咲-saki- 四葉編 episode of side-M (ホーラ)
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プロローグ
第0局[転生]






転生

小説や映画などフィクションものなどである生まれ変わりのことである。私も小説で何度かそういう話を見ていて、眉唾(まゆつば)ものだと思っていたが、実際自分の身に起こると衝撃を受けるのは仕方がないことだろう。

 

 

 

私の名前は宮永咲。咲-saki-という漫画の主人公と同じ名前である。自身もその影響で咲を読むと、原作咲も読書好きといった共通点が多く、自身も麻雀を始めるぐらいハマってしまった。

 

高3の夏、登校時にトラックに跳ねられ、目を覚ますと、そこはやはり病院のような場所であった。

体が動きにくいのは怪我をしているからであろう。誰か呼ぼうと思い声を出そうとするが口から出てきたのは嗚咽だけだ。

起き上がろうとして、ベットの手すりに手を伸ばす時に気づいた。そこにあった手はいつもの私のものではなく、赤ちゃんの手である。

コナン君のように体が縮んでしまったのか。しかしベットをよくみると、それは産後によく赤ちゃんが置かれていたベットに似ている。この状況から考えると転生、つまり世に言う「転生トラック」というやつか。

 

衝撃を受けるが、赤ちゃんに生まれ変わった以上、体が動かないので思考する以外のすることがない。どの世界線への転生なのかと考え、できる限り部屋を見てヒントを探そうとしたがその必要は無くなった。

私がいる部屋に入ってきたのは病院服のような服を着ている四葉真夜であったからだ。

 

四葉真夜とはライトノベルの魔法科高校の劣等生で出てくる主人公の敵のような役割のキャラだったはずだ。

私は本であればなんでも読むので、少年漫画でも官能小説でもライトノベルでも同人誌でもBLでもレズでも、全てがテリトリーである。そのことが功を奏した。

 

抱き抱えられ、ほうずりされながらも思考は止めない。どうやら私は魔法科高校の劣等生の世界線へ転生してしまったようだ。確かこの世界では魔法がどうたらこうたらという話だったはずだが、なぜか重要な部分はあまり思い出さない。話の根幹に関わる部分の記憶はブロックされているらしい。

よくある転生ものの、事件知ってるので先に対処しました、みたいなことはできないようだ。

 

 

 

私の固有魔法がわかったのは、自分では1歳の頃であった。

頭の中に咲のキャラがいて、そのキャラを2人まで選択することができる。そして、そのキャラの固有能力をこの世界に置き換えた場合の能力をイメージすることで、その能力を使えるというものだ。

 

例えば園城寺怜。

彼女は原作では1巡先を見るという未来視を行なっていた。これをこの世界に置き換えると同じく未来が見えるという能力になる。

練習することでどこまでの未来が見えるかは伸びていったが、見る未来が遠くなるにつれて疲労がたまっていく。これによりデメリットも引き継ぐということも判明した

 

しかしまだ使えないキャラも存在する。一番好きなキャラの主人公宮永咲の能力を使おうとしたが使えなかった。なぜなら槓や嶺上開花のような概念がこの世界にはなく、イメージができないからである。

 

2歳の頃、大人たちも私にこの力があるとわかったようだ。喋り方やオーラがそれぞれ違うということから神を纏っているように思えたそうで「神依」とこの能力を名付けた。つけた人はネーミングセンスがある。

 

私はこの能力により、たくさんの固有能力や固有魔法を使えることから後継者筆頭となる。

 

確か真夜は原作では襲われて生殖能力を失っていたはずなのだが、この世界ではそんなことはなく私にも1歳下の妹ができた。名前はみなもだ。明らかに咲関係の名前であり、ある神依はみなもと一緒に行うので、それとなく異世界からの私と同じ転生者か聞いてみたがどうやら違うようであった。

母の姉、深夜にも2人の子供がおり、それはもちろん達也と深雪である。達也と深雪は司波ではなく、深雪は生まれた時から、達也は高校入学前から四葉の姓を名乗ることになった。

 

私は真夜に達也と深雪と共に同じ国立魔法大学附属第一高校に入学するよう言われ、入学することとなる。

 

波乱の高校生活が始まろうとしていた。

 




2人でやる神依なんて一つしかないですよね…



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入学編
第1局[邂逅]


3月末、魔法界全体を震わせる噂が流れた。それは四葉の一族3人が同じ一年生として国立魔法科学校に入学するとのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

そして四月、入学式の日がやってきた。

 

 

「やっぱり納得いきません」

 

入学式という華々しい日に似つかわしくない喧騒が校門前で起こっていた。

 

「どうしてお兄様が補欠なのですか!入試の成績だってトップではあったでありませんか!」

 

「まだそんなこと言っているのか」

 

達也は頭が痛そうにしていた。そういう私も頭を抱えていた。この話はもう幾度となく入学前にやっているのだ。

 

「深雪あのな、ここは魔法科学校なんだ。いくらペーパーテストがよくたって魔法技能が優先されるのは当たり前だろ?俺の技能からしたら二科生の中でも下から数えた方が早いぞ、逆に受かったのが奇跡だと思う」

 

「そうよ深雪、そんなに怒ると雪が溶けて深水になるわよ」

 

達也の言ってることは事実であり、私も、そしてその話を聞いていた妹も納得していたのに深雪だけは未だ納得していなかった。しかし私も何を言っているのだろう。

 

「そんなこと言って!お兄様に勉学や体術で勝てる人はいません!それにお姉様は私に新入生総代を譲るために点数調整したでしょう!」

 

怒りの矛先が私に向いた。

 

「深雪の可愛い姿を見たかったのだけどダメだったかしら?」

 

「申し訳ございません、あのようなこと言ってすみませんでした」

 

私はちょっとショックを受けたふりをしてごまかすことにしたが深雪はそれにうまく引っかかってくれた。

 

 

入試の結果はこうだ。

総合

1位四葉深雪 2位四葉咲

 

魔法技能

1位四葉咲 2位四葉深雪

 

これを魔法強度と魔法発生速度に分けると、

 

速度

1位四葉深雪 2位四葉咲

 

強度

1位四葉咲 2位四葉深雪

 

ペーパーテスト

1位四葉達也 2位四葉深雪 3位四葉咲

 

 

このように上位を四葉が占めてしまった。お母様が四葉の力を見せつけるためにある程度本気を出せと言ったので、このような結果になったのであった。達也は世間では知られていないが、私は「四葉三姉妹」の長女、深雪は次女と世間では言われている。深雪と私は姉妹ではないのだが世間には間違って伝わっているようだ。まあ、秘密主義の四葉であるので、私たちの身の回りの人間しか従姉妹という事実は知らないのだが。ちなみに一番有名なのは十四使徒の1人三女みなもである。

 

「それに深雪、今さらそんなこと言ってもしょうがないだろ」

 

達也の冷静なツッコミが深雪には追い討ちとなった

 

「申し訳ございません、お兄様…」

 

「謝る必要は無い。お前は何時も俺の代わりに怒ってくれる。それだけで俺は救われてるんだ」

 

「嘘です…」

 

二人の世界に入ってしまった二人をほっておいて、私は本を読むために手頃なベンチを探した。入学式まであと3時間はある、一冊は読めるだろう。なぜこんな早い3時間前などという時間に入場したかというと深雪が新入生総代として答辞を読むための打ち合わせをするためだ。

 

構内には人数がそれほど多いわけではないが準備で早くきている生徒もいる。木を隠すなら森の中というが、人数が少ないので早く来て本を読んでる私は異端で目立つはずである。

しかし通り過ぎる人も誰も視線を向けてくる人はいない。

それもそのはずだ。

私が人除けの術を敷いている。東横桃子のステルスモモという能力だ。

 

原作では、自分や自分の捨てた牌を相手の意識から排除し、他の人に振り込ませたりしていた。

風景の一つとして意識に入れないことにする魔法であり、カメラを通すと意味がない魔法なのだが、排除とか警告を含めていない術式ならば感知されにくく、まず意識に上りにくい。

これは遮音壁も同時展開することが一応できるので、私たちの会話が大声などを出さない限り外に漏れることもなく、私が設定を変えない限り外の音が私たちに聞こえることはない。だが私はこれを使うときはほとんど本の世界に入り込んでいるので使うことはまずない。

 

この能力を使えば、よほど感知系や空間認知能力に優れた魔法師でなければ、気づかれることはないだろう。

 

しかも、この魔法は古式魔法に似たようなものがあり、固有魔法に見えない。

本気を出せば達也の精霊の目のような知覚能力者持ち以外に対して透明人間のように使うことができ人に対して強度は高いのだが、先に述べたようにカメラに対して無力であるので、そこは古式魔法より使い勝手が悪い。逆に言うとカメラを通して見ると何も魔法を使っているように見えないので魔法の探知もされにくいという利点もある。

 

「ここにいたのか」

 

「よくわかったわね」

 

「目を使わなくてもこれぐらいはもうわかる」

 

深雪には効くが達也にはステルスモモはもう効かない。深雪に対して使うとびっくりするので驚かす時によく使っている。

 

 

「そろそろ行くぞ」

 

「そうね、そろそろ時間だわ」

 

腕時計を見ながら言う、私は本や腕時計などのアナログ的なものを前の世界の記憶から手放すことはできなかった。

 

講堂への道を歩いていると幾分か賑やかな声が聞こえてきた。新入生やその両親などが入場しているのだろう。

 

一科生で晴れやかな顔、二科生で落ち込んだ顔、何より一番多かったのは恐怖や緊張の顔であった。

 

「達也さんあんまり怖がらせるのはよした方がいいですよ?」

 

「あいつらが勝手にビビっているだけだ、俺は関係ない」

 

入場していく人達は今年同学年で入ってくる四葉の三人、特に達也にビビっているのだ。四葉にはいい噂がないのは知っている。お母様は攫われることなく七草弘一との婚約を解消しただけという風にこの世界はなっており四葉がアンタッチャブルと言われるようになったきっかけはないはずなのだが、他の事件が起き、アンタッチャブルと言われていた。私と深雪は四葉の次世代として知られていて、女子ということもあり、あまり怖がられないだろうが、知られていなくなおかつ男子の達也がよほど怖いのだろう。

 

 

 

 

「新入生ですね、間も無く式が始まりますよ」

 

「すみません、今向かいます」

 

先輩の登場に私たちは頭を下げた。その時腕にはめられたブレスレット型のCADが目についた。学校内でCADを携帯できる生徒は原則風紀委員か生徒会の役員だけである。普通の生徒は授業や部活動で使用する時以外はCADを学校に預け、放課後に引き取るという校則になっていだはずだ。ちらりと横を見ると達也も顔には出ていないが警戒しているのが分かった。

 

「あ、自己紹介がまだでしたね。私は生徒会長の七草真由美です。七草と書いて“さえぐさ”と読みます。よろしくね」

 

なるほど、やはり大まかな部分は変わらないようだ。この世界でもその噂は聞いていた。九校戦での活躍は名高いし、十師族に相応しい技量の持ち主だと聞いている。七草とは家の関係でつながりはあるが、秘密主義の四葉ということもあり四葉当主の娘である私でさえ直接会うことは初めてだ。

 

「自分は四葉達也です」

 

「四葉咲です」

 

 

余談だが私は四葉咲という名前が気に入っていた。四葉のクローバーが咲くというようで縁起が良さそうに思えたからだ。

 

「貴方達が四葉家の方々ね、達也くんは魔法理論平均70点のところ満点、もちろん歴代1位、咲さんは歴代魔法強度1位、その上総合歴代最高得点の深雪さん、どんだけ過去の歴史を更新する兄妹なのかしら」

 

どうやら成績の他は知らないような口ぶりだが嘘であろう。私と深雪の顔は売れているだろうし生徒会長ならば顔付きのプロフィールも見れるだろうし四葉が三人も入ってくるのだ。当然警戒するだろう。

 

 

魔法力は国際ライセンスに基づき、魔法を発動する速度と魔法式の規模と対象物の事象を書き換える強度で定義される。私は強度だけで言えば、深雪よりも上だったわけだ。

 

私は入試の時江口セーラと渋谷尭深の能力を使った

私の神依は固有魔法に加えて今の自分の魔法力に神依させたものの雀力が魔法力に置き替わり上乗せされる。

しかしどちらも上乗せされるのではなく雀力の高いキャラの方しか上乗せされない。

インターハイAブロック準決勝中堅戦では江口セーラが勝っていた。つまり入試の時では江口セーラの雀力が上乗せされていたのだ。

江口セーラの麻雀は速さより点数の高さを追い求めたものであり、それをこの世界に置き換えると速度より強度となるわけだ。

 

つまり速度はあまり上乗せされず強度はかなり上乗せされた、江口セーラは無能力なので上乗せされる固有魔法はないが、渋谷たかみにはハーベストタイムがある。

これはオーラスに今までの局一打目に捨てたハイが配牌に戻ってくる能力でこの能力は役満を上がりやすい、つまりこの能力も強度に関係する能力になるのである。

 

入試は4回魔法の強度を図って最高の値を取るのだが最後だけはハーベストタイムにより今までの強度をプラスされるので歴代最高強度となったわけだ、なお1〜3回目は手を抜いていた。

 

なぜこの二人を選んだかと言うとある程度本気を出せと本家に言われたのと、ある程度真面目に取り組まないと深雪になんて言われるのかわからない点、そして固有魔法を見せないためである。

ハーベストタイムはただ単純に強度が高いと言えば固有能力に見えない。

なおかつ神依時の性格は雀力が高ければ高いほど私の性格が置き換わっていく。二人共雀力が高い場合は二人の性格が混ざったものとなるのでセーラは陽気な(うるさい)関西人、渋谷は静かな子であるので混ざって性格は普通の関西人となったのである、つまり江口セーラの性格で無駄に目立ちたくなかったのである。最近は神依が馴染み、性格を乗っ取られることは少なくなったが、ある四人のキャラは未だに意識がなくなる。

 

余談だが神依するキャラの雀力が違いすぎると雀力大きい方が小さい方の性格を途中から飲み込んでしまう。また雀力が高くても今の性格と大きく違わないならば性格は変わることはなく口癖(例:SOA)などがうつるぐらいである。

 

閑話休題

 

だが私以上の結果を達也は残している。

 

「それはただのペーパーテストの結果ですよね?」

 

基本的に魔法実技が出来なければ理論もできないと言われる。それだけ達也の結果は実技結果とかけ離れて異常だったということだ。ちなみに私の理論はダメダメである。

私も結果を見た瞬間、驚いたものだ。

深雪も低い点数ではないし、実際理論の部門では次席だ。しかし、達也の成績は深雪の点数を平均で10点近く上回っていたのだ。私のペーパーテストはあるズルを使ったにもかかわらず、神依二人を変えずに挑んだので江口セーラが色濃くでて3位だったが、もし本気を出して偏差値70コンビ新子憧と小走やえの神依を使っても深雪には勝てても達也には勝てなかったと思う。

 

 

「そんなことはないわ。私が同じ試験を受けたとしても満点が取れるとは思わないわ。これでも理論も結構得意なんだけれどね。それに、咲さんも学校のあの機械であの強度は驚異的だわ」

 

「恐れ入ります」

 

「ありがとうございます」

 

会長もあの機械と言っていることだから、多少不満が見えた気がした。

その後、小柄で可愛らしい小動物のような先輩が会長を呼びに来て、私たちも会場へと向かった。その先輩は私たちをみると震えていた。

そういえば原作咲さんも龍門渕や阿知賀をビビらせていたなあと思うことで気にしないことにした。実際ああやって震えられると少し心にくるものがある。

 

入場するといきなり奇妙な光景を目にした。

 

「こんなにくっきり分かれるものかしら?」

「そうだな」

 

一科生と二科生がくっきりと前後ろで別れていた。

 

 

多分前にニ人で座ってもとやかく言われることはないだろう。何か言われたら家の名を出せばビビらない魔法師はいない。しかしそんなことで家の名を使うのは嫌だった。

 

「それじゃあ俺は後ろに行くよ、また後でな」

 

結局達也が後ろに座り私は前に空いている席を探しに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この世界の咲さんのイメージは髪の毛ペールゴールドのロングです。咲で言えば雀明華


キャラ解説

東横桃子
敦賀学園一年 とにかく影が薄い、どれぐらい影が薄いかと言うとカブトムシより影が薄い

江口セーラ
千里山女子三年 普段は学ランを着ておりまだ体力を誇る 関西最強の強豪校の元エース

渋谷たかみ
白糸台高校二年 おもちな人でいつもお茶を飲んでいる眼鏡の静かな子。


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第2局[注意]

短いです、達也視点


咲と別れ達也は後ろの席に座った。

 

隣に誰が来ようと別に達也は関係ないが、咲達がいた方が少し気楽だ。

前の方の咲を見ると本を読み自分の世界に入っているようである。周りの生徒が咲の美貌にざわめいているようだが咲は気にしていない。こういうのはいつものことだからだ。咲は面倒ごとが舞い込まないように、いつも本を読むときはステルスモモを使っているが、流石に会場に入ってからは使っていないようだ。少し時間が経つと隣の席に女子生徒が座る。視線を感じてそのまま横を見れば、やはり彼女は達也の事を見ているようだ。

 

「どうかしましたか」

 

何か粗相をしただろうかと考え、話しかけた。

 

「私、柴田美月と言います。よろしくお願いします」

 

 

 彼女は自己紹介をしたいと思い、達也の事を見ていただけのようだ。

 

「四葉達也です。こちらこそよろしく」

 

美月は一気に顔を青くしたが、達也は他のことを考えておりそんなことに気づくことはなかった。

 

霊子放射光過敏症

 

よほどの先天性視力異常でも無い限り、今の時代に視力矯正は必要ない。咲は神依の時「次鋒は眼鏡率高いんだよ」とかよくわからないことをいい眼鏡をかけたりするが、それと同じと言っては失礼だが視力矯正で眼鏡を掛けている訳では無い事が分かったのだ。そして彼女は咲と違いおしゃれで掛けていないと決め付けるのなら、霊子放射光過敏症の可能性が高いと、達也は考えた。

 

見えすぎる目、もしかしたら咲の神依の正体も見えるのかもしれない。

 

霊子放射光過敏症とは、意図せずに霊子放射光が見える、意識して霊子放射光を見えなくする事が出来ない、一種の知覚制御不全症だ。とは言っても病気でもなければ障害でも無い。感覚が鋭すぎるだけなのだ。咲もこれらしいが咲はうまくコントロールしている。咲は神を操るだけあって霊子に過敏だが、咲がいうには先天的なものではなく幽霊を見ることをイメージしたらできたらしい。

 

話を戻すが霊子放射光は、それを見ている者の情動に影響を及ぼす。その為に霊子放射光過敏症者は精神の均衡を崩しやすい傾向にある。もし咲のが先天的なものであっても、もともと神をたくさん宿すような咲はこれぐらいじゃ精神の均衡は崩れることはないだろうが。その状況を起こさないために一番簡単にとれる手段が特殊加工されたレンズを使った眼鏡を掛ける事だ。

 

彼女の前では注意した方が良いかもしれない

 

達也達には色々と秘密にしなければいけない事がある。彼らが四葉とわかっていても全てを知らせていいわけではない。手の内はいかに隠しとくのが大事なのだ。咲は「私の組み合わせは無限大だからバレても平気」とかうそぶいていたが案外しっかり隠している。いくら彼女が霊子放射光過敏症の可能性が高いとは言え、そう簡単に見破れるはずもないのだが、達也は心の片隅にその事を覚えておく事にした。

 

「あなたが今年入学する四葉家三人の残り1人ね、あたし、千葉エリカ。よろしくね、四葉君」

 

「こちらこそ」

 

やはり入学前から達也たちは話題になっていたのだろう。あと紹介された苗字が気になる。

 

千葉ということは数字付きか? だが、千葉家にエリカと言う娘は居なかったはず、四葉でいう俺みたいなものか?と考えているといいや聞いちゃえという風にエリカに話しかけられた。

 

「ちょっと失礼かもしれないんだけど、四葉なのに二科生って、入試の時手を抜いたの?」

 

「いいや、俺は理論だけで四葉の末席において貰ってるだけの身でそんなに魔法力はないんだ。ここに入れたのも奇跡のようなものだよ」

 

事実を述べると美月の顔は明るくなりエリカの顔は少し疑問そうになった。

 

「理論だけで四葉名乗れるって相当なんじゃないの?」

 

「妹や従姉妹とかが叔母に進言してくれたからな、叔母はあの子達には弱いんだ」

 

エリカは本当は納得した訳では無さそうだが、これでこの話は終わりという態度を見せるともうこの話はしなくなった。無闇に波風を立てる必要も無いだろうと感じたのだろう。特に同じ二科生同士、これから色々とあるだろうからと。他に二つ三つたわいもない会話をした後達也は横の美月の邪魔にならないよう通路側に肘をつきもう片方の手で腕を握り睡魔に身を任せ眠りにつくのだった。




達也視点だと原作と変わらない


次鋒が眼鏡の学校
清澄、敦賀、龍門渕、風越、新道寺、永水、東福寺、阿知賀(2話、13話)
合計8校
眼鏡キャラが次鋒ではない学校
白糸台、晩生、臨海、今宮、姫松、千里山、剣谷、越谷
合計8校

平均したら20%になるはずなのに次鋒率5割だし統計的には次鋒は眼鏡率高いと言えそう(フナQ並感)


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第3局[歓迎]

またまた短いです


私は入学式が終わると次のIDの交付まで1人ですぐ終わらしてしまい木陰で再び本を読んでいた。考えていたのはさっきの入学式のことだ。深雪がミスをするとは思わなかったがところどころ際どい言葉が入っていて驚いたのだ。

 

講堂の様子も見たらわかるように一科生二科生の意識の差は確実にある。

私は生まれたからには迷惑をかけない範囲で他の人を気にせず自由に生きればいいと思ってる。しかしそれができない事実も前世とこの世界で見てきてしっている。

私はそういう意識の差に辟易していたので深雪の答辞に心から拍手を送ったのだが一科生の中ではあまりよく思わない人もいるだろう。

 

そんなことを考えていると達也と深雪が知らない女子生徒2人を連れてやってきた。

 

ステルスモモを解除するとそこにいると知らされていた深雪は少し、他の2人はかなり驚いたようだった。

 

「そちらは?」

「この2人はクラスメイトだ」

「初めまして私は四葉咲、達也さん達の従姉妹です」

 

「柴田美月です。よろしくお願いします。」

「私は千葉エリカ、咲って呼んでいい?」

 

「ええ、四葉だと三人もいて誰やねん!ってなりますしね」

 

少し私の表現が面白かったか意外かだったのか2人は顔を見合わせた

 

「四葉って聞いてたけど…深雪も達也君もだけど…咲も意外とフランク?」

 

「家は悪い噂もあるけどそんなとって食ったりしないわよ。必要以上にビビってる人が多いですけど」

 

柴田さんは少しビビっているようだったがこれぐらいならいつもに比べましな方だ。千葉さんに至っては普通の人と変わらない感じで話してくれる。それが少し嬉しい。

 

「お姉様は何組だったのですか?」

 

「B組よ」

 

「深雪はA組でした、同じクラスになれなくて残念です」

 

主席と次席を同じクラスにすることは普通に考えてまずない。たぶん均等にするためにABCD組に入試成績1.2.3.4位と順番に振り分けていったのだろう。

 

「次席と主席が一緒だとクラスバランス崩れちゃうから当然よ」

 

深雪の頭を撫でながら言うと深雪は納得したようだ。深雪は私に頭撫でられるのが好きで笑顔を浮かべている

 

 

その後エリカの誘いでカフェテリアで食事を取った。エリカは学校の構内図を覚えていなかったそうだがケーキ屋やカフェテリアなどは事前に調べていたようだ。その時深雪から深雪と達也が受けた扱いを聞いた。驚いたことに達也は司波ではなく四葉なのに二科生というだけで少し馬鹿にされたようだ。

ちょっと痛い目見させてあげないといけないなあ。

 

 

 

 

 




この世界の咲さん戦闘狂すぎる


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第4局[豹変]

前の小説の投稿部分までは追いつきました


登校しながら聞いた話だと達也は昨日先輩に本当に四葉なのかという目で見られたようだ。

軽蔑されるよりましだがそういう目も大概鬱陶しい。大変だろうなと思いながら歩いていた。

 

昇降口まで達也と深雪と同じだったが昇降口は一科生と二科生で違うのでそこで達也と分かれた。こういうのが差別意識を助長しているのだと思うのだが高校側も今更変える気はなさそうだ。

 

 

「四葉さんたち魔法トライアスロン部に入らない?」

 

「古式魔法部はどう?」

 

四葉さんたちと言っているが狙いは私だ、 先輩たちが達也が離れた瞬間を見計らって次々と私に声をかけにきたのだ、もう既に深雪は新入生総代として知られており生徒会に入るのはほとんど確定だろう、だが私は生徒会に入るかもわからなく私は入試で強度歴代最高を出したこともある。それにもし四葉の名前を上手く使えば色々便宜を図って貰えるかもしれないので四葉の名前は怖いが早くリクルートしたいのだろう

 

 

「先輩たちの厚意はありがたいのですが部活動勧誘は1週間後からではなかったでしょうか?」

 

部活勧誘されるだろうと予測していた私は規則違反ではないかという意味も込め断る

 

「部活単位として声をかけるのは来週でも今は個人として声をかけてるのよ」

 

なるほど、そういう理屈ならこの行為は合法なのかと少し納得してしまったが教室まで付いてくる厚かましさに少し辟易してしまった。

 

「人気者で大変だね、あっ、私の名前は明智英美、日英のクオーターで正式な名前はアメリア=英美=明智=ゴールディ。エイミィって呼んでね」

 

「私は四葉咲、よろしくお願いしますエイミィ」

 

クラスに入って初めて話しかけられたのは赤髪の女の子、エイミィだった。四葉という苗字にも全くビビっていない、そういう性格なのだろう

 

「で、咲はどの部活に入るの?咲ってあれでしょ、歴代最高強度を出したんでしょ?魔法トライアスロン部とか強度とか重要だし良さそう」

 

魔法トライアスロンは魔法を使ってトライアスロンする部活だ。スタミナの役割を持つサイオン量も重要だが馬力の面を持つ魔法強度もこの競技では重要だ。逆に瞬発力の面を持つ魔法速度はあまり重要なファクターではない。

 

「文芸部に入ろうかと思ってるの。この学校でしか読めない本あるし」

 

「えーなんか魔法使えるのにもったいないよー」

 

「魔法が使えるからって魔法使う部活に入らなくちゃいけないということはないわ」

 

「確かにそうだね!」

 

エイミィと仲良く話すことにより四葉と聞いてビビっていた周りの人たちが私に話しかけたそうにしだした。これはいい傾向なのだが年度の最初は無駄に話しかけられることが多く読書の時間を妨げられる。2人3人との会話ならいいのだがひっきりなしに話しかけられるのは正直言ってめんどくさい。私はさっさと履修登録して逃げることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「咲、またサボりか」

 

履修登録を素早く終わらしステルスモモで教室を抜け出した後、学校の施設を回るはずの時間工房の前の木陰のベンチで本を読んでいると達也に声をかけられた。

ステルスモモを解除するとこの光景を見るのが二度目のエリカと美月もびっくりしており今日初めて見る達也の横にいる男子生徒は目を丸くしていた。

 

「サボりじゃないわよ、初めまして、四葉咲です、達也さんと同じ苗字なので咲でいいですよ」

 

この世界に来て習った綺麗なお辞儀をすると達也以外の3人は再び驚いたようだ。

 

「西条レオンハルトだ。レオでいいぜ」

 

自己紹介をしたレオはかなりできるという気配がしたが口に出さないでおいた。

 

「サボりじゃなくて読書。読書は知識を広げる素晴らしいものなのよ、3年間通っても行くかわからない施設に行くよりは知識量が増えていいわ、もし行く時になれば調べればいいし」

 

達也はこめかみを押さえた。中学の時、達也はまだ司波だったが咲と同じ学校に通っていた。その時から咲がこういうことをよく言ってた。ただ単純に読書したいがために屁理屈を言ってるだけなのだが。

 

「まあいいか、サボってるの見つかるなよ」

 

そう言い残し達也たちは工房に入っていき私は再びステルスモモを発動した

 

 

 

 

 

 

昼休み、私は文芸部の集まりに参加した

 

 

文芸部の集まりには何人か既に集まっていた

 

「塩釜先輩お久しぶりです」

「よ、咲1年ぶりか?」

 

この人は塩釜京子、実はこの人は本家の分家の分家であり、私とは親戚関係なのだが塩釜家は裏任務が多い分家なので四葉と関係があることが秘密である以上、先輩後輩の立場を取るのが一番いい

 

「いつもお弁当ありがとうございます」

「礼はいいって、咲に食べさすには申し訳ないぐらいの下手の横好きだからな」

 

この人と会うときはいつもお弁当を作ってきてくれる、咲様に会うのにこれぐらい当然といつも言っているが少し申し訳ない

作ってきてもらったお弁当を食べながら自己紹介が始まる

 

「四葉咲です。四葉は他に二人いるので咲でお願いします。」

「私は南部晴季、四葉咲ちゃんって言ったらあの四葉家でなおかつ入試歴代最高魔法強度の子でしょ?本を読むだけのうちみたいな部活勿体なくないかな?」

「いいえ、私はこの学校でしか読めない本を卒業までに全部読みたいと思っていますのでこの部活はぴったりだと思います」

 

まぎれもない本心だが理由は別にもある、本家との連絡は家でもできるが何かトラブル、例えば四葉の回線が傍受された時に使う連絡網として塩釜先輩との接触が必要なのである

 

「それはすごい目標ね。私は最上寿美礼、よろしくね咲ちゃん」

「先輩は卒業してあとは芦屋や朝倉や佐竹などもいるが今日は来てない、うちの活動いつ来てもいつ帰ってもいいし来る日も自由、本を読んでもいいし本に対する感想を話し合ってもいい、ま、とにかく自由な部活だ」

 

なるほど面倒くさくなくていい感じだ

 

「ちょっと文芸部だけ四葉さんをリクルートするのずるくない?」

「魔法トライアスロン部か、咲は自分の意思でここに来たからずるいもへったくれもないぞ」

「あの子は歴代最高魔法強度の子なのよ、こんな魔法使わないないような部活に入ってもしょうがないじゃない」

「それは咲が決めることだ」

 

塩釜先輩と勧誘の先輩が言い合ってるうちにどんどん今朝の勧誘の先輩が集まってきた。言い争いが激しくなって行くうちに私はめんどくさくなってきた

 

 

「先輩達」

「なんだ?」

「勝負しませんか?」

「は?」

「私に勝った部活に私は入ります」

「いや、だがな…」

 

それもそう、咲はあの四葉家であり歴代最高強度を誇って入学してきたから自信がない部活は言い淀んでしまう

 

「1vs10で構いませんので」

「1vs10?」

「その他のルールは私が決めますがご不満はありますでしょうか?明日の朝私の教室に取りに来て貰えればその部活と順番に勝負を受けることにします、私が負けた時点で勝負は終わり、その部活に入ることにします」

 

 

なにせ1vs10なのだ、四葉家といえども自分たちより年下、なおかつどんだけ強度が強くとも速度は新入生の中でもダントツに早い深雪に引き続き2位だが上級生から見れば少し早いぐらい、10人で先制できれば勝てる、勧誘たちはこれは明日早く来たもん勝ちだなと思っていたが塩釜だけは心の中で笑っていた。

 

 

私が教室に戻ると早くもそのことが話題になっていた

 

「咲、どこ行ってたの!一緒に回ろうと思ってたのに!あと先輩達に喧嘩売ったって話は本当?しかも1vs10っていうおまけ付きで?」

「喧嘩は売ってないけど勝負の話は本当よ」

「咲って意外と血の気が多いのね〜」

「エイミィは見た目から血の気多そうだけど」

「なんだと〜」

 

エイミィと話しながら周りを見てるとこっちを疑い見る目が多かった。さっきのことなのにかなり早く伝わってるようだ。

 

 

 

 

放課後、風紀委員に審判と会場の用意の挨拶に行くと好奇心の目が並んでいた。

 

「四葉咲です、今回はお手数をおかけします。よろしくお願いします」

「部活の引き抜き等は部活連の問題なんだがな、まあ十文字にも立ち会って貰えば大丈夫だろう」

 

摩利は完璧に淑女の立ち振る舞いをしているこの子が本当に1vs10でもいいとか言い出す戦闘狂なのか疑問を持っていた。だが四葉直系だったらやらかしそうな気もしていた。

 

「何時間競技場を取ればいいんだ?」

「100ぷ…2時間で大丈夫です」

「一個の部活何分で終わらせる気なんだ…」

「10秒ですよ」

 

 

 

 

 

 

次の日、咲のところに来た部活は25を超えていた、ただ単純に部活に来て欲しいところや単純に四葉家の実力を見たいという部活や何より1週間後の勧誘のためのマスコットにしたいという部活が多かった。

 

勝負の内容はただ単純なものだった

 

私を一歩でも魔法で動かせたら私の負け

先輩達を全員コートより外に出したら私の勝ち

というものだった

 

しかし変なところにこだわりがあり前半1分で決まらなかったら勝負が決まるまで続ける後半があるというものだった

 

これは圧倒的に咲が不利なように見え一番最初に取りに来た部活はガッツポーズをしていた。

 

 

授業は既に始まっており実技の時にエイミィと咲は一緒になった

 

「咲、本当に1vs10で勝てるの〜?」

「勝てるわよ、ちょっと本気出すから勝つのは私に見えないかもだけど」

「どういうこと?」

「まあ見てればわかるわ」

 

咲が何を言ってるかわからないエイミィは今日の放課後咲の試合を観に行くことを決めた。

 

 

 

放課後異変に気付いたのは数人だった

真由美、摩利、十文字、四葉兄妹、塩釜

 

いきなり大気が震えるような感じがしたので真由美はクラスメイトに聞いたが何も感じなかったと答え、摩利は少し恐怖を覚え、深雪は嬉しそうに笑った。

 

 

放課後、たくさんの人が闘技場に集まった。秘密主義の四葉、その力の一端を見たいというところだろう。真由美や十文字は四葉三姉妹で一番やばいのは長女だと親から言われていたので他の人よりも注意して会場を見ていた。

 

 

 

 

 

今日、咲は半数以上の上級生と戦うことになる。四葉とはいえ摩利はそのことに不安ではないのかという疑問を咲に持っていた。真由美や十文字だってこんなことはしなかったからだ。しかし今日の咲は昨日とちがうように見えた。昨日の咲は完璧な淑女であったが今日は淑女ではなく天真爛漫な少女に見えたのだ。

 

「四葉、お前先輩10人相手と戦うのに怖くないのか?」

「摩利先輩、今日戦う相手は先輩じゃないよ、だって実力的に見れば私は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「高校100年生だじぇ!!!!」

 

 

 

 




明日からは1話ずつ投稿です


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第5局[完勝]

「高校100年生だじぇ!!!!」

 

 

摩利は耳を疑った、まず語尾も昨日の咲と全く違ったがそんなこと意識に入らなかった、なんだ高校100年生って留年97回してるのか、意味がわからない、考えるうちに出て来たのは

 

 

「馬鹿なのか?…」

 

しかしもう試合指定の位置に移動した咲の耳には入っていなかった

 

 

咲の最初の相手は魔法トライアスロン部、一番咲を熱烈に追いかけた部活だ、トライアスロンというだけあって魔法にも自信があり1vs10というのもあって速攻で勝てると思っていた。

 

 

摩利の審判のもと試合が開始された

 

当然先に仕掛けたのはトライアスロン部、力比べという相手の土俵に入る必要はないという作戦で10人の単一加速系魔法で吹っ飛ばそうとした、入学する前でも失敗するようなことがなかった魔法、しかしその魔法が発動することはなかった、サイオンのノイズが邪魔をしていたからである

 

 

「キャストジャミングか!アンティナイトは反則だろ!」

 

しかし咲はアンティナイトをつけてる様子はない

 

「池田より弱いじぇ!!」

 

咲は偏移解放を使い10人を軽々吹っ飛ばした

 

 

勝者咲

 

圧倒的だった、10人の魔法を同時に封じるなんてキャストジャミングしかないと思いトライアスロン部は摩利に詰め寄ったが事前に咲に言われ咲の持ち物を検査してた摩利は受け取らなかった

 

 

「今日の試合、私しか魔法を使わせずに終わらせる、この試合に後半戦はこない!」

 

 

咲が普段言わないような挑発した言葉を発するがそれを笑えるものはいなかった。

 

 

 

達也は深雪と昨日の校内を見て回る時に知り合いになったほのかと雫の4人で咲の試合を見ていた。

 

 

「お兄様今のは?」

「たぶん天照大神の「大」の力だろうな」

「やはり」

「天照大神?」

「どういうこと?」

 

深雪は納得したようだが咲という人を知らないほのかと雫の頭はハテナが飛んでいた

 

「簡単にいうと咲は多重人格なんだ」

「お姉様はいつもおとなしく本を読んでいて静かなお方ですけど人格が変わるとああなったりするんです」

「じゃあ「大」の人格に変わった時はキャストジャミングが使えると考えてもいいの?」

「そうだ」

 

 

嘘は言っていない、咲はさっきキャストジャミングをアンティナイト無しで使ったが「大」の本当の能力は違う

「大」の能力それは「絶対安全圏」

 

咲の原作「大」星淡が使う能力、相手の配牌を5シャンテンにする能力

麻雀がわからない人に向けて例を出すと毎回大富豪で1や2やジョーカーもなく革命も望めないような弱い札しかないどうやっても勝ち目ないだろみたいな手札を相手に押し付け自分は普通に配られたカードを使う、これだけでも圧倒的アドバンテージである

 

これを劣等生の世界に咲が置き換えた場合「相手は魔法を発動できなくなるか発動までにものすごく時間がかかる」という能力になる、しかしこれも完全ではなく固有魔法、達也の分解再生、深雪のコキュートス、真夜の流星群などは封じることができない、咲の原作は絶対安全圏などの支配能力はさらに強い支配能力や固有能力をぶつけると無効化することができる、なので大星の安全圏は比較的破られていた。それをこの世界に置き換えると魔法力の強い人の固有能力や固有魔法をぶつけると破ることができるのだ。しかし普段の咲と同じぐらい魔法力を持っていないと固有魔法でも発動できない。またこの世界特有の抜け道として絶対安全圏を破る方法もある。絶対安全圏は魔法式に流れ込む意識したサイオンの流れを封じている。なので意識しない呼吸のように魔法を使えるようになれば魔法を使うことができる。深雪はこの方法で絶対安全圏を撃ち破り、魔法を使うことができるがしかしそこまで到達するには相当な鍛錬が必要であり、真夜でさえ最初はこの能力の前に魔法を使うのに時間がかかったほどだ。

 

ちなみに咲はキャストジャミングをアンティナイト無しで使うことができる、それは咲はこの世界じゃないところから来た人だからだ。キャストジャミングは魔法による再現も理論上可能だが、魔法師本人の意識がジャミング用のノイズを構成しても、無意識下では本能的に拒否してしまう為、発動は困難とされている。しかし咲は無意識下で本能的に拒否してしまうことがない。それは別世界からの転生であるので魔法が使えなくなるからと言って無意識に拒否することがないのだ。それは咲以外知らないが達也と深雪はキャストジャミングをアンティナイト無しで咲が使えることを知っている。

 

 

「咲は優しいな」

「どういうこと?」

「独り言だ、気にしないでくれ」

 

 

咲がキャストジャミングを使ったのは絶対安全圏による相手の魔法技能喪失を回避するため、いきなり何もなしに魔法が使えなくなったら自信を失い魔法技能を失うかもしれない、なのでキャストジャミングも併用してキャストジャミングのせいで魔法が使えなかったと誤解させたのであろう

 

 

「「大」の能力ってすごいね、魔法師に対して最強の盾じゃん」

「そうだな」

 

 

「大」の能力は最強の盾でもあり最強の矛でもあるが勘違いさせとくのも大事なので達也は黙っていた。

 

 

「それじゃああの強い魔法も「大」の能力ですか?」

「いや違う、あれは前半だけは強い人格を呼んだんだろう、後半は失速し魔法能力は低下するだろうがこの咲が考えたルールにおいては問題ない」

「じゃあ咲さんは二つの人格を混ぜてるということですか?」

「まあそういうことだな」

「多重人格って大変そう」

 

 

前半に強い能力は片岡優希の能力である

彼女は東場に強い、東風戦においては魔境長野において個人戦歴代最高得点を誇っている、しかし東場が終わると弱い、この世界に置き換えると前半は強く後半は弱い。なのでルールに無理やり前半後半を作り前半を東場に見立ててこの試合を行なっているのだろうと10人を軽々吹っ飛ばしている咲を見ながら達也は思った。

 

 

「じゃあ「大」以外の天照大神はどんな感じなんですか?」

「いや俺も深雪も「大」以外見たことがないんだ、魔法戦で勝ったら見せてくれると言っているんだが」

「深雪も勝ったことないの?」

「ええ、あの状態のお姉様は私の魔法力を大きく上回りますもの」

 

 

大星淡は牌に愛されし子と言われ雀力が高校で10本の指に入るほど高い

なので「大」の力をまとった咲は矛盾両方の力を使えば十師族直系を2人相手にしても魔法戦に余裕に勝てるぐらい強い

 

 

「深雪でも無理…どの人格が一番強いんだろう?」

「咲は照が一番強いと言っているな、神は不安定だが照を凌駕する可能性もあると、天はあまり見せたくないらしい、あとその上にも…」

「達也さん?」

「いや、なんでもない」

 

 

 

 

 

 

 

咲は全部一瞬で片付けた、魔法行使し続けると疲労が溜まってきて弱くなるとかそういうことも咲はなかった、圧倒的サイオン量と魔法力だ

 

「マリ先輩!すごいでしょ」

 

摩利に咲は褒めて褒めてという顔で寄っていた

 

「すごいけどお前はなんなんだよ…」

 

と頭をポンポンとすると咲は撫でられた猫のようになり摩利はその様子にさっきの試合など忘れ可愛いと思ってしまった




大星淡
白糸台高校一年 性格は天真爛漫で高校100年生とか言い出すぐらいのアホ 本気を出すと髪の毛が逆立つ


片岡優希
清澄高校一年 タコスが好きでタコスに呪われている 咲唯一のノンケ枠 変な喋り方でありcvが釘宮さん





淡が強キャラに見える…まあ実際強いんだけど

感想を頂けると気力がアップし毎日投稿期間が増えます(たぶん)
こここうした方がいいよとかでもいいので言って頂けるとありがたいです。


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第6局[一蹴]

おまたせ、みんな大好き小走先輩登場
ニワ…


「ミユキー、タツヤー、久しぶりー!」

 

帰ってきた咲はいつもに比べてとてもうるさかった。すでに前半に強い能力の片岡と言われていた神の意識はないようだ。

天照大神以外の神依だと自分の意思で出すのも抑えるのも自由らしいが天照大神は一旦寝て目覚めるまで元に戻らないらしい、達也と深雪は「大」しかしらないのであくまで咲情報だが。

 

 

「淡ちゃん久しぶり」

 

深雪は咲を撫でる、なぜ淡と呼んでいるかというとこの状態の時に咲と呼ぶと反応してもらえず淡って呼んでって何度も言われたからだ、その当人の淡は深雪に撫でられてご満悦だった、いつもと逆の現象だが深雪はいつもの咲の状態ももちろん大好きだがこの淡モードの咲も大好きだった、いつもは読書が好きでもの静かで品がありちょっとイタズラ好きになのに淡になると人懐っこく天真爛漫さが溢れ出る少女のようになる、ギャップ萌えというやつか、実際咲は中学時代数回淡状態になりこのギャップ萌えで四葉の名関係なく男女構わず人気だった。

 

 

「淡、お前優しかったな、魔法技能喪失させないように絶対安全圏に加えキャストジャミング使ったんだろ」

「咲が久しぶりにミユキ達以外に絶対安全圏使ってもいいっていうからその条件のんだの、中学の時は深雪との対戦や仕事以外絶対安全圏禁止されていたし。ミユキに絶対安全圏破られるようになったし次のテルたち出てくるのも時間の問題だね、まああと5年は負けないけど」

「照って人はそんなすごいのか」

「すごいとかいう次元じゃないよ、手がギュルルルってなって本気になるとギギギってなるんだよ、あとテルには魔法や能力隠しても無力だからねー」

 

淡は基本アホの子なので会話が難しい、まあこれでも原作に比べてアホさが軽減されているのだが。

 

「淡に言われてみれば確かに今回難しい任務や深雪との魔法戦以外で淡呼んだの久しぶりだな、いつもは関西弁の神で十分とか咲は言っていたぞ」

「たぶん相当鬱陶しかったんじゃない?四葉の名で追い払っても良かったのかもしれないけど四葉の名出すの咲好きじゃないから。あともう関わるなっていう意思を見せるために圧倒的な力の差を見せつけたんだと思うよミユキを守るためにも」

「え?私?」

「私の考えだけど今回の騒動を見せることによって私やミユキに危害及ぼすなら容赦しませんよっていう意思表示なんじゃない?いつもより喧嘩ぱやかったし」

「お姉様…」

「ミユキのご飯食べて今日は寝るよー、今日は魔法たくさん使って疲れちゃった、攻撃モードも使わせてくれればもっと楽で楽しかったのに」

「たぶんそれだと今回のルールであの相手だと死んじゃうわよ、ご飯作るからちょっと待っててね」

 

 

淡はそれから深雪の作ったご飯を食べ達也と深雪とたわいもない話をして眠りについた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天照大神の神依から戻ってくるのは夢から帰ってくる感覚に似ている、今回の神依中の結果は覚えているが細かい部分までは覚えていない

 

「今回も何も問題がなければいいのだけど」

 

私は一つ背伸びをし下の階に降りると朝食を作ってる深雪がいた

 

「おはよう深雪」

「おはようございますお姉様」

「昨晩どうだった?」

「淡ちゃんは相変わらずうるさかったですけどあの状態のお姉様も大好きなのでいつまた神依してもらっても大丈夫ですよ」

「あの子にあんまり頼るのもよくないんだけどね、これからの生活の安全のために使っちゃったわ」

 

 

淡の予測通り勧誘が鬱陶しくもう近づくなという意味も込めてあの試合をしたのだった。

 

 

「達也さんは?」

「もうすぐ帰ってきます」

 

達也を待つ間深雪から昨日の詳しい顛末を聞いた

 

 

登校しクラスに入るとやはりクラスの人からの目線が変わっていた

 

今までは四葉の親族なので近寄りがたい存在や逆にお近づきになりたいと思っていた存在だったのが、あの試合を見て恐怖が上乗せされた感情もあるがあんなところもあるんだというギャップを持つ存在になっているのでこれから一緒に静かに暮らしていけば恐怖がなくなりクラスの人と仲良くなれるだろう。たぶん。

この方が面倒くさくなくていいと私は考えていた。

 

「咲!昨日すごかったね!!!」

「エイミィ見てくれていたのね」

「確かにいつもの咲と違ったね〜どういうこと?」

「私多重人格なのよ」

「え!?すごい!じゃあ昨日のも人格の一つってこと?」

「そういうこと」

 

エイミィは咲の力、四葉の力を改めて見直したようだった

 

 

 

 

 

 

放課後、十文字先輩に呼ばれ部活連推薦の風紀委員になれということなので昨日の勝負にお世話になったことから風紀委員会に入ることになった。風紀委員はあっても当番があっても週1だろう、CADの携帯の制限も解除されるしメリットデメリットで考えるとメリットの方が大きい。断る理由がなかった。劣等生原作だと空きがなかったはずだがそこも原作と違うらしい。十文字先輩は昨日の私しか見たことがないのだろう、無理しなくてもいいんだぞと言われて面食らってしまった。

 

 

終わったことを深雪に連絡したら、すぐさま正門にいると連絡が返ってきた。

まだ帰っていなかった事に疑問を感じたが、お近づきになりたいクラスメイトに足止めをされていたのかもしれない。

ステルスモモぐらいなら教えて練習すれば深雪も使えるかもしれない。けど練習でどうにかなるもんじゃないしなあ、体質だしなあなどと考えていると喧嘩のような声が聞こえてきた。

 

 

「いい加減にしてください」

 

急ぎ足で校門まで向かうと、聞き覚えがあると思っていたら、そのまさか美月の声であった。

そこではにらみ合っている一科生と二科生の一年生たち。また面倒くさい現場に居合わせてしまった。

 

 

「深雪さんはお兄様と帰ると言っているんです。それをどうして二人の仲を引き裂くような真似をするんですか」

 

 

大人しそうな美月が大きな声を上げている。美月をそうさせる何かがあったのだろう

 

「み、美月ったら何を勘違いしているのかしら」

 

「深雪。なぜお前が照れる」

 

「照れてなどおりませんよ?み、美月、あとお姉様とも帰りたいわよ!」

 

対面する達也たちと一科生。向かい合っているのは深雪の同じクラスメイトか。一箇所のみほのぼのしているがその例外除くと一触即発の雰囲気であった。達也と深雪を置いて一人で帰ろうにも帰れないし近くで本でも読んで収まるの待とうかと思ったが私に気づいた達也が、おい助けろ、逃げたらわかってるなという目を送って来たので仕方がないので近くまで歩いて行き深雪に声をかける。

 

 

「深雪、これはどんな状況なの?」

 

「お姉様!」

 

「四葉さん!聞いてくれ。僕たちは貴方の妹に相談したいことがあるというのに、あのウィードたちが文句をつけてくるんだ」

 

私はこの男子生徒を知らないが向こうは私を知っているようだ。どう考えても昨日の試合のせいだろう。

 

「その言葉は禁止されているはずよ」

 

「事実だろう。二科生は一科のスペア。四葉さんだって僕らと帰るべきなんだ」

 

こ、小物すぎる。小物でも実力があるならニワカは相手にならんよぐらい言ってほしいものだ。

しかも私とは根本的に意見が合わないらしい

 

 

「ねえ、なんで鳥は空を飛ぶのだと思う?」

「はあ?いきなりなんだよ」

「答えて」

「え、餌を探すためとかだろ、食わないと死んじゃうし」

 

私の勢いにビビったのか急な意味のわからない質問にも答えてくれた。

 

「ダメね、貴方と私は意見が合わない。私は向こうの味方をするわ」

 

「どういうことだよ意味がわからねえ!」

 

男子生徒からしてみれば意味がわからないだろう。いきなり哲学的な質問されて答えたら相手の味方になるという意味不明さ。しかし私にとってこれは重要な問題であった。

 

「別に自由にさせてあげればいいじゃないですか!誰と帰るかは深雪さんの自由です!」

 

美月が追い打ちをかけた。

 

「うるさい」

 

男子生徒は美月たちと私を睨みつけた。私の理不尽さと今の追い打ちで怒りの限界を超えたようだ。

 

「見せてやろう、これが俺の実力…!!」

 

服の胸ポケットに隠していたCADに手をかけた瞬間、私は森崎君の腕を掴みあげていた

 

「あのさ」

 

彼の手からは特化型のCADがこぼれ落ち音を鳴らした。

 

「ニワカは相手にならないんだけど」

 

小さいが恐怖を覚えるような声だった。森崎君は顔を青くしていた。私はひどく冷たい目をしているように彼の目の反射で見えた。

 

突然の人格の変化に深雪と達也以外は混乱していた。一方私は原作冷やし透華もこんな目だったっけとか咲トップ5に入る名言をこんなことに使ってしまった…とかこれ負けフラグたったじゃんとか状況に合わないことを思っていたら状況が動いた

 

「このっ」

 

「ダメッ」

 

別の魔法の発動を感知し、対応にエリカたちが動こうとしたがそれは第三者によって止められた。

 

「自衛以外での魔法の使用は犯罪です!」

 

「風紀委員長の渡辺摩利だ。1-Aと1-Eと咲だな、よし着いて来い」

 

生徒会長と風紀委員長の登場に、その場は一気に静まり返った。本当に負けフラグだった。あちらはいつでも魔法を使えるように起動式を展開している。抵抗は無意味だろう。王者の抵抗をお見せしようかと思ったが意味がないのとその後にツモドラ7.8000オール食らったのを思い出しやめた。

 

私は男子生徒の手を離した。

さて、どう言い訳しようかと思案していると真っ先に達也が口を開いた。

 

「すみません。悪ふざけが過ぎたようです」

 

「悪ふざけだと?」

 

私は今偏差値70オーバーなのでその意図を推察することができたので達也の考えに乗ることにした。

 

「ええ。私の勘違いです、申し訳ございません」

 

私は丁寧に頭を二人に下げた。

 

「森崎はクイックドロウは四葉家で注意しろと言われるぐらいなので自分は見せてもらおうと思ったんですが、後から来て事情を知らなかった咲が取り押さえてしまったようです」

 

この小物の子、百家の子だったのか。確かクイックドロウは魔法の早撃ちのようなものなはずだ。まあ"CADを操作する分"遅いのだが。

 

「申し訳ありません。手は抜いたんですけど」

 

ニワカには本気を出さなくても勝てる。それが王者。

 

「ではそこの女子生徒が魔法を発動しようとしていたのはなぜだ」

 

深雪の横にいる女子生徒に風紀委員長の指摘が入った。その女子生徒は肩をすぼめ、怯えたように顔を青白くさせていた。彼女も確かに魔法を使おうとしていたのだ。

未遂とは言え、それは七草先輩の白糸台のシャープシューターのシャープシュートような魔法で無効化されたのであった。七草先輩のあだ名は七草家のシャープシューターなのかもしれない

 

「あれはただの閃光魔法です。魔法自体も単なる目くらまし程度の威力に抑えられていましたし問題はないでしょう」

 

「ほう…。君は展開中の起動式を読み取れることができるらしい」

 

私はこれができることが普通ではないことを忘れていた。咲のキャラは聴牌したかどうかや待ちや打点がわかることが多い。それをこの世界に直すと魔法(和了)が発動前にわかる。原作で何人も使える能力は私自身に馴染みやすく神依を使わずに使える。さらに私はあるキャラを使うと未来にどんな魔法が使われるのかすらもわかる。深雪も練習してはいるようだが5割ぐらいしかわからないらしい。逆に言えば5割はわかるのだ。なので家の人間がほとんどできるのでこの事実を忘れていた。

 

 

 

こんなことを考えていたらなんか話はうまくまとまっていきその後七草先輩から一言貰いその場はお開きとなった。危ない事態だったのになんのお咎めもなかった。さすが王者。東1でマイナス9000もらってもプラス15000で帰って来ただけある。

 

 

 

 

森崎(?)君とその仲間は庇われたことに感謝も述べず、捨て台詞を吐きその場を去っていった。長野一回戦レベルのモブでもエトペン壊した時は謝罪しにきたのに流石に小物すぎないかと思っていたがニワカだし仕方ないということで神依を解いた

 

 

「助けてもらってありがとうございました!わ、私光井ほのかと言います」

「私北山雫よろしく」

「私は四葉咲、咲でお願いします」

 

なんとほのかと雫も一緒に帰りたいと申し出たので、駅までの道を一緒に帰ることになった。

 

「咲、いつもと違う感じだったけどどういうことなの?」

 

エリカが好奇心に溢れる様子で聞いてきた。期待と好戦的な印象も受ける。

エイミィと気が合いそうだ

 

「昨日の試合みたらわかると思うんだけど私多重人格なの」

「ええ!?だから昨日の試合、前あった感じと違う感じだったんだ…」

「そうよ、で昨日人格が変わったからある程度の時が経つまで少し怒っちゃったりすると少しだけ人格が変わっちゃうの、捻挫して治ってもまた捻挫しやすいみたいな感じで思ってくれればいいわ」

「なるほど、だからさっきの咲はあんな怖かったのね」

 

まあそうだったのは昔のことで今は完全に使いこなせるのだがそう説明しておいた。

神依と多重人格は正確には違うが似たようなものなのでこれで説明がつく、さらに神依などという大層な名前で説明すると無駄に目立ってしまう。多重人格の方が都合がいいのだ

 

「エリカだってあの一科生のCADを何か暗器で弾き飛ばそうとしていたでしょう」

 

「俺の手も一緒にな」

 

「あら、そうだったかしら」

 

「んな、てめえなあ」

 

 

わざとらしく笑うエリカにレオは顔を怒りでひくつかせていた。エリカも分かって、そう言っているのだ。性格が悪い。まるで達也だ。

 

 

 

その後CADの話になりエリカのCADの話になり兜割の話になった。兜割など小説でしか読んだことしかなかった

 

 

「エリカ、兜割って秘伝とか奥義じゃなかったかしら、本では読んだことあるけど現実ではみたことがないわ」

「ちょっとコツがあるのよ、ちょっとしたね」

「ひょっとして、魔法科高校って一般人の方が少ないんですか?」

「魔法科高校に一般人はいない」

 

美月の素朴な疑問に雫の適格なツッコミが入り、皆納得してしまった

 




小走先輩の部分だけなんか文がめちゃくちゃになってしまった…

本当にどうでもいいですけど自分が一番好きなシーンは「今度は普通に嶺上開花!?やりたい放題やないか…」のシーンで、一番好きな言葉は淡の「2位抜けとかカッコ悪すぎでしょ!」です

i╹◡╹)ξ<ニワカは相手にならんよ! 



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第7局[条件]

翌日、七草先輩が駅で私たちを待ち伏せしていた。偶然ねとか言い出した時は小走先輩ですか?とツッコミそうになったが誰も理解してくれないので心の中で抑えた。

 

七草先輩の用件とは昼食3人一緒に生徒会室で食べない?という話だった。昨日の礼もあり私たちは昼休み生徒会室を訪れることになった。

私は昼休み本を読みたかったのだが七草家と交流しとくのもいいかと思い座学をすぐに終わらせ前世で身につけた技で昼休み読もうと思っていた本を読む。ステルスモモももちろん併用していたので気づいた人はいないだろう。

 

 

昼休み、久しぶりに私たちと昼ご飯を一緒に食べれるとあって深雪のテンションは高かった。

 

生徒会室に入ると女子生徒会役員と渡辺先輩に出迎えられた。

深々と深雪とお辞儀をし入り、主役の深雪が上座に着き年齢順に達也私と席に着いた。ちなみに本家だと私深雪達也という順番になる。

 

座ると七草先輩から生徒会メンバーの自己紹介があった。

 

深雪の対面に座っているのが会計の市原先輩。あだ名はリンちゃんらしい。確かに凛としているのであっているあだ名だと思うが本人は嫌がっていた。

 

そして私の対面に座るのが中条先輩。あだ名はあーちゃん。達也より私の方が怖がられていたように見えたが流石に違うと思いたい。

 

それに私は会っていないが服部先輩という先日深雪たちがあった男子役員で今年の生徒会役員全員のようだ。

 

紹介が終わるとダイニングサーバーで出来上がった昼食は5つ、1つ足りないと思ったところで渡辺先輩が自分の鞄から弁当を出した

 

「あの、渡辺先輩のそのお弁当はご自分でお作りになっているのですか?」

「そうだが意外か?」

 

渡辺先輩の弁当はとても美味しそうに見える。前世に前の母親が作ってくれたのと遜色ないレベルだ。しかし風紀委員長を務める渡辺先輩と弁当作りを結びつけにくい人もいるだろう。

 

「いいえ、少しも。普段から料理をされているかどうかはその手を見ればわかりますよ」

 

達也に言われて手を見ると渡辺先輩は手を隠したが一瞬絆創膏が貼ってあるのがみえた。趣味だと絆創膏貼ることはないと思うので花嫁修業の一環とそう結論づけた。

 

「お兄様お姉様、私たちも明日からお弁当にしましょうか?お姉様は食堂混んでたら昼食抜きでいいとか言い出しそうですし。」

「混んでる食堂に行かなくてもいいし深雪の弁当はとても魅力的なんだけど….」

「食べる場所がね」

 

深雪は私はともかく達也とは一緒に食事をしたいだろう。しかし人目を気にしないで食べれる場所など校内にはほぼ皆無だ。達也も突っかかって来たら四葉の名使って偉そうにしてる一科生ぶっ潰せばいいのにとか思うが、達也も私と理由は違うのだが四葉の名を使うのは好きではない。一回痛い目みさせてあげればあの手の輩は片がつくのだが流石に入学して2回目の試合は戦闘狂すぎるから自重している。

 

「まるで兄妹というより恋人同士の会話ですね」

「どっちが本命なんだ達也君?」

 

中条先輩が爆弾を落とし渡辺先輩がそれに食いついた。達也にとっては答えにくい質問だろう。

 

「そうですね、妹の方は血の繋がりが無かったら、恋人にしたいとは考えた事があります」

 

爆弾は達也に対して爆発することはなく達也に対しての爆弾が逆に私たち女性陣に対して誤爆することになった。私もそうだが他の先輩や深雪も顔を真っ赤にしている。

 

「もちろん冗談ですが」

「え?」

 

冷静にいう達也に私たち女性一同は驚きの声を漏らしてしまう

 

「それに咲の婚約の条件、同じ十師族の七草先輩なら知ってるんじゃないですか?俺には無理ですよ」

「それはどんなのだ真由美」

「私も聞いたことがある程度だけど咲さんの高校卒業時に咲さんが以前出した問題の解答を各々が出して正解した人だけが咲さんと魔法戦できて、勝ったら咲さんゲットっていうルールだったかしら?」

「ええ、あってます。魔法戦に負けたらそこの家に嫁ぐことになってます。」

 

 

私は四葉次期当主候補筆頭なのだが嫁に欲しいという縁談が次々と届くらしい、四葉と血縁関係持ちたいのと四葉の血を入れて自分の家を強くしたいのだろう。お母様にどうするのか聞かれたので考えるのが面倒なのでこう答えたらそれが十師族+師補十八家+有力百家や名門の家に伝わったらしい。なのでまず問題を解こうと婚約を申し込んでいる家は大変のようだ。

 

「その問題っていうのはなんだ?」

「鳥はなぜ飛ぶのか?という問題というか質問ですね、答えというより私の考えと一致したら正解という感じです」

「ずいぶんこれは難問だな…」

「正解を書いてある紙はすでに金庫に保管されてるので私がもう変えたりはできませんね」

 

 

この質問は前世のとあるゲームで出された質問であり主人公の考え方が自分とマッチしており嫁ぐにしてもこの考え方ができないと嫌だっていう最低条件だ。次の魔法戦はまず負けることはないと思っているので実質嫁ぐことはないと思っている。負けたらその時はその時。その時の保険も兼ねての最初の質問だ。

 

「咲さん貰いたい家は必死に咲さんのプロフィール洗ってるらしいけど四葉の情報統制が厳しすぎるって嘆いてたのを聞いたことがあるわ」

「それでは深雪さんはどんな条件なんですか?」

「私は婚約まだ受け付けていないのです。叔母上にも何かお考えがあるのでしょう」

 

私は嫁ぐ条件まであるがみなもは入り婿のみ、深雪はまだ婚約を受け付けていない。こんな境遇もあり私に他家からの婚約が集まるらしい。

 

深雪はこの話があまり好きではない。私が他の人に取られるのが嫌なのであろう。私や達也が気づく程度だが少し深雪は元気が無くなっていた。

 

そんな中、七草先輩はようやく本命の要件を思い出したようだった。

 

 

「深雪さんで思い出したわ、えっと、我々生徒会は四葉深雪さんに生徒会に入って貰いたいと思っています、いかがでしょうか?」

 

 

主席入学者が生徒会に入るのは、もはや恒例になっているのだということを入学前から知っているので、七草先輩に深雪は躊躇いがちに答えた。

 

「会長は、兄と姉の入試の成績をご存知ですか? 有能な人材を生徒会に入れるのなら、兄と姉も入れる事は出来ないのでしょうか?」

 

深雪の発言に達也は二科生で入れないということと私はすでに風紀委員に決まっているということを市原先輩は述べた

 

「そうですか…」

 

深雪は完全には納得していないようだが一応諦めたようだ。

 

「真由美ちょっといいか?」

「何よ」

「風紀委員の生徒会選任枠が空いているよな」

「その件は今決めている最中だからもうちょっと待ってって言ったじゃない」

「確か一科生縛りがあるのは生徒会だけで風紀委員に一科生縛りはないよな」

「摩利…貴女」

 

面倒ごとを押し付ける人の顔を七草先輩はしている。達也も嫌な予感がしているようだ。

 

「ナイスよ!」

「はあ?」

「そうよ、それなら問題ないじゃない!我々生徒会は四葉達也君を風紀委員に推薦します!」

 

面倒ごとを押し付けられてかわいそうにと完全に人ごとのように思いながら達也と渡辺先輩の言い合いを聞いていたが昼休みももうすぐ終わるのでまた放課後ということになった。

 

 

 

 

放課後

昼間は不在で私は初めて会う服部先輩が達也の風紀委員入りを反対していた。

二科生の風紀委員は前例がなく、魔法実技が苦手な二科生でなくてもいいという理由と四葉の名前にビビらなくてもいいという理由の二つだ。

四葉の中でも落ちこぼれだから二科生と服部先輩が言った瞬間深雪が怒りだし結局服部先輩と達也は模擬戦をすることになった。

 

私は達也が勝つことを原作で知っているので終わるまで図書室で本を読むことにした。

 

 

 

本がひと段落し腕時計を見ると下校時間が迫っていた。達也の模擬戦などとっくに終わっているだろう。まずいと思い走らない程度の最高スピードで委員会室に向かうとちょうど2人の生徒と達也が挨拶してるところだった。

 

「遅れました。申し訳ございません」

「姐さん、この美人誰ですか?」

「鋼太郎、今注意したばっかりだろ!そいつは四葉咲、迂闊に手を出すとただじゃゃ済まないぞ」

 

「あああの、沢木をも倒した200人切りの四葉の1年か」

「四葉さんの強さは一年ニ年とか関係ありません」

 

私はあの一戦から校内で色々あだ名が付いているらしい、代表例は「絶対王者」「魔王」「四葉の白い悪魔」、原作咲とほとんど変わらなくてなんか悲しい

 

 

「三年の辰巳鋼太郎だ」

「四葉咲です。よろしくお願いします」

 

ぺっこりんと綺麗なお辞儀をすると驚いたようだ。あの試合の話しか聞いてないと仕方がないことだろう。

 

「二年の沢木碧だ。くれぐれも下の名前で呼ばないように。今度またお手合わせをお願いしたい」

「よろしくお願いします。沢木先輩は肉弾戦込みがとても強いと聞いています。なので肉弾戦込みだと勝てる気しませんけどね」

 

こういい微笑むととさすがに女子を殴るのはとか言い出した。どうやら沢木先輩は紳士的のようだ。後から聞いた話だが沢木先輩は握力が100あるらしい。

 

雫が言っていたこの学校に一般人はいないという言葉が思い出されるのであった。

 

 

 

 

2人が帰ったのと入れ替わりのように七草先輩が生徒会室から降りてきた。どうやら生徒会室を閉めるらしい。七草先輩は部屋の変わりように驚いていたが以前のここを知らない私はどれほどの部屋だったんだとしか思うことしかできない。

 

ほどなくして私たちは委員会室や生徒会室からでて今日の活動は終了するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




この世界の咲さん、漫画咲さんより感情が豊かだなあ()

今日17時に番外編もう一話投稿です


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番外編第1局[憧景]

番外編なので今日二回目の投稿です
章ごとにある達也と深雪の気持ちのまとめのようなものです。
今回は過去編


深雪視点

 

 

お姉様は本当の姉ではなく従兄弟だ。しかし本当の姉のように思える。

 

初めてお姉様と出会ったのは3歳の4月の頃、最初の頃は私の方が魔法力は高く少し見下していたと思う、あの儀を見るまでは。

 

姉が何かを宿すのは知っていたがそれを今まで見たことはなかった。

次の年の始め、本家に出向いた。そこで見たのは神であった。実際には神ではなく咲だったのだがいつもの咲とは違った。寝ているように見えたが何ものも寄せ付けない神々しさを持っており私は未だにあの状態の姉を見たことがない。「神依」と名付けられるのも納得だ。今思うともしかしたらあれは天照大神の「大」以外なのかもしれない。私はその姿に完全に虜になってしまった。次の日姉に本気を出して勝負をしてくれと頼んだ。結果は完敗、しかも昨日の神のような状態にならずちょっと大人びた口調ですこし無口になっただけだった。私は昨日の神のような力を見せてくれと頼んだが断られ、私に勝ち続ければいつか見れると言われ私はこれまで以上に鍛錬を積んだ。

 

最初は勝負にすらならなく圧倒的差に心が折れそうであったが1年経ってようやくお姉様がいうともきーと呼んでいた神依に勝つことができた。あの時の喜びは忘れようがない。喜んでいた私を頑張ったわねと言って撫でてくれた姉を尊敬と親愛を込めてお姉様と呼んだのはあれが初めてかもしれない。

 

あれから10年鍛錬を重ねてやっとお姉様がいう天照大神のレベルまで辿り着いた。しかしお姉様は私と対戦するときは1重神依しか使わず本気の二重神依と戦ったことはない。理由はわからない。けどいつかお姉様の本気の二重神依とも戦いたいと思う。

 

お姉様は嫁入りの件がなくなれば四葉家次期当主になるだろう。私も候補者だが叔母さまの許しが出るならば選ばれてもお姉様に譲ろうと思う。それほどあの神のようなお姉様は衝撃的だった。お姉様は綺麗で美しくて何より強い。中学から一緒に暮らしているのだがいつかは離れ離れになるだろう。その時までにお姉様に勝ってあの神をもう一度見たい。それが私の魔法を鍛錬するモチベーションのほとんどを占めていた。

 

 

 

 

 

 

達也視点

 

 

感情を失う前に深雪と見た神のような咲を見て感動してしまったことは記憶にはある。この世の存在ではないかのような咲の姿に文字通り言葉を失ったのである。

 

 

大きな感情を失った今では感動することよりもあれはなんだったんだろうと疑問の方が大きい。俺たちはあの姿をあれから二度と見ていない。深雪が勝ち続ければ見せてくれるらしいが1人の神を宿した咲に勝つのは深雪ですら難しい。あの深雪が同じ相手に勝つのに1年以上もかかるのだ。咲自身天照大神が最強と言っているがたぶんそんなことはない。その上があるはずだ。殺し合いにおいて咲の「大」星には勝つことは可能だが他の天照大神がどれぐらい強いかは未知数。たぶん深雪との対戦で1重神依しか使わないのは各神の力を見極めているのだろう。それにまだ天照大神の他にも見せていない神がいるに違いない。魔法戦などで見せてもらって教えてもらった神の名は怜、キャップ、東横、セーラ、和、渋谷、ともきー、小走、片岡、大星。一つ一つがとても強力であり固有能力持ちも多い。この数でも組み合わせによって大きな力を発揮する。咲はああ見えてめんどくさがりで負けず嫌いだ。勝負事には相手の心が折れるぐらい全力で勝ちに行く。深雪が相手でも容赦はない。もし面倒ごとに巻き込まれたり勝負事で負けそうになったときはとっさに俺たちの知らない神を使ってくれるかもしれない。そう考えるとこの高校生活も悪くない。




咲の過去は本編でもちょこちょこ出していこうとは思います。
追憶編もやる予定ですが事情により順番が訪問者と入れ替わる予定です
今現在(2/24)の書きだめは九校戦新人戦途中まで(第27局)なので変更の可能性は十分あり得ますが…

一応書きだめてるところまでは毎日投稿できると思います。
その後は自分の気力次第です…


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第8局[平穏]

入学編はさっさとキンクリしたい…


私はクラブ勧誘合戦まで平穏な日々を暮らしていた。

学校に登校すれば明智さんや少し仲良くなった子と喋ったりするようになりエイミィの紹介で十三束君とも仲良くなった。

昼食は七草先輩たちの厚意で生徒会室を使えるようになり深雪と達也と一緒に深雪の手作り弁当を食べ先輩達と交流する。

放課後は文芸部の人と共に図書室に通い本を読んでいた。

 

そんな平穏な日々も終わってしまった。

 

 

 

 

 

クラブ勧誘日初日の放課後、風紀委員一同が部屋に集まっていた。

 

 

「さて諸君、今年もあの馬鹿騒ぎの季節がやって来た、幸い今年は補充が間に合った。教職員推薦枠の1-A森崎駿と部活連枠の1-B四葉咲、生徒会推薦枠の1-E四葉達也だ」

 

「使えるのですか?」

 

懐疑的な視線が私以外の2人に注がれる。私は四葉の名と入学早々の試合が知れ渡っているのが原因であろう。達也は四葉の名はあるが二科生というところが、森崎は百家だがそんなに有名どころじゃないのが心配されているのであろう。

 

「実力は3人とも保証しよう。咲はお前らが知ってる通り、達也君の実力はこの目でみている、森崎のデバイスさばきもなかなかのものだ。それともお前が面倒を見るか?」

 

「いいえ、邪魔をしないならそれでいい」

 

「質問がなければ出動!一年はここに残れ」

 

そう言って二年三年生は先に見回りに向かい一年の私達は腕章と機械を渡され説明を受けた。

何か問題があったらこれで録画するらしいのだが原則風紀委員の証言は単独で証拠採用されるので無理に録画する必要はないらしい。余裕があれば録画しておく程度だろう。

 

「CADは委員会の備品を使用してもよろしいでしょうか?」

 

備品のCADとは先日達也がこの部屋を掃除した時に出てきたものと聞いた。私はCADについてよくわからないが高級品らしい。やはりどの世界でも掘り出し物はあるのだと思った。

 

達也はそのCADを"2つ"借りた。

渡辺先輩は面白がったが、逆に森崎君は見栄をはって墓穴を掘ったならコソコソしとけよとかいう小物発言をして去って言った。なんなんだあいつは。

 

CADの同時使用、それは極めて精密なサイオンコントロールが求められる"らしい"。私はエイスリンの能力でそれがわからないのだが。

 

エイスリンの原作の能力は自分のイメージの牌譜を卓上に描き出し門前で13巡以内にテンパイする能力。これをこの世界に置き変えた場合自分のイメージする現象を魔法に置き換えたり、イメージするだけで魔法が使える能力になる。私はこの能力を使い他の咲のキャラの能力をこの世界にうまく落とし込んだ。神依の中でも最も重要な神依かもしれない。ちなみに15年も日本にいるのでカタコトではなく普通に喋れるようになった。エイスリンの神依の力は既に私に馴染んでおり神依無しで使えるようにもなっているのでエイスリンの力を使いながら他の2人の神依を使うこともできる。なので達也達はこれを神依ではなく普通の私の力だと思っている。

 

話を戻すとイメージすると私は魔法を使うことができるので本当はCADを使う必要はないのだがCADを持った方が神依無しでは一応早いのでCADを使っている。最高マルチキャストできる魔法数は他家の数つまり3つだけだが問題はない。CADを複数使ってマルチキャストする際これにより意識してサイオンコントロールすることはないので求められる"らしい"ということだ。

 

「森崎君を東福寺にしてあげましょうか?」

 

「さすがにそれはまずい」

 

東福寺とは長野1回戦で咲に飛ばされた学校である。この世界では私と私が教えた達也と深雪しかわからない隠語であり、訳すと「逆らえないようにして(消して)あげましょうか?」となる

 

 

「森崎君よく達也さんが四葉と知って突っかかってきますね」

 

「お前と深雪には負けるがせめて二科生の俺には勝ちたいというプライドだろうな」

 

その後二、三言話し、私たちは自分が担当された区域に向かった。

 

 

 

 

 

私が担当を命じられたエリアは毎年最も争いが起こるエリアである。これは完全に貧乏くじを引いた。とりあえず風紀委員の存在を示して事前に警告するために私はオーラを纏った。

このオーラは魔法でもなんでもない。咲の強キャラが纏っているオーラのようなものを纏ってステルスモモの逆、存在感を上げているだけだ。

 

 

巡回してると思ったより事件は起きていない。軽い喧騒のようなものはところどころあるが前世でもよくあったイベント事特有のお祭り騒ぎ程度である。それに私が巡回してるとその喧騒も収まり揉め事は0であった。

 

私は同じく巡回してる先輩を見つけたので少し喋るために近づいた。

 

「沢木先輩、ご苦労様です」

「四葉さんもご苦労様、とはいえ四葉さんのおかげで今年は楽だけど」

「私のおかげですか?」

「"200人切り"がこのエリアにいたらそりゃ揉め事は起きないさ」

 

それも含めて今年このエリアが問題少ないのは3つある。

1つは沢木が言った200人切りの事実。先輩を1vs10で屠っていた咲には何をやっても勝てないということはわかっている。

2つ目は咲の四葉の名。もし仮に魔法使って流れ弾が咲に当たって怪我したとする。そうなった時仕返しに何が来るかわからない。それほど四葉の名は恐怖されている。

3つ目は咲の美貌。深雪が神が与えた最高の美貌だとしたら咲は神の美貌であった。深雪と人気を半分に分け合うぐらい構内で人気である。なぜ深雪のように絡まれないのかというとステルスモモで逃げてるからでありもし使わなかったら深雪のように囲まれているだろう。咲は知らないことだがもう既にファンクラブができており先日試合をした人や一年を中心に100人弱の生徒が1週間で加入している。

 

 

この3つの理由が争いをなくしている理由だ。このエリアを任せた摩利の思惑は当たったと言えるだろう。

 

 

 

 

 

