超次元ゲイムネプテューヌ~闇夜の円舞曲~ (KeyMa)
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登場人物紹介/修正情報

主にオリジナルキャラクターの解説となります。
物語が進むにつれて伏せているような部分などを追加していく予定です。


【修正情報】
*2018/10/05
 ・キャラクターのプロフィール修正。
 ・新キャラ登場により詳細追加。

*2018/01/12
 ・メイン登場人物の紹介を修正+簡略化。
 ・あらすじを変更修正。旧あらすじはこのページの後書きへ移動。

*2017/08/04
 ・Scene26にて誤字報告が有った為、間違いを確認した上で修正を適用。
  報告ありがとうございます。




(Scene1~58)

 

獨斗(ドクト) 永守(エイス)

愛称:永守、えい君、ドクetc

年齢:21⇒不明

身長:179

体重:80

 容姿:茶色のミディエアムヘア。現、白髪。赤茶色の瞳

 

好き:銃・バイクのメンテナンス/バイクで気ままなツーリング/武術修業

嫌い:タバコ(副流煙)/悪/暗殺技術

 

The 1st~2nd/The 5nd Encounter~の主人公。

惑星“地球”の特殊部隊「対超常現象特別部隊S.T.O.P.(Special Tactics Opposition Paranormal)」所属だったポイントマン兼セカンドアタッカーの人工的に作られた人間で、突如出現した怪物「ニグーラ」達の攻防による数少ない生き残り。

感情を表に出す事が少なく用心深い機械のようなポーカーフェイス。年齢相応とは思えない雰囲気を漂わせ、近寄りがたい雰囲気はあるものの、人当たりは良く義理人情を重んじ仲間を見捨てる行為を嫌う。救いようのない非情な相手や仲間を傷つける相手には明確な怒りや殺意を見せ、完全なる悪には完膚なきまでに打ちのめす。ネタ、突っ込みもできるハイブリットだが無表情でする為、周りからは何を思っているか分からない事がある。ここ1番等の勝負強さはあるが、遊び事での賭けは滅法弱く、順番決めのじゃんけんですら高確率で負ける。謎解きのカギを突破する為という謎の理由から、ピアノを弾くことが出来る。

後に和解するも、想いのすれ違いや、暗殺業をしていたことを知り、育ての親と決別。後に敵として現れ自らの手で葬る事となる。そして、ニグーラの猛攻の末にタイム・ポータルを起動し、死んでいった仲間達の想いを掲げ、タイム・ポータルによりゲイムギョウ界のラステイションに辿り着く。その後はプラネテューヌに身を置き、打倒エンデに向けゲイムギョウ界に貢献しつつ調査を始める。その間に様々なクエストや事件を女神と協力しつつ解決し、ギルドやプラネテューヌの職員からの信頼も厚く、ネプテューヌやイストワールからも絶大な信頼をされている。その後幸か不幸か、エンデに打ち勝つ為に自ら望み女神の一部の力とニグーラの力を宿し、女神化とは対となる“ゾディアーク化”を内に秘める。そして、宿敵ニグーラを倒すも魂だけは逃してしまい、自らはニグーラの副作用により闘争本能が暴走しかける状態となる。後に犯罪組織ユニミテスが出現し、女神一行により同行拒否されるも、一年後に言い付けを破り単独でギョウカイ墓場に向かう。犯罪組織をあと一歩まで追い詰めるも、副作用により作戦失敗。女神の命の為に、犯罪組織に加担する。そして、女神候補生達に歯向かうも、裏では犯罪組織とエンデが繋がっている事や、ニグーラに関しての情報を掴み女神救出の手助けをする。だが、自らの副作用が表面化し始め、災害兵器になる前に自らの命を対価に、魔剣ゲハバーンの隠された力を引き出す術を使い、ネプテューヌ達に打倒エンデの想いを託す。しかしながら、神の悪戯なのか魂のみは無事で、新たなる肉体や死んでいった仲間達の生きてほしいという願いを叶えるべく条件をのみ、ネプテューヌ達に一時的な別れの挨拶も含め、女神と共にエンデを倒し、ハードリバースを発動させ、ゲイムギョウ界をある程度元に戻し輪廻転生することとなる。

しかし、着いた先はゲイムギョウ界ではあるが、自分の知っているゲイムギョウ界とは異なる事から、コードネームである“エース”と名乗り新世界を調査し始める。

 

 

 

ジン/九重(ココノエ) (ジン)

愛称:ジン、ジン君、くまさん

年齢:18⇒21

身長:169⇒172

体重:67⇒70

 容姿:茶髪のショートポニー。赤色の瞳

 

好き:正義/努力/肉料理/スタント練習

嫌い:犯罪組織/弱い者虐め/努力をしない人/エンデ(ニグーラ全般)

 

The 3rd~4nd Encounterの主人公。

 日本一と共にゲイムギョウ界を駆け抜けるギルドハンターで、将来はスタントマンを目指している。熱血漢且つ三枚目のような態度のムードメーカーだが、ここぞという時はハードボイルドの如く活躍する。口調は余り宜しくなく、女神相手にも殆どはタメ口である程。困っている人を見捨てる事を嫌い、人当たりは悪くはない。

 転生者の一人で前世は”九重 仁”という名前でスタントマンを目指していたゲーム好きで、正義感が強いごく普通の日本人だった。しかしながら、神様の手違いで事故死となり、そのお詫びとして転生の許可を受け、特権を“夜を狩る一族の力”を要求し“超次元ゲイムネプテューヌThe Animation”へ転生する。広く浅くネプテューヌシリーズをやっているが、アニメは見た事がない為、斬新な気持ちを込め決めた。その為か、時期的には永守より早くゲイムギョウ界に来ている。しかしながら、ゲイムギョウ界での自分が住んでいた田舎町が突如現れた魔物の群れにより壊滅。後にその原因がエンデの仕業であることを掴み、復讐の鬼となる。旅をしている最中に、日本一との出会いにより、ある程度自我を取り戻し、復讐の鬼として忘れかけていた正義感を思い出し、元の熱血漢へと変わっていく。ある日のリーンボックスで出会った獨斗永守に自ら近づき、一度は警戒するもお互いの事を語り合い、協力関係となり仇であるエンデを倒す。

その後、現れた犯罪組織に対抗すべく、更に鍛錬を積みつつクエストを熟し、精神的にも肉体的にも成長を遂げる。その実力と実績をアイエフやプラネテューヌ教会に買われ、プラネテューヌの女神奪還計画に参加する。そして、幾度なく現れるハーミットこと獨斗永守と対峙、永守から少しずつ情報を受けつつも、女神側に連れ戻す事を考える。途中、下見する為単独でリーンボックス向かうも、乗っていた飛空艇が事故にあい、その最中に何者かに襲われ一時的に記憶を失うが、永守の助力もあり記憶を取り戻し再びネプギア達と協力する。そして、準備が整い再び女神奪還作戦の為、ギョウカイ墓場へと女神候補生や旅の最中で集まった仲間達と共に向かう。だが、犯罪組織と戦っている最中に、謎の攻撃により犯罪組織が壊滅、黒幕を目の前に復活した女神の判断により撤退。そして、エンデに対抗する為、不完全な一族の力を開放すべく試練に挑み、真の力を開放、エンデとの最後の戦いに挑む。

ハードリバース発動後は、犯罪組織との活躍により、リーンボックスの特命課への誘いを受け、特命課へ入隊する。とは言え、基本的には自由行動であり、時折日本一とスミレと共にゲイムギョウ界を回っている。

 

 

 

スミレ(神羽 紀玲[シンパ スミレ])/グリーンシスター

愛称:スミレ、スミレちゃん

年齢:16⇒??

身長:154/156

体重:43/45

 容姿:猫耳のようにリボンを結んだ黄緑色のロングポニーテール・紫色の瞳

【女神化】緑のロング、白色のバトルスーツ

 

好き:自然/友情/モフモフしたもの

嫌い:辛い物/嘘を言う人/支給された職員服/ホラー

 

 リーンボックスの突如現れた女神候補生。真面目で礼儀正しく、ベールのように落ち着いた雰囲気を漂わせているも、どこかネプギアのように抜けているのか、おっとりしているようにも見える。それ故か、人の裏を付くような事や、それを見破るのが苦手で、嘘に騙されやすい面もある。ネプギア達よりも遙かに新米だが、リーンボックスでは、真面目さが評価されており信頼されている。その立ち振る舞いは、女神としてであり本来の彼女は非常に活発且つ行動的な“僕娘”。初対面の人に対しては“私”。着痩せするタイプで、上着を脱ぐと良スタイルである。女神化すると、ベール程ではないがスタイル抜群のプロポーションとなり、基本的に争い事を好まないのだが、無口になり非常に好戦的になる。

嘗ては、神羽紀玲としてジンと同じ地球にいた日本人、エリート家系で英才教育を受けていたが、本人は至って普通の生活と家族の愛情を求めており、家系の関係でそれを許してもらえず、更に周りから特別視されている事も嫌気を差しており引き籠ってしまう。そんな状況が続きノイローゼになり耐えきれなくなり自殺してしまう。しかし、神様からしたら、予想外な出来事だった為、転生される事となり、“皆が幸せになる事”を求める。その結果、転生先のゲイムギョウ界で求めていた普通の生活を送るも、ある日を境に女神化のような現象が起こり再び特別視されてしまい、再び人間不信状態でゲイムギョウ界を彷徨う事となる。そして運悪く、エンデによって操られ女神化の状態で、偶々リーンボックスに来ていたネプテューヌ達の前に立ちはだかる。しかし、女神化は出来るも戦闘経験は皆無な為、気絶させられ正気に戻りリーンボックスで保護される。

リーンボックスのカウンセリングと、ベール、教祖のチカ等の手助けもあり、人間不信を解消、女神化出来る関係でリーンボックスの女神候補生、ベールの妹としてリーンボックスの市民からも受け入れられる。その恩と迷惑を掛けた事に対して自らも協力を申し出ると同時に、ズーネ地区で捕らわれた女神達を救う為、ネプギア達に協力する。ただ、支給された職員の服は余り着たくない模様。その後、ジンや日本一が度々来て交流を深めているうちに、ジンに想いを寄せるようになる。

 エンデを倒して暫くし犯罪組織が出現、ベールが犯罪組織に囚われてしまった事を聞き、教祖のチカや、特命課のケイブらの手助けを借り、自ら率先して国民の不安を除くべく対応をしている。だが、日に日に勢いを増す犯罪組織に頭を悩まされている。そして、頼りにしているジンにSOSを送る為に連絡する。しかし、SOSによって単独で来たジンが記憶喪失になった事で、不安になってしまうも、記憶を取り戻した事により安堵する。その後、再びの女神奪還作戦に、新たに加わった仲間達と共にギョウカイ墓場へと向かい、犯罪組織の幹部と戦う。だが、犯罪組織がエンデの復活の糧となり、復活した女神の判断に一時的に撤退。一時的に戦意喪失するも、自らの命を懸けて託した永守の想いを叶える為、再びギョウカイ墓場へと向かい、エンデを倒す事に成功する。

 ハードリバース発動後は、再び元の生活に戻るも、中々ジンに自分の想いを伝えられない日々を送っている。

 

 

 

ナナ/コスモスハート

愛称:ナナ、ナナちゃん

年齢:16⇒??

身長:154/156

体重:43/45

 

容姿:紫掛かった黒色のロングポニーテール・紫色の瞳

【女神化】紫掛かった黒色ロングヘアー、黒色のバトルスーツ。

 

好き:読書/情報集め/ゲーム全般

嫌い:悪/無闇に触ってくる人(プルルートは除く)

 

神次元世界に突如現れた、記憶喪失の少女。クエストでオオトリイ大森林を訪れていたプルルートとノワールにより発見させるも、前述の通り名前は愚か、何故ここに居るかも分からない状態。突発的に言ったプルルートの“ナナシだからナナちゃん”という事で名前は決まる。新次元のプラネテューヌに保護され、記憶を取り戻す為に活動する。礼儀正しく、困っている人を放っておけないタイプ。その為か、自分を保護してくれたプルルートには感謝しつつもサボり癖の為、そのサボり癖に新次元のイストワールと共に頭を悩ませつつも、カバーする日々を送っている。

前の記憶が残っているのか、戦闘能力は極めて高く、ノワールの剣技を元にカタナの術を見出し、職務を熟している。ある日、ノワールの情報により、ZECA一号遺跡に女神メモリーを手に入れる為に同行するも、そこに現れた七賢人の一人に成す術無く敗北しかける。そこへ、女神化したプルルートの助けもあり、ノワールと共に女神メモリーを回収、七賢人の一人を倒すには力が必要と考え、覚悟を決め女神メモリーを使い、ノワールと共に女神化に成功する。女神化に成功すると同時に、それまで使えなかった魔法のようなもの、氷を作り出す技と、物体をある程度動かす技を覚える。それから数年後、ノワールが守護しているラステイションの対しての、嫌がらせ行為の対策に協力し、原因はルウィーだと言うのに無理やり付き合わされる形で向かう事になる。その前日に強力なエネルギー反応をイストワールと共に確認。翌日にその情報を掴んでいたノワールと共に、プルルートを連れて現場に向かう。その向かっている最中にプルルートが遭難、後で見つけようとなりエネルギー反応の元へ向かうも収穫なし。その後にプルルートと合流し、そこに居たエースこと獨斗永守を見るも、不思議な感覚を覚えたと言う。何故かは分からないが、彼なら記憶を取り戻すカギになるのではないかと考え、ルウィーへの同行願いをノワールに伝え、4人でルウィーに向かう事になる。

 

 

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(ツルギ) 剣士(ケンシ)

 愛称:ケンシ

 年齢:21

 身長:174

 体重:73

 

 好き:鍛錬/精神統一/ゲーム(FPS・ホラー等)

 嫌い:犯罪/悪/無闇に触ってくる人

 

【概要】

 軍隊の中でも特別に凄い奴らが選抜されたメンバーが所属する部隊

対超常現象特別部隊S.T.O.P.(Special Tactics Opposition Paranormal)」所属だったポイントマン兼セカンドアタッカーの日本人。永守とは養子縁関係で幼馴染的な良きパートナー。生まれた時から白内障を患っており全く目が見えないが、それを感じられない行動力を持っており、騎士道を重んじており「弱き者を守り、頼る者の為に戦う。」を心得て軍隊への志願を目指している。この志願が永守との運命的な出会いの切っ掛けになったと本人は思っている。

 突如出現した怪物「ニグーラ」達の攻防による数少ない生き残りだが、激戦後に、巨大なトレーラーに足を挟まれ動けなくなり、助けようとした永守をサイコキネシスによりタイム・ポータルに突入させる。地球が破壊されてしまった為、永守の中では死亡扱いとなっている。

 

【人物像】

 礼儀正しく生徒会長風の立ち位置で、永守と同じく21歳とは思えない落ち着いた雰囲気を漂わせている。視力と引き換えとも言えるサイコキネイス及びアイスキネイスの使い手。養子縁として来た永守とは、強い絆で結ばれた親友であり戦友でもある。軍隊には永守と同時期に入り、S.T.O.P.の選抜に選ばれる程。剱流太気拳と剱流剣術の使い手であり評価は高い。尚、永守とは違い女性との接し方はごく普通に話すこともでき、普通に照れたりする事もある。

 13の頃に永守にFPSやサバイバルホラーの素晴らしさを伝えた張本人であり、永守がゲームにある程度詳しくなった切っ掛けとなる。

 

 

 

セグゥ/ラリマーハート

 年齢:???

 身長:149/158

 体重:???

 

 好き:平和/ゼロ

 嫌い:世界を壊す事

 

【概要】

 謎の空間で永守が出会った人物の一人。初代女神の女神候補生であり、エンデを含むニグーラを封印する為、自ら望んで犠牲になり永遠の眠りに付く。しかし、何者かによりニグーラが解放された事により永遠の眠りから覚め、プラネテューヌの禁断の遺跡でニグーラを再び封印する英雄を求めて待ち構えていた。永守が、ゲイムギョウ界へ転送された際に、声を掛け導いた人物でもある。その後、禁断の地へ訪れた永守のドックタグにペンダントへ変えてその中で見守っており、力を蓄えた際に永守とコンタクトを取っていた。しかしながら、永守がエンデと数回目の接触をし戦闘となり、重傷及び呪いを受けてしまった為、永守を助けるべく自らの女神の力を分け与え、治療速度を高めたが、自らは目覚めるか分からない眠りへと付いてしまう。

 

【容姿】

○ラリマーハート

 ネプテューヌとネプギアを足して割ったようなイメージ。スタイルは良く、美しい薄紫色の長髪をしている。ユニットは白と青色となっている。

 

○セグゥ

 ラリマーハートとは違い、背丈が若干縮み、服装が青白っぽいドレスを着込んでいる。髪は薄い赤色の長髪となっている。

 

【人物像】

 自分よりも、他人の幸せを第一に考える自己犠牲の考えを持つ。その自己犠牲っぷりは、初代女神が共に封印される際、自分が率先して封印の要となる程。共に戦い、協力してくれたゼロには感謝をしており、特別な感情もある模様。女神化しても若干好戦的になるだけで性格上に変化はあまり見られないらしい。

 

 

 

ゼロ

 年齢:???

 身長:177

 体重:???

 

 好き:平和/セグゥ(ラズリーハート)

 嫌い:ニグーラ

 

【概要】

 謎の空間で永守が出会った人物の一人。タリ崩壊後に突如現れたニグーラと共に現れた、闇の力を宿してゲイムギョウ界に舞い降りた戦士であり、ラリマーハートことセグゥと共に自ら率先して封印に乗り忘れ去られし英雄となった男。永守をペンダントの空間に呼び込む等を担当していた。初めて永守とあった際、力を試す為に会えて永守の記憶から十字の獅子王<クロス・アターレオ>の格好をコピーし力を試した。しかしながら、永守がエンデと数回目の接触をし戦闘となり、重傷及び呪いを受けてしまった為、永守を助けるべく自らの闇の力を分け与え、悪魔の契約を阻止するが、同時に永守には別の呪いを引き継ぐ事になった事を後悔している。力を分け与え、知っていることを全て話した後、打倒エンデの願いを永守に告げ、出口を用意した後、セグゥと共に目覚めるか分からない深い眠りに付く。

 

【容姿】

 基本的には、黒い服に身を包み、黒色のフード付きローブを纏っている。右腕は紋章のようなライン模様が付いており、本来肌と呼べる皮膚は灰色となっている。

 

【人物像】

 基本的には上から目線のような態度だが、仲間想いであり義理人情に厚い。また、平和の為に自ら犠牲になる自己犠牲の心も持っている。

 

 

 

 

 




【旧あらすじ】

…人間としての俺は死んだ。だが、俺は自分の意志を持ち、この世界を歩んでいる。

 ある時、古代遺跡より人類を遙かに凌ぐ技術を発見し、人類は急成長を遂げる。それから数年後、謎の地球外生命体「イグーニ」による無差別攻撃が始まる。この状況を打破する為、人類はタイム・ポータルという、古代遺跡から発見した技術を利用し作られた、何処に飛ぶかわからない転送装置に全てを掛ける事となる。
そのタイム・ポータル突入に選ばれた一人である男「獨斗永守」。彼は、軍隊所属の超能力者の一人であり、崩壊寸前の地球での、数少ない生き残りである。そして、タイム・ポータルの転送に成功し、別世界であるゲイムギョウ界へ転送される。

 何故、ゲイムギョウ界に降り立ったのか、転送されている時に聞こえた声は誰なのか、地球の人類を救う事ができるのか。その答えを求め、4人の女神や、愉快な仲間達の出会い・協力を得て青年はその地に足を踏み入れる。

その先にあるのは、希望か絶望か…。
これは、ゲイムギョウ界に新たなる歴史を刻むかもしれないし、刻まないかもしれない、そんな平行世界の1つであるゲイムギョウ界の物語である。

*この作品は、様々なネタ等を練り混ぜた自己満足小説となっております。
 これらの要素が嫌いな方、苦手な方はブラウザバック等で回れ右をおすすめします。

 もし、これらが好物、楽しみにしている人は「ゆっくりしていってねっ!」


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【情報】能力・スキル設定集


物語が進むにつれて、修正+追加していく予定です。



 

獨斗(ドクト) 永守(エイス)

【戦闘スタイル】

 鍛え上げた肉体から繰り出す格闘、亡きジョニー譲りのあらゆる銃使い、炎と風の超能力を屈指する。戦闘経験は対人、対怪物と共に豊富であり、状況に応じて自然を武器にもする。基本的には打撃、特に蹴りを中心としており、絞め技、投げ技はあまり使わない。この中に銃剣術を合わせた独自の戦闘スタイルを繰り出す。

 

【使用・登場スキル】

〇パイロキネシス

 永守の主力技の一つ。大気中の熱を集め炎として放つ超能力。武器や拳に炎を纏う爆炎拳、炎の弾を放つパイロキャノン、手元から火炎放射のように放つコンバッションと言った、手元から放つ炎なら考えられる事は出来る。また、風のウィンドキネシスと合わせて、圧縮した空気に高温の炎を纏い爆風を発生させるバーストも使える。

 

〇ショックウェーブ

 永守の主力技の一つ。風圧を纏い手、足、武器に斬撃、剣気状の風圧を放つ。ネプギアの扱うスラッシュウェーブと比べると、剣気の速度は遅めだが、此方は念じれば放てる為、出だしは早く肉弾戦時にも放てる。その為か遠距離技としてで無く、近距離で放つことが多い。本人の意志で、剣気を斬撃、衝撃波に変える事ができ、切断に特化したスライサー、衝撃に特化したインパクトの二種を扱う。また、帽子に鎌鼬を纏い投げていた技もこれの応用。

 

〇オーバードライブ

 超能力により肉体の制限を外し、戦闘能力を引き上げる。分かりやすく言えば、爆肉鋼体や界〇拳のような状態になる。エンドルフィンやアドレナリン分泌とは違い、発動中は体力、精神力を使用中の間持っていかれる為、並みの超能力者では長時間持たないと言う。本気を出す際は常に発動している為、アクティブと言うよりはバッシヴスキルに近い。また、表面上に変化が見られない為、急激に強くなる印象を相手に与える事も出来る。

 

〇挑発

 必殺技ではないが、スキルとしての一つ。永守だからこその挑発方法により、対象を自分自身に絞り込ませ、尚且つ怒りに任せ、力任せな攻撃に仕向けるようにする。その為、対象の防御を手薄にする代わりに、一撃を重くしてしまうデメリットもある。

 

〇劔流剣技

 幼い頃に引受先となった劔家に纏わる剣技の一種。基本は一閃の概念で、精神統一し渾身の一振りを放つという、上達すれば木刀でも紙を切り裂く程になると言われている。永守はその一部を習得している為、剣技の型はこれとなる。ただし、双剣、両剣はゲイムギョウ界での様々な出来事で、劔流から独自に編み出している。

 

〇テレポート

 読んで字の如く。永守の場合は物にマーキングをし、そのマーキングした物体の場所へ転送する。短距離であればマーキング無しでもテレポートが使える。また、多大な精神力は必要となるが、自分と対象の位置を短距離ながら入れ替わる事も出来る。ただし、その場からワープするのではなく、地中に潜り地中から出てくるといった変わったワープ方法な為、場合によっては追撃をされる可能性もある。

 

〇メサイアフォーム

 エンデに打ち勝つ為に、魂だけの存在となったゼロから力を譲り受けた右腕を開放する。身体能力が上がるが、主に右腕から繰り出す殴りや超能力の火力が格段に上がる。力を溜め、突き出しをする事で指弾ならぬ風圧弾を放つことも出来る。

 

〇ゾディアーク/ハートフォーム化(メサイア状態でのみ使用可能)

 ネプテューヌ達の女神化と同様、シェアを源に体を変化させ能力を格段に上げる変身。ゾディアークは負の力(アンチエナジー)寄りで、影から鋭い針柱や影の剣“影剣”を出現させることが出来る。ただし、身体能力は向上するものの、影剣は太陽光や光にめっぽう弱く、真価は夜や洞窟に限られてしまう。

 ハードフォーム化は、シェアエナジー寄りで、条件により2種類の形態がある。基本はガーディアンモードで防御・機動力寄りで白銀の鎧のような見た目が特徴。変身は任意でできるが、変身するには予め右腕を開放してから更にシェアを開放するという二度手間を挟む必要があり、ゾディアーク/ハートフォーム化には5秒程無防備になる。

 

【協力技】

〇ダブルVスラッシュ

 ネプテューヌとのコンビネーション技。ネプテューヌの得意技の一つを互いにX字を描くように斬撃する。永守の火炎とネプテューヌの電磁による二種類の属性攻撃も含まれているが、非常に息の合ったコンビネーションと、対象の両サイドから攻める為、対象は回避するのが難しい状態となる。

 

 



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【情報】武具設定集

何か抜けている部分もあるかもしれませんが、登場した武器の解説や元ネタ等々…



【重火器】

 

 

 

〇Raptor77マグナム 使用者:獨斗永守

 

〔元ネタ〕S&W-M500ハンター

 

 S.T.O.P.所属から持ち始めた自前のマグナムリボルバー、総弾数は5。S&W-M500の50口径マグナムリボルバーを元に作られたリボルバー拳銃。ニグーラの下位生物を一撃で屠れる事に重点を置いた為、発砲と同時に若干の真空波が発生、凄まじい反動の故に撃ち手の安全性は度外視されている。だが、永守はこれを2丁持ちで撃つと言う荒業をしている。ただし、気を抜いた状態で撃てば永守でも腕が吹っ飛ぶ為、オーバードライブ状態でのみ二丁持ちでの射撃、それ以外は一丁の両手持ちでの精密射撃に徹する。また、グリップ部分に電子制御装置が組み込まれており、永守以外では発砲出来ない様に設定されている。現在は、弾の入手が極めて困難な為、他の銃で代用、特注で注文をしたりしている。

 

 

 

〇P2009(仮名) 使用者:獨斗永守、プラネテューヌ諜報部(配布予定)

 

〔元ネタ〕H&K-G11/HMTech-101Pistol

 

 プラネテューヌの諜報部の依頼によって試作された銃、総弾数15+1。空薬莢を出さないという斜め上の方針を元に誕生した専用の弾“ケースノン弾”を使用する。危険な場所に赴く医療が可能な医者が、護身用として使用する事を想定して作成された。威力は申し分なく、アンダーバレルに専用の医療弾が1発込めることができ、遠方の対象に治療薬を打ち込むことが出来る。弾詰まりの確率は低く、反動も少なくコンパでも扱える程だが、試作だけあってか部品が複雑であり、量産体制の確立への見通しは立っていない。

 

 

 

〇コルトSAA 使用者:獨斗永守

 

 シングル・アクション・アーミー。犯罪組織に所属していた時に使用。ゲイムギョウ界から見たら、恐らく博物館物と言われてもいい銃。総弾数は6。この銃が誕生した時は、警官が多く所持していた為かピースメーカーとも呼ばれる。弾を込めるには、回転式弾倉(シリンダー)の専用の口を開け、一発ずつ込めるか、あらかじめ弾を入れた回転式弾倉(シリンダー)と交換する必要がある。此方も永守は二丁持ち。

 

 

 

〇M1911A1-オメガ 使用者:獨斗永守

 

 コルト・ガバメントと呼ばれる銃のコピーモデルで、スプリングフィールド・オメガのマイクロコンパクト9mm弾仕様。総弾数は9+1。なお、基本的に永守のタクティカルリロードは、マガジンを捨てないタイプ。安全にリロードできる場合は、スライドに弾を込めてからマガジンをリロードする方法を取る。スピードリロードも巧みに扱う。ある戦闘中に破損し使えなくなってしまう。

 

 

 

〇GBv12 ⇒ GB-F 使用者:獨斗永守

 

〔元ネタ〕フランキ・SPAS-12

 

 神次元のリーンボックスが試作品として開発した、ポンプアクションとセミオートを切り替えて使う事の出来る折り畳みストック付きの散弾銃。総弾数は7+1。制圧時はポンプアクション、突撃時はセミオートという用途で使用を想定。また、様々な散弾銃用の弾も使用できるようになっている。だが、それにより通常の散弾銃より一回り大きく、尚且つ内部構造が複雑になってしまい、衝撃に脆い上に、通常の12ゲージ弾以外を使うと弾詰まりを起こすという結果となった。更に、単発ながら連射が可能なセミオートにも関わらず、リロードは一発一発の弾詰め方式というのにも疑問が残された結果となる。

 

 その問題点を使用して感じ、神次元で手に入る材料で永守が勝手に改造。基本的には両手で使うが、解放後の右腕による片手撃ちを想定して、引き金部分を大きめに設計。余計な部分を取り除きセミオートのみ、弾詰め方式だがスピードリローダーを使えるように取り換え。弾薬はバックショットとRスラッグのみにし、レッドサイトを装着。

 

これが原因で一時的に新次元のリーンボックスに手を貸す事となる。

 

 

 

〇M19_4インチブラックモデル 使用者:獨斗永守

 

〔元ネタ〕S&W M19

 

 357マグナム弾を使う回転式拳銃で、ル○ンの相棒である次○が愛用している銃でもある。357マグナムを使用する銃としては比較的小さい部類になるが、357マグナム弾に耐えれる強度を保ちつつ、撃ち手の負担を減らす設計が施されており、高い威力と携帯性の良さから、警察官や警備員に普及する。

 

 神次元のベールに大型拳銃を進められるも、その中から携帯性の良さ、上記の人物が愛用していたという事もあり、この銃を選択することとなる。

 

 

 

 

 

【近距離武器】

 

 

 

〇両双剣-ガーディアン 使用者:獨斗永守

 

〔元ネタ〕PSP2ダブルセイバー

 

 通常時は長剣の柄と柄が繋ぎ合ったような形状をしている両剣。柄はジャッジ・ザ・ハードが使用していた斧、刃の形状はブレイブ・ザ・ハードが使用していた剣、刀身の色は赤黒い。また、鍔には片方にネプテューヌが付けてたクロスヘアのような十字のマーク、もう片方は髑髏が象ってある。この柄と柄を切り離す事ができ、両剣から双剣として使用することも出来る。また、双剣状態は柄と柄に1m

 

程度のシェアエナジーによる紐で繋がっており、簡単ながら振り回したり二節昆として使用することも出来る。

 

 

 

〇チェーンクロス 使用者:ジン

 

〔元ネタ〕ヴィパンアイアキラー

 

 銀色の十字架のような形をした鎖鞭。通常は皮の鞭であるが、力を解放する事でこの携帯になる。その鞭には聖なる加護が施されており、完全なる闇、邪悪なる力に支配された者に対し絶大な威力を誇る。鞭である為、様々な使い方が出来る。

 

 

 

 

 

【魔導器】

 

 

 

〇魔の右手―メサイア 使用者:獨斗永守

 

 永守の右手に宿る右手。通常は黒い長手袋で覆いかぶさっているが、右手に宿るシェアを開放(現在は封印を解く文字を描く)事で開放する。解放後の右腕はまさに化物や悪魔の右腕のような見た目であり、紋章のような印が浮かび上がり光出す。この状態では数倍の力を発揮し、強固な籠手のように防御としても使用できる。また、ここからゾディアーク/ハードフォーム化へと派生する。その為、永守は女神化的なのを開放するのに二度挟むようなことをする。また、腕や手が一回り多いくなる為、通常の銃では持ちにくく扱いづらくなってしまう。ハードフォーム化のみ例外である。

 

 

 

〇影剣 使用者:獨斗永守

 

 永守が嘗てゾディアーク中に使用していた、影から作られた刃物。形状を自由自在に変える事が出来るだけでなく、自らの影や相手の影から唐突に作り出し放出することも出来た。ただし、この影剣は日の光や明かりに弱く、最も効果を発揮するには夜か暗い場所となる。再構築されたハードフォームは、シェアの影響が強いために上手く出せない状態である。

 

 

 

〇古の籠手-ディスクシールド 使用者:古の女神、ジン

 

 嘗て女神戦争で使われた、ゲイムキャラの力を借りて同等の魔力を放つ器具。非常に特殊な紋章により、使用者への負担は限りなく少ない。また、女神に力を分け与え、女神の力を最大限に引き出す能力も備わっている。だが、この能力を使うと籠手の力は失われ、タダの籠手同様になる。本来の使い方は、ゲイムキャラの力を受け継ぎ、女神が自らの力を犠牲にして犯罪神を封じ込める為の道具でもある。今回、ギョウカイ墓場で封印されていたのを永守が持ち出し、ジンに力を与えるかのように渡す事となる。

 

 

 

○Tem7Mk2-MPBL 使用者:プラネテューヌ初代女神、ネプギア

 

〔元ネタ〕MPBL-7mk2

 

 剣先がM字をしているMPBLで古の武器の一つ。元々は太陽エネルギー、シェア、生命力をエネルギー源としていたが、長い間放置されており手入れされていなかった為に、タダの剣と化していたのをラステイションのシアンにより、生命力部分を取り外しつつも改良を加え復活を果たす。ビーム放出を切り替える事で、斬撃と射撃が可能。通常のMPBLとは違い、両方のエネルギーを扱う為に、放出されるエネルギーは下級モンスターであれば、防御が全く意味を成さない程の威力を誇る。

 

 

 

○HyperV

 

〔元ネタ〕ハイパーベロシティ 使用者:ラステイション初代女神、ユニ

 

 個人携帯用の大型ライフルランチャーで古の武器の一つ。こちらも太陽エネルギー、シェア、生命力をエネルギー源としており、タダの物置に近い状態だったのを、ラステイションのシアンにより、生命力部分を取り外しつつ改良を加え復活を果たす。通常ではレーザーライフル、形態を変えることでチャージが必要だが強力なキャノン砲を撃てる。見た目とは裏腹に重量は軽い方だが、ライフル自体は大きく携帯には苦労する。

 

 

 

〇サンロッド/ムーンワンド 使用者:ルウィー初代女神、ロム、ラム

 

 初代ルウィーの女神が使っていた杖であり、二つで一つとも言える古の武器の一つ。この杖だけは埃は被っていたが状態は良く、そのまま扱える状態であった。攻撃魔法を助長するサンロッド、支援魔法を助長するムーンワンドであり、二つの杖を合わせた際の強力な混合魔法は天地を揺るがす程と言われる。また、魔法を発動する際に、使用者の魔力や精神力を大きく消費する為に、長期戦には不向きとも言われる。

 

 

 

○ドラゴンウィング 使用者:リーンボックス初代女神、スミレ

 

 竜殺しとも言われる矢を放つ事が出来る、古の武器の一つ。竜の骨を使ったような見た目をしており、化学的な部分が少ないが為に、此方はリーンボックスの手により改良される。シェアエネルギーを矢として具現化し放つことができるが、矢は槍のような形状をしており、槍として使用する事も出来る。古の武器の中で一番デメリットが少ないが、弓自体が非常に大きく、粒子化しての携帯が不可能為に、背負って持っていく必要がある。

 

 

 

○邪聖剣ゲハバーン 使用者:ネプテューヌ、ネプギア

 

〔元ネタ〕邪聖剣ネクロマンサー

 

 禁断の秘術により解放された、魔剣ゲハバーンのもう一つの姿。禁術文庫114号の514ページに載っているが、方法は光の人物が信頼し合える闇の人物を、禁術によって描かれた魔方陣内で、ゲハバーンを闇の人物に刺す事で解放される。憎悪の感情がありながらも、光への解放をもたらす、不安定ながらもチート級の性能を誇る。また、完全なる蘇生を除いた願いを一つだけ叶えるという能力も秘めている。

 

 

 



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Prologue
Scene00 滅亡からの生存、異世界へ~Out World~


皆様お初になります、KeyMaと申します。

初投稿ながら、二次創作として「超次元ゲイム ネプテューヌ THE ANIMATION」の小説を投稿させて頂きます。初投稿及び初小説の為、至らない点等あるかと思いますので、生暖かい目で見守って下さると助かります。


*文章を一部変更修正


 

 

 

 

 

惑星“地球”にて、とある遺跡の採掘調査により、人類を遥かに凌ぐ技術が発見された。人類は高等技術を手に入れ、更に人類は超能力を手に入れ、超能力は日常的になりつつある。しかしながら同時に、超能力による犯罪も増え、軍隊や自衛隊等から最も優れる者を選抜し、対超常現象特別部隊Special Tactics Opposition Paranormal…通称S.T.O.P.が結成され、各国に配備され比較的落ち着いた状態となった。

 

それから数年後、人類は地球外生命体による無差別攻撃が地球に起こる。人類は、黒い翼を持つ事から、地球外生命体を「ニグーラ」と名付け、軍隊や自衛隊、更にS.T.O.P.により侵略者との攻防が始まる。

数年の攻防を行ったが、人類は日に日に追い込まれ滅亡までのカウントダウンが迫っているが、古代遺跡から発見した技術を用いて作成した「タイム・ポータル」で選ばれた人物を転送し、そこで地球を救う為に一人の戦士を送る事を決めた。…解明が完璧じゃないため何処に飛ぶかはわからないけど。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

地球のとある海上にある大型タンカー…そのタンカーは目標地点へタイム・ポータルを輸送する為に進行していたものだった。だが、周囲の街並みは炎に包まれており、タンカーも炎の海状態であった。そのタンカーの甲板に、S.T.O.P.と印字されている防弾チョッキを身に着けているボロボロの軍服の青年2人、その目の前には、ガーゴイルのような、ニグーラの親玉の化け物が満身創痍状態で、青年達に告げる。

 

 

 

 

 

「無駄だ、我を倒したとしても、貴様らに勝利など無いのだ…。」

 

銃を両手に持つ男は、それを聞くと軽く息を吐き、躊躇いなく銃を化け物に向ける。

 

「その時は、まだ俺達がいる。安心して寝ていろ。」

 

男はゆっくりと引き金を引き、銃声が周囲に響き渡る。男の持っていたリボルバーから放たれた弾丸が、ニグーラの眉間に当たり風穴を開け、ニグーラが仰向けに倒れこみ、ピクリとも動かなくなる。

 

「これが、地球流だ。…覚えておけ。」

「エース、奴が言った事が本当なら厄介ですよ。」

 

男が銃を下したと同時に、目元に布を巻いた相棒が話かけてきた。エースとは銃持っている男のコードネームだと思われる。そして、その男の相棒と思われる男は、盲目の念動力のエキスパートで、コードネームはケンシと言う。

 

「相棒…だからこそ、犠牲になった仲間の為にも、タイム・ポータルの転送に全てを掛けるんだ。不安要素は払いきれてはないが…。」

 

男二人は既に起動してあるタイム・ポータルに目を向ける。空に向かって光り輝く柱が装置の真ん中に出ている。しかし、彼らには鋼の精神力があろうとも、少なからず不安もある。起動方法と転送されるのは解明済みだが、実のところ、これに入ったら何処に転送されるかは彼らは知らないのだ。

 

 

 

 

 

その時、周辺から爆発が起きる。

 

 

 

 

 

「…危ない!」

 

爆発と同時にエースはケンシによって吹き飛ばされる。直ぐに体制を整え直すと…。目の前には、爆発と同時に落ちてきた大型コンテナに、下半身が下敷きになって動けないケンシの姿があった。

 

「相棒…!!今助けるぞ…!」

 

エースはすぐにケンシの元へ駆け寄り、大型コンテナに隙間を作るようにと思い持ち上げる。だが、コンテナは想像より重く、少しも上がらない。ケンシも念動力で持ち上げようと試みたが、この長い戦いで消耗しきっているのか、コンテナは全く持ち上がらない状態である。その間にも、彼らの周辺から爆発が激しくなっていく。このままでは二人とも木っ端微塵になってしまうその時、突如エースの体が宙に浮く。

 

「な、テレキネシス…!!お前…!!」

 

本来、テレキネシスは生物に対して効果を発揮するのは難しいのだが、ケンシは念動力のエキスパートであり、生物に対しても念動力を発動出来る体質になっている。エースはケンシが何をしようとしているのか分かり、。

 

「私はもう無理だ…。だからこそ、お前に全てを託す…!!」

 

そして、ケンシの念動力によりエースは弾き飛ばされ、タイム・ポータルへ吹き飛んだ。転送装置に入ったエースの体が、遺伝子レベルに分裂し転送が開始され、意識が途切れてしまうのだった―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、そこは真っ暗だった。目と口、声は出せるが、体、首すら動けない。だが、目の前に誰かがいるのは見える。銀色に近い白い長髪で、黒のロングコートを纏っている人物が背を向けて立っている。目の前にいる人物に問いかけてみたが、こちらに気づいていないのか見向きもせず、俺と同じように固まっている。

 

「…転送は、失敗したのか…?」

『いいえ…貴方は、彼ら…いえ、獣にとっては反逆者、彼女らにとっては希望となるかもしれないでしょう。』

 

突如、頭の中から声がした。まるで語り掛けられているように…。しかも、彼ら、彼女らって誰のことだ…?そんなことを考えていると、目の前に光る玉が現れる。如何やら語り掛けてきているのはこの球体らしい。

 

『貴方のいた世界は滅びてしまいましたが、貴方にはまだやるべき事があります。』

「俺は…死んだのか…?それとも、転送に失敗したのか…?」

『安心して下さい。貴方は生きています。今は、転送している最中の貴方をこの世界に呼びました。しかし、目的地の設定もせずにあのような行動をするのは、無謀にも程があります。もし私が手を出していなければ、貴方は永遠に転送世界を彷徨うことになっていました。』

「どちらにしろ、失敗に終わっていたのか。妙なところで借りができたな。…ところで、貴方と、目の前にいるあの人物は誰だ?差支え無ければ教えてくれないか?」

『今はそれを説明する事は出来ません。もう話せる時間が少なくなってきましたので…。ですが、貴方には未知なる力が宿っています。願わくは、その力を、ゲイムギョウ界を救う為に使ってください。』

 

ゲーム業界?いや、ゲイムギョウカイって言ったな。そっちでも何か起きようとしているのだろうか。

 

『さぁ、御行きなさい。例え目を背けたくなるような事があっても、立ち向かって下さる事を願っております。』

 

声が徐々にフェードアウトしていく中、真っ黒な空間から徐々に水色に変わっていく。また別の場所に来たようだ。周りを見渡すと、どうやら青空のようだ。ここがさっき言っていた、ゲイムギョウカイなのか?それにしても、雲が同じ高さにあるな。

 

 

 

 

 

………ん?

 

 

 

 

 

下を二度見、一瞬で体が凍り付く感じがした。

 

「これは…。」

 

理解した時には時既に遅かった。ふわっと体が下に落下していく感覚、紐無しバンジーが始まってしまうのだった。

 

徐々に落下速度が上がっていく。少しでも速度を落とす為にスカイダイバーと同じ感じに手と足を広げた状態になる。これで速度は200kmになるが、下に水面が見える。…まぁこの落下速度じゃコンクリートに激突するのと変わらないだろう。…と、冷静に解析している場合では無い。幾ら体が頑丈だと周りから言われてとはいえ、流石に無傷で着水する自信はない。最悪潰れたトマトみたいになる…それは御免だ。だが、俺には前々から出来るのではと思っていたことがあり、それを実行することにする。

 

「…うまくできるかわからないが、試す価値はあるだろう。」

 

超能力、エアロキネシスを両手両足に纏う感覚で発動し、ホバリング、グラインドするように扱ってみる。…なんとか減速はしているものの、かなりの速度での水面落下は免れそうにない。結果、それなりの勢いで水面に着水し水中へ潜っていく。結構痛いが、まだ生きているし、手足とかはもげていない。流石に“どざ〇もん”になるのは御免だ。直ぐに上を向き、光が差している方向へ泳ぎ水面に出る。

 

「ぶはぁ…!!」

 

水面に出て、直ぐ近くにあった手すりによじ登り、倒れこむように中に雪崩れ込む。ボロボロの軍服がずぶ濡れで、防弾チョッキも重い。幸先嫌になる…。あの語り掛けてきたのが何者かを探る必要があるな…文句を言いたい気分だ。だが、不思議なことに服はボロボロだが、さっきまでニグーラと争って傷ついていた体は癒えているし、疲労もなんか取れている。…文句を言いつけるのは後回しだな。

 

 

 

 

 

「あ、あのぉ…?」

 

 

 

 

 

声に反応して目の前を見ると、黒い長髪で黒いワンピースのようなのを来た女の子が、驚いた表情で立っていた。

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

最初は、空中からスタートか、水中からスタートのどっちにしようか悩みましたが、定番の空中からバンジーに決めました。また、物語のスタート地点も変えてみました。今後、ちゃんとキャラの性格を反映した上で書けるかが不安ですが…。


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BFE~ようこそ、こんにちは、ゲイムギョウ界編~
Scene01 空から舞い降りた傷だらけの戦士


話の内容自体は脳内である程度出来てましたが、いざ文章にしてみると、中々難しいですね。


 

 

 

 

 

『友好条約』

 

 

 

 

 

それは、現実とは別の世界と言っても過言では無い、次元に存在する世界“ゲイムギョウ界”で各国の女神によって交わされた条例の一つである。西方にある、女神“パープルハート”が守護している斜め上の尖った技術を持った未来志向都市プラネテューヌ。東方に女神“ブラックハート”が守護する技術都市ラステイション。北方に女神“ホワイトハート”が守護する白き魔法国家でもあるルウィー。海を越えた南方に女神“グリーンハート”が守護する独特な技術を持つリーンボックス。嘗ては初代女神たちによる、シェアの奪い合い、即ち自分の国がNo1だということを“力”、“武力”で証明する為だけに、四女神は長い間争いを続け、周囲にも膨大な損害を与えたという歴史がある。その中でも“タリショック”はこの世界ではかなり有名な歴史となっている。それを打開する為、現在の四女神達は交渉の末、武力でのシェアの奪い合いを禁ずる条約『友好条約』を結び、過去の争いの際に使っていた武器を、各国に封印する事で成立した。

 

これは、そんな友好条約宣言が開催される前日に起きた事である。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねーねー!これどうかなぁ?あ、ここはちょっとセクシー路線でこんなのもいいかな!」

 

時刻は午前10時前後。プラネテューヌの教会の一室で、とても選んでいる本人にはサイズ的な意味で着れそうにないドレスが並んでおり、それを選別している少女が騒いでいる。彼女の名前は“ネプテューヌ”。ここプラネテューヌを守護する女神パープルハート本人である。その光景を、女神候補生であるネプテューヌの妹“ネプギア”が苦笑しつつ見ている。そこに、ふわふわと浮いていて、妖精のようであり、プラネテューヌの教祖でもある“イストワール”がネプテューヌに怒り気味に言う。

 

「ネプテューヌさん!衣装決めよりも、明日の宣言文は考えましたか?」

「え~、そんなのアドリブでいいじゃないの?ほらわたし、主人公だし!」

「一体その自信はどこから来るのですか…。」

 

Prrrrr―――――

 

そんな会話をしていると、電話が鳴り響きネプギアが電話に出る。

 

「あ、ノワールさん?」

「ノワールから?珍しいね、これから雨でも降っちゃう?」

 

電話の相手はラステイションのノワールからだった。ネプテューヌは電話の相手が珍しいのか、衣装選びをやめてネプギアの元へ歩み寄る。ネプギアは相槌を入れつつ、電話を切り内容を伝える。

 

「ノワールさんからだけど、今からラステイションの教会に来てほしいって…。」

「何々?友好条約前に寂しくなって会いたくなっちゃったのかな?」

「いや、それはないと思うよ?ちょっと慌てた感じだったし。」

 

具体的には、ラステイション教会付近の湖で、強いエネルギー反応が一瞬だけあり調査をしたいところだが、明日の友好条約の準備の件で少々席を外すことになるので、どうせ暇してるだろうという事で、代わりに調べてくれないかという内容だった。それを聞いたネプテューヌは、どうしようかなぁっという面倒そうな態度を醸し出している。それを見たイストワールは、溜め息をつく。

 

「はぁ…、宣言文は私の方で考えておきますので、ネプテューヌさんはラステイションに向かって下さい。ネプギアさんもお願いしますね。ネプテューヌさんだけじゃ心配なですので。」

「え~?わたし一人じゃ心配なの?」

「心配です。」

「あれぇ…?」

 

そんなことがあり、ネプテューヌとネプギアは渋々ラステイションへ向かう事となった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

【数十分前】

 

ラステイション教会付近にある湖の屋根付きテラスに、一人の少女が落ち込んだ様子で、ため息を付きつつ椅子に座っている。彼女はラステイションの女神ブラックハートこと、ノワールの妹であり女神候補生の“ユニ”である。褒められたい為に頑張っているが、現段階では空回りしており仕事が上手くいかず、ここで心を落ち着かせているようである。

 

(はぁ…、どうしたら、お姉ちゃんみたいにうまく出来るのかな…。)

 

そんな事を考えていたが、顔を両手で優しく叩いて気持ちを切り替えようとする。

 

(ダメダメ…、こんなの私じゃない。こんなことで悩んでたらネプギアに負けちゃうじゃない。)

 

そんな事を思いつつ背伸びついでに上を向いたら、空から何か落ちてきているのが見えた。なんだろうという疑問を持ち、テラスの手すりから少し身を出して覗いてみた。よく見えないので目を凝らしながら見てみた。

 

―――人だ。人が紐無しで、パラシュートなしでスカイダイビングをしているのが見えた。

 

「え…えぇーーー!?」

 

軽くパニック状態である。その混乱状態に更に追い打ちをかけるかのような驚くべき光景でもある。最初こそ凄い速度で落下していたが、なんと少しずつであるが、徐々に減速して落下しているのである。まるで夢でも見ているのかと思う光景である。そして湖の水面へ着水し、勢いよく水飛沫が飛び散る。助けにいったほうがいいのか悩んでいると、直ぐ近くで水面に空気が溢れているのが見えた。

 

「ぶはぁ…!!

「わわっ!?」

 

あまりの出来事に驚いて、尻餅をついてしまう。先ほど空から降ってきた人なのか、軍服のような服を着た男が水面から出てきたのだ。その男はテラスの手すりにつかまりよじ登り、雪崩れ込むようにテラス内に入ってきた。軍服のような服は、所々ボロボロになっているが、驚くべきことに“親方!空から人が!”と思う程で、それなりの速度で着水したにも関わらず、無傷に近いのだから…。

 

「し、死ぬかと思った。星占いでも確認しときゃ良かったぜ…。」

 

どうやら、男の方も結構驚いているようだ。色々と思考を巡らせていたが、何者なのか気になるので、勇気を振り絞り、声を掛けてみた。

 

「あ、あの、大丈夫ですか…?」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

俺は声のする方に顔を向け話し出す。そこには長い黒髪でツーサイド結びをしつつ、黒いノースリーブワンピースのような服を着た女の子が前かがみでこっちを見ていた。一部始終を見ていたのか、驚きを隠せてない表情をしている。兎に角、事を大きくしたくはないし、情報収集もしなければならない。大丈夫的なのを言いつつ、ここは何処なのかも聞いておこう。

 

「ああ、何とか…。一つ聞きたいのだが、ここはゲイムギョウカイか?」

「え…?ええ、ここは確かにゲイムギョウ界で、ここはラステイションですが…?」

「ラステイション?この街の名前か?…聞いたことない名前だし、転送は出来たのか。」

「転送…?一体何の話を…。」

 

まぁ、いきなり空から降ってきた上に、転送とか言っちゃ疑問を感じるよな。とりあえず、軽く自己紹介した方が良さそうだよな。

 

「失礼、名前ぐらいは言わなければ…。俺は、永守、獨斗永守(どくとえいす)だ。」

「あ、アタシはユニって言います。このラステイションの教会の女神候補生です。とりあえず、教会に来てください。そのままじゃ、風邪引いちゃいますよ?」

 

確かに。ボロボロの軍服も一般の人から見たら怪しいとか、心配な目線で見られてしまうな。しかし、女神様の候補生とな?どうも俺の知っている女神と違うなと思いつつ、“分かった”と告げてついていくことにした。

 

教会の目の前まで来て、教会に入ろうとした時だった。

 

「おーい、ユニちゃーん!」

 

後ろから声がしたので振り返って見る。そこには、二人の少女がいて、元気そうな方が手を振りながら、ユニの名前を言っていて、その後ろからもう一人の女の子が追いかけてきている。姉妹だろうかと俺は思った。

 

「あ、ネプテューヌさん!それにネプギア!なんでここに?」

「ノワールさんから電話があって、強いエネルギー反応があったって事だから、代わりにその調査をしてほしいって連絡があったの。」

「…で、このずぶ濡れの人、誰?」

 

ネプテューヌという子が俺の方を向きつつ首を横にして言う。とりあえず、俺はこのずぶ濡れの状態をどうにかしたいのだが…。

 

「お、お姉ちゃん。詳しいことは中に入ってから聞こうよ。」

 

お姉ちゃん?そっちの方が妹さんなのか…なんか変わった姉妹だな。そうして教会の中へ入るのだった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

ラステイションのとある一室で、用意されたタオルで体を拭き、用意された服を着る。サングラスはヒビが入っているので仕舞っておくことにした。服は何故かスーツだったが、濡れた服よりはいいし、サイズはぴったりだから文句はない。ちなみに、道具一式は調査という形で預けられている。ドックタグだけは回収されなかったが…。

 

「しかし…なんだ、このマークは…。」

 

一見ただのドックタグなのだが、表側にPCの起動ボタンの印が付いている。まぁ、押しても何も起きないのだが…。今は考えていても仕方ないと考えつつ、4人の集まるところへ向かった。

 

 

 

 

 

そんなことをしている間に、ここラステイションの教会の女神であるノワールが帰ってきていたので、全員軽く挨拶をして事の話をした。それから、永守は地球という別世界から来たこととここまでの出来事、超能力が使える事、「ニグーラ」という化け物との戦いの件等隠さず説明をした。ケンシの事も一応話したが、こっちの時間の流れがわからないし、過去か未来かも分からないから生死は不明である。あと、言葉は気を遣わなくていいとの事なので、だいぶ砕けた感じに話している。敬語は色々と堅くなるのだから…。

 

「ちょっとちょっと!わたし主人公なのに重要人物である“えい君”に自己紹介の場面省かれたってどういうことなの!!」

「お、お姉ちゃん…誰に言ってるの…?」

 

そんな中、一人騒いでるネプテューヌにノワールは呆れた感じをしており、ユニは苦笑している。永守は早速ニックネーム呼ばわりされており、え?っという表情をしていた。

 

「それにしても女神…か。俺の知っている女神は、実態がなく空想上の存在であり信仰として讃えている感じだが…。」

「でも、ここゲイムギョウ界じゃ、女神は当たり前のことだよ!」

 

兎に角、永守は自分の知っている、持っている常識が一部食い違うという事は把握した。

 

「にしても貴方、軍人というには随分と物騒な物持ってるのね…。」

 

映画が持っていた荷物を広げておりノワールは言う。ガンホルスターに入っていた357口径のリボルバー1丁。50口径のリボルバー2丁。先端が曲がっている45口径拳銃が一丁にそれぞれの銃に対応した弾丸。軍用タイプのバタフライナイフ。それに携帯電話(スマホ)に財布、ジッポライター。軍手でなく籠手がある。オマケに50口径のリボルバーにはオプションがかなり付いている。あと、さっきから出ている銃を触りたそうにユニがチラッチラッと見ている事に気づく。

 

「まぁ、銃は俺のお気に入りなんだが。…触りたいなら触ってもいいぞ?」

「い、いいの?じゃあお言葉に甘えて…。」

 

永守がそう言い、ユニは銃を調べ始める。結構手慣れた手つきをしていると永守は理解する。それと、思い出したかのように、首に掛けているドックタグを取り出す。

 

「一つ確認したい。こっちに来た時に気づいたんだが、この模様、なんだかわかるか?」

「これ、私達女神と同じマークじゃない!?」

「あー!ホントだー!」

 

ノワールとネプテューヌが驚いたように言う。

 

「なるほど、このマークは女神の象徴とも言えるのか。しかし、何故俺のドックタグに刻まれているのかが気になる。」

 

それを言うと皆悩んでしまう。そんな悩んでいる中、ハッと思いついたかのようにノワールは言う。

 

「ところで、これからどうするの?こっちは明日の友好条約の事もあって、教会とかに部屋がないけど。泊まる場所とかどうするの?」

「そうだな。金を稼げる場所があれば、そこで稼いで寝床でも探すさ。」

 

永守は持ち物を身につけつつ、そう告げる。そうすると、ネプテューヌが手を上げて永守に話しかける。

 

「じゃあさ、プラネテューヌに行って考えようよ。多分住めると思うよ!難しい事考えても仕方ないし、いーすんなら何とかしてくれるでしょ!」

「住まわせるのは大丈夫かと思うけど、いーすんさんが許可出してくれるかな?」

 

何か閃いたかの如く、ネプテューヌが言うが、ちょっと心配そうにネプギアが言う。…なんかこの子不安要素が多い気がする。ノワールも溜め息ついてるし、ユニも苦笑するしかない雰囲気を出している。

 

「ネプギア、ここは考えるより行動あるのみだよ!そうと決まれば帰るよ!」

「ま、待ってよ、お姉ちゃーん!」

 

そう言って、ルンルンステップで教会から帰ろうとするネプテューヌ。ネプギアはそれを追いかける。ノワールは、”もう帰っちゃうの!”とか言ってるが全く聞いてない感じである。

 

「ああいう友達持つのって、苦労してそうだな。」

「と、友達!?ね、ネプテューヌは友達じゃなくて、ら、ライバルよ!」

 

…この反応、これがリアルツンデレって奴か。まぁそれは置いといて…。

 

「明日の、友好条約だっけか?あの子の事だから、多分俺も参加する事になるよな…。参加する事になったら明日も宜しく頼む。」

「あ、ちょっと待って。街の外はモンスターが生息してるから、ネプテューヌから離れないようにしてよ。」

「…化け物なら前の世界で見飽きるくらいみたがな。気をつけるよ。」

 

軽く挨拶をし、ネプテューヌを追いかける。どうも帰りも歩きのようだが、特に好戦的なモンスターはいないので、危険もなくプラネテューヌに着くことができた。しかし、ここのモンスターは随分と可愛い見た目のが多いなと実感した永守であった。

 

 

 

 

 

時刻は夕方になっていた。ここプラネテューヌ教会内での出来事。

 

「全く、ネプテューヌさんは…。明日友好条約の宣言があると言うのに、どうしてこう問題を一つ増やすのですか。」

「ね、ねぷぅ。」

 

案の定、叱られてしゅんっとなっているネプテューヌであった。提案としては、見知らぬ世界を彷徨う俺を教会に住まわせ、あわよくば仕事を手伝ってくれ的な事をイストワールに告げていた。ネプギアも前者の件には同意している。そうそう、教会に着いたら女性が2人いて、青いロングコートを羽織っていて、四つ葉のクローバのような髪飾りをつけている諜報部所属の“アイエフ”、桃色のカチューシャにセーターのような服を着ている看護師見習いの“コンパ”、最早読者には説明不要でもあるいーすんこと“イストワール”に軽く挨拶を交わした後の光景である。

 

「そうよ、ネプ子。明日の友好条約はただの宣言じゃないはずよ?」

「でも、あいちゃん。特に問題は起きてないし、いいんじゃないですか?」

 

そうしている内に、叱り終わったのかイストワールが永守のところに来る。

 

「お待たせしました。事情は聞いております。恐らく不安な事もあると思いますが、暫くはここプラネテューヌの教会で保護する事になりますが、宜しいですか?」

「野宿するよりは、有り難い。承知した。」

「ところで部屋はどうするの?空き部屋とかあるの?なかったら、私とネプギアと一緒に?」

「後者は全力でお断りする。」

「安心してください。空き部屋はありますよ。必要最低限整ってるので、ご自由に使っても構いませんよ。」

「それは有り難いな。」

「それじゃ決まりだね!これから宜しくね、えい君!」

「此方こそ宜しく頼む。それに、ネプギア、イストワール、アイエフ、コンパも、皆、宜しく頼む。」

 

ネプテューヌと右手で握手を交わしつつ、全員にも交わす。

 

 

ちなみに、今後寝泊まりする部屋は個室だが、一人暮らしの小さなアパートよりは広く困ることはない感じだった。あと、イストワールが俺の役職を特別枠として『プラネテューヌの女神補佐及びハンター見習い』と言う席を貰い、明日開催される友好条約にも参加する事になった。これでゲイムギョウ界は平和になるとは言ってるが、俺はこれを見る為に来たとは到底思えない…。

 

 

 

 

 

 




 ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

 今回はテストを兼ねて、会話の鉤括弧部分の間を入れない状態で投稿してみました。行き成りオリジナル展開な上、前回同様、スタート地点をラステイション。出現時期を友好条約宣言の前日にしてみました。少々オリジナル路線が続くかと思いますが、もし興味があれば、次回も宜しくお願いします。


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Scene02 平和に向かっての歩み

こんな小説でも、開いてくれる人がいるんだなと驚いております。
最後まで読んで下さってる方は何人いるかも気になりますが…。



 

 

 

 

 

―――――私達は、過去を乗り越え、希望溢れる世界を創る事を、ここに誓います――――――

 

 

 

 

ここプラネテューヌのプラネタワー前で、今まさに新しい歴史を刻む為の“友好条約”の式典が行われている。紫色で胸元が大胆にも開いているドレスに、明るい紫色の三つ編を2つ下した髪型をしたパープルハートことネプテューヌ。黒いミニスカ風のレースドレスを身にまとい、白く輝く銀色の長い髪をしたブラックハートことノワール。白いドレスに薄水色で長い揉み上げが特徴のホワイトハートことブラン。豊満な胸を強調する緑のグラデーションが掛かったドレスに身を包み、美しいロングポニーテールを(なび)かせるグリーンハートことベール。4人の女神が、互いに手を合わせ、誓いを立てている。宣言後、煙幕花火と共に盛大な拍手が響き渡る。

 

コードネーム“エース”こと、獨斗永守。俺は今、この友好条約を一般席…でなく、プラネテューヌ代表の席にいる。場所はアイエフの隣になる。昨日着たばかりで且つ、特例で補佐となった俺が、この場に居合わせていいのか不安だったが、ネプテューヌやイストワールの許可もありこの席にいる。しかし、あれが各国家の女神であり女神化という奴か。拍手をしながらだが驚きを隠せない。まぁ、一番驚いたのはネプテューヌの女神化なのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【友好条約開始の数十分前】

 

「ネプテューヌさん。式典のスピーチはちゃんと覚えましたか?」

「だいじょぶだいじょぶー!もうバッチリだよ!」

 

友好条約の式典が開始する前のプラネタワー内の一室の事。若干心配を払いきれないイストワールに、Vサインをするネプテューヌがいる。この状態でのネプテューヌが宣言しても、威厳とかないような気がしたが、どうも話によると女神は“女神化”という一種の変身ができ、それで宣言をするとのことだ。しかし、気になるのはやはりネプテューヌの女神化だ。

 

「そういえば、まだえい君はわたしの女神化って見た事ないよね?」

「…俺の心を読んだのか?」

「一応確認ですが、国民からの女神を信じる心がシェアエナジーの源となっていて、それを開放した状態…といえばわかりますか?」

「本来であれば、私も女神化できるはずなんだけど、私含めて、ユニちゃん、ロムちゃん、ラムちゃんはまだ女神化できないの。」

「女神だけが出来る芸当か。」

「きっとえい君も驚くよ!それじゃ、変身するから、その目でよーく見てね!刮目せよ!!」

 

ネプテューヌの周り輝き、変身が始まる。髪が長くなり、三つ編を2つ下した髪型となりつつ、身長も伸び美しい体つきへ変わる。普段はユニットという戦闘用スーツらしいが、今回は友好条約の件で紫色の胸元が大胆にも開いているドレスとなる。

 

「…変身完了。」

「おh…。」

「ふふ、どう?驚いたでしょ?…あんま表情は変わってないみたいだけど。」

「悪いな、表情硬くて。これでも結構、驚いてんだ。」

 

ヒーローモノの変身かと思っていたが、雰囲気がガラリと変わるとは思っていなかった。しかし、今の俺の首と視線は明後日の方向を向いている。意識してはないが、どうも今のパープルハートことネプテューヌの衣装が、俺の脳には刺激が強すぎたみたいだ。こんな時に嫌な癖に気づくとは。

 

「目が泳いでるようにみえるけど、大丈夫?」

「…今日初めて分かった癖なんでね。」

 

そんな他愛もない話?をしていると、友好条約開始の時間が近づいてきた。

 

「それじゃ、わたしは行くわね。えい君、ちゃんと見ててね?」

 

変身してもその呼び方は変わらないのか…中身はネプテューヌだと理解した。

 

 

 

 

 

友好条約の式典が無事終わり夜となる。プラネテューヌの教会であるプラネタワーの展望台で、祝祭パーティーをする事となっている。俺はサングラスを取りに一度部屋に戻って、展望台に向かって廊下を歩いている。今はスーツ姿であるので、周りからみたらどこかのボディーガードマンか?と思うような恰好である。

パーティー会場である展望台の扉を開けると、そこは講演会場以上の広さがあり、プラネタワーから照らされる明かりが、展望台を芸術品の如く照らしている。既に先客が多数おり、ベランダの方にネプテューヌがいて、その周りには料理や飲み物、デザート等充実したテーブルがあたりにある。

 

「来たわね、えい君。」

「もう居たのか。時間にルーズそうだと思ったがな。」

「こっちのわたしだと、結構真面目なのよ?」

「そーなのかー。(棒)」

「ちょっと、棒読みだし何処ぞの妖怪みたいになってるわよ…。まぁいいわ、ここから一望できる夜景、凄いでしょ?」

「確かに、これは絶景だ。」

 

プラネテューヌを一望でき、夜景としては打って付けの場所とも言える。超巨大な大都会の夜景っと言った感じだろうか。見渡す限り、建物の明かりがあり、それが一層幻想的に見える。ふと声が後ろから聞こえたので振り向く。

 

「やっぱり。ここに居たのね、ネプテューヌ、永守。」

「ブラックハート様。…いや、ノワールか?」

「あら、良く分かったわね。」

「雰囲気…か?」

「ところでノワール。何の用なの?」

「皆集まったし、乾杯するから探したのよ。こっちとしては、いつまで待たせる気?ってことよ。」

「そう、皆集まったのね。それじゃ、行きましょ。」

 

適当に開いているテーブルに寄り、職員から飲み物が入ったグラスを受け取る。すると、誰かが此方に来ているのが見える。

 

「てめぇが昨日イストワールが言っていた、異世界から来た獨斗永守だな?」

「ああ、間違いないが…。」

 

威圧感ある乱暴な口調でこちらに話しかけてくる薄水色の髪の女性が話しかけてくる。この人がホワイトハートかな?

 

「貴方は、ホワイトハート様か?」

「へぇ、良く知ってるな。一応挨拶するが、てめぇの言う通り、わたしはホワイトハート。本名はブランだ。ついでだが、改まった言い方はいらねぇよ。」

「ブラン、貴方は初対面の方に少々粗すぎませんの?横から失礼しますわ。わたくしはグリーンハートことベールですわ。以後お見知り置きを。」

「これはご丁寧にベール様。私は…」

「獨斗永守さんですわね?イストワールから聞いておりますわ。それに、様付けとか、そんな硬くならなく“ベール”で構いませんわよ?」

「…分かった。極力失礼のないようにする。」

 

ホワイトハートことブランとグリーンハートことベールにも軽く挨拶を交わすと、更に集まってくるかのように、二人の女の子が来る。

 

「いたいた!お兄さんが噂のど〇えもんね!」

「…お兄さん、ど〇えもんなの?(おろおろ)」

「死んでないのに、凄い覚えられ方だな…。この子達は?」

「わたしの妹達だ。ほらおめぇら、自己紹介しな。」

「はいはーい!ラムちゃんでーす!期待の女神候補生でロムちゃんの妹でーす!」

「ろ、ロム、です。宜しく…お願いします。(そわそわ)」

 

この子達はブランの言う妹で双子のようだ。内気で人見知りっぽく水色のドレスを着ているのが姉のロム。長髪で元気ハツラツなピンク色のドレスを着ている方が妹のラムという。似てはいるが、性格がまるで正反対だ。ラムの方が姉に見える。そうしている内に、またこちらに数名来ているのが見える。

 

「こんばんは、永守さん。」

「ユニか、こんばんは。」

「随分と賑わってるじゃないの。貴方、大人気ね。」

「はいです、永守さん大人気です!」

「…困る程大人気なのだが。」

 

ユニ、アイエフ、コンパも此方に来て、更に賑やかになる。まるで動物園にいる動物を見に来るかのように集まっている感じだ。

 

「挨拶は済んだかしら?あまり周りを待たせるのもあれですし、えい君の歓迎含め、友好条約締結の乾杯をしましょ?」

 

ネプテューヌがそういうと、各自グラスを持ち、それを見たネプテューヌは口を開く。

 

「それでは、四ヵ国による友好条約の締結により、より良いゲイムギョウ界へとなる願いを込めて…乾杯!」

 

そして周りからは「乾杯」の合唱が響き渡る。俺は周りの人に乾杯を交えていると、ネプテューヌがこっちに寄って来た。

 

「それじゃ改めて、これから宜しくね。えい君。」

「こちらこそ、暫くは頼らせて貰うがな。」

 

そうして、俺はネプテューヌとグラスを交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………、旨い。」

 

俺は今、テーブルにある様々な料理を味わって食べているが、手が止まらない。ああ、焦るな焦るな、丁寧によく味わって食べよう。…そんな事を思っている俺がいた。今までまともな食事に有り付けなかった反動なのか…。良くて即席ラーメン。時間がない時はカロリーゼリーやらエネルギースティックあたりしか食べれなかったもんだからな。ガムは許容範囲…最悪雑草や土…いや、今はあんな地獄じゃないのだから考えるのは止めよう。しかし、どいつもこいつも口の中に入れると、旨味の戦争が起きている。

 

「随分と美味しそうに食べるわね…。」

「今まで落ち着いて飯に有り付けなかったもんでね。空腹時は、ガムで凌いでいた時もあった。」

「なんか、話を聞いた以上に過酷だったのね…。」

「それだけ環境や物資がやばかったって事だ。」

「今日の日の為に腕に寄りを掛けて作ったですよ!」

「…これ全部、コンパが作ったのか?」

「はいです!まだまだあるので、どんどん食べちゃって下さいね!」

 

そんな事をしていると、ベランダの方にネプテューヌがいて、ネプテューヌの体が光り出す。

 

「ひゃっほーい!おわったおわった!!」

「貴方は、ホントに落差が激しいわね…。」

「ネプテューヌばかり目立つのは気にいらねぇな。じゃんけんで決めたのは失敗だったぜ。」

「んもーブランは、そういうのは無しって最初に決めたでしょ?」

「そうですわよ?今更後悔しても大人気ないですわ。」

 

ノワール、ブラン、ベールの体が光り出し、元の姿に戻る。ノワールは昨日見た時のまんまだ。ブランは、あの乱暴な印象から180度変わったかのような、如何にも大人しく真面目そうな女性へ変わる。一方ベールは、緑色のポニーテールから、三つ編みで後頭部を結んでいる美しい黄色の長髪へ…印象はあんま変わらない感じはする。

 

「それよりもさ、ノワール!どうだったわたしのスピーチ?」

「そ、そうね。よかったんじゃないの?…どうせイストワールに頼んで書いたんでしょうけど。」

「ん~!わたしだって考えたんだからね!!」

「一行だけだよな。」

「ちょ!えい君それ言わないお約束!!」

 

それと同時に周りから笑い声が響き渡る。

 

 

 

 

 

あれから数時間経ち、パーティーも終わり、参加者は元の国へ帰るか予約済みのホテル等に帰っていった。後片付けが終わり、ライトアップもなくなり薄暗くなっている展望台のベランダで、余った酒を注いでいたグラスを左手に持ち、ベランダから夜街を眺めている。

 

「(酒を飲むなんて何年振りだろうな。以前の世界でも、こんな光景はあった。だが、託されたとはいえ、俺は親友すら守ることができなかった…。)くそっ…。」

 

いつの間にか右手を手すりに手を掛けており、力強く握りしめていて手すりがミシミシと鳴り響いている。そうしてると、横からネプテューヌが覗いて来ていた。

 

「どーしたのえい君、難しい顔なんかしてさ?あと、手すりが壊れちゃう。」

「ネプテューヌか。…少し考え事をな。」

「考え事?そんな難しく考えると余計迷宮入りしちゃうよ。それよりさ、暇だったらゲームしよーよ!」

「…今から?」

「うん!まだまだ、夜はこれからだよ!!」

「はぁ…少しだけだぞ。」

 

俺は飲みかけの酒を流し込み、ネプテューヌに付いて行くことにした。

 

「(…今は過去のことを考えるのはやめよう。ここは地球じゃなくてゲイムギョウ界。ここへ来た理由もだが、今を生きる事、貢献する事、そして…)この世界を守る事…。」

「んん、何か言った?」

「独り言だ。気にしないでくれ。」

 

 

因みに、この後ネプギア合流し一緒にゲームをしたが、30分程度で切り上げ就寝準備をした。一方ネプテューヌはそのまま続けていたらしくイストワールに怒られていたのを就寝前に見たのであった。

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

ようやく本編に入った…のですが、少々オリジナルストーリーを挟む予定です。
キャラ設定もその内公開予定。


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Scene03 ネプ姉妹と一緒に洞窟探検をし隊

現在、1~2週間ぐらいで1話が出来ればいいなという状況で作成しております。


 

 

 

 

 

―――あの式典から2週間が過ぎた。

 

異世界であるゲイムギョウ界に来た俺は、プラネテューヌに身を置き、補佐として現在プラネテューヌに貢献をする事となっている。やる事は“書類整理”等のデスクワークに、“クエスト”というギルドが管理している依頼を熟すといったところ。ある意味ファンタジーな世界に身を置いているような感覚になる。ただ、日本語が通じるのは助かるが、一部の書類や書籍には呪文か?と思うゲイム語的な文字があり、アイエフやネプギアの教えや辞書を見てなんとか解決している。また、友好条約を利用して、各国と通話をして情報交換等をしている。どういう訳かルウィーとは繋がらない事が多い。まぁあそこは候補生の2人が幼いから仕方ないのかもしれないな。因みに、バイクの運転もするので、免許の変更講習を受け免許を取得。ついでに、アイエフの提案により非公式ながら諜報部の筆記と技能試験を受けた。結果として、まだまだ字が読めないので筆記は酷かったが、技能は今後塗り替えられないであろう記録を叩き出してしまった。まぁ非公式なので記録には残らないとのことだ。

 

 

 

 

 

しかし―――――

 

 

 

 

 

「良くこんな状態でシェアを保てるな…。」

「だって、わたしは主人公だよ!!」

「(僅かずつだが下がっているが…。)」

 

今、俺の目の前ではネプテューヌがゴロゴロしつつゲームをしている。俺の記憶が正しければ、式典後の彼女の2週間は「起きる→朝食→ゲーム→昼食→ゲーム→夕食→ゲーム→風呂→寝る」のループだ。ネプギアもしっかりしている…と思いきや、仕事を催促からの、流されて一緒にゲームやったり、御茶出したり…偶に買い物行ったりクエストで同行しているくらいしか日の光浴びてないんじゃないか?思わず溜め息をするが、側にいたイストワールも同じ事を考えていたらしく、同時に溜め息をつく。

 

『はぁ…。』

「どうしたの2人共、ため息なんかs―――――」

「ネプテューヌさんのせいです!」「(…自覚ないのか?)」

 

イストワールの気持ちが分からなくもない。いざって時はやるのだが、ぐぅたらしている時間の方が圧倒的に多い。それでも一定のシェアを確保しているって事は、支持事態は悪くはないって事だよな。そんな事をしつつ、書類整理が終わったので、イストワールに書類のダブルチェックのお願いをした。

 

「永守さんの仕事が早くなって、大分助かります。」

「褒めても何も出ないぞ?(偶には血生臭い仕事以外で褒められるのも悪くないな。)ん?」

 

俺は借りているノートパソコンでクエスト一覧を見ていると、1つのクエストに目を付けた。丁度俺がこっちに来た時の翌日に発行されたようだ。内容は以下の通りだ。

 

 

 

 

 

―――

クエスト名:勇気と力の試練

ランク:E

タイプ:調査

依頼主:不明

【内容】

 “バーチャフォレスト・最深部”の最奥に突如現れた洞窟がある。特にモンスターが溢れてくる事はないが、念の為調査をお願いしたい。

―――

 

 

 

 

 

…と具体的な詳細が載っていない上に受けたという報告者もいない。

 

「(なんだ、このクエスト名。だが、気になるな…。午後になったら行ってみるか。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家族団欒な感じで昼食を取り、時刻は午後1時過ぎ。イストワールにクエストをする為外出すると伝え、バーチャフォレストの最深部の最奥にいる。

 

「(ここがクエストの対象である洞窟か。奥は暗そうだな、ライトでも持ってくればよかったか。まぁスマホのライトで代用できるか。)」

 

そのスマホは一度水没してしまったが、ネプギアが“一晩で直せますよ?”という事で修理してもらい、『Nギア』というスマホ型端末機へと変貌した。スマホの通常機能を保ちつつ幾つかの機能も追加しているようだ。…これで商売出来るじゃないかってレベルである。あと、修理作成してる時のネプギアの顔が凄く楽しそうだった。そんな事を考えていたら、隣からひょこっと誰かが現れた。

 

「おお!これは冒険の匂いがするねぇ!!」

「………。(ネプテューヌ、なんでこんなところに…。)」

「ん、どうしたの?“なんでこんなところにいるの?”みたいな顔して。」

「人の心読むなよ…。」

「ご、御免なさい、永守さん。悪気があって付いてきた訳じゃないので!」

「ネプギアまで付いてきたのか。」

「それに、えい君がどういう戦い方するか見てみたいもんね!」

「仕方ない、人数多い方が効率はいいだろうしな。行こう。」

 

一人で行くはずが、団体様で洞窟に入ることとなった。このまま追い払う事も出来ない事だろうし、同行して良い事を伝え、洞窟へと入る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中は誰も調査したことがないと思う程明かりがなく、一行はNギア等の明かりで道を照らしている。しかしながら、薄暗いにも関わらず、不思議なことに道は整備されているかのように綺麗である。

 

「こんな所に、まだ行ったことがない洞窟があるなんて知らなかったよ。」

「前々からあれば、周知しているとは思うけど…。」

「依頼自体が2週間前からだから、その時に見つかったんだろう。」

「それにしても、モンスターとかいないね。女神の恩義でも受けているのかな?」

「女神の恩義?」

「各国共通で、一部のダンジョンは教会の管理下でモンスターの調査とかしてるけど、特定の場所では女神の力がダンジョン内に発せられて、それの御陰でモンスターが出没しないみたいですよ。」

「なるほど、ゲイムギョウ界で女神の存在はかなり大きいのだな。」

「ふふん、普段のわたしの行いが良かったからかな!」

『………。』

「ちょっと!そこで二人とも黙り込まないでよ!!わたし、主人公だよ!主人公がこんな扱いされていいの!!」

 

そんな事をしていると、奥から光が漏れているのが見えた。一行はそこへ向かうと、今までの洞窟とは思えないほど、どうしてあるのだと言う感じの神殿で、水晶のような物体が光っており内部を照らしている。周りには絵文字が刻まれており、中央の台座部分には紫色の水晶玉のようなのが見える。

 

「おお、何ここ!!」「うわぁ、綺麗…。」

 

ネプ姉妹は驚いているが、永守は冷静に周りを見渡し、直感したのか刻まれた絵文字へと近づく。

 

「えい君、どうしたの?」

「分からないが、これを解読したら俺が来た理由がわかるかもしれない。断定は出来ないが…。」

「それなら、私も手伝います。」

「それじゃあ、先ずは絵文字の解読からだね!!」

「何とか読めそうだな。兎に角、解読してみるか。」

「これ全部読み終えたら、お宝とか出たりして。…そう思ったらちょっと面白そう!」

 

最初の方は、初代女神達が争っていたこと、国民のクーデターによりタリという国が崩壊したことが書かれていた。…ネプテューヌは途中から飽きて岩場付近で座っている。続きは以下の通りとなっている。

 

“タリ崩壊後、残った女神達による争いは続いていた。しかし、突如『終焉(エンド)』という悪魔が現れる。それと同時に一人の男が『タイム・ポータル』を通じて天から降りてきた。彼もまた闇の力を持った片翼の天使でありながら、正義の心を持ち女神の味方をし、終焉の野望を阻止。彼を「ルシファー」と称えることとなる。”

 

「(タイム・ポータル…。あの転送装置を完璧にしても、ここに転送されていたのか?)魔族側でありながら、女神側に付き同族に反逆したからでルシファーか…?」

「ルシファーって何でしょうか?」

「俺が知る範囲では、神の方針に反発し天界を追放され、それでも尚自らの信念を通し、天界と戦った…と記憶している。まぁ、ここに書いている事が正しければ、悪魔からしたら裏切り者扱いだろうな。」

「空から降ってきたってのは、えい君と同じだね。」

「馬鹿言うな。俺に翼はない。」

「あはは…。」

 

そんな事をしていると、永守の胸元から光が出ているのに気づく。正確にはドックタグが光り出してる。水晶玉の方を見ると、水晶玉の方も光っている。

 

「ドックタグが、共鳴しているのか?」

「ちょ、えい君!?」

「あ、危ないよ!」

 

永守は水晶玉の方へ歩み寄っており、ネプテューヌとネプギアも心配そうに後ろを付いてく。すると、水晶玉からドックタグへ力が流れているのを感じる。そしてドックタグが急に強く光り出す。

 

「くっ…!」「わぁ!」「うわ眩し!」

 

光が徐々に弱まっていくと、3人は互いを見る。特に異変はないようだ。ただし、ドックタグがアミュレットみたいなのに変わっているのだった。

 

「ドックタグが…。」

「一体、何だったのかな?」

「さぁな。只、こいつから不思議な力が入ったのは事実であり、ここに来た理由が1つ増えてしまったくらいか。」

「結局お宝じゃなくて、歴史の勉強って感じだったね。それじゃあ教会に帰ろっか!」

「うん!」

 

「(…入口から殺気を感じる。)」

 

 

 

 

 

“ドグオォォオオォォーーーーーーーン”

 

 

 

 

 

突如、入口側の天井から何かが降ってきたのである。3人は入口の方へ視線を向ける。そこには3m級の「ゴーレム」がいた。しかし、ネプテューヌとネプギアが知っているゴーレムとは何かが違う。そのゴーレムは、両足はあるが両腕がなく、右腕側に巨大な鎖鉄球が付いており、頭部分には水晶玉がめり込んでいる。こっちの世界でのモンスターは非常に個性や可愛さがあるが、今目の前にいるのはとてもゲイムギョウ界としては、場違いな雰囲気で悪魔の城や最後の物語的なRPGに帰ってくれ的な存在である。突然の出来事でネプ姉妹は固まっていたが、ネプテューヌと永守は鉄球を振りかぶろうとするのを目視した。が、ネプギアは驚きを隠せず動けない状態であった。

 

「わわっ!」「くっ…!」

 

永守はネプギアを抱えつつ、ネプテューヌとは反対方向に横へ飛び移る。元いた場所には鉄球がめり込んでおり、間一髪で避けた感じである。

 

「大丈夫か、ネプテューヌ!」

「うん、こっちはへーき。」

「す、すみません永守さん…!」

 

永守はネプギアを下し、懐に手を入れ、右手に軍式のバタフライナイフ、左手にリボルバーを取り出し持つ。すると短剣に鎌鼬が集う。

 

「おお?それが、えい君の能力?」

「まぁ、その1つってとこだ。」

「ここは倒さないと通れなさそうだね。ネプギア、えい君、行くよ!」

「うん、お姉ちゃん!」

「おう。」

 

ゴーレムからの追撃が来るが、3人の能力が高いのか軽くあしらい攻撃態勢に入る。ネプテューヌは太刀、ネプギアはビームソードを構え3人は接近する。

 

「ちぇすとぉ!」

「行きます!」

「ふんっ!」

 

永守は牽制射撃をしつつ、ネプテューヌとネプギアが交差するように胴体に斬りかかり、永守の風を纏った右手を水平に振ると、真空刃とも言える鎌鼬が現れ斬撃の如く当たる。…が、効果は今ひとつのようだ。ゴーレムからの更なる追撃が来るがこれを軽く回避する。

 

「ねぷぅ!効いてない!?」

「手加減してないのに…!」

「攻撃事態は単純だが、奴の装甲は堅いようだ。」

「これじゃジリ貧だよ、早く終わってゴロゴロ出来ると思ったのにぃ。」

「お、お姉ちゃん。本音が漏れてるよ…。」

「恐らく弱点は、頭の水晶玉だろう。」

「でも、あの高さじゃ遠距離攻撃じゃないと届かないよ。」

「むむむ、これは変身した方がよさそうだね。」

「…俺にいい考えがある。俺が奴の注意を引き動きを止める。ネプテューヌは変身後に奴の頭部を破壊してくれ。ネプギアは万が一に備えてネプテューヌの援護を頼む。」

「それじゃあ、えい君が一番危ないよ!」

「永守さんに何かあったら…!」

「信じろ、多くの死線を乗り越えた酔狂を見せてやるさ。」

「おぉ、よく分からないけど、信じてみるよ。」

 

そう言いつつ、全員が頷くと永守は格闘の構えをしつつゴーレムに向かって猛ダッシュをした。そこにゴーレムの鎖鉄球が飛んでくるが、永守は前宙で飛び越える。

 

「体は堅くても足下はガラ空きだ。はぁあっ!」

 

そのまま勢いよくゴーレムの手前に落下しつつ、岩床にめり込むように拳を叩き付ける。すると、ゴーレムの足下が爆発するかのように崩壊し下半身が埋まる状態になり、上半身が転倒する。それと同時に永守は声をあげる。

 

「今だ!」

「変身するには十分だったわ。ネプギア、行くわよ!」

「この距離なら…!スラッシュウェーブ!」

「クロス、コンビネーション!」

 

ゴーレムの水晶玉目掛けて、ネプギアから放たれた地を這う衝撃波と、パープルハートによる華麗な連撃があたり、水晶玉が砕ける。それと同時に、ゴーレムの体は砕けて岩場だけが残る。

 

「終わったか。」

「ふぅ、なんとかなった…。」

「変身するまでもなかったかしら?」

「もう少し長引くかと思ったが、3対1じゃこうなるか。」

「まぁ、わたし達にかかれば余裕だよね!!」

 

ネプテューヌはいつの間にか元の姿に戻っており、早く帰ろうオーラを漂わせていた。

 

「それじゃあ帰ってゲームしようか。行こう、ネプギア、えい君。」

「うん。」

「…さっさと報酬頂く為に戻りますが。」

 

一行は神殿から出ることにした。突然、永守は足を止め水晶玉があった方を向く。

 

「っ!?(なんだ、視線?)」

「ん?どうしたの、えい君?」

「何か、あったのですか?」

「(この感じ、ニグーラに近いが…。気にしすぎか?)いや、何でもない。手伝ってくれたお礼だ、プリンでも奢るぜ。」

「プリン!わーいプリンー!!」

「永守さん。いいんですか?」

「これくらいしておかないと、なんか気が済まないんだ。まぁ、あいつが仕事頑張ってくれるかは別の話だが…。」

「多分、ご褒美あげても、お姉ちゃんは何時も通りだと思う…。」

 

ネプテューヌ一行は神殿を出ることにした。それを水晶玉がある場所の影から見ている、少年と本に乗った黒い妖精のような小さい少女がいた。

 

「ふ~ん。あれが、オメェが言った、地球を攻めていた“エンド”という奴を倒した男の1人なのか。感も鋭いし、中々面白い奴じゃないか。」

「本当だったら、エンドが2人とも殺っちゃって、悪魔の契約(ディアボロス・アグレメント)でボクらの右腕になる予定だったんだけどね。まぁ、1人はタイム・ポータルに巻き込まれたが、瀕死だしどのみち助からなから頃合いをみて契約しちゃうけど、あの男が女神側にいるのは誤算だよ。」

「でもオメェなら、今すぐあの3人を簡単にやっつけちゃえるんだろ?だったら暴れちゃってもいいじゃないか。」

「まーまー、焦らない、焦らない。確かに、今の女神含め、奴を殺すことは容易い。でも、今はその時じゃない。もう少し力を付けたうえで、圧倒的な力の差を見せ、少しずつ絶望を与えて、ゲイムギョウ界を滅亡に追い込むのも面白いじゃない?」

「確かにそれも面白そうだけど、でも万が一やられたら元もないだろ?」

「心配はいらないさ。今、とある魔女みたいな奴と、マスコットキャラ的な奴が、女神を陥れる為の計画を立てているんだ。そして、ボクはそれに便乗する。」

「ふーん。ま、オレは面白くなればなんでもいいけどな。ただ、早く知れくれよ?待つのって結構暇で面倒くさいからよ。」

「直、面白くなるさ。今は女神と平和を楽しむといい、獨斗永守。このボクは、エンドのようにはいかないよ。そして、必ず、ボクらの右腕となり、ゲイムギョウ界の崩壊に貢献して貰うよ。」

 

そう言い終わると2人はそこから一瞬で姿を消すのであった。

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

初の戦闘シーンを導入してみましたが、こちらもまた言葉で表すと難しい。

まさかの評価が来るとは思っていませんでした。この場をお借りしてありがとうございます!

一応次回から本編開始予定です。


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The 1st Encounter~動き出す歯車編~
Scene04 Go East-ラステイションへGO-


色々話を詰め込んでいたら長くなってしまった…。
ここからある程度アニメ基準で進めていく予定です。
それでは、しばしのお付き合いを…。


 

 

 

 

 

―――――前回のクエストから更に2週間から過ぎた。

 

読者である皆さんに、わかりやすく言うのであれば、あの式典から早1ヵ月が過ぎた。神殿から教会に戻った後は、イストワールに神殿に関する情報と、アミュレットと化したドックタグに関して話をしたが、3日掛けて調べても詳細不明とのこと。益々謎が深まっていく。今は考えても仕方がないが、ネプテューヌのようにお気楽になれたらなとは考えている。

 

「しかし、この動く歩道って凄いな。流石に地球にはなかったな。」

 

余りの凄さに小言を付いてしまった。俺は今、自由時間を終えて教会に向かっている最中だ。欲しい本が無いか見に行ったり、バイクのパーツや銃の品定めをし終え、教会に戻ってゲームか銃のメンテでもしようかと考えつつ今に至る。しかし、銃火器店舗の店員が“小さな妖精”みたいな人形だったのは驚いた。で、今驚いているのは、直線状で宙に浮いている輪の中を、光り輝く床によってエスカレーターのように動いている事だ。一歩前に出しても、床に付くあたりから新しい床が現れる。それこそ、ソ〇ックやナ〇ツ、64スー〇ーマンのような事が体験できている感じがする。で、下から見上げても見えないよう工夫されているようだ。普段はバイクで移動しているから、こういうのを使う機会がなかったということだ。地球も政府が言ってた技術の御陰で、恐ろしい発展をしたが何処かメカメカしいと言うか、機械的な部分が多く近未来間は少ない。強いて言えばラステイション寄りと言った所か。

あと、気になったことだが…。教会の職員含め、外の一般人も殆どが「女性」ばかりである事。男性とはここ1ヵ月、殆ど出会った記憶がない。今更ながらゲイムギョウ界、恐ろしい場所だ。…そんな事を考えている内に、エスカレーター?を渡り終えたのだが、そこにいた1人の女性に目を向けた。何か電波を受信しそうなカチューシャを付けており、黒服で眼鏡を掛けた女性が抗議活動をしている。

 

「―――――であり、私達は、正しい規制により守られていますが、私達国民一人一人にも、権利があり―――――」

 

なんか“頼り甲斐の無さそうな感じで政治活動をしている”という印象でビラ配りをしている。案の定、ビラを取っていく人は殆どいない模様だ。それはさておき、配っているビラの内容が気になるので、さり気無く一枚取ってみる。

 

「あ、ありがt―――うひゃあ!お、男の人ぉ!?」

 

 

 

 

 

バシサアアァァアアアアッ―――――

 

 

 

 

 

お礼の言葉を言いかけた途端、まさか驚いて両手を挙げた反動により、持っていたビラがバラ撒かれるとは思っていなかった。

 

本気(マジ)かよ。」

「ひっ!ごごごご御免なさい、御免なさい!」

「(これはまた、面倒なのと遭遇したな。ビラを撒いてしまったのは、俺のせいなのかもな。腑に落ちないが…。)」

 

そう思いつつ、俺はバラ撒かれたビラを集めるのを手伝った。数枚は何処か飛んでしまったみたいだが、百枚前後だったらしく、そこまでバラバラになっていなかったので集め終わるのは直ぐだった。しかし、一枚一枚手書きで書かれているが、一寸の狂いもない感じで書かれている。ある意味神業じゃないか。しかもよく見たら左下に彼女のデフォルメまで描いちゃってるよ。

 

「これで全部か。どうぞ。」

「す、すみません。こんなダメな私の為に手伝って頂いて…。」

「困ったときはお互い様。これ、一枚頂いておきますよ。」

「あ、有難う御座います!」

 

そんな事をしていると、エスカレーターから2人の女性がこっちに向かってきている。アイエフとコンパだ。

 

「あれ、永守さん。何やってるですか?」

「まさかアンタ、その人を口説いてるんじゃないでしょうね?」

「…俺がそんな奴に見えるか?」

「冗談よ、冗談。アンタがそういうタマじゃないってのは分かってるから。」

 

…冗談言うのは好きだが、言われる方はあんま好きじゃない。最近は余裕ないから冗談なんて言ってないが…。そんな事を思っていたが、さっきの女性はいつの間にか「し、失礼しましたぁ!」と言って、どっかに走り去っていったようだ。

 

「ところで、その紙はなんですか?」

「ああ、これはさっき走り去った女性が配ってた奴だ。とりあえず、こいつを見てくれ、こいつをどう思う?」

 

二人に持っているビラを見せることにした。内容をピックアップするとこんな事が書かれている。

 

―女神なんていりません!

―女神にNO!

―女神の依存から脱却しましょう!

 

…なんて事が書いてある。ちなみにその下には小さく“女神がいない場合のメリット”なんてことがずらっと書いている。

 

「女神…いらない?」

「これって、もしかして?」

 

流石に振ってみたネタには乗らなかったが、妥当な反応が返ってきたな。

 

「“もしかして”という事は、アイエフは何か知っているのだな?」

「まぁ、(かじ)った程度ね。でもまぁ、今のところ規模は小さいから教会はおろか、諜報部もあまり気にしてはないわ。」

 

そう、ここ最近になって女神に対して不服と考える人がおり、女神反対を主張する人々が集まって活動している“反女神組織”いう団体。団体名は物騒な感じだが、大半の人は興味を示しておらず、統率力も大して強くはないのも相まって、影響力は少ない。だが、最近のネプテューヌは永久有給休暇という名のサボりで、今日も遊びを繰り返していた。挙句「働いたら負けかな?って思ってるの。」と言う始末である。

 

「これは、少しネプテューヌに活を入れた方がいいかもな。」

「そうね、どうせ遊んでたんでしょ?アンタが出掛ける前は寝てたとか?」

「………。」

「その反応だと、予想は的中って訳ね。」

「丁度私達も教会に向かってる途中だったのです。これは、ねぷねぷに言った方がいいですね。」

 

今回ばかりはお二人ともご立腹という感じがヒシヒシと伝わってきてる。全く、“能ある鷹は爪を隠す”とは言うが、あいつの場合は隠し過ぎているな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ教会広間】

 

教会内の何時ものロビーに行ったが、そこは誰も居なかった。…テレビにヒビが入ってて、その下にゲーム機の電源アダプターが落ちている事を除けば、何事もなかったという事で片付けられたのだが―――――

 

「これは、イストワールの怒りが有頂天に達した跡か?」

「かもしれないわね…全く。」

「そうなると、ねぷねぷ達は何処に行ったですか?」

「もしかしたら、中央部にいるんじゃないかしら。」

「中央部?…ああ、あそこか。」

 

中央部…というよりはシェアクリスタルルームと言うべきか。プラネテューヌ教会の心臓部ともいうべき場所であり、以前イストワールが言っていた“シェアクリスタル”の保管場所でもある。俺達はプラネテューヌ教会中心部前まで来た。

 

「―――――あるんでしょう?心配する事なくない?」

「無くないです!シェアの源が、何なのかはご存じでしょう!?」

「国民の皆さんの、“女神を信じる心”ですよね?」

「そうです!2週間前までは、永守さんやアイエフさんによって均衡を保っていましたが、ここ2週間は、このグラフが示す通り、国民の心が“ネプテューヌさんから少しずつ離れている”のですよ!」

 

現在、扉前に立ち止まりアイエフとコンパが扉越しに耳を当てるも、普通に声が漏れている。…相当怒ってる。話的には、シェアクリスタルに貯まっているシェアエナジーが弱まってるのだろう。

 

「イストワール様、相当怒ってるみたいね…。」

「ですねぇ。」

「はぁ…。面倒臭いが、流石に今回ばかりは一言言った方がよさそうだ。」

 

そして俺達は中に入る事を決めた。

 

「えぇ~?嫌われるような事した覚えないよ?」

「ん~…。」

「女神としての“使命”を全うしてないのなら、嫌われなくとも、好かれる事もないだろう。」

「ねぷぅ!!えい君!?それに、アイちゃんにコンパ!?」

「ネプ子、流石に今回は永守の言う通りでしょ?好かれるような事をしてないのだから、当然の結果よ。」

「あ、永守さん、アイエフさんにコンパさん。」

 

俺がネプテューヌに釘を指しつつ、アイエフとコンパも部屋に入り、ネプテューヌに説得をする。アイエフはイストワールに向かって、一礼をした後口を開く。

 

「すみませんイストワール様。話が聞こえたもので…。」

「3人なら別に気にしなくてもいいのですよ。」

「えい君と、アイちゃんまで、いーすんの味方するの!」

「今回ばかりは、イストワールが怒っても仕方ないだろう。女子力的な意味も含めて。」

「むぅ~!コンパは違うよね~?」

「ねぷねぷ、少しはお仕事頑張った方がいいのです。」

「な、なんかコンパが何時もより怖い…!!」

「自業自得ね。」

「そういうこと。ああそうそう、ネプテューヌ。」

「ん?」

「黒サンタクロースからプレゼントだ。」

 

季節の事はおいといて、俺は懐から、先ほど貰った大々的に“女神いらない”と書かれたビラを広げて見せる。

 

「ふぇ?女神…いらない。」

「がぁっ!!」

 

イストワールが昭和時代にやりそうなずっこけ方をした。相当精神的ダメージもあるだろう。ここ一ヵ月、ネプテューヌの行動を見たら、如何にぐーたらしているか一目で分かるだろう。そんなのを毎日見ているイストワールからしたら、胃に穴が開かないか心配する程だ。

 

「こういう人達に、ねぷねぷを分かってもらうには…、御仕事、もっと頑張らないとです。」

「うううううぅ!これぞ四面楚歌!!私大ピンチ!!!」

「ピンチなのはこの国の方です!」

「うぅ…。」

「そもそも、女神は常に国民の為に努力しなきゃならないんですよ!女神が大きな力を持っているのはその為なのです!それに―――――」

 

御覧の通り、イストワールのお説教タイムが始まった。こいつは長引くな。で、この流れだとネプテューヌは話を聞かないか、何とかこの場を切り抜ける為の策を考えるか。いや、サイコメトリーで心の中を見て、変な事考えてたら叩こうと思ったが、こう考えちゃ俺も周りの人と同じく“女神を信じない人”に成り下がってしまう気がする。少しはネプテューヌの事を信じてやらないと―――――

 

 

 

 

 

“ポンッ”

 

 

 

 

 

…と考えている矢先、突然ネプテューヌが、何か閃いたかの如く合点の動作をした。

 

「あ、そうだ!私、女神の心得ってのを教わってくるよ!」

「へ…?教わるって、誰にですか?」

 

そして次のネプテューヌが口にした言葉で、俺を含めた全員が驚愕する。

 

「えっと…、ノワール!!」

『ええ~!?』

「…ノワールって、ラステイションのか?」

「うん!!ラステイションの、ノワール!!」

 

…前言撤回、想像の斜め上の発想だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ:教会前・外】

 

「いいですか?こうなった以上は仕方ありません。ノワールさんには、私から“女神の心得を教わる”という事の連絡をしておきます。ネプギアさん、アイエフさん、コンパさん、永守さんも同行して下さい。特にネプギアさん、永守さん。ネプテューヌさんの事、宜しくお願いしますね。」

 

”どうしてこうなった!”としか思えない展開になってしまった。イストワールの言葉を思い出しつつ、自分のバイクにエンジンを入れる。ネプテューヌ、ネプギア、アイエフ、コンパの4人は公共交通による移動。俺は何故自分のバイクで移動かというと、一ヵ月前…そう、式典の前日に着替えたスーツを返す為にバイクのトップケースに袋ごと入れ、向かう事にした。何となく手荷物として手にぶら下げて持っていくのが気分的に嫌だからである。それはさて置き、そろそろ出ないと遅れちまう。

 

「何時も通りの調子だな。さて、行くとするか…。」

「れっつごー!!」

 

…後ろから声がした。何時の間にか腹部あたりに見覚えのある腕が抱き着くかのようにある。そして背中には小さいながらも柔らかい何かが当たっている。後ろを確認すべく錆付いた機械のように首を後ろに向ける。

 

「ん、どうしたの?早く行かないと遅れちゃうよ?」

「ネプテューヌ、なんでここにいる…。」

「細かいことは気にしないの。それに、プラネテューヌの補佐なのに、えい君は仕事、仕事で全然私達に構ってくれないもん。」

「お前は逆に、遊び過ぎだと思うが?」

「そ~れ~にぃ、こんな可愛い美少女が目の前にいるのに、えい君は何とも思わないの?」

「ノーコメント。女神として全う出来ていないのならアウトオブ眼中。」

「ねぷぅっ!ノーコメントと言いつつ、さり気無く返答してるぅ!!」

 

そんな会話をしていると、携帯に着信が入る。何となく予想はしていたが、携帯の着信者を見る。ネプギアだった。溜め息を付きつつ電話に出る。

 

「俺だ…。」

<あ、あの、永守さん!お姉ちゃんが何処か行っちゃったのですが、そっちで見かけたりしてませんか!>

「…俺の後ろにいる。」

<ええ!?そっちにいるの!?>

「まぁ、何だ。責任持って送るから、安心してくれ。」

<わ、分かりました。>

 

そうして、俺は電話を切る。気付かれずにここまで来れたのか疑問だが、そんな事聞いても“主人公補正”とか言って終わりそうだ。まぁ、今後の事考えるとサイドカーは必要かもな…と考えてしまう。俺は被ってるヘルメットをネプテューヌに被せる。

 

「ねぷ?」

「万が一事故って、女神様にケガさせちゃ、補佐失格だ。少し大きいかもしれないが我慢してくれ。」

 

とは言うのも、実際は心音を聞かれるのが嫌だからだ。仮にもネプテューヌは、見た目は女の子だが、女性でもある。女性に抱き着かれるのは人生で初めてだからな。完全に遮断は出来ないものの、後で“ドキドキした?”と言われた時に誤魔化せなくなるのは面倒だしな。

 

「そんなことしたら、えい君が危ないじゃないの?障害物とか後ろから来る車に当たって、バイクごと爆散とかしちゃわない?あ、でも残機があればビデオの逆再生の如く戻るよね。」

「…何故にクラッシュ前提なんだ。それに、こいつには機銃なんて付いてないし、3秒に1kmなんて速度は出ないぞ。」

「まさかのネタに返答してきた!?」

「偶々知っていただけだ。だが、機銃はあったらあったでいいかもな。…そろそろ出ないと間に合わなくなるぞ。」

 

そう言いつつ、俺はバイクを発進するのだった。

因みに、爆散とかはなく無事ラステイションに着き、合流する事ができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ラステイション:教会・バルコニー】

 

「あら、別に返さなくてもよかったのに。」

「借りっぱなしは、性に合わない。借りる時が来たらその時に借りるとする。」

 

俺はノワールに、ここに初めて来た際に、着替えとして受け取った男性用スーツを返した。ちゃんとクリーニングしてるから心配ご無用。だが、ノワールが、執務室側の方を見て、嬉しそうな顔が険しくなったのが分かる。

 

「とりあえず、もの凄く分からないんだけど…、どうしてお隣の国の女神がうちの教会で寝てるのかしら!?」

「………。」

 

現在ネプテューヌは、他国のベランダチェアで、俯せになり枕を抱いて寝ている。監視の目が4+αとあるというのに、この堂々とした感じである。

 

「あー、構わずお仕事してぇ、私は気にしないからぁ…。」

「私が気にするわよ!」

「ご、御免なさいノワールさん。もーお姉ちゃん。女神の心得を聞きに来たんじゃ…?」

 

ネプギアの言葉にも応答がない感じである。此奴、あのビラの事を重く見てないようだ。ノワールが呆れた感じになっているのも見て取れる。

 

「イストワールから連絡は来ているはずだが…。」

「…ええ、事情は把握してるわよ。でも、悪いけどお断りよ。私、敵に塩を送る気なんてないから。」

 

そう言いつつネプテューヌを横切るように歩いて行く。

 

「あぁ~、敵は違うでしょ?友好条約結んだんだから、もう仲間じゃ―――――」

「シェアを奪い合うのだから、敵よ、敵!!」

「友好条約を結んでも、シェアを均等にする気はない。結局は自国が一番って考えか?」

「そういうこと。貴方、中々鋭いわね。」

「そりゃどうも。だが、折角なのだから、少しぐらい“女神の心得”講座をしてもいいんじゃないか?」

「嫌よ、私こう見えて忙しいんだから。少しは自分でどうすべきか考えたら?それにね、教わりに来ているのにこんな態度されたら、教えたくても教える気が無くなっちゃうわ。」

「むぅ、ノワールはそういう可愛くない事言うから“友達いない”とか“ぼっち”って言われるんだよ~?」

「と、友達ならいるわよ!」

 

ノワールの言っている事は分かるが、ネプテューヌが釘を打つような発言に、焦るように言い返すノワール。…その反応じゃ友達いないを認めているように見える。そこに容赦なく、ネプテューヌが更なる追撃(発言)をする。

 

「え~、誰誰?何処の何さん?」

「え?そ、それは…えっと…。」

 

案の定、ノワールは困惑している。さっきまでの強気な姿勢がなくなってしまっている。…ちょっと待て、何故こっちに視線をチラチラと向いているんだ?そんな事をしていると、エレベーターの方から書類を持っているラステイションの女神候補生であるユニが来た。

 

「お姉ちゃん。この書類、終わったよ。」

「あ、ユニ。お疲れ様。書類はそこに置いといて。」

 

ネプギアがユニに向かって、手を振っている。それに対して笑顔でネプギアを見ている。…何故かこっちにも笑顔で見てきた。確かにユニとは銃関連で色々と話したりするから、交流がない訳ではないが、好感度上がるようなことした覚えがない。

 

「あ、あのね。今回、早かったでしょ?私、結構頑張って―――――」

「そうね、ようやく普通レベルってとこね。」

「あ~!もしかして友達ってユニちゃんの事?妹は友達って言わないよ!!」

「ち、違うわよ!」

「ホントかな~?」

 

更なる追撃を容赦なくしてくネプテューヌであったが、先程ノワールから厳しい返答を聞いたユニは、仕事終わりでの笑顔が悲しそうな顔になり、書類を直ぐ側の机に置き部屋を出ていってしまった。

 

「(普通…か。お前の普通ってハードルはどれくらいの高さなのやら。)」

 

少々心配になってしまった俺は、ネプギアに聞こえる程度の声で話すことにした。

 

「(ユニの事が少し気になるから、探して話をしてくる。)」

「(あ、私も気になりますので、私も行きます。)」

 

そう言いつつ、俺とネプギアはユニを探す事を決め、エレベーターを降りた。…もう少しこっちの話は続くよ。

 

「違うって言ってるでしょ!ねぇ永守、貴方は私の…ってあれ?」

「永守なら、先ほどネプギアと一緒にエレベーターを降りましたよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ラステイション:教会付近の湖】

 

「本当にこっちにいるのかな?」

「多分な。」

 

一ヶ月前。そう、第一村人であるユニと初めて出会った場所。あの時は、行き成り出たから驚いた表情だったが、何処か寂しそうな雰囲気…だった気がした。もしかしたらそこは、気持ちを落ち着かせる場所なんじゃないかと考え、ラステイション教会付近の湖にある屋根付きのテラスへ向かっている。

 

「あ、永守さん、あれ…!」

 

ネプギアが声を出しその先を見ると、何処か悲しそうな顔をしているユニがいた。

 

「ユニちゃん!」

「あ、ネプギア、永守さん…。」

「ユニちゃんとお話したくて来ちゃった。とりあえず、そこに座ろうよ。」

「うん。」

「永守さんも座ろりましょう?」

「ああ。」

 

そう言いつつ、屋根付きテラスの中心にある椅子に3人とも座る。

 

「悪いな。ネプテューヌが話を中断させてしまって。」

「私からもごめんね、ユニちゃん。」

「いいの。お姉ちゃんは、何時も私に対してはあんなんだから。それに、お姉ちゃんより、上手くやれないと褒められないみたい。変身も出来ないのに、私がお姉ちゃんみたいになるなんて、無理…なんだよね。」

「そんなの、私も変身出来ないし、ロムちゃん、ラムちゃんもそうだし。」

「でも…。」

 

姉であるノワールは何でもそつなく熟す、と聞いている。そんな妹であるユニは、姉の存在は憧れでもあり、目標でもある。そして周りから見られる目も気になり、コンプレックスを抱いている可能性もあるだろう。だから、周りが見えてないのかもしれないな。

 

「それでも、お前達は凄いし、可能性だってある。」

「え?」

「永守さん、それってどういう意味で?」

「そうだな…例えるなら、女神は洗練された美しい宝石で、お前達候補生はその原石だ。だが、洗練すれば必ず宝石になる。どのような色になるかは俺にも分からない。」

『………。』

「ユニは、仕事や手伝いに対して、ひたむきに、おごりなどなくやっているのだろ?」

「と、当然よ!!」

「それに、“継続は力なり”というのもある。経験や練習は必ず力になる。要は気持ちの問題だ。後ろを見るのも大事だが、目の前を、今をどうするかを考える事も大事だ。…少しは楽になったか?」

「うん、さっきよりはマシになった。あ、ありがとう、永守さん。」

「でも、永守さんって、もっと厳しい人かと思ってたんだけど…。」

「私も、永守さんはお姉ちゃんみたいな感じかと思ってた。でも、なんで私達にそこまでするの?」

 

ネプギアとユニはそんな感じで見てたのか。ただ、さっきの暗い囲気は消えている。とりあえず、これで良かったのだろう。

 

「困っている仲間や友を、見捨てるほど腐ってはない。それに、世話になっている恩を受けっぱなしってのは、性に合わない。…そろそろ戻った方がいいだろう。教会内が心配だ。」

『あ、はい。』

 

それに、誰も見向きもしない泥水だって空を映す。女神候補生と言うからには、女神と同等の力を持っている事になる。それにノワールは、根は優しいが、照れ隠しの為にあんな態度に出てしまうんじゃないかと考えている。まぁ、そこまで聞く気にはならないし、サイコメトリーで心読むのも失礼だからな。今はこれで様子見でもいいのかもしれない。

そう思いつつ、俺は立ち上がり教会に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

大分ネタを注ぎ込んで見ましたが、分かる人はいるだろうか…。
詰め込んだネタ紹介とか挟んだ方がいいのか検討してみるのもありでしょうか。


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Scene05 真なるゆ友情パパワー

 

 

 

 

 

「えい君どこ行ってたの?これからクエスト行くっていうのに。」

『…クエスト?』

 

教会執務室に戻ってきた俺とネプギアとユニに対し、唐突にクエストにイクゾー!という感じでネプテューヌが話しかけてきた。

アイエフから(面倒臭そうな感じで)説明をして貰ったが、内容としては先程までネプテューヌが勝手に書類整理をやっていたが、業務妨害さながらな行為が目立っていたそうだ。そこで、ネプテューヌにもできるであろう“国民からのモンスター退治”のクエストをしつつ、女神の心得を教わるという形に収まり現在に至るそうだ。場所は国境沿いであり、内容は移動しながら話すとのこと。ただ、国境近くということで、そこから歩いてプラネテューヌまで帰れとのことだが、俺はバイクをラステイションの教会に置いているから、一度教会に戻らなきゃならないという二度手間になってしまう。…誰もこのことには気づいてないようだが、まぁやらかしたものは仕方ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ラステイション・ラスーネ高原への道】

 

「今回のモンスター退治は二ヵ所、ラスーネ高原と、その近くにあるトゥルーネ洞窟…どっちも難易度はそう高くはない―――――」

 

ノワールが淡々と、今回のクエスト内容を説明しているが、俺とユニの後ろがどうなっているか説明した方がいいのか迷っている。

 

「(ねぇ、後ろの事お姉ちゃんに話した方がいいわよね。永守さん、お願い出来る?)」

「(何故、俺が言わなきゃならない。別に構わないが…。)」

「ユニ、永守。説明中に無駄話しない!」

「あー失礼。ただなノワール。一旦180度回れ左してくれ。」

「それはどういう…えぇ?」

 

そしてノワールは後ろの光景を目の当たりにする。

 

「うぅ~疲れたですぅ。」

「コンパ、大丈夫?少し休んでおく?」

「おお!これは有名な裏から見ると読めない看板!!」

「お姉ちゃん、看板って基本そうだよ…。」

 

ここまでの道のりが長かった為か、疲れてしまったコンパを介抱しているアイエフ。そして、ネプテューヌは看板に対して訳の分からない事を言い、それを苦笑するネプギア。前者は置いといて後者は完全にふざけている感じである。…RPGツクールとかで設定ミスなら裏からでも看板は読めるだろう…。案の定、その光景を見たノワールは御立腹である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いぃっー!!」

「ほら、ペース落ちてる!!」

 

ノワールが最後尾となり、ペースが落ちているとみると、そこらで拾った妙に先端が尖っている木の枝でネプテューヌの背中を突っついている。

 

「もぅ、ノワールってば、真面目なんだからぁ。」

「悪い?」

何時(いっつ)もそれだと疲れちゃわない?」

「疲れるくらいどうってことないわよ。私はもっともっといい国を創りたいの。」

「そりゃ、私もいい国(1192)創りたいけど、楽しい方がいいなぁ。」

「貴方は楽しみすぎなの。あと、さり気無くネタ入れないでよ。」

「それは、俺も同意だな。」

「えい君さ、今日私に対する扱い酷くない?それに、いーすんからも頑張りすぎとか言われてるじゃん。」

「勤務時間に慣れないってのもあるが、ネプテューヌは女神であり、俺はその補佐。立場上は俺の上司だろ。なのにお前は何も言わないから、俺なりにいい国(1192)に成る様活動してるのだがな。」

「むぅ、じゃあ今から言うよ!働きすぎだから少しは休もう!」

「…考えておく。」

「貴方も苦労してるのね。」

「まぁな…。(それに、二週間前に神殿で感じたあの気配。あの感じがまた現れるのであれば、居ても立っても居られないぜ。)」

 

そう話していると、森の出口が見えてきた。恐らくこの先がラスーネ高原なのだろう。さっきの看板にも―――――

 

 

↑ラスーネ高原

↓ラステイション

 

 

って書いてあったからな。

出口に差し掛かる前に、その向こう側から歓声が聞こえ、ノワールはその声を聞いた途端走り出し、森の出口、農村に続く坂道前で立ち止まる。

 

 

 

「きゃー!」「いらっしゃったわ!」「女神様よー!」「ブラックハート様だわ!」

 

 

 

まるでアイドルがステージに立った際の盛り上がりを見ている気分だ。考えてみれば、プラネテューヌではネプテューヌを見ても、こんな歓声が出た事はないな。まぁそれが今のプラネテューヌの方針であり、ラステイションとの違いなのかもしれない。で、あの村人たちが今回の依頼者ってとこか。しかしまぁ、これまた見事に女性ばっかだ。台詞にはないが、さり気無く俺の二つ名まで飛び交っている。ノワールは農村にいる人々に向けて軽く手を振っている。

 

「いけない…!アクセスッ!!」

 

何かを思い出したかのように、ノワールは女神化を発動する。…今するのか?

 

「えぇ~!?変身今やっちゃう!!」

 

ここにも、同じ事考えてるのがいる。ノワールの体が光り出し、ミニスカ風ドレスから、神殿の時のゴーレム討伐の際に、女神化したネプテューヌの時に似た黒いバトルスーツ的なのに変化し、式典の時に見た銀色の髪に変化した。しかし、女神化後のバトルスーツは妙に俺にとっては刺激的すぎるようで、またしてもいつの間にか目線を逸らしていた。

 

「女神の心得その2。国民には威厳を感じさせる事よ。皆さん、モンスターについて、聞かせてくれるかしら?」

「…目の前で変身しても、威厳とかなくね?」

「多分それは言わないお約束だろう。」

「と、とりあえず行きましょ。」

 

そうして、坂道を下り農村へ向かう。女神の心得その1がないなと思って聞こうと思ったが、自分がいない間に心得その1を話したのでは、納得させる。

 

 

 

 

 

【ラスーネ高原】

 

「ここがラスーネ高原ね。」

「ええ、スライヌが大量発生して困っている。」

 

俺は今、Nギアのカメラ機能を双眼鏡代わりに使って辺りを見回している。高原のいたるところに、DQに登場するスラ〇ムと犬の顔を合体させた“スライヌ”がうじゃうじゃいる。丘のようなでっぱりがある為、その先にいるかどうかは流石に見えない。

 

「随分と多いな。スライヌ以外はいないように見えるが、スライヌが大量発生したのは何時頃なんだ?」

「一週間前にはここまで多く無かったのですが、2、3日前に急激に増えて、それで依頼を出しておいたのですが、今日は前見た時より更に増えてますわ。」

「トゥルーネ洞窟内部がどうなってるか分からないが、どう考えてもこの増え方は異常と言えるか…。」

「とりあえず、現地調査はそれくらいにしてくれる?では、この件はお隣の国の、ネプテューヌさんと、ネプギアさんが対処してくれるそうです。」

「ねぷぅ!いきなり振るぅ!?」

「わ、私達がやるんですか?」

「心得その3、活躍をアピールすべし。」

 

これは予想外な展開だった。協力して一掃しつつ、トゥルーネ洞窟も同様な形で行うかと思ったが、ここでネプテューヌの活躍をさせるとなると…。言わないでおこう。これも彼女成りの“気遣い”であり“優しさ”なのだろう。

そう考えていると、ユニがネプギアの右太腿に着けているポシェットからNギアを取り出し、広報用に撮影してくれるとのこと。…何時もNギアをそこに携帯してるのか。せめて腰とかにしてほしい所。目のやり場に一瞬困った程である。

 

「面倒臭いなぁ…。まぁいいか、スライヌくらい、木の枝や丸太でも倒せるからねっ!」

 

そう言って、ネプテューヌは坂道を前転しつつ、前宙を決め武器を呼び出す。

 

「行くよ、ネプギア!!」

「うん、お姉ちゃん!!」

 

ネプテューヌに続くように、ネプギアがビームソードを出し、二人は応戦体制に入る。そして一番近くにいる2体のスライヌを、斬り付け2匹のスライヌは消滅する。

 

「流石ネプギアぁ、我が妹よ!」

「えへへ、うん!」

 

2匹のスライヌを倒した騒音に周りのスライヌが気づいたのか、何処からともなく画面外含め徐々にネプテューヌとネプギアに大量のスライヌが近づいてくる。しかし、腐ってもプラネテューヌの女神とその候補生。迫り来るスライヌを舞うかのように次々と倒していく。だが、スライヌは減るどころか徐々に増えている。一体何処から出てきている…。

 

「幾ら何でも、数が多すぎるわね。」

「確かに、画面外からどんどん出てきやがる。」

「アンタ、文章での説明で画面外って言われても分からないわよ。それに、前々から思ってたけど、表情が硬いから本気なのか冗談なのか分からないのよ。」

「…的確な突っ込みどうも。」

「そんなことより、私達も手伝うです。アイちゃん、永守さん。」

「そうね。」

「…助太刀するか。」

 

そう言いつつ、俺達三人はネプテューヌ、ネプギアの元へ走り出す。

 

「アイちゃん、コンパ、えい君!!」

 

足はかなり速い方で、助人一番手の先制攻撃として、左手で懐から短剣を、右手には銃を呼び出す。因みに、使用している銃は俺の私物ではなく、諜報部に導入予定である武器で試験運用兼ねて使ってほしいとの頼み事で使用している。見た目は至ってシンプルな自動拳銃だが、使用する弾が“ケースノン弾”と言って、発砲後に空薬莢が出ないという特徴を持っている。何でも、とある諜報部員が運悪く撃った後の空薬莢が肌に当たり、火傷してしまったというのが切掛けらしい。3ドットのグロウサイトで、狙いは付けやすくもなっている。発想はいいが個人的にはリボルバーの方が得意であり好みでもある。

…説明が長くなってしまったが、その銃で1匹に対して2発撃ち2匹、斬撃で1匹を討伐する。それに続いてアイエフは、両手にカタールを呼び出し3匹同時に斬り付け、コンパは巨大な注射器をスライヌの脳天あたりにブスリッと刺した。地味に痛そうだと感じた。

 

「当に百人力!この5人なら勝ったも同然!!」

 

 

 

 

 

「ぬらららららららららら―――――」

 

 

 

 

 

ネプテューヌがフラグ的な発言を言い終えたと同時に、信じられない数のスライヌが現れ一斉に此方に向かって飛んできている。

 

『んん…!?」

「なん…だと…!?」

 

一体何処に隠れてたんだこんな数。だが、それだけではなかった。飛んでいるスライヌの一部が集結し、スターダストならぬ“スライヌダスト”の如く上から降ってくる。

 

 

 

 

 

「うわぁ!変なとこ触んな!!」

「気持ち悪いですぅ…!」

「そんなとこ、入って来ちゃだめぇ…!!」

「わははは、くすぐったい、死ぬ、助けて!!」

「…クっ。」

 

ネプテューヌは永守を助ける為向かおうとしたが、スライヌに押し倒され、あらゆる所をprprされている。

アイエフも同様にスライヌが纏わり付きprprされている。

ネプギアとコンパに至っては服の中に入ったりされ、あられもない状態になっている。

襲い掛かってくる多数のスライヌに5人は、遊ばれているような事になっている。援護射撃を試そうにも、スライヌの数が多すぎる為に、体当たりしてくるスライヌを手で叩いたり、銃で突き捨てたりしつつ銃撃で応戦するが精一杯な状態だ。足元に張り付いたスライヌを、飛んできたスライヌを掴み足元のスライヌに叩きつけ、そのまま射撃、飛び掛かってくるスライヌをスライディングで交わし、奥のスライヌを射撃といった形で手一杯な状態だ。それでも尚スライヌは増え続け集まってくる。当に地獄絵図である。

 

「ぬ~ら~。」

「ぬ~~ら~~。」

「ぬ~~~~ら~~~~。」

「ぬ~~~~~~~~ら~~~~~~~~ぬら~。」

 

それでも尚、容赦なくスライヌが迫ってくる。

そんな中、振りほどいたかの如く上空に吹き飛ぶスライヌの山が二つほど飛び散っていく。片方は吹き飛ばしたスライヌが一斉に消滅。もう片方は吹き飛ばして落ちてきたスライヌを一振りで消滅させる。

 

「アイ…エフ…?」

「だあああああああっ!!お前らの魂、冥界に送ってやるよ!!!!」

 

その後、普段のアイエフとは思えない非常にキレのある動きによる無双が繰り広げられることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5人の力(後半は俺とアイエフでの無双だったが)でラスーネ高原のスライヌ討伐に成功した。残りの4人はそれぞれ疲労困憊な状態で仰向けになってたり座り込んだりしている。俺はそこまで疲れてはいないが、胡坐の状態で左手で頭を抱えている。妙に体中、特に手の平がベトベトになっている。

 

「どうしてこうなった…。」

「はうぅ…暫くはゼリーや肉まんは見たくな~い。」

 

これを一部始終見ていたノワールは、ネプテューヌに対して怒りを露にしているのが目にとってわかる。

 

「どうして女神化しないの!変身すれば、大したことないのに…!」

「まぁほら、何とかなったし。」

「他の人に何とかしてもらったからでしょ!」

「ねぷぅ!!」

「そんなんだからシェアが…。もういい、頭を冷やすこと含め、精々休んでなさい!後は私一人でやるから。」

 

…言いたい事は分かる。ノワールから見たら、手抜きや舐めプに見えたのだろう。流石にここにいる農村の方々は“女神化しないとスライヌも倒せないの?”っていう人はいないだろう。とはいえ、俺も実践データのない試作銃の運用テストを兼ねている時点で舐めプしてるようなものだろう。

 

「トゥルーネ洞窟まで案内して。」

「あ、はい!」

「あ、私も…。」

「一人で行く気か?万が一を考えて俺も―――――」

「大丈夫よ。ユニはネプギア達の介護を。永守は英気を養っておきなさい。」

「うん…。」

 

随分とつれない態度だ。ユニの実戦経験兼ねて連れて行ってもいいだろうと思う。戦力の邪魔になるのか、ケガさせたくないのか。しかし、妙に胸騒ぎがする。野生の勘が一人にしてはいけないと警告している感じだ。…着いて来るなとは言ってないし、蛇男宜しくという具合に着いて行くか。

 

 

 

 

「おぉ!可愛い~!私のメアドにも送っちゃえ!!えい君、えい君。みてm…あれ?えい君は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【トゥルーネ洞窟】

 

「消えなさい!!」

 

トゥルーネ洞窟内に住み着いているモンスターを、ブラックハートことノワールが次々と華麗に倒していく。現状からみれば、まさに“向かうところ敵なし”という感じである。何事も無く最深部の突き当りまで向かう事が出来た。

 

「行き止まりか…。打ち止めね。」

 

危険となり得るモンスターはあらかた片付いたので、農村に報告する為、最深部から出口まで戻ろうとする。その時だった…。

 

グルルル―――――

 

「エンシェントドラゴン!?何故こんなところに…!!しかも何、この感じは…!?」

 

ドッスンッという重々しい足音と共に、暗い洞窟の奥からエンシェントドラゴンと言う危険種(ボスクラス)モンスターが現れる。だが、今目の前にいるドラゴンは何か違う。そもそも、トゥルーネ洞窟に生息しないはずのエンシェントドラゴンがいる事自体が可笑しい。そして何より、まるでウィルス汚染状態に近い、紫黒く染まっているのだ。危険種(ボスクラス)が汚染状態になるのは、今まで聞いたことがない上に報告もない為若干の驚きを隠せない。ドラゴンの咆哮と共に、ノワールに向かって右手を振り下ろし叩きつける。だが、ノワールは振り下ろしを予測してたかのように後方へ飛び避ける。叩きつけられたところから地面の破片と土煙があがる。

 

「へぇ、強そうじゃない。でも、勝つのは私よ!!」

 

後ろ壁まで飛んでおり、そこから壁を蹴りドラゴンに勢いよく向かう。エンシェントドラゴンは振り下ろした腕を戻し終えたところで、防御に回るには間に合わないだろうと判断しており、このまま斬り倒せると判断しての行動である。

 

「隙だらけよ、貰った…!!」

 

次の瞬間、悲劇が訪れる―――――

突如、エンシェントドラゴンの頭に飛び乗ってきたヤンキーキャット。しかも、報告時には確認されていない汚染状態のヤンキーキャットが、そのまま飛び乗った反動を利用して、ノワールに向かって体当たりを仕掛ける。突然の攻撃な上、勢いよく飛んでしまった為避けることができない。

 

「ぐぁっ!!」

 

ヤンキーキャットの体当たりを直に受けてしまい、後ろの壁に背からぶつかる。痛みを堪え体制を立て直すため、立ち上がろうとする―――――が、ノワールは急に力が抜ける感覚に陥り、女神化が解除される。突然の出来事に「えっ?」と声を上げてしまった。女神化が解ける要因はウィルス状態になった場合。だが、それとは違った感覚だと直感する。女神化さえできれば苦戦する事のない相手だが、何故か女神化が出来ない。それどころか徐々に力が抜けている感覚に陥っている。そんな事などお構いなしに、目の前には敵意を剥き出しているドラゴンが、一歩ずつ近づいてくる。

 

「あ…あぁ…。」

 

始めて恐怖を感じ、自らにおごりが有ったことを悔やむ。逃げようにも後ろは壁、退路もエンシェントドラゴンの方となっている。何より、恐怖で足がくすんでしまい思うように立ち上がれない。ドラゴンがノワールに向けて、両手を振り上げる。誰がどう見ても振り下ろす構えだ。無意味とはいえ本能的に武器を持ち防御の構えをする―――――

 

 

 

 

 

「はぁああっ!!」

 

突如、エンシェントドラゴンの足元に、短剣が刺さるのが見え底が青く光り、人が放出されるかのように現れる。その人物はその勢いのまま、右手に刺さっていた短剣を持ちつつエンシェントドラゴンの顎にアッパー、付近にいたヤンキーキャットに回し蹴りをする。不意をついた為、二体のモンスターは防御できず、エンシェントドラゴンはそのまま仰向けに倒れ、ヤンキーキャットは壁にぶつかる。その人物は着地をすると、直ぐ格闘家のように身構える。右手にはバタフライナイフ、左手にはリボルバー、そして見覚えのある後ろ姿―――――

 

「え、永守…!?」

 

間一髪だったと言えよう。あの後胸騒ぎがあった永守は、スニーキングの如く着いて来ており、巨大な竜が現れノワールが吹き飛ばされた上に、女神化が解除されている現場を見てしまった。走っても間に合うとは思えない為、テレポートを使い間に合わせたと見える。

 

「女神化が解けている事以外は無事か。」

「なんで貴方がここにいるのよ!!」

「…着いて来るなとは聞いてないからな。」

「そんなことはどうでもいいの!それより逃げなさい!これはラステイションの問題で、貴方には関係ない事よ!!今なら逃げれるわ、今すぐ逃げなさい…!!」

「逃げる…?仲間を置いていく程、俺は腐ってない。後、涙目になりそうな奴に言われても説得力ないぜ。」

「う…。そ、それでも、これは私の問題なのよ!!」

「そうも言ってられない。少なくとも俺にも関わりはあ―――――」

「危ない!!」

 

前を向くとドラゴンが立ち上がっており、口から炎を吐き出してくる。俺は直ぐに両手を前にだし、ドラゴンと同じように両手から炎を出し相殺している。そんな状態で俺はノワールに問いただす。

 

「何故、そこまでして一人で乗り越えようとする。そもそも、おごりが有ったんだろ。」

「う、五月蠅い!私は一国を背負う女神よ!他の人に迷惑は掛けられないのよ!!」

 

永守から見ても、ノワールは模範的な女神と言っても過言ではないだろう。だが、幾ら女神といえど、根本的には人に近い存在であり、何れ限界を迎える。そして尚且つ何処までも頑固ときている。永守はそんなノワールの態度に痺れを切らしてしまう。

 

「他人を頼ってはいけないと、誰が決めやた!何のための友好条約だ…!!いい加減頼る事を覚えろ!」

「誰に頼れと言うのよ…!!」

「ネプテューヌやユニ…それに、お前には頼れる友達や仲間がいるだろう!!少しは周りを見てみろ!!」

 

ノワールは、永守の言葉を聞きはっとする。そして理解したかのように、力が抜けているのが見える。そして、永守は目の前のエンシェントドラゴンから非常に禍々しい闇の力、「イグーニ」から放たれている力に似ていると感じる。何らかの形でエンシェントドラゴンに、その力が宿ったのだろうと考察し、少々不味い状況だと察する。永守の火炎が1分以上放出し続けている為か、力が落ち威力が弱まっている。このままでは二人共焼肉になってしまうが、永守は逃げることを選ばない。

 

 

 

 

 

「ちぇすとおおおおおっ!!!!」

 

 

 

 

 

エンシェントドラゴンの横方向から声がし、顔面に向かって飛び蹴りをする一人の少女が現れる。

 

「あ、貴方…。」

「ナイスタイミングだ、ネプテューヌ。助かったぞ。」

「やっほーぃ!えい君、ノワール!!ってかえい君、炎も出せたの?」

「ふぅ…まぁな。」

「あれ、ノワール。なんで変身解けてるの?」

「と、突然の事で私にも分からなくて…。」

「悠長に会話している暇はなさそうだぞ。」

 

蹴っ飛ばされたエンシェントドラゴンが起き上がっており、怒りを露にしているのが分かる。ネプテューヌと永守はエンシェントドラゴンの方に体制を向ける。

 

「流石に怒ってるか。ここからは手抜きは出来そうにない。ネプテューヌ!!」

「おーけー!ノワールも見ててよ。変身ってのはさ、こういう時に使うんだよ、刮目せよ!!」

 

その掛け声と共に、ネプテューヌの周りが光り出し、パープルハートへと変身する。

 

「女神の力、見せてあげるわ!!」

 

変身が完了し、決めポーズを決めている。だが、後ろから何か小さいモンスターが来ているのにネプテューヌは気付かない。その時、ネプテューヌの横を横切るように、ノワールが普段扱っている武器が小さなモンスターに向かって、勢いよく飛び突き刺す。急所を突かれたヤンキーキャットは結晶片となり消滅する。

 

『え…?』

「全く、隙だらけだったぞ。」

 

ノワールが自分の武器が急に飛んできたことに驚き、ネプテューヌも見覚えのある武器が、独りでに飛んで行った事に驚くも、その正体にすぐ気づく。その武器が永守の元へ来たことで確信する。

 

「ありがとう、えい君。助かったわ。」

「蒸着!とか言って0.3秒ぐらいで変身とか出来ないのか?」

「…それは無理な注文ね。」

「ノワール、少し借りるぞ。」

「え、あ、うん。」

「えい君、剣なんて使えるの?」

「武蔵伝なら全巻読んだ事ある。」

「…使えるって事ね。“アレ”やるわよ。私に合わせて頂戴!」

「…ああ、“アレ”か。了解。」

 

永守がリボルバーでエンシェントドラゴンを牽制し、驚いている所をネプテューヌが一瞬で距離を詰め、鋭い二撃を加える。その力は凄まじく、たったの二撃でエンシェントドラゴンが苦しい声を上げている。

 

「えい君、行くよ!!」

「OK。」

 

ネプテューヌの声に合わせて、二人同時に飛び上がり斬り下ろす構えをする。

 

『クロス、ヴィクトリースラッシュ…!!』

 

永守とネプテューヌが、それぞれV字の片方を描くように同時に斬り下ろす。エンシェントドラゴンが爆発と共に光り出し、爆散すると大量の結晶片となり消滅した。

 

「決まったわね。」

「数回しか練習してないのに、良く決まったもんだ。」

 

ネプテューヌと永守がハイタッチを決め、永守はそのまま持っている剣の刃背を持ち、ノワールに剣を返す。

 

「悪いな、勝手に操ったり使ったりして。」

 

ノワールに剣を渡し、手を差し出して立ち上がらせる。

 

「べ、別に助けて貰わなくても良かったのに。」

「まだ言うか。」

「でも…今回ばかりは、確かに危なかった…あ、ありがと…。」

「珍しいじゃない、ノワールが有難うって言うなんて。でも、助け合うのが仲間、でしょ?」

「国境付近を選んだ事。最初にネプテューヌに討伐させたのも、プラネテューヌの為、だろ?」

「な、な…!?」

「ふふ、えい君も分かってたのね。改めて言うわ、ノワール。有難う。」

「…ふん。」

 

完璧に伏せており気づかれてないだろうと思っていたノワールは、最初から思惑が突抜かれている事に照れくさそうな感じで腕を組んでいる。ネプテューヌが変身を解き、皆のいるところに戻ろうとした時、ネプテューヌの言葉で、場の雰囲気が一転する。

 

「そうだ!ノワールがやられそうになってた事も、報告しないとね!!」

「そ、それはダメ!!」

「おーいみんなー!」

「ネプテューヌー!仲間なんでしょー!!」

「…全く、元気だな。………?」

 

一瞬、永守はノワールが寄りかかっていた方から、一瞬だけだが不思議な力を感じ足を止める。ニグーラとは違った、何か不吉な力のようなものを感じ取った。

 

「…気のせいか。」

 

今は、ネプテューヌとノワールを追う事が先決の為、永守もその場から離れる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ラスーネ高原で待っていた村人達にも報告(何故か、パープルハートとブラックハートの協力コンビによって倒したという話になっている。)を終え、永守、ノワール、ユニ以外はそのまま足で帰る事となる。永守は教会に置いてきてしまっているバイクを取りに行く為、一旦ラステイションに戻る。

 

少し教会で休んだ後にプラネテューヌへ向けて、夕暮れの中バイクを飛ばしている。暫く人気無い道をバイクで進んでいると、目の前に人が道を塞ぐかのように立っているのが見え、数メートル前で止まり、バイクから降りる。

 

「…子ども?」

「やぁ、初めまして。獨斗永守。」

 

 

 

 

 

その帰路途中の人気のない道で、不吉な奴と出会う―――――

 

 

 

 

 

名乗ってもいなにも関わらず、自分の名前を言われた事に警戒心を露にする。更に、その目の前にいる少年から、二週間前に行った神殿から帰る際に感じた不吉な雰囲気を察する。そして、永守は直感している。此奴は一人で立ち向かうのはやばいと―――――

 

「何者だ、何故俺の名を知っている。」

「ふふ。それは、ボクにとって君は重要人物だからだよ。」

「重要…?質問しても無駄だと思うが聞く。何故、俺の名を知っている。」

「言うわけないでしょ?君は知らなくてボクは知っている。こんな美味しい立場を逃すなんて出来ないよ。ま、その内分かるけどね。」

 

まるで子どもが玩具を独占しているように感じ、永守は良り警戒心を高める。

 

「一体何が目的だ…。」

「そう殺気立たなくていいんだよ。今回は挨拶しに来ただけなんだから。ボクの名は‘エンデ’。暫くは外野にいるよ。また何れ会うけどね。それじゃ。」

 

強烈な黒い波動と共に、エンデと名乗る少年は消えていった。最後に放った波動は挨拶代わりなのか分からないが、もし戦うとなると今のネプテューヌでも一対一で勝てるか怪しいと察する。しかし、永守は考える事を止め、プラネテューヌに帰る事が先決だと思い、バイクに乗り再び帰路を走る。

 

 

 

 

 

―――朝です。

 

 

 

 

 

翌日、俺はプラネテューヌのシェアが回復していた事を確認した。…のはいいが、シェアが回復した理由が、昨日のスライヌまみれになったネプギアのあられもない姿を、ネプテューヌが間違えて、国民向けに配信してしまい流出しているからである。

 

“ビジュアルショック”

“脳天直撃”

“まだまだイけるぜプラネテューヌ”

 

なんてコメントが寄せられていた。本当に大丈夫かこの国…。

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

またしても長くなってしまいましたが、その文あらゆる所にネタを入れてみました。
また、多くの方がこの小説を開いている事にも驚いております。



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Scene06 マジックカントリーオブルウィー~奪われた双子~

今回は試験的に、ネプテューヌを語り手として話を進めてみました。
「わたしが主人公なのに、何で最初から語り手じゃないの!」みたいな声が聞こえそうな気もするが気にしない。


 

 

 

 

 

 

やっほーみんなー!!主人公オブ主人公で、みんなのアイドルのネプテューヌだよ!!前書きでもそうなんだけど、6話目にてようやく私がこうやって出だしを語るのも変な話だけどね。

 

とりあえず、ラステイションの件が終わった後、えい君はバイクを取りにいくからってことで、私達は先にプラネテューヌに戻って、教会でえい君の帰りを待ってる事にしたよ。夕方過ぎには帰ってきたんだけど、なんだか険しい顔だったんだよね。一応、何があったのか聞いたけど、謎の少年に出会ったという事だけ。翌日からは、特に何事もなく仕事をやってた(私は何時も通り平常運行!)けど、“来たる日のために準備を…”とか言って、クエストを何時も以上に受けてたし、私と遊ぶ時間も減ってる(そこ、遊ぶなとか突っ込まない)から、心配になっちゃったし、何より考え込む時間が増えてるみたいで、なんだかえい君っぽくない。…という訳で、私はとある計画を実行しようと考えてる。ネプギアが楽しみにしていたし、えい君もリフレッシュの一石二鳥大作戦!いーすんにも許可貰ったから、後は当日を待つだけ!ふっふっふっ…当日が楽しみだよ!!

 

 

 

 

 

 

【計画当日:ルウィー】

 

「うわぁ、綺麗…!私、ずっとルウィーに来てみたかったんだ。」

「ネプギアが、そう思ってるような気がしてさぁ。」

「ありがとうお姉ちゃん。それに、ロムちゃんとラムちゃんが、遊びに来てって前々から誘われてたの。」

 

ここは、ゲイムギョウ界の北部にあるルウィー。ネプギアが、ルウィーの女神候補生である、ロムちゃんとラムちゃんに誘われてたのもあるけど、ネプギアがルウィーに行く事と、ルウィーの風景を見たりして、えい君の考え事も少しはなくなるんじゃないかって寸法よ!で、現在はルウィーの教会に向かって馬車で移動している訳で…。

 

「ブランさん、二人が他の国に遊びに行くのは、許してもらえないんだって。」

「あぁー、ブランって妙にお堅いところがあるからねぇ。そんなことしてると、ノワールみたいにぼっち属性が付いちゃうのにねぇ!」

「目の前にいるんですけど…てゆーか、誰がぼっちよ!!」

 

今回、ラステイションのノワールとユニちゃんにも、ルウィーに行かないかとお誘いをしたら、ノワールらしい反応でOKと帰ってきて、同じ馬車で行くことになって、現在に至る。まる!

 

「ごめんごめん。でも、面と向かって言われた方が、自分を変える切っ掛けになるよ。」

「グータラ女神には言われたくないわよ!永守、友達なら少しはこのグータラ女神になんか言ってよ!!」

「………。」

 

あ-、また考え事かな?さっきから、えい君は壁に背を向けて立っている状態で、ずーっと外を眺めているんだよね。多分こっちの会話、全く聞いてない感じ。因みに今日のえい君のファッションは、いつも来ている黒いノースリーブパーカーではなく、私が着ている同じデザインの白パーカー上着を着ているよ。

 

「おーい、えい君ー?」

「…ん、どうした。」

「さっきのノワールの話、聞いてた?」

「…悪い、全く聞いてなかった。」

「~~~~~ッ!!」

「お、お姉ちゃん大丈夫!?」

「もう、永守のバカ!!!!」

「…状況が全く分からないんだが。」

「えい君、今日は考え事無しだって言ったじゃん。あ、そうだ!!」

「お、おい!」

 

立っているえい君の手を引っ張って、真ん中に座らせる。姉妹サンドの完成…!!

 

「お、お姉ちゃん、ちょっと狭いよ。」

「強引だな…。」

「ネプテューヌさんって大胆ですね…。」

「ずっと立ってると疲れちゃうでしょ?だったら少しは座った方がいいよ。」

「ねぇ永守。貴方恥ずかしくないの?」

「正直に言えば恥ずかしいが、流石に何回も同じ事繰り返したら、嫌でも慣れる。」

「貴方も苦労してるのね。」

「まぁな…。」

 

そんな会話をしていたら、教会が見えてきた。さぁて、乗り込むぞー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ルウィー教会入り口前】

 

バーン!

 

「無限に広がる大宇宙!!」

「ちょ、ネプテューヌ!!普通に入りなさいよ!!」

「え~?扉があったら今の台詞を言うのが定番でしょ?」

 

私はたださっきの台詞を言って扉を”普通”に開けただけだよ。何をそんなに気にしちゃってるのやら。因みに、私の右腕は伸びてたりはしないよ。

 

「しかし、警備の人はいるが出迎えは無しか。」

「何でも、最近は仕事が立て込んでるっていう話ですよ。」

「多分執務室あたりにいると思うから、そこまで行こうよ。」

「貴方にしては、まともな考えね。ま、いないのなら直接本人に会うまでってことね。」

 

っという訳で、私が先導して執務室に向かう事になったよ。それで、途中の曲がり角から、数人の足音と怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「お~ま~え~ら~!待ちやがれ!!」

 

この声は、ブランだね。そして、曲がり角から、ラムちゃん、ロムちゃん、ブランが出てきた。

 

「ああ!ネプギア、ユニちゃん!それに、永兄!!」

「来てくれたの。(うきうき)」

「うん。遊びに来たよ。」

「やっほーブラン、来ちゃった!てへっ。」

「………。」

 

案の定、ブランはあまり嬉しくない感じだね。あ、補足だけど、えい君は週一ぐらいに他国を回ってて、その時にルウィーに訪れた際、ルウィーの教祖であるミナさんの指導の下で一緒に遊んだりしたって話だよ。

 

「ねーねー、折角来たんだから遊ぼうよ!」

「遊ぼっ、遊ぼっ!(わくわく)」

「うん!ユニちゃんもいいよね?」

「ま、まぁ、ネプギアがそこまでいうなら…。」

「永兄もいいよね!!」

「あー…ちょっと待て。ネプテューヌがブランにお話するのに付き合わなきゃならない。それが終わってからであればいいぞ。」

「ねぷっ!?そこでそういう振りする!?」

「遊びにきた訳じゃないのだから、それくらいは当然だろう。」

 

うーん、そう来たかぁ。まぁ、ブランも誘えたらそれはそれで結果オーライだもんね。

 

「それもそうだね。じゃあブランー。何処か話せる場所ある?」

「あまり話してる時間はないけど…仕方ないわね。ベールも呼んでくるから、中庭で待って頂戴。」

「ベールも来てるの?以外ね。」

「まぁ、言われた通り中庭で待ってようよ。」

 

そう言って、わたし達は中庭に向かう事にするよ。

 

 

 

 

 

【ルウィー教会:中庭】

 

そんな事があって、中庭にある椅子にわたし、ノワール、ブラン、ベールっていう感じで座ってるよ。椅子が足りなくて、わたしの直ぐ近くでえい君は立ったままで構わないらしく、そのまま会話を進める事になったよ。ネプギア達は近くで雪だるま作ってるね。

 

「…この紅茶、上手いな。」

「お口に合って良かったわ。それと、御免なさいね。椅子が足りなくて。」

「気にするな。特に困ってる訳じゃない。」

「やはり、永守さんってお優しい方ですのね。」

「優しい、か…。それより、ネプテューヌ。」

「うん。まぁそんな訳でね、ルウィーに新しいテーマパークが出来たって聞いたから、皆で遊びに来たの。」

「…イストワールからは、女神の心得を教えてやって欲しいとの連絡だったけど。永守は知ってたの?」

「俺も、女神の心得を聞くという話だったのだが…。」

「あー、それはもういいよ。前回があんまり役に立たなかったし。」

「悪かったわね…。」

「前回はそれどころじゃなかっただろう。」

「そうだね、あの時はノワールがね―――――」

「い、言わなくていいわよ!!」

 

と、あんな事やこんな事があったのを言おうとしたらストップが掛かっちゃった。すると、ベールが“皆でテーマパークに行くのも、楽しいのでは?”と言うと、ロムちゃんとラムちゃんが、目を輝かせながらこっちに来た。相当行きたそうな感じだね。

 

「もしかして、スーパーリテールランド?行きたい行きたい!!」

「連れてって…!(わくわく)」

「これは、女神の心得どころじゃないな。…そうだな、スーパーリテールランドの視察ってことで、心得の埋め合わせだな。」

「おお、遊びつつ仕事してるって感が出るね。流石えい君、いい考えだよ!!」

「それで通るかはイストワール次第だ。」

「まぁそこは、わたしがなんとかするよ。でさぁ、ブランも行くよね?」

 

当然ブランも行くだろうと思うけど、予想外な反応が返ってきて、わたし達は驚く。

 

「私は、行けないわ…。だから、妹達を連れてって貰えないかしら。」

『えええええ!?』

「なんで、なんで?」

「お姉ちゃん、行かないの?(うるうる)」

「え~仕事ぉ?仕事なんか捨てて一緒に行こうよ。昔の偉い人が言ってたじゃん。“働いたら負けかな”って。」

「それ、偉い人じゃないわよ。」

 

ノワールが言い終わると、ブランが立ち上がると同時にバンッと両手で机を叩く。なんか、心なしか顔も少し怖い気が…。そんな逆鱗に触れるような事を言った覚えはないんだけどなぁ。

 

「兎に角、私は無理…。」

 

そう言って、ブランは教会の中に戻っていってしまった。皆が、ブランの予想外な反応で固まってしまったけど、えい君はちょっと違った。

 

「…なぁロムにラム。最近ブランに変わったことってなかったか?」

「え?変わったこと…?無いと思う。だよねラムちゃん。」

「うん。特に変わったところはないよ。」

「ベールも、ブランに変わった事とか気づいた事は…。」

「ええ、私も心当たりはありませんわ。」

「まぁまぁ、過ぎたことはしょうがないから、このメンバーでテーマパークに行こうよ!!」

「それでネプテューヌ、貴方スーパーリテールランドの場所知ってるの?」

 

ノワールの言葉を聞いて私は黙り込んでしまう。しまったぁ、余りにも今日が楽しみすぎてそういう事考えてなかったぁ。

 

「お、お姉ちゃん…?」

「無計画にも程があるわよ…。」

「大丈夫ですわ。私がご存じですので、道案内兼ねて先導しますわ。」

 

そうしてわたし達はベールの先導の元、スーパーリテールランドに行くことになったいのだ。

 

 

 

 

 

【ルウィー:スーパーリテールランド】

 

「わーい!!」

「ラムちゃん、待って…!」

「二人とも、ちゃんとコート着てぇ!!」

「ネプギア、入場券忘れてる!!」

 

ベールの案内もあって、何事もなくスーパーリテールランドに着いた。ネプギア達が楽しそうで何よりだよ。

 

「テーマパークか…、数年前にQフージパークに行って以来か。」

「んん?それって、えい君が住んでた所あるテーマパーク?」

「ああ。まぁ、それ以降はそれどころじゃなかったがな…。」

「おお、あれはルウィーの名物でもあるピーチ!折角来たんだし買って食べようよ!!」

「お、おい。引っ張るなって…!!」

「ネプテューヌも子どもねぇ…。」

「でも、それでこそ、ネプテューヌではないかしら。」

 

後ろからそんな声が聞こえた気がしたけど、えい君の左手を掴んでピーチ屋の前まで行く。

 

「20個、くーださいなー!」

「…随分と買うな。」

「皆の分とお土産を考えたら、それくらい買わなきゃ。」

「で、支払い含め、誰が持つんだよ。」

「ん?もちろん、えい君だよ。」

「ですよね。…経費から引き落とせないだろうか。」

 

ピーチが大量に詰められた袋が来たから、それをえい君が両手で持つことになった。因みに、ノワールとベールはピーチ屋の直ぐ近くにあるベンチに座ってるよ。

 

「他国の女神が来てるんだから、ブランも付き合うべきじゃないの?ホントッ、ブランは何を考えてるか分からないわ。」

「まぁ、確かに。彼女はもう少し大人になるべきですわね、私のように。」

「本日のブーメランは此方ですか?」

「な、何の事でしょうか…?」

「…ねぇ。そういえば、ベールはどうしてルウィーに―――――」

「こらああああああああああああああ!」

 

ノワールがなんか話してたけど、そんなことはどうでもいい。えい君の足にしがみ付いている80~90cm位のでっかい亀がいて、ピーチを狙っている事の方が重要だよ!!

 

「でかい亀だな…。」

「それはわたし達のピーチだよ!!」

「1個ぐらいあげてもいいだろう。」

「ダメダメ!!例え1個でもあげられないのはあげられないの!!」

「ネプテューヌ。1個ぐらいあげてもいいじゃないの。貴方こそ大人になったほうがいいわ。」

「ダメなのはダメなの!!これだけは譲れn―――ねぷううううううう!!!!」

 

ノワールを見つつ、亀に向かって指をビシッという感じで指して、亀の方をみたら、えい君が既に1個ピーチを食べさせてて、驚いた声を上げる。

 

「ちょっとちょっと!なんであげちゃってるn―――あいたぁっ!」

「我が儘いうな。全く…後で買ってやるから我慢しろ。」

「ねぷっ。」

 

ちょっと痛いデコピンをえい君が放ってきて、少し痛いしびっくりしちゃった。その後頭を軽く撫でられて更にびっくりしちゃった。ただ、妙に心が落ち着いちゃった…えい君が無表情で撫でているのを除けばね…。

 

「まるで、保護者とその子どもみたいですわね。」

「プラネテューヌの女神があんなんで大丈夫なのかしら。」

「…ちょっとここに桃、置かせてもらうぞ。」

 

そう言ってえい君は、ノワールとベールの間に買ったピーチの袋を置いた。

 

「あら、永守さん。どうしたのですか?」

「ちょっとな。」

 

そう言ってえい君は歩き始めた。

 

「ちょっと永守、何処行くのよ?」

「シスターズを探しに。折角の桃だ。ワインと旅させる前に食べた方がいいだろう。」

 

えい君はネプギア達が行った方向へ移動した。え、わたし?わたしは、置かれたピーチを1個取って食べてるよ。まいう~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、この回もあと少しで終わりなのだが、俺はネプギア達を探しに向かっていた方向に歩いている。しかし、周りにある遊具やら浮いているコインが、何処かで見たことあるような…なんというか、マンマミーヤーとか言いそうな配管工のおっさんとか出てきてもおかしくない感じだ。

 

「ん?なんだあれは…。」

 

話をしよう。今、目の前にデッテリューコインがある。それも大量にだ。それだけならいいのだが、まるで誰かを誘うかのように並んでいる。怪しいと思ったその時だった。

 

『きゃあああああああ!!』

「ネプギア…!ユニ…!」

 

曲がり角の所から、ネプギアとユニが倒れ込むように吹き飛ばされていた。誰かに攻撃を受けたかのようだ。咄嗟に曲がり角へ向かう。

 

「おお、また邪魔者か?」

「ロム、ラム…!何者だ…!」

「幼女以外に興味はない!」

 

でっかいトカゲのような奴の舌が此方に向かって伸びてきている。恐ろしい速さで繰り出されたその舌を、素手で受け流す。かなりの衝撃があったのか、腕が軽くはじき飛ばされ痛む。だが、“素手で受け流した”のが間違いだったと後で気づく。

 

「ほう、今の攻撃を受け流すとは、やるなぁ。」

「確かに、ネプギアとユニが回避できなかったのも頷k―――!?な、なんだ…!?」

 

銃を腰から抜き構えようとしたが、その銃を落としてしまう。それどころか、急に体が痺れ始め、膝を付いてしまう。何とか立ち上がろうとするが、思うように立ち上がれず、何度も膝を付いてしまう。

 

「おいおい、トリック様の神経毒を受けて立ち上がろうとするのかよ。でも、結果的にやりましたね。」

「アックックックッ。俺の舌は、幼女には癒しを、邪魔者には毒を…特に野郎には効果的だぁ。」

 

そう言ってトリックという奴と、肌黒い少女はその場を立ち去っていく。

 

「ロムちゃん、ラムちゃん…!!」

「クソッ、神経毒の訓練は…したこと…ないからな…!」

 

目の前に居ながら、犯罪者を逃がすというやらかしてはいけない事をやってしまった。兎に角、このことをネプテューヌ達に伝えなければ…。そう思い、思うように動かない体を無理矢理動かし、Nギアを取りネプテューヌに連絡をする。

 

 

 

 

 

「ねぷっ、えい君から電話?もしもし、どうしたのえい君。」

『悪い、救援と、警察に連絡を…。』

 

Nギアからは確かにえい君の声がする。でも、なんだか苦しそうな感じだった。

 

「ちょっと、えい君。救援と警察に連絡ってどういうこと!?」

「ネプテューヌ、どういう事よ。」

「何かありまして?」

 

私は、ノワールやベールにも聞こえるよう、Nギアをスピーカー音声に切り替えた。流石の私でも、これはただ事じゃないと察したよ。

 

『ネプギアと、ユニが攻撃を受けた…。俺も、神経毒に犯されている、ようだ…。』

 

あまりの出来事に、私達は顔を見合わせる。けど、次のえい君の言葉に、驚愕してしまう。

 

『問題は…ロムとラムが、誘拐された…。』

 

わたし達は頷き、急ぐようにえい君が向かった方向へ走り出した。

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

ここまで書いてはいるものの、オリキャラすらキャラ崩壊してないかと不安になってきます。文章って難しいorz


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Scene07 マジックカントリーオブルウィー~双子を探して~

各キャラの一人称が私で統一されているのに違和感を感じて、もう一度ゲームを見直したりしたら違っていた…。
なのでできる限り原作に忠実の一人称にしていきます。



 

 

 

 

 

あれからわたし達は、ロムちゃんとラムちゃんが誘拐された事をルウィー警備隊に言って、ネプギア、ユニ、えい君を教会まで送って貰った。

 

「…これで大丈夫よ。」

 

ネプギアとユニちゃんは別室で簡単な治療、えい君は傷自体は大したことなくパララキシンで治ると判断され、ノワールからパララキシンを打ってもらい、感覚が治ったかの確認の為か、握りこぶしをぎゅーっとして、右ストーレートを放ったよ。

 

「ネプギアとユニは大丈夫なのか?」

「うん、今別室で治療してもらってるよ。二人とも傷自体は大したことないみたい。」

「そうか…。ブランに、申し訳ない事をした。」

「貴方のせいじゃないわ。私達も、あの時に貴方と一緒に付いて行けばとか、最初からユニ達一緒に行動すれば、未然に防げる場面はあったのだから…。」

「そうそう、えい君一人で抱える必要はないよ。」

「それでも、ブランが心配だ。女神候補生とはいえ、彼女にとっては家族同然の人が誘拐されたのだから。それに、当事者が動かないのは性に合わない。」

「そうね…私達も無関係って訳ではないし、ここで動かないのは女神として失格な気がするわ。」

「そうだね、ここまで来たのだから、誘拐犯捜索に協力するしかないよね!じっちゃんの名に懸けて!!」

「いや、貴方におじいさんなんていたっけ…?それよりも、ベールが協力すると促しには行ったけど、戻ってこないわね。」

「…執務室に行こう。謝らなければならないし、協力できるならした方がいい。」

「よーし、そうと決まれば、執務室に行こう!」

 

ルウィー教会の執務室に行くことが決まったので、執務室に向かう事にした。執務室前にベールがいて、丁度ネプギアとユニちゃんも一緒だったから、協力の申し出をしようと思ったんだけど…。

 

「ご、ごめんなさい…ブラン様の命令で、誰も通すなと…。」

 

予想外だった。普段から堅い所もあるけど、ここまで堅いブランは初めてだった。ルウィーの教祖であるミナさんなら、通してくれるかと思ったんだけど、まさかの誰も通すなという命令を忠実に熟していたよ。

 

「えぇ?わたし達女神仲間なんだからいいでしょ?」

「それが、例え女神様でも通すなと…。」

「どういう事だ。仮にも俺達は、ロムとラムを預かったのだから、責任はある。」

「そうです、せめて謝らせて下さい!」

「ロムとラムが誘拐されたのは、アタシ達のせいなの!」

「既に、警備兵を総動員で捜索に当たっています。どうか、御理解を…。」

「それは知ってるわよ!!でもどうして!!」

 

そんなわたし達の嘆きに対して、ブランは扉越しから話しかけてきたけど、協力的なものじゃなかった。

 

「帰って…貴方達は何時もいい迷惑よ。それに、誘拐を阻止できなかった人の協力なんて、信用にならないわ…。」

『………。』

「ブラン…その言い方は―――――」

「いいから帰って!!…ミナも、通常業務に戻って。暫く一人になりたい…。」

「は、はい…。」

 

そう言われてしまい、各々中庭に向かう事になった。

 

 

 

 

 

【ルウィー教会:中庭】

 

「こんな非常事態に、意地を張るなんてどうかしてるわよ…!」

「素直じゃないのは、ノワールの特権なのにねぇ。」

「貴方、時と場を考えなさいよ…。」

 

おっとっと、流石に空気読んだ方がよかったみたい。ノワールが明らかに怒りマークが出てきてもおかしくない表情になってる。

 

「あの、皆さん…実は…ってあら、永守さんは?」

『え?』

 

ベールの質問に対して、全員が周りを見渡す。さっきまでいたような気がしたんだけど、いつの間にかいなくなってる。だけど、ネプギアだけは、とある場所を見ていて話しかけてくる。

 

「お姉ちゃん、永守さんならあそこに…。それに、あれ…なんだろう。」

「…んん?」

 

ネプギアが見ているのは、丁度ブランがいる執務室。ブランの横にえい君の姿がいる。ここまではまだいいんだけど、見覚えのない3人がいる。2人の黒人は照明とカメラを持っているのに気づく。

 

「これは…見に行った方がいいかもね。」

 

そう言ってわたしは執務室まで走り出した。

 

 

 

 

 

【ルウィー教会:執務室(数分前)】

 

「ロム…ラム…ごめんなさい、わたしのせいで…。わたしが、姉として…もっと、ちゃんとしていれば…。」

 

わたしは、今にも押し潰されそうな気持ちで歩いている。ネプテューヌ達には酷い事を言ってしまった。それでいて、永守は協力も促してくれた。だけど…それは出来ない。こんなみっともない姿を見せるわけにはいかないし、彼女達に預けてれば安心と考えた、わたしの判断にも責任はある…。ルウィーで起きた事は、わたし一人で解決しなければならない。

 

「何とかしなきゃ…何とか…。」

「…何とかするなら、何故俺達を頼らない。」

「…!?」

 

突然、後ろの方から声が聞こえた。立ち去ったはずの永守がそこにいた。

 

「永守…いつの間に…!!貴方、なんでここに居るの…!!」

「無礼なのは分かっている。それに、身内が誘拐されたという気持ちは分かる。」

 

救いの手を差し伸べてくれるのを待っていたのかもしれない。でも、今のわたしは視野が狭くなっている。今のわたしにとって、彼という存在は邪魔でしかない。

 

「出てって…貴方には関係ないわ。これは、わたし一人の問題よ…。」

「何故そこまでして一人で解決する事に拘る。」

「貴方に…何が分かるっていうの…!!」

「…全ては分からない。だが、俺達はお前の事を心配しての行動だ。ネプテューヌも同じ気持ちのはずだ。」

「五月蠅ぇ…!出てけっつってんだろ!!」

 

 

 

バチーンっ―――

 

 

 

今のわたしは、怒りや悲しみ等が混ざった複雑な感情を抱いている。今の永守は目障りにしかなかった。冷静でないわたしは、彼の頬に向けて思いっきり裏平手打ちをしてしまった。そして罪悪感と疑問の感情が生まれる。一国を支える女神であろう者が、一般人に向かって暴力を振るってしまった事。そして、大振りで雑な裏平手打ち、永守なら避けたり、受け止めたりできるはずなのに、何もせずに裏平手打ちを受けた。彼の口元から血が出ている。

 

「…!!な、なんで―――――」

「何故、避けなかったと…避ける気がなかったからな。気が済むなら殴ればいい。それでロムとラムを探す案が生まれるならな。」

「………。ごめんなさい。わたし、なんてことを…。」

 

彼は手で血を拭ってわたしの近くまで来た。相変わらずの無表情だが、怒っている感じは全くしなかった。

 

「妹達が誘拐され、平常心を保っている方が可笑しな話だ。」

「それでも、貴方に手を出したことは事実…。」

「友達や、仲間だからこそ許せることもある。分かち合えることもある。」

「友達…仲間…。」

「そうだ。何の為の友好条約だ。なんでネプテューヌ達が協力をしたかったか…。ブラン、お前は一人じゃないだろう。あくまで、俺が思う友好条約の解釈だが…。」

「貴方、一国の女神に偉そうに言える立場だったかしら…?」

「そりゃごもっともな回答だ。誘拐を阻止できなかった奴からのアドバイスは特にな。」

「そうね…。でも、有難う。」

 

彼の言う事は一理ある。“女神戦争”で争っていたが、今は友好条約で結ばれた関係である。だからこそ、今ベールとあの計画を進めている。あの計画を――――

 

「そうだ、あれを使えば…!!」

 

わたしは閃いた。丁度、リーンボックスと共同で行っている計画がある。それを使えば、ロムやラムの居場所が分かると思いついた。

 

「探せる方法があるのか。」

「ええ、一つあるわ。早速――――」

 

そうして行動に移そうとした直後だった。執務室の扉が横スライドで開く。

 

「ガラっ!!み~つけた!!」

「!?」

「照明にカメラ…。取材か?」

 

永守の言う通り、マイクを持った小さい少女と、カメラと照明を持つ黒子が此方に向かってくる。

 

「だ、誰?」

「私はアブネス!幼年幼女の味方よ!!」

 

彼女の名前に聞き覚えがない。永守の方に顔を向けるが、彼も首を横に振る。執務室前は兎も角、今教会にいるネプテューヌ達以外は、許可無しに教会内へ通すなと命令はしている。つまり、この3人は不法侵入したと考えつく。

 

「大人気番組、“アブネスちゃんねる”の看板リポーターじゃないの。知らないの?」

「ああ、知らないも何も、俺は一ヵ月と少し前にゲイムギョウ界に来たからな。」

「一ヵ月前に…?ふ~ん、なるほど。貴方がギルドで噂になっている…。まぁ、後で詳しく聞かせて貰うわ。それより今はこっちよ。中継スタート!!」

「中継…?」

 

最初は、何を言っているのか分からなかったが、カメラ担当の黒子が持っているカメラが赤くRECと点灯し、照明が向けられている事で理解した。

 

「全世界のみんなぁ!!幼年幼女のアイドル、アブネスちゃんでーす!!今日は、ルウィーの幼女女神、ブランちゃんの所にきてるゾ!」

 

こいつ、本気で中継を始めていやがる。しかも、不法侵入してきた輩にだ。おまけに好き勝手に言われ、無性に怒りが込みあがってくる。

 

「おい、てめぇ…いい加減に―――」

「ところで、妹のロムちゃんと、ラムちゃんが誘拐されたって噂はホントなのかな?そこのとこどうなってるのかな?ブランちゃん!!」

「な…!どうしてそれを…。」

「ブランっ…!!」

 

彼女の予想外な返答に対して、思わず驚きと本音が漏れてしまう。ロムとラムが誘拐された事は、ネプテューヌ達とルウィーの教会内部の者以外には極秘となっている上に、誘拐された人物の名前も極秘である。幾ら頭のネジが緩いネプテューヌでも、女神を蹴落とすような情報漏洩はしない。だが、アブネスはロムとラムの名前、そして誘拐されたという情報を何処で入手したのか、知っているかどうか別として反射的に答えてしまった。そこに永守が声を掛けた事で“ハッ”と我に返る。その反射的に答えてしまった事が不味かった。アブネスの質問に対する疑問が確信に変わってしまった事を意味する。

 

「ホントなんだ!!アブネス、心配…。で、可愛い妹を誘拐された気持ちはどうなんですか?」

「っ…。」

「つまり、妹達が誘拐されてしまったのは、貴方の責任ってことですね。ブランちゃん。」

「そ…それは…。」

「見てください、この幼女女神はなーんにも釈明してくれません!やっぱり、幼女に女神なんて無理です!!幼女は、お遊戯とかして、伸び伸びとするべきなんです!!」

 

極秘だったとはいえ紛れもない事実を言われ、反論する言葉がなくわたしは黙り込んでしまう。

 

 

 

 

 

「むぅ…何さ、あの幼女。」

 

ネプギアが執務室の窓際にブランとえい君。それとカメラと照明を持った謎の黒子が見えたことで気になり、執務室の扉を少し開けて様子を伺っている。

 

「確かに、あれじゃ虐めじゃない。」

「ブランさんが可哀そう…。」

「あの方は、一体何を考えているのかしら…。」

「なんだか、イライラしてきたわ…。」

 

わたし達5人共、考え方は違うけど、ブランを心配しているのに変わりはない。あれじゃ公開処刑と同じだよ…。そんな時、ブランの隣にいたえい君が、何か呟いたように見えた後、黒子のカメラをえい君自身に向けたのが見えた。

 

「ちょっと、貴方何してるのよ!!」

「ルウィーの国民の皆様。この度は、混乱を招くような事態を起こしてしまった事を、お詫び申し上げます。」

 

そう言って、えい君は幼女の声を無視しつつ深くお辞儀をした後、また語りです。

 

「今回、ルウィーの女神であるブラン様から、直々にロム様、ラム様の面倒を命じられた者です。アブネスさんの言う通り、誘拐された事は事実です。そして当時、誘拐現場に居合わせていたにも関わらず、お二人の誘拐を阻止できなかった事は、私の全責任であります。」

 

最後の言葉を聞いてわたし達全員は驚いてしまう。まるでブランだけでなく、わたし達の責任分を全て請け負うかのような発言だった。

 

「ですが今回の件で、もブラン様も大変お二人を心配ており、悲しんでいます。それでも、ブラン様は全力を尽くしている限りです。…必ずお二人を見つけ出し、皆様にお元気なお二人の姿を見せれるよう、努力致します。そして、今まで女神様が齎した恩義を仇で返さず、ご協力して下さるようお願い申し上げます。」

 

そして、えい君は再び頭を深々と下げていた。ブランも何かえい君に向けて呟いているのも見えた。

 

「…なんの心算か分からないけど、話は分かったわ。つまり貴方は、今回の誘拐事件の首謀者を見つけたにも関わらず逃したってことよね。なら、貴方から聞いた方がいいわね、カメ―――――」

「こらぁ、何やってるのぉ!!」

 

一方的に攻められている二人(えい君は自分から追いやってるけど)を見ている事に、我慢の限界を迎え、ノワール達の待ってを無視してカメラ担当の黒子を退かし、幼女の前に立つ。

 

「ネプテューヌ…何で…?」

「ネプテューヌ。お前…。」

「何よ貴方、邪魔しないで。」

「そっちこそ何さ。わたしはネプテューヌ…プラネテューヌの女神だよ!!」

「プラネテューヌの女神ぃ…?」

「あぁ…信じられないだろうが、彼女はプラネテューヌの女神だ。」

 

…今、えい君がさりげなく釘を刺してきたような気がしたけど気にしない。そして、幼女はわたしを見定めているかのようにマジマジと見ている。

 

「ふぅん、外見は少女とも言えなくもないけど…。でも体が未発達だわ!貴方は幼女、幼女認定よ!」

「…これは、おま言うというべきか?」

 

えい君、ナイス発言!!その発言には乗らざるを得ないね!!

 

「そうだそうだ!わたしより小さいのに、幼女なんて言われたくないよーだ!!」

「な…!わ、私の何処が幼女って言うのよ!!」

「そうでしょ!わたしより一回り小さいんだから、幼女に違いないでしょ!!」

「何よ!幼女って言う方が幼女なんだからね!!」

「それならそっちが幼女だね!先に幼女って言ったのはそっちだもん!!」

「ぐぬぬぬ、また幼女って言ったぁ!!ムキーーーーー!!」

 

わたしと幼女が言い争っている中、ノワールとベールがカメラ担当と照明担当の黒子を追い出していた。ナイスファインプレー!!

 

「あぁ、こら!!なんてことしてるのよ、営業妨害よ!!」

「営業妨害か…アポ無しで、事前説明も無しの放送の方がよっぽど法的にどうかと思うが?」

「何よ、これは取材よ!犯罪ではないわ!!」

「ちょっと何それ、それじゃ自分は悪くないって言いたいの?」

「ええそうよ!それにそっちもそっちよ!誘拐と言う事実を隠してたのだから、そんな事言える立場なの?」

 

そんな時だった、その場にいる全員がえい君を見た。なんとも言えない、不気味な雰囲気が漂っていたから。

 

「(あ、あれ?もしかして、えい君怒ってる…?ていうかちょっと待って、えい君の両手が凄い力入ってるんだけど?)」

「お前は、そんなにルウィーが嫌いか…?そんなに女神が嫌いか…?そんなに、女神を蹴落とすのが好きか…?」

「な、何をどう言われようが、ゆ、誘拐された事は事実じゃない…!!」

「誘拐という事実は覆せない…。だが、誘拐されて一番悲しんでる相手に、追い打ちを掛けるような事して、お前は何にも思わないのか…?」

「で、でも事実は事実な―――――」

「事実だろうが、言っていいことと言ってはいけない事があるだろう。それに、お前は俺の恩人…俺達の大事な仲間の心を踏みにじった…。」

『え、永守さん…?』

「え…あ…。」

 

ネプギアとユニちゃんが、何かを感じたのかお互い手を握って震えている。幼女もそれを感じ取ったのか後ずさりをしている。そして、わたしは見てしまった。多分忘れる事のないであろう、あの目を。

 

「さっさと失せろ…。じゃないと、俺はあんたを…。」

 

左手で顔を覆い被さると同時に、強烈な威圧を一瞬だけ感じた。明らかな殺意と、その瞳からは今までのえい君とは思えない恐ろしい目をしていた。まるで、平気で人殺しを、悪魔が友のような目を…。わたしやネプギア、ユニちゃんはそれを見て腰が抜けてしまった。ノワールやベールも壁に背を向けて動けなかった。

 

「きょ…きょきょ今日の所はこ、これくらいに、してあげるわ…!!」

 

そう言って、幼女は黒子の後を追うように逃げていった。それを見終えた後、えい君は自分の額を思いっきり殴ったので、わたしは、普段では見ない行動に驚いてしまう。

 

「俺は…一般人に何やってんだ…。」

「あ…あ…。」

「ねぇベール…普段怒らない人を怒らすと怖いっていうけど…。」

「あれは…それとは比にならないと思いますわ…。」

 

いやホントそれだよ。今まであった敵の中で、こんなに怖いと思ったのは無かったよ。それが、まさか身内にいるなんて…。でも、その後の顔をみたら、何時もの無表情のえい君だし、えい君はえい君だと思う。それよりも…。

 

「えい君~…手貸してぇ…腰が…。」

「あ、ああ…。」

 

そうして、わたしは差し出されたえい君の手を掴んで何とか立ち上がる。

 

「うぅ、まさかえい君が厨二病的なものを解放するなんて…。」

「厨二病は置いといて…すまなかった。ネプギア、ユニ、立てるか?」

「う、うん。何とか…。」

「でも、あれはアタシ達の前でして欲しくはなかったわ…。」

「す、すまん…。ブランも済まなかった。出しゃばり過ぎたことを…ブラン?」

 

えい君がブランに声を掛けた後、何かを感じたかのように言い、わたし達全員がブランに方を見る。顔を俯けたまま動かなかっただ。次の瞬間、ブランがフラッとなり倒れ込もうとする。ネプギアとユニちゃんが、何とか倒れる前に体を支えてくれた。ブランの状態を見ると、心なしか、呼吸が乱れてて疲れたような表情をしていたよ。心配になりブランの元にみんな集まる。えい君はブランの首元に指を添えている。

 

「ブラン…!!」

「ぶ、ブランさん!!」

「しっかりして、ブランさん!!」

「もしかして、今の中継を見た国民達の影響で、シェアが減った…?」

「シェアが減ると、女神は力が出なくなっちゃうもんね。」

「それにしては早すぎるわ。」

「確かに、脈拍は高いな。判断は難しいが、疲労かストレスか、或いは前者のシェアの影響か…兎に角、職員に伝えて休ませた方がいい。」

「皆さん…。」

 

周りが心配している中、ベールが突然わたし達に向けて話しかけてきた。

 

「方法があります。ロムちゃんと、ラムちゃんを見つける方法…。」

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

ネプテューヌの新作の情報が公開されていましたね。
しかしPS4…持ってないorz


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Scene08 マジックカントリーオブルウィー~双子奪還~

タイトルが全く思いつかず、流用作戦で落ち着く自分がいます。
とりあえず、アニメ基準のルウィー編最後となります。


 

 

 

 

日が暮れ始め、ルウィー教会内には夕暮れの光が窓から差し込んでいる。ブランを職員と手伝い、自室へ休ませた後ベールの提案により、全員が執務室のブランが普段使っているPCの前へ集まった。

 

「実は、ブランとはある計画を進めていましたの。永守さんは初めてだと思いますので、順を追って説明しますわ。嘗てルウィーでは、人工衛星を使っているサービスが行われていましたわ。」

「えっと、それってお寺ビューの事?」

「確かそれって10年前に終わった奴よね?」

「10年前に終わったサービスの名を出すという事は、何かあるのか。」

「ええ。確かにサービスは10年前に終了していますわ。ですが、人工衛星自体は稼働していまして、撮影された地上写真のデータを送る事が出来るのですわ。但し、低解像度の…。」

 

そう言って、ベールはその人工衛星から撮影されたであろう写真を見せてくれる。…確かにこれは何とも言えない写真となっている。まるで初代FCウォーズのマップチップを更に拡大して白黒にした感じだ。これでは簡単な看板地図ぐらいにしかならないだろう。

 

「ただ、リーンボックスの研究所で、あらゆる画像を解析して高解像度にするソフトウェアを開発していまして、それでお寺ビューに特化したソフトウェアの開発に成功しましたの。」

「おお、流石ベールの所は進んでるねぇ!」

 

若干ネプテューヌに突っ込みたいところもあるが、ここは黙ってベールの話を聞くことにしよう。

 

「そこでブランに、プロジェクトとして持ち掛けたのですわ。ルウィーの写真データを提供してくれれば、我が国はこのソフトを提供すると…。」

「今の話だと、お寺ビューで撮影されたデータを、リーンボックスに送り、そのシステムで高解像度になったデータをルウィーとの二国間で共有する事になる。」

「…ええ…確かに…永守さんの言う事も間違いではありませんわ。」

「え?それって、貴方達だけが世界中の情報を得られるってことになるじゃない。」

「ええ!?わたし達見られすぎて困っちゃうじゃん!!」

 

俺の言っている事が正しいようで、ルウィーとリーンボックスのみで提供しあうとなれば、プラネテューヌとラステイションが新しい建物や軍事施設等を建設しているのも筒抜けになってしまう。だが、このシステムを利用してシェアを奪うようであれば友好条約の規定外ではないか?恐らくそんなことはないと思うが俺は聞いてみる事にした。

 

「ネプテューヌとノワールの言う通り、それでシェアの影響が出たら友好条約の規定に引っかかるんじゃないか?」

「いいえ、そんなことはしませんわ。わたくし達はそのデータを、皆で共有しようと思っていましたのですわ。」

『ええ?』

「ブランが最初に持ち出した話ですわ。友好条約を結んだのだから、四つの国で等しく利用すべきだと…。」

「ブランが…?」

「ええ、だから公開する機会を窺っていたのですわ。ちょっとしたサプライズプレゼントみたいで、洒落ていると思いまして?」

「ある意味今回はサプライズプレゼントだな。」

「そうですわね。このような形で、皆さんに公開するなんて思ってもいませんでしたわ。」

 

そうしている内に、PCから解析が終わったような音が発せられる。

 

「解析が終わりましたわ。これで誘拐犯の逃げた足取りが分かりますわ。早速…あら、ここは?」

 

ベールの発言と同時に全員がPCに目を向ける。二人のシェアエナジーの足跡や監視カメラ風に撮影された画像を元に犯人の場所を突き止めた。その場所は―――――

 

「スーパーリテールランド…?」

「機材や重機があるということは、建設途中かしら。」

「報告によれば、警備隊はそのエリアを調べてないようだ。なるほど、隠れるにはうってつけの場所って訳だ。灯台下暗しってとこか。」

「よーし、そうと分かれば殴り込みだぁ!!」

「お待ちになって、作戦を考えずに行くのは無謀ではなくて?それに、まず優先すべきは人質となっているロムちゃんとラムちゃんの救出ですわ。」

「まずは、その建設現場の見取り図があればいいが…。」

「ブランには失礼だと思いますが、少々調べてみますわ。」

 

そう言ってベールはPCを操作し、数分もしない内に建設予定図を開く。流石、ゲームだけでなくこの手の事もお手の物って訳か。

 

「入口は、正面口と非常口の2つか…。」

「恐らくですが、犯人はこのあたりにいるのではないかと推測できますわ。」

「資材置き場…広さ的にもあのトカゲ野郎が入っても広すぎるスペースだな。だが、2つの出口に行くまでの道は一方通行…。奴の体格ならそこにいるのが妥当だが、もし本当にいるとなると袋のネズミ状態だな。」

「となると、突撃班、通路を見張る班、2つの出入口を見張る班に分かれる感じかしら。」

『よし、じゃあここはわたし(俺)が―――――』

 

と、俺とネプテューヌが同時に突撃班を担当しようと声を上げた時、ベールが提案をする。

 

「お待ちになって、突撃班はわたくしが担当しますわ。」

「え~、主役はわたしだよ?わたしが裏方になるなんてあり得ないよ。」

「何か考えがあるの?」

「永守さんのような男性が行くより、女性である方が交渉に応じやすいと思いますわ。それに、貴方達にはなくてわたくしにはある秘策がありますのよ。」

 

なるほど、何となく察した。ここにブランがいたらキレてるだろうな…と思ってしまった。ここはベールに任せるのが無難だろうと考え、不満を漏らしているネプテューヌの頭をポンポンッと優しく叩く。

 

「分かった。ここはベールに任せて、俺とネプ姉妹は出入口、ノワールとユニは通路を頼む。」

『え?』

「ちょっとぉ、それじゃあわたし達3人は裏方じゃん!!ダブル主人公が裏方って変じゃん!!」

「あれ、さりげなく私も含まれてる…?」

「失敗は許されない一発勝負だ。何より極力建設現場を破壊したくはない。」

 

そう言って全員が納得したような雰囲気になり、ネプテューヌも渋々招致した。ネプテューヌには申し訳ないが、成功率が高い方法で行った方が最小限に収まると思うからな。執務室に置手紙を置いた後全員で現地に向かった。

 

 

 

 

 

【ルウィー:スーパーリテールランド建設途中地】

 

現地に到着後Nギアで連絡をし合い、各自の配置に着いたのを確認し通話を切る。丁度メインホールの出入口の為か外であり、万が一外に出た場合は容易に追える場所でもある。入口に簡易式網罠を仕掛け、入口と上を交互に見つつ警戒をしている。そんな時にこんな声が聞こえてきた―――――

 

「出てこーい誘拐犯!わたしが直々にねっぷねぷにしてやんよぉ!!」

 

自ら居場所を教えていると思ってしまう程に響き渡るネプテューヌの大声が聞こえた。ネプテューヌらしいと言えばそうだが、状況を考えると宜しくない行為だ。

 

そんな時、上から“ドゴーーーンッ”という轟音と共に見覚えのあるトカゲ野郎が吹っ飛んでいるのが見えた。ベールの攻撃で吹っ飛んだのか、壁を破ってまで逃げたのか、ここからでは詳しく分からないが、俺は吹っ飛んだ方へ向かう事にした。なるべく最短距離を進むべく真っ直ぐに向かい、跳躍で超えれそうにない壁はトラベルハットに空間移動の念力を蓄積させ、塀の向こうへ投げて地面から空間移動する。因みにこの空間移動自体はScene05で一度披露している。…それにしてもあんな吹っ飛び方するのは、アニメぐらいでしか見た事ないぞ。読者に分かりやすく説明するなら、とある空飛ぶパンの宿敵の菌男が「バイバイ菌ーっ!!」と言って空の彼方に飛んでいくような感じだ。

 

 

 

 

 

【ルウィー:スーパーリテールランド・機材置き場】

 

「幼女は命を懸けても守る!それが紳士のジャスティス!!…あれ、幼女は何処…?」

 

色々と追い付くまでの課程を吹っ飛ばしたが、目視できる範囲まで到達し物陰に隠れる。あと、なんか変なことを喋っていたのが聞こえた。どちらかというと、見た目も含め紳士というより変態の方が似合っていると思うな。それと奴の言っているように、ロムとラムがいないのであれば、ベールが保護したのだろうと思った。と思った時期が俺にもあった。丁度奴が背中を向けているその背中方向の金網に、必死になって金網を登っているロムとラムがいた。

 

「人質も巻き込んで攻撃したのか…。」

 

ここに居ないベールに対して何とも言えない気持ちが沸き上がっていたが、奴がロムとラムがいる方を目視していた。

 

「これほど生きの良さとは…。全く、幼女は最高だぜ!!」

 

トリックが二人を捉えたのか、妙な手付きをしつつあの長い舌を出した。銃では恐らく奴の舌の勢いを止められないと判断した俺は、トラベルハットに風と念力を溜め込み、暗器の山高帽の如くブーメランのようにトカゲ野郎の舌に向けて投げる。

 

「いてぇええええ!!」

 

鈍い打撃音と共に、痛そうに舌を戻す。投げたトラベルハットを念力で手元に戻し被り直す。

 

「切り落としてタン塩にしてやろうと思ったが、衝撃になってしまったか。」

『永守お兄ちゃん!!』

「お前は、昼間に俺様が吹っ飛ばした奴か!よくも俺様と幼女との遊びを邪魔する気だな!!」

「…言いたいことは分かった。兎も角、昼間の借りを返しにきたぜ…でっかいトカゲさんよ。」

「俺様はトカゲじゃない!トリックと言う幼女に愛されし立派な名があるのだ!!」

「ボスクラス的な名前を持っていたのか…てっきりモブキャラかと思ったぜ。」

「俺様を馬鹿にするとは、いい度胸じゃないか小僧…!」

 

端から見れば、挑発して怒らせてるようにしか見えないだろう。怒らせるには理由がある。まず1つ目は、標的をロムとラムから俺に移すこと。2つ目は行動を単純化させる事。2番目はおまけだが、無心か冷静な奴じゃなければ乗ってくれるはずだ。当然奴の舌は俺目掛けて飛んでくるが、比較的一直線な為に横に空中側転しつつ小型のリボルバーを撃つ…がやはり効果は今ひとつのようだ。

 

「アックックックッ、そんな攻撃など、蚊ほども痛くないわ!」

「やはり、見た目通り頑丈か。」

「これ以上幼女との時間を邪魔されると困るな。だから、さっさとくたばれ!!」

 

さっきより早い舌の攻撃が俺目掛けて飛んでくると同時に、二人の心配する声も聞こえていた。だが、俺はこの時を待っていた。

 

 

 

 

 

―――ドーーーンッ

 

「いっててててて!!」

 

突如空から大槌がトリックの舌目掛けて振ってきて、奴の舌にめり込むようにぶち当たる。そして物陰から見覚えのある少女が現れる。

 

『お姉ちゃん!!』

「銃声が聞こえたから、既に倒しているかと思ったわ…。」

「とんでもねぇ、待ってたんだぜ。ブラン。」

 

そう言いつつブランは俺の元に来る。それと同時に念力で大槌をブランに渡す。

 

「そうね、じゃなかったら置き手紙なんて用意しないわね。」

「有っても無くても、無理して着いてくるつもりだったろ。」

「そうね、個人的な恨みもあるけど…わたしの大事な妹達に手を出したこと、只じゃ済まねぇぞ、この変態が…!」

「変態?それは誉め言葉だぁ!」

「そうかい…なら褒め殺しにしてやるぜ!」

 

そう言い終わったと同時に、ブランが光り出し女神化した。白のバトルスーツに、水色の髪、大槌が巨大な戦斧へと変形した。

 

「わたしが奴に近づいて攻める、てめぇは援護を頼むぜ。」

「ネプテューヌと似たような事を言う…まぁ、妥当だな。」

「覚悟しろよ、このド変態が…!」

「アンタに恨まれるような事はしてないが、仲間を傷つけた代償は払って貰うぞ。」

 

ホワイトハートとなったブランはトリックに向けて戦斧を構え、俺は両拳をぶつけ両手に炎を纏わせ、右手に炎の弾を作り出す。

 

「燃えろ…!」

 

トリックの足下目掛けて炎の弾を飛ばすが、それと同時に気味の悪い笑い声と共に驚異的な跳躍で回避する。それに便乗するかのようにブランも上空へ飛ぶ。そしてトリックはブランに向けて得意の舌攻撃をする。ブランも負けじと避けるが、その涎まみれの舌は追尾性能がついているかのように、避けた方向に向かっていく。だが、それでもブランの方が速い為、攻撃が追いつかず優勢であり戦斧の射程範囲内まで接近した。

 

「この、超絶変態!!」

「ぐぅうッ!!」

「激重変態!!」

「ぐあああああ!!!」

 

ブランの重々しい戦斧が、トリックの脳天当たりに二撃入る。落ちながら戦っていたトリックも、その衝撃には浮いていられず地面に向かって落下する。その落下ポイント付近で、足に力を溜め込み炎を纏わせ構える。

 

「悪いが、地面に足を着かせはしないぞ。」

「ぐへぇっ!!」

 

そう言った俺は、トリックの顎目掛けて強烈なサマーソルトキックをお見舞いし、もう一度空中へ浮かせる。

 

「此奴で終いだ!!テンツェリントロンペッ!!」

 

空中で体ごと高速回転しつつ、その勢いを利用しトリックにトドメの一撃並の一振りが放たれる。振り上げるような重々しい一撃は、トリックの重量を無視したかのように勢いよく空高く飛んでいく。

 

「があああああ幼女ばんざあぁぁああああいいいい!!」

 

“バイバイ菌”並の妙な台詞と共に、空の彼方へと消えていった。

 

「女神に喧嘩売ったんだ。文句はねぇよな。」

 

吹っ飛んでいったトリックに対しての決め台詞だろう。それを言い終えたと同時に女神化を解き、何時ものブランに戻った。そうして、ブランは申し訳なさそうな顔をしてロムとラムの方を向く。

 

「ロム、ラム、御免なさい。こんな目に遭わせて…。姉として失格ね…。」

 

自分がしっかししていれば、一緒について行けば…とそんな事を思っているような悲しい顔をしているブランが横にいる。確かに、一歩間違えれば取り返しのつかない事にもなったろう。人の事を言えた立場ではないが、教育者としては二流だろう。だが…

 

「俺は、姉失格とは思わないな。」

「え…?」

「万全とは思えない状態で、二人が心配だからこそ、置き手紙を読んでロムとラムを助けに来たんだろう…違うか?」

「でも、わたしは二人より私情を優先してしまった…。」

 

どうしても、自分の事が許せないブラン。確かに、ブラン自身が二人の側にいてやれば未然に防げたかもしれない今回の誘拐事件で、諸事情を優先してしまった事により発生してしまった。だからこそ自分を責めてしまうのだろう。そんなブランの元に、ロムとラムは駆け寄って、数枚のメダルを取り出す。それは誘拐現場の道標のようにあったメダルだ。

 

「お姉ちゃん。これ、お土産…。」

「デッテリューだよ!」

「ロム、ラム…。」

「よかったな。二人はブランの事立派な姉だと思ってるようだ。じゃなかったらこんな事はしないだろ。」

 

ブランは優しい姉のような表情になり二人を抱きしめていた。この場に俺がいるのは場違いだろうという事と、仕掛けた罠を回収しに行く為に、その事をブランに伝えその場から離れる。

 

 

 

 

 

その場から離れた俺は、念の為にベールとノワールにNギアで現状報告をした。ノワールの話によれば、下っ端を吹っ飛ばしたあと暫く探したが、他に敵はいなかったとのこと。ベールは自分の胸の事をバカにされた事に吹っ切れて、ロムとラムを巻き添えにしてしまったことを反省していた。しかし、ネプテューヌに連絡しても何故か出てこない。非常口側でまだ敵が出てくるのを待っているのかと考えつつ、罠を仕掛けていた正面入り口へとやってきたら、目の前にこんな光景があった。

 

「うぅ、主人公がこんな単純な罠に引っかかるなんて…!!」

「ご、ごめんねお姉ちゃん…。」

 

ネプ姉妹が俺の仕掛けた簡略式網罠に仲良く(?)引っかかっていたのだった。

 

 

 

 

 

【ルウィー:翌日】

 

「えぇ!?ね、寝不足ぅ!?」

 

昨夜は遅かった為、ルウィーの教会で泊まる事ととなり現在に至る。丸テーブルに座っている女神達。ネプテューヌはブラン本人から、突然倒れてしまった事の理由を問いただしたら、その問いに対しての答えが「寝不足」だった事に驚く。仕事が忙しかったのだろうと俺は納得した。…因みに俺は相変わらずボディーガードの如くネプテューヌの隣で立っている。

 

「えぇ、気を失ってしまったのはそのせい。遊びに行けなかったのも…。」

「何よ、それ…もう、こっちは心配したんだから…。」

「ここの所、徹夜続きで貴方達と向き合う時間がなかったの。」

「徹夜は関心出来ないな…。」

「そうね、少し考えておくわ。それでも、ロムとラムを押しつけてしまったのに、二人を助けてくれて有難う、ベール、ノワール。それに、永守とネプテューヌも、中継の時わたし庇ってくれて…。」

「ああ、いいよいいよ!わたしもあの幼女には無性にムカついたからさ。追い出して当然だよ!!そんな事よりあの時のえい君は怖かったけど…。」

「悪かったって…。」

 

そんな俺怖い的な事をいうネプテューヌに苦笑しつつ、他の三人はクスッと笑っている。なんだかんだ言って四人は仲いいんだなと再確認をした場面でもある。

 

「お姉ちゃん、これ見て。」

 

ロムが、ブランの所に駆け寄り、一冊の薄い本を差し出す。そこにはブランに似た絵が描かれている。その本は青黒い表紙をしており、真ん中には二つの斧が交わっているイラストが載っている。

 

「うん、良く描けてる。………?」

 

最初は描いているものを褒めていたが、直ぐに何かを察したかのように険しい顔へとなっていた。そして、ラムは何処にいるのかと聞いたら、急に立ち上がりホールの方へと走り出す。

 

「ね、ねぷ!?」

「随分と、落ち着きがないように見えましたが…?」

「後を追ってみましょ。」

 

ブランを追いかけるようにホールの方へ向かうと、そこには大量の段ボールがあり、先ほどの薄い本に絵を描いているラム、その本を広げて座りながら読んでいるネプギアとユニの姿があった。しかし、入り口を塞ぐほどの段ボールの量…なんだこれ。

 

「ラム、落書きやめて!!」

「えぇ?こんなに同じ本があるんだから、いいでしょ?」

「ダメったらダメ…!!」

「何で?」

「そ、それは…。わ、わたしが描いた小説だからだ!!」

 

まさかの驚愕の事実だった。落書きされている薄い本は小説であり、その著者はブランだったことを頬を赤くしながら暴露した。つまり、ここにある段ボールの中は全てブランが描いた小説になるってことか。

 

「つまり、その小説はブランが書いた同人誌ってことかしら…。」

「まさか、徹夜していた理由って…。」

「そ、そうだよ。悪ぃか!!」

「別に、悪いとは思ってないが、自己管理としては…な。」

「余計なお世話だ!」

「ところでユニ、どんな話なの?」

「えっと…空から落ちてきた少女と、生まれつき特殊能力を持った少年が世界を救う話…。」

 

まさかの発売される前に中身の一部を聞いてしまった。しかも、ネプテューヌは此方が気づいていない内に小説を持って中身を見ていた。

 

「ふむふむ、邪気眼と書いて“デスティニー”と読む。」

「じゃ、邪気眼…?」

「ちょ、読むな!あと言うな!!」

「す、凄い、主人公が新しい能力に目覚めた!右手に炎、左手に氷を纏って操る…格好いい!!」

「よ、読むなぁぁああああああああああああああああああああ!!!!」

 

更に顔を真っ赤にしつつ、ぐぬぬという表情からブランの悲痛とも言えぬ叫び声が、教会に響き渡る。

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

予定ではまたしばしオリジナルの話でも挟もうかと考えていたりしなかったり…。
どっちにするかは自分の気分次第ですサーセン。


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Scene09 唸れ!渾身の鉄拳~内気格闘少女との出会い~

何時もに比べたら少々短めとなっております。


―――気の迷い

 

恐怖は危険察知という名のセンサーとして役立つ。だが、気の迷いは俺には不要な要素だ。戦場で一瞬でも判断が鈍れば、0.2秒の遅れでも最悪な展開になりかねない。ラステイションの女神の心得勉強会にしろ、ルウィーの誘拐事件にしろ、この短期間で驚くような事が起きすぎている。ルウィーの一件後、考え込む時間は減ったものの気の迷いからか、無心になるのが困難になっている俺が入る。そこで、休暇を取り業務の件で中々できなかった「武術」の修行に励む為外出している。一応名誉の為に読者には言うが、筋トレやランニングはしてはいるぞ。…ランニングに関しては「ランニングとは思えない速さで走っている人がプラネテューヌ教会周辺にいる。」と言う変な噂話が出来てしまっているらしい。

 

今、バーチャフォレストで木人に似た巨木に対して猛打をしている俺は、プラネテューヌの女神様の補佐をしているごく一般的(?)な男。強いて違うところをあげるとすれば、超能力が使えるってとこかナ…?名前は…ってこんなネタを打ち込むくらいなら真面目に修行に励めって話だな。前述の通り、基礎の再確認及び技の練度を高めるといったところか。とりあえず、一呼吸おく為にふと後ろを向くと、一人の少女が立っていた。その子はボロボロのズボンに殴られたら痛そうなグローブを身に付けている。あまりにボロボロだから、ズボンから縞模様的な何かが見えているように見えた…。

 

『………。』

 

Scene09が始まって早々この急展開である。その少女はまるで興味があるかのようにマジマジと俺を見ている。そして向こうが話しかけてくるのを待っている形となってしまっている俺がいる。待っているのも仕方ないから声を掛けてみよう。

 

「何か用か…?」

「あ、ご、ごめんなさい!同じ格闘家として興味がありまして…邪魔しちゃいましたか?」

「いや、丁度一呼吸置くため休憩するところだ。」

「あ、は、初めまして。わたしは鉄拳って言うの。丁度ここら辺でランニングしてた最中なの。宜しくね。」

「…俺は、獨斗永守。宜しく。」

 

そう言って俺は鉄拳と名乗る少女が手を出していたので握手をした。握手して分かったが、この少女、細くてか弱く見えるが、かなりの実力を持っていると感じた。それと同時に向こうも感じ取ったらしい表情をしている。

 

「…結構お強い方?」

「自分で評価したことはないな。」

 

さて、修行の心算が完全に予定が狂ってしまった。一応基本は見直すことができたからいいのだが、ここに居ると面倒事が重なりそうだから御暇しよう。そんな時、Nギアが鳴っているので取り出す。イストワールからだ。

 

「俺だ。」

《すみません永守さん。休暇中で申し訳ありませんが、緊急で頼みたいことがあります。》

「要件は?」

《はい、バーチャフォレスト最深部から、バーチャフォレストに向かっているフェンリスヴォルフが向かっているそうです。ネプテューヌさんも向かっていますが、まだまだ時間がかかるそうです。一番近い為とはいえ、本当に急で申し訳ありませんが…、お願い出来ますか?》

「…分かった。引き受けよう。」

《いいんですか?折角の休暇ですのに…。》

「気にするな。こういう緊急事態には慣れている。では、行動を開始する。」

 

そう言い終えてそっとNギアを切った。全く、今日は急展開のバーゲンセールだな。折角の休暇が台無しな上に、なんだこの気の休まる事のない急展開は…。

 

「何かあったの?」

「プラネテューヌ教会から緊急で、バーチャフォレスト最深部に向かってフェンリスヴォルフの暴走を止めてくれと連絡があった。俺はこれからそこに向かう。君はここから離れた所へ行ってくれ。」

「獨斗さんは、プラネテューヌ教会の関係者って事?」

「まぁ、そうだが。」

 

そう曖昧のように言うが、彼女は意を決したような、強い志を持つ瞳で此方を見てきた。

 

「…わたしも付いて行きます。」

「どういうことだ。」

「こっちのネプテューヌさんとは会ったことないけど、知ってる人が困っているなら尚更だよ。」

「…ネプテューヌを知っているのか。それにこっちとは?」

「あ、えーと、わたしは元々この次元の人じゃないの。ネプテューヌさんとは別次元で会ったことあるんだけどね。」

 

別次元…俺と似たような感じか?全く、摩訶不思議な世界だ。今更驚くことはないが、今の話を聞いた限り、別次元にもネプテューヌはいるのか。…あんなのが同じ世界に2、3人いたら世話する側はたまったもんじゃないな。

 

「…奇遇だな。俺もゲイムギョウ界出身ではない。」

「え、そうなの?」

「今は立ち話している場合じゃない。着いて来るなら行くぞ。」

「う、うん!」

 

そうして、俺は奇妙な出会いをした格闘少女とバーチャフォレスト最深部へと向かった。

 

 

 

―――バーチャフォレスト最深部

 

 

 

ここへ来るのは数か月ぶりだ。あの時は途中参戦のネプ姉妹と意味不明だったが、興味本位で行ってしまったクエストを受けて、ドックタグがペンダントに変わってしまった事があったな。最深部の入り口前へ着くと、巨大な狼のようなモンスターが周囲のモンスターを蹴散らしている光景が広がっている。俺はNギアを取り出しモンスター図鑑的なのを開いて生態を調べている。

 

「フェンリスヴォルフ…。危険種だがノンアクティブモンスター。ならなんだこの暴れようは。汚染されているようにも見えない。」

「何かあったのかな…?」

 

そうしていると、周囲のモンスターを蹴散らし終え満足するかと思ったら、此方を見つけると同時に猛スピードで突っ込んできて鋭い爪を振り下ろしてきた。

 

「っ!」

「わわわっ!!」

 

俺と鉄拳は左右に分かれるように避ける。地面が陥没するような威力はないが、あの鋭利な爪は厄介だ。あんなのに引き裂かれたら無事でいられるか怪しい所だ。しかし、奴は次のターゲットとして、鉄拳の方を向き走り始めた。

 

「そっちへ行ったぞ!!」

 

銃があれば迷わず射撃しているが、生憎今日は武術の修行の為に銃を自室に置いてしまっている。ハットスライサーやパイロキネシス(ネプテューヌに勝手に命名された技名)であの速さに対して迎撃出来るか分からないが、被っているトラベルハットを手に持つ。だが、俺の心配はどうやら無用だったらしい。

 

「やぁあああああ!!」

 

無駄の無い構えから、とても気迫のある声とは思えない可愛い声と、細い腕から放たれるカウンターのような右ストレートがフェンリスヴォルフの顔面に当たる。しかし、その放たれた拳が当たった瞬間フェンリスヴォルフが大車輪の如く回転しつつ5メートルは吹っ飛んでいた。俺は鉄拳の元へ駆け寄る。

 

「お見事。力の配分から当てる時の力の入れ具合、全てが調和してる綺麗なパンチだ。」

「ちょっと危なかったけど、何とかなったよ。」

「しかし、奴さんはまだやる気満々のようだ。」

 

あんな攻撃を受けたら、並大抵のモンスターは一瞬で終わっているだろうが、相手は危険種。そこらにいる雑魚に比べれたら格段に強いはずだ。此方も身構え、向こうも体勢を立て直しているが、此方の強さを警戒しているのか身構えた状態で動かない。

 

「さて、今回ばかりは前衛に出るとするか。」

「わたしも行きますよ…!」

「俺が目眩ましをするから、追撃を頼んで良いか?」

「うん、わかったよ。」

「さて、アンタに恨みはないが消えて貰うぞ。」

 

それを言い終わると同時に、フェンリスヴォルフに向かって走り出す。急接近しつつ、着ているノースリーブパーカーを脱ぎつつ念力で操り、フェンリスヴォルフの目元に目掛けて放り投げる。目元に張り付き当然それを振り払うかのように顔を振りまくる。

 

「はぁああ!!」

「てやあああ!!」

 

鉄拳によるガゼルパンチとも言える右のパンチに合わせるかのように、体を捻りつつ横回し蹴りを放ち、その両方が顔面へとヒットする。自分でも驚く程タイミングがドンピシャである。当然その強烈な攻撃を受けたフェンリスヴォルフは脳震盪を起こしたかのように怯んでいる。

 

「叩き込むなら今だよ、風神拳ッ!!」

「OK、くたばれ…!!」

 

鉄拳は右手に風を纏わせてのアッパー、俺は発勁を利用したアッパーと同時に衝撃波を放つ。鈍い打撃音と共にフェンリスヴォルフは中へ浮く。次の瞬間、ある意味驚くべき光景が映る。

 

「てりゃああああああああああああっ!!!!」

 

聞き覚えのある凜々しい声と共に、空中に浮かしたフェンリスヴォルフをパープルハートことネプテューヌがトドメの一撃とも言える一閃を放ちフェンリスヴォルフは爆散し結晶片へとなる。一撃で倒せてしまった事に驚いているネプテューヌなのだが、止めは誰でもいいという考えではあるが急な出来事過ぎて、呆れたような感情が出ているのか鉄拳と共に目を丸くしている自分がいる。

 

「結局おいしいところは持っていかれちまったな。」

「ご、ごめんなさい。遠目から見たら襲われてるように見えたからつい…。」

「いいさ、誰がトドメを刺したって結果は同じなのだから。」

「あはは…。」

「ん?えい君、その子は?ナンパでもしたの?」

「お前は何時ぞやのアイエフのようなこというな…。この人は修行中に出会った協力者だ。」

「初めましてじゃないけど、初めまして。鉄拳っていうの。宜しくね、こっちのネプテューヌさん。」

「…?わたし、この子と会ったことあったっけ?」

「えっと、わたしはこっちの世界とは別の次元から来てるの。」

「まぁ、俺と同じ感じらしい。」

「なるほどね。一応改めましてね。」

 

まぁ他愛もない会話をしつつ、ネプテューヌは女神化を解除するのだが、鉄拳が一つ疑問を持ってそれを問う。

 

「そういえば、獨斗さんは協会の関係者みたいだけど、ネプテューヌさんとはどんな関係で?」

「うん、えい君はわたしの補佐だよ!」

「まぁ、俺は迷える子羊…といえばいいのか。そんな状況を解決してくれた感じだ。」

 

とまぁ紹介はこのくらいにして、やはりノンアクティブモンスターが暴走していたのが気になるので、現認究明の為に奥へと進もうとする。

 

「あれ、えい君出口はこっちだよ?」

「少し現場調査をする。どうしてノンアクティブのモンスターが暴れていたのかも気にいなるからな。後で報告するから、先に帰ってても構わないぞ。」

 

もし、今回の暴走モンスターがあの時出会った奴が関わっているのだれば、何が手掛かりがあるはずだ。俺はネプテューヌに背を向けるように奥へと行くのであった。

 

 

 

―――プラネテューヌ協会

 

 

 

「では、暴れだした原因は不明…ということですね。」

「はい、現場では当初、汚染したモンスターが居たという情報があり、暴れた後のような形跡もありましたが、原因までは突き止められませんでした。」

 

あの後、ネプテューヌが気を利かせたのか、アイエフと諜報部所属の数名が調査の協力をしてくれた。しかしながら、イストワールに報告するアイエフの言う通り、汚染モンスターが数体いるという目撃情報はあり、周辺にはモンスター同士が暴れたような跡は多数目撃したが、今回の暴走した原因の確証、確信と言えるような証拠は見つからなかった。死体とかあれば検死とかできたが、大抵のモンスターは倒してしまうと結晶片になって消滅してしまう。仮定としては、汚染モンスターが暴れ、何らかの形で巻き込まれたフェンリスヴォルフが暴走して当時に至る。と考えるのは自由だが、結局考えた所で確証となる原因はわからないままだ。因みに、あの後鉄拳はまた修行に戻ったとの事らしい。

 

「現認を突き止められなくて済まない、イストワール。アイエフも、協力してもらったにも関わらず、結果が出なくて申し訳ない。」

「いえ、此方も休暇中であるのに押し付けたような事をしてすみません。」

「まぁ、こんな日もあるわよ。謝る必要はないわ。」

 

正直、俺はここの連中は皆優しすぎると考えている。…いや、俺がいた部隊が厳しすぎたのか?最初出会ったころも、警戒することなく受け入れてくれたし、他の国の女神とも難なく打ち解けている。それが、この世界のいいところなのかもしれないけどな。用件が済んだところで何時もの広間で、珈琲でも飲もうと考え向かった。

 

「やったぁあ!大物釣れたぁ!!」

「ぐぬぬ、わたしより大物を釣るとは…ネプギア!例え妹でもわたしは負けないよ!!」

 

ネプテューヌは何時も通り平常運転でゲームの真っ最中だ。ただ、彼女としては珍しくフィッシングゲームをネプギアと交互に遊んでいる。かなり本格的なリール付きの釣り竿コントローラーで、釣っている時の感覚や操作感も本物同様に感じることができる代物とのこと。当然、大物が掛かればそれ相応の重さがくるらしい。釣りか…。

 

「ネプテューヌ、俺もやっていいか?」

「むむ、えい君から来るなんて珍しいね。もち、いいよ!」

 

ネプテューヌの番だが、割り込む形でコントローラーを持ちやってみる。確かに釣った時の『本格的』と謳っているだけあって、小物が来れば軽く、大物が来ればそれ相応の重さと引っ張り具合がコントローラーに伝わる。しかし、やはりゲームはゲームだ。ルアーを投擲すると画面はルアーの方へ行ってしまう。魚が捕まったらゲージが見えて、どれくらいで糸が切れてしまうかが一目で分かってしまう。…そうだ、聞いてみるか。

 

「この辺りで本物の釣りができる場所ってあるのか?」

「ネプギア、この当たりに釣り出来るところってあったっけ?」

「えぇ?私に振るの!?ん~と…、確かラステイションのリビートリゾートで釣りの施設はあったかな?」

 

リビートリゾート、ラステイションの海岸沿いのエリアだな。海に泳ぎに行ける場所でもあるが、釣りもできるのか。

 

「…よし、明日リビートリゾートで釣りをしに行こう。」

『…ええ!?』

 

当然といえば当然だが、俺の発言でみんな目を丸くして驚くのであった。

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
永守の発言通り、次は釣りに行く回になります。


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Scene10 スピリットユニティ~しがない冒険者と精神統一~

今回は少々文字数少なめ+釣り経験2回しかない人が釣りの場面を書くという何とも言えない感じですが、生暖かい目で見て下さい。


―――前回のあらすじ

 

無心という名の精神統一の為にバーチャフォレストで修業をしていたが、とある格闘少女“鉄拳”との奇妙な出会い。そしてイストワールからの緊急の依頼による共闘により修業を中断する事となった。教会に戻るとネプ姉妹が釣りゲーをしていたので、釣りによる精神統一をしようと考えた。

 

「今まであらすじなかったのに、なんで急に入れるのさ?」

「…地の文を読まないでくれないか。」

 

何故か、ネプ姉妹も本気(ガチ)の釣りをしてみたいという事で、3人でリビートリゾートへと行くことになった。アイエフとコンパもネプテューヌが誘ったが、流石に仕事の関係で無理となってしまい今回は同行パスとなった。今回はニジマスの管理釣り場へと向かい、初心者コースを体験、自分は慣れている為後ほど経験者側へ向かう予定である。釣り道具は一式レンタルで、今後楽しくやるなら購入すればいいと説明…。

 

「さて、エサはイクラ。…お、クチボソが奇跡的にあるな。こいつも買うか。」

「ねぇねぇ、この“ブドウ虫”ってのは使わないの?」

「釣り用の“虫”だぞ?」

「あの、見た目はどんな感じなんですか?」

「…カブトムシの幼虫を小型化した感じか。」

『うわぁ…。』

 

まぁ予想通りの反応か。という訳でブドウ虫は買わないことにした。

 

 

 

―――リビートリゾート:釣りポイント

 

 

 

「よーしまた釣れたぁ!!」

「ふぇええ、ヌルヌルしてて取れないよぉ!!」

 

初心者コースでネプ姉妹が絶賛釣りの真っ最中である。素質があるのか開始してから30分程度で、二人合わせて既に4匹釣り上がっている。

 

「さて、もう二人だけでも大丈夫だろ。俺は向こうで釣ってくる。」

「えぇ~!!なんで、一緒にやらないのぉ!?」

「そうですよ、一緒にやりましょうよ!!」

「俺は遊びに来たわけじゃないが。」

「むぅ~…。じゃあわたしもそっちで釣るから!」

「私も、お姉ちゃんと永守さんの3人で出来ると期待してたのに…。」

「(ネプギアも意外と我が儘なのか…?)」

『ねぇ、お願い(します)…!』

 

とまぁ、一緒にやろうとという眼差しで俺を見ている。目から星が出て此方に流れているようなイメージだな。とある幼稚園児の眼差し攻撃的な…。ネプギアは兎も角、ネプテューヌは一度言うと中々食い下がらないし、後が面倒だからな。

 

「…分かった。好きにしな。」

『やったぁ!!』

 

まぁ、この二人の精神修行にもなる…かもしれないだろう。とりあえずやってみて飽きたら戻らせよう。

 

 

 

―――

 

 

 

という訳で経験者・上級者コースへとやってきた。ここは基本的にキャッチ&リリースの管理釣り場数年ぶりのかえしなし釣りだからうまくいくかは分からないところだ。

 

「とりあえずこの針を見てくれ、違いは分かるか?」

「うーん、違い?」

「…あ、先端に尖っている部分がない。」

「そう、この針は“かえし”という部分がない。かえしがあると、餌を飲み込んだ際にそこが引っ掛かるから逃げる確率がグッと下がる。だが、かえしがないから簡単に釣れない訳だ。」

 

へぇ~っという反応をするネプ姉妹に対し、黙々と釣り針に餌を付けている。

 

「…さて、久々だから上手く出来るか分からないが手本しよう。」

 

餌を仕掛けた釣り竿を持ち、釣り場に向けて投げ安座をする。これは無心になることも大事だが、忍耐力も大切なポイントだと個人的には考えている。

 

「おお、竿がピクピク動いたよ!」

「かえしがないから、慌ててあげると抜けてしまうぞ。」

「あ、そうか…。」

「水中にいるニジマスを想像し、針に掛かるのを見計らう…。」

「ふむふむ…。」

「そして、食いついたと感じたら一気にリールを巻く…!」

 

勢いよくリールを巻きあげ、頃合いの所で竿を思いっきり上に上げる。そこそこ立派なニジマスが釣り上げられる。

 

「…よし。」

「おぉ、すっごーい!!フィーッシュ!!って叫びたいくらいだよ!!」

「…お前が釣ったわけじゃないのに、それを叫んでどうする。」

「お姉ちゃん。もし永守さんがそれ言ったら、なんか違うような気がするよ。」

「さり気無くディスってくるな。」

「あ!いえ、あの…。」

「まぁいい、やってみるなら竿は用意してある。」

「よーし、えい君が出来るならわたしも出来るよね!!」

「何処からその自信が出てくるんだ。」

 

 

 

………

 

 

 

「ほいなぁ!!」

「思ったより難しい、けどいけます!」

 

手本を見せてから30分程度粘っているネプ姉妹。苦戦するかと思ったがまさかの勢い良く釣れている。

 

「(ネプギアは兎も角、ネプテューヌはまるでゲーム感覚でやっているようだ。)」

「流石わたし!やっぱ主人公の名は伊達じゃないね!えい君もそう思うでしょ?」

「…ああ。(これじゃあ苦労して出来るようになった人達が可哀そうだな。)」

 

かえしなしの釣りを3人で行っていると、ネプギアが“あっ”と言い、少し離れた場所へ道具一式を置きっぱなしに小走り気味に向かう。そこには一人の女性がおり、釣りをしている。恐らくネプギアの知り合いなのだろうが、どうもネプテューヌは知らない人らしい。とりあえずネプギアの後を追いかける事にした。見た目は俺と同い年か少々下ぐらいで、雰囲気から冒険者か傭兵と分かる風貌(かなり軽装のようだが)をしていた。…何故かバイオリンケースがあるのが気にある。

 

「ファルコムさーん!」

「ん?やぁ、ネプギア。こんな所で会うなんて奇遇だね。」

「冒険から帰ってきた感じですか?」

「そんな所だね。次の冒険に向けて道具の調達もひと段落したから、好きな釣りでもしようかなって思ってしているところさ。」

「ネプギアぁ。急に走り出すからビックリしたよ、もぅ。」

「道具も忘れるくらいだったからな。」

「ご、ごめんなさい…。」

「おや。君が、ネプギアが言っていた姉のネプテューヌさん?」

「そだよ、わたしがネプテューヌだよ!んで、こっちはえい君!」

「あだ名で言うな。」

 

俺は彼女に軽く自己紹介をしつつ、ネプギアとの関係を聞いてみると、俺がまだゲイムギョウ界に来る前に、ネプギアが一人でクエストをしている際に困っていたところを手助けしたり、軽く手合わせをしたりする仲との事。読者の方の殆どは知っているだろうが、俺が知らないので軽く説明をすると、冒険者では彼女の名を知らない者は少ないであろう一流の冒険者で、自らの冒険の記録を元に“クリスティン漂流記”という小説を出版しているそうだ。確かブランが熱愛している小説の一つでもあるというのを聞いたことがある。前述の通り、次の冒険に向けて買い出しがひと段落して冒険に出る前に、好きなことをやろうという事で好きな釣りをしているとのこと。あと、言葉遣いは気にしなくていいとも受けたので、今後はいつも通りに接する心算でいる。因みに、彼女は俺の事を知っていた事が次の言葉で分かる。

 

「そうか、君がプラネテューヌに舞い降りた期待の新人と言われている女神補佐官か。」

「期待の新人かは兎も角、訳あって補佐をしている。旅をしていたと聞いたが何処でその情報を手に入れたんだ?」

「君の事は旅先のギルドを訪れた時に聞いたよ。僅か一ヵ月強でクエストランクをS級まで上げたプラネテューヌ補佐がいるってね。ルウィーの生放送に途中から映ったのも君だったね。私もあれには若干怒りを覚えたけど、中々大胆なこともするね。」

 

他にも“勇敢なる黒き傭兵”、“ジャック・ザ・リッパー”、“プラネテューヌのダーティーハリー”、“魔法拳士”等々色々な通り名が出来てしまっているようだ。ジャック・ザ・リッパーは一番気に入らないが、通り名が多すぎるのも困るな。

 

「ところで、ここにいるってことは君達も釣りをしているって事だとね?」

「はい、永守さんの提案で訪れた感じです。」

「ゲームでしかやったことなかったけど、釣りって結構楽しいね。」

「…俺は、そこの女神と違って精神修行の一環で来たのだがな。」

「精神修行ねぇ。確かにかえしのない釣りは修行にもなるね。でも、君は少し思い詰めていたりしてないかな?」

「そんな気はないが…。」

「でもえい君は、考え込んで話を聞かなかったってのは減ったけど、思い悩んでいるような雰囲気は消えてないよ。」

「なるほどね…。確かに強くなったりするのは大事だけど、偶には羽を伸ばすことも大事だよ。」

「それって、私にも言ったことですね。」

「そうだね、ネプギアにも言ったね。休むことも修行の一環だと思ってみるのもいいかもね。」

 

数々の冒険を潜り抜けているファルコムならではの考えってやつか。昔の俺なら考えたかもしれないが、つい数ヵ月前、元の世界ではここに来るまで血生臭く、生死を掛けた戦いに身を投じていたからな。銃を持った首無しの人型生物、それの亜種だろう両手に爆弾を持って突撃してくる首無し爆弾魔、触手のようなのに浸食されている戦車や戦闘ヘリ、二足歩行の生物ロボット、炎の岩を投げてくる巨大エイリアン。そんなニグーラとの闘いを数年間続けてきた為に、常に緊張感を持つ事が身についてしまったのだろう。今考えれば、話しても信じられない事をしていたな。

 

「えいっ!」

 

恐らく、また気難しい顔をしていたのだろう。それを見たネプテューヌは急に目の前から抱き着いてきた。

 

「何急に抱き着いて来ている。」

「だって、まだ気難しい顔してたんだもん。男の子はこういうの好きでしょ?ほらほら、ネプギアも!」

「え、えぇ、私も!!…えいっ!!」

 

一瞬躊躇ったような感じはしたが、直ぐに俺の後ろに向かってネプギアが抱き着いてきた。

 

「…最初の戸惑いはなんだったんだ。」

「君は表情が硬いのかな?それとも鋼の心臓でも持っているのかい?」

「姉妹サンドウィッチの具になるのは初めてだがな…。」

 

正直、慣れていない為に脈拍が上がっているのが自分でも分かる。それが分かってて面白がるかのように、ネプテューヌは胸元に向かって顔をスリスリし始めている。そして周りからのリア充爆発しろ的な視線が向けられているのが分かる。

 

「…そろそろ周りの視線が痛いから離れてくれないか?」

「あはは、女神様は面白い人だって聞いたけど、君も結構面白いね!」

「えい君は変わったところ多いけど、頼りになる人だよ!」

「誉め言葉として受け取っておこう。あと、本来の目的を忘れているぞ。」

「そ、そうでした。ここに来たのは釣りをする為でした。ファルコムさん、お隣いいですか?」

「うん、構わないよ。女神様と釣りをするなんて、なんだか光栄だね。」

「それじゃあわたし達もお隣でしよ!」

「済まないなファルコム。五月蠅くなってしまって。」

「ああ、いいよ気にしなくて。賑やかにしてやるのも悪くはないからね。」

「それを聞いて安心した。助かる。」

 

そうして、4人でかえしなしの釣りをすることになった。

 

数時間後、ノワールとユニが何故か俺達4人の所に掛け寄ってきた。なんでもクレームがあって、内容としては凄腕の釣り人4人のせいで全くこっちが釣れないという内容らしい。ノワールとユニに頭を下げつつ丸く収まり、何故か一緒にニジマスを焼いて食べる事になった。確かに、ファルコムの言う通り偶には羽を伸ばしてゆっくりするような生活をするのも悪くはないな。そんな時間はあっという間に過ぎるのだった。

 

「今日は楽しかったよ!また会えたら宜しくね。」

「ファルコムさん。また旅に出るんですか?」

「うん、明日にはまた冒険に出る予定だよ。ああ、永守さん。今度会ったら手合わせをお願いするよ。」

「ああ。次会えた時は此方も宜しく頼む。」

 

そういう事があり、プラネテューヌへ帰る事となった。収穫としては、ネプ姉妹含め羽伸ばしにはなっただろう。久々に優雅な日を、平和だった頃の地球の生活が出来たと感じた日だった。

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

ノワール・ユニ『って、私(アタシ)達、名前した登場してないんだけど!!』
…そういう事もあります。お二人のファン申し訳御座いませんorz


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Scene11 心境~お互いの気持ち~

少々、今回から後書きの書き方を変更。これで暫く続けていこうかなと考えております。
あと、どうでもいいですが、モーコンX買ってみました。結構難しい。



―――お寺ビュー。

 

ルウィーの地表衛星撮影機だが、低画質である為に予定していたサービスは終了したのだが、リーンボックスの高画質変換システムの導入、4ヵ国で共有して使おうという事になっている。本来であれば、サプライズプレゼントという事で隠していたが、誘拐事件の捜査の為に使用するという繰り上げ紹介となった代物でもある。そのお寺ビューの事で今後どう使うか、どう共有するかという事をライブチャットで4女神と各教祖が集まり話していた。

 

…で、ここからが本題。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…他国への体験出張?」

 

現在、プラネテューヌの女神補佐として身を置いている俺だが、「仮」補佐から正式な補佐に変更するという事に3ヵ国が不満を上げ物議となり、他国の事を知り俺自身に働く国を改めて決めるという話になったとか。まぁ不満を訴えたのはノワール、ブラン、ベールの3人であり、じゃんけんによりルウィー、ラステイション、リーンボックスの順に行くことになっており、明日からルウィーに向かう為の手配が完了済み…それでいいのか。愛用の中古バイクはラステイションに輸送済みと手際の良さ。何でも環境保護の為に現在ルウィーでのバイク走行は原則禁止とのこと。クエストから帰ってバイクの整備をしようと思って「バイクがねぇ…!」と思ったらそういう理由だったのか。ここまで準備がいいと拒否権は無いのだろう。

…俺の知らないところで勝手に決めないで欲しいものだ。

 

「ご、御免なさい。まさかこんな流れるように決まってしまうなんて思わなくて…。」

「もー、わたしだって反対したよ!ブーイングしたよ!」

「結果、ぐぅの音も出ない程論破されたと。」

「むぅ…これ絶対原作に追い付いちゃうからオリジナルの話を混ぜて話数を稼ごうって、製作者の企みだよ!それにそんなことされたら、暫くわたしが登場しなくなるじゃん!!意義ありありだyあいたぁ!!」

「メタ発言の上、私情だらけだ。」

 

余りにも我が儘過ぎるので、ネプテューヌに軽くデコピンをした。このやり取りも個人的には嫌いじゃないし、プラネテューヌは、結構自由にやれるというのが強みだと考えている。ただ、彼女達にとっては不公平なんだろう。何せ、友好条約の式典前日に突如“親方、空から人が!”という感じで登場し、半ば強制的にプラネテューヌに居候する事になっているのだからな。他国に居候する事も可能であり、そこで仕事をする権限もあるという事だろう。確かに、女神の心得の時と誘拐事件で訪れた時以外は、月1、2単位で他国には訪れるものの、基本的にはクエストの討伐や収集関係で訪れるだけで日帰り出張に近いもんだ。まぁ、確かに俺はプラネテューヌ以外に関して、情報以外は疎い。他国の事をより知ることの出来る機会だと思えばいい。まぁ、今回は強制的だが承諾し明日に向けて準備に取り掛かる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、各国に1週間滞在とはな…。」

 

自室で準備しつつ思わず呟いてしまう。2、3日ぐらいだろうと思っていたが1週間となると話は別だ。それも“1週間x3”だから3週間はプラネテューヌから席を外すことになる。俺がいない間はアイエフやコンパにお手伝いをしてもらうとかいってるが、それでいいのか本当に。一応見られても恥ずかしくない程度に整理しておく…とはいえ、仮眠が取れる仕事場という感じの部屋だから特に片付けるものとかは多く無い。部屋を捜索してベッドの下にエロ本が!とかもないし、そんな雑誌を集める趣味もない。ふと片付けをしていると、あるものを見つけた。

 

「…暫く身に付けてなかったな。」

 

文字は擦れてしまっているが、本来の機能としてはまだまだ使えるであろうS.T.O.P.と書かれた防弾チョッキとボロボロの迷彩柄軍服があった。ゲイムギョウ界に来る前に所属していた部隊の標準装備だったものだ。本来であれば、俺はのんびりしている暇などない身で、S.T.O.P.としての任務(ミッション)は、奴らに対抗する為の手段を探し出し地球に戻る事。…だが、本当にこれでいいのかふと思ったことがある。世界を統一する最高政府賢者の3名が病死や変死をした為に、全員副最高政府賢者に入れ替わり、その数ヶ月後にS.T.O.P.が全世界で活動し始めてから、数日後にニグーラが襲撃を開始した。ニグーラの防衛の為に考える暇はなかったが、冷静に考えてみると不自然なところがあるのは確かだ。出来レースとまでは言わないが、余りにも事が運ばれすぎている。トップは一体何をしていた。本当に戦う相手は間違っていないのか。そして、女神と同じマークだったドックタグが女神マークが内部に埋め込まれているペンダントに変わっている事。

 

「俺は、何の為に戦っているんだ。そして、お前は俺に何を与えてくれる…?」

 

 

 

………

 

 

 

今は目先の事に対処しよう。このペンダントが喋るなんて先ずあり得ないし、物に返答を求めても仕方ない。寧ろ、此奴を解明する事も視野に入れるべきだろう。それに、今は子どもっぽくて少し可笑しなところもあるが、俺の上司はネプテューヌとその教祖であるイストワールだ。自由にやりつつ彼女らの言う事に耳を傾ける。それと、あの謎の気味の悪い少年のような奴。俺の事を知っている素振りを見せたという事は、少なからず関わらなくてはならない存在だと認識しなければならない。とりあえず、この防弾チョッキは荷物に入れておこう。

休憩に入ろうとした時、Nギアにメール着信が来たのに気づく。送り主はネプテューヌからだった。直接話せばいいだろうと思いつつメールを確認する。

 

 

 

件名:お疲れ!

