落第騎士と飢えた騎士 (てーとくん)
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始まり

見切り発車ですので、よろしくお願いします。


「ああ、つまらない」

 

どこぞの裏路地。そこでゴミとなって捨てられたのであろうボロボロになったイスに腰掛けながら少年は呟いた。

 

「ああ、つまらない」

 

その少年の前には何人もの人が倒れていた。死んではいない。ただ痛みでうずくまっているのである。

 

「ああ、つまらない」

 

少年は飢えを感じている。自分が子供の時から感じている決して満たされることのない飢えに。

 

そして少年は今日も探し続ける。自分のこの飢えを満たしてくれる存在を見つけるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅かったな天宮」

 

 場所は変わり、ここは伐刀者とよばれる己の魂を武器に変える現代の魔法使いを養成する学校、破軍学園の理事長室。

 

そこにいるのは黒いスーツで新しく理事長に就任した『神宮寺黒乃』と入室した破軍学園所属の生徒『天宮湊』、そして左ほほにくっきりとした紅葉のような跡をつけた天宮の友人である『黒鉄一輝』の三人。

 

「申し訳ありません。来る途中いざこざに巻き込まれてしまいまして……。ところでなぜ一輝がここに? あとその左ほほは?」

 

「それらがおまえを呼んだ理由でな。実は‐‐」

 

 そこから聞かされる事の顛末。全部だと長いので要約すると……

 

「つまり、一輝がヴァーミリオンさんの着替えを覗いてしまい、その罪滅ぼしとして自らも脱ごうとしたところ引っぱたかれたと」

 

「い、いやぁ不幸な事故だったなぁ」

 

 あはは、と笑ってごまかそうとしている一輝。

 

「……百歩譲って着替えを覗いたのが事故だったと説明できても、その後の自分も脱ぐはどう言い繕っても擁護できんよ一輝。というかなぜ脱ぐという選択肢を選んだ?」

 

「そのときはフィフティフィフティで紳士的な解決方法だと思って……」

 

 はぁ、とため息をつく湊と理事長。しかし起こってしまったことはしょうがないとして、二人は本来の問題に目を向ける。

 

 本来の問題、それは一輝が着替えを覗いてしまった相手がヨーロッパにある小国ヴァーミリオン皇国の第二皇女であるということ。もしこのことが大使館や皇国に知られたとしたら国際問題に発展しかねない。なので一輝には紳士として今回の問題の責任をとってもらうことにするとして天宮と理事長の意見は一致した。

 

 そして理事長が指を鳴らすと問題の相手であるステラ・ヴァーミリオンが入室してきたので一輝は頭を下げ、改めて謝罪をした。そして許してもらうために何でもすると言ってしまったのである。

 

「そうね。それじゃあ、ハラキリで許してあげる」

 

 出てきた言葉は死刑宣告であった。

 

「‐‐‐‐え?」

 

「よし、介錯は俺に任せろ一輝。友人の首を切るのは何分初めてのことだが安心しろ。痛みは一瞬だ」

 

「ちなみに白装束と小刀と脇差しはここにあるぞ」 

 

「いやいやいやいやいや!? なんでそんなに用意周到!? ていうかヴァーミリオンさん、冗談だよね?」

 

 一輝もまさかこんなかわいい娘が笑顔でそんなことを言うのは冗談であってほしいと思い、振り返って改めて確認するが‐‐

 

「何でもするって言ったでしょ?」

 

 ‐‐‐‐帰ってきた言葉は先ほどと変わらず死刑宣告であった。

 

「一輝くんのー、ちょっとハラキリするところ見てみたい!」←湊

 

「それ、ぱーりらぱりらぱーりら!」←理事長

 

「はいはい!」←湊

 

「いや、湊も理事長先生も煽らないでください!!」

 

 

 

 

 

 

まぁ、一輝イジリもこの辺にして。

 

「事の発端である一輝はなんで部屋を間違えたんだ?」

 

「いや僕は間違えてないよ?」

 

「はあ!? 私が間違えたって言いたいの!?」

 

「でも僕はちゃんと確認したし……」

 