巡回が終わり委員室に戻ると達也が事情聴取を受けていた。横で本を読みながら聞き耳を立てているとどうやら剣術部と剣道部の揉め事を止めたようだ。高周波ブレードの使用と聞き少し驚いたが原作にそんなシーンあったようなことを思い出し納得した。最近劣等生側の原作の忘却が著しい。もしかしたら咲のキャラの能力が劣等生原作の記憶を侵食してるのかもしれない。そんなことを考えながら再び本の世界に飛び立った。

 

 

 

 

達也の事情聴取が終わるとすでに遅い時間であったので待たせてしまった謝罪も兼ねて達也のおごりで喫茶店に入った。

 

私の方は事件0だったので話すことがなく話は当然達也の話になった。

 

「そう言えば達也、剣術部の相手は殺傷ランクBの魔法を使ってきたんだろ? 良く無事だったな」

 

「『高周波ブレード』は有効範囲の狭い魔法だからな。触らなければどうとでも対処出来るさ。刃に触れられないだけでそれ以外は真剣相手と変わらないからな、あとそこに俺のギリギリ当たるか当たらないかという位置に殺傷ランクA相当をいたずらで使うやつもいるしな、Bだったらマシな方さ」

 

達也の言葉を聞き深雪以外の目がこちらを見る。どうして深雪を見ないのだろう。

 

「なんのことかしら?」

 

とぼけられたとは思わないが事実なので否定できない。若気のいたりというやつで許してほしい

 

「あとその後の10人以上の魔法が発動しようとして消えていた現象はあれも咲と同じくキャストジャミング?」

 

「そうよ、魔法式の無効化はお兄様お姉様の十八番なの」

 

達也は原理まで説明するつもりはなかったようだが深雪にこう言われた手前説明するしかなくなったようだ

 

「まあ俺のは咲やアンティナイトを使った完全版キャストジャミングではなく特定魔法のキャストジャミングだけどね」

 

達也は原理を説明した。簡単に言えば2つのCADで特定魔法だけの魔法を封じるというものだった。

対抗魔法の1つのキャストジャミングを使うためのアンティナイトは希少価値が高く流通量は少ない

なので魔法師の脅威となりえていないがこの方法を使えば簡単な魔法で魔法を止めることができる。もしこの魔法が広がったなら現在の魔法基盤が崩れ去るのも時間の問題であろう。まあキャストジャミング程度で魔法が使えなくなるようなることは私たちにとってはないのだが。

 

レオ達は新しい魔法を生み出したのに目先の利益ではなく先を見通した行動をしている達也に感心しており、私はキャストジャミング使うぐらいならさっさと敵を倒した方がいいと考え、深雪は兄を認めてもらえて満足そうな三者三様な様子になった。

 

 

 




入学編はオリジナル展開しない限り咲要素を入れにくいのであまり原作と変わらないし書きだめもあるので入学編終わるまで(2日だけですけど)1日二回投稿にしました、次は17時投稿です。



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第9局[予兆]

お気に入りが100件を超えました。咲-saki-と劣等生を知っているコアな人向けなのにこんなに読んでもらえて嬉しい限りです。かなりモチベが上がりました。お気に入り登録をしてくださった皆様、読んでくださってる皆様ありがとうございます




本日二度目の投稿です。


1週間の部活動勧誘期間はいつもと変わった様子であった。

 

一つは私のエリア、毎年争いが多発するエリアであるのに今年は私がいる間は争いはほぼ0に近く私がいなくなった最終日だけは争いが起きたようだ。

 

もう一つは達也の担当するエリア、各部の小競り合いだけならいいがわざと達也にむかって飛ばされる魔法が多く争いが例年より激化しているようだ。私も私のエリアは最終日前日も争いが起こらず暇だったので、ある家で習った精霊魔法を使い達也に軽い殺傷ランクE相当の魔法攻撃を仕掛けたのだがそれを無効化されてしまった。なおかつ私だと突き止められてしまいその弱みを使って私は達也のエリアに左遷させられた。私より達也の方が魔王や悪魔だと思う。最終日は私がいたこともあって達也にほぼ攻撃を仕掛けてくることはなくなっていたが争いは0ではなかったので余計なことをしなければよかったと後悔した。

 

 

 

 

校内では新しい噂が立っていた

 

二科生の風紀委員

魔法を使わずに体術だけで並み居る部活レギュラーを打ち倒した四葉の1年の3人目

 

こんな噂が学校内で立っているのであった。

私の魔王とか四葉の白い悪魔とかいうあだ名があまり噂されなくなり嬉しい限りだ。達也にとっては不本意かもしれないが。

それに加え青白赤のフランスの国旗のようなリストバンドをしている学生が目についた。達也がいうには国際犯罪組織ブランシュの下部集団エガリテのマークだ。そういえば昔本家でブランシュの名は聞いている。

 

本家から連絡が来てそのうち襲撃があるだろうから気をつけなさいと言われている。あと私には怜の力を使っていいと言われた。これは四葉の力を見せつけるためだろう。

 

本家から気をつけなさいと言われるということはそれなりに対処しろということなので私は精霊魔法を使いメンバーを把握した。

精霊魔法は神の憑代である私には使いやすいらしく、ある家で数ヶ月習うとその家のものより使えるようになってしまった。イメージしやすいのもプラスに働いたのかも知らない。

 

放課後本を読みながら精霊でメンバーを追っているとメンバーの1人が達也と接触してるようであった。もしかしたら普通に話しているだけかもしれないので聴覚同調して盗聴するのは躊躇われるし達也に聞こうにも深雪が怖いのでこれは見なかったことにしておいた。

 

 

 

しかし翌日の昼食時、渡辺先輩が爆弾を落とした。

 

「そういえば達也君、剣道部の壬生を言葉責めしたというのは本当かい?」

「そのようなことはありませんよ」

 

冷静に否定する達也に嘘だと言いたかったが

横の深雪が怖かったので何も言わないことで達也の味方をしておいた

 

「それに委員長も年頃の淑女が言葉責めなんてはしたないですから言わない方がいいと思いますが」

「ありがとう。私を淑女扱いしてくれるのは達也君だけだよ」

 

渡辺先輩は本気で照れているようだ。その隙をみて達也が追い打ちをかける

 

「自分の恋人を淑女扱いしないとは、先輩の彼氏は紳士的ではないようですね」

「そんな事ない!シュウは……」

 

渡辺先輩は自爆した。七草先輩と市原先輩が吹き出すのを耐えているのをみて渡辺先輩は改めて達也と向き合った。

 

「……それで剣道部の壬生を言葉責めしたのは本当かい?」

 

完全になかったことにしたようだ。

 

「そんな事実はありませんよ…」

 

達也は昨日壬生先輩と話した内容を全員に話した。壬生先輩はどうやら裏でやはり吹き込まれているような感じがした。

 

「家の物から聞きましたがどうやらこの件どうやら「ブランシュ」が関わってると思います」

 

「どうしてそれをと思ったけど当然よね…七草なんかよりも四葉の方が情報量あるもの…」

 

「俺らのせいでもありますし本体は俺らで片付けますよ、先輩達は末端を警戒してて下さい」

 

七草先輩達は俺らのせいというところで疑問を浮かべていた。

 

「以前国内のテロ組織一掃することがあったんですけど、それに私も従事したんです。しかしまだ未熟で途中で倒れてしまい、いくつかの組織取り逃がしてしまったんです。その中の一つがブランシュです」

 

私が説明すると納得したようだ。

私はこの時未来視の度重なる酷使に耐えきれず倒れてしまった。流石に1日後見るのを一時間おきにやったらいくらサイオン量が多いといっても倒れる。

 

そのあと達也と先輩達が話していることを聞きながらこれは"私達"ではなく"私"がかたをつけたほうがいいと決意していた。

 

 

 

 

 

 

 

数日後、達也から実習が長引いているため、先に食べてくれと連絡が入った。深雪と合流するとそこに雫とほのかが付き添いとして居て、昼食を一緒に食べることになった。雫とほのかは私に色々聞きたかったのであろう、質問責めにされた。

 

「咲の人格って何個あるの?」

「あんまり正確な数字は言えないけど10以上はあるわね」

 

それを聞いて深雪は頭の中で数えているように見えた。

 

「達也さんから天照大神の「照」が一番強いって聞いたんだけど本当なんですか?」

 

「組み合わせによっては照に勝てると思うけど単独の人格としては最強だと思うわ、けどここ10年は出したことないわね」

 

「なんで?」

 

「力が強すぎて暴走した時に止めれないからよ、深雪と魔法戦して深雪が勝ったら次の力を見せてるのはここまで力を出していいという線引きと深雪がストッパー役となってもらう面もあるわね」

 

「なるほど、そんな理由があったんですね」

 

最初深雪に頼まれて始まった魔法戦は今はこういった面も持っていた

 

 

昼食を済ませると達也達4人分の軽食を買って実験棟に向かった。まだエリカとレオは規定のタイムクリアできていないようだったが私たちがきて次の一回でクリアしたようだ。

 

達也達に買ってきた昼食を渡した。情報端末がある部屋以外では飲食禁止ではないということはよく昼休みクラスから抜け出して1人でご飯食べ本を読んでいたので知っていた。

 

「咲達はどんな授業やってるの?」

 

「ほとんど変わらないと思うわ、つまらない座学と使わないほうがマシなCAD使って実践では役に立ちそうにない実験をしているわ」

 

私の容赦ない毒舌に一同ギョッとしたようだ。一科生と二科生の違いは教員の有無しかない。魔法師の絶対数が足りていないから仕方がないのだがエリカは当然といっていた。やはり家の影響もあるのだろう。

 

「あんなにカッコつけといて悪いけど、お手本見せてくれない?」

 

懇願するようにエリカはさっきまで使っていたCADを指差した。

 

「いいんじゃないか、深雪も咲も見せてあげれば」

 

達也がこういって深雪が断るわけないので私もやることとなった。自分のタイムは知っているが深雪のタイムは知らない、これもいい機会だ。

 

起動式を展開し魔法が展開された。表示されたタイムはこの前の授業とほとんど変わらなかった。

 

「深雪さんは…一九六mm秒!?」

「咲の方も二一五mm秒…」

 

やはりスピード系の神依しないと深雪には発動速度は負けるようだ。

 

「反射の二〇〇mm秒超えるのは流石に反則よ」

「お姉様がそうアドバイスしたんですよ」

「そうだったわね」

 

他の人達は達也も含め驚いているようだった。

 

「深雪もすごいと思ってたけど咲もやっぱりすごいんだね」

「コツとかないの?」

「俺も聞きたいぜ」

 

スピードに難儀していたエリカとレオに質問されたので4年前深雪にしたアドバイスを少し変えてする。

 

「今エリカとレオは魔法を意識して使ってるんじゃない?」

「そうね、集中して意識しないと魔法は発生しないじゃない」

 

「けど魔法は親しんでいくと意識しなくても使えるようになるの、例えば呼吸や鼓動は意識してないけどできてるでしょ、それと同じぐらいになるぐらい魔法を使えば速度に関しては早くなるわ、エリカも意識しないでもとっさに出る技とかあるんじゃないかしら」

 

「そう言われればあるわね」

「コツというよりはやっぱり反復訓練が大事ということだな。簡単にいうと習うより慣れろということだろ?」

「そうですね、私も深雪に負けていますし鍛錬が足りないのだけど」

 

深雪の頭を撫でながらいうと深雪は嬉しそうだった。深雪は私に褒められるのと頭を撫でられるのがやはり好きなようだ。

 

「深雪よくこのCADでこんなタイム出せたわね。私はこのCADだったら使わないほうが早いわ」

「お姉様が昔使いにくいCADで練習した方がいいといっていたので練習していたあの頃の経験が活きてますね」

 

使いにくいCADはサイオンの流れが詰まりやすいのが原因で使いにくいと言われている。つまり軽い擬似絶対安全圏対策になると思って昔深雪にアドバイスしたのだった。それを深雪は律儀に守っていたようだ。

 

「だけどお兄様のCADでなければお姉様はともかく私は力が出せません」

「そうだな。会長にも進言してみるか、あの人も使いづらいと思っているだろうし」

 

私はエイスリンの能力を使ってイメージすることでCADを完全に自分用に調整でき魔法式も入れることができる。達也にこのことを話したときは苦笑いして俺いらないなと言っていた。しかしその調整はCADが前世にないものなのでイメージが少し大変で1.2分かかるという欠点がある。なので今回は使えなかった。

 

 

 

 

私たちをのぞいた五人は深雪の言葉を聞き四葉家の魔法力を改めて実感するように呆れた顔をして居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深雪は咲との試合により原作より強化されています、神依無しだと咲はそれと同等か少し劣る設定です


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第10局[準備]

短いです

投稿したやつを初めて読みましたがめっちゃ読みにくいですね、間埋めた方が読みやすいのかなあ…


入学して早3週間が経った。私は相変わらず図書室にあししげく通っている。もうすっかり受付の人に顔は覚えられた。エイミィには付き合い悪い〜とかそんなんじゃ本の虫になっちゃうよなど言われたがどちらも前世から元々であり原作咲とも変わらない。

 

放課後、今日はあの本を読もうと計画を立てていたがその計画は完全に崩れ去った。二科生に対しての差別撤廃を図る有志同盟が放送室を占拠したのだった。その放送が行われている最中風紀委員の呼び出しがかかった。

 

「あら深雪も呼び出されたのね」

「はい、お姉様」

 

教室を出たところで深雪と合流し放送室に急いだ。到着すると渡辺先輩たちはもう来ていた。

 

「遅いぞ咲」

「申し訳ございません」

 

形だけの叱責に形だけの謝罪を返した。

とりあえず放送は止まっている。放送室への送電を切ったのであろう。放送室の扉は閉ざされており無理やりこじ開けた様子はない。どうやらマスターキーを盗みとりそれを使ったようだ。

渡辺先輩は強硬策の扉を破っての突入、十文字先輩は交渉に応じてもいいが学校の施設を壊してまで突入するのは悩みどころだそうだ。

 

鍵開けるキャラはいなかったか、姫子は鍵のような物体持ってたけど扉を開けるんじゃなくて空にビーム放ってそのあと牌がメテオのように落ちて来ただけだしなあと考えていると達也は中にいる壬生先輩と連絡を取った。生徒会や部活連の許可も七草先輩と十文字先輩から取り交渉に応じることも伝え鍵を開けさせることに成功したようだ。なんて有能なんだ。

 

「それより態勢を整えるべきかと」

「態勢?どういうことだ?」

 

どういうことだと言う表情で、渡辺先輩は達也を見た。一方達也は、困惑の表情が浮かんでいたのを確認してから質問に答えた。

 

「中の生徒を確保する態勢ですよ。鍵も窃盗してますし、CADは間違い無く持ち込んでますよ。それに他の武器も持ってる可能性も高いです」

 

達也が言うには自由を保障したのは壬生先輩だけで他の人の自由は保障していないとのことだった。流石にひどい。ほとんどだまし討ちだ。私より達也の方が絶対悪魔だ。

 

「魔王や悪魔のあだ名をお譲りしましょうか?」

「今更だろう」

「お兄様、壬生先輩のプライベートナンバーを登録されていたことについて、家で後ほどじっくりお話をお聞かせ願えますか?」

 

今夜は部屋で引きこもって本を読んでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、七草先輩に聞いたところあの事件は生徒会に一任されることとなり土曜日に同盟側と生徒会側で公開討論会を行うこととなった。

なぜか原作の記憶がもうほとんど消えているが襲撃があったことはかろうじて覚えている。普通に考えれば襲撃も土曜日であろう。

 

生徒会側からは七草先輩1人だけを出すそうだ。多くの討論者を出してしまうとこっちの主張主義が微妙に異なった場合そこを攻められる可能性がある。1人な場合は矛盾なく討論できるが返せない質問が来た時に困る。準備期間が少ないのと七草先輩の力量を考えると1人で討論した方がやはりいいだろう。

 

七草先輩も私も二科生への差別は撤廃したいとしていた。しかしこの差別は何か予算などの問題ではなく意識の問題である。その点を主張しない有志同盟には賛同する気にはならない。

 

本を読みながら視覚同調で学校を回ってみると有志が二科生を中心に討論会に参加するように呼びかけていた。前世でもこんな運動してる団体あった。夏暑い中よくやるわと思っていた覚えがある

やはり前世もこの世界も変わらないのであろう。

 

 

 

金曜日の夜、私は園城寺怜の神依を使った。

怜の能力は一巡先を見る能力。これはイメージが簡単で未来を見る能力だ。1時間後までを見るとすると今から1時間後までに起こることすべてがわかる。ただし見ることができるのは1km×1kmの正方形内の出来事か馴染み深い人物の未来しか見えない、それに加え私の未来視の効果により未来を大きく変えてしまうと見た未来の二倍の時間未来が見れなくなる。例えば一時間後をみて大きく未来を変えたならば一時間後が終わったあとの2時間後つまり未来視を使ってから一時間後から3時間後までの間は未来が見えない。

 

見るのは今から1日後まで、対象は学校。

見た未来は予想通りだった。私は未来を見ながら筆を走らせ終わると達也の部屋に向かった。

 

 

 

 




キャラの能力が無能力者も含めてだいたい決まったんですけど剣谷と越谷だけは誰1人として決まらない…勝負より自分の結果だけ考える能力とか一筒で振り込んで戦犯顔する能力とか茶道が上手くなる能力とかかなあ…

こういうのいいよってあったら参考にしたいんで感想とかで言って貰えるとありがたいです

咲日和で越谷と剣谷がないのが悔やまれる


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第11局[終幕]

入学編オーラスです


そして土曜日、臨時の公開討論会を迎えた。

 

今日咲は本家の仕事があるとのことで欠席だ。咲の未来視で今日あることは既に聞いている。深雪の怪我はないそうだが咲自身未来視は絶対でないと言っていた。咲の未来視は達也の知る限りでは外れたことはないが咲はずらされると未来視と違うことが起きる可能性があると言っていた。何がずらされるのかはよくわからなかったが。

 

 

「達也くん、今日咲は欠席か?」

 

「ええ、家の用事があるとかで。先輩に対しての預かり物ですよ、緊急事態が起きたら読んでくださいだそうです」

 

「何が書いてあるんだ?」

 

「さあ、読んだらわかるんじゃないですか?」

 

達也は昨日咲から預かった厚い封筒を渡した。摩利は不思議そうに見ていたが折りたたんでポケットにしまった。

 

講堂には数百の生徒が集まっていた。風紀委員も万が一暴力手段を取った場合に備え咲以外全員この講堂についている。

 

討論会自体は緊迫した雰囲気であったが感情的になることなく進んでいる。やはり寄せ集め集団にすぎない同盟側は七草先輩に論破されていた。

 

七草先輩は一科生二科生の溝の改善として二科生は生徒会に所属できないという規則を退任時に行い意識の克服も行いたいと最後締めた。咲も意識の克服が必要と常々家でぶつくさ言っていたので咲も聞いたら喜ぶだろう。まあ知っているだろうが。

 

時計を見ると予測時間1分前になっていた。達也も目を使って周囲を見ると進行してくるテロリストが見えた。なるほど相変わらず咲の未来視に狂いはないようだ。

 

「きますよ」

「何!?」

 

爆発音が聞こえて講堂が揺れると同時にガスグレネードのようなものが投げ込まれ明らかに生徒ではないガスマスクをつけ武装している侵入者が突入してきた。

 

ガスグレネードは着地しガスを巻き散らそうとした瞬間に服部先輩が収束させガスごと外に追い出し、ガスマスク部隊は渡辺先輩が全て無力化した。

 

 

「渡辺先輩、敵の狙いは図書室で閲覧できる秘匿技術の資料です、俺と深雪はそこに向かいます」

「わかった」

 

なぜ達也が敵の狙いがわかったのかは疑問だったが有無を言わせぬ迫力だったので摩利は許可した。そこで討論会前に貰った封筒を思い出した。

 

「咲はこれを予測していたのか…」

 

封筒を開けると出だしはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

この封筒を開けているということは私が見た未来通りにことが進んでいます。私は未来が見えます。証拠はこの手紙を読む前渡辺先輩がガスマスク集団を無効化し服部先輩がガスグレネードに対応しました。達也と深雪は図書室に向かったと思います。信じてもらえたでしょうか。

幸いこの襲撃に高校側に死者は出ません、しかし怪我人が出ます。それは数的不利や不意打ちを食らった場所がほとんどです。その箇所の時刻と場所、敵構成などをこれから下に書いていきます。

 

 

 

 

摩利はこの手紙は単なるいたずらとしか思えなかったがここにいない咲が詳しい事実を知っている以上咲の未来視は事実なのであろう。摩利はこの手紙を鈴音に見せ人員の手配を始めた。

 

 

 

 

 

達也は図書室につき精霊の目を使うと特別閲覧室に人がいるのが見えた。どうやらここも咲の未来視通りだ。階段下にも何人か伏兵がいる。

そのことを深雪に伝え達也と深雪は堂々と正面から入っていった。

バレている伏兵などただの案山子と同じだ。達也と深雪は瞬きする間に伏兵を無力化した。

特別閲覧室の扉を分解し中に入るといたのは壬生先輩を含めて5人

 

「産業スパイというやつか?残念だがお前たちの野望はここで終わりだ」

「四葉君…」

 

達也は記録用キューブに分解を発動すると男たちは驚いたようだった。

 

「クソ見られたからには容しゃ…ぐわあああああ」

 

見れば拳銃を抜こうとした男たちは深雪によって手が凍らされていた。

 

「壬生先輩。これが現実です」

「え…?」

「誰もが同じように優遇されるそんな世界。そんな世界はあり得ません。本当に平等な世界を作るなら誰もが優遇される世界ではなく冷遇される世界。壬生先輩は平等という甘美な言葉に騙されたにすぎないのですよ」

「差別をなくすのが間違いだったとでもいうの?でも実際に差別はこの学校にもあるじゃない!四葉君だって四葉家の人であんなに動けるのにそこにいる出来のいい妹たちと比べられ二科生ってだけでみんなから侮辱を受けたはずよ!」

 

達也はやばいと思ってチラッと横を見ると深雪がやはり怒っていた。

 

「みんなからですか?私やお姉様は少なくともお兄様を蔑んだりはしません」

 

深雪は咲がキレた時に似ている冷たい声で言った。

 

「たとえ私以外の全人類が、たとえお姉様までもがお兄様を侮辱したとしても私は蔑むことはありません。貴女にはそのような人はいませんでしたか?いいえ、そんなことはないですよね、お兄様は貴女を認めていらっしゃいました。誰よりも貴女のことを劣等生と呼び、雑草と蔑んでいたのは貴女自身なのです!」

「私自身が…」

 

「それにお姉様は言っていました、一科生二科生の問題の大元は一科生の驕りの意識と二科生の自身を卑下する意識の問題だと。なぜ二科生の貴方自身が気づかないのですか!」

 

達也が砕いて深雪がさらに砂にするような追い打ちをかけるような言葉に壬生先輩は棒立ちになっていた。

 

「何をしている、壬生!早く指輪を使え!」

 

壬生先輩が反射的にアンティナイトを使い男たちはスモークグレネードを使い体当たりして来たが鳩尾に1人一発合計4発殴りこむことにより沈黙させた。

壬生先輩はまだ棒立ちであった。

 

「壬生先輩すみません、少し寝てて下さい」

 

そう謝り達也は壬生先輩を気絶させた。

 

 

 

 

 

 

 

保健室で壬生先輩が起きるのを待ち起きてから話を聞くとやはり壬生先輩はマインドコントロールを受けていたようだ。しかしこのままでは壬生先輩は強盗罪で家裁送りになってしまう。

 

「さてと、あとは本隊を叩き潰すだけですか」

「危険だ、高校生にしては相手が大きすぎる」

「壬生先輩が家裁送りになれば学校の管理責任も問われると思いますが?」

 

達也の意見に渡辺先輩は反対だが学校に迷惑をかけるのも嫌なようだ。

 

「確かに警察の介入は良くないだろう」

 

真由美と摩利は十文字がこんな危ない提案に乗るとは思っておらず驚いた。

 

「だがな四葉、お前たちがいかに裏の仕事に長けてるかといって相手はテロリストだ。俺はお前に命をかけろと言わない」

「そうでしょうね…初めから力は借りようとは思っていません」

「1人で殲滅するつもりか?」

「本当ならそうしたいのがやまやまなのですが」

「お兄様、私もお供します」

「もちろんアタシも行くわ」

「俺もだ」

 

深雪エリカレオが同行を言い出し苦笑いを浮かべながら克人を見た。

 

「そうか、それなら俺も行こう」

 

「その必要はありません」

 

克人がそう提案したすぐ後に保健室入り口から声がした。その声の主は今日欠席のはずの咲だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日の未来視で私は手紙を送らない最初の未来は重傷者が出るのが見えた。手紙を送る未来に変えた場合も見るとそちらの方が重傷者は出ず負傷者が少なかったのでこの理由により渡辺先輩に手紙を送ることにした。戦闘開始前に見せなかったのは未来が変わって襲撃がなくなった場合も考えたのと前に見ても後に見ても結果は変わらなかったからである。この分岐する二つの未来を見る能力は5決で怜が身につけた能力である。この能力を使えば未来が曇ることは少なくなる。しかしこの能力は二巡先のようにぶっ倒れることはないが一巡先見るよりも体力を使うので昨日は達也に話した後は本を読むことなく寝ることとなった。

 

今私が学校を休んでやっていることは学校を襲うブランシュ以外のメンバーの処理だ。

 

なぜ学校を襲うメンバーを排除しないかというと一種のガス抜きだ。同盟側は二科生差別などでストレスや不満などが溜まっている。もしブランシュのメンバーを排除しテロがなかったとする。そうした場合発散できずまた不満がたまっていき同じような事態を起こすかもしれない。しかし襲わせある程度ガス抜きをし少し痛い目に合わせることで反省し二度とこんなことを起こさせないようにするという算段だ。

 

今回の作戦は私1人ではいろんな場所を回るのは無理なので四葉本家に協力して貰っている。協力の要請をお母様にしたところ珍しく仕事のやる気がある(いつもはない)ということで増援をよこしてくれた。

午前中にあらかた支部は潰し終わりあとは本隊だけとなっていた。

 

「咲様、最後の場所は?」

 

「お母様から送られて来た情報によると町外れの廃化学工場ね、学校の目と鼻の先にあったなんて」

 

そう言って十数人の配下と共に廃工場に向かった。

 

 

 

 

廃工場の敷地に入り精霊を使って中の人数を調べてみると50人ほどであった。

 

 

「ちょっと人数が多いから私だけでいってくるわね、逃さないつもりだけど貴方たちは脱走兵を処理して」

 

「咲様だけじゃ危険です。私たちもついて…」

 

「これは命令よ、二度目はないから」

 

冷たい声で言い放ち中に入って行く。

あれは咲なりの優しさだと配下たちはわかっていた。自分たちを殺させないために自分1人で行ったのだ。

四葉は配下を使い捨てにすることが多い。それを配下たちもわかっている。しかし咲は絶対にそうしない。母親に配下は道具だと言われているはずなのだが咲なりの信念があるのだろう。

配下たちからみると咲は異端で特別な存在であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜ鳥は空を飛ぶのか

翼を持つ鳥は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひらけた倉庫のような場所に出て咲を出迎えたのは50人近くの配下を従えたリーダーとおもわしき男だった。

 

「君が四葉のプリンセス、四葉咲さんか」

 

「貴方がブランシュのリーダー?」

 

「おっと、そうだね自己紹介をするとしよう。私がブランシュのリーダー、司一だ」

 

なんか小説で出て来そうな黒幕をイメージしていたので少し残念な気分だった。中年の男性とか一番面白くない。

 

「一応投降勧告しとくわ、武器捨てて頭に手を置きなさい」

 

私は腕を組みながら言う。だがリーダーは面白そうなものを見る目でこっちを見ていた。

 

 

「銃くらい持ってきてると思ってたが、銃はおろかCADも持って来ていないなんて。魔法師だって撃たれれば死ぬんだよ」

 

撃たれても死なない人を知っているが余計なことは口に出さない。

 

「私は魔法師じゃないもの」

 

「おっと、そうだったね。君はまだ学生だったね。今回の計画にはそれなりにコストと時間をつぎ込んでいるんだ。ここで引くわけにはいかない。だが君のアンティナイトを必要としないキャスト・ジャミングはとても興味深い。なおかつ素晴らしい魔法力。もし君が我々の仲間になると言うのなら、今回の件は水に流してあげよう」

 

あの試合を見た生徒から聞いたのだろうか?私しか使えないだろうし意味ないだろうになあ。

 

「言いたいことはそれだけ?」

 

「四葉咲、今から我々の同士だ!」

 

そう叫ぶと同時に目の前にピカピカと光が点滅した。そろそろ茶番に飽きて来たので一つ背伸びをした。

 

「な、なんだと…」

 

「その魔法って意識干渉型無系統か光波振動系魔法のイービルアイでしたっけ?それに似たような魔法にポリゴンショックってのを知っていまして。でもひどいのですよ。ポリゴン何にも悪くないのにメインキャラの圧力に負け出禁にされたのですよ?知っている人はなんでやポリゴン関係ないやろ!と言ったぐらいですわ」

 

この世界では知り得ない知識とともに相手の種を明かしてあげる。

 

「なぜ効かないんだ」

「そういえば貴方の魔法師発言を訂正してあげます」

「どういうことだ…」

「確かに私は魔法師ではありませんわ、神ですわ」

 

私はまるで天使のような大きい金色の翼を背中から出して宙に浮いた。ブランシュ達はその光景に衝撃を受けているようだ

 

「ひ、ひ、人が神なわけないだろ!」

「じゃあ撃ったらいいじゃない、CADを持たない魔法師なんて撃たれれば死ぬんでしょう?」

「お、お前ら撃てぇえぇえええええ」

 

配下の50人が一斉に私にめがけて銃弾を発射した。しかし私に弾が届くことはなかった。弾が私とブランシュ達のちょうど中間あたりで全て宙で止まっていた。まるで私とブランシュ達の間の空間が「塞」がれているようだった。

 

「ほら、死なないでしょ」

 

飽きて来たのでブランシュ達の行動を「塞」いだ。配下達はついでに呼吸まで「塞」いだ。

 

「ねえ、なぜ鳥は飛ぶのだと思う?」

 

リーダーだけは呼吸を塞いでいないので喋ることはできるが私の姿と魔法を見て圧倒的恐怖が襲っているようだった。返答がない

 

「ねえ答えてよ、正解したら許してあげるわ」

 

「と、鳥は餌を探すために飛ぶんだ」

 

「あら、残念」

 

私は全員の意識を塞いだ。

 

 

 

 

事後処理は家のものに任せ学校にステルスモモを併用しながら羽を使って飛んでいき学校の裏手に降りた。ところどころ学校が壊れているところがあるがまだ許容範囲だろう。みるとテロリストは完全に制圧されたようだ。達也達はどこだろうと思い精霊を使い探すと保健室にいるようだった。

 

保健室からテロリストを潰しに行くような単語が聞こえたので急いだ。

 

「それなら俺も行こう」

 

「その必要はありません、私が残り全て排除しました」

 

達也と深雪はなるほどという顔を浮かべたが他の人たちは驚いたようだ

 

「残り全てって…咲1人でか?」

 

「まあ移動や準備などは家のものに手伝ってもらいましたけど、支部5個本部1個せいぜい合わせて200人ちょいだったので簡単な任務でしたよ?」

 

2人を除いた全員私の言葉に絶句しているようだ。テロリストの処理など日常茶飯事でやることではないのか。絶句してない達也が質問してくる。

 

「咲、残党はどうしたんだ?」

 

「流石に殺すのはまずいので気絶だけに抑えたわよ、新しい神の実験ができて楽しかったわ」

 

テロリストすらも実験台とする、やはり咲は四葉であり天使ではなく悪魔だと一同は思うのであった。

 

 

 

 

 

 

後日談

 

事後処理は本部や支部は家のものが、学校の方は十文字先輩が引き受けてくださった。私はあの後エリカとレオにせっかく暴れられる機会だったのにと愚痴を言われた。

 

壬生先輩をはじめ他の生徒もマインドコントロールを受けていたこともありお咎めなしですんだ。

しかしマインドコントロールを受けていた生徒達は洗脳の影響が判明するまで入院することになったらしい。これは仕方がないことであろう。

 

その間壬生先輩の元に桐原先輩が毎日見舞いに通っていたとエリカから聞いた。

まるで壬生先輩小野小町ねと言ったけれど言ってから会ってるしちょっと違うかと思ったがツッコミ来なかったのでセーフだろう。

 

エリカは壬生先輩と剣で話が合うところがあったのだろう、仲良くなりサーヤと呼ぶ仲にまでなったと聞いた。

 

そして退院の日私たち3人は病院までお見舞いにむかった。

すでに桐原先輩とエリカは到着しており、エリカが桐原先輩をからかいながら談笑していた。

 

「退院おめでとうございます」

「おめでとうございます」

「ありがとう」

 

私と深雪で花束を壬生先輩に渡した。壬生先輩は前見た時よりも顔がイキイキしていてよかった。

 

達也は壬生先輩の父に話があると言われ席を外した。

 

少し達也抜きでしゃべっていると思ったよりすぐに達也が帰って来た。

 

達也が言うには壬生先輩のお父上が知り合いから達也の話を聞いていたと言うことだった。

 

ということは壬生先輩のお父上は軍の人か、けど達也の所属部隊は特殊だしと思考にはまっているとエリカが桐原先輩をからかっていた。

 

こんな平和な時をまた過ごせるのも悪くない、そう思いエリカを止めに入るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真由美は珍しく父.弘一の部屋に来ていた。聞きたいことがあったからだ。

 

「真由美です、入ってもよろしいでしょうか?」

 

「入りなさい」

 

「少し聞きたいことがあるのですが」

 

「お前にしては珍しい、なんだ?」

 

「四葉家当主真夜様の長女、四葉咲についてご存知でしょうか?」

 

真由美が気になっていたのは咲がこぼした一言"新しい神の実験"だ。咲が多重人格なのはもう学校中に知られているが咲の口から神という言葉は初めて聞いた。新しい→神の実験の可能性もあったが神の実験の意味がわからないのでその説は切り捨てる。なので新しい神→の実験の方が繋がりがいいだろう。

 

「そうか真由美、あの力を見たか、どうにかしてうちの家に引き入れたいものだ」

 

「あの力とは多重人格のことでしょうか?」

 

父親の咲が長男か次男に嫁いでもらいたいという願望を聞くのは初めてだったがそんなことはどうでもよかった。

 

「四葉咲の能力は多重人格なんかではない、四葉咲は神の憑代、能力名は「神依」、四葉咲の魔法は神の力だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




片方はわかりやすいが片方はわかりにくいキャラになってしまった。

わかりにくい金色の羽の方は九校戦編2局目ぐらいで説明出すと思います。わかる人いるかな?

明日から一話ずつに戻してオリジナル展開の続き、次の次の話から九校戦です


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第12局[真実]

この2人の会話基本真由美がキレてるからまともな会話してるシーンが少なくて口調がわからない…


「神の力ってどういうことですか?」

 

「文字通り神の力だ、あの子の魔法は魔法の領域を逸脱している」

 

真由美は父がなぜここまでいうかわからなかった。咲の力はすごいものだったが父にここまで言わせるものではなかった。

 

「例えば真由美、5歳の頃今の十師族当主に九校戦のスピードシューティングで勝てるか?」

 

「それは…無理ですね」

 

今でもほとんどの当主相手には無理だろう、勝てそうな相手は競技と相性が悪い障壁魔法が得意な十文字家ぐらいだ。

 

「四葉咲は5歳で十師族当主全員を負かせた、負けなかったのは老師だけだ」

 

「そのようなことが….」

 

「真由美お前は四葉咲のどの神をみたんだ?」

 

「キャストジャミングを発する能力を見ました、後から咲さんから聞いた話では「大」の能力と言っていました」

 

「「大」の能力はキャストジャミングとかいう生易しいものではない。固有魔法以外使えなくする魔法だ」

 

「え?それはどういうことでしょうか?」

 

「10年前十師族合同の旅行があったのだ、懇親会の意味も兼ねた腹の探り合いだがな、そこに普通は何をいうかわからない子供など連れてくるわけがない。だが四葉殿は親バカでな。四葉咲を連れて来ていたのだ」

 

「10年前というと咲さんが5歳の頃ですね」

 

「そうだ、その時四葉殿が急に咲と対決してくださいませんかと言い出したのだ、当時の十師族当主にだぞ」

 

「最初はこんな小さい子に負けるわけないと思っていたが最初に四葉殿が負けたのを見て考えが変わった。ルールはアイスピラーズブレイク、特殊ルールとして固有魔法無しでだ」

 

ほとんど九校戦と変わらないルールである、固有魔法を持ってる魔法師の絶対数が少ないので固有魔法無しというルールが付け加わってもほとんど変わらないのだ。

 

「四葉殿は力を抜いたのでは?」

 

「他の皆もそう思ったようだ、なにせ魔法が発動していなかったからな、しかし実際に戦ってみると違った。魔法を発動させようと思っても魔法式にサイオンが流れ込まないのだ」

 

真由美は父の言ってることに想像がつかなかった。

 

「次の日は「照」だった、お菓子をあげると喜ぶかわいい神だったが魔法となると違った。速さも強度も桁違い。しかもそれがどんどん上がっていく、老師も勝つのに苦労していたよ。四葉殿が四葉咲の能力を神依と呼んでいたが誇張ではない。」

 

「そんな…」

 

「たぶん四葉殿は四葉に敵対したらこの子が出るぞということを示すために連れて来たのだろう、だがなぜか嫁に手放す可能性も今のところある。あの子を手に入れれば四葉やうちと並ぶ力を持つ。この話を知ってる家はライバルが増えて欲しくないので他所には話さない。だから咲の本当の実力は世間では流れない。戦略級魔法師である妹のみなもが一番有名なようにな。これが四葉咲の本当の実力が意図して流れていない今の魔法界の現実だよ」

 

「つまり咲さんをどこが取るかによって家のパワーバランスが変わるということですか」

 

「もし四葉家のままだとパワーバランスが崩れ四葉家一強になり、四葉が暴走した時に二十八家や百家合わせても止めることができないだろうと他の十師族は危惧しているのもあるから婚約を申し込むんだ。容姿に惹かれて出しているところもあるようだがね。しかしその条件が厳しすぎてお手上げといったところだよ」

 

「あの二つの条件ですね」

 

真由美はこの前咲本人から聞いた二つの条件を思い出した。

 

「まだ質問の方はなんとかなるんだが魔法戦がどの家でも厳しい。同じ四葉家の四葉深雪は何回か勝っているらしいが天照大神と言われている4人の神には勝ったことはないらしい」

 

これほどまで言われる咲に深雪は何度か勝っている、四葉の力はどれほどのものなのか

 

「真由美、四葉咲の弱点を暴きたいので九校戦ではアイスピラーズ以外に出せ、これだけ情報を与えた対価だ」

 

弘一は自分で喋りすぎたと思ったようだ。

 

「わかりました」

 

いつもだったら断るところだがこれだけ珍しく情報を教えてくれたので断ることはできなかった。

 

 

 




明日から九校戦です

今日高校の卒業式みたいですね、卒業された皆さんご卒業おめでとうございます


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九校戦編
第13局[始動]


昨日1日でお気に入り100件以上増えました。とても嬉しいことなんですがまじで何が起きたんだ…
お気に入りしてくれた皆様、読んでくれている皆様ありがとうございます。



今回から九校戦です。オリジナル展開オリキャラ多めです。今回いつもより長いです


どの世界の学生でも逃れられないもの、それは試験である。

私は前世高3であったので一般科目数学や国語や物理、高1程度であればそれらは問題ない。当然魔法実技の方も問題はない。問題は魔法理論であった。

私にとって魔法とはイメージできたらできるもの、イメージできないならばイメージを鍛えるだけ、というものなので魔法を使いながら理論を考えたこともない。できるものはできるのだ。

 

私が入学試験の理論の結果で深雪に続き3位だったのは本家の機械に頼ったからである。そういう訳で今達也に教えを請いている。

 

「〜というわけでこの魔法式に重ねがけした魔法式は発動ができない、この説明でわからないか?」

「まったくもって!あとこの魔法式の重ねがけも圧倒的強度で押したり一度魔法式吹っ飛ばしたら再展開できるのでしょ?それだったら私は魔法式の上から魔法式上書きできるわよ、教科書は嘘つきね」

 

筋肉論破する私に達也は頭を抱えていた。

 

「やっぱり精霊使って達也さんのテストをカンニングするか、未来視使って先に問題を知るしかないわね…」

 

「それは不正行為だぞ、未来視の方はわからないから文句は言えないだろうが」

 

「それなら終わりね、閉廷!」

 

「俺が密告するからな、その時は覚悟しとけよ」

 

やはり達也は悪魔だ。

 

「咲はCADのソフトウェアやハードウェアの方はできるのだし基礎的魔法理論だけ勉強すればいいんだ、他の人より楽なんだぞ」

 

「CADは勉強しないとイメージできないから仕方がないのよ、確かに今回は理論でも深雪に勝ちたいし頑張るわ」

 

そういってやる気を取り戻し再び勉強に戻るのであった。

 

 

 

 

 

一学期定期テストの結果は次の通りとなった

 

総合順位

一位 四葉咲 二位 四葉深雪 三位 光井ほのか 四位 北山雫

 

今年はどうやら女子が上位を独占しているようだ。前世も中学の時は女子、高校の時は男子が上位を独占していたのでよくあることだろう。Aクラスに3人固まってるのは流石にクラス分けミスだと思うが。

 

魔法理論の結果は私にとって嬉しいものであった。

 

一位 四葉達也 二位 四葉咲 三位 四葉深雪 四位 吉田幹比古

 

不正はしていない。基礎魔法理論は相変わらず足を引っ張っていたが他の理論でカバーしたという感じだ。

基礎魔法理論でなぜこの魔法は発動しないのかという問題に私は試してみて発動したのでそんなオカルトありえませんと書いたら不正解にされた。やはり教科書は嘘つきだ

 

 

実技は

 

一位四葉咲 二位四葉深雪 三位光井ほのか 四位森崎俊 五位 北山雫 という結果になった。

 

 

 

「達也さん、理論四位の吉田君ってあの吉田家の人かしら?」

「たぶんそうだろう。体は動くし視野も広い。昔から続く荒業などをしていれば納得できる」

「同じクラスなのね、今度挨拶に向かおうかしら」

 

実は私が精霊魔法を習った家が吉田家であった。その時神童と言われていた吉田家の次男が同級生だったはずだ。たぶん事故か自信喪失など何かで魔法力を減らしているのだろう。

 

 

 

地獄はまだ続く。魔法科高校の最大イベント、九校戦が近づいていた。

 

咲は前世からイベント類にはあまり積極的に参加してこなかった。数人の仲がいい人だけのイベントなら参加していたが夏は暑いので家や図書館で本を読むのが一番と思っている。秋の論文コンペと逆にしてくれたらいいのにと思っていた。

 

私も深雪も当然選手に選ばれ深雪は生徒会として準備するのに大忙しであった。

 

選手は既に本線新人戦を含め全員決まっているそうだが技術エンジニアが足りないらしい。

 

技術エンジニアとは九校戦魔法競技であるのでいろいろな制約がある。一つにCADのスペックだ。ハードはほとんど変わらないのでソフトウェアでどれぐらい他校と差をつけるのか、それが技術エンジニアとしての腕の見せ所であった。

 

 

 

いつものように生徒会室で昼食を取っていると自然と近づいている九校戦のことになる。

 

七草先輩は机に突っ伏していた。七草先輩が言うにはまだ技術エンジニアが足りないらしい。二年生には中条先輩や百家の五十里先輩など優秀な人材はいるが三年生は魔法師希望に例年より多く偏っているらしく絶対数が足りないらしい。

 

私はイメージで調整できるし、七草先輩や十文字先輩は自分で調整できるそうだが私たちの方が少数派だ。現に渡辺先輩はCADの調整が苦手らしい。

 

達也は話の流れが悪い方に向かっていると感じ取ったのであろう。私たちに目配せしてきた。逃げるつもりだ。

 

「では俺はこれで」

 

「技術エンジニアは達也さんにやって貰えばいいと思います。深雪のCADは達也さんが調整していますので」

 

達也に引導を渡してあげた。死ぬなら共々である。1人だけ逃げるのは許さない。

 

「え?」

 

「盲点だったわ」

 

達也は恨みがましい目でこちらをみているが気づいていない風を装った。

 

「そういえば風紀委員のCADも達也君が調整していたな…」

 

完全に七草先輩と渡辺先輩は獲物を見つけた肉食獣のようになっていた。ターゲットになった達也はいろいろつけて言い訳しているようだ。

 

「私は九校戦でもお兄様にCADを調整していただきたいですのが…ダメでしょうか?」

 

達也はがっくり肩を落とした。トドメを刺しにくるのが妹とは思わなかったのであろう。

 

「そうよね。深雪さん達も信頼できるエンジニアがいてくれたら嬉しいわよね」

 

「はい、お兄様がエンジニアならば光井さんや北山さん、明智さんも安心して全力を出すことができるでしょう」

 

エイミィと深雪は私つながりで既に知り合いとなっている。

深雪にここまで言われれば達也は断ることはできない。

 

「チェックメイトね」

 

「後で覚えとけよ」

 

今夜も部屋に引きこもっておこう。

 

 

 

 

食事を終え本を読んでいると珍しい光景が起こった。達也がシルバーホーンを取り出すとそれに吸い付くように中条先輩が達也の方へ寄って行ったのだ。なるほど、前世にもたくさんいたデバイスオタクというやつだろう。

普段は達也に怖がって近づかないのに尻尾を振る犬のように近づいているのは珍しい光景であった。

 

「それじゃあトーラスシルバーってどんな人なんだと思います?」

 

話しているうちにトーラスシルバーの話になったらしい。達也は少し困った様子で答えた。

 

「そうですね…案外、日本人の青少年かもしれませんね」

 

その答えを聞き深雪はビープ音を鳴らし私は飲んでいたお茶でむせた。

 

 

 

「そういえばあーちゃん課題があるとか言ってなかった?」

「会長〜」

 

涙目になりながら七草先輩を呼んでいるのだが何に苦戦しているのだろう、中条先輩は二年生で理論二位だったはずだ。

 

「汎用型飛行魔法がどうして実現できないのか説明できなくて」

 

魔法は連続で発動し続けると魔法式に対して上書きを行うためより大きい干渉力が必要となる。それを続けていくと干渉力の問題で魔法を発動できなくなるので汎用型飛行魔法は確立されていない。古式魔法には飛行魔法を使える使い手がいるがいわゆるBS魔法として扱われている。

 

「試したことはありませんし力づくですが短い時間ならある人格で空を飛べると思います」

 

「本当ですか?」

 

「ええ、飛行魔法は干渉力の問題で途中で魔法を使えなくなるのが問題ですが私の人格の一つに魔法を使うとだんだん尻上がりに魔法力が上がる人格がありましてそれを上手く使えば飛べると思います」

 

達也と深雪にとっても初めて聞く神の力だったが前半に強い神もいるんだからスロースタートな神もいてもおかしくないと思っていた。そして七草先輩はなぜか納得したようだった。

 

「汎用もないほとんど力任せのBS魔法に近いですが私なんかを凌駕するとてつもなく魔法力の強い人であれば一応飛行はできると思います、汎用性はないので今回の課題には不適切ですが…」

 

「いえいえ、とても勉強になりました」

 

私がこの飛行を試していないのはもう既に他の人格で飛ぶことができるからである。

 

 

 

達也が私の脳筋理論と違い理論的に説明してくれた。

まず魔法式は魔法式に作用できないという大前提がある。

魔法が終わる前に新たな魔法を発動するとそれだけの干渉力が必要となりそれは領域干渉でも同じである。つまりイギリスの実験は魔法→魔法ではなく魔法→魔法(領域干渉)→魔法となったのでより大きい干渉力が必要となり失敗したのだと説明してくれた。

 

 

 

 

 

 

放課後の準備会議、内定しているもの一同が部活連本部で集まる中、やはり達也に向けられる敵対する目があった。風紀委員会での活躍がありなおかつ四葉であっても二科生というところに突っかかってくる輩がいるのだろう。本当は私達也深雪と座っているので羨ましいという目の方が多かったのだが。

 

会議が始まるとやはり達也のスタッフ入りを支持しない生徒もいた。1/4が達也を支持、半分が達也が四葉ということもあるのだろうが中立、残り1/4が反対となっていた。

反対している人たちは最もな理由を並べているが兎に角二科生が選出されているのが嫌なのだろう。

 

「要するに四葉の腕前が分かれば良いんだな」

 

 揉めている人たちに克人が声を掛ける。その重圧な声に、揉めていた人たちは一斉に黙った。そこで達也はCAD調整の腕前を披露することになった。

 

実際の調整役として七草先輩や十文字先輩が立候補する中、その役を買って出たのは桐原先輩であった。

 

達也の調整は相変わらずよくわからなかったが中条先輩が驚いてるのを見るとよほど高度なことをやっているのだろう。私はCADのハードとソフトウェアのことは勉強しているがCADの調整や設定は魔法でやってしまうのでわからないのだ。

 

「終わりました」

 

達也に渡されたCADを起動し感触を桐原先輩は確かめる。

 

「どうだ桐原」

 

「違和感ありません。いつも自分の使ってるCADと比べても全く問題ありません」

 

その後もいろいろ難癖をつけてくる輩がいて面倒くさくなってきたのでそろそろ小物を一蹴するためにニワカ先輩の出番かと思い頭の中でニワカ先輩のテーマが流れていたがその必要はなくなった。達也を援護したのは意外にも服部先輩だった。

 

「私は四葉のメンバー入りを支援します。技術エンジニアの選考が難航している今、一科生二科生などといった肩書きにこだわるのではなく能力的にベストなメンバーを選ぶべきです」

 

「俺もそう思う、四葉はエンジニアとして選ばれるだけの技術を見せてくれた」

 

こう十文字先輩が締めくくり達也のエンジニア入りが確定した。

 

 

 

 

その後内定メンバーで競技決めが行われた。

 

私はアイスピラーズブレイクには自信があったのだが深雪は振動系魔法が得意でこの競技に向いているのと七草先輩に他の競技をオススメされたのでバトルボードとクラウドボールとなった。

正直バトルボードは麻雀と連想するイメージがほとんどないので少し困るがまあ仕方がないだろう。

 

深雪はアイスピラーズブレイクとミラージバットの二種目、達也はスピードシューティングとアイスピラーズブレイクとミラージバットの三種目の担当になった。

 

ミラージバットでも本気を出せばまず負けないだろうが服装が可愛らしすぎて恥ずかしいのもあり私は遠慮しておいた。

 

達也と深雪と別々の競技になった理由は二つある。

 

一つ目は戦力の分散だ。深雪は私の神依無し状態よりも魔法力が高く同年代にはほとんど負けないだろう。私も神依後は深雪を上回る魔法力を持つ。一種目で一位二位取るより二種目で一位取った方が点数効率としてはいい。今年は三連覇もかかっているので新人戦の点数は半分とはいえ重要なのだ。

 

 

二つ目はCADの調整だ。

私はCADの調整は自分でできる。同じ競技の他の人には申し訳ないが達也は別の競技を見てもらった方がいいだろうと先輩に進言したところこのような担当になったのだ。

 

一応私のCADの担当もつくそうで担当は中条先輩であった。

 

深雪は私と魔法戦を九校戦でしたいと思っていたらしく少し残念そうだったが練習の時にしてあげると約束すると表情は嬉しそうだったがまだ少し暗さが残っていた。やはり九校戦で戦いたかったのであろう。

 

 

 

「お姉様、お願いがあるのですが」

 

家に帰ると深雪が珍しくお願いをしてきた。

 

「何かしら?」

 

「お姉様が神儀でお使いになってる衣装を貸して貰えないでしょうか?」

 

アイスピラーズブレイクで着るのであろう。

 

私は毎年年始に本家で神儀という名の儀式を行っている。4歳の頃一度だけ分家当主や深雪達にまで見せたことはあるが今その内容を知っているのは私とお母様と葉山さん他数人の執事だけだ。私のこの薄い金髪と巫女装束は合わないと思っているのだが毎年一応巫女服を着ている。

 

「私のでいいのかしら?」

 

「はい、お姉様のがいいです!」

 

「わかった、お母様にお願いしとくわ」

 

お母様は深雪にも甘い、仲が良かった死んだ姉の娘というのもあるのだろうし私やみなもとも年齢が近いのもあるだろう。

 

深雪より私の方が少し背が高いがこれぐらいの差なら誤差であろう。私のでも大丈夫なはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深雪は日付が変わる頃まで勉強していた、ふとお茶を飲もうと思った深雪は姉と兄の喜ぶ顔が見たいと思い3人分入れることにした。

兄は地下の研究室で研究しているだろうし、姉は新しい神依の練習か本を読んでいるだろう。姉の神依はイメージすれば基本できるらしいが効果のほどは使って見ないとわからないらしいので練習が必要と言っていた。

 

紅茶を入れるためにキッチンに向かおうと考えたが姿見の前で少し考える。そして咲がいたずらをする時のような笑みを浮かべ衣装棚に向かった。

 

 

 

 

 

まず姉の部屋に行ったが電気がついておらず寝ていることもなかった。ということは実験室か研究室かと思い地下に降りていくと姉と兄の喋り声が聞こえた、どうやら2人ともここにいたようだ。

 

 

「お兄様、お姉様、深雪です。入ってもよろしいでしょうか?」

 

「ちょうど良かった。入って」

 

 

 この時間に深雪がお茶やコーヒーを持ってくるのは、日課である。兄や姉としてはこの時間に深雪が部屋を訪ねてきても全く不思議だとは思わないだろう。

だが何時もと違ったのは、兄が普段ならすまなさそうに礼をいい招き入れるのに対して、今日は待ってたというような口ぶりだったのが深雪には少し気になった。

しかしそんな些細な事で兄や姉を待たせるなんて深雪には出来ない。

 

 

「失礼します」

 

部屋に入ると机の前で座っている兄と大きな金色の翼を背中から生やし宙に浮きながら本を読んでいる姉がいた。

 




次の回からキャラ解説書いていこうと思います。能力説明がある回のあとがきに能力を説明したキャラの解説を書いていこうと思います。


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第14局[飛翔]

SOA


「ちょうど、呼びに行こうかとおも……」

「あら深雪可愛いわ、フェアリーダンスのコスチュームね、それにお揃い」

 

兄は自分をまじまじと凝視し、姉は私の頭についている羽の髪飾りと姉自身の金色の翼を指差しながら言った。

 

 

原村和

主人公チーム清澄の一年であり去年のインターミドルチャンピオン。名言、そんなオカルトあり得ません(通称SOA)から分かる通りデジタル麻雀を得意とし、ネトマ界では運営が送り込んだコンピューターなどと言われ知らない人はいないほどである。現実で打つと牌の感じなど現実のいろいろな情報に惑わされることにより上手く打てずミスをしていたが、エトぺんを試合中抱くことによりミスが少なくなった。

咲がこの能力をこの世界に落とし込むと、どの場合でも教科書通り基本に忠実な魔法を使うことができるようになるのと金色の羽を生やし空を飛べるという能力になる。なぜ空を飛べる能力がついたかというと長野1回戦で競技中、空を飛んでいたからだ。むしろそっちの方がオカルトであり、あり得ない。お前が言うなレベルである。だがこれにより咲は空を飛ぶことができるのだ。

 

 

 

「お姉様ありがとうございます。お兄様どうでしょうか?」

「とても可愛いし似合ってるよ、そしてナイスタイミングだ」

「ありがとうございます…?」

 

兄が褒めてくれることは確信していたが最後のフレーズが理解できなかった。座っている達也をよく見るとそこにあるべき椅子がなかった。

 

「深雪にもこのデバイスのテストをして欲しかったのよ」

「汎用型飛行術式、常駐型重力制御魔法が完成したんですね!おめでとうございますお兄様!」

 

それは兄と姉が協力して研究していた魔法だ。

 

「ありがとう深雪。まあ咲の術式をいじっただけでズルしたようなものなのだがな」

「翻訳して、意味を理解して、いらない部分削って新たに要素付け足したのならもう私の術式関係ないと思うんだけど」

 

姉の神依中に使う術式はそもそも魔法式の言語が違うらしく姉もその神の神依中以外には使えなく、翻訳が必要らしい。それを一から兄は解読したとのことだ。

 

咲がエイスリンの神依の力のように神依なしでも使えるようになっているのはこの言語を感覚的に理解しているからである

 

「そうですよ、お姉様の魔法は神の魔法なのですし、お兄様の飛行術式は必要な魔法力を満たしていれば誰でも使えるのでしょう?」

「一応そういう風に作ったつもりだ。俺と咲はテスト済みだから深雪にもテストして欲しいのだが」

「喜んで!」

 

深雪は長年の夢の1つが叶うのが間近と知り顔を輝かせた。

 

 

 

 

飛行術式のCADはいつも使っているCADの汎用型ではなく、特化型であった。姉はCADが必要な飛行術式は片手がふさがるから使いにくいとぶつくさ文句言っていたがそれは多分姉だけであろう。姉は別次元なのだ。

 

「始めます」

 

深雪はたくさんの感情が入り混じっていた。なにせこの魔法は尊敬している姉の神の力の中の1つであるからである。自分が使ってもいいのかという葛藤と姉が見ている世界を見たいという誘惑と失敗したらどうしようという恐怖。様々な感情を持ち実験をスタートした。

 

兄が作った魔法は綺麗な魔法であった。魔法演算領域にほとんど負担をかけず、吸い取られるサイオンは余剰サイオンの流量に毛が生えた程度にすぎない。徹底的に無駄をなくした魔法であった。

空を飛ぶ気持ち良さと姉の見ている世界を見たことにより、姉のように大空を自由に飛んで見たいと思った。

 

「起動式の連続処理が負担になっているとかはないか?」

 

快感に溺れていた自分に気づき自分を叱りつけ質問に答えた。

 

「大丈夫です。頭痛や疲労感などもありません」

「それじゃあ水平移動して思うように飛んでくれないか?」

 

深雪は自由に飛んだ。ターン、スピン、宙返りなど自由自在に舞い踊る。

 

「その術式すごい綺麗よね、それに改良版は神依無しで神依と同じ力得られるしすごいわ」

「改良版ですか?」

「その話はまた今度。咲も一緒に飛んだらどうだ」

「そうね、飛ぼうかしら」

 

姉は本を机の上に起き浮かび上がる。深雪の夢の1つは姉と一緒に空を飛ぶことであった。夢を叶えてくれた兄に深雪は心から感謝していた。

 

 

 




原村和
咲原作のヒロイン枠+おっぱい枠 母親が美人 ボケが多い咲原作や咲日和の数少ないツッコミ要員でもある

のどっちエトペン持ったら強くなったり空飛んだり発情したりどう考えても自分オカルト側だろ…




それはそうと今日発売の本編の照が可愛すぎる、冬服ロング照の破壊力は見てもらわないとわからない。照-Teru-白糸台編のスピンオフ始まってくれ…


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第15局[一閃]

競技の説明も入れた方がいいのだろうか…


次の日曜日、達也と深雪はFLTに出かけた。私はお留守番だ。最近九校戦の練習などで忙しく読めなかった本をこの休みに読むつもりなのだ。

 

私が一冊読み終わり次の本に取り掛かろうとしていたとき二人は帰ってきたが、帰ってきた深雪は悲しそうであった。話を聞くとFLTで父親と青木さんに会い達也を無下にされたとのことだった。青木さんはまだ達也を四葉と認めていないらしい。その話を聞き私も腹が立ったが深雪を慰めるために頭を撫でてやると少し機嫌が良くなった。

 

 

 

 

 

 

次の週、九校戦の練習が再開されたが私はちょっとした悩みがあった。

クラウドボールにはぴったりのキャラが思いついたのだがバトルボードにはどのキャラを選ぶべきか迷っているのだ。

 

原作咲にはサーフィンをするようなキャラがおらず、ぴったりのキャラが思いつかない。一番近いのが白糸台のフィッシャー(笑)という有様。天照大神のどれかを使えば勝つのは当然。しかし自分の意識がある普通の神依は問題ないのだが天照大神の神依は自分の意識がほとんどない。しかも一度寝ないと自分の意識は戻ることはないし、暴走する可能性もある。それに本家の命令もあるしそもそも使えない。うーんどうしたものかと悩んでいるとそれを見越したのだろう。達也が話しかけて来た

 

「深雪がアイスピラーズブレイクで勝負したがっているが今大丈夫か?」

「ええ、今ちょうど手が空いているわ」

 

 

このまま悩んでいてもいいアイデアは思いつかなさそうだったので気分転換もかねて久しぶりに深雪と本気の勝負をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達也とアイスピラーズブレイクの練習会場に向かうとそこには深雪、エイミィ、雫とほのか、上級生では千代田先輩がいた。

 

事情をすでに聞いているのか、私がきた時には既に氷の柱が24本立っている。

 

「咲〜、なんでピラーズの選手でもないのにピラーズで深雪と戦うの?」

「それは昔からの取り決めよ、魔法対決であれば勝負の内容は深雪が決めていいって言ってあるの、なんたって私は深雪の姉なんだから」

「従姉妹だけどね」

 

実際は確かに従姉妹だが私は深雪を本当の妹のように昔から思っている。

 

「咲本当に深雪に勝てるの〜?私や雫も勝ったことないし、なおかつ千代田先輩も深雪に勝ったことないよー」

「心配してくれてるのねエイミィ、大丈夫、私は負けないわよ」

 

 

4月に起こった大気の震えのようなものが再び起こった。

気づいたのは達也、深雪、真由美、摩利、十文字、塩釜と変わらなかったがほのかは大気の震えではなく光で気づいた。しゃべっていた咲に雷のような光が落ちたように見えたからだ。

 

「ほのかどうした?」

「雫とエイミィは気づかないの?」

「何が?」

「どういうこと?」

 

 

どうやら雫とエイミィは本当に気づいていないようだ。

 

「咲大丈夫?」

「大丈夫だよ、私は負けない、なんたって私は高校100年生だからね!」

 

 

咲はいつもの咲ではなく天照大神の「大」、大星淡の人格であった。

 

「ミユキの土俵で戦うのは私へのハンデ付けよ」

 

有無を言わさない圧倒的存在感に雫とほのかとエイミィはうなづくしかなかった。

 

 

 

 

 

 

アイスピラーズブレイクは自陣営12本、相手陣営12本の氷柱を巡って魔法で競い合う競技であり先に相手陣営の12本の氷柱を全て倒すまたは破壊した方の勝利というルールである。

 

深雪と咲お互いに指定の位置に立った。審判は達也だ。お互いに人ではない空気を醸し出している。深雪は美貌で、咲は美貌に加えオーラで。神は1人しかいらないというようにお互いがお互いのことを圧倒しようとしていた。

 

「試合開始!」

 

達也が叫ぶと同時に咲の絶対安全圏とキャストジャミングが発動した。最初の頃の深雪は絶対安全圏の中では魔法を発動できずにいたが息をするのと同じぐらいになるまで魔法を使いこなすようになり絶対安全圏を打ち破ることができるようになっている。

 

次に発動されるのは深雪の魔法「ニブルヘイム」

振動系の魔法で領域内の物質を均等に冷却する魔法だ。それを深雪と咲両方の区域に使った。

 

 

「え?」

「なんで?咲のエリアも対象にしてるんだろう」

 

咲は情報強化で柱を守っているようだがニブルヘイムは冷却魔法なのでもともと氷の柱に与えるダメージはない。深雪の区域だけにすれば深雪の領域の柱は寒さによって普通に比べ強化されるのだが、咲のエリアも対象にしてる理由がわからなかった。

 

その後すぐ咲の髪の毛が逆立った瞬間、深雪はニブルヘイムを中断した。その後ものすごい爆発が深雪の陣地のエリアを襲いその爆発の風圧で見ている人たちは飛ばされかける。

 

 

 

 

大星淡

全国二連覇を達成し今年三連覇を狙う白糸台高校の期待の新星、白糸台高校は何個もコンセプトが違うチームがあり、部活内でランキング戦を行いそれで優勝したチームが白糸台高校のレギュラーとなるのだが大星淡は攻撃特化型チーム「虎姫」所属だった。大星淡の能力の全容はこうだ。

 

絶対安全圏:相手の配牌を5シャンテンにする

 

必ず役なしダブリーができ、山の角でカンできる、そしてカンした後数巡で上がれカンした牌にカン裏がモロのりする。

 

淡はこれをスーパーノヴァと呼んでいた。

 

咲がこれをどうこの世界に置き換えたかというとすぐ発動できる魔法であるが少し発動までに時間がかけたほうが大きな効果が得られる魔法と考えた。絶対安全圏の能力は知っての通りなので、この能力と噛み合う。

次に発動までに時間をかけた方がいいのは何故なのかと考えた。詠唱魔法も考えたが詠唱魔法はすぐ発動できないので当てはまらない。そこで目につけた能力は達也の分解だ。達也の分解は達也自身気づいていないかもしれないが空気も分解している。正確には空気中の水。水は電気分解で簡単に水素と酸素に分解することができる。達也みたいに分解が難しいものは魔法では分解できないが簡単に分解できるものなら淡を纏った咲の魔法力ではできるものである。

淡は一定時間酸素と水素を分解して群体制御の応用として酸素と水素を空気ではなく分子として見て制御する。そしてある程度溜まったら爆発させることにより高威力広範囲魔法を可能としている。

これがこの淡の力をこの世界に直した場合の能力、戦術級魔法「超新星(スーパーノヴァ)」なのである。この能力は便利でアビスのように発動場所も選ぶことはなく10秒貯めると戦術級並みになり1秒でも普通の魔法師数人は殺せる。殺傷Aランク相当の戦術級魔法だがピラーズブレイクでは使える。

 

今まで深雪は3秒間溜めた超新星を一度も防ぎきったことがない。

今回は念を入れて3.5秒溜めた。本当は4秒以上貯めたかったが嫌な予感がした。

 

爆発の後の煙で見えないが深雪の氷の柱は全て壊れただろうと確信し淡は不敵に笑った




書いてて咲で水系の能力ってマタンゴと衣と冷やし透華だけな気がしました。





怜-Toki-9局で出てきたあのあだ名かっこよすぎる、どうやったらあんなネーミング出てくるんだ…


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第16局[軌跡]

vs淡


深雪は賭けに勝った、自分のフィールドを見た深雪は微笑み、もう一度ニブルヘイムを発動した。

 

 

 

 

土煙が晴れた時、淡は1本残っている柱を見て驚いた。あり得ない、今まで戦ってきた深雪の障壁や情報強化も大したものだった。たぶん十文字家の障壁にも見劣りしないだろう。さらに私は3.5秒貯めたのだ、スピードで負けたならともかくスーパーノヴァを耐えるなんてあり得ない。あり得ない。あり得ない。

 

本当は淡が残り本数12vs1で圧倒的有利であるのだが原作同様淡は能力を止められると冷静な判断を取り戻すのに時間がかかってしまう。その間に深雪の必殺コンボの下準備はできてしまった。

 

淡はもう一度水素と酸素を貯め直す、1秒でも貯めて近くでぶっ放せば軽く吹っ飛ばせるだろという目論見があった。それに私には最初から発動している情報強化がある、いくら深雪の魔法力が高いからっていって今の私の情報強化12本を一瞬でぬくのは至難の技だろう。

 

しかしその目論見は完全に崩れ去った、深雪がニブルヘイムからインフェルノに変えた途端ニブルヘイムによって氷柱についた氷が一瞬で膨張し淡の柱12本全てを吹き飛ばした。

 

 

「勝者深雪」

 

達也がそう宣言すると深雪は礼をし下がると普段見せないような喜びの顔でガッツポーズしたのだ。

 

 

 

 

 

 

深雪は姉の新しい神依に平均1年に一回勝てていた。姉の神依は強力だが必ずどこかに弱点があった。それもそのはず、咲の神依は漫画のキャラを元にしているのだ。チャンピオンや主人公でもない限り弱点がないことはない。しかし4年前に天照大神の「大」の能力を見せられてから一転、深雪は一度も勝つことができなかった。

最初の2年はまず絶対安全圏すら突破できずに終わってしまった。

次の1年は絶対安全圏と同時に展開される情報強化を抜けず

ここ1年は超新星に対抗する手段がなかった。

 

 

 

特に一番最後の超新星に対抗する手段、これがどうしようもなかった。絶対安全圏は魔法を息をするようにすることができれば突破可能であり情報強化は魔法力を鍛えるまたは技術を磨くことで突破可能であった。上二つの攻略法を教えてくれた姉も超新星に対しては対抗手段がわからなかったようでヒントを教えてくれることはなかった。

 

最初深雪は出されれば必敗の超新星は出す前に倒せばいいということを考えた。必殺技は出させなければ必殺技ではない理論である。

しかし淡の情報強化を抜くにはどうしてもある程度時間がかかりその間に超新星を撃たれ負けてしまった。多数の情報強化を抜くのに時間がかかるのなら目標を一つにすればいいという理論で1vs1でやったことがあるがこっちの目標も1つしか存在しないのでいつもの超新星より早く発動され考え方を改めざるえなかった。

 

 

次に深雪は出されても守りきればいいということを考えた。母のガーディアンだった桜井さんレベルまで障壁魔法を鍛え勝負に使ってみた。しかし3秒間貯めただけの超新星に後ろの目標ごと吹っ飛ばされてしまった。これは障壁魔法では空気の流れは止めれないので障壁魔法内で爆発が起きたためだ。

 

 

最後に超新星の威力を弱める方法を考えた、兄に超新星の原理は聞いていたので貯めている途中に使わせればいいと最初考えた。貯めている間に点火しようと思い、火を発生させる魔法を使ったがどこに貯めているのか空気なので見えず、適当に炎を撒き散らしても真空チューブで守られてしまい意味がなかった。それならばと乾燥した冬に戦ってみたがいつもと同じ威力であった。

 

ここまでの試合から深雪は仮説を立ててみた。淡は湿度を感じとれ1秒間にどれぐらいの水分解するかは湿度と空間で計算し湿度が変わっても毎回同じだけ水を分解しているという仮説だ。もし湿度が高い時にいつもと同じ空間、同じ時間、水を分解したとする。そしたらいつもより爆発が大きく自分も巻き込まれてしまう可能性がある。そのリスクを防ぐためにあり得る話であった。

 

今回この仮説を頼りに対戦した。まず深雪がお互いのフィールドにニブルヘイムを発動したのは空気中の水分を凝固させ空気中の水分を減らすため、こうすることによって淡が考えているよりも少ない量しか水を分解することができない。

これにより淡の思ったよりも超新星の威力が低かったのだ。深雪は淡がやったこともないルールであるので安全をとって3〜4秒しか貯めないと思っていた。今までの経験だとそれ以上貯めると深雪や淡自身も危険だしそれ以下だと火力が足りない。

 

実は淡はピラーズブレイクをやったことあるのだが深雪はそれを知らなかった。しかし今回は逆に淡が負ける原因となった。

 

その仮説+予想が当たりギリギリ障壁で耐えることができた。障壁は空気が入り込まないように柱の5つの面それぞれに触れるように設置したのも良かったようだ。

 

この試合は一瞬に見えて深雪にとっては4年間の戦いだったのである。ガッツポーズの一つもしてしまうだろう。

 

「淡ちゃん戦ってくれてありがとう」

「勝ち続けてたけど負けると悔しい、咲に申し訳ないなあ、なんて言われるんだろう。」

「お姉様はそんなことで怒ったりしないわよ」

 

深雪が今まで勝ってきた時も姉は怒るような素ぶり見せなかった。いつもよく頑張ったねと褒めてくれた。今回は天照大神の神依なのですぐに人格が戻ることはないが明日目を覚ましたら褒めてくれるだろう。

 

「今回はそんなことないみたい、すぐにリベンジしたいけど、じゃあね、また試合しようね」

 

何かがおかしい、淡と何度も戦ってきたが必ず寝ないと姉の人格は戻ってこなかった。

 

 

淡の時とは比べものにならないぐらいの大気の震えが起きた。近くの校舎の窓ガラスは揺れ咲の周りに風が巻き起こっている。

 

今回の大気の揺れは生徒のほとんどが感じ取っていた。魔法感受性の高い生徒などは吐き気などを催しトイレに駆け込む。

今度は深雪たちにも見える光が天から咲に落ち大気の震えは止まったがそこにいたのは咲でも淡でもなかった。

 

深雪は重要なことを忘れていた。咲に勝つことが少ないので忘れがちだが咲は"負けず嫌い"であることを。

 

 

「衣の名は「天」江衣、淡に勝ったのだから今度のは金剛不壊に出来ているな?」

 

咲が見せたくないと言っていた天照大神の「天」、その神が今そこに降臨していた。




どうしても淡が負けるのを第16局にしたくて今までの話が長かったり短かったりしました。なぜ第16局にしたかったかというとアニメ阿知賀編で淡が負けたのが第16局(話)であるのとそのサブタイトルが軌跡であるので4年間の深雪の軌跡を示すこの話にはピッタリだったからです。


ころたん、イェイ〜♪


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第17局[降臨]

vs衣


深雪は今まで見たことのない神依に恐怖していた。

今までの神依は人格は姉でなくなっても恐怖することはなかった。

淡に初めてなったときはとんでもないオーラを感じたが、ああいう性格なので恐怖することはなく、普段と同じ通りに振る舞えたのを覚えている。

 

「深雪は衣と遊んでくれるのか?」

 

しかし今回の衣の場合、深雪は圧倒されてしまい言葉に詰まってしまっていた。

 

「どうしてまた衣が出てきたんだ?今まで二つの人格を操っていることはあったが、人格が咲を経由せず変わることはなかったぞ」

 

達也が深雪のためにアシストを出す。

 

「今まで深雪が勝った相手は衣達のように、牌に愛されし子ではなかったからな。普通の神依のときは咲の意識は明瞭であり、自制が効くが、衣達を纏った咲はいわば休眠していていわば幼児。自制が効かないのであろう」

 

達也は言っていることは間違っていないと感じた。今までの天照大神以外の神依のときは他人の前で神依という単語は発しなかった。そして咲は負けず嫌いなので深雪に負けた今、咲の負けず嫌いという性格だけ残っていれば淡より強い神、衣を身に纏うのも理にかなっている。

 

「それで深雪は衣と遊んでくれるのか?」

 

「いつも私がお姉様に勝負を挑んでるんですもの。受けるのは当然です」

 

 

 

 

 

 

 

 

圧倒的オーラを感じ取った真由美と摩利は、練習を一旦休憩しピラーズブレイクの練習会場へと向かっていた。

 

「花音」

「摩利先輩どうしてここに?」

「いやきになることがあってだな」

「さっきの爆発ですか?」

「なんだそれは?」

 

摩利と真由美はさっきの深雪と咲の試合の内容を聞いたのだが、にわかには信じ難かった。まず深雪の絶対安全圏(キャストジャミング)内での魔法の使用、それもニブルヘイムという超高等魔法。その後の咲の爆発魔法と深雪が勝負を決めたインフェルノ。A級魔法師同士の対決でも見ることができないだろう内容だったからだ。

真由美はさらに、深雪が5歳の時に十師族当主に土をつけた咲の神依に勝ったということにも驚いた。確か父親は「大」の力に負けているはずだ

 

「今の状態の咲さんは淡?って人格なのね?」

「いいえ、深雪に負けた後一言二言話した後、光が咲に落ちてきて大気が震えるような気がした後は自分のことを衣と言っていました。深雪も初めて見るらしく困惑していました」

「さっきのはやっぱり咲か」

 

4月に感じ取った気配と似てると思ったが、やはり咲だったのか、と真由美と摩利の意見は一致したようだ。

真由美は親から衣の力は教えてもらっていないので、手にすると四葉や七草に匹敵する力、それをしっかり見ておこうという考えに至った。

 

 

「試合開始」

 

再び達也の声で試合が始まった。先制したのは深雪のニブルヘイム。深雪はさっきのインフェルノとのコンボで一瞬で決着をつけようと考えていた。淡はなんで負けたのか理解していなかったし、なおかつ神依中の記憶は基本その神依の神と咲にしか保存されないと咲自身から聞いていたので、初見では対応できないだろうという算段だ。

 

しかしその作戦は崩れ去った。衣は自分のエリア全体を真空にしそれを維持する魔法を発動した。空気が押しのけられたことにより強風が起きるが問題はそこではない。空気を冷却して空気を凝固させインフェルノで昇華させることで破壊するのが深雪のコンボだったのだが、それを破られてしまった。なので深雪は次の1手を打たなくてはならなかった。

 

最初に相手の氷柱を壊したのは深雪であった。

達也が雫に教えていた共振破壊で干渉力を一本に集中し、衣の情報強化を抜いたのであった。それを繰り返す。衣は守りに集中しているのかも知れないが、攻めて来ない。深雪はこれはチャンスと考え連続して発動し残り一本まで削る。深雪は残り一本に魔法をかけようとしたそのとき。

 

「無聊を託つ。淡を倒したと聞いてうきうきしてたけど乏しいな。闕望したよ、そろそろ御戸開きといこうか」

 

今までは遊びだったという発言の後、圧倒的サイオンの嵐が衣を中心に巻き起こった。

 