“今から展望台に集合。拒否権は無しね!”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――プラネテューヌ:展望台

 

 

 

プラネテューヌ教会のプラネタワーにある展望台から、わたしはプラネテューヌの夜景を眺めている。展望台出入り口が開いたような音がして、振り返るとえい君がそこに居た。

 

「要件を聞こうか。」

 

こっちに向かいつつ、どう考えても女の子に掛ける第一声じゃないよね?と思いつつ、わたしはえい君に話しかけた。

「わたし、ここから眺める景色結構好きなんだ。えい君もそう思うよね?」

「これを見て嫌いという奴は早々居ないだろ。…ここへ呼んだ理由はそれだけじゃないだろ?」

「………。」

 

どうやら、ただ単に夜景を一緒に見たいという形で呼んだんじゃないだろってのがばれて見るみたい。もう、こういう所は妙に鋭いんだから…。わたしは一呼吸置いて本音を言うことにした。

 

「ねぇ、本当に体験出張に行くの?」

「決まってしまった事だからな。他国を知るいい機会でもある。」

「それだったら、わたしやネプギア、いーすんに、アイちゃんやコンパに聞けばいいじゃない?」

「話を聞くのと、実際に向かって肌で感じるとでは違う。」

「それで、どっかに行っちゃったりしない?戻ってくる…よね?」

 

今回の件で何処か行っちゃうんじゃないかと、不安だった。だって、折角仕事出来て、わたしが暇出来る時間が増えてるんだよ!…ていうと怒られちゃうよね。大切な人というのも違うけど、何だか何処にも行って欲しくないというか、わたし自身良く分からない感情が巡っている感じ。でも、わたしが思っていた、何処にもいかない的なのを期待していたのとは違う、予想に反した返答がえい君から語られる。

 

「何時かは居なくなる。俺は、ニグーラに対抗する手段を見つけ地球に戻らなければならない。それが、俺に与えられている任務であり、亡くなってしまった、地球の勝利を信じていた数億人の一般市民、共に戦い戦死した仲間達の為にも俺は前に進み続けなければならない。」

 

色々な意味で驚いてしまった。ああ、何時かいなくなってしまうのか…と考えちゃって顔を上げることが出来なくなっちゃった。でも、えい君は手すりに背を向け、寄りかかるようにしつつ話を続けた。

 

「…が、それはあくまで所属していた組織としての話だ。こんな事言ったら相棒に怒られるだろうが、俺はこの世界、ゲイムギョウ界が好きだ。ここに居座ってもいいなとも思った事も度々ある。それでも、ここでどんな肩書を得ようが、俺はS.T.O.P.の一員…。そして、死ぬことも、放棄する事も許されない…。ある意味、今回は対抗手段を模索する為のいい機会だと思っている。」

「えい君…。」

「それに、お前はプラネテューヌの女神、一国のトップだろ。俺一人の事より、プラネテューヌにいる何万、何億の人々の期待に応えるべきだろ。違うか?」

 

えい君が言うことも一理あるのは分かっている。普段はああだけど、わたしはバカじゃないしやる時はやるよ!わたしは、皆が笑顔で居ればそれでいい。…でも、えい君は笑顔にならない。

 

「まぁ、暫くは安心してもいいだろ。この世界にいるだけでも会いに行けるのだからな。で、何故そんな事を聞いたんだ?」

「…わたしは、もっとえい君と遊んだり一緒にクエスト行ったりしたいよ。」

「ネプギアや、コンパにアイエフじゃダメなのか?」

「確かに、ネプギアとも、コンパにアイちゃんと遊んだりクエストするのも楽しいよ。…わたしね、こう見えて数十年、プラネテューヌの女神としているの。いーすんから聞いたんだけど、女神は人々からの願いによって生まれる存在。生まれた時からわたしはこの格好だったんだって。それこそ、女神候補生だった時もあるし、お姉ちゃんのような立場の女神だっていたよ。でも、お兄ちゃんのような存在にも憧れてた。だから、えい君は憧れの存在でもあるんだよ。きっと、ネプギアも同じ事思ってるんじゃないかな?」

「…つまり、本当の家族はいないと?」

「うーん、いーすんは母親…というのはちょっと違うかな?えい君は母親とか父親いたの?」

「俺か…。俺は、孤児だ。いや、肉親はいたがな。」

「…なんか、ごめんね。聞いちゃいけない事聞いちゃったような。」

「別にいいさ。…考えているのと違うだろうが。」

 

最後、何か言ったような気がしたけど、聞き取ることが出来なかった。でも、確かにえい君の顔が険しくなっているのが見えてしまった。するとえい君は、まるで聞くことが終わっただろうという感じに、展望台から離れようと歩き始め出入り口の扉前まで行こうとしてた。ちょちょちょ、まだわたしのターンは終わってないよ!

 

「ちょ、ちょっと待った!」

「…まだ何か?」

「あのさ、約束していいかな?出張終わっても、プラネテューヌに居てくれる?」

「それは、俺次第だな…。」

「じゃ、じゃあ、この話は、皆には内緒でってことで…!」

「…そいつは無理だ。もうバレてる。」

『え…?』

 

…ん?わたしは確かに”え?”って言った。でも複数人、それも扉の向こうから声が聞こえたような…?えい君が扉に手を掛け、思いっきり引き開けると雪崩れ込むかのように、誰かが倒れ込んだ。

 

『あいたたた…。』

「あれ、ネプギアに、コンパにあいちゃん、いーすんまで!?」

「盗み聞きとは…関心しないな。」

「な、なんで分かったですか?」

「扉が半開きになっているのが見えたんでね。それに、人数が多すぎた為に気配が消えていなかった。」

「うぅ、絶対ばれないと思ったのに…。」

「ち、違うのよ!これには理由があって、決してネプ子が告白するんじゃないかと…。」

「すみません永守さん。あの話の後からネプテューヌさんが浮かない顔をして、それで気になってしまって。」

 

どうやら、わたしの変化に気づいてた模様でそれで皆来てたみたい。もぅ、ばれてないと思ったのに…!

 

「それで、永守さん出張終わったら帰ってくるんですよね…?」

「プラネテューヌから離れる気なのかしら…?」

「永守さん、本当に何処か行っちゃうです?」

 

「…一遍に喋らないでくれ。」

 

ネプギア、コンパ、アイちゃんの言葉は違えど見事に内容はハモっていたよ。3人ともわたしと同じ事思っていたみたい。…別に隠す必要はなかったのかな?するといーすんがえい君に話し出す。

 

「永守さん。私は、何処へ行っても構わないと思います。式典の忙しさの中、急遽決めてしまった事でもありますし、何よりプラネテューヌ以外を知るいい機会です。後は永守さん次第です。ですが、私も出来れば居て欲しいと思っています。」

 

それを聞き終えた後、えい君がふぅっと息を吐いたのと同時に、一瞬だけど…笑っていたように見えた。それも凄く優しい感じの…。

 

「お手上げだ。ここまで居心地がいいんじゃどうしようもないな。それでも、俺は自分の意思を貫く。俺の、元いた世界を救わなければ…と。」

「じゃあさ、えい君がいた世界が救われたら、こっちに戻ってきてくれる?」

「それは、お願いか?命令か?」

「うーん、両方!!」

「…欲張りな。だが、それくらいなら約束してもいいだろう。」

「ホント!?約束だよ!!」

 

そう言うと、皆えい君の前に集まっていた。

 

「永守さん、私からも約束です…!」

「これで約束破って、ネプ子を泣かせたら許さないからね?」

「永守さん、必ず戻ってきて下さいです!」

「私からは、無理をせずに、気をつけて下さい。」

 

そう言い終わると、無意識に全員が中央に手を乗せ合っていた。

 

 

 

 

翌日、えい君は荷物を掲げて集合場所に一人向かうのだった。

 

 

 




【用語集】

○最高政府賢者
 永守が住んでいた地球で、政府に属する中でも最高位に位置する世界の秩序を安定に導く為に選ばれる三人衆。永守が知っている範囲では、謎の死を遂げた元賢者達に変わり、副賢者達が賢者になる。そこからはあまりいい噂は聞かない上に、何かを企んでいたという情報もあった、らしい。

○親方、空から~!
 言わずともしれた、かの有名なジ○リ作品の一つでもある名言(?)。ただし、永守はあんな低速ではなく高速落下に限りなく近い落下ですが。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

まだ12話なのに、永守に対する好感度が高いような気がしてきました。
リリィランクが高いのか、カリスマがあるのか…。


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Scene12 白き国ルウィーの姉妹愛

今回はドラマCDのネタを入れてみました。あの呪文のようなのを自分もスラスラ言える自信はないorz


以前、女神の心得を学ぶ為に訪れた時と同じ馬車に乗って、ルウィーの教会へと向かっている。ルウィーの職員の方と、渡された書類を見ながら馬車に揺られながらルウィー教会へと移動している。書類に関しては、主に教会に着いてから一週間の仕事スケジュールが記載さている。内容はブランの補佐、教祖のミナさんとロム、ラムの教育、身の回りの手伝い等、書いてある事は至って普通だ。差し詰め“緊急時対応の書いてないマニュアル”ってところだな。因みに、スケジュールの大半がロム、ラムの教育で埋まっている。

 

「何か分からないところとかありますか?」

「大丈夫だ、問題ない。」

 

女性職員が俺に話しかけてくる。いや、職員というには少々位が低い。彼女は“フィナンシェ”で、ルウィー教祖である西沢ミナさんの部下にあたり、ミナさんがロム、ラムの教育をしている時等に変わってブランの侍従を務めているそうだ。立場的にはNo.3と言っても過言ではないと俺は思う。自分も考えてみれば、仮とは言えNo.3に近い役職に立っていたのだから変わりはないだろう。

 

「突然の決まり事な上に、なんだかすみません。内容としては其方に載っている事で、殆どがロム様、ラム様のお世話ばかりに果て嵌めてしまって…。」

「ああ、大丈夫だ。おてんば娘の教育はやった事無いが、“指導”なら何とかなるだろう。」

「少々不安ですね…。」

「まぁ、勉強にもなるだろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ルウィー:教会

 

 

 

「来たわね。」

「ああ、一週間宜しく頼む。」

 

教会に到着し、一週間滞在する部屋に案内されてから永守はスケジュール通りの業務をしている。彼の仕事を3日間見てきたけど、正直プラネテューヌに身を置いておくには勿体ない程の逸材だと感じている。第一印象ではどう見てもギルドのクエスト関係ばっかりやっている印象だけど、普通に執務を熟しているしギルドのクエストも期待以上の結果を残している。一番不安だったのは、ロムとラムの教育だったけど、基本的にはミナと協力しあっているから、大きな問題は起きていない。…悪戯がないって訳じゃ無いけど。兎に角、永守のお陰で、わたしは趣味に没頭する余裕も増えた。

 

「やっぱりプラネテューヌに置いておくのは勿体ない逸材だわ…。」

「何か言いましたか、ブラン様?」

「何でも無いわ。下がっていいわ、フィナンシェ。」

 

3日目の午後の報告をフィナンシェから聞いた。今日はロムとラムにギルドの仕組みとクエストの流れを教えたとのことで、今後は、プラネテューヌやラステイションの候補生のように、二人にも簡単なクエストを受注し出来るようにしようという考えだそうだ。正直、わたしはまだ早い気がする。

 

『…女神としてでなく、妹としてか。それは、二人の意見を聞いての答えか?』

 

彼の言うことも理解出来る。女神候補生…それは何時か私の右腕的な立ち位置になる存在。しかし、幼い上に変身も出来ないあの二人が傷ついてしまう事をわたしは望んでいない。…考えても仕方ない。とりあえず、明日の用事の為に永守には働いて貰わないと…。

 

「フィナンシェ、一つお願いがあるわ。」

 

 

 

 

 

時刻は22時…

 

 

 

ロムとラムはぐっすり寝ている。それを確認したわたしは執務室に行く。約束の時間までにまだ余裕があるので趣味の小説の作成をする。

 

「失礼する。」

 

約束の時間になったのか、永守が執務室に入ってきた。

 

「こんな時間に悪いわね。協力してほしい事があるの。」

 

 

 

 

 

 

 

―――ルウィー:ショッピングエリア

 

 

 

 

 

 

 

「悪いわね、私情に付き合って貰って。」

 

現在時刻は昼前。ルウィーのショッピングエリアらしい場所にあるコーヒーショップにブランと共に入り、店内の椅子に座っている。昨日の話と言うのは荷物持ち係になって欲しいという話で、特にNoと答える理由は見当たらない為承諾した。

 

それから、朝早くから行きつけの本屋に行き、じっくりと吟味しつつ本を購入した。と、待っている俺に対して気を使ったのか…

 

「お互いに1、2冊ずつ買って、交換してみない?」

 

という提案があり、お互いに購入したのを教会に帰ってから交換しよう…という話だったが、本を買いに行っただけと言うのは勿体ないとなり、近くのコーヒーショップで一休みと昼食をしつつ交換する事となった。因みに、まだ時間が早いのかコーヒーショップ内は空いており、直ぐに座ることができた。

 

 

 

「ご注文をどうぞ。」

「ランチセットAを1つ、飲み物はアイスコーヒーで。」

「えっと、わたしは、クワトロベンティエクストラコーヒーバニラキャラメルヘーゼルナッツアーモンドエキストラホイップアドチップウィズチョコレートソースウィズキャラメルソースアップルクランブルフラッペ…と、サンドウィッチで。」

「かしこまりました。」

「…呪文でも唱えたのか?」

「違うわ。ドリンクのオーダーよ。ほら、ここに載っているでしょ?」

「確かに載っているな…。よく噛まずに読めるな。」

「このくらい簡単に読めると思うけど。」

「クワトロベンティエクストラコーヒーバニラキャラメルヘーゼルナッツアーモンドエキストラホイップアンドチッ…ん?」

「ふふ、まだまだね。」

 

早口言葉大会があったら、間違いなくブランがトップになるんじゃないかと考えてしまった。俺も頭の中で復唱したが、ホイップアドチップあたりで読み間違えてしまう。

 

「そうだわ、注文が来る前にお互いに買った本を交換しましょ。」

「…分かった。」

 

お互いに購入したのは1冊の為に交換自体はあっさり終わった。さて、ブランが買った本は…

 

「…100万回生きたデッテリュー?」

「えぇ、ルウィーでは有名な絵本よ。それならロムとラムにも読ませる事が出来るし、貴方にルウィーの事を知ってもらう事も出来ると思ってね。」

「なるほど。」

「じゃあわたしも開けるわ…。子どもの教本?」

「ああ、俺も少し学んだ方がいいかなと思ってな。」

「しかもこれ、丁度欲しいと思ったのじゃない。…ありがと。大切にして読むわ。」

「どういたしまして。」

 

そうしている内に、注文したのが来た。

 

「…思ったより普通のフラッペだな。」

「ええ。ここでのわたしのお気に入りよ。それよりも、貴方がサラダ付きを頼むのも以外だわ。」

「健康の為さ…。」

 

それから、他愛もない話やサンドウィッチの交換をしたりと、若干周りの目が痛い事もしてしまった。その事に気づいたブランも若干恥ずかしそうにしていた。食事を終えて、飲み物をお互いゆっくり飲んでいると、4本のペンを差し出してきた。ペンの方は頭の方に色がありそれぞれ白、青、桃、赤色をしている。

 

「…何だ?」

「とりあえず、赤を使ってみて。」

 

俺は、言われた通りに差し出された赤のペンを掴む。

掴んだ瞬間に、手に馴染み扱いやすいという感覚がし、頑丈そうな感じもした。手拭きナプキンをとりスラスラっと書いてみる。赤色をしているから赤色が出るかと思ったが、普通の黒ペンだった。わかりやすく表現するなら“馴染む…実に馴染むぞぉおおお!!”なペンってとこか。

 

「最後のわかりやすい表現は置いて、どう?」

「ネプテューヌみたいなことするなよ…。兎に角使いやすいな。」

「…その赤色は貴方にプレゼントよ。」

「プレゼント?」

「そうよ。ここを離れたとしても、貴方がここで一週間過ごしたという思い出になればと思ってね。」

「…ありがとな。」

「どういたしまして。それと、残りのペンの事はロムとラムには内緒にしてもらえるかしら?サプライズプレゼントをしたいの。」

「サプライズ?」

「ええ、今日はロムとラムの誕生日なの。」

「10月16日…明日が誕生日だったのか。」

「そうね…貴方もプレゼントを用意してもいいししなくてもいいわよ。そこは任せるわ。」

「…分かった。」

 

そうして、コーヒーショップから出て教会に戻り、残りの仕事をすることにした。

 

 

 

―――

 

 

 

あの後、一度教会に戻り残りの仕事を終えてから、ネットで調べてプレゼントの用意をする為準備をしている。

 

「…こんな所か。」

 

6mmのパワーストーンを複数用意し、それにゴム製の紐を通しブレスレットに仕立ててみた。銃の組み立てよりは遙かに楽である。ロムとラムのプレゼントとして、藍晶石(カイヤナイト)珊瑚(ピンクコーラル)を合わせた物とする。ロムには藍晶石、ラムには珊瑚を多めにしている。藍晶石は勇気やチャンスを呼び寄せ、珊瑚は不安を取り除く効果があると言われる。そして、ブランには半透明水晶(フロスティクォーツ)のブレスレット。此奴は不安を取り除きと集中力を高める事が出来るらしい。ペンを貰ったはいいが、借りを作られたような気がしたので、お礼と借りを返すという意味を込めて作っておいた。プレゼントは完成ということで、ひと休憩ついでに外でコーヒーを飲む為部屋を出て給湯室でコーヒーを作り中庭に向かう。中庭に向かう途中ブランと会うのだが、ブランは困った感じの表情をしつつ顔をキョロキョロしている。

 

「どうしたブラン。」

「あ、永守…。貴方に聞くのも可笑しいと思うけど、貴方から今日貰った本、持ってたりする?」

「あの教育本の事か?俺は持って行ってないぞ。」

「そう…。悪いわね…。」

 

そう言って、俺の横を通り過ぎ廊下の向こうへと行ってしまう。あの様子だと、誰かが本を持って行ってしまったのかと思うが…。ミナさんやフィナンシェあたりなら読みそうだが、無断で持っていくような人じゃないからな。そんな事を考えつつ、中庭に到着しそこの丸テーブルの椅子に座る。

 

「ふぅ…。」

「永守お兄ちゃん…?」

「永兄…?」

 

一息ついた後、声に反応して前を見ると、丸テーブルからひょこっという感じで顔を出しているロムとラムがいた。だが、その顔は何処か元気がない…というよりロムは泣きそうで、ラムは怯えている感じだった。

 

「どうした、怖い夢でも見たのか?」

「ううん…違うの…。」

「これ…。」

 

ロムが俺の言った事は違うと言い、ラムがボロボロの本を出す。…よく見るとその本の表紙は見覚えがある。というより今日買ってブランに渡した教育本だった。理由を聞いてみると、悪戯で本ファンネルをしていたらその本を水浸しにしてしまい、乾かすのを試してみたが、ページとページの張り付いたところを剝がしたりする時に破けたりしたそうだ。昼に帰ってきた時に大事そうにしていたのを見ていたらしく、大事な物を壊してしまい怒られるのが怖いという。俺が買って渡した事を伏せて質問してみる。

 

「謝らないのか?」

「謝りたいけど…謝る前に怒られるのが、怖い…。」

「怖い…。(ぷるぷる)」

「…先ずは謝る事が大事だ。どんなことも隠し通す事は難しい。今から謝って怒られるのと、それを知った後に怒られるの。どっちがいいか?」

『………。』

「どちらにしても、怒られるのが嫌か。」

「永兄…どうしたら…いいの…?」

「永守お兄ちゃん…。」

「どうしろと言われても、俺は助言ぐらいしか出来ないし、やってしまったことの重さを感じているならもう答えは出ている。ほんの少しの勇気と覚悟があれば十分だ。後は、二人次第だ。」

「でも…。」

「怒られるの、怖い…。(うるうる)」

 

どうやら完全に怖気づいてしまっている。赤の他人なら兎も角、身内なら怒られる可能性はあるが許されることもある。本当なら、自分達で気づき、自分達の力だけで心から謝りに行くことが出来ればな…。俺はある名言を思い出し、ロムとラムの涙目を拭きながらそれを言うことにする。

 

「地球にいた頃に、こんな名言がある。”もし自分が間違っていたと素直に認める勇気があるなら、災いを転じて福となすことができる。過ちを認めれば、周囲の者がこちらを見直すだけでなく自分自身を見直すようになるからだ。”謝る事は決して自分の株を落とす事ばかりではない。」

『う、うん…。』

「話し声が聞こえると思ったら、夜の講座でもしてるのかしら。」

『お、お姉ちゃん…。』

 

こっちから出向く前に、ロムとラムからしてみればラスボスが来てしまった感じだ。怖いのか二人とも後ろに隠れてしまう。

 

「ど、どうしたの二人とも…。」

「…さっきの言葉を思い出すんだ。ほんの少しの勇気でいい。それをするだけで一回りも二回りも成長する。」

 

それを聞いた二人は、恐る恐るブランの所へ寄っていく。

 

「お姉ちゃん…。」

「これ…。」

「これは…?」

『ごめんなさい…!』

 

ロムとラムは怒られることを覚悟で涙目になりながら頭を下げて謝る。ブランは状況を把握したのと、二人が謝った事に驚きつつ穏やかな顔へ変わる。

 

「二人とも…良く謝ったわね…。」

「お姉ちゃん…怒らないの…?」

「二人とも、謝るという事を理解した上で謝ったのでしょ?なら、わたしは怒る理由なんてないわ。」

 

そう言って、ブランは二人を優しく包むように抱く。緊張の糸が解けたのか、ロムとラムは大声で泣ぎだす。ただ、どことなく嬉しそうな顔をして泣いていた。

 

「永守、貴方が二人に勇気を与えたの?」

「俺は何もしてない。ロムとラムがほんの少しの勇気とほんの少しの覚悟を決めたに過ぎない。本当だったら何も言われずに気づいてくれるのが一番なのだがな。」

「そこまでわたしは、あの二人に高望みはしてないわ。これから少しずつ…そう、少しずつ学んでいけばいいわ。」

「…そうだな。」

 

そう言って俺はコーヒーを片付けつつ中庭を後にし、自室に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「家族か…。女神にも家族がいるのは微笑ましいが、今の俺には相応しくない代物だ。…願わくは俺のようにはなるなよ…。」

 

 

 

翌日、ブランからのプレゼントと、俺のプレゼントを渡し大いに喜ぶロムとラムを見て微笑むブラン。そのブランにも、昨日作った水晶のブレスレットを渡すと、驚きつつも嬉しそうな顔をしたのだった。因みに、ブランは教訓として”物を大切に”という意味を込めてのプレゼントだそうだ。

 




【用語集】
○大丈夫だ、問題ない。
 ”そんな装備で大丈夫か”の台詞の後に帰ってきた有名な言葉。だがしかし、大抵その言葉の後の末路は”大丈夫じゃ無い、大問題だ。”という展開が多い不思議。

○クワトロベンティエクストラ(以下略
 ドラマCDで出てきたフラッペ。脳内ではデコレーションがふんだんに盛りあげた普通のフラッペと想定しましたが、あの物語内でのフラッペはどんなものか…気になる。

○もし自分が間違っていたと素直に認める勇気があるなら(以下略
 故・デール・カーネギーの格言の一つ。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます!



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Scene13 忍び寄る影、新たなる目標

気づいたらUAが1,000を超えていた。あざっす!


 

―――夢を見ていた。

 

それは、俺がここに転送される前に見た光景と同じ、周囲は黒く染まった闇の世界のような空間。前回と違い今回は動けている。装備を確認するも、着ている服以外は何も持っていない。そんな中、目の前には前回見た男が居る。此方も前回と違い背後ではなく正面を向いており向かい合う形になっている。仮面をしている為に素顔は見えず、髪色と服装は違うものの、背格好は殆ど同じでありどことなく雰囲気も似ていると同時に憎きニグーラと同等の威圧感も感じる。更に驚くべき事は、そのロングコートの正面には十字架の上に黒獅子が刻まれた紋章がある。

 

「その紋章、まさか…。」

 

十字の黒獅子(クロスアターレオ)の紋章。金で友人をもターゲットにする、裏社会では有名な暗殺組織であり、S.T.O.P.によって壊滅させた組織だ。俺としては二度と関わりたくない組織の一つでもある。

 

『お前の肉体、貰うぞ…。』

 

仮面の男がそう言うと、此方を敵と見なしていると感じ取れる程の殺意をむき出しにしている。そして目の前の男は、右手の黒い手袋を外し捨てる。その右腕は人の手の形はしているものの、尖ったような赤く染まった爪と模様、肌部分は黒く染まっている。

 

「くっ…!」

 

握り拳を作り振りかざしてきた仮面の男による拳をドッチロールで回避する。回避した為その拳は地面に当たり石が砕ける音と共に殴られた部分が陥没しているのが見える。

 

「肉体を奪うと言ったな。俺の代わりに表に出るというのか?」

『………。』

「…答える気はないか。だが、得体の知れない奴に俺の肉体を奪われる気はない。」

 

仮面の男に向けてパイロキネシスによる火の玉を放つ。牽制の為に放った為簡単に避けられてしまったが、この空間でも超能力は使えるという条件は大きい。俺は仮面の男を指さしてこう言う。

 

「…アンタに恨みはないが、倒させて貰う。」

 

そう言いつつ俺は、パイロキネシスによる火の玉を2発放ちつつ急接近する。仮面の男は火の玉をいとも簡単に右手で払いのける。払いのけてノーガードな所に右肘による回し打ちを放つ。だが、スウェーで交わされてしまう。空かさず左ジャブ、右打ち回し蹴り、左水平平打ちを放つが全て受け止められてしまう。

 

「ぐぁっ!」

 

水平平打ちを受け止めた所に、仮面の男からの左の張り手を頬当たりに受けてしまう。夢のはずが、尋常じゃない程現実味のある痛みと感触が伝わってくる。直ぐに体勢を立て直し、右、左、右のストレートに左の蹴りを放つがこれも防がれた上に仮面の男の押し蹴りを腹に受けてしまう。

 

「うぉあはぁっ…!」

 

かなり強かったのか、1m程後ろに飛び左膝を付きつつ受けてしまった腹の所を右手で押さえる。

 

『ふん…!』

「させるか…!!」

 

怯んだ所に仮面の男が叩き込んでくるかのように接近してくるが、予測していた為直ぐに体勢を立て直し、先程の俺と同じ攻撃を仕掛けてくる。更に仕掛けてきた右蹴りを受け止め、残っている左足目掛け掬い上げるように蹴り上げ転倒させる事に成功し、御返しのように俯せ状態になった所に腰あたりへ踵落としを食らわせようとするが、仮面の男も読んでいたのか俯せから横に転がるように回避し立ち上がる。現時点での戦闘力は五分五分といった印象をお互いに受けたのか、一定距離を保った状態で仕掛けるところを窺っている。

 

『貴様、何故人間…いや、女神の味方をする。』

「どういう意味だ。」

『本来であれば貴様は此方の立場にいる存在。貴様は光のある場所にいる存在ではない。』

「だろうな。」

『…知っていて尚、女神と共存する心算か。出会って間もない奴らの手助けをするというのか。』

「俺は、あの時に正義に目覚めた。例え闇に染まっていたとしても…、それだけの事だ…。」

『女神の為か…?はたまたS.T.O.P.の方針か…?』

「自らの意志だ。俺の誇り高き魂が叫ぶ…、お前のような奴を止めろとな。」

『素材は良くても、器としては残念だな。だが、面白い考えだ。』

「悪に褒められても嬉しくはないな。」

『だが、貴様は我々の計画の邪魔になる。代わりに俺が貴様の体を使うぞ。』

「ここまで潜り込んできて悪いが、そう易々と渡す訳にはいかないな。」

 

俺が構えると同時に向こうも身構える。“キイイィィィイインッ”という擬音が聞こえるかのように俺は自らに集中力を高める。“限界突破(オーバーギア)”、俺はそう呼んでいる。超能力により身体能力、五感を向上させる。そして右手に力を溜め、右手の拳に燃え上がるように炎が纏わる。仮面の男も同じく右手に力を溜めて右手の拳に黒い炎が纏わる。その右手から感じる威圧感は高く、渾身の一撃が来ると予想した。

 

『一撃で仕留める気か。』

「其方も同じ考えのようだな。技量が同じなら、俺は持てる力の全てをぶつけるまでだ。」

『気が合うな。お互い同じ立場だったら良い戦友になっていただろう。』

「…冗談にしては面白くないな。悪とは思えない言葉を言う。」

『下らん話はここまでだ。裏切り者よ、ここで死んで我等の糧となれ。』

「言っただろう。簡単に渡す訳にはいかないと。」

 

そう言い終わると、お互い標的を捉えたライオンのように近づく。

 

『うぉぉおおおおおおおおおおお!!!!』

 

そして、お互い拳が届く射程範囲に入り右拳を相手に放つ―――

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

【ルウィー教会:貸部屋前】

 

数十分前―――

 

最終日、永守には休日という事にしている。だが、時間は午前10時を過ぎており、彼はまだ部屋から出てきていない。わたしは永守に貸している部屋の前に行った。ロムとラムも可笑しいと思っており一緒にいる。扉をノックする…だが、返事が返ってこない。

 

「永守、居るなら返事位しなさい。」

 

そう言いつつノックを何回かするが、返事はおろか物音すらしない。

 

「お姉ちゃん…なんか変だよ…(おろおろ)。」

「確かに、可笑しいわね。」

「むぅ~、遊んでもらおうと思ったのにぃ。えーい、入っちゃえ!!」

「あ!こら、ラム!!」

 

ラムが勢いよく扉を開ける。永守が来てから初めて入るが、部屋はきちんと整理されており、何時でも巣立ちが出来るだろうと思う程片付いている。ベッドの方を見ると、熟睡しているかのように永守が寝ている。…寝返りしてないのか随分と綺麗な状態で寝ている。

 

「もう、何時まで寝てるのよ。永兄、起きて!!」

「ラ、ラム!乱暴にしては…、!?」

 

ラムが勢いよくベッドの布団目掛けて飛び乗る。一瞬ビクッと動くが、それはラムが勢いよく乗った反動だった。乱暴にしてはダメと言おうと近くに行く。確かに規則正しく息をしており寝ている。まるで白雪姫が毒リンゴを食べた後のように…。しかし、永守の寝顔を見た瞬間、様子が可笑しい事に気づく。苦しそうな表情はしていないが、尋常な程汗をかいでいる。部屋は暖房を付けてない為、寧ろ涼しい方にも関わらずにだ…。額を触ると体温が上昇しているのが分かる。

 

「え、永兄…?」

「永守お兄ちゃん…!?」

「こ、これは…!?ロム、治療魔法を!!ラム、氷水取ってくるわよ…!!」

『う、うん!!』

 

何が起きているか分からない。ただ、今出来ることをやるまで。ルウィーの女神として貴方を助けて見せる。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

【異空間:???】

 

お互い、一撃必殺とも思える燃える鉄拳を顔面目掛けて放った…。だが、結果はお互いの腕が絡み合うよう…クロスカウンターのようになり頬の皮を一枚削る結果となった。俺は古傷が開いたのか血が滲み出ている。対する仮面の男の方は、仮面にヒビが入り仮面が砕け散り素顔が見える。その素顔を見るが俺の記憶には該当しない人物だった。

 

『貴様…、ワザと外したな。』

「…アンタこそ、ワザと軌道を変えたな。」

『殺そうと思えば相打ちも出来たものを…。』

「殺気は確かにあった…。だが、死合う気を感じなかった。それだけだ。」

『………。くくく…はーっはははははは!!』

「…悪からしたら可笑しいか。」

『はははは…ああ、済まない済まない。決して馬鹿にした訳ではない。だが、俺と彼女の想像の斜め上に行ってしまったのだからな。しかし、その殺意では何時か飲まれてしまう。』

「斜め上…それに彼女…?」

『ああ、彼女は貴様に度々囁いていた人物だ。今は彼女と会うことは出来ない上に真実を話すには早すぎる。だが、俺と彼女の願いを聞いてくれないか。』

「願いとは何だ。」

『奴を…、“エンデ”を殺してくれ。そして、協力者、“転生者”を探せ。』

 

転生者…聞いたことがない言葉だ。だが、エンデと言う名を聞き一歩踏み込む。

 

「あの子どもを知っているのか…!!」

『…時間だ。また会おう。』

「待て!!質問に答えろ…!!」

 

そう言いつつ走り出す。だが、踏み込み足が前に着いた途端足元が崩れる。いや、この空間の地面全てが崩れ落ちている…!!

 

「な…!?」

 

余りの急な出来事の為反応が出来ず、真っ逆さまに落ちていくがその最中に意識を失う。しかし、意識を失う少し前にまたあの女性の声が聞こえる。

 

転生者を探して下さい―――

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

【ルウィー教会:貸部屋】

 

ロムとラムが心配する中、職員の協力の下、永守の看護に当たっている。しかし、体温以外は全く正常という不可解な状態の為に、迂闊に手出しが出来ない状態である。

 

…永守、貴方は一体何を抱えているの?

 

現状、そう思うしかなかった。確かに獨斗永守は普通の人とは違う能力を持っており、この世界に来て様々な活躍をしているし、誘拐事件の事で借りもある。彼がいなかったら今のわたしはいないだろう。ネプテューヌはどう思っているかはわからないが、面持ちは無表情…というより暗い影をわたしは感じていた。彼は元居た場所で活躍しており、数多くの犠牲を出したとは言うものの、わたしはそれ以外にも何かを背負っていると感じている。

 

「貴方は…、人には手助けする癖に自分の事は自分だけで解決しようとしてるんじゃ…。」

 

わたしはそう小声で呟いていた。そんな時だった―――

 

「うぉあああ…!!」

 

突然永守が目を覚まし、勢いよく上半身を立たせていた。軽いホラーを見たかのように部屋に居た全員がビクッとなってしまった。

 

『永守お兄ちゃん(永兄)…!!』

「うぉ…。」

 

ロムとラムが涙目になりながら永守にしがみつく。わたしも永守が無事かは分からないがホッとしている。彼は周りを見て察したのか、申し訳ないという感じをしている。

 

「そうか…。戻ってこれたのか。すまない、迷惑を掛けた。」

「目覚めて早々悪いけど、何があったか聞かせてくれないかしら。」

「ああ…、だがその前にシャワーが先だ。」

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

「転生者…?それと貴方に何か関係があると言うの?」

「分からない。だが、“転生者を探せ。”という事は何か意味があるのかと思う。」

「…そうね。知っていて損はないと思うわ。万が一その転生者が現れた場合にどういうのか知っていれば、少しは対応出来るはずよ。その転生者が敵か味方かわからないけど。」

「念の為、イストワールにも知っているか聞いてみる。ここである程度分かるだけでもいいのだが…。」

 

シャワーを浴び終わった永守に、寝ている間何があったかを聞いた。まるで妄想のような事を言っているようにしか聞こえないが、転生者というのは何処かで聞いた気がしたので探しつつ永守に質問をしている。ああ、永守のシャワーシーンはないわ。PC内に入れている資料を漁っていると、それらしいのが見つかった。情報としては、わたし達現女神が誕生する前のものね。

 

「あったわ、転生者に関しての資料よ。」

 

ルウィーは最初に出来た場所であり最古とも言える為、過去の資料…それこそ初代女神の情報も全てではないが揃っている。これはルウィーとして自慢の一つとも言えるわね。…さて、なんて書いてあるのかしら。

 

【転生者の資料】

“死んだ者の魂を呼び戻して生き返らせる禁断の秘術の一つとして分類する。我々のように現在を生きている者をパーソン。転生によって新たに生み出された人をReパーソンと名付けている。転生者の見た目は我々人間と差異が無い為、見分ける事はほぼ不可能に近い。但し、転生者は生まれ変わる段階で自ら好んでいた、又は理想の姿として生まれ変わり、更に何かしらの『特権』を得て誕生するが、その特権は転生者によって異なる。転生者は我々の世界で死んだ者を呼び戻すことは現段階では不可能であり、転生者を創造する方法は見つかっていない。嘗て崩壊した国でこの転生者を利用し最強の軍隊を作り上げるという計画があったらしいが失敗に終わっている。上記を踏まえ、転生者は生まれ変わる人の人格を持っている為、それにより善にもなり悪にもなる。その為、必ずしも転生者は良いとは言い切れない。”

 

「転生者…輪廻の事か。」

「確かに、この説明文でなら近いわね。そういえば、イストワールからは何か分かったかしら?」

「いや、一応調べるけど“3日は掛かる”そうだ。」

「そう、いつも通りね。」

「しかし、この文章を見る限り転生者は俺達と同じ見た目をしているってことだ。に一般人一人一人に話しかけて探すのは御免だ。」

「非効率的ね。それでも、これだけじゃ分からないわね。貴方が探す目的も不確定…。信じていいのか分からないわ。」

「行き当たりばったりってのも嫌いじゃない。この体験期間中に1人ぐらい出会えればいいだろう。」

「可能性の低い賭けね。貴方の運だと厳しいんじゃない?」

「…返す言葉がない。」

 

彼は面白い事に、戦闘時での勝負運は強いのだが、遊び等の賭け事には滅法弱い。ロムとラムと一緒に“すごろくゲーム”をしていた時の話をすると、6目サイコロを使っているにも関わらず、1~3ばかり引く上に3番目の永守ばかりにお邪魔マスの被害が被っている程の運の無さを見た。…あのすごろくゲーム事態問題ありの印象を受けたがそれを無視しても酷いもので、ラムは大爆笑していたわね…わたしも笑いそうになったのだが…。

 

「まぁ、目標が見つかっただけでも良しとしよう。ありがとな。」

「…どういたしまして。」

 

面と向かってありがとうと言われるのは結構恥ずかしいわね。

 

「さて、明日ラステイションに向けて準備しないとな。」

「随分と早く準備するのね。」

「慌ててやるよりはいいだろう。」

「そうね。忘れ物されては困るのは貴方よね。ただ、休める時に休んでおきなさい。」

「そっちもな…。」

 

そう言いつつ彼は執務室から出ていく。彼はわたし達に何を齎す(もたらす)のか…考えても未知数ね。今は見届ける事が大事ってことかしら。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

【翌日:早朝】

 

ルウィー教会の入り口前に永守とブランが立っている。ロムとラムもいるが早朝の為か眠たそうに目をこすったりしている。敬意を込めてか、永守は敬礼をしている。それを見たロムとラムもツラれて敬礼の真似をする。

 

「一週間、世話になった。」

「…敬礼は置いといて、一週間ここで働いてどうだったかしら?」

「悪くはないな。まぁ、ラステイションとリーンボックスでの体験が終わってからだな。」

「そうね、今決めても不公平ね。」

「永兄、また遊びに来てね。」

「また、来て。(にっこり)」

「ああ。あとはしっかり勉強もしとくんだぞ。」

「うえぇ…勉強はヤダなぁ。」

「ラムちゃん、勉強、やらなきゃメっだよ。」

「分かってるよぉ。」

「…そろそろ行くとする。」

「ええ。いい返事を待っているわ。」

 

そう言って、永守はラステイション行きの列車に乗る為に歩き始めた。

 

 

 

 

 




【用語集】

○十字の黒獅子
 永守のいた世界で暗活していた、受けた依頼は全て完璧に熟す凄腕殺し屋集団。

○すごろくゲーム(話に出てきたシステムに難ありのゲーム)
 元ネタは(会社自体はあるが)今は無きゲーム部門により世に放たれた”人生ゲーム ハッピーファミリー ご当地ネタ増量仕上げ”。筆者はゲーム自体は持っておらず、動画でのみ視聴したが、2011年KOTY大賞に選ばれるだけの実力を持っていた。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

また伏線作ってしまった…。どうやって回収しようとか考えつつ書いております。
そして気づいたらGWが終わっていた。はえーよホセ!


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Scene14 黒き女神との誓い

今年の冬にSteam版四女神オンラインが出るらしい情報をキャッチしたのはいいが、日本語版対応+日本での販売をするかが不明とはorz
…ちなみにGamePackの情報です。


 

 

現在、ラステイションに向かう列車に乗っており揺られつつ向かっている。Nギアに入れている曲を聴きつつ、ある事に関してネットサーフィンをしている。

 

「これか…。」

 

――5pb.――

 最も注目を集めている若きボーカル兼ギタリストの一人で、リーンボックスを代表するアイドルの一人。ギターの腕もさることながら歌の評価も高く、その歌声は不思議と元気がわき上がり勇気、自信を与えてくれる。また、ラジオ番組“ふぁいらじ♪”のパーソナリティも務めており、饒舌且つ根がしっかりしている為司会者としても高く評価されている。

 

ウキペディアを見ながら、5pb.の歌を聴いている。歌詞に力強い何かを感じつつ、歌が好きなんだろうなと思っている。何故こんな話をしたのかは、時間を少し戻さなければならない。

 

 

 

 

 

―――――数十分前―――――

 

 

 

 

 

ラステイション行の列車が到着し乗車した時、Nギアが鳴り響く。どうやら着信のようだが、連絡先に入っている着信ではなかった。電話番号を公開している事はない為、登録してない人から連絡が来るのは無いとは言えないが無いに等しい。用心をしつつ着信を受けることにした。

 

「…はい。」

『あ、此方永守さんの電話番号で間違いないしょうか?』

「そうだが…。その声、ベールか?」

『ご名答ですわ。』

「何の用だ?」

『永守さんは、5pb.ちゃんをご存じかしら?』

「…ニュース番組で名前だけは聞いたことがあるな。」

『それで、一ヵ月後に5pb.ちゃんのライブがありますの。それで、その日にリーンボックスの教会でパーティーをしようって思いまして。』

「参加の有無ってところか。」

『ええ、ネプテューヌは来るそうですから、もしよかったら参加して下さらないかしら。』

「断る理由がないし、いいだろう。参加するにチェックを頼む。」

『招致しましたわ。…それでは、来週とパーティー当日を楽しみにしてますわね。』

「ああ。」

 

そう言い終え着信を切る。その後に、5pb.を知らないままではまずいだろうと考え、検索して少しでも予備知識を蓄えておこうと思い調べていると、こんなニューステロップを目にする。

 

“音楽業界のCD・DLの売上数が先々月と比べ3割低下”

 

ご丁寧な事に売り上げグラフも載っており、業界全体の売上として徐々に3割低下しているのが見て取れる。ただ、不思議なことにこの3割低下しているのが現在の所リーンボックスだけという摩訶不思議な現象という事だ。ただこの時思ったのは、リーンボックスの音楽業界の気合が足りないんじゃないかという印象だ。ビジネスなら偶にはこういう事もあると思い記憶の四隅に置くことにした。

 

…という事があり本当は曲を聴く気はなかったが、テロップを見て気になり曲(DL数が多い奴を基本に3つ程)をダウンロードして現在に至る。一週間も経てば何かしら問題解決でもするだろう。

 

この考えが後ほどあのような事になるとは、この時は思ってもいなかった…。というレッテルを貼っておく。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

【ラステイション:教会】

 

列車は何事もなくラステイションに着き、更に何事もなくラステイションの教会に着くのだった。意外なのは、出迎えに来たのがノワールではなくユニだった。

 

「あ、いらっしゃい!」

「ユニか。ノワールが見当たらないが?」

「お姉ちゃんは仕事中、代わりにアタシが案内する事になったの。」

「そうか…。」

「何、不満?」

「いや。案内を頼む。」

 

教会で一週間寝泊りする部屋に案内された後、ユニにリーンボックスのパーティーに関して聞いてみると、既に連絡は行っており此方も参加する事となっている。因みに、ラステイションの教祖の事も聞いてみたが、現在はラステイションにはいるものの寝泊り出張をしており教会には暫く帰ってこないとのこと。そして執務室の前に着き、ユニが扉を2回程ノックする。

 

「お姉ちゃん、永守さんを連れてきたよ。」

「ありがとう、通しても大丈夫よ。」

 

入出許可を頂いたので執務室に入る。そこは、ネプテューヌの女神の心得勉強会の時に来た時と全く変わらない執務室があった。…ただ一つ、ノワールがいるべきであろう執務机に大量の書類が山積みになっている事を除けば。

 

「ごめんなさいね、出迎えが出来なくて。」

「…なんだこの量は。」

「何時もの事よ。ユニ、下がっていいわよ。」

「う、うん…。」

 

そしてユニは部屋から出ようとする。…まるで成長していない。そんな印象を受けてしまった。俺は無言の状態で書類を半分程持っていくことにした。

 

「ちょ、ちょっと!何してるのよ!」

「見てわかるだろ。手伝うんだ。ユニ、手伝ってくれ。」

「あ、う、うん!」

「ノワール。前に言ったろ。折角頼れる相棒がいるのに一人で抱え込みすぎだ。少しは他人を頼る事も学んだ方がいいぞ。」

「あ…、え、えぇ。」

 

書類がどういうのか分からない為、ユニと半々に分けてユニの指導の下、書類の手伝いをする事にした。しかし、蓋を開けてみるとノワールが貰って残った半分を終わった段階で、此方は1割弱残っていた。やはりプラネテューヌとは違うし、ルウィーとも違うと感じた。…これは慣れるのに時間が掛かりそうだ。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

仕事は無事終了したが、日が暮れていた為夕飯を食べようということになった。普段私は自炊をするよう心掛けている。自炊も出来てこそ一人前の女神!…ということはないけど、そういう些細な事もすれば、そういう立場にいる人達の視野が分かると思って私はやっているわ。ユニにも普段から出来る範囲でやるようにしている。意外なのは、永守も手伝うと申し出た事かしら。

 

「まさか、永守が料理出来るなんて思わなかったわ。」

「誉め言葉として取っておこう。」

「しかも美味しかった…アタシも頑張らなきゃ…。」

 

そして、目の前にいる永守はフルーツナイフでリンゴの皮を剥いていて、私達も向いてくれたのを食べつつ雑談している。何故かウサギ切りをしたりしている。

 

「ところで、ラステイションにお勧めの武器屋はあるか?」

「武器屋?どうしたのよ急に…。」

「持っていたナイフが錆びてきてな。新しいのに変えようと思う。」

「お姉ちゃん、アタシの注文した銃が明日出来るから、その店でっていうのはどうかな?」

「確かに、あそこは色々と置いてあるわね。それでいいかしら?」

「分かった。」

 

確かに、明日はユニの新しい武器が完成する。その動作チェックの為に私も付き添い的な形で行くことにしている。個人的には永守がどういうのを選ぶのかも気になるのもある。とりあえず、残りの仕事を終えて明日に備えるとしようかしら…。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

【―――ラステイション:銃器店―――】

 

ユニの新しい武器も気になるが、俺の目的は新しい短剣を調達する事…。プラネテューヌを発つ前に手に入れておけばよかったが、急に決まったこの出張体験の為それが出来なかったのである。

 

「いらっしゃ…あ、ノワール様にユニ様。…そちらの方は?」

「プラネテューヌ教会の補佐をしていた獨斗永守よ。今は訳あって4ヵ国を回っているところなのよ。」

「なるほど…、てっきりノワール様の彼氏かユニ様の付添人かと思っちゃいましたよ。」

「な…かかかかか彼氏!?そ、そんな訳ないでしょうが!!って、何貴方も“まんざらでもない”みたいな顔してるのよ!」

「ネプテューヌが居たらどういう表情するか考えてな…。」

「だからって、真似する事ないでしょーが!!」

「お、お姉ちゃん落ち着いて…!」

 

現在、ユニの行き付けでもある銃器店にいる。少々遊び過ぎたのか店主と思われる女性も苦笑している。店主は如何にも活発な感じで人当たりもよさそうな人だが、冗談も言う人のようだ。

 

「えーと、例の件ですよね。此方になります。」

 

そう言いつつ、店長は袋が被さっている作業台の袋を巻き上げる。そこには全長135cmはありそうな狙撃銃(スナイパーライフル)と思われる銃があった。

 

「うわぁ、凄くいいじゃない…!」

「これが、新しい銃なのね。」

「…まるで対戦車ライフルだな。」

「これはユニ様が以前使っていたロング(L)レンジ(R)ライフル(R)を参考にして開発した、ロング(L)レンジ(R)アサルト(A)ライフル(R)です。装弾数は35、実弾はケースノン弾を採用、用途によってレーザー弾に変えることも出来ます。単発と3点バーストを搭載、スコープは4倍ズームまで可能で赤外線システムも搭載しています。どちらも5kmまで飛びますが、ケースノン弾の有効射程は1km程度となります。グリップ部分も滑り止め加工してあり、ズレることは早々ないはずです。」

「話を聞く限り、随分と手の込んだ銃だな。」

「そうでしょうそうでしょう。ラステイションの技術は世界一ィィィィーーーーッ!と言っても過言ではありませんから!…おっと、テスト射撃をするのであれば此方にどうぞ。」

 

そう言って、射撃場と思われるところへ案内される。

広さは体育館1個分と言ったところか。通常の射撃テストの立ち撃ち場と、特殊部隊の訓練兵がやりそうなコースを巡って練習する場が設けられている。今回は新しく出来た銃を試すだけなので、立ち撃ちでする事となった。面白いのは、この射撃場は評価が付くことだ。ある意味ゲーム感覚でも出来るし腕前を確認する事にも適しているだろう。それを考えている内に立ち状態の射撃が始まる。

ユニは次々と出てくる標的(ターゲット)を新しく手にした銃で撃ち抜いていく。見た目とは違い、銃の総重量は平均的なライフルと変わらず反動も小さいようだ。ユニの銃が得意というのも相まって好成績を叩き出した。因みに、的はモンスターの形をしており、それこそ大中小と様々とある。一通り終え評価が出てくる。

 

命中率:95%

精密度:80%

反射度:A

総合評価:A

 

ここで言う命中率は的に当たったもので、精密度はどれだけ的の中心や急所を狙えたかってことになるのか。反射度は的が現れてから撃ち抜くまでの評価と言ったところか。

 

「中々いいじゃないユニ。」

「うん、結構扱いやすいわ。」

「お気に召して何よりです。」

「ノワールは、銃は使わないのか?」

「昔は使ってたわ。でも、剣の方がしっくりくるのよね。」

「そうか…。」

 

そんな事を言っていたら、ユニが“やってみない?”的な眼差しをしているのに気づく。銃は今持ち合わせてないのだがな…。

 

「はい。」

「…なんだ?」

「XMライフル?ちょっと古いタイプかしら。」

「ええ、でもカスタム性が高いので未だに根強い人気がありますよ。」

「それをどうしろと。」

「挨拶がてらのプレゼントですよ。女神様を宜しい事も含めて。」

 

そう言いつつ、店主が俺に銃を渡す。見た目はM4に似ているな…。何故かユニも目を輝かせつつその銃を見ている。

 

「XMライフル。競技用から軍用と幅広く使われているけど、それは私の趣味でセッティングしてます。勿論、フリーフローティングを採用してま…心配しなくてもガムとかは詰めてないですよ。」

 

レシーバーのロックを取ってフィーディングランプを覗き込んでいるのに気づいたので、補足で付け加えたようだ。

 

「フィーディングランプの手入れは見事だ。数百発撃っても給弾不良は起きないだろうな。トロイハイダーに、ハンドガードにはレイルシステムとアングルフォアグリップ(AFG)にドットサイト、それに単発に三点バーストにフルオートへの切り替えが可能か…、悪くない。」

「お客さん、詳しいですね。」

「まぁな…。」

「それじゃあ、引き金を引いてみて下さい。」

 

店主に言われた通り、マガジンを入れコッキングレバーを引き射撃場側へ一発発砲する。そのまま立て続けに練習用として出ていた3つある的に1、2、3、2、1の的を狙う形で1、2、3、4、5発と単発で撃っていく。全ての的に命中し、3秒で撃ち抜く。その後、弾を込め直しユニがやったモードをやってみる。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

ユニの新しい銃の調整が終わったから、昼の仕事をする為帰路している。調整中に永守はバヨネットナイフを3本と、357マグナムではスライヌやシカベーターには有効だが、エンシェントドラゴンやドカンに関しては力不足と感じたらしく、454弾を撃てるリボルバーを購入したみたい。

 

「随分と大型なのを選ぶわね…。威力ならレーザー銃やブラスター銃でもいいじゃないかしら?」

「生憎、あの手の銃は俺には馴染まなかったな。それに、このずしりとした重さが俺の命を預かっている、お守りみたいなものさ。」

 

ついで話になるけど、彼はアサルトライフルや自動拳銃よりもリボルバーやボルトアクションライフルの方が好みだそうで…人それぞれみたいね。

 

 

 

 

 

まぁその、その後の事に関しては大幅カットなのだけど特に問題なく夜の仕事も終えてメールをチェックすると、ルウィーから一通来ているのを見つける。送信者はブランからで、内容は数日前に永守にあった出来事と“転生者”に関しての情報が載っていた。この情報は念の為に4カ国に伝達をしているとのこと。私は永守にこの事を聞くことにした。

 

「…そうか。ブランから連絡があったのか。」

「ねぇ永守、もしかして一人で探そうとする気?」

「俺の元居た場所を救う為の手かがりになるのか分からないことに、巻き込む必要はないと思ったがな。」

「へぇ…貴方、トゥルーネ洞窟の時、私に言った言葉覚えてるわよね?今はそれと同じだわ。立場は逆だけど、一人で何かを解決しようとしている姿が、昔の私にそっくりよ。」

「今まで一人でも何とかやってこれた事もあるがな。」

「それでも、貴方は無茶しているわ。」

「しかしだな…。」

「しかしやでもじゃない!私や色々な人に助け船を渡してるのに、貴方はそういうのを断るの?」

「………。」

 

死というのは何時か訪れる誰も避けられない事…。ゲームとは違い命は1つだけ。死んでしまったらやりたいことも出来なくなってしまう。このままでは彼は何時か自らの命をも掛けて目的を成し遂げてしまうのではないか…。

 

「再認識の為に言うけど、今貴方の配下はプラネテューヌじゃなくてラステイション。それに伴って貴方の上司は私。絶対命令とまでは言わないけど、私の命令には従う事。いい?」

「………了解。」

「反論はしないの?」

「反論して何になる。絶対とはないが上の命令には不服が無い限りは従う。その範疇で目的を果たせば問題ない。」

「貴方、偶に軍人気質な所があるわね。」

「それでも、間違っていると思ったら反論はするさ。今回は反論してもお互い得するとは思わなかっただけだ。」

「そう、貴方とは確かに反論とかはしたくないわね。味方だったとしても。」

「…褒め言葉として受け取っておこう。」

「それにしても、貴方の夢の出来事に関しては、今の段階ではこっちからの支援や手助けは出来ないわね。」

「“また会おう。”とも言っていたから、何時になるのかも分からない次があるのだろう。だが、最後あたりは敵意が無かった。後は俺次第か。」

「その事は悔しいけど貴方に任せるわ。ただし、やるからには必ず成功させなさい。転生者に関しては此方でも探すわ。」

「分かった。」

 

色々と彼から聞き出すことが出来たと思っている。まだ彼には私達にも分からない部分を隠している気がする。それでも、私は彼のお陰で不器用ながら少しずつ変わって言っていると思う。

 

「私も、貴方に恩を返さないと気が済まないわよ…。」

 

私は夜空に向かってそんな事を考えていた。

 

 

 




【用語集】

○ウキペディア
 ご存じの通り、ウィキペディアのパロディ。

○ラステイションの技術は世界一ィィィィーーーーッ!
 ジョジョ二部に登場した台詞「我がドイツの医学薬学は世界一ィィィ!」または「ナチスの科学は世界一チイイイイ!!」のパロディ。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

銃に関しての説明は調べた程度ですので、間違ってる可能性があるかも…。


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Scene15 シークレット

今回、ほんの少しだけあの娘が登場。再登場の予定は考えている。


 

 

【ラステイション:ミッドカンパニー】

 

午前の事務仕事が終わり、午後はクエストを中心に動くと報告しクエストを幾つか受けている。現在ミッドカンパニーでR-4とビット、危険種のR4i-SDHCの討伐をしている。機械系との戦闘は前の世界では、準機械(生身の生物の周りに機械類を装着した感じ)はあるものの、純機械類との戦闘経験は殆どない。

 

「ふんっ!!」

 

装甲が硬いと考え、懐に飛び込み発頸を利用した拳で装甲ごと打ち抜く(ぶちぬく)ように攻撃する。R4i-SDHCの装甲がミシミシと異音を発する。だが、やはり機械だからか怯むことなく足爪を此方に向けて振り下ろしてくる。その攻撃をバックステップで回避しつつ454マグナムを撃つ。機械の為貫通はしないものの、装甲に傷が付いているのを確認。その傷ついたところに攻撃を叩き込み拳が内部にめり込み、そのまま機械ごと引き抜くとR4i-SDHCは動作を停止する。その停止したR4i-SDHCからあるものを取り出す。

 

「これが、マジックストーンか。…傷なし。よし。」

 

討伐数を達した事と目的のアイテムを手に入れた事を確認した後、離脱用アイテムを使いミッドカンパニーを後にした。…しかし、このダンジョンエスケープとなるイジェクトボタンの原理って何だろうな。いや考えてはいけないか。

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

【ラステイション:ギルド】

 

「お疲れ様っす!流石漆黒の翼と言われてる永守さんっす!」

「誰だそんな二つ名付けたのは…。」

「ここだけの話、貴方のファンも居るみたいっすよ。これ見て下さいっす。」

 

そう言いつつギルド管理人が下から出したのを見ると、俺が普段戦闘時に使うガントレットとグリーブにラステイションの時に女神の心得時に持っていたリボルバー(M19)…。

 

「…レプリカか?」

「いえいえ、歴とした本物っすよ。普通に戦闘に使えるっす!」

 

…やはり短期間でクエストランクがA級になったのが原因か、ギルド内では“期待の傭兵”やら、戦闘スタイルから“燃え盛る切り裂き男”と呼ばれたりするだけに飽き足らず、普段使っている戦闘武具を作ってしまったとか、どんな武器使っているのかを調べられているらしい。別に有名になることも、二つ名で呼ばれる事は嫌いじゃないが、目立ちすぎるのも面倒だな…と思う。

 

「ほら早く!ヒーローに近づくには世の為人の為にクエストを受けなきゃ!」

「そんな急がなくても、ギルドは逃げたりしないって…。」

 

ラステイションのギルドを出て少し歩くとそんな会話をする二人組が、俺の横を通ってギルドに向かっている。一人は、長い揉み上げと頭に橙色のゴーグル、赤いマフラーを付けたライダースーツのようなのを着込んだ青髪の…声的に女性?もう一人は、青色のジーパン、背中に十字架の模様が刻まれた茶色いノースリーブベストを着込んだ茶髪の熱血風男。その後者の方が慌てて追いかけていたのか、横切った際音がしたので音の方を見ると財布のようなのが落ちている。どうやら落とし物のようだ…。

 

「そこの人、落とし物だ。」

 

財布のようなのを拾い上げ、訪ねつつ男の所に寄る。向こうも声に気づいたのかこっちを振り向き、俺の持っているのを見て咄嗟にポケットの方に手を入れ、“あっ”という感じの表情をしていた。

 

「おっと、こりゃどうもご丁寧に………?」

 

最初は感謝の気持ちがある雰囲気だったが、俺の顔を見た瞬間に男の顔が険しい顔へと変わるのを感じた。

 

「アンタ、誰だ…?」

「…俺の名か?」

「違う…。言い方を変えよう。アンタ、何者だ?」

「どういう意味だ。」

「この世界をここに来る前から知っている。だが、アンタは俺の記憶にない。それにアンタ…雰囲気は違うが“人を殺した事がある”な?」

「…何を言っているんだ、お前は?」

「おーい、何ぼさっとしてるのさ。おいていくよ!!」

「…色々聞きたいが、仲間がいるんでね。財布に関しては感謝するけど、次会ったら色々吐いてもらうよ。」

 

そう言って、女性?の方に走っていく。俺はため息を付きつつ頭を掻きむしっている。また面倒な奴に絡まれてしまったと…。だが、あの男が言ったキーワードが頭から離れない。“この世界をここに来る前から知っている。”と“人を殺したことがあるな?”だ。この世界で殺人をしたことはない。若しくは雰囲気から元軍人というのを勘違いして察知したのか…。最初に言ったのはどうだ、ゲイムギョウ界を来る前から知っている的なことを言っていた。妙に引っ掛かる発言だった。

 

「…情報を集めてみるか。」

 

ギルドや周辺で話を聞いたりネットで調べてみたが、分かったのはギルドに登録している傭兵の一人という事で名前は分からない。…考えても仕方ないので、教会に戻る事にした。その後は特に何事も無く残りの仕事を終え、最終日に備えるため早めに寝ることにした。

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

【異空間:???】

 

「………またか。」

 

またしても、前回の夢と同じ光景が広がっている。そしてそこには例の男もいる。

 

『また会ったな。』

「ああ…またアンタか。」

『済まないな。本当であればまだここに呼ぶ訳にはいかなかったんだがな。』

「どういう事だ。」

『一先ず紹介しなければいけない人が居る。』

 

そう言うと、カツカツとその男の後ろの暗闇から此方に向かってくる音がする。見える範囲に入り現れたのは、スタイルが良く顔が整ったロングヘアーの薄青髪をした女性がいた。不思議な事に、雰囲気は何処かしら女神に似た雰囲気を感じ取った。

 

『ご無沙汰です。…いえ、会うのは初めてですから初めましてですね、獨斗永守さん。』

「その声は…。」

 

そう…その声は、俺がゲイムギョウ界に転送される最中に語りかけてきたあの時の声…。

 

『覚えておりましたが。そうです…貴方をここに呼び寄せる際に語った本人です。名乗るのであればそうですね…貴方のいるゲイムギョウ界で言うならば、私の名前は”ラリマーハート”…と言いましょう。』

『平穏と友情を司る貴方らしい。…おっと、俺の名は…ゼロ。黒い翼を持つ片翼の天使さ。』

「片翼の天使…まさかと思うが、バーチャフォレストの神殿でみた石碑のか?」

『その通り。Scene03の時に見たあの記録の張本人さ。まあ、最初は悪かったな。これからの事を考え、お前の力を試したかったんだ。…闇に飲まれてないかのテストってとこかな。』

『話が逸れてしまいました。兎に角、この映像を見て下さい。数時間前の出来事です。全て、エンデの仕業です。』

 

そうすると、床に巨大な映像が映され再生される。その映像を見て俺はわが目を疑うかの如く驚愕した上に、嘘だと言いたい。そこに流されている映像は、恐らく俺が前に居たであろう地球があり、その地球に引き寄せられるかのように月がぶつかり、地球と月が粉々に粉砕してしまった。

 

「冗談だろ…。」

『これは嘘でも冗談でもない。お前に嘘を言ってどうする。』

「…………。」

 

ゼロの表情を見る限り嘘を言っているようには見えなかった。俺の任務は限りなく失敗であり生き残っていた人々も、ケンシも…。普段から感情を表に出すことがないのだが、悔しさや怒りのような感情が沸き上がり歯を食いしばっているのが分かる。その場で胡坐座りをしつつ右手で頭を抱えている。こうなる事は運命だったのか、のんびりしすぎた結果なのか、今後どうすればいいのかと様々な思考や感情がのらりくらりしている。だが、全てを受け入れなければ前に進むことはできない。直ぐに冷静さを戻し立ち上がる。

 

『話を、聞いてくれますか?』

「ああ、此方も聞きたいことが山ほどある。」

『俺の方は大体説明したから分かるだろう。では…』

 

ゼロは深呼吸をし、少しの間を開けてその口を開く。

 

『この方は、タリ崩壊後の女神様の女神候補生だったお方だ。』

「女神候補生…。ネプテューヌの先輩にあたるってとこか。」

『ええ、その捉え方で合っています。そして、私はゼロと共に終焉(エンド)…、貴方達が言うニグーラを封印しました。ですが、私とゼロ二人も封印の犠牲にならなければなりませんでした。』

「まさか、あの遺跡が封印の間と言うのか…。」

『その通りです…。』

「だが、それだど辻褄(つじつま)が合わない。ゲイムギョウ界に封印されていたのが、何故地球に出現したんだ?」

『確かに、ゲイムギョウ界で封印していたから現れるはずがない。本来なら俺達二人もこの空間にお前を招待する事もなかった。…誰かが封印を解くまではな。しかもゲイムギョウ界の外部からな。』

「ちょっと待て…ここは封印の間か何かか?それに、外部…だと?」

『そうだ。本来であればここに奴らを繋ぎとめていた場となる。…心配するな。お前を封印するなんてことはない。でだ、封印は複雑で簡単に解けることはない。だが、それがいとも簡単に解けてしまった。封印を解除した場所も特定する事は出来なかった。』

 

外部という単語が俺の頭の中に印象深く刻まれる。そして、ラリマーハートの発言で一つの悩みが晴れる。

 

『そして、もう一つ重大な事です。貴方がここに来る際に使った“タイム・ポータル”…と言った方が分かりやすいですね。あれは、転送装置ではなく…悪魔を召喚する為の装置…デビルサモナーと言ったところでしょうか。貴方は運がよかったのか、貴方の所にいた科学者達が転送装置風に仕上げたようです。』

 

政府…いや、最高政府賢者からは“転送装置”と言われていた。運が悪か場合、俺は悪魔側に付いている可能性があったという事か。自らの正義を貫くために、悪から手を洗い人々の為に牙を向ける奴らから守ってきたが、下手をしたら牙を剥く側になっていたことになる。冗談にしても笑えない話だ。確証には情報が少ないが、憎むべき相手はエンデを含めた“最高政府賢者”になる。地球から逃げていなければ、最高政府賢者は死んだことになる。

 

『貴方に全て託してしまう事になりますが、エンデを、止めて下さい。』

『俺からも自分勝手で悪いが、エンデを倒してくれ。』

「………。断る理由はないな。ニグーラを、エンデを止めなくてはゲイムギョウ界が地球の二の舞になる可能性がある。地球の敵を討たなければならない…。アンタ達の意志、俺が受け継ぐ。」

『宜しいのですか?』

「ああ、地球の…S.T.O.P.としての俺は死んだ。これから先は、ゲイムギョウ界を守る一人の戦士として、ニグーラ…いや、エンデを止める。」

『一つだけ忠告します。』

「…なんだ?」

『エンデと戦うのなら、先ほどのような“怒りや憎しみ、復讐心を抱いてはダメ”です。』

「どういうことだ。」

『エンデは、負の感情を糧として強くなります。その源となるのが、“漆黒の石”と“深紅の石”。』

「漆黒の石、深紅の石…、なんだそれは。」

『…時間だ。』

『そうですか…、次の機会があれば話します。今は、エンデとの接触は避けて下さい。』

「…分かった。」

 

恐らく、俺がこの空間に長くいるのは不味いのだろうと感じ、不服だが承諾するしか無かった。そして目の前が徐々にフェードアウトしてくのだった―――

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

【ラステイション:借り部屋】

 

朝の目覚めのような感覚で目覚める…どうやら夢から覚めたようだ。寝ていたはずなのにどっと疲れた感覚あり、そして前回のようにベッドが湿っている…。時刻は0時半、まだ。2時間弱しか寝てないことになる。この表現だと世界地図作ったみたいな言い方だな。とりあえず、前回より多くはないが汗を出ていたようだ。寝間着として使っているジャージがびしょびしょになっている。

 

「(長時間居すぎると体力を吸い取られるのか?長く居すぎると生命停止とかあるのだろうか…。)シャワー浴びるか。」

 

今はこの気持ち悪い感覚を流すためにシャワーを浴びる為浴場に向かうことにした。

 

 

 

 

 

【ラステイション:教会大浴場】

 

シャワーを浴び終え、掛け湯をして浴場に浸かりながら夢の中であったことを整理している。まず十中八九、ラリマーハートとゼロは此方の味方であると考えられる。ここまでして裏切るとは思えないが、裏切るのであれば攻撃対象になるだけに過ぎない。だが、一番の問題は”漆黒の石”と”深紅の石”だ。名前からして何かしらの力を秘めた石なのだろう。まるで神への天地創造、神秘の研究と言われている”錬金術”に出てきても不思議ではないものだ。現状どういうものか分からない以上、憶測だけで決めつける訳にはいかない。それでも、現状奴と遭遇するのは避けた方がいいのが無難だろう。…ブランかイストワールなら何か知っているかも知れない。そう思った俺は風呂から出ることにした。

 

…残念だが、サービスシーンは無しだ。

 

 

 

 

 

「あれ、永守?またシャワーでも浴びたの?」

 

新しいジャージに着替え部屋へ戻っていると、後ろから声を掛けられたので振り返ると、そこには多種類の布を抱えているノワールがいた。

 

「ノワールか…。そんなに布を持ってそっちも何をしてたんだ。」

「へ…?あ、こ、これね?え、えーと…へ、部屋を整理してたら出てきたから、物置へ置こうと…。」

「…そうか。」

「…で、そっちはそっちで何があったのよ?2回も浴場に行くってことは何かやってたんでしょ。」

 

ノワールの事を深く考える気はなかったが、こっちに何があったのかという話題に切り替えてきた。包み隠す理由はない為、カクカクジカジカコレコレウマウマな感じで夢の事を説明した。…地球が消滅してしまったことは伏せているが。

 

「最後の方の説明じゃよく分からないけど、そんな事があったのね。」

「地の文を読まないでくれ。」

「だからって貴方が無理してネプテューヌのような真似しなくていいのよ?」

「別に真似してるつもりはないが。」

「…話が脱線してるわよ。」

「俺のせいか…?」

「ほら、話戻すわよ。とりあえず、こっちでもその石の事は調べてみるわ。」

「分かった。」

「ああ、あとね。幾ら味方と感じても気をつけなさいよ?本当に味方になってくれるかは実際に見ないと分からないのだから。」

「分かっている。」

「それで、これから貴方はどうするの?」

「俺か?今の所は変わらない…。」

「そう…、それでまた無茶する訳?」

「今のところは自制するしかない。」

「あまり信用は出来ないわね…。まぁ、貴方なら大丈夫かしら?」

「………。分かった、危なくなったりしたら連絡する。」

「期待してるわよ。」

 

何か誘導された気がするが、向こうが助け舟を出しているなら有難く手を伸ばすしかない。今は少しでも協力者が必要だ。借り部屋に戻る為Uターンして部屋に戻ろうとした。

 

「ねぇ、貴方何か隠してない?」

「なんでだ?」

「貴方、私と話してる間ずっと険しい顔してたわよ?」

「そうか…。一日猶予をくれ。考えておく。」

「…分かったわ。」

 

…納得してるとは思えないが、とりあえず時間的にも今話せば長引くと思いこの場を離れる事にし、借り部屋に戻りベッドに座り込む。

さて、どうしたものか。恐らく真実を話せば手厚いサポートが来ると思う。だが、それは同時にエンデに感付かれる可能性もある。感付かれたら場合、奴は何をしてくるか予測不可能に近い。だからと言って嘘を言えばその場は凌げるが、嘘は何時かばれる…特に個人的にノワールはぼっちなだけあってか、そのことに関しては鋭いと思う。本人の前で言ったら怒られるだろうな。…とは言え、女神も俺一人に構っている暇はないはずだ。ここはオブラートに伝えるしかない。地球最後の一人になってしまったが、俺はまだ救う為に戦う。…全然オブラートになってないな。だが、こう伝えるのが俺の考えでは無難だと考えている。

 

「…エンデ、本当面倒臭いことばかりしやがる。」

 

 

 

 

「ふふっ、誉め言葉として受け取っておくよ。」

 

 

 

 

俺は目を見開き声がした方へ向く。丁度真後ろにある窓に浮遊する見覚えのある少年がいる。血色が悪く紋章のような模様をもつ肌、ぼさぼさの髪、そして聞き覚えのある声…。

 

「エンデ…貴様…!!」

「あらら、凄い殺気だね。でもね、こっちは戦う気はないよ。」

 

そう言いつつ、エンデは頭の側頭部に向けて指をトントンと示している。…テレパシーを使えとでも言っているのか?不服だが、周りに聞かれている恐れもある事を考え渋々テレパシーを使う為、側頭部に指を当て念じることにした。

 

≪…戦う気がないとはどういう事だ。≫

≪只の様子見だよ。最初に会ったに比べて、凄い殺気になったね。でもね、君の殺気はそんなものじゃないでしょ?まぁ、今はそんな殺気立たなくてもいいけどね。≫

≪相変わらず高みの見物か。≫

≪その通り、君は只の生物で、ボクは神様。そう、女神よりも高位な存在さ。≫

≪笑えない冗談だな。≫

≪今はそう思っても仕方ないね。でも、何れ(いずれ)分かるさ。じゃあね、次会う時を楽しみにしてるよ。≫

 

そう言い残し、煙の如く消えていった。本当に様子見だったようだ。今まで戦った奴の中でも厄介な部類だ。何方にせよ、奴との戦闘はいつ来るか分からないが避けられないのだろう。話し合いで済む相手でもないのは見た目で分かっている。4女神との協力で倒せればいいがな…。

 

 

 

 

 

翌日、ノワールには“地球の人類は全滅したが、地球があるのなら俺は地球の為に前へ進み続ける。”的な臭い事を言ってその場を纏めた。…若干感付かれた雰囲気もあったが、今はこれで通すのが無難だろう。若干ギクシャクした雰囲気もありつつ、ラステイションでの派遣最終日が終了するのであった。

 

 

 

 




【用語集】

○M19
 アメリカ合衆国のスミス&ウェッソン(S&W)社が開発したコンバットマグナム。作中では2インチ(約5cn)モデルの357マグナム弾仕様。ルパン三世に登場した次元大介(使っていたのは4インチモデル)が使っており、永守はそれに憧れている事もありリボルバーに拘っている。

○ラリマー
 パワーストーン(天然石)の一種で『愛と平和』を象徴するカリブ海の美しい宝石と言われている。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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Scene16 Diva of LeanBox~歌姫~

ネプテューヌの新作の公式HPが公開されていました。プラットフォームは今のところPS4のみ…チクセゥモッテナイorz


 

 

何だか無駄に長く感じる2週間だった…。

そんな事を考えながら俺はリーンボックス行のフェリーに乗っている。フェリーに乗っている最中に、イストワールから連絡があり“転生者”に関しての情報提供…だったのだが有力な情報は無く、殆どブランが調べてくれた情報と大差なかった。直接会って話をするのが一番なのだが、今のところ転生者と思う奴は数人候補として把握している。だが確信を持てる材料がないからその候補全員が転生者じゃない可能性もある。

 

≪幾ら探してもそのような情報しか出ませんでした…。申し訳ありません。≫

「いや、協力してくれただけでも助かる。感謝している。」

≪いえ、此方こそお力になれなくてすみません。それからもう一つご報告があります。≫

「なんだ。何か問題でもあったのか?」

≪はい…、リーンボックスでCDが売れなくなっているのはご存じですか?≫

「ああ、ラステイションに行く前にベールから連絡があって、その際に調べている。…更に売り上げが下がったと言うのか?」

≪劇的にという訳ではありませんが、確かに売り上げが下がっています。しかし、それだけではなく、プラネテューヌも、ラステイションも、更にルウィーでもCDの売り上げが落ちているのです。≫

「…裏がありそうだな。」

≪それから、リーンボックスで人員が不足している為アイエフさんを派遣させています。着きましたら合流して下さい。調査方法などはそちらにお任せします。≫

「分かった。合流出来次第また連絡する。」

≪分かりました。アイエフさんとの合流地点情報をそちらのNギアに登録しておきます。それでは、宜しくお願いします。≫

 

Nギアの電話を切ると、丁度リーンボックスまで間もなくというアナウンスが流れ出す。それから数分して到着のアナウンスが流れる。愛用(中古)のバイクを取りに行く為フェリーの駐輪所へ向かう為立ち上がる。…それにしても、Scene14で思ったテロップが現実になろうとは…洒落にならないな。

今回のフェリーでは輸送物等が少ないのか、がらりとした駐輪所で自分のバイクを見つけつつ目的地を確認すると、どうやら指定された場所はリーンボックス教会近くのようだ。Nギアをしまいエンジンを掛けようとした時だった。

 

ガタッ

 

と、奥の方から物音が聞こえた。物音の場所は不可思議においてあるコンテナの裏から方へ寄ってみる。念の為、ネプギアに協力してNギアに搭載した爆弾・地雷探知機をオンにしつつ、ガンホルスターに手を掛けながら近づく。

 

「…人?」

 

そこには、深く顔を隠すようにフード付ローブを羽織っていて、フードから長髪なのか黄緑色の髪が出ている推定17歳前後の女の子が体育座りで蹲っている。Nギアの探知機を切り、耳を澄ませてみると息はしているが分かった為、Nギアのライトをオンにして女の子へと向けつつ肩を軽く叩くことにした。

 

「おい、大丈夫か…?」

「ん………。…!?」

 

此方の事を認識した瞬間、目を見開いたような反応をし、猫がロッカーから飛び出てくるかの如く此方に飛んでくる。それに反応するように俺はバックステップで回避するが、こっちまで飛んでくる事無く方向転換し、女の子は出口の方へ一気に向かっていった。まるで何かから逃げるかのように…。

 

「………。面倒臭い事に巻き込まれてなければいいが…。」

 

このことを、イストワールやアイエフ、ベールに報告する事を決め、バイクに戻り目的地へ向かう事にした。

 

 

 

 

 

【リーンボックス:合流地点】

 

永守との合流地点で待機しつつ、わたしはリーンボックスで起きている事の情報を集めているわ。まさか、リーンボックスだけでなく国全体でCDの売り上げが低下しているなんて、想像しなかった上に迂闊だった。オトメちゃんにも協力をお願いしてるけど今のところは連絡待ち…永守と合流したら教会で現状を確認するしかなさそうね。そうしていると、一台のバイクがこっちに向かってきているのが見える。あれは永守が中古で手に入れたバイクね…。それにしても、よく中古でEVA初号機みたいなカラーリングのバイクがあったものね。

 

「久しぶりだな、アイエフ。」

「そうね、久しぶりね永守。元気してた?」

「見ての通りさ。悪くない。…それで、具体的な状況はどうなっている。」

「まだ、有力な情報は掴めてないわ。ただ、裏があるのは確かね。それじゃあ、教会に行って状況を整理しましょ。」

「ああ。」

 

そう言って、わたしと永守は持ってきたバイクを手押ししつつ教会に向かう事にした。そんな時、永守がフェリーであったことを話す。

 

「フェリーの駐輪所に不審者と思われる女の子ねぇ…。ここ最近の不審者情報は入ってないわね。それに、問題を起こしている訳じゃないなら今は保留にしてもいいと思うわ。」

「そうか…。」

「で、アンタこっちの問題には協力してくれるのよね?」

「無論だ。困っている人を助けるのが俺の本望だ。状況はある程度把握している。」

 

具体的に話す必要はなさそうね。ネプ子もこれくらいの要領が良ければね…。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【リーンボックス:教会内待合室】

 

リーンボックスの教会の待合室的な場所に集まり、状況を整理する為ベール同席の元行っている。同席に赤髪のツインテールで警察組織のようなリーンボックス特命課の一人“ケイブ”がベールの隣に座っている。軽く挨拶をした時呼び捨てで構わないという許可があるので、こうして呼び捨てで呼んでいる。情報収集を専門としているが、決定的な情報はまだ掴めていないとのこと。それからもう一人同席している。リーンボックスの歌姫こと“5pb.”がいる…いるのはいいのだが…。

 

「人見知りか…。歌を聴いた時の印象とは違うな。テニスラケットを持つと“おっしゃー!”とか、バイクに乗ると“うーッはーッ!”的なか?」

「…何か違う気がするわね。」

「…少々違いますが、まぁ、そんな感じですわ。」

「あの…その…ご、ごめんなさい…。ぼ、ボクは…あの…ステージの上に立ったり、歌う時は…その…スイッチが入るというか…えっと…男の人とも…あまり…。」

 

ベールとケイブの後ろに隠れるかのように、小動物が怯えているかの如く此方をチラチラと見ては隠れるを繰り返している5pb.がいる。本人曰く、舞台やステージ上ではやる気スイッチならぬ仕事スイッチ的なのが入るそうだ。驚くべき事は、プロデューサーはベールが行っており、二人は長い付き合いで且つゲームで鍛えぬいた感覚(センス)を注ぎ込んで今に至るそうだ。ゲーム感覚を除けばある意味多彩だなベールは…。それと、他の女神とも仲が良く、アイエフも5pb.とは一時期スランプになった時にアドバイスをしたり、人見知り克服大作戦をしたりと、何度か交流をしているそうだ。

 

「ところで、気になってましたが、永守さんは煙草とか吸わないのかしら?」

「煙草?何故。」

「いえ、失礼かとは思いますが、見た目的に吸っていそうだなっと思いまして。」

「あんな健康に悪い薬草(合法ハーブ)の何がいいんだ?…まぁ、ガムなら噛むがな。」

「ベール様に永守、話が脱線してるわよ。ベール様、話の続きをお願いします。」

 

アイエフの突っ込みもあり話を戻す。リーンボックスで独自に調べた売上データのグラフボードをベールが出してくれた。確かに2週間前からグラフが下降しており、丁度一週間前…ベールが俺に連絡を入れた時期を境に急降下している。それも5pb.以外のCD売り上げも低下している模様なのを再確認した。

 

「3曲入りで1500クレジット前後。10曲前後のアルバムで3500クレジット前後。DLの場合は1曲300クレジット。至って平均的な値段なのにな…。」

「やっぱり…ボクの歌に、興味がなくなっちゃったのかな…?」

「それは違いますわ。一つ、不思議なのがありまして、此方も見て下さいまし。」

 

そう言ってベールがもう一つのグラフボードを取り出す。それは3週間後、5pb.のライブイベントの入場券、それと特等席の売上データだった。不思議なことにこっちは完売している。だが、特等席+CDセットの売り上げはいまいちとなっている。グッツ関連も売り上げに変動がないそうだ。

 

「人気がないのならライブチケットも売れないことになるが…少なくともライブには興味があるという事だな。」

「確かに変ね。やっぱり、CDだけになにかありそうね。」

「このままじゃ、5pb.含めCD業界が飢えてしまうわ。」

「で、でも…ボクの曲は、お客さんにとって、今の価格じゃ…不釣合いなんじゃ…?」

「…確かめる必要があるな。」

 

そう言って俺は立ち上がり、とある場所へ向かう為行動に移る。

 

「ちょ、ちょっとアンタ。何処へ行く気?」

「最寄りの音楽店…CDショップだ。この目で確かめたい事がある。」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

突然行く場所を言い出し教会を後にした永守を、わたしは気になってしまったので一緒に出ることにした。なんでも、CDを買わない原因である客の反応を見る必要があるとの考えで聞き込みを兼ねて観察するだとか。こういう所はわたしも見習うべきかしら?

 

「何か変わったことはないか?」

 

永守がCDショップの店主にそう聞き込み、客の動きとか事細かく聞いていく。最初こそ秘守だったけど女神様の協力の下とか…色々と言いくるめて店主に情報を言わせたりしていた…。

 

「アンタ、随分と強引な所もあるのね。」

「使えるものは使う。それをしたまでだ。」

 

何店舗か回って同じことをしつつ客の動きを検証してみたわ。来客数は午前の10時から2時間ぐらい見ていたけど、片手で数えられる程しか来客がなかった上にCDの前に行って欲しそうな顔はしていたけど、そのまま出て行ってしまった客もいたわね。

バーガーショップ”バーガーゲイム”で軽食をしつつ愚痴を溢している。わたしだったら適正価格だと思うし、欲しいと思ったら是が非でも買うと思う。ただ、わたしは客の動きを見て思ったことがある。

 

「でも何ていうか…避けている感じ?」

「その根拠は?」

「恐らくだけど、欲しいCDが有ったら大抵確認の為に近づくじゃない?それが、殆どの人はCDラックから一定距離を保った状態で見ているような…避けている感じがするのよね。」

「あとは、何処か諦めきった感じの表情もしていた。」

「そうそうそれよ。欲しいのなら買えばいいのにね、全く…。」

 

愚痴っぽくなっているけど、そうしないと本当にやってられない感じになってしまう。そんな時、永守が口元に手を添え、暫くしたら紙ナプキンを二枚取り出した。

 

「なぁアイエフ。仮説としてだが、ここに二枚の紙がある。」

「それがどうしたのよ。」

「この紙を販売するとしてだ。…片方は100クレジット、もう片方は10クレジットとする。何方も材質、販売数、内容量を同じで販売する。お前ならどっちを選ぶ。」

「…材質は同じ。それならわたしは10クレジットを選ぶかしら。」

「どうしてだ?」

「だって、同じ材質で内容量も変わらないならそっちを…。」

 

そこで、わたしは紙ナプキンへ伸ばした手を止める。もしや永守が言いたい事とは…。

 

「…アンタ、それ本気で言ってる?」

「あくまで仮設で断定はできないが、否定も出来ないだろう。」

「…もう少し調べる必要がありそうね。」

 

わたしと永守はそう言って、バーガーゲイムから出て再びCDショップへ向かう。一度行った教会から最寄りのCDショップへ再び入ると、信じがたい事を言っている客がいた。

 

 

 

 

 

「おいおい、何だよこの音楽CD一枚の値段は。たった3曲だけにこんな値段払えるかよ!!」

 

その男は音楽CDの前でそう叫んでいる。只でさえ許せない光景なのだが、寄りにもよって5pb.ちゃんの音楽CDの前で…。

 

「アンタ、今なんて言ったのよ…!」

「あぁん、何だ?俺は買い手全員が思っている事を言ったまでだぜ?たかが3曲入りで1500とか足元見すぎだってな!」

「そんなことないわ!一般的な市場からしたら適正価格よ。何より、5pb.ちゃんの…いえ、歌い手全員の曲は、値段には代えられない価値があるのよ!」

「はぁ?てめぇの言ってる事は詭弁だろ。少しでも高く売りたいって思う下心があるんだろ。」

「アンタ…、CDだけじゃなくてライブとか見たことあるの?勝手な思い込みで言わないで!」

「聴いたり見たりしたさ。だがな、ライブが良くてもそれがCDの価値とは到底思えないがね。その証拠に、実際に売れてないじゃないか。」

「そ、それ以上可笑しな事言うんじゃないわよ!!」

 

わたしは、今すぐにこの男を殴りたくて手が出てしまった。だが、その手は永守によって止められてしまう。

 

「な…!!アンタ、邪魔しないで!!」

「アイエフ、落ち着け。ここで殴っても何も変わらないぞ。事実、此奴の言っている事は正しいのだからな。」

「はっ!そっちの男の方がてめぇより世間ってのを分かってるじゃないか。」

「永守、どいて…!!こんな奴に乗るっていうの…!!」

「おい、お前。今のうちに何処かへ消えてくれ。」

「言われなくても消えてやるさ!くそが!!」

「ま、待ちなさ…イタッ!!」

 

永守の腕を振りほどこうとしたら、ネプ子のように永守式デコピンを額に食らった。

 

「…タタタタ…。」

「…落ち着いたか?何時ものお前らしくないぞ。殴っていたら別の問題が生まれてしまうぞ。」

「うっ…ごめん…。」

 

冷静に考えれば、殴ってもわたしの心がすっきりするだけであり、その対価として余計な問題が増えてしまう。永守がいてよかったと思ってしまった。諜報部所属であるのに我ながら情けない…。

 

「アイエフ、少し別行動をする。」

「…急に何よ。」

「気になる事がある。追って連絡する。」

 

そう言って永守はわたしを置いてCDショップから出て行った。一体何を考えているのだか…。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【リーンボックス:市街地】

 

先程アイエフと言い争った男がどうも気になったので、俺は後を追っている。何となくだが、男の瞳に生気を感じられなかったからだ。一定距離を保ちつつ、一般人に紛れ込み、Nギアの望遠鏡機能を使いつつ追っている。宛ら(さながら)どこかの白装束のアサシンの如くやっているが、はっきり言ってどっちが犯罪者なのか分からなくなる。…そうやって追っていると、とあるビルに入っていくのを確認。追っている間にもいくつか店とかに入っているのを見たが、今しがた入っていったビルは明らかに裏路地であり、入る際に周りを警戒するかのように見回していた。

 

「…廃ビルではないようだ。」

 

一応そのビルには幾つか会社が入っているようだ。それでも幾つかはペナント募集中となっている。そのまま追跡を続けると、空き室へと入っていくのを確認し、ゆっくりと扉へ入る。

 

 

 

 

 

中は内装用カーペットを剥がした後のような、ビジネス会社のオフィスといった感じだ。入口周辺と窓際には、大量段ボールが置いてあり、追っていた男は奥の方でPCを触っている。そのPCの数はざっと見て5、6台はあり、全てのPCにCDドライブが備え付けてあるようだ。段ボールの方へ寄り周辺を見ると、大量の音楽CDが置いてある。但し、表紙は如何にも“印刷しましたよ”感満載の出来栄えだ。そしてCDケースに値段ラベルが貼ってあり、1つ“100クレジット”と書いてある。これで一つの仮説が本物へと変わる。

 

「(どうやらここでは、音楽CDの複製を主にしている感じだ。闇市場(ブラックマーケット)ではなかったか。だが、それでもこの情報は大きいな。後は、何処で闇市場を開いているかだ。)」

 

念の為、Nギアに現在位置をマーキングしておく。これを提示して食い止めれば、一つの闇市場(ブラックマーケット)を潰すことが出来るはずだ。だが、そんな時だった。

 

…冷たい風を感じる。どうやら隙間風があるようだ。

 

 

 

カランカラン…

 

 

 

「(クソッ音が…!)」

「何の音だ?」

 

隙間風の影響か、近くにあった空き缶が転がり落ちたようだ。そしてあの男がこっちに向かっている。薄暗いとはいえ、目視出来る程の明るさはある上に隠れる場所が机の下しかない…。

 

「(万事休すか…。)」

「チュチュゥ。」

「…なんだ、ネズミか。」

 

そう言って男は引き返し元の作業に戻っている。…ナイスだネズミの父さん。

 

「(闇市場(ブラックマーケット)の場所は分からないままだが、これ以上いると見つかる可能性が高くなるな。)」

 

そう思いつつ、気づかれないように足早にその場を立ち去る。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【リーンボックス:教会内】

 

「そういう訳だ。場所までは開催地までは分からなかったが…。」

「アンタ…よくそんな危ない事出来たわね…。場合によっては酷い事になってたのよ?」

「伊達に地獄は見てないさ。任務で似たような事はやっている。」

 

日が暮れた後に永守から連絡があり、教会で集合する事になった。わたしもギルドやオトメちゃんからの情報を入手し、かなり重要な情報を手に入れたのだった。

 

「会員制の店か。」

「ええ、会員になる条件はただ一つ。“正規の方法音楽CDを買わない事。”よ。そうすれば“どんな音楽CDも好きなだけ格安で買い放題”…。」

「まさか、そんな店があるなんて思いませんでしたわ…。」

「重要なのは、売上が落ちているアーティスト全員の曲が売られている事。しかも、リストには5pb.ちゃんの曲も入っているわ。」

「買わなくなった理由はそういう事だな。」

「そ、そんな…。」

 

わたしはあの時のような、ぶん殴りたいときの気持ちが沸き上がっている。許せない事だけど、ここは落ち着いて話を続ける。

 

「次の開始日程は“明日の夜12時”ね。場所もそこまで遠くはないわ。」

「開店前に向かって、根元を絶つか…。」

「そういう事よ。こんな事、放っておいたら大変な事になるわ。」

「では、わたくしとケイブは、明日に永守さんが見つけた場所に向かいますわ。永守さんとアイちゃんは、闇市場(ブラックマーケット)に向かうってことで宜しくて?」

「ああ、問題ない。」

「分かりました、ベール様。…ところで、5pb.ちゃんは?」

「5pb.なら、教会内にある防音室に行ったわよ。」

「防音室…。」

 

そう言って、わたしは永守の方を見て合図を送るかのように目を合わせてお互い頷く。

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

【リーンボックス:防音室】

 

アイエフと永守は防音室に向かい、今回の件と明日行う事を5pb.に話した。

 

「そ、そうなん…ですか…。」

「ごめんね、歌の練習の最中にこんな話をしちゃって。」

「い、いいの。ただ…歌えば不安が…とれるかなって…。」

「…やっぱり、永守になれない?」

「え?…あ…、うん…。」

「随分と直球に言うな。」

「ひっ!あ、…ご、ごめんな…さい…。」

「気にしないさ。…5pb.は、音楽が好きかい?」

「え?う、うん。大好きだよ。…でも、ボク…どうしたらいいか、わからなくなって…。」

 

永守がまだ怖いのか、柱に隠れながら永守に向かって言う。音楽は好きだが、不安が抜けきらない。そんな感じの表情をしている。

 

「…安心は、出来ないか。」

「…うん…。」

「思ったより、堪えてるのね。」

 

そんな時、永守はある楽器に目を向け近づき、音色を奏でる。

 

「透明アクリル樹脂か…。クリスタル・ピアノなんて初めて見たぞ。これは5pb.の私物か?」

「あ、えっと…。それは、ファンからのプレゼント…あ、いや…贈呈品というか…。」

 

それを聞いた後、永守はピアノ椅子に座り音色を確認した後、鍵盤に指を掛け奏で始める…。

 

「…あれ、アンタ、この曲って…?」

 

永守が今奏でている曲…それは、5pb.の持ち歌の一つ。それをピアノアレンジで引いている。ただ、コピー仕切れていないのか所々雑音が入ったりしている。

 

「5pb.ちゃん…。」

 

アイエフの隣に5pb.が寄ってきており、よく見ると足でリズムを取りつつ口を動かしており、小声でだが歌っているのが分かる。そして、その口ずさんでいた声は徐々に大きくなっていく。

 

クライマックスまで弾き終えた後、5pb.はハッと自分が歌っていた事に気づき驚く。

 

「悪いな、びっくりしたか?」

「うぅん。そんなことない…。寧ろ、楽しかった。」

「そうか…。」

「永守…アンタ、ピアノなんて弾けたのね。」

「あぁ、なんだ。前の部隊所属の時、“謎解きに使う”とかよく分からない理由で学ばされたんだ。」

「何その理由。」

「…ぷっ。」

 

そんな会話をしていると5pb.が少し笑う。

 

「あ、ご、ごめん。別に、バカにしてる訳じゃ…。」

「いいさ。ただ、感情が表現しにくい分、楽器なら感情表現を出来るしな。」

「そうだね。それと、ありがとっ。」

「…ふっ、どう致しまして。」

「ちょっとちょっと、二人だけで何納得してるのよ。」

「あ、ごめんねアイちゃん。でもボク、改めて気づいたよ。何のために歌を始めたのか。」

「5pb.ちゃん…。」

 

そんな彼女の顔は、不安という字はなく、嬉しそうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 




【用語集】

○テニスラケットを持つと“おっしゃー!”とか、バイクに乗ると“うーッはーッ!”
 此方は、テ○スの王子様とこ○亀が元ネタとなっております。うーッはーッ!は別ですが…。

○バーガーゲイム
 ハンバーガーショップ”バーガーキング”をゲイムギョウ界風に変えてみただけである。…決して一文字抜いて読んではいけない。先生との約束だぞ!

○ネズミの父さん
 アナトール。以上。

○伊達に地獄は見てないさ。
 幽遊白書の主人公の「伊達にあの世は見てねぇぜ。」のオマージュ。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

永守が弾いた曲は、一応5pb.の持ち歌ということで、何を弾いたかはお任せします!(ぇ


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Scene17 月夜~光ある所に、闇あり~

土日に少々捗った為早めの投稿。伏線を回収したかと思ったらまた増やしてしまった。


 

 

時刻は夜の11時半。周囲は暗くなっており、建物の光も少なくなっている。当たりを照らしているのは少ない街灯と月の光だけである。そんな中、とある建物の扉の前に3人が立ち止まっている。

 

「鍵は開いているな。」

「…それじゃあ、永守が先導して、その後にわたしと5pb.ちゃんが行く。OK?」

「OK…。」

「あ、あの…、気をつけて…。」

 

本来であれば、その建物にはアイエフと永守の2人だけで向かう予定だったが、突如5pb.もついて行くと言い出した。何か理由があっても間違っている事はやってはいけない。そして、自分がどういう気持ちを持っているか…それを伝え出来れば改心して欲しいと考え同行する事となった。右手にリボルバー、左手にフラッシュライトを持った永守が先に突撃し、その様子を開いた扉の影から見るアイエフと5pb.が覗いてみている。

 

「誰も居ないのか。」

 

中に入った永守は、周囲を見渡す。中は薄暗いが、電灯がある為目視可能なくらいは明るい。その周辺には、商品ラックと小さい木箱があり、如何にも“商品”と思われる大量の違法音楽CDが並べられている。その先にある机にはノートPCが置かれており電源が入りっぱなしになっているのが分かる。現在の部屋は安全と分かった永守は、二人に突撃可能の合図を出す。それを見た二人は部屋の中に入る。

 

「まさか、これ全部売り物なの?」

「そのようだ。ここに入荷分と売り上げ表がある。」

 

開いていたノートPCを見ている永守が、とある資料を開いている。彼が言った通り、そのデータには売り上げデータと入荷データと言った、POSシステムのようなソフトウェアとなっている。

 

「でも、これは動かぬ証拠になったわね。後は犯人を…。」

 

アイエフがそう言いかけた時、後ろから聞き覚えのある声がした―――――

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「おい、てめぇら!開店前に入った挙げ句、商品に触るとはいい度胸じゃねぇか!」

「ひっ!?」

 

わたし達3人は声のしたほう…丁度後ろを向く。5pb.ちゃんだけは突然の声に驚いてしまったみたい。

 

「アンタは…!?」

「やはり、お前だったか。」

「てめぇらは昼の時の…。なるほど、嗅ぎ付けたって訳か。」

「あ、アイちゃん、永守さん。し、知り合い?」

「ちょっとしたね。CDショップの時に値段が高いとか罵倒していたのよ。それも5pb.ちゃんのCDの前でね。」

「5pb.?へぇ、まさか本物まで来るとはね。」

「ぼ、ボクの曲をコピーした上に、勝手に売ってるのは…貴方なの…?」

「如何にも。正規版が売れないのが不満か?」

「アンタ、1:3なのに随分と余裕ね。」

 

正直、この目の前に居る主犯が余裕面しているのが気にくわなかった。追い詰められているのになんなのよこの余裕は…。

 

「そうだな、確かに俺はピンチかもしれない。だがな、客は安い方へ見向きする。そして、俺みたいに儲けたい奴はごまんといる。ここは、氷山の一角に過ぎないのさ。例えここを潰した所で、俺と同じ意思を持った奴が始める、イタチごっこって奴だ。」

「だからって、見過ごすわけにはいかないわ。」

「はん、自分達の方が善人だとでもいうのか?これだから正義は嫌いなんだ。」

 

そう言い争っていると5pb.ちゃんが意を決したように男に言いかける。

 

「ね、ねぇ…貴方は、音楽が嫌いなの?」

「あぁん?好きに決まってるだろうが。」

「で、でも!ボクの曲だけじゃなく、皆の曲を…悪用してる…。」

「は?一流のアイドルが何を言ってるんだ。俺は大好きな音楽を、皆に届けてるだけじゃねぇか。いい曲を格安で手に入れる。それで買い手も、俺も、歌い手も名前が広がるから皆幸せ。それでも文句があるか?」

「何よそれ。貴方がやっている事は、アーティストを食い物にして自分だけが得してるだけじゃない!ただの不公平よ!」

「訳分からないこと言ってるのはそっちだぜ?商売ってのはお互いが得するからこそ成り立つ。格安で手に入るだけじゃない。無名のアーティストもそれで知ってもらえる。皆ハッピーだろ?」

 

わたしはこの男の事を理解する事が出来ない。確かに5pb.ちゃんの人気が落ちるようなことはしていない。とは言え、やっている事は到底許せない事だ。そんな時、黙っていた永守が喋り出す。

 

「なるほど、確かにアンタの言っている事は分からなくない。」

「え…?」

「な、永守…本気なの!?」

「へぇ、以外にも理解者がいるじゃねぇか。なら、てめぇもこのビジネスを広げる手伝いをしないか?」

「…冗談言うな。俺はアンタに協力するなんて言った覚えはない。それに、アンタは重大な事を忘れている。」

「なにぃ?」

「アーティストは、音楽を仕事としている。そして音楽CDの売り上げによって意欲だけでなく、新曲を作ったりライブの計画が出来る。今はアンタのやり方でもいいだろうが、何れは音楽業界が衰退し、アンタの好きな音楽が消えていく。それでもいいのか?」

「で、デタラメ言うな!てめぇの言っている事こそ言いがかりだ!」

「作曲だけじゃない。楽器のメンテナンスが出来なくなり、グループならその全員分の給料の駄々下がり…リストラかグループ解散だ。果たしてアーティスト達はそれで食っていけるだろうか。未来はあるのか。」

「い、いい加減にしろ!どいつもこいつも説教なんk…うぐ…クソォ!」

 

永守の言葉の後に反論をしようとした男が、突然と苦しみだした。

 

「な、なに…!?」

「どうしたのよ急に!!」

「あ、頭が…いてぇ…う、ぐうぉおおおおおおお!!」

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

男が急に苦しみだした途端、黒いオーラのようなものが男の背中から徐々に溢れていき形を成す。そして、男が倒れその隣に現れたのは、死神のようなローブとドクロのような顔をしたモンスターが現れた。

 

「ぐ、ぐおおおお…くそぉ、ゲイムギョウ界を乗っ取る計画が台無しだ!」

「きゃ、きゃあああああああ!!」

「も、モンスター…!?」

「どうやら、本体のお出ましだ。」

「よくも、よくも俺の計画を邪魔してくれたな!音楽CDで儲け、軍資金を集め、手始めにリーンボックスを乗っ取る計画を!!」

「アンタ、無関係な人を巻き込んだ上にそんな計画を…許せない!」

「だが、この姿を見られた以上生かしておくにh…ブベラッ!!」

 

そんな悠々と話しているモンスターに対して、俺とアイエフの蹴りが見事に顔面にめり込むようにヒットする。そして痛そうに立ち上がるが、既にふらふらな状態だ。

 

「き、貴様ら…これから、名前を言うところを…!慈悲はないのか…!」

「モンスターに慈悲以前に、アンタには恨みがあるからね。」

「あと、モンスターなら手加減はいらない。」

「ちょ、ま、タンmぎゃああああああああああああああ!!!」

 

俺とアイエフはそのモンスターに対して容赦のない蹴りを連続で放つ。悪に慈悲などない。

 

『成敗!!』

 

その内モンスターは力尽きてしまったのか、結晶片へとなり消えていった。

 

「お、終わったの…?」

「ええ、もう大丈夫よ。」

「ああ、後はこの男だ。」

 

モンスターに憑依されていた男がモンスターを倒し終えた後、暫く介抱することにした。介抱している最中に、アイエフの携帯に着信が入り電話に出る。

 

「…わかりました。永守や5pb.ちゃんにもそう伝えておきます。」

「誰から?」

「ケイブさんからよ。どうやら永守が行った違法CD製造場が本拠地であって、他に製造場はないそうよ。アイツの言っていたのはタダの脅しだったのね。」

「だが、再び同じ事が起きないように対策をした方がいいだろう。」

 

そうしていると、男が目を覚まし上半身を上げる。

 

「うぅ…、こ、ここは…?僕は確か、5pb.ちゃんの音楽CDを拾って、それを聴いていたはずじゃ…。って、5pb.ちゃんがなんでここに!!」

「気がついたか。そのCDに潜んでいたモンスターに操られていたんだな。」

「アンタ、自分のやっていた事は覚えてる?」

「あ、ああ…。幾ら止めようと思っても、体は言うことを聴かなかった。まるで悪夢を見ていた感じだよ。それでも、僕は違法CDを作った上に5pb.ちゃんだけじゃなく、他のアーティストにも迷惑を掛けてしまった。…謝って済むことじゃないですよね。」

「も…もう、こんなこと、しないよね?」

「も、もちろん!ここにあるCDは全部処分しますし、しても構いません!」

「…ベールに説得すれば、免罪にはなるか?」

「ちょ、永守何言ってるのよ。」

「本来の姿はどうかは置いといて、この男はただ操られていただけだ。拾ったCDを聴くのはどうかと思うが今のところ罪はないだろう。」

「ボクも、二度としてくれないなら…。」

「5pb.ちゃんまで…。」

「あ、あの、どういうことで…。」

「…別に許した訳じゃ無い。ただ約束してくれ。二度とこのような事に手を出さないと。そして、この事を後世に伝える事。もし同じ事をしているのなら、今度俺はお前さんに牙を向けることになる…。」

「は、はい!」

 

その後、ベールとの相談により今回の件はモンスターによる被害という事で収まり、男に関しては免罪となり、警備の強化をする方針へとなった。今後同じことが怒らない事を願いたいところだ。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

違法CD販売事件を解決し、通常通り最後のリーンボックス職業体験をする事になった。今回の事件を経て、ケイブの所属するリーンボックス特命課の補佐をしたり、5pb.の次回開催するイベントに対しての準備の手伝いだったりというのをしている。一応5pb.から此方に距離をよってきたりもするが、まだまだ慣れないのか一定距離を置こうとする。というより、招待されているイベントに対しての準備をするってのも不思議な感覚である。

 

そして相変わらず最終日は、フリーという指示が出た。納期が近いからラストスパートDA!的なのはないようだ。とりあえず、最終日は適当にぶらぶらしつつ、ゲイムギョウ界のモンスターに関しての情報収集をすることにした。もしかしたら、モンスターが落とすアイテムが地球を救う為のヒントになるのではと考えている。そんな事をしつつ、少々遅い昼飯というとで、リーンボックスの喫茶店で外を眺める事が出来るカウンター席で、熱々のコーヒーを飲みつつ、リーンボックス特性のホットドッグを食べている。そんな時、隣の席…具体的には空いている左の席に誰かが座ったようだが、その客が俺に話しかけてくる。

 

「アンタ、ラステイションのギルド前に居た奴だな。」

「…お前は、あの時の…。」

 

そこにいた男は、以前ラステイションのクエスト報告をした後に、ギルドから出た際に俺に対して“人を殺した事があるな”と言った奴だった。

 

「リーンボックスの違法CD事件の解決に、一役買った男がいると聞いてね。それがアンタなのか確かめたかったのさ。」

「それを聞いてどうする。」

「…アンタに協力して欲しい事がある。」

「あの時いたもう一人と協力すればいいだろう。」

「今回の件は私情でね。彼女を巻き込みたくない。」

「それで、俺に頼んでどうする。」

「失礼だと思ったが、初対面の時、アンタは人を殺したような目をしていた。俺はそういう人を探している。俺の宿敵を殺せる協力者を求めてな。協力してくれるか?」

 

どうやら、この男も何かしらの問題を抱えているようだ。既に会話の内容からして物騒な事は避けられないのは確かだ。…どうも最近、面倒事に巻き込まれる事が多いな。

 

「…星占いでも見とけばよかったな。」

「なんか言ったか?」

「いや、何でもない。協力するかは話を聞いてからだ。」

「そうだったな、悪い悪い。では、話をしよう。…俺は人を探している。こういう奴だ。“エンデ”と名乗っている。」

「エンデ…だと…?」

 

俺は提示された写真と名前を聞いて眉間に(しわ)を寄せる。そう、その写真に写っているのは宿敵とも言える“エンデ”そのものが映っているからだ。この男もエンデの被害に遭ったかは分からないが、危険な奴に会いたい事だというのは分かる。

 

「知っているのか…!!」

「…俺も此奴には野暮用があってな。」

「となると、アンタは“転生者”か?」

「転生者?…いや、俺は転生者ではない。」

「なん…だと…?アンタ、特権とかそういうのは…!」

「声がでかいぞ。」

 

周囲に人は少ないとはいえ、こんなよくわからない単語で且つ物騒な話を大声で話すのは宜しくないだろう。

 

「わ、悪い…。………ふぅ、じゃあ、アンタは転生者じゃないのか。」

「ああ、俺は地球というところから来た。」

「地球…?ちょっと待て、俺も前は地球の日本で住んでいたが…。」

「…お前のいた地球は、こういうのは使えたのか?」

 

そう言って、俺は手の平を少し離れたティースプーンに向け、超能力のテレキネシスで掌に引き寄せる。

 

「手品か…?」

「…お前の所には超能力は無かったのか。」

「馬鹿な。アンタは転生者じゃないのにそんなのが使えるというのか。」

「俺がいた地球は超能力という魔法のようなのが当たり前のように使えていた。」

「じゃあアンタはどうやってゲイムギョウ界に来たんだ?」

「転送だ。訳ありだったがな。」

「…そうだ、まだ名前を聞いてなかった。俺はジンと言う。アンタは?」

「…獨斗永守だ。」

「獨斗永守…、それじゃあ、アンタが僅か数ヵ月でギルドランクAになった漆黒の風と言われている男…。」

「…二つ名は兎も角、そう言われている。」

 

兎に角、この男が探していた“転生者”だというのは十中八九当たっているだろう。尚且つ同じターゲットを探している。この男になら全てを話して協力を要求するのもいいだろう。そんな時、向こうも“転生者前の話”と“エンデを追っている理由”を話すという。

俺はジンに自分が居た地球の事、そして起きてしまった事、今の目的を全て話す。ジンも元居た地球の事、転生した時の出来事を話すこととなった。

 

「そうそう、俺ことジンの情報を知りたいのなら、登場人物紹介が更新されてるからそこを見てくれ!因みに、兄貴の紹介も更新されたから興味があったら見てみよう!」

「…兄貴って俺の事か?」

「どう見ても年上だろう?だったら兄貴でいいっしょ!こっちも気軽に呼んでも構わないからさ。」

「俺を信頼するに値すると思っているのか?」

「確かに、兄貴からは闇の力を感じる。でも、完全な闇って訳じゃない。一点の光がある闇…?」

「………。」

 

兎も角、お互いの過去と知っていることを全て話したのだと思う。お互い不運であり、共感するべき部分もある。どうやらエンデはゲイムギョウ界担当と考えていいだろう。そして子どものように気の向くままに混沌と破壊を楽しんでいたに違いない。ジンとはパイプを作っておいたほうが良さそうだ。相棒に近い日本一という女性とも繋がりを持てば、何かと役に立つ時が来るはずだ。

 

「今後の事で話をしておきたい。もう暫く付き合えるか?」

「…そういや、まだ昼を食べてなかったな…。俺は構わないぜ!」

「なら、奢ってやるから欲しい物を頼め。」

「マジか!じゃあこれとこれにするか!」

「それじゃあわたしはこれと、これと、これ!」

「分かった、追加注文するk…ん?」

 

俺は声のした方、具体的には俺の右側の席を見る。そしてその人物を見て俺は目を見開く。ジンもその人物を確認し目を丸くしている。

 

「ねぷ?どうしたの、そんなびっくりするような目をしてさ。」

 

そう、会話文からお察しだが、“ネプテューヌ”がさも当たり前のように俺の隣に座って注文をしているのだ。

 

「ね、ネプテューヌさん!?」

「…お前、何時からここに?」

「ついさっきだよ。…て、あれ?君と会ったことあったっけ?」

「あ、っと。これは失礼。えっと、俺はジンって言います。」

「ジン君ね。それで、えい君はどうしてジン君と話してるの?」

「彼もギルドランクはAでな。その関係で知り合って、協力関係を結ぼうとしてたわけだ。」

「へぇ、じゃあえい君の友達ってことだね!よろしくぅ!」

「あ、ああ、宜しく、お願いします。」

 

さっきと違って押され気味な反応をしている。基本的に女性相手が苦手なのか?そしてネプテューヌがジンに向かって質問攻めしていく。その質問に対しての反応は優柔不断と言っても過言ではない程に、直ぐに答えない感じだ。感情があったのなら、俺もこんな反応をしていたのだろうかと考えるが、考えても無駄だと思い考えるのをやめる。

 

そんな時、外から何か妙な視線を感じる。

 

「ん?どうしたのえい君。険しい顔してさ?」

「…視線を感じた。」

「視線?何処からだ?」

「あそこからだ。」

 

俺は正面にあるビルとビルの間辺りを指さす。

 

「うーん?あそこ?」

「…一瞬だけ感じたような?」

「誘っているかのようだ。」

「気になるなら行ってみる?」

「危険かもしれないぞ?」

「だからって兄貴、分からないままじゃ先へ進めないぜ。」

「お、気が合うね。えい君もここは大船に乗った気で行こうよ。なんたって、わたしがいるんだから!」

「…分かったよ。危険と感じたら逃げるぞ。」

 

そうして、俺達は店を後にしビルとビルの間、路地裏の方へ移動する。だが、入ったはいいが目視出来る範囲に生物らしいのは見当たらない。

 

「ねぇねぇ、えい君。本当に何か居たの?」

「気のせいだったんじゃないか?」

「…それが一番いいのだがな。」

「じゃあさ、折角だしこのままどっか行こうよ!」

「お前…仕事はどうした。」

「はて、何の事やら。」

 

此奴、絶対サボる為に来ただろ…。これはどう考えても帰ったらイストワールが有頂天待った無しだろう。そんな時だった。奥の方から光が見えた…まるで女神化した際に発生する光り方だった。そして此方に向かって明らかに殺意を持った視線を感じ、此方に何かが飛んでくる。

 

「(…殺気…!)クッ…!!」

『うわっ!!』

 

とっさの行動の為に、ジンの足に回し蹴りをしつつ、ネプテューヌを押し倒すような形になってしまった。

 

「大丈夫か…!?」

「え、えい君///」

「…顔を赤くしてる場合じゃ無いぞ。」

「そうだぜ…クソッ。」

 

ネプテューヌは大丈夫のようだが、ジンは避け損ねてしまったのか、肩に何かが刺さっている…“矢”だ。

 

ネプテューヌを立ち上がらせ、その矢が飛んできた方向に目を向ける。そして此方に向かって誰かが向かってくる。そこに居たのは、女神化したネプテューヌと同じような髪型をした緑髪で、女神化した後のバトルスーツに、女神化した後の瞳を持つ…いや、紛れもなく女神と同じ存在であろう人物が目の前にいる。此方に明らかな殺意を持っている事を除けば…。

 

 

 

 

 

 

 




【用語集】

○よくも、よくも俺の計画を邪魔してくれたな!
 チャージマン研より、ジュラル星人の「よくも俺達の計画を邪魔する気だな?」のオマージュ。チャージマンはネタの宝庫です。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


次回は開幕戦闘予定です。


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Scene18 漆黒の狂気~動き出す歯車~

Steamのセールが来てるので適当に調べてたら、”VSセガハードガールズ”がリストに上がっていて、今月中に配信予定!これは買わざるを得ない!現時点では英語のみだがorz


 

 

 

 

あ、ありのまま今起こっている事を話すぜ…。

えい君に急に押し倒され、驚きと恥ずかしさはあったけど、丁度わたしの横を何かが横切っていったと思ったら、ジン君の肩に矢が刺さってるし、正面を見たらわたし達の女神化した状態にそっくりな人が立っているんだよ。あ、頭が可笑しくなりそう…新しい女神が現れたとかそんな情報を聞いた事なんてないし、えい君の表情からしてそんな事はあり得ない感じだよ。

 

「がっ…!くそ、肩の骨に食い込んで中々取れない…!」

「下手に取ると大出血するぞ。」

「くそ、どこかの壁に肉はないか!」

「え、それをどうするの?」

「食う!食えば体力が回復する。」

 

な、何を言ってるんだろ…。兎に角、目の前の女神は“敵”として見ていいのかな?

 

「お前は、何者だ?」

「………。」

「喋る気は無いか…。仕方ない、俺が時間を稼ぐ。ネプテューヌはその間に女神化してくれ。イストワールに連絡はその後だ。ジン、お前は何処か隠れて傷を癒せ。」

「ああ、そうさせて貰う。」

「えい君、無茶しないでね。」

「わかってる。」

 

そう言って、えい君はガントレットとグリーブをコールしつつ某野菜人が金髪になるかのような動きをし、えい君の服や髪が靡いているのが分かる。明らかにえい君の戦闘能力が上がっている感じだね。そうしてえい君が謎の女神に突っ込んでいく。おっと、解説している場合じゃなかったね!

 

 

「あーもー!ゲイムギョウ界の平和を乱すなら、他国で暴れてでも許さないよ!変身~!」

 

 

えい君の御陰で無事わたしは変身する事が出来たわ。しかし、驚いたのは、彼女は接近戦もある程度得意なのね。何所からともなく出している矢…というより大きさも変えられるようで、それは矢というより“槍”に近いわ。それを振り回したり突いたりしてえい君の攻撃を弾いているわ。

 

「変身したか。」

「お陰様でね。少し触れ合った感想は?」

「力はあるが、戦闘経験が少ないようだ。至る所で力の分配が上手くいってないから、そこに隙はある。色々聞きたいことがあるから、峰打ちで頼む。」

「流石ね、えい君。それじゃあ、わたしもあの子からは色々と聞きたいからね…!」

 

そうして、わたしとえい君は敵意剥き出しの女神に接近戦を試みる。それを察したのか、向こうは複数の矢を持ち同時に撃ってくる。そして女神化しているからか、その動作一つ一つが早く中々接近する事が出来ない。しかし、えい君が言った通り、戦闘慣れしていないのか、力を制御しきれていないのか、矢一発一発の威力にムラがある感じがする。

 

「これは、強引に行った方が早そうね。」

「100%とは言えないが、現状切り札は無さそうだ。それにタダ操られてる感じもする。」

「切り札が出た時は、その時…よ!!」

「…全く、女神化すると好戦的になるな…。」

 

えい君が何かぼそっ言ったような気がしたけど、わたしの後ろに着いて来るように突っ込んでいく。急に全力疾走のように突っ込んで来るのを予測していないのか、余裕からなのか、機械のようにさっきと同じような、矢を高速で撃ってくる妨害攻撃をしてくる。えい君は地上からジグザグに動いて的を絞らせないようにし、そしてわたしは上空に飛び上がり狙いを分担させる。飛び上がったと同時にその女神はわたしの方を見上げるように構えてきた。

 

「余所見してると、痛い目みるぞ。」

 

えい君が炎の玉を連続で放つ。標準を地上に向けて、飛んできた火の玉を矢でかき消している…けど…

 

「隙だらけよ!!」

「!?」

 

奇襲攻撃のように上空から飛び降りるように左肩目掛けて峰打ちを仕掛ける。綺麗に決まったその一撃で、左手に持っていた弓を落とした。そして空かさず、えい君が首元目掛けて右手刀を放ち、左手で顔を掴み足を掛け、綺麗な燕返しでそのまま押し倒す…というより地面に叩きつけてる!

 

「ちょっと、やりすぎじゃない…!?」

「…手加減はした。」

 

いやいやいやいやいやいや…手加減したという割には、アスファルトにヒビが入ってるんですが、それで手加減したってのはちょっとどうかと思うわ!…でも、冷静に考えれば相手は女神で、体も頑丈になる…確かに覗いてみるとあまり傷ついているようには見えないのが分かる。…こう考えるわたしも鬼かな。そして、気絶したのか女神化が解ける。女神化が解けた為か姿が変わる。黄緑色の某魔法少女のような長いポニーテール、黄色いラインが入った緑色のパーカー、白色のスカート…あ、スパッツ穿いてるわね。兎に角、変身が解けた後はわたし達と変わらない普通の女の子って感じね。具体的には、変身前はノワールっぽい、女神化時の体格はベール、プロセッサユニットはブランっぽい感じがするわね。そんな事を考えていると、えい君が驚いている。

 

「この女、まさかな…。」

「知ってるの?えい君。」

「フェリーの駐輪所で似たような奴とすれ違った事がある。恐らくそうだろう。」

「終わったか?」

「ジン君。こっちは終わったわよ。」

「…矢は刺さってないが、治療したのか?」

「ああ、肉食って回復したぜ!」

 

…うん、あんまり追及しない方がよさそうね。変身を解き、いつも通りに戻る。

そうしてるとえい君が、倒れてる女の子に寄って、何か拾い上げる。何を拾ったんだろ?

 

「えい君、何拾ってるの?」

「ああ、何か引き寄せられてしまってな。」

「…なんだそれは…。」

「ごめん、えい君。それ余りこっちに向けて欲しくない…。」

「どうした…?」

 

見た目は凄く濃い赤色のルビーって感じがする。えい君はこれが彼女を操っていたんじゃないかと思っているみたい。ただ何だろう、凄く禍々しい感じがして、吸い込まれてしまいそうな…正直あまり見続けたくないし近づけて欲しくないなぁ…。ジン君もちょっと青ざめた感じであまり手に取りたくないって感じしてるよ。理由は分からないけど、わたしとジン君は拒絶反応的な感じなのに対して、何でえい君だけ何とも思わないんだろう。それに何だろう、えい君はその宝石のようなのに見覚えがあるかのような反応をしている。

 

『な!?』

 

そんな会話をしていると、えい君が持っていた“それ”は突如浮かび建物の奥の方へ飛んでいく。

 

「やれやれ、女神の力を持っているとはいえ、やっぱ相性を確認しとくべきだったね。それに、戦闘慣れしてない人を操っても結果はこれじゃあねぇ。ま、分かってたけどね。」

 

ビルの陰から、わたしと同じくらい…いや、ちょっと高いかな?の少年がひょいっと現れる。えええ!ここにきてまさかの新キャラ登場!?…そう思ってたけど、えい君とジン君を見ると、驚きと殺気に満ちたような表情になっている。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

俺は倒れている女の首下から、赤い宝石のような石を取る。無闇に掴むのもあれだが、見てみないと分からない事もある。だが、握った瞬間、この石から強力な闇の力が漂っているのが分かる。ネプテューヌとジンが拒むのも仕方ない。それだけの力が…特に女神に取っては真逆のエネルギーだ。

 

「(まさかと思うが…この石は…。)」

 

そう考えていると、石が浮かび上がりとある建物の影へと向かっていく。そして、そこから現れた人物は、今出て欲しくない上、場をややこしくする奴だったからだ。

 

「…エンデ。貴様、何故ここにいる。」

「んん?来ちゃ行けない雰囲気だったかな?ボクの私物を取りにきただけなのに。」

「な、何?この感じ…。あの子から…?」

「ふーん、女神もご一緒かぁ。」

 

正直、今の状況では会いたくない奴が現れてしまった。

 

「まさかと思うが、その石は…深紅の石か?」

「へぇ、この石の事を知っている…というより名前だけ知っている感じかな?」

 

俺の持っている情報を知っているかのように話す。確かに今の俺は、その石の名は聞いたことあるが、具体的な能力は何なのかは不明だ。今の状況は不味いと思い、俺はNギアを取ってリーンボックス教会に救援の連絡をする…。

 

「ベール、俺だ。」

≪永守さん…?≫

「…不味い事になった、至急応援を…。」

≪あ、あの。永守さん。何か言っていますの?聞こえているなら返事をして下さいまし。≫

「………。」

 

俺はそっとNギアの着信を切る。何かしらの電波障害が起きているのか、着信は出来るが連絡先に音声が通らないようだ。ネプテューヌも教会に連絡を入れようとするが、そっちは着信音が虚しく響いているだけだった。そもそも可笑しいのは、俺があの女を叩きつけた際の騒音はあえて聞こえるようにしたのだが、全く観衆が来ない事も不自然だった。

 

「ふふん。無駄だよ。外部との連絡はまるっとカットしてるよ。」

「随分と手の込んだことを…。」

 

応援を呼ぶことが出来ないこの状況…さぁどうする。相手の要求はなんだ…?そうしていると、エンデに向かって鞭が飛んでいきエンデの腕に巻き付く。そこには怒りの形相をしたジンが立っていた。

 

「ジン…!?」「じ、ジン君…?」

「おや、誰だい君は?」

「エンデぇ…、忘れたとは言わせねぇぞ…!!」

「ジン、止せ!!」

「…用があるのは永守だけなんだけどね…。悪いけど、遊んでる暇はない…よ!」

「な…!!」

「ジン君…!」

 

エンデは、鞭が巻き付いた腕を強引に引っ張ったと同時に、ジンがエンデの方まで持っていかれる。そして奴が左手を前に突き出したと同時に、ジンの腹部を何か鋭利な刃のようなもので貫かれている。

 

「がはっ…!!」

「はい、御終い。壊れた玩具に用はないよ。」

 

そしてエンデは乱暴にジンを裏路地の出入り口のところまで投げ飛ばす。

 

「そ、そんな…ジン君が…。」

「大丈夫だよ。壊れちゃっただけで死んではないよ。」

「…なんて力だ…。」

 

片腕のスナップだけで俺達の頭上を通り越して向こう側に放り投げている。地球で最後に戦った親玉とはまた違った能力のようだ。全く、俺はとんでもない奴に目を付けられてしまったようだ。そして、エンデが一歩ずつ此方に近づいてきている。それを見たのか、ネプテューヌは再び変身し俺の前に出てくる。

 

「動かないで!それ以上近づくのなら、叩き斬るわよ!!」

「それは女神としてかな?それとも何か特別な感情でも?」

「…両方よ。確かに、わたしとえい君は出会って数ヵ月だけど、それでも見捨てるわけにはいかないわ。」

「…ふぅん。できれば、僕も武力行使はしたくないけどねぇ。」

「ネプテューヌ。ジンの様子を見て来てくれ。」

「ダメよ、貴方一人にする訳にはいかないわ。」

「奴の目的は俺だ。それとも何だ、近くに瀕死状態の人がいるのに、そっちを助けないのか?」

「で、でも…。」

「前にも言ったろ。お前は女神だ。俺一人に拘る必要はない。それとも何だ。俺がこんなところでやられるとでも思っているのか?」

「…分かったわ。でも、無茶だけはしないで。それと、約束守ってよ。」

「分かっている。」

 

ネプテューヌはジンの方へ走っていった。

 

「話が纏まってよかったよ。」

「エンデ、貴様の要求は何だ?」

「ふふ、じゃあ話をしよう。要求は至って簡単だよ。君が此方の傘下になる事。そうすれば、僕はゲイムギョウ界から手を引くよ。どうだい、悪くない話でしょ?」

 

…確かに、話としては悪くない。俺一人が犠牲になれば全てが丸く収まる。だがな、俺は仲間や亡くなった市民達に誓っている…。

 

「さぁどうする?気が変わらない内に早く答えちゃいなよ。」

「…お前の話。悪いが、お断りだ。どんなに誘われようが、俺は闇には落ちない。それが、俺の選んだ道だ。」

「ふぅん?じゃあ仕方ない…。少し痛い目に遭ってでも来て貰うよ!」

「生憎だが、そう簡単にはさせるか。」

 

俺はガンホルスターからリボルバーを取り出し、エンデに向かって数発撃ちこむ。しかし、奴が手を前に出すと魔法障壁のようなものにより銃弾が止められてしまう。

 

「そんな豆鉄砲、僕には通用しないよ。」

「なら、これはどうだ!」

 

弾を込め直し、一度ガンホルスターに戻し早打ちスタイルで撃ち込む。やはり魔法障壁にのようなものに防がれてしまう。

 

「何度やっても無駄だよ。」

「便利だな、通販で買ったのか?」

「さぁ、今度はこっちの番だよ!!」

 

エンデが此方に接近をしてくる。だが、その速度は尋常ではなかった。限界突破(オーバードライブ)状態では、周囲がスローモーションに見えるだけでなく、相手の筋肉の動きもある程度把握できる。だが、そんなスローモーな状態にも関わらず、現実と同じくらいの速度で接近してきている。右手から水平に何処からともなく出した鋭利な刃物を回避するが、そこからショルダータックルを仕掛けてられ避けることが出来ず直撃してしまう。その威力は凄まじく、45度斜め上に吹き飛び路地裏のビル壁に激突し、壁に寄り添う形で地に足を付く。

 

「ぐっ、なんてショルダータックルだ…。悪魔なんか止めてアメフトでもやったらどうだ…。」

「今の攻撃を受けてまだ立っていられるんだね。じゃあ、これはどうかな!」

 

そしてエンデが腕を前に突き出すと同時に、此方に何か細長い棒状のものが1つ迫ってきている。爪…いや、骨、奴の骨が伸びてきている!!壁を背にしながら横にサイドステップし避ける。此方に向かってきた骨が壁に突き刺さっている。

 

「…おいおい、誰が弁償するんだよこの壁修理代。」

「ふふ、減らず口だね。何時までその余裕を保っていられるかな?」

 

今度は両手を前に突き出してきた。そして手だけでなく、手首や腕からも骨が剥き出しになり此方に伸びてくる。それを横にローリングしつつ回避しつつ、スライディングで奴の近くまで滑り込みアッパーを入れる。

 

「何…!!」

 

ここで想定外の事が起きた。奴がすっと避けるまでは想定していた。だが、今度は脇腹から片方4本、計8本骨が突き出され拘束されるように挟まれ壁際まで運送されてしまう。それだけでは終わらす、絡まっている骨が収縮し、俺の肉体にめり込んでいく。

 

「ぐぁ…!!」

「驚いたよ。まさか人間でありながら僕の近くまで来れるなんて。やはり人間って面白ね。…いや、君が凄いって言った方がいいのかな?」

「だから何だと言うんだ。このまま二人でハワイに行くとかいうんじゃないだろうな…。」

「こんな時にでも冗談を言うんだね…まぁいいや。悪魔の契約(ディアボロス・アグレメント)しちゃえばそんな余裕言ってられなくなっちゃうんだから。」

 

そう言って、エンデは右手の指5本の先端を噛み血が流れているのを見る。それを、俺の胸元に押し付けてくる。そして、奴が呪文のようなものを唱えている。それが始まったと同時に、俺の体に何かが流れ込んでいく…!

 

「な、なんだ…これは…!!」

 

全身に何か…エンデの肌に刻まれている紋章のようなものが少しずつ浮かび上がっている!!肌が焼けるような痛さが伝わっていく上に、体の奥底から何かが沸き上がってくる…!!それに、何かの映像、記憶も流れ込んでくる…!!

 

「ぐ、が…あぁ!!」

「へぇ、普通だったらここで落ちてるのにしぶといね。でもやめないよ………ん、これは!?」

 

そう言うと奴は急に拘束を外し一歩後退する。

 

「まさか、女神の加護を受けているのか…。」

「…何を…言ってやがる…?」

 

そんな時だった。

 

「えい君から離れろおおおおお!!!!」

 

怒りの形相で向かってくるネプテューヌがエンデに接近していた。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

えい君に言われた通り、ジン君の方へ行き怪我の状況などを見る。

 

「ね、ネプテューンさんか…。」

「酷い…腹部を貫通してる。でも、出血はそこまで酷くはないわね。」

「す、すまないが…、手を、貸してくれ。」

「どうする気?」

「俺の、力を使って、ここの結界を、壊せるか試す…。」

「そんな、その怪我じゃ無茶よ!」

「だが、このままじゃ、俺達3人は…犬死に、するような、物だ…。なに…上半身を、立たせるだけでもいい…。頼む…仲間を救う為だ…。」

「…分かったわ。」

 

出会って間もないから、信用も信頼も難しいけど打開策が無い以上、ジン君に任せるしかなさそうね。仰向けに倒れているジン君を、ビルの壁側へ移動させる。

 

「助かる…。」

「…そっちは任せたわ。わたしはえい君の所に戻るわよ。」

「…ああ…。」

 

そう言い残し、わたしはえい君の方へ戻ろうとした時だ。

 

「ぐ、が…あぁ!!」

「へぇ、普通だったらここで落ちてるのにしぶといね。でもやめないよ………ん、これは!?」

 

化け物がやりそうな方法で拘束されてて、更に不吉な事をえい君にしているエンデを見る。やばい、止めなければ…。自然にそんな思いが過ぎり体が動いていた。止めなければ…“えい君が、えい君じゃ無くなる。”…そんな気がしたから。低空飛行の状態でエンデに向かって飛んでいく。そんな時、どういう訳かエンデはえい君から離れ攻撃のチャンスが出来た。

 

「えい君から離れろおおおおお!!!!」

「うぉあ!!!!」

 

手加減無しの渾身の一撃をエンデに向かって放ちクリーンヒットする。その勢いでエンデはビルの壁に激突し、砂埃が舞い上がる。それを見たわたしはえい君の安否を確認する為、後ろにいるえい君の方へ顔を振り向かせる。まるで紋章印を象った火傷をしたような後が右腕にあり、痛みを覆い隠すかのように左手で強く握っているのがわかる。しかし、わたしはえい君の目をみた瞬間、開いた口が閉じない状態になっている。

 

「えい君、大丈夫!?」

「あんまり良くないな、左腕の骨にヒビが入ったかもな…。」

「え、えい君…その目…。」

「…目が、どうした…?」

 

えい君の体は見た感じでは異変など起きていない。でもどういうこと…えい君の目…左目が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたし達が女神化する時と同じ”女神化時の瞳”をしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、えい君の突然の変化を目の当たりにしたからか、エンデの確認を怠ってしまったのだ。

 

「ネプテューヌ、後ろだ!」

「隙だらけだよ…!」

「え…!?きゃあ!!」

 

エンデが張り手のようにわたしに向けて手を向けたと同時に、壁際まで吹き飛ばされる。まるでえい君が使っていた“発頸”のような攻撃をしてきた。腹部に腕が貫通したかと思うほどの強烈な衝撃を受け、壁に衝突して座り込むような体勢になってしまう。プロセッサユニットじゃなかったら復活アイテムキボンヌ状態になっていた所だったわ。

 

「ねぷぅ!変身が!!」

 

なんということでしょう、あの時のノワールみたいに変身が解けちゃった!力を使いすぎた訳でもないのに…。しかも、立ち上がろうにも腰が抜けたかのように立てない。

 

「へぇ、ちょっと借りてきたけど、あのオバサンも使えるようなの持ってるんだね。」

「い、一体何の話…?」

「まぁいいや。あのオバサンが倒す予定とか言ってたけど、ボクの計画としては邪魔な存在だし死んでも問題ないよね。はい決定、消えちゃえ。」

 

あ、これは不味いと思っちゃった。こっちに向かって鋭い何かが飛んできて、思わず目を瞑ってしまう。ごめんね皆…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、暫くしても何も起きない。というより一瞬だけフワッした感覚がしたのは驚いた。恐る恐るわたしは目を開けると、信じられない光景が目に映っていた。

 

それは、わたしが本来いた位置にえい君が居て、エンデに串刺しにされていたのだった…。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「そんな…え、えい君…!」

 

動けないネプテューヌが涙を溢しているように見えた。テレポートの亜種…。有効範囲が短く、発動まで時間が掛かる上に1・2回が限界だが、俺の位置と念じた対象者の位置を入れ替える事が出来る。ネプテューヌ…いや、女神はやられてはいけない存在だ。だが、今の俺にとっては女神としてでは無く、この世界の事を右も左も分からない俺に色々と教えてくれた命の恩人だ。そんな存在を傷つける事は許さない。咄嗟(とっさ)に入れ替わった代償として、エンデの骨による串刺しを左肩、右胸、左横腹、右太ももを貫通しており、身代わりのように受けてしまう。急所は運良く避けているようだが、奴は容赦なく此方に接近してくると共に、深々と刺さっていく。

 

「ぐっぅ、ぁ!」

「驚いた。まさかそんなのも使えるなんて…それに、なんで死なないの?」

「生まれつき丈夫なんでね…。」

「面白いね、手足が無くなっても生きてるか試してみようかな?」

「そいつは断る。」

 

エンデが喋っている間に、念じる余裕が十分にとれた。動ける右腕を使い火と風の念力を融合させた力を奴の右肩に当て、大爆発が起きる。だが、その爆発は普段使う時の爆発よりも遙かに強く、爆発による衝撃を防ぐことが出来なかった。エンデも今の爆発で相当吹き飛んだようで、刺さっていた骨がすっぽりと抜けているのだが、ダメージが蓄積しすぎた為に思わず仰向けに倒れてしまう。

 

「えい君…!良かった…無事じゃ無いけど良かった…!!」

「抱きつくな…血が付くし…イテェ…。」

 

恐らく今の攻撃で奴も無事では居られないはずだ…。こっちは満身創痍で体を起こすことも難しい。

 

 

 

「まさか…これほどの力があったとはね…驚いたよ…。」

 

 

 

目の雨に映る光景が信じられなかった。奴は、右腕から胸部が吹き飛んで欠損しているにも関わらず、ゆらりと立ち上がっている。

 

「う、うそ…。」

「…本当の、化け物…だな。」

「これでも結構痛いんだよ?まぁ、君達には分からないか。…ん?」

 

 

 

「やあああああああああああ!!」

「たあああああああああああ!!」

 

 

 

そんな時だ。俺とネプテューヌを飛び越えるように2つの影がエンデに向かって攻撃を仕掛ける。奴はそれをバックステップして回避する。俺達の目の前に現れたのは、橙色のボブカットに、明らかにサイズ合ってないだろと思う露出の高い服装の女の子、もう一人は金色のショートヘアで、猫耳帽にショートパンツに尻尾が付いた小麦肌に紋章のような模様のある女の子が居る。

 

「助けに来たよ!」

「よかった、ネプテューヌ様も無事で…。ジン君の知り合いだね?」

「ねぷぅ!だ、誰?」

「…誰だお前達は…。」

「わたしは、マーベラスAQL。気軽に“マベちゃん”って呼んでもいいよ!」

「私はサイバーコネクトツーだよ。ジン君から連絡を受けて助太刀に来たよ。」

「ジン君が?」

「…そう、か。」

 

しかし、奴は形勢が悪くなったとみたのか、エンデは影に潜り込むように沈み、姿を消してしまう。

 

「ああ!逃げるの!!」

「!?ま、待て!!」

 

そんな声が頭の中に響く…。

 

≪流石にこれじゃあ戦えないからね。勝負は次に持ち越しだよ。≫

 

 

 

 

「おい!こっちに人が倒れてるぞ!!」

「早く、救護班を!!」

 

出入り口の方から声が聞こえ、此方に人が向かってくるのを確認し、意識を失ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーンボックスにある総合大病院…。そこに一人の男が手術室に向かって運ばれている。

 

「患者の状態は…!」

「バイタルは搬送中から正常です。ですが、左の鎖骨と脇腹が三本と左腕の骨折、脇腹に裂傷、左肩、右胸部、左横腹、右太ももに鋭利な刃物で貫かれた刺し傷です!それと、右手に爆風を受けたような後、その右腕に火傷と思われる後があります!」

「そんな状態で良く生きている…直ぐに手術(オペ)に入るぞ。」

『はい!』

 

手術服に着替えた集団が手術室へと入り、その男の術式を開始する事になった。

 

「ああ、総長!大変です!」

「どうしたというんだ。心電図も、脳波も正常じゃないか。」

「い、いえ…それが…。この男性の傷を見て下さい…。」

 

総長と呼ばれた男や術式に入ろうとした人も、その男を…獨斗永守の傷を見る。

 

「こ、これは…どういうこだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

傷が…治りかけている…。」

 

 

 

 

 




【用語集】

○どこかの壁に肉はないか!
○食えば体力が回復する。
 元ネタは時間制限横スクロール時の『悪魔城ドラキュラ』または『悪魔城伝説』の回復アイテム。ゲーム中は殆ど隠しに近く、壁を破壊するとポロリッと出てくる。食べると体力を半分回復(当時のライフメーターはメモリ制で16、その半分の8回復)する。ドラキュラ様が態々仕掛けたのだろうか…?

○某野菜人が金髪になるかのような動き
 元ネタはDB-Zのサイヤ人化のモーション。考えてみれば、あれの源って怒りなんですよね。ただ、永守のはどちらかと言えば界王拳のようなもの。

○外部との連絡はまるっとカットしてるよ。
 TRICKより「お前らのやっている事は、全てまるっとお見通しだ!」のオマージュ。

○壊れた玩具に用はないよ
 PSO2のルーサー「壊れた玩具に用はない!」よりオマージュ。

○なんということでしょう
 「大改造!!劇的ビフォーアフター」より生まれた名(迷?)言。ただし、私がよく聞くのは、Minecraftの匠(クリーパー)の自爆によって建造した自宅に大穴を開けられた際に言う言葉の「なんてことをしてくれたのでしょう。」


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


恐らく察しの良い方は気づいてると思いますが、ジンのキャラ設定は「悪○城ドラキュラ」を引き継いでいます。
そして、永守の身に何があったのか…。


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Scene19 宿命を継し者~Nightmare~

まさかPAYDAY2が無料配信しているとは…思わずDLしてしまいました。
とりあえず、今回が第一脱線回の最後となります。


 

 

 

 

リーンボックスの総合大病院に同時刻、3名が緊急搬送された。1人目は17歳前後と思われる失神状態の女性。強打を受けたと言われたが、外傷は殆ど見られないが様子見という事で入院。但し、再び目覚めた時に暴れる恐れがある為、ベールと警備付きとなっている。

 

2人目はジンと言う恰幅の良い男性。意識ははっきりしているが、腹部に鋭利な物で刺された跡があり、背中まで到達しているのが分かる。奇跡的に内蔵の損傷は少なく術式(オペ)も問題なく終わり、1週間後には退院できるとのこと。付き添い人として、ジンから連絡を受けたマーベラスAQLとサイバーコネクトツー、連絡を受けて慌てて来た日本一がいる。術式終了後、1時間程で目が覚める。

 

「…ここは…。」

「目が覚めたようだね。」

『よかったぁ…。』

「もう、心配したんだからね…!!」

「ごふっ!!」

 

ジンが無事だった事に安心したのか、日本一が力強くジンを抱きしめる。

 

「ああ、力強く抱き着いちゃいかんよ。それで、気分はどうかね…?」

「今は最悪さ…まるで飲料水に大量の栄養剤を混ぜたのを飲まされた気分だぜ…。」

「ちょっと、心配したアタシに酷くない!!」

 

そんな光景を見て他の人が苦笑する。そんな中、ジンが何かを思い出すように声を荒げる。

 

「…そうだ!!兄貴…いや、永守はどうした!!っつつ。」

「こらこら!急に大声を上げると傷口が開くぞ!同時に搬送された1人だね。彼は今この病院にいますよ。」

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

そして3人目はプラネテューヌの女神を庇い、搬送時は重症と言われた男“獨斗永守”。彼の活躍の御陰もあり、ネプテューヌは大した怪我もなく応急処置のみで済んだ。その連絡を聞きつけたラステイションとルウィーの女神が、仕事があるにも関わらず手術室前に集まってきたのである。

 

「ごめんね…えい君…わたしがいながら、こんな事になるなんて…。」

「お姉ちゃん、永守さんならきっと大丈夫だよ…。」

「そうよ、ネプテューヌ。貴方のせいじゃないわ。永守が簡単に死ぬとは思えないわよ。」

「確かに、あんなタフな男は見た事ないわ。それに、妹達が誘拐されて酷いことをしたのに、わたしを庇った上に、最後までわたしを信じてくれた…。まだ彼に恩を返してない状態で死なれちゃ困るわ。」

「…そうね。私も、永守には借りがあるわね。」

 

女神同士が励まし合っている中、手術室のランプが消え、中から執刀を担当した総長が出てくる。真っ先にネプテューヌは総長に向かう。

 

「先生!えい君は、えい君は助かったの!!」

「お、落ち着きたまえ。手術は成功しましたよ。」

 

その言葉を聞いて女神達は安堵する。だが、総長が聞きたいことがあるような表情をしている。

 

「…1つ聞いてもよろしいかな?彼に対して治療魔法とか行ったりしましたか?」

「え?わたしは回復魔法使えないし、薬草も使ってはないよ?」

「永守に、何かあったのかしら?」

「…結論から言うと、彼は人間離れした再生能力を持っています。それともう1つ。彼から不思議な感覚が出ているのを感じました。」

「不思議な感覚…それは一体?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「女神に似ている力…それと、何か触れてはいけない…そんな雰囲気を感じました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

「ここは…、俺は確か…。」

 

目を覚ますと、3回目となる漆黒の空間に仰向けの状態で目覚めた。だが、今までの空間とは何かが違った。足元には白いクレヨンのようなもので描かれた煉瓦のような道標。壁と思われる角の線。そして、その壁には子どもが落書きしたような絵が描いてある。しかし、描いてあるのは枯れた木々、人の目のようなものと不気味な空間となっている。…ふと思い出したかのように、エンデによって貫かれた後と右腕の袖を捲る。体は刺された跡どころか、かすり傷一つすらない状態だ。しかし、右腕は包帯のような布がグルグル巻きになっている。指の方も丁寧に一本ずつ巻いてある丁寧さだ。動かすだけなら特に何も変化はない俺の手であり痛みもない。…俺の体に何が起きているんだ?

 

「考えても仕方ない。進むしかなさそうだ。」

 

兎に角、この不気味な空間に止まっても話にならない。前に進んで情報を得る事が大事だろう。しかし、暫く進んでも全く変わり映えのない空間が広がっている。歩いても、歩いても、まるで永遠に続いているのか、はたまたループ空間にいるのか…。とは言え、足を止める気にはならない。ひたすらこの一本道を俺は只無心に歩いていくだけだ…。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

搬送されてから、2、3時間ぐらいかな?外はもう夕焼けが見えてるくらいに、えい君の手術が終わった。それで、暫くすれば麻酔が切れて目が覚めるだろうと言われて、病室でえい君が目覚めるのを待っているんだけど…。

 

「…全然目覚めないわね…。」

 

ノワールが小声でそんな事を言っている。手術が終わってから既に数時間が経っちゃってる…。もう面談時間が過ぎているからみんなは一旦帰る事にして、ベールに任せることになったよ。時間を見てはえい君の様子を見に(正確には抜け出してるけど気にしない!)行ってる。けど、入院してから3日が過ぎてるけど目が覚める様子がない。なんだろう、このまま目を覚まさないのかなと思うと、胸の奥がズキズキと痛くて苦しくなる。今までこんなことなかったのに…。

 

「えい君、お願い…。目を覚まして…。」

 

わたしはいつの間にかえい君の手を力強く握っていた。

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「何時まで続くんだこの道は…。」

 

あれから、暫く歩き続けている。3時間ぐらいまでは時間を計っていたが、途中から放棄してしまい、何時間歩いているか既に分からない状態だ。なんというか、一人砂漠のど真ん中に放り出されたような気分だ…一本道だけどな。流石にそろそろ休暇…というより休憩所的なところが欲しいと思っている。

そう考えている時だ。目の前から誰かが来ている…?いや、動きが俺と同じだ。鏡でもあるのかと考えつつそこへ近づいていく。そこには等身大ぐらいの鏡があった。

 

「…鏡だったか。それに、ネプテューヌが言っていたのはこれか。」

 

サングラスを外し、右目を隠して左目を見開いて鏡を見る。確かにネプテューヌ達が女神化した時の瞳をしている。鏡を見つつ身なりを確認するが、右腕以外にも、右目側の髪が一ラインだけだが白髪になっている。鏡は触っても、夢の国や魔法学校へ繋がっている訳でもない。どうにかして戻し方を知る必要がある。少し後ろに下がり左右を見ても、一本道だった時の壁しかない。

 

「ここまで来て行き止まりか。面倒だが引き返すか。」

 

そう言いつつ後ろを振り向く。そこにあったであろう道の代わりに壁がある。再び鏡の方を見ると、その鏡に映っているのは俺ではなく、ゼロが映っている。だが、その鏡の向こうにいるゼロは、拳を振りぬき鏡にヒビを入れる。

 

「なっ…!」

 

すると、急に足元にヒビが入り、ガラスが割れるように床が抜ける。しかし、大体ビル2階ぐらいの高さから落下した程度で済んだようだ。しかしながら壁や床を含め黒一色だから、どこが床になっているか分からない為に距離が掴めず、そのまま床にビターンッ!と俯せ状態で叩きつけるように着地する。

 

「…地味にいてぇ…。」

 

そこまで痛くはないが、今の衝撃でサングラスが壊れてしまったらしく、鼻掛け部分から真っ二つに割れてしまった。打ち所が悪かったのか鼻血も少し出ている。ある意味見っとも無い状態だ…。寧ろ、どうしてこんなホラー要素が含まれているのかが謎過ぎる。顔を数回横に振り、鼻血を拭って正面を見ると、そこには屈み込んでいるゼロと、ゼロにお嬢様抱っこっぽくされている見知らぬ女性がいる。だが、二人の様子が何か変だった。ラズリーハートは植物人間状態のように眠っており、ゼロは屈みながら何か呟いている。俺は近づいて声を掛ける事にした。

 

「来たか、永守…。」

「ゼロ…一体何が起きているんだ。俺の体はどうなった。」

 

今までは黒一色の空間だったが、謎の落書きやら、ラリマーハートの様子等、既にこの空間に異変が起きているのが分かる。

 

「安心しろ、お前さんの体は無事だ。先ず、この空間についてが先だ。エンデによって、ペンダントが浸食されてしまった。」

「まさか、ここは俺が受け取ったペンダントの中で、奴はお前達の存在に気づいているということか?」

「だろうな。恐らく、これが、最後の接触になるかもな。」

 

どうやら、状況は最悪の方向に進んでいるようだ。俺にとっては協力者であり、奴に取っては、邪魔な存在を潰しに掛かっていると見た方が良さそうだ。

 

「この空間が歪んでしまったのは分かった。だが、彼女は何があった…。」

「その前の、その目をなんとかしたほうがよさそうだな。元の目をイメージしつつ、力を押さえてみろ。」

 

俺は、言われた通りに自分の前の目を、力を封じ込むイメージをした。すると、先ほどから左目や体にあった違和感が徐々に収まっていく。

 

「流石だな。素質だけで無くセンスも持ち合わせている。…さて、話を戻すとしよう。」

「頼む。」

 

そう言って、ゼロは彼女を床?に寝転ばせ立ち上がる。

 

「お前さんは、エンデと接触してしまった上に悪魔の契約(ディアボロス・アグレメント)を右腕に受けてしまったようだ。詳しくは分からないが、生物を悪魔へと変身させて、配下にする禁断の黒魔術のようだ。本来であれば、死人にのみ有効なのだが、どういう訳か奴は生きている生物にも可能にしているようだ。」

「それで、悪魔の契約(ディアボロス・アグレメント)と、俺の右腕がこうなってしまったのと関係はあるのか?」

「本来であれば、浸食が進めば化け物のようになっていただろうが、ペンダント…いや、彼女の御陰でお前さんは進行を防ぐだけでなく浸食も完全に防げるはずだった。どういう訳か奴の浸食力は想定外に強かった。」

 

胸元から、ドックタグだったペンダントを取り出す。どうやら、とんでもないお守りだったようだ。だが、話を聞く限り本来成すべき効果を発揮し切れていないようだ。

 

「おまけに、お前さんは奴の攻撃により重症になった…寧ろあれだけ受けておいて生きている方が驚きだ。」

「好きで頑丈になった訳じゃないが…。」

「だが、傷が想像より酷く出血死は免れない状態だった。そこで、俺とセグゥによってお前さんを助けたわけだ。悲報込みだが。」

「…この左目のことか。それと、セグゥとは?」

「彼女の本当の名前だ…。あのまま放置していれば死んでいた。そこで彼女は、お前さんの体内に“女神の力”を、俺は“ゾディアーク:影”を分け与えた。それによって傷を回復する事ができ、尚且つ悪魔の契約(ディアボロス・アグレメント)を相殺する事ができた。だが、お前さんは中途半端とはいえ同時に女神の力と闇の力を引き継いでしまった。それは即ち、半不老と闇の呪いだ。こればかりは謝っても許されないことだが…。」

「そうか…。」

 

俺は半分程だが人間を卒業したらしい。“俺は人間を止めるぞ!”と自ら望んだ形ではないがな…。

 

「…悲観はしないのだな。」

「好きで貰った訳ではないが、俺が生きるにはそうするしか無かっただろう。彼女の助けが無かったら、俺は奴の仲間入りになっていたはずだ。毒を持って毒を制す。それも悪くはない。それに、奴とは個人的にも決着を付けなければならない。」

 

奴に悪魔の契約の最中に、ついでと言わんばかりに、映像を流し込まれた。エンデらが復活した原因は、最高政府賢者が奴らの力を我が物にしようと復活させ、吸収に失敗したからだ。…それで地球が崩壊し、その真実を知らせて悲観させようとしたのだろう。確かに最高政府賢者というふざけた奴らのせいでこんな事になっている。だが、その撒いた種を誰かが回収しなければ、再び同じ事を繰り返してしまう。

 

「それで、具体的に俺は何の能力を受け継いだんだ?」

「済まないが、女神の力の方は模索してくれ。お前さんには闇側の変身が出来る。右腕にペンダントを翳してみろ。後ろに鏡を用意してある。変身し終わったら確認してみろ。」

 

俺は言われた通りに、ペンダントを右腕に翳す。すると、正義の味方が“変身!”や“蒸着!”と言った後のように、俺の周囲に黒い光が集まる。そして、黒い光が弾ける事で変身が完了したと判断し、後ろを振り向き、鏡をみる。黒いロングコート、ケープのような黒フードに、黒いマスク、コートの内は黒色スニーキングスーツのようなコンバットスーツ。まるでペスト医師やU.S.S.のベクターのようだ。それで、扱えることもまるで最初から知っていたかのように流れ込んでくる。トラベルハットは背中に吊るされている。

 

「これがゾディアークで変身後の俺か…。」

「見事だ。恐らくエンデに対抗するなら、ゾディアークは重要になる。だが、中途半端な為に、変身できる時間は持って10分だろう。恐らく、お前さんの持っている超能力も併用できるはずだから、上手くやりくりしてくれ。」

 

変身後も本来のスタイルで戦闘が出来るのは嬉しい所だ。さながらDMCのダンテやネロといった処だ。思わず彼らのように振舞えるなら、俺としても好都合だ。

 

「これで、4女神と束になって多々帰ればいいが…奴も馬鹿じゃない。何か対策をしているはずだ。それで、もう一つ聞きたい。深紅の石とはなんだ?それと、前に言っていた漆黒の石の事もだ。」

 

なんだかんだ、イメージ通りにするとゾディアーク状態が解除された。それで、以前にも話は次だと言っていた深紅の石と漆黒の石の事を聞かなければならない。対策を知っているのであれば尚更だ。

 

「…お前さんは、賢者の石を知っているか?」

「賢者の石…?小説とかでも目にしたことはある。錬金術士が目指す究極の目標だとか…。その小説では、不老不死の源と書いてあったな。」

「そんな感じで間違いはないな。」

「だが、その賢者の石と何の関係がある。」

「ところがどっこい。二つの石は実験課程で生まれた代物だ。禁断の為に賢者の石共々、存在は愚か、製法も全て抹消したはずだが…奴は持っていた。」

「それで、二つの石はどんな力を持っている。」

「深紅の石は見たな。あれは、所持者の力を増大させる効果がある。恐らくエンデは催眠効果を強めて、あの転生者に持たせて操ったのだろう。」

「…転生者は一人ではなかったのか。」

 

まさか転生者が複数人いるとは思っていなかった。それを説明するかのようにゼロは話す。

 

「俺も一人かと思っていたがな。彼女の経緯を調べたら、不自然なところがあったんでね。あくまでそう見ているだけだから詳しくは本人から聞かなきゃ分からん。」

「だが、一つ気になる事がある。深紅の石を持った時、何かが流れる感覚はしたが特に問題はなかった。だが、連れの二人は近づけるなという感じだった。」

「一説だが、賢者の石を含め深紅の石、漆黒の石は持ち主を選ぶという。お前さんとも相性がいいと判断されたんだろう。特に、お前さんは昔暗殺術を学んでいた関係も相まっている可能性すらある。」

「女神の力を持ちつつ闇の力に関与できるとは、皮肉な話だな…。それで、漆黒の石はどんな効果だ。」

「一説では闇の力を増幅すると言われている。恐らく、奴が強い要因はそこだろう。特に、夜になると力が更に増幅すると聞いたことがある。」

「だが、奴は昼に襲い掛かってきたぞ。」

「それも恐らくだが、昼にはどれ位の力が出るか試したかったのだろう。まぁ、これも本人に聞かなきゃ分からずじまいだがな。」

「…二つの石を奴から引き離すか破壊すれば…。」

「多分、奴は弱体化するだろう。危険も伴うだろう。」

 

しかし、その方法以外に勝機があるかと言われると現時点では考えにくい。圧倒的な力があればいいが、今持てる力と戦力で打開するしかない。

 

「何か考え事をしているようだが…、何を言っても奴と戦うんだな?」

「ああ。地球で共に戦い、亡くなった仲間の為にもやらなければ。」

「そうか…お前さんのような奴と、最後に出会えてよかった。」

 

ゼロが急に倒れ込んでしまった。まさか、セグゥと同じ状態になるといのか?

 

「おい、しっかりしろ…!」

「…力を渡して、眠くなってしまった…ようだ…。俺は暫く、彼女とゆっくりする…。」

「色々世話になった。…済まない。」

「謝るな…ここまでしたんた…。男なら…行動で、示せ…だろ?俺の愛する人が…悲しんじまう…。」

「分かった。」

 

そうすると、ゼロは眠るかのように目を閉じる。俺は、ラズリーハートをゼロの近くに運び、手を握らせる。握らせた時、二人が微笑んでいるように見えた。そうして、立ち上がり横を見ると光が漏れているのが見える。

 

「出口か?…二人から貰ったこの力、無駄にはしない。」

 

そう言いつつ眠る二人に近い、光の方へ歩み始めた。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

目を開けると、見覚えのない天井が見える。首だけで周りを見渡すが、薄暗くなっておりよく見えないが、病院関係の施設にいるという事と、夜か深夜だというのは分かる。正半紙を起こし時計を見ると0時なのが分かる。外傷は縫われたかどうかわからないが、包帯が巻かれているようだ。不思議な事にペンダントは身につけたままで、右手は…異空間で見た時と同じ、指先までビッシリと包帯で巻かれた手になっている。ふと横を見ると、椅子に座りながら上半身を此方のベッドに乗せて寝ているネプテューヌと、椅子に寄っかかって寝ているネプギアがいた。

 

「ふにゅ…えい君…そんなにプリン食べられないよぉ…。」

「(どんな夢見てるんだよ。それに、二人揃って寝ちまっている…。看病していたのだろうか。)おい、ネプテューヌ。」

 

俺は数回ネプテューヌの頭をぽんぽんっと叩いてみる。すると、目を擦りながら起きる。

 

「んあぁ~何するのさ、もう少しでプリンの海にダイブし…。」

「悪かったな、夢の中の取り込み中に起こしちまって。」

 

するとどうだ、まるで幽霊でも見たように目を丸くして此方を見ているではないか。

 

「…えい君?ほ、本物だよね?」

「何だよ、俺が影武者に見えるというのか。」

「………。え゙い゙ぐぅううううううんんんん!!!!」

「うぉ!夜中に五月蠅ぇぞ。」

 

大声で泣きながら抱きついてくるネプテューヌに思わず驚いてしまう。その大声に釣られてネプギアも起き、ネプテューヌと同じような反応をするのはまた別の話。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

「そうか、一週間も…。」

 

翌日の朝、俺がどうしてここに居るのか等を女神から聞き出した。どうやら、俺は一週間ここで意識を失っていたそうだ。異空間にいた時は、1日経っているとは思えない程だったが、異空間では時の流れが遅いのか?いや、そもそもあそこは精神世界ではないのか。…考えても仕方ない。で、二人が看病していた理由を聞くと、一応は心配していたのだが、プラネテューヌの仕事が終わるまで外出禁止令的なのをイストワールに告げられ(ネプテューヌは途中で抜け出したりしていたらしい)、死に物狂いで終わらせて一日外出券的な感じで、リーンボックス総合病院に駆けつけて面会時間無視の看病をしていたらしい。

 

「しかし、驚いたよ。君は人間離れした再生能力を持っているようだ。一体何をしたらそうなるというのだ?」

「さぁな、毎日山盛りのフレークと、肉体トレーニングのお陰かな?」

 

俺は冗談交じりで担当主事に言う。因みに、精密検査の結果異常は無かった為、退院してもいいと報告を受け、俺はプラネテューヌに帰ることにした。ただ、帰ったら帰ったで、何故か退院祝いパーティーをする事になったのはまた別の話…。

 

 

 

 

 

 

 

 




【用語集】

○異界化した異空間
 TEAM PSYKSKALLARが出しているガチ恐ホラゲーのある場面を言葉的に表現してみた。因みに、私は2作目の方をコンプはしてないがそこまでやった経験あり。

○変身・蒸着
 ここでは、仮面ライダーや宇宙刑事がコンバットスーツを身につける際の掛け声という意味。

○ペスト医師
 色々とあるが、ここではSCP-049のペスト医師の事を指す。

○U.S.S.のベクター
 バイオハザード:オペレーションラクーンシティに登場する、隠密行動と暗殺を得意とするアンブレラ社の特殊部隊の一人。因みに、私はオペレーションラクーンシティは未プレイ。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

次回からは、アニメ路線に戻る予定です。
あと、キャラクター紹介に2名追加しましたので、興味があればどうぞ。


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The 2nd Encounter~女神奪還、想いは届く編~
Scene20  リーンボックス再び~パーっと弾けちゃおう!…準備しよ~


Steam版超次元大戦 ネプテューヌVSセガ・ハード・ガールズ 夢の合体スペシャル発売おめでとうございます。
現在バグと戦いつつクリアに向けて頑張っております。




 

 

 

「これで良かったのですか?」

「ああ…、感謝している。」

 

プラネテューヌ教会の近くにある墓地。そこに、プラネテューヌの教祖と、一人の男が真新しい一つの墓場が設けられている場所にいる。その墓石には“平和の為に戦い散った戦士・その思いを願った1億の民、ここに眠る。”と彫られている。男が、その墓場にアヤメとフリージアの花束を設け、意を込めたような表情で敬礼する。

 

「永守さん…本当に、ネプテューヌさん達には、貴方の本当の事を言わないでいいのでしょうか?」

「時が来たら話す。今は余計な迷いを持って欲しくない。」

「ですが、真実を知った時、皆さんがどういう反応をするか…。それに、女神程とは言えませんが、半不老となってしまった以上、様々な悲しみや失うものを見る事となります。私は、貴方にそういう事を背負って欲しくはありません。」

 

教祖イストワールの目の前にいる男“獨斗永守”。数ヵ月前、このゲイムギョウ界に舞い降りた超能力が使える戦士だった。だが、とある事を切っ掛けに、彼の意志とは無関係に、人間であることを捨てる事となってしまった。それも、女神の力だけでなく、悪魔に近い能力も引き継いだ。人でもない、女神でもない、況してや悪魔とも言えない異端とも言える存在となってしまった。その証拠として、右腕は包帯を外し黒いロンググローブを身に付けているが、その内は悪魔の右腕とも言えるものとなってしまったのだ。

 

「悲しみや涙など既に枯れている。それに、俺はまだ生きている。…人間としての俺は死んだ。だが、俺は自分の意志を持ち、この世界を歩んでいる。S.T.O.P.の獨斗永守ではなく、ゲイムギョウ界の獨斗永守として…。」

「それでも、貴方は一人で背負いすぎています。何時か壊れてしまうのではと…。」

「いや、それは違う。俺は、同じ意志(センス)を持つ人々の想いを背負う事で、俺はもっと強くなる。心配してくれて、有難うな…。」

「永守さん…。」

「おーい、えいくーん!そろそろ時間だよーーー!」

「…もう時間か。では、行ってくる。」

「はい、御気を付けて。ネプテューヌさん達の事も宜しく願いします。永守さん、くれぐれも、無理はしないように…。」

 

そして、その男…獨斗永守はプラネテューヌの女神の元へ歩み始めた。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

墓地から離れ、ネプテューヌ達と同行する形でリーンボックスに向かい、現地にてラステイションとlルウィーの女神と候補生達含め合流する。妙にスケジュールが詰まっているかの如く慌ただしい(実際俺だけが慌ただしく準備したのだが)のは、リーンボックスでライブとパーティーを行う当日だからだ。休暇命令は出ていたものの、ネプテューヌが何度も「えい君も行くの!」と駄々を()ねた為だ。別に体に鞭打って行く必要は無かったし、何とか説得してイストワールに納得して貰い、ジュラルミンケースと差し入れを持ちリーンボックスのイベントを行う野外ドームへ行くのだった。現在、ここには、俺を含め、ネプテューヌ、ネプギア、アイエフ、コンパ、ノワール、ユニ、ブラン、ロム、ラムがいる。肝心の呼び出したベールは何故か不在だ。

 

「それだけ文章言えるなら十分元気じゃない?」

「…地の文を読むなよ。」

 

ネプテューヌの地の文を読むのは置いといて。野外ドームは、ミュージシャンがライブを行うような設備となっている。そして、ライブ開始時間が訪れ、音楽と共に舞台上から一人の女性が浮遊する円盤に乗って現れる。

 

 

「~~~~~~~♪」

 

 

『うわぁ…!』

「流石、リーンボックスを代表する歌姫、5pb.ちゃんね。」

「ですぅ!!」

 

ライブ会場は5pb.により大盛り上がりしている。以前悩んでたりした時の面影は無く、本当に歌が好きなんだという印象を受ける。恐らく、あれが本当の5pb.なのだろうと納得する。周りの盛り上がりに釣られているのか、顔と指足でリズムを刻みつつ歌詞を口パクしている自分がいる。リズムを刻んでいるのに気づいたノワールが何か言ってくる。

 

「へぇ、貴方も音楽好きだったりするのね?」

「ん…まぁな。」

「確かにそうね。わたしも、永守がピアノ弾けるのには驚いたけど、5pb.ちゃんの曲を弾いたり、一緒にデュエットしたり…あれは中々見れないものね。」

『へぇ~…って、な、なんだってー!!ΩΩΩ』

 

とまぁ、ピアノ弾ける事もそうだが、デュエットした事にも驚いたようだ。別にそこはいう必要無かったんじゃないか?アイエフよ…。それにしても、2台のジェット噴出搭載戦闘機により、青い空に色の付いた煙によるアートを見事な連携で描くというパフォーマンスをしている。

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

ライブ会場近くの海辺付近…透明度があり美しく様々な魚類が泳いでいる中、2足歩行の特殊潜水服を身に纏った一匹の鼠がいる。

 

「全く…ライブか何か分からないけど五月蠅いッチュねぇ。こっちの身にもなって欲しいッチュ。それに、海と鼠を掛けたら海鼠ッチュよ。全く、笑えないッチュ…。」

 

一人虚しく冗談を交え、右腕に付けている何処かで見た事あるようなレーダーを頼りに、鼠は海底を全速前進しつつ辺りを見回している。どうやら、何かを探しているようだ。そして、そのレーダーに反応する付近に到達。そこには、不気味な赤色に光る一つの石があった。

 

「チュ、見つけたッチュ!」

 

鼠は、それを拾い上げるとその場からすたこらさっさするように、港の方へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

「全く、ライブ招待を送った肝心のベール自身が来ないなんて…どういう事なの?」

「何か事情があるのよ…。」

「だといいが…。」

 

午前のライブが終了し、握手会が始まった中、前回のパイプを利用し俺は差し入れを持っていくついでに裏方へ入る。ベールがいるのではないかと思い行ってみたが、代理プロデューサーと、警備に当たっているケイブしかしかおらず、昨夜の夜から教会内にいるのは確かだが会ってはないらしい。それで、今こうして午後のライブはあるのだが、ライブへ呼んでおいたベールを探すために教会へ来た事になる。因みに、休憩中の5pb.と会い、そこで今度デュエットライブをしようよ!ってお誘いがあった。現状日程が分からない為保留ということにするが、何時かやってみようという約束はしておいた。

 

それにしても前々から思ったが、大きさだけでなく扉の数も多いこと…一体何処にいるのか分からないくらいだ。一行の少し後ろに、ネプテューヌ、ロム、ラムが、それぞれ1つずつ扉が開かないか確認している。その殆どの扉は鍵か掛かっている為に開かない扉ばかりである。もしこれが某静丘ゲー風にマップを表現するなら、殆どの扉がぐしゃぐしゃ線になっているだろう。

 

「あ、ここ開いてる!!」

 

後方の方で、ネプテューヌが開いている扉を見つけたようだ。分担して探すってのもありだが、どうやらその部屋は様子が変だという事で全員集合となった。

 

「おぉ…。」

「うわぁ…。」

「何が…あったです?」

「まるで荒らされた後ね…。」

「というより、片付けてないだけじゃ…?」

「…寧ろ、俺は散らかっている品が気になるな。」

 

電気が付いてない部屋の床一面には、様々なジャンルのゲームソフト、攻略本、フィギュアといった物が散乱している。また、壁にはゲームグッズと思われるポスターが額縁に入れられて保管されている。服を脱がせて相手を倒すゲーム、(三)こんな顔をした一般人が戦う絶命異次元(DeadSpace)といった品から、顎が妙に尖っているBL物と、兎に角取り上げたら切りがない程多種多彩に散らばっている。

 

「おお!これは18歳以上にならないとできないゲーム!!」

「ちょ…やめなさいよ。ちっちゃい子もいるんだから…。」

「(俺から見たら、ネプテューヌも子どもだがな…。)」

 

そう心の中で思いつつ、周りの物を踏まないように進んでいく。そんな時、ネプギアが何かに気づいたのか、奥の方の扉に手を掛け開ける。

 

「わたしくが援護しますわ。貴方方は先に行ってくださいまし。あぁ!もう、早い、早すぎますわよ!!」

 

ネプギアが開けた扉の先から聞き覚えのある…というか、ベールの声が漏れている。全員がその扉の方に向かう。そこには、6つのPC画面とにらめっこしつつ、何処かで見たことあるようなゲームコントローラーを握りしめ、ボイチャをしているのか、マイク付きヘッドホンを装着している。

 

「ああ、居たぁ。」

「な、何やってるのよベールは…。」

「どう見てもネトゲね…。」

「凄い集中力だ…こっちに気づいてないな。」

 

何やら集中力が高まっているのもそうだが、そもそもヘッドホンを付けている時点で回りの音が聞こえにくくなっているのだろう。こっちの気配にも気づいてないようだ。ネプテューヌが近づいても全く見向きもしない。

 

「四女神オンライン?」

 

ユニが近くにあったパッケージを持ち、描いてあったタイトルを読み上げる。話は聞いたことあるが、ゲイムギョウ界で1、2を争う人気のオンラインゲームらしい。恐らく今はそれをやっているのだろう。しかし、どうも不釣り合いだ。これが仕事をしているのであれば立派なのだが、廃人の如くPCに向かってゲームをするベールの姿が妙に不釣り合いに見える。なんだろうなこの違和感…、ああそうか…。

 

「…衣装か。」

「何一人で納得したように呟いてるのよ。」

「おーい、そこの廃人さーん。」

 

全く気付かないベールに痺れを切らした訳でもないが、ネプテューヌがベールに向かってトゥントゥンする。

 

「………へ?あ、あら?み、皆さんいらっしゃいませ。今、手が離せなくて…。」

 

ネプテューヌのトゥントゥンにより、ようやくこっちの存在に気付いたようだ。常時ボイチャをしているのか、マイクを手で覆い隠し此方に話しかけてくる。

 

「なんで呼んでおいた本人がゲームなんかしてるのよ!!」

「えっと…出掛ける前に、1時間だけログインしてやめようと思ったら、攻城戦が始まって…。」

「攻城戦に参加して、つい忘れていたと。」

「ええ、それで抜けられなくなったのですわ。」

「凄い弁解ね…。」

「ライブの後は、ホームパーティーで持て成してくれるんじゃなかったかしら?」

 

ブランのその言葉を聞いたベールは何故かキョトンとしている。

 

「………あ。もう少しで、攻防戦に勝てますので、その後で………。」

 

少しの間の後に、主催者とは思えない返答が返ってきた。恐らく現状では準備の“じ”すらしてないのだろう。

 

「…こういう人だったのね。」

「ま、まぁ、趣味は色々だから。」

「ダメダメだねぇ。若しかしたら、わたしよりダメかもぉ?」

『それはない。』

「ねぷぅ!こんな時だけ気が合ってる!!それに、『』←これじゃ分かりにくいけどえい君もさり気無く言わないでよ!!」

「…どうします?この状況だと、もう暫くかかりそうですけど。」

「そうね…。」

 

そう言ってノワールが何か考えだしたかと思ったら、直ぐに行動に動いていた。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「…で、どうしてこうなったのやら。」

「ま、まぁ…早く済ませてお姉ちゃん達の手伝いをしましょう。」

「そうだな。」

 

あの後、急にやる気を出したノワールさんが、何処から出したか分からないメイド服を着て、ホームパーティーの準備をする事になりました。参加者が準備しなきゃいけないってのは、変な気もするけど決まった以上仕方ないですよね。…お姉ちゃんは面倒臭がっていたけど、ノワールさんはリーンボックスまで呼ばれたのに何もしないまま帰ることが不服らしく、どうしてもホームパーティーをしてから帰りたいとのことです。それで、わたし、アイエフさん、コンパさん、永守さんが食料の買い出し。残りは掃除整理担当になりました。永守さんは私と一緒に買い出しへ行くことになりました。何でも、週に1回は訪れている上に一週間体験が終わって直ぐという事も含め、私よりもリーンボックスの地理に詳しいだろうって事で選ばれたみたい。という訳で、今は永守さんと食料の買い出しへ行ってます。

 

「で、永守さん。少し値が張るのを買いすぎでは…?」

「折角、皆で集まって騒ぐんだ。だったら、少しぐらい上手い物食った方がいいだろ?…ああ、心配するな。予算オーバー分は俺が出す。」

 

と、私が予算の事を話そうと思ったら、超えた分は払う等何かと心配事を解消…というよりは請け負ってる感じです。

 

 

 

 

 

そんなこともあり、一通り買い出しが終わり教会へ帰る途中です。私は果物の入った袋を一つ。それ以外は永守さんが持っています。そんな帰ってる時、私は前々から気になる事があったので聞いてみることにした。

 

「あの、永守さん。一つ聞いてもいいですか?」

「…何だ。」

「体験出張後も、どうして他の国じゃなくてプラネテューヌを選んだのかって…。」

「プラネテューヌじゃない方が良かったか?」

「あ、いえ、そんな心算じゃ…。」

「冗談だ。まぁ、居心地がいいってのもあるがな。」

 

冗談でも心臓に悪いよもう。私も質問の仕方に問題があったのかもしれないけど…。少し間があった後、永守さんが口を開きました。

 

「そうだな…約束の件はなしとしてだ。右も左も分からない俺を受け入れたこともあるが、俺はネプテューヌが、プラネテューヌがどういう風に動くか見届けたいと思った。」

「どういう事…?」

「…確かにどの国も、明確な目標や目的がある。だが、ネプテューヌの考えだけが未だに見えてこない。だからこそ可能性もある。俺は、生きている限りは見届けてみたい。…グータラだけど。」

「確かに、お姉ちゃんは凄いと思いますよ。グータラだけど一定の支持はありますし、いーすんさんに怒られてもめげないですし…。」

「後半はどうかと思うが。」

 

何となくですが、私の思っていた事は解消された…かな?永守さんはまだ暫くは、プラネテューヌに居てくれるみたいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは、コンパさん?」

「…誰かに話しかけているのか?」

 

暫くネプギアと教会への帰路を歩いている途中の大通りで、座り込んでいるコンパがいた。気分が悪くて座り込んでいるのではなく、その先の何か話しかけている感じだ。ただ、話してる相手が小さいのか、コンパが死角となって此方からでは話し相手が見えない。

 

そんな時、ネプギアが足元に何か気になるものがあったらしく、座り込みそれを拾い上げる。それは、十字の形をしており、色は以前に見た深紅の石並に赤黒いのだが、まるで悪魔が持っていそうな不気味な黒い淀みがある。何やら、深紅の石とは違い嫌な感じを覚える。

 

「っ!?」

「ネプギア、どうした…!?」

 

座り込んで、その石を持って直ぐの出来事だった。まるで、左手を手に付いてないと上半身を支えられないような、貧血のような状態になっているネプギアがいた。

 

「…!!勝手に触るなっチュ!!」

 

コンパの死角から現れた、二足歩行の鼠のような奴がネプギアの元まで走り出し、右手に持っていた石を奪い取り走り去っていく。異変に気付いたコンパもネプギアの元に駆け寄ってくる。

 

「ギアちゃん、大丈夫です?」

「わ、分かりません…、突然、力が抜けるような感覚に…。」

「まるで、貧血のような症状だが…。」

「貧血ですか?…でも、女神さんが貧血になるなんて、聞いたことないです。」

「三人ともどうしたの?」

「あ、アイちゃん。それが…。」

 

丁度後ろから来ていた、アイエフに事情を話す。すると、アイエフが何か気になった事があるらしく話しかけてくる。ネプギアに関しては、少し休めば大丈夫という判断になるが、一人では立てない状態らしい。

 

「…アイエフ、少し俺の荷物持ってくれるか?」

「いいけど、どうする気?」

「ネプギア、恥ずかしいかもしれないが少し我慢してくれ。」

「え…、きゃあ!!」

 

急にされたら誰でも驚くだろう、ただの“おんぶ”だ。おんぶ用の紐は生憎持っておらず、直接ネプギアの太腿を持つ事になってしまう。

 

「あああああああ、あの!ひ、一人で歩けますから…!!」

「立てないのに何言ってる。恥ずかしいのは分かるが、今のうちに休んでおけ。」

「永守さん、大胆ですぅ。」

「アンタじゃなかったら通報してたわ。でも確かに、永守の方が適任かしら。」

「冗談にしては物騒だなアイエフ。…という訳だ。それに、教会まではまだ歩かなければならない。目を瞑って俺の心臓の音でも数えてろ。気づいたら教会に着いてる。」

「…わ、わかりました。」

 

恥ずかしがるように言ってるが、分かってもらえたらしく、俺の背中に耳を傾けているのが背中越しに分かる。暫く歩いていると、落ち着いたのか、小さな寝息が聞こえる。…ちなみに、アイエフが持っていた手提げ袋を俺が持っており、俺が持っていたのをアイエフが持っている形になる。

 

「ねぇ、さっき通りかかった鼠の事だけど、何か知ってる?」

「あの二足歩行の鼠か?生憎、今の俺には分からないな。」

「わたしもさっき話したばかりで、わからないです。」

「そう…何処かで見た事があるのよ。」

「諜報部に連絡したらどうだ。」

「…そうね、確認してみるわ。」

 

悪そうなネズミさんには見えないです、とコンパは言うが、白か黒かをはっきりしておきたいアイエフの意見に俺は賛成する。…この時はまだ、あの石が原因だとは気づきもしなかった上に、あんな出来事が起きるとは思っていなかった…。

 

 

 

 

 

 

 




【用語集】

○(三)こんな顔をした一般人が戦う絶命異次元
 EAが世に出しためちゃ恐と言われていた、TPSサバイバルホラー”DeadSpace”。絶命異次元はアジア版のタイトルである。

○顎が妙に尖っているBL物
 顎が凶器となるPVがあったことで驚きを隠せなかった”学園ハンサム”の事。まさかアニメも出るとは思っていなかった…。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!