「私だってちゃんとしたわよ!」

 

 埒があかないので俺の合図で二人に部屋番号を同時に言ってもらうことにした。

 

「はい、せーの」

 

「「405号室!…………え?」」

 

 なんと出てきた部屋番号はなぜか二人とも同じ番号。てか同じって事はさ。

 

「ああ、そういえば言い忘れてたが黒鉄とヴァーミリオンはルームメイトだぞ」

 

「「え、えーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」」

 

「ですよねー」

 

 

 

 

 

 破軍学園でのルームメイトを決める基準はランクが同レベルの者同士とされており、Fランクである一輝とAランクであるヴァーミリオンが同室になるのは絶対にありえない。しかし理事長の言い分としては一輝ほど劣った生徒は他におらず、またヴァーミリオンほど優れた者も他にはいないということで今回は特別にということで同室になったのである。

 

 だがそんな理由で下がるような人間ではないヴァーミリオンは一輝に対してまだあーだこーだ言うので理事長が「騎士であるなら己の運命は剣で切り開け」の一言で試合をすることになったのである。

 

 ちなみにそのときヴァーミリオンが負けた方は勝った方に一生服従という条件をつけたのである。もちろんこのときの音声はちゃんと録音してあるので後になって言い逃れはできないようにしてある。

 

 

 ‐‐‐‐え? 何でそんなことをするのかって?

 

 

 ‐‐‐‐そういうおもしろいことや楽しいことをしてれば俺の飢えが満たされるかもしれないからだよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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模擬戦

 黒鉄一輝とステラ・ヴァーミリオンによる模擬戦はあの後すぐに行われることになり、破軍学園の敷地内にある数あるドームの内の一つ、第三訓練場で行われることとなった。

 

「それではこれより模擬戦を始める。双方、固有霊装を『幻想形態』で展開しろ」

 

「来てくれ。『隕鉄』!」

 

「傅きなさい。『妃竜の罪剣』!」

 

 固有霊装とは伐刀者自身の魂を具現化した装備のことである。今回は模擬戦ということで相手に身体的ダメージではなく精神的ダメージを与えるだけの『幻想形態』での試合となっている。

 

「では‐‐‐LET'S GO AHEAD!」

 

 幻想形態での固有霊装の発現を確認すると、黒乃は試合開始の合図をした。

 

 

 

 

 

「ハァァァァァァ!」

 

 試合開始の合図とともにヴァーミリオンは炎を纏った『妃竜の罪剣』を一輝に対して思いっきり振り下ろした。

 

 力任せに振り下ろされたその一撃を一輝は『隕鉄』で受け止めようとするが。

 

「ッ!!」

 

 その一撃の脅威を感じ取ったのか、一輝は後ろに下がった。

 すると地面に振り下ろされた『妃竜の罪剣』の一撃はズドン、と地面のみならず第三訓練場を揺らした。

 

「良い見切りね。受けようとしたらその瞬間に終わりだったわよ」

 

「……すごいな、これがAランク騎士の力か」

 

 歴代のAランク騎士は一人残らず歴史に名を残すほどの大英雄であり、そしてステラ・ヴァーミリオンの前評判である『十年に一人の逸材』。そのことが決して嘘偽りでないことを確認した一輝は『隕鉄』を握り直し、改めて相対した。

 

 

 

 

「天宮、お前はどっちが勝つと思う?」

 

 試合開始の合図をした黒乃は観客としてこの試合を見守っていた湊に聞いてみた。

 

「一輝です」

 

 すると湊はほぼ即答で一輝が勝つと言い放った。

 

「ほぉ、即答か」

 

「えぇ。一輝の持つ技術や切り札のことを考えれば、Aランクであろうが勝てるはずです。実際、ここにハンデありとはいえ、その一輝に負けたAランクがいますしね」

 

 そのAランクとは黒乃のことであり、実は黒乃は元世界ランキング三位の実力者であり、二つ名である『世界時計』はあまりにも有名である。その実績を買われ、破軍学園の理事長になったというのが理由の一つでもある。

 