急に辺りが暗くなった。空を見ると太陽が消えていた。フィールドに目を戻すと深雪はなんとかして残り一本を倒そうとしているが情報強化の他にも何か魔法がかかっているらしく倒せないようだった。衣はその間壊された氷柱の氷を群体制御で操り空中に何か作っていた。

 

作られたものは満月であった。それはさながら日が沈み満月が登ったようである。この満月を作りきるとまた衣の力が膨れ上がったように感じた。その後流れ星のようなものがチラッと見えると、次の瞬間深雪の氷柱の前4本が破壊されていた。もう一瞬光ると中央4本が破壊された。

 

「昏鐘鳴(こじみ)の音が聞こえるか? 世界が暗れ塞がると共におまえの命脈も尽き果てる!!」

 

残り4本も次の瞬間に破壊された。

 

 

 

 

 

 

「勝者衣」

 

達也は顔には出さなかったがさっきの魔法に驚いていた。周りを暗くした魔法は太陽の光を上空で屈折させることによりエリア一帯を夜に書き換えた。光の攻撃はその応用として逆に光を一点に集めただけなのだが、その魔法に併用して四葉真夜の固有魔法「流星群」が使われていた。威力は控えめであったが、それは叔母のように完全に光をシャットダウンしなかったからであろう。やはり咲の底はまだ見えない。

 

 

「やったー、衣の勝ちだー」

 

試合前や試合中の恐ろしさはどこにもなく、そこにいたのは無邪気に喜ぶ衣であった。

 

「衣ちゃんすごいわね、完敗だわ」

 

深雪の心情が心配であったがそれは後回しだ。

 

「ちゃんではなく、衣お姉さんだ!衣は深雪よりお姉さんなんだぞ!あと馬鹿にしてすまなかった。比べる相手が悪かっただけで、深雪はこの競技なら塵芥どもを鏖殺できるであろうな。」

「大丈夫よ、それで私は誰と比べられたのかしら?」

 

それは達也も気になった。深雪と戦ってつまらないと思うぐらいの力を持った衣が比較する相手が悪かったと言う相手、咲の実力を知りたい達也としても気になるところだ。

 

 

「初めは衣に勝てるのは衣だけだと思っていたがそんなことはなかった。衣に勝てるのはテル、コマキ、覚醒したトーカ、そしてサキだ」

 

 

 

初めて聞く名が2人いた。照は淡も散々ヤバイヤバイ言っていたので知っていた。コマキとトーカと言われた神は初耳であり、もしかしたらどちらかが天照大神の残りの「神」なのかもしれない。

 

「衣ちゃん、サキというのはお姉様のこと?」

「いや、咲の中にはサキという別の人格がいるのだ。咲の人格の中でもサキは特別らしい、なにせ衣に初めて土をつけたのはサキなのだからな!」

 

そのサキを自慢するように衣は言った。

 

「ミユキ、衣は夕餉にエビフライを食べたい。作ってくれるか?」

「作ってあげるわ、タルタルソースもつけて」

「わーい、タルタルだタルタル!」

 

ぴょんぴょん跳ねて喜ぶ衣の様子を見てさっきの試合を見た後なのに不覚にも可愛い撫でたいと思ってしまうという意見で一致した。

 




無双する試合より深雪との試合の方が書きやすい…



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第18局[海底]

話が進まない…




次の日、私は目を覚ますと同時に顔を青ざめた。

「天」、天江衣の麻雀のスタイルは蹂躙スタイルなので、もしかしたら深雪に酷いことを言ってしまったかもしれない。相手をゴッ倒したり叩き潰すのはいつものことだが、その後敗者に鞭を打つことはしたくなかったのだ。

急いで階段を降りると、もう既に深雪は起きていた。

 

「深雪おはよう、私昨日酷いこと言わなかった?」

 

「おはようございますお姉様、少し言われましたけど後でちゃんと謝ってもらったので気にしていません」

 

「ありがとう深雪、そしておめでとう深雪、4年の努力が実ったわね」

 

深雪は4年間淡に負け続けていたのだ。勝った喜びは格別だろう。

 

「ありがとうございます、でも…」

 

「私も天照大神使いこなせるように練習しなくちゃいけないわね、深雪は気にする必要ないわ、単に私が大人気なかっただけ」

 

深雪が気にしているのは私が負けたから衣を出したことだろう。これは単に私の使いこなしが甘いことを証明しており、これからは天照大神の使いこなすことも練習していかなければならないだろう

 

「わかりました、それでお姉様これが昨日の魔法ですが対策方法わかりますか?」

 

深雪が昨日私が使った魔法を書いて並べてある紙を見せてきた。これは新しい神を見せた後の恒例行事のようなものだ。さすがにヒントなしで神に勝てというのは酷だ。なので新しい神を見せた後はこうやって2人で作戦会議をしているのだ。倒されるのは自分自身だが。

 

 

 

天江衣の原作の能力は4つ

夜の帳が下り月が満ちるに連れて能力上昇

海底撈月

一向聴地獄

場の支配

 

海底撈月も一向聴地獄も場の支配の一部だが別の能力として考えた。

 

この世界にこの能力を落とし込むと

まず夜の帳が下り月が満ちるに連れて能力向上はそのままである。

一向聴地獄は残り1となる状況が起きると能力上昇、昨日でいうと柱が残り一本になった場合である。

場の支配は場の書き換えである。昨日の試合でいうと夜の創造である

 

ここまではイメージが簡単だったのだが海底撈月はとてもイメージが難しかった。なんせ魔法にラストドローもないし、当然海底牌もないからである。

 

そこで咲は海底撈月(はいていらおゆえ)ではなく海底撈月(かいていろうげつ)で考えた。

 

海底撈月(かいていろうげつ)は実現不可能なことに労力を費やして無駄に終わることのたとえである。

これをこの世界に対して置き換えると、干渉力で負けない限り自分が対象にしたものは変わることがないとイメージした。海に映る月を掬い取ろうにも変わらないように。普通は干渉力で負けていても深雪がやったようにニブルヘイムインフェルノのコンボなどで破ることはできるのだがこの能力はそれすらも無効化してしまう。

逆に言えば一点集中でもいいので干渉力で勝てばこの能力は無効化できる。しかしそれを補う他の能力、我ながら隙のないイメージを

したなと思う。だができる限り深雪にアドバイスしていく

 

 

「ピラーズブレイクで例えるとまず相手の残り本数を一本にしたらまず負けるわね。残り1になると魔法力が上がる能力があるの。あと戦うなら昼間の新月の時かそれに近い時がいいかしら、5割も力出せないと思うわ」

 

「昨日のように夜にされ満月を作り出された場合はどのようにすればよろしいのでしょうか?」

 

「とりあえず月は壊さないと厳しいわね。夜になったなら、こちらも人口太陽など光源を作って対応するのが一番だと思うわ」

 

深雪はそんなに光波系魔法が得意ではない。そこはほのかに聞くのが得策であろう。

 

「こちらの魔法を無効にした情報強化系の魔法はなんなんでしょうか?」

 

「あれはね…干渉力で勝たないと対象のものは変化しないという能力ね。今までのアドバイスはこれを破るためでもあるわね。攻略のアドバイスとしては干渉力を上げるのが一番いいと思うわ」

 

深雪と達也の封印が解かれ深雪が全力状態になったとしても衣の神依には干渉力において今のままだと勝てないだろう。なんたって衣は全国屈指の高火力選手、つまり干渉力が高い神依だからである。

 

「最後に、お姉様昨日流星群をお使いになったんですがそれは衣ちゃんの能力なのでしょうか?」

 

言われてみて太ももを触ると、確かにせっかく貯めたお母様の力がほとんどなくなっている。

 

 

「それは衣ちゃんの能力ではないわ。これは達也さんにも本家にも秘密なんだけど、神依関係なしに私は親しい人の固有魔法を貯めておくことができるの。方法は秘密だけど」

 

「わかりました。お姉様との秘密は守ります」

 

 

ちょうど朝の修行から達也が帰ってきたので作戦会議はお開きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 




太ももといえばあの人

衣より高火力麻雀できるなら勝てるって簡単だな(なお、全国で高火力選手で一番最初に出てくるのは衣な模様)


書きだめが40話分ぐらい溜まったから1日二回投稿にしようかなあ…


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第19局[出陣]

今日二回目の投稿です


8月1日、いよいよ九校戦会場に出発することとなった。しかし集合時間はすでにすぎているが、バスはまだ発車していなかった。

理由は七草先輩が「七草家」の用事で遅れるそうで、先に向かっててと連絡が入ったそうだが、七草先輩は男子女子どちらにもファンが多く、みんなで待つことになったからだ。

 

達也と渡辺先輩は暑い中、外で待っている。当然深雪の機嫌は悪くなり、逆に深雪の周りの気温は低下しているように感じられた。この状態では寝ることもできないので、軽く未来を見たところ今から2時間後に七草先輩は着くようだ。

 

「深雪少し出てくるわ」

 

そう言って席を立つと、周りの席の人が最後の希望を失ったような目で私を見るが、そんな目で見られても困る。

 

「渡辺先輩、達也さん」

「咲か、どうした」

 

バスから降りてきた私を不思議そうに渡辺先輩は見た。

 

「七草先輩が着くのは2時間後です。流石に今から待つのは疲労がたまるかと」

「それは勘か?」

「未来視ですよ」

 

渡辺先輩と生徒会役員は私の未来視を知っている。許可は出ていたので、本当は全校に広まっても良かったのだが、流石に秘匿するべき能力だと渡辺先輩たちは考え情報は秘匿されている

 

「そうか、それなら15分前まではバスの中で過ごすとするか、達也くんも戻れ」

「わかりました」

 

これで少しは深雪の機嫌も解消されるであろう。

 

席に戻るとほのかと雫が深雪の対処に悪戦苦闘してるらしかった。

 

「お帰りなさいませ、お姉様」

「ただいま、達也さんを車の中に戻したけどこれで良かったかしら?」

「ありがとうございます。流石はお姉様です」

 

深雪の機嫌は解消された、これで寝ても大丈夫であろう。会場まではここから3時間、先輩が来るのは2時間後なので5時間寝れる。5時間後にタイマーを頭の中でセットし私は眠りに落ちるのであった。

 

 

 

 

 

 

「咲が寝てるのを見るの初めて見る気がする」

「いつも本を読んでいますもんね、確かに珍しいです」

 

雫とほのかがそう感想を述べる。深雪はため息をつきながら2人の感想に答える

 

「お姉様は夜ずっと本を読んでいらっしゃったようです。理由を聞いてみると、バスで本を読んでしまったら向こうに着いて読む本が少なくなる。徹夜で本を読んでバスの中でねれば、読む本の総量と睡眠の総量はほとんど変わらずに向こうで読む本は増えるとかなんとかおっしゃっていました。けど深雪は健康が心配です」

 

「いかにも咲っぽい理由」

 

「お姉様は寝ると、自分が決めた時間までほとんど起きないので、いろいろ大変なんですよ」

 

「咲さんも意外と抜けてるところあるんですね」

 

 

その後達也がまた真由美を外で待つことになり、深雪の機嫌が悪くなっていくのを見て、早くも確かに咲が起きないのは大変だと感じる、雫とほのかであった。

 

 

 

 

真由美は咲の未来視通り2時間後に着き、ようやくバスは出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

摩利は咲のことを考えていた。咲は入学してすぐ四葉家の直系として恥ずかしくない力を見せつけ、1人でテロリストを壊滅させ、さらには未来視も使える。深雪とのピラーズブレイクの練習試合も見たが到底自分じゃ勝てないだろうと感じた。自分は咲と同じバトルボードの選手で練習でも顔を合わせていたが練習での咲は数回コースに出ただけで他は考え事をしているようだった。達也に話を聞いて見るとあれは咲の中では一番練習していることになるそうだ。こんな能力を持つ咲を普通は手放したくないものだが四葉家は手放す可能性がある。何を考えているのだろう。

 

「どうしました、摩利さん?」

 

「いや、少し考え事をしてただけだよ、花音」

 

 

 摩利の隣の席に座っているのは千代田花音、百家本流の二年生であり、単純な干渉力なら学年一と言う噂まで出ている。さらに対物攻撃力なら摩利をも凌ぐという、十師族の実戦魔法師にも匹敵する魔法力の持ち主だ。その対物攻撃力を生かしてアイスピラーズブレイクに出場する。

 

「そうですか」

 

彼女は何処か機嫌が悪そうだと、摩利は見抜いていた。

 

 

「精々三時間くらいだろ。それぐらい我慢しろ!」

 

「私だって小さな子供じゃあるまいし、二時間や三時間くらい我慢は出来ますよ!だけど…今日は啓とずっと一緒だと思ってたんですよ。少しくらいガッカリしてもいいじゃないですか!」

 

 

 

「お前たちはいつも一緒に居るじゃないか…いくら婚約者だからと言っても、下手をすればあの四葉の3人よりも一緒に居る時間が長いんじゃないか?」

「バス旅行なんて今時滅多にないんですから楽しみにしてたんです!それに、兄妹従姉妹と許婚同士なら、許婚同士の方が一緒に居る時間が長くて当然です!」

「そうなのか?」

「そうですよ!」

 

普段の花音の性格は実に摩利好みなのだが

 

「(毎度五十里が絡むと別人だな……)」

 

まるで達也や咲が絡む深雪のようだ。

 

「大体何で技術スタッフは別移動なんですか!移動中作業なんてできないじゃないですから、分ける必要ないじゃないですか!このバスだってまだスペースが残っていますし、それに足りないなら二階建てでも三階建てでも良いのでもっと大きなバスに乗ればいいだけの話でしょう!」

 

 

 捌け口を見つけ、いっきに不満を爆発させた花音を見て、摩利はコッソリとため息を吐き愚痴を聞き流しながら、考え事に戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………深雪、お茶でも飲まない?」

「ありがとうほのか。でも、ごめんなさい。私はお兄様のように、この炎天下わざわざ外で待っていた訳では無いから、まだ喉は渇いてないの」

「あ、うん、うん、そうね」

 

「(駄目じゃない、達也さんの事を思いださせちゃ)」

 

「(今のは不可抗力だよ…)」

 

 

 一度深雪は機嫌直ったのだが再び達也が外に出て待っているのを見て再び機嫌が悪くなったのだ。深雪の機嫌に対しての特効薬である咲は寝ていて使えない。

 

どうしたものかと考えていると、深雪の口から呪詛のような言葉が漏れ出してきて、とうとうこれはどうしようもないと思ったその時であった

 

「深雪……」

 

咲が深雪の肩に頭を乗せるように動き寝言で深雪の名前を呼んだのだった。

 

「お姉様……」

 

深雪は、咲が深雪のことを寝言で呼んでくれたことにとても喜んでいた。自分の夢を見てくれていることも嬉しいのだろう。深雪は幸せそうに咲の頭に頭を寄せた。

 

雫とほのかは寝てても一瞬で深雪の機嫌を直してくれた咲に心から感謝していた。

 

 

 

 

機嫌が良くなった深雪の周りには、近付くのを躊躇っていた男子や女子で溢れかえったのだった。本当は深雪の横の咲にも近づきたかったのだろうが、寝ていたので話しかけるのは遠慮したのだろう。

あまりにも煩わしくうるさくなったので摩利は、深雪たち四人を強制的に自分の席の後ろにし(寝ている咲はなかなか起きないらしいので魔法で移動させた)、更に四人の後ろの席に十文字を座らせた。そうする事でバスの中は平穏を取り戻すが、窓の外を見ていた花音の悲鳴で平穏は崩れ去った

 

「危ない!?」

 

対向車線を近づいてくる大型車がパンクか脱輪かが起き、路面に火花を散らしている。ハイウェイの対向車線は道路として別々に作られていて、間には堅い壁で仕切られている。普通は対岸の火事の出来事なのだが、今回は普通ではなかった。

いきなり大型車がスピンし、ガードレールに激突すると、飛び上がるように一高のバスに飛んできた。

 

 

「吹っ飛べ!」

「消えろ!」

「止まって!」

 

 

 無秩序に発動された魔法が無秩序な事象改変を同一の対象物に働きかけ、キャストジャミングのような魔法の相克が起きる。その結果全ての魔法は発動しない。

 

「馬鹿、止めろ!」

 

この状況を打破できそうな1人をとっさに叫ぶ。

 

「十文字!」

 

摩利はこの状態を打破できそうな人を十文字1人だけ…いや2人しか知らなかった

真由美は寝ていて使い物にならないと初めから分かっていたし、この状況に真由美の魔法はあまり適していないのだ。真由美はどちらかというと対人間のスピード系の魔法師であり今回のような大型車に対して相性が悪い。

止められる可能性を持つ2人目の咲を見ると、気持ちよさそうに寝ていた。こちらも使い物にならない。

克人は既に魔法発動の体勢に入っていた。ただし彼の顔には滅多に見れない焦りが確かにあった。摩利は絶望に打ちひしがれる思いになるその時。

 

「仕方ない、助けたるわ、今回限りやで」

 

後ろの咲の席から聞き覚えのない声が聞こえた。振り返ると咲はまだ気持ちよさそうに寝ているが、かすかに光っているように見えた。横の深雪も驚いている。

 

再び大型車に目を向けると、まずサイオンの波動が無秩序に働きかけている全ての魔法式を吹っ飛ばした。その後すぐ、障壁魔法と消火の魔法が展開され一瞬で事態は収束した。

 

バスの中の全員は自分を含め何が起こったかわからないようだった。呆然としているとまた聞き覚えのない声が聞こえる。

 

「疲れた、疲れた。このバスの中のメンバーだけやったら、咲抜きには対処難しそうやったからうちが対処しといといたで、うちと咲に感謝してな、じゃあ、ほなな」

 

そう言い残し咲の発光は止まった。

 

 

「えーと皆大丈夫? 危なかったけどもう大丈夫よ。咲さん?のおかげで大惨事は避けられたから。怪我した人はシートベルトの重要性を覚えておいてね」

 

真由美もこの状況を打破しようと喋ったようだが自身も混乱しているようだった。この状況を打破するには咲本人から聞くしかないが咲は未だに気持ちよさそうに寝ている。

 

「四葉、今の魔法知っているか?」

「いえ…だけどあの喋り方ならお姉様が似たような喋り方を何回かしていらっしゃいましたね…」

 

どうやら起きてから事情聴取する必要がありそうだ。

 

 

 

 

 

 

 




関西弁の間違いは許してください…




何番煎じかわからないよくある転生ものなのにたくさんの人に読んで貰ってるのはありがたい限りです、読んで下さってる皆様ありがとうございます。


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第20局[精霊]

話が進まない…


私は決めた時間通りに目を覚ました。一つ背伸びをし窓の外を見ると、なぜかまだ高速道路であった。不自然さを感じて首を傾げると深雪に話しかけられる

 

「おはようございますお姉様」

「おはよう深雪、何かあった?」

 

私が深雪に話しかけると、バス内の視線全てを集める。何か寝ている間に粗相でもしたのだろうか?

 

「おい、咲。さっきのはなんだ?」

 

前の席から乗り出すようにして渡辺先輩が話しかけてくる。

 

「さっきのとは、やはりなにかあったのですか?」

 

やはり何かあったのだろう。私は渡辺先輩と深雪から大型車が突っ込んできた事件を聞いた。なるほどあれが発動したのか。

 

「それは自律型精霊枕神怜ですね、私の精霊魔法です」

 

「「自律型精霊魔法?」」

 

 

枕神怜、これは清水谷竜華が使った力だ。

園城寺怜をよく膝枕していた彼女は怜の力を膝枕に溜め込み枕神怜として準決勝で使った。枕神怜はアニメでは精霊のように見えたのでそれをイメージで精霊魔法に落とし込み、いろいろインストールして使っている。竜華の力は馴染みやすく神依無しでも枕神怜は使えるようになっていた。

 

 

「簡単にいうと一回命令すると、そのあとは精霊自身の判断で行動を選択してくれる能力を持った精霊ですね、今さっきまでのモードは警戒モードだけでしたので、危険度2まで上がったのでしょう」

 

「お姉様、じゃあさっきのは」

 

「そう、危険度1は私も精霊も動かなくても周りの人で対処できるレベル、危険度2っていうのは精霊が動かないと私に危害が及ぼされるレベル、危険度3は私を起こさないと危険なレベル、危険度2まであがったから魔法を精霊自身が使ったのじゃないかしら」

 

警戒モードは枕神怜が和了が見えず首を振って帰った時に、誰かが和了るんかもしくは流局がわかるのも無駄じゃないと、言っていたことを置き換えこの能力がついた。

 

「じゃあ咲、今もその精霊はいるのか?」

「おるでー、咲以外に話すのは体力使うからあんまり話させんでほしいわ、やっぱり咲以外のみんな精霊魔法の才能なさすぎやわ」

「そのアピールやめい、失礼やろ怜。それにつこうとるの私のサイオンやし。すみません失礼なこと言って」

 

みんな唖然としていたが一応は納得したようだった。

常時発動型なので維持するのにサイオンが吸われていくし、1日1時間膝枕のために動いてはいけないという誓約はあるが、私のサイオン回復量の方がこの魔法のサイオン吸収量よりはるかに多く、本を読みだすと1時間以上動かないことになるので、実質デメリットなしでつかえる。

警戒モードの他にはナビモード、予知モード、分岐点お知らせモードがあり3つまで併用して使うこともできる。しかし神依を行うと纏っている神の数だけ併用できる数が減っていくというデメリットもある。私はこの魔法を一学期中ずっとイメージして作り出したのであった。

 

深雪も納得したかなと思い横の深雪をちらりと見ると何か思い悩んでいるようであった。

 

 

 

 

バスが会場に到着しバスを降りると深雪が話しかけてきた。

 

「あの…お姉様」

「ん、何かしら?」

「神依ではないならその精霊魔法は私にも使えるのでしょうか?」

 

なるほど、神依という単語はバス内では出せないから降りるまで待っていたのだろう。

 

「うーん、使えるモードは限られると思うし、私が使用するよりサイオン使用量は多くなるだろうけど、一応術式は汎用化してあるから使えるは使えると思うわ」

「じゃあ今度教えてもらえないでしょうか?」

 

深雪が懇願するような目でこちらを見てくる。深雪は私の力に憧れてる節がある。便利な力だし深雪に教えてあげたいところなのだが

 

「教えてあげたいけど今回はダメね、この魔法は精霊魔法の適正によりサイオンの使用量が決まるのよ。精霊魔法の適正がない人だと飛行魔法の数倍以上常にサイオン使うのよ。それに加え精霊との対話ができない人だと強引にサイオンを注ぎ込んで会話をするためにさらにその数十倍、美月もたぶん見えると思うけど私のように精霊が見えないならまた数倍されるのよ。汎用化したあと達也さんで実験したけど、これを維持するのは無理と言っていたわね、精霊魔法を精霊と会話できるぐらい使いこなせて、なおかつ精霊を見ることができる人しか私のように使いこなすのは無理だと思うわ」

 

「そうですか…」

 

深雪は残念そうであった。だが今回は譲れなかった。私は神の憑代ということもあり精霊魔法の適正がトップクラスらしいので問題ない。しかし適正がない人が発動する場合、起きてる時ならまだいい。魔法をオンオフできるからだ。だがしかし寝るときにオフにするの忘れてしまい、サイオン枯渇して魔法演算領域にダメージを与えるとかになったら洒落にならない。なので深雪には教えることができなかった。

 

 

その後、達也と合流し話を聞くとあの事故は意図的なものだったらしい。何者かの一高に対しての妨害工作、または私たち四葉や七草家などに対しての攻撃であろう。どちらにせよ気をつけた方がいい。

 

 

 

 

荷物を部屋に置きホテルの周りを散歩する。富士の裾野はやはりすごい。精霊や神たちに力が満ちていく感じがする。ここでなら普段の実力以上の物が出せそうだ。

 

 

 

 

少し喉が渇いたのでホテルの喫茶店で飲み物を飲みながら本を読んでいるとステルスモモを使っているにも関わらず話しかけられた。

 

 

「相席よろしいでしょうか?」

「いいですよ、九鬼先輩」

 

九鬼一馬、二高の生徒会長であり中学の時の私の先輩でもある。九の家は関西を中心とする家なはずなのだが、関東も見てこいという九鬼家の方針で、中学は私の中学と同じであった。知覚能力者であり幻術魔法などは全て無効化してしまうほどの実力者でもある。

私に婚約を申し込んできているのだが、四葉家だからとか、私の顔とかで選んだわけではなく私の為人を知ってから婚約を申し込んできたのだ。なんと常識人。

 

「また本を読んでいらっしゃるのですね」

「ええ、九鬼先輩、今は本を持っていらっしゃないのですか?」

「荷物を置いてきたばかりで」

「なるほど」

 

九鬼先輩も本が好きで話しが合う、しばらく最近読んだ本の話をしていると私を呼ぶ声がする

 

「お姉様!」

 

「どうしたの深雪?」

 

私を見つけて嬉しそうであったが正面の九鬼先輩を見て指数関数のように一気に機嫌が悪くなった。

 

「お姉様、ミーティングの時間ですよ!かなり探したのに見つかりませんし、荷物も本以外部屋に置きぱなしだったので連絡も繋がりませんし渡辺先輩も怒っていらっしゃいました」

 

「忘れてたわ!すみません、それでは九鬼先輩失礼します」

 

九鬼先輩に話しかけられるまでステルスモモを使っていたのが仇となったのだった。というか見つからないなら心配してくれてもいいのに。

 

「いえ、それなら仕方ないです、お話楽しかったですよ」

 

「それでは失礼します」

 

深雪は九鬼先輩を睨みつけてから二人でミーティングに向かうことになった。

 

 

 

ミーティング室に着くと女子選手が全員集合していた。

 

 

「遅れてしまい申し訳ございません」

 

「遅い、何をしていたんだ」

 

ここで深雪は爆弾を投下した

 

「二高の生徒会長、九鬼先輩と逢引をしていらっしゃいました」

 

女子らしい悲鳴が上がった。私は入学時から浮ついた噂はない、そして九鬼先輩は美男子であることが九校内では有名な話である。悲鳴が上がるのも当然だろう。

 

「み、深雪、その言い方は誤解しか招かないと思うんだけど?」

 

「九鬼先輩と話していたのは事実ではないですか。それにお姉様が殿方とあんな楽しそうに話すことはほとんどございません。あれは実質逢引かと」

 

ご、強引すぎる理論だ、まるで自分自身を見ているよう。本の話をできる人が文芸部以外には少ないのでテンションが上がってしまったのは事実だが、逢引とするのが強引すぎる。

 

本来止めるべき役割を持つ渡辺先輩と七草先輩を見るが顔をニヤニヤさせながらこちらを見ている。止める気はなさそうだ

 

誤解を解くのに時間がかかるだろう。そう思うとため息が出るのであった。




竜華の枕神怜が強すぎて構想を練っていると毎回竜華+誰かとなりそうだったので竜華の神依はゾーンだけとしました。



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第21局[挑発]

劣等生漫画版は読んでいないので、そこはご了承下さい



九校戦前の懇親会は、選手だけでも四十人×九校で三百六十人、裏方も合わせると四百人くらいにはなる。まあ何かと理由をつけて欠席するものも居るので、全員参加と言う訳にはいかないようだが、それでも三百は軽く超える。

 

私もやはり面倒くさいので、サボろうとしステルスモモを使ったが、先手を打った機嫌の悪い深雪が、達也を連れてきて逃げようとした私を捕まえた。私の悪魔というあだ名をそろそろプレゼントしようかと思う。

 

達也絡みではない機嫌の悪い深雪の宥め方はわからないので(達也がらみでもわかりにくいが)懇親会では隅っこで会場を観察していた。

そんなことをしていると見知った顔を見つけた。

 

「エリカじゃない!さっき言ってた関係者ってこういうことだったのね」

 

散歩に行く前、九校戦を応援しに来たエリカやレオにあっていたのだ。美月ともう一人連れがいるらしいが話もそこそこに散歩に出てしまったので会うことはなかった。

 

「そういうこと、これどうかしら?」

 

「とても似合ってるしかわいいわ」

 

「男子にはコスプレに見えるらしいけどね」

 

「その男子っていうのはレオ?」

 

「ミキよ、コスプレって言ったのは」

 

男子で美希なんて名前はこの世界で初めて聞いた。女性のような名前だし忘れることはないと思うのだが、と首を傾けているとエリカは納得したようだ。

 

「そっか、まだ咲には紹介してないんだった。ミキからはよく話聞いてたけど」

 

お盆を持ったままどこかへ抜けてしまった。

 

私のことを話しているということは私のことを知っているということ。その点から考えればなるほど吉田幹比古のことであろう。彼もこの会場に来てるのか。

 

「四葉咲様ですか?」

 

「ええそうよ、貴女は?」

 

三高の制服を着た女子が話しかけてきた。

 

「一色愛梨です。一応咲様に婚約を申し込んでいます」

 

普通なら女の子と女の子が婚約できるわけないだろと笑い飛ばすところであり、事実私も最初笑ったものだが、なぜか咲の「ips細胞で同性の間でも子供ができるらしいです」がこの世界に取り入れられており同性同士でも婚約や結婚ができるようになっているらしい。なんでや!

 

「ああ、貴女が一色愛梨さんね、噂は聞いているわ」

 

通称「エクレールアイリ」、移動魔法を使った剣さばきの鋭さからエクレールの相性がついたらしい。

 

「ありがとうございます…私、咲様に会いたくて会いたくて…九校戦中か夏休みの残りにお茶やどこかお出かけでもどうですか?」

 

「一色だけ咲様にデート申し込むのはずるい」

 

「三日月先輩お久しぶりです」

 

彼女は三日月神奈、二高の2年でまたまた私の先輩だ。

 

余談だがなぜこんな中学の先輩で二十八家が多いかというと理由がある。東京には有名中学が2つあり1つは四葉の資本が入ってる学校。残り1つは七草の資本が入っている学校である。なので私に婚約を申し込んでる家で東京に進学させる場合私の中学になるのだ。

 

「私も咲様とデートしたい」

 

「私の方がしたいですよ」

 

二人の目線がぶつかり火花が散っているようだ。

 

 

「喧嘩はダメですよ二人とも、うーんそうね、愛梨ちゃんは何に出場するのかしら?」

 

 

「新人戦クラウドボールと本戦ミラージバットです」

 

「三日月先輩も当然ミラージバットですよね」

 

「うん、それとスピードシューティング」

 

「じゃあどれか種目で優勝したらデートしてあげることにします」

 

二人とも喜んで気合が入っていたがこの条件だったらまあデートに行くことはないだろう。

クラウドボールは私と当たるしミラージバットは渡辺先輩と当たる。スピードシューティングは七草先輩と当たる。そこまで考えた提案であった。まあ優勝したらしたでお祝いにデートしてあげるのもいいだろう。機嫌も取れたことだし仲良くなってくれそうだし一件落着と思いホッとしていた。

 

 

 

 

 

 

「あの一色と一緒に喋ってる子超綺麗じゃね?」

「一色も可愛いけどあの子の前だと霞むな」

「さっきの四葉の子も可愛かったけどこっちは綺麗系だな」

「なあ吉祥寺、お前あの子のこと知っているか?」

 

話しかけられた吉祥寺は将輝の方を見たが当然知っているようだった。

 

「名前は四葉咲さん。四葉三姉妹の長女で深雪さんと同じく一高。エントリーしてる競技はクラウドボールとバトルボード。一高一年Wエースのうちのもう一人だ。案外君たちでもチャンスがあるかもしれないよ」

「ん?どういうことだ?」

「咲さんに関しては四葉にしてはオープンでね、婚約をどこからでも募集しているようなんだよ。しかも婿入りだけじゃなくて嫁に出す条件もあるんだ、そこの将輝やあそこの一色も申し込んでいるよ」

 

「「ええーーー!!!!」」

 

将輝は余計なこと言うなという目で見てくるが事実だし仕方ない

 

「じゃあ俺たちでもいける可能性があるということか?」

 

「可能性はあるけど条件付きなんだ、1つは卒業時にある質問に答えること。もう1つは正解した人だけで行う咲さんとの魔法戦に勝つこと」

 

「四葉直系に魔法戦で勝つのは無理だから諦めるしかないな…」

 

その言葉を聞き将輝はどうなのかと、思い見ると将輝は熱を篭った目で咲を見ていた。

 

 

 

 

 

 

「お姉様はすぐイベントごとをサボろうとするのはよくありません、今日だって逃げようとしてました。でも会場についたら楽しそうですし…なのに深雪のそばには来てくれませんし…今だって他校の人とあんな楽しそうに……もしかして深雪はお姉様に嫌われたのでしょうか……もし…もし……そんなことあったら……深雪は……深雪は……」

 

 

ほのかと雫はまた深雪の扱いに困っていた、怒っているだけだったらいいが途中で泣き出しそうになるのでどう言ったらいいかわからないのだ。本当は深雪の機嫌が悪いから咲は逃げたんだよと言いたかったがそんなことこんな状況で言えるわけなかった。達也も咲もこの場にいないしどうするか悩みどころだった。

 

「どうしたの深雪、元気ないね〜」

 

「深雪は咲に嫌われたと思っているぽい」

 

「そんなわけないじゃん深雪!咲と話すとき深雪のことが出ると咲嬉しそうだよ、そんな咲が深雪のこと嫌いになるわけないって!」

 

突然現れたエイミィの言葉に深雪はそうね、お姉様が私を嫌いになるはずないわといって正気を取り戻したようだ。

 

雫とほのかは第3の深雪への特効薬としてのエイミィに感謝するのであった。

 

 

 

 

 

せっかく隅っこで目立たないようにしていたのに婚約を申し込んでいる人が次々と挨拶に来るせいで私の周りは壁2と人の壁2つにより完全に四方を囲まれていた。婚約者候補なので無下にもできないし逃げることもできない八方ふさがりであった。さてどうしようかと思っているところでちょうど老師の話が始まるようだ。

 

「全体系弱い精神干渉魔法10秒後くるでー」

 

これは枕神怜の予知モードである。これはイメージが簡単で、来る牌がわかり最高の上がりの形がわかる能力を、ただ自分に対してどんな魔法がいつ来るかを教えてくれる能力に変えただけである。

 

その後魔法発動のあと、紹介と共に現れたのは若い女性だった。後ろに老師が隠れている

 

周りの婚約者候補の人たちは気づいていないようだ。誰が気づいているんだろうと気になり周りを見回してみると、達也、九鬼先輩、七草先輩は気づいているようだった。

最後また老師の方を見るとこっちを見て笑った。やはり10年前と変わっていないようだ。

 

「まずは悪ふざけをした事を謝罪しよう。だがこれは非常に弱い魔法だ。しかしこの魔法に気がついたのは私が見た限りでは六人だけだった。つまり私がテロリストで、此処に居る人全員を殺そうとしたとしても、止めに動けたのは六人だけだと言う事だ」

 

あと二人は誰なんだろうかと思ったが次の言葉でその思考は止まった。

 

「10年前、ここにいるとある一人と魔法勝負をした。そのものは私を上回る強大な魔法強度干渉力と速度を持っていたが、私に土をつけることはできなかった、なぜそのものは勝てなかったのか、弱い力でも強い力に勝てると知らなかったからだ」

 

会場がざわめいた。10年前といったら5〜8歳である。その時点で老師より強大な魔法能力というのは桁違いであるからだ。

 

 

「諸君、私は君たちの活躍を楽しみにすると共に、君たちの工夫を期待している。先ほどのような小さな魔法でも、使い方次第では有効な魔法となる。使い方を間違った大魔法よりも、使い方の正しい小魔法の方が役に立つ事もあると言う事を覚えておいて欲しい」

 

最後は私の方向を見て締めくくった。

10年前、私は絶対王者照の力をもってしても老師に負けている。これは完全に今の力を見せてみろという挑発であろう。

 

いいわ見せてあげる、人は神に勝てないそれは理、「神依」の絶対的な力を

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まさかのips展開、タグのガールズラブは深雪とだけだと思ってて落胆した人(そんな人いるのか)歓喜な展開になりました

最後咲さんカッコつけてますけどついこの間負けましたよね(震え声)


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第22局[余裕]

お風呂シーンなどは作者がワカメの神依をしたことによりキンクリされました。今回から競技開始です


 九校戦初日

 

 

私たちは朝早くから競技場に来ていた。目的は七草先輩のスピード・シューティングの試合とそのあとの時間に行われる渡辺先輩のバトル・ボードの予選。初日から七草先輩と渡辺先輩の出番があり、私と達也は念入りに見に来るよう言われていた。バトルボードは私も出る種目であるから見るのは当然なのだが…

 

まず最初は七草先輩のスピードシューティングだ

 

「スピード・シューティングは予選と本戦では戦い方を変える人が多いが、七草先輩は予選も本戦も同じだからね」

「もし咲が出るとしたらどうするの?」

 

後ろから不意に話しかけられた。

 

「おはよう、エリカ、レオ、美月。初めまして四葉咲です。吉田家には以前お世話になりました。咲でお願いします」

 

最後の自己紹介は吉田君にしたものだ。

 

「吉田幹比古です。ご高名はかねがね…」

 

どうやら緊張しているようだ。

 

「ミキ、そんな緊張しなーい、咲普段は優しいのよ!怒ると怖いけど」

 

「あら、怒ったことあったかしら」

 

「一人でテロリスト潰したでしょ…そんなことより咲だったら予選と本戦で人格変えるの?」

 

なるほど、それを聞きたかったのか。

 

「たぶん変えるわね、予選は全部潰せばいいだけだから、できるなら半径5√3、約8.5の球、ダメなら10mの立方体で魔法を使う空間を定義して通るクレーを圧力で潰すかしら。これは人格変えなくてもできるわ。本戦は別の魔法使うけれど」

 

「なんで7mの球なんだ?半径5mでいいんじゃないか」

 

「あんた馬鹿ね、半径5mの球じゃ10mの立方体全部カバーしきれないでしょ。隅のほうにクレーきたらどうするのよ」

 

「確かにそうか」

 

魔法が働く範囲を空中に定義する場合、球の方がやりやすい。一つの点から同心円状に広がるイメージでやればいいからだ。しかし半径7mだと左右2mずつはみ出してしまう。そこに何か機器があった場合、その空間を定義するとその機器まで潰してしまうことになるので、立方体で定義する必要あるのだ。

 

 

「それはそうともっと前の方で見たほうが空いてるし、良かったんじゃないか?」

「この競技は後ろで見ないとよくわからないでしょ。それに最前列の付近は人でいっぱいよ」

「まあな」

 

 エリカが指差した方、観客席の最前列には人が詰めかけている。

 

「馬鹿な男共が多いわね」

 

「青少年だけというわけではないようだが?」

 

「お姉さまーってやつ?まあ一応この国では同性でも結婚できるけども私は異性がいいわ」

 

婚約申し込みが女性も多いわたしはどうなるのか。

 

「でも、会長をモデルに同人誌を作ってる人もいますし…」

 

 

 私は衝撃を受けた。この世界にも同人誌があるのかということに。この世界にはアニメがなく同人誌が展開される余地はないと思っていたが、よく考えてみると江戸時代の版画などは同人誌の祖先のようなものだし、七草先輩を同人誌のネタにするのは理にかなっている。

私はこの事実に衝撃を受けたのでみんなも同じ理由で衝撃を受けたのかと思ったがそんなはずはなかった。

 

「……美月、それをどういう経緯で知ったのかしら?」

「ち、違いますよ!?」

「あら、いいじゃない同人誌、ね、美月」

「え?お、お姉様!?」

「始まるぞ」

 

 

 慌てふためいた美月だったので同人誌を読む仲間として助けに入ると、代わりに深雪があわてだしたが、達也の言葉に冷静さを取り戻した。

 

 

七草先輩は去年も優勝しているし優勝は間違いないと思っていたが、やはり圧倒的であった。

得点有効エリアに入った瞬間にターゲットを破壊していく七草先輩。

もちろん結果はパーフェクト。

 

 

 

 

 

「さすが妖精姫(エルフィン・スナイパー)ですね」

「本人はそのあだ名を嫌ってるようだがな」

「新しいあだ名として七草家のシャープシューターとかどうかしら」

「咲…ダサいよそれ…」

 

エリカにダメ出しされてしまった。ごめんよ菫さん…

 

「今、七草先輩が使用された魔法はドライアイスの亜音速弾ですよね?」

「その通りだ。良く分かったな」

「そのくらいアタシだってわかったんですけど」

 

深雪を褒めた達也をジト目で見つめるエリカに、達也は苦笑いしながら答えた。

 

「まあ、同じ魔法を百回見せられたら誰にでも分かるか」

「一度も外さないのは流石七草先輩、といったところですね」

「一度も外してないのですか…」

「スゲエな…」

 

私もほとんど同じ方法で本戦は戦うだろうが、七草先輩に勝つことができると思った。

 

「あの精度は素直に賞賛を送れる。いくら知覚系魔法を併用していたといっても、それで手に入れた情報を処理するのは自前の頭だからな。流石十師族、名門七草家は伊達じゃないな」

 

達也が感心したように言うがみんなの頭にはてなが浮いていたので、補足説明として私が説明した。

 

「遠隔視系の知覚魔法「マルチスコープ」。実物体をたくさんの角度から知覚するレーダーのような魔法ね。入学式などの時に会長はこれを使って会場全体を監視していました、昨日の老師の幻術もこれを使って見破っていたようだわ」

 

みんなは気づいていないようだったので驚いている。その間に私も達也に聞きたいことを聞いた。

 

「達也さん一ついい?なんで七草先輩は一箇所から遠くのクレーに向かって亜音速弾放つのかしら、私だったら妨害も考えてクレーから1cmぐらいのところにドライアイス発生させてそれで撃ち抜くんだけど。妨害もされないしこっちの方がいいと思うわ」

 

私が七草先輩と戦うことになったらまず亜音速弾を全て亜音速弾で叩き落として自分は述べた方法でクレーを破壊する。そう思って聞いた真面目な質問であった。

 

達也は呆れたようだが返答してくれた

 

「あのな咲、普通の人間は一瞬でドライアイスを作れないしクレーは移動してるから定義しにくいんだ。それに1cmで亜音速まで引き上げられる人もそうはいない。だから七草先輩は一気に大量のドライアイスを作り出しそれで打ち出す距離を長くしてその距離で加速し撃ち抜いているのだろう。それに的から1cmを定義するなら振動魔法とかで壊した方が早いだろ、お前みたいに無駄に魔法力を使ってゴリ押しするのと違って七草先輩のは綺麗な魔法だ」

 

なんか脳筋は黙っとけと言われた気がしたが納得はできた。

 

今日見た感じだと来年スピードシューティングに仮に出るとしても、負けることはないだろう。もし相手が七草先輩と同じや似た方法なら枕神怜で予知モード使いながら亜音速弾を全て叩き落せばいい。領域系だったら領域系をかぶせて無効化すればいい。吉祥寺の不可視の銃弾ならばクレーの色を変える領域系幻術魔法使って相手のクレーを撃ち墜とさせなければいいだけだ。

 

 

 

 

 

次はバトルボード、渡辺先輩の観戦だ。

 

バトルボードはサーフボードのようなものの上に乗り、それを魔法で動かし、全長3キロのコースを3周するものである。コースにはカーブやジャンプ台なども設置されていて、単純なスピードだけでなく魔法の使い分けが重要な競技となっている。平均所用時間は15分、平均時速40km程度で走ることになるので、向かい風を耐えるだけでも相当な体力を消耗するだろう。

 

席についてしばらくすると、ほのかがボソッと呟いた。

 

「深雪や雫は二種目とも達也さんに担当してもらうのに、私は一つだけ、深雪と雫ズルイです」

 

確かに達也に担当してもらうのと他の人に担当してもらうのは違うだろう。達也はなんせトーラスシルバーだ。私も自分のCADを自分で調整できないならば、やって欲しかったに違いない。

 

「作戦も考えたし、練習もつきあったのだが、本番で担当できないのは本当に申し訳ないよ」

「達也さん、ほのかさんはそういうことを言ってるわけではないんですよ」

 

ん?どういうことだろう。達也がこのことに関して鈍感とか朴念仁とか言われているが私も意味がわからない。ここはわかった風な顔をしておこう。

 

達也への攻撃は選手紹介が始まると終わり、話題はレースの話になる。

 

「どうも、先輩たちにはたくさんのファンが付いているようだな」

 

七草先輩の試合同様に、この会場も最前列には人が殺到している。真由美と異なるのはそこに居るのが男子が大半では無く、殆ど女子だと言う事だろう。ipsもあるし合法であるし人それぞれであろう。私も女子の婚約が3割占めてるらしいし。

 

「でも、分かる気がします。渡辺先輩はカッコいいですもの」

 

「美月、渡辺先輩の同人誌はないのかしら?もしないなら作ればいいわね、エイスリンの能力使って紙にイメージするだけで転写できそうね」

 

「お姉様……」

 

同人誌があると知って一人で変に盛り上がっている私に深雪が残念そうな目を向けてきたがそんな目に負ける私ではない。

深雪は勘違いしてるが同人誌はR-18だけではなく、一般物も多い。漫画を描いて雑誌に出してるような人も同人誌を出すこともよくある話だ。

 

深雪にはちゃんと説明してあげなきゃとか考えていると渡辺先輩の試合が始まった。

 

「自爆戦術?」

 

初手に大波を起こし渡辺先輩の態勢を崩す作戦だったが自分の態勢も崩したようだ。私が仮に邪魔をするなら、渡辺先輩の数m先に減速する流れを、自分の前に加速する流れを作る水流を作り、渡辺先輩の邪魔して自分は有利な状況でレースを進める

 

レースは渡辺先輩の独走状態に入っていた。

 

「戦術家だな……」

「性格が悪いだけよ」

 

 

ジャンプ台から思いっきり飛び降りて後ろの選手に向けて水しぶきを上げる。視界を取られた選手はバランスを崩した。

私が"決勝"でとる戦法だとここが肝だろう。あとはいろは坂のような細かいカーブの連続。そこを研究しながら決勝以外は走らなければならない。

 

 

 

1日目七草先輩はスピードシューティングで優勝し渡辺先輩は予選を無事突破した。

 




亜音速弾全て叩き落とすって石川五右衛門もキリトさんもやってたしイメージ簡単そうですよね


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第23局[後悔]

クラウドボールのルールに少し変更があります。


九校戦2日目

 

2日目の試合予定は男女クラウドボール予選から決勝までと、男女アイスピラーズブレイクの予選の試合が行われる。

クラウドボールでは七草先輩が出場するのと私は選手であるので、当然見に行くのだが、観客席に達也と深雪の姿はない。なぜなら達也は臨時のエンジニアとして七草先輩のスタッフとなりコートにいるのと、深雪は自分が出場するアイスピラーズブレイクの試合を見に行ってるからである。

 

クラウドボールの全試合を女子は半日で全て消化する。1セット3分、女子は3セットマッチ、男子は5セットマッチで行う。優勝するにはこの競技は32人のトーナメント制であるので最低でも2×5、つまり10セット勝利することが必要だ。

まずボールがボール射出機からランダムで互いのコートに合計9個発射され、それを相手のコートに打ち返しゲームが始まる。相手のコートにバウンドし相手が返せなかったら自分のポイント、相手の返球が自分のコートにバウンドしなかったら自分の得点。得点が入ると得点を入れられた方に入れられた点数分ボールが打ち出され、ボールが合計9個のままラリーが行われる。まあすごく簡単に言えばボール9個でやる魔法テニスだ。

 

普通はラケットを使用したり少しの失点は関係なしにどんどん攻めるのがこの競技のポイントなのだが、七草先輩は相手の返球を二倍の速度で返すダブルバウンドだけで無失点で勝ち上がっていた。ダブルバウンドはそれほど強力な魔法ではないが返す角度が上手い。あれでは全ての打球に魔法を使うことは難しいだろう。

 

「氷の世界……」

 

「ん?どうした咲?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

横にいるのは渡辺先輩だ。普段七草先輩と憎まれ口を叩いているが試合をちゃんと見てるということはやはり仲はいいのだろう。

 

「そういえば咲も達也君などと一緒ではないことあるんだな」

 

「はい、渡辺先輩と最初お会いした時も一人でしたし、本を読む時も一人ですし達也と深雪ほど一緒ではないと思うんですが」

 

渡辺先輩は私に言われて思い出したようで返答に少し詰まっていた

 

「あ、その、あれだな、イメージだよイメージ」

 

「私の魔法はイメージを元にして作ってるのですが渡辺先輩は違うのでしょうか?」

 

「達也君も同じこと言いそうだ……」

 

純粋な疑問だったのだがその疑問に対する返答はなかった。

七草先輩は全試合ストレート勝ちで優勝した。

そして女子アイスピラーズブレイクの予選は千代田先輩が危なげなく勝ち抜けた。

 

 

 

 

 

九校戦3日目

 

この日は男女アイスピラーズブレイク決勝と男女バトルボードの決勝が行われる。

 

「今日の予定は服部先輩が男子第一レース、渡辺先輩が女子第二レース、千代田先輩が女子第一試合で十文字先輩が男子第三試合ね、私はバトルボードの選手だから服部先輩の試合見に行こうと思うけど、達也さんには来て欲しくないと思うから渡辺先輩のレースでまた合流しましょう」

「わかりました、お姉様」

「あ、いたいた、達也君〜」

 

達也も七草先輩に呼ばれたようだ。今日も3人とも最初は別行動だ。

 

 

服部先輩の試合を終え、急いで女子バトルボードの試合に向かっていると枕神怜の能力が発動した。

 

「5分後の未来変えれるでー」

 

これは枕神怜の分岐点お知らせモードだ。

これは私が未来を見て対処することによって未来が変わる可能性があるときに発動するモードだ。

5決の分岐する未来を見る怜の能力を枕神怜にもインストールしたのだが、流石にスペックが足りなくてお知らせするだけになってしまったのだ。

 

私は怜の神依を使い一時間後まで見る。

 

未来を見たがどうやって対処したらいいかわからない。起こることはわかったがとりあえず場所が悪い。とりあえず達也に連絡するのが先決であろう。

 

「達也さん」

 

「咲か、早く来い。渡辺先輩のレース始まるぞ」

 

「今すぐ第一コーナーの近くの出口に移動して、多分、今ここからじゃそれしか対処する方法わからないわ」

 

「わかった」

 

私の声色を受けて、何かが起こると理解してくれた達也は移動してくれたようだ。

未来を見てもどう行動するかで未来は変わっていく。どの未来を作るかは自分次第なのである。

 

会場に着くと同時に大きな悲鳴が上がった。やはり渡辺先輩と七高の選手がクラッシュしたようだ。

 

「やっぱりね…」

 

「お姉様!」

 

前の方から私を呼ぶ声がして見ると深雪であった。横の席が二人分空いている、達也と私の席であろう。

 

「お兄様が出て行ったのは」

 

「そう、私から聞いたから。けど今回は見たのあの電話の前の5分前だったからそれぐらいしか対処の仕様がなかったの…」

 

分岐点が見れるといっても1日後や一時間後の分岐点が見れるわけではない。分岐点を見る行為も簡単にいえば未来視であるので常時軽い未来視してるのと変わらないのだ。だからサイオン消費量を抑えるために5分後にしていたが、それが仇となった。

分岐点がわかったのに対処の仕方がわからなかった自分が悔しいと感じてる私に、深雪は心配するような目を向けていた。

 

 

 

渡辺先輩には未来が見えていたかのような早さで現れた達也と七草先輩が付き添った。

当然事故により、みんな浮き足だっていたが十文字先輩の一喝でみんな地に足をつけたようだ。

 

アイスピラーズブレイクは渡辺先輩と仲がいい千代田先輩のメンタルが心配だったが逆に気合が入っているようでそのまま千代田先輩が優勝を飾った。

 

 

 

 

渡辺先輩は重症ではなく後遺症もないそうだが骨折しており本戦ミラージバットは棄権することになるそうだ。よかったと感じると共にそれならミラージバットが格段に上手い三日月先輩が優勝するだろうなあと予想していた。

 

 

 

 

 

 

夕方達也が昼間のレースを検証したところ魔法の干渉、それも精霊魔法の可能性が高いということだった。

 

精霊魔法なら自分の魔法であそこからでも対処できた。枕神怜が反応したのはそういうことか。その事実を聞くと、達也と深雪の前で不覚にも自分の至らなさに絶望して泣いてしまった。私は神の力を使うのだから、完璧でなければいけないのに。三年前のようなことを起こしてはいけないのに。

 

「咲、お前は神のように全知全能ではない。神依などという能力を使うが人間なんだ。自分がなんでも対処しなくてはいけないというわけでもない。そう重荷に思う必要はないんだ」

 

「でも、でも…私がしっかり対処できていれば…渡辺先輩は」

 

「渡辺先輩はお前のおかげで重症ではなく後遺症も残らず骨折だけで済んだ。渡辺先輩はお前に感謝していたぞ。だからそんなに気に病むこともないんだ」

 

達也がいつも私が深雪にするように、私の頭を撫でそのまま部屋を出ていった。私はしばらく泣き、その後泣き疲れて深雪に膝枕してもらいながら眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 




クラウドボール原作のルールだと単一魔法のゴリ押しぐらいしかいいアイデアが思い浮かばなかったので変更しました。このルールだとボールがあっちこっちにいって大変だけどそこは何かダイソンのような魔法で吸収していると考えて下さい。こっちのルールの方が本家クラウドボールより精度もスタミナも必要とするし単一魔法ゴリ押しにならない(ボールがでたら相手のポイントのため)と思うからボール回収が大変以外は魔法競技としてはいい気がする


魔王の目にも涙


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第24局[不満]

今回から新人戦スタート、今回は咲さん無双ではないです


咲と深雪の部屋から出た達也は静かに怒っていた。

 

達也に残された感情は一つ「深雪と咲を大切に思う感情」だけである

 

咲があんなに泣くのは初めて見た。咲は優しいが少しイタズラっ子で、時々謎にテンションが上がったりするなど飄々としていて少し感情が捉えづらい。

面倒くさがりやでよくいろいろサボりがちではあるが、他の人のテリトリーに深く入り込まないだけで自分や自分の周りに関係することはこの前のテロリスト一掃のように責任感を持って必ず自分で対処する。達也は咲が何か固い信念を持つように思えた。

 

咲は今まで能力もありそれでやってこれたのであろうが、今回の事故で割れた、固いものは割れやすい、ダイヤだってそうなのだ。

 

咲にとっては成長に繋がるかも知れない。しかし咲を泣かしたやつは許さない。

そう覚悟をして部屋に達也は戻った。

 

 

 

 

九校戦4日目

 

今日から新人戦が開始される。スケジュールは本戦と同じ順番で行われ、今日はスピードシューティング予選〜決勝とバトルボードの予選が行われる。

 

私はスピードシューティングの予選を見に来ている。午後から試合なのに大丈夫なのかと突っ込まれるかもしれないが、待ち時間を作って緊張させないようにということらしい(特にほのかに対して)

 

雫は当然パーフェクトで予選を抜けた。達也が作った能動空中機雷と名付けられた魔法を上手く使いこなしていた。

達也は有効エリア内に何個もの球の魔法範囲を定義し有効エリア内ほとんどを網羅しているようだった。私のと違ってこれなら機材とかを考えずに使える魔法だろう。これハーベストタイムしたら街一個破壊できそうだなあとか危ないことを考えていたが次の競技者が始まったので中断された。次の競技者はエイミィだ

 

エイミィが使った魔法は硬化魔法と移動魔法。エイミィは狩猟部でありものを動いているものに何か飛ばして射撃するのが得意である。しかしフィールドには空気しかない。七草先輩のようにドライアイス作り出し発射してもいいがいくら射撃が得意だと言っても知覚魔法無しにはパーフェクトは狙いにくい。

そこでとった方法はセオリー通りの的同士をぶつけて壊すという算段だ。

まず最初に飛んで来たクレーを壊さずに移動魔法で空中に制止させる。ある程度溜まったら、それを硬化させ他の的にぶつけるという戦法だ。的同士をぶつける戦法は二つ以上的が飛んでいないとできないが的を硬化することによってぶつける的がなくなることはない。

 

しかも近くから大きい目標に対して大きいものをぶつけるので外すことも少ない。セオリー通りであるがこれがセオリー通りとしての最終進化系だろう。

 

この使い方を見て私は壊した的の破片を硬化させ群体制御で操れば後半簡単に的を壊せる魔法をイメージできたが達也に言ったらまた笑われるであろう。

 

 

スピードシューティングは予選を皆無事通過し決勝リーグでも他校を圧倒し上位を大きく占める結果となった。午後は1〜4位までを決める試合があるので、もしかしたら1〜3位まで独占するかもしれない。

 

 

昼前私とほのかはバトルボードの会場に向かった。途中でエンジニアの中条先輩と会い話すと例年の一年のバトルボード予選はそんなに観客はいないらしいが、今年はほとんど埋まっているらしかった。

 

「みんな咲を見に来ているんだぞ」

「渡辺先輩、昨日は私の力が至らないばかりですみませんでした」

 

控え室にその話をしながら入ると昨日怪我をしたはずの渡辺先輩が頭に包帯を巻きながら椅子に座っていた。

 

「なぜ謝る。お前のおかげで達也くんがすぐ駆けつけることができたし私も後遺症は残らなかった。私の方が感謝したいぐらいだ」

 

「ありがとうございます、私を見に来ているというより四葉を見にきているということですかね?」

 

四葉直系魔法師が九校戦に出るのはこれが初、予選といっても注目を集めるだろう。

 

「お前は自分の容姿を少しでも気にしろ」

 

私と深雪は魔法界では有名らしい。七草先輩や渡辺先輩のようにファンがいることがわかった。

 

 

 

 

咲とほのかは準備に向かい控え室は摩利とあずさだけになった

 

 

 

「それで咲は大丈夫なのか?」

「はい、咲さんのCADは完全に上手く調整されていました。私なんかがさわったら逆に崩しちゃうぐらいです」

 

中条先輩のCAD技術を知っている摩利は少し驚いた。

 

「まあ咲だったらぶっちぎりで予選を抜けると思うが」

「いいえ、決勝以外はそんなことありませんよと言っていました」

 

摩利は疑問を覚える。咲の魔法力だったら予選なんて楽勝であろう。なにせ寝てても、十文字や私などたくさんの人間がいても止めれなかったあの事故を止めたのだ。予選で苦戦するようには思えない。

 

「けど付け足してましたね、"決勝"は楽しみにしてて下さい、と」

 

つまり決勝以外は流すということか。まあ咲が流しても勝てるのは深雪だけであろう。

 

 

そんなことを考えていると試合が始まるようだった、選手達が順番にレース会場に出てくる。咲は第1レース目なのでスタート位置についた。

 

そこにいたのはまさしく神であった。膝まである薄い金髪の髪を三つ編みでまとめ、体は女らしい曲線美を描いている。深雪が不健康に見えないギリギリの庇護よくをそそる体つきだとしたら、咲はルネサンスの彫像家が丹精込めてつくった女神の彫像のような体つきであった。

咲は圧倒的なオーラを放ち、会場中の人は男女関係なしに咲に見惚れていた

 

「あれ見ると私も婚約出したくなるな」

 

冗談であずさにいうとあずさは顔を真っ赤に変えた。しかしあれを見たら婚約を出したくなるのもわかる、それぐらいのオーラであった。

スタートのブザーが鳴ると同時に飛び出したのは、意外にも他の高校の選手であった。

 

「出遅れたか?」

 

しかし咲は慌てた様子も見せずのんびり走っているようだ。一位の後ろで風を防ぎながらあくびまでしている始末。真面目にやれと思う摩利だったがコース半ば小さいカーブが連続する場面の前で表情が変わった。一気に一位を抜き去り小さいカーブを綺麗に曲がって行ったのだった。

 

「今のは?」

「一瞬だけ足元の水を凍らせスノーモービルの要領で曲がっているらしいです。そうすることによって水よりも体が安定して曲がりやすいと咲さんは言っていました。」

 

スノーモービルというよりはスノーボードだがなと摩利は思って咲を見るとなぜか顔は不満げにしていた、また何か考え事をしながら流して走っているようだが、ゴール前のジャンプ台でスピードを上げた。そのまま飛んだ咲は着地地点に風を起こす魔法を使って着地の衝撃を和らげた。その後のコーナーを抜けた咲はさっきと対照的に少し満足そうであった。

 

「中条、あの放出系魔法はなんで使うんだ?後ろのやつがいないから波を起こす必要はないとはいっても無駄に魔法を使うだけだろ」

「それが私も知らないんですよ、決勝見たらわかりますと言って」

 

咲は二周目三周目と少しずつスピードを上げ小さいカーブの連続のところでまた不満そうな顔をして、ジャンプ台のところは何かを確認してるように飛んでいた。

結局、圧倒的1位でゴールした咲は小さいカーブの連続する場所をまた見つめ会場を立ち去っていった。

 

 

タイムは去年の新人戦優勝タイムとほとんど同じ。明らかに手を抜いていたのに圧倒的な魔法力だ。

ほのかも初手閃光弾を発射するトリッキーな走りで予選を抜けた。

 

新人戦女子の結果はスピードシューティングが表彰台独占、バトルボードはどちらも予選突破と幸先の良いスタートとなった。

 

 

 

 

 

 




解説役達也がいないので摩利は達也の応急手当が効いた設定で退院を1日早くしています。九校戦書いてて思う、末原さん出てくるか達也分身してくれ…


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第25局[怪物]

今回他の作品のクロスオーバー多め、視点がコロコロ変わります。一応視点が変わるときは間を空けてますがたぶん読みにくいです


九校戦5日目

 

今日の種目はクラウドボールとアイスピラーズ予選、私と深雪が出る競技だ。

 

試合前、私は数の子を食べていると、私が優勝候補なのと深雪の試合がまだなのもあって、渡辺先輩と七草先輩が駆けつけてくれた。

 

「紺のロングスカートなのね、珍しいわ」

「私は魔法オンリーでそんなに動かないので」

 

クラウドボールも実は服装は自由だ。しかし、普通は動き回るので半ズボン、ボールが当たった時のためにプロテクターを付けるのが一般的だ。七草先輩のように短いスコートや私のような動きにくいロングスカートの方が稀である。

 

「今日は本気出すのか?」

 

昨日のバトルボードの試合をみた渡辺先輩に聞かれる。

 

「ええ、今日は3種類の技見せますので楽しみにしてて下さい」

 

この競技はイメージしやすかった。なんたって似たような競技が前世にもあったからである。しかもこの競技にぴったりなそっくりな漫画も。

 

「達也君や深雪さんが見にこれなくて残念ね」

「残念ですけど仕方がないでしょう、深雪は試合、達也さんは調整で忙しいと思いますから、一回戦目は私が試合してるってことはすぐわかると思いますが」

「ん?どういうことだ」

「まあ楽しみにしてて下さい」

 

 

 

 

 

 

 

試合開始時間が近づいてきて各選手がコートに立ち始めたが、咲はまだ立っていなかった。真由美達は何をやっているんだ咲は、と思ったその時、突然咲の近くに強風が起こった。咲は手に持っていた日傘を使いその風に乗って空中に飛び上がった。そのまま日傘をパラシュートのように使いコートに降りていく。咲がコートに降りると会場が一気に沸き立った。

 

「あらあら、すごいパフォーマンスね」

「相手完全に呑まれてるぞ、流石にこれは相手に同情する」

「咲さんはあのパフォーマンスのためにあの術式入れてたんですね…なんで入れてるのか教えてくれなかったのはこのためですか…」

 

梓は少し落ち込んでいたが、このパフォーマンスをやることで相手に与えるプレッシャーは相当なものだろう。

 

「咲はどんな戦法取るんだ?」

「それが私にも教えてくれなくて咲さん一人で全部やっちゃったんですよ、練習も一回見学に来ただけで、このルールなら大丈夫、って言ってバトルボードの方に向かっちゃいました」

 

普通なら馬鹿げた話でちゃんと練習しろというところだが、それをやっているのは咲だ。咲はそれほどクラウドボールに自信があるのであろう。真由美は父親からクラウドボールで対戦したとは聞いていないが、もしかしたら対戦したのかもしれない。そう思えるほどの自信であった。

 

 

試合が開始されると同時に咲は歌い出した。その歌声が咲の声を大きくする振動魔法により会場中に響き渡る。しかしそれも大きすぎるわけではなくちょうどいい大きさ。しかもそれがこの会場だけではなく九校戦全体で起こった。

 

 

 

 

 

 

アイスピラーズブレイクの会場で準備をしている達也達は突然咲の歌声が聞こえて顔を上げた。咲はクラウドボールの試合のはずであるからここにいるはずがない。

 

「お兄様!」

 

深雪がモニターを見てこちらに呼びかけてくる。映っていたのはクラウドボールのコートで歌う咲であった。咲は周囲に風を起こし歌いながら軽やかに舞っていた。そこは魔法競技の会場ではなくミュージカルさながらであるように見える。会場の観客を映すモニターでは観客の目は咲の姿に、耳は咲の歌声の虜になっているようだ。

 

「お兄様…これは?」

「いいや俺も知らない」

 

見たところ歌を歌うと魔法力が上がるぐらいしか想像がつかない。しかも九校戦会場中に響かせるぐらいの大規模魔法を使ってもサイオンが枯渇する様子など感じ取ることはできない。どれほど強力な神依なのかも想像できないほどの力だ。これが咲の本気ということを達也は肌で感じた。

 

 

 

 

 

 

第1セットは咲が全ての打球を相手コートに全て一撃で沈め確保した。

 

1セット目が終わると咲は歌うのをやめ、会場にお辞儀した。それを境に会場全体が拍手に包まれる。クラウドボールの競技ではあり得ない光景だ。咲は完全に歌声と舞だけで会場全体を掌握してしまった。精神干渉系魔法もびっくりである。

 

「なんだ、あれは…」

「綺麗な歌声ね、咲さんあんな歌うまいなんて…」

「真由美お前何を見ていたんだ?咲のボールを返した魔法を見てないのか」

 

真由美はモニターの咲の舞しか見ておらず、魔法を見ていなかった。仕方がないことかもしれない。咲のコートにはボールが映っていなかったからだ。

 

「中条、何か聞いているか?」

「咲さんは一二回戦は移動系と収束放出系の合成魔法"音速弾"で戦うと言っていましたが、どんな魔法かまではわからないです。作ったであろう四葉君に聞くか咲さんに直接聞くしかないと思いますね」

「まあ2セット目をしっかり見ればいいことだ」

 

しかし2セット目は相手がサイオン枯渇+心が折れたことにより棄権し、行われることはなかった。

 

 

 

 

 

 

今回の大規模範囲系振動魔法は老師の挑発への返答だ。まず老師が使った範囲系魔法を使いつつ勝つ。私にもその程度の魔法はできるぞという返答である。これがクラウドボールで一番最初にやりたいことであった。老師がどこにいるかわからなかったので九校戦全体を定義したのだが、二回戦はこの会場だけにするつもりだ。

 

私がボールを返すのに使った魔法は

「音速弾」

 

まず、相手の撃ってきた球や射出機から出てきた球を移動魔法で停止させる。そこから相手に当たらない位置に発射するためにボールが通る大きさの真空チューブを作る。そして真空チューブを作る過程で押しのけられた空気を利用し偏移解放で発射する。発射された球は普通の偏移解放よりも真空チューブ内で発射されるので速い速度で発射され敵のコートに向かうというわけだ。

 

なんでこんな面倒くさい術式を使うかというと理由は二つある。

一つ目は1.2回戦レベルなら単純に速い球でも得点を取れるだろうという考えだ。もし見えても魔法の発動が間に合わなければ意味がない。勝負ごとは相手にやりたいことをさせずに自分がやりたいことをして勝つ。それが一番勝率が高い行動だと知っていた。

二つ目は風で相手を吹っ飛ばしてしまってしまい、反則負けにならないようにだ。今の私は「風神」の神依をしているので収束放出系魔法と風の精霊の強化が起こっている。なのでどうしても風系の魔法を使いたかったので真空チューブで敵に当たらないようにするという一つ工程が増えたのであった。面倒くさい術式だが今の私には単一工程魔法と同じぐらい楽であった。

 

次は二回戦、早く二回戦も終わらして着替えないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二回戦も咲の蹂躙であった。咲の使った魔法は移動系収束放出系というヒントからだいたいの工程はわかったが、なぜこんな面倒くさい術式使うかわからなかった。しかも大規模範囲系振動魔法とのマルチキャストでだ。こんな力があるなら単一工程の魔法でも勝てるだろう。

 

「咲さんは何か意味があってこの魔法を使っているんじゃないかしら。例えば大きな声で歌うと強くなるとか?」

「あの歌に意味がないとは考えづらい、真由美の意見も一理あるな」

 

二回戦が終わった咲は急いでお手洗いや更衣室の方に向かって行った。二回戦も1セット目で相手の心をへし折り勝利していたので時間はあるがよほど我慢していたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

三回戦試合開始5分前咲はお手洗いの方向から戻ってきた。しかし先程のようにロングスカートの日傘スタイルではなく、髪を一つにまとめ結い上げて半袖半ズボンの格好で今度はラケットを持っていた。それはさながら中性的な美少年のようである。さらに面白いことに瞳は左が赤色、右が青色に変わっていた

 

 

咲が右手を上げ、指を鳴らすと魔法が発動する。

 

\勝つのは氷帝!/\勝者は四葉!/\勝つのは氷帝!/\勝者は四葉!/

 

その大合唱が会場中から響いた。咲の魔法だ。1.2回戦と咲に魅せられていた観客は自然とその大合唱を口ずさみ、そしてそのうち魔法よりも会場の観客の声の方が大きくなった。

 

再び右手を上げ指を鳴らすと最初に発動した魔法が消え、それと共に消音魔法が発動され会場全体が静かになる。

 

「勝つのはこの俺だ」

 

消音魔法を解除すると黄色い悲鳴が上がる。先程まではミュージカルで歌う神のように綺麗な歌手だったのに、今は劇団四季で活躍するような男装した美少年のような姿。このギャップに会場の女性は落とされたのであった。まあすでに歌手の時点で男女と共に堕ちていたのだが

 

 

三回戦が開始される。今度は先程のように咲は歌わない。観客は少しがっかりしたようだったが、次の一連の光景を見て驚愕に置き換わった。

 

「ほうら凍れ」

 

咲がそう言った瞬間、相手のコートに小さい氷柱が突き刺さった。

 

「その氷柱一つ一つがてめえの弱点だ」

 

咲は相手が打った打球を全て単一工程魔法で、それほど早くない速さで氷柱の位置に返す。観客の誰もがこれは返せるだろと思ったが、相手選手は一歩も動くことができなかった。

 

咲はそれを繰り返す。相手選手も必死に動こうとしているが体が反応できないようだ。

 

1セット目残り10秒となり、咲がまた返球すると今度は1球だけ氷柱ではなく普通にバウンドした。しかし相手選手は疲労したのか動けないようで、地面にバウンドしたボールは相手選手の特化型CADにあたりCADを落としてしまう。

そしてCADに当たって跳ね返ったボールは咲のコートに山なりに返っていく。

 

「破滅への輪舞曲だ、踊ってもらうぜ」

 

ラケットで打ったボールは返すことができない相手コートに突き刺さった。

 

「俺様の美技に酔いな」

 

相手のCADはボールが当たったことにより不具合を起こしていた。咲は三回戦も無失点で突破した。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ今の咲は…」

「かっこいいわ、咲さん…」

「しっかりしろ真由美!」

「はっ」

 

今の咲はいつもに比べておかしかった。まあいつもおかしいのだが、いつにも増しておかしかった。あの真由美が咲に見惚れるぐらいだったら観客も当然惚れてしまうだろう。摩利はシュウがいるので魅惑という魔の手から逃れることができたが摩利自身も少し傾きかけるぐらい危なかった。やはり咲は人を引きつける何かがある。

 

 

この時もう誰も、相手が不憫だとか氷帝ってなんだよとかすでに考えてなかったのは秘密である。

 

 

 

 

 

 

 

「出ましたよ、お姉様の女たらしモード」

 

モニターを見てる深雪は姉の悪口を言ってるようだが顔はニヤニヤを捨てきれていない。見れて嬉しいという顔だ。深雪だって一応女の子である。達也以外にもかっこいいものを見ると一応見惚れることもあるのである。まあ姉だからという点も大きいと思うが。

姉にそれは神依なのかと聞いたことがあるがただのモノマネらしい。男性の神依は一応できるがしないそうだ。

 

「お兄様、今の神依は」

「ああ、キャップという神だろう。目の色が変わるからわかりやすい神依だ」

 

 

キャップもとい福路美穂子

このキャラの能力はいつも閉じてる右目を開けると卓上の全てがわかり癖なども見抜ける。これをこの世界に置き換えると相手の癖や弱点、死角などがわかるという能力になる。

似たような能力に清水谷竜華のゾーンというものがあるがこれも相手の弱点がわかるが癖や死角などはわからない。しかし代わりに体温や呼吸や鼓動などを感じ取れる。今回はモノマネをするために関西弁は使いたくないのと死角を見たかったから、咲はキャップの能力を選んだのだった。

 

 

「というか咲今回の勝ち方ひどいな、相手のCADにダメージを与えて勝つなんて」

 

「かわせなかった方が悪いのではないですか?」

 

深雪は気づいていない。最後のCADへの攻撃は氷柱がないところへのバウンドだったが、あえて咲が氷柱を置かなかっただけでそこにバウンドされたら死角なので動くことができないということを。

 

「まあそうだな。また咲の試合が始まったら教えてくれ」

「わかりましたお兄様」

 

咲も性格が悪い、達也はそう思いCADの調整に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

私はとりあえず老師に対してクラウドボールでやりたいことはやった。まず大規模魔法で挨拶の時の魔法の真似をし、意識干渉魔法無しで人々の心を掴む。老師は弱い意識精神干渉系を使って自分の話に取り込んだが、自分はそれ無しでもできるぞという力を見せつけたかったのだった。次の仕込みはバトルボードである。ぶっちゃけもう流しでいいのだが観客も乗ってくれてることだし準決勝はこのまま、決勝の、たぶん愛梨ちゃんとの対決は1.2回戦に戻して戦おう

 

 

 

 

 

準決勝のために再び会場に入場すると魔法を使わずともさっき魔法で行なったコールが入った。本当は三回戦で慣れてもらって準決勝でこの状況にしようと思ったのだが案外観客のノリが良くて三回戦は消音魔法を使う羽目になった。今度はどうかなと思いコートにたち右手を上げ指を鳴らす。消音魔法無しでも会場が静かになった。2回目でここまでできるとはすごい。

 

「勝つのはこの俺だ。」

 

再び黄色い声が上がる。私はさっきと同じように氷柱の幻影魔法と単一工程魔法で相手を圧倒し最後はCADを不具合にしてまた無失点一セットで勝利した。

 

 

 

 

私は決勝に向けてまた神依を風神に戻し会場に向かうと同じ一高の里見スバルと会った。クラスは1-Dで九校戦はミラージとクラウドボールにエントリーしている。

 

「負けちゃったようですね、決勝で会いたかったのに残念だわ…」

 

愛梨には勝てないだろうとは思っていたが、やはり自分の高校の生徒が負けるのは残念である。

 

「なあ咲、一色のやつを完膚なきまでに叩き潰してくれないか?」

 

聞くと愛梨は有名数字付きや名門一族しか認めない人のようである。それは私の信念に反する、ちょっと懲らしめてあげないといけない。

 

「わかったわ、使おうか迷ってたけど使うわね」

 

私は新たな神を下ろす。そしてスバルにCADを手渡す

 

「え?」

 

「どうやら今の私にはCADは必要ないようです」

 

 

 

 

 

決勝は再び日傘スタイルであったが、私が入場すると再びコールがかかった、とりあえず風で決勝のコートまで飛んでいき着地すると同時に右手を上げ指を鳴らす。

 

「勝つのはこの私」

 

スカートをつまんで挨拶をするように頭を下げる。再び歓声が沸き起こったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

「おい咲、CAD持ってないぞ…」

 

摩利の一言で会場のモニターで見ているメンバーは慌てる。クラウドボールはスピードとサイオン量が大事な競技である。サイオン量はどうしようもないがCADを持っているか持っていないかはスピードに大きく関わる

 

「早く持っていってあげなきゃ」

 

「あ、あの、咲はCADいらないっていって私に手渡してきたんですけど持っていった方がいいでしょうか?」

 

そこにいたのはクラウドボールで三位を決めた里見スバルがいた

 

「CADがいらないとかそんなことあるのかしら?」

「古式魔法使いでない限りないな、まあ咲のことだから何かあるのだろう、礼を言うぞ里見」

 

 

摩利がそういうと一高メンバーは落ち着きを取り戻し、決勝のスタートを待つモニターの咲を全員で見つめた。

 

 

 

決勝戦がスタートされた

 

愛梨は移動魔法を得意とする魔法師である、よってボールを移動魔法で打つクラウドボールは咲に勝てる自信を持っていた。咲の一回戦二回戦の球は見えていたし三回戦準決勝の氷柱は自分の死角ということもちゃんと理解していた。

 

咲が打った打球4球がこちらのコートにくる。速さも普通レベルであり難なく返せるコースだ。バウンド前に返そうとしたが、なぜかうまく魔法がかからず返球するのはバウンド後になってしまった。

 

「もう貴女の球はネットを超えないわ」

 

咲が愛梨が打った5球を打ち返しながら言う。

愛梨の球は咲が言う通り4個中1個もネットを超えなかった。次の5球も返したがネットを超えない。

 