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Scene21  積もる不安~Goddess of Restrictions~

ネプVSセガ、一週目をクリアしました。二週目は気ままにやっていく予定。


 

 

 

 

教会に着いた頃には、ネプギアは完全回復という訳ではないが、一人で不通に歩ける程にまで回復した。それから買い出し組は準備側に加わり、会場設備や料理の準備をする。準備中、何故かネプテューヌ、ノワール、ブランの視線が妙に突き刺さる感じがした。恐らく、原因はネプギアを背負ってきてそのまま現れてしまったからだろう。ただ、変質者を見る目ではなく、表現しがたい視線だったな。何となく好意を持っているのは分かるし、フラグ的なのを立てているのは自覚しているが、視線が痛く落ち着けない為かいつの間にかガムを噛んでいた。そんなこともあり気づけば、外は夕方になっていた。

 

 

 

 

 

「皆さん、お待たせしましたわね、我が家のホームパーティーへようこそ、ですわ!」

 

テーブルには数種類の飲み物や料理がバイキング形式のように並べられ、人数分の皿とグラスが用意されている。何とか間に合ったが、肝心のベールは結局ネトゲに夢中になり準備に参加しておらず、“ようこそ”という発言に全員が呆れ顔だったり苦笑していたり、ブランとノワールが毒舌を言ったりと、歓迎ムードという感じではなかった。まぁただ、こうやってパーティー会場を用意してくれただけでも感謝すべきではないか?余談だが、ジンと情報交換をしたい為、パーティーに呼んでもいいかとベールに相談し、許可が下りたので連絡し、今日の夜ぐらいには教会に着くらしい。

 

「そういえば、買い出し中に立ち眩みしたんだって?」

「うん。でも大丈夫、もう平気だよ。」

 

隣にいたネプテューヌが、ネプギアの事を心配したのか気遣いをしていた。このこともジンとは相談しておいた方がいいだろう。話が進まないのか、ベールが咳払いをして注目を集める。

 

「さぁ、皆さん。遠慮なく食べて、飲んで、騒ぎましょう!今日の為に、とびっきりのゲームも用意しましたわ!!」

 

その言葉を聞いたネプテューヌが、興味津々に且つ今すぐやりたいのかソワソワしている。それを察したのか、説明するより体験した方が早いという事で、ネプテューヌとノワールを少し下がらせベールが映写機のようなものを設置する。

 

「それでは、華麗に戦って下さいまし!」

 

…戦う?バトル物なのだろうか。ベールが、ゲームコントローラーの起動ボタンを押すと映写機から光が漏れだし、“なんということでしょう”と言わざるを得ない光景が広がっている。なんと、パーティー会場が一瞬にして“森”へと変わった。

 

「あ!ねぷねぷが…。」

 

俺含め、全員が驚愕している中、コンパがネプテューヌとノワールがいた方に指を刺す。

 

「ねぷぅ!す、スライヌになってる!!」

「こ、これ、私なの!?」

 

二人が言っている通り、一目でネプテューヌとノワールだと分かる“スライヌ”に変身しているのだった。

 

「二人の動きを、特殊なカメラで読み取って、立体投影しているのですわ。」

 

シェイプシフターやメタモルフォーゼみたいな事を機械で実現しているのか。俺はその場で、天井があったであろう所に向けて高くコイントスする。すると、天井があったであろう地点を通過し、俺の手元にコインが舞い降りてくる。

 

「一体どういう技術なんだ…。」

「ふふ、中々の技術でしょう?」

 

中々どころではないだろう。バーチャルリアリティ(VR)の遥か先を行っている感じだ。只、凄いの一言しか言いようがない。

 

「んじゃあ、この姿でノワールと戦えばいいんだね!やい、ノワスライヌ、ねっぷねぷにしてやんよ!!」

「え!?な、なによノワスライヌって!!」

「ていやぁ!」

「のわぁっ!!」

 

スライヌの状態でネプテューヌがノワールに体当たりを仕掛けヒットすると、50Pという文字が浮かび上がったのが見える。なるほど、ポイント先取系なのか。

 

「私を怒らせたわね…、覚悟しなさい、ネプライヌ!!」

 

ネプテューヌの攻撃に切れたのか、ノワールもお返しにと体当たりをするが、華麗に避けられて逆さになってしまう。

 

「やーい逆さノワイヌぅ!そんな体当たりじゃ、わたしに当てようなんて10年早いよぉ!!」

 

そういって、二人の体当たり合戦が始まる。考えてみれば、スライヌって体当たりと溶けるぐらいしかできないよな…。攻撃方法も元のモンスターと同じ事しかできなくなるのか。

 

「因みに、もっと実践寄りのシュミレーションモードも用意してありますから、戦闘の訓練にも使えますのよ?」

「VRトレーニングも出来るのか。とんでもない技術だな。」

「もっと褒めてもいいのですのよ?」

 

なんというか、全員が料理よりもVRの方に興味津々になっている様子だ。まぁこんな凄い物を見せられたら仕方ない事だろう。かという俺もマニュアルがあるのでそれに目を通していたりする。

 

 

 

 

 

暫くマニュアルに目を通していると、面白い事に実践モードにはキャラクタークリエイトなんてものがあり、自分で作ったキャラやモンスターと戦う事が出来る斬新なシステムが盛り込まれていた。既存のモンスターに新しい能力を付与したり、パーツを取り換える事が出来るのは勿論、新たにパーツを組み合わせてモンスターや人物を創り、戦ったり戦わせることも出来るようだ。それもキャラクタークリエイトは妙にパーツが細かすぎて、これだけで時間泥棒になりそうなクオリティと感じた。需要があるかどうかはあれだが…。

 

「…ん?」

 

ふと、キャラクタークリエイトのデータを見てみると気になるキャラデータが紛れ込んでいた。ネプテューヌにネプギア、それに他の女神や候補生…これまた、精密な程作り込まれている。そして何故か、俺“獨斗永守”まで紛れ込んでいる。おまけに再現率も高いと来た。

 

「皆さんには内緒でお願いしますわ。」

「………。」

 

何時の間にか隣に来ていたベールが、俺に向かってそう囁く。あえてここは、こんなデータまで作られているのは聞かないでおこう。そんなアイコンタクトをベールとやっていた。…そういえば、忘れていた事が一つあったな。

 

「ベール、リーンボックスで保護する事になったあの少女はどうしている。」

「ああ、スミレちゃんの事ですわね?彼女なら、職員の一人として保護しておりますわ。わたくし達と同じ力も使えるから、リーンボックスの女神候補生として考えてたりもしますのよ。ただ、責任を感じているのか、パーティーには出たくないとずっと拒んでましたの。」

「そうか…。」

 

どことなく、ベールが上機嫌に、スミレという名の彼女の事を話す。とりあえず、保護される場所があるだけでも安心だな。時間がある時に会っておいた方がいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーンボックスの一目が全くない港に一隻のエンジン付小型ボート、魔女のような格好をした女性と血色の悪いボロボロの衣類を纏った少年が立っており、その目先にある島を眺めている。その2人に向かって二足歩行の鼠が走って来ている。

 

「遅い!!計画を台無しにするつもりか!!」

「チュウ…これでも精一杯急いだっチュよぉ…。無理なスケジュールを組むオバハンがいけないっチュよ。」

「雇い主に向かってオバハン言うのはやめろと何度いったら…。」

「まぁまぁ、時間はまだあるんだし、少しは落ち着きなよおばちゃん。」

「貴様も、おばちゃん言うなクソガキ!…お前が“アレ”を探すと交渉してきたから多めに見てやっているが、無断で持っていくのは大概にしろ!」

「でも、僕が実験してきた通り、“コレ”が女神に有効だってのは分かって貰えたでしょ?」

「………。まぁいい、こんなところで腹を立てつつ説教しても仕方ない。ネズミ、例の物を早く寄越せ。」

「分かってるっチュよ。」

 

そういって、鼠が鞄から十字の禍々しい結晶を女性に渡す。そして、不敵な微笑みをしつつ、何かを確信したかのような雰囲気を漂わせている。

 

「くっくっく…、これで四つ揃った。今夜、ゲームの…いや、世界のルールが、塗り替えられる…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………。」

「あ、あの…お、お疲れ様ですぅ。」

「アンタ、あんな変なので行くからそうなるのよ…ププッ、思い出したらまた…。」

「御もっとも、何も言い返せないな…。」

 

椅子に(もた)れている俺を心配するコンパと、自業自得と先程の変身した格好にまた笑いかけているアイエフがいる。我ながら自分でもあんなネタモンスターを作ってなったのは間違いだったと思う。素体を”エンシェントドラゴン”、足の爪を”フェンリスヴォルフ”、翼を”はちべえ”のアレ、顔を”スライヌ”にした『スラべえドラゴン』なんて訳の分からんのに変身して参戦した。因みに、そのスラべえドラゴンのサイズは、本来のエンシェントドラゴンの大きさではなく、俺と同じ位の180cmにした。誤算だったのは、ドラゴンがあんな動きにくいとは思っていなかった上に、スライヌ顔だからブレスは吐けない、引っ掻きも動かしにくい上にドラゴンの手だから射程が短い。そこに全員の総攻撃を受けてあっけなくダウン。スラべえドラゴンに変身した時は、皆笑っておりネプテューヌに至っては大爆笑。倒された後は“まるでカカシですなぁwww”と大草原を生やされる始末。まぁ楽しめたから別にいいんだが…。

 

そんな盛り上がっている中、扉からノックの音がした為ベールが扉を開ける。

 

「何ですの?パーティーの最中ですのに…。」

「ベール様、実は…―――」

 

そこにはリーンボックス職員がいて、パーティーの最中だった為に不満はあったが、職員の話を聞いたからか、ベールの顔が険しくなっていた。それに気づいたのか、ゲームを楽しんでいる一行も中断し、全員元の姿に戻る。ネプテューヌだけが妙に不満げだったのはまた別の話。

 

「何かあったの、ベール。」

 

只ならぬ様子だと察したであろうノワールが、ベールの元に行き詳細を聞こうとする。

 

「いえ…ズーネ地区にある廃棄物処理場に、多数のモンスターが出現したという知らせがありますわ。」

「ズーネ地区…。」

「リーンボックスの離れ小島ね。引き潮の時だけ、地続きになる…。」

 

ズーネ地区…詳細が分からない為、Nギアの地図機能で確認する。確かに、リーンボックスから離れている場所にある。ベールの言う通り、現在は廃棄物を処理する為の施設として使っており、人の出入りは殆どない場所だと載っている。

 

 

「モンスター位、何処でも普通にでるっしょ?」

「国が管理している地区ですから、出入りするのはまだしも、多数出現するというような事はあり得ませんわ。」

 

国が管理している場所、街中や管理施設等がある場所は女神の加護の影響により、モンスターが出入りしたり出没したりしないエリアの事だ。ゲームで言うなら、セーフエリアとエネミーエリアと言ったところか。ベールはゲームをやっていたPCの席に座り、ノートPCを取り出し調べている。

 

「でも、事実のようですわね。」

 

どうやら、そのズーネ地区にモンスターがいるのは事実であり、通常ではあり得ない事例が出てしまったようだ。しかし、不思議な事に俺は妙な胸騒ぎがしており、そのズーネ地区に行かなければならないと囁いている…。

 

「わたくし、今からズーネ地区に行ってきますわ。」

「わたしも行くよ!」

 

部屋を覗き込んでいたネプテューヌが、真っ先に同行すると言った。ただ、ベールは同行する事を望んではいないようだ。

 

「けれど…これは、わたくしの国の事ですから…。」

「こうしてわたし達がいるのも、何かの縁だしさ。手伝わせてよ。」

「また、お決まりの『“友好条約”を結んだ以上は仲間』って奴?」

「まーねー!」

「わたしも行くわ。誘拐事件の恩を返す、いい機会だから…。」

「よーし!じゃあ、3人で…」

「ま、待ちなさいよ!私も行くわよ!貴方達だけじゃ、どれだけ待たされるか分からないもの…。」

「皆さん…、分かりましたわ。では、4人で参りましょう。」

 

ブランの名乗りから、案の定というべきかノワールも同行する方針になり、4女神でズーネ地区に行く事となる。

 

「あ、あの!私も行きます!」

「え?…あ、アタシも!」

「わたしも!」

「わたしも…。」

 

ネプギアが同行の意志を示した途端、ユニ、ラム、ロムも付いて行くと言う。

 

「貴方達はダメ。遊びじゃないの。」

「え~?」

「ユニも当然、留守番よ。貴方まだ変身も出来ないんだから。」

「………。」

「ネプギアも、ここはお姉ちゃんに任せといて!」

 

分かっていたが、候補生は全員待機命令が出てしまった。だが、俺は行かなくてはいけない気がした為、席を立ち上がろうとする。するとベールからこんな言葉が発せられる。

 

「永守さん。今回は貴方も待機でお願いしますわ。」

「ダメか。」

「着いて来たいのは分かるけど。ベールの言う通り、貴方は残ってなさい。」

「本来であれば、わたし達女神が対応する問題。貴方の活躍は認めるけど、立ち位置はプラネテューヌ補佐…、貴方の出る幕じゃないわ。」

 

ノワールとブランが立て続けに厳しい意見を言う。するとネプテューヌも意外な言葉を言う。

 

「うーん、確かにえい君も居れば百人力だけどさ。偶には女神としていい所見せないとね!だから、ここはぐっと我慢して待っててね。」

「…分かった。」

「ああ、そうだ。はい、これ!」

 

唐突にネプテューヌがポケットから何か取り出して、俺に渡してくる。

 

「これは…?」

「退院祝いに渡す予定だったけど、忘れちゃってて。今渡すのもあれだけどね。でも、これでお揃いだよ!」

 

手渡されたのは、ネプテューヌやネプギアが首物にしている、白と紫色をしている色違いのネッグリングだった。何故か、ノワールとブランの視線が痛いが、俺は軽く頷き首に装備しようとする。

 

「…なんかピッチピチなんだが。」

『………。』

 

その場にいた全員が唖然したり苦笑してしまう。どうやらネッグリングは、俺仕様のサイズではなく、ネプテューヌとネプギアが付けているのと大差ないサイズの為、ゴムが妙に伸びきっており苦しい。仕方ないので、左手首に巻くように付ける。

 

「ねぷねぷ、気をつけるですよ?」

「大丈夫、4人居れば直ぐ終わるって!」

「上手くいくといいけど…。」

「ネプテューヌ…もう少し緊張感持ったらどうなのよ。そんな事言ってると、足下をすくわれるわよ?」

「そうですわよ。今回ズーネ地区に現れているモンスターの数は、普通ではあり得ない数ですのよ。」

「ネプ子、無茶してネプギア達を悲しませるんじゃないわよ?」

「まぁ、そこがネプテューヌのいい所でもあるんだろうがな…。」

「えい君、分かってるねぇ!じゃあ、そんなわけで、変身!!」

 

そう言うと女神4人が変身し女神化する。俺も半女神化が出来るからなのか分かる。確かにこの4人が女神化した時の雰囲気は鬼に金棒という所だろう。…それでも、この胸騒ぎが消えることはなかった。

 

「では、皆さん。参りますわよ。」

 

変身が完了し、準備万端という合図と思われる頷きを4人がする。やはり、心配なのかネプギアが再び立ち上がる。

 

「あ、あの、やっぱり私も…!!」

「ネプギア…。大丈夫、直ぐ帰ってくるから。終わったら連絡するわ。えい君も、お願いね。」

「ああ。」

 

そして、女神化した4女神はズーネ地区に向けて飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4女神がズーネ地区に向かって飛び立ってから、数十分が経った。気分が晴れない為、ガムを噛みつつベランダで外の空気を吸っているが、このモヤモヤとした感覚は一向に取れない。ネプギアも同じ気持ちなのか、ベランダからネプテューヌ達が飛び立っていった方をずっと見つめている。

 

「ネプギアちゃん、お兄ちゃん、大丈夫?」

「え?」

「…ロムか。」

 

ロムが、心配そうな顔をしてネプギアの隣に来る。

 

「俺は大丈夫だ…。」

「私も、大丈夫だよ。ただ、何だろう…、お姉ちゃんが心配なの。」

「ネプギアのお姉ちゃん…あんまり強くないの?(そわそわ)」

「ううん、そんなことないよ。本気を出したらすっごく強いよ。こんな弱い私を、何時だって守ってくれるもの。…ただ、なんでだろう。今日だけは、胸騒ぎが…するの。」

「胸…騒ぎ…?」

 

どうやら、ネプギアも同じ状態のようだ。だが、一向に収まらずただ突っ立っていては何も始まらない。

 

「…中に戻ろう。アイエフがさっきから連絡している。何か情報を掴んでいるかもしれない。」

「う、うん。」

 

ロムの方を見ると頷いた為、3人でベランダからパーティー会場へと戻る…。

 

 

 

 

 

≪やぁ永守…、楽しんでるかい…?≫

 

 

 

 

 

「!?」

 

突如、脳裏に聞き覚えのある声が響く。…奴もテレパシーのようなものが使えたのか。俺は顳顬(こめかみ)に指を当て、届くか分からないがテレパシーを行ってみる。

 

≪…お前から連絡をするとはどういう風の吹き回しだ。まさかデートの約束をしたい訳じゃあるまい。≫

≪察しがいいね。ズーネ地区で面白いショーが始まろうとしてるよ。…廃棄物処理場で待ってるからね。≫

 

テレパシーが通じた上に、この胸騒ぎの原因が分かった途端、行動に移す為ベランダ側に向かう。それにネプギアは気づいたのか話しかけてくる。

 

「永守さん、中に入らないんですか?」

「…ズーネ地区に向かう。後の事を頼む。」

 

そう言って俺は、止めてあるバイクに乗る為、ショートカット含めベランダから飛び降りる。

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

永守さんの予想外な行動を目撃してしまったからか、私とロムちゃんは、目を丸くしながら固まってしまいました。そして、永守さんがバイクに乗ったのかエンジン音が響き猛スピードで走り去っていく音がした。その音を聞き、ハッと我に戻り中に居る皆に伝えなきゃと思い慌てて会場内に入りました。当然ながら、その様子をみたアイエフさんは驚いてました。

 

「ど、どうしたのよネプギア。何があったの?」

「え、永守お兄ちゃんが…。」

「ズーネ地区に行くって言って…凄い形相をしながらベランダから、飛び降りて…。」

『ええええええええええええええええ!?』

 

当然、皆さん驚きますよね。私もあの行動には驚くしかありませんでした。アイエフさんが深呼吸して、これから重要な事を話すよという雰囲気になっていました。

 

「いい、落ち着いて聞いて。ショッピングモールに居た鼠の事なんだけど。」

「何か分かったんですか?」

「見覚えがあると思って、諜報部の同僚に調査を頼んでおいたの。案の定、各国に指名手配されている要注意人物…基い、要注意鼠としてね。」

「ええ!あの鼠さん、悪い人だったのです!?」

「それも、数時間前にズーネ地区に船で向かったという事も分かったの。」

「それって、つまり…。」

「ええ、今回のズーネ地区にある廃棄物処理場の件は、何か裏があるって事になるわ。もし、何かあるなら、アイツ一人でも大丈夫だと思うけど、永守も危ないわ…。わたし、様子を見に行ってくるわ。今なら引き潮でまだ間に合うし…。」

「私も、連れて行って下さい!」

 

アイエフさんがズーネ地区に向かうと分かった途端、私は同行したいと口走っていました。

 

「ダメよ、ネプギアまで危険に晒す訳には…。」

「お願いします!永守さんが向かったことも、気になるんです!お願い、アイエフさん!」

「………。分かったわ。但し、危険だと分かったら直ぐ引き返すわよ。それでもいいのなら。」

「は、はい!!宜しくお願いします!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆に見送られる形で飛び立ち数十分、ズーネ地区方面に向かって飛んでいるわたし達の前に、一つの島が見えてきた。

 

「…見えてきましたわよ。」

 

ズーネ地区の廃棄物処理場と思われる島が見えてきた。そこの陸にはリーンボックスで見られる機械系モンスターが、大小含め大量に群がっている。

 

「うげッ、うじゃうじゃいやがるぜ。」

「でも、数が多いだけで大した事のない奴らばっかじゃない。」

「確かに、これならえい君がいなくても問題ないわね。でも、油断は禁物よ?それに、万が一街に渡ったら一大事よ。ここで早めにーーーー!!」

 

わたしが言いかけた途端、陸上の地面から4足歩行の機械が4機現れた。

 

『九十九式戦車…!』

 

わたし含め全員がそういうと、その4機は此方に標準を向け、弾幕を張るように乱射してきた。でも、武器で防げる辺り、一発一発は大した威力じゃなさそうね。

 

「あのデカブツが真打か!」

「的に不足なしですわね。」

「おあつらえ向きに一人一体…競争ね!!」

「抜け駆けはさせねぇぜ!」

 

強敵が現れたせいか、全員が闘争心に火が付いてしまったらしく、一人一機という流れになっている。

 

「3人とも待って!ここは、皆で一体ずつ倒すのがセオリーじゃ…」

「腰抜けのセオリーね。」

 

ノワールが一瞬だけこっちをみてそう呟く。女神化の宿命なのか、どうしてこうなってしまうのだろうか。それに、変身すると皆妙に強気なんだから…。まぁでも…。

 

「…わたしもそうだけど!!」

 

わたしも、闘争心が燃えている以上、人の事は言えないわね。

 

 

 

 

 

「レイシーズダンス!!」

「テンツェリントロンペ!!」

「レイニーラトナビュラ!!」

「クロスコンビネーション!!」

 

九十九式戦車の猛攻を搔い潜り、此方の攻撃が届く範囲に潜り込み、それぞれ一撃必殺であろう一撃を加え、九十九式戦車は結晶片となる。順位としては、ノワールが一番、それに少し遅れてブラン、わたしとベールは同時だったけど、ベールが早かったというのを聞いて、呆れてしまったのかわたしがビリで結構と言っていた。あらかた片付いたからか、全員気が少し抜けてしまっている。…これがいけなかった。

 

「!?、ノワール、ブラン!!―――――ああッ!!」

『ッッ!?』

 

突如、地面から出てきたコードのような物体に、わたし達4人は拘束されるように縛られる。

 

「な、なんなの!!」

「ざけんなよ!」

「気持ち悪いわね…!!」

「くっ…こんなもの!!」

 

コードの縛りから抜け出す為、力一杯引っ張り引き千切ろうとする。コードに亀裂は入るが中々抜け出せない…なんて頑丈なの…!

 

「ふふふ…そろそろか。」

 

向こうの方から声が聞こえた。そこへ視線を向けると、一人の魔女のような人物が立っていた。…あれが、黒幕…!?

 

「女神達よ…、我がサンクチュアリ(聖域)に堕ちるがいい…!!」

 

何か宝石のような物をカプセルに入れ、それをわたし達の頭上辺りに投げてくる。すると、そのカプセルは頭上で浮遊し、下の三ヵ所から同じ光が見え、赤紫色のピラミッド型の結界のような物に囲まれてしまった。

 

「ああっ!!」

「こ、この力は…。」

「ど、どうして…力が…抜けていく…!」

 

ノワールの言う通りなのか、力が徐々に抜けていく感覚がする。それの影響か、拘束しているコードが一層強く縛られていく。

 

「あの石…あれを破壊すれば…!!」

 

あの石を破壊すれば、ここから抜け出せる。そう思いわたしは刀を頭上にあるカプセルに向けて投げる。けれど、カプセルに直撃する前に徐々に減速して、投げた刀が消滅した事に驚いてしまう。

 

「そんな…!!あぅ…!!」

「ふふふ…、シェアエナジーを力の源にしている者は、その石に近づけない…。それが、武器であろうが、女神でもな…。」

「ど、どういう事ですの…。」

 

不敵な微笑みをする女性に、ベールが問いただした。

 

「その石の名は“アンチクリスタル”。シェアクリスタルとお前たちとのリンクを遮断し、力を失わせる石だ。」

「アンチ…クリスタル…。」

 

そんな物があるなんて信じられなかったけど…事実、力が抜けていく感覚がある上に武器が消滅してしまった以上、あの黒幕が言っている事は本当だってことになる…厄介だわ…。そう考えを巡らせてる時、下からカメラのシャッター音が聞こえた。そして、驚くべき光景を目撃する事になってしまった…。

 

「うーん…いい写真ッチュねぇ♪。これは世界に大旋風を巻き起こすッチュ。」

「ふーん。この石にいたら、例え女神でも人並に堕ちるんだね。」

 

そこに居たのは、マスコットキャラとも言える鼠のようなのと、数週間前に、リーンボックスの裏路地でえい君と激闘した、血色の悪い少年“エンデ”がいた。

 

「やぁ紫の女神様、お久しぶり。それ以外は初めましてかな。」

「こんな事…ただじゃ済まさないわよ、直ぐにぶっ飛ばしてやるんだから!!」

「さぁてどうかな?アンチクリスタルの中では、女神は力を失っていく。お前たちに勝ち目は…――――ん?」

 

 

 

突如、後ろ側から銃声と猛スピードを出しているようなエンジン音が聞こえた。そして、そこに一台のバイクが飛び出るかのように出現し、着地する。見覚えのある服装、サングラスにトラベルハット、左手に銃を持っている男性が、凄い形相でバイクから降りる…。

 

 

 

 

 

「え、えい君…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【用語集】

○わたしに当てようなんて10年早いよぉ!!
 元ネタは、バーチャファイターの結城晶の台詞「10年早いんだよ!!」。CVは、ポケモンのロケット団のコジローで有名な”三木眞一郎”さんなのだが、初代がまさかの”光吉猛修”さんだったのには驚きです。

○まるでカカシですなぁ
 映画「コマンドー」の名(迷?)台詞の一つ。あの映画の吹き替えセンスは輝いている…。因みにネタを知ってるだけで映画は見たことがない。

○[文字]www
 言わずともしれた、笑いを表現する時に表現する”(笑)”と同じ意味を持つネット用語の一つ。文字の後に付ける事が大前提となる。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


リーンボックスに出てきたVRに独自設定を入れてみました。所謂、ボクの考えた最高のVR的な奴ですかね。リーンボックスならやってくれる、そんな気がしたので思い切ってこうしました。




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Scene22  衝突する2つの影~Despair~

 

 

 

 

「何だ、あれは…。」

 

ズーネ地区の廃棄物処理場。本来であればモンスターが出現しないエリアだが、何故か出現していた為、パーティーを中断しネプテューヌ達が向かっていった場所だ。俺は今、アイエフ達に一言もなく単独でそこに突撃している。何故か出現するモンスター達を、ラステイションで貰った突撃銃(アサルトライフル)で迎撃して突き進んでいると、目の前に青紫に輝く何かが見えてきた。そして、その現場に到着しエンジンを掛けたままのバイクを降り、その光の元を確認しサングラス越しに目を見開く。そこには、4人がピラミッド状の結界の中に閉じ込められており、電源コードのような物で拘束されている。…どうやら、黒幕と思われる魔女のような奴は、俺が来る事に驚いていたらしく、エンデに怒りをぶつけて居る。

 

「おい、誰だアイツは!!」

「彼は“獨斗永守”。僕が特別ゲストとして呼んだんだ。」

「貴様、何を勝手な行動を…!!」

「まぁまぁ、こっちも色々と説明しないといけないからね。」

 

エンデが立ち上がってこっちに向かってくる。吹っ飛ばして無くなったはずの右肩は、しっかり手まで修復されている。そして、結界が良く見えるようにか、正面からずれた立ち位置に留まる。

 

「やぁ、来てくれたんだね。」

「パーティーにしては随分と(ひで)ぇ場所だな。…腕を粉砕したはずだが?」

「僕には漆黒の石がある。本当の急所が消えない限りは、僕は何度でも修復される仕組みなのさ。君も体に穴を開けたけどね?」

「…俺のは、可愛いナースが治してくれたさ。」

「ふふ、面白い冗談だね。」

「そんな事はどうでもいい。貴様とそこの鼠、一体何者だ。」

 

そう言って俺は魔女のような格好をした女性と鼠の方に指をさして言う。

 

「良くぞ聞いてくれた。私の名は“マジェコンヌ”。四人の小娘が支配するこの世界に、混沌と言う副因を(もたら)s―――――」

「オイラは“ワレチュー”。ネズミ界でNo.3のマスコットっチュ。」

「…ネズミィ…いい所で、邪魔をするな…。」

「何を言うっチュか。ラステイションの洞窟と、リーンボックスの海底にあったアンチクリスタルを掘り出したのはオイラっチュよ!」

「ふん、私がプラネテューヌの森で1つ目を見つけた時から始まったのだ。それに、ルウィーの教会にあったのを盗むという大仕事をしたのも、私ではないか。」

「アンチクリスタル…。それが、あの結界の正体か。」

「そうだ。ここまで来た冥土の土産に教えてやろう。あれは女神の力を遮断し、力を失わせるのさ。」

 

閉じ込められているベールがブランに問いかけた所、確かに厳重に保管されてはいたが、誘拐事件の後消失しており、複数あるという事も知らなかったと返答する。次の瞬間、ネプテューヌの変身が解け、それに続いてノワール、ブラン、ベールも女神化が解けてしまう。

 

「ねぷぅ!変身が!」

「くくく、言ったはずだ。結界の中にいる間、お前たちは力を失うと…。」

「…本当に厄介な代物のようだな。」

 

持っている突撃銃(アサルトライフル)を結界に向けて数発撃つ。だが、銃弾は結界に弾かれているようで、効いている気配がしない。

 

「無駄だ。そんな兵器ではビクともしないぞ。」

「そのようだな。ならば…。」

 

そう言って俺は右手で短剣を抜きつつ横に振り抜き、鎌鼬を飛ばしつつ、左手から炎の弾(パイロキネシス)を放つ。だが、結界に触れる前に消滅してしまう。

 

「…着弾しない…だと!?」

「ほう、人間にしては面白いのを使う。だが、貴様は所詮人間。そんなものでも結界は破れはしない。」

「…普通の人間なら…ね?」

 

何か補足するかのように、エンデが口を開く。

 

「君は、人間である事を捨てたんだね。それも、女神と悪魔と契約…贅沢だねぇ。」

『!?』

「…貴様、何を言っている。」

「すっ呆けても無駄だよ。さっきの超能力が消滅した事と、その右手を隠すようにする手袋が、何よりも証拠だよ。もう、人の手じゃないよね?それに、まだ女神の力を隠しきれてない。だから、君の攻撃は衝突する前に消滅してしまった。」

 

思わず手袋をしている右手を後ろに隠す。信じられないが、俺の情報は此奴にとっては筒抜けだったらしい。女神の力、悪魔の力の両方を手に入れた事がバレている。

 

「永守さん、どういう事ですの…?」

「えい君、治ったって言ったよね…?」

「………。」

「おい…黙ってねぇでなんか言えよ!!」

「答えなさいよ、永守…!!」

 

嘘は言っていない。確かに傷は完治した。だが、右腕の事は言ってないから当然、4女神から質問攻めされる。バレる時が来るのは分かっていたが、こんな状況でバラされるとは思っていなかったな。

 

「折角女神も居る事だし、いい事を教えてあげるよ。彼は確かに、君たちの味方だけど、君達が思っている程、彼は綺麗じゃないよ。」

「ど、どういう事…?」

「彼は、恩師でもあり、自分の親父さんを殺した上、同胞を殺しまくった悪魔さ。」

「敵対関係であのクソ親父を()ったのは事実だ。だが、仲間殺しとはどういうことだ。」

「そーだねぇ、ヒントを上げよう。これなーんだ?」

「…深紅の石と漆黒の石…それがどうした。」

「この2つの石を作るには、膨大な魂が必要になるんだよ。人間と悪魔のね…。そこで、君達の部隊に仕向けた化け物は、悪魔の契約をした君達の同胞…分かるかな?」

「………。」

 

エンデの言っている事が正しいとするなら、俺達S.T.O.P.が戦っていた相手は、エンデによって化け物にされた人間って事になる。守るべきはずの仲間や市民が、化け物になってまたそれを殺すという悪循環だったってことになる。

 

「悲観はしないんだね。」

「悲観してないといえば嘘になる。だが、驚いたのは事実だし、答えは出ている。()らなければ、此方が()られ、守るべき仲間や他の市民が犠牲になる。それだけの事だ。」

 

そして、俺は手袋をしている右手を前に出し、握り拳を作る。

 

「それに、この力は貴様の仲間になる為ではない。約束を果たす為の…貴様を倒す為の力だ。そして、俺の魂が叫ぶ…。貴様を止め、女神を助けろと!」

「…全然仲間になりたそうな感じじゃないっチュね。」

「確かにそこの人間は、我々に似た生い立ちをしている。だが、仲間になりたそうな目は微塵もしてないぞ。」

「やっぱり、今回もダメだったね。まぁいいや、今はまだ決着をつける時じゃない。」

「どういう事だ?」

 

そんな時、俺の背後から悲痛のような叫び声が聞こえて来た。

 

「お姉ちゃあぁあああん!!!」

「ネプギア?」

「来ていたのか…!!」

 

ふと後ろを向くと、距離はあるがネプギアとアイエフがいるのが見えた。

 

「永守、前!!」

 

アイエフの叫び声で前を振り向くと、マジェコンヌによるエネルギー弾と金色の槍を振り下ろしていた。瞬時に半女神化し、籠手をコールしつつ、エネルギー弾と弾きクロスガードでギリギリ受け止める。何やら置いてあるバイクの方で嫌な音が聞こえつつ、金属音のぶつかり合う音が響く。

 

「ちっ、思ったより早いじゃないか。」

「…おい、エンデ。お前は見逃すと言ったよな。」

「僕はね、でもそっちのおばさんに関しては論外だよ。」

「ええい、おばさん言うな!だが、貴様は出来るようだな。」

「お前こそ、状況判断はいいようだ…。俺を危険と見て、ネプギアより優先して攻撃してきた。」

「そうだ。まだ変身も出来ぬ妹は兎も角、貴様の力は我々の計画にとって邪魔な存在だ。まさに正解のようだ。女神の妹は逃げていったが、貴様はここで潰しておく。」

「…悪いが、お断りだ。」

 

ネプギアとアイエフはどうやら上手く逃げ切ったようだ。今の現状で、ネプテューヌ達を助けるのは至難の業…。俺は一つの希望を試したいが為にここで死ぬわけにはいかない。クロスガードの裏拳で槍を挟み、振り回すかのように引っ張り結界側に投げ飛ばす。

 

「なぁにい!!」

 

振り回された事に驚いたようだが、マジェコンヌは不格好ながら地面に着地する。その隙にバイクの方に行き、バイクに乗ろうとする。…が、後輪がパンクだけでなく、後輪ホイールに見事な穴ができ外れ掛かっている。

 

「逃がすかぁ!!」

 

マジェコンヌが奇襲をするかのように、上から飛びかかってきていたが、瞬時にトラベルハットに瞬間移動(テレポート)を念じて来た道側へ投げ瞬間移動し、半女神化した状態のまま来た道を戻るように全力疾走する。どうやら、半女神化している状態だと、走る速さも増しているようで一気に廃棄物処理場を抜け出す。

 

しかし、まさかバイクが1年も持たず廃車になるとは…こんな時に嫌な事が起きるとか泣けるぜ。星占いでも見とけばよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【数時間前:リーンボックス教会】

 

 

 

 

 

「教会に着たのはいいが…何処だよ、全く。」

 

兄貴(永守)にリーンボックス教会まで着てくれと言われて、パーティーやってるからそこで落ち合ってもいいかという連絡を受けたまではいい。だが、出迎えが誰も居ないなんてどういう状態だよ。

 

「…適当に館内をふらついて見るか。」

 

そう言いつつ俺は館内を回り始める。中に入るのは初めてだからなぁ。何所も似たような扉ばっかで、どの部屋が兄貴の言っていたパーティー会場なのかさっぱどわからねぇわ。キョロキョロしつつとある曲がり角に差し掛かった時だった。

 

「きゃあっ!!」「おふっ!」

 

曲がり角に差し当った所で、誰かとぶつかってしまったようで、曲がり掛かってきた女性を押し倒してしまったようだ。それと同時に持っていたものが散乱してしまった。

 

「あっと、悪い。大丈夫か?」

「す、すみません。こっちも前が見えなかったので…。」

『あ…。』

 

そう、そこに居た黄緑色の長いロングポニーに白パーカーを着ている女性は、以前ネプテューヌさんと兄貴がボコした女神だった。よく見ると結構可愛くて驚いた…。

 

「アンタは、あの時の…。」

「貴方は…。!? あ、あの時は大変申し訳ありませんでした!あの時は操られていたとはいえ、深手を負わせてしまって…。」

「ああ、あれは仕方ねぇさ。それに、左肩もこの通り動く。…で、今パーティーやってるって聞いて来たんだが、何処でやっているか案内してくれねぇか?」

 

恐らく俺よりは教会内に関して詳しいと思い尋ねるのだが――――――

 

「道順はお伝えしますが、道案内は…。」

「何か困る事でもあるのか?」

「…ベールさんやチカさん、職員の方々は許したとはいえ、パーティーに参加している他の方は、私を許してくれるかどうか…。」

 

なるほど、それを気にしているから少し険しい顔をしているんだな。

 

「“後悔後に絶たず”…てか?」

「はい。」

「ふぅん…。俺は女神さんや兄貴が、そう考えてるとは思ってないが?」

「どうして、そう思えるのですか…?」

「さぁな。俺はそういうのを言葉で表現するのは苦手なんでね。只、そんな小さな事を気にするような人達じゃねぇとは思う。それに、ベールさんはアンタを認めたんだろ?国のトップが認めたのなら、それで十分説得力あるだろ。何、俺も協力するさ。」

 

そう言うと、彼女は少し悩んだ後“分かりました。”と言い道案内と会場へ入る事を決意したようだ。ただ、その前に散らかしてしまったのを纏めて持っていくのを手伝う事にした。

 

「おっと、自己紹介が遅れたな。俺はジンってんだ。宜しく。」

「私は、スミレと申します。それでは、パーティー会場に案内しますね。」

 

しかし、こんな遅くまで仕事とは熱心なことだな。そう思いつつ指定された場所まで荷物を持っていくのを手伝い、パーティー会場へ案内される。それでパーティー会場の扉を開ける。

 

「あれ、職員さんですか?」

「ちょっと違うよな気がしますが…。」

 

パーティーをやっていると聞いたが、騒ぐには聊か人数が少ないように見える。確認できるのは、コンパさん、ロムちゃんにラムちゃん、あとはユニちゃん…ユニちゃん?

 

「………、うぉおおおおおおおおおおおユニちゃあああああああああああんんん!!」

「へ?ぎゃあああああああああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

パシーーーーンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…大変お見苦しい事をしてしまった…。」

「当たり前よ!急に飛びかかってくるなんでどうかしてるわ!!それに、アンタ前にも同じ事したのに懲りてないのね…。」

 

幾らゲームの時に好みだったキャラとはいえ、そりゃ行き成りル〇ンダイブしたらそういう反応するよな。初めてではないにしろ、以前クエストで出会った際も同じことをして、今現在俺の左頬には綺麗なビンタの跡が出来ている。あの時は、日本一が冷ややかな目をして此方を見ていたっけな。今はそれと同じ状況が広がっている。

 

「それよりも、そっちは誰?見た事ないんだけど。」

 

ユニちゃんがそう言ってきたので、俺はスミレの事を説明しつつ本人も事を説明し納得してくれた。それからスミレは、ロムちゃんとラムちゃんと話をしている。それと、現状を確認する為にユニちゃんとコンパさんから話を聞くことにした。まさか、兄貴が不在なんて呼んでおいてそりゃないよ全く。それに4女神さんに加え、アイエフさんとネプギアも居ないからどういうこったと思ったよ。

 

そんな時、驚愕している時、部屋の扉が開いた音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全力疾走で教会まで戻って来た俺は、教会前で待っていたアイエフとネプギアに驚かれた。あれだけの距離を走って来たのだから驚くのは当然か。流石に長距離を短距離走並で走ったからか息が上がってしまっているし、満ち潮の上を走って来たからか、靴の中にまで水が入ってきてしまっている。そして、パーティー会場へ戻ると、お客が2人増えていた。

 

 

 

 

 

≪アイエフさん…一体、どういう事なんですか?≫

「それが、此方でもよくは分からないんですが、アンチクリスタルがどうとか…。多分、それがネプ子達の力を奪っているんです。」

≪アンチクリスタル…?聞いたことがないですね…。≫

「イストワール様。此方でも調べますが、其方でも調べて貰えますか?」

≪勿論です。でも、三日掛かりますよ?≫

「3日…。」

「心持、巻きでお願いします。」

≪やってみます。では、ネプギアさん達は、プラネテューヌに戻ってきてください。ユニさん達も、お国へ帰った方がいいと思います。あ、それと、永守さん。≫

「何だ。」

≪以前言ってしました、“エンデ”や“ニグーラ”に関して調べましたが、断片的にしかわかりませんでした。一応調べて分かった事をNギアに送信しておきますね。≫

「分かった。」

≪それでは。≫

 

あの後、ズーネ地区の廃棄物処理場で何があったかを説明し、アイエフがイストワールにアンチクリスタルの事を調べて欲しいとお願いする。破壊しても良かったが、破壊した時に何が起こるか分からない代物を破壊する訳にもいかない…。そう思った上でアイエフはイストワールに聞くことになった。俺はNギアを確認する。だが、内容としては俺の知っている事と一致する程度で、どういう理由で生まれたのかは分からない。…国へ帰れと言われても、ユニ、ロム、ラムは納得できるとは思えない。

 

「そういう訳だから―――――」

「待って!帰れって言われて、大人しく帰れるわけないでしょ。お姉ちゃん達が捕まっただけじゃなくて、もっとちゃんと説明して!!」

「何時ものお姉ちゃんなら、悪者なんて一発なのに!」

「お姉ちゃん…死んじゃうの?」

 

思った通り納得していない様子…分かり切った反応だ。

 

「き、きっと大丈夫です。女神がそう簡単にやられる訳が―――――」

「でも!力が奪われたってさっき…。」

「ごめんなさい。」

 

会話を割り切るように、椅子に座っていたネプギアが突然謝る。

 

「ネプギア…何故お前が謝る。」

「そうです。ギアちゃんが悪い訳じゃ…。」

「ううん…買い物の時拾ったあの石が、きっとアンチクリスタルだったんです。」

 

あの時の石…あれを拾った時、ネプギアの様子が可笑しくなったと判断できる。そう答えられるのは、それを持って行ったのが、犯罪リストに載っている“ワレチュー”が持っていた事になるからだ。

 

「…やめましょ。そんな事、今考えたって―――――」

「どうして…どうして、あの時目眩がしたのかを、ちゃんと考えてれば…お姉ちゃん達に、知らせておけばこんな事には…。」

「ネプギア、それは違う―――――」

 

あの時はパーティーを楽しみにしてて浮かれていたのもあるだろう。だが、ネプギアは悪くない。そう思っていた時だった。

 

「ネプギアの馬鹿!お姉ちゃんは…アタシのお姉ちゃんは、凄く強いのに…。永守も…ネプギアの隣に居たのに、なんで気づかなかったのよ!」

「お、おい。ユニちゃん、それは…。」

「アンタ達二人が代わりに捕まってれば良かったのよ!!」

「!?」

 

衝撃的な事を叫び、ユニは泣きながら部屋を飛び出していく。

 

「ユニちゃん!!俺、追ってきます!!」

「わ、わたしも…!」

「わたしもユニちゃんの所、行ってくる!」

「私も、微力ながら協力します。」

 

ジン、ロム、ラム、スミレがそう言ってユニを追いかけるように、部屋を飛び出していく。そして、ネプギアも泣きながらベランダの方へと行ってしまう。室内には静寂が広がる。こんな時に言い争っている場合ではない。だが、まだまだ彼女達は何処か誰かに頼っている感があるのは否めないのだろう。

 

「ギアちゃん…ユニちゃん…大丈夫でしょうか。」

「全く、あの子達は…。」

「ネプギアの様子を見に行く。」

「どうする気?」

「…気が動転しているだけなんだろう。落ち着かせて仲直りさせなければな。」

 

そう言いつつ俺はベランダに向かうことにした。そこには案の定、黄昏れているネプギアがいた。足音に気づき此方に振り向くが、その顔は泣いていたのだろう、くしゃくしゃになっていた。

 

「永守さん…。」

「ユニに対して、反論はしないんだな。」

「ユニちゃんの言った事は…間違ってはないから…。私が、もっとしっかりしていれば…。」

 

ネプギアは良くも悪くも生真面目だ。その為か、あらゆる事に対して、ネプギア一人で自問自答してしまう。

 

「…済まなかった。」

「どうして、永守さんが謝るんですか…?」

「いや、一緒に行動をしていながら未然に防ぐことが出来なかった。俺も同罪さ。」

「そんな、永守さんは何も悪くは…。」

「ネプギア。一人で抱え込むな。考えれば考える程、本来の目的を見失う。それと、後悔より反省だ。後悔すればするほど自分を見失う。…この言葉は請け負いだがな。」

 

力はあるとは言え、俺一人で同等の力を持つ相手を二人同時に戦うのは難しい。だからこそ、女神候補生達に頼み事をしなければならない。

 

「ネプギア、お前はネプテューヌを…女神達を助けたいか?」

「当たり前です…!出来るなら、今すぐにでも行きたいです!!でも…。」

 

俺は質問に対しての答えに安心した。ならば、頼まなければならない。

 

「頼みたい事がある。あいつ等を助ける為、俺にネプギア達の力を貸してくれないか。」

「協力…ですか?でも、私はまだ女神化も出来ませんし…。」

「今は…だろ?」

「でも、私にはそんな事…。」

「出来ないと思うな。お前は“出来る”んだ。お前は、プラネテューヌの女神候補生であり、ネプテューヌの妹。そうだ、お前達は既に出来る…。後は気づくだけだ。」

「気づく…それは、どうすれば?」

「それは俺にも分からない。だが、出来ないと考えるな。余計な事を考えず、出来るという事一点に集中し自分を信じろ。真剣に考えれば、自ずと答えは出る。」

 

そうしていると、後ろから声がした。

 

「ネプギアちゃん、お兄ちゃん。」

「ほら、早く!」

「分かってるわよ…。」

 

そこには、ロムとラム。それに二人に後押しされながら、歩いているユニの姿があった。

 

「ユニ…ちゃん…?」

「ネプギアちゃん、仲直り、しよ?」

 

そう言って、ロムはネプギアの手を持ち、そこにラムに引っ張られるようにユニもそこに手を添える。

 

「言いすぎ…ちゃった…。ごめんね…。ネプギアのせいじゃ…永守のせいじゃ…ないのに…!」

「うん…気持ち、分かるから。」

「気にするな。誰も、悪くはない。」

 

そうして、ユニはネプギアに抱き着き再び泣き出す。…仲直りの印としていいだろう。

 

「日の出か…。」

 

ユニが、泣き止み落ち着いたところで、ユニの口から想った事を告げる。

 

「アタシ、お姉ちゃんより強い人なんて、居ないと思ってた。何があっても、きっとお姉ちゃんならって…。」

「同じだよ。私も、お姉ちゃんがいなきゃ何にも出来ない…。今も良く分からなくて、永守さんに対しての答えもまだ…。」

 

やはり、直ぐには答えは出ないか…。

 

「そんなの、簡単じゃない!わたし達が強くなって、助ければいいんだよ!!」

「わたしも…お姉ちゃん達、助けたい。」

「でも、私達はまだ変身も…。」

「出来るようになればいいのよ!!」

「変身のやり方、練習する。」

 

どうやら、ロムとラムは既に答えが出ているようだ。

 

「そういえば、お姉ちゃんが言ってた。アタシが、変身出来ないのは、自分の心にリミッターが掛かってるっからって…。」

「心の…リミッター…?」

 

心のリミッターか…。一番厄介な物でもあり、乗り越えるのは至難の業とも言える。

 

「一つ聞こう。お前たちは、何か“恐怖”というのはあるか?」

「わたし、モンスター、怖い。」

「うん、私も…。」

「じゃあ、モンスターが怖くなくなるよう、特訓しようよ!」

「でも、今からクエスト受けるって言っても…。」

 

確かに、クエスト…特に討伐クエストは実践寄りだから、いい経験になるだろう。だが、それでは受ける度に戻らなくてはならないし、今の候補生では高ランクのクエストは受けれない…。ならば、答えは出ている。

 

「俺にいい考えがある。」

「いい…考え?」

「VRだ。それも、今日のパーティーで使ったあのVRシステム。あれの実践モードを使う。それで模擬的とは言え経験を積める。」

「…うん、そうかも!」

「ふふん、そう思って、ジン兄とスミレちゃんに準備しといてって頼んでおいたよ。わたし、凄いでしょ!」

 

全員が見つめ合い、頷く。如何やら、目標は見えたらしく、全員が歩き出す。皆、少しだがいい目をしている。

 

 

 

 

ネプテューヌ、ノワール、ブラン、ベール…。今暫く待っていてくれ…必ず助けに行く。

 

 

 

 

 

 

 

 




【用語集】

○後悔より反省だ。後悔すればするほど自分を見失う。
 元ネタは、MGSの主人公「ソリッド・スネーク」の”後悔するよりも反省する事だ。後悔は、人をネガティブにする。”のオマージュ。彼にはまだまだ名台詞がたくさんあります。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


色々と悩んで考えた結果のこの回。もう少し上手く書けないかなぁと思うが、今現在ではこれが限界です\(^o^)/



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Scene23 妹達の覚悟~Flapping of Little Feather~

 

 

 

 

 

リーンボックスのVRが置いてある場所にて、全員が集まっている。そこで4女神救出に向けて、候補生達が変身できる切っ掛けを掴む為、実践モードで特訓する事となった。俺とジンが敵役、アイエフは情報収集の為、スミレに案内されベールの作業場で作業をする、コンパは万が一怪我とかした場合に備えて医療品の準備をしている。

 

「兄貴、VRは何時でも行けるぜ。」

「よし、準備はいいか?」

「何時でも行けます!」

「万事OKよ。」

「頑張ってお姉ちゃん達を助けるもん!」

「頑張る…!」

 

そうしてVRのスイッチを入れようとした時だった。

 

「待って下さい。私もネプギアちゃん達と特訓します!」

 

特訓を始めようとした時に、スミレが自分も特訓に参加すると言い出した。

 

「戦闘経験は…?」

「運動はしていましたが、戦う事は初めてです…。それに、私はこんな力を望んではいませんでした…。ですが、皆さんに迷惑を掛けてしまったこともありますし、何より私もベール姉さんを救いたい気持ちはあります!それで、この力が皆さんの為になるなら、私は逃げません…!」

 

どうやら、言っている事に嘘はないようだ。志を持った目をしている。それを聞いた候補生達はスミレの元に寄ってくる。

 

「一緒に、頑張ろう、ね。」

「ロムちゃんの言う通り、一緒にお姉ちゃん達を助けるわよ!」

「アンタ、いい事言うじゃない。ま、アタシ達と張り合えるよう頑張りなさい。」

「…私を、責めたりしないのですか?」

 

ネプギアがスミレの手を両手で握り、真っ直ぐと見つめる。

 

「ううん、スミレちゃんは何も悪い事なんてしてないよ。だから、一緒にお姉ちゃん達を助けれるよう、頑張ろうね。」

「…はい!」

 

どうやら、妹達とも打ち解けたようだ。

 

「ジン、弓の扱いは分かるか?」

「完全に扱えるかどうかと言われるとあれだが…。戦国時代の演劇時に、弓道をチョロっとやった程度だ。」

「なら、スミレとの特訓は任せた。」

「少し、納得はいかねぇが、しゃーないな。分かったぜ、兄貴。」

 

俺は、今回の危険度を叩き込みつつ士気を上げる為、全員に告げる。

 

「今回の相手は、今までのクエスト等で戦ったモンスターと比べてはならない。向こうの作戦勝ちとは言え、4女神達を封じる程の力を持つ相手だ。失敗は死を意味する可能性もある。だから、VRだからって手抜きや、いい加減な練習は、自らを散漫にし、おごりを生む事にもなる。」

 

それを聞いた途端、全員息を飲むように黙り込む。この程度で委縮するのなら、特訓はやめた方がいいと考えている。だが、あの姉あってあの妹だ…。皆いい目をしている。

 

「逆に、全力で取り組めば集中力をも養える。全てにおいて一つの行動が、どのような結果を生むか…。だが、考えすぎると恐怖で委縮する可能性もある。“助けたい。”この言葉を念頭にする事だ。」

『はいっ!!』

 

ネプギア達は互いに目を合わせて相槌をしつつ、いい返事をした。

 

「話が長くなってしまったな。さぁ…始めようか。…女神を、助ける為に。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くVR特訓をし、全員の戦い方を分析し修正していく。

 

ネプギアは、潜在能力は恐らく高く、ファルコムと数度手合わせをしたこともあって、雑魚相手なら単独での切り込み隊長も問題なく行える。だが、戦い方が単調であり、パターン化されやすい為、思考の働くモンスターやベテラン相手では読まれると考え、攻撃パターンを考えつつ連携をするよう忠告する。

ユニは、以前の射撃訓練場での事もあり長銃の扱いに長け、動く敵に対しても正確な射撃が出来ている。狙撃手としては申し分ないが、接近された際も、肩越しを心がけており構えながらの機動力に難あり。更に、弾数を把握し切れていない場面もある為、体で残弾数を覚えなければならない。

ロムとラムは似ているが、ロムは支援寄り、ラムは攻撃寄りの魔法を得意としている。流石魔法大国だけあってか、強力な魔法を持っており合体魔法も扱えるようだ。接近されると打撃技術が単調な為、何かしらの対策が必要だが、二人の持っている杖が恐ろしく頑丈な為、簡単な棒術を教える。

俺は最近超能力に頼りっきりだった為、今一度、銃や能力に頼らず体一つでどこまで出来るかを試してみる事にした。

 

「これで、止めです!はぁああああっ!!」

 

最終チェック及び、更なるレベルアップを考えエンシェントドラゴンを筆頭に、360度の全方位からモンスガ―が襲い掛かってくるという、通常ではあり得ない状況設定での特訓をした。最初こそブーイングの嵐だったが、ゾンビパニックのように、下からワラワラ出てくることもあり得るかもしれない、という事も想定している。そんな状況下でも諦めず、候補生達は互いに協力し合い、今まさにネプギアが最後の敵である、VRのエンシェントドラゴンに止めを刺した所だ。因みに俺はその後、ジンの申し出により一対一での勝負をし、負かしておいたり、作られていた自分自身と戦ったりしてみた。

 

「ふぅ…。」

「凄いです、皆でエンシェントドラゴンを倒したです!」

「これが、女神候補生の実力…。」

「…見事な連携だ。」

「でも、随分と倒したけど、変身できるようにはならないわね…スミレはどうやってるのよ。」

「わ、私は、初めから出来たから何とも…。」

 

この特訓によって、ネプギア達は確実にレベルアップしたのは確かだが、候補生はまだ女神化できるまでには至っていない。

 

「でも、もっと倒してコツを掴めば…!」

「もう、その時間はないみたいよ。」

 

そう言って、アイエフはスマホを全員に見せるように出す。そこには一枚の画像が表示されており、その画像にはズーネ地区の廃棄物処理場で捕まっていたパープルハートの姿だった。更に、画像をスライドさせて、同様に捕まっているブラックハート、ホワイトハート、グリーンハートの画像もあり、当然ながら、全員それを見て驚く。

 

「アイエフさん、これって…?」

「無名による投稿だったけど、この画像が上がっているのを見つけたの。それも捕まった経緯も事細かく書かれていたわ。」

「他の人も見れるのか?」

「ええ。そうなると、間も無くゲイムギョウ界中に、この事が広まる事になるわ。つまり、これを国民が知ったら、急激にシェアが下がる事になりかねないわ。もしそうなったら…。」

「シェアクリスタルから、私達に与えられる力が無くなる。」

 

(さら)いになるが、女神は国民からの願いや信用によって生まれる“シェアエナジー”によって存命でき、同時に女神化する際にも必要となる。シェアエナジーが強ければ強い程、人望も厚いと言え、女神としての戦闘能力も飛躍的に高くなる。逆に、この力が少なくなれば、力が弱まるだけでなく、存命する事も厳しくなる。

 

「奴らの狙いは、4女神の抹消だけでなく、候補生の弱体化も狙っている。そうなれば、俺達だけでなく国民にも影響が出る。そして、誰も奴らを止められなくなる…。」

「なら、影響が出る前にお姉ちゃん達を助けなきゃ!」

 

全員がその事に同意したかのように頷く。だが、俺はバイクが破壊されて移動手段が難しい。ジンも乗り物は持ってないという。そんな時、スミレが試作段階だけといいのがあると言う。それを聞き、全員準備の為に部屋を出る事となる。俺はスミレの案内の前に、客間に置いていたアタッシュケースを取りにいく為、ガレージ集合という事で一旦別れる。

 

「こいつを試してみる時が来たか。」

 

M500のハンターモデル2丁。元いた世界で扱っていたリボルバーだ。流石に此奴の弾はこの世界では売ってない為、残弾は2丁に入ってる5発と2ローダー分だけだ。遠距離からでは弾かれるが、ゼロ距離でお見舞いすれば恐らくあのバリアは突破できるはずだ。M500をガンホルスターに入れ、ガレージの方へ向かう。

 

「兄貴、待ってたぜ。」

「永守さん、お待ちしてました。」

「…こいつは…。」

 

そこには、赤と緑色を基準としたバイク…。いや、これは伝説の海賊が使っていたようなエアーバイクだ。オプションとして更に2人乗れるサイドカーが付いている。此奴もエアーバイクと同じ性能を持っているらしい。

 

「本来であれば、水辺の上も浮いて走る事が出来る設計らしいのですが、上手く機能しないそうです。ですが、普通のバイクとして扱うのであれば、そこらにあるバイクとは比べ物にならない馬力を持っていると、ベール姉さんが言ってましたよ。」

「勝手に使って怒られないのか?」

「多分、怒るかもしれませんね…。」

「その時はその時だぜ兄貴。怒られたら謝る。それだけだろ?」

 

確かに、今は考えている時間はない。刻一刻と時間は過ぎ、本当に勝ち目がなくなってしまうかもしれない。

 

「…分かった。ここは有難く使わせて貰おう。」

 

そう言いつつ、ジンとスミレがサイドカーに乗ったのを確認し、エアーバイクにエンジンを掛ける。

 

「今度こそ、逃げも隠れもしない…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネプテューヌ達が捕まってから数十時間が経過している。ズーネ地区の廃棄物処理場では依然と変わらず、結界の中に4女神が閉じ込められている。相当暇だったらしく、最初こそ“ゲームしたい!”とか要求したものの拒否され現在まで至る。ただ一つ、違う事を告げるなら、ネプテューヌ達が捕まっている結界の下に、黒い沼のような液体が少しずつだが、確実に溜まってきている。

 

「随分と溜まって来たわね…。」

「あれに飲み込まれたら、わたくし達はどうなってしまうのかしら…。」

 

得体の知れない結界の中に閉じ込められるだけでなく、徐々に溜まっていく黒い液体に不安が積もっていく。

 

「こんな事になるんだったら、対策を練るべきだったわ。わたしは自分から遠ざける事しか…。」

「まぁ、皆元気だそうよ!今んとこ大丈夫な訳だし、まだまだ希望はあるって。」

 

全員が不安になっている中、そんな空気を吹っ飛ばすようにネプテューヌが言うが、状況が状況なだけに、フォローになってないとネプテューヌ以外の3人は思ってしまう。

 

「貴方のそういう前向きさは嫌いじゃないけど…こういう時は流石に鬱陶しわね。」

「現実逃避ね…。」

 

ノワールとブランが、ネプテューヌの発言に対して反論染みた事を言う。

 

「だって、態々希望がないとか言うよりはさぁ。」

「可能性のない楽観だって訳に立たないわよ。」

 

現状、まだ何も起きてないのだから考える位は出来る。だが、情報が少ない上に身動きがとれない以上、打開策が全く見えてこないのである。そんな時だった。

 

「可能性ならありますわよ。」

「ねぷっ、もしかしてえい君のこと?」

 

永守なら、対策をして戻って来るとネプテューヌ、ノワール、ブランは考えていた。あの性格だ。いざとなったら再び一人で来るのでは無いかという不安もあった。エンデが言っていた右腕の事、そして逃げる際に一瞬だがサングラス越しに見えた紫色に輝いた瞳…。だが、ベールの答えは違った。

 

「それもありますが、居るじゃありませんか。貴女方の妹が…。それに、永守さんの仲間や、わたくしの所にも…。」

 

ベールの口から出た言葉に3人は驚く。永守なら分かる。しかし、そこには自分たちの妹に永守の仲間と言うのだ。それに対して3人は答える

 

「ユニ?あの子、実践では私抜きで戦った事は無いのよ?」

「ロムもラムも…まだまだ、わたしが守ってあげなきゃいけない歳だわ。」

「ネプギアだって、真面目だけど甘えん坊だから、無理じゃないかなぁ?えい君は分からないけど…。それに、えい君の仲間ってのも協力してくれるのかな?」

 

各々答えは違うが、実力や経験不足と言った答えだ。しかし、ベールはそれを覆すようにネプテューヌ達に言う。

 

「それは、貴女方のエゴではなくて?あの子達は、確かに可愛らしい。わたくしだって、あの子達は何時までも、あのままで居て欲しい…そう思いますわ。それに、わたくしも、本当の妹という訳ではありませんが、似たような子が出来ましたのよ。だから、貴女方の言う事も分かりますわ。でも、そんな想いが、あの子達を変身出来ない可愛らしい妹にしてしまっている。そうは思いませんこと?」

「ベール…貴女…。」

「それに、永守さんが居なければ、わたくし達は“転生者”という存在も知る事が出来なかった…。彼が居たからこそ、そんな人達、スミレちゃんと出会うことが出来ましたのよ。だからこそ、永守さんなら、きっとあの子達を纏めてくれるはずですわ。ここは一つ、あの子達を信じてはみませんこと?」

 

彼女達は振り返ってみる。獨斗永守…彼はゲイムギョウ界出身ではない完全な部外者であり、元の世界に帰る方法も分からないが、ゲイムギョウ界に忠を尽くすかのように動き、女神達の手助けを、時には命を掛けても守り通し、ゲイムギョウ界の平和に貢献してきた事を思い出す。彼が居なかったら今頃死んでいたかもしれない、彼が居なければシェアが下がるだけで無く、妹達を救えなかったかも知れない。彼がいなかったら、色々な人と出会えてなかったし、エンデによって殺されていたかもしれない…。

 

「来たっチュよ。案の定、女神の妹が、仲間を連れて戻ってきたっチュね。しかし、随分と多いっチュよ?」

「ふんっ。女神の妹を含め、何人来ようがここまで辿り着ける事など出来まい。そうだろう?お前達。」

「いいや、彼ならここにやってくるよ。きっと。」

「ほう、何か根拠でもあるのか?」

「まぁね。彼は僕と殺り合う為に再び戻ってきたに過ぎない。じゃなきゃ面白くないじゃない。」

「理由になってないぞガキ。奴らが何をしようが、ここまで辿り着くのは出来んのだよ。」

「おばさんも、万が一来た時の為に備えておきなよ。負けそうになっても僕は手伝わないからね?僕は永守という名の玩具と遊びたいだけなんだから。」

「…ふんっ。」

 

4女神達は、妹達が来たことに驚いたが、それでもここまで無事に辿り着く事を祈ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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[ズーネ地区:廃棄物処理場]

 

ズーネ地区へ到着した時には、既に日が暮れてしまっていた。リーンボックスの管理下であるが、今はマジェコンヌとワレチュー、そして宿敵ニグーラのエンデによって敵地と化している。

 

「ギアちゃん達、まだ変身できないのに…。スミレちゃんだけで大丈夫ですか…?」

 

ネットに女神が囚われている写真が掲示されてしまった為、特訓は中止しざるを得なかった。実質変身できるのは特権による恩義を受けたスミレ、そして半女神化が出来る俺だけだ。

 

「女神が失敗しても、国民は納得するでしょう。その方が、シェアの低下は少なく済むはず…。」

「それに、俺達も…兄貴も居るんだ。これ以上のチームは中々ねぇと思うぜ。」

「そうですけど…。」

「それにね、わたしも信じたいの。ネプギア達ならって。」

 

後ろからアイエフ達の会話が聞こえる。練習や実戦で出来なかった事が、急に出来るようになるというのは虫が良すぎる。…だが、今はその“奇跡”ってのを信じよう。彼女達なら出来ると…。

 

俺はNギアのカメラ機能を付け、念動力(テレキネシス)により天高く上げ、進行方向の周囲を撮影する。手元に戻ってきたNギアに映る画像を確認する。更に、アクティブ・ソナーを使い周辺の物体を探知する。

 

「反応から見て、ざっと20…見えない範囲も考えればそれ以上か…。」

「そんなのカンケーないよ。モンスターがいくらいようと、倒せばいいんだから!」

「モンスターがたくさんいても、やっつける…!」

「あれだけ多対少数の練習をしたんだから、アタシ達なら出来ないはずがないわよ。」

「ユニちゃんの言う通り、あれだけの練習をしてきましたからね。きっと上手く行きます…。」

「うん、きっと大丈夫。うまく行く。」

「そうだな…。厳しい戦いにはなるだろうが、派手な事は要らない。自分に出来る事を100%発揮してやる。そして、自分を信じる事だ。いいな?」

『はいっ!!』

「それじゃあ、準備はいい?」

『うん…!』

 

今の所自身に溢れている。戦意消失しない限りは問題ないだろう。だが、彼女達をここで消耗させる訳にはいかない。俺はエアーバイクに乗り、エンジンを掛け直す。

 

「永守さん?」「永守、どうしたのよ。」「永守お兄ちゃん…?」「永兄、何してるの?」

「ジン、隣に座れ。」

「兄貴、アンタ一体何を考えてんだ?」

「お前と俺が、このエアーバイクに乗りポイントマンとして先行する。先行して、討伐しつつ撹乱させる。発進して10秒ぐらいしたら、全員続くように突撃してくれ。」

「…切り込み隊長ってやつか?」

 

当然、それを聞いたジンとスミレ以外は驚き、大人しくしている訳がない。

 

「なっ!?アンタ、また無茶するっていうの!?」

「何言ってるのよ、永守!連携を大事にしろって言ったのアンタでしょ!」

「だ、ダメです!永守さんに、危険過ぎます!」

「ダメだよ永兄!!」

「やめて、お兄ちゃん…!」

「…何か、考えがあるのですか?」

 

全員が止めようとする中、スミレは俺の考えを聞こうとする。

 

「ああ、このエアーバイクの馬力ならまず追い付かれる事はない。今回の勝利の鍵となるのは、お前達女神候補生だ。だから、こんなところで大きく消耗させる訳にはいかない。そして、恐らくエンデは俺をターゲットにするはずだ。ならば、ここで少しでも温存して、マジェコンヌとの戦いに余力を全て掛ける。スミレは、ネプギア達のサポートに回ってくれ。」

「それで兄貴、俺は何をすればいいってんだよ。」

「こいつを使って討伐なり牽制なりしてくれ。予備弾が尽きたら俺が渡す。」

「…OK。」

 

サイドカーに座っているジンに、俺は突撃銃と357マグナムを渡す。一応、見様見真似は出来るらしい。だが、候補生達は納得できないようだ。ネプギアが俺の服の裾を掴む。

 

「それでも、永守さんが無茶する事は…。」

「あるさ。」

「え?」

「俺は、自分自身の本能で動いている。理由なんかない。俺はネプテューヌを助ける為に、突撃する事…。」

『………。』

「そして、最後まで決して諦めず、窮地に立たれようが、成功する事を考える。それだけの事だ。」

「全く、そういうとこは何処かの女神と妙に似てるわね。」

「アイエフ…。」

 

そう言って、アイエフは俺の元に来て肩を叩く。

 

「そこまで言うなら、必ず成功させなさいよ?失敗なんてしたらタタじゃ済ませないわよ?」

「だとよ兄貴。」

「…恩にきる。ジン、いいか?」

「何時でもいいぜ。」

 

そして、俺はハンドルグリップを捻り直し、エンジンを吹かせる。ある日を境に、戦いにこの身を捧げた、そして呪われたようなこの負の連鎖に終止符を打つ。

 

「今度は逃げも隠れもしない…。さぁ、ショータイムだ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【用語集】

○M500
 S&Wが誇る超弩級のリボルバー。今回登場させたのは、10.5インチのハンターモデルを二丁持ち。同じ50口径の砂漠の鷹とも言うデザートイーグルよりも、その威力も反動も桁違い言われ、撃ち手の保証がない銃とも言える。ただし、ある情報では一定距離以降は44マグナム弾と威力が大差ないと言われていたり、発砲時の火炎ガスの強烈な量(端から見たら、発砲と言うより爆発)が凄まじく、この火炎ガスは銃を劣化させてしまうとも言われている。また、片手打ちなんて好んでする人は先ず少ないと言う。今回はとある海外の某防衛ゲーのM500の二丁持ちを基準とする。

○これは伝説の海賊が使っていたようなエアーバイクだ。
 エアーバイクのモデルは、宇宙海賊で左手に銃を持つ男”コブラ”(アニメはスペースコブラ、またはCOBRA The Animation)に登場したエアーバイク。近未来的な世界なのに、宙を浮く乗り物がない…ような気がしたので登場させてみました。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


いよいよ、前半戦の終盤にさしあたる所まで書けました。要所要所の展開は考えているものの、構図が上手く出来てない…。どうやってバトルシーンを書こうか\(^o^)/


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Scene24 妹達の反撃~Preparedness~

ネプテューヌ新作のPVが公開されて早速見てきました。
何時ものねぷねぷクオリティ…だがPS4がない\(^o^)/


 

 

 

 

ズーネ地区の廃棄物処理場は、施設以外殆ど人の手が入っておらず、道という道は存在しない為にその殆どが岩山のように凸凹(でこぼこ)している。しかしながら、エアーバイクであればそんなのは関係ない。サイドカーもエアーバイクと同じ方式で宙を浮く。そんな凹凸(おうとつ)な道を、サイドカーにジンを乗せて先行して走行している。

 

「来るぞ…!」

「分かってるつーの!」

 

エアーバイクのエンジン音に釣られて、ビットやR-4といった機械系モンスターが大量に押し寄せてくる。ビットの大群は体当たりと光線、R-4も光線を中心に、6枚刃のような装置を向けて体当たりしてくる。かなりの速度ではあるが、それは並のバイクでなら当たってしまうだろうという話であり、このリーンボックス製のエアーバイクの馬力は、その辺のバイクとは比べ物にならない速さを持っている。

 

「うひょー!まるで神風になった気分だ!!」

「感想はいいから撃ってくれ。」

 

このプロトタイプは、スミレの話では一般向けに開発されていたそうだが、バイクのプロレーサーでも“ジャジャ馬”と言われており、興味本位で乗ってしまった大型二輪免許取り立ての一般人には乗れない代物となってしまった物だそうだ。…そんな話、今はどうでもいい。ジンが突撃銃の三点バーストで上手い具合に当てている。更にそこから、投短剣、手投斧、ブーメランのような十字架、邪を払う炎を放つ聖水といったサブウェポンと言うのを使っている。ある意味ゲームでありそうな攻撃方法だからか、生で見るとなんだか斬新だ。俺は左手に454マグナムで撃ち抜いたり、火炎弾を飛ばしたりする。R-4はレーザーカメラと思われる部分に綺麗に当てなければ一撃で粉砕は出来ないが、ビット程度であれば一撃で機能を停止する。アクティブ・ソナーを見る限り後ろからも出現しているが、後ろはネプギア達をターゲットにしているようで此方に向かっては来ない。

 

(すげ)ぇぜ兄貴、これなら余裕で敵地へ迎えるんじゃねぇか?」

「油断するな。反応にないだけで何処かに隠れてるかもしれないぞ。」

「へいへい。」

 

どう考えても、巷で噂となっている“フラグのようにしか聞こえない”という台詞と共に状況が一転する。今まで周辺に居た機械系モンスターが一瞬に消える。それにより、エアーバイクを一時停止する。

 

「なっ、消えた!?」

「黒幕の仕業か。」

 

アクティブ・ソナーと後ろの音を確認すると、殆どの敵がネプギア達がいると思われる場所に反応している。空間移動装置のようなのは付いていない為、恐らくは空間移動系の呪文や魔法によるものだろう。

 

「兄貴、不味いぞこれ!直ぐに助けに行かねぇーーーーーーなっ!!」

 

ジンの会話を途切るかのように、エアーバイクを急発進させる。次の瞬間、さっきまで居た場所に前後からミサイルのようなものが来ており、ぶつかり合い大爆発を起こす。

 

「なんだなんだ!?」

「………。敵もよく考えている。どうやら簡単には逃げたり、助けに行かせない心算のようだ。」

 

進路方向に1機、その後ろに3機の九十九式戦車が挟み撃ち(サイドアタック)を仕掛けている。

 

「失敗したな。ロケット(R)ランチャー位積んでくれば良かったか。」

「暢気に後悔している場合か!!」

「後悔ではない。反省だ。」

「どっちも変わんねぇよ!!」

「まぁ、こんなところで消耗する気はない。短期戦で行くぞ。」

 

エアーバイクの右レバーを捻り、アクセル全開にする。此奴らを倒し、ネプギアの元へいち早く行かなければならない。だが、俺は一つだけ考えている事がある。極限の状態に追い込まれた時、女神化してくれないかと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「チュっ。レーダーの反応通り、上手く分かれたっチュね。」

「ふふ、上手く出来たね。」

「ふぅん、変身できないのが多い妹達に物量作戦。そして潰しておかなければならない方に大物を用意、悪くないじゃないか…。くくくっいいザマだ。」

 

ネプギアや永守達に仕向けた方法を確認する為、廃棄物処理場にある使える部品を寄せ集めて作られた、ワレチュー特製のレーダーを見るマジェコンヌ。それを目の前で聞いた、捕まっている4女神は驚きを隠せない表情をしている。

 

「こらー、卑怯だよマジぇもん!正々堂々とやれー!」

「ふんっ、誉め言葉として受け取っておこう。それに、これは作戦だ。卑怯でもなんでもない。」

 

ネプテューヌの言う事に対し、痛くも痒くもないといった態度で言う。確かに、悪=手段を択ばないのは当たり前のようなもの。どんな卑劣な手段を使っても、そこに立っているのが勝者であり結果なのだから。分かっているとは言えネプテューヌ達は、その考えを認めたくはないが事実でもある事に黙ってしまう。

 

そんな時だった。遥か後方の方で、一つの光る柱が見えた。

 

「なんだ、あの光は…。」

「ヂュヂュ!!」

「どうしたネズミ?」

「後方の女神の妹側から強い反応っチュ!!」

「何ぃ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【ズーネ地区:廃棄物処理場・数分前】

 

永守とジンが、エアーバイクで先行した10秒後に、ネプギアを筆頭に後を追うよう向かった。そして、迫り来る敵を、連携を取りつつ次々と倒していくのだった。

 

「覚悟して下さい…!」

「ラムちゃんは、わたしが守る…!」

「うん!わたしが、どんどんヤッつける!!」

「当たって!!」

「行きます!!」

「痛いのいくですよ!」

「邪魔よ!」

 

向かってくるモンスターはそこそこ多いが、永守の活躍もあってか優勢に且つ練習通りに戦う事が出来ていた。

 

 

その時が訪れるまでは…。

 

 

「えっ!?」

「こ、これは…!」

「な、何よこれ!」

「て、敵さんが、一杯現れたですぅ…!」

 

 

突如、全員を囲うかのようにモンスターが急に大量発生し、陣形を崩す事が分かっているのか、攻撃が激化、形勢が逆転してしまい劣勢に立たされてしまった。

 

「(どうしよう…私、間違ってたのかな。私のせいで、皆やられちゃう…!)」

 

R-4から放たれる連続攻撃を防御壁で防いではいるものの、劣勢に立たされてしまった反動か後ろ向きな考えになってしまう。永守を先行したのを何故止めなかったのか。今の状況になるまでに何か間違った行動をしてしまったのか…と自問自答を繰り返している。

 

「(ダメ…、やっぱり、私、何も出来ない…助けて…お姉ちゃん、永守さん…!!)」

 

やっぱり、誰かに頼らなきゃだめだ…そう考えた時、ネプギアはある事に気づいた。まただ…また誰かに頼ろうとしていると。それと同時に、特訓前にユニが言った事が急に脳裏に響いた。何かを恐れており心にリミッターが掛かっている事…。

 

「(私が怖がっている事…、お姉ちゃんが居なくなったり、妹じゃなくなる事…。)」

 

ネプギアは考えた。姉であるネプテューヌに構ってもらえなくなる事や、皆から本当の意味で頼られる存在になる事を恐れているのか。だが、それらは当てはまらない事に気づいた。

 

『ネプギア(ちゃん)!?』

「アイちゃん、ギアちゃんが!!」

「っ!?」

 

ネプギアの体が徐々に周囲を照らす程、強く光り出しそれにその場にいる全員が気づく。

 

「(私は、ずっとずっと、お姉ちゃんに憧れていたかったし、甘えて居たかったんだ…。私が一番恐れていた事。それは、お姉ちゃんを超える…お姉ちゃんより強くなる事!)」

 

R-4からの攻撃を払いのけたネプギアの表情には、一瞬の迷いもないと言える自信に溢れた表情になっていた。まるで、今起こる事が出来るんだとも思える表情になっている。

 

「お姉ちゃんを取り返す為なら、私は…誰よりも強くなる!」

 

次の瞬間、ネプギアを包み込んでいた光が更に強くなり、その光から現れたのは白いレオタードを身に纏い、プロセッサユニットが現れる。持っていたセイバーはM.P.B.L.(マルチプルビームランチャー)へ変形する。

 

「やあああああああ!!!!」

「ネプギア!!」

「ネプギアちゃん…。」

「すごーい!!」

 

今まで押されていたR-4をM.P.B.L.(マルチプルビームランチャー)の一振りで蹴散らし、上空へ飛び周囲のモンスターを強力なレーザーで貫く。絶望だった状況がネプギアの女神化とその活躍により、希望の光の如く周囲の士気が上がる。

 

「引くことはできません…。だから、前へ突き進みます…!!」

 

 

 

 

 

「兄貴…!!」

「ああ…。女神化だ。」

 

挟み撃ちにされ道を阻まれており、エアーバイクから降り応戦していた永守とジンも、女神化する際に放つ光に気づいた。既に4機あった九十九式戦車を2機撃破している。

 

「ここにネプギア達が来るのは直ぐだろう。ならば、道を作らなければな。」

 

永守がそう言うと、サングラスを投げ捨てトラベルハットを深く被る。が、目の辺りが輝いている事に気づいたジンは驚く。

 

「兄貴、その目は…!!」

「話は後だ。此奴らを蹴散らして、道を開けるぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「雑魚モンスターが殆ど倒されているだと?」

「案外やるっチュね。獨斗永守という奴に仕向けた危険種も、足止め程度にしかなってないっチュ。」

「まぁ、あの子が女神化しなくても、永守が助けに行ってたろうね。」

「ふんっ、まあいい。奴らにとっては丁度いい準備運動になっただろう。」

 

ネプギアの女神化開放により、レーダーに反応しているモンスターの数が急激に減っていく。若干の不服な所もあるが、エンデに忠告されたこともあり、織り込み済みと思わせる素振りをしている。

 

「ふっふっふっ…丁度退屈していたところもある。それに、女神たちの前で、妹達を倒す。その時のお前達の表情を見るのも悪くない。」

 

例え、誰が掛かってこようが誰にも負けるわけがない。そんな考えが顔から出ているのが分かる。そして、不敵な微笑みが響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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あの後、無事合流に成功し、各々乗り物に乗って最深部へと向かっている。ネプギアが女神化していたのを確認すると同時に、全員俺の目が女神化と同様の事になっているのもあり、移動しつつ事の経緯を話し黙っていた事に謝る。最初こそ驚いてはいたが、直ぐ納得したという雰囲気になる。

 

「済まない、皆。俺は…。」

「永守さんが謝る事はありませんよ。確かに、最初は驚きましたし、なんでそんな事をしてしまったのか一瞬考えてしまいました。でもそれは、何かを守るためであり、永守さんの覚悟なんですよね?」

 

ネプギアの言っている事は大体合っている。超能力だけでは、生身の体での限界が来てしまい、何時か越えられない壁に当たるだろう。その為にも、限界を超える力を手に入れる必要があった。その時に現れた光と闇の力。その恩義は絶大だが、同時に俺は人間の寿命を遥かに超越するという呪いとも言える負を抱える事となっている。

 

「まぁ、どんな力を付けようが、永守は永守よね。」

「はいです。永守さんは、永守さんです!」

「うん、永守お兄ちゃんは変わらない…!」

「そうよね、アンタなら間違った力の使い方をするなんて事はないわね。」

「ぶっちゃけて言えば、俺も兄貴と同じ…と言う訳じゃねぇが一度死んでるから、人間やめてるのかもしれねぇな。」

「そういうと、私も女神と言う恩恵を受けていますし、そうなりますね…。」

「………、フォローしてるのか捉えにくいな。」

 

日頃の行いが影響しているのか、俺だから大丈夫的な印象を受けている。

 

「それに、永守さんにお礼をしなきゃいけません。」

「お礼…?」

「はい…。私、気づいたの。お姉ちゃんや、色んな人達からずっと守られていたい…だから、弱いままの私でいいと、ずっとそう思ってたんです。でも、それじゃダメだ…お姉ちゃんより強くなりたいって、そう願ったんです。」

「それで変身できるようになったの?参考にならないわね…、弱くいたいなんて思った事ないもの。」

「そ、そうだよね…。」

「だが、それはネプギアにとっては大きな一歩になったことに変わりはないだろう。憧れから超えなければならない存在と捉えたのだから。別に憧れる事は悪い事ではない。だが、それは気づかない内に自分に甘くなってしまう…。」

 

そう、憧れる事は、様々な事で強くなる為の目標でもあり最短距離にもなる。だが、それは何時か壁にぶつかる事となる。幾ら真似をしても、そのやり方が万人に出来るものではなかった場合、自分なりにアレンジしなければならない。そして、その憧れの存在を神聖視しているのであれば、尚更壁にぶつかってしまう。自分の憧れの存在でいたかった。それが歯止めになっていたのだろう。

 

「見えて来たわよ。皆、心して。」

 

アイエフがそう言うと、全員が前を向き身構える。前回行った場所までもう少しで着く。

 

 

 

 

 

そして、決戦の場へと到着した一行は、ネプテューヌ達はまだ囚われの身となっているが、無事であることを確認する。

 

『お姉ちゃん…!!』

「ロム…ラム…。」

「ユニ…。」

「…!?す、スミレ…ちゃん…?」

「ベール姉さん…なんてこと…。」

「ネプギア、変身出来たんだね。それに、えい君も来たんだね…。」

「うん、直ぐに助けてあげるからね!永守さん。協力出来ますか?」

「ああ。」

 

ネプテューヌ達を助ける為に、結界の方へ向かおうとネプギアが一歩前へ出た時、不敵な笑い声が聞こえて来た。そこには、永守が撤退する際に襲い掛かって来たマジェコンヌ、そこにはエンデの姿も居た。

 

「エンデ…マジェコンヌ…。」

「ほぉ、私の名を覚えて居たのか。よくもまぁ戻ってきたものだ。まぁいい、小娘達の妹に挨拶がてらだ。私の名はマジェコンヌ。4人の小娘が支配する世界に、混沌という副因を――――――」

「コンパちゃぁん!会いたかったっチュ!!」

「えぇ!?あ…はいですぅ…。」

「ええい貴様、いい所で邪魔をするなぁ!!」

 

マジェコンヌの後ろからワレチューが現れ、目をシイタケのような輝きをしつつ会話に割り込んでくる。何だこの協調性のない悪は的な雰囲気をネプギアサイドは思っている。

 

「ふふ、中々面白いでしょ?結構退屈しないんだよ。」

「貴様、分かってて止めずに楽しんでいるだろ!!」

「揉めるのは勝手だが、貴様らの目的はなんだ?」

「そうですよ、どうしてこんな酷い事をするんですか!」

「ふん、いいだろう。冥土の土産として教えてやろう。私が求めているのは、女神を必要としない新しい秩序。誰もが支配者に成りうる世界だ…!」

 

誰もが支配者に成れる世界、弱肉強食の世界を求めているのか、争いが絶えない世界を求めているのか…。永守はそう考えている。

 

「それって、貴方が支配者になろうとしているだけじゃないですか!!」

「私より強い奴が現れれば、そいつが支配者になる。それこそ平等な世界だ。違うか?」

「力ある者が上になるって言うのか?馬鹿馬鹿しい。最もらしい事言って俺達を納得させてぇのか?」

「要するに女神の力が羨ましいんでしょ!?」

「ふん…。そのように思っていたこともあったなぁ…。」

「エンデ、お前はどうなんだ。」

「僕は上に立つのは面倒だね。玩具を壊すのが僕の楽しみなんだから。」

 

エンデの理由も問いただしている時、マジェコンヌが帽子を深々と被り直したと同時に、ネプギア一行を睨み返した瞬間、マジェコンヌの体が光り出し姿が変わる。それはまるで女神化のような姿だった。

 

『!?』

「なん…だと…!?」

「くくく…どうだ。驚いたか?私も貴様等と同じく、女神の力を手に入れたのだ!」

「変身!!」

「な、なんで!!あの人は女神じゃないのに!!」

「気を付けろ!野郎は変身だけじゃ―――――」

 

ジンが全員に何か警告をしようとした時、永守も含め念動力のような力により宙に浮かぶ。

 

「なっ!!」

「これは…!!」

『永守(さん)(永守お兄ちゃん)(永兄)!!』

「余計なことは言わせないよ。この二人は僕の玩具だ。」

「ふん、好きにするがいい。」

『うおあああああっ!!』

 

それを聞いたエンデは不気味な微笑みをしつつ、反対側、結界の奥の方へ永守とジンを念動力のようなもので吹き飛ばす。

 

「永守さん、ジンさん!!」

 

ネプギアの声と共に、全員が吹き飛ばされた永守とジンを追おうとした時、マジェコンヌが立ちはだかり道を阻む。

 

「そこを退いて下さい!」

「そうはいかんなぁ。貴様らの相手は私だ。小娘共と同じく、貴様等に絶望を与えてやろう!」

 

マジェコンヌの持っていた槍が、大剣へと変化しネプギアに襲い掛かる。

 

「クロス、コンビネーションッ!!」

「えっ!?ああぁあああ!!!!」

「嘘ぉ!!わたしの必殺技!!」

 

ネプギアが吹き飛ばされた事、マジェコンヌが繰り出した技にその場にいた全員が驚く。マジェコンヌが繰り出した技、それは紛れもなく、ネプテューヌが使う必殺技の一つだからだ。

 

「っ…!どうして、その技を…!」

「ふっふっふっ…。私には他人をコピーする能力があってな。遂には女神の力をコピーする事に成功したのだ。」

「そんな…!!」

「ついでだ。私はこんなことも出来るのだ…!パイロキネシスッ!!」

 

マジェコンヌが左手をネプギアに向け掛け声を言った瞬間、掌から火炎弾が3発ネプギアの方に向かっていく。向かってくる炎に驚きつつも、体制を立て直し辛うじて避ける。

 

「(そんな…!あれは永守さんが使っている技…!!)」

「テンツェリントロンペッ!!」

「きゃああああ!!」

 

永守の超能力による火炎弾を使ったという事実に驚いてしまった事が無防備となり、大剣から戦斧に変化した武器による、ブランが使う必殺技をネプギアは真面(まとも)に受けてしまう。

 

「さぁ、終いにしようか…!」

「やめて!!」

「あぁん?」

「ネプギアちゃんを、虐めちゃダメ…!」

「ネプギアに酷い事しないで!!」

「はんっ、餓鬼(ガキ)はオシャブリでも咥えてな!!」

 

女神化しているとはいえ、強力な攻撃を受けてしまった為かネプギアは直ぐに立ち上がる事が出来ない。ロムとラムの悲痛の言葉に容赦なく返し、マジェコンヌによる戦斧がネプギアに振り下ろされる。だが、その攻撃はある人物によって食い止められ、金属音がぶつかり合うような音が響く。

 

「何ぃ…?」

「す、スミレ…ちゃん…?」

 

ネプギアの目の前に、戦斧を弓のようなもので受け止めている、緑色のポニーテールを残したロングヘア―、若干胸が協調されているものの、薄灰色と緑のラインが入っている白のレオタードタイプのプロセッサユニットを纏っている、女神化したスミレの姿がそこに居た。そして、弓を薙ぎ払うようにしてマジェコンヌとの距離を作る。

 

「立てる…?」

「あ、ありがとう。スミレちゃんだよね…?」

 

女神達にのみ極秘に伝わっている為、ネプギア達もスミレが女神化できることは知っていたが、直に見るのは初めてな為、若干戸惑っている。ネプギアの質問に対して、スミレは只頷くだけだった。如何やら、変身すると無口になってしまうらしいと察する。

 

「今度は、私が守る…!」

 

そう言って、何処から兎も角現れた矢をマジェコンヌに向けて射る。女神化しているだけあって、矢の速さはかなりの速度だが、が見え見えだったのか避けられてしまう。

 

「素人め、貴様の能力はこうやって使うのだよ!ボムアローッ!」

『あぁ!!』

 

マジェコンヌの持っていた戦斧が弓に変わり、放たれた矢がネプギアとスミレの足元に刺さり大爆発が起きる。

 

「ぐっ…!!どうして…!!」

「くくく…、気に入らないが、これもあのクソガキの御陰と言っておこう。下らない話はここまでだ、二人纏めて終わりにしてやろう。」

 

そして、マジェコンヌは2人に容赦なく攻撃をしていく。2対1と有利な立場だが、スミレは実践戦闘の経験が少なく4女神の必殺技の情報が少ない為に、防御に徹する状態となってしまい、対するネプギアもマジェコンヌの隙の無い攻撃に隙を見出せず防御に徹してしまう。

 

「わたし、あの人、嫌い…!」

「わたしも、あのおばさん、大っ嫌い!!」

「やっつけるっ!」

「うん!二人で!!」

 

ただ見ているだけで怖がってばかりじゃ何も起こらない、二人でマジェコンヌを倒す。ロムとラムが一つの覚悟を決めたかのように、二人手を握り合わせた瞬間、二人の体が光り出す。

 

「んん?」

「ロム、ラム…!」

 

ロムとラムの輝きが更に強くなり、女神化が始まる。同色のプロセッサユニットだが、ロムは水色の髪と杖、ラムは桃色の髪と杖を握る。今ここに、ホワイトシスターズが誕生したことに、ただ見ているだけのブランも驚きつつも喜びを感じていた。

 

「絶対許さない…!」

「覚悟しなさい!」

「ふん、餓鬼が2人女神化したところで、何が出来るというのだ。」

「だったら、貴方を倒すまでよ。行くよ、ロムちゃん!」

「うんッ!」

 

二人がマジェコンヌに向けて杖を(かざ)す。杖の先端に魔力が溜まり、巨大な氷の塊が出来る。

 

『アイスコフィン!!』

 

巨大な氷の塊が驚異的な速さでマジェコンヌ目掛けて飛んでいきヒットと同時に砂埃と煙が立つ。

 

「ぬぅあっ!!」

『やったぁ!!』

 

強力な技が当たった事で、只では済まないだろうと思いロムとラムは喜ぶ。だが、その喜びもつかの間。煙の中からマジェコンヌが飛び出し、二人目掛けて飛んでいく。

 

「レイシーズダンスッ!!」

『きゃああああああ!!』

「ロムちゃん、ラムちゃん!!」

「なっ!!許さない…!」

 

攻撃を受け吹き飛ばされるロムとラムを見たネプギアとスミレは、すぐさまマジェコンヌに向けて攻撃を仕掛ける。だが、殆どの攻撃を防がれてしまうだけでなく、マジェコンヌの背中に自動砲撃するプロセッサユニットが展開され、更なる反撃を受けてしまう。そんな空中戦を繰り広げている中、ただ一人地上からマジェコンヌに銃身を向けているが震えている候補生が一人いた。

 

「(なんで、アタシだけ変身出来ないなんて…。お姉ちゃんだって見てるのに、なんで…震えが止まらない…。)」

 

恐怖で震えているのか、はたまた変身出来ないでいる自分に怒りを覚えているのか分からない状態のユニがいる。だが、直ぐに気づく。また、“どうしてお姉ちゃんの事を考えているんだ”と。そう自問自答している間も、マジェコンヌは容赦なく4人に攻撃を仕掛けていく。4対1になったにも関わらず、マジェコンヌに押されている状態だ。

 

「(何考えてるのよアタシ。今はそんな事を考えてる場合じゃないでしょ…!そうよ、ユニ…。永守が言ってたじゃない。今のアタシに出来る事をやる。そう、今は標的の事を考える事のみ…!!)」

 

そう言ってユニは、マジェコンヌに向けて銃口を構える。

 

「食らいなさい!エクスマルチブラスター(X.M.B.)ッ!!」

「なぁっ!!」

 

ユニの撃った銃口から強力なレーザーが放たれ、マジェコンヌのプロセッサユニットを一部破壊する。

 

「迷いはない…、あるのは、覚悟だけ…!」

「ユニちゃん、カッコいい!」

「おめでとう…!」

「ユニちゃん、すごーい!」

「やったねユニちゃん。変身出来たね!」

「…へ?」

 

どうやら、変身出来ている事に気づいてなかったらしく、自分の姿を改めてみて飛んでいる事にも気づく。

 

「ま、まぁ、当然ね!主役は最後に出るもんだし、切り札は最後に出すものよ!」

「うん!」

「ユニ…。」

「皆、素晴らしいですわ…!」

「(皆…やったね…!えい君も、頑張ってるんだから、これなら…。)」

 

女神候補生全員の女神化、そして自らの力に恐れていたが、覚悟を決め女神化したスミレを含め、ネプテューヌ達に一つの希望が見えて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、同時に絶望も刻々と迫っている事に、ネプテューヌ達含め全員は気づいていない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


次回は、時間を少し戻して永守・ジンVSエンデの方をやっていきます。




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Scene25 希望~The Moment of Truth~

 

 

 

ズーネ地区の廃棄物処理場にて、ゲイムギョウ界の運命を左右するであろう戦いが始まろうとしていた。ネプギアを筆頭に、今回の主犯であるマジェコンヌ似立ち向かおうとした際、側近と思われる“エンデ”という者に永守とジンが反対方向へ吹き飛ばされてしまう。エンデと同族であるニグーラにより、壊滅してしまった地球、そして死んでいった仲間達の無念を晴らす為、右も左も分からずゲイムギョウ界に舞い降りた永守。転生し新しい人生を歩もうとするも、第二の家族とは言え、エンデにより殺されてしまった事により、エンデに復讐を誓ったジン。幸か不幸か、目的は違えど標的が一緒であり、運命的に出会ったこの二人は、ゲイムギョウ界の運命を掛けた戦いに巻き込まれることとなる。

 

 

 

 

 

そして今、永守とジンは、エンデに立ち向かおうとする………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジンが、マジェコンヌの何かを言おうとした時に、念動力(テレキネシス)に似たエンデの能力により、結界の真上を通り過ぎた先に吹き飛ばされてしまう。

 

「ジン、大丈夫か。」

「イテテテ…すっげぇ吹き飛ばされたけど、俺は大丈夫だぜ。」

 

そう言って、直ぐ立ち上がった俺は、ジンに手を伸ばし起き上がらせる。結界から少し離れてしまうが、辛うじてネプギア達が戦おうとしているのが見える。ここで、ジンが言いかけた事を聞いてみる。

 

「ジン、マジェコンヌの事を知っているのか?」

「ああ、元いた世界にあったゲームの話だがな…。姿形がそっくり、というより本人に違いねぇ…。もし本当なら、奴の能力は“コピー”だ。」

「吸い込んで飲み込んだら、その力をコピーするのに近いな。」

「あ~………。まぁ、確かに似ているが、アイツは触れた物やデータがあればコピーをしてしまう厄介な野郎だ。」

 

 

 

 

 

しかし、そんな会話に割り込むように、エンデが上から降ってくる。なんと、足には骨のようなものが6本生えており、それが着地と同時に地面に突き刺さる。

 

 

 

 

 

「ふぅん…やっぱり君の居た所はクレーターにしておくべきだったかな?」

「な…!?」

「少し見ない内に、妙な変わり方してるな。新手のファッションか?」

「流石は永守…。こんな姿を見ても怯えたりせず冗談を言うんだね。でも、その余裕もいつまで持つかな?」

 

エンデから明確な殺意が出ているのが分かる。腑に落ちないな。最初は俺を仲間にするとか確保とか言いつつ、今は俺に対しても殺意を放っているのが分かる。

 

「俺を仲間にするのは諦めたのか?」

「残念ながら、諦めざるを得ない事になってるからね。本来であれば、呪いの支配を流し込んで契約が完了する…はずだった。」

「はずだった…?」

「そう、はずだったんだよ。まさか女神の力も紛れ込んでいるとはね。紛い物とは言え衝突する力、相反する力…。二つ合わさった時の爆発力は絶大だけど、同時に使用者の肉体も、精神も崩壊させる。いやはや、素材としては最高級だったけど、器としては不合格…。本当に残念だよ。」

「兄貴、俺思ったんだが…。此奴、俺が思ってた以上にやべぇんじゃねぇか…?」

「だろうな。俺達の事を玩具としか見てないようだ。」

 

今まで戦ってきた相手は、狂っているのも居たとは言え、何かしらの目的があっての行動だ。だが、此奴は今まで出会った奴とは明らかに違う。自らの欲望や快楽を得る為には手段を択ばない。気に入った物は溺愛し、気に入らない物は捨てる。それこそ、子どもが玩具を扱うようにだ。

 

「だが、それでも分からないな。」

「何がだい?」

「お前程の力があれば、一人でこのゲイムギョウ界を吹き飛ばす事ぐらい容易いはずだろう?だが、何故人々を…、俺を巻き込む上に、女神達を巻き込んだ。」

 

今更どういう理由があっても、此奴は消さなければならない。だが、幾らサディストとは言え、此奴も何かしらの復讐とかがあって動いてるはずだ…。だが、奴から出て来た言葉は以外なものだった。

 

「なるほど、なるほど。確かにね。僕がどうして直ぐ玩具を壊さないかね…。それはね、復讐だよ。僕を…いや、僕達を作ったにも関わらず、用が無くなったら、ゴミ屑のように抹消しようとした人類に…。」

「おいテメェ、作られたってどういう事だ…?」

「そうだよ、僕達は作られた存在だよ。初代女神によってね。知っているはずだよ。遥か昔のゲイムギョウ界は、女神同士の戦いが繰り広げていた。それこそ破壊の限りを尽くすように…。」

「まさか、お前は“タリ”の…。」

 

タリ…ルウィーで調べた内容としては、今のプラネテューヌから少し離れた場所にあり、初代女神が争っていた女神戦争の中でも常勝と言われており、その勢力は絶大であり他の3女神も中々手を出せなかった国。だが、独裁政治により、重労働は当たり前でありつつ人体や怪物実験も行っており、やがて市民によるクーデターが起きた…記録にはそうなっている。しかし、タリと言った瞬間、エンデの表情が変貌する。

 

「その国の名を言うな!!あのクソ女神は、勝利が確信に迫った瞬間、僕達4人をゴミのように捨てた…。最高傑作とか言っといて杜撰(ずさん)な扱いだよ。」

「待て…、その前にクーデターがあったはずだ。」

「そう、あったねそんなのが。…まぁ、主犯は僕だけどね。その後、誤算だったのが女神達全員が協力し合った事だけどね。その妹と裏切者によって封印される…。全く持って不愉快だよ。そうだよ、君の中にある力がそうだよ…。」

 

エンデはクーデターの事を言いつつ、俺に指を差す。それと同時に俺は右手で自分の胸に手を当てる。俺の中に宿るラリマーハートことセグゥと、闇の力を持つゼロ。まさか…。

 

「そう、それだよ。君の中に眠る二つの力…。憎い二つの力…。タイム・ポータルから戻って来た裏切者は“正義に目覚めたから”とかふざけた事言ってたっけ…。」

「お、おい兄貴。アイツの言ってる事って何だよ…。」

「………。そのままの意味だ。」

 

俺の中に眠る二つの力。エンデを含めた終焉(エンド)を犠牲になりつつ封印した力になる。何の因縁かは知らないが、再びその力が目の前にあるってことになる。

 

「だが、僕はあの間抜けな人間から解放された時に気づいたんだ…。全世界の人類。そう…女神も、人間も、存在する価値すらない!!それが、全世界の真実なんだよ。」

「何だよ…テメェも結局は、今の世の中が気に入らねぇって事か?」

「人間の価値とかは、お前が決めるものじゃない。」

「この世はね…力ある者が正義なんだよ。あのおばさんが言うように、力がある者が全てなんだよ。そうだ…、正義を振りかざすように、僕達を力で滅ぼし封印をした女神や人間、裏切者のようにね。………下らない話はここまでにしようか。」

 

そう言ってエンデは俺を見つつ指を差す。

 

「君に個人的な恨みはないけど、数百年間の恨みを晴らし、破滅へと導いてあげるよ。」

 

そう言って、エンデの両手から赤と黒色の光が出始める。まさか、深紅の石と漆黒の石か?あの石をどうにかしないと勝ち目はないだろう。

 

「ジン。奴を女神達の元に行かせた時点で負け確定だ。ここで食い止めるぞ。」

「きっつぃ条件だな全く。なら、大技を決めてぇから、時間を稼いでくれねぇか?」

「分かった、俺が囮になる。」

 

そう言って俺はエンデに向かって歩く。

 

「へぇ…。何を相談したか知らないけど、僕と一騎打ちするって訳?」

「いや、3人だ。俺の魂、そして女神の加護と、この右腕だ。」

 

そして、右腕をペンダントのある胸元に向ける。

 

「ゾディアーク…解放っ!!」

 

力が溢れると同時に、俺の周囲に黒い光が集まり、弾けると同時に服装が変化する。それと同時に、地面から出て来た2本の黒い霊剣のような“影剣”を取る。

 

「さぁ、始めようか。」

「それが、裏切者から貰った力…。姿は違うけど、能力はそのままなんだね。でも、姿は殺し屋みたい。さて、君は何処まで扱えるのか…な…!!」

 

その言葉と同時に、エンデから無数の骨の槍が放たれる。それを持っている影剣で受け流しつつ接近する。エンデの周囲を周っているジンもしっかりターゲットに入っているが、影剣を投げてそれを阻止する。

 

「くっ…!ちょこまかとしつこいね。」

「何も力を付けてなければ回避は難しいな。だが、今の俺にとってこの単純な攻撃はいなせる。」

「言ってくれるね…!!なら、ギアを上げるまでだよ!!」

 

やそう言ってエンデから放たれる槍の速度が上がる。だが、力は相当なものだが、攻撃方法は至って単純。そこに大振りのような太い骨の槍が迫ってくる。

 

「そこだ…!」

 

その太い槍を回避しながら、エンデに向かって影剣を投げつける。影剣はエンデの顔面目掛けて飛んでいくが、それを弾かれる。だが、俺の狙いはそれじゃない。

 

「残念、急所狙いは分かっていたーーーーー何処だ…!!」

「ここだ…。」

 

にゅるり、と言う感じが合うだろう。そんな感じでエンデの下から現れ、大型マグナムを足元の骨や、足を狙う。

 

「ふんぬぉおおおああ!!」

 

残影…と言うより影潜りに近い、ゼロの能力の一つ。影がある所でなら、影に潜り込み、影を辿る事が出来る。丁度、太い槍の下の影を、影潜りとして利用させて貰った。やはり、至近距離では弾丸を弾くことは出来ないらしい。その弾丸はエンデの体を貫通し、体に穴を開けている。今まで強力な攻撃を受けた事がないのか、まるで素人戦士が初めて重い攻撃を受けたかのような反応をしている。

 

「兄貴、離れてくれ!!」

 

ジンの声に反応するように、俺はジンと入れ替わるように離れる。すると、ジンが経った場所を中心に十字架のような光が現れる。

 

「闇へ還れ…、グランド、クロスッ!!」

 

その声と共に、ジンを中心とした十字架の光が更に強くなり、当たりを焼き尽くすような音も聞こえてくる。その光が収まるとジンの周辺以外は、十字を描くように周辺のガラクタやゴミから焼け焦げたような跡と共に一部が消滅している。俺は変身中の仮面を取り、意識を元の姿に集中させてゾディアーク状態を解除し、ジンの元へ寄る。

 

「見事な技だ。…いや、技と言うよりは魔法か、呪文か。立てるか?」

「ああ、なんとかな。切り札があるなら出し惜しみしたくはないんでね。兄貴こそ、あんな切り札があるとはな。」

「…あれは、切り札と言うモノじゃない。」

「それでも、今はアンタの力なんだろ?」

「あの姿を見ても、引いたりはしないんだな。」

「馬鹿いうなよ兄貴。最初に言ったろ?兄貴の意志があるのなら、兄貴…だろ?」

 

超能力という魔法とは別の異質な能力に加え、人間を辞めてしまったに近い状態の俺を、俺として見るかどうか…。俺は良い仲間を持ったと思う。性格は違えど、暗殺術や感情を捨ててしまった俺を、受け入れてくれた剣士と同じだ。

 

「さて兄貴、次の相手はマジェコンヌだな。」

「そのようだな。だが、俺は奴が死んだかどうか確かめてから行く。」

「何言ってるんだよ。アイツは周囲を見ても見えない。つまり死んだに近い。」

「それでもだ。確認しなければならない。」

「あーあー…分かったよ。満足したら直ぐ来てくれよ?」

「ああ…。」

 

そう言うとジンはネプギア達が戦ている方へ走っていく。俺は銃を構えつつ焼け焦げた周囲を散策する。何もないように見えたが、目を凝らすと何か光っているのが見える。その光っているのを拾い上げる。

 

「…深紅の石…か?」

 

エンデが持っていた錬金術による、賢者の石の課程で生まれた石の一つ。多くの命を生贄として誕生した呪われた石だ。この石は存在してはいけない、直ぐに破壊しなければならない。

 

「………クッ………。」

 

俺は何故か躊躇ってしまう。この石に含まれている魂は、嘗てS.T.O.P.等が守ろうとした市民。それだけじゃない。戦死した仲間の魂も生贄にされている。

 

「………、済まない。」

 

右手に力を入れ、深紅の石を粉々にする。粉々になった石を掌に広げていると、オーロラのようなものが、複数上空に向かっていく。…成仏したのだろうか。その後漆黒の石も散策しようとするが見当たらない。そんな時、後ろの方から悲痛な声が聞こえてくる。

 

「だめぇえええええ!!!!」

「…ネプテューヌか…!!」

 

後ろの方を向くと、結界の色が禍々しい色に変化しているのがここからでも見て取れる。一体何が起きたというんだ。俺は結界の方へ走り出そうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぉおッ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走り出そうとした瞬間。足と胸の辺りから激痛が走る。骨の槍が俺の体を貫通している。後ろを見ると、密着するかのようにエンデがいる。…いや、エンデだったであろう者だ。姿がドラゴンとガーゴイルを足したような姿になっている。

 

「クソっ…気配はなかったのに、何故…生きている…!」

「くくっ、想定以上の深手を負った際、リミッターが外れるようになっててね。もう、人の姿には戻れないけど、手加減も出来ないからね。」

「迂闊だ…通りで、漆黒の石が、見つからない訳だ…。」

「その通り、漆黒の石は今や僕と同化している。それに…これから先、仲間に出来ない以上、君は邪魔な存在だからね。」

「だが、候補生達は、女神化している…。簡単に勝てると…思うなよ…!ぐあ…あ…!!」

 

その言葉に反応するかのように、刺さっている骨の槍を更に深く差してくる。太くなっている分更に抉れていく痛みを感じる。

 

「漆黒の石を、深紅の石と一緒にしないで欲しいね。この石は、アンチクリスタルとも相性が良くてね。この環境は僕にとっては生まれ故郷に近いといってもいい…。」

「クソ…!!」

「しかし、不死身の男と言われていただけはある…。並の人間なら胸を貫かれた時点で瀕死なのにね…。まぁいいや、話にも飽きた…。君の死に様をお仲間に見せないとね。」

「なに…を…?」

「だから、さっさと死ね…!!」

「ぐあぁあああ…!!」

 

骨の槍から複数の刃が現れ、俺は投げ捨てられるかのように骨の槍から引っこ抜かれ結界側へ投げ飛ばされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四女神の妹達が全員女神化し、更にベールの新たなる女神候補生になると誓ったスミレこと、グリーンシスターも含め戦力が大幅に上がった。全員の連携攻撃により、マジェコンヌに攻撃をする隙を与えない一方的な展開となっている。そして、ネプギアの攻撃がマジェコンヌの腹部にクリーンヒットした…。

 

「くくく…今のは中々痛かったぞ。だが、その程度でこの私は倒せんぞ!!」

「ど、どうして…!倒せたと思ったのに…!」

「聞いている感じが少なくなっている…。」

 

全員が決まったと思ったように見えた。しかし、攻撃は一方的に与える事は出来ているものの、その全てが致命打には至っていない。それどころか、スミレが言うように時間が過ぎていく事に、マジェコンヌの攻防が徐々に高まっているように見えている。だが、不安要素はそれだけではなかった。

 

「冷たい…。」

「わたくし、既に感覚がありませんわ…。」

「えぇええ!!」

「そうね、麻痺し始めて来た…。」

「全身を絡め取られる前に、なんとかしないと…!」

 

ネプテューヌ達が囚われている、結界内部に溜まっている黒い液体が、ブランとベールの足元近くまで溜まっていくと同時に、四女神に複数の黒い手のような物体が、まるで能力を吸収するかのように絡まっていく。

 

「ネプ子!!」

「あ、アイちゃん!!」

 

コンパがワレチューの気を引き付けている間に、アイエフが結界に近づく事に成功する。そして、そこに丁度ジンが滑り込むように現れる。

 

「アイエフさん!これは…!!」

「ジン!!…永守は?」

「兄貴は調べ事があるって、まだ向こう側にいますぜ。多分直ぐ来るだろう。」

「あまり時間がないから仕方ないわね。ネプ子!イストワール様からメッセージがあるの!!」

 

アイエフが懐から端末を取り出し起動すると、イストワールが端末上に現れる。

 

≪皆さん、アンチクリスタルの件で大変な事が分かりました…。≫

 

イストワールの口から、アンチクリスタルの正体が開かされる。アンチクリスタルは、触れている、又は結界のような展開されている内部にいる間、女神とシェアクリスタルとのリンクを妨害する特徴がある。それだけでなく、行き場を失ったシェアエナジーをアンチクリスタルに置き換え、密度の濃いアンチエナジー程シェアエナジーを蝕むだけでなく、女神の命も奪うと語られる。

 

「なんだよ…それ…!」

「じゃあいーすん、どうすればいいの!」

≪今の所、対処法はありません。3日程あれば…。≫

「ベール!!」

 

ネプテューヌの悲鳴のような声が響く。アンチクリスタル内の黒い液体が、既にベールとブランの胸元まで溜まっており、その溜まる速度が最初の比にならない程早くなっている。ネプテューヌはベールの手を、ノワールはブランの手を掴み少しでも持ち上げようとする。だが、健闘虚しくブランとベールは沈んで行ってしまう。

 

「だめえええええええ!!!!」

「えっ!!」

「お、お姉ちゃん!」

「そんな…!」

「何なの、あれ…!」

「わ、わかんない…!」

「くくく、アンチクリスタルはああやって女神を殺すのだ。」

 

候補生達は、アンチクリスタルの方に気を取られてしまい、マジェコンヌから放たれる技を直で受けてしまい地面に吹き飛ばされる。アンチクリスタルの結界を破壊する為、アイエフは銃を連射、ジンは鞭やあらゆるサブウェポン、そこにコンパも参戦し巨大な注射器を突き刺す。だが、壊れる気配は全くなく、コンパの注射器の先端が折れてしまう。

 

そんな絶望が近づくように見える中、更なる絶望とも言える光景が現れる。

 

「………。帽子…?兄貴のか…?」

 

ジンの足元に風に流されてくるかのように飛んで聞いた一つのトラベルハット。それは永守が普段から被っているものだった。次の瞬間、アンチクリスタルの上段に何かがぶつかったような衝撃が走り、アイエフ達の目の前に落ちてくる。

 

「がっ…!!」

「え…!?」

「な…!!あ、兄貴…!!」

 

エンデによって吹き飛ばされた永守がそこにいた。腹部、肩、足に鋭利な刃物でズダズダに引き裂かれたような状態になっている。永守は、アンチクリスタルの方に手を伸ばしている。

 

「ね、ネプテューヌ…ノワール…ブラン…ベール…。」

「喋らないで…!コンパ…!」

「は、はいです…!」

 

コンパが永守の元へ寄り、状態を見る。だが、ズダズダに引き裂かれた部分が多すぎる為、外科手術をも困難な状態。しかも、現状では呪術道具もない上にコンパは、応急手当までであり外科手術の資格がない為実行できない。コンパから言わせれば、そんな状態でも生きている方が不思議なくらいである。

 

「ど、どうしよう…このままじゃ、永守さんが…!」

「くぅ…永守、死ぬんじゃないわよ!」

「俺が…最後までいれば…!」

「…!!」

「どうしたの、コンパ…!」

「え、永守さんが…、永守さんが…!」

 

先程まで力強く握られていた手に全く力が感じられず、それどころか力が無くなったかのように手が下がっている。

 

「そん…な…。」

「お、おい…冗談だよな。兄貴…。」

 

だが、全員に更なる絶望とも言える存在が現れる。永守が吹っ飛んできた方向から重々しい足音がしアイエフ達の方へ向かっているのが分かる。そしてガーゴイルとドラゴンを掛け合わせたような姿のエンデと思われる怪物が現れる。

 

『な…!!』

「ふぅん、やっとくたばったんだね。本当しつこかったよ。」

「エン…デ…!きさまぁああああああ!!!」

「雑魚には興味ないよ。」

「あ、足が…!」

 

立ち向かおうとしたジンの足が突如止まり、止まらない冷汗が出ている。恐怖で足が全く動ない状態となっている。

 

「まぁ、女神達も終わったようだし。僕はこの特等席で候補生達が死ぬのを見るよするよ。」

 

そのエンデの言葉を聞き、アンチクリスタルの方へ振り向く。そこにはネプテューヌ達の姿は既に見えず、ただただ黒い液体が溜まっている。ネプギアの悲痛な声がただ響くだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(どこだろう…ここ…。)」

 

深い、何処までも深いと思うような暗い空間の中、ネプテューヌがゆっくりと目をあけ目覚める。何所を見渡しても、果てしなく続く闇しか見えない。

 

「(わたし、死んじゃったのかな…?)」

 

自分の置かれている環境にふとそう思ってしまう。助けようと思った仲間を助けることが出来なかった上に、自分までも飲み込まれてしまった。そんな先程までの光景を鮮明に覚えているのもあるだろう。

 

だが、微かにだが、力強く今をも生きようとする心音、全身を駆け巡る血の流れをネプテューヌは感じる。

 

「(うぅん…違う、わたしは死んでなんかない…。でも、なんで?シェアエナジーは…もう、届かないのに…。)」

 

 

 

 

 

「(いいや、届いてるさ。)」

「(!?)」

 

突然と聞き覚えのある声のした方へ眼を向けるネプテューヌ。そこにいるはずもない永守がいた。それだけではない。知らない二人もおり、ノワール、ブラン、ベールを導くように集まり、ネプテューヌ、ノワール、ブラン、ベールは互いに手を繋ぐ。

 

「(これは、一体…?)」

「(わたし達、アンチクリスタルに飲み込まれて…。)」

「(ええ…それで終わったかと…。)」

 

四女神全員が、今の状況を飲み込めていない感じである。飲み込まれて死んでしまったと誰もが思っていたからでもある。

 

「(えい君、どういう事なの?それに、その二人は?)」

「(ああ…この二人は…)」

「(いいのですよ、永守。私達は、名乗る程の者ではありませんし、今や存在してはいません。)」

「(そうだな。今や永守の一部だからな。)」

 

名乗ろうとはしなかったが、4人は何となくだが察した。永守の今の力の源となっているのは、この二人が関係しているのだと。そして、手を繋いでいて気が付く。失っていたシェアエナジーが体中に流れ込むような感覚を、そして感じる温もり…。

 

「(暖かい…。)」

「(力が戻ってくる感じ…。)」

「(癒されますわ…。)」

「(………。そっか、わたし達…。)」

 

ネプテューヌ達の体が光り出し、闇の中にある一つの光のように周囲を照らす。

 

“絆”という名のシェアエナジーと共に…。

 

「(行ったか…。)」

「(流石ですね。今の女神達は強い…。)」

「(永守、また無茶をするつもりだな?)」

「(ああ。覚悟は出来ている。)」

「(………。止めはしませんが、貴方も只で済むとは思えません。)」

「(分かっている。だが、この命の炎が燃え続ける限り、今の俺は女神達の進む道を切り開くまでだ…。)」

「(分かりました。但し、貴方が死んでしまったら、きっと彼女達は悲しみます。)」

「(全員生還して、ハッピーエンドを迎える…。それだけだ。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員が絶望している中、マジェコンヌが悲観しているネプギアに向かって、斧を振り下ろす。

 

「何…!」

 

だが、マジェコンヌはその振り下ろした撃を受け止められたことに驚く。

 

「馬鹿な…!何故受け止められる!」

 

ネプギアから湧き上がってくる力に驚き、マジェコンヌは後退する。絶望に満ちていたはずの妹達から、希望が溢れているのを察知したのである。

 

「「お姉ちゃん達は…まだ戦っている。永守さんも…!」

「アタシ達だって…。」

「絶対に…。」

「負けない…!」

「何故だ…何故立ち上がる…!お前達の姉は死んだのだ!なのに、何故…!!」

「全身全霊を持って、貴方を倒します!!」

 

次の瞬間、ネプギア達5人から溢れ出る程の光が周囲に充満する。それは、周囲のアンチエナジーを浄化するかのように広がっていく。

 

「こ、これは…!シェアエナジーの、共鳴…!」

「す、すげぇ…。」

「あんなに…。」

「輝いているです…。」

 

周辺か輝きに充満していくと同時に、マジェコンヌのプロセッサユニットに異変が起きる。アンチエナジーが弱まった事より、プロセッサユニットを展開する為の力が無くなっている為崩壊してく。

 

「むむ、これはちょっと予想外だね。流石にこれは動かないと…――――――!!」

 

状況が一気に逆転している為に、エンデも黙っていられなくなった為立ち上がる。だが、エンデの目の前に立ちはだかる人物がいる。

 

『え、永守(さん)!!』

「あ、兄貴…!!」

「………、帽子を………。」

「あ、ああ…。」

 

そこには、仮面が無くフードがはだけている為、白色の髪が(なび)くゾディアーク化状態の永守が立っており、傷跡はあるものの、深手はなくなっている。そして、ゆっくりとだが、確実にエンデの方に歩いていく。

 

「永守…まだ、生きていたのか…!!」

「ああ…。貴様は俺達の悪夢だ。貴様が生きている間は、墓場に言ってもぐっすり眠れない…。」

「………。でも、君に残されているのは、何もない。僕には勝てないさ。」

「あるさ。俺の命の炎がな…!」

 

永守が身構えた瞬間、永守から闇の力だけでなく、シェアエナジーが溢れているのが分かる。光と闇の混合…それは、あらゆる事でタブーであり相容れぬ存在の二つを同時に発動している事に鳴る。今の永守は、爆発的に戦闘能力が向上しており“アイツ一人でいいんじゃないかな?”とも言える雰囲気になっている。だが、同時に体内で火薬を爆発し続けているような状態である。それは即ち―――――

 

「(これは…!力が漲ってくるが想像以上にきつい…。全身が炎で焼き尽くされるような感覚だ…!持って数秒か…。)」

「な…!!永守、何をしているのか、分かっているのか…!!」

「だからこそだ…。貴様を倒す為の、全身全霊の力だ…!………お前達はネプギアの方に行ってくれ。」

 

アイエフ達はただ事じゃない事を察知した為、その場から離れる。そして、永守は持っていたトラベルハットに風の力だけでなく、影の力と女神の力が混合され、白黒に輝く鎌鼬のようなものになる。

 

「くたばれ…!」

「何かと思えば、今更そんな攻撃など防ぐ必要も―――――」

 

エンデの左腕にトラベルハットが通り過ぎた瞬間、エンデの左腕がズレ落ちる。

 

「な、なにぃいいいいい!!!!」

 

リミッターが解除されているエンデは、あらゆる攻撃に対して絶対的防御力を誇っている為に、永守の攻撃による今の光景が信じられないとなっている。

 

「驚いている暇があるのか…?」

「!?」

 

永守は影潜りによって既にエンデの目の前に接近していた。更に、永守の両手足には黒い炎が纏ってありその状態でエンデを殴りつける。一方的な展開であり、オラオラ状態でもある。

 

「ぐふぅ…!」

 

そこには、ボロぞうきんのようになっている瀕死のエンデの姿があった。

 

「バカな…僕は…全世界を喰らうはずの存在が…こんな、ちっぽけな奴に…!」

「人間の底力…舐めんな…。」

「君は…人間ではない…!」

「だろうな…。だが、それでも…俺を支えてくれる、仲間がいる…。」

「だが、僕を倒した所で…、君自身は、何も救われない…!それに、僕は、簡単には滅びない…!」

「そうか…。」

 

そうして、永守はホルスターから2丁銃を抜き、エンデに向けて構える。銃の先端に何かのエネルギーが貯まるように光り出す。

 

「消え失せろ…。」

 

エンデに向けて強力な白と黒のエネルギー波が放たれ、断末魔と共に消え去る。それと同時に後ろの結界が崩壊すると共に大爆発が起きる。爆発が収まると、そこには一つのクレーターが出来ていた。アンチクリスタルの結界、強敵だったマジェコンヌとエンデの姿もなかった。そして、勝利の光とも言える朝日が昇る。勝ったんだ…ゲイムギョウ界を脅かす存在に…。

 

「お姉ちゃん…何処なの…ねぇ…。」

 

だが、喜ばしい事だが妹達の顔は浮かない。そう、助けるべきはずの存在である姉達の姿が見当たらない。そして、離れてろとアイエフ達に言った永守の姿も…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここよ、ネプギア…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝日が照らす上空の方から、聞き覚えのある声がした。そして、絶望から希望へと変わる瞬間でもあった。そこには、女神化して宙に浮かぶ四女神の姿と、パープルハートとグリーンハートの肩を借りているゾディアーク状態が解けた永守の姿もあった。四女神達が妹達の元へ寄り、それぞれ感動の再会とも思う形で抱き合う。無事、全員生還した上でゲイムギョウ界の明日を救ったのだと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~あ…負けちゃったんだ。ま、向こうは向こうで面白かったけど、ここはこれで面白い物も見れたしいっか。それに、置き土産もあるみたいだし、まだまだ楽しめそうだ。」

 

その輝かしい勝利を収めている女神達を、上空から見ている本に乗っている黒い妖精の姿があった。そして、ある黒い石の欠片を持って何処かへ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シェアクリスタルが燦々(さんさん)と輝いてるよ!」

「ホントだぁ。前と余り変わらないみたい。」

「私も心配はしたのですが、シェアは余り下がらなかったみたいなんです。」

 

あの激戦から数日後、各々自分の国へと戻りシェアエナジーを確認すべく教会に戻ることとなった。あんな写真が出回っていたんだ。影響が出ているか恐れていたが、プラネテューヌは、どうやらそんな心配はなかったようだ。俺の髪が茶髪から白髪になってしまった事なんてどうでもいいことだ。因みに、セグゥとゼロは、今の所俺の右腕に宿っている形になっており、茶髪から白髪になったことを聞いてみたが原因は不明。恐らく、女神化とゾディアーク化と相容れぬ存在の力を同時に使っての、後遺症だろうという事で片付けられる。それ以外は今の所目立った外傷もないが、もう一度使ったら今度こそ心身に影響が出て、廃人になるかもしれないと警告は受けた。まぁ、そんな事はいい。全員が無事、故郷に戻れたんだ。今はそれだけでも十分過ぎるな。

 

「まぁ、これもわたしの人徳がいいからかなぁ?」

「余り期待されてなかったともとれますが…?」

「まぁまぁ、下がらなくて万々歳って事で!」

「とは言え、ネプテューヌさん。仕事をサボった分だけ、下がる事を忘れてはいけませんからね。もう少し永守さんを頼らないようにしないと…。」

「うぐっ…。ま、まぁそれはそれ、これはこれで…。」

「まぁ情報によると、他の国も劇的に下がっている事はないようだな。」

 

それから、他の国のシェアも微々たる程下がっていたが、リーンボックスはあのVRを国民向けに発表し信頼とシェアを獲得。ルウィーは、女神ブランの顔印を模した“ブランまんじゅう”を発表。美味しいとの評判もそうだが、可愛さもあり人気を獲得。ラステイションは、ユニが女神化出来たこともあり、ノワールと共にクエストを熟してシェアを元通り以上にしたと言う。プラネテューヌは…上記の会話の通り何時も通りである。また、宿敵を倒した今、俺はフリーになったが今の所はプラネテューヌに居る予定だ。ジンはまた日本一と、各国を回って正義の元シェアの会得に貢献しているとか。スミレは正式に女神候補生となり、不安はあったが国民からは受け入れて貰えた形となる。各々転生者側も生きる道はある。俺には帰る場所はないが、ここでの出会いは何かの縁だと思い、このゲイムギョウ界に止まる事を決意する。

 

この決意が新たなる戦いに巻き込まれる事になろうとは、この時の俺含め全員が気づくことなど出来なかった。

 

 

 

 

 

 




【用語集】

○アイツ一人でいいんじゃないかな?
 仮面ライダーBLACKRXの”ここはRXに任せよう”という台詞がコラージュされた台詞の一つ。実物は見たことはないが、公式もこの台詞を使ったらしいです。

○オラオラ状態
 ジョジョの奇妙な冒険の、空条 承太郎のスタンド”スタープラチナ”が拳撃の連打時に発せられる台詞のイメージ。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!



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Scene26 束の間の休暇~SummerVacation~

一週間前に一度完成はしましたが、なんか納得いかず書き直した結果こうなってしまった。そんなのでも宜しければ、お付き合い下さいませ。


 

 

 

 

 

「夏だ!水着だ!プールだ!泳ぐよ~!!ひゃっほーい!!」

「いっちばんのりー!」

「待ってよ、ラムちゃん。」

「お姉ちゃん、準備運動しなきゃダメだよ!」

「ロムもラムも、準備運動しなさいよ。」

 

ゲイムギョウ界にも四季というのがあるようだ。話によると、ルウィーも四季によって、雪が溶け、印象がまた変わるとか。今のゲイムギョウ界は7月下旬に当たる。前の世界(地球の日本)として言うなら“夏”であり、ゲイムギョウ界もルウィー以外は真夏日と言っても過言ではない。夏と言えば海と言うが、体力作りとしては最も適している時期もある。最も、女神様も教会職員も仕事&国民を守るという事もあり、それに答える為に日々切磋琢磨しているのは言うまでもない。数名それに該当するかと言われると微妙なところだが…。

 

でだ、ここからが本題なのだが、数日前の出来事になる。そう、それは突然の一言から始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【数日前:プラネテューヌ教会】

 

「と言う訳で、プール行こうよ!プール!」

「…何が、と言う訳なんだ。」

 

仕事(クエスト)を終え、涼しい場所…と言ってもプラネタワーの一室である何時もの居間で、コーヒーと本を片手に休憩がてらの読書中の俺にネプテューヌが、突然のプールへ行こう!と提案してきた。直ぐ近くに居たネプギアも、突然の事だからか目を丸くしている。

 

「本当に急だね、お姉ちゃん…。」

「暑いからネジが錆びたか取れたか…。」

「ちょっとぉ、わたしを割れ物注意的な扱いにしないでよ!」

「…で、どうしてプールに行こうと?」

「だって、皆で集まってあs…体を動かせるんだよ!それにえい君も言ってたでしょ?プールや海で泳ぐのは全身を鍛えるには適してるって。」

「俺はそんな事一言も言ってないぞ。第一話から見直してもな…。」

 

特段プールや海に行こうという理由は、俺からしたら思いつかない。別に教会の冷房が壊れた!とかそんな事でもない。…にも関わらず暑そうな感じでグデェとしているネプテューヌがいる。しかし、スケジュール的に余裕はギリギリないという所であり、正直遊びに行ける余裕はない。そもそも、前回の大戦でシェアが全く影響の無かった為、一時的に僅差でシェアトップになったのはいいものの、それも数日後には僅差(きんさ)で抜かされている状況であり、現状維持するのも今の状態を保つことで補っている。

 

「(この女神がもう少し、仕事に手を付けていればな…)」

「んぁ?なーにーえい君。わたしの顔になんか着いてる?」

「………いや。何も。」

「いーすんさん。何かそれらしいのって無いですか?」

「急に私に振られても困りますよ…。」

 

頼みの綱である教祖イストワールもこの反応である。だが、神はネプテューヌ(駄目神)に荷担する形となった。プールに行けと囁くかのように…。

 

「あ…そう言えば…。」

 

ふと何かを思い出したかのように、イストワールが何かを検索し始める。

 

「え~と~………。ああ、これなら。」

「何だ…?」

「何かあったんですか?」

「ええ、去年も今年のような猛暑が続いてましたから、こんな案件が来てたのを思い出したんです。」

「あ~…去年は相当暑かったよねぇ。冷房が壊れた時は死ぬかと思ったよ。」

「………。それで、ですね。とりあえず、見て頂いた方が早いですね。」

「あれ、無視…?」

 

イストワールから提示された情報は、猛暑により雪は解けるものの比較的涼しいルウィー、広大な美しい海とビーチがあるリーンボックスの2国に、この時期は国民が旅行に行ったりしているらしい。そこで、国民からの要望でそれに似たような施設的なのが欲しい…と。

 

「プール施設を用意したと?」

「ええ、それで3日後には一応完成するので…。」

「それと、どういう関係があるんですか?」

「その施設に視察をして貰おうかと思いまして。仕様書通りに出来ているか、警備体制とか…。」

「なるほど。仕事を兼ねて、施設の評価をしてこいって事か。」

「はい。そうなります。ただ、遊びじゃ無いって事は忘れてはダメですよ?」

「分かっている…。だそうだネプテュー…」

「うん!もうばっちりだよ!」

 

一応話は聞いていたようだが、そこには何時ものジャージワンピに、水中ゴーグルと浮き輪を装備しているネプテューヌが居た。気が早いにも程があるし、遊びに行く気満々な状態にしか見えなかった。で、一応施設の感想を複数欲しいからという事を提示し、念の為3カ国に3日後の事を伝えておくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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そして今現在に至る。開幕早々、仕事の“し”の字もあるとは思えない状況である。なんだかんだで、4カ国の女神と候補生全員が集まっている。それと、ジンにも一方入れて知らせていた為、日本一と共に来てくれた。しかし、日本一はスク水に赤スカーフとはまた変わった装備をしている。後、皆が来ている水着は俺には分からないが、無印やmk2に登場した物というらしい。スミレもここに居て、グラマラスリーフと言う名の水着を着ている。如何やら着痩せするらしく、普通にサイズはネプギア並にあり、ブランが目を丸くして凝視していた程だ。肝心の俺は普通にサーフパンツにパーカーというスタイルをしている。因みに、誘った時の事になるが、最初はノワールは不参加の予定だったが、全員が行くと分かった途端、私も行く!と言い出した。最初から行くと言えばいいものを…。

 

「色々と読者に語るのはいいけど、貴方は貴方で真面目に精査とか…。」

「そいつはブーメランか?」

「何よ、私は私でちゃんと切り替え出来てるわよ。」

 

ノワールに言われる通り、俺はプール施設の全体マップを片手に、監視員の立ち位置や監視カメラの有効範囲等を調べ、警備体制に問題はないかを全体地図を片手に視察している。まぁ、そこは流石プラネテューヌと言った所、これと言って抜け穴は無いといった感じだ。怪我防止の為に数時間毎に、客には休憩をするよう放送を入れるといった事もしている。管理面では申し分無いだろう。

 

「もう、えい君は何時までそんな事やってるのさ?」

「………。メインは遊ぶ事じゃないだろう。」

「むぅ~。それはそうだけどさぁ。折角のプールだよ!バカンスだよ!!これを目の前にして仕事なんて出来るわけがない!」

「ドヤ顔で言われても困るんだが。」

「貴方も苦労してるのね…。でも、ネプテューヌの言ってる事も何となくだけど分からなくもないわ。折角客として私達が来てるのに、目の前で仕事されてるのもね…。」

「そーそー!それに、わたし達の姿を見て何とも思わないの?」

「確かに、それは一理あるわね。」

「それは、わたしも気になるわ。」

「わたくしも気になりますわね。変わっているとは言え、殿方である永守さんが、わたくし達をどう思っているのか…。」

 

ネプテューヌとノワールだけだったのが、何故か急にブランとベールも寄って来ていた。しかもネプテューヌに限っては目をシイタケのように光らせている。昔の俺なら何とも思わなかっただろうが、正直今の俺もこう答える。

 

「………。全員、いい感じに似合ってる。」

『………。』

 

全員何かを期待していた感から、求めていたのと違うというガッカリが漂っている。

 

「え~、それだけ?」

「意外と、普通の回答ね…。」

「ええ、至って普通でしたわ。」

「…期待していた私が馬鹿みたい。(小声)」

「ハードル高いな…。」

「て言うか、えい君。目が明後日の方に向いてるけど…?」

 

ネプテューヌの言う通り、今の4人を俺は直視できていない。前と同じく、俺の目には刺激が強すぎる奴だ。女神化のプロセッサユニットは慣れて来たから直視は出来るが…。するとネプテューヌが揶揄(からか)うように、密着してくる。

 

「ッ!!」

「ふっふーん。そーかそーか。えい君はわたし達の魅惑ぼでーを直視できないと…。」

「だからって、俺の腕に抱き着くな。」

「やーだよー!普段出来ない事を、今のうちにやっておかないと!」(ムニュムニュッ)

 

小さいながらも、確実にネプテューヌの胸の感触が腕に伝わっている。俺が手を出してこないのを知っていてやっているのか…。俺の額から焦っているのか、冷汗が出てくる。ノワールが手を出せばいいのに的な質問をしてくる。

 

「ねぇ、凄いしかめっ面してる割に、なんで手出したり払ったりしないの?」

「本当に悪に染まった女性には手を出さない…そう誓っている。」

「………。なるほど…。じゃあ、えい。」

「な…に…っ!?」

 

ナントイウコトデショウ。ブランが反対側の腕に抱き着いてきた。

 

「ちょ、ブランまで!?」

「何してるんだ…。」

「ルウィーの誘拐事件の時、庇ってくれた事。まだ借りを返してなかったから。これでチャラになるとは思ってはないけど…。」

「それなら、わたくしも。えーい!」

「ええ!べ、ベールまで!!」

「どうしてこうなった…。」

 

恐らく、5pb.のCD売り上げを助けた借りと言った所だろう。だが、何故背中から抱きしめてくる。そして、ワザとなのか豊満な何かを押し当ててくる。

 

「あらあら、御耳が真っ赤になってますわよ。」

「おお、本当だ!…あれ、ベールがしがみ付いてからだよね。なんか負けた気分。」

「………。」(目を細くしている。)

「俺は加害者だぞ。」

「でも、表情が変わってないから良くわからないなぁ…。それで、ノワールは?」

「え、わ、私は良いわよ…!」

「いいんですの?普段、こんな事できませんのに…。」

「次は何時、こんな事出来るか分からないわよ。」

「それだから、ボッチって言われちゃうんだよ!」

「な!ぐぬぬ…。それと今は関係ないでしょ!!」

 

遠慮していた所に、ネプテューヌ達が催促するようにノワールを攻めていく。もう訳が分からん…。

 

「えーい!こうなったらヤケよ!当たって砕けろ!!」

 

ノワールがそう言った途端、俺に思いっきり真正面から抱き着きに行く。

 

 

 

 

トゥルンッ

 

 

 

 

「のわあああああああ!!!!」

『ちょおおおおおおお!!!!』

 

なんと、ノワールが抱き着く少し前で滑り、全員それに巻き込まれて転倒してしまう。良い子はプールで掛けっこや走ったりしちゃダメだぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

並が流れるプールで、日本一含め女神候補生と一緒にビーチボールで、遊んでんのはいいんだが…。遠目で兄貴が女神達に抱き着かれて、転倒している。…なんてこった、ノワールに抱き着かれてるなんて全くうらy…けしからんじゃねぇか!!

 

「おふっ」

「ちょっと、余所見し過ぎだよ!」

 

日本一が飛ばしてきたビーチボールが側頭部へ当たってしまった。

 

「いやな、あれが気になっちまってな…。」

 

指を差した方に、(もた)れ込んでいる兄貴と女神様御一行がいる。

 

「ああ~………。」

「何やってるんだか、お姉ちゃん達は…。」

「でもユニちゃん、なんだか楽しそうだよ。」

「うん、お姉ちゃん、楽しそう。」

「なんだか面白そう。わたしも混―ざろう!!」

「わたしも…!」

 

(もた)れ込んでいる所に、ラムとその後を追うようにロムが、兄貴の所に向かって飛び込む。

 

「ごふっ!!脇腹はきつい…。」

 

まるでタックルするかのように、兄貴の脇腹へダイブした二人。なんか分からないが、兄貴が痛そうに悶えている。何となく、兄貴が俺をも誘ってきた理由が分かった気がするが、あれが主人公特権か…全然羨ましくなんかないからな…決して…!

 

「ねえジン。ああ言うのに憧れてるの?」

「男なら誰でも…て訳でもねぇだろうが憧れるっつーの。…兄貴があんな態度でいられるのが不思議なくらいだ。」

「普段の行いがいいからでしょ?アンタ、アタシとお姉ちゃんに初めて会った時、行き成り抱き着くような事する?」

「へ、へぇ~…。」

「そんな事があったんですね…。」

「あ、あれはだな…。」

 

日本一と、向こうさん達の事を話していたら、ユニちゃんが来ていて昔の事を話し出してきた。その後ろにいるネプギアとスミレが苦笑する。頼むから黒歴史を掘らないでくれ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから少し悶えていたが、とりあえず気を取り直し施設を体験して感想を考えておくことにする。施設としては“波の出るプール”、“流れるプール”、“競技用プール”、“幼園児プール”といった物から、ウォータースライダーも用意されている。

 

「よーし、えい君いっくよー!」

 

何故か今はネプテューヌとウォータースライダーを体験している。とりあえず数分前の話をすると、このウォータースライダーは1人用と2人用の浮き輪がある。どういう訳か、俺と一緒に乗りたいと言ったのがネプテューヌ、ノワール、ブランの3人。ベールはスミレと乗ると言って手を上げてはいない。で、一発勝負の“拳じゃんけん”でネプテューヌが勝利して今に至る。因みに、流石にパーカーを着っぱなしで乗ってはダメとのことなので、パーカーは脱いでいる。まぁ脱いだら何故か“ヒューッ”と何処からか聞こえた気がした。で、一番高いのを滑る事になっている。

 

「おお、流石わたしの国で考えられただけあって、たーのしー!」

「自分で設計した訳じゃないのか。」

「わたしは、只判子押しただけだから!」

 

ウォータースライダーを滑りながら、それを自信満々に言うのもなんだかな…。そこそこ左右に揺れるが、速度はそれなりある為、手すりにしっかり捕まってないと人物だけコースアウトしかねない。

 

「ひゃっほー!!」

 

…にも関わらず、この女神様は思いっきり両手を上げている。御陰で俺が体を支えてなければならず、妙に密着している形となる。まさか狙ってやっているんじゃないだろうな。そんな事をしている内に、ウォータースライダーの出口を出て着水。流石に勢いがある為に、場合によってはここで振り落とされる可能性はある。万が一溺れる可能性もあるかもしれないから、近くに救護班かその施設があればいいだろうと考える。

 

「よーし、えい君もう一度乗るよ!」

「また乗るのかよ…って引っ張るなよ。」

 

そう言って俺はネプテューヌに再び乗る為に連れていかれる。まぁその後結局ノワールとブランにも誘われて数回乗る羽目になる。遠目でジンが羨ましがっている眼差しを向けていたような気がしたが、俺からしたら疲れる…これに尽きる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、遊びに全てのエネルギーを使ってこれか。済まないな。誘った本人がこれで。」

「ネプテューヌらしいっちゃらしいけど…。」

「まぁ、わたくし達も楽しめましたし、いいじゃありませんか。」

「それもそうね。ロムもラムも喜んでいた事だし。」

 

時刻は夕方前。色々と端折っているかもしれないが、特に俺からいう事はない。遊び疲れてしまって、眠っているネプテューヌをおんぶしつつ、プラネテューヌ教会に向かっている。まぁどうせ教会に着いたら、ゲーム三昧なんだろうな。ノワールとブランが羨ましそうに見ているが気のせいだろう。後は報告書を提出すれば、とりあえず今日の(依頼)は終了だ。一応、期限は設けていないが、今日参加した全員に感想の報告を求めておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、女神直々の依頼がメールで来ており、詳細を聞く為に現地へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【用語集】

○ナントイウコトデショウ
 言わずとも知れた、ビフォーアフターに出てくる決まり台詞。それを単にカタカナ表記にしただけでも、大分印象が違う…気がする。

○“ヒューッ”
 元ネタは、鬱ブレイカーでもある一匹狼の宇宙海賊で伝説の男と言われたコブラが、ある回で上着を抜いた時に、周囲に居た人が放った言葉。
「見ろよやつの筋肉を・・・まるでハガネみてえだ!!」とヒューッの後に言う台詞も個人的には痺れる憧れる!


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


次回からはちょっとアニメ版からずれる形になります。(予定)


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Scene27 絶望への始まり~Strange joint struggle~

気づけばUAが2525を超えていた。この小説を読んでいる方、応援している方に感謝を…。


 

 

 

 

唐突な始まり方で悪いが、今現在ゲイムギョウ界としては緊急な事らしく、呼び出しをされルウィーに訪れている。数日前のプール施設の精査が終わって、解散前にブランから口頭で報告したい事があると言われたが、詳細はメールで通知すると言い、後日ブランからメールが来ていた。メール自体は、他の女神にも通知されており、熟知はされている模様。しかし、その内容が他の女神には気に食わない…と言うより危険過ぎるという事で、ルウィーに訪れる前日に四女神と教祖達による緊急会議という名のTVチャットが行われた。これは、その前日に行われたTVチャットの内容となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確かに、納得しないといけないかもしれませんが…、余りにも危険過ぎますわ。」

「そうよブラン。貴女一体何を考えてるの?」

「そーだそーだ!これじゃえい君が無事では済まないよ!!」

「貴女達の言っている事は分かっているわ。でも、今はこれしか方法がないのよ。」

 

今、ゲイムギョウ界のシェアがどういう訳か、4ヵ国以外の場所に流れているという情報が入っている。その流れているシェア率は微々たるモノだが、ゲイムギョウ界としては4ヵ国以外にシェアが流れる事は、異例でもあり異常な事でもある。新しく国が出来る事に関しても余り宜しくないとの考えだが、そのシェアが流れている場所が特に問題がある。

 

「………。確かに、資料を見る限りだが、元居た世界よりは危険かもしれない。この“ギョウカイ墓場(はかば)”は…。」

 

ギョウカイ墓地…行き場を失った者、力尽きた者達の邪が集いし呪われた土地。現状は、このゲイムギョウ界の大陸中心部の下層に封印されている。だが、その封印されているギョウカイ墓場にシェアが流れているのを、ルウィーがキャッチしたと言う。そんな汚染されたような呪われた地に、女神が行くにはそれなりの対策をしてからではないと向かうのは厳しい。だが、発覚したのがプール視察後だった為にこんな状況になっている。

 

「悪いけど、貴方一人で行かせる気はないわよ?」

「そうですわ。永守さん一人で行くのはかなり危険過ぎますわ。ギョウカイ墓場自体何が起きているか予測不可能ですし…。」

「………。私からも、余りお勧めは出来ません。予測不可能な以上、万全な状態で行く事が良いかと。」

「ほら、いーすんも反対だよ。」

 

今回の件は、どうやらイストワールも反対の意志らしい。

 

「ふむ…。確かに君の能力は、女神に匹敵する…とまではいかないが、獨斗永守…万が一失敗して君を失う事は避けたい。」

「そうですわよ。気づいてないかもしれませんが、貴方はリーンボックスでも有名な人なのよ。」

 

反対とまではいかないが、単独で行くのは余り賛成ではない“神宮寺ケイ”と“箱崎チカ”が言う。これだけ反対意見があるというのは、相当危険だと言う警告なのかもしれない。

 

 

 

 

 

ルウィーの教会に着き、執務室でブランと教祖のミナと最後の打ち合わせをしている。そこで、ブランからあるデータを見せてくる。

 

「これを見て。」

「ギョウカイ墓地…?」

 

だが、ここ最近になって異常とまではならないが、そのギョウカイ墓地の様子に変化があると言う。何でも、微々たる程だがシェアエナジーがそのギョウカイ墓場に流れていると言う。今までこんなことは無かった為に、女神達全員には極秘に報告されている。

 

「ギョウカイ墓場に行く方法はあるのか?」

「ええ、一部の人以外は知らないわ。ギョウカイ墓場に繋がる転送装置が教会内にあるの。転送には若干のシェアエナジーを消費する事になるから、ホイホイと行く事は出来ないの。」

「なるほど…。」

 

そして何より、ギョウカイ墓場は負の力が溜まっている場所。本来であれば、ブランが行くはずだが、女神は愚か一般人ですら対策無しでは力を奪われてしまう場所だと言う。そんな中、俺はゾディアークと言う闇の力を秘めている為、抜擢された事になる。…半女神化も出来るから何とも言えないがな。

 

「では、今一度確認させて頂きます。獨斗さんにやっていただく事は3つ。1つ目は、ギョウカイ墓場の現状を視察。2つ目は、ギョウカイ墓場にもモンスターが確認されていますので、そのモンスターの詳細等の視察。そして3つ目は、そのギョウカイ墓場にあります“アンチクリスタル”を採取してくる事…。以上になります。」

 

元々は、アンチクリスタルの採取だけで終わるはずだった。しかし、現状ギョウカイ墓場で異常が発生している為、このようなことになってしまった。

 

「ごめんなさい。本当なら女神様が行くのに、また貴方の力を借りる事になってしまいます…。」

「気にするな。成功すれば、ゲイムギョウ界は安全になる…。」

 

教祖のミナが言った事に対し、問題ない的な事を言うと、それを聞いたブランは頷くが、何処となく不安はあるようで、ミナも不安げな様子だ。全員不安になるのも分からなくもない。人ではない存在になったとは言え、本来であれば人間が行くべき場所ではない。俺に与えられた任務(クエスト)は3つ。

 

 

 

1:ギョウカイ墓場の現状及びモンスターの調査。

2:ギョウカイ墓地に流れるシェアエナジーの原因の調査。

3:アンチクリスタルの回収。

 

 

 

本来であれば、3番目のアンチクリスタルの回収をし、アンチクリスタルを本格的に研究するだけだったが、急遽1と2も行う事になった。俺は今一度、彼らに聞くことにする為、右手の指を側頭部に当てる。

 

「(………。今回の件、お前達(ゼロ、セグゥ)はどう思う。)」

≪確かに、俺は女神とは正反対の存在。いや、作られた存在が正しい。それでも、俺はアンチエナジー側にいる方が力を増す…。≫

≪対して、私は女神。それも、今はゼロと貴方と一心同体と言っても過言ではありません。一人一人であれば問題はないかと思いますが、3人一緒のような状況では、どのような影響を及ぼすか分かりません。ですが、事が大きくなる前に何とかした方がいいかと…。≫

≪危険な芽は早めに摘んで消し去った方がいい。そういう事だ。≫

 

二人共、早めに対策した方がいいという意見だった。恐らく、慎重に言った方がいいのかもしれないが、事が大きくなって自分達のような犠牲を出してはならないという忠告もあるのだろう。それに、単独行動は得意な方でもある。

 

「Who Dares Wins。」

『…え?』

「…英国のモットーで、“危険を冒すものが勝利する”という意味だ。それに、単独行動の方が、モンスターに悟られ難い事もある。」

「だけど、それじゃえい君が一人で行くってことでしょ?」

「心配するな。単独で敵の局地に侵入した経験なら幾らでもある。お前達は成功するよう祈ってればいい。それだけだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

という事で…と言って片付けるには納得してない部分もあったが、全員渋々承諾して現在に至る。ルウィーに向かっている理由は、アンチクリスタルの採掘用道具と特例でギョウカイ墓地への転送をする事になる。武器はサバイバルナイフにM500一丁。もう一丁は前の戦いで無茶な事をしてしまった為、壊れてしまい修理している。

 

そして、ルウィー教会内にある転送装置前に着く。そこで、ブランから採掘用の道具に無線機を渡される。

 

「これが貴方に支給される道具よ。」

「…ツルハシに水晶玉?」

 

手渡されたのは、青色のツルハシに紫色の手の平サイズの水晶玉だった。ツルハシはまるで某採掘ゲーに出て来た“ダイヤのツルハシ”に似ているが、水晶玉に関しては用途が分からない。

 

「そのツルハシには、希少なオリハルコンにシェアエナジーを付与した特別なツルハシです。それであれば、アンチクリスタルを砕くことが出来るはずです。また、その水晶玉は、全ての教会と連絡し合う事が出来ます。ただ、向こうの状況によっては、連絡をすることが出来ない可能性があります。」

 

道具の説明をミナが説明する。転送にはシェアを使うそうだが、一人であれば特に支障は出ないとの事。それを理解した上で、転送装置のある部屋へ入る。

 

「…これが、俺をギョウカイ墓場まで送る装置か。」

「戻る時は、此方から座標を捉えて行います。只、恐らくですが、通信として使う水晶が使えない場所では行えませんので、十分お気を付けて下さい。」

「分かった。」

「無茶だけはしないようにね。」

「ああ…。」

 

そして、俺は転送装置へ移動する。起動すると、俺の体が粒子のように少しずつなくなっていき、ルウィーの転送装置から居なくなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ギョウカイ墓場】

 

「………。やはり、実際に見てみるのとは違うな。」

 

ニグーラによって崩壊しきった惑星“地球”に何処となく状況は似ているが、実際に来てみると、周囲から禍々しい気が感じる。俺は近くの岩場に隠れ水晶玉を取り出す。

 

≪永守さん、聞こえますか?≫

「ああ、聞こえてる。」

 

連絡に出てきたのは、ブランではなくイストワールだった。

 

≪連絡や行動は皆さんも見ておりますが、基本的なサポートは、私が行います。≫

「…分かった。今から、任務(クエスト)を開始する。」

 

水晶玉に向かってそう言い、武器を構えて進むことにした。

雰囲気は、まるでこの世の終わりとも思われる場所だ。周囲は岩壁で囲まれており、奥には溶岩のようなものが見える。モンスター()に見つからないように行動をするが、このギョウカイ墓場は想像よりも隠れる場所が少ないため、気づかれないように後ろから行く。モンスターは、豚鼻が付いている平べったいエイリアン、赤い布を被った可愛らしいお化けのような奴、空中を飛んでいるイルカのような奴がいる。基本的にモンスターは、情報通りと言ったところで変化は見られない。

 

「此方、獨斗。モンスターは情報通りで変化は見られない。念の為写真を収めておく。只、奥の方はどうなってるか分からない。これから確認しに行く。」

≪分かりました。呉々(くれぐれ)も、無茶はしないで下さい。今もネプテューヌさんが心配してますので…。≫

「………。分かった。」

 

 

 

 

 

そうして、暫く歩んでみたが、特に変わり映えするところはない。狂暴化しているモンスターは今の所見られない。現状では、何が原因でシェアエナジーがこのギョウカイ墓場に流れているのかは分からない。そんな事を考えながら進んでいると、目の前に見覚えのある色をした結晶体を見つける。

 

「…アンチクリスタルだ。イストワール、アンチクリスタルを見つけた。これから回収をする。」

 

水晶玉に向かって言うが、返事が返ってこない。如何やら連絡可能範囲外に入ったのだろう。そう納得した上で、持っているツルハシを結晶体に振り下ろす。何度かぶつけると、その結晶外が欠け、アンチクリスタルの欠片が足元に転がってくる。これを無事持ち帰れば終わりだが、シェアエナジーが何故ここに流れ込んでいるかが分からない。

 

「………。奥へ行くしかあるまい。」

 

そうして、ギョウカイ墓場の更に奥地へと向かう。そして、俺はそこでシェアエナジーが流れているであろう原因を見つける。

 

「なんだ、こいつは…。」

 

そこには、まるで縄を捻ったかのような形をした、どす黒い巨大な岩があった。回りを見ても、その岩らしき物体だけ自然にできたとは思えない、明らかに人工物だと思えるように佇んでいる。そう思うのには、広間と言える程の広さがありながら、その中央にポツンとそれが立っているからだ。そして、その物体に向かって何かしらのエネルギーが流れ込んでいるように感じる。いや、流れているというよりは…吸収しているのか?

 

「(………。二人に聞く。これに見覚えはあるか?)」

≪いや…初めて見るな。≫

≪私も、ゼロと同じです。こんな物体…私が居た頃には見たことありません。≫

 

ゼロとセグゥに聞いてみるが、二人共この物体を見るのは初めてのようだ。この岩らしき物体を写真に収めておくことにする。そして、手を伸ばせば触れるような距離まで進んでみる事にする。

 

「それに近づくなッチュ!!」

「ッ…!?」

 

…が、近寄ろうとした時、後ろから聞き覚えのある声がしたと同時に、自分の体から何かが抜けていくような気がした為、後ろに飛び距離を取る。そして、声のした方へ顔を向ける。そこには、見おぼえるのある人…いや、鼠がいた。

 

「お前は、ワレチュー…。」

「ん、お前は………ああ!あの時の!どうして、お前がここに居るっチュか!」

「………。道に迷ってな、彷徨っていたらここに来てしまった。」

「彷徨ってここに来ることは出来ないッチュよ。」

 

奴の言っている事が正しければ、俺はここに居てはいけない存在なのだろう。

 

「(だが、居るところを見られてしまった…どうする。ここで始末するか?)」

 

そう思っていると、無意識に銃へ手が伸びており、殺気を出していた。

 

「ま、ま、ま、待つッチュ!オイラは、お、お前と戦う気は無いッチュよ!!」

「………。そう言って油断させる目論見か?」

「どうしてそうなるッチュか!だだだ、だったらそれに触れるなとは言わないッチュよ!」

 

完全にへっぴり腰になっているワレチューを見て、俺は銃から手を放す。念の為短剣は直ぐに抜けるようにはしておく。

 

「た、助かったっチュ…。」

「安心するには早いな…。質問によっては締め上げるぞ。」

「ヂュッ!」

 

その言葉を聞いたワレチューが一瞬ビクッとなる。

 

「先ず、あれは何だ。」

「………。言えないっチュ…って、ちょちょちょ!待つっチュ!オイラにも本当に分からないッチュ。本当と書いてッチュ!!」

 

言えないと聞いた瞬間に、短剣を首元に向けていたが、この怯え方としては本当に分からないという印象を受けた為、短剣を仕舞う。

 

「か、勘弁して欲しいッチュ…心臓がいくつあっても足りないッチュよ…。それに、こっちも助けて欲しいくらいッチュ…。」

「助けて欲しい…だと?」

「………。ここで巡り合ったのも何かの縁ッチュね。信じろとは言わないっチュ。それに、前は敵として巡り合った身…それでも、聞いて欲しいっチュ。」

「………。分かった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…以上っチュ。」

「………。犯罪組織“マジェコンヌ”…」

 

ワレチューから、俺は様々な事を聞いた。新犯罪組織マジェコンヌの事、犯罪神ユニミテス、ワレチューの雇い主であるマジェコンヌが依り代になっている事、そしてワレチューは脅しのような事を吹きかけられ、新犯罪組織の為に暗勝つしなければならない事…。

 

「もう、このゲイムギョウ界は、既に犯罪組織マジェコンヌの闇が広がっているっチュ。」

「何故、俺にその事を言う。俺はその事を報告する義務がある。」

「同じような雰囲気を感じたからッチュ。それに、お前なら、何とかしてくれるんじゃないかと思ったッチュ。」

「同じ雰囲気…か…。」

 

悪には、何か俺の中にあるのを感じるのかもしれないな。俺も元の世界で道を外していれば、此奴らとなんら変わらない存在になっていたのかもしれないからな。兎に角、現状での目的は果たした為、長居は無用と判断しその場を後にする。

 

 

 

 

 

「イストワール、聞こえるか?」

≪ああ、良かった。連絡範囲から外れてしまったので、連絡出来ませんでしたので心配しましたよ。無事ですか?≫

「ああ、問題ない。目的は果たした。帰還を要請する。」

≪分かりました。それでは、座標を確認しますので少々お待ち下さい。≫

「分かった。」

 

そう言って、連絡を切ったと同時に、後ろから何か気配を感じた。俺はゆっくりとそっちの方へ顔を向ける。

 

「ほう、人間がこんな所にいるとは…。」

「何者だ?」

「名乗る程でも無い。何れ知る時が来る。」

 

そこには、ネプテューヌ達が女神化した時に身につけている、プロセッサユニットのような物を身に纏った赤髪の眼帯を付けた女が居る。

 

「それに、タダの人間がこの空間に長時間居るのもただ事では無い。どうだ。我々と共に、世界を変える気はあるか?」

「世界を変える…だと?」

「この世界に不満を覚えた事はないか?私は、そういう事を考える人間によって生み出された存在。それに、我々と同じ力を感じる。だからこそ、手を差し伸べているのだ。」

 

女神の加護は、この世界にとっては強大であり恩義は計り知れない。それでも、そんな女神に反発している人々がいる。そして、俺は今それによって生み出されてしまった存在を目のあたりにしている。それと同時に、右腕から感じるこの存在に対しての怒りや憎しみ…。

 

「断る。」

「そうか…。では、女神に伝えておけ。我々の活動は刻々と進んでいる。止めたければ、ギョウカイ墓場で決着を…と。あわよくば、貴様も我々と手を組んでくれる事を期待して居るぞ。」

 

そう言って、その女は消えてしまった。全く、エンデが言っていた事を言う奴がまだ居るとはな。それと同時にイストワールから連絡が来る。

 

≪お待たせしました。今からプラネテューヌに戻れる地点を展開します。出てきたらそこに乗って下さい。≫

「分かった。」

 

目の前に出てきた光り輝く空間に入る。

 

そして、またしてもゲイムギョウ界の運命に関わる事に巻き込まれる事となる。

 

 

 

 

 

 




【用語集】

○Who Dares Wins
 イギリス陸軍の特殊部隊”特殊空挺部隊(通称:SAS)”のモットー。今回小説に書いた、「危険を冒す者が勝利する。」以外にも、「敢えて挑んだ者が勝つ。」「挑む者に勝利あり。」の意味もある。

○某採掘ゲーに出て来た“ダイヤのツルハシ”
 言わずとも知れた”Minecraft”のMOD無しでは最上位のピッケル。数年前まではPCだけだったが、今は色々な機種で出回っている。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


ここから暫くはmk2及びRe;birth2要素となります。アニメの世界観が割と近いので、書くならこういう展開もやってみたいと思ってです。



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The 3rd Encounter~新犯罪組織、暗黒の始まり編~
Scene28 変わりゆく日常~Change World~


今回からアニメ版から逸れますが、それでも大丈夫な方はお付き合いの方をお願い致します。


 

 

 

あのバカンスから数日後、俺は日本一と一緒に各国を渡り歩きつつ、クエストをしてシェアの会得に貢献している所だ。そう、何不自由なく、何時も通りの事をしているだけだ。しかし、そんな日常が壊れていく事など…況してや、この世界であんな状況になるなど思っていもいなかったからだ。

 

「………。何か、最近変じゃない?」

「ああ、俺も思っている所だぜ…。」

 

それから数ヵ月が経ち、ある事に気づいたのだ。ここ数ヵ月、各国の女神を見ていない。正確には、女神候補生のみの活動報告のみで、女神の活動報告が途絶えている事だ。女神通信という情報が全く更新されていない事に、周りの人達もざわついている状況だ。あの更新頻度の高いベールさんすら、更新が止まっているのだ。そして何より、プラネテューヌは女神候補生の活動報告が全くないという事だ。あの真面目なネプギアからの報告が出てないという事だけでも可笑しい。更に不思議な事は、ゲイムギョウ界の中心部分であろう場所。プラネテューヌ、ラステイション、ルウィーでは山に囲まれているから見る事は出来ないが、リーンボックスからは見る事が出来る。そう、なんだか禍々しい感じが漂っている。

 

「一体何が起きてるんだろ?」

「俺に言われても、俺が知りてぇくらいだ。」

「ん~…、こういう時は、女神様に何かあったのかな?」

「まぁ、それが無難だろうな。」

 

そう言って、リーンボックスの教会へと向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【リーンボックス教会】

 

「こっちの資料は終わったぞ!」

「そっちの資料はどうなっている!」

「次、次、次!!」

 

「………。なんだか慌ただしいね。」

「ああ………。」

 

特に問題も無く、リーンボックスの教会へと来た。だが、違和感があるのは確かだ。妙に慌ただしいと言うか忙しいと言うか…。そんな中にスミレの姿も居た。何時もの服装ではなく職員の服装だ。具体的には、チカさんが着ている職員服の上半身の露出部分を抑えた感じだ。本人曰く“恥ずかしくてあまり着たくはない。”とは言っていたが、着こなしている所を見ると、只事ではないのかもしれねぇな。スミレが居たのに気づいた日本一が、スミレに声を掛ける。

 

「おーい、スミレちゃーん!」

「あ、日本一さん。それに、ジンさんも…来てたのですね。」

「よう。…どうした、そんな恰好して。」

「えっと…、色々とありまして、ええ…。」

「色々?色々って何?」

「それは…。」

「あら、貴方達は…。」

 

そうしていると、チカさんが此方にやって来た。

 

「あ、チカ姉さん。」

「どもっす。この慌ただしさは何ですか?」

「色々立て込んでいる、としか言えませんわね。さぁ、スミレ。次の仕事が入ってるから、グズグズしてられないわよ。」

「は、はい!…すみません。これで失礼しますね。」

 

そう言って、チカさんはスミレを連れて奥へと行ってしまった。

 

「結局、この慌ただしさは何なんだろう?」

「ただ、何つーか…はぐらかされた感じもするな。」

 

さて、どうしたものか…。他の教会に行っても同じ感じではぐらかれちゃうか?首を突っ込んでは行けない気がするが、好奇心により真相を確かめたい気が先立っている。そうなると、当てになるのは…。

 

「で、どうするの?」

「そうだな…。俺はプラネテューヌに行ってみる。兄貴なら何か知ってるかもな。日本一はどうする?」

「ん~…。難しい話は苦手だから、アタシはこのままクエストを受けるよ。」

「OK。何か分かったら連絡するわ。」

 

日本一にそう告げた俺は、単身リーンボックスからプラネテューヌへ向かう事にした。嫌な感じが的中しなきゃいいんだが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ教会】

 

何事もなく、プラネテューヌの教会に着いた。ラステイションに経由する為、ラステイションの教会も覗いてみたが、リーンボックスと同じく慌ただしい感じをしていた。で、プラネテューヌも同じと言ったところか。

 

「あ、ようこそ。ご用件は何でしょうか?」

「兄貴…じゃなかった。補佐の獨斗さんはいますか?」

「申し訳ありません。獨斗さんは只今、依頼の為外出中…。」

 

と、職員に話していると、後ろの扉が開く。

 

「今戻ったぞ。」

「あ、獨斗さん。お客様ですよ。」

「俺に客?…ジンじゃないか。どうした、女神様にダンスの誘いでもしに来たのか?」

「んな訳あるか!アンタに聞きたいことがあって来た。」

「俺に聞きたい事…?」

 

そう言うと、兄貴は口に手を当て少し考えた後、職員に問いかける。

 

「何処か、空いている個室はあるか?」

「個室…ですか?…ああ、ここなら空いてますよ。」

「助かる。…付いてこい。」

 

そう言われ、兄貴に誘導され教会内の個室へと入り椅子に座る。

 

 

 

 

 

「…俺に聞きたい事とはなんだ?」

「率直に言うとだな…教会のこの慌ただしさは何なんだ?それと、ここ数ヵ月、女神様を見ていない。」

「………。」

 

そう言うと、兄貴は黙り込んだ上に舌打ちとため息をする。…何か気に障ったことでも言っちまったのだろうか。暫くすると、何かのスイッチを切るような音と共に、兄貴が口を開く。

 

「録音機能を切った。お前を信頼して言う。今から話す事を口外しない事。」

「………。」

 

俺は息を飲む…。エンデの前に立っていた時とはまた違った雰囲気を兄貴から感じる。それだけやばい話なのだろうか。だが、好奇心が勝っている為に俺は頷く。それに続きて兄貴も頷く。

 

「…いいだろう。」

 

そう言って、少し溜めを入れ兄貴は話を続ける。

 

「今、各国のシェアが低下しているのは知っているな。」

「ああ。ギルドで依頼を完了しても減っていく一方だった。」

「…俺もギルドで依頼を熟しているがな…。全ては第三勢力によって拒まれている。」

「第三勢力…?」

「そうだ。そして、各国の女神が候補生しか活動報告がないという事。…いや、プラネテューヌは例外だな。表向きは、ある極秘事項によって教会内に籠っている。プラネテューヌは女神候補生も籠っている事になっている。」

「ああ、そう聞いている。」

「………。実際は違う。」

「な、なんだって?」

「表向きの事は、国民の不安を取り除く為だ。実際には、女神は不在だ。…不在は違うな。囚われている…というべきか。プラネテューヌは、女神も、女神候補生も、今は居ない。」

「…は?」

 

兄貴の直球ストレートのような発言に、困惑と驚きを隠せない。そう、まるで俺がやって来たゲームのあらすじに近いからだ。ノーマルエンドしかやってないんだがな…。

 

「………。全ては此奴が原因だ。」

 

そう言って、懐からある黒い携帯機器を出してくる。

 

「これは…最近、巷で流行っている携帯機じゃねぇか。」

「そう。これはそのプロトタイプだ。全ては此奴が原因だ。此奴は“マジコン”。第三勢力の“犯罪組織マジェコンヌ”によって生み出された代物だ。」

「マジコンだって…!!」

 

その名前を聞いた途端、俺は無意識に机を強く叩き立ち上がっている。

 

「…知っているようだな。」

「知っているも何も、これNG品じゃねぇか!なんで持ってんだよ!!」

「裏社会のルートから仕入れたものだ。アイエフはこの事は知らないが、イストワールは、俺がこれを持っている事を知っている。」

「随分とあっさり言うじゃねぇか…。」

「言っとくが、俺は犯罪組織に貢献はしてないぞ。此奴は対策の為に入手した。」

「ああ、なるほど…。」

 

それを聞いて内心はホッとはするが、女神が不在というのはまだ聞いていない。

 

「さて…。ここからは数ヵ月前の話になる。」

「数ヵ月…?」

「女神の活動報告が出なくなったという頃の“前の話”だ。」

 

そして、兄貴の口から出た内容は、驚くべき事実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【数ヵ月前:プラネテューヌ教会】

 

ギョウカイ墓場から戻って来た俺は、そこで起きた話をする。中央辺りで見た謎の彫刻岩、犯罪組織、そして、ギョウカイ墓場で見た謎の女性による宣戦布告とも取れる内容…。アンチクリスタルは直ぐにルウィーへ届けられたが、その内容が内容だけに会議が行われた。ここからは、その会議から一週間後の話となる。

 

 

 

 

 

5人分の転送用シェアエナジーを用意し、万全の準備をした4女神のネプテューヌ、ノワール、ブラン、ベール。そして、プラネテューヌ女神候補生であるネプギアによる編成でギョウカイ墓場に向かい、犯罪組織マジェコンヌを早い段階で壊滅させる作戦を決行する事となっている。最初は俺も同行すると言ったが、簡単に何度も行けるような場所ではない事と、身体の精密検査では問題はないにしろ安静を命じられた。何より、俺に対して女神の面目が!とか言うのもある。

 

「それでは皆さん、準備は宜しいですか?」

 

イストワールが5人に言うと、全員がイストワールを見て頷く。確かに、向こうからの宣戦布告に対してそれに答える。そして、それに対して俺も協力をし万全を期して女神の補佐をした。それでも、何処か腑に落ちない…と言うよりは、以前リーンボックスの時と同じ不安な感じが抜けない。

 

「…大丈夫よ、えい君。パパッと終わらせて、直ぐ戻ってくるから。」

 

不安そうな表情をしていたのか、俺を安心させるかのように、女神化しているネプテューヌが俺の型に手を乗せて言う。そして、5人はギョウカイ墓場へと転送される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………。そして、今に至るっつー訳か。」

「そして、今や此奴が当たり前のように普及し、ギョウカイ墓場が浮上してきている。俺の居た世界に比べれば、まだまだ可愛い方だが、状況は最悪だ。主力である女神は囚われ、プラネテューヌは両女神とも不在…。」

 

信じられねぇ事が起きている。今まさに、この展開はmk2、Re;Birth2のような展開になっている。だが、兄貴なら何とかしてくれるんじゃないかと思っていた。そもそも、この人ならそれが発覚したら直ぐに出向くような人だと思っている。

 

「…なんで兄貴は助けに行ねぇんだ?」

「ああ…、本当なら直ぐにでも行く気だったが、イストワール…教祖様に無断での戦闘を禁じられている。出兵の許可も下りない訳だ。」

 

恐らく、4女神でも敵わない相手が兄貴一人で勝てるわけがないみたいな事なんだろう。だが、納得出来てねぇのか、右手を力強く握りしめており、グローブの擦れる音がする。

 

「………。今話せる事はこれで全部だ。他になにかあるか?」

「いや、もう十分だ…。」

 

正直、俺もこんな事になるのは予想外であり、未然に防ぐことが出来なかった自分に苛立ちをする。こんな事しても解決しねぇのにな…。

 

「なんか、悪かった。今日は帰るわ。」

「そうか…。」

 

そう言って俺は個室から出ようとする。

 

「一つ、伝えておく。」

「………何をだ?」

「必ず成し遂げるという意思を持て。意志さえあれば、必ず何かが出来る。そして、何があっても目を逸らすな…。」

「あ、ああ…。」

 

急に兄貴に言われた事に俺は若干戸惑う。何故だろう。まるで何かを覚悟したかのように聞こえてしまう。そして俺に何かを託しているのか?それとも、何か起きるのか?正直今の俺にはさっぱど分からない。そして俺は個室から出て、今回の件は内密にすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後。兄貴…もとい、獨斗永守が行方不明になったと言う情報が入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


今回はある意味、第二部の序章に当たるような話の為に、少々短くなってしまいました。そして、内容から分かるように主役が暫く”永守”から”ジン”に切り替わります。


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Scene29 始まりは再び~Prelude~

アニメが世界観同じなら、こういう展開もありだよね?という前々からやりたかった展開をという事で、mk2・リバ2編みたいな形で進めて行きます。


 

 

 

 

 

女神が居なくなってから3年が過ぎた。その3年は長いようで短いような時間だった。今ゲイムギョウ界は犯罪組織マジェコンヌと名乗る組織によって、ショップは枯れ、クリエイターは飢え、ゲイムギョウ界は一部を除き無法地帯へとなっていった。全ては犯罪組織マジェコンヌから出されている“マジコン”。数年前、行栄不明になった獨斗永守からプロトタイプを見せてもらった。今、その端末機が原因でギョウカイ全体の8割が、4女神でなくマジェコンヌを崇めている状態だ。女神を失った4ヵ国も黙ってはおらず、現状を打破する為に様々な研究や対策をしてきたが、そのどれもが満足の良く結果に届かず、マジェコンヌの抑制へとつながる事は無かった。

 

そして、プラネテューヌの一室に本に乗って浮かんでいる一人の教祖イストワールの姿があった。彼女も、現状を打破する為に各国と協力し、様々な対策を練る為に演算をしてきたが、どれもが頭を抱えてしまう結果になっている。プランBとして、プラネテューヌ影の切り札“獨斗永守”を起用するという案もあったが、彼の存在は余りにも大きかった事もある意味悩みの種でもあった。彼が行方不明になり、ゲイムギョウ界中を捜索したが未だに見つからず、プラネテューヌ教員達の不安を加速させてしまっている。だが、彼が行方不明になる数日前に、一機の輸送ヘリがギョウカイ墓場に向かっていたという情報もある為、断定ではないがギョウカイ墓場に単独向かったという恐れもある。そもそも、万全の対策を得てから獨斗永守に頼もうとしていたのも、彼が単独でギョウカイ墓場に向かってしまった原因なのだろうと考えてしまう。本来であれば、ゲイムギョウ界とは別の世界…外の人間であり、自分達の責任で人間を辞めてしまったのもあり頼みにくかったのもある。そんな人に、頼り過ぎたからこその結果なのかもしれない。只、彼が乗っていたのかまでは分からない為、その輸送ヘリに獨斗永守が乗っていたというのは決めにくい。

 

「あばばばばばば!!………自分で設定しといて、これは心臓に悪いですね…。」

 

急にイストワールが震えだすは、実際はただ単にマナーモードとして着信が来ただけである。如何やら、届いたのは一通のメールのようだ。但し、タイトル無が無く送信者も名無しである為、不審には思ったのだが何故か読まなければならないという心理になっていた。

 

「………これは………!?」

 

その一通のメールを見たイストワールは、ある決断を下すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ギョウカイ墓場】

 

「やっと着いたわね。」

「ここが、ギョウカイ墓場…。」

「は、はいっ!そ、そうですねぇ…。」

 

俺は獨斗永守…ではなく、嘗て地球では九重 仁として生きていたが、ある事を切っ掛けに転生して“ジン”としてここゲイムギョウ界に住むことになったうちの一人。そして、本作戦の主役としてプラネテューヌの諜報部のアイエフ、看護師のコンパがいる。俺はあくまで二人の護衛として来ている訳だ。

 

「何緊張してるのよ?」

「だだだだ、だってぇ~!可笑しなのが、いいい、一杯いるですぅ~!」

「まぁ、確かに普段見ねぇのが一杯だわな。」

「だから、あれだけ大人しく待ってろって言ったじゃない。」

「い、嫌です!待ってるだけなんて!わたしだって、皆を…女神様を助けたいんです!」

「…それは私も一緒よ。でもまぁ、だからこそアンタがいるのかもね。」

「俺ぁ自分から名乗ってきただけにすぎねぇよ。」

 

ゲイムギョウ界を捜索しても獨斗が一向に見つからない為、ギョウカイ墓地に向かったのではないかと言う情報を頼りに、今回のアイエフの作戦に加わっただけである。まぁ…まさか“ねぷねぷやギアちゃんが心配だから、私も行くですぅ!”なんて言うとは思っていなかったのも確かだがね…。

 

≪ギョウカイ墓場は、嘗てはゲイムギョウ界に居た者達が迷い込む場所です。つまり、目の前に見える者も、嘗てはゲイムギョウ界に居た者達なのですよ。≫

「そ、そうなんですかぁ…。」

「つまり、俺達はギョウカイ墓場という名の“三途の川”に居るようなものか。全く、嫌な場所だぜ。」

「それにしてもネプ子ったら、3年間も音沙汰無しにこんなところにね…。この私に心配かけて…。」

≪大丈夫です。きっと彼女達は無事ですよ。それから、若し永守さんがそこに来たのであれば、何かしらの痕跡があるはずです。あくまで二の次になりますが、その痕跡があれば見つけて下さい。≫

「そうね。アイツも報告なしに私達の前から消えて…。会ったらガツンと言わなきゃね。」

「だな。俺も獨斗には言わないと気が済まねぇよ。」

「………。ところでジンさん、永守さんの事“兄貴”って言ってましたよね?」

「あ~…なんか恥ずかしくなってな。言うのやめたわ。」

「ふーん、恥ずかしくなったねぇ。結構慕っていたように見えたけど?」

「今も慕ってるちゃ慕ってるわ。そう言うのが恥ずいと思っただけだ。」

≪…脱線してしまってますが、そこは既に危険な場所です。くれぐれも気を付けて下さい。若し、彼女たちに大きな怪我があっても、お渡ししたシェアクリスタルがあれば…。≫

「ホントね…、良くこんなシェアクリスタルが手に入りましたね。」

 

アイエフが袖からシェアクリスタルを取り出す。今や4ヵ国のシェアは合わせても20%行くか怪しい状況になっている。そんな時に、一通のメールと荷物があり、中には今アイエフが取り出したシェアクリスタルと、軍資金と思われる物資等が入っていた。送信者名は載っていなかったが、メールの最後に“Ace”と記述されていたのを聞いた。

 

「それにしても“Ace”ね…。響きは永守に似てるけど、それだけで決めつけるのはダメね。」

「でも、きっといい人に違いないです!」

≪それから、万が一に備えて警戒を怠らないで下さい。若しかしたら…。≫

「ここに来る前に話した、傭兵の事…か?」

≪はい。噂では相当腕の立つ殺し屋だとか…。≫

「分かりました、イストワール様。肝に銘じて置きます。さてと…、コンパ、ジン。さっさとネプ子達を見つけ出して、引きずってでも連れて帰るわよ!」

「はいですっ!」「おうっ!」

 

気合十分なところに、更に気合を入れたところで目的地である場所へと向かう事にした。にしても、正直言って居心地のいい場所とは言えないわな。

 

 

 

 

 

「何だ、あれ?」

「何でしょうかこれ…乗り物ですか?」

「ふーん…この場所としては似つかわしくないものね。それに、これは…恐らくだけど、輸送用のヘリコプターだと思うわ。」

 

暫く進むと、そこには鉄の塊のようなものがあったが、アイエフが言う通り、錆びれたりしており原型は留めてはいないが、形は確かにヘリっぽい面影はある。。

 

「…それに、これを見て頂戴。」

「リュックサック…ですか?」

「違うわ。これはパラシュートよ。…となると、やはりアイツは…。」

「獨斗がここに来たと…?」

「まだ、断定は出来ないけど、可能性はあるわね。…イストワール様。ギョウカイ墓場に似つかわしくない物を見つけました。酷く朽ちているので、何処製かはわかりませんが、輸送用のヘリコプターと脱出用に使われたと思われるパラシュートを見つけました。」

≪そうですか…。何かあったりしますか?≫

「いいえ。本当にただの鉄の塊になっている感じです。痕跡までは…。」

≪分かりました。引き続き女神の捜索をお願いします。≫

 

そう言って、アイエフがイストワール様との連絡を切り、再び先へと進む事にした。

 

 

 

 

 

「ふぅ、大分歩いたわね。」

「ああ、かなり奥に来たって感じはするわな。」

「はい…皆さん、一体何処にいるんでしょう………ひぅっ!!」

 

そんな他愛もない会話をしていると、何処からか息遣いのような声がし、それにコンパが驚いたように反応した。

 

「何よ、急に大きな声だして!」

「声が、聞こえたな…。」

「は、はいです!誰かの声が聞こえたですっ!」

「声…!?何処から聞こえたの!?」

「あ、あっちの方から…。」

「行くしかねぇな。」

「そうね、行ってみましょう!」

 

そうして、俺達は声のした方へ向かった。そこには驚くべき状況が広がっていた。

 

「いた!ネプ子!!」

「はいですっ!ギアちゃんも、皆さんも居ます!!でも…。」

「何だよ、これは…。」

 

そこには、3年前にギョウカイ墓場へ向かった女神5人が、黒い触手のようなモノに絡まれるように囚われていた。

 

「ネプ子!しっかりしなさいよ!ネプ子ってば!!」

「………。」

「ダメ…気を失っている…。」

「でも、何でしょうかこの触手みたいなのは…。」

「見た感じは、数年前のズーネ地区で見た奴とはまた違うタイプみてぇだな。」

「そうね。にしても何のよこれ。引っ張っても取れないわ。」

≪力ずくでは無理です。シェアクリスタルを使って下さい。≫

 

イストワールから連絡が入り、アイエフが懐からシェアクリスタルを出す。そんな時、俺はあるところに目が行っており、少し離れた所へ歩き出す。俺はそこに転がっている物を持ち上げる…。

 

「これは…!!」

 

そこに転がっていた物…正確には銃器で大型のリボルバー…。こんな代物を扱える人物は一人しかいない。

 

 

 

「そうはぁぁ…させるかあああああ!!!」

 

 

 

雄叫びとも思える大声が聞こえ、周囲がその声により震えているのが分かる。そして、俺の目の前に巨大な機械兵のようなものが現れる。

 

「ふ、ふはははははは!!まさか、こんな所にまで来る酔狂が居るとはな…!!」

「てめぇは…!!」

「3年間もこんな所で待たされたんだ…、貴様等はあの男と同じく楽しませてくれるよなぁあああ!!」

 

目の前に現れたこいつは俺は知っている。名前こそ忘れてしまったが、あるゲームに出て来たのを覚えている…。だが何だ、此奴から感じる嫌な感じは…。そして、此奴から言ったあの男…。

 

「ジン、向こうはやる気満々よ!!コンパが皆を助けてる間、私達で足止めするわよ!」

「(まさか、俺自身がこんな野郎と戦う羽目になるとはな…。)了解!!」

 

アイエフは両手にカタールを、俺は腰に携えている鞭を手に取り機械兵へと戦いを挑む。

 

「ぬおおおおああああ!!」

 

その巨体から力任せとも思われる巨斧の振り下ろしが放たれるが、これを二手に分かれるように避ける。

 

「一閃!!」

「食らえ!!」

 

アイエフによるカタールの二連撃と、俺が放つ鞭の打撃をその巨体へと当てる。

 

「何だぁ?今のは…。」

 

一撃で倒せるとは思っていないが、持てる力をぶつけた一撃を放ったつもりだ。だが、まるで聞いている気配がなかった。思わずその口振りに驚いてしまいアイエフは足を止めてしまった。

 

「きゃああっ!!」

「アイエフ!!」

 

そんな足を止めた所に、待ってましたと言わんばかりの一撃を放たれ、アイエフが吹き飛ばされてしまう。

 

「弱い…弱すぎる…。もっとだ…あの男と同じように、もっと楽しませろぉおおお!!」

「なら、その言葉通り楽しませてやるよ…。解放…!!」

 

そう言って、俺は十字を描くように腕を交差させる。すると、鞭が光り出し皮の鞭が、十字架を象ったクロスウィップへと変化する。そして、機械兵へと向けて振り下ろすと、ジャラジャラというような音と共に、鎖鞭が伸びるように十字架の先端から出て機械兵にぶつける。

 

「ほう、人間にしては面白い事をする。だが、あの男程ではないな…。」

「ッ………!!化け物か…!!」

「化け物ぉ…?違うな、貴様等が弱いだけだ。」

 

どう考えても不味い状況だ…。この日の為に特訓をしたにも関わらず、敵はそれを上回る力を持っていやがる。どうする…最終奥義のグランドクロスも、発動する準備がある。その間にやられてしまったら意味がない。

 

「ジンさん!!」

「ネプギア…!?目覚めたのか。」

「私も、一緒に戦います…!」

 

どうやら、シェアクリスタルによりネプギアは目覚める事が出来たようだ。だが、他の女神は一向に目覚める気配はない。それでも、女神様が居れば勝機はあるかもしれねぇな。

 

「うっし!奴をぶっ飛ばすぞ…!」

「はいっ!!初めから全力で行きます!!」

 

そう言って、ネプギアがMPBLを取り出し、斬撃と銃撃を合わせたプラネティックディーバを放つ。その間に俺は機械兵の周囲に十字を描くように聖なる短剣を突き刺し、グランドクロスの準備をする。ネプギアのプラネティックディーバにより、十分な準備ができグランドクロスを放つ。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

十字を描くように、地面から周囲を焼き尽くす強い閃光が放たれる。だが、その閃光が消え去った後も、まだ奴は立っていた。

 

「今のは聞いたぞ…。だが、この程度か…。女神も、貴様も、本当にこの程度なのかぁ!!」

「はぁ…はぁ…バカな…!!」

 

闇の存在である奴に打ってつけのグランドクロスを放ち、多少の傷はあるものの、まるで聞いている気配がない。RPGで言うMP切れの状態な為に、息切れを起こしてしまっている。

 

「コンパ!ネプ子達はまだなの!!」

「うぅ…、全然起きる気配がないですぅ…!」

≪もしかして、シェアクリスタルの力が1人分で尽きてしまったのでは…。≫

「そんな!!それじゃあ意味がないじゃない!!」

「そんな…、このままじゃ、また負けちゃうの?嫌だよ…そんな…。」

 

ここに来て、持っていたシェアクリスタルの力が、当に力及ばすという状況になってしまったようだ。

 

「万事…休すか…!!」

「もういい、貴様等は相手としては役不足だ…。纏めて吹き飛べぇええええ!!」

「だめええええええ!!」

 

ああ、こんな(ひで)ぇ所で終わっちまうのか…冗談じゃねぇと言いたいが、現状では手の打ちようがない。だが、振り下ろされてきた攻撃がこっちに振り下ろされる前に、強い衝撃と衝撃音が響く。

 

「貴様ぁ…何故止める!!これから楽しくなるという所で…!!」

「ジャッジ様、“一旦本部へ戻れ”とマジック様からの命令です。」

「ええい!離せえええええええ!!見逃してどうする心算だああああ!!」

「さぁ…そこは本人に聞いて下さい。」

 

そこに居たのは、まるで暗殺者のような格好をした人物が、そのジャッジと言う奴の大斧を右手だけで受け止めている。しかも、受け止めているのを解こうともがいているが、全くビクともしていない衝撃的な状況だった。フードにガスマスクのようなものを付けている上に、ボイスチェンジャーを付けているのか正確な声が分からない。まさか、此奴が犯罪組織に雇われた傭兵なのか…?

 

「助けて、くれるのか…?」

「助ける?違うな…見逃すだけだ。私の事より、そこの女神を介護したらどうだ。」

「え…?」

 

その男に言われ横を向くと、ネプギアが力を使い切ってしまったように、プロセッサユニットが解除されパープルシスターからネプギアに戻りつつ倒れ込んでいる。

 

「ね、ネプギア…!」

「ぎ、ギアちゃん!!」

「ちょっと、ネプギア!しっかりしなさいよ!!」

「………。」

 

その状況に驚きアイエフが近くに寄って揺さぶる。

 

「ダメ、気を失ってる…!こんなところで…!!」

「くそぉ…許さん、貴様等さんぞ…!!俺の楽しみを邪魔するなら、味方でもぶっ殺す!!」

「全く…やはり貴方は扱いにくい。」

 

どうやら完全に奴さんはブチ切れてしまっているようだ。それでも、大斧は全くビクともしな状況が続いている。…あの人物も化け物か…?

 

≪皆さん、作戦は失敗です。一先ず引いて下さい。今の私達ではどうする事も出来ません。≫

「イストワール様、しかし…!」

「ここで、犬死するよりは…ましだろ…。それに、見逃してくれると言っている…。絶好過ぎるぜ。」

「そうだ。その男の言う通り。何時までも抗していられると思わないで欲しい。」

 

そう言う人物の方を見ると、確かに右手が震えだしている。

 

「ぐっ…仕方ないわね。分かりました。コンパ、ジン。ネプギアを運んで逃げるわよ。」

「は、はい!!」

「お、俺もかよ…。」

「文句言わずに、手伝う!!」

 

そうして、グランドクロスによる疲労がありながら、ネプギアを運ぶ手伝いをする…人使いが荒いぜ全く…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…ここまで来ればもう大丈夫そうね。」

「ひぃ…ふぅ…ひぃ…ギアちゃん…意外と重いですぅ…。」

「はぁ…はぁ…疲れた…。」

「何よ、大の男が情けない事を…。結局、助けられたのはネプギアだけだったわね。それに…。」

 

そう言ってアイエフがシェアクリスタルを取り出す。最初に見た時と違い、全く光を放っていない状態となっている。

 

「全く、光ってもないな。」

「恐らく、これに入っていたシェアエナジーは空っぽね。」

「これじゃあ、もうねぷねぷや、女神さん達を助けられないですぅ。」

「それに、あの男…次は敵として立ちはだかる気がするな。」

 

そう、只でさえジャッジと言われた機械兵単体でも、力を合わせても勝てなかった上に、そのジャッジを上回ると思われるあの傭兵のような人物。はっきり言って助かったって気には全くならないわな。

 

≪落ち込まないで下さい。ネプギアさんを助けられただけでも、此方としては十分な成果です。≫

「イストワール様。私達はこれからどうすれば?」

≪一度、プラネテューヌに戻って下さい。ネプギアさんには休息が必要です。それに、ネプギアさんには酷かと思いますが…3年前に何があったかも聞かなければなりません。≫

「確かに、残酷だな。」

≪分かっては居ます。ですが、そこに突破口があるかもしれません。≫

「………、分かりました。これから、帰還用のイジェクトボタンを使って戻ります。」

 

そう言って、アイエフは持っているイジェクトボタンを使う。そして、数秒の内に見慣れた光景であるプラネテューヌに着くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰還後、直ぐに現状報告をする。まだ、断定は出来ないが、獨斗が普段から携帯していたであろう大型リボルバーを拾ったことを報告する。流石に手入れはされず放置されていた為、直ぐに使う事はできないが、修理をすれば使えるとの方向は受けた為、一応修理を依頼する。…銃弾に関しては、獨斗の部屋から拝借するしかなさそうだが…。

 

そして、ネプギア救出から数日が経った。今はプラネテューヌでクエストを終えた所で近くのベンチに座っている。だが、問題は山積みのような感じであり、一人頭をかかている状況だ…。

 

「お疲れー!」

「チメタっ!!」

 

聞き覚えのある声と共に、俺の頬に冷たい何かた当たる。そこには笑顔の日本一がいて、スポドリを持っていた。

 

「どうしたのさ?最近元気ないじゃん。」

「まぁ、色々あってな。」

 

そう、本当にこの短い期間で色々とあった。獨斗には程遠いが、誰にも負けないを目標に力を付けて来たにも関わらず、あのジャッジと言う奴にはかすり傷しか付けられなかった。正直ショックに近い物を感じている。転生者でありながら、力及ばずというか…。

 

「ん~…よく分からないけどさ。あんまり、難しく考える必要はないんじゃないかな?考えすぎると、他のものが見えなくなっちゃうよ。」

「そんなもんかね…。」

「そうそう!それに、ヒーローが落ち込んだら、周りも落ち込んじゃうからね!」

「………。日本一は、2年前と変わらないな…。」

「む…何その良い方。誉めてるのか馬鹿にしてるのか…。」

 

日本一が細い目をしつつ此方を見ている。まぁ確かに、日本一と出会ってなければ、俺の正義は歪んだものになってたかもな。そこは感謝しなきゃな。

 

「…ありがとな。」

「こ、今度は何?」

「ああ、何でもない。」

「…変なの。」

 

そんな周りから見ると、よくわからないやり取りをしていると、携帯に連絡が入ってくる。連絡相手はイストワール様だった。女神奪還計画以降、出来る限りの範囲という条件でプラネテューヌの補助をする事になっており、今回もその件についてだろう。携帯を取り出し開くと、端末からイストワール様が浮かび上がる。

 

≪ジンさん、急に申し訳ありませんが、お時間はありますでしょうか?≫

「あ~、日本一も居ますが、クエストは終わったばかりだから問題ないっすよ。」

≪そうですか。此方としては嬉しい所です。≫

「ん?アタシにも何か用ですか?」

≪はい。今から教会に来る事は可能でしょうか?≫

「まぁ、今プラネテューヌに居ますし。場所も丁度10分足らずで行ける場所に居ますよ。」

≪分かりました。ネプギアさんが目を覚ましましたので、お二人にも話して起きた事があります。≫

「おぉ!女神様が目覚めたんだね!!」

「そうか。良かった。」

≪では、お待ちしてますね。≫

 

そう言って連絡を切り携帯を仕舞う。

 

「しかい、話す事とはなんだろうな。」

「そんなの、行けば分かるよ!」

「………。そうだな。先ずは行ってみるか。」

 

そうして、俺はベンチから立ち上がりプラネテューヌの教会へ向かう事にした。

 

 

 

 

 

 





ここまで読んでいただき、ありがとうございます!今回もガッチガチ(?)なので用語集は無し。


それから、(祝)新次元ゲイム ネプテューヌVⅡR発売おめでとう御座います!
残念ながらPS4がない為、PS4を買うか検討するか、PC版が出てくるのを祈るか…です。



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Scene30  力を求めて~Warming Up~

 

 

 

 

 

プラネテューヌの協会に着き、イストワール様とネプギアから一通りの話を聞いた。3年前、犯罪組織を壊滅させる為にギョウカイ墓場に向かった時の話…。

 

 

 

 

 

5人の女神がたった一人相手に翻弄され、敗北してしまった事。ここまでは、俺がやっていたゲームと同じだな。周りは信じられないという雰囲気が漂っている。だが、力が吸い取られている上に時間が分からない為に正確には分からないが、意識が朦朧としている中、上空で爆発する何かと、低空からのパラシュートと受け身で現れた人物がいたと言う。

 

「…獨斗が…現れた?」

「はい…。多分、私達を助ける為に、一人で私達が敵わなかった相手と…。」

「それでネプギア、その後はどうなったのよ?」

「…ごめんなさい。永守さんが現れてから、直ぐに気を失ってしまって…。」

 

ある意味、切り捨てられない話だった。恐らく、たった一人でマジックに戦いを挑んだことになる。一人で、女神5人で敵わなかった相手とやり合うのは無謀とも言えるが、奴なら出来るのでは…ギルド内では“不可能を可能にする男”とも言われていた男だ。だが、結果は分からないが、獨斗が持っていた銃が転がっていたという事は、敗北してしまったと考えるのが普通だ。最悪なパターンは、あの暗殺者のような格好をし、見逃してくれたあの男が獨斗という事もあり得る。マジェコンヌ普及率8割、そして違うところを上げると、そのマジェコンヌの幹部達の目的は犯罪神ユニミテス…。まぁ、問題は山積みだ。

 

「この現状を打破するには、各国のシェアを取り戻す必要があります。」

「しかし、イストワール様。そんな悠長な事してられるのか?犯罪組織がそれを上回ってしまっては意味がない。」

「ええ、ジンさんの言う通り、私達にのんびりとしている時間はありません。ですから、先ずは他の女神候補生との協力と、ゲイムキャラの力を借りる必要があります?」

「ゲイムキャラ?何ですかそれは?」

「古の女神様達が生み出した、世界の秩序と循環を司る存在。彼女達は各国の土地に宿り、各国の繁栄を守り続けています。」

 

アイエフが、ゲイムキャラに付いてイストワール様に問いかける。…どうやら、この世界にもゲイムキャラが存在するようだ。まぁ、肝心の場所は俺も知らんがな…。

 

「今はまだ、プラネテューヌのゲイムキャラの居場所は特定しきれていいません。情報が見つかり次第伝えますので、その間に皆さんはプラネテューヌのシェアの回復をお願いします。ネプギアさんのリハビリにもなるでしょうし…。」

「そうね…。3年も捕まりっぱなしじゃ体が(なま)ってるかもしれないし、少しは動かした方がいいわよね。」

「………。」

 

そんな話をしている中、ネプギアは何か考え事をしているのか、話を聞いていない感じをしている。

 

「ちょっとネプギア、話聞いてるの?」

「え、あ、はい!き、聞いてます。」

「それで、アタシとジンも一緒に行けばいいのかな?」

「はい。お二人には、今後とも協力をお願いしてもいいでしょうか?」

「アタシは何時でもOKですよ!!」

「ま、自分の住んでいる場所が危ねぇってのに、見て見ぬ振りは出来ねぇからな。」

「有難う御座います。それでは皆さん、ゲイムギョウ界の為にも宜しくお願いします。」

 

そうして、ここから新たな脅威からゲイムギョウ界を救うための作戦が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とは言え、今私達に出来る事はギルドに行ってクエストを熟すくらいね。」

「そうですね。ギルドでお仕事を熟して、シェアを沢山集めるです。」

「だな、イストワール様の言う通り、ネプギアのウォーミングアップにもなるだろう。」

 

そう言って俺達はギルドに行く事した。

ただまぁ、クエストを覗いてみたが、討伐系のクエストで2つしかない。

 

「スライヌ討伐とキノコ討伐…ね…。」

「うん、ジンの言う通りウォーミングアップには丁度良いクエストだね。」

「なら、俺と日本一はキノコ討伐、そっちはスライヌ討伐でいいだろう。」

「え?一緒のクエストを受けないですか?」

「確かに、一緒に行動した方が安全かもしれないが、俺達には時間がねぇからな。」

「効率重視って事?」

「そういう事だ。それに、場所は両方ともバーチャフォレストだ。いざとなれば助太刀出来るだろう?」

「確かにそうね。それに、ネプギアならスライヌ程度大丈夫よね?」

「………。」

「ネプギア?」

「あ、はい。だ、大丈夫です。」

 

どうやらまた考え事をしていたようだ。

 

「どうした、考え事か?」

「す、すみません。なんか、皆さんの足を引っ張らないか心配で…。」

「何よネプギア。そんな事気にしてたの?」

「ギアちゃんなら大丈夫です!わたし達がしっかりサポートするです!」

「そうそう、あまり深く考えずに持てる力を思いっきり出した方がいいよ!」

「今、俺達に後ろを見ている暇はない。…兎に角、今は成功する事だけを考えようぜ。」

「…はい。」

 

何かしっくりと来ていない感じと言った雰囲気をしているが、悠長に考えている暇はないので、ギルドから出て目的地のバーチャフォレストへ向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とは言え、あっという間に終わったね。」

「まぁ、キノコ相手…それもノルマは3体なら、俺達二人なら余裕のよっちゃんだろ。」

 

バーチャフォレストに着いてから、ギルドで言った通りスライヌ班とキノコ班の二手に分かれて討伐をする。とは言え、クエストはどう考えてもチュートリアル的なものであり、俺達からしたら余裕にも程があると言ったところだ。RPG的に言えば、Lv10~20もあるのに、Lv1~3の相手をするようなもんだ。お茶の子さいさいと言わんばかりに仕留めてしまった為に、映す価値無しの如く終わってしまったのだ。

 

「確かにそうだね。あとおっさん臭いしメタいよ。」

「人の地の文を読んだような反応するなし…。」

 

まぁそれは置いといて…。若干ネプギア…と言うよりはアイエフ率いるスライヌ班とは若干距離が離れている。

 

「さて、向こうも多分終わってるだろ。報告兼ねて合流しようや。」

「そうだね。そうした方がいいか!」

 

そうお互いに言い、スライヌ班と合流する為に来た道を戻る。だが、そこで見たのは大体は予想していたものとは違う状態だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビッグスライヌ!なんでこんな所に…!?」

「…そんな事より、どういう状況だこりゃあ…。」

 

少し遠いところからスライヌ班を見つけた。ビッグスライヌが居るのまでは想定の範囲内だが、何故かまだ交戦中な上に押され気味になっている。

 

「ちょっとちょっと、なんか不味くない?」

「だな、加勢するぞ!」

 

そして、阿吽の呼吸の如くお互いに目を見て頷き、天高く飛びビッグスライヌに向けて―――――

 

「ダブルエリアルフォール!!」「ダブルヒーローキィーーーック!!」

「ヌ゙ラ゙ァ゙ッ!!」

 

ビッグスライヌの後ろから奇襲の如く同時に飛び降り蹴りをかます。

 

「ジンさん、日本一さん!!」

「た、助かったですぅ…。」

「いいタイミングね、助かったわ。」

 

そんな3人の声が聞こえてくる。が、そんな事よりも―――――

 

『おい(ちょっと)…、ダブルしか合ってねぇ(ない)じゃん!!』

「そこ気にする所なの!?」

 

アイエフから鋭い突っ込みがあったが、俺と日本一にとっては大きな問題だぞ。折角大事な必殺技なのに、まさかのお互いの掛け声が違うというとんでもない事が起きているんだ。そして気づけば、お互いに額をくっつけて火花を散らしている。

 

「ちょっとアンタ達!喧嘩してる場合じゃないわよ!」

「ヌララァッ!!」

「ま、まだ来るですぅ!!」

 

そんな声がしてビッグスライヌの方を見ると、若干怒り気味のようで此方に敵意を剥き出している。

 

「おっと、奴さんはやる気満々だ。あれで倒れねぇとはやるじゃねぇか。」

「そうだね、今はこんな事で喧嘩している場合じゃないね。そうと決まれば、さっさと倒すだけだね!」

「私達の事も忘れちゃ困るわよ。」

「そうです!皆で協力して倒すです!」

 

意気投合…と思いきや、ネプギアだけは何か浮かない顔をしている。

 

「不満か?」

「あ、いえ!そんな事じゃ…。」

「何難しい事考えてるんだ?要はあのデカブツをぶっ飛ばせばいいだけだろ。心配するな。俺達が居るんだ。一人で戦ってる訳じゃねぇ。」

「そうです!ギアちゃんは、決して一人じゃないです!」

「そうだよ。ゲイムギョウ界を救う為に、協力し合わなきゃ!」

「ネプギア。私達が全力でサポートするから、安心しなさい。」

「………。分かりました。今一度、ご協力お願いします!」

 

そうして、全員が顔を見合わせて頷く。…しかしまぁ、怒ってる割にはよく待ってくれたな。感謝するぜぇビッグスライヌさんよぉ。

 

「最初っから決めるわよ!魔界粧…轟炎!!」

「アイちゃんに続くですよ!」

 

アイエフの魔法がビッグスライヌの下から、ビッグスライヌを焼き尽くすような強力な炎がビッグスライヌを襲う。そこに、コンパが注射器からレーザーのような何かが放たれビッグスライヌにヒットする。

 

「怯んだよ!今ならチャンス!!」

「OK。エリアル改め…」

『ダブルヒーローキィーーーック!!』

 

そう言って、俺と日本一は背面回し蹴りのようにビッグスライヌを蹴り上げる。うん、今度は掛け声が揃った。その強力な蹴り上げにより、ビッグスライヌが宙に浮き更に体制を崩す。

 

「ネプギア!」

「はい!!ミラージュダンス!!」

 

奇襲を掛けるように、ネプギアが空中から得意技であるミラージュダンスを繰り出している。ビームサーベルによってビッグスライヌが斬られていく。

 

「これでトドメです!!」

 

最後のフィニッシュ技の如く、ビッグスライヌに向かってネプギアは一閃のように一刀両断する。ビッグスライヌは横に分かれると同時に結晶体になる。

 

「や、やった…!!」

「ギアちゃん、ナイスファイトです!」

「皆の協力あっての勝利だね!!」

「ふぅ、何とかなったわね。アンタ達が遅れてたらどうなってたことやら…。」

「いやいや…俺らが居なくても何とかなったろ?」

「まぁ…そうよね。只、ネプギアが変身できなかったのが気がかりだけど。」

「あ…それについては…その…。」

 

案の定、囚われていた事がトラウマになっているようだ。ただまぁ、今回は無事に終わった事だしクエスト完了の報告をする為にバーチャフォレストを後にしようとする。

 

 

 

 

 

「流石だな。…いや、女神化しなくても出来て当然だろう。」

「ふぇ!?」

「だ、誰!?」

「この声は…。」

「皆、あそこに誰かいるよ!」

「本当だ、あそこに人が…!!」

 

その場を立ち去ろうとした時、不意に声がしコンパはビックリし、全員が周りを見渡すと日本一が巨木の方に指を差す。その木の上の方に、確かに人がいた。そう、あのガスマスクの男が、リボルバーをクルクルと回しながら…。

 

「てめぇは…。」

「…随分と敵意を剥き出しているな。私は君達に嫌われるような事はしてないがな…。」

「ジン、知ってるの?」

「ああ、ちょっとな…。」

 

日本一は初めて見る為に俺に聞いて来るが、ぶっちゃけ俺も詳しく知らねぇから詳しく説明が出来ない。

 

「アンタ、今度は何の用なのよ。」

「別に?私はただ見学してただけだが…。まぁ個人的には用はあるがね。」

「やろうっていうのか?」

「いや、戦う為に来たわけじゃない。それに、今私と戦っても敵うはずがない。四天王最弱でもあるあの戦闘狂のジャッジ様にすら、苦戦している君達じゃね…。」

 

…あれで最弱と言うのか?確かにその最弱と言う奴の攻撃を片手で防ぐ奴に、戦いを挑むのは自殺行為かもしれねぇな。

 

「そんな情報を教えてどうする気だ?」

「まぁ、取引さ。ジン…、お前にもな。」

「…何故俺の名を知っている?」

「君は知らなくても、こっちはまるっとお見通しだからね。痛いほどに…。」

 

こっちは初対面に近いが、向こうは俺達の事を調べ尽しているようだ…。全く、気にくわねぇ。まるでアイツみてぇだ。

 

「それで、取引とは…?」

「そうだったな。至って簡単だ。我々犯罪組織に降参するか。勝てないと分かっていても抗うか…。最も、答えは出ているようなもんだがね…。」

 

取引というよりは、脅しにも聞こえてくるな。余計気に入らねぇな。

 

「そうだな。アンタに言われなくても、後者に決まってるだろが。」

「そうよ、私達はアンタ達の好きにはさせないわよ!」

「そうです。犯罪者さんに、好き勝手はさせないです!」

「ゲイムギョウ界を脅かすなら、アタシは断じて許さないよ!!」

「…あの時、助けてくれたことは感謝します。でも、貴方は犯罪組織の人。お姉ちゃんを…、いえ、女神に危害を加えるのであれば、私は、貴方と戦います…!」

 

そう言ってネプギアはいつの間にか最前線に立っている。なんというか開き直った感じだろうか。

 

「流石、女神候補生…。表向きだけじゃない事を期待しよう。…なら、ジン。これをやろう。」

 

そう言って、ガスマスクの男が左籠手のようなものを投げてくる。

 

「何の心算だ?」

「何って、手助けさ。」

「意味が分かんねぇよ。犯罪組織なのに、何故こっちの手助けをする。」

「子犬のように、野垂れ死ぬのはつまらない…。マジック様もそれは望んでいないのさ。そこで、転生者であるお前に“魔道器の籠手”をやる。」

「魔道器?」

「そうだ。魔術を使えない者でも魔術のようなものが使えるようになる代物だ。詳しくは教祖様にでも聞くんだな。次会った時は、お前達の敵として立ちはだかろう。では、アリーヴェデルチ(Arrivederci)。」

 

そう言うと、ガスマスクの男は木に隠れるように一瞬で姿を消すのだった。

 

「次は敵として…か…。」

「ジン…。アタシにも分かるよ…。あれは只者じゃないって…。」

「上等じゃねぇか…。俺らに塩を送った事を後悔させてやるよ。」

 

そう言って俺は捨てられた籠手を拾い上げ左手に付ける。付けた瞬間、確かにアイエフが魔法を使った時のような雰囲気を感じる。

 

「そんな事より、ネプギア。貴女あんな事言ってたけど、大丈夫なの?」

「分かりません…。でも…いえ、きっと私は逃げていたんだと思います。次またやられたらどうしようって…。でも、冷静に考えれば、私にはユニちゃん、ロムちゃん、ラムちゃん、それにスミレちゃんも居ます。それに、ゲイムキャラさんの力を借りれば…。それに…。」

「それに?」

「それに、何でしょう…上手く説明出来ないけど。あの人を止めなくてはいけない。そんな気がするんです。」

「…奇遇だな。俺もそう思ってんだ。」

「ジンさんもですか?」

 

どうやら、ガスマスクの男を止めなくてはいけないと思ったのは、俺だけじゃないようだ。不思議な事に、敵のはずが親近感的なのを感じてしまっている。

 

「ま、俺も良く分からねぇがな…それで、女神化は出来るか?」

「それは、わかりません…。でも、次は出来るようにします。」

 

ネプギアの目には、何か光が宿ったようになっている。本当表面化、カラ元気じゃない事を祈ってるぜ。そうして、俺達は今一度プラネテューヌへ戻る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラネテューヌに戻り、ギルドでクエストを報告し報酬を受け取ったと同時に、ネプギアのNギアに連絡が来る。イストワール様からで、ゲイムキャラの居場所を掴んだとの事なので、教会に来て欲しいとの連絡だ。

 

 

 

 

 

「それで、いーすんさん。ゲイムキャラさんの居場所は何処ですか!」

「お、落ち着いて下さい。今から場所を表示します。」

「ネプギア、早くは分かるけど落ち着きなさい。」

「あ、す、すみません…!」

 

そう言ってネプギアは深呼吸をして、落ち着いたという所でイストワール様が、ゲイムキャラの居場所を提示する。

 

「ここ、バーチャフォレストの最深部の更に向こう側…。普段は立ち入り禁止になっていますが、許可は下りていますので入る事は可能です。」

「やっと初めの一歩ってところね。」

「あ、以前お姉ちゃんと一緒に行った場所とは違う所なんですね。」

「ギアちゃん、一度言ったことあるですか?」

「あ、えっと。あの時は、永守さんのクエストに付いて行ったというか…。」

 

どうやら、ネプギアは過去に近くまでは行ったらしい。獨斗が近くまで…ねぇ。一体何をしに行ったかまでは聞かないが…。

 

「それから気を付けて下さい。」

「ん?どういう事だ?」

「そのバーチャフォレスト最深部の方で、フードを被った二人組を目撃したという情報があります。雰囲気からして怪しいとのことです。」

 

フードを被った二人組?一人は何となく予想は付くがもう一人は…。余り考えたくはないな。

 

「…何か嫌な予感がするわね。一刻も早く行きましょう。」

 

アイエフの言葉に全員が頷き、下準備をしてバーチャフォレスト最深部の進入禁止エリアに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 




【用語集】

○余裕のよっちゃんだろ。
 今時余り聞かないであろう言葉で、”そんなの余裕だよ”という意味で捉えている。調べてみると、世間的には「余裕」の「よ」との単なる語呂合わせだという説が有力である…と言われています。(ハテナキーワード様より。)

○アリーヴェデルチ
 イタリア語の別れの挨拶。語源的には”私達がまた会う時に”となっているので、再会を前提としている挨拶となる。イタリア語では「Arrivederci.」と書く。言葉自体は至って普通ですが、ジョジョの奇妙な冒険~黄金の風~で、ブローノ・ブチャラティのスタンドのラッシュ攻撃の最後に言うので、ある意味ジョジョファンでは知名度は高いかと思われる。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

実際世界観は変わらないので違和感は無いかと思いますが、こういう流れって実際どうなんだろう…。まぁ、ここまで来てしまったので後戻りはしません。


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Scene31 第一のゲイムキャラ ~1st Contact~

mk2、birth2の展開となっていますが、異なる点はアニメからなので、展開は異なる…はず。




 

 

 

 

 

バーチャフォレスト最深部の立ち入り禁止エリア。そこに、ゲイムキャラが居ると言う情報をイストワール様がキャッチした所だ。各々準備を整えた俺達は、ゲイムキャラを求めて、尚且つ謎の二人組の正体を探る為バーチャフォレスト立ち入り禁止エリアに突入するのであった。

…ああ、因みにだが、イストワール様曰く、ゲイムキャラは三ヵ国にも存在する。そこで念の為確認をした所、ラステイションではユニちゃんが、ゲイムキャラを捜索中…、ルウィーはロムとラムがクエストを熟しつつ、ミナさんがゲイムキャラの情報を捜索中…、リーンボックスではスミレがチカさんと協力して捜索中との事。ネプギアが救出された事も伝わってて、ロムとスミレは安心したような感じだったが、ユニちゃんとラムは嬉しいような嬉しくないような反応だった。険悪という感じではないが、すっきりしない反応だったって事だ。

それと、籠手に関しては、古の大戦時に使われた封印されし武具の一つらしいが、詳しい事は分からないそうだ。只、ゲイムキャラなら知っているかもしれないと言っていたので、ゲイムキャラに会う必要がある。つまりは、今のところは只の防具に過ぎない…という事にしておこう。

 

 

 

 

 

「…ここが、ゲイムキャラがいるハウスか。」

「…え?」

「いや待ってアンタ、立ち入り禁止エリアに入ったのに何言ってるのよ。」

 

ぽかんっとした表情のネプギアに、アイエフからの突っ込みがありながらも、俺達はバーチャフォレストの立ち入り禁止エリアへと到着した。バーチャフォレストの公園路とは違い、水辺にアリーナ並みに広い円型フィールドが幾つもあり、橋のようなもので繋がっているエリアだ。立ち入り禁止エリアとは言うが、完全立ち入り禁止という訳ではなく定期的にプラネテューヌ教会の職員が、偵察に出入ったりしているらしい。とは言え、職員もゲイムキャラがそこにいるなんてのは知らねぇようだ。

 

「おっと、早速モンスターからの歓迎だよ!!」

 

日本一が指を差しながら、此方に敵意を向かせているキノコ3体が居る。だが、そのキノコは通常の色とは異なる色をしていた。

 

「皆、気を付けて、あのキノコは汚染されてるみたいよ!」

「だが、5対3ならこっちが有利だ。」

「それでも、油断しちゃダメです。」

「分かっているさ。」

「相手が誰であろうと、全力で行くまでです!」

 

そして、5対3による壮絶な戦いが開幕するのだった。

 

 

 

 

 

…とでも思っていたのか?実際は汚染されて強くなっているのは確かだが、蓋を開ければ、“イジメ、ダメ、ゼッタイ”みたいな事になっていた。ある意味、ペ〇ソナの総攻撃チャンスみたいな事になってしまったな。

 

そんなこんなで、極力戦闘は避けつつ、危険種に接触しないようモンスターを蹴散らしていく事数十分。ある方向から、金属を叩くような音がしているのを聞き取る。

 

「金属音…情報で言っていた先客がいるのか?」

「分からないわ。でも、音のする方へ行ってみましょう。」

 

俺達は、音のする方へ走り出し、その音の原因が何なのかを発見する。

 

 

 

 

 

そこには、背中に、精密機械のような剣を携えている、暗殺者のようなフードを被った高身長の人物と、ネズミの耳が付いたフードを被った並の身長の人物がいる。そのネズミフードの方が愚痴を溢しながら、鉄パイプのような棒である物体を殴り続けていた。

 

「ちぃ…全然壊れねぇぞおい。さっさと壊して次の仕事に行かなきゃならねぇのによ!」

「簡単に壊れたら、ゲイムギョウ界の守護をしている意味がないだろう。」

「つーか、テメェもボサっと見てねぇで手伝えよ!!その背中のは飾りか!!」

「…生憎、私はお前の護衛で来ている。上からはそういうことだからな。」

 

両方ともガスマスク越しのような声だが、片方は聞き覚えのある声がした。あのガスマスクの男の声だ。

 

「止めてください!ゲイムキャラを壊さないで!!」

 

ネプギアの声に反応するように、両者共此方を見てくる。…やはり片方はあのガスマスクの男だった。もう片方は恐らく…アイツか?