「まぁ確かに、黒鉄には並大抵の騎士では相手にならないだろうな」

 

「‐‐‐故に俺は期待してるんだよ。あいつであれば、黒鉄一輝であれば俺のこの飢えを必ずや満たしてくれるはずだと。それを邪魔するのが誰であろうとすべて殺してやる。無論、あんたが相手でもな」

 

 口調が先ほどとは違い、いきなり乱暴な言葉遣いになる。いや、これはそんな生やさしいものではない。なにか狂気的なものを感じる。

 

「天宮、口調。地がでてるぞ」

 

「‐‐‐失礼しました」

 

 黒乃の指摘にハッとなり、我に返った湊は急いで口調を元に戻し、一輝とステラ・ヴァーミリオンの試合へと目を向け直した。その試合は佳境を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 一輝が持つ技術である敵の剣術の欠点をすべて是正し、完全上位交換の剣術を編み出す。その剣術を戦闘中に作り出す一輝だけの剣術『模倣剣技』。それにより、ステラが修めていた『皇室剣技』は盗まれ、欠点のない剣術へと昇華された一輝に押されていた。

 

(強い…………ッ!!)

 

 この模擬戦の前、聞こえてきた一輝に対する評判はひどかった。単位が足らずに進級できないことから『留年生』、ランクがFであることから付いた二つ名『落第騎士』。それらの事実を鵜呑みにし、ヴァーミリオン皇国にいた頃のようにステラ自身を天才という枠にはめて自分を正当化させようとしてきた奴らと一緒だと、思っていた。

 

 しかし、実際はどうだ? 自分が長年かけて修めた『皇室剣技』は簡単に真似されただけでなく、欠点をなくした完全な剣術へとものの数分で昇華させられ、しかもその剣術を使い、自分のことを追い詰め、こちらの剣は全く相手にかすりもしない。このままでは勝敗は目に見えているだろう。

 

(ふざけるなッ!!!)

 

(負けてたまるものか、国のためにも、国民のためにも私は勝ち続けて更に強い騎士へとならなければいけないのよッ!!!)

 

 小国であるヴァーミリオン皇国。大国から攻め入られてしまえば、すぐに征服されてしまうだろう。そうならないためにステラは強くならなければならない、強くあり続けなければならない。かつての第二次世界大戦で同じく小国であった日本を戦勝国へと導いた大英雄『サムライ・リョーマ』のように。

 

 「これで、決める!!」

 

 小手先の技では勝てないと判断したステラは自分が持つ最大火力の技、『伐刀絶技』を放つために、観客席とリングを隔てる壁際まで跳躍した。

 

「蒼天を穿て、煉獄の焰」

 

 天に掲げた『妃竜の罪剣』に宿る炎が一層光と温度を増した。それはもはや炎ではなく、光の柱へと変わり、ドームの天井をその上がりすぎた温度のせいで溶かしていた。

 

『おいおいおい、なんだよコレッ!?』

 

『滅茶苦茶だ! 本当に同じ人間かよ!?』

 

 一輝たちの試合を暇つぶしやステラの実力を興味本位で知ろうと見ていた他の観客の生徒たちは落ちてくるがれきを見て逃げようとしていた。

 

 上がりすぎた温度と光、それはすでに太陽と呼んでも差し支えないほどだった。剣技の競い合いはもう必要ない。この一撃をもってこの試合を終わらせる。そんなステラの気持ちや感情が加わっているのか、『妃竜の罪剣』は光るのを止めず、温度を上げるのも止めなかった。

 

「『天壌焼き焦がす竜王の焰』!!!!」

 

 ドームの天井を焼き切りながら振り下ろされる剣は、滅びの意味も併せ持っていた。

 

『おい、急げ! 早く逃げるぞ!』

 

『いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

『人相手に使っていい技ではないな』

 

『ですね』

 

 逃げる生徒たちをよそに、どこからか湊が持ってきたスナック菓子をバリボリと黒乃と一緒に食べながら崩れるドームを見てつぶやく二人。黒乃は「また今日も徹夜か……」とまだ見ぬ書類のことを思ってつぶやくが湊はあえて聞いてないフリをした。管理職コワい

