込むと、その流れでジャーマンスープレックスを決め込んだ。

 

「幾ら何でもやりすぎだクマ…」

 

同じ頃、獠たちは提督室に向かって走っていた。

 

「冴羽!ここよ!」

「私に任せろ!」

 

そう言って長門が前に立つなり、パンチでドアを破壊した。

 

「うん、随分早い到着だね」

「ゴタゴタ抜かすな!散々私達を弄びやがって!!このゲス提督!!」

「なるほど。やっぱり曙だったか。おかげさまでこんなに早くシティーハンターが僕の目の前に現れてくれたんだ。感謝するよ」

「俺の名前を知ってるなんて光栄だね。まさかとは思うが、俺をここに呼ぶためにわざわざ艦娘達にあんな酷いことをしてたのか?」

「君は随分察しがいいようだね。そうさ、あんな奴らなど僕の出世のための踏み台にすぎない。最も、ストレスが溜まった時は随分と慰めてもらったけどね」

「…貴様!断じて許さねぇ!」

 

武蔵が副砲を突きつけるが、こちらを向いたゲス野郎はモニターと無線機を手にしていた。

 

「良いのかい?僕がやれと言ったらモニター越しに映っている子がやられちゃうよ?」

 

そう言ってモニターを4人に見せつける。

そこに映っていたのはなんと一方的に顔を殴られて血だらけの多摩であった。

 

「どうだい?たった1人のために抵抗できないんだよ?いい気味じゃあないか」

 

フヒヒと笑う支配者。武器を捨てろと命令されたので、全員そうするしかなかった。そして獠がパイソンを床に落とそうとした時、声をかけられた。

 

「おおっとと、その銃はこちらによこしてもらおう。生身となった君達は怖くない。シティーハンターの銃で全員死んでもらおうか」

「………」

 

凄まじい殺気を放ちながらも、彼は相手の方に銃を滑らす。相手はそれを拾うとしげしげと眺め、

 

「これが噂のパイソンか…。自分の銃で殺されるのもなかなか幸せだと思うでしょ?」

 

と言い、銃口を獠に向けたのだった。

 

「……いいさ、撃てよ」

「ん?」

「撃てよ。貴様に殺せるもんなら、この俺から先に撃ってみろ」

「ホントにぃ?後悔しない?またまたカッコ付けちゃって…ヒィッ?!」

 

ゲス提督が見た目の前の人間は、もはや普通の顔をしてはいなかった。

全ての毛が逆立ち、カミソリのような目付きをし、立っているのがやっとなほどの殺気を飛ばしてきていたのだ。

 

「どうした。早くやれよ」

「いっ、いい言われなくても!」

 

そしてすぐに引き金(トリガー)を引くが、シリンダーは回れど不発だった。

 

「あ、あれっ?あれっ?」

 

何度も引き金(トリガー)引くが、結果は同じだ。

その瞬間、目にも留まらぬ速さで後ろまで来た獠はそのまま裏拳を背中に叩き込む。

 

「があっ…!」

「まずは多摩の分だ」

 

そのまま前に吹っ飛んで来た奴に対して、今度は長門が右フックを顔面にぶつける。

 

「そしてこれが今までで貴様の踏み台にされた奴らの分!」

 

武蔵に飛んで来たので、そのまま右ストレートを喰らわす。

 

「オラァッ!お前に純潔を踏み躙られた艦娘達の分だっ!!」

 

曙は涙を流していた。そして、同時にこれで終わりだとも考えた。彼女は一歩踏み出して飛ぶと、身体をくるりと回転させ、

 

「や、やめっ」

「最後に私の…私達からのお返しだァッ!ありがたく受け取れこのクソ提督!!!!」

 

相手の頭に渾身の回し蹴りを喰らわす。そのまま窓を突き破り、崖下の海へと落下していく。

 

「ウワーーーーーアアアァァァ……」

 

その様子を見届けた彼らではあるが、曙は膝から崩れ落ちてしまった。

 

「ぅ…」

「大丈夫か曙?安心するのはまだ早いぜ」

「?」

「多摩が囚われている。あの子を救い出して残りの敵を始末しないと」

「…ごめん。でも、腰が抜けた…」

「仕方ないな。どれ、私がおぶって行こう」

 

そういうや否や、長門はひょいと曙を自分の背中に乗せると同時にキラキラし始めた。その様子を武蔵と獠はジト目で見る。

 

「な、なんだ?!」

「長門よ。噂は本当だったのか…」

「なっ、違っ?!」

「百戦錬磨の長門くんも、駆逐艦には弱いってか?…俺は先に行ってるぞ」

「冴羽殿まで!」

「…今のは見なかったことにしておくわ。…獠、ここから少し離れたところに拷問部屋がある。多摩はそこに連れていかれたかもしれない。気をつけて行って」

 

曙の少しの変化に3人で一瞬だけ目を合わせると、

 

「わかった。お前らも気をつけろ」

 

と言い、走り出す。

 

「今回は冴羽殿の銃の妖精に助けられた、か」

「こんな事もあるのね」

「まったく、不思議だぜ」

 

目的地へ向けて走る獠の後ろ姿を見ながら、先程の出来事を思い返す3人であった。

 

 

 

 






いかがでしたか?
獠を本気で怒らせてしまったが最後、命は無いですね…
話を原作寄りにして見たら、中々キャラ達が映えますね。

シリアスな展開の中、デレを見せるボーノさん。
中々かわいいですね。

ナガモンについては…見なかったことにしておきましょう!w

次回、いよいよ大詰めです…!
殺し屋を前に、獠達はどう立ち向かっていくのでしょうか?
乞うご期待!!

では、またお会いしましょう!!





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怒れる鎮守府 幸運艦とスイーパー




こんばんは、さんめん軍曹です。
さて、いよいよ迎えた決戦の時。果たして、獠達の運命や如何に…!?
今回はあの艦娘にスポットを当ててみました。

では、本編どぉーぞ!





 

 

 

雨がぽつぽつと降り出す。

遠くで雷も聴こえる。

それでも気にせず走り続けている男にはとある目標があった。

それは大事なものを取り返すという大きな試練と、その障害を葬り去ると言う事。

この物語の主人公、冴羽獠はただそれだけの為に前へと走る。

だが、道の分かれ目に差し掛かった時、どちらへ向かったのかわからなくなってしまった。

すると横の茂みからガサガサと音がしたので、彼は反射的にパイソンを抜く。

 

「誰だ!!」

「冴羽さん、雪風です!」

 

茂みから姿を現したのは、なんと泥だらけの雪風であった。

 

「なぜお前がここにいる?」

「はい、敵がこっちに来たので、ここに隠れてました!」

「なるほど…どっちに向かったかわかるか?」

「左です。多摩さんを抱えていました!」

「わかった、ありがとな!この先は危ないから…」

「冴羽さんっ!私も一緒に行きます!!」

「ばかっ!!奴は殺しを楽しむんだ、お前も危ないんだぞ!」

「わかっています!でも冴羽さんだけじゃないんです!雪風や長門さん、それに他のみんなだって気持ちは一緒なんです!!」

 

しばらく2人はにらみ合っていたが、やがて片方が根負けした。

 

「わーった、わーった!ただし、危ない真似はするなよ」

「了解です!絶対、大丈夫!」

 

そしてようやくたどり着いたそこは、断崖絶壁の上に建てられており、どこか無機質なオーラを放っていた。

 

「ここか…行くぞ」

「はい」

 

そして獠が一歩踏み出そうとした時、雪風が小さな悲鳴をあげた。

 

「どうした?!」

「いたた…ごめんなさい、足を取られてしまいました…」

「なんだよ…全く、驚かすんじゃない」

 

そう言いながらもまた前へ振り返ろうとした時、1m程先の茂みの中に何かが置いてあるのが目についた。彼はそっと近づいてみる。

 

「どうかしましたか?」

「いや…雪風、これを見ろ。そっとだぞ」

 

彼女が獠の後ろから覗き込むようにして彼の目線の先を見れば、足首くらいの高さに置いてあったそれは、なんとセンサー式のクレイモアだったのだ。

 

「クレイモア、対人地雷だ。お前が転んでいなかったら確実にこいつに引っかかって2人ともお陀仏になっていた所さ」

「えっ…」

「礼を言う。だが、こいつを解除しなければならない」

「時間はかかりますか?」

「信管を外すだけだ。…まてよ、ちょっと離れよう」

 

そう言うと獠は雪風と共に安全な場所まで避難した。

 

「どうするんですか?」

「こうするのさ」

 

懐からパイソンを抜いて即座に撃つ。クレイモアに弾が当たり、そのまま派手に爆発した。

獠が雪風を庇い、爆風が収まると解放する。

 

「奴が掛かるとも思えんが、これで俺らが引っかかったと思わせる。そうでなくとも、ここに来たことは気づくはずさ」

「いいんですか?」

「ああ。今更隠密行動もないだろう。それに、奴は絶対に始末する」

「はいっ!そして、多摩さんを絶対に助け出します!」

「いい答えだ」

 

その時、不意に声がした。2人が上を向くと、傷ついた多摩のこめかみに銃を突き付けたシリアルキラーが、不快な笑みを浮かべながらこちらを見下ろしていた。

 

「冴羽獠!お目にかかれて光栄ですな!一度あなたと戦ってみたかった!…その分だとあの提督は死んだようですね!さあ、ここを入れば素敵なゲームが待っていますよ!無事に辿り着けたら多摩さんを解放しましょう!」

「ハッ、お前の言うことを誰が信じるかよ!お前を殺して、多摩は取り返す。それだけだ!首を洗って待ってな!」

「さ……さえ…ば…」

 

多摩の力のない眼差しを受けた獠と雪風。シリアルキラーが高笑いをしながら奥へ引っ込むと、一刻でも早く助け出そうと前に踏み込んだ。

 

「待ちな、獠」

 

彼らが振り返ると、そこにはSMAWを構えた海坊主がしゃがんでいた。

 

殺人鬼は多摩を床に転がすと、モニターに向かって歩き出そうとした。しかしその瞬間、轟音と共に激しい縦揺れが襲う。

 

「なっ、なんだ?!」

 

急いでモニターに向かうと、そこにはぽっかりと穴の空いた入口があった。

 

「相変わらず派手だなぁ、お前はぁ…」

「コソコソしたのは性に合わん。それだけだ」

「まったく…」

「2人共!早く前進しましょう!」

「そうだな……いや待てよ…多摩が上にいるのはわかった。海坊主もちょうど良くここに来た。と言うことは…」

「多少は無茶しても構わん。そうだな獠」

「そういうこと」

「全く、本当に人使いが荒い奴だ」

 

雪風はなんのことだかわからなかったが、海坊主が担いでいるそれに目を向けると、何かを察した。

 

「えっ、まさか…」

 

2人は顔を見合わせると、雪風に向いてニヤリと笑った。

 

次々と襲う縦揺れに、さすがの殺し屋も何が何だか分からなくなっていた。

 

「一体何が起きてるんだ?!」

「よう、来てやったぜ」

 

来ただと?あまりに早すぎる!

そう思いながら振り返ると、そこには銃を構えた冴羽獠が立っていた。

 

「随分とお早いお着きで」

「なに、簡単な事さ。入る前に全て破壊した。海坊主のお陰で、すんなりとここまで来れたぞ」

「フンッ」

「多摩さんを返して下さい!そうすれば命だけは助けます」

「フッフッフッ…甘いですよ!」

 

シリアルキラーはマントをひるがえす。獠が反応してそこへ撃つが、奴の方が動きが速かった。3人が見回すと、多摩を掴み上げ彼女のこめかみに銃を押し付けていた。

 

「さあ、これで形勢逆転となりました…銃を捨てなさい!」

「クズはやる事が同じだな…」

 

2人が銃を捨て雪風も展開していた艤装を解除しようとしたその時、近くに雷が落ちた。

驚いた雪風は艤装を落としてしまうが、その時にチャンスが生まれる。なんと、落としたくらいでは暴発しない連装砲が暴発したのだ。そのまま明後日の方向に飛んだ砲弾は壁に直撃。大爆発を起こした。

 

「うおっ、なんだ?!」

「うあっ…!…おかしいです、私の連装砲はここまで大きく爆発しません」

「大方、武器庫にでも直撃したんだろう」

 

一方、向こうを見てみれば、多摩を下敷きにしたシリアルキラーが起き上がるところだったのだ。

今だ!

目線でお互いに合図を送った2人は一気に動く。

先に海坊主が掴み飛ばし、そのまま多摩を抱き上げ、自分の戦闘服を被せた。

 

「にゃっ…」

「それ以上喋るな。大人しくしていろ」

 

次に獠は、相手のトカレフを蹴り飛ばす。だがその時にはシリアルキラーが起き上がっており、飛びかかって来たのでそのまま揉み合いになった。

その隙に多摩と海坊主が退避。その時、雪風の電探に反応があった。

 

「海坊主さん」

「どうした?」

「電探に味方機の反応アリです。おそらく、蒼龍さんと加賀さんのかと」

「通信であいつらに聞いてくれ」

「了解です」

 

彼女がしばらく向こうとやりとりして、それが終わると海坊主にこう言った。

 

「周辺地域を観測していたところ、球磨さん達が罠をそっちのけで物凄い勢いでこちらに進軍中だそうです」

「なんて奴らだ…」

 

しかし獠はというと、激闘の最中相手に馬乗りをされてしまい劣勢の状態にあった。

 

「ぐっ!」

「ハハハ!天下のシティーハンターも、これでは形無しですな!!」

 

冴羽さんがピンチだ、何とかしなければ。

幸い、敵は獠に夢中でこちらの事など気にしてない様子だ。

雪風が海坊主をちらと見ると、彼もまたうなづいたのであった。そして、抱えている多摩をそっと壁際に座らせる。

脚に履いている艤装をコツコツと叩かれたので見てみると、パイソンの妖精がいた。

 

私を使えということか。

 

瞬時にそう判断した彼女は、パイソンの位置を確かめた。

そんなに離れていない。飛べば手が届く。

そしてもう一度海坊主を見て、合図を送る。

彼が反応すると、雪風はすぐに飛んだ。パイソンを取った彼女は狙いを定め、

 

「お願い、当たって!」

 

と引き金を引いた。

残念ながら弾丸は当たらなかったが、敵の脚のすぐ脇をかすめたので、そちらに気を取られる。

 

「この至福の時を邪魔するか…小娘ェ!」

 

そして飛びかかるような姿勢を取った時、獠が動いた。

相手の胸ぐらを掴んでアッパーを食らわせたのである。

 

「獠!避けろ!」

 

海坊主の声と共に飛び退くと、シリアルキラーは立ち始める。そして、彼は側に落ちていた雪風の連装高角砲を構えると、連射をしたのだ。

素早く察知した相手は飛んで避けるが、そのうちの1発がそばで炸裂し、その爆風に飛ばされた。

穴の空いた壁まで吹き飛ばされるが、咄嗟に床を掴んだ。そして下を見れば、かなり高い断崖絶壁の上にいる事を自覚したのである。

 

「くぅっ…」

「さっきの言葉、そのままお返しするぜ。形勢逆転だな」

「何を馬鹿な…!」

「いいのか?ここから落ちたら助からんぞ」

「…!」

 

そして彼らは睨み合ったが、シリアルキラーが不意に獠のズボンの裾を掴む。そして立ち上がると、獠を殴って飛ばしたのである。

そして足元にあった自分の銃を手に取ると、獠に向けた。

 

「フゥ…一時はどうなるかと思いましたが、そろそろ死んでもらいましょうか」

「冴羽さん!!」

 

くそっ、何か手はないのか…。

だが、少し手をずらしたとき、冷たい物に当たった。

ちらと見ると、先程雪風が解除した連装砲が落ちていたのである。

幸い、あちらは気づいていない。

 

「さあて、1発で終わらせて差し上げますよ」

「くっ…!これでも喰らいやがれ!」

 

すぐに連装砲を持ちながらくるりと回転した獠は、そのまま連装砲を撃った。

砲弾はそのまま真っ直ぐ的に向かい、直撃するとシリアルキラーを粉々に粉砕したのである。

 

「……うっ」

「冴羽さん!!」

 

悲鳴に近いような声を上げながら雪風はこちらに駆け寄る。

 

「大丈夫だ…。それより…」

 

獠が心配をかけまいと言葉を続けようとすると、突如建物に異変が起こった。

物凄い縦揺れと共に、だんだん下に落ちていたのである。

 

「急げ!爆発が何回もあったおかげで地盤が脆くなったんだ、崩れるぞ!」

 

もう一度多摩を抱え上げた海坊主は出口へと誘導する。雪風に助けられながらもようやく立ち上がった獠は、よろよろと向かい始める。

 

「海坊主、お前は先に行け!後から追う!」

 

彼の表情を見た海坊主は、そのまま走り出した。

 

「雪風、俺を置いていくんだ」

「出来ません!冴羽さんは…いや、獠さんは私達の宝なんです!何としてでも一緒に来てもらいます!!」

 

彼女は強い眼差しと共に力強く言う。

が、しかし時間がそれを許さなかった。

 

「うみぼーず!うみぼーず!!あれを見るにゃ!」

 

大人しくしていた多摩であったが、突如パニックになりながら話しかける。

振り向いた海坊主は、建物が突き出した崖と共に崩れ去るのを見た。

そこへ、救助した艦娘達と共に駆けつけて来た長門や加賀達もまた、衝撃の場面を目にするのであった。

 

 

 

 

 







いかがでしたか?
さすがは雪風、といった感じですね。
彼女の起こした偶然が獠を救いますw
そして何よりも心が強い雪風。まだ艦だった時代に目の前で仲間が次々と沈んでしまったのを見届けたからでしょうか。

もう一つ、海坊主と多摩をちゃんと絡ませてみたいと思いました!
普段は彼女を苦手とする海坊主ですが、やるときゃやる男だ!ってのを書きたかったのでw

さてさて、やっと外道どもを葬り去った獠ですが、雪風と共に崩れる建物に巻き込まれてしまいます。果たして彼らもまた、海の藻屑となってしまうのでしょうか…?

次回からは目が離せません!
ご期待下さい!

Ryo Saeba,Will return...





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怒れる鎮守府 死なないで提督!奇跡を起こす雪風と新たな仲間達



おはようございます、さんめん軍曹です。
悪党どもは倒せたけど、獠と雪風が行方不明になってしまいましたね…
果たして、どうなるのでしょうか?

では、本編行きましょう!





 

 

 

少し前。近辺の林の中にて。

 

「敵さんも中々やるクマ。割と手こずったクマよ」

「私が1番驚いたのは、大きな岩が転がって来た時に球磨姉さんがパンチ1発で粉砕したことです…」

「あれくらいなんてことないクマ。それよりもジャーマンスープレックス決める北上とか、笑顔でジャイアントスイングかまして次々と敵をなぎ倒すお前のがよっぽどクマ」

「は?あたし?」

「姉貴達、キレると恐ろしく強いんだな…」

「「「それ、ブーメラン(だクマ)」」」

 

彼女らの話を聞いていると、ここの球磨型巡洋艦の強さは度を超えていることがわかる。

呑気な会話をしているが、目は真剣そのものだった。

 

多摩は絶対に取り戻す。

 

その想いがあったからか、微妙な振動とそこそこ近い何かが崩れる音もすぐに聴きとれたのである。

 

「…急ぐよ。なんか嫌な予感がする」

「あっ、待つクマ北上!危ないクマ!!」

 

北上が先に行ったのを見て、後の3人も急ぐのであった。

 

 

「なに、どうなってんの…」

 

現場に辿り着いた彼女らが目にしたものは、跡形もなくなった建物と地面、そして多摩を抱えた海坊主と、呆然と立ち尽くす艦娘達であった。

今にも嘔吐しそうな北上。だが彼女はそれをぐっとこらえた。何が起きたかはなんとなくわかっており、1番認めたくない事でもあった。しかし、それでもなんとか言葉を絞り出す。

 

「ねえ、鈴っち。一体、なにが起きたのさ…?」

「獠ちんとゆっきーが…あそこに…」

 

鈴谷が震える手で指を差した先は、なにもない場所だった。

それを聞いた瞬間、確信が事実に変わってしまった北上は全身の力が抜けて、意識が遠のいていくのを感じた。

 

 

 

ここ数日間、ずっと雨は降りっぱなしだった。

そのジメジメとした空気は、まさに今の横須賀鎮守府そのものを表している。

艦娘達の顔からは生気が消え、提督や冴子、海坊主達もありとあらゆる手を使って探し出したが、依然行方不明のままだ。

中でも1番ダメージが大きかったのが、鈴谷と北上である。

鈴谷は食事を取る時や寝る時以外はほぼ全て浜辺におり、雨に打たれても気にせず彼らが戻ってくるのを待っていた。

一方、北上はというと、帰ってきてからほとんど部屋を出ていない。

常に布団に丸まっており、心配した大井が呼びかけても眠いとしか返事がこないのだ。

そして獠のパートナーである香は、皆の前では強く振舞っていながらも1人の時は暗く沈んでいた。

 

「北上さん…」

「北上はいつも考えてることが謎めいていると思ってたが、まさかここまで分かり易かったとはな」

「提督、今更ですか?」

「いや、まあ何と無くはわかってたさ。それよりも、次の任務では北上とお前が必要なんだがな…」

「はい…」

「それに、彼を必要としている人間はまだたくさんいるわ」

「ああ、そうだな野上刑事…。傭兵をやっていた時から変わらんが、共に戦った仲間を失うのはいい気分じゃないな…」

 

 

「いててて…ここはどこだ?」

「あら、お目覚め?」

「ん…?お、お前は!」

 

日付は遡り、建物が崩れてからしばらくしてある場所で気がついた獠。彼に声をかけた主は、なんとあのブラッディマリーだったのだ。

 

 

「マリー!なんでここにいる?!」

「なんでって、そりゃああなたが提督やってるって噂を聞きつけたからよ。船でのんびり行こうと思ったら、あなたのかわいいお連れさんが流されてきたのが見えてね」

「そうか…」

「さ、冴羽さん…?」

 

2人が振り返ると、口を半開きにして立ち尽くした雪風の姿があった。

そしてひと呼吸置いた後、目に涙をいっぱい溜めた雪風が獠にひしと抱きついてきた。

 

「冴羽さん…よかった、よかったぁ…」

「あなた達、なにがあったのかは知らないけど、この子が必死になって探してくれなかったら獠は今頃魚の餌ね」

「間違い無い。ありがとな、雪風」

 

そういうと彼は、雪風を優しく包み込み頭をぽんぽんと叩いた。そこで気が緩んでしまったのか、とうとう泣き出してしまう雪風。

 

「うわああああああん!」

「よっぽど心配かけちまったようだな。ごめんな。…マリー、このまま横須賀に向かってくれないか」

「わかったわ。それから、紹介したい子がいるの」

「?」

「どうぞー!」

 

入ってきたのは、ショートカットで白い和装の艦娘だった。

 

「この子があなたを保護してたのよ。それをユキカゼちゃんが見つけたってわけ」

「あなたが提督?ふうん、いいけど。伊勢型戦艦2番艦、日向よ。一応覚えておいて」

「ああ、俺は冴羽獠。一応、横須賀鎮守府の提督をやっている。礼を言うぜ。ところで日向ちゃんは中々いい武器をお持ちで…」

 

そう言いながら鼻の下を伸ばす獠。自分のどこをみられているのかがわかった彼女は、顔を赤らめ、胸を隠した。

 

「なっ?!き、君はどこを見ている!!」

 

日向が最初に攻撃したのは、後に自身の提督となる人物だった。

 

 

 

そして現在に戻る。

 

「提督!」

 

執務室に飛び込んできた大淀はかなり慌てていたが、その様子とは逆に顔には笑みが溢れていた。

 

「ん?嬉しい事でもあったか?」

「もちろんです!鎮守府海域沖に不審なクルーザーを発見したので呼びかけてみたら、なんと待ち人来たるですよ!」

「なに?!」

「それは本当かしら?」

「はい!双眼鏡で見て下さい!」

 

 

今日もまた浜辺でぼーっと待っていた鈴谷。そこへ熊野がやってくる。

 

「鈴谷。いつまでそこでボサッとしてるつもりですの?」

「獠ちんが帰ってくるまで」

 

この子、通信機をオフにしてるのかしら…?

 

「なら、今すぐ無線のスイッチを入れてみましてよ?きっと嬉しいお知らせがありますわ」

 

なんだろうと思いながら言われた通りにしてみると、大音量で艦娘達の声が飛び込んだ。

 

「ぎょえっ?!」

「そんなに慌てなくてもよろしいのに…」

 

なにが起きてるんだと音量を下げながらよく聞いてみると、みんな浜辺に急いでいるようだ。

 

「はい、これで沖を見てくださいな」

 

そう言って双眼鏡を手渡す熊野。素直に受け取った鈴谷は覗き込むと、一隻のクルーザーがいる。何かが動いていたのでよく目を凝らせば、ブンブンと元気よくこちらに向かって手を振る白いセーラー服と、見覚えのある青いジャケットの男、そして初めて見る艦娘だった。

 

「…えっ?」

「彼が…この鎮守府の宝が帰って来ましたわ!」

「そ、それって…」

 

鈴谷がようやく意味を理解し始めた時、建物の方から轟音が聴こえて来た。

 

「ほら鈴谷。ボサってしてないで早く行ってあげてくださいまし。そうしないと他の皆に取られてしまいますわよ」

「…うん、ありがとくまのん!」

 

そう言って鈴谷は海に向かって走り出す。

それを見送った熊野は、一言呟いた。

 

「鈴谷も罪ですわね…」

 

そうは発言はするものの、彼女の顔は笑っていた。

 

 

帰って来たんだ…あの人が!

 

そう思う鈴谷は半信半疑ながらも非常に喜んでいたのである。

だがしかし、そんな彼女の横を颯爽と通り過ぎる艦娘がいた。

 

「鈴っち、遅いよ!!」

「んなっ?!」

 

そう、日頃愛読していただいている読者の諸君なら既にお分かりだろう。冴羽帰還の報を聞いた北上もまた、真っ先に海に出ていたのである。

 

「待てえええええええ!!!!」

「やっだねー。あたしゃ負けないよ!」

 

 

「やっと帰って来たか」

「久々の鎮守府…ですね」

「まあ、そうなるな」

「感傷に浸るのもいいけど、獠は少し気をつけたほうがいいんじゃないかしら?」

「なんで…げっ?!」

 

彼が振り向けば、空中には2人の艦娘がおり、こちらに向かって飛んでいる最中だった。

 

「冴羽っちいいいぃぃぃ!!!!」

「獠ちんんんんんんんん!!!!」

 

そのままの勢いで2人にタックルを喰らい、そのまま倒れながら夕立よりも強烈な威力だと思った獠。彼が見たのは、雲ひとつない青空だった。

 

 

そのまま鎮守府へ戻った獠と雪風は艦娘達にもみくちゃにされ、泣きながら怒る香を宥めるのに一苦労していた。

そして、簡単にではあるが日向の紹介も終え、ようやく執務室でコーヒーを口にしていた。

 

「あの……北上様?」

「ん、なーにー」

「そろそろ自分の部屋に戻ったら…?」

「やだ」

「なんでよ?!」

「球磨姉たちがいると集中して漫画読めないからねぇ」

 

頭を抱える獠。

そんな彼をそっちのけで漫画を読み続ける北上。

 

(強力なライバルが現れたわね…)

 

横で2人のやりとりを見た香は、ニコニコしながらもそう思うのであった。

 

 

「た…多摩」

「にゃ?」

「その…離れてくれないか」

「嫌にゃ。多摩と遊ぶにゃ」

「ファルコン、遊んであげたら?」

「い、いや、しかし…」

「なんにゃ」

「俺はこう言うのは大の苦手なんだ!」

「うるさいにゃ。問答無用だにゃ」

「ぐぅ…」

 

あの日以来、多摩がよくくっつくようになった。

以前のように海坊主が叫ぶ事はなくなったものの、まだ完全には猫(艦娘)を克服できないようだ。

2人のやりとりを見て、ふふっと笑う美樹であった。

 

 

「ふぅ…大変でしたぁ」

 

久しぶりの自室。雪風は島風と一緒に住んでいるので、お茶を飲みながら2人で話していた。

 

「おつかれさまー。無事で何よりだよー」

「そうですねー。もうダメかと思いました…」

「よく生きて帰って来られたよね。さすがは雪風ちゃん」

「えへへ…」

「でもどうやって助かったの?崩れるのをみて私腰抜けちゃったよ」

「よくわからないですけど…絶対2人で生きて帰るんだ、って願ってたら落ちるスピードが少しだけ遅くなった気がしたんです」

「へー、すっごーい!」

「雪風、幸運の女神のキスを感じちゃいましたっ!」

 

その時、誰かが扉をノックした。

島風が飛んでいき、ドアを開けたらそこにはマリーと日向がいた。

 

「ごめんねお邪魔しちゃって。今、用意できる部屋がないって言われちゃったから困ってるのよ。よければここにいさせてもらえる?」

「あ、冴羽さんと雪風ちゃんを助けてくれた人だ!いいよ、上がって上がって!」

「お邪魔する」

 

マリーと日向が上がりこみ、4人でテーブルを囲む。

そして獠との関係や彼女の過去の話で盛り上がる雪風達だった。

 

 

 

 

「ねー潮ー」

「?」

「漣たち、助けられたはいいけどさー。いつになったら出番が来るんだろうねー」

「わ、私に言われても…」

「漣」

「なんぞ?」

「気にしてはダメよ」

「しかしですなぼーn」

「ダメよ」

「」

「…おっ、このお茶おいしいね」

 

果たして漣たちの出番はやって来るのか…?

 

 

 








いかがでしたか??
これにて怒れる鎮守府編、完結です!

7駆の皆さんがやって来ましたね。
奴らはとんでもないものを盗んで行きました。オイシイところです。

そしてマリーさん登場。これには驚かれた方もいるのでは…?と期待したりw
序盤に出てきた球磨型姉妹。やっぱり強さのレベルがおかし過ぎますよねw
さすがは武闘派なだけあります…()


完結とは書きましたが、次回はアフターケアの話です。
プロはアフターケアも欠かさない、そこが獠のいいところなんでしょう。

ではでは、またお会いしましょ!




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ケジメはきっちりと! スイーパーは後始末(アフターケア)を欠かさない

こんばんは、さんめん軍曹です。
予告から半日くらいの投稿です。
家から出ないと捗りますね…!

今回は7駆と言えばあの子にスポットを当てております。
獠たちの手によって心を開いて行く…
そんなお話です。

もちろん、1話だけで終わらせられる量ではないです…w

ではでは、本編行きましょう!!!!