 

「ああ?邪魔すんじゃねぇよ…ってテメェは…!!」

 

何か驚いたように、ネズミフードの方はガスマスクと上着をはだけさせる。…何故上着もはだけさせるんだ。

 

「あ、貴方は…!!」

「知ってるの?」

「はい。あの人は、以前にロムちゃんとラムちゃんを誘拐した人の一人です…!」

「覚えていたか…!あの時の事は、忘れはしねぇぞ!!」

 

どうやら、数年前ルウィーの誘拐事件ニュースで流れていた犯人の一人のようだ。…あの時は獨斗がニュースで出て来たのは驚いたがな…。

 

「来たな、女神一行よ。待っていたぞ。」

「ああ。アンタと、犯罪組織を止める為に来たさ。」

「それで、そっちのアンタは、誘拐犯の次はマジェコンヌの一員って訳?」

「察しがいいじゃねぇか。そうさ!アタイは犯罪組織マジェコンヌが誇るマジパネェ構成員のリンダ様だ!」

「………。」

「…おい、テメェも名乗れよ!!」

「私も名乗らなきゃダメなのか?」

「あたりめぇだろ!!名を広めるチャンスなんだぞ!」

 

なんだこれ…まるで打ち合わせせずに来た感じが溢れているぞ…。

 

「まぁいい…。知ってはいるだろうが、私は犯罪組織マジェコンヌに雇われた、ハーミット…コードネームはゴーストだ。」

 

…隠者に幽霊…、まるで存在してはならないという意味にも聞こえるな。

 

「そっちのアンタは傭兵なのね…。で、そっちは構成員…要は下っ端ね。」

「なっ!?」

「下っ端ですね。」

「下っ端さんです。」

「下っ端だね。」

「…下っ端か。」

 

アイエフが構成員と分かった途端、下っ端と言いそれに反応するように全員が下っ端呼びする。俺も流されるように下っ端呼びしてしまったぜ…。まぁ、ここは言うのが正解だよ。うん。それを聞いた下っ端さん事リンダは頭に血が上ったようで激おこぷんぷんな状態だ。

 

「くくく…酷い言われようだな。」

「テメェら…下っ端下っ端って言いやがって!あと、テメェも笑うな!!」

「五月蠅いわね。そこの傭兵は兎も角、下っ端のアンタは邪魔よ。さっさとそこを退いてくれるかしら?」

「下っ端さん、お願いですから邪魔しないで欲しいです。」

「下っ端じゃ、このヒーローのアタシには勝てないよね?」

「…下っ端さんなら、問題なく勝てそう…。」

 

下っ端と分かった途端、アイエフのこの強気な態度に続く一行である。まぁ、見た目は弱そうに見えるもんな。しゃーないわ。

 

「ふふ…私からは何も言えないな。」

「ぐぬぬぬ…何度も何度も下っ端下っ端って連呼しやがって…!!もう我慢できねぇ…下っ端呼ばわりしたこと、後悔させてやらぁ!テメェらまとめてぶっ飛ばしてやる!」

 

おっと、完全にブチ切れたようで戦闘態勢に入っていやがる。もう完全に会話での解決は出来そうにねぇようだ。

 

パチンッ

 

そんな時、ガスマスクの男が指を鳴らす。そして、何も前触れもなく謎の障壁が現れる。

 

「ジン!!」

「これは…!」

 

不運なのか、不覚なのかは置いといて、立ち位置が悪かったのか俺はネプギアや日本一達と孤立してしまい、ガスマスクの男との立ち会いになってしまった。

 

「貴様は、一行の中でも厄介な存在だ。」

「だから俺だけを…?それにしては過大評価しすぎじゃねぇか。だが、アンタは何故、犯罪組織なんかに手を貸している?」

「簡単な話さ。犯罪組織から、1億クレジットをポンとくれた。だが、それだけではない…貴様から受けた3年前の屈辱を晴らす為に地獄から舞い戻った。」

「アンタに恨まれる事はしたこなんか、これっぽっちもねぇが?」

「貴様は知らなくてもいい…。それだけの事だ。」

 

俺にはよく分からねぇが、奴さんは俺に積年の恨みみてぇのを持ってるようだ。お隣も戦い始めようとしている。俺だけ戦わねぇってのは可笑しいもんな。俺は腰に掛けている鞭を手に取る。

 

「良く分からねぇが、アンタの俺に対する恨みなんてどうでもいい。ただアンタを倒して、恨みが1つ増えるだけ。それだけだ。」

「くくく…面白い。果たしてこの俺を倒す事が出来るかな?」

 

そして、俺とガスマスクの男はお互いに戦闘態勢に入る。様子見をしたいところだが…生憎、向こうにさっさと加担したいんでね…。

 

「先手必勝だ!!オラぁ!!」

 

投剣を投げ、鞭をガスマスクの男に向けて振る。奴は左手で投剣を弾き、軽やかに避けやがった為、空振った鞭が地面に当たり、当たった場所の地面が少し欠ける。だが、それも想定内。鞭を振り回し一気に距離を詰める!!

 

「…なっ!!」

 

あと一歩先で奴に届くといった所で、妙な寒気がし体制を横にずらす。奴さんも体制を崩していたとはいえ、その崩れた体制から此方に銃を向けて発砲してくる。幸いにも頬を少し掠る程度だ。

 

「…シングルアクションアーミー(S・A・A)か…!そんな博物館物を…。」

「ほう、今のを避けるか。いや、流石だ。マグレとは言え、我が同族を倒した事だけはある…。」

 

同族…?そんな言葉に惹かれるように、“3年前”と“恨み”という言葉が脳裏に浮かぶ。そして、ある答えに到達する。

 

「…それでも、前へ!!うおおおおおおお!!」

 

だが、どう答えが出ようと、目の前にいる奴は俺達にとっては敵…それ以外に答えなどねぇ。俺は正面から立ち向かうのは危険と分かっていても、恐れず正面突破をする。あいつだって同じ状況ならそうすると思ったからだ。そして俺はガスマスクの男に鞭による乱舞を放つ。

 

「…気に入らねぇ。その鉄の塊は本当に飾りか?」

「………。」

「余裕たっぷりとは、ムカつく野郎だぜ…。」

 

そう、奴が背中に携えている剣を一向に抜こうとせず、ただ単に紙一重で俺の攻撃を避けている。

 

「来いよ、遊んでやる。」

「………。徹底的に叩きのめしてやる。」

 

そんな事を言うこの男が、無性に腹が立つ…俺の攻撃を全ての攻撃を避けているのも相まってだ。だが、ただ単に暴れまわっている訳じゃねぇ。俺は左腕を引っ張る。

 

「…!!ほう。」

 

ブービートラップ。ステルス製のトラバサミを仕掛けて置いたのさ。獨斗が居なくなった2年間…只単に力を鍛えただけじゃねぇさ。特権のせいで魔法が使えないなら、狩人(レンジャー)技術を覚えればいい。そういう類のアイテムはこの世界にも豊富にある。そして俺は持っている鞭を奴の腕に絡ませ引っ張り寄せる。

 

「ぬぉあああああああ!!」

 

引っ張ってきたガスマスクの男の顔面に左拳を叩き込み、マウントポジションを取る。そして引っ張って来た際にガスマスクの男から抜けた剣が、俺の上に振ってきてそれを取る。

 

「先に御寝んねしてな!!」

「ぐぉ…!!」

「これが、俺の力だ…!」

 

手に取った剣をガスマスクの男の腹に突き刺し地面にめり込ませる。この程度で死ぬような奴じゃないのは分かっている。此奴からは情報を聞きたいが…。

 

「向こうに加勢しなければ…。」

 

どうやら、ガスマスクの男の力が弱まったのか、結界が溶けている。だが、俺の目の前に見た光景は悲惨なものだった。

 

「きゃああああ!!」

 

叫び声が聞こえ、そこに眼を向けると、ネプギア達が下っ端ことリンダ一人に苦戦している。いや、弄ばれているのか?

 

だが、俺は奴を倒したと確信してしまっていた…これが、不味かった。

 

 

 

 

 

ブスリッ―――――

 

「ぐっ!!」

 

気付けば、俺の後ろの右肩に注射器のようなものが刺さっている。そしてガスマスクの男を見ると、左腕を此方に向けているのを目にする。あの籠手は暗器の類だったのか…!!それに、腹に剣が刺さったままだぞおい…!

 

「流石だな…。少し、お前の力を甘く見すぎた様だ。…ふぅ。」

「化け物か…!!」

「誉め言葉として受け取っておこう。」

 

直ぐに右肩刺さっている注射器を抜く。如何やら、殺傷能力は低く出血もしていない。だが、何か薬品を投入されたのかもしれねぇ。それと同時に奴は腹に刺さっている剣を抜き、背中に携え直す。奴の驚くべき事は、剣を腹から抜いた際に血は出たが、出血しているようには全く見えない。だが、流石に体力を消耗しているらしく、息が乱れているように見える。

 

「な、なんだ…?何をしやがった…!」

 

そう思ったのも束の間。急に俺の方も息が乱れ始め目の前が歪み始めると同時に、体が言う事を聞かなくなる。その場で俺は倒れ込む形になってしまう。

 

「万能薬を使えば治る程度の麻痺毒だ。そこで大人しく、女神様が負ける姿を見ているがいい。心配するな。その後一緒の所へ案内してやる。」

「くっそぉ…!」

 

暗殺者のように、歯に薬を仕込んでいる訳でもなく、仲間による支援は障壁によって期待できない。俺は…負けるのか…?このままゲームオーバーになっちまうのか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジンと同時に戦闘を開始した、ネプギア一行対下っ端のリンダとの戦いが繰り広げられていた。だが、その4対1にも関わらず、ネプギア一行の方が押されているという状況だった。

 

「つ、強い…!」

「なんで下っ端がこんなに強いのよ…!!」

「これも、犯罪組織のシェアが上回ってるせいですか…?」

「はん…。散々馬鹿にしてた割りには、テメェら全員大した事なかったな。情報通り、変身出来ねぇ女神なんざ怖かねぇしな。それに、向こうも終わってるしな。」

 

ネプギア一行は引きずるかのような体で、ジンの方を見る。そこには俯せになっているジンと仁王立ちしているガスマスクの男が居た。そして、ガスマスクの男から“殺れ”というジェスチャーが出され、それを見たリンダはニヤリと笑う。

 

「さぁて…、許可も出たし、一人ずつ順番にぶっ殺してやるか。」

「(そんな…。また、3年前のように負けちゃうの?まだ怖いけど、私が戦わなきゃ…でも、なんで…変身出来ないの…?でも、負けたくない…!)」

 

リンダが、ネプギアの前に立ち、ネプギアは脳内で負けたくないと思っている時だった…。

 

≪お前の力は…そんなものか?≫

「…!?」

 

突如、周りの時間が止まっているかのようになり、ネプギアの脳内に響くように声が聞こえている。そして、何処か聞き覚えのある声だった。

 

「(…永守…さん…?)」

≪もう一度言う…お前の力は、そんなものか?≫

「(私は…負けたくない…!でも…今の私じゃ…!)」

≪…例え力不足でも、お前の姉…ネプテューヌならどう行動していたか、思い出してみろ。≫

「(お姉…ちゃん…だったら…。)」

 

そうだ、お姉ちゃんは、どんな時でも諦めなかった。犯罪組織との闘いでもそうだった。例え実力差があっても決して諦めなかった…。ネプギアはネプテューヌ、いや、四女神の勇士を思い浮かべる。

 

≪そうだ…お前にも出来る。さぁ、力を示せ…!≫

 

その脳内に響く声と共に、ネプギアは目を見開く。

 

「死ねやあああああ!!…って、なにぃ!!」

 

ネプギアから見れば、突如時間が動き出したような感覚でもある。だが、その声と共に、振り下ろされてきた鉄パイプを両手で掴み防ぐ。

 

『ね、ネプギア(ギアちゃん)?』

 

急に変貌したかのようなネプギアに、周囲もざわめくようにネプギアを見る。

 

「な、なんだ…?何処からこんな力が…!」

「私は、今度こそ迷わない。お姉ちゃんだけでなく、皆を助ける為に!」

 

その瞬間、ネプギアの体が光り出し見覚えのある白いプロセッサユニットが展開される。

 

「な、何ぃ!き、聞いてねぇぞこんな展開!!」

「もう、手加減はしません…一気に決めます!ミラージュダンス!」

 

ネプギアの花形とも言えるビームソードの乱舞を、リンダに向かって放つ。

 

「くそがああああああ!!何故だ…シェアは圧倒的にこっちが上だってぇのに…!!」

「大人しく、引いて下さい。そうすれば、見逃してあげます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネプギア…。すげぇな…。」

「やはり、ダメだったか。」

 

ガスマスクの男は、まるでこの状況が分かっていたかのように呟いている。まさかと思うが、負ける事を想定していたんじゃねぇよな…?

 

「もう、アンタの手札はないはずだ…。アンタも、大人しく降参するか…?」

「私に踏まれているのに、良くそれが言える。確かに形勢は此方の方が、分が悪いと言えよう。」

 

向こうと違ってどうやら、こっちは馬鹿じゃないようだ。このまま大人しく引いてくれればいいのだが…。

 

「だが、どう足掻いても、私達の勝ちだ。」

「な…に…?」

 

ガスマスクの男がそう言うと、腰からC4の起爆装置みたいなのを取り出しスイッチを入れる。次の瞬間、ゲイムキャラが居た場所で大爆発が起きる。同時に、何か砕けるような音も聞こえ、そこが見えない程の砂埃が舞う。そして、コンパの方にゲイムキャラだったであろう破片が飛び散ってくる。

 

「ああ!ゲイムキャラさんが!!」

「へへ…アタイが負けたのはあれだが、当初の目的は達成できたって事だ…。ザマァみやがれ。」

「負けたのに、良く言うな。」

「五月蠅ぇ…!それにもうここに用はねぇぞ。さっさと戻ろうぜ!」

「分かっている。」

 

そうすると、ガスマスクの男の足元に魔法陣のようなのが展開され、リンダもそこに入る形になっている。

 

「待ちなさい、逃げる心算!?」

「逃げるも何も、当初の目的を達成した。だが、もっと力を付けな…私達を止めたければな…。」

 

そうして、魔法陣が縮むと同時に、ガスマスクの男とリンダの姿が消える。転送系だったのか…?

 

「…?体が、動く?」

 

万能薬を使えば治ると奴が言っていたが、急に体が動くようになったし、頭も冴えるようになった。奴の言った事は脅しだったのか、それとも薬品の調合ミスだったのか…全く意味が分からねぇ…。

 

「そんな…ゲイムキャラが…。」

 

しかし、ネプギア一行はゲイムキャラを守る事が出来なかった事を悔やんでいる。勿論、俺も同行していながら、結果を変えれるはずなのにこんな結末になってしまった事を後悔している。

 

≪安心してください…。大丈夫ですよ、女神候補生。≫

「え…声?」

「ネプギア、あれ!」

 

アイエフの掛け声と共に、全員が薄まっている砂埃が立っている方に目を向ける。そこには、掛けてはいるものの、ゲイムキャラと思われる球体があった。…何故か、あのガスマスクの男が携えていた剣がそこに落ちているのを除けば…。

 

「アンタ…いえ、貴方は大丈夫なんですか?」

≪無事とは言えませんが、幸い、力は残っています。最も、この状態では7割減ですが…。≫

「よかったぁ…完全に壊されずに済んだんだね。」

 

ここで、直ぐ力を貰えるかと思ったら、ゲイムキャラが意外な事を言ってくる。

 

≪あなたのその籠手は…。≫

「あ?これか。あのガスマスクの男から貰った…っていうのも変だがな。まぁ、今は俺が持っている事だ。」

≪…まさか、此方の剣も含めて再び見る事になるとは…。≫

「ど、どういう事ですか?」

 

ネプギアも気になった為、ゲイムキャラの方へ近づく。

 

≪そこに落ちている剣と、貴方が付けている籠手…それは、嘗て女神戦争時に使われていた物の一つです。≫

 

なんてこった…。俺はそんなものを付けているってのか。俺の知っている世界とは既に違うようだ。詳細を聞いた方が良さそうだな。

 

「それで、この二つは何なんですか?」

≪その籠手は、私達ゲイムキャラの力を用いて、魔法を放てるようになる籠手です。其方の剣も、嘗ての女神候補生が使っていました物の一つです。≫

「嘗ての…女神候補生…?」

 

恐らく、過去の女神候補生が使っていた武器の一つなのだろう。これはネプギアが持っていた方がいいのかもな。

 

≪…お二人なら、きっと誤った使い方をしないと信じて、この力を託します。≫

 

そう言うと、ゲイムキャラから二つに光が現れ、一つはネプギアの方へ。もう一つは俺が左腕に付けている籠手の方へ…。4つ穴の開いている内の一つに、紫色の球体が埋まる。それと同時に、ネプギアの手元に転がっていた剣も現れる。

 

「これが…ゲイムキャラの力と、過去の女神候補生の剣…?」

「籠手に球体が…。」

≪その籠手に、雷鳴の力を宿しました。…私はここから動くことは出来ません。どうか、ゲイムギョウ界の事をお願いします。≫

 

それを言い終えると、ゲイムキャラの球体の光が弱まっていき、ゲイムキャラが目の前から消える。

 

「消えた…?」

「…眠りについたのだろうか。」

 

ネプギアとそんな会話をしていると、後ろの三人がネプギアの方へ近寄る。

 

「ネプギア、また変身できるようになってよかったじゃない!」

「はいです!これで、女神様とまた一緒になれたです!」

「うおおおお!これで一歩こっちが有利になったんじゃないの!!」

 

…まるでお祭り騒ぎのように、ネプギアが再び変身出来た事を喜んでいる。確かに、変身した時に、リンダを圧勝できたんだ。有利になったと言えるだろう。

 

そして俺達一行は、喜びを抑えつつ次のゲイムキャラを求める為、プラネテューヌ教会へ戻る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【用語集】

○ここが、ゲイムキャラがいるハウスか。
 元ネタは「ここがあの女のハウスね。」である。 俳優、ミュージシャンである宮崎吐夢が歌う楽曲の一つ。どういう訳かある公式アニメにも使われている。

○ペ〇ソナの総攻撃チャンス
 ペル〇ナ3及び4に登場した攻撃の一種。出現した敵に弱…攻撃を放ち、ダウン状態にすることで出来る。…とは言え肝心の自分はペ〇ソナをやったことはない。(ぉぃ)

○果たしてこの俺を倒す事が出来るかな?
 ガスマスクの男が言った台詞なのだが、元ネタは格ゲー「北斗の拳」のサウザーが登場する際に言う台詞。一撃必殺技は絶対防御技のはずだが…。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


…ネプギアサイドに割と物騒な物が手渡されました。果たしてガスマスクの男は何がしたいのか。


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Scene32 情報収集~Work Quest~

大分偏見が入ってるかもしれませんが、読んでいる方は承知していると思うので、生暖かい目でお付き合い下さい。


 

 

 

 

 

重圧なる黒の大地ラステイション。昼は工場等が目立つが、夜は工場やビルのライトやイルミネーションが輝き、重圧というイメージとは違う顔を見せる。そんな夜を照らす街中を歩く一人の男がいる。雰囲気からして観光しに来たという訳ではなく、出入りしている場所はギルドや酒場にであり、情報を収集しているように見える。男は携帯を取り出し誰かに連絡をする。

 

「…俺だ。済まねぇ、収穫無しだ。やはり教会に行った方がいいのかもしれねぇな。」

≪そう…。助かるわ。本当だったら私達もしなきゃいけないけどね。アンタだって疲れてる訳だし…。≫

「馬鹿言え。俺ならまだ動ける。あの戦いの後で、飛行機で仮眠を取っても直ぐに疲れは抜けないだろ。とは言え、結果がこれじゃあ何とも言えねぇがな。」

 

そう、彼等はバーチャフォレスト最深部でゲイムキャラに会う為に戦った後、直ぐに教会に戻り、情報をイストワールに報告した上で、直ぐにラステイションに行く為航空便を使ったのだった。現状、道路側は犯罪組織マジェコンヌの影響が出ており、封鎖状態になっている為、プラネテューヌからラステイションに行くには空を飛ぶしかない状態だ。そこで男は、単独でラステイションのゲイムキャラに関しての情報収集をしていたが、ラステイションに人が少ない事も相まって、ご希望の情報は入手できない状態だった。

 

「ところで、部屋は2つ取れたのか?」

≪大丈夫よ。ホテルの部屋は確保してるわ。最も部屋は離れてて、貴方は404号室になるけど。≫

「ルームナンバー404…嫌な響きだな。」

≪…?どういう意味よ。まさか一緒に寝たいとでも?≫

「冗談言うな、俺ぁ子どもや変態じゃあるまい。」

≪…過去にユニ様に抱き着こうとした人が良く言えるわね…。≫

「ぐ!?あ、あれはだな、若かりし頃のなんとやらでだな…。」

≪まぁいいわ。アンタもあの頃に比べれば大人しくなったしね。≫

「………(変態と言う汚名は拭えねぇか)。取り合えず、今からそのホテルに向かう。そのホテルに集会や相談室的なのはあるか?」

≪ええ、カフェエリアになるけどあるわよ。≫

「分かった。そこで落ち合おう。」

 

そう言って男“ジン”は電話を切り携帯を仕舞う。

 

「誰かーーー!!そのひったくりを捕まえてーーーー!!」

 

ジンの後ろから女性の叫び声と、如何にもな恰好のひったくり犯がジンの横を走り抜ける。

 

「…あの野郎か…!!」

 

本当は戻って集会をしたい所だったが、ジンの中にある正義感がひったくり犯を捕える事に向いてしまっている。

 

「待ちやがれ!!」

「へっ!誰が待ってやるか!!」

「(くそ、速い!!)」

 

ジンはひったくり犯を追っかけているが、常習犯なのかその足の速度は速く、徐々に距離が離れていく。

 

「邪魔だあああ!!」

「あぶねぇ!!ッ…!!」

 

瞬間、角から人が現れひったくり犯とぶつかりそうになる。…が、ジンはその角から出て来た人物の格好に驚きつつ背筋が凍るような感覚に陥る。

 

「なぁ…!!」

 

ひったくり犯はその角から出て来た人物にタックルをしようとしたのだろう。だが、まるで合気道の如く呆気なく投げ技をされ地面に叩きつけられる。同時に、腕と足を瞬時に縛り、流れるようにひったくり犯を拘束状態にする。それだけでなく、首元のツボを押したのかひったくり犯が気絶する。だが、その人物に問題があった。

 

「(マスクマン…!!)」

 

見間違うはずがなく、犯罪組織の傭兵として雇われているゴーストことハーミットがそこにいるのだ。しかも、犯罪組織でありながら人助けのような事をしているのだ。

 

「…行く先々で会うとはな。」

「アンタ、一体何やってるんだ。」

「人助けだ。」

「見りゃ分かる!なんでアンタがって事だ!!」

「…我が主は、マジェコンヌを広める事。犯罪者を増やす事は望んでいない。」

「………。」

 

ジンはマスクマンことハーミットの言う事に納得したのかどうかは分からないが、思考が停止したロボットのようにぼぅ…としている。

 

「………!!ぉぅわっと…!!」

 

ハーミットが、いきなりひったくり犯から取ったと思われるバッグをジンに投げつける。ジンはその投げられたバッグを驚きつつも抱きかかえるように掴む。バッグを掴んだ後目の前を見ると、既に消えており気絶しているひったくり犯のみとなっていた。

 

「………。何所に行きやがった。それに、俺が持ち主に返さないかんのかい。」

 

その場で数秒考え込んでいると、後ろから誰かが向かってきているのに気づき振り返る。

 

「ゲッ!!なんでアンタがここに居るのよ!」

「行き成り“ゲッ”はねぇだろ…。」

 

そこには、ユニちゃんと数人の警備員がおり今しがた起きた事を話しておく。

 

「ふーん、アンタより少し身長が大きい、ガスマスクをつけた男…犯罪組織に雇われたっていう奴ね。」

「知っていたのか。」

「教会内では広まってるし、要注意人物として追っているのよ。まさか、その要注意人物がいるとなると、警戒を強めなきゃいけないわね。」

「まぁ、そうなるな。」

 

警備員にひったくりに会った人物のバッグを渡した後、情報交換という事も含めユニちゃんと話をする。…ああ、因みにだが、ユニちゃんって言うのは俺の心の中だけで言ってるわけであって、面と向かって言う時は呼び捨てだぞ。それはさて置き、どうやら、無駄な心配だったようだな。教会内では既に周知済みで指名手配とまではなってないが、教会内部で捜索しているそうだ。

 

「ところで、アンタがいるってことは…アイツも居るの?」

「アイツ?…ネプギアの事か?」

 

そう言うと、下を向きながら頷く。女神候補生のみが救出出来たというのは既に全教会に周知済みだ。ユニちゃんが知らないなんてことは、プラネテューヌのゲイムキャラと出会う前に、連絡した時に確認済みでもある。なんというか、嬉しそうでもあるが何処となく不満な感じもしている。一応、自国をノワールから任されているとは言え、ネプギアだけ、四女神と共に犯罪組織に立ち向かった事には納得できてない感じだろう。

 

「会って話し合う気はないのか?」

「ごめん、それだけは出来ない。…お姉ちゃんの言う事は納得してる。それでも、ネプギアだけ一緒に行ったって事にはどうしても納得できないの。実力差があるのは分かってる。けど、今アイツに会ったら、何を言いそうか分からない…。それだけじゃない。お姉ちゃんを助け出す為に強くならなきゃ。誰の手を借りずに…。」

「………。(分っかんねぇなぁ、一度本気でぶつかり合う気で喧嘩してみるのもありだと思うがね。友情破壊ゲームみたいな事にならないとは思うが、今の関係を保ちたいのか。)まぁ、何かあったら相談に乗るわ。」

「…頼りない相談役ね。一応期待はしておくわ。」

「これまたキッツイ返事だ事。」

 

しかし、時間も時間な為一度ここで解散し、後日個別で相談したいとか言ってくる。…ネプギアとは今は会いたくないのが良く分からんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【てーれーれーれてっれっれー↑】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朝ですか…。」

 

あの後、俺はそのままホテルに戻り、情報交換をした後倒れ込むようにそのまま部屋に入り眠ってしまった。私服のまま寝たせいで汗臭ぇっちゃありゃしねぇ。俺はシャワーを浴びて服をファブファブ(ファ〇リーズ)した後、教会に向かう為に集合する。

 

そんでもって教会に着いたのはいいが、ユニちゃんには出会わなかった。上手い具合に出くわさないようにしたか、まだ教会内にいるか…。教会にはラステイションの教祖である、神宮寺ケイが居た。

 

「やぁ、待っていたよ。」

「…まるで来るのが分かってたみたいな言い方ね。」

「君達がここに来ているのは把握していたからね。」

「なるほど。流石情報通って訳ですな。」

「誉めても何も出ないけどね。」

「あの、私達、ゲイムキャラを探してるんです。ケイさんは、ゲイムキャラを知っていますか?」

 

ネプギアが単調直入と言う形で、ケイさんにゲイムキャラの情報を聞き出そうとする。

 

「ゲイムキャラの事は、僕も知っているよ。只、知り合いとは言えこの情報を易々とは言えないね…。」

「え?どういう事です?」

「何よ、勿体ぶらないでさっさと話してもいいじゃない。」

「…対価を払えか。」

 

まぁ、流れて気にもこの人の事を考えればそうなるし、俺の記憶的にもこういう流れになるのは大体分かっていた。まぁこういう人だもんな、ケイさんは…。

 

「そう。僕が持っている情報と、それに見合うだけのモノを貰わなければ、ビジネスにはならない。」

「び、ビジネス…?ゲイムギョウ界の危機だっていうのに!?」

「確かに、ゲイムギョウ界が危機になっているのは分かっている。でも、僕は人情で動く気はないからね。」

「はぁ…ハッピーハッピーじゃなくてWin-Winの関係か。で、ケイさん。何を提供すればいい?」

「うん。此方が欲しい条件は2つ。今、この国ではあるモノを開発している。けど、今はまだ開発途中という段階と言ったところなんだ。この開発を完成される為に、必要な材料を取ってきて欲しい。」

「…で、その材料ってのは?」

 

とりあえず話は順調に進んではいるが、勿体ぶっているからかアイエフが若干イライラした感じで聞いていく。幾ら嫌いとは言え、仲良くなれねぇもんかな。

 

「聞いたことぐらいはあるかな?宝玉と血晶と呼ばれる物なんだけど…。」

「な!?両方とも希少なものじゃないの!!」

「アイエフさん。そんなに珍しい物なんですか?」

「希少も何も、レア中のレアを超えている。まず市場には絶対に出回らない代物で、何処で手に入るかという情報だけでも、多大な価値になるわよ。アンタ、正気なの?」

「此方にも事情があってね。片方でも飲み込めないなら、情報を提供する事は出来ない。僕が情報に対する価値を見誤ったというだけだ。」

 

宝玉と血晶。両方ともアイエフの言う通り、金で買うには膨大な価値があるだけでなく、それが入手、採掘できる場所の情報でも同等の価値が付いている程だ。アイエフが足元見やがってみたいな感じでぐぬぬ…としている。

 

「…それで、もう一つの条件とは?」

「ああ、そうだったね。もう一つは、3年前と救出作戦にて、ギョウカイ墓場で起きた事を教えて欲しい。」

「わ、わたし達がギョウカイ墓場に行ったことも知ってたですか!?」

「知っていたというより、これは僕の憶測だね。何せ、プラネテューヌの女神候補生である、ネプギアさんが居るのだから…。」

「…確かに、それ位はネプギアを見れば分かるわね。」

「そういう事。…で、ノワールは無事なのかい?どうして、ネプギアさんだけ助かっているのか…。」

「あ…えっと、ノワールさんならお姉ちゃ、ムグッ!!」

 

ネプギアがギョウカイ墓場で起きた事を話そうとした時、アイエフがネプギアの口元を塞ぐ。

 

「ちょっと待ちなさい!そっちは2つ要求しといて、こっちの聞きたい事は1つだけってのはどうかしてるわ。それに、こっちの情報もそっちの要求に見合うだけの価値があるのかしら?」

 

どうやら、2つの要求に対して、こっちの要求1つに対価が見合わないと思っての行動なのだろう。まぁ、いきなり2つも要求するのはどうかしてるよな。

 

「む…これは失礼。では、要求した2つの材料の調達をお願いしよう。それから、互いの情報を交換するということで…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ラステイション:教会入り口前】

 

「やっぱり、何度あっても腹が立つわね…。まぁ、最後に一矢報いてやったからいいけど。」

 

交渉が成立した事で、俺達は教会から出て要求された品を探す為外に出た。アイエフは何処かスカッとした感じでドヤ顔をしている。

 

 

「えっと、探すのは宝玉と血晶ですよね。アイエフさん、心当たりとかありますか?」

「残念ながら、私は知らないわ。そもそも、そんな情報持ち合わせてたらあそこで口論はしないわよ…。一応、何処かのモンスターが落とすって噂を聞いたことがある位よ。」

 

俺もそんな事しか耳にしたことがない。…ゲームの世界とは既に違う流れになっている。俺の知っている情報と一致するか怪しい所だからな。

 

「じゃあ、手あたり次第モンスターを倒しまわるですか?」

「う…ヒーローとしては、ちゃちゃっと見つけたい所だけど…。」

「…仕方ないわね。コンパの言う通り、気が遠くなりそうだけど、それしか手はないかしらね…。」

「…いや、待ってくれ。若しかしたら、心当たりのある人物が一人いる。」

「え、誰ですか?」

「ネプギア、アンタもよーく知っている人だよ。」

 

そう言って俺は携帯を取り出し、ある人物へ連絡してみる。さて…出てくれるかな。携帯のベルが何度か鳴ると、通信が開始される音が鳴る。どうやら出てくれたようだ。

 

≪珍しいじゃないか。そっちから連絡してくるなんて。≫

「御無沙汰だぜ、ファルコムさん。」

 

ファルコム…。ゲイムギョウ界中を旅している一流冒険者の一人。嘗て獨斗が会ったこともあり、俺も何度かお会いしている人物の一人だ。

 

「急で申し訳ないが、ファルコムさん。宝玉と血晶っていうレアアイテムを探してるんだが、心当たりはありませんか?」

≪宝玉と、血晶か…。血晶は聞き覚えがないけど、宝玉なら確かプラネテューヌのバーチャフォレストに棲むモンスターが落とすはずだよ。≫

「バーチャフォレストか…助かるぜ。図々しいかもしれねぇが、探すのも手伝ってくれたりは出来るか?」

≪うーん、手伝いたい所だけど…。申し訳ないが、あたしが向かってる方向とは逆なんだ。≫

「いや、情報だけでも助かるわ。」

≪うん。宝玉が見つかる事を祈ってるよ。それじゃあ、あたしはこれで。≫

「あぁそうだ。ネプギアもいるけど、変わるか?」

≪…え!?ネプギア、無事だったのかい!?うん、出来れば変わってくれるかい?≫

「OK…ネプギア、ファルコムさんが話したいってさ。」

「あ、は、はい!」

 

そう言って俺はネプギアに携帯を渡す。ファルコムさんもネプギアとは知り合いを超えた仲だもんな。犯罪組織に捕まったっつー情報も知ってたし心配してたからねぇ…。

 

それで、軽く通話したところで、ネプギアが携帯を俺に返した所でプラネテューヌに向けて足を運ぼうとすると、教会から職員が一人出て来た。

 

「すみません、ジンさん。これから出るところでしたか?」

「あ?俺にだけか?」

「はい。何でもケイ様からお話があるそうなのでお呼びしています。」

 

…これは予想外だった。プラネテューヌに向かってチャチャッと終わらせるついでに、左腕の籠手も試したい所だったが、呼び出しを食らうとはな。

 

「…はぁ。分かった。行きますよ。」

「そうなると、私達はアンタを待ってた方がいいかしら?」

「…いや、先に行っててくれ。世界の一大事だろ?ぼうっとしてる程俺等に時間は無ぇんだ。とりあえず、呼び出しが終わったら連絡するぜ。」

「何か怪しいわね…まぁ、分かったわ。じゃあ、連絡待ってるわよ。」

「アタシもジンについてった方がいい?」

「いや、お(めぇ)はネプギア達に付いて行ってくれ。向こうさんは俺だけを呼んでるみてぇだしさ。」

 

そう言って、俺は一旦ネプギア達と別れる事となった。…その後ろを、ある人物が追いかけているのには気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ラステイション:教会内部】

 

「済まないね。本当だったらあの場で言えば良かったけど。」

 

職員に呼び出され一人教会に戻り、ラステイションの教祖であるケイさんに会い個室で話し合っている所だ。

 

「俺は気にしてないんで大丈夫っすよ。…で、要件とは?」

 

そう言うと、少し間を開けてからケイさんが口を開ける。

 

「実は、先ほど君達に話した事をユニが聞いていてね。」

「…盗み聞きか。女神としては関心できねぇな。」

「まぁ、そこまでは特に問題ないんだ。この写真を見てくれ。」

 

ケイさんが胸元から一枚の写真を出す。ある人物の写真だ。その写真には、ハーミットが写っている。

 

「この人物に見覚えはあるかな?」

「見覚えっつーよりは、因縁の相手…だな。」

「…彼はここラステイションで要注意人物として指定している。君達に話してた時間帯にセプテントリゾートで目撃したという情報が入った。不運な事に、ユニが君達に依頼した話の後にセプテントリゾートに向かったらしい。」

「二人がばったり会ったら大変だな。」

「そう言う事。そこで僕からの個人的な依頼だ。セプテントリゾートに向かってユニを見つけ、護衛をお願いしたい。成功報酬は血晶の情報を提供しよう。」

「…断る理由はないな。引き受けましょう。」

 

そう言って俺は教会を後にし、セプテントリゾートへ向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ラステイション:セプテントリゾート】

 

セプテントリゾート。ゲイムギョウ界のラステイション寄りの中心部にある海辺に浮かぶステーションのような場所。海辺である為、眺めも良く釣り人や観光客の人気スポット的な場所になっていたが、今はモンスターが沸いてしまっている為殆ど人はいない状況だ。

 

一応アイエフに単独行動する事を伝え、今に至る。…しっかしセプテントリゾートは広い。

 

「日が暮れる前に見つかればいいがな。」

 

モンスターはそこまで強くはねぇが、場所が広い為に数が多かったりする。体力の温存を念頭に戦闘は極力避けていく方針だ。因みにだが、籠手の力を早速試してみた。雷の力と言われるだけあって、サンダーボールみたいなのから、触れている間電撃を流すと言った事が出来るようになった。何となく魔法使いになれた気分になれるな、これは。そして俺はある事に気づく。

 

「(…一人旅って結構大変だな。あと結構寂しい。)」

 

今までが日本一と騒がしくやっていたこともあり、こと久々に一人で彷徨う…とまではいかねぇが、パーティー行動が当たり前に用になると、何かと寂しく感じるようになってしまったようだ。

 

「さっさと終わらせて合流しよう。」

 

寂しいからか、そんな事を口走っているが聞いているのはモンスターだけだ。何も恥ずかしい事はない。モンスターに見つからないように移動しつつ、双眼鏡で遠くの方を見て探してみる。暫くそれをしていると、ある所から閃光が見えた。その閃光があった場所に双眼鏡を合わせ拡大する。

 

「見つけた…!!」

 

どうやら既にドンパチが始まっていて、最も望んでない展開が繰り広げられているようだ。俺はそこに向かう為に全力疾走するのだった。

 

 

 

 

 

 




【用語集】

○ルームナンバー404
 日本の4とは「し」とも読めるため「死」と演技が悪いが、ここでは「RoomNo.404」というフリーのホラゲーの事。現状ではサイトもない為プレイすることは出来ないが、ニコニコ動画に投稿はされていますので、興味がある方は視聴して叫びましょう。

○【てーれーれーれてっれっれー↑】
 DQ3の宿屋で泊まった時に流れるBGMを文字にしてみました。ネプテューヌもレベルアップ時にFFのファンファーレを言いますが、文字にするとどう表現すればいいか難しいところ。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!




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Scene33 二つの戦い~DoubleFight~

 

 

 

「ちゅぅ~…。」

「どうした、さっきまでの威勢はなんだったんだ?」

「つ…強い…!」

 

教会で、ネプギア達がケイから依頼を受けている話を聞き、アタシも独自で動くことを決めた。そして、何となくセプテントリゾートに向かったら、要注意人物であるハーミットと、嘗て要注意ネズミと言われていた、ワレチューがいたので追跡を始めた…のまではいいけど、追跡されているのが最初からバレていて、ネズミは大したことなかったけど、彼が持っている物を掛けて戦っている。…けど、情けない事にアタシは、同じ長銃で且つ女神化して勝負しているにも関わらず、互角どころか押されている。

 

「女神候補生よ、お前の力はそんなものか…。」

「馬鹿言わないで…まだ、これからよ…!」

「…やせ我慢か。立つのがやっとという状況なのにな。」

「五月蝿いっ…!」

 

どうやら、向こうはアタシがカラ元気で立っているのがバレている。正直、向こうが言っている通り立っているのがやっとで、あと一発撃てるかどうか…。でも、今がチャンスでもある。向こうが持っているライフルはオーバーヒートしている上に弾切れになっている。なら、やる事は一つだけ…!!

 

「アタシは負けない…!!これが、アタシの、全力よ!!」

「…面白い。」

「受けなさい!!エクスマルチブラスター(X.M.B)!!」

 

持てる力全てを銃口に集め、レーザー砲とまではいかないけど巨大な波動弾的なのを放つ。弱っているとはいえ、当たれば只事では済まない自信はあった。そして、その弾は相手に直撃し爆破が起きる。

 

「やった…!!」

 

…けど、アタシの喜びは打ち砕かれることとなった。その砂煙から人影が浮かび上がってくる。

 

「見事だ。モンスター相手なら一撃必殺の威力だったろう。」

「ッ!!そんな…!!」

 

そこには、衣装が多少傷と砂埃が付いていて、ガスマスクにヒビが入ってる程度のハーミットの姿がいた。理解したくはなかったが、致命打や決定打には到底及ばない感じだった。そして殆どの力を使い果たしたアタシは、変身が解け長銃を杖のように立て何とか倒れないようにする。結局、アタシの力じゃ誰も守れないのかな…。そして、アタシの意識はそこで途切れてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、閃光が見えたところを目指して全力疾走している俺は、ごく一般的な傭兵…なわけねょな。そんな冗談はさておき、閃光と共に煙が立っているところに向かって全力疾走しているのは確かだ。モンスターが後ろにいようが全力で走り抜けていく。

 

「人影…!!誰かいるのか…?」

 

セプテントリゾートの最奥地にある円盤エリアの手前にある窪みに、隠れるように奥を見る。壁に寄りかかるように気絶している(?)ユニちゃんと、そのユニちゃんを見ているハーミットがいる。どういう訳か、ユニちゃんが使っていたライフルを横に置き、横に何かを置いている。立ち上がって横たわっているネズミに歩み寄ろうとしている。

 

「動くな…!!」

 

ここに来る前に調達しておいた光線銃(レーザーガン)(モーゼル型)をハーミットに向かって構える。奴は俺に気づきこっちに視線を向ける。

 

「やはり来たか。」

「…テメェ、女神に何をした。」

「見ての通りだ。彼女から勝負を仕掛け、私が勝利し彼女が敗北した。」

「動くなっつってんだろ!!」

 

ハーミットは俺に話しつつ平然とネズミの所へ歩み寄ろうとしている。銃を向けているってのに、怯えるどころか気にしてねぇって感じだ。脅しで発砲するもまるで怯む気配もない。

 

「止まれっつってんだろ!」

「…手ブレが激しいな。あまり銃を使ったことがないな?いや、人に銃を向けるのが初めてか。」

五月蝿(うるせ)ぇ…!」

 

挑発にノセられる形になっちまうが、奴の胴体に狙いを定めて発砲する。

 

「な…!!」

 

俺は胴体目掛けて撃った。だが、その弾は驚くべき速度で仰け反った奴を横切る。ハーミットに標準を合わせて連射するが、ジグザグに高速移動するように弾丸を避けてこっちに迫って来る…!

 

「ぐ…!うぉぁ!!」

 

ハーミットに両腕を左腕で鷲掴みにされつつ、胸元と腹を殴られアッパーを食らってしまう。その衝撃で俺は持っている銃を落としてしまった。落としてしまったなら、他のものを使えばいい…そう考え腰に手をかけ愛用している鞭を取ろうとする。

 

「…ない!!」

「探し物はこれか。」

 

その声と共にハーミットの方を見ると、左手に俺の鞭とサブウェポンを詰めてる腰鞄を取られていた。そして奴は鞭と腰鞄を後方に投げ捨てる。

 

「さぁ、得意の武器無しで、お前はどうする。」

「…まだだ、まだ負けた訳じゃねぇ!!」

 

そう叫びながら奴に格闘戦を挑む。ワンツーコンボで顔面目掛けて殴ろうとするが、一発目は躱され、二発目は平手で受け止められてしまう。

 

「ふん…!」

「ぐぉ!!」

 

掴まれたまま腹を蹴られ、首元を捕まれ投げられる。…流石にスタントマンを目指していた上に、何度も戦いに身を置いていた為、そのまま倒れ込まず受け身を取り体制を立て直す。

 

「武器が無くとも、果敢に挑むその度胸は恐れ入る。だが、それだけだな。」

「いいや、まだだ。取っておきを食らってけ!!」

 

そう言って俺は、左の籠手に雷の意思を想像し、雷鳴弾のような球体を発生させる。

 

「こいつは痛ぇぞ!!」

 

まだ、使い方に慣れてない為にこの球体を投げ飛ばすことはできないが、手の平に維持して相手にぶつけることは出来る。その上、強力な電撃な為、触れればタダでは済まない。実際にモンスターに使ったら、多大なダメージと麻痺のような痺れ状態になっているのを確認している。その状態のままハーミットに接近し押し付けるように出す。

 

だが、奴はその攻撃を右腕で受け止めてしまう。しかも、まるで電撃が効いていない感じだ。

 

「な…!!ば、馬鹿な…!!」

「確かに、この威力があれば四天王にも傷一つはつけれそうだ。だが、まだまだだな。」

 

そうして、俺は左手を掴まれたと思ったら引っ張られ、腹部に肘打ちを喰らうと同時に首元を捕まれ投げられ背中から強打の如く倒されてしまい、その衝撃によって俺の意識が遠くなるのを感じてしまう。

 

「がはぁっ…!」

「………。ちっ…。」

「ま…ちやが…れ…。」

 

だが、ここで奴も想定していなかったのか、倒れ込む際に俺の手が奴の顔に引っかがり、ガスマスクを引っ張りとるような形で倒れる。遠くなっていく意識の中、奴の顔を見るが、フードで顔を隠すようにしていた為、白い髪しか見ることができなかった。そして、そのまま俺は気絶してしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ:バーチャフォレスト最深部立入禁止エリア】

 

時を同じくして、ジンと一旦別れ宝玉を求めてラステイションからプラネテューヌに戻ったネプギア一行。バーチャフォレスト及び最深部を探索したが、それらしきモンスターが見当たらない為、再び立入禁止エリアで探索をすると、場違いでもあり明らかに様子が違うエンシェントドラゴンを見つけ討伐に入る。

 

「ネプギア!今よ!!」

「はい!これで終わりです!!」

 

危険種であるエンシェントドラゴンな為に多少の苦難はあったが、ネプギア一行の一致団結による戦闘により、女神化したネプギアのビームソードによる一刀両断が綺麗に入り、エンシェントドラゴンの体が結晶片となる。

 

「やったです!流石、ギアちゃんですぅ!」

「見て、なんか落としたよ!!」

 

結晶片となって消えたエンシェントドラゴンの場所に、虹色に輝く一つの水晶体が落ちているのを日本一が指を指して言う。そして、近くに居たネプギアがそれを拾い上げアイエフに見せる。

 

「綺麗…アイエフさん、これ。」

「…まさか初っ端から出すなんてね。そうよネプギア、今貴女が持ってるのがまさに私達が求めている宝玉よ。」

「そうすると、後は血晶だけですね!ケイさんとジンさんに早く報告しに行かないと…。」

 

のんびりしてはいられないが、目的である宝玉を手に入れた事により、全員が安堵の表情をしている。

 

「おぉっと…そいつをラステイションに届けるってのは無理だな。」

「げ、この声は…。」

 

その声に反応するかのように、全員が通ってきた道の方を見る。そこには、女神化したネプギアによりぼっこぼこにとまではいかないが、返り討ちにしてやった下っ端事リンダが、道を塞ぐように仁王立ちしてネプギア一行に言い放つ。

 

「ああ、下っ端!!」

「きっと、何回負けても出続けないといけないんですよね?下っ端さんは大変ですね…。」

「教会の仕事ばかりだったから分からないんですけど、やっぱり下っ端さんって労働基準とか厳しいんでしょうか?」

「だーかーらー、下っ端って言―な!!それと同情してんじゃねぇ!!」

「それで、これを届ける事が無理ってどういう事よ。」

「そのままの意味だ。テメェ等は全員纏めてここでくたばるんだからな!」

「まぁ、今の私達には女神化できるネプギアがいるんだもの。またワンパンで終わりの未来が見えるわ。」

「アイちゃん、それ只単に楽したいだけじゃ…?」

 

そんな楽勝ムードを出しているが、リンダはニヤリと笑っている。

 

「へっ、何も考えなしに再戦してきたなんて思うなよ!こっちには秘密兵器があるんだ。いでよ、R-4SP(スペシャル)、君に決めた!!」

 

そう言ってリンダは懐から、CR-ROMのようなものを天に掲げる。するとそのCDが光り出し、モンスターが現れる。エネミーディスクと名付けられているアイテムは、犯罪組織の道具として諜報部で調査済みの為、驚くことはない。

 

「ふん、流石に一人じゃ勝てないのを分かって、モンスターを連れてきたのね。」

「時間がもったいないですし、女神化して一気に倒します!」

 

そうして、ネプギアはいつも通り女神化する為に精神統一するように変身の準備をする。

 

「あ…あれ…?」

「どうしたのよ、ネプギア。」

 

…だが、何時もなら数秒程度で女神化できるはずがまだできない。何度試しても変身どころか女神化の兆候すら見えないのだった。

 

「ギアちゃん、どうしたです?」

「どうして、女神化…出来ない?」

「ええ!?」

「バーカ。言っただろぉ、秘密兵器だって。こいつには、こいつを中心とした半径数十メートル以内のシェアを操作して、女神化を封じる事が出来るモンスターなんだよ!さぁ、チビガキのままで足掻いてみろよ!」

 

シェアを吸収し、女神化を阻止する。数年前にも、女神殺しの石と言われた“アンチクリスタル”によって女神化を封じられていたのを思い出す。だが、目の前にいるのはそれとはまた違ったタイプの女神封じといった所だと把握する。

 

「御丁寧に説明をどうも。なら、あのモンスターを潰せば変身が出来るようになるはずね。日本一!」

「うん、あれを倒せばいいんだね!」

 

阿吽の呼吸のように、アイエフと日本一はR-4SPに立ち向かう。

 

「はぁあああっ!!」「せぃやあああっ!!」

 

アイエフによるカタールの斬撃と、日本一によるヒーローキックがR-4SPに直撃する。…ように見えたのだった。

 

「痛っ…!!ぃたたたたたっ!!」

「刃が…欠けてる…!!」

 

確かに二人とも手応えは感じていた。だが、当たる直前で何かに防がれた感覚を覚える。あくまでも当たったという感触でありクリーンヒットした訳ではない。

 

「おら、余所見してんじゃねぇぞ!」

『きゃああああ!!』

 

手応えがあったと思ったが、ダメージが入っていなかったことに気を取られてしまい、リンダの接近に気づかず、アイエフと日本一は鉄パイプの横振りをモロに受けてしまう。

 

「アイエフさん!日本一さん!!」

「な、なんで攻撃が通じてないですか!!」

「はんっ!こいつにはあらゆる攻撃を防ぐバリアが張ってあるんだよ。それこそ、女神の攻撃も簡単には通らない程のな!さぁいけR-4SP、タックルだ!!」

 

ネプギアに向かってR-4SPが体当たりをしてくる。持っているビームソードで何とか防御するも、全ての衝撃は防ぎきれず、後ろに後退してしまう。

 

「ギアちゃん!!」

「くっ!」

「やっぱり、変身できない女神は大した事ないな!」

「………。」

「どうした?怖気づいて話も出来なくなったか?」

「…そんな事ありません。こんな状況でも、私は諦めません。私は貴女には負けません!」

「そうです!私だって、戦えるですよ!」

「コンパさん…。」

「そうよ、ネプギア。私の事も忘れないでよね。」

「どんな窮地に立たされても、ヒーローは決して諦めたりはしないよ!」

「アイエフさん、日本一さん…。」

 

私は一人じゃない、大切で強力な仲間がいるとネプギアは再確認する。

 

「ふん、友情ごっこは楽しめたか?だがな、団結しようがテメェ等の冒険の書はここで終わりになるのは変わらねぇんだよ!」

「確かに、不味いわね…。日本一、もう一度私達で前に出るわよ。ネプギアとコンパは隙をついて攻撃して!」

『はい(です)!』

 

だが、R-4SPには攻撃が全く通じないのは最初の攻撃でわかっている。それでも、R-4SPを倒さなければ下っ端のリンダには攻撃できない上に女神化も出来ない。4人ともその現状に冷汗が流れてしまう状況だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁぁあああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

叫び声と、ガツーーーーンッという大きな金属音がする。“上から来るぞ、気を付けろ!”というような感じで、前宙しつつR-4SPに上空から奇襲の如くけん玉のようなものが、R-4SPの後ろにヒットする。その少女は更にR-4SPに着地し踏み台の如く飛び、カエルが着地したような恰好でネプギア一行の前に着地する。

 

「あいちゃんや可愛い女の子達に、なんて酷い事してるの!みーんな、前々からヨメ候補としてずーっと狙ってたんだから、これ以上酷い事するなら許さないよ!」

『………。』

 

全員が行き成り現れ意味不明な事を言っている少女に、呆気取られていたが一人だけ反応が違った。

 

「ま、まさか…RED!!なんでこんなところに!!」

「あいちゃんや、ヨメ候補達がピンチならどこでも現れるよ!」

「いや、理由になってないから…。」

「アイエフさん、知り合い…ですか?」

「え?まぁ、話せば長くなる…かな?」

「(背は低いのに…でかい!!)」

 

そんなのほほんとした雰囲気に、気を取られていたが全員我に返り再び身構える。約一名、目を見開きREDのある部分を凝視しているのを除けば…。

 

「…ふん、奇襲されたのは予想外だが、そんな事で此奴はビクともしねぇし、今更一人増えたところで状況は変わらねぇんだよ!全員纏めて葬ってやらぁ!いけぇ!」

 

………。何か様子が可笑しい。リンダの声にR-4SPが全く反応せず、その叫び声は虚しく響いただけだった。

 

「お、おい!どうしたR-4SP!!」

「なんか、様子が可笑しいわね。」

「(………!!この感じ、これなら…!!)」

 

そんな時、ネプギアの体内から湧き出るように流れ始める力を感じ、再び女神化を試すと、その兆候が現れパープルシスターとなる。

 

「な、な、ななななぁ!!」

「おお、生女神様だ!」

「ギアちゃん!!」

「ネプギア、変身出来るようになったのね!!」

「…良くは分かりませんが、私の中に再び流れ始めたんです。シェアの力が湧いてくるような…。」

 

その言葉を聞いたリンダは顔を青ざめる様に引きつった顔をしている。ネプギア一行は気づいてはないが、R-4SPのバリアは正面のみあらゆる攻撃を防ぐよう展開される。だが、側面は背面からは防げないという欠点を抱えている。それでも、その強度はそんじょそこらのR-4とは比べものにならない物となっている。しかし、REDの奇襲攻撃によって、運が無かったのか、不運にもプログラムに異常が出てしまったようで、R-4SPはシャフトダウンしたPCの如く微動だにしない。

 

「ま、まさか、さっきのガキんちょの攻撃で…!?あ、ありえねぇだろ!!こっから激しい戦闘の末、こっちが最後に圧倒的な戦力を見せて平伏せさせる計画がパァじゃねぇか!!」

「…長々と文句言ってる所悪いけど、形勢逆転ね。」

「ギアちゃんも変身しました。貴女に勝ち目はないですよ!」

「ヨメ達を虐めたんだから、只で済むとは思ってないよね?」

「ヒーローとして、この悪行は見逃せないよ?」

「無駄な抵抗は止めて下さい。そのモンスターを手放せば、見逃してあげます。」

「くっそぉ~…!」

 

形勢逆転されてしまった事、そして本来の力を発揮するはずが、REDちゃんの奇襲攻撃で壊れたらしく計画が完全に狂ってしまい、リンダは“ぐぬぬ…”と歯を食いしばっている。

 

「だが、此奴は壊される訳にはいかねぇ…1個しか無ぇがかくなる上は…!」

 

懐から何かを取り出し、ピンのようなものを引き抜きネプギア達の足下に投げてくる。

 

「(!?、手榴弾…!?)」

 

下っ端から投げてきた物の形状から、アイエフは手榴弾と判断し声を掛けようとしたが、地面に着弾と同時に爆発する。だが、爆発したのは殺傷能力の無い手榴弾だった。

 

「うわ、な、なんですかこれぇ!」

「ま、前が、見えません…!」

「うぇえ、目に何か入ってきた!」

「うわ、口の中に砂のようなのが…!」

「く…!これは…!」

 

強い閃光と共に煙幕と粉塵が舞うという閃塵欺瞞爆弾ではないかと察して驚く。永守が考案した非殺傷制圧型手榴弾で、諜報部が実験段階で数個作成した程度で、量産されてない物だからである。

 

「戻れ、R-4SP!!今日の所はこれくらいにしてやる。けどなぁ、次は絶対(ぜってぇ)後悔させてやるから覚悟しとけよ!精々宝玉を手に入れた事を喜んでおくんだな…あばよぉ!!」

 

 

 

 

 

それから数秒後、閃光と粉塵によって奪われていた視界が徐々に回復し周囲を見渡せる程にまで改善した。だが時既に遅し、下っ端のリンダは既にそこにはおらず逃げていったようだ。

 

「下っ端さん、居ませんね。」

「逃げられちゃったか…。中々の痛手ね。」

「でも、宝玉は持って行かれてないから、万事OK…かな?」

 

逃げられてしまったが、ネプギアの手元にはエンシェントドラゴンから落とした宝玉を、しっかりと持っている。

 

「そうですね。…あ、助けて頂いて有難う御座います。えっと、REDさん?」

「将来のヨメの為だもん、当たり前の事をしただけなのだ!」

「彼女は、ロイヤル・エンペラー・ドラゴン(Royal・Emperor・Dragon)…長いから本人も“RED”って名乗ってるのよ。ヨメを探してゲイムギョウ界を歩き回る、流離いの旅人…ってとこかしら。」

「おお、あいちゃん覚えてたんだ!…でもやっぱり久々にフルネームを聞いてもしっくり来ないね。」

「で、もう一度聞くけど、なんでアンタがここにいる訳?」

「うん、それはねぇ!ラステイションに居る時に、あいちゃんを含む女神様一行が“プラネテューヌに向かってる”って話を聞いて追いかけてきたってた訳なのだ!」

「それで、偶々というが偶然というか…あのタイミングで追いついたって訳ね。」

「でも、結果からすれば、私達はREDさんのお掛けで助かった訳ですよね。」

「一応聞くけど、REDは血晶が何処にあるか知らない?」

「うん、知らない!!」

 

っと、REDは自信満々に知らないと答える。当然、全員呆れたという態度になってしまう。

 

「…まぁ、分かってたけど、自信満々に言われるのはどうかと…。まぁいいわ。兎に角、手に入れた事をジンに伝えて、さっさとラステイションに戻るわよ。」

 

そう言ってアイエフはジンに連絡をする為、スマホを取り出し着信をする。だが、幾ら鳴らしてもジンは応答どころか、着信に出てくれない。

 

「どうしたです?アイちゃん。」

「…変ね。アイツが出てこないなんて。」

「でないってどういうこと?」

「私が知りたいくらいよ…。」

「何か、ジンさんの身にあったんですか?」

「それも分からないけど、急いで戻った方がいいかもしれないわね。」

 

そう言って、ネプギア一行はバーチャフォレストから出ようとする。が、REDがアイエフに声を掛ける。

 

「じゃあじゃあ、アタシもついて行く!!」

「え?REDさんも?」

「アタシの知らない場所で、ヨメ達が酷い目に遭うなんて我慢できないからね!」

「えっと…ど、どうしましょう?」

「…まぁ、こうなる事は分かってたけど、REDの腕は確かよ。そこは私が保証するわ。」

「お友達が増えるのは大歓迎ですよ。」

「まぁ、アタシも同じ目的で動くなら問題ないよ。」

流石(さっすが)ぁ!じゃあ、これから宜しくね!!」

 

新たにREDが加わり、より一層個性豊かなパーティーとなったネプギア一行は、ラステイションにいるジンに会う為にバーチャフォレストを後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……きな…い。…ン、…きな…い…。」

 

声が聞こえる…。俺は、今どうなってるんだ?確か、ハーミットに戦いを挑んだが、情けない事にボロ負け状態だったが…。

 

「………!!ハーミット!!」

「うぇ!?」

 

ガツンッ!!

 

「ッ…!急に起き上がらないでよ、痛いじゃないっ!!」

「てててて…。ゆ、ユニか…。す、すまねぇ…。」

 

何故か驚くように俺は上半身を思いっきり上げてしまい、誰かとぶつかってしまい互いに悶えている…ホントイテェ。一応傷を少しでも癒やす為に、ネプビタンCを使い回復する。

 

「それにしても、女神でありながら情けないわね、アタシ…。あんな奴に負けるなんてね。それに、アンタが居るって事は、見たのよね?」

 

俺は軽く頷くと、ユニは溜め息を着く。恐らく、全ての力を出して戦った結果、俺が着いた時に見た光景なのだろう。人々を守る女神という存在でありながら、犯罪組織の雇われ傭兵に負けてしまったのだから、ある意味ショックなのだろう。とは言え、俺は手も足も出ずに、挙げ句の果てに古のゲイムキャラの力を使っても勝てなかった。あそこまで来るとある意味チートだよなぁ。

 

「まぁ、とは言え俺等にはいい情報がある。」

「え?」

「…あんな奴と戦って、生き延びている事だ。」

「それ、励ましてるつもり?」

「それもあるが、生かしたことを後悔させてやる事も出来るぜ。」

「はぁ…随分と前向きだこと…。」

 

ちと前向き過ぎたか?とは言え、俺の知っているアイツならどんな逆境に立たされてもきっと諦めなかっただろう。…とは言え、それで行方不明になっちゃ何も言えねぇがな。

 

「ところで、気になってたんだけど、アンタの持ってるそれは何?」

「あぁ?」

 

ユニちゃんに言われ気づいたが、俺の右手には血の色の如く赤い結晶を握りしめていた。…なんだこの石。

 

「教会に持って帰って調べる必要がありそうだな。」

「そうね。あと、アレを持って帰るのも手伝ってくれない?」

「…あの長銃か?」

 

そこには、気絶する前にハーミットが持っていたであろう長銃が立てかけられていた。見た目はまるで対戦車ライフルを更に大型化させたようなので、小型携帯レールガンシステムでも搭載してるのかと言いたくなる程ごつごつしている。妙に痛む腹部を抱えつつ試しに持とうとするが、携帯用としてはどう考えてもかなりの重量だ。持てない訳じゃねぇが。

 

「重てぇが、持てなくはなさそうだ。」

「なら、持ってくれる?」

「…手伝うんじゃねぇのか。まぁいいけど。」

「そう。なら宜しく頼むわよ。」

 

その前に、俺の武器と腰鞄を回収し、長銃は背中に背負える事が出来るので背負う。

 

「とりあえず、俺は教会に戻ってネプギア達と合流する。ユニ、お(めぇ)はどうする?」

「アタシは…。」

「無理にとは言わねぇが、一人で抱えるには限界があるぜ。」

「それは、今回の件で痛いほど分かってるわ。でも…アタシ自身がそれに納得出来ないのよ。」

「ま、俺ぁユニの事に関しては何も言わねぇよ。ただな、俺はお(めぇ)が合同してくれる事を信じてるぜ。」

「…え?…って、このアタシを置いていくな!!」

 

そう言いつつ、俺は荷物を抱えまだ妙に痛む腹を抱えながらセプテントリゾートを後にする。

 

 

 

 

 

 




【用語集】

○今、閃光が見えたところを~
 「う~、トイレトイレぇ!」の後に続く台詞のオマージュ。元ネタ事態は恐らく言うまでもないですが、山川純一氏によるマンガ「○○○○テクニック」。ある意味名台詞の宝庫(?)だと思っています。

○君に決めた!!
 元ネタは、ポケットモンスターの主人公であるサトシが、モンスターボールを投げポケモンを出す時に言う台詞。只、この台詞事態は初代やRe;Berthにも登場している。

○冒険の書
 元ネタはDQシリーズのセーブデータに当たるもの。FC版DQ3は”お気の毒ですが…”が良くあった事で有名にもなっています。ある意味、0%0%0%並の衝撃でもありますね\(^o^)/

○上から来るぞ、気を付けろ!
 デスクリムゾンのOPで、主人公であるコンバット越前の台詞。正し、ムービーでは、上から来るぞ!とか言いつつ階段を駆け上がるシーンとなっている。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!



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Scene34 奇妙な出会い~Reminiscence~

今回は無印のある人物加入する際のイベント的な流れとなります。
過去話の為、旧主役もチョロッと…。


 

 

 

 

 

バーチャフォレストで宝玉を手に入れた後、アイエフがイストワールに今回起きた件を報告しそのまま空港へ行きラステイションを目指す事にした。空港に着いた後、アイエフはもう一度ジンに連絡を試みたところ、連絡が通じる事に成功した。何でも、ハーミットと交戦して出れなかったらしいと言った。アイエフもあまり深くは探らず、今は無事であることに安堵し、ラステイションの教会で合流する事を決めておいた。そして、飛空艇に乗り私達はラステイションに向かっている最中の事である。

 

「はぁ…。」

 

色々と考えている内に、アイエフは溜め息をついてしまった。短期間で想定外な事ばかりが起きているのが原因である。表面上は犯罪組織より先手を取っているように見えてはいるが、シェア自体はまだまだ圧倒的に犯罪組織マジェコンヌに傾いている。諜報部での情報操作をしている時期に比べればマシなのかもしれないとは考えているが、どうしても一発逆転となる発火材的なのになるには程遠い。

 

「ラステイションに着くまでとはいえ、とりあえず一息付けるわね。」

 

ここまでの道のりとして、戦闘自体は少ないとは言え、ラステイションからプラネテューヌに戻り、またラステイションに向かっている為、全員の体力に関して個人差はあるが確実に減っている。特にコンパは、元々非戦闘員…とまではいかないが、現パーティーメンバーとしては戦闘慣れしている4人に比べ、無理をしているのが分かる。だからこそ、飛空艇の移動中に体力を回復しておいた方が、次の血晶を探すのも図るはずと考え、全員一休みするように伝えておいた。そんな事を考えていると、ネプギアがアイエフの元へやって来た。

 

「ん?どうしたの、ネプギア。」

「あの、ちょっと聞きたい事があるんですがいいですか?」

「ん。別に構わないけど、聞きたい事って?」

「私は初対面ですけど、アイエフさんはREDさんと何回か会ってるみたいな反応でしたので、ちょっとどういう出会いがあったのかなって思いまして。」

 

どうやら、アイエフと初対面とは思えないREDとの関係が気になったという感じらしい。ネプギアからしてみれば、あんなハイテンションな女の子と、どうして仲良くなったのかと気になってソワソワしている様子だった。

 

「…ああ。まぁ、ネプギアがいない時に色々あったのよ。気になるなら話すけど、少し長くなるわよ?」

「はい!私、気になりますでお願いします!」

「…分かったは、それじゃあ―――――」

「アタシも気になる!!」

 

アイエフは、ネプギアにREDとの出会い関係を話そうと決め、口を開こうとした時、何故かネプギアの後ろからREDがにょきっという感じで登場する。

 

「いや、アンタが聞いてどうするのよ。アンタとの出会い話なのに。」

「うん?気になるから聞きたいの!」

「…はぁ、分かったわよ。」

 

そうして、アイエフはネプギアと(何故か)REDに出会い話を話すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【数年前-プラネテューヌ:バーチャフォレスト付近】

 

ネプギアを含めたネプ子達が、犯罪組織に負けたという朗報を受けて間もない頃の話になるわね。この時は兎に角、忙しくて私も永守も引っ張りだこになっていたわ。当時は、永守と手を組んで色々とクエストや情報操作をやっていたわ。そんなあるクエストのモンスター討伐での討伐対象を終えた後の話からになるわ。

 

「ふぅ…終わったわね。やっぱり、パーティーの力って偉大だわ。」

「ああ…俺の昔は基本的にポイントマンとして一人でやっていたからな。」

「アンタ程の実力があれば一人でやっていけるわよ。」

「…限度はある。」

 

そんな会話をしつつ、お互いに武器を収める。どういう訳か、この時の永守は太刀とビームソードの二刀流だったわね。何でも、ネプ子とネプギアの武器の感触をつかんでおく事と、独自の戦術を研究する為とか…。とは言え、本当に初めて使ったのと言いたくなる程スタイリッシュだったわね。思わず教科書に載せたいような…そんな感じ。

 

「さてと…、さっさと報告して次のクエストをやらないとね。」

「ああ、そうだな。」

 

この頃は兎に角、犯罪組織の手が色んな所に伸びていたわね。マジコンと言うものが普及していて、それのせいでクリエイター達が士気喪失している。おまけに、それを正義だと掲げる人もいるわ、親が子どもに当たり前のようにプレゼントしたりと、モラルやTPOガン無視といった所よ。良識な人も、犯罪組織の手中に陥っている人も少なからずいる。とは言え、今の私達に出来ることは、70%という犯罪組織のシェアを少しでも抑えるつつ阻止する事…。

 

 

 

 

 

「キャーーーーーーーーーーーーーーー☆」

 

 

 

 

 

再度クエストを受け、永守と二手に分かれクエストの指定物を回収しバーチャフォレストの出口に向かって歩いていると、突如女の子の悲鳴が聞こえた。

 

「悲鳴!?どこから…右、左!?何処なの、今助けるわ!!」

 

私は警戒態勢に入って、左右を見渡すがそれらしいのは見当たらない。一体何処から…!?

 

「アイエフ、上だ!!」

 

遠くから永守の声が聞こえ、上を見た時には時既に遅かった。

 

ドンガラガッシャンっ!!

 

「痛ったーーーーーー!!」

 

上から降ってきた何かに私は押し倒される形になってしまう。丁度倒れた場所が草道だったから、衝撃はそれほど強くはなかったとは言え、痛いのは痛いわよ。一体何が起きたのよ…。

 

「あ~れれ~?どうして寝てるの?まだお休みには早いよ~?」

 

えーっと…どういう状況なのよこれ。叫び声が聞こえたと思ったら、上から女の子が降ってきて、マウントポジションを取られたような状態になっているのよね…。

 

「って、寝てないわよ!!一体何なのよ貴女は!!」

「アタシ?アタシはREDちゃん!R・E・Dで、REDね♪それで、お姉ちゃんはどうしてここで寝てるの?」

「違うわ!!いいから早く退いて!!」

「ん~~~~………ヤダ☆退いてって言われると余計退きたくな~い♪」

 

な…何なのよこの子は!ネプ子よりも扱いにくい気がしてきたわ…!!

 

「何やってんだお前ら…。漫才でもしてるのか?」

「この状況をどう見たら漫才に見えるのよ…!」

「おぉ、今度はおっきぃ熊さんが来た!!」

「…熊…さん…?」

「うん!すっごくおっきぃもん!」

 

この子、肝っ玉も据わっているの…?初対面の相手に失礼極まりないわよ。…と思った次の瞬間、手を顎に当てて考えていた永守が私の予想斜めの反応をする。

 

「………。クマー。宜しくだクマ。」

「…ぷっ。あははははは!おにーさん面白ーい!!」

 

………。忘れいてた。最近登場してないからか(そこ、メタイとか言わない。)、永守は時たまネタに走る事があるんだった。

 

「ってアンタも何してるのよ!いいから降りなさいっ!!」

 

痺れを切らした私は、私の上に載っているREDと名乗った子を無視するように無理やり立ち上がる。当然彼女は、後ろの転がるように背中を付く。自業自得よ。

 

「いたたたたぁ…、そんな勢いよく起き上がらなくたって…。」

「だから退いてって言ったじゃない…。」

「…そんなことより、何処から落ちてきたかは置いといて、ケガとかしてないか?」

 

永守が彼女に対してそういうと、彼女は自分の体をきょろきょろと見渡す。…よく見るとこの子、私より少し身長が低いわりにある部分が成長しすぎているわね。何よこの差は…。

 

「うーんケガ…してないっ!うん、お姉ちゃんが身を挺して守ってくれたおかげだよ!!」

「いや、そんな気はなかったんだけど…。」

「謙遜しないしない!でもでも、そんな控えめな態度が、ますますいいよっ♪」

 

謙遜ねぇ、そんなつもりで言ったわけじゃないんだけど…益々この子にペースを奪われている気がするわ。

 

「あ、そうだ。お姉ちゃん、名前は?」

「お姉ちゃんはなんかこそばゆいわね…。私はアイエフ。こっちは、協力者の永守よ。」

「熊改めて、獨斗永守だ。宜しく、RED。」

 

REDに永守を含め軽く自己紹介をする。…正直さっさとこの子を保護して次の仕事に行きたいところなんだけど…。そんな事を考えていると、REDがビシッ!なんて効果音が出そうな感じで私に指をさしてくる。

 

「それじゃあ!お姉ちゃんは“あいちゃん”だね!そして、今日からあいちゃんはアタシのヨメなのだっ!!」

『…は?』

 

そんなREDの発言に私と永守は、頭の上にクエスチョンマークが出るかの如く目を丸くしてしまう。

 

「えっと、REDちゃん?意味わかって言ってるの…?」

「もっちろーん♪ヨメって大好きな相手の事だよね?で、結婚したらヨメなんだよね?」

「…意味は間違ってはないが…。」

「でもって、ヨメだって言って、10分間邪魔されなかったら、結婚なんだよね?」

「はぁ…?ちょっと意味が分からないんだけど…そもそも、10分ルールなんて初めて聞くんですけど…。」

 

なんだか話が一気に加速している気がして、私の頭もパンクしそう。ただ、ここでちょっと迷惑そうな顔をしてしまったのか、REDが少し悲しそうな顔をしてしまった。

 

「あいちゃんは…ヨメになるの…嫌…?」

「ぇぇ…嫌とか、そういう事じゃなくて…。」

「じゃあ、オッケー!!やったぁ!!まずは一人目ゲットぉ♪この調子でもっとヨメを集めよーっと!!」

 

そう言ってREDは私達の元から立ち去っていく。当然私は茫然としている…。反論する余地すら与えて貰えなかった。

 

「えぇ…?」

「…キマシタワー。」

「………。そこ、まだ始まってないから。」

「失礼。だが、盛大に何か勘違いしてるよな。まぁ別にいいけど。」

「私としては良くないわよ…。」

 

そうして、私達はプラネテューヌに戻って仕事を続けようかと思ったけど、私はドッと疲れちゃったから休むことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が捕まってる間に、そんなことがあったんですね。」

「そう。で、翌日に永守がアンタの事を調べてくれたわけ。“ヨメを求めてゲイムギョウ界を旅している不思議な女の子”って感じね。」

「アタシって噂になってたんだー!アタシってすごーいっ!!」

 

まるで他人事かのようにREDが喜んでいる。第一印象はあれだったが、アイエフはREDは悪人ではない上にしっかりとクエストを熟してゲイムギョウ界に貢献している為、一定の信頼を感じていた。それでも、本当に変わった子だなぁとは思っている表情をしている。

 

「それで、REDさんとは久しぶりに会ったって感じなんでしょうか?」

「まぁ、確かに久しぶりと言えば久しぶりね。2回目って訳じゃないけど。…あの時は大分酷かったわ。」

「???、アタシ、あいちゃんに酷い事したっけ?」

「…覚えてないのかしら…。まぁいいわ。その事掘り返してあげるわ。」

 

そう言ってアイエフは、次に会った時の話をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永守からREDの情報を受けてから数日後、私はプラネテューヌ付近の森で暴れているもスターがいるという情報を掴み、単独でモンスター討伐に出ている。

 

「ふぅ…。中々すばしっこいモンスターだったわ。でも、これでプラネテューヌへの被害は減るはずね。それにしても、一人だとやっぱり大変ね。挟み撃ちも出来ないし…。」

 

永守はイストワール様と内部的な事で打ち合わせをしている為、現在は一緒ではないわ。私はカタールを仕舞う。そんな時、私の後方から複数の足音が聞こえてきた。その内一つの足音が此方に向かってきているのに気づいた。

 

「…足音!こっちに向かってくる!?」

 

私は180度振り返りカタールを再び出し、此方に向かってくる何かを目視する。

 

「あーいちゃーんっ♪」

「え、えぇ?貴女…確かRED…ちゃん?」

「おお!覚えててくれたんだ!!流石(さっすが)アタシのヨメ、この目に狂いはなかった♪」

 

そこには数日前に、空から降ってきて私にぶつかってきたREDが立っていた。私に会えた事が嬉しいのか、目を輝かせている。そんな私は、ヨメと言われるのに抵抗があるわけじゃないけど、なんか恥ずかしくなってか人差し指で頬をかいてしまう。

 

「そ、そうだったわね…。それで、私に何か用?」

「うん!あいちゃんは、モンスターを退治てシェアを稼いでるんだよね?」

「まぁ、うん。諜報部の仕事の1つとしてね。…それは置いといて、モンスターがいるかもしれないから、こんなところに居ないで、早く街に戻ろっか?」

 

一応永守から、REDはシェアを稼いでいる為一定の戦闘能力はあると評しているけど、実際に見た事がない上にこの破天荒な感じ…正直言って私は不安でしかないから早く安産な街に戻っておきたいところだった。

 

「え~、まだ来たばかりなのに?それに、今日はあいちゃんの為に頑張って来たんだから♪」

「私の為に…?」

「うん!愛するヨメの為に、このアタシが命を張って、たーっくさん連れてきたよ!!」

「…嫌な予感がするけど、何を…?」

 

そう言って私は恐る恐るREDに質問した。っというより、こっちに何か向かってくる音が徐々に近づいてきているんですけど…!!

 

「モンスター☆思う存分倒せるよっ♪」

 

そう言ってREDは来た道を指さす。そこには大量のスライヌ、チューリップ、ダイコンダー、馬鳥といったバーチャフォレストに生息するモンスターが此方に向かってきている!砂煙で見えないけど、目視だけで軽く30は超えているように見える。

 

「どうどう?ここまで集めるのすっごく大変だったんだよ!」

「幾ら何でも多すぎよ!こんなに相手出来るわけないじゃない!!早く、逃げるわよっ!!」

 

そう言って私はREDの手を掴んで走り出す。ただ、この大量のモンスターを引き連れてプラネテューヌに向かう事は出来ない為、奥地へ行って巻いた後に町へ戻るというプランを脳内で考えた。

 

「え?え?あいちゃん、戦わないの?折角苦労して集めたのに…。」

「限度ってのがあるわよ!!兎に角走る!!」

 

何故か納得してないのか、目を丸くしているREDがいるけど、今はそんな事を考えている場合ではないのは確かだった。…寧ろ、どうやってこんなに連れてきたっていうのよ!!

しかし、暫く走り続けて折り返し後ろを向く…。見なきゃよかった。

 

「うぇっ!!まだついてくる!!しつこいわね…!!」

「そーだそーだ!そんなにしつこいと、ヨメにモテないよ!!」

「引き連れたアンタが何言ってるのよ!!」

 

REDを引っ張っているからか、思ったより早く走る事が出来ないでいる。ああ、RボタンやBボタン押しての猛ダッシュが出来れば…!

そんな時、私達の横を何かが通ってきたのが分かった。

 

『…え?』

 

思わずそれを見て振り返ると、鎌鼬を纏ったような円盤状のものがモンスターの中を縦横無尽に飛んでいる。良く見ると、なんだか可哀そうに見えるけど、モンスター達が切り刻まれているのが分かる。そしてその円盤状の物体は、また私とREDを横切り、ある人物の手元に戻ってくる。

 

「何やってんだお前等…。今時モンスタートレインでレベ上げなんて流行らんぞ。ましてや運営に知られたら垢バンだ。」

 

そこに立っていたのは、永守だった。そして持っているトラベルハットを被り直す。それと同時に、10体以上のモンスターが結晶片へとなっている。

 

「…どう見たらそう思うのよ。」

「あー!あの時の熊おにーさん!」

「REDか。…何となく把握した。行くぞ。」

「はぁ、まさかとは思うけどね…。」

 

そのまま永守は腰の銃を抜きつつ、右手には魔力で生成されたと思われる黒い剣を携え、無言で私達の前に立つ。恐らく、街に被害が出ないようにここで食い止める気なのは分かる。ただ、永守から溢れてる殺気のようなもので、さっきまで威勢があったモンスター達が後退りしたり逃げたりしている。私も溜め息を付きながら、カタールを腕に嵌める。

 

「おお、ヨメが頑張るなら、アタシもあいちゃんの為に頑張るよ!!」

「何処の誰かさんが、こんなに連れてこなければ、こんな事にはならなかったんだけどね。」

「うぅ、あいちゃん目が怖い…。」

 

…とりあえず、最悪の事態は免れたと言った方がいいのかしら。私とREDが永守の横に立つように歩み寄る形となる。流石に何匹かのモンスターは怖がって逃げて行ったけど、残った威勢のいいモンスターはこっちに再び向かってくる。

 

「遅い…!一閃!!」

「REDちゃんの力、とくと見よ~♪」

「散れ…!」

 

先手を取ったのは私、向かってくる敵を搔い潜ると同時にカタールで切り刻む。所謂カウンター狙いのスタイルってところね。突っ込んできた無防備のモンスターに対して急所狙いをする。

永守も私と似た形で、影剣で受け流しつつ銃を撃ったり、影剣を振り下ろすと同時に真空破的なのが出たり…私より派手ね。

REDは、ブーメランとしての巨大な円盤や、けん玉といった玩具を武器として使っている。ブーメランやけん玉、ヨーヨーとは思えない威力を発揮しているし、初めてみる戦い方で戸惑ったけど、永守が言ってた通り確かに戦闘能力に関しては十分といった感じがするわ。

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ~。疲れたぁ…。」

「うーん、楽しかった♪」

「ウォーミングアップにしては少しきついな。」

 

…なんだかんだで、この危機的状況を打破した私達3人。私は走ったのも含め疲れて地べたに座ってしまう。永守は落としたトラベルハットを叩いて被り直す。REDも確かにトレインと今の戦いで、冒険するだけの力はあるのは認めざるを得ない。けど、言いたい事はある―――――

 

「アンタが強いのはよーく分かったけど、こんな危険な真似しちゃダメでしょうが!!」

「うぅ、アタシはあいちゃんが喜ぶと思ったけど。アハハ…ちょっとやりすぎちゃった?」

「…悪気はないようだ。」

「アンタは逆に許しすぎじゃないの?ネプ子の癖が感染したのかしら…。」

「かもな。」

 

永守のそんな反応で溜め息を漏らしてしまう。只、ここで愚痴を零しても仕方ないわよね。

 

「まぁ、でも…。私の為と想っているから、大目に見るわ。」

「ホントにっ!!じゃあじゃあ、アタシに対しての好感度もちょっぴり上がったりする?」

 

ふと私が零した言葉にREDが我先にと食いついてきてしまった。しまったと思った時には、既にREDは私の近くによってわくてかという表情をしていた。

 

「…ま、まぁ…ほんのちょっとね。」

「オッケー!!好感度プラスだね!!メモしとこ♪」

 

私の事を想っての行為だろうし、ここで断ったら悲しむ姿が思い浮かんで酷だなと感じてしまった。どれくらい好感度がプラスされたのだろう…。

 

「よーっし、次はもっと好感度が上がるフラグを作ってくるから!!あいちゃん、またね!!」

「あ、え、えぇ?…ま、またねぇ…。」

「随分と面白い子に好かれたな。」

「私的には有難迷惑よ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それから、ブラン饅頭を勝手に食べられたり、それのお詫びとしてブラン饅頭をくれたり、REDに関して良く分からないのに、REDに関するクイズをされたり…。本当色々あったわ。」

「なんだか、色々大変だったんですね…。でも、それがあったからこうやって一緒に旅をしてくれてるんですよね?」

「…そうね。そういう縁があったから、私達に協力してくれたんでしょうね。」

 

アイエフとREDの間に何があったのかを、ネプギアに一通り話し終えた。肝心なREDがアイエフに寄り添って寝ていた為、アイエフとネプギアは苦笑する。すると、船内アナウンスが流れる。

 

≪当機をご利用頂き有難うございます。間も無く、ラステイション空港に到着したします。≫

「…もう少しですね。」

「そうね。とりあえず降りる準備をするわよ。ほら、RED。いつまでも寝てない。」

 

そうして、飛空艇はラステイション空港へ着陸し、ネプギア一行は再びラステイションの教会へ足を運ぶことにした。

 

 

 

 

 

 




【用語集】

○「クマー。宜しくだクマ。」
 DMMが提供している艦隊これくしょん(通称:艦これ)に登場する、球磨型軽巡洋艦”球磨”が加入する際の台詞。ケッコンカッコカリと春雨が出る間では大事に育ててました…。

○「キマシタワー。」
 アニメの実況中等で、百合を思わせるようなユリユリシーンで流れるAAの事。簡単に言えば、「アッー!」の女性版という事でしょうか?

○RボタンやBボタン押しての猛ダッシュが出来れば…!
 RボタンはネプテューヌVSセハガールより、Bボタンはあの有名な配管工がダッシュする際に押すボタン。ネプテューヌVSセハガールのダッシュジャンプは個人的に楽しかったが、アクションが苦手な人に取っては厳しい気がしました。余談ですが、マイクラはダッシュジャンプするとダッシュより早く移動出来る不思議。

○モンスタートレイン
 通称トレイン。MMORPG等で、モンスターを殴ってタゲ(ターゲット)を奪い、その状態で大量のモンスターを引き連れて歩き回る禁止行為の事。理由としては、フィールド上に沸くモンスターの数が規制されており、引き連れているとモンスターが他の場所で沸かなくなる為に、禁止されている。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!



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Scene35 第二のゲイムキャラ~2nd Contact~

毎週金曜以降に出すとか決めていませんが、よく見ると金曜~日曜の間に上げている時期が多い。とりあえずマイペースに…あと、PUBGとアズールレーンが楽しい。


 

 

 

 

 

「これは、驚いた。これほど、番狂わせになったのは初めてだよ。」

 

セプテントリゾートから、満身創痍な状態でラステイションの教会に戻って来た俺とユニちゃんは、戻ってくるなり教会の救急係に治療を受け終え、ケイさんに持ってきた(ブツ)を渡して品定めをして驚いている。

 

「驚いたってどういう事よ、ケイ。」

「まさかと思うが、それが要求していた…?」

「そうだね。結論から言えば、君が持ってきたこの結晶体が、血晶だ。」

 

それを聞いてユニちゃんは驚くが、俺は内心そうじゃないかと思っていた。あんな真っ赤な誓いとか言いそうなくらいの色だからな。

 

「とは言え、犯罪組織も血晶を探していたとなると、向こうも何か企んでいる可能性は高ぇだろうな。」

「これは僕の憶測だけど、犯罪組織も此方と同じことを考えている可能性はあるね。」

 

しかし、犯罪組織の情報が今のところ流れていない為に、此方が集めている物と同じものを集めて、同じことをやろうとしているとかそういうのは掴めていないらしい。まぁ、俺がどうこう考えようが、決定権はあいつ等に任せている事だし、俺はネプギア達が教会に着くのを待つことにする。それで、ラステイションのゲイムキャラの居場所を掴めば流れ的には悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

程なくしてネプギア一行が教会に着き、宝玉をケイに渡す。それと、ジンが持ってきた長銃と、ネプギアが持っているバーチャフォレストで拾った剣を、修理等の為預ける事となる。

 

「確かにこれは宝玉だね。これで此方が要求していたのは全て揃った。お疲れ様。」

「こっちの行動はお見通しだったみたいだけど、血晶は予想外って感じね。」

「まぁ、僕としては、事が早くなった程度だけどね。でも、材料が揃った事は感謝してるよ。」

 

ケイの反応に、アイエフが若干ムスっとするが、そんなことよりジンとユニがセプテントリゾートで何があったのかを問い、一通りネプギア一行にセプテントリゾートで何が起きたかを話す。

 

「まさか、血晶がそっちで手に入るなんてね。運が良いのか…。」

「生きているのが奇跡的とでも言いてぇのか?」

「まぁね。良くもまぁあんなのと戦う気になれたわね。」

「…女神を見捨てる程、俺はバカじゃねぇさ。」

「ユニちゃんは大丈夫だったの?」

「アタシが、あんなのにやられるわけないでしょ。」

 

互いに情報交換をしていると、ケイがデータチップのようなのを出す。

 

「お話し中悪いのだけど、これが君達が探しているゲイムキャラの居場所などが入った情報だが、先にギョウカイ墓場で起きた事を伺いたい。」

「ギョウカイ墓場…。分かりました。」

「アタシも聞くからね。包み隠さずに答えなさいよ。」

 

そして、ネプギアはギョウカイ墓場へ突入した時の出来事を、助けられた時の事をケイとユニに話す。

 

 

 

 

 

 

「そうか…ノワールは無事か。」

「そんなに心配なら、さっさと教えても良かったんじゃないの?」

「此方にも事情があってね。その為にも、君達に要求した材料が必要不可欠だったんだよ。」

「でも、お姉ちゃんは捕まっている事に変わりはないんだね…。」

「ごめんなさい…。私がもっとしっかりしていれば…。」

「いや、これは君一人の責任ではない。此方がノワールだけを指名したこともある上に、犯罪組織が予想以上に勢力があることを見抜けなかった僕達にも落ち度はある。ユニも、何時までも意地を張っている心算だい?」

「あんなのを見せられたら、協力しざるを得ないわね。…ネプギア、アンタも苦しい思いしてるのに、アタシの我が儘で距離を置いてゴメン。」

 

自らハーミットに単独で挑んで負けた事。少し期待していたジンもやられた事に、今回の事の大きさを察したかのように、ユニはネプギアに距離を置いていたことを明かし謝る。

 

「うぅん…元はと言えば、私がユニちゃんを心配させちゃう行動をしてたことも悪いんじゃないかな。」

「そうやって一人で抱えちゃうところも、変わってないわね。」

 

二人の和解により、周りにも微笑みが現れている中、ジンはケイから貰ったチップを携帯端末に差し込み、情報を受け取る。

 

「…ここに、ラステイションのゲイムキャラがいるのか。」

「そう、君達が探しているゲイムキャラはそこにいる。ただ、彼女の協力を得られるかどうかは、此方で保証は出来ない事を覚えておいて欲しい。」

「え?それってどういう意味?」

「…我が儘か、頑固ってところだろう?」

「そこは、実際に会って見た方が早いかな。僕は、ここで彼女の協力を得られる事を祈ってるよ。」

 

転生者のジン以外は、ラステイションのゲイムキャラがどんな人物像なのかは分からない。ただ、ジンも曖昧な上、自分が知っている流れではない為確信を持てずにいる。

 

「ユニちゃんも、ゲイムキャラには会いに行くよね?」

「そうね。自分の国のゲイムキャラが、どんな奴かを知らないってのも変な話よね。一時的にアンタと協力するわ。」

「一時的…?」

「え~?ずっと着いて行かないの?」

「うん。アンタと行くには、まだまだやらなきゃいけないことがあるわ。それが終わったら、アンタ達と一緒に戦うわ。それだけは約束する。」

 

REDがユニに若干不服な感じに言うが、必ず同行するとユニが言い渋々納得する。

 

「(やっぱり、ノワール様に似てるからか、譲れないところがあるんだね。)」ヒソヒソッ

「(…そこが、ユニの取柄でもあるだろ。)」ヒソヒソッ

「日本一さんとジンさんは、何を話してるです?」

『ん、なんでも?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【セプテントリゾート:奥地】

 

教祖のケイから、ゲイムキャラの情報を貰い、その地図に従い一行はセプテントリゾートへと向かう事にした。指定された場所に向かう途中、披露宴をするような場所に着き、関係者以外立ち入り禁止という訳でもないが、警告マークがあり裏方への一般立ち入り禁止のような形になっている。

 

「…見た目は行き止まりね。」

「そうだね…。でも、渡された地図はこの先にあるみたいだけど…。」

「あいつは、ビジネスに関しては対等よ。今更嘘の情報を渡すとは思えないわ。」

「…確認した方がいいだろう。」

 

そういって、ジンはその建物の扉に手を伸ばしてみる。すると扉には触れず、まるで水の中に手を突っ込んだような感覚になる。そして、そこに顔を突っ込み、周りが驚くがすぐに顔を出す。

 

「この先に道があるぞ。」

「…あえてこうする事で、あたかも関係者が出入りしていると示しているのかしら。」

「でも、情報通りならこの先にゲイムキャラが…急ぎましょう!!」

「そーだね、早くヨメの為にも会わなきゃね!!」

「ちょ、ちょっとネプギア!一人じゃ危ないわよ!!」

 

前の事があった為、一分一秒でも早く会わなければと思い、ネプギアは駆け足でそのエリアに入り、それを追いかけるようにREDが、慌てるようにユニが入っていく。

 

「…団体行動ってなんだ?」

「今更それを言っても仕方ないわよ。ほら、私達も置いて行かれる前に行きましょ。」

「はいです。」「ああ。」

 

そうして、ジン、アイエフ、コンパ、日本一は先行した3人を追いかけるようにその向こう側へと入る。その後ろをある影が追っている事も知らずに…。

 

 

 

 

 

一行は警告エリアに入るが、そこは特に変わった感じはなく、通常のセプテントリゾートと大差ないといった感じだ。一つ違う事を言えば、幅広の円型エリアは存在するが、基本的に一本道となっている。

 

「あ…あれは、もしかして!」

 

すると、最前列に立っているネプギアが何かを見つけ走り出し、全員がそれに合わせるように走り出す。最深部と思われる場所に、浮遊する青光りな球体がそこにあった。

 

 

≪…何やら大勢来ると思えば、これは珍しい客人だ。まさか、プラネテューヌとラステイションの女神候補生が来るとは…。≫

 

流石に大勢で来ていたからか、ゲイムキャラが此方に誰か来ている事は察していたことが伺える。しかし、プラネテューヌとラステイションの女神候補生であるネプギアと、ユニがこの場にいることに、ゲイムキャラは若干驚いてる。

 

「あ、ラステイションのゲイムキャラさんは起きているです。」

「…それだけ、プラネテューヌに比べて、ラステイションが危機なのかもしれないわね。」

「これが…ゲイムキャラ…。」

「あ、あの。貴方が、ラステイションのゲイムキャラですか?」

≪如何にも…。だが、お前達二人がいるのはどういうことだ?≫

「お願いします!私と一緒に来てください!!」

≪唐突だな。理由も無しに私がここを離れるなど出来るはずがない。≫

 

ネプギアがゲイムキャラに向かって頭を下げる。だが、行き成り着いて来て欲しいと言った為か、ゲイムキャラが若干不機嫌な感じで言い返してくる。そこで、ジンがゲイムキャラの前に出て口を開く。

 

「ネプギア…行き成りそれは失礼だろ…。俺から説明します。今から3年前に四女神がギョウカイ墓場に向かったが、そのギョウカイ墓場にいる犯罪組織に捕らわれています。女神様を助ける為に、力を貸して欲しいのです。」

≪…成る程。薄々は気付いてはいたが、女神は余所の地に捕らわれていると…。≫

「そうなんです。だから、お願いします!力を貸してください!」

「アタシからもお願いします。お姉ちゃん…いえ、ブラックハート様を助ける為に、力を貸して下さい…!」

 

ネプギアとユニが二人して、ゲイムキャラに頭を下げる。だが、ラステイションのゲイムキャラが、ネプギア一行に放った言葉は予想外な事だった。

 

≪確かに、お前達に私の力を渡すことは容易だ。だが、女神が捕らわれているなら尚の事、お前達と一緒に行く事は出来ない。≫

「なっ!!」

「え~!どうして!!」

「な、なんで、ラステイションだけでなく、ゲイムギョウ界が大変な事になってるんですよ!!」

 

ゲイムキャラが放った言葉に、ユニが驚くと同時に顔を上げ、REDと日本一がゲイムキャラに不服と思い返答を求める。

 

≪…私の使命は、女神の身に何かが起きた時、女神の代わりにこの地を守護する事。私がここを離れるという事は、女神候補生がいると言えど、この地を無防備にしてしまうのと同等の意味となる。≫

「アンタ…それじゃあゲイムギョウ界がどうなってもいいって言うの!お姉ちゃんが助からなくてもいいっていう訳!!」

≪私の力は、この地を如何なる脅威から守護する事。これは、古の女神と交わした約束でもあり最優先事項でもある。つまり、私の力は女神を助ける為のものではない。≫

「…プラネテューヌのゲイムキャラは、力の一部を貸してくれた。それもダメなのか?」

≪力を渡すという事は、私自身の力の一部が無くなる。そうなれば、私の守護する力は弱まり、全ての驚異から守れなくなる。残念だが、お前のその籠手にも協力する事は出来ない。≫

「そんな…。」

「成る程、あいつが言っていた事ってこういう事なのね。これは厄介ね…。」

 

プラネテューヌのゲイムキャラが協力してくれているから、同意してくれるだろうという考えも、しっぺ返しを食らったかの如く失敗に終わる。どうすれば協力してくれるか、全員が考えていると、来た道から何かが此方に向かってきている。

 

「愛しのマイハニー、コーンーパーちゃーんーーー!!」

「え…?ふぁああ!ね、ネズミさん!?」

 

後ろから名前で呼ばれた為、コンパがそっちの方を向くと、ネズミ事ワレチューがコンパ目掛けて飛び込んできた。羨ま…もとい怪しからん事に、コンパの胸へ飛びついてくる。

 

「わ、ワレチュー!」

「な、アンタは…!!コンパから離れなさい!!」

「ヂュっ!!な、何するっチュか乱暴女!!折角コンパちゃんやゲイムキャラに会えたっチュのに!!」

「誰が乱暴女よ!!」

 

アイエフがワレチューを掴み投げ飛ばすと、折角裕福な時間を堪能できるところを邪魔された為に反論する。

 

「何?あの黒いネズミさんは…。」

「ねぇジン、あのネズミと知り合いなの…?」

 

ワレチューの事を知らないREDと日本一が、最初にワレチューの名を言ったジンに寄って言う。

 

「…ああ、女神様もよーく知ってる存在だ。まさかと思うが―――――」

「チュッチュッチュッ…察しがいいっチュね。」

「ネズミ、まさかアンタ…!!」

 

不敵な微笑みをするワレチューに、アイエフが察したように言う。その流れに乗るように、ワレチューが左手を腰に当て、天を指すように右手を上げる。

 

「そうっちゅ。今のオイラは、オバハンの右腕じゃなく、犯罪組織マジェコンヌの一員であり、ネズミ界のNo.2マスコットのワレチューは、オイラのことっチュ!!」

『ええ!このネズミ(さん)って敵の一員だったの!!』

「やっぱり…!また何か企んでるのね…!!」

 

ドドーンッ!とワレチューの後ろが爆発すると共に、エヴァ明朝風の書体でワレチューという名前がテロップ風に出現する。…あくまで演出ですはい。そして、敵である事に驚く日本一とREDであった。そして、ユニがワレチューを警戒し銃を構える。

 

「ね、ネズミさんが派手ですぅ!」

「く…下っ端と違って派手ね…!」

「下っ端…?ああ、アイツの事っチュね。オイラとアイツを比べるのは困るッチュよ。さぁ、犯罪組織と愛しのコンパちゃんの為にも…チュ?」

 

ワレチューが色々と話していると、自分に何か太い紐状の物が絡まっているのに気づく。

 

「そこで寝てろ。」

「チュっ!ヂュヂュっーーーーーーー!!!」

 

その紐状の正体はジンの鞭であり、ジンはそれを思いっきり引っ張り、空中に上げた後叩きつけ、更に鞭を引っ張り戻しワレチューがその場でコマの如く高速回転する。その回転が収まる時には、既にワレチューの目は渦巻き状になっていた。

 

「ちゅぅ…こ、コンパちゃんが…いっぱい…。お…お前、酷いッチュよ…。」

「色々な物語の悪役にな、ずっと思った事があんだよ。…無駄に(なげ)ぇ自己紹介とか、悪の組織紹介だとかしてる時が一番隙じゃね?ってな。それを利用したに過ぎねぇよ。」

「…アンタ、鬼ね。」

「俺ぁユニのように、女神程強くねぇし、しがないスタントマンを目指してる傭兵に過ぎねぇしさ。倒せる隙があるなら倒す迄だ。」

 

すると、コンパが少し前に出てワレチューに話しかける。

 

「あ、あの、ネズミさんは、犯罪組織の方です?」

「(うぅ、天使のコンパちゃんに嘘は言えないッチュ…。)そ、そうッチュ…。」

「ネズミさん、わたしは女神さん達を助ける為に旅をしているです。だからネズミさん。貴方はわたし達のできです!」

「て、敵ぃ…!?ガガガガーーーーン!!」

 

ワレチューはその言葉にショックを受けたのか、その場に項垂れorzな状態になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「犯罪組織のシェアが多くても、やはり人数で分が悪いか…。」

『っ!?』

 

その時だった。ワレチュー側から声がしたが、どう考えてもワレチューとは思えない声がした為、全員がワレチューを視線を向ける。なんと、ワレチューの影から人型の何かが出てくるのだった。口元を隠す程のネックコートに狩人帽、暗殺者のような仮面に包帯で顔を覆っている。そんな異質な雰囲気を出す人物に対して、その場に居る全員がゲイムキャラを守るようにその人物に向けて武器を構える。

 

「(顔の包帯と仮面が無ければ、殆ど“吸血鬼狩りのD”見てぇじゃねぇか…。それに、あの影潜りは…。)」

「何者よ、アンタ!」

「…名乗る程でも無い。」

 

そう言ってその人物は、倒れているワレチューを左腕で挟むように持つ。

 

「アンタも犯罪組織なのね…!」

「だとしたら、どうする。」

 

アイエフが質問をするが、反応からして恐ら十中八九犯罪組織所属だろうと判断する。そう言っている間に、ジンと日本一がその人物に接近する。

 

『ここで止めるまでっ!!』

「受けよ!正義の剣!!」

「俺の力、その身に刻めっ!!」

 

日本一の剣と、ジンの鞭が同時に振り下ろされる。

 

『い、いない…!!』

 

驚く事に、そこにはワレチュー含め何もおず、ただ空を斬っただけになった。

 

≪な、何をする…!!ち、力が…!!≫

 

自分達の背後からゲイムキャラの声がし後ろを振り向くと、そこには先ほどの人物が、化け物のような右手でゲイムキャラを鷲掴みにしているのだった。

 

「何時の間に、何があった!!」

「ジンさんと、日本一さんが仕掛けた時、急に帽子を投げたと思ったら、地面に消えたんですよ!」

「(冗談抜きでやべぇ奴じゃねぇかよ。)」

「ゲイムキャラさんを、話で下さい!」

 

だが、その言葉に耳を貸す気配は無く、開いている手でワレチューからCDのようなものを出し、ネプギア一行に差し向ける。すると、そのCDから禍々しいオーラを纏ったフェンリルが出現する。

 

「お前達の相手は此奴がする。生きていたらまた会おう。」

 

その人物はそう言いつつ、足下に魔方陣を転換する。犯罪組織が離脱する際に使っていた転送魔方陣だ。だがしかし、ただ一人だけその右腕と瞬間移動の方法を知っていて、心当たりのある人物が一人居る。

 

「待ちやがれ!獨斗ぉ!!」

 

そう叫びつつジンはその人物に鞭を振る。だが、一歩遅かったようで、その人物はその場から消えてしまい空振る。

 

「ガウウウウッ!!」

「…!しまっ―――――」

 

 

バーーンッ

 

 

ジンは、周囲が見えていなかったのか、襲いかかってくるフェンリルの攻撃に気づくのが遅れてしまった。だが、間一髪で女神化したユニの攻撃がフェンリルに当たり、攻撃を中断させる事に成功する。

 

「アンタ、ここに居ない奴の名前なんて叫ぶ前に、目の前の相手に集中しなさい!」

「…助かったぜ、ユニ。」

「ネプギア、アンタもぼさっとしてないで、女神化しなさいよね!」

「あ、ご、御免なさいアイエフさん。…行きます!」

 

何か飛んでもないのを見たのかという表情をしていたネプギアに、アイエフが渇を入れ女神化の指示を出す。

 

「それにしても頑丈ね。頭を吹き飛ばす気で撃ったのに…。」

「それだけ、何か強化を施されてるのかもしれねぇぞ。」

「そうだったら厄介ね、気をつけて戦うわよ!」

「グルルルル…。」

 

7対1とフェンリルの方が不利に見える。だが、フェンリルは怯える様子は見えない。まるで戦うことだけを命じられた機械のように、ネプギア達に敵意を向けている。

 

「チッ、殺る気満々じゃねぇか。」

「タダのフェンリルじゃなさそうね。こっちがどう行動するか様子を見ている感じね。」

 

目の前に居る禍々しいオーラを纏うフェンリルは、前足を地面に引っかけつつ首を左右に向けて警戒をしている。一歩前に進むのを確認すると、唸り声を出し威嚇する。

 

「(こんな状態じゃ、いつまで経っても前に進めないよ。)」

「(…突破口は、自分達で切り開く。そうだろ。)」

「(じゃあアタシ達のやることは一つだね。)」

「(わかりきった事を…。)」

 

ジンと日本一が、そんな感じのアイコンタクトをして頷く。長い月日、手を組んでいた二人ならではの行動である。当然ジンは鞭を、日本一は剣をと武器を取り構え、一歩前にでる為、周りからも驚かれる。

 

「ちょっと、アンタ達何考えてるのよ!」

「何って、アタシとジンが陽動するよ!」

「その間にそっちはそっちで、作戦を考えて行動しろ。」

「ヒーローが何時までも、大人しくしている訳にもいかないもんね。」

『未来は、自分の手で切り開くものさ!』

「待ちなさい…!」

 

アイエフの抑制を振り払い、ジンと日本一がフェンリルに駆け寄る。

 

「喰らいな…!」

「てやぁあっ!」

 

ジンが飛びかかるように、砂入りグレネードをフェンリルの目に目掛けて投げる。衝撃で爆発する仕組みのようで、フェンリルの額あたりに当たり爆発と同時に大量の砂と粉塵が舞い、フェンリルの視界を奪う。その隙に日本一がフェンリルの側面や背後に回り込み、剣や蹴りを織り交ぜて戦っている。そして尚且つ、ネプギア達に向けないよう、ジンがフェンリルの敵対心(ヘイト)を稼ぐように投剣や鞭等で牽制しつつ、その隙に日本一がといった戦法をしている。

 

「うぉ…!!」

「ジン…!!」

「大丈夫だ日本一。思ってたよりこのわんこは威勢がいいみてぇだ。」

 

それでも、フェンリルはお構いなしに体当たりや引っ掻きの攻撃を仕掛けてくる。その攻撃をジンは鉄製の十字架で防ぐという荒業を見せる。だが何だかんだ二人共、異様なフェンリルと対等にやり合っている事も予想外であり、アイエフが頭を抱え吹っ切れる。

 

「ああもう!ネプギア、早く指示をしなさい!!」

「ええ!わ、私ですか!?」

「曲がりにも、ネプギアは女神様なんだからね。」

「アタシはヨメの為なら、従うまでだよ!!」

「ギアちゃん、わたし達も協力するです!」

 

少し考えた後、ネプギアは力強く頷き全員に言う。

 

「…分かりました。アイエフさんとREDさんは、ジンさんと日本一さんの支援と足止めを。コンパさんは、もしもの為に回復の準備をして下さい。」

「分かったわ!」

「りょ~か~い♪」

「はいです!」

「ユニちゃん…!」

「…今回はアンタの指示に従うわ。さぁ、何をすればいい?」

 

最初は断られるんじゃないかと思っていたが、左手でガッツポーズの合図をした事で、協力する事を強調したのだとネプギアは思った。

 

「私のM.P.B.Lと、ユニちゃんのX.M.Bの最大チャージで一気に決める…3分で出来る?」

「…いえ、一分で十分よ。」

「うん、わかった!」

 

そう言って、二人は互いの武器を構え、武器にエネルギーを蓄え始める。

 

 

「いっけぇえええっ!!」

「ジン、日本一、助太刀するわよ!ラ・デルフェスっ!!」

 

フェンリルに向けて、REDは巨大なフリスビーの乱舞、アイエフは魔法による攻撃を仕掛ける。フェンリルの視野外からの攻撃によりクリーンヒットし怯む。

 

「作戦が決まったんだね!」

「何となく、何をするか分かるな。なら、足止めするまでだ!」

 

怯んでいるフェンリルに、ジンが急接近し、印を示した左手をフェンリルの胴体に当てる。

 

「大人しくしてな…、怒りの雷撃ッ!!」

 

古のゲイムキャラの力が宿る籠手から、雷の力を放ち強力な電流がフェンリルを襲う。一瞬の触れだけで強力な電流により、フェンリルは痺れて身動きが取れない状態になる。

 

『ジン(さん)、退いて(下さい)!!』

「…!!」

 

ネプギアとユニの方を見て、準備が出来たのだと察知したジンは、その場からバックステップで離れる。

 

『いっけぇええええええっ!!』

 

ネプギアのM.P.B.Lと、ユニのX.M.Bがフェンリルに向かって放たれる。その二つのレーザーがフェンリルに直撃し大爆発が発生する。爆風と共に、フェンリルだったであろう結晶片があたりに飛び散るのだった。

 

 

 

 

 




【用語集】

○orz
 顔文字的な一種で、手をつき跪いているような格好に似ている事から、そんなシチュエーションの際に使用される…と思う。

○未来は、自分の手で切り開くものさ!
 元ネタは”テイルズ オブ ジ アビス”のガイ・セシルの台詞の一つ。因みに、自分は何となくこの言葉を入れた後、検索したら上記の元が会った事に驚いています。


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Scene36 ルウィーへ~Cooperation~

 

 

 

 

 

≪…あれが、今のゲイムギョウ界を脅かす者達か。それでも、私はここを離れるわけにはいかない。だが、お前達に力の一部を渡すことは出来る。半分は先程の奴に奪われてしまったが、それでもお前達には十分すぎる程の力だ。女神候補生、そして古の籠手に魅入られ子戦士よ。この力を正しく使ってくれる事を祈ろう。≫

 

 

 

 

 

あの禍々しいオーラを纏ったフェンリル(恐らくワレチューが仕組んだものだろう)を倒し、譲れないところはあるようだが、ラステイションのゲイムキャラの力を手に入れる事が出来た。今回の古のゲイムキャラで得た俺の力は“炎”と“付与”の力。獨斗のように炎を飛ばしたり出来るし、自分や仲間の武器に雷や炎の力を宿すことが出来るようになった。そして教会に戻り報告し、ケイさんに驚かれつつも、翌日ルウィーに行くことが決まった。何故ルウィーかと言うと、ラステイションのゲイムキャラが伝言のように奴らがルウィーに向かったと言う。

 

「(次はルウィー。覚えている流れとは違うが、道筋は今の所ゲームの流れと一緒だ。まぁ、候補生全員が険悪で且つ初対面じゃない分、遥かにいい流れでもある。)」

 

ホテルのロビーにある自販機で買ったコーヒーを片手に、今までにあった事をお浚いしつつ、ルウィーでどう行動するか地図を見つつ頭の中でシミュレーションをする。そして一番頭を悩まされるのはハーミットの存在。確信は持てないが、俺の中で奴は“獨斗永守”である可能性が高い。奴が居なくなってから色々な冒険者にも会ってきたが、あんな影潜りや帽子によるテレポートを使う奴は獨斗ぐらいしかいない。そしてあの右腕…3年前、ズーネ地区の廃棄物処理場でエンデと戦った際、“ゾディアーク化”というのになった獨斗の右腕に似ている。もし本当に獨斗なら厄介な敵となる。何故なら、修行の一環で一戦交えたりしていたが、一回も勝てたことがねぇ。

 

「(獨斗…アンタは今、何処で何をしているんだ…。)」

「ジンさん?」

 

ふと声がしたので声のした方へ顔を上げると、以外にもネプギアがそこにいた。

 

「ネプギアか…、何か用か?」

「あ、えっと…少し、気になる事を聞きたくて…。」

「………ふぅ。聞こうか。」

 

気難しい表情をしていたせいか、ネプギアが若干戸惑った感じになってしまったが、深呼吸をしネプギアが何を言うか聞く事にした。

 

「ワレチューから現れた人の事ですけど…。」

「ああ…多分ルウィーに向かってるだろうな。」

「あの人って、恐らく“ハーミット”さんですよね?」

「…だろうな。全く、厄介な野郎だぜ。」

「私、ハーミットさんを倒していいのか、分からなくなってきました。」

 

今のところ教会から、犯罪組織に新しく仲間が加わったという情報は入っていない。だから、セプテントリゾートで出会ったアイツはハーミットで間違いないと思われる。だが、ネプギアが言った“倒していいのか分からない”とは何だ。

 

「…どういう事だ?」

「私、ハーミットさんが“永守さん”じゃないかって思ってるんです。」

「…は?」

 

ネプギアの“永守”というキーワードを聞いて、俺はビクッと一瞬体が硬直してしまった上に、目を見開いてしまった。

 

「どうして、そう思う。」

「ジンさんが、呼んでいたのもあるんですが、あの人の左腕にコレが付いていたんです。」

 

ネプギアが自分の首元に着いているバンドに手を添える。姉であるネプテューヌさんとお揃いでもあるバンドらしい。

 

「店や通販で手に入れた…とか?」

「いえ、これはお姉ちゃんからのプレゼントで、量産はしてないから、他の人が付けてる事はまずあり得ないんです。」

 

どうやら思い出深い物らしく、アクセサリー店でも販売してないから一般人が身に付けたり、購入できるようなものではないらしい。獨斗を倒したハーミットが奪ったという考えも出来るが、あの技等を見る限り消去法で答えが出てきてしまう。ネプギアからは、アイエフも何となく感じ取っているらしく、今後現れるなら殴ってでも口を割って聞きたいとの事。只、相手が相手だけに力尽くで実行するのは難しい。それに不可解なのは、アイツと会う度に“スタァァズ…”とか言ってロケラン片手に来る訳じゃねぇが、何かしらの道具を買った負けたと関わらず落としていく。ラステイションのパッセ工場のシアンに、ネプギアが持っていた銃剣と、ユニが持っていた長銃を調べて貰った所、内部構造は旧世代の代物だが、性能は並のモンスターであれば簡単に倒せるとの事らしい。職人魂に火がついてしまったのか、代金は不要で直して返すことになった。そう、なんでそんなものをアイツが持っていたのかって事だ…。

まぁ、深く考えても仕方ない事だと思うが、そう考えると犯罪組織の手助けをしてるのか、俺達に手助けをしているのか、さっぱり分からないな。

 

因みに、日本一はラステイションに残り、ユニちゃんの手伝いをすると言いだした為、一旦分かれる形になる。そうして翌日に、反感は有ったが俺の提案で、聞き込み無しで直ぐにルウィーへ向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルウィーに無事到着したネプギア達は、情報収集の為に教会へ向かう事にした。現時点でルウィーは、教祖の西沢ミナの支援と、女神候補生であるロム、ラムの活躍によりある程度安定はしているものの、一行が街中を見渡すと、あっちこっちに“犯罪組織マジェコンヌに入信、崇拝しよう!”、“犯罪組織マジェコンヌに入れば、好きなゲームがタダ!!”っと言ったビラが壁や無料配布箱に入っている等、既に犯罪組織の普及の手が伸びているのが分かる。

 

「やめろ、アイエフ。無断で剝がしたら面倒臭ぇ事になるぞ。」

「…分かってるわよ。」

「あいちゃん…。」

 

その張られてるポスターを見て、握りこぶしを作って力を入れている。剥がしたい気持ちは分かるが、今でも犯罪組織が優位に立っている為に無断で剥がせば、女神が正しいと言え法で裁かれる可能性がある。そうして一行はルウィーの教会へ足を運ぶこととなる。

 

 

 

 

 

【ルウィー:教会】

 

「ようこそ、ルウィーの教会へ…。あら、お待ちしてましたよ、ネプギアさん。」

「やはり、どこぞの教会に比べて、無難な対応よね。」

 

日が落ちる時間帯に教会へ到着すると、ルウィーの教祖である西沢ミナが出迎えていた。如何やら通常業務をしている最中で、どういう理由で赴くと言う事は伝えていた為、然程驚く感じは見られない。

 

「事情は把握しております。このルウィーのゲイムキャラを求めて、足を運んだ…それで間違いないですね?」

「はい!それじゃあ…――――――」

「申し訳ありませんが、御期待に応えることは出来ません。」

『な、なんだってー!』

 

ゲイムキャラを求めてルウィーの教会まで赴いたが、門前払いのように協力を断られてしまった。

 

「何か理由でもあるのかしら。それくらい聞いてもいいわよね?」

「…はい。実は、この国のゲイムキャラは、ある重要な使命を担って貰っているのです。」

「ラステイションのように、この国を守る使命ですか?」

「それも、この国のゲイムキャラの使命の一つでしょう。それよりも、重要な事があるのです。若し、ゲイムキャラが国を離れてしまったらルウィーが、延いてはゲイムギョウ界が未曽有の危機に陥る事になります。」

 

ミナの冗談には聞こえない話に、全員が息を吞む。だが、ここで引き下がる訳にはいかないのか、アイエフは更に質問を投げかける。

 

「それで、その最重要な使命ってのは何かしら?」

「それは、教会の方針で軽々しく話せるものではないんです。なので、御理解下さい。」

「でも、悪い奴らもゲイムキャラを狙ってるんだよ!そいつ等に見つかってやられちゃったらどうするのっ!!」

「此方で対策はしております。他国の女神様と言え、迂闊に話せる内容ではありませんので…。」

「…キラーマシン…。」

「っ!?」

 

簡単に公開できる情報ではない為か、断固否定なミナに全員が仕方ないと言った表情の中、ジンの呟きにミナがピクリと反応し驚いた表情をしている。

 

「その情報、何処で聞いたのですか…!?」

「興味本位で古い書物の複製を読んだことがあって、ふと思い出したんです。」

「アンタ、そういうの読んだりするの?」

「…まぁな。」

 

実際の所、ジンの言っている事は嘘ではないが嘘である。彼は転生者であり、このゲイムギョウ界の流れをある程度知っている。既に彼の知っている流れではないのだが、それを全員に今後起こるであろう事を話し、後の流れが変わってしまう事を恐れ、知ってはいるが違う方法で調べたという事を言う。

 

「それで、そのきらーましん?とは何なのです?」

「そうですね。先ずは、このルウィーに伝わる話をしましょう。」

 

キラーマシンの事を知っている人物がいるからか、それとも間違った情報ではないのかを確かる為なのか、それは分からないが、ミナはルウィーに纏わる話を始める。

 

ルウィーは嘗て、犯罪神ユニミテスが誕生した地でもある。犯罪組織が士気高揚の為に掲げている、犯罪組織にとって都合の良い神様という訳ではなく実在した神である。実際、大戦時の最中に蘇ったと言う。神は神でも、破壊神としての存在であり、全てを破壊し、ゲイムギョウ界を混沌と闇に陥れ滅亡しかけた事がある。だが、神器と言われる4つの武器と、籠手、聖剣、そして影を操る人物により、多大な犠牲を出したものの犯罪神の封印に成功した…という言い伝えとなっている。

 

「まるで核兵器だな…。」

「でも…その伝承が本当でしたら、犯罪組織も滅びてしまうです…よね?」

「ええ…犯罪組織として活動し易くする為、旗頭として掲げているのではないでしょうか。本気で復活を目論んでいるのであれば、正気の沙汰とは思えません。」

「下の連中や、犯罪組織の虜になっている人達は、恐らくその事は知らないだろうし、利用されているだけじゃないかしら。」

「恐らくは…。」

「それで、犯罪組織とキラーマシンとは、どんな関係なんですか?」

 

犯罪組織の活動方針とでもあろう事を聞いた一行だったが、キラーマシンとはどんな関係があるのか疑問になり、ネプギアがそれを問う。

 

「キラーマシンも、嘗て犯罪神が生み出した存在です。犯罪神同様に、破壊の限りを尽くす危険な存在…いえ、破壊兵器と言った所でしょう。その破壊力もさることながら、女神の攻撃にも耐える防御力を持ち、数十から数百体封印されているそうです。」

「キラーマシン…破壊兵器…。」

「それだけの数が出てしまったら洒落にならないわね。」

「それを封じ込めているのが、今のルウィーに居るゲイムキャラです。そういう事もあり、私からは迂闊に話すことは出来ません。ですが、探すのであればお止めはしません。」

「はぁ…。」

「むぅ、つれないなぁ…。」

「まぁ、教えてもらえないのなら、自力で探す心算よ。」

「その代わりと言ってはなんですが、此方から少ないですが支援はします。若し欲しいのがあれば、ある程度は容易しますので。」

「おお、太っ腹ぁ!!」

「そいつは有難ぇ。」

 

そんな話をしていると、後ろにある教会の扉が開く音がし勢いよく入ってくる二人の人物がいた。

 

「たっだいまーっ!!ミナちゃん、ごはんー!!」

「ただいま、ミナちゃん。」

『ああ、ネプギア(ちゃん)ッ!!』

「あ、ロムちゃんにラムちゃん!」

 

勢いよく入って来た二人組は、御存じルウィーの女神候補生のロムとラムだった。ネプギアが居ると分かった途端、二人はネプギア達の元へ走ってくる。

 

「来てたんだねっ!」

「ネプギアちゃん、久しぶり。」

「おお、ヨメが二人もキター!!」

「ロム、ラム。先ずは報告する事があるでしょ?」

「そ、そうだった(うんうん)。」

「はい、ちゃんとやって来たよ。」

「うん、問題はないですね。」

 

ロムとラムはクエストを受けていたらしく、ミナにその都度を報告する。どうやら、二人にはまだ事務関係は難しいと判断したから、簡単にできそうなギルドのクエストを与えたのだろうとアイエフやジンは把握する。

 

「…一気に賑やかになったな。」

「でも、探す手間は省けたんじゃない?」

 

「ネプギアちゃん、どうしてここに?」

「あ、ゲイムキャラを探しに来たの。ロムちゃんとラムちゃんにも協力できないかな?」

「協力?うん、ロムちゃんもいいよね?」

「わたしも、大丈夫。(ぐっ)」

「有難う、ロムちゃん、ラムちゃん!」

「まっかせてよ!ゲイムキャラだろうが、何だろうが、わたしとロムちゃんがいれば、直ぐ見つけてやるんだから!ねー、ロムちゃん!」

「うん。直ぐ、見つかる…!(うんうん)」

「こらこら、二人共。意気込むのはいい事ですが、時間も時間ですから今日は止めておきなさい。」

 

そうミナが言い全員が時計を見ると、既に時刻は18時を過ぎていた。

 

「…通りで腹がぺこちゃんな訳だ。」

「そうね…まずは食事をして、そこからは各自、自由行動ってとこかしら。」

「はい、そうするです。」

 

そうして、全員が夕食を取る事となる。教祖ミナの提案で、情報交換を含め教会で夕食にしようという事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ルウィー:街中】

 

「うおォンッ!さっみー…。」

 

教会で食事を取った後、自由行動という訳で俺は情報を集める事にした。既にネプギアとロム、ラムの仲がいい為にいざこざはないから手間が省けてはいる。それでも、既に流れが違う為に情報を集めなければ気が済まない状況でもある。治安が悪いとは言ってはいたが、見た目状は特に治安が悪い感じはしてない。寧ろ普通の街並みとしか思えない程だ。…多少ポイ捨てとかはあるけどな。

 

「ふぅ、生き返るわぁ…。」

 

ホットコーヒーを買って一息付く。雪は降ってないとはいえ、夏は既に過ぎているからか、道脇には雪が積もっている。

 

「(それにしても、下っ端事リンダに似た人物は見たという人がいる。となると奴らは既にルウィーに来ている事になる。…おめでたいね。)…ん?」

 

そう考えていると、丁度目の前を慌てるように走っているロムが居た。

 

「どうした、こんな時間に。」

「あ…ジンお兄ちゃん…。」

 

声を掛けるとこっちを振り向いて反応はしてくれた。だが、なんだかソワソワしている感じがある。

 

「ラムはいないのか…こんな時間に一人でいるのは危ねぇだろ…。」

「…えっと…、内緒に、してくれる?(そわそわ)」

「ん?内緒?…とりあえず話してくれ。」

 

そうして俺はロムから話を聞く。何でも姉であるホワイトハートことブランから、プレゼントとして貰ったペンを失くしてしまったらしい。思い出の品でもある為に代変えはヤダとの事。

 

「場所は分かるのか?」

「うん。(こくこく)」

「…なら、ちゃちゃっと探そうぜ。」

「え?でも…。」

「遅くなって心配されるよりはマシだろ。それに、知ってて手伝わねぇなんて事出来るわけねぇよ。」

「…有難う。」

 

ロムの失くしたペンを探すべく、失くしたであろう場所“ルウィー国際展示場”へと向かう事となる。

 

 

 

 

 

【ルウィー:国際展示場】

 

話によると、ここは嘗て様々な文化財等が展示されていたらしい。だが、今は犯罪組織が普及している為か、手入れされておらず稼働を停止、周囲はルウィーの寒さで凍ってしまっている。一部の床は見て分かるようにカチンコチンになっていて、下手すればスケート出来るんじゃねぇかってくらいだ。因みに、本当ならアイエフに言うべきだろうが、反対されそうな気もしたから、ネプギアには報告しておいた。

 

「…ねぇな…。そっちは見つかったか?」

「うぅん…ない…。」

 

写真でどういうものかは確認したものの、物が物だけに中々見つけにくい。手の届かない隙間に入ってたら、自販機の下に落ちた100円玉を取るかのような事をしなきゃならねぇしなぁ。

 

「ねぇ、ジンお兄ちゃん。」

「ん?何だ?」

「なんで…探すの手伝ってくれるの?」

 

探している最中に、そんな質問がしてくる。特に理由はないんだけどなぁ…。目標だったアイツなら、同じ行動するんじゃないだろうか。ただ、言える事はあるかな。

 

「…ヒーローだから…かな?」

「ひーろー…?」

「というよりは、困っている人をほっとけねぇのかもな。ネプギアにも言えば、同じ事してくれたんじゃね?」

「ネプギアちゃんも…?」

「あくまで、俺の想像でしかねぇが…。」

「………。」

 

暫く、黙々と国際展示場を探し回る。気づけば結構奥まで入っていた。…クエストで来てて、討伐対象は手前のエリアなのだが、逃走してここまで追いかけてきた時に落としたのかもしれないんだな…。無我夢中で走っていたらしいから、通った場所を隈なく探すことが重要だろう。

 

 

コツンッーーーーーー

 

 

「…ん?何か足に当たった…。」

 

そうして下を見ると、見覚えのあるものが転がっていた。…ペンだ。

 

「…これだ…。ロム、有ったぞ!」

「…あ!わたしのペン…!有難う、ジンお兄ちゃん…!」

「…21時かよ…さっさと帰らないと…ミナさんに怒られちまうぞ。」

「うん、早く帰る。」

 

大事なペンが見つかって、ロムはホッとした感じになる。目的は達したし、時間が時間だから早く戻った方がいいだろう。…しかし、身長差があるからか、俺は真下を見る感じになっている。そして、その姿勢のせいかこっちに伸びている何者かの手に気づくのが遅れてしまうのだった…。

 

 

 

 

 

 




【用語集】

○な、なんだってー!
 漫画”MMR マガジンミステリー調査班”に出てくる「この○○こそ、○○の○○○○だったんだよ!!」と言う台詞の後に続く、最早ネットではテンプレとも言える台詞…のはず。AA等も存在しています。

○うおォンッ!
 俺はまるで人間火力発電所だ。元ネタは孤独のグルメで、商談に行く前に、気合いを入れる為に焼き肉を食べてる最中に放った台詞。因みに、ドラマ版もいい味が出ていますので必見です。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


少々駆け足気味になっているのか、なんかキャラクターが安定してないような…?
それでも大丈夫であれば、今後とも御愛読お願いします。


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Scene37 奪われる片翼~Secuestro~

少々今回から、最後に行っていた【用語集】を止めてみます。理由としては、ネタ探ししているよりは、はよ小説書け的な感じです。
今後とも続けて欲しいという意見がありましたら、感想やツイッターに一言お願いします。


 

 

 

 

 

赤黒く染まった空、紫色に鳴り響く雷、荒れ果てた黒い大地、まるで吸い込まれたような崩れた複数の建物…。ここは、ギョウカイ墓場。全ての堕ちた者、負の感情が集う場所である。そんな場所に、まだ使える建物があり、その建物内に数人の人影があった。

 

「そうか…奴らは予定通り、ラステイションのゲイムキャラの力を持ったか。それで、奴らはルウィーに向かっているのだな?」

「既にリンダ、ワレチューを向かわせ、ゲイムキャラの捜索及び、古の四武器の捜索に当たっているようだな。」

 

そこは、薄暗い部屋でディスプレイから光が唯一の光源となっている。その部屋には、犯罪組織マジェコンヌの四天王が集まっており、ハーミットの姿もある。だが、現在の進行に対して気に食わない人物がいる。

 

「…気に入らねぇな。」

「ジャッジ、何が気に入らないと言う。」

「現在進行でやってるこの計画に決まってんだろ。確かに今の女神に挑んでも、弱すぎてつまらねぇ。…だがな、何時まで待てばいい!!俺ぁ我慢できねぇんだよ!!」

 

女神候補生にゲイムキャラの力と古の四武器を受け渡す事は、犯罪組織にとって計画の一つに過ぎない。しかし、その進行が遅く待てない戦闘狂のジャッジ・ザ・ハートは辛抱しきれない様子でいる。

 

「アックックック…確かに、待たされるのはしんどい。だが、力を付けた幼女をprprするのも吾輩は一向に悪くない…!」

「若しくは、強くなった女神を恐れているか…。」

「んだとぉ?俺が女神如くに恐れるだと?テメェこそどうなんだ、あぁ!?」

「…俺は、世界中の子ども達にゲームを届け幸せにする。その為にも、どんなに強かろうが、俺は負けない。…いや、負けるわけにはいかないのだ。」

「は!!そう言って、テメェこそ女神が強くなるのを恐れてるんじゃねぇよな?」

 

そのジャッジの言葉にピクリッと動く、見た目は場違いとも言える人物ブレイブ・ザ・ハートが、ジャッジに向かい掲げている大剣に手を置く。

 

「何だと…?」

「あぁ?やるかぁっ?」

「その辺でやめろ。」

『………。』

 

睨み合いを始めようとする二人に、マジックが威圧を放ちつつ二人に制止を促す。その威圧に二人は元の位置に戻る。

 

「私達は利害が一致した協力関係ではあるが、仲間として一致団結してるとは思えない。だが、我々の目的は犯罪神様の復活。そして、ゲイムギョウ界を統一する事だ…。それを忘れてはならない。」

「ところでマジックよ。奴は今の所協力はしてくれるし、利用価値はあるが、吾輩は奴を信用はおろか信頼する事は出来ぬぞ。」

「しかし、奴は力を求めて我ら犯罪組織に協力をしている。一定の信頼はしてもいいとは思うがな。」

「その力を求めているのが、吾輩には不透明で分からぬ。我らに再び仇なす為か、女神を仇なす為なのか…。」

「少なくとも、今は我々と協力関係なのは確かだ。」

「ふん…。」

「ジャッジ、何処へ行くのだ?」

「…ここに居ても詰まらねぇ。持ち場に戻るだけだ。」

 

そう言って、つまらなそうにジャッジは部屋から出ていく。

 

「戦闘狂が…。」

「抑えろ、ブレイブ。…トリック、犯罪神様の様子はどうだ?」

「今の所は、復活の為に力を蓄えているぞ。だが、吾輩達とは違う何かが流れ込んでいる感じもしたぞ。」

「…そうか。持ち場に戻れ。」

 

その声と共に、ブレイブとトリックは席を外す。

 

「…我々の思惑通りに行くのか。それとも、想像もしてない事になるのか…。ふ…それは犯罪神様のみぞ知る事か。」

 

マジックは椅子に再び座り、映像を再び見張るようにする。

 

「私なら、女神に頼らずともお前を救う手段を持っている。お前は、この状況でも女神を切り捨てる事が出来ないか…?」

 

深々と椅子に背凭れを寄せつつ、ため息じみた小声でそんな事を呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ルウィー:郊外】

 

ルウィーの街外れにある人気の全く無い場所に、一人安座で遠くから街並みを見ている黒装束を身に纏った男がいた。まるで、ルウィーを監視するかのように見渡しているようだ。そして、上からその人物に向かって何かが下りてくるのだった。

 

「よーう!こんなところで何やってんだよ?」

「…見ての通りだ。」

「んだよその反応、ツレねぇなぁ。“何か用でもあるのか?”ぐらい言えっての。」

 

男の素っ気ない反応に、少しは構えよという感じで話すが、それでも男は素っ気ない態度を示している。

 

「そもそも、お前みたいなのが黒幕だったとは、誰も思わないだろう。」

(ひっで)ぇなその言い方はよ。俺は歴史を面白可笑しくしてるだけだぜ?」

「…その結果がこれだ。」

「いーじゃねーか。これで犯罪組織側が勝っても負けても、面白くなるのに変わりはねぇんだからよ。俺は面白くする為に誘導するだけであって、その先の未来がどうなるかまでは分からねぇけどな。」

 

黒い妖精が面白可笑しく笑いながら言う。そんなことを後目に、相も変わらず素っ気ない態度を示す。

 

「…俺と漫才をしに来たわけじゃないだろう。」

「おー、そうだったな。まぁ、オメェの予想通り、向こうも面白可笑しくはなってるが、抗っているのは確かだぜ。」

「そうか。」

「でもよ。それ以前に、オメェが思い描いているシナリオのまま進むと、最終的にオメェは肉体的にも精神的にも死んじまうぞ?残された奴らの事はどうするんだよ。」

「この場に及んで俺の心配か?意外と優しいんだな。」

「なっ?!ち、ちげーよ!!オメェがそうなっちまったら、面白い材料が一つ減っちまうからでだな!!」

 

何かを心配するように黒い妖精は男に言うが、逆に揶揄<からか>うように言われあたふたしてしまう。

 

「その時は、俺がその程度の男だって事だ。」

「おいおいおい…本当にそれでいーのかよ。」

「…形あるものは何時か壊れる。例え、それが生命であってもな。」

「はぁ…良く分かんねぇよ、ホント。」

「分からなくていいさ………ッ!!」

 

男のその死んでも構わないような態度に、黒い妖精は溜め息をしてしまう。そんな時、男が立ち上がると同時に、頭を抱え体制を崩す。

 

「お、おいおい、大丈夫かよっ!!」

「…大丈夫だ、問題ない。」

全然(ぜんっぜん)大丈夫に見えねぇよ。顔色わりーし。あとその台詞は止めろよ…。まぁ、俺はオメェを止める権利はねぇから、止めたりはしねーけど、命は大事にしろよ?」

「肝に銘じておく。」

 

そう言いつつ、男はルウィーの方へ歩み始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ルウィー:国際展示場】

 

「へへ…隙だらけ過ぎて、欠伸が出ちまうぜ。」

「ふえぇ…。」

「リンダ、テメェ…。」

 

前回のあらすじ…をここに居れるのはどうかと思うが、ロムと共にペンを落としたと思われるルウィー国際展示場で、ペンを見つけた矢先だった。ロムの背後にリンダが現れ、人質の如く捕まってしまうのだった。そして俺は、リンダのエネミーディスクから放たれたアイスフェンリル3体を目の前にしている。

 

「ロム、変身して脱出するんだ!!」

「…ダメ、出来ない…!!(ふるふる)」

「なん…だと…。」

「馬鹿め!アタイが何も考えずに来てると思ったら、大間違いだぜ!!」

 

なんてこった…。リンダは何かしらの方法で女神化出来ないものを持っているようだ。現状では、対象を触れているか、範囲で女神化を阻止しているのかが分からない。

 

「おぉっと!動くんじゃねぇぞ。こいつは人質なんだからなぁ?」

 

躙り寄ろうとした瞬間、開いている手で持っている銃のようなものを、俺からロムに向ける。迂闊に動けば、ロムに何をするか分からない状態だ…。

 

「へへっいいねぇこういう光景。散々痛い目に遭ったんだからなぁ。」

「…汚ぇ手使いやがって。」

「それは、アタイ等にとっては誉め言葉だぜ?そんじゃ、そいつ等の餌にでもなってろよ。あばよ!!」

「待ちやがれ…!!」

 

俺はリンダを追いかけるように、その場から勢いよく走り出そうとする。それと同時に3匹いるアイスフェンリルの内の1体が俺に向かって体当たりを仕掛けてくる。

 

(わり)ぃな、読み通りだ。」

 

そう言い俺は飛び上がり、突進してきたアイスフェンリルの頭を、赤い配管工の如く踏み台にして飛び上がり、この場を退けようとした。そう、この高さなら奴らも飛びつきは出来ないはずだ…。

 

 

 

 

 

―――――はずだった。

 

「なに…!!」

 

飛び上がった俺の正面には、飛んでこれるとは思えない高さからもう1体のアイスフェンリルが、空中体当たりを仕掛けてくる。空中にいる為に方向転換も出来ず、鞭で別の場所を引っ張って方向転換する時間もない為、俺はアイスフェンリルの突進をモロに受け、地面に叩きつけられる。

 

「ぐぅ…。(な、何をしやがったんだ…。)」

 

腹部を抑え、顔を左右に振りつつ立ち上がるが、奴らがどうしてあの高さまで飛んできたかは見てない。その間に、徐々にリンダは遠くへと逃げていく。だが、アイスフェンリル達は、俺に休む暇を与えてはくれねぇようだ。驚く事にアイスフェンリルが、ジグザグに動いたり、設備の上に乗ってショートカットをしたりと、まるで戦隊モノが連携をとって相手を倒そうとするような感じだ。

 

「やっべぇ…冗談じゃねぇぞッ…!!」

 

そのアイスフェンリルの動きとは思えない行動に、悪寒や危機感を感じた俺は体制を直し、後ろに全力疾走する。誰がどう見ても、訓練された警察犬のような動きをして、こっちに向かってきているのだから…。ここに来て、日本一と分かれた事が仇になろうとはな。1体なら俺一人でも何とかなるが、3体は流石にきつい上に得体の知れない動きをしやがるから、迂闊に攻撃が出来るとは思えねぇ。流石に足の速さは負けるが、ローリングやスライディングで辛うじて攻撃を避けていく。走っている最中に鞭の力を解放して、鎖鞭にしたのはいいが、攻撃を与える隙が見えねぇ。

 

「しまった、壁か…!!」

 

無我夢中に走っていた為か、角に追い込まれてしまった。壁に背を向け正面を見ると、アイスフェンリルが3方向から俺目掛けて走ってきていやがる。どう考えても絶体絶命だ…。だが、こんな所で“おお勇者よ!死んでしまうとは情けない!”になるのは御免だぜ。

 

「こうなったら…日本人健康男児且つスタントマンを舐めんなよ!!」

 

こっちに全力前進してくる3体のアイスフェンリルの距離を把握し、鎖鞭を上空のパイプに向けてフックショットの如く放出する。アイスフェンリル3体がこっちに飛び込んでくるタイミングを計ると同時に、フックショットのように放出した鎖鞭を引き戻すようにし、フワッと体が浮くと同時に上のパイプの方まで引っ張られる。

 

 

 

どっすーーーんっ

 

 

 

アイスフェンリル達は、飛びつきによる体当たりにより制御が効かず、飛び込んだ先の壁に激突し、3体とも壁に転がっていく。そして、俺は着地と同時に餞別(せんべつ)という事で、アイスフェンリルに向けて手榴弾を3つ投げ爆発させる。

 

「ジャックポット…!」

 

こうも上手く決まるとは思っていなかった為に、思わず背を向けつつガッツポーズをしちまった。

 

油断という、狩りでも、戦闘でも…最も恐ろしくて、迂闊な事をしてしまった事を後悔する。

 

「ぐがっ…!!」

 

突如、ガッツポーズとして体の横に出していた手に痛みが走る。右腕に嚙みついているボロボロになった、1体のアイスフェンリルがそこにいた。

 

「ぐっコノヤロぉ…!!」

 

開いている籠手を着けている左手で投剣を取り出し、体を捻りつつアイスフェンリルの目に突き刺す。アイスフェンリルの目に突き刺した事で、その痛みに耐えれず口を緩ませる。その隙に痛む右手を抑えつつ、アイスフェンリルから距離を置く。…はずだった。

 

「うぉ…!!」

 

“二度ある事は三度ある”とはこのことか…とか思ってる場合じゃねぇよ!!急に体が痺れだし足が縺れてしまいコケてしまった。

 

「牙に、麻痺毒でもあったと言うのか…!?」

 

アイスフェンリルの攻撃に麻痺系なんてあったかどうか覚えてはねぇが、兎に角上手く身動きが取りにくいこの状況では、流石にアイスフェンリルも受けたダメージが残っていて、身動きが鈍くなっているとは言え、戦う事も困難極まりねぇ。近づいてきては噛みついてくるが、完璧に動けない訳ではない為ぎこちないローリングで上手く距離を取っていく。

 

「(血が、出すぎている…。)」

 

噛まれた右腕が深いのか、出血が収まる気配がなく徐々に目の前が霞んでいく。

 

「(おいおい、これって絶体絶命じゃねぇか…。)」

 

こんな事になるなんて全く予想外な為に、回復アイテムは愚か肉すら持ってきてねぇ…。そしてついに手も足も麻痺で殆ど動かなくなってしまった。しかし、無慈悲にもアイスフェンリルはこっちに近づいてきて、その鋭い牙で噛みつこうとしてくる。だが、こんなところで第二の人生を終わりにはしたくねぇよ。

 

「ぐおおおおお…!!頼む、上がってくれ…!!」

 

足が震えているが、何とか立ち上がる事は出来た。だが、麻痺毒は俺を許してはくれないらしく、手が全くと言っていい程持ち上がらねぇ。そしてアイスフェンリルが目と鼻の先まで近づいてきてしまった。ああ、目の前がホワイトアウトかブラックアウトになった…になっちまうのか…。

 

 

 

 

 

それでも、天は俺に見方をしてくれたようだ。

 

 

 

 

 

「やあああああああっ!!」

 

突如、上の方から掛け声がして、瀕死状態のアイスフェンリルに斬撃を加えた、猫耳帽子を被った女性が現れ、目の前にいたアイスフェンリルが結晶片となる。

 

「キミ、大丈夫!?」

「…助かった…ガクっ。」

「ええええ!!全然大丈夫じゃない…!!」

 

俺は、そのまま倒れ込んでしまい意識が遠のいてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここまで逃げれば、あの筋肉モリモリの変態マッチョマンは来ないだろう。」

 

ロムを人質に取り、リンダは国際展示場を出て国際展示場の入り口の方に振り返る。

 

「………。」

「それにしても、この睡眠薬を仕込んだハンカチは良い効き目してやがるぜ。さぁて…此奴はとことん利用しねぇとな。今までアタイをバカにしてきた事を後悔させてやらぁ!」

 

リンダの表情は何処か勝ち誇ったような感情と、ロムをどう利用しとうかという考えが混同し、妙に悪どい顔をしている。

 

「そうだそうだ、ゲイムキャラの場所は把握してんだ。交換条件ってのもいいな…うっし、それで行くとするか。」

 

人質であるロムを交換条件的な事で利用しようと思いつき、リンダが国際展示場を背に向け闇の中へと消えていく。

 

 

 

 

 

それから数十分後。余りにも二人の帰りが遅いからか、ネプギアとアイエフが国際展示場の前まで向かってきていた。

 

「アイエフさん、何か転がってます!!」

「行ってみましょう。」

 

二人が国際展示場の前に転がっている棒のような物を見つけ、そこまで走っていく。その棒は二人にとっては見覚えのあるものだった。

 

「これは…ロムちゃんが持ってた杖…!?」

「信じられないけど、二人の身に何かあったとしか言えないわね。…一緒に情報収集していれば…。」

「ロムちゃーーーん!!何処にいるのーーーーー!!」

 

ネプギアの呼ぶ声は、雪が降る暗い夜に響き渡るが返事は帰ってこない。それどころか、その声は虚しく響き渡るだけだった。

 

 

ガッチャン―――――

 

『!?』

 

突如、国際展示場の扉が開く音がし、二人が扉の方に目を向ける。

 

「ふぅ…やっと外に出れたよ…。見た目以上に重いよこの人…。」

 

―――――その扉から一人の少女と見覚えのある右腕が血まみれの男が出てくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

一応犯罪組織編の最後の展開は出来ていますが、そこまで辿り着くまでの工程を行き当たりばったりに書いていたせいか、若干ネタ切れというかペースダウン気味です。

あと、現在ローペースでですが、1stEncounterを少しずつ今風に書き直しています。



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Scene38 悪魔の破壊兵器~EvilMachine~

 

 

 

 

 

【ルウィー:???】

 

「…ええ、バッチリです。場所は言ってねぇですが、恐らく奴らは教会から話を聞いて、アタイの所にやってくるはずでっせ。」

 

ルウィーのとある一室に、リンダが誰かと連絡を取り合っている。ロムは薬の効果がまだ続いているのか、深く眠りに付いている。

 

≪…誘拐しておびき寄せるのは、気に入らないな。≫

「あん?アンタは本当に犯罪組織に入ってる事自覚してんすか?…一応、アンタはマジック様のお墨付きな上に上司に当たるから、指示には従うけどよぉ。」

≪…まぁいい。マジック様の筋書き通りに動いているのに変わりはない。引き続き頼むぞ。私も準備が出来次第、世界中の迷宮に向かう。≫

「了解っと…。」

 

そうしてリンダは連絡を切り、通話として使っていたマジコンを仕舞う。

 

「筋書き通りねぇ。…そーいや、筋書きの内容聞いたことねぇな。まぁ、アタイはそんなのどーでもいいんだがな。兎に角、今は明日だ。アイツらをギャフンと言わせてやらぁ。」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

信じられなかった…いや、信じたく無かったと言うべきなのか。ロムちゃんの杖が落ちていた事と、ボロボロになってたジンの姿を見て感づいてしまった。ロムちゃんが連れ去られてしまったと…。

 

「(どうしよう…わたしのせい…なの…?)」

 

ロムちゃんが、お姉ちゃんから貰った大事なペンが無いって気づいて、大事なペンを探しに行くって言ったのを聞いて、わたしも手伝うよと言ったけど、ロムちゃんは“一人で大丈夫。”って自信満々に言った。わたしはミナちゃんに“じかんがいがいしゅつ?”ってのがバレないようにする為に誤魔化しておくことにした。…それが、こんな事になるなんて。こんな事になるなら、無理を言ってわたしも付いて行けばよかったんだ。そうすれば、ジンがあんな大怪我する事なんてなかったんだ…。ロムちゃん、わたし、助けに行くよ…だから、お姉ちゃん、わたし、頑張るから、見守ってて…。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

【ルウィー:教会内】

 

ロムちゃんが居なくなったと同時に、ジンさんが負傷していた為に急遽教会に戻って、治療の手配と報告をしました。ジンさんを運んでいた“サイバーコネクトツーさん”はジンさんとは知り合いだったから、話が早く済みました。幸い、ジンさんは命に別状はないし、解毒も無事に終わりましたが、出血が多い為か安静という事になってしまいました。サイバーコネクトツーさんは、別件がある為教会を後にしました。その後、ロムちゃんの事を報告した直ぐに、下っ端さんらしい人物から連絡が入り、“明日の10時に、女神一行だけで『世界中の迷宮』に来い。そうすれば、女神候補生は返してやろう。”と連絡が入って来ました。でも、私達の後ろで物音がし、そこにラムちゃんが居て話を聞いていたそうで…。

 

「…ごめんなさい…、わたしが…いけないの…。」

「ら、ラムちゃん…?」

「ラム…どういう事ですか?」

 

そうして、ラムちゃんが事情を話す。一人で大事なペンを探しに行った事…。ジンさんが合流した事は想定外だったそうですが、それでもロムちゃんが一人でペンを探して行った事を黙秘していたそうです。

 

「お願い…わたしもロムちゃんを助けたいの。だから、わたしも連れてって!!」

「…気持ちは有難いけど、これは罠に近いわ。仮に開放されても、私達がそこから教会まで戻れる…という保証はないかもしれないわよ。」

「でも、ヨメが捕らわれてるのに、放っておくなんて出来ないよ。」

「そうです、あいちゃん!助けに行かないとです!」

「ジンが戦線離脱している以上、私達の戦力は多少落ちるわ。ルウィーの女神候補生である、ラム様の協力を得られるには厳しい状況よ。」

 

皆が話している間、私は黙っているけど正直に言えば、私は今すぐにでも助けに行きたい。でも、時間指定もあるし今そこにいる保証もないですしね…。でも、何処に行けばいいのかという指定はないから、世界中の迷宮に行ったとして何処に行けばいいのか…。すると、ミナさんが渋々と言った雰囲気で私達に言ってきます。

 

「…世界中の迷宮でしたね。恐らく、犯罪組織に会える場所はここかと思います。」

 

そう言って、ミナさんは世界中の迷宮のダンジョン地図を差し出してきました。そして、指定した場所は、世界中の迷宮の最奥地を指してます。

 

「ねぇねぇ、ミナちゃん。ここに何があるっていうの?」

「…隠しても仕方ありません。ここに、ルウィーのゲイムキャラが居ます。」

 

ラムちゃんの質問に対して、ミナさんの口から出た言葉に私達は目を見開いてしまいます。

 

「やっぱり…。どう考えても罠ね。」

「…それでも、私は行きます。REDさんと同じく、ロムちゃんが捕まってるのに放っておくなんてできません!」

「ネプギア…。」

「ラムちゃん、一緒にロムちゃんを助けよう…!」

「…うん!!」

 

私の回答と、ラムちゃんとの相槌を受け入れ、アイエフさんはため息をして私に目を向けてきます。

 

「はぁ…分かり切ってたけど、ズーネ地区のあの時みたいね。でも、忘れないで。罠という可能性が高いという事と、ジンや日本一が居ない以上、人数的にも戦力的も落ちている事は頭に入れておきなさい。」

「それじゃあ…。」

「ええ、罠に飛び込むのは性に合わないけど、今回は仕方ないわね。ロム様を救出した上で、ゲイムキャラを守り抜き、協力を得るわ。」

「よーし、そうこなくっちゃ!!」

 

「…やはり、行くって訳か。」

 

病室側から人影があり、そこからジンさんが現れました。…何故かお口にお肉を咥えてますが…。

 

「ちょ、ジン!大丈夫なの!!」

「…あんま大丈夫じゃねぇな。肉食っても回復しきれねぇし…。」

 

ジンさんの特殊能力なのか、お肉系を食べると回復速度が急上昇するらしいのですが、どうも今回はそれを上回る程のダメージを負っているみたいです。

 

「すまねぇ…ミナさん。それにラム…俺が居ながら、こんな事になっちまって…。」

「な、なんであんたが謝る必要があるの?」

「…関係者であり、仲間だからな…。明日までに快復出来るか怪しい。だから、俺の分も頼むぜ…。」

「…ふふん、そう言われちゃしょうがないわね。いいわ!さいきょーのわたしが、あんたの分も活躍してくるんだから!!」

 

 

 

 

 

【翌日:世界中の迷宮】

 

そこは、1m程の色鮮やかな四角形のブロックが多数重なりあって構成されている、ブロックダンジョンとも呼ばれているルウィーの北側に存在するダンジョン。存在するモンスターも土管やらブロック状と一部を除き、ブロックに因んだとも言えるモンスターが多数存在する。ジンは回復に専念するも時間に間に合わず、教会に待機する事になった。

 

「うわぁ、すごーい!!」

「なんだか、今まで見てきたダンジョンとかなり違いますね。」

「そうね、話には聞いていたけど、中はこうなっていたのね。」

「凄く、綺麗ですぅ。」

「…同じ色を合わせたら消えるんじゃないかな?」

「流石にそれは止めなさい。」

 

ネプギア一行は、好戦的なモンスターを次々と薙ぎ倒し、ミナさんが恐らくここに居るだろうと指定した場所に向かう。そして、そこに見覚えのある人物が二人いる事に気が付く。

 

「…よーやく来たか。待ちくたびれちまったぜ。」

『ロムちゃん!』

「ら、ラムちゃん…、ネプギア…ちゃん…?」

 

ロムは目隠しされている為か、誰がそこにいるか完全には把握しきれないが、声でネプギアであることを判別する。

 

「さぁ、約束通りきたんだから、女神様を開放しなさい!」

「そーですよ、女神様を開放して下さい!」

「そーだそーだー!ヨメを返せ!」

 

リンダはその言葉を聞き、クスッと笑い口を開く。

 

「ああ、いいぜ。ほらよ。」

 

目隠しを外し、乱暴にだがロムを開放する。ネプギア一行は何かしてくるかと予測していたが、予想外の展開に多少驚く。

 

「ロムちゃん、大丈夫!!ケガはない!?」

「うん…大丈夫。(うるうる)」

「ゴメンね、わたしが一緒に行けば…。」

「ううん…ラムちゃん、何も悪くない…。」

 

ラムはロムに何かされてないか調べてみるが、特に外傷も見当たらないし、変な装置も付けているようには見られなかった。アイエフはその事を腑に落ちないと思っている。

 

「…どういう心算よ。自分から追い込んでおいて素直に引き渡してくれるなんて。」

「別に?まぁ、ついでにテメェらが探してたのも渡してやるよ。ほら、受け取りやがれ。」

 

そう言ってリンダは、ネプギア一行に向けて口の閉じていない白い袋を乱暴に投げる。そして床に落ちると同時に、口が閉じていない為に中にある物がばら撒かれる。そして、そのばら撒かれた物を見て、一行は驚きを隠すことが出来ない。

 

「ネプギアちゃん…これって…?」

「そ、そんな…これって!!」

 

ネプギアは衝撃を受けつつソレを拾い上げる。そう、色は違えど見覚えのある水晶の破片…ゲイムキャラであると分かる。

 

「私達が探してた…ゲイムキャラが…。」

「これが、ゲイム…キャラ…でも…。(おろおろ)」

「粉々に、なっちゃってる…。」

「アンタ、一度だけでなく二度も同じ事を…。」

「どうして、こんな酷い事をするですか!」

「はん、アタイらは悪党だ。悪い事しておかしい事でもあるか?」

「ヨメを悲しませただけじゃなく、ゲイムキャラまで…もーう!ただじゃ済ませないよ!!」

 

REDはリンダに向けて武器を構える。それに便乗するように、アイエフとコンパもそれぞれの武器を持ち身構える。

 

「流石に今回は黙ってられないわね。アンタ、覚悟は出来てるんでしょうね…!」

「くくく…お目出たいねぇ、オメェ等。ゲイムキャラが居なくなったことで、何が起きるか忘れてねぇか?」

「…何ですって…?」

 

アイエフの有頂天が爆発しそうな時だった、突如ダンジョン内が揺れ始める。立っていられない程ではない地震と思われる揺れが、そこにいる全員を襲う。

 

「な、なんですか、この揺れは!?」

「わ、わたしに聞かないで!こっちが聞きたいわよ!」

「な、なんだか…怖い…。」

「テメェ等は既に聞いているはずだぜ?今まさに、アイツが蘇ろうとしてんだからよ。」

「あいつ…まさか!!」

 

アイエフは、教祖のミナからある話を聞いたことを思い出し驚愕する。

 

「今更気づいても、遅ぇんだよ!さぁ、出てくるぞ…古に封印された悪魔的存在の兵器…“キラーマシン”が!!」

 

ダンジョン内の揺れによるものなのか、リンダの目の前の床に白い亀裂が発生する。そして、その亀裂から強烈な光が放ち、そこから、両手が付いた蛇型とも思える機会兵器が一機出現する。

 

「あ、あれが…キラーマシン…!」

「うぉおああ、ナニコレ!敵の癖にメカメカしくてカッコいい!!」

「そんな事言ってる場合じゃないわよ!こんなのが封印されていたのね…。今まで戦った奴と違って、なんて威圧的なの…。」

「きたきた…きたぜぇえええ!!こいつが大量に蘇れば、ルウィーだけじゃなく、世界全てを制圧できるぜ!」

 

目の前に出てきたキラーマシンを見て、リンダは歓喜ともいえる表情をしている。そして、ネプギア達に指をさして言い放つ。

 

「さぁ、手始めにアイツ等をやっちまいな!!行け、キラーマシン!!」

 

………。

 

「…ん?」

「来ない…ね?」

 

キラーマシンは、リンダの言葉に反応していないのか、微動だにせずリンダの放った言葉は、虚しく響き渡るだけだった。

 

「あ…あれ?もしもーし、キラーマシンさーん?」

『………。』

 

存在自体は非常に禍々しく威圧的な印象だったが、キラーマシンは動くどころか、起動すらしていない様子だった。

 

「封印されている間に、壊れちゃったですか?」

「まぁ、私達の遥か昔に存在していたらしいからね。壊れてもおかしくないわね。」

「おいおいおいおい…ふっざけんじゃねぇぞ!!ここまで来てこんな事てありかよ!くそ!!動けこのポンコツが!!動けってんだよ!!」

 

リンダは、全く動かないキラーマシンに向かって、鉄パイプで殴りかかる。

 

「…なんだかよくわかりませんが、今が下っ端さんを捕まえるチャンスじゃないでしょうか?」

「そうね…チャンスと言えばチャンスね。」

 

ネプギアの案に全員が賛成し、リンダの方へ近づこうとする。…その時だった。

 

 

 

[ぶろろろろ…きゅぴーん!]

 

 

 

リンダの無理やりな起動方法によってか分からないが、キラーマシンの目元が、鈍い赤色に光出し、キラーマシンが稼働し始める。

 

「う、動いた!!あんなアナログな方法で!!」

「く、不味いわね…。」

≪ゴゴゴ…女神ノ存在ヲ、確認。≫

「へ、へへ…何とか動いたぜ…。今度こそ、アイツらをやっちまいな!!」

≪…了解、女神ヲ、殲滅、スル。≫

 

まるで寝起きのような反応だが、キラーマシンは機械とは思えない素早い動きで、ネプギア達に体を向ける。

 

「稼働した姿を改めてみるよ、そこらにいる機械系モンスターとは段違いな雰囲気ね。ネプギア、此奴に手加減は出来そうにないわよ!」

「はい!ロムちゃん、ラムちゃん。お願い!!」

「うん…!」

「やっちゃうんだからねー!」

「コンパ、RED、私達はネプギア達の援護をするわよ。」

「はいです!!」

「まっかせてよー!」

 

ネプギア、ロム、ラムは女神化を試み、三人はシェアの光に包まれる。どうやら、今回は女神化封印関係の施しはされてないらしく、無事に女神化する事に成功する。

 

「ルウィーをめちゃくちゃにするなんて、絶対にさせないんだから!」

「させない…!(キリっ)」

「さぁ、覚悟して下さい!!」

 

全員が準備できたところで、先行を取ったのはキラーマシン。前衛に出ていたネプギア、ロム、ラムに向かって、モーニングスターのような大型の昆を振り下ろす。だが、三人は当たる前にそれをひらりと避ける。振り下ろされた昆により、床が粉々に吹き飛ぶ。破壊兵器だけあって、その破壊力は確かにあると全員が頷く。

 

「ロム様、ラム様、これを受け取って!“テクニカルサポート”!!」

 

アイエフが印を指で描き、それをロムとラムに向けて放つ。サポート魔法のようで、それを受け取ったロムとラムは、魔法の力が漲っている事を感じる。

 

「これなら、行ける。」

「うん!やっちゃおう、ロムちゃん!」

『Dアイスコフィンッ!!』

 

ロムとラムが、キラーマシンに向けて、互いの杖を揃えて杖の先端を向ける。そして、全く詠唱無しで巨大な氷の塊が出来、それをキラーマシンに向けて放つ。

 

ごしゃああっと言う鈍い音と共に、キラーマシンの中心部にぶつける。

 

「まだまだ!エクスプローション!!」

「わたしも!エアロ、トルネード…!!」

 

追撃のように、ラムは爆発魔法、ロムは鎌鼬魔法を放つ。利いているかは分からないが、キラーマシンの態勢が崩れている以上、威力は十分だと分かる。

 

「はあああああ!!」

 

その隙を見て、ネプギアがビームソードを構えキラーマシンに突撃する。

 

≪小癪ナ…!≫

「っ!!」

 

だが、態勢が崩れているにも関わらず、無理やり昆をネプギアに向かって薙ぎ払うように降ってくる。だが、そのキラーマシンの薙ぎ払いは、ネプギアにぶつかる前に、小さなレーザーとヨーヨーによって弾かれる。

 

≪ホウ…!≫

「コンパさん!REDさん!」

「援護は任せるです!」

「アタシがいるからには、ヨメ達に指一本触れさせないよ!!」

 

コンパのREDのキラーマシンの武器狙いにより、キラーマシンの攻撃はネプギアから大きく逸れるだけでなく、多大な隙を作る事に成功する。

 

「この一撃で、決めます!!」

 

ビームソードの出力を最大にし、ブレード部分が火を噴くように巨大化する。そのビームソードを、キラーマシンに向けて横に薙ぎ払う。

 

≪ウォオオオ…ッ!!≫

 

キラーマシンの装甲に一刀両断した跡が残る程のダメージを負わせる。だが、キラーマシンは攻撃を受けた事を気にせず、攻撃を仕掛けてくる。

 

≪無駄ダ…!!≫

 

キラーマシンの両腕の振り下ろしがネプギアを襲う。

 

[ドゴーンッ]

 

「うっ!!」

「ネプギア!!」

「ギアちゃん、大丈夫!?」

「うん、大丈夫だよ。ロムちゃん、ラムちゃん!」

 

間一髪で避け、ロムとラムのいるところまで後退する。

 

「流石、キラーマシン!!クソチビ共の攻撃を受けても、びくともしてねぇぜ!!」

「あんなに攻撃受けてるのに、まだ元気なの!!」

「悪魔の兵器と言われているのは、伊達ではなかったようね。」

「さぁ、どうする。オメェ等の終わりも近づいてきたようだぜ?」

「ど、どうするです!?このままじゃ、下っ端さんの言う通りで、ジリ貧になるです!!」

「…そんな事はなさそうよ。」

 

アイエフがそう言いつつ、ネプギアが両断した部分を指さす。キラーマシン自体は、動くことに全く支障はないように見えるが、斬った部分から稼働部品等が露出しているのが分かる。

 

「あの露出した部分に全力で叩けってことですね…!」

「そういうこと。私達が囮になるから、貴女達は全力であの箇所に攻撃を叩き込んで頂戴!RED、言い?」

「言われなくても、合点の承知だよ!!」

「わかりました!!」

「それじゃあ、わたし達の全力を見せてあげなきゃね。行くよ、ロムちゃん!」

「うん…!」

 

ロムとラムの目の前に青と赤色の魔法陣が出現する。一方ネプギアはビームソードに力を集めエネルギーをチャージする。

一方、アイエフとREDはキラーマシンの周囲をちょこまかと動きつつ、隙を見て攻撃を加える。更に、コンパの注射器から放たれる注射弾により、注意を逸らしていく。

 

≪小癪ナ真似ヲ…!!≫

「あいちゃん、REDさん、危ない!!」

「うわっ!!」

「くぅ…!!(左腕を持っていかれるところだったわね…!!熟練者はあらゆる攻撃を受け流せるってアイツが言ってたけど、流石にこれはキツイ…。)」

 

負傷しているにも関わらず、キラーマシンによる攻撃のテンポが急に上昇する。間一髪でREDはキラーマシンの腕に沿って側転、アイエフはキラーマシンの攻撃に合わせてカタールで受け流す。だが、完全に受け流すのに失敗したのか、アイエフの左腕が痺れてしまっている。

 

「ラムちゃん…!」

「おーけー!ネプギア、受け取りなさい!!」

「うん!アイエフさん、REDさん!!」

 

その言葉を聞いたアイエフとREDは、左右に距離を取る。

 

『いっけぇえええええっ!!』

 

ロムとラムの魔力が宿ったM・P・B・L.による最大出力の巨大なレーザービームが、キラーマシンに向かって襲う。

 

≪グ、グオオオオオオオッ!!≫

「うわあ!な、なんてパワーだ!!」

 

リンダは、ネプギア達から放たれる想定外な力に驚きを隠せていない。その強力な極太光線は、弱点部分を無視しキラーマシン全体を覆うように当たる。光線が消え、そこにはキラーマシンだったであろうガラクタが転がっていた。

 

「なぁ…!キラーマシンが…!!」

「た、倒した…!」

「やったね、ロムちゃん!」

「うん…!」

 

全ての力を出し切ったように、三人は疲れを隠しきれないが、倒した喜びの方が上回っており笑顔が溢れているのか、両手で互いの手を握りしめている。

 

「やったです!ギアちゃん達の勝利です!!」

「流石女神様、益々惚れちゃうなぁ!!」

「さぁ、どうするよアンタ。期待していた兵器が倒された今、アンタを守るのは無くなったわよ。」

「…へいへい、こーさんだこーさん。」

 

悪魔の兵器と呼ばれていたキラーマシンを倒されてしまったが、何処かムカつく態度で両手を上げるリンダ。若干イラっとしたが、アイエフはリンダを拘束する為にリンダに一歩近寄ろうとする。

 

「…とでも言うと思ったがバーカ!!」

 

まるで開き直ったかのように、降参の態度を改め小馬鹿にするような態度をリンダは取る。

 

「何よ、この場に及んで悪足掻きするとでも言うの?」

「本当、お目出たいねぇ。テメェ等、悪魔の殺戮兵器って言われてる意味をもう少し考えてみろ。」

「んん、どういう意味…?」

「さっぱり分からないです。」

「何を隠してるのよ。さっさと言いなさいよ。」

「はん、本当にわからねーのか。あんなのが一体だけだったら、ただの強くて堅いだけの破壊兵器だってことよ。」

 

リンダがそれを言い終えた瞬間、地面から複数の白い亀裂と共に、キラーマシンが2体、更に色違いのキラーマシンが1体出現する。

 

『な…!!』

「そ、そんな…!!」

「そーさ、此奴等は複数いるんだよ!!」

 

まるで、第二第三の魔王が出現したかのように、ネプギア達の前に更なるキラーマシンが佇む。

 

「色違いがいるけど、さっきと一緒なら倒せるよね!せーい!!」

 

そう言って、REDは巨大な円盤を1体のキラーマシンに投げる。

 

[ガンッ!!]

 

鉄と鉄がぶつかり合うような鈍い音を立てる。だが、さっきのキラーマシンと違って、びくともしてないように見える。それを見たREDは更にヨーヨーやビー玉をで攻撃をする。

 

「硬…!硬いよ、こいつ!!」

 

さっきとは格段に防御力が桁違いに違うと、全員が察する。

 

≪…私を蘇えらせたのは、貴様か?≫

「おうよ!犯罪組織の為に、アタイが蘇らせましたぜ!」

≪…その前に、貴様。私の同士をポンコツと言ったな…。≫

「…へ?あ、あれは…。」

≪まぁいい。蘇らせて貰ったのだ、大目に見てやろう。≫

「…へへっ!!流石悪魔の殺戮兵器!!今度こそテメェ等に勝ち目はねぇな!!」

 

ネプギア達は黙って聞いて、仲間割れしてくれないかと思っていたが、そんなことはなかった…。

 

「く…!不味いわね、このまま戦えば、文字通り全滅してしまうわ!」

「えぇ!?逃げるの!!」

「ええ、一旦引きますよ!ルウィーの教祖様なら何か対策を知っているはずよ!」

『はい(うん)!!』

 

そうして、全員が戦略的撤退をする為に走って逃げようとする。

 

 

 

だが、予想外の出来事が重ね重ね起きてしまう。

 

 

 

[ボーンッ!!]

 

「きゃああ!!」

『…!!ネプギア(ちゃん)(ギアちゃん)!!』

 

ネプギアのみを分担させるかのように、X字を描くようにキラーマシンからレーザーが放たれる。幸いな事に当たらなかったが、爆発が発生し爆風でネプギア以外は出口に、ネプギアはキラーマシンがいるところに吹き飛ばされる。

 

「お?丁度一番ウゼェと思ってるのがこっちにきたぜ。…さーて、アタイは次の事をしなきゃならねぇ。後は任せまっせ、キラーマシン様!」

≪承知した…。≫

≪ガガ、了解、女神、殺ス。≫

 

リンダがキラーマシンに事を託すと、煙幕弾を使い姿を暗ます。

 

「あ…あ…。」

 

疲労がたまっており、態勢を崩してしまったネプギアは直ぐに立ち上がる事が出来ず、更に2体のキラーマシンが近づいており、恐怖に近い物を感じてしまい怖気てしまう。そして、ネプギアを踏みつぶそうとするかのように、昆を振り上げる。体制を崩してはいるが、ネプギアは2体のキラーマシンに体を向けシールドを展開する。だが、そのシールドは一撃で砕けてしまいそうなくらい弱々しく展開されている。

 

「あ、あいちゃん!このままじゃギアちゃんが!」

「わ、分かってるわよ!」

「ネプギア!!」「ネプギアちゃん…!!」

「あ…!!」

 

女神化は続いている為、渾身の力を振り絞りロムとラムはネプギアの目の前まで飛び込み、弱々しいが、シールドを展開する。

 

「ロムちゃん、ラムちゃん…!」

「ネプギアちゃんを、守る…!」

「ネプギアがやられるところは、流石に見たくないもんね…!」

 

そうして、三人に向けて無慈悲にキラーマシン二体による昆が振り下ろされるのだった。

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

色々試行錯誤していたら、随分と間が開いてしまいました…\(^o^)/


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Scene39 小さな助っ人~Relief~

 

 

 

 

 

【ルウィー:世界中の迷宮】

 

女神一行は、下っ端ことリンダに誘拐されたロム、そして世界中の迷宮に存在するゲイムキャラを助ける為に、ルウィーの教祖であるミナから許可を貰い世界中の迷宮に向かった。現地に到着し、ロムは何事もなく救出する事が出来たが、ルウィーのゲイムキャラは粉々にされてしまい、ゲイムキャラが封印していた古の殺戮兵器“キラーマシン”が復活を遂げてしまう。一行の全力攻撃により一体のキラーマシンを倒すことに成功する。だが、キラーマシンは一体だけでなく、複数封印されてたという事実に驚愕し、更に復活を遂げたキラーマシンが、女神一行の前に立ちはだかる。そして、キラーマシン2体の昆が、ネプギア、ロム、ラムの三人に向けて無慈悲に振り下ろされる。

 

 

 

 

 

だが、三人にキラーマシンの昆が振り下ろされる事はなかった。

 

「ねぇ、誰あれ!!」

『あ、あれは…!?』

 

ネプギア達の後ろにいたRED、アイエフ、コンパがそれを見て驚く。一体のキラーマシンの頭部には、円盤状の何かがめり込んでおり機能停止をしている。もう一体の振り下ろされた昆は、ネプギア達に当たる前に突っかかっている形になっている。…いや、その昆を誰かが支えている状態だ。

 

≪貴様、何者だ!!≫

「ここから、離れろ…!!」

「…!?え、永守…さん!?」

『え、永守お兄ちゃん(永兄)…?』

 

3人は逃げろという声に反応するかのように後退する。遠目からでもフードが衝撃で捲れたのか、白髪が靡いている。そこに居たのは、服装は違うものの、2年前に行方不明になり、ネプギア達は察していたであろうハーミットの恰好で目の前にいるのだった。そして、彼はキラーマシンの振り下ろされている昆を両手で受け止めて支えている状態だ。そして、そこから押し上げキラーマシンを横転させる。

 

「…懐かしい名だ。コードネームよりは良い。」

≪貴様…その“右腕”に、その力…貴様は同志の裏切者か!!≫

 

何かの因縁があるのか、標的を女神から永守一人に向け始める。その威圧感は、女神に対しての憎悪と似ている。

 

≪何故だ、貴様は“犯罪組織”に所属しているはずでは…。≫

「ああ、お前の言う通りだ。…だが、弱い上司に従う気は無いだろう。」

≪だが、それと女神を助けるのは理解できぬ。≫

「………。」

 

キラーマシンの問に対し、永守は黙ったままキラーマシンに対して戦闘態勢に入る。

 

≪成る程…ならば、力尽くで聞くまでだ。≫

 

その言葉と同時に更にキラーマシンが出現し、永守の目の前に四体のキラーマシンが出現する。

 

「だ、ダメ…!!」

「ね、ネプギア(ちゃん)…!!」

「待ちなさい、ネプギア!!」

 

疲労困憊な体に、ネプギアは鞭を打つように立ち上がり永守の所に向かおうとする。だが、その手が届くことはなかった。

 

「ッ…!!なに、これ…!!」

 

あと数メートルで、その手が届く距離なのだが、見えない壁に進むことを阻まれてしまう。その壁はまるで、プラネテューヌのバーチャフォレスト最深部で張られた結界に似ている。

 

≪女神ヨ、同志ノ仇ノ邪魔ハサセヌ。≫

「ネプギア、ここは一旦引くわよ!」

「で、でも…それじゃあ永守さんが…!」

「…アイツなら…こんな似たような状況でも生き延びてたでしょ。アイツなら大丈夫。だから、今は引くわよ。」

 

そう言うアイエフの顔をネプギアは伺う。力強い物を感じるが、何処か心配な険しい顔をしている。永守の方を見ると、キラーマシンの方を見ながら左親指をサムズアップしている。

 

「コンパ、いいわよ!」

「は、はいです!!」

 

アイエフの言葉を聞いたコンパは、イジェクトボタンを発動させ、ネプギア達は世界中の迷宮から脱出するのだった。

 

 

 

 

 

【ルウィー:教会】

 

ルウィーの教会の広間で、十字架を持って祈っている男がいる。ペンを探すのを手伝っている最中、リンダによりロムが誘拐され、強化されたアイスフェンリルによって一時離脱しなければならない状態になった“ジン”だ。万全とは言えないが、特殊技能“肉回復”により殆ど回復してはいる。しかし、その表情は何処か悩みがある感じだ。

 

「(…結局、俺は何の為に戦ってんだ?)」

 

ここまで、女神と共にゲイムギョウ界を救う為、戦ってきたジンだった。そもそも彼が戦ってきたのは、転生した先の家族をニグーラによって失った復讐心で動いており、その復讐は果たしている。しかし、今回のゲイムギョウ界が犯罪組織によって乱れている中、日本一の正義感に感化され立ち上がった。そして、行栄不明になった恩人である永守の手掛かりを探る事も含めて行動している。

 

「(スタントマンになる夢が叶えれば、俺ぁこんな所に居ねぇよな。)」

 

十字架のアクセサリーを持っている手が強く握られる。スタントマンになる夢を諦めきれていない。だが、この状況を打破しなければ、その夢を叶えるのは難しいとも考えている。それでも、本来であれば転生者である自分は部外者に等しい。永守という存在が無ければ、この戦いに身を置くことはなかった…とも考えている。

 

「(今は、ロムが無事ならいいが…。)」

「大分、悩んでいますね…。」

「…ミナさん。」

 

ネプギア達が世界中の迷宮に向かってから、ずっと教会の長椅子に座りつつ今の状態を続けていた為に、教祖であるミナが心配になり様子を見てきたようだ。

 

「…一つ、聞いていいですか?」

「…私で答えれる範囲であれば。」

「教えてくれ、ロムとラムは、ブラン様が居なくなって、鬱になったりしなかったのか?この戦いに恐怖を感じていねぇのか…?」

 

彼は、転生者であるが故、流れをある程度知っている。ルウィーの女神であるブランがギョウカイ墓場に捕まり、本来であれば各女神候補生は、最初は敵同士に近い関係で争い、後に和解する事になる。だが、このゲイムギョウ界は、リーンボックスのズーネ地区に出現したマジェコンヌの存在。そして、ニグーラという本来であれば、ゲイムギョウ界に存在するはずのない存在。大まかな流れはそのままだが、自分の知らない形で動いている。一番の違いは、ロムとラムは幼さ故に捕まった事実を、教会の方針で伏せていた。だが、今のロムとラムはその事実を知っているかのように奮闘しているようにジンは感じている。

 

「それは、どういう意味でしょうか…。」

「俺は、この先の見えない戦いに恐怖を感じてるかもしれねぇ…。怖ぇ…俺のせいで誰か死んでしまうかと思うと余計…。」

 

ズーネ地区での戦いは、復讐心が上回っていた為か、恐怖心を失っていたとも言える。しかし、その戦いが終わり一時的な平和を体験した時、あの時の事を思うと無謀なことをした、死んでいたかもと言う考えが横切ってしまう。

 

「…そうですね、あの子達もブラン様が犯罪組織に捕まった事を、日が経つにつれて薄々気づいていました。」

「しかし、今は力強く感じる…。」

「あの子達も最初は、姉のようなブラン様が居なくなったという不安や恐怖に、押しつぶされる気持ちで、集中できない時期もありましたよ。…でも、数年前の“あの人”の言葉もあって、今のあの子達があります。」

「あの人…?」

 

ミナがひと呼吸置き、その口を開く。ジンも“あの人”というキーワードに何となく察していた。

 

「“獨斗…獨斗永守”さんです。あの方は、ブラン様…四女神が捕らわれた事を一早く掴んでいました。その関係もあり、各国を回って状況を調べていたりしました。そして、この言葉をあの子達…いえ、私達にも告げた感じです。“Be Strong”…強くあれと…。」

「Be…Strong…。」

 

 

 

【…Be Strong―強くあれ―。これは、S.T.O.P.所属時に恩人からの言葉だ。生きている以上、苦労と困難は訪れる。それが、連続で起きることもある。だからこそ、弱気にではなく、心を強く持つことが大事だ。最強の武器は、力や技ではない。信じる事…己の心が最強の武器だ。】

 

 

 

「…獨斗が、そんな事を…。」

 

ジンの返答に対し、ミナは力強く頷く。

 

「はい…。理解は出来ますが、簡単に出来る事ではありませんでした。ですが、簡単に出来ないと思う事が、弱気の始まりではないかと…。そして、あの子達も女神候補生と言えど、女神であります。きっと、不可能を可能にするものを持っている…。その思いを伝えつつ、今のあの子達がいる…そう思います。」

「不可能を…可能に…する…。」

 

ジンは手を口に当てつつ考える。その表情はさっきの苦悩とは違い、己の道を進む為とも思える力強い表情となっている。

 

「…有難う御座います。何となくだが、吹っ切れた。悩む事なんてねぇ。アイツらが居るなら、誰も死なせねぇさ。きっと、無事に助けて万事OKに違いねぇ。」

 

その時、教会の扉が開き数名が立て込んでくるのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「…そうですが、キラーマシンが…。」

 

私達は、ロムちゃんを無事に救出出来た事、世界中の迷宮で起きた事をジンさん含め話しました。

 

「獨斗が…?」

「ええ…ただ、どう考えても一難さってまた一難って感じよ。」

「もう、ミナちゃん…あのごっついのは何なのよ!いーっぱい出てきたんだけど!!」

「キラーマシンを一体倒しただけでも、此方としては驚く限りです。」

「そうね、攻撃は通用しない訳じゃないけど、女神じゃない私達の攻撃は今ひとつといった感じね。」

「そうですか…前に説明した通り、あれは犯罪神が造り上げた殺戮兵器です。一体一体の戦闘力は女神に匹敵する程です。それが、ルウィーには数十体…数百体封じられていると聞いています。」

「うぇえ!あんなのがいっぱいいるの!!」

 

ミナさんの言葉を聞いて、全員が息を呑む状況になりました。一体であれば、私達だけで倒せるのは実践済みです。ただし、全力を出し切るという前提で且つ、全ての力を放出しないと倒せないので、一体を倒すのが精一杯な状況です。

 

「何か、止める方法はないですか?」

「方法としては、キラーマシン本体を倒す事…若しくは、ゲイムキャラの力を使って封印し続ける事…ですが、前者は理想的ではないです。本体は複製体を凌ぐ力を秘めているとも聞いています。」

「つまり、理想的なのは後者って事ね。」

「でも、ゲイムキャラは粉々にされてしまいました…。」

 

私達は、粉々になったゲイムキャラを見続ける形で黙ってしまいます。壊されるのを阻止できていれば、こんな状況にはなりませんでしたが…。

 

「…兎に角、今は何らかの方針を講じましょう。幸い、お話を聞く限りでは、犯罪組織は直ぐに動くとは思えません。」

「まぁ、時間の問題なのは変わりないけどね。」

「…うー、頭使うのは苦手だよ。この壊れちゃったディスクを直す事出来ないのかな?」

「そんな簡単なように言うなよ…。」

「でも、直す方法を探した方がいいかもしれません。お姉ちゃんを助ける為に、力をお借りする為にも…。」

「ネプギアのいう事は分かるわ…でも、都合良くそんな方法があるのかしら。」

 

 

 

「直せるにゅ。」

 

 

 

突如、私達の輪の中に、聞き覚えのない声が聞こえてきました。

 

「ん!?出来る…だと!?」

「え、え?」

「声?何処にいるの?」

「下を向くにゅ。」

 

その言葉を聞いて下を向くと、そこには背の小さい幼女?がいました。何やら、顔の動く丸い物体を持っていることを除けば…。

 

「えっと…アンタ、誰?」

「…プチ子?」

「プチ子じゃないにゅ。ブロッコリーにゅ。」

 

ジンさんが何か失礼とも思えるような呼び方をしたような…でもなんかテンプレ感を感じます。

 

「これ、直せるの?アンタみたいなのが?」

「ブロッコリーは直せないにゅ。ただ、それを直せる人物は知ってるにゅ。」

 

ラムちゃんの質問に対し、ブロッコリーさんから出た言葉に一途の光が見えたような気がしました。それから、ブロッコリーさんにお願いして、その方を呼ぶようお願いしました。その人は“ガストちゃん”と言い、身長はブロッコリーさんと変わらない感じの人です。ただ、錬金術に秀でて、様々な薬を販売しているだとか…。幸い、今現在ルウィーのアトリエにいるという事なので、直ぐにルウィーの教会に来て、カクカクジカジカ、コレコレウマウマな感じで伝えました。…何故か、直し方がゲーマーズの攻略本に載っているとか言ってましたけど…。

 

「…うん、これなら直せるですの。」

「ほ、本当ですか!!」

「ただ、今ガストが持っている材料だけじゃ直せないの。」

「それで、必要な材料は何?」

「レアメタルとデータニウムですの。どちらも、ルウィー国際展示場や世界中の迷宮で手に入れられるですの。」

「成る程、それなら直ぐ取ってこれるな。」

「そうですね、それじゃあ早速!!」

 

そう言って、早速外に出ようと思った時、アイエフさんが“待って”と言います。

 

「確かに直せるのは有難いけど、報酬を幾ら払うかによっては難しいわよ?」

「あ…。」

「心配しなくていいですの。国の為にお金を取ることはしないですの。」

 

ガストさんのその言葉を聞き、アイエフさんは一安心したという表情をしています。そして、私達はゲイムキャラを直す為に、材料探しに向かう事になりました。

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

物語の流れは頭の中で出来ているのに、いざ文章にすると表現しにくい…。


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Scene40 激戦の時~Fierce~

今回、変更点として”キラーマシンの本体が量産型のキラーマシンを召還している”という感じで進行しています。ハードブレイカー?知らない子ですね…。

…という事で宜しくお願いします。


 

 

 

 

 

ルウィーのダンジョンの一つ、世界中の迷宮。その最奥にて、激しい戦闘が起こっていたと思える程、周囲のブロックに斬撃、打撃痕が残っている。更に周辺には壊れた機械のようなものが大量に散らばっている。その中央に、本体と思える機械系モンスターと、額から血を流している一人の男がいる。

 

≪人間風情にしては中々やる…。裏切者より力を屈指している。≫

「…自分ではよく分からん。」

≪何れにせよ、貴様は私に力を示した…。良かろう、貴様の命令に従うとしよう。だが、何故女神の手助けをする。≫

 

男…獨斗永守は軽く息を吐き、キラーマシンに告げる。

 

「状況が変わった…というべきか。このまま放置していれば、プランCの形で犯罪神が復活する。」

≪…我が主が、復活する事に何を悩む。≫

「そうだな、復活しても問題ないだろう。犯罪組織マジェコンヌはそれが目的だ。だが、プランCで復活を遂げると、ゲイムギョウ界だけでなく、犯罪組織…全宇宙が滅びる。」

≪…話を聞こう。≫

 

永守の顔は明らかに険しくなっている。それを察したのか、キラーマシンは話を聞く事を決めるのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【ルウィー:教会】

 

ルウィーのゲイムキャラを修復する為、プチ子…じゃなくて、ブロッコリーが連れてきた錬金術師のガストが、修復依頼を受けてくれた。そして俺等は、修復に使用する為に足りない材料をガストから聞き取りに行くことになる。必要となる材料自体は、ルウィーの国際展示場、世界中の迷宮で手に入ると聞き、早速向かう事になる。世界中の迷宮は、キラーマシンの存在で、ネプギア達は若干引き気味だったが、それを持っているモンスターは正反対の場所にいたから、その心配は無く無事に素材を手に入れ材料が揃うのだった。

 

「ガストさん、必要な素材を持ってきました!」

 

教会に待機しているガストの元へ戻り、ガストに材料を受け渡す。ガストも既に錬金術の準備は万全という感じで“待ってたですの。”というにっこりした表情で出迎えてくれた。

 

「お疲れ様ですの。ではでは、持ってきた物を確認するですの。」

 

そう言って、ガストは受け取った材料を品定めするように見始める。その目は当に職人と言っても過言ではない感じだ。

 

「…本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だにゅ。腹黒い所と、変な薬を作ったりすることを除けば、優秀な錬金術師だにゅ。」

「…ちょっとブロッコリーさん、それは心外ですの。」

 

ブロッコリーの毒舌?とも言える言葉にムッとした表情になるが、品定めを再開する。

 

「うん、大丈夫ですの。では、早速始めるですの。」

「本物の錬金術が見れるのね!本でしか読んだ事ないから楽しみだね、ロムちゃん!」

「(こくこく)」

 

そして、ガストは謎の液体の入った巨大な窯のようなのに、材料を次々と入れていく。

 

「ふんふんふふーん…くーる、くーる、くーるー。」

 

独特なリズムを刻みつつ窯を掻き回していく。…窯の中は何とも言えない色に変わっていくのだが、匂いは全然しない不思議。ゲームとかでしか俺も見た事無ぇから、この後どうなるのやら。

 

「最後に、このディスクの欠片を入れれば、完成ですの!」

 

そう言ってガストは、何の躊躇もなく粉々になったゲイムキャラのディスクを、窯の中へと降り注いでいく。

 

『!?』

 

降り注ぎ終わった瞬間、窯から強い光が放ち、一瞬目を奪われちまう。しかし、その光も一瞬で消え、そこにいるのは紛れもなくルウィーのゲイムキャラだった。

 

≪う…ここは。私は…確か…。≫

「成功みてぇだな。」

「うん、完璧ですの。」

「うおー凄い!!本当に復活したぁ!!」

「ああ…本当にこんな事があるなんて…。私が分かりますか?」

≪ルウィーの教祖…それに、女神候補生達…これは一体どういう事ですか?私は確かあの時、破壊されてしまったはずでは…。≫

 

破壊されて意識が消えた後、目覚めた所がルウィーの教会。それに、破壊された記憶があるのだから、当然状況を見て混乱しても可笑しくはないだろう。

 

「錬金術師のガストさんが、修復してくれたんです。」

「これくらい、お安い御用ですの。」

≪そうですか…有難う御座います。しかし、復活したとはいえ私がここに居るという事は…。≫

 

ネプギアがどうして復活したのか説明して、ゲイムキャラは納得するも、状況が深刻なのひ変わりはねぇんだよな。

 

「はい。キラーマシンの封印は解けてしまい、続出しているそうです。…貴女を物のように扱って心苦しくはありますが、急ぎ封印を施さなければなりません。」

≪…一刻を争う事態です。そのような気遣いは無用です。≫

 

俺が話を聞いた限りでは、全力を出し切れば一体を倒せると聞いた。そして、どういう訳か獨斗が食い止めているらしい。全く意味が分からねぇが、今を逃せば更にキラーマシンが出現し、手の打ちどころが無くなってしまう可能性もある。

 

「なら、アンタを…いえ、貴女を世界中の迷宮へ連れて行けばいいのですね。」

≪はい。私には敵と戦う力は無い故、一人で封印の場所まで辿り着く事は出来ません。図々しいとは思いますが…ネプテューヌの妹達は、私を世界中の迷宮まで連れてって貰えませんか?≫

「全然構いませんよ。それくらいお安い御用です!」

 

ゲイムキャラの質問に、ネプギアは両手をグッと構え同意する。

 

「ふふん、今度はあいつ等をギャフンと言わせてやるんだから!」

「ギャフンと、言わせる。(グッ)」

「よーし、ヨメの為に頑張るぞぉ!」

「アンタ達が行くなら、私も同行するわ。」

「ギアちゃんやあいちゃんが行くなら、わたしもついて行くです!」

「皆さん…。」

 

ネプギア以外の全員が、やる気満々であり、今度こそ倒すといった感じだ。

 

「お前達だけじゃ不安だにゅ。ブロッコリーも付いて行くにゅ。」

「ガストも付いて行くですの。完成したゲイムキャラがちゃんとなっているか、見届ける必要があるですの。」

「ブロッコリーさん…ガストさん…。」

≪…ネプテューヌの妹、頼もしい仲間を持ちましたね。≫

 

やはり、ネプギアはネプテューヌの妹だけあってか、人を引き付けるような魅力があるのだろう。

 

「水を差すようで悪ぃが、さっさと行った方がいいんじゃねぇか?量産型が増えて手に負えねぇ状態になるのは御免だ。」

 

俺の言葉に全員が頷き、教会を後にして世界中の迷宮へと向かう事となる。

 

 

 

 

 

【ルウィー:世界中の迷宮】

 

女神一行は、ルウィーのゲイムキャラを携え、数多くの仲間と共に世界中の迷宮へと再び潜り込む。

 

「不気味な程静かね…。」

 

ダンジョン内を見てアイエフがそう呟く。不思議な事に、モンスターは平然に活動しているにも関わらず、此方を発見しても一匹たりとも襲ってくる気配がない。まるで、最奥まで導かれているかのようだ…。そんな現状もあり、念の為にネプギア達女神は、女神化状態で進行している。一行は何事も無く最奥まであと少しと言う所まで辿り着く事が出来た。しかし、その時だった。

 

ドスーーンッという轟音と共に、空中からキラーマシンが複数現れるのだった。

 

≪女神…排除…スル…。≫

「わわ!いっぱい降って来た!!」

「な…!!まだこんなにいたの…!!」

「お、多いですぅ!!」

「ちぃ…こんな数相手してたら、日が暮れちまう…!」

 

ネプギア達には、最初より人数は多く戦力はあるだろう。だが、それでも戦っている間に続々復活されてしまったら、それこそ消耗戦になってしまう。そんな時、ロムとラムが前にでて、無言で女神化するのだった。

 

「ロムちゃん、ラムちゃん…!?」

「ネプギアちゃん。先、言って。」

「ここは、わたし達でやっつけちゃうから、さっさとゲイムキャラを持ってっちゃって!」

「で、でも、それじゃあ二人が…!」

「そうだにゅ。心配する必要はないにゅ。」

「戦うのは久々ですの。ここで準備運動するですの。」

「なら、俺も。」

「お前は先に行くにゅ。その籠手は飾りじゃないはずにゅ。」

 

そう言って、ロムとラムだけでなく、ブロッコリーとガストも率先して前に出る。ジンも率先して出ようとするが、ブロッコリーに止められる。そして、ロムとラムは互いに杖を構え、進路方向に向けて“アイスコフィン”を放つ。道を塞ぐようにいた

 

「道、開いた…!」

「さぁ、早く行って!!」

「…ロムちゃん、ラムちゃん。それに、ブロッコリーさんにガストさん、無茶はしないで…!」

「うん…!」

「寧ろ、さっさと倒しちゃって、そっちに向かうんだからね!」

 

その言葉を聞き、率先したメンバー以外は最奥へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

最奥の広間の周囲を見渡すと、明らかに戦い合ったであろう痕跡が多数みられる。そして、広間の中央に1機の赤色のキラーマシンと、2機の量産型のような色のキラーマシンがいた。そこに、永守の姿は無かった。

 

≪来たか…憎き女神よ…。≫

「あれが、キラーマシンか…。」

 

目が赤く光出し、その機械の顔をネプギア達に向ける。それと同時に両サイドに居たキラーマシンも、ネプギア達を捉えるように顔を動かす。

 

≪戻って来たと言う事は、対策を練って来たのだな。≫

「ええ、十分対策してきたわよ。」

「今度は、負けません!」

≪先程から仲間の復活が止まっているのは…。≫

≪その通りです。この周囲のみですが、復活封印を施しました。後は、貴方を封じるだけです。≫

 

どうやら、ゲイムキャラが簡単ながら範囲数メートル内に印を唱え復活を阻止しているようだ。

 

≪だが、それでも我が主の為、貴様等を消し去らなければならぬ。≫

「…一つ聞きてぇんだが、アンタ以外にもう一人、男が居たと聞いたが?」

≪私に勝てたら、教えてやろう…。だが、主に仇す者を排除するのが私の使命だ。覚悟…!≫

「来ます!!」

 

ネプギアの掛け声と共に、全員が身構える。それと同時にキラーマシンがネプギアの元へ急接近し、巨大な斧を振り下ろす。ネプギアはその攻撃に打ち合う形でビームソードを振りぬく。二つの武器がぶつかり合い轟音が鳴り響く。

 

≪ほう、この攻撃を受け止めるのか。ここまで上り詰めるだけあって中々やる。≫

「私には、負けられない理由があります。だから、ここで負ける訳にはいきません!」

 

互いの武器が擦れ合っているのか、火花が飛び散っている。その隙を見てか、両サイドからアイエフとREDが接近する。

 

「わわっ!!」

「くっ…!」

 

キラーマシンかの背中あたりから二人に向けて、レーザーが放たれる。辛うじて避ける事が出来る。だが、それは囮のようなものだった。

 

「いくぜ…!」

 

キラーマシンの腕部分に、ジンの鎖鞭が絡まり、鎖鞭を収縮する形でキラーマシンの元へ急接近する。まるで立体軌道とも言える移動方法だ。

 

「迸る雷雨っ!」

≪ぐぉ!!≫

「今です、ミラージュダンスッ!!」

 

ジンは急接近しつつ印を描き、キラーマシンに拡散する雷を放つ。それにより、キラーマシンは体制を崩す。その隙を見逃さず、ネプギアはビームソードによる乱舞を放つ。

 

「これで、決めます!!」

 

ミラージュダンスのフィニッシュブローを決める為に、キラーマシンに向けてビームソードを振りぬこうとする。

 

『っ!!』

 

だが、突然の轟音に全員耳を抑えるも、同時に放たれる衝撃波のようなもので壁に吹き飛ばされる。しかし、全員倒れる事はなく、体制を整える。

 

「うぅ、耳がぁ…!」

「何なのよ…今の…。」

「ぐっ…ハウリング(鳴音)系か…!!」

≪流石…今のを受けてまだ立っていられるとは…。だが、貴様等をここで消し去っておく必要がある。≫

 

キラーマシンが、戦斧を振り上げつつネプギア達に接近しようとする。そして、その戦斧を振り下ろそうという構えに突入する。

 

「…!!」

≪ぬぅ…先程の戦いの影響か…!!≫

 

キラーマシンから何かが落ちてきており、下を見ると腕のパーツの一部ともいえる部品が落ちているのが、ネプギアには分かった。どうやら、振り下ろそうにも部品破損の影響で上手く稼働していないようだ。

 

『させない…!!』

 

その時、入り口方面から声が聞こえ、そこから巨大な氷の塊がキラーマシンの左肩に当たり、機械が壊れたように爆発が起きる。その爆破によってキラーマシンの左腕が壊れたのか、火花が飛び散っているように見える。更にキラーマシンはそれにより大きく体制を崩す。

 

≪な、にぃ…!!≫

「ネプギアちゃん、大丈夫?」

「ロムちゃん、ラムちゃん!!」

「へっへーん!間に合ったよ!」

 

先程の氷は、ロムとラムの魔法攻撃によるものだった。その後ろから、ブロッコリーとガストも現れる。

 

「こっちは片付いたにゅ。」

「あとは、本体だけですの。」

「なら、今がチャンスね。総攻撃するわ!!」

『はい(です)!』

 

アイエフの掛け声に全員が反応し、キラーマシンの元へ接近し、タコ殴りのように攻撃を加える。そんな攻撃を受け続けたからか、装甲が弱くなり、遂に右腕も故障し機能を停止する。

 

≪これが、先程まで量産型に苦戦していた女神だというのか…!≫

 

キラーマシンは、キラーマシンとの戦闘で集計したデータに、該当しないネプギア達の戦闘力を見せつけられ、計画が狂ったかのような反応を示している。辛うじて総攻撃から脱出するも、かなり深手を負っているように見える。

 

「ロムちゃん、“アレ”やるよ!」

「(こくこく)ネプギアちゃんも、やろ。」

「あれ…?…わかった!」

 

少し考え、直ぐにネプギアはロムとラムに合わせる形で行動する。ロムとラムが魔法陣を発動し、ネプギアはM.P.B.L.のエネルギーを溜める。だが、それに留まらず、左右に更に人が並ぶ。

 

「アイエフさん!それに、皆さん…!」

「アンタ達ばかり、いい所見せられたら、こっちも疼いちゃうじゃない。」

「ギアちゃん達が頑張ってるのに、黙ってるわけにはいかないです!」

「ヨメに、しっかりとアタシの力みせないとね!」

「俺も、魔法という訳じゃねぇが、似たようなのは使えるんだ。混ぜてくれよ。」

 

そうして、前に出た全員が各々魔力を溜めていく。

 

「す、すごい魔力ですの!」

「これは、ブロッコリーが想像していた以上だにゅ。」

 

そして、全員の魔力が溜まり終えたのか、キラーマシンに杖や武器を向ける。

 

≪や、やめろぉ…!≫

『いっけぇええええ!!』

 

全員が溜めた魔力が同時に放たれる。全ての魔法が合体し、虹色に輝く波動砲がキラーマシンへ飛んでいく。そしてその攻撃は、キラーマシンの所で大爆発が起こる。その爆発と同時に、複数の壊れた部品が飛び散っているのが見て分かる。

 

≪データを超える力…これが…今の、女神の力…だが、何処に…こんな力が…!≫

「やったね、ロムちゃん!」

「うん…!」

 

今にも途切れそうな機械音で、キラーマシンがネプギア達に話しかけてくる。ロムとラムは、倒した喜びでお互いにハイタッチする。

 

「私は、お姉ちゃん…いえ、女神を助けるだけじゃなく、ゲイムギョウ界を犯罪組織の手から解放する為に戦っているんです。だから…負ける訳にはいかないんです!約束です。永守さんは何処に居るんですか…!」

 

ネプギアが、勝てたら聞いておきたいことを言おうとしたが、キラーマシンの目の光が無くなり、結晶片へと変わり完全に機能を停止と言っても過言ではない状態になる。そこに残ったのは、キラーマシンの動力源とも言えるコアが残っていた。

 

「何でしょう、あの玉は?」

「きっと、あれがキラーマシン本体を動かしていた心臓みたいなものね。アレを破壊為た方がいいと思うわ。」

「んじゃぁ、アレを壊しちゃおう!」

≪待って下さい!何かが近づいてきてます!≫

 

アイエフが指摘し、破壊を試みようとした時、ゲイムキャラが此方に何者かが近づいている事を全員に告げる。

 

「流石だ…いや、本来であれば、これくらい出来て当然なのだろう。なぁ、女神候補生?」

 

まだ収まらない爆破後の砂煙の方向から、誰かが此方に歩いてくる音と共に話しかけてくる。そして、その人物はキラーマシンのコアを拾い上げるのだった。まるで、これは我々の物だという程に平然と…。

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

相変わらず、戦闘描写が短いような…でも長くてもぐだぐだになる感じがします…難しい。


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Scene41 消失する意思~Lost Memory~

 

「流石だ…いや、本来であれば、これくらい出来て当然なのだろう。なぁ、女神候補生?」

 

キラーマシンのコアがある向こう側から、ネプギアには聞き覚えのある声が聞こえる。その人物はキラーマシンのコアを拾い上げる。そして、その人物はネプギア達を見定めるように見つめる。

 

「ッ…!!」

「誰、あのオバサン?」

「…なんか、怖い…。」

 

全員がその人物を見て、ただ者ではないと察する。ネプギアは恐怖に近い物を感じている。だが、驚いているのはネプギアだけではなかった。

 

「マジック・ザ・ハート…何故テメェがこんなところに居やがる…!」

「ほう…お前が、奴が言っていた“ジン”という名の男か…。」

「はん…犯罪組織の幹部に知られてるなんて、光栄だわ。」

「幹部…!!」

 

アイエフが、何故ジンが会ったこともない上に幹部の情報が殆どないにも関わらず、その名を知っている事に疑問を感じつつも、幹部クラスが目の前にいる事で問いただす。

 

「幹部ってことは…アンタがネプ子…女神様を…それに、永守をあんな風にした張本人…!」

「成る程、奴の言う通り既に正体はバレていたのか。その通り、私が女神を倒し、その永守という男も倒した…。」

「やっぱり…!」

「だが、そんな事を知ってどうする。知って何かが起こる訳でもあるまい。」

「く…。」

 

現状、実力差は明らかだと感じているアイエフも、成す術無しと言った表情をしている。

 

「…でだ、なんでテメェがこんなところにいる。」

「何、今はお前達と戦う気など無い。これの回収と、ジンと言う男を見に来ただけだ。」

「…何…?」

 

だが、マジックは直ぐにネプギア達に背を向け、立ち去ろうとする。

 

「待ちやがれ…!!」

『ジン(さん)…!』

 

ネプギア達の制止を無視し、ジンはマジックに向けて鞭を振るう。だが、その一振りは当たる事無く空を切る。

 

「いねぇ…!!」

「そう急かすな。何れお前達と戦う時が来る。精々、その時までもっと力を付けてくる事だ…私を倒したければな…。」

 

マジックは既に上の方におり、そして姿を暗ましてしまう。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【ルウィー:教会】

 

あの後、ルウィーのゲイムキャラがキラーマシンの封印を問題なく施す。只、封印を行っている最中に、ゲイムキャラが2つに分かれる事が発生する。ガスト曰く‘調合仕立てで、不安定な状態’が原因らしい。とはいえ、新たにルウィーのゲイムキャラの力を手に入れる事が出来、キラーマシンの封印も出来たという一石二鳥の状態だ。戻って来た後は、アイエフにマジックの事を知っていたことを問われたが、説明するのも難しく‘獨斗と会えば分かる’と告げ、その場を後にするしか方法がなかった…。

 

でだ、余りにも色々な事がありすぎた為、ネプギアがイストワール様に報告後、全員に休息の指示が出る。とはいえ、翌日にはリーンボックスに向かって、教祖のチカさん直々のクエストをするという事になった。ガストとブロッコリーは旅には着いてこない代わりに、ガストからは購入してすぐ自分の商品が届くという端末を、ブロッコリーは独自に情報を入手する為に出回りする事となった。また、ロムとラムは世界中の迷宮の事もあり、暫くはルウィーに残る事となる。まぁ…今ん所、特に問題がある訳でもなく1日はゆっくりできるだろうと思った。

 

「んだよ…休憩しようと思った時に…。」

 

ルウィー教会の貸し出し部屋でひと眠りしようと思った時に、5pb.の歌を着信に設定してある俺の携帯の着信が鳴り響く。「日本一からか?」と思ったが、着信相手は、同じ転生者であり、リーンボックスの新しい女神候補生として活動している“スミレ”からだった。俺はズーネ地区の戦い後、彼女から色々とお互いの事を話し合うようになっていた。同じ転生者だからなのか分からねぇけど…。そんな事もあり、獨斗よりは会っている。しかし、向こうから連絡を掛けてくるのは珍しい。携帯の通話ボタンを押し電話する事にした。

 

「どうした、そっちから掛けて来るとは珍しいじゃねぇか。」

 

…?通話は繋がっているし、向こうの物音は聞こえるが何も言ってこねぇ。しかし、呼吸音は聞こえるから繋がっているっちゃ繋がっているようだ。訳も分からず「ん?」と俺は言ってしまう。まぁ直ぐに深呼吸する音が聞こえたから、スミレから何を言ってくるか待ってみる事にしよう。

 

≪お願い…助けて…。≫

「…は?」

 

声が聞こえたかと思ったら、第一声が「助けて」と…漫画みたいな展開だとは思うが、行き成り言われたら「何言ってんだ」になってしまう。

 

「ちょい待ち…何があったんだ。」

≪うん…実は…。≫

 

疲れている体に鞭を打つかのよう、頭を切り替え、リーンボックスで何が起こっているかを聞き出すことにする。大方、リーンボックスに向かったリンダが、何か仕出かしているのだろうとは思う。そして、俺は理由を聞いて居ても立って居られないような感情が沸き上がる。気が付けば、俺はルウィーの教会を後にし、リーンボックス行きの飛空艇に乗っていた…やっべ、連絡しときゃよかったなと思ったが時既に遅ぇよな…。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

いーすんさんから暫く休息を取るように言われて、私達はルウィーの教会を借りて一日を過ごす予定です。翌日には、リーンボックスに向かって教祖であるチカさんのクエストを受ける事になってます。それで、日が暮れるあたりから、明日に向けてどうするか皆さんと相談する事になりました。アイエフさんがジンさんを呼びに行って、私達は話せる場所で待機しています。…スミレちゃん、元気にしてるかな…?