 

 

 

 

(すごいな、ステラさんは)

 

 一方の一輝はステラから放たれる『伐刀絶技』を前に何もせず、ただ佇んでいた。

 

 黒鉄一輝。高ランク騎士を輩出する名家、黒鉄家に生まれるもその劣った才能のせいでいない者と扱われてきた。自分も剣を習いたい、魔導騎士になりたい。そんな願いは周りにいるランク至上主義な人間たちのせいで叶わなかった。幼少の頃より、ずっと黒鉄家にある外から鍵をかけられる部屋に閉じ込められていた。

 

 そんな中元旦の集まりで聞こえてきた笑い声に耐えることができず、部屋の窓から逃げ出した。しかし黒鉄家のある場所は山奥、しかも季節は冬なので雪も降っていた。帰り道もわからなくなり、ここまでかと思うがまだ何もしてないのに諦められない、と泣きじゃくる。

 

 そのとき、現れたのが『サムライ・リョーマ』こと黒鉄龍馬だった。

 

 彼は泣いていた一輝の頭に手を置き、撫でながら、

 

『そのくやしさの粒はお前が自分を諦めてねぇ証だ。それを捨てんじゃねぇぞ。諦めない気持ちさえあれば人間はなんだってできる。何しろ人間てやつは翼もないのに月まで行った生き物なんだからな』

 

 その言葉を信じてここまでやってきた。黒鉄家を出奔してまでここまで進んできた。

 

 そんな中学園が黒鉄家とグルになって僕を進級させないようにと言ってきたらしい。さすがにそのときはもう駄目かなと思ったけど途中で理事長が変わった。神宮寺黒乃さんだった。彼女は僕に『七星剣王』になれれば卒業させてやると言ってきた。チャンスだと思った。

 

 龍馬さんの言ったことを自分と同じ境遇の人に伝えられるような大人になりたかった僕は七星剣王になれば伝えられると思い、その条件を承諾し、そして七星剣王は僕の夢となった。

 

 

 

 

 

 だから‐‐‐

 

「‐‐‐僕は絶対に諦めないし、負けられないんだ!!」

 

 一輝は自分の夢のため、自分が持てる最後にして最大の切り札を切った。

 

「いくよステラさん。『僕の最弱を以て、君の最強を打ち破る』!」

 

 途端に一輝の体と、『隕鉄』が光り輝く。

 

 それこそが一輝がたどり着いた境地。才能のない自分が天才だけでなく努力してる天才に勝つことのできる唯一の方法。

 

 一分間だけだが体にかかってるリミッターを外すことにより最弱の能力を何十倍にも引き上げることができる『伐刀絶技』。

 

「そうだ、見せてやれ一輝。お前のことを馬鹿にしたザコどもの度肝を抜いてやれ」 

 

「‐‐‐ああ、もちろんだ!!!」

 

 Aランクの騎士であろうと自分より格上であろうと勝てる可能性を持った『伐刀絶技』の名は。

 

「『一刀修羅』」

 

 ステラの一撃を躱した一輝はそのまま懐まで潜り込み、最後の一撃を喰らわせる。

 

「あ‐‐‐」

 

 そしてステラは気絶してしまい地面に倒れた。この瞬間、勝敗が決定した。

 

「勝者、黒鉄一輝!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後……

 

 

「……んっ。あれ、ここは?」

 

「寮の部屋だぜ。お姫様」

 

「あ、あんた確か理事長室にいた……」

 

「そういえば挨拶がまだだったな。破軍学園所属1年1組の天宮湊だ。ちなみに一輝の友人で同じ留年生だ。よろしく」

 

「ええ、こちらこそよろしく‐‐‐ってあんたも留年生!?」

 

 湊の衝撃的な事実に驚いたステラは思いっきり立ってしまったせいで二段ベッドの一段目のベッドの天井に頭を思いっきりぶつけてしまった。

 

「~~~~~~~ッ!?」

 

「あんまり暴れんなよお姫様。上で寝てる一輝を起こしちまうぜ?」

 