「「それじゃ、行ってきまーす!」」

 

大井と北上は、任務をこなしに海に出る。

獠たちはそれを見送り、執務室へと戻った。

 

「さあて、7駆の奴らをどうやって紹介するかな…」

「そうね…噂によるとあの子らのうちの1人が自分の部屋から出たがらないそうよ」

 

そう言うのは叢雲。今週の秘書艦は彼女だった。香が推薦したのである。

 

「そろそろ来る頃かしら」

「え?」

 

その言葉と同時に扉が叩かれる。

 

「あいよー」

「ご主人様ー」

「?!」

 

今まで言われたことの無い呼び方に、流石の獠も椅子からずるりと滑り落ちた。

 

「ほうら、来たわね」

「な、なんだあ…?」

 

改めて扉を見ると、曙と二つ結びのピンク髪、そしてショートカットの健康的な少女達が入って来た。

 

「やっと漣達の出えnいでっ!」

「そろそろメタ発言やめないとぶっ飛ばすわよ」

「お、おぉ…アタマから煙が…」

「冴羽さんですよね?あたし、綾波型駆逐艦の朧っていいます」

「よろしく…ってあれ?確かもう1人居なかったか?」

 

獠のその言葉に、7駆の全員がピクリと反応する。

 

「どうかしたか?」

「い、いやー、どうしたもんでしょうかねえ…」

「ばか、誤魔化したって仕方がないでしょ。それに、こいつは女ったらしだけどあのクソ提督よりはちゃんとしてるわ」

「なんか納得いかないぞ…」

「そりゃアンタの日頃の行いのせいね。普段の時と戦闘の時のギャップが激しすぎるのよ」

 

曙からの辛辣な評価と叢雲の冷たい視線を浴びた獠は、うなだれてしまった。

 

「うーん…朧達を救ってくれたのは確かなんだけどね…」

「話しにくいのはわかるけど、あの子をなんとかするにはこいつに話すのが1番手っ取り早いわ」

 

そして獠を見ると、彼に向けてこう言った。

 

「鈴谷から聞いたけど、アンタは依頼者のアフターケアも欠かさないんだってね」

「まあな」

「だったら、潮をなんとかしてちょうだい。うちの末っ子なんだけど、元々が臆病な上にあそこで1番酷い目に遭った子なのよね。トラウマも半端じゃない」

「なーるほど。その話、引き受けたぜ。お前も中々しっかりしてるじゃんか」

「なっ!バッ、そんなんじゃないわよ!」

「おっ、ボーノのツンデレ発動ktkr!」

「うっ、うるさい!とにかく頼んだわよクソスイーパー!」

 

そう言うなり、赤面した曙はバタンと扉を思いっきり閉めて執務室を出て行った。

 

「あーあ、ありゃ相当おかんむりだね〜」

「まるで叢雲が2人いるみたいだな」

「あ〜ら、そんな事を言う提督さんにはこの書類の山をなんとかしてもらおうかしらねぇ?」

「げっ?!そら堪忍やでお代官様!」

「まったく…こんなんじゃ香が大変なのも頷けるわね」

「あら、呼んだ?」

 

叢雲が噂をすれば、扉からひょこっと顔を出した香が話しかけて来る。

 

「獠、曙ちゃんが物凄い勢いでここから出て行ったけど…」

「香!ちょうどいいところに来た!叢雲と一緒にこの書類を片付けてくれ!」

「へっ?」

「後は頼んだ!」

「えっあっちょっ…りょおおおおおお!!!!」

 

怒る香を後にして、執務室を脱出した獠だった。

 

「さーて、どうすっかな」

 

逃げて来たはいいものの、行くあてがなかったので仕方なく鎮守府内をふらふらしていた。歩いているうちにとあるドアの前で立ち止まる。

 

「…そういえば確か、ここがあいつらの部屋だっけ」

 

そう呟いた彼は、そっと扉に耳を当てた。

 

 

「ん?」

 

天龍は退屈だったので外に出ようと歩いていると、扉の前にピッタリと張り付いている獠の姿が目に入った。

 

「冴羽ぁー、アンタ何をして…」

「シッ!」

 

静かにするようにと言われたが、彼女も気になったので獠と同じ事をする。

 

『潮、ご飯食べに行きましょ』

『いい、です…曙ちゃん達で行ってきて…』

『潮。気持ちはわかるけど、ここの皆は大丈夫だから…』

『今は構わないで…』

 

こりゃあ深刻だな。

そう思った獠は天龍に合図を送ると、その場を離れた。

建物を出た獠は、天龍を自身のミニクーパーに乗せると新宿へ向かう。

 

「潮のやつ、相当こたえてるみたいだな」

「ああ。曙から頼まれちまったんだが、どうしようかと考えててな」

 

そこで沈黙する2人。外を見ていた天龍はふとある事を思いついた。

 

「なあ冴羽。ここはオレと姉御に任せちゃくれないか?」

「ん?香か?そりゃまたなんで」

「ほら、アンタは頼りになるかもしれねぇけどさ、男だって事実がある。だけどさ、オレだってわだかまりを無くしてぇし姉御はそう言うのに長けてるだろ?だったら少しでも潮に近づく事が出来るんじゃないか?」

 

流石は天龍だ。鋭いな。

そう思った獠は彼女に任せる事にした。

 

「よーぅ、かすみちゃーん」

 

久々に訪れた喫茶キャッツアイ。海坊主たちは鎮守府内に店を構えるのに忙しく、今はアルバイト兼怪盗の麻生かすみが切り盛りをしていた。

 

「あら、冴羽さん。どうしたの?」

「なーに、香から逃げてきたんだ。コーヒーちょうだい」

「はいはい。そっちのお嬢さんは?」

「あ、あぁ…同じので」

 

そして2人の目の前にコーヒーがコトリと置かれると、揃って飲み始めた。

 

「んお…うまい」

「海坊主直伝だからな」

「やーだ冴羽さん、褒めたって何も出ないわよ」

「流石は空飛ぶお尻ちゃん」

「ぶっ!!」

 

いきなりの変態発言に、天龍は思わずコーヒーを噴き出してしまう。

 

「あー気にしないで。以前冴羽さんとはちょっと、ね」

「かすみちゃんは怪盗なんだよ。腕は確かだし手先も器用だからな」

「へ、へぇ…」

 

そこで獠は改めてかすみを見ると、今度は真面目に話す。

 

「実は今日は頼み事があって来たんだ」

「あら、珍しいわね」

「うちの鎮守府に来て、夜になったらこっそりある部屋の様子を見て欲しい」

「冴羽さんって、そんな趣味があったの?」

「いや、違う。いろいろゴタゴタがあってうちに来た艦娘がいるんだが、トラウマを抱えてるらしくてな」

「ふうん。それで夢にうなされてないかを見て欲しいわけね」

「そっ。できれば動画も撮って欲しい。俺が行くと誤解を招きかねん」

「そんなの、多摩に任せりゃいいんじゃないのか?」

「あいつはそれで酷い目にあったんだ。今は休ませてやりたい」

 

なるほどと天龍は思った。普段は頼りなさそうだが、見ているところはきっちりと見ている獠に対して尊敬の念が深まった。

 

「で、引き受けてくれるか?」

「わかったわ。今夜行けばいい?」

「うむ。お前が来る事は予め言っておこう」

 

そう言うなり、彼は席を立つ。

 

「ご馳走さん。うまいコーヒーありがとよ」

 

2人が帰った後、空になったなったカップを見ながらかすみは呟いた。

 

「ちゃんと提督やってるじゃん」

 

 

獠が鎮守府に戻ると、怒りの表情で香と叢雲が立っていた。

 

「あぁら…どこに行ってたのかしら?」

「アンタがいないせいでこっちは大変だったんだぞ…覚悟は出来てるな?」

 

香特製の100tハンマーを構えた2人を前に、たじろぐ獠。

 

「まっ、待てっ!これには訳が」

「「問答無用!天誅ーーーッ!!!!」」

 

久々にハンマーを喰らった獠は、そのままの勢いで壁にめり込んだ。

 

「これ、使いやすいわね」

「改良を重ねた結果よ」

「流石は香ね。1ついただいてもいいかしら?」

「どんどん持ってってちょうだい」

 

壁にめり込んだ姿勢のまま床に落ちる獠。彼も慣れているのか、リアクションはしっかりと取っていたのだ。

 

「ぐすっ…俺の話を聞いてよ…」

 

確かに獠は用があって外出したが、理不尽なお仕置きを喰らうのもまた彼の日頃の行いのせいである。

それを傍から見ていた天龍は、もしかしたらシティーハンターより強いのはこの2人かもしれないと思ったのだった。

 

 

 




さて、いかがでしたか??
そうです、今回は潮ちゃんがヒロインです。
トラウマを植え付けられてしまった彼女に、獠たちはどうケアして行くのか…

そして、獠サイドからは空飛ぶお尻ちゃんが登場。いやあ、懐かしいですね。
多摩と川内の3人で1本書けるかもしれない…
そのうち川内姉妹も登場させたいですねぇ…

あ、今回登場してませんがマリーさんもちゃんと鎮守府にいますよ!w

では、また次回お会いしましょう!!
おやすみなさい!!!



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潮がピンチ?! ツンとデレっと助けます!


こんばんは、さんめん軍曹です。
今回のお話、題名は陽気ですが最初はめっさシリアスです()
割と生々しいのでご注意ください。
該当部分だけ多めにスペースを設けているので、苦手な方は飛ばしてください。
ですが、いつもの1.5倍は書いたので読み応えは十分ございます!

では、本編どうぞ!







 

 

その夜。

かすみは獠の指示通りのルートで侵入していた。

天井裏を伝って問題の位置まで来ると、板を外す。怪盗を生業としている彼女の目はある程度の暗闇には慣れており、多少曇ってはいるが月明かりの差すこの部屋であれば暗視スコープ無しでも充分見えているのだった。

 

「あの子ね…」

 

そう呟いた彼女は、早速作業を始めるのであった。

 

明くる日。一晩中潮を観察していたかすみは、そのまま獠の執務室へ直行して状況を伝える。

 

「冴羽さん。問題のあの子だけど、冴羽さんの予想通りだったわ」

「ほう。どれくらいだった?」

「もう相当よ。聞いてるこっちが辛くなるくらい」

「成る程な。音声はあるか?」

「あるわよ。はいこれ」

「さんきゅう。んじゃ、天龍達と聴いて来るわ」

 

獠はその台詞を残して立ち去ろうとするが、その必要はなかった。

 

「りょーう。来たわよー」

「おーっす」

「おう、今ちょうどお前らを呼ぼうと思ってたとこなんだ」

「私が呼んじゃった。ここで聴いた方が早いでしょ?」

「そりゃ助かる。じゃ、早速だが再生するぞ」

「おう」

 

そう言うなり獠は再生ボタンを押す。

 

『…提督、今日も出撃ですか…』

『…えっ、傷ついたやつは見捨てろ…そんなこと出来ません…』

 

夢で会話しているのだろうか。しかし、その内容からも決して穏やかなものではないことがわかる。

 

 

 

 

 

 

 

『ひっ…!』

『また、今日もですか…わかりました…』

 

しばらく無言が続き、急に潮の様子がおかしくなる。

 

『ひ…やっ!提督…やめてください…』

『…痛い…やめっ、やめてっ』

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで耐えかねた獠は停止ボタンを押した。

執務室内を沈黙が包み込む。

 

「…」

「さ、冴羽さん…」

 

天龍は拳を力強く握っていた。今すぐにでもそこら中のものを叩き壊したいが、それをぐっと堪える。

 

「…クソが」

「潮ちゃんが回復しない限り、この問題は終わらないわ」

「いや、回復するのは難しいだろう。そうでなかったとしても、一生あの子の心に残り続ける。俺らはそれをカバーしなくちゃならん」

「そうね」

 

ここで獠は立つと、2人を見つめこう言った。

 

「香、天龍。すまないが、あの子のことを頼んだぞ」

「おっけい、任せて」

「ああ、オレもやってみるよ」

 

そして、2人は部屋を出て行った。

 

 

「とは言うものの、一体どうしましょ」

「ああ、そう言えば一度だけあいつが浜辺にいるのを見たぞ」

「え、いつ?」

「まだ日が昇る前さ。オレが獲物を探しに外に出たら、ポツンと座ってた」

「そう…」

 

天龍はそこでしまったと思った。

夜間の無断外出は普通なら懲罰ものだからだ。

 

「な、なぁ姉御」

「ん、どした?」

「オレが夜中に外に出たの、聞かなかったことにしてくれないか?」

「どうしてよ」

「いや、ほら、懲罰房に入れられるのだけはごめんだ」

 

それを聞いた香はぷっと笑った。

 

「な、なんかおかしかったか?」

「いや、気にし過ぎよ。だいいち獠がそんなことをするわけないじゃない」

「そうなのか?」

「当たり前よ。そんな事で懲罰房に入れるほど獠の心は狭くないし、それに、結果的には天龍ちゃんがそうやって見回りしてるから安全なんでしょ?」

 

香はニコッと笑う。

 

「へ、へぇ…そうなんだな」

「そうよ。それに、獠はその事を知ってるわよ」

「なにぃっ?!」

「あいつが珍しく褒めてたわよ。『天龍はみんなの為に気を遣ってくれてる』って。それで体調を崩す様な奴でもないし、だからこそ信頼も置けるってね」

 

それを聞いた天龍は照れ臭くなったのか、頬をぽりぽりを掻きながら

 

「ふ、ふんっ。この天龍様に目をつけるなんざ、いい目してるじゃねえか」

 

と言った。

そして香もまた、その様子を見てクスッと笑うのであった。

 

 

その夜。

香はこっそり浜辺に出てみると、そこには天龍の言う通り潮が座っていた。そこで香は彼女を驚かせない様にとわざと鼻歌を歌いながら近づく。

 

「…?」

 

思った通りだ。潮は誰なのか気になったらしく、こちらを向いた。

 

「やっほ。初めまして。私は槇村香、ここの提督のパートナーよ。あなたは?」

「は、初めまして…私は特型駆逐艦…綾波型の潮です」

「そう、潮ちゃんね。よろしく!」

 

香の自己紹介に対して彼女も辿々しく答えるが、またそっぽを向いてしまった。

 

「ここの浜辺、綺麗でしょ」

「はい…」

「この綺麗な景色を守る為に…あなた達は戦ってるのよね」

「そうです…」

「私も獠も、そんなあなた達を守る為にここに来たのよ」

「…?」

 

また、潮はこちらを向く。

 

「実はね、私達の本当の仕事はあなた達艦娘を引っ張って行く事じゃなくて、街にいる悪党達を掃除するのが役目なの」

「えっ?」

「そうね…私達がここにいる理由。それは、元帥からの依頼でブラック提督達を排除する事なのよね」

「!」

 

香の発したブラック提督、と言う単語に反応する潮。

 

「やっぱり。あなた達の鎮守府を襲撃したのも…」

「それ以上言わないで!」

 

いきなりの大声に、さすがの香も少したじろいでしまった。

 

「あなた達が助けてくれたのはわかってます…でも、でも潮は…もう…」

 

彼女は目に涙を溜めて、自分を否定しようとした。しかし、香もそれ以上言わすまいと何か言葉を探していた時、海から突如深海棲艦が現れてしまった。

 

「な、何よあなた達!」

「ツレテイケ」

「はっ…離せこの!獠ぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

「…!」

 

執務を終え、叢雲と廊下を歩いていた獠は香の叫び声を聴いた気がした。

 

「冴羽、一体どうしたの?」

「今、香が呼んでいた気がする」

「まさか…気のせいでしょ」

「いいや、確かに聴こえた。嫌な予感がするぜ」

 

獠の言葉が的中したかの様に、ドタドタと走る音が聞こえて来た。

 

「さ、冴羽ーーーっ!大変だ!」

「香か?」

「そ、そうだ!すまん、オレが気付くのが遅かった…潮も一緒に深海棲艦に連れ去られた!」

「なんだって?!」

「オレは今から後を追う!アンタも準備してすぐに来てくれ!」

「わかった!叢雲、行くぞ!」

「仕方ないわねぇ!わかったわよ!」

 

 

「ナンダコイツハ?」

「離せー!バッキャロー!!」

「コイツハオトコジャナイカ…カンムスジャナイ奴ニハヨウハナイ」

「だーれーが男だーーーー!!あたしゃ女だーーーーーっ!!」

「か、香さんっ!!」

 

連れ去られてて行く香。そんな彼女に潮は声をかけることしかできなかった。

 

「心配しないで!獠は必ず来る!あたしもそう簡単にやられはしないわ!」

「…!」

 

どうすることもできず、潮はただその場にぺたんと座り込んでしまった。

 

「オマエハコッチニコイ」

「え、そんなっ、いやっ、いやあああああああっ!!!!」

 

「おっと、待ちな」

 

その声に深海棲艦は振り向く。思わぬ侵入者に対して迎撃態勢を取ろうとするが下半身に妙な違和感を感じた。

リ級は気がつくのが少し遅かった。

自分の感じた違和感の正体はなんと、鋭い刃物で上下を両断されていたのだった。

 

「仲間に手を出すようなやつァ…オレが、この天龍様が叩っ斬ってやる!!」

 

その啖呵と共に、次々と敵を斬る天龍。

あっという間に全滅させた彼女は、潮に歩み寄る。

 

「大丈夫か?何もされてねえな?」

「は、はい」

「みんなが待ってる。行くぞ」

「あっ…」

 

天龍は潮の手を引いて走り出した。しばらく走っていると、また目の前に敵が現れる。

 

「チィッ!なんでこうウジャウジャと湧いて来やがんだ畜生!!」

 

邪魔者はどんどんなぎ倒して行くが、流石の彼女でも疲労の色は隠せなった。

 

「ハッ…ハァッ…」

「だ、大丈夫ですか?」

「くっそ…次から次へと…少しは休ませろってんだ…」

「あっ!後ろ!」

 

天龍はすぐに振り向くが、遅かった。

目の前に砲を突きつけられていたのである。

 

「くっ!ここまでかっ…!」

 

覚悟を決めた彼女は目を瞑るが、発射音が少し小さかった。

 

「…?」

 

そっと目を開けてみると、敵は時が止まったように動かない。そう思った矢先、ドサリと崩れ落ちた。そして、銃声の正体はその後ろにいた冴羽獠だったのである。

 

「間に合ったようだな」

「冴羽…!助かった!!」

「礼を言うのはまだ早い。香はどこへ行った?」

「姉御ならこの後ろへ連れ去られた!艦娘じゃなければ用はないと言っていたから、時間がないぞ!」

「わかった、ありがとよ。…君が潮ちゃんかい?」

「そ、そうです…」

「安心しな。外には頼りになる艦娘たちがいる。この先は粗方倒したし、誰も通しゃしない」

「……」

「時間がない。後でゆっくり話そう。叢雲!」

「OK。後ろは任せなさい!」

 

獠はフッと笑うと、叢雲と共に香を救うため走り出した。

 

「あの人が…冴羽さん…」

「そう。オレらの自慢の提督、冴羽獠だ。さっ、行こう」

 

獠が去っていった方向を見ながらも、天龍と一緒に脱出を再開する潮であった。

 

「なあ、叢雲」

「どうしたの?」

「なーんか引っかかる点があってよ」

「なによ?」

「タイミング良すぎやしないか?潮だけになった時に狙うなんて…」

「そうね。しかも私達の鎮守府も知っていた」

「こりゃ、なんか裏があるぞ」

「冴羽の言う通り…あっ」

叢雲が何かを発見したようなので、前を見る。

すると、そこには扉がひとつあった。

 

「ここに香がいるのか」

「どうやらそうみたいね」

「よーし」

 

扉の錠前に向かってパイソンを構えると、そのまま発砲。弾が当たったそれは見事に砕け、獠たちは扉の向こう側へと飛び込んだ。

 

「獠っ!!」

 

今まさに殺される所だった香だが、信じていた助けがやって来て喜ぶ彼女。

その場にいた深海棲艦たちは一斉に振り向くが、一体だけを残して全員が始末された。

 

「おおっと動くな。お前には聞きたいことがある。なぜ潮と香を誘拐した?」

「フン!ソンナモノニコタエルカ!」

「いいか?俺はマジなんだ。次はないと思え。なぜこんな事をした?」

 

獠の鋭い眼光と向けられた銃口からの威圧に耐えられなくなったカ級は、渋々と答えた。

 

「人身売買デ金ヲ儲ケテルヤツガイル」

「何だと?」

「特二艦娘ドモハ売レル…ソレデワケマエトシテシゲンヲモラッテイル…」

「…」

 

驚く2人。

叢雲はふと足元を見ると、まだ完全に死んでいなかった深海棲艦がこちらに砲を向けていた。

 

「獠!危ない!!」

「うわっ!」

 

そのまま彼を突き飛ばして転ばす。

その直後に放たれた砲弾が、叢雲を直撃した。

 

「があっ…!!」

「叢雲!」

「叢雲ちゃん!!」

 

衣服がボロボロになった彼女はそのまま倒れこむ。しかし、まだ意識はあった。

獠は死に損ないの敵をパイソンで始末する。

 

「や、やだ…ありえない…」

 

それをチャンスと見たカ級は、そのまま叢雲を抱えて人質にした。

 

「コイツハ今、大破状態ダ。アト一発デ轟沈スルゾ。ソレガ嫌ナラコイツヲイタダイテイク」

「り、獠…たす…けて…」

 

成す術なしか…くそっ!

それでも諦めまいとしていた彼らだったが、敵の背後の扉から影が現れたのに気がついた。

 

「…お前、気がついてないのか?」

「ナニ?」

「あたしらに夢中になってるあまり、自分の背中がガラ空きだってこと」

「ナッ」

 

カ級が振り向くと、そこには曙がいた。

 

「バッカじゃないの?これでも喰らって爆ぜろ!!」

 

そう言うなり、カ級の口に爆雷をねじ込む。

そして獠は側にあった叢雲の槍を投げると、そのまま敵の腹を貫通する。

獠が敵の動きを止め、その片手が叢雲から離れた瞬間を狙って曙は彼女に覆いかぶさった。

 

「今よ!!」

 

その声を合図に自らも香に同じことをし、カ級の口に捻じ込まれた爆雷に向かって一発叩き込んだ。その瞬間、派手に爆発を起こして敵は木っ端微塵になったのだ。

 

「叢雲、立てる?」

「な、なんて事ないわよ…これくらい…」

「無理しないで。アンタは今轟沈寸前なんだから」

「うん…」

 

曙はそのまま叢雲に肩を貸すと、2人で歩き出した。

 

「おい?」

「要らないわ。傷ついた姉を助けるのはアタシの仕事よ」

 

やっぱり叢雲が2人いるみたいだ。

彼女らの様子を見た獠と香は、顔を見合わせるとフフッと笑ったのだった。

 

 

「おーい、冴羽っちー!」

「他の皆さんもお揃いですね。良かったわ」

 

手をふりふりと振る北上と、胸を撫で下ろす大井。彼女らは任務が終わり、たまたま近くを通ったので白雪や漣達と合流。そのまま周りを警備していたのだった。

 

「おお、お前ら。外はどうだった?」

「比較的弱い駆逐艦がうようよいましたが…私達でやっつけました!」

「ご主人様達も見事に作戦成功のようですね!メシウマですわー」

 

そこで獠は後頭部をボリボリと掻く。

 

「んあー、漣ちゃん?」

「なんでしょうか?」

「そ、そのー、ご主人様って呼び方をー、ね…」

「あー、コレは漣のアイデンティティですので!今更変えられません!」

「マジか…すっげぇ誤解を招きそうなんだが…」

 

2人のやりとりを見た一同は大笑いをした。

特に曙と叢雲が1番笑っている。

 

「あっ!あのクソスイーパーがっ!!照れてる照れてるっ!!」

「漣に振り回されてる獠もっ、見ものだわねっ。…くっくくっ!」

 

言いたいようにされていた獠だったが、先程から気がついていたことを指摘する。

 

「おーや叢雲さぁん。僕ちんへの呼び方が変わってるわよ〜」

「なっ?!あっ!こっこれはその…言葉のあやよ!」

「ほぉーん。んでもって曙も同じ事をしてたしな?」

「ハッ!アタシはそんなこと……あっ!…ぅうるさいうるさいこのクソスイーパーッ!!」

「そうよ!このスケべで女ったらし!!」

「何だとツンデレシスターズ!!」

 

ギャーギャーと騒ぐ獠達を潮は横から見ており、彼女の顔からは自然と笑みが溢れるのだった。

 

「ねっ?あたしの言った通りでしょ?」

 

彼女が振り向くと、香と天龍が立っている。

 

「そう、ですね…!」

「あぁ。俺らも姉御や冴羽が来るまではブラック鎮守府のひとつだったんだ」

「そ、そうなんですか?!」

「おう。でも、2人やその仲間達が来てくれたおかげでまた叢雲や北上たちにも笑顔が戻ったんだ。辛い過去やトラウマは一生ついて回るが、それを乗り越えるともっと楽しいことがあるぞ?」

 

そう言ってニッと笑う天龍。潮はなぜか、ずっとこのままここにいたいと思ったのだ。

 

「だいたいお前らはなぁ…!!」

「なによ!そっちこそ!!」

「そうだそうだクソスイーパー!!」

 

まだ言い争う3人に対して、見るに見かねた北上が止めに入っていく。

 

「はいストップストーップ!ウザいからおしまーい!!じゃないと北上様がギッタギッタにしちゃうよ〜!!」

 

曙が獠の頬を引っ張り、反対に彼は叢雲の頬を押していた。

ちなみに叢雲の頭の横に浮かんでいる触覚ともウサギの耳とも取れるそれは、ピンク色に光っている。

 

呆れた香達が空を見ると、東の方向がうっすらと明るい。

 

「夜明けか…」

 

それは7駆の新たな門出を祝うかのように、だんだんと空高く登っていくのだった。

 

 

 

 






いかがでしたか?
最後は喧嘩で終わるのもまた、シティーハンターの要素だと思いますw
平和が戻った、っていうのがよくわかる演出で筆者は好きでございます。

叢雲と曙のツンデレタッグ、書いててなかなか面白かったですw
そして天龍さんかっこいい…!!

さてさて、平和が戻ったところで次回はなんの話になるのでしょうか…(まだ決めてない)


では、次回またお会いしましょう!






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新たな仲間編
今日もドタバタしてます!艦娘荒ぶるラッキーデー




こんにちは、さんめん軍曹です。
今回のお話、実は番外編として書いていたものを急遽本編に格上げしました()

前回がシリアスな分、今回は楽しめるお話ですので読んでいだけたら嬉しいです!!

では、本編どぉぞどぉぞ!!





 

 

 

 

この物語の主人公、冴羽獠は自他共に認めるトラブルメーカーである。

彼が行く先々では、女性が襲われたり銀行強盗が起きたりとするわけで、常に事件が起きてしまう。

獠はその度に首を突っ込みに行くのであるが、そんな事が起こり過ぎて何回も作者に物申すと言うメタ発言もしでかす程だ。

しかし、結果的には自身への依頼となり、人助けにも繋がっているのでもちろん全てに嫌気がさしているわけでもない。

今日も鎮守府近辺の散歩に出ているわけだが、彼の目の前で少女が紺色のベンツに攫われているのが目に入ってしまった。

 

「…」

 

その車はこちらに向かって来ており、どうやら目撃した事を知っているようで自分を轢き殺そうとしているようにも見えた。

売られた喧嘩は必ず買う。それが彼のモットーでもあるので、すかさずジャケットの中に手を伸ばす。

こいつと付き合って何年だろうか。そんな相棒を構え、タイヤに狙いを定め引き金を引いた。

 

弾丸はそのまま吸い込まれるようにタイヤに当たり、バーストをさせながら電柱にぶつかる。

 

銃をしまって中を見てみると、そこにはヤクザと思しき人間共とショートカットの少女が気絶していた。

 

 

「で、ここに連れて来た、と」

「むぅ、しゃーねえだろうよ。ほっとくわけにもいかんし」

 

ここは執務室。提督となった獠はここで艦隊の指揮を執り、嫌々ながらも香の命令で書類の処理もしていた。

その光景を見た艦娘たちは、 提督に命令するとは世の中わからないものだと口を揃えて言う。

とりあえず鎮守府に少女を連れて帰って来たは良いものの、どうしたもんかと悩んだ挙句憲兵こと元提督を呼んだのである。

 

「元とはなんだ元とは。最近影が薄くなって困ってるのは事実だがな」

「誰に向かって喋ってるんだお前は」

「あちゃー。なんちゃってご主人様が妙な電波を拾ってしまいましたなー」

「なんちゃっても余計だぞ漣。なんでここにいる?」

「漣は秘書艦じゃないけどー、ご主人様の仕事に興味があって来ちゃった☆」

 

そこでペロッと舌を出してぶりっ娘ポーズを決める漣。

男性陣は引きつった笑みを浮かべる。

 

「ほーぉ、そうかそうか。そんならお前にいい仕事があるぞ?」

「えっ?漣にお仕事ですか??やたーっ!」

「おっ、おまっ、もしかして…」

「だまれ獠。漣には工廠の手伝いをしてもらおうか」

 

直前までの笑顔が凍りつく漣。工廠の手伝いとは、これ即ち明石の手伝いでもある。

彼女と夕張が作った怪しげな装備のテストを行なわされるのだ。時には故障も起こし、入渠が必要となる。特に陸奥の場合は装備を装着した瞬間に大爆発を起こし、その場にいた3人とも即風呂場に放り込まれるという事故まで起きてしまったのだ。彼女いわく、

 

「あら、あらあら…なんで私はどの場所でも爆発ネタが使われるのかしら…」

 

と地面に円を描きながら呟いたのである。

とにかく、2人の実験には犠牲がつきものなのだ。

漣もまた、目の前で朧が自身のカニと一緒に泡を吹いているのを見てしまっており、それをわかってか嫌がる彼女を問答無用でもt…元々の提督が連れ去っていった。

 

「離せええええええ!唯でさえ台詞と出番が少ないんだあああああ!!オイシイとこくらい持ってかせろおおおおお!!!」

「だからってメタ発言していいもんじゃないぞ!」

「元々のご主人様だってそうでしょうよ!!お、俺は犯人じゃないいいい!線路に逃げさせろおおおぉぉぉ……」

 

扉がバタンと閉められる。

嵐が去ったと安堵した獠の前にコトリとコーヒーが置かれる。

 

「ふふっ。冴羽さんも大変ですね」

「んお、ありがと妙高ちゃん」

 

週が変わり、叢雲とバトンタッチしたのは妙高型重巡洋艦の1番艦、妙高である。

香は当初、その姿が獠の好みの可能性があるとして大反対をしたが、秘書艦向きであるということと重巡の艦娘がまだ選ばれていないということで獠が無理矢理納得させたのであった。

そして、妙高には妹が3人いる。そのうちの那智と足柄は既にこの鎮守府にいるが、末っ子の艦娘だけはまだ来ていないのだ。

 

「そう言えば妙高ちゃんって、妹が3人いるんだっけ?」

「はい。ですがまだ最後の子だけは…」

「う〜ん…どっかにいないかなあ…」

「そう簡単に現れないですよ。だってあの子、恥ずかしがり屋だもの」

 

くすくすと笑う妙高。それもそうだなと獠は思ったが、彼女の服を見てふと既視感を覚えた。

 

「そういえば妙高ちゃんのその服、なーんかどっかで見たことあんだよなあ…」

「えっ?足柄達じゃないんですか?」

「う〜ん…ここで見たわけじゃないのよ…」

 

はて?と思う2人であったが、ここで扉がノックされる。

 

「ほいよー」

「冴羽様。先程お連れになった方が目覚めましたわ」

「おっ、そうかそうか。では話でも聞きに行きますか」

「はい、お伴します」

 

熊野を先頭に、医務室に向かう3人。

問題の扉の前に立つと、熊野がノックをした。

 

「失礼致しますわ。ここの提督と秘書艦を連れて参りましてよ」

「ど…どうぞ」

 

中から声が聴こえるとともに、妙高の目が見開かれる。

 

「ちょ、ちょっと熊野さん。先に通していただいても?」

「?別に構いませんわよ?」

 

そのまま少し足を縺れさせながら妙高は入っていった。

 

続いて後の2人も入ると、そこには口をあんぐりと開けた妙高と同じく口を手で隠した少女がいた。

その様子を疑問に思う獠だったが、すぐに謎が解ける。

 

「は…羽黒!?」

「妙高…姉さん?!」

 

つまり、獠が覚えた既視感というものは羽黒と呼ばれた少女が着ていた服によるものであったのだ。

まさか偶然街で助けた少女がよもや艦娘だと、そして妙高型の1番下の妹であるとは夢にも思わなかったのである。

妙高はそのまま勢いよく羽黒の胸に飛び込んでいった。

 