 

「あいちゃん、戻ってこないですね?」

 

確かに、呼びに行くのにちょっと長い感じがしましたが、暫く待っているとアイエフさんが慌ててこっちに来ました。

 

「ねぇ、そっちにジンは来てない!?」

「え、来てませんが…?」

「ん~?部屋に居なかったの?」

「じ、ジンさんが、どうしたです?」

 

どういう訳か、アイエフさんが怒っているのか慌てているのか、その両方が混ざっている感じの顔をして、私達もどう返答すればいいのか…。そうして、アイエフさんの口から驚くべき返答が返ってきました。

 

「あのバカ、何処にもいないのよ!部屋中探しても、空き部屋を探しても、職員に聞いても分からないって…!」

『ええええええ!!』

「…兎に角、連絡してみるわ。」

 

アイエフさんは、私達の反応を見て状況を把握すると、Nギアを取り出してジンさんに通話を試みるそうです。ジンさんは、通話してくるのが分かっていたのか、直ぐに通話に出てきたようです。私達にも聞こえるようにスピーカーモードにしてくれました。

 

「ちょっとアンタ、何勝手に出てるのよ!一体何処へ向かってるの!!」

≪す、スマン…昼間にスミレから連絡があってな…。≫

「それじゃあアンタ…一人でリーンボックスに向かってるっていうの!?」

≪ああ…。そんなことより、ニュースTVを見てくれねぇか…。≫

 

なんだか、ジンさんが深刻そうな声でTVを見るようにと言い、私はNギアでニュース番組を起動しました。

 

〔…ーンボックスが数日前から突如、犯罪神崇拝の規制が解除されました。教会に取材を求めても、取材に応じる事がありません。〕

 

そのニュースを見て、私達は驚愕しました。

 

「な、何よこれ…。」

≪俺も今知ったばかりだ。兎に角、情報を集めなければな…。≫

「ルウィーの国際展示場の件もあるんだから、また一人で勝手に無茶するんじゃないわよ。」

≪分かってる。無茶しねぇ範囲で捜索s―――――≫

 

 

 

 

 

【ドゴーーーーーンッ】

 

 

 

 

 

「…爆発?ジン、今の音は何!?」

 

突然、アイエフさんのNギアのスピーカーから轟音が鳴り響き、ジンさんに問いかけるも、通話が切れてしまったみたいです。

 

「一体、何が起こったんでしょうか…?」

「…兎に角、私達も休憩してる場合じゃないのは確かね。」

 

そうして、私達は急遽リーンボックスへ向かう事になりました。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【リーンボックス】

 

あのズーネ地区の戦いから、僕を受け入れてくれたベール姉さんや、チカ姉さん、特訓に協力してくれた特命課のケイブさんに恩返しをする為にも、僕はこの国の為に貢献をしている。チカ姉さんは、最初は険悪だった…なんというか、職員というよりも他人みたいな…ベール姉さんと同じ女神化の能力を持っているからか嫉妬みたいなのもあったのかな。でも、お互いに話していく内に、チカ姉さんは、ベール姉さんが本当に大切な人だなと分かったし、チカ姉さんも僕の事を必死に理解しようとしてくれた。

 

確かに、この女神化という力は、皆を幸せにするには十分すぎるとは思う。代償として、僕は‘普通の生活’というのが犠牲となってしまった。それが、この世界でも孤立してしまった理由なのだろうとも思えた。だけど、この力があったからこそ、ベール姉さんや、チカ姉さん、獨斗さん、ジンさん…色々な人と出会う事が出来た。特に、ジンさんは同じ形でここゲイムギョウ界に来て、永守さんと同じく僕を女神としてでなく、一人の人として接してくれたのも大きい。永守さんが行方不明になってからも、良く日本一さんと来てくれて、色々とお世話になった。だからこそ、今度は僕が皆の為に、ベール姉さんを助けると言う使命で、今はケイブさんが所属しているリーンボックス特命課の仕事をしている。

 

「ああ、お疲れ様です!ケイブさん、スミレ様。」

「状況はどうなってますか?」

「現在確認中であります。恐らく、エンジンルームの故障による爆発かと…。今の所重傷者は見当たりませんが、エンジンルームに近い所はまだ捜索中であります。」

「他に問題は?」

「今現在、他の飛空艇も調べているであります。エンジニアの報告によれば、殆どの飛空艇のエンジンにトラブルが確認されているであります。」

「…スミレ、私はあの中を捜索するわ。貴方は情報収集をお願い。」

「分かりました。」

 

リーンボックスに到着したばかりの一隻の飛空艇が、エンジンルームから爆発が起きたという報告を受け、僕とケイブさんが現場に直行した。チカ姉さんの様子が可笑しくなってから、こんな状況が続いている。そんな状況だからか、僕はジンさんに助けを求めて連絡を入れた。そして、今日中には着く予定とは言っていたけど、嫌な予感がする。大体夕方ぐらいには着くとは言っていたけど、もしかしたら、その爆発が起きた飛空艇に乗っていたのではないか…と思ってしまう。そうあって欲しくない一心で、周りの人から情報を聞き出してく。話を聞く限りでは、到着してから突如爆発したという事と、整備不良とは思えないという事。やっぱり、これも犯罪組織の仕業なのだろうか?そんな時、通信機から連絡が入ってくる。

 

≪爆発したエンジンルーム付近で、人を発見しました!外傷は見当たりませんが気絶しているようです。現在、救護搬送作業に当たっています。≫

≪外見は?≫

≪男性で、170cm程度、髪は茶髪…見た目は筋肉モリモリマッチョマン、カウボーイのような鞭持っています。≫

 

その連絡から来た言葉を聞いて、目を見開いてしまう。詳細に当たる人物に心当たりがあるからだ。僕は居ても立って居られない為に、現場へ直行する。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【リーンボックス:教会】

 

飛空艇の事故から、怪我人として発見した“ジン”を特命課の医務室へ、ケイブさんと協力して運んだ。既に外は日が暮れてしまっている…。ネプギアちゃんに、ジンさんの事を含め連絡をしたが、今回の飛空艇事故の為、全飛空艇便が停止して空から此方に来ることが出来なくなったと聞いた。此方からも、飛空艇が再発進出来るようになるのは未定だと報告する。そんな中別案で、ラステイションの港からリーンボックス行きの便を出すと言う。ただ、部品が破損している為に、代わりに集める事となり明日着くと言う。その船の手配をしたのが、ラステイションのユニちゃんだと言う。ただ、本人は既に教会を後にしており、現在何処に行っているのかは分からないとのこと。そんな時、医務室の出入り口が開く。

 

「邪魔するわよ。」

「…ユニちゃん?」

 

なんと、扉を開けて入って来たのはラステイションのユニちゃんだった。それと、隣にライダースーツのようなのを来た女の子が立って居る。医務室のベットに寝ているジンさんを見ると、目を見開いてこっちに寄ってくる。

 

「ちょっと、女神様!ジンに何があったんですか!!」

「お…おぉ、おちつい…!」

 

僕の肩を掴んでその子は思いっきり揺さぶってくる。ぅぅ、き、気持ち悪くなってき…。

 

「その辺で止めときなさい。スミレが大変な事になってるわよ…。」

「まずは手を放して、深呼吸して落ち着きなさい。」

 

ユニちゃんとケイブさんの制止を聞いて、その子は深呼吸をして“御免なさい”と謝りつつ、一緒に冒険をしてた仲間だと聞く。というと、この人がジンさんが言っていた正義感での師匠に当たる人…。

 

「そ、そんな事より、どうしてユニちゃんがここに?」

「アタシは昨日からこっちに来ていたわ。…か、勘違いしないでよね!アタシはただラステイションのシェアを、ここから少しでも取れればと…。」

 

何時ものように理由を隠すように誤魔化しているけど、こっちにユニちゃんが来ている事は少なからず、リーンボックスとしても有難いと思う。

 

「う…。」

「どうやら、お目覚めのようね。」

 

ケイブさんがそう言い、ベットの方を見るとジンさんが目覚めたらしく、上体を起こそうとする。一応ケイブさんが、“私に任せて”みたいな合図をし、自然と僕達はケイブさんに任せる事になる。ケイブさんはジンさんと面識があるし、恐らく大丈夫だろうとは思う。

 

「ああ、無理はしなくていいわよ。…気分はどう?」

「気分?…ツツ…偉く頭を強く打った感があるし、良くはない。まるでウィスキーにニトロを入れて飲んだみてぇだ…。…ところで、ここは何処だ…?」

「ここは貴方が良く知っているリーンボックスよ。最も、ここは特命課の医務室で、貴方も中々入れる場所ではないから、混乱してしまうわね。」

「…リーン…ボックス…。」

 

…何か様子が可笑しい。ジンさんはクエストの関係で、何度か特命課本部に足を踏み入れてはいる…にも関わらず、特命課どころかリーンボックスという言葉を聞いて苦悶の表情をしている。

 

「ちょっと、ジン。本気で言ってるの…?アタシの事分かる?」

 

不安になった日本一さんが、ジンさんに寄り質問する。しかし、次の言葉にここに居る僕達全員が驚愕してしまうのだった。

 

 

 

 

 

「…いや…分からねぇ…。俺が、誰なのかも…。」

 

 

 

 

 

 




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Scene42 記憶は突然に~Revive~

 

 

【リーンボックス:教会裏】

 

「確かに、完璧な変装だ。…声以外はな…。」

「うっせ!声帯変換機を作ってる暇はなかったんだよ…。」

 

目の前にいるリンダは、誰がどう見ても完璧な教祖チカそのものだった。残念ながら、声帯変換装置は小型化に間に合わず、地声で何とかするという事になった。

 

「…しかし、女神達を足止めさせるにしては、派手にやり過ぎだ。万が一死人が出てしまったらどうする心算だ?」

「アタイがやった訳じゃねぇんだ。そこは加担してる奴らに言えっての。そもそも、テメェの正体がバレてんじゃねーかよ…そっちこそどうする心算だよ。」

「私は火葬屋か何かか?そっちの方は少し予定が早くなったまで…計画は続行だ。」

「そうかい…。まあいい、アタイは戻るぜ。面倒くせぇが、誰かが来た時の対応しなきゃなんねぇからな。」

 

そう言いつつ、リンダは教会の方へと戻る。そして、黒装束に身を包む俺は…顎に手を当てて考える。

 

「(爆発した飛空艇に奴が居たとは…行動力はネプテューヌ並と考えてもいい。)」

 

居合わせていた訳ではないが、偶々飛空艇の爆発を見てしまい、影潜りで飛空艇内部に侵入した後、ジンが飛空艇の床に倒れていたのを見つけた。救出した後、再び影に潜り込み事が無かったように立ち去る。情報源として手土産と盗聴器を入れておいたが、盗聴先の会話で奴が“記憶喪失”になっている事を聞く。しかし、口調とかを聞いた限りでは、完全な記憶喪失という訳じゃなさそうだ。

 

≪ん?ねぇジン。首元に何かついてるよ?≫

≪…あ≫

≪失礼するわ…これは、盗聴器…!?≫

 

次の瞬間、盗聴器が壊れるような音が聞こえ、盗聴先から音が聞こえなくなる。まぁ、バレるのは時間の問題だと考えていから仕方ない。しかし、再び考えてみる。記憶喪失になるには脳震盪や心的外傷によるPTSD等が考えられる。だが、外傷どころか、強打された跡や出血は見られなかった上に、心的外傷を起こすほど軟でない…となると、記憶があったりすれば、厄介ごとになると言う人物がいるという事になる。だが、記憶から該当する人物が浮上しない。そんな事を考えていると、無線機から連絡が来ている。

 

≪貴様の言う通り、犯罪神様に異質なのが混ざっていたのを確認した。≫

 

連絡相手は、マジックからであった。犯罪神ユニミテス…お浚いになるが、嘗てゲイムギョウ界を混沌に陥れた存在。その力は自分一人で戦って勝てるか分からない程。しかし、現在進行形で異質な力を放ち続けている。それは、自分に良く似た、数年前に戦ったことのある奴に酷似した力を…。

 

≪だが、計画に変更はない。引き続き、貴様の好きなように女神と戦え。≫

「変更は無しか。」

≪…我々の目的は、犯罪神様の復活。そこには、女神が死ぬか、我々が死ぬか…それだけだ。例え、本当の犯罪神様でなくてもだ…。≫

 

好きなように…か…。

 

「人質を取られている奴に言う事か…。」

≪やはり、貴様は気にしているのか。≫

「まぁな。…一つ聞きたい事がある。飛空艇を爆破した奴がいるそうだが、誰がやったか心当たりはあるか?」

≪いや、我々は悪魔で直接対決を望んでいる。不意打ち等あり得ん。≫

「…それを聞いて安心した。引き続き、やるべき事をやる。」

 

そうして無線機を切る。確信は無いが心当たりが一つ増えた。それでも、俺には今、役割というのがある。…だがその前に、確認しなければならない事がある…。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

【リーンボックス:ガペイン草原】

 

どうやら…偉く頭を強打されたようだ…たんこぶは無いが未だに痛む。俺は医務室みたいなところに運ばれ、周りには俺の事を知っていると言う女性達から話を聞く。俺は飛空艇に乗って“リーンボックス”という所に来た。そして、レースライダー姿の子が言うジンとは、恐らく俺の事らしい。だが、俺は何故こんなところに居るのか、どういう理由で来たのか全く思い出せねぇ…。頭を強く打った拍子に記憶を失ったと考えた方がいいのかもな。

 

それから一晩休み、翌日の昼過ぎにリーンボックスのダンジョンの一つであるガペイン草原という所に来ており、特命課の任務として、ケイブさんと、スミレさんと同行している。因みに、午前中は俺がこの世界が今現在どうなっているのか、俺が何故プラネテューヌの女神候補生である“ネプギアさん”と、旅をしているのかを簡単に説明を受ける事となる。ケイブさんの話によると、ここガペイン草原は、元々リーンボックス内でも比較的安全なダンジョンであり、初心冒険者が実力を上げるだけでなく、ベテラン冒険者が新米を育てる為の練習場でもあった。しかし、リーンボックスのシェアの低下だけでなく、数日前に教祖のチカさんが、犯罪神崇拝の許可が相まって、今や中堅、上級冒険者じゃない限り立ち寄れない程に、モンスターが狂暴化していると言う。ケイブさん曰く、秩序が乱れようとも国民の生活水準を上げる為の苦渋の選択だと言う。スミレさんもそれには同意している。一応今回の調査も教祖のチカさんの依頼によるものだ。…ただ、俺の顔を見るや、急に焦るなり落ち着きがないように思えた。

 

「モンスターをリーンボックスに入れさせないと言う事もあるけど…リーンボックスのシェアを回復させ、再び活気あった時に戻す…それが、私達がやるべき事よ。」

 

そうケイブさんは、ダンジョンに行く前に語る。記憶が吹っ飛んでいる俺からしたら、あまりピンと来ない。戦う事で活気が戻る…この世界の仕組みだと分かっていても理解し難い。…だが、完全に記憶が吹っ飛んだ訳じゃねぇようだ。理解は出来ないが、胸の奥底にそれに共感しようと言う気持ちがあるように思える。そもそも、最初このダンジョンに同行する事はケイブさんとスミレさんに止められていた。だけど―――――

 

「血生臭い感じじゃねぇが、俺の過去には戦う事が正義であり使命だと感じている。それが俺の本性ならば、戦いの中でこそ記憶が蘇るに違ぇねぇ…。」

 

それで、二人が同行する事で渋々承諾し、実力を見ることも含めここに来ている。また、スミレさんの話によると、俺は彼女に色々戦う為のイロハを教えていたらしい。

 

「私の戦い方を見ていれば、思い出せるのではないでしょうか?」

 

という信憑性は薄いものの、何かに切っ掛けになる可能性はあると思い、俺もそれには納得する。そして、ガペイン草原に出現している“ひこどり”、“ひまわりん”、“カボチャもん”と言った見た目が可愛らしいモンスターと渡り合う。完全に記憶が吹っ飛んだわけではないと言った通り、体はある程度、戦う為の方法が染みついているのか迫り来るモンスターを所持している短剣や斧で切り裂いていく。一方、スミレさんは弓を構え、的確にモンスターの弱点と思われる場所に矢を当てていく。ケイブさんは二枚刃剣のような大鋏で、モンスターをすり抜けていくように切り裂いていく。…まぁ、何故俺はこんな短剣や斧を複数持っているのか分からないが…。

 

「…確かに、動きは何処かぎこちない感じはするものの、中堅冒険者として捉えるなら問題ない感じね。」

「それでも、私の知っている戦い方とは違います。私が覚えている戦い方は、その腰に備えてる鞭を主体として戦っていました。」

「…この鞭が主力?」

 

そう言われつつ、腰に身に付けている縄上の鞭を手に取ってみる。確かに、手に馴染む感じはするし、何か力が秘められているのは分かるが、俺は調教師やドSじゃねぇから、どうも扱う事に抵抗が出てしまう。本来の俺がこれを振り回しているのを想像してみたが…うーん、どうもしっくり来ない。

 

「それはさて置き、貴方の協力もあってモンスターの数は減ってきているわ。…最も、特命課所属で行動出来る人が少ない事に変わりはないのだけれど…。」

「…そんなに酷ぇのかよ。」

「ええ…今はスミレの御陰で、2人で協力し合ってはいるけど、実質特命課で動けるのは私1人と言っても過言ではないわ。」

 

…他人事のように聞いてはいるが、深刻な人数不足だという事が伺える。もしこれが企業だったら頭を抱えてしまう程になっちまうな。それから暫く先に進み、目的の場所に着く。

 

「あれが、チカ姉さんが言っていた討伐対象ですね。」

「エレメントドラゴン…。ここに住み着くようなモンスターではないはずね。」

 

どうやら、ガペイン草原で初心冒険者を悩ましている存在が、目の前にいる“エレメントドラゴン”というモンスターらしい。確かに、見た目はファンタジーに出てきそうなごく一般的な龍と思える存在だ。それでいて、危険種という上位モンスターでないと言う。確かに、そんな存在が初心者マップにいるんじゃ、初心者泣かせになるな。

 

「スミレ、いつも通り私が前衛に出るわ。貴女は女神化して一撃必殺をお願い。ジン、貴方はスミレの護衛をお願いするわ。」

「…一人で前衛に出て大丈夫なのかよ。」

「大丈夫。いつも通りやれば、僕達は無傷で終わりますよ。」

 

スミレさんが女神化を始め、プロセッサユニットというのが装着される。その姿にドキッとする。先程の恰好とは違い、露出は少ないが見事なプロポーションで、レオタードのようなスーツがそれをより一層強調させている。彼女等にとってはこれがいつも通りの戦術なのだろう。そう思っている内に、女神化したスミレさんが、光る弓を構え、矢を射る構えを取り、ケイブさんがエレメントドラゴンに正面から向かっていく。エレメントドラゴンがケイブさんに気付き、口から多数の炎の玉を吐き出す。

 

「その程度の弾幕で、私を捉える事は出来ないわ。」

 

ケイブさんの回避技術は、当に芸術と言っても過言ではなかった。散弾のように吐かれる炎の玉に対し、ギリギリの隙間を見つけてその穴を通るように回避していく。

 

「沈みなさい…。」

 

弾幕のような攻撃を回避しつつ、エレメントドラゴンの首元を横切るように、持っている鋏を切り裂くように振りぬく。その攻撃を受けたエレメントドラゴンは首を上に向ける。

 

「…貰った…。」

 

女神化したスミレさんが矢を放ち、エレメントドラゴンの手前で矢が3つに分裂する。それが顎、首、胸に刺さるとエレメントドラゴンが、モンスターを倒した時同様、大量の結晶片となり消えていく。それを確認すると、ケイブさんがこっちに戻ってくる。

 

「流石ねスミレ。前衛も後衛も問題無さそうね。」

「もう、大丈夫。修行の成果、出てきている。」

 

さっきと打って変わって、まるで機械のような喋り方をするスミレさんだが、女神化すると態度とかが変わると聞いているから、そういう風なのだと受け取る。しかし、何かが突っかかるような感じはあった。そんな事を考えていると、女神化状態のスミレさんが話しかけてきた。

 

「何か、閃いた…?」

「…いや…思ったよりは…。」

「………。」

 

何処か残念そうな顔をしている。恐らく、戦闘風景を見れば思い出せると踏んでいたのだろう。“さぁ、戻ってチカに報告するわよ。”とケイブさんが言い、スミレさんが女神化を解除しようとした時、ケイブさんの足が止まる。

 

「あ?どうしました、ケイブさん?」

「待ってスミレ…そのままでいて。」

「………、何か…?」

「…そこに隠れてないで出てきなさい。ずっと見ていたわね…。」

 

ケイブさんがそう言うと、直ぐ近くにある巨木の裏から人が現れる。

 

「特命課だけあって流石だ。そして、女神候補生スミレ…3年前と打って変わって腕を上げたな…。」

 

その巨木の裏から出てきた人物、まるで暗殺者ですよと言ってもいい恰好をしている。そして、顔をマスクで隠しており、ボイスチェンジャーを使っているようで、機械合成の声で話しかけている。それを見たケイブさんとスミレさんは、その人物に対して身構える。

 

「貴方ね…ガペイン草原入口からずっと付けてきたのは。」

「…何者…?」

「タダの見学者だ。」

「その恰好では説得力はないわね。」

「だろうな…。」

 

俺から見ても、その人物は異質な雰囲気を出しているのが分かる。だが、この人物を見た途端、何か引っかかるものが増えていた。

 

「…で、あんた…何者だ…?」

 

それを言った途端、その人物は俺の方に首を向ける。

 

「な、なんだよ、俺の顔になんかついてんのか?」

「………。そう来たか。」

 

…やはり…?一体こいつは何を言ってるんだ?そんな感じでキョトンとしていると、俺の足元にナイフが刺さっているのを見る…

 

「…な!!」

 

が、そのナイフを見ると同時に、俺の体は地面に吸い込まれていた。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

私の目の前で、突如地面に刺さったナイフに驚くと同時に、ジンさんが地面に吸い込まれているのを目撃する。そのナイフの出どころも見ている為、女神化状態の私は、黒服の男に向けて矢を射る。

 

「!?」

「…確かに腕を上げたな。並の相手なら受けてる。」

 

その黒服の男は、右手で私が放った矢を根元から握って受け止めている。

 

「暫く、ジンを借りる…また会おう。」

「待て…!!」

 

その男がジンさんの事を知っている事にも驚いたが、逃げ出そうとする為にもう一度矢を放つが、その男はジンさん同様地面に吸い込まれるように消えて行ってしまった。

 

「消えた…!!」

「待ってスミレ…深追いは禁物よ。それに、あの転送的なの…何処かで見た事があるわ…。一度戻って、チカに報告すると同時に、資料を調べるわよ。」

「………。」

 

その言葉を聞き、女神化を解除する。ジンさんが誘拐されたに等しいけど、僕もあの転送法には見覚えがある。そう考え、ジンさんの無事を祈りつつ、ガペイン草原を後にするのだった。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

「うぉ…!!」

 

足元から吸い込まれたと思った次の瞬間、急に風景が変わると同時に、上に押し出されるように別の場所に出てくる。周囲を見渡すが、黒い壁に黒い天井、黒い床…当に何もない空間だ。そして、目の前にさっきの男が同じように現れる。

 

「アンタ、初めて会う俺に一体何の用があるってんだ。」

「…初めてではない。」

「なんだって、俺の聞き間違いか?」

「いや、お前とは何度も会っている…数年前からな…。」

 

目の前に居る男が、此方に向きつつ歩いてくるのを見るや、俺は短剣に手を添えて身構える。だが、向こうは歩みを止める気は全く無いようで近寄ってくる。

 

「武器を納めろ。お前と戦う気はない。」

「そう言って油断刺せる気か?見た目からして、どう考えても犯罪組織の一人にしか見えねぇよ。」

 

そう言いつつ俺は短剣を持って、目の前の男に戦いを挑もうとする。そして、短剣を水平に突き刺すように振る。…だが、その振る腕を捕まれた上に、護身術のような動きで持っている短剣を打ち落とされる上に突き放される。

 

「く…!?」

「動きは速いが、記憶喪失前とは比べものにならない程落ちている。」

「アンタ、一体何を知ってるってんだ…!」

「説明しても時間の無駄だ。このまま女神と一緒に居ても一生記憶が目覚める事はないだろう。…そういう呪いを受けているのだから。」

「呪い…?」

 

呪いと聞いて驚きを隠せない。俺…死ぬのか?

 

「生死に関わる事ではない。だが、お前が居ると目障りだという人物が居る。」

「俺の存在が目障りと思う人物…?」

 

そうすると、目の前の男が左手を俺に差し出してくる。

 

「握れ。」

「握ってどうするんだ…まさか、記憶を直すと?」

「大体合っている。お前にある呪いを打ち消し、記憶を掘り出す。一瞬であらゆる事がフラッシュバックのように襲いかかる。最悪、後遺症が残る可能性がある。だが、さっきも言った通り、このままではお前は一生記憶をなくしたままになる。それも、日が進むにつれ記憶は無くなっていく。」

 

確かに、一生記憶を失っているのも…自分が誰なのか分からないまま死ぬのも、正直言って負に終えない。しかも、男の話の通りであれば、俺は日に日に記憶を失う事になるらしい。そいつだけは勘弁だ…。俺は男の左手を握る事にした。

 

「…いいんだな?」

「ああ、構わねぇ…。それに、アンタなら問題なく出来るんだろ?」

 

そうして、男は右手を眉間辺りに当てて何かを念じるように構える。

 

「…!?あ…ぐ…ぅ…!!」

 

まるで、フラッシュバックの如く俺の脳内に情報が流れてくる感覚になる。ある女性と冒険していた記憶。ある町で男と出会った記憶。そして…。

 

「うぅ…はぁ…はぁ…俺は…。」

 

余りにも急激な事で脳が追い付いていない感覚に陥り、崩れてしまう。俺は…俺の名は…ジン…。そうだ…俺は…。

 

「お互い、死んでも失うものはない。だが、お前には未来があり、それを切り開く道標にもなる。…頼んだぞ、ジン。彼女等の手助けをしてくれ…。」

 

その言葉を聞き終えると同時に、俺の意識は遠のいていく…。一体、お前は…何を隠しているんだ…。

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

…記憶が蘇るの早くね?っと思う人もいるかと思いますが、自分が知っているアニメでは、ある1話の中盤で記憶を失い、次の話の前半で蘇るというのを見ているので、ありかなとは思っております。


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Scene43 救助劇~GreenLittleSister~

 

【リーンボックス:教会】

 

「………。」

 

目を覚ますと、長椅子に寝転がっている俺がいる。上体を起こし周囲を見渡すと、教会のような場所にいるのが分かる。外はまだ明るいのだが、教会には人一人いない状況だ。…兎に角、今までの事を整理しよう。

 

リーンボックス行きの飛空艇で、リーンボックスに着いた途端に爆発が起こり、それと同時に何者かに捕まれて何かをされた…。その間の記憶が妙にうろ覚えだが、謎の空間で会ったアイツによって、今の所救われたに近い。

 

「…犯罪組織相手に借りを作られるとはな。笑えねぇぜ。」

 

そんな事を思いつつ、体を弄っている…愛用の鞭とサブウェポンのサイドバッグ、左手に付けていた籠手が無い。後ろの長椅子を見ると、俺が持っていた諸々の荷物が置いてあった。それと、右手用の白い長手袋、見覚えのない携帯端末、その横にSDカードある。良く見ると、その携帯は“マジコン”に似ている。だが、肝心な籠手が見当たらない…。

 

「まさか、アイツに取られたか?…戦う理由が出来たって訳か。」

 

とりあえず、サイドバッグを取ろうと考え、手を伸ばして右手が視野に入った時だった。

 

「なんだ…この模様は…!?」

 

右手に紋章のようなものが刻まれており、思わず長袖を捲り上げる。模様は肘まで伸びている。模様は掌にもあり、これが呪いなのか?と一瞬思ってしまう。しかし、良く見ると模様は“ゲイム語”のような模様もある。そしてご都合がいいように、マジコンのような携帯機がバイブレーションモードのように震えている。画面には“メッセージ有”と表示されている。普通ならまず取らねぇだろうが、俺はどういう訳か、そのメッセージを見なければならないという使命感に駆られていた。…その前に、誰かが来た時にこの手を見られないよう、置いてあった手袋を身に付けてからメッセージを見る。

 

「ん?日本語?」

 

そのメッセージの内容に使われていた文字は、ゲイム語でなく日本語だった。まるで、俺にだけ伝えたいのか…それともスミレに伝えたいのか…。兎に角メッセージを読んでみなければ分からねぇ。

 

【親愛なるジンへ】

 

これを読んでいるなら、記憶が戻ったという事を前提に話を進める。

右腕を見て違和感がある事は気付いているだろう。お前は、悪魔の契約(ディアボロス・アグレメント)の“封”を受けていた。嘗て、リーンボックスの女神候補生が受けていた“操”とは別物だが、呪印としては同じ部類だと分かっている。呪印を解くには、膨大なシェアエナジー又は強靭な精神力が必要だ。だが、女神なら兎も角常人が受けてしまった場合は、この呪印に打ち勝つのはほぼ不可能と言っていい。後者は耐えているだけであって、根本的に解決とはなっていない。現実的でない上に、呪印の束縛に負けてしまうのは時間の問題となる。人々の闇はそれほど根強い。しかし、研究の末に一つだけゲイムギョウ界の物で打開策を見出した。その呪術を打ち消すにあたり、お前の右手に術式“ハードグリフ”を施した。ゲイムギョウ界の魔術の一つで“ルーン文字”のような物と言っていい。その力は大戦時に使われていた魔術の一つで、印を描く事で様々な術式を放つ事が出来る。魔導器があれば、他の魔法も扱える。詳しくは、置いてあるSDカードをこの端末に差して調べてくれ。

 

 

このメッセージから、残した相手が誰なのか察する事が出来る。そして、長い改行の最後に“お前に、女神救出という重荷を背負わせてしまって悪いとは思うが、女神候補生と共に女神達を救ってくれ。…俺は、俺のやり方で、ゲイムギョウ界を救う。若し、俺のやり方気に入らないのなら、俺を殺してみろ。”と書いてあった。

 

「獨斗…ゲイムギョウ界を救うって、犯罪組織に手を染めているじゃねぇか…。」

 

既に俺の中じゃ“ハーミット=獨斗”という方程式が完成している。犯罪組織内部から崩していくというのならまだ分かるが、今までの行動からして犯罪組織の手助けをしているようにも見えてしまう。だからこそ、何をしたいのかが全く見えてこない。それに、不思議なのは、行動をしている自らを殺めてみろとも書いてある。“止めてみろ”や“倒してみろ”なら分かるが、殺してみろ…物騒じゃねぇかよ。俺は立ち上がり、持っている端末に置いてあったSDカードを、端末に付けて中を見る。中身はハードグリフに関する資料が載ってある。どうやら、ハードグリフ自体は、俺が知っているゲームに登場したのと同じらしい。古の籠手の封印球が4つ揃った時、この籠手はプロセッサユニットの鍵となるらしく、その鍵を解除すると籠手は無くなると、ゲイムキャラから聞いている。魔法のようなのが使えなくなる俺にとっては有難いプレゼントだ。今の所使えるのは、“フルスタ()”、“ラーマ()”、“ルーチェ()”の3種類…左手に愛用の鞭、右手にフルスタで両手に鞭という戦法も出来そうだ。

 

 

 

ガチャリ―――――

 

 

 

そんな事を考えていると、教会入り口の扉が開き誰かが入ってくる。

 

「ジンさん…!?」

 

入って来たのは、女神候補生のスミレ、特命課のケイブさん。そして、ネプギア達も一緒にいた。

 

「随分と賑やかじゃねぇか…何処で落ち合ったんだ、スミレ。」

 

そう俺が言うと、スミレが俺に向かって走り出し、急に抱き着いてきた。

 

「おお…!?な、なんだ…!」

「良かった…僕の知ってるジンさんだ…!」

「…何言ってんだ。記憶がなくたって、俺は俺だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、感動の再開みたいな事をしたのはいいが、その後アイエフにこっ酷く怒られました上に正座させられてます。ネプギア達は、ユニの手配によって修理中の船を直し、無償でリーンボックスまで来たと言う。そして、情緒不安定な教祖のチカさんに話を聞き、クエストの最中にスミレとケイブさんに会い、俺の事を伝えたそうだ。まぁ普通何も伝えず飛び出した上に、記憶喪失みたいなのになっていたのだから、そら怒られるわな常識的に考えて…と、思いきや、怒られる理由は更に有った。

 

「…は?1日行方不明だった?」

「そうよ。リーンボックス中を探したのよ。」

 

それで、スミレがあんな行動に出てきたのか。因みに、あの後更に日本一からも抱き着かれてめっちゃ苦しかった…。

 

とりあえず、俺が行方不明になっていた間の件を話しつつ、ネプギア達の行動聞く。なんでも、リーンボックス中を探してた最中に、5pb.のライブに下っ端ことリンダが現れたと言う。妨害は阻止したものの逃げられたらしく。その夜に教会に戻っても教祖はいなかったと言う。それから翌日の朝に俺を探してたところ、ルウィーのロムとラム、保護者として同行しているブロッコリーと会ったり、ユニと同行している日本一と会い、教祖のチカが怪しいから手伝ってほしいと言い今に至ると言う。俺が居ない間にも結構な事があったんだな…。

 

「それにしても、教祖が居ないんじゃ、調べようがないわね。」

「うん…そうだね…。」

 

確かに、偽物かどうかを見極める為に来たのに、肝心な本人が居ないから、どうしようもない積み状態とも言える。…この際だ、下っ端の愚痴でも言ってみるか…何となく。

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

「ま、まさか、女神候補生が2人もいるなんて…それに、リーンボックスにも女神候補生が居るなんて聞いてねぇぞ…。」

 

絶賛、裏方で表を覗いている人物が一人いる。教祖チカに変装したリンダである。今日も今日とて、この格好でいなきゃいけねぇのかと愚痴を言っていたら、長椅子に寝ているジンを見て驚き、更に起きた為に思わず隠れてしまったのだった。そして、暫く様子見をしており、不意打ちでも仕掛けようと企てていたが、女神一行が来てしまい出ようにも出れない状況になってしまった。

 

「くっそ…どうして今日はこんなついてねぇんだよ。」

 

チラチラと、ネプギア達を影から覗き見して様子を伺っている。

 

「しかし、あの下っ端というバカは、よくも諦めずに俺達に挑んでくるな。一体何処に勝機を見出しているんだ?」

「…あ?」

 

突如、ジンが自分の事を馬鹿にするかのように口を開く。その暴言とも言える愚痴は鳴りやまない。

 

「プラネテューヌでは二度も負けてるんだよなアイツ。なぁ、ネプギア。」

「ふぇ?あ、は、はい。」

「ユニは、下っ端と戦ったことはあるのか?」

「え?あ~…まぁ、うん。」

 

「…あーーー!聞いていりゃアタイの事馬鹿にしやがって!それにラステイションの話は捏造だろうが!!」

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

『あ…。』

 

…愚痴を零してたら案の定出てきたよ、下っ端さんが。しかも、教祖のチカの恰好のまま出てきたからボロ出しすぎて、逆に笑えてくる。

 

「どうして、最初に会った時分からなかったんだろ私…諜報部失格だわ…。」

「クソっアタイの馬鹿!なんで出てきちまうんだよ!!」

「チカ姉さんじゃない…!」

「…本当にすり替わってたのね。貴女、本物のチカ何処にやったの!」

 

ケイブさんが、教祖チカを演じていたリンダに武器を構え、本当のチカさんが何処にいるか聞き出そうとする。

 

「ケっ!教える訳ねぇだろ!バレちゃしょうがねぇし、ノルマは果たしたんだ。ここはトンズラこかせてもらうぜぇ!」

 

そう言いつつ、来ていた服と変装を捨てて教会の裏口から出ていく。

 

「ああ!また逃げたぁ!!」

「逃げ足だけは一級品だな。」

「関心している場合じゃないわ。追いかけましょう。何としてもチカの居場所を聞き出さないと…。」

 

そして俺達は、下っ端を追いかける事になった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【リーンボックス:アンダーインヴァース】

 

リーンボックスの南にある山岳地帯の中にある施設。話によれば、嘗ては熱帯地帯という事もあり、溶岩の熱をエネルギーに転換して使っていたのだが、現在は犯罪組織の件もあり、施設自体は直せばまだ使えるものの、炎系モンスターの住処と化している。突然の行動だった溜に、ユニと日本一は出遅れて付いて来れてなく、この場にはいない。ここに逃げ込んだのは見えたものの、入り口付近には見当たらねぇ。

 

「いない…。何処に行ったんだろ。」

「もー!下っ端の癖にすばしっこい!」

「もう見失ったのか…。」

「大丈夫よ。この施設は一本道だから、追いかければ必ず追いつくわ。」

 

ケイブさんの言う事が正しければ、このまま道を辿ればリンダの元まで行けるようだ。俺達は道なりに進む。そして、天井の高い施設と、右に溶岩の間が見える所に出てくる。

 

そんな時だった。

 

べちゃぁ―――――

 

『!?』

「ヌラー。」

「スライヌ…?」

 

突如上からスライヌが一体降ってきたように地面に落ちてくる。俺も含め全員が上を見上げる。

 

「ヌララー。」

「ヌラララー。」

「す、凄い数ですぅ!」

「天井にビッシリといやがる…。」

「まずいわね…いくらスライヌでもこの数相手は、数年前の二の前になるわ。」

「ヌラ!」「ヌララ!」「ヌラララ!」

「やっべぇ…!」

「わぁ!!」

 

そのスライヌの声を聞いた瞬間、俺は近くに居たスミレの手を無理矢理掴んで走っていた。このイベントの存在自体は分かっていたし、落ちてきた時点で察したが…こんな行動して、他が遅れると…

 

「うわぁ!何なのよ此奴等!服にへばり付いて!」

「ふぇええ、服がべちょべちょに…。」

「あははは!や、やめ…そこくすぐった…あははは!」

「く…!何という屈辱的攻撃…!」

「わぁ!そ、そんな所入ってきちゃだめぇ!」

 

後ろを振り向くと、そこは祝h…大惨事な光景になっていた。

 

「見ちゃダメ!!」

「おう!!」

 

スミレに感謝されるかと思ったら、目を隠されるように手を覆い被さってくる。…目つぶしじゃないだけマシか。

 

「スミレ…!先に奥まで行って頂戴!」

「ひ、一人で行かせるつもりですか…!」

 

スミレがネプギア達を助けようと寄ろうとした時、ケイブさんがリンダを追えと言うのだった。当然アイエフは反対のようだ。

 

「ここで犯罪組織の構成員を見失うわけにはいかないわ…!ジン、スミレの事を頼むわ…!」

「お、俺…!?」

「で、でも…。」

「大丈夫、私達がここでやられはしないわ…!さぁ、行って…!」

「…行くぞ、スミレ。」

「え、ちょっと…!」

 

多分、ケイブさんのお墨付きだから、アイエフに叱られる事はないだろう。一本道を辿るように、モンスターを捌きながら奥へと進んでいく。

 

「何だかあそこだけ光ってる?」

「行くしかねぇな。」

 

暫く先へ進むと、何やら四角い青白く光る空間のようなのが見える。近づいてみると、ぼやけて中が見えないが、誰かが居るのが分かる。「何、これ…。」とスミレが言うが、俺もこれを見るのは初めてだ。足下当たりに落ちている小石を、その結界のような所の端っこへ投げてみる。

 

「…おう…。」

「石の動きが、遅くなってる…?」

 

投げ入れた小石は、まるでスローモーになっているかのように、ゆっくりと動いている。少なくとも、中に入ったら何か攻撃を受けるような事は無いのだろう。

 

「まさか、入るの?」

「少なくとも、直ぐ死ぬ事はねぇだろう。中に人が居るかもしれねぇし。」

「それは、そうだけど…。」

「俺は一人でも入るぜ。」

 

一瞬スミレが“むっ”となったが、一緒に入ることとなる。中に入ると、予想通り肉体的、精神的なダメージはない。更に、自分たちの動きもスローモーのようになる。そして、空間内に入ることで、中に居た人物がはっきりと分かる。

 

「ち、チカさんだ…!」「チカ姉さん…!!」

 

その空間内に倒れていたのは、紛れもなくリーンボックスの教祖である“箱崎チカ”だった。何でこんな空間内にいるのか分からないが、極限に襲い動きでチカさんを空間外へ運び出す。空間外へチカさんを運ぶと、その青白い空間が消えて無くなった。どうやら、中に人か何かがいないと自動的に消えてしまう仕組みらしい。

 

「チカ姉さん、しっかりして!」

「…うぅん…。」

「ふぅ…生きているな。」

「う…す、スミレ…?貴女…なの…?」

「うん、僕だよ…!本物のチカ姉さん…だよね…?」

「恐らくそうだろ。偽物がこんな中に入る訳がねぇ。」

 

しかし、次の瞬間チカさんがスミレの支えからがっくりと倒れ込む。

 

「ち、チカ姉さん…!」

「うぅん…御免なさい。アタクシはもうダメ…。ああ…最後にもう一度、ベールお姉様にお会いしたかった…。」

「そんな、ダメだよ!折角、希望が見えたのに…。」

 

 

 

 

 

「スミレをからかうのはその辺にしときなさい、チカ。」

 

こんな状況の中、後ろから声が聞こえ振り向くと、ケイブさんや、ネプギア達がそこにいた。何やらヌメヌメしているが…。

 

「え…そうなの、チカ姉さん…?」

「ひ、ひどい…。アタクシ、本当に死にかけて…うぅ…チラ…。」

 

誰がどう見ても、自演にしか見えない形で此方をチラチラと見ている。それを見たコンパが診察するように見定める。

 

「うん…確かに死にそうって感じはしないわね。」

「そーだね。まだ何処かぴんぴんしてる感じがするよ?」

「…チカさんらしいっちゃそうかもな。」

「でも、体の方は本当に弱ってるです。安静に出来る場所に運んだ方がいいです。」

「ええ、一度教会に戻りましょう。」

 

スミレ以外には完全に見破られているようで、俺も既に察していた。

 

「…もう、つれないんだから…。」

「…はぁ…もう、チカ姉さん…。」

 

観念したのか、チカさんはスミレの支えはあるのものの、立ち上がりダンジョンから出て教会に戻る事になった。

 

 

 

 

 

 





ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


これで、今年最後の投稿となります。
来年も変わらず読んで頂けて、尚且つ面白く出来るように精進していきたい所ですので、また読んで頂けるよう宜しくお願い致します。


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Scene44 激突~BeforePreviousRound~

明けましておめでとう御座います。いや、明けましたか\(^o^)/
ここに来て、どういう展開に持ち込むか行き詰まっております…。


 

 

「どうした…あと1分で約束の30分が経過するぞ。」

「はぁ…はぁ…お黙り…!」

 

ある場所で、教祖の箱崎チカがフードとマスクを被っている人物、ハーミットに戦いを挑んでいた。相手が犯罪組織の一員と分かっているからこそ、熱くなる理由にはならないが―――――

 

「30分、私は一切の攻撃をしない。その間に一撃でも与えてみろ。達すれば知っている情報を話す。」

 

戦闘前にこのようなことを言われ、明らかに条件としてはチカの方が有利と思える。しかし、蓋を開けば攻撃を当てるどころか、受け流しもすることなく掠ることもできていない状態である。当たったとしても、相手のロングコートの下半身部分だけであり、肉体へは当てることが出来ていない。同時に焦りもある。30分経過後の、ハーミットからの攻撃が未知数であり、ハーミットの部下と思われる、フードを被った女と二足歩行のネズミが奥地へ向かって行った事。その二人はリーンボックスのゲイムキャラを既に持っていたのだ。長期戦になれば、此方が不利になるのも見えているうえに、ゲイムキャラに何を仕出かすかも分からない。

 

「でしたら、お姉さまから授かった奥義で、貴方に一撃を当てる…いえ、倒しますわ…!」

 

そう言うと、持っている槍を扇風機の如く片手で回転させ、槍を敵に向かって振り回す。

 

「(むっ…早い…。)」

 

大振りに見えるが、実にコンパクトで且つ最短距離で次々と槍の薙ぎ払いと高速突きを繰り出す。故に、ハーミットは短剣を取り出し受け流しを使わざるを得ない状況になった。

 

「見えましたわ…!!」

「クっ…!!」

 

高速に振り上げられた槍が、ハーミットの持っている短剣を上空へ吹き飛ばす。

 

「勝機…魂ごと吹き飛びなさい!!」

 

チカは、自身の槍に魔力を注ぎ込み、その槍をハーミットに向けて投げる。並大抵の相手なら一撃で葬れる程の威力を持っているその槍は、ハーミットの身構えた右手の平に当たる。

 

「…見事だ…これは流石に命の危険を感じた。」

「そんな…!!」

 

当たった瞬間、チカは一撃を与えたと安堵したが、その安堵は一瞬にして不安へと変わる。普通であれば腕ごと貫いているはずの槍が、ハーミットの握り拳の背中部分で止まっている。槍の勢いで手袋が散りとなり、現れたその腕にも驚く。模様のようなものが青白く光り、まるで龍や悪魔の手とも思える右腕を確認する。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【リーンボックス:協会】

 

「そう…貴女にはそんなことがあったのね。」

「その後は、あなた達が見つけ出した通りよ。」

 

一度、本物の教祖である、箱崎チカさんを協会に戻ってきた俺達は、あの場所で何があったかをチカさんから情報交換ということで聞くことにした。まさか、ハーミット…獨斗がそこまでするなんて、とでもじゃねぇが信じられねぇ。本来であれば、数日前にリーンボックスから連絡を入れて呼ぶ予定だったが、拉致られてしまい本人からの伝達はできなかったと言う。ある意味、イストワール様に連絡が入ってこっちに依頼が来たのは奇跡的に近いとか。とは言え、スミレからSOSが来ていなくても、ゲイムキャラを探すためにリーンボックスには必然的に向かわなければならなかったし、ここに来るのが早くなっただけにすぎねぇ。…しかし、一点気になるところがある。ギョウカイ墓場の情報を持っているのに、一向にギョウカイ墓場で何があったか教えろとチカさんが言ってこない。

 

「なるほどね…それじゃあ、こっちは他の教祖同様、ギョウカイ墓場のことを話しといた方がいいわね。」

「あ、はい。えっと…。」

 

チカからの情報をある程度聞いた後、ゲイムキャラの居場所を聞く前に、アイエフがギョウカイ墓場のことを言った方がいいと判断し、ネプギアがそのことを話そうとする。

 

「その必要はないわ。…恐らく、最新の情報よ。」

 

予想外の返答だった。まさか情報を知っているというのだ。あくまで出回っている情報は、ネプギアが救出できたことのみ。それはプラネテューヌで聞いた時と、今まで訪れた際に話した教祖達のみが知っている情報…それを知っているというのだ。しかも、現段階での情報を事細かく話してくれる。

 

「…チカ、その情報はどこから出てきたのかしら。」

「犯罪組織のハーミット…いえ、獨斗永守からよ。」

『なんだって…!?』

 

遂にハーミット自ら正体を明かしたと言う。正体を隠し通せなくなったか、または正体を隠す気がなくなったかは定かではねぇが、明かした上で数日前のギョウカイ墓場で捕まっている四女神の状態を言ったという。写真も見せられ、100%信用は出来ないが戻ってこない以上信じるしかないとか…。

 

「…以上が、あなた達に見つかる前にあった出来事よ。正直、アタクシも彼が犯罪組織側にいるなんて想像もつかなかったわ。5pb.の売り上げ事件や、ズーネ地区の件ではそんな人には見えなかったのだけど…。」

 

やはりというべきか、今までの獨斗の活躍を聞く限り、犯罪組織側に寝返る要素が見当たらない。人は見かけによらないとも言えるが、俺の訓練に付き合ったり、四カ国の職員からの信頼も厚かったのにだ。こればかりは本人に聞くしかねぇが、口が堅いのも承知の上だ。

 

「それは兎も角、一刻も早く下っ端を見つけなければならないわね。リーンボックスのゲイムキャラを持っているなら尚更ね。」

「でも、どうやって見つけるです?」

「地道に情報収集…?」

「その必要はないわ。戻ってきて早々悪いけど、アンダーインヴァースに向かってくれるかしら。アタクシが捕まる前から、そこに関係者以外が出入りしているっていう情報があったわ。そうよね、スミレ、ケイブ。」

「うん、間違いないよ。昨日も関係者以外が立ち入りしたって情報が入ってる。」

「しかも、チカが言ったフードの女とネズミもそこに立ち入ったという情報が入ってるわ。」

 

どうやら、既にどこに潜んでいるかというのは大体割り出しているようだ。

 

「でも、ゲイムキャラを壊したところで、こっちには治す方法があるから、壊したところで無意味だよね?」

「まぁ、確かにそうね…。それに、教祖の言ったのが正しければ、まだ壊されてない。」

「でも、どうして今回はすぐに壊さなかったんです?」

「そこまでは、アタクシにも分からないわ。ただ、良い報告として受け入れることは出来ないのは確かよ。」

「…他に使い道がるってことか…。」

 

まぁ良いニュースと悪いニュースがごっちゃまぜになった状態だな。壊れてないから、治す手間は省けるが、逆に今度は何をしてくるかという不安がある。

 

「まだ道はあったよな。その方向に行く必要があるってことだな。」

「ええ、お願いするわ。」

「それで、そっちから協力は何かある?」

「申し訳ないけど、スミレが頑張ってくれたから最悪の事態は免れてはいるけど、支援する程の物資は今のところ提供は出来ないわ。だから、リーンボックスからは、スミレをあなた達の冒険に派遣するわ。」

「だ、大丈夫なの?」

「大丈夫だからの判断よ。お姉様の為にも貴女の力を奮いなさい。

「…分かった、チカ姉さん。行ってくるよ…!」

「頼むわよ。それからケイブ、確か話によれば、リーンボックスに他の女神候補生もいるのよね?」

「ええ、そっちに向かう前にはラステイションの女神候補生。昨日はルウィーの女神候補生もいたわ。」

「なら、彼女達にも協力を促すようお願いするわ。」

「分かったわ。」

 

…まるでラスボスに行く前の会議をしているような雰囲気だな。その指示に圧巻してこっちは口出しできない状態でいる。だが、これはこれで話が早く済みそうだ。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

【リーンボックス:アンダーインヴァース】

 

俺達は再び、アンダーインヴァースへ向かった。こちらに襲い掛かってくるモンスターを蹴散らしつつ、奥へ奥へと向かう。教祖のチカを助け出した場所から更に先へ進む。

 

「…正体がバレた上に、教祖まで取り返された…相変わらず使えないっちゅね。」

「っるせぇ!アタイは変装するなんてガラじゃねぇんだよ!」

 

聞き覚えのある声がし、顔を見合わせ、こっちからしたという感じで声のした方へ向かう。そこには、確かにリンダとワレチューが居た。話を聞いていると、どうやら上司からゲイムキャラの破壊を禁じられているらしい。だが、一番合わなければならない奴はそこにはいない。

 

「(…ゲイムキャラに、何か仕出かす前に止めに行った方がいいわね。行くわよ。)」

 

アイエフの指示に全員が一致し、一人と一匹の前に出ていく。

 

「そこまでよ!」

「おわっ!またテメぇ等か!!どうしてここに居やがる!!」

「ああっコンパちゃん!そっちから会いに来るなんて…感激っちゅ!」

「デメェの頭の中はお花畑か!おい、なんでここが分かったんだ!」

「あなた達がここに出入りしているという情報が、前々からこっちに入ってたのよ。」

「それだけ大声で話し合ってるなら、探す手間が省けるってものよ。」

「くっ…足跡消しは完ぺきだったはずなのに…。」

 

いつもの犯罪組織二人がそこにいる。だが、その二人はゲイムキャラを持っていない。しかし、小手が反応している以上近くにいるのは分かっている。恐らく奴がいる…。

 

「出てこいハーミット!…いや、獨斗…いるのは分かっている!!」

 

突然俺がそう叫んだ為、全員が驚いてしまうが、さらに驚くべきことが起きる。岩陰からハーミットこと獨斗が出てきたからだ。しかも、左手にゲイムキャラを持っているのだった。

 

『…!?永守(さん)…。』

「やはり、来たか…。」

「やっと…追い詰めたぞ、獨斗。」

「追い詰めた…?違うな。俺がここに来るように誘き寄せたんだ…。」

「な!じゃあテメェがこいつらに情報を漏らしたのか!!」

「漏らさなくても何れはバレる。奴らの情報網はそれ程のものだ。それが少し早くなっただけに過ぎない。」

「あれが…獨斗永守…?」

「…信じられない…あの人が…。」

 

REDとスミレがそういうのも分からなくない。確かに、奴から闇の力的なのが溢れている感じがするが、嘗ては俺達側にいた人物なのだから…。それと、正体を隠す気はないようだが、未だにマスクはしている。

 

「永守さん、ゲイムキャラさんを返してほしいです!」

「ああ…コンパちゃんの為なら、返すっちゅ!いくらでも、今すぐ返すっちゅ!」

「…持っているのは俺だが…。」

「馬鹿言ってんじゃねぇよ、この発情ネズミがっ!はいそーですかって事で渡す訳ねぇだろが!そーだろ?」

 

だが、次の瞬間驚くべき行動を目にする。なんと、獨斗がゲイムキャラをこっちの頭上あたりに投げてきたのだ。

 

「な…!!」「ああ…!!」

 

ゲイムキャラは、ネプギアの1、2歩あたりに落下するように落ちていく(何故かリンダが驚いている…打合せしてねぇのか?)。それと同時に、俺の足も動いていたが、一番近くにいたREDとスミレの方が早くネプギアの前に立っていた。何故なら…。

 

「わぁ!!」

「危なかった…。まさかゲイムキャラを釣りに使うなんて。」

「もー!なんでこんなことするのかな!!」

 

ネプギアの前に立っている二人の前には、あの円月輪のように使っていた帽子が落ちていた。むしろ、ネプギアに対して強烈な殺気を出していたからか、アイエフもネプギアの前に立とうと動いていた。ゲイムキャラはネプギアがしっかりキャッチしている。

 

「永守…!アンタ、自分が何したか分かってるの!!」

「犯罪組織として、女神を殺す…。当たり前のことだ。」

 

殺す…。獨斗を知っている人物からしたら信じられない言葉だ。奴は、倒すとは言うが、殺すとかは早々言わない人物だ。だが、今のアイツは平然と殺害予告をしてきた。

 

「殺すって、アンタって奴は…!」

「おいおいおいおいおい!てゆーか、なんでゲイムキャラ返してんだよ!!」

「女神が来たら、返す指示っちゅよ?」

「はぁっ!?聞いてねーぞ!!」

「聞いてないのが悪いっちゅ。だから下っ端って言われるっちゅ。」

「ああ…聞いてねぇアタイが悪いかもしんねえが、テメェに言われると二割増しムカつくぜ…。」

 

どうやら、俺達が来たら元からゲイムキャラを渡す予定だったようだ。だが、それを釣り餌に使ってくるのは予想外だったのは確かだ。

 

「あの、大丈夫ですか?痛いこととか…されてませんか?」

≪はい、私は平気です。有難う御座いました、女神候補生。≫

「わ、私のこと知ってるんですか?」

≪貴女の中から、他のゲイムキャラがいるのを感じます。それに…。≫

 

パチンッ

そんな指を鳴らすような音が聞こえる。音のした方を見ると、獨斗が指パッチンをしていたのが分かる。それと同時に、後ろから走ってくる音がする。軍のような迷彩柄服にフルフェイスマスク…まるでゲ〇ム兵のような奴らが20、30人と来た道を阻むよう銃を向けてくる。

 

「テメェ等、勝手に話進めてんじゃねぇぞ!タダで帰すと思ってんのか?」

「そんな訳ないよ!最初っからボッコボコにするつもりだもん!」

「チカを誘拐した上に騙して、そしてリーンボックスをめちゃくちゃにした…。少々好き勝手やり過ぎたのだから、覚悟して貰うわよ。」

「二人とも、凄い闘志ですぅ。」

「まぁ、これだけやらかしたら、もっと痛い目見ないとダメそうね。」

 

一応、その考えには同感だ。とは言え、獨斗は奴らに賛同しているのかが分からない。

 

「すまねぇが、奴は俺に遣らせてくれ。」

「…勝算はあるの?」

「奴には借りがある。」

「まぁいいわ。その代わり、あの下っ端とネズミが片付いたら加担するわよ。」

「ああ。」

 

アイエフとそう交わしつつ、ネプギア達と下っ端事リンダの6対2、そして、3年前の特訓での付き合いや模擬戦では、一度も勝ったことのない獨斗との1対1で挑む。

 

「一人で挑む気か。」

「できれば、アンタとは戦いたくねぇが、一つだけ教えてくれねぇか。何故、女神を裏切るような…犯罪組織に居やがる。」

「…当ててみな。南の国に招待するぞ。」

 

どうやら、答えるつもりはないようだ。ま、端から分かってたこどだがな。

 

「ハーミット様、援護します!」

「銃を下ろして下がっていろ。お前達は邪魔をするな。向こうにだ。」

「しかし…!!」

「向こうはサシで勝負する気でいる。ならば、それに答えるまでだ。」

 

これ程、奴が有利な条件を下ろしていく。有難いが、自ら不利になるような状況に追い込んでいるのか?さっぱり分からねぇ。まぁ、こっちとしては有難ぇ事だ。そして、ガンマンが撃ち合いの決闘をするかの如く、お互いに立ち会い武器を身構える。向こうは、SAAと変身後にしか出せないはずの影剣を携えている。

 

 

 

 

「行くぞ!」「来い…!」

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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Scene45 激突~AfterPreviousRound~

 

 

掛け声と共に、走り出すジンと獨斗永守ことハーミット。互いの武器を持ち、すれ違うように武器を振り、金属音が鳴り響く。

 

「ひゅうっ!アンタのそれに耐えられるだけの強度はあるな、この紋章剣は…。」

「何故、鞭で攻撃しない。」

「アンタだって、短剣じゃねぇしな。それに、俺だって演技の為に剣道やってたんだ。ま、挨拶代りのようなもんだ。ここから、全てをアンタにぶつける。」

 

ジンはそう言い、右手に何時もの鞭を持ち、左手に手投剣を持つ。それを見たハーミットは、影剣を短剣風に変え、SAAを左手に握りなおす。

 

ジンは、手投剣三本の同時投げを仕掛け、永守の方へ飛んでいく。それをひらりと交わし永守は銃を撃つ。それを予測していたジンは屈みこむ。そして、無助走から急加速スライディングをする。その攻撃を予測してはいないものの、人間離れした反射神経により、ハーミットは前宙で回避する。互いに体制を戻した後、互いにフックを放ち腕と腕が衝突、更に互いの短剣を振り下ろし、互いにそれを鷲掴みする。

 

「やるな…この短期間で、ここまでやれるとはな。」

「アンタこそ、なんで今のが避けれるんだよ畜生め。そもそも半分ぐれぇはアンタが細工したんだろ。」

「………。」

 

ハーミットが黙り込んだ瞬間、握られている短剣を思いっきり引き抜き、そのまま前蹴りをし腹部分に命中する。その勢いでハーミットは少し後退する。

 

「ハーミット様っ!!」

「援護しますっ!!」

「!?」

 

犯罪組織の部下がジンに向けて持っている突撃銃を構え、狙いを定めている。

 

「手を出すなといったはずだ…。」

「う…しかし…。」

「そーだぜ、なんで手ぇ出させねぇんだよ!」

 

隣から余裕そうなリンダの声がし、ジンがそっちを見る。女神化したネプギア、スミレがいるにも関わらず、ネプギア達はリンダとワレチューに苦戦している。

 

「おいおいおいおい!何で下っ端があんな強ーんだよ!」

「コイツ等、ゲイムキャラの力を取り入れたのよ…!」

「なん…だ…と…!?」

 

リンダとワレチューは、ただ単に敗北や捜索をしていた訳ではなかった。本来であれば、女神や選ばれし者のみが取り入れられるゲイムキャラの力。それを自分達にも使えるように改良を施し取り入れている。

 

「向こうがサシで勝負を挑んでいる。俺もサシで勝負する事を望んでいる。お前も、手出しなしで勝ちたいだろう。」

「まぁ、それもそーだな!」

 

ネプギア側の戦闘が再び再開される。それでも、押され気味になっているのに変わりはない。

 

「…アンタも、取り入れてんのか?」

「…相性が悪く使い物にならない。だが、なくても十分だ。」

 

ハーミットが銃を閉まって拳と拳をブツケルと、両手に炎が燃え上がる。

 

「何故だ、何故そこまでして犯罪組織に手を貸しやがる!」

「世界を救う為だ…。この世は所詮、力が全てだった。そして今、この世界を制するのは目に見えて分かる。」

「世界を…救う…?何馬鹿な事言ってやがる。力で制するなんて間違ってるぜ!」

「正しくても、価値の無いものがある。間違っていても、価値はある。俺の心は今こう叫んでいる。もっと、力を…。」

 

そういいつつハーミットは右手を出し、握り拳を作っている。なんだこの違和感は…確かに目の前にいるのは獨斗に間違いない。だが、まるで獨斗自身が叫んでいるのかが分からない。

 

「…アンタ、そりゃ間違ってるぜ。その間違った考え、俺がぶち壊し―――――なっ!!」

 

言いたいことが山程あるのだが、ハーミットは会話を中断するかのように、猛スピードで飛び掛かってくる。それに反射するように身構えるも、既に拳は顔面の前に来ていた。

 

「あっつ!!」

 

だが、直ぐ様首を去なし、辛うじて耳を掠る程度で難を逃れる。しかし、直ぐに右拳によるアッパーを受けてしまう。天井にぶつかる前に足を天井につけ、体制を整えハーミットに特攻する。

 

「ぬうぁあああ!」

「とぅぁあ…!」

 

互いに空中で殴り合いを始める。

 

「ハーミット様も強いが、あの男もやる…。」

「お、落ちながら戦っている。」

 

犯罪組織の部下達は、女神とリンダ達の戦いを見つつも、ジンとハーミットの戦いを見ている。部下の一人が言うように、周りから見れば落ちながら戦っているようにも見える。互いに交わしながら殴り合い、アッパーで空中に浮かばせたあと、飛び上がり空中で殴り合いをまたしても始める。

 

「遅い…!!」

「ぐあっ…!」

 

その殴り合いを先に制したのはハーミットで、ジンは地面に叩きつけられる。

 

「な、なんだ…戦いづれぇ…。」

「勝てると、思っているのか?」

「まだだ…この手が、足が動く限り、抗ってやる。」

 

ジンは立ち上がり、鞭を構える動作に入る。それを見たハーミットも身構える。ジンは戦っている最中に気付いている。戦っている最中に、ハーミットは状況によって戦闘スタイルを変えている。よくある空手のような型と思えば、ダンサーのような舞のモーションといった予測不可能な攻撃をしてくる。それも、まだ手合わせしたことのない型ということもあり、非常に戦いにくい状態である。それでも、ジンは持っている鞭と、紋章による鞭を振り続け攻撃を仕掛けるが、ハーミットによる双影剣や受け流しで防がれてしまう。接近されては格闘で勝負を仕掛ける。互いに蹴りや殴りをするも、ハーミットの方が技術的にも優勢であり、互いに数発ずつ受けているものの、手数では圧倒的に負けている。

 

「あぁ…!!」

「す、スミレ、ネプギア…!!」

 

リンダの攻撃を受けて吹き飛んできたネプギアとスミレに、ジンは思わずそっちに目が行ってしまった。もう一方の戦いを見て、一方的な戦いにはなっていないものの、アイエフとREDはボロボロになっており、ネプギアとスミレも立ち上がるも、不利になっているのが目に見えて分かる。…この一瞬の隙を、ハーミットは見逃さなかった。

 

「しま…くぁ!!」

 

ジンは、ハーミットの方へ視線を戻すと、こっちに向かって影剣が投げられる。それを弾く為に鞭による振り上げを放つ。だが…

 

「(な!!き、消えた!!)」

 

なんと、飛んできた影剣が途中で霧のように消滅する。そんな防御態勢に入るのも難しいところに、ハーミットが滑り込むような突蹴りをかます。

 

「うぉあああっ!!」

 

その蹴りを受けてしまったジンは、転がるように後ろへ吹き飛ばされる。それと同時に武器も落としてしまい、ハーミットがそれを掴み見下ろすように奪われた武器を向けつつ、ジンの胸を踏みつける。

 

「がぁっ…!!」

「どうした。お前の力はこの程度なのか。」

「げほっ…くっそぉ…まだ…だ…!!」

 

ジンは痛む身体に鞭を打つように、ハーミットによって踏まれている足首あたりを両手で掴み、歯を食いしばりつつ握力を込める。

 

「っ…!!」

 

痛みを感じたのか、ハーミットは掴まれた手を振りほどくように後方へ飛ぶ。その掴まれた足首あたりから若干の出血がみられる。

 

「…恐ろしい力だ。圧迫させて内部を傷つけるとはな。」

「(な、何となく思い出してやったが、決まった…圧撃…。)」

 

ふらふらとした状態でジンは立ち上がるも、ハーミットはまだまだピンピンしている。ダメージも積み重なっており、既にきつい状態だ。

 

「(この戦い…無謀だったのか…?)」

 

最初こそ、互角に戦える展開に見えていたものの、徐々に劣勢へと立たされていくのを実感している。それでも、諦めなければ何か起きる。それを信じて再び立ち上がる。

 

 

 

だが、誰も考えていなかったであろうことが、今起ころうとしている―――――

 

 

 

「くぁ…!!な、なんだ…頭が…!!」

「(奴の体内からアンチエナジーの力が出ている。呪印は相殺したが…まさか、別の呪印もあったのか…!?)」

 

突如頭を抱え、苦しむジン。完全に予想していなかったのか、ハーミットもただ事ではないとみる。

 

≪コロセ…スベテヲハカイシロ…。チカラヲ、カイホウシロ…。≫

「やめ…ろ…!俺は…そんな気…など…!」

 

 

―――――コロセ、ヨクボウノママニ…

―――――コロセ、ショウガイヲハイジョスルタメニ…

―――――コロセ、ミズカラノネガイヲカナエルタメニ…

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ…!!」

 

突如、ジンが黒いオーラに包まれる。悲痛の叫びと、その異常な光景に、リンダとワレチューによって痛めつけられたネプギア達含め、全員がジンの方に目を向ける。その黒いオーラを取り入れ出てきたジンは…、肌が黒くなっており、白目部分は黒く染まり、眼球は赤く光っている。そして、目元から血涙が出たような跡が浮かび上がっている。更に右腕が、鬼のような手に変形している。

 

「(これは、ゾディアーク化か…!?奴め、復讐の為にこんなのを用意したのか…!!)」

「おいおいおいおい…!!なんだよありゃあ!!」

「ちゅ…!ぶ、不気味っちゅ…!!」

『ジ、ジン(さん)…!!』

 

 

 

「う、うああああああ化け物おおおおおお!!」

「っ!?止せ!!」

 

全員が、その異質な、今まで感じたことのない力を目のあたりにし、驚いている。そして、犯罪組織の部下数名が、恐怖の余りにジンに銃を向け、ハーミットの制止を無視し銃撃する。

 

「…え?」

 

銃弾の嵐の中、凶暴化したと思われるジンが、銃撃した犯罪組織の一人の目の前まで急接近し、首元を掴まれ溶岩路へと投げ出されてしまう。

 

 

 

 

 

だが、間一髪のところ、ハーミットがワイヤーフックのようなのを使い、その投げられた人物を救出し元の位置へ戻る。戻ると同時に、ハーミットは銃をジンに向けて撃つ。だが、簡単に避けられてしまい、標的がハーミットへと移るように、暴走しているジンはハーミットに向けて牙を向ける。

 

「そんな…ジンさんが…。」

 

ネプギア達は驚いている。自分達と同じ目的を持っていた人物が、変わっていて且つ犯罪組織にいるとは言え、一般人に手を出し、しかも殺そうとしたのだから…。

 

「…既にお前達の敵う相手ではない。お前達は全員逃げろ。」

「し、しかし…!」

「おい!それじゃあこっちの戦力が減っちまうじゃねぇか!!」

「そんな事を言っている場合ではない…。リンダ、お前も分かっているはずだ。」

「う…。」

「お前達は死ぬことが任務ではない。さっさとここから立ち去れ。」

 

その言葉に応じるように、犯罪組織の部下達は足早にその場を立ち去る。

 

「うぅ、ジン…さん…!」

「ジンさんを…止めなくちゃ…。」

「だ、ダメです!傷を癒すのが先です!」

 

ただ事ではないとわかっていても、ネプギア達はリンダの攻撃によって立ち上がるのが困難な程に痛めつけられ、コンパの治療を受けている。そして、リンダ、ワレチューも標的を女神からジンへと変えようとしている。

 

「おい、アタイらも手を貸すぞ!」

「オイラも協力するっちゅ!」

「手出しはいらない。そこの特等席で見学していろ。」

 

ハーミットはリンダとワレチューの協力を拒否する。そして、フードとマスクを外す。

 

『っ!永守…(さん…)!』

 

肌の色がリンダのように灰色になっているが、その顔立ちは、ネプギア達全員が知っている“獨斗永守”本人であり、90%が100%本人だと認識する。永守は、右手に付けている手袋を取る。そこには、ジンとは似て非なる右腕が存在していた。

 

「あまり使いたくはないが、お前を止める今の材料はこれしかない。悪く思うなよ。」

 

そういうと、永守は右手を天高く上げる。それと同時に、ジンが黒いオーラに包まれたのと同じように、永守も黒いオーラに包まれる。その姿は、3年前のズーネ地区で宿敵エンデを倒したゾディアーク時の姿そのものだった。

 

「コロス…スベテヲ…ハカイ…スル…。」

 

ジンは永守に向かって急接近し、永守は無言で影剣を複数出し、自分の周囲を回転するように展開し、両手に影剣を持つ。だが、ジンは回転している影剣を無視するように殴り掛かってくる。

 

「(リミッターを外しているのに、間に合わない!!)っ!!」

 

受け流すのは無理と判断した永守は、影剣を利用し防御するも、その重量級の攻撃を防ぎきることが出来ず、体制を崩すことはないものの、後方へ下がってしまう。

 

「ボクシングなら、確実にワンパンKOだな。」

「コロス…コロス…コロス…!」

「おい!煽ってる場合か!!」

「…冗談も聞こえないか。」

 

そして、二人の戦いは続く。力のジン、技の永守といったような応酬が繰り広げられている。それでも、永守の方が有利であることに変わりはない。だが―――――

 

「(くっゾディアークの使い過ぎか、体中が悲鳴を上げ始めてやがる。だが、ここでジンを止めなくては…。)」

 

 

 

ジンがゾディアークに耐えられなくなり死んでしまう。

 

 

 

「おらあああああああ!!」

「っ!!」

 

なんと、リンダが不意打ちの鉄パイプを、ジンの首元へと振り下ろしたのだ。だが、ジンが堅いのか、振られた鉄パイプが少しひん曲がってしまう。

 

「な…に…!!」

「な、なにやってるっちゅか!!」

「…コロス…。」

「あ…。」

 

ジンに攻撃をしたリンダがターゲットになったのか、紋章を展開し剣を生成、それをリンダに向けて突き刺そうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ごふ…。」

「な…!!」「あ、兄貴!!」

『え、永守(さん)!!』

 

リンダの目に前に空間異動で瞬時に来た永守は、リンダの身代わりのように、胸部へと剣が突き刺さっている。そこから生々しく血が滴っており、口からも吐血している。

 

「な、なんでアタイを…!!」

「…仲間…だろが…。」

 

今まで、非協力的だったのだろう、その永守の行動にリンダが驚いてしまう。永守はその攻撃に耐えられなかったのか、その場に仰向けに倒れてしまう。

 

「コロス…。」

「っ!!」

 

そして、ジンの暴走は止まることなく、リンダに向けて鞭に手を掛けようとしていた…その時だった。

 

「何か、聞こえてくる?」

「歌…?」

「この…歌声は…。」

 

どうやら、来た道から歌声のようなのが聞こえてくる。スミレはその歌声に聞き覚えがある。

 

「この歌…なんだか、勇気が…力が湧いてくる。」

「あれ、下っ端にボッコボコにされたところが、痛くない?」

「気のせいじゃない…わね。」

「な…なんだ…?力が…抜けていく?」

「…ちゅ?ちゅぅ…力が、抜けていくっちゅ…。」

 

ネプギア達は力が漲ってくるだけでなく、傷も癒えている。対するリンダとワレチューは力が抜けていくような感覚に襲われている。

 

「作戦って、5pb.ちゃんを…。」

 

スミレは歌声の正体に気付いていた。その言葉を聞いて、ネプギア達もその歌声の主を思い出す。肝心のジンを見ると、変身が溶けているように見え、その場に倒れこんでしまう。

 

「ジンさん…!」

 

倒れこんだジンに向かって、スミレが走り出す。全員それに合わせるかのように、ジンに向かって走り出す。

 

「…気絶してるだけ…。」

「さっきの変な感じもしないわね。」

 

どうやら、アンチエナジーが消えたようで、元の姿に戻っている。今は力の使い過ぎかのように気絶していると、コンパが見極める。

 

「くっそぉ…なんだよ、これ…!」

『アイスコフィン!!』「X.M.B.!!」

『え?ギャーッス!!(ぢゅーーーーーー!!)』

 

突然、来た道から極太レーザーと巨大な氷の塊が、リンダとワレチューを襲い、モロに受けたのか伸びてしまう。

 

「やった!当たった!」

「ネプギアちゃん、大丈夫?」

「ラムちゃん、ロムちゃん…それに、ユニちゃんも…。」

「ヒーローは遅れてくるもの…でしょ?」

「わぁ、嫁がいっぱい来たー!」

「女神候補生達が…全員いるです。」

「これは一体…。」

「間に合った…というべきかしら。」

 

女神候補生の後ろから、ケイブが現れる。そのケイブの背後には、5pb.がいる。そして、倒れているジンに向かって日本一が飛び出して行く。

 

「…なるほどね。教祖が言っていた作戦ってのはこのことだったのね。」

「ええ…。ただ、もう少し早く行ければ状況は更に有利だったかしら。」

「へーきよ!ネプギアなら耐えてくれるでしょ!」

「アンタなら負けるわけないわよね?」

「ら、ラムちゃん…ユニちゃんも…(おろおろ)。」

「…心なしか、なんか酷いこと言われたような…?」

「…私は何も言われてない…。」

「話しているところ申し訳ないけど、犯罪組織の主犯は何処に?」

「えっと、あっちの方に…あれ?」

 

ユニ達によって吹き飛ばされたはずのリンダとワレチューの姿はそこにはいなかった。更に、永守の姿もそこにはなかった。

 

「安心している最中に逃げたのね…不覚だわ…。」

「でも、ゲイムキャラは無事なのね。」

≪はい、貴女方のおかげです。本当に助かりました。なんてお礼を言えばいいか…。≫

「気にしないでください。悪いのは全部、犯罪組織なんですから…。」

 

無事…というわけではないものの、リーンボックスのゲイムキャラの協力を得る為、ネプギア達は、今回のことを報告する為にリーンボックスの教会へ戻ることを決める。

 

 

 

 

 

 



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Scene46 恐怖の道標~Fear Load~

 

 

【ギョウカイ墓場:???】

 

「ふん、全てのゲイムキャラを揃えたか。計画通りという訳だ…。」

 

ある場所でモニター越しに、リーンボックスの風景を見ている人物がいる。ゲイムキャラを入手され、追い込まれてきているはずが、その人物はまるで織り込み済みかのように動揺するどころか、今の現状をたのしんでいるようにも見える。

 

「(だが、誤算は奴がやられたということだ。とは言え、傷は回復しているうえに時期に復活する。不死身の男と噂されているだけはある。)…どれ程強くなっているか、少し遊んでみるか。」

 

そういって、マジックはまるでゲーム感覚のように何かを閃き、その部屋から出ていくのだった。

 

「…盗み聞きとは、女神が泣くぞ。」

「………。」

「その恰好は…隠す気はないのか。」

「100%出していないとはいえ、バレたからな。それに、偶にはゆっくりと新鮮な空気を吸いたいんでね。」

「ふむ…ならば、新しいコードネームでもいるか?」

「いや、結構だ。どこかの銀行強盗みたいに、大量のマスクを用意するのも面倒だ。」

 

マジックが出た部屋の廊下には、獨斗永守が壁に背を向けて立っていた。若干デザインは異なるが、嘗てプラネテューヌで動いていた時に似た服装をしている。トラベルハット、サングラス、そして3Wayタイプのロングループマフラーを身に着けている。

 

「しかし、あの時重症だったはずだ。それが驚くべき再生能力で回復していった。お前のその体力はなんだというんだ。」

「3年前に、ある医者から似たような事を言われた。それで、どうする気だ。」

「ずっと待っていてもつまらないだろう。少しばかり、あの3人に自由行動をして貰うよう伝えるだけだ。…お前も一緒にどうだ?」

「遠慮しとく。傷が開いたら、また病院送りされるのも面倒だ。それに、この力の使い方を知っておかなければならない。」

「まあいい…。お前は自由に動いて言いといったのはこの私だ。好きにするがいい。」

 

そう言い残し、マジックはその場から離れていく。それを確認した永守は、右手の一指し、中指を立て、眉間へ押し付けるようにする。

 

「(微かにゼロの力は残っている…が反応しなくなった。一心同体のはずが、汚染が進み続けているのか。時間がない。こいつをアイツに届けなくては…。)…ここから先は、俺一人でやるしかないな。」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【???】

 

「あれ…ここは…。」

 

目が覚めると、そこは見覚えのある天井だった。そう、自分の部屋…厳密に言うなら、日本に住んでいた時の自室の床に仰向けになっている。丁度真上に電灯があり、眩しくて手で目を覆いながらゆっくりと体を起こし、周囲を見渡す。…間違いなく、死ぬ前の自分の部屋だ。しかし、服装はゲイムギョウ界で着ていた服のままだが、装備品はない。

 

「(どういう事だ?俺は、ゲイムギョウ界にいたはず。…にしても、夢にしては現実味がありすぎる。)」

 

過去の自分の部屋を探索するってなんか変な感じだな…。と思いつつ引出やタンスに手を掛けても、つっかえているかのように開かない。

 

「…ここだけ開くのか。」

 

自室の扉だけは、他と違い開く。だが、その先は廊下ではなく、真っ暗闇だ。扉の先の暗闇に手を伸ばしたり、床があると思う場所に手を伸ばすと、確かに道と思えるような感触がある。その真っ暗な先に、扉のようなものが見える。普通は躊躇するだろうが、色々と非現実的なものを見たせいか、そういう感覚がマヒしているらしく扉の方へと向かう。そして、躊躇なく扉を開ける為、ドアノブに手を掛ける。

 

「…うわっ!!」

 

ドアノブを捻り、押して…開かなかったから、引いて開けた瞬間、何か水のようなものが飛んで来た。驚いてしまったのか、右手で顔を隠し、体を横に捻っている。

 

「…鉄の臭い…え…?」

 

暗くて良く見えないが、臭いと扉の先に見える光景で理解する。無残な姿で横たわっている父さんと母さん(転生先での親)…そして…。

 

「エン…デ…?」

「…おや、まだ生き残りがいたんだね。」

 

そう、そこにいたのは、嘗て復讐を…3年前ズーネ地区で倒されたはずの“エンデ”がいた。とっさに紋章を発動しようとするも、反応がなく空振りになってしまう。次の瞬間、奴が急に目の前にワープし腹に蹴りをくらい、仰向けになりつつ更に腹を踏まれてしまう。

 

「がぁっ…!!」

「ふふ…やはり、強いと言われてるけど、君一人じゃ無力だね。だから、守れるものも守れないのさ。」

「なに…を…!」

「僕を倒したのは君じゃない。あの時、獨斗永守がいなかったらどうなってたかな?おまけに女神含め、君達の無力さが、彼を裏切り…犯罪組織へと歩んだ。新しい力を手に入れてるのにね…。」

「黙れ…。」

「それだけじゃない。遂に君は一般人にも手を出そうとした…。君は女神の旅には不必要な存在だよ。薄々感じてたんじゃないかな?」

「黙れぇええええっ!!」

 

無我夢中に、拳をエンデに向けて放つ。その拳はエンデの腹を貫通する…放った俺が驚いてしまった。

 

「…!!」

「ほら…君も結局犯罪組織と変わらない。暴力でしか物事を解決しない。そんな奴が正義を着飾るなんて、馬鹿だと思わないかい?」

「違う…。」

「違わないさ。君が殺してきたモンスターにだって、もしかしたら家族がいたりするでしょ?人間という下等生物が生き残る為には、邪魔な障害を排除していく。結局君のやっていることも同じさ。」

「違う、違う違う違う違う!!俺は、俺は!!守るべきものの為に…!」

「結局は弱肉強食のように…ね…。まぁいいや、嫌でもわからせてあげるよ。」

 

エンデが言い終わった時、エンデは水のように流れ消えていく。そして、どこから響いているのか、サイレンのような音が響き渡る。

 

「う…うぁ…ああああああ!!!」

 

不快な音により耳を塞ぐが、それと同時に聞いた言葉とどす黒い感情が湧き上がってくる。脳内に「コロセ、コロセ」と響く。その言葉に反応するように、闘争心…殺人のような心が開くような…そんな感情が徐々に増していく。

 

「やめろ…!俺は、そんな気は…ない…!!あ…あああぁあああああっ!!」

 

しかし、俺の言葉とは正反対に、その感情は徐々に増えていく…頼む…これが夢であれば覚めてくれ…!

 

≪…そんなことはありません…彼は、貴方を必要としています。あの人を救えるのは、貴方の力が必要です…。≫

 

コロセコロセの声とは別に、救いの声ともいえる女性の声が聞こえてくる。その声を聞いた途端、感情の高ぶりが一気に下がると同時に、意識が朦朧としていく…。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「うぅ…ここは…。」

 

目を覚ますと、そこは見覚えのない天井ではあるものの、よーく知っている人物がすぐ近くにいた。

 

「ふぅ…ようやく目を覚ましましたわね。」

「(戻って、これたのか?)…チカ…さん…?」

 

そこにいたのは、リーンボックスの教祖であり箱崎チカさんがいた。…てことは、ここはリーンボックスの教会あたりか?

 

「気分はどうかしら?」

「万全とは言えない…ですかね…。」

「まぁ、アタクシも心配わしましたわよ?一週間(・・・)も目が覚めなかったのだから?」

「…は?一週間?」

 

衝撃的な話だった。仮に日本一が言っていることが正しければ、アンダーインヴァースのあの後、俺は一週間寝たきりになったことになる。てことは―――

 

「馬鹿な…日課のソシャゲを一週間もサボったことになるじゃねぇかよ!!」

「貴方、こっちは真面目に答えたんですけど…?」

「すいません…。」

 

その後、職員からの報告書も含め、アンダーインヴァースでの出来事を聞く。俺が暴走し、5pb.の歌によって気絶したという。それから、俺は日本一とスミレによってリーンボックスにある医療兼ホテルともいえるここに居る。それから、リーンボックスに戻り、チカさんからゲイムキャラの協力の許可を貰った後、古の籠手が光だし、紋章玉がネプギアの中に入っていったとか。それからネプギア達は、プラネテューヌに戻るも、リーンボックス以外のある特定化に犯罪組織の活動があり、スミレはそのままネプギア達と行動を共にし、他の候補生達は一旦自分の国に帰ることとなった。それから、プラネテューヌでは近くの集落に犯罪組織が現れ、そこには下っ端だけでなく、ジャッジ・ザ・ハートが居たが、辛うじて勝利を掴み、犯罪組織を退いた。その後、報告する為に協会に戻ってきたと同時に、ロムが倒れ、ラムの体調も悪化したとルウィーからの報告を受け、原因を調べる為ルウィーに向かったと言う。原因はルウィーのシェアが急激に下がったこともあるが、その犯人は犯罪組織とその幹部である“トリック・ザ・ハート”。嘗てルウィーのロム、ラム誘拐事件の首謀者の一人だった奴だと言う。一旦は操られてしまったそうだが、トリックを退けることには成功したという。しかしながら、ラステイションからSOSが入り、ラステイションに急遽向かうことになったと言う。そしてそんなタイミングで今、俺が目覚める…タイミング悪いな。

 

「それと、恐らく貴方が暴走した時に、強い負の力を2つ感知したのよ。恐らく一つは貴方よね。医療班に体を調べさせて貰ったけど、それらしいのは出てこなかったわ。」

「そうですか…。」

「…それで、貴方は女神の旅についていくのよね?本当は、ご自由にと言いたいところだけど、スミレの(よし)みでラステイションまで送るよう手配しておきますわよ?」

「俺、この戦いから退けようか考えんだが…。」

「…どういう心算かしら?」

 

急な引退宣言とも言える発言をした為か、チカさんがしかめ面になっている。確かに、俺はこの戦いから簡単に抜け出せる感じはしない。今抜けるというのも無責任だろう。しかし…。

 

「…俺が暴走したという情報が入ってますよね。落ち着いたとはいえ、根本的に解決したとは言い難い。戦っている最中、また暴走するかも分からない爆弾を抱えて、共に行動なんて…。」

「精密検査では異常は見られなかったわ。解決法を探すということはしないのかしら?」

「探している最中に暴走する事も…正直、俺は何がしたいのか分からなくなってしまったし、迷惑かけるのも怖い…。」

「………。」

 

体育座りで俺はそう語る。剣で人を刺したことがない。紋章とは言え、手にはアイツに剣を刺した感触が残っている。暴走して、あいつ等を殺してしまわないか。あいつ等の旅の邪魔をしてしまうのではないか。今考えられる方法は、ここで旅を止めてひっそりと生活するか…それが最善だと考えている。

 

「本気で考えているのかしら?そんな事、スミレが聞いたら悲しむわよ。」

「え…?」

 

スミレが悲しむ?どういうことだ…そんな事を考えていると、チカさんが俺に何かを差し出してくる。

 

「小包?」

「貴方宛よ。ただ、差出人は不明だけど、中身は爆弾ではないのは調べてあるわ。…お姉さまやスミレを悲しませるようなら、アタクシは貴方を許さないわよ。良ーく考えて、もう一度アタクシに言いなさい。」

 

そう言い残しチカさんが部屋から出ていく。差し出された小包自体はそれほど大きくない。箱に耳を当てるが何も聞こえない…とりあえず爆弾じゃないことは確かだな。中には―――

 

「カセットテーププレーヤー?随分とレトロなのが入ってるな。」

 

中には何かが入っているが、不思議な事にカセットテープを取り出す為の取り出しボタンがついていない。唯一あるのは再生ボタンだけだ。しかし、どういう訳かこれを再生しなければならないという衝動にかられている。そうしているうちに、俺は再生ボタンに指を乗せ、ボタンを押し入れていた。

 

≪―――これを再生しているのであれば、お目覚めになったということですね。≫

「(女性の声?この声…あの時聞いた声に似ているな。)」

 

相変わらず即答だなこいつは…。だが、この声は何処かで聞いたことがある。兎に角、再生される音声に耳を傾ける。

 

≪今、このゲイムギョウ界は第三の勢力が出現し、犯罪組織をも吸収しようとしています。この事を知っているのは、今聞いているあなたと、A.…この二人だけです。≫

 

A…コードネームか何かか?確か、初めてギョウカイ墓場に救出作戦として行く前に、イストワール様宛にあった名前だよな。A、獨斗なら、アルファベットで言うなら永守の“E”になるが…恐らく、犯罪組織に加入している人は大勢いる。その中の内通者、密告者というべきなのだろう。

 

≪恐らく、今の貴方は自らの内にある闇に飲み込まれるのを恐れていると思います。その闇に、打ち破らなければ、何れ貴方も飲み込まれてしまいます。しかし、それを簡単に…というのは分かっています。それでも、貴方にも頼らなくてはなりません。≫

 

こっちは相手が誰なのか分からないのに、随分と信頼しているような感じで録音されている。こっちが信頼していいのかは分からないが、次の言葉に衝撃が走るのだった。

 

≪“エンデ”という名前…覚えていますか?嘗て、貴方ともう一人によって打ち破った敵でもある相手…エンデは、まだ生きています。≫

「なん…だと…!?」

≪正確には、精神体としてゲイムギョウ界にいます。エンデは、肉体が滅ぶと同時に、このゲイムギョウ界に“呪い”を残していました。“人間の暗い感情だけを導く”呪いを…。今の貴方も、その呪いを受けている可能性があります。貴方だけでなく、彼も…獨斗永守も少なからず、呪いの影響を受けていると思われます。≫

 

てことは、さっきの夢は俺に対しての呪いにあたるのか?…考えても分からない。兎に角、俺はその呪いの条件に一致して、あんな姿になっちまったのか。それで、その呪いの影響で、獨斗は裏切った…?奴がそんな簡単に屈するとは思えない。

 

≪現状、彼自身は呪いに抵抗しています。ですが、彼の中にいるもう一人が、それに飲み込まれている…。そして彼は今、ある計画の為に、最初こそ捕らわれの身でしたが、自ら犯罪組織に染まっていっています。≫

 

突然、カセットの口が開き、中に何か入っているのが見える。中にはカセットテープではなく、アミュレットのようなのが入っていた。

 

≪それを受け取ってください。そして、アミュレット…“テンメイ”の導きの先でお話します。≫

 

その言葉を最後に、プレーヤーが結晶片になり消滅する。手元にはその“テンメイ”といった紋章のようなアミュレットのみ…。

 

 

 

 

 

「それで、決心はしたのかしら?」

「ああ。…まだ微妙なところだが。」

「それでも、先ほどの死んだような目は、消えているわよ。」

 

俺は、テープレコードプレーヤーを聴き終えた後、チカさんが待っている教会の広間へと向かい、俺の決心を言った。俺、そんな目してたのか、さっきまで…。

 

「それで、プラネテューヌのバーチャフォレストに何があると言うの?」

「分かりません。ただ、行かなきゃならない。そんな感情が湧き上がっています。」

 

テープレコードが消え、その後直ぐにテンメイが光だし、そこに映し出されたのがプラネテューヌのバーチャフォレストだった。その導きに従えば、何かがあるに違いない。

 

「…いいわ。それで、お姉さまが助かる何かを手に入れて、スミレが悲しまずに済む方法があるのなら、お行きなさい。」

「…恩に切ります。」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ:バーチャフォレスト最奥地】

 

チカさんのお陰で、プラネテューヌに行くのは本当に楽に済んだ。その後、教会には寄らずに真っ先に、導きのままにバーチャフォレストに向かうのだった。テンメイの光、まるであるゲームのロケーターみたいだな。その導きは、最奥地のある場所、洞窟のようなところへと流れている。

 

「バーチャフォレストに、こんなところがあったのか…。」

 

中は暗くないものの、念のためにスマホのライトを付ける。あまり出入りがされてない為か、蜘蛛の糸みたいなのが多数見当たるものの、道は整備されているし、モンスターが出るような感じの場所なのに、一匹も生息していない。

 

「なんだ…ここは…。」

 

道なりに進、光が漏れている場所がありそこへ入ると、さっきのダンジョン感なのとは打って変わって、神殿のような場所へと出る。中央に苔や草塗れになっている崩れた岩の塊があり、周囲の壁にはゲイム語で色々と描かれている。その奥には祭壇のようなのがあり、そこに円盤型と手形の二つの窪みがある。

 

「あれ?この窪み…テンメイと籠手がはまりそうだな。」

 

テンメイを円盤型に、籠手を手形に置いてみる。予想通りぴったりとはまった。すると祭壇の先の空間に扉が現れる。テンメイと籠手を取り出しても、扉は消えないようだ。…兎に角、入ってみるか。

 

そこは、さっきとは違い非常に綺麗な神殿といった感じだ。まるで、今まで普通に手入れとかしてそうな感じの…兎に角そんな感じだ。その床に紋章が刻まれている中央に、一人の女性が立っていた。

 

「お待ちしておりました…。ジン様ですね。」

「…何故、俺の名を知っている?」

「知っているも何も、私は永守さんの中に居ましたから。そして、彼を連れてきたのも私です。」

「なん…だと…?」

 

そうか、転送されたと聞いたが、そういう感じだったのか。まるで、勇者の償還儀式のように連れてこられたといったところか。今やそんな感じはないけど。

 

「じゃあ、アンタが…獨斗が言っていた“ラリマーハート”?」

「その通りです。既に私は肉体を犠牲にしてしまい、精神体としてこのように留まっている事しかできませんが…。最も、3年前は永守さんの中に宿る形で移動してました。」

 

獨斗は、この事を全く話していなかったな…。何故、彼女のことは話さなかったのかは分からねぇな。

 

「で、俺を導いたからには、何かあるんだろ?」

「はい。あなたの呪い…復讐心に打ち破る方法。そして、ゲイムギョウ界で何が起きようとしているのかをお伝えします。まずは、此方に乗ってください。」

 

ラリマーハートは、俺を紋章の中心部へ案内するような感じでいる。ここまで来て引き下がることは出来ねぇよな。気づけば、俺は既に紋章の上に立っている。

 

「それで、これから何が起きるって言うんだ?」

「言えません。言ってしまったら、あなたに迷いが生まれてしまいます。今は、“無”を…何も考えずにいて下さい。」

「…まあいい。」

 

とりあえず、言われた通り、目を閉じて無心になるようにする。この後何が起きるのか、どうなってしまうのかも考えず、ただひたすら無心になることだけを考えるのだった。そして、自分が何故、復讐心に怯えているのか、この先何が待っているのかは、今の俺には分からないままだ…。

 

 

 

 

 

 



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Scene47 覚醒の女神達~Beginning~

今回、知ってる人にとっては「クスッ」と思うような台詞が多い…気がします。


 

 

【???】

 

目を開けると、城のような床に、燃え盛る炎によって黒くなっている木々、奥の方には城のようなものも見える。床以外は赤黒く染まっている世界…。その正面に一人の男が立っている。上下とも白色のYシャツにズボン、そこに青いコートを羽織い、そのコートの背中部分に、十字架の紋章が刻まれている。

 

「来たか、一族の異端者よ。」

「まさか、アンタはベルモンドゥ一族…。」

 

その男には見覚えがある。いや、実際に会うという意味では初めてであり、こんな形で遭遇するとは思っていなかった。そう、今持っている鞭の正式継承者であり、俺が神様から特権として授かった一族の力の一人である。

 

「おい、女神さんよ。こりゃどういうことだ?俺の恐怖がどーたらこーたらじゃねーのかよ!」

「確かに、女神はそう言っていた。しかしな、お前は正当な一族でもなく、伝統者ではないにも関わらず、わが一族の力を持ち尚且つ力を開放することも出来る。だが、我らの血を引いてはない。だから本来であれば、あのような呪いに掛かることなど有り得ない。だから、あのような結果になる。」

 

確かに…俺は“一族の力”という願いだけであり、一族の仲間入りという願いはしていない。奴にとっては、分家のような存在でありながら、リスクなしに力が使えている事が異端なのだろう。そして今、鞭の正式伝承者の儀式である“鞭の記憶”ってのをやろうというのか。

 

「どうやら、話をする必要は無さそうだ。よく理解している。」

「…人の頭ん中を覗くなよ。」

 

だが、気づけばお互いに鞭を構え戦闘態勢に入っている。この試練を乗り越えなければ、俺はこの世界でも何れ亡き者になってしまうのか?…全く、都合がいいんだか悪いんだか、よくわからない展開になってきたぜ。だが…。

 

「いい表情だ。覚悟は出来ている。この試練を乗り越えて見せよ…さすれば、我が一族の正当な伝承者となろう。…行くぞ!!」

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ:協会】

 

プラネテューヌでのジャッジ・ザ・ハート。ルウィーでのトリック・ザ・ハート。そして、ユニちゃんと協力し、ラステイションでのブレイブ・ザ・ハートを退ける事に成功したという報告を受ける。そして、ついに四女神の救出作戦を結構する準備が整った為、女神候補生、四カ国の教祖、救出作戦に協力してくれる方々が集結、明日の為に全員が休んでいる。

 

「…いよいよ、明日…。」

 

そんな夜、プラネテューヌのテラスで不安げになっているイストワールがいる。ラステイションの計画によって出来た“シェア増長装置”。女神候補生四人とゲイムキャラの力、四女神の救出作戦だけでなく、シェアの得とくに協力している仲間。これ以上ない程に準備は整っているものの、イストワールの中には不安要素が残っている。今の状態であれば、例え犯罪組織が束になっても、五分五分で渡り合えるとは考えているのだが、犯罪組織に所属している“獨斗永守”の存在。イストワールには、未だに犯罪組織にいる理由が分からないでいる。嘗てはゲイムギョウ界に貢献しただけあって、連れ戻すか犯罪組織の一員と見なして倒すかと自問自答している。四カ国の職員の間でも、連れ戻すか倒すかと意見が分かれている。イストワールは、全て現場のネプギア率いる女神候補生達の判断に託すことに決めた。もう一つは、ジンが現在行方不明であるという事。チカからプラネテューヌに戻っているという報告を受けているが、目撃情報がなく調査戦団を出しているものの、明日向かうにも関わらず見つかっていないのだ。

 

「緊張、されているのですか?」

「指揮官がしっかりしてなくては、上手くいく作戦も失敗してしまうぞ。」

「お久しぶりです、イストワール。」

「またお会い出来て、嬉しいです!」

「あなた方は…。」

 

そんな不安な顔をしているところに、ゲイムギョウ界の平和の為に集ったゲイムキャラ達が、イストワールの前に現れる。

 

「ええ…本当に、お久しぶりです。この度はご協力して頂き、誠に感謝しています。あなた方のご協力がなければ、可能性は殆どなかったと言えるでしょう。」

「そんな、改まった言い方はしないで大丈夫です。」

「そうだ、お互い知らない仲ではないだろう。だが、私達がこうして集まるのは何年ぶりだ…?」

「そう…ですね。こんな状況ですのに、懐かしさを感じてしまいます。」

 

ゲイムキャラ達が現れたことにより、イストワールの緊張が少し無くなった。それでも、何処か不安が抜けない感じがある表情をしている。

 

「“獨斗永守”の事を気にしているのですね?」

「…はい。」

 

図星のように付かれ、若干驚くものの悩みの種を素直に伝える。ゲイムギョウ界に貢献し、ネプテューヌ達を危機から救ったことのある人物。そんな彼が犯罪組織にいる事が、どうしても納得できないようだ。そんな彼が敵側にいるからこそ、今回の作戦が上手くいくかどうかと心配でいる。

 

「心配するな、イストワール。犯罪組織だけでなく、あの男を止める為に我々が集まったではないか。確かに、あの男も間違っている方向で、この世界を守ろうとしている。」

「…随分と、お詳しいですね。」

「彼が、伝えてきたんです。」

「永守さんが、そんな事を…?」

 

ゲイムキャラ達は、一度は彼に会っている。敵として、一部は危害を加えたものの、永守は捕らわれの身になりつつも、ゲイムギョウ界を平和にする為に、ゲイムキャラ達に永守が何かを計画しているということを伝えられている。だが、具体的なことは教えてはくれなかった模様。

 

「彼や彼女らを信じる、信じないは貴女の自由です。私も、最初は女神候補生達についてくる気はありませんでした。ですが、彼女の意思と、彼の不明確な計画…。どちらかを成し遂げなくては、ゲイムギョウ界は崩壊してしまうと思い、私は彼女の意思を信じることにしました。」

「今は、女神候補生達を信じましょう。イストワールも、彼女達を信じましょう!」

「下らないことで悩むな。我々は、彼女達を信じ、3年前の出来事を繰り返さない為に集まったではないか。でなくては、こんなところに集まってはいない。」

「そうです。もっと自信を持ってください。」

「…それに、今は相手の情報もある程度集まっています。」

 

すると、後ろから一人の女性…スミレが立ち入ってくる。

 

「スミレさん…?どうしてここに?」

「ご無沙汰しております、イストワール様。ぼk…私も少し眠れなくて…。あ、決して盗み聞きをしようとした訳ではありません。そして、初めまして、ゲイムキャラ様。」

「貴女が、3年前に誕生した…いえ、この世界に来たグリーンシスターですね。」

「貴女の活躍、見ていましたよ。」

「お前が新しい女神候補生…。確かに、3年前とは違うな。意思も、風貌も。」

「有難う御座います。あなた方の期待に応えるよう、私も、女神候補生全員、全力を尽くします。」

 

スミレが、ゲイムキャラに向かって一礼する。イストワールにとって、スミレも不安要素の一つでもあったのか、スミレを見て心配そうな顔をする。

 

「貴女は…犯罪組織と戦うことに、怖くないのですか?」

「…本音を言えば怖いです。自分が戦いの中で死んでしまう事。共に戦っている仲間が死んでしまう事。戦うというのは決して楽しいことじゃない…でも、私はこの世界が好きです。だから、そんな好きな世界を、好きな人達を守るために、失わないために戦うのです。」

 

スミレが今の自分の意思を言い、それを聞いたイストワールは暫く目を閉じ考え込む。

 

「…そうですね。こんなにも頼もしい女神候補生がいるのに、私が弱気になってはいけませんね。有難う御座います、皆さん。それに、スミレさん。」

「ようやく笑顔になりましたね。」

「…まだまだ夜は長い。イストワール、グリーンシスター。少しばかし昔話に使って貰えないか?」

「いいんですか?」

「彼女達が言っているのですから、大丈夫ですよ。それに、少しばかり、ゲイムギョウ界の歴史に触れることも出来ます。」

「では、お言葉に甘えて…。」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【ギョウカイ墓場】

 

遂に、この時が来ました。今日、お姉ちゃん…女神を救う為、女神救出作戦が開始されました。私達女神候補生達、アイエフさん、コンパさん、日本一さん、REDさん、ケイブさん、ブロッコリーさん、ファルコムさん。…ジンさんは行方不明のままですが、ゲイムギョウ界としては、今すぐにでもお姉ちゃん達を助けなければ、犯罪組織に世界が飲まれてしまう為、再びギョウカイ墓場へと来ました。

 

≪皆さん、無事に到着しましたか?≫

「はい。ちゃんと、全員いますよ、いーすんさん。」

「凄い所だね。今までの冒険でもこんなところは初めてだ…。」

「ここが、ジンが一度来たっていうギョウカイ墓場…。楽しそうだけど、なんだか悲しい感じもする…。」

「本当…まるで地獄に来た感じ…。地獄に行った事はないけど。」

「そう?アタシは思ってたより楽しそうだよ!変なのいっぱいいるし。」

「こわい…(ぶるぶる)」

「だいじょーぶだよ、ロムちゃん。わたしが手つないであげるから、ね!」

「ここに、お姉ちゃんが…。」

「…なんだか、人選を間違えたような気がするにゅ。」

「はいはい、お喋りはそこまでよ。さっさと女神達を開放させに行くわよ。」

≪では、気を付けて下さい。前回同様、奥へ行ってしまった場合、連絡を取り合うことが出来ないだけでなく、何が起きても此方から手助けをすることが出来ません。私達からは、全員が生還する事を祈っております。≫

 

女神候補生は、今回の戦いでは切り札でもある為か、基本的に道中での戦いは、アイエフさん達が行い、私達はある程度戦に加担するも、体力温存という形で進むことになります。そして、以前私が捕らわれの身になっていた、作戦失敗になってしまった場所につきます。そこには、四女神の前にローブを纏った人が座っていました。

 

「来たか…。」

 

急になり始める落雷と共に、横に置いてある帽子を取りつつ、目の前の人が立ち上がって此方へと振り返る。ただ、その声は聞き覚えのある声でした。

 

「永守(さん)(永兄)(お兄ちゃん)…。」

「その男は既にいない…だが、何故ここへ来た。」

「お姉ちゃん…、いえ、女神を助けるために来ました。お願いします。道を開けてください。」

 

恐らく、お願いを言っても聞いてはくれないかもしれません。それでも、嘗ての永守さんなら…という思いも残っている。

 

「…これは、嘗ての仲間として忠告だ。もう、国を背負って戦う事を止め、自国へ帰るんだ。」

「どういう事よ?」

「お前達がどんなに抗おうと、勝負の行方は決まっている。」

「な、なによ!まだ闘ってもないのに、しょーぶ付いたような言い方して…!」

「確かに、聞き捨てられないわね。アンタは一体何を企んでるのよ。」

 

ラムちゃんの強気発言で、最初は怖気ついてしまったけど、次第にこっちの士気も戻りアイエフさんが永守さんに問いかける。私も、前も今も、あの人が何を考えているのか分からない。

 

「…今のお前達なら、女神を助けるのは可能だろう。だが、それはお前達の役目ではない。」

「私たちの…。」

「役目じゃない…?」

「…意味わかんない。」

「どういう意味よ?」

「意味などない。道はただ一つ…自らの信念に従い行動する。それだけだ。」

 

そう言い終えると、永守さんはローブを脱ぎ捨て、トラベルハットを被りなおし身構えている。

 

「な、何で構えてるですか?」

「ここに来たのなら、分かっているはずだ。お前達は、国民の願いを背負い女神として現れ、俺は犯罪組織の願望を背負い、ここに居る。」

「だからって、キミと戦う理由は…」

 

 

 

「あるんだよ、これがよぉ!」

 

 

 

すると、上の方から聞き覚えのある声がして、永守さんの隣に降りてくる。それに続くかのように、見覚えのある人物達が現れる。

 

「ジャッジよ。戦いが始まるまで待機という命令だったはずだ。」

「五月蠅え。俺ぁ女神と戦いたくて辛抱出来ねぇんだよ!!」

「よせ。こうなってしまった以上、もう待つ必要もない。」

「なら、吾輩もリミッターを外すしかあるまいな。グヘヘ…。」

「いいのか、マジック。」

「構わん…何れ、女神とは戦う運命なのだからな。」

「説得に失敗…リンダとワレチューでは、身が重かったか。」

 

なんと、私達の想像を超える状況になってしまいました。番人がいるのは確実だと、作戦会議でも出されていた。けど、今は永守さんの横に、犯罪組織の四天王である4人がいる。

 

「うわ、いっぱい出てきたよ!」

「戦隊モノのように…悪者なのにかっこいい…!」

「アンタら2人は…。」

 

「ブレイブ…。」

「やはり来たな、黒き女神よ。数日ぶりだが、ここで決着をつけなければならないようだな。」

 

「アクク…。やはり、幼女女神はたまらんなぁ…!」

「うへぇ、何度見てもキモチわるい…!今度こそやっっっつけてやるんだから!」

「うん…やっつける…(ぐっ)」

 

「では、私は…そうだな、緑の女神の実力がどれ程のものか興味がある。」

「あぁん?じゃあ残りは全部俺がやっても構わねぇんだな?」

 

「…アイエフさん。永守さんは、私がやります。」

「何か作戦でも?」

「お姉ちゃんだったら、多分こうするんじゃないかって思ったのが…。」

「…無茶だけはしないようにね。」

 

対決する相手の分別が決まったところで、私達全員が身構えた時だった。

 

 

 

 

 

「おいおいおい、なんだよこりゃぁ。救出作戦にしちゃあ賑やかすぎじゃねぇか。」

 

私達が通ってきた道の後ろから、聞き覚えのある声がしました。それは、今まで行方が分からなかったジンさんだった。何か大きな袋を背負っているのも見える。

 

「ちょっとアンタ、今までどこ行ってたのよ!!」

「悪ぃな。こっちにも色々と事情があってな。だが、今は話している暇はねぇだろ。んな事より、女神さん達に土産だ。」

 

ジンさんが取り出したのは、見覚えのある武器2つと、二つの杖に弓…。

 

「あれ、これって…。」

「そうだ。俺がここに行けるよう頼んだ際、滑り込みでシアンが来たんだ。完成…というより、復元が出来たと。それと、俺が潜っていた所に封印されていた杖と弓だ。お前らにぴったりだろ。」

 

杖と弓は、見覚えないけど、剣と銃には見覚えがあります。それは、ハーミットとして出てきた永守さんが、私達に託されたようにあった武器…。剣は銃剣のような形をしてて、銃はまるでキャノン砲のような形になっている。杖はまるで二つで一つといった形状で、弓は先端に龍の骨顔がついている。

 

≪これは…。≫

≪封印された古の武器…。≫

≪なるほど、確かに使えるようにしていれば、強気に出れる。≫

≪まさか、またこれらを見る日が来るなんて…。≫

 

どうやら、ゲイムキャラ達はこの武器を見たことがあるようです。そして、見ただけでどれだけ強力な装備なのかが分かる。それから、剣は私に、銃はユニちゃん。杖はロムちゃんとラムちゃん。弓はスミレちゃんへと渡される。

 

「おい、いつまで待たされるんだ?もう暴れてもいいんだよなぁ?」

「なんだか、向こうは一人だけやる気満々よ?準備はいいわね?」

 

準備はいつでも万全になっています。ただ、ある不安がここにきて過ってくる。

 

「…私、勝てるの、かな…。」

「ちょっと、何弱気になってるのよ。」

「だって、私…以前あの人達に負けてるし…だから…。」

 

3年前にお姉ちゃん達と向かい、目の前にいる幹部に負けている。その時の光景がフラッシュバックするように、私の脳裏に襲い掛かってきてしまう。…そんな事を考えていたら、突然ユニちゃんが私の耳を引っ張ってくる。

 

「イタタタタッ!!ゆ、ユニちゃん、痛い痛い!!」

「アンタねぇ…、過去の事思い出すのは勝手だけど、その時と今は違うでしょ?アタシいなかったでしょ?今ここにいるメンバーはいなかったでしょ?」

「そーよ!わたし達が一緒にいるのに、負ける訳ないじゃない!」

「あの時と同じ…ネプギアちゃんなら、大丈夫。」

「大丈夫。ネプギアちゃんが危なくなったら、ズーネ地区のように今度は僕が守ってあげる。」

「そうそう、スミレの言う通り危なくなったら、アタシが守ってあげるよ!」

「ネプギアだけじゃなくて、ヨメ達は全員強いよ。アタシが言うんだから間違いない!」

「ネプギアは大丈夫にゅ。もっと自信を持っても大丈夫にゅ。」

「皆の言う通りだよ、ネプギアはここまで苦難を乗り越えてきたんだから。それを乗り越えた力は裏切らないよ。」

「ネプギア、後はお前の気持ち次第…気合と根性だぜ?」

 

皆さんが私を元気付けようと話かてくれる。みんな、私をちゃんと見てくれてるんだ…。そうだ、私は一人で戦っている訳じゃない。

 

「ギアちゃん。支えてくれる人はたっくさんいるですよ。」

「そういう事。ほら、シャキっとしなさい!」

「はい…はい!」

 

そうです。あの時と状況は違う。信頼しあえる仲間がいる。この日の為に準備をしてくれた人達がいる。今こそ、犯罪組織の幹部を倒して、“永守さんを連れ戻す。”

 

≪ならば、今こそ私達の力を開放する時…。≫

≪頑張って、絶対に勝ってください!≫

≪この力、存分に使って下さい。≫

≪さぁ、受け取って下さい…私達の力を…。≫

 

ゲイムキャラ達がそう言い終えると、体中から暖かく、それでいて力が溢れてくる…。みんな、そう感じている…。これなら…私は、女神化をして永守さんの元に歩み寄る。

 

「…皮肉だな。ズーネ地区で共に戦った相手と、戦う時が来るとはな。」

「そう思っているのでしたら、武器を下ろして下さい。私は、永守さんと戦う理由がありません。」

「いいや。ゲイムキャラの破壊行為、お前達の旅の邪魔。そして、犯罪組織を広める。戦う理由には十分だ。」

 

永守さんは再び身構え、戦闘態勢に入っているのが分かる。それにつられるように、周辺から戦闘が始まり火花が散るように戦い始まっているのが分かる。…それでも、私は…。

 

「…武器を下ろすとは…。」

「私は、お姉ちゃん達だけじゃなくて、永守さん…貴方も助けたいんです。」

「………。」

 

永守さんは、サングラス越しに私を見つめている…。でも、次の瞬間、右腕を上に掲げ、姿を変え私の方へ向かってくる。

 

「ッ!!」

 

放たれる拳を、銃剣で防ぐ。その攻撃は、前の剣、力では吹き飛ばされていたんじゃないかと思われる程…。永守さんの拳や足を見ると、ロボットについていそうな手足が出現している。

 

「…後悔なら、単身で向かった数年前にしているはずだ。だが、俺にはそんな気などない。」

「どうして…。永守さん。なんで戦わなきゃいけないんですか!」

「目指しているものは一緒だ。この世界を守る為…その方法が違うだけだ。」

「だったら、なんで私達と一緒に犯罪組織と戦わないんですか…!!犯罪組織が憎くないんですか!お姉ちゃん達を捕まえた組織なんですよ!!」

「今でも犯罪組織自体に憎悪している。…同時に、その強さに惹かれた。その強さがあれば、守れる者を守れると思った…。それだけだ…。」

「………。」

 

私は、永守さんの本音が聞けた気がしたし、言っていることも分からなくもない。それでも、私からしたら間違っている…。そう思いました。

 

「お前の考えも分かっている。…だが、もう後戻りは出来ない。さぁ、死合おう…未来の…ゲイムギョウ界の為に…。」

 

 

 

 

 

 



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Scene48 狂気の叫び~Berserk~

今回、会話がやたらと多くなってしまった…小説として会話分多めってどうなんだろう。


 

 

「アンタとは気が合うと思ったけど…考えを改める気はないようね。」

「ふん、戯言を言うな。貴様達とは目指すべきものが似ていても、進むべき道が違う。娯楽とは、全ての子どもに平等になければならない。だからこそ、マジェコンが必要なのだ。」

「だからって、劣化コピーや不正に手に入れるのは間違ってるわ!!」

「そうだよ、それで一体何が楽しいのさ!正義としても、ずれてるよ!」

「では、貴様の姉の方針だと、娯楽が出来ない子ども達は、何時になったら出来るというのだ!そして何故、人間はマジェコンを求める!だから、貴様達女神は、子ども達の娯楽を守ることが出来なかった。我が友の本当の心を読み取ることも出来なかった!違うか!!」

「…確かに、心の弱い人間だっているのよ。アタシ達だって完璧じゃないし、今の永守さんが何を考えてるかも分からないわよ。…でも、間違ってるのは間違ってるって言わなきゃいけないの!だから、アンタはここで倒す!そして、永守さんを連れ戻す!!」

「面白い…ならば、その主張が正しいか、力で証明して見ろ。」

 

一つは、子どもの娯楽を守る為にマジェコンを主張するブレイブ・ザ・ハード。その主張は間違っていると言い覆すために抗うブラックシスターことユニと、それをサポートする日本一の戦いが繰り広げられている。日本一が前に出つつ、ユニが射撃。隙あれば、接近して零距離射撃をする。だが、ブレイブも射撃が厄介だとわかっており、簡単には射撃をさせないよう、自分の攻撃範囲内で戦おうと接近する。しかしながら、古の武器改め“M41HV”は、射撃だけでなく受け流しも出来る程頑丈な為に、ブレイブの斬撃を流すように避けることも出来る。互いの攻防は一歩も引かず、そして互角の戦いが繰り広げられている。

 

 

 

 

 

「ぬぉおあああああ!!馬鹿な、幼女が吾輩を受け付けない程強くなっているだと…何故だ…何故、吾輩の抱擁を、吾輩の愛を受け付けない!!」

「嫌よ、絶対嫌!!そもそも、あんたは女神の敵なんだから、あんたの気持ちなんかわかりたくもないわよ!!ついでに、永兄も連れて帰るんだからね!!」

「絶対、分かりたくない…!(きりっ)」

「そもそも、気持ち悪くて、幼女が受け付けるような見た目じゃないにゅ。」

「ガーーーーッン!!!!幼女に拒絶された上に、気持ち悪い…。だが、吾輩の第二の目的を達成しなければならぬ。戦いで後れを取るつもりはない!!」

「そっちが一番じゃないのかにゅ。」

 

一つは、チート行為をこよなく愛し、幼女の愛する気持ちが抑えきれないペロリストのトリック・ザ・ハード。対して、女神候補生の中では一番幼いであろう、ホワイトシスターズのロムとラム。ルウィーのハードブレイカーの件で関わり、ロムとラムがリーンボックスへ行くと言った時に保護者兼見張りとして、ゲイムギョウ界の運命がどう動くか見届ける為に、旅についてきたブロッコリー。嘗てルウィーの女神が使っていた古の魔術杖である、攻撃魔法に特化した“サンロッド”、支援魔法に特化した“ムーンスタッフ”。サンロッドはラムが、ムーンスタッフはロムが所持している。また、この杖は二つで一つであり、一度に複数属性の魔法を放つことが出来る。ブロッコリーもそれに合わせるように、ゲマを投げたり爆発させたりして援護する。しかし、トリックも器用に舌を使い高速移動し、ロムとラムが放つ魔法や、ブロッコリーの攻撃を回避している。隙あれば、得意の舌を伸ばす攻撃で、執拗にロムとラムを襲う。だが、杖に込められた魔力により、分身移動のようなミラーステップの如く回避する。こちらも一歩も譲らない戦いが繰り広げられているのだった。

 

 

 

 

 

「やるな…女神歴が一番浅い貴様が、ここまで成長しているとはな。元人間だけあって、実に面白い。だが、貴様がそこまで成長したのは何だ?」

「信頼する、仲間がいる。信じあえる、友達がいる。その人達の、明日を守る。」

「成程、仲間…か。所詮は数による弱点を補う、弱者が考える事よ。」

「………。」

「気にすることはないわ、スミレ。何とでも言わせて起きなさい。」

「そういう事。こっちはそれで成果を出せているんだから、気にすることはないよ。ネプギアだって、一人じゃ出来ないことはあるみたいだけど、皆で協力すれば出来るって思ってるよ。」

「有難う、ケイブさん、ファルコムさん。」

 

一つは、四天王の指揮を取り実力も備わっている、マジック・ザ・ハード。そして、別の次元からやってきて、女神候補生となりゲイムギョウ界の為に第二の人生を歩んでいる、グリーンシスターことスミレ、その護衛をしているケイブ、戦力分散として協力している冒険家ファルコム。ケイブとファルコムが、マジックに接近戦を挑みつつ、スミレが古の弓“Dウィング”による矢の嵐を放つ。マジックも豪語する程の実力があり、大鎌を槍のように振り回し、矢を弾きつつ二人の接近を許さない。その攻撃はまるで舞をしているような戦闘スタイルともいえる。

 

「なんだか、どこかで見たことあるような戦い方をするね。」

「やはり気づくか。似てはないが、この戦い方は、奴が…獨斗の戦い方を参考にしたのだ。」

『!?』

「そうとも。我々は、目的は違えど、利害は一致している。あの男も、同じなのだ。…無駄話はここまでだ。女神よ、犯罪神様の糧の為に死ね。」

 

 

 

 

 

「マジックミサイルッ…!!」

「ぬぅ…!!貴様等、この短期間で何をしてきたというんだ?」

「テメェをブチのめす為に、特訓と対策をしてきただけだ。」

「数か月前の私達とは、違うってこと分かったかしら?」

「わたしも、今度は逃げないです!!」

「そーだそーだ!今回はアタシがいるもん。負けるわけがないもん!!」

「くくく…はーっはっはっはっはぁっ!!やはり、奴を殺さず待っていた甲斐があったぞ…これだ、俺が求めていたのは…!!高鳴る金属音、焼け焦げた臭い…血が、血が騒ぐぞ…女神ともいいが、貴様らは依然逃がしたのもある。もっとだ、もっと俺を喜ばせろ、人間よ!!」

 

一つは、好戦的で、凶暴な戦闘狂のジャッジ・ザ・ハード。そして、一族の意思を引き継ぎ新たな力を手に入れたジンと、アイエフ、コンパ、REDの4人で挑んでいる。圧倒的な力の差があるように見えるが、ジンの新たな力による攻防技によって互角ともいえる戦いをしている。4人の周りに十字架のような物体が回っており、それにジャッジの攻撃が当たると、攻撃を防ぐだけでなく電流のようなものがジャッジを襲う。その怯んだ隙を、アイエフはカタールで切り裂き、ジンは鞭で攻撃だけでなく、追尾する多数の投剣、巨大化した斧の投擲、爆発する結晶、火柱の如く燃え広がる聖水といった多彩な技で、3人を支援しつつジャッジに攻撃をする。だが、ジャッジは怒りを露わにするどころか、今の戦いを楽しんでいるようにも見える。

 

「(頼むぜ、ネプギア。何考えてるかわかんねぇが、獨斗の訳わからん野望を打ち砕き、連れ戻すんだ…。)」

 

 

 

 

 

「ショックウェーブ…!!」

「ッ!?…スラッシュウェーブッ!!」

 

周りが激闘をしている中、一つだけ猛攻を防ぐだけの女神がいた。パープルシスターことネプギアだ。ハーミットこと獨斗永守と1対1での勝負をしているが、永守の攻撃を弾く為だけに使っている。永守の影剣から、黒い刃の真空刃が放たれ、それを見たネプギアは瞬時に地を這う衝撃破“スラッシュウェーブ”を放ち、互いの真空刃と衝撃破が激突しあい強烈な爆風と砂煙が起きる。だが、ネプギアに余裕を与えることはなかった。その砂煙から二つの影が向かってくる。第二第三の真空刃が十字を描くように飛んでくる。それを瞬時に避けるも、今度は永守本人が急接近しつつ影剣で払い斬りをするのが見え、古のMPBL“P777-Mk3”のエネルギーを出力し、払い斬りを受け止める。それ以外にも、籠手から繰り出される格闘技、超能力による炎、鎌鼬も防いでいく。ネプギアも隙を見て、倒さない程度の出力で攻撃するも、機械のコアのようなものが現れ、攻撃に合わせるかのように、コアからバリアのようなのが展開され防がれる。恐らく、その籠手や足の装甲やコアから見て、ハードブレイカーを利用して作られた武具だとネプギアは思った。

 

「どういう心算だ。」

「何が、ですか!?」

「攻撃一つ一つに、殺気が全くない。」

「…私は、犯罪組織を倒しに来ました。でも永守さん、貴方と戦う為に来た訳じゃありません!ユニちゃん、ロムちゃん、ラムちゃんと相談して決めた事です。」

「戦う必要はある。俺は、リンダ、ワレチュー…いや、犯罪組織の一人として、ゲイムギョウ界を脅かす存在。多くの人間を恐怖に陥れた。そして、今は女神の脅威となる存在…。お前は女神だ。お前の仲間や女神を信じている多くの人々の為に、戦わなくてはいけない。それとも、お前達女神候補生は、人々の期待に背き、裏切る心算か?」

「それでも、私は…。」

「そうか…それが答えか。だが、俺の計画も変わらない。ここでは、生きるか死ぬかしかない。」

 

永守の言葉を聞き、更に次の攻撃の為に身構えている姿に、不安になるところもあるネプギアだが、皆との連れ戻すという約束を守るため、防御の構えになる。そして、気を静め冷静になった時、一つ気になる点があることに辿り着く。

 

「(そういえば、永守さんは基本的に技名を言わない人…。なのに、さっきから分かりやすいような必殺技名を言っているような。それに…なんだか悲しそうな雰囲気が…。)」

 

永守から何かを感じ取り、そんな考えが頭を過る。殺気ある言葉、行為、自分は脅威となる存在であると並べてはいる。だが、ネプギアも実際に戦って感じっとのだ。その攻撃すべてが、致命傷になるような威力ではない(・・・・・・・・・・・・・・・)と。

 

「…なんの心算だ。」

「もう、止めましょう。私達が戦う理由なんてありません。」

 

これ以上戦う意味がないと思ったネプギアは、身構えている永守を前に武器を下ろすのだった。

 

「確かに、お前と戦うのは無意味に等しい。ここに、ネプテューヌがいれば止めにはいるか、同じ行動をするか…。」

「それじゃあ…。」

「だが、こうしなければこの世界は救えない。そして…―――――」

 

次の瞬間、ネプギアの手元が急激に光りだす。

 

「こ、これは…。」

 

「何だ…!!」

「なに、この光…。」

 

「くっなんて光だ…。」

「力が…。」

 

「うぉ、幼女が光出した!!」

「すごい、力が湧いてくる…!」

「ぽかぽか…。」

 

ネプギアだけでなく、ユニ、ロム、ラム、スミレと女神候補生全員が光り輝く。それに連動するかの如く、捕まっている四女神も光始める。

 

「うわぁ!みんな輝いてるよ!」

「あ、アイちゃん…一体何が起こってるです!?」

「わ、私に聞かれてもわからないわよ!!」

 

「貴様ぁ!これはどういうことだ!!」

「俺に聞かれても知らねぇっての…。何が始まるってんだ…。」

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

どれくらい眠ってしまったのだろう…最後に覚えているのはえい君が、わたし達が敵わなかった相手に、単独で挑み服従してしまうような光景だった。そこからはよく覚えていない。それから誰かが声を掛けてきたようにも聞こえたけど、それが誰なのかも今は分からない。そういえば、こんな状況は前にもあったような…確かリーンボックスのズーネ地区だっけ?そこでマジェッチの何かで捕まったんだっけ。まぁ、ある意味今の状況の方が絶望的だったりする?

 

でも、一番気になることがある。フラッシュバックの如く悪い夢のように同じ場面が繰り返される。それは、ネプギアとえい君が対面し合って、剣を交えている光景。お互いに稽古しているようには到底見えない。まるで殺し合いをしているような殺気だった戦い。そんな場面がずっと続いていたけど、ある時期を境にその夢が変わっていった。ネプギアが防御に徹していて、えい君に一切攻撃をしていない。正直言って、これだけの情報ではどうしてこうなってしまったかは分からない。けど、その夢で見たネプギアは、えい君に対して必死に何かを訴えていたようにも見えた。流石わたしの妹…!

 

そんな時、わたしの中に何かが流れてくる感覚を覚える。それは、力強くて暖かい感じ…。体が癒えていく感じもする。

 

「う…あ…?」

「この…光は…。」

「体が…癒されていく…ようですわ…。」

「動ける…これ、なら…!!」

 

捕まっている間、シェアエナジーを吸収されると思われる何かに巻かれてたけど、今はそれを上回るシェアエナジーがわたし達の体に流れ込んでくる!!

 

「はぁっ!!」

「やあぁっ!!」

「てりゃぁあ!!」

「ふんっ!!」

『…!!』

『お、お姉ちゃん…!!』

 

「…ネプテューヌ、ノワール、ブラン、ベール…。」

 

目を覚まし、束縛されているのを振りほどいて直ぐに見た光景。それは、ネプギア達がわたし達4人で勝てなかった四天王と戦ってて、夢で見たのと同じくネプギアとえい君が対峙しているように見えてしまった。

 

 

「馬鹿な。束縛のエネルギーを上回っただとぉ!!」

「皆が、開放されていく…。」

「す、すごいですぅ。」

「ヨメが一気に増えたーーーー!!」

「(もう俺の知っている展開は信用ならんな。それに、5pb.の支援も行き届いているようだ。改めて恐ろしく感じるぞゲイムギョウ界…)面白れぇ展開じゃんか。これなら思いっきり暴れられるじゃんか。」

「クソッタレェ…貴様等を捻り潰したら女神含め、全員ぶっ殺してやる…。」

 

 

「ロム、ラム…2人が助けてくれたのか…。」

「ううん…わたし達2人だけじゃない…、みんながいたからここまでできたの!」

「協力って、凄い。」

「…だが、まずは目の前の奴をぶっ飛ばさねぇとな。」

「アクククク、ルウィー本命の女神が復活してしまった…だが、それでも幼女の為に、吾輩は負ける訳にはいかないのだ!」

 

 

「ベール姉さん…。」

「ベール様。ご無事で何よりです。」

「無事…という訳ではありませんが、問題はないですわね。それよりも、二人共よく頑張ったわ。貴方も協力者ですわね。感謝致しますわ、ファルコムさん。」

「ご、ご存じなんですか…!恐縮です…!」

「目覚めて早々悪いが、お前達4人が増えようが、再び同じ目に合うまでだ…。」

「…今度は貴女の思うように行くと思いまして?」

「ふん、捕まっていたのに大した自信だ。その自信と実力がどれほどのものが、再び試してやろう。」

 

 

「あ、あの…。」

「…もう少し早く来ると思ってたんだけど…。」

「う…。」

「でも、よく頑張ったじゃない。あの時より一回りまた成長してるかしら。」

「黒き女神よ、再び会えるとはな。」

「捕まっている時に会いに来ても、印象には中々残らないわよ。そこを退いて貰えないかしら、アイツが何でああなっているか聞きたいんだけど。」

「断る。黒き女神の意思を引き継いだ妹の志。そして、それを伝授した黒き女神…お前達二人には興味がある。それに、我が友の邪魔はさせん。」

 

 

それぞれ、わたし達は妹達のいる所へ移動し、この現状を打破する為協力する。全快ではないけど、ここの四天王を倒すには十分なシェアエナジーが回復しているのが分かる。

 

「おねえ…ちゃん…。」

「ええ、そうよ。わたしよ…。貴女ばかり苦しい思いさせてごめんなさい。」

「うん、私は大丈夫。…でも…。」

「ええ、わたしもさっきから気になってるのよ。えい君。」

「想定通り…。」

 

色々と聞きたい事が山ほどある。何でえい君がこっちじゃなくて、犯罪組織に手を貸しているような素振りなのか。それに、わたし達が開放されるのが分かっていたような態度をしている。

 

「えい君、武器を下ろして…わたし達が開放されたのなら、もう戦う理由はないはずよね?」

「ああ…。」

「じゃあ、帰ろうよ。いーすんが、皆が貴方の帰りを待ってるわ。」

 

えい君は完全に向こう側にいる訳じゃないような反応をしている。なら、連れて帰れる!と思ったのだけれど、帰ってきた返事から狂気を感じてしまった。

 

「だが、それで帰ってどうする。俺の役目はズーネ地区の時に終わったように見えた。そして、犯罪組織を倒し、犯罪神は封印されるだろう。…だが、俺の血が戦いを求めている。闇が消えぬ限り、戦いは永遠に続く。」

「そんな…永守さん…それってつまり、犯罪組織が消えないようにしているって事…?」

「…俺は、不覚にも女神と戦いたい、死合い(・・・)をしたいという欲望が出てしまった。そんな奴が、ゲイムギョウ界の平和な場所に居られるわけがない。」

「待って!貴方と戦う気はわたしには…―――――」

「無駄話はここまでだ。人生最高の時間にしよう。」

 

そういってえい君は、再び構えて攻撃の意思を見せている…。ネプギアも思ってるみたいだけど、わたし…えい君とは戦いたくない!一体、どうすれば―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――あーあ…流石に飽きてきちゃった。もういいや、待つ必要はないし、ボクも好きなだけ暴れようか、この世界を滅ぼす為に――――――

 

 

 

 

 

 

 



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Scene49 消えゆく灯~FallDown, Man~

仕事などの関係で遅くなってしまいましたが、元気です。
とりあえず、PC版四女神オンラインはストーリークリアまで終わった…後はやり込みのみ…。


 

 

ギョウカイ墓場の中心部に存在する、人工物ともいえる碑石。人間の暗い感情を蓄積し、少しずつ脅威を増している。犯罪組織マジェコンヌが崇拝し復活を目論んでいる、犯罪神ユニミテスが眠っている。同時に、異変が起きようともしていた。

 

 

それは、数週間前に遡る――――――

 

 

「お前が欲しい。」

≪…貴様、何を言っている。≫

「………。正確には、お前の“魂”だ。」

 

碑石に向かって永守が問いかける。だが、その問いは犯罪組織に加入しているとはいえ、とても受け入れ難いものである。ましてや、相手は犯罪組織の復活目的である犯罪神ユニミテスなのだから。

 

≪貴様、馬鹿か。我の力なら兎も角、魂だと?ぬかしおる…。≫

「だろうな。自分でも馬鹿だとは思う。」

≪だが、我が下部である4人ですら、我の復活のみを望んでいる。貴様は、我の魂を欲してどうする気だ。≫

「俺が犯罪神になれば、女神と合法的に戦うことが出来る。」

≪…本当に、それだけか?≫

 

ユニミテスは、永守が何を考えているかは不明だが、何かを隠しているのかを見破っている。

 

「…マジックやブレイブと同じことを言う。」

≪我等と似て非なる力を持ちながら女神に協力し、我が下部を4人相手に、あと僅か力及ばず敗北、服従する形で我等の仲間になるも、微力ながら女神一行の手助けをしている。おまけに、我が嘗て呼び出した殺戮兵器のハードブレイカーを魔導器として使っている。≫

 

これまで永守がしてきたことを、犯罪神は簡略しつつも言い当てていく。犯罪組織としては、計画通りに動いているとはいえ、女神一行も着々と力をつけており、シェアの状況も五分五分となっている。

 

「随分と詳しいな。今更になって処罰を決めると言うのか。」

≪…反論はしないのか。貴様のやろうとしている事…戦で発生するシェアエナジー、魔力を利用しようとしている。確かに、これほど狂気に満ちたエネルギーはない。だが、それをどうするつもりだ。≫

 

それを問い詰めた途端、永守は腕を組みつつ顔を反らす。あくまでにそれをどうするかは言わないようだ。

 

≪まあいい。引き続き、貴様は我等の協力をせよ。≫

「…御意。」

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

≪(ついに始まったか。女神と我等下部達の戦いが…。)≫

 

そして今現在、先方の方で激しい金属音、爆音が響いている。毎度展開は違えど、犯罪神は人間が望む度に復活し、幾度も女神と戦ってきている。女神は毎度、犯罪神が原因だと言う。…恐らく、今回の女神達も同じことを言うのだろうと考えている。

 

≪人間とは、愚かな生き物よ。女神が気に食わんとして、我々のような存在を望み、路線が違えばまた女神を信じ、また新たな悪を望む…。≫

 

一時は9割以上のシェアを犯罪組織が会得していたが、今は均衡を保つ形まで持ち越されている。現状であれば、あまり良くない状況にまで追い込まれていると考えるはず。だが、今回は一つだけ違うことがある。

 

≪あの男、手加減しているな…。両方のシェアの影響を受けているのだから、今の状況であれば、本気を出し全てを破壊できるというのに…。≫

 

 

 

「全く…その通りだよ。」

 

 

 

突如、犯罪神に話しかけるような声が聞こえた。その声の主は、犯罪神が眠る碑石の前に突如現れる。見た目は10代前程の姿をしているが、幽霊のように半透明であり、邪悪な覇気を漂わせている。

 

≪貴様、何者だ。只者ではないようだが…?≫

「そこは、想像に任せるよ。まぁでも、流石に退屈すぎたんでね。」

 

その少年が言葉を言い終えると、指揮者が演奏開始時に構えるような恰好をする。すると、その少年が突如目の前から消える―――――

 

≪…!?ぐおぉおおおおおおおお!!≫

 

次の瞬間、犯罪神から悲痛な声が響き渡る。

 

「君には失望したよ。まさか復活にこんな手間が掛かるなんてね。でも、安心して。君の力、僕が使ってあげるからさ。」

≪や、やめろぉ…!≫

 

碑石の中へとその少年の魔の手が、少しずつだが着実に侵入している。だが、その悲痛な声は、ただ響き渡るだけであった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

女神候補生の活躍により、想像以上のシェアエナジーにより、アンチエナジーによる拘束具が崩壊し、四女神が開放され犯罪組織の方が追い詰められているような形へとなる。それでも、こっちとしては退く気など微塵もない。他の奴ら<四天王>も同じことを考えているだろう。他の方法もあるだろうと言えば、探せばあるだろう。だが、例えネプテューヌ達に止められても、同じ道を歩んでいただろう。実際、女神と模擬戦でなく、本気<ガチ>の戦いをしてみたいと思ったのは事実だ。この時点で、既にプランAは出来ず、プランBを実行している。しかし、日に日にプランBも失敗に終わると感づいている。…だが、そんなのはどうでもいい。奴を抹消できるのであれば、俺はこの命の灯が消えようとも、その手段を選ぶだろう。

 

「待って!貴方と戦う気はわたしには…―――――」

「無駄話はここまでだ。人生最高の時間にしよう。」

 

ネプテューヌ…いや、パープルハートの制止を無視し、籠手と足具を作り出す機甲鋼ハードブレイカーを生成する。

 

≪(貴様…何時までこのような下らない戦いをする心算だ?)≫

「(…どちらかが折れるまでだ。奴らが撤退しても方針は変わらない。)」

 

耐久戦に我慢ならない、嘗て女神候補生とキラーマシンを操っていたハードブレイカーが文句を言ってくる。多少口五月蠅いところはあるが、使うにあたっては特に問題はなく、多少なりとも目的は同じだからか、反対意見は殆どないに等しい。だが、俺自身この体が長期戦に持つかは分からない。

 

………。

……。

…。

 

まぁ、何れにしろ…俺は―――――――――――

 

 

 

 

 

≪端から女神をやる気なんてないよね?全く下らなすぎ反吐が出るよ。≫

「…!?」

 

突然、脳内から声が響く。その声に反応してしまった為に、一瞬体が硬直しつつ、目が周囲を見渡してしまう。周囲は戦闘が続いている。どうやら今の憎たらしい声は俺にしか聞こえてないようだ。しかし、今の硬直によってか、ネプテューヌは俺の行動に何か感づいた反応をしてしまう。

 

 

 

≪あーあ…流石に飽きてきちゃった。もういいや、待つ必要はないし、ボクも好きなだけ暴れようか、この世界を滅ぼす為にね。≫

 

今度は、その場にいる全員に聞ける程にギョウカイ墓場に聞きたくない声が響き渡る―――――

 

 

 

 

「な、なんだ!?体から力が…ぬヴぉああああ!!」

「なんだ、何事だ!?あの変態野郎に何が起きてやがる!!」

「わわわ、ドンドンちいさくなってるよ!」

「こ、こわい…(おどおど)。」

 

その声が言い終わると同時に、周囲から異変が起きる。トリック・ザ・ハードから生気を吸い取られるかのように、上空へとアンチエナジーが舞い上がっている。更に、吸い取られている毎に、トリックが徐々に縮んでおり、最終手的にはブロッコリー程度にまで縮んでしまい、気を失ったかのように倒れこんでしまう。…小さくなっても見た目的に可愛げはないようだ。

 

 

 

「な…か、体が…熱ぃ…!!」

「あ、あいちゃん!ななな、何が始まるですか!?」

「わ、私も聞きたいくらいよ!アンタはなんか知ってるの?」

「俺も知らねぇよ、こんな状況!」

 

トリックの異変と同時に、ジャッジ・ザ・ハードにも異変が起きる。究極黒魔法の如く複数の光が、ジャッジの体内に吸い込まれていく。そして、ジャッジの体内から大爆発が起こり、特殊合金と言われたボディが木端微塵になる。

 

「まさか…犯罪新様…!」

「お、おい。マジック…!!クソッ!!」

「待て、早まるな…!!」

 

俺の制止を無視し、マジックとブレイブは、戦闘を中断し犯罪神が眠っている碑石の方へと向かってしまう。二人の方へと行こうとした時、足元に何かが当たり、そこにはジャッジの頭部分があった。

 

「ジャッジ…。」

「永守さん…!」

「えい君、そいつから離れて!!」

 

当然、周囲の女神達が俺の方へ寄ってこようとする。ネプギアとネプテューヌの声もするが、全員に制止するように手を構え屈みこむ。

 

「…済まない。」

「同情か…?んなもん…いらねぇよ、貴様らしくもねぇ…。が、認めたくねぇが…女神をぶっ殺す前に、こうなるとはな…無様だな、俺も…貴様も…。」

「お前は、後悔はしてないのか。俺が気に入らなかったはずだ。」

「ああ、確かに…貴様は、俺の最高の獲物だった…。そう思ってたが、利害関係で協力する羽目になるとはな…。最高に、気に入らねぇよ。」

 

最高の獲物…か…。あの時は、1対4で挑んで、ジャッジとトリックを退くところまで追い込んだがな…。

 

「俺は、貴様等と…端から仲良しごっこをする気など…無かったがな…不思議と…後悔はねぇ…。俺は…俺が思うがまま…悪であった…からな…。」

「ジャッジ…。」

「………。」

 

その言葉を最後に、ジャッジの目から光が無くなってしまった。そして、ジャッジは結晶片となってしまう。俺は、顔を上げ碑石の方へと向かおうとする。その時、誰かが俺の腕を掴む。

 

「待ちなさいよ、アンタ!!」

「なんの心算だ、ユニ。」

「何処へ行く心算よ。答えなさい!!」

「…ブレイブと、マジックの後を追う。」

「あの二人を追ってどうする気?貴方には、色々と聞きたい事があるのよ。」

「ノワールの言う通りよ。そんな事、賢明じゃないわ。」

「私も、そう思います。」

 

ユニの制止に、ノワールが同調。それに賛成するかのように、ネプテューヌとネプギアも同意する。それに釣られるよう、他の全員も集まってくる。

 

「私達の目的は、四女神様の救出…可能であれば、アンタを連れて帰る事よ。一旦引いて、更に準備をして万全にするのが得策のはず。」

「…でも、今すぐ追いかけなきゃ行けないってことは、何か理由があるって事だよね?」

「そんなに重要な事かにゅ?」

 

アイエフが言った事が正しければ、現状の任務はほぼ達成という事になる。だから撤退して準備を整えるのが賢明という。だが―――――

 

「…それでは、間に合わない。」

「………?間に…合わない?」

「それは、どういう意味かしら?」

 

どうやら、彼女達は犯罪神が復活する条件を知らないようだ。…知らないよりは、知っていた方がいいだろう。

 

「今、あの二人に死なれては困る。」

「しなれては困るって…あいつ等は敵だよ!!」

「そう、敵…。」

「まさか、この場でも“犯罪組織を壊滅したくない”とでも言う心算か?」

「…もしそうだったら、無理やりでも連れて帰るわ。」

 

ブランの問いに対して、俺は首を横に振る。

 

「犯罪神ユニミテス…復活する条件は二通りある。一つは、犯罪組織に一定のシェアを会得し、それを碑石に全てつぎ込む。そして、もう一つは―――――犯罪組織、四天王の“死”。」

 

 

 

「…四天王の死…?それって、マジック、ブレイブ、トリック、ジャッジを全員倒す事…。」

「そうだ。あの4人の死は、犯罪神の器となる。」

 

そう、4人(?)の死は犯罪神復活の糧になる。皮肉だな、倒そうとしていた相手が、復活の手助けになっているなんてな。

 

「おい、待てよ。あの変態は死んでねぇぞ?」

「…ああ、トリックは死んでないだろう。トリック・ザ・ハードは死んでるだろうが。」

「どういう、意味です?」

「トリックの体に、トリック・ザ・ハードの魂が宿っていた…ということだ。その魂は、既に犯罪神の器となってしまった。」

「待って、えい君。まさかと思うけど、追いかけなければならいのは、さっき響いた声と関係が?」

 

…復活したばかりのネプテューヌが、こんなに冴えているとは…普段が普段なだけにな。

 

「…ねぇ、なんか馬鹿にされたような気がするけど…?」

「(地の文を察するか…)………。犯罪神が眠っている碑石が、奴らが向かった先にある。」

「なんだ、犯罪神に女神が解放されちゃったから、懺悔でもする気か?」

 

ジンが冗談混じりな事を言う。…考えてみれば、此奴には情報をリーク(・・・・・・・・・・)していたが、真相を伝えてはいなかった。

 

「ズーネ地区。」

『ズーネ…地区?』

「そう、三年前。四女神がマジェコンヌによって罠にはまった時だ。俺はその時、拭いきれない失態を犯した。」

「ちょっと待ってよ、えい君。話の筋が見えないのだけれど?」

「…ズーネ地区…まさか…。」

「………っ。」

 

話の筋が見えてこないようだが、ジンとスミレは何かを察しているかのように、顔が真っ青になってる。そいつのせいで、方や幼い頃にいた町が壊滅、方や策にはめられ俺達と一時的に敵対となる。そう、奴は――――――

 

 

 

 

俺が口を開けようとした途端、ギョウカイ墓場が突如と地震の如く揺れる。突然の出来事だった為に、何人かが体勢を崩したり転んでしまったりしてしまう。その時だった。

 

≪…ギ…さん。ネプギ…さん!聞こえますか、ネプギアさん!≫

「!?、いーすんさん!?どうして、通信出来ないはずじゃ…。」

 

本来であれば、通信が出来ない筈のイストワールからの連絡がネプギアのNギアに入ってくる。

 

「いーすん…!!いーすん、聞こえる?わたしよ!!」

≪その声は…ネプテューヌさん…!!となりますと、女神達は…。≫

「ええ、全員解放されたわ。」

 

ネプテューヌが通話に入ると、何やら通信先からわーわーぎゃーぎゃーと言う声が漏れている。“ノワールはいるのかい?”や“ブラン様はそこにいらっしゃいますか?”や“お姉さま、お姉さまは無事なんでしょうね!”等々…他にも職員がいたのか、漏れている声からして、士気が高まっているのが分かる。そんな時、俺の持っているマジコンからも連絡が入る。ネプテューヌ達から少し離れ、連絡を入れる。

 

「…俺だ。」

≪おい、テメェ何しやがったんだ!?≫

「何があった。」

≪“何があった”じゃねぇよ!!ギョウカイ墓場が、目視できて、城塞のように上に動いてんだ!!お陰でマジコン製造の野郎どもがどよめいちまって、作業が進まねぇんだよ!!≫

 

さっきの地震のようなのは、どうやらギョウカイ墓場が動いているということで発生したと考えられる。加えて、霧のように見えない筈のギョウカイ墓場が多くの人に見え、動揺しているのだと言う。

 

「…四天王は全滅…実質、犯罪組織は壊滅状態と言える。もう、マジコンを作る必要もない。」

≪は…?何言ってやがんだ…?それじゃあトリック様は…?≫

「トリックは無事だ。最も、お前の知っているトリックとは多少異なるが…。」

≪待ってくれッチュ!それじゃあ、おばはんは!!≫

「碑石の方に向かった。安否を確認しに俺は向かう…。お前達はもう自由だ。」

 

“お、おい、待てよ!!”と向こうで言おうとしていたが、それを割るように通話を切る。そして、ネプギアの通話に交じる事とする。

 

「そっちの話は、纏まったのか?」

≪永守さん!?無事だったのですか?≫

「…無事とは言い切れないが、そうしておいてくれ。」

≪そうですか…では、此方は状況を整理する為に、一旦撤退する事にしています。永守さんも、協力できますか?≫

 

どうやら、一旦戻って状況を確認した後、準備をして戻るという考えらしい。…だが、それでは時間がない。

 

「………。悪いが、それには応じることは出来ない。」

『え…!?』

≪どうしてですか!?≫

 

その場にいる全員と、通信先でも驚いた声が聞こえる。全員撤退に合意しているにも関わらず、俺だけはそれにNoと答えたのだから。

 

「恐らくだが、犯罪神ユニミテス…いや、エンデが復活した。」

「エンデ…!あの時のか…!?失態というのはそういう事だったのか!!」

「そう、奴は死んではいなかった。精神だけをこの世に残し、復活の機会を伺っていた。だが、犯罪神の力を利用するのは計算外だった。そして、奴の目的は…今やこの星だけでなく、全宇宙の星々を滅ぼす事。」

≪そんな…。しかし、それでも皆さんは万全とは言い切れません。一旦撤退すべきです。≫

「いーすんの言う通りよ!!えい君、ここは一旦撤退すべきよ!!」

「断る。こうなってしまった責任は、俺にある。」

「だからって、貴方一人が背負うことは…。」

 

力づくでも、俺を連れ戻そうとしているようだ。確かに、戻って万全な状態であれば…と思うが、奴はその間にも全てを破壊する可能性もある。

 

「…すまない。」

「え…っ!?」

「お、お姉ちゃん!!」

 

どうしても、ここは退くことが出来ない俺は、ネプテューヌの首元を抑え気絶させ、倒れそうなんネプテューヌを支える。

 

「おい!永守、テメェ…!」

「落ち着きなさいませ、ブラン!良く見てみなさい。」

「気絶させただけだ。」

「だからって、貴方は…!!」

「何とでも言え。俺は、碑石へと向かう必要がある。」

≪…分かりました。≫

「いーすんさん!?」

≪理由は分かりません。ですが、永守さんなら…。≫

 

今までの俺の活躍を振り返っての総評なのか、イストワールは俺を信用するようだ。それに応じるように、無理やりな感じもあるが全員が頷く。

 

「…はぁ…どう言おうが、それだけは退かない気ね。」

「しょうがねぇ…わたし達は一旦退くぞ。」

「永守さん、無茶だけはしないで下さいませ。」

「絶対に、生きて帰ってくるのよ…!」

「必ず帰ってきてよね!永兄!」

「無事に、帰ってきて。」

「君とは、一度冒険に出たかったんだ。だから…無茶はしないでよ。」

「全く、無茶が好きな男だにゅ。ドMかと思うにゅ。」

「…無事で…。」

「アンタに死なれちゃ、俺も困るんでね…必ず、戻ってきてれ。」

「永守さん…。お姉ちゃんは、私が…。」

「…頼む。」

 

全員が撤退の準備に入る。そんな中、ジンが一旦俺の元へ戻ってくる。

 

「…そうだ、獨斗。これを返しておく。」

 

そういってジンが差し出してきたのは、以前ギョウカイ墓場の戦いにて、破壊され捨てざるを得なかったリボルバーの片方だ。シアンが元通りにしたらしく、俺の使っている弾では分からないが、テストはクリアしているとの事。差し出されたのを俺は受け取り、ホルスターに入れる。

 

「もう一度言う…絶対に、死ぬなよ。」

「…ああ。」

 

俺の胸あたりに拳を当て、ジンはそう告げて撤退する。そうして、俺は碑石のある方角へ体を向ける。

 

「…もう二度と、会うことはないがな…。」

 

 

 

 

 

碑石へ向かう途中に、誰かが倒れているのが見える。

 

「…マジック…。」

「ハーミット…いや、獨斗…か。」

「ブレイブはどうした。」

「奴は…犯罪神様に立ち向かったが…消滅した…。そして、この私も、この様だ…。」

「…後は、俺に任せろ。」

 

マジックも、相手が犯罪神の皮を被った奴だとわかり戦ったようだが、力及ばずといったところだ。ブレイブは、持っていた剣以外は消滅してしまったようだ。

 

「おい、オメェ!!それはどういうことだよ!」

 

向かおうとした途端、待てと言わんばかりに“クロワール”が現れる。

 

「アイツの強さ知ってんだろ?一人で歯向かうなんて無事で…、まてよ…まさか、死ぬっていうのかよ?」

「…その心算だ。」

「おめぇ、馬鹿か!?女神の約束を破る気かよ!!」

「…また、俺の心配か?世界がめちゃくちゃにするのが、お前の願いだろ。」

「そうだけどよ、星が無くなったら意味ねぇし…。」

「………。」

 

歴史をめちゃくちゃにするのはいいが、星が無くなるのは嫌であり、死ぬのも嫌という事か…。

 

「マジックを…いや、マジェコンヌ(・・・・・・)の事を頼む。」

「お、おい!!」

 

落ちていたブレイブの剣を携え、碑石の方へと一気に駆け寄ることにした。

 

≪獨斗よ、勝算はあるのか?≫

「一時的に封じる程度だな。」

≪命を掛けてその程度か…。だが、貴様と運命を共にするのも余興よ。≫

 

ハードブレイカーも、犯罪神に仕えてはいるが、中身が違うのなら容赦は無い考えで居る。そして、遂に奴が見えてきた。

 

≪クククク…やはり来たか、ハーミット…いや、永守。≫

「エンデ…なんだその恰好は…。」

 

犯罪神ユニミテスの体を使っているエンデ…。犯罪神って女性の体たったのか。

 

≪仕方ないでしょ、素体がこれなのだから…でも、力は凄いよ。こんな事だって出来るんだから。≫

 

そう言って、持っている鎌を振り上げると同時に、衝撃波が俺の方へ向かい、横を通り過ぎる。

 

「以前より早い…。」

≪ククク…諦めるなら今の内だよ?まぁ、どっちにしろ君を取り込むのも悪くはないかな?十分、ボク達と同じく、ニグーラとして汚染されてるのだから。≫

「…お前の思うように行くと思うな。」

≪我が主の肉体を利用した代償、払って貰うぞ。≫

 

そう言いつつ俺は、ゾディアーク化し、影剣と籠手、足具を作り出し、テレキネシスでブレイブの剣を操りつつ、腰から剣の柄を取り出し、禍々しい色の長剣を取り出す。

 

≪魔剣ゲハバーンね…通りで、城を探してもないわけだ。でも、その程度の力で、ボクを両断出来ると思ってるの?≫

 

奴の言う通り、魔剣ゲハバーンは俺の手にある。古文によると、嘗て同じ状況になった時、世界を救いたいが為に、集結した鍛冶達の手によって生み出された剣だ。だが、その鍛冶屋達の願いは、本来とは違った形で叶う事となる。この剣は、女神の血や魂を吸い取ることで強くなる、女神殺しの剣<ハードイーター>となる。今でも、この剣からは、吸われてしまった女神の残骸となる力を感じている。

 

「…試してみるか?」

≪面白い…。そこまで言うなら、殺し合いごっこをしようよ。≫

 

俺は、この戦いを生き抜こうとは思っていない。元々、エンデと心中をする気でいる。だが、今の奴の力は心中を狙える程、甘くはない。だが、ゲハバーンを使えば、ある方法が出来る。…結果、女神に押し付ける形になってしまうが。これ以外、今すぐ破滅を防ぐ方法はない。

 

 

 

 

 

「(ネプテューヌ…皆…済まないな。…これが、ハーミット…いや、獨斗永守が生きた証、最後のプレゼントだ…!!)」

 

 

 

 

 

 



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Scene50 戦いの回旋曲~Assassin~

 

 

――――――ハーミット戦闘開始数分前

 

 

 

≪…四天王は全滅…実質、犯罪組織は壊滅状態と言える。もう、マジコンを作る必要もない。≫

「は…?何言ってやがんだ…?」

 

ラステイションの極秘の開発施設にいるリンダに連絡が入る。ハーミットから、実質犯罪組織は壊滅したと連絡が入る。その大声で連絡をしてしまい、周囲の人々が騒めき始める。

 

「お、おい、待てよ!!」

 

ちゃんと話を…と聞こうとしたところで途切れてしまう。掛けなおそうとするが、繋がることはなかった。

 

「クソォ!!」

「ど、どうしたのですか?」

「ウルセェ!少し黙ってろ!!」

 

怒りを露わにしつつ、リンダは考え込む。だが、周囲を見渡すと、ネズミの姿がいないことに気付き、考え込むのも無駄だと思ったのか、早歩きで開発施設を後にしようとしていた。

 

「ど、どちらに行く気で?」

「ギョウカイ墓場に行く。」

「今から…ですか?」

「…テメェらは自由の身だとよ。あとは勝手にしな!」

 

そう言い残し施設を抜け出し、リンダはヘリポートへと向かう。複数ある輸送ヘリの一つがプロペラが回転しているのを見る。

 

「あーもう!これだから、人間用の乗り物は難しいっちゅ!手も足も届かないっちゅ!!なーんでネズミ用の乗り物がないっちゅか!!」

 

その輸送ヘリの操縦席に、ワレチューの姿があった。エンジンは入れたものの、手と足が届かず悪戦苦闘しているのが見える。

 

「変われ。アタイが連れてってやるよ。」

「ど、どうしてここにいるっちゅ?」

「ギョウカイ墓場に行くんだろ?なら、さっさと行かねぇとな。」

「…運転、出来るっちゅか?」

「馬鹿言え!アタイが運転できねぇのは、エンジンとハンドルがない乗り物ぐれぇだよ。」

 

そして、一機の輸送ヘリがギョウカイ墓場へと向かって行くのだった。

 

 

 

――――――

 

 

ゲイムギョウ界の戦争は、俺の知っているのとは大分異なる。女神はチキュウと違い、国のトップという位置に居ながら、部下や職員に執行するのでなく自らの手で、最前線に立ち国民の願いに応え叶えようとしている。嘗ての俺は、国の為に数多くの任務を熟し全うしてきた。

今、この世界を脅かす存在、犯罪組織マジェコンヌ。そして、その目的であった犯罪神ユニミテスの復活。女神はこの状況を打破すべく、会話では不可能と判断し犯罪組織と対立、武力行使による戦争…というよりは紛争をする事となる。だが、女神すら予想を遥かに上回る出来事が起きていた。三年前にリーンボックスのズーネ地区・廃棄物処理場で仕留めた存在だと思い込んでいたニグーラのエンデ…だが、奴は肉体だけが滅びただけあり、精神はこの世を彷徨い復活の機会を伺っていた。犯罪神に乗り移るためにマジェコンヌを利用し、犯罪組織マジェコンヌによって犯罪神の復活へのシナリオが出来上がってしまった。そもそも、この事態が起きる前に防ぐ方法は幾らでもあったのかもしれないものの、そのどれもが無意味なのかもしれないが…。三年前に、アンチクリスタルの回収任務の時、同様の事を考えていたと思われるワレチューと遭遇するも、その内は違った。

 

マジェコンヌ(おばはん)を助けてほしい。』…というものだった。

 

最初は“何言っているんだ此奴”とは思ったが、調べていくうちにマジェコンヌの足取りが分かった。より多くのアンチクリスタル、そして強大な力を求める為に研究をしていたが、ある声に導かれるように姿を消し、ワレチューはギョウカイ墓場にいるという足取りを見つけたものの、既にマジェコンヌはマジック・ザ・ハードとして依り代にされ、ワレチュー自らも犯罪組織として活動しざるを得ない事となってしまった。たとえ、助けてという意味を“殺る”という意味で捉えたとしても、奴は新たなる器を求め復活する方法を探るに違いない。今、ここで葬らなければ、ゲイムギョウ界崩壊だけでは済まない、全人類、全星々を破壊しかねない存在だ。

 

「一つ気になるね。何で、君は一人で戦おうとするのかな?」

「…あいつ等を守れる程、俺は強くない。」

「それはギャグで言ってるのかな?君程の力があって、女神と協力し合えばもっと楽になったはずだよ。まぁ、何人居ようが、君達が勝てるかどうかは置いといてだね。」

「元よりお前を野放しにし、ゲイムギョウ界はめちゃくちゃにしたのは俺の責任。ならば、この件は俺一人で解決する心算だ。」

「ふーん…君ってさ、頭のネジが外れてる馬鹿なのかな?それって結局は君の我が儘みたいなもんだよ。それでいて、君が誕生した、ここまで辿った真相を知っていても女神の味方を―――――」

 

此方は奴の話を聞いている間、構えを緩めていた。だが、奴が語っている最中に話を割るように急接近し、居合斬りを仕掛ける―――――が、数センチで切り払えるところで、奴が持っている鎌で防がれてしまう。

 

「ふぅ、ヒヤッとしたよ。まさか君が奇襲をするとは、女神なら考えない行動かもね…。」

≪死合いにルール等ないのだ、偽物よ。≫

「この力は、女神とは真逆の存在…。だが、俺の使命はお前達の根絶。そして、俺の魂が叫ぶ…貴様等を許すわけにはいかないと…付き合ってくれるのだろう、ハードブレイカー。」

≪我が主の肉体を、勝手に使う愚か者を葬れるなら、幾らでも付き合おう。≫

「ふふ…くくく…これが、君と僕の宿命か…。」

 

奴が両剣を無理やり押し出し、交えていた状態を弾き返し吹き飛ばされ距離を置かれる。その動きは、まるで熟練の動きと変わりない。恐らく、乗り移っても過去の女神と戦った力や行動が染みついているのだろう。

 

「気づいていると思うけどね、これだけは逆らえないはずだよ。君の体は、あのジンという男に女神の力の源を授け、僕らや犯罪組織と同じ力が充満している。その体には既に収まり切れない負の力が溜まっている。君は人間であるが故に感情を抑える術があろうとも、犯罪組織に逃げ込んだ人間同様、その性に逆らうことが出来ず女神に歯向かう存在になる。」

「…その時は、俺が女神の獲物になる。それだけの事だ。」

「ふん…面白い…最高の一日になりそうだよ。」

 

それを聞き終えた奴は、両剣で地面を削りながら接近し振り上げてくる。それをゲハバーンで受け止めつつ、跳躍し背後をとるように動く。奴の背後に向けて銃を取り出し発砲するが、両剣で受け止める。それを地面に並べると思いきや、此方に向けて発砲返しのように弾き飛ばしてくる。飛んでくる銃弾を籠手では防ぎきれないと判断し、ゲハバーンで防御する。それを見計らってか、防御体制の俺に向かって突進突きを放ってくる。だが、此方も簡単にやられるわけにはいかない為に、足元からパイロ能力で火柱を立てる。

 

「何っ…!!」

 

だが、火柱を無視して此方に突っ込んでくる。見た目上、奴もダメージを受けているが、お構いなしに突きを放ち、両剣が脇腹に突き刺さる。だが、此方も脇腹に突き刺さる瞬間、地面から影剣を斜め上に出現させ、奴の右足と左肩を貫く。急所ではないものの、お互いによろけて距離を取る。

 

「ぐっ…諸刃の剣か…。」

「やる…ねぇ…。カウンターも…視野に入れてるとはね…。」

 

だが、お互い考えることは同じようで、シェアを凝縮させ傷の治りを早くさせ傷口を塞ぐ。

 

「その力を使えば、君はより僕達に近づくのを分かっていて、尚且つそれだけの力を持っていながら、そんなちっぽけな銃器を頼るのかい?」

「この銃は、俺が作ったものではない。俺の為に作った人がいる。此奴は何れ使ってくれるであろうと思った人が修繕した物だ。だがな、俺は…貴様(・・)を葬ることが叶うなら、何もいらない…!」

「………。それが、君達の言う友情ごっこかい?それで強くなれたら、誰も苦労しないよ!」

≪友情ごっこ…確かに、我等はその言葉は似合わないだろう。だが、同じ目的を持った同士なのは確かだ。我等とて一人ではない。≫

「………。」

「へぇ、犯罪神の為に仕えた君がそういう事を言う。その男に感化されちゃったのかな?そういうのが一番嫌いだ…よっ!」

 

仲間や友情が嫌いなのか、その言葉に反応するかのように両剣を振りかざしてくる。それをゲハバーンと左手に呼び出した影剣を使い弾くだけでなく、カウンター狙いの反撃をする。互いのその一振り一振りは、まともに当たれば一撃必殺、一刀両断という威力を持っている。その証拠か、ギョウカイ墓場に散乱している岩場や建築物のようなものが、一振り毎に斬り捨てられるように崩壊していく。その拍子に被っている帽子は何処かへと行ってしまい、ゾディアーク時に出現する取れない仮面もひび割れてしまう。ゲハバーンと両剣による攻防の中、その流れを変えたのはエンデの方だった。

 

「ぐっ!」

「ふふ、その動きは見切ったよ。」

 

水平斬りををした途端、俺の背中を超えるように前宙をし、着地と同時に俺の片足にアンチエナジーで作られたような結晶の短剣を刺してくる。だが、その刺さった足で回し蹴りをし、エンデの体を若干ながら切り裂く。そして、そのまま地面に強く足を踏みつけ、刺さっている短剣を吹き飛ばし右手に持ち投げ返し、右胸あたりに刺さる。

 

「ぬぅ!!や、やるねぇ…。でも、刺さり具合は浅いね。」

 

まるで、刺さっていなかったかのよう、自らに刺さっている短剣を引き抜き、両剣を構えなおしてくる。

 

「そこだ…!」

「…させないよ。」

 

構えなおす一瞬の隙を見て、急接近しゲハバーンを縦斬りに放つが、両剣の横振りにより防がれる。刃物と刃物がぶつかる衝撃で、火花が散る。

 

「まさか、西洋剣系統をここまで扱えるなんてね。」

「3年間、暇を持て余してた訳じゃない。」

「分かるよ。君のその一段と鍛え上げられた引き締まった肉体。突き刺した時の感触は、骨槍で突き刺したあの時とはまた違っていたよ。そして、鍛え上げられた拳は最早刃物と変わらない切れ味とも言える正拳突きや回し蹴り。天才肌で在りながら努力家な君は、女神並みに脅威だよ。」

「気持ち悪い事を言う。俺のファンクラブでも設営する気か。」

「それをするくらいなら、君のその力が欲しい…かなっ!」

 

互いに力が入り、両剣とゲハバーンが力強く擦れ合い、まるでチェーンソー同士が交えているかのように、互いの持っている武器が交えている場所が、熱した金属の如く赤く染まっていく。その状態で押し合うが、上手く力を逃がすように横へ移動し、刃物が交えている状態が続く。それも、お互い攻める隙がないのか、何方が先に手を出すのか待っている状態でもある。

 

 

 

しかし、その流れは予定外の方へと進んでしまう。

 

 

 

「ハーミットぉっ!!」

 

突如、後ろから声が聞こえ振り向いてしまう。そこにいたのは、リンダとワレチューだった。そして、その一瞬の隙をつかれてしまう。

 

「余所見はいけないね。」

「ぐがっ!」

 

エンデの強烈な蹴りを受けてしまい、転倒してしまうも直ぐに受身を取り体制を戻す。そして、その先には、吹き飛ばされたワレチューと、人質のように捕らわれているリンダがいた。

 

「ぢゅぅ…。」

「くっそぉ…!離しやがれってんだ!」

「おっとぉ、暴れるんじゃないよ。」

「貴様…そいつは関係ない、開放しろ。」

「くくく…確かに、この体を復活する為に活動してたのは知ってる。でもね、君が最も嫌がる事をするのが、屈服させる最高の方法だと思うんだよ。」

 

まさか…リンダを殺す心算か…!!そう思った瞬間体が勝手に動いていた。

 

「ひっ!」

「おっとぉ、動くと苦しませて殺っちゃうよ。」

「………。」

 

リンダの首元に両剣を向けて、脅しをしてくる。恐怖からか、リンダが涙目になっているのが分かる。分かっている…この状況になったら、もうアレをするしかない。だが、この戦いで力をかなり使ってしまった。上手くいくかの保証はない。

 

「さぁてと…どうやって料理しようかな。」

 

エンデが目を反らした…その瞬間、額に指を当て念じる。もう、やるしかないんだという形で動いている。…犠牲は、俺一人でいい。リンダに向けて短剣が刺されようとする瞬間―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ…ああ…!!」

「は、ハーミット…!!」

「ちぃ、やっぱりそうしてくるか!!」

 

嘗て使用した(Scene18参照)、自分と対照の位置を入れ替える超能力を使い、リンダと位置を入れ替える。上手くいったと同時に、腹部に両剣が突き刺さる。だが、逆に言えば、奴も避ける事が難しい距離でもある。

 

「な、こ、これは…まさか…!!」

 

影によって作った蔓のようなものでエンデを束縛する。右腕に全てのエネルギーを注ぎ込み、ゲハバーンに伝える。そして、全身全霊の力を込め…自らの腹部へ突き刺し、エンデを道連れにするかのように、エンデにも突き刺さる。

 

「ぐああああ!」

「があああああああ!!永…守…ぁああ!」

 

それは、今までに味わった事もない激痛。突き刺した瞬間に、負の力が流れ込みつつ、痛みによって全身を蝕んでいく。それでもお構いなしに、更に深々と突き刺していく。

 

「滅…びろ…!」

 

そして、横払いをするかのように、ゲハバーンを引き抜く。激痛が走りつつ、全ての力を使い果たしたかのように、その場に受身も取れずに倒れこむ。その拍子にゾディアーク化も解けてしまい吐血もしてしまう。…深々と刺したせいかかなりの量が出ている。ゲハバーンの力は、防刃仕様も役に立たないようだ。

 

「ああ、か、体が…崩壊…していく…!!あああああああああぁぁぁあ!!」

 

魔剣ゲハバーンの力が通じたのか、エンデの体…基い、乗り移っていた犯罪神ユニミテスの体が崩壊していく。これで、エンデ諸共滅びる―――――はずだった。

 

「許さない…許さないゆるさないユルサナイユルサナイユルサンユルサン…!!」

 

犯罪神の体は崩壊した…だが、エンデの精神体を消滅させることは出来なかった。奴の、その強烈な憎しみが、それを阻止したというのか…。

 

「お、おい!無茶すんじゃねぇ!アタイ達の輸送ヘリがあるんだ。そこまで、一旦退くぞ!!」

「その体じゃ、勝てっこないっちゅ!!」

 

ゲハバーンを支え棒のように使い、体に鞭打つように立ち上がるも、リンダが肩を貸すかのように現れる。吹き飛ばしから帰ってきたワレチューも、制止に入ってくる。

 

「(…酷だが…託すしか…ないか…。)」

「あ?なんか言ったか?」

「…いや…そこまで、頼む…。」

 

そうして、リンダに肩を貸されつつ、此奴らが来た輸送ヘリまで導いて貰うことにした。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

犯罪組織が使っていた輸送ヘリが見える位置までたどり着くと、輸送ヘリ内に何かがいるのが見える。

 

「おうぃ!こっちだ、早く来い!」

「な、ま、マジック様!!」

「ど、どうしてここにいるっちゅか?」

「アクク、先ほど目覚めたばかりだ。丁度これが見えたからなぁ。して、随分とズタボロなのもいるな。」

「…アンタも…無事だった…のか…。」

 

サイズは小さいが、そこにいたのは紛れもなくトリック・ザ・ハードではないトリックがいた。リンダが輸送ヘリを動かしつつ、助手席にワレチューが乗る。後部座席に寝転ぶ二人がいる。永守とマジック・ザ・ハードの呪縛が解けたマジェコンヌ。そして、輸送ヘリが飛び立とうとする。そんな中、トリックの舌が、永守を包んでいた。

 

「トリック…貴様…。」

「と、トリック様?い、いいんですか?」

「アクク、幼女じゃないから気乗りはせんが、此奴が死んでしまったら、黒幕をギャフンと言えなくなるのだろう?…しかし、前にあった時より、少し言葉が乱暴じゃないか?」

「………。」

「まぁいい…レロレロ…。むむ?傷が中々治らんな…これが、ゲハバーンという魔剣の力か?」

 

トリックの舌は幼女に癒しを与える。その回復力は抜群であり、癒すのに自信がある。だが、少しずつ傷が塞がり回復はしているが、その傷口が中々塞がらない。

 

「ぬぅ、流石に野郎の滴る血を吸うのにも、きついものがあるなぁ。うぇっぷ…。」

「もういい…。」

 

小さいトリックの舌を退かし、普通に椅子に座るように腰掛ける。

 

「で、一旦研究所に戻ろうと思うんだが?」

「…いや、プラネテューヌに向かってくれ。」

「プラネテューヌ、こ、コンパちゃんに会えるっちゅ!!」

「じょ、冗談か?これで行ったら敵地に乗り込むようなもんだぞ?」

「時間がない…奴は、必ず復活する。女神に頼らなくてはならない。」

「…分かったよ、行きゃあいいんだろ!!」

 

時刻は夕方になる前…犯罪組織の輸送ヘリが、ギョウカイ墓場を抜け出し、進路をプラネテューヌへと向ける。永守は、何処か遠くを眺めているかのように、顔を外へ向けている。そんな永守にしか聞こえない程度に、小声で話しかけてくる聞き覚えのある声、黒ワールが話しかけてくる。姿を隠している為か、永守にも目視は出来ていない。

 

「(おい…ここまでやっといて、破滅へと行く気か?)」

「(…なんだ、俺の心配か…。この忌まわしき輪廻を終わらせるには、これしかない。)」

「(生きようと、思わねぇのかよ?)」

「(ゲハバーンの突き刺しで、ハードブレイカーは逝った…。俺にも罪はある。1ではなく0にしなければ、再び同じことを繰り返す…。)」

「(オメぇも…そのうちの1と言うのか?)」

「………。」

「(ああもう!人が折角導きを与えようと思ってんのによ!わーったよ…オレはオレで動いてくからな!)」

「(勝手にしな。)」

 

それ以降、永守はマジコンで連絡を入れるような動作をしつつ無言を通していくのだった。その意思は、例え自らが居なくなり、悲しむ人がいようとも立ち止まる気はない…そんな雰囲気を背中で語っているようにも見えた。

 

 

 

 

 



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Scene51 邪聖剣ゲハバーン~Goodbay~

最近、UAが徐々に上がっていくなぁ…とぼけーっと眺めていたら、いつの間にか5,000を超えていた…とんでもねぇ…ありがたやありがたや。


 

 

「ここ…は…?」

 

気が付くと、プラネテューヌの墓地に、わたしは突っ立っている感じ…目の前には、えい君の戦友達が安心して眠れるように建てた墓石がある。夢…なのかな?頬を抓っても痛くないのに、奇妙な程に現実感がある。それに、周りを見る墓には合わないような花が一杯…チューリップ?そんな事よりも、気になるのは体が動くかどうか。よくこういう夢の中では、動けなかったり、特定の決められた行動しか出来ないってパターンもあるけどどうだろう?っと思いつつ動かすように意識すると、普通に動いた。…うん、こんな事してる場合じゃないね。動くと分かれば、こんなところからスタコラサッサだよ!きっと、ここから出れば、皆が待っている場所へ戻れる…はず。そう思いつつ、わたしは体を出口のある方へと向ける。

 

「…!?え…えい、くん…?」

 

後ろを振り向くと此方に向かってくる人がいた。それは、見間違えるはずもない、粉うことなきえい君だった。ただ、様子が可笑しい。墓参りだから花束を持っている。それは普通…でも、そのえい君はまるで戦争し終えた後の兵士のような…戦ってきた後のように、ボロボロだった。正直言って、夢でも目を反らしたくなるような光景…なのに、わたしはどうしてか、釘付けのように視線はえい君を追うように動き、体もえい君を追うように動いていた。それだけじゃない。まるで、わたしはそこに居ない存在なのか、わたしを平然と横切り、華麗にスルーしていく。

 

「待たせてしまって申し訳ない…。」

 

そう言って、えい君は墓に花束をそっと置く。少し間を入れ敬礼をしつつ、えい君が深呼吸をすると、腰あたりに手を伸ばしているのが分かる。そして、取り出したのは―――――

 

 

 

 

 

「(ぇ!?じゅ、銃…!?)」

「最後に課せられた罰を、受ける時が来た。全ての現況を消し去り、初めて平和が訪れる。残りは女神を信じる事になる。…1を増やす事に関わってしまったのならば、その罰を受けなければならない。」

「(だ、ダメ…!!)」

 

えい君が愛用しているリボルバーを、自分自身の首元に構えているのが見える。反射的に自分自身に撃とうとしているのが分かり、止めようと動こうとする。

 

「(な、なんで…からだが、うごかない。こえも、でない!)」

 

夢だから、きっと大丈夫だと思っても、とてもそうとは思えない程生々しく感じ、止めなくてはならないのに、体が動かない、声も出ない、最悪そんなえい君の後姿を見たくないと瞼も閉じたいのに、それすら許されない。

 

「俺も、あなた方の元へ…。」

「(だ、だめぇええええ…!?)」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」

「わああああ!!」

「………。あ…あれ…?」

 

ここは…必死に叫ぼうと思っていたら一瞬、目の前が暗転して…今、よく見覚えのある部屋…プラネテューヌの、わたしの部屋だ。何もかもが突然すぎて、ちょっと頭がついて行けてない感じがするよう…。

 

「ね、ねぷねぷが…ねぷねぷが、目を覚ましだですぅ!」

「こんぱ…ノワール…?」

 

意識がまだはっきりとしない中、誰かに抱き着かれる。凄い抱擁感と柔らかい何かが、わたしの顔を覆っている!意識がはっきりとして、コンパがわたしを泣きながら抱いているのが分かった…そして、苦しい…!!

 

「よかった…よかったですぅ…!」

「あ、あの…コン、パ、さん…クルチイ。」

「あ…ああ!!」

 

わたしが苦しくなっているのを察して、ネプギアは抱くのをやめて謝ってくる。うーん、まだまだこういうところは甘えん坊だなぁ。…おっと、浸ってる場合じゃない。

 

「ご、ごめんなさいですぅ!また、ねぷねぷと一緒に色々と出来ると思ったら…。」

「だいじょーV!開いた穴はこれからの事で埋めていけばいいじゃない。」

「はいです…!」

「………。輪を乱すようで悪いんだけど、まだ犯罪組織の件は終わってないわよ。」

 

直ぐ近くには、足を組んで椅子に座っているノワールが…

 

「べ、別に貴女の事が心配だから、看護してたわけじゃないからね!」

「…心配してたんだね。」

「そ、そんな訳…。」

「ま、まぁまぁノワールさん。心配しているのは、皆さん同じですよ。」

 

その後、わたしが眠っている間の話を聞く事に…女神が帰ってきたという朗報は直ぐ各地に流れたみたいで、歓迎ムードが凄かったとか。それから、コンパ含め医療チームがわたし達の治療に当たり、体内のシェアエナジー以外は問題ないらしい。わたしばバリバリ元気なんだけどなぁ?それで、今は犯罪神の確認、確認出来次第、今後の作戦とえい君の救出の計画をする為、いーすんが演算中だとか―――――そーだ!いーすんにただいま言ってこなきゃ!そう考えると同時に、体はベッドから跳ね上がるように起き上がる。

 

「わわ、ねぷねぷ!何処へ行くですか?」

「いーすんにただいま言ってくる!!」

「………。相変わらず元気ね。」

「でも、何時ものねぷねぷで安心したです。」

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

「………。わかりました。今、此方に向かっているのですね。」

 

プラネテューヌのシェアクリスタルがある広間に、僕はジンやアイエフさん、ネプギアちゃん、ユニちゃん、それと教祖様と数人のプラネテューヌ教会職員の人達と一緒にいる。…僕一人じゃ心配だからってベール姉さんとチカ姉さんがいるのはいいし恋しかったってのも分かるのだけど、何故僕を二人でギュウギュウする程抱きしめる必要があるのか…。本題に戻ると、僕がここにいるのかは、転生者というのは何かしらの理由で呼ばれている。つまりは、場合によっては勇者でもあり危険視されることもあるとか。その為か、犯罪神を倒すための斬り込み隊長の役割をする可能性も視野に入れていると教祖のケイさん達は言う。それと、最も重要じゃ事は、ジン君と永守さんはグル…と言うと言い方は悪いかな。互いに情報を交換し合って、女神側を有利に進めるように仕組んでいたという。また、ジン君もその情報を密かにイストワール様に伝えていたみたい。それを仲間内に広めてしまい、動機を探られない為に少人数のみの情報網に留めて起きたい…と言えば、綺麗に収まるけど、永守さんも犯罪組織に貢献しないと情報網がバレてしまうからか、手加減は出来なかったらしい。それでも、予想外の出来事が多すぎる為か本来の路線とは違う道に進まざるを得ないと…。それから、犯罪神のエネルギーが

そして今、永守さんからの連絡を、イストワール様が行っている。犯罪神の体を乗っ取った奴は倒したものの、魂までは倒せず一旦退くこととなったと言う。でも、話を進めていくうちに、イストワール様の顔が険しくなる。

 

「待ってください!それでは、貴方は…永守さん、永守さん!!」

 

何かイストワール様と揉めているようだけど、向こうから連絡を切られてしまった模様。恐らく、永守さんから何か提案があったのだろう。ただ、イストワール様の顔が険しくなったということは、あまり受け入れ難い内容だったのかもしれない…のかな?