「えっ?」

 

 ステラは上を確認し、一輝が本当に寝てることを確認し、安心する。

 

 そしてステラが最も確認したかったことを湊に聞いた。

 

「ねぇ、あんたイッキの友人て言ったわよね」

 

「ああ、言ったな」

 

「なら教えて。こいつは一体何なの?」

 

「それは私から言おう」

 

 ガチャッと部屋のドアをあけて入ってきたのは黒乃だった。

 

 あの試合が終わってから一輝は『一刀修羅』の副作用である衰弱のために倒れてしまい、観客も全員逃げて、残っているのが湊だけだったので理事長は部屋に戻すよう言いつけたあと、急いで理事長室に戻り、そして急ピッチで書類を書き上げて今この場にいるのである。

 

「書類、書き終わったんですね」

 

「ああ、危うく自分の能力を使うところだったよ」

 

 まあそれはそれとして、ステラの気になったことは変わりに黒乃が説明してくれることになった。そしてその説明を聞いたステラは‐‐‐

 

「‐‐‐何よそれ。それが親の、教師のすることなんですか!!」

 

「最もな反応だよ、お姫様」

 

「ああ、私もそう思う。よって着任した際、その手のクズどもは全員クビにしてやったよ」

 

 だがそんなことをしても一輝の奪われた時間が戻ってくるわけでもない。

 

 しかし一輝は腐ることなく、すべての理不尽と戦い続け、その果てに『最強の1分間』を手に入れた。

 

「……なんであいつはそこまでやるんですか」

 

「そうだな。君が日本にまで留学した理由と同じようなものだよ」

 

 ステラが日本にまで来た理由。国を守るために強くなるとは別にもう一つだけ、自分のことを色眼鏡でしか見ない者たちのなかにいると、成長することができない。だから国を出た。

 

「まあ、何はともあれ、体に異常がないのであれば私は帰らせてもらうよ。明日も朝が早いものでね」

 

「お疲れ様でーす」

 

「あ、お、お休みなさい」

 

 バタンと扉を閉めて出て行った理事長。次に湊が立ち上がり外に出て行こうとする。

 

「腹空いてるだろ? この時間だともう食堂は閉まってるからなんか作って持ってきてやるよ。その間一輝のこと頼んだ」

 

「ええ、わかったわ。そのあ、ありがとう」

 

「気にしない気にしない。将来の友人の嫁になるかもしれない人には優しくしないと」

 

 ステラは湊の言ったことがわからず頭をかしげるが、湊が持ってた録音機を聞いてすべてを思い出した。

 

『負けた方は勝った方に一生服従よ!!』

 

 聞き終えたステラは顔を真っ赤にしてあたふたしている。

 

「い、いや、その、それはなんというか…………//////」

 

「まぁこの話はあとでゆっくり一輝も交えて話そうや」

 

 そう言って湊は部屋を出て行った。



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過ち

話が全然進まない……


「はーい☆ 新入生の皆さんっ! 入学おめでとーーーーッ!♡ 先生のことはユリちゃん☆って呼んでね」

 

 朝っぱらからハイテンションが過ぎてむしろウザいこの人は我らが一年一組の担任の『折木有里』先生だ。いつもはこんな人ではないのでおそらく新入生のお祝いのために無理にテンションを上げて祝ってくれているのだろう。その気持ちはありがたいけど歳を考えなくちゃ歳を。ほら、クラスのみんな(俺や一輝を除く)が引いてるし。

 

「今日は初日なので授業はありませんがみなさんには『七星剣武祭代表選抜戦』についての連絡があるので、みんなは生徒手帳を出してくれる?」

 

 破軍学園の生徒には身分証明、財布、携帯電話、果てはインターネット端末としても使える手のひらサイズの液晶端末が配布されるのである。

 

 とりあえず選抜戦についての説明が長いのでここでも簡単に略すと、

 

『今年の選抜戦は能略値選抜ではなく全校生徒参加の実践選抜であること』

 

『その選抜戦での成績上位者六名が選手となる』

 