「きゃ〜〜!ようやく来てくれたのね羽黒ぉ!!」

「ちょ、ちょっと姉さん…恥ずかしいから…」

「3人で待った甲斐があったわ〜〜〜!きゃ〜〜嬉しい〜〜〜〜!!」

 

そのまま5分間、獠達の目を憚らずにたっぷりと頬擦りをした妙高であった。

 

「す、すいません…我を見失ってしまいました…」

「なんつーか妙高ちゃんって…シスコン?」

 

あまりのキャラ崩壊っぷりに思わず質問をしてしまう獠。後ろでは熊野が笑いを堪えるのに必死になっていた。

 

「いえ…そんなはずは…」

「まあ、認めたくない事実だってあるよな。俺は提督としてそれを受け入れなきゃならん!」

「だから、違いますって!」

 

グサグサと傷口を抉られた妙高は、恥ずかしくなったのか足を上げた。

ベッドで寝ている羽黒の隣に座っており、獠は彼女より少し通路側に椅子を置いて座っているのだ。

 

これが何を意味するか。

 

そう、読者の諸君ならとっくにお分かりだろう。シティーハンターという物語において無くてはならない展開なのである。

 

若干先の尖ったブーツのようなものを履いていた彼女の足は、そのまま獠の急所にめり込んだ。

そのまま後ろにひっくり返る獠。

泡を吹いた彼を見た熊野は、とうとう耐えきれずに笑い出した。

 

「あっはははは!これは傑作ですわ!冴羽様の秘所に…ずぶりと!うふっふふふふふふっ」

 

なぜか熊野もブッ飛んでしまう。

元々そのような気がある艦娘なので獠は特に気にしなかったが、仕返しをしたくなったので一言物申した。

 

「今日は…ピンクか」

「んなっ…!」

 

スカートの中を見られた彼女は、そのまま獠の顔面を思いっきり踏みつける。

 

「人のスカートの中を覗く不届き者はどこの誰かしらねぇ…?一捻りで黙らせてやりましょうか?えっ?」

 

一捻りどころか、何回も足を捻る彼女。

 

「いへへへへへへへへっ!ぎうッ!ぎうッ!」

 

やっとのことで気が済んだ熊野は足をどけるが、そこには真ん中が陥没して全体的に平べったく延ばされた獠の顔があった。

 

「ひ〜ら〜ひらひらぺったんこ〜」

「自業自得ですわね。ふんっ!」

 

熊野はおかんむりなのか、そっぽを向いてしまった。

その様子を見ていた羽黒がおもむろに疑問を口に出す。

 

「あれ?さっき彼がここの提督さんだって…」

「そう、これでも立派な提督なのよ。一応、ね」

 

もう何が何だかわからず、ショートを起こしてしまう羽黒だった。

 

しばらくして、復活した獠は話を本題に戻す。

 

「羽黒ちゃんはなんであんなとこで誘拐されたの?」

「はい…実は、気がついたら海に浮かんでて…。それで、近くの港に打ち上げられたんですけど、漁師さん達が騒ぎ始めたので怖くなって逃げてきたんです」

「ふむ」

「それで、何日か経った時にあそこを歩いてたら…」

「待ってくれ。何日も飲まず食わずで歩いてたのか?」

「はい…。一応、艤装は仕舞っていたので怪しまれることはなかったんですけど、ずっと公園の水道水を飲んでやり過ごしていたら、あの路地で見知らぬ人に声をかけられて…」

「断ったら無理矢理連れていかれそうになったと」

「はい…」

 

そこで、うーむと考え込む一同。

 

「羽黒ちゃん、お腹空いてない?」

「はい?え、えぇ…実はもう…ぺこぺこで…」

「なら、ちょうどいいところがある」

 

 

「なんだ、冷やかしに来たのなら断る」

 

喫茶キャッツアイ。本来なら新宿に店を構えているのだが、提督からの頼みで2号店を鎮守府の中に開店した。

まだ店を開いてから数日と経っておらず、店の中は艦娘達で大盛況だ。

 

「いいや、この子が腹ペコだっていうからな。ティーセットかなんか頼むわ」

「本来なら断るところだが、客なら仕方がないな。そこに座れ」

 

ちょうど空いていたカウンター席に案内され、4人は座った。

 

「あんなにガタイのいい人が…マスターさん?」

「変だろ?ゴリマッチョに蝶ネクタイなんて」

「るせぇ!大きなお世話だ!」

「なんだとこのタコ坊主!」

 

また2人同士の言い合いが発生する。

海坊主と獠の言い合いは執務室や食堂でも起きており、もはやこの鎮守府の恒例であった。

それ故か、気にする艦娘はどこにもいなかった。

 

「うるさいわよクソスイーパー」

「うみぼーずも黙るにゃ」

 

多摩と曙からキツい一言をもらった2人は、言い合いはしなくなったものの2人の睨み合いは続く。

と、そこへ後ろから額に青筋を立てたニコニコ顔の鳳翔が近づいて来る。

そのまま2人の後頭部を掴みお互いのおでこをぶつけて、パッカーンと景気の良い音を鳴らした。

 

「2人ともいい加減になさい」

 

相当痛かったのか、頭を抑える2人。裏の世界で1、2の腕を争う腕の彼らでも1人の艦娘には逆らえなかった。

 

「全く。2人ともいい歳してるんですからもっとちゃんとしてください。特に冴羽さん、あなたは海坊主さんの仕事を邪魔し過ぎです」

「はぁ〜い」

「海坊主さんも。売り言葉に買い言葉では仕事が勤まらないでしょうに」

「す、すまん」

「分かればいいんです。では、私は裏に戻りますね」

 

喧嘩をしていた2人を一気に止めた鳳翔。彼女を怒らすほど、この鎮守府にとって恐ろしいものはないのだ。

さすがは元祖お艦である。

 

「……」

「……」

 

「「フンッ!!」」

 

横でクスクスと笑う羽黒。

あぁ、いつになったら始まるのかしらと熊野と妙高は頭を抱えていたのだった。

 

 

 

 





いかがでしたか??
そうです、今回の艦娘達が超絶荒ぶるギャグ作品となっておりますw
キャラ崩壊もなんのそのです(ぉぃ)

漣は相変わらずオイシイ所を持っていくのがうまいですね。
提督も放置気味だったので、あえて絡ませてみました。
書いてるうちに作者も悪ノリしています()
妙高さんはしっかり者のイメージもあるけど、気が緩むと普通の女の子ですね。
そして海ちゃん念願(?)のキャッツアイ2号店が開店しました!
応援で鳳翔さん間宮さん伊良湖ちゃんが来てくれています。

羽黒さん以外はメタ発言のオンパレードですね。

そして最後に。

お艦は強い!!(確信)


ではまた次回!!




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特ダネです!鬼の金剛と都会の掃除屋(スイーパー)の大騒動



おはようございます、さんめん軍曹です。
今回のお話は色々な艦娘にスポットを当てております。
全体的にコミカルです。

ではでは本編をば!




 

 

「はぁ〜あ。なんかこう、いいネタは無いんでしょうかねえ…」

 

そう呟きながら歩くのは青葉。

彼女は出撃の時以外は基本的にネタ探しの為鎮守府内をウロウロとしているのだ。青葉の艦としての歴史をたどって見るとわかるが、その経験もあってか趣味で記者をやっている。

キャッツアイが開店した時ももちろん記事にしており、事前に広報をしていたお陰か初日から大行列という結果をもたらしたのだ。

 

「ん…?あの光は…」

 

実は彼女、カメラを日頃扱っているせいかレンズの反射光は直ぐに見分けることができる。

今回も、門の外のビルからそれがキラリと一瞬だけ光ったのを見逃さなかった。

青葉はおもむろにインカムに手をやり獠に向けて通信をした。

 

 

「なに?怪しい光?」

『はい、門の正面を1kmほど行ったビルにスコープの反射光が見えました』

 

キャッツアイで食事をとっていた獠達だが、青葉からの通信で空気が一変する。

 

「間違いないな?」

『はい、あれは間違いなくレンズの光…』

 

その時、獠の耳に音が聴こえてきた。

彼は地獄耳ですらも及ばない聴力を持っている。ただ、撃鉄を上げる音やトリガーを絞った音、それとこちらに向かってくる弾丸に対してではあるが。

 

「青葉!避けろ!」

『えっ?ひゃあっ!!』

 

おそらく着弾したのであろう。獠は直ぐに青葉の安否確認をするため彼女がいるであろう場所に向けて飛び出した。

 

 

「青葉!」

「青葉は無事です!敵は逃げたようなので、安全確認をしてから証拠を抑えました!」

 

そう言って彼女は手を開くと、そこにはひしゃげた弾のようなものが現れた。

 

「そうか。直ぐに明石達に解析してもらおう。もっとも、これをみてどんな武器を使ったか、大体はわかるがな」

「そうなんですか?」

「ああ。こいつはおそらく7.62mm弾だ。日本で手に入る中でこいつを使う銃は限られている」

 

青葉の手を引いて立たせると、すぐ脇を水偵が飛んでいった。

 

「冴羽さん。あのビルから降りるまでにもそれなりの時間はかかります。何か手がかりをつかめるかもしれないので水偵を1機飛ばしておきました」

 

そう話すのは鳳翔。獠が血相を変えて飛び出したのをみて、彼女もまた戦闘機を離陸させるのに使う弓矢を持ってついてきたのだった。

 

「鳳翔さん、そいつは助かるぜ」

「いいのです。私達の可愛い子に手を出した事を後悔してもらいたいので」

 

これは相当怒ってますね鳳翔さん。

いつもは怒られる立場の青葉ではあるが、鳳翔が味方につくとこんなにも頼もしく見えるのかと思ったのだった。

 

1時間もしないうちに鳳翔の艦載機から連絡が来る。

 

「敵の本拠地を発見したようです」

「なに?どこだ?」

「それが…」

 

 

「本当に…ここか?」

「はい」

 

獠と青葉、それに鳳翔が立っているのは彼の家の隣にあるビルだった。

 

「R.N.探偵事務所…?」

「そう、ここは麗香の事務所さ」

「あら、獠」

 

声をかけられたので後ろを見ると、ちょうど本人が買い物を終えて帰ってきたところらしく、片手に紙袋を持っていた。

 

「おぉ、麗香。どうやらお前の事務所に誰かが忍び込んだみたい…」

 

そこまで言った彼の背中に悪寒が走る。

ちょうど麗香の事務所の上から、カチリとあの音が聴こえてきたのだ。

 

「冴羽さん!あぶない!」

 

そういうが否や、鳳翔は即座に展開して艤装についている甲板を使い獠を守った。

鉄と鉄が弾ける音を立てて、飛んで来た弾丸は跳ね返っていく。

 

「大丈夫ですか?!」

「また来るぞ!!」

 

獠の言う通り次々と弾の雨が降って来る。

どうやら、鳳翔が飛ばしていた艦載機はすでに敵へバレていたらしい。

だが、弾丸はいつか尽きるもの。どうやら1人らしい敵は弾切れなのか射撃が止んだ。

その隙に獠はビルの中に飛び込み、後の3人もそれに続く。

 

「俺が先に行く。後ろに気をつけろ」

 

そして階段をそろそろと上がり、問題の場所へとたどり着いた。4人はそれぞれ位置に着くと、タイミングを測った獠は扉を開けて中へと飛ぶ。

くるりと回転して敵の銃を弾いた彼はそのまま銃口を向けていた。

 

「動くな!お前は何者だ?」

「俺はただの雇われ屋さ。もっとも、囮役としてだがな」

「なに?」

「お前が匿っている娘が俺の雇い主のまずい現場を見ちまったらしい。そこで、始末しろとの命令というわけだ」

「…」

「まあさっきも言った通り、俺はお前をあそこから離すのが目的だ」

「まさか…」

「そう、そのまさかさ。今頃は周りを大勢のお兄さん達が囲んでるはずだ」

 

その途端に青葉が飛び込んで来る。

 

「冴羽さん!鎮守府の正門前に多数の不審者がいるそうです!」

「…わかった。だが、お前は一つ勘違いをしている」

「なんだと?」

「まずうちには海坊主を始めとした傭兵経験者、そして好戦的な艦娘達がいる」

 

その言葉を聞いた敵の顔は、さーっと青ざめていった。

 

「お前ら、艦娘を舐めすぎだ」

 

 

その頃、鎮守府ではーーーー。

 

「どうやって潰すクマ?」

「正面から切り込む」

「殴る」

「Boom!しマス」

「ちっとは真面目に考えろ…」

 

獠が不在の執務室では、海坊主や球磨、天龍、摩耶、金剛といったお馴染みのメンバーが作戦を練っていた。

 

「だってよー、正直言って今回の敵は雑魚臭しかしないんだよなー」

「確かに、正面固めてりゃいいって発想の時点で脳ミソがピーナッツくらいの大きさしかないクマ」

「今回、オレの刀の出番はなさそうだしな」

「そりゃそうだが…」

「んじゃ、アタシたちは行くよ。流石に無いだろうけどヤバくなったら出てきてくれな」

 

摩耶がそう言って席を立つと、あとの3人もそれに習ってぞろぞろと出て行った。

 

 

「これだけの人数で来れば、さすがのあいつらも怖気付いて出てこないだろう」

「そっすねーアニキ」

 

正門前では、勝った気でいるヤクザたちがのんびりと会話をしていた。

 

「おっ、誰か来たぞ」

「あの娘は…いませんね」

 

門の脇の通用口から出て来た金剛たちは、そのままごろつき共に声をかける。

 

「Heyみなサーン、武器を捨てて大人しく投降してくだサイネー」

「は?」

「あのな、アタシらは忙しいんだよ。お前らみたいな雑魚どもを相手にする時間が勿体ねえ」

「だからどうした?大人しく…」

 

アニキが言い終わらないうちに、鉄のひしゃげる音が聞こえて来た。

えっと思いそちらを向いてみると、ベンツのボンネットが大きく凹み、シュウシュウと音を立てて煙を上げている。1番凹んでいる箇所に左の拳を置いていたのは、最初に話しかけて来た片言の艦娘だった。

 

「Hurry up.午後のティーパーティーを邪魔した罪は大きいデスよ?」

「なっ?!」

「この車の様になりたくなかったら早くしろって言ってるんだ。戦艦がキレると恐ろしいぞ」

「鬼の金剛だクマ。最も、球磨たちが出て来た時点でお前らに勝ち目は無いクマ」

「オレらをナメてかかった時点で、な」

 

満面の笑みで話しかける金剛の額には青筋が立っており、その他の3人もゲスな笑みを浮かべている。

 

「さあ、猶予は与えたネ。それでも投降しない場合は相当の脅威であると見なしマース」

「ちょっ」

「Fuck you,Asshole.」

 

金剛の台詞とともに、ゆっくりと近づく艦娘達。今日の中で1番不運なのは先程まで勝ち誇っていたこのヤクザ達だったのだ。

 

 

しばらくして、獠達が戻ってみるとひしゃげた車やボロボロの黒スーツがあちこちに散らばっているなど、まさに死屍累々の光景が広がっていた。

 

「おぉ〜お。こりゃまた派手にやったもんだ」

「いい特ダネが入りました!」

「青葉ちゃんはブレないわね…」

「はい!青葉はこれが生きがいなので!」

「あら、金剛さんがいらっしゃいますね」

 

鳳翔が言ったので前を見ると、正門付近には確かにこちらに向かって手をブンブンと振る金剛がいた。それも、左手にはボロボロになっている黒スーツの男の胸倉を掴んでいる状態でだ。

 

「まさに一方的なS勝利、ってか…ハハハ」

 

その言葉を発する獠の顔は、引きつった笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

 






さてさて、如何でしたか?
個人的には金剛さんにスラングを言わせてみたかったので、あえて敵は雑魚にしました。かなり強いですね()

今回のお話にはヒロインであるはずの羽黒ちゃんは登場しませんでした(((
でも書いててめちゃくちゃ面白かったですw

では、また次回お会いしましょう!




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ビックリ仰天!?大胆不敵な艦娘達と組長の謝罪


こんばんわ、夜も更けた頃にお届けするさんめん軍曹です。
早速ですが誤字報告ありがとうございました。
気づいたのにそのまま忘れてしまい申し訳無いです…

読者の皆様が楽しめるようにご協力いただきました事、この場を借りてお礼をさせていただきます。

さて、題名の通り今回の黒幕が出てきます。
一体どんな結末を迎えるのやら…?

では、本編どうぞっ!






 

 

鎮守府、正門前ーーー。

 

晴れた青空の下、横須賀鎮守府正門前には多数のパトカーと何台かの護送車、それに救急車がいる。例の雇われ屋についてはここに連行する際にふん縛られていただけなので、そのままパトカーに押し込められ御用となっていった。

 

「りょ〜〜う〜〜?」

「はひっ!ごめなさっ!!」

 

香達の通報でやって来た冴子は、目の前の惨状を見るなり獠に食って掛かったのだ。

 

「大体ね、犯罪者を検挙できるのはこちらとしては嬉しいけど、あなたの場合一度に持ってくる数が多すぎるの!」

「しーましぇん…」

「金剛さんも。もっと力加減を考えて!」

「Oh…Sorryデース…」

 

金剛も冴子に怒られたところで、獠はふと気になる事が出てくる。

 

「そいえば金剛ちゃん」

「どーしマシタ?」

「摩耶や球磨達は?」

「アッ…」

 

しまったと言う顔をする金剛。そんな彼女をみた獠と冴子の顔からは血の気がみるみる失せていった。

 

「あって…まさかあなた…」

「あーあ…俺しーらねっと」

「待ちなさい獠」

「ぐえっ?!」

「あなた…どうなるかわかってるわよね?」

「ひえっ!?」

「このツケとしてもっこり10発ね」

 

そして彼女は、獠のジャケットの左ポケットからもっこり券をするりとかっぱらって行った。

 

「あっ!待て冴子!!」

「うるさい!素直に渡さないと公務執行妨害で逮捕するわよ!」

「そんな理不尽な…」

「公私混同デース…」

 

文句をぶーたれる2人。それを聞いた冴子はキッと睨むと

 

「嫌なら早くあの子達を何とかしなさい!!」

 

と言いながら冴子は獠達が今来た方向を指差した。

 

 

「んー…遅い!!」

 

男は机をダンと叩く。

八戒組(やっかいぐみ)と書かれたとある事務所の中、上手に座っていたこの横にでかい髭面の中年はイライラした様子でいた。

 

「組長、そうカリカリせんといて」

「じゃかあしい!元気一杯に出て行ってから数時間、何も動きがなけりゃ心配するに決まってるだろが!」

「まあ、そらそうですが…」

「組長おかんみたい」

 

その時、けたたましく電話が鳴る。

 

「はい」

『よう、八戒組さんよ。アタシ、摩耶ってんだ』

「はい?」

『艦娘だよ艦娘。お前、羽黒を誘拐しようとしたろ?』

「艦娘…羽黒…あー、あの娘か…。羽黒って言うんやな…ってぇっ?!」

『何も知らずに攫おうとしたのかよ…』

「ちょっと待ちい。確かにマズい現場は見られたし口も封じようとはしたけど誤解やで」

『ほー。そんなお前らにプレゼントがあるぜ』

「まっ、話を…」

『いいから外を見なよ』

 

突然建物が揺れ出す。何事かと思い一同が窓に目を向けると、不意に視界が明るくなる。

 

「おりゃああああああ!!!!」

 

がしゃんと窓が割れ、叫び声と共に現れる摩耶。彼女が乗っていたのは建物を崩す為に使うモンケンだった。

兎にも角にも、その一撃で事務所内はパニックに陥ったのであった。

 

 

「あぁ〜あ。遅かったか」

「ワタシもこの場に居たかったネ…」

「バカ言え、俺が冴子にこってり絞られんだろが」

 

事務所跡だと思われる現場を目の前にした2人は、唖然としていた。

しかしその傍には、悪党どもをふん縛りふふんと得意げな顔をする摩耶達の姿があった。

 

「どぉだ冴羽!懲らしめてやったぜ!」

「球磨たちをナメてかかった罰だクマ」

「この摩耶様達にかかりゃ、ざっとこんなもんさ」

 

と、次々に感想を述べる彼女らに獠は片っ端からチョップを喰らわせて行った。ついでに金剛にもだ。

 

「な、なんでワタシまでなんデスか…」

「共犯だ。お前ら悪党を制裁したのは褒めてやるが、ちとやり過ぎだ。危険なやつだったらどうする」

「あでで…でもよ、これ冴羽のやり方を参考にしただけだぜ?」

「へ?」

「島風が持って来た新聞の過去の記事で、ニュースになってたのを参考にさせてもらった」

 

それを聞いた獠。彼は開いた口が塞がらなかった。

 

「あんのスピード狂紐パン娘め…」

 

彼らがそうこうしているうちに、遠くからパトカーのサイレンが聴こえてくるのであった。

 

 

現場にいち早く駆けつけた冴子は、逃亡を開始しようとした獠達を捕らえ、そのまま取調室まで連行した挙句にさらにもっこり券を15発分没収する。それが終わった後は自分の執務机の前で頭を抱えていた。

 

「お疲れ様です野上刑事。最近犯罪者の検挙率が上がっているそうじゃないですか。署内で評判ですよ?」

「お疲れ様。私としては嬉しくないのよね…」

「どうしてですか?」

「あのバカ男のせいよ」

「えっ?」

 

しまった。余計な事を口に出してしまった。

そう思った彼女はすぐに訂正をする。

 

「あっ、いえ、何でもないのよ?ただ、休まる暇がないってだけ」

「あぁ、そういう事ですか。確かにそうですね」

「それより、例のファイルは持ってきてくれたかしら?」

「はい、こちらに」

 

そう行って彼は1枚の茶封筒を差し出した。

 

「わかったわ。ありがと、そこに置いといてくれる?」

「わかりました」

「あなたも帰って休んでおきなさい?いつ犯罪が起きるのかわからないから」

「わかりました。では、野上刑事も身体にお気をつけて」

 

同僚の刑事が立ち去ると、冴子は続く限りの溜め息を吐き出す。

 

「今追ってる事件、獠の鎮守府の艦娘に関する事なのよね…」

 

そう呟いた彼女は1枚の写真を取り出す。そこには伊19と伊58の顔が写っていたのだった。

 

 

数日経って、執務から逃げ果せた獠はふらふら歩いていると、ふと視線を感じる。

 

(…なんだ?)

 

正面を見ると、そこには紺色のベンツが停まっていた。

 

 

「おっ、来ましたよ組長!」

「来たか。奴には果たさなければならん事があるからな」

 

摩耶達に潰されたはずのヤクザ達。報復でもするのだろうか、また正面に集まっていた。

 

「またここに来たようだが、何の用だ?」

「来たな。おい、アレを出せ」

 

例のアニキがジャケットに手を入れる。

その瞬間を獠は見逃さなかった。すぐにこちらもパイソンを抜くと相手に向ける。

 

「…まだ懲りていないようだな?」

「待ってくれ!何も復讐しようとして来たわけじゃあない」

 

その言葉を聞いて、彼は眉をひそめる。

 

「じゃあなんだよ」

「これを受け取ってくれ」

 

差し出されたものを見てみると、それは詫び状と書かれた手紙であった。

 

「…は?」

 

 

すぐに組長とアニキを連れて執務室に戻り、香にボコされた獠は応接室で羽黒を含めた関係者を集める。

 

「…で、なんだこれは?」

「うむ。率直に言おう。羽黒さんと言ったな?」

「は、はい」

「この度は済まなかった!」

 

そう言いながら土下座をする組長。その様子にどよめく一同だが、あわあわとしながらも羽黒が言った。

 

「組長さん、頭を上げて下さい!」

「いや、妻に内緒で女と密会した時の名刺が風に飛んでしまってな、貴女が拾ったのを見てそれを返してもらうとともに口止めをしようとしたんだ」

 

一息に言い訳をする組長。その場にいた獠サイドが呆気にとられていた。

 

「無理やり攫おうとしたのは事実だが、なにも殺そうとしたわけじゃない。家に招いて来いと言ったのにこの馬鹿どもが勘違いをして無理に乗せてしまったんだ」

「えぇ…」

「そこでだ、お詫びとして冴羽殿にお願いしたい」

「な、なんだ?」

「ここで冴羽殿の鎮守府を警備させてほしい。知らなかったとはいえ、あのシティーハンターの身内に手を出してしまった。償いをさせてくれ」

 

突然の頼みに混乱する獠。助けを求めようと提督に向いた。

 

「憲兵っつってもな…ちゃんとした試験を通らないといかんし、だからと言って人数が足りないのも事実。だったらいっそあんたの組ごと職変えて、警備会社にでもしたらどうだ?民間の」

「なるほど。それじゃあ…」

「うむ。俺はいいぞ。さっきも言ったが手が足りないのは本当だし、ブラック提督からいつ狙われるかわからんからな」

「ほう。ならそうして貰おうか。組長さんよ、それでいいか?」

「うむ。ワシから組員に伝えよう。必ず好意にはお答えする」

 

こうして、鎮守府に新たな仲間(?)が加わったのだった。

 

 

「よろしかったんですか?冴羽さん」

 

結果的にオーバーキルをしてしまった摩耶達を軽く叱った(組長達は当然の事だと言って許してくれた)後に廊下を歩いていると、妙高が聞いてくる。

 

「まあ、悪気はなかったようだしな」

「はい。名刺は返しましたし、私もあの方たちがとても悪いようには見えないです」

「なるほどね。ところでなんで羽黒はそれを拾ったのかしら?」

 

妙高に質問された羽黒が少しためらいながらも話す。

 

「実は…女の方の名前だったので、後で役に立つのではないかと…」

 

ガクッとこける2人。

やれやれと思いながらも、結果的には人手が増えたのでまあいいかと流した。

 

「あ」

「どうされましたか?」

「いや、あいつらにさっそく仕事を与えようと思ってな」

「どんな仕事ですか?」

「いや…過去の事さ。ここに来てから情報が入って来てないからな。あいつらに調べてもらおうと思ってさ」

 

そう言った後の獠の目は、どこか遠くを見つめていたのだった。

 

 

 

 

 




いかがでしたか?
個人的には八戒組、なかなか憎めないですねw
今後の展開も考えて、彼らには仲間に加わってもらいました。

羽黒の事件は解決したけど、また新たな匂いが…?

「次の主役、どうやらイク達のようなのね」
「やっとでちか。長かったでちね」
「今度はお前らの過去の話だ。ちょっと暗めだな」
「まあまあ。あの時は大変だったけど、今は楽しくやってるでち」
「これ以上はネタバレになるからやめるのねゴーヤ。読者のみんなにはこれをもって次回予告とするのね。イクも脱ぐなのね」
「「やめろ泳ぐ18禁」」

ご期待ください。(脱ぎはしません)





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獠達の過去編
今解き明かされる 全ての始まり、獠と艦娘達の過去


こんばんは、さんめん軍曹です。
まず最初に、この作業を進めていたら西の方で震度5弱の地震発生のLINEニュースが2度も流れて驚きました。
最近、震度5の地震が多くなってる気がします。
そう考えると、少々不安ですね…

読者様達にも現地の方々はいるかと存じますが、できるだけ安全確保に努め、また無事にこの小説を読めるように祈っております。
もちろんそうでない方であっても、いつ来るかわからない災害に備え、直ぐに避難できるように心がけてください。

さて、今回からは過去のお話。
今まで不透明だった、獠と艦娘の関係を長編にてお送りします。

では、どうぞ本編へ!