「ファイナルカウンター、ヘカトンケイルの門番」

 

 

 

 

 

 

 

 

咲が言った通り3高の選手の打球は一度もネットを超えなかった。上空にあげるロブも急速に落下しネットを超えず咲のポイントとなった。

 

「どういう仕組みなのかしら?」

 

「咲の返球はサイオン粒子が周りを囲っている。たぶんあれで魔法がかかりにかくしているのであろう。急速に落下する仕組みは……大亜連合の古式魔法で遅延型術式というやつがあったはずだ、それで相手の返球を落下させていると考えればどうだ?」

 

摩利の推測に真由美や里見などの他のメンバーは納得したようだった。

 

第1セットは咲の得点は3高の選手のミスショットだけ、咲は無失点で終わった。

 

しかし、これまでの相手と違って最後まで戦うようだ。普通ならミスショットしかしてないなら心が折れるはずだがよほど何か消えない炎があるようだ。咲も少し驚いて笑っていた。また何かやるようだ。

 

 

2セット目が始まった。咲は再び歌い始めた。観客は聞き惚れているようだが一応優勝が決まるかもしれないセットなので、目を離さないでいる。

 

咲は1、2回戦同様再び歌いながら舞っていた。咲の返球はさっきと違い、今度はネットを超えるようだが磁石で反発するかのように咲のコートに入らない。咲はCADを持たず舞っているだけでポイントが入っていく。もう既にそこは咲のミュージカルさながらである。

 

 

そのまま咲は1セット目と同じように得点は相手のミスショットのみ、咲は無失点で2セット目を取り全てのゲームをパーフェクトでクラウドボールの優勝を飾った。

 

 

 

 

 

 




咲以外のクロスオーバーの解説
全てテニスの王子様の技です

氷の世界
相手の死角を見つけ相手のコートに氷柱を突き刺しそこに打ち込む。その氷柱は死角なので相手は動くことができない。攻略方法は死角をなくす


ヘカトンケイルの門番
ラケットの表面と裏面で二条の回転をかけ返す技。ロブで返してもネットを超えることはない。ファイナルカウンターではなくフィフスカウンターに後半変化したがファイナルカウンターの方がかっこいいのでファイナルカウンターを採用

音速弾
速い球


氷帝
氷の世界を使うキャラがいる学校





今回暴走したのはなんもかんも政府と新井が悪い

今回の神依のキャラ難しいかな?
この世界で魔法で一番大事なものはCAD、それなら麻雀で一番大事な役はと考えればわかるかもしれません


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第26局[翻弄]

日数で話分けてたんですけど前回にくっつけると長すぎたので分けたので短いです。なんでクラウドボールほとんど全試合書いたんだよ…


九校戦5日目

 

クラウドボールで優勝を飾った私は話もそこそこに女子アイスピラーズブレイクの会場に向かう。予選は雫エイミィと共に突破したようで深雪の試合は次の試合だ急げと達也から連絡が入った。この時間はもうすぐ控え室から試合会場へ入場する時間だ。

控え室に行くのは間に合わないと考え私は観客席に向かった。

 

 

「おーい、咲ー」

 

エリカがこっちに手を振ってくれている、クラウドボールが終わった時点でエリカに席取っておいてくれと頼んだのであった。

 

「ありがとう、エリカ」

 

「咲優勝おめでとう」

 

「おめでとうございます」

 

席に着くと雫やほのかから祝辞の言葉を言われ柄にもなく照れることとなった。

 

「ありがとう、こういった場で優勝するのは初めてだから嬉しいわ」

 

「それ初めて大会に出たからじゃ」

 

「確かにそうね」

 

「ねえ咲、さっきのうた……」

 

エリカが私に何か聞こうとしたようだが深雪がステージに現れるとその質問はキャンセルされた。

 

「深雪似合いすぎでしょ…」

 

「確かに似合っているわね、私のだけどサイズ合ってよかったわ」

 

「咲さんと深雪さんそんな身長変わりませんからね」

 

本当は私の方が数cm高く、可愛い深雪にもそれだけは譲れないのだが黙っておく。誰もが深雪の行動全てに注目しており、試合開始を待ち望んでいた。そして待ちに待った試合が開始されたと同時に深雪の魔法が発動した。

 

「また深雪インフェルノなのね、もっとユーモアが欲しいわ、ユーモアセンスを問うキャラなんていたかしら….」

 

「ちょっと待って待って待って咲、またインフェルノって?」

 

「この前構内で練習試合深雪としたのよ。その時も深雪インフェルノ使ってたらしいからまたーと思ったの、まあ1勝1敗の負け犬の遠吠えと言われればそれまでなんだけど」

 

「咲、ピラーズの選手じゃないけど多分深雪より強い」

 

私と雫の言葉を聞いてこの前私の試合を見てないE組4人は絶句しているようだった。

 

インフェルノは実はA級ライセンスの課題として出題され頭を悩ませる魔法らしい。私は"こっち熱くしたらあっちプラマイ0的に考えて寒くなるのかそれとも熱伝導的に考えて熱くなるのか"みたいに考えて5歳ぐらいの時に試したらできたのだが世間一般ではそうではないらしい。当然素の私ができるなら深雪ができないわけがない。

 

相手はインフェルノをどうすることもできないようだ。それだったら先に倒せばいいのにと思ったが深雪はそれを許さなかった。

深雪はインフェルノを解除しニブルヘイムを一瞬発動した。それにより深雪は12本全てを一気に消し去った。氷柱は急速冷凍された内部に気泡を持つもともと脆い作りになっており、インフェルノでさらに脆くなっていた氷柱は空気の収束と発散により一瞬で崩れ去った。

 

「淡倒した時の逆の順番でも壊せるのね」

 

深雪が淡倒した魔法はニブルヘイムからのインフェルノのコンボだと聞いている。深雪もちゃんと成長しているじゃないと久しぶりに姉らしいことを思った。




インフェルノ簡単そうに見えるけど大学受験数学でいう短い問題の方が難しいのに似た感じなのかなあ




読みにくかったプロローグの0局を1から書き直しました。


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第27局[姉妹]

27局目にしてようやく登場
バトルボード決勝は分けました


九校戦6日目

 

 

九校戦全体を騒がすニュースが入った。そのニュースとは十四使徒の一人四葉みなもが九校戦会場に入ったというニュースだ。

 

四葉みなも

四葉真夜の娘であり咲の実の妹。戦略級魔法師の一人でありその魔法名は「リザベーション」、リザベーションはどんな魔法かわかっていないことが多く、ある者はプラズマの魔法だとか、ある者は豪炎の魔法、ある者はアビスのように水を使う魔法だとも言われている。知るものしか知らないことだがみなもは重度のシスコンである

 

 

 

「みなも様こちらでございます」

 

みなもとボディガード数人はバトルボード会場のvip室に通されていた。理由は当然咲を観戦するためである。今までの試合はTVで我慢していたのだが昨日の咲の試合を見て会場で見たいと言い出して会場まで来たのであった。付け加えると、みなもは戦略級魔法師として軍の位が高いので、九校戦のように軍の施設ならばvip室に通されるのである。

 

「おねえちゃんはどこかなあ」

 

みなもは咲と違い明るく元気でアウトドアのタイプだ。家の中で引きこもって本を読む咲とは性格が真反対である。

 

「咲様は第2レースご出場されます、ただいま第1レースが終わり点検中であるので、もうすぐかと」

 

そうボディガードが答えるとみなもは残念そうに眉を下げた。今日は咲は試合があるので忙しいだろうから会ってはいけない、という条件の元ここに来ている。近くにいるのに会えないこんな寂しいことはない、みなもはそう思うのだった。

 

 

 

 

 

私は朝、達也にみなもが来たという話を聞かされたが、大して驚くことはなかった。あら、まだ来てなかったのねレベルだ。しかし横の深雪は対抗心を燃やしている。ピラーズで負けたら馬鹿にされるということだからだろう。深雪とみなもは昔からライバルであるのだ。私はみなもと魔法戦をしたことはないが、深雪は何度かしているらしい。勝率は5分5分と聞いている。

 

「加速」

それがみなもの固有能力である、これは自分の意識を加速することにより一定時間魔法力を飛躍的に上昇させるものである。

 

みなもはこの能力から分かる通り、加速魔法が得意であり、一方深雪は減速魔法が得意であるのでこの二人は凹凸なのだ。

 

 

 

私は今バトルボード準決勝第2レースが始まるのを待っている。今回の課題も連続する小さいカーブ。あそこさえクリアできれば決勝で本気を出せる。今日は1周目は試走、上手く行ったらそのまま走ることにしよう

 

 

 

 

 

エリカたちはほのかの試合第1レースに引き続き、第2レースの咲の試合を見るために観客席にいた。もう既に観客席は超満員で立ち見まで出ている始末、さらに関係者席もほとんどが埋まっている。みんな咲を見に来たのだろう。

 

「咲さんすごい人気ですね….」

 

「もうこれアイドルレベルだよ…」

 

美月と幹比古がそれぞれ思ったことを言う、確かにとエリカはそう思った。

 

選手の入場が始まる、普通は拍手で出迎えるのが普通なのだが咲が出てきた瞬間空気が変わった。

 

 

\勝つのは氷帝!/\勝者は四葉!/\勝つのは氷帝!/\勝者は四葉!/

 

3割の観客はわかっていないようだが7割の観客はこれを叫んでいた。

 

「うわ…これって宗教?」

 

「まず氷帝ってなんなんですかね?」

 

エリカと美月の鋭いツッコミが入ったが周りの客は気にしていない。エリカたちは見ていないが咲は完全に昨日の試合で観客の心を掴んでしまっているようだ。咲も少ししまったという顔をしているが笑って答えている。

 

そして咲は止まって右手を上げ指を鳴らすと今まで叫んでいた人達は一切に静かになる、ついでに咲の消音魔法も発動しているようだ。

 

「勝つのはこの私」

 

普段見せないような笑顔でウインクしながら咲はこう言った。普段でも神のような美貌を持っているのに可愛こぶってやるウインクは破壊力抜群であった。咲も意外とノリノリである。

 

もちろん観客にも効果は抜群であり顔を赤くしているもの悲鳴をあげるもの転げまわるものその他もろもろ多数いた。

 

「あれを見る前は少し引いてたけど」

 

「あれを見たら分かる気がするぜ…」

 

男性陣二人の感想はこうであり女性のエリカも美月も確かにあれを見れるなら言っちゃうかもしれないと思うのであった。

 

 

スタート地点に立つ咲は何かどこかを見据えていた。

何かコースのどこか一点を見つめているような感じがする。

 

試合開始を告げるコールがなりランプが点灯すると咲以外の二人は走り出した。咲はスタート地点で止まったままタイマーを見ていた。

 

「なんで咲さんは走らないんだろう」

 

「知らないわよ、咲に聞きなさい!」

 

「けど咲さん笑ってますよ?」

 

咲は笑っていた。その顔はまるで何か思いつめてたことが解決したような笑顔であった。

 

 

 

他の二人がスタートしてから1分後咲はスタートした。

 

「速!なにあのスピード」

 

「しかもずっと加速してますよ」

 

「まずいよ次のカーブきついからオーバースピードだよ」

 

明らかに摩利の事故が起きた時の七高の選手のオーバースピードより速い、普通だったらぶつかるだろう。普通だったら。

咲は目の前のカーブに小さい氷の道を作った。ちょうどバトルボードぐらいの幅で斜めになってる上部には突起が付いている。咲はその上部の突起にバトルボードの淵を引っ掛け浮き上がらないようにしてその道に沿ってカーブを曲がった。

 

「「「はあああああああ!?」」」

 

「何であれ曲がれるんだ…」

 

「氷壊れないのかよ…」

 

咲はその方法で次々と加速したままカーブを抜けていった。しかし鬼門は次であった

 

「次の小さい連続カーブどうやって抜けるんでしょう」

 

そう、咲のあの方法でカーブを曲がるとすると小さいカーブの連続だと体勢が戻しきれずに大回りになってしまい壁にぶつかってしまう。最初のカーブも、曲がった後水平に戻すのに1秒近くかけていた。

 

その質問は咲が目の前で実践してくれた。まず水の制御でなるべく連続カーブを抜けるまで一直線な水の壁を作る、そしてそれを一瞬で凍らせ、咲はそれに続く氷の道を作り、壁を地面の上のように横向きになりながら走った。

 

「「「「はあああああああああああああああああああああ!?」」」」

 

さっきの最初の曲がり方より大きな声が上がった。

 

そのあと前を走る二人を軽く抜いたあと少し減速して普通に走った。普通ではない速さなのだが他の普通の人と走り方と同じく走った。

当然一位、タイムは10分40秒歴代最高タイム、14〜15分かかる競技では圧倒的早さだった。しかも舐めプのスタート直後1分待ちでだ。

 

咲は拍手を送られたので手を振って返しているようであった。表情も笑っていた。

 

「あれどういうことなんだ?」

 

あれとは壁を作って一気に曲がったアレだろう

 

「わかるわけないでしょ!達也くんじゃあるまいし」

 

達也がいないと不便だと感じる4人であった。

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんは壁を作って加重系魔法で重力の方向を下向きから壁の方向に変換したんだ。そうすることにより連続カーブを早く抜けることができる。やっぱりお姉ちゃんはすごい!」

 

みなもはボディガードに説明しているがボディガードは理解していないようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




咲さん可愛い教が広まっている。
ここに荒川病院を立てよう



なんで速度が速すぎると小さい連続カーブがやばいかはスマホを傾けて小さい連続カーブを曲がるイメージで動かすとわかりやすいかも。とりあえず小さい連続カーブは速度が速すぎると危険なので壁を作ることによって早く進めるという風に定義しといて下さい。なんか解説してたら自分まで分からなくなってきた…



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第28局[最速]

やっと達也が咲の試合観れるよ…解説役いなくて困ってたんだよ…


私とほのかはバトルボードで二人とも決勝を決め1.2位を独占するかたちになったが、なんとアイスピラーズブレイクも深雪雫エイミィの三人とも準決勝で勝ち、決勝リーグを独占する結果となった。

 

七草先輩曰く、大会運営の中では決勝戦を省略してみんな1位としようという考えがあったそうだが、上からの圧力で無しになったようだ。たぶん私の出番が少なくなることを嫌ったみなもであろう。

 

達也がいうにはエイミィはあまり調子が良くないそうなので、エイミィの意見も聞き、決勝リーグは棄権となったので、アイスピラーズブレイクの決勝リーグは決勝戦となり14:00から、バトルボード決勝は16:00からとなった。意図してずらされた感がいなめないが、深雪の試合を観れるということでもちろん文句はなかった。

 

 

アイスピラーズブレイク決勝、会場の席は埋まっており立ち見もちらほらいる、関係者席もほとんど埋まっているようだ。やはり九校戦の中でも人気競技なだけある。

 

深雪と雫が登場すると、私の時のように歓声が巻き起こるのではなく、逆に水を打ったよう静まり返り会場全体が試合開始を待ちわびているようだ。

 

深雪は緋色の袴

雫は水色の振袖

 

まるで炎と氷の二つを連想させるようだ。

この静かで対比的な雰囲気はこの決勝戦にふさわしい。

 

 

試合開始のランプが点灯すると先制したのは深雪のインフェルノ。雫はそれを情報強化で守っているようだ。雫も共振破壊で深雪の氷柱に攻撃を仕掛けるがこちらも地中で無効化されている。面白い試合だ。

 

雫はこのままでは不利と考えたのであろう。情報強化では空気の気温は変えられないのでだんだん氷柱が溶けていくからだ。袂から二つ目のCADを取り出すと少し深雪は動揺する。

二つのCADの同時操作は高等技術であるので、私や達也はできるが、サイオンを暴走させ気味の深雪はできない。

その雫のCADから二発フォノンメーザーが発射され深雪の氷柱二本を破壊する。達也が雫に授けた作戦の一つであろう。この九校戦で初めて深雪が氷柱壊された瞬間であった。氷柱が二本破壊されると深雪は防御に回る。

雫はこれは好機とそのまま攻め立てる。共振破壊とフォノンメーザーの二つの魔法で深雪の情報強化を抜いていく。深雪が防御を始めてから10秒、その間に雫は魔法力を攻撃に回しさらに4本破壊していた、残り本数は6vs12だ。その時深雪の新たな魔法が発動した。

 

「え、これは」

 

驚きで独り言を発してしまう。そう、深雪が使ったのは淡の魔法「超新星」。なんで深雪がと思ったが、よくよく考えると淡に4年間も負け続けていたのだ。原理は知っているはずなので対策方法を考えるために練習しててもおかしくない。深雪の魔法は雫の陣地の全ての柱を破壊していた。

 

勝者は深雪

 

深雪の使った魔法は劣化版超新星であった。まず湿度が高くないと使えない。なのでインフェルノで最初に氷を昇華させ大気中の湿度を高めておいた。それに淡と同じ超新星と同じ効果を及ぼすために3倍以上の時間をかけていた。咲に比べ、そんなに早く空気中の分解ができないからだ。

だが威力は変わらない。

初めて超新星を"生"で見る私は、あれは深雪も勝つのに苦労するはずだと感じながらバトルボードの会場に急ぐのであった。

 

 

 

 

 

 

二人の試合が終わり達也は深雪が着替え終わるのを待っていた。雫は俺たちに会うのは複雑な心境だろうし、そっとしといてあげることにした。エリカたちはもう既にバトルボードの会場に向かっている。早く行かないと席が無くなるそうだ。バトルボードはそこまで人気競技なはずではないがと思ったが、咲を見に来るのかもしれない。達也は控え室で見てもよかったが、エリカたちに観客席に来てと言われたので観客席でみることにしたのだ。

深雪の着替えが終わり二人でバトルボード会場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほのか、決勝の前に私から3つお願いがあるんだけど大丈夫かしら?」

 

ほのかは珍しくお願いを言ってくる咲に頷いた。

 

「大丈夫です、その3つとはなんですか?」

 

「1つ目は本当に申し訳ないんだけど私の最初のパフォーマンスに呑まれないように。本当はクラウドボールだけにするはずなんだけど観客が思ったよりもノリノリでやめるにやめれなくなったのよ、本当にこれは申し訳ないわ」

 

頭を下げてお願いする咲にほのかは逆に恐縮してしまった。

 

「2つ目はどんなに差がついても諦めないでほしいってことね、3つ目は私がクラッシュしても動揺せずにそのままレースを続けてほしいことだわ」

 

「それってどういう…」

 

「そのままの意味よ、私はこの競技の未来永劫抜かれない最速のタイムを見せるつもりなのよ、そのためにはだいぶ危険が伴うってだけ」

 

そう言った咲は見たことのない表情をしている。ほのかはそれを見て場違いだが少し人間味を感じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

達也と深雪がバトルボードの会場に着くとレース開始1時間前だというのにほとんど満席であった。

 

「達也君ー!深雪ー!こっちこっち!」

 

エリカたちを探していると前の方から呼ぶ声がした。

 

「席を確保してもらってありがとう」

 

「アタシたちがお願いしたんだしお礼はいいわ、それと深雪優勝おめでとう」

 

「おめでとうございます」

 

席を確保してもらった謝辞と深雪の優勝に対する祝辞とその返答が一通り終わった後達也は気になってることを聞いた

 

「どうしてこんな観客が多いんだ?」

 

明らかに決勝戦にしても人が多い、レース開始まで1時間弱あるのにすでに立ち見もいる。

それを指摘するとエリカたち四人は顔を見合わせ、納得したような顔になった。

 

「達也君と深雪って現地で咲の試合見たことないんだっけ?確かにあれは1回見ないと理由わからないけど。まあ見てればわかるよ」

 

エリカは最後咲がいいそうな言葉で締めた。当然咲が関係するのだろうが言い回しが気になる。

 

 

 

時間が経ち、選手入場となった。咲が入場するといつものコールがかかった

 

\勝つのは氷帝!/\勝者は四葉!/\勝つのは氷帝!/\勝者は四葉!/

 

「なんだこれは…」

 

深雪も絶句しているようだ。完全に新興宗教の有様だ。観客の約8割がこのコールをしている。やっていないのは、たぶん達也達と同じ初めてこの光景を見たのであろう人たちと残り少しの人だけだ。確か氷帝は咲のモノマネのキャラの学校だったはずなので、咲がやり始めたに違いない。その当人を見ると苦笑いをしていた。咲にとってもこんなに広がるのは予想外なのかもしれない。

 

咲は右手を上げ指を鳴らす。そうすると会場中が一斉に静まりかえった。

 

「勝つのはこの私」

 

満面の笑みでウインクする咲を見て会場中が再び盛り上がった。

 

「あんなお姉様見たら、あのコールを言いたくなるのわかりますね…」

 

「ああ、俺でも少しクラっときた」

 

あれを見たらコール言いたくなるのも確かにわかる。深雪も若干最初は引いているようだったがあのウインクを見てから目が咲に釘付けになっている。やはり咲は人を惹きつける何かがあるのだろう。ウインクをし終わった咲は滅多に見せないような集中してる顔に戻り、スタート位置についた。

 

 

「達也君は咲の応援?」

 

先ほど七草先輩から聞かれたような質問だ。

 

「家族を応援しないほど非情だと思っているのか」

 

深雪以外の4人は意外そうだ

 

「達也なら平等に応援するかと思っていたよ」

 

「競技はみんな平等に対応したがな、逆に咲に関しては俺は何もしていない。あいつが全て1人でやったからな」

 

なるほどという感想を他の人は抱いていたが深雪は違うことを思っていた。兄は自分と姉しか大切に思えないことを知っている。あの2人はベタベタしたりすることはないがちゃんと心の中ではちゃんと分かりあっているのだということを。それがわかると深雪は少し嬉しくなって笑ってしまった。

 

 

ランプが点灯しレースがスタートする。

先行したのは咲だ。咲のボードはあり得ない速さで水上を進んでいく

 

「硬化、減速、加速、精霊…あともう二つ加速か、流石に化け物だろ…」

 

「達也君どういうこと?」

 

「今の咲は常時6つ魔法のマルチキャストを使っているんだ。曲がるときはもう2.3つマルチキャストが増えるがな」

 

「「は?」」

 

深雪を含めて全員の感想が訳がわからないであった。優勝候補の摩利ですら3〜4つのマルチキャストであったのだ。達也もドン引きするぐらいの魔法力であったが、一応わかったところまでは解説する。

 

「まず渡辺先輩と同じくボードと自分の位置を硬化する硬化魔法。これはボードの上から落ちないようにだろう。それに加え自分の走る水面上だけを凍らせる減速魔法。これは水の上より氷の上を走った方が摩擦が少ないからだが、咲は摩擦をなくす魔法でその摩擦すらもなくしている」

 

「むちゃくちゃでしょ咲…」

 

もう咲の姿は肉眼では捉えることができず、カメラも追うことができないようだった。

 

「それとボードを加速する加速魔法。それとさっき作った氷を溶かす分子加速魔法。これは本当はやる必要ないと思うがほのかに氷が当たるのを避けるためだろう。最後は精霊魔法。空気抵抗をなくす魔法だ。幹比古知っているか?」

 

「あるけど風系精霊魔法の最終魔法だよ。風の刃を飛ばす鎌鼬のように風の少しを操るんじゃなくて、風全てを制御する。最終魔法だけあって家でもできる人は数人しかいないよ。咲さんに精霊魔法を教えた人はできたはずだけど」

 

なるほど、やはり吉田家で教えてもらった魔法か。さらに達也は説明を続ける

 

「さっきの6つに加え、カーブに差し掛かる前ではあの速さで曲がるために氷の壁を作る魔法、曲がっている最中はその氷の壁が壊れないように硬化する魔法、ボードが浮き上がらないように氷の壁をxy平面と見て氷と自分のボードのz軸を固定する硬化魔法、あとは遠心力を軽減する魔法だろうな。あとジャンプ台飛んだ後には収束放出系魔法で勢い抑えて氷の上に着地しているな。水に着地したらあの勢いだとバランス崩すだろうし氷の上に着地しても跳ねて危ないだろう。だから収束放出系魔法で勢いを抑えて着地するようにしてるんだな。」

 

四人は準決勝で見たわからないものを達也に説明してもらい納得した様子だったが深雪は不安そうであった。

 

「あんなにスピード出して危なくないのでしょうか?」

 

モニターの各選手の速度の部分を見ると咲は時速140kmオーバーで走っていた。この競技の最高速度が早くても時速50〜60kmぐらいであるから異次元のスピードであろう。

 

「危ないさ、たくさんの魔法のうち一つでもミスったら事故が起きるからな。でも咲は魔法でミスすることはない。それは俺たちが一番知っていることだろう」

 

深雪の心配を取り除くために言った言葉だが、あんな速さで魔法を9個もマルチキャストを行なっていたら普通ミスが起こるだろう。いつでも再生の準備ができるようにして達也は身構えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「次のカーブくるでー、この角度の氷の道、次はこの角度、その先はジャンプ台だからこの魔法、咲急いでやー」

 

「ちょーきついよー」

 

今回の使ってる神依は姉帯豊音

能力は六曜といい6つある。まず六曜を咲がこの世界に落とし込むとまず普段できるマルチキャスト3に最高マルチキャスト数が+6される。なのでこの状態だと最高マルチキャスト数が9になる。

それに加え今回使っている六曜の中の能力は先勝、原作での能力は前半のツモが良くなるという能力でありこの世界に置き換えると開始5分まで魔法力が向上、特に魔法発生速度が大きく上昇。5分を過ぎると魔法力が大きく下がるという能力になる。なので5分以内に決めなければならない

 

予選、準決勝にはこれに加え船久保浩子というキャラを使っていた。準決勝でニヤリと笑ったりしたのはこのためだ。このキャラは原作では無能力キャラなのだが研究が得意である。この世界に直すと見たものを分析しデータとして記憶に残す能力になる。私はコースを研究するためにこの2人を神依して予選準決勝を行なっていた。

 

 

 

よって今、予選準決勝で得た記憶内データを枕神怜に送り、枕神怜のナビモードに従って魔法を使用している。

 

ナビモードは本家枕神怜のどの順番で牌をきるかのように、どの魔法を使えばいいか教えてくれるモードである。併用して予知モードも使い未来のコースの波の状況やほのかの位置などを見てもらっている。

 

一つでも何かミスをすると最低でも大怪我、最悪死ぬだろう。けど懇親会で私は挑発された。小さい魔法でも大きい魔法に勝てると。

大きい魔法で小さい魔法に勝つことはもうクラウドボールで見せた。

次は小さい魔法のマルチキャストも使えるということを見せてあげなければならない。

 

ただのんびり走るだけとかカッコ悪すぎでしょ!

 

 

 

「咲ー、もうすぐもう一回ほのか抜かすで、気をつけてな」

 

「ちょーはやいし、ちょーきついけどがんばるよー」

 

もう私は三周目終わりかけでゴールするところであったがほのかは1周目であった。ほのかのラップタイムは悪くない。去年の優勝レベルのラップタイムだ。

 

ゴール前、私はほのかに気をつけながらほのかを抜き去りほのかに二周差つけ、優勝を飾った。

 

タイムは4:22、平均タイム14分〜15分平均時速40km程度の競技で平均時速約130kmで走りきったのだった。

 

 

流石に疲れた。ミスしたら終わり、常時6の魔法をぶっ続けで4分、魔法力もだが神経がすり減った。そして最上位精霊魔法の"風除"はサイオンをあり得ないぐらい持っていく。この空間の風の精霊を全て従わせる必要があるからだ。それにナビモードもデータを送りそれを参照するなどという、初めてのことをやったのでいつもより破格のサイオンを持っていかれた。

 

まあ目標は達成できたしいいやと思いほのかがゴールするのを待ってゴール付近で待っていると急に視界が暗転し私は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




咲さんかわいい病が広がっている模様
荒川病院の建設が求められる


これ咲さんだけやってる競技バトルボードじゃなくてスノーボードやろ…



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第29局[悪待]

レオごめんな……
こんにちは、超ご都合展開


目を覚ますそこは一高の控え室であった。

周りには七草先輩や渡辺先輩、達也と深雪がいた。

 

「お姉様、お加減はいかがですか?」

 

「深雪、少し体が重いけど大丈夫だわ」

 

七草先輩が言うには倒れたのはサイオンを一気に放出したことによる一時的なサイオンの枯渇もあるが熱中症が主な原因らしい。いつもは精霊魔法で日差しの威力を弱める効果を常に発動しているので感じることはないが今回全力を出したことによりその精霊魔法がきれインドアの私に日差しがが襲い掛かって日差しに弱い私は倒れたのであろう。何やってるんだ私は。

 

「申し訳ございません、お手数かけて」

 

「全然問題ないわよ、あんなレースの後だったら倒れちゃうのもわかるわ、それと優勝おめでとう」

 

「優勝おめでとう咲」

 

「ありがとうございます」

 

昨日に引き続き2回目の優勝であるが単純に嬉しい。

 

「おい咲、勝つのは氷帝!勝者は四葉のコールはなんだ」

 

達也の言葉に私の表情は固まった。聞いて欲しくないことを聞くものだ。

 

「あ、あれは本当はクラウドボールの三回戦と準決勝だけだったはずなのに観客がみんなノリノリで、仕方なしにやってるだけよ!本当よ!」

 

「そうですよお兄様、あのお姉様のウインクはなかなか見れるものじゃありません、やってもいいじゃないですか」

 

深雪はどっちの味方なのか。

 

「まあいいか"氷帝の歌姫(ディーバ)"」

 

新しくついたあだ名で達也が呼んでくる、死体蹴りやめてほしい。

 

「もし達也さんが競技に出ることになったら私の力であのコールやるんで覚悟しといて下さい」

 

「あいにく俺は競技者ではなくエンジニアだ。俺が試合に出ることはないだろう」

 

私は明日一日中悪待ちで達也を呪ってやろう。

 

 

 

 

 

 

九校戦7日目

 

新人戦は4日目、今日から本戦で行われていない競技が始まる。今日はミラージとモノリスコードの予選だ。ミラージは本来深雪が参加する競技のはずだが渡辺先輩が怪我をしたことにより本戦に出場することになっている。新人戦は女子が上位独占したことが3回もあって新人戦優勝も視野に入っていた。

今日達也はミラージバットのエンジニアとしてまた働いている。

 

 

今日私は達也に呪いを仕掛けている。

 

竹井久

能力は悪待ち、5面待ち嫌ってドラ地獄単騎したり風神と牌の取り合いをして勝つなどするトリッキーな打ち手だ。この世界に能力を置き換えると、ほとんどありえない確率の低い出来事が現実になる…….こともあるという能力だ。しかもそれがありえなければありえないほど現実になった時事態が好転している。

まあ簡単に言えばありえないことの確率が上がる能力だ。

 

私は達也が選手になるように悪待ちの呪いをかけていた。

 

 

 

ミラージバットは予選と決勝の2試合しかないが1試合が15分×3ととても長い。1試合でもフルマラソンレベルのスタミナがいると言われている。予選は午前中にあり夕方に決勝があるが、インターバルが長いとはいってもきついものはきついであろう。

 

深雪と私が歩いて会場に向かうといろんな目が向けられるが私が目を向けて微笑むと話しかけられることはなかった。しかし会場に入ると大会役員と思われる人に話しかけられた。

 

「四葉咲さんですね?」

「そうですが何か御用でしょうか?」

「九藤閣下がお会いになりたいそうなのですがお時間よろしいでしょうか?」

 

なるほどやっときたか。

 

「大丈夫です、深雪先行っといてちょうだい、後で合流するわ」

「わかりましたお姉様」

 

深雪は少し残念そうだった、久しぶりに私と一緒に居れる日であったのでずっと一緒に居たかったのかもしれない。

 

深雪と別れて特別対談室のような場所に連れていかれた。

 

「閣下お連れしました」

「入れ」

 

そこに居たのは老師1人であった。

 

「お久しぶりです、老師」

「実に10年ぶりか、まあ座れ」

 

私は綺麗にお辞儀した後、老師の対面に座る。

 

「ご用件とはなんでしょうか老師」

「君が私に君を呼ばせたのだろう」

「老師がそうするよう仕向けたのでは」

 

2人の目線の先で火花が散っている。私は当然戦闘態勢だ。枕神怜もこんなクソジジイいてまえーとかいっている、口が悪い。

 

「老師一つお願いがあります」

 

「なんだ、いってみなさい」

 

「今度、再び対戦の機会を設けてもらってはいただけないでしょうか」

 

私は老師だけには勝てないでいる。それは5歳の頃ことだが勝ち逃げされるのは許せない。

 

「機会は設けるものではなく、来るものだ。その時が来るのを待ちなさい」

 

「じゃあその時を今作ります」

 

もう既に久は解除してある。戦いになるならそれに合わせた神依をするためだ。

 

「血気盛んなことだ。だがあいにく機会は今ではない。いつか必ず来るであろうその時を待ちなさい」

 

「わかりました。では失礼します」

 

私は興が冷めたので退出する。相手に戦う意思がないならもう話すことはないという意思表示だ。

 

「咲は相変わらず「感情」に従うのだな」

 

烈は咲がいなくなった部屋でそう感情のない声で呟くのであった。

 

 

 

 

私は会場に戻り深雪たちを見つける。

席を取ってもらったことの礼を言い着席する。

 

「で、老師とどんな話していたんだ?」

 

「まあ、いろいろとね…」

 

私がはぐらかすように言うとレオたちは追求してこなかった。この友人たちのこういうところが美点であろう。

 

なんか競技より私たちの方が注目されている気がする。いつも注目されるが、1人でいる時よりも深雪が横にいることでそれが強化されている気がする。私が出場したクラウドボールの後は、私1人かエリカ達と見ることが多く、深雪と並んで見るのは3日目のバトルボード以来だったのだ。

私も深雪も1人でいても十分注目される。私が1人で見るときはステルスモモ使っているので問題ないが、流石に友人達といるときにつかえない。

私もいろいろやらかしたことにより無駄に注目を集めてしまっているのだろう。しかし私達の四葉という名にビビって話しかけられることはなかった。

 

 

 

ミラージバットはスバルもほのかもなんなく予選を突破した。次はモノリスコードだ。

 

本当は私は一番モノリスコードに出たかった。魔法競技も楽しいのだがやはり魔法を使った戦闘が一番楽しい。相手を力でねじ伏せるのもよし、幻術で惑わせるのもよし、遠距離からチクチクするのもよし、やりたい放題できそうなのに女子なので出れないのが残念であった。

 

 

 

 

私と深雪はモノリスコードの試合を見るために一高テント本部に向かった。

 

私たちが最初に観戦したのは一高vs四高

ステージは市街地

 

四高は試合が始まるとすぐ破城槌を使ってきた。なるほど知覚魔法と併用だと一撃で決まるし賢いと思っていると本部内で悲鳴が上がった。

どうやら破城槌は室内で人がいる場合だと、殺傷ランクがAになるらしい。別にビルの瓦礫ぐらい障壁魔法貼ってその間に2.3秒で周りの瓦礫全て吹っ飛ばす魔法組めば問題ないし、こんな魔法がAなのかと私は思っていたが、選手達はそれができなかったらしい。病院に運ばれ手当を受けている。

 

このまま一高が棄権になった場合新人戦は三高の結果次第となるらしい。だが三高には一条家次期当主の一条将輝とカーディナルコードを発見した吉祥寺真紅郎がいるので負けることはほぼないであろう。

 

新人戦も負けたくない私はどうすることもできないので明日は三高に呪いでもかけるかなどと考えていた。

 

ミラージバットは事故の影響も達也が取り除いてくれたのだろう、ほのかとスバルが優勝した。

 

 

 

その夜、私と達也は一高のミーティングルームに呼び出されていた。

 ミーティングルームで達也を待っていたのは、七草先輩、十文字先輩、渡辺先輩、市原先輩、服部先輩、中条先輩の一高幹部であった。

先輩達は表情が硬かった。よほど言いにくいことなのか。

 

「ご苦労様。今の段階で新人戦の準優勝以上の得点を稼げたのは間違いなく達也君や咲さんのおかげです」

 

「ありがとうございます」

 

私は一礼して返答する。

 

「自分の方は選手が頑張った結果です。自分は何もしてません」

 

 

達也は謙遜しているが私も含め周りはそう思っていないだろう。深雪、雫、ほのかは誰が担当しても結果は変らなかっただろうが、他の選手は達也がエンジニアにつくことで活躍できた部分も大きい。

 

 

 

その後一言二言話を交わすがなかなか本題に進まない。何時まで経っても本題に入ろうとしない上級生に、私は若干の苛立ちを覚えていた。いうなら早くして欲しいなあと思って視線を七草先輩に向けると、彼女は十文字先輩を視線で抑えていているようだ。

 

「先ほど言ったように、今の段階で既に当校の新人戦準優勝以上は確定しています。仮にモノリス・コードを棄権したとしても、新人戦の目標であった準優勝以上は達成できます」

 

この口ぶりだと明らかに達也がモノリスコードの選手として選ばれる展開だ。今日一日中悪待ちで呪い続けた甲斐があった。私は悪い笑みを浮かべているが七草先輩の話は続く。

 

「三高の一条君と吉祥寺君の事は知ってる?」

「はい」

 

逆になんで私が呼ばれたかわからなかった。あの氷帝コールがとうとう怒られる時が来たのか。本当は一高にしようと思ったのだが勝つのは一高は流石にダサかったので却下になったのであった。

 

「そう……一条君は十師族で同じだし、吉祥寺君の事は達也君の方が詳しいわよね。あの二人がモノリス・コードでチームを組んだ、三高がモノリス・コードを取りこぼす事はほぼありえないわ。始まる前は準優勝で十分だって思ってたけど、ここまで来たら優勝を目指したいの」

 

私も優勝を目指したい。なので明日のために呪いの準備をしなければならないので早く部屋に帰りたい。

 

「選手が負傷した場合でも、代替は認められてません。」

 

やはり達也がモノリスコードの選手になる展開だ。私の氷帝コールで達也を困らせてやろう。それでなぜ私が呼ばれたのだろう。

 

「十文字君が交渉してくれたおかげで、選手の代えが認められました。そこで私たち幹部で話し合った結果、達也君と咲さんにお願いするのが一番だと言う事になったの」

 

「「は?」」

 

「も、申し訳ございません、お見苦しい言葉を発してしまって」

 

驚きすぎてこの世界に来て久しぶりに神依無しで汚い言葉を発してしまった。こんなことになるなら未来を見とけばよかったと後悔するが後の祭りだ。

 

「あの、すみません、まだ特例として1000歩譲ってかろうじて俺はわかるんですが、咲は女子、しかも二種目に既に出場してますよ。まずその選出は通らないと思うんですが」

 

達也がまっとうな意見を返す。横目で達也を見ると何言ってんだこいつらのような目を先輩達に向けていた。私もそう思う。流石に他の学校が許さないだろう。

 

「咲の参加がないと逆に代用を認められないらしい。どうやら上から圧力がかかっているようだ。他の学校については既に咲の試合がまた見れるぞと言ったら全学校が了承した」

 

流石に他の学校がちょろすぎる。即落ち2コマレベルではない。

私としては優勝したいのとモノリスコードに出たかったので願っても無い展開であることは事実だ。

 

「それで受けてくれますか?」

 

「はい、全校叩き潰します」

 

達也は頭を抱えたが一高幹部はホッとしたようだ。他校を全部ゴッ倒せば新人戦優勝は私たちである。新人戦二位とかそんなの許せるはずないから。二位抜けとかカッコ悪すぎでしょ。

 

残り1人は吉田君に決まった。理由は私も達也も魔法特性を知っているからだ。

 

 

 

 

 

清澄の悪待ちは本当にすごい、そう思わせる一件であった。

 

 

 

 




原作通りなら本編や他の作品読めばいいしなあと思い、超ご都合展開にしました。
ここまで信者がいたら実際モノリスコードに出ても認められそうな気もする。




京太郎と原作宮永咲を劣等生の世界に入れたラブコメのものとか、この世界の咲やキリトやキンジなどの人間やめ人間である俺TUEEE系主人公を四葉の分家にぶち込んで世界征服するほとんどオリジナル展開の
緋弾の咲 四葉編 episode of side-SAO
みたいなのも構想にあるんだけど書こうか迷い中。どこに需要あるんだこれ…需要あるなら暇だし書こうかな…
-追記-
少なからず需要があると言われたので投稿しました。


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第30局[会議]

短いです


私と吉田君は明日のモノリスコードの準備のために達也の部屋に集まった。

 

モノリスコードは3vs3の団体競技であり、試合によってステージが異なる。敵陣営のモノリスを指定の魔法で割り、隠されたコードを送信するか、相手チームを戦闘不能にしたほうの勝利である。相手選手への魔法攻撃以外の攻撃行為は禁止されている。

 

「吉田君明日一緒に頑張りましょう」

「そうだぞ幹比古、緊張することはないさ、俺も咲も準備は0だ」

「なんで2人とも余裕そうなのさ!準備0だったらCADの調整とか術式の選択とか色々あるじゃないか」

 

吉田君は明日の試合より準備不足に緊張しているらしい。まあ私たちにとっては関係ないことだ。

 

「お前のCADは一時間で調整してやる。あとどんな魔法使いたいか咲に言えばその魔法の術式作ってくれるぞ、無駄な工程が無駄に大量にある非効率極まりないのも多数収録されているがな」

「別にいいじゃない、私にとってはその方がイメージしやすかったんですもの」

 

吉田君はそれでも緊張は解けないようであった。しばらくすると部屋をノックする音が聞こえる。開けて見ると深雪がいた。どうやらモノリスコードの噂を聞いたようだ。

 

「お姉様、モノリスコードに参加されるとは本当でしょうか?」

「ええ、本当よ」

 

なぜか深雪は怒っていた。周りに白い靄がかかって来て夏なのに少し寒い、理由を聞いた方がいいようだ。

 

「どうしたの深雪、なんで怒っているのかしら?」

「怒ってはいません、お姉様はこんな可憐で美しいのに男子扱いされたことがたまらなく悔しいのです」

 

どう見ても怒っている。

 

「私は男子女子関係なくモノリスコードに出られるのが嬉しいんだけど深雪は男女とか気にするタイプかしら?」

 

「いえ、そんなことありません、さしでがましいこと言って申し訳ございませんでした…」

 

深雪は私が男女などそういうので区別されるのが嫌いだと知っている。深雪は私に言ってはいけない事を言ったと思い少し反省しているようだった。私は反省してる深雪の頭を撫でて部屋に戻る。その深雪はそのまま部屋に入った。

 

「達也は僕に言ったよね。僕が魔法を使えないのは僕自身の問題じゃなくて術式に問題があるんだと」

 

「ああ」

 

「それは咲さんの非効率な術式とどう違うんだ?」

 

戻ると吉田君が達也に質問していた。

 

「幹比古お前は少し勘違いをしている。咲の術式は完全に最適化されている魔法だ。ただ無駄な工程が多い。本人は必要と言っているがな。お前の術式の工程は長年研鑽を積まれてるだけあって最適化されているが、術式に無駄が多い。これが咲の魔法とお前の魔法の違いだ」

 

「そういうことか」

 

「だからお前の術式の無駄を省けばもっと楽に魔法を使えるはずだ」

 

吉田君は納得したようであった。その後達也が以前見たことがある雷童子のアレンジをするなどという話をしていた。

 

「ね、達也さん作戦はどうするつもり?私がひたすら相手を全員殲滅するっていう作戦がオススメなんだけど」

 

「お前の敵に作用するほとんどの魔法は殺傷力Aランク相当だから何も使えないぞ。お前は防衛だ」

 

「お姉様は普通の魔法あまり使わないですからね」

 

深雪と達也に少し馬鹿にされているように感じたが深雪に関してはそれはないだろうと思うことで達也の言葉から現実逃避した。

 

「今、私の耳が悪いのかもしれないけど防衛っていったかしら?」

 

「そうだ、お前は防衛、幹比古は遊撃、俺は前衛だ」

 

一番つまらないところに配置されてしまった。防衛は最後の砦なのだがそこまで敵が来るかが疑問であった。ただ待ちぼうけのだけの可能性がある。まあ達也の命令に従おう、チーム戦だしと少ししょんぼりしながら思いながら達也が立てる明日の作戦を聞いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第31局[風神]

予選と決勝トーナメントで分けたら短くなりました。二話連続で短いですけど許してください


九校戦8日目

 

今日は新人戦最終日、本来なら今日はモノリスコードの決勝リーグしか行われないはずだったが、昨日の事故から午前は予選、午後は決勝リーグとなったのであった。

 

 

もう既に私が男子の競技に出ることは観客にも昨日の時点で知れ渡っているらしい。エリカたちに、TVでモノリスコードに出るって言ってたよとか言われた。それに加え、噂によると即興私の応援のためのバスツアーとかも組まれているらしい。なんだそれは。

 

第1試合はvs八高、場所は森林ステージ。

 

吉田君は入場前から緊張している。達也はいつも通りだ。

 

「吉田君そんな緊張しなくても大丈夫よ、絶対勝てるわよ」

 

「僕はそこに緊張してるわけじゃないんです。いや今からあのコールを聞くと思うと」

 

私に対してのあのコールに緊張しているらしい。

 

「吉田君たち先に入場してね、私は少し後に入るから」

 

 

 

 

 

 

 

 

入場時刻になり入場開始になったが兄と吉田君は入場したが姉は姿を見せる様子はなかった。会場は今か今かと咲の入場を待っている

 

「お姉様どうしたのでしょうか」

 

「そうか深雪さん、クラウドボールの咲さんの入場見てないのね、そろそろ来るわよ」

 

ようやく姉が会場入りすると会場はいつものコールで盛り上がった。姉は自分の近くに強風を起こし日傘で器用に飛んで兄たちがいるスタート位置に日傘をパラシュートのようにして降りていく。

降りると同時に右手を上げ指を鳴らした。

会場は水を打ったように一斉に静かになる。

 

「勝つのはこの私」

 

くるりと一回転して日傘を翻しながらウインクした。会場は大盛り上がり、一高本部でも顔を赤くしたり黄色い悲鳴をあげたり多種多様な反応があった。やはり姉は人誑しだ。

 

 

 

 

 

 

 

いつものパフォーマンスの後、試合が開始される。達也と吉田君が敵陣地に向かうように森に向かって走っていくが、咲は歌を歌い始めた。

 

 

 

雀明華

臨海高校2年、「風神」と言われた世界ランカーであり雀力は天照大神に匹敵するかそれ以上。ヨーロッパ選手権では歌を歌うことにより大活躍であった。能力は歌を歌うとツモや配牌が強化、常に自風牌が集まってくるという便利な能力である。

この世界に置き直すと歌を歌うことで魔法力強化、それと収束発散系魔法と風系精霊魔法の強化である。

 

 

 

咲はクラウドボールと同じく歌で観客を魅了していた。しかしそのミュージカルを邪魔しようとするものがいた。一高モノリスの近くに来た八高の選手である。しかし、入ろうにも100m以内に近づくことができなかった。咲の使った魔法は"風舞台"この魔法はこのエリアに入ろうとする物質全てを風の力ではじきかえす魔法だ。

 

それならばと幻衝を放つ。幻衝はサイオンの衝撃波を相手に放つ魔法である。しかしサイオンの衝撃波は、風舞台内で巻き起こるサイオンの風によって吹き飛ばされた。やはり一高のモノリスの周りは咲以外の存在を許さない独り舞台なのであった。

 

そんな咲の活躍もあり1戦目は快勝。

 

 

 

次の岩場ステージの対戦では開始直後咲が放った小石の遠距離狙撃魔法"SS(シャープシュート)"により3ショット3キルが決まり開始1分にして勝利。

 

防衛役なはずなのに相変わらず咲が一番目立っていた。




雀明華はアニメでほとんど出て来てないから知らない人多いかも。雀明華と部長の試合は咲の原作の中で一番面白い試合だから早くアニメ化してほしい。自分のイメージとしては雀明華が一番この世界の咲に似ています



書き終わり次第、番外編投稿。なるべく今日中に投稿できるよう頑張ります。


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番外編第2局[麻雀]

いつもの9人で麻雀をやったらどうなるのかっていう番外編のifです。
読まなくても特に問題ないです。
麻雀模写は初めてであまり上手く書けなかったので、頭空っぽにしてなんかやってるなあみたいに読んでもらえれば幸いです。



雫の家にいつものメンバーで集まっている時、雫がある提案をした。

 

「麻雀しない?」

「麻雀か、俺たちは三麻ばっかりだったから、4人でもうってみたいな」

「そうですね、お姉様はどうですか?」

「そうね、やろうかしら」

 

他のメンバーもやる気なようで、全自動卓がある部屋に向かう。まず最初は私、深雪、達也、エリカでうつことになった。他の人は最初は観戦らしい。

麻雀のルールは咲原作と同じであり、半荘一回終わると一位以外は交代というルールになった。

 

 

席決めをして試合が開始される。

 

 

 

東1局 親:エリカ

 

 

 

「エリカ、家で麻雀やってたのかしら」

「兄貴と親父に付き合わされてね、あ、深雪それポン」

 

エリカの手つきはかなり打ち慣れてるという感じであった。男が多い家系だったらうつことは多いだろう。

深雪から鳴いた後、達也からも一度鳴き8巡目

 

「ツモ、タンヤオドラ2。2000オール」

 

エリカはどうやら速攻型のようだ。自己加速魔法を得意とするエリカらしい戦法である。

 

「エリカ早いな」

「兄貴達も鳴きまくりだったからね。アタシも鳴かないと早さで太刀打ちできないのよ」

 

東1局1本場もエリカが1100オールを和了り、一歩エリカが抜け出す。

 

エ:34300 深:21900 達:21900 咲:21900

 

 

 

 

東1局2本場 親:エリカ

 

6巡目、達也がリーチをかける。エリカは鳴いて一発を消すが…

 

「ツモ、リーチ七対子。裏は…乗らなかったから1800.3400だな」

「相変わらず七対子ばっかりね」

「これが得意だからな」

 

達也の魔法、分解。

これが麻雀に置き換わると、偶数の数牌をきると次と次の次のツモがその切った牌の÷2の数の牌が来るという能力だ。例を出すと、4萬をきると次とその次のツモは2萬となる。

この能力は便利であり、対子がすぐできるので偶数ばっかりの手配であれば14巡目までに確実に和了できる。

それに達也は精霊の目があるので振り込むことはない。

咲の世界に来ても、全国大会で普通に活躍できそうな能力である。ちなみにこの能力は照魔鏡で見たものなので深雪は知らない。

 

 

東2局 親:深雪

 

深雪は安パイがなかったのだろう、リーチをかけた達也に一発で振り込んでしまう。七対子は待ちが読みにくいし少しかわいそうだ。そして深雪にとっては不運が続き、達也の和了に裏が乗り、跳ね満まで点数が伸びてしまった。

 

エ:30900 深:8100 達:40900 咲:20100

 

 

東3局 親:達也

 

深雪の手から感じる強大な気配。衣風に言えば、気息奄奄としていた対面から感じる…

澎湃たる気運!深雪の後ろにいるほのかなど顔をあわあわさせている。

 

9巡目それが明らかになった。

 

「ツモ、四暗刻・緑一色。ダブル役満なしなら8000.16000お願いします」

「深雪…それズルくない?」

 

エリカが文句を漏らすが深雪のこの和了はイカサマではない。

深雪は松実宥と逆で冷たい牌が来やすい。なので深雪は字一色や緑一色や四喜和などの役満を狙いやすいのだ。そして赤い牌の萬子は来にくいので絶一門のように打ちやすく混一色なども狙えることから高火力麻雀を得意としている。

だが先ほど達也に振り込んだように、振り込むことも多いので、振り込まない私と達也と打つとだいたいラスになる。

 

エ:22900 深:40100 達:24900 咲:12100

 

 

東4局 親:咲

 

ラスなので神依を使ってもいいのだが、さすがにずるい気がするので枕神怜で我慢する。まあこれもずるいのだが。

 

「怜!」

 

せっかく枕神怜を呼んだのだが、首を振って立ち去った。ということは誰かが和了るか流局である。

 

「リーチ」

 

エリカがダブリーをかけた。待ちは西単騎である。深雪が振り込むだろうなあと思っていると案の定深雪が一発で振り込んだ。流石にこれは枕神怜の力を使っても和了れない。私はツモで削られ続けるだけで、東場を終えた。

 

エ:28100 深:34900 達:24900 咲:12100

 

 

 

 

南1局は達也のリーチ一発ツモ七対子の2000.4000

 

南2局は私のエリカへの2000点の直撃。

 

南3局は深雪の役牌のみの300.500で流れていく。

 

 

エ:21800 深:34000 達:32400 咲:11800

 

 

 

 

南4局オーラス 親:咲

 

案外差があるように見えるが、ラス親なのでトップと22000点差などどってことない。

負けるのは嫌なので私は神依を使う。

 

4巡目

 

「リーチ」

 

私はリー棒を立ててリーチ宣言する。達也と深雪は悔しそうにし、鳴こうとしているが無駄である。その未来も見えている。

 

「リーチ一発ツモタンヤオ三色ドラ7。16000オール」

 

裏ドラめくりながら宣言し、事実6萬に裏ドラがのり、ラス親で私は捲った。

今回使ったのは怜と松実玄。松実玄はドラをきれないので本来リーチをかけれないのだが、怜の力で一発ツモを予見した場合はリーチをかけれるのだ。あとこの局で決めるつもりだったのでドラきっても別に良かったのだが。

 

エ:5800 深:18000 達:16400 咲:59800

 

 

 

 

「相変わらずお姉様はお強いですね」

「毎回最初観察して後半でめくるのも見飽きたぞ」

「だって前半から本気出したら飛んじゃうでしょ?」

 

ちなみに私は家族麻雀では無敗である。それもそのはず、2人の咲のキャラクターの能力使えたらまず一般人には負けないだろう。というか咲の原作の中でも負けることはほとんどないかもしれない。

 

 

 

次のメンツはほのか、雫、美月、私となった。レオと吉田君はレディファーストということで女子に譲ったのである。

雫とほのかは自信満々であるが、美月は少し自信がないようである。美月を守りながら打ってあげよう。

 

 

ここに女たちだけの戦い、第2試合の火蓋がきって落とされた。

 

 

 

……to be continued(?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




麻雀模写難しすぎる…上手い人すごいなあ。





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第32局[決着]

モノリスコード決勝トーナメントです

投稿前に一度チェックしてるのに誤字が多すぎる


九校戦8日目午後

 

 

モノリスコードの予選結果は1位三高 2位一高 3位八高 4位九高となった。決勝トーナメントでは普通三高vs九高、一高vs八高となるのだが、予選で先ほど八高と戦ったことを踏まえ三高vs八高、一高vs九高となった。

 

 

昼食時、私は本部で本を読んでいたので、達也と深雪と別行動であった。

 

「ほんと咲は本が好きだな」

 

「ええ、本を読むことが人生で一番好きかもしれません」

 

本部に入って来た渡辺先輩に話しかけられた。決勝トーナメントへの激励をしに来たというところであろう。

 

「まあお前と達也君が組んだら大抵の学校には負けないと思うが…三高には勝てそうか?」

 

「負ける気は無いです。しかし私はモノリスの防衛なので達也さんと吉田君が倒されたりして向こう三人残った状態だと厳しいかもしれないです。まあ見通しがいいステージだったら狙撃を試みますが」

 

殺し合いであれば三人がかりでかかってきても勝てるだろう。けどこれは魔法競技だ。私の技は殺傷ランクが高いものが多く一条に通りそうな技がない。逆に言えば向こうからも私に対して通る魔法がたぶんない。よってお互い千日手状態になる可能性が高い。なので一条は達也に倒してもらうしかない。

カーディナルジョージの不可視の弾丸も相当厄介だが、あれは視認しなくてはいけないという欠陥があるので幻術などを使えば攻略できる。

 

問題は一条をどうやって殺傷ランク低い魔法で倒すか、この一点だけであった。

 

 

 

三高vs八高が始まるので試合会場で達也達と合流すると、なぜか達也と美月の顔色が悪かった。達也の顔色が悪いのは珍しい。

 

「どうかしました?」

「いや、精神的に疲れただけだ。問題ない」

「達也ばかり矢面に立たせて悪いね…」

 

吉田君がすまなそうに謝る。達也が前衛をやったぐらいで疲れないだろうに、と思い深雪を見ると、傍目からわからないぐらいであったが少し機嫌が悪かった。達也と喧嘩でもしたのだろうか。

 

「達也、一条ってやつはどれぐらいすげえんだ?」

 

レオが達也に尋ねる。他の人も気になっているようだ。

 

「まあ見ればわかると思うが、たぶん男版の咲…ほどではないな、深雪ぐらいだろう」

 

「それでも十分すごいと思うけど」

 

一条は敵陣に向かって隠れることなく堂々と歩いていた。八高の選手はそれに魔法を放つが無効化されてしまう

 

「"干渉装甲"か。移動型領域干渉は十文字家のお家芸のはずなんだがな」

 

吉田君達は一条の魔法に目を奪われているようだった。

 

「今度は偏移解放か、これは咲を意識してかもな」

 

「お姉様をですか?」

 

「咲はクラウドボールで偏移解放の術式を使っていた。もしかしたらそれを意識してのことかもしれない。それか殺傷ランクを下げる為にあえて使ってるのか、力がありすぎるのも考え物だな」

 

私を意識して使っていることはないだろう。それならもっと挑発してもいいはずだ。これは明らかに達也を挑発している。

 

「あれだけ継続的に魔法を使いながら少しも息切れしないのは、単に演算領域の要領が大きいだけではなく、息継ぎも上手いのだろう、しかしこちらは息継ぎとか関係なしに息切れしない咲がいるのだが….」

 

達也は解説している内に私と比べてしまい一条のすごさが自分の中で失われていくようだった。

 

「なかなかやるわね」

 

「ああ、まあ咲に婚約を申し込むならこれぐらいできないとお話にならないが」

 

「「え?」」

 

一条の試合を見て呆然としていたエリカ、レオ、美月が反応する。

 

「お前ら知らないのか。咲はほとんどの師族二十八家から婚約申し込まれているんだ。逆に申し込んでいないのは十文字先輩と他数家ぐらいだ。それに加えて有力百家と名門の家にも申し込まれている。幹比古の兄だって確か申し込んでいるはずだ」

 

「本当だよ、まあ咲さんに魔法戦勝たなくてはいけないんだけど」

 

咲の美貌を見れば納得という顔を三人はしていた

 

 

 

 

一高vs九高は、開幕またしても私のシャープシュートによってワンターン3キルを達成し決勝に駒を進めた。

 

決勝の作戦はもう達也と吉田君とは決定済みだ。私が考えた作戦だが達也に珍しく咲にしてはスマートだと言われた。吉田君にはそんなことができるのかと言われたが、目の前で証明することによって信用を取り付けたのであった。

 

私たち三人は決勝まで各々に過ごしている。当然昼同様、私は本部で本を読んでいた。

そこに七草先輩が駆けつけてくれた。

 

「咲さん頑張ってね、もう新人戦優勝は決まっているけど負ける気は無いって摩利から聞いているわ」

 

「ええ、負ける気はありませんし一条選手相手でも負けたくありません。」

 

「ねえねえ、咲さん、今回の作戦お姉さんに教えてくれないかな、達也君は教えてくれなかったの」

 

七草先輩は手を合わせて懇願する。どうやらそれを聞く理由も含めここにきたようだ。

 

「一言で表すと奇襲ですね、七草先輩相手だったら通用しないと思いますが。もし驚くことがあっても静かにしといてもらえるとありがたいです」

 

「わかったわ、約束します」

 

宣誓のポーズを取るように七草先輩は答える。やはり七草先輩は愉快な人のようだ。

 

 

 

決勝の舞台は草原ステージとなった。

これは一高にとって有利に見えるが実は不利だ。射線が通るので咲のシャープシュートの鴨のように思えるが、見えていれば障壁魔法で対処できる。見えているスナイパーは弱いのだ。現に原作の菫のシャープシュートは狙いが読まれている松実宥にことごとく躱されていた。

一番強いのは岩場ステージ、射線が通りやすく隠れる場所が多い。

 

 

 

 

 

 

「やったね将輝、これで咲さんの遠距離狙撃の脅威が減るよ」

 

「ああ。森林ステージの方がいいが、渓谷ステージや岩場ステージよりましだ」

 

三高の作戦はこうだ。

まず咲がこれまでのように防衛に回った場合は達也には将輝、幹比古には吉祥寺ともう1人を回し、幹比古を速攻で撃破。それから将輝を援護し達也を攻略、最後は残っている人で咲を攻略。

咲が攻撃に回ってどちらかが防衛に回った場合は咲に将輝、もう片方に2人を当てる。2人でもう片方を攻略し3vs1で咲を攻略する、残りの人間で防衛を攻略する。

全員が攻撃に回ってきた場合は咲に将輝、達也に吉祥寺と残り1人をあて、速攻で撃破、倒したら次は幹比古を撃破。その間将輝は時間稼ぎをし3vs1で咲を攻略する。というものであった。

 

達也と幹比古はそんな強い魔法は使えないように見えたので圧倒的に強い咲を三人で攻略するためにこの作戦を考えた。

 

 

 

 

 

一高選手が入場してるといつものコールがかかるが観客は少し困惑しているようだ。なぜかというと達也以外の私たち2人はローブを纏っていたからだ。とりあえず観客の声援に応えるためにローブを脱いで上に投げ片手でキャッチし肩にかける。

 

「勝つのはこの私」

 

少しキザ風にいうといつもより黄色い声援が大きかった。達也は、またか、何やってんだお前風な目で私を見てきたが仕方がない。

 

 

 

このローブは精霊魔法の力を高めるローブだ。私も吉田君も精霊魔法が得意であるので明らかにドーピングのようなものなのだが、精霊魔法についてのルールが甘いのかこのローブは検査を通ることとなった。

 

 

試合を開始される合図が鳴り響き試合が開始される。試合が開始された瞬間咲以外の五人は相手モノリスコードの方に向けて走り出した。将輝たちは咲だけ防衛のこれまで通りの布陣を見て作戦通りに動いた。

 

 

将輝は狙撃を警戒しながら達也に"空気弾"を放っていた。それを達也は術式解体で無効化する。お互い魔法を使い牽制しあってる時、咲のいる方角からたくさんの光の矢が飛んでくる。精霊魔法「精霊の矢(エレメント・アロー)」である。精霊の種類を大きく分けると4つ、火水風土。その種類ごとに応じた魔法を相手に飛ばす魔法だがもともと威力は少なく、ローブのドーピング効果もあるのだが、咲が使っても将輝にとっては目くらまし程度にしかならない。おそらくこの魔法は手数の少ない達也の援護のためであろう。将輝はジョージが来るまで達也を仕留めるのは待つかと考え、防御気味の考えに変えた。

 

吉祥寺ともう1人は幹比古のところに走っていった。数的有利であり多少なりにも吉祥寺は腕が立つ。一瞬でかたをつけられると思って幹比古の方に向かうと咲が将輝に攻撃を始めた。目くらまし程度の威力しかないが達也は撃破するのはその魔法に対処することで難しくなる。僕たちが来るまで将輝は防御思考になったようだ。

そう考えてる時、目的の幹比古と接敵する。"不可視の弾丸"を放とうとするが幹比古の姿が分身し定義ができない。使っているのは幻術魔法のようだが強度が高い。もしかしたらローブが関係しているかもしれない。

それならばと2人で分身を魔法で破壊しにかかる。

 

 

 

 

 

8割分身を破壊したところでありえない音、モノリスが開く音が聞こえた。それは三高のモノリスであった。

 

「いつから私が防衛だと錯覚していたのかしら?」

 

三高のモノリスの側に咲が居た。咲は三高のモノリスを開きキーボードで既にコードを打ち込み始めている。あり得ない、さっきまでそこに咲は自軍のモノリス近くにいたはずである。移動していたら例え高速で動いていようと姿が見えるし、まず魔法の発動兆候で気づくはずである。瞬間移動でもしたというのか。

 

「君はこのまま戦っておいてくれ、僕はモノリスのコード打ち込みを止めに行く」

 

「わ、わかった」

 

吉祥寺は混乱する頭で咲のコード入力を止めに行くのであった。

 

 

 

 

 

咲が使った神依はよく咲が使うステルスモモの応用であった。最初に咲は防衛でモノリスの近くにいるという意識を前の試合により植え付ける。次に、ローブを被り派手めの魔法をモノリス近くから放つことによりそこにいるのだという意識を確信に変える。そして、そのまま精霊をそこに固定させ固定砲台のように魔法を放つ、まるでそこにずっといるように。その間にステルスモモを使用し全力ダッシュ、三高のモノリスに向かう。そして三高のモノリスを開いてステルスモモを解除、これが瞬間移動の真実であった。

 

ステルスモモと視線誘導、意識誘導を含む、この作戦を考えたのはもちろん咲自身ではない。咲の神依の能力であった。

 

末原恭子

原作では姫松の参謀、戦犯やカタカタなどがよく話題になっているが咲対策や怜の未来視対策、姉帯の経験から初見の爽の能力への対抗とかなりの強者ぶりを見せている。実は末原さん強い。

この能力をこの世界に落とし込むと、最も有効な魔法の使い方、神依、作戦を考えてくれる。それに加え超早上がりの置き換えで魔法の威力を犠牲に魔法速度を上げることもできる。

 

この能力を使い、咲は咲に似合わないスマートな作戦を考えたのであった。一条を倒すのが大変ならば倒さなくてもいいのだと。

 

 

 

 

咲は吉祥寺が追って来ていることを確認すると精霊魔法で霧を作り不可視の弾丸を封じた。そのままモノリスから離脱する。この霧は私の目と同調しているので離脱しながらでもコードを打ち込むことができる。私は逃げながらコードを打ち込み、私たちは霧の中静かにモノリスコードの優勝を飾った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




誰も倒されない優しい世界



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第33局[激怒]

九校戦9日目

 

新人戦は優勝で幕を閉じたが、お祝いの席はまだ本戦が残っているため持ち越しになった。

 

今日の種目は本戦ミラージの予選決勝。一高からは小早川先輩と渡辺先輩の代わりの深雪が出場する。

 

私は今日誰とも競技を見る約束をしていないので1人で見ようと思い会場に向かう。

余談だが私はモニター越しに見るより直に会場で見たいタイプであるので、観客席で見ることが多い。モニター越しにイメージするより、直に見た方がいろいろイメージしやすいからだ。

 

「咲さん、今日はお一人でしょうか?」

 

ステルスモモ状態であるのに話しかけられる。話しかけて来た相手は九鬼先輩であった。

 

「ええ、今日は私以外は競技とエンジニアでいませんし、友人と何も約束していないので今日は1人で観戦しようと思っていました」

 

「では私と一緒に観戦していただけないでしょうか?」

 

九鬼先輩がお願いしてくる。

 

「ええ、こちらこそお願いします」

 

1人でいるのもいいが、本の話をできる人がいる方がさらにいいので懇願を了承した。

 

 

私はステルスモモを解除し、九鬼先輩は認識阻害魔法を発動した。九鬼先輩は知覚魔法を得意としているが、認識阻害や幻術などの魔法も得意としている。2人を隠す場合、私のステルスモモより使い勝手が良いのだ。

私たちが観客席に着くと本の話となった。私と九鬼先輩は読む本の種類が微妙に違う。なので会うといつもこうやって面白かった本の情報を交換をしているのだ。

 

 

 

 

試合開始1分前、私が最近読んで一番面白かった本を紹介しているとき枕神怜が発動した

 

「五分後未来変えれるで〜」

 

私は九鬼先輩に少し謝り、怜の神依をし未来視を行う。その未来視で見えたのは、第1試合の小早川先輩の発動しようとした魔法が発動せず落下していき、医務室に運ばれる未来であった。

 

このもうCADなどに私がとやかくいうことができないタイミングで発動したと考えると、摩利先輩と同じ条件、つまり精霊魔法が関わっていると考えられる。精霊魔法の種類がわかればいいのだがここからだとよくわからない。

 

ならばと、私は私自身が編み出した最高高等精霊魔法を発動する。

 

「絶対服従」

 

その呼び名の通りエリア一帯の精霊などを強制服従させ相手のSB魔法の発動を一定時間無効化する。もし相手の術式者の精霊魔法の適正が私より高かったならばこの魔法は無効化されるが私は神の憑代、精霊魔法の適正は世界でもトップクラスだ。そうそう負けることはない。

 

この魔法を発動することによって未来で見た小早川先輩の事故はないことになった。やはり問題は精霊魔法だったようだ。

 

小早川先輩の事故は起きることはなかったが、前半飛ばしすぎたのが原因により後半失速してしまい、惜しくも予選敗退となってしまった。よって今日一高の優勝が決まるかは深雪に託されたのである。

 

 

「やはり咲さんの魔法すごいですね」

 

「ありがとうございます」

 

隣の九鬼先輩は私がどんな魔法を使ったかわからないが、何か高等魔法を使ったということを感じ取ったようだ。

 

 

 

二試合目の深雪と三日月先輩の試合までの間2人で再び本の話をしていると、ある噂で観客席がざわついている。その噂の内容とは「四葉の残り一人が大会本部で暴れている」とのことだ。残り一人というのは達也であろう。達也は何やってんだと精霊魔法で一高本部を探ると深雪が泣いていた。

 

これと達也の暴走、先ほどの試合の事故を考えると深雪に何か仕掛けられそうになって達也が防いだに違いない。深雪が泣かされたことにより私の怒りバロメーターが一気に上がった。怒りで髪が大星のダブリー時のようになり、オーラで九鬼先輩にかけてもらっている認識阻害魔法を吹っ飛ばす。周りの観客の魔法能力を持たないものは突然私が現れたことに驚き、魔法能力を持つものは私のオーラに怯え震えることになった。

 

私は普段、そうそう怒らないのだが、深雪とみなもが何か襲われた時だけは怒りを解放してしまうのであった。

 

「咲さん?」

 

少し怯えたような声で言う九鬼先輩に我を取り戻す。

 

「申し訳ございません、お見苦しいところをお見せしました」

 

認識阻害をせっかくかけてもらったのに私が吹っ飛ばしたせいで明らかに会場の目がこちらに向いている。次の試合は深雪であるから試合中は深雪の方に目が向くだろうがそれまではこちらに目が向けられることになるだろう。申し訳ない気持ちでいっぱいであった。

 

 

 

 

 

それでも深雪の試合が始まると観客は深雪の試合に釘付けとなった。1ピリオド目は三日月先輩がリード、2ピリオド目は深雪が巻き返し少し深雪がリードしている。深雪と競る三日月先輩のミラージの技術はやはり1級品だ。

3ピリオド目に深雪が持ってきたCADは前の2つのピリオド違うものであった。やはり深雪も私と同じで負けず嫌いだ。まあ何度負けても神依に挑んでくる時点で負けず嫌いということはわかっていたのだが。

 

 

3ピリオドの開始の合図と共に、各選手が跳躍をはじめ、光球を目掛けて移動する。深雪と三日月先輩がせるが、三日月先輩が競り勝ち光球を叩きポイントをものにしそのまま地面に降りていく。しかし深雪は空中に留まりそのまま次の光球目掛けて移動し始める。

三個、四個と連続で光球をゲットした姿を見て、漸く観客はその事実を受け入れ声を出す。

 

「あれは飛行術式!?」

 

「先月トーラス・シルバーが発表したばかりだぞ!?」

 

観客は驚いているが驚くことはないとわたしは思っていた。なぜなら発表されていないものならまだしも、発表されているものを使うことは普通であり、どう考えてもミラージバットは飛行術式を使ってくださいといってるようなルールであったからだ。

 

深雪は驚きの声を上げている観客になど興味を示さず更にポイントを重ねていく。十メートルの高度を移動しなければならない三日月先輩を含む他選手と、水平に移動するだけでいい深雪とでは勝負にはならなかった。

 

「咲さんの妹さんはすごいですね、飛行術式とは驚きました」

 

「ええ、自慢の妹です」

 

 

 

 

試合が終わり深雪が私に会いたいとのことなので私は九鬼先輩と別れ、自分の部屋に戻った。

部屋に戻ると深雪がベッドに座っていた。

 

「お姉様」

「深雪、飛行魔法よかったたわよ」

「ありがとうございます、あの、2つお願いがあるのですが…」

「何かしら?」

 

深雪のお願いは2つとも簡単なことであったのでどちらも承諾し、そのうちの1つ深雪の寝るまで手を握るを行うと安心したのか、深雪はすぐ眠りについた。

 

深雪が眠りにつくと私は達也の部屋に向かった。深雪を泣かせた相手を全部ゴッ倒すためだ。

 

「達也さん深雪を泣かせた相手はどこかしら」

「咲が知る必要はない」

 

達也は教えてくれなさそうだ。私もその組織殲滅したいのにと思いムッとしてしまった

 

「深雪が泣かされて怒ったのは貴方だけではないのだけど」

 

「俺は咲と深雪を泣かせたあいつらを許さない、だから咲は今回手を出さなくていい」

 

ようやく私は達也が怒っていることに気づいた。どうやら私は落ち着いているように自分では思っていたが少し頭に血が上っていたらしい。

達也がこんなに怒るのを見るのは3年ぶりだ。この状態の達也に何を言っても無駄であろう。私は仕方なく引き下がるのであった。

 

 

 

 

 

 




まるで九鬼先輩が婚約者のようだ。



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第34局[天使]

ミラージバット決勝


九校戦9日目午後

 

 

観客席は既に一杯であったのと深雪のそばにいてあげようということから私は珍しく本部にいた。

 

「深雪、体調はどうだ?」

「はい、気力体力も充実していますし、最初から全力でいきたいのですが」

「全力というとあっちか?」

「そうです」

「そうか、一応きついなら切り替えろよ」

 

達也と深雪の会話の意味がわかったのは私だけで、先輩達は再び疑問符を浮かべていた。

 

「咲さん、全力ってどういうことかしら?」

「予選と同じ飛行魔法ですよ、まあ普通の飛行魔法ではないですが」

 

咲特有の見ればわかりますよ発言に控え室の期待は高まった。

 

「そういえば咲、お前と二高の生徒会長が午前中仲良く一緒に観戦してたという噂は本当か?」

 

深雪を送り出した後、渡辺先輩がこの発言をするまでは。控え室にいる人たちは試合への期待より、まず私がなんと発言するのかに期待を変更した。

 

「事実ですよ、何か問題でも?」

 

事実でありやましいこともないので素直に答える。

 

「いや、九校女子人気一位の男子の二高生徒会長と男女人気一位の女子の咲が付き合っていたらと思うとな」

「彼は婚約者候補の1人ですよ、趣味が合うので他の婚約者候補よりは仲良くさせて貰っていますが」

 

いつ私は男女人気一位になったのであろう。達也も我関せずという顔してないで助けてほしい。

 

「二高の生徒会長も大変ね、そんな噂たったら絶対男子から襲撃されるわよ」

「まあ自業自得じゃないですかね、それぐらい咲と一緒に2人で観戦することは価値があると思います」

 

味方か敵かよくわからない発言を達也がする。やっと深雪の試合が始まりそうになったので私は逃げることができた。今度からは怒りで認識阻害をふっ飛ばさないと心に誓った。

 

 

 

ミラージバット決勝が始まると達也の予想通り一高以外深雪が予選で使った飛行術式を使った。深雪はというと

 

「なんなのあれ!?」

 

「背についてる羽みたいなのはなんなんだ…」

 

「応用飛行術式ですね、咲と深雪のためにアレンジしました」

 

先ほど私にお願いしたのもう片方はこれであった。深雪が使っているのは達也が汎用化飛行魔法を作る過程で、和の術式を翻訳し少し効率化したものであった。達也曰く、羽を出す工程がものすごくサイオンを必要としているらしく、汎用化する上で省いたのそうだが、省いたら省いたで飛行術式の空を飛ぶスピードや旋回性などの飛行能力が格段に落ちたらしい。なのでサイオン量を持つ人、例えば深雪のような人は羽を出した方が性能を高めれるのだ。

深雪は私の神依と同じ力を使うことに少し引け目があり私に許可をもとめたのであった

 

「妖精っていうよりまるで天使じゃねえか…」

 

観客や一高の人間には、使い慣れない飛行術式を使っている他校の生徒を寄せ付けず、さらに高性能な飛行術式を使いこなし得点を重ねていく深雪はまるで天使のように見えるが、他校の選手から見たら悪魔であろう。

空は既に天使とそれに従う妖精という光景となっている。

サイオン切れで退場や休んでいる他の選手を尻目に深雪は一人得点を重ね優勝を飾った。

 

 

 

深雪の優勝で総合優勝が決まった第一高校だったが、モノリスコードが残っているとのことで祝勝会は先延ばしになった。しかし半数のメンバーが手持ち無沙汰なのも事実。七草先輩はプレ祝勝会的な意味合いのお茶会を開催した。エリカや吉田君、レオや美月までいるのは七草先輩の意図があるのだろう。

しかし達也の姿はなかった。

 

「あれっ、お兄さんはもう寝ちゃったの?」

「ええ、さすがに疲れたと申してまして」

「そうだろうね、昨日まで八面六臂の活躍だったんだし」

 

千代田先輩と五十里先輩が腕を組んでというより千代田先輩に引っ張られてやってきた。見るに明日の調整してたところを無理やり引っ張ってこられたのであろう。

深雪達が話してるのを見て、私はそっと魔法を使った。

 

 

 

 

 

 

 

 