 

「い、いーすんさん?」

「イストワール様、一体何が?」

「………。あの人は、プラネテューヌの墓場で女神全員を待っているそうです…。」

 

イストワール様は、恐らく永守さんが指定した場所に待っているということを言うものの、何処か暗い表情をしている。

 

「何故ですか…あの人は…怖くないのですか…。」

「落ち着いて下さい。一体何が…?」

「魔剣ゲハバーン…唯一犯罪神に対抗し得る剣というのがありまして、今、彼はそれを所持しているそうです。」

『魔剣…?』

 

魔剣という言葉、その時点で嫌な予感がした。…ジン君は“そうなってしまうのか…”とボヤいたように聞こえた。

 

「犯罪神に対抗出来る剣…。」

「という事は、犯罪神を倒せるってことよね…。」

「そうとなれば、早く持ってきてくださらないと!」

「待ってください!あ、あの、魔剣ゲハバーンって…。」

「わたくしも、初耳ですわ。その魔剣ゲハバーンとは、どういうものでして?」

「………。救世の悲愴とも言われている、歴史の裏に隠されなければならない、悲劇の産物とも言える聖なる剣…のはずだった剣…と言ってました。」

「聖なる剣になるはずだった…?」

「…話は聞いたことあるけど、それは噂程度で存在は確認されてないはずよ。」

 

話からすると、犯罪神を倒す為に作られた剣と言える。でも、聖剣のはずなのに魔剣と呼ばれる剣…。アイエフさんは噂でしかないと言うも、そうすると、ジン君も語り始めた。

 

「その剣は、ある条件下によって力を発揮するんだ。その条件が、余りにも重すぎるんだ。」

「待ちなさいよ、アンタ。噂話の剣が存在するとでもいうの?」

「実際、俺達は既に見てんだよ。問題は、その剣が俺の知っている剣かどうか…。」

 

その瞬間、全員が緊張感を漂わせる。

 

「俺が知っている範囲であれば、女神の命を殺す事。女神を食えば食うほど、魔剣ゲハバーンは強くなる…。差し詰め、女神食い(ハードイーター)と言ったところか。」

『女神の…命を…?』

「そして、永守が持っていた…ネプテューヌさん、ネプギアと対峙していた時に持っていた、あの禍々しく紫色に輝いていた剣。あれが、魔剣ゲハバーンだ。」

『な、なんですって!』

 

その言葉に、全員が青ざめる。女神の魂を捧げることで強くなる。それは、女神を消す事になる。つまり、ベール姉さん、女神の力を持つ僕も対象になる。

 

「冗談じゃないわ!そんな物騒な剣、使える訳…てことは、アイツはネプ子とネプギアの命を取ろうとしてたってことじゃない!何考えてるのよアイツは…。」

「永守は、そんな事の為に使っていた訳じゃない。…奴は、その混沌と繰り返される魔剣の歴史を抹消することも念頭に動いている。具体案は知らないがな。…で、イストワール様、奴の提案したのは?」

 

ジン君が聞こうとしたが、その内容は驚くべきとも言える内容だった。

 

「古の4武器と…彼の命を生贄に禁断の秘術を行う…。」

「禁断の、秘術…。」

「はい…私も方からも前々から頼まれて調べていました。膨大なる魔の魂と引き換えに、その力を剣に宿す…。あの人は今、体内に膨大な魂を持っているそうです。」

「膨大な魂が必要なのに、永守さん一人というのは、どういう事ですの?」

「今のあの人は、深紅の石の力を体内に宿しているそうです。それは、数多くの人々の魂があるそうです。壊したはずが、自らの体内に入ってしまった…そう話しています。そうなれば、魔剣は別物になるだけでなく、犯罪神の器だけでなく存在自体を切り裂けると…。」

「つまり、女神は命を落とさず、彼一人で膨大な魂を魔剣に宿せると…。」

「はい…。」

 

ケイさんが、イストワール様に理解したことを伝えると、イストワール様はその通りだと伝える。決断の時なのだけれど、全員それを拒むような表情をしているのが分かる。

 

「そんな、わたくし達は助かっても、永守さんは助からないってことですわ。そんなの…受け入れられませんわ…!」

「そんな…ここまで来て…それしか道はないの…?」

「アイツは…馬鹿なの…?皆が助かれば、自分は死んでもいいと思ってるの…?」

 

ベール姉さんやネプギアちゃん、ユニちゃんの言う通り、犯罪神を倒せる力を手に入れたとしても、永守さんの言う通りであれば、永守さんを信頼している人達、あの人に何度も救われた女神様…僕もその一人だから、とても受け入れるには…。

 

「流石の俺も、そいつは聞き捨てられねぇし受け入れねぇ。あの野郎に一言突っ込まねぇと気が済まねぇ。あの馬鹿野郎に会ってくる。」

「私も行くわ。流石にこればかりは黙ってられないわね。」

 

ジン君がそういうと、アイエフさんも釣られる様に立ち上がる。

 

「確かに…ネプテューヌや、ネプギアちゃんには、一番長く付き合いが長い分重いですわね…。わたくしも止めるように言わざるを得ませんわ。」

「ベール姉さんと同じく、僕も助けてもらった恩がある…。他に手があるはず…。」

「私も、永守さんに伝えなくてはいけません。…くれぐれも、ネプテューヌさんには話さないほうが…。」

「…イストワール様…もう、手遅れのようだ…。」

「…え?」

「お、おねえ…ちゃん…!?」

「ッ!?ネプ子…。」

 

扉の前に、ネプテューヌさんがいた。問題は、その表情は明らかに青ざめている。さっきの話を全て聞いてしまったのだろうか、まるで嘘であってほしいという表情をしていた。そのまま勢いよく部屋に入らず出て行ってしまう。

 

『お、お姉ちゃん(ネプテューヌ)(ね、ネプ子)!!』

「まさか、墓地に向かう気か?」

「だと、思います…。申し訳ありませんが、ネプテューヌさんを、お願いします。」

 

そう言って、僕達も追いかけるようにプラネテューヌを飛び出す。その追いかけている最中に、ノワールさんや、ブランさん、ロムちゃん、ラムちゃんにも出会い、合流する形でプラネテューヌの墓地へ向かう事となる。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

プラネテューヌの墓地。そこに数人の人と魔法陣のようなものが描かれている。着々と儀式のようなものが準備されており、その中心に魔剣ゲハバーンが突き刺さっている。ギョウカイ墓場から脱出したメンバーと、一人は魔法使いのような恰好をした少女、ライダースーツのような恰好をした少女、小さいながらも大きなものを持つ少女、錬金術士の小さな少女。そして、獨斗永守…彼は魔法陣の中心に座り、左手を短剣で切りつけ、魔法陣に向けて血を垂らす。その瞬間、魔法陣の光が、最初に比べ強くなる。

 

「うん、準備は万全ですの。」

「よし…。」

「ねーねー、これから何が始まるっていうの?」

「聞いてなかったの…?」

「しかし獨斗よ…これでいいのか?私とて、女神とは友達のような存在なのだぞ。貴様自身の寿命がどうあれ、そんな人物がいなくなれば、当然悲しくなる。私とて、1年程の付き合いだが、貴様のような存在が居なくなるのも悲しいぞ。」

「世界が救うということが叶うなら、俺は他の全てを犠牲にする。」

「それが、私達を利用した奴の最後か…。ガスト、日本一、RED、マーベラスAQLよ、どう思う。」

「…ガストは、頂いた分のお金で動いてるだけですの。」

「わたしは難しい事はあれだけど…でも、わたしも永守とは関わってるし、ここまで一緒に戦ってきた仲間なんだから、悲しいといえば悲しいよ…。」

「アタシ?あんまり気にはならないけど、きっとヨメは悲しい思いをしちゃうんじゃないかな?」

「わたしもやっぱり、関りは少ないけど、仲間を失うのは…嫌だな…。」

「これでも考えは変わらないか?」

「ああ…。」

「そうか…。」

 

結果的に二人は、永守と繋がりがあった。女神が捕まり、永守が犯罪組織加入までの1年間に出会っていたのだ。そして、女神サイドがどうして上手く動けていたか。どうして、プラネテューヌ及びルウィーにて、REDとブロッコリーがタイミングよくネプギア達に出会ったのか…。そこには、永守だけでなく、REDとガストだけでなく、マーベラスAQL、MAGES.とも関わっていたからだった。合流はしないものの、陰ながら支援を行っていたのだ。

 

「………。おいおいおい…さっきから黙って聞いてれば、アタイ達は端から掌で踊らされてたっていうのか?」

「アククク…吾輩達はそういう事だったようだな。」

「そう思うのなら、そう思えばいいっちゅ…。」

 

端の方で、ただ茫然と見ているワレチュー、リンダ、トリックがいる。最初からとはいかないものの、やはりこういう結末になってしまった事に若干の不服と感じている…のはリンダだけであり、残りの二人は仕方ないという感じだった。ワレチューにとっては、治療中の為にこの場にはいないものの、おばはんこと、マジェコンヌが無事であることで十分な対価だと言う。

 

「えい君!!」

『永守(さん)…。』

 

丁度その時、永守を見つけたネプテューヌが駆けつけてくる。その後ろをネプギア達が追いかけてくる。

 

「おお、ヨメが一気に来たーーー!!」

「REDさん、なんでここに?それに、日本一さんに、ガストさん。…あと、貴女は?」

「私か?私はMAGES.。狂気の魔術師だ。…おお、ジン。貴様もいたのか。」

「…やっぱり、関わっていたのかよ。」

 

やはりというか、仲間だった日本一やREDがプラネテューヌに居なかったことを若干違和感を感じていた女神候補生達。その悩みは納得いくかどうかは置いておいて、解決することとなる。そして、始めこそリンダやワレチューが居ることに女神達は敵意を出したが、永守がそれを制止する。ネプテューヌはゆっくりと、永守の元へ歩いて行く。

 

「えい君…嘘だよね…?最後まで、わたし達と、犯罪神を倒すんだよね?」

「………。気持ちだけ受け取っておこう。」

 

その言葉を聞いた瞬間、ネプテューヌは目を見開き、涙が零れそうになる。

 

「永守…!どうしてこんなことをするの!!」

「…俺には、もう時間がない。」

「時間が…ない?」

「どういう事ですの。わたくし達では解決できないとでも?」

「その通りだ…。俺は、あと数時間で、大量殺戮兵器になる。」

 

ノワール、ブラン、ベールが永守に問うが、時間がないと言う。そして、その問いに対して、自らが大量殺戮兵器になると言う。

 

『大量殺戮兵器…!?』

「獨斗…何言ってんだ…そんな話、聞いてねぇぞ。」

「出鱈目言ってる心算…?」

「見た目はかわってないじゃない!」

「なんで、ダメ、なの?」

 

ジンだけでなく、女神候補生も永守に問う。少なからず、3年前まで共闘しただけでなく、数多くの問題を解決し、ゲイムギョウ界に貢献した男が、今まさに死を選ぶ道を進んでいる。何故、その道を選んでしまうのか。そして、永守は口を開く。

 

「感じるんだ。俺の心が、徐々に汚染されていくのを…。」

「感じる…?」

「心臓の鼓動が少しずつ弱まり、血液が冷たくなっていく感覚。湧き続けていく殺意…。俺と言う存在が消えていくのを…。」

「で、でも…。」

 

ネプテューヌは必死に止めようと試みるも、永守の目から伝わる決意は強固だと感じ取れる程に、一線を見据えている。

 

「ならば、こんな魂で多くの人々を救えるのなら、同じ苦しみを与えるのを防げるのなら、この魂…幾らでも捧げられる。」

『そんな…。』

「…やだよ、えい君…わたしは…。」

「ネプちゃん…(ネプテューヌさん)。」

「…女神よ、彼がどんな気持ちで…。」

「分かってる…分かってはいるけど…。」

 

女神だけでなく、全員が頑なに永守が死ぬことを拒む。

 

「獨斗…何故だ、死ぬことが怖くないのか…。」

「死ぬことは誰でも怖いさ。だが、それで救われる命が多ければ、俺は実行する。」

「何でよ、なんてアンタは、そうやって一人で抱え込むのよ。」

「…そうでなければ、お前達は止めに入るだろう。だが、俺はこのゲイムギョウ界を破滅へと導いた一人。そして、ニグーラを連れてきたのも俺…。少なからず1を2にしたのは事実だ。そして、ゲイムギョウ界でその2を更に増長したのも事実。全てを断ち切るには、1ではなく0にしなければならない。」

 

ジンやノワールに向かって淡々と答えていく。ネプテューヌは涙を堪えるのに必死であった。叶くしても、ネプギアの前では強くありたいとも見える。そんなネプテューヌに、永守はネプテューヌの肩に手を置く。

 

「済まない。俺一人で全てを解決しようと思ったが、出来なかった。補佐だけでなく戦士として失格だ。」

「えい…君…。」

 

ネプテューヌは驚いている。少なからず弱音を吐かなかった永守が、それっぽい事を言ったのだ。

 

「俺の、最後の我が儘を、どうか許してくれ。そして願わくば、最後は女神の力を、奴らに見せつけ、解決してくれ。ジン、スミレ…お前達にも、迷惑を掛けた。」

「な、何言ってんだよ…。」

「そんな…僕は僕で、貴方に迷惑を掛けた…。」

「だが、俺が居なければ、少なからずお前達も平穏な暮らしを迎えれたはず。」

「永守…。貴方は、何も悪くはありませんよ。わたくしだけでなく、5pb.ちゃんも感謝しておりますのよ。」

「わたしも、貴方には迷惑を掛けたわ。それでも、わたしの妹達を助けてくれた。」

「私も、貴方には助けられたわね。出来ればラステイションでの活躍を期待していたのだけれど…。」

「えい君…。わたし、これから、もっと頑張るから、ゲームばかりしないから…仕事ちゃんとするから…だから…逝っちゃ、やだよ…。」

「ネプテューヌ、ネプギア、皆…。これから俺は…俺は消える。だが、お前達はそれを後世に伝える事が出来る。…受け売りなのだが、覚えてくれ。別れを嫌がるのではない。その間に過ごせた時を大切にするんだ。そして、救うんだ、ゲイムギョウ界を…俺を…。」

 

それを聞き、全員が俯いてしまう。犯罪神を倒す手段が目の前にあるが、一人の命を代償とする重み。それも、自らの手でやらなければならいという雰囲気の為に、躊躇してしまう。だが、ネプテューヌは服で目元を擦り、決意する。

 

「ねぇ、MAGES…だよね。」

「MAGESではない。MAGES.だ。…決意したか?」

「うん…。」

「ネプテューヌ…本当にいいの…?」

「…わたしは女神。そう、ゲイムギョウ界の人々の願いを叶える存在。なら、わたしはえい君の最後の願いを、叶えなきゃ。…何をすればいいの…?」

「決心したか。女神候補生達よ、まずは、古の武器を四隅の4点に刺してくれ。ああ、杖は二つで一つだ。二つをそこに刺してくれ。」

 

MAGES.の指示通り、女神候補生達は、四隅にそれぞれの武器を刺していく。

 

「では次に…ゲイムキャラ達はいるのだな?」

≪ええ、常に彼女達と共に…。≫

≪その反応、我々の力も使う、と言うことだな?≫

「その通りだ。ゲイムキャラの魔力、少しばかり注いでくれ。」

≪この儀式、知っていたとはいえ、かなり大規模になりますね。≫

≪だが、私達はゲイムギョウ界の平和を望む…。この犠牲は仕方ないとはいえ、やらなければなりませんね。≫

 

そうして、ネプギア達から一時的に出てきたゲイムキャラ達の魔力も注がれる。そんな時、ジンの持っていたアミュレットから声が聞こえる。その声は、永守にも聞こえていたらしく、ジンが持っていたアミュレットの方へ視線を向ける。

 

≪…ジンさん、聞こえますか。私の力も、使ってください。≫

「(…!?アミュレットからか。)力を使うって、アンタも生贄にという事か?」

≪今回の事件、元の根源は私にもあります。あの人だけに背負わせる訳にはいきません。≫

「…分かった。」

 

ジンは、永守の方へ向かいアミュレットを受け渡す。

 

「ほらよ、元々はアンタのもんだろ。」

「………。いいんだな。」

≪はい…。私も、貴方の体に眠るゼロさんと共に…。≫

「ほう、そのアミュレット…凄い力だ…。うむ、準備は出来た…最後の儀式だ。」

 

そうしていると、ネプテューヌの後ろには、ネプギアだけでなく、女神全員が集まっていた。

 

「ね、ネプギア…それに、皆…。」

「お姉ちゃん…。一人で抱える必要はないんだよ。」

「そうよ。アンタ一人でやったらどうなることやら。」

「ネプギアやお姉ちゃんがやるのなら、あたしも力になります!」

「わたし達だって、受け入れなくてはならない。」

「ネプテューヌちゃんだけいいところ見せるのはずるいもんね!」

「うん…ずるい。」

「そうですわ。何も一人でやる必要はありませんもんね。」

「僕も女神候補生…。なら、僕もお力になれるはずです。」

「みんな…。」

 

全員が行き成りの衝撃的な儀式に最初こそ躊躇したものの、永守の願いを叶える為に全員が頷く。いや、そうするしかないのだと言う状況になってしまったのだろう。

 

「そうか、全員でやるのだな。では女神よ、あの男に精神を集中するのだ。それと、ジンよ。貴様の魔力も少し借りたいが。」

「あ、ああ…俺のでよければ。」

「よし…では、ガストよ、始めるぞ。」

「はいですの!」

 

全員が、目を閉じ永守に集中する。ゲイムギョウ界を救う為、永守の願いを叶える為に、精神を集中させる。

 

『全ては無限から始まり1とする。望まれぬ汚れし魂は汝と調べとなる。その憎しみは家の心が受けん。人の世に非ざる力よ。今ここに、無限となり生まれ、一つとなれ…。』

 

MAGES.とガストが呪文を唱えていく。その言葉が唱えられていくにつれ、膨大な魔力に共鳴するかのように、魔法陣が急激に光始めると同時に、ゲハバーンも光り輝いていく。。

 

「今だ、女神よ!その剣でその男を刺すんだ!!」

「約束するよ、えい君。えい君と同じ悲しみは増やさないから…!!」

「わたしも、これ以上、悲しみを増やさせません…!」

 

そうしてネプテューヌとネプギアが女神達に背中を押される形で、二人で剣を取り永守の胸元に深々とゲハバーンが刺さり、体を貫通する。

 

「………。ありがとな…ネプテューヌ…ネプギア…。」

 

刺し口から血は出ているが、まるで痛みはないとも言える形で、二人に永守は答える。魔法陣の光が、全てゲハバーンに集まっていき、薄紫色を基準に虹色に輝く魔剣となった。そして、永守は力が無くなったかのように、剣が刺さったまま仰向けに倒れる。

 

「ッ!?えい君(永守さん)!!」

『永守(獨斗)(お兄ちゃん…)(永兄)!!』

 

全員が永守に向かい駆け寄っていく。ネプテューヌはいち早く永守を抱きかかえる。流石にその様子は尋常ではないと、ワレチューやリンダも向かってくる。

 

「えい…君…。」

「いいんだ…これで…。ここから、新しい…1が始まる…。所詮、俺も、自らの意志とは言え…戦士として生きてきた…に…過ぎない…。」

「獨斗…。アンタは、戦士じゃない。俺達に勇気と希望を与えてくれた、一人の…人間だ。」

「もっと、早く、お前達に…会えてたらな…。これを…受け取ってくれ…。」

 

永守は、最後の力を振り絞って、ネプテューヌとネプギアに、ある物を渡す。それは、永守にプレゼントしたネッグ。そして、永守が持っていた銃と、胸元に付けていたドックタグが変化したネックレスだった。

 

「これが…俺の…最後の意思だ…。受け取ってくれ…。」

 

そして、永守が“さらばだ”と言い終えると。力なく手が落ち、永守の体が光だし消えていくのだった。その光は、魔剣に吸収されるように流れ込んでいく。

 

「えい…くん…。わたしが…えい君を…。」

 

ネプテューヌだけでなく、女神全員がその場に崩れ泣き叫んでしまう。ジンもスミレも、ワレチューもリンダも女神に掛ける言葉が見つからず茫然と立ち竦んでしまうのだった。

 

 

 

 

 

 



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The 4th Encounter ~BraveHeart-想いを翼に広げて編~
Scene52 傷跡~LostHappyEnd~


 

 

プラネテューヌ墓地で、劇的な出来事が起きてから少し経つ。その墓地に居る女神含む人々が、ある墓に花を手向けている。その墓には、プラネテューヌの女神が、信頼していた男に渡した白色のバンドが添えてある。

 

突如とゲイムギョウ界に舞い降りた男“獨斗永守”。何事に対しても、勇敢に、孤高に困難に立ち向かい、時には地獄の火山の噴火の如く戦い、時には平原を吹き抜ける一陣の風のように駆け抜け、最後の瞬間まで自らの信念を曲げず、命の炎を燃やしここに眠る。

 

「あれは、禁断の秘術ですの。禁術文庫114号の514ページに記されていたものですの。」

 

その本に記されていた禁術は、互いに信頼し合える善と悪の、魂の共鳴が必須。そして互いの血と膨大なエネルギーと、多くの人々の魂を捧げ、最も信頼し合う悪の魂を生贄にすることで、その対象の武器に全ての闇の眷属を、魂ごと滅ぼす力を秘める事が出来る。だが、通常の武器、女神の武器に宿したところで、その力に耐え切れず使えないまま壊れてしまうという。魔剣ゲハバーン等の闇の剣であれば、数日だけ耐えられるという。

 

「今、その魔剣は、真の闇を呪う剣となったですの。…魔剣ゲハバーンと言うよりは、邪聖剣ゲハバーンですの。」

「うん、わかるよその意味。えい君の意志だけじゃない。多くの人達が望んだ闇を憎しみの力…滅びの力が…。」

 

ネプテューヌだけでなく、その場にいる全員がゲハバーンから漂ってくる“喜怒哀楽愛憎恐”と様々な感情とも言えるエネルギーが溢れているのを感じている。

 

「済まなかった、女神達よ…こんな形で協力する事に―――――」

「仕方のない事だったんだよ。」

「ね、ネプギア…アンタ…。」

「永守さんが望んだ道だから、誰の責任でもないと思う。永守さんの最後の願いを叶える事、それが、私達女神として…いえ、私達をここまで支えてくれた人への、恩返しになるかと…。」

「呪われた運命、因果を崩す…。そして、アイツの宿敵を倒す事。それが、アイツが叶えたかった事ね。」

 

アイエフが言う事に、ネプギアは頷く。魔剣ゲハバーンによって繰り返された犯罪組織との、過去の女神の宿命。それを、この世代で終わらせる事。それだけではなく、永守の宿敵であるニグーラを女神の手で倒す事―――――

 

「やっぱり…。このような結果になってしまわれたのですね。」

『い、いーすん(さん)(イストワール)?』

 

全員が驚くのも無理はない。プラネテューヌ教会に待機していたイストワールが、この墓地へやってきたのだ。そして、今まで起きていた事を見据えているかのような状態である。

 

「彼は…任務を、自ら付けた償いを受ける為、全うしたのですね…。」

「イストワール、どういうことか説明してくれるかしら?」

「ええ、全てお話する心算です。皆さん、プラネテューヌの教会へ…。永守さんのお願いです、あなた方にも知る権利があります。」

「敵であるオイラ達にっちゅか?…まぁ兄貴のお願いなら、行くしかないっちゅ。」

「アクク、吾輩達の知らない所で何をやっていたか、知る権利があると…。」

「…あんなもん見せられて、黙ってられるかってんだ。アタイも知らねぇ事をやってたんだ。ここまでやらかして、下らねぇ事だったら死んでも承知しねぇよ。」

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ:協会】

 

墓地に居た全員が入っても、余裕がある大部屋。そこには、教員だけでなく、犯罪組織マジェコンヌの永守の配下に居た人や医師、研究者達もいた。そして、その医師達から資料を渡され、目を通すこととなる。普段、このようなのを嫌がるネプテューヌも、目を通している。

 

「ゾディアーク…計画…。」

 

ジンが資料に目を通し、ある言葉を見てボソッと言う。その資料には、永守の身体の経過診断、永守や不覚にも一時的ながら、ジンも暴走という形で呪いが表面化した際の、呪われた力。ニグーラの第二形態の如く、人間の第六感にあたるのをニグーラの力、又はアンチエナジーを利用し表面化することで、女神に匹敵する強靭な力と半不老の力を手に入れる事が出来る、と資料には書いてある。だが、これを通常の人間が利用するには、闇の力に対抗しゆる強い精神力か、相殺する為に女神の力を利用するという二つがある。前者は、精神力に自信のある被験者達を利用するも、次第に暴走又は殺意に飲まれる結果となる。後者は、ゾディアーク化自体は上手くいくものの、拒絶反応が起きそのまま息絶える者が続出してしまった。有志もいたとはいえ、64人が死亡、12人が情緒不安定又は精神崩壊、植物人間となってしまう。

 

「信じられない…こんな事が…。」

「あ…アンタ達、こんな事してタダで済むと思ってないでしょうね!!」

「ユニ!落ち着きなさい!!」

 

そのあまりにも非人道的な行為に、ユニはマジェコンヌの医師、研究者に向けて銃を構えてしまうも、ノワールがそれを制止する。“憎いけど、撃ったところで何も変わらない”と言い、悔しながら銃を下ろす。

 

「非人道的なことは承知の上です。これは、私達の好奇心による独断です。ハーミット様…いえ、獨斗様はこの計画には反対でした。“この呪われた力は広めてはならない。”と…。」

 

それは、好奇心もあるが、もしこの世から女神が全員いなくなり、その悪に対抗しうる手段が確立すれば、少なからず次の世代の女神が誕生するまでの時間稼ぎが出来ると。そう踏んで医師や研究者達は成果を上げようとするも、どれもが満足する結果どころか、死者が出るばかりと杜撰(ずさん)な計画だった。

 

「この力、何処か似てるわ…。」

「似てる?ブラン、何か知ってまして?」

 

ブランは語りだす。ある大戦後に、アンチエナジーと呪われた魂を利用し、ラステイションのある魔石に、ゴーレムだけでなく、デーモンや妖怪と言った悪魔を象り、仮初の命を吹き込むことで、自分だけに従える、従順な悪魔を作り出す秘術が、ルウィーのおとぎ話に存在すると言う。その秘術を、まるで人間に移したかのような…とブランは言う。

 

「結論から言えば、ブランさんの言う通り…悪魔の力を人に移して、呼び覚ますようなものですね。」

 

そして、この技法もニグーラ同様、記憶からも抹消され封印されることとなる。問題はその封印先だ。その封印先は、仮初として作られた“惑星チキュウ”であり、永守が居た場所でもある。負のものはそこに放りすれてばいい、まさにゴミ捨て場のように扱われていた。だが、時が経つことに、その惑星の事も記憶から、歴史から消えてしまう。嘗ての女神達は、果たしてこれを望んでいたかは分からないが、結果として獨斗永守と言う異分子がゲイムギョウ界に紛れ込むこととなり、ジンの記憶しているシナリオから大きく外れてしまう結果となる。

 

そしてもう一つ、獨斗永守の経過診察。はゲイムギョウ界の人と変わらないが、ある技術…封印されたニグーラ、ゲイムギョウ界の技術を、完全なる偶然とはいえ、発見してしまい利用し体内の精神力を具現化するという、魔法とは違った力を手に入れており、彼が生まれる頃には、誰もがその力を体内に宿していることとなる。そして、それは同時にニグーラの復活を意味し、彼の平穏な生活はそれ以降なく戦いにのみ人生を捧げ、更に3年前の出来事により、永守は全てが中途半端となった人間、ニグーラと融合し、悪魔のような右腕とゾディアーク化を持つ第四のニグーラであり、女神の加護を受けた第五の女神ともいえる半人間(ハーフマン)という立ち位置になる。だが、中身は女神でもニグーラでもない、普通の人間である。そして、ゾディアーク化による副作用は、女神の加護により防がれている。だが、半不老とは言え不死身ではなく、そんな反発する二つの力を同時に使う事は、身体に計り知れないだけでなく、感づいていたがニグーラ化が進行していたとなる。その後、ジンのゾディアーク化を防ぐ為に、一時的に女神の力を渡した反動で、更にニグーラ化が進行する。

 

「(そんな…どうして…。)」

 

その経過診断の最後に日記的な形でメッセージがある。ニグーラ―を完全に滅ぼした後、獨斗永守は“死”を選んでいた事が綴られている―――――

 

“元あった世界が崩壊した事を受けたと同時に、このゲイムギョウ界に闇を齎した責任。そして、自らもニグーラに成り下がった。この呪われた連鎖を防ぐには、異分子を全て除かなければならない。1ではなく、0にする為、世界が本当の平和が訪れた時、自分のような戦士は不要な塵と同じ存在になる。そして、願わくは女神の為になる死を選ぶ。その為には、女神の味方を装っていようが、憎まれる事を躊躇なくする。”

 

―――――どんな形で在れとも、死ぬ事を選んでいたと綴られている。そして、一向は全てに目を通し終える。

 

「そして、永守さんがいっていたエンデが、完全体になるまで2日…つまり、明日その剣を持って出撃する事になります。」

 

 

 

 

 

「こ…これって…(そわそわ)。」

「いーすんさん、これ…。」

「よくわからない漢字とかもあるけど、何でこんなに知ってるのよ?」

「………。」

「もしかして、これを知ってしまったら、アタシ達の行動に支障が出るとでも?」

「そ、それは…。」

 

女神候補生達が、イストワールに食い下がる。スミレも加担するかと思ったが、ジンに止められる。加わったところで、何も変わらないと…そんな視線を感じとり食い下がる。

 

「イストワール…どうして、ここまで知っていながら、ユニ達にこの事を報告しなかったのかしら?」

「まるで、感情論に近いですわ。納得しろと言われても、これは難しい気がしますわ。」

「そうね…これだけじゃ、納得いかないわ。」

 

その勢いに乗るように、疑問を解消すべくノワールを始め、ベール、ブランもイストワールに問いかける。そして、その空間がどよめく――――――

 

 

 

 

 

「やめてよ、皆!!」

「ね、ネプテューヌ…(お、お姉ちゃん…)?」

 

イストワールに問い詰めていく全員に対して、ネプテューヌが急に怒鳴る。

 

「何で止めるのよ。まさか、これで納得できたとでもいうの?」

「確かに…わたしだってこれで納得は出来ないよ。でも、今ここで言い争うべきじゃないよ。今、わたし達に出来る事。えい君の宿敵、エンデを倒す事…ううん、呪われた運命、不幸な人達を増やさない事。それが、えい君が最後のお願い。それを叶えることが、えい君への感謝になるんじゃないかな…。」

「ネプテューヌさん…。」

「いーすん、わたしは大丈夫だよ。うん…!だから、何すればいいかな?」

「………。はい、兎に角、皆さんは明日に備えて、英気を養って頂くことです。一度、各国に戻って準備をして下さい。」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【ラステイション:教会】

 

「ノワール…本当に休まなくて大丈夫なのかい?」

 

あの後、自国へと帰るよう促され、一時的に全員帰還することとなる。ラステイションに、ブラックハートことノワールが帰ってきたことは、瞬く間に広まる。それにより、更に士気が上がるのが分かり、犯罪組織の残党も何かを察したかのように自首する動きが見られる。

 

「まぁ、貴女がやってくれてるのだから、事務での間違いはないわよね?それでも、自分の目で見て起きたいのよ。」

「でも、本当に大丈夫なのかい?幾ら、支援で受けたシェアクリスタルで回復したとは言え、明日は重要な戦いが待っている。」

「そうだよ、お姉ちゃん。大丈夫とは言え、やっぱり明日に備えるべきじゃないの?それに―――――」

「それ以上は言わないで。私がやりたいからやってるの。」

 

その言葉を最後に、ケイとユニは何かを察したのか、互いに目を合わせ頷き部屋を出ることにした。

 

「………。」

「ユニ。やはり、君も拭い切れなんだね。」

「え…?」

「彼…獨斗永守の事を、後悔しているって事だよ。」

 

その名を聞き、ユニは一瞬ムッっとした感じになるも、少し俯いた状態で深呼吸をする。

 

「そうね…忘れろって言う方が難しいわね。表には出してなかったけど、お姉ちゃんは彼の事気にしてたし、アタシだって色々と教わりたい事もあったし、恩もある。」

 

ケイは魔剣のデータを見て、“これ程の力を目の前にしたのは初めてだ”という程、強力なものだと言う。だが、そんなケイでも、気にかかる事があると言う。

 

「…ボクだって気にしてるんだ。ラステイションにも結構貢献していたし、形は違えど、一度ならず二度もノワールを助ける事に手を貸した。それだけじゃない。彼に憧れる人やファンだっているんだ。全く、彼は最後の最後で、大きな穴を作ってくれたと思うよ。」

「大きな、穴…?」

「今のノワールがそうだろうね。今見ればわかるけど、余り見るのはお勧めしないね。ボクから言えるのは、暫く一人にしておくことだよ。彼女のプライドの事を思うなら…。」

 

そう言い残しつつ、ケイは持ち場に戻るように歩いて行く。

 

「見ない方が…いい…?」

 

最後に何か言ったようにも聞こえたが、それを聞き取ることは出来ずやはり気になる為、ユニは執務室前まで向かう。特に何も変わらない執務室の扉

 

「………?」

 

…だが、何故だか何時もの扉とは思えない雰囲気がするのを感じるのだった。扉を開けようと思ったが、扉を開ける前に耳を開けて聞いてみる事にした。

 

「(え…泣いてる…?)」

 

完全に聞こえはしなかったが、啜り泣くような、そんなのを我慢するような声が、聞こえたような気がする。

 

「(あ、あれ…?目から…。おかしいな…止まってよ…。)」

 

突然と体から湧き上がる“悲しい”感情に戸惑いながらも、涙を抑えようとする。だが、その感情を押させることが出来ず、声を抑えて大粒の涙を流すのだった。

 

守るべき存在の人を、自分達の手で殺めてしまった罪悪感を抱えながら…。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【ルウィー:教会】

 

日が沈む光、夕焼けが執務室を照らしている。その執務室で、ブランは今までの資料や明日に備えての作戦資料に目を通している。ロムとラムの二人が、最初こそ、わたしが負けたと聞いた時は怒りと悲しみによって、自暴自棄になったと言うが、今や討伐クエストでならBクラスでも難なく熟せるほどに成長していると確信する。

 

「(二人とも、随分と立派になってるじゃない。)」

 

やはり、内心まだまだ子どもだと思っている部分もあり、過保護になっている所もあり、徐々にシェアが落ちているのではないかと思っていたが、教祖のミナの手助けもあってか、シェアの影響は犯罪組織に奪われた分以外は、なんら変わりはないという。そんな資料にも目を通しつつ、お寺ビューを使い浮上したギョウカイ墓場の監視をもしている。3年の間で、送信した写真は直ぐに最適化され全教会に送信されるシステムへと昇格していた。

 

「………。これが、今のエンデね…。3年前とは見る影も無いわね。」

 

嘗てマジェコンヌによって捕まった時に手を組んでいた時の描写と見比べても、既に見る影もない程に化け物へと変化しているのを確認する。まるでラスボスの第一形態後ともいえる姿になっている。Gなんちゃらの第四形態に比べればまだマシなのか、見た目的にも…。

 

「二人の様子を見て、今日は休もう。」

 

そう呟きながら席を立ち、隣のロムとラムの部屋へと向かう。

 

 

 

「…?どうしたの、ミナ。」

「あ…ブラン様。」

 

ロムとラムの部屋の前に行くと、扉の前にミナが心配そうに立っていたのだった。話を聞くと、明かりはついており気配があり中に居るのは確かだが、声を掛けても返事がないらしい。ミナの性格からか、どうも開けるのに戸惑ってしまっているようだ。“まぁ…”と同意を求めている感じでため息をしつつ、ブランは扉をノックして中に入る。

 

「ロム、ラム…?」

「本を、読んでいますね…?」

 

その扉を開ける音に反応するかのように、二人はブランの方へ振り向く。しかし、二人の顔を見てブランとミナは驚いてしまう。

 

「あ…(くしくし)。」

「お姉ちゃん…ミナちゃん…。」

 

魔導書の勉強をしているのか、確かに本を読んでいたのだろう。しかし、二人の表情は何処か悲しそうな顔をしている。ロムに至っては涙目になっているのだった。驚いたと同時に、二人の元へ駆け寄る。

 

「ロム、ラム!どうしたの…!?」

「お二人共、何がありました!?」

「あのね…本を読めば、この気持ち、抑えられるかなって…。(グスンッ)」

「でもでも、なんでだろ…本をいっぱい読んでも、ロムちゃんと、同じ気持ちが、収まらないよ…。」

 

そして、その感情を抑えきれなくなったのか、ロムとラムはブランとミナにしがみ付いて大泣きしてしまう。無理もない…今まで、職員やハンターが重症を負ったりするも、亡くなったという報告はそこまで無い。とは言え、流石に今回の騒動では、犯罪組織に所属していたのが大半亡くなっているものの、ルウィー以外でも戦死した人々はいる。それでも、その中に、友人と言える人は存在していない。だが、二人は直接手を汚してないとはいえ、友人…兄のような存在である“獨斗永守”を殺める事に協力してしまった。そんな経験をしたことがないからか、複雑な感情に戸惑いもあり、悲しみもあるのだろう。

 

「(永守…貴方の想いは確かに受け取ったけど、その分の傷跡…代償は重すぎるわ…。そう、貴方のように、感情を抑え込む術がない人にとっては…。)」

 

薄々は感じていたが、獨斗は時々ロボットのように、“このような事をすれば、人はこんな反応をするだろう。”というのがあった。全ては感情を制御する術があるからこそ成せるが、残された者の事は…特に“感情を持つわたし達”には数字だけでは出来ないことがある…それを痛感しつつ、二人を強く抱きしめるのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「………。何時ものベール姉さんじゃないね。」

「そう思う?わたくしも、何時ものお姉さまとは違うと思ってよ。」

 

曲がり角のところで、スミレと教祖のチカはベールを覗き見るように眺めている。紅茶を飲みながら、何時ものようにPCの前でオンラインゲームをしていれば問題ない。しかし、今は紅茶を片手に飲みつつ、部屋の外にある窓の外をずっと眺めているのだった。そう、数十分前には―――――

 

「ああ、3年間もゲームをほったらかしにしてしまいましたわ!!四女神オンラインも、ギルドの方々にも事情は分かってもらえているとは言え、報告しなくてはいけませんわ!!」

 

…とまぁ、いつも通りで安心したのも束の間。今は何処か上の空という感じである。二人がこのような状況に陥るまでの理由は分からないが、何時もと違う雰囲気に戸惑いもある。

 

「やっぱり、あの獨斗永守の仕出かした儀式が原因ね…。お姉さまを悩ませるなんて、死んでも許せないわ…!」

「でも、あんな報告書を見られた後じゃ…。」

「そ・れ・で・も・よ!わたくしだって、複雑な心境な上、5bp.だって、報告を聞いたら驚いてたのよ。万死に値しますわ!」

 

幾ら、最終的に放っておけばゲイムギョウ界を脅かす最悪な存在になろうとも、それが身内に近い存在で在れば、話は変わってしまう。

 

「(まさか…わたくしとしたことが、普段問題ないゲームですら凡ミスをするなんて…。獨斗永守という存在は、それだけ周りに影響を及ぼす程に活躍してしまわれたという事ですのね。永守さん…最後の最後で、途轍もない置き土産を残してしまわれましたわね。最も、一番の心配事が的中しなければいいのですけれど…。)」

 

ベールは紅茶を飲みつつ、ある事が的中しないことを願っている。獨斗永守を間近で見てきた存在の事を心配しながら…。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ:教会】

 

プラネテューヌの会議室で、明日に備えての会議のような事が行われていた。作戦としては、映像写真を見る限り、ギョウカイ墓場のモンスターはエンデによって力を吸収されているものの、その影響かより凶暴になっているのが確認されている。ジン率いる有志による私兵達が、極力女神が戦闘によって消耗しないよう、戦闘は私兵が率いる。また、輸送中にも何かしらの攻撃に備える為、此方も戦闘機等で支援をするとの事。中には、元犯罪組織所属でハーミットこと獨斗永守の下にいた者たちが名乗りを上げている。これ自体は、獨斗永守が彼らに与えた最後の任務だと言う。どちらにせよ、彼らも今は女神を支援するという想いを持っている。そして、各国からは、パワーアーマーやパワードスーツも導入するという。ちなみに、有志の中には、MAGES.やブロッコリーだけでなく、サイバーコネクトツー、鉄拳ちゃん、ファルコムといった顔触れも揃っている。

 

「…これが、最後の戦いになると思います。守護女神の活躍もそうですが、皆さんの活躍によって、戦況が左右されることもあります。ですが、私達の願いは、生きて帰ってくる事。そして、永守さんの最後の願い、この世界を…ゲイムギョウ界に平和を…。その為にもどうか、皆さんのご協力をお願いします。」

 

イストワールのその願いに、全員が頷く。この戦いに終止符を打つ為にも、一致団結し平和を手にいれる為に立ち上がるのだった。

 

そんな会議の中、アイエフは心なしか苦悶な表情をしている。その表情の変化に気付いたコンパが問いかける。

 

「アイちゃん、どうしたですか?具合でも悪いですか?」

「ああ、大丈夫よ。考え事をしてただけ…。」

「考え事、ですか?…もしかして、ねぷねぷの事です?」

「…まぁ、大方ね。会議になる前までちょっと話してたのよ。いつも通りゲームしてたけど。」

「あはは、ねぷねぷらしいですね。」

「その、いつも通りに違和感があるのよ。なんか、無心…と言うよりは、上の空というべきか…。」

 

作戦は完璧だと、その場の全員が思っている。だが、主役である守護女神の事がどうも気がかりであるというのは、会議に参加している全員が思っているのだった。

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

そして、明日に備える為全員が就寝する。いつも通りだった生活のように、直ぐ近くにネプテューヌがいる。ネプギアは“また一緒に寝れる”という気持ちと、いよいよ最終決戦という気持ちが混同している。

 

「ねぇ、ネプギア。わたし達って、守れてるのかな。」

「…え?」

 

電気を消して、いつも通り一緒に寝ようとベッドに入った時、ネプテューヌが急にそんな事を言い、その問いに対して困ってしまう。何に対して守れているのか…。

 

―――――ゲイムギョウ界なのか

 

―――――友達、大切な仲間か

 

「わたしね、散々言われてきたんだよね。“上に立つ者は、その下にいる人達の家族や命を背負っている”って…。」

「それって、永守さんが言ってた?」

「うん。“俺の事よりもそっちだろ”とかね。それなのに、えい君は何時も無茶する…。こっちが心配になっちゃうよ。」

 

最初現れた時は、凄いのが来たと思った。そして、一緒にいるうちに彼の潜在能力は凄いとも感じ取った。それこそ、トゥルーネ洞窟でのノワールへの手助け。ルウィーの誘拐事件のブランの手助け。リーンボックスのCD事件や、ズーネ地区でネプテューヌ達が捕まった時の救出劇。その行動力には、士気高揚とも言えるもの感じていた。そんなのを間近で見てきたからこそ、一番気に掛けられていたのも含め、特別な感情も二人にはある。

 

「この戦い…勝っても…喜べるか…自信ないよ…。」

「お姉…ちゃん…。」

「………。ごめん、胸、借りるね…。」

 

ネプテューヌは、静かに泣いてしまう。それにつられるように、ネプギアも涙を流してしまう。最終決戦前…大切な人を手に掛けた…その重荷が圧し掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 



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Scene53 闇への誘い~dark inside~

 

 

――――――いよいよ、犯罪組織の犯罪神…いや、エンデとの最終決戦が迫ってきた。

 

失敗はデータや資料の通りであれば、明日の作戦の失敗とは、ゲイムギョウ界だけでなく、全人類・宇宙の歴史全てが“無”へと還る。それだけは、阻止しなければならない。それに、それをしなければ、あの人の“死”が無駄になってしまうし、きっと死んでも死にきれない情報となってしまう。そのプレッシャーは、守護女神、その候補生、そして有志による志願兵の皆さん全員が感じているはず。

 

「………。はぁ…。」

 

地の文を読み返す事になるけど、私は計画書を何回も見直している。頭の中に叩きこむというのもあるが、より正確にして尚且つ最適化を…。

 

≪やはり、気になるのだな。≫

≪貴女が、気にする必要はありません。≫

「ゲイムキャラの、皆さん…。」

≪これが、運命(さだめ)だった…と言えば、感情を持つ守護女神達は怒るかもしれませんね。≫

≪ですが、あの男性の言う通り。一人の命より、この正解の運命を救う事こそが、我々の使命…。≫

 

ゲイムキャラさん達のいう事も分からなくもない。ネプテューヌさん達が救われる事、そして、犯罪組織を無くすこと。これが絶対条件ではあった。しかし、時間をかけすぎたのか、エンデというニグーラ、獨斗永守の暴走という第三勢力の存在。これが、ゲイムキャラすらも想定していなかった事態だった事。いえ、ゲイムキャラは惑星チキュウの情報は知っていたが、このような事態になることは全く想定していなかった…。

 

「………。他に、方法は無かったのでしょうか。」

≪時間を掛ければ、恐らくあったでしょう。ですが、今回ばかりはそれすら許してくれなかった…。≫

≪運命とは、時に残酷だな。守護女神とて、どんなに夢見ようが、その運命には逆らえない時があるのだろう。≫

「…私は、そうとは思えません。逆らおうと思えば、その運命に逆らえるのではないでしょうか。」

 

そう言うと、何かを考えるかのようにゲイムキャラさん達は暫く黙り込み、また喋り始める。

 

≪我々は極力、心を表に出さない。そして、最も効率的で被害が最小限である方法を我々は選ぶ。ゲイムギョウ界からしたら、あの男の犠牲はコラテラル・ダメージであり、致し方ない犠牲だったのだろう。≫

「………!?」

≪貴女…その言い方は…。≫

≪だが…あの男は、ゲイムギョウ界に多大な影響を及ぼした。一般市民にも、女神に…それこそ、我々にもだ。不思議とあの男は、死ぬには早すぎる。≫

≪あの人には、まだまだこの世界でやらなければならない事が残っている…そんな気がします。≫

≪イストワール、貴女が悩む必要はありません。≫

≪きっと、この世界が平和になった時、私達はまた各地に眠ることになりますが…女神には奇跡を起こす力を秘めています。それに掛けてみるのもいいかもしれませんね。≫

「皆さん…。」

 

私が思っていた以上に、ゲイムキャラ達にも影響を与えていた。…永守さん。貴方が歩んだ道は、この先も永遠に残されそうです。

 

〔突然と申し訳ないけど、途中から話は聞かせて貰ったよ。〕

「…ケイさん?」

 

通信から、ラステイションの教祖のケイさんの声がした。どうやら、途中から聞きたいことがあったらしく、掛けていたようです。

 

〔作戦に関してだが、此方で最適化を引き受けよう。〕

「それではケイさんに負担が…。」

〔貴女のお陰で、此方はかなり楽をして貰っている。僕一人だけじゃない。ミナも、チカも協力してくれる。幾ら戦闘に出てないとはいえ、貴女ばかりに負担を掛けてはいけない。ゆっくり休んで、明日に備えてくれ。〕

≪…いい教祖達「仲間」を持ったな。大戦時もこのような関係で在れば、変わっていたのかもしれないな。≫

「分かりました。それではケイさん。ミナさんとチカさんにも、よろしくお願いしますと伝えて下さい。」

 

ケイさんや、ミナさん、チカさんに、今回の作戦の最適化を任せ、私は明日に備え眠ることにした。今は、この作戦が成功する為に、皆さんが協力し、全力を出せるように私自身も英気を養わなければ…。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

遂にこの時が来た…翌日の朝、プラネタワー付近にあるヘリポートにわたし達は集まっている。俺達は、獨斗永守の願いを叶えるべく、再びギョウカイ墓場に向かう事になる。普段なら、盛り上げるべくはっちゃけそうなネプテューヌさんも昨日の事があったからか、集中力が高まっている雰囲気を出している。…それにしても、気づけば凄い人数になった。ゲームとしては、パーティーを組むとなると、どうしても溢れちゃうキャラが出る程だ。そして今、ギョウカイ墓場に向けて俺達を乗せている飛空艇、それを守るようにラステイションの高機動戦闘ヘリ5機による通称オメガ部隊、リーンボックスの水空両型戦闘ヘリ2機によるアルファとベータの計7機が周囲を回っている。プラネテューヌとルウィーは大型飛空艇を守る為の、兵士達により守られている。俺達は、既に輸送飛空艇内にある空間移動装置が設置されている部屋に乗り込んでおり、指示を待っている。…因みにだが、5pb.は戦闘に参加できる程の実力は持っているものの、今回はリーンボックスを代表とし、全国でシェアを増加させるべくエールを送る事に専念している。ガストからは、大量の支援物資という名の回復薬などが支給されている。教祖方も、戦闘能力は高いものの、女神不在の指揮をすべく、各教会に待機している。

 

「皆さん、犯罪組織とは恐らく、これが最後の戦いになると思います。…早速ですが、皆さんと協力して考えた作戦をお伝えします。」

「これが終われば、ゲイムギョウ界は平和になるんだね!よーし…!」

「一時的な平和になるかどうか…それは勝ってからじゃないと分からねぇな。まぁ、やるだけの事をやるまでだ。」

「ヨメが、ヨメが一杯だぁ…!アタシ、これなら死んでもいいかもぉ…。」

 

無線からイストワール様の声がして、いよいよ今回の最終作戦を言うようだ。それを聞いて日本一も俄然とやる気が出てきている。そして、周りの緊張感や集中力も最高潮へとなる。約一名は、いつも通り平常運航に近い言葉が漏れている。

 

「確認となってしまいますが、目標は犯罪神であるエンデの討伐です。有志兵は、ギョウカイ墓場から出てくるモンスターを退治。女神率いるギョウカイ墓場突撃部隊は、ギョウカイ墓場の指定範囲に入り次第、高速艇を射出、ギョウカイ墓場に乗り込んで下さい。突入後は、女神様の指示に従ってください。以上です。」

 

ガックンッ!!

 

集中力が高まっている中、“指導者は女神”とも言える内容に周囲は「え?何時もの事?」的な感じのリアクションをする。ネプテューヌさんは、ズサァッというひと昔前のようなリアクションを披露している。最も、現在のギョウカイ墓場の内部は未知数に近いものの、やはり聞きたかったのは、内部で何があったらこうしろみたいな事を期待していた…のかもしれない。

 

「本当に…それで大丈夫なの?」

「そーだよ、いーすん。それって結局いつも通りってことなの?」

「平たく言えばその通りだね。ある程度の事例や見立てはしたけど、それが今回も起きるとは限らない。それに、女神達と協力して平和を手に入れれば、それだけシェアを会得出来る見込みすらある。だが、これが最終決戦に値する程の戦いと言うのを忘れてはいけない。気を引き締めて、そして無事に帰ってくる事。」

 

イストワール様への質問だが、ケイ様の方からその答えが返ってきた。確かに、最前線で戦う女神様を見れば、この世界の兵士達の士気は高まる。そしてそれが、シェアにもなるというイメージか…上っ面だけの士気高揚の戦士が居なければいいが、ここまできてそんな戦士は流石にいないだろう。

 

「ただ、気を付けてほしいのは、シェア広範囲増加装置は今も尚問題なく動いているのは確認している。四カ国のシェアの半分以上を使っているから当たり前と言えば当たり前だね。」

「恐らく、半日程はギョウカイ墓場に居ても、害はないでしょう。ですが、精密機械に近い状態で、耐久性には難があります。」

「女神様ならともかく、一般兵がその範囲から出てしまったら、何が起こるか分かったもんじゃないわ。だから、特別な加護を受けている人以外は、その装置外から出てはいけませんわよ。」

 

シェア広範囲増加装置。以前、ギョウカイ墓場に突入した際に使用された個人用シェア増加装置を改良し、周囲にシェアエナジーを発生させアンチエナジーを弾くだけでなく、半径15m以内に居れば、バフのような効果があるという。見た目は、電波発生装置のようなのを、杖に取り付けたような…ガラクタではないけどそんな感じ。そして、教祖様の言う通りであれば、耐久性に難がありちょっとしたことで壊れる可能性があるという。その装置自体は、回避力の高いケイブが担当となる。そして、徐々にギョウカイ墓場へと近づいていく。

 

≪此方、オメガ02。目標のギョウカイ墓場が見えてきたぞ。≫

「分かりました。…では、突撃隊はギョウカイ墓場への転送を開始に備えて、空間移動装置に入って下さい。」

 

装置を操作する職員が、オメガ部隊の指示を聞き空間移動装置を起動させる。

 

「空間移動装置、起動。システム、オールグリーン。座標、準備完了。」

 

職員が装置の安全を確認、全てが問題ない事を言い装置へ入るよう誘導する。

 

≪…まて、オメガ部隊。此方のレーダーにギョウカイ墓場から、此方に何かが向かってくるぞ…それもかなりの数だ!!≫

 

リーンボックスのベータ機からの無線により、どうやら此方に何かが…恐らく敵性勢力が悪あがきの為に向かってきているのだろう。それを小型艇に乗っている俺達にも、何が来ているのかを確認する為、映像が映し出されてくる。

 

「な、なんだ…あれは…。」

「ちょっと、ちょっとぉ!ここにきて新種のモンスター!?ノワール、何アレ!!」

「わ、私に聞かないでよ、ネプテューヌ!!」

 

ギョウカイ墓場から次々と現れるクジラ型とワイバーン型のモンスター。そして、まるでエイリアンに侵食されたような戦闘ヘリが向かってくる。無線越しにも慌てている声が響いてくる。どう考えても、あの戦闘ヘリだけは、出てくるゲームを間違えていると言わざるを得ない、場違いともいえる異質な感覚を漂わせている。

 

≪怯むな!ここで退いたら、全てが台無しになるんだぞ!迎え撃て!!≫

 

そして、オメガ部隊による先制攻撃によって、制空権争いともいえる空中戦が始まる。エイリアン型戦闘ヘリは、まさに戦闘ヘリの如く機銃とミサイルを備えていて、それを使ってきている。ワイバーンは炎の玉、クジラは水の玉を放ちつつ体当たりをしてくる。画面越しからでもわかるが、数では圧倒的に不利な状況もオメガ部隊による見事な連携と、アルファ・ベータ部隊の超火力によって互角にやり合っていると言った感じだ。

 

「この距離でなら…。皆様、装置へ乗り込んで下さい。」

 

そして、ギョウカイ墓場に向かう為の転送有効範囲に突入したからか、転送装置に入るように職員は促す。…するのはいいのだが…。

 

「わわわわ!空飛ぶ肉まんが…!!」

「はうぅ!ねぷねぷ…あ、暴れないでで下さい…。」

「う、うぅ…せ、狭いぃいい…。」

「申し訳ありません。もう少し…いえ、一人分開けれるようお願いします。」

「ひ、一人分って…無茶言うわね…。」

「ちょ、べ、ベール姉さん…!!」

「いいじゃありませんの。こうすれば、スペースは空きますわよ。」

「そこ、百合ってんじゃないわよ!!」

「ね、ネプギア…押し付けないでよ…。」

「ご、ごめんね…!わ、悪気があるわけじゃ…。」

「く、苦しい。(あわわ)」

「は、早く、うごかしなさいよ!」

「そ、装置が壊れないか、心配なのだけれど…。」

 

…この有様である。吹き出しに出てない人物もいるが、それでも装置に入るにはキャパシティオーバーと言っていい程ギュウギュウに詰まっている。

 

「ジンさんも、移動するなら入って下さい。」

「………。えぇ…。」

 

このギュウギュウの中に野郎が一人入れっていうのか。人によっては幸せなんだろうが、これはこれで命がけだぞ。ええぃ、ままよ!!傍から見れば、電車の扉にはみ出しながら入ってるおっさんのような感じだ。

 

「…よし、OKです!転送開始します!3・2・1―――――」

 

 

 

 

 

ドゴォオオオオオ―――――

 

船内から爆発が起きたのか、飛空艇全体が揺れる。

 

「な、なんだ…!?」

≪せ、船内に敵性勢力を確認!左エンジンが大破!右エンジンがやられると墜落s―――――≫

「ど、どうしました!応答してください!!」

 

無線から反応が無くなり、雑音のみが垂れ流れる。

 

「…チッ。」

「じ、ジン!どこ行くの!!」

「決まってる。右エンジンを死守しに行く!終わったらすぐ合流する。テメェらは先に行ってろ!!」

 

そういい残し、俺は颯爽と部屋から飛び出る。

 

「待ってよ!アタシも戦うよ!!」

「日本一。なんでこっちに来やがった…!」

「ジン一人だと、無茶しそうだからね!」

「…勝手にしろ。」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

ジン君と日本一ちゃんが部屋を飛び出し、追いかけようと思ったが、優先すべきは女神…いや、女神候補生として、ゲイムギョウ界の脅威を取り除く事。それが、今ボクに出来る事。何人か追いかけようとしたのもいたけど、イストワール様からの制止もあり、ボク達は転送装置に収まり、そして…ギョウカイ墓場へ、僕は三度目となる。

 

「スミレ、大丈夫?」

「ベール姉さんこそ、大丈夫なの?」

「心配ご無用、ですわよ。貴女がいるんですもの。」

「(それ、チカ姉さんの前で言ったら大騒ぎしそう…。)」

 

そんな事よりも、今は集中しなければ…そう思い、顔を一度叩く。そして、周囲を見渡すと、何か心配事があるかのような表情のネプギアがいた。

 

「あ、スミレちゃん?」

「…どうしたの?浮かない顔して。」

「ああ、うん。えっとね…。」

 

どうやら、昨日の寝る前の出来事で悩んでいたと言う。確かに、大切な人までかは分からないけど、それなりの時間を過ごした人があんな形でいなくなったのだから、気が落ち込むかと思っていたが、ネプテューヌさんは平常運航を保っている。ただ、なんとなく…どこかから元気なんじゃないかと心配している。

 

スパァンッ――――――

 

「あいたぁ!!ちょ、ユニちゃん、急に何!?」

「アンタねぇ、一人で悩む必要はないんじゃないの?」

 

話を聞いていたようで、ユニがネプギアの背中を(思いっきり)叩く。それにつられ、ロムとラムもこっちに集まってくる、。

 

「そーそー!いまは、わたし達という頼れる存在がいるじゃない!」

「ネプギアちゃん、一人じゃない。(うんうん)」

「そういう事。今はボクだって、皆よりは劣ってるけど、出来ることはやるよ。それに…。」

 

そう言いつつ、皆にネプテューヌさんの方を見るように促すと、ノワールさんやブラン、ベール姉さんだけじゃなく、ブロッコリーさんやMAGES.さんと言ったメンバーがネプテューヌさんに話しかけている。

 

「…よし、装置は無事動いたわ。いつでも行けるわよ。」

 

ケイブさんが、持っている装置の準備が出来たという。それを聞き、ボクを含めた全員が頷く。再び、このギョウカイ墓場の深みへと足を踏み入れる事となる。

 

 

 

 

 

 



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Scene54 降り注ぐ黒い生命~Collaborators~

少々、誰が何処にいるかわかりにくい感じでもありますので、此方で補足を。。。。

【飛空艇】
・ジン
・日本一

【ギョウカイ墓場】
・四女神
・女神候補生
・ブロッコリー
・MAGES.
・アイエフ
・コンパ
・ファルコム(大人)
・鉄拳ちゃん
・ケイブ
・マーベラスAQLちゃん





 

 

【飛空艇:エンジンルーム】

 

「はああああッ!!」

「一刀両断っ!!」

 

飛空艇に出現する敵を倒していく。右エンジンルームは破壊される前に阻止、左エンジンは見事にダメになっていたものの、職員は負傷のみであり、奇跡的に命に別状はないという。敵は、機械系であり次元潜行兵器と言うべきか、あらゆる障壁を空間異動し、装備しているレーザーライフルで内部を破壊するというものだ。この世界でのエネミーデータでは該当はない。野郎…宇宙海賊組織みてぇなのも用意していたとはな。ここでは“スネークデビル”と名付けておこう。そいつを、俺は鎖鞭で引き裂き、日本一はサーベルでスネークデビルを両断していく。次元潜行能力に精を入れすぎたのか、耐久性はそれほど高くはないようだ。

 

「怯むな、奴らが果敢に戦ってるのだ。我々が退いてはならん!撃ち続けろ!!」

『了解っ!!』

 

職員達も、果敢に持っているレーザーライフルを連射し、敵を撃破していく。徐々にこちらは落ち着いているが、飛空艇周囲は激しい爆音がまだまだ鳴り響いている。しかし、外側をこんなに多く配備して、内側をスカスカ状態にしちまうのか?と思う程に、外ではそれほどの量のモンスターがいる。何やら、ギョウカイ墓場では嫌な予感がするな。すると片耳インカムに連絡が入り、通信開始モードにする。

 

「なんだ?」

≪ジンさんですね、空間移動装置の再起動が完了しました!いつでも行けますよ!≫

「だが、勢力は落ち着いているが、まだまだ敵襲は収まってねぇぞ。」

「行ってください、ジンさん、日本一さん!こっちは俺達が制圧します!」

「そうだぜ、国の為に動く職員が、冒険者に後れをとっちゃ、女神様に合わせる顔がなくなるぜ。」

「………。」

 

何故だ…何故ここで悩む。俺は、将来の夢を捨て、今の戦いに全力で打ち込むと思っていた。だが、目の前の人がああいっても、万が一の事を考えると…見捨てていいのか?獨斗…アンタだったら、どう答えを導く。

 

「ジン、悩む必要はないよ!答えなんてないんだから!大丈夫、あの人達だって強いんだよ!」

「…そうだな。もう、迷う必要なんてねぇもんな。分かった、女神様のとこに突撃しようぜ。」

 

そういって俺と日本一は、再び転送装置のある部屋に戻る事にする。

 

「戻ってきたぞ!」

「ああ、た、大変です!!」

「どうしたの?そんなに慌てて。」

 

転送装置の部屋に戻ってくると、職員が慌ててこっちに話しかけてくる。ただ、その表情は妙に焦っている。

 

≪それは、僕から説明するよ。≫

 

無線から、ケイさんの声が聞こえてきた。その声はインカム越しだが真剣だと分かる。相当重要な事らしい。

 

≪様々な情報を得て、現在のギョウカイ墓場の情報を掴んだんだ。今、女神達にも情報は伝わっている。…恐らく、それと交戦する可能性は高い。いや、回避不可能に近い。≫

「敵性なの?」

≪そう…相手は只者ではない。今の敵正反応はそれ以外存在しない。言い換えれば、それさえ倒してしまえば、大ボスは丸裸に近い状態になる。だが、先ほども言った通り、倒すには苦戦を強いられそうだ。≫

「そんで、相手はどんな奴なんで?」

 

“良く聞いておくんだ。”と一呼吸入れ、真剣な声がインカムから聞こえる。

 

≪敵性反応は4つ。その4つのどれもが、似たような性質を持っている…。

 

 

――――――獨斗永守。彼に似たような反応を持っている。

 

 

それが4つあるということは…。≫

「…4つ!?」

「馬鹿な…どういうことだおい!」

≪確かに、驚くだろう。しかし、ギョウカイ墓場にも医療班や研究員が数十名程いた。そして彼も2年間、反対していたとはいえゾディアーク計画が進められていた…。生体反応数値と、嘗ての彼の生体反応の数値を照らし合わせても一致する部分はある。彼のクローンが居ても可笑しくはない。恐らくだが、偽物とはいえ、邪聖剣の時の記憶がフラッシュバックする可能性もある。それを利用して精神的負荷をかけさせる寸法なのかもしれない。ただ、相手もそれを利用するということは、焦っている可能性もあるという事だ。それを踏まえ、どうか女神達に協力という事で、ギョウカイ墓場に向かってほしい。…今、女神に協力でき、且つ加担できるのは君達二人だけだ。≫

 

クローン…あの男が4人もいるんじゃ溜まったもんじゃねぇ。ケイさんの話を聞き終えたと判断し、日本一と共に転送装置へと乗り込むんだ、今すぐにも…。

 

≪そうそう、言い忘れていた。君達と一緒に同行するという変わり者がいてね。転送地点で落ち合おうという連絡を受けてる。悪意はないようだから、協力してほしい。≫

『了解…!』

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

【数分前:ギョウカイ墓場】

 

再び、世界を…ゲイムギョウ界全体を救う為に、ギョウカイ墓場に訪れた女神一行は、目的地へ淡々と進んでいる。そう、淡々と…。不思議な事に、モンスターは全くと言っていい程現れない。

 

「なーんにもいないね?もしかして、プリン食べてるとか?」

「それとも、アタシ達やヨメに恐れを成して逃げた?」

「全く、貴女達ねぇ…少しは緊張感ってのはないのかしら?」

「まぁ、これがわたくし達らしいと言えば…。」

「でも、あの二人を一緒にするのは誤算ね…類は友を呼ぶとはこの事ね。」

『………。』

「何処に行っても、ネプ子はネプ子にゅね…。」

 

ネプテューヌとREDの、最終決戦と言うには到底思えないそのテンションに、何時ものように対応するノワール、ベール、ブランに対し、この光景に対して苦笑する残り全員と呆れるブロッコリー。

 

「でも、確かにここまでモンスターも出ないと、お姉ちゃんの考えも分からなくもない…かな?レーダーにも、これと言った反応もないし…。」

「わたしたちに、恐れをなした。(えっへん)。」

「うんうん、ロムちゃんの言う通り、わたし達に恐れをなしたのよ。そうにきまってるわ!」

「アンタ達ねぇ…。スミレ、アンタはどう考えてる?」

「普通に考えれば、まぁ恐れを成したともとれるし、何か布石がある?」

「でも、気を付けた方がいいよ。こういう時こそ何かがある…。」

「油断したところに襲ってくる…なんてのもあるから気を付けるに越したことはないわよ。」

「そいつは、諜報部として、冒険者としての経験っつーやつか?」

「そういえば、そんなところかな?」

 

他人から言わせれば、ピクニックや散歩をしているようにも見えなくない。況してや、出撃前の緊張感及び、犯罪組織との最終決戦にも関わらずにだ…。そんな時、インカムに通信が入る。

 

≪皆さん、聞こえますか?≫

「あ、いーすん!!通信出来るんだ!!」

≪ええ、シェア広範囲増加装置の御蔭です。其方の状況は…聞くまでもないですよね。≫

「それで、いーすんさん。何か報告でもあるんですか?」

≪………。一応確認です。怖くは…ありませんか?≫

 

その言葉に、全員が顔を見合わせる。その表情に恐怖はないものの、不安という感じはある。

 

「ん、そこまで心配することはないよいーすん。相手がユニミテスだったら、怖かったかもしれない。けど、姿かたちは違えど、一度えい君が倒した相手なら、ね!」

≪…そうですか。それを聞いて少し安心しました。ですが、ここからは最も重要な事です。≫

 

それを言いつつ一呼吸置き、インカムから真剣な声が聞こえる。

 

≪皆さんが向かう目的地付近に、敵性の生体反応が4つあります。問題は、その数値が“獨斗永守”さんにソックリという事です。≫

『…ええ!?』

≪やはり、驚いてしまいますね。ですが、永守さんは既に故人。恐らく、偽物、クローンだとしか考えられません。≫

「で、でも。また斬れと?」

≪あの時の光景が…とは思いますが、彼の意志の為にも、彼と瓜二つだった場合は…どうか心を鬼にして下さい。≫

 

心を鬼に…言われる事で意識するのは簡単ではある。だが、実際に本当に獨斗永守と瓜二つだった場合、果たして出来るか…4女神とその候補生、その場に居た人達はそう思ってしまう。

 

≪確かに、皆さんにとっては再び同じことの繰り返しになる可能性があります。…もし、あの人が生きていて、今の皆さんに掛ける言葉としたら、こうなるかと思います。≫

 

―――――勝負に勝つことは、決して美しい事じゃない。あらゆる屍の先に頂点はある。成らば、その頂点を目指したいのなら、鬼になれ。―――――

 

その事を言い、“では、ご武運を…”と言い残し通信を終える。それを聞いた後は緊張感が…というのはないものの、若干ながら慎重気味に歩くようになっている。

 

しかし、進めば進むほど理解する。アンチエナジーの濃度が徐々に高まっている事。シェアを広範囲に拡散してくれる装置があるとはいえ、その異様な空気に彼女達…女神一行の精神を削っていく。特に、先ほどは大丈夫とは言ったものの、四女神はここで3年もの間捕らわれていた。その記憶が脳裏に焼き付いているのか、顔が苦悶の表情へとなろうとしている。それと同時に、少なからず体が震えている。四女神の本人達は、その事には気づいていいない。それだけではない。邪聖剣から目的地に近づけば近づく程に感じる…永守の想い、そして悪に向けられる人々の激しい怒り、憎しみ、滅びの力が―――――

 

『っ!?…ね、ネプギア(ゆ、ユニ)(ロム…ラム…)(スミレ…)?』

 

その姿を見た女神候補生達は、彼女達の手を強く握る。その握りには、力強くも、頼ってほしいという願いが籠っている。

 

「大丈夫だよ、お姉ちゃん…。私も、正直に言えば怖いよ。でも、今はこんなにも支えてくれて、ずーっと頼れる仲間達がいるもん。」

「ネプギアの言う通りね。古の武器とかもあるけど、アタシ達も不安はあるわ。でも、この3年間で、アタシ達はそれよりも大事な事を学んだわ。」

「そーそー!わたし達だって、ダテにあそんできた訳じゃないんだから!」

「皆を想うこころ、強い(キリッ)。」

「3年前のボク達だったら、その強さにひれ伏せちゃっていたかもしれない。でも、今は何処まで戦い抜けるかは分からない所まで成長したんだよ。だから、戦う前に諦めちゃいけない。永守さんやジンさんなら、きっと立ち止まらないよ。」

 

女神候補生達も恐怖を感じていながらも、その瞳には希望に満ちた、この戦いを勝ち取るという力強い意思が見て取れる。…ああ、この子たちも一緒に戦っているんだと四女神は再確認する。

 

「今回ばかりは苦戦するかもしれないけど、サクッと終わらせるにゅ。」

「戦力はあっても、油断はしないことね。今、私達が長時間いられるのも、この装置の御蔭なのだから。」

「そうだね、外で戦っている人達や、ここまで協力してくれた人達の為にも、アタシ達は結果が不透明でも勝たなきゃ!」

「ゲイムギョウ界の平和も、命掛けで取りに行くよ!!」

「うんうん、わたし、なんだかワクワクしてきちゃったよ。」

「狂気の魔術師であるこの私がいるのだ。必ずや、お前達に勝利を授けよう。」

「どんな事があっても、わたしはねぷねぷやギアちゃん、女神様達を支えるです!」

 

協力してくれる皆が、ガッツポーズをしつつ敵に立ち向かう事を誓うという。敵は以前より強力だ…だが此方も3年前に比べ頼もしい仲間たちがいる…。そう、以前の4人で挑んた時とは違うのだ。

 

「ネプ子、私からも誓うわよ。もう、前のような任務失敗の時の苦しい展開にはさせないわ。」

「あいちゃん、皆…うん…そうだね。ここで負けたり引き返しちゃったりしたら、外で頑張ってる人達、いーすんにも、わたし達の為に命を張ったえい君にも、顔合わせが出来なくなっちゃうもんね。んじゃ、ネプギア、皆に気合の言葉を!」

「え、ええ!わ、私!?」

「うん、だってこのシナリオでは、ネプギアが主役だよ?」

『め、メタい(よ)(にゅ)…』

 

そういわれ、流されるまま考え込む。断り切れないのもネプギアの良い所でもあり悪い所でもあるのかもしれない。そして、キリッとした表情で全員に向かって言う。

 

「以前までの私だったら、逃げてたかもしれません。…でも私は、ユニちゃん、ロムちゃん、ラムちゃん、スミレちゃんや、皆の力があってここまで来れました。私は、今度は逃げません…!お願いします、ゲイムギョウ界を救う為に、力を貸してください!!」

『おーっ!』

 

ネプギアが力強く腕を振り上げると同時に、全員が同じように腕を振り上げ、掛け声を上げる。それは、ここで逃げる者はいない、全員協力してくれること、全員一致団結である事を再確認する事ができた瞬間でもあった――――――

 

 

 

一行は目的地へと着く。嘗て四女神が捕らわれていた場所の先にある巨大な広間。その中心部に紋章のようなのが刻まれた碑石、その中心部に得体のしれない物体に囲まれたエンデ、その正面に4つの棺が置かれている。

 

『エンデ…。』

「コレハコレハ、女神様一行…予定ヨリ早イ到着ダ。」

 

ダミ声のような、エンデという嘗ての少年の声で話しかけてくる。どうやら、予定よりも早いようだ。エンデも見たと同時に、女神一行は女神化をする。

 

「貴女の野望はここまでよ!」

「永守さんの想いを叶える為…貴方を倒します!」

「えい君の悲しみ、貴方がやってきた人々の憎しみ…今ここで晴らすわ!」

「ホウ…ソノ力…中々ノ物ダ。ダガ、僕ハマダ本調子デハナイ。君達ハ、暫ク彼等ト遊デイルトイイヨ。最高ノ“プレゼント”ダ。」

 

エンデが指を鳴らす。すると棺が縦に立ち、上蓋が倒れる。そこから、軍服とS.T.O.P.と描かれたベストを身に纏ったドス黒い肌の男4人が現れ、戦闘マシンが起動するように、目が赤く光る。その表情は心ここに有らずといった感じだった。だが、彼女達には衝撃の方が大きかった。

 

『っ!?え、えい君(永守(さん))!?』

 

そう、その棺から現れた一人の男は、見間違いのない男、獨斗永守そのものだった。

 

「君達ニハ、嘗テココニ来ル前ノ、特殊部隊ト相手ヲシテモラウヨ。残念ナガラ、魂マデハ込メラレナカッタカラ、タダノ戦闘マシント変ワラナイケドネ。」

 

惑星チキュウでの…その中でも選び抜かれた戦士“S.T.O.P.”のメンバー、アイアンフィストと言われた、土と肉体を金属に変化する事が出来るS.T.O.P.の司令官、弐条令司(ニジョウレイジ)。あらゆる重火器、機械に卓越、特に観測士いらずの目と耳、空間把握能力を持つ男、ジョニー・メイヤー。目元を布で隠し、年動力と氷の能力を扱い抜刀術を得意とする、獨斗永守の相棒だった男、剱剣士(ツルギケンシ)。そして、炎と風を操る強靭な肉体と精神力を持つ男、獨斗永守。その4人がネプテューヌ達に立ちはだかろうとする。

 

「なんてことを…」

「ひどい…。」

「テメェ…人の命をなんだと思ってんだ!!」

「そーだそーだ!そんなことするアンタは、ゆるさないんだから!!」

「何ト言ワレヨウトモ、痛クモ痒クモナイネ。コレハ、コノ男達ト、君達女神ニ対シテノ復讐ナノダカラ…。」

「だからって、アンタ…。」

 

それを話している間に、偽ジョニーが口笛を吹く。すると、先ほどまでいなかったモンスター達が、退路を塞ぐように現れる。

 

「随分と一杯いるにゅ。」

「…はめられたか。」

「後ろのモンスターは私達が相手する。女神様達は、あの人達を止めて!!」

 

そういって、ブロッコリー、MAGES.、アイエフ、コンパ、ファルコム、鉄拳ちゃん、ケイブ、マベちゃんはモンスターの群れに特攻する。

 

「…こんな事する貴方は…絶対に許さない!!…えい君、貴方の体、すぐ開放するから!!」

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

【同時刻:ギョウカイ墓場・転送地点】

 

あの後、指示を受けて俺と日本一は、ギョウカイ墓場へと再び向かった。

 

「おい…大丈夫か?」

「だ、大丈夫…これしきの事で、ヒーローが倒れたら、情けないよっ!」

「…とりあえず、此奴を持ってろ。」

 

シェア拡散装置がない状態でのギョウカイ墓場。俺自身は、闇を狩る一族の力を秘めた為、これしきの事ではびくともしねぇが、加護は受けているものの、若干アンチエナジーの影響を受けている日本一…そこで、聖なる加護を宿した十字架を渡しておくことにした。すると、幾分マシという感じにはなっている。

 

「うん、ありがと!それで、協力者はこのあたりにいるって言ってたよね?」

「ああ…こんなところにまで協力する変わり者ってのはな…どんな面してんだか。」

「変な面とはな…。強ち間違ってはないな。」

 

突如正面から声が聞こえ、そっちを見る。そこには3人の女性と見覚えのある二足歩行の―――――

 

「あーっ!あの時のネズミ!!まさか、協力すると言って邪魔する気!?それも人質なんて…!」

「ち、違うっちゅ!今回ばかりは本気で協力するっちゅよ!!」

「お、落ち着いて日本一!危害はないから!!」

「だ、大丈夫だよ。この人達は、ボク達に協力してくれるから…!」

「日本一…。邪魔するってんなら、不意打ちぐらいするだろ。」

「た、確かに…それで、貴女は誰…?」

 

しかしまぁ、協力者ってのがな…ネズミことワレチュー、日本一を窘めるサイバーコネツコツー。リーンボックスの歌姫こと5pb.。どうやら、ファンの願いで直接女神を応援してほしいという事で駆け付けたようだ。サイバーコネクトツーはその護衛らしい。そして、清潔なドレスとも言える戦闘服を身にまとった銀髪の女性、そう、確か…―――――

 

 

 

「アンタは、マジ―――――」

 

 

 

ドゴーン!!

 

 

 

ある名前を言いかけた時、遥か向こうから交戦でもしているかの音がした。

 

「始まってしまったか…もたもた話している暇もないようだ。この戦いが終わったら、私の事を話そうではないか。」

「あぁ、待ってっちゅ!!」

 

そういって、女性とワレチューは奥へと向かう。

 

「さぁ、ボク達も応援しに行こう…!」

 

その声と共に俺達は頷き、目的地へと走り出す。

 

 

 

 

 

 



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Scene55 舞い降りた二つの黒い翼~Attack~

上半期により忙しかったり、この暑さで体力を持ってかれたりしてますが、なんとか元気です。
…にしても、ホントにアチィ…あと迷走してる感もある


 

 

戦闘が始まるように、偽物のS.T.O.P.メンバーが攻め始める。ジョニー・メイヤーはベールとスミレを、弐条令司はブランとロム、ラム、劔剣士はノワールとユニ、不運にもネプテューヌとネプギアには獨斗永守がたちはだかることとなる

 

 

 

「くっ!!レイニーラトナビュラっ!!」

「シレット…キャノン…っ!」

 

此方に突進してくる殿方、偽物であるジョニーさんが、わたくしの所へ向かってくる。そこに、合わせるように得意技の一つである、レイニーラトナビュラによる連続槍突きを放つ。その連撃に合わせるようにグリーンシスターことスミレが、大地の力を宿した矢を標的である偽物のジョニーさんに放つ。ですが、ジョニーさんは微妙な風の動きを読んでいるのか、わたくしの攻撃を躱しつつ、スミレの矢を掴むことに驚きをかくせませんでした。

 

「っ!?」

 

そして、その予想を超える行動をしてくる…掴んだ矢をわたくしに向け、矢尻を利用した突きを放つ…ように見せかけ、本命は遠距離攻撃をするスミレを先に倒す為、その矢を投げようとする。でも、わたくしだってここまでの経験と勘で、その事をある程度予測もしていましたし、その軌道をかえるべく自然と手が動き、槍で投げる方向を微妙にずらしスミレに当たるのを回避させましたわ。

 

「武器を持っていられないのに、中々のやり手ですわね…。」

「見える…制空拳…。」

「ええ…ですが、その制空権以上の空間を持っていますわ。環境利用戦法…あの方にとっては、全てが武器になるということ…それを突破しなければ、わたくし達はあの方を止める方法はありませんわ…。」

 

嘗ての永守さんの説明によれば、“観測士いらず”と言われる程の警戒心が強く、警告空間とも言える“ジョニーテリトリー”。そして、場所を選ばずあらゆる草木や砂、身の回りにあるのを武器として扱い、僅かな足音や風の流れすら読み取る自然術に卓越しているとも言える…実際、こうして手を合わせてみますと、中々どうしてか話以上に隙が見当たりませんわね。

 

「突破口は…?」

「………。わたくしに、いい考えがありましてよ。スミレ、上空に大量の矢を放つ…矢の雨を降らすことはできまして?」

「…できる。」

「出来る限り、大量にお願いしますわよ…!」

 

スミレは、数本の矢を殿方に放ったあと、数本の矢を生成し上空に向けて弓を構える。

 

「アロー…レイン…!!」

 

上空に放った数本の矢がそれぞれ頂点に達すると、頂点で分裂してまさに矢の雨と言っても過言ではない程に振ってくる。それを見た殿方は、圧倒的な数に避けきれないのは手で払いのけるようにしている。しかし、どう見てもその手は忙しそうに見える。

 

「さぁ、これは避けられますか?…御行きなさい!!」

 

わたくしの魔力によって生み出した、大量の風の槍を放つ魔法“インビトウィーンスピア”を放つ。追尾性も兼ねていますので、流石にいくつかは回避できていないのを見る。そこに隙を与える事を許さない“スパイラルブレイク”を放つ。

 

「…美しく、散りなさい…!!」

「シャープ…シューター…!!」

 

流石と言うべきか、一閃の如く切り裂くものの、幾つかは防がれている…ですが、深手はないにしてもダメージは入っているのは目に見えて分かる。そこに、トドメの渾身の槍投げを放つ。スミレもそれを見て、渾身の矢を放つ。

 

「…やった…?」

「………!?上ですわ…!」

 

咄嗟に気配を感じ取り上空に注意を向けると、人とは思えない程に高々と飛んでいる人物がいた。そして、ライダーキックの領域で、わたくしたちの所へ割って入るように蹴りを放つ。スミレもそれを見て、お互いバックステップして避ける。着地地点には、クレーターが出来る――――――――――

 

『なっ!!』

 

そして、わたくし達は驚きを隠せていなかった…避けてはいたのだろう。しかし、幾つかは避けるのを諦めたのか、明らかに攻撃を受けた後や、矢が体に刺さっている…にも拘わらず、地面が陥没する程の威力…。勇気、無謀、不屈の精神…生きている屍とかで片付くようなものじゃない。ですが――――――――――

 

「どうする…?」

「答えは一つ…退いてはダメですわよ。例え、向こうに不幸な事があろうとも、わたくし達が勝つことに意味がありましてよ。国民は、わたくし達が帰ってくることを待っている…そして、あの人も…。」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「オラァッ!!」

 

両腕を岩で固めた2mを超える大男と対峙している。巨体からとは思えない、暴力的でありながら、鋭いコンパクトなパンチを仕掛けてくる。そこに、わたしの戦斧と、岩拳のぶつける音と共に衝撃による風が伝わってきやがる。

 

「はやい…!」

「んもー、しゃげき魔法じゃ当たらない!!」

 

わたしの攻撃に合わせてロムとラムが氷魔法を放つも、わたしの攻撃含めガードやスウェーで避けやがる。俗に言うボクシングスタイルって奴か?そして、偽物の弐条令司は距離をとり、岩球とも言える棘突きの岩を作り出し、そいつを投げてきやがった。

 

「味なまねを…舐めんなよ!!」

 

飛んでくる岩石に対して、野球のバッターの如く戦斧の側面を利用し撃ち返す。その岩球は剛速球ともいえる速度で弐条令司へと戻ってくる。その帰ってきた岩球を、ピーカブースタイルのような構えをして腕全体を岩上にして防御する。

 

「ロムちゃん、土の弱点は風だよ!」

「うん、本で読んだことある。」

「それじゃあ、合体魔法でいっきにコテンパンにしちゃおう!」

「わたしと、ラムちゃんの力。見せてあげる。」

『ダブル・アイシクルトルネードッ!!』

 

二人は杖を合わせ、合体魔法を放つ。古の杖の力もあってか、強力な氷の竜巻魔法が放たれる…。しかし、ここまで来るまで二人の実力は上がっているのは確かだが、古の杖の力も相まってオーバーな威力を出しているようにも見える。

 

「やったね!」

「ぶいッ!」

「とんでもねぇ威力だな。…だが、安心するのは早ぇようだぞ。」

 

わたしの言葉を聞き、二人も令司の方へ向き魔法の影響による砂煙が収まると、仁王立ちの奴がる。その姿は、全身がメタリック状…某配管工のメタリック化の如く、何事もなかったかのうように佇んでいる。

 

「どうやら、防御力は能力的に相当高ぇようだな。」

「だったら、倒れるまで魔法を打ち続けるのを止めないだけだよ!」

「そういう事。(うんうん)」

「なんだよ、同じこと考えてたのか。なら、話は早ぇな。ロム、ラム…全力で叩き潰すぜッ!」

『うん!』

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「はあああああ!」

「当たれっ!」

 

確か、この男は永守と組んでいた男だったわね。氷の剣を作ったり、地面に氷を張り、アイススケートのように滑って加速、避ける。私も負けじと攻撃をし、追撃もするも、それを追いかけるように、ユニが撃ち続ける。

 

「っ!!ぅわッ!!」

 

そこへ、ユニに向かい氷で作られた刀が飛んでくるのを、ユニは間一髪で避ける。だが、代償として接近を許してしまう。

 

「っ…舐めなで!!」

 

驚いた事に、ユニは古の銃で打撃を仕掛ける。銃は殴るものという考えはなかったのか、腕を十字に構え打撃を防御し距離を取っている。ここに到達するまで、ユニも自分を見直してきたってことね。

 

「…!!しまったっ!!」

 

そんな事を考えつつ次の行動を考えていたが、急に私の体が宙に浮き始める。剣士のテレキネシスであると瞬時に把握する。そして、頭が下に向くように回転する。

 

「させないわよっ!!」

 

ユニはすかさず、まるで標的はこっちだと言わんばかりに声を張り上げつつ銃を向けX.M.Bを放つ。それに気づいた剣士はテレキネシスを止め、避けることに専念するよう逃げる。テレキネシスの効果が切れたのを感じた私は、頭から落下し始めるが、うまい具合に受け身を取りよう難を逃れる。

 

「有難う、ユニ。助かったわ。」

「でも、近・遠距離とも備え、相手の動きを封じるだけでなく、念動力のように人を動かせる。厄介な相手よね…モンスターでもこんな多彩なのはいなかった。」

「ええ、しかも戦術がサムライとニンジャを足したような感じだわ。それも高水準…永守の相棒というだけあって強いわね。」

「けど、勝つのはアタシ達だよ、お姉ちゃん…!」

「頼もしい事いうじゃない。なら、私も妹に負けてるわけにはいかないわ!!」

 

向こうは既に氷の剣を構えている。なら…私は剣を地面に思いっきり擦る様に横振りをする。

 

「貴方の氷と、私の炎…どっちが強いか、教えてあげるわ。ヴォルケーノダイブ!!」

 

炎を纏った剣による連撃、それを氷の剣で受け止める…なんて硬さなのよ。そして互いに振り抜くようにして、私の剣と氷の剣がぶつかり合う。そして、ユニは高速移動をしつつ、剣士の横へと移動し銃を撃つ。

 

『!?』

 

攻撃事態は完璧だった。簡単に避けれるものじゃない…しかし、剣士は念動力で氷の剣を抑えつつ、キネシスで自らを後退させる。

 

「そんな…!!」

「人に念動力が使えるなら、自分も対象になれる…。」

 

考えていれば出てくる答えだったって事。…どこか思い上がっていたのかもしれない。幾ら強いとはいえ、所詮は人だから…死者蘇生みたいなので蘇っても、元は人だから…だが、思い返せば、それを覆す男を見てきたじゃないのよ。

 

「ユニ、後手に回ってはダメ。攻めて、攻めて、攻めまくるわよ。」

「徹底した攻撃って事ね。わかったわ。」

「間違いなく、彼は強い…今後二度と戦える“人”ではないわ。彼は、まさに強敵である戦士なのだから…!!」

 

…彼を倒し、黒幕を倒す…それが、女神の務めであり彼の想いを叶える。そして、国民に平和と安全の為にも、負ける訳にはいかない!!

 

 

 

――――――――――

 

 

 

目の前にいる偽物のえい君…、嘗ては友であり良き理解者(?)でもあった。

 

「くっ!!」

「ッツ!?」

 

そして、偽物とは言え正直に言えばわたしは気乗りではない。それでも、ゲイムギョウ界を、世界を救う為には倒さなければならない存在でもある。…彼とは皆含め何度か手合わせした事がある。だから、えい君だったらどう考えて攻撃してくるかを予測し、攻撃を仕掛ける。ネプギアも同じことを考えているようで、自然と連携攻撃のような行動となる。しかし、蓋を開ければ、今までのえい君とは違う攻撃スタイル、それもわたし達と変わらない速さで

をしてくる。えい君の攻撃は、全てが急所狙い、此方も深く踏み込んで一撃の威力を高めようとすると、それに合わせるようにカウンターを仕掛けてくる為に、思うように体重移動が出来ず、与える傷が浅くなってしまう。

 

「お姉ちゃん…永守さんには、勝てないのかな…?」

「え…?」

「偽物とは言え、今まで対峙した時は一度も勝てなかったし、目の前にいる永守さんが怖い…。」

 

ネプギアが小刻みに少しだけど、震えているのが分かる。…無理もない。現にわたしだって、目の前にいる偽物のえい君から漂わせている、殺意に満ちたオーラ。その雰囲気だけで圧倒されてしまう威圧感。どんなモンスターにも怯まなかったわたしが、怯えてしまっている。ネプギアにつられてしまうかのように、剣が上がらない―――――

 

「…ドウシタ。貴様…何故、動カナイ…!!」

「…え?」

 

エンデの声に反応するように、わたしは偽物のえい君へと視線を向ける。そこには、まだ殺意に満ちてはいるが、その構えが誰がどうみても“待ち”の構えだった。まるで“お前の力はそんなものか。”と言わんばかりの佇みにも見える。

 

「………。ネプギア…わたしだって、偽物とは言え、あんなえい君を見るのは怖いわ。でもね、ここで逃げたら、外で頑張ってる皆、足止めしてる皆。それに…この為に命を懸けたえい君に、どういう顔をすればいいか分からなくなっちゃう。ネプギアもそうでしょ?」

「………。うん、そうだ…。なんの為に、私はここにいるのか。それは…未来を、切り拓く為!!」

「うん…ネプギア…!!」

「お姉ちゃん…!!」

 

この場で言うのもあれだけど、互いの想いを言うと、吹っ切れたようにネプギアの目には、希望に満ちた目になっている。わたしも、その目を見ると自然と力が湧いてくるのだ。…これなら…行ける!!

 

『わたし(私)達の力、見せる時!!』

 

お互いに武器を身構えると、それに反応するように偽物のえい君も“待ってました”と言わんばかりに攻めの構えに入る。

 

『はあああああああ!!!!』

 

互いに交差するように、高速移動をしつつ偽物のえい君を攻撃する。本能的に偽物のえい君も防御はするも、恐怖を克服しての本気になったわたしとネプギアの攻撃を完全に防ぎきる事が出来ていない。

 

『ヴィオレットシュバスターッ!!』

 

連続攻撃によって溜まったエネルギーを、全てぶつけるが如く振り下ろし、発生した歪みにより、電磁波と共に爆発が起きる。そして、爆発後に倒れ込む偽物のえい君を確認する。

 

『…!!』

 

やはり目の前にいるのは、偽物とは言え“えい君”そのものだった。どんな攻撃を受けて瀕死になろうが、諦めない心のように立ち上がろうとする。周りを見ると、全員トドメの一発をお見舞いしたらしい。でも、状況はこっちと同じ、諦めようとせず立ち上がろうとしている。

 

「お姉ちゃん…!」

「分かってるわ。」

 

気負いはするし、偽物とは言えここから挽回される恐れもある。そう思い今一度武器を構え、最後の一撃を浴びせようと身構え―――――

 

 

 

 

 

ブスッ―――――

 

 

 

 

『………、え…?』

 

それと同時に、偽物のえい君に先端が針状になった触手のようなものが、心臓部を貫いている。その触手はまるでエネルギーを吸い取るように脈打っている。同時に、周りの3人も同じようになっている…まさか…!!

 

「不愉快…実ニ不愉快ダ…。ヤッパリ、自分自身デ殺ッタ方ガ、早イ…。」

 

次の瞬間、醜い姿だったエンデを覆っていた結晶が光だし、結晶が砕け散る。

 

「………。スーハー…。ふぅん、未完全とはいえ、こんなにも心地の良い気分…悪くない。」

「復活…した…!?」

「そんな…!!」

「間に合わなかった…!?」

「まさかね、全てを戦闘本能にしたのが間違いだったかな?全員、闘争本能が残っていたとはね。」

 

結晶から生まれたエンデは、嘗てわたし達をズーネ地区で捕えていた時と同じ姿に…そして、その背中には黒い翼が生えている。まるで、天使とは真逆の存在であると象徴するように…。

 

「………、へッ!!目覚めて悪ぃが、こちとらテメェも視野に入れてんだよ。」

「そうね、こっちとしてはシナリオが変わっただけの事ね。」

「ええ、誰が相手だろうが、わたくし達が勝つだけの事…!!」

『お、お姉ちゃん(ベール姉さん)!!』

「ま、待ってみんな!!」

 

わたしの制止を無視するように、ノワール、ブラン、ベールはエンデに突っ込んでいく。そして、エンデに向かって互いの武器を振り抜く…予想外な事に、その攻撃はエンデを捕えたのだった。ノワールとベールの剣と槍が、エンデの体を交差するように貫き、首元あたりにブランの戦斧が突き刺さる。

 

「ぐあああああああっ!」

「んだよ、口だけ達者な野郎って落ちか?」

「ネプテューヌ、今よ!」

「わたくし達が抑えている間に、その剣でトドメを…!!」

 

…確かに、見た感じは抑えてはいる。突発的に動いた3人はお手柄と言わざるを得ない。

 

 

 

―――――でも、本当に向かっていいのか?

 

 

 

毎度、エンデには裏があった。その手段は毎回毎回、わたし達の一枚上を行っている印象もある。邪聖剣を強く握りしめるも、中々突っ込む決断が出来ない…!そんな事を考えていると、スッと一緒に剣を握ってくれる仲間が…妹達がいた。

 

「ネプテューヌさん。お姉ちゃん達が止めている今がチャンスですよ!」

「イチゲキで終わるなら、もう行くしかないよ!」

「このたたかいを、終わらせる…!(グッ)」

「失敗したら…その時考えれば…。」

「お姉ちゃん、大丈夫だよ。今度は、私達がお姉ちゃんに勇気を…!」

「みんな…。」

 

ユニちゃん、ラムちゃん、ロムちゃん、スミレちゃんの4人が背中を、そして…ネプギアが邪聖剣を一緒に握ってくれる。

 

「…分かったわ。みんな、わたしに力を…!!」

『はぁあああああああっ!!』

 

ノワール、ブラン、ベールの活躍、みんなの勇気を無駄にしない為に、わたし達はエンデに向かって刃を向け特攻する…!!

 

これが決まれば、全てが終わる…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なーんちゃって。」

『…!!ああッ!!』

 

次の瞬間、ノワール、ブラン、ベールは、エンデの局部から現れた骨のような拳を受け、元居た場所まで吹き飛び、特攻したわたし達は風圧のようなもので押し返され、全員地面に叩きつけられてしまう。

 

「ふぅ、中々痛いじゃないか。…いや、それだけ君達が力を付けているとも言えるのかな?…その剣は流石に厄介だね。流石のボクも、そんなのに刺されたら死んじゃうかもね。」

『うぅッ…。』

 

エンデの方を見ると、ノワール、ブラン、ベールが貫いた傷跡が徐々に治っている。立たなければ…

 

「…うぁ…!た、立てない…!」

 

全員が立てない状態にある。それどころか、力が抜けている感覚がある…この感覚、あの触手のようなのに捕らわれていたのと同じ感覚…!!

 

「確かに、君達が用意した兵器は凄い。人間とは恐ろしい生き物だ。しかし…それももう無意味。君達に分かりやすく言うなら、今この地は“アンチエナジー”がその“シェアエナジー”を上回っている。…今頃君達と一緒に来たお仲間も、死んでるかもね?」

「そんな…!」

 

そう言いつつ、エンデがわたしの元へ徐々に近づいてくる。まるで、子どもが玩具を見て喜んでいるような目で…。

 

「どうだい、見下される気分は?それも、手も足も、況してや立つこともままならない。どう、降参する?そうすれば…」

「だ…誰が…貴方なんかに…!!」

「そうよ…!アンタには、負けない!」

「テメェの…思うように行くと…思うな…よ!!」

「意識がある限り…わたくし達は、抵抗…する!!」

『貴方なんかに、負けない…!!』

 

みんなが、呪いに対抗するように、力強く、そして希望に満ちたように立ち上がろうとする。わたしも、負けられない…!剣から伝わる想いの為にも…!!

 

「………。全く、何処の誰かさんに似たような事を…。」

 

次の瞬間、わたしの体を影のようなのが絡みついて、身動きがとれなくなってしまう。

 

「こ、これ…は…!!」

「驚いた?あの男の力を、不完全とはいえ、まぁとりあえず君達の内の一人を捕えるくらいは出来るよ。」

 

その影は両手両足を縛り上げ、遂には持っていた邪聖剣を落としてしまう。そして、その剣をエンデは拾い上げ、わたしの首元に向けてくる。

 

「っ!!」

「ふぅん、これはまた凄い力だ…これを、女神様に刺したらどうなるんだろう…ね!!」

『!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

腹部に、邪聖剣が…!!いとも容易く、ユニットを貫いてる…!!今まで味わったことのない、痛みだけじゃない、苦痛までもが襲い掛かってくる…!!

 

「お姉ちゃん…!!」

『ネプテューヌさん(ちゃん)!!』

「………。くくく…いい表情だよ。やっぱり、女子供が苦しむ姿…溜まらないね…!!」

「あ…ああ…!!」

「え、エンデぇええええええ!!」

「て…テメェ…なんてことを…!!」

「絶対に…許しませんわよ…!!」

「おーおーこわいこわい。立てないのに威勢はいい事…。しかし、女神様はここから良く、奇跡を起こしているんだよね。そうならないように、直ぐ楽にしてあげるよ。安心してよ、君達も直ぐに同じところに送ってあげるから。」

 

どんどん、意識が薄くなっていくのを覚える。ああ…ここで、終わってしまうのか…。ごめんね、みんな…ごめんね、えいくん…やくそく…はたせそうに…ないや…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がぁッ…!!」

 

エンデの驚くような声に、遠のく意識が一瞬に戻ってくる。そして、拘束されていた影もなくなる。

 

「女神よ…良く持ちこたえてくれた。復活してしまったとは言え、私達のターンはこれからだ。」

 

目の前にいる女性がそう言う。どこかで聞いたような声質…刺さっていた剣は抜き取られ、誰かが治療魔法をしてくれている。この回復魔法は…。

 

「もう、大丈夫ですよ!!」

「よかった…お姉ちゃん…!!」

「コンパ…それに、アイちゃん…!」

「こっちはこっちで、大変な事になってるじゃないの。…まぁ、私達も死にかけたのは確かだけど。」

 

みんな、生きていた…!後ろで戦っていた全員が一斉に揃っている。それに、シェアエナジーが再び戻ってきている感覚が、体中に伝わってくる。

 

「今回は、本当に危うかったにゅ。」

「私の魔法があっても、危うかったぞ。」

「でも、二度と味わえない危機感はあったね。」

「はは…相変わらず鉄拳ちゃんは…。」

「さぁ、今度はこっちの番だよ!!」

「君の野望は、ここで終わらせる!」

「ゲイムギョウ界の平和の為に、今度こそ終わらせる!」

「好き放題しやがって…今度こそテメェの息の根を止めてやらぁ…。」

「馬鹿な…何故だ…何故…!!」

 

…そうだよ。確かにさっきまで絶望だった状況が、気づいたらこんな事になっていたし、目の前の女性も何処となく、えい君に似たような力を扱ってるし。…ワケガワカラナイヨ。

 

「…どうした、紫の女神。目が丸くなっているぞ。」

「あ…いや…。」

「無理もない。私こそ、先ほどの状況は飲み込むのに時間がかかったのだから。」

「それはどういう?」

「奴の視線の先を見れば、分かる事だ。」

 

奴…女性はエンデを指さし、エンデは遠く…わたし達の後方を見ている。その視線を追うように、わたし達は全員後ろを向く。協力してくれたみんなの後ろに、見覚えのある人―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故、貴様がここにいる…!!」

「…お前を葬る為に、地獄から蘇ってきた。それだけだ。」

 

 

 

 

 

 




ネプテューヌの台詞回しが迷走してるような気もしますが、気になる所がありましたら、遠慮無くご指摘を。



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The 5th Encounter ~新世界/別世界編~
Scene56 天翔ける魂の道標~Attack~


Steam版のネプVⅡの発売決定出ましたね…これは買うしかない!!

あと、随分と間が空いてしまいました…別ゲーが面白くてこれであります\(^o^)/


 

【???】

 

遠ざかる天の光、侵食していく深淵の闇。何故、こんな感覚になっているのか全く思い出せない。只々、ありのまま身を任せるように闇の中に落ちていく。何処までも不可思議な感覚。無意識の中で、自らの身体、存在という概念すら分からなくなる。俺と言う存在を、全て消し去るように…そして、全ての感覚が刹那のように消えてなくなる。

 

―――――しかし、一筋の光が俺の身体を包む。

 

不覚にも、その感覚は心地が良いものだった。それは、大きな存在の中へと溶け込んでいく様だが、母親の中にいるような温もり、何も抗わずに身を任せられる居心地さ。

 

 

 

 

 

どれ程の時間が経ったのだろう。心地良い感覚が無くなり、仰向けに倒れている感覚を覚える。目を覚まし、地面の感触を確かめる。どうやら草むらの上で仰向けになっているようだ。上半身を上げ周囲を見渡すと、これまた不可思議な状況であるのが分かる。

 

「………。」

 

それこそ、何もいう事の出来ない場所だ。現実では到底見る事の出来ない光景。…浮遊した島々があり、橋のように虹が掛かっているのだから…。しかし、不思議な事に、自分のいる島は自らを誘うかのように、一本道の虹しか見えず、寄り道が出来るような虹の橋はない上に、その虹の橋の先は全く次の島が見えない程に長い。他の島々は、様々な虹が掛かっているのに…。だが、RPGで言う一本道という形でありながら、それは自らを誘うかのように見える。虹の橋の前まで行き、その虹を足で触れてみる。予想通り、橋のように頑丈であり、壊れる気配はない。そもそも、俺がここに居る理由もそうだが、自分がどんな存在なのか分からない以上、誘われるように向かうしかない。

 

「立ち止まっていても仕方ない。」

 

そう呟き、虹の橋を渡る事を決意する。この先に記憶喪失になった理由があるに違いない。そう信じて、只々この長い虹の橋を淡々と歩いて行く。

 

そんな無意識に歩いていると、不意に目の前が真っ白になる。そして、脳裏に映像と声が流れ込んでくる。

 

 

〔パパ、どうしてママはいないの?〕

〔…ママはね、遠い所へ行ってるんだ。お前が大きくなれば、きっと会えるだろう。〕

〔いつごろ?戸棚のモノとかがひとりでとれるくらい?〕

 

 

…これは、小さい頃の…俺か…。俺は、生まれてから母親の顔を覚えていない。そう、温もりすら覚えていない。母親は、秩序を守る仕事をしていると聞いていた為に、遠くへ派遣されていたと思っていた。父親…いや、親父とも言いたくないクソ野郎だったあいつは、同じ秩序を守る仕事をしているとはいえ、仕事にはついてくるなと言いつけられていた。当時は不思議なくらいだった。

 

 

〔どうした?“死んだ猫”なんか抱えて。〕

〔…知り合いが捨て猫を拾って飼おうと思っていたら、ガキ大将風情が来て、この有様だ…。〕

〔そうか…理由はどうあれ、守りたいのを守れなかったかのか。…その猫は、生まれてきて幸せだっただろうか…死んだ方が幸せなこともある。〕

〔なっ…!?〕

〔さっき話したように、捨て猫なのだろう?ペットショップで売っているような猫とは違う。その猫も、不幸と言えば不幸だ。…それでも、その命を助けたいか?弱まってしまった命の灯を救いたいか?〕

〔どうすれば…どうすれば、それを叶えられる?〕

〔強くなれ。神頼みなど捨てろ。誰にも負けない、悪に立ち向かう力と勇気を備るのだ。〕

 

 

…それからだ。“人の命を奪うのは悪だ。”と言うのを口癖のように教え込まれつつ、自らの描く正義を目指し、日々クソ親父からの世間から見れば“虐待”とも言える特訓を熟す。基礎訓練から、息を止められての20kgのバーベルを腰の回転での振り回し。1、2m先を360度の布で覆われた向こう側から、四方八方から投げられる短剣を躱す。高級品の壺を置いた、横の的を射抜く訓練。そして、あらゆる格闘技を叩き込まれる。…そして、目覚める自らの力と、驚異的な肉体。これも全ては、自らの正義を貫く為と信じての事。その合間に一般教養も叩き込まれている。そんな中、俺は知らぬうちに感情を押しとどめる術を身に付けられていた。まさか、犯罪組織に入って暫くしてそれに気付くなんて、俺の身に何をされてたか分からないのも情けない話だ。

そして俺は、12という年頃相応というべきか、好奇心もありクソ親父が何をしているか気になり始める。今更、面と向かって質問するのは聞きにくく、身に付けられた追跡術で後を付いていく。身に付いた追跡術が完璧だったのか。それとも、気付かぬ振りをしていたのか…今ではそれを問うことは出来ない。そして、親父というクソ親父が殺し屋稼業というのを目のあたりにする。…それから俺は、クソ親父と口を聞かなくなり、俺は家を飛び出した。幸い、それを見こされていたのか分からないが、ある程度の教養とサバイバル術もあり数日は過ごせた…が、所詮12歳の少年だ。出来る事等、冷静に考えれば限られている。

 

―――――それから、ある雨の降る日だった。気づけば俺は住んでいた場所を離れ、日本についていた。

 

 

〔大丈夫ですか?こんなところで雨に濡れて…風邪を引いてしまいますよ?〕

〔お前には、関係ない。俺は、一人で生きていける…って、何人の肌を触ってる。〕

〔…肉体は成人並に鍛えられてますが、肌の感じ方は私と同じくらい…12歳ぐらいですね?〕

〔ぐらい、だと?…目が、見えてないのか?〕

〔ええ。でも、感じることは出来ますよ。それに、私と変わらない人を放っておける程腐ってませんよ。丁度父上と母上が居るので、相談してみますよ。〕

 

 

その時出会った、同い年であり後の親友であり戦友でもある、名家“劔家”の一人息子である“剣士”と出会う。既に超能力が当たり前であり、目が不自由な代償として驚異的な物質をも作り出す念動力と氷の能力を持っており、変わり者とも言われていたそうだ。多少、夫婦間で揉めたらしいが、幸い息子が一人だけであり、剣士の父は既に俺の素質を見抜いていたらしく、養子のような形で向かい入れられる。話の路線はズレるが、超能力は一人に一種類。つまるところ、簡単な念動力以外は素質、特性で炎、水、雷、風、土の五大元素のようなのが1つだけ特化している。その気になれば、2、3種類扱えるが、当然能力事態は弱い部類になる。炎はライター程度、水は水滴程度といった感じだ。それを二種類以上扱える者は、何かしら体や精神的に問題を抱えている者が多い。俺は、炎と風の二種類を扱えるにも関わらず、その両方を極められているだけでなく、体にも異変や身体障害もない為、かなり特殊体質らしい。だが、今思えば女神を助ける為と力を求める為…そして、俺の中に眠いっている殺意とゼロと融合して得たニグーラの力の暴走を止める方法を探す為とは言え“悪に落ちる”という道を選んだのだから、精神に何かしら問題があったのかもしれない。

 

 

〔見事…だ…。ここまで、力を…つけているとは…。〕

〔貴様の行いは、決して許される行為ではない。例え、実親であってもだ。〕

〔そして、政府に反しこの災害を犯した貴方は、どんなに正義を振りかざしても、悪でしかないのです!〕

〔実親…か…お前達はある意味…幸せなのかもな…。一体何の為に…戦っているか…知らぬのだから…。〕

〔何…?〕

〔戦っている…理由?〕

〔私は、ここで滅びる…。しかし、何れ知る時が来る…真の敵を…そして、お前は…私と同じ過ちをしないことを…祈ろう…。〕

 

 

〔無駄だ…我を倒したとしても、貴様等に勝利など無いのだ…。〕

 

 

これは、縁を切ったクソ親父が、暗殺組織のトップとして政府に歯向かい壊滅に陥れた為に、暗殺組織を壊滅するのが目的で攻めた最終決戦。そして、ポータル最終起動を目前に現れたニグーラの親玉の一人のエンド…。クソ親父の言った事は当時理解できなかったが、今は少なからず、クソ親父が意味深な事を言った事が分かる。そして、エンドの勝利等ない発言…。俺達は、既に敷かれたレールを走る事しかできなかったのかもしれない。そして俺は、滅びるはずだった身体を、ゲイムギョウ界へ転生とは全く違う形で出現し、ゲイムギョウ界に貢献する事にはなる。しかしながら、宿敵のニグーラであるエンデという脅威をも連れてきてしまい、ゲイムギョウ界に被害を与えてしまう。俺は、そこで出会った女神と果敢に立ち向かうも、エンデはエンドとは比較にならない程強大な力を持ち、一度は瀕死になるが、何の縁か、運命の悪戯なのか…ニグーラに打ち勝つために、古の女神の一人であるラズリーハート、裏切りのニグーラのゼロの力を取り入れ、リーンボックスのズーネ地区で奴を討ち取る。

 

―――――だが、女神の力を取り入れたとはいえ、ニグーラの力の方が俺には馴染んでしまい、俺自身が何れ最終兵器となってしまう事になる。そして、エンデはその身は滅ぼしたが、不完全ながらゲイムギョウ界に、魂だけを繋ぎ留め、復活の機会を伺っていたのだ。

 

 

〔…何、俺は待機だと?〕

〔今回は、女神が対応します。…貴方をギョウカイ墓場へ向かわせるのは…どうか、ご理解を…。〕

 

―――――1年後

 

〔貴様…そのような力を持っていながら、何故女神に加担している。〕

〔さぁな…。〕

〔しかし、一人で来たとはいえ、4人相手にここまで追い詰めたのは流石だ。貴様、我等の仲間になる気はあるか?〕

〔断る…と言ったら?〕

〔捉えている女神を生贄に捧げるまでだ。代わりに、自由に動いても構わない。〕

 

 

独自の調査で俺は、犯罪組織マジェコンヌが存在するギョウカイ墓場に、エンデは魂を留めていることを突き止め、女神一行が犯罪組織と対立した為に向かう事が決まり同行するよう申し出た。しかし、イストワールに制止され、女神不在の間、イストワールと俺がプラネテューヌを支える事となる。そして、朗報で女神一行が犯罪組織マジェコンヌに敗北したという情報が、各教会の限定された人物に通達される。当然、ゲイムギョウ界の一般の人々はそれを知るはずもなく、場合によってはアイエフが所属する諜報部による隠蔽操作で隠し通していた。しかし、エンデは力を蓄えている事を知るだけでなく、俺自身の闘争心が玉勝っている為か、1年後に辞職書を部屋に置き、イストワールの言い付けを破り、単独でギョウカイ墓場へ向かう。番人をしていたジャッジを退き、ブレイブ、トリック、マジックの3人が連戦で現れ、ブレイブとトリックを退かせ、マジックを追い詰めるも、ゾディアーク化とオーバードライブの同時併用による限界を突破、ガス欠となりあと一歩のところで敗北。そして、その戦闘力を買われ、脅しに近い形で犯罪組織に所属した俺は、言葉通り自由に動き、女神とニグーラの過去の資料、惑星チキュウが誕生した経緯と破滅へと向かった理由、おまけとして転生に関する資料を探し出す。ギョウカイ墓場、ほぼ荒地で決して心地いい場所とは言えないが、拠点・隠れ家としては最適ともいえる場所だ。女神とて簡単に踏み入れる場所ではない。そんな場所で、俺の身体は馴染んでいる。そして、犯罪組織の言い分にも女神達にとっては間違っているとは言え、信念を掲げている。故に、女神とて信念を掲げている点では俺達と何一つ変わらない。詰まりは、互いの信念のぶつかり合いとも言える。俺は、心の何処かで犯罪組織の信念に共感してしまったのかもしれない。違法とは言え、女神でも手の届かない不幸な人達にも平等の権利を―――――

そして時が過ぎつつ、何れ起こる暴走を食い止める術はなく、女神候補生と戦いながら支援する事となる。プランAは失敗に終わり、プランBである“女神一行がジャッジの強い奴と戦いたい欲を満たせ、俺を殺せる程の戦闘力”を身に着けさせる事。ノルマは十分達したが、女神としての信念か情か分からないが、俺を追い詰めるまでには至らず、寧ろ女神候補生側が暴走等あり食い止める事になる。そして、調べているうちに、魔剣の存在、その使用した過去や経緯を知る。更に、このままでは確実に今の女神もその剣を手に入れ、女神殺しとしての同じ過ちを繰り返してしまう事を知る。そんな中で見つけた魔剣を邪聖剣へと変える秘術を見つけ、それを実行させる。

 

 

〔成程、其方は自らの命を捨ててまで、我々が使った剣を使いたいと。〕

〔ああ…俺が、あいつ等の命を奪うくらいなら、この命…この世界の平和の為に捧げるまでだ。〕

〔ふっ…即答…か…。若いな。それを使ったとして、果たして其方が思う理想の形に流れていくと行く保証もないのだぞ。〕

〔ああ、貴女の言う通りだ。この戦いは、既に数値や理論では到底計り知れないところまで到達している。それでもだ…ここまで俺を導く為に死んでいった人々や仲間の想い。そして、呪われし運命をこれ以上増やさない。それが、今俺が出来る奴らへの最後の道標。〕

〔…良かろう。其方の想い、しかと受け止めた。其方に、魔剣の真の力を開放する、混沌とも言える秘術を教えよう。〕

 

 

ギャザリング城の最深部に、魔剣を求め、そして捕らわれの魂だけの存在となった古の女神“ウラヌス”。彼女の助言がなければ、同じ過ちを繰り返す事となるのを知る由もなかった。そして、彼女の助言により魔剣の力を最大限に引き出す、光と闇を混同させる禁断の秘術を手に入れ、俺は自ら望み死を選んだ。俺が生きていては、何れ同じ過ちを繰り返してしまう可能性がある。しかし、女神やその仲間、そして出会った人々には感謝していると同時に、重い十字架を背わせてしまったと後悔してる。しかし、彼女達に出会っていなければ、俺はただ復讐心で動く殺戮者になっていた可能性もある。

 

「………。ネプテューヌ、ノワール、ブラン、ベール…。こんな俺を、ありのまま受け入れてくれたのは、剣士やジョニー、キャプテン以外、お前達ぐらいだ…。」

 

今のこの状況を考えると、本当に死んでしまったのか分からない。ふと、俺は足を止め、手摺もない橋の横に立つ。この虹の橋から落ちれば、本当に死ぬのか、又はゲイムギョウ界の地面に辿り着くのか―――――

 

「何してるの、こっちだよ、こっち!!」

「うぉっ!?」

 

…何処かで聞いたような似た声と同時に、手を掴まれ引っ張られるように橋を渡らせる。何処か幼さを残しつつ、大人びた黒色の丈の長いパーカーを着込んだ少女に引っ張られ、ついた先は巨大な樹海が聳え立つ小さな大陸。

 

「ダメだよ、足止めちゃ!君は、ここに来なきゃいけないんだよ。」

「………。」

「ん、どったの?わたしの顔に何かついてるの?」

 

俺の目の前にいる人物…まるでネプテューヌがそのまま大人びたような恰好の少女…女性と言えばいいのか分からない感じの人物だ。

 

「…いや、似ている人物を知っていてな。それで、俺がここに来なければならない理由とは?」

<そりゃあ、オメーが死んじまったら、色々と困んだよ。>

 

理由を問いただそうとした時、ネプテューヌ似の人物から“クロワール”の声が聞こえてきた。

 

「クロワール…?」

<おう、そうだ。オレだよ、オレ。…つっても、訳合って、今はコイツから離れなくなっちまったけどな。まぁ、単刀直入に言うとな。オメェには、まだこの世界でやる事が残ってんだよ。>

「やる事が、ある…?…その前に、これは夢か、現実か?それとも、俺は…死んだのか?」

 

<―――――いいや。其方は死んではない。同時に、今は生きてもいない。>

 

まるで役者が揃っていくように、聞いたことのある声が聞こえる。

 

「その声は、“ウラヌス”…どうして、お前がここに。」

<そこの、歴史を司る者の御蔭…と言うべきか。ここは、ゲイムギョウ界に隠された世界である“天界”。その中でも更に隠されし場所、生死の存在しない空間“魂が集う場所(ソウルストリーム)”。そこへ我々を空間移動して貰ったのだ。そして、其方は見たはずだ。“魂の無を有にする歩み”。>

「無を有にする歩み…。」

<今、其方の心は非常に揺れている。其方が名称している“ニグーラ”を滅ぼす殺戮の闘争心である闇。ゲイムギョウ界の女神や出会った仲間に対し想いを馳せる光。その光を汚さなぬ為に闇に還るか。闇を振り払い光の中に溶け込むか…これが“死”であるなら、その通り元の世界では死ぬ事となる。逆に、“生”と思うのならば、その通りになる。そして、それを受け入れるか否かの選択権は、其方が握っている。だが、それは本質とは違う。其方がゲイムギョウ界に来た理由。“ニグーラ”を滅ぼす為に来たわけではない。>

 

ウラヌスの話が本当であれば、俺には生きなければならない理由があるようだ。

 

「ここで“生”を選べば、俺は生き延びる事になるのか…。」

<そうだ。>

「それで、俺が生きなければならない理由とはなんだ?俺は自ら死を望んで、アイツ等に力を与えた。それで、今更蘇ると言われて、受け入れられるか?」

<…それもそうだな。成らば、その理由を知る彼等と話すべきだ。>

 

ウヌラスがそう言うと、巨大樹の枝先が光だし、その木々の下に落ちる。そして、その光は人の形となり半透明の人物が2人現れる。

 

「…!?きゃ、キャプテン…ジョニー…。」

<よう、永守。元気だな。…俺達は死んじまったけどな。>

<頑張ったな…良く、ここまで来てくれた。>

「頑張った…か…。最後は女神達に託してしまった。そんな事言えるような立場じゃない。」

<そうか?確かに戦いの中を生き抜いてきた。そして、お前の来てしまった世界でも、戦いからは背くことはできなかった。でもな、そんな戦いのない日々で、お前は復讐心ではなく、お前自身は明日(素顔)を見ていた。>

 

キャプテンの言うのも分かる。あの時は、何があるのか分からずがむしゃらに世界に馴染もうとしていた。1つは情報収集の為、もう1つは、奴に俺が生きている事を知られない為…。だが、俺はネプテューヌ達といる時、ふとそれを忘れている時間があった。

 

<俺達のやったことは、戦争の火種になってしまったと言われれば、そうかもしれない。実際、俺はお前に銃の扱いを教えたことは、それを推進させてしまったと考えれば、周りはそう考えてしまうのかもしれないな。だが、そんな力があっても、お前は誰かの為に使ってきた。そして、お前は本当に強い。その強さは、これからを生きる“意思”になる。>

<私達は、明日を求めて一緒に歩んできた。…私にとって、その考えは、お前に使命と言う十字架を背負わせていたのかもしれない。だが、それも今日で終わりだ。お前に生きる意志があれば、お前が生きる意味を探せ。それが、S.T.O.P.から…いや、私個人の最後の命令だ。>

 

俺には、強さがあると言う。そして、その強さはこれからを生きる道標となる…か。

 

「…一つ、聞きたい。死んでいった他の仲間や、人々は…それを受け入れてるのか?それと、俺が生きなければならない意味を知っているのが、2人の訳を…。」

 

それを言った瞬間、俺の周りに大量の光る小さな玉が集まる。それらは、何処か羨ましそうな感覚もあるが、暖かく歓迎してる感覚がある。

 

「………。全く、お前達は…。」

<決して全員が、そういう訳ではない。私達は、お前が一番相応しいと考えている。時間が経ては、我々がいたという事は薄れて忘れてしまう。さっき、背負うべき十字架はないと言ったが、それを捨てるか否かはお前次第だ。忘れて平凡に生きていてもいい、語り手になってもいい…。だがその前に、お前の親っさんと、急に入ってきた女性からな、メッセージを預かっている。お前の真相を知る存在だ。…どうか、これを聞いて悲観しないでほしい。>

 

キャプテンとジョニーが光だし、姿形がはじけると2つの小さな光が現れる。それが、俺の手元に向かい、光出すとメッセージのようなものが脳内に流れてくる。

 

〔これを聞いているのなら、恐らく私の魂は既に消滅しているだろう。恐らく、許しては貰えないだろう。元より、お前を息子としてでなく、一人の戦士として見てきてしまったのだから。…お前は、私の“本当の息子”ではない。〕

 

クソ親父の音声のみだが、真実が語られる。政府が発案した、“ハードリバース”。恐らく、この戦いが起きる事を想定して作られた、光と闇の力の両方を身に着け、最終的に身を滅ぼしつつ星に生命を息吹かせる…ニグーラ同等の戦士としての人工戦闘兵士計画。その中の完成体である一人が俺である。そして、研究員の一人であり、工作員でもあったクソ親父の元で育てられる事となる。結局のところ、残酷な事に俺は一般教養を受けつつも、本質は戦いに特化した兵士ってことになる。だが、結局のところ、俺はニグーラの力に飲まれているあたり、想定外か失敗作なのだろう。だが、一部の権力者が暴走。そしてあの惨事が発生してしまったという。

 

〔…平和の為、自由を得る為、お前を生き延ばす為とは言え、お前には責任を負わせすぎた。成功したとしても、所詮は内なる自由だったのかもしれない。…だが、お前に与えられたのは外への自由だ。お前は、もう運命に縛られる必要はない。戦争を招く火種でもない。お前の身体、心は…お前の宝物だ。その足で、大地を、風を、空を感じ…自らの生きる意味を探せ。〕

 

そして、クソ親父からの音声は消えてなくなる。そして、もう1つの音声が脳内に流れてくる。

 

 

〔人にはあーだこーだ言ったり助けたり、生きる意志を持たせておいて…何で相談もしねぇで、テメェ自身はぽっくりと逝く選択しやがって…テメェは一体何様だ!!…アタイは、あの戦いが終わった後の自分が見えねぇと思ってた。でもな、テメェを見てたら、その背中を追ってみたくなった。まぁ、テメェとツルムのも悪くはないが、テメェにはもっとやらなきゃならねぇ事、逢わなきゃならねぇ奴が一杯いるだろが。だったらよ、生きて帰ってきやがれ。…あと、アタイにも謝りやがれ。〕

 

 

「何故、リンダが?」

「それはね、わたしがクロちゃんにお願いして、メッセージを預かってきたんだ。」

<て、テメェ、その名で呼ぶなってんだろ!>

 

これまた微笑ましいと言うべきか…正直、俺はあいつ等…女神達とどう接していいのか分からない。恋愛みたいに胸が高鳴るわけじゃない。だが、女神達といる間、今までどんな事をしても埋められなかった隙間を、パズルのピースの如くぴったりと埋めてくれそうな感じはあった。そして今は恥ずかしながら、心の奥底に眠っている俺の感情…魂が“喜んでいる”。

 

「やれやれ、死に損ないだ。このまま消滅しようと考えていたが…。」

<そうだ、それでいい。其方の生きる源、未来へと続く道標。憎まず、拒まず、撥ねつけず。其方と、現在の女神なら、新たな翼を生み出せるだろう。>

「………。一つだけ、頼めるか?」

<頼み事とは?>

「…恐らく、奴との決着はついていないのだろう?」

<女神一行は、今まさに戦っている。…そこに行けないかと言うのか?>

 

俺は、ウラヌスに対して縦に頷く。心残りや後悔といえばそうだろう。だが、最後の火種だけは消しておかなければならない。

 

<其方の肉体は、今のゲイムギョウ界て保つのは難しい。だが、わしの力、そして邪聖剣に宿っている力があれば、其方の肉体は、持って15分だろう。それを過ぎれば、魂諸共消滅してしまう。>

「十分だ、10分で終わらせる。」

<…もう一つ。戦いが終わったのなら、邪聖剣を壊せ。>

「その心算だ。」

<頼もしい言葉だ。わしも、あやつに因縁がある。其方に15分間、わしの力を与えよう。>

 

ウラヌスがそう言うと、俺の周囲に小さな光が集まってくる。すると、徐々に俺の魂に炎が付くように湧き上がり、背中に炎の翼のようなものが現れる。…これが、ウラヌスの力がどうかは分からないが、力を得た事によって目覚めたのだろう。それと同時に、巨大樹の前方にワープホールのような物体が現れる。

 

<さぁ、道は開いた。あとは、其方次第だ。>

「じゃあ、わたしの役目はこれで終わりだね。」

「…短い間だったが、世話になった。」

「うーん、これで別れるのは何だが残念だよ。」

<おうおう、オメェよ。オレの力使ってやる事あるっつったのはどこのどいつだ?>

「あ、そーだった、てへっ☆」

「………。」

 

若干反応に困るが、やはりこの女性…いや、今はいい。不思議とまた何処かで会ってしまうような感じがある。俺はワープホールに向かって歩み始める。

 

「これ以上待ってるわけにもいかない。俺は行く…達者でな。」

<おうおう、ここまでしたんだからよぉ、犬死なんてすんなよ。>

「あ、うん!無理はしないでね、“えい君”!!」

 

ワープホールに飛び込むと同時に、聞き覚えのある呼び方が聞こえた気がする。…今、今後生きる意味は分からない。だが、今はそれでいいと思う。だからこそ、この戦いは終わらせなければならない。悪しき1を0にする為、ゲイムギョウ界の平和の為、そして俺の先の見えない未来の為に―――――

 

 

 

 

 

 



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Scene57 HardReverse・想いを青空に~AceDokuto~

 

 

【ギョウカイ墓場】

 

これは、夢なのか、奇跡が起きているのか…今、わたしが見ている光景を受け入れるのに戸惑ってしまった。数分前まで、後ろの方で交戦していたコンパやアイちゃん達が全員現れて、その後ろから、全身が炎に包まれつつ背中に炎の翼が生えてる状態の、えい君が来ている。コンパやアイちゃん達以外のわたし達女神は、目の前の状況が急すぎて固まってしまう。

 

「よぉ、ネプテューヌ、ネプギア。」

「え、永守…さん…?」

「…よぉ。じゃないわよ…!どうして、えい君がここに…!?」

「色々、あってな。説明は後、時間がない。奴をさっさと葬るぞ。」

 

時間がないという単語が気になったけど、えい君に身を任せるように手を引っ張られ立ち上がる。燃える手で触られたけど、熱いとか燃え移ることはなく、寧ろ暖かく癒される感じ…そしてえい君は、エンデの前まで歩いていく。

 

「まさか、君がここに来るなんて…!!」

「生憎、天国も地獄も満席…お前を手土産にする時間はあるようだ。」

「有り得ない…、何故だ…!!」

「その様子…どうやら、元の身体であった予知能力はなくなったようだな。」

「くっ…。」

「図星みてぇな顔してやがる…。アンタこそ、そこまで予測出来たのか?」

「奴が露骨に言うのは予想外だが、犯罪組織にいた2年間に、先回りされるような出来事がなかった。つまり、元々あった予知能力が犠牲になった。だが、奴のエネルギーは以前よりも強いのは確かだ。」

 

えい君が言う通りであれば、あのエンデはわたし達の次の行動を読めないという事になる。つまり、読み合いに関しては同等…。

 

「時に小僧、策はあるのか?まさか、手ぶらで来た訳ではあるまい。」

「ふっ、小僧か…。マジェコンヌ、確かにアンタにとってはそうだな。まぁ、この通り手ぶらだけど、奴に対しての土産は用意してある。」

 

えい君が、マザコンヌと言った…つまり、この女性はあの時の?ただ、姿形は違うけど…。その女性にえい君が両手をぶらぶらさせながら言うけど、策はあると言って、エンデの方へ歩み寄っていく。歩み寄っている時、えい君は左手を側頭部に当てるのを見る。

 

〔よく聞け、俺が奴を暫くの間足止めする。全員集まって、邪聖剣に持っているシェアエナジーを全て集め、それを放つんだ。〕

「…!?みんな…!!」

 

どうやら、ネプギアも聞いていたらしく、わたしと同じく直ぐに行動に出ていた。そして、みんなにえい君が伝えた事を言い、邪聖剣に力を集めるように促す。

 

「何で、一人で行かせるのよ!」

「アイツの事だ。また無茶しちまうじゃねぇかよ!」

「わたくし達も加勢したほうがよろしくて?」

「………。」

 

言葉にするには少々難しい。なんてったって、感じるもの…えい君から一人とは思えないシェアエナジーとも、アンチエナジーとも言える力が…。

 

「安心しろ。貴様達が考えているよりも、あの小僧は強いぞ。精神的にも…。」

「お姉ちゃん…あたしからも、今は言われたことに集中しよう。」

「そうだよ、永兄はいつも言った事は100%じゃないけど、ちゃんと守ってきてたんだから!」

「最高の、チャンスだよ。(ぐっ)」

「永守さんは…必ず、やる。」

 

各々の妹達が説得していく。確かに、空白の3年間がある以上、今のえい君をよく知るのは、女神候補生であるネプギア達の方だ。

 

「お姉ちゃん、やろう!それで、皆と一緒にゲイムギョウ界…プラネテューヌに帰ろう!」

「ネプギア…。」

「そうよ、ネプ子。今度失敗したら、捕まるだけじゃすまないんだからね。」

「また、あんな事になるのも嫌ですけど、ゲイムギョウ界が消えるのも嫌です!!」

「そーいう事だ。じゃねぇと、アイツに借りを返すことも出来なくなっちまう。」

「何度目か覚えてないけど、また世界を救うにゅ。」

「ゲイムギョウ界の為にも、ビシッと決めなきゃね!」

「我が魔術と科学力の力、十二分に使ってくれ。」

「また、楽しい日々の為にも、力になるよ。」

「シェアを送るのは初めてだけど、出来る限りの事はやるよ。」

「今回も巻き込まれる形になっちゃったけど、あたしも協力するよ!」

「ぼ、ボクは、歌で…みんなに力を…!!」

 

…そうだ、これだけの仲間がいるんだ。みんなの力、仲間、友情の力を今ここに―――――

 

 

――――――――――

 

 

俺は、ネプテューヌとネプギアに伝えるべき事を伝えた。後は、奴にネプテューヌ達の攻撃を100%当てるように事を運ぶだけ。

 

「どうした、お得意の見下した態度は…。」

「………。ふっ、そうだね。こう考えることも出来るね。また会えるとはね…永守…。」

「挨拶は程ほどにしな。じゃないと、火傷では済まないぞ。」

「ふふ…だが、最も彼女達の戦意を喪失する方法。それは、君を彼女達の目の前で殺す事。それが、僕の生き甲斐であり、君を殺し損ねた僕に対しての褒美。彼女達に何か入れ知恵したみたいだけど、その前に君を消せば…そして、ゲイムギョウ界…いや、全世界も消える。悲しい事だね…。」

「…消えたら、な…。悪いが、三度目も四度目も、お前の思い通りにはならない。」

 

「ふっはっはっはっ!」と笑いながら、奴は俺に向かいつつ両剣を縦振りしてくる。それを、俺は右腕で受け止める。その衝撃で、右腕に付けていた長手袋が弾け飛ぶ。

 

「やはり、その手を使うのかい。」

「こいつは、単なる腕はない。お前とは反対の道を選び、平和の為に戦った闇の力…。」

「…!!な、なんだ、その力は…それに、なんだこの歌は…!!」

「これは、この闇の力と共に戦った女神の力。…そして、この力は、俺に生きる希望を植えてくれた者の力…。」

 

歌は、恐らく5pb.だろう。体の奥底に眠っていた力が徐々に湧き上がってくる。それと同時に魔人のような黒い右腕が、白くなると同時に赤白い強烈な炎が出てくる。その影響でか、俺の身体全体がゾディアーク化とは違うフォームに変化している。邪聖剣程の力はないのは分かる。だが―――――

 

「毒を制すには毒を制す…だが、この力は違う。明日の平和の為に、命を削ってでも目指した者の力だ。」

 

右手を天に掲げる…今日の為に生き抜いた仲間たち、明日を見る事の出来なかった人々の想い、そして…俺の魂の雄叫びを、お前に食らわせてやる。

 

「シェア・ヴェルト・リヒト…!!」

 

右腕から強い光が放ち、天高く舞い上がる。そして天高く舞い上がった光が、5つに分かれ、エンデを囲うように降り注がれ、5つの光の柱が出来る。

 

「何をするかと思ったら、ただ光を注いだだけ?拍子抜けだよ。」

「どうかな…。手足や、体を動かしてみろ。」

「言われなくても、君を殺す為n…何…!!」

「悪いが、これは攻撃技ではない。女神の力を代償に使う、完全なる封印術。…代償は、肩代わりしてくれる人がいる。」

「なん…だと…!?」

「…お前達、準備は出来たか?」

『いつでも…!!』

 

ネプテューヌ達に準備が出来ているかを問い、分かり切った回答が帰ってきた。それを聞いた俺は、ネプテューヌ達の元へテレポートして、ネプテューヌ達の持っている邪聖剣に手を添える。

 

「えい君(永守さん)(永兄)…!」

「さぁ、最後の共同作業だ。奴にトドメを…。」

『うん…!!』

 

そして、剣先からまるでチャージショットを溜めているかのように強力な光が集まり、一つの巨大な球体が出来る。それと同時に、全員にも脳裏に浮かんだらしく、技名とも思える言葉を口にする。

 

『ハード・オブ・テイルズッ!!』

 

全員がそれを言い終えた瞬間、球体がエンデに向かって放たれる。まるで、ロッ〇マンのPチャージショットを思い浮かべる強力なショットだ。

 

「ぐあああああああああああ!!!」

 

―――――その強力なチャージショットが通り過ぎたところに、エンデはいなくなっていた。

 

『勝った(終わった)…?』

「…そのようだ。奴の力を感じなくなった。」

 

俺がそういうと、全員が歓声ともいえる声で大喜びしている。…やはり、強い者同士の一撃必殺は一瞬で終わってしまうな。だが、それだけではない。奴には感情があるが、人間のような“心”は持っていない。ただ単に、最強と言うおもちゃを渡した子どものように、殺戮の欲求のみで動いていたに過ぎない…。ゲイムギョウ界にいい知らせが出来そうだな…ネプテューヌよ。全員が喜んでいる中、ネプテューヌ達が握っていた、落ちている邪聖剣を拾い、祭壇の所へ一人歩み寄る。

 

 

――――――――――

 

 

『やった、やった…!!』

「長かった…。また、みんなと一緒に、ゲイムギョウ界…プラネテューヌに戻れるね、お姉ちゃん!」

「うん!!」

 

3年間…この長い長い戦いが終わった…。気の緩みか、わたし達は、変身が解けていることも忘れ、盛大に喜んでいた。わたしはネプギアと何時の間にか手を繋いで互いに歓声に浸っていた。でも、その輪の中に一人、立役者ともいえるえい君の姿がない。

 

「…えい君?」

 

ふっと、倒した相手がいた祭壇の方へ眼を向けると。そこには、ゲハバーンを持ってたえい君がいた。それに気づいたわたしは、ネプギアと一緒にえい君の方へ向かう。みんな気付いたのか、えい君の方へ歩み寄っていく。

 

「えい君、何してるの?」

「もう、終わったんですよ?後は帰るだけじゃ…。」

「…悪いな。俺には最後の仕事が残っている。」

「最後?何よそれ。」

「ハードリバース。このゲイムギョウ界を、俺の肉体と、多くの仲間たちと共に、あるべき姿に戻す。それが、俺の最後のミッション。」

『ハード…リバース…?』

「えい君の…肉体…?」

 

えい君が言った言葉が信じられなかった。戻ってきて、わたし達の世界を救ったのに。また、消えるような事に?

 

「あ、貴方、また消えるの…?」

「どういう事よ。」

「説明して下さります…?」

「………。言ったとおりだ。それが、俺が生まれた理由だ。」

「ダメ…!!なんで、えい君も、一緒に…!」

「無理だ。俺に残された時間は、5分もない。」

『そんな…。』

 

酷い…酷すぎる…。せっかくまた会えて、一緒にゲイムギョウ界に居られると思ったのに…!!

 

「悲しむな、ネプテューヌ、皆…。これが、別れではない。…逆に、俺はお前達に感謝したい。」

『…え?』

「俺は、奴を倒したら消えようと考えていた。…まぁ、一度は消えたんだがな。だが、お前達に出会えて、不覚ながら生きる意志を貰った。そして、俺に新しい人生を与えてくれることになった。」

「じゃあ、また、帰って、来るのか?」

「まぁ、そういう事だ。それにな…こんな、俺に付き合ってくれて、ありがとう。」

 

わたし達全員、涙を流していたが、それ以上に驚いたことがある。…真顔だけど、えい君が大粒の涙を流してた。

 

「…ダメだよ、えい君。最後の仕事があるんでしょ?しゃきっとしなきゃ!しゃきっと!!」

「………。そうだな。」

 

えい君も、泣いている事に気づいたのか、涙を拭きとる。

 

「まぁ、お互い大変だろうが、青空でも眺めて、ゆっくり歩いていこう。」

 

そういって、えい君は光の方へ向かい、ゲハバーンを地面に突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

…あの戦いから一週間が経ちました。犯罪神、ギョウカイ墓場は、永守さん…獨斗永守によって、肉体と共に完全に消滅したみたいです。そして、ハードリバース…。この力に私達は正直驚きました。復旧予定だった街や建物が、元通りに近い状態に戻っていたのです。いーすんさん達含む、教祖様や職員も最初は元通りになっていく景色を見て驚いたそうですが、その流れてきたシェアエナジー等から、“そういう事、そういう事であろう”と、何処か悲しそうでありながら、感謝の意を示していました。だから、今の私達がいる…今はそう考えています。一緒に旅をしたみんなは、それぞれの生活に帰っていきました。…まぁ、中にはまだ悪い事を考えている人もいると思いますが…。

 

ユニちゃんは、ノワールさんと一緒に、ラステイションをプラネテューヌに負けない立派な国にするって言ってました。表面上はライバル関係ですが、ユニちゃんとはいつも通り仲良くやってます。お姉ちゃんも、ノワールさんとはいつも通りの関係ですね。そうそう、日本一さんは暫くラステイションで活動すると言ってました。どういう縁かはわかりませんが、“ラステイションが、呼んでいる!!”と言ってました。

 

ベールさんと、スミレちゃんがリーンボックスに戻ると聞いた時の、教祖様であるチカさんの喜びようは、少し引いてしまいましたが、凄く喜んでいました。驚いたのは、ジンさんがリーンボックスの特命課に就任したのを聞きました。とは言え、基本的には放浪の旅に近い形でゲイムギョウ界を回っているそうです。でも、スミレちゃんは何処か嬉しそうだったので、それはそれでいいのかな?

 

ロムちゃんとラムちゃんも、ブランさんと一緒に帰っていきました。ロムちゃんだけは、ちょっぴり悲しそうだったけど、近いうちにまたルウィーに訪れる事を言ったら、喜んでくれました。

 

プラネテューヌは…まぁ、いつも通りですね。ただ、いつか戻ってくる永守さんの為に、席は空いてます。あれだけの悪事をしていたのですが、教会内で永守さんを悪く思う人は不思議といませんでした。…とりあえずは、元通りという感じです。

 

「あーんっ!」

「…まったく、あれだけの事があったってのに、ピクニックに行こうだなんて…お気楽ね。」

「ええ、逆だよ!あんな事にあったからこそ、エブリディしなきゃ!!」

「意味が分からないわよ。」

「あはは…。」

「でも、わたしはあんな事があったからこそ、少しは…。」

「…そうね。今日ぐらいは…。」

 

…永守さん。今日もプラネテューヌは平和です。貴方の帰りを、お姉ちゃんと共に待っています。

 

 

 

 

 

 



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Scene58 新たなる旅立ち~Future Road~


犯罪組織編を無理矢理終わらせてしまった感はありますが、今回から新たな舞台へ突入します。
投稿待っていた方、そうでない方も、今後とも宜しくお願いします。

*2018/09/24
ちっちゃいいーすんこと、神次元イストーワルに顔文字を付け忘れる失態。文章の後ろにそれらしい顔文字を付け加えました。


 

<全てを、全うしたのだな。>

<ああ。アンタの言われた通り、全てを全うした。使命、義務、責任。それで動いていたと言われたらそれまでだが…。>

<わしの目、体が答えておる。そのような考えで、其方は動いてないと。>

<…有難い言葉だ。>

 

嘗てゲイムギョウ界へ訪れる前に来た、真っ暗な空間。それは、虚無であり、深遠ともいえる空間。そこに、俺と一時的に力を授けてくれたウラヌスが、互いに正面を向き合い佇んでいる。嘗ての俺だったら、ニグーラを全て滅ぼし、俺の中に流れる遺伝子、闇の力を絶つ為、最後は塵のように散っていくはずだった。それが、ゲイムギョウ界に招いた災害の罪滅ぼしであり、俺に架せられた罪と罰だ…そう考えていた。

こんな俺でも、慕ってくれる人々、俺を頼る人々、信用・信頼してくれる人々。そんな人々に共感し、生きる意志を沸かせる要因となる。…その分の恩は返さなければならない。そして、この道を選んだ以上、死んでいった奴らの分まで生きなければならない。これも、神の気紛れなのかは分からない。新しい顔よと言わんばかりに、神が俺に新しい生命を与えたというのだから。

 

<覚悟は、出来ておるな。>

<…でなければ、アンタの言う通りにはしていない。>

<そうか…。それを聞いて、わしは安心したぞ。>

<アンタは、後悔してないのか?>

<気遣いなぞ不要だ。わしは嘗て女神だったが、古い時代の者だ。今の女神とは歯車が合わぬ。それに、今の女神であれば、問題なかろう。>

<………。そうだな…。>

 

その後、俺は誰に言われる訳でもなく、そうするべきであるかのように、目を閉じる。…だが、気になるのは出所だ。最初は上空から湖に落下、今度の出所は何も言われてない為不明。ゲイムギョウ界に出るのか。元居た滅んだ世界に出るのか…神のみぞ知る状態だ。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

ある施設の廊下を、どこかに向かって走っている少女がいる。深夜に呼び起されたのか、若干整え切れていない長い黒髪のツインテール、黒と青を主体とした品格ある衣装、そして、その少女自身、若い見た目とは裏腹に上に立つ者の風格を持っている。

 

「一体何事よ!こんな深夜に…。」

「申し訳ございません、女神様…!」

「…その呼び方はやめてくれないかしら。あなた達はわたしと一心同体…という訳でもないけど、今後の苦楽を共にする存在なのだから、もっと肩の力を抜いて。」

「あ、は、はい…。そうでした。見て下さい、この異常反応を…。」

 

女神様と呼ばれた少女は、データ管理室のような部屋に入り、各職員の示したパネルに顔を向ける。そして、その内容に女神と呼ばれた少女は驚きを隠せない様子でいる。

 

「………。これは、人型の反応!?」

「そうです、ノワール様。解析をしましたが、いずれも人型、それも人間の反応です。しかも、航空機の反応なく、突如空中に現れました!」

「なんですって…!?どういう事なのよ!!」

「わ、我々としても、結果の通りとしか…。」

 

ノワールと呼ばれた少女は、職員から少し距離を置き、考え事をする。

 

「その反応の映像化は?肉眼で捉えることは?」

「残念ながら、映像化どころか、観測班でも反応のある場所を目視しても、何もないとの報告です。」

「………。まさか、あの“本体”?」

『っ!?』

 

女神と呼ばれた少女が口にした本体(・・)という言葉に、その場にいた職員全員が驚いた反応する。

 

「ほ、本体って…あの、伝説の書に書いてありました?」

「ええ…。あくまで、私の推測に過ぎないけど、極めて特別な出現、人間である事、伝説の書にも空から降ってくると載っていた…この条件を突破する条件としては、十分該当はしているわ。…最も、名無しの誰かさんとは違う事を祈るけど。」

 

伝説の書に掛かれていたという事を鵜呑みにするわけではないが、その条件に該当するという事を述べ、状況報告を続けるよう指示をする。しかし―――――

 

「っ!!反応が…消えた!?」

「なんですって!!再検索は!!」

「既にやっていますが、反応戻ってきません!!………、ターゲット、完全ロスト。」

「………。何処に落下したかは推測できる?」

「それは、私が…。状況からして、落下速度や角度に変化がなければ、プラネテューヌの南にあります砂浜エリアあたりに落下するかと思われます。」

 

それを聞き、更に考え込み一つの答えを出す。

 

「…わかったわ。とりあえず、プラネテューヌに明日の午前中にそっちに向かうって通達しといて。」

「の、ノワール様、自ら行くのですか?」

「ええ。イストワールとあの子は大丈夫として、あのお寝坊さんは、私が行かないとダメだからね。ご苦労様、みんな。今回の観測は終わりにして、各々休んで頂戴。」

「し、しかし、ルウィーに向かうという件は…。」

「そんなの、明日中に出来るわ。(多分ね…。)」

「???、何か言いました?」

「…何でもないわ。」

 

そう言い残し、ノワールは再び寝室へと戻る事にした。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

赤を主体とした赤黄緑の木々が並び、和風を思わせる建物が多くある。その中でも極めて大きな屋敷から、外を見つめている少女がいる。その手元には、膨大とも言える量の資料がある。そこへ、小太りで如何にも偉そうな大臣のような男性が、その少女へ歩み寄る。

 

「如何なさいますか、ブラン様。」

「…如何も何も、今回は見送りよ。」

「はぁ、そうですか見送りですか…って何ですと!!」

 

ブランと呼んだ少女の返答に、男性は予想外な反応に驚いてしまう。

 

「な、何を仰っているのですか!これを真っ先に行えば、我がルウィーのシェアも鰻登りのチャンスですぞ!!」

「あんな馬鹿な事やった後で、行ける訳ないでしょ…それともなんだ、わたしの言うことに文句あるってのか?」

「い、いえ…そんな事は…。」

 

何かを察したかの如く、それ以上の事は言わず後ずさりしつつ男性はその場を後にする。その表情には何か企んでいるかのように微笑みながら…。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ:砂浜エリア】

 

「………。うおっ!!」

 

―――――どぼぉんっ!!

 

目が覚めた途端、背中に強烈な水の衝撃を受ける。そして、しょっぱさを感じ直ぐに理解する、“かなりの速度で上空から落下、海あたりへ落下” したのだと。何というか、ゲイムギョウ界ってのは、上から落下するのがお約束なのか?幸い、そこまで深くない為、直ぐに浮上する事が出来た。周囲を見渡し、直ぐ近くに浜辺があるのを確認、そこへ泳いで行く。

 

「………。ふぅ…。」

 

砂浜へ上がり、自分の状態を確認する。服装はプラネテューヌで借りた服の状態だ。痛んだ様子はない。しかし、左腕の腕時計、サイドパックとその中に入っていたスマホ、それ以外の装備品はない。おまけに腕時計とスマホは電池切れだ…充電か対応するバッテリーがあればいいのだが…そして、右腕から感じる光と闇の力。これらを察するに、状態としてはエンデを倒す為に力を授かった状態に戻ったと言えばいいのか。

 

「(兎に角、情報収集が先だな。)」

 

…とは考えたものの、どう見ても夜中だろう。かなり遠くの方に建物らしきものが見える。あの形からして、恐らくはプラネテューヌと見ていいのだろうか…。

 

「…ん?」

 

そう考えながら森の方へ歩いていると、特に蹴った訳でもないが足元に何かある事に気づく。砂で覆われているのを払いのけ、そこにあるのを拾う。

 

「手帳、無線機、銃?何でこんなところに…。」

 

落とし物としては、不釣り合いな物ではある。しかし、どういう訳か3つとも拾わなければいけない気がし、その落とし物に手を伸ばす。

 

銃の方はガバメントのコピーモデル“M1911A1”のEMP。無線機の方は、軍用系の見た目をした小型タイプで、画面はデジタルでボタンが多くあるが、周波数を合わせるのは捩じりタイプ、一応無線だけでなく、切り替えで電話としても使えるようだ。更に驚くべきは、デジタル画面から宙にホログラムのように、メニューのようなのが開く。さながら、ゲームのようなメニュー画面を見ている気分だ。とは言え、そこに映るのは周波数ぐらいだ。手帳の方は、俺の能力について書いてある事に驚いた。状態としては、ニグーラによる殺意の衝動は取り除いたそうだが、やはり右腕を取り除くことは出来ず、基本的には女神と闇の力を持った状態である。詰まる所、不老とまではいかないがそんな状態なのだろう。手帳を読んでいくと、超能力はそのまま、影剣は使えない代わりに、右腕の力を開放することで両剣を生み出す事が出来るようだ。確認の為に両剣を呼び出すと、握りはジャッジの斧のような形の黒、刃の形状はブレイブの持っていた剣の形、刀身の色は赤黒い。鍔には片方はネプテューヌが付けてたクロスヘアのように十字のマーク、もう片方は髑髏が象ってある。尚且つ、中央部が外れワイヤーで繋がれており、模擬的な双剣としても使える。だが、この状態だと禍々しい状態の黒い右腕をさらけ出す事になる…使うなら時と場を考えた方がよさそうだ。そして極めつけは、ゾディアーク化改め“ハードフォーム化”…しかし、そこには何も書かれていないどころか白紙だ。

 

「………そのうち分かるだろう。」

 

兎に角今は情報収集を兼ね、街に向かうことが最優先だ。手帳をしまい、銃をバックパックのホルスターへ入れ、目の前に見える街へ歩き始める。ここがプラネテューヌであれば、バーチャフォレストに違いない。周囲には眠っているスライヌ等がいる。此方から攻撃しなければ、起きもしないだろう。

だが、暫く森の中を歩いていると、突如強烈な睡魔に襲われる。犯罪組織に居た時は、殆ど寝ずに体を鍛えていた反動なのか分からないが…。

 

「…くっ…力が、入らない。」

 

せめて仮眠を取るなら、安全を考え木の上で寝た方がいいが、力が入らず上ることが出来ない。そして、そのまま木に背を向け意識が遠のいてしまった――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……てぇ、か…ひ……ぉ。」

 

どれだけ寝てしまったのか…、微かに声が聞こえ体を揺らされている感覚がする。普段なら、足音や殺気で起き上がるのだが、この感じはまるでネプテューヌがフワフワと近づいてきたような感じがする。

 

「ねぇ~、お~き~てぇ~。」

「なんだ…朝か…。」

「あ~、やっと起きたぁ。」

 

目を開けると、ネプテューヌ並みの幼い外見、手入れをしてない感じで長い長い髪をポニーテールとして結び、尚且つパジャマのような服装、外出にも関わらず見た目から室内用と分かるスリッパ、直ぐ近くに1/3サイズ程の人形。見た目からしてゆるふわ系であり、とても冒険しに来たとは思えない恰好をしている。

 

「………。」

「ん~?どうしたの?」

「…いや、何でもない。」

 

不思議な事だが見た目や雰囲気とは裏腹に、只者ではない感覚を覚える。…ゲイムギョウ界なら驚くべき事…と自分に言い聞かせておこう。すると、奥の方からこちらに2人向かってきている。

 

「あ、いたいた。プルルート!」

「あ、ノワールちゃん、ナナちゃん。」

「こっちは的外れでしたよ…ん、その人は?」

「………。」

 

…これは驚いた。プルルートと言われた目の前にいる少女が言ったノワール…服装や雰囲気は多少違うが、俺の知っているノワールと瓜二つだ。そしてもう一人、ナナと言われた少女…。初めて会ったにも関わらず、他人ではない、もしくは、既に彼女を知っていたかのように…。姿も声も聞いたことがないにも関わらず、自分の奥底、魂が感じている。言葉では足りない繋がり、懐かし感覚。待っていた…と…。

 

「………?」

「な、何よ、さっきからジロジロ見て…。」

「どーしたの、ナナちゃん。ぼーっとしちゃってぇ?」

「え?あ、いえ…。」

「………。何でもない、似てる人がいてな…。」

「ふぅん…それで、プルルート。この人は?」

「えーとねぇ、ここで寝てたんだよぉ。」

「はぁ、寝てた?」

「街まで直ぐ近くで、ここで寝てしまうとは…変わった人ですね。」

 

さてさて、寝てる最中に人と接触すれば、質問攻めになるのは目に見えている。しかも、この3人の会話からして、街まではそこまで遠くないと言う。途中から記憶が曖昧になっているというのなら、無意識にそれなり距離を歩いていた事になる。

 

「此処まで旅してたんだが、急に眠くなってな…。」

「何よそれ、不眠不休の旅でもしてた訳?」

「まぁな…。」

「そういえばお名前、聞いていませんよね。差支え無ければ、職業とかも聞いておきたいのですが?」

 

さて、名前か…。恐らく住民データとかあったら該当無しと出る可能性は高い。かといって、俺の本名を言って同じ世界で、当時の時間帯だった場合“犯罪組織の残党だー!”って言われて逃亡生活するのも面倒だ。幸い服装は犯罪組織前の服装で在り、この3人は元犯罪組織とは言え、俺の存在を知らないと来た。とは言え、念には念だ。偽名…と言うよりはコードネームと過去の職を言っておくとするか。

 

「構わない。俺は…俺は、エース。元軍人…いや、元傭兵ってところだ。」

「…さっき旅をしてるって言ったわよね。それにしては装備が少な過ぎるんじゃない?」

「ああ、確かに、アンタの言う通り武器とかはあった。だが、身分を捨てた俺には持ち出せる権利はない。」

「ほぇ~、それでそんな軽装で?」

「それにしては馬鹿正直過ぎない?」

「…我ながら、自分でもそう思う。」

 

…とりあえず、話は何とか誤魔化せたか。話を聞く限り、コードネームを使う必要はなかったのかもしれないが、やはり念には念をだ。

 

「それで、アンタ達は何をしにここへ?武装しているのを見ると、ピクニックしに来たわけじゃないだろう。」

「ええ、深夜にこの近辺で強力な反応があってそれを見に来た訳。まぁ的外れよ。何もなかったという訳。」

「…そうだ、一つ聞きたい。ここは何処なんだ?」

「…え(ほぇ)?」

「これは、また妙な旅人ですね…。」

「ええ、妙という以前に可笑しいわよ。自ら旅をして自分の足で来たと言うのに、自分がどこにいるか分からないなんて。」

「ああ…それは…。本当は別の目的があったが、途中で地図を無くしてしまってな…。それでなとか辿り着いたのがここってわけだ。」

「それにしても、迷ってレツゴウアイランドの直ぐ近くの森に…中々悪運が強いですね。」

 

レツゴウアイランド…俺がいた世界にそんな場所あったか…?ダメだ、覚えてない。

 

「それよりもさぁ、プラネテューヌに戻ろう?わたしぃ、眠くなってきちゃったぁ…。」

「…何ってるんですか。」

「そうよ、確認が終わったらルウィーに行くって言ったの、貴女じゃない。」

「ほぇ、そうだっけぇ?」

 

ルウィー…そしてプラネテューヌ…。少なくともゲイムギョウ界であるのは間違いなさそうだ。

 

「兎に角、このまま放っておくわけにもいかないわ。何かの縁と思って、貴方もついてきなさい。」

「…ああ。」

 

兎に角、状況の確認と自分の立ち位置を確立する為、今は言われるがままにするのが最善だろう。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ:教会】

 

とりあえず、言われるがままプラネテューヌの教会へと向かった。そして、俺の知っている情報と、聞きたいことを聞くことにした。

まず話を聞く限り、ここはプラネテューヌであることは間違いない。俺の知っているプラネテューヌと比べると小規模だが、面影はなんとなくある。次に、プルルート、ノワール、そして3年前に記憶喪失として発見、プラネテューヌで保護されることとなったナナと呼ばれている少女。…この3人は女神である。そして、この世界では信仰心によって女神が誕生するのではなく、女神メモリーという激レアアイテム並の物を使い、その素質があった者のみが女神となり、国を設ける権利があると言う。素質のない者は醜い化け物になる…らしいと。らしいというのは、言い伝えともいえる、使ったら醜い化け物になる可能性があるという事で、前例がないことからそう言わざるを得ないらしい。それから、世界地図を見せてもらった。似ているようで似ていない感じだ…ルウィーが白色でなく紅葉のような赤色で染まっている。尚且つ、南にある島…恐らくここにも女神がいる場合は、リーンボックスで間違いはないが、島との距離が随分と開いている。まぁ、この食い違う点を言ったときは、夢として片づけている。

 

「なるほど…事情は大体わかりました。…いえ、分かったという事にしておきます(・ω・)」

「…そう思ってくれると、助かる。」

 

目の前に、本に乗ってフワフワと浮いている人形のような妖精…彼女はプルルートが、女神になったと同時に誕生した司書イストワール。俺の知っているイストワールとは大分小さいな…。

 

「あ、今小さいって思いましたね…!!((`△´))」

「………。」

 

それはさておき、こっちの質問としては“ナナ”と呼ばれている少女に関してだ。3年前に、オオトリイ大森林で倒れているのを発見し、メンタルケアで記憶が戻るか試す為に保護という形でプラネテューヌに住居している。その後、戦闘能力があると見て、本人がタダ飯じゃ嫌ですという強い希望の元、クエストを申請できる冒険者として登録。得意武器はカタナ系だと言う。それからZECA一号遺跡で、ノワールの女神になる願望を叶える、女神メモリーがあるという情報を掴み、俺を発見した3人で向かったと言う。そこで“七賢人”と言う組織を名乗る者が現れ絶体絶命かと思われたが、ノワール、ナナは女神化したプルルートによって女神メモリーを確保、七賢人を名乗る者に勝つ為に恐れなく使い、女神になり七賢人を名乗る者を退いたと言う。不思議なのは、ノワールとナナ、イストワールはプルルートが女神化する事を推奨していないという事だ。…これに関しては触れないでおくとするか。俺自身も隠し事はあるからな…。

 

それから3年が経つ…正確には俺が出現する数週間前の話となる。ルウィーから“ホワイトハート”と名乗る女神がラステイションを訪れ、戦闘になる寸前に、ラステイションが何者かによって攻撃を受けているという情報を受け、ラステイションのクザラット工場で、七賢人の一人である“コピリーエース”の妨害を阻止。…話によると、ここに大きなネズミもいたらしい。それから、どうも話を聞くと、ホワイトハートは完全にボイコットされてるよなこれ…。それから、ラステイションには様々な嫌がらせが発生し、「ルウィーの仕業だ!」とギャーギャーと言い、「なら、自分で聞けばいいじゃない。」とプルルートが言い、どういう訳か今日ルウィーに行くことになったと言う。…何か発言がのほほんとしたプルルートとは違う気がするが、それもそのうち分かるだろう。ついでに、ナナが女神化した事で魔法とは異質の氷技が使えるようになり、この事でもルウィーは魔法に詳しいという情報を知ったことで、行く価値はあるともナナは考えているらしい。で、今日ルウィーに出かける前に、昨日に発生した強力なエネルギー反応の現地を確認する為に集まって、それからルウィーに行くという形になっていたそうだ。向かう前に、幼女のような女性が現れ「誘拐犯!」とか言ったらしい。何でも、子どもが誘拐されるという事件が多発しているようだ。まぁ、その少女は誘拐犯でないと分かったらすぐに帰り、エネルギー発生源の所へ向かう事となり、プルルートだけが寄り道をし、俺を見つけた…。

 

「長かったねぇ、お疲れぇー。」

「貴方、誰に向かって説明してるの?」

「誰だっていいだろう。そんな事より、何故俺も行かなければならないんだ。」

 

…今俺は、ラステイションにいる。ナナの強い希望によって、同行する事となった。その理由は、本人も分からないと言うが、「彼は必ず、力になります。」の一点張りで曲げなかったという。力になるかどうかは、分からないがな…。

 

「まぁいいわ。とりあえず、貴方の希望通りの装備は用意したわ。」

「ああ、助かる。」

 

とりあえず、余りにも軽装すぎる為、籠手と銃の予備弾、サバイバルナイフ、サングラス、スマホの充電器を用意して貰った。スマホを見せたら、「何それ!」と言ってきた為、スマホというのがまだ普及してないのだろう。スマホはとりあえず電話としては使える。ネットはどういう訳か繋がらない。それから、写真が入っており、中にはネプテューヌとネプギアと一緒に写っている写真がある。こんな写真あったか?と思って得閉まったが、人探しとして持っておくことにしよう。

 

「さて、準備で来たわね。それじゃあ、ルウィーに行くわよ!」

『おー!』

「………。お、おー。」

 

若干、不安要素もあるメンバーで、ルウィーにカチコミをしに行くこととなる。俺の知っているホワイトハートことブランであれば、争わずに話し合いで済めばいいのだが…。

 

 

 

 

 

 



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Scene59 暗き底に眠る闇の支流~Malice~

 

 

【???:会議室】

 

まるで秘密基地とも言える場所で、6人の人物がロの字の机を囲うように如何にも贅沢そうな椅子に座っている。それぞれ、頼り無さそうな青髪の眼鏡をかけた女性、ピンク色のゴスロリを身に纏った背の低い女性、魔女の風貌をした女性、マスコットと思わしき黒い二頭身程度の大きなネズミ、小太りながら責任者の風貌を持つ男性、メカニックなボディアーマーを身に纏った人物。そして現在、ゴスロリの女性がここに集まる前にあった出来事を話している。

 

「―――――て事で、あの馬鹿女神の3人は、これからルウィーに向かうらしいわよ。」

「え、ええええええ!?な、なんでですか!?どうしてルウィーに!?」

「私に言われても知らないわよ…そこまで聞いてないし…。」

「まままままままさか、ついに全面戦争勃発ですか、しちゃうんですかぁ!?あわわ、やっぱり、皆さんが煽り過ぎたのがいけないんですよぉ!私はやり過ぎだと思っていたのにぃ!!」

 

…どうやら、(描写はストーリーの都合上ないが)女神がこれからルウィーに向かうという事を報告し、今に至るといった感じだ。そして、如何にも頼り無さそうなのが、この場のリーダーを務めているらしい。

 

「えぇい、やかましい!なってしまったのは仕方ないだろう!!それ以上喚くなら、その口を喋れないようにしてやるぞ!!」

「ひぃ!!ごごごごごめんなさい…!!」

「…チッ。そう直ぐ謝るのも気に食わん。こういう時にこそ、あの馬鹿が居れば話が逸れるのだがな…。」

「あら、マジェちゃんってば…コピリーちゃんの事が好きだったの?ふぅん、いがーい。」

「そんな訳あるか!それと貴様、何度“マジェちゃん”って呼ぶなと言っただろが!!」

「オバハンぐらいになると、男なら誰とでもいいってことっチュね。」

「…ネズミぃ、本気で死にたいようだな…。」

「まぁしかし、奴を直したところで役に立つのかのぅ。」

 

コピリーちゃんことコピリーエースは(此方もストーリーの都合上描写無し)、3人の女神にボコボコにされ修理中であると、ボディアーマーの人物が言う。普通なら慌てるようなところだが、一人を除き落ち着いた態度を示している。

 

「あ、あのあの、皆さん。これって普通なら深刻な話題では…?」

「アンタが気にしすぎなのよ。アイツ等、“ルウィーにイクゾー”って感じなのよ。これの何処が戦争って雰囲気なのよ。」

「そ、そうなんですか?…うぅ、でも、何かの切っ掛けで争うかもしれないですし…。」

「ワタワタしたり、ブツブツ呟いたり…本当騒がしい年増っチュね…。」

「まぁでも、今回ばかりは…レイちゃんが心配しちゃうのも仕方ないのかもね。」

 

全員が雑談のような雰囲気の中、ボディアーマーの人物が、気になることがあるらしく、話を割る様に話し出す。

 

「アブネスちゃん、さっき3人って言ったわよね?」

「そうよ、それが何か?」

「実はね、さっきラステイションのカメラにね…その3人の中に、1人男性が増えてるのよ。」

「ほぅ…ルウィーに向かうのに、傭兵を雇ったのか?貴様の盗撮も少しは役立つではないか。」

「やだもぅ、マジェちゃんったらぁ。盗撮じゃないわよこれ、観察よか・ん・さ・つ♡」

「…どう言っても、やってることは盗撮っチュね…。」

 

全世界に監視の目をやっているかは分からないが、ボディアーマーの人物が言う事が正しいのであれば、女神一行に男性…そう、“獨斗永守”ことエースが同行しているのだ。

 

「で、それがどうしたっていうのよ?」

「そうね…そう言ってしまえば、マイスィートエンジェルのノワちゃんが、汚されないかってのが心配だけど…。その男ね、見た目はかなり出来る男っぽそうよ。歴戦の戦士というのかしらね?」

「だが、所詮は人間なのだろう?だったら、同行している意味が分からぬのだが?」

「…もし、この男が伝説のアレであり、プラネテューヌ付近のエネルギー反応の正体だとしたら…?」

「え、えええええ!?そ、そうだったら一大事じゃないですか!?」

「少し話を盛り過ぎではなかろうか?…だが、その話が本当であれば、ワシ等の今後の活動に影響する可能性もある…。ならば、その悩みの種、ワシが取り除いてみよう。」

「あら、アーさんったら。悪巧みな顔しちゃって…。」

「それは元からじゃい。…まぁ見ておれ、ルウィーの女神はここいらでご退場して頂こう…!」

 

そういって、小太りの男性は高笑いしながら、会議室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

【ラステイション:ルドアームズ地下道・南口】

 

武器の提供をしてくれる代りに、ルウィーに向かって同行する事になった。事の発端は前回(Scene58)を読んでいる事を前提に話すが、ラステイションで開発されたという中身空っぽの黒く塗られたCD、展示されているゲーム機のコントローラーに爪楊枝を突っ込まれたり…どう考えても、やっている側もしょうもない事しているのだが、七賢人の仕業で在り、七賢人と手を組んでいると噂されている、ルウィーの女神であるホワイトハートの仕業だと言う。道中、下調べしたり連絡会談した等と言うも、“絶対ルウィーの仕業”と一点張り。これは、ナナもここに向かう前に言った事だが、上記の通りの回答が返ってきたという。とは言え、ルウィーとその七賢人という、悪巧みをしている組織が繋がっているのは確からしい。あとは、ホワイトハートが俺の知っている“ブラン”であれば、こんなバカなことはしないとは思うが…。そういう訳で、ラステイションとルウィーを繋ぐルドアームズ地下道を通っている。国境があるとはいえ、互いの国が管理していることもあり、道中にモンスターはそれほどいない感じだ。ピクニック気分ではないが、それほど余裕を持った感じで歩いて行ける。

 

「………。」

「どうしたのぉ、そんな難しい顔して?」

「いや、考え事をな…。」

「ルウィーの仕業であるってことに、納得していないのですか?」

「まぁ…そうなるな…。」

「はぁ?どうしてよ、こっちは被害受けてるのよ。それに、ルウィーへ向かう前説明したでしょ?七賢人と繋がっていることは間違いないんだから。それに、貴方は雇われてる身のようなもんでしょ。黙ってついてくればいいのよ。」

「…了解…。」

 

言いたいことは分かるが、感情で決めつけるのもどうかと言いたいが、こんなところで言い争って対立しても仕方ない。苦にはならないが、暫くは頭が上がらない状態が続くだろう。

 

 

 

「むぅ~まだぁ?あたしつかれたぁ~…。ねぇ~ナナちゃん、おんぶしてぇ~…。」

「はぁ、しょうがないですね。まぁ、結構歩きましたからね。よいしょっと。」

「モンスターが少ないのと、明かりがあるからそれで十分だが…確かにこう長いと、往復には時間かかる。さっさと行って、ワールドマップのファストトラベルを開放しよう。」

「貴方は何を言ってるの…。それは兎も角、国境は大分前に超えたから、もう少しで街が見えると思うんだけど…。あとプルルートは運動不足。ナナは甘やかしすぎ。」

「だってぇ~…。」

「心当たりがあり過ぎるので、言い返せませんね…。」

「………。」

 

この通り暫く歩き、準備運動のように戦闘を繰り広げ、地下道をピクニックのように歩いるが、割とグダグダである。道に関しては、ラステイションとルウィー間で会談もしたことない関係上、仕方ないとしか言いようがない。すると、突然首根っこを掴まれ隅に隠れるように移動される。

 

「ぉお!の、ノワールさん、急になんですか…!?」

「わわわ、あぶないよぉ!」

「ん゙ん゙っ…!!掴むところ考えてくれ…。」

「しっ!静かに…。ほら、あそこに見回りに兵士がいるわ。」

 

ノワールが小声で言いつつ、ある場所に指をさす。確かにそこには兵士の恰好をした人が一人いる。恐らく、ルウィーの警備兵として見たのだろう。装備は帯剣に、光線銃のようなのを手に持ち、一定範囲を見回っている。

 

「ねぇ、そのまま進んでもよかったうんだけど?」

「ダメよ、プルルート。考えてもみなさい。只でさえ、私達の中に3人も女神がいるのよ?周知されているかは置いといて、もし他国の女神がルウィーにいるってなったら、それこそ大騒ぎよ。」

「幸い、警備兵は一人。隙を見て駆け抜けるのもありだが…。」

「そうね、その案で行きましょ。後ろを見たら一気に駆け抜けるでどう?」

「えぇ…あたし走るの苦手だよぉ~…。」

「流石に、私もプルちゃんをおんぶしながらは、きついですよ。」

 

駆け抜けるのもありだが、流石に足音でバレ可能性は高い。顔さえ見られなければ、いいという訳でもないだろうが、プルルートを俺がおんぶすれば、ナナの負担も減るし、そっちの方が早く走れるはず。…とはいえ、その後“どこ触ってるのぉ?”や“変態さんだぁ。”とか言われる可能性もある…。

 

「…プランBで行くか。」

「何よ、プランBって?」

「冒険している事で話しかけ、奴の目を反らす。その間に、駆け抜けるなり、横を素通りするなりしてくれ。」

「それでは、貴方はどうやって行く心算で?」

「確認出来たら、後を追う。何処かで落ち合おう。」

 

“ちょっとっ!”っという声が聞こえたが、気にすることなく警備兵の方へ歩み寄る。

 

「…ん?おい!止まれ!!」

 

まぁ、見た目通りというか、入国が厳しいとノワールの情報で聞いていたから、当然と言えば当然の結果だ。警備兵の言われるがまま止まり、上手い具合に視線を俺の方に釘付けにする。

 

「お前、何をしに来た?」

「…ただ単に、ゲイムギョウ界を旅している者だ。」

「…入国審査は通っているのか?」

「入国審査?そんなもの申請もしていない。」

「なら、ここを通すわけにはいかない。」

「何故だ。観光目当てで満足したら立ち去る事すら、許されないのか。」

「上からの命令だ。どんな理由があろうとも、入国審査がない限りここを通す訳にはいかない。さっさと立ち去れ!」

 

という形で話を長引かせる形で行く。横をチラッと見ると、3人がソロリソロリと端から横切っているのが見える。ああ、サングラスを掛けて居るから、この警備兵に俺の視線は見ええていない―――――が、トラブルというのは付き物だ…。

 

―――――ポテッ

 

「あうぅ~っ…!!」

「ん!?なんだ、お前達は!!」

「ああ!プルちゃん!!」

「もう!!なんでこんな時にコケてるのよ!!」

 

なんと、プルルートが躓いてコケてしまった。その時に声を出してしまった為、警備兵がそっちの方へ眼を向けてしまった。ナナが直ぐにプルルートの体制を立て直させ、走り出そうとする。

 

「おい、止まれ!!」

「ん?はーい。」

「ちょ、プルルート!?何止まってるのよ!!」

「だってぇ、あの人が止まれって言うからぁ。」

 

天然なのか、人を困らせたいのか…どっちにしろ、見られた上に何とかしなければ面倒ごとになる。仕方ない、こいつには暫く眠ってもらうしかない。

 

「…おい。」

「ん?………ッ!!」

 

正面を向いた瞬間に、警備兵の首元に指を添え、頸動脈を抑える。

 

「あっあっあっ…!」

「済まないな。暫く、いい夢を見ていてくれ。」

 

数十秒後、警備兵は白目になりガクッと体制を崩す。倒れそうになった警備兵を抱え、近場の壁に背を向けさせ、見た目は立っているようにみせさせる。

 

「悪く思うな…。」

 

そうして、俺は3人の後を追うようにその場を後にした。

 

 

 

 

 

【ルウィー】

 

それなり走り、ルウィーの街中へと到着した。どうやら、ルウィーの入り口付近や街中には、運がいいのか警備兵は見当たらない。さて、3人を探さなきゃと思ったが、1人は直ぐに見つかった。

 

「あ~、えー君。こっちこっちぃ!」

「………。」

「どうしたのぉ?顔、赤いよ?」

「…いや、何でもない。」

 

プルルートが、此方に対して片手を上にあげつつ振って存在をアピールしている。一瞬だが、ネプテューヌの“えい君”と呼ばれていた事と“えー君”と呼ばれたことに、一瞬驚いてしまい、思考が一時的に停止した感覚を覚える。プルルート曰く、照れと言う感情があったかは分からないが、顔が少し赤くなっていたようだ。…そんな事より、プルルートの周囲に、ノワールとナナの姿はいない。

 

「それより、二人がいないが?」

「うん~。二人共、迷子なんだよぉ。しょうがないんだから~。」

「お…おう…。」

 

これは、完全に二人の走る速度に追いつかなかったパターンか。とりあえず、プルルートと二人で街中を散策しつつ、2人を探すことにした。

 

―――――ふわぁ。ルウィーってこんな国なんだ~。おもしろ~い!

―――――ねぇねぇ、あの出入口みたいなのが、幾つも並んでるのってな~に~?

 

…可笑しい、ルウィーの女神に会う為にここに訪れ、迷子のプルルートと逸れた二人を探す為に、きょろきょろと周囲を見回っているのだが、どう見ても視察というよりも観光という方が正しい感じになっている。ネプテューヌ程ではないが、プルルートといたら振り回されそうな予感しかしない。ひと先ずは、迷子のプルルートを合流まで導かなければならないが、ラステイションより古くからあると言われたルウィーだけあり、中々の広さであり探すのに手間が掛かりそうだ。

 

「ふぅん。これが、この大陸最大の国家、ルウィーの街並み…興味深いですわね。」

「………?」

「ほぇ?」

「…あら?」

 

鏡を見たら、恐らく眉をヒクヒクと動かしているだろう。あらゆる事が起こり過ぎて、ぎょえー!っという驚きはしなかったものの、突如横に現れた女性は服装は違えど、どう見ても俺の知っている“リーンボックスのベール”にそっくり…いや、本物なのだろう。そんな事より、プルルートがベールを凝視している。

 

「じろじろ~…。」

「な、何か、わたくしの顔についておりまして?」

「どうした、プルルート。知り合い…か?」

「えっとねぇ、気になったからぁ。あのぉ、おねえさんも、ルウィーは初めてなんですかぁ?」

「え?ええまぁ、そうですけれど…。」

「わぁ~、それじゃあ、あたし達と一緒だぁ~。」

「一緒…?となりますと、其方の殿方もお初でして?」

「…まぁ、一応な。」

 

プルルートの話で困惑してはいるが、十中八九この世界のベールで間違いない。となると、最初の第一声からしてリーンボックスの女神で、単独ルウィーを視察しに来ている可能性が高くなる。プルルートが女神というのを知らないのであれば、早い内にノワールとナナの2人に合流した方がいい。

 

「なぁ、大事な事忘れてないか…?」

「大事な事ぉ?うーんっと…。………あ~!いけなぁい!ナナちゃんとノワールちゃんを探さないとぉ~…。」

「よし、捜索再開といこうか。…足を止めさせてしまい、申し訳ありません。」

「い、いえ。此方こそ、お役に立てずに…。」

「うん、それじゃ、またねぇ。」

「あ、はい…。頑張って下さいまし。」

 

…よし、これで迷子になったプルルートを二人の元へ送り届けられる。そうしてベールを後に振り返った―――――

 

「お、お待ちになって!!」

「今、ノワールちゃんと仰いました?」

「ほぇ?おねぇさん、ノワールちゃんの事知ってるんですかぁ?」

「…知り合いか?」

「い、いえ…少し気になりまして…。それで、その方はどういったお方ですの?」

「待ってくれ。知り合いかも分からない人に、それを―――――」

「うっとねぇ、ノワールちゃんはお友達でぇ、今は迷子だから探してあげなきゃ~って…。」

「………。」

 

心の中で叫びたい気持ちも失せてしまった…。恐らく、このベールは視察に来ている事と、プルルート、ノワールの事を知らないとなると、まだ同盟国でないと伺える。そして、プルルートがまさかの情報をリークする形で暴露してしまう。

 

「あ、いた!プルルート!!」

「エースさんもご一緒で…。兎に角、プルちゃんが見つかってよかったです。」

「もぅ~二人共、ダメだよぉ。迷子になるなんて~。」

「ちょ、待ちなさいよ!そっちが迷子になったんでしょうが!!」

「ほぇ~!あたしの方が迷子だったのぉ!!」

「何時もの事ですけど、流石に今回ばかりは焦りますよ、もう…。」

「苦労してるんだな…。」

 

合流できたと思ったら、ふわふわよろしくな漫才を繰り広げている。これは、俺がネプテューヌだった場合でも、突っ込みにまわざるを得ない程の天然さを持ち合わせている。で、そんな漫才をしている間、ベールは何処かへと行ってしまったようで、この場に居なくなっている。

 

「ところで、さっきまで誰かと話してたみたいだけど、誰だったの?」

「知らないおねぇさん~。おねぇさんも、ルウィー初めてなんだってぇ。…あれぇ、いない?」

「漫才やっている間に、何処かいったぞ。」

「となりますと、先ほどの人もルウィーの住人ではない?」

「…まぁいいわ。本来の目的に移るわよ。」

「本当に行くんだな。」

「何よ、エース。ビビってるの?ここまで来ておいて引き返そうなんて思ってる?」

「まぁな。大分無策に近い状態で来たからな。」

「見縊らないで、私達3人の力を侮らないで頂戴。」

 

ノワールの言う通り、ここまで来て引き返すのも面倒なのは確かだ。3人で1人の女神を相手するのも、正々堂々とは言えないが…情報収集を考えるのであれば、突っ込むしかないか。

 

「…分かった。さっさと会談して白黒つけようじゃないか。」

「なら、心変わりしないうちにいかないとね。」

 

そう言って、ノワールは先導するように歩きだし、俺を含めた3人がそれについていく形で歩き出す。

 

 

 

 

 

「ほぇ~、何あれぇ!美味しそう~。」

 

「わぁ~、何あれぇ!楽しそう~。」

 

「見て見てぇ、凄く綺麗だよぉ~。」

「待ちなさいプルルート!また一人で行動すると迷子になるわよ!!」

「プルちゃん!観光は終わってからにしましょうよ!」

「………。』

 

予想的中というかなんというか。プルルートは無邪気な子どものように、興味を示したものに走り出したり、立ち止まったりと…それを保護者の如くノワールとナナが動く。ただ真っ直ぐ歩くだけの道のはずが、寄り道でジグザグに動いたりしてしまう。…まぁ、俺も武具には興味がある。後ほど観光として回ってみるのもありだろうが、今はノワールの(思い込みな)目的が先だ。

 

 

 

「ふわぁ~、ノワールちゃんの教会と同じくらい、おっきぃねぇ。」

「…立派な門構えだこと。」

「多分、ここかしらね。」

「そうですね。見た目からして他の建物と違いますから、ここがこの国の教会だとは思いますよ。」

「そうね、ひと際目立つ建物だしね。…それよりもどうしてか、ここまで来るのに、疲れてきたんだけど…。」

「ノワールちゃん、お疲れなの?大丈夫、少し休む?」

「…誰のせいよ…。」

 

なんだかんだあり、暫く歩き続けているうちに、ルウィーの中でもひと際目立つ大きな建物の前に来た。まるで武将が住んでいる建物のように、その強さを象徴するかのような建物となっている。

 

「また考え事ぉ?」

「ほら、ボサッとしてない!」

「エースさん、置いてきますよ?」

「あ、ああ。」

 

3人に押される形で、ルウィーの教会と思われる建物へと入ってく。無駄な争いは避けて話し合いで済むのがいいのだが…万が一に備えて、身構えておくことにしよう。

 

 

 

 

 

 



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Scene60 欲望の氷解~SevenWiseMan~

 

 

【ルウィー教会:大広間】

 

「ブラン様。職員の報告通り、女神一行が教会内に入ってきた模様です。」

「そう…分かったわ。」

「…本当に、やられるのですか?報告によると、女神3人に、傭兵のような男が1人いると…。」

「何人来ようと関係ないわ。それとも“わたしが負ける”とでも言いたい訳?」

「い、いえ!そんなお心算は…!」

 

ルウィー教会の中でも、最も高位の人物が入るような大広間に、赤と白を基準としたルウィーの女神ブラン(・・・・・)。そして、大臣と呼んでいる小太りの男が報告をしている。どうやら、永守達がルウィーの教会に入って来た事が、既に周知されているようだ。そして、この世界のブランは、その4人に対して真っ向から迎え撃とうと考えているようだ。

 

「しかし、女神3人を抹殺するとなると、如何にブラン様がお強いといえど、荷が重いのでは?それに、傭兵も加担するとなると、1対4、一般人の視点から見ても、分が悪いと…。」「抹殺なんてしたら、一部の人々からだけでなく、2カ国からも批判が集まってしまうわ。そう、これは圧倒的武力を見せて、二度とルウィーに手出しするなと言う意味で、痛めつけるだけよ。」

 

どうやら、ブランと大臣の考えは若干のすれ違いがあるようだ。大臣はここへ来た国のトップを潰すと言う考えていたが、当のブランはあくまで自らが頂点に立つことが相応しいというのを証明する、力量の差を見せつけるという考えでいた。だが、この考えに大臣は不服と見ている。

 

「ですが、それでは少々甘いのでは?生かしておけば、力を付けたり、対策を練ってきた際に、再びルウィーの脅威になるとも…。」

「そうはさせないわ。わたしがしっかりしていればいいだけの事よ。」

「…お言葉ですが、しっかりしていなかったから、今日のような出来事になってしまった訳でして…。」

「…なんだと?」

「す、すみません、言葉が過ぎました…!!ですが、女神に苦言…ではなく、指摘をするのも、この国の大臣としての役目と考えてまして、その―――――」

 

自らも国のトップであるブランの補佐という立ち位置もあり、お互いに切磋琢磨すべきという事も兼ね報告をしている。しかし、その言葉が気に障ったのか、怒りマークがより一層増えていく。

 

「大臣だからって、調子に乗ってんじゃねーぞ。この国を築き上げたのは、誰の御蔭だ…?」

「あ、は、はい!!それは紛れもなくブラン様で…。あー…私めは万が一に備え、色々と準備が御座いますので、これで失礼します!!」

「…ちっ、言ってくれるじゃねーか…。でも、それも今日までだ。わたしが負ける訳がねー…万が一なんて起こさせねー…。わたしは…この世界の唯一の女神なんだ…!」

 

逃げていくように退席する大臣を見つつ、ブランは握り拳をより一層噛み締めるように強く握る。どんな相手が来ようと、負ける訳がない。そんな強い信念を持ちつつ、一行が来るのを待ち構えるのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【ルウィー教会:通路】

 

入口から正面突破…と言う訳ではないが、待受けの職員(強引)に女神ことブランが教会の何処にいるか聞き、ノワールの(半場脅しに近い)話し合いにより差し出された地図を見つつ、教会内を歩いている。しかし―――――

 

「教会というよりは、戦国時代の屋敷だな。」

「見て、あの出入口が大広間のようね。」

 

暫く歩き、地図上に示してあるそれらしい場所。襖のような扉を開け、中へ入る。

 

「ここが、女神様が普段居ると言われた“大広間”ですね。」

「ホントだぁ~、広~い。」

「どうやら、お待ちかねのようね。」

 

ノワールがそう言い、大広間の上段にあたる場所に視線を向けている。そこには、女神化したブランであろう“ホワイトハート”が、臨戦態勢で待ち構えていた。

 

「待ちくたびれたぜ。途中でリタイアしてたら、こちとら準備していた甲斐がねーからな。」

「その口ぶりだと、ここまで来ることは予想済みってことね。」

「(何で女神化してるのだか…)それで、女神様は何故、臨戦態勢なのか…。」

「てめーが雇われた傭兵か。ふんっ、傭兵を雇わないと勝ち目がねーって訳か。」

 

どうやら、傭兵という形で俺の存在は知られているようだ。強ち間違いではないが、4対1にも関わらず随分と強気な発言をしている。

 

「そんな訳ないわ。私一人でも十分勝てるわよ。」

「ふん、その強気が仇になっても知らねーぞ。」

 

互いの挑発に近い発言で、一瞬にしてピリピリした空気になってしまう。そんな中、ナナがノワールの肩に手を添える。

 

「の、ノワールさん。挑発に乗ってどうするんですか…こっちは聞きたい事があって来たんじゃ…。」

「分かってるわよ、聞きたいことが山ほどあるのは確かだけど…。」

「はん、なってねーな。聞きたいことがあるのに、その態度はねーだろ。“お願いします女神様”ぐらい、言えねーのか。やっぱり、てめーらは女神に相応しくねーな。」

「な、なんですって…!?」

「ん~あたしは、ノワールちゃん達含めて、皆と仲良くできれば、それでい~よ~。」

「う、嬉しいのですが、この場で言う事でしょうか…。」

「そうよ、こんな後ろと繋がりのある奴なんかと、仲良くなんて出来ないわよ!」

「…だが、話し合いで解決できれば一番ベストだとは思うが?」

「それが、新米の考えか。そいつは無理な相談だぜ。雇った傭兵ですら、平和ボケしやがっ

て。より一層気にいらねーな。」

 

どうやら、端から平和的解決をする心算はないようだ。おまけに、こっちのノワールも挑発にのるように、やる気満々なオーラを出している。

 

「無駄話がしすぎたな…準備しな。てめーら纏めて相手してやる。ルウィーの…この世界で唯一の女神の力、見せてやるぜ!」

「ふん、いいわ。元より文句だけじゃ気が済まなかったのよ。そっちがその気なら…!」

 

互いに何始まるんです?という感じで身構えた…その時、廊下からドタドタッと大人数で此方に向かっている足音がする。「ガラッ」という掛け声と共に、襖を勢いよく開ける人物が現れる。

 

「こらー!!勝手に始めてるんじゃないわよ!!」

「ほぇ?アブネスちゃん~?」

「な、何故…貴女がここに?」

 

そこに現れたのは、嘗てルウィーの誘拐事件で突撃取材をしてきた“アブネス”そっくり…いや、ここの世界のアブネスなのだろう。その後ろから、二頭身のネズミ…ワレチューが、サイズに見合わないカメラを担いで現れる。

 

「何よアンタ、アタシの顔になんかついる訳?」

「………。」

 

目で驚いて凝視してしまったが、頭では理解した。同一人物ではないとは言え、こうなると…この世界にもネプテューヌが居る可能性がある。女神であるかどうかは分からないが…。

 

「まぁいいわ。ほら、ネズミ!さっさとカメラの準備!!」

「ぢゅー…なんでオイラが、こんな力仕事しないとならないっちゅか…。」

「あ~!ネズミさんだぁ!でもぉ、なんでここに居るのぉ?」

「別に居たって可笑しくないじゃないの。この国と七賢人がグルなのは、分かり切ってた事なのだから。」

「人聞きわわりーな…組んでるんじゃねー。同じ目的だから、ちょっとばかし協力してやってるだけだ。」

「ふーん、こんな連中と手を組む貴女の方が、よっぽど女神に相応しくないんじゃない?」

 

裏があるかは分からないが、ノワールの調べ通り七賢人と繋がりがあるのは確かなようだ。ホワイトハートの言葉通りなら、表面上協力しているという形なのだろう。ノワールの挑発にのるように、ホワイトハートが戦斧を構え力強く握っているのが分かる。

 

「…新米の癖に生意気な事、言ってんじゃねー。わたしはな…ずっと一人で、一つしかない国を守り続けてきたんだ。国民の願いの為なら、あらゆる手段を使うまで…そんな昨日今日女神になったばかりのてめーらに、言われる筋合いはねーんだよ!!」

「でも、そんな連中に貴女、押され気味なのよ?偉そうに言えるのかしら?」

「てめー…!!」

 

挑発に挑発を重ねていく合戦が続いていく。一体あとどれくらい挑発という単語を述べればいいのだか…。

 

「ん~…。」

「………?どうした?」

「プルちゃん、考え事ですか?」

「んん?考え事って言うよりは~…なんかぁ、ブランちゃんが可哀そうに見えて~…。」

「は、可哀そう?んな事言ってる暇があるのか?」

 

何を考えてるか分からないが、ノワールが敵として見ているブランを可哀そうだと言っている。それを他所に後ろ…アブネスとワレチューがガヤガヤやっているのが聞こえ、何かスタンバイし始める。

 

「全国のみなさーん、こんにちわっ!毎度御馴染み、七賢人のアイドルのアブネスちゃんでーっす♪急に放送始まって、皆びっくりしちゃってると思うんだけどぉ。もっとびっくりしちゃうことが始まるゾ!なんと、なんと!今アタシの目の前で、女神同士のガチンコ対決が、行われようとしてるんでーっす!!それから、どっちの国が雇ってるか分からない傭兵が1人!彼の実力は果たして…そっちも注目したいところでーっす!!」

 

カメラに向かって放送を始めるアブネス。全国…と言うことは、生放送をしている事か。おまけに、何処で入手したのか、俺の情報もリークされている。突然の事に、ノワールやナナが戸惑うのが分かる。

 

「ほ、放送…?」

「ど、どういう事…まさか、中継されている!?」

「ああ。てめーらをぶっ飛ばす瞬間を、世界中の奴等に見せてやろーと思ってな。」

「や、やだ。テレビ初デビューなのに私、普段着で来ちゃったじゃない…。髪の毛も大丈夫かしら…。」

「これ、映ってるのぉ?べたべたぁ~。」

「わ、わ!や、止めるっちゅ!!」

「ぷ、プルちゃん。悪戯はダメですよ!!」

「こらー!勝手に触るなー!指紋が付くでしょーがー!!」

 

…俺の考えが正しければ、これから戦闘が始まると考えている。ゲイムギョウ界に来て、こういう雰囲気は何度も味わったが、どうも慣れないな。

 

「…つくづく緊張感のねーな、てめーらは…。」

「そいつは同感だ。新米と言われても仕方ない。」

「あ、貴方どっちの味方よ!仕方ないじゃない、計画されてない状況は慣れてないのだから…。」

 

そう言いつつ深呼吸したノワールは、落ち着きを取り戻したのかノワールの身体が光に包み込まれ、現れたのは白いツインテール、肩部分がはだけている灰色を基準としたバトルスーツに身を包んでいる。恐らく、これがこっちのブラックハートなのだろう。

 

「いいわ、折角用意してくれた舞台なんだし…ルウィーの女神が無様に倒される姿を、世界中に知らしめてやるんだから!!」

「ほざけ。口だけ達者なトーシローが…わたし以外の女神は必要ねーってことを、分からせてやるぜ!!」

「ほら、貴女達もさっさと変身しなさい!ほら、貴方もよ!!」

「いいの~!!」

「えぇ…全国放送中に、プルちゃんが変身して大丈夫なのでしょうか…?」

「…何?」

 

分かり切っていた事だ。口出しせずに見届け、挑発合戦の末の殴り合いのような状況へ発展。おまけに、ブラックハートとなったノワールは、俺の知っているブラックハートに比べると、相当強気になっているのが分かる。プルルートとナナに女神化を促しているうえに、俺にも加担しろと言う。お互いの意志や、信念を掛けた戦いなのだろう…俺も下らない戦いは幾つもやってきたが、相手が気に入らないから、理由もなく潰す…手合わせとして戦ってみたい気持ちはあるが、ここまで下らない戦いは初めてだ。俺からしたら無意味な戦いに過ぎない。…が、向こうから先に手を出すのであれば話は別だ。この右腕の力を試すには都合がいい相手だが、この戦いで冒険の書に記されていない能力が覚醒するのであれば、それはそれで今後の情報収集でも個人的には役に立つ。本来であれば戦う必要のない相手ではあるが、ブランの標的が俺だけに定まるようにする為、俺はノワールに対してこう答えよう―――――

 

「断る。」

「なっ!?あ、アンタ…!!」

「どういうお心算で…!?」

「ん~?えー君は戦わないのぉ?」

 

俺の言葉に、全員が凍り付いた空気になったのが分かる。これから戦うムードで俺も参加しろというのに、不参加を希望と言う水を差すような事をしたのだから。

 

「なんだぁ?ここにきてビビってんのか?」

「…恐れてなどない。加担するの気も起きないだけだ。」

「何…?」

「世界の滅亡を掛けてるわけでもない。バトルロワイヤルでもない…俺から見たらこの戦いは無意味だ。」

「てめー…女神の何が分かるってんだ。わたしにとっては意味があるんだよ!!」

「全部は分からない。エスパーではないからな。だが、まともに話し合いもせず、“こんにちは、死ね”だからな。ここにいる黒い女神もここまで頭でっかちとは思ってなかった。」

『なんですって(なんだと)…!』

「そういう訳だ。俺はお暇する―――――」

 

昔の“感情を抑え込む”を実行していたら、こうはいかなかっただろう。これが、感情を抑えていない本来の俺かは分からないが…。兎も角この空間から出るように、背中を向けた次の瞬間だった。背中越しに殺気を感じ、ホワイトハートことブランが近づいているのが分かった。俺に向かって戦斧が振り下ろされるが、振り下ろされる反対側に移動。ついでに、避けれるぞというサインを込め、ブランの腰にタッチしつつ、大広間の上段まで一気に逃げる。そして、戦斧が振り下ろされ畳が歪むと同時に、急に振り下ろされる事を想定していなかったノワール、プルルート、ナナは驚きながらも左右に避ける。カメラを持ってる二人組も驚いたが無事のようだ。もうこうなったら仕方ない。無力化して事を収めるしかない。

 

「ちょ、ちょっとぉ、危ないじゃない!!」

「あ、アンタ…女神でもない相手に…!!」

「うるせー!!てめーだって参加させようとしてたじゃねーか!!それにな…わたしを馬鹿にしやがって…許さねーぞ!!」

「口じゃ勝てないから武力行使か…。後ろを向いた相手に攻撃するのは、確実に相手を倒す為には十分だが、殺気が強過ぎる。戦闘は経験不足か。」

「黙れ!!ぜってー許さねーからな…てめーをぶっ飛ばしてから、新米共を蹴散らしてやる!!」

 

ここまで、すんなり挑発に乗って標的が俺になるとは思わなかった。が、こんな下らない事で女神同士が戦い合うくらいなら、俺がその不満を買い取ろう。

 

「ちょっと!何、勝手に私の相手を取ってるのよ!!」

「そーよ!!これから女神同士のガチンコバトルが撮れると思ってたのに…!!」

「…そこの女神様は俺をご所望だ。手出しはいらない。」

「無駄口叩いてねーで構えやがれ、この天狗野郎が!」

「………。」

 

言われた通り俺は拳を前に出し、攻撃の構えに入る。隠密に動くべきだが、カメラで撮られてしまい顔が割れてしまったのだから、俺の意志で動くまでだ…。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「…いいわ。そこまで言うのなら、見せてもらいましょ。貴方の実力ってやらを…。」

「うぅ~、変身できなかったからぁ、モヤモヤする~。」

「我慢しなさい…、私だってモヤモヤするんだから。」

 

今、私の目の前で傭兵として同行していたエースさんが、ルウィーの女神と1対1で勝負をしようとしている。加勢は無用とは言われましたが、いざと言う時の為に準備をしておきましょう…。ノワールさんも興ざめしたのか、一時的に変身を解除している。

 

「おらぁっ!!」

 

先に手を出したのは、血気盛んであるホワイトハートからだった。身の丈程ある戦斧を軽々と振り回してエースさんを狙う。しかし、エースさんも言うだけあってか、その攻撃をひらりと避け続ける。避ける事に専念しているのか、それとも攻撃する隙がないのか、エースさんは避け続け、遂に壁越しに追い込まれる。

 

「………。」

「馬鹿、何やってるの!!」

「自分から窮地に…!?」

「これで、終いだっ!!」

 

仕留めた!と思ったのか、強烈な横スウィングをする。ですが、それを読んでいたのか、エースさんは壁を蹴ってホワイトハートの上を飛び、背後へと周り込む。

 

「ちっ、ちょこまかと動きやがって…避ける事に関しては褒めてやるよ。」

「…そいつは、どうも。」

「仕方ねー…。本当はそこの新米共にも隠しておくべきだったが、此奴をお見舞いしてやらぁ!」

 

そういって、ホワイトハートは戦斧を両手に持ち大きく振りかぶった後、自らも回転して勢いをつけている。ブンブンっと強烈な音が鳴り響き、その威力は絶大であると分かる。その回転をしたまま、エースさんへと向かって行く。

 

「くたばりやがれ、テンツェリントロ―――――」

 

大きく振り下ろそうとした戦斧を、なんとエースさんは足で受け止めてしまった。その突蹴りにも勢いがあったのか、ぶつかったと同時に強烈な風圧が広がる。

 

「なっ!!馬鹿な!!」

「流石に、そいつを直撃させる訳にはいかない。」

 

そして、受け止めた戦斧を蹴り飛ばしつつ、エースさんは距離を取る。しかし、何かがつっかえている感覚がする。さっきから防御一択なのもあれですが…まるでホワイトハートの攻撃、行動を知り尽くした動き。一度シミュレートで戦ったかのような動きをしています。

 

「ナナちゃん、どうしたの~?そんな怖い顔してぇ。」

「…え、こ、こわい、ですか?」

「もしかして、自分より強い人が現れたと思って、悔しがってるの?」

「いえ、そういう訳では…。」

 

そう、何と言いますか…あの戦い方を何処かで見たことがある(・・・・・・・・・・・)…そんな感覚が…。

 

「てめー…さっきから避けたり防いだりしかしてねーじゃねーか…何故戦わねー!!」

「元々、女神同士が戦う理由なんてない。だから、ここで争う必要もない。」

「っ!!ざけんな!!人を挑発しといて…気に入らねーんだよ!!」

「…あの馬鹿…余計怒らせてるじゃない…。」

 

余計にキレさせてしまったのか、手加減無用とも言える構えをしている。流石のノワールさん若干イライラしている。

 

「だがな、まともに戦ったらてめーの思う壺だ。だったら…」

 

そう言いホワイトハートは、通常の振りかぶりのような構えに入る。一見普通の構えであるが、何かしてきそうな予感はある。力を溜めて、そのまま先ほどとは違う回転攻撃を仕掛けてくるのではと考えた。

 

「ぶっ飛びやがれっ!!」

「…っ!!(早い…!!)」

 

しかし、私の予想は外れた。ノーモーションで戦斧をエースさんへと投げたのだ…!!そして、予想外なのはエースさんもそうだ。右手が光出し、棒状の両先端に刃がついた武器を呼び出し、戦斧を受け止める。

 

「がら空きだぜ!!」

 

その隙を逃さなないかの如く、ホワイトハートは握り拳を作りエースさんの顔面に右ストレートを放つ。クリーンヒットしたように、エースさんは横に一回転回り顔を下に向けている。エースさん自身、あんな武器を隠し持っていたのを知らなかったが、そんな事より二人は戦いの方に夢中になっていました。

 

「うわぁ、二人共すご~い。」

「何関心してるのよプルルート。あの馬鹿、真面に受けてるのよ!!」

「…待ってください、まだそうと決まったわけじゃなさそうですよ。」

 

そう、ホワイトハートが“やったぜ!”という表情ではない。まるで当てたは当てたが、クリーンヒットしていないと言う感じでした。

 

「当たる瞬間に、体ごと回転して威力を軽減させたか。だがなぁ、ようやく武器を出したな。だがな、これで対等だとは思ってねー。まだ何か隠してんだろ?」

「…何のことだ。」

「とぼけんじゃねー。その右腕から感じる力。わたし達とは似て非なる物…ただの飾りじゃねーんだろ?」

 

どうやら、戦ってるホワイトハートが一番わかっているようで、何かまだ隠しているらしい事を仄めかしている。

 

「………。いいだろう、どうなっても知らないぞ。」

 

そう言い、エースさんは右手を高く上げる。次の瞬間、私達とは似て非なる光に包まれ、そこに現れたのは、白を基準とした鎧のようなのに身を包み、白い仮面をつけたエースさんと思われる人物が現れる。

 

「うわぁ~、かっこい~!」

「何よ…あれ…。」

「凄い、力です…。」

 

エースさんから溢れるシェアエナジーのような、それでいて負の力も流れているような…全く異質な力だというのは一目でわかりました。

 

「…あまり長くこの状態を保ってられない。さっさと決着をつけるぞ。」

「ふん、てめーに言われなくても、後ろに控えてんのが本来の目的だからな。さっさと引いてもらうぞ!!」

 

そう言いつつ、ホワイトハートはエースさんに突進のような速度で戦斧を構えつつ急接近する。それに合わせるように突如左手を前に出し、何か火の玉のようなのが見えたのですが、それを力強く握り子爆発と強い光が放たれる。

 

『うわっ!!』

 

急な光に目を閉じてしまった。ホワイトハートも奇襲のように受けてしまい、目を瞑ってしまっている。

 

「がっ!!」

 

そして、目が見えるようになっての第一声が、ホワイトハートに拳を当てているエースさんだった。拳、平手、平手、蹴り、拳、手刀…まるで、少林寺とも言えるコンボ技を繋げている。そして、最後に背負い投げのようにホワイトハートを、畳に叩きつけるのでした。

 

「うああああああっ!!」

 

畳の床が小さいクレーターの如く、めり込むように陥没している…その威力で砂埃が舞い上がっている。エースさんの鎧が消え、すかさず体制を立て直し、短剣と銃を構えて降伏を促すように構える。

 

「くっ…た、立てねー…わたしは…負け…た…?」

「(…済まないブラン…手加減できなかった。)」

 

エースさんが何か呟いたようにも見えましたが、それ以上に、能力はあったとはいえ、ホワイトハートの表情は、たかが人間に負けてしまったという苦痛を感じている。そんな時、後ろのアブネスさんが、ホワイトハートの元へ近づいてきました。

 

「なんと、なんと、負けたのはルウィーの女神!!ルウィーの女神の完全敗退でーっす☆ほーら、見て見て!長い事、偉そーに上目遣いだった女神も、こーんな情けない姿に!!きゃーっだっさーい!!かっこわるーい!!」

 

そして次の瞬間、ホワイトハートの変身が解け、女神前と思われる姿になってしまう。

 

「力が…信仰心が…なくなっていく…。」

「なんかムカつくわね、あいつ…。ルウィーの女神を庇おうとは思わないけど。」

「でもぉ、あの子ちょっとやり過ぎかなぁ?」

「ええ、あまり見ていて気分がいいものではないですよ。」

「………。まさか、俺でなくてもこうなる事を…。」

「ん~何のことかな~。アブネスわっかんなーっい☆」

 

そんな中、一人の男性がこの部屋に入ってくるなり、ホワイトハートの元へ寄ってくる。

 

「おやおや…ブラン様…、負けてしまいましたか…。」

「大臣…わ、わたし…。」

「まぁ、相手が違うのは予想外でしたが、貴女が負けることは想定内でしたよ。」

「な、なに言ってるの…このままじゃ、国が…ルウィーが…。」

 

何やら仲間同士の女神様と大臣のはずなのに、不穏な空気になっています…。そして、何かに気づいたエースさんが口を挟む。

 

「大臣…アンタの掌に踊らされていたという事か。この国を我が物にする為に…。」

「ほう、物分かりのいい…。そう、この国は、わしの好きなようにさせて貰うからな。」

「え…?大臣…?」

「大臣…?違うなぁ…わしの名は、七賢人が一人、アクダイジーンじゃっ!!」

 

…ノワールさんの言っていたことは間違いではなかったようです。ただ、ホワイトハートこと、ブランさんの様子を見る限り、大臣が七賢人の一人だったという事は知らなかったと思われる。

 

「そんな…貴方が…!!」

「はぁ…何よ…身内の事情も見破れないなんて、タダの自業自得じゃない。」

「…それは、ノワールさんも一緒では…あの警備人…。」

「うっ、五月蠅いわね!!あれはあれで、敵ではなかったんだからいいじゃない!!まぁいいわ、聞きたい事があったけど、聞く必要も無くなったわね。さぁ、帰るわよ。」

「帰るのぉ?ブランちゃんが可哀そうだよぉ。」

「何よ。敵に塩を送る気?元々そういう訳できたんじゃないんだから。」

「おっとぉ、この事を広められてしまっては困るのでね…。おい、お前達っ!!」

 

アクダイジーンの合図と共に、ルウィーの兵士が大勢、大広間へと雪崩れ込んでくるように周囲を囲んでしまう。

 

「わわわ、人がいっぱーいっ!!」

「凄い数…!!しかも、かなり訓練されているようですね…。」

「ふん、戦ってないんだから、この人数大したこと―――――」

 

っと、ノワールさんが何時もの強気ムードで強行突破しようと考えていた矢先、エースさんはなんと、銃の弾薬を全て抜き取ってアクダイジーンに渡していたのでした。それを見た私達は驚きを隠せず、ノワールさんはキレているように見えた。

 

「くくくく…物分かりが良い。部下にほしいくらいだ。」

「そいつは断る。」

「ちょっ、何してるのよ!!貴方も、さっきの変身みたいなので切り抜けられるでしょ!!」

「…出来たなら、こんな事はしない。意図して解除した訳ではないのだから。」

 

その言葉を聞いて、私達も変身を試みる…が、ダメ!!

 

「な、ど、どうして…!!」

「無駄だ、こんな事もあろうかと、お前達の変身を封じる物を用意しておいたのだよ。まぁ、この男にも通じるとは思っていなかったがな…。お前達、此奴等を牢屋にぶち込め!逃げられない様にな…。」

 

なんてことでしょう…罪を犯したわけでもないのに、捕まってしまうなんて…。これから私達どうなってしまうのでしょうか…。

 

 

 

 

 

 



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Scene61 白き天使喰らう獅子~NoEscape~

Steam版ネプVⅡRが発売されました。
マイペースながら攻略中です。




 

 

【ルウィー教会:牢獄A】

 

ルウィーの教会に乗り込み、女神であるブランと殴り合いをした。思惑とは多少異なってはいるが、結果からして七賢人の狙い通りの流れとなってしまった。そして、抵抗できない状態へと追い込まれ、ルウィー教会の牢屋へと入れられている。

 

「(…一人で入るには随分と広すぎるな。)」

 

恐らく、数人を入れる為の牢屋なのだが、一斉に入れられてしまうと何を仕出かすか分からない俺だけが、彼奴等から離れた場所に入れられている。サイドバックとベストを剥がされ、見た目上は何も装備してない状態だ。しかし、妙だ。女神化ではないにしろ、ハードフォームは女神寄りの能力という事になる。一番の問題は、女神化を防ぐ技術をこの世界でも確立しているという事。一般的に広まってないとなると、七賢人というのが独自で開発、又は何処からか仕入れて使ったというのが妥当か。何方にせよ厄介な相手であるのには違いない。

 

「(しかし、この牢獄に警備が居ないとは…。余程、自信有りの傑作なのか。)」

 

試しに牢屋の鉄柵を広げようとしたが、ビクともしない。女神を同じ牢屋に居れるくらいだ。それを想定して作られたと考えるべきなのだろう。鍵自体は、至ってシンプルな鍵穴式だが、そこも鉄柵から手を出しても届かないような位置に作られている。が、届けば話は別…ロックピックがあれば一番なのだが、それを持ち合わせていない。となると、やることは一つ。

 

「念動力で何とかしてみるか。」

 

牢屋の鍵穴付近に右手を近づけ、念動力でガチガチと動かす。思惑通り、頑丈さを優先して鍵自体は単純だからか、ロックピックの感覚で開けられそうだと確信する。

 

………

……

 

ガチャリッ

 

「(念動力も、問題無さそうだ。)」

 

ここから出て、彼奴等を助けに行くのもいいが、アクダイジーンが何を考えているかを調べる必要もある。大臣をやっていたくらいだ…大臣用の執務室が地図にあるのは確認済みだから、そこへ行ってみるのもいい。一般人用の地図にそれを乗せる必要はあったのかはまぁ置いておこう。

 

「何やら、お困りのようですわね。」

 

開けた牢屋に手を掛けようとした時、聞き覚えのある声と共に見覚えのある人物が現れる。

 

「…生きていたのか。」

「酷いですわ、第一声がそれなんて…勝手に殺さないで欲しいですわ。」

 

ルウィーの教会に行く前に、迷子になったプルルートと合流した際に現れた“ベール”が目の前に居る。ここに居るという事は、ずっと後を付けていたという事か?