 

 

数年前。ある雨の日の夜。

 

「ゴーヤ、遅いの」

「ま、待ってよイク〜」

 

路地を走る2人の少女。2人は急いでいるのか、地面にある水溜りも気にせず駆け抜ける。

そして見晴らしのいい場所に辿り着くと、イクと呼ばれた少女はオリーブドラブのダッフルバッグを下に置くなり中身を取り出す。

彼女は手馴れているのかバラバラだったそれを組み立てると、そこに現れたのはM14のマークスマンカスタムだった。

 

「さあ、準備完了なのね」

「…ほんとにやるの?」

「やらなきゃいけないのね。…イムヤの為にも」

「…わかったでち」

 

そして2人はそれぞれスコープと双眼鏡を覗いたのだった。

 

 

さらに数日前。

新宿駅東口のの掲示板に訪れたよれよれのコートに眼鏡をかけた男。

彼はある文章を確認して、それをメモに書くと去っていった。

 

 

ーXYZ 至急面会求む。喫茶シティにて待つ

 

 

この文章が、全ての始まりだった。

数時間後。場所は変わり、同じ新宿のとあるマンション。

 

「新たな依頼だぞ」

 

先程の男性がリビングで食事をとっている水色のジャケットの男に声をかける。

 

「ほう、どんな依頼?」

「大本営からだ」

「無理!パァス!」

 

大本営。その名を聞いただけで即答した彼には、あるポリシーがあった。

 

「俺は美人の依頼しか受け付けないのは知ってるだろ?大本営と言えば男しかいないに決まってる。そんなもん、受けたくないね」

「そう言うなよ。今回の件、依頼人は男だが、守るのは艦娘だ」

「艦娘…?今最近流行りの深海棲艦から日本を守ってるって言う、あの女の子達か?」

「ああ。その艦娘達を率いている提督と言うのは知ってるな?」

「まあな」

「そいつらの一部が、艦娘に対して良からぬことをしているらしい。そこで、潰して欲しいと大本営の大将から依頼があった」

「会ったのは本人か?」

「いや、その秘書だな。艦娘にもそう言うのはいるらしい」

「美人なんだろうな?」

「…好みの問題だな」

「決めた!お前がそうやってごまかす時は美人に決まってる。早速会いに行こうじゃないか」

 

そう言って席を立つ彼だったが、相方の男が引き留める。

 

「待て、会いに行くのは大将じゃない」

「どういうこった?」

「直接鎮守府に行って、そこの提督と話をして欲しいそうだ」

「ほう。まあなんでもいいから早く行こうぜ」

 

せっかちな男は嫌われるぞ。

彼の態度を見た相方はそう思うのであった。

 

 

「よう」

「おっ、お前は…!」

 

横須賀鎮守府に辿り着いた彼らは提督直々の迎えがあったのだが、それは見覚えのある人物だった。

 

「久し振りだな。とりあえず中に入れ」

 

そう言って提督は歩き始めるのだった。

 

「ここが俺の執務室だ」

 

コンコンと提督が扉を叩くと、中から返事が聴こえた。

 

「開いてるよー!入っておいでー!」

 

中に入ると、そこには女子高生のような服を纏った少女がソファーでくつろいでいた。

 

「てーとくぅ、意外と早かったじゃん?」

「おう、客人だ」

「チーッス。アタシは鈴谷。よろしくね!」

 

 

 

そして話は現在に戻る。

彼らはここに来てから鎮守府やら艦娘の紹介を受け、その日のうちに早速艦娘を救助し、落ち着いたのを見計らって建物の中を歩き回っていた。

 

「とうとう降り出したな」

「あー、そうだな」

 

先程から降り出した雨を見ながら、男達は廊下を歩いていた。

 

「しかしまあ、ここの提督がまさか篠原だったとはな」

「こないだから何回も言っているぞ、それ」

「そうだったか?」

 

ここで2人の言葉が途切れしばらく無言で歩くが、片方の男が異変を感じたのか表情が変わる。

 

「なあ槇村」

「ん?」

「さっきから視線を感じないか?」

「流石だな獠。お前も気づいていたか」

「ああ。だが様子を見ているだけのようだ。殺気はまだ感じない」

「まさかとは思うが、昨日保護した艦娘に関係することじゃないのか?」

「さあな。保護したのは潜水艦だったっけ?」

「そうだな。名前は伊168。ある鎮守府から脱走してきて追われていたのを助けた」

「なるほどな。とすれば、今こちらを見ているのが誰なのか大体わかる」

「?」

「同じ艦種さ。あそこにいるのはあと2人だったろ?」

「うむ」

「ブラック提督とか言う奴のことだ。大方誘拐されたとかなんとか吹き込んでよこしたんだろ。それに片方は狙撃に長けてるって言うじゃないか」

 

その時、前方から艦娘が歩いてくるのが見えた。

 

「あら。冴羽さん」

「おぉ、大井ちゃん」

「気安くちゃん付けで呼ばないでくださる?」

「あらら…連れないなぁ。まあいいや、あの2人は?」

「北上さんとイムヤちゃんですか?お2人とも傷は治ったようで今は仲良く話してますよ」

「君はいいのかい?」

「北上さんが楽しそうにしてるのを見たら、なんとなく邪魔してはいけないかなって」

「そんな事ないさ。君だって仲良くなる権利はある。たまには話してみるのもいいぞ?」

「そう…ですか?」

「ああ。…!」

 

立ち止まって話していた3人だが、獠は突然険しい顔になった。

 

「冴羽さん?」

「伏せろぉっ!!!」

「きゃあっ!!」

 

そう言うが否や、大井に被さる獠。槇村も反射的に伏せた瞬間、窓ガラスにヒビが入る。

しばらくして気配が消えたのを感じた獠だが、とっさに被さった大井がわなわなと震えているのに気がついた。

 

「…何してるんですか冴羽さん」

「えっ?」

 

彼は自分の頭がどこにあるのかすぐに理解をした。彼女のその軽巡の割に豊満な胸の谷間だったのである。

 

「まっ待てっ!これは誤解やで!」

「知るか!この変態!!」

 

その直後、獠の頬には紅葉が咲いたのである。

 

 

「…彼が悪いのよ」

「まあまあ、そう言わないの大井っち」

 

どんよりとした雰囲気を纏って病室に入ってきた彼女。直前まで仲良く話していた北上と伊168だったが、気になったので質問すると先程の出来事を教えられたのである。

 

「謝れるんだったらその時にちゃんと謝ったほうがいいよー」

「まあ、北上さんが言うのなら…」

「北上ちゃんがどうってよりかも、自分の意思で決めたらどう?私も聞いたけど冴羽さんの話は知ってるでしょ?」

「そうね…。彼には感謝してます。北上さんの命の恩人ですもの」

「北上ちゃんについて行くのもいいけど、時には自分で決めなきゃいけない事だってあるんだよ?」

「はい…」

 

またさらに暗くなってしまった大井に、やれやれと北上がフォローを入れる。

 

「いきなりなのは仕方ないよ。確かに頭を置いた場所は悪かったけど、それでも結果的には大井っちの命を守ってくれたわけじゃん?冴羽っちは優しいから、それくらいのことで怒ったりしないよー」

「き、北上さぁん…!」

 

そう言って大井は北上に抱きつき頬ずりを始めた。

 

「んおおおおお大井っちー、やーめーてーよー」

「大井ちゃんて、北上ちゃんLOVEだったのね…」

 

2人のやりとりを見て、伊168は新たな事実を発見したのだった。

 

 

「襲撃された?」

「ああ。廊下で槇村と大井の3人で話してたら狙撃された」

「わお。それに気づく獠ちんもなかなかだね」

「誰がやったのかは大体予想がついてる。…もう一度ファイルを見せてくれないか?」

「ほいさ」

 

彼は鈴谷からファイルを受け取り、それをみんなに見えるよう机の上に広げた。

 

「さっき槇村には言ったが、どうやらあちらさんはイムヤを取り戻すのに躍起になっているようだな」

「ほう」

「多分撃ってきたのは同じ潜水艦のこの娘達だ。気持ちを煽りやすく、操る事も簡単なはずだしな」

 

そう言って、2人の顔写真を指差す。

そこには伊19と伊58の名前と共に、まだあどけなさが残る少女達の顔があったのだ。

 

「あちゃー。死ねばいいのに」

「そう言いなさんな。ほら、物騒なものはしまって」

 

艤装を出しつつ今にも撃ちそうな雰囲気の鈴谷を槇村が宥めた。

 

「むぅ」

「…さて、ちょっとトイレ行ってくる」

 

 

そのまま執務室を出て、廊下を1人歩く獠。彼はぴたりと立ち止まると、誰かに向かって声をかける。

 

「よう。コソコソしてないで顔を出しな。話があるんだろ?」

 

するとどうだろう。後ろの陰からピンクのショートヘアーの少女が現れた。

 

「いつから気づいていたにゃ?」

「執務室にいた時からさ。他は誤魔化せても俺の目は誤魔化せん」

「そう…」

 

獠はくるりと振り向くと、言葉を続ける。

 

「で、何の用だ?」

「忠告だにゃ。あの鎮守府には手を出さない方がいいにゃ。…命が惜しければ」

「そんな言葉、とっくに聞き飽きたね。相手が誰であろうと受けた依頼は必ず果たす。それが俺の流儀さ」

「噂通りの人間、だにゃ」

「ほう、俺の事を知ってるのか?」

「噂だけにゃ」

「なるほど?…今度は君の話を聞かせてもらおう。いったい何者だ?」

「軽巡、多摩にゃ。猫じゃないにゃ」

「そうか、多摩ね。あそこからの差し金か?」

「そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるにゃ」

「?いったい…」

 

その時、彼の後ろから声が聞こえて来る。

 

「多摩…姉さん?」

 

2人がそこに注目すると、大井が立っていたのだ。

 

「なんだって?」

「ちっ。まずいところを見られたにゃ。今日はここら辺でおさらばするにゃ」

「あっ、待って!」

 

多摩はそう言うと、大井の制止を無視して出て来た場所にまた引っ込んで行った。

獠と大井は後を追うが、既に彼女の姿はなかった。

 

「大井くんの姉ってのは…本当か?」

「はい。私たち球磨型軽巡の2番艦です」

「なるほどな。それじゃ、俺はまた執務室に戻るよ」

 

そう言って、彼は歩き出した。

 

「あっ、冴羽さん!」

「ん?」

「いえ…その…なんでもないです」

「?…そうか。またなんか用があったら声をかけてくれ」

 

折角呼び止めたものの、言いたいことが言えなかった大井は歩いていく獠をただ黙って見送ることしか出来なかったのだった。

 

 

その頃、相方の伊168が寝てしまったので何もやることがなくベッドでごろごろとしていた北上は、自分が助けられた時の出来事を思い返していた。

 

後ろから迫り来る深海棲艦たち。いきなりの事で訳もわからず必死に逃げていたが、振り向いた時に見えたのは自分に向かって直進する砲弾だった。

もちろん避けられるはずもなく、そのまま背中に直撃したのである。その後の記憶はない。

次に気がつけば、なんとあの冴羽が自分に口付けをしていたのである。そしてさらに記憶が飛び、最終的にはこのベッドに寝ていたのだった。

 

そこまで思い返し、恥ずかしさでみるみる顔が赤くなる自分がいた。

 

(んやー、いくらあたしが死にかけていたとは言え、冴羽っちに初キスあげたことになるのかなー。助けられたことも含めて何だか嬉しいような複雑なような…。でも、ちゃんとしたって訳じゃないんだよなー…。と言うことはノーカンなのかねぇ…)

 

果たして人工呼吸がキスにカウントされるのかどうか、ひたすら悩み続ける北上であった。

 

 

 

 





さて、如何でしたか?
まずは、冒頭の時点でなぜ鈴谷が獠を知っていたのか。それを紐解いてみました。
そして、イクがなぜ獠をライバル視しているのか。これを軸にこの話は進んでいきます。

北上様は甘酸っぱいなぁ。
フリーダムで表情があまり豊かではなさそうな彼女ですが、作者が思うにそれはもったいないと思います!
それが北上様の魅力でもあるのですが、感情豊かな彼女も見てみたい!そんな思いからこう言った設定にしております()

では、次回もお楽しみに!




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怪しげな3人!明るみの真実と恋の艦娘たち


こんばんわ、さんめん軍曹です!
お久しぶりの投稿となり、何ヶ月も皆様をお待たせしまって申し訳ございませんでした…
私事ではありますが、ようやく内定先の企業が決まり、だいぶ落ち着いてきたのでスランプも無くなってやっとの続話でございます。

今回は姉御と遠征筆頭の2人が出てきます。
では、お楽しみください!





 

 

 

北上が悩み続けている頃、獠も執務室のソファーで寝っ転がりながらあることを考えていた。

 

 

「獠ちーん」

「お?」

「そんなに悩んでどうしたのさ。それじゃ体がもたないよ?」

「うーむ」

 

それでもまだ何か考え続けようとする獠。そんな彼の前にコトリとティーカップが置かれた。

 

「ほれ、鈴谷特製のチャイです!コレ飲んでリラックスリラックスぅ」

「悪いな。いただくぜ」

 

そして紅茶を一口啜ると、口の中には独特の香りと味が広がった。

 

「インドの本格的なやつだな。なかなかやるじゃないか」

「へっへーん、あったり前ー!いつになっても鈴谷は褒められて伸びるタイプなんです!くまのんにゃ負けないよぅ」

「くまのん?」

「そっ。鈴谷の妹で、お嬢様なんだーっ」

「お前とは対照的だな」

「むー、なにさっ。褒めたと思ったら貶してー!」

「貶しちゃいないさ。どっちも魅力的だぞ?…特に鈴谷の場合はその胸だな」

「えっ、なっ…ヘンタイ!」

 

直後、彼の頭には鈴谷の10t級パンチが振り下ろされる。

 

「いでぇーっ!正直に言っただけだろ!」

「その一言が余計だっつーの!アンタは女をその目でしか見れないのか!」

「なにを言うか!もっこり喰わぬは男の恥だぞ!」

「なんで?!」

「本来、男ってのはそう言うもんさ。それをどう表現して行くかによって印象が変わる」

「…え?どゆこと?」

「ブラック提督がいい例さ。影でコソコソ金と女に夢中になってるから嫌われるんだ。俺は金には興味ないし、目の前のもっこり美人ちゃんには堂々とアタックをかける。そこが奴らとの違いだ」

「なんか言い負かされてる気がしないでもないけど…。って、それってもしかして鈴谷の事を美人って言ってくれてんの?獠ちんマジ見る目あるねぇ」

「ばーか。んな訳あるか。胸のことしか言ってないぞ俺は」

「…なんかひっど。鈴谷傷ついたんですけど!ふん!!」

 

えらく怒ったらしい鈴谷は、それからそっぽを向いてしまった。

 

それから数日後のことである。

 

「あれから口も聞いてもらえないが…相当怒らせちまったようだなぁ」

「獠、今回ばかりはさすがに謝らないとだな」

「わーってるよ。だが中々話しかけづらくてな…」

「なに、機会は訪れるものさ。時間が経てば寂しくなって向こうから来る」

「槇村。お前、妙に詳しいんだな」

「妹がいるからな。俺もちょっとした事でよく喧嘩したもんだ」

「あー香だっけか。なかなかお転婆な性格だもんな」

「アレでも結構乙女なところがあるんだぞ?かわいいもんさ」

「へー」

 

場所は変わり、ここは提督室。今は提督ともう1人の少女がいた。

 

「不知火です。ご指導ご鞭撻、よろしくです」

「うむ。しかしまあ、今の時期に大本営から艦娘か…」

 

提督がそう思うのも無理はない。先程の襲撃に加え、その直後に怪しさムンムンの艦娘が着任したのだから。

 

「なんでしょうか?不知火に落ち度でも?」

「いや、こっちの事だ。なんでもないよ」

「そうですか。では早速ですが、荷物を整理したいので自室へ戻らせていただきます」

 

わかった、と提督がうなづくと彼女はくるりと背を向け、そのまま出て行った。

彼女を見送り、部屋を出たのを確認した提督は、傍の受話器を取りある人物を呼び出した。

 

 

同じ頃、正門の前。

 

「…獠ちんのバカ。おっぱいなんかよりもっと鈴谷のことを見て欲しいのに…」

 

先日、獠に対してかなり激しく怒った鈴谷であるが、日が経つにつれてそれは薄まるどころか反対に後悔の念が沸いてきていたのだ。しかし、そんな事も知らず彼女の後ろでは不穏な影が2つほど動めいていた。

 

 

「なぁ摩耶。本当にやるのか?」

「当たり前だ。うちの提督が胡散臭いのは否定しねぇ。だけどな、艦娘として、上がどんなやつであれ命令には逆らえねぇんだよ」

「気がすすまねーが…まぁやるよ」

 

「あら、何をやるのかしら??」

「何って…そりゃオメー、アレだ。ここから鈴谷をかっさらって来いって命令されてんだよ」

「へぇ。面白そうだから私も混ぜてもらってもいいかしら?」

「おぉ、人数が増えりゃ心づよ…え?」

 

摩耶が振り向くと、ぐるぐる目を回して倒れている天龍と艤装の全砲門をこちらに向けている叢雲がいた。

 

「アンタ、任意同行って知ってるわよね?」

 

悪魔の笑みを浮かべる叢雲を前に摩耶は、自身の身体からみるみる血の気が失せて行くのを感じたのだった。

 

 

「で、不届き者を連れてきたと」

「ええそうよ。感謝しなさい」

 

執務室には提督と叢雲、それに鈴谷や槇村と床にふん縛られた例の2人組がいた。獠は調べ物があると言って、今は資料室にいる。

 

「鈴谷全然気づかなかったよ!おかげで助かりました!ありがとくもちん!」

「ふん。どうって事ないわ」

「さてと、そこのお二人さんには聞きたいことがある」

 

ちょうどいい頃合いを見計らった槇村が、天龍と摩耶に質問をする。

 

「なんだよ」

「そんなに肩肘張りなさんな。なにも拷問するってわけじゃあない」

 

槇村のそのセリフを聞いて2人は顔を見合わせた。

 

 

「…はい。今のところは…。はい、調査を続け…」

「なんの調査を続けるんだ?不知火ちゃん」

 

その声にドキリとした不知火。ぐるんと振り向くと、そこにはシティーハンターと呼ばれている男が立っていた。

 

「貴方に答える義務はありません」

「ほう?連れないなぁ。ここに来てから数日、コソコソと動き回ってるから怪しいと踏んでみたら、まさかこんな真似をしてたとはね」

「っ…不知火は…」

「バレないようにしているつもりでも、さっきの時点でとっくに気づかれてたぞ?それもここの提督に」

「?!」

 

予想だにしていなかった事実を突きつけられ、不知火の瞳には動揺の色が浮かんだ。

 

「おかしいと思わないか?普通なら着任するとここの人間に挨拶回りに行くもんだ。だけど不知火ちゃんはそのまますぐ自室に帰ったろ?」

「なっ、なぜそこまで…」

「伊達にシティーハンターを名乗っちゃいないさ。あの後すぐに提督から知らせが来たんだ。だからずっと君の動きを見させてもらっていた」

「なるほど、お見通しと言うわけですか。…わかりました、それでは全てをお話しさせていただきます」

 

そう言って諦めたように両手を挙げた彼女は、なぜ自分がここに来たのかを話し始めた。

 

 

「なに?うちが伊168をさらっただと?」

「おう。アタシらはアイツの言うことは信じちゃいないが、うちの鎮守府でそれを信じちまった艦娘がいるんだ」

「待て、それはこないだ狙撃してきた潜水艦たちか?」

「そう言う事さ」

 

最初は槇村の質問に対して頑なに口を閉ざしていた二人だったが、天龍の視線は槇村のベルトに挿してあったコルト・ローマンがチラリと見えてから釘付けになり、それに気づいた彼が触りたいかと尋ねたところ、アッサリと話すようになったのである。

2人の拘束を解き、天龍が初めて触る拳銃に夢中になっている間に仕方なく摩耶が話していると言った状況だ。

 

「だがしかし彼女は…」

「わかってるさ。アタシらはただこの目で本当かどうか見たかっただけだ。だけどよ、うちの司令が言うに、あの2人を止めるには鈴谷を連れて来るしかないと言い張るもんだからよ、仕方なく命令に従ってただけだ」

 

そこで摩耶は一息置く。彼女の目を見るに、どうやら嘘を言っているようには見えない。

しばし悩んでいた槇村たちだったが、ふと見るといつのまにか戻っていた天龍と共に頭を下げていた2人を見て驚いた。

 

「な、なになに?!ちょ、どーしたのさ!」

「すまねぇ鈴谷!そして他のみんな!俺らのせいで余計な手間をかけさせちまった!」

「なっ…」

「許してくれとは言わねぇ。ただ、現時刻をもってアタシらはアンタたちに寝返るぜ。必要なことは話す」

「いいのか?」

「あぁ構わねえ。よくよく考えてみりゃアイツは裏で胡散臭ェことを沢山やってるからな」

「例えば?」

「捨て艦戦法。それで居なくなった艦娘を裏取引で補充してる」

「人身売買ってわけか…」

 

提督がぼそりと呟いた、そのあまりの言葉に全員が息を飲んだ。

 

 

「それで、不知火ちゃんは大本営からその調査をしにここに来たってわけか」

「はい。大将が冴羽さんをお雇いになられたのは存じております。しかし、事実無根ではありますが、大本営にはあの鎮守府の司令からこちらの鎮守府が伊168を誘拐したとの報告も入っております」

「なるほど。その確認を名目に、ここを拠点にしようってことね」

「そうです」

 

その時、執務室からの内線が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 





いかがでしたか?
怪しげな3人組、実は彼女たちだったんです!w
それぞれのファーストコンタクトを書くにあたって、個人的に似合いそうな役割を当ててみました^_^
ちなみに大将とは現在の元帥でございます。
前話で槇村が元帥と言っていたな?
…あれは嘘だ()

次回から事態は急展開する予定です。
では、またお会いしましょう!!




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ついに現れた!全ての黒幕と始まりの一歩




ご無沙汰しております、さんめん軍曹です。
新卒で入社し、早くも社会に揉まれてます。
そんな中、少し時間ができたので久々に執筆をさせていただきました。
ご愛読してくださっている皆様、初見の皆様も、長らくお待たせ致しました。

それでは本編どうぞ!!





 

 

 

 

 

「なるほど、そういうことだったのか」

「ああ、不知火ちゃんも協力してくれるそうだ」

「不知火は自分の役目を果たすだけです」

 

執務室では、提督から呼び出された獠たちを含め7人で話のすり合わせをしていた。

 

「クールだねぇ」

「まぁ、ぬいぬいはこんな子だから」

「ぬっ、ぬいっ?!」

 

その時、机上にある黒電話のベルがけたたましく鳴った。

 

「はい、こちらは横須賀鎮守府…あ?」

「なんだ、どうした?」

 

提督は黒電話本体の端にあるボタンを押した。

 

『だから、さらった艦娘たちを返してもらおうと話してるじゃないか。それとも、3人もさらっておいてタダで済むと思っとるのかね?』

「こちらはさらったと言う覚えはありませんが?何かの間違いでしょう」

『惚けるな。うちの天龍、摩耶、そしてイムヤだ』

 

電話の向こうの声は明らかにこちらを恫喝していた。提督と獠はお互いに目を合わせると、

 

「ご冗談を。伊168に関しては遭難しているところを救助した。そして残りの2人に関してはうちの鎮守府に礼を言いに来ただけですがね?感謝されど、イチャモンをつけられる筋合いは無いってもんですよ」

と言い放つ。その時天龍と摩耶は、お互いを見てこう思った。

 

(こいつが自分らの提督だったらな)

 

そんな彼女らを見た獠は、ただフッと薄笑いを浮かべる。

 

『…なんだと?貴様私が誰だと思って発言してるんだ!』

「国の為に少女の姿として蘇り、国民の為に戦う艦娘を良いように使う御山の大将でござんしょ?」

『なっ…』

「お前らは何もわかっちゃいない。寧ろ俺らは彼女達に敬意を払うべきだ。しかし椅子に踏ん反り返って金の為、己の肉欲の為にそれを蔑ろにする奴らは見てて反吐が出るね」

『貴様…俺を怒らせたな。どうなっても知らんぞ』

「おう、上等だ。階級がなんだろうがテメェらに使う敬語なんざねえよ。そうやってキャンキャン吠えてる時点で負け組だってことを理解しな。いつでも来い」

 

その後も向こうは盛大に喚いていたが、提督が「あっ手が滑っちまった」とスイッチを押したので、それも聞こえなくなった。その後、

 

「久々に腹が立った。どうだお前ら、酒でも飲まないか」

 

と言いながら提督は、机の引き出しからワイルドターキー8年を出したのだった。

 

 

翌日。

 

「なあ摩耶」

「おう、どうした天龍」

「あの電話のやりとりで思ったことがあるんだ…」

「?」

「なんで黒電話にスピーカーが付いてるんだ?」

 

摩耶は盛大にズッコケた。

 

「そこかよ!!!!違うだろ!!!!!」

「そうか?気になるだろ普通」

「気にならねえよ!!!!」

 

そんなやり取りをしている間に、2人は執務室へたどり着いた。ノックをして入ると、そこはまるで地獄だった。

 

「おえぇ…気持ち悪っ」

「飲み過ぎたな…」

「うーむ…」

「頭いったいしぃ…」

「…」

 

あの後執務室では飲み会があったのだが、不知火は仕事があるからと退散し、天龍達もそれに続いたのでその後5人がどうなったか知りもしなかった。

 

「うっげマジかよ…酒くせえ…」

「あれ?人数増えてないか」

 

よく見るとそこには、昨日までいなかった艦娘が焼酎の一升瓶を抱いて寝ていたのだ。

 

 

しばらくして、2人が獠たちを起こした後、見知らぬ艦娘がいたので聞いて見ることにした。

 

「えっ、えーっと…商船改装空母、隼鷹でーっす…ひゃっはぁー…」

「…昨日までうちにいなかった…よな?」

「そうね…アタシも何が何だか…」

「あー、提督達、記憶飛ばしたパターンね…」

「どういうこった?」

「まず資源を確認してみな」

 

PCを立ち上げ資源の残高を照会して見ると、昨日までの数値より若干減っていた。

 

「へ?」

「減ってるだろ?要はあんたらが酔った勢いであたしを建造したんだよ」

「oh…」

「建造されたはいいものの、ドックから出てきた瞬間酒を飲まされたのさ。まっ、あたしゃ酒には目がないからねぇ。面白い歓迎のされ方だったよ」

 

そう言ってからからと笑う彼女を見て、ホッと胸をなで下ろす一同。

しかしその刹那、血相を変えた大淀が駆け込んできた。

 

「提督!緊急事態です!!」

 

先ほどのゆるい空気は何処へやら、その場にいる全員の目つきが一気に変わる。

 

「何事だ?」

「鎮守府の周りを憲兵隊が囲んでいます!」

「とうとう本性を現したか、敵さん」

「このままでは敵の手に落ちてしまいます!」

「そうはさせるか。考えがある」

 

そう言って提督は、黒電話のダイヤルを回した。すると、壁にある本棚が開いたのだ。

 

「なんと古典的な…」

 

獠がそう言って全員が歩き出した時、天龍がある事を呟いた。

 

「黒電話ってすげぇ」

 

 

 

一方、外では艦娘誘拐の容疑がかけられている提督へ聴取する為、大勢の憲兵が取り囲んでいた。

その中の1人は裏の塀付近を見回っていたが、彼はある疑問を抱いていた。

それは何か。伊168ならまだしも、艦娘の中でも我が強く力量もかなりあるとされる天龍、摩耶の2人が果たしてそう簡単に誘拐されるだろうか。もしかしたら何か裏があるのかもしれない。

そう考えていた故、背後の壁から轟音を立ててハンヴィーが飛び出してきても、ただ見つめることしかできなかったのだ。

 

「簡単だったな」

「あぁ、だが流石は憲兵と言ったところか。もう追ってきてる」

「モタモタしている暇はない。一刻も早くあいつのところへ向かう」

 

槇村と提督の会話を聞いて艦娘達が振り返れば、憲兵達が乗ってるであろうトヨタ・センチュリーが数台追ってきていた。

 

 

「冴羽っちはなんで行かなかったのさ」

「定員オーバーらしいぜ?獠ちゃんハブられちゃった…」

「って言うけど冴羽さん、ホントは動けないあたし達を置いてけないだけなんじゃないの〜?」

 

今の状況を北上達に知らせ、彼女らを守る為に残った獠。本当は内緒にするつもりだったので、伊168にからかわれた彼はギクリとした。

 

「い、いやー憲兵の中にもっこり美人ちゃんがいるかもしれないからなーあはははは」

「冴羽っちは照れ屋だねぇ」

「…ばか、それじゃ格好がつかないじゃないか」

 

状況を読まず軽快な会話をする彼等だが、ただ1人、神妙な顔をしている艦娘がいた。

 

「…どしたの大井っち」

「いえ…なんでもありません…」

「…」

 

北上に呼びかけられても俯いている大井を、ただ心配そうに見つめている獠。だが次の瞬間、銃を持った憲兵達が病室に押し入ってきた。

 

「動くな!両手を後ろに上げて膝をつけ」

「あらぁん?もう来ちゃったの憲兵すぁん」

 

急にオネエになった獠の言葉を聞いた一同は、そのおぞましさに寒さを覚えた。そして大井は憲兵達の背後、足元に目を逸らしたが、その先には緑色のバケツが置いてあった。

 

(あれは…)

 

彼等が気づいた様子はない。それもそうだ、ドアの脇に隠れるようにソレが置いてあるのだから。その物体に気づかなかった憲兵達は、その後重大なミスを招くことになる。

男どもは獠の拳銃を取り上げ艦娘に艤装がないことを確認すると、全員を立たせた。

 

「連れて行け」

 

そして歩き出した大井の真横にバケツが来た時、彼女はわざと転んだのだ。

 

「きゃあっ!」

「何をしている!早く立って歩け!」

 

そして体勢を立て直すフリをしておもむろにバケツを掴むと、

 

「お願い!入ってて!」

 

と叫びながら北上に向けて投げた。飛んで来たソレを避けようと北上は咄嗟に伏せたが、中にある液体が彼女を濡らしてしまう。そのまま勢いよく飛んだバケツは、北上の後ろで銃を突きつけていた1人に当たった。気絶したのか、その場にどうと倒れこむ憲兵。

 

「おい!大丈夫か!」

「貴様ァ!」

 

大井に銃を向けるが、なぜか彼女は勝ち誇った顔をしていた。そして引き金を引こうとして、銃に違和感を感じた兵士は、あまりの変わりように驚愕した。

 

「なっ…曲がってる?!」

「必殺。酸素魚雷ぱーんち」

 

刹那、その場にいた敵全員が派手に殴り飛ばされていた。

 

「んーやっぱこんなもんかー」

「おまっ…なんで?!」

「高速修復剤よ。傷ついた艦娘を一瞬のうちに治す効果があるの」

「偶然にもあそこに置いてあるのを見つけたので、一か八かの勝負に出てみました。賭けは私の勝ちよ」

「さーて、形勢逆転したし、ギッタギタにやっちゃいましょーかね」

 

そう言って先陣を切る北上。艦娘は強いと、改めて思い知る獠であった。

 

 

 

 

 

 

 

 







いかがでしたか?
時間が作れる限り続編は書き続けますので、どうか皆様の温かい支援をお願い致します。

感想、待っております!




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奪還せよ!助け合いの勇者たち【前編】



おはこんばんにちは、さんめん軍曹です!

普段はどうってことないのですが、今日の天気は頭痛がしますね。
梅雨明けしたはずではありませんでしたっけ?()
というか梅雨ってどこ行った?ってなったはずじゃ…

と言うわけで本編を早速!どぉーぞ!!