達也は小野先生から情報を貰った後、何か見えないものに話しかけられた。目を使って見ると霊子が不自然に固まっている。精霊のような何かであろう。

 

「あんたが達也さんやな」

「誰だ」

「うちは咲の精霊やで、枕神怜ちゃんとでも呼んでもらおうか」

 

なるほど、やはり咲の精霊魔法か。枕神怜という魔法は咲から聞いたことがなかったし、精霊と会話するのも初めてであったが、バスの時の事故を止めたのはこの魔法だと直感的に感じた。

 

「それで咲が何の用だ」

「咲の伝言を伝えにきたんや、伝言は"うちも行きたかったけど今回はゆずったる、これは1つ貸しやで"だそうや」

 

枕神怜が咲の伝言を関西弁に直し伝えてくれる。

 

「わかった」

「うちは疲れたし帰るわ、お仕事頑張ってや」

 

そう言い残し枕神怜は消えた。深雪には嘘が通用したが、咲には通用しなかったようだ。それでも達也の気持ちを汲み取り、追ってこなかった咲に心の中で感謝するのであった。




枕神怜すごく便利


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第35局[閉幕]

九校戦オーラス、ダンスパーティーイメージできなくて苦労しました


九校戦10日目最終日

 

 

一高のモノリスコードのメンバーは破竹の勢いでモノリスコードを勝ち上がっていた。

状況に合わせた魔法を上手く使いこなす服部先輩、攻撃の単一工程魔法が得意な辰巳先輩、防御役として最適な障壁魔法を使いこなす十文字先輩、決勝の三高戦も危なげなく勝利しモノリスコードの一高優勝で今年度の九校戦の競技は全て終了した。

 

 

 

 

後夜祭

 

二週間前から打って変わり、後夜祭会場は和やかな空気となっていた。大会の緊張感から解放され、その反動により多くの生徒たちは友好的な精神状態になっていたのだ。

 

会場には生徒だけではなく大学関係者や大会スポンサーやメディアプロまでいた。有望な生徒を先にリクルートしたいのだろう。

 

一番囲まれているのは深雪であり、二重三重と人に囲まれていた。だが横には市原先輩がおり、怜悧な視線により不躾な物をガードしてくれていた。

達也もひっきりなしに、たぶん企業関係と思われる人に話しかけられていた。

 

当然私は知らない人と話すのは好むことではないので、ステルスモモを発動して隅で立ちながら本を読んでいた。この本がちょうど持ってきた最後の本であったからだ。明らかに私を探しているような大人が多く見受けられたが、その人達は私を見つけられずにいた。

 

この後のダンスパーティーも見つからずにこのまま過ごしたい。そう思うのであった。

 

 

 

 

 

 

「人気者だね」

「本当はのんびりさせてあげたいんですが」

「妹さん達のことではないよ、君のことだよ達也君」

 

達也はうんざりしているとばかりに顔を顰める

 

「四葉に顔をうっておきたいのもわかるがな、ところで咲はどこだ、会場にいないようだが」

「咲はこういう知らない大人に話しかけられるのがとても嫌いで自分に認識阻害の魔法かけてます。次のダンスパーティーもサボるつもりなんじゃないですか?」

「あいつの場合囲まれるのが目に見えるからな。ちゃんとエスコートしてやれよ」

 

渡辺先輩はニヤリと笑いながら言った。どうやら咲を引きずり出したいようだ。咲は嫌がるであろうが。そのまま渡辺先輩は外へ出て行った。きっと恋人の千葉家の次男に会うためであろう。なかなか渡辺先輩も青春を謳歌しているようだと達也は柄にもなく思うのであった。

 

 

 

 

お偉い方が退場し、白々しい化かし合いが終われば、さらに和やかな浮ついた空気に包まれた。生演奏の管弦の音がソフトに流れ始めたからである。会場にいる男子は積極的に声をかけていた女子と共に会場中央に集まっていた。

 

本家のダンスパーティーのパターンだと、そろそろ達也の魔の手が私のステルスモモを打ち破ってくるので達也が周りにいないことを確認すると本に栞を挟み、さっさと会場から退出することにした。本当は会場にすら来たくなかったのだが達也がそれを許さなかったのである。

急いで会場の出入り口から退場しようとすると首根っこ掴まれた。私が逃げると思い、出入り口で張っていた達也だ。

この世界のステルスモモは誰かに接触されると効果が消える。この効果は阿知賀編7話ラストからだ。

 

「離して、逃げないとまずいことわかるよね」

「深雪が咲と踊りたがっていたんだ、逃すわけには行かない」

 

達也はニヤリと深雪という最強カードをきってくる。達也もだが私も深雪に弱いのだ。

 

「じゃあ、今から相手探すの面倒だし、最初達也さん踊ってくれないかしら?」

「お前と踊りたい奴なんて会場中全員だと思うが…まあいい踊ってやるぞ」

 

私は深雪の側を通りながら後でねと言い残し会場中央に向かう。ダンスパーティーをやるならやるで何か面白いことをしようと思い達也とパーティ会場の北東で踊ることにした。

私たちは視線の嵐に晒されていた。急に隠れていた私が出てきたからであろう。達也は居心地悪そうだ。

 

達也のダンスはステップを暗記しているので正確さだけは満点だ。

それならばと思い少しタイミングを外し踊る、意外とついてきた

 

「おい、咲、やめてくれ…」

「お返し」

 

達也が懇願するようにいうが取り合わない。達也を困らせながら一曲踊りきった。その後、達也は勇気を出して申し込んできたほのかに連れていかれた。ほのかナイス、離脱チャンスと思い出入り口に向かおうとするが一瞬で囲まれる。

 

「あ、あの四葉さん私とも踊っていただけないでしょうか」

「私とも」

 

完全に囲まれてしまって次々とダンスの申し込みされる、全員と踊るのか…と思っていると見知った顔が近づいてきた。

 

「みんな、咲さんを困らせてはダメだよ」

 

周りの女子はその声を聞き一歩下がってくれる。助け舟を出してくれたのは九鬼先輩だ。

 

「ありがとございます」

 

「いえいえ、あんなこと言った後で悪いんですが咲さん僕と踊ってくれないでしょうか?」

 

なるほど、九鬼先輩もダンスの申し込みに来たようだが九鬼先輩と踊るのは嫌でないので断る理由がなかった。

 

「ええ、喜んで」

 

私たちは次は会場の南西で踊った。九鬼先輩はやはり家の関係でダンスの練習をすることがあるのだろう。とても上手でありリードされてしまった。私たちは観客の男女の視点を一点に集めているようであった。曲が終わると私たちに拍手がおくられた。九鬼先輩は感謝の言葉を述べた後すぐに他の学校の女子に話しかけられていた、九鬼先輩はやはり女子に人気である

 

これで準備は完了したので最後の曲まで踊らなくてもいいのだがそうは問屋がおろさないようだ。次は終わった後、一番に来た愛梨ちゃんと踊ることとなった。女子同士でペアは同性結婚が認められているこの世界ではそんなにおかしいことではない。言いたいこともあったのでこれを機に言うことにした。

 

「ね、愛梨ちゃん、愛梨ちゃんがクラウドボール私に負けた理由分かる?」

「咲さんが強かったからですか…?」

「違うわ、愛梨ちゃんには驕りがあったのよ、十師族やナンバーズ以外を見下す驕りが。私は相手が誰だろうと全力で叩き潰す。全力でやらないと経験値は微量しか得られない。それが貴女と私の違い。その経験の差が積み重なってあの試合となったのよ、負けたならくよくよしてないで次は勝てるように頑張らなきゃ」

 

とりあえずアドバイスをしておいた。立ち直るか立ち直らないかは自分次第だ。その後三日月先輩、エイミィ、雫などと踊った。後二曲となり、ラストは深雪と決めていたので誰と踊ろうかと思っていると三高の制服の男子が私に手を伸ばした。

 

「四葉さん。俺といかがですか?」

「四葉は多いんで咲でいいですよ、そうねお願いしますわ」

 

私は手を伸ばして来た婚約者候補の一人、一条の手を取った

 

「この前の試合はありがとうございました」

「こちらこそお礼が言いたいです、草原ステージで誰も倒さずに勝つなんて思いつかないとジョージは言っていました」

 

話しながらこの前のモノリスコードの試合のお礼をする。彼の言うジョージとは吉祥寺のことであろう。

曲の終盤になり、私は少し気になったことを彼に尋ねる。

 

「ねえ、なぜ鳥は飛ぶのだと思う?」

 

一条はびっくりしているようであった。私も婚約者候補に直接聞くのは初めてである。

 

「鳥は鳥だから空を飛ぶんだ。鳥は飛ばなくなった時、鳥ではなくなる」

「そう…それが貴方の答えなのね」

「ああ」

 

曲が終わった。私は深雪を探す前に一言言う。

 

「もっと縛られずに生きるといいわ」

 

暗に不正解といい深雪のところへ向かった。

 

 

 

私が深雪のところへ着くと深雪はホッとしたようだった。どうやら私が踊ってくれないと思っていたらしい。

 

「お姉様、最後は深雪と踊って頂けませんか

「ええ、喜んで」

 

私の提案で会場の北で踊ることにした。

今回、私が男役、深雪が女役だ。エイミィの時はエイミィが男役を踊ると言われ驚いたのだが、もしかしたらエイミィの実家も海外では有名な家なのかもしれない。

 

「お姉様、流石です。今までの人の中で一番踊りやすいです」

「達也さんはどうだったのかしら?」

「お兄様はダンスが苦手ですから」

 

私たちは踊りながら顔を見合わせて笑った。

 

「深雪少し空中で踊らない?」

「飛行術式でですか」

「ええ」

 

わたしの提案に深雪は驚いたようだがその後すぐ了承してくれた。私たちは飛行術式の羽が出る方を発動し50cmほど浮きながら空中で踊る。もともと端で踊っていても私と深雪が踊っているということで会場で一番目立っていたのだがこの魔法を発動することで会場の目を全て釘付けにするほど目立つこととなった。

それは天使二人の踊り、いや神と天使の踊りだった。それほど二人が踊る光景は浮世離れし、会場を魅了していた。

 

曲が終わり会場の北側に降り右手を上げ、最後の私の仕掛けを発動しようとした。

 

 

薄墨初見

永水女子の三年であり、能力は北家の時、鬼門を晒すことにより裏鬼門の牌が集まってくるので小四喜や大四喜が上がりやすいという能力だ。咲がこの世界に置き換えると鬼門、その次に裏鬼門という順に陣を敷くことにより、その陣同士を結びそれに直行する同じ長さの線の2つが作り出す正方形の空間内で北側から発動する自分の魔法の効果が上昇するという風に置き換えた。

とても準備が大変であり、その場所に陣を敷くためには自分が行かなくてはならないというデメリットもあるが、準備が完了すればやったことはないが戦略級魔法並みの魔法ができると予測していた。

 

 

私が発動しようとした魔法は光を屈折し暗くする魔法、火花を散らす魔法と太ももにほんの少し残った母の力の弱々しい流星群であった。

 

右手を上げ指を鳴らすと魔法が発動する。

事前準備によりこの簡単な魔法は天井に夜を作り出し流星群と花火を大量に引き起こした。

しばらくそのままにし生徒が十分堪能しただろう頃にもう一度指を鳴らし魔法を解除し綺麗にぺっこりんとお辞儀をする。

 

 

九校戦の後夜祭は私の魔法により締めくくられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




九校戦終了です。やりたい放題できて書いてて楽しかったです。最後のダンスパーティーは稚拙な文章になってしまいましたが…

次回から夏休み編をパパッとやって横浜編に入りたいと思います。


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夏休み編+1
第36局[親子]


オリジナル展開です
1日2回投稿だとものすごい勢いで書きだめが減っていく…


九校戦が終わると私は本家に呼び出された。達也も軍の演習で家を開けるらしく深雪は1人でお留守番だ。

 

九校戦での本家の命令はわかりやすい固有能力を出すなというものであったので、キャストジャミングや他の人の固有魔法を使う力、ドラゴンやいろいろな化け物を召喚する力や天照大神の力を使わず、普通の魔法能力向上だけで戦ったので別にお咎めを受ける心配はないが少し不安ではあった。

 

 

 

 

本家に着き、長いこと使っていない自室で休息していると廊下がドタドタとうるさくなり、その後私の部屋の前で止まりノックされた。

入室を許可すると入ってきたのはみなもであった。

 

「お姉ちゃんおかえり〜!」

「ただい…」

 

最後までいうことができなかったのは抱きつかれて頭が鳩尾に入ったからだ。シノチャースタイルの抱きつきはやめてほしい。

 

「お姉ちゃん九校戦すごかったよ!」

「…ゴホッ…あ、ありがとう、やるならやるで楽しくやりたかったから結構自由にやらせて貰ったわ」

 

私は目立ちたいとか目立ちたくないとかは関係ないのだ。人から話しかけられることは煩わしいがそれはもともと。自由に楽しくやりたかったのでああなったのだ。挑発の影響もあったが。

 

「お姉ちゃんいつリザベーション13できそう?僕楽しみにしてるんだけど」

「………………多分一生できないので諦めて頂戴」

 

 

 

 

「リザベーション」

それは新道寺のダブルエースが使うコンボである。まず副将の白水哩が縛りをかけそれ以上の飜数で和了るとする。そうすると大将の鶴田姫子がその縛りの飜数の二倍で白水哩が和了った局に和了ることができるのだ。これを無効化することはプロでもできなく最強コンボと言われている。

この世界に置き換えると私が白水哩を神依するとみなもが鶴姫を神依する。またはみなもが神依すると私も神依することになる。私が魔法を発動し成功させるとみなもがその威力に応じた同じような魔法を使うことができるというものだ。

 

対応としては1〜4飜が通常魔法

5〜6が少し強いと言われてる魔法

7〜9が強い魔法

10〜12は戦術級魔法

13以上が戦略級魔法

 

例えば私が強い魔法7〜10を使った場合、みなもは戦略級魔法を使える、私が5〜6といった少し強い魔法を打った場合戦術級魔法を使えるといった具合だ。

 

デメリットがないなら大きい飜数で縛ればいいと思うだろうがデメリットももちろんある。それも2つ

 

1つは私が魔法を発動するのを失敗したらみなもも魔法が発動しない。これは当然である。

 

2つ目は縛りの数により原作と同じように快感が襲ってくる点だ。私はこの快感に慣れることができず、この快感により白水哩以外の神依は解除されてしまう。これはみなもも同じなのだが、みなもは逆にはまってしまったようであり三年前初めて行った時から帰省して周りに深雪や達也がいないことがわかるとよく私にやろうとせがむのであった。この行為を行うと私は息絶え絶えに、みなもはスッキリといった感じになる。どうしてこうなった。

 

これらの理由によりリザベーション13は私が神依無しに戦略級魔法使えないと無理だし、もしできたとしても私は絶頂して気絶してしまうだろう。

 

「お姉ちゃんそれじゃやるよ、神依」

「ちょっと待って心の準備が…あっ、ん♡………」

 

そのあと私はリザベーション7までをやらされ四葉の闘技場で息絶え絶えになるのであった。

 

 

 

神依を解き、部屋に戻りみなもをガミガミと息絶え絶えになりながらも叱っていると、部屋をノックする音が聞こえた。入室を許可するとそこには見たことある顔がだが絶対にそこにはいるはずがない顔があった。それは3年前に死んだ深雪の母親のボディーガード、桜井穂波にそっくりな顔であった。

 

「咲様、お初にお目にかかります。桜井水波と申します」

「水波は僕と同級生なんだ!」

 

水波の自己紹介に補足してみなもが説明を付け足した。よく考えるとみなもと水波は一文字違いだ。

 

「初めまして、それで何用かしら」

「奥様が奥の書斎にてお待ちです」

 

やっと来客の用事が済んだようだ。私はみなもを私の部屋に置いていき書斎に向かった。

 

 

書斎の前には葉山さんがいた。四葉の筆頭執事だ。

 

「お久しぶりです、葉山さん」

「奥様が中でお待ちです」

 

私が書斎に入ると真夜は爛々とした目を輝かせていた。

 

「サキーーーーーーー会いたかったよーーーーーーー!」

「私もそれなりに会いたかったですよ」

 

極東の魔女と呼ばれる真夜はそこには存在しなかった。そこには単なる娘に甘える親バカな母親であった。

 

「サキはいつもツンデレだから今のは稀に見るデレに入るのかしら」

「…………」

 

真夜は他の人の目(葉山さんを除く)がない時に限りこの淡のようなモードになるのであった。深雪やみなもがいると普通のただの溺愛している甘い母親になる。深雪達はそう思っているはずだ。対外的にも私たちに甘い親バカで通っているはずだ。しかしなぜか私のことだけこんなに好いているのだあった。長女だからであろうか。

 

「サキ膝枕して〜」

「いいですよ、私もそろそろ補充したいと思ってましたし」

「補充って?」

「秘密です」

 

 

私が太ももに他人の固有魔法を溜めれるのは清水谷竜華の力であった。彼女は園城寺怜を膝枕して彼女の力を太ももに溜めていた。それをこの世界に置き換えたのであった。一回分補充するのに1時間膝枕する必要があるのと竜華は6回分溜めれたが太もものムチムチさが足りないのか5回分しか溜めれないという原作と違う部分もあったが。

 

流星群は使い勝手いい魔法なので、もしものために溜めておきたいのだ。今はみなもの加速×2が溜まっていて、スペースが3空いている。家に戻るまでに流星群×2は溜めておきたい。

 

「で、お母様私を呼び出した御用とは?」

「そんなのないわよ、九校戦のサキを見てサキに会いたかっただけ」

 

いろいろ考えたのは無駄だったようだ。考えすぎだったと思い肩を落としたが、会いたかったと言ってくれるのは嬉しい。真夜が自分の膝の上で寝たことにより私も眠気が移り、私も夢の旅に飛び立つのであった。

 

真夜と咲、2人で眠る光景はまさしく親子のそれであった。

 

 

 

 

次の日の朝、何も用もないことがわかった私は流星群が三回分溜まったことを確認し自宅に戻るのであった。




真夜が親バカで咲に膝枕されるとなるとどこかで見たような真夜になってしまった…

新道寺のコンボってあれR-18だと思うんですけど大丈夫ですかね…マイルドに書いたから何か引っかかったりしないと思うんだけど


----原作最新話ネタバレ注意------




今日発売の172局みんなかっこいいしですごく満足。照のツモシーンかっこよすぎる。あのコマ見るためだけに買う価値あった…照も早く出したいなあ。あと淡のおもちがスーパーノヴァしてましたね


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第37局[休息]

大量キンクリでパパッと終わらせました。夏休み編は大して重要でないのにほのかの告白のせいで全部キンクリできないのがなあ…


私が本家から帰ると深雪が出迎えてくれた。

帰って荷物を置きリビングでしばらく話すと、深雪が何か言いたそうにしている。何か言いづらいことでもあるのだろうか

 

「あの…お姉様…雫達から海に誘われているのですがどうなさいますか?」

「海ね…」

 

深雪は私が夏、なるべく外出したがらないのを知っている。今年の九校戦は例外だが例年仕事以外では遊びなどで外に出ることはない。既に達也の約束は取り付けているのであろう。あとは私の回答待ちと感じられた。

 

「どうでしょうか」

「そうね、雫の誘いを無下に断るのも悪いし行こうかしら」

「わかりました!雫にそう伝えときます」

 

深雪の顔は私の返答を聞くと、太陽を浴びた向日葵のように明るくなった。深雪は私と海に行きたかったようだ。考えてみると私と海に行くのは三年ぶりだ。そう思うと海もいいかもしれない。

 

 

 

出発の日、私たちは空港ではなく葉山のマリーナに集まった。飛行機ではなくクルーザーで向かうらしい。クルーザーから現れた船長のような人はどうやら雫の父上のようだ。先に達也は船長から歓迎を受け、私と深雪を呼んだ。

 

「お初にお目にかかります、四葉咲です。お招きありがとうございます」

「初めまして、四葉深雪です。この度はお招きいただきありがとうございます」

 

私と深雪は2人揃って綺麗に頭を下げた。

 

「ご丁寧な挨拶恐縮です、四葉のプリンセスの方々。私目は北山潮。貴女達のような美しい四葉のプリンセス達を迎えれることは当家にとっても栄誉と申せましょう、何卒楽しんで頂ければ嬉しいと思います」

 

潮は四葉の私たちに敬意をもって接した。この国で一番味方につけたいのは四葉。四葉とつながりを持つことはこの国に置いて一番力を持つことに近づくということを潮は知っていた。

 

その様子に雫とほのかは鼻を伸ばしているなどと突っ込み、潮はあたふたと慌て用事もあるのだろう、早急に退散した。

 

 

クルーザーは定時通り出発しクルーザーでは色々な話をしたが、急に私の人格の話となった。

 

「ね、咲。咲ってあんまり目立つの嫌いだと思ってたけど九校戦では目立つ行為ばっかりしてたけどどうして?人格のせい?」

 

エリカの質問に確かにそうだとほかの人からもそういう目で見られた。

 

「私は目立つのが嫌いなんじゃなくて面倒なのが嫌いなのよ。本当は九校戦も出たくなかったんだけど、流石にそれは学校としてまずいから出たわ。それなら出るなら出るで楽しくやりたいからああなっただけ。暑いのは嫌いだけど魔法戦は嫌いではないのよ」

「咲の美貌と魔法力だったらあんなことしなくても目立つ」

「それに目立ちたくない奴が入学早々先輩達に喧嘩ふっかけねえわな」

 

私の言葉と雫とレオの付け足した言葉でみんな納得したようだ。

 

 

 

クルーザーは予定時刻に無事別荘のある島に着いた。

 

水際では私を除いた深雪達五人の女子が遊んでいる。達也は私の横でビーチのパラソルからそれをちらりちらりと見ていた。男子があれを直視するのは正直きついだろう。女子の私にとってもあれを直視するのは少しきつい。

 

「おーい、達也く〜ん泳がないの〜」

「お姉様、冷たくてきもちいいですよ」

 

エリカと深雪が私たちを呼ぶ。達也も私も手を振って返しといた。

 

「達也さん呼んでますよ?」

「お前も呼ばれているぞ、咲。泳がないのか?」

 

達也はニヤリと笑いながら言った。嫌な人である。まあ私も人のこと言えないかと思い本を読むことに戻った。

 

いつまでも来ない私たちを深雪達は取り囲んだ。

 

「咲、そんな海まできて本読んでたら勿体無いって。泳がなきゃ!」

「そうですよ、エリカの言う通りです、お兄様もパラソルの下にいるだけじゃもったいないです」

 

深雪とエリカが迫ってきたので読書を中断せざる得ない。

 

「身ぐるみ剥がすわよ」

 

エリカが私のパーカーを剥がそうとする。阿知賀1話の玄のようにエリカは手をわきわきとしながら私を襲ってくる。怖い。

 

「咲はスタイルいいんだから隠す必要ない」

 

雫がエリカの攻撃に後押しして腕に捕まってくる。

 

「そうですよ、お姉様、脱いで楽になりましょう」

 

拷問時に使う早く吐いて楽になれのように深雪が言ってくる。そんな子に育てた覚えはない。

 

「ち、ちょっと待って。わ、私日焼けにものすごく弱いのよ。パーカー脱いだら背中真っ赤になっちゃうのよ」

 

これは事実である。達也に助けを求めて目を送るがこっちを見ていない。裏切り者め。

 

「とうっ」

「あ…」

 

とうとう私は五人に抑えられパーカーとズボンを脱がされた。恥ずかしくて涙目になってしまう。

 

そこにいたのは涙目の神を具現化したような姿であった。その姿はこの世の美を凝縮されたような姿であり、深雪達は驚き固まっていた。それを見逃さなかった私は見て一瞬で服を取り返し、早着替えで元の姿に戻った。

 

「咲…隠す必要ないでしょ」

「そうですよ、今まで見た中で一番素晴らしい水着姿でした」

「肌を見せるのは恥ずかしいのよ…」

 

咲が水着姿を除くと一番肌を見せたのは九校戦のクラウドボールの半袖半ズボンであった。

 

「でも神様みたいでしたよ」

「お姉様…そろそろ事実を話してもいいのでは」

「そうね……恥ずかしい話なんだけど私泳げないのよ…」

 

この世界、ほとんどの能力において卓越した力を持つ咲の最大の弱点は泳げないことであった。原作咲も泳げなかったし仕方がないが恥ずかしいものは恥ずかしいのである。深雪以外の4人が笑い出した。

 

「安心しました。咲さんでもできないことあるんですね」

「泳げないことで人間味を感じる」

「咲があの姿で弱点なしなら近寄り難いですね…」

「咲もできないことがあるのは嬉しいね、同じ人間と感じられて。さっきの姿みたら同じ人間じゃないと思ったもの」

 

4人とも私が泳げないことで安心したようだった。

 

「だからパラソルの下で本を読んでるわ」

「お姉様は水が怖いんですよね?」

 

深雪が挑発してくる。バトルボードにも出てるし水が怖くないと知っているはずだがこれは私を海に連れ出す罠だ。

 

「怖くないわよ」

「お姉様は深雪に水かけで負けるのが怖いんですか?」

「深雪言うようになったわね。勝負よ」

 

ズボンをめくり海の方へ向かう咲は向かった。煽り耐性0である。深雪は咲の扱い方が世界で一番上手い人物なのだ。

 

 

 

 

水かけは1vs5であったが私が勝利した。みんなに水かけごときで人格変えるのずるいと言われたが売られた喧嘩は買う。それが私の流儀だ。雀明華を使い縮小版風舞台を使い、周りに強風を起こして水を飛ばしそれを深雪達に当てて勝った。当然手加減なしに歌も歌った。

 

 

その後、ほのかのちょっとかわいそうな事故があり、達也とほのかは一緒にボートに乗っていた。当然深雪の機嫌は悪い。これはどうしようもなかったので私は本の世界に現実逃避した。周りのどうにかしてという目は無視することになったのだが。

 

 

夕食のバーベキューが終わり遊んでいたカードゲームが美月の負けで終わると雫が深雪を外に連れ出した。何か雫は訳ありな顔をしていた。その後ほのかが達也を連れ出したのでそれから何かが起こることを未来視なしにわかったのだが、何かするのは自分の信念に反するので何もせずそっと見守ることにした。まあ深雪を連れ出した時点でわかっていたことだが。

 

 

次の日、深雪とほのかにこの暑い中散々振り回されている達也はいつもより楽しそうに見えた。

 

 




まあ咲視点だったらこんなもんで大丈夫ですよね…



今日は宇津木玉子(誰?)の誕生日です。同じく副将で炎上したマタンゴも祝福


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第38局[選挙]

咲要素ほぼ0なので大幅キンクリして1話に纏めました



二学期始まって最初のイベントは何と言っても生徒会選挙であろう。しかしここ近年は立候補者が1人であり、信任不信任しか問わないつまらないものとなっている。

なぜなら数年前自由な生徒会選挙を掲げたが、魔法の乱闘が起き多数の生徒が重症を負ったかららしい。私はそちらの方が戦国時代のようで面白いと思ったのだが、中条先輩辺りにはドン引きされるのがわかっていたので口に出さないでおいた

 

もちろんクラスで選挙のことが話題になるが、現副会長の服部先輩はどうやら部活連の会頭になるらしい。

それならば中条先輩が有力候補であるが、彼女は生徒会長にならないと言っている。中条先輩は性格的に生徒会長や九校戦の選手のような表で行動するタイプではなく、技術エンジニアや会計など裏方のタイプであるので、確かに生徒会長には向いていないだろう。

候補者がいないならもういっそあみだくじで決めればいいんじゃないんだろうか。

 

 

ある日の帰り道、私と他いつものメンバーで喫茶店に集まっていた。話はやはり選挙の話になる。最有力候補の中条先輩を支持するかしないかの話になるとレオは私と同じく少し厳しい意見。

雫と美月は中条先輩を支持する派のようである。

 

あみだくじにすればいいと私が言おうと言った瞬間、エリカが予想外のセリフを発する。

 

「そうだ、深雪が立候補しなさいよ!」

 

確かに深雪は生徒会長にふさわしい器であろうが達也が許すだろうか。エリカが支持する理由を並べると深雪が言い返した。

 

「ならお姉様はどうかしら。お姉様は一科生二科生問題について深く考えていらっしゃるし、九校戦史上初めて三種目で優勝してます。知名度も実力も十分かと」

「私は風紀委員なのよ、生徒会の仕事内容知らないわ」

 

深雪の意見に否を返しとく。私は生徒会役員でもないので、私が1人立候補しても不信任過多で再選挙になるのがオチだろう。

 

「それだったら達也がなったらどうだ?」

 

この意見に同調するほのかと深雪の扱いに達也は困っているようであった。確かに達也が生徒会長になっても面白いかもしれない。いろんな意味で。

 

 

 

 

あくる日、エイミィから衝撃的な噂を聞いた

 

「咲が生徒会長に立候補するって本当?」

「え?もう一回言って貰えるかしら」

「だから咲が生徒会長に立候補するのかっていうこと」

「私の耳がおかしくなってたわけではないのね」

 

エイミィから聞くとどうやらその噂は既に広がっているようだ。周りのクラスメイトも聞き耳をたてている。

 

「そんな気はないのだけど。それに私なら不信任になるのがオチよ」

「咲は知らないと思うんだけど、一高には咲のファンクラブがあって.それがこの学校だけで400人ぐらいいるよ。九校全体だと2000人らしいけど。だから咲が不信任になることない」

 

ファンクラブがあるという情報は聞いていたが人数に絶句してしまった。数字は誇張されるのが古来より鉄板であるが、もしこの数字通りに受け取るとこの学校の2/3が加入してることになるではないか…

 

「あと咲は深雪や達也と付き合ってるとか、二高の九鬼先輩と付き合ってるとか、九校全体合わせて100股かけてるとか変な噂立ちまくってるから気をつけた方がいいよ」

 

誰だ100股とかいう小学生みたいな数字好む奴。穏乃や淡、怜といった100という数字大好き人間リストに加えてやろうHAHAHAと現実逃避していたが、ダメだ。どうしても前半部分が無視できなかった。九鬼先輩との噂は仕方ない。私の失策だ。しかし達也と深雪との噂はどうしようもなかった。達也と深雪を愛しているのは事実だが、それは家族愛だ。しかし噂は塞ぐことはできない。この事実に頭を痛めるのであった。

 

 

 

 

 

新学期が始まり一週間が立ち生徒会選挙が公示されたが1日目は誰も立候補者はいなかった。

 

 

 

選挙が公示されて次の日、達也のもとに真由美が現れた。そして達也は強引に生徒会室に連れていかれたが、やはり選挙がらみであろう。

 

「深雪にはまだ時期尚早だと思っています」

「深雪さんに……ってなんでわかったの!?」

 

昼休み前に連れ出したのは、深雪がいないところで相談したかっただろうことと時期からわかった理由をこたえ、深雪がまだ早い理由も話した。

 

「じゃあ咲さんはどうかしら?」

「わかりません」

 

達也の回答に真由美は疑問符を浮かべていた。それを見て達也は答える

 

「咲は魔法力、知識力、知名度は申し分ありませんがあいつはテンションが上がると九校戦のように何やりだすかわからないやつです」

「そういうところも咲さんのいいところだと思うんだけど…」

 

真由美は咲をかっているようだ。

 

「まあさっきの理由は建前で本当の理由は別にあります。それは咲を生徒会長にした時のデメリットです」

「デメリット?」

 

魔法科高校の生徒会長には大きな権限が与えられ、卒業後も生徒会長をやっていた事実だけである程度の価値がある。なのでデメリットが真由美は思いつかなかった。

 

 

「ええ、例えばこの前のブランシュ事件。咲がテロリストを叩き潰してくれなかったならば、俺たちが行くことになったでしょう。もし仮に咲が生徒会長だったならば、先回りして殲滅することはできなく、なおかつ咲は生徒会長という立場から学校に残ることになり、テロリスト殲滅に従事できなかったでしょう。これから何か一高がまた襲われると咲が予知しても、咲は生徒会長なので自分が動くことができないという生徒会長という立場に縛られる可能性があります。咲を生徒会長にすることは鳥を鳥籠に入れてしまうような可能性があるところがデメリットです」

 

達也の意見を聞き真由美は考え込んでしまった。

 

「咲は結構自由に動くので杞憂かもしれませんが。もし頼むならば、咲はどっちかというと頼まれれば断れないタイプであるので、会長1人で丁寧に頼めば多分断れませんよ」

 

達也はそうニヤリと笑ってアドバイスするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

5時間目、七草先輩が私の教室を訪れ生徒会室に連れていった。達也がいないことを考えると深雪を認めない達也を説得してくれという頼みだろうか。

 

「お願い咲さん!生徒会長に立候補してくれない」

 

七草先輩がいきなり深々と頭を下げるので私は困惑してしまう。

 

「頭をあげてください七草先輩。理由をお聞かせ願えますか?」

「深雪さんは達也君の鉄壁のブロックでダメだったの。あーちゃんは咲さん深雪さんがやればいいと言ってるし消去方で咲さんしか残ってないのよ、咲さんは九校戦の活躍で知名度も実力もバッチリだしらいいと思うんだけどどうかな」

「私は生徒会の仕事を知らないのですが?」

「深雪さんに教えて貰えばいいじゃない」

 

どうやらこの面倒ごとのあみだくじのあたりを私がひいてしまったようだ。しかしここまで真剣に頼まれたら断ることはできない。生徒会長になったら図書館に自分が読みたい本を入れれるかもしれない。生徒会長の力でこんな感じのこと咲を部に入れるために部長していたなあ、とそう思いながら七草先輩のお願いを受けた

 

 

 

3日目に咲が生徒会長に立候補した。咲は一年、そして生徒会役員でもないのだが一高の生徒は1〜3年までほとんど咲のファンであり批判的な意見は一つもなかった。皆、既に選挙演説の時に咲がどんなパフォーマンスをするかに注目しているようだ。

 

そしてその日、生徒会選挙の日がきた。

真由美が生徒総会において出した生徒会役員資格制限撤廃議案は反対派の意見もあったが、賛成多数で可決された。

そしていよいよ咲の選挙演説だ。少し微笑んだ顔で演台に向かう。演台の前に立ち、綺麗にお辞儀すると拍手が起こった。生徒たちは喋ることなく、固唾をのんで咲の演説に集中していた。

 

 

「皆様は何か負けたことがあるでしょうか?」

 

咲の第一声がこれだ。これだけでは生徒たちは咲の真意をつかむことができない。

 

「私はもちろんあります。先日、そこの深雪にアイスピラーズブレイクで敗北しましたし、一度も勝つことができていない相手もいます。しかし負けることはダメなことでしょうか?いえ、そんなことはありません。負けは悔しいですが次に勝利するための布石であるからです。

二科生の皆さん、自分を二科生だからと卑下することはなく前に向かって歩き続けてください。自分を卑下して立ち止まってしまったら自分の実力はそこで止まってしまいます。前を向いて歩くことによっていつか勝ちたい人にも勝てるかもしれません。

一科生のみなさん、驕ることなく同じように前を向いて歩いてください。平家物語にもあるように栄えた物は必ず衰えます。なぜなら栄えたものは驕ってしまい鍛錬を忘れてしまうからです。それを知らずに驕り、歩みを止めてしまうのは身を滅ぼすことへの第一歩です。

私が生徒会長になるあかつきにはこういった意識の改革を行いたいと思います」

 

咲はそれだけ言って再び頭を下げた。会場は割れんばかりの拍手が起きた。特に二科生から大きい。何か思うところがあったのであろう。咲はこの演説で一科生二科生の間の意識の問題しか話さなかった。常々ぶつくさ文句言ってた内容だ。

達也はあいつ生徒会長にするのは意外と良かったのかもしれないと思い直した。

 

 

次の日の投票は全員が咲の信任に投票、咲は一年生ながら生徒会長となることになったのだ。




あーちゃんごめんよ…

阿知賀準決勝大将戦
百速vs百年生vs百巡先vs百合と言われてて笑った覚えあります



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横浜騒乱編
第39局[監視]


横浜騒乱編スタート、前半は設定上事件に絡ませづらいのと、この物語の根幹に関わる重要なことはないのでほとんどキンクリで飛ばしまくりで行きます。


新生徒会メンバーは会長咲、副会長は梓と深雪、会計は五十里、書記はほのかとなった。

 

前生徒会メンバーと同じ5人であるが、生徒会を経験したことがない新メンバーが3人。少し作業が遅れたり停滞するだろうと思われたが、そんなことはなかった。咲のスペックが高すぎたのだ。

 

例えば書類を作るとき、普通はキーボードで打ち込むなどし、ミスがないか確認し、それを印刷をして資料を作成するのだが、咲はその資料に打ち込むデータを頭にいれそれをイメージし、印刷用紙にそのイメージを描き出し資料を作成する。もしミスがあったとしても直したものをイメージすることでそれを全て訂正することができる。

打ち込む時間と印刷時間が減り、日常的作業は前生徒会よりも早く業務が終わっていた。

なおかつ、咲は末原や船久保といったキャラの神依を行うことによって適切な判断が求められる作業も一瞬で最適な答えを出してしまう。

こんな状況から1人で咲は生徒会すべての業務をこなしてしまうので、他のメンバーに仕事を回してやり方を忘れないようにするのと咲が家の用事でいない時のために咲の仕事量は全体の25%までと決められていた。

 

 

 

 

 

「では失礼します、深雪あとでね」

「咲さん、お疲れ様。また明日」

「わかりましたお姉様」

 

私の分の仕事を終わらせ生徒会室を中条先輩と深雪に見送られ出て行く。私がこれから行くのは図書室ではなく校庭の論文コンペの準備の場所をしている場所である。

 

論文コンペの準備は既に始まっており、達也もサブメンバーとして選ばれていた。本当は九校戦で技術エンジニアとして出ていた平河先輩がサブメンバーだったのだが、急に体調を崩し論文コンペに間に合わないらしい。なのでメイン執筆者の市原先輩のテーマを自ら研究している達也を市原先輩は選んだそうだ。

そのテーマを達也に聞いたが「重力制御魔法式熱核融合炉の技術的可能性」だそうだ。

日本語を喋ってほしい。

「清一色対々和三暗刻三槓子赤1嶺上開花」の方がまだわかる。イメージがつけばいいのだがイメージが全くつかないので達也たちのテーマはお手上げだった。

 

なぜお手上げなのに準備会場に行くかというと準備の応援のためだ。

私は一応会長なので準備を見る必要がある。咲が声をかけて頑張れといったら効率上がるだろうなとか達也がニヤリと笑いながら家で言っていた。

 

 

 

「お疲れ様です」

 

私が準備会場に着き挨拶すると視線が集まり、準備をしていた手が止まってしまった。やはり来るべきじゃなかったか。

 

「咲、少しいいか」

 

達也が私に声をかけると、再び時が動き出したかのように準備の手が動き出した。

 

「何かしら」

「3Dプロジェクターのフィルム買ってきてくれないか?購買は品切れでな、俺は手が離せないし先輩に頼みにくいからお前に頼みたい」

「わかったわ」

 

確かに一年の達也は上級生にそんなことを言い出しにくいだろう。少し面倒だが仕方がない。生徒会で無くなりそうなものもあったしついでに買ってこよう。

 

 

 

 

 

「わざわざ先輩方に来てもらわなくても大丈夫でしたのに…」

「やっぱり悪いよ、咲さんだけに任せちゃうのは。それに僕の分まで生徒会の仕事をやってもらってるし」

 

本当は私だけで出かける予定だったのだが、サンプルは見ておきたいとのことで五十里先輩が同行することとなり、千代田先輩が護衛としてついて来ることになった。

2人は腕を組みまるでデートのようである。千代田先輩のいちゃつき度は哩姫子のいちゃつき度を超えている。五十里先輩は持て余し気味であったが。静かに2人について行ったが不意に千代田先輩に話しかけられた。

 

「ねえ咲、結局咲の恋人って誰なの?」

「私はいませんよ」

「え?花音知らないのかい」

 

どうやら百家の息子である五十里先輩は私の事情を知っていたらしい。千代田先輩は話を聞くにつれて顔を驚かせていった。

 

「この話本当咲!?」

「本当です」

「てことは100股の噂は…」

「完全に否定できないのが悲しいところです」

 

婚約者候補は前聞いたところによると100弱であるそうなので婚約者候補を恋人とした場合、否定ができない。それが悲しいところであった。

 

私が生徒会で必要なものを買い外で五十里先輩たちが出てくるのを待っていると、監視される目線を感じる。尾行されてはいないはずであるので待ち伏せをしていたのだろう。こんなに見られたら誰でも気付く。明らかに素人だ。私は怜を飛ばした。

 

「おまたせ、ん?どうした」

 

顔に出してないはずなのに気づいたのは流石五十里先輩というべきか

 

「いや、監視されているようなのでどうしようかと「監視?スパイなの!?」

 

私の思いましては千代田先輩の割り込みによって妨げられた。私は枕神怜を飛ばし顔を記憶させたのでもうどうでもいいのだが、千代田先輩に伝える暇がなかった。

 

千代田先輩が大声出したことにより、監視者の女子生徒は監視されていることに気づかれたとわかり逃げ出した千代田先輩はそれを追いかける。陸上部でもある千代田先輩は脚力の差で距離の差を詰めていく。10mまで迫ったところで彼女は閃光玉のようなものを投げた。

 

枕神怜は寝ている時以外はこういう物体の攻撃には基本反応しないのだがナビモードと予知モードの併用により光を防ぐ魔法を使えと指示が出ていたので私たち3人に防ぐように結界を張ったつもりだったが千代田先輩だけは定義を失敗してしまったようで少し眩しくて目を離してしまったようだ

 

カッとなった千代田先輩が魔法を使おうとしたので危険に思い術式解体で無効化し、五十里先輩がスクーターで逃亡しようとした状況に合わせた魔法「伸地迷宮」により立往生させる。私はこの魔法がイマイチよくイメージできなくあまり得意ではないので五十里先輩の技術に驚いた。

勝ったなと思っていると座席後部のカバーが飛び散りロケットエンジンが噴煙を吐き出し急発進した。なるほど、千代田先輩を守る魔法が失敗したのはこのためか。あの構造だと転倒したら即爆発、一歩でも間違えれば大惨事だ。千代田先輩はあの状況だとバイクを攻撃しそうである。だから千代田先輩を守るのはわざと失敗したのであろう。

それにしても無茶なもんである。

 

「何を考えているの、あの子…」

「お互いに運が良かったというべきだね…」

 

どうやら2人とも私と同じ意見のようだ。

 

 

 

「(怜〜今どこにおるん?)」

「(そっから15km北西やなあ…そろそろ追えんくなるで)」

「(もうええわ、たぶん見つからんやろうし)」

 

一応監視者が上層部と合流するかと思い怜を飛ばしたが無駄だったようだ。麻雀は普通は18巡までなので半径18kmまでしか追跡できないと設定してしまったからだ。

しかし相手の顔はもう既に覚えているので問題ないであろう。今日は何もしてこなかったが喧嘩をうってきたなら買えばいい。そう考えながら3人で学校に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最近のサブタイが適当すぎる。本編16巻+シノハユ+阿知賀全てのサブタイ見れるサイトないかなあ。一々サブタイのために原作の最初見るの面倒…


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第40局[防塞]

アクシデントにより明日から1日投稿です。誕生日設定完全に忘れてた…


先日の女子生徒の顔は見ていたので、学校では精霊魔法を使って監視していた。相手はこちらに危害を加えた訳ではなく、見ていただけなので何もできない。ならば前世で哲学者の誰かが言っていた見ている者はまた見られているのだ理論でこちらも監視してやろうということだ。

 

 

今日は朝から何度も探りを入れる式神のようなものの干渉を学校外から受けている。

いつもは一度防壁術式に阻まれるとその日はもうちょっかいを出してこなくなるのだが、今日は諦めが悪いのか何度も攻撃を受けている。一高全体を大きな網をかけて構えてるような感じがして鬱陶しい。絶対服従で無効化させてもいいが、1時間ぐらい大丈夫だが1日中は流石にきつい。それならばと思い神依を発動する。

 

 

臼沢塞

原作の能力は相手を塞いで和了させない能力。能力を無効化や封じるとかではなく塞ぐとしか言っていなかった。咲がこの世界に置き換えると何かを塞ぐ能力。ブランシュ事件で使ったように空間を塞いだり意識を塞いだりするようにも使えるし精神干渉系のように記憶を塞ぐというようにも使える。塞ぐという動詞が多少強引にもつくのなら使えるのだ。そして私が解除しないとそれは解除されない。

 

 

今回使うのはSB魔法での外からの視線を「塞ぐ」結界だ。神依を発動し結界のイメージをする。イメージすることにより魔法が発動すると鬱陶しい視線を感じなくなった。魔法の結界はうまくいったようだ。

 

 

 

 

その日の夕方久しぶりに九人揃って帰宅することとなった。

 

「咲さん、式神のようなものの視線が今日の午後から消えたんだけど何か分かる?」

 

吉田君がそう聞いてくる。やはり吉田家の神童と呼ばれていただけある。午前中の鬱陶しい視線に気づいていたのだろう。あれは式神や精霊に対して敏感ではないと気づかないはずだ。

 

「鬱陶しかったから対処したわ。一応生徒会長ですもの」

 

達也は珍しいものを見るような目で、その他の七人は尊敬する目でこちらを見てきた。達也は私が相手を殺したり消したり記憶を無くさせたりしないで平和的に解決したことに驚いているようだ。そうしたいのはやまやまだったのだが探知するために逆に学校の結界が邪魔でできなかったのである。

 

そんな話をしながらいつもの喫茶店に入ることになった。いつもの九人座れる広い席は空いてなかったのでカウンターとカウンターに一番近い席に分かれて座った。

 

私が紅茶2/3飲んだところでエリカたちが外に出始めた。下校の時尾行してきたものを処理しにいったのであろう。エリカたちなら心配ないしこちらから小物に構う気はないのでエリカたちに任せることにした。

 

 

 

 

翌日

九校戦はチーム52人に対し論文コンペは3人。だが実際に関わる生徒は九校戦より多い。技術系クラブ美術系クラブはもちろんのこと純理論系クラブや実技上位者も総動員される。

簡単にいうと私や深雪も準備に駆り出されていた。

 

達也にプラズマどうこうの魔法を発動してくれと言われたが、ちんぷんかんぷんであったので産業スパイの精霊魔法対策するわといって断った。深雪も達也に頼まれていたが私と同じ理由かどうかわからないが断ったようで達也が結局自分でやることになっていた。

 

 

精霊魔法を使うと、彼女がどうやら尻尾を出したようだ。達也に一言謝り私は中庭に向かった。

そこにいたのはおさげの女子生徒1人。この前の監視者だ。

 

「ねえ貴女、手に持っているもの何かしら」

「………!?」

 

私は気づかれないように後ろから話しかけた。女子生徒はびっくりしているようである。

 

「それパスワードブレイカーよね、何に使う気なのかしら?」

「貴女は知らなくていいことです」

 

その言葉と同時に閃光弾を放ってきた。

 

「同じ手が通用すると思って二回も同じことやるなんて流石に私を舐めすぎよ」

 

私は当然対策をしていたので閃光弾中に彼女の肩を掴んだ。彼女は私の手を振りほどき袖口からダーツを繰り出そうとしていた。がしかし飛び出すことはなかった。既に精霊魔法の電磁気を使う魔法でその仕掛けを無効化してある。

 

「じゃあちょっと眠ってね」

 

私は雷童子の威力を抑えたスタンガンのような魔法で彼女を気絶させた。

 

 

 

 

保健室で話を聞くとどうやら私と達也を憎んでいるようだ。憎まれることはよくあるので最初はそんな理由かと思っていたが明らかに憎まれ方がおかしい。これはマインドコントロールを食らっているだろう。シノハユの世界チャンピオンがマインドコントロールのようなことしてた覚えがあるがマインドコントロールは専門外であるので先生に任せることにした。

 

 

 

その日の帰り道、レオとエリカがいない代わりに千代田先輩と五十里先輩と一緒であった。

彼女、平河さんの行為に聞いて私から聞いた他の人の反応はほのかは憤慨し雫は理解に苦しむという反応、幹比古と美月は少し同情的な反応であった。

一科生二科生で見事割れる形になったがそのことについて口には出さなかった。

それにしてもさっきからちょろちょろと鬱陶しい。

 

「おい咲、やめろ」

 

五十里先輩達と平河先輩に説得してもらおうなどと話していた達也が私の雰囲気が変わったのを見て私を止めた。相手の式神を逆探知して術式者をこの世から消し去ろうとしたのだがまだ相手が見てるだけなので正当防衛にすらならない。そのことに数日間の攻撃によりイライラしてた私はようやく気づくのであった。

 

 

 

学校に隣接した丘を改造して作った野外練習場。私は警備隊の様子を見るためにそこに来ていた。そこでは十文字先輩と警備隊員になった生徒またはスカウトされた生徒が対戦しているようであった。それも私と同じく1vs10で。

 

「七草先輩、渡辺先輩お久しぶりです」

 

 

魔法による模擬戦は事故防止などの理由によりモニター要員がつくことになっている。どうやらこの模擬戦でのその要員は七草先輩と渡辺先輩のようだ。

会うのは実際には1、2週間ぶりぐらいだが一学期は毎日会っていたので久しぶりに感じられたのだ。

 

「咲さんじゃない、どうしてこんなところに?」

「激励に来ました」

「咲に激励されたら男共は頑張るだろうな」

 

渡辺先輩は笑いながら言う。モニターを見ながら思ったことを言う

 

「少し失礼ですけど10人側もうちょっと工夫してほしいですね」

「例えばどんな風にだ?」

「まず1人移動魔法が得意な人が十文字先輩に姿を見せ囮となります。そして9人が待つ場所に引きつけ一斉攻撃で撃破します。もし撃破できなくてもサイオンは消耗させれるのでそこから2、3人の組に分かれ波状攻撃すれば勝てると思います」

勝てると思います」この部分は必要なのでしょうか?

 

スマートではないが人海戦術で勝つのは戦いの基本である。モニターの中の10人チームは全くそれを活かせていなく各個撃破されていた。10人倒されたところで私は十文字先輩のところに向かった。

 

「お疲れ様でした」

「四葉か」

 

一瞬私がなぜいるのかと思ったようだが私が生徒会長ということを思い出し激励ということがわかったようだ。

 

「十文字先輩にとっては訓練にもなっていませんでしたね」

「……」

 

十文字先輩は少し物足りなさを感じているようだ。私の提案が通るかもしれない

 

「十文字先輩、私と模擬戦しませんか?」

「お前とか?」

 

私の急な質問に少し驚いた様子を見せたが今までの行いを見てこういうやつだったと思い直したようだ。

 

 

「ええ、退屈はさせませんよ。私が勝ちますけど」

「いいだろう、新会長の力を試してやる」

 

現生徒会長と旧部活連会頭の戦いの火蓋がここに切られた。

 

 

 

 



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第41局[神依]

vs十文字



十文字との2試合目を終えた幹比古は一旦休憩と言われる。幹比古は休憩貰えるのはありがたいと思い控え室に戻るとそこはざわついていた。

理由は咲が十文字に勝負を仕掛けて今からその勝負が始まるとのことからであった。

先ほど一緒に戦っていた9人と自分は圧倒的力の差を見せつけられ十文字に敗北した。幹比古達10人は十文字の凄さを肌で知っていた。

しかし咲の力もモノリスコードで同じチームで戦ったので力の一端は感じていたし、他9人も知っているのだろう。

チームメイトもどちらが勝つかわからないという様子であり、やはりこの試合は目が離せないと控え室のモニターを見ながら思うのであった。

 

 

 

モニター室の真由美と摩利は頭を抱えていた

 

「またか…またなのか…」

「咲さん、好戦的すぎるのが玉に瑕よね…」

 

普段は大人しいくせにこういう時になると途端にテンションが上がり好戦的になる咲に2人は頭を悩まされていた。

 

「どっちが強いか気になるところだが…」

「複雑だけど私としては十文字君に勝ってほしいわね」

「私もだ」

 

この3人は一高三大巨頭と言われている。お互いにライバル視しあいながらこの三年間過ごして来たのだ。十文字に負けて欲しくないのもわかるだろう。

 

試合のルールは殺傷ランクcまでの魔法までしか使うことができず、戦闘不能にした方が勝ちということになった。

 

 

 

 

試合開始の合図が行われ試合が始まった。

 

先制したのは咲。一瞬でドライブリザードで大量のドライアイスを作り出し電子強制放出の魔法とのコンビネーション魔法「這い寄る雷蛇」を放った。十文字はそれを魔法から身を守る障壁でブロックする。それはおとりであったのだろう。その間に咲は精霊魔法で視界を奪うために霧を展開する。

ブロックし終えた十文字に霧に紛れて風の刃、「鎌鼬」が襲う。またしてもそれから身を守る十文字は横から何かが飛んでくる気配がしたので障壁魔法を張った。飛んで来たのは森にあった木である。両方から飛んでくるそれから身を守ると咲が目と鼻の先にいた。咲は木に乗って自分自身とともに木を飛ばして近づいてきたのだ。このための霧の魔法であったのだろう。咲は障壁魔法をかわしながら幻衝を撃ち込むがそれも防がれる。防がれた咲は後ろに飛び上がり距離を取ろうとする。それを見逃さず十文字は追撃しようとするが術式解体によりその魔法が無効化される。お互いに相手の魔法を無効化し合うハイレベルな試合だ

 

 

攻撃を全て防がれた咲は笑っていた。その咲は目を光らせるとその後 一瞬黒い羽のようなものを生やしたように見えたような気がする。だがモニターを見ている人たちはそんなことを気にしてる場合ではなくなった。なぜなら咲から魔法力が感じ取られなくなったからだ。

 

魔法に優れた人であればあるほど相手の魔法力を持つか持たないか、弱いか強いかがわかるようになる。しかしこの試合を見ているのは皆、魔法科高校でも上位の実力者である。なのでギャラリーは驚いたのだ。

 

十文字も感じ取れなくなったようで、それならばと障壁魔法で咲を吹っ飛ばして戦闘不能にさせるために障壁魔法を複数展開し咲に向かって発射する。しかし十文字の魔法は咲に触れると霧散した。

 

十文字はなぜ自分の魔法が霧散したのかわからなかったが今までの経験から咲の次の行動に気をつける。前後左右空中全て魔法の予兆を見逃すまいとしていた。しかし攻撃が来たのは警戒していたどの方向でもなく足元。

足元から勢いよくたくさん竹が生えてきて十文字を吹っ飛ばした。足元から竹が生えてくるのは明らかに魔法なのだが魔法の発動する兆候はなかった。

 

「やっぱりタケノコじゃなくて竹がニョキニョキしちゃうんだよね…」

 

十文字は遠ざかる意識の中で咲のその声を聞いた。

 

 

 

獅子原爽

有珠山高校三年大将でチームの絶対的エース。「カムイ」と呼ばれる神と5色の雲を使いこなす。咲はこの能力を神や雲ごとに違う能力や魔法を使えるという風に置き換えた。

神依で爽を使いその能力でカムイを使うという感じだ。

 

まず咲が初めに使った能力はホヤウカムイ。これは原作では相手の干渉を受けなくなるという能力でありこれをこの世界に置き換えると自分の身体に対しての相手の魔法を無効化し、魔法の発動兆候を消すというものだ。あり得ないぐらいチートなのだが5分しか持たないのと原作でネリー咲末原相手にこの力を使い前半の半荘で5万も稼いだ点からこんなチート能力になってしまった。

次に使った力は白い雲。原作は竹、つまり索子を集めて親倍を和了っていたがこの世界に置き換えると竹を生やすだけという地味なものになってしまった。

 

爽の能力は短時間しか保たなく、この世界ではカムイや雲の再装填に1週間かかるが短期決戦においては最強に近い能力を持っている。親番での二回の和了で二位と96000点詰め、咲さんをダンラスにしたのは伊達じゃない

 

ちなみに咲は咲原作で二番目に爽が好きであり、同じように神を使うという点からこの世界の咲はどこか爽の性格に影響されていた。

 

 

 

モニター室の真由美と摩利の今の感情は驚愕。もちろん波状攻撃を仕掛けた咲にもそれをことごとく防いだ十文字にも少し驚いたが、障壁魔法を霧散させたことが大きな割合、そして一番驚いたのは十文字を倒したのは大技や固有魔法ではなく竹という点だった。

 

「まさか竹で十文字を倒すとはな」

「私たちも竹槍でも飛ばせば勝てるかもしれないわね」

 

そう真由美達は軽口を叩いているが咲が一瞬見せた黒い羽を纏った姿、それに恐怖しているのをごまかすためである。やはり咲はおかしいと2人して思いながら十文字の救助に向かった。

 

 

 

 

「十文字先輩お手合わせありがとうございました」

 

まだ少し頭がクラクラするのか頭を振っている十文字先輩に話しかける。

 

「さすが四葉だ。俺もまだまだだな」

「久しぶりに私も熱い試合ができました、木からの強襲は決まると思ったんですが」

「咲さーん」

 

十文字を救助しに来た七草先輩と渡辺先輩と合流し二言三言喋ってから私は生徒会長の仕事に戻るのであった。

 

 

 




気づいている人も多いと思いますがこの作品の咲の神依のネタは爽の能力から取っています。咲のキャラを爽のカムイのように「神依」して使う。
2人まで神を選べる設定も爽が数え役満あがった時のように相乗効果出るんじゃないかと思い取り入れました。


爽はいいキャラしてるので咲の中で三番目に自分は好きです。


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第42局[暗雲]

誕生日回でもあり序章回でもあります


論文コンペがちょうど一週間後に行われる10月23日の日曜日、深雪と達也は2人でショッピングモールに来ている。

買い物をするにしてもわざわざ日曜日という、人が多い時に出てくる必要はないのだが、これには訳があった。

 

今週の金曜日は咲の誕生日なので、その時に送るプレゼントを買う為である。本当はもっと早く買いたかったのだが、論文コンペの準備で忙しく買う暇がなかったのだ。

 

今日、咲には2人でFLTに行ってくると言ってある。咲は機械をあまり好む人ではないのでFLTに来ることはない。行くの面倒だし、家で本を読んでいると咲は毎回言うので2人で抜け出したい時には最適な嘘であった。

 

 

「お姉様が貰って喜ばれるものは何でしょうかね?」

「深雪が贈るものだったら咲は何でも喜ぶと思うぞ。俺は慎重に考えなければいけないがな…」

「お兄様が贈られるものもお姉様は喜ばれると思いますよ」

 

深雪がそう言ってくれるが、咲へのプレゼントは頭痛の種であった。

咲が深雪のような普通の女の子であれば、アクセサリーなどの無難なものを深雪にアドバイスを貰い、贈れば問題ないだろう。

しかし咲は自分を着飾ることは一切しない。当然、身だしなみには気を使っているがアクセサリーの類いはパーティなど以外でつけていた覚えがない。普段も肌をなるべく見せない服であり、きらびやかな可愛い服より落ち着いた色の服を好む。

なので煌びやかなアクセサリーの類は送るのは怖い。

咲の趣味は読書であるが、それに関するものはもう中学の時点で深雪と2人で全て送り尽くした。

 

何を送ろうかという悩みを抱えてる達也とは対照的に深雪は楽しそうである。

達也と買い物に行くのは深雪にとって、とても楽しいことなのだ。当然、咲もいた方がさらに楽しいことなのだが。

 

達也にとっては深雪と咲の2人を連れてショッピングに行くと、達也が絶世の美女を2人も誑かしてるような疑いと嫉妬が混ざり合った目で見られるので、まだ咲か深雪のどちらか1人の方がマシでもある。

 

 

 

達也と深雪がまず向かったのはブティック。咲に送るプレゼントで、なおかつ深雪のお眼鏡に適うというブティックというのは並みの値段ではない。しかしトーラスシルバーの片割れの達也にとってはたいした金額でもなく、深雪にとっても本家からお金をもらっているので全くもって問題なかった。

 

「これなどお姉様似合わないでしょうか?」

「フリフリが可愛すぎるとか言いそうだな」

 

深雪と咲の身長や体型はほとんど似たり寄ったりなので、深雪と咲が服を買うとき、咲は試着などは自分でせずに深雪に着せて、深雪を着せ替え人形にして楽しんでいる。その姿を見ることで自分が着た場合のイメージをして、買うかどうかを決めている。

最初から自分で着ろよとか思うだろうが、深雪は毎度毎度、姿を見せる度に咲に褒め言葉の嵐を貰い、深雪にとっても楽しいことなのでこの買い方はやめる気が当人たちにはなかった。

 

結局、深雪の服を買っただけでその店を出ることになった。服はやはり当人がいないと好みがわからなくて難しい。

 

結局、ショッピングモールのだいたいの店を回り、2人とも悩みに悩んでプレゼントを買うことができたのは太陽が沈み始める時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

10月28日

今日は論文コンペ前の最終準備で生徒会は目が回るほど大忙しであった。機材の搬送は明日であるが、そのための準備に加え、総警備隊長の十文字先輩や他の学校の生徒会長や警備隊長等と行う警備態勢の最終確認。もちろん学園生活を行うための日常業務を行わなくてはならない。

下校できたのは最終下校時刻すれすれであった。

 

「咲、ちょっと付き合ってくれないか?」

「この時間に?別にいいけどどこに行くのかしら」

 

もう既に日が沈んでいる今日に何か買うものがあるのだろうか。もしかしたら、明後日の論文コンペのための何か必要なものかもしれない。しかし、今日チェックした限りではそんなものはなかった。

 

「深雪は先に帰って夕食の準備をしときます」

「わかった、先に帰っといてくれ」

「え?」

 

てっきり深雪も付いてくるものだと思っていたので、深雪と達也の言葉に引っかかりを覚える。深雪が私たち2人についてこないなんて何かある。達也に頼まれたのだろうか。

 

 

 

深雪と別れた私たちは達也の誘いで喫茶店に入った。

 

「何か話があるのかしら?」

「お前と2人っきりで話したかっただけなんだが」

 

達也がそう真顔で言うのでドキッとしてしまう。いつもとのギャップずるくないですかそれ。

 

「確かに、達也さんと深雪なしで出かけるの3年ぶりぐらいかしらね」

「前は家で窮屈な思いをしてた俺を連れ出してくれたからな」

 

2人で昔のことを思い出し、話しながら喫茶店で時間を過ごす。私もそうだが達也も論文コンペで気を張っていたので少し気分転換できた。しかし、私を連れてきた本当の目的はわからないままであった。

 

そのあと行きつけの小さい本屋で(電子書籍や郵送システムが発達しているので大きな本屋はこの世界にほとんどない)、新刊の本を買い幾分かウィンドウショッピングをしてから帰るとだいぶ遅い時間であった。

 

 

 

玄関を開けると二つのクラッカーのパーンという音がした。

 

「お姉様、お誕生日おめでとうございます」

「おめでとう咲」

 

珍しく笑っている達也と当然笑顔の深雪がクラッカーを鳴らしながらそう言ってくれる。この一週間忙しくて完全に自分の誕生日を忘れていた。リビングからは料理のいい匂いがしている。達也が私を引き止めたのはそのためであったのだろう。

 

「ありがとう。この準備のために達也さんは私を足止めしたのね」

 

たぶんこの計画は、深雪が私をビックリさせたくて計画を立て、達也に話し、達也は子供っぽいと思いながらも断りきれずに行われたのだろう。

 

「お姉様、荷物は部屋まで私が運びますのでどうぞお席についてください」

 

笑顔の私を見て、同じように笑顔を浮かべる深雪は張り切って働き始めた。

私の部屋に荷物を持って行き、食卓に深雪の力作であろう料理やケーキを並べる。深雪はとても楽しそうであった。

 

 

 

3人だけの小さな誕生日パーティはこの3人にしては賑やかな様子で進んだ。ハイテンションの深雪が急に歌い出し、達也が深雪に引きずられたのか手拍子をするなど、私でも初めてみるような光景が一番面白かった。

 

「お姉様、深雪からのプレゼントです」

 

誕生日パーティの締めくくりにまず深雪から誕生日プレゼントが手渡された。包装紙を剥がすと出てきたのはヒマラヤ水晶のブレスレッドであった。ちなみに水晶のアクセサリーは、この世界で魔法師の間でとても好まれるアクセサリーである。

 

もともと水晶には調和と能力を引き出す力があるとされていて、そして魔法が広まったこの世界では、霊力に関わるものを高める効果や想念波の指向性を高める効果がある。

特に神々が宿る霊力の高い特別なスポットと言われているヒマラヤ山脈で採掘されたヒマラヤ水晶は、とても希少価値が高いだけではなく、強い浄化力をもち、霊的能力をさらに上げる効果や運が向上する効果を持つ。

 

これにより、水晶は現代では魔法の補助媒体として現代では価値が認められており、魔法師がアクセサリーの類として好むのは当然であろう。

 

「お姉様はネックレスよりあまり目立たないブレスレッドの方がいいと思ったのですが、どうだったでしょうか」

「ありがとう深雪。とても嬉しいわ。大切にするわね」

 

深雪を撫でながらそう言ってあげるととても深雪は花が咲くように嬉しそうな笑顔を浮かべる。

自分の髪の色は棚に置くが、チャラチャラした金色のアクセサリーより、こういった透明のアクセサリーの方が私は嬉しい。ネックレスもあまり好きでないのでブレスレッドの方がいいのも事実であった。

 

「俺からのプレゼントだ」

 

達也に渡された四角いプレゼントはずっしり重い。包装紙を丁寧に剥がすと、中から出てきたのは装飾が施されたジュエルケースにもなるオルゴールであった。ゼンマイを回し音楽を流すと流れてきた曲はなんとまさかMIRACLE RUSHであった。

 

「咲がよく鼻歌で歌っている曲のオルゴールがたまたまあったんだ」

 

この世界にはやはり咲関連のものがips細胞といい混ざっているのだろう。咲の曲の中で一番MIRACLE RUSHが好きな私はとても嬉しかった。

 

達也にお礼を言った次の瞬間、遅い時間にもかかわらずインターホンが鳴る。誰かと思いみると相手は四葉の家のものであった。

深雪と達也が出ることになり、2人が玄関に向かうとTV電話が鳴る。相手は母だ。

 

「こんばんは、咲さん。お誕生日おめでとう」

「ありがとうございますお母様」

 

達也と深雪がいるので、普通の状態の母が話しかけてくる。玄関から戻ってきた深雪と達也は私が母と電話しているのを見て顔を引き締める。

 

「ご無沙汰しています。叔母様」

「お久しぶりです叔母上」

「2人とも久しぶりね、そんなに固くならなくてもいいわよ。深雪さん、咲さんにその小包渡してもらえないかしら」

 

深雪から先ほど玄関で貰ってきた小包を受け取る。開けてみると一冊の本であった。タイトルをみた私は

 

「こ、これをどこで?」

 

と声を震わせながら質問する。送られてきた本はいぜん、私が読んだ本の下巻である。上巻がとても面白く続きを楽しみにしていたのだが作者が失踪してしまい、下巻が発売されなかったのだ。

 

「四葉の情報網を総動員して残っていた原稿を探し出したのよ。その作者は佐渡侵攻の時に亡くなってるらしいわ」

 

だから下巻が発売されなかったのか。私はその作者の冥福を祈る。

 

「ありがとうございます。初めて四葉でよかったと思いました」

「咲さん。感謝してるならお母様大好きと3回いい」

 

母が最後まで言い終わらなかったのは私が電話を切ったからだ。達也と深雪は苦笑いを浮かべている。

嬉しいのは事実であるが、面倒くさかったのでぶちぎった。まあお礼も言ったし問題ないであろう。

 

 

 

 

 

 

 

美月が吉田君に胸を揉まれる事件やもう1人一高内に内通者がいたとか中国の人喰い虎の呂が真由美と達也と摩利に撃退されたなど色々な出来事があったがようやく論文コンペ当日となった。

 

私は生徒会長であるので他校の発表を見なくてはいけない。風紀委員会で外回りして声を掛けられるよりマシであるが、私では理解できないので船Qの神依してデータ保存しといて末原に後で理解させようと思っていた。

 

寝ることなく他校のプレゼンを聞き審査していると、休憩中塩釜先輩から連絡が来た。緊急の要件らしく昼会えないかとのことだ。

 

昼、塩釜先輩と合流すると聞かされたのは呂を乗せた護衛者が襲われ呂が逃げ出したとのことだ。明らかにこれはこの会場が襲われる流れである。

私は神依して、未来視を使った。やはり予想通りだ。私は達也と深雪を探す。達也と深雪は控え室にいたので助かった。

 

「達也さん!」

「どうした咲、そんなに慌てて」

 

私は未来で見たことを伝えた。

 

「そうか、一高のプレゼンが終わった後の15:37にテロリストが入ってくるんだな。入ってくる前に遠隔魔法で潰すか?」

「一応未来通りに動けば私たちの身近な人は死なないからそこで潰すのはやめた方がいいわ、未来が変わる可能性がある」

 

怜の複数の未来が見える能力は、現在何か行動を起こさないと見えないのが使いにくい。もし未来でテロリストを入ってくる前に潰した場合、怜の一発ツモがずらされたように未来が変わる可能性があるのだ。

 

「じゃあ会場まで突入させて俺が気をひくから咲が排除。その後正面玄関の敵を俺が排除して、お前は地下道でゲリラを対処しながら生徒を避難させるって感じか」

 

「そうね、それが一番だわ。だけど見えたのはこの会場の近くの半径1キロぐらいでそれの外がどうなってるかわからないわ、さっき言った作戦が終わったあとは各々で動く感じでいきましょう、深雪は達也さんについて行きなさい」

 

「わかりましたお姉様」

 

言われなくてもそうするだろうが一応言っておく。生徒会長でなかったらもっと自由に動けたのにと思ったが言っても仕方のないことであった。

 

 

 

 

一高の発表が終わり15:30となった時、管制ビルに自爆車両が突っ込んだことから、ついにその時が始まる。人類史の転換点と評される「灼熱のハロウィン」。その発端となった「横浜事変」が。

 

 

 




ブレスレッドとオルゴールのプレゼントには意味があるので調べてみると面白いと思います


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第43局[避難]

1日1回投稿と言ったな。あれは嘘だ。

ほとんどここからオリジナルです。



15時37分、突如会場内に爆音と振動が響き渡った。見ると聴衆は何が起こったのかわからず、どう行動をするか決めかねているようだ。私から話を聞いている達也と深雪はすぐに合流している。

精霊で外の様子を見ると、やはり未来視通りテロリストは対魔法師用のハイパワーライフルを使い警備員を蹴散らしていた。

その様子を見ていると、会場に荒々しい靴音と共にライフルを持った集団が雪崩れ込んできた。合わせて30人ほどか。

 

三高の生徒がステージで魔法を発動しようとするとステージの後ろの壁に銃弾が食い込んだ。その銃弾は壁にクレーターのような痕を作っている。すごい威力だ。

 

早く達也が視線引きつけてくれないかなあと思っていると通路に立った達也に敵が目を向けた。CADを置けと言われ達也は無視する。達也に観察されているテロリストは達也のことを不気味に思ったのか、仲間の制止も聞かず、銃声を轟かせ達也に弾丸を放った。

 

「は?」

 

思わず私も驚いてしまい神依の準備が遅れる。達也は銃弾を素手で掴み取っていた。銃弾を切るキャラならたくさんいるが、銃弾を掴むキャラなんてラノベでも1人しか知らない。そのキャラは普通の人間のくせに、死んでも自力で生き返ったり、マッハ8の体当たりしたりするので、なんでもありなような気がしていたが、目の前でそれと似たようなことをやられると驚くのであった。

達也はその後、何度も銃弾を掴むような仕草をしたので、銃弾を手のひらで分解しているということがわかったが、それの分析をしていたせいで神依が遅れる。そんなことをしていると達也に早くしろという目でちらっと見られる。本当に申し訳ない。

 

使ったのは塞の神依。汎用性が高く対人ではとても使いやすい。私はテロリスト全員の呼吸と行動を塞ぎ、会場のテロリストを沈黙させた。

 

その後、達也達は正面玄関の制圧、私は生徒会長としての責務を果たすため一高の生徒の避難をすることとなっている。

 

しかし会場全体が先ほどの襲撃で浮き出しだっていて、避難できる様子ではない。私は会場全体の感情をリセットするために会場の人間全員の思考を一瞬塞ぎ、すぐ解除した。その後、話し始める。

 

「私は一高生徒会長四葉咲です」

 

思考を一瞬封じられ、忘我していた観客は私の声に惹きつけられる。

 

「現在この街は侵略を受けていてすばらな状況ではありません。しかしこの会場はすばらなことに駅のシェルターに繋がっています。外はも危険ではありますが、一番すばらじゃないのはこの会場に留まり続けることです。シェルターへ避難するなり、この区域から脱出するにしろ各校の代表は生徒を集め行動を開始してください!」

 

私の言葉を聞いた人たちは立ち直ったようで各々行動を始めた。

 

 

 

 

 

あずさは地下通路の先頭でゲリラを次々と葬る咲に目を見張っていた。

なぜ真由美達と一緒ではなくここにいるかというと咲についてきてほしいと頼まれたからだ。咲は一般市民とゲリラの違いがわかるようで、ゲリラ達は咲が魔法を使うと一瞬で意識がなくなる。咲は何か気絶させる魔法を使っているようだ。そして私たち一高の身の回りには何か見たことがない防壁魔法のようなものが展開されていた。

 

 

 

すばら…ではなく花田煌

原作ではオリハルコンメンタルと飛ばない(箱にならない)という能力を見せつけた。咲がこの世界に直した場合、まず自分の何か話した言葉を聞いた人は心が折れにくくなる。すばら先輩のメンタルを少し分け与えるようなものだ。これは前半南1局三本場からイメージした。

そしてもう1つは指定した身近な人たちを殺させない(飛ばさせない)という能力である。達也が深雪を守っている魔法のようなものを一時的に他の人に付与し、他の人の身を守るというものである。

 

今回はまず会場を励ましメンタルを分け与えるためにすばら先輩の神依で演説し、通路ではもう1つの能力で一高生徒を殺させないように守っているのであった。

 

 

 

咲がシェルターと交渉している時、地下通路の崩落があったが、咲の展開している防壁のようなもので守ってもらったので、死者も負傷者もなしにあずさ達一高生徒はシェルターにつくことができた。

 

「中条先輩、私はテロリストを殲滅してくるのであとのことはよろしくお願いします」

 

咲は一高生徒の面倒を見てもらうために副会長のあずさを連れてきたのだ。

 

「危ないですよ咲さん…」

「私は四葉です。便宜を受ける代わりにこういうときには働かなくてはいけない、それが十師族です」

「でも出口ないですよ?外に出る場所は敵が待ち伏せているでしょうし」

 

先ほどきた道は既に崩落して塞がれている。咲は少し悩んだ様子を見せるが急に顔を明るくし私の方に向かい元気よく言う。

 

「お任せあれ!」

 

咲は崩落現場をもう一度見て5秒ぐらい力を溜めそこら一帯の瓦礫や地面をまるまる吹っ飛ばした。どちらがテロリストかわからない。

 

「中条先輩、すみませんがよろしくお願いします」

 

そのまま咲は達也が開発した羽を生やす方の飛行魔法で飛び去った。

 

 

 

 

 

 

 

駅前で救助を待つ真由美達は異変に気付いた。さっきまで空は快晴であったのに、今現在は暗雲が立ち込め空は雷鳴が轟いている。

 

「何あれ…」

「蛇?」

 

蛇のような尾が雲の隙間から出てきている。しかもそれは複数いるようだ。

 

「あれは…」

「ドラゴン!?」

 

そう、雲から現れたのはドラゴン。正確に言えば東洋のよく神話に出てくる長い尾を持つ竜。それも8匹である。

 

幹比古はあり得ないものを見る目でその光景を見ていた。なぜなら幹比古のスランプの原因は、青龍を呼び出そうとして失敗したからであるからだ。青龍1匹出すのにもそんなに苦労する。8匹同時に呼び出すなんて一生かかっても無理であろう。

 

竜達は初め、各々自由に空を飛んでいたが急に一箇所に集まり首を下げている。真由美達はいきなりどうしたのかと思っていたがすぐ明らかになった。

 

「あれは…咲さん!?」

 

真由美の叫びで全員気づいた。ドラゴンの頭の先にいるのは金色の羽を生やして浮かんでいる咲であったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




持ちネタずるか…


お気に入り登録1000もありがとうございます。想像以上のたくさんの人に読んでもらえて嬉しい限りです。



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第44局[青龍]

今日で最初に投稿してから1ヶ月経つのか…


三高生徒を送り出し、義勇軍に加わった一条将輝は空の変わり具合に困惑していた。狭い範囲に雪を降らす魔法なら知っていたが、こんな大規模に天気を変える魔法は知らなかったからである。

さらに次の光景を見た将輝は開いた口が塞がらなかった。

 

「竜だと…!?」

 

神話上にしか出てこない竜が8匹も空を飛び回っているからだ。魔法師相手なら自信があったがあんな化け物に勝てるわけない。しかし幸い戦う必要はなかった。ある人がその竜たちを従えたからだ。

 

「咲さん…」

 

竜を従えた相手は自分の婚約者候補の咲であったからだ。

 

 

 

 

 