 

「まさか貴方に、あのような力があるなんて驚きでしたわ。」

「覗きか。」

「あの…さっきから言い方が酷いですわね…。」

「それで、閉じ込められた男に何の用だ?まさか、助けに来たと言うのか?」

「半分は当たってますわ。」

 

そう言って、ベールが腰あたりから鍵束と、俺が持っていた装備を手に見せびらかしている。そしてベールが条件のような事を言いだす。

 

「そいつは…。見張りはどうした。」

「ふふっ、少し手こずりましたけど、この程度、朝飯前ですわ。」

「で、要求は?」

「…単刀直入に言いますわ。ここから出す代わりに、貴方が欲しいですわ。」

「…は?」

「…失礼しましたわ。ちょっとからかい返しただけですわ。そう、貴方のお力(・・・・・)が欲しいのです。エースさん。」

「………。」

 

ブランとの闘いを覗いていたのであれば、(偽名…と言うよりはコードネームだが)名前は割れてしまっているようだ。

 

「確信ではありませんが、貴方は昨夜に突如現れた…違いますか?」

「どうしてそう思う。俺は旅をし、偶々女神と一緒に行動してここを訪れただけだ。」

「でしたら、態々ルウィーの門を強行突破する必要はありませんわ。それに、色々と調べてみたのですが、貴方の住民票的な情報がどこにも存在しませんわ。…となると、貴方は伝説の書に記されていた存在か、何かですわ。」

「(…伝説の書?ここでも、何か起きようとしているのか。)」

 

“生きる意志を探せ”だのと言われたが、またしても厄介ごとに巻き込まれる予感がする。俺にはどうも普通の生き方(・・・・・・)とは縁がないようだ。…しかし、伝説の書か。もし七賢人もこの事を知っているのであれば、調べる必要がある。となれば、この牢屋での長居は無用と考え、念動力で開けて置いた牢をガラガラッと開ける。当然、ベールは”何事!”という表情をしている。

 

「な、あ、開いて…!?」

「伝説の書の人物かどうかは分からないが、装備を持ってきてくれたことには感謝する。リーンボックスの女神ベール(・・・・・・・・・・・・・)さん。」

「あ、貴方、何故それを…!!」

「貴女の”乙女の秘密”のように、”漢の秘密”というものだ。まぁ、そっちの条件を飲むのも、今の俺にとっては構わないが、此方も願い事がある。」

「………。その、お願い事とは?」

「出来るのなら、他の女神と協定なり、協力をして欲しい。」

 

前の世界の事を考えるのであればそうあってほしいものだが…。

 

「…半分は飲めるかもしれませんが、全部は無理ですわ。我が国が、一番であることを示すまでは…。」

「そうか…。」

「まぁ、何かの縁という事ですわ。貴方のお仲間さんは出してあげますけど、この国を助けるまではしませんわよ。」

「構わない。そっちにも、やるべき事があるのだろう。」

 

そう言いつつ、装備を差し出してくれたベールから、装備を受け取り身に着けなおす。サイドバックにベスト、銃に無線機…全て揃っている。

 

「ところで、貴方はこれからどうする御心算でして?」

「大臣の部屋で情報を集める。奴が何を企んでいるか、組織との繋がりを知れば、ある程度対策は出来る。」

「…分かりましたわ。それでは、またお会いしましょう。」

「ああ…。」

 

そう言って、ベールは別の方向へと走り出していった。…地図は頭の中に叩き込んである。アクダイジーン…アンタの身ぐるみ、何処まで剥がせるか分からないが、隅々まで調べさせて貰う。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

【ルウィー教会:牢獄B】

 

七賢人の罠に嵌り、プルちゃん、ノワールさん、ブランさん、そして私”ナナ”の4人が同じところへ閉じ込められている。案の定危険と見做したのか、エースさんのみ離れた場所へ連れていかれてしまった。

 

『………。』

 

何と言いますか、ノワールさんからしたら敵であるブランさんがいるのもあって、非常に気まずい雰囲気であります…。

 

「あ、あの…兎に角、ここから出る方法を考えましょう…!ブランさん…ここから出る方法とか、分かります?」

「………。」

 

近づいた時、一瞬だけ目が合った気がしたものの、話している最中に目を逸らされてしまう。その態度に、“アハハ…どうしよ…”っと苦笑が零れてしまう…これは、聞きだすには骨が折れそう…。

 

「あのねぇ、質問ぐらい答える事は出来るでしょ?それとも、その御口はお飾りなの?」

「………。」

「何よ…大ベテランの女神様は、私達新米女神に口答えする気にならないみたいね。」

「………。」

「全く…言い返すくらい出来ないのかしら。これじゃあ、私が一方的に話してるだけじゃないの。ほら、何か言いなさいよ!」

 

私の流れに便乗して、ノワールさんも痺れを切らしたようにブランさんに話しかけるも、私と同じ反応でだんまりを突き通す心算でいるようです。そんな状況の為か、ノワールさんのイライラ度が徐々に上がっていき、乱暴な言い方になっていってる。

 

「ま、待ってください。一方的では、何処で返答すればいいかわかりませんよ。」

「それにぃ、ブランちゃんが可哀そうだよ~。」

「…何で、私が悪いって感じに責められてるのよ…悪いのは全部コイツでしょ!!」

 

あくまでも、ブランさんが原因だと突き通していくみたいですね。“俺は悪くねぇ!!”みたいな…。そうしているうちに、ブランさんの様子が変わり俯き始める。

 

「…う…ひっ…ぐすっ…」

「…え、ええええ!?な、何急に泣き出してるのよ!!」

「無理もないですよ。私達からしたら悪とは言え、今まで信頼していた相手に裏切られ、シェアも失われ、この仕打ちですから…感情が滅茶苦茶な状態だと思いますよ。」

「…なんか遠回しに、ディスられてる気もするんだけど…。」

「ブランちゃん~、泣かないで~…。」

 

ブランさんの事が心配になったのか、プルちゃんがブランさんに手を伸ばす。ですが、プルちゃんの手を触らないでと言わんばかりに、無言で力強く払い叩く。

 

「いたぁっ~!!」

「ぷ、プルちゃん…!!」

「だ、大丈夫、プルルート!?」

「平気ぃ、びっくりしただけだよ~。」

「あ…あなた達が…せいで…ひっ…わたし、一人でずっと…がんばって…ひっく…」

 

体育座りで顔を俯き、泣きながら何かを訴えている。泣きながら言っているせいで、一部聞き取りにくい所があります。ただ、プルちゃんだけは何かを感じ取ったのか、再度近づいてしゃがみ、同じ視線になりつつ語ろうとしてる。

 

「うんうん…そっかぁ~。頑張ってきたんだねぇ~。」

「だって…ひっく…この大陸…女神が…えぅ…わたし、しか…だから…。」

「うんうん~。」

「なんか、分からないうちに、プルルートが語り合ってる…。」

「………。プルちゃん、負担になってしまいますが、ここはお願いしていいでしょうか?」

「うん、いいよぉ~。」

 

私とノワールさんで、ブランさんの心を開かせるには少々難易度が高いと思い、ここは意思疎通が出来ているプルちゃんに託すことに…。上手く事が進むのであれば、エースさんが言っていた協力関係を結べる可能性が見えてきます。

 

「お手本とか…相談できる人とか…全然…なりたくてなったんじゃないのに…。でも…なっちゃったから…いっぱい勉強して…。」

「ブランちゃんは偉いんだねぇ~。あたしもそぉだけど、全然お勉強はしてないよぉ~。」

 

そんな流れで、プルちゃんがブランさんの話に乗っている…。そうして分かってきたことは、離れてしまう人もいたが、ずっと一人でルウィーを支えてきた。その実績を、プルちゃんのプラネテューヌ、ノワールさんのラステイションと僅か数十か月で、ルウィーがやってきたことを成し遂げてしまった。尚且つ、プラネテューヌとラステイションが協力関係であるこも相まって、急成長するラステイション。シェア自体は非常に少ないものの、そこから下回らないプラネテューヌに嫉妬していたのかもしれません。

 

「う~ん、でもぉ…それって楽しくないよねぇ?」

「…楽しく…?何言ってるの…意味が分からないわ…。」

 

…確かに話を聞いていると、只々プレッシャーを背負いながらやってきたという印象があります。それは、ノワールさんも同じことですが、志が高く、常に最新を取り入れていく努力も相まっての自信があってこそ…。対してプルちゃんは…うん、余り仕事してませんね。でも、なんだかんだシェアが落ちるようなことはしていませんし、プラネテューヌだけでなく、私やノワールさん、イストワール様と一緒にいるのも楽しいと言う。…そこは少し照れますね…。

 

しかし…プルちゃんの次の発言で、私は一瞬、ノワールさんに至っては一時停止したかのように固まり慌てだしてしまう。

 

「んっとねぇ…えーっと…、んぅ…上手く言えないよぉ…。ねぇ、ナナちゃん、ノワールちゃん、ちょっと変身するねぇ~。」

「へ…変身…!?」

「え、えええ!?ど、どうぞ…って、な、何気軽に言って―――――」

 

ですが、ノワールさんの願いは叶わず、プルちゃんは変身し…あの姿へと変わるのでした。

 

「ん~…これで、じぃっくりお話出来るわねぇ…ブランちゃん…うふふふ…。」

「ひっ!!な、なに…この悪寒…。」

 

プルちゃん…いえ、プルルートことアイリスハート…普段ののほほんとしたプルちゃんとは思えない、鞭を持ったドS女王様とも言える女神へと変わってしまった。案の定、ブランさんは怯え、この空間が凍てつくような空気へと変わる。

 

「プル…ちゃん…。」

「もぉ~…なんで唐突に変身するのよぉ!!」

「仕方ないじゃない。変身をお預けされてたし、お話するならこっちの方がぁ、都合がいいしねぇ。」

「何か、不穏な言葉が聞こえたんですけどぉ!」

 

…ですが、逆を言えば、包み隠さず本音をぶつけ合うのであれば、プルちゃんからしたら都合がいいのかもしれません。

 

「…分かりました。プルちゃん、お願いしますね。」

「うふふ…任されちゃったぁ。じゃあ、遠慮なくお話しちゃうわね。」

「な、ナナぁ!!何言ってるのよ!!」

 

プルちゃんに対しての発言に反対気味なノワールさん。申し訳ないですが、少々首を引っ張手ヒソヒソ話で話しかける。ここは意思疎通が出来ているプルちゃんに任せるのと、万が一があったら、私達も変身してプルちゃんを止める…という事で渋々ノワールさんも納得し、見守る事にする。

 

「ほぉら、ブランちゃん。顔上げて…あらあら、泣き腫らしてお目めが真っ赤っか…。」

「な…なんだ…よ…。て、てめーなんか、怖かねーぞ…!!」

「ふふ、意地を張ってるブランちゃんも可愛い。けどぉ…あたし、わかっちゃってるから、そんな虚勢張らなくてもいいのよ。」

「きょ、虚勢…わたしが…!?ふ、ふざけんな!!」

「ほぉら、意地を張らないの。本当のブランちゃんは、弱気で内気でうじうじした可愛らしい女の子…。」

 

ブランさんの態度からして、プルちゃんの言ってることは強ち間違ってはないのかもしれません。しかし、言ってる事が徐々にドSっぽくなっていく。一人で苦労して頑張ってるのに、私達のように仲良く楽しくしているのに、簡単成し遂げたのが気に入らない。そんな気持ちだから、他の国に抜かされたり、悪い人に騙さてしまった…と、そんな事を言っていたら、ブランさんが図星を着かれ言い返せない顔をして、また泣いてしまう。

 

「さ…流石ドSモードのプルちゃん…侮れませんね…。」

「何関心してるのよ!もぅ、収集つかなくなってるじゃない…。プルルート、もうその辺で…。」

 

我慢の限界なのか、ノワールさんが制止させようと動き出す。が、その必要はなくなるのでした。

 

「だ・か・らぁ…。あたし達がお友達になってあげるわ。」

「…え…?」

「聞こえなかった?今日から、あたし達はお友達…もう羨ましがる必要は無いわ。」

「な…なんで急に…や、やっぱり、わたしの事を馬鹿にして…!!」

「もう、そんなんじゃないわよぉ。あたしね、ブランちゃんのこと気に入っちゃったの。…ダメかしら?」

 

ブランさん困惑、私とノワールさんも困惑…。同盟という堅苦しさのない感じですが、まさか単刀直入のように言うとは…。プルちゃんの女神中は、見慣れたとは言えますが流石のこの対応にはまだまだ慣れません。こういう時のプルちゃんは、何か考えてそうで怖いんですよね…。

 

「…ナナ…顔に出てるわよ。何か考えてるんじゃないかって…。」

「え…へ…?」

「もう、さらっと失礼な事考えてるんじゃないわよ…。」

「ナナちゃぁん、ノワールちゃぁん。」

 

そんなヒソヒソ話をしていたら、プルちゃんが私とノワールさんを呼ぶ。急に振られてしまったからか“は、はい!!”と気を付けしつつ甲高い声が出てしまった。

 

「あたしねぇ、お友達の為に、お手伝いしてあげたいの。この国を取り返す、ね…。当然、二人も手伝ってくれるよねぇ…?」

 

笑顔でそう答えてくるプルちゃん。言ってることには同意しますが、その笑顔が妙に怖いですよ…!!ですが、エースさんが言っていた対話をすることで、ブランさんがどういう人物か分かりましたし、ここは協力して困難を突破する必要がありますからね。それに、困ってる人を見捨てるのは、女神としてどうかと思いますし―――――

 

「友達を助け、国も取り返す…それでいきましょう、プルちゃん。」

「あ、や…別にそこまでしなくても…」

『…ね?ノワールちゃん?(ノワールさん…?)』

「…ふ、二人して顔を近づかせないでよ…!!うぅ…確かに、七賢人よりはマシだけど…もう!わかったわよ…ルウィーを取り返せば、四角かったのが全てが丸く収まるんでしょ!!やってやろうじゃないのよ!!」

 

何やら自暴自棄っぽくなってるのですが、ノワールさんも同意しこの場は収まるのだった。プルちゃんも変身を解き、何時ものプルちゃんへ戻る。

 

「えへへ~、よろしくね。ブランちゃん~。」

「あ、う…こ、こちらこそ、よろしく…。」

 

緊張の糸が切れたのか、ブランさんは、照れつつもプルちゃんと握手をしている。私もブランさんに軽く挨拶をしておく。プルちゃんのようにはいきませんでしたが、“よろしく”は言ってくれましたのでいいでしょう。

 

「…で、一応聞くけど、私達閉じ込められてて、まずは脱出しないといけないけど、内側から開ける方法や、抜け道ってのは無いの?」

「ない…と思うわ。この牢屋は、全て大臣の指示によって作られてるから…。」

「そうなりますと、ブランさんはここの全体像に詳しくない…?」

 

私の返答に対して、ブランさんは“うん”と言いつつ頷く。全員で変身して扉を破壊するという案も出ましたが、ここに女神を閉じ込めている以上、それも想定内ではないか…ノワールさんも同じことを考えていたらしく止められる。八方塞がりな上に突破口がない…さて、どうしたものでしょう…。

 

「…ふふ、何やらお困りのようですわね。」

 

全員でここを出る方法を考えていると、後ろの方…正確には牢屋の門前に見知らぬ人物が立っていた。金髪の長い髪型、清潔で整ったドレスを身に纏っている女性がそこにいた。…いえ、待ってください。何処かで見たような…。

 

「あ~、あの時のおねえさんだぁ~!」

 

プルちゃんは会っているような事を言う。そうだ…、プルちゃんを探している時、プルちゃんとエースさんの二人に接触していた人…だと思う。後姿しか見てないから、断定は出来ないですが、プルちゃんが言うのであれば、間違いないのでしょう。

 

「で、一体何しにきたのよ。」

「あらあら、水臭いですわね。あなた方が色々としているお陰て、こうして助け出せるのですから。」

 

そう言いつつ、その女性が取り出したのは鍵束。ブランさんが“どうしてそれを”と言うが、“細かい事は気になさらない。”と言いつつ牢屋の鍵を開けてくれる。

 

「はい、開きましたわ。」

「わ~い、おねぇさん、ありがと~。」

「何者かは分かりませんが、助かりました。」

「いえいえ、お気になさらず。」

 

その間に、プルちゃんはブランさんを引き連れて先に脱出をする。けど、ノワールさん同様、気になる事がある。

 

「ここには見張りもいたはず。一人で全員倒したの?」

「…ええ、まぁ多少骨は折れましたけれど。」

「あなた…何者?」

「それは乙女の秘密ですわ。」

「私からも一つ。…付き添いで男性が一人いるのですが、その人は見ませんでしたか?」

「ええ、見ましたわ。最も、わたくしが来る前に自己解決してまして、“大臣の身ぐるみはかずそー!“っと意気込んでましたわよ。」

 

なんて行動の早い…。とは言え、無事ならそれでいいでしょう。“あなたの事、覚えておくわ”とノワールさんが言いつつ、その場を後にする。私も感謝の意を込め、礼をしその場を後にするのでした。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【ルウィー教会:大臣室】

 

牢獄から抜け出した後、周りに見つからない様に塀を乗り越え、塀を渡り歩きつつ再びルウィーの教会へ戻り、記憶した道を頼りに進みつつアクダイジーンが使っていた部屋に辿り着く。何やら、ここに来る前に不思議な寒気がした。しかし、どういう訳か見張りは居るようで居ないような程度の警戒。その為、少し隠れる程度でここまで来れた。

 

「これはまた…随分と古いPCだ。」

 

如何にも、執務室と言える場所に本棚、書庫、そして古いPC。資料でしか見た事がない5.25インチと3.5インチのフロッピーディスクとMOディスク。PCはスリープモードだった為、画面はついたが当然の如くログインパスワードが必要となる。古いPCだからか、USB系の挿し口がない。ハッキングしようにもそんな技術は持ち合わせていない。…ネプギアに頼んでハッキングシステムを導入したスマホでも頼んでみるか…そんな危ない事を思ってしまった。

 

「………。仕方ない、暗証番号のヒントになる物を探そう。俺だったら何処に隠す…?」

 

本棚、書庫、執務机の引き出しを開けて調べてみる。だが、殆どは経営処理や、建設許可書と言った業務に関する処理書のコピーしか見つからない。恐らく原本は金庫とかにあるのだろう。管理やセキュリティ面は徹底しているようだ。

 

「…日記か…?」

 

暗証番号のヒントを探している中、執務机の引き出しに日記のようなのを見つける。小さな南条鍵が掛けられてるあたり、中身は他人に見られたくないのかもしれない。

 

「(乙女の秘密ならぬ、漢の秘密か…。)」

 

念動力で鍵を開け、中身を開く。就任してしばらくしてから付けているらしく、殆どが女神ブランに対するものと、七賢人に対する愚痴だ。意外と苦労してるんだなと、共感できるところもあるが、気になる文章を見つける。

 

 

―――――G.C.1991/YY./DD

―七賢人の体制も整い、今後の活動に目途が付いた。伝説の書に関する“災いが訪れる時、英雄か悪魔かが現れる”というのは、まだまだ調べている最中となる。あの女とネズミは、資料集めには向いていない為、あの男の言う通り当分は女神メモリーの回収に当たることになるだろう。

 

―――――G.C.1992/Y/DD

―新たに女神が誕生したのか、新しい国がルウィーの南に誕生した。驚くべきことは、短期間でルウィーに匹敵する程のシェアを会得しているという事だ。ルウィーの一部の住人も、その新たに誕生した国に引っ越している者も少なくない。もう一つの国は兎も角、我が計画としては、その国に好き勝手にシェアを持っていかれる訳にはいかぬ。あの男に相談しつつ、工作員を送り対策をしなければならぬ。

 

―――――G.C.1992/Y/D

―プラネテューヌという国近くで、強力な反応があった。あれが、伝説の書に記されていた英雄か悪魔かは分からぬ。女神は放置と言うが、七賢人として調査する必要がある。工作員を派遣した方がいいだろう。そして、あの女の活躍もあってか、一時的に変な事になってたこともあるものの、女神メモリー事態は十分溜まってはいる。だが、使う対象はまだ決まっていない。メリットはあるが、現時点ではデメリットの方が大きすぎる。あの女に使うには、女神になったとしても、年齢的に女神としてはどうかと思う。使う時は慎重にならなくては…。

(日付なしで次のページへ書かれている。)

―我が国に女神一行が訪れる事となった。どうやら、計画を早めなくてはならない。七賢人の配下となる女神を誕生させつつ、ルウィーを乗っ取らなければ、野望は叶わぬ。手順は逆になるが、手始めにルウィーを我が七賢人の拠点となる様に仕向けなければ…。国民を納得させれば、新女神はその後でも十分事足りる。

 

「(新女神、6人目の女神を誕生させる気か。)」

 

気になるのはいくつかあるが、日記に記述されている日付のG.C.1992…つまりここは、1992年。俺が居たところは確か、G.C.2012あたりだったはず…。並行世界か過去の世界かは分からずとも、俺からすれば過去の世界になるという事か?

…話を戻すか…以前聞いた女神メモリーのデメリットを考えれば、使った後に自分達を襲う化け物になる可能性もある。そう考えれば迂闊には使えないだろう。だが、七賢人と言う体制を表舞台に出てきて、何がしたいのかまではこの日記だけでは読み取れない。最も、何をしたいかは、当然世界征服といったところか。そして、自分達の都合のいい女神を誕生させ、国を確立させる。女神が存在する世界であればそんなところか。

 

「この考えが正しければ、止めるべきなのだろう。」

 

そう考え、日記を元に戻し部屋を後にしようとする―――――

 

「…なんだ…?」

 

突然、無線機からコールサインのような音が流れる。無線をONにしても、殆どがノイズで聞こえない状態だが、微かに何か…誰かが話しかけている声が聞こえる。

 

「……え……、……、……と…………。」

「…誰だ?ノイズが酷くて聞こえない。………、切れたか。」

 

応答という形で声を出してみたが、ノイズのせいで向こうが聞き取れているか分からず、電波障害のように無線が切れてしまう。…兎に角、壊れている訳じゃないし、手掛かりにもなる可能性はある。もう暫くは所持しておこう。部屋を後にし、アクダイジーンを探すことにしよう。出来る範囲で奴から情報を集めるのが手っ取り早い。

 

 

 

 

 

【ルウィー教会:外郭】

 

大臣室を後にし、見張りが何人かいたがやはり手薄だ。これから何かやる為なのか、人員を割いているのかもしれない…。その為、とても隠れるには向いていたい衣装であるが、兎に角隠れることは苦になっていない。…が、意外な事に直ぐ見つかる。

 

「う~む、いかんのぅ。どうもバランスが悪い…むむむ…。」

「いい加減にするっちゅ!!何時まで確認すれば気が済むっちゅか!!」

「声…?………、アクダイジーンとワレチュー…兵士が数人か。」

 

柱に隠れ、顔を少しだし様子を見る。どうやら先ほどのカメラを使って撮影をしようとしている。さしあたり、全国放送出来るカメラだから、自らが新しく国を治める的な放送をするのだろう。

 

「そう急かすな。全国民の前に姿を見せる大舞台なんじゃぞ。髪型や衣装ぐらいビシッと決めて置かんと…。」

「おっさんの髪型なんて、誰も気にしないっちゅよ…おいらは早く帰りたいっちゅ!!」

「仕方なかろう。急遽予定変更でこのようになってしまったのだから、髪を整える時間など無しに急いで来たのだぞ?」

「そんなん知らないっちゅよ!!そうしている間に、何か起きて、あの…ドS女神でも来たら…あぁ…ガクブル…。」

 

どうやら、さっさと始めればいいものを、身支度を気にしてか放送はまだ始まっていないらしい。ここのベールが、上手く事を運んで牢屋の鍵を開けていれば、ワレチューの言うガクブルが訪れる事になる。そうなったらご愁傷様だ。…まあいい、姿を出すなら頃合いだろう。

 

「ふふっ心配無用じゃ。あの牢は長年女神に仕え、その特性を見出し、対女神ともいえる特注品…。幾ら女神が束になろうと、抜け出すことなど断じて…」

「…中々の演技派なんだな。」

『っ!?』

「ぬぅっ!?ま、まさか、たかが人間後時に、あの牢を脱出してきたというのか!?」

 

当然、出てこれると思っていなかった人物が現れたのだから、当然驚きを隠せてはないだろう。周囲の警備兵もざわついている。何人かは俺に向けて銃を構えて、止まれと言う。それをアクダイジーンが止めに入る。

 

「待て、撃つな!!…貴様、どうやってあの牢を出てきた?まさか破壊してきたとでも言うのか?」

「いや、さっきの対女神と言うだけあって、壊すのは不可能だった。だが、耐久面を重視しすぎたのか、鍵開け出来てしまうのなら話は別だ。まぁ、メタ発言をするなら、物語的に脱出しなければ、話が進まない。」

「ぬぅ、言われてみれば…わしとしたことが、なんと迂闊…!!」

 

一応言っとくが、マイナスドライバーとヘアピンがあれば簡単な鍵程度なら開けられる。そう訓練されたのだから…。が、流石に道具なしでは、念動力で開けるしか手段がない。そこは伏せて置こう。

 

「ま、待つっちゅ!そうなると、あの女神達も脱出している可能性があるっちゅよ!!お、おいらは一足先に失礼するっちゅ!!」

 

そう言って、ワレチューはその場を後にしていった。ネズミだけあって逃げ足は速い。だが、アクダイジーンは追い詰められたと言う感じは一切していない。それどころか、不敵に微笑んでいる。

 

「…まぁいい、カメラ担当など誰でも構わぬのだから。」

「どういう事だ。」

「なぁに、貴様はあの女神達に、傭兵として雇われているのだろう?それも、保護という形である故に、契約金すら出ておらぬだろう?」

「………。」

 

この男、情報収集に関しては長けているのか。それとも、情報収集を得意とする仲間がいてリークしているのか。

 

「何が言いたい。」

「貴様ほどの技量の持ち主を、タダ働き同然とするには勿体ない程の逸材だ。」

「…俺に七賢人、もしくはアンタの部下になれと?」

「ふふふ…理解が早くて結構。結論から言えばそうだ。なぁに心配するな。女神と違って、契約金からありとあらゆる支援…全て弾むぞ?」

 

確かに、話からしたら破格の商談ともいえる。だが、ここで条件を飲んでしまえば、ルウィー以前に、情報や俺の目的が見えなくなってしまう。それに、この手の場合、断ると言えば容赦はなないのだろう。だが、あえてこう答えよう。

 

「断る、と言ったら…。」

「この状況でそう答えるか。度胸も備わっている。…だが、冗談は止しておくのだな。」

「………。」

「そうか…仕方あるまい。惜しい逸材だが、この事を知られた以上…死んでもらうしかあるまいのぅ。」

 

その言葉を聞いた警備兵達は、再び俺に銃を向けてくる。相手は6人…身なりや構えからして、恐らく警備兵の中でもエリートと言ったところか。

 

「馬鹿な男だ。大人しく条件を飲んで、我々と共に働けばいいものを…。」

「やれやれ…断られたら直ぐ仕返しか。」

「どうやら、死に急ぎたいらしいな。」

 

逃げ場無しか…。何方にせよ、戦わずして情報を聞き出せる相手ではないのは、端から分かっていた事。今更驚くことなどない。

 

「喧嘩を売ったんだ…ウォーミングアップ等なしだ。」

 

俺は身構え、目の前の6人と戦う事を決断する。

 

 

 

 

 

 



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Scene62 再燃する想い~Counterattack~

 

 

【ルウィー:外郭深部】

 

―――――永守脱出から暫く前………

 

私達は、謎の女性の手助けもあり、牢屋から脱出ことに成功しました。エースさんは自力で脱出したらしく、既に別行動をしているそうです。それで、現在はブランさんの案により、警備員に見つからないルート、ルウィーの外郭の深部に当たる場所を通り、そこにある使われなくなった洞窟通路を通り、再び教会に戻るというルートを通っている。流石に殆ど使われてないだけあってか、少数ですが何処からかモンスターが入ってきて、戦わざるを得ない状況にもなったりしています。

 

「ところで、プルルート。」

「ほぇ、なぁにノワールちゃん。」

「この国を取り返すって言ったはいいけど、何か案でも考えてるの?」

 

休憩できるスペースに移動し、唐突にノワールさんがプルちゃんに対して、どういう案でこの国を取り戻すかとプルちゃんに聞いてきました。…あぁ、なんだろう。一緒にいる時期が長いせいか、なんとなく次の返答がわかるような…。

 

「それはぁ…えっとぉ~………。ねぇ、ナナちゃん。なにかなぁい?」

「あぁ、やっぱり…。」

「…分かり切ってたけど、聞いた私が馬鹿みたい…。」

 

今回は国を揺るがしかねない出来事にも関わらず、いつも通り平常運航のプルちゃんだった。此方としても、出来る事なら一番いい結果になるのがいいのだけれど。

 

「…本当に漫才みたいね、あなた達の会話は。」

「えへへ~、それほどでもぉ。」

「プルちゃん、褒め言葉じゃないですよ…。」

「そう思うなら、あなたもツッコミに回ってくれると助かるんだけど?」

「…わたしは観客として見てるので満足よ。」

 

そんなことはお構いなしに、“ねぇねぇ~”と私とノワールさんの袖を無邪気に引っ張るプルちゃん。そんなプルちゃんにノワールさんも、“考えてるから待って!”とヤケクソ気味になってしまう。

 

「…今更、普通に大臣を倒したとしても、意味がないわね。」

「そうですね…幾ら大臣が悪い人だったとしても、それを広める手段がなければ…。」

「わたしのシェアは失われたまま…。」

「そういえば、あの兵士さん達が言ってた全国放送って何するんでしょうね…。」

「まぁ、あの大臣からして考えられるのは、この国のトップは私だ!と全国放送するんじゃないかしら…。」

「…そうだとしたら、随分と手回しのいい…クソムカつくぜ…。」

「ブランちゃん~、喋り方おかしくなってるよ~?」

 

全員で兎に角考えてみるも、中々いい案が出てこない。…が、突然と電が降ってきたように、閃きが…!!

 

『放送…それだっ!!』

「わぁ!どうしたのぉ、二人共ぉ。」

 

どうやら、ノワールさんも放送という事で何か閃いたらしい。恐らく、同じことを考えているはず。

 

「放送でどうする心算…?」

「ピンチでもありますが、チャンスでもありますよ。」

「ナナも気づいたのね。そう、その放送を逆に利用して、あの大臣の悪事を全部暴けば…。」

「…!!全て、ひっくり返るわね…。」

「わぁ、ノワールちゃん、ナナちゃん、あったまい~!!」

「後は、あの男が変に騒ぎを起こさないことね。…ま、頭脳派と思ってたどこぞの女神様は、この程度の事も思いつかなかったみたいだけどね。」

「…あんま調子に乗ってんじゃねーぞ…。わたしは今、本調子じゃねーだけだからな。」

「はいはい、分かりやすい負け惜しみをどうも。」

「てめー…。」

 

なんでしょう。協力すると言っても、表面上は協力するという雰囲気ですね。まぁ…第一印象が最悪なのも拍子に掛かってるのでしょうね。

 

「もぉ~、喧嘩しちゃだめだよぉ。」

「まぁまぁ二人共、今は喧嘩する場面じゃないですよ。」

「ふんっ。今だけは協力するけど、この件が終わっても私は手抜きはしないわ。アンタの国なんて…目じゃない程、シェアを集めるんだから…!」

「はっ!それはこっちのセリフだ。本調子になったら、てめーなんか直ぐ抜いてやらぁ!!」

「むぅ…。」「はぁ…。」

 

どうもこの二人は、仲良くなるにはきっかけがない限り、犬猿の関係が続きそうですね。

 

 

 

 

 

【ルウィー教会:城内】

 

とりあえず収集はつき、再び教会へ戻る事ができました。とは言え、目を合わせた途端、火花が飛び散りそうな程まだまだ険悪といいますか…。そんな時、廊下の曲がり角から何かがやってきた。

 

「あ~!!ネズミさんまだいたんだぁ~!!」

「ぢゅぢゅっ、女神…!!ひぇー捕まったっちゅ、は、HA・NA・SEっちゅ!!」

 

来た何かを一瞬で理解したのか、プルちゃんは人形を抱くように“ソレ”をムギュゥっとする。そう、二足歩行の二頭身ネズミ“ワレチュー”がそこに居たのだった。

 

『あんた(てめー)…!!』

「お、オイラは今回呼ばれただけで、オイラは何も悪くないっちゅよ!!…オイラは悪くねぇっちゅよ!!」

「…何で言い直したんですか。」

「でもぉ、ブランちゃんに酷い事した事は、確かだよねぇ~。」

 

…いつの間にかプルちゃんが女神化し、尻尾を掴んでワレチューが逆さまになっている。

 

「ぢゅー!ゆ、許してっぢゅ!な、何でもするっぢゅからぁあああ!!」

『へぇ(ほぅ)(ふーん)…」

「な、何っちゅか。その目は…。」

「あなた、今何でもするって言ったわよね。」

「ええ、間違いなくコイツは言ったわ。」

「はっきり言いましたね。」

「…はっ!!しまったっちゅ…。」

 

余りの必死さに、自分が何を言ったかを理解し、更に青ざめてしまう。…どれだけプルちゃんがトラウマになっちゃったのか分かりやすい。

 

「ま、まさか、オイラを取って食べるつもりっちゅか!!いくらネズミが食べられるからって、それは一部の団体が黙ってないっちゅよ!!」

「そんな事はしないわよぉ。ただぁ、さっきみたいにカメラを持って回してほしいだけ…。」

「か、カメラを?どういう事っちゅか?」

「これから、大臣の所に向かうのですよ。」

「それで、あなたにカメラを回して、今回の悪事を認めさせて潔白させるって訳。」

「…ねぇ、簡単でしょ?だからぁ、このお願い聞いてくれるわよねぇ?」

「も、もちろん、YESっちゅ!!」

 

流石に、この状況で“No”とは言えないですよね。言ったら言ったで違う未来が待ってそうですが。しかし、ワレチューが“あっ”と何かを思い出したかのように言いだす。

 

「そ、そういえば、オイラが逃げる前に、あの男が現れたっちゅよ…!!」

「あの男…もしかして、そいつサングラスとフード付きパーカー着てる…。」

「そ、そうっちゅ!!でも今頃、あのオッサンのエリート集団にやられてるかもしれないっちゅよ。」

 

それを聞き、ワレチューに大臣の元まで道案内をしてもらう事になった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「お前達如きに、右腕を開放する必要もない…。」

「ば…馬鹿な…わ、わしの目に狂いがあったと言うのかっ!!」

「狂いはない。全員素質はある…だが、接近戦は銃よりナイフの方が上だ。おまけに、持っている武器を過信しすぎていた。敗因はそれだけだ。」

 

ワレチューの道案内もあり、大臣を見つけることが出来た。…が、私達の心配とは裏腹に、顎が外れたように口を開けている大臣、その片隅にエリート兵士と思われる人達が倒れていた。

 

「大臣…!!」

「ぬぅ、なんと…!!嫌なタイミングで女神共も合流するとは…。」

「まさか殺してはないですよね…?」

「神経を絞めて、少しの間眠ってるだけだ。時期に起きる。」

「その銃は…?」

「そこの警備兵が持っていた、内臓電池で熱を発して放出する熱光線銃{ブラスターガン}だ。女神に風穴開けるには若干物足りないが、耐久面以外では申し分ない。」

「あなた…そんなことも知らされてなかったの?」

「う、うるせー…!!」

「…で、誰だアンタ。」

「もぅ、何言ってるのよぉ。あたしよ、あ・た・し。」

「…こりゃまた随分と…女神化は摩訶不思議だ。」

「ふぅん、その割には、あんまり驚いてないわねぇ…。」

 

兵士達は生きているそうです。見た限り外傷もないので、本当に絞め技で落としたというべきでしょうか。プルちゃんの女神姿を見たエースさんは、どういう訳か一瞬目を見開いたように見えたのですが、あまり驚いていない様子。…まぁ。これで心着なく、大本命と渡り合えるって事ですね。

 

「…覚悟しろよ、てめー…。」

「おお、怖い怖い…。だが…あれ程嫌っていた女神共と協力するとは、節操のない事で…。」

「う、うるせー!!こうなったのも、全部てめーのせいで…。」

 

大臣の言った言葉が不服なのか女神化はするものの、不満げな表情のノワールさんがいる。本当譲れないんですね、そこは…。あっと、私とブランさんだけ女神化してない。この流れに乗っておかないと…。

 

「別に、私はルウィーの為に動いてるわけじゃないわ。…個人的に、あなたを思いっきりぶっ飛ばしたいだけよ!!エース、今回は余計な真似をするんじゃないわよ。そこの特等席で、私の実力を見てなさい!!」

「ふふ、いいわねぇ。あの豚さんが、泣きわめくのを見るのも悪くなさそうねぇ…。えー君、戦わないのなら、これ持ってて頂戴。」

「ぢゅー!!オイラはボールじゃないっちゅよ!!」

「っ…。…ここは女神でやる事に意味があるのは確かだが…。」

 

エースさんは、戦わないことを最初から決めていたのか、素直に従っています。それで、投げられたワレチューをキャッチする。なんだか、キャッチした時の力強さがあったのか、“ムギュゥっ”ワレチューが言ったような気が…。

 

「…ん、んん。エースさん。そこのカメラを、そのネズミさんに持たせて下さい。撮影タイミングは、此方から出しますので。」

「分かった。」

「降参するなら今の内ですよ。まさか、女神4人とまともに相手する心算で?」

「っ…。」

 

この状況に対して、後退りをしようとする大臣に不服なのか挑発し、大臣の負けシーンを世界中に見せしめたいプルちゃん。しかし、大臣は悔しがっていたが突然笑いだす。

 

「本当に、その映像を流してしまっていいのかのぅ?」

「はぁ?何よ、突然。時間稼ぎの心算?」

「まぁ…少々、放送的に問題ありそうな場面にはなりそうですね…。」

「ん~、ナナちゃぁん。何か言ったぁ?」

「…いえ。」

 

こんな時に漫才をしている場合ではないのですが、どうやら大臣が言いたいことはそういう事ではないらしい。

 

「そういう事ではない。さっき、女神が4人と言ったが、3人の間違いじゃないか?」

 

大臣がそう言いつつ、顔でブランさんの方を刺している。私達はブランさんの方を見ると、まだ変身していない。それどころか、大臣の言った事が図星だったのか、顔を俯かせてしまう。

 

「ちょっと、何ぐずぐずしてるのよ。さっさと変身しなさいよ!こっちはあなたの国の為に、仕方なくやってるのよ!!」

「…変身…できない。シェアが、少なすぎて…わたしは…。」

「ふぅん、あの映像を流していながら、まだ信仰心があるのは予想外じゃ。だが…いやはや、変身もままならないのでは、女神の力とは不便じゃなぁ!!」

 

まるで、この状況や作戦を、見透かしたかのような言い回しを試笑い出す大臣を前に、手も足もでない状態です。

 

「何言ってるのよ。こいつが居なくたって、私達3人で済ませばいいことじゃないのよ!」

「…ノワール。大体の予想はつくが、牢屋の中でこの国を取り戻す為に、今ここにいるんだろ?」

「だったら何よ。こいつをぶっ飛ばす事になんら変わりはないじゃないの!!」

「女神ホワイトハート抜きで事を済ませば…ルウィーの住民は、お前達3人。厳密に言えば、プラネテューヌとラステイションに信仰する事になる。…後は、分かるな。」

「あ…そっか…。面倒な事を…。」

「迂闊でした…あの放送でそれほど信仰心が無くなっていたなんて…。」

「ふぅん、ブランちゃん変身出来ないんだぁ…。」

「ぐふふふふ…僅かながら信仰心があるのは不可解だが、それでもいいのなら、このわしを好きにするがいい。女神自らの手で、ルウィーに幕を降ろすというのならなぁ!!」

 

…何となくですが、その僅かな信仰心を出している人物には見当がつく。ですが、それだけではブランさんを女神化させる程には至らない。作戦事態に間違いはない。しかし、土台作りを怠った為に、ブランさんの変身が出来る、出来ないの判断材料を省いてしまっていた。うん、とりあえずプルちゃんはブランさんをペットにしちゃおう見たいな目で見るのはやめようよ…。ブランさんの方を見ると、また自分のせいと思われる表情で、拳を力強く握っている。

 

「くっそぉ…なんだよ、この状況…。また、わたしが足を引っ張るなんて…。」

「ねぇ、また泣いちゃうのぉ?本当にブランちゃんは、泣き虫なんだからぁ。」

「な、な、泣いてねーよ!…けど、こんなの、悔しすぎるだろーが…!」

「ふふ、いいわぁその表情…見てて飽きないわぁ…。でもぉ、あたしねぇ、とぉーっておきのを閃いたのよぉ。」

「な、なんだよ、閃いたって…。」

 

若干、聞き捨ててはならないような言葉はあったものの、プルちゃんが何か閃いたらしい。ただ、今までの事があったからか、ブランさんはプルちゃんに後退りしている。

 

「あたしねぇ、意地っ張りで、プライドが高くて生意気で…それでいて、本当は内気で泣き虫な可愛らしいブランちゃんを、信仰してあげる。あなたもそうよねぇ、えー君?」

「………。」

「…なんだよそれ…貶してんのか、褒めてんのかわかんねー言い方しやがって…。」

 

僅かながら感じていた信仰心というのは、やはりエースさんでした。エースさんの態度が“こいつ、見破ってたのか”ともとれるように顔を背けている。女神中のプルちゃんは、普段からは想像できない程に流れの掴み方、閃きは群を抜いて凄い。しかし―――――

 

「ねぇ、ナナ…そういうのってアリなの?」

「分かりません。」

 

そう、ルウィーの人々から信仰心としてのシェアは分かる。しかしながら、他国の女神が信仰して、シェアを増やせるかどうかは未知数です。

 

「…ですが、信仰心…その人を想う気持ちがあれば、もしかしたら不可能ではないはず…。だから、ブランさん…。私も、あなたを信仰します。」

「…!!シェアが、集まってくる…。」

「な、なんじゃとぉ…!?」

 

どうやら、上手くいっているようで流石の大臣も驚きを隠せていない様子です。しかし、女神化するには僅かシェアが足りないらしく、ノワールさんにも信仰するよう促す。

 

「わ、私も?…なんか納得出来ないけど、まぁ…女神の先輩として、ほんの少しだけ信仰してあげてもいいかもね。」

「あなた達…、…これならっ!!」

 

次の瞬間、ブランさんの身体から光が放ち、捕まる前に見た女神ホワイトハートへと変わる。

 

「ば、馬鹿なぁ!!あの少ないシェアで、女神化出来るなどと…!!」

「出来た…変身、出来たぜ…!ははは…はははははは!!これで舞台は整ったってとこか…心置きなく、てめーをぶん殴れる訳だぜ。覚悟しやがれ!!」

「あらあら、変身出来た途端にこの強気…でも、こっちのブランちゃんも可愛くて、悪くないわぁ。」

「…全く、世話の焼ける女神様なんだから。」

「さて、これで女神4人となりましたが…もう、降参しても遅いですよ?」

「ぬぬぬ…まさか、このような事態になるとは…。」

 

まさに、追い詰められた小物と言うべきでしょうか。明らかに想定外な事が起き、更に大臣は後退りをし、渡り廊下の壁に背を当てる。だが、大臣は悪あがきの如く、エースさんに交渉をしようとする。

 

「おい、そこの!!さっきの話、飲んでくれぬか!!交渉金額を倍にする…いや、上手くいった暁には、世界の半分を渡しても構わん…!!」

「………。」

 

どうやら、お金で動かそうと企んでいたらしく、幾らになるか分からないですが、更に跳ね上げて大臣側に寄せようと企んでいる。…しかし、エースさんも芯が強いようで―――――

 

「所詮、アンタも小物か…。」

「な、なんじゃと…わしが、小物…!!」

「仮にも、上に立つ気でいるんだろ?ならば、この場を乗り切ってみろ。こんな状況で、助けを求めるトップに従う気はない。ブラン…いや、女神ホワイトハート。思う存分やってしまうといい。」

「はっ、てめーに言われなくても、わたしはもうあのヤローを許す気なんか、これっぽっちもねーよ!」

 

内心、私とノワールさんは安心している。確かに、今日雇ったばかりの状態で、契約金無し、給料も無しで同行している状態。もしも、お金で大臣側に回ったら、まだあの人は何かを隠している以上、苦戦を強いられる可能性は十分あったでしょう。ですが、それも消えた…後は目の前にいる大臣をフルボッコにすればいいだけの話。…ワレチューは今のエースさんが、無意識にヘッドロックしちゃったらしく、黙り込んでしまっています。

 

「だが、ここで女神をまとめて葬り去れば、全ての国がわしの手中に…!!」

「出来もしねー事を口にしてんじゃねーぞ。」

「くくく、今の言葉、わしの切り札を見てでもいえるかのぉ?」

 

大臣がポケットに手を突っ込んだ次の瞬間、何処からとも無くロボットのようなのが現れ、大臣はそれに乗り込む。

 

「見よ!女神を研究し、練りに練りつつルウィーの国家予算を横領して作った、このパワードスーツを!!」

「………!!」

「な、なんだと…!!」

「…あなた、国家予算まで…と言うより、大臣に管理させてた訳?」

「…流石に、管理が杜撰じゃないでしょうか?」

「う、うるせーな!!今は、あのヤローを打っ潰す事に集中しやがれ!!」

 

何でしょう、パワードスーツというからには、着込むタイプかと思いましたが、まさかの乗り込むタイプだったとは…しかし、大臣が用意したパワードスーツ、どこかで見た事があるような…。それに、そのパワードスーツを見たエースさんも、まるで見覚えのあるのが登場して驚いたように、前のめりになっているのを見てしまう。…ですが、今はそんなのを考えてる場合ではありませんね。

 

「ぐふふふ、ふははははは!!女神共め、このパワードスーツの性能の前に、ひれ伏すがいい!!」

「阿保か、んなだっせーの、粉々にしてやんぜ!!私を怒らせた事、あの世で後悔させてやらぁ!!」

「待ちなさいよ。殺しちゃったら、悪事を暴けなくなるわよ。」

「…半殺しならいいんじゃないですか?」

「ナナ…あなたねぇ…。」

「ふふ、やっと始まるのねぇ。…それじゃあ、ネズミさん。カメラ、よろしくぅ。」

「っ!!ら、らじゃーっちゅ!!」

 

プルちゃんの言葉が気付け薬になったのか、気絶していたワレチューが起き上がり、直ぐにカメラを取り出し撮影を開始しているのが分かる。…完全にプルちゃんがトラウマになっているのでしょうね。

 

「来るわよ!!構えて!!」

「いくぞぉ、女神共ぉ!!」

 

 

 

 

 

 



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Scene63 崩れ行く思想~Collapse~

 

 

【ルウィー:外郭】

 

XLバイオメカニック―――――

 

俺と剣士が、元居た世界で大量出現した、ニグーラの破壊兵器とも言える二足歩行の自立生命体。両手が腕で殴ってくるXLハンタータイプ、両腕がレーザー砲のXLマイナー、ロケット砲のXLメジャーと多彩であり、耐久力も馬鹿にならなかった。…今、それに似たようなのを、アクダイジーンが操っている。

 

ただ、人口生命体のように生々しい所はなく、如何にも機械といえる戦闘マシンに仕上がっている。それでも、姿形は、XLバイオメカニックの面影がある。出現時は思わず驚いてしまった。つまり、俺達が戦ってきた相手もゲイムギョウ界の技術を用いていた事になる。…調べつくしたと思ったが、まだまだ奥が深いようだ。

 

「ずびばぜんでしたあああああ!わしが悪うございましたあああ!!」

「オラッ声が小せえぞ、もう一回だ!!」

「あははははっ!!生意気に人間の言葉なんか話しちゃって…豚は豚らしくしてればいいのぉ!!」

「………。」

 

序盤からシリアス風に始めたのはいいが、俺の目の前ではある意味放送禁止ともいえる地獄絵図が繰り広げられている。…ああ、あの後、追い詰められた大臣ことアクダイジーンが、上記で言った面影のあるパワードスーツを使って、打倒女神と豪語するだけあり、アクダイジーンの使っていたダサいパワードスーツは、十分に女神を倒す性能を秘めていたと思われる。だが、試作品だったのか、未完成だったのかはネプギアと解体しないと分からないものの、操作が於保つかず使い切れていない印象だった。そして、一瞬の隙を付かれ、パワードスーツは粉砕。女神側の当初の予定通り、アクダイジーンの悪事を暴き、ルウィーを取り戻す為に再び全国放送を開始している。

 

「あ“あ”っ!!や、やめて、靴の踵で突っつくのを、髪の毛一本ずつ抜くのはぁ!!地味に痛いからぁ!!」

「豚の癖に、何指図してるのかしらぁ?」

「どうやら、まだ自分の立場が分かってねーようだ…なっ!!」

「…えっと、先ほどから放送している通り、この一連の行為は全て七賢人及び、現在罵られている大臣の企みによって実行されました。如何でしょう、解説のノワールさん。エースさん。」

「あ、はい。えーそうですね…一見、力ずくで無理矢理言わせているように見えてしまいますが、今回の件は全て事実で…」

「(そこで振るか…。)ええ、解説のノワールさんの発言通り、今回の計画は半年前から七賢人との合同で計画され、実行されたものと考えています。証拠は、大臣の執務室にありました。」

「…ねぇ、これ本当に流しちゃって大丈夫なの?あと、あなたそこまで調べてたのね…。」

「ど、どうでしょうね…。でも、止めたら止めたで、また別の問題も起きそうですよ…。」

「賽は投げられた。結果はどうあれ、気の済むまでやらせるのもありだろう。」

 

ここのブランからしたら、どれ程の年月を耐え抜いたか…殆どガス抜きもせずにやってきたと考えれば、あの暴力的とも言えるアクダイジーンへの仕打ちは、納得いくだろう。…プルルートは、あれはもう趣味なのか?常人からしたら、一番怒らせてはならない人物No.1に食い込んでくるだろう。とは言え、小物感が分かったのか、ブランの手が少しずつだが止まっていく。

 

「くそっ…こんな奴にいいように踊らされてたなんて、我ながら情けねーぜ…。」

「や、やっと終わるんですか?た、助かった…。」

「あらぁ、ブランちゃんはもういいの?それじゃあここからは、あたしのスペシャルコースとして、じっくりと…。」

「ひ、ひいいいいやあああああああああああ!!!」

「おい、テレビの前のてめーら…二度とわたしへの信仰を止めようとか考えんじゃねーぞ!!そん時は、此奴と同じ目に合わせてやるからなっ!!」

 

そして、放送自体はブランのこの言葉で幕を閉じたものの、プルルートのアクダイジーンへの御持て成し(?)はここから更に30分続いたのは、また別の話としよう。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【ルウィー教会:執務室】

 

「………。」

「………。もういいわ。済んだことでもあるし、顔を上げなさい。」

「だが…いえ、しかし、ブラン…ホワイトハート様へ御無礼と言える行為をしたことは事実であり―――――」

「いいから、顔上げやがれ…。」

 

放送後、暫く熱冷ましの時間も取り、執務室で更に休憩という形でお茶が出されている。が、俺は仲裁どころか、喧嘩を売ってしまった無礼を誤る為に土下座をしている所だった。ブランに諄いと思われたらしく、顔を上げる。

 

「確かに、あなたに負けたことは悔しい…けど、あなた達の言葉に耳を傾けていれば、早い段階で丸く収まっていたかもしれないのも事実。」

「いえ、まぁ…色々ありましたけど、全てひっくるめて一件落着という事でいいですよね?」

「うん。よかったねぇ~、ブランちゃん~。」

「…ん…、あの…。ありがと…ね?プルルート、ナナ、エース…。」

「いいですよ、これから協力しつつ、互いにいい国を作っていく仲ですし。」

「そぉだよ~。お友達なんだからぁ~。」

 

…5秒ぐらい沈黙があった。完全に一人の名を呼んでいないことに、ムッとしたのか突っかかりに行くようだ。

 

「…誰かひとり抜けてないかしら?」

「…あなたには絶対言わない。」

「なっ!!…ま、まぁ別に言ってほしくもないけどね。あなたにお礼言われても、気分が言いものでもないし。」

「んだとぉ…新米の分際で…!?」

「そっちこそ、ロートロの癖に…。」

『ふんっ!!』

「もぉ~、仲良くしなきゃだめだよぉ~。」

『はぁ…(………)。』

「それから、わたしはあなたを完全に許してはないわ。万全な状態になったら、もう一度戦ってもらうわ。」

「………。いいだろう。結果はどうあれ、それで御相子だ。」

 

どうやら、俺の知ってる二人とは違い、今後とも犬猿関係は続きそうな予感だ。おまけに挑戦状も叩きつけられる事となる。

 

「…そろそろ帰ってもいいんじゃないの?ここに長居する理由はないし、イストワールに報告しなきゃいけないでしょ?それに、エースの事も話し合わなきゃね。」

「あ~…そうですね。名残惜しいと思いますが、此方もやることはありますからね。」

「そうか…、また機会があれば来よう。」

「ブランちゃん、ばいば~い。」

 

全員が立ち会がり執務室から出ようとすると、何かを思い出したかのようにブランがプルルートに話しかけてくる。

 

「ま、待って…!その…暫くはわたし、国を立て直したりで忙しくなってしまうけど…。えっと…だから、時間が出来たら、そっちに遊びに行っても…いい?」

「うん、何時でもいいよぉ~。」

「プルちゃんが宜しいのなら、私も歓迎しますよ。」

「ほ、本当…!?や、約束、絶対だからね?」

「うんうん、約束絶対~。」

「…よかった…あは…。」

 

RPG的に言うのであれば仲間が増えて喜ばしい事だろうが、この状況を不満げに見ている人物が一人いる。

 

「むぅ…。」

「どうした、仲間が増えて喜ばしい事じゃないのか?」

「わ、私は、全然嬉しくないわっ!!」

「………。嫉妬か?」

「な、ななな、何よ、嫉妬って…!!…んもぅ…!!ぷ、プルルート!ナナ!何時までも喋ってないで、さっさと帰るわよ!!」

「わわっ、引っ張らないでぇ~!」「な、何ですか、ノワールさん!?」

「あ…。」

 

そう言ってノワールは、会話の中に割る様に二人を引っ張りつつ、部屋を後にしてしまう。プルルートは引っ張られながらもマイペースに“またね~”と言いつつブランに手を振っている。

 

「…済まないな。」

「あなたが謝る必要はないわ。会う約束もしたし。わたしはそれだけで満足よ。」

「そうか…。」

「あなたにも、色々と話したいことはあるけど、今はそうも言ってられないわ。早くしないと置いていかれるわよ?」

「そうだな…。」

 

ブランに一礼しその場を後にする。合流した後、プルルートが牢屋の中で、何故ブランに優しかったのかという話になっていたが、泣いているブランが可愛くて優しくしてから突き放したら、もっと泣いてくれるんじゃないかと。…改めて、プルルートは常人の性格では厳しい…そういう性格なのだと理解した。プラネテューヌに帰還後、どういう訳か、俺が女神化のプルルートに驚かなかったのも不服だったのか、プルルートにちょっかい出されたのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ:教会前】

 

…あれから数週間が過ぎた。クエストを受け、安定して生活が出来るようになっている。どういう訳か、こっちのプラネテューヌとも縁があるのか、プラネテューヌ教会付近の貸し部屋に居候する形となっている。で、今プラネテューヌに向かって自転車(ママチャリ)を漕いで “3人の子どもを乗せ”ている俺は、ごく一般的…ではないな。どうしてこういう状況になっているのかは1時間前に遡る。

 

 

 

「恐らくですが、エースさんはここに来て少し話は聞いていると思いますが…子どもの誘拐事件が多発していることはご存知でしょうか(・ω・)?」

「その話はノワールから聞いている。」

「では、説明は省略させて頂きますね。実は貴方に私から依頼(クエスト)を出したいと思いましてo(・ω・。)」

「…要件を聞こう。」

「ここプラネテューヌの教会を、数日前から一時的に託児所にすることが決定しました。誘拐されるとなると、やはり物騒ですからね。教会に助けを求める子持ちの方や、先ほど言った保育所等から色々とお言葉を頂いてます( -ω-)و」

「保育所か…。」

「それで、教会に一時的に子どもを預けたいと、とある孤児院から連絡がありました。やはり、万が一に防衛手段をと考えると、そこでは心もとないとの事です(・ω・)」

「…その子どもを、ここに連れてきてほしいと?」

「はい、そうです。今、ナナさんも別件で席を外していますし、プルルートさんは相変わらずの調子ですので…(・Д・`)」

 

 

 

…そんな訳で、子どもを乗せてプラネテューヌに送り届ける為に再び戻ってきたのだ。最初は乗り気ではなかったが、この事件には恐らく裏があると考えている。女神達の情報では身代金目的の誘拐や、奴隷売買的な事では無いらしい。基本的な情報はここで途切れている為、憶測も何もできやしない。ただ言える事は、ラステイションでは孤児院や保育園から誘拐されているという情報はない。兎に角、子どもを送り届けたら情報を集める必要がある。因みにだが、預かる期間は無期限で、早期にこの誘拐事件の犯人が捕まったら、また預かりに戻るとの事。そのまま成人まで預かっても構わないと言う。育児放棄に近いものを感じるが、今日行った孤児院はボランティアで行っている以上、仕方ない事なのかもしれない。…言っとくが俺は、子どもは嫌いではない。元居た世界でも救助とかでよく見るし、子どもの笑顔が守るのもS.T.O.P.の目指すものの一つでもあった。

 

しかし――――――

 

「だうー…。」

「うーうー…。」

「だー!だー!」

 

最後に声をあげた1人は見た目通りの活発さだ。前者2人の子どもは大人しい方だが、何処かで見たような面影がある。そもそも、名前が“コンパ”と“アイエフ”だ。最後の一人は“ピーシェ”と名付けられている。まぁ今は教会へ送り届けるのが最優先であり、教会の扉に手を掛け中へ入る。

 

「あ~、えー君おかえりぃ~。」

「あ、ご苦労様です。エースさん('ω' )」

「連絡のあった子ども達だ。誘拐事件が終わるまで預かってほしいと言う。」

「分かりました。早期に解決できればいいのですが…(-ω-;)」

 

軽く連れてきた子どもの紹介をし、ナナが戻ってくるまで子育てを手伝う事にした。1、2歳児3人を1人で面倒を見るのは大変だろう。活発次期でもあるし、何よりプルルートのストレスが溜まったら、度々女神化していい?と半場ストレス発散よも思える事もある。他の人から見たら脅しとして使ってるようにも見えるが、悪意があって言っている訳でないから何とも言えない。

 

 

 

「ううーっ!」

「…Nギアを使いこなしている。アイエフ、恐ろしい子…。」

「えすー…ぱーんちっ!!」

「っ!!み、みぞおちは、危険だからダメだぞ…(威力、パンチの角度共に的確だ。)」

「あぅ?みぞち?」

「すー…すー…。」

「い~なぁ、えー君。2人にも懐かれてぇ。」

「…そう見えるか。」

 

プルルートは子コンパを上手くあやしており、活発な二人は大人しくなる気配がない。ただ、Nギアを巧みに扱う子アイエフに気を取られ、危なくピーシェの的確なみぞおちパンチを受ける所だった。そうしているうちに、子アイエフがネプテューヌの映っている写真を開いた時、ピーシェが妙に興味を持っていて、名前を教えると“ねぷてぬ”となった。プルルートも“ネプちゃんかぁ…”と既にニックネームで呼びつつ興味を持っている。

 

そんな事をしていると、外から喋り声が聞こえている。入ってくるまで妙に時間はかかっていたが、ようやく扉を開けて入ってくる。

 

「只今戻りました。っと、エースさんもいたのですね。」

「おかえり~。もぉ~遅いよぉ~。」

「ああ、邪魔してる。…で、扉の前で何してたんだ。」

「ああ…ノワールさんとブランさんが―――――」

「それは言わなくていいわよ!!…邪魔するわよ。」

「…お邪魔します。」

「あ~、ノワールちゃん、ブランちゃん、いらっしゃ~い。」

 

大勢という訳でもないが、急に人が増えたからか子コンパが泣き始めてしまう。

 

「びくびく…ふ、ふぇえ…」

「わわぁ、大丈夫だよ~、怖い人達じゃないからぁ~。」

「えぇ!?ま、まさか、泣いちゃうの!?」

「…泣いてる子どもは、苦手なんだけど…。」

「…それを子どもの前で言うか。」

「う、うるせー…。」

「あらら…大丈夫ですよ~。ほらほら―――――」

 

泣き出しそうになった子コンパは、ナナが上手い具合にあやして事は済んだ。“ナナちゃん、あやすの上手ぅ~”とプルルートから賛同を受けている。…が、ノワールの発言で暴走し始めてしまう。

 

「…ところでさ、プルルート、エース…そこに居るのって…。」

「ほぇ?子ども達のことぉ?」

「この子たちか?生後間もなくはないが…。」

『………。』

「あぁ、なるほど…。…ん?」

 

ナナは恐らくイストワールから報告を受けていたから、託児所の話は聞いているはず。が、ノワールとブランは目を丸くしてから、息を吸って―――――

 

『ええええええええええええ!?』

「ふぇ…ひ、ぶぇえええええええ!!」

「わああ!だ、ダメだよぉ、大きな声出しらぁ~!」

「ど、どうしたんですか二人共…!?」

「お、大声ぐらい出すわよ!!あなた、いつの間に…っていうか、相手は誰なの!!まさか…。」

「…俺を見るな。」

「えっとぉ~…。」

「前に来た時は、そんな影は感じられなかったわ。という事は…コウノトリ…いえ、キャベツの可能性も捨てきれない。」

「あ、あの、とりあえず冷静になりましょう?」

「そ、そうよ、冷静になるには…。」

「素数を数えれば…。」

『………。』

「もぉ二人共ぉ、話を聞いてぇ~。」

 

会話文が長くなる上に、徐々にカオスな方向へと向かっている。そもそも、ノワールにはプラネテューヌの計画情報は行き届いてないのか?そこに、助け舟のようにイストワールが現れる。

 

「…全く、騒がしいから何かと思いましたが、何バカな事を話してるんですか(´・д・`;)」

「イストワール様…。」

「ああ、丁度いい所に…!どうして事前に教えてくれなかったの!!」

「本来なら祝福したいところだけど、状況が状況なだけに素直に喜べないわ…。」

「だからぁ~。」

 

こんな状況だからか、イストワールも呆れ顔をしている。この様子だと、恐らく伝えていたのだろう。

 

「ノワールさんの教会にも連絡しましたよね?ナナさん(´A`;)」

「はい。子どもの行方不明事件への対応として、ここプラネテューヌ教会を一時的に託児所にするというお話を…。」

「た、託児所…あ…。」

「連絡は行き届いていたのか。」

「ええ。ただ、連絡手段やら報告手順などが整ってないルウィーには、この事を報告していませんので、ブランさんが知らないのは仕方がありませんが…。」

「と、いう事は…この子たちは、プルルートの子どもではない?」

「そ~だよぉ。あたし、男の子というより、えー君とも手をつないだことないのにぃ~。」

「ブランさんは兎も角、何故ノワールさんは勘違いなさるなんて…(ノД`)」

 

とりあえずは、この訳の分からない事は収まった。が、それとは別に子ども達は元気よく遊んでいる。

 

「てぃっ!!」

「いちゃっ!!び、びえええええ…!!ぷぅーちゃーん…!!」

「こあー!いじめたらめー!」

「わぁ!ケンカはダメだよぉ!」

 

こっちの事情はお構いなしに、喧嘩…というよりはじゃれ合いが勃発している。これを止める為にピーシェを抱き上げるも、“だぁ、はなちぇー!”と言いつつ、子コンパに当たらなかったが積み木を投げたりする。

 

「ああ、ダメですよ。人に物を投げては…。」

「…折角だけど、日を改めた方がよさそうね。」

「そうね、また今度二人の手が空いてる時に来るとしましょ。」

 

と、ノワールとブランは教会から出ようとすると、プルルートに“帰っちゃうのぉ?”と引き留めつつ、手伝ってほしいと言う。そして、プルルートによる魔法の言葉“変身”を言い無理矢理二人を手伝わせる事となる。この状況では俺も退場は出来ない。子育てスキルを磨くついでに付き合うのも悪くはない。

 

「…しかしこれ、お二人が帰って“ラステイションとルウィーの女神は子どもが苦手”とか“子育てが苦手なのか~”とか言われる可能性もあるんですよね。」

「ナナ…。」

「あなた、意外と毒があるわね…。」

「え?…あ…。」

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

一方その頃―――――

 

【七賢人:会議室】

 

「ああああああああ…口惜しいのう、口惜しいのう…。前代未聞の恥晒しじゃぁああ…許さんぞ女神共ぉ…許すまじ…。」

「な、なんで言い直したんですか…。それに、あの…いい加減、立ち直って頂けると、そのぉ…。」

「ええい鬱陶しい!!貴様、いい年した男が何時までもウジウジするな!!」

「あらぁ、意外…マジェちゃんって男のお尻を叩くタイプなのねぇ…。」

「貴様…次言ったらその口縫い合わすぞ。」

「ってゆーか、よくもまぁ、戦闘シーン無い上にあんな醜態を晒した癖に、いけいけしゃあしゃあと会議に来れたわね。アンタのせいでこっちは大変なのよ!!」

 

場所が女神達にバレてない為、前回と同じところを使い会議をしている七賢人。だが、前回に比べて明らかに空気が重くなっている。それもそのはず…前回退場願おうと計画を早め行動に出たアクダイジーンが、その退場するはずの女神達に負けた上、見っとも無い姿も曝け出され、計画も七賢人の仕業だと証拠も突き詰められ広められてしまった。おまけにルウィーは復活だけでなく他の国とも協力関係を結ぶ計画も順調に進んでしまっている。その為に、七賢人の評判がガタ落ち、顔の割れてしまっているアクダイジーン、アブネス、ワレチューは風当たりもあり、表舞台での行動がしにくくなってしまったのである。そして内部での喧嘩が勃発する始末である。そんなこんなで、アブネスは“付き合ってられない!”と言いつつ、会議室を出てしまう。

 

「全く…五月蠅いのが居なくなって清々するわい。」

「きゅ、急に元気になったっちゅね…」

「元気になるのはいいけどぉ、コピリーちゃんも、アーさんのスーツも修復までまだまだ時間掛かるわ。正直な話、行き詰ってる感はあるわよねぇ。代わりに、あっちの計画は進んでいるけど。」

「ふふ、その話はあの五月蠅いのに聞かれては、少々厄介じゃの。」

「…私は乗り気ではないのだがな…。」

「もぅ、マジェちゃんったらぁ。レイちゃんも嫌がってるのに、そう言われたらぁ…。」

「貴様等七賢人としては必要なのだろうが、女神達を私の力でねじ伏せるやり方とは違うのだからな…。」

 

戦闘面での計画とは別に、七賢人として何かしらの計画を進めている。だが、賛成二人、反対二人、中立一人…ではなく一匹と意見が分かれてしまっている。

 

「何を恐れているのじゃ。この計画が進まなければ、わし達の王国を築き上げることは出来ぬのだぞ?」

「だが、その計画がバレてしまった場合、隠蔽計画とかあるのか?それに、あの女が更に五月蠅くなるのが目に見えている。」

「だからこそ、そうならないのをターゲットにしてるのではないか。」

「あ、あの…喧嘩は、ダメですよ…?」

『五月蠅い!外野は黙っていろ(黙っておれ)!!』

「ひぃっ!ごめんなさい、ごめんなさい…!!」

「これじゃあ、何時もと変わらないっちゅね。」

「そうねぇ…行き詰ってるのは事実だし、こっちの計画も出発点に立っている訳でもないしねぇ。」

 

素材はあるが、見切り発信状態では話ならない。そんな状況な為に、様子見を取らざるを得ない七賢人である。だが、ここから先、女神だけでなく七賢人も願ったり叶ったりと思えない出来事が起きることは、また別の話となる。

 

 

 

 

 

 



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Scene64 新なる第四の国~Visit~

【リーンボックス教会:執務室】

 

「ようこそ、おいで下さいましたわ。ささ、お座りになって。」

「………。(相変わらずだな、リーンボックスの教会は…。)」

 

まず、ここへ来た理由を話さなければならない。前回の子ども達を寝かしつけた後、イストワールが慌てた様子で2点報告があった。最も慌てている理由は1つ目の物で、ある国から宣戦布告のような連絡を受け、自国へ来て欲しいという連絡。ただ、誘拐事件の対策、罠の可能性も含め女神が迂闊に席を外すわけにはいかず、俺がライブカメラを付けた状態で宣戦布告をした国(リーンボックス)へ出向くという事で交渉成立となり、今に至る。もう1つの方は、文字化けの酷い電子文であり差出人すら分からない状態だった。不気味な感じはするも最優先は、1つ目の連絡があった国へ行く事である。ご丁寧に、その国へ行く為の船(操縦士付)も用意されており、すんなりと向かう事が出来た。

 

〔…え?ここが、リーンボックスの…執務室…?〕

〔な…なんなのよ、ここは!!ただの遊び場じゃない!!〕

〔神聖なる女神の仕事場…だというの…?〕

〔ほぇ~、ねぇねぇ、なんであのポスターの男の人ってぇ、服着てないのかなぁ?うわぁ!男の人同士てぇ、キスしようとしてるぅ!!〕

〔えぇ…。〕

〔ちょぉっ!プ、プルルート、見るんじゃないの!!ってかエース、変なの映すな!!〕

 

ライブカメラ越しにリーンボックスの空間に圧倒される(?)4人の女神の声が、スピーカーから漏れている。その執務室は、ネプテューヌ並みの趣味部屋と化している。充実したゲームの数々、レース用の筐体とも言える運転席付きのコントローラー、この世界では最先端を進んでいるであろう作業用PC…だが一番の問題は趣味としている内容であるBL系のフィギュアや絵が飾られている。ネプテューヌ達なら当たり前の光景なのだが、リーンボックスの女神ベールの私情を知らないのであれば当然の反応と言える。ちなみに、電波の関係上ノワールとブランはプラネテューヌに来ており、ライブカメラの前に居る。ちなみに、プラネテューヌの様子は、リーンボックスが用意した大型TVにライブカメラを出力して映像を出している。

 

「改めまして…わたくしがリーンボックスの女神、ベールですわ。先立っては正体も明かさず、失礼いたしました。」

「…要件を聞く前に、聞きたことがある。何故、今回のライブカメラの要件を飲んでくれた。」

 

普通であれば、今回の要件は受け取り難いがOKという返事な事。それなりの理由があって飲んだと考えるのが無難だ。

 

「その事に関しては、そちらの現状を把握しての決断…という事で宜しくて?」

〔と、言いますと?〕

「此方では被害は少ないですが、誘拐事件が起きています。故に、そのような事で他国のシェアが落ちるような事があっても、素直に喜べませんわ。わたくしの策略でシェアを得る…そうでなくては華がありませんわ。」

〔その余裕が、後であなたの足を引っ張っても知らないわよ?〕

 

これからライバル関係になるであろう他国に、塩を送るとも言える気遣いという事か。

 

〔…それで、ルウィーに来てたのは自らスパイ行動を行っていた。…という解釈でいいのかしら?〕

「ええ、ご明察。想定より、頭は悪くないようですのね。これは、少し訂正が必要ですわ。」

〔気に入らねーな…見下した言い方しやがって。〕

 

要件を聞く予定だったのだが、他国へ自ら入っていた等聞いておかなければならない事が、女神達にあるようだ。(プラネテューヌは除く)

 

〔詰まる所、自国以外を見聞きした上で踏み切ったというのなら、それなりの自信があるという事よね?〕

「あら、御察しが宜しくて…。わたくし以外の女神は、お頭が弱いと計算していたのですが…。これも訂正しなければなりませんわね…。」

《お頭が弱いのはあの子だけ(よ・だ)!!》

〔おぉ~、綺麗にハモったぁ~。〕

〔何でこういう時に限って、お二人の息はぴったりなんでしょうか。〕

 

ここのノワールとブランは、元居たところの二人と比べると意気投合しやすい所があるのかもしれないな。漫才している場合ではないのだが。

 

〔ですが、私達女神4人に対して1人で挑む心算でいるのですか?〕

〔だったら尚更、流石に調子に乗り過ぎてるって事よ…その伸び切った鼻っ柱を叩き折ってやるだけ…!〕

「…と、ルウィーの女神は仰ってるが、そっちは戦争する気などないのだろう?」

「ええ、わたくしは何処ぞの女神と違いまして、野蛮な事はしませんわ。」

〔…んだとゴラァっ!!〕

 

カメラ越しに殴り掛かろうとするブラン、それをナナが落ち着けと言わんばかりに抑えている。…まぁ、ネプテューヌの話からして、友好条約を結んでない時はこんな感じだったのだろう。

 

「つまり、戦い以外で決着をつけると言いたいのか。」

「ご名答ですわ。わたくしは、正々堂々と大陸全土のシェアを頂いてしまおうと思ってますの。見て下さいまし。このリーンボックス製の最新ハードを普及させれば、自然と人々の信仰はリーンボックスへと集まる寸法ですわ。」

「…でかいな。」

「大きいだけではありませんのよ?性能だって、何処のハードより数段上と言ってもいいですわ。」

 

ベールが指を鳴らし、職員がその最新ハードと言うのを持ってくる。中々の大きさでX字の模様が入っている。コントローラーも十字キーがある場所がアナログスティックと言った具合になっている。

 

「それに、わたくしにはあって、あなた方には足りないモノ(・・)を持っていますのよ。」

《モノ…?》

 

そうベールが言うと、ビデオチャットの画面へと目を向ける。まるで何かを見定めているような、嘗め回しているような目をしている。

 

ぽいーん―――――ぷりんー―――――ぺたーーーん―――――ぺたんこ―――――ガチムーチ―――――

 

〔むぅ~…じろ~っ…。〕

 

バイーン!!

 

〔うわ~っ!?効果音が全然違う~!!〕

 

…一体何処から突っ込めばいいんだ?さっき聞こえてきた、無料で配布されてそうな効果音はなんだったんだ?あと最初の最後尾にあった効果音は俺か、俺なのか?

 

「ふむふむ…、人並が二人、平均以下が一人、絶望的なのが一人…。」

〔ほっ…私は人並か…うんうん…。〕

〔えぇ…そこ見てたんですか…。〕

〔て…てめぇ…絶望的ってのはどういうことだコラーっ!!〕

「あらあら、名指しした覚えはありませんが…心当たりがあるという事ですのね。」

〔なっ、ぐっ…ぐぐぐ…!!〕

 

自ら墓穴を掘りつつ挑発を受け、それに乗っかるブランは女神化をする。…人の教会で何してるんだ。

 

〔てんめぇえええ!!今からそっち行ってブっ潰してやらぁ!!〕

〔だからって、ここで暴れないで下さいっ!!〕〔わああああっ!!暴れちゃダメだよぉ~!!〕

「ふふっこの様子でしたら、既に白黒はついていると思いまして?」

「まだ始まっていない。白黒つけるのは一足早いのでは?」

「心配ご無用ですわ。全てリサーチした上での勝負ですから、負ける事などありませんわ。」

 

ベールらしいと言えばそうだが、随分と強気と言うか無謀とも言える。ついでに差し出されたハードは俺への手土産だそうだ。おまけとして、戦闘用特化のコンバットショットガンも手土産と言う。ベールの説明では、ポンプアクションとセミオートを切り替えられると言う。…その割には随分と重量を感じる。

 

「わたくしからは以上ですわ。ふふっ残り少ない繁栄を、どうぞお楽しみくださいませ。」

 

そう言って、高笑いをしつつベールは部屋から出ていく。任務や戦いでなければ、俺が出る出番は少なそうだ。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ:教会】

 

「ぐううう…許さねー…ぜってー、あいつだけは許さねー!!」

 

リーンボックスのライブチャットを終え、何やら色々と手土産を持って帰るエースさんは帰還する事となりました。ベールさんの自信満々な態度にお怒りなブランさんは、その怒りが収まることなく女神化を解除しない様子でいます。帰路の最中のエースさんは一応電話で、ライブチャット後の会話に参加する形になっている。

 

「でも、まさか真っ当な方法で来るなんてね…。」

「んなもん関係ねー!こっちも正面から受けて立つまでだ!!」

〔同じ土俵で戦うだけだろ。〕

「そういうこったっ!要は向こうのハードが見向きもしねーハードを、こっちが用意して売り捌けばいーだけだろーが!そうと分かったなら、さっさと行動に移さねーとな!!」

 

そう言って、ブランさんは颯爽に教会から出ていく。先手を取られた以上、長居する理由もありませんから、無難な考えではありますよね。

 

「まぁ、ブランさんの言う通りですね。解散して、打てる対策をやっておいたほうがいいかと。」

「そうね、急ぐに越したことはないしね。まぁ、こっちとしてもハード性能には自信あるし、販売促進キャンペーンとかやっておかなきゃね。」

「ノワールちゃんも、帰っちゃうのぉ?」

「あなたねぇ…一応言っとくけど、シェアを奪い合う関係には変わりないんだから、もっと緊張感持ちなさいよね。」

 

そう言ってノワールさんも教会から出て行った。

 

「ねぇ~ナナちゃん、あたし達も何かした方がいいのかなぁ?」

「ええまぁ、流れ的にはした方がいいとは思いますよ。」

〔…悪いが、今回は女神自身の問題だ。協力はするが支援はしないからな。記憶探しとか。〕

「ほぇ?」

「…あ。」

 

色々とあって忘れがちですが、私は記憶喪失だった。エースさんに会ってから何か引っかかりがあるものの、記憶の扉を開けるまでにはまだ至っていない状況です。…とはいえ、今は対リーンボックスの事が大事でしょう。

 

「…分かってますよ。」

「えぇ~、えー君助けてくれないのぉ?」

『………。』

 

 

 

 

 

…一週間後―――――

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ:教会】

 

ノワールさんとブランさんが、一週間ぶりにプラネテューヌへと赴く。理由はまぁ、経過報告というべきでしょうか。ただ、この場にエースさんはいない。どうも一週間前に渡された銃の性能報告をして欲しいと、リーンボックスに招かれているそうです。

 

「どう?あなた達の国は…何か変化でもあったの?」

 

ノワールさんが確認を含め、話を仕切る様に話し出す。その言葉に反応するように、ブランさんは首を横に振る。

 

「かなりのリーンボックス製のハードが入って来たわ。でも、わたしの所ではシェアの変化はないわ。」

「プラネテューヌも、同じような状況ですね(。・Д・)ゞ」

「ほぇ~、そうなんだぁ~。いーすんいつの間に調べてたのぉ?」

「プルちゃんが遊んでたり、寝ている間に調べたんですよ…。」

「相変わらずなのね、プルルートは…。」

 

そう言いつつ、自分の所もシェアの変化は見られないとノワールさんは言う。国民から意見やアンケートを集めたところ、ラインナップ不足や故障多発と言ったのが原因と言います。プラネテューヌとルウィーに関しては、大きすぎるや操作する為のコントローラーが持ちにくいとか…言い始めたらきりがありません。ああそうそう、プルちゃんが何気にいーすんと言ったのは、数日前にエースさんが“いーすん”とポツリッと呟いていたのを、プルちゃんが聞いて、“イストワールの名前を略して言うなら”との事。それでプルちゃんはお気に入りになりイストワールさんを“いーすん”と呼ぶようになり、最初は困惑してましたが慣れたようです。ただ、その時のエースさんは時々左手に付けてる白色のネッグリングを見つめていた時と同様、何処か遠くを見ていたような上の空だったような…とプルちゃんは言ってました。

 

―――――ドドドドドドッ

 

「な、何の音?」

「外からのようですが…。」

 

バーンッ―――――

 

と、外からの足音が扉の前まで近づき、ものすごい勢いと共に見覚えのある人が入ってきました。

 

「あなた達、よくもこのような卑怯な手を使ってくれましたわね…!!」

「入ってきて、第一声がそれ?」

「わたし達が何をしたと…?」

「…白を切るお心算ですの?そうは、いきませんわよ。これほどの屈辱を味わったのは、生まれて初めてですのよ?」

 

何か不満な事があったのか、お怒りな表情でリーンボックスの女神様であるベールさんが、私達が集まっているプラネテューヌへと赴いてきました。その後ろから、面倒臭そうな感じでエースさんが入ってきました。

 

「エースさん。」

「あ~、えー君。どうしたのぉ?」

「…見ての通りだ。国民からのリーンボックスの製品が酷評である事。その事でお怒りのようで…。」

「そういう事ですのよ!それもこれも、あなた方による卑怯なネガティブキャンペーンのせいですわ!そうに違いありませんわ!!」

「めがてぶきゃんぺーん?」

「ネガティブです、プルちゃん…。」

 

…だそうです。エースさんも情報を集めて“仕方がない”と述べていたのですが聞く耳持たずと言ったところだそうです。おまけに、“あなたはスパイなのですね!”と言われたらしい…。

 

「あの、横から申し訳ないと思うのですが、私達は何もしませんよ?( ˘•ω•˘ ).。oஇ」

「え…えぇ?で、では、本当に何もしていないと…?わたくしの国では、大人気のハードですのよ?」

「でも、国民からの意見はそうなってるのよ。何もしてなくてね。」

「私とプルちゃんも、特に何も…。」

「わたしからしたら、負け犬の遠吠えにしか聞こえないわ。そっちでは人気だとしても、こっちの大陸ではニーズが合わなかった。それが全てね。」

「性能を求めすぎて、デカくなり過ぎたのも受け入れ難かったのだろう。」

 

自信たっぷりに言ってた一週間前とは打って変わり、形勢逆転のように言いたいことを言っていく形になっている。ただ、これだけの意見を言っても、どうもその張本人は負けを認めていないみたいです。

 

「…そ、そうですわ。これは罠ですわ!!わたくしを陥れる為に仕組まれた罠!!そ、それに、ハードだって、胸だって、大きい方がいいに決まってますもの!?」

『………。』

「…てめぇ…遂に胸って単語使いやがったなコノヤロー!!」

 

負けを認めないベールさんに呆れてしまう中、禁句が混ざっていたせいかブランさんが女神化してしまう。

 

「表に出やがれ、出なければ今この場で叩き潰してやるっ!!」

「わーわー!うちの教会内で暴れないでください!!(゚□゚;)」

「いいなぁブランちゃんは~、何時でも直ぐ変身して~…。」

「…私は止めませんよ?」

「全く、賑やかすぎる。」

「あ、あなたは変身しちゃダメよ!ナナも、何投げ捨ててるのよ!!」

 

どんどんカオスな方向へと進む中、ベールさんが何かを決心したかのように口を開く。

 

「いいですわ、そっちがその気なら決着をつけて差し上げますわ!無論、こんなちんけな場所で決する気はありませんわ。」

「…結局、野蛮な考えになってるな。」

「お、お黙り!!戦いの場は、わたくしが女神として生を受けた神聖な場所とさせていただきます!!」

 

エースさんから突っ込みを受けたものの、なんだか武力で争うような展開になってしまいました。なんかもう止める為の手段が思いつきません…。

 

「はっ!てめーのホームグランドに来いってのかよ。偉そーな態度の割に言う事はせけーな。」

「何とでも仰いなさいな。あの場所でなら、わたくしは最大限の力を出す事ができましてよ。それに、そちらは4人で戦ってもいいのですから、ハンデという事でいいですわね?…全身全霊をもってあなた方を叩き潰してあげますわ!!」

「どう考えても、そっちが有利よね。それに、そっちに行く理由が見当たらないんだけど?」

「それならそれで構いませんわよ?ただし、それで来なかったのでしたら、そちらの大陸の女神様は、わたくしを恐れて逃げたという事を広めるだけですわよ。」

 

そして、勝手に話が進んでいき来る来ないは自由だが、逃げ場を無くすような言い方をする。…あれ、四人?

 

「終いには挑発かよ…いいぜ、その挑発乗ってやろーじゃねーかっ!!」

「あれ、エースさんは?」

「女神同士の喧嘩だ。元傭兵、現旅人の俺は無関k―――――」

「いいえ、あなたはわたくしと一緒に戦ってもらいますわ。」

 

私の疑問含め、その言葉に全員が“えっ?”と言いたくなるように固まってしまった。

 

「…指定するのはいいが、俺はあんたに仕える義理はないが?」

「確かに…でも、あなたはわたくしの国で使用予定の銃を、無断で開封して改造した。つまりは、ライセンス違反にあたりましてよ?それを帳消しにする為にも、手伝ってもらいますわ。」

「あ、あなた、そんな事してた訳?」

「………。」

「黙っているってことは、間違ってねーのか…。」

「…という訳だ。」

「ちょっと、エース。待ちなさい!!」

 

ブランさんが挑発に乗ってしまい、もう逃げる事は出来なくなってしまったのもありますが、エースさんは今回、敵に回ってしまうみたいです。エースさんが部屋を後にすると同時に“数時間後が楽しみ…待っていますわよ。”とベールさんも言葉を残し部屋を出ていく。

 

「…行っちゃったぁ~。」

「なんか、ややこしい事になりましたね。」

「もう…話を勝手に決めないで欲しいわ。」

「う…わ、悪かったよ…。」

 

そう言いつつ、ブランさんは私達に謝罪をする。ですが、場合によりますが、今回は厄介な事になります。買収されたような形で、エースさんがリーンボックス側についたとなると、何をしてくるか分からない。リーンボックスの女神と一緒に戦うのか、私達の情報を売り有利条件を整え得るのか…。

 

「…そんなの関係ないわ。別に嫌なら来なくていいし、わたし一人でも負けるはずがない。」

「ですが、ここで行かないとデマを流されるのも困りますしね…行かざるを得ませんね。」

「ナナちゃんが行くならぁ、あたしも行く~。」

「…はぁ、一緒に行動するのはアレだけど、今回ばかりはそう言ってられないのかしらね。」

 

ノワールさんも、渋々ながら同行するようです。とりあえず、イストワールさんに確認をし、留守番は大丈夫と確認したので、場所を調べつつ全員でリーンボックスへ向かう事となります。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【七賢人:会議室】

 

「うううううっ!!どうしましょう、どうしましょ!!うううううっ!!」

「こいつは、何時も何時もあわあわしておるな…。」

「はぁ…リーンボックスの女神が色々と回ってから、この調子よね…。」

 

毎度御馴染みの七賢人の会議ではあるが、何時も以上にトップ(?)は慌てている。原因は、南に離れた島であるリーンボックスという国を、ノーマークとして全く調べていなかった上に、三ヵ国に喧嘩を売ってきた事もあり今に至る。

 

「ううううーー、どんどん、どんどん国も女神も増え、国が4つで女神が…うううううっ!!」

「何度も言うが…鬱陶しんだ、貴様は!少しは落ち着いて居られないのか。あと、うーうー言うのを止めろ!!」

「おおおお、落ち着いて居られる状況ですか!!何か案でもあるのですか!!」

「むむ、珍しく反抗したっちゅ。」

「あらまぁ、レイちゃんも一皮剥けたのねぇ。でもぉ、それを言う相手は選ぶべきよぉ?」

 

その事を言われ、“え?”という表情をしつつも、直ぐに何か察したかのように怯えた表情になる。

 

「おい…誰に向かってその言葉を言った…?」

「ひぃっす、すみません…ちょっと気が動転してしまって…その…。」

「だが、今回はわし等が手を出す必要はなかろう。女神同士の潰し合いなのだから、これで何処か潰れてくれたら好都合じゃわい。」

「そうねぇ…リーンボックスの女神は幼女のヨの字もないし、興味ないわ。」

 

一人を除き、全員が今回は手出し無用という形をとるが、万が一を考えてしまうという思考の為か、またしても“うううううっ!!”と言いつつレイと言われた女性は慌てだす。

 

「ああ…クソッ。我慢の限界だ…。」

 

そんな状況にウンザリしたのか、マジェコンヌは立ち上がり部屋を出ようとする。

 

「あら、マジェちゃん。何処へ行くの?」

「決まっている、リーンボックスだ。そこの女神を潰しに行く。ついでに全員潰してしまえば、そこの女も少しは黙るだろう?」

「ええ?ま、マジェコンヌさん…?」

「ほう、珍しく情でも出たかのぅ?」

「ちょっとちょっと、あなた熱でもあるんじゃないの?」

「遂にオバハンは、思考までも老化してしまったっちゅか?」

 

…と、ディスられっぷりである。

 

「ち、違うわ!!何もしない貴様等にウンザリしてたから、ひと暴れしたくなっただけだ!!それとネズミ、一言多いぞ…。」

「ふぅん…それじゃあ、そんな優しいマジェちゃんに、アタシから手助けも込めて、愛のプ・レ・ゼ・ン・ト。」

「ええい、何が優しいだ!!あと、下らないものだったら、その場で壊すぞ。」

「アーさんのパワードスーツはまだだけど、ようやくマジェちゃんの愛しの彼(・・・・)が直ったのよ。試運転ついでに連れてって貰うと助かるわ。」

「…愛しの…彼…?」

 

全く身に覚えのない愛しの彼に“?”が大量に頭から放出されているような表情をする。“きっと気に入ってくれるわ”と言いつつ、その彼がいる場所へと案内されるマジェコンヌである。そして、その愛しの彼がいる場所へと連れていかれる。

 

「どぉ?元通りよぉ。」

「…おい。」

 

そこにあったのは、描写はなかったが嘗て女神によってボッコボコにされつつバラバラになった、ゲーム等(カセット系限定)を複製し、それ以外は破壊するという事に特化しつた人工AI搭載独立戦闘マシン”コピリーエース”である。態々パーツを回収し修復をしたのである。旧型ではあるものの、戦力としては申し分ない為に修復し再び戦地へと投下したいという考えであった。

 

「貴様、からかってるのか?」

「あら、気に入ってくれないの?元通りにしただけじゃなくて、マジェちゃんやアーさんの戦闘データを最適化して、より女神との戦いにも対応できるようにしたのよ?ついでに、腕に磨きをかけて特別にチューニングしたのよ。」

「そこじゃない…此奴は私の愛しの彼でもなんでもないわっ!!あと、何をチューニングしたと言うんだ。」

「うふふ…それは、稼働してからのお楽しみよ?」

 

そう言って、パワースーツに身を包んだ男は部屋から出ていく。そして、マジェコンヌは、要らないとはいえ、試運転を任されてしまった為に恐る恐るコピリーエースの電源スイッチを押すのだった。

 

 

 

 

 

 



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Scene65 戦いの行先・共闘~DeadHeat~

【リーンボックス:ヘイロウ森林】

 

あの後、軽くリーンボックスの歴史を調べ、リーンボックス行きの船に乗りつつ軽食を取る。リーンボックスの女神が誕生した場所は“ヘイロウ森林”と特定している為、到着後直ぐに向かう事になる。

 

「間違いなさそうね、ここで。」

「…此処が、あの女の聖地ね。ここを選ぶ理由が何となくわかるわ。」

「私達とは別の…厳密に言えば、リーンボックスのシェアエナジーが充満している感じがしますね。」

「………、ほぇ?あたしは何にも感じないよぉ?」

『………。』

 

とりあえず、ここはリーンボックスが一部区画にしているからか、モンスターが比較的柵の外にいる事を覗けば、安全と言える場所になっていますね。そして、ベールさんが待ち構えているであろう場所に到着する。

 

『………、え?』

「…ようやく来ましたわね。遅いものでしたから、退屈してましたわよ。」

 

確かにそこには、ベールさんとエースさんがいた。しかし、だからと言って…。

 

「な…何、呑気にお茶を飲んでるのよあなたは…。」

「お茶ではありません、紅茶でしてよ?」

「そう返答してきますか…。」

「お茶だろうが、紅茶だろうが関係ねー、おちょくってるのか…?」

「いいなぁ、あたしも混ざりたい~。」

 

そこには、日傘付きのテーブルに用意された椅子に座っているベールさん。そして、サイズが1つ合っていない執事服を着つつ、ティーカップにお茶を入れるエースさんが居ました。ただ、執事なんてやったことがないのか、手付きがぎこちないように見える。

 

「さて…臆病風に吹かれず、よく来ましたわね。」

「…あなたを恐れる理由は、何一つないわ。」

 

しかし、よくよく考えれば戦う理由は無いように見える。ノワールさんも何となく理由のない戦いだと思っているようで、目が合った瞬間そんな感じがした。

 

「…ここまで来て今更だけど、私達が戦う必要ってないんじゃないの?」

「私もそう思います。ここで戦っても、何も意味がないと思います。」

「そうなのぉ?」

 

…と、一応ベールさんに戦う必要がない事を言うものの、紅茶を一口飲みゆっくりと机に置いた途端、ムスッとした表情に変わる。

 

「いいえ、戦う理由の有無は関係ありません…これは、プライドの問題ですわっ!わたくしが、あなた達より優れている事を証明しないことには、納得がいきませんわ!!」

「エース、あなたは止めようとしなかったの?」

「止めてたら、こんなところで優雅に紅茶など飲んでいない。」

「…それもそうね。全く、ルウィーと言い、ここの女神と言い、どうして先輩女神は頭が固くて面倒臭いわね。」

 

そうしている内にベールさんが席を立ち、此方に敵意を向けるように身構え女神化をし始める。

 

「無駄口はここまで…さぁ、あなた方も変身して武器を構えなさいっ!!」

 

もう、完全に戦う気満々のようで止められる感じは無さそうです。

 

「…てめーが強かろーが、数では圧倒的に有利。その自信たっぷりな顔を吹っ飛ばしてやる。」

「…もう、こんな面倒な事で戦うのもあれだけど、やるからには手加減はしないわよっ!!」

 

そうしているうちに、挑発に乗る様にブランさんとノワールさんが変身する。

 

「わぁ、みんな変身しちゃったぁ~。じゃあ、あたしもいいよねぇ~!!」

 

そして、プルちゃんも流れるように変身する。ある意味、スキャンダルとかパパラッチが居なくてよかったのかもしれない。

 

「うふふふ…やっぱり、変身出来るって清々しい気分になれるわぁ。ねぇ…あなたは戦わないのぉ、えー君?」

「………。」

 

どうやら、プルちゃんのターゲットはエースさんのようです。

 

「え、プルちゃん…?エースさんは…。」

「ナナちゃん…実はねぇあたし、密かにえー君とこの姿で遊んであげられる時を待ってたのよ。止めちゃダ・メ・ヨ。折角なんだからぁ、たぁっぷりと遊んであげるわぁ。」

「待ちなさい。これは、わたくしとあなた達との問題…彼は関係なくてよ?」

 

リーンボックス側にエースさんを誘ったが、端から4対1をベールさんは望んでいた模様。しかし、プルちゃんはそれを許さないようです。

 

「ん~…あなたは、あたしの好みじゃないのよねぇ…。悪いけど、ノワールちゃん達と遊んで貰えるかしらぁ?」

「っ…!!わたくしが眼中にない…!?その言葉、侮辱として受け取りましたわ…あなたは、わたくしの手で倒すっ!!」

「ふぅん…構ってちゃんなのねぇ。まぁでもぉ、あたしとえー君の邪魔をするって言うのなら、容赦はしないわぁ!」

 

うぅ…地の文を担当していたらカオスな状況に…。

 

「え、エースさん…?」

「…助けを求めるな。もうここまで来たら止められない。ならば、戦ってストレス発散して貰うまで…。」

 

そう言って、エースさんは執事服を脱ぎ捨てる。その下にはリーンボックス製と思われる全身を纏う戦闘用スーツを着込んでいる。…あれも実験用なのでしょうか。そうして、右腕の手袋に文字を書くような動作をし、変身した時のような右手を構えている。

 

「…ああもう!!分かりましたよ。こうなった以上、白黒つけるまでです!!」

 

そうして、ヤケクソに私も変身する。この勝負の勝ち負けが決まれば、一応の事態は収まると信じて…。

 

「ようやく役者が揃いましたわね…。致し方ありませんが、エースさん…あなたも準備宜しくて?」

「…何時でも。」

「では…リーンボックスが女神、グリーンハートの力…味わいなさいっ!!」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【リーンボックス:船場】

 

―――――一方その頃…

 

リーンボックス行きの船に、妙な二人組がいると言う噂が広まっている。一人は、フードを被り正体不明な人物を装っている。もう一人…と言うよりはコンパニオン的な巨大なロボットがついてきている。

 

「ここが、リーンボックスか…。成程、成程…壊しがいのあるところだ。」

「くぅーっ!ここがそうかぁ…さぁ、思いっきり暴れまわるぞぉ!!」

「………。」

「んん?どうした、マジェコンヌ。暴れまわるんじゃないのかぁ!?」

「ええい、五月蠅い!!少しは静かに出来ないのか!!」

「おお、これは失礼。周りの目が気になってしまうからなぁ。」

「………、くそっ。」

 

宣言通り、マジェコンヌはリーンボックスへと到着し、性能確認の為にコピリーエースを連れてきた。

 

「(まぁいい…破壊活動をすれば、このイライラは収まるはずだ。)」

「それで、何処から行くんだい?」

「こんな港で暴れても意味がない。中央広場があったはずだ。そこに行ったら始めるとする。」

「OK~!!さっさと行こうじゃないかぁ!!」

「っ………。」

 

血管が浮かび上がるほどの怒りを募らせつつも、宣言通り街を破壊すべくリーンボックスの中央へと向かうマジェコンヌとコピリーエースだった。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

【リーンボックス:ヘイロウ森林】

 

「受けて見なさい。わたくしの美しき魔法をっ!!」

「くぅっ、言うだけはあるようね。」

「速度、誘導性…中々厄介な風の矢ですね。」

 

戦いが始まってから数分が経過しました。まだ互いの手札を出し切っていない状況でもあり、様子見に近い形でけん制し合う形で戦っている。とは言え、ノワールさん、ブランさんは数の暴力、全力前進とも言える最初から本気モードで戦っている。

ですが、プルちゃんはベールさんの攻撃を躱しつつエースさんを執拗に攻撃している。エースさんも周囲の攻撃を躱しつつ、プルちゃんの攻撃を躱すことに集中していると言った感じです。蛇腹剣でエースさんの腕に絡みつけて引きずろうとしても、それに合わせて上に飛びつつ、けん制で炎の弾を飛ばしてくる等、エースさんは倒すよりも“見”に回っているのか分かる。攻撃を最小限に抑えて様子を見つつ、不思議な程にベールさんと息の合った攻撃をしてくる。

 

「んもぅ、大人しく捕まってくれてもいいんじゃないのぉ?」

「生憎、SMプレイは趣味じゃない。」

「んなこたぁどうでもいい。どうして、てめーらはそんな息が合ってやがんだ?」

「確かに…練習不足感はありますが、つけ入る隙が中々…。」

「そうよ。いつの間に練習したのよ?」

「生憎ですが、練習も打ち合わせもしてませんわよ。こちらも不思議なくらいですが、こっちとしては大助かりですわ。」

 

本当に、まるで以前協力したような動きをしている。おまけに、エースさんはブランさんとの本気で戦ったような変身状態になっている為に、余計に戦いにくい感じがしている。攻撃事態は、エースさんが見に回っている為にいなしていけるものの、城壁とも言える鉄壁の防御の如くつけ入る隙が本当にない。とは言え、長期戦になればお互い不利になってくる事に変わりはないはずです。ですが、此方もこれだけ時間を掛けて争えば、この方法なら行けるのではという戦法が幾つか出てきた。こっちだって、プルちゃんとノワールさんとは3年間やってきたし、ブランさんもああではあるが臨機応変に対応は出来ている。兎に角、プルちゃんと、ノワールさんにはアイコンタクトを飛ばす。

 

「相談は終わりまして?来ないのでしたら、此方から行きますわよ!!」

「…!はぁあああっ!!」

 

痺れを切らしたのか、ベールさんが此方に特攻してくるが、ノワールさんがそれを食い止める。それに合わせてエースさんも突っ込んでくる。が、私達に出来て、あの人に出来ない事…それは、女神化している間は低空飛行できる事。対してエースさんは変身しても、移動は基本的に“足”を使う。ならば、その足を封じるまでですっ!!

 

「させませんっ!!」

「…!!」

 

一直線に向かってくるエースさんの足元を、瞬時に氷漬けにする。いくら機動力に優れているとは言え、アイススケートのように滑りやすい地面にしてしまえば、足を踏ん張る力が難しくなる。急ブレーキをかけるも、氷の地面により簡単には止まれない。

 

「成程な、狙い所だぜっ!!」

 

術って止まれない所に、ブランさんがホームランを狙うかの如く戦斧を振る。やはりと言うべきか、変身中のエースさんの装甲は、私達の変身中並の防御力があるようで、戦斧を受け止める。とは言え、衝撃波防ぎきれないようで少量の血しぶきが見えた。そこに、プルちゃんが待ってましたと言わんばかりに、エースさんの身体を蛇腹剣で鞭のようにぐるぐる巻きにする。

 

「つ・か・ま・え・た。さぁて、こういうのは、どうかしらぁ?」

 

そう言いつつ、プルちゃんは蛇腹剣から電撃を発生させて、エースさんを感電させる。無言で受けてるようですが、歯を食いしばっているので恐らく通用しているのでしょう。普通の人ならやってはいけないんですけどね…。

 

「…お、おい…?」

「…あの、プルちゃん。ちょっとやり過ぎじゃ…?」

「んん~?」

 

10秒程感電させっぱなしでいるプルちゃんに、若干引き気味です…。とは言え、それだけやって膝をついていないあの人も、化け物と言っても可笑しくはないですね…。そうして、ようやくエースさんが膝をついたところで電撃を流すのを止める。

 

「きゃああああっ!!」

「残念だけど、私は剣だけじゃないのよ?そこを見余ったあなたの負けね。」

「ちぇっ、おいしい所を持っていきやがって…。」

「そっちに回ったのはあなたの判断じゃない。あなただって役割分担した分の仕事はしたじゃないの。」

「うっ…。」

 

どうやら、ノワールさんの方も一人で対処したみたいです。剣で捌きつつ蹴り技に持ち込んだみたいですね。

 

「………。」

「ちょっと、プルルート。やり過ぎじゃないの?」

「やり過ぎちゃったかしらぁ?でもぉ、裏切ったからそこ、いじめ…じゃないわ。手加減しちゃあ悪いと思ってぇ…。」

「呼吸はしてますけど…丸焦げではないにしろ、煙が出てますね。だ、大丈夫ですか?」

「…これが、大丈夫に見えるか…。」

 

ああ良かった…返事が返ってきた。“流石に女神3人同時相手は無理だ”と言いつつ変身が解け、エースさんは仰向けに倒れ込む。それを見たプルちゃんは、玩具に飽きた子どものように蛇腹剣を捨てる。…あの、縛ったままなのですが…。

 

「身体に、力が…。」

「そっちはそっちで、でけー割には脆いじゃねーか。」

「まぁ一人でも、そこそこはやるみたいだったけど、所詮助っ人に助けられていた訳であって、4人がかりじゃ当然こうなるわよね。」

「うぅ…。」

 

まるで力が抜けるように、グリーンハートことベールさんが膝をつき変身が解けるのだが―――――

 

「認めませんわ、認めませんわ!こんなの絶対認めませんわ!レギュレーション違反ですわぁ!!」

『えぇ…。』

「………。」

 

なんとまぁ…先輩であるブランさんより大人びた風貌であるベールさんが、大泣きし始めたのでした。おまけにこの戦いを不服と思っているようです。

 

「…おい、似合ってねーから泣き止め。」

「これがデジャブって奴?あなたもこんな感じに泣いてたじゃない。」

「なっ!わたしはこんなガキみてーな泣き方してねーだろーが!!」

「4人なんて卑怯ですわ!!正々堂々1対1で、再戦を要求しますわっ!!」

「自分から言って、それはないだろ。…それからプルルート。俺は椅子ではない。」

「でも、結構座り心地は悪くないわよぉ?」

「そんなの知りませんわ、存じませんわ!わたくしが、勝たなきゃ意味がないのですわ!!」

 

 

 

 

 

―――――それから暫く…という訳ではないですが、全員落ち着いたところで変身を解き、再戦は万全な状態でという事になりました。

 

「そういうことね。今の身体じゃどう考えても無理でしょ?」

「…それで言い訳されても、困るののね。」

「ううううう…。」

「むぅ~、そんな無理してケンカしなくてもいいのにぃ~。」

「一番はそれなんですけど、売られた喧嘩を買っちゃうのが…ねぇ…。」

『何よ(何だ)、その目は…。』

 

チラッと二人を見て、察したのか直ぐに返答が帰ってくる。

 

「兎に角、終わった…これで今回の件はチャラだ。」

「あれ、エースさん動いて大丈夫なんですか?」

「これ以上戦うのは厳しいが、帰るだけなら問題ない。」

「今回ここでやる事は終わりかしらね。余計な事が増えないうちに…。」

「そうね、こうしている間に何か起きても―――――」

 

 

「グリーンハート様っ、緊急連絡です!!」

 

そう思って帰ろうとしたが、そうは問屋が卸さないが如くリーンボックスの兵士が此方へと、慌ただしい様子で向かってくる。

 

「何ですの、騒がしい。大した事のない用で、わたくしの休憩を邪魔する気でして?」

「大変なんです!七賢人と名乗る者が2名…いえ、1人と1機が、リーンボックスの街を破壊して回っておりまして!此方も応戦はしていますが、まるで歯が立ちません…。」

「まぁ無理な話ね。一般人に女神対策してる奴等を相手するにはきついと思うわ。」

「そんな…。ぐっならわたくしがいかなければ…っ!!う、こ、腰が…。」

「その体では無理よ。行ったところで勝ち目はないわ。」

「で、ですが…このままでは…。」

 

プラネテューヌの女神として考えるのでしたら、協力はしない事で帰還するのが普通でしょう。ですが、今回の出来事とは無関係な一般人が巻き込まれているのは、見て見ぬ振りをする訳には行きません。

 

「…ちょっと二人共、まさか…。」

 

行動に移していこうとした時、ノワールさん止めに掛かるのですが…二人?と思い横を見ると、エースさんも立ち上がっていました。

 

「エース…さん…?」

「同じ考えなのだろう?リーンボックスの街に行き、七賢人を撃退する。タイミング的に、七賢人が来たという事は、ここで女神同士が競い合う事が漏れていたか、あるいは情報網があったと言ってもいい。それを吐き出す事も視野に入れられる。」

「………。ええ。」

 

疲れているはずのエースさんは、力強くそう答える。何故でしょう、何処か懐かしさもありますが、安心感といいますでしょうか、お任せしても問題ないと言える感情が、湧き上がってきます。

 

「本気で言ってるの…?」

「無駄よ。ナナは、ああ言ったら頑固なのよ…。まさかエースも乗り気だったのは予想外だったけど…はぁ、仕方ないわね。今回だけは、七賢人を退かせる手伝いをするわ。」

「え…で、ですが…。」

「べ、別にあたなの為じゃないわよ…!この国のシェアを獲得するには、ここで仕事をすればいいと思っただけよ。」

『ツンデレか(ね)(ですね)…。』

「ノワールちゃん、ツンデレぇ~。」

「な、何よあなた達はっ!!」

 

まぁ、一応理には適ってますけど、言い方がどうしてもノワールさんらしいというか…ツンデレと言われても仕方ありませんよね。

 

「ノワールちゃんが行くなら、あたしも行くぅ!」

「…七賢人には個人的な恨みもあるし、今回は協力するわ。」

「情報網が分かれば、七賢人を大きく崩れる可能性はある。」

「そういう訳です。ベールさん、ここは皆さんと協力して、七賢人に一泡吹かせてやりましょう。」

「み、みなさん…。」

 

どうやら一致団結のようですね。願わくは表面上だけでないようでありたいですが。恐らくは、現状は一時休戦という事ですよね。

 

そうして、エースさんはベールさんに肩を貸し、兵士の道案内によりリーンボックスの街へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【リーンボックス:街中・おもちゃ工場】

 

「おお、やるなぁ!これは俺様も負けてられないなぁ!!よぉし、そおれそおれ!!」

「ぬぐ…。」

「ああ、気持ちいいなぁ。この体を動かした時に流れる汗の心地良さは…!おやぁ?どうした、手が止まっているじゃないか?」

「…誰のせいだと思っている。その喋り方はどうにかならんのかっ!!」

「はっはっはっ!俺様はまるで生まれ変わったように清々しい気分だよ!!前の俺様だったら、こんなに破壊活動が気持ちいいなんて思わなかったよっ!!ああ…ゲイムギョウ界に生まれてきて、よかったああああああああ!!」

 

 

 

 

 

『………。』

「………。なんだ、あの破壊マシンは。」

 

思わず口に出してしまった。恰好は違うが、あっちは嘗て前のゲイムギョウ界のズーネ地区で会ったマジェコンヌ。もう片方は所見だが、やっている事と性格が体育会系で、且つ青春男性と言ってもいい程だ。

 

「わ、私に言われても知らないわよ…。」

「あの機械はあんな性格じゃなかったんですよ…。もっとこう、悪の如くデストロイと言いますか…。」

「さぁ、全身全霊を込めて、破壊活動を…レッツ、デストローイッ!!」

「…少なくとも、清々しくは言わなかったという事か。」

「傍から見れば、街を破壊しつつド付き合い気味の漫才夫婦ね…。」

 

どうやら、ブランとベール以外はあの清々しいマシンと対峙した事があるらしい。となると、修理されて再投下されたということか。性格を変える必要があったのかは置いといて、見る限りでは、マジェコンヌとは意気投合仕切れていないと見る。

 

「くっ…街をふざけながら壊すなんて…許せませんわっ!!」

 

そう言いつつベールは前へと出る。それに吊られるように全員が敵の正面に立つ。

 

「そこまでですわっ!これ以上の破壊行為は、見逃す事は出来ませんっ!」

「来たか…。………、まさか女神全員揃うとは、予想外だが…。」

 

何だ、今の妙な間は…。表情も心なしか、俺達が来たことを安堵しているようにも見える。よっぽど息が合わないようだ。

 

「やぁ、女神諸君、久しぶりだねぇ!!それに、友達も増えてるみたいだし、いい事だよ!友達はかけがえのない宝物だっ!!その証拠に、頼もしい仲間によって直され、こうして俺様は再び君達の目の前に立つことも出来るようになったっ!!女神と再び戦える喜び、破壊活動を再び出来る感動…ああ、生きてるってなんて素晴らしいんだあああ!!」

「おお~、ぱちぱちぃ~。」

「ええぃ、黙れ!貴様も相手に乗るな!!はぁ…はぁ…。…久しいな女神共、貴様等と再び相まみえる、この時をな…!」

「こいつぅ!カッコいい事言うなぁ!!」

「…無理をするのは体に良くない。」

「そうね。わたしから見ても、無理やり場を支配しようにも無理があるわ。」

「う、五月蠅い!あと貴様も黙れ、だーまーれー!!」

 

会話をする度に、方向性がズレていく気がする。これを続ければ、約一名は消耗して弱体化するが、女神達はそれでは納得しないだろう。

 

「御託はいい。ここに女神達が来た理由は分かるはずだ。」

「ふっ、言われなくても。個人的には、そこの3人、特にプルルート、ナナっ!!…だが、私は―――――」

「わぁ~、すっごく適当だよぉ~。」

「成程ぉ、お前達はライバル同士なのか…お互いに切磋琢磨して高みを目指す。強敵と書いて“とも”と読む!!いやぁ、いいなぁ、羨ましいなぁっ!!」

「き、貴様ぁ…。」

「これは…なんとも言えませんね。」

「…これは、投げやりになる気持ちも分からなくもないけどね。」

 

会話から武力へと切り替える予定が、この頭花畑な機械によって再び会話へと戻される。…無限ループって怖いな。

 

「話をしても無駄ですわ。兎に角、話が盛り上がってるところ悪いですが、誰の街を破壊しているか、理解しているのかしら?」

「ああ、貴様がリーンボックスの…安心しろ。そこの男を殺した後、貴様等女神も葬ってやろう。」

「…俺を指名?」

「後…?わたくしを差し置いて、そこの殿方に興味がないですって…?」

 

マジェコンヌが、ベールを指名しなかった事に若干不服なのか、逆上の如く女神化をする。

 

「あなた、変身して大丈夫なの?」

「…これしき事で、自らの国も守れないようでは女神として恥だけでなく名折れ…、この者達は、わたくしが倒すっ!!」

「おおっとぉ!マジェコンヌの前に、俺様を倒せなきゃダメだぞ!!」

「くっ邪魔を…!!」

「待ちなさい。逆上したら相手の思う壺よ。」

「ここは、冷静になってあのデカブツを倒す。その後に加勢すればいい話。」

 

そう言いつつ、ノワールとブランは女神化をする。それに流れるように、ナナとプルルート(喜びながら)も女神化する。

 

「ふん、これで舞台は整ったか。だが、私はまず、そこの男からだ。貴様は戦闘能力は高いと踏んでいる。くれぐれも、私の足を引っ張るなよ。」

「なっ!!お前…そんなに俺様の事を信頼していたのか…!!嬉しい事言うじゃないかっ!くっ今日の汗は、やけに目が染みるぜぇ!!」

「…信頼しているのなら…黙ってくれ…。」

「いい加減、あなた方の漫才に付き合う心算はありませんわよ。」

「好きで漫才している訳ではない!!」

「エースさん。わたくし達はこのマシンと相手します。その間に倒したり、やられたりしてはなりませんわよ。」

「おい、何てめーが先陣切ろうとしてるんだ。」

「そうよ、何勝手にリーダーを気取ってるのかしら?」

「ここで喧嘩しても仕方ないですよ…。早く倒せばいいだけの話です。」

「そうねぇ…、機械相手じゃ面白くないしぃ。ちゃちゃっと済ませて、あっちを堪能したいわぁ。」

 

女神5人は標的をあの機械の方へと向ける。そして、俺はマジェコンヌと対峙することとなる。

 

「貴様の噂は聞いている。あの伝説の書通り、貴様から漂う力は我々寄りにも関わらず、女神に協力している。」

 

伝説の書。この女は恐らくかじった程度なのかもしれないが、聞き出すことは出来そうだ。

 

「お前も、世の為、人の為になる力を持っていながら、悪の道へと進んでいる…。」

「…何の事だ?私は、女神が嫌いだ。だから、この世界を破壊する。それだけだ。」

 

―――――もし、ズーネ地区のマジェコンヌと同様なら、気を付けるべきはコピー能力。プルルート、ナナ、ノワールが対峙しているのなら、3人の技を使ってくる可能性もある。俺の知っているこいつなら、戦えば戦う程に技のレパートリーが増えていく。

 

「…ならば、俺は無関係な市民も巻き込むお前を止める。」

「ほう、やれるものならやってみろ。」

 

そう言いつつマジェコンヌは身構え、それに合わせるように俺も身構え、何時でも戦える体制に入る。ここに、ネプテューヌとネプギア、ジンにスミレはいないが、女神と共闘出来るのなら勝たなければならない。右腕に印を書き、右腕を開放させる。

 

 

 

 

 

「ところでマジェコンヌ、俺様が女神達を倒してしまっても構わないだろう?」

「…貴様、露骨な死亡台詞を言うな…。」

『………。』

 

―――――最後の最後まで閉まらないな。

 

 

 

 

 

 



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Scene66 開放と決断~Recapture~

【リーンボックス:街中・おもちゃ工場】

 

「オラオラァっ!…っ!!」

 

女神とは別に、1対1のガチンコバトルとなったマジェコンヌと、エースこと永守。マジェコンヌが放つ両剣の斬撃や突きを、永守は受け流しやスウェーで回避する。そして隙を見ては永守も両剣で対抗するように攻撃するも、そのどれもがワザと掠らせるように放つ。

 

「何故だ…何故当たらん…!そして貴様、ワザと外しているな?」

「だったら何だと言う。」

「…緑の女神の言葉通り、あくまで時間稼ぎの心算か。その舐め切った態度、気に入らない…実に気に入らない。」

 

女神側はコピリーエースに集中している為に、永守の方を見る余裕はないものの、マジェコンヌのコピー能力を警戒している為に、あえて超能力も使わず剣技で対抗しているにも関わらず、明らかに戦力差は目に見えて分かる程に開いている。それも永守は右腕を開放しているだけである。それもそのはず…戦った訳でもなく世界線は違えど、一度その戦いを見ておりシミュレート済みの為、永守の豊富な戦闘経験と予測によりその差がある。

 

「ならば、その余裕ぶった態度をへし折ってくれる。」

「…本気を出すとどうなる。ウサギとワルツでも踊るのか?」

「まだ余裕を言うか…この姿を見て後悔しても遅い事を、思い知らせてくれるわ…はぁああああああああっ!!」

 

力を溜めるようにマジェコンヌは体を縮める。マジェコンヌの身体から、只ならぬ黒いオーラが発せられ、遂にはマジェコンヌを覆い隠すように包み込まれる。そして、黒いオーラがはじけ飛ぶと、そこには姿が変わったマジェコンヌ…そう、真の姿の犯罪神だった時の姿へと変わっていた。その姿に驚かないものの、マジェコンヌの戦闘力が飛躍的に上がったことを察知する。

 

「くくく…どうだ。」

「成程。口だけじゃないようだ。これは甘く見ていた。」

「…これを見ても驚かぬか。だが、貴様はいいのか?今なら貴様にも変身をさせる余裕を与えてやろう。」

「なら、お言葉に甘えて…。」

 

その言葉を聞き、永守は右手に力を溜めハードフォーム化する準備の為、力を溜めた右腕を高く上に伸ばす―――――が、その時だった。

 

「馬鹿めがっ!!その瞬間を待っていた!!」

 

その無防備とも言える瞬間を待っていたのか、マジェコンヌは一気に距離を詰めてくる。…が、永守はこれを読んでいたのか、上に上げていた拳を正面に構え、向かってきたマジェコンヌの両剣を受け止める。

 

「っ!!ちぃ、読まれていたか!!」

「その手は…想定済みだ。」

「ぬぁあああ!!」

 

そのままマジェコンヌを含め、両剣を押し出すように殴り飛ばし、再び右腕を上げ永守の身体が光だし、ハードフォーム化を果たす。

 

「ふんっまぁいい…お互い変形した事で御相子な事だ。ここからが本番だ。」

 

が、自信満々に言ったマジェコンヌだが、言葉とは裏腹に直ぐに突っ込もうとはせず、永守の周りをゆっくりと回っている。普段から表情を変えない上に、現在は変身して仮面をつけている為に、表情を伺えずにいる。

 

「(…女神化一人分の戦力はある。口だけではないようだ。この型は防御寄りだが、まともに受ければ致命傷になる。)」

「(ちぃっ…ああは言ったが、思った通り挑発には乗らないようだ。おまけにしっかりと、此方を捕えている…隙がない…。)」

 

その光景は差乍ら、ボクシングのリング中央を死守しつつ、確実にマジェコンヌに威圧感を与えている。ゆったりと動いてはいたが、若干の焦りかフットワークを使いだすマジェコンヌ。だが、打ち込み、斬りかかりの隙がまるで見当たらない。永守も、マジェコンヌの実力を見抜き見の目で見定めつつ、両剣を前に出し警戒を怠っていない。

 

「(…成程、隙が無いのは威圧感だけではない。この男、スイッチの使い手でもあるのか。)」

 

マジェコンヌがフットワークの速度を上げた時に気付いた。永守は基本的に右を主体としているが、正面に構えつつ左利きの構えにもなっている。

 

「(こいつは対人戦には相当強い。女神も人の形をしている…だが、目で追えなければそれまで…!)」

「…!?」

 

永守の特徴を見破ったのか、突然とマジェコンヌは持っている両剣を、ノーモーションで永守の元へ投げてくる。その投げてきた両剣は凄まじい速度で向かってくるが、これを白羽取りで受け止める。

 

「その首、貰ったっ!!」

 

両手が塞がっている所に、マジェコンヌは突剣を呼び出し、首元を狙うよう突き刺す。

 

「…ふんっ!」

「っ!?何ぃっ!!」

 

その突きを膝蹴りと下段肘撃ちで勢いよく挟み、細剣の突きをギリギリのところで止める。その蹴り足挟みを解き、殴り掛かるがギリギリのところで回避される。そこから先は、互いに両剣で攻防をしつつ、マジェコンヌは多彩な武器を作り出しつつ、コピー元のある技を繰り出し、懐に入り込もうと試みている。一方永守も、両剣で攻防をしつつ拳、蹴技、拳銃によるけん制射撃と中・近距離をしつつカウンターを仕掛けていく。だが、コピーを警戒している為に、炎・風の超能力を使わずに戦っている。

 

「…!!」

「おい、貴様!!流れ弾をこっちに流すな!!」

「いやぁ、済まない!こっちはこっちで女神と戦うのが楽しくて!!」

「た、楽しい…?」

「へぇえ…鉄の塊の癖に、中々面白い事言うじゃない。」

「こいつ、頭可笑しいんじゃねーか?」

「わたくし達の真剣な戦いを…楽しい…?舐められたものですわ。」

「ですが、いう事だけあって、こっちも手間取っているのは事実…。」

 

女神一行とコピリーエースの戦いも、ギアアップしたように激しさを増していた。それに伴って、破壊された地面や壁の岩や、お互いの技による流れ弾がマジェコンヌと永守側にも飛んでくる。

 

「(ちぃっ!突っ込むチャンスはあるが、こうも邪魔をされては埒が明かない。おまけに懐に飛び込めがカウンターを狙っている上に、隠し玉も持っていそうだ…ここまでやり難い相手は中々出会えんぞ…!)」

「(コピーされて戦略性を増やされるのを恐れているのは兎も角、自ら縛りプレイを強いられている…アレを試してみるか。)」

 

様子見をしていると思えば、お互い考えていることは結構違っていた。その間に永守が隣をチラッと様子見をし、女神一行とコピリーエースとの決着が付きそうなのを感じたのか、マジェコンヌから一定の距離を取り構え直す。すかさず右腕を前に出し―――――

 

 

 

ビュンッ

 

 

 

「がぁっ!!め、目が…!!」

 

マジェコンヌの目に向け、デコピンに似たコイントスの動作で、弾くと同時に発した空気圧を当て一時的ながら視界を奪う。

 

「空〇脚っ…!!」

「なっ―――――がぁあっ!!」

 

背後に回る気配すら無く、永守はウィンドキネシスによって作られた空気圧を足に纏い、回し蹴りでマジェコンヌの背中へ放つ。不意打ちもあるが、手加減無しで蹴り飛ばした為、マジェコンヌの身体が“くの字”に曲がりつつ、鯱のように顔から数メートル滑りながら吹き飛んでいく。それと同時に変身を解き、降伏させるようにマジェコンヌに向け拳銃を構える。

 

「ば、馬鹿な…何時の間に後ろへ…。」

「そいつを見せたら、お前も真似する。」

「(こいつ…私の能力を知っている…?)」

 

気配がないのは当然である。目を一時的に奪っている間に、テレポートでマジェコンヌの背後へと回ったのだから…。更に、遠回しながら自らの能力を知っているかのような発言に、ピクリッと表情を変える。しかし、変身を解いているのを目にし――――――

 

「ぐっ…!!」

「くくく…そんな豆鉄砲を向けたところで、降参するとでも思ったら大間違いだぞ、若造が。」

 

マジェコンヌの両剣により、永守は腹を貫かれてしまう。

 

「ふぐっ!!」

 

だが、貫いた事で「勝った!」と思い込んだ矢先に、永守の右ストレートがマジェコンヌの顔面を捕え、またしても数メートル吹き飛ぶ。

 

「やるな…少し、お前の力を見誤っていた。」

「はぁ…はぁ…、ば…化け物め…!」

「それは、お互い様だ。俺も…お前…もな…。だが、殺す気なら腹ではなく、心臓か頭にすることだ。」

 

そう言いつつ、永守は体を貫いている両剣を抜き取り、マジェコンヌへ向けて放り投げる。抜いた際に痛みがあったのか、息が上がっているように見えるが、明らかに出血が貫かれたとは思えない程少ない事にマジェコンヌは気づく。

 

「くぅううう、いい戦いだった…ここまで激しくぶつかり合えたこと、俺様は心から誇りに思うぞ!!」

「勝負あり…ですわね。」

「全く…戦い辛ー奴だったぜ…。」

「でも、私達が負けるような相手ではないわね。」

 

女神とコピリーエースの戦いも勝負が着いた様子だ。マジェコンヌはゆっくりと立ち上がるが、永守は銃を向けたまま発砲しようとはしない。

 

「…何故だ、何故…トドメを刺さない。」

「確かに、ここでお前を倒しても俺自身は困らない。だが、今の思想は女神と同じ…色々と聞きたい事がある。」

「ちぃ…甘ちゃんが…。その余裕ぶった態度は、私は一番嫌いだ…!」

「おいおいおい!!戦い終わった後に喧嘩はよくないぞぉ!!勝ち負けよりも大切な事があるだろう。ここは、素直にお互いの健闘を称え合う!!それが、フェアプレー精神だ!!」

「アホか貴様は!!何処にそんな精神で破壊活動する奴がいる!!」

「何ぃ!いるじゃないか、ここに!!」

『………。』

 

戦い前にあった漫才が再び始まり、全員が沈黙してしまう。…一人だけ、その中に飲み込まれずにいる人物がいる。

 

「お前は、俺の事。いや…伝説の書に関して知ってそうだ。」

「はん、私は聞きかじった程度しか知らん!」

「そんなのはどうでもいいわ。こんな事が出来ないよう、今度は粉々にしてあげるわ!」

 

ノワールが自信満々に剣を構えなおし、その矛先をコピリーエースへと向ける。

 

「ここで壊されても構わないが、私にはやらねばならない事がある。」

「…やらなければならない事?」

「こいつをこんな魔改造した馬鹿に文句言わなければ気が済まん!!だが、次はこうはいかんぞ!おい、いくぞ。」

「おおお?今度は基地まで追いかけっこか?よぅし、いいぞぉ!!待て待てぇ!!」

 

そう言い残し、マジェコンヌとコピリーエースは一目散に撤退していく。当然、女神はそれを許す訳がない。

 

「逃げられると思ってんのか?直ぐとっ捕まえて―――――」

「ばいば~い、またねぇ~。」

 

何と、何時の間にかププルートが女神化を解いており、一目散に逃げていく二人に手を振っているのだった。

 

「ぷ、プルちゃん…!?」

「何で変身解いてるのよ!!」

「ほぇ?ダメだったのぉ?」

「ちぃ、目を離してるうちにあんな遠くへ…。」

「ぷぅ~、何時もは変身ダメって言うのにぃ~。それにぃ、今日はぁ、えー君でお腹いっぱいだしぃ。」

「…俺のせいか…。」

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ:教会】

 

…いきなり話が吹っ飛ぶが、七賢人がリーンボックスで起こした騒動から暫く経つ。あの戦いの後、ベールは感謝の意を込め一例をした。頂点の座は諦めてはないが、和解という事を含め協力関係を築くようにすると言った。それからというものの、イストワールの協力、ルウィーの本による解析も得て、伝説の書に関して調べたものの、結果からして―――――

「災いの時に勇者が現れる。その者、人の子であらず。その者、光にもなり闇にもなる。その者、女神に並ぶ者なり。」

―――――という情報しか分からず…はっきり言って、俺は勇者に相応しい生い立ちも、活躍もしていない。とは言え、一致している部分があるのが気がかりだ。まぁ、肝心の女神様も俺に関しては感づいたらしく問い詰められる。全ては教えられないが、“別の世界から来た”という事は伝えた。事実、ナナの事もあり別次元から来ることは可能ではと、イストワールは結論付けてる。…全てを話した場合、何か嫌な予感もあり“軍事機密”のような形で誑かしているが、何時までこれで凌げるかは分からない。ナナの記憶も、まだまだ完全ではないものの、戦い方に関しては感を取り戻したと言うべきか、対コピリーエースと比べた時とは違う構え、攻め方となっている。また、顔や名前は分からないがある人物と共に行動していたというのも分かったと言う。お人好しかもしれないが、この記憶喪失に関しては協力的に行っている。

 

だが、現状ではあまりにも情報が少なすぎる為、ナナが初めてプラネテューヌ…ゲイムギョウ界に現れた場所へと赴く。そこで、面白い事が分かった。イストワールの話では、ここ神次元には“バーチャフォレスト”という場所は存在しない。況してやバーチャフォレストと同じ座標に来ても、その場所は獣道と言っていい程の未開拓地だ。不思議な事にここ周辺は、管理課でないにも関わらずモンスターが居ない。普通の人が来ても分からないだろうが、俺には感じる。あの二人の力を、ゼロとセグゥのエナジーを…。

 

「…お前の、仕業…だったのか…?」

 

ブルルル―――――

 

「………。無線…?」

 

自らの右腕にそう呟きながら見ていた最中、ルウィー奪還の際に鳴った以降、何にも音沙汰無かった無線機が、突然と無線が入る音がしている。それも弱々しかったルウィーの時と違い、確実に着信している音だ。無線をONにして通話状態にする。

 

≪おお、ようやく繋がった。流石吾輩だ。≫

「………。」

 

忘れるはずがない。嘗て悪に染まった際に手を組み、犯罪組織・四天王の生き残りとしていた―――――

 

≪おお、酷い酷い。あの小さな司書程ではないが、調整に三日、更に三日掛かってようやく出来なのに…。≫

「三日…?」

 

確かに、無線越しに聞こえるトリックからは()()と言った。だが、俺の知る限りでは()()が経過している。…詰まる所、時の流れがこっちの方が早いということか。ネプテューヌだったら「1095日経っちゃってる!!」とか言いそうだ。おまけに計六日か。

 

≪…?どうした、吾輩はおかしな事は言ってないぞ?≫

「…いや、何でもない。まさかと思うが、前の無線もか。」

≪おお、そうだぞ?まだまだテスト段階な上に、調子も悪かったから仕方なかったのだ。だが、今は司書と同じ方法で吾輩もデジタル世界へダイブし、こうして短時間ながら連絡が出来る程になったのだ。そう、吾輩はデジタル世界にダイブする事ができ、二次元の―――――≫

「それ以上いけない。」

 

これ以上聞いたら、脱線する上にこいつの趣味に付き合う気もない。

 

≪相変わらず、連れない男だ。≫

「…趣味の話だけなら切るぞ。」

≪仕方ない…本題に入ろう。此方の世界でな、謎のエネルギー反応が突如現れたと思ったら消えたのだ。もしかしたら、貴様と同じく時空を超えていった可能性もあると、マジェコンヌは見ている。≫

「…マジェコンヌの配下にいるのか。」

≪いや、今はリンダと共にいるぞ。マジェコンヌ様は“自然を耕す”と言って、ナス農園を経営しているぞ。…今の吾輩は、あのネズミより小さくなってしまったからな。戦闘ではまるで役に立たん。だが、今や吾輩は二次元の幼女を―――――≫

 

―――――ブツッ

 

また趣味の話になった為に無線を切る。こいつにこの世界のアイエフ、コンパ、ピーシェの情報をキャッチされても困る。奴の対象に含まれるのは間違いないのもある。兎に角、情報は手に入った。一応イストワールに報告するよう言われてる為、このままプラネテューヌに向かう。

 

 

 

もう一つ悩みはある。もう彼女達も4、5歳になる。つまり、無邪気であり好奇心旺盛になると言えよう。これの何処が悩みになるかと思うかもしれないが、その答えはプラネテューヌの教会の扉を開けた先にある…。

 

「あぁ!!えいえいだ!!くらえーっねこぱーんち!!」

「っ!!」

 

幼い声と共に、強烈な右ストレートが飛んでくる。受け流しは可能だが、子ども相手に受け流しをしたら、子どもの方がそのまま流れて怪我をしかねない。その為、力を分散するように防御はするのだが…。

 

「(…また威力が上がっている。)」

「うー、あたるとおもったのにぃ!!」

「うーん、つぎは上手くいうようにかんがえなきゃ!」

「ぴーしぇちゃん、がんばるですっ!」

「…あの見た目で、周りと溶け込めるなんて、どういう人なのかしら。…人の事は言えないけど。」

「でも、それって取柄としてはいいんじゃないですか?見た目は兎も角。」

「まぁ、あの子たちも随分と大きくなったわね。」

「はい、子どもの成長は早くて…もう私ではお相手できないですよ。(´エ`;)」

「可愛いですわね、本当に…わたくしの小さい頃と同じように…。」

「(…殴られたことに関しては無視か。)」

 

とまぁ、このピーシェは拳に関しては驚くほどの才能を秘めている。普通の人が腹にクリーンヒットしたら、ホワイトホールが発動して大変な事になるに違いない。

 

「それにしても、どうして女神様が揃いも揃って、ここに集まるのでしょうか…只でさえ子ども達もいるのに、ここは溜まり場ではありませんよ(´Д`q;)」

「…俺に言うな。(´。` ) =3」

「あっ!ダメですよ!!それは私の特権なんですから!!o(*≧д≦)o」

 

特に理由もないのだが、ここプラネテューヌ教会に女神全員が集まっている。別に会議をする訳でもなく、各々と集まったというべきか…。ベールに限っては復興する前に、“いつの日か頂点を取って見せます”といいつつ、呑気に用意した紅茶でティータイムを堪能している。

 

「いいじゃありませんの。こうして皆さんと交流することも大事なのですわ。」

「…地の文を読むな。」

「そうね、ちょっと窮屈かもしれないわ。」

「だったら、来なければいいじゃない。」

「…そういうノワールさんも、何で来てるんですか。」

「でもぉ、賑やかなのも、いいよねぇ~。」

「と言うよりも皆さん、そろそろお仕事を…って言っても無駄ですよね。どうして女神様はこう呑気なのでしょうか(; ̄Д)=3」

 

束の間の平和になるのか、嵐の前になるか…それは分からない。が、七賢人はまだ幹部クラスを見たことがない。規模が縮小、世間的に悪として広まってはいるが、とても黙って見ている組織とは思えない。恐らくは何かを企んでいる可能性もあると踏んで、ある程度は調べた方がいいだろう。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

【???:会議室】

 

「…私達、追い詰められてる事に変わりはないのだけど、これを打破するには大きな一手を打たなきゃいけないって訳ね。そこで、遂にプランAを実行する予定だけど、皆いいわよね?」

「ふふっ、いよいよね。」

「いよいよっちゅね。」

「くくく…もう待ちの構えをする必要が無くなったのう。」

「ふんっ能ある鷹は爪を隠す…そして、その研いで来た爪を三年越しに開放する時…。」

「おっ、オバハンにしては珍しくいい事のように言うっちゅね。」

「貴様…一言多いぞ。それにこの作戦、私は気に食わんのだぞ。」

「な、なんで皆さんアノネデスさんの話は、素直に聞くんでしょうか…。」

 

七賢人達が企んでいた事を、遂に実行するかのような発言がある。その筆頭にアノネデスというボディスーツを身に着けた男が言う。

 

「あらぁ、マジェちゃん。こっちは追い詰められてるのよ。もう手段を選んでいる暇はないのよぉ?」

「だが、それは組織としての力であって、私自身が行ったという実績ではない。」

「おいおいおい!!仲間割れは良くないぞ。この作戦を成功させるには、全員の協力が必要なんだぞぉ!!」

「…ふんっ。貴様の事はまだ根に持ってるんだぞ…。」

「あ、あのぉ…まだ、アブネスさんが…。」

「放っておけ。あんな五月蠅いのは、今回の作戦には邪魔なだけじゃ。」

「これじゃあ、七賢人じゃなくて、六賢人っちゅね。」

 

そう、この大事な会議?にアブネスの姿が居ない。と言うのも、動く度に評判がマイナスに

動く状態であり、成果を上げられない事が自分の株を下げてしまっている。その事が気に食わない為に、現在のアブネスはソロ活動をしている。最も、その評判は鰻登りもしないが下がりもしない平行線を保っているそうだ。

 

「じゃが、これで女神一行に大打撃を与えられるのだからな。ぐふ、ぐふふふ…。」

「ふん…確かに、奴らの力を抑えるには仕方ない事だが、またしても汚れ仕事か…。」

「ぢゅ~、またオバハンと一緒っちゅかぁ…仕方ないっちゅね…。」

「おう、任せておけ!俺様なら、必ずや成功させて見せる!!」

 

やる気満々と乗り気ではないメンバーがいるものの、これしか打つ手はないと言えるのか、一致団結という形で進めていくこととなる。

 

「…あ、あのぉ…。」

「なぁに、レイちゃん?」

「また、あれを行うんですか…?それに、あっちの方は…。」

「今更躊躇してもダ・メ・よ。アタシ達、もう崖っぷちで引き返せない所に立ってるのだから。まぁ、レイちゃんの言う通り、あの拾ってきた奴を使えばいいけど、どういう訳か修復が上手くいかないし、あんなキモィのを使うのも、アタシの趣味じゃないのよ。」

 

話によると、漂流していたのを拾ったらしく、何かしらの理由で破損はしているものの凄まじいエネルギーを放出し続けているらしい。だが、その見た目は気持ち悪く、おまけに制御しきれないでいる為、保管を兼ねて自動修復を行っていると言う。

 

「そ、それはそうですけど…で、ですが…。」

「はい、そこまで。もう多数決をとっても結果は見えているわ。全員の準備が整ったら、本格的に動くわよ。くれぐれも、アブちゃんには気づかれないようにね?」

 

 

 

 

 

 

 



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Scene67 七賢人の刻限~Raid~

 

 

【プラネテューヌ:教会】

 

「うわーーん!!やだやだーーーーー!!えいえいー、えいえいー!!」

「こら、ひとの後ろにかくれないのっ!」

 

…俺は、イストワールの噂で聞いたというプラネテューヌとラステイションの間ら辺で、七賢人が定期的に活動しているという場所へ足を運び、調査と言う名目で現場へ行ったのだが、結果としては、噂は噂だ。誰かが入った形跡はあるが、普段人が立ち入ろうとしない場所であり、小屋はあるが放置された物件であり何かが盗まれた形跡もない…全くの無駄足だった。でだ、報告の為にプラネテューヌに足を運んだのだが、扉を開ける前から騒がしく、中へ入った途端、ピーシェは俺を見るや否や一目散に寄ってきて後ろに隠れるのだった。…前回からそうだが、“エース”と名乗っても“えいえい”と呼ばれる。子どもだからこれは仕方ないのかもしれないが、この件には目を瞑っている。というか、またしても女神全員が揃っているのだが…。

 

「あ、エースさん、戻りましたか。」

「何事だ。…お前の仕業か?」

「ちがうわよ。ひとのせいにしないでよ。」

「えっとねぇ~、ピーシェちゃんが走り回ってぇ、壁にぶつかっちゃったの~。」

「…あれか。」

 

状況を見る為に周りを見渡す。その中で一人、異様な物を持って部屋に入ってくるのを見る。当然、それを見た全員がギョっとするのは言うまでもない。ピーシェは、壁に激突したくらいでは泣かないとは思う。子アイエフの言う事が正しければ、走り回って激突で大泣きしたとは考えにくい。そうなれば、原因は別の所にあると言える。その一つが、子コンパが持っているアレだろう。元居た超次元のコンパが持っていた“巨大注射器”の小型バージョンだ。

 

「ぴーちゃん、にげたらだめですー。これを、おかおにさせばなおるですー。」

「わーっ!!やだ、やだっ!おちゅーしゃ、やだーっ!!」

 

今のピーシェは何ともないのだが、激突した時は顔が赤くなっていたという。それで、ナンデモナオシと言う液体薬を投与すれば治るよと…ちなみに話によると、あの注射器を取り出したのは二度あるそうだ。それ以来、普通の注射でも、見ると現在のように怖くて逃げだそうとするらしい。

 

「いやいやいやいや…あんなの、大の大人でも腰を抜かすわよ。」

「というか、何処から出したのよあんなの…。」

「流石に大きいのは大歓迎ですが、あれはノーサンキューですわ…。」

「そもそも、私も何であんなのがここプラネテューヌで売っていたのか、知りたいくらいなのですが…。」

「あんまり怖がらせちゃだめだよ~。だからぁ、それは没収~。」

「え~、どうしてですか~?」

 

とまぁ、プルルートによって注射器は回収されるのだが、子コンパは納得いかない様子。それをナナが“自分がされたらどう?”と言い、“こわい”と回答。一応はそれで納得はしてない顔はしているが、収集はついた模様。…さて、後は張り付いているピーシェの恐怖心を無くすことだ。

 

「…ほら、怖いのは無くなったぞ。だから離れてくれないか?」

「もう…おちゅーしゃ、ない?」

「無い。だから、セミみたいにしがみ付くのを解いてくれ。」

 

“ホントに?”と涙を拭いながら周りを見ると、無いのを確認してピーシェは泣き止んだ。…のはいいのだが。

 

『ブッ!!』

「わーわー!そんな事で吹かないで下さい!!Σ(゚ロ゚;)」

 

ピーシェが離れたのを全員が見ているのだが、女神三人が思わず飲んでいる飲料水を吹き出し、“プププッ”と笑いをこらえる表情をしている。あれだけギャーギャー泣いて、鼻水も出しつつしがみ付いてた。しかも、身長的に丁度良くない位置でもあった。

 

「…oh…。」

「あはは!!えーす、おもらししたみたいー!!」

「わー、たいへんですぅ!」

「えー君が大変な事にぃ~!」

「そんな事言っている場合ですか!!直ぐタオル持ってきますね!!ε”(ノ´・д・)ノ」

「あと、着替えも用意した方がいいかと…。」

 

毎日という訳ではないが、神次元のプラネテューヌは超次元のプラネテューヌ並みに賑やかになっている。

 

「…あの、いい加減皆さんお仕事を成されては…(;´-ω-`)」

「ふふっ、多少遅れが出ても、心配ご無用ですわ。準備が整えば、この大陸くらい一気に…。」

 

ここまで仲良しムードだったが、このベールの言葉がトリガーになってしまったのか…

 

「今の言葉、聞き捨てられないわね…。」

「そうね、天下のラステイションを相手にデカい事言ってはね。」

「…は?何時からあなたが天下になったのかしら?」

「でも、現実的にそうでしょ?実際のシェア率は、ラステイションが断トツなのは確かなのよ。」

 

そして止まらないノワール節。初期戦略から失敗した国、他国を視察したのに生かし切れていない国、現状維持で留まっているぬるーい国…。兎に角、他国の失敗談、痛い所を付いていく。それも実際に目にしている上に事実なのは確かなのだが、歯止めが利かない。

 

「…てめー、あんま調子に乗ってんじゃねーぞ…。」

「…そう余裕ぶっていますと、足元をすくわれますわよ?」

「はいはい。寧ろ私からしたら、やってみろって感じだけど?最も、ステルスが出来てもハッキングが出来ないんじゃ、私の国はそう簡単に崩せはしないわよ。」

「………。」

「凄い自信ですね…。」

「ノワールちゃんが、イヤな子になってる~…。」

 

そう言いつつ俺の方をチラッと見る。ルウィーの元大臣ことアクタイジーンの情報を盗んだことは評価に値するようだが、確かに機械のハッキングは習得していない。それを見越しての強気発言なのだろうか。

 

 

 

――――――だが、今回は平和的に終わることはなかった。

 

 

 

Prrr…Prrr…

 

「あら?教会の電話が…。」

「私が出ますよ。」

 

教会に電話が来るのが珍しいのか、イストワールが驚きつつも電話の方へ向かうも、ナナが対応すると言い出し、受話器を取り対応する。

 

「…ノワールさん。ラステイションの教会からお話があると。」

「私に?今日は1日オフだって言ったのに…。」

 

1日オフ…今日はずっとプラネテューヌに居る気だったのか?…と心のどこかで叫んでいたが、ノワールの表情が急変する。

 

「な、なんですって!?国内のネットワークがぐちゃぐちゃ!?…ああもう!わ、分かったわ。す、直ぐ戻るわ!!…た、大変よ!わ、私の国で…。」

 

最初こそ真剣に話を聞き、折角の休みが台無しという表情だったのだが、今やアワアワと落ち着きが感じられない、一種のパニック状態へとなっている。

 

「あらあら…早速、足元を救われましたわね。」

「…見事に天狗の鼻を折られたわね。」

「う、五月蠅いわねっ!!こ、これはきっと七賢人の仕業に違いないわ…。」

「まだ、七賢人の仕業って決まった訳では…。」

「…だが、ここ数年は沈黙していた。女神を陥れる準備が出来たのかもな。」

「あなたも悠長に分析してる場合!?…もういいわ。これくらい、私一人で解決できるんだから!!」

「ま、待ってください、ノワールさん!!」

 

ナナの制止を無視し、ノワールはプラネテューヌ教会から慌てて出ていく。確かに、ここの世界のネットワーク、システム全般が、超次元に比べると一世代前という印象を感じる。それでも、自信満々に言っていたノワールの城壁を破るというのなら、相手が一枚上手という事になる。

 

「い、いいのでしょうか?」

「少し調子に乗り過ぎたツケが回ったのよ。あれくらい、いい薬よ。」

「そうですわ。一度痛い目を見た方が、目が覚めますわよ…。」

「なんか~みんな言ってる事が腹黒だよぉ~?」

 

っと、私には関係ないと言わんばかりに、他人事のように話していたが、再び教会の電話が鳴り響く。

 

「あれ、また電話ですか?今日は本当に珍しいですね。(´-ω-`;)」

「あ、出ますよ。」

 

そう言いつつ、ナナが受話器を取る。連絡先は、ルウィーからであり内容を聞き受話器を置きブランに内容を伝えようとした時、立て続けに電話が鳴り響く。今度はリーンボックスからとの事…どうやら一国を狙った訳ではないらしい。

 

「内容を伝えます!ルウィーの教会で、大暴れしている何者かがいるそうです!リーンボックスでは、多数の未確認モンスターが出没とのことです!」

「えっ…!?懲りずに、またわたしの国に手ぇ出すとは…。」

「なんですって…!?わたくしの国が二度も襲撃を…!?」

「ばいば~い、またねぇ~。」

 

ブランとベールも自国の問題を解決すべく、プラネテューヌの教会を後にする。プルルートは相変わらず呑気なようで…。不思議な事にプラネテューヌには特に報告がないのが、また不気味で仕方ないが…。

 

「仕方ありません…現状、プラネテューヌに報告がない以上、他の国の問題を解決するのが先決ですね。私、ノワールさんが心配なので、今からラステイションに向かいます!」

「ナナちゃん、行動が早い~。」

「何を呑気な事、言ってるんですか。…まさか、プルルートさんは自宅警備員と言いつつ、お留守番と言う名の御昼寝をする気ですか?(´・д・`)」

「ぎくぅっ!!」

「はぁ…ナナさんの言う通り、プラネテューヌは現状無事なら、他国の女神を助けに行くべきですよ。」

「えぇ~…。」

 

どうも、プルルートは乗り気ではない様子。とは言え、置いていくわけにはいかないのも事実。…リーンボックスに向かう予定だったが、まずはプルルートをルウィーに送って、リーンボックスに向かう事にする。その事をイストワールに伝えるが、やはり心配されてしまう。

 

「なんだか、凄く不安ですね。実際はエースさんか、ナナさんが同行してれば安心できるのですか…。(´□`川)」

「むーん。あたしだってぇ、やる時はやるんだよぉ~!」

「普段の行いを見たら、そう見えないからです。┐( ̄ヘ ̄)┌」

「ぷる~ん…。」

「………。分かった。ルウィーの件を解決した後、ラステイションへ送り、俺はリーンボックスへ向かう。」

「…出来れば、その件が解決したら一度戻ってくれると助かります。(。-`ω-)」

 

恐らく、ネプテューヌと同じくやれば出来る子なのだろうが、普段の行いを見ていたら信用性は低いのだろう。それが、一度戻ってきてほしいという事なのだろう。効率は悪いが、こればかりは仕方ない。プルルートをプラネテューヌ職員が用意してくれたバイクの後ろに乗せ、ルウィーへ向かう事にした。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「ねぇねぇ~。」

「なんだ?」

「えー君の携帯にあった子達ってぇ、どんな子なのぉ?」

「…またその話か。」

 

運転中に、後ろで寝ていたと思っていたら突然の質問。それも、以前に子アイエフが勝手にいじっていた際に見た、何故か写真のデータ内に入っていたネプテューヌとネプギアの写真。写真機能を使った記憶も、撮った覚えもないのだが、事実写真データ内にあるという事は、“忘れるな”という意味を込めてのお告げか何か…。今まで、二人に関しての話ははぐらかしてきたが、どういう訳かこの時は自然と口が開いてしまった。

 

「…恋人でも、命の恩人でもないが、貸し借り抜きに信頼し合っているのは確かだ…。プルルートと同じ、プラネテューヌの女神をやっている。」

「へぇ~、あたしと同じ国なんだぁ~。」

「前に話したように、別次元のだがな…。」

「ほへぇ~。あたしも、会ってみたいなぁ~。」

「………。今更だが、何故寝間着のままなんだ。」

「ん~?この方がぁ、動きやすいしぃ。直ぐ寝れるからかなぁ?」

「………。」

 

会ったら会ったで、色々カオスな事になりそうだが、別次元へ超える技術や技法がなければ、実現不可能だ。普段は聞き返さないが、質問し返す内容もあれだが、ネプテューヌ並みにずぼらというかなんというか…。そんなこんなでルウィーに到着する。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

【ルウィー:教会】

 

ルウィーに到着するが、嵐の後の静けさというよりは、完全に後片付けと思う程、教会の補修作業に集中するルウィーの職員達の中にブランが居た。

 

「ブラン様。各階層の補修作業が完了しました!」

「…ご苦労様。内装は後にして、そのまま外の補修を優先ね。」

「ブランちゃん~。」

「あ、プルルート、エース。来たのね。」

「七賢人を退いたのか?」

「そうね…この様子じゃそう思われても仕方ないわね。」

 

どうやら、倒した訳ではなさそうだ。まるで何処からどう話せばいいのか、と悩んでいる顔をしている。

 

「立ち話も難だし…と言いたいところだけど、見ての通り内装はまだまだ時間がかかるわ。立ち話で悪いけど、いい?」

「うん、お話出来るならいいよぉ~。」

 

プルルートの返答に対して、俺はブランの質問に対し縦に頷く。話によると、ルウィーにはコピリーエースが再び現れ、清々しい程に破壊活動をしていたと言う。職員も阻止しようにも力の差がある上に、交渉にも全く応じなかったと言う。ところが、ある職員が“幾ら壊しても大歓迎”という一言を聞いたコピリーエースは、どういう訳か教会の破壊を止め、幾ら壊しても大歓迎の方へ案内してほしいと言い、そっちに行ったと言う。問題は、その職員も咄嗟に言った事と、そのあまりの出来事に上の空のようになってしまったからか、自分が何処へ行っていいと言ったか覚えていないと言う。それで、コピリーエースを案内した職員が帰ってくるのを待っていると言う。そんな話をしていると、コピリーエースを案内をした職員が戻ってきた。

 

「ぶ、ブラン様。た、大変お待たせしました!」

「そこまで待ってないわ。寧ろ、あなたが無事に戻ってきた事に安堵しているわ。…それで、戻ってきて早速だけど…。」

「は、はい。その、七賢人と名乗った人…と言うより機械は、ここから北にある採掘所へと案内しました。」

「成程ね。確かに、そこなら幾ら壊してもこっちとしても大歓迎ね。」

 

そこから職員曰く、見張りは付けているが採掘員の評判は良く、採掘速度も通常業務の5倍速くなったと言う。だが、当のブランはそれで落ち着いてはいないようだ。

 

「とは言え、教会を壊してくれた落とし前は付けて貰わないとね。…あなた達も来る?」

「…プルルート、お前はどうする。」

「あたしは行くよ~、行く行くぅ~。」

「なら、決まりだ。」

「分かったわ。あのヤロー…、袋叩きで徹底的にぶっ壊してやる…!!」

 

…これは、どっちが悪役になるか分からないが、兎に角コピリーエースが七賢人である以上、戦いは避けられないのだろう。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

【ルウィー:採掘場】

 

「そぉれ!もういっちょぉ!!」

 

ドゴーンッバラバラ…

 

「ヒューっ、流石(さっすが)っすね!惚れてしまう程のパワーだぁ。」

「ああ!!コピリーさんが来て、本っ当大助かりだぜ。」

「ほんとほんと!最初はびっくりして腰が引けそうになっちまいそうだったけど!あ、次そっちお願いしやす!」

「おーけぇ!任せろぉ!!」

 

「………。どういう…事なの…?」

 

街はずれで且つ整備が施されていないからか、若干モンスターが住み着いている状況ではあるが、基本的に立ち入り禁止棒で区画されている為、モンスターはあまり此方に襲ってはこない状態ではある。…現場に近づくにつれ、岩を打ち砕く音が大きくなっていく。その力強い衝撃音もあり、近場にはモンスターが全くいない。そして、現場を見たブランは、ある程度は想定していただろうが、コピリーエースが完全に現場の採掘員達と打ち解け、且つ仲睦まじくやり取りをしている。まるで、居なくてはならない存在へとも思えるように…。そして、此方がボケっとしている間にコピリーエースは語る。自分は七賢人であり、何れここに来るであろう女神と対峙しなければならないと。採掘員達は引き留めるも、七賢人の仲間を簡単に裏切ることは出来ないと…。

 

「友情よりも、組織を優先するか。」

「むぅ!!お前はあの時の…それに、女神も一緒か!!」

 

二人が棒立ちしている中、コピリーエースに話しかける。この反応からして、やはり戦わなければならない予感はしたが、交渉はしてみる。

 

「…できれば、お前とは戦わずして七賢人の情報が欲しいのだが?」

「それは出来ない相談だ。確かにあいつ等とは上手く噛み合わない時もあったけど、短いながら同じ志を持った同士…幾ら俺様でも、他の奴らが白旗を上げてないのに、俺様だけノコノコと白旗を上げ、仲間を易々とは売ることは出来んな!!」

「それを聞いて安心したわ。自分の立場を覚えていてくれて…。わたしの教会をめちゃくちゃにしたこと、その身を以て償って貰うわ。」

「望むところ!!最も、俺様は負ける気など微塵もないけどな!!」

 

お互いに睨み合い、ブランは武器を構え、コピリーエースは拳を構える。合図が出れば今すぐにでも互いに飛び出そうという所に、ルウィーの採掘員達がブランの前に立ちはだかるように出てくる。

 

「ま、待ってくださいよ!ブラン様!!」

「コピリーさんは、決して悪い人では…!」

「そうっすよ!現に俺達、コピリーさんには凄ぇ感謝してるんっすよ!!」

「だぁーっ!!てめーら!!ルウィーの国民であろう者が、七賢人と馴れ馴れしくしてんじゃねー!!」

「(…お前が言うのかそれを。)」

 

心の中でそう叫びながらも、やはり自国民には手を出せない為にブランは後退りする。対するコピリーエースも、採掘員達を心配してか、“そこを退いてくれ”と譲る気はないようだ。

 

「だぁー!!やり辛れーなっ!!さっさと始めんぞ!!オラ、おめーらも変身しやがれ!!」

 

採掘員とコピリーエースの友情に対して、完全にキレたブランが女神化をし、それに流れるようにプルルートも女神化する。

 

「…仕方ない。勝った方が、負けた方の言う事を聞くか、潔く腹を切るか…。」

「お、その案には乗ったぞ!!」

「それはこっちのセリフだ。てめーが勝つとは思えねーけどなっ!!」

 

ここまでスイッチが入ってしまったら、もう止めることは不可能だろう。白黒つけるで済むとも思えないが…。

 

「でもぉ、今の状態だとやり辛いし…えー君は、あの人達を守ってくれない?」

 

そんな時、俺も参戦しなければならないのかと思った矢先、プルルートが俺に対して提案してくる。随分と珍しい事に、ルウィー国民である採掘員を守ってほしいと…。確かに守りながら戦うよりは、周りを無視して全力で戦える方が、敵味方共に、不服も不正も無くなる。

 

「珍しい事を言う…。」

「あらぁ、失礼ねぇ…。あたしだって女神よぉ?無抵抗の人を傷つける事は流石にしないわよ。最も、コピリーさんが負けてぇ、彼らがどんな顔をするかは興味があるけどぉ?まぁ、あたしは元々、正義の味方ってガラは似合わないとは思ってるしぃ。」

「………。」

 

やはり…というべきか、優しくしておきながらSっ気を出す。それを聞いてしまった採掘員は、流石に“え?”という表情をしている。そして、ブランから防御壁を作り出す呪文書を渡され、これである程度は守れると言う。

 

「友よ、俺様に力を与えてくれ…行くぞ、女神!!」

 

 

 

 

 

―――――と、雄叫びを上げつつ、女神に特攻し激しい戦いを繰り広げるのかと思いきや、プルルートとブランの不思議と言うほどに息の合った攻撃に、コピリーエースは翻弄されている。最も、戦う場所が採掘現場であり、キャタビラでも足場が悪く、玩具工場とは違いバトルフィールドが狭いのもあり、思うようにコピリーエースは動けていない。プルルートの蛇腹剣により、電撃と絡みによる動きを封じる攻撃。ブランの、実直ながら一撃を重視した戦斧の一撃によって、徐々に押されていく。

 

そして、勝負は思ったよりも早く着く。渾身の一撃を込めた戦斧の一振りが、コピリーエースの顔面を捕える。

 

「ぐあああああああっ!!…は、ははは…もう、動けん…負けちまったか…。だが、悔いはない…。女神と、正々堂々と戦い、晴れ晴れしく散れるのだから…!」

『コピリーさん!!』

 

コピリーエースの様々な場所でショートが起きているのか、火花と電流が飛び散る様に出ている。そして、勝負が着いた瞬間、採掘員達が防御壁を無視して、コピリーエースの元へ集まっていく。…と言うかこの防御壁、外側のあらゆる攻撃は防ぐのに、内側は素通りするのか…マジックミラーのようなものか。

 

「コピリーさん!!誰か、早く救急箱…いや、工具箱を!!」

「どうして、どうしてこんなことに…!!」

「これも女神が…いや、ブラン様は、何も悪くはない…でも…。」

 

「…なんだかぁ、コピリーさんが、可哀そぅ…。」

「可哀そう…じゃねー!なんで、勝ったのに胸糞悪い空気なんだよ、クソがぁ!!」

 

採掘員からしたら、尋常じゃない程短期間ながら、友情を築き上げ、その友情をぶち壊されたんだ。傍から見れば、友達になった人物が殺されたんだ…互いにブチギレ案件のようなものだ。

 

「お、おい、何してんだよ?」

「直せるか見るだけだ。」

「はぁ?直すだぁ!?」

 

“何考えてんだ!”と後ろからブランにそう言われるも、こちらとしても七賢人の情報を聞きたいところであり、データがあればそれを引っこ抜くのも考えている。

 

「お、おい…大丈夫なのかよ、あの人…。」

「ねじ回しもないのに、ねじ開けたぞ…!!」

 

超能力のキネシスでねじを回し、機械修理技能という感じで、機械版が見えそうなところを覗き見る。ちなみに、今は火花が飛び散ってないあたり、システムが危険と判断されたのかシャットダウン状態なのだろう。…大分違うが、こちらとしては銃を組み立てるようなものだ。

 

「………。一部ケーブルが破損しているが、基盤自体は問題ない。綺麗に直せばまた動くだろう。」

「ほ、本当っすか!!」

「後は、お前達次第だ…。ブラン、後は任せたぞ。」

「…はぁ!?勝手にやって勝手に何言ってんだよ!!全部わたしに押し付けるのかよ!!」

 

ブランからしたら、勝手に調べた挙句、修理可能と判断し、全てをブランに任せるというのだから、ブランからしたらキレてしまっても仕方ない。

 

「お前なら出来る。俺はそう思っている。後は、お前次第だ。」

「………。」

「あぁ、待ってよぉ~。」

 

捨て台詞のようになるが、そう言い残し採掘所を後にする。捨てるにしろ、直すにしろ、国のトップならいえる事だろう。そして、後ろから大声で聞こえてくる―――――

 

 

 

 

 

「おい、てめーら!!何時までもそわそわしてんじゃねー!!今からルウィーの心得ってのを、体に叩き込んでやるから、覚悟しやがれ!!」

 

 

 

 

 

 



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Scene68 混沌に這い揺蕩う生命~Chaser~

 

 

【プラネテューヌ:教会前】

 

「ふわぁ~、着いたぁ~。」

「…さっさと報告するか。」

 

ルウィーの問題に対して手伝いに行き、ある程度解決したと判断し、イストワールへ報告をする為にプラネテューヌへと戻ってきた。報告をした後、プルルートをラステイションへ送り、そのまま俺はリーンボックスへ向かう予定でいる。しかし、教会に近づくにつれて、教会からの騒音が大きくなっている事に気づく。

 

「ほぇ?なんかぁ、騒がしくない~?」

「………(まさか、襲撃?)」

 

そう考え、俺はバイクから降りつつ足早に教会へと向かう。“待ってよぉ~!!”とプルルートも追いかけて来る時には、扉に手を添え中へと入る。

 

「くらえーっ!!」

「ぴーちゃーん、頑張るですぅ!!」

「こんぱ、わたしたちも手伝うわよっ!!」

「いた、いたた!!や、やめてってばぁ!!」

 

「………。」

「あ~、アブネスちゃんだぁ~!!」

「あ、も、戻ってきましたか。ヾ(´・ ・`。)ノ"彡」

「何事だ、これは…。」

 

戻ってくると、若干服装が乱れているイストワール。部屋の中央にアブネスを囲いつつ、子コンパ、子アイエフ、ピーシェが一斉攻撃の如くフルボッコにしている。イストワールの話によると、ルウィーへ向かう為に出てから数時間後、突然アブネスが一人でプラネテューヌ教会へ乗り込み、特に理由もなく“誘拐犯”の犯人だと決めつけられたと言う。おまけに、幾ら違うと言っても犯人だと一方的に決めつけている上に、イストワールの誤解だと言う話を全く聞こうとしない。そして、事情は分からないものの、独断で悪い人だと判断した子ども3人が、悪役退治という形でアブネスを殴る蹴る…という状況である。

 

「えいっ!やぁっ!」

「わ、わたしもがんばるですぅー!!」

「えいえんのやみにおちろっ!そして、こんとんにきえされーっ!!」

「もー!呑気に解説してないで、助けなさいよー!!」

 

…が、イストワールは自業自得という事で止めようとはしない様子。それに乗っかる様に、只々見守る事にした。

 

 

 

―――――数分後

 

 

 

「いたたっ!ちょっと、もう少し優しく出来ないのっ!!ってか、止めに入りなさいよ、バカ女神、変態男!!」

「ぷるーん…バカって言われたぁ…。」

「…あれ程の攻撃に耐えたんだ。これくらい我慢できるだろ。」

 

大の大人…と言うのはアレだが、流石に大泣きしたところで手を出すのを止め、子コンパが(何故か)持っている本格的な応急キットで手当てをしている。七賢人の中でも最弱…と言われているが、こと耐久力に関しては人並以上のものを持っている可能性はあるようだ。

 

「良いか悪いかは置くとして、今回は偶々この人が頑丈だったとしても、下手したら死んだかもしれない。今回を教訓に、手加減を習得しなさい。」

『はーいっ!!』

「って、あたしを実験台みたいな風に言うな!!」

「とは言え、そちらもこっちの話を聞こうとしなかったじゃないですか。自業自得ですよ。(´。` )」

「うっ…そ、それは、ここが託児所的なのをやっているのは知ってたし、ちゃんと情報は集めたんだから。」

 

裏取りしているかは分からないが、子どもが誘拐されている事も兼ねて、恐らくは保育園や託児所が怪しいと踏んでの調査なのだろう。そうして、強行姿勢で誘拐犯と吐かせようとしていたのだろう。ただ、他人事になってしまうが、初手がプラネテューヌ教会でよかったと言うべきなのだろう。他の所でやっていたら、虚偽にも関わらず言ってしまう可能性もある。…と、アブネスが少しずつ落ち着きを取り戻していた―――――が、プルルートの当然の爆弾発言に、アブネスは再び有頂天の如く怒り出す。

 

「ねぇねぇ~、アブネスちゃん~。七賢人が誘拐してたりは聞いてない~?」

「…はぁっ!?ほんっとバカなの、あんたは!!なんでそうなるのよっ、そんなことある訳ないでしょっ!!」

「あの、プルルートさん。流石になんの根拠もなしに決めつけるのは、良くないと思いますよ?そもそも、アブネスさんがそっち方面で活動している上に、そういう意味で目を光らせている以上、七賢人に子どもを誘拐するなんて出来るとは到底思えません(´・ω・`;)」

 

此方としても決定的証拠がない以上、アブネスと同じ根拠もなしにでっち上げで犯人にし、やってはならない事をしてしまう。…が、その線も考えようによってはあり得る。知っているかどうかは分からないが、揺さぶりをしてみるか。

 

「う~ん。でもぉ、前にブランちゃんが読んでた本でぇ…。」

「まさか、そんな事で疑うって言うの!?無実なのに疑われる気持ち、考えた事あるの!!」

「…その言葉、そっくりそのままアブネスさんにお返ししたいところですね…(。-`ω´-)」

「アブネス、一つ確認したい。」

「何よ。まさかアンタもそこのバカ女神と、同じこと言う気?」

「ルウィーで、七賢人の一人が暴れていた…という情報は知っているか?」

 

その言葉を聞いたアブネスは、まるで知らなかったと言わんばかりに目を見開き、明らかに驚いている様子でいる。

 

「はっ!?ちょ、ちょっとちょっと!!な、なによ、それ…。そんな話、聞いてないんだけど!!ほ、本当なの!?」

「本当だよ~。ブランちゃんだけじゃなくて、ノワールちゃんに、ベールさんもぉ、慌てて帰ってったよぉ。」

「わ、ワタシ、そんなの聞いてない…んもぉ、あいつ等勝手な真似してぇ…!!」

 

そう言い終えると、一目散にアブネスは慌てるように教会を後にする。子ども達は追いかけようとするが、追いかける必要はないとして止めさせる。

 

「…あの様子では、統率が取れてないか、独断で全員動いているのか…。」

「かもしれませんね。憶測に過ぎないので決めつける訳にはいきませんが…(‐”‐;)」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

【翌日:リーンボックス】

 

…何はともあれで片づけるには色々あり過ぎたが、プラネテューヌの方は若干の警備の強化体制を取るで落ち着き、プルルートをラステイションへ送る。此方も色々と大変であったが、ノワールとナナの連携もありある程度は収まり始めて居るという。しかしながら、まだ犯人は特定しきれていないと言う。

リーンボックスへ手助けをする為に行ったのはいいが、各国全体の騒動の関係かリーンボックス行の船の欠航により当日には行けず…だったら、戻ってラステイションの手伝いをしろと言いたいところだが、港に着いた頃には既に日が暮れており、そこから戻ったら深夜位になってしまう。小型艇を買う資金も今は無く、引き返す事を留まり翌日の一番船で何とか到着する。そして、街まで歩く…のだが、いくら何でもここまで大きくする必要はあったのだろうかと言うくらい、街まで若干の距離がある。とは言え、謎のモンスターが出現という報告があったにも関わらず、嵐の前の静けさともいえる程に何事も無く街が肉眼で見える程に近づく。

 

――――――がさがさっ

 

「………?」

「………。」

 

リーンボックスの街へ続く道の雑木林、その一部から物音がしてそっちの方を見る。そこにいた良く分からない生物と目が合う。体の基本とサイズはゴ〇ちゃん程度だが、その目は今にも飛び出しそうな程にぎょろっとし、巨大なたらこ唇、甲殻類のような足が六本、背中にゴ〇ラ的な尾びれが付いている。あらかた、この世界の生息モンスターは調べているが、前の世界含め見たことがない。

 

「きゅいいいいいいいっ!!」

「っ…!?」

 

五秒ほど目と目が合う瞬間をしていたが、突然とそのモンスターは叫びだす。見た限りでは全く脅威に見える相手ではない…のだが、俺の意志とは無関係に右腕だけが勝手に距離を取る様に、後ろに動くという初めての出来事に若干戸惑ってしまう。

 

「きゅいっ!きゅいいいいいいっ!!」

「(かなり興奮しているようだ。腹でも空かしているのか…?)」

 

そんな事を考えてしまうが、やる気満々なように見えるモンスターに対し、念には念をでファイトスタイルのように構える。この騒動の影響か武器や危険物を持ち込むことが出来ず、衛生兵のような道具しか持っていない為に、拳と足で戦うしかない。だが、あくまでモンスターが攻撃してきたら反撃するスタイルは変えない。

 

「きゅいっ!!」

「………。」

 

目の前のモンスターを中心に、サイドステップによるフットワークを使い様子を見る。しかしながら、依然とまるでモンスターの前に出たくないと言わんばかりに、俺の意志を無視するように右腕が動かない。それどころか、サイドポケットに突っ込んでいる状態から動かす事も出来ない。更には、サイドステップの速度を上げるも、モンスターは目ではなくしっかりと体を動かして俺を肉眼で捉えている。

 

「きゅいっ!」

「きゅいっ、きゅいきゅいっ!」

「…鳴き声も同じか。」

 

そんな見の状態を続けていると、同じモンスターが現れる。…この二匹が昨日の連絡で言ったモンスターであれば、簡単に見逃す事は出来ない。だが、右腕が全く動こうとしない謎の現象が起きている。黄金の右腕…という訳ではないが、武器を一つ無くした状態で戦う必要がある。左のジャブと蹴り技を屈指して戦うしかないと考え、体を半身にし、左拳を前に構える。

 

「追い詰めましたわ!!って貴方は…。」

 

二体目のモンスターが現れた場所から、グリーンハートことベールが現れる。どうやら現れた二体目を追いかけてきたようだ。

 

「説明は後だ。その様子では、このモンスターが突如現れたと言う…。」

「ええ、その通りですわ。気を付けて下さいまし。このモンスター達は、並外れた耐久力を持っていましてよ。」

 

話し方からして、一度戦ったのだろう。だが、女神ですら昨日に遭遇して戦ったにも関わらず、全てを駆逐しきれていないというのは、このモンスターが並外れた耐久力と言ったと思われる。実際にまだ殴ってはないが、サイドステップで移動しているのを捕えているところ、身体能力も高いと見られる。

 

「きゅいきゅいっ。」

「きゅいっ!!」

 

すると、モンスターがまるでコミュニケーションを取る様に鳴き、何か決めたかのように力強くもう一匹が鳴き、背中合わせのような体制になっている。

 

『きゅいいいいいっ!!』

 

そして、互いに体当たりのように飛び出してくる。互いに一対一で抵抗しようと、意思疎通をしていたのだろう。モンスターの体当たりをいなすように避ける。その体当たりをかわすが、着地すると同時にすぐさま転回、再び頭突きをするように飛び掛かってくる。その頭突きに合わせるように左腕を絞り、スクリューブロー風のジャブを放つ。

 

「きゅいっ!」

「…効いていないのか。」

 

戦闘慣れしていない、又は非戦闘系だったのか、基本的に体当たりしかしてこない為に反撃は取りやすい。しかしながら、打撃は兎も角、鎌鼬を宿した手刀による斬撃と貫手、更には蹴り技から衝撃刃、そのどれもが真面に喰らえばダウンが取れそうだが、悉く一瞬だけ動きは止められるものの、撃破には至らないように見える。

 

「はああああっ!!」

「きゅいい!!」

「むんっ!!」

「ぎゅっ!!」

 

だが、流石にダメージは蓄積しているらしく、何度か攻撃を受けているモンスターの攻撃が、弱まっており攻撃頻度が少なくなっているのは分かる。攻撃を当てやすくはなったものの、瀕死になりながらもまだ立ち向かおうとするモンスター…一体何がお前達をそこまで奮い立たせている。

 

「並みの耐久力だけじゃなく、ガッツも持ち合わせている。」

「分かって貰えるのは有難いのですが、よく素手で戦えますわね。こっちは見ていると気分が悪くなってきますのよ?…寧ろ早く終わらせたい程ですわ。」

「(このモンスターと戦うのが気持ち悪い…?)」

 

ベールの言葉に違和感を覚える。基本的にモンスターと戦うのを我慢するのは、恐怖かグロテスクな場合にはなると考えられる。しかし、目の前にモンスターは(俺基準化もしれないが)SAN値が削れるような見た目はしていない。…にも関わらず、ベールはそんな感じで戦っている。現状では、この目の前のモンスターと右腕が動かない因果関係は分からない。だが、何かしらの理由はあるのだろう。それは兎も角、弱っているとはいえ戦闘が長続きすれば不利になる可能性はある。万が一、オートヒールのような能力を持っていたら、それこそ回復技や魔法を持っていないこっちとしては、余計に不利になる。…近くに味方が居たら放ちたくない上に、撃破を視野に入れているベールからしたら、嬉しく思わないだろうが仕方ない…。

 

「くっ、いい加減倒れて貰えません事っ!」

「…少し、我慢してくれ。」

「…?我慢とは何を…―――――っ!!」

『きゅ、きゅいっ!!きゅいいいいいいいいいいい!!!!』

 

ベールが何か言おうとしたが、その前に俺は()()()()()()()()()()を周囲に放つ。モンスターの方はその気当たりを受けた瞬間、気当たりに耐え切れなかったのか逃走する。モンスターが見えなくなったところで、気当たりを放つのを止める。

 

「………。行ったか。」

「“行ったか”じゃありませんわっ!!なんて気当たりを放っていますの!!もっとしっかり説明をして下さいましてっ!!」

「しかし、俺は丸腰な上に、長引けば不利になる。」

「あなたの場合は丸腰でもっ!!…はぁ、言っても仕方ありませんわね。」

 

そう言いつつ、ベールは言うのを止め呆れたように変身を解除する。

 

「逃してしまった事に関しては、目を瞑っておきますわ。それでも、わたくしだから耐えられたとは思いますが、あまり放って貰いたくはありませんわね。」

「…しかと心に響いた、わかった。」

「…それ、ネタで言ってますわよね?」

 

それから、ベールから話を聞く。昨日の連絡を受けて直ぐに帰国をすると、先ほどのモンスターが暴れていたと言う。見た目は兎も角、理由の分からない悪寒に襲われつつも対処をしていたと言う。そればかりか、確認した限りでは数十匹はいると言う。幸いなことに、街への被害や悪質な事はされていないと言う。そして、目撃情報も多数あるものの、生命力の高さ、逃げ足の速さも相まって、解決は愚か一匹も倒す事に成功していないと言う。

 

「…最初に出没した場所は分からないのか?」

「ええ…わたくしが戻ってきた時には、既に多方面へと展開しているように、あのモンスターが居ましたわ。」

「ドローン…いや、無人偵察機とかでの偵察は出来ないのか?」

「…マルチコプターの事でしょうか?単独で飛ばす事は出来ますけど、監視カメラを搭載出来る程のバッテリーが上手くいかなくて、それはまだまだ実現出来てませんわ。」

「…そうか。」

 

どうやら、今の会話を聞く限りでは、まだドローンによる無人偵察機は出来てない用だ。ベールから夢見すぎな目線を感じる…。とは言え、ベールは作戦を考えており、あのモンスターを仕切っているのは七賢人だと考え、あのモンスターを放った何者かを見つければ…と考えている。傷ついたモンスターは何処かで羽休めをしていると言う目立てで、監視カメラの情報を頼りに、これから向かおうと考えているようだ。そう言っているうちに、ベールに連絡が入り、先ほどのモンスター含め何処へ逃げて行ったかが分かったと言う。

 

「…ええ、分かりましたわ。情報によりますと、街から北西にある“ゼーガ森林”に逃げたそうですわ。」

「分かった。直ぐに向かおう。」

 

しかし、ここで向かおうとした時にベールに引き留められる。

 

「ちょっとお待ちになりまして。まさか、そのまま行くお心算で?」

「武器は、向こうの港で預けられてるからな。それに、完全な丸腰ではない。」

 

と、言いつつ右腕でガッツポーズをとる様にする。とは言うものの、それでもベールは呆れた顔をしている。

 

「…そこまで仰られますと、その度胸には恐れ入りますわ。とは言え、わたくしからしたら、何も持ってない御方と肩を並べるのは、絵面的に不安しかありませんの。それに、先ほどの戦いで右手を全く使ってないあたり、何か理由がありまして?」

「………。」

「…話したくないのであれば、追及はしませんわ。ですが、街を経由していく必要がありますので、立ち寄るのであればそこで調達しておくべきですわ。本当はライセンスが居るのですが、そこはわたくしが何とかしますわ。」

「女神特権か…便利だな。」

 

不満的なのを漏らしつつも、リーンボックスを経由する必要がある為に街へ戻り、そこで銃と短剣、それをしまう為のガンベルトを調達する。

 

「…本当にそれでいいですの?レーザー銃とかはお嫌いのようですけど、あなたでしたら、45口径や…それこそ50口径の自動拳銃だってありましてよ?」

「オートマはあまり馴染まないんだ。それに、此奴は、()()()()()()()()()()()()()()()()も愛用しているモデル。俺はこっちの方がしっくりくる。」

「まぁ…そこも口出しする気はありませんわ。」

 

M19コンバットマグナムを見たベールがそう言う。嘗ての愛用銃は、恐らく元の世界にある。それに、回転式銃をよく使っている側からしたら、こっちの方が馴染みが良い。自動拳銃は悪いとは言わないが、オートマで早打ちは向かないのもある。

 

「それで、例のモンスターは森林の何処へ行った?」

「流石にそこまでは分かりませんわ。入っていったという情報が入っただけでも、現状からしたら大きな一歩ですわ。」

 

地図を見る限りでは広くはないが、ドーム一、二個分程の長さはあるようだ。とは言え、分岐と言える道は少なく、探す場所は限られてくると思われる。RPG的に言えば、分岐が途中に三つあり、そこの奥に居るかマップ外に居るか…。

 

 

「…行けば分かるか。」

「そういう事ですわ。準備が出来ているなら行きますわよ。こっちとしては一日でも早く解決したいですし、もし他国へと流れ込んでしまったら、あの子たちになんて言われるか…。」

「そうだな。約二名は何て言うか…。」

 

巣を構えているのか、或いは先ほどのモンスターを操る獣使い(“ビーストテイマー”)が居るのか…。何れにせよ確かめる必要はある。そうして、俺とベールはリーンボックス職員の許可を貰い、リーンボックス北西にある“ゼーガ森林”へと足を踏み入れる事になる。

 

 

 

 

 

 



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Scene69 新たなる野望と障壁~Challenger~

 

 

【リーンボックス:ゼーガ森林】

 

ベールと共に、リーンボックスの街から北西に位置する森林地帯“ゼーガ森林”へと到着する。こうして改めて見ると、何処となくリーンボックスにも関わらず構造がバーチャフォレストに似ているように見える。憩いの場とも言えるスペースや通路ともいえるアーチもあれば、モンスターに妨害されないよう、木々に防御装置が付いている等と、技術では超次元に追いついてはいないが、向かっている先は同じだと分かる。憩いの場ともいえるアーチを過ぎた先は、整備がされてないのか、女神の加護が弱いのか、(見た目は可愛い)凶暴そうなモンスターが多数存在している。

 

「恐らく、他の人の目に付きそうな場所を避ける事を踏まえ、逃げるとしたらこの先だと思いますわ。」

「…この先からは、隠れるには絶好だ。」

 

モンスターがワラワラいる=一般的に入るのは依頼(クエスト)で来る、若しくは特別な理由がない限りは入らないのが妥当と言える。基本的にモンスターは温厚、又は非アクティブが多いようだが、殺る気満々なモンスターもいる為、そのモンスターに対しては対処しなければならない。

 

「ふふっ、なんとなく女王様になった気分ですわ。わたくしの出番は本番まで無さそうで…。」

「女王はプルルートの方が似合いそうだが…?」

 

冗談を交えてはいるが、周りで戦っている音はなく銃声を放った場合、目的のモンスターが逃げてしまう可能性も考え、ベールの体力温存を踏まえて抜手や打撃による気絶狙いをして、先へと進んでいく。

 

「きゅいい…。」

『…ん?』

「今、声が聞こえましたわね。」

「…あっちからだ。」

 

かなり奥へと進んだところで、例のモンスターと思われる声が聞こえた。若干の傾斜の先にある平地小山…そこに例のモンスターが三匹、そして見覚えのある小太りの男がいる。

 

「おお、そうかそうか。女神にやられてしまったか…よしよし、可哀そうにのぅ…。」

「きゅい、きゅいいい…。」

「何、サングラスを掛けた男にも負けた?まさか、あの男もここに来ている…?むむむ、これは少しばかり厄介じゃ…。」

「きゅいいいい…?」

「おお、心配するでない。寧ろ、お前の方が傷だらけじゃ。ほれ、妹達も心配しておる。だから泣き止むんじゃ。な?」

 

モンスターをなだめている人物。それはルウィーで大臣を務め、そしてルウィーを我が物にせんとクーデターを起こした人物、七賢人の一人“アクダイジーン”がそこにいた。そして、またしても右手が無意識にピクピクと動いている。

 

「案の定と言うべきか、七賢人絡みのようだ。」

「ええ…ようやく、真相がわかりましたわ。」

 

ベールがそう言うと、俺の制止を無視するようにアクダイジーンの前へと出る。

 

「そこのあなた、そこまでですわ!!」

「ぬぅ、女神ぃ!!」

「よくもわたくしの国でやってくれましたわね…。」

 

…が、追い詰めて何を仕出かすか分からないアクダイジーンだったが、斜め上を行くような状況へとなる。

 

「このような事をして―――――」

「貴様、よくもやってくれおったなっ!!」

「―――――タダですむ…えぇ!?な、なんですの!?」

「…どう言う事だ。」

 

逃げるか、又はモンスターを使え反撃をするのかと考えていたが、第一声がベール…女神に対しての罵倒だった。

 

「やはり、貴様もいたか…。よくもわしの可愛い娘を泣かせたな!!」

「む、娘ぇ!?そ、そんな、泣かせたこと何で…。」

「何、白を切る心算か!!現に今泣いておるでないかっ!!」

「え?ど、どこですの?」

 

アクダイジーンが言うには、今現在その娘というのが泣いているそうだ。だが、()()()()()()は見当たらないが、奴が言うには現に泣いているのがいる。

 

「きゅい…きゅいい…。」

『………。』

「さぁ、早く謝らんか!!」

「…えーっと…、つかぬことをお伺いしますけど、その…あなたの奥様は、人間ですの?」

「若しくは、愛情を込めて作ったか、自分の腹から生んだか…。」

「わし自身で産んだら、それは驚くわ!!」

 

どうやら、現在進行で泣いているのがアクダイジーンの周りに取り巻きとしている、モンスターであることが断定する。若干の沈黙の後咳払いをし、アクダイジーンが口を開く。

 

「…わしの言い方も悪かった。この子達はわしの実の娘ではないが、実の娘のように可愛がっておるという意味じゃ。そして、この子達もわしを父親として、よう慕ってくれておる。」

「きゅいきゅい!!」

「おお、よしよし…もう少し待っておれ。」

「そ、そうですわよね。ふぅ…色々と深いところまで想像してしまいましたわ…。」

 

一体、何を想像していたのやら…。人間×モンスターは空想世界でのみで十分だろう。確かに、愛でているのが、大黒柱の父のようであり、それを慕う子どものようにも見えなくはない。

 

「ペットの領域を超えた、掛け替えのない存在というのか。」

「…流石のわたくしは、あのような見た目に難のあるペットは…。」

「なんじゃと…ペット…気持ち悪い…だと…!?」

 

何やら(一部偏見はあるが)気でも触れたような言動を言いかけている。

 

「貴様等…よりにもよって、しかも女神であろう者が、この子らを気持ち悪いと言うのだな!?恥を知れ!!」

「な、何を仰っているのですか!?って言うか、気持ち悪いなど言っておりませんわよ!!」

「ほれ見ろ!今、気持ち悪いと言ったな…!!やはりそう思っていたのだろう!!」

「り、理不尽にも程がありましてよ!!」

「(何て当てつけだ…。)」

 

とんでもなく偏見塗れだが、アクダイジーンの怒りがどういう訳か有頂天へと達してしまったらしく、指を鳴らすと、空から全開破壊したはずのバトルアーマーが出現する。ルウィーで暴れた際のマシンとは形状が大分違う。…と言うより、マシンの腹部分の前あたりにコックピットがあるのが気になる。

 

「許さん、絶対に許さんぞ!!じわじわと嬲り殺し、成敗してくれる!!」

『きゅいきゅい!!』

「おおそうか、お前達も共に戦ってくれるのか。では、共に異端者を討ち滅ぼしてやろうぞ!!」

「あ、あら…?可笑しいですわね…。何時の間にか、わたくしが倒される側に…?わたくしの国が被害を受けている側ですのに…。」

「そんな事はどうでもいい。…おっさん、お前と戦う気は無いぞ。武器を仕舞え。」

「ど、どうでもいい…!?今、どうでもいいと仰いましたわよね!!」

「問答無用じゃ!!わしの可愛い子達を虐めた貴様に対し“はい、そうですか”と言えるとでも思ったか!!」

 

アクダイジーンとモンスター三匹は、完全に戦闘態勢に入っており、そんな状況をあっ気取られているのかボケーッと立っているベールがいる。

 

「…あいつの代わりに言うが、何を言ってるか訳分からねー…と思ってるだろうが、構えないとサンドバックになるぞ。」

「あいつと言うのは分かりませんけど、まぁ…元より、こちらから倒す予定ではありますものね。」

 

そう言いつつ、ベールは槍を呼び出しながら扇風機のように回し、構えつつ槍先をアクダイジーンに向ける。

 

「さぁ、返り討ちにしてやりますわよ!!」

「ほざけぇ!此方も三年間、ただ単に居座っていただけではないことを、思い知らせてくれるわ!!」

「面白い事を言いますわね。こっちも三年間、ただ単にいろんなゲームをして、暇を持て余していた訳ではないことを、思い知らせてあげますわ!さぁ、行きますわよ、エースさん!!」

「(ゲームしていたのを主張するのか…)ああ。」

「さぁ、お喋りはそこまでじゃ。行くぞぉ!!」

 

完全に流れに乗る形となるが、アクダイジーンとモンスター三匹が同時に攻撃を仕掛けてきた為に、不本意ながら戦う構えを取らざるを得なくなった。

 

『きゅいきゅいいい!!』

「なっ!!」

 

予想外な事にモンスター三匹は、俺の事は眼中にないのか、ベールの方へと飛びつつ体当たりを仕掛けて行く。

 

「何処を見ておる、貴様の相手はわしじゃあああ!!」

「…!!ぐっ!!」

 

目線のみだが、余所見は余所見だ。正面を見た時には既に、アクダイジーンの操っているマシンの拳が飛んできている。今からオーバードライブを発動しても、距離的に避けるのは困難、ブロックで防ぐしかない。右手が使えないと思い込み、左手のみでガードするも、流石に改良しているのか、ガード越しでも衝撃を抑えられなかった為に、ガードした腕が自分を殴るように衝撃が伝わってくる。倒れはしないが、その衝撃で土を削りながら後方へと飛ばされてしまう。しかし、片手で防いだ代償は大きい―――――

 

「はっ!!エースさん!!」

「ちっ…大丈夫だ…(口を切った。おまけに、左腕の骨にヒビが入ったか…)。」

「ほう、今のを防ぐのか。並の人間であれば、腕は吹き飛び、頭蓋骨は粉々であるはずじゃがのぉ。」

「…そんなのを、女神相手に導入するのか。」

「なぁに…女神だったら、この攻撃でも耐えてしまうと想定していたがなぁ。それに、貴様こそが我々にとって一番の危険分子でもあるからのぉ。今ここで潰してしまうのが得策じゃ。」

「言ってくれる…。」

 

右腕で口から流れる血を拭いつつ、右腕が動いている事にも気づく。どうやら、あのモンスターだけこの現象が起きるようだ。であれば、右腕も使えば…と言っても過ぎたことは仕方がない。左手は動くが、酷使すれば複雑骨折は免れない。これは、俺の勝手な思い込みも含んだ油断。この三年で七賢人も力を蓄えていたが、それを見余っていた余裕…。

 

「…これでは、元の世界のイストワールに怒られるな…ネプテューヌ程じゃないが、違う意味であいつみたいになっていたか…。」

「何を呟いている。気でも狂ったか?―――――っとぉっ!」

 

呟きつつ、服の左袖を破り包帯代わりとして巻き付ける。そして、アクダイジーンが喋っている間に、リボルバーで速射を仕掛ける。装甲は頑丈そうだが、関節部の隙間を狙えば、ある程度は破壊できると睨んでの射撃だが、A.T.フィールドのような装甲壁によって防がれてしまう。

 

「ぐふふふふ…関節部を狙っても無駄じゃよ。遠距離も想定し、あらゆる物理、魔法攻撃は愚か、至近距離の戦車砲をも防ぐシールドを開発済みよ。貴様の豆鉄砲では、この壁を破壊する事など不可能だ。」

「らしいな。」

 

そう言いつつ、シリンダーの弾を全て排出する。六発全部一瞬で撃ったことに、流石のアクダイジーンも“何、三発ではなかったのか!!”と驚いていた。ベールも女神化して戦っている…銃をしまい込み、右腕に印を書き開放、そこから更に右腕を掲げ変身をする。

 

「ほほう、前の時とは比べ物にならない威圧感じゃ。だが、これには通用するかな?」

「…試してみるか?」

「やはりと言うべきか、度胸も据わっておる。奴の言っていたことも分かる…叩きのめすには惜しい存在だ。」

「奴…?」

「おっと…口が滑ったわい。まぁ、貴様は可愛いわしの子を虐めた罪を、償って貰わなくてはなぁ!!」

 

そう言いつつ、前倣えの構えを取ると、マシンの指先が銃の先端のように変形する。その先端から、まるでバルカン砲のように火を噴き、強力な弾丸が飛んでくる。

 

「(一つでの連射力は遅めだが、それぞれの指がそれを補っている…。回避は難しい、ならば。)」

「…あの構えは…!」

 

砲撃に対して右手を前に出し、女神がシェアエナジーを正面に貼る盾のような、エネルギーシールドを作り出す。神次元のベールも使えるのか、その光景に若干の驚きを見せている。

 

「っ!!」

 

だが、真正面の弾丸は防げているが、頬や足の外側は何発か素通りして掠めていく。掠っているとは言え、喰らい続ければ何れ体力が無くなってしまう。しかし、弾丸から何か異質なエネルギーをも感じる。

 

「ぐふふ、やはり貴様も女神と似た力を持っているようじゃのお!!ならば、このまま押し切るまで!!」

 

奴の言葉も含め、確信ではないが“アンチエナジー”に似た何かを含んだ弾丸を飛ばしているようだ。こっちの世界ではアンチクリスタルのようなものはまだ確認も、報告も受けていない。だが、アンチエナジーは人の負の心から出る感情を蓄えて発生する代物…出来る、出来ないではなく、奴らの手にアンチエナジーか、それ相応のものがあると思ってもいい。実際、犯罪組織内で暗躍していた際に、武器や銃弾にアンチエナジーを組み込むという案は出ていた。が、この攻撃を防げていないのは、俺の力がニグーラよりも、シェアエナジーの方が勝っているからかもしれない。流石にあんなのを脳天に受けたら、Z指定のようなシーンになってしまう。ならば、肉を砕き骨を断つっ!!

 

「馬鹿め、血迷ったか!!」

「っ!?エースさん!!」

 

アクダイジーンの言う通り、数発の弾丸がバリアを透き通り、何時頭部を貫くか分からない中、そのバリアを張ったままアクダイジーンに向かって特攻を仕掛ける。

 

「喰らいやがれっ…!!」

 

魔人のような右手を灼熱ともいえる炎で包み、左手には衝撃と切り裂きを備えた風を纏いつつ右ストレートを放つ。アクダイジーンはそれに合わせるように、マシンによる左ストレートを放つ。互いの拳がぶつかり合う中、更に俺は左ストレートを放ち、アクダイジーンはマシンによる右ストレートを放ち、これも互いにぶつかり合う。

 

「ぬぅ…!!」

「ぐふふ、此奴と力比べとは浅はかな…。貴様は防ぐ間、体力を消耗するが、わしは痛くも痒くもないし、疲れもしない。このまま押し切ってくれるわ!!」

 

そう言い終えると、奴が操るマシンの拳から、ロケットパンチのようにジェットが噴出し、拳で押しつぶすかのように押されていく。奴の言う通り、今は互いの力が均衡状態であり防いではいる。しかし、僅かずつだが地面に足がめり込んでいくのを感じる。このままでは体制が崩れて、潰れたトマトのようにぺしゃんこになるのも時間の問題。しかし、この距離では奴もバリアを張る隙は無いようだ。おまけに、この数年はボクシングスタイルを集中的にやってきた。俺の戦闘スタイルは“拳”だと思う程焼き付けてきた。本来であればこんなところで使う気は無かったが、状況が状況なだけに使わざるを得ない。

 

「な、にぃっ!!」

 

拳と拳がぶつかり合っている中、俺は突然とビーカブースタイルの如く丸く構え、左足を重心に回転を掛け、マシンの足に向かって鎌鼬を纏った回し蹴りを放つ。同時に、体を回転させて両腕の付け根にも鎌鼬を放ち、マシンの手足を切断、コードの切断に成功する。マシンの片足が捥げた為、アクダイジーンのマシンは支える事が出来なくなり倒れ込む。

 

「ぐおおおおあああ!!ば、馬鹿なぁ!!」

「命を取る気は無い。知っている情報を吐け。」

 

そこから少々乱暴だが、マシンの安全装置を無理やり破壊し、アクダイジーンを引っ張り出し、変身を解きつつ抵抗できない様に銃を突きつける。…が、この行動が余計にやり難い状況へとなる。ベールが戦っていたモンスターが、アクダイジーンの方へと向かい、まるで庇うかのように三匹が並び、ぴょんぴょんと撥ねながら抵抗してくる。そして、右手がまたしても無意識に嫌がるかのようにポケットへと突っ込む。

 

「っ…!!また…。」

「きゅい、きゅいいい!!」

「なっ!!あれだけの攻撃をして、あの速度…本当、タフですわ。」

「ぐぬぬぬ…。だが、新たに情報とこの子達の実践も経験できたのはデカい。女神よ、そしてそこの傭兵よ、よく覚えておくのじゃ!!次に会う時は覚悟しておく事じゃ!!必ずや、貴様等をこの手で葬ってくれるっ!!」

「あら、次はないと思いまして?そう易々と逃がすと―――――」

 

そう言いつつ構えを取るベールだったが、例のモンスターが妨害行為のように立ちはだかってきた。

 

「なっ!!そ、そこを退いてくだs…ひゃんっ!!へ、変な所を…!!」

「おお、お前達…わしを守ってくれるとは、出来た娘たちじゃ。お前達も無事に逃げるんじゃぞ!!」

「くっ…何故だ、何故邪魔をする…!!」

 

ベールは彼方此方を弄られ、俺は二匹に手足を噛まれている。その隙にアクダイジーンは逃げていき、遂には目視できなくなる。

 

「わ、分かりました、追いませんから、早くおどきになって!!」

「ベール…。分かった。俺も追わない。だから噛むのをやめてくれ。」

「きゅいー…。」

 

ベールが降参するような事を言い、嫌がるベールを読者に届けるのも、サービスになるだろうが、俺が心苦しい。追いかけない事を言うと、納得したかのようにモンスターは妨害を止め、アクダイジーンが逃げた方向へと逃げていく。

 

「はぁ…結局取り逃がしてしまいましたわ…。」

「女神としては厄介な相手が増えた。今後、奴はあのモンスターを更に呼び寄せて、仕掛けてくることも考えられる。」

「…うぅ、か、考えただけで嫌ですわ…。」

 

嫌々言っているが何かしら対策をしなければ、あのモンスターの壁によって攻撃しにくくなり、一方的に体力を持っていかれる戦法を取ってくる可能性もある。

 

「だが、対抗しようにも、情報が少なすぎる。」

「そうですわね。わたくしは一旦戻って、後処理とかしますわ。」

「イストワールに、報告したほうがよさそうだ。…が、あのマシンを調べてみるのも悪くない。」

「………。分かりましたわ。何かありましたら、教会に来て報告を下さいまし。」

 

そう言ってベールは一旦街の方へと戻る。俺はアクダイジーンが乗っていたマシンを調べる事にする。どうやら、危機的状態になりつつ乗車員が居なくなると、自動的に機能を停止するようになっているらしく、壊れた場所から火花が飛び散らなくなっている。調べてみるも、マシンの中身は見る事が出来ないが、代わりにこのマシンが使っていた弾薬を調べる事は出来た。

 

「(やはり、弾薬はアンチエネルギーか何かで作られたのを使っているようだ。これを女神が受けてしまったらどうなるか…ん?)」

 

ふと、マシンの下を見ると壊れかけの何かを見つける。欠けている為に、通常通りの使い方は不可能だろうが、見覚えのある品であることは間違いない。

 

「(女神メモリー。一つだけじゃない…。)」

 

何万分の一という品を複数持っている。…仮説を立てるなら、一つは七賢人の国を作る為に、女神を潰し、絶望の中“希望の光”的なネーミングで自分達が王になる為の温存品。若しくは、金儲け用の資金源。もう一つは、手当たり次第に使って女神を作り出し、自らの国を作る。前者は兎も角、後者の場合はこの世界で起きている誘拐事件と紐づけは出来なくはない。もしあのモンスター達が誘拐されて女神メモリーを使った成れの果てと考えると、女神が悪寒を感じるのも強ち間違いではないのかもしれない。そして、俺の右腕も女神の力が流れている。あいつ等と意思疎通は出来ないが、嫌がるような素振りを見せるあたりを考えれば納得はいく。だが、現段階では情報が少ない為、決めつける訳にはいかないが、報告はしといた方がいいだろう。

 

 

 

【リーンボックス:教会】

 

「…となりますと、前者も考えられるとしまして、後者は相当えげつない事をしてらっしゃる事にはなりますわね。あなたの言う通り、まだまだ断片的な為に決めつける訳にはいきませんわね。」

「それで、どうする心算だ。」

「それはこちらの台詞ですわ。あなたこそ、これからどうする心算でして?こっちはこっちで、先程逃げたモンスターの行方を追ったりしますし、対策も考えないといけませんわ。」

「俺は、一度プラネテューヌに戻って体制を立て直す。何かあったら連絡してくれ。俺は一人でもなんとかなる。」

「随分と自信満々に言いますわね。まぁ、あの実力では納得は行きますけど、足元救われない様に気を付けて下さいまし。」

 

壊れた女神メモリーであることを確認し、ベールに報告しつつそんな会話をする。俺からしたら、預けられた装備を回収する意味もあり、ルウィーの一件と同様に一度戻り報告をする。具体的な報告は戻ってからにしておき、今は電話で連絡を入れるとしよう。俺は電話を取り、プラネテューヌ教会に連絡を取る。

 

「…エースだ。」

≪あ、エースさんですか。其方の件は解決したのですか?(∩・∀・∩)≫

「一応。モンスターは逃してしまったが、七賢人が絡んでいる事は間違いない。」

≪成程…兎も角お疲れ様です。それで、エースさんはこれからどうする心算ですか?(-ω- )o≫

「一度其方に戻る。それから具体的に報告をする。」

≪分かりました。(★`・ω・)ゞ≫

 

…と、そんな事を連絡していると、何やら電話越しにチャイムの音がした。

 

≪おや、昨日から珍しい事ばかり…すみません、誰か来たみたいですので、続きは戻ってからお願いしますね。ヽ(・ω・` )ノ=з=з=з≫

 

そう言い、イストワールは電話を切る。どうやら来客らしい。プラネテューヌ行の本数は少ないが、船自体は動いている。…だが、何故だろう。電話が終わってからか、何やら不吉な予感がする。一刻も早く戻りたい気もするが、船は暫く出向はしない。

 

「…仕方ない。休める時に休もう。」

 

そう小声で言いながら、客席の椅子で仮眠を取る事にした――――――

 

 

 

 

 

 



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Scene70 受け継がれし聖邪の力~Antiquity~

今回から会話分の書き方を変更(と言うより此方の方が正しい風潮?)
落ち着いたら、過去のも今回通りに修正する予定です。


 

 

【???】

 

何時頃だろうか……目を開けても周りは漆黒のように暗く、一寸先も心が飲み込まれるかのように何も見えない。それでも、何処か懐かしく安心する感覚を覚える。

 

「また…お会いしましたね…」

「まさか、お前から会いに来るとは思わなかったぞ」

「行けるとは思っていなかったが…」

 

セグゥ、ゼロ…。この二人は、過去のゲイムギョウ界にて自らの身体を犠牲にして、大戦を鎮圧化。そして数年前、俺に力を与え、共にエンデを封印すべく影で協力した二人。古の力で消滅してしまったかと思っていたが、身体が徐々に戻っていくうちに覚醒している事に気づき、もしやと考え意思を向けてみたが…まさか行けるとは思っていなかった。

 

「わざわざ来たと言う事は、質問があると言う事ですね?」

「ああ。単刀直入に言う。拒否反応を起こしたあのモンスターについてだ」

「いや、俺もセグゥもよくわかっていない。大戦時にも似たようなのはいたがな…」

 

ガーンだな…。と、冗談はさておき、“ひよこ虫”というモンスターに似ていると言うが、それとは別に酷い悪寒をセグゥが感じたと言う。その影響が表に出ていたのか、右腕の拒絶反応なのだろう。

 

「………」

「何か、気付いたのか?」

「確定ではないが、まぁ……そんなところだ」

 

女神だけでなく、右腕の拒絶反応。そして、アクダイジーンが持っていたであろう複数の女神メモリー…推測としては、あのモンスター達は“誘拐された子ども達”であり、女神メモリーを使った成れの果て…と言うべきか。しかし、成れの果てとは言え、女神の力を持っているのであれば、女神の攻撃に耐える体力や耐久力を持っていても可笑しくはない。真相は、七賢人に聞くしかない。

 

「しかし、お前も丸くなったな」

「丸くなった…?」

「恐らくですが……転生された際に私達三人が合体した影響なのでしょうか」

「昔のお前だったら、あのモンスターも反撃した際、右腕が動かなくても息の根を止めていただろう?俺の気持ちが移ったか?」

「………。ああ…」

 

確かに、言われてみれば無意識に“殺す”ではなく“倒す”になっていたな。ネプテューヌ達に感化されたところもあるだろう…この世界で殺戮は不釣り合いだろう

 

「…聞きたいことは聞いた。俺は戻るとする」

 

そう言いつつ、目覚める準備へと入る―――――

 

 

 

 

 

「―――――がとうございます、お忘れ物がなさいませんよう、今一度お荷物の確認をお願いします」

「………」

 

それなりの時間が経ったらしく、船着き場へと着いたばかりのようだ。そう考えるのであれば、本当に安全な場所で瞑想した方がよさそうだ。幸い、荷物は盗まれてないらしく、持ち物は全て揃っている。不注意な事してるなと思いつつ、船着き場の荷物預り所へと向かう。…が、ここに来てまたしても厄介事になる。

 

「…何、荷物を預かられている?」

「ええ、お知り合いの方が来て、メンテナンスの為に預かると言いまして。それで、丁度今ぐらいの時間帯に、来て欲しいと言うのを残しております。」

 

知り合い…と言えば、女神様ぐらいだが、あいつ等はそんな事が出来る程余裕はない状況だ。となると、俺を知っている人物で知り合いと装い、荷物を奪って奇襲する寸法か。とは言え、手記は持っているが例の無線機は預けられた方にある。頭をポリポリと掻きながら、仕方ない気持ちと自ら罠に掛かるような形で、指定の場所へと向かう事にする。

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ:オオトリイ大森林前】

 

指定の場所へ向かうと、そこには覆面と言うよりは、カメラと照明を持っている黒子二人が居る。俺が来たのを確認すると、確認の為か此方に向かってくる。

 

「お待ちておりました。エースさんですね?」

「…アンタ達は?」

「私は、ある方のカメラマンを担当しています、モブA」

「同じく、ある方の照明を担当しています、モブB」

 

…それはギャグで言っているのか?と言いたくなる程に、今回ばかりで使われなくなりそうな、非戦闘員と思われる二人を目の前に、拍子抜けしつつ話を聞く。

 

「………。要件はなんだ」

「ある方がお会いして話がしたいとの事です。着いてきてください」

 

言われるがままになるが、真相を確かめるべくモブ二人に着いていくことにする。そして、人気もモンスターも滅多にいない所に、女性がポツンと一人待っていた。

 

「ようやく来たわね」

「…幼女が何している。」

「幼女言うな!!アタシの事を忘れたっていうの!!」

 

そこに居たのは紛れもなく“アブネス”本人だ。予想外な人物な為に、伏兵がいるのではないかと考え、当たりを見渡す。

 

「心配はいらないわ。何も嵌めようと、呼んだわけじゃないわよ」

「デートの予約なら、相手を間違えてるぞ」

「…こっちは真面目な話をしたいんだけど?」

 

流石に冗談を交え過ぎたか、アブネスに怒りマークが見える。咳ばらいをしつつ、何を企んでいるかを探るべく話を聞くことにする。

 

「…要件を聞こう」

「要件も何も、今回はアンタの助けが必要なのよ」

「助け…?女神に頼めばいいだろう」

「そうしたいのは山々だけど、アタシがやってきた事を覚えているなら、簡単に受け入れられる訳ないでしょ?それに、借りを返すものもアンタの方がいいし、アンタに渡すものもあるんだから」

 

そう言いつつ、アブネスが何かしらの合図を出すと、モブBから船着き場で俺が預けていた道具一式、それからモブAがトラベルハットと、見知らぬアタッシュケースを渡してくる。トラベルハットは兎も角、アタッシュケースを受け取り、中にあるものを見る為にそれを開ける。中には黒色のリボルバータイプの銃が二丁は言っている。かなりの大型なのだが、見た目がどう見ても“バー〇ャガン”の類だ。しかし、俺仕様なのか右手用のリボルバーはトリガーガードが大きめに作られている。3ドットサイト、グリップには滑り止めが備わっている。レーザーサイトにフラッシュライトも装備されている。光線弾は好きじゃないが、実弾も使えるようになっている。だが、この世界で出来たとしても相当な費用が掛かるはず。アブネスには、とてもじゃないがこっち方面に投資するとは思えない。

 

「…これ程のものを何処で手に入れた?」

「アンタの知り合いって言ってた奴から貰ったのよ」

「どんな奴だ」

「さぁね。名前を聞くときには、既にいなくなってたわ。黒いパーカーに紫色の長い髪。…あと、アホっぽかった。」

「………」

 

何となく、特徴で誰が渡したか分かった。…何故こんなのを託すのかは置いといて、そうと分かれば、受け取らないという選択肢はない。トラベルハットを被り、リボルバーを携える。

 

「…意外と様になってるじゃないの。」

「そりゃ、どうも」

「まぁそれはいいわ。渡すものは渡したし、こっからが本題よ」

「まだ何かあるのか」

「アンタ、アタシの護衛兼協力の為に着いてきなさい」

 

本題と言われた内容が、摩訶不思議だ。今のところ女神からしたら、敵であるアブネスの護衛に着く。七賢人が居るにも関わらず、これだけでは話の糸が読めない。

 

「七賢人はどうした。そっちから護衛、協力を頼めばいいだろう」

「抜けたわ。あんなところ…寧ろ、今は許せない存在よっ!!」

 

何時もの怒り方とは何か違うようだ。完全に所属していた組織を目の敵にしている。そんな気迫を感じる。

 

「内容によっては、護衛に着こう」

「…アンタ、誘拐事件の事は把握してるわよね?」

「ああ。全てを把握している訳ではないが…」

「分かったのよ、全て…。許せないわ…七賢人が誘拐に関わってたのよ!!」

 

そう叫びながら、モブAから書類を渡される。何かのリストのようだが―――――

 

「これは…」

 

そこに記載されていたのは、孤児リストだ。完全に把握はしていないが、一部の子どもは行方不明で捜索願がある子どもが載っている。リストには父母、祖父母との関係や有無、適正の有無と色々と書いてあるが、共通点として丸が着いている子どもは、父母関係が居ない上に一人っ子である事。…つまり、誘拐していなくなっても、誰も悲しむ事がない。闇に葬られても、誰も気に留めない子どもを狙っていた事になる。恐らく、アブネスは行方を暗ました子どもを探す手伝い、七賢人を抜けた報復の為の護衛と言ったところか。

 

「中々、黒い事している」

「関心している場合じゃないでしょうが!!」

「………」

「何よ、文句あるような顔して」

 

この様子では、アブネスは子ども達が今どうなっているか分かっていない。この書類を見て、漸く途切れ途切れの線が繋がった。やはり、あのモンスターは女神メモリーを使った、子ども達の成れの果てだ。アブネスの期待とは裏腹になるが、内部情報を持っている人物が協力関係になるのは大きい。ここは大人しく、協力関係を持っておくとしよう。

 

「いや…何でもない。一度プラネテューヌに戻る。教会に報告してから、考えよう」

「はぁ?アタシも行けって言うの!?」

「敵じゃないという事は、俺が話す。今は報告が先だ。女神の協力は必要不可欠なのはわかるだろう」

「う…そ、それは、そうだけど…」

 

アブネスの有無を聞かず、プラネテューヌ教会に戻る為に足を運ぶ。それから、他国の事情が終わっていれば、プラネテューヌに集まり、助け出せる子どもがいるなら助け、七賢人本部が分かれば、万全な準備をして叩き潰す。

 

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ:教会前】

 

アブネスとモブの二人を連れて、プラネテューヌ教会前に着く。道中で報復や、闇討ちのような事は起きなかった。そして、俺は扉の前で足を止める。

 

「…?何よ、急に立ち止まって」

 

時間はまだ20時…夜の8時だ。子ども…特にピーシェは中々寝なくて、この時間でもよく騒いでいる。しかし、今はまるで寝静まった後のように静かだ。だが、どの部屋の明かりも付けっぱなし状態と、何か可笑しい状態である。

 

「…少し、待っていてくれ。あと、騒ぐな」

「な、何よ、本当に訳わからないわね…」

 

アブネスにそう伝え、教会の扉前に立つ。銃を構え、扉を開け周囲を見渡す。

 

「………、誰もいない…?」

 

ハッピーバースデイとか、ドッキリとか、そういう様子はなく、荒らされた形跡もない。そう、まるで鍵を開けたまま出て行っていったような、不用心ともいえる状態だ。

 

「…~…!……む…!()」

 

耳を澄ますと、何処からか聞き覚えのある声がする。…ゴミ箱から?物音のした方に向かい、そのゴミ箱を確認する。中には、ガムテープでぐるぐる巻きにされて、無理やり捨てられている本がある。その本の間に、何か挟まって―――――

 

「むーっ!!むむむーーーーーっ!!(>=<;;)」

「い、イストワール…!!」

 

子どもの悪戯にしては、悪意に満ち過ぎている巻き方である。銃を仕舞い、優しくも急いでガムテープを外す。そして、本を開きイストワールを開放する。

 

「ぶはぁっ!!(゚Д゚;;) ふぅ…あ、危うく窒息死するところでした…」

「何があった」

「そ、そうですっ!!あの子達が…ああ、どうしましょうどうしましょうっ!?」

 

この慌てようと子ども達がいない状況から、只事ではないとは分かるが、正確な情報はイストワールしか知らない。

 

「落ち着け。何があったかわからないぞ」

「お、落ち着いていられませんよっ!子ども達が、七賢人と名乗る人物に攫われたのですよっ!!そして、わたしは見ての通り、ガムテープでぐるぐる巻きにされた挙句、ゴミ箱に…( ・ὢ・ )」

「な、なんですってぇ!!」

 

どうやら、アブネスは話を聞いていたらしく、部屋へ入ってくる。

 

「あ、アブネスさんっ!?これはどういうことですかっ!!(゚д゚;ノ)ノ」

「彼女は、七賢人を脱退したと言う。…子ども達は何処へ連れて行くとか言っていなかったか?」

「え?ええと…数十分前ですが…確か、ルウィー方面のルートを使うとか…(-ω-?)」

「どうする心算よ?」

「今から向かって助けに行く。イストワール、済まないが各国の女神に連絡と、教会の強化を頼む」

「あ、ちょ、ちょっとっ!!ΣΣ(゚д゚lll)」

 

イストワールが何か言いたそうに制止をしていたが、距離を考えれば時間との勝負となる。別世界とは言え、あの三人が女神メモリーによって失敗作のようになってしまうのは見たくない。そう思うと、尚更止まってはいられない。教会を飛び出し、ルウィー方面へと向かう―――――

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ:ハネダ山道】

 

走る、兎に角走る…一分一秒でも早く、救出するために向かったであろうルートを、追うように走る。ショートカットをするように、山々を飛び移るように移動もする。その甲斐もあり、見つけた…橋を渡ろうとするそれらしき人物…具体的には一人と一匹だ。

 

「だ、大丈夫っちゅかね…。追手とか、来ていなければいいっちゅけど…」

「………」

「ああ…無視っちゅか…」

 

子コンパ、子アイエフ、ピーシェ…騒いでいても可笑しくないが、催眠薬か何か使われているのか、眠っているように大人しい。一人はよく見たネズミ、もう一人は…何処かで見た事のある青髪の女性…。だが、今は子ども達が最優先という事もあり、俺は奴らのすぐ後ろに着くように飛び降りて行く。強い衝撃と音により、ネズミは驚くも、女性の方は微動だにしない。それどころか、まるで来ることを待っていたかのようにも見える。

 

「ぢゅぢゅぢゅっ!!お、お前はぁっ!!」

「…追い詰めたぞ」

「…追い詰めたぁ?馬鹿かしら…私が誘き寄せたのよ。そこんとこ、勘違いしちゃ困るわぁ」

 

そして、その女性はゆっくりとこっちに振り向く。その人物はなんと、超次元でビラ配りしていた“キセイジョウ・レイ”本人だ。だが、超次元で見た、あのおどおどしていた感じとは偉く違い、王者とも言えるオーラのようなものを放っている。しかしながら、現にピーシェを抱えている事は事実。そして、七賢人の一人として名乗っていたネズミ事ワレチューが居るのなら、キセイジョウ・レイは七賢人の一人で間違いない。ならば、相手が誰であろうとも、取り戻さなければならない。

 

「…今すぐ子ども達を開放しろ。飲めないのなら、今ここで倒す」

「んん~、誰を倒すってぇ?超、面白過ぎるんですけどぉ?」

「………(な、なんだこいつ)」

 

…兎に角、今俺が知っているキセイジョウ・レイのイメージを捨てなければならない。今、目の前に居るキセイジョウ・レイは、この状況を楽しんでいるように見える。そして、不気味な程に、巨大な壁のように見える。そう、まるで“ニグーラ”を相手していたかのような重圧を感じる。ワレチューは完全に部外者であるが、キセイジョウ・レイから漂う覇気、俺から出す殺気に飲まれて、まるで漏らして怒られるのを恐れている子どものように、プルプルと震えている。

 

「ふーん、成程ねぇ…。あいつ等が手も足も出せないのも頷ける。でも、それはアンタ一人の力じゃないわよねぇ?」

「…子ども達を、返す気はないのか」

「最初っから、返す気なんてぜーんぜんありませーんっ」

 

自分の力に絶対の自信を持っているのか、こっちを見下した態度を崩していない。そして問いに対して、即答で返さないと言う。

 

「うーん?どうしたのぉ、怖気づいちゃったかなぁ?それともぉ、私に勝てる自信がない?」

「御託はいい。力尽くで返して貰う…」

「………。ネズミ、子どもを連れて先に行って頂戴」

「さ、三人は無理っちゅよ!!」

「なら、此奴だけ連れてって頂戴。あいつと少し遊んでくから」

「逃がす――――――っ!!」

 

そう言いつつ、ワレチューにピーシェを託し、連れ去る様に走っていく。そう見す見すと逃がさないと、無理やり追う為に、足を踏ん張った瞬間だった。強烈な威圧感…まさにニグーラと戦っていた時と同等、それ以上の重圧を受ける。そして、キセイジョウ・レイが光だし、姿が変わる。そして、橋の出入り口が、謎の結界が張られ、出られない様になってしまう。

 

「この私を無視する気ぃ?腹立たしいわっ!!」

「この感じ…まさか、女神…!?」

「でもまぁ、いいわぁ、そんな事…。アンタの、その裏切り者から授かられた力、試させて貰うわ」

「…上等」

 

ニグーラと戦っていた時と同じ重圧。そして、相手は女神。飛び出してきた為に援軍も、支援も求められない。そして、俺の力を知っているかのような口ぶり。尚更、退くわけにはいかない。ワレチューが準備していたのか、子コンパと子アイエフは、視界に見えるが安全な場所へと移動させられている。…挑発に乗る様になってしまうが、右腕を開放し変身をする。

 

「へぇ、あの時と変わらないわねぇ…その分、実に腹立たしいっ!」

「俺の知らない事を話しても困る」

「そうよねぇ、知らないのも仕方ないわよね。アンタ、私より馬鹿そうだし」

「………」

「何、その“貴様をぶっ飛ばす”みたいな目つき…冗談にしても最あ―――――」

 

奴が喋り終わる前に、高速で近づき顔面に向けて右ストレートを放つ。だが、レイは空かさず、槍とも杖ともいえる武器を構え、俺の拳を防ぐ。

 

「喋る暇があるのか?」

「…私が喋り終わる前に、手出すとか…超ムカツクし、レディーに対して失礼じゃない?」

「………」

「まぁいいわぁ。私は寛大だから許してあげるわ。それに、今はアンタと二人になるのが大事な事…でもぉ、力の差は見せておかなky―――――ぶっ!!」

 

随分とお喋り好きな女神らしい。力も重圧は一流だが、隙は大きい。こっちは針の穴を通すように重心を移動させ、奴の顔面に左拳を放ち、拳が奴の顔面に届く。…だが、殴った感じは非常に軽い感触であり、クリーンヒットはしていないと分かる。何より、頬部分の唇から血が流れていなく、殴られた跡も掠った程度しかない。その間に、奴からも武器による突き攻撃を放ってくる。反撃を想定していた為に、身体を捻っていなす。回避しつつ距離をとり、銃を抜き発砲する。発砲した弾丸は奴の目の前で止まり、銃弾が零れ落ちる。

 

「へぇ…成程…成程ぉ…。この世界を潰してしまうのは、勿体無いくらいの逸材。今までの誰よりも…古の馬鹿達よりも、確かに強い…」

「古…だと…」

「確かに今の私じゃあこの姿でも、パワー、スピード、反射神経は一歩負けちゃってる。ああ、醜い程悔しい…!!」

 

自らの分析結果と思える事を、こうもペラペラと喋るとは…。実際俺もそこは感じている。

だが、古の奴等というのが本当であれば、奴は古の女神かそれ同等の力を持っている。そこから導き出される回答は―――――

 

「でも、決定的な差…それは、経験(キャリア)の差」

「っ!?…地の文を読むな」

「はぁ?地の文なんて読んでましぇーん!…ただ、私はアンタの思っている通り、古の女神の一人って訳ぇ!!」

「何…!!」

 

そうペラペラと喋りながら、奴は雷の球体ともいえる物体を一つ作り出す。だが、それが同じ形状で複数作り出される。一つだけでも既に悪寒を感じる程のエネルギーを発していたが、それが数えるだけでも2、30はある。

 

「私との差は、経験だけじゃない…。それは、シェアエナジーの差。人の信仰心がどうかは置いといて、蓄えた分は十分ある…今の生真面目な女神とは歴然の差ともいえるわぁ!!」

 

その言葉を終えると同時に、球体全てがエネルギー弾のように此方へと向かってくる。

 

「(多すぎる…避けつつ弾いていくしかない)」

 

そう考え、移動しながら回避し、被弾しそうになったら右腕を使い、弾く事に徹すればいい。そして、被弾しそうになった為に弾こうとした時だった。

 

「…っ!?」

 

弾いて球体を消し去った瞬間、針が右腕を通り抜けていくような激痛が走る。そのせいか一瞬判断と動きが停止してしまう。それでも、何とか体を動かし回避をするが、上手く体が動かない。それを見過ごさないが如く、球体の中をレイが潜る様に向かい、柄で殴り掛かり防御するも、体制が崩れてしまう。

 

「ぐあああ…っ!!」

 

そして、残り数十発となる球体をノーガードの状態で受けてしまう。流石に痛い…が、立てない訳じゃない。そして、驚く事に、今まで攻撃されてもヒビが入っていなかった変身中の仮面に、ヒビが入っている。だからどうした、という事で若干重い体を立ち上がらせる。しかし、既に奴は先ほどと同じ球体の準備をし終えていた。第二派と言ったところか。

 

「…以外とタフな事。これだったらGの方が可愛いかもねぇ?ああ、そうそう。折角だし教えちゃうけど、私のエネルギー…何も、シェアだけじゃないのよぉ?」

「…そうかい」

 

 

受けた激痛から感じた力。純粋なシェアエナジーによるものかと思っていたが、いざ受け止めた瞬間、アンチエナジーのようなエネルギーも備わっているらしく、基本的に女神に近い状態の俺は、防ぎきれなかったアンチエナジーが体内に潜り込み、暴れまわったのだろう。それでも、逃げる場所も隠れる場所もない…ならば正面突破しかない。

 

「はぁ…見え見えのまた同じパターン?流石に芸が無さすぎるんじゃない?」

「グダグダ言ってないで、さっさとやってみろ」

「…私に命令してんじゃないわよっ!!」

 

挑発に乗るかの如く、再び同じ攻撃を仕掛けてくる。だが、先程と比べると数が増えている。…だが、今の俺は前に突き進むのみ。接近して、奴をぶっ飛ばす。俺は、嵐のように向かってくるエネルギー弾の中へと突っ込んでいく。

 

 

 

 

 

 



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Scene71 黒歴史からの来訪者~Fritillaria~

 

 

奴が仕掛けてくる大量の雷球。再び突っ込むが、今度はそう簡単にはやられない。右手に炎の弾を作り出し、それを高速で拡散するように放つ。

 

「…ほぉん、少しはやるようねぇ」

 

同じ力がぶつかり合うかのように、雷球と炎球がぶつかり合うと同時に、子爆発が起きつつ消滅していく。炎が外れた分は回避するか、開いた左手でバリアを張りつつ、貫通してきた雷球を呼び出した両剣で切り裂く。徐々に近づいていくが、奴は微動だにしない。それどころか、接近したら接近戦で迎え撃とうという姿勢すら見せていない、上から目線を崩さない仁王立ちの構えをしている。そして、接近しつつ両剣で旋風を加えた突きを放つ。が、奴も同じように雷を纏った武器で同じように突きを放ってくる。互いに左肩を掠めるように空を切り、第二第三の反撃を互いに読んだのか、距離を取る様に離れる。

 

―――――しかし、妙な感覚だ。戦いが始まってから目の前に居る、似ても似つかない狂気を放つ“キセイジョウ・レイ”。だが、ここでは初めて会ったにも関わらず、出会ったことによる悲しみ、狂気を止めるべく助け、恨みを晴らさんと全力の殺意。全て、俺だけの感情ではない。右腕からヒシヒシと伝わってくる部分もある。

 

「…ふふ…ふふふ………」

「何が可笑しい」

「いやいや、ふと昔を思い出しただけよ。その持っている両剣、アンタから伝わってくる気が…ねぇ…。おまけに、今の女神様は危機管理が薄い事…でもまぁ、アンタには関係ない事だけどぉ」

 

奴の口ぶりから、何かしら関りがある…そんな気はしている。しかし、今は奴を倒しピーシェを救出する。こんなところで時間を食っている暇はない。だが、喋って時間を稼いでいるようにも見えるあたり、向こうは時間を稼ぎつつ撤退する可能性もある。とは言え、正面突破しても簡単に崩せないのは、接近を二回して察している。普通の攻めでは恐らく、経験値的に読まれて防がれてしまう。奴が喋っている間に脳内で幾つかシミュレートをし、突破口を見出そうとするも、二度交えて分かったことだが、接近は出来るがその後が返されてしまう。玉砕覚悟で特攻すべきか…。だが、それで勝ると言うビジョンが見えてこない。俺は幾つもの戦いを熟してきた。…にも関わらず、最後の突破口が見えてこない。

 

「ほらほらぁ、どうしたの?さっきまでの威勢は…止まってたら、何も始まらないじゃない」

 

そう言いつつ、奴は先ほどと同じ雷球を呼び出している。また同じ方法で向かうも、奴からは“この方法で対処できる”という自信に満ち溢れている。だが、終わりじゃない…無いのなら、突破口を作るまで…!!