 

 

東京、新宿のとある場所。

一見、倉庫のように見えるが、これでも立派な住居である。住居ということは当然人が住んでいるわけだ。その住人は日頃の筋トレに励んでいたが、突如異変を察知するとテーブルの上に置いてあったS&W M29に手を伸ばした。

そして複数のセンチュリーに追われたハンヴィーが、ドリフトをしながらこちらへ向かってくる様子を伺う。

 

「ん?あの車は…」

 

どうやら彼には、見覚えのある車だったようだ。

 

 

 

場所は変わり、ここは横須賀鎮守府。

倉庫へ行き伊168にもバケツを使うと、獠はある疑問を明石に投げかけた。

 

「明石ちゃん」

「どうしましたか冴羽さん」

「あの高速修復剤、艦娘の傷を一瞬で治すんだよな?あんなに大量にあるのに、なぜ今まで使わなかったんだ?」

「それあたしも思ったわー。なんでなのさ?」

 

疑問符だらけの北上たちに、明石はこほんと咳払いをするとこう答えた。

 

「提督は私達を自分の娘のように扱ってくれてます。そんな私達は戦場に出るので、いつ瀕死の傷を負うかもわかりません。なので、そんな時にすぐ使えるようにと普段の使用はなるべく控えてるんですよ」

「なるほどな」

「吹雪ちゃんなんか自分から率先して最前線に出るもんですから、よく傷だらけになって帰ってきます」

「吹雪ちゃん…?ここにはいないようだけど」

「ええ。今は遠征に出ているので、しばらくは帰ってきませんね」

「ふうん」

 

彼等がそんな話をしている時、外から人の気配がした。

 

『残りはここだけか』

『その通りです』

『よし、さっさとネズミを見つけるぞ!』

 

「まずい、隠れろ!」

 

獠たち5人が物陰に隠れた瞬間、ドアが勢いよく開かれた。

ドカドカと入ってきた憲兵らは、そこらにあるものを片っ端から荒らしていく。

 

「見つかるのも時間の問題ですね…」

 

大井がそう呟いた途端、憲兵の1人に聞かれてしまった。

 

「誰だ!」

 

こちらへ近づいてくる足音。全員がもうダメだと思った時だ。伊168がスッと立ち上がった。

 

「なっ…」

「私よ。伊168よ!」

 

彼女は覚悟を決めていた。これ以上ここの人たちに迷惑はかけられないと。

 

「本当に伊168か。他の人間はどうした!」

「他の人は逃げていったわ。これ以上私に関わるのはごめんだと言ってね」

「そうか。なら付いてきてもらおうか」

 

連行されていく彼女を見ながら、獠たちは見ているだけで何もできない自分達を呪った。

やがて人の気配がなくなり、彼等は立ち上がる。そして怒りの形相をたたえた獠は、側にある箱に拳を叩きつけた。

 

「…くそッ!!俺は何もできなかったのか!!シティーハンターが聞いて呆れるぜ!!」

「落ち着きなよ冴羽っち。イムっちはあたし達の為を思って動いてくれたんだからさ。それを無下にはできないよ」

「その通りです冴羽さん。それにまだ、方法はないわけではありません」

「大井ちゃん?それってどういう…」

「ちゃん付けしないでください。1つだけ突破口があります」

 

そして彼女はあらぬ方向へ向くと、

 

「多摩姉さん、いるんでしょ?私達の前に姿を見せて!」

 

と叫んだ。すると何処からか、

 

「さすが我が妹にゃ。こっそり見ていたつもりが、多摩もまだまだ修行が足りないにゃ」

 

と聞こえ、天井からあの少女が降りてきた。

 

「見られてるとは思ったが…まさか君だったとは」

「多摩姉さん、貴女は私達の敵ですか?味方ですか?」

「どっちなのさ多摩姉」

 

2人の妹にじっと見つめられ、多摩と呼ばれた少女は観念したのか静かに答えた。

 

「…多摩はいつでも球磨型姉妹の味方にゃ。可愛い妹たちを敵に回すくらいなら、沈んだほうがマシにゃ」

 

 

 

 

同時刻。

 

「追ってきたのはこれだけか」

「ああ」

 

今、大淀達の目の前には爆発したであろうセンチュリーの残骸と周りに散らばる憲兵の遺体が広がっていた。

 

「す、すげぇ…」

「追ってきた敵を一瞬のうちに…いったい彼は何者なんでしょうか…?」

 

そういって視線を向けると、そこには提督と話す1人の屈強な男がいた。

 

「提督になったと聞いていたが、俺に何の用だ」

「海坊主、お前の力を借りたい。今、俺の鎮守府の娘たちが危険なんだ」

「フン。そんなもの、自分でなんとかしたらどうだ」

「出来るもんならとっくにやってる。俺どころか、冴羽の力を持ってしてもキツいんだ。この通りだ、頼む!」

 

そう言いながら提督はさっと帽子を取ると、海坊主と呼ばれた男に向かって頭を下げた。

 

「なにっ?!」

「提督ともあろう奴が…頭を下げただと…」

 

天龍や摩耶を始め驚く艦娘たち。そんな彼女らを尻目に海坊主はニヤリと笑い、

 

「だとよ提督さん。1番偉い人間がこの俺に向かって頭を下げるとは、情けねぇもんだ」

「…」

「へっ。冴羽の野郎に頼むくらいなら、最初からこの海坊主様に声をかけるべきだったな」

「…!」

「じゃ、じゃあ…」

「引き受けて頂けるのですね」

「最近依頼がなくてな。腕がナマッていたところだ。それに、あんな奴に負けちゃいられねえ」

「サンキューな!海坊主の旦那ぁ!!」

 

摩耶はそう言いながら海坊主へ飛びつく。

偶然当たった彼女のその豊満な胸に対して耐えられなかったのか、海坊主はまるでゆでダコのように真っ赤になってしまった。

 

 

 

 

「戦艦を建造?」

「そうにゃ。少なくともあの鎮守府には戦艦はいないにゃ」

「どうしてだ?たくさんいてもおかしくはないはずだが…」

「反乱を起こされると困るかららしいにゃ。全く、呆れた奴にゃ」

 

まだ他にも敵がいる可能性があるとして、倉庫で話し合いを続けていた一同。戦力確保の為、多摩から戦艦の建造を提案された。

 

「希望する艦種と人数は?」

「もちろん戦艦レシピ。ただ、誰が来るかは出たとこ勝負にゃ。1人だけでも心強いけど、できれば4人は欲しいにゃ」

「OK。早速取り掛かろう。作戦を話すぞ…」

 

 

「なあ、そろそろ飯にしないか?」

「そうだなぁ。朝からなんも食ってないから腹が減った」

 

周囲の見張りをしていた2人組。彼等は仲がいいのか、本当であれば2人とも食堂で朝食を取ろうとしていた。しかし非常招集がかけられてしまったので、空腹のままの出動となってしまったのだ。

片方が背嚢から包みを取り出し開くと、そこにはサンドイッチが数切れ綺麗に入っていた。

そして一切れ取ろうとした時、すぐそばで砲撃音が響く。

 

「なっなんだ?!」

「くそう、これじゃ飯にもありつけねえ!」

「必要ないなら俺が食おうか?」

「おお、そりゃありがたい!せっかくの食べ物を無駄にせず…え?」

 

彼等が振り向くと、そこにはサンドイッチを頬張っている手配中の男がいた。

 

「はろろーん♪とおってもデリッシュ♡」

 

というや否や、物凄い速度で後ろへダッシュした。

 

「待てー!昼飯泥棒!!」

 

 

「大井っちー」

「どうしました北上さん?」

「さっき気になったんだけどさー」

 

北上は飛んで来る銃弾を避けつつ果敢に戦いながらも、背中を預けていた大井に質問を投げかける。

 

「冴羽っちと顔合わせるの、気まずい?」

「!」

 

図星を突かれて驚いた大井の髪に、飛んで来た弾丸がかすめた。

ーーやっぱり北上さんには敵わないわね。

 

「ハッキリ言えばそうなります。冴羽さんが特に気にしていないのはわかるんですけど…」

「どーして謝らないのさ?」

「私って人に頭を下げるのがどうしても苦手で…いつもずるずる引きずっちゃうんです」

「素直になれない大井っちも可愛いよ」

「んなっ?!」

 

突然の言葉に呆気にとられる彼女。完全に油断していたので、羽交い締めにされてしまった。

 

「捕らえたぞ!この兵器め!」

「大井っち!」

「………」

「聞こえねえぞ!ハッキリ喋れ!」

「………な……」

「…このっ!」

 

大井を銃で殴ろうとする兵士だったが、そこが彼の命取りであった。大井は隙ありと下へすり抜け、

 

「私と、」

 

鳩尾へ肘鉄。

 

「北上さんの!」

 

アッパー。

 

「時間を!!」

 

飛んで、

 

「邪魔するなあああぁぁぁ!!!!」

 

回し蹴り。

綺麗に3コンボが決まるのを眺めていた北上は、ヒュウと口笛を吹いた。

 

「うっわー、いたそー…」

「おイタをする子はお仕置きよ」

 

そして残りの敵を探す為、2人はまた駆け出して行った。

 

一方、ここは建造ドック。

 

「ここにゃ」

 

持ち前のステルス能力を活かし、見事誰にもバレずに侵入した多摩。彼女は壁にあるパネルを弄ると、1から4の数字が出る。それぞれ空の表示を確認した多摩は全ての欄に数字を入力し、決定ボタンを押した。

 

「全て4時間…あの姉妹が来るにゃ」

 

勝った。彼女は密かに笑うと、高速建造のボタンを押そうとした。

 

「そうはさせるか」

 

その声と共に、脇の木箱に銃弾が撃ち込まれる。それは爆発を起こし、バーナーの数が残り3つに減ってしまった。

 

「おおっと動くな。手を上げてもらおう」

 

ーーしまった。油断した。

 

多摩が振り返れば、そこにはこめかみに銃を突きつけられた明石の姿が。

 

「やられたわ。ごめんね多摩ちゃん」

 

明石は悔しそうな顔をする。

 

「4時間もあれば、お前ら全員始末できる。残念だったな」

「多摩達はそう簡単にやられないにゃ」

 

そういうと彼女は左手をモニターに押し付けた。銃口がこちらに向けられるが、明石が手を噛んだので明後日の方向に向かって弾丸が飛んで行く。

 

「私だって!やる時はやります!」

 

明石はそのまま敵を一本背負いで投げ飛ばした。

 

「これでも一応、艦娘ですから」

 

 

 

「もう弾がないよ!どうしたらいいのさ!」

「万事休す…こんなに悔しいことってないわ」

「諦めるのはまだ早いぞ!」

 

弾丸が尽き、周りを敵たちに囲まれていた北上と大井。もうこれまでかという思いはシティーハンターの相棒の声によって打ち砕かれた。

 

「おう!いくぜ!抜錨だァッ!!」

 

その啖呵と共に、ハンヴィーの銃座から摩耶が飛び立つ。後ろのランドクルーザーからは天龍が飛び出した。

彼女らはあっという間に敵を掃除して行った。

 

「遅くなったな。すまない」

「大丈夫です、それよりも…」

「みんな危ないよ!伏せて!!」

 

鈴谷が叫ぶ。全員が彼女の見ている方向に注目すると、そこには銃を構えていた兵士が大勢いた。

 

「目標正面!撃てぇっ!!」

 

その声と共に目を瞑る一同。

轟音が鳴り響くが、痛覚がないので不思議に思い目を開けると、目の前にいたはずの敵が消え失せていた。

 

「…何が起きたんだ」

 

海坊主がつぶやく間に煙が晴れて行く。

本来なら敵が立っているはずの位置には、巫女のような服をまとった艦娘が3人立っていた。

 

「お待たせいたしました。私は榛名と申します。隣にいる比叡、霧島と共にあなたたちを支援します」

「ひえぇ…危機一髪でしたね。お怪我はありませんか?」

「私達は金剛型高速戦艦です。きっとあなたたちの役に立ちます」

「それは心強い。是非、お願いしたい」

 

提督と榛名はお互いに固い握手を交わすのだった。

 

 

 

 

 






やっぱり書いていると楽しいですね。
今回の主軸はいったい誰か、わかりましたか??

ご感想があればぜひお願いします!!




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奪還せよ!助け合いの勇者たち【中編】




休憩時間にお届けします、さんめん軍曹です。今研修でグループ会社に出向しているのですが、暑い中での立ち仕事は体にこたえます。
皆様もこまめに水分を取り、熱中症には十分気をつけてください。

では、本編参りましょう!





 

 

 

 

「海坊主!!なんでてめぇがここにいるんだよ!!」

「篠原に頼まれたに決まってるからだろうが!!お前のピンチを救ってやっただけありがたく思え!!!」

「冗談じゃねえ!こんな奴ら俺だけでもなんとかなったわ!!」

「聞いた話によると艦娘が1人連れてかれたそうじゃねえか!そんなんでなんとかなったと言えるのかこのウスラバカ!」

「なんだとタコ坊主!!」

 

その後鎮守府の敵を一掃し、ひと段落がついた。まだ残っている艦娘の建造が終わるまでの間に作戦会議をするということで再集合したのだが、この2人はいつの時代、どこまで行っても犬猿の仲である。

そんな2人の様子を見てオロオロと焦る艦娘もいれば、ドン引きする艦娘、面白がってヤジを飛ばす艦娘もいた。それを見かねた槇村が止めに入る。

 

「まあまあお二人さん。今は言い争ってる場合じゃあないだろう」

「だってこいつが!」

「なんだと?!」

 

そんな彼らの茶番に呆れた様子の摩耶は、側にいた提督に声をかける。

 

「なあ…あの2人っていつもああなのか?」

「ん?まあな。傭兵時代から変わらん」

「そうか…ってか、なんでアンタがそれを?」

「昔の話さ。何年か前、俺らは同じ戦場で共に戦う戦友だったのさ」

「へー。今度詳しく聞かしてくれよ」

「いずれな」

 

ここで話を終わらそうとする提督だったが、まだ何か言いたげの摩耶に訪ねてみた。

 

「どうした?まだ何か?」

「えっと…あの…その…」

 

彼女は恥ずかしいのだろうか、両手の人差し指でこちょこちょと弄っていた。

 

「なんだ?言いたい事があるならどうぞ?」

 

そして彼女は、意を決したように大声で叫んだ。

 

「頼む提督!アタシたちをアンタの艦隊に入れてくれ!」

 

彼女の声にしんと静まりかえる一同。しかし、提督は優しい目で摩耶を見ると、こう続けた。

 

「別に頼まれなくたってもう君達は俺の艦隊、いや娘同然だ。まさかとは思うが、本当に鈴谷をさらう気だったのか?」

「えっ?いや、それは…」

「多摩から聞いたんだろ?うちなら大丈夫だと。充分戦力になる君達があそこからあそこを離れれば、それだけで向こうの艦娘たちを奪還できる可能性が強まるもんな?」

「うっ…」

「お前さん、いいとこあるじゃないか」

 

そう言いながら、提督はおもむろに摩耶の頭をわしゃわしゃと撫でる。彼女は顔を真っ赤にすると、どこかへ走って行ってしまった。

 

「摩耶って言ったか?あの子」

「おう」

「素直になれないとこはうちの妹と一緒だな。…ちょっと行ってくる」

「気をつけろよ」

 

自身の妹となんとなく似ていると感じた槇村。そんな摩耶のことが心配なのか、提督に許可を求めると後を追って行く。周りが談笑を再開する中、その様子をただ1人、大井がじっと見つめていた。

 

 

 

ーーやべぇ!頭撫でられるなんて初めてだ!思わず逃げ出しちまった…

 

摩耶はふと足を止めると、先程の資材倉庫の付近まで来ていることに気がついた。辺りを見回すと、ボンベのようなものが見えるが、彼女は特に気にしなかった。

 

「うーん、褒められるのってなんだか慣れねぇなー…」

 

さっきまで提督に撫でられていた場所をさすってみる。

 

「しかし娘かぁ…案外悪くないかもな!へへへ…」

「摩耶はうちの妹にホントそっくりだな」

 

にへらと笑っていた摩耶だが、背後から声をかけられ即座に砲を向けた。その先には、よれよれのコートを着た男が1人。確かあいつは…

 

「そんな物騒な物向けないでくれ。俺は敵じゃない」

「な、なあ…」

「ん?」

「今の…見たか?」

「ああ、ガッツリと」

「〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

 

見られてしまった。しかもガッツリと!

彼女はその場で頭を抱えてうずくまる。

 

「お前さんを見ていると、まるで香だな」

「い、いいいいい今のぜぜぜ絶対言うなよ!誰にもいうなよ!」

「言わんよ」

「絶対だからな?!言ったらブッ殺すからな??!!」

「わかったって」

 

そう言いながら槇村は、摩耶の隣に座り込んだ。

 

「…そういえばさ」

「どうした?」

「アンタ、確か冴羽とかって奴の相棒だったよな?」

「うむ。それが一体?」

「いや、裏の世界?の人間にも妹っているんだなあ、ってさ」

「なんだ?おかしいのか?」

「おかしくはねえよ。アタシら艦娘だって姉妹はいる。性格も様々だしな」

「なるほど」

「ただ、自信が無いんだよ」

「ほう」

「姉妹っつっても、血の繋がりがあるのか無いのか。それに、アタシはこんな性格だからさ。周りに迷惑かけてないかなぁとかつい考えちまうんだ」

「何から何まで香だな」

「へ?」

 

きょとんとする彼女に、槇村は自分の身の上話をしてみた。

 

「嘘だろおい…」

「嘘なもんか。幸か不幸か、あいつは気づいてないが、20になったら本当のことを話してみるつもりだ」

「…それがいいと思う。アタシ、応援してるぜ」

 

そして摩耶はすくっと立ち上がると、

 

「よし決めたぞ!アタシ、もう少し自分に素直になろうと思う。それで、艦娘の名に恥じないよう努力するぜ!!」

 

と意気込んだ。

 

「頑張れ。お前さんは強い。血の繋がりは関係ないし、摩耶は摩耶なりにやってけばいいさ」

「おう!サンキューな、槇村のアニキ!」

『大変だ摩耶!すぐ戻れ!』

 

安心したのもつかの間、天龍から緊迫した様子の無線が入る。

 

 

 

「な、何だよあれは…」

 

埠頭から向こう、水平線上には黒い影がぽつぽつと見える。双眼鏡で覗いてみると、それは何と艦娘の連合艦隊だった。

 

「艦娘たちのようだが、見たところこちらの味方ってわけではなさそうだぜ」

「ああ。どうやら奴等の増援として来ているみたいだな」

『貴様らはすでに包囲されている。無駄な抵抗はよすんだ。死になくなければ、な』

 

もう一度双眼鏡で見回す。艦娘たちは扇状に等間隔で広がっており、海への逃げ道が完全に塞がれているのがわかる。真ん中で仁王立ちしているのは長い髪をサイドに纏めた、凛とした表情の艦娘だ。

 

「この分じゃ地上もダメかもねー」

「万事休す、にゃ」

 

 

 

その後、獠たちは上陸してきた艦娘たちに次々と縛られていった。次は摩耶の番になった時、彼女は急にもじもじし始めた。

 

「な、なあ、ちょっといいか」

「なんだ」

「あのよ…トイレに行きてえんだ」

「ダメだ!トイレなぞ我慢できるだろう!」

「ちっ…もう漏れそうなんだよ!」

 

と言うなり走り出す摩耶。妙高型2番艦の那智はすぐに砲を向け撃とうとしたが、思わぬ邪魔が入った。

 

「うわっ!?」

「行って摩耶さん!後は私たちが何とかするから!」

 

那智に体当たりをした大井は、2人して倒れこむと摩耶に呼びかける。

 

「…!…すまねぇ、恩にきるぜ!!」

 

憲兵達に引き剥がされ、袋叩きにあう大井を心配しながらも彼女は走り去っていく。

怒りの表情をたたえた那智は、血だらけの大井の髪を掴む。

 

「貴様…よくもやってくれたな…」

「上等よ。摩耶を逃したことをせいぜい後悔することね」

 

那智はふつふつと煮えたぎる怒りに耐えきれなくなったのか、さらにビンタを喰らわせる。

 

「大井っち!」

「大丈夫か!?」

「平気です…深海棲艦との戦いに比べればこれくらい、なんて事ないわよ」

「連れて行け!」

 

 

 

那智の指示と共に立たされ、車に乗せられる一同。艦娘達の不安げな表情をよそに、ただ1人だけの男は不敵な笑みを浮かべるのだった…

 

 

 

 







いかがでしたか?
個人的には摩耶様が可愛すぎてたまらないです(ぉぃ)
次回は後編、獠たちは一体どうなるのでしょうか?

乞うご期待です!!




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奪還せよ!助け合いの勇者たち【後編】




おはようございます、さんめん軍曹です。
今回は題名の関係で短めのテイストでお送りしますが、シリーズは続きます。

では、本編です!





 

 

とある鎮守府の一室。

ここには、先ほど捕らえられた獠達が閉じ込められていた。

 

「いやー、まいったねぇ。大井っち、怪我はだいじょぶ?」

「ええ、大丈夫です。北上さんに怪我がなくてよかった」

「へ?」

「ああ、いや…。とにかく、皆に危害が加えられなくてよかったわ」

「そう…まぁ、そうねぇ」

「でも、一体どうしたらいいんでしょう?この状況では…」

「心配ないぜ。…よっと」

「?!」

 

突然獠が喋ったのでそちらを向いてみると、そこには拘束を解いた提督、海坊主、そして彼が立っていた。

 

「えっ?!冴羽さん?!」

「こんなチャチな縛り方じゃ、俺らを捕らえることは一生できないさ」

 

そう言って、その場にいる槇村や艦娘全員の拘束を解いていく。

 

「…っさて!大どんでん返しと行きましょうかねえ」

「ねえ冴羽っち。なんか忘れてない?」

「?」

「いや、艦娘が1人足りないなーって…」

「摩耶はさっきどっかに走ってったろ?」

「いや、そうじゃなくてさ…」

「私も気になってた所です。誰かがいません…」

「言われてみればそんな気がしてきたな…」

 

 

 

所変わって執務室。

閉じ込められた獠達とは別に、天龍だけがこの場に連れてこられていた。

 

「…」

「天龍。貴様には期待していたのに、残念だな」

「ハッ。期待してただと?オレらを馬車馬のように扱い、休む暇さえ与えてくれなかったのに、期待だと?笑わせんなよ!」

 

ダンと机に手を叩きつけ、怒りを我慢しながら発言する。

 

「そうか。ならば貴様にはこの処置を下そう」

 

そう言って突き出された紙には、解体命令書と書かれていた。

 

「使えるだけ使っといて、言うことを聞かなくなった途端用済みかよ。テメェはイカれてやがる」

「好きなだけ言え。これは決定事項だ」

 

司令官が目で合図を送ると、側に控えていた憲兵が彼女を羽交い締めにした。銃を向けているものもいる。

 

「っざけんなよ…これで終わってたまるかよ…」

「艤装をつけていない艦娘などただの人間。抵抗もできまい。連れて行け」

「ハッ!」

「クソ!やめろよ!!テメェ殺してやる!!!!」

 

もうこれまでかと思った次の瞬間、激しい轟音と振動が鎮守府を襲った。

 

「な、なんだ?!」

 

刹那、閉じられたドアが蹴破られる。

否、蹴破られたように見えて、粉々に粉砕されていた。

 

「どうした!何が起こったんだ!」

「…その汚い手を離すデース。Hurry up.」

 

煙が晴れていくと同時に、1人の少女の姿が見えてくる。

 

「お前は!」

「金剛型1番艦の金剛デース。貴方達、一体何をしてるデスか?」

 

 

 

「ひえっ?!」

「随分派手ですね!」

「…摩耶のやつ、成功したんだな」

「いた!おーい!!」

 

比叡達が次々と襲う振動と轟音に驚く中、廊下の角から摩耶が顔を出した。こちらの姿を確認すると、たたたっと走ってくる。

 

「やったぜ槇村のアニキ!みんなも無事でよかった!」

「どうしたんだ、これは」

「1つだけ無傷なバーナーが落ちてたからよ、残りの1人を高速建造したんだ!」

「と言うことは…」

「金剛姉さま!」

「そう言うこと。遅くなってすまなかったな!」

「でも、いくら戦艦とは言え、これは流石に砲撃のしすぎでは…」

「あぁ、実はな…」

 

 

 

「ヒャッハー!やっとあたしの出番だねぇ!こういうド派手なの、一度やってみたかったんだぁ!!」

 

付近の海上では、戦闘機が矢継ぎ早に飛び立っている。

 

「置いてけぼりにされたから酒保に忍び込んで正解だったぜ!誰にもバレずに飲めたし、こうして美味しいとこ持ってくこともできたしな!一石二鳥ってもんよ!」

 

実は隼鷹、車の人数オーバーの関係で残留していたのだが、カーチェイスに参加できないのがよほど悔しかったのか、トイレに行くと言って酒保に忍び込んでいたのだ。

 

「ほらほら艦載機達、どんどん飛びな!この話に登場して以来酒ばっか飲んで艦娘らしいことしてねえからな!派手にやろうぜ!」

 

メタ発言も気にせずに有る限りの艦載機を飛ばし続ける隼鷹。ダメなように見えて、仕事はしっかりとするのがこの艦娘である。

 

「まるでジャンキーだな…」

 

彼女の様子を双眼鏡で観察していた槇村は、思わずそう呟いてしまった。

 

 

 

その後、囚われていた伊168を含め全員の艦娘を救出。問題の司令官は逮捕され、摩耶や天龍、伊168の説明もあってか、全員が提督の鎮守府への転任を希望したのだった。ちなみに酒保に忍び込んだ隼鷹は、罰として1週間の禁酒を命令されたのだった。

 

 

 

 







「なあ大井」
「どうしたの摩耶?」
「今回短いって作者が言ってたけど、にしても後半ハショリ過ぎじゃないか?」
「彼曰く、後半はいつもの展開だから読者の皆様の頭脳にお任せしますって」
「うわぁ…」
「やめてあげて。あそこで彼泣いてるから。今のところヒロイン扱いされてる艦娘は彼の好みだそうよ」
「マジか」
「今回出番が少なかったイクちゃんやゴーヤちゃんの見せ場は、後半で設けるそうよ」
「てことは、奪還せよの話はあくまで導入ってやつか」
「そうなるわね。だけど過去編はまだ続くから、画面の向こうの皆様は楽しんで見て行ってくださいね!」
「おう!大井と摩耶様の活躍、楽しみにしててくれよな!」


お ま け

「蒼龍ちゃんのおっぱ〜い…ムフフ」
「ひいっ?!」
「こらーーーっ!冴羽ーーっ!!!」
「げえっ!飛龍!!」
「また蒼龍に手を出して!今度こそ死ねーーーっ!!!」
「ぎゃあああああっ!!」

ヒ 行 甲 板 ! !



と言うわけで、続きは午後UPします。宜しくお願い致します。





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艦娘の純情恋心 涙と心(ハート)は嘘をつかない




どうも、お久しぶりません。さんめん軍曹です。

ちょっと早めの休み時間に入ったので、続きを投稿します(土曜出勤)
週休1日とか、体ぶっ壊しコースですね。
熱中症には(ry


本編です!!





 

 

 

「…懐かしいな。思えばアタシら艦娘と冴羽達が初めて出会った事件だもんな」

「そうだな。あの時と比べてお前は改二に成長した」

「そんな摩耶ちゃんがこうして会いに来てくれてるんだもん。アニキもきっと喜んでるわよ」

「…そうだといいな」

 

話は現在に戻る。獠や鈴谷たちから槇村が死んだ事を聞いた摩耶は、彼の墓を一目見たいと希望した。獠や香はもちろん快諾したので、こうして墓参りにやってきたのだ。

 

「…なあ冴羽、香」

「どうしたの?」

「しばらく1人にしてくれないか。槇村のアニキと話がしたい」

「…いいぜ。ゆっくりしてきな」

 

フッと笑った獠は、香を連れてその場を離れていった。

 

「…なんだよ、見ないうちにこんな石の塊になっちまって。せっかくこの摩耶様の改二姿を拝ませてやろうと思ったのによ」

「冴羽から話は聞いたんだ。なんでも、香と冴羽を守るために敵の組織に殺されたんだろ?」

 

摩耶は、暮石に刻まれた槇村の文字にそっと触れた。目からは大粒の雫が次々と溢れるが、彼女に気づいた様子はない。

 

「…っ、なんだよっ!なんでだよっ!!なんで逝っちまうんだよ!!自分の仕事は果たせたかも知んねえけど、アタシはっ!アタシらはどうなるんだよ!!」

「もっとアンタと話したかった!もっとアタシのことを知って欲しかった!」

「ただの艦としてだけじゃない。人間としての摩耶様を!もっと、色々…」

 

とめどなく溢れる涙を抑えず、膝から崩れ落ちて縋り付く。

 

「なあ、槇村のアニキ。アタシ、あれから素直になれるように努力した。その結果、改二になれたんだよ」

「だから、1つ言わせてくれ」

「アタシは、アンタの事が好きだった。惚れちまったんだ」

「特に助けられたわけでも、ずっと一緒だった訳でもない。少し話しただけで胸が熱くなったんだ」

「あの時アタシの性格を受け入れてくれたアンタがとにかく好きだった。アンタを想ってずっと戦ってきた!」

「なのにっ!なのに何でっ!!死ななくちゃいけねえんだよ!そんな事でっ…!ちっ…ちくしょうっ!!」

「ああっ…!うああああああっっ!!!」

 

なおも泣きながら摩耶は槇村の暮石をドンドンと叩く。彼女の悲痛な叫びは周りにこだましており、それは木の陰に隠れていた獠や香にもしっかりと聴こえていた。その香もまた、摩耶からの貰い泣きをしている。

 

「そうだったのか…」

「うぐっ…摩耶ちゃん…」

「あの時、俺が依頼を受けに行っていればまた、結果が違ったかも知れん…」

「え?」

「時々思うんだ。ああすれば良かった、こうすればあいつは今も生きていたんじゃないか、とな」

「でもそれは…」

「それはもう後の祭りで、ただの後悔でしかないさ。それに今はこうして槇村の代わりをしっかり勤めてるやつもいる」

「あ…」

「これからもお前は俺のパートナーだ。しっかり頼むぜ」

「…うん」

 

獠の言葉に少し照れくささを覚えた香。彼女はつい目を逸らしてしまったが、次の瞬間、衝撃的な光景を目にした。

 

「なっ、なんだ!離しやがれクソ野郎!!」

 

見るとそこには、数人の男に掴まれた摩耶の姿があった。2人はとっさに走ろうとするが、獠が香りの肩を掴んで止めた。

 

「何するのっ!摩耶ちゃんが!」

「待て香!今動けば俺らは蜂の巣になる…!」

「じゃあ、このまま黙って見てろっていうの?!」

「今はそうするしかない。残念ながら…」

「助けろ冴羽!こういう時のボディーガードだろうがっ!おい!」

 

そうしていくうちに、だんだんと摩耶の姿が遠くなっていく。

 

「やめろ!離せ!!離せよ!!!冴羽!!助けてくれよ獠!!!りょーーう!!」

 

そのうち彼女は、車に押し込められ何処かへ行ってしまった。

 

「獠!これからどうするのよ!りょっ…!」

「…」

 

長年連れ添ってきた香でも黙ってしまうほど、今の彼は怒り狂っていた。そう、あの時と同じ。伊168が連れ去られた状況を2度も作ってしまった。

こうなると流石の彼女でも獠は止められない。

 

しばらく黙った状態のまま、2人はミニクーパーへと戻る。が、しかし乗り込んだのは獠1人だけだった。

 

「香、お前は鎮守府に戻って皆に知らせてこい。俺は行く」

「…わかったわ」

 

香の返事を聞いた獠は、ギアをローに入れて発進していった。

 

「…さて、帰りはどうやって帰ろうかしらね」

 

 

 

「それは本当か?」

「うん。獠、ものすごく怒ってた」

「迂闊だったわ。私がもっと早く知らせてれば…」

 

どうにかして鎮守府に帰ってきた香。すぐに報告をしようと執務室へ直行すると、そこには提督や海坊主と共に冴子の姿があった。

 

「まさかあいつが釈放されるとはな」

「理由はわからない。だけど1つ言えることがあるとすれば、あの鎮守府と関わりの深い5人が危ないって事ね」

「摩耶、天龍、伊19、伊58、伊168か」

「そう。そして今日、摩耶さんが連れ去られた」

「となると、残りは…」

 

香がそう言いかけた時、廊下で短い叫び声が聞こえた。

すぐ全員が廊下へ飛び出すと、そこには両膝をつき、普段は両方留めてあるはずの髪が片方だけになっている伊19の姿があった。

 

「イク!大丈夫か?!」

「や、やられたの…躓いたら、髪留めがいきなり弾けて…」

「落ち着け。とりあえずお前も執務室に来い」

 

 

一同が執務室へ引き返すと、提督は一斉放送のスイッチを入れた。

 

「全艦娘に告ぐ。緊急事態が発生した。冴羽は不在なので俺が代わりに指示を出す。現時刻を持って厳戒態勢に入れ。これから呼ぶ艦娘は出撃準備が整い次第、直ぐに執務室に来るように。…以上だ」

 

やがて、執務室には準備万端の天龍以下、伊19、伊58、高雄、大井、北上、那智、隼鷹、飛鷹、蒼龍、飛龍、金剛の総勢12名で編成された連合艦隊が集まっていた。

香から事情を聞いた艦娘達はもちろん全力を尽くすと言う。

 

「…提督」

「どうした、イク」

「今回の作戦、イクに任せて欲しいのね」

「…わかった。いいだろう」

 

直ぐに作戦が練られ、出撃をした一同。

海上を航行していると、天龍がぽつりと呟いた。

 

「まさかあいつが出て来るとは…」

「私はあいつの命令を犬のように聞いていた。あいつが正しいと思っていたからだ。だが、今はそんな私ではない。過去にケリをつけようではないか」

「イク、大丈夫でちか?」

「うん。髪留めを撃たれただけだから、傷はないの」

 

しかし、どこか浮かばない表情の伊19。それもそのはず、自身に狙撃の極意を教え込んだのは、紛れもなく司令官だったからだ。

 

「過去にケリ、なのね…」

「大丈夫よイクちゃん!飛龍なんかいっつも冴羽さんに蹴りを入れてるんだから!」

「ちょっ蒼龍?!それはあいつがあんたにもっこりしてるからでしょーが!それに蹴りは蹴りでも意味が違うでしょっ!!」

 

暗い雰囲気を察してか、明るく振る舞う蒼龍。飛龍を巻き込んだその会話に、さらにギャラリーが入って来る。

 

「極め付けは後部甲板をズドンだもんねー。香っちのハンマーみたいな」

「なっ?!」

「なんだなんだぁ??もしかしてヤキモチかい??ひーちゃんってば蒼ちゃんにベッタリだもんねぇ?飛鷹ったら照れちゃうから羨ましい限りだぜっ!」

「なっ、何いってるのよ!恥ずかしいじゃない!」

「隼鷹まで!なんなのさ皆してもー!!」

 

プンスカ怒る飛龍を見て、一行は和やかな雰囲気に包まれる。だが、それも長くは続かなかった。

 

「見えてきたわ。あれじゃない?」

 

前方には半島が見えて来る。香に付けられている発信機から獠の車を逆探知、割り出したのが鎮守府からそう遠くはないこの場所だったのだ。

 

「アレが敵の根城デスか。腕が鳴るデース」

「うふふ…あの時私をタコ殴りにした報い、きちんと受けてもらわないとね…」

 

島の先に複数の建物が並んでいるが、どれも普段ある姿と様子が違っているように見える。建物のあちこちから煙が上がっているのだ。

 

「あれは…」

「どう見ても冴羽っちの仕業でしょ」

「冴羽さんって、何者なんだろう…」

「1人でここまで…もはや私達なんて要らないんじゃ…」

 

蒼龍と飛龍に関しては、獠の戦闘を直接見るのはこれが最初だ。2人がそう思う中、大井の表情は違っていた。

 

「いえ…なんだか嫌な予感がするわ。行きましょう」

 

 

 

 

「くそっ!マズった。まさかとは思ったが…」

 

車を追ってきたは良いものの、既に敵に読まれていた獠。門をくぐるなり車を蜂の巣にされ、すぐにパイソンで応戦していたが、とうとう弾薬が尽きてしまった。

敵はRPGを構え、こちらに砲撃する。ロケット弾は逸れたが、側にある柱に命中してしまった。

 

「ーーーー!しまっ…」

 

崩れ落ちて来るそれに対し、彼は成す術が無い。もはやこれまでかと思われたその時、柱が途中で止まったのである。

 

「うぐぁっ…!」

 

見ればそこには、1人で倒れた柱を抑え込む大井の姿があった。

 

「大井!」

「なんのっ…!これがっ…球磨型巡洋艦のォ!力だァっ!!!」

 

飛んで行ったそれは、見事に相手の頭上へ飛んで行き、敵兵たちを下敷きにした。

その後も片っ端から砲弾の嵐が降る。

しばらくして敵は全滅したのか、艦娘たちが顔を出した。

 

「冴羽さん!大丈夫ですか?!」

「すまない。大井くん、助かっーーー」

 

何も無い空間に響く乾いた音。

大井は獠の頬に力一杯のビンタを喰らわしていた。

 

「バッカじゃないの…」

「…」

「見損なったわ!なんで私達に相談しなかったのよ!なんで1人で行っちゃうのよ!」

「お、大井っち…」

 

大井の目からはいくつもの筋が流れる。

 

「いつもいつも私達を守ってばかり…あなたも槇村さんも!なんでよ!私達だって戦えるのよ!私達は守られるだけの存在じゃない!戦うためにこの世に生まれたの!守られてるだけじゃ意味はないのよ!」

「しかし俺は…」

「言い訳しないで!依頼がなんだって言うの!あなたは提督で、私達を守るのは邪悪な存在からでしょ!?代わりに戦えとは言われてないじゃない!」

「う…」

「それとも何?あなた1人で深海棲艦と戦うって言うの?拳銃一丁で!?笑わせないでよ!いくら裏の世界のトップでも深海棲艦には敵わない!やつらに対してのプロが私達よ!」

「…」

「私達は戦える。だからあなたと一緒に立ち向かったっていいじゃない…」

「!」

「それにあなたまで死んでしまったら、悲しむ人は大勢いるわ…香さんに北上さん。摩耶さんも…みんな、あなたの帰りを待ってる」

「…そうだよ冴羽っち…」

「私、もう自分には嘘をつきません。さあ、提督として私達艦娘に命令を下して!」

「ぐっ…だが…」

「何よ!この期に及んでまだ甘ったれるつもり?!」

「…………大井以下、連合艦隊に告ぐ」

「そうよ!それでいいの!」

 

覚悟を決めた獠。彼は艦娘達を見回し、淡々と告げた。

 

「摩耶を救出。敵に艦娘はいない。抵抗する者全てを始末しろ」

 

 

 

 

 






さて、いかがでしたか?
何を隠そう今回のヒロインは、大井と摩耶でございます。
イクかと思ったな?アレは嘘だ()
素直になりきれない2人、という事で取り上げて見ました。
彼女らの成長をとくとご覧ください。


では次回、お会いしましょう!