独立魔法大隊に出勤を命じられ自分が設計したムーバル・スーツに着替えた達也は突然の天気の変わりように天を見上げた。精霊の目で見てみるとそこにいたのは8匹の竜であった。確か竜を召喚する術式はあったはずだが、この短期間で竜を8匹召喚できるとは考えられなかった。敵にそんな高度な魔法師がいるのか。詳しく目で見ると竜のサイオンは咲のサイオンに似ていた。

 

「特尉。あの竜を知っているか」

「いえ、しかしサイオンを見たところ咲に似ています」

「四葉咲か」

 

同じく空を見上げている風間に質問され分かったことを返す。自由に飛んでいた竜は突然綺麗に並んだ。そこに現れたのはやはり咲であった。何か新しい神で竜を従えているのだろう。神が竜を従えるなどありそうなことだ。咲は何かやるようなそぶりを見せ、1匹を手元に残し残り7匹を散開させた。どうやら7匹の竜を使い敵を押し返すつもりらしい。

 

「独立魔法大隊はあの竜を援護する。展開しあの竜とともに敵を殲滅しろ」

 

そう風間が命令を出し、達也は1匹の竜の応援に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

私は久しぶりに竜を使役できるこの力を発動できたことが嬉しかった。

 

松実玄

阿知賀二年の先鋒であり能力はドラの支配。彼女は昔からドラを大切にすることによりドラが集まるようになったのだ。

この世界に置き換えるとドラゴンを支配する力となる。ドラの由来はドラゴンであるからだ。竜が8匹なのは咲原作のルールは赤ドラ4枚とドラ4枚、合計ドラが8枚であるので8匹を使役できるということになる。

しかしデメリットもある。大きな魔法しか使えなくなったり、魔法発動が遅くなるというのもあるが実はあまり問題ではない。

何が一番問題かというとそれは竜1匹がやられてしまうと私はこの神依の力を失ってしまうのだ。失ってしまうと戻ることはなく、二度と使えない。原作ではドラをきっても決まった局数うつことで能力は戻ったのだが、ドラゴンの支配という強力無比な力であるのでこの世界では誓約も強かった。

この理由から実践では、今まで私はこの能力は使えずにいた。

 

 

しかしある神依を合わせると今回の状況だと使えるようになる。

 

 

郝慧宇

臨海女子の一年であり麻雀のU-15のアジア大会で銀メダルの実力を持つ。中国麻雀では無敗であったのだが慣れないアジア大会のルールで負けてしまい、そのルールに似ている日本のインターハイで勉強しにきたのだ。打ち筋は中国の麻雀役を駆使し、リーチも使わない。見たこともない打ち筋に、準決勝ではまこはボコボコにされたのであった。

これをこの世界に置き換えると能力は3つになる。

1つ目は大亜連合の魔法を使えるようになるという能力だ。これは便利で九校戦の遅延術式はこれを使った。

2つ目はCADがいらなくなるという能力。麻雀の中の一番重要な役はリーチだと私は思っているので、魔法で一番重要視されてるCADをリーチに置き換えたのだ。

3つ目は中国麻雀が無敗だったので"大亜連合には負けない"というチート能力。原作でもガイトさんネリーダヴァンたちを中国麻雀でボコボコにしていたのでイメージが簡単であった。

 

 

私は敵が大亜連合と分かったので、3つ目の力を竜に与え使役しているのであった。竜たちには味方を助け、敵を蹴散らせとだけ命令してある。1匹残したのは自分で動かすためだ。

私は天空から地上を俯瞰しながら次やるべきことについて考えた。

 

 

 

 

 

「深雪さん、咲さんのあの力知っていますか?」

「ごめんなさい吉田君、私はお姉様の力を全て知っているわけじゃないの。私も竜なんて初めて見るわ」

 

深雪が申し訳なさそうに謝る。深雪も空の先を見て何か思うところがあるようだ。

 

「深雪、ミキ、直立戦車2台くるよ!」

 

エリカの声にレオも含めた4人が戦闘態勢に戻るが、戦いを始めるその前に直立戦車が無力化された。

咲の竜の1匹が放った炎と雷撃で直立戦車を一瞬で灰にしてしまったのだ。その竜は飛び去り別の場所に向かう。

 

 

「ちょっと咲…これ」

「さすがにチートすぎるだろ…」

 

こんな竜が8匹もいるのだ。深雪を含めたここにいる4人の意見は当然一致した。

 

 

 

 

 

竜が現れたことにより押され気味であった戦線は息を吹き返した。

突然現れた竜が、義勇軍ではどうすることもできなかった化生体を次々と破壊し、戦線を押し上げてくれる。まるで神が自分たちの味方してくれ、竜を寄越してくれたような光景である。士気があがらない訳がない。逆に相手の士気は竜の出現により下がったのであろう。

どんどん義勇軍が戦線を押し上げていった。

 

 

 

 

 

 

北山家の救助のための輸送ヘリが着陸しようと高度を落としている時それは起こった。

突如として飛来したのはまたしても暗い雲。しかしそれは黒い雲ではなく蝗の大群であった。雫はフォノンメーザーを発動するが数が多い。全てを焼き殺すには至らなかった。

蝗の群れがヘリに取り付くと見えたその時。

 

滅びの炎が蝗の群れを薙いだ。

 

その炎を使ったのはヘリと逆の方向から来た咲が上に乗った竜であった。

 

「お任せあれ!」

 

そういい残し咲は上空を警戒するように竜を使い旋回している。

避難のためにシェルターから出て来た人たちは咲の竜に驚いていた。当然の反応であろう。

 

 

 

 

北山家のヘリが一般市民を乗せた後、七草家のヘリが到着し真由美たちと警戒部隊を回収した。ヘリの中ではやはり咲の力についての話題になった。

 

「深雪、聞いていい?咲のあれはなんなの?」

「千代田さん、人の魔法能力を聞くのはマナー違反よ」

「大丈夫です、みなさんにならお話してもいいと思います。守秘義務は別にありませんがお姉様は仰々しく言われるのがあまりお好きではないので、この件についてはなるべくオフレコでお願いします」

 

花音が深雪に聞き、それを真由美がたしなめるが、深雪は別に禁止されていることではないので話すことにした。

 

「お姉様は実は多重人格者ではありません。本当の能力名は「神依」、神を纏いその力を使役する能力です」

 

深雪が話した事実に真由美以外はもう何度目かわからない驚愕を示した。

 

「え…じゃあさっきの咲も神を纏ってるってこと?」

「そういうことになります」

「確かにあの魔法力や急な得意魔法の変化などはそう言われると納得がいくな…」

 

摩利は納得した。確かに神の力を纏っていると言われれば納得がいく場面が多い。

 

「じゃあ深雪、咲って神の力で何でもかんでもできるわけ?」

「違うわエリカ、お姉様の神依は神ごとに力が決まっておりお姉様はそれを選んで使っているだけ。神の力はもともと決まっているから何でもかんでもはできないそうよ」

 

深雪はエリカの間違いを訂正する

 

「じゃあ今の咲さんは竜を使役する神なのかしら?」

「そうだと考えられます。正確な能力はお姉様に聞かないとわからないですが」

 

ヘリの外で竜に乗っている咲を深雪は見ながら言った。その当人の咲は何かを感じ取ったようで、急に進路を変え魔法協会の方に向かった。

 

そうは言っても深雪は姉が心配であった。姉の力は絶対であり神の力を持つが人間である。人間である以上死は免れない。姉も自分の力には弱点があるといつも言っていた。深雪はそれを突いていつも姉に勝利しているので今回もそれが突かれない保証はない。

 

誰もが咲の神の力のことについて考えている時、美月が驚きの声をあげた。

 

「美月どうしたの?」

「えっと、魔法協会の辺りで猛獣のようなオーラが見えた気がして」

 

姉は何か気づいたように魔法協会に向かった。多分同じものを感じ取ったのであろう。呪符でみた幹比古はそれが敵襲であることを皆に伝える。

 

「咲さんが向かっていますが相手の呪力も大きいです。戻りましょう」

 

真由美達は魔法協会に戻ることとなった。

 

 

 

 

 

私はやっとまともな勝負になる相手を見つけて歓喜していた。私の前に立つのは呂鋼虎。

 

 

呂が身につけている装備は白虎甲。私は青竜に乗っている。

私は竜を使って雷を放ったのを合図に

青龍vs白虎の戦いが始まる。

 

 




玄ちゃんが強く見えるぞ。


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第45局[白虎]

横浜騒乱編オーラス



呂が身につけている白虎甲は彼の鋼気功を増幅するものである。鋼気功は空気の層を身に纏う魔法であり、相手の攻撃を弾く性能を持つ。それに加え、実はこの装備は四神白虎の加護を得ており普通の装備よりはるかに性能が高く、この装備を身につけている今こそが彼の本気であった。彼の前には竜に乗った小娘1人。この計画の最大の障害になると予測されていた四葉咲であった。

 

彼女は竜を使い雷を放ってきたが、白虎甲を身につけている彼には効かない。なぜならば青龍は春、白虎は秋をそれぞれ司る四神であり論文コンペの今は秋。白虎の力が強くなっており青龍の力は弱まっているからだ。

それに加え相性も良くない。青龍の五行は木、白虎の五行は金。五行相克説により金は木に強いと言われている。

青龍では白虎に相性が悪いのだ。

 

咲はそれを思い出したのだろう。玄の神依を解除し、竜を消した。その間に呂が咲に迫る。咲は呂と同じように鋼気功を発動し、身を守るが彼の攻撃は続く。咲は術式解体を放ち、呂の移動魔法を解除しながら後ろに飛び去るが、それを見切っていた呂は移動魔法無しでそれに追撃する。しかし呂は咲の方ではなく咲とは逆の方に飛んでいた。彼のボスが得意にしていた魔法「鬼門遁甲」を咲が使ったからである。

 

鬼門遁甲で時間を稼いだ咲は爽を神依し、赤い雲を発動する。

 

爽の能力の元ネタであろう五色雲による世界の構築によると、赤い雲は金銀珠玉の宝物を作り出したと言われている。爽はその能力を使い相手に金、つまり数牌を集めた結果、自分は字牌を集めることになり大三元を聴牌していた。その能力を置き変えると金銀珠玉に関わるものを自由に操れる能力となった。

 

今回の場合だと金、つまり白虎の力を咲は呂から自分に移した。呂は自分の白虎甲の効果が消えたとわかったが引くわけにもいかず振り返りそのまま咲に接近する。

 

咲は防御魔法を剥がした呂に対して、爽のカムイであるアッコロカムイを発動する。アッコロカムイは咲原作でも伝承でも赤く染め上げる能力であり、それをこの世界に置き換えても当然赤く染め上げることになる。相手の血でだ。

 

そこにいたのは体中血まみれの格好でその場を静かに見ている咲であった。

 

先ほどまで咲と戦っていた呂は肉片となり咲と咲の周りは呂の血で赤く染め上がっていた。その様子は爽が赤い海水でずぶ濡れになって帰ってきた状態と皮肉にも酷似していた。

 

 

 

 

陳祥山は魔法協会支部へと通じる廊下を1人で進んでいた。内部に侵入しデータの入手を行うためだ。しかし思ったより広くてなかなか目的につかない。陳祥山は鬼門遁甲を発動していた。鬼門遁甲は方位を操り、人々の意識を誘導したり、相手を目標に辿り着かせなくしたりできる大亜連合の秘術である。

協会が広くてなかなか目的の場所につかなかった陳はだんだんイライラしてきた。

 

「人は鬼門遁甲かけている時、また鬼門遁甲をかけられているのよ」

 

振り返るとそこには、血を身にまとい死神のようなオーラをした最重要注意人物の四葉咲がいた。

 

「なぜ鬼門遁甲が効いていない…」

「私の目を舐めて貰っては困るわよ、見えないことになってる貴方なんてお見通し。あと知らないようだけど相手の鬼門遁甲が発動してるのが見えるのなら、鬼門遁甲は後出しした方が強いのよ」

 

咲は眼鏡をかけていないので忘れがちだが、美月と同じような目を持っている。なので咲に対しては鬼門遁甲が効かないのである。なので咲は呂を倒した後、陳祥山に鬼門遁甲を逆に掛け返し、データを盗み出される前に追いついたのである。

 

「じゃあおやすみなさい、続きは夢の中で」

 

本当は殺したかったがもういいカムイは残ってなかったので、咲は淫乱の神パウチカムイで陳祥山に意識が飛ぶほどの快感を与え失神させた。

 

 

 

 

「咲さんが奇襲部隊全滅させました」

 

急いで魔法協会に向かっている同じくヘリの中にいる真由美達に呪符で見たことを幹比古は伝える。

 

「全く咲は…一体なんなんだよ」

「やりたい放題じゃない…」

 

摩利とエリカの意見が珍しく一致した。

 

「お姉様…」

 

姉は無理していないだろうかと深雪は心配している。固有能力の強い神を短い間に連続で変えて使うと、天照大神と違う感じで意識が引っ張られると姉は言っていた。天照大神の時のように1日だけならいいが、もし姉が今の優しい姉の人格でなくなってしまった時のことを考えると深雪は胸が潰されるような思いであった。

 

 

 

 

 

協会のものに陳祥山を引き渡した後、私は神依を解除し、今協会の廊下の壁にもたれかかって座っている。流石に今回はきつかった。続け様に神依を変える行為は疲労が溜まる。2+2の4人までなら問題ないのだが、5人目になると体力の削られ方が段違いになる。もしかしたら麻雀は4人で卓を囲むからかもしれない。

 

私は目を閉じ軽く一眠りしていると、誰かが近づいてくる人の気配がし、目を開ける。

 

「こんなところで寝ていると風邪をひくぞ」

そう話しかけてきた老人は異相の持ち主であった。頭はつるりとそりあげられ僧形であるが着ている服はブランド物の高級スーツだ。

筋肉が落ちているが肩幅は広く、若い時は十文字先輩のようにごっつい人であったのだろう。そして灰色の太い眉にどんぐり目。風格ある顔立ちである

 

「お気遣いありがとうございます」

 

そして、一番異様なのは白く濁った左目。小説やアニメなどでもオッドアイは強いのは鉄板である。実際キャップも強い。私は警戒レベルを引き上げる。

 

「そんなに警戒するのはよせ。私は四葉のスポンサーだ」

「スポンサー…ですか。それは失礼しました」

 

スポンサーということは四葉に資金援助しているということだろうか。私を四葉と知っていることにも一瞬驚いたが、九校戦でTV中継もされていて一般人でも知っているし、スポンサーが知らないわけないかと思い直した。

 

「それでスポンサー様が私に何の御用でしょうか?」

「いや、特に用はない。ただ作品の一つを見に来た帰りにたまたまお主と会ったにすぎん」

 

作品?作品とは何であろう。

 

「今日の働きご苦労であった。大陸の軍が跳梁跋扈するのをよく防いでくれた。レンガの一つでもいるか?」

「そんな大金は高校生である私には身の丈にあっていませんので」

 

レンガとは1千万円の隠語である。確か、座布団が1億なはずだ。

ここで金を貰ってしまうと何をやらされるかわからないので、断っておく。別にお金には困っていないし。

 

「それならまた別の機会にするとするか。これにて失礼する。また会う機会があるだろう」

 

長い付き合いになるこの老人とのこれが最初の出会いであった。

 

 

 

 

 

 

翌日

母との通話を終えソファーに身を埋めた。玄の力を使ったことは母に怒られてしまった。確かにあの能力はわかりやすいからなぁ。

 

達也は軍の仕事で対馬に行っている。深雪は少し寂しそうだ。少し震えてるのを見ると人を殺してしまったことに少し後悔してるのかもしれない。

達也の代わりに深雪の震えが止まるように抱きしめてあげる。抱きしめると深雪は私の胸の中で泣き始めた

 

「お姉様、どこにも行かないでください」

 

私の懸念は外れていた。深雪は私が何処か遠くに行くように感じたので震えているのであった。

 

「深雪を置いては行かないわ、だって私は深雪のお姉さんだもの」

 

私はこう言い深雪を強く抱きしめた。




爽の能力は自分の考察も入っているので赤い雲に関してはあってるかどうか分かりませんが、この物語はこれでいきます。
パウチカムイは女の子に打ちたかったなあ…快感を感じる大の男なんてどこにも需要ない…

次回からは追憶飛ばして来訪者編です、追憶編は来訪者編の後あたりにやります


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来訪者編
第46局[類似]


来訪者編です、横浜騒乱と違い丁寧にやっていきたいと思います。


西暦2095年も残り1ヶ月。

 

残り1ヶ月しかないと思うかまだ1ヶ月もあると思うか人それぞれであったが咲達はまだ1ヶ月もあるの方であった。

 

「何言ってるか意味訳わかんねえ!」

「うるさい、叫ぶな!」

「なんでこれは無理と言われてるのかしら。……ほらイメージしたらできるじゃない」

「咲意味わかんない」

 

前世もこの世界も共通の天敵、定期試験が近づいているからである。

いつものメンバー9人が集まっているのは雫の屋敷である。集まっているのは勉強会のためであった。

勉強会と言っても筆記試験はレオ以外成績優秀者、レオも普通なだけで基礎魔法理論の科目だけにおいては私がダンラスの順位であった。

 

「咲さんはなんで基礎魔法理論だけできないのですか?」

「私にとっては魔法はイメージなのよ。イメージ出来なければ出来ないし、イメージ出来たら固有魔法のような特殊な例外以外は基本出来るわ。だから基礎魔法理論は苦手なの」

「精霊魔法を一生かかっても出来るかどうかわからないレベルまで、週2のペースで3ヶ月修行するだけで出来るようになった咲さんが言うと説得力あるよ…」

 

時々奇声が上がったり私が呆れられたりすることがあるが、和やかなお茶会であった。雫がある話題を投下するまでは。

 

「え?雫、もう一度お願い」

「実はUSNAに留学することになった」

 

聞き返したほのかに雫が同じ調子で返す。雫は成績優良者だ。前の世界では優れた生徒はハーバードやマサチューセッツ大などに留学するなどよくあった話だ。流石雫と思っていると達也達は驚いていた。

 

そういえばこの世界は戦争中であり、魔法師の遺伝子の流出を避けるために魔法師は海外渡航を実質禁止していたということを思い出す。

雫は3ヶ月の交換留学だから許されたと言っていたのでそれなら許されそうだと思ったが、達也の顔には何か裏があるだろうと考えているのが見える。難しいことは神依をしないとさっぱりなので、この件は達也に任せることにした。

 

 

 

 

 

数日後、雫の送別会をしたあと、家でその話題が出た。深雪も不審に思っているようだ。私も不審に思っている振りをしておこう。

 

「俺のマテリアルバーストと咲の神依。やはり放って置けないのだろうな」

「そうですか。お兄様もそうお考えなのですね」

「留学生が来ると言うだけならともかく、この前咲の元にきた叔母上の忠告を合わせれば偶然と考えるのは咲ぐらいだろう」

 

げっ、バレてた。池田も部長と咲の牌譜見てたまたまだし。と不審に思うことなく言っていたので、もしかして私の知能は池田レベルなのかもしれない。

 

「まあ何かあってもどうにかしてくれるだろう。咲が」

「そうですね、相手が誰であれ正面から叩き潰しそうですよね。お姉様が」

「他人頼みは良くないわよ2人とも」

 

2人してニヤリと笑ってこちらを見てくるので、ため息をつきながら答えた。

 

 

 

 

 

 

 

アンジーシリウスことアンジェリーナシリウス少佐は同朋の処刑を終え、自室に戻りしばらくすると部屋にカノープス少佐が訪れてきた。どうやら特殊任務の見送りにきたらしい。

カノープスは因果な任務は忘れて羽を伸ばしてきてくださいと言っていたが、その言葉を言われた少女は唇を尖らせた。

シリウス少佐は年が変わると開始される特別任務が憂鬱であったのだ。

 

1つ目は容疑者が戦略級魔法師かどうか探り出せというものだ。担当する容疑者は四葉咲、四葉達也、四葉深雪であり、全員あの四葉である。四葉はすでに1人戦略級魔法師がおり、可能性は十分高いと情報部から言われている。たぶんこれだけでも羽を伸ばせる状況ではない。

2つ目は情報部が人工衛星で観測した特殊な能力を持つ容疑者の1人四葉咲の監視である。もしUSNAに対して脅威となるならば、拉致や暗殺も許されている。

四葉は親族を殺されたことにより大亜連合の前の国を滅ぼしアンタッチャブルと言われている。さらにその力が伸び、今は同盟国だが日本と敵対するようになる前に早いとこ芽を摘もうということなのだろう。もし暗殺や拉致が成功した場合、全員即刻引き上げ四葉と一戦を構えることになっている。

 

これらの理由から諜報力より戦闘力が重要視され戦略級魔法師の1人でもあり、スターズの総隊長のシリウス少佐が日本に乗り込むことになったのだ。慣れない諜報活動をさせられるのは不服なのだろう。

 

笑顔でいってらっしゃいと見送るカノープスに、少女は笑顔を無理やり作って答礼した。

 

 

 

 

 

 

西暦2096年の元旦を深雪と達也はいつも通り"2人"で迎えた。なぜ咲がいないかというと毎年咲は本家に神儀を行いに帰省しているからである。

2人は皆と待ち合わせしている場所に向かう。

 

「わっ、深雪さん綺麗ですね!」

「ありがとう美月」

 

達也と深雪を出迎えた第一声がこれであった。深雪と同じ振袖姿のほのかは少し深雪の姿に圧倒されたようだ。

 

「達也もあけましておめでとう」

「よく似合ってるぜ達也、どこの若頭なんだって貫禄だ」

「俺はヤクザではないぞ」

 

達也の貫禄は確かに10代のものではなかった。実際四葉は魔法界の公的ヤクザみたいなものなのだが、誰も達也の言葉を否定する人はいなかった

 

「というか幹比古とエリカよく来れたな」

「四葉の名出したらそんなの一発よ、咲に婚約を申し込んでる千葉家としても達也君達と仲良くしときたいんでしょ」

「僕の方もそんな感じ。肝心の咲さんはいないけど」

 

ここにはいないが咲の力のおかげのようだ。

 

 

 

そんな話をしながら拝殿前の中庭に入ると不意に視線を感じた。ジロジロと見る視線ではなくチラチラと窺い見るような視線。

その相手は金髪碧眼の若い女性であった。

 

「お兄様何をご覧になっていらっしゃるのですか?」

 

達也がその女性を観察したのは1秒未満であったのに深雪はそれに気づいた。咲は当然気づかないだろうが、深雪は達也の視線に敏感なのだ。

兄の視線をたどり対象を発見した深雪は、怒ったような不思議なものを見るような目で見る。

 

「いくらお姉様に似ていて綺麗だからって見とれていたら、お姉様が嫉妬なさいますよ」

 

そう、その女の子はどこか咲に似ていたのだ。同じく金髪ロングで綺麗で美人であるだけではなく、もっとこう脳筋のような雰囲気が…。

 

「まあ咲があの格好するわけがないがな」

 

彼女が着ていたファッションは戦前のギャル系ファッションを適当に混ぜ合わせたような姿。咲は派手な服装はあまり好まず落ち着いた露出の少ない服を好むので、咲のあんな姿を一生見ることは出来ないだろう。

 

「そうですね、ですがそれだけではないですよね?」

 

そんな上部だけのことで達也が気にかけないことを知っている。

それを察知したのかもしれない。少女は達也達の方へ歩み始め、何も言わずすれ違い長い階段へ去っていく。

すれ違いざまに意味ありげな目を向けてきたのは目の錯覚ではないはずだ。

 

 

 

 

 

 

シリウス少佐は容疑者とファーストコンタクトを終え生活拠点となるマンションのドアを開ける

 

「ハローディア(おかえりなさい)、リーナ」

 

同居人はまだ帰っていないと思っていたが予想に反して中から声がした。リーナとはシリウス少佐の私的な愛称である。

 

「ただいま、シルヴィ。容疑者のファーストコンタクトは上々、ただ四葉咲はいなかったわ」

 

シルヴィは私の言葉を聞いていないようでただ棒立ちであった。何か呆れたような目で見ている気もする。

 

「シルヴィ?」

「リーナ…なんですかそのファッション…」

 

目立たないようにするためにいろいろ大変だったが、過去一世紀の日本のファッションを調べたということを述べる。シルヴィはこめかみをおさえていた。

 

「リーナそのファッションはアウトオブデート(時代遅れ)です。私がトレンドなファッションを今日1日ティチャーしましょう」

 

リーナは一日中苦手なファッションの話を聞くこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シルヴィの喋り方を戒能プロみたいにしたけど、どちらかというとこれルー大柴だな…

金髪ロング脳筋の咲+ポンコツ=リーナ


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第47局[神儀]

オリジナル展開です。解説は書いてありますけど流し読みでも大丈夫です。


2096年元旦。

私は朝から目が回りそうになるぐらい忙しかった。毎年のことなのだがこの後慶春会が行われ、それが終わると夜には歳旦の儀、通称神儀が行われる。

そのこともあり私は和風着せ替え人形のような扱いを受け、白粉を塗りたくられる。

1時間ほどいじくりまわされ、解放された時には帰りたいと100回ほど既に思っていた

 

「お姉様、あけましておめでとうございます」

「みなも、あけましておめでとう」

 

控え室で新年初めてのあいさつをみなもと交わす。一応みなもはいつもはあんな感じだがちゃんとした言葉遣いもできるのだ。

 

「お姉ちゃん、やっぱり綺麗すぎるよ…」

「金髪と和服は毎度似合わないと思うんだけどそうかしら?」

 

すぐにみなもの口ぶりは戻り、たわいもない会話をしているとそこに新たな姉弟が合流する。

 

「咲お姉さま、みなもさん、あけましておめでとうございます」

「咲さん、みなもさん、あけましておめでとうございます」

 

私の再従兄弟の黒羽姉弟の亜夜子と文弥だ。

 

「亜夜子さん、文弥君、あけましておめでとうございます」

 

みなもも同じように私と挨拶する

 

「うわあ…」

 

感嘆の声をあげたのは文弥であった。

 

「咲さん、すごくお綺麗です」

「呆れた。そのままじゃない、しかも毎年のことでしょ」

 

亜夜子は深雪とみなもをライバル視しているが私のことは尊敬してる節がある。深雪みなも亜夜子の三竦みの上に私がいる構図となっているのであった。

 

その後、津久葉家の夕歌さんや新発田家の勝成さんと新年の挨拶を交わしていると、そこに控えめな振袖を着た家政婦が彼らを呼びに来た。

 

「失礼致します。皆様の慶春会への案内役を仰せつかまりました桜井水波と申します」

 

案内役は夏休み本家にいた時にあった水波のようだ。表立って顔にでることはないが少し緊張していた。それもそのはず、この会の入場はよく言えば伝統を重んじてる、悪く言えば頭がおかしいと思うところがあるのでそれが恥ずかしいのだろう。

 

次々と入場していき、最後は私とみなもが残っていた。

 

「咲様、みなも様、ご案内いたします」

 

少し疲れているようだった。早く終わらせてあげるのがいいだろう。

 

「ご当主様の嫡女、四葉咲様、及びその御妹君、四葉みなも様、おなーりー」

 

相変わらずこの入場は頭がおかしい。端正な様子で膝を折り一礼しながら私が当主になったらこれは廃止と思っていた。

その後、私が礼から顔を上げると会場がどよめくのも毎年のことだ。

 

水波に案内され私とみなもは席に着く。私たちは真夜の両隣に案内された。それについての疑問は一座からは出ない。真夜が親バカだと知っているからだ。

 

「皆様、新年おめでとうございます」

 

彼女の魔法"流星群"を表すかのような黒地に金糸を使った着物を見に纏う真夜がまず新年の挨拶をし、ここからは各分家の挨拶などが始まり次に食事、新魔法の発表などが行われ四葉家にすると明るい様子で会が進むのがこの慶春会の特徴である。

今年もその例に漏れず例年と変わることなく終了した。こんな様子から慶春会は私以外自由参加であるが、こんな和やかに交流することはこの会以外ないので深雪や達也などの例外は除くとほとんど全員出席なのであった。私は次の歳旦の儀もあるので強制参加なのだが。

 

 

慶春会が終わると次は歳旦の儀である。私は慶春会が終わると同時に移動し巫女服に着替え、家の中心部にある儀式専用の和室に向かう。なぜ家の中心部にあるかというと風水的に和室が真ん中にあると運気が上がるからである。

 

私が着くとそこにいたのはお母様と葉山さんなど複数名の執事であった。お母様は上座ではなく下座に座り、私は上段の間についた。

 

これから行うのは神降し、神依と違い本当の神を降ろす行為だ。まず私は神を降ろす前に祝詞(のりと)をあげる。これは神に神の力を請うためだ。そして祝詞を終えた私は「神」、神代小蒔の神依を行なった。

 

 

 

 

 

 

神代小蒔

永水女子2年であり牌に愛されし子と呼ばれている。身体に9人の神を宿していて対局中にそれを降ろし自身に憑依させることにより様々なスタイルを発動させる。しかし私のように9人を自由に選ぶことはできない。

咲はこの世界に転生し神代の神依をする際、イメージができなかったのでまず神代の能力について考察することにした。

 

永水女子のメンバーは霧島神宮の巫女であり、霧島神宮が祀っている神は天津日高瓊瓊杵尊(アマツヒタカニニギノミコト)。

余談だがこの神は天照大神の孫である。

日本書紀にはこの神は天照大神の命により日本国土を統治するために高天原から天下りしたといわれている。これは天孫降臨といわれ、降り立った位置が九州の霧島連峰の一部の高千穂峰と伝承が残っており、その近くに霧島神宮は立っている。その神話降り立つまでに案内役の神や従事した主だった神を数えると8人であったので祀っている神と合わせると合計9人と原作ともぴったり合うことがわかる。

その神のことを調べ咲は9人の神の能力のイメージができた。

次に神の力をどう使うかである。一般的に神の力のイメージは加護である。咲も例に漏れず神の力を加護の力だと考えた。

最後にいつ降ろすかを考える。いちいちおろしまくって加護変えまくってたら流石に神も怒ると思ったので、区切りがいい元日に降ろすことにした。実際、霧島神宮でも元日に歳旦祭と言われるお祭りがある。そして一回の加護が続く時間を一年と考え、元日ごとに更新することにした。

 

 

この3つを合わせて神代小蒔の神依を考えると、元日、9人のうち1人の神を降ろしその神にちなんだ加護を一年間得るとイメージとなる。対象は四葉一族である。四葉一族じゃなくて対象が個人の場合もあったがそれは結果的に見て四葉一族にプラスとなることであった。

 

 

 

 

咲は既に神依を始め、原作通り寝ている。神が降りるに連れて咲のオーラが人間ではないものに変わっていく。後ろから後光がさし、本当に神のなったような有様だった。

 

「そちがこの我らの憑代の母親か」

「そうであります」

 

真夜も緊張していた。十師族相手にするぐらいでは緊張することはないが相手は本物の神である。気後れするのも無理はない。

 

「我の名は天忍日命である」

 

天忍日命とは天孫降臨の際、弓矢を持って先導した神である。

 

「あいも変わらずこの者はすごい。他国の神の子孫とはいえ人の身ながら我らを宿すとは。」

 

神は寝ている咲の口を使いながらしゃべっている。その口ぶりは本当に驚いている様子であった。

 

「今年の加護はどんなものなのでしょうか?」

「うーむ、こぞ(去年)よりも今年は争いごとが多い。我の力は武によるものが多くを占めている。武においてこの一年向上する加護を与えよう」

 

天忍日命は大伴氏の祖先と言われており、大伴氏は5,6世紀には有力な軍事力を持つ氏族となっている。咲はこの神が降りてきたときは武、魔法力関係の加護を得るとイメージしていた。

つまり今年の加護は一年間魔法力向上のバフである。

 

 

そう言い残し神は天高原に戻る。咲は元のオーラに戻り、座りながら寝ている。今年の儀式もこれで終わりだ。なぜこのように少人数でやるかというと、加護の時、加護以外にも何かある場合がある。

 

今回の場合だと未来視。去年より今年の方が争いごとが多いというところだ。去年は争いごとは横浜騒乱だけなので、今年は二回以上起きるのであろう。

 

話を戻すと加護だけじゃなくデメリットもつく場合がある。それを知らせないためだ。4歳の時、咲は一族の者何人かが命を落とすが一族は発展するという予言をし、一族全体を動揺させていた。それが四葉をアンタッチャブルと呼ばれる一件を作った。

そのことから加護以外はこちらで握りつぶし、一族の者にデメリットは教えないためだ。日本の第二次世界大戦時の情報統制に似ている。

 

真夜は咲を自分と同じ部屋に運び、咲に頬ずりしながら元日を終えた。

 

 

 

 

 

 

私は朝になり目を覚ますと、自分のではない体温を感じ横を見る。そこには私に抱きつくお母様がいた。多少驚くが、毎年のことなのでいつも通り引き剥がす

 

「抱きつくのやめないとお母様嫌いになりますよ」

 

寝ているにもかかわらずその声を聞いたお母様は飛び起き離れてくれる。

 

「咲、怒ってる?」

「別に毎年のことなので怒っていません、それで今年の加護と予知や予想される悪い出来事を教えてください」

 

淡々と聞く私に嫌われたくないとお母様は答えてくれる。なるほど、争いごとが多いということはやはり今度のUSNAの留学生には達也の予想通り気をつけた方がいいかもしれない。

 

また抱きついて来ようとする真夜を押しのけ咲は帰宅の準備を始めに自室に戻るのであった。

 




なんで咲劣等生ssを書くために日本書紀の勉強をすることになったんだ…神代小蒔の能力が不明なのが悪いからリツベ早く個人戦書いて





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第48局[遭遇]

今日ネトマで、鳴き断么の1000点が大明槓からの槓ドラもろ嶺上開花で跳ね満になった人いました。SOAって叫んじゃったよ…


私が家に戻ると深雪と達也が出迎えてくれた。

 

「ただいま」

「お姉様おかえりなさい」

「帰ってくるの思ったより早かったな」

 

本家にいるとみなもやお母様に色々やらされて大変なので、家の方が楽なのだ。

 

 

荷物を片付けリビングで3人で話していると深雪が思い出したように私に言う。

 

「そういえばお姉様、昨日お姉様に似ている方にお兄様が見惚れていましたよ」

 

達也が見惚れることはないと思うから何か警戒していたのか。あと私と同じ金髪とは珍しい。

 

「達也さんは私がいなくて寂しかったのよ」

「ああ、確かに咲がいなくて少し寂しかったよ」

 

達也をからかうように言ったのに真顔でこう返されたら言われたらこっちが困る。多分私は顔を真っ赤にしているだろう。

 

「お兄様…私だけじゃご不満だったのでしょうか…」

「そうよ達也さん、深雪がいたのに寂しいってそれどうかと思うわ」

「いや寂しくなかったことはなかったんだが…」

 

深雪の援護射撃により私は息を吹き返し達也に攻撃する。

 

「やはり達也さんは見惚れていたのかも、私たちじゃ不満で」

「そうかもしれませんねお姉様、その子は綺麗でしたから」

 

達也は2人がかりの攻撃に白旗を上げるのであった。

 

 

 

 

 

三学期が始まり雫の代わりにA組に留学生が入ってくるはずだ。深雪と同じクラスだが、私とは違うクラスであるし、そんな関わり持たなくていいだろうと本を静かに読んでいると、エイミィがバタバタっと近づいてきて読書を中断せざるえなかった。

 

「A組の留学生、咲の姉妹かなんか?」

「いえ知らない子なはずだけど、どうして?」

「いや、美少女だし咲に雰囲気似てるんだよ」

 

もしかして達也が見た子と同じ子なのだろうか。

 

「金髪っていうのが似てるだけじゃないの?」

「ううん、どこか咲さんに似ていたよ」

 

十三束君も見てきたらしくエイミィの意見に同意する。

 

「咲は生徒会長だから面倒みなくちゃいけないでしょ〜並んでたらどっちがどっちかわからないかもね」

「明智さん…そんなには似てなかったよ」

 

そういえば私は生徒会長であった。確か深雪が生徒会で面倒みることになるかもしれないって、本を読んでる時に言っていた気がする。積極的に関わろうと思っていないが、関わることになるだろうとそっとため息をついた。

 

 

関わりは思ったより早く訪れた。昼食時達也達と合流し待っているとやってきたのは深雪とほのかと金髪碧眼の少女であった。

金髪という点は似てるが私の金髪は薄い色なので鮮やかな金髪とは少し違った。

 

「相席させてもらってもよろしいでしょうか」

 

流暢な日本語だ。てにをはもしっかりしているし留学生として来るだけはある。

 

「もちろんどうぞ」

 

達也がざっくばらんに答える。達也の表情はわずかにおやっと思っているように見えるが、もしかしたら私と似ていると言っていた子はあの子なのかもしれない。もしそれが事実ならすごい偶然か向こうが意図してやったことであろう。

深雪があの子を配膳カウンターに連れて行くのを見てこっそり精霊魔法で精霊魔法の素質を調べるが、素質はないようであった。それなら神依は使えないし私と同じように転生者ではないだろう。

 

「咲と深雪が並んでもそうだけど、あの2人も並ぶと迫力あるね〜あれに咲が並んだらモーゼみたいに人ごみが割れて便利そう」

 

海は私も割ることはできない。押しのけた水をどうすればいいかがイメージつかないからだ。もっと簡単に考えればいいのだろうが、滝のようになっていた水はどうなるんだろうと無駄にイメージしだしてうまくイメージできないのだ。

エリカの言葉の意味と全く違うことを考えていると深雪達が戻ってくる。

そして自己紹介が始まった。

 

「初めまして。アメリカから来ましたアンジェリーナ=クドウ=シールズ、リーナと呼んで下さいね」

 

そう言って華やかな笑みを浮かべた。その笑顔が親しみやすさを感じさせる。達也に自分に対しての敬語をやめさせてるのをみると案外フレンドリーのようだ。みんな自己紹介していき最後に私の番となった

 

「四葉咲です、深雪達とは従兄弟の関係ね。一応この学校の生徒会長だわ、よろしくね」

 

私が挨拶するとリーナは一瞬目を鋭くしたが、すぐに戻してよろしくと言った。あの目は警戒している目だ。準決勝前半で末原さんが咲さんをみていた目に似ていたからわかった。

任務は私の暗殺か拉致か監視のどれかかなあと思いながら昼食の時間を過ごした。

 




準決勝の末原さんの咲さんに対しての警戒ぷりは異常、前半咲さんそのせいでダンラスだったしなあ


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第49局[実験]

リーナは第一高校に新たな風を吹き込んだ。

 

まず初日から容姿で知らぬ者はいないという存在になった。学校一の美少女は誰かという話題が出ると咲派と深雪派に分かれていたがリーナの編入によりそれは「双璧」から「三竦み」となった

美しさだけでも話題になるには十分だったのだが…

 

「深雪オッケー?」

「カウントはリーナに任せるわ」

 

クラスメイトがリーナと深雪の実技を見ている。いや、クラスメイトだけではなかった。回廊にはずらりと三年生が並んでいる。

 

「あの四葉に匹敵する魔法力本当だと思うか?」

「アメリカを代表して来てるから当たり前だけどあの四葉の直系の深雪さんと渡り合えるなんて…」

「同感だな、四葉が咲以外に負けるとは普通思えん」

「だからこうして確かめに来てるんだけどね」

 

 

実技の内容はCADを操作して中間地点に置かれた金属球を先に支配するというものだ。

シンプルでゲーム性の高い内容で先月から始まった内容だが深雪と咲は互いのクラスメイトをまるで寄せ付けなかった。咲に至っては神依無しで、それに加えCADを操作していなかったのだ(普通の人はCADを操作したほうが魔法の発動は早い)

 

その話を聞いた新旧生徒会役員と摩利が勝負を挑んだがどちらにも勝つことはできなく、それならと深雪と咲で戦わせたが咲の圧勝であった。

咲曰く、あるものを"支配"するゲームはイメージが簡単らしく負けるわけがないらしい。

 

咲がなぜこう言ったからというと、咲の原作は場を支配をするキャラがたくさんいるので支配という魔法のイメージは簡単だからだ。

 

深雪とリーナの試合が始まり深雪がまず1勝したようだ。魔法力はほとんど互角であり、干渉力は深雪、スピードはリーナがわずかに勝っており、今回は干渉力に重きをおいた深雪の作戦勝ちという感じであった。

 

「咲との試合もみたいな」

「咲さんも授業中よ」

「あいつのことだ、挑発したらくるだろうな。しかもあいつは生徒会長だから合法的にサボれる。よし真由美行くぞ」

 

真由美は呆れながらも咲とリーナの試合をみたいので摩利に連れられ1-Bに向かった。

 

 

 

 

1-Bについた真由美と摩利は咲を探すと授業中だが本を読んでいる咲がいた。どうやらこの授業の課題は授業開始1/3の時間しか経ってないが終わっているようだ。

 

「咲、暇か?」

「渡辺先輩と七草先輩どうしてここに?」

「ちょっと来てくれる?」

 

廊下に連れ出されて理由を聞いた咲はため息をついた。本を読みたかったらしいがそれならいいでしょうといい3人で実技室に向かった。

 

 

 

 

 

「やってるわね、深雪とリーナどっちが勝ってる?」

「お姉様どうしてここに?」

「七草先輩と渡辺先輩がリーナと私が試合してほしいらしくて連れ出されたのよ。先生にも許可は取ってあるわ」

 

というか先月も何度か授業中に深雪の練習相手として"先生"に連れ出された。なんじゃそりゃと思ったがまあ深雪の練習相手は私しかいないだろうなと思い引き受けたわけだ。もちろん全試合勝ったが。

 

「ね、リーナ。私CAD無しでいい?このCAD雑音酷くて鬱陶しいのよ」

「いいけど、負けた時言い訳無しね」

「私が負けることはないわ」

 

私とリーナは火花を散らす。

リーナは魔法力が深雪レベルで強い。そんな同級生の相手は深雪以外初めてだ。私は実験できると思い、あるキャラの神依をする。

 

準備が終わりリーナと向かい合う。

 

「カウントそっちがしてええで」

「わかったわ」

 

口調が変わった私を怪訝そうに一瞬見るが、リーナはカウントを始めゲームが始まる。

 

リーナは先手必勝と思ったのかスピードで勝とうとしてくる。しかし、すでに金属球は私の支配が及んでいた。取り返そうにも私の方が干渉力が高く支配を取り返せなかった。スピードも干渉力も私の方が桁違いである。実験は成功のようだ。

 

 

二条泉

千里山の歴史で数少ない一年生レギュラーであり無能力者。なんでこの試合に使ったかというと二条泉のある発言によるものだ。作中で「高1最強」という言葉を泉は発したのだ。別に最強でもなんでもないのだが高1には負けないとイメージし神依することによって高1には負けないんじゃないかと思ったのである。

深雪との試合は深雪は高1ではなく、妹としか見れないので使えないし、他の人は神依使わずに勝てるのでわからない。実験するには深雪ぐらいの力を持ち高校1年生でなければいけない。そんな生徒は今までいなく試せなかったが、ようやくリーナで実験することができた。

もうすでに高1があと2ヶ月強で終わってしまうので意味がないのだが。

 

 

「サキもう一回勝負よ!」

 

リーナは私と同じで負けず嫌いのようだ。それならばリーナで色々実験してやろう。泉を解除し新たな神を神依した。

 

再びゲームが始まるとリーナは今度干渉力の方に力を優先しているようだ。さっきはスピードで負けたからであろう。確かにそれは正しい。しかし2回目の対戦は明らかにこっちの有利だった。私は最速で球を転がし勝利した。

 

 

 

安河内美子

新道寺次鋒3年でありまたまた同じく無能力者。美子は準決勝で一度対戦した菫に対抗するために打ちかたを変え、細かく刻んで区間2位で中堅に繋げていた。

これをイメージすると、対戦するのが2回目以降の相手に対して強いというイメージになる。(区間一位は1回目の対戦なため)

これも実戦では1回目で殺してしまうため、2回目はほとんど来なくて試してみることができなかったがこれも上手く機能しているようだ。

最初は深雪で試そうとしたのだが対戦回数多すぎて逆に機能しなかった。

 

 

そのあと3人でゲームを回し授業が終わる頃の勝率は私深雪リーナの順になった。

 

 

 

 

 

その日の昼食、今日はリーナが同席している。リーナと食事をとるのは毎日ではなく、リーナには色々なお誘いがありその度違う相手と食事をしていた。一緒に食事を取るのは初日以来だ。

 

「でもリーナって予想以上に凄かったんだね。そりゃ選ばれて日本に留学するぐらいだから当然実力者とは思っていたけど、まさか深雪さんと互角なんて咲さん以外に初めてみたよ」

「驚いているのは私の方よ、これでも向こうでは負け無しだったのよ。それなのに深雪には勝ち越せないし、咲に至っては一度も勝てない。咲人間じゃないでしょ」

 

とうとう人外扱いされてしまった。まあ原作咲さんもモンスターとか戒能プロに言われてたし仕方ない

 

「リーナ。実習は実習で試合じゃないわ。あんまり勝ち負けなんて考えない方がいいと思うんだけど」

 

深雪の意見にリーナは勝ち負けにこだわった方がいいと反論した。私も負けるのが嫌なのでそっちの意見だ。しかし達也は深雪の意見を支持した。なんでや。

そのあといくつか会話をして、達也がシスコンとリーナに理解してもらったあと、達也が一風変わった質問をした。

 

 

「アンジェリーナの愛称は確か普通、アンジーではなかったか?」

 

私はへーそうなのと最初思ったのだが、リーナは明らかに動揺していた。上手くごまかしていたが、その様子を見て明らかに何かあると思い直したのだった。

 

 

 




咲のある相手に対して無敵っていう能力ずるいなあ


今日は深雪の誕生日です。同じ氷雪系の氷雪系最強さんやエルサも祝福。



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第50局[交錯]

咲の制服で一番可愛いのは白糸台冬服だと思います。
皆さんはどう思いますか?


夕食が終わり3人で話しているとリーナの話題になる。

 

「俺は高い確率でリーナが"アンジーシリウス"だと思う」

 

アンジーシリウスとはUSNAの世界最強と言われる魔法師部隊、スターズの総隊長の名である

私もあのリーナの目や母からの忠告、神儀の予言からそう思っている。

 

「わからないのは"シリウス"の正体を隠さない姿勢だ。わざと知らせてるのかもしれない」

 

わからないのはそれであった。麻雀で赤5捨てて安い手にしてるということをわざと晒せるのは、誰かの連荘止めるためとか場を流すためとかあるが、極秘情報であるシリウスの情報を流す意味がわからない

 

咲達がわからないのは当然でリーナの精神的ガードがUSNA当局の予想より緩いだけであったのだが。

 

「そして」

「何故USNAは戦略級魔法師という切り札のシリウスを投入してきたのかということですね」

 

達也の推理に深雪が続ける

 

「深雪のいう通りリーナの能力は諜報向きではない。本命は別にいるのだろうが囮としては」

「大きすぎるわね」

「USNAがシリウスを国外に投入するほどの任務、一体なんでしょう?」

 

深雪と達也が首を傾げている。私の考えてることはまだ考えていないようだ。

 

「私の拉致か暗殺、それもありそうな線じゃない?」

「そんな!?」

「確かに咲の力は横浜ですでに目立っている。あの時の神依は派手だったからな。リーナとあった初日、リーナが咲を見る目は警戒してるという目であった。USNA情報部が咲の情報を掴み脅威となる前に拉致または暗殺するという線も考えられる、だが1つ指摘すると」

「私が四葉っていうことね」

 

四葉はすでに国を一つ滅ぼしている。USNAが喧嘩をうるだろうか。

 

「そうだ。だが逆に咲を暗殺し四葉を引っ張り出すことによってUSNAvs四葉という人海戦術で勝てる状況に持っていく。そしてそれで四葉の力を削げば日本への侵略はUSNAにとって容易いものになるとも考えられるぞ」

「あり得ない説ではありませんがお姉様を暗殺できるでしょうか?」

 

深雪は私をなんだと思っているんだ

 

「確かに咲はリーナでも暗殺できないだろうな、咲ではなく深雪と俺が狙われている可能性もある。気をつけるにこしたことはないだろう」

 

私をなんだと思ってるんだという感想もあったが達也のその言葉に私と深雪は頷いた。

 

 

 

 

 

 

次の日、リーナが生徒会室にやってきて学校の設備を詳しく教えてくれないかというお願いをしてくる。私はいつも通り全体の25%の仕事を終わらせ、既に本を読んでいたので私とリーナで回ることになった。深雪は心配そうな目をしてきたが、大丈夫という目で答える。

 

彼女が留学してきてまもないので当然なのだが、彼女と2人っきりになるのは初めてだ。

少し気まずい雰囲気になっていた。私の愛想が悪いとか人付き合いが悪いとかではなく、リーナが明らかに探りの目を入れているのだ。枕神怜も精霊達も警戒している。

私とリーナが2人で歩くと目立つので、人通りの多いところでは仕掛けてこないが、それならば人の少ないところではどうだろうかと思い試してみることにした。

 

人通りがほとんどない裏庭から実験棟に行く小道にわざと出るとリーナが足を止めた。

 

「リーナ疲れたの?戻ろうか?」

 

まだ怜の予知モードは反応してないまだ仕掛けてこないようだ。

 

「いいえ、大丈夫よ」

 

何か言いたそうにしているので首を傾げて続きを促す。

 

「咲って多重人格って言われてるけど本当に多重人格なの?」

 

それを聞きたかったのか。たぶん私の噂は他の生徒に聞いたのだろう。私が多重人格ということは学校中に知られている。

 

「そうよ、なんでそう思うのかしら」

「多重人格という割にはこの前の実技の時のようにすぐ出したり戻したりできるからよ、それに人格ごとに魔法特性が分かれてるっておかしいと思わない?」

 

この前のリーナとの対戦で実験してたらリーナは疑問に思ってしまったらしい。そこで怜のアラートがなった。そろそろ仕掛けてくるらしい。

 

「そうかしら、私にとっては普通なのだけど」

「じゃあ今はどの人格なのかしら」

 

リーナが近くから気絶させるための電撃魔法を発動してくる。私はあらかじめ発動していた"避雷針"によりそれを無力化する。その後襲いくる掌底を障壁魔法で無力化、次に指からはなってきたサイオン粒子の塊は私を突き抜ける。私はリーナの頭にCADを突きつけた。

 

「パレード!?」

 

パレードとは九藤家の秘術だったはずだ。できないことはないが精霊魔法の方が楽である。今使ったのは"囮精霊"、九校戦で幹比古が使った技だ。簡単にいうと分身技。

 

「ねえ、リーナさっきのは何かしら」

「避けられると思ってた」

「説明はしてくれるの?」

 

やはり神依無しでも普通に動けるぐらい今年の神儀による加護は効いている。

 

「お許しください、お姉様」

 

リーナが深雪の真似をしてくるので拘束を解除してあげる。

 

「やっぱり咲も達也と同じで深雪に甘いのね」

「で、説明はしてくれるのかしら?」

「単なる好奇心よ」

 

明らかな言い逃れだが面倒くさいのでもういいだろう。

 

「ま、いいわ」

「え?」

「リーナは私の腕試しをしたかったんでしょ、折角実技で戦ってるのだからこれっきりにしてね」

 

私がいつもの調子でいうとリーナは戸惑いの表情を浮かべている。

 

「じゃあここで分かれましょ」

「え、ええ」

 

私が何もせず逃してくれたことにリーナは疑問を覚えているようだ。すれ違い様にリーナの耳元で小さく囁く

 

「次仕掛けてきたら容赦しないから」

 

そう言い残し、その場を立ち去った。

 




咲が好きすぎて、短編書いて1人でそれを読んで楽しむぐらい咲の作品に飢えているので誰か咲の作品書いてください…


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第51局[妖異]

週明けの教室はある事件で持ちきりであった。

大手マスコミにスクープ記事が配信されそれが広まったのだがその内容とは不可解な死体が大きな話題となっている。不可解な死体というのは傷口がないにも関わらず死体からは血液が抜かれていたのだ。

 

私は傷口無しに殺すことは普通にできるが、傷口がないのに血液が抜くことはイメージがつかず不可能なので相当特殊な術を使うのであろう。その奇妙な連続殺人事件は巷では吸血鬼事件と呼ばれていた。吸血鬼だったら傷跡つくだろというツッコミは野暮である。

 

「例の吸血鬼事件、四葉はどの程知っている」

 

私は十文字先輩と七草先輩に呼び出されていた。場所はクロスフィールドの部室。ここは非公式な密会の場として公然の秘密となっている。

 

「十文字家と七草家からの問いでしょうか?」

「ああ」

「それならお答えできません」

 

やっぱりかという顔を七草先輩はする。実は七草家が四葉の息のかかったところにちょっかいをかけたらしく本家から七草家とは冷戦状態と聞いていたから、答えることができないのだ。一縷の望みをかけて私を呼んだのかもしれない。達也は口を割らないだろうし深雪だったら達也もセットでついてきそうとのことで私が呼ばれたのだろう。

 

「しかし先輩と後輩という関係なら話は別ですが…」

 

妥協案を出すと真由美は食いついてきたので話すことにする

 

「私が知っているのはUSNAでも似たような事件が起きているとのことだけです。これは本家からの情報ではないので喋っても大丈夫だと思います」

「それはどこ情報だ」

 

本家ではない出どころの情報だと聞いて十文字先輩は疑問に思ったのかもしれない。

 

「北山さんが向こうで聞いた情報だそうです。向こうも情報統制が引かれており情報通の同級生から聞いたらしいです」

 

私が情報を話すと七草先輩達も情報を話してくれた。被害の実数は報道の3倍で、狙いは魔法師。そして七草家と十文字家は共闘することになったそうだ

 

「無理なお願いということもわかってるんだけど四葉家も共闘してくれないかしら」

 

「その件についてはお断りします」

 

七草先輩は私の言葉に肩を落とした。たぶん冷戦状態じゃなくても四葉はこのことに関して関与しないだろう。四葉はこのような俗世のことより能力向上に心血を注いでいる。それに私も身近な人が巻き込まれたならともかく面倒ごとに関わりたくない。リーナの件で手がいっぱいであるのだ。

 

「しかし私たちが仕入れた情報を先輩後輩として渡すのは問題ないと思います」

 

先ほどと似たような提案をして、七草先輩と十文字先輩はそれを受け入れ、その場はお開きとなった。

 

 

 

 

 

翌朝、凶報が達也のメッセージにエリカから送られてくる。レオが吸血鬼に襲われたとのことだ。他人事であれば関わらないつもりだったが一高の生徒、それも友人が関係する出来事となったら関わらないわけにはいられない。幸い命に別状はないらしいが放課後お見舞いに行くことになった

 

放課後、病室に向かうと病室の前の長椅子にエリカが座っていた。私に婚約を申し込んでるエリカの兄がレオに依頼したらしく、不機嫌なエリカは絶対兄と結婚するなと私に言ってきた。確かに友人が義妹になるのはちょっと嫌だ。

 

病室に入るとレオは体を起こした。少し辛そうだ。

 

「酷い目に遭ったな」

「みっともないところ見せちまったな」

 

照れ臭そうにレオが笑って答える。

 

「見たところ怪我は無いようだが」

「そう簡単にはやられないぜ、俺だって無抵抗だった訳でもないんだぜ」

「じゃあどこに攻撃もらったんだ」

「それが俺にもよくわからないんだよなあ」

 

話を聞くと何か私の神依に似たような能力であった。体の力が抜けると似たようなことぐらいだったらパウチカムイでできる。一応、レオの身体見とこうと思い、清水谷竜華の神依を行う

 

「レオ、ほんますごいなあ…その状態やったら普通話すこともできへんで」

「どういうことだ咲」

 

突然喋り方が変わった私をみんなが見る。

 

最高状態の清水谷先輩と言われる状態の竜華は相手の体温、鼓動、呼吸などがを感じることができていた。この世界に置き換えるとそれに加えサイオン保有量や精気残り量などが見えるのであった。

 

 

「えらい精気食われとるで。ほとんど残ってへんし怜やったらぶっ倒れとるやろうなあ」

 

精気とは生命力の塊である。血肉を食らう魔物はこれを糧としていると考えられており、もしかしたら原作怜もこれに似たものを使って未来視してたのかもしれない。

 

「咲、それはどうすればいいんだ」

「普通は時間を待てば回復するんやけど、この状態はきついやろうし、よっしゃ今日は特別やで」

「「は?」」

 

私がベットに腰掛け太ももをポンポンとすると一斉に声が上がった。

 

「ただの膝枕やないで!うちの膝枕はヒーリング効果あるし得意やねん!」

 

怜が膝枕気持ちいいと言っていたので、なぜか私の膝枕はヒーリング効果が付いていた。これは神依無しにもついているので母などにもよくせがまれるが竜華神依時にはその効果が倍増していた。

 

「本当にいいのか?」

「そんな遠慮せんでええって、レオもその状態じゃきついやろ」

 

レオは少し恥ずかしいようだったが、私の服を汚さないようにかタオルを私の太ももの上に一枚引き、太ももに頭を乗せるとすぐに眠りについた。

 

「お姉様の膝枕…」

「今度またしてあげるで」

 

よく考えるとみなもや母にはよくしているがあまり深雪にしていないことを思い出す。

 

「この事実を学校のみんなが聞いたらレオ刺されるわね…」

「俺もしてもらったことないぞ」

 

エリカと達也が次々と言ってくるので別に減るものじゃないので今度してあげる約束を取り付ける。枕神怜が咲の膝枕はうちだけのもんやと言っているが別に怜だけのものではない。

 

「本当にレオもすごいけど咲さんもすごいね、あの精気の量でしゃべっていたレオも驚異的だけど膝枕をしてもらってるレオの精気の回復量これ100倍以上だよ…」

 

幽体を見ていた幹比古がそういう。

その幹比古曰く、レオが遭遇した相手はおそらくパラサイト。妖魔とか悪霊の類らしい。最初はみんな信じられないようだったが、実際似たようなものの神を使ってる私が近くにいるのですぐに納得した。

 

一時間後レオが目を覚ました時、精気はほとんど回復しているようで元気になったのを見てからエリカを除いた私たちは帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 




荒川さん使いたかったなあ…

今日は鶴田姫子の誕生日です。同じくipsのキャップやのどっち、竜華や憧ちゃんも祝福


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第52局[古式]

今冷静に考えると35日で55話投稿してるってすごい数投稿してるな…


深雪の練習相手が咲であるならば達也の練習相手は九重八雲であった。八雲は僧でもあるが忍者でもあるので、八雲の寺は一種の道場となっている。

今日もいつもと変わらず八雲と組手を行う。

両者の技量は互角、しかし駆け引きは未だ遠く及ばない。それなら手数で勝負ということで暇を与えず攻め続けていたが、距離を取られ詰めて攻撃した手は空を切り、替わりに達也の体が宙を舞った。

 

「いやあ、焦った焦った。まさか"纏いの逃げ水"が破られるとは思わなかったよ」

 

八雲は冷や汗を拭く動作をする。パントマイムであろう。

 

「あの術は"纏いの逃げ水"というんですか…いつもの幻術ではありませんね」

「やれやれ、やはり君の目は厄介だね、だけどその目を逆手に取る方法だってある。本来これはこの世のものではないものの目を欺く術なんだけどね」

「師匠、この世のものではない目とおっしゃいましたが」

「ああなるほど、僕たちが相手にするのはこの世のものだけじゃないよ、君の従姉妹を見たらわかるはずさ」

 

咲のことだろう。咲が人間ではないと言われたように感じ、少し達也は苛立ちが貯まる

 

「そう怒るな、達也君。君は妹と咲さんのことになるとすぐ感情的になる。君の従姉妹の神依じゃなくて精霊魔法のことだよ。精霊だってこの世のものじゃないものだ」

 

感情的になったことと教えてくれたことの二つの意味を込め頭を下げる。久しぶりに達也は古式魔法の名門は伊達ではないとそう思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

吸血鬼事件に対して組織的な対応をとってる勢力は3つ

1つは通称日本版FBIと呼ばれる警察省のチームと公安が加わった警察当局

2つ目は七草家と十文字家を中心とした十師族チーム

3つ目が吉田家の協力を得て千葉家が組織した私的報復部隊

この3つであった。エリカはエリカの弟子(??)であるレオがやられたということで黙って見てることは出来なかったらしい。

 

達也はエリカと吉田君と一緒に吸血鬼探しに外に出ている。私と深雪はお留守番だ。

私が部屋で本を読んでいると部屋がノックされる。

 

「深雪です、入ってもよろしいでしょうか?」

「いいわよ」

 

深雪が私の部屋に入ってきた。見ると深雪は顔を赤くしている。

 

「あの…お姉様。深雪にも膝枕をして頂けませんか?」

「いいわよ、おいで」

 

太ももをポンポンと叩くと、深雪は嬉しそうに笑い、私の太ももに頭を置いた。

 

「本当に気持ちいいです…まさにこれは桃源郷ですね…」

「言い過ぎよ深雪」

 

深雪はそのまま気持ちように寝てしまい、私もその寝顔を見て睡魔が移り、同じように寝てしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

達也がエリカたちとの捜索から帰ってくると、咲たちは気持ちよさそうに寝ていた。本当は咲に頼みたかったのだが、寝ているとなっては仕方ないので叔母、つまり咲の母に達也自身が電話をかける。

 

 

「夜分遅く、申し訳ございません」

「あら達也さんだけとは珍しいわね、咲さんは?」

「咲と深雪は寝てしまいましたので。叔母上、一つお聞きしたいことがあるのですが」

 

咲がいないと聞いて真夜の機嫌が下がっていくのがわかったが引くわけにはいかない。

 

「遠慮はいりませんよ」

 

機嫌が悪くなったことは見せず、真夜は頷く。

 

「では、九藤家のパレードがどのような仕組みの魔法なのか、お教え願えませんか」

 

葉山の眉がピクリと上がる。真夜が堪え切れない、という顔で笑い声を漏らす。

 

「そんなこと私に聞かなくても、咲さんに聞けばわかりますよ。あの子、パレード使えたはずですもの」

 

八雲に朝怒ってしまったが、咲はもう人ではないのかもしれない。咲に使えない魔法はあるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「咲はパレードを使えるのか?」

 

朝一番、達也にそう聞かれた。私はパレードを使えることを話していないはずだが、確認する様子であった。

 

「一応使えるけどどうして?あ、リーナね」

「シリウスだがな、霧散霧消の照準を外された」

 

霧散霧消は物質を元素レベルに分解する殺傷ランクA魔法だ。

逆にパレードは偽の情報体を作り出しそれに照準を向けさせることによって、魔法を躱すことができる。この前リーナに襲われた時、パレードと口走っていた。やはりリーナはシリウスであろう。

 

「パレードって精霊の目も誤魔化せるのね」

「ああ、咲の目は誤魔化せないのか?」

「私は見えなくしているものも見えるから、偽の情報体なんて作っても無駄よ」

 

事実、私はパレードを使われても相手を見失うことはない。全国二回戦部長のように、メンタルがやられてたりしたらわからないが。

 

「見せることは可能か?」

「見せることはできるけど…本家パレードとはたぶん術式違うわよ、私がイメージでパレードを模倣しただけ。それでも構わないかしら?」

「ああ、頼む」

 

私はパレードを使うことがほとんどない。暗殺などであればステルスモモを使えばいいし、相手の攻撃躱すなら囮精霊を使えばいい。パレードは姿形を変えられるという点があるが、任務の時は二度と相手に顔を見せないので問題ない。

 

「ついでに神依の実験台になってもらえる?」

「死なない程度なら」

 

 

 

 

 

 

地下の実験室で試合をすることになった。普通なら遅刻確定だが、あいにく今日は日曜日だ。

 

「達也さんとの対戦は初めてかしら」

「確かにそうだな」

 

深雪との対戦はたくさんしていたが達也との1vs1の対戦は初めてであった。

ルールは武器も武術も魔法もありのコミコミルール。私は戦闘不能にされたら負け、達也は再生を発動したら負け。ただし即死させる魔法は無しであった。完全に達也の再生を見越したルールである。

 

「いいか?」

「いいわよ」

 

 

別部屋の深雪に合図をしてもらい、初めての達也との戦いの火蓋がきられる。

 

 

 



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第53局[運命]

咲vs達也

昨日の話大量に誤字脱字ありましたね、申し訳ありません


深雪の合図により試合が開始される。

 

まず達也は指で鉛玉を弾き、私に向かって飛ばしてきた。それはナビで予想していたので障壁魔法で防ぎ、パレードを展開する。その間に詰めてきた達也は掌底を放つが空を切る。そこにいたのはすでに私の情報体だけだ。

ステップで移動した後、拳銃弾を適当にばらまく。拳銃弾にも場所をずらすパレードがかけてあるのだが、達也は設置型領域分解魔法で無効化する。いくら場所をずらそうと、身の回りに分解魔法を巡らせればやられることはないということからだろう。

 

達也は得意の武術で圧倒しようとし、私は魔法で勝つためにパレードを駆使し距離を取る。情報体を偽装しても手を掴まれたりしたらバレるからだ。

 

私は飛び道具にパレードをかけて使い、達哉が飛び道具を処理している時間に合わせて魔法を使っていく。

 

達也は見ただけで情報体を理解してしまう。それならば偽の情報体を掴ませ、それが本物か偽物かの判断がつかなければ設置型で対処するしかない。そして設置型は達也の魔法力的には負担がかかる魔法であるから必ずいつか隙ができる。

術式解体や術式解散も併用させて使わせているのはサイオン消費を多くさせるためだ。

 

ついに私のパレードをかけた氷の弾の一つが達也の足を捉えた。達也も私も防弾服を着ているが、当然衝撃は受ける。体勢を崩した達也に幻衝を当てるためにパレードの幻影とともに接近する。なぜ近づくかというと、達也には至近距離で魔法を放たないと基本無効化されてしまうからだ。

私は近くに来るのを見た達也がニヤリと笑い、空中に投擲榴散弾を投げる。達也はわざと隙を見せ私が近くに来るのを誘ったのだ。

 

この攻撃を防ぐために私が障壁魔法を使い、銃弾が止められた位置から私の本当の位置を確認、一気にカタをつける作戦だろう。

作戦は悪くない。しかしその作戦は私も思いついていた。位置がわからないなら範囲全部攻撃すればいいというのはどちらかというと私っぽい考え方だからだ。

 

榴散弾が破裂し、私たちに弾が降り注ぐ。達也は自分の上に分解魔法を設置し防ぐが、しかし私には魔法を使わずとも"偶々"弾が当たらなかった。

私に弾が当たらなくて驚いている達也に対して、私は幻衝を当てる。達也は一瞬倒れかけるが再生により意識が戻ってくる。試合は終わりだ。

 

 

「咲、今のは…」

「ヘソクリだよ」

 

 

 

 

 

妹尾香織

敦賀学園2年次鋒。まさかの麻雀初心者である。しかし長野決勝区間1位。その理由はビギナーズラックというのもおこがましい超人的な運があり、長野決勝ではツモトイトイとか言いながら四暗刻和了ったり、合宿では混一色発と言いながら緑一色を上がっていた。それに加え、咲日和で懸賞の雀卓が当たってたのを見ると、もともと運がいいのがわかる。

咲がこの能力をこの世界に置き換えると、持っている運の総量が上がる能力になる。

 

 

 

これだけでは他の神依より妹尾の神依を優先する理由は低いので咲はもう一つ神依を発動していた。

 

 

ネリー・ヴィルサラーゼ

臨海高校一年大将の留学生。能力は「運命奏者」。彼女は「波」、つまり「運」を操ることができ、波を察知することもできる。原作では爽の雲ダブルをものともせず三連続3倍満を和了り、圧倒的な力を見せつけた。

咲がこの能力を置き換えると運を操る能力になる。

 

 

つまりこの2人の能力を合わせると運の総量が増え、運を操れるようになるという能力になる。

 

咲は、達也が適当にはなった攻撃が当たらないようにするために運を上げていたのだ。それが功をそうし、榴散弾を見た瞬間に運を集め、弾が当たらないようにしたのである。

 

 

 

 

「それでパレードの感覚はつかめたかしら」

「ああ、だいたいな。お前が情報体と近づいて来るのはわかるぐらいにはなった。ありがとう咲」

 

すでに神依は解除してある。ネリーの神依のままだとお金くれとか言い出しそうだったからだ。

 

「実践で達也さんを倒すの無理そうね。再生で無限回復はずるいわ」

「即死魔法をたくさん持ってる咲には勝てないよ」

 

どちらも普通の人間では勝つことが出来ないのだが、それをいう第三者はここにはいなかった。




お兄様を実践で倒すことできる人存在するのかなあ…


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第54局[形代]

翌日、シリウスもといリーナとの決着は着いたらしい。

達也を殺そうとしたリーナに深雪がキレたらしく、魔法戦をすることになったそうだ。その魔法戦は深雪が勝利したらしい。やはり加護が効いているのであろう。帰ってきた深雪はなぜか少し顔を赤くしていたのだが。

勝った報酬で情報をいくつか聞き出したのだが吸血鬼はUSNA軍の脱走兵。精神操作を受けてる可能性が高いらしい。

達也は変なデバイスで探知機を吸血鬼に埋め込んだらしく、七草家のチームと吉田君達のチーム合同で追いかけることになったそうだ。

 

 

 

2日後、なかなか吸血鬼が捕まえられないらしく、機嫌が悪いらしいエリカから達也が逃げてきたせいで、私たちとほのかの4人の食事になった。達也は私たちをはべらしているという目を向けられ、早々に食堂から退散し屋上に来ている。真冬の屋上は寒いのだが魔法を使えばそういうことはなくなる。便利な世界だ。

正面にいる達也の両手に花状態を完全に無視しながら本を読んでると、今まで見たことがないオーラに気づいた。

 

「へえー……なるほど、これが吸血鬼ね」

「どういうことだ咲」

 

深雪の顔を見たところ冴えない顔をしている。達也とほのかはわかっていないようだ。

 

「校内に吸血鬼が入って来たのよ、場所はたぶん通用門ね。確か今日、どこかの業者が何かのデモをすることになっていたはずだわ。たぶんそこの社員なのね」

 

そのことを話すと達也の端末が鳴った。相手は七草先輩で、やはり学校に吸血鬼が入って来たという旨だった。

 

私たち3人は飛行術式で空中に飛び上がり、屋上には飛行術式をCADに入れていなかったほのかだけが置き去りとなった。

 

 

 

 

私たちが向かった搬入口には業者しかおらず、トラックから荷物を降ろしていた。その2人は私の神依に似ていて、何か纏ってるように見えた。それならあのキャラが使えるかもしれない。

 

「達也深雪、私が攻撃されそうになったら守ってね」

 

そう言い残し、私は初めてのキャラの神依をする。相手も自分たちと似たような気配を感じ取ったのかもしれない。2人揃って私に電撃を放って来たが、深雪がその電撃を領域干渉で無効化してくれた。しかし敵の1人が走り出し、私の近くにいる達也と戦闘を始める。

時間を稼いでもらっている間に魔法のイメージする。ぶっつけ本番で成功するかわからないが試してみるしかない。

 

「避けて!」

 

私はイメージした魔法を放った。

 

 

 

狩宿巴と滝見春

どちらも永水女子の選手であり麻雀では無能力者である。しかし、巫女さんだからであろうか。岩戸霞が攻撃モードになって良くない神を降ろした場合、元に戻すための祓い手を2人で行なっていた。

咲がこれをこの世界に直すと何か悪いものを祓うという巫女のような能力になる。

 

咲はパラサイトを良くない神、憑かれている人たちを岩戸霞、とイメージし魔法を発動したのだった。

 

 

 

私の放った魔法は上手くいったようで、私の魔法により乗り移っていた2人と2体のパラサイトは分離した。

 

「サキたち何してるの!?まさかミアを殺したとかじゃないでしょうね」

「殺してはないはずよ、初めてだからわからないけど」

 

リーナが合流してくる。ミアとはあの女性のことだろうか。その間に吉田君達が合流してくる。

 

「伏せろ!」

 

十文字先輩が注意を促し、私以外には何もないと見えるところから雷球が飛来する。せいぜい弓矢のスピードだが、行動不能に至らしめるには十分なものだ。

うっかりしていた。祓ったはいいけど、祓った後のこと考えていなかった。今まで攻撃してこなかったのは、いきなり依り代を失い、スタンが入っていたのだろう。

私には本体が見えるが対抗手段がない。一応今強引なイメージが思いついたが、成功するかは50%ぐらいだろう。

 

「ねえ、達也さん。50%ぐらいの確率なら一体は封じ込めれるけどそれ試してもいいかしら」

「50%か…試してみてくれ」

 

言質を一応取ったので私は新しい神依をする。

 

 

岩戸霞

永水女子3年大将であり、あだ名はおっぱいおばけ。本家の神代に、分家としては一番近い血を持ち、生きた天倪として神代が稀に降ろしてくる恐ろしい神を代わりに宿して手なづける役目を担っていた。

咲はこの能力に目をつけた。恐ろしい神を手なづけれるならば、神以下のパラサイトごとき支配できるのではないかと。

 

 

私はパラサイト一体をみて、自分に乗り移らせるイメージをする。そして力を込めると、掃除機に吸い込まれるようにしてパラサイトは私に乗り移る。パラサイトが頭の中で暴れ、気分が悪くなり膝をついてしまうが、時間が経つとようやく大人しくなりパラサイトは支配できたようだ。

なぜ2匹できなかったのは、霞は原作で一体しか使役していなかったので、イメージができなかったからだ。

 

「咲、大丈夫か!?」

「平気、1匹は封印したわ。もう1匹は頼むわね」

 

達也が珍しく慌てるように聞くので、笑みを携えて答える。平気ではない気持ち悪さだが、治まって来ているし大丈夫であろう。

 

その間、もう一匹のパラサイトはだんだん物質次元における存在が強まってきた。どうやら私と美月の2人で見たかららしい。

私がもう1匹のパラサイトを封印した光景をみたパラサイトは、私を警戒しているらしく、パラサイトが見えるもう1人、美月の方に向かった。

 

「達也さん、美月が」

「わかっている」

 

美月は吉田君が守っているが、吉田君にはパラサイトがまだ見えていないらしく苦戦している。そのまま押し切られるかと思ったとこに、達也の術式解体のサイオンの奔流が襲いかかりパラサイトを吹っ飛ばした。

 

 

 

「逃したか」

 

達也は悔しそうだ。不可避ではなかった戦いを選んだ以上敵の捕獲をしたかったのだろう。しかしその後、達也は何かを思い出したような顔になる。

 

「そういや咲、封印したとか言っていたな。どうやって封印したんだ?」

「私自身に取り憑かせたのよ。それでパラサイトを使役してるの。ほら、雷球使えるでしょ。結構危なかったけど便利な能力増えてラッキーだわ」

 

雷球を小さく発射して見せると達也も含めみんな唖然としていた。達也が唖然とするのは珍しい。

 

「え…サキは他の人たちみたいに思考を変えられたりしないの?…」

「別にパラサイトだけが精神を変えて憑代を支配することの専売特許持ってるわけではないじゃない。今度は私がパラサイトを逆に支配してあげたの。美月の目だったら弱々しいパラサイトのオーラを今なら私から感じ取れると思うわ」

 

眼鏡を外した美月は私を見て確認した。

 

「本当に咲さんに取り憑いているんですね…」

 

 

 

 

咲の話を聞いた達也は口を閉じていた。

咲はあれを実行する前50%の確率と言っていた。

それなら失敗した時の50%はどうなっていたのだろうか。咲がそう簡単にパラサイトに負けるとは思えないが、もしそのことを想像するだけでも怖い。それに、咲の案をどうしようもなかったとはいえ、軽率にGOサインを出したのは自分自身である。

自分がほとんど何もできなかったことと軽率な行動をとったことに対しての後悔、そして咲を失いそうになった恐怖に、1人達也は手が震えるのを抑えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




永水女子はこういう時、実際活躍しそうですよね


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第55局[情人節]

難産だった…

初のサブタイ三文字。バレンタインデーの当て字らしいです。


翌日、リーナは学校を休んだ。パラサイトの宿主だった女性と知り合いだったらしいので、大使館かどこかで尋問を受けてるのかも知れない。

私は昨日の夜パラサイトから情報を聞き出そうとしたが失敗に終わった。パラサイトと私たちの言語は当然違うので、会話ができないのだ。パラサイトは寄生してその人を喋らすことによって会話を可能にしている。私に寄生させるのは流石にリスクが高すぎるので困りどころであった。

 

 

 

2月上旬、凶報が太平洋の向こう、USNAから舞い込んだ

 

「お兄様お姉様これは…」

「雫と同じ情報ね」

「そうだな」

 

凶報はしばらく前に雫がUSNAから教えてたものと酷似していた。そのニュースは政府関係者の内部告発という体であった。

合衆国は朝鮮半島で使用された秘密兵器にたいこうする手段の開発を魔法師に命じた。それに対し、魔法師たちは科学者たちの反対を押し切りマイクロブラックホールの生成実験を強行。異次元からデーモンを呼び寄せ使役し、対抗しようとしたが暴走。

巷間を騒がせている吸血鬼事件はこれが原因らしい。

 

USNAは私のように神依のようなことがしたかったのか。これは爽と神代のイメージがないと無理なのになあと考えているとこれは魔法師排斥が本音らしい。魔女狩りみたいなものだろう。

 

達也は電話コンソールに手を伸ばしかけたがやめた。その相手は全面的に頼れる人ではないのだろう。

 