 

「…ぬぁああっ!!」

 

精神力と、シェアエナジーを混合したエネルギーを、バリアのように両手を覆い、その上に炎と旋風を纏わせつつ奴に向かって行く。

 

「ふぅん…意外と学習能力ないのかなぁ?二度ならず、三度も同じ行動するなんて…流石に飽きてきた。これで終わらせる…さっさと沈んじゃいなっ!!」

 

再び、此方に向かって大量の雷球が向かってくる。だが、二度目とは違い更に早く走り、避けきれない雷球は、バリアと超能力で覆った拳で弾き返す。

 

「っぃ…!!」

「な…にぃ?」

「攻撃は、最大の防御なり…!!」

 

完全に攻撃を防ぎきれている訳ではないが、1、2度目に比べれば受ける威力は半分以下になっている。そして、数メートルまで近づきつつ、橋の床を破壊するように拳を叩きつけ、砂煙と瓦礫を吹き飛ばす。砂煙で前方が見えない奴に対し、鎌鼬で纏った帽子を投げつけ、注意を反らす。

 

「ちぃっ…小賢しい真似を…!!」

 

奴が瓦礫と投げた帽子を弾き返したのを見る。だが、馬鹿正直に正面から行く気は満更ない。テレポートで奴の背後に回り込み―――――

 

「終わりだ…」

「な…!!」

 

背後に現れた事に気付いたように振り向くが、既に遅く俺の能力が纏った足蹴りが、奴の腹へと直撃し、くの字に体が前のめりになるも、空かさず防御の開いたところへ連続で拳を叩き込む。

 

「うぉおおおおおっ!!」

「がっ!!ぐっ!!ごぅあっ!!」

 

拳の連撃により体制が崩れたところへ回し蹴りを放ち、奴の身体が逃げていくが顔を掴み自らの膝へ持っていき膝蹴り、そこからサマーソルトキックをし宙で二回ほど回転する。…そして、奴は仰向けに、大の字の如く伸びている。

 

「(奴の装甲は、まるで分厚い肉壁を殴っている感触だった。伸びているのは不意打ちを仕掛ける為かもしれない…)」

 

そう考えるのも仕方ない。伸びてはいるが、変身が解けてないことを考え警戒し、子コンパと子アイエフを抱え反対側…プラネテューヌ側の橋の入り口へ一旦寝かせる。呼吸はしているが、あれだけドッカンバッカンしていたにも関わらず全く目覚めない…どんな催眠術を掛けたと言うんだ。と思いつつ変身を解いたら、目覚めたようだ。

 

「う…う~ん…」

「気が付いたか」

「ふぇ…ここはぁ…?」

「説明は後だ。もう少し、ここで大人しくしてくれ」

 

二人にそう告げ、銃を抜きつつ伸びているキセイジョウ・レイに近づくと、上空から慌てるようにナナ以外の女神達が下りてくる。伝言だけで向かったのだから、そうなるのは目に見えていたが、まるでそれ以外の理由も含めた慌てにも見える。

 

『エースさん(えー君)っ!』

「役者が揃った感じだな。アイエフとコンパは無事だ」

「ふーん…子豚ちゃんにしてはやるじゃないの」

「…その言い方は…そ、それよりも―――――」

「話は後だ。奴から情報を聞いて、ピーシェが連れていかれた場所を聞き出さなければ…」

 

ノワールが何か言いたそうに言うも無視し、“ちょ、待てよ!!”とブランが言っているのが聞こえたが、それよりも止め化ければならない事が目の前にある。レイがコンパとアイエフを連れて行かずに、ピーシェのみを連れて行くように指示した事は、少なくともレイはピーシェが女神になる素質があると見抜いているのではないか。この世界での女神様は、自分の国を作る権限が与えられる。もしピーシェが女神になり、尚且つ洗脳されているのであれば、七賢人の野望が一つ叶ってしまう事になる。女神の事を考えれば、これは阻止しなければならない。銃を構え一歩一歩慎重に、反撃を警戒しつつ近づいていく。

 

「ふ…ふふ…くくく……」

「やはりか…」

 

あと、5、6歩程で殴れる距離になろうとした所で、奴が立ち上がる。まるで先ほどの戦いがなかったかのように…。

 

「強い…かなり強い…だが、それでも、アンタの負けだよ」

「…何?」

 

次の瞬間だった。俺の目の前に鋭利な刃物のような物体が、顔面目掛けて飛んできている。反射的に右手で白羽取りのように握り取る。どういう訳かその鋭利な物体は異様な程に冷たく感じると同時に、懐へ素早く潜りつつ俺の腹部へ刀のようなのを突き刺す人物が現れる。

 

「………ぐっ」

 

刺された傷事態は問題ないが、その刀も冷気のように冷たく、体温を吸い取られ意識が遠のく感覚に陥り、突き刺した人物が刀を引き抜くと同時に倒れ込んでしまう。

 

「まだ生きているのか、本当女神よりしぶといし目障り…でもまぁ、準備は万全じゃないかぁ。女神よ、貴様達と戦うに相応しい場所を用意してある。そこで待っているぞ!!」

「ま、待ち、やがれ…」

『ナナっ!!』

 

キセイジョウ・レイと俺を刺した人物が何処かへ逃げようとした時、後ろの女神達がナナと叫んだのだ…聞き捨てられない状況へとなったようだ。

 

「ぐ、おぉ…!!」

「ちょ、ちょっと、どうする気なのよ!!」

「決まっている…追いかける…!!」

「無茶しすぎだっ!」

「そうですわっ!!一旦戻って体制を立て直すべきですわっ!!」

「っ………、分かった…」

「プルルート、あなた治療魔法で来たわよね?少しでもいいから、お願いできるかしら」

「えぇ~?…と、言いたいけどぉ、状況が状況だし、仕方ないわね」

 

と、言いつつコンパやネプギア、ロム程ではないものの、丁寧と変な優しさを込められた回復魔法により、傷口は治った。その後、自力で歩けるのだがどういう訳か、肩を貸される形でプラネテューヌへ戻る事となる。

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ:教会】

 

『………』

 

一行は子コンパと子アイエフを連れて、一旦プラネテューヌ教会へと戻る。出迎えたのは、決戦の場所の報告を受け慌てて出てきたイストワールだった。だが、驚く事はそれだけではなかった。七賢人の一人“アクダイジーン”が、子ども救出で出ていた時に、例のモンスターを引き連れつつ、今までの非冷を詫びつつSOSを求めて駆け込んでいた。問題はモンスターの顔つきが、依然と違い妙に可愛くなっており、ベール曰く“以前の悪寒のようなものは感じない”となっている。何でも、キセイジョウ・レイの急な変化に驚きつつも、子ども(モンスター)達を利用し、使い捨てで女神達を陥れるという作戦に反感、命からがら子ども達を連れてきてここまで来たと言う。この騒動が収まるまで、プラネテューヌ教会の、比較的安全な場所へ隠れているように指示され、職員の監視付で保護される形となる。そして、決戦の場所に関する連絡の中には、獨斗永守の情報、ナナの正体が劔剣士であるという情報が入っていた。更に、その情報の最後にアノネデスのSOSが混じっている事に、教会内は沈黙となる。

 

―――――問題は、性転換の事は載っていないが、何故剣士…ナナがキセイジョウ・レイ側に加担したという事。それ自体は、重い口を開くように、ノワールが語る事となる。

 

「ごめんなさい…私が着いていながら…」

「…誰のせいでもない。戦いとは、常に予測不可能だ」

「ノワールちゃん、大丈夫。きっと、ナナちゃんは戦ってるんだよぉ」

 

時間は、ノワールが通信網を荒らされて飛び出した時まで遡る。ナナの協力もあり犯人を特定、その後永守により送ってきたプルルートも合流し、犯人である凄腕のオカマハッカー“アノネデス”の元へ行く。会話による説得を試みようとしたらしいが、ノワールの沸点が出会った時点で既に達しており、戦いになってしまったと言う。とは言え、アノネデス自体は強力なバトルスーツを着込んでいるが、戦闘自体は不慣れらしく勝利したものの、不意を突かれ得体のしれないアンプルシューターを放つ。そこへ庇いに入ったナナが、ノワールの代わりに撃たれ意識を失い、その間にアノネデスは逃亡、仕方なくプラネテューヌに戻り永守が一人で出て行ったと聞いた途端、突如女神化し一人で飛び出していったという。だが、その時のナナは、目に生気を感じられず、まるで操り人形のように動いていたと言う。しかし、プルルートの言う通り完全に操られているかは一行には分からない。しかし永守は、決戦の場所へと誘い込む作戦なのかもしれないと考えている。

 

「(俺を排除するならR指定のような悲惨な現場になるが、あのまま突き刺した刀を上に向けて切り裂けば済む事…。だが、あいつはそうしなかった。プルルートの言っていた通り、操られまいと必死に抵抗しているのか?)」

「けれど、幾らわたし達の為とはいえ、今まで嘘半分をしていた事に変わりはないわね…聞いてるの?」

「ん…?あ、ああ…」

「そうですわ…。わたくし達でなければ、許して貰らえなかったかもしれませんのに…」

「法で裁く気は無いと…?」

「そうね、虚偽罪ってのもあるけど、犯罪と言えるような事はしてないし、それは向こうでの話でしょ?」

 

女神を守り救出するとは言え、犯罪組織に加担した事は否めない。しかし、それは超次元の話であり、神次元では関係ない事だと言い切る新次元の女神達。そもそも、こっちに犯罪組織というグループや組織はないので、ここでは水に流そうと言う。

 

「そうだよね~。えー君もぉ、ナナちゃんもぉ、悪い人には見えないもんね~。あたしは、そう思うな~」

「…プルルート、確証はあるの?」

「ん~…分かんない~。でも、目を見ればわかるよ~」

「それ、人によってはダメなパターンだと思いますよ?幸い、私も永守さんなら大丈夫かと思いますが (̨̡σ‾᷄ω‾᷅)̧̢」

 

現在時刻は21時…。女神一行は一休みをし、万全な状態で行った方がいいと考えてはいるが、永守自身はそうも言っていられないと考え、直ぐに立ち上がる。

 

「ふえぇ?えー君、どうしたの~?」

「あ、あの、何処へ行く心算ですか?( ゚ ω ゚ )」

「今すぐ、エディンに乗り込む」

「なっ!?話を聞いてねーのかよ!!」

「あなた、前々から思ってたけど、無茶し過ぎよ!!」

「そうですわ!!万全な状態で行くことが賢明ですわっ!!」

 

女神一行は、永守を説得し引き留めようとするも、無茶を承知の上で理由があっての行動だと言う。

 

「…恐らくだが、今行けば奇襲を仕掛けられる可能性はある」

『奇襲…?』

「お前達か来るまで戦っていた奴…あいつは、今の女神を危機管理の無い女神と言っていた。ここで一休みする事を想定している可能性はある」

「…なんですって?」

「危機管理の無い女神…だと?」

「…流石に、それは聞き捨てられませんわね」

 

キセイジョウ・レイが永守に呟きながら言っていた事を、少し偏見交じりにして言う。実査にキセイジョウ・レイは、永守を含めた女神も見下している様子だったと感じている為、そう告げるべきだと考えていた。…プルルートは相変わらず“ほぇ?”と言った様子ではあるものの、残り3人はイラッと来た様子である。

 

「それに、実質七賢人のメンバーは殆どがSOSを出している。これも恐らくだが、統率は殆ど取れていないと考えられる。侵入がバレたとしても、猛威を振るうのは厳しいだろう」

「…成程ね、一理あるわ。なら、移動しつつ休める…そんな移動手段があればいいのよね?」

「そ、そんな乗り物があるんですか(。´・ω・)?」

「ええ。試作段階だけど、軍用として開発してる移動と休みを備えた軍用車両よ。…運転手は休めないけど」

『でしょうね(だろうな)…』

 

“職員が運転出来ないのか?”とブランが問いただすが、アノネデスが好き勝手にやった傷跡がまだ残っており、其方の対処に追われて出動出来ない状況であると言う。内心、自分はいいのか…と思ってしまったのが何名かいる様子。

 

「…だが、それがあるなら話は早い。早速手配してくれ。運転は俺がやる」

「運転できるの?」

「俺が運転出来ないのは、エンジン積んでないか、燃料切れぐらいだ」

「自信満々に言うのね…」

「ですけど、それではあなたが休めませんわよ?」

「心配するな、慣れている。…要望を言えば、眠気覚ましのガムがあればいい」

 

そんな事を言われつつ、ノワールはため息を付きつつも了承し、乗り物を手配するように連絡を入れる。幸い、子コンパと子アイエフは寝ているようで、この話は聞いていない様子である。今回の戦いは、他人を守れる程余裕のない戦いになる可能性が極めて高い、永守の情報から誰もがそう予感している。

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

【エディン:七賢人本部】

 

プラネテューヌの北にある山脈地帯。そこに、新たに作られた“エディン”と言う場所がある。町はまだ建設途中だが、教会自体は機能している。何かしら作られている事は、他国にも知られているものの、中身自体は告知されていない為に、民間からも認知が低い状態である。そこに、元々あった七賢人の施設があり、現在はキレイジョウ・レイによって国境無き国エディンとして動こうとしている。

 

「(…ノワールちゃん、気付いてくれればいいけど。ちょっと気に入らないけど、あの男にも頼らざるを得ないなんてね…読みが甘かったかしら?でも、驚きねぇ。レイちゃんが、あの得体のしれない物体を吸収したと思ったら、まるで馴染んだかの様子で、そして人が変わったかのように…。寧ろ、あれが本当のレイちゃんなのかしら?)」

「…随分と送るのが遅かったようね?」

「…もう、脅かさないでよ。心臓が破裂しちゃうわよ、レイちゃん」

「アンタはそんな玉ではないわよね?あと、レイちゃんと呼ぶのは止めてくれないかしらぁ?」

「はいはい…。まぁ、送信が遅くなったのは、財産の問題ね。戦いに継ぎ込んだからか、予算がないのよぉ。これでも節約して最低限の施設は用意した心算よ?」

 

嘘を付きつつ、自らの逃げ出そうと言うSOSを送った事を伏せる。現状としては、ネズミことワレチューも気づかないうちに脱退。マジェコンヌは“付き合ってられん”と言いつつ、自らの手で女神を倒すとして身勝手な行動に出ていると言う。

 

「そんな事はどうでもいいのよ。そっちの方は問題ないのよね?」

「ええ、適合あり…ね。女神メモリーが実に馴染んでいる感じ。ただ、やはり子どもかしらね。随分と、ぐっすり寝ちゃっているわ。当分、目覚めないんじゃない?」

「…まあいい、あっちの方も使えるしねぇ」

「あの、ナナ…いえ、劔剣士の事?今のところ、アタシ特性の操り薬がまだ聞いている感じ。でも、随分と抵抗しているようね…明日まで持つかしら?本当はノワールちゃんに当てる心算だったのに…」

「貴様の戯言はどうでもいいのよ。しかし…腐っても、エリートって事…?ウザいわね全く。まぁ、使えなくなったら捨てるまでの事ねぇ。それに、妨害策は整っている…来るなら、来いって事よ…ふふふ…」

「(本当、今までのレイちゃんが嘘のようね…。このままじゃ、アタシもぼろ雑巾のようにこき使われて捨てられる可能性が高いわね。どうにかして逃げなきゃならないわ……)」

 

冷酷無比とも思える台詞一つ一つに、アノネデス自身危険を感じており、七賢人としての利害一致はしていないと感じている。まるで、あらゆる事を使ってでも破壊に対して快楽(エクスタシー)を求めているかのように…。敵である女神に救援を頼まざるを得ないと矛盾もあるが、背後から常に引き金を引ける銃を突きつけられている感覚で、何時殺されるか…そんな恐怖を永遠に味わうくらいならと、平常を保っているようでかなり追い詰められている様子である。

 

「…あら?何処へ行くのかしら?」

「少々、準備をしなければね」

「準備?見張りは無いとはいえ、既に対策は完璧よ。これ以上なんの準備をするってのかしら…アタシ、気になるけど?」

「くくっ、奴らがくれば分かる事…まぁ、そんな遠くの事ではないわぁ」

 

そう言い残し、キセイジョウ・レイは席を外す。その手に刀のようなものを持っている事を除けば、外に出て空気を吸いに行くだけで済んだ事。興味があると同時に、悪寒のようなものをアノネデスは感じていた。この先、一体何が始まろうとしているのか…。

 

 

 

 

 

 



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Scene72 欲望の女神~Edin~

 

 

【エディン:郊外エリア】

 

ラステイションに要請を送り1時間程して、ノワール自慢の試作輸送車が届く。若干狭い3段ベットが両サイドについており、快適と言う程ではないが眠ることは出来そうだ。運転席は大型車両に近い構造で、前輪はタイヤ、後輪はキャタピラ式になっている。試作段階の為か、この車両には兵器が搭載されていない。

 

「くー…すぴー…」

「よくまぁ、眠ってるわ…」

「………」

 

予想外なのはノワールを差し置いて、率先して自ら助手席にプルルートが座ってきた。が、座ってからの予想通りというべきか、ぐっすり眠っている為に、後ろに居るノワールも呆れている。これから向かう未知の領域もあってか、ブラン、ベールも気を休めている雰囲気ではない様子でいる。とは言え、ピーシェを連れ去られたことによる焦りと、キレイジョウ・レイと、操られているとはいえ加担したナナ…剣士に対する怒りが、プルルートが隣に座るまで込みあがっていた。狙ってやったのか分からないが、それの御蔭か殺気立っていた感情が抑え込まれている。プルルートを気にしていると、ネプテューヌ並みに調子が狂う。

 

「ねぇ、エース。聞いていいかしら?」

「…質問には答えるが、その名で呼ぶ必要はないだろう」

「こっちの方が慣れ親しんでるから、そこは仕方ないと思ってね」

 

後ろに居るノワールが質問をしてくる。緊張しているようには見えないから、落ち着く方法を教えてくれと言う訳ではないのだろう。寧ろ、後ろの三人はそれを熟知しているはず。

 

「どうして、あなたは向こうの私達…というより、女神を裏切る前に下準備してから行くって考えはなかったの?」

「その考えも1つの案だった。候補生達を鍛え上げる…だが、奴等の後ろには強大な神が潜んでいる。その神が復活する前に潰す。それが一番打倒だと思った」

「でも、結果は負けたと…」

「ああ、最後の最後で力負けした」

「自信過剰…とも言えますわね」

「…あったかもな」

 

ここで、言葉が切れる…と思ったが“あ、あともう一つ”とノワールが口にする。

 

「ナナとは…どういう関係だったの?」

「………」

「まるで、何時かわたし達が質問してくるのを想定していた発言ね」

「…それで、結局はどのようなご関係で?」

 

そう言われ、俺は深呼吸をするように息を吸い、ゆっくりと吐きつつ答える。

 

「…“友”であり、“戦友”でもある」

「恋人でも…あった?」

 

そのノワールの言葉には、首を横に振る。

 

「互いに右腕と呼ぶ仲であり、相棒と言える存在だ」

「好きとか、そういう感情は無いと言いまして?」

「戦場に恋愛感情など不要…。そもそも、アイツは………ん?」

 

アイツは“男だ”と言おうとした時に正面奥を見ると、国境ぐらいの所にポツンと人影のようなものが見える。

 

「…?急にしかめっ面になって、どうしたのよ。それに何で速度緩めちゃってるの?」

「…奥に誰かいる」

『え?』

 

かなり遠くにいる為に、誰なのか、本当に人なのかという事は判別できない。だが、こんな訳の分からない場所で待ち構えているのであれば、快く出迎えてくれるとは思えない。それこそ、エディンと言う街の警備員という可能性もある。此方としては、女神全員がここに集結しているのはバレたくない。速度を緩めていたのを更に緩め、進むのを停止する。

 

「で、どうする?全員でフルボッコに?」

「…お前達は奥の方で隠れてほしい」

「どうしてですか?わたくし達じゃ役不足と申して?」

「目の前に居る人物が、エディンの関係者だった場合、四カ国が女神不在という情報を流される可能性がある。そして、一斉に攻めていくことも考えられる。それだけは避けたい」

「確かに、あなたのいう事も一理あるけど…もし、あなたがやられたらどうする気なのよ」

「その時は、お前達が不意打ちを出来るような立ち回りをする」

 

と、あまり質問に対しての回答になっていないが、そう言いつつ“待って”という言葉を無視し車両から降り、人影の所まで歩み寄る。全てを飲み込むような闇、月明かりのみが照らす中、近づくにつれて立ち止まっていた人物が何者だったか見えてくる。

 

「ここで待っていれば、何れ奴らが来ると思っていたが、貴様か…」

「お前は…マザコング…」

「…マザコングではない、マジェコンヌだっ!!」

 

進路を妨害していた人物は、神次元のマジェコンヌだった。七賢人と関わりのある人物である以上、女神を置いてきて正解だったか。

 

「ん゙っん゙ー…貴様、こんな所に何用だ」

「ただの、観光だ」

「こんな夜中に?それも、あんな軍用車両のようなのに乗ってきてか…貴様、何か隠しているな?」

「…ここで待機しているということは…この先に七賢人の基地でもあるのか?失敗続きのお前だから、ここを担当という事か」

「余計なお世話だっ!!それに、あんなとこ当に抜けたわっ!!今の私は、女神をこの手で倒す事のみ…世界がどうなろうが、私には関係ないっ!!」

「…そうか」

「しかし、女神ではないにしろ、貴様にも色々とやられたからな…その恨み、ここで晴らしてもいいだろう」

 

奴の迫真とも言える言葉遣いからして、七賢人を裏切って個人的に動いていると見てもいい。だが、演技と言う可能性もあるが、どうも奴は戦う気満々なようだ。こんなところで時間を費やす程暇ではないが…。

 

「止めときな…お前じゃ役不足だ」

「奴らと一緒にするな…私が、ただ単に遊んでいたと思うなよ?はああああ…」

 

と、自信満々に戦闘の構えに入り変身でもするかのように、エネルギーを溜めている。変身されるのは厄介だ。無益な戦いだが、潰しておいた方がいい。

 

―――――プッ

 

「…!!な、なんだ?…この…ねっとりした…っ!!くそ…何処へ…!!」

 

奴が変身してチャージしている最中に、汚いと思うが今まで噛んでいたガムを、含み針の如く奴に向けて放つ。当然汚らしいと拭い捨てるが、その目線を切っている間にテレポートで後ろに回り込み、背中に向けて衝撃波を纏った蹴りを二発、よろめいた所に体を空中に舞いながら回し蹴りを放ち、そのまま地面に叩きつける。

 

「ぐぁっ…!!」

「…喧嘩を売ってきたんだ。ウォーミングアップは無しだ。お前の知っている事、全て洗いざらい話して………ん?」

 

白か黒かはっきりしていない以上、七賢人やその内部情報を知っているのであれば聞き出そうと思ったが、返事がなく近づいてみると、身体を揺すっても白目をむいて完全に気絶している。どうやら、手加減せずに衝撃波を纏った蹴りが予想以上に強く入ってしまったようだ。周りを警戒するも、どうやら本当にマジェコンヌ一人で待っていた様子だ。

 

「(…これでよく、打倒女神と言える。大した目標なこと)」

 

念の為に、マジェコンヌの身体を弄り、手掛かりになるようなもの、追跡装置がないかを探ってみる。…通信機や小型カメラ等の類は見つからない。となると、裏切ったのは強ち嘘ではない可能性が高い。しかし敵とは言え、こんな所に置いておくのもあれだ。吐き捨てた砂泥塗れのガムを銀紙に包み、ポケットに仕舞いつつマジェコンヌを担ぎ上げて車両へと戻る。

 

「戻ったぞ」

「…成程ね、騒がしいと思ったら」

「しっかし、またコイツなの?本当しつこいわね」

「しつこいと嫌われることを、きっと知らないのでしょうね」

「…言っとくが、此奴は今のところ七賢人とは無関係だ」

 

そう言うと、“え、そうなの?”と言いたいのか目を丸くして見ている。まぁ、そういう表情をされても仕方ない事をしてきたのだから、これは当たり前の対応と言うべきか。物騒なのをはぎ取り、縄で締め上げて後部座席に置いておく。

そして、再び運転を再開して暫くしてマジェコンヌが目覚め、女神達が尋問を開始する。一応の情報源なのだが、“知らん”の一点張りが続いていく…が、気が付けば隣にプルルートが居なくなっていて、何時の間にか女神化して、脅迫並みの行動により口を開くも、誘拐事件は七賢人の仕業で、何故指揮を執っていたキセイジョウ・レイがああなってしまったかまでは分からず。

 

「ふ~、すっきりしたぁ」

「…楽しそうで何よりだ」

「あ~でも~、あのオバサンは許せないよねぇ。後は~ナナちゃんも連れ戻さなくちゃね~」

「…あ、…あへ…、あー…」

 

楽しそうに話しかけるプルルートに対し、社内ミラーで後方を確認すると、暫く再起不能なマジェコンヌと、“こっちに被害が来なくてよかった”と言う表情の3人の姿があった。決戦前にこんな状態で大丈夫だろうか…。

 

 

 

と、考えているうちに、明らかに異質な建物が見えてくる。一旦手前で停止し、車両に設備としてあった双眼鏡で、エディン周囲を見渡す。

 

「あれが、エディン?」

「あまり、陽気な場所ではありませんわ」

「なんか~じめじめしてるって感じ~?」

「ハリボテ…では無さそうね。しっかりと作り込まれているわね」

 

ここから見渡す限りでは、警備員は見当たらない。まるでいつでもウェルカムと言わんばかりに、正面扉が開いている。…と言うよりも、まるで研究所としか言いようがない、街と言える建物が存在していない。必要最低限の建物しかないと言った印象だ。

 

「あの大きな建物が教会だろう。…ここから先は歩きだ。俺が、ポイントマンとして行く」

「また一人で…と、言いたいところだけど、データ通りであれば、あなたは一人でも大丈夫そうね」

「ま、何かあったら後ろの私達がいるんだから、問題はないでしょ?」

「サポートは、お任せ下さいまし」

 

軽く頷き、外に出ようとした時、プルルートに裾を引っ張られる。

 

「…どうした」

「あのオバサン、どうするの~?このまま放置~?」

「そうだった…ここに取り残していくのもあれよね」

「…そこらの野に放っておけばいいのでは?」

「野に放つって…」

「くねくね…かしら」

 

これで話は終わりだろうと思い、車両を後にしようとするも、まだ何かあるらしくプルルートが服の裾を放そうとしない。

 

「………?」

「ナナちゃんと、戦うのかなぁ…?」

「あの様子では多分な…」

『………』

「だが、俺はあいつに嘗て助けられた恩がある…今度は、それを返す時だ。ピーシェの事も心配だ。モタモタしている時間はない」

 

その言葉を聞き女神全員が頷き、プルルートも悩みが解消したのか裾から手を放してくれる。

 

 

 

 

 

【エディン:教会内】

 

そして、何事も無く中央の建物へと侵入する。その後ろ直ぐに女神達が着いてくる。入ったはいいが、電力が行き通っていないのか、夜ということも相まって内部は非常に暗い。

 

「うぅ、見えない~」

「これが…省エネって奴かしら?」

「微灯も無しとは…随分と徹底してるわね」

「ですが、内装はしっかりしてますわよ?それとも、キャンドルでも灯して、賛美歌でも歌う心算なのかしら…」

 

と、後ろで会話する声が聞こえる。銃を取り出し、アタッチメントとして装備してあるフラッシュライトを付け、壁にある地図を見る。どうやら、この施設は直ぐ近くの“地下溶岩洞”の熱を利用して電力供給する仕組みのようだ。

 

「奴らが居るとしたら、会議室(ここ)制御室(ここ)か…」

監視室(ここ)も考えられるわよ」

『………』

 

と、意見が合わず何処を捜索しようと、全員が考えていた所、突然全明かりが付き、スピーカーと思われる雑音がし、全員が耳を傾ける。そして、そのスピーカー越しの声には聞き覚えがある。

 

≪アーアー…テステス≫

「…どうやら、隠れる必要も、探す必要はなくなったみたいね」

「ええ、そのようですわね」

≪ここに来るのは分かっていた。まぁ、予定より随分と早いけど、同時に貴様達が統率する世界も変わる時が来たってことね。…大広間に特別空間を用意したわよ。そこで待ってるわ…くくく…はーっはははは!!≫

「如何にも、悪者って感じね」

「場所は分かった。行こう」

 

そう言って、全員で確認した地図を元に大広間へと向かう。

―――――どうやら、本当に出迎える事しか考えていないのか、ここに向かうまで妨害される事は何一つなかった。そして、大広間に着くと、何処かへ飛ばされるのではないかと言う、ポータルが用意されている。

 

「…ご丁寧に、この先に居ると書いている」

「罠…という考えは?」

「罠として使うなら、複数用意するだろう」

「ピーシェちゃん、ナナちゃん、今行くよ~」

 

と、唐突にプルルートがポータルへと駆け込んでいく。“ちょっ!”という形で、それにつられるように女神全員ポータルに入っていく。

 

「………。仲がいい事」

 

そう言いつつ、奴が待ち構え、剣士が居ると思われるポータルへと入る。

 

 

 

 

 

【???:変質多次元空間】

 

ポータルを潜ると、そこは電脳世界に入ったかのような風景が広がっている。全員揃っている事を確認し、道なりに歩く事にする。

 

「どうしたの~?」

「………、いや…」

「これで何回目よ、後ろを振り向くの…」

 

入ってすぐの事だが、後ろから数人の気配を感じている。が、後ろを見ても、女神一行しかいない状態だ。上手く隠れているのか、新型の迷彩でも取り入れているのか…兎に角、今はご丁寧に道なりで、且つ道標が着いている所を進むのみ。

 

暫くそんな状態で進むと、玉座の間とも思える場所に辿り着く。

 

「ようこそ…待っていたわ」

「ノワールちゃーん。来てくれると信じてたわぁ!」

「げっ、またアンタなの…」

「あ~、ピーシェちゃーん!!」

 

そいつ(レイ)は、まるで本当の魔王の如く王座の椅子に座っている。その後ろに、メカニックなアーマーを着込んだ奴が、椅子の横から顔を出し一宇目算にノワールの名を叫ぶ。当の本人は凄く嫌な顔をしている。そして、プルルートもまた玉座の椅子の隣に別の椅子が用意されており、そこにピーシェが肘掛けに体を預けるように寝ている。…だが、その周辺に剣士の姿はいない。

 

「…剣士は…俺の相棒は何処だ」

「ふふっ、そう慌てる必要はないわぁ。直ぐ近くに居るもの」

 

奴の言葉通り次の瞬間、上の方から俺目掛けて誰かが飛び降りてくる。刃物を持って振り下ろしているのを見た為に、咄嗟にローリング回避するも右額の皮一枚掠めてしまう。そして、その相手が振り下ろした刃物は、衝撃で氷のように粉々に砕けていく。

 

『ナナ(ちゃん)っ!!』

 

女神達がそう言い、前を向くと女神化しているナナが、左手に刀を携え佇んでいた。左出て斬られた場所を拭いつつ、立ち上がると同時に剣士も立ち上がり、お互いに顔を見る状態になる。

 

「彼方を…殺す…呪われし…彼方を…」

 

そう言いながら、左手に持っている刀を抜き取り、此方へと向けてくる。流石のその光景に、女神達は女神化済みのようだ。

 

「信じられないけど、こんな日が来るなんてね…でも、戦っては見たかったのよね」

「でもぉ、お友達をこんな状態にする、そこの貴方は…更に許せない存在ねぇ」

「短いとは言え、友達と言えるナナを…テメーって奴は…」

「ええ、それに子どもにも手を出すなんて、流石においたが過ぎますわ」

 

全員が殺気を出している中、奴はそれでも俺と交えた時と同様、微動だにせず座り方を買えただけだ。

 

「ふ~ん…ってか寧ろ、こっちがおいたが過ぎているって感じなんですけどぉ?ああ、あとこっちばかり気にしてると…死ぬよ?ほらぁ」

「………。」

 

奴が後ろを指さすと、ステルス迷彩を外したかのように見覚えのある四人が現れる。

 

『なっ!!』

 

そこには、直ぐ傍に居る女神四人のソックリさんがいる。それも女神化した状態だ。

 

「クローンか」

「そういうことよぉ。力も貴様達と変わらないわぁ」

「でもぉ、触っても微動だにしないからねぇ…やっぱり本物が一番ねぇ」

「…は?」

「…貴様は黙ってろ」

 

アノネデスの余計な一言で約二名が睨み付け、椅子の後ろへ引っ込む。とは言え、後ろから現れた偽女神によって退路は塞がれている。逃げ場無しという所か。

 

「後ろは私達がするわ。あなたは正面をお願い」

「いいのか、そんな簡単に」

「私だって、アイツは許せないけど、自分自身を見ているのもなんだか気持ち悪くてね」

「その件に関しては同感ですわ。感情がない自分を見ているなんて、ただ虚しくなるだけですもの」

「安心しろ。こっちはさっさとぶっ飛ばして、そっちに加わってやるからよ」

「あたしもそっちに加勢はしたいけど、あの木偶の坊が表情を変えるかも、見て見たいものぇ。特別、最初はお願いしちゃおうかしら」

 

…約一名だけ若干違った路線に入っているが、倒す事に関しては共通している。考えてみれば、奴が撃った物が原因で、今の剣士はこうなっている。

 

「開放の仕方を、教えてもらおうか」

「知ってたところで、教える訳ないでしょ~?」

「…意地でも口を割らせる」

 

銃を取り出しキセイジョウ・レイに銃口を合わせ、目標をセンターにしつつ引き金を引く。…が、その瞬間に剣士が持っている刀を振り抜いてきた。

 

「(っ…!かわし切れない…!)」

 

動きは、記憶喪失だった頃の妙なぎこちなさが無く、嘗ての剣士が使っていた劔流に近い剣技を放ってくる。だが、女神化状態だからか、その抜刀速度は想像より早く、のけぞりだけでは避けきれない為、仕方なく銃を受け流しとして使う。

 

―――――銃の先端が、カミソリのように切られてしまった事を除けば、避ける事に成功する。今持ち合わせているのは、貰った銃と、呼び出せる両双剣…貰った銃は試し打ちしていない為に、どういう性能なのか分からない。迂闊に使う訳にはいかない。双剣を呼び出しつつ、右腕を開放し防御の構えを取る。

 

「こんなことをしてまで、お前は何を成し遂げたいんだ?」

「馬鹿な女神達や、愚かな愚民共への復讐よ」

「…それで、この騒ぎか」

「私に従わないムシケラな奴は、生きてく価値なんてないのよ。…ほら、前」

 

奴の“前”と言う台詞に合わせるように、剣士が此方に刀を携えて向かってくる。居合をしてくる刀に対して、両剣モードと双剣モードを屈指し撃ち返してく。それだけでなく、向こうは氷の刃を多数作り出し、高速でそれを飛ばしてくる。最大火力でのパイロキネシスで溶かしつくしていくも、このまま続けば消耗戦になってしまう。兎に角、隙を見て意識を刈り取る打撃技を放つ。それを成すには、やはり変身するしか…―――――

 

 

 

 

グサッ―――――

 

 

 

 

『っ…!!』

「なっ!!」

「同じことの繰り返しって飽きちゃうからね…」

 

何と、刃物の打ち合いの最中に、キセイジョウ・レイが突然剣士を押し出し、俺が向けている刃に無理やり押し付けてきたのだった。間一髪のところで位置をずらして急所は外したが、両剣が腹を貫通してしまっている…。

 

『ナナっ!!』

「剣士っ…!!」

「………、えい…す…申し訳…ありま…せん…」

「………」

「そうそう、女神や愚民だけじゃなく、私を滅ぼそうとした貴様等の力も、許せないから…」

 

勝機に戻ったと思われる剣士は…生きているが、脈が弱くなっている…。

 

「でも、悲しむ必要はないわ。直ぐ、そいつと一緒の場所へ連れてってあげる」

「エース、何やってるの!!」

「おい、悲しんでる場合か!!」

「前、前を向いて下さいましっ!!」

 

 

 

…許せん。こんな自分勝手に動き、気に入らなければ滅する。それが、自分を支えていた市民や仲間であっても。だが、此奴に勝てる力を、今の俺はあるのか?…いや、エンデと同等の非情さを持った女神を野放しには出来ない。ここで、食い止めなければ―――――

 

 

 

 

 

――――――力が…欲しいか…?

 

 

 

 

 

 



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The 6th Encounter ~新たなる野望を抱えし者達編~
Scene73 終わらない宿命の道標~debriefing~


 

 

【???】

 

「(何だ…体が…動かない)」

 

―――――力が欲しいか

 

その言葉が聞こえた瞬間、周囲が全て古ぼけた写真のセピア色に染まっている。そして、写真の如く、俺を含め身動きが取れない状態になっている。それと、その言葉を発した声は、聞き覚えのある声でもある。

 

≪そう力む事はないぞ。力は、欲しくはないのか?≫

「(力とは、どういう意味だ。まさかとは思うが、蒸〇でも出来ると言うのか、ゼロ)」

≪〇着…という訳ではないがな。力というよりは、“闇”の力の方を開放する時だ。平たく言えば、お前がゾディアークとか言ってた形態になる為のリミッターを外す。そうすれば、今お前がしている方法で出来る≫

 

しかし、何故この場に来て行き成りそんな説明をされるのか…。今までテレパシーが出来なかったと言えば説明はつくが、俺がやろうと思えばいつでもできる状態でもあった。恐らくは…と考えた時、察してかゼロが言う。

 

≪今のお前は、セグゥ…女神の力に近い存在だ。そこに闇の力を注ぐ…当然反発し合い、最悪お前の身体は、闇の力で木端微塵になるかもしれない。更に、これは俺とお前の魂が憑依する事…≫

「(…その話し方では、今までの変身も不完全だったと言うのか)」

≪まぁ…そうなるな。元より、この技術はセグゥと編み出した術式だ。今までは、ノーリスクで変身する技術のみが受け継いでいた。だが、この憑依は互いに信頼し合う者の魂と共鳴、お前から生命力を奪いつつ、驚異的な力を流し込める。今のお前は不老に近い存在であっても、俺自身はニグーラ…人間、女神とは反する存在。何が起こるかは分からない≫

 

どうやら、相当なリスクがあるようだ。元より俺が死ねば、俺の身体の中で繋ぎとめている二人も実質死ぬ事になる。それを恐れて今まで隠していたのか、さっきのように力に耐え切れず死んでしまうか…。だが、その力はある意味嘗て道を外した時に、見出せなかった力でもある。今の俺は違う…力を求める為に全てを捨てるのではなく、嘗てのS.T.O.P.時代のように、誰かを守るために行動にでる。

 

≪嘗て、エンデを倒す為の力が欲しかった時とは違うな。自信の為でなく、誰かの為に力を開放する…そんな目をしている。お前なら十分、この力を振るえるだろう。さぁ行くぞ。お前の相棒の為にも、奴を止めるぞ≫

「(…ああ)」

≪ならば…詠唱と共にこの言葉を叫べ―――――≫

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【???:変質多次元空間】

 

「さぁ、御祈りはしたかな?懺悔はしたかな?さぁ、その女と共にくたばっちゃえっ!!」

 

その言葉と共に、キセイジョウ・レイは永守と剣士に目掛け、剣士が持っていた刀を振り下ろす。そこへ、自分達のクローンよりもそっちを助け出そうと動き出そうとするも、やはり自らのクローンが邪魔をし、助け出しに行けない状態となっている。

 

「…っ!!」

 

だが、レイは振り下ろした刀を、あと数センチで届くという所で止め、距離を置くように離れる。

 

「(な、なんだ…この私が、目も合ってない殺気だけで、殺される感じがした…)」

「お、おい。どうしだんたよアイツ…」

「わ、わからないわよ…一体、何が…?」

「怒りとは違った…説飯難いですわ…」

「…まさか、アタシもブルっちゃうなんて…ねぇ…」

 

その額からは、動揺ともいえる冷や汗を流している。女神もクローンも含め、全員がその形容しがたいと言える状況になっている。そうしている間に、永守は剣士に対し、上着を破り貫かれた部分を強く縛り当て、応急処置を終える。そして、立ち上がると同時に、右腕から黒いオーラが溢れているのが分かる。その状態から、永守はゆっくりと右腕を上げる。

 

「印(サイン)…破壊(ラーク)っ!!」

『っ!?』

 

永守がその言葉を叫び終えると同時に、永守の身体から黒いオーラが光りつつ溢れ出し包み込まれていく。まるで、女神化の際に発する光が、暗黒色となったとも言える。そんな悍ましい変身光景である。その黒い光から現れたのは、永守だと思われる人物が、悪魔のような姿へと変わっていた事。変身後の本人も、それが分かる。以前のように黒い特殊装甲に包まれているのではなく、文字通り“魔人化”したと言える。それを象徴しているのが、側頭部に角が飛び出ている事。その状態を見たクローンは一番の危険と察したのか、本物よりもその状態の永守を先に倒すべく、全員がそっちへ飛んでいく。

 

『なっ!!』

 

そして、その場にいた全員が驚いた。瞬時に両手に刃物を持ち、襲ってきたクローン女神四人に対し、切り裂く動作をしたが、気付けばクローン女神四人は床に伏せており、モンスターがやられた際の結晶片の如く消えていく。本物の女神四人とアノネデスは呆気に取られていたが、キセイジョウ・レイだけはしっかりと何が起きたか見えていた。

 

「(何て奴だ…あの数秒の内に双剣で複製体一人に複数回斬撃を与え、且つその場から動いていないように思える程の速さ…そして、一振り毎に放たれる強い殺気。それが、あの斬撃の強さか…)」

 

クローン女神を一瞬で倒した永守はゆっくりと立ち上がり、標的であるキレイジョウ・レイに向けて右手に持っている双剣の剣先を向ける。

 

「くくっ、“私を殺す”とでも言いたいのかな?自我はあるが、完全に操れてないと見ている…どうかなぁ?」

「………」

 

その問いに対して、永守は言葉を発することもなかった。だが、向けていた剣を降ろして構えなおす。あくまでも、ここで倒すと言う心構えのようだ。

 

「ここで、貴様を倒してもいいが…お互い100%の状態でなければ意味がない。ここは仕方ないけど、本当の私に受け渡すしかないわねぇ」

「何を、言ってるのあなたは…」

「100%じゃねーだと?」

「それに、“本当の私”とは?」

「言った通りよ。んじゃ、そういうことでね」

 

すると、キセイジョウ・レイが突如女神化のように光出し、普段の姿へと戻ると同時に、彼女の身体から漆黒の色に染まったシェアクリスタルのような物体が現れ、キセイジョウ・レイは倒れ、シェアクリスタルは突如現れた亜空間へと飛んでいく。

 

『ナナっ!!』

「っ!!」

 

そして驚くべきことは、その亜空間に逃げたシェアクリスタルと共に、剣士も引っ張られるように吸い込まれてしまった。永守はそのシェアクリスタルを追うべく動き出そうとした時、突如膝をついたと同時に変身が解け何時もの永守が現れるが、四女神からしたら何時もの永守とは言燃えない程、息が上がっている状態だった。その異変に気付いた為に、変身を解いた女神が永守の元へ走っていく。

 

「えー君っ!!」

「ど、どうしたのよ急に!!」

「はぁ…はぁ…、済まない…練習無しで、即興で…やるものじゃないようだ…」

「それを、ぶっつけ本番でやったというの?」

「無茶しすぎですわっ!」

 

奴に言われた通り完全に操れていないのか、強大な力の代償のように驚異的にエネルギーが吸い取られ、スタミナもほとんど残っていない状態へとなってしまった様子だった。息は整ったようにも見えるが、それでも笑っている足に活を入れるかのように、永守は自らの太ももを叩き、立ち上がろうとする。

 

「ちょ、何処へ行くのよっ!」

「はぁ…決まっている。奴を、追いに行く」

「追うって、あの亜空間に…?」

「この中で、奴を追えるのは…国を持っていない俺以外に…誰が居る…?」

「で、でもぉ~…」

『………』

 

四女神も助けには行きたいが、亜空間の先は何処なのか、入ったら戻れるのか、その場合自らの国をどうするかという考えで埋まる。

 

「ちょっと、良いかしらぁ?」

『え…?』

「っ…!」

 

闘いの騒動が収まったからか、今まで隠れていたアノネデスが寄ってきて、永守の首元に注射のようなものを打ち込む。

 

「あ、アンタ…!!」

「て、てめー…!!」

「その注射は…まさか…!!」

「へぇ~…まだ悪さ、するんだぁ…」

 

この土壇場で撃たれた注射に、ノワールはナナ…剣士に投与された物ではないかと動き、それを察したように女神全員が、アノネデスに対し明らかな敵意を見せている。しかし、当の本人は誤解だと言うように慌てている。

 

「ちょ、ちょちょちょ、何か勘違いしてなーい?ほらほら、彼の様子ちゃんとみてよぉ!!」

「え?…だ、大丈夫なの?」

「…毒ではないようだ。何を打ったんだ」

「そうね、分かりやすく言うならエリ〇サーのようなものを、液状にしたものかしらね。まさか、レイちゃんがあんな事になるなんて思ってなかったのよ。罪滅ぼしにはならないだろうし、この状況だと白旗上げる以外思いつかないわ」

 

アノネデスは、倒れているキセイジョウ・レイを見つつ言う。ある時に帰ってきたら、あんな状態になっていたと。そして、未知のサンプルが無くなっていたと…。永守は、十中八九それが原因ではないかと察している。その逃げた球体の先に、そのサンプルもあるのだろうと…あれがなんであれ、またしても見ず知らずの人物…ましてや、剣士に乗り移り、この世の全てを破壊する行為に出る可能性もある。だが、誘うかのように逃げた球体が入ったゲートは開いている。まるで、追えるものなら追ってみろと言わんばかりに…。

 

「う、う~ん…」

「…どうやら、眠り姫が目覚めたようだ」

『ピーシェ(ちゃん)っ!!』

「あっ!!えすえすっ、ぷるるとっ、ノワルっ、ブランっ、べるべるっ!!」

「…はぅっ!!」

「だいじょうぶ~?なんかされてない~?」

「うんっ!!なんか、すこし力がみなぎるっ!!」

「(…なんか捕まる感じだったけど、今なら逃げられそう。そうと決まったらすたこらさっさだわっ!!)」

 

ピーシェの前に全員が集まる。目覚めたピーシェは全員の名前を言うが、約一名は言われたことのない愛称で言われた為に、何かに目覚めそうな勢いで胸を押さえている。全員が安堵するが、永守は力が漲っている事に違和感を覚える。が、今言うべきではないと心の襖に仕舞っておくように、開いた口を閉じる。そんな夢中になっている所、アノネデスは隙を見てその場を立ち去ってしまった。

 

「…あっ!!アイツ…逃げたわね!!」

「ほぇ?あいつ?」

「ほっとけ。お前なら、直ぐ捕まえられるだろう」

 

そう永守は言いつつも開いているゲートに近づき、通貨をゲートへと投げ入れる。その通貨は、ゆっくりと速度を下げつつゆっくりと消えていった。

 

「ここを通るお心算で?」

「ああ。お前達は国が、帰る場所があるだろう。頭が不在の国はあってはならない。だとすると、適正なのは俺だ」

「で、でも…」

「それに、奴は俺と100%の決闘をしたいと言った。少なくとも、奴を近くで感じ取れる場所に居る方がいい」

「えすえす…いっちゃうの?」

「ああ、これは遊びじゃないんだ…」

 

未知の領域に踏み込もうとする永守を、心配そうに見る女神達。しかし、誰がどう止めようと、使命のような何かを背負ったその大きな背中を、止められるとは思えなかった。そんな時、ゲートへ飛び込む前に永守はプルルートに、持っていた無線機を渡す。

 

「これは…?」

「可能性は低いが、それに連絡を取れるなら報告する。…世話になった」

「…うん、ナナちゃんの事、よろしくねぇ~」

「そうね…私にも責任はあるけど、今はあなたに託すわ」

「無事であるように祈ってるわ」

「お気をつけて下さいまし」

 

女神の言葉に対し、永守は振り返りながら親指を立ててグッドサインを送る。内心女神達は“古っ!”と思っていたが、その後ろ姿には自信に満ち溢れているように見えた。そして、永守はゲートの前に一度立ち止まり、深呼吸をして飛び込もうとする。

 

 

 

―――――が、予想もしなかった出来事が起きてしまった。

 

 

 

「………、ぴぃも行くっ!!」

『えっ!?』

 

突如、永守について行った方が、面白いのではないかと言う好奇心が勝ったのかという子ども心が、ピーシェには勝ってしまい永守の元へ勢いよく駆け寄っていく。そして、どういう訳かピーシェはタックルするように飛び込んでくる。永守も、女神達が声を掛けた時に振り返って入るが―――――

 

「ごふっ…!!」

 

時既に遅し。ピーシェのタックルをモロに腹部へと受けつつ、バランスを崩し二人共々ゲートへと入ってしまったのだった。それと同時に、ゲートも閉じてしまうのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【???】

 

とある闇の空間に、男性と女性の二人がいる。二人の下には魔法陣のようなものが展開されており、その魔法陣の中心に何かの風景が移っており、それを見るように視線を下に向けている。

 

「…なんだか、凄い事になってしまったな、セグゥよ。女神戦争をしていた時とは打って変わって、嵐の前の静けさとも言える」

「………」

 

セグゥという、嘗て女神戦争で自らを犠牲にしつつ、終戦へと導いた今や魂だけの存在の女神…そして、そこに語り掛ける本来は敵だったが、正義に目覚め反逆をしたニグーラのゼロ。その魔法陣には、永守の行動した映像が記録されている。だが、セグゥはどういう訳か、何時も以上に乗り気ではないように見える。

 

「ああ、そうだったな…。相手はお前の………いや、やめておこう。お前の気分が悪くなるだけだからな。その時起きた事、嘗ての名前、その後の行方…」

「いえ、良いんです。それも、これも、全て解決できなかった事で招いた出来事ですし…」

「その代償として、今の女神に…獨斗永守にその件を託してしまった。助言は出来るが、俺達が直接手を出せないのも歯がゆい…」

「それでも、私達は見守り続けましょう。それが、今の定めなのですから」

 

その言葉にゼロは頷き、魔法陣の方へ視線を戻す。この先、ゲイムギョウ界が善へ転がるか悪へ転がるかを見届ける為に…

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

「…ぉ……お…ろぉ…」

「………」

 

聞き覚えのある声による呟きが聞こえた気がするが、内容は全く思い出せない。俺は確か、ピーシェに押されて妙な格好でゲートを潜った…そこまでは覚えている。そして、誰かが読んでいるように聞こえる。

 

「…おきろーっ!!」

「くぁwせdrftgyふじこlp!!」

 

目を開けて起きようと思った瞬間、突如腹部に強烈な打撃を受ける。余りにも無防備だったためにモロに受けてしまう…腹部が貫通して無くなるのではないかと思ったぞ…。

 

「あ、おきたおきたっ!!」

「………、他の人には、しない方がいいぞ」

「ほえ?…あ、あとこれ!!きんぴかっ!!」

 

あまり分かってないピーシェは、手に持っているのを見せてくる。それは、入る前に俺が投げた硬貨だった。となると、誰が入ろうとも始めからここに出るように設定されていたというべきか。池ポチャよりは遥かにいいが、最悪の目覚めである事に変わりはない…それよりも、状況と場所を確認する為に周りを見る。正面には森…だな。後ろを振り返ると、絶景とも言える長めからの街並みが見える。

 

「…プラネ…テューヌ?」

 

そこは、見覚えのある街並みだった。そう、間違いなくプラネテューヌ。新次元ではない、超次元の街並みが見える。…まさかと思うが、奴は―――――

 

「わーいっ!!」

「………」

 

本当、子どもらしく自由だな…と思いつつも、こっちの苦労も分からないだろうと言う思いも出てしまう。とは言え、見たこともない街並みを見て、冒険心や好奇心が出てしまうのは子ども故の何とやら…。兎に角、ピーシェを一人にする訳にはいかず、その後を追いかける。気づけば、周囲に剣士の姿が居ないとなると、あのまま連れ去られたか一人で先に何処かへと行ってしまったのか。

 

「今は、ピーシェを追いかけることが先決だ」

 

俺としても観光という形で街に行って、本当に超次元のプラネテューヌであるか調べたいところもある。何せ、超次元としての俺は自ら魔剣の糧として犠牲になり、死亡扱いになっているはずだから、死者が蘇ったみたいな事になって騒ぎになるのも困る。それを避ける為にも、ネプテューヌやネプギア、諜報部のアイエフあたりに出会って事情を説明したいところでもある。だが、そんな悩みも知るはずのないピーシェは、タタタタタッと言わんばかりにはしゃぎつつ前進していく。…こりゃ、教会に向かう前に誰かと会うな、と若干のあきらめが出てしまう。

 

「その時は、その時考えればいい…しかし、それにしても…」

 

―――――腹が減ってしまった。と言わざるを得ない。あの戦い以前に、出向く時から口にしたのは水と噛んでいたガムぐらいだ。それからどれくらいの時間が経ったのか分からないが、腹がペコちゃん状態だ。とは言え、“腹が減って…死にそうだ”という程ではない。ピーシェは、捕まっている間に食事でもとったのだろう、あまりお腹を空かしているようには見えない。

 

「あーっ!!」

 

そんな事を考えていたら足が遅くなっていたのか、ピーシェの声でハッ正面を向き、目視出来る範囲に居ない事に気づく。そして、ピーシェの声がした方へと足を運ぶ。

 

 

 

『…え?』

 

そこに、ピーシェはいた。そして、見覚えのあるよく知った人物が四人そこに居たのだった。

 

 

 

 

 

 



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Scene74 帰ってきた男とお騒がせ幼女~BeforeIncident~

 

 

【プラネテューヌ】

 

「あ~んっ!!ん~!!おいひー!!やっぱり、コンパが作った料理は最高だよぉ!!」

「厳選して、ただ挟んだだけですけど、ねぷねぷにそう言って貰えると嬉しいですっ」

 

犯罪組織が壊滅してから一週間が過ぎた。激しい戦いの末に、リーンボックスの廃棄物処理場で起きた事件よりも、無くしたものや失ったものは多い。それでも、獨斗永守という数年だけの付き合いで印象は人それぞれだったが、彼の犠牲もあり各国含め、街全体の被害は最小限に収まり、街並みはたった数日で復旧。失ったシェアも、驚く程に元通りとなった。そして、私が諜報部として活躍しているプラネテューヌも―――――

 

「…本当、ネプ子も変わらないわよね」

「んん、何が?」

「あんな目にもあった上に、色々とあったのに、街並みが数日で戻ったと思ったら、ピクニックって…」

「だからこそだよ!あんな事があったから、思いっきりはじけちゃおうって訳で、毎日がハッピーエブリディなのっ!!」

「全く、意味がわからないわ…」

「あはは…」

 

ネプ子にとって、獨斗永守はどういう存在かまでは分からないけど、断言できるのは大切な仲間、友達であったこと。そんな彼が率先してあの魔剣の糧になって亡くなった。事件解決後、最初こそ落ち込んではいたけど“俺と同じ悲しみを増やさない”…という解釈でいいのか…それを胸に刻んだのか、気が付けばいつも通りのネプ子がそこに居た。ただ、何時も付けているネッグは永守にプレゼントした奴を付けている。恐らくは、その想いを忘れないようにする為なのだろうか。

 

「でもネプ子、結局シェア率は元通りとは言え、下降傾向だってイストワール様に言われたばかりじゃないの。そんな調子で大丈夫なの?」

「大丈夫だよ、問題ない!!」

「お姉ちゃん…なんかそれ、ダメなフラグが…」

「心配ないよ、ネプギア。そんなフラグも含めて、わたしが活躍すれば、シェアなんてちょちょいのチョイだよ!!」

「流石です!…でも、それをする為の考えがあるですか?」

 

コンパがそれを言った瞬間、ネプ子は明後日の方向を見つつ、口笛を吹いて誤魔化す様にしている。ネプギアとコンパは苦笑。私は…分かっていたとはいえ、溜息が出てしまった。諜報部で何とかしていると言っても、女神の活躍でない以上限度もある。それでも、ネプギアがネプ子程ではないにしろ、あの戦いから成長したのがわかるように、最前線に出る事が多くなった。とは言え、シェア自体は微々たるものだけど下降傾向である事に間違いはない。

 

「まぁ、ネプ子らしいっちゃネプ子らしいし、それもこれも、今に始まった事でもないし…」

「何独り言、言ってるの?」

 

―――――ガサガサッ

 

『ん?』

 

そんな事をしていたら、後ろの雑木林から何かが向かってくる音がする。音的にはこっちに走ってきている感じにも聞こえる。

 

「も、モンスターですかっ!?」

「ここは、女神が管理しているエリアですから、モンスターが出る事は無いと思いますが…」

「じゃあ、誰なんだろ」

「分からないわ。でも、モンスターではないはずよ」

 

そうして、念の為に身構えて置くも、雑木林から出てきたそれ(・・)を見て、驚きつつも呆気にとられる。

 

『………』

「…ほぇ?」

『子ども(です)?』

 

そこに現れたのは、黄色いショートヘアの元気そうな子ども。見た目的には5、6歳ぐらいだろうか。…でも、なんでこんな子がこんなところに?

 

「………、あーーーーーーーーーーっ!!!」

「な、なに…この子?」

「さ、さぁ?」

「ねぷてぬっ、ねぷぎゃっ、あいえふっ、こんぱっ!!」

「…え、ええ?」

「だ、だれ…です?」

 

私含めて、混乱してしまう。突然現れた子どもが、教えてもない私達の名前を、完全一致でないとは言え、まるで知っているかのように言ってきた。…その子が叫び声のようなのを聞いたかのように、雑木林の方からもう一つの足音がしてくる。そして、出てきた人物は―――――

 

「およ?えすえす、おそいーっ!!」

「………。これも運命か…」

 

 

 

 

 

『え、永守(えい君)っ!?』

 

 

 

 

 

――――――――――三週間後

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ:教会・居間】

 

「まぁ…そっちはそっちで、偉い事に巻き込まれてたのね…」

「そんなところがあるなんて、夢みたいです」

「でも、永守さんの事を考ましたら、あっても可笑しくはないのでしょうか?」

 

ネプテューヌ達がピクニックに行っていた所に出くわして、早三週間が過ぎた。俺が向こうで体験したことを伝えると、驚きはしたものの仰天という程ではない反応だった。それも、俺や転生者という存在がある以上、外の世界があるという事を認めなくてはいけない。そんな感じで受け止めているのだろう。だが、驚くべきことは、俺がネプテューヌ達と出くわした日から、四年程いた神次元に対し、戻ってきた超次元では4日しか経っていないと言う。4日しか経っていない超次元に飛ばされたのか、そもそも時間軸が違うのかもしれない。とは言え、三週間経つが各国に俺が生存しているという情報が流れたには流れたが、市民の反応は驚く程ではなかった。どうも、死亡扱いではなく、行方不明という扱いになっていたらしい。あとは、ピーシェが全員の事を知っているのかというのは、写真を見せたからという事で納得している。実際には子アイエフが勝手に操作して見たという事だが…。

 

「ねぷてぬ、あそんでっ!!」

「もー、ピー子…何度言ったら分かるの?わたしは、ねぷてぬじゃなくてネプテューヌ!それに、今忙しくて手が離せないの!えい君と遊んだら?」

「やーだ!!ねぷてぬとがいいの!!ねぷてぬ、ねぷてぬ、ねぷてぬ!!…むぅー!!」

 

まぁ、文章の通りだが見ての通り、ネプテューヌは仕事でなく絶賛ゲーム中である。そこへ執拗に遊んでと言うピーシェに対し、目の前のゲームに集中したいネプテューヌは、適当に言いふらし、ゲームの画面から目を離さないでいる。…ピーシェの事をピー子というのは、本人に聞かないと分からないが、自分の名前を正しく言ってくれないからだろうか。そんなネプテューヌの態度に、興味を示して欲しいと両手をブンブン上下に動かし、ネプテューヌの名前を呼ぶも相手にされず、ピーシェは顔を膨らませて、ゲーム機に対してやってはいけない禁断の行動に出る。

 

「あっ!!もーっ!勝手に電源抜いちゃだめ…あれ?…ねぷーっ!!」

「ねぷてぬー、あそんでーっ!!」

「ぐふぅ!!」

 

電源を物理的に抜く…と言うよりは電源コードを引きちぎってしまった。新しいコードがない限り、あれはもうただの物置になってしまった。そして、ピーシェは思いっきりネプテューヌにダイブする。その威力は既に俺が知っている…あれは女神やゴ〇スのような鋼の肉体を持っていない限り、あらゆるものがリバースしてしまう。

 

「それにしても、ねぷねぷ…すっかり仲良しさんですねぇ」

「と…言うよりも、翻弄されているって感じがするわ」

「三週間で、あれだけの関係になるんだ。ネプテューヌのいい所だろう」

「あれを、仲が良いと言っていいのか…私、間違ってるのかな」

 

俺も嘗ては部隊として、子どもと接する機会は多くあった。その為のアレコレも叩き込まれているが、ああも直ぐに溶け込むことはなかった。同じ属性だからだろうか…とはいえ、四年ぶりにネプテューヌの騒がしい光景を見ると、懐かしくも忘れていた感が出てくる。向こうが騒がしくなかったと考えれば、そんな考えが出てしまう。

 

「そうそう永守、一応報告しとくけど、諜報部としても調べたんだけど…収穫は無しよ。他の国にも情報提供したんだけど、今だ手掛かりどころか通達も無し」

「それにしても、変ですね。たった一人を探すだけですのに、三週間掛かっても見つからないなんて…」

「そうか…」

 

行方が分からない剣士を捜索すべく、イストワール達に事情を説明し、写真を元に捜索に協力してくれることになった。勿論、自ら足を運んで捜索してみたが収穫がない。確認の為に携帯のアプリとして使っている、超次元マップを確認する。考えられるのは、4カ国の国外にある島々か、土の中に居るか…。

 

「アンタなら大丈夫だろうけど…あんまり、国外の島を捜索しない方がいいわよ?女神の加護がない分、モンスターが住み着いているし、何より未調査の場所もあるから、無暗に足を運ぶのはお勧めしないわ」

「…肝に銘じておこう―――――

「捕まえたっ!!」

「…ぴぃー…ぱーんちっ!!」

「ねぶゔゔゔうう!!!」

 

そんな情報交換をしている最中も、ネプテューヌはピーシェを追いかけていた。そしてようやく、背後から抱き着くように捕まえた…のだが、身体能力の高いピーシェは、地に足を付いていないにも関わらず、身体を反転させつつネプテューヌの顎目掛けて、ストレートともアッパーともとれるスマッシュを放つ。悲痛な声と共に、ネプテューヌは仰向けに倒れ込む。

 

「ああ…何てこと…ピーシェさん!」

「だって、ねぷてぬが…」

「…綺麗に、入ったわね。流石のネプ子もダウンかしら」

「大丈夫そうですよ?流石、ねぷねぷです」

「…あ、ありのまま今起こったことを話すよ…わたしは、後ろから掴んでるから、体制的に高威力の攻撃は出来ないと思ったら、放たれたパンチはバズーカ級だった…」

「長々と解説どうも。だが、流石にやり過ぎだろう」

 

子どもとは言え、流石に限度があると見てピーシェの元へ歩み寄る。

 

「ピーシェ、ネプテューヌに“ごめんなさい”は?」

「…ぴー、わるくないもん。あそんでくれない、ねぷてぬがわるい!!」

「だが、手を出すのはよくないことだ。…仮に、もしプルルートに同じ事やってみろ。相手はどう思う?」

「…わかんない。でも、やだとおもう」

「よっぽどの事がない限り、叩いたり蹴ったりの暴力は良くない。お互い、楽しくなるように行動する。…出来るな?」

「…うん。ぴぃ、やってみる」

「よし、いい子だ。後でねぷのプリンを御馳走しよう」

「え、いいの!!」

「ちょっ、今のは聞き捨てられないよ!!」

 

仕付けのようになってしまうも一応は収まったが、プリン…特にネプのプリンという言葉は聞き捨てられないと飛び跳ねるように起き上がり、俺に向かって指をさしてくる。この小説を読んでくださっている人には説明は不要だろうが、ネプのプリンとは、ネプテューヌが自分用のプリンとして“ネプの”と記してある事以外は至って普通のプリンだ。何故プリンが好きなのかは未だに分からず、自らの拘りなのかプライドなのか知らないが、“ネプの”と書かれたプリンを取られるのは、三度の飯より嫌な事だと言う。しかしながら、ここ三週間の間に、ピーシェはそのプリンが他の普通のプリンよりお気に入りとなっている。それを食べたピーシェに、ネプテューヌがピーシェに対して喧嘩するという大人気ない状態にもなった。プリンの一つや二つで…という訳にはいかないらしい。…でだ、俺が試しに“ネプの”と書いたプリンを渡すも、“違うっ!ねぷてぬのじゃない!!”と言い食べなかった。完璧にコピペ出来てないとはいえ、ピーシェにも何か拘りがあるのか…。

 

「聞き捨てられない以前に、遊んであげなかったのも良くない。何をしたらこうなるとか、俺よりは分かっているはずだろう?」

「う…そ、それは…」

 

と、前回もそうだがここまでがテンプレと化している。ネプテューヌには酷だろうが、第三者からしてみれば、叱った後にネプのプリンで解決できるのだから安いものだろう。…これで、怒られたらプリンが貰えるってのを覚えなければいいが。

 

「それにしても、永守さん変わりましたね」

「…確かに、変わったわね」

「そうですね。前とは変わってるです」

「変わった…?」

「何と言いますか…以前はずっと無表情だったのですが、ピーシェさんを怒っている時は少しばかり起こり顔だったり、優しい顔をしてましたよ?」

 

イストワール達にそんな事を言われ、手を顎に当てつつ、顎を撫でるように手を動かす。数年間、殺伐とした空間で生きてきた身から、日常的な空間へと触れている変化だろう。

 

「…ところで、ネプテューヌ。バルコニーのアレはいいのか?」

「外…?あ、ああああああ!!」

 

ずっとゲームやピーシェの対応に追われていたからか、バルコニーに二人の人物がおり、どういう状況になっているか全く気になっていなかったようだ。でだ、肝心の外はと言うと―――――

 

 

 

 

 

「どうです?ネプギアちゃん」

「はい、すっごく…柔らかいです…」

「ふふ、それはそれは…ついでに、お姉ちゃんって呼んでもいいですのよ?」

「え、そ、それは…私には、お姉ちゃんがいるし…それに、スミレちゃんにも、なんか悪いし…」

「ボクは毎日されてることもあるからいいけど…ベール姉さん、そろそろやめておいた方がいいんじゃ…?」

 

外では、絶賛百合百合な空間が広がっていた。どういう訳か、ネプギアも断っているのだが、普段味わえないその豊満なブツに、満足げな表情をしている。とは言え、スミレと言う義理の妹がいるにも関わらず、更に妹を増やそうと考えているのだろうか。

 

「どうです?永守さんもタッチとかしてみます?あなたでしたら、特別いいですわよ」

「…気持ちだけ受け取っておこう」

「やっぱり、乗ってくれませんね」

「くぉらあああああ!!ベールぅ!うちの妹に、なにしてくれとんじゃ!!」

 

様子見の為に外に出たと思ったら、俺を落とす心算でいるように誘うも丁重にお断りする。そこに、ネプテューヌがまるで怪獣が進軍するような足音でベールの元へ近づいていく。

 

「お、お姉ちゃん!ち、違うの、これは…はぅ…」

「いいじゃありませんの、たまこうして親睦を深めるのも悪くないことですわよ?」

「そう言うが、ここ数日は毎日来ているが…」

「そーだ、そーだ!!」

 

大体一週間ぐらい前から、ベールはプラネテューヌへ毎日のように来ている。本人から特に話を聞いていないから、来ている理由は不明。…が、今日に限っては何か話があるらしく、ベールは訳ありとも言える表情に変わる。

 

「…今日は、あなたを誘いに来ましたのよ?」

「ええ、わ、わたしぃ?まさか、わたしも攻略対象で姉妹丼!?」

「本当にそうなのか?」

「はっきり言いますと、全然違います」

 

自分もぱふぱふの対象と思い込み、何やらうねうねしているがスミレがきっぱりと違うと言う。なにやら本当に訳ありのようだ。一番は事件でない事がいいのだが…。

 

「スミレの言う通りですわ。…ブランから連絡が行ってますわよね?」

「…え?そうだっけ?」

「…それは初耳だ」

「…分かってはいましたが、伝えていませんのね。まぁ、いいですわ。移動用の車は用意していますので、そこで詳しくお話をしますわ」

 

と言いつつ、ベールは何気なくネプギアも一緒に誘うように誘導している。ラステイションに行けば、ユニと会えるから連れて行かない理由はないだろう。すると、部屋からピーシェがテンション高めで出てくる。

 

「なになに、どっかいくの!?」

「うん。ちょっとラステイションまで行くことになったからね。ピーシェはお留守番だよ」

「おるすばん?やだ!!ぴぃも行く!!」

「だーめ!今日は仕事の関係で行くんだよ。遊びにいくんじゃないからね!」

「なんで!ねぷてぬ、ぜんぜんしごとしてないのに!!」

「ねぷっ!!あ、あれは、こういう時の為にやる気を充電してるんだよ!!それを今日発揮するんだから!!」

 

分かり切っていたが、ここ三週間はプラネテューヌに付き添いで回っていただけだから、別の国へ見学とかはさせていない。子どもだけあって冒険心と好奇心があり、自分の目で見に行きたいのだろう。ルウィーのニテールランドのチラシを見たら、行ってみたいと言い出したのも、子ども故の好奇心で動いていると考えられる。

 

「諦めろ、ネプテューヌ。連れて行くしかない」

「ええ!?えい君は何時からピー子の味方になったの!!」

「子どもは、何事にも邪魔されず…という訳ではないが、ある程度自由にして、何がいいのか、何がいけないかを教えなきゃダメだ」

「むぅ~…」

 

どうも、ネプテューヌは自分の意志を尊重したいのか、納得しない様子で見ている。あまり待たされるのも良くないと思い、ベールに向けてアイコンタクトをしてみる。ベールも既に察していたらしく、溜息をしつつネプテューヌの元へ向かう。

 

「ネプテューヌ。ここは永守さんの言う通りにしたほうがいいですわよ?このまま話してても同じことの繰り返しになりますし…それに、待たせてるブランにも申し訳ないですわ」

「べ、ベールまでぇ…」

「ぴぃ、ついてっていいの?」

「勿論ですわ、ピーシェちゃん」

「ほんと!やたぁ!!じゃあじゃあ、ぴぃね―――――」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

とまぁ、色々とあったが今はベールが用意したリムジンに乗って、ラステイションへ向かっている。向かっている理由としては、事件といえば事件であり大事にはなっていないものの、情報を共有すると約束している為にラステイションへ向かうそうだ。なんでも、ラステイションでは最新のネットワークを構築して、セキュリティ面でも完璧だと言う。それに伴い、情報を共有する為の衛星も稼働中だと言う。ところが、ブランが掴んだ情報によると、ラステイションのサーバーから、その衛星に向けてハッキングをした形跡が見つかったと言う。そこで、ベールに頼み込んで裏取りをしたところ、確かにラステイションから衛星に向けてハッキングされた跡があったと言う。それを報告する為に、ブランはラステイションに向かったと言う。大事ではないにしろ、一大事でもある為四カ国が集まり、犯人が分かれば捕まえようという考えである。話し方によっては、ネプテューヌが大爆笑しかねない。

 

「…で、何故俺が助手席なんだ。普通はベールが座るべきだろう?」

「まぁまぁ、いいじゃありませんの。偶にはトップが座るところに座ってみるのも、悪くはないでしょう?」

「はぁ…心地いい、幸せぇ…」

「流石に、人に見られると恥ずかしいよ、ベール姉さん…あと、ネプギア…正気を取り戻してくれない…?」

 

まぁ、大体は後ろで百合百合したいが為ってのもあるが、俺が百合空間に入るの、それはそれで気まずい。それよりも、一番の心配はネプテューヌとピーシェだ。あの後、一緒に行く事になったはいいが、ピーシェは“ねぷてぬの背中にのっていく!!”と空を飛んでいきたいと言う。流れ的に断れない為、ネプテューヌは女神化してラステイションへと向かったが…ピーシェが大人しくしているとは思えない。まぁ、当の本人も“だいじょーV!お茶の子さいさいだよっ!”と意気込みを語っていた。

 

「…それで、後ろに乗っているのは?」

「ああ、彼女ですか?彼女が、今回ハッキングの裏取りをしてくれましたのよ?」

「挨拶が遅れて、申し訳ありませんビル。わたしは、リーンボックスでプログラムを担当しています、“ツイーゲ”と申しますビル」

「…ビル?」

「ご心配なく。彼女はリーンボックスが誇る“天才プログラマー”ですわ。実績もちゃんとありましてよ?」

 

人は見かけに寄らずとは言うが、流石に語尾のせいで不安が込み上がる。とは言え、ベールが自信満々に言うのだから、腕は確かなのだろう。今はハッキング元を辿って、何処の誰がやったのか、何を閲覧していたのかを調べている。そんなことをしている内に、ラステイションへと入り、教会が見えてきたのだが………

 

「(…?教会に向かって何か落ちてきている…)」

 

教会に向かって、天高くから何かが落ちてきているのが見える。運転手も気づいたみたいだが、何が落ちてきているかはわかってない様子だ。何となく不安もあり予想は付くが、目を凝らしてよく見ると…ネプテューヌだった。何故か女神化が解けていて、尚且つピーシェは凄く楽しそうにしている。ここまで、怖いもの知らずと来たか…。そうして、爆音…という程ではないが、軽い砂埃と共に教会のベランダあたりに落下した。

 

「…落ちたか」

「何か、言いまして?」

「いや、着けばわかる」

『…?』

 

砂埃の置き方からして上手く着地は出来たのだろうが、はっきり言えばお騒がせとしか言いようがない。ネプテューヌは頑丈だから大丈夫だろうが、ピーシェに何かあったら、神次元のイストワールや、プルルートに何言われるか………。

 

 

 

 

 

しかし、この事件を境にまたしても、厄介な事件へと発展してしまう事になろうとは、この時の俺は知る由もなかった―――――

 

 

 

 

 

 



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Scene75 欲望に溺れしオカマハッカー~DejaVu~

 

 

【ラステイション:教会・ベランダ】

 

「全く、どういう経緯よ。私の所へ綺麗に落下して来るなんて…」

「ごめんごめん。急にピー子が暴れちゃって、その時に気を緩めちゃったら…ね?」

「ね?…じゃないわよ、もう…非常識にも程があるわよ。怖かったわよね?」

「うぅん、ぜんぜん!もいっかいやりたい!!」

「………」

 

ラステイションに落下してきたのはネプテューヌであり、奇跡的にノワールの上へと落下し間一髪だったそうだ。とは言え、ボロボロなノワールは治療をし終えたところで合流することとなる。半身にテーピングや絆創膏をしているあたり、怪我自体は大した事はないのだろう。そこは、流石女神と言うべきか。肝心なピーシェは、楽しかったのかもう一度紐無しバンジーをやりたいと言っている。

 

「あ、そうだ。ピー子、皆にご挨拶は?」

「うん!ぴぃだよ!!」

「…こんな大きな子がいたのね、ネプテューヌ」

「そうそう!初めてお腹を痛めた子だから、可愛くて…ってちがーう!!」

「知ってるわ。にわかには信じがたいけど、別次元から来た預かってる子とはね」

「ぶ、ブランがまさかのボケに…」

 

合流早々、こんな展開になってしまうのは、超次元ではご愛敬。神次元ではムードメーカー的存在がなかった分、こっちが騒がしく感じるくらいだ。が、本質は忘れてないようで、ブランの提案によりピーシェはここで遊んで貰う事となる。一緒に来ていたロムとラムの誘いもあり、ユニが最近飼い始めた耳長バンディクートの“クラタン”を追いかける遊びを始める。ブランが話を再開しようと口を開くが、クラタンを追いかけて遊んでいる三人が気になるのか、ノワールはソワソワしている。

 

「はぁ…ここじゃ集中して離せそうにないわね。場所を変えましょ。永守、どうせ暇でしょ?あなたにも協力して貰うわよ」

「まぁ、そうなるよな」

 

ノワールは、この場をユニに任せるように言い、ネプギア、ロム、ラム、スミレ、ピーシェ、はその場に残る事になり、残りの全員が場所を変える為にエレベーターへ乗り込む。

 

「それで、結局なんで集まったの?」

「…ブランから話聞いてなかったのね」

 

エレベーターに乗り込んだ後、ネプテューヌが口を開くも何をしに来たのだと言いたくなるような事を言う。まぁ、話す事が諸事情で後回しになってしまったのだから、仕方ないといえば仕方ない。それは兎も角、移動しながら今回のブツと本題を放す事となる。

まず、ラステイションの新しいサーバーは、基本的には何処にでもある多数のサーバー用コンピュータを携え、国内のデータ等を管理している至って普通と言えば普通だ。万が一メイン電源が落ちても、一か月は持つ予備電源を備えていると言う。今回、そのサーバーに対して盛り込んだのが、自慢していたというセキュリティプロテクトだ。ラステイションが誇る最高のプログラマーを寄せ集め、これでもかと言う程投資した上で完成させた、正にラステイションの粋を集めて作ったセキュリティという訳だ。

 

「ああ、“どうだ、凄いでしょ?”って言ってた奴だね。で、それがどうしたの?」

「なんでも、最近そのセキュリティを破られてハッキングされた跡があった…とブランが見つけたそうだ」

「…ほぇ?」

 

事実だが、それを言った瞬間ノワールの表情がムッと険しくなるも、ネプテューヌは読み込み中かのように目を丸くしている。ポクッポクッポクッ…と効果音が聞こえてくるような気がする。そして、閃いたかのように何かの糸が切れ―――――

 

「…ぷっ!!あはははは!あははは、はははは!!」

 

分かっていたが、ネプテューヌは大爆笑である。

 

「…何が可笑しいのよ」

「だってだってぇ、ノワールそれ出来てから毎日のように言ってたじゃん。“ラステイションのセキュリティは、世界一ぃ!!”って!!それを破られちゃったんだから、もう…ぷっあははは!!」

 

案の定、自慢していたのがいとも容易く破られた事がツボったのか、ネプテューヌは爆笑している。失礼な事だろうが、自信満々に言っていた城壁が崩されたのだから、人によってはツボる話なのだろう。

 

「…過ぎた事を考えても仕方ない」

「そうね。最も今すべき事は、再発防止。そして…」

「…こんな事をした不届き者を、締め上げる事よね」

「の、ノワールが本気モードだ…!!」

 

意気揚々としているが、雰囲気的には今から調べようという感じが伝わる。とは言え、ベールが既にプログラマーに依頼しているあたりは、分担作業が出来ていると言っても過言ではない。

 

「ベール、例のプログラマーはどうした」

「そうですわね。場所は伝えてますし、頃合いかと…」

「ベール様、ご報告に参りましたビル」

『…ビル?』

 

何とも、都合の良いタイミングで入ってくる。犯人を突き止めるとしては値千金なのだが、やはりその語尾は不思議というか―――――

 

「オリジナルキャラキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!…って思ったのに、何その語尾!!このキャラ、絶対流行らないし失敗する予感しかしないーーーーー!!」

「ご心配なく。前回と、この場面のみの使い捨てキャラですビル。…申し遅れました、わたくし、ツイーゲと申しますビル」

 

何とも悲しいかな、それを自分で言うか…。まぁ、出番はなくなるだけで、裏方での活躍をしてくれる…かもしれないとだけ言っておこう。

 

「あれ?何でえい君は、わたし達と同じ反応しないの?乗ってくれそうな感じはしたのに」

「前回で少しばかり会ってる」

 

そんなネプテューヌと小声での会話と若干の沈黙の後、ノワールが咳払いして口を開く。

 

「…ま、まぁそれは置いといて。報告って言ったわよね?ベール、もしかして先に調べておいたの?」

「ええ、自信満々でしたので、恐らく調べてないだろうと思いまして、此方で先手を取っておきましたわ」

「(有難いけど、さりげなくディスられている気が…)…それで、報告ってことは犯人を突き止めたという事よね?」

 

ノワールの質問に対し、ツイーゲちゃんは持っていたノートPCを取り出し解説を始める。

 

「では、1から説明しますビル。発信源はブラン様、ベール様の報告通りラステイションから発信され、ラステイションのサーバーへハッキングをしていましたビル」

「それは、報告通り。それで、ハッキングの相手は何をしたのかしら」

「ラステイションの機密情報とか、そういうのを盗み見たとか…?」

 

ノワールが恐る恐る聞く。国の機密情報…シークレットな部分が盗まれ、それが兵器系であれば闇サイトなどで転売される恐れもある。が、意外にも答えは予想外なものだった。

 

「いえ、サーバーへハッキング後は、その殆んどが、監視カメラへのハッキングですビル」

「…盗撮と来たか」

「国民の生活を監視して、盗みを働く心算なのかしら…だったら、今すぐにでも叩かないと不味いわね。発信源は何処なの?」

「発信源の場所は特定済みビル。此方をご覧下さいビル」

 

そう言って、ツイーゲは持っていたノートPCを此方に見せる。場所は、ラステイションの市街地から離れた工場地帯。その工場地帯に小さく寂れた工場跡地のような所が移されている。外見は寂れているが、アンテナや衛星レーダーのようなものが備わっているが、それらも汚れが目立っている。

 

「そういう事ね。ここは売地として取り壊されていない工場よ。設備の老朽化もあって、次の売手が居れば支援金も出して建て替える予定だったけど、機材自体はまだまだ健在だったわ…隠れて行うには都合がいい訳だわ」

「おぉ、ノワールが急に名探偵見たいになってる」

「ここまで分かっているなら、警察でも十分だろう」

 

女神が出る幕ではないと思ったが、ノワール本人は不服といった表情をしている。

 

「それで、私の気持ちが収まると思ってるの?」

「うぇ?ノワール、まさか敵の本拠地に乗り込むの?」

「当たり前よ。私の国に対してこんなことをすることが、どれ程重いか思い知らせるのよ。ここまで知ったのだから、あなた達もついてくるわよね?」

 

まさかの国のトップである女神が直々に出向く事となる。おまけに、四女神全員で行く作戦のようだ。忘れてはないが、友好条約という名目上で協力を申請することも出来るだろうが、これ程の凄腕ハッカーを野放しにしていたら、ラステイションだけでなく他国にも被害がでる可能性がある。それを未然に防ぐという考えも含めれば、ノワールの言う事も分からなくもない。

 

「…となると、女神化して全員で行く事になる。当然、目立つが大丈夫か?」

「そうしている間にも、その魔の手が伸びようとしているかもしれないのよ?それに、私にこんな屈辱を与えた事を後悔させてやるんだから!!」

「後半は鬱憤晴らしにも聞こえなくないけど、ルウィーにもハッキングされるのは困るわね」

「そうですわね。わたくし達含めた五人でしたら、まず取り逃がす事はないですわ」

「予想はしていたが、俺も行くのか…まぁ、構わないが」

「この様子じゃ、断れないよね?でもなぁ…あ、そうだ!ノワール、ラステイション製のプリン1ケースで手を打つよ!!」

「…しょうがないわね。分かったわ。これが解決したら、ラステイションの国民全員が舌を唸らせたプリンを用意しとくわ」

 

その言葉を聞いて“おお、太っ腹ぁ!!”と大喜びするネプテューヌ。何でもって訳ではないが、本当プリンに弱いな…。

 

「じゃあ、決まりね。モタモタしてないで、直ぐ行くわよ」

「あれ、ちょっと待って。ところでえい君は飛べるっけ?わたしの記憶が正しかったら、飛ぶ能力がないような?」

「飛行能力はないが、飛ぼうと思えば方法はある。…ところでノワール。ユニ達に少し席を外すと伝えておかなくていいのか?」

「いいわよ、そんなの。ここから3分もしないのよ?見積もっても30分程度で帰れるはず。内装は私の頭に入ってるのだから、問題ないでしょ?」

 

出るのであれば、上に居るネプギアやユニ達に外出するという事を伝えた方がいいと思ったが、すぐ終わるからと伝える必要はないとノワールが言う。すぐ終わればいいのだが、ハッカーがどんな相手か分からない状態で、戦闘力も未知数と考えれば、下調べした方がいいと思う所もあるが、向こう(神次元)の方も考えて見れば、出たとこ勝負だった。破天荒という訳ではないが、特攻していくのも悪くはない。そう考えつつ、女神達についていくことにした。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【ラステイション:教会ベランダ―数分前】

 

ベール姉さん達がエレベーターに乗って場所移動をすることとなった。永守さんと一緒に来ちゃったと言うピーシェちゃんは、ロムちゃん、ラムちゃんと一緒にバンディクートの“クラタン”を追いかけて遊んでいる。年齢的には違うと思うけど、似たもの同士だからかな、すっごく仲が良さそうに見える。

 

「そういえば、ジンさんは来てないみたいですけど、どうしてるの?」

「あー…今忙しいんだよ」

 

と言うのも、犯罪組織の件からリーンボックスの特命課にメンバーとして所属。メンバーが不足しがちな所、情報部門を補うべく情報処理技術を磨いているのだけど、これが上手くいってないようでここ最近は本とPC画面とにらめっこしている。そういう関係で、日本一さんと一緒に出向こうとしたけど()()()()()()として同行をパスされてしまった。今のところ仕事熱心なのはいいけど、燃え尽きないかちょっと心配。

 

「ねぇ…二人共、ちょっといいかな?」

『ん?』

「ちょっと、相談があるんだけど…」

 

すると、ソワソワしていたユニが話しかけてきた。相談と言うのは何だろうと考えつつ、話を聞く事にした。

 

「実はね、最近お姉ちゃんの様子が可笑しいの」

「ノワールさんの様子が、可笑しい?」

 

何でも、ここ数日の夜は部屋に籠って何かしているとの事。見たことがないから、その何かは分からないけど、笑い声とか聞こえるらしい。ネプギアが“仕事では?”と言うも、“仕事だったら鍵を掛けたりしない”と断言する。

 

「プライベートを満喫しているとか?」

「だといいけど、ちょっとそんな感じの笑い方じゃない気がして…あたし、ちょっと心配で…」

「つまり、ユニちゃんはノワールさんが、夜に何をしているか気になるってことだよね?」

「うぇ?…ま、まぁ…そう、かな」

 

気になり過ぎて、仕事に支障が出ちゃうのなら大変だけど、身内とは言え人のプライベートに首を突っ込むのはどうなのかな…と考えてしまう。そんな時、ネプギアが斜め上方向への解決策を出すのだった。

 

「あ、そうだ!偶々持ち物に入ってたんだけど、丁度いいのがあるよ。えっと…ほらっ!!」

『…カメラ?』

 

ネプギアがポケットから取り出したのは、手のひらサイズのカメラ。如何にも隠しカメラですよと分かる見た目をしている。

 

「…えっと、ネプギアさん?これをどうしようと…?」

「何って、この小ささなのにHD画像で、殆んど誤差なくリアルタイムで映像が見れるだよ!」

「要するに、隠しカメラ…よね?」

「使うって事は設置するってこと…だよね…バレたらどうするの?」

「大丈夫だよ、その為のこの小ささなんだよ!一度セットアップして、ちゃんと動くか試したかったんだぁ!そうと決まれば、早速付けちゃおうっと!!」

 

話を進めていくうちに、ネプギアのテンションが徐々に上がっている。その高ぶりからか、有無を聞かずに設置に取り掛かろうとする。

 

「ちょちょちょちょ!!ネプギアさん!!」

「…諦めなさい、スミレ。ここまで来ちゃったら、もうネプギアは止まらないわ」

「あぁ…」

「~~~♪」

 

此方の状況はお構いなしに、ネプギアはカメラを何処に置こうかで楽しんでいる。ロムちゃん、ラムちゃん、ピーシェちゃんは、クラタンにまだまだ夢中な様子。

 

「…よし、ばっちり!二人共、これからどう映るか見るから、一緒に見ようよ!」

『う、うん…』

 

気乗りはしないけど、楽しそうなのもあるしここでやめようって言うのも申し訳ないから、仕方なくネプギアの所によって、ネプギアが持っていた端末の画面を見る。アプリを選んで、“NowLoading…”という画面から数秒後、ネプギアが設置したカメラから映る画像が表示される。

 

「わぁ、ちゃんと映ったぁ!!」

「こ、こんなはっきり映っちゃうんだ…」

「す、すごい…」

 

クラタンを追いかけるから鬼ごっこに代わっていた3人を、カメラがしっかり捉えていたのが映像でわかる。過剰な言い方になっちゃうけど、画面と言うよりは肉眼で見ている状態が映し出されている感じ。

 

「綺麗でしょ!NepPeg(ネプペグ)4っていう最新の圧縮方法を利用してるの。だから、HDの精細感を失わずに、映し出してくれるんだよ!!」

『………』

 

どういう技術を使っているかは、この際聞かないこととして、確かに映し出される映像は綺麗の一言…なんだけど―――――

 

「…ねぇ。やっぱ、やめよ?」

「あ、あれ?どうして?」

「何か、すっごく悪い事をしてる気がしてちゃった…」

 

当然と言えば、当然の反応だと思う。これ、どう考えたって()()になっちゃうもんね。罪悪感もあるけど、最悪の場合犯罪扱いになっちゃう可能性も…。

 

「うん、ユニの言う通りだよ。これじゃあ、盗撮になっちゃうよ。見つかった場合、ノワールさんが困惑する可能性だってあるし」

「う、うん…そうだね。…あ」

「おーにさん、こっちっ!!」

「見てなさい!!わたしの足ははやいんだから!!」

「あ、待って!!そっち行っちゃダメっ!!」

 

鬼ごっこをしている3人が執務席がある方へ走っていく。騒いでも大丈夫とは言え、流石にノワールさんが普段使っている仕事場を荒らしてしまうのは不味い。3人の元へ駆け寄ろうとした所、ネプギアの持っている端末から、画面が切り替わるような雑音が聞こえる。

 

「え…?」

「な、何これ…どういう事?」

「混線してる…?あれ、でも設置したのは一つだけだし、混線してるってことは…」

「つまり…隠しカメラが既に仕掛けらてる?」

「うん」

「え…ええええええええ!?」

 

ちょっとした事が、なんだか一大事へと発展してしまった。ノワールさんは自分の為に誰かに見られているプレッシャーを、普段から実行するような人には見れないし、どんなMッ気があるようにも見えない。そうなると、何時から、誰がやったかは分からないけど、この執務室を盗撮していた誰かが居る事になる。…もしかして、ベール姉さんが行ってたハッキングの件と何か関係が…?

 

「…ネプギア、スミレ、その映像と照らし合わせて探すわよ!!」

「さ、探すって、隠しカメラを?」

「他に何があるってのよ。こんなバカな事するような奴は許せないけど、まずはもう覗けない様に、徹底的に隠しカメラを排除しなきゃ!!」

「ま、まぁ、いいけど…」

 

流石に怒り声で話してたユニの声に、遊んでいた3人も気になってこっちへ来る。

 

「なになに、どうしたの?」

「ユニちゃん、こわいよ…?」

「怒って当然よ!お姉ちゃんの許可なしに、隠しカメラを仕掛けるなんて、許しがたい行為よ!!」

『かくしカメラ…?』

 

うん、まぁどう説明すればいいかは置いといて、とりあえず()()()ということで、3人にも協力して探す事となる。流石に6人で探すからか、数十分でカメラ自体は直ぐ見つかり、混線する映像は無くなる。隠しカメラの数はなんと19個!!ただ、スカートの中を覗くというアングルではなく、まるでモデル雑誌にでも載せるのかなと思うような角度と設置の仕方だった。とは言え、これでユニの機嫌がよくなる…事はなかった。

 

「こんなに…ぜっっったい、許せない!!行くよ!!」

 

寧ろその仕掛けられていた数に、驚きと怒りが増したという感じなのだが―――――

 

「いくって?」

「どこに?」

「うっ…そ、それは…」

 

ロムちゃんとラムちゃんに言われ、ハッと気づく。幾ら隠しカメラを見つけたとはいえ、犯人が誰なのか何処にいるかも分からない状態では、何処に行けばいいのか分からない。

 

「ネプギアっ!!なんかないの!!」

「え!?あ、はい!!え、ええっと、ちょっと待って…確か…あった!!」

 

さっきの機械のように、何かあるんじゃないかと踏んだユニは、ネプギア頼りに言ってみると、ポケットから再び何か取り出した。見た目は普通の無線機だけど。

 

「それは?」

「電波逆探知機だよ。これで隠しカメラの電波を辿っていけば、大まかにだけど、何処から通信されてたか分かるよ」

「なら、行くしかないわね。ほら、みんな行くわよ!!」

 

何か、本当にちょっとした事が、探偵モノのような展開になってしまった。犯人を特定できるかもしれない道具を持っていたネプギアにも驚きだけど、連絡なしに出てしまって大丈夫なのだろうか。とはいっても、執務室を後にしてしまったのだから、時既に遅し…かな…。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

【???】

 

「ふ~ん…まさかあの男が帰ってきてるなんて、ちょっと予想外。まぁ、ノワールちゃんには手を出さないから大丈夫とは言え、あの男…勘が鋭い所もあるから、マークしとかなきゃね」

 

周りの壁は古ぼけ薄暗い施設だが、備えてある機械は非常に優れている一室。そこに、大量の画面とにらめっこしている一人の人物がいる。その画面は、ラステイションに備え付けられているありとあらゆる場所の監視カメラの映像だ。映し出されている内の7割は、ラステイションの教会を占めている。そして、予想外だったのか、永守が犯罪組織の後に行方不明になっていたのは知っていたが、こうも早くラステイションにも入ってくる事は予測の範囲を超えていた様子だ。

 

「しかし、憎たらしくも、女性が惚れそうな顔してるわね。おまけに実力もある…人気者になる要素が多いわね。…って、あら?カメラが…仕掛けていたのがバレちゃったかしら?」

 

ラステイションのサーバールームを映しながら、獲物を見定めるように永守を見ている。執務室の映像も映しているが、その幾つかが映らなくなり、残っている分を見ていると回収されている映像が流れている。

 

「何れバレるとは思っていたけど、結構早かったわね。あの妹達の中に、機械に精通してる子が居るって訳ね。もしかしたら、今日ここにノワールちゃんが来るかもしれないわね。…ふふ、それはそれで楽しみだわ」

 

追い詰められている事を自覚しつつも、好きなものが此方に来るかもしれないという、スリルと興奮を楽しんでいる様子である。

 

 

 

 

 

 



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Scene76 空から舞い降りし少女と予兆~Plutia~

 

 

【ラステイション:工場地帯】

 

…前回からの続き。ラステイションの教会、厳密に言えば執務室のあっちこっちに隠しカメラが仕掛けられていた。多分全部見つけたと思いそれで終わりかと思ったけど、ユニが仕掛けられていたカメラの数に腸が煮えくり返るよう、犯人を捕まえる事になり、ベール姉さん達への報告なしに街へと出向いている。出向く前に、ラステイションの教祖であるケイさんに会ったが、犯罪組織での活躍もあり特に止める素振りは無かった。それでいて、肝心のユニはと言うと―――――

 

「もう、ムカつく…!!お姉ちゃんを隠し撮りする輩なんて、あたしがメッタメタにしてやるんだから!!」

「なんか、私に言われてる感じがする…」

 

…とまぁ、未だに怒りが収まってない感じ。ネプギアが持っている電波逆探知機で大体の位置までは分かるけど、そこからは虱潰しで探さなければならない。盗撮してる相手がモンスターでなければ、多分ボク達でも十分対応は出来るとは思う。そして、ネプギアが持っていた電波逆探知機が無ければ、途方に暮れていただろうと…は思うのだけど、やっぱり気になる。

 

「ところで、ネプギア。その電波逆探知機も、あの小型カメラ同様に偶々持っていたって感じ?」

「うぅん、これは何時も持ち歩いてるよ。モバイル用充電器と電波逆探知機は、女の子の必須アイテムでしょ?」

「どういう事なのよ…。スミレ、あんたの元いたところもそうなの?」

「え?そこでボクに振る?あったとしても、モバイル充電器ぐらいだと思うけど…」

「えぇ、嘘!?」

 

持っていない事なのか、時代の最先端に行き過ぎなのか分からないけど、ネプギアが両方持ち歩かない事に驚いている。いや、普通は持ち歩かないよね?…でも、ここに住み着いてから、自分の思っている事とは違う事もあるし、持ってた方がいいのかな。

 

「ねぷぎあー、おなか空いたぁ!!」

「え、そ、そうなの?」

 

すると、突然とピーシェちゃんがネプギアの背中にしがみ付いて、お腹が空いたと言う。…時間的にも昼を回ろうとしてるから、仕方ないとはいえ、小腹を満たせるような、それこそ飴玉の一個も持ち合わせていない。その間も“お腹空いたー!”と言い続けている。うーん困った…。

 

「ふっふーん、ピーシェって、こどもよね?」

『え?』

「わたしはもうおねえさんだから、お腹すいたってガマンはできるわよ?」

「わたしも、おねえさん」

 

そんなピーシェちゃんに対して、自分達は子どもじゃないから我慢できるよアピールするラムちゃんとロムちゃん。その二人の行動に感化したのか、顔を膨らませながらもネプギアにしがみ付くのを止める。

 

「………、ぴぃもおねえさん…」

「じゃあ、ガマンできるよね?」

「………ガマンする」

「なでなでっ」

「ラムちゃんも、ロムちゃんも凄い…」

「自分よりちっちゃい子がいると、俄然大人びるのね」

「子どもの成長は早い………うん?」

「どうしたのよ。上なんか見て」

「いや、あれ…」

 

ふと、子どもの成長に関心…みたいなことをして上も見上げたら、何か飛んでいるのを見る。よく見ると、ベール姉さん達が女神化して飛んでいる。ただ、一人見慣れない人が棒のようなのを掴んで飛んでいる。でも、色は違うけど雰囲気や恰好から、変身中の永守さんではないかと思われる。

 

「お姉ちゃん達だ…」

「でも、どうして?」

「そんなの、追えばわかることじゃない。ぼさっとしてないで、いこ!!」

「あ、まって、ラムちゃん」

「ぴぃもいくっ!!」

「ちょっと、待ちなさいよ!!」

「…お姉さんになった気だったけど」

「あはは…」

 

考えるよりも行動という形でラムちゃんが走り出し、それを追いかけるようにロムちゃん、ピーシェちゃん、先走る事が心配と思ったユニが追いかけていく。まぁ、悪い気はしちゃうけど、考えるより後を追った方が分かるから…。変身した方が早く着くけど、それだとバレるし、何よりピーシェちゃんを抱えて行くには、ネプテューヌさんの事もあって危険だと思い、街中を徒歩で行くこととなる。

 

 

 

 

「…ここに、入ってたわよね?」

「う、うん…」

「ねぇ、ネプギア。電波逆探知機はどうなってる?」

「えっと…さっきより反応は強くなってるけど、ここがそうとは断定は出来ないかな」

 

そうして、追いかけている内にベール姉さん達が入っていった場所へとたどり着く。外見はどう見ても、倒産してから大分たったと思われる廃工場と言った感じ。建物の壁が削れ落ちている、水流を送るような太いパイプや、目の前にある横引の門も錆付いている。

 

「でも、お姉ちゃん達も、もしかしたら盗撮犯を追ってるのかな?」

「もしそうだとしたら、ボク達が出る幕じゃないと思うよ?」

「えぇ?せっかくここまで来たのに?」

 

ラムちゃんとユニが若干不満げな顔をしている。確かに、ここで盗撮犯を突き止め、尚且つ捕まえればお手柄なんだけど、頼まれたわけでもないし、もし同じ盗撮犯を追いかけているのであれば、仕事の邪魔になるのではないか…そう考えていた矢先だった。

 

「く、クラタン…っ!!」

「ああ!!逃げたぁ!!」

「ぴ、ピーシェちゃん!!」

 

ピーシェちゃんが抱きかかえていたクラタンが、ピーシェちゃんの腕から抜け出し、廃工場へと向かう。それを追いかけるようにピーシェちゃんは、門の隙間を潜り楽しそうに追いかけていく。

 

「ど、どうする?」

「どうするも何も、追いかけなきゃ不味いでしょ」

「…こうなっちゃったら、引き返せないよね」

「す、スミレちゃんまで…」

 

とは言え、門は錆び付いているが、肝心の鍵自体も錆び付いていて飽きそうにない。ロムちゃんとラムちゃんは、ピーシェちゃんと同じく門の隙間を潜っていけそう。実際この会話の後、ボク達を待つかのように先に門を潜り抜けている。問題は、ボクとネプギアとユニはそうは門の大きさ的に少し潜り難そう。…仕方ないから、ジンさんが考えそうなプランBと言う事で入るしかなさそう。

 

「…よっと」

「す、スミレちゃん!だ、大丈夫?」

「…考えはいたけど、そう入るのね」

 

門の横の壁が少々高いけど、跳躍する事で壁の上に手が届く。少し服が汚れちゃうけど、そのまま攀じ登って、二人を持ち上げるように手を出す。二人共しょうがないと言った表情をしながら、ボクの手を掴んで壁を攀じ登って建物の中へ入る。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【ラステイション:廃工場】

 

教会の外に出た後、飛んでいく為に四女神は女神化する。俺も楽して空を飛ぶには変身しておく必要がある。それでいて両剣を呼び出し、それをテレキネシスで持ち上げて引っ張っていくという荒業で飛んでいく。ノワールからは“今度からト〇トンボでも用意しとく”と言われる。…それは兎も角、目的の場所へたどり着く―――――

 

「よぉーっしぃ!!じゃあ、犯人を見つけるよぉ!!」

「っ!!し、静かにしなさいよ!!犯人に逃げられたらどうするのよ!!」

「ほ、本日のおま言うスレは、ここですかぁ?」

『………』

 

女神化を解いて着地した途端、この大騒ぎである。これが四女神であるが、侵入としては不味い事をしている。

 

「…さっさと中に入ろう」

「そうですわね、犯人を捕まえる事が最優先ですわね」

「わたし達に、漫才をやっている暇はないわ」

「ま、漫才なんてしてないわよ!!」

 

と、突入前にこんな事があったが、建物内に入る。恐らく犯人が出入りする為に調整したのだろう。侵入したと思われる扉は錆び付いているが、ドアノブは錆取や油による調節がされており、見た目とは裏腹にスムーズにノブが回る。中は暗く一部埃だらけな所もあるが、廊下は比較的綺麗にされている。…犯人は綺麗好きか?ライトは付ける程ではないが、全員武器を構えて進む為、何かある事を踏まえ、フラッシュライト付の銃を構えて進む。恐らく、“制御室か管理室あたりを占拠しているのでは”と推測したノワールについていく事となる。管理室は外れだが、制御室の扉が少し開いているらしく、中から薄く光が漏れているのが分かる。足音を殺すように扉の前に集まり、少し開いている扉からノワールが中の様子を伺う。

 

「…!!誰かいるわ。武器を構えて、全員で突撃するわよ」

 

ノワールが小声でそう言う。全員が武器を構え、ノワールがそれを確認し終えると、扉を勢いよく開け中へ入る。

 

「動かないで!!…手を上げて、ゆっくりこっちを向きなさい!!」

 

中に居た人物は、多数のハイテク画面を使って何かしていたようだ。ノワールに言われるがまま、ゆっくりと手を上げつつ、椅子を回転させ正面を向く。…やはり…と言うようよりも、その人物はパワードスーツのようなのを身に着けているのだが、以前見た“アノネデス”に似ている。だが、身に着けているパワードスーツは、神次元に居たアノネデスと比べると、かなりの最新モデルと分かる程だ。例えるなら、ポ〇ゴンとポ〇ゴン2ぐらいの違いと言えばいいか。

 

「あなたね、私の国にハッキングしたのは…」

「………」

「黙ってないで、さっさと答えなさいっ!!」

 

冷静を装っているが、ここまで来る際のぶっ飛ばすと言った事は本当らしく、剣を握っている手が力強くなっている。

 

「…あっはぁあん、そんな他人行儀な喋り方しないでぇ!!アタシの事は“アノネデス”ちゃんって呼んでね☆」

『………』

「…ね゙っぷぅ゙!!」

 

…予想はしていたが、手を上げながらゆっくりと立ち上がったと思った瞬間、両手で自分を抱きしめるようにしつつ、身体をクネクネさせてのオネェ言葉である。俺以外のその場にいた4人は、空気が止まったかのようにピクッとなり、その目の前に人物の特徴を理解し、ネプテューヌは予想外の相手に、ギャグマンガの如く倒れ込む。

 

「うっそぉ!!お、オカマさん!?その見た目でぇっ!!」

「あ~らぁ、失礼ねぇ?心は誰よりも、乙女よ?でも、約一名は驚いてないみたいだけど…あなたひょっとして、アタシの事調べ済みだったり?」

「…いや、似たような人物を見たことがあるだけだ」

 

どうやら、このアノネデスは今のところ俺の事は初見らしい。演技の可能性も捨てきれないが、同じ特性を持っているのであれば、ハッキング犯である事は間違いないだろう。

 

「…本当、分かりやすい程にオカマね」

「しかも、ちょっと毒舌だったりするんですわよね?」

「当ったりぃ!!胸ばかりに栄養が偏ってるかと思ったけど、意外と冴えてるのねぇ?」

 

妙な挑発にベールがムスッとするが、それに構ってる暇はないと言わんばかりに、ノワールがアノネデスに突っ掛かる。

 

「あなたの事はどうでもいいのっ!!今回の犯行はあなたがやったって事、認めるの!?」

「…ふ…ふふふ…」

「な…何よ…」

 

突如、アノネデスは不敵な笑みとも言える声を出す。

 

「…生で見るノワールちゃん、やっぱり可愛いわぁ…想像以上よ」

「ふぇ!?な、なに言ってるのっ!!そんな事言って気を反らそうと―――――」

「やだぁ…本気よ?ホ・ン・キ」

 

そして、アノネデスが指を弾くと同時に、周囲から大量のモニターが現れる。

 

「…こーんな写真撮っちゃって、ごーめんなさーい☆」

「あ…ああああああああ!!」

「あああ!!あっちもノワール…こっちもノワール…全部(ぜーんぶ)、ノワールだぁっ!!

「あ・と・ね。貴方にも、感謝しておかないといけないわね。たまに一緒に居るけど、ノワールちゃんに手を出さなかった事」

「…お前の盗撮という趣味に、付き合う気はない」

「連れないわねぇ。でも、そういう所で、感謝してるのよぉ?あと、響きが良くないから、盗撮よりパパラッチって言って欲しいわ☆」

「………」

 

ネプテューヌが騒ぎながら言ったように、モニターに映し出されているのは、執務室で仕事、休憩等をしているノワール。それもあらゆる角度から撮影されている。どう言おうが、やっている事は完全に盗撮である。

 

「そう…何を隠そう、アタシってばノワールちゃんの大ファンなの!!ノワールちゃんの事、何でも知りたくて、つい出来心でぇ!!」

「ここまで来ると、あっぱれだな…」

「何、関心してるのよっ!!そんな写真の事より、私が言ってるのはハッキングの事で―――――」

「そんな事ぉ?じゃあ、これもぉ?」

 

アノネデスが再び指を弾きならすと、映し出されていた画面が全て切り替わる。

 

「え…あ…あぁああああああ!!」

 

最初の写真が映し出された時よりも、顔を赤くしつつ激しく動揺している。そこに映し出されているのは、ノワールが“裁縫”をしている姿。“出来上がった衣装を喜んでいる”ような姿が映し出されている。

 

「ノワールが、お裁縫してるっ!!」

「そういう事する人だったかしら」

「…知らなかったのか」

「そ、そうなのぉ!!案外家庭的なタイプでねぇ!!皆には内緒で腕を磨いてたのよぉ!!」

「…あの服、何処かで見た事あるような気がしますわ」

「気のせいっ!!100%気のせいだからぁ!!」

「落ち着け、ノワール。相手の思うツボ―――――」

「黙ってて!!って言うか、それじゃないって言ってるでしょぉ!!」

 

俺の制止も聞くことなく、ハッキングの件でYesかNoを聞き出したい事と、自分の趣味?が暴露されそうな感じで、軽いパニック状態であるのは目に見えている。相手の作戦か、そういう姿を生で見たいのかは分からない。どちらにせよ、今のノワールは完全に冷静さを失っている。そんな状況を見逃さずにいたのか、更にアノネデスの行動はエスカレートしていく。

 

「…ふーん?それじゃないって言うなら、これの事ぉ?」

 

再びアノネデスが、指を鳴らすと映像が切り替わる。

 

「あああああああああああああああああ!!!!!!」

「おお、これはぁ!!」

「誰がどう見ても、コスプレね」

「どの衣装も、最限度が高い…」

「あの衣装、やっぱり四女神オンラインの衣装だったんですのね」

「見ないでぇえええええええ!!!!」

「ヤダッ!取り乱したノワールちゃんもかーわーいーいー!!Exclusive!!」

 

ノワールの取り乱した姿に興奮しているのか、カメラを取り出してその様子を激写する。…この世界でまだアナログなカメラがあるとは…と思う程、見た目は新品だが、撮った写真がカメラから排出される。

 

「ぐぬぬぬぬ…!!いいわ、とりあえず盗撮の罪で牢屋に放り込んでやる!!」

「ついでに、プライバシーの侵害も漏れなく着いてくる。これ以上罪を重くしたくないなら、従うべきだ」

 

だが、アノネデスはその要求を見越していたのか驚いた様子はなく、“ふーん”と言いたげな態度を崩していない。

 

「あーらそう。そういう事なら仕方ないけど、いいのかしら?」

「何よ、抵抗する気?」

「そうじゃないのよ。アタシがこの椅子から暫く離れるか、この部屋から…厳密に言えばこの建物から出ると、ここの写真を含めた奴が全部(ぜーんぶ)、世界中に公開される手筈になってるけど、それでもいいかしら?」

「え、えぇ!?」

「最初は独り占めにしようかと思ってたけど、世界中をノワールちゃんで埋め尽くすのも、悪くない思う訳…ね?」

 

アノネデスが言った事が事実かどうかは分からないが、本当であればノワールのプライドが許さないと言う感じだろう。

 

「確かに、この写真が全て公開されましたら…」

「恥ずかしくて、表を歩けないわね」

「だいじょーぶじゃないかなー。このノワールちゃんチョーかわいいーしー」

「棒読みですわよ?」

「シェアが下がるとは思えないが…流石にやり過ぎだ」

 

ファンとか、知りたいの領域を超え過ぎているのは明白だ。ホールドアップ目的で銃を構えようとしたが―――――

 

「…いいわよ、好きに公開しなさい!!その代わり、あなたの命は無いわぁ!!」

 

完全に吹っ切れたのか、女神化したノワールは高く飛び上がり、アノネデスに向けて剣を振り下ろす動作へ入る。

 

「ふふっ…そう来なくっちゃ」

『っ!!』

 

アノネデスが不敵な微笑みをした瞬間、周囲にあったモニターが、突如意思を持ったかのように動き出す。データ系モンスターの“ときめきシスター”等に似ているが、まるでアノネデスを庇うような動きをしている。

 

「このぉ!!」

「う、上から来るよ!!」

 

強さは此方が遥かに上なのか、殆んど一撃で粉砕出来る程の耐久力しか持っていない。持参した拳銃が9mm弾だからか、此奴だけは一体に三発使う事になり、非効率だと判断し結局は拳と蹴りになる。

 

「ふっふふっ楽しかったわ、ノワールちゃん。あぁ、後ね。写真を公開するってのは嘘だから、安心してね」

「隠し扉か…!!」

「っ!!待ちなさ―――――くっ!!」

 

そんな中、アノネデスは壁のような場所が突如開き、そこから忠告をしつつ部屋を出ていく。それを追いかけようとするが、減るどころか一向に増えていくモンスターが、足止めをしてくる。

 

「うわわわ、全然減らないよ!!」

「一体、一体は大した事ないですけど…」

「流石に、ここまで多いと鬱陶しい…ぜ!!」

「はぁああああ!!」

 

無限増殖と思う程に、モンスターは現れてくる。この部屋全体がスポナーとも言うのか。だが、流石女神と言うべきか。一瞬の隙を見て、ノワールはアノネデスが出て行った場所に斬撃を放つ。そこまで頑丈ではなかった様子で、切り刻んだ場所は向こうへと通じる廊下が見えている。ならば、やる事は一つしかない。

 

「…ここは俺が引き受ける。お前達は奴を追え」

「またそういう事言って、大丈夫なの?」

「四天王と殺り合うよりは、遥かにマシだ」

 

全員戦いながら、若干考え込むように見えたが、直ぐに理解してノワールが作った道へと出ていく。そして、その道の入り口を通さない様に位置取りをする。…約一名だけそうではなかった。

 

「…ネプテューヌ」

「確かに、えい君は以前より強くなってる。けどね、あの時みたいになるのはごめんだよ!!なんだって、パートナーなんだから!!」

 

内心、全く…と思いつつも、ネプテューヌなりに心配してるんだと分かる。

 

「…なら、やる事は分かっているな?」

「そんなの簡単でしょ?」

『この部屋ごと、壊しちゃう(ブっ潰す…)!!』

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「生ノワールちゃんに会えたんだもの。アジトの一つぐらい…ドリームズカムトゥルー☆」

 

完全なる勝利とも思えるくらい、ウキウキ気分のアノネデスが薄暗い廊下を、アタッシュケースを抱えながら走っていく。余りの嬉しさを抑えきれないのか、トゥルーの部分が巻き舌になっている。だが、暫く進み、非常口の扉を開けた時、遥か後方から激しい音がしたのを、アノネデスは聞き逃さなかった。

 

「あらヤダ。扉を力尽くで、突破されちゃった?予算の関係で仕方ないけど、ゼロ距離でのRランチャーに耐えるくらいの耐久度にしとけばよかったかしら。やはり、あの男の事をよく調べないといけないわね」

 

実際はノワールが壊したのだが、アノネデスは永守が壊したものだと思い込んでいる様子であり、もう少し情報収集した方がいいとも思っている。持っている資料の中から“永守の写真”と“戦闘データ統計”を取り出し眺めている。そこには、女神とは異なった能力を持ちながら、女神と同等かそれ以上の戦力を持っている…と論文風に記述してある。

 

「…ん?」

 

そんな時だった。余所見をしていたのもあり、反応に遅れたアノネデスは、前方から来た何かに足元から登られる。

 

「ちょ、ちょちょ、何々、何処か行って!!」

 

その何かは、ピーシェの元から逃げて行った“クラタン”だった。だが、慌てているのか、アノネデスはモンスターかネズミと勘違いしているらしく、アタッシュケースに乗ったクラタンから距離を置くように腕を伸ばして引き離す。

 

「あーーーーーーー!!クラターーーーーーンっ!!」

 

―――――ドスーンッ

 

「グッボバア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!」

 

クラタンを追いかけてきたピーシェは、アノネデスの存在を無視するかのように全力で飛び掛かる。その威力は絶大であり、オカマ口調とは思えない野太い声を発し、そのまま仰向けに倒れ込む。

 

「あぁ!ピーシェとクラタンっ!!」

「わわわ!!だ、ダメでしょ、ピーシェちゃん!!ご、ごめんなさい!!」

「ごめんなさい!!アタシ達が注意していれば…」

『ごめんなさいっ!!』

 

ピーシェの行った行為に、赤の他人に迷惑を掛けてしまった為、ネプギア、ユニ、スミレ、ロム、ラムは頭を下げて謝る。だが、ボディアーマーの御蔭か、アノネデスは一大事には至ってない様子であり、上半身を起こす。

 

「全く、一体どういう仕付けをしてるのよ…ん?ピーシェ?」

 

若干苦しそうに、腹部を抑えながらだが、“ピーシェ”と言う名前にアノネデスが反応する。

 

「アンタの名前…ピーシェって言うの?」

「うん、ぴぃだよっ!!」

 

馬乗りになりながらだが、何かを考えながらピーシェをマジマジと見ている。…自分が持っていたアタッシュケースの中身が散乱している事を忘れているかのように…。

 

「…これって…お姉ちゃん?」

「戦闘データも…?」

 

アタッシュケースが衝撃で開いており、姉であるノワールの写真が写っているのを、ユニは拾い上げる。スミレも遠目ながら、誰かの戦闘データ的なのが混ざっているのも注目している。戦闘データは兎も角拾い上げたその写真から、ユニはある答えに辿り着く。

 

「っ!!アンタなのね、盗撮犯はっ!!」

「えぇ!!」

「Whoops!!お気に入りをプリントして、お守りのように持っていたのが仇に!!…はっ!!」

 

アノネデスが、カメラを仕掛けた人物であり、盗撮犯であると見抜いたユニ。それを確信させるかのように、思わずアノネデスもポロッと口を滑らしてしまった。犯人であると100%確信したユニは、問答無用と言わんばかりに女神化し、アノネデスに向けてX・M・Bの銃口を向ける。

 

「許さない…」

「う………」

「す、凄い殺気…」

 

銃口を顔面に向け、情け無用とも言える程の殺気が出ており、ネプギア達もその気迫に飲まれてしまう。体制も悪い為に、完全に追い込まれた状態であるが、そんな状況に追い打ちをかけるかのように、突如後方の扉が爆発しつつ吹っ飛び、女神化したノワールと、ブラン、ベール。遅れてネプテューヌと永守もその場へと辿り着く。

 

「このオカマっ逃がさないわよ!!…あら、ユニ?」

「お、お姉ちゃん?」

「ああ!!えいえす!!」

「…ピーシェも来てたのか」

 

何方も一報入れてない為に、何でここに居るの?と言った表情をしている。だが、アノネデスからしたら、女神が増えた上にサイドアタックをされている状態。とても逃げるのは出来ないと思ったのだろう、溜息をしながら両手を上げる。

 

「はぁ…、はいはい。降参よ」

「抵抗は、しないのか」

「だって…ねぇ、アタシは戦闘よりも知略派よ?油断したとはいえ、アタシの知略が力で捻じ伏せられちゃったもの。それに、隠し玉も持ってないし、アタシからしたらどう足掻いても絶望よ…」

 

 

 

 

 

【ラステイション:教会・ベランダ】

 

それから数十分後、駆け付けたラステイション警備隊によりアノネデスは連行される。思いっきりコスプレ写真を見てしまった妹達に、“忘れてー!”と叫ぶノワール。おやつの時間も過ぎてしまって元気のないピーシェに、持ってきたプリンを半分こしようと元気づけるネプテューヌ。ハッキングの件は分からないままだが、緊張の糸が切れたような雰囲気になっている。その夕方、ベランダにノワールとユニ、何故か呼び出された永守の姿があった。

 

「…ねぇ、二人共。コスプレなんてする私って、イヤよね…女神らしくない…よね?」

 

今回の件で、自身が隠れてコスプレしていることが、仲間内とは言え明るみになってしまった。コスプレは女神らしくないと思っているのか、思い悩んだ表情をしている。

 

「ユニ…あなたが、コスプレをしている私が嫌なら、私…コスプレを…」

「うぅん…やめないで…」

「…え?」

 

そんな自分は嫌だと思っていたのか、ユニの返答にノワールは驚いた表情をしている。

 

「それってつまり、お姉ちゃんがお仕事に余裕が出来てるって事でしょ?」

「…そうね。最近、時間に余裕が出来てきてるのは確かね」

「それって、アタシがちょっとは役に立ってる事…かな?…なんて、思ったりして」

「うぅん、ちょっとじゃないわよ。すっごく助かってる」

「お姉ちゃん…!!」

「…やめる必要は何処にある。好きなんだろ?隠れてやる程。止めて、ストレスが溜まって、効率が落ちたら元もないだろう」

「なんか、途中に言い方は突っ掛かるけど…そうね…実は、調子に乗って大きめな男装もあるのよ。あなたが良ければ、付き合ってもいい?」

「…時間があれば付き合おう」

 

…と、残りのメンバーは外で覗いており、今後とも変わらない生活を送るのだろうと全員が一安心した所で、今回の件は幕を閉じる形となる。

 

 

 

 

 

「―――――ぃて、退いて、退いてぇ~!!」

『…?』

「(………、この声は…)」

「退いてぇ~~~~~~!!」

 

突如、何処からか声がするが、永守のみ声の主に心当たりがある。そして、徐々にその声は大きくなっていく。

 

「っ!!すまん…!!」

「わぁっ!!」「のわぁっ!!」

 

何かを察知した永守は、一言添えて二人を突き放す。突如の事だったからか、バランスを崩してしまいノワールとユニは尻餅をついてしまう。永守の突如の行動に怒りが込み上がってくるが、次の光景でその感情も吹き飛んでしまう。

 

―――――ドスーンッ

 

「何々!!今の音は!!」

 

本日二度目のドスーンッとなる。強烈な勢いだったのか、振動と砂埃が経ち、異様な光景だったために全員がベランダへと駆け寄ってくる。

 

「い、たぁ~い…」

「ね、ねぷぅ!?だ、誰…?」

「プルルート…俺の方が、遥かに痛いと思うが…」

『…プルルート?』

「ほぇ~?あぁ、えー君!!ごめんねぇ~」

 

そう言いつつ、落ちてきた少女“プルルート”は立ち上がる。

 

「えっとぉ~改めまして。あたし、プルルートって言うのぉ。プラネテューヌの、女神だよぉ」

『………。え、えぇえええええええ!?』

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

【ラステイション:刑務所】

 

ここは、ラステイションが誇る巨大な刑務所。多くの犯罪者が居ながら未だに脱走者は出したことがない事で有名な場所でもある。牢の頑丈さもさることながら、熟練された警備兵にも定評がある。その中に、アノネデスの姿もある。どうやら、ボディスーツに脅威がないと判断したらしく、そのままの恰好で収容されている。…そのスーツの内部から、静かに着信の音がしている。

 

「…もしもし、アタシ。あなたが求めてた例の子、見つけたわよ?態々人工衛星にまで潜ったのに、貧乏くじを引いた気分よ…。えぇ?救助はあの忍者に?…まぁ、いいけど。…え、()()()()()も見つけた?それ、抜け出す事に成功したら、kwsk聞かせてもらおうじゃないの」

 

 

 

 

 

 



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Scene77 それは紛れもなく紫色の奴~DeepPurple~

ゲームやアニメ見返してはみたものの、プルルートの扱いが難しい…


 

 

【プラネテューヌ:教会・リビング】

 

兎に角、現状整理が着かない。分かっている事は、神次元に居た本物のプルルートが、この超次元にやってきて、マウントを取る様に上から降ってきた事。全員疲れている事もあり、とりあえずプラネテューヌの女神とプルルートが言った事もあり、四女神は解散、俺はネプテューヌ一行と共に、プルルートを連れてプラネテューヌへと戻る事になった。教会に、別次元のプラネテューヌの女神が来た事を伝え戻ってくると、どういう訳かプチパーティーのような状態へとなっていた。

 

「あたし、プルルート~。よろしくねぇ~」

「プラネテューヌの新しい女神さんのプルちゃんに、乾杯するですぅ」

「(…どうして、こうなった)」

 

そして、当たり前のようにプルルートが挨拶し、乾杯の挨拶をするコンパ。夕食兼ねてのパーティーが始まろうとしている。当然だが、ピーシェと言う子どもがいるから、食卓に酒の類は置いていないが―――――

 

「ちょっと待ったぁ!!コンパぁ、それじゃあまるで、わたしがぷるるんに女神の座を奪われたみたいじゃない!!」

「ふぇ?で、でも、プルちゃんもプラネテューヌの女神さんですよ?」

「プラネテューヌって言っても、えい君が言ってたように、別次元のプラネテューヌなんだから。そこんところ、よろしく!!」

 

コンパの言い方に、ネプテューヌが難癖を言うように叫ぶ。今の言い方では、プラネテューヌの女神が変わってしまったと捉える事も可能だ。どうも、上手く理解できていない様子である。

 

「…彼女も俺と同じ。別の次元、世界から来た存在だ。と言う所だ」

「う、うーん?」

「…まぁ、サラっと別次元の存在を言われましても、此方としては反応に困りますよ」

 

イストワールの言う事は間違ってない。俺も、転生者も、神次元のプルルートも、超次元に存在することはしているが、超次元の人々からしたらイレギュラーな存在とも言える。並行世界やパラレルワールドと言われても、本人達がそっちの世界を見たことがないのだから、信じる方が稀だろう。

 

「他にも、女神様がいるんですか?」

「うん~。ノワールちゃんに、ブランちゃん、ベールさん。あとはぁ、ナナちゃん~」

「同じ名前の女神様がいるってのは珍しいわね…。ところで、プルルート様も女神様ですよね?」

「うん、そうだよ~」

「という事は、プルルート様も変身出来のですか?」

 

その会話に若干ピクッとなる。…お浚いになるが、超次元、神次元共に女神は会得しているシェアを体内に凝縮する事で、女神化と言う変身が出来る。変身後の姿や性格は、女神によって異なるが、共通点としては戦闘能力が飛躍的上がるという事だ。それこそ、デカくなったり、何も変わらないどころか、若干小さくなる、性格が180度変わるのもいる。

 

「うん、出来るよ~。でも~、皆からは、あんまり変身しないようにって、言われてるんだ~」

「えぇ、どうしてぇ?」

「うーん…どうしてかな~」

「…あ、そうだ。えい君は見た事あるんだよね?ねぇねぇ、ぷるるんの変身ってどんな感じなの?」

「…大人の事情で言えない」

「ええ~何それ、そう言われると、余計気になっちゃうんだけど?」

 

プルルートの女神化は強い。そしていろんな意味で灰汁が強い。ギャップに驚くだけで終わるならいいが、ピーシェのいる前では控えた方がいい上に、ニトロ火薬の如く二次災害が起きる可能性もある。主にプルルートの手によってだが…。

 

「…ああ!!ちょっと、ピー子っ!!」

「ぴぃ、もっとおにく食べる!!」

 

全員が余所見している内に、黙々と美味しく料理を食べているピーシェは、自分の更に乗っているのだけでは満足できなかったのか、隣のネプテューヌの更にある肉を取り、ネプテューヌは抵抗するも、力負けし肉を平らげてしまった。

 

「ピーシェ、人のものを取るときは、まず聞かなきゃダメだろ。御免なさいは?」

「えぇ?うーん…ごめんなさい…。じゃあ、ねぷてぬにこれあげる」

 

そう言って、ピーシェはフォークで紫色の物体を刺し、ネプテューヌの目の前に出す。

 

「………。ぎやあああああああああああああああああ!?な、()()ぅ!!近付けないでぇ、わたし、ナス嫌いなのぉ!!」

 

若干の静止の後、まるでこの世の終わりと言わんばかりの叫び声を出す。ネプテューヌの叫ぶように差し出されたのは、こんがりと焼き色が着いて醤油で味を調えた“ナス”である。

 

「ネプ子、偶には食べてみたら?今日は特別に仕入れただけじゃなく、我ながら美味しく出来たのよ?」

「ヤダよ!!ナスなんて…あの匂いを嗅いだだけで力が出なくなっちゃうんだから…たとえこの世の全てがナスだけになっても、ぜーったい食べないんだから!!」

 

強烈な拒否反応であり、存在してはいけないものを見ているような目でもある。

 

「全く、ネプテューヌさん。女神が好き嫌いなんかしていたら、国民に示しが付きませんよ?」

「えぇ?だってぇ…」

「ピーシェも一個食べてるんだ。見栄を張れないぞ」

「え、えい君までいーすんの味方なの?…って、いーすんもナスを頬張ってる!!」

 

何故かナス一つで論争になっている。…俺はそんな事より、何故プルルートが超次元に来たかを知る必要がある。事故なのか、目的があって来たのか―――――

 

「いいですか、ネプテューヌさん。国民に示しをするという事は、あらゆる事に対して許容をしなければなりません。そんな中、女神様がナス嫌いだって事が広まってしまったら、それこそ本当に、国民に示しg―――――あば、あばばばばばば!!」

『い、いーすんさん(イストワール様)!!』

「な、なんだ…?」

「祟りぃ、()()()()()だよ!!」

「違うでしょ!!」

 

―――――突如、携帯のバイブレーションが動き出すように、イストワールが座っている本が振動する。…どうやら、その問いは解決しそうだ。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ:シェアクリスタルルーム】

 

「ふぅ…先程は失礼しました。まさか、別次元から着信が来るなん想定していませんでしたから、時間が掛かってしまって…」

「此方こそ、突然と連絡を入れてすみません。それに永守さん、御無沙汰ですm(_ _)m」

 

食事中だった為に、色々と対応するのに手間取ってしまった。何やら情報が掴めるかもしれないと思い、イストワールに同行を申し込み、通信を開始する事に成功。映し出されているのは、神次元の()()()()()()()()()だ。

 

「其方に行った、うちのプルルートさんがお世話になってます。それに、ピーシェさんも無事で何よりですよ(*゚▽゚)ノ」

「…なんだか、小さいですね」

「あっ!ちっちゃいからって馬鹿にしないで下さいね!!プルルートさんを其方に送ったのも、私なんですからヽ(`Д´)ノ」

「あ、はい。それにしても、驚きましたよ。別次元の私が存在して、それでいて別次元から通信が出来るなんて、知りませんでしたし、こうもあっさりと連絡が取れるなんて―――――」

「あっさりじゃないです、結構大変なんですよ!!マニュアルに載ってましたけど、扱うのに三日も費やしてしまいたから(ーOー#)」

「そうなんですか?あとでマニュアルを調べてみます」

 

何故か、愚痴話になっている。これでは話が進まない。

 

「…こっちに連絡を入れるって事は、何かあったのだろう?」

「あっ、すみません。プルルートさんがそっちに行くっていう事で、色々と揉めたこともあって…(´Д`;)」

「それで、お話と言うのは…?」

「実はですね。永守さん達が転送されると同時に此方の次元から、其方の次元に大きなエネルギー転送の痕跡があったそうなんです。…それだけなら、良かったのですが( ̄Д ̄;)」

「アクシデントがあったのか」

「はい。機密扱いの為に、詳しい情報は聞いてないのですが…ラステイションの伝説の宝刀“雷刀丸”が盗まれたそうです。その転送痕跡と、何か関りがあるのではないかと思い、調べてみたんですけど、三日経っても分からず…という結果です(◞‸◟;)」

 

宝刀“雷刀丸”…名前からしてラステイションっぽくなく、七つ道具の一つとも言える響きだ。宝刀という事は、持つ者に何かしらの力を与えるか、刀?から特殊な何かを吐き出せるか。兎に角、シークレットと言う事は敵や悪の手に回っては不味い代物なのだろう。

 

「詰まる所、プルルートさんが協力者という事であり、そのエネルギーと、もし存在が確認されて見つかったのなら、その宝刀の回収をお願いしたいと言う事ですね?」

「はい。申し訳ないですが、そういう事になります…ところで永守さん、ナナさんの件は何かわかりましたか?(´・ω・`)」

「…いや、足取りも掴めていない」

「私も調べてみましたが、データベースに存在しない人物である以上、見つけるにはまだまだ時間が掛かります」

「そうですか…。プルルートさんは、多分その件も含めていると思いますので、ナナさんの件も追加になってしまいますが、どうかよろしくお願いします(∩´﹏`∩)」

 

依頼のような形で願い事を聞くのは構わないが、一つ気になる点がある。

 

「プルルートとピーシェを、そっちに戻る方法はあるのか?」

「そちらの御協力もあれば、転送自体は簡単に出来ると思いますよ?でも、まずは先ほど言った3点の調査と解決をお願いします(・ω・)ノ」

 

そうして通信が終わる。俺自身の目的は兎も角、プルルートがこっちに来た目的は、転送の痕跡と宝刀を見つける事。そして、未だに行方が分からないナナ…剣士の捜索。それらを含め、“何か変化があったら明日から行動をお願いします。”的なのを伝えるべくリビングへ戻る―――――

 

「………、これは?」

「どういう状況なんでしょうか…」

 

戻ってくると、そこには仰向けに倒れ込んでいるネプテューヌと、勝ち誇ったように右腕を掲げているピーシェ、それを心配そうに見守る残りのメンバー。机の上にはプリン5つに砕けたプリンが1つ。どういう状況なんだ、これは…。

 

 

「…ところで、ナスの件はどうなった?」

「ダメね…。何で嫌いかも良く分からないけど、兎に角拒絶するばかり…折角いい所から仕入れたのに、これじゃ無意味ね」

「仕入れ先は、例の場所か?」

「ええ、まぁ…」

 

少し考えた後、無理を押し付ける形になってしまうが、携帯を取り出しある所へ連絡を入れ、許可を取ってみる事にした。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ郊外:ナス農園】

 

「無理を押し付けてしまい、申し訳ありあせん」

「気にするな。お前の御掛けで、こうして平穏な状態へと戻れたのだ。言葉も気を遣う必要はない。…しかし、説明以上だな。まるで世界の終わりとも言える表情をしている」

 

ここは、プラネテューヌ郊外にあるナス専用農園だ。犯罪組織との闘いの影響かは不明だが、荒地と化していた所を、マジェコンヌが土地を買収しナス農園として営んでいる。誤解を解く為に言うが、目の前にいるマジェコンヌは、嘗てズーネ地区の時や、マジックに憑依されていた時の状態でない、綺麗なマジェコンヌと言うべきか。女神の為とはえ禁術に手を染めてしまった影響で、突如プラネテューヌの教祖補佐から離脱し、ズーネ地区で出会ったような状態へと変貌してしまったと言う。現在の綺麗なマジェコンヌは、最高のナスを求めて日々研究をしている。現在市場で出回っているナスとしては、多少値は張るが旨さでは高い評価を得ていると言う。メンツは俺、ネプテューヌ、ネプギア、プルルート、コンパ、アイエフ。昨日のナスは、ここで育てられたナスを使われている事もあるが、マジェコンヌとの借りや繋がりもあり、ここに頼み込んだ。

 

「凄いわね…」

「ご立派ですぅ…でも、ねぷねぷの様子が…」

「…ね゙ぇ゙え゙え゙え゙え゙え゙、可笑しくない!!わたしは美味しいプリンが食べれるって聞いて来たのに…何で、何でナス農園なのぉおおお!!」

「場所までは、伝えてなかったからな」

「えい君の鬼!!悪魔ぁ!!」

「ちょっと、やり過ぎじゃないかな~?」

「そうですよ。嘘はよくありません…!!」

 

「嘘は言ってないっチュよ?」

 

車で連れてきたとはいえ、流石に場所を伝えてなかった事が影響し、恨みの籠った視線を浴びる。とは言え、ネプテューヌはこうでもしなきゃ恐らく来ないだろう…と、マジェコンヌから言われている為、恨みを買う形でここまで来た。そこへ、アルバイトとして働いているネズミことワレチューが、ある箱を持ってやってくる。

 

「そ、それは…!!プランテューヌで数量限定、且つ早朝から並ばないと買えないプリン…!!」

「そうっチュよ。唐突に言われて、女神の為に態々並んで買ったっチュよ。本当はやりたくない事っチュけど…」

「おお…ん?だったらここに来る必要はないんじゃないの!?」

「そういうな、紫の女神よ。私からも、頼みたい事があるのだ。一個人のお願いとして、聞いてくれないか?」

「まさか、わたしにナスを食べさせる気…!?エロ同人誌みたいに…!!」

「…その言い方は兎も角、今回は食事をして欲しい訳ではない」

 

元々は、色々なナスがあるから何か食べれないかと頼んでみたものの、マジェコンヌからある“試作”というのを試運転して見たいという事で、話は食事から何かに変わる事になる。頼み事の内容は、俺も知らない。

 

「じゃあ、用も済んだ事っチュし、コンパちゃん。このオイラがナスの作り方を一から教えるっチュ!!」

「あ、は、はいです」

 

と、こっちはこっちで、目をハートにしつつコンパを引っ張っていく。念の為、アイエフに見張りしてくれないかと言い、着いて行って貰う。

 

「さて、話をしようじゃないか。とは言え、何処から手を付ければいいか、全く分からぬのだがな」

「ねぇマザコング…本当にナスしか作ってないの?」

「…この姿になっても、ワザとなのかよくわからんな。なら、プリンでも作るか?ナス入りのプリンでも」

「うぇ…それは遠慮します…」

 

結局のところ、ネプテューヌが何故ナス嫌いなのか、どうしてそこまで拒絶するようになったのかは分からない。本人からは臭いすらNGと言うが、何故嫌なのかの具体的な理由を、本人の口から説明する事はない。Wikiを見てもさっぱりな状態だ。

 

「まぁ、最初に言った通り試食をしてもらう為に、呼んだのではない。」

「ほぇ~?じゃあ何をするの~?」

「結論から言ってしまえば、“あるモノ”と戦ってほしいのだ」

『あるモノ?』

 

そう言ってマジェコンヌは淡々と説明する。完成…という訳ではなく、試作品段階ではあるソレは、この広い農園の管理に必要だと言う。完全無農薬のナスもあるが、害虫等はクリア済みらしい。問題は、農園を荒らしたり、ナスを食い荒らす外敵。アルバイトとして働いているワレチューも、見張りはするものの、夜中や仮眠、睡眠中に対しては完全に手が付けられない状態だと言う。

 

「そこで、開発したのが…コレだ」

「ひぇ…」

『…ナス?』

 

マジェコンヌが手の持っている2つの物体、それは、紛れもなく只のナスだ。だが、それを少し上に放り投げると、紫色の煙を出しつつ何かが現れる。

 

「なあああああああああああ、ナスが変身したぁああああああああ!!」

「も、モンスター!?」

 

そこに現れたのは、まるで爪楊枝で手足を作ったような見た目の、槍兵タイプのナス。そして、もう一体は馬鳥に跨って騎兵タイプのナス。

 

「…これと、戦えと言うのか?」

「そういう事だ。以前、モンスターを操っていた事を思い出してな。それを私なりに応用して作ったのだ。どうしても、私自身が手を出せない時間帯に、見張り兼追い出しを目的と言う事だ。とは言え、私の命令には従うようにしているが、戦闘能力は未知数でな…自分自身で図るのも良いのだが、客観的な意見も欲しくて、今現在に至る訳だ」

『………』

「どうしたの、二人共…目が怖いよ~?」

「心配するでない。以前の暴走してた私だったら考えるかもしれんが、これを世界征服の為だとか、軍用目的で売り捌くつもりはない」

 

ズーネ地区や、マジックに乗っ取られた事もあってか、善人状態のマジェコンヌとは言え100%信用したとは言えない眼差しを、ネプテューヌとネプギアはしている。要は、畑を荒したりする外敵を、迎撃するモンスターの戦闘データを見たいと言う事か。しかし、ネプテューヌは不満な表情をしている。

 

「お姉ちゃん?」

「…わたしがここに居る意味ないんじゃない?別に、データが欲しいなら、わたしがやる必要もないと思うけど?」

「そこまで嫌か…」

「そう言ったら元もないが…。なぁ、ネプテューヌよ。ここには居ないと思うが…仮に、この世界や、別の世界から“ナス型のモンスター”が来たとしよう。お前は、そんな奴等と戦わず、仲間を見捨てると言うのか?」

「うぅ…その言い方ズルい。地味に卑怯だよ…」

 

少々強引な説明かもしれないが、言っている事は間違ってはないと思う。プルルートがここへ来たように、何かが降ってくるかもしれない。戦っていたモンスターが突然変異するかもしれない。…嫌なパターンを考えれば色々と出てくるが、時には苦手な相手とも対応しなければならない時が来る。

 

「今回の件が終わり次第、プリンが貰えると思えば安いものだろう?」

「ぐぬぬ…引き受けたくはないけど、仕方ない。やるだけやってみよう!!」

「む、無理はしないでね、お姉ちゃん」

「ネプちゃん、がんばれ~」

「話が纏まったようだな。では、準備をしてくれ」

 

あまり、乗り気ではない表情ではあるものの、大好物のプリンを目当てに体は張り切った様子だ。ネプテューヌは、刀を呼び出し構える。

 

「では、始めるとしよう…行けっ!!」

「でやあああああ!!」

 

マジェコンヌの合図と共に、事前に呼び出していたモンスター二体とネプテューヌが飛び出す。ナスの耐久力が弱いのかどうかは分からないが、ネプテューヌの横への払い斬りによる一閃で、呼び出された二体のナスと馬鳥に乗っていたナスは真っ二つになる。

 

「流石に女神の攻撃には耐えられぬか…だが、流石はネプテューヌと言ったところか。見事な薙ぎ払いだったぞ。…ん、どうした?」

 

マジェコンヌが一振りで二体のモンスターを倒したネプテューヌを賞賛しているのだが、一振りを終えた状態の恰好から動こうとしないネプテューヌ。暫くすると持っている刀を落とし、文字通り“orz”の恰好をするように倒れる。

 

「…ね゙ぷぅ゙!ナス臭スプラッシュ…!!」

『………』

 

やっぱり、今回もダメだったよ…と聞こえそうな雰囲気を漂わせている。それからは、マジェコンヌが再び数体呼び出し、ネプギアや俺も含め様々なテストを行う。結果から言えば、耐久面には難があるものの、攻撃力自体は野良モンスターと変わらない程度な為、変に暴走をしない限りは防衛としては十分な能力ではないかと言う評価に留まる。

 

「…改善点はまだまだあるが、防衛目的であれば十分な性能だ」

「今回はこれでいいのか?」

「ああ、問題ない。暫くはこれで十分だ」

「お、終わった…暫くはナス見たくない…。それよりも、プリン、プリンは!!」

「慌てるでない。そろそろ、ワレチューを呼んでおかないとな…ん?」

『………!?』

 

 

「た、大変ですぅ(大変っチュ)!!」

 

 

丁度検証が終わり、ワレチュー達が向かった方へ視線を向ける。そこには、先程実験として戦った大量のナス型モンスター。それから逃げてくる3人の姿が居る。

 

「なんだ、何が起きている!!」

「ひ、ヒテエエエエエ!!な、ナスだぁああああああ!!」

「お、オイラに言われても、分からないッチュよ!!」

「な、ナスの収穫の仕方を教わってたら、と、突然収穫したナスが襲ってきたですぅ!!」

「馬鹿な。私が持っている奴以外は、普通のナスだぞ!!溢した等もなかったはず…!!」

「い、今、アイちゃんが一人で、対処してるですぅ!!」

「あ、アイちゃんが…!!」

「お、お姉ちゃん待って!!」

 

突然の状況に、全員が慌てふためいている。向いた方向は兎に角見渡す限り、ナス、ナス、ナス…地上も空中もナスだらけだ。アイエフが一人で対処していると聞き、ナス嫌いなネプテューヌがアイエフの元へ走り出し、ネプギアも突然の姉の行動に驚きつつも、追いかけていく。しかし、数が多いのか此方にも向かってきている。…だからと言って逃げるわけにはいかない。

 

「…!!ま、待つっチュ!!」

 

ワレチューの声が聞こえたが、既に遅かった。俺が放った鎌鼬は複数のナスを真っ二つにする。そして、制止した理由を理解する。真っ二つになったナスは、まるでバイ〇インのように、真っ二つになったナスが文字通り二体となり蘇った。

 

「成程…これは厄介だ…」

「そうっチュよ!能力事態はそうでもないッチュけど、斬れば斬る程無限増殖するッチュ!」

「あんな能力を入れた覚えも無いぞ…!!」

「斬れば斬る程…ならば…」

 

炎は農場が燃えてしまう事を恐れた為、拳で語り合う選択をする。

 

「シュッ!!」

 

その拳は、貫通はするが真っ二つにならない程だ。今度は、ご都合主義なのか分裂することなく消滅する。それを見たマジェコンヌも打撃技へと変わる。

 

「い~た~い~!」

 

大量のナスモンスターに気を取られていたのか、全く手を出していないプルルートが全く抵抗せずナスが持っている槍で突っつかれている。その場にいた俺だけが、それを見た瞬間旋律が走る。対処できなくはないが、女神化後のプルルートは何をするか分からない。

 

―――――ドスーンッ

 

「な、何事だ!?」

「………(キレたか…?)」

 

…と、考えプルルートの元へ行こうとした時には、既に遅かった。

メメタァッ―――――と言う効果音が鳴りそうな程に、持っていた熊の人形をナスモンスターに向けて叩きつける。叩きつけた所にクレーターが出来、そこには潰れたナスモンスターが居る。それを執拗に人形で叩きつけている光景と滲み出るオーラに、先程まで攻撃を繰り出していたナスモンスターも躊躇しているのが分かる。

 

「あたしぃ…しつこいのって、嫌いなんだよねぇ…」

 

もう誰にも止められそうにない程にボルテージが高まったプルルートは、女神化を始めアイリスハートとなる。

 

「鬱憤は、晴らしてもらうわねぇ」

 

そう言いつつ、雷を帯びた蛇腹剣で周囲のナスモンスターを刻みつつ消し炭にしていく。ついでに周辺の正常なナスにもとばっちりが行くのは言うまでもない。

 

「な、なななな何チュか!?」

「ぷ…プルルート…さん?」

「おい…奴が女神という話は聞いているが、なんなんだあの変貌っぷりは…!!」

「説明するより、見た方が早い事もある」

「説明を放棄するとは、お前らしくないぞ」

「ちょっとぉ、何こそこそしてるのよぉ?」

 

耳打ちするような声で話していたのが気になったらしく、アイリスハートことプルルートが近づいてくる。流石にその変貌っぷりや異質なオーラに、俺以外の全員がビクッとなったが、俺はというと…目のやり場に困る。

 

「お前の変身が、予想以上だったから驚いていたそうだ」

「ふーん…?まぁそれはいいけどぉ、放置プレイも嫌いじゃないけど、駆け付けるのが遅くない?」

「自分で何とか出来るだろ」

「へぇ、そう言うんだ。まぁ、あたしもその時、その時の気分ってのがあるけど~…」

 

色々と言ってる最中に、突然とプルルートが耳元に囁くように何か言ってくる。内容は“俺でいいのかよ”と思い一瞬躊躇するが、断って味方や農園に被害が出るくらいなら要求をのみ込んだ方がいいと考え承知する。

 

「ふふっ、それじゃあお楽しみを早める為にもぉ、ちゃちゃっと終わらせちゃいましょぉ!!」

「…被害にあった分の賠償はしておく」

「ここまで来たら何も言うまい…こんなアクシデントが起きてしまったのだから」

 

切断してしまったら、アメーバのように増えてしまうが消し炭にすれば増えない。それを見ていたからか、マジェコンヌも炎を解禁する。そしてバーベキュートゥナイの如く、ナスモンスターを消し炭にしていく。一応消し炭にしたナスモンスターは、結晶片となって消え去っていくから残骸は無くなる。しかし、意外にも気遣ってるのか農場への被害はそこまで酷くはない。そうして少しずつ数が減ってきた時、残りのナスモンスターがネプテューヌの向かった方向へと逃げていく。

 

「あらあら、怖気髄ちゃったかしらぁ?」

「…少し違うようだ」

 

ネプテューヌ達が向かった方向に目線を向けると、向こうにもいたナスモンスター達が集結しているらしく、それがスライヌの合体しデカスライヌになった時同様、デカナスへと変身しているのが見える。

 

「へぇ、可笑しなことするじゃないの…手ごたえがあればいいけどねぇ」

「私は、被害の精査をしておく。頼めるか?」

「わ、わたしも手伝うですぅ!」

「…オイラも手伝うっチュ」

 

マジェコンヌに言われ、俺とプルルートはネプテューヌ達の元へ行く。ワレチューはコンパと一緒に居たい願望もあるが、恐らくはプルルートと一緒に居るのが嫌なのだろう。アイリスハート状態を見てから、ずっと顔色が良くなかったことから伺える。ネプテューヌ達の元へ辿り着くと、遠目で見るよりも大きいナスモンスターが、更に自分を大きく見せようと威勢を示している。

 

「え、えい君…って、まさかぷるるん!?」

「あら、この姿で誰か分かったの、ネプちゃんが初めてよぉ?」

「プ、プルルート様…!?」

「お、お姉ちゃん並みに凄い…」

 

ネプテューヌも女神化しているとは言え、誰かは気づいたもののプルルートの変貌っぷりに、驚きを隠せてはいないようだ。

 

「…ナスは嫌いじゃなかったのか?」

「ええ、嫌いよ?でも、ここまで大きくなったら、ナスと思えないタダの紫色の物体ね」

「流石に見飽きたしぃ、さっさと終わらせちゃいましょ?」

 

と、さっきまで威勢を出していた大型ナスは、全員で睨み返すとビビっているようにみえ、逃げ出そうとしたが既に遅かった。ネプテューヌとプルルートの帯電した斬撃、俺とアイエフの火炎、ネプギアの光線によって跡形苦も無く消し飛んでいった。

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ:教会】

 

「………」

「えへへ~、もうすぐだよぉ」

「…わたしの人形作ってくれるのは嬉しいけど…なんでそうなってるの!?」

 

時刻は夕食前。あの後、ナス型モンスターはいなくなり、迷惑料はいらないと言っていたが払い、このような事が起きないように更に改良や周囲の警戒を強くすると言った。周囲の警戒を強くする理由としては、アイエフの報告によると、布で覆い被った誰かがその場を立ち去る姿を見たと言う。直ぐいなくなってしまった為に、どのような人物なのかもわからなかったと言う。…で、現在の状況なのだが、机に対して安座で座っている俺の上に、プルルートが座る形になっている。所謂人間椅子というか…一度やってみたかったらしい。考えてみれば、ネプテューヌにはやったことがないからか、凄く羨ましそうに見ながらプリンを平らげている。プルルートの影響で、俺は完全に身動きが取れない状態になっている。

 

「…報告等はまぁ理解しました。ですが、表の箱はどうにかならないんですか?」

「あ、あれはわたしのせいじゃないからね!!ていうか、ナス見たくない!!」

「分かってますけど、大量のナスをここに届けられましても…職員に提供しても減りませんよ?」

「…見切り品として、野菜売り場に出すしかないだろう」

 

農場での被害は収まったが、流石に綺麗に終わる事は無く、とばっちりを受けた幾つかのナスを持ち帰る事となり、教会表がナスだらけという訳ではないがそんな状況になっている。違う意味で面倒ごとを抱えてしまった感じがある。

 

「はい、ご飯出来たですよぉ」

「流石に、これだけ色とりどりなら…」

「…な、なすうううううううう!!!??」

 

幾つかはここで食べる事になるのは目に見えていたが、色々な種類のナスを使ったナス料理が出てきた。何でもピーシェが気に入ったらしく、色々と食べたいと言う要望に合わせて作られたそうだ。

 

「ネプテューヌさん。折角、色々なナスがあるのですから、自分の合うナスを探してみるのもいいじゃないですか?それに、報告ではナスに立ち向かったと聞いてますけど?」

「い、いやいや!?あれは、馬鹿力っていうか…」

 

…どう言い訳しても、暫くはナス料理が続きそうだ。

 

 

 

 

 

 



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Scene78 欲望と快楽による禁断の楽園へ~TSF~

今回は色々と偏見が混じりに混じっていますが、楽しんで頂けたら嬉しい限りです。


 

 

【プラネテューヌ:教会・リビング】

 

「ご、ご、ごめんなさい!こんな事になるなんて知らなくて…」

「…えっと、黙ってた事は悪いと思うけど、男の子なら一度は憧れる事だよね?」

「そ、そうですわ。それに、それを補ってお綺麗じゃないですの」

「ねぇねぇ、可愛いだけじゃダメなの~?」

「………諦めるしかない。こんな都合よく一つ悩みが解決する事になるとは、思っていなかった」

 

今の状況を説明する。目の前にネプテューヌと遊びに来たベールがいるが、ソファーに座りつつ片手で顔を隠している俺に励ましのような事を言う。ネプギアは頭を下げ、プルルートも仲介のように入る。それを見守っている、朝っぱらから集まったジンを含む女神達。…なってしまったからには仕方ないが、今の俺は普段通りではない。身長がベール程までではないが、若干ぶかぶかの普段着になってしまう程縮み、声が女性のように高く、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。文章では伝わりにくいが、俺は女体化(TSF)している。何故こんなことになっているかは、原因は一杯のコーヒーから始まった――――――

 

 

 

 

 

大体一時間ほど遡る。何処から話せばいいか…とりあえず1時間前から話そう。元々女神全員がプラネテューヌに集まるという話だったが、相変わらずベールはその一時間前に来ており、ネプギアに迫るかと思ったが今日は違うらしい。

 

「R-18アイランド?」

「ええ、御存じでして?」

「…どういう島かは聞いている。」

 

ネプテューヌが本来やるべきはずの書類精査を終えた俺に対し、ベールが突如とその話題を出す。

 

「そう…!大人しか入る事の許されない、禁断の島ですわ!!あ~ん♡な事や、こ~ん な事が、”十夜を問わず賑やかに行われているというテーマパーク”に行くことにしましたのよ!!」

 

数週間前にSNSで広まった今や大人気の島、R()-()1()8()()()()()()。比較的女性の人口が多いこの世界で、その島の名前とは裏腹に“羽伸ばし”を目的とした、()()()()()()()()()()()()()というコンセプトらしい。男性も行けなくはないらしいが、施設内(バカンス)に入るには入場審査があるらしく、“18歳以上の女性”しか入れないと言う。色々充実しているとはいえ子ども預り所センターならぬ、大人預り所センターのような所で待たされるらしい。雰囲気的に俺をそこに連れて行こうと分かるが、“男”である俺は預り所センター行確定だ。

 

「…その様子、興味がないと言いたげですわね?」

「行ったところで、俺は内部まで入れない。…人探しという目的で入れるなら、それはそれで行くべきなのだろう」

 

もし、そのR-18アイランドに剣士が居るのなら、絶好の隠れ場としては相応しい。何せ、探している俺が入れない所なら尚更だ。行けるなら行くが、現状R-18アイランンドの規約違反になるので不可能だ。そんな時、ネプギアが淹れたてのコーヒーを二つ持ってくる。

 

「どうぞ」

「ありがどうですわ」

「ああ、すまない。…何時も俺が淹れるコーヒーではない?」

「ええ、今回はわたくしが持ってきたリーンボックスでも飛びっきり極上のを、ネプギアちゃんに頼んで挽いたのを、水出しで入れてもらいましたわ」

 

成程、それで香りがいいのかと納得し、ベールが一口飲んでいるのを確認した所で一口飲んで暫くし、突然意識が飛んでしまった。

 

 

 

それから、数十分後に目が覚める。何を入れたんだという思考もあったが、女神全員が俺の方へ集まって見ている。

 

「あ、起きた!!えい君、大丈夫?」

「…一体何の集ま…り…だ?」

 

そして、目が覚めた所にネプテューヌが心配そうに言うのに対し、返答した時の声の高さに違和感を覚え、自分の身体を弄る様に触っていく。

 

 

 

 

 

「………、なんじゃこりゃああああああああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

という事があり、今はリビングから離れ更衣室で女性職員の服を借りて着込んでいる。服事態に違和感はなく右腕も変化はないから、とりあえず普段通りの動きは出来そうだ。困ったことと言えば、若干筋肉量が減っているくらいか?なんでも、女性が飲んでも効果は無いが、男性が飲むと2、30分掛けて女体化(TSF)する新薬を、ガストに頼んで作って貰ったと言う。提案はネプテューヌであり、実行に移したのがベールと言う訳だ。数日前からR-18アイランドに行こうと言う計画があったが、最初こそ俺を連れて行きたいという案だったが、純粋に俺が女性に変化したらどうなるかと言う興味本位になったと言う。

 

「全く、余計な事を…」

 

と、声を溢すが、どうもこの声にまだ慣れない。とは言え、R-18アイランドに連れていかれるが確定になったということだ。因みにだが、俺は二番目の服用者という話だ。最初はジンで実験されたようだが、服用したらロムやラムぐらいの女の子になってしまったそうだ。ベールやスミレにベタベタと抱き着かれたりして、若干トラウマらしい事を仄めかしていた。効果時間は約一日。つまり、明日のこの時間までは女性でいなければならないと言う事になる。違う意味で今日中は苦労しそうだ。

 

 

 

「そんな、納得いかないわ!!ネプギアはいいのに、アタシはなんでダメなのっ!!」

「そ、それは…」

「そーよ!?どーしてわたし達はいけないの!!」

「どうして…?(うるうる)」

「ダメなものはダメなのよ、二人共。」

「やだやだ、ねぷてぬについてくっ!!」

「ま、まぁまぁ皆、落ち着いてよ…」

「き、きっと何かあるんだよ」

「…審査っていうのを通りそうなアンタには言われたくないわよ」

「え、ええっ!?」

「…逆効果だったね、ネプギア」

 

戻ってくると、R-18アイランドに行くというのはいいが、元から行かない予定のコンパ、アイエフ、ジン、スミレを除き、ネプテューヌ、ネプギア、プルルート、ノワール、ブラン、ベールと俺の七人で行くことになったそうだ。その話にユニ、ロム、ラム、ピーシェは納得していない様子。どうやら、連れていけない理由ははぐらかされているようだ。ピーシェはただ単に、ネプテューヌと一緒に行きたいという欲があるのだろう。肝心のノワールとブランも、説明することなく何か隠しているように話を逸らそうとしている。内心、遊びで行くとは思っていないが、話が平行線の状態で進まない様子で終わりが見えない。

 

「ベール、R-18アイランドに土産物はあるか?」

「ええ、そこでしか手に入らない物は幾つかありますわよ」

「…なら、写真と映像は厳しいかも知れないが、土産物を持って帰る。それではダメか?」

「え~、わたしは行きたいのに」

「いきたい…(ウジウジ)」

「やーだっ!!ねぷてぬといきたいっ!!」

「………、これ以上言っても無駄のようね。三人共、諦めた方がよさそうよ」

『え~…』

 

何処か納得してはないが、これ以上言っても曲がらないと思ったユニが三人を制止する形になった。

 

「やだやだ!!いくったらいくっ!!」

「ピー子!!ピー子は行っても入れないんだよ!!」

 

しかし、ピーシェだけはしつこく食いついて来る。そんな中、珍しくもネプテューヌがピーシェを叱る。

 

「ねぷてぬのケチっ!!いきたいったらいきたいっ!!」

「いい加減にしなさい!!そんな子には、わたしのプリンあげないからね!!」

「………、ねぷてぬのバカー!!」

 

…一応今回行くと言う話は周知しているが、幾ら何でも今回は言い過ぎ感がある気がする。それを他所に、ネプテューヌは“早く行こう”と急かす様に皆を外へと行かせる。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

【R-18アイランド:海上】

 

「え?じゃあ、遊びに行くんじゃないんですか?」

「ええ。残念ながら違いますのよ」

「R-18アイランドに”ドデカい砲台”が設置されたのを、昨日ウチの人口衛星が捉えたんだ」

「だらか、調べる事にしたのよ。一応、イストワールにも注意してほしいと言われたしね」

「…もし、その砲台に攻撃性があるとしたら、誰か戦争でも仕掛ける可能性があるわね」

「何故、本当の事を言わなかった?」

「今の二人なら、この件に関わってもいいのかもしれねぇが、これは遊びで行くわけじゃねぇんだ」

「入場規制ってのもあるけど、女神が大勢乗り込んで刺激を与えるのも良くないわ」

「…そう考えると、俺…私もこうなった方が良かったのか」

「無理して一人称を変える必要はありませんわよ」

 

という訳で…元々は遊びに行くはずだったが、昨日に謎の砲台が見つかり急遽調査に方針転換、遊びでない為に全員で行くわけにはいかなくなったと言う。変に目立つ俺は女性に変わり見た目も変わっている分、獨斗永守だと気づかれにくくなっているのは確か…かもしれない。

 

「ねぇ~ねぷちゃん~。あたし、自分で飛びたいな~」

「だ、ダメよ!!お願いだから、ぷるるんはそのままえい君と一緒にボートで来て!!」

「むぅ~…()()()()()からも、なんか言ってよ~」

「え、えーちゃん…」

 

あのナス事件で、一度プルルートの女神化を拝んだ際に何か嫌な予感がしたらしく、強くお願いしたくらいだ。俺に頼もうとしたが、その呼び方に凄く慣れないといった感じを覚える。

 

「どうして?変身出来るなら、してもらえばいいじゃない」

「ノワールだって、あれを見たら絶対そう思うから!!」

「…何をそんなに慌ててるのよ」

「ダメったらダメ!!」

「ねぷちゃんのケチぃ~」

「…だからって、俺に抱き着いて揺らすな」

 

 

 

 

 

【R-18アイランド:施設内部】

 

特に会場モンスターに遭遇する事なく、R-18アイランドの船着き場に付き施設内に入る。

 

「では、R-18アイランドの入場審査ですわよ」

「こ、これでいいのかしら?」

「変身した姿で水着になるなんて…なんか、変な気分」

「露出が増えたくらいで、普段と大差ないと思うけどね」

「ふふっ、この島でのドレスコードは水着。もしくは、オールヌード()ですわ」

「極端過ぎるな…それなら、男性は入れない訳だ」

「そういう事ですわ。まぁ、そこの入場審査前の入り口で弾かれるそうですわよ。それにしても、随分と様になってますわね」

「確かに、ここまでしっくり来てるなんてね」

「厳選して選んだ甲斐があったわね」

「でも、大丈夫ですかね、色々な意味で…」

 

変化しているとはいえ一応中身は男である以上、着替える際は別室に逃げ込む形で整えた。水着自体は無料で借りれる為に、手ぶらでもウェルカムといった態勢である。まるで着せ替え人形のように色々な水着を持ってきたのだが、最終的には中に普通の水着を着つつ、ショートパンツとパーカー風のを着込んでいる。右腕の長手袋を除けば、普通に着込んでいる風にはなるのだろうか。…ある意味、ジンがトラウマになりそうな感じが分からなくもない。ベールの言う通り、入場審査前の所で弾かれてないという事は、薬の効果は半端ないと言う事になる。

 

「後は、ブランとプルルートの二人か」

「…噂をすれば何とやら、お二人も着替え終わったようですわ」

「やほほ~いっ!」

「おう」

「何気に、全員ビキニタイプなのか」

「えへへ~、可愛い?」

「あらあら~…あらまぁ…」

 

プルルートに相づちを挟むが、その隣で可愛いと思うような言い方をしていると思いきや、ある部分を見つつ明らかに残念そうなトーンで相づちを入れるベールがいる。

 

「おい…今、胸見て言っただろ」

「えぇ?そ、そんな事は…只、大人として認めて貰えるか心配ですわね…とボンヤリ思っただけで――――――」

「ハッキリ言ってんじゃねぇか!!」

「あはは~」

「ま、まぁ、女神にとっては年齢なんてあって無いに等しいものだし」

「…まぁ、当たって砕けろってところですわね」

 

フォローになってるのか分からないが、兎に角入らなければ話にならない為に入場審査の前まで行く。先陣はベールが行き入り口前まで行くと、如何にも受付人の恰好をした女性が移ったモニターがベールの前に現れる。

 

『ようこそ、R-18アイランドへ!問おう。あなたはオトナか?』

 

横から見ると、「はい」と「いいえ」が移っているのが見える。当然ベールは「はい」を選択する。すると、入場審査入り口のADULTの文字が緑色に光り、問題に正解したような音が鳴り響く。

 

『クリアです。R-18アイランドを存分にお楽しみ下さい!』

「まぁ、こっちはお仕事として来ているのですけど」

「…ん?それだけでいいのか?」

「見ての通りですわ。さぁ、躊躇う必要などありませんし、皆さんも」

 

何というか、圧倒的にぬる過ぎるような甘すぎるような審査と思ってしまった。とは言え、モニターが現れる前にサーチを行うような形跡がある。そう考えるのなら変装では見破られるという事になるのだろう。そんな事を思っている間に、ネプテューヌ、ネプギア、ノワールも入場審査をクリアする。

 

『問おう。あなたはオトナか?』

「………。」

「ほら、躊躇わず“はい”を押すだけですわ」

 

何となく自分を騙している罪悪感を覚えつつも、ベールの言う通り「はい」を選択する。

 

『クリアです。R-18アイランドを存分にお楽しみ下さい!』

「やったわね、えい君」

「ほら、悩む必要などありませんわ」

「…ザルに思えてきた」

 

確かに、今は薬の効果で女性になっている。それでもってネプテューヌや映像に映っている女性程でないがあると言えばある。…もしや、この審査見た目で判断してるのではないかと言う考えが横切る。

 

『問おう。あなたはオトナか?』

「………」

「オトナだよ~」

 

ベールが不安がっていた、プルルートとブランが“はい”を選択する。俺が思っていた事が“確信”へと変わる。

 

『本当に18歳以上ですか?』

「…はい」

「は~い」

『ホントに?』

「なっ!!クソがぁ!!」

「疑われてるぅ~」

 

モニターに映る女性が“待った”と言う恰好で言う。ブランは徹底的に「はい」を連打する。プルルートも全く通らない為に涙目になってしまっている。だが、結果は変わらず、それどころか…。

 

『ホントは幼女でしょ?』

「っ!!幼女じゃ、ねぇ!!」

 

ブチ切れ寸前の回答に、ブランはモニターに向かって拳振り下ろす。若干画面が砂嵐を発生させるが、モニター自体はビクともしていない。そして遂に禁句へと―――――

 

『その胸で?』

「………、ぁああああああああああっ!!」

 

遂に怒りが有頂天に達したのか、戦斧を呼び出しプルルートの前に会ったモニター事切り裂く。当然だが、そんな事をしたらアラームが鳴るのだが、アラーム装置にも戦斧を振り下ろし破壊する。

 

「…行くぞ」

「わーい」

「あ、当たって、砕けましたわね…」

「物理で解決するとは、たまげたな…」

 

何処か、機械に任せるからこうなるのだと思いつつも、修理費を出した方がいいのかと思ってしまった、1分間の出来事だった。

 

 

 

 

 

【R-18アイランド:ビーチ前】

 

入場審査を終え外に出たはいいものの、道はあるがあたり一面森、森、森…ちなみに、疲れるからか女神達は女神化を解除し別の水着へと変わっている。ある意味、変身前と変身後の服装も一瞬で変えられるのはある意味凄い所だ。“誰かに道を聞ければ…”とノワールが呟いた時だった。

 

「はいはいはいは~い、いらっしゃーい!困った事があったら、この公認ガイドの“リンダ”にお任せ!!…ってお、お前達は…!!」

『あ~、下っ端!!』

「…リンダ?」

「って、下っ端じゃねぇ!!つーか、知らない奴が二人いるんだが!?それと、なんでテメーはアタイの名を知ってるんだよ!?」

「あたし~?あたしは、プルルート」

「…まぁ、この恰好では分からないか」

 

リンダが何か言いたそうにしたが、何か考えたのか暫く固まる。

 

「…ちょ、ちょっと待った!ちょっとこっち来やがれ!!」

「ぉ、おう…」

 

そう言われつつ、森の木々へとリンダに引っ張られ女神達から距離を取る形となる。

 

「ま、まさか、テメーは獨斗永守か…?」

「…何故バレた」

「ここにサングラスを掛ける奴は滅多にねぇ、それにバカンスなのにその右腕のグローブと来たらな…だが、何でオメー女なんだよ!作り物なのか!?」

「色々とあってな…あと弄るな」

 

“男”としての獨斗永守が染みついているリンダは、薬の影響で女性化している事に戸惑いつつ、“無ぇ、無ぇ、マジで無ぇ!!”と言いつつ俺の身体を弄っている。

 

「しかし、女神ってとんでもねぇもんも作るな…オメーも大変だな。それに、約二名ここを通れそうにない奴がいるが、どうやって入って来やがった?」

「それは後にしてくれ。…聞きたい事がある。昨日突如運ばれた砲台が、ここの島にあると聞いた。知っているなら案内して欲しい」

「砲台…あれの事か?あー、案内してもいいんだがよ、アタイの頼みも聞いてくれねーか?」

 

リンダの頼み事はこうだ。R-18アイランドの案内役として今は働いており、給料は高いようだが時給ではなく案内人数によって変動すると言う。兎に角今は絶好調であり、少しでも多く稼ぎたいらしく案内させてほしいと言う。色々意見を交換し、“砲台の案内及び入り口の破壊をなかったことにする”代わりに“R-18アイランドの案内役をさせてほしい”という事で落ち着く。

 

「―――――と言う訳だが」

「ちょっと、待ちなさいよ。こっちは調査しに来てるのよ?それを今更―――――」

「やった、遊べるの!!わーい!!」

「わーい!!」

「お、お姉ちゃん、プルルートさん!?道分かってるの!?」

 

と、仕事で来ているという事を言うが、ネプテューヌとそのノリに乗ったプルルートが道を走って行き、ネプギアがそれを追いかけていく。完全に遊びスイッチが入ってしまった状態である。

 

「…まぁ、良いじゃありませんの?ある話がなかったことになりますし」

「…わたしのせいじゃねぇからな」

「それに、急ぎで調べろとは言われておりませんし。Win-Winの関係という事でよろしくて?」

「ま、まぁ…そう言われると…」

「(…流されている)」

 

結局、暫く遊んでから砲台へ案内して貰うという形になった。確かに、急ぎで調べてほしいとは言われていない。ここの客達が居るのに実弾系の砲台を撃ったら撃ったで、それはそれで大問題になるだろう。まぁ、その砲台の形状は衛星で捉えているから、攻撃性の有無の確認をすればいいだろう。

 

「…ちょっと待て、カメラは持ち運び厳禁だぞ」

「………(コロコロコロッ)。隠す…成功だ」

「いや、丸見えじゃねぇか…TRPGみたいな事するなっ!!」

 

 

 

 

 

 



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Scene79 続・禁断の楽園~Lost Happiness~

 

 

【プラネテューヌ:教会・ベランダ】

 

「準備できたですよ~」

『わーい!!』

「あ、こらピーシェっ!!飛び込んじゃダメでしょ!!」

 

うーん、まさかビニールプールを用意する事になるとは思っていなかったなぁ。しかも、結構な大きさのビニールプールがあるとはな。おまけに水着もしっかりとある用意周到振りである。

 

「全く…こんな子ども騙しのプールなんて、わたし別に―――――わわっ!!」

 

ビシャーッ

 

「へっへーんっやりぃ!」

「………やったわねぇ!!」

 

R-18アイランドに行けなかったことをいじけていたユニだったが、そんなことはなかったと言わんばかりにはしゃいでいる。

 

「…スミレ?」

「どうしたの、一緒に遊ばないの?」

「あ~…なんというかな…」

 

改めて思う事だがこうして冷静に考えると、女性だらけのメンツの中に男一人。あの時はゲイムギョウ界を救うと言う事で頭が一杯だったけどさ―――――

 

「なんか、場違いな気がしてきてな…」

「場違い…?あ~…」

「それに、着いて行かなくてよかったのかよ」

「うーん、まぁ今回いけなくても、次回行ければいいかなって」

「何よ、今更場違いとか言って」

「アイエフさん…?」

 

そんな気難しい事を考えている所に、アイエフさんが声を掛けてくる。

 

「随分と委縮してるじゃないの。“さん”付けするタチじゃないでしょ?それに、永守程じゃないけど、そういう事考えてるタチでもないでしょうに」

 

ここに来てからそういうのは覚悟していたが、改めてしまうと今まで冷静でいた自分が別人みたいだと思ってしまう。

 

ビシャーッ

 

『冷たっ!!』

「ほらほら、話してないで、いっしょにあそぼう!!」

「あそぼう?(わくわく)」

「…そういう訳よ。覚悟決めなさい」

 

…アイエフの言う通りだな。向こうには連絡着かないし、こうなったら部屋に籠っていた分遊びまくるか。

 

だが、この時は水面下であんな出来事が進んでいたとは、この時の俺も獨斗も知る由は無かった。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

【R-18アイランド:ビーチ】

 

条件付きであるが、とりあえず砲台に関しての情報は後ほど調べる事となり、ビーチで遊ぶこととなる。

 

「ところで、砲台に関して、あなたは何か知ってるの?」

「うーん、運び込まれたというのは知ってますが、アタイはちょっと見ただけでどういう代物かまでは分からねぇっすよ」

「そんな事より、楽しい所ってあるんだよね?」

「ええ、もっちろん!!もうすぐ着きますぜ」

 

リンダがお勧めする場所まで案内される。そして、森を抜けた先の開けた場所へと出る。

 

「つきました、いい所ですよぉ!!なんと言っても、今やR-18アイランドに無くてはならない観光地、ヒワイキキビーチです!!」

 

案内された場所は、如何にも海水浴が可能なビーチだ。海は透き通るように綺麗であり、浮き輪、水上ボート等の施設も充実している。

 

「おおおおお…ぉぉおおおおおお!!??」

「うわぁあああああ~~!!」

「こ、これは…!!」

「な、な、な、な…なんで、みんな、は、は、はだ…!」

「み、皆さん、裸だぁ…!」

「まぁ、開放的ですわねぇ!!」

「………」

 

そう、文字通りビーチに居る女性の大半が裸でいる。いや、厳密に言えば裸に見えると言ったところか。見えてはいけない部分が、まるで全年齢向けに差し替えられた挿入絵のように、謎の光によって遮断されている。

 

「ああ、そうか。オメーには刺激が強過ぎたか?」

「…どういう現象なんだ」

「そうそう、わたしも気になる!!」

「あれは、謎の光草って言うんだ。原理は分からねぇが、普段から閃光のように光ってるんだが、際どい所に張り付くとより強く光るだけじゃなく、そういうのが大好きな草なんだ!」

「ふ、普通に水着を着てればいいじゃないのっ!!」

「き、際どい所…!」

 

目の前に光景に対応しきれない二人と、何故か妙に興奮しているのが一人…。俺はと言うと、原理は分かっているとは言え目のやり場に困る。

 

「…てことは―――――こーんな事しても大丈夫って事だよね!!」

「ちょっ!?」

「お、お姉ちゃん、大胆…!!」

 

何やら隣でベールとヒソヒソやっていると思ったら、突如ネプテューヌは、シーンが変わるかのように水着と謎の光草をすり替える。側転をしつつ“ネプギアもやろう”と誘っている。…まぁ、違和感はあるが。

 

「わたくしも、やりますわよっ!!」

「あたしもぉ~」

『えぇ!?』

「………、何やってるんだか」

 

まるでネプテューヌに誘われるかのように、ベールとプルルートもネプテューヌと似たような事で包み隠している。見た光景としては、サービスシーンかのようなシチュエーションが繰り広げられている。

 

「…み、皆がやるなら、わ、私も!!」

『えぇ?』

「っ…!!」

「…?どうしたのよ、永守。急に顔を背けて…」

「…いや、別に…」

 

三人に誘われるかのように、ネプギアも身に着けている水着を脱ぎ捨て、謎の光草で身を包む。見た目はポロリどころか、スッポンポーンな状態ではあるが…匠の業と言えばいいのか、二人に話していい事なのか…。

 

「ふっふふーん。聖人ぶっても無駄無駄ぁ!!三人とも謎の光草まみれになーっれ!!」

「のああああ!!」

「な、何!?」

「…マジか」

「あ~らら~、不思議(ふっしぎ)不思議~?水着を着てても裸に見えるぅ!!それに、えい君はマニアック層にはタマラナイんじゃない?」

 

ネプテューヌが投げてきた謎の光草は、まるで意思を持っているのか水着に張り付く。ノワールとブランはぴったりと水着全体に張り付き、俺に至っては、前開きのパーカー、ショートパンツ内部にある水着へと張り付いて、変な光になっている。

 

「もう、何すんのよ!!ネプテューヌのえっち!!」

「えっちは、心の仕事だよ!ほらほら、早く脱いだ脱いだ!」

「…もう、仕方ないわね…」

 

そう言って、「自分達のように脱いじゃいなよ」と言いたそうにネプテューヌが催促してくる。そして、流されるように赤面しながら脱ごうとするノワールがいる。…流石にこれは止めた方がいい。そう思いノワールの方に手を添える。

 

「…?な、何よ」

「脱ぐ必要はない」

「え?ど、どういう意味よ」

「…!?」

 

その遣り取りに何かを察したブランはハンマーを呼び出し、砂浜を吹き飛ばすように体を一回転させ振り上げ、砂を含んだ突風がネプテューヌ達を襲う。その風圧は凄まじく、こっちの謎の光草も吹き飛ばす勢いだ。

 

「ああっ!!ねっぷぅ…!!」

「あらら~ばれちゃったよぉ~」

「完璧な作戦だと思いましたのに…」

 

その突風により、ネプテューヌ、ネプギア、ベール、プルルートの謎の光草が吹き飛び、一人を除き脱いだと思われていた水着は、脱いでいなかった事が分かる。

 

「…何となく違和感はあったけど、永守の反応を見て確信したわ」

「どういう原理よ!!あなた、あの時脱いだわよね!!」

「あれは残像だよ、てへっ!!でも、えい君は何時から分かってたの?…ていうか、何で後ろ向いてるのさ?」

「…確かに、見た目は女性の俺だが、それでも見れるものと見れないものがある」

 

そう俺は言いつつ、見てない状態であるがある一点に指を指す。

 

『…?』

「あ…あ…あぁ…」

 

俺は後ろを向いて見ていないが、その先には本当に水着を脱ぎ捨ててしまった…生まれたての子どものような状態のネプギアがいる。ネプテューヌの時は良く見ていなかったが、ベールとプルルートが脱ぐ際は違和感があるような動作をしていた為に、なんとなく抜いては無いと思ったが、謎の光草があるとは言え、本当に脱ぎ捨てたネプギアを直視できない感覚に陥っていた。

 

「いやぁぁあ!だ、騙すなんて酷いよっ!!」

「ご、ごめんね、ネプギア。まさか、本当に脱ぐなんて…」

「水着、取ってきてあげるね~」

「って言うか、永守さん気づいてたんなら言って下さいよ!!」

「最初は気づかなかったから、何とも言えないな…」

 

 

 

「(計画通り…ですわね…)」

 

…とか、ベールは思ってそうだなと思いつつ、水着を着るまで見ない様にしているしかない。

 

「…飽きないだろうが、オメーも苦労してるんだな」

「なら、変わってくれるか?」

「はっ?冗談は寝て言えっての。例え女神の加護があろーが、アタイはアタイの思うが儘に動くっての」

 

仲間にはならないが、“テメーから受けた借りは返す”と呟き、協力関係はとりあえず続くようだ。

 

 

 

 

 

と、プルルートが水着を持ってきて、ネプギアはそれを受け取りしっかりと水着を着る。その後はR-18アイランドを堪能するかのように各々遊び始める。ネプテューヌとノワールがビーチバレー、ブランとプルルートは砂で城、三倍サイズのネプテューヌ人形(砂)を作成、ネプギアとベールは日焼け止めを塗っている。

 

「ホント、オメーは規格外な事してんな。今の恰好もそうだけどよぉ」

「褒め言葉として受け取っておく」

 

リンダにこれまであった事等含め、情報交換という事で話し合いをしている。何故ここに来たのかを伝えつつ、消息不明の剣士について聞いてみる。ゲイムギョウ界の四カ国を探し、情報収集をしても全く見つからなかった為にここに居るのではないかと聞いてみる。例えば、従業員に紛れているのではないか等々…。

 

「そこまで言われてもな…アタイだって只の従業員の一人にすぎねぇしよ。従業員全員に会ったわけでも、偽名使った奴いるかってのもわからねぇよ」

「まぁ、そうなるか」

「おう、んな事より喉乾いてねぇか?オメーの分含めた全員分持ってきてやるぜ」

「…ああ」

 

立ち上がる際に、何やら悪どい顔をしていたような…恩を仇で返す気でもあるのか。

 

「ねーねー!えい君も日陰に居ないで、遊ぼうよ!!2対1でさ、ノワールをやっつけようよ!!」

「ちょ、言い方酷くない!?」

「…ま、時間もまだあるからな」

 

飲み物を取りに行ったリンダが離れ、一人になったところに1対1でノワールとビーチバレーをしていたネプテューヌが誘ってくる。誘いに乗ってビーチバレーのコートに入ろうとした時、飲み物を持ったリンダが戻ってくる。

 

「持ってきましたぜ!冷たい麦茶でもどーぞぉ!!」

「…麦茶か」

「あら、気が利くじゃない」

「ごっつぁんでーす!!」

 

普段はコーヒーやら水やらで、麦茶なんて何年ぶりに飲むのだろうと思いつつ、ビーチコートにボールを投げ捨てつつ一気に駆け寄るネプテューヌ。麦茶の入ったコップをとり、まるで風呂上りの牛乳、仕事終わりのビールを飲むような勢いで飲む。

 

「プハーッ!!堪んないねぇ!!」

「ささっ、皆さんもどーぞ!」

 

とりあえず、見た目は誰がどう見ても普通の麦茶だ。麦茶の入ったコップを取り、口元に運ぼうとした時だった。

 

「はぅ…」

「…ん?」

「え?お、お姉ちゃん…!?」

「どうしたの、ネプテユーヌ?」

「大丈夫ですの?」

 

突如、ネプテューヌが力が抜けたかのように座り込む。突然の事だからか、全員がネプテューヌの元へ寄るが、直ぐにネプテューヌは立ち上がるが――――――

 

「いやぁ…恥ずかしい!!なんか…はしたないわ!お願い…見ないでぇ!!」

「な、なんなの…このキモいネプテューヌは…」

「こ、こんなのお姉ちゃんじゃない…!!」

「…何をした」

「あ、アタイは何もしてねぇぞ!!」

 

突如、くねくねしつつ今までのネプテューヌとは思えない程、恥ずかしそうな振舞いをしている。今までのネプテューヌからかけ離れているせいか、女神全員が今のネプテューヌにドン引きしている。恐らくは、麦茶に何か入れていたのだろうと読み、リンダに問いただすも白を切るようだ。

 

「…聞いたことがありますわ。この島で、最大のタブーとされている羞恥心を、倍増させてしまう薬があると…」

「その薬は、麻薬のように禁止薬か?」

「そこまでではありませんが、合法的な薬ではないのは確かですわよ」

 

もし、その薬が全ての麦茶に入っているのであれば、言い訳は出来ないであろうリンダに、全員視線を向ける。

 

「え、ええ!?た、確かに麦茶を持ってきたのはアタイですが、そ、そんな薬なんて―――――」

 

………ボトッ

 

テンパって腕を振り回していた為か、リンダの腰あたりからシールの張られた茶色いビンが落ちる。位置的に何が書いてあるか全て見えないが“いけない♡おくすり”というのは見えた。

 

「…はっ!!」

「てめぇえええ!性懲りもなく、舐めた真似を―――――」

「よく分からないけどぉ、あたし達にはこういう事するんだね~?」

「ぷ、プルルートさん!?」

 

ブランが突っ掛かろうとしたが、ブランの目の前に割り込むようにプルルートが割り込んでくる。プルルートの表情は、明らかにストレスがマッハの状態に似た顔をしている。…これは、俺に止める義務はない。

 

「ふんっ!!こいつに借りがあろうが、女神には小さくても一泡吹かせてぇのさ!!それにな、この島でも一部の客にはニーズがあるからなぁ!!」

「…そっかぁ、あたし達だけじゃなくて、ダメなのに他の人にも…じゃあ…」

 

次の瞬間、プルルートは光に包まれ女神化する。そして、持っているのは何故か蛇腹剣ではなく、仕付け鞭のようなものを持っている。

 

『っ!?』

「ああ、変身しちゃったぁ…」

「うっふふ…ゆっくり甚振って、生まれ変わらせてあげようかしらねぇ!!」

「や…やれるものなら…やってみ…あああああああああああ!!」

 

リンダは戦略的撤退の如く、森の方へ逃げ出す。だが、忘れてはならない。女神化した女神はあらゆるステータスが伸びる。しかも、女神化したプルルートは奇想天外な事に定評がある。一瞬にしてリンダの前に先回りしたプルルートは、完全にスイッチの入ったドS女王様のように、リンダを“仕付け”と言わんばかりに痛めつけている。

 

「…これでも、ダメか?」

「あぁ、隙間から見える水着が、恥ずかしい…!でも、見られないのも、見られないで、寂しい…」

「だ、大丈夫だよ、お姉ちゃん!私が見ててあげるから!!」

 

俺が来ていた水着用のパーカーを脱いでネプテューヌに羽織らせても、抑制にはなってないようだ。いずれは、その薬を作っている業者を突き止めなきゃならないのかと考え、違う意味で面倒ごとが増えてしまった。

 

 

 

 

 

数十分後――――――

 

 

 

 

 

「皆サン、砲台ノ有ル場所ハ、モウスグデス」

「すっかり、人が変わっちゃったわね」

「まぁ、流石にあんなことをされましたら、誰でもああなってしまいますわね」

「…やった本人は、涼しい顔だけど…」

 

様態の戻ったネプテューヌを境に、さっさと砲台の所へ行こうと言う事になった。案内をするリンダは、アイリスハートことプルルートの仕付けの一時的な後遺症により、まるで壊れかけたロボットのような喋りと動きをしている。肝心なネプテューヌは、薬の影響なのか自分が何やってたかは覚えていない様子。プルルートが“ネプちゃんは可愛かったよ”とその時の事を言ったが、何故かネプテューヌは悪寒が走ったかのようにブルッとしている。

 

「皆サン、砲台ガ見エテキマシタ」

「…ぶっ!!」

『…え?』

 

確かに、そこには物騒な砲台があった。見た目は大型戦艦に積んでいそうな、主砲や副砲と言ったところだ。その主砲、副砲の先端からは大量のシャボン玉が、BGMのリズムと合わせているように放出されている。…俺としては砲台よりも大問題が、そこで踊っている女性達が水着を着てなく、それこそ謎の光草も無しにダンスエボリューションの如く踊っている。流石に光景に、手で目元を隠す。

 

「ん~?どうしたのぉ、えー君?」

「…刺激が、強すぎる」

「ああ…遊び過ぎて忘れてたわ…。そんな事より、これが例の砲台よね」

「でも、これじゃあ只のシャボン玉製造機だよね?」

 

と、話しているうちにタイミングよくBGMが終わり、放たれていたシャボン玉が止まる。そして、砲台全問が上の方へ向く。

 

「…何か、仕掛けてくる?」

「何を、する気なんですの?」

 

全員が、何か仕掛けてくると思い身構えるも、再び別のBGMが始まり、先程の量とは比較にならない程のシャボン玉が放たれる。

 

「うわぁ~」

「綺麗だなぁ~」

「…じゃなくてぇ!私達は、こんなものの為に態々調査しに来た訳!!」

「っ…!」

『永守(えい君)!?』

 

と、ノワールからしたら完全に骨折り損の草臥れ儲けとも言える状況である。見た目こそ攻撃性のありそうな砲台にも関わらず、見た限りではBGMに合わせて放たれる、只のシャボン玉製造機である。しかし、その大量のシャボン玉が放たれている時、その砲台の上部あたりに、見覚えのある人物と、もう一人誰かが居たのを見る。しかし、近くに寄った時にはそこには誰もいなかった。

 

「どうしたのよ、永守。いきなり走り出して…」

「…今、アノネデスともう一人誰かが居たように見えた」

「…何言ってるのよ。あいつは報告によれば、今も刑務所の中にいるのよ?」

「だといいが…」

 

確かに、ラステイションの刑務所は未だに脱走者がいないと聞く。だからこそ、それはあり得ないと言いたいのだろう。だが、何かしら協力者や内通者が居るのなら話は変わってくるのではないか。

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ:教会ベランダ】

 

完全に“骨折り損のなんとやら”とブランが呟いたように、収穫としては“見た目が武装放題の施設の1つ”としか言いようがない状態だ。帰る前にR-18アイランドの土産(ほとんどがプリンなのだが)を購入しプラネテューヌに戻るも、すっかり夜になってしまった。…まだ一日経ってないからか、未だに女性のままだが…。

 

「たっだいまぁ!!見て見て、こんなに買ってきちゃったよ!!」

「お、お帰りなさい…」

「ふふん、これぜーんぶネプのプリンだよ。これで喧嘩しなくて済むね、ピー子!!…あれ?」

 

全員明るく迎えてくるかと思ったが、出迎えた全員が何やら嬉しくない朗報でもあるかのような表情をしている。その答えが、今目の前にある。出迎えの中に、ピーシェの姿が居ない。

 

「…ピーシェはどうした。疲れて寝落ちしたか?」

「いえ…そうではなくて、非常に言い辛いのですが…」

 

 

 

「っ!!」

『ね、ネプテューヌ(お姉ちゃん)!!』

 

イストワールからの話は、最近作られて話題となっている保育園の先生と名乗る人が夕方前に訪れ、ピーシェを是非ウチで預からせて欲しいと頼み込んできたと言う。最初はイストワールも戸惑い、お茶を用意する為に席を外したが、戻ってくるとピーシェが保育園の方に行きたいと言い出した。その話を聞いた瞬間、ネプテューヌは教会内に猛ダッシュで入っていく。恐らく、ピーシェを探す為に走り出したのだろう。

 

「…ピーシェがそんなことを言ったのか」

「はい…私も信じがたいのですが、ピーシェさん本人が保育園へ行くと申しまして…」

 

場所をロビーに変え、当時の状況を聞くことにする。イストワールも、ピーシェの変わりように戸惑ったものの、ピーシェ本人の意志は固く、止める義務はないと判断しばた為に承諾し、俺達が帰ってくる一時間前にはピーシェを連れて行ってしまったと言う。

 

「わたし達が、しらないうちにでてっちゃって…」

「さみしい…(うるうる)」

「で、でも、きっと直ぐ会えるんだよね?」

「それが、住所を聞く前に出て言っちゃったのよ…普通だったら信じられないけど」

「そんな…」

 

自分の意志とは言え、腑に落ちない所がある。ピーシェの性格を考えれば、ねぷてぬの方がいいと言いそうだが、それをあっさりと保育園の方に行きたいと言うのが可笑しい。

 

「離れている間に、何かあった事は?」

「いえ、特に荒らされたとかそういう事はないので…だた、一つ気になるのは、あれだけお気に入りでした、プルルートさんが作ったネプテューヌさんの人形を持って行かなかった事ぐらいしか…」

「ピーシェちゃん…」

 

…プルルートお手製のネプテューヌ人形を、持っていかなかったというのがやはり引っかかる。R-18アイランドで一瞬だが見た人物と言い、ピーシェの変わりようと言い…何か裏がありそうだ。全員が帰ったら、色々と調べてみるしかないが、何より一番心配なのは…ネプテューヌが辛そうな顔をして飛び出していった事…あんな顔をしたのは、俺を魔剣で刺した時以来だ。一体、何が始まろうとしているんだ…。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

【プラネテューヌ:???ビル】

 

「つ、連れてきました…」

「ご苦労様、予定通りじゃないの」

 

人気の少ないとあるビルに、キセイジョウ・レイがピーシェを連れて入っていく。そして、その部屋の奥にはラステイションの牢屋にいるはずのアノネデスがいる。

 

「あ、あの…ほ、本当にこんなことしてよかったのでしょうか…?それに、あ、あのビンに入ってたのは、結局なんだったんですか?」

「…今更怖気づいても遅いわよ?アタシ達、既に引けない所まで首を突っ込んでるんだから。そもそも、レイちゃんが言った事じゃないの。持っていたビンだって、あなたが持ってたものじゃないの」

「そ、それはそうですけど、なんで私があんな説明付きのを持ってたのも、良く覚えてないんですけど…」

「変わった娘ねぇ。全てあなたの言った事通りに動いてるじゃないの。“こ、これで100%上手くいきます、た、多分…”なんて言ったじゃない。あれだけ反女神と訴えてた上で、世界を変えると言ったのを忘れたわけじゃないわよね?その胸の奥に何か野心的なのが見えた気がしたんだけどぉ…」

「うっ…確かに言いましたけど、そこまで再現しなくても…」

 

キセイジョウ・レイが、全ての作戦を考えたような事をアノネデスが言うが、何故自分があんな事を言ったのか、どうしてこれで成功するか、当の本人は上手く行った事が不思議な事だと思っている様子でいる。犯罪組織マジェコンヌが現れた際は、願ったり叶ったりの状況のように見えたが、どういう訳か自分の方針とは違ったらしく、犯罪組織には非協力的だった。そういう事もあり、アノネデスは自分の拘りがあるのではないかと思い、新しい国の下準備もしていたにも関わらず本人のこの反応に呆れつつも、キセイジョウ・レイの引かれたレールが順調に動いている事にも興味があるらしく、表面上は協力をしている。

 

「あ、あの、一人足りないような…?」

「ああ、あの忍者ね?彼ならもう来ないと思うわよ?」

「ええ!?どどどどど、どうして!?」

「彼は、お金に目が眩んで協力しただけだったしね。まぁでも、彼の協力が無かったら、彼女が上手く行動できず、アタシを助けるような事は出来なかったのは確かよ。だから、手助けをした彼に対して、アタシ自身は後始末する気はないわよ?」

「そ、そこまで言うなら、私も後追いはしませんけど…」

「でも、本当凄いわね、あなたが持っていた刀…。あなた自身が使い方知らなかった事も、彼女が直ぐに刀の力を引き出して使えたのは驚きだったけど、一番焦ってるのは、ノワールちゃんの国かしらね?まぁ、未だに騒ぎになってないから、脱走したのは把握してないようね」

 

アノネデスの隣に居る女性が持っている二本のうちの一本が、アノネデスを助けるのに役立ったと言う。何かをしたらしいが、兎に角未だにラステイションの牢屋の中には、アノネデス(偽)が居るようなことを言う。

 

「さ・て・と…やる事も済んだし、さっさと行くわよ」

「え、ど、何処に…ですか?」

「何よ、R-18アイランドに決まってるじゃないの」

「い、今からですか!?少し休んでからでもいいじゃないですか!?」

「そんな悠長な事は言ってられないわよ。彼、獨斗永守の存在はデカいわ。まさか、本物の女性になってR-18アイランドに来たのよ?アタシが直接見たのと、あなたの提示したデータ通りであれば、彼の行動力を見た限り嗅ぎつかれるのも時間の問題よ」

「獨斗…永守さん…」

 

その名を聞いた瞬間、一瞬だがキセイジョウ・レイの表情が険しくなった。だが、直ぐに表情はいつも通りのおたおたした表情へ戻る。それでも、嗅ぎつける可能性を考え直ぐ発った方が良いと思ったのか準備を始める。静かに、だが大胆に、ゲイムギョウ界は何かが起ころうとしている。

 

 

 

 

 

 



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