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摩耶よ永遠に 復讐の横須賀鎮守府【その1】



こんにちは、さんめん軍曹です。
日々、熱中症になりかけながら仕事しております。
なんだよ35度って…

さて、今回から非常に重要な局面でございます。


では、本編どうぞ!




 

 

 

 

その頃、伊19と伊58は配置につきながら、獠の言葉をしっかりと聞き取っていた。

 

「獠ちゃん、ついに言ったのね」

「そうでち。陸と海では違うけど、ゴーヤ達だってその気になればどこでも戦えるんだから」

 

背中に背負ったバッグを下ろし、チャキチャキとライフルの準備を進める。この銃を引っ張り出すのは何年振りだろうか。伊19はそんなことを考えていた。

 

「あー、イクってばまた浮かない顔してるでち」

「うん…」

「あの時を思い出すでちか?」

「正確には、それ以前のことも、なのね」

 

ハッとする伊58。

 

「…あまりいい思い出ではないでちね」

「イクはこの1発に賭けてるの。今まで手にかけた人達には償っても償えるものじゃないけど、それでも断ち切るきっかけにしたい、なのね」

 

伊58は知っていた。彼女の言葉の重みを。伊19が今までしてきた事を。そして、司令官から狙撃を教え込まれた理由を。だっていつも、その瞬間には自分が立ち会っていたのだから。

 

「…今はじっと待つのね。その時まで」

 

 

 

 

「冴羽はん!大丈夫でっか?!」

「お前は…」

「八戒組の藤原申します!この娘らから冴羽さんがピンチと聞きまして、すっ飛んできました!」

 

藤原と名乗る若頭の背後には、組長を含めた全員が整列していた。

 

「お前ら…」

「あなたに死なれてはこちらもメンツが立ちませんでな。わしも久々に現場に出れて血が騒いでおりますわ」

「おやっさん、あんた歳なんだから無理せんといて」

「じゃかあしい!恩義を晴らす為や!スピード違反信号無視黄線カットがなんぼのもんじゃい!」

「真っ先に免取ですよねそれ…てか組長の運転怖い」

「あとで冴子さんに言ってチャラにしてもらいましょ」

「動くn」

 

敵が言い終わらないうちに銃弾の雨を降らす組員達。その容赦なさすぎる攻撃は、登場時とは比べ物にならないほどの戦闘力を表していた。

 

「へっ。雑魚が」

「容赦無いわね…」

「冴羽さん、あんたに報告がある」

「どうした」

「わしらと冴子さんの調べによれば、どうやら敵さんは赤いペガサスと関係があるらしい」

「!」

 

全身が総毛立った。

ーー赤いペガサス。相棒の槇村を殺した組織。しばらく大人しくしていたと思ったら、また現れたか。しかも今度は艦娘を狙って。

 

「また現れたか。懲りない奴らだ」

「冴羽…やるのか?」

「ああ」

「赤い…ペガサス。槇村さんを殺した組織…」

「私たちも手伝いますわ」

「そうだな。この誇り高き艦娘をいいように利用してくれた罪、きちんと償ってもらおう」

 

槇村を手にかけた組織として、赤いペガサスの名は艦娘たちにも知れ渡っていた。彼女らは当然、仇を打とうと決意する。

 

「ところでな、冴羽はんと大井はんのやりとり、わてらも聞いてたで」

「あの冴羽はんに一撃とは、あんたもやるやないか」

 

途端に赤面する大井。軽快なやり取りではあるが、彼ら八戒組の眼にもしっかりと闘志が燃えていた。

 

「お遊びはここまでや。全員、武器は持っとるな?冴羽さん、わしらの任務は艦娘のお嬢ちゃんと一緒に敵をブッ殺す事でええか?」

「ああ、任せるぜ。組長さん」

「よっしゃあ!聞いたなお前ら!遠慮なく暴れまわってこいや!」

 

組長が声をかければ、全員が雄叫びを上げながらトカレフやMP40、長ドスなど各々の武器を天へ掲げた。

 

「うおおおぉぉぉぉ!!」

「っしゃあ!ヤクザの力思い知らせたる!」

「流石に気分が高揚してくるぜぃ!!」

「アホ!そら加賀さんやんけ!!!」

「ヒャッハー!!!隼ちゃん聞こえるうううう???」

 

やいのやいのと騒ぎながら、彼ら一同は散り散りになって走っていった。

 

 

 

「ギャハハハ!!!聞いたかい!?あいつらあたしの真似してるぜ!!こりゃあいいや!ひーーっひっひっ!!」

「隼鷹ったら笑いすぎよ…」

「いつもああなの?」

「ま、まあまあ飛龍」

「いやー、アイツらの陽気さにゃ敵わないねえ。なーんでこんな重い空気をブッ飛ばせるんだろうな?秘訣を教えて欲しいね」

『それはなお嬢さん!わしらがバカだから!…っとぉ甘いで!』

「うぉっ聞こえてたんかい!こうなりゃあたしも負けてらんないね!ほら勅令だよっ!!」

 

隼鷹の手がぼんやりと光る。彼女は式神を用いて艦載機を召喚しているのだ。飛鷹もそれに倣い、蒼龍・飛龍は矢を放ち艦載機を飛ばしたのだった。

 

「おや?あれは…」

 

目線の先には、緑の戦闘機に混じって、なんとC-47輸送機がフラフラと飛んでいたのだ。

 

 

 

「おい篠原!なんでよりによってこの機体なんだ!ハーキュリーズはどうした?!」

「あいにくハーキュリーズは修理中だ!陸奥が触ったらエンジンが火を吹いた!あと作者の趣味だそうだ!」

「陸奥なら仕方ねえ!!」

 

 

「へくしっ!」

「どうした?陸奥」

「また私の事をネタにされた気がしたわ…」

 

 

「旦那ァ!悠長にに構えてる時間はありやせんぜ!レッド・ランプ(降下準備)!」

「フックをかけろぉ!」

「へっ!わかってる!」

 

2人がレールにフックをかけた数秒後、機内が緑一色に染まった。

 

グリーン・ランプ(降下せよ)!ゴー、ゴー、ゴー!!」

 

掛け声とともに2人は降下口に向かって駆け出す。そしてそのまま空中へと飛び出していった。

 

「うひょおおおおおおおおお!やっぱバンジーじゃ味わえねえなこのスリル!傭兵やってた時以来だぜ!」

「るせぇ!さっさとパラシュート開きやがれ!」

「わーかっ…ぐぉああああなんてこった!」

 

海坊主のパラシュートは無事に開いたが、なんだか提督の様子がおかしい。

 

「何してる!早く開け!」

「うおおおお!開かねえええええあ!!!」

 

どんどん速度が上がっていく提督。パラシュートの代わりに海坊主との距離が開きつつある。

 

「くそおおあおおおお!先に行って待ってるぜええええぇぇぇぇ…」

 

提督の姿が次第に小さくなり、やがて建物の屋上から彼が激突したらしき煙が上がった。

 

「これが普通の人間ならとっくに死んでるぞ…」

 

 

「今、提督がダイナミックエントリーしたのね」

「は?」

「その双眼鏡は何のためについてるのね?よく見てみるの」

 

伊58は、煙が上がっている方向を双眼鏡でじっと見つめた。

 

「…ほんとでち」

 

 

「あいててて…くそ、あとでメーカーにクレーム入れてやる。ちくしょう…」

 

提督は爆薬を使わずに、数人をクッションがわりに巻き添えにして見事侵入(?)に成功した。

 

 

「悪運の男…やはり噂通りだな」

 

煙が晴れてくる。それと同時に、周りの状況もはっきりしてきた。

今ので見張りは全滅であろう。正面には敵のボスと思しき男。そして隣には…

 

「ングッ!ムウウウウウッ!!」

 

椅子に拘束され、猿轡を噛まされた重巡の姿があった。

 

 

「なにっ?!それは本当か!?」

『ゴーヤは嘘なんてつかないでち。早く行ってあげるでち』

「わかった!」

「聞いたかオメーら!一点突破だ、道を開くぞ!!」

「「「「「押忍!!!」」」」」

 

天龍の一声と共に、敵をなぎ倒して道を開く八戒組。

 

「天龍はん!後ろは任せいや!わしが長ドスで叩っ斬ったる!」

「よっしゃあ!同じ刀使いだ!派手にブッた切ろうぜっ!!!」

「冴羽さん!艦娘の嬢ちゃん!はよ行けい!ここはわしらが食い止めたる!行くんじゃ!」

 

天龍や八戒組が切り開いてくれた道を無駄にするわけにはいかない。獠たちは執務室へ走り出した。

 

「ここか!」

「どいて下さい。ここはワタシに任せるデース。…セイッ!!」

 

パンチ1発で扉を粉砕する金剛。一同は突入するが、すぐに止まってしまった。

 

「動くな!」

 

声の先には、摩耶の首元へ日本刀を突きつける司令官の姿が。

 

「てめえ…やっぱり」

「フン。部下を使えば、刑務所から出る事くらいわけはない。少しでも動けばこの娘の首は飛ぶ」

「…赤いペガサスと関係あるのは本当なの?」

「ああ。本当だとも。摩耶の愛する槇村くんをあの世へ送るよう、ガルシアへ指示したのも私だ」

 

それを聞いた摩耶の目は、憎悪に満ちて行った。

 

「それじゃあ、俺たちに近づいたのは…」

「そうさ。殺しの依頼なぞハナから嘘だ。私は君らに鎮守府を潰された時から、復讐をすることしか頭になかったのでね」

「…そうかよ。そいつは良かったな」

 

声をした方に振り向くと、いつの間にか拘束を破っている摩耶の姿があった。彼女の手首からはおびただしい量の血液が流れている。

 

「なっ…?!」

 

刹那、彼女は目に見えないほどの速さで右ストレートを喰らわす。

そしてつかつかと歩み寄り、ボロボロの手で吹っ飛んだ相手の胸ぐらを掴んだ。

 

「なあ。ケンカっつうのはよ、正面切ってタイマンで張るもんじゃねえのかよ」

「摩耶っち…」

「裏でコソコソやって、自分の手を汚さず人の大事なもん奪いやがって。情けねえと思わねえのかよ、あ?」

「…なら」

「なんだ…っ?!」

「私の手で、君を愛する者の元へ送ってやろう」

 

胸に強い衝撃が走る。そこを見れば、ナイフが深々と突き刺さっていた。

 

「がっ!……はぁっ……」

 

自分の顎と制服を真っ赤に染めながら、彼女の意識は遠のいて行く。最後に重巡摩耶が聞いたのは、誰かの叫び声と何発かの銃声だった。

 

 

 

 

 

 






いかがでしたか?
前半はコミカルですが、衝撃のラストですね。
まさかの赤いペガサス登場です。
次回、摩耶の運命はどうなってしまうのでしょうか…?
果たしてイクは過去と決別することができるのでしょうか?

では、またお会いしましょう!




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摩耶よ永遠に 復讐の横須賀鎮守府【その2】



こんばんは、さんめん軍曹です。
本日2度目の更新です。
思いついた展開を忘れないようにメモに書き溜めてたら、いつのまにか完成してしまいました…()

この話の特徴として、緊迫した雰囲気を表すためにセリフがほとんどを占めています。誰がしゃべっているかは、読者の皆様の脳内補正にお任せします←ぉぃ

では、本編どうぞ!





 

 

「!」

「摩耶ちゃんがやられたでち!」

 

「なんだって?!」

「おい野郎ども急げ!!やばいことになった!」

「狩野ォ!お前確か医療器具持ってたよな!」

「車の中っす!」

「急いで取ってこい!」

 

「摩耶、摩耶ああああああああっ!!」

「た…たかお…ねえ…」

「なんて事を…許さないんだからァっ!!」

「…Shit!」

 

「摩耶ァーーッ!!」

「摩耶ちゃん!!」

「あたし、行ってくる!」

「まって、私もいく!」

「くそっ!艦載機たち、後は頼んだぜ!!」

 

「ハハハハハ!ついにやったぞ!!摩耶、永遠に眠れ!!」

「獠!何とかしてあいつを止める方法はないのか!」

「…」

「獠!!」

 

止めのひと突きをしようと、敵司令官の腕が振りかざされる。2本目のナイフが振り下ろされようとしたその瞬間、窓ガラスに何かが貫通した。

 

「ぐわあっ?!」

 

ナイフが落ちる音。よく見ると、彼の右手は皮一枚でぶら下がっていた。

 

「!」

「やっと撃ちやがったな。あのじゃじゃ馬娘」

 

 

銃口から硝煙が上って行く。引き金を絞った指を元に戻すと、狙撃手はフゥと息をついた。

 

「命中でち」

「当たり前なのね。獠ちゃんに仕上げてもらったこの腕、外すわけがないの」

「そうでちね」

「さて、あとは…」

 

もう一度、スコープを覗き込む。その先には相変わらず、痛みに苦闘するかつての司令官がいた。

 

「…さよならなのね、私の過去」

 

肺の空気を全て抜きながら、伊19は徐々に引き金を絞って行った。

 

 

「うおおおおお!伊19うううううっ!!!」

「自分の仕込んだ狙撃手に殺される気分はどうだ?最高だろうが」

「貴様アアアァァァッ!!」

 

しかし、相手の叫びもそう長くは続かない。次々と飛び込んできた弾丸は男のアキレス腱をぶち抜いて行く。支えが無くなりひざまづく様な格好となった男に、提督と獠が最期の言葉をかけた。

 

「「終わりだ(チェック・メイト)」」

「まだ終わらんぞ!赤いペガサスはこれからも…」

 

男は言葉を続けることができなかった。なぜなら額に風穴が開けられたからである。

ドサリと倒れる音と共に、高雄が摩耶を抱えようとする。

 

「動かすな!」

「でも摩耶が!」

「今動かしたら確実に死ぬぞ!」

「冴羽さん!医療器具持ってきましたァ!」

「篠原!できるか?!」

「任せろ!俺を何だと思ってるんだ!高速修復剤は!」

「注射器一本だけです!!」

「そうか。バケツ一杯に満たない量でどこまで持つか…っ!」

「どうした?」

「クソがっ!見たところナイフが心臓の手前まで行ってやがる…」

「そんな…」

「やれるだけのことはやってみるさ…俺達の娘は死なせん!」

 

そこには、テキパキと応急処置を始める衛生兵の姿があった。

 

 

「…フーッ」

「お疲れ様でち。イク、とってもえげつなかったでち」

「…あれはあいつに殺された人たちの分、なのね。最も、イクも受けるべきかもしれないけど…」

「それを言うなら手助けしたゴーヤもでち。でも、ゴーヤたち艦娘は指令には逆らえない。だから気にしなくていいと思うよ。…それに亡くなった人達も関係者だから、よく知ってるでち」

「…ゴーヤ。ありがとう、なの。だいぶ楽になったのね」

「うん。…でも摩耶ちゃん…大丈夫かな…」

「イク達にできる事は全てやったのね。あとは、提督の腕と神様に任せるしかない、のね…」

 

そう言って、伊19はライフルを片付け始めた。

 

 

すぐ執務室へたどり着いた蒼龍たちは、血にまみれた瀕死の摩耶を見て絶句した。

 

「そんな…こんな事って…」

「嘘…」

「…2人とも、しっかり気を持ちな。あいつが帰って来るのを待たなければ、2度と会えなくなっちまうさね」

 

絶望に染まる2航戦を励ます隼鷹。だが彼女も、こればかりはわからないと思っていた。

 

「…よし、少し揺らしても問題はないな。みんな、運び出すぞ!時間がない!」

「けど、入り口まで結構あるよ…」

 

北上の言葉が終わるか終わらないかの時に、窓が激しく割れた。

何事かと全員が振り向くと、そこにはいつぞやのモンケンと一緒に藤原の姿があった。

 

「おま、これは…」

「摩耶さんがうちを解体した時に使ったもんです!これを伝ってください!」

 

提督が準備をする中、獠が摩耶を抱えてクレーンを滑り降りる。そして下にはちょうど駆けつけてきた冴子の姿があった。

 

「冴子!パトカー貸せ!」

 

摩耶を抱えた獠を見て冴子はただ事じゃないと感じたのか、

 

「いいわよ。始末書の一枚や二枚、どうって事ないわ」

 

と、すぐさま明け渡したのだった。

 

 

しばらくして、サイレンを鳴らしながら横浜横須賀道路を爆走する一台のパトカーが。

 

「摩耶…頼むから生き延びてくれ…!」

 

後部座席に乗った提督は、彼女の頭を撫でながら強く願っていた。

 

「お前が槇さんの所へ行ってしまったら…みんな悲しがる…」

「待ってろ。鎮守府はすぐそこだ!」

 

そう言いながら、パトカーは門の中へと吸い込まれていく。

 

 

「提督!冴羽さん!」

「準備はできています!早くこちらへ!」

 

やがて、扉の上には手術中のランプが点灯した。獠たちは外へ出て、今か今かと終わる時を待っていた。

 

「摩耶は助かるだろうか…」

「馬鹿!今は祈れ!俺らにはそれしか出来ん!」

 

2人が海岸で拾った缶詰の中には、近くのコンビニで買ったラッキーストライクとハイライトの吸い殻が限界以上に詰まっていた。

 

「くそっ、せっかくやめたのに…」

「俺もさ。吸う気も起きなかったが、まさかここで煙草のありがたみを感じるとは思わなかったぜ」

 

そこへ残してきた艦娘達が帰還する。

 

「提督と冴羽さん、煙草吸うんだ…」

「傭兵時代はヘビースモーカーとして有名だった2人だ。無理もない」

「そういう海っちはどうなのさ?」

「俺もその1人だ」

 

そこで彼は持っていたワイルドターキーを一息に煽る。

 

「…海っちも気になるんだねー。摩耶っちのこと」

「当たり前だ。悪党以外の死に様を見るのはもうごめんだ。これまでも、これからもな」

「ファルコン…」

 

しばらくして、獠のスマホが鳴り響く。相手は明石からだ。

 

「…結果は?」

『手術室の前でお待ちしてます。…皆さんで来てください』

 

嫌な予感しかしなかった。

 

さらに数分後、目を閉じた摩耶の周りに集まる全員の姿が、そこにあった。結果は獠の予想通りになってしまう。

 

「すみませんっ!ぜ、全力は尽くしましたがっ!!」

「摩耶さんは…なっ、亡くなってしまいましたっ!ごめんなさいごめんなさい!!!」

 

泣き崩れる明石と夕張。結果を聞いた艦娘の中には、膝をつく者や倒れる者、ショックのあまり立ったまま気絶してしまうものまでいた。

 

「高雄ちゃんしっかりして!目を覚ますのよ摩耶ちゃん!」

「お姉ちゃあん!死なないでよおっ!!」

「そんな…馬鹿なことが…」

「嘘だろ!お前が居なくなったらオレはどうすんだよっ!」

 

絶望に包まれる鎮守府。なにも悲しんでいたのは艦娘だけではない。香や冴子、美希は涙を流し、海坊主はサングラスを外す。そして獠と提督は静かに震えていた。

 

「お前を…守りきれなかった。許してくれとは言わない。安らかに眠ってくれ」

「摩耶…俺の大事な娘よ…よくやってくれた」

 

泣き声は一晩中止まることはなかった。

 

 

ーーーーん?ここはどこだ。…あー、アタシ、死んじまったのかー。みんな、悲しんでるんだろうなー。

 

ー…や…

 

ーー誰だ?アタシを呼ぶのは。

 

ー摩耶…

 

ーーっ…その声は!

 

ー久し振りだな。摩耶。

 

ーー槇村っ!!

 

夢でも見てるのだろうか。しかし、自分は死んだはず。まあ死んだのなら槇村が居てもおかしくないと、彼女は納得した。

 

ーお前さん、なんでここにいるんだ?

 

ーーアタシ、赤いペガサスの幹部に刺されて殺されちまったんだ。

 

ーいや、お前さんはまだ死んじゃいないさ。

 

ーーは?どういうことだ?

 

ーうーむ、正確には死ぬのはまだ早いってところかな。

 

ーー聴こえるか?みんなの声が。見えるか?姿が。

 

重巡摩耶は、衝撃的な光景を目にする。

海岸に放置されている吸い殻の詰まった缶詰。自分の亡骸を取り囲む艦娘達。そして、みんなにバレないように努力しているだろうが、泣いているのがバレバレな提督や八戒組を含めた男性陣。

 

ーみんな、摩耶が生きるのを望んでいる。それを裏切ったんじゃ、天下の摩耶様の名折れじゃないか?

 

ーーでも、アタシは…

 

ーお前さんの声、聞こえてたぞ。

 

ーー…マジ?

 

ー摩耶みたいな性格でも、泣くと可愛いもんだな。

 

ーーなっ?!バッ…

 

ー俺は香を育てることばかりしか考えてなかったからなぁ。少し嬉しかったかな。

 

ーー!それじゃ…

 

ー摩耶、勘違いするんじゃない。お前さんのやるべきことはまだ沢山ある。俺のことばかりを考えずに前向きになれ。

 

ーー…そうだな。アンタと話せてスッキリした。これからは心にしまう事にするよ。

 

ーそれがいい。…時間だ。それじゃまたいつか。

 

ーー待ってくれ、最後に直接言わせろ!アタシは、アンタをーーーー。

 

 

次の瞬間、眩い光が目に入る。

 

「ぐぉっ…」

 

ようやく光に慣れたその目には、見慣れた自室の天井が映っていた。

 

「アレは…夢だったのか?」

「摩耶、さん?」

 

自分を呼ぶ声。この声の持ち主は、自分とよく艦隊を組んでいた、あの幸運を呼ぶ駆逐艦のものだった。

 

「えーーっと、おはよう雪風…」

「お、おはよう、ございましゅ」

「聞きたいことがあんだけどよ…」

「」

「…あれから何日経った?」

「えっあっ…その」

「ん?」

「んっ、みっ…」

「み?」

「みっ、みみっ」

「な、なんだよ…」

「みみみみみみみみみ皆さあああああんんんん!!!!!!!」

「うおっ?!」

 

小さな駆逐艦から出たとは思えないほどの強烈な大声を発した雪風は、そのまま廊下へ飛び出していった。

 

「待てゆきっ、いでででででででで」

 

雪風を止めようとした摩耶だったが、胸に刺された傷が痛みを発してうずくまってしまった。

 

あー、こりゃ大変な事になるな…

 

耐え難い痛みに襲われながらも、高雄型重巡洋艦、3番艦の摩耶はニヤリと笑うのであった。

 

 

 

 






いかがでしたか?
衝撃の連続だったかと思います。
正直、書いてる身でありながらハラハラしてましたね…

この話は終わったような書き方をしておりますが、まだ同じ題名で続きますので、どうぞこれからもよろしくお願いします!

感想もあればどうぞよろしくお願いしますっ!




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摩耶よ永遠に 復讐の横須賀鎮守府【その3】



こんにちは、さんめん軍曹です。
今回の話は、終わりということもあり少々ボリュームが少なめでございます。
そう思いおまけを執筆していたので、時間がかかってしまいました。
が、しかし逆におまけの方が長引いてしまったので、次回の話として独立させます。
近いうち、もしかしたら本日中に更新するかもなので、どうぞお楽しみに。

では、本編どぞどぞ!






「おう、邪魔するぜ獠!」

「ん?おー摩耶か。もう良いのか?」

 

シティーハンター兼提督こと、冴羽獠は読んでいた新聞を閉じた。その一面には、

関東数箇所で廃墟爆破さる!麻薬組織の抗争か?!

と大きく載っていた。

 

「当ったり前だ!摩耶様の回復力を舐めてもらっちゃあ困るぜ!」

 

あの時、摩耶が生き返った瞬間を見た雪風はすぐにみんなに知らせた。途中で歩いてきた五月雨とぶつかって2人とも小破で入渠してしまい、獠もパニックのあまりほぼ全裸の摩耶をドックに放り込んだため、本人からの鉄拳制裁の直後に叢雲や鈴谷、北上に高雄を始めとした艦娘たちにハンマーを喰らってしまった。とにかく、それほど嬉しかったのだ。

 

「そりゃよかった。早速だけど、秘書艦を頼めるか?」

「おうよ!任せときな!」

 

しばらく書類を処理する2人。たまに彼女がちらちらと獠を見てくるので、彼はどうしたと思い切って聞いてみた。

 

「い、いや…その、な」

「ん?」

「こないだは思いっ切りブッ飛ばしてごめんな…」

「こないだ?…あー!」

「言うんじゃねえ!恥ずかしかったんだからな!」

「別にいいさ。ただ…」

「ただ?」

「摩耶ちゃんもいい武器をお持ちで…」

「そこまでよ!」

「?!」

 

窓から高雄がダイナミックエントリーをかます。彼女のヒールで一撃を喰らった獠は、そのまま派手に壁に激突した。

 

「私の可愛い妹に手は出させません!馬鹿め、といって差し上げますわ!」

「高雄姉…ちっとやり過ぎじゃ…」

「なりません!節操の無い提督にはお仕置きが必要なのよ!」

「そ、そうか…」

「それより冴羽さん?」

「な、なんでひょうか…」

 

瓦礫の中から顔を出す獠。高雄は彼の顔をじっと見据えてこう言った。

 

「あなた、本当のところは誰を想ってますの?」

 

獠の動きが止まり、コケて彼の机ごと転がる摩耶。スカートがめくれ上がる。

 

「あっ縞パン」

「ご・ま・か・す・ん・じゃ・あ・り・ま・せ・ん」

 

獠の胸ぐらを掴んで起こす高雄は、まさに鬼のようであった。

 

「節操のないあなたの事ですから想い人なんていないでしょうけど、念のため聞いておきますわ」

「んなわけねえだろ!俺にもおるわ!」

「ほう、誰でしょうね?」

 

ハッとするシティーハンター。ついムキになってしまい口を滑らせてしまったが、スイーパーたるもの恋心を抱いては裏の世界トップの名折れだ。固唾を飲んで見守る摩耶を尻目に、逃げ道を考えた。

 

「さあ、黙ってないで答えてちょうだい」

「獠…お前…」

「…あーっ!あそこに槇村のメガネが!」

 

なんとも幼稚な誤魔化し方である。しかしながら、効果はてきめんだった。

 

「そんなのないじゃな…あっ!!」

 

2人が獠のいた方向を向くが、そこには忽然と姿を消した獠と開け放たれたドアが見えたのであった。

 

 

「あっぶねー!ムキになんてなるもんじゃ…いてえっ!!」

 

前を見ずに走っていた獠は、廊下の角で何かとぶつかってしまった。

 

「いたた…ちゃんと前見て走れ馬鹿!」

 

後ろに転んでしまった香を起こした時、彼は彼女が持っていた箱に気がついた。

 

「あ?お前、それ…」

「うん。摩耶ちゃんに渡そうと思って」

「いいのか?」

「私より摩耶ちゃんが持ってた方がいいでしょ。彼女、戦うわけだし」

 

その時、噂の艦娘がひょこっと顔を出した。

 

「呼んだか?」

「あ!摩耶ちゃん。ちょうどいいとこに来てくれたわね。これあげる」

「?…おう、ありがとよ。開けてもいいか?」

 

摩耶は箱を受け取り香に尋ねると、もちろん承諾された。

 

「おい、これは…」

 

彼女の手に握られていたのは、香が槇村の形見として持っていたコルト・ローマンだった。

 

「うん。あたしのお守り。あたしは戦ったりすることなんて滅多にないから、いつもみんなの為に戦場に出てる摩耶ちゃんの方がいいかなって」

「こんなの…もらえねえぜ」

「いいのよ。その代わり、今度はちゃんと死なないって約束できる?」

「…おう、当たり前だ」

「よし、じゃあ今日はお姉さんがご馳走してあげる」

「あっ!いましたわ!」

「げっ高雄!」

 

後から追いかけて来た高雄を目にした獠は、さーっと青ざめる。

 

「獠…まさかお前、また何かしでかしたんじゃないだろうな」

「アタシにもっこりした」

 

途端に逃げ出す獠。だが、香は目にも留まらぬ速さで彼の襟首を掴んだ。

 

「お前はなぜそう節操も無くもっこりするんだ!今日という今日は懲らしめてやる!」

「待てーっ香ィ!許してちょうだい!」

「誰が許すか!こっちに来い!」

 

ずるずると引き摺られていく獠を尻目に、摩耶はぺろっと舌を出した。

 

「あぁーあ。あいつらも大変だな」

「全くね。あんな男が提督だなんて情けないわ」

「そんなこともないだろ高雄姉?」

「ん、ま、まあね…」

「それにあいつにとっての想い人は、案外近くにいるかもしれないんだぜ?」

「えっ?それってどういう…」

「さーて飯だ飯!高雄姉も間宮に付き合ってくれよ!」

「いいわね。愛宕や鳥海も呼ぼうかしら?」

「賛成だ!久々に高雄型水入らずで過ごすかっ!」

 

そして、彼女ら高雄型は未来に向かって歩き出すのだった。

 

 

 




いかがでしたか?
私自身、プレビューで読み返してみましたが、EDテーマに似合いそうなのはGet WildかSuper Girlかなと思います。
摩耶様はやっぱりかわいい。

ではでは、また次回です!