『試合日程は選抜戦実行委員会からメールで送られるのでその日に行かないと不戦敗となること』

 

『試合は三日に一回は必ず行われ一人十試合以上かかること』

 

『試合に出ないからと言って成績がマイナスになることはないこと』

 

 これらからわかるように一輝に考慮してることは言わずもがなである。

 

「はい! じゃあこれで先生からの連絡は終わり。それじゃあみんな、これから一年間、全力全開でがんばろーーーーーっ! はーいみんなで一緒に‐‐‐」

 

(ねえ、湊。折木先生って確か……)

 

 俺の後ろの席にいた一輝が小声で話しかけてきた。

 

 おそらく一輝の言いたいことは折木先生の持ってる『体質』のことだろう。何を隠そう我らが担任折木先生は‐‐‐

 

「‐‐‐えいえい・おブファーーーーーーーーーーッ!!」

 

 ‐‐‐ものスゴい病弱で一日一リットルの吐血をしてしまうのだ。

 

「「「「「ゆ、ユリちゃぁぁぁああああぁぁぁんッ!?」」」」

 

「一輝」

 

「わかってる」

 

 俺と一輝は折木先生がこうなったときの対処法を知っているのでいち早く対処するために教壇まで近づき一輝が折木先生の肩を抱き起こし、そしてまずはどうすればいいか慌ててる他のクラスメイトを落ち着かせるために最初に一輝が発言する。

 

「あーみんな、大丈夫だから落ち着いて。とりあえず僕が折木先生を保健室まで連れて行くから湊はその血だまりの掃除を」

 

「オッケー」

 

「げほっ、ごほっ……ごめんね黒鉄君、天宮君。余計な手間かけさせちゃって」

 

「大丈夫ですよ。先生は僕の恩人なんですからこれくらいのことは」

 

 これは一輝から聞いたことなのだが、なんでも折木先生は一輝が入学試験のときの試験管だったらしく、そのときも今みたいに吐血して受験書類を汚されたとか。でも彼女が一輝のことを正当に評価してくれたから、一輝は今破軍にいることができているのである。

 

「じゃあ湊。後のことはよろしく」

 

 そう言って一輝は教室を出て行った。

 

「さてそれじゃあ、掃除しますか」

 

 えーと、確か血をきれいに拭き取る方法は……

 

 俺が記憶を模索してるとき、ステラが話しかけてきた。あ、ちなみに彼女のことを『お姫様』って呼んでたら、この前ステラでいいって言われたのでそう呼んでます。

 

「イッキもそうだけどミナトも手慣れてるわね」

 

「俺の場合は、去年学園の敷地内を散歩してるときに吐血してぶっ倒れてる折木先生のこと見たことあってそのときに介抱したんだよね」

 

 懐かしいなぁ、最初は血だまりの中に倒れてて、なんかダイイングメッセージみたいなのもあったから、急いでバーロー探偵呼ばなきゃって思ったんだよなぁ。

 

 そんな懐かしい思い出に浸りながら掃除をしていると、眼鏡をかけた髪の色が何色かわからない子が話しかけてきた。

 

「あなたも先輩なんですか!?」

 

 しかも若干どころかかなり興奮気味に。

 

「え、あ、うん。そうだけど君は……?」

 

「ああ、これは失礼しました。私、日下部加々美って言います。加々美って呼んでください。先輩の名前は確か、天宮湊先輩でしたね」

 

 ああ、こっちの名前は知ってたのね……

 

「実は私新聞部を作ろうと思ってて、そこで黒鉄先輩と一緒に破軍高校壁新聞の第一号を飾って欲しいんです!」

 

 ……なるほど。てっとり早く売りたいからFランクでありながらAランクのステラに勝った一輝を使うことで部数を伸ばしたいのか。そこに去年も一輝と同じクラスであった俺の話も添えれば真実味が増して、新聞部の評価も上がる、と考えたのだろうな。

 

「どうですか。もしわからないのであれば私が優しく手ほどきしてあげますよ♡」

 

 ムニュっと俺の腕にその豊満な胸を押しつけてきた日下部さん。躊躇なく色仕掛けしてきたなぁこの子……

 