 

 

朝、私たちはリーナを待ち伏せしていた。来る時間も私の未来視によりわかっている。改札口から出て来たリーナは私と達也がいるのを見て脱兎の如く逃げ出す。

 

「おはようリーナ」

 

それは三歩で失敗に終わったのだが。

 

「人の顔みて逃げ出すなんて酷いわねリーナ」

「ア、ア、アハハ」

 

リーナは笑って誤魔化すようにしたようだ。

 

達也がリーナに話を聞くとどうやら肝心なところは全部嘘っぱちらしい。逆に言うと表面的なところは事実なのだ。

よくある情報操作の典型的なものである。

そんな機密なものを外部の人間から調べられるのか聞いてみるとどうやら「七賢人」という組織らしい。

その組織はUSNA国内の組織なのだそうだが、尻尾は掴めないらしい。組織版ステルスモモみたいなものか。

当然アメリカ側も吸血鬼のことは意図してやったものではないらしく、もし意図したものだったらリーナは許さないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

前世もこの世界も変わらない文化は多い。その一つが明日のバレンタインデーだ。

バレンタインデーを明日に控え、浮ついた空気に包まれる。もちろんその空気は生徒会室にも来ていた。

 

「……光井さん、今日はもう上がってもらっても大丈夫ですよ」

 

先ほどからビープ音が鳴り響いている。ほのかを心配して中条先輩は声をかけたのであった。

 

「ホノカ、貴女は今日帰った方がいいわ」

 

こう主張したのは臨時役員に収まったリーナ。私たちに正体を知られているのに大胆であるが、私を観察するにちょうどいい場所におさまっているので、上からの命令なのかも知れない。

ほのかは気丈に振る舞っていたが最後に深雪に諭されて帰っていった。達也にチョコを作るためであろう。あの様子じゃ明日もかなり緊張していそうだ。

 

「深雪さんは四葉君に渡すとして、咲さんは誰に渡すんですか?」

 

中条先輩は珍しくゴシップ的な話題を振ってくる。

 

「私は面倒くさいので渡さないですね…」

 

渡すのが面倒なのではなく、その後のお礼を言われるのに拘束されるのが面倒くさいのだ。誰かがサンタさんみたいに配ってくれるなら作ってもいいのだが。あと家のことや婚約のしがらみもあるしこういったイベント一つでも面倒くさいことが多い。それを含めてのさっきの言葉であった。

 

「まあ、咲さんは貰う側なんじゃないですか?明日は大きいバック持って来た方がいいよ」

 

私は五十里先輩の意見に溜息を小さくついてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会室では渡さないと言ったが、お世話になっている何人かの人には、渡そうと思っている。深雪と達也が寝静まったあと、静かにキッチンに降り、今日の準備を始めた。使うのはある神の神依だ。

 

 

 

 

翌朝、深雪と達也が八雲の寺に行くことになっていたので、深雪に私の分も持たせた。深雪は私が作ったことにびっくりしているようであったが、持って行ってくれる。

本を読みながら1人で留守番していると本家から電話が鳴った。

 

「サキーーー!ハッピーバレンタインデーーー!!」

「………」

 

母だ。この調子なのを見ると、今達也と深雪がいないことはお見通しなのだろう。その諜報能力は別のことに活かしてほしい

 

「私からサキへの分は学校で貰ってね、渡しといたから」

「塩釜先輩から貰えということですね。わかりました」

「それでサキから私への分は?」

「(そんなもの)ないです」

 

私の回答を聞くと、母は末原さんのカタカタと安福の戦犯顔を同時に行う、奇跡の融合を果たした。

 

「……それなら、ホワイトデーにお返ししますよ」

「ホント!?楽しみにしてるわね!」

 

打って変わってピョンピョン跳ねて喜ぶ母は若く見えるが、年を考えてほしい。

 

「それと今、魔法協会はチョコの洪水のようよ。咲さん宛てのチョコが大量に集まってるらしくて、近くの空きビルを保管のために使ってるらしいわ。だけどもうそこの空き部屋もパンパンだそうよ」

「……………」

 

再び閉口してしまう。ビルが一杯になるぐらいってどんな量が送られてきたんだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

いつも通り3人で登校し、学校の最寄り駅で降りると、急に包囲されてしまった。

 

「会長受け取って下さい」

「咲さん、これ受け取って」

「会長」

 

その集団が立ち去ると腕の中には大量のチョコの山ができていた。

 

「お姉様、大人気ですね」

 

深雪の機嫌が悪くなる。深雪は私が取られると思い嫉妬してくれてるのだろう。

貰ったチョコをバックに入れ、度重なる強襲にあいながらも学校に進んでいくと途中でほのかと合流した。

 

「ちょっと深雪、チョコ入れるの手伝ってくれないかしら。達也さんとほのかは先に行っといていいわ」

 

ほのかは達也にチョコを渡しにきたのだろう。ここに私たちがいても邪魔なはずだ。深雪もそれを感じ取ったようで私の考えに乗ってくれた。少し不満そうではあったが。

 

 

教室で待ち伏せしている人たちからもチョコを貰い、少しひと段落して席に着く。

 

「咲〜相変わらず人気者だね〜」

「まあそれなりに…ありがたいことではあるけどもね」

「咲は誰かに作ってきたの?」

「作ってないわね」

 

立場上渡せないことがわかっているのだろう。エイミィは余計な詮索はせずにいてくれた。

 

昼には塩釜先輩と会い、自分の分と母のを渡してきた。塩釜先輩のチョコは手作りであったが、母のは買ったものであった。母が送ってきたものは調べてみると、一粒1000円を越す超高級チョコであり、驚き呆れてしまったのはいうでまでもない。

 

 

達也もかなりの数のチョコを貰ったようで、深雪の機嫌が懸念されたが、家に着くとまずやったことは、私たちのチョコを冷蔵庫に放り込んだだけの冷静な対応であってホッとした。

 

深雪にご飯まで部屋で待っとくようにと言われて待つこと1時間、深雪が作ったのは夕食にチョコを使った料理であった。これなら私と達也の口に確実に入る。

 

「もうチョコはいらないかもしれないけど、私からの変わり種を2人にプレゼント」

「珍しいものを…」

「とても美味しいです、流石ですお姉様」

 

私が2人に渡したのはチョコ大福であった。

これを作った時に神依したキャラは高鴨穏乃。実家は和菓子屋さんなのでチョコ大福となったのだ。本当はキャップを使いたかったが、バレンタインとキャップの組み合わせはなんだか恐ろしかったので、ボツになったのだ。

変わり種だったが、意外と2人に高評価で嬉しく思い、顔を綻ばせ今年のバレンタインは幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 




本当に大変だった…キンクリするべきだったかなあ


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第56局[想念]

バレンタインを終えた2月15日。

昨日の浮ついた空気と打って代わって、奇妙な雰囲気が漂っている。

 

なんでもロボ研が所有しガレージにある3H(人型家事手伝いロボット)が笑みを浮かべて、魔法の力を放ったらしいのだ。

朝にその話が会長の私の元に舞い込んたのだが、私はCADならともかく機械にはそんなに強くない。なので、昼に達也と一緒に行くことになった。

既に生徒会として五十里先輩と中条先輩には向かってもらっている。私が呼んだ達也には吉田君達4人、それと深雪と雫ほのかが付いてきておりいつものメンバーでガレージに向かう。

 

ガレージに着き、先に対処を五十里先輩から話を聞くと、今朝3Hは自己診断プログラムを実行し問題なく終了した後、なぜかそのまま終了せずに学校の生徒名簿にアクセスし始めたらしい。

それを感知した遠隔管制アプリはウイルスに感染した可能性が高いとし、強制停止コマンドを送信した。普通は抵抗することは不可能なはずであるがなぜか機能を停止しなかった。なのでサーバー側が無線回線を閉じることでようやく3Hの異常な稼働は止まった。

そしてその間ずっと、ピクシーは嬉しそうな笑みを浮かべていたらしい。怖い。

 

その後、少し調べてみると、電子頭脳の辺りから高濃度のサイオンの痕跡が観測されたらしい。なのでその原因解析を込めて達也を呼んだのだ。

 

「ピクシー、サスペンドモード解除」

 

達也が診断するためにサスペンドモードを解除する。ちなみにピクシーとは3Hの愛称である。

 

「ご用でございますか」

 

起動時の決まり文句だが人間に近く感じられる。私は目で電脳部分を見るとそこには面白いものがいた。

 

「今朝7時以降の操作ログと通信ログを閲覧する。その台に仰向けに寝て、点検モードに移行しろ」

「アドミニストレーター権限を確認します」

 

ピクシーの視線は本来、顔ではなく胸ポケットにある管理者権限を示すカードに向けられるべきなのだが、視線は達也の顔に向けられて動かない。

 

ピクシーはミツケタという小さな音を紡ぎ出し台車から降りると達也に向かって飛びかかった。

その衝撃を、達也は後ろの深雪を守るために正面から受け止めた。達也は今ピクシーに抱きつかれている。よくあるロボットと人との禁断の恋の1シーンのようだ。

 

「四葉君ロボットにまでモテるとか、何股かけてるのかしら」

「お兄様…」

「誤解です」

 

達也が深雪に避けなかった理由を説明してる間、私は新たなカップリングの誕生に笑うのを我慢していたが、達也にはわかったらしい。

 

「咲、何がそんなにおかしい」

「達也×ロボットの同人誌を考えてたのよ。まあ冗談は置いといてそのピクシー、簡単に言えばロボット版の私だわ」

 

達也以外は頭の上にはてなマークが飛んでるが、達也にはその可能性を考えがあったようにみえる。

 

「ていうことは…」

「そう、美月も見えるかしら。パラサイトがいるわよ。普通のパラサイトではないようだけど」

 

ほのかと美月を見ながら言うと、美月は眼鏡を取り見るとパラサイトがいることを伝える。美月もやはりほのかを見ている。私たちの意見は一致したようだ。

 

「でもこれって」

「やっぱり美月もそう思うわよね。よくわからないけどほのかの思念波の影響下にあるのよ。簡単に言えば、ピクシーはほのかの神依をしてる感じかしら。その点も含めて私に似てるって言ったわけ」

 

私に似ていると言ったのは、パラサイトが同じように取り憑いているという点とこの点があったからだ。このメンバーはすでに神依のことを知ってるので説明がしやすい。

 

「ほのかさんとラインが繋がってるわけではなく、ほのかさんの思念をパラサイトが写し取った感じですね。それかほのかさんの想いがパラサイトに焼き付けられたというべきだと思います」

「私はそんなことしてません!」

「ほのかが意図してやったわけではない、そうだろう?」

「はい、意識的なものではなく残留思念に近いです」

 

私の意見に美月が付け加えてくれ、パニックを起こしかけているほのかを達也が宥める。

どうやらほのかも心当たりがあるようで、両手で顔を覆っている。

 

「残留思念…つまり光井さんが何かを強く想ったことが、たまたま近くを漂っていたパラサイトにコピーされたということかな?それの後に、ピクシーに憑依した?それともピクシーに憑依した後焼きついた……?」

 

これは吉田君の自分の考えをまとめるための独り言であるはずだった。しかし、それは独り言ではなくなった。

 

『その通りです』

 

答えは本人、ピクシーのテレパシーのようなものでもたらされる。このテレパシーは私が精霊や咲たちのキャラと喋る時と同じようなものだろう。

 

『私は、彼に対する彼女の特別に強い想いにより覚醒しました』

「音声によるコミュニケーションは可能か?」

『音声を理解することは可能です。ただ、この身体の発声器官を操作することは難しいので、こちらの意思伝達はテレパシーを使わせて下さい』

 

人間の器官とロボットの機構はやはり使い勝手が違うのであろう。

 

「それにしても、我々の言語に随分と通じているようだが、どのように習得したんだ?」

『前の宿主から知識を引き継いでいます』

「お前はやはりあの時逃したパラサイトか」

『パラサイト。確かに、我々はそのようなものです』

「それでお前たちは宿主を変えることで何人犠牲にした?」

『犠牲、その概念には異議があります。何人殺したという質問には答えることができない。私はそれを覚えていない』

 

達也とピクシーの会話は淀みなく進んでいく。誰も口を挟むことはない。

 

「覚えられないぐらい多数ということか?」

『違います。我々が宿主を移動する際引き継ぐことができるのは、宿主のパーソナリティーから乖離した知識だけです。パーソナリティと結び付けられた知識は移動の際に失われます』

「なるほど、だから前の宿主の情報はなく、人数も多いか少ないかも覚えていないということだな」

『その通りです。あなたの理解は正確だ』

「質問に答える以外にも、そうやって感想なども言うことができるんだな。お前たちは感情を持っているのか」

『我々にも自己を守る欲求があります』

「つまり自己保存に対して益か害かを判断する善悪の感情は存在すると言いたいんだな」

 

だから祓おうとした私を襲ってきたのであろう。

ちなみに私の中にいるキャラたちも基本行動原理としては私自身を守るために行動する。それは天照大神の神依でも変わらない。もしかしたら私が重症を負ったりして動けなくなったら、私を守るためにキャラたちが深雪や達也など他の人に移り神依ができるようになるのかもしれない。まあ、重症を負っても昨日達也を家で膝枕したことによる再生のストックが1回分あるので、そんな事態になるとは思えないが。

 

「しかし、感情の有無など今はどうでもいい。お前のことはなんと呼べばいい?」

『我々には名がありませんので、この体の名称のピクシーと呼んで下さい』

「電子頭脳から知識を引き出すことができるのか?」

『この憑代を掌握してからは可能ですが、名称については、貴方が先ほどそう呼んでいました』

「ではピクシー。お前は我々に敵対する存在であるのか」

『私は貴方に従属します』

「なぜ俺に?」

『私は貴方の物になりたい』

 

真面目な話し中であったのに吹き出してしまった。いきなりこんなことを言われて吹き出さないのは無理だ。いきなり恋愛小説で時々見るこの言葉を言ってくるのは、とんだロマンチストだ。

 

『私は「光井ほのか」のこの想いにより覚醒しました』

 

ほのかの叫びを私は魔法でカットする。ほのかには悪いがここで遮らすわけにはいかない。

 

『我々は強い想いに引き寄せられ、それを核として「自我」を形成します』

「強い想い?それはどんなものでもいいのか?」

『いいえ。私たちを呼び覚ますのは人間の言葉でいう「祈り」、純度の高い想いのみです』

 

当然どんな「祈り」かは聞くまでもない。

 

『貴方に尽くしたい』

『貴方の役に立ちたい』

『貴方に仕えたい』

『貴方の物になりたい』

『貴方に全てを捧げたい。それが祈りです』

 

後ろでドタバタ暴れている。深雪とエリカが抑えているはずだが相当暴れているのだろう。確かにこの想いを想っている人の前で言われるのは恥ずかしい。

 

「興味深い話だ」

 

達也は「情」ではなく「知」に関心があった。なんという精神。

 

 

 

吸血鬼は私のものとピクシーのものの2匹の他にもいるはずである。私のパラサイトからは情報を聞き出すことができない。

しかしピクシーは喋ることができる。

ピクシーが語った事が本当でも嘘でも、事態収束に向けての手駒を手に入れることができた。

 

 

 

 

 

 




ほのか不憫だ…


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第57局[再臨]

おまたせ(小走先輩風)


私は夏から毎週月曜日、町外れの森で衣の神依の練習をしている。

それは夜に行なっているが、なぜ夜かというと当然夜の方が力が増すからである。達也に1人で出歩くのは危ないと言われ、最初の頃は送り迎えをして貰っていたが、深雪の習い事と9月から重なり始めたので送り迎えは無しだ。深雪は申し訳なさそうにしていたが、私と深雪だったら当然深雪を優先して欲しいという意見で合意したのであった。

月曜日じゃなくすればいいだろというツッコミが入りそうだが衣と月はセットであるのでこれは譲れない。

 

この毎週の練習のおかげか衣の神依時でも5割は意識を保っていられるようになった。喋り方や性格などは完全に衣であるのだが。

 

今日は満月、いい練習ができるだろうと思いながら森への道のりへの中間地点を通過した時、精霊達が尾行に感づいた。

中間地点まで私が尾行とは気づかない距離であるので、こちらのことを視認できないだろうが、何か衛星か何かで追跡してるのかもしれない。

街中で魔法戦するのは一般市民にも被害が出る可能性が大きいので、予定通り森へ向かった。

 

 

私が森に着くと待ち伏せされていたのだろう。四方からサブマシンガンの弾の嵐が私を襲う。当然枕神怜により予測していた私は、ダブルバウンドにより撃たれた弾を全て跳ね返す。こんなこと普通はできないがダブルバウンドを領域型にすることでこれを可能とした。何人かそれで倒れたが、銃弾を障壁魔法で防いだ人たちは私に飛びかかってきた。

それを魔法でいなしながら相手の正体を探る。

覆面で人相を隠しているが、サイオンまでは隠せていない。明らかにサイオン波がこの国のものとは一致しないので、USNAか大亜連合だろう。普通の人間にも見えないので、強化人間だと仮定するとUSNAの方が可能性高いかもしれない。

倒して覆面を取ればわかることに気づいた私は、放出系魔法の"スパーク"で敵全てを気絶させた。

 

全員処理し終わった後、敵の国を特定するために覆面を剥がしに向かったところ枕神怜のアラートがなる。

10秒後プラズマビームが飛んでくるらしい。いつもはナビモードが対処方法教えてくれるのだが、今回は対処方法不明らしい。これは初めてのことだ。

 

精霊を使って周りを見回すとリーナが正面にいるだけで他の人影は見えない。ということはリーナが正面から放ってくるのであろう。プラズマを防ぐ障壁魔法を何重にも展開しプラズマビームに備える。

しかしプラズマビームは私の障壁を貫き、私の腕を消しとばした。

 

激痛に脂汗を流し膝をつく。私は達也と違い痛みに耐性がそこまでない。こんな大怪我をしたのは初めてである。

 

「サキ、投降しなさい。アナタがいかに魔法に優れていたとしても、その状態では集中して魔法を使うこともできないわ」

近づいてきたリーナが投降勧告をしてきた。魔法は集中力が必要となる部分が大きい。怪我をすれば魔法力が落ちるのは必然である。

 

「リーナの任務は私の拉致暗殺でやはりあってたようね」

「そうよ、わかっててサキは放置するとか私を舐めすぎよ」

 

リーナはパレードを発動しているが姿しか変えていない。それほど先ほどのプラズマビームは魔法力のキャパシティのいる魔法なのであろう。

 

「さっきのビームはヘビィメタルバーストかしら」

「そうよ、私のヘビィメタルバーストとブリオネイクを防ぐ手段はないわ」

「相変わらず口が軽いわねリーナ。ブリオネイクということは元ネタはたぶんブリューナク。ケルト神話から取ったのかしら?」

「そんなことが気になるの?今サキは生きるか死ぬかの瀬戸際なのに」

 

傷を抑えて立ち上がると鼻先に高エネルギープラズマビームが再び飛んできて私を脅す。

 

「名前は重要よリーナ。そのものの本質をつくことが多いわ」

「余裕かましてるからもう一度いうけど、投降しなさい。もうあなたに勝ち目はないわ」

 

リーナの勧告を聞いて私は笑った。

 

「私を捕らえて何がしたいのかしら?人体実験?それとも私を雌馬とした交配かしら。もしかしたらさっきの人たちのように意思を奪って尖兵とするのかもね」

 

私の回答にリーナは口を閉ざす。リーナもそのことについて考えていたのだろうが、実際そうなるかもしれない本人に言われるのは優しいリーナにはキツイものがあるのかもしれない。

 

「Why does the sun come up? Or are the stars just pinholes in the curtain of night?(太陽はなぜ登る、月はなぜ輝く)

それと同じで投降する理由なんてないわ」

 

私が流暢な英語を交えて返すとリーナはビックリしたようだが、すぐに顔を引き締める。

 

「交渉決裂のようね」

「そうね、だって私が勝つんだもの」

 

サイオンの嵐が咲から放出された。天空から咲めがけ光が落ちてきて、咲を照らす。リーナは目を離すまいとして咲を見ていたが、信じられないことが起こった。先ほど消しとばした腕が一瞬で再生したのだ。幻術かと思ったがそうではない。一瞬で咲は腕の怪我を回復してしまったのだ。

 

サイオンの嵐が収まった時、そこにいた咲は人を超越していた。

リーナは力のある魔法師であるから、わかりたくないこともわかってしまった。そこにいたのは神。

 

絶対に勝てない

人は神には勝てない

竜の逆鱗に触れてしまった

ということを。

 

 

「外の国の有象無象の下等生物が、よくも咲を傷つけてくれたな……生猪口才。お前を根の堅洲国に送り込んでやる」

 

リーナはほとんど言ってることの意味がわからなかったが、とても怒っていることだけはわかった。

恐怖で震える体を抑え込み、ヘビィメタルバーストを放つ。生身の人間が受ければ先ほどの咲のように体が消し飛ぶ。しかし戦略級魔法でもあるそれを受けても咲は体が消し飛ぶどころかダメージを食らっていないようであった。

 

「夜の帳が下り、月が満ちている時に通用すると思っているとは烏滸言」

 

リーナは今のでもう一度再確認してしまったのだ。咲には勝てない。USNA最強の魔法ヘビィメタルバーストを受けてもダメージがない相手。そんな相手に勝つ手段などない

 

咲が右手を横に広げると周りが闇に移り変わる。一瞬光ったと思うと激痛が膝に走り、膝をついてしまう。奇しくもさっきと逆の体勢になった。

 

「楽に黄壌に去れると思うな。気息奄奄となるまでいたぶってから送ってやる」

 

次に腕、腹に何かが通ったような穴ができる。確かこの魔法は四葉真夜の魔法だったはず、と思うと同時に、リーナは激痛により意識がなくなった。

 

 

 

 

 

 

達也は深雪を習い事に送った後、急いで咲がいるはずの森に向かった。虫の知らせのような嫌な予感がしたからである。近くまで行き目を向けてみるとやはり集団に襲われているようだ。

森まで1kmというところまで来た時、咲との繋がりが揺れた。これを経験したのは三年前。深雪が撃たれた時以来だ。見ると咲はリーナに腕を消しとばされている。込み上がる怒りを抑えながら森に着くと、同時に、地域一帯に停電が起きた。たぶん咲かリーナの力であろう。

 

目を向けながら急いで咲の元に向かうと、咲はリーナにとどめを刺そうとしているところであった。流石にそれはまずいので術式分解でその魔法を無効化する。それにより咲は達也が来たことに気づいたようだ。

 

「なぜ止める達也。この者は咲を傷つけた。咲を傷つけるものは、一切合切、烏有に帰せばいいのだ!」

「落ち着け。殺した場合、国際問題になり、また咲を傷つけるものが現れるぞ。衣もそれは本意ではないだろう?」

 

難しい古典風な喋り方から衣と検討はついていた達也はそう話しかける。

 

「そうよ衣ちゃん。後のことを考えると殺すのはよくないわ」

「咲がそういうなら」

 

達也は驚いた。天照大神の神依中、咲の意識があることは今までなかった。しかし今は二重人格のように二つの意識があるようである。これも練習の成果だろう。

今見ると腕も再生している。清水谷竜華のように回復系の神依も他にあるのだろうか。

 

「この後はどうするのだ達也」

「USNAがリーナを切り捨てるはずがない。まずはバックアップチームを潰す」

「有象無象には生路を与えないということか」

 

リーナを再生で治しながらいうと、衣はニヤリと笑う。2人でバックアップチームを潰しに森の奥へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




衣の口調難しいなあ…



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第58局[始末]

森の奥に潜んでいたバックアップチームを殲滅し、リーナを移動中継車に運んで来た時にはもう既にバックアップチームは影も形もなかった。精霊で見回すと何者か気配を殺して潜んでいる監視者がいるが、達也も私も気づかないふりを通す。

 

「達也、次は何をする」

「叔母上に連絡だ、俺の車に向かうぞ」

 

達也の車には厳重に暗号化されている本家と通じる音声通信回線がある。それで連絡するのであろう。

 

『咲様、達也様。どうかいたしましたか?』

「葉山、大義。母君はいるか?」

『奥様はあいにく電話口に出られないご用の最中でいらっしゃいます』

「それは失礼をした」

 

この時間であれば入浴中であろうか。

 

『謝罪には及びません。咲様からの電話と聞いたら奥様は泣いて喜びます。それでご用件がおありなのでしょうか?』

 

確かに、母は珍しい私からの電話があったなら喜びそうだ。

本家に頼るのはあんまり好きではないが今回は横浜の時のようなゴリ押しでどうにかなる状況ではない。

 

「実は咲が先ほど、USNAの小部隊より攻撃を受けました。第1波は咲がすぐ撃退しましたが、第2波としてアンジーシリウスの攻撃がありまして…」

 

達也が私の代わりに説明してくれる。確かにこういうことは衣と私には向いていない。

 

葉山さんがいうには先ほど私たちを監視していたのは七草家の息のかかった国防軍らしい。米軍の件とその件も葉山さんはどうにかしてくれると約束してくれた。葉山さんの約束であるからば大丈夫であるだろう。

四葉家の魔法師は人数こそ少ないが、皆一騎当千の力を持っている。今年は私の加護でさらにそれが強化されている。米軍や七草家や国防軍相手だとしても問題ないであろう。

 

 

 

 

 

衣を神依しているので大丈夫なはずだが、念のため達也と一緒にいることとなり、深雪を私も迎えに行く。

私と顔を合わせた瞬間、深雪は怪訝そうな目を私に向けただけだったが、車に乗り込み走り出したところで私にすがりついてきた。

 

「お姉様、お怪我はありませんかっ?」

「深雪少し落ち着け」

「落ち着いてなどいられません!この臭い…お姉様、リーナと戦われましたね。しかも1vs1ではなく10人以上と交戦された臭いです!」

 

私と達也は情報を視覚で捉えるが、深雪は触覚で捉える。それに加え、深雪は嗅覚で捉えることもある。焼け飛んだ腕の服も治してるし戦いの痕跡はないはずだが、感じ取られてしまったようだ。

 

「ミユキ、衣が敗衄するようなことがあると思うか?」

 

いつもと違う調子で私が言うと深雪はやっと私の神依を感じ取ったようだ。今まで感じ取っていないとはよほど慌てていたのだろう。

 

「申し訳ございません。お見苦しいところをお見せしました…」

 

深雪は言葉だけではなく恥ずかしそうに縮こまってしまった。そのサポートに達也が入る。

 

「でも、咲。腕が吹っ飛んでいたのは事実だろう?どうやって治したんだ?」

「それは密か事だ。咲から言うなと言われているしな」

 

衣が私との約束を守ってくれた。これからは実戦でも、少しずつ衣を使っていってもいいかもしれない。

 

「お姉様とお兄様には誰も世界中で勝てないということも承知しております。お姉様とお兄様は不死身のコンビですから」

「衣はミユキには敗衄していないが、咲は何度かミユキに敗滅しているし、タツヤには場の支配が打ち破られ相性が悪い」

「俺は再生分解だけだからな。汎用性は咲や深雪に比べてずっと低いさ」

 

3人で最強キャラを決めるスレのように不毛な話をしながら帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第59局[情報]

10万UA達成しました。いつも読んでくださってる皆様ありがとうございます。これからも細々と続けていくと思うのでこれからも読んでもらえると嬉しい限りです。


朝食をとりながら朝の報道番組を見ていると一風変わったニュースが流れた。そのニュースとはアメリカ海軍所属の小型艦船が千葉県沖の日本領海内で漂流していたというニュースだった。これは明らかに本家が手を回したであろう。

それにしても早い。絶対にこの早さは準備をしていた。

 

 

その日の夕方、生徒会室の私の元に達也がやってきた。理由は夜間ピクシーを連れ出すために、生徒会長が発行する夜間入校許可証をもらいにきたのだ。これがないと夜間学校に入ることはできない。

私深雪達也で3枚発行したのだが、達也は発行してから私を強制的に家に帰し、残り1枚はほのかに渡した。

 

ここ最近達也は妙に私に過保護になっており、私をパラサイト関係のメンバーに加えることはなくなった。心配してくれてることは確かであるので家で大人しくしておいた。

 

 

翌日、達也と深雪から話を聞くとパラサイトをピクシーでおびき出すことに成功し、パラサイトを確保できそうであったそうなのだが国防軍の邪魔が入ったらしい。達也曰く、面白武器を使う情報部傍諜第三課、七草家の息のかかった部署であるらしい。

達也は七草先輩に封印以外の措置をパラサイトにしないように釘を刺しておくらしい。

 

 

 

 

 

しかし悲報が入ったのはその釘を刺した次の日。

 

『傍諜第三課のスパイ収容施設が襲撃されて、捕まったパラサイトが殺された』

 

達也に届いた七草先輩のメールにはそう書いてあった。

 

達也が施設をハッキングして3人で見た映像は私達に衝撃をもたらした。

その内容とは、真紅の髪の少女が次々と施設に捉えられたパラサイトを寄生していると思われる人間を殺していく。明らかに「中身」のことを無視した殺害行動。「容器」を壊すことだけを目的とした、それは処刑であった。

 

「あれは…リーナですか?」

 

深雪は私と達也からパレードのことを教えてある。あのよくない画質の映像でリーナとわかったらしい。

 

「そうね」

 

暗殺は私もよくやるが、進んでやりたいものではない。命令があるか私の信念に反する時以外はあまりやりたくない仕事だ。

どうみてもリーナには暗殺者の適性がない。それは深雪と達也も同じ意見のようだ。

 

 

このまま1日、暗い気持ちで過ごすことになりそうであったが、それを吹き飛ばすよりショッキングなことが直後に起きた。

達也がハッキングしていたモニターに別の映像が浮かび上がったのだ。モニターに映っていたのは金髪碧眼の青年であった。

 

『ハローハロー、聞こえてる?たぶん聞こえてるだろうし、聞こえてる前提で話させてもらうけど』

 

こちらにマイクやカメラはない。向こうには聞こえてるかどうか確かめるすべはないのだ。

 

『自己紹介をしよう。僕の名はレイモンド・セイジ・クラーク。「七賢人」の1人だよ』

 

元素記号を覚えるときのクラークという名前の人が本当にいるのかと私はずっと思っていたので少し驚いた。でもよく考えると「少年よ、大志を抱け」で有名なクラーク博士がいたことに気づく。

 

「七賢人か…」

 

達也と深雪は違うことに驚いているようであった。そういやリーナがこの前そんなこと言ってた気がする。

レイモンドが言うには七賢人はフリズスキャルヴというものを使える7人のオペレーターのことらしい。そしてその7人はフリズスキャルヴのシステム自身が選び、選ばれた人は完全にランダムのようだ。

フリズスキャルヴの説明でなんか難しいことを言っていたが、まあ簡単にいうと全世界のネットワークを一度でも介した全ての情報をググることができるシステムらしい。

この世界ではネットワークが発達しているので一度もネットワークを通らない情報などほとんどないと言っていい。なので全て、例えば軍の秘密文書だって手に入れることができるのだ。チートやチーターやそんなん。

 

『明日、そちらでは2月19日の夜、第一高校の裏手の演習場に活動中のパラサイトが集まる。そこで殲滅してもらいたい。この情報はシリウスにもつたえてある。協力するかしないかは君たち次第だ』

 

そんなことも調べれるのか。検索の領域を大きく超えてるように思える。

 

『期待しているよ。戦略級魔法師「破壊神(ザ・デストロイ)」と神の力を使う者「女神(ヴィーナス)」』

 

そう最後に言い残しモニターが暗くなった。

深雪が大きく息を吐いた。それほど気を詰めていたらしい。

 

「お兄様、どうしますか」

「行くしかないだろう」

 

罠かもしれないが、この吸血鬼事件解決の手がかりになるなら行くしかない。私は達也の新しいあだ名「破壊神」の大袈裟なニックネームに笑いをこらえながらそう思った。

 

 

 

 

 

次の日の夜、また私は達也に留守番を言いつけられた。理由はパラサイトはもともと一体であり、パラサイトが集まるということは一つに戻ろうとしているということ。だからパラサイトを持っている私は危ないとのことだった。

私のパラサイトは霞さんを神依してない間はパラサイトを持っていないのだが、それを説明しても達也の許可を取れなかった。

ここ最近の達也は私を過保護に守りすぎである。ここまで守られるほど私は弱くない。

それに逆だ。私は達也たちを守らなくてはいけない。三年前のようなことを引き起こしてはならない。私は神の力を使うのだから魔法に関しては完璧でなければならない。

 

 

 

達也に背き、家を抜け出して学校へ私は来ていた。

 

フェンスを乗り越え精霊で様子を見てみると、達也達は皆無事なようだが、国防軍だろうか。ある一隊が全滅している。他にも亜夜子ちゃん率いる四葉本家のものや老師などもいてカオスな状況となっている。

老師の姿を見て本当は老師に勝負を仕掛けたいが、今日もまた違うなどと言われて勝負を受けてもらえないのは目に見えている。

それに達也達が危ない。そんなことをしてる場合ではないだろう。

 

達也とリーナと深雪が相手にしているのはヤマタノオロチのように八つの頭を持つ竜のような姿のパラサイトであった。

吉田君がパラサイトの動きを少しの間封じ、達也は自分の目を介して深雪にパラサイトを見せ、深雪は自身の精神干渉魔法「コキュートス」を放つ。精神そのものに作用する深雪の魔法は霊子全体を凍りつかせるかと思ったが、あと少しのところでパラサイトが分裂し半分しか凍らせられなかった。

 

「なんだと!?」

「任せて」

 

達也の驚く声に合わせ、私もコキュートスを放つ。深雪を膝枕していた甲斐があった。

私の放ったコキュートスは分裂したばかりでスタンが入っていたのかもしれない、動きが鈍いパラサイトに直撃し、器を持たないそれは粉々に砕けて虚空に散った。

 

 

 

「お姉様!?」

「はろー深雪、詰めが甘いわよ」

 

深雪は私が来たことに驚いているようであり目を丸くしている。リーナは私と深雪が使った魔法に衝撃を受けているようだ。

 

達也はどうか確かめようと達也の方に目を向けようとしたその時、私の頰に鋭い痛みが走る。私が達也に頬を叩かれたのだと気づいたのはその3秒後であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第60局[対立]

達也が咲の頰を叩いたのを見て、リーナは驚愕していた。達也は敵対しなければ人に手をあげることは学校で聞いた限りないし、何より咲に暴力を振るうなんて考えれなかった。この場の最後の1人、深雪を見ると深雪はありえないものを見たという目をしている。やはり演技ではないのだろう。

 

咲も叩かれたことに気づくまでは目を丸くしていたが、何が起こったのか気づいてからはリーナとの戦闘前と同じ表情になった。

 

「何の真似かしら?」

「お前こそ何の真似だ。家から出るなと言っておいたはずだが」

 

達也は怒っていた。達也に激情は1つしか残されていない。それは咲と深雪を大切に思うこと。達也は咲が咲自身の自分のことを大事にしなかったことに怒ったのであった。

パラサイトを自分の中に取り入れたり、不可抗力とはいえシリウスであるリーナと戦闘したり、最近の咲は自分を大事にしないことが多かった。外敵からは達也自身がどうにか対処できるが、咲の自分を大事にしない行為はいつか身を滅ぼすと思っていた。

なので達也は咲をパラサイト事件に関与させないようにしたのだ。

しかし言いつけを破り、学校に来た咲に今までで少しずつ貯めていた怒りとともに爆発してしまったのである。頰を叩いた後はやってしまったと思ったのだが。

 

「私はあなたの駒じゃないのだけど」

 

咲の言うことも事実である。咲はいつも誕生日の早い達也に従っているが、家の序列から見ると達也は咲のずっと下であり、命令できる立場ではない。

 

「安全のためだ、仕方がないだろ」

「与えられた偽りの平和の箱庭の中で暮らすつもりはないわ」

「勝手にしろ」

「それじゃあ、勝手にさせてもらうわ。じゃあね」

 

売り言葉に買い言葉で咲は飛行魔法を使いこの場を立ち去った。呆然とするリーナや「お姉様…」と心配する深雪を置いて。

 

 

 

 

事後処理を終え、家に帰った時待っていたのは咲ではなく、一通の置き手紙であった。そこにはこの家を出て行くとの旨が書かれていた。

 

東京には四葉家の者が仕事で泊まるとき用のマンションがある。そこには咲の1室もあるのでたぶんそこに行ったのだろう。

荷物はほとんどこの家の部屋に残っていたので、ずっと家を出て行くつもりはないだろうが制服や本がないのを見ると、ある程度本気で家出をする心意気が感じられる。

 

 

 

 

 

翌日、週明けの月曜日の学校はまたいつもと雰囲気が違うように感じられた。

深雪と2人で登校した達也はクラスに入るとエリカたちに囲まれる。

 

「ねえ、達也君。咲と喧嘩でもしたの?」

「どうしてそう思う」

 

昨日の言い合いを見ていたのは深雪とリーナだけのはずで、後処理の時にその話はしてない。エリカたちは知らないはずだ。

 

「朝1人で登校して来た咲さんが今まで見たことがないくらい、ものすごーく機嫌悪かったらしいんだよ。その機嫌悪い咲さんとすれ違った生徒は嘔吐しそうになったり、カタカタ震えたり、失禁しそうになったらしい。そんな機嫌の悪い理由は達也か深雪さん関連しか思いつかないし、校内でもそう噂されている」

「なるほど。あいつとは少しすれ違いがあってな。その噂とは?」

 

この朝の時点で広まっている噂は気になる。ゴシップネタに達也は興味はないが自分が関係しそうなものは別であるのだ。

 

「だいたいは達也と深雪さんと喧嘩したってものだけど、突拍子のないものだと達也が咲さんと付き合ってるのに浮気したとか、達也に告白して振られたとか、付き合ってる達也の束縛が厳しすぎて咲さんが怒ったとか、2人を知ってる僕たちからしたらそんなことありえないみたいな内容もあるよ」

 

達也はこめかみを抑える。咲はこの学校の男女の中で一番人気である。こういう噂はだいたい人気でない方が悪者にされるケースが多いが今回のケースもそれに当てはまり、達也が悪者にされていた。

しかも、その突拍子のないものにほとんど正解のものがある。頭が痛くなる話であった。

 

 

 

 

 

「ミユキ、サキのあれどうにかならないの」

 

リーナが咲を襲った件の後、四葉はUSNA大使館の高官に圧力をかけ咲の暗殺と拉致や戦略級魔法師の捜索をやめさせた。リーナは吸血鬼事件の対処が残りの作戦であったので、それが終わった今、帰国の3月中盤まで学校生活を普通に過ごしている。

 

リーナが言うのは咲のあのプレッシャーのことであろう。咲の放つプレッシャーは魔法感受性が高いほど感じてしまうので、同年代最高クラスの魔法感受性を持つ深雪とリーナはクラスが違っても感じてしまうのだ。

 

「お姉様があんなに不機嫌になられるの初めてなのよ」

 

朝、B組を覗いた時、静かに本を読んでいるが明らかに機嫌が悪いのがわかった。普段と変わらないようにしているつもりかもしれないが隠しきれていない。

 

「深雪がそう言うぐらい珍しいって…確かにいつも怒ることなんてなくてみんなに優しいけど」

「そりゃタツヤに頰をた」

「リーナ」

 

深雪はリーナの言葉を遮る。深雪の中ではあの光景は思い出したくないものである。兄が姉を思ってるからこそだとはわかっているが心情はまた別なのだ。

 

「深雪はなんで咲の機嫌悪いのか知っているの?」

「お兄様とお姉様のちょっとした行き違いよ」

 

ほのかの疑問に深雪は答えるとリーナは何かまた言いそうにしていたがそれを目で抑える。リーナも理解してくれたようであの時のことを言おうとはもうしなくなった。

 

 

昼食も久しぶりに別々に食べ、その日の放課後の生徒会活動。今生徒会は卒業式の後に行われる卒業パーティの準備をしている。本当は準備に追われて大変なはずなのだが

 

「咲さん、1人で全部やらなくてもいいんだよ。僕たちも手伝うよ」

「こうしてた方が気がまぎれますので」

 

五十里先輩が手伝いを申し出るが、姉にやんわり拒否される。姉は人手がいるもの以外の全ての業務をこなしていた。普段は25%しかやらない決まりになっているのだが実に70%の業務をこなしていた。

しかし咎められるものはこの場にいない。中条先輩に至っては姉のオーラにずっと震えている。

 

残りの業務が時間がかかるものだけになったので、五十里先輩の勧めで姉は早めに帰宅した。私を迎えに来た兄と会いたくないのかもしれない。姉が出て行くと私たち4人は息を吐いた。それほど圧力が凄かったのだ。

 

「普段怒らない人を怒らせるとやばいってことが身に沁みたよ…」

「そういえば咲さん四葉でしたね…」

 

中条先輩は改めて姉が四葉ということを思い出したようだ。

 

梓にとって最初は四葉という名前だけで恐ろしい存在だったが、次第に3人とも怖い人ではないことがわかり(達也は怪しいが)、恐ろしさは減っていった。特に咲は3人の中で戦闘狂ってことを除けば最初から一番恐ろしさが少なかった。しかしその評価を覆さざるをえないほどの咲のプレッシャーであったのだ。

 

「家ではどうなの深雪」

「不機嫌になられてから一度も家で一緒になったことないのよ、ほのか」

「え!?咲さんは家出をしたということなんですか?」

「そうなりますね…家出先はお姉様が個人的に所有していらっしゃるマンションの一室だと思いますが」

 

一介の高校生がマンションを所有しているのは普通おかしい話なのだが、十師族や百家ではないことはない話であるので違和感なく梓達は理解できた。

 

 

 

家に2人で帰り、深雪が達也に切り込んだのは夕食後であった。

 

「今回の件、深雪はお兄様も悪いと思いますよ」

「わかっている、手を出したのは確かに悪かったとは思っている」

「では…」

「謝りたいとは思うが機会がな。今日の調子だとなかなかあってくれないぞ」

「お姉様も自分にも非があるとお思いなはずです」

「どうだかな」

 

咲が怒る時は大抵、咲の信念に反する時だ。それに咲は頑固である。非があるとは思っていても自分から謝りに来ることはないだろう。

 

「あの…お兄様。明日、お姉様のところに泊まってきてもよろしいでしょうか?」

「大丈夫、泊まってきていいぞ」

 

深雪は早く姉にこの家に帰ってきてほしかった。そのために姉と話し合うためである。達也と2人だけの家は何か物足りなく、寂しく感じるのだ。

深雪は姉に明日泊まる旨の連絡を取ろうとしたが、連絡を取る手段がなかった。姉はメールをほとんど見ないし、姉の部屋の電話番号を知らなかったからだ。

 

 

 

翌日、登校した深雪はB組の姉のもとに向かった。姉はいつも通り本を読んでいて、不機嫌オーラは昨日よりマシであったがクラスメイトはまだ近づけないようだ。

 

「どうかしたの深雪」

 

深雪が近づいたのを感じ取ったとったのであろう。姉は本から顔をあげた。

 

「あの、お姉様…」

「何かしら?」

「今日、お姉様の部屋に泊めていただけないでしょうか?」

 

姉の不機嫌オーラが消えた。急なことで驚いたのであろう。

 

「深雪1人かしら?」

「はい」

「それなら大丈夫よ、着替えは持ってきてるの?私のを使ってもいいのだけど」

「持ってきてますけど、お姉様のを着たいです」

「いいわよ、帰りは食材を買って帰らないといけないわね」

 

姉はどこか楽しそうであった。もしかしたら姉も1人で寂しかったのかもしれない。そのことを言っても否定するだけだろうが。

 

 

 

 

「ミユキ、サキとタツヤは仲直りしたの?」

 

昼食時、リーナが聞いてきた。リーナと深雪は2人で屋上に来ている。普通は寒くて屋上にくる物好きな人間はいないが、CADを持ったこの2人にとっては快適な環境を作ることなどお茶の子さいさいである。

話は戻るがリーナがそのように思った理由は昨日のプレッシャーが感じ取れなくなったからであろう。あの重苦しい空気はなくなり、平穏な学校生活が返ってきていた。

 

「いいえ、まだよ。でも回復に向かっているわ」

「そう。あのトラウマを思い出すから早く仲直りしてくれないかしら」

「トラウマって、お姉様に負けたこと?」

「そうよ!意味分からない言葉を発したかと思うと何にも魔法効かなくなるし、ありえないぐらい怖いし、どうなってんのよサキは」

 

たぶん衣の神依のことだろう。姉は自分の体に海底撈月の効果をかけることによりヘビィメタルバーストを無効化したと言っていた。満月だったからと言っていたが、戦略級魔法を無効化する姉はもう別次元にいるように感じた。

 

「お姉様を殺そうとした罰よ、お姉様は簡単に死ぬようなお方ではないし、手痛い反撃を食らったと思うけど」

「確かに、サキに手を出すのは私にとってもUSNAにとっても得策ではなかったわね」

 

四葉はUSNAの戦略級魔法師の調査を止めさせている。深雪は二重の意味を込めて反撃という言葉を使ったがリーナもそれを理解したようだ。

2人だけの時しかできない会話をしながら、昼休みを終えた。

 

 

 

放課後の生徒会活動は昨日と打って変わって、姉の機嫌が良かったのでいい雰囲気で進んでいた。作業効率もよく早めに終わることができたので、姉と買い物をして帰っても十分な時間があった。

 

姉の家出先は四葉が持つ高級マンションの最上階。

 

「どうぞ、何にも面白いものはない部屋だけど上がって」

「お邪魔します」

 

1フロア丸々使った豪勢な作りになっている最上階のスイートルームは、姉らしい作りなっている。たくさんの本棚が並び机や椅子が置かれている。家の姉の部屋も書斎のようになっているのだがここは小さな図書館のようだと深雪は思った。

 

「小さい時から、私の読み終わった本をこの部屋に送っているのよ」

 

つまりここにある本全て、姉が読んだ本というわけだ。読書以外にほとんど趣味を持たない姉だがこの本の量は尋常ではなかった。

 

深雪は荷物を置き料理をしようとするが、深雪はお客さんだからということで姉が料理を作り(姉はキャップの神依をつかい機械なしに料理をしていた)、2人で夕食を食べた。

夕食後のお茶をしている時、会話がひと段落すると姉は急に笑顔を真剣な顔に変える。

 

「で、深雪は私に、達也さんに謝れと言いにきたのかしら?」

「いえ…」

「否定しても無駄よ。私は深雪のお姉さんなんだからそれぐらいわかるわ」

 

最初は厳しく聞こえる声だったが、後半はいつもの優しい声に戻っていた。

 

「深雪は達也さんと2人だけで暮らすのが嫌なのかしら」

「お兄様を尊敬するようになってから、お姉様がいらっしゃらないのなんて、初めての経験なので」

 

家の用事などで姉は何日か家を空けたりするが、あれはノーカンだ。

 

「確かに、よく考えると深雪と達也さんが本当の意味で仲良くなってから3年しか経ってないのね…」

 

姉の言葉を聞いて深雪は三年前のことが思い出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第61局[哀哭]

追憶編スタート


わたしは魔法の歴史についての教材ファイルを読んでいたがシートベルト着用のアナウンスが聞こえたのを機にそれを閉じた。中学生になったばかりのわたしには少し難しい内容だったが、このくらいの方が退屈しなくていい。

現代の飛行機はこれぐらいでは航行に支障はきたさないが情報端末をオフにするのはマナーだ。

横をみると従姉妹である咲お姉様は紙の本を読んでいらっしゃる。今回の旅行は家族のプライベート旅行であるのだが、わたしがわがままをいって、付いてきて貰ったのだ。

プライベート旅行は家の事情からあまりなく、そしてお姉様と旅行をするのは初めてであるので、ガラにもなくウキウキしてしまう。

お母様とお姉様の3人ではなく兄も一緒なのが玉に瑕なのだけど。

 

兄は私たちと同じエグゼクティブクラスではなく、ノーマルクラスに乗っていた。

兄にノーマルクラスの方を見て貰っているのは万が一テロが発生するのは警備のゆるいノーマルクラスであるからだ。

わたしの家族が普通ではないのは私もわかっている。兄は四葉と認めてもらえず私のボディーガードのような立ち位置にいる。

本家の人たちは1人を除き、兄を使用人そのものとして扱う。それはお母様も同じだ。

なぜ妹にアゴで使われたりして平気であるのか、それはわたしの疑問であった。

 

 

空港に到着し、預かり手荷物を待つ兄と姉を待っていた。兄が取りに行くのはいつものことなのだが、姉が取りに行くのは疑問で仕方なかった。

 

姉は唯一、兄を使用人として扱わない人である。わたしと接するのと同じように兄を扱う。そこが少し不満だったりもする。

そして姉は他の使用人すらぞんざいに扱うことはない。現当主、四葉真夜様の娘であるのに使用人は道具という四葉の精神に反している。しかし四葉内でそれを咎められる人はいない。真夜様が姉を溺愛してるのもあるが、一族は皆、姉の力に一目置いているからだ。

 

「神依」

 

それが姉の力。神をまといその能力を使う。その力は圧倒的であり、何度も勝負をしているが勝てた神の数は少なく、それも攻略のヒントを貰ってようやく勝てたに過ぎない。

そしてこの1年負け続けている神は今までの神よりはるかに強力であり、魔法を使用すらできずに負けている。

 

それほど強力な力を持っているのに威張ったり偉そうにすることはほとんどない。何か姉自身が持つ流儀や信念があるのかもしれない。

 

 

そんなことを考えていると姉が私たちが待つ会員制ティーラウンジに戻ってきた。

 

「叔母様、荷物の返却が終わりました」

「咲さん、貴女が行かなくても良かったのに。今回、貴女は深雪さんの頼みで来てくれたお客様なのよ」

 

お母様の返答に笑って姉は答えている。お母様が言ったことはわたしもそう思っていたのだが、それを口に出すことはできなかった。

 

 

 

別荘でわたしたちを出迎えてくれたのはお母様のボディーガードの桜井穂波さんだ。

彼女は遺伝子操作により魔法資質を強化された調整体魔法師「桜」シリーズの第1世代である。

そんな生い立ちであるのだが明るくさっぱりした女性であり、護衛任務以外にも細々としたお世話をしてくれ、本人曰く家政婦の方が性に合ってるらしい。

先に別荘にきていたのは現地の情報収集のためであった。

 

「さあどうぞ。冷たいお茶と温かいお茶どちらがいいでしょうか?」

「そうね、せっかくだから冷たいお茶をいただくわ」

「はい、畏まりました。咲さん、深雪さん、達也くんも冷たいお茶でよろしいですか?」

「お願いします」

「はい、ありがとうございます」

「お手数おかけします」

 

ただ一つ桜井さんに不満があるとすれば、兄をお母様の息子として、わたしの兄として扱うことだろうか。

姉もそうしているし、言ってしまえば当たり前のことだ。

しかし、四葉の概念に縛られている私はその当たり前のことができない。

そんな自分が、この時わけもなくもどかしかった。

 

 

 

 

「お母様、少し散歩してきます」

 

着いたばかりで泳ぎに行くのは慌ただしい気がしたし、別荘に閉じこもっているのももったいない。お姉様も誘ったのだが、「こんな暑い中外に出るなんて正気の沙汰じゃない」と断られたので1人で行こうとしていた。

 

「深雪さん、達也を連れて行きなさい」

 

最初から散歩が台無しになった気がした。

 

 

 

麦わら帽子をかぶり、褐色の日焼け止めクリームをぬったわたしは現地の子と遜色ないと思う。わたしの白い肌はビーチや砂浜では悪目立ちしてしまうのだ。

お姉様はわたしと同じぐらい白いが、お母様は多少日焼けするし、兄は褐色であるので家系的なものか家系的なものじゃないかはわからない。

砂浜を歩くわたしは後ろからついてくる兄のことを考えないようにしていた。しかし考えたくないものを考えてしまうことはよくある話で兄のことを思った瞬間、思考のループにはまってしまう。

 

俯いていたまま早足で歩いていたわたしは突然後ろから腕を掴まれ、その直後前から衝撃を受け兄の胸に倒れ込んでしまう。

わたしの前方不注意も悪いが、腕を掴まれ止まったので明らかにわたしがぶつかられたのであろう。

 

その相手を見ると軍服を着崩したアメリカ軍の第2世代「取り残された血統」だ。彼らは素行が良くないものも多いから気をつけるべしと沖縄観光の際によく言われている。

そしてその男の後ろには同じような軍人が2人、ニヤニヤと笑いを浮かべている。

 

生理的な恐怖が浮かびそうになるがそれは収まる。お姉様の魔法の恐ろしい力をいつも見ているわたしにとって、これぐらいで心がすくむことはない。わたしはいざとなった時のために魔法の準備をしようとするがそれは遮られた。

 

「詫びを求めるつもりはないから早く引き返せ、それがお互いのためだ」

 

まったく子供らしくない言葉が兄から発せられる。その言葉に、わたしは姉のようにCADなしでは上手く魔法を扱えないことに気づかされる。使えるには使えるのだが、上手く手加減できないのだ。

わたしへの警告を込めての兄の言葉なのであろう。

 

「なんだと?」

「聞こえていたはずだが?」

「地面に頭をつけて許しを乞え。今なら軽く怪我をするぐらいで許してやる」

「土下座しろというなら頭をではなく額というべきだな」

 

兄がそう言った直後、男が兄に殴りかかった。大人と子供の体格差は歴然。わたしは反射的に目をつぶったが、目を開けた時信じられない光景が目の前に広がっていた。

兄が両手を使って大男のパンチを受け止めていた。

 

魔法の兆候はなかったし、兄は魔法を上手く使えないので武術だけで受け止めたのであろう。相手の大男も驚いたようだが、ニヤリと笑った。

 

「遊びのつもりだったんだがな」

「これより先は洒落じゃ済まないぞ」

「ガキにしたら生意気なセリフを吐くんだな」

 

そう言って男は足を踏み出そうとしたが踏み出されることはなかった。兄の肘鉄が鳩尾に入ったからである。男は痛そうにうずくまり、背後の2人は立ちすくんでいた。

 

その2人を無視し兄に連れられて家に帰ると桜井さんに出迎えられた。そんなに酷い顔はしてないと思うが何かあったことがわかったらしい。

わたしは作り笑いを浮かべ大丈夫と言いシャワー室に逃げ込んだ。

 

 

震えそうな体を熱いシャワーで温める。

「なんで」

シャワーとわたしの涙が混じり合う。

「なんでわたしはないているの?」

「なぜわたしが泣かなければならないのよ!?」

「何故……なんでよ…」

同じ問いを繰り返したがここにはわたししかいない。わたしの疑問に答えてくれそうな姉も当然いない。わたしの叫びは誰にも答えられることはなく、こだまするだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




劣等生の中で一番追憶編が好きです


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第62局[親族]

沖縄に来ているからって世間と縁を切れるわけではない。

今日はパーティに招待されている。

招待主は黒羽貢さん。四葉の分家の御当主だ。断ることはできない。

 

ため息をつきながら準備を終え、玄関に降りると姉も準備を終え待っていた。

 

「深雪、そのドレス姿とても綺麗よ」

 

大好きなお姉様に褒められることにより嬉しくなってドレスを着てよかったと舞い上がってしまう。

そして褒めてくれた姉当人はとても綺麗であった。お姉様は普段、派手な服を着ないのだが、パーティ用に深紅のドレスを着たお姉様はとても優雅で上品な姿であり、同じ年齢には見えない。見慣れているわたしでも見惚れてしまうぐらいの姿であった。

 

「そんな不機嫌そうな顔をしてはダメよ深雪」

「そんなわかりやすいですか…?」

 

隠しているつもりであったのにバレてしまった。そんなにわかりやすい顔をしていたのだろうか?

 

「いいえ、たぶん私だからわかったのだと思う。だけど私よりもっと表情読み取るの上手い人もいるわ。深雪も普通の中学生じゃないんだから隙を見せない方がいいわよ」

「お姉様も不満たらたらに見えるんですが…」

 

そういうお姉様は明らかにめんどくさいっていう顔を隠そうとはしてない。

 

「私は姿すら見せないから関係ないわ」

 

実はわたしは初めてお姉様と一緒にパーティに行く。それだけが少し楽しみであったのだがこの言葉を聞いて少し不思議な気がした。

 

 

 

 

「叔父様、本日はお招きいだだき、ありがとうございます」

 

パーティ会場に着き、予想通り個人のパーティ会場にしては大きすぎる会場で、予想通り豪華な食事が並ぶテーブルを背景に、予想通り高価なスーツを身にまとっている叔父様に出迎えられたわたしは、型にはまった挨拶をする。

 

「よく来てくれたね、深雪ちゃん。深夜さんは大丈夫かい?」

「お気遣い恐れ入ります。本日は大事を取らせていただきましたが、少し疲れがあるだけかと思います」

「それは一安心。こんなところで立ち話もなんだから奥へどうぞ」

 

叔父様はわたしの後ろに立つ兄の存在を黙殺して喋る。わたしは叔父様に背中を押されて奥へ入って行く。兄は入り口で置き去りのまま。その時、違和感に気づいた。

 

「叔父様、咲お姉様はどこへ向かわれたのでしょうか?」

 

入場までわたしの近くにいたお姉様がいない。まるで神隠しにあったようだ。

 

「深雪ちゃんは知らないのか。咲ちゃんはパーティに呼んでもいつも姿を見せないのさ。ちゃんと来ているということはカメラで見えているんだけどね」

「……認識阻害の魔法ってことでしょうか?」

 

黒羽家は諜報を担う四葉の分家である。当然、姿を見せないために認識阻害の術も得意としている。その黒羽家当主に対して認識阻害の術をかけるなんて尋常ではない。

 

「たぶん普通の認識阻害の術じゃないね、思うに神依だと思うよ」

「っ!?」

 

今までわたしが魔法戦で勝負して来た神は、魔法力を上げたりするものが多かった。こんな力もお姉様は持っているのか。別荘で言っていたのはこのことなのであろう。

 

 

 

 

それはともかく、わたしはこうして1人で黒羽親子の相手をしなければいけない状況になった。

 

「亜夜子さん、文弥君、お元気?」

 

わたしから声をかけると、それぞれいつもの笑顔で迎えてくれる。

 

「お姉さまもお変わりないようですね」

「深雪姉さま!お久しぶりです」

 

黒羽兄妹は私たちより一個下の学年の双子である。学年が一個下とはいっても私が三月生まれであり、2人は6月生まれであるから歳は同じである。だからか知らないが、亜夜子さんは私に対して明らかにライバル心を向けてきている。

ここにはいないが、お姉様の妹のみなもさんも私に対してライバル心を持っており、面倒な関係になっている。

 

私がそんなことを現実逃避気味に考えながらも、叔父様の自慢話は続いている。わたしはそれを聞きながら適当に相槌をうち、時間が過ぎるのを待っている。お姉様はこれを嫌ったのだろう。

だが幸いなことに、それは長くは続かない。いつも通り文弥君がソワソワし始める。

 

「ところで深雪姉様…達也兄さまはどこに?」

 

いつもの。文弥くんはわたしを実の姉のように慕ってくれているけど、それ以上に兄を慕っていて尊敬している。

憧れているといった方が妥当かもしれない。それもまあ理解できないことはない。

実際兄は魔法以外では優秀である。お姉様も成績はずば抜けて優秀なのだが、兄はそれ以上。スポーツは何をやらせても一流。

見かけの優しさとか爽やかさとかは、はるか無縁であるが兄はすごくかっこいい…

 

って何を考えてるのわたし!?

あの人とわたしは、ただ血が繋がっている兄妹に過ぎないのに。これではわたしブラコンみたいじゃない!

 

「あそこに控えさせているわ」

 

無理やり作った笑顔で壁際を指差す。文弥くんの顔が赤くなっているのをみるとごまかせたようだ。亜夜子さんも無関心を装いながらチラチラと壁際に目をやっている。お姉様の先ほどの面倒くさいオーラぐらい分かりやすい。

 

「達也兄さま!」

「もう文弥ったら」

 

文弥くんは小走りに、亜夜子さんも文句を言いながらも如何にも走り出すのを我慢しているという早足で兄のもとへ駆け寄る。

対照的に、叔父様は苦虫を噛み潰しながらゆっくりとした歩調で向かう。

 

文弥くんは一生懸命、兄に話しかけている。

兄は何度かうなづき笑った。

あの人が?あんな普通に?なぜ?

わたしには、あんな笑顔を向けてくれることはないのに…

 

「咲お姉様はいつも通りいらっしゃらないのですね…」

「僕も咲お姉様にお会いしたかったです」

 

達也と会えてさらに欲が出てきたのかもしれない。お姉様はわたしたちの世代、6人の中で一番のリーダー的存在である。

一番年上なのは兄だが四葉と認められていない。そうなると、圧倒的な力を持つ二番目の年長者のお姉様がリーダーになるのだ。

 

「咲、笑ってないで出てきてやったらどうだ」

 

兄は何を言っているのであろう。周りを見渡してもお姉様はいない。それに兄がお姉様に話しかけた口調。わたしに話しかけるように主人に話しかけるものではなく、それは家族や友達に話しかけるようなものと同じ口調であった。

 

「やっはろー、文弥くん、亜夜子さん。達也さんがあんなに自然に私以外に笑ってるのみて笑いを我慢できるわけないじゃない」

 

兄の隣から幽霊のようにお姉様が現れた。わたしたちは叔父様も含めあっけに取られてしまった。

 

「黒羽の叔父様、お久しぶりです。今日はお招きいただきありがとうございます」

「あ、ああ。ようこそ咲ちゃん。姿をみせるなんて本当に珍しいね」

 

お姉様の挨拶に、叔父様はなんとか返した。

これほど驚くというのは本当に珍しいのだろう。

 

「ええ、面白いものが見れましたので少し出てくる気になりました」

 

兄のあの笑顔にお姉様はわたしと違うことを思っていたらしい。

 

「文弥、亜夜子。達也君の仕事を邪魔をしてはいけないよ。達也くんもご苦労様。しっかりお勤めを果たしているようだね」

「恐れ入ります」

 

叔父様はお姉様の横にいる兄に話しかけ、話しかけられた兄は先ほどまで浮かべていた笑みが嘘のような無表情。

 

「あら、お父様。少しくらいよろしいのではありませんか?ゲストに危害が及ばぬようにするのはホストの義務。会場にいる限り達也さんが気を張ること無いと思いますけど」

「姉さんのいう通りです。黒羽は1人のお客様の安全も保障できないぐらい無能では無いでしょう」

「それはそうだが」

 

わたしもそうだけど、亜夜子さんも文弥君も叔父様の本音はわかっているのだろう。自分の子供たちが兄に好意を向けているのが気に入らないのだ。

兄はわたしの護衛役であり、悪く言えば使い捨ての道具。道具と割り切ることが出来なければ四葉の後継者とはなり得ない。文弥君は一応次期当主を狙う候補者であるので叔父様は外聞を気にしているのだろう。

そういう意味では叔父様は骨の髄まで「四葉」である。自分の子供が道具に感情移入してるのがみっともないと、思っているに違いない。

 

しかし次期当主候補筆頭のお姉様は反対の考え方を持っている。道具ではなく人間。任務でも決して部下を見捨てないらしく、部下や使用人の信用も厚い。それを咎める声が上がりそうなものだが、真夜叔母様の溺愛とお姉様の実力がそれを許さない。

 

わたしにはまだ叔父様とお姉様、どちらの考えが正しいかはわからない。それを考えられるほどの力も頭もまだ無い。真夜叔母様の娘であるのに四葉の信念に歯向かっているお姉様の方が異常なのだと思うことにした。

 

 

「達也さん、ちょっと風に当たりたい気分だからついてきてくれないかしら。叔父様、少し失礼します」

 

意外なことに助け舟を出したのはお姉様であった。

困っているところに助け舟を出された叔父様はそれに乗っかるが、文弥君と亜夜子さんは不満を漏らす。

お姉様は兄が会場から出る都合の良い建前を作ったのだ。これは兄も叔父様のどちらも助ける役割を持っている。そのことも考えてのこの言葉なのであろう。

 

そう考えていたが、会場から出る軽い足取りを見て、ただパーティが面倒だったから抜け出したかったのが一番大きい割合を占めていたのだろうと考え直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第63局[交錯]

昨日のパーティから帰り、ベットに入った時間も真夜中近くだったにもかかわらず、日が昇りきらない時間に目を覚ましたのは習慣である。

目を覚ますためにカーテンを開け、ついでに空気を入れ替えようと窓を開ける。

潮の香りがする磯風を吸い込み、大きく伸びをしながらふと下を見ると、下の砂浜のパラソルの下でお姉様が本を読んでいらっしゃる。

その格好は白く裾の長いワンピースにアームカバーを付け、朝にもかかわらず完全に日差しを遮るために肌を露出しない格好だ。本当にお美しい。上品な姿なのに、そこはかとなく色気も持ち合わせており、わたしはそんな姿に目を離せないでいる。

 

お姉様は本を閉じ、ある一点を見ている。その視線を辿っていくと兄がトレーニングをしていた。型はよくわからないが、わたしの知らない空手か拳法なのであろう。

一つ一つの動作を丁寧に決めていくそれは、稽古というより、一種の舞であった。

 

兄が動きを止めるとお姉様は近づいていく。

お姉様に話しかけられた兄は昨日のパーティで浮かべたのと同じ笑みを浮かべる。

なんで…

そんな笑顔を、妹であるわたしには浮かべてくれたことはない。なんで…なんで…

 

そんな昨日と同じモヤモヤした感情を打ち消すために慌ててカーテンを引き、窓際から離れる。大きな音はしたが、2人とも一度も顔を上げることはなかった。わたしの姿は見られていないはずだ。しかし、2人に気づかれてしまったような気がしてならなかった。

 

 

その日の午前中はビーチでのんびりすることとなったが(お姉様も誘ったが当然断られた)、特筆することはなかった。寝てた間に風が砂を飛ばしたのか、シートの上で寝ていたはずなのに手足が少しザラザラするぐらいか。わたしはそう思っていた、昼食後のある会話を聞くまでは。

 

 

「こんな酷い痣をほうっておくなんて!」

 

わたしがお姉様に魔法の練習を見てもらおうとお姉様の部屋に向かい廊下を歩いている時、桜井さんの叱りつける声が聞こえる。

多分、相手は兄であろう。

痣……?

 

「たいしたことはありません。骨には特に異常ないですから」

「骨折してなければ良いというものじゃないでしょ!痛くないの!?」

「痛みはありますが、自分がへまをこいたペナルティーです」

 

痛み?

ペナルティー?

まるで意味がわからない

 

「はぁ、いつもいつも…達也くんの意識の改革はもう諦めましたけど…。治癒魔法をかけるから服を脱いでください」

「必要ないです。戦闘行為に支障がでるなら、自動的に治ります」

「私たちボディーガードにも日常生活はあるんですよ。戦闘マシーンじゃないんですから。だいたいさっきだって、深雪さんを連れて逃げればよかったんですよ。お昼寝を邪魔しないためという理由で他人の喧嘩に巻き込まれる必要はなかったんです」

 

え?わたし?

 

「反省しています」

「本当に反省して下さいね?次こんなことあったら、咲さんにきつく言って貰いますよ」

 

桜井さんがため息をつき、入り口のドアに向かってくる気がしたので、ドアに張り付いて聞き耳を立てていたわたしは、慌てて自分の部屋に戻った。

 

 

 

夕方、桜井さんが手配したクルーザーでセーリングを楽しんでいた。

 

「みてみて深雪、帆よ帆。初めて見るわ」

 

わたしはセーリングは初めてではなかったが、お姉様は初めてなようでとてもテンションが上がっていた。こういうところは年に似合って少女らしい可愛さだ。

そんなお姉様と喋っている時、いきなりお姉様の顔が引き締まった。

 

「達也さん」

「ああ」

 

兄と桜井さんも厳しい表情で沖の方を睨みつけている。舵をとる助手の人が必死に無線に話している言葉は潜水艦と聞こえる。

あの様子は、国防軍じゃないわよね。ということは外国の?ここは日本なのに。まさか侵略!?

 

「お嬢様前へ」

「わかっています!」

 

いつものことなのに、他人行儀な呼び方に哀しく思うのと同時に腹がたち高圧的な態度を取ってしまう。

船尾には兄と桜井さんが立っている。

お母様はとても強力な魔法師だけど、魔法の出力に身体がついていかなくなってきている。強力な魔法の使用は体力を使うことは経験から知っている。

お母様に魔法を使わせてはならない。

横のお姉様を見るとどうやら神依をしていないようだ。誰かを信用しているような顔をしている。

 

沸き立つ泡の中から二本の細長い影、魚雷がこちらへ向かってきた。

 

「大丈夫よ、深雪」

 

驚きで硬直してしまったわたしにお姉様は優しく声をかけてくれる。そうだ、あのお姉様がいるのだ。心配ないだろう。

 

そのわたしの予想は外れた。お姉様や桜井さんが魔法を発動するより早く、兄からお姉様の神依時のような強力な魔法が放たれた。それにより魚雷はバラバラに分解され二本とも海の底へ沈んでいく。

 

その魔法は一瞬であり、あれが絶対安全圏の攻略法の息をするように魔法を使うということであろうか?

 

そんなことを兄ができるわけない。あの人は術式解体ぐらいしか目立った技能を持たない。しかし目の前で起こったことは事実。

そして船尾で桜井さんや兄と喋っているお姉様は当然という顔をしている。

 

もしかしてわたしは、兄について何も知らない?

 

3人のその姿を見て、わたしは椅子の上で居すくまっていた。

 

 

 

 

 

 

国防軍の沿岸警備隊が駆けつけた時には潜水艦はもう既に消えていた。事情聴取は精神的疲れがあったので別荘に着いてから、ということになり今は別荘に戻る道中だ。

 

「対潜水艦に関しては海自は世界最高水準だったはず。この世界では違うのかしら。それか100年もあったら追いつかれるってことかも。あの潜水艦は偵察だと考えると次来るのは本隊、なんでこんな大事なところに靄がかかってるの…」

「お姉様?」

「なんでもないわ深雪」

 

お姉様はぶつぶつと独り言をつぶやいていた。海自や靄などよくわからないことを呟いていたがよくあることだ。お姉様はわたしなんかと比べるのがおこがましいほどの知識量をもっている。わたしが知らないことを話すなど日常茶飯事なのだ。

 

 

別荘に着き、自室に戻ると考えることは兄が見せたあの魔法。わたしの感覚が間違いなければ、対象物の構造情報を直接改変することによる分解。

しかし、構造情報に対する直接干渉は魔法として最高難易度なはずだ。わたしは真似できないし、お母様や叔母様も無理だろう。お姉様は……できそうだけど例外よね。だって神様の力を使うんだもの。

そんな力を兄は、CADも使わずに…。

魔法を上手く使えないから四葉の姓を与えられず、身体能力と術式解体の魔法を活用することでわたしの護衛となったのではないの?

 

わからない。

知らない。

 

お姉様は全てを知っているのだろうか。兄への態度を見たら、知っていてもおかしくはない。お姉様の部屋に行こうとしたその時、ドアがノックされる。

 

「お疲れのところすみません。国防軍の方が、お話を伺いたいとのことで…」

 

桜井さんが躊躇いがちにわたしに声をかける。ドアを開けるとものすごく恐縮そうにしている桜井さんがいる。

桜井さんが悪いわけではない。そんなに恐縮されるとこちらまで心苦しくなる。

承諾の旨を伝え、着替えてからすぐにリビングに向かった。

 

 

 

 

「では、潜水艦を見つけたのは偶然だったんですね」

 

事情聴取に来た軍人さんは風間大尉というらしい。数個質疑応答を続けているが、桜井さんは相手の何か余計なことをしたんだろう、という言い草にかなりイラついていた。

そんな中、わたしの横に座っている姉が右手をあげる。

 

「風間大尉。質問よろしいでしょうか?」

「なんでしょう」

「80年前、海自…いえ国防軍は第二次世界対戦の潜水艦の日本軍の被害から、世界最高水準の対潜技術を持っていたと記憶しています。ですが領海への侵入を許すとは、我が国の対潜ソナーやレーダーの技術は衰えたのでしょうか?」

 

お姉様の言葉に皆、目を丸くしている。第二次世界対戦なんて150年前である。学校で習うのは50年前に起きた第三次世界対戦のことであり、それも核兵器の使用を防ぐために魔法師が活躍したということぐらいしか学校では習わなかった。12歳の女子生徒が普通知っているようなことではない。

 

「よくご存知だ。我が国の対潜技術が衰えた訳ではなく、どちらの技術も日進月歩であり、いたちごっこになっているのだよ。魔法によるソナー探知の無効化なども増え、遠距離では探知できなくなっているのは事実でもある」

「なるほど、お答えありがとうございます」

 

お姉様は納得したようだ。しかし、この質問だけではなく何か違うものも解決したように思える。そんな顔であった。

 

「君は何か気づかなかったかね」

 

話を戻すために、大尉さんは兄に話を振る。その行動はただそれだけの理由だったはずだ。

 

「目撃者を残さぬよう、我々を拉致しようとしたものではないかと思われます」

 

しかし兄の回答は、はっきりとしたものであった。

 

「拉致?」

 

大尉さんも意外そうにしている。

 

「クルーザーに発射されたのは、発泡魚雷でした」

「なるほど」

「はっぽう魚雷とはなんなの?」

 

先ほど大尉さんに質問したお姉様も知らないようで兄に質問する。わたしも桜井さんもわからなかったので兄の回答に耳をすませる。

 

「化学反応で泡を大量に作り出す薬品を仕込んだ魚雷です。スクリューを止め相手を足止めして、乗組員を捕獲することを目的とする兵器です」

「目撃者を残さないためなら、普通の魚雷で皆殺しにすれば良くないかしら?」

「あのな咲….…そうしてしまうと領海に侵入しているとバレるだろう?」

「確かに、それもそうね」

 

相変わらずお姉様の考えはゴリ押しというか強引というか……

兄がお姉様を呼び捨てにしたところでお母様がぴくっと反応した気がしたが気づかなかったふりをしておいた。

 

「兵装を断定する根拠としてはいささか弱いとは思うが?」

「無論それだけでありません」

「他にも理由があると?」

「はい」

「それというのは?」

「回答を拒否します」

 

兄の黙秘の表明に1人を除いて絶句した。

 

「大尉さん、そろそろよろしいのでは?私たちは有用な情報を持っていないと思いますよ」

 

最初の自己紹介から黙っていらしたお母様がそうおっしゃった。

退屈そうで、しかし抗いがたい声。すぐ、その意味に大尉さんは気づいてくれた。

 

「そうですな。ご協力感謝します」

 

ソファーから立ち上がり、敬礼しながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




確か、今の海自は対潜技術世界2位です。
第二次世界大戦でアバルコアにボコられたから仕方ないね


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第64局[覚醒]

いつもに比べ長いです。


バカンス4日目、ようやく昨日から平穏を取り戻し、南国の休日を満喫できるようになった。

昨日は兄と共に、軍の基地に行ってきた。1日目にあった大男、檜垣ジョセフ上等兵はそんなに悪い人ではないことがわかったり、兄の戦闘シーンが観れたり少し収穫はあった。

 

今日わたしは、部屋で読書中。魔法書をぼんやりと眺めている。

わざわざ紙の書籍にする魔法の解説書は専門性の高いものばかりであり、高校生でも手に負えないことが多い。中学1年のわたしが一度読むだけで理解できるなんて自惚れるにも程がある。

 

まああの人たちにはできるのかもしれないけど。

 

その人の1人、兄は昨日の基地で真田さんという中尉の人にもらったCADを、自分の部屋に持ち込んだワークステーションに繋ぎ、キーボードを叩いていると思われる。

お土産という名の先行投資であろうがこのお土産が兄は気に入ったらしい。

昨日今日とずっとCADを弄っている。

CADを弄ることってそんなに面白いのかしら?