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イギリス美女はご乱心?! ティータイムはキャッツアイで




こんばんわ、さんめん軍曹です。
前回のあとがきで発表した通り、おまけの予定があまりにも長過ぎたのでこちらに分けて投稿します。

今回は金剛さんの昔話。海坊主や美樹と彼女が出会ったきっかけのお話です。一話完結なので、いつもより長めのテイストです()

では、本編どうぞ!!





 

 

 

 

「う〜、喉が渇いたデース」

 

ある夏の日、新宿の路上を歩く片言の女性がいた。

彼女の名前は金剛型高速戦艦の1番艦、金剛である。

彼女は普段、横須賀鎮守府で任務に当たっているが、今日は妹達が演習や出撃の為に唯一非番の彼女は暇を持て余していたのだ。

自分が建造された直後にすぐ戦うことになるとは思いもよらなかったが、今はだいぶ鎮守府にも馴染んできた。そこで、提督から休みと共に紅茶の即売会のイベントを紹介され、わざわざ都心へと出向いてきたのだ。

 

「確か、この辺りだったはずデスが…」

 

昼飯にどうだと提督に渡されたチラシを見ながら、キョロキョロと辺りを見回す金剛。あの時、なぜか提督はニヤけていた気がする…。

 

「あっ、アレデース!」

 

歩道に置かれた看板には、チラシと同じ喫茶キャッツアイの文字が書かれていた。

 

 

「いらっしゃいませー。カウンターへどうぞ!」

 

空腹にやつれた顔の金剛を案内したのは、泣き黒子がある美人のウェイターだった。

 

「Thanks.ダージリンのセットを1つネ」

「あら?貴女外人さんかしら?」

「そうですネー。生まれはイギリスのバロー・イン・ファーネスですが、すぐに日本に来ましタ」

「へー!本場ね!私の作る紅茶、お気に召すといいけど…」

「No,no.気にする事ないデース!」

「ありがと。少し待っててね」

 

やがて、紅茶と一緒にケーキが目の前に置かれた。

 

「私の手作りよ。貴女のような人に食べてもらいたくて」

「ほんとデスか!?嬉しいデース!」

 

そして金剛はフォークを取り、ケーキを口にしようとしたその時。

 

「いただきマー…」

「美っ樹ちゅわーーーん!!」

 

おや?聞き覚えのある声。そう思い金剛が振り返ると、いつぞやのシティーハンターの姿が見えた。

 

「あ、アナタは…!」

「ん?俺に会ったことあるのかいお嬢さん。良ければ今度夜明けのブランデーでも…」

「結構デス。それより、本当にワタシに覚えが無いデスか?」

「んー?言われてみれば…」

 

そう言って獠はまじまじと見つめる。

 

「うー…近いデース…」

「あーっ!思い出した!!篠原んとこの艦娘ちゃんか!」

「Yes,金剛デース!リョウ、やっと思い出したネー」

「篠原って、あの篠原くん?」

「?!」

 

金剛は今日1番で驚いていた。なぜなら、普通の喫茶店のウェイターが、提督の存在を知っていたからだ。

 

「なんでテートクを知ってるデスか?!」

「あら?彼から聞いてない?私も冴羽さんや篠原くんと同じ傭兵部隊にいたのよ」

「えっ?えーーーっ?!」

 

目を白黒させる金剛に対して、獠は質問を投げかけた。

 

「金剛ちゃんの持ってるそのチラシ、あいつから渡されたんじゃないの?」

 

そう言って、彼女のバッグからはみ出しているキャッツアイのチラシをちょんちょんと指差した。

 

「確かにそうですケド…」

「あいつ、ニヤけてなかった?」

「アッ…」

 

ここで全てが繋がった金剛は、妙な納得が行ったのだった。

 

「あっ、ファルコンが帰って来たわ!」

 

入り口を見ると、そこにはキャッツアイバージョンの海坊主が袋を持って立っていた。どうやら買い出しから帰って来たようだ。

 

「ん?お前は…」

「ファルコン!あの時以来ネー」

「金剛ちゃん、驚かないの?」

「?何がデスか?」

「何がって…海坊主のその格好」

 

きょとんとする金剛。彼女はもう一度海坊主を見るが、それでも驚いた様子はない。

 

「別にワタシは驚きませんヨ?ただ、ファルコンのような人がなぜここで働いてるのデスか?」

「あー、こいつらデキてるのよ」

「獠!」

「冴羽さん!」

「What?!Realy!?」

 

その後も2人の経緯を聞いた金剛は、出されたケーキを食べるのも忘れて話に華を咲かせるのだった。

 

「Oh!そんなことがあったんデスね!」

「そうよ。ファルコンたら怪我をした私を放って置けなくて、片手で抱えながらマシンガンを撃ってるのよ!」

「とっても男らしいデスネー」

「ぐ…」

「アハハハハ!!このタコ、照れやがった照れやがった!!」

 

真っ赤になる海坊主を見て獠は大爆笑するが、美樹は彼にも水を向ける。

 

「あら?冴羽さんだってカッコつけてたじゃない」

「はい?」

「そんなファルコンを見かねてか、あなたや篠原くんだって『背後は任せろ!お前は美樹ちゃんを早く安全なところへ運べ!』なーんて言ってたじゃないの」

「あれはタコ坊主より美樹ちゃんの安全が優先だったからさ!」

「ほんとにぃ?」

「こいつは蜂の巣にされたって生きてるよ」

「なんだと?!」

 

いつもの如く喧嘩を始める2人。金剛は紅茶を飲もうとするが、どうやら2人が騒がしいせいで落ち着いて飲めないようだった。

 

「ごめんね。あの2人、一度始めると引っ込みがつかなくなるのよ」

「う〜、せっかくのティータイムが〜…」

 

やがて、置いてあったメニューやテーブル、植木などを投げ始めた海坊主たち。その中の灰皿が金剛の頭にクリーンヒットしてしまった。

 

「「「あっ」」」

「アナタたち…」

 

こめかみに青筋を立て、ただならぬ殺気を纏いながら歩み寄る金剛に対し、2人は死を覚悟した。

 

「ワタシは艦娘だからこれくらいの事では怪我はしまセン。デスが、ティータイムを邪魔するようであれば、その時は…」

「「すみませんでした」」

「分かればよろしいデース。次はありませんからね?」

「「はい」」

 

やっと落ち着いてからしばらく経ち、獠は金剛に質問を投げかける。

 

「金剛ちゃんってさ」

「?」

「なぜ、ティータイムを大事にするんだい?」

「んー」

 

彼女は唇に人差し指を当て、少し考えるそぶりを見せた。そして、答えを返す。

 

「強いて言うなら、日夜働く艦娘達に休息を与えたいと思っているネ」

「ほう」

「昔のアナタ達と同じで、ワタシ達は常に死の縁に立っているネ。しかしながら、緊張をし続けていてはいずれ自分の身を滅ぼしてしまいマス。そこで、少しでも精神を休める為にワタシはティータイムを作って、空いている艦娘達を誘っているネ」

 

ちょっととぼけているように見えて、実はしっかり者なんだなと獠は思った。

 

「あとは…」

「?」

「WW2の時にワタシ達はバラバラに沈んでしまいましたが、今はこうしてまた生きて妹たちと再開したデス。なので、いつまた沈むかわからないこの時を妹の比叡たちと精一杯楽しみたいのも理由のひとつネ」

「なるほどな」

 

確かに彼女達艦娘は一度沈んだり、解体、または譲渡などそれぞれの運命を辿っている。獠達は死という概念を体験することはできないが、彼女達は知っていてそれが互いの絆を結んでいるのだろうと、獠は結論を出した。

 

「ファルコン」

「どうした」

「さっきから外が騒がしいデスが、何かあったんですカ?」

「さあな」

「あー、なんだかさっき、近くに銀行強盗が入ったらしいわ。それであんなにパトカーが走ってるのよ」

「Oh…物騒デスネー」

 

その時、扉が開かれた。

 

「獠!ここにいたのね」

「冴子!それに香まで!」

「アンタ…また依頼ほったらかして美樹さんを口説いてたのか」

「ひっ!ハンマーだけは勘弁して!」

「いいわよ。勘弁したげる」

「え」

 

いつものハンマーを勘弁するとはどういうこった?嫌な予感がするぞ…。果たして、獠の予感は見事に的中していた。

 

「よかったわ獠。これで私の依頼も受けてくれるわね」

「ま、まさか…」

「そのまさかよ。ハンマーの代わりに強盗を退治してらっしゃい。アタシはその間別の依頼をこなすわ」

 

2人の言葉を聞いて、完全にハメられたと思う獠であった。

 

 

「なんでワタシまでついて行くんデース…」

「念のためさ。海坊主は店があるからな。今悪党と渡り合えるのは金剛ちゃんしかいないってわけ」

「せっかくのティータイムが…」

 

愕然とする金剛。そうこうしているうちに、件の銀行にたどり着く。

 

「ちゃっちゃと終わらすデース。時間がないネ」

「お、おい!」

 

獠が止める間もなく、金剛はズカズカと中に入って行った。

 

「早く金を出せ!」

「じゃなきゃこいつをブッ放すぜ!!」

 

天井に向けてマカロフを撃つ強盗。周りには、人質と思われる人間が大勢いた。

 

「そこまでデース」

「なっ…ぐっはあ!!」

 

左手で1発KOを決めた金剛。彼女は、海で戦う時よりもはるかに違うオーラを出していた。

 

「誰だ!」

「アナタ達に名乗るほどの者ではありまセーン。今投降すればこれ以上は何もしないよう努力するネ」

「ひっ!」

 

艦娘が持つ一味違う殺気に対して怖気付いたのか、彼女に向けて発砲する。が、即座に艤装を展開した彼女には豆鉄砲ほどの威力もなかった。

 

「こいつ…!」

「逃げましょうアニキ!こいつ艦娘ですぜ!!」

「ぐ…仕方がねえ!ずらかるぞ!!」

 

と言うなり、裏口へ走って行った。

 

「…逃しはしないデース」

 

 

金剛が突入してしまった今、何もやることがなかった獠は外で婦警にナンパするなどして暇を潰していた。だが、その婦警の無線機ががなる。どうやら止める間もなく犯人は逃げたようだ。

彼はパイソンを抜いて構えるが、突如誰かが前に立ちはだかった。

 

「誰だ!危ないぞ!!」

「ここは私に任せるネ」

 

声の主は金剛だった。タイヤを軋ませこちらに曲がってくる車に対し、彼女は全砲門を向ける。相手はスピードを緩めない。ここで獠は全てを察した。

 

「おまっやめ」

「ワタシの貴重な休みと…午後のティータイム…2つとも邪魔したツケを払ってもらいマース!Fire!!!!」

 

派手な轟音を立てて連装砲が火を噴くと、砲弾は車に直撃。大爆発を起こしたのだった。

 

「あーあ。俺しーらないっと」

 

 

辺りはすっかり日も暮れ、22時を過ぎた辺りでようやく2人は解放された。

 

「おまー、今回はちょっとやり過ぎだったな」

「反省してマース…」

「ま、犯人達は黒焦げになっただけだし、貴重な時間を邪魔されて頭にきてたのはわかるけど、次は気をつけてな」

「ハイ…」

「おーい金剛ー」

 

声のした方向を見れば、そこには提督が立っていた。ハンヴィーで乗りつけて来たので、見張りの若い警察官が目を丸くしている。

 

「遅くなるって聞いたから迎えに来たぞー。お?」

「篠原じゃんか。久しぶりだな」

「おう。元気してるか?スイーパーになったって聞いたがよ」

「当たり前だ。今度飲みに行かねえか?」

 

提督と獠が軽く話していると、先ほどの警官が申し訳なさそうに近づいてきた。

 

「あの、失礼ですが…」

「ああ、ごめんね。乗せたらすぐどかすからさ」

「ええ、すいません。それと、あなたはもしかして横須賀鎮守府の?」

「そうだよ。これでも一応提督でさ。うちの艦娘がやらかしたんで迎えに来たんだよ」

「あー、なるほど!こないだテレビで拝見したものですから…となると、そちらの方は金剛さんで?」

「Yes!金剛デース!よろしくネ!」

 

金剛がウインクすると、照れ臭くなってしまったのか顔を赤らめて俯いてしまった。

 

「あの…」

「?」

「よかったら、サイン頂けますか?」

「えっ?別にいいデスけど、どうして?」

「テレビで金剛さんの演習を見てたら、ファンになってしまいまして…」

「Oh!それは嬉しいデース!お名前は?」

「鈴木といいます。階級は巡査です」

「OK.ちょっと待ってネ!」

 

そして彼女は、渡された警官の手帳にサラサラとサインを書いてゆく。

 

「Here you are」

「ありがとうございます!宝にします!」

 

[スズキさんへ I LOVE YOU!金剛]

と書かれた手帳を手にした警官はさも嬉しそうにしながら敬礼し、持ち場へ戻って行った。

 

「おぉ、金剛ちゃんモテモテ」

「恥ずかしいデース」

「よし、じゃあそろそろ行くぞ。またな」

 

そう言って2人はハンヴィーに乗り込み、エンジンをかける。動き出したハンヴィーから外を見ると、手をふりふりと振る獠と直立不動で敬礼をする警官の姿があった。

 

「良い人たちですネー。リョウも彼も」

「よかったな金剛」

「そうネ!あ、テートク!」

「どした?」

「ファルコンとミッキーに会いましたヨ!テートクの昔話を色々聞いたネー」

「…マジ?」

「ええ。リョウと一緒にミッキーや女兵士たちをナンパしたり、下着を盗んだり…」

「うわあああああ!!!」

 

勢い余ってハンドルを切り損ねる提督。周りからはクラクションの嵐が鳴る。

 

「頼むから誰にも言うな!特に鈴谷には!!!」

 

だが、そんな提督の願いも虚しく、のちに金剛から昔話を聞いた鈴谷はしばらく提督をイジり続けたという。

 

 

「さって、飲んで帰るか」

「そうはさせるか」

 

ギクリとする獠。

 

「ダブルブッキングしたから結果オーライだけど、依頼をほったらかしたアンタにゃたーんまりお灸を据えないとね」

「そ、そのこえは…」

 

そーっと振り向くと、そこには仁王立ちしたパートナーの姿が目に入った。慌てて逃げようとする獠。だが香の容赦ないお仕置きは、静かな夜空を震わせるには充分だった。

 

 

 

 

 

 






いかがでしたか?
金剛さんは強い(確信)
いつもシリアスばかり書いていたので、たまにはこう言ったほのぼのとしたお話を書いてみました。

それでは、またお会いしましょう!
よろしければ感想、評価お願いします!




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大規模作戦討伐編
ついに始まる!初の大規模作戦、準備は万端に!





こんにちは、さんめん軍曹です。
今回から新シリーズが始まります。名付けて、大規模作戦討伐編です。

このお話では3人の艦娘が着任します。

では、本編行きましょう!





 

 

 

 

摩耶が復帰して数日後。

昼になったので2人で食堂を訪れ、摩耶はざるそばの二枚もり、獠は特濃つけ麺とカツ丼の特盛セットをかき込んでいた。

 

「獠、お前、そんなに食って大丈夫かよ…」

「ふぁいひょうふは、ほんはいはい」

「口に物入れて喋んな!」

 

しばらくして2人は昼食を摂り終えると、提督が近づいてきた。

 

「ようお二人さん」

「おっす」

「お?どうした」

「実は今日付で艦娘が2人こちらに転属するんだが、お前らに迎えに行ってもらおうと思ってな」

「生憎だが俺のミニは蜂の巣にされて修理中だから使えんぞ。パンダも香が使ってるし」

「ああ。だろうと思ったから特別に俺の車を貸してやろう」

 

と言うと提督は、腰にぶら下げているキーホルダーからひとつの鍵を取り出した。鍵にはトヨタのロゴが入っている。

 

「ん?ハンヴィーじゃないのか?」

「車検でな。俺の自前のだ。ガレージの中にあるから大切に使ってくれよ」

「わーったよ」

 

獠は鍵を受け取ると、その足でガレージへと向かう。

 

「提督の車かぁ…気になるなぁ」

「同感だ。なんだかんだ俺も見たことないからな」

 

そんなことを話しながら、2人は目的の場所へと到着する。

 

「着いたぜ」

「お、アレじゃないか?」

 

摩耶の指す方向には、一台のセダンが鎮座していた。

 

「…ま、なんつー車だよ」

「なんだか…イモいな…」

「よりによってタクシーか…なんて趣味してんだよ…」

 

提督の愛車はなんと、主にタクシーなどに使われているトヨタ・クラウンコンフォートだった。

 

「フェンダーミラーに黒塗りか…」

「おっさんくせえ…」

 

散々バカにする2人だが、この車、驚きの機能が沢山隠れていた。まず2人が近づくと、自動的にロックが解除され、乗り込むと音声ガイダンスが始まる。

 

「「イギリスのスパイか!!」」

 

 

「遅いなー」

「まあまあ。もしかしたら渋滞かもしれないし、もう少し待ちましょ」

 

しばらくして、待ち合わせ場所である東京駅八重洲中央口で待っていた2人の艦娘のうち1人は、痺れを切らしたのかしきりに文句を言っていた。だが、銀座方面からクラクションの嵐が聞こえ始め、それは次第に近づいて来る。

 

「えっえっなんかあったのかな」

「なんだか嫌な予感が…」

 

果たして、その正体はなんとタクシープールの中を突き抜けてきた黒塗りのクラウンコンフォートだった。車寄せに入り、2人の前で急ブレーキをかけるとドアがガパッと開く。

 

「…え、これが私達の迎え?翔鶴姉ぇ」

「なんだかわからないけど、乗りましょ瑞鶴」

 

 

少し前。

高速に乗っていた獠たちの車だが、首都高横羽線に入った段階で渋滞に巻き込まれてしまった。

 

「なあ、これいつまで続くんだよ」

「事故渋滞と聞いていたが、まさかここまでとは思わなかったなあ」

「これじゃ待ち合わせ時間に間に合わないぞ。なんとかして早く行きたいな」

『了解。10秒後にオートスピードモードを展開します。シートベルトをしっかりと着用してください』

「「え」」

『10、9、8、7』

「まっ待てよなんだオートスピードモードって?!」

「わからねえだが1つだけ言えることがあるっ!!」

「なっなん」

『2、1、ゼロ』

「しっかりつかまってろおおおおおぉぉぉぉうわああああああ!!!!!!!!」

「ひえええええええええええええ!!!!!!」

 

カウントが終わると同時に、後ろからジェットエンジンの奏でる甲高い音が聞こえて来る。次の瞬間、2人は強烈なGに襲われたのだった。

 

「うわわわわわ対向車線っ!!!!」

「とっ飛んだぞいま飛んだっ!!!」

「あああああぶつかるううううう!!!」

 

2人の目の前には、事故車両と思われる横転したトラックが迫ってきている。

その時、ピピっとセンサーが反応し、天井の辺りが開いた音がした。

 

『障害物検知。目標ロックオン。…発射』

 

機械が告げる冷淡な声と共に前方のトラックに向かって二筋の煙が流れていくと、瞬く間に大爆発を起こしてしまった。

 

「なんだよミサイルって!そんなのありかよ!!」

「あの野郎!帰ったらとっちめてやる!!!」

 

さて、読者の中で首都高を走った事のあるドライバーなら、その特徴はご存知だろうか。

この高速道路は、都心のビルを縫うように敷かれており、カーブが連続するのだ。

特に銀座周辺は高低差もあり、2人は遊園地のアトラクションよろしく身体を上下左右に激しく揺さぶられていた。

 

「うっぷ気持ち悪っ!!」

「しっかりしろ摩耶!出口はすぐそこだ!!」

 

しかし、勾配を上った先には、こちらに迫り来るトラックが。

 

「うっ嘘っ!!!」

「うおおおおおおお待て待て待てぇ!!」

「「ぎゃあああああああああ!!!!!!!」」

 

 

そして現在。五航戦の2人が車に乗り込むと、助手席にはダッシュボードに突っ伏した摩耶と、ハンドルを握ったまま動かない獠が目に入ったのだった。

 

「あの、あなたが冴羽さん…でよろしいですか?」

「あ、ああ。とりあえず乗ってくれ。…あ、シートベルトはちゃんとつけてね」

「は、はい」

「なんで2人とも力尽きてるの…」

 

 

およそ30分後、一行は大黒PA付近を走行していた。

 

「この車、見かけによらないのね」

「うちの憲兵の愛車でな。まあ色々あったからこんな装備してるんだろう」

 

獠は送迎中とあってか、高速を法定速度で走っている。しかし、後ろに違和感を感じて瑞鶴が振り向くと、一台の軽自動車がべったりと張り付いていた。

 

「あれはなんなの?」

「あー、ガキが煽ってんだ。高速じゃよくあることさ。ほっとけほっとけ」

 

しばらくそのままで走行するが、後ろがふと右の車線に変えると、窓を開けて怒鳴ってきた。

 

「おせーぞ!1番左でも走っとけカス!」

「マジサイテーなんだけどー!」

「これでも喰らえバーカ!」

 

そう言い放つと、窓を開けていた翔鶴に向かって空き缶を投げてきた。勢いよく投げられたその缶は、彼女の頭に当たってしまう。

 

「ギャハハハ!ザマーミロ!!」

 

気が済んだのか、追い越し車線を走り去っていく危険運転の車。

 

「翔鶴姉ぇ!大丈夫?!」

「え、ええ。少し痛かったけど…」

「…お前ら…シートベルトはしてるな?」

「え?うん、してるけど…」

「おっ、おい、まさか…」

「絶対に外すなよ。…コンフォート」

『ご用命はなんでしょう』

「あの車の速度に合わせ、車間距離を保ちながらベッタリつけろ」

『了解』

 

徐々に速度を上げるコンフォート。あっという間に走り去ったはずの車の後ろについた。

 

「機銃はあるか?」

『機銃装備中。弾薬は装填済』

「よし、照準を展開、マニュアルモードで頼む」

 

獠の一言でフォグランプの辺りから銃身が顔を出し、フロントガラスにはライフルのスコープで使われているようなレティクルが表示される。彼はそれをタイヤに合わせると、ハンドルについているボタンを押した。

ズドンと音が鳴ると、左後部のタイヤにあたり、派手にバーストを起こす。だが、50口径弾に耐えられなかったのか、スピンしている最中に脱輪。そのまま出口の緩衝材に当たり停止した。

 

「さ、冴羽さん、流石にやり過ぎじゃ…」

「なあに、死んでやしないよ。普段なら放っておく所だが、女の子の顔を傷つける奴は許さないタチでね。大人気なかったかも知れんが少しお灸を据えてやっただけさ」

 

 

「よう、早かったな」

「あの車はなんだ!ひでえ目にあったわ!」

「そうだぞ提督!危うくそばを戻すところだったんだからな!!」

「俺は新しい車の調達を頼んだだけさ。以前殺されかけたからって明石と夕張が気合入れてカスタムしたらああなった」

 

鎮守府に帰るなり、颯爽と執務室へ怒鳴り込む2人。だが、会話の中で五航戦は妙な疑問を持つ。

 

「提督…?」

「えっ、ここの提督さんって、冴羽さんじゃないの?」

「まあまあ、色々あったんだよね。それはまた話すじゃん?」

「そう…」

 

一通り怒鳴られた提督はコホンと咳払いをすると、改まった様子で皆に話しかける。

 

「さて、今回五航戦がこっちにきたわけなんだが、近いうちに大規模作戦があるのが理由だ」

「大規模作戦?」

「一種のイベントのようなものね。ある一定の期間になると、深海棲艦の中でも姫級や鬼級と呼ばれる強い個体が姿を表すの。それを狙って、全鎮守府で討伐に出るのよ」

「そうだ。そしてそのイベントではブラック提督達も本性を表す、まさに絶好の機会というわけだ。あとはわかるな獠」

「ああ。作戦の傍ら、そいつらを退治すればいいんだろ?」

「うむ。艦娘達の中には疲労で倒れる者もいる。その調査をして欲しい」

「わかった。また不知火や多摩、冴子にでも頼むか」

「そうしてくれると助かる。あともう1人こちらに来る予定だ。彼女も多摩のアシスト役にはもってこいだから使ってやってくれ」

「オーケー。ありがたいね」

 

 

その夜。いつも通り蒼龍にちょっかいを出して飛龍と香からお仕置きを喰らい、獠は地下の懲罰房に放り込まれていた。

 

「いってー。普通ハンマーと後部甲板で顔を挟むかよ。ったく…」

「ねえ」

 

背後からいきなりの声に対して、獠はガバリと振り向く。そこには、忍者のような格好をした少女が1人、立っていた。

 

「?!お前、どこから…」

「そんなのどーだっていいじゃん。あなたがここの提督?」

「まあ、そうだが…」

「なんでこんなとこにいるの?」

「色々あってな…」

「ふうん。それよりさ」

「あん?」

「夜戦…しよ?」

 

 

獠を地下へ放り込んだあと、香は蒼龍や飛龍と話をしながら歩いていた。

 

「冴羽さんってほんっとサイテー!」

「まあまあ飛龍。あの人もふざけてるだけでしょ」

「艦娘にセクハラする事のどこがおふざけさ!ねえ香さん」

「うーん、それは否定しないけどね。でも、アイツはアイツで結構いいとこあるのよ?」

「嘘だー!」

「本当よ?大概はスケベ目的でもっこりしてるけど、わざとやってる場合もあるの」

「と言いますと?」

「沈んでる場の空気を和らげたり、緊張を解いたりするかな」

「ふーん」

「ま、あそこに入れたからって治るわけじゃあないけどね。だから蒼龍ちゃんも気をつけてね」

「えー…わかりましたよぅ」

『ぎゃああああああああ!!!!』

 

突如響き渡る叫び声。どうやら地下からのようだ。

 

「あの声は…獠!」

「あ!待って香さん!!」

 

その後、獠の叫びを聞いて駆けつけた香や提督、艦娘達は衝撃の光景を目にしたのだった。

 

「夜戦しよーよ!やーせーん!!」

「いだだだだだ!!離せ!離してくれ!獠ちゃん肩外れる!!」

「いーやーだ!夜戦してくれるまで離さないんだから!」

 

一同の視線の先には、なんと艦娘から袈裟固めを喰らう獠の姿が見えていたのだ。あまりに面白い光景だったので、北上や響が無言でスマホのカメラを連写、鈴谷や飛龍は大爆笑していた。

 

「あっはははは!!冴羽さんが一本決められてる!!ウケるわ!」

「ひぃーーーっ!獠ちんマジパないじゃん!ばくわらですわこれ!!」

「おまえら!見てないでどうにかしろぉーーっ!!」

「やせーーーーん!!!」

 

獠の叫びも虚しく、しばらくはこのままの状態が続くのだった。

 

 

 

 






いかがでしたか?
車に関しては、今自分が欲しいものと趣味とパロディが混ざっております(ぉぃ)

空母率が高めですが、まあ気にしないでください()
そして、夜戦大好きなアノ艦娘に襲われる獠。決して意味深な方ではないです、ええ。

では、次回もお楽しみに!!



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提督もびっくり!?潮の友達は深海棲艦



こんばんは、夜遅いですが皆様いかがお過ごしでしょうか?
さんめん軍曹です。

昨日、昼間に温度計を見てみたら今働いている職場が50度を振り切っていました。恐ろしいですね、異常気象()

タイトルで出オチかましてしまいましたが、潮がある深海棲艦とお友達になります。

では、本編どうぞ!!