 だがダメだな。その手の手合いの扱い方は心得ているんだよ。

 

 俺はすべての女子の憧れであると聞いたことのある『アレ』を実行することにした。

 

 えーと、確か相手のアゴをくいっと持ち上げて‐‐‐

 

「‐‐‐いいぜ、ならこのあとすぐにでも俺の部屋でお願いするよ。ああ、安心しな。俺の部屋は防音仕様だからどんなに大声出しても平気だから。優しく、頼むぜ? 加々美」

 

 くぁぁあああ!! 背中がムズムズするぅぅぅッ!! 誰だこいつは!? 

 

 ま、まあでも色仕掛けなんて手を躊躇なく使うような子だから、こんな聞きかじりの素人感丸出しじゃダメだろうけどねぇ。

 

「え、えと、その、あの………わ、私初めてですのでこ、こちらこそ優しくお、お願いしますね/////////」

 

 …………あれぇ?

 

「……うわぁ」

 

 ああ!? ステラがものすごい勢いで引いてる!? なんか日下部さんも顔真っ赤にしてぽやぽやしてるし!?

 

「私、男の人にあんな大胆にこ、告白されたの初めてですぅ……」

 

 いやぁぁあああああ!? まさかのそういう耐性の無い子だったの!? じゃあ色仕掛けなんて使わない方がいいよ、向いてないよ日下部さん!

 

 いやそんなことよりも誰かツッコミ的なものを入れられる人はこのクラスにいないの!?

 

 ステラは……ダメだまだ引いてる! 一輝は、ってあいつは保健室ぅ!

 

「どうしたんですか? 天宮先p、じゃなくて湊さん。……早く行きましょうよぅ」

 

 俺が混乱してるとまたもや腕に胸を押しつけてきた日下部さん。しかも今度は腕を絡ませて指を恋人つなぎ+名前呼びというオプション付きで。

 

 おぃぃいいいいい!! 頼むだれかツッコミををををを!!

 

「いや、何してんの湊」

 

 瞬間、俺は帰ってきた一輝がまるで後光の差す神さまのように見え、救いを求めた。

 

「助けて、一輝しゃまぁああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 後に天宮湊の友人である黒鉄一輝は語る。あれほどまでに荒れた友人の顔を見たのは初めてだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。そういうことか」

 

 一輝は自分がいない間に何があったのかの説明を求め、俺が懇切丁寧に説明することになった。

 

 …………まぁ、その間も日下部さんは俺の腕から離れようとしなかったけどね。

 

「それ湊が悪いよね」

 

「うぐぅ!」

 

「だって普通に断ればいいだけの話だし、変な風にしようとしたからこうなったんだよ?」

 

「はぅぅ!」

 

 先ほどから言われっぱなしの俺。く、くそ言い返したいけど言葉が何も出てこない……!

 

「……湊さんは」

 

「ん?」

 

 先ほどから黙ってた日下部さんが話し出した。

 

「湊さんは私と付き合うのイヤ、なんですか?」

 

 涙目でそう言ってきたのである。

 

「もしそうなら私は全然かまわないです、よ? 元々湊さんに色仕掛けなんてした私が、悪いんですから……うぅ」

 

 やばいやばいやばい。ステラとクラスの女子が後ろで『固有霊装』構えだした。

 

「でもうれしかったです。ウソでも湊さんみたいなカッコイイ人に告白されて……。私は満足です」

 

 やばいやばいやばいやばい。ステラは天に掲げて詠唱してるし他の人たちもなんか詠唱してる!

 

「どう思うみんな?」

 

「「「「「「「「「「死刑」」」」」」」」」」

 

 あ、今日が俺の命日か……

 

 

 

 

 その日一年一組でとてつもない大きな爆発が起きた。何事かと駆けつけた他の教師たちはクラスにいた人たちから事情を聞き、俺がすべて悪いという教師陣全員の一致で『固有霊装』を使ったステラ他クラスの女子たちはお咎めなしだったそうな。めでたしめでたし。



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