 

 

 

 

 

 

午後の昼下がり、いつもより早めに仕事を終わらせた獠は中庭のベンチで新聞を読んでいた。記事を全て読み終わったのでうつらうつらとしていると、曙と日向が通りかかる。

 

「ざまーないわね、クソスイーパー」

「君の日頃の行いだな」

「うるせー。くああぁぁぁ…」

「まさかあの夜戦ジャンキーが来るとは。うるさくなければいいのだが…」

「お陰で獠ちゃん寝不足…キャッツアイでコーヒーでも飲んでこようかしら」

「それならクソスイーパー、ちょっといい?」

「ん?」

「潮の事なんだけど…」

 

彼女からの相談というのはかなり珍しいので獠は少し驚いてしまったが、それを承諾してキャッツアイに場所を移した。

 

「で、潮ちゃんがどうしたって?」

「うん。ここ最近はまた外に出るようになって、みんなと出撃したり遊んだりしてるわ」

「ふうん。なら問題はないんじゃないか?」

「いや、それが最近動きがおかしいのよ」

「と言うと?」

「アタシたちって、帰ったらまず入渠か間宮、それかここに来るの。でも、最初の頃はついてきてたのに最近になってから何故か理由をつけて断るの」

「ほう」

「聞いても答えてくれないし…それに」

 

曙は獠の目をじっと見つめる。

 

「何か行く場所があるみたい。いつのまにかいなくなってるし、かと思ったら少し泥だらけになって帰るの。…で、クソスイーパーにお願いがあってね」

「?」

「もうすぐ吹雪達が帰って来るんだけど、潮もいるからこっそり後をつけて欲しいの」

「うーん…俺も忙しいからな」

「誰が忙しいだって?」

 

気がつくと、背後には香が立っていた。一気に冷や汗が出る獠。

 

「いっいやこれは誤解でだな」

「いーじゃない獠。曙ちゃんからの依頼、受けたら?」

「でっでも」

「それとも、この溜まった書類をなんとかしてもらおうかしらね?」

「ひぃっ?!」

 

彼の前に置かれたのは、広辞苑が2冊は収まるくらい高さある書類の山だった。

 

「アンタが川内ちゃん相手にしてるのを見て可哀想だから早めに終わらしてやったのに、それを忙しいだ?ふざけないでとっとと行ってこい!」

 

 

「はぁ〜あ。獠ちゃんなんでいつもこんな目に…お?」

 

結局、すぐに放り出された獠は埠頭に向かって歩いていた。彼がたどり着いてまもなく、こちらへ帰還する艦隊が見えて来る。

 

「あっ!冴羽さーん!!」

「おかえり吹雪ちゃん。無事でなにより」

「えへへ。吹雪、今日も頑張っちゃいました!」

「おう。君達も疲れたろうからあとは自由にしちゃって。むっちゃんは…」

「あらあら冴羽さん。おイタはダメよ?」

「そんなこと言わないでさ。獠ちゃんの部屋で楽しいことしようよ〜」

「私は別にいいけどね。姉さんがなんて言うか」

「えっ?」

 

後ろを振り向くと、そこには拳を握りしめた長門が立っていた。

 

「冴羽殿…私の前で妹の陸奥に手を出すとは…覚悟は出来てるな?」

「ちょっまっ…ひでぶ!!!」

 

次の瞬間には、獠は長門からキツイ一発を喰らっていた。ピクピクと痙攣する彼を尻目に艦娘達は三々五々、それぞれの目的地へ向かう。

 

「冴羽殿は節操がなさ過ぎる!アレが無ければ文句は無いのに…」

「同感ね。黙ってればイケメンなんだけどなぁ」

 

陸奥が振り返るとそこに獠の姿は無かった。しかしながら、彼がいた場所にはキラリと光る物が落ちている。

 

「あら、あらあら」

 

彼女が手に取って見てみると、.357マグナム弾が6発装着されていたスピードローダーだった。その直後、痺れを切らした長門から呼ばれる。

 

「陸奥、何をしている。行くぞ!」

「はぁ〜い!待ってよ姉さん!」

 

故に戦艦陸奥は、自身の谷間に挟んだローダーのことなど忘れてしまったのである。

 

 

場所は変わり、ここは鎮守府の裏手にある崖。獠から解散の号令が出されると潮は誰にも気づかれることなく、真っ先にここにある洞窟へと向かっていた。そこには包帯だらけの寝ている艦娘と、その脇で赤い目をした幼い少女が座っていた。

 

「…こんにちは。容態はどう…ですか?」

「ウン、ダイジョウブ。今ハ落チツイテルヨ」

「伊勢さん…」

「はぁーん、なるほどな」

 

2人が声をした方に振り向く。逆光になって見えないが、入口には1人の男が壁に肘をついて立っていた。

 

「ダ、誰?!」

「冴羽さん…!」

「おおっと、危害を加えるつもりは無いよ。だからそんな飛ぶ砲なんて向けないでくれ」

「カエレ!人間ハ信用デキナイ!!」

「わかったわかった。じゃあ、こうすればいいんだろ?」

 

そう言って獠はショルダーホルスターから銃を抜くと、弾を抜いてそのまま少女の方へ滑らせた。

 

「ナ…」

「ほら、お嬢ちゃんも艤装をしまってくれ。俺は冴羽獠、ここの雇われ提督さ。お嬢ちゃんは深海棲艦なんだろう?」

「…北方棲姫、コレガ私ノ名前ナノ」

「なるほど、よろしくな」

 

言葉を切った獠は北方棲姫の頭を撫でようとするが、彼女は後ろへ後ずさる。

 

「おっと、人間は信用出来ないんだっけ。…よければなんでか話してくれないか?」

「ドウシテ?」

「俺たち人間が、君たち深海棲艦となぜ対立するのか、さ」

「言ッタ所デドウセ信ジテモラエナイ。ソレニ、大本営ニ報告スルデショ」

「おいおい。気持ちはわかるが、信じないなら最初から君を撃ってるさ」

「ジャアナゼ撃タナイノ!撃テバイイノニ!」

「名前から考えて、君は姫級だろ?俺が撃った所で勝ち目はないし、なによりその艦娘だ」

「…!」

「君なら手負いの艦娘くらい訳なく沈められるだろ?それなのに、どうして手当てなんかするのかとね」

「ソ、ソレハ…」

「な、良ければ話してくれないか?さっきも言ったけど、俺は大本営からある依頼を受けてここの提督をやってるだけさ」

「…ワカラナイ」

「?」

 

わからないとは、俺の行動だろうか?

獠はそう考えたが、北方棲姫は少し違った答えを語った。

 

「オマエノ行動モダケド、私タチガナンデ人間ドモト戦ウノカワカラナイ。生マレタ時カラオマエラ二対スル憎シミガ溢レテタノ」

「そうか」

「北方ちゃん…」

「ダケド、私ハモウ戦イタクナイ!タダ静カニ暮ラシタイダケナノニ、定期的ニ人間ドモガ攻撃シテクルカラ戦カウシカナイノ!」

 

大規模作戦か、と獠は考えた。

 

「ダケド、私タチノ中ニハ人間ドモト手ヲ組ンデル奴モイル」

「何だって?」

「人間ヲ憎ム私タチト協力シテ、悪事ヲ働イテルノ」

「そうなのか…もしかしたら俺の仕事と関係あるのかもしれん」

「仕事ッテ?」

 

ここで彼は、自分がなぜここにいるか、なんの仕事をしているかを具体的に話した。

 

「フウン。ジャアオマエハ軍人ジャナイノ」

「まあ、そんなところかな」

「…実ハ、私ノオ姉チャンガ人間タチ二騙サレテルカモ知レナイノ」

「なるほど…わかったぞ。その相手が軍人だから君は手近な鎮守府を調べる為、1人でここに来たわけか」

「ウン」

「じゃあ、なんでこの娘を?」

「バレタ時の交渉の材料トシテ。…ネエ」

「どした?」

「オマエハ、誰カラノ依頼モ受ケルノ?」

「まあな。日本の敵だろうが俺には関係ないね。助けを求める奴がいれば、手を差し伸べるだけさ」

「ジャア、私ノオ願イ、聞イテクレルノ?」

「言ってみなよ」

「…悪イ奴ラカラオ姉チャンヲ取リ返シテ!」

 

 

「きゅう」

「ボーロたん!」

「ななななななんなのよそそそそそいつはぁ!!!」

 

とりあえず、意識が戻らない伊勢を治療すると言うことで建物に戻った一行であったが、北方棲姫もついてくることに。しかし、こっそり執務室に行く前に曙達に見つかってしまった。

 

「何って…ほっぽちゃん」

(ホッポチャン…)

「ちっがあああぁぁぁう!!!!今回の大規模作戦の標的はそいつなのよ!!!」

「そうなの?」

「イヤ、初メテ知ッタ」

「作戦要綱くらい読んどけ!潮!!一番臆病なアンタがなんで平気なのよ!!!」

「え、そ、それは…」

「何よ!」

「…友達、だから?」

「えぇえ…」

 

訳がわからず、とうとう曙の頭はショートしてしまった。

 

 

 






いかがでしたか?
お友達はほっぽちゃんですね。ちなみに私はこの子と戦ったことがありません(カタカナのセリフとは戦いました)
今回七駆が出て来たってことは、まあ関係のあるお話です。
伊勢さん日向さん、活躍させたいですね。
では、次回予告をば。


潮の友達はまさかの大ボス!そんな北方棲姫が獠へ依頼して来たが、彼女は敵対する気は無いらしい。伊勢と呼ばれた艦娘は果たして無事なのだろうか!次回、大規模作戦の表と裏!ブラック提督のシナリオをぶち壊せ、また会おうぜ?




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鎮守府大パニック?!北の姫と艦娘たち



本当にご無沙汰しております。さんめん軍曹です。
前話でクラウンコンフォートを登場させた直後に本物を買ってしまったので、そちらに力を注いでいました()

本当に少しずつ進めてはいましたが、スランプ気味でイマイチ力が入らず…
そんな中、シティーハンターのファンの1人である'きらり山 優さん'に当小説のファンアート並びにご紹介いただいたご縁がありまして、無事に(?)スランプから脱する事ができました!(Twitter→ @ymzkmsr)

4年ぶりの復活、どうぞご覧ください!!




 

「冴羽!伊勢が入渠したって本当…か…」

 

勢い良くドアを開けながら日向が入ると、そこには資料で見た深海棲艦が潮の膝にちょこんと座っていた。

ーーしまった!その場が凍りつく。

 

「ひっ、日向くん!違うんだ!これはその、深いわけがっ!」

「う…う…」

「ま、待て!早まーーーー」

 

 

時を同じくして、大淀は届いた郵便物がないかを確認しに正門脇にあるポストへと向かっていた。

ちょうど執務室のあたりに差し掛かったところでふと上を見上げる。

その刹那、日向の大きな叫び声とともに執務室が吹き飛ぶのを目撃したのである。

すぐに現場へ飛び込むと、そこには艤装を展開した日向と真っ黒焦げになり床へ突っ伏した獠や間一発で爆風を逃れた七駆の姿があった。しかし漣がいない。

 

「冴羽さん大丈夫ですか?!一体何が…え」

「うう〜ん、もっこり感触…」

 

胸に違和感を感じた彼女の眼鏡にピシリとヒビが入る。

そのまま自分の提督を窓の外へ投げ飛ばした。

 

「まったく…ところで、漣ちゃんは何処へ行ったのかしら」

 

その言葉と同時に、壁にへばりついた机がメキメキと剥がれる。

そこにはめり込んだ漣の姿があった。

 

 

「お前、何やってんだ?」

「香サン…たしけて」

「そのまま埋まってろ」

 

 

「まったく、冴羽さんはもう少し提督としての自覚を持っていただきたいところだわ」

「彼はいつもああなのか?」

「まあ、美人となると見境なしですね…」

「なんという男だ…」

 

獠の変態具合に呆れていた日向だが、ふとキョロキョロと辺りを見る。

 

「?どうしたんですか日向さん」

「いや、さっき北方棲姫がここにいてだな…」

「えっ?そんな、またまたご冗談を」

「いや、確かにだな…」

「誰かと間違えてるんでしょう。私はそろそろ戻りますよ」

「うむ…」

 

日向はまだ納得が行かない様子だが、大淀は考えるのは無駄だと思い、話を全く信じずにその場を離れようとした。

直後、鎮守府のあちこちから悲鳴や叫び声、爆発音がこだまする。

 

北方棲姫が浜辺へ向かうと、そこには釣りをしている天龍と摩耶の姿が。

 

「なあ天龍」

「ん?なんだ」

「今日の海、なんだかシケてないか?」

「そうかぁ?」

 

曖昧な返事をする天龍だが、すぐ後、釣り竿に大物がかかったような引きが入った。

 

「んおおおおっ?!キタキタァ!摩耶、手伝え!」

「……」

「おい摩耶!どうした!!手伝えっていって…」

 

自分1人ではなんとかならなそうだったので摩耶にヘルプを求めるが、彼女からの返事がない。そこで天龍が振り向くとそこには…

 

「ココハ何ガ釣レルンダ?」

 

北方棲姫の姿があった。

 

「…」

「…」

「…」

 

3人は押し黙っているがそれも束の間、釣り竿に更に強い引きが入った途端、天龍は海へと引き込まれてしまった。

 

続いて喫茶キャッツアイ。

ここでは球磨型姉妹が美樹特製のスイーツに舌鼓を打っていた。

 

「ん、このパフェ美味いねえ」

「ふふっ。北上さん、口の周りにクリームがついていますよ?私が拭いてあげます」

「さんきゅう大井っち」

「全く。大井は北上を甘やかし過ぎだクマ」

「そんなこと言って、球磨姉さんだってさっきから多摩姉さんをゴロゴロしてるじゃない」

「こうすると多摩が気持ちよさそうにするからな。見てて面白いクマ」

「にゃ〜」

「多摩姉、マジで猫みたいだな」

 

球磨に顎をカリカリされて気持ち良さそうにする多摩だったが、ある物が目に入った途端にすーっと顔が青ざめていった。

 

「そんなにプルプル震えてどうしたクマ?」

 

机の下に潜り込む多摩。

北上達が不思議に思い辺りを見回してみると、そこには物欲しそうにクレープを見る北方棲姫の姿が。

 

「あ…あ…」

 

わなわなと震え出す大井。

 

「コレハナンダ?」

 

気にせず話しかける北方棲姫。

 

「う…う…」

 

青ざめながらも即座に艤装を展開する北上。そして…

 

「よ、よせ!!ここで撃つな!!!」

 

慌てて止めに入る海坊主だが一瞬遅かった。

その数秒後にはキャッツアイが派手に爆発してしまった。

 

「ファルコン…」

「なんだ、美樹」

「しばらくお店はお休みね…」

「そうだな…」

 

 

その後も北方棲姫は更衣室へ入ったり、艦娘たちが入渠しているドックへ顔を出したりと彼女はやりたい放題だった。

一方で、悲鳴の上がった場所が場所なので、とばっちりを受けた獠は修羅顔負けの表情をたたえた香から追いかけ回されていた。

 

「ドウヤラ、私ハ歓迎サレテナイヨウダナ」

 

小さなボスは運よくその場から逃げおおせたが、後ろには大勢の艦娘達が武器を手に追いかけてきていたのだった。

 

 

しばらくして。

 

「するとなんだ?北方棲姫が伊勢を手当てして、潮は北方棲姫と仲が良くて、獠は3人を連れてきたってわけなんだな?」

 

医療棟の一室。伊勢が寝ている横で、頭を抱えた様子の摩耶が状況を整理する。

彼女の胸元には、先の出来事で刺されたナイフの傷跡が残っていた。

 

「ワタシガ浜辺ニイタラ、ソノカンムスガ流レツイテタカラ、ムシスル訳ニハイカナカッタ」

「ちょっと待て、そうすると伊勢は既に傷ついてた状態だったのか?」

「ソウイウコトダ」

「ほーん。となるとこの子は深海棲艦にやられてからずっと海を漂い、ほっぽちゃんの住処に辿り着いたわけか」

「ソレガ…」

「どうした?」

 

妙に歯切れの悪い北方棲姫。

獠達が疑問に思っていると、診断書を手にした明石が入ってきた。

 

「冴羽さん。重大な報告があります」

「伊勢ちゃんの事か?」

「そうです。まず、艦娘と深海棲艦の弾薬が違うのはご存知ですよね?」

「ああ。知ってはいるが…。確か、長さの表記が違うんだっけ」

「そうです。我々艦娘はセンチメートルで長さを表していますが、彼女ら深海棲艦はインチで長さを決めています」

「それで?」

 

ここで明石が一呼吸置くと、彼女は真剣な眼差しで獠をじっと見た。

 

「彼女を調べた結果、被弾したと思われるのは14cm連装砲に使う砲弾でした」

 

それが何を意味するか。この場の全員が理解するのにそう時間はかからなかった。

 

 

「明石…。お前、何を言ってるのか分かっているのか…?」

 

摩耶はやっとの事で声を絞り出すが、対して明石は淡々と答える。

 

「もちろんです。流石の私でもこの結果には驚きざるを得ませんでした」

「つまり、伊勢さんは味方から撃たれたと、その解釈でいいんですか…?」

 

潮は恐る恐る聞いた。

 

「間違いありません。しかも後ろから、です」

 

提督の動きがピタッと止まった。

 

「艦娘が後ろから同胞を撃った、って事だな?」

「それについてはまだ確証を得ていませんが、大本営のデータベースによると最近14cm連装砲が一門、何者かに盗まれ行方不明になっているとの情報があります」

「なるほど。つまり誰かが連装砲を盗み出し、それを使って伊勢を砲撃した、ってことか」

 

提督が言い終わらないうちに、扉の方から物音が。

 

「誰だ!」

 

すかさず獠が扉を開けると、そこには日向の姿が。

彼女はしばらく獠をじっと見ると、何かに耐え切れなくなったのか外へ駆け出していった。

 





ご覧いただきありがとうございます!
今回は小さな大ボスが鎮守府を荒らしまわる話でした。
ここから、どんな物語になっていくのか、自分でも楽しみです(ぉぃ)

ちなみにPixivにも、加筆修正した物を少しずつアップしていってます。そのうち文章を統一しますが、よろしければそちらも見ていっていただけると嬉しいです!

では、次回またお会いしましょう!!

それから、TwitterとPixivではパイナップル軍曹と言うHNでやっておりますので、そちらもどうぞよろしくお願いします。


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それぞれの想い 迷える娘に救いの手を


こんばんは、さんめん軍曹です。
スランプから脱したと思いきや、そのままの勢いでスピンオフまで書いてしまいました()
なるべく本編に影響のないように進めて行く所存です…()

ではでは、本編に行きましょう!!



 

 

 

(そんな…伊勢は味方に撃たれたというのか…)

 

鎮守府の中庭の端にあるベンチで、日向は愕然としていた。

 

(しかし誰が、一体何のために…)

 

落ち着こうと何回も深呼吸をするが、うまく思考がまとまらない。

 

「くそっ!」

 

ベンチの座面に拳を打ち付ける。

こんなことしたって何の解決にもなりはしないが、ものに当たらないと自分がどうにかなってしまいそうなのだ。

 

「あれ、日向っち。こんなところにいたんだ」

 

声をかけてきたのは球磨型姉妹の三女、北上だ。

 

「冴羽っちたちが探してたよ。何があったの?」

「実は…。冴羽達が伊勢について話してたのを聞いてしまってな…。なんでも背後から撃たれたらしい。しかも味方に」

「ふうん。許せないねえ」

 

そう言うと北上は手に持っていたココア缶をカコンと開け、啜るように飲んだ。

 

「北上は何を許せないんだ?伊勢の背中を撃った味方か?」

「いんや、そのもっと後ろ。艦娘を撃つように命じた司令官と、その裏で操ってる何か」

「私には分からない…。私達艦娘は、ただ深海棲艦と戦ってるだけではないのか…!」

 

日向は膝の上に置いた拳をぎゅっと握りしめる。

 

「なぜだ…。なぜなんだ…!なぜ、私達艦娘は深海棲艦と戦うためにもう一度この世に生まれてきたと言うのに、なぜ、守るべき人間達から利用されなければならないんだ…!」

「ほい、これあげる」

 

北上は懐からもう一本ココア缶を取り出すと、日向に差し出した。

 

「私は…!」

「いいからこれ飲んで少し落ち着きなよ。あたしゃそういうどーでもいい辛気臭い話は嫌いなタチなんだ」

 

日向は差し出されたココア缶を受け取るが、しばらく沈黙が流れる。

日向はばつが悪そうに缶を手の中で転がすが、タブを開けると意を決したように一気に煽った。

 

「…日向っちは、冴羽っちの事をどう思う?」

「え?どうって…」

「まあまだここに来たばかりだから分からないか。あたしゃね、冴羽っちの事は誰よりも信頼している自信があるんだ」

「だが奴は…」

「そう。冴羽っちも人間だよ。でもね、あの人はそんじょそこらの人間とは違う」

「というと?」

「マリーから聞いてないの?冴羽っちがここに来た理由」

「それは…」

「それはあたし達艦娘を脅かす存在から守る為。何があろうと、どんな事が起きようともね」

 

缶を持った北上は、そのまま星空を見上げる。

 

「あたしもあの人に助けられたのさ。突然この世に生まれて、何にも分からないまま敵に襲われてるところをね」

 

唇を指で撫でた北上の頬は、少し赤くなってるように見える。

 

「まあ何が言いたいかって言うとさ、少なくとも冴羽っちは敵じゃない。日向っちは今色んなことがいっぺんに起きすぎて思考がまとまらないんだろうけど、彼のことは信じてあげなよ。多分今頃、いろんなツテを使って伊勢っちの事について調べ回ってると思うよ」

「だが、なぜ北方棲姫がここにいるんだ…!奴こそ…」

「そうね。確かにあいつは今回の大規模作戦の標的だよ。でも、冴羽っちがここに置いてるって言うことはそれなりの理由があるんだと思う。あたしも最初はこれでもかってくらいびびったけどさ」

 

そう言うと北上はココアを一気に飲んで立ち上がり、目の前のゴミ箱に缶を投げ入れた。

 

「あたしゃもう行くよ。大井っちが待ってるからね」

「…ありがとう北上。お陰で少し落ち着けたようだ」

「ん、いいってことよ。じゃーね」

 

そう言うと彼女は手をふりふりと振りながら建物の中へ入っていった。

 

「……とりあえず、伊勢の回復を待ってみるか」

 

そう呟いた日向もまた医療棟へ入って行く。

そして、近くの木陰には獠の姿があった。

 

 

「ん〜」

「ド、ドウシタノ…?」

 

香は獠に頼まれて北方棲姫の面倒を見ているが、彼女は先程からじっと目の前の深海棲艦を凝視している。

 

「いや、やっぱり考えらんないわ…」

「?」

「あなたみたいなちっちゃくて可愛い子が深海棲艦だなんて…」

「ナッ?!カワッ…」

 

香は、突然の言葉にドギマギする北方棲姫の手をそっと優しく持った。

 

「冷たい…。でも、あなたの心は人間と同じくらいの温かさを持ってる」

「人間ハミナ冷タインジャナイノ?私ハ姉カラソウ聞イタ」

「もちろん冷たい奴もいるわ。でもね、あたしも獠も、そしてここの提督さんや艦娘達は皆そういうのが嫌いなの」

「…」

「あなたは優しい。敵であるはずの艦娘を助けて、もう戦いたくないって、誰も傷つくのを見たくないって、そう言ってるんだもの」

「私ハタダ…」

「理由なんて後からいくらでも言えるわ。とにかく、どんな存在であれ目の前で助けを求められると放っとかずにはいられない。それがあなたであり、私達よ」

「…………ト」

「ん?なんて言ったの?」

「エックス、ワイ、ゼット…」

「!…どうしてそれを?」

「冴羽カラ聞イタ。コレヲ言エバドンナ悩ミヲ解決デキル、魔法ノ言葉ダッテ」

 

あいつめ、キザな真似をするなあ。

香はそう思った。

 

「ハハハ…。魔法かどうかは分からないけど、合言葉ってやつね」

「アイコトバ…」

「まっ、安心しなさい?あたしも獠も力になってあげるから」

「…アリガトウ」

 

ふふっと笑う香。だが、平和な時間は突如鳴り響くアラートによって消えてしまった。

ベッドから飛び起きたり慌ただしく走る艦娘達だが、皆この後の出来事を知る由などなかった。






いかがでしたか?
個人的には日向と北上様のやりとりが結構好きですw

さて、急展開を迎えましたが、このあと一体何が待ってるやら…
次回もご期待ください!
それでは!!


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大規模作戦の表と裏 ブラック提督のシナリオをぶち壊せ【その1】


こんばんは、さんめん軍曹です。

前回から間が空いてしまい申し訳ございません()
ここから事態は大きく動きます。

それでは本編どうぞ!!


 

「どうしたの?!」

 

大井が司令室の扉をバンと開け、北上もその後に続く。

室内には緊迫した様子の獠に艦娘達や提督、そして海坊主がいた。

 

「緊急事態です!レーダーに大数の深海棲艦の感あり!!」

「総数は?」

「詳しい数は分かりませんが…百は超えています!」

「くそっ!こっちの数じゃ歯が立たないぜ…」

 

獠達がどう動こうかと考えていたその時、どこからか通信が入った。

 

『ヨコスカ二告グ。今スグ北方棲姫ヲ返セ。サモナクバ貴様ラノイル一帯ガ焦土ト化ス』

 

どうやら敵からの通信らしい。

獠はマイクをONにすると、あくまで冷静に返事をした。

 

「こちらは横須賀鎮守府の提督、冴羽獠だ。確かに北方棲姫はこっちで預かっている。だが安心してくれ。危害は一切加えていない」

『コチラノ準備ハ整ッテイル。今スグ返セバコチラモ手ヲ出サナイト約束スル』

「ああ。約束しよう」

 

ここで一旦区切りがついたと判断した獠は、ちらと青葉に目配せをする。

彼女は逆探知に成功した印として親指を立てると、プリンターから排出されたA4用紙の束を獠に渡した。

彼は素早くデータを読んでいく。

 

港湾棲姫。

 

陸上型の深海棲艦であり両の手には鋭い鉤爪が装備されている。

深海棲艦のボスの1人とされているが、その存在は謎に包まれたままだ。

戦いの場にはあまり出てこないことから、一部ではあまり好戦的ではないとの話もあるらしい。

紙束にはそのような事がつらつらと書かれていた。

 

今回の大規模作戦の対象には含まれていないようであるが、北方棲姫奪還の為にこれだけの兵力を動員していることから彼女となんらかの関係があると見ていいだろう。

 

もう一度最初に戻り、今度はクリップで留められた写真を眺めてみた。

どうやら偵察機が撮影できた唯一のものらしい。構図が遠くてあまり見えないが、1番上のページにはそこから解析したとされる港湾棲姫の図が印刷されていた。

 

「う〜ん…悩ましい」

「何がです?」

「この服から溢れんばかりのもっこりバストに非常に艶かしいクビレ。そして見えそうで見えない太ももちゃんが…う~ん敵ながら実に惜しい…!」

 

獠が思ったことを無意識に口に出した途端、その場にいる全員からの冷たい視線を浴びることに。

 

「冴羽さん…」

「わわっ!明石ちゃんストップ!!そのハンマーはシャレにならないから!!香の100tハンマーより危険だから!!」

 

片手でスレッジハンマーを持った明石がゆらりと近づくが、我に返った獠は慌てて制止した。

 

「まったく。一度あなたの頭の中身を見てみたいですよ」

「ははは…。ボクちゃんシリアスは性に合わないの」

 

ここでもう一度通信が入ったことを知らせるブザーがなる。

 

『何ヲシテイル。早ク引キ渡スンダ』

「オ姉チャン!」

 

いつの間にか来ていた北方棲姫がマイクと獠の間に割り込んできた。

彼女から発せられた一言に全員が驚く。

 

『愛スル妹ヨ。無事カシラ?今助ケルワ』

「聞イテオ姉チャン!コノ人タチハ悪クナイノ!」

『…ドウイウコト?』

「実ハ…」

 

北方棲姫が言い終わらないうちに、突如陸上から多数の砲声といくつもの閃光が海に向かって走る。

司令室にいる全員がすぐ窓へ駆け寄ると、海上が炎に包まれていた。

 

「なんてこった…」

「そんな…嘘でしょ…」

 

両手で口を覆う大井。

暗闇の中の真っ赤な光を目の当たりにした北方棲姫は、目の前の光景がとても信じられなかった。

 

「オ…オ、ネエ…チャン…」

 

その時、また新たに通信が入った。

それにいち早く気づいた獠は、マイクへ再び駆け寄る。

 

『こちらは大本営特別艦隊だ。横須賀鎮守府応答せよ』

「冴羽獠だ」

『冴羽獠、貴様には艦娘を背後から撃ち、深海棲艦を匿った容疑がかけられている。よって貴様の指揮権は剥奪し軍法会議へかけるのですぐに出頭せよ。横須賀鎮守府の指揮権は、只今よりこの大本営特別艦隊指揮官である黒澤逸夫に移管される』

 

司令室のスピーカーから淡々と伝えられた言葉を聞いて、全員の手が止まる。

 

「…俺は容疑者ってことか?」

『言葉に気をつけろ若造。同じことを二度言わせるな。すぐに出頭しなければこの場で鎮守府ごと爆破処分する』

 

どうやら考えている暇はなさそうだ。

全員の注目を浴びる中、獠はひとつため息をつくと

 

「どうやら四の五の言っている場合じゃなさそう。獠ちゃん行ってくるわ」

 

と言いながらホルスターからパイソンを取り出してそばにいた陸奥に渡した。

 

「ちょっと…!」

「なぁにすぐ戻ってくるよ。その間俺の銃を持っといてくれ、むっちゃん」

 

そう言って手を振りながら扉へ向かう獠。

 

「誰がむっちゃんよ…」

「獠、お前…」

 

海坊主が何か言いたげに声をかけるが、彼はそれを制す。

 

「海坊主。俺がいない間ここは任せた」

「わかった」

「…サ、サエバ…!」

「どうした?ほっぽちゃん」

「必ズ戻ッテキテ…!」

 

北方棲姫の真剣な眼差しを受け取った獠。

彼はフッと薄く笑いながら扉の向こうへ消えていった。

 

 

「…篠原」

「…ああ。お前も同じ事を考えているのか、海坊主」

「もちろんだ」

「そうか。それなら用意するか」

「あの…」

 

翔鶴と瑞鶴は2人に声をかける。

 

「どうした?」

「お話があるので、あとで提督室へ来ていただけませんか?」

「ここでは話せない事か?」

「いや、話せないってわけじゃないけど…まずはお2人に聞いて欲しいんです」

「わかった。あとで海坊主と行く」

 

そう言うと提督は、とある作戦の準備に入った。

 

同じ頃、正門に向かって廊下を静かに歩く獠。

その後ろを香と日向が追ってきていた。

 

「獠!」

「どうした香」

「…本当に行くの?」

「ああ。どうやら向こうも本腰を入れ始めたらしい」

「……わかったわ」

「冴羽!私にはどう言うことかさっぱりわからない!」

「日向。おかしいと思わないか?」

「どういうことだ?」

「北方棲姫がここにいる事は俺たちしか知らないはずだ。そして、なぜあんなにタイミングよく深海棲艦に砲撃をすることができたか」

「…!!まさか」

「まだ確証はない。…それから」

「?」

「伊勢ちゃんが最後に所属していた艦隊。それは大本営特別艦隊だ」

「なんだって?!」

「詳しくは篠原達に聞くといい。俺はもう行くよ」

「ま、待ってくれ冴羽!」

 

獠を追おうとする日向だが、香は彼女の肩に手を乗せそれを制止した。

 

「離してくれないか香殿!これは敵の罠かもしれないんだぞ!」

「それを承知で乗り込んでいくのが獠よ。大丈夫、ここはあいつに任せて私達はできる事をしましょ」

「くっ…」

 

遠くで憲兵に手錠をかけられる獠の姿を日向達は黙って見ることしかできない。

そんな2人の様子を、暗闇から見つめる人影があった。

 

 

ほんの少し後、深海棲艦が砲撃を受けたあたりの海上。

血だらけの港湾棲姫は朦朧とする意識の中で、まだ息のある仲間を探そうとする。しかし思うように身体が動かない。

 

「クッ、不覚ダワ。私達ガココマデヤラレルナンテ…」

 

ふらふらと歩き回っていた彼女だが、ついに海面へ倒れこむ。

 

「愛スル妹ヨ…。アナタヲ守レナクテゴメンナサイ…」

 

傷ついたボスが意識を失う直前に見た最後の光景は、自分に近づいてくるクリーム色のセーラー服の艦娘だった。

 

 

「それで?話というのはなんだ」

「提督さんはこのマークを知っていますか?」

 

瑞鶴と翔鶴の2人は、自身の着ている服の上腕部辺りに編み込まれた刺繍を見せた。

それが何を意味するのか知っていた提督は目を見開いた。

 

「これは…!」

「そうです。私達五航戦は大本営特別艦隊にいたんです」

「伊勢がいた艦隊と同じだな…」

「そう。あの子の制服にも同じマークがあるはずです」

「ああ。俺と獠はそれを見て、彼女の所属を調べたんだ…」

 

ここで海坊主が口を挟む。

 

「その特別艦隊というのはなんなんだ」

「大規模作戦の時に特別に編成される艦隊の事です」

「普段は大本営で執務を手伝うなどをしているのですが、作戦が始まる時には召集がかけられます」

「彼女らは大本営の中でもトップクラスの腕を誇るエリート達だ。全員が最高練度や改二で編成されているんだ」

「まるで特殊部隊だな」

 

腕を組みながら、海坊主がフンと鼻を鳴らす。

 

「艦隊の管理者は元帥ですが、実際の指揮は別の方が行なっています」

「それがさっき名乗ってた黒澤大佐なんです」

「なるほどな」

「それから、特別艦隊からもう1人、ここに移籍しています」

「ほう」

「それは…」

「また会えて嬉しいよ。五航戦」

 

全員が振り向くと、そこには手下を従えた件の大佐が立っていた。

 

「私の知らないところで内緒話をされては困るんだがね」

「ハッ!これは失礼しました大佐殿!」

 

提督は自身の正体がバレないよう、憲兵のフリをする。

 

「先程も申した通りここは今から私の指揮下に入る。諸君、これより勝手な行動は許さんぞ」

 

特別艦隊の大佐はニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

 






さて、いかがでしたか?
獠が拘束され、鎮守府が突如現れた人物の指揮下に入りと大混乱が予想されます。

物語の鍵は大本営特別艦隊にあるようですね…

それでは次回をお楽しみに!



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