 

 

 

気がつけば、兄の部屋の前に立っている。

ノックをするために手を持ち上げ、それを下ろすのを繰り返している。

わたしは何がしたいのだろうか

 

溜息をつきもう部屋に帰ろうとしたが、時すでに遅しであった。

ドアがわたしに当たらないように丁寧に開けられて兄が顔を見せたのだ。

 

「何か御用でしょうか?」

 

部屋の外にわたしがずっといたのをわかっていたかのような口ぶりでわたしに聞く

 

「え、ええっと…」

 

兄は当惑しているわたしの回答をいつものポーカーフェイスで待ってくれている。

 

「お、お邪魔してもいいですか!?」

 

パニックになっていたわたしはもう勢いで押し切ることにした。入ってどうするかとかは何も考えていなかったが、それはもう後の祭りだ。

兄は目を丸くしていたが動揺は見せず、わたしを自分の部屋に招き入れた。

 

 

部屋に入ったわたしは度肝を抜かれた。ものがない部屋にはワークステーションの存在が強調されており、数字やアルファベットがディスプレイに並んでいるその様子はまるでCADの開発ラボのようであったからだ。

 

「どのようなご用でしょうか?」

 

この問いかけに度肝を抜かれていたわたしは答えることはできなかった。しかし次の一言で意識は引き戻される。

 

「お嬢様?」

「お嬢様呼びはやめてくださいっ!」

 

兄は絶句していた。しかし無理もない。

わたし自身もびっくりしていたから。

今のわたしの声は悲鳴のようであった。

今にも泣き出しそうな声でもあった。

 

「あ…」

「………………」

「あ…ええっと…お姉様には様をつけなくてわたしに様をつけたらおかしいでしょう?」

 

突拍子も無いわたしの言葉に、兄の視線が不審感を持つようになるが、もう下手な言い訳をしないようにゴリ押した。

 

「だから、お姉様と同じように、わたしのことを深雪と呼んでください」

 

それがわたしの限界だった。それだけを言ってギュッと目を瞑る。何か得体の知れないものに怯えるように。

 

「……わかったよ、深雪。これでいいかい?」

 

いつもの堅苦しい喋り方ではなく、友達同士のような砕けた言葉遣い。兄とお姉様が話す時はいつもこの言葉遣いであった。

兄は優しい目でわたしを見ている。

 

「……それで結構です、すみません、部屋に戻ります」

 

泣きそうなのを懸命に我慢して、兄の前から逃走した。部屋を出て自分の部屋に戻ろうとするところで不審人物に遭遇する。

 

「深雪どうしたの?」

 

それは夏なのに手袋とマフラーをして、サングラスにマスクをしている明らかに職質を受けるだろう格好をしたお姉様であった。ツッコミどころしかなかったのだが、今のわたしにそんな余裕はない。お姉様の胸に飛び込み、泣いてしまう。

 

「達也さんが何かしたの?」

 

わたしはその言葉に対して首を振る。

この涙は兄のせいではない。

わたし自身によるものだ。

 

だってわたしはわかってしまったから。

あの兄の優しさは演技でしかない。

あの短いセリフでさえも冷たい計算によるアウトプットされたものであり、お姉様とわたしに対しての喋り方は全く違うものだということも。

 

どうしてお姉様はあの人に笑顔を向けてもらえるの?

どうしてお姉様はあの人に本当の優しさを貰えるの?

どうして…どうして…

 

その言葉は口から出ることはない。抱きしめて頭を撫でてくれてる、大好きな優しいお姉様に少しでも嫌われたくない。

わたしの心にもう余裕はまったくなかった。

ここでお姉様に嫌われてしまったら、もう耐えられない。

 

 

「大丈夫深雪?マフラー使う?」

 

しばらく泣いてから、泣き疲れて泣き止んだわたしにお姉様は聞いてくる。

 

「いえ大丈夫です……申し訳ありません…服をくちゃくちゃにしてしまって」

 

明らかに出かける様子であったのに、私がくちゃくちゃにしてしまったせいで、もう一度着替えなければいけなくなってしまった。

 

「いいのよ、別に。だって私はお姉ちゃんなんだもん」

 

今のお姉様はどこかほんわかしている。格好は明らかにドン引きするレベルなのだが。

 

そんなお姉様と別れ部屋に戻るときに振り返ると、真剣な表情をしているようなオーラを放ちながら(マスクとサングラスのせいで本当の表情は見えない)、兄の部屋に入って行くお姉様が見えた。

 

 

 

 

 

 

その後の二日間、兄に優しくなろうと思ったが染み付いた習慣は中々矯正されるものではないと思い知らされるだけであった。あと7日間も同じようなことを繰り返すのだろうかと悩んでいたが、そんなことで悩んでる余裕はなくなった。朝食を終えた時、全ての情報端末から緊急警報が流れたのだ。

 

警報の元は国防軍。どうやら外国の奇襲による侵略らしい。

さすがに桜井さんも焦っており、お母様も緊張気味であった。テレビのキャスターもものすごく動揺している。私は現実逃避することにより自分を保っているのだと思う。

 

でもこの人たちは?

 

「神儀による未来予告は確定した未来ぽいわね…ていうことは今回の天宇受売命の力の対象は誰…」

 

お姉様は真剣な顔をしているが、それは焦りや緊張ではなく、何か違うことを考えているようで、独り言を口に出しながら考えをまとめているようだった。

 

兄は何も人間的な情緒を持っていない顔で情報端末をみている。わたしと同じく実感が持てないのであろうか。

その兄に対して通信があり、それによると風間大尉より基地のシェルターに避難してはどうかという提案があったらしい。

その話を兄がし終わると同時に、新たな電話がお母様のところにかかってくる。相手は叔母様だ。叔母様とお母様の仲はいい。

 

「もしもし、真夜?……そう、貴女が手を回してくれたのね……でも、かえって危険ではないかしら?……うんうん、伝えとくわ…ありがとう」

 

通話を終え、受話器を桜井さんに渡す。

 

「奥様。真夜様はなんと?」

 

お母様が言うには、叔母様が国防軍のシェルターに匿ってもらえるよう、話を通してくれたそうだ。さっきの兄にかかってきた電話もそういうことだろう。

 

「咲さん、いざとなったら淡の攻撃モードを使っていいらしいわ」

「本当ですか、お母様も珍しく使えるわね」

 

自分の親のことをいつもは使えない呼ばわりしているのは置いとくが、攻撃モードとはなんだろう。淡の能力は自分の魔法以外の魔法発動を防ぐ絶対安全圏ではないのか。

 

 

そんなことを考えていると、兄が迎えの手配を全てやってくれた。そして基地から迎えにきてくれたのは予想していた通り、檜垣ジョセフ上等兵であった。

 

私たちは国防軍の連絡車輌に乗り、検問に止められることも敵襲も受けることなく基地に着く。

驚くことに、軍のシェルターには100人近くの民間人が逃げ込んでいた。この部屋にもわたしたち以外に5人の民間人が地下シェルターへの避難の案内を待っている。

 

もしかしたら、わたしたちもーーわたしも戦わなければいけないかもしれない。

お母様は本調子ではないし、桜井さんにはそんなお母様を守ってもらわなければいけない。

わたしは今まで実践と呼べる経験をしたことがないけれど、戦闘魔法の技能は並大抵の人には負けないと桜井さんからお墨付きをもらっている。神依しているお姉様と何度も戦っているのでそれは当然だと思う。

 

それでも不安を消し切ることはできずわたしはそっと隣の席を窺い見る。

隣には兄、その隣にはお姉様が腰を下ろしている。

その2人はわたしと違い落ち着き払っていた。お姉様に至ってはいつも通り本を読んでいる。

兄も実践と呼べるものは経験していないが、お姉様はもう既にテロリストの排除の部隊に従事している。人を殺した数も5回や10回どころでは済まないだろう。兄も何度も殺し合いの経験をしているはずだ。

その経験があるから2人は落ち着いていられるのだろう。

 

そんな2人を見ていると、少しだけ不安が和らいだ気がする。もう一度と思いチラッと見るとバッチリ兄と目があってしまう。

 

「大丈夫だよ、深雪」

 

三日前の約束通りにわたしのことを深雪と呼んでくれる。しかも、今回は優しいふりではない。小さいけれどもお姉様と話す時と同じような優しい声で。

 

「俺がついている」

 

……それ反則……!

 

どんな顔をしていいかわからない。自分がどんな顔をしているのかもわからない。

こんな時に、実の妹を口説こうとするなんて不謹慎すぎる。本人にそんな気が全くないというのが余計に癪に触る。お姉様に至ってはこんな状況なのに兄の言葉を聞いて笑っている。

わたしは兄を睨みつけた。

すると兄はいきなり椅子から立ち上がり、お姉様も顔を引き締めた。そして一拍遅れて桜井さんも椅子を蹴る。

 

「達也くん、咲さんこれは」

「桜井さんも咲にも聞こえましたか」

「じゃあ、やっぱりあれは銃声……」

「フルオートの銃声だったからSMGかアサルトライフルのたぶんどちらかだわ。アサルトライフルの可能性が高いと思うけど」

 

じゃあ敵が攻めてきたってこと?ここは国防軍の基地の中じゃないの?

 

「状況はわかる?」

「さっぱりです。精霊たちが騒いでるのは見えますが、使役できないのであまり意味がないです」

「自分もここからでは…この部屋の壁には、魔法を阻害する魔法がかかっているようです」

「そうね…どうやらこの部屋だけではなく、建物全体が魔法的な探査を阻害する術式に覆われているみたいね」

 

わたしにはわからなかったのに……

 

「強引に吹き飛ばす?」

「やめとけ、敵から見えないのも一緒だからな」

 

相変わらず面倒な時はごり押しをお姉様は好む。それはお姉様の魔法力があるからできることなのだが。

 

「おい、君たちは魔法師なのか」

 

突然、少し離れて座っていた男性が話しかけてくる。格好から見るに社会的地位のありそうな人だ。

 

「そうですが?」

 

いきなり話しかけられたことによる訝しさ満載の声で桜井さんが返答する。

 

「だったら、外で何が起こっているのか確認してきてくれ」

 

何それ…まるっきり使用人扱いじゃない。

 

「私たちは基地関係者ではありません」

「それがどうした。君たちは魔法師なのだろう」

「ですから私た」

「ならば人間に奉仕するのは当然ではないか」

 

あ、これはやばい。

 

「有象無象の中によくいるプロ市民というやつかしら。三流にふさわしいおめでたい脳みそを持った人ね、片腹大激痛」

 

お姉様は差別をとても嫌う。お姉様自身が差別されるのは別にどうでもいいと思っているのだが、身の回り、特にわたしが差別されると特に怒る。

相手は完全にお姉様の圧力に押されている。

 

「魔法師は人類社会の公益と秩序に奉仕する存在であるので、あなたのような一個人から奉仕を求められるいわれはないです」

 

兄も続け様に少し小馬鹿にしたように返す。このフレーズは魔法師以外にもよく知られたもので、当然この男性も知っていたのであろう。

 

「子供のくせに生意気な!」

「本当にあなたダメな大人の典型ね。子供に論破されると子供のくせにと言って返す。三流じゃなくて百流ぐらいのおめでたい脳みそね」

 

完全に馬鹿にしている。相手が魔法師だと、この挑発で魔法を使わせて正当防衛と言う名の蹂躙をするのがお姉様なのだが、相手は民間人であるのでそこまではしていない。相手はワナワナ震えていたが。

 

「達也」

 

この場を収めたのはなんとお母様。兄が呼ばれたことにより、お姉様は煽るのをやめる。

 

「なんでしょうか」

「外の様子を見てきて」

 

いつも通りにお母様は命令を出す。しかし兄は珍しく反論する

 

「状況がわからぬ以上、この場に危害が及ぶ可能性も無視できません。今の自分では、離れた場所から深雪を護ることは」

「深雪?」

 

兄の反論を冷たい眼差しと冷たい声で遮る。

 

「達也、咲さんは例外よ。身分を弁えなさい」

 

口調は優しいが背筋が凍るような声。兄がわたしのことを深雪と呼ぶのはわたしがそう頼んだから。しかしお母様の声にわたしは兄を弁護する意思すら持てなかった。

 

「失礼しました」

 

兄は何かを遮るかのようにすぐに謝罪をする。

 

「達也くん、この場は私が引き受けます」

 

桜井さんがギスギスした雰囲気をとりなすように横から口を挿む。

 

「私も様子を見てきます。達也さんと逆方向に向かえばこの部屋も安心かと」

「咲さん、あなたは一族の中で特に大事な人物なのよ。そんなに無理しなくていいわ」

「叔母様、わたしがやりたいことですので。桜井さんこの部屋のことはよろしくお願いします」

 

お姉様は一礼して兄と共に部屋から出て行く。2人とも怯えているさっきの男性に目をくれることはなかった。

 

 

 

 

 

銃声の音はわたしの耳でも聞き取れるようになっている。魔法が使われている気配がするのはお姉様か国防軍のどちらかが使ってるからであろう。

 

「失礼します。空挺中隊の金城一等兵であります。皆様を地下シェルターへご案内します。ついてきてください」

 

どうやら基地の兵隊さんが向かえにきてくれた。しかしもう既にそのタイミングを逃している。

 

「すみません、連れの2人が様子を見に外に出ていまして」

 

桜井さんがそう告げてくれる。ここを出てしまったら兄とお姉様とはぐれてしまう。

しかし案の定、軍人さんは難色を示す。

 

「既に敵の一部が基地の深くまで侵入しており、ここにいるのは危険かと」

 

予想通りの答え

 

「では、あちらの方々だけ先にお連れなさいな。息子と姪を見捨てるわけにはいきませんので」

 

わたしは桜井さんと目を合わせる。考えてみれば当然であるしお姉様を見捨てることはお母様もないだろう。しかし兄までを含めるのは違和感しかない。

 

お母様の提案を聞いたさっきの男性は兵隊さんたちに詰め寄り、兵隊さんたち4人は険しい表情で顔を見合わせ小声で相談し始める。

 

「咲さんと達也くんでしたら、合流するのは難しくないと思いますが」

 

その隙を見て桜井さんがお母様に訊ねる。

 

「咲さんは心配しているけど、達也のことを心配しているのではないわ、あれは建前よ」

 

お母様の冷淡さに膝が震えだす。

どうして実の息子にここまでできるのだろう……?

 

「では?」

「勘よ」

「勘ですか?」

「この人たちを信用すべきではないという直感ね。たぶん咲さんもそういうと思うわ」

 

お母様の言葉を聞き、桜井さんは最高度の緊張を取り戻す。

精神干渉系の魔法の使い手は高い直感的洞察力を有している傾向がある。お母様は世界で唯一、精神構造を弄れる魔法師である。そのお母様が言う直感は、お姉様の予知能力に近い意味を持つ。わたしのよう精神干渉系魔法を使えるが、直感を持ち合わせていない例外もいるけれど。

 

「申し訳ございませんが、みなさんを残しておくわけにはいきません。お連れの方々は我々が責任を持ってご案内させていただくので、一緒についてきてください」

 

言葉遣いはさっきと変わらないがちょっと脅しているような態度になっているように感じる。

 

「ディック!!」

 

突然の乱入者、声の主の檜垣上等兵が急展開をもたらした。

金城一等兵が檜垣上等兵に向けて発砲したのだ。そして金城一等兵の仲間は私たちに向けて銃を向ける。

桜井さんが起動式を展開したが、頭の中でガラスを引っかいたような騒音が魔法式の展開を邪魔する。

キャストジャミング!?

目を向けると1人がアンティナイトをつけた指輪をはめている。そしてこちらはお母様が蹲っている。

お母様は鋭敏すぎるサイオン感受性を持っている。キャストジャミングのサイオン波が体にまで影響を与えているのだ。

キャストジャミングを止めないと!

 

 

これぐらいのキャストジャミングならお姉様が作り出すキャストジャミングの方が強い。

どうやらキャストジャミングを使っているのは非魔法師のようだ。

わたしはこの1年間、絶対安全圏とキャストジャミングの両方を相手にしてきたのだ。このわたしをキャストジャミング程度で止めれると思ったら大間違いよ!

CADは使わない。時間が勿体無い。それなら使う魔法はあれしかない。お母様から受け継いだ精神干渉魔法。アンティナイトをはめたあの人だけを狙ってわたしは魔法を発動する。

 

精神凍結魔法「コキュートス」

 

キャストジャミングがやむ。相手の精神が完全に凍りついたのだ。凍らせた相手はこれが3人目。もう動きだすことはないのでこれは死と同じ。

わたしは罪悪感に耐えるため奥歯を噛みしめる。

これはわたしの甘さ。当然の報い。相手は1人ではなかったのに。銃口は私たちに向けられていたのに。お姉様に多人数と戦う時は全員殲滅してから別の行動をしろと言われていたのに。

 

桜井さんの魔法が編み上げられ効果を現す前に、マシンガンの掃射がわたしとお母様、桜井さんの体に穴を穿つ。

 

撃たれたところが痛いよりも熱い。身体が寒い。血とともに命が流れ出すのがわかる。

兄に謝りたかった。お姉様の神のごときあの姿をもう一度見るためにお姉様に勝つという約束を果たしたかった。

ごめんなさい、お姉様兄さん。

本当にごめんなさい、お姉様お兄さ……

 

「「深雪っ!」」

 

空耳のようだと思った。

兄がむき出しの感情で、泣いたことなど見たことないお姉様が涙声でわたしを呼ぶはずがない。

 

苦労して開いた目の先にはわたしを抱きかかえる2人がいた。

お姉様から放たれるほんの小さな魔法が兄に吸収されると、それと比較にならないぐらいの圧倒的何かが兄の左手から放たれる。

 

兄の魔法がわたしの体を読み取り全てを作りかえる。それは魔法というにはあまりに強大で、精緻で、大胆で。

わたしは似たような魔法を知っている。それはお姉様の神依。2人の魔法こそが本当に真に、魔法の名に値するもの。

血が口にせり上がってくることは全くなかった。

 

「深雪、大丈夫か!?」

 

明瞭になった視界一杯に心配そうな兄の顔。

この人のこんな生の表情を見るのは初めてだ。

 

「お兄様…」

 

その言葉はすんなりわたしの口を通過した。

 

「よかった……!」

 

わたしはもっと慌ててもよかった。だってあの人がわたしの体をしっかりと抱きしめているのだから。

 

お兄様が抱擁を解いた後、私をお姉様に預け、私と同じように桜井さんとお母様を治していく。何か才能が開花したかのように見える。

お姉様もその光景を見てどこか嬉しそうだ。

 

部屋は花なんてどこにもないのに、なぜか花の香りが漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第65局[追憶]

追憶編オーラス


あの人たちは軍内部の叛逆者であった。

お兄様が風間大尉に質問してわかったことは水際で敵を食い止めているのは嘘であり、既に上陸されているということと敵に制海権を握られていること。

そしてお兄様は私たちを安全な場所に避難させ、アーマースーツを借り1人で戦いに出るつもりだ。その行動に反対する人がいた。

 

「ねえ達也さん、1人で行くつもりなの?」

「ああ」

 

日常会話のようであったが、お兄様の目は激怒というのも生ぬるい、蒼白の業火が荒れ狂っており、お姉様は人ではないオーラを発している。こんなに怒り狂う2人は初めて見る。

 

「当然、私も行くから」

「止めることは…無理か」

「止めるなら貴方も倒すわよ」

 

お兄様もお姉様を止めることを諦めたようだ。それほどのオーラが今のお姉様にはある。

 

「……なぜ戦闘に出ようとする?」

「深雪を手にかけたから」

「その報いを受けさせなければなりません」

 

2人の声を聞き、風間大尉以外のわたしを含めた、全員が血の気を失う。

 

「2人で行くつもりか?」

「いえ、達也さんと私は別行動です。私は戦線が崩壊して味方がいないところの空中で降ろしてもらうだけでいいです。私と一緒に行動しては全員犬死するだけです」

「非戦闘員や投降者の虐殺は認めるわけにはいかないが?」

「そんなことさせるわけがありませんよ」

 

お兄様は軍の人と行動することが決まり、桜井さんにわたしとお母様のことを頼み、2人は戦線に向かうこととなった。

 

 

 

 

「よろしいのですか?」

 

そんな2人の姿を見送ったわたしに、桜井さんが躊躇いがちにそう話しかけてきた。

 

「何がでしょう?」

 

さっきからわたしの脳は寝ているのかサボっているのか知らないが、思うように動いてくれない。

 

「達也くんと咲さんがいくら強いといっても、戦争のそれも最前線に飛び込んで行くなんて危険すぎではないでしょうか?」

「!!!」

 

囁くような桜井さんの声はわたしを覚醒させた。

そうよ!何わたしは平然としているの?あの2人が戦争の真っ只中に飛び込んで行こうとしているのに!

 

わたしは桜井さんの制止を振り切って2人を追いかけた。

幸い、2人は遠くに行っておらずすぐに追いつくことができた。

 

「お兄様!お姉様!」

 

もしかしたら振り返ってくれないかもしれないという恐れがあったが、2人は先行する真田中尉に一声かけて、振り返ってくれた。

 

「深雪どうかしたのか?」

 

当たり前の口調で、ごく自然にお姉様が咲と呼ばれるように「深雪」と呼ばれたことに込み上げてくるものがあったが、そんなことに浸っている場合ではない。

 

「お兄様、お姉様。あの…」

 

行かない下さいと言いかけたが、禁断の兄妹愛もののラブロマンス映画にありがちな恋人を引き止めるヒロインみたいだ。

お姉様とは実際結婚できるのだが。

 

「深雪?」

「深雪は私たちに行かないでと言いたいのかしら?」

 

お姉様がいきなり絶句してしまったわたしに助け舟を出してくれる。

 

「そ、そうです。敵の軍隊と戦うなんて、そんな危ないことはしないで下さい。お二人がそんな危険を冒す必要はないと深雪は思います」

 

やった…言えた…

お兄様がわたしの言葉に首を横に振るなんて考えてもいなかったし、お姉様もわたしの必死なお願いを断ったことなど片手で足りる程度しかない。

これで大丈夫という達成感にわたしは包まれていた。

 

「確かに必要はない。だけど俺は必要だから行くんじゃなくて、そうしたいから戦いに行くんだよ、それは咲も同じさ」

 

だからこの回答はショックであった。しかしわたしは2人から遠ざかろうとはせず、2人の服をつかんでいた。

そんなわたしをみてお姉様は困ったような顔をしながら言う

 

「ねえ深雪、どうして鳥は空を飛ぶのだと思う?」

 

お姉様が不意にそんな質問をしてくる。餌を探すためだとか敵から逃げるためだとかそういうことを聞いているのではないのだろう。多分、人生観とかそういうのを聞いている気がする。私の回答の前にお姉様が再び話し始める。

 

「達也さんも私も気が済まないから行くのよ。達也さんが大切だと思えるものは私たちだけだし、私も深雪をみなもと同じぐらい大事に思っているわ。だから今日だけは行かせて」

 

お姉様は笑っていたが目は真剣であった。お兄様も私に笑いかけてくれている。私はそんな2人の顔を見て、私の顔は赤くなっているだろうが、すぐにお姉様の言葉に違和感を覚えてまゆをひそめた。

「大切だと思える?」

 

大切なものではなく、大切だと思えるもの。ニュアンスの違いかもしれないが、なぜか引っかかった。そんな私の呟きに、お姉様は「しまった」という顔を浮かべ、お兄様は「参ったな」と言いたげな苦笑を浮かべた。

 

お兄様のその表情は笑っていながら、どこか泣いているようであった。涙なんて浮かべていないが、わたしは直感的にこれがお兄様にとって悲しい話題なのだと理解した。

 

「申し訳ありません!」

 

わたしは謝罪した。わたしがお兄様を悲しませるなんてもうやってはいけないのに。そう思って、勢いよく頭を下げた。

 

「頭を上げてくれ深雪、今回はどちらかというと咲が悪い。…いいや、伝えていない俺が悪いのかもしれない。お前もそろそろ知ってもいい頃だ。知らずに済むならそのままにしておいてやりたかったが………お前が母さんの娘で、あの人の姪であるならば、そういうわけにも行かないのだろう」

 

お兄様の言葉はほとんどわたしに向けられたものであったが、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。

 

「お兄様?」

「今は時間がないから母さんから教えてもらいなさい。今、お前が持っている疑問の答えを。ついでに咲のことも聞いてみるといい。咲もそれでいいな」

「………自分が蒔いた種だし、いいわよ」

「お母様に……?」

 

ただ鸚鵡返しに訊ねるわたしに、2人はもう一度強く微笑んでくれる。

 

「大丈夫。俺を本当の意味で傷つけられる人間など存在しない」

 

笑みを収め、揺るぎない眼差しを見て、本当に害することができる人間など存在しないのだと信じられた。

 

「その決めゼリフかっこいいわね」

 

そう言った横のお姉様は大気を震わせ、自分自身に閃光をおとす。

 

「まあ実力的に見て中学100年生の私の方が強いんだけどね!」

 

姉は最強神依「天照大神」の一角、大星淡を神依していた。こんな2人を害するものなど存在しない。

 

そのまま2人は、今度こそ戦場へと向かわれた。

 

 

 

 

 

 

さっきの部屋まで戻り、待たせてしまいお怒りになってるお母様と桜井さんとともに防空司令室に向かう。防空司令室は装甲扉を5枚抜けた先にあり、桜井さんが調べたところ盗聴器や監視カメラの類はないらしい。この部屋では内緒話ができるということだ。

 

「お母様、教えていただきたいことがあるのですが」

 

さっそく思い切ってさっきのことを聞いてみる。善は急げだ。

 

「お姉様が先ほど、お兄様が大切に思えるものは私たちだけと仰られたのですが、どうして"大切なもの"ではなく"大切だと思えるもの"なのかという理由をお聞きしたところお母様に聞くようにとお兄様が…」

「達也がそんなことを。そろそろ教えてあげてもいい頃かしらね」

 

何かわたしは重大な秘密を知ろうとしていることがわかり、緊張で身を硬くする。

 

「でもその前に、深雪さん。達也のことをお兄様と呼ぶのはおやめなさい。他人の耳目があるところは仕方がないけど、四葉の者だけしかいないところでは兄として扱うべきではないわ」

 

お母様はそれが理であるようにわたしを叱る。

 

「貴女には次世代の四葉家を支えてもらわなくてはいけないんだから。あんな出来損ないの兄を慕うべきではないわ」

「それならお姉様はどうなるのですか!」

 

親しくするなと言われ、お兄様と親しくしている次の当主になるであろう、お姉様を引き合いに出す。わたしは遠慮を忘れ、お母様に食って掛かっていた。

 

「咲さんは例外なのよ。例外中の例外。そこまでしか本人から許可をもらっていないから話すことはできないわ」

「お姉様から許可を貰っています。お兄様のことと同じようにお母様から話してもらえと」

 

お母様は一つため息を吐いた。

 

「そうね、じゃあまず咲さんのことから話してあげましょうか」

 

私は一言も聞き漏らすまいと集中する。

 

「知っての通り、咲さんは真夜の卵子を人工授精させて産まれた子供よ」

 

それは薄々感じていた。叔母様は結婚していないのに子供が2人いる時点でそれは察することはできるだろう。

 

「その相手の精子は真夜が独自のルートで探しだしてね。真夜は北欧神話で出てくる神の末裔とかなんとか言っていたわね」

「北欧神話ですか…?」

 

北欧神話はアース神族に永遠の若さを約束する黄金リンゴをめぐる物語だ。

 

「まあ正直眉唾ものだから本気にしなくていいわ。そしてその結果、産まれたのが咲さん。最初、金髪で驚いたけど北欧系の精子を使っていると聞いて納得したわ」

 

昔のことを思い出すようにお母様は一点を見つめている。

 

「あの子の能力がわかったのは2歳の頃。どうやらあの子はそれより前から能力を理解していたらしいけど。深雪さん、今四葉の中で一番強いと言われているのは誰だと思う?」

「叔母様でしょうか…?」

 

叔母様の流星群は防ぐことが不可能の最強の魔法である。叔母様は対魔法師戦では無敵、世界最強の魔法師の1人と言われている。

 

「実は違うのよ。正解は咲さん。あの子は7歳の時に真夜の流星群の光の分布の偏りを0にすることで流星群を打ち破っています」

 

流星群は光の分布を偏らせることで、光が100%通過するラインを作り出す魔法である。対抗するには光の分布という単一要素で叔母様に勝たなくてはいけないのだが、先天的に光の分布の固有魔法を持つ叔母様に勝つのは不可能と言われているから、無敵と言われているのであった。そんな叔母様に7歳で勝つお姉様。

 

「7歳の時点で真夜を打ち破るような神の力を持つ咲さんに分家の方々は逆らえない。理由はもう一つあるけどこれが咲さんの達也への態度などは黙認されているわけ」

 

四葉は力を追い求めている一族である。その力は政治力とか財力ではなく魔法力。魔法力が一番強い咲には逆らえないのはいかにも四葉らしい。

 

「達也は、魔法師として、欠陥品として生まれました」

 

お姉様の話から、お兄様の話になる。

 

「あの子をそうとしか産んであげなかったのは私の責任だけど欠陥品という事実は事実」

 

お母様はわたしをみていない。

 

「達也は生まれつき、二種類の魔法しか使えません。物を分解しそれを再構成すること。この二つのイメージの中では様々な技術を使えるみたいですけど、達也にできるのはこれの延長線上だけ。情報体の改変はできないのですよ」

 

お母様のみている先は何もなく。

 

「魔法とは、情報体を改変し、事象を改変する力。何かを別のものに変えるのが魔法。だけど達也にはそれができない。あの子ができるのは物をバラバラに分解することと、物を元の形に作り直すことだけ。本来の意味の魔法と大きく外れています。本当の意味での魔法を持たないあの子は紛れもなく欠陥品です」

 

多分、お母様がご覧になっているのは、自分自身のお心……

 

「まあ、その力で私たちは助かったのだけど。達也はまだ他者の再構成はできないはずだったのだけどまあ何か成長したのでしょう……話を戻すと厳密にはあの力は魔法ではありません」

 

あの力が魔法ではないなら、なんと呼ぶべきだろう。神のような力は「奇跡」と呼ぶしかないのではないか。

 

「でも、四葉は十師族に名を連ねる魔法師で、魔法師でなければ四葉ではいられない。小さい頃から咲さんはそんな達也を、家の他の者と変わらない態度で接しました」

 

何か嫌な予感がする。

 

「そんな咲さんをみて私たち、真夜と私は7年前。咲さんにある精神構造干渉を施すことにしました」

 

思わず声を上げそうになったが抑える。これは簡単に言うと、いうことを聞かないなら洗脳してやろうということだろう。四葉の恐ろしさを感じる。

 

「四葉の概念の刷り込み。それが目的でした。しかし、そんな簡単な精神構造干渉も失敗してしまいました。失敗した理由は咲さんはたくさんの精神を持っていて、それが咲さんの本来の精神を守っていたから。これが咲さんが四葉の精神に背く態度を取っても許されるもう一つの理由」

 

たくさんの精神とは神依時に纏う神のことであろうか。どうしようもないから、もう自由にしてということだ。

 

「失敗した私たちは、逆に達也にとある手術を行うことにしました」

 

手術?お母様がお兄様に?

 

「人造魔法師計画。魔法師ではない人間の意識に人工の魔法演算領域を植え付けて魔法師の能力を与えるプロジェクト」

 

不吉に私の耳でこだまする。

 

「その手術を行った結果、感情が欠落してしまったのです」

 

感情の欠落?

 

「感情というよりは衝動かしら。怨恨、憎悪、憤怒、行き過ぎた色欲、激しい嫉妬、深い悲しみ、盲目の恋愛感情。そういった、我を忘れるような衝動を一つを除き失ったことで、達也は魔法師になることができました。残念ながら、人工の魔法演算領域の性能は先天的なものに大きく劣るものであったので、結局ボディーガードとしてしか使い物になりませんでしたが」

 

まさかと思う。そんなはずはないと思う。

 

「その手術をお母様がなさったのですか……?」

 

文脈的にそうであるが聞かずにはいられない。

 

「私以外にはできないでしょう?」

 

否定してほしいというわたしの願いは届かなかった。だがわかっていたことだ。

 

「……なぜそんなことを」

「その答えはもう説明しました。それより最初の質問に答えましょう」

 

わたしにもわかってしまった。実験で感情を失ったのはお兄様だけではないということが。

 

わたしは魔法に初めて恐怖を覚える。

お兄様やお姉様のように神の力のようにもなるが、使い方を間違えると人の心を変えてしまう残酷な魔法に。

 

「達也が失わなかった例外、それが答えです」

 

聞きたくありません。

 

「あの子の中に残った衝動は兄妹愛」

 

やめてください。

 

「妹達、つまり貴女と咲さんを愛し、護ろうとする感情」

 

本当にやめてください。

 

「それだけがあの子に残された唯一本物の感情なのです」

 

わたしにそんなことが許されるはずがなかった。

 

「達也と咲さんは普段からよく一緒にいますから。そこらへんの情報は共有しているのでしょう。私のことはただ母親と認識しているだけで、親子の情は一切存在しません。さっき私を助けたのだって、私が死ぬと2人が悲しむと判断したからかもしれませんね。

「お母様はそうなるようにわざと選ばれたのですか?」

 

わたしが質問しているのに、わたしではない誰かが質問しているように感じる。

 

「そこまで意図はしていたわけではありませんけどね。ただ、咲さんへの感情は残そうとは考えてました。貴女のことはいざとなったら咲さんが守ってくれますが、咲さんを守ってくれる人はいないですから。まだ何か聞きたいことはありますか」

「いいえ…ありがとうございます」

 

聞いてよかったと考える自分も聞かなければよかったと考える自分もどっちもいる。

 

司令室のモニターは2分割されお兄様とお姉様の映像が両方見える。

 

お姉様と対面してる敵の部隊は魔法を発動させようとするが絶対安全圏のせいで魔法が発動しない。次の瞬間、その部隊は爆発に巻き込まれ壊滅した。

お姉様が魔法を使う。そこは一面焦土になる。それの繰り返し。どちらが侵略者かわからないぐらいの暴れっぷりだ。どうやらあの魔法はさっき言っていた大星淡の攻撃モードであろう。確かにあの状態のお姉様の近くにいたら魔法を使えないし、あの爆発に巻き込まれたりでとても危ない。味方が誰もいないところに飛び込んだ理由もわかる。

格好は相変わらずサングラスにマスクにマフラーに手袋という完全不審人物であったが。

 

 

対照的にお兄様の方は静かで地味にみえる。

お兄様が右手を向ける。敵は消える。

お兄様が左手を負傷している味方の国防軍に向ける。仲間の兵隊は何事もなかったかのように立ち上がる。

しかし相手にしたら悪夢以外の何者でもない。

 

お姉様とお兄様は私が撃たれたことの報復のために戦場を闊歩する。

 

わたしはこの2人に何をお返しできるのだろう。

 

今のわたしの能力があるのは、お姉様のおかげなのに。

そして今のわたしのこの命すら、お兄様からいただいたものだというのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深雪咲達也の過去の微妙な関係が書けて楽しかったです。


回想長かったけど咲本編の回想も長いからセーフ





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第66局[和解]

訪問者編オーラス


みんな訪問者編まだ終わってなかったこと忘れていたと思います
自分も忘れてました


「深雪?」

 

姉から話しかけられることによって、意識が再び現在に戻ってくる

 

「申し訳ありません…三年前のことを思い出していました」

「なるほどね」

 

私は会話の最中に昔のことに耽ることで、目の前の姉をほったらかしにしたことを謝る。

 

「お姉様、一つよろしいでしょうか?」

「何?」

「どうしてお姉様は小さい頃から私とお兄様に対しての態度が変わらなかったのですか?」

 

今まで聞くに聞けなかった質問であるが、これを機に質問してみる。聞いてはいけない質問かも知れないのでビクビクしていたが、聞かれた姉は笑っている。

 

「深雪は私が達也さんと話しているのを見て、嫉妬してくれていたのかしら」

「っ……!……そんなことは…いえ、その通りです」

 

ごまかそうと思ったが、ごまかすことではないと気づいたので素直に言う。

 

「ありがとう深雪。心配しなくていいわ。私の一番は貴女よ」

「あ、ありがとうございます」

 

姉に笑顔でそう言われては嬉しくも恥ずかしくもある。今の私の顔は赤く茹で上がっているだろう。相変わらず姉は人誑しだ。

しかし、姉の次の言葉で顔が引き締まる。

「ねえ、深雪。なぜ鳥は空を飛ぶのだと思う?」

 

三年前にも聞かれた質問。

姉が婚約の条件に出すほどの質問。

その答えは一緒に暮らした三年間でわかった気がする。

しかしまだ言葉にすることができない。

間違った答えを言ってしまったら、姉が遠くに行ってしまうような気がするので下手なことは言えないからだ。

 

「これの答えが深雪の質問の答え。ごめんね、意地悪なお姉さんで」

 

私が答えを言う前に、姉がそう言う。

その言葉が言い終わると同時に、お風呂が沸いたというアラームがなった。そのアラームを聞いて姉が立ち上がり、風呂場の方に歩いていく。

 

「お風呂、先に入らしてもらうわね。あ、そうだ深雪。明日の夕食は3人分よろしく」

 

そう言い残し風呂場に消える。深雪はその言葉を聞いて小さくガッツポーズをする。

 

あんなに怒ってたのに深雪の頼みとなったら断ることができない。相変わらず咲は深雪にとても甘いのであった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、私は昼食を達也と深雪と一緒に食べること以外は普段通り生活していた。

エイミィや十三束君に、今日の咲は機嫌がいいと言われたぐらい普通であった。不機嫌オーラを垂れ流してるつもりはなかったのだが、原作咲さんと同じように周りを知らぬ間にビビらせていたのかもしれない。

 

私は下校した後、一度マンションに帰り荷物を持って、今家の前にいる。

3日ぶりでありそれぐらい用事で家を空けることもあるのに何か懐かしく感じるのと同時に、自分の家なのだが知らない家のようにも感じる。

勇気を出してインターホンを鳴らし、家の中に入ると2人で出迎えてくれた。

 

「お姉様、お帰りなさい」

 

深雪は笑顔だ。それと対照的に達也は真剣な表情をしている。次の瞬間、達也は深々と頭を下げた。

 

「すまん咲、手をあげた俺が悪かった。お前を大切に」

「思うがゆえの行動だったのでしょ?わかってるわよそんなこと。私も同じ気持ちで、貴方達を心配に思ったから家を抜け出したのよ。これでおあいこ。それでどう?」

 

顔を上げた達也は苦笑いしている。私の喧嘩両成敗論で達也は一応納得してくれたようだ。

 

「ああ。おかえり咲」

「ただいま、達也さん深雪」

 

初めての私たちのちょっとした喧嘩は三日で解決した。

 

 

 

 

 

 

 

風に乗って楽しげなざわめきが聞こえてくる。学校全体が喜びの声に満たされており、時折泣き声が聞こえるが、それは不幸によるものではない。

今日は卒業式だ。式自体はもう既に終わっており、1年の私は関係ないはずなのだが…

 

「何でこんな面倒くさいことになってるのかしら」

「お姉様、もうそれ今更ですよ…」

 

私は学校にある二つの体育館をシャトルランしていた。

 

卒業式の後のパーティが開かれるのはいい。

それを主催するのが生徒会なのもわかる。

どうして二つの会場に分かれているのか。いやその理由もわかる。一科生とニ科生分けた方が気楽であるからであろう。 けどそれと感情は別であった。

 

まず私は一科生の方の会場で生徒会長として挨拶をする。その後、ニ科生の会場に向かい同じように挨拶をする。そして一科生の会場に戻り、七草先輩達と写真を撮り幾分か話すと、再びニ科生の会場に戻りこちらの会場を運営している深雪の話を聞いて何か問題がないか確かめる。そしてまた一科生のところに戻り、今度は中条先輩から話を聞く。それの繰り返し。

一番きついと思われる場所に配置されてる気がするがたぶん気のせいと思いたい。

 

達也も巻き込んでやろうとしたのだが、深雪に拒まれたので断念。

 

私はパーティが終わる頃にはヘトヘトになっていた。

 

 

 

「咲さんお疲れね」

 

パーティの終わりかけ、一息ついていると七草先輩と渡辺先輩が話しかけてくる。

七草先輩は魔法大学に順当に合格し、市原先輩や十文字先輩と大学でも共に学ぶことになった。

渡辺先輩は魔法大学を受験せず、防衛大学校に進学することとなった。理由は言わずもがなである。

 

「申し訳ありません、お見苦しい姿を見せてしまい」

「まあ仕方ないさ、あんなに往復してたら疲れるだろうからな」

「メールか何か使えば良かったんじゃない?最初の挨拶以外は往復しなくて済むし。去年はそうしていたわよ」

 

七草先輩の言葉に絶句してしまう。情報を伝える手段は口伝達以外にもそういえばあった。また達也に脳筋とか言われてしまう。

 

「咲さんもそんな顔するのね」

「そんな顔見るの2回目だな」

 

七草先輩たちは楽しそうに言う。1回目はモノリスコードの時であろう。

 

「そうそう、私たちは咲さんにお礼を言いに来たのよ」

「お礼…ですか?」

 

お礼を言われるようなことはしていないので首を傾げる。

 

「お前は私たちの高校最後の1年間を忘れられないものにした立役者の1人だからな」

「悪い意味でじゃないわよ」

 

お礼を言われていると言うより弾劾裁判にかけられてる気がしたが仕方がないだろう。確かにこの1年間無茶苦茶なことをやった気がする。

 

無茶苦茶なことをやっているといえばステージにいるリーナだ。パーティの終わりかけであるのにステージの上に立ち、有志のバンドメンバーと歌を熱唱している。

リーナはほとんどいなかったが、一応臨時の生徒会役員であった。さすがに臨時役員に大変な仕事を任せるのは気が引けたので、あまり手のかからない当日の催し物の担当をしてもらったのだが、何を勘違いしたのか自分でバンドを率いてステージに上がっていた。私よりリーナの方が頭が悪い。そして、普通に上手いのが笑えるのだが。

 

みなもも馬鹿であるし、戦略級魔法を使える私が言うのも何だが、戦略級魔法を使える人はたぶん全員馬鹿なのであろう。賢い達也もシスコン全開の兄馬鹿であるし。

 

 

「サキ!貴女めちゃめちゃ歌上手いって聞いたわよ!私と歌うわよ。ほらマイク」

 

ステージから降りて来たリーナに捕まる。

逃げようとするが七草先輩と渡辺先輩にブロックされてしまう。万事休すだ。

仕方なしに私は雀明華の神依をしてステージに上がる。

 

私と2人で歌うリーナは楽しそうであった。リーナは私以上に特殊な存在。何かと制限されることも多いはずだ。しかし軍や国に今この時は縛られていない。今この時間を楽しんでいるに違いない。

 

 

そんな私たち2人の歌声は空を自由に飛ぶ鳥のように天高く登っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これぐらい簡単に咲さんと照も仲直りしてほしいですね。

新しい神依出すタイミングが全然ないんですけど…



アンケートのお願い

ダブルセブン編が終わったあとifをやろうかなと思っています。(このままのペースだと原作に追いつくため)
咲のキャラを劣等生の世界に入れるifを考えているので、そこで誰を入れて欲しいかのアンケートを取りたいと思います。読みたいと思ったキャラを自分の活動報告にコメントして頂ければ、もし1票でもなるべくそのキャラの物語も書こうと思いますので遠慮なく要望言ってもらって大丈夫です。最初は多数決で多かったキャラから始めます。




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第67局[祝賀]

原作五巻を活用したオリジナル展開。どうして深雪の誕生日の話は原作にないんだろう。


3月25日

授業も終了し、私も深雪も生徒会の用事がない日。

 

私たち3人は今、ショッピングモールに来ている。なぜ私が珍しく休みの日に家から出ているのかというと今日は深雪の誕生日であるからだ。

深雪が3人で出かけたいと言ったので、ショッピングモールに出かけることになったのだ。

 

その深雪は私の腕に抱きつきながら私とともに歩いている。まるでカップルみたいだ。そんな光景を見て私たちの近くを通りかかった人たちは動きを止める。この世界では同性同士の結婚が認められているが、一定数それを批判する人もいる。

しかし、私たちに批判の目を向ける人はいない。立ち止まった人の中には批判意見を持つ人もいたが、のどっち風にいうと「ありですね」となったのだ。

 

達也は私たちに対し危害を加えようとしている目がないかということを監視している。私も精霊で周りを見てるので襲われることはないだろう。

 

まず最初に入ったのはブディック。春物の服が見たいらしい。深雪は店内をぐるりと周り、数着の服を指差して試着させてほしいと店員さんに依頼した。その店員さんは満面の笑みで頷いたが、単なる営業スマイルに留まらないかもしれない。

深雪が試着してる間、私たち2人は店内のベンチで待つことにした。私は持って来た本を広げると達也がその厚みに驚いたようだ。

 

「咲、何を読んでいるんだ?」

「日本書紀」

 

こいつ大丈夫かみたいな目を向けられたが、これは重要なことなのである。神代小蒔の能力は日本書紀の伝説からきているので、こうやって定期的に読まないとイメージできなくなってしまうのだ。

そんなことをしていると店員さんが私たちの顔色を伺うように立っていた。

 

「何か?」

 

達也がそう声をかけた。

 

「お客様にご相談が…」

 

達也が首を縦に振る。この話は達也に任せとこう。面倒くさそうだし。

 

「もしよろしければお連れ様がお買い上げ頂きましたお洋服を」

「まだ買うと決めたわけではありませんが」

「もちろんでございます!もしお買い上げいだいた場合ですが」

「もちろん、気に入った服があれば買うつもりですが」

「ありがとうございます!」

「達也さん、店員さんをいじめるの可哀想よ。それで、店員さん。何の御用なのかしら?」

 

本当は口を出さないつもりだったのだが、意図せず達也が店員をいじめているのが見ていられなかったので思わず助け舟を店員にだしてしまう。

 

「もし、お買い上げ頂ける事があればそのままその服をお召しになってはいただけないでしょうか?」

 

え、それだけ?達也に虐められる労力に見合っていない気がする。

 

「こちらの服を着て歩き回ってほしいということでしょうか?」

「はい、その分値引きさせていただきますが」

「撮影はNGですよ」

「もちろんです」

「店頭に出ていない商品も見せていただきますか?」

「当然です、全商品見ていただきたいです」

 

服屋さんにも図書館の閉架図書のように店頭に出していない商品があることに少し驚いた。

 

深雪の着替えが終わったとのことで、試着室向かう。その道すがら小さく達也が言うには、深雪にこの店の服を着せることでこの店の歩く広告にしたいらしい。店員さんも賢いものだ。

 

「お兄様、お姉様どうでしょうか…?」

 

深雪が身につけているのは紺色のチュニック。うん、相変わらず深雪は何を着ても可愛い。

 

「可愛いわよ」

「上品なデザインが良く似合っているよ。でももっと派手でもいいかな」

 

小学生並みの感想しか出ない私に比べて、次の着る服のアドバイスまでする達也。格の違いを見せつけられる。

その後も深雪の試着という名のファッションショーが続く。毎度毎度、私たちは深雪を褒め称え、その度ごとに嬉しそうに恥ずかしがる。

何着も試着を繰り返すうちと時間がそれなりにたっているわけで、遠まきに人垣が形成されている。

まあいつものことなので仕方がない。

 

もう何着かわからないほど試着したところで深雪は一着の服を手に取った

 

「これにしようと思っているのですが…」

「俺もそれが一番可愛かったと思う」

「それも可愛かったわ」

 

深雪は達也の細かなニュアンスを感じ取って、一番好評であったその服を選んだのだ。

「それでは…これを買って頂けますか?」

「いいとも」

 

深雪のおねだりに金を使うのは最も有意義な金の使い道くらいには考えていそうな達也が即答する。

 

「では、これと四番目と二十一番目を。咲、お前は二番目と五番目と十六番目だろ?」

「よくわかったわね、だけど自分の分は自分で払うわ」

 

深雪の試着のイメージで自分のものもだいたい決めていた私は自分で払うと提案する。

 

「今回は俺に払わしてくれ。この前のお詫びだと思って」

 

この前とは喧嘩をしたあの一件であろう。

そう言われては引き下がるしかない。

 

店員は思い掛けない上客に顔をホクホクさせ笑顔で私たちを送り出した。

 

午前中に服を買った私たちは、お昼ご飯を個室のある店で食べ、午後はウィンドウショッピングをして回った。その間深雪は私と達也の間に挟まれ、両方の手をそれぞれと繋ぐことでご満悦な様子であった。

 

 

「深雪は部屋で待っていてね」

「わかりました、お姉様」

 

帰宅した後、深雪にそう声をかける。

今日は私が料理するからだ。神依するのは当然キャップ。咲で一番の家事力を持つキャラであるのが理由だ

 

「で、いつも通りよろしくね」

「まったく…何度もやってるんだからいいかげん覚えろよ…」

 

機械が発達したこの世界では、料理にも多少機械を使うこととなるので、達也の助けが必要なのだ。助けが必要な理由、それはパソコンで服が作れる(注文ではなく文字通りの意味)と勘違いするぐらいキャップは機械オンチであるからだ。

 

2人で料理をつくること一時間。高級料理店のフルコースとまではいかないが、家庭的でなかなか美味しそうな料理を作る事ができた。

深雪も美味しいと大層気に入ってくれたので私と達也はホッとした。

 

夕食の後は私の誕生日と同じようにちょっとしたパーティとなる。深雪が歌を聞きたいというので雀明華の神依をして歌ったり、それに達也も混ぜたりなど楽しい時間を過ごした。

 

「深雪、私からのプレゼントよ」

「ありがとうございます!開けてもいいでしょうか?」

「もちろん」

 

私が送ったのは三月の誕生石、アクアマリンが散りばめられた髪飾り。これに私がネリーとかおりんで運を全力で注ぎ込んだので、幸運バフ効果のおまけ付きだ。

 

「とても綺麗です…大切にします」

 

深雪も気に入ってくれたようだ。よかった。

 

達也はアンティークの懐中時計を送っていた。懐中時計は実用的な部分がこの時代ほとんどないが、美術品として好まれている。

とてもお洒落なので私もほしいぐらいだ。

 

 

 

 

 

 

 

翌日の午前中、呼び鈴が家に鳴り響いた。カメラを見ると四葉の家の者であったので、私が出る。

 

「お久しぶりです。咲様」

「水波ちゃん久しぶりね、正月ぶりかしら?」

 

私が出た後に続いて玄関を出た深雪は驚きで口を抑える。達也も顔には出していないが驚いているのがわかる。この2人は四葉本宅に帰ることがほとんどないので、本宅にいた水波のことを知らないのであろう。

水波をリビングへ案内し、深雪達也の対面に水波と2人でソファーに腰を下ろす。

 

「この子は桜井水波ちゃん。深夜叔母様のボディーガードを勤めていらっしゃった穂波さんの遺伝子上姪にあたるそうよ」

「桜井水波と申します」

 

水波が一礼しながら自己紹介をする。

自己紹介した水波は何度見ても穂波さんにそっくりであった。初めて会う達也と深雪が驚くのも無理はない

そしてその水波は私に一通の封書を手渡した。差出人は四葉真夜。この時点で嫌な予感しかしない。

いつもの愛してるみたいなことが書いてある挨拶の後にこう書かれていた。

 

「この春、水波ちゃんを第一高校へ入学させることになりました。ついては貴方達のお家に水波ちゃんを住まわせてあげなさいな。彼女は家政婦として、十分な技能を持っています。彼女には住み込みのメイドとして働くように言ってあるので、家のことを何でも言いつけてください

あと彼女は咲さんのボディーガードに任命してあります。ミストレスとしての練習を少ししなさいな」

 

私は達也と深雪に手紙を回した。しばらくして、深雪の喉から息を飲むような音が発せられる。深雪と達也が手紙から目を離すのを待っていたかのように、水波が私の横で立ち上がった。

「未熟者ですが、よろしくお願いします。奥様の言いつけ通り、できる限り精一杯務めさせていただきます」

 

深々と頭を下げながら水波が言う。

彼女は私に打ち込まれた楔とわかっていても、穂波さんと似た顔をした彼女を拒絶することは、私にも達也にも深雪にもできなかった

 

四月からの新年度はより波乱に富んだものになる、そんな未来が見えた気がしたが、怜を神依してるわけではないのでそんなはずはないと思うことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この話は3月25日深雪の誕生日の日に書きました。



毎日読んで頂いている人には申し訳ないのですが、2〜3日お休み貰います。書きだめもうほとんどないんで…


アンケートたくさんの方にコメントいただきありがとうございます。まさかすこやんがこんなに人気だとは思わなかったぞ…教師枠か生徒枠か、どこかの十師族の魔法師にさせるか、またはvs咲さんやらせるか、こーこちゃんと一緒に実況させるか迷いどころですね。

いつになるかはわかりませんけどご要望あったキャラは全員書こうと思います。


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ダブルセブン編
第68局[不穏]


ダブルセブン編スタート

土日に書きだめ書いておこうとしたのに70万文字ぐらいの作品三作品読んでしまって一個も進みませんでした…


4月5日、木曜日。新年度始業式の前日。

 

私たち4人は雫の屋敷で行われるホームパーティーに呼ばれていた。

この家に住んでいる雫の家族は祖母と両親、雫と弟の5人なのだが、家長である雫の父親の北山潮は5人兄弟。

富豪と呼ばれる富裕層ではこの程度の大家族はよくある話であるが、潮が晩婚だったため従兄弟はほとんどが雫より年上である。そのため半数が既婚者であり、未婚者もフィアンセや婚約予定のパートナーを連れて来たりしていて、ホームパーティーとは思えない人数に膨れ上がったーーという話を私は今雫からきいた。

 

パーティーが始まってすぐ、雫の母親に達也は連れていかれ、私はさっき雫の父親に救出され、今は私たち女子5人で話している

 

「咲、何回も言うけどよく来たね。来ないと思ってた」

「さすがに友人の雫の家のパーティに呼ばれて来ないほど薄情ものじゃないわよ、けど疲れたわ……」

 

雫は私がこういうパーティが好きではないことを知っている。

実は私はパーティが嫌いないわけではない。好きではない理由はパーティに行ったらならば、やらなくてはいけない挨拶や他の知らない人との交流が面倒くさいからだ。

今回はホームパーティだしそんなことはないと思ったのだが、そんなことはなかった。

 

私はいつも通り、大勢の大人にパーティーの最初囲まれていた。

ここにいる人達、特に家長と呼ばれる人たちは私に顔を売るのに必死であった。

 

『四葉』その名は魔法師に対して絶大な効果を誇る名である。一般社会には影響力は魔法師に比べて小さいがそれでも影響力がある。それをこの人たちはわかっている。四葉を味方につけることは日本で一番力(この場合の力は武力)を持つのと同義であるからだ。

しかし、四葉とコンタクトを取るのは企業単位では困難を極める。そこで珍しく秘密主義のくせに公にされている私たち(特に私)にこういう売り込みが多いのだ。

 

四葉の名にビビってそれほど長い時間拘束されることはないが、いかんせん数が多い。水波も幾らかはガードしてくれていたが、敵意ではないので無下にはできない。

そんな囲まれている私をホストである雫の父親は救出してくれたのだ。

 

 

 

5人でしばらく喋っていると、達也と話している雫の母親がエキサイトし始めた。

 

「お母さん、達也さんに何言っているんだろう」

「叔母様どうしたんでしょうかね」

「まあどうせ達也さんが悪いから気にすることないわよ、雫」

 

私はそういうのだが、雫は乏しい表情の中に羞恥をのぞかせている。自分の母親が友人に因縁つけたように見えて恥ずかしいのだろう。私の母親も外で見せるには恥ずかしい人なので長野の山奥でずっと引きこもっててほしい。

そんなことを喋っているとそれを良くないと思った潮が達也達の仲裁に入り、一言二言喋ると、達也がこちらに歩いて来た。

 

達也が大声をあげなくても声が届く距離になると、雫がペコリと頭を下げる

 

「達也さん、ごめんなさい」

「いや、お母さんの気持ちもよく分かる。娘に四葉の男が近づいているとなれば心配して当然だろう」

 

達也はこの件はこれで終わりという風に首を振って笑う。

 

 

やっとパーティを楽しめると思ったが、そうは問屋が卸さないようだ。5人で話していると1人の青年が近づいて来た。

 

「雫ちゃん、久しぶり」

 

向こうの馴れ馴れしい態度と雫がペコリと頭を下げた点から、たぶん従兄弟。軽薄な印象を受けるが、身なりは少なくとも安っぽくはない。

しかし雫は、その隣にいる女性を見て訝しむ顔に変わった。ルックスもスタイルも良く、ドレスもアクセサリーもTPOを弁えたものだ。雫が浮かべる表情は彼女が少なくとも親族ではないということを示している。

 

「あ、オレ婚約したんだ。とはいっても、まだエンゲージリングは受け取ってもらってないんだけれどさ」

 

雫の視線を受け、雫が疑問を投げかけるより先に青年の方から紹介があった。

 

「おめでとうございます」

 

雫が儀礼的に祝辞を述べる。

 

「初めまして、雫さん。小和村真紀です。よろしくお見知りおきください」

「あの、ひょっとして小和村さんって、女優の小和村さんですか?『真夏の流氷』でパン・パシフィック・シネマ賞の主演女優部門にノミネートされた」

「あら、あの映画、観てくださったの?」

 

ほのかの問いかけに、やや得意げだったが上品な笑みを浮かべたまま彼女は答ていた。

 

確か流氷は前世の世界では夏では見れなかったはずだが、過去の寒冷化により北海道の北端では確か夏でも見えると何かの本で読んだことがある。

 

芸能事情に全く興味のない私は映画の名前すら知らないのでそれを聞いてこんなことを考えていたが、達也と深雪の反応を見る限りどうやら有名作品らしい。

 

私の興味はそれで尽きた。映画より原作の小説を私は好むので、映画を観に行くことはほとんどない。そしてマスコミと密接に関係する有名人と知り合いとなるのは四葉にとってマイナス面が多いだろう。

興奮しているほのかには悪いが早くどこかに行ってくれないかなあと考えていると、彼女の目が私を捉えた。

 

「すみません。違ったら申し訳ないんですが四葉咲さんではありません?」

「ええそうですが。失礼ながら以前お目にかかったことが?」

「いいえ、彼に雫さんが出ているということで、九校戦の中継を見せてもらったんです」

 

あんな派手なパフォーマンスしたら流石に目立っていただろう。知っていてもおかしくない。けど、何だろう。キナ臭さを感じる。

例えるなら、2000のイーシャンテンを24000にまであげた咲さんの手牌か。

 

「あの歌声は簡単に忘れれるものではありませんよ。私のお友達もみんな同じ意見でした」

「ありがとうございます」

「そうだ!来週、よろしければ私たちのサロンにいらっしゃらない」

 

無邪気な表情で無垢な雰囲気と搦めとるような色気を混ぜ込むあたり、流石女優ってところか。女優が四葉の力を借りたいのだろうか。

 

「せっかくですがご遠慮させていただきます」

 

当然面倒くさいのでパス。エステに行っている間に本を一冊読める。

 

「そうですか」

 

彼女の視線から一瞬、怒りに似た波動が放たれたのは見逃すことはなかった。枕神怜もこいつなんやねん、と言ってる始末。

まあこの人に興味はない。私を本気で誘うならゲストとして太宰治とか三島由紀夫とか呼んでほしい。どちらも死んでるのだけど。

 

私たちは小さく礼をし、その場を立ち去る。

彼女の私たちを見る厳しい目つきは、枕神怜で観察していた。

 

 

 

 

新学期が始まる4月6日

 

第一高校では今年度からシステムが変わる。

入学定員は変わらず一科生ニ科生それぞれ100人ずつであるが、2年生の進級時に魔法工学コースが選択できるようになる。無論、選抜制であり試験に合格しなくてはいけないが。

魔法大学から専門の講師が来たり、魔法工学技術にカリキュラムの重点が置かれているなど、達也のような技術者を目指す人が多数を占めている。

 

そして一科生がこのコースに選抜されると足りなくなった一科生の分はニ科生成績優秀者が一科に繰り上がるシステムになっている。

これは明らかにニ科生なのに四葉でありなおかつ九校戦で大活躍した達也を学校側は持て余したのであろう。

 

 

登校時、横を歩く達也の胸には八枚歯のギアを意匠化したエンブレム。これは美月のブレザーにも付いており、このエンブレムは魔法工学コースのエンブレムである。

そして吉田君の胸には一科生の証の八枚花弁の校章。吉田君は繰り上がりで一科生になった生徒だ。

 

そんな何人か昨年度と違う制服を纏った私たち9人で登校していると、精霊達が警戒し始め私はその視線に気づいた。

私に向けられる強い意志を伴う、好意的ではない目。視覚同調で気づかれないように見ると、その視線の主を私は写真で見たことがあった。それは今年の新入生総代の七宝家の長男であったからだ。

 

「お兄様、お姉様?」

 

深雪が訝しげに声をかけたのはそのすぐ後。どうやら達也もその視線に気づいたらしい。私たち2人は深雪に対して何でもないと言っている間に、七宝は裏路地に姿を消した。

 

 

登校して構内無線で通知されたクラス分けによると私と深雪とほのかがA組。雫とエイミィがB組。エリカとレオはF組でまた同じクラス。

私と同じクラスとわかった時の深雪の喜びようはすごかった。一緒のクラスとわかった瞬間抱きついてきたのだ。去年は違うクラスであったので嬉しさもひとしおだったのかもしれない。

 

今日の1時間目は選択教科の履修登録に当てられたが2時間目から通常通りのカリキュラム。また魔法理論に追われる日々が戻ってきた。

 

 

 

そして放課後の生徒会室。

 

「紹介します。今年度の新入生総代を務めてくれる七宝琢磨くんです」

 

中条先輩に紹介されて七宝君はペコリと頭を下げる。中条先輩が先日、先に七宝君と顔合わせをしておいてくれたのだ。本当は私がやるべきなのだが、咲さんはいつも仕事をたくさんやってくれているからということで、中条先輩が引き受けてくれたのだ。

 

五十里先輩に続いて私が自己紹介する。

 

「会長の四葉咲です。よろしくね、七宝君」

 

私が微笑みながら自己紹介すると七宝君の態度が一変した。

 

「七宝、琢磨です。よろしくお願いします」

 

不自然に苗字を強調した言い方だった。同じ十師族だぞと言いたいのであろうか。しかし、まだ言葉遣いは許容範囲内。

 

問題なのは七宝君は私をどこか軽蔑してる様子であった。しょっちゅう達也に頭大丈夫かみたいな目で見られているし、軽蔑されてもおかしくない行動に心当たりはたくさんある。

私的には問題ないのだが横の深雪がそんなことを許すはずがなかった。私との挨拶が終わり、七宝君は深雪を見るとたじろいだ表情を見せる。

 

なぜならそこには氷雪の女王が降臨していたからだ。

 

吹雪の姫(ブリザードプリンセス)などとそんな生易しいものではない。そのプレッシャーは流石四葉家直系と思わせるもの。私もちょっと怖い。

七宝君が平静を失ってもおかしくないのだが、そうは思わなかったようだ。悔しげな表情が浮かび上がる。すぐに笑みを浮かべ直すがあまり上手くいっていない。

 

「副会長の四葉深雪です」

 

深雪を軽蔑する様子は見られないので、四葉全体を見下しているのではないようだ。

七宝君は別に私を軽蔑するのは結構なのだが、後で機嫌をとらなくてはいけない私の身になってほしい。助けを求める3人の目に気づかないふりをしながら、私はため息を吐いた。

 

 

 

夕食後、ボディーガードの傍ら家政婦も兼業で勤めている水波以外は皆、リビングのソファーに座りコーヒーや紅茶を飲んでいる。

 

「深雪、七宝君と喧嘩しちゃダメよ?」

「私は喧嘩などしませんよ」

 

深雪の機嫌は帰宅時に直しておいたが、これからの学校生活のことも考え、深雪を注意しておく。

 

「咲に軽蔑の目が向けられるのは珍しいな」

 

達也はちょっと不思議に思うようにそう言う。達也はしょっちゅう頭大丈夫かという目を向けてくるので、お前が言うなと私は言いたい。

 

「私は別に深雪が軽蔑されなければいいのだけど。別に七宝君は四葉全体を憎んだり軽蔑しているわけじゃなさそうなのよね。私単体というか」

 

深雪に向けられる目は普通であったので、私を軽蔑し敵視していると考えるのが妥当であろう。

 

「七宝は咲に婚約を申し込んでない数少ない家だ。四葉とライバル心もあるだろう。やはり九校全体で大人気の咲の活躍を妬んでいるんじゃないか?」

「まあ妬まれ軽蔑されるようなことに、結構心当たりがあるのが問題よね…」

「そんなことありません!お姉様は素晴らしいお方です!少し解決方法が強引なだけで…」

 

 

私が脳筋と深雪たちに思われているのは仕方がないと思うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




他の人の作品みたいに投稿頻度落ちるけど1万文字一気に投稿するか、今みたいに2000〜5000文字ぐらいで頻度高めの投稿どちらがいいんだろう。


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第69局[双子]

講義中の方が執筆捗る説あります


4月8日、第一高校入学式当日の朝。

私たちは初めて4人で第一高校に登校することとなった。

今日は昨日のように不躾な視線を受けることなく、入学式開会3時間前に学校へ到着した。こんな時間に水波と登校したのは、当然入学式の準備のためだ。

入学式は生徒会主導で行われ達也は風紀委員で生徒会ではないのだが、人手がいる入学式会場への案内や準備や警備などは風紀委員会や部活連にも手伝ってもらう予定である。

 

「おはようございます、達也さん!深雪と咲もおはよう」

「おはよう、3人とも。時間ぴったりだね」

 

ほのかと五十里先輩が朝の挨拶を掛けてくる。

 

「おはようございます。五十里先輩もほのかも早いですね」

「早く来ないと落ち着かない性分なんだよ」

 

そういいながら五十里先輩は私の後ろに控えている水波に目を向ける。

 

「ところでその子は新入生だよね?」

「そうです。水波ちゃん、五十里先輩よ」

「初めまして、五十里先輩。桜井水波と申します。いつも達也様や咲様、深雪様がお世話になっています」

 

私に呼ばれた水波は挨拶をする。五十里先輩は口ぶりから四葉の家の者と理解してくれたようだ。その後中条先輩が少し遅れてやってきて全員揃った。

 

 

 

私たちも含め入学式準備に動員されている生徒は一度、講堂に集まり、連絡事項と注意事項を確認すると各自持ち場に動いた。

私たち生徒会は講堂でのリハーサル、風紀委員会や部活連などは会場準備や校内の見廻りだ。

 

 

 

リハーサルは張り詰めた空気の中無事終了した。緊張しているのか今日は七宝君の私を見る軽蔑した目はなく、深雪も喧嘩腰ではなかった、少しよそよそしい様子ではあったが。リハーサルが終わったので私も自分の仕事に取り掛かるとする。

 

「新入生の誘導に行ってきます」

「お姉様、行ってらっしゃいませ」

「よろしくね、咲さん」

 

深雪と五十里先輩に見送られ私は講堂を出て行った。

 

 

 

堅苦しいセレモニーなどは嫌いだ。まだこうやって外で風に当たっている方が気が楽である。あと来賓誘導とかよりは、こちらの方が知らない大人と喋ったりすることが少なくて楽だ。そう思って昨年度の七草先輩と同じく私は迷っている新入生の誘導をかってでたのだ。

 

 

講堂の前庭から繋がる桜並木に挟まれた道を見回っていると、こちらに向かって歩きながら喋っている女子生徒二人を見つけた。

 

肩にはエンブレムがあるので一科生。二人は同じような背格好、白と黒のストライプのお揃いのリボンをつけていた。髪型は大人しそうな印象を受ける方がロングヘア、もう片方の活発的な印象を受ける方はショートヘアであるが、どこか雰囲気というかオーラが似ていた。

 

「あ、おはようございます」

「おはようございます」

 

話に夢中で自分たちの世界に入っているようだったが、私が近づくと気づいたようだ。

 

「おはようございます。新入生ですか?」

 

私は優しく微笑んだ。

 

「はい、そうです」

「講堂の場所はご存知かしら?」

「大丈夫です」

 

近くで見るその二人はオーラだけではなく、顔立ちもよく似ていて、双子であることがすぐわかった。

近くに保護者や同伴者は見えないが、今日は平日。仕事を休んでまで入学式を見にくるかといったら微妙な線である。1人暮らしの生徒も多いので保護者がいないのも別におかしくはない。

 

「もうすぐ開場なので、講堂近くまで移動しておいた方がいいと思いますよ」

 

照みたいに入学式の場所がわからず迷ってるわけではないことを確認した私は誘導に戻るべく、その場を立ち去ろうとした。

 

「あの…すみません」

「ん?何かしら?」

 

しかし歩き出そうとした私の足を彼女の少し緊張した声が呼び止めた。

 

「もしかして、四葉咲さんですか?」

「ええ、よくご存知ね」

 

四葉であるし、生徒会長であるし、知られていてもおかしくないだろう。

 

「はじめまして。七草泉美と申します」

「同じく七草香澄です」

 

なんかどこか見たことあるなあと思っていたが七草の双子か。それにしても準決勝で大量失点しそうな名前と永水で一番やばいおっぱいオバケのような名前だ。

 

「もしかして七草先輩の妹さん?」

「そうです。昨年度は姉がお世話になりました」

「いえいえ、私もお世話になったわ」

 

モノリスコードに出させられたり、生徒会長にさせられたり、実際色々お世話になった。

「姉から四葉先輩の」

「四葉はたくさんいるから咲でいいわよ」

「ありがとうございます。咲先輩の話は常々伺っていますし、去年の九校戦の試合も拝見させていただきました。とても素晴らしい歌声でした」

 

熱のこもった目で泉美が見てくる。なんかその目は深雪が私を見る時の目に似ている気がする。

 

「ありがとう、嬉しいわ」

「あの…よろしければ私を泉美と呼んでもらってもよろしいでしょうか?」

「ボクも香澄って呼んでよ。咲先輩」

「いいわよ、泉美ちゃん香澄ちゃん」

 

四葉家と七草家はあんまり仲良くないが、別に先輩後輩の関係で仲良くしてはダメということはないだろう。

そして泉美はどこか深雪に、香澄はどこかみなもに性格が似ている。大人しいタイプと活発的なタイプの違いであろうか。

 

「ご両親は一緒なの?」

 

流石に七草家当主と会うのは嫌であったので、そう質問してみる。

 

「いいえ、両親は忙しいので今日は姉が一緒なんです」

「七草先輩が?」

「はい、こっちです」

 

前庭の方に二人に連れられて歩いて行くとそこにはスーツ姿の七草先輩とそれと妙に近い達也の姿があった。

 

「あらっ」

「こらーーーーーっ!」

 

落ち着いている泉美と対照的に、香澄は一直線に達也の方に走り出した。

 

「お姉ちゃんから離れろ!このナンパ男!」

 

突然の叫び声に驚いたのか、それとも後輩と仲良くしていると誤解されて慌てたのか、七草先輩はヒールだったのが災いして、勢いよく後退した後、足を取られ転びかけた。

そのよろけた七草先輩を達也は肩を掴み支えるが、その光景はさらに誤解を加速させた。

 

「離れろって言ってるだろ!」

 

そう叫ぶと香澄の身体はフワリと浮かび上がり、空中で加速しながら一直線に飛び、膝蹴りが達也の顔面を襲う。

しかし、達也は慌てることなく片手でキャッチした。彼女の膝を掴みながら突き上げるように力を加えることで、運動ベクトルを横から上に変える。

ブロックされるとか叩き落されるとかならまだしも、バレリーナのように持ち上げられた香澄は、当然バランスを崩した。

 

とりあえず空気の層集めて対処しようと思っていたが、横の泉美が魔法で落下速度を緩めた。彼女の魔法式が香澄の身体に張り付いているのだが、これは普通ならありえないことなのだ。通常、他の魔法師に魔法をかけることは無意識に展開している情報強化の防壁、エイドス・スキンに阻まれてしまうため高い魔法力が要求される。しかしそのエイドス・スキンをまるで損なうことなく、通常ならば自分自身に魔法をかけた場合にしか起こらない現象が、第三者の魔法によって発生していた。

香澄が無傷で軟着陸すると、達也はすぐに大きく後ろに飛び3メートルほどの距離を空けた。

 

「香澄ちゃん、大丈夫ですか!?」

「泉美ありがと、助かったよ」

 

着地に合わせて両膝をついた香澄の元に、泉美は駆け寄っていた。

 

「こいつ、ナンパ男のくせに強いよ」

「いえ、えっと香澄ちゃん?」

 

二人とも探るような目をしているが敵意を剥き出しにしているのは香澄だけであった。

 

「ナンパ男ね、ふふっ」

「おい咲、笑うな」

 

止めろという目をしてくるが面白そうなので無視だ。

 

「少し落ち着いた方が…」

「ボクの直感が叫んでる。こいつ、只者じゃない」

 

香澄は膝をついたまま達也を睨みつけ、左袖のCADを露出させてコンソールに指を走らせようとする。二回目の魔法の無断使用。明らかな違法行為だ。面白そうだが、流石に立場上止めないとまずいか。

 

「香澄ちゃん」

 

私の声は普段と変わらない。

 

「魔法の無断使用は犯罪って教わらなかったのかしら」

 

しかし、私は一瞬オーラを香澄にぶつけた。神依時ではないのでそこまでのオーラはないが、昨年度の最後、学校全体を恐怖させたらしい(私はそんなつもりはなかったのだが)オーラだ。香澄はそんな私のオーラに一瞬ひるんでしまう。

 

「いい加減にしなさい!」

 

事態について行けず呆然と固まっていた七草先輩が香澄に拳を下ろした。声を出さずにうずくまってるのを見ると相当痛かったのであろう。

 

「…お姉ちゃん、いきなりなんなのさ」

「それはこちらのセリフです!香澄ちゃん、貴女いきなり何をしているの!?」

 

七草先輩は本気で怒っていた。意味ありげな笑顔に本音を隠したいつもの姿からは想像できない姿である。

そんな七草先輩を見て、香澄の顔の色は赤から青に変わっていった。

 

「咲さんが言った通り、魔法の無断使用は犯罪よ!何度も説明してあげたでしょ!それも入学当日からどういうつもり!?」

 

七草先輩は両手を腰に当てて怒っている。しかし縮こまりながらも香澄は抵抗を放棄しなかった

 

「でも、そいつがお姉ちゃんにいやらしいことをしようとしていたから…」

「い、いやらしい!?」

 

その抵抗は七草先輩にある程度ダメージを与えていた。

 

「私たちはそんなことをしていません。何を考えてるんですか、貴女は!」

 

結果は火に油を注いだだけに終わったが。

 

「ごめんなさい、達也くん。妹がとんでもない真似をしてしまって。香澄ちゃん、貴女も謝りなさい」

 

七草先輩が達也に向かって深々と腰を折った後、香澄は心の中でどう思ってるか別にして、潔く頭を下げる。

 

「申し訳ありませんでした」

「私からもお詫び申し上げます。香澄の無礼をどうかお許し下さい」

 

当事者の香澄だけではなく、泉美も姉に続いて頭を下げる。美少女3人から謝られている達也はさぞ居心地が悪いだろう。さっきの暴力事件は私たち以外誰も見ていなかったが、今はこちらを窺う視線がちらほらある。

これは達也が彼女たちをいじめていると誤解されかねない。

 

「顔を上げてください。結果的に何もなかったから気にしていませんし、これぐらいなら日常茶飯事です」

 

私は家で達也に対してどうやったら魔法を遠距離から当てることができるのか、という実験で軽い魔法をよく達也に放っている。それのことを言っているのだろう。

 

「日常茶飯事?」

「ええ、そこの咲が家で奇襲を仕掛けてくるので、こんなことはよくあることです」

 

そんな達也の言葉を聞いて3人ともギョッとしている。しかし、すぐにその七草先輩の表情は後ろめたそうなものに塗り替えられる。

 

「あ、あのね。達也くん、咲さん」

「なんでしょう」

「今の件、本当だったら職員室に報告しなきゃならないことはわかってるんだけど、お願い!私に免じて見逃してもらえない!?」

 

七草先輩は目をつぶって両手を合わせた。

 

「この程度で大騒ぎするつもりはないですよ」

 

この程度で問題にされたら達也や深雪が補導された回数など数え切れないし、私に至っては娑婆に出ることはなくなるだろう。

私たちにとってお互い様だ。

 

「あの魔法寸止めにするつもりだったから達也さんは上に持ち上げたのよね?」

「そうだ」

 

私たちにとって魔法式から魔法の内容を読み取ることは容易い。あの飛び膝蹴りはブラフであり10cm前で止まるように定義されていた。もしそうでなければ達也はあんな穏便な態度はとっていないだろう。停止するポイントがわかっていたから、停止直前のポイントで魔法が強制終了するよう達也は手を加えたのだ。

 

「ハァ…流石ね、二人とも」

 

感心している様子の真由美の横で、香澄は愕然としている。真由美にとって咲と達也の異常性はお馴染みのものなのだ。

 

「七草先輩、私たちは新入生の誘導がありますので失礼させて頂きます。会場はすでに開いていますのでどうぞお入りください」

 

そう私が言って、返事を待たず二人でその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

「それにしてもナンパ男ね」

 

私は香澄が言ったナンパ男が気に入っていた。達也を深く知る私にとって、全く達也に当てはまらないこの言葉が壺に入ったのだ。

 

「もし俺が本当にナンパ男だったら、咲に一番に手を出すさ」

「………………私を口説いてるのかしら?」

「そんなことないさ」

 

相変わらず達也の冗談はよくわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第70局[失敗]

ランキングのポケモン小説読んだしまったせいでポケモン熱が復活してしまいあまり執筆速度が上がらない状況。レヒレ強い


入学式はアクシデントも無く予定通りに終了した。

七宝君の答辞の挨拶も無難なものであり、去年のように会場全ての目を釘付けにするわけでも無く、一昨年のように在校生ばかりか新入生までがハラハラするようなものでもなかった。

少し問題があったとすれば、咲が何かパフォーマンスすると新入生は勘違いしていたことぐらいであろうか。厄介な来賓との会話はめんどくさがった咲が深雪に任せておいた。

 

 

 

 

 

咲たち7人は入学式からの帰り道、喫茶店アイネブリーゼで昼食をとり、いつも通りコーヒー片手の雑談をしていた。

 

「そういえば、新入生の首席君の勧誘はどうなったの?」

 

会話がふと途切れた瞬間に、雫がそう訊ねた。特段の意図があったわけではない。

例年、新入生総代は生徒会に入るのが慣習となっているので、今年もそうだろうと確信した質問だった。

 

「…だめだった」

 

自分のせいでもないのに、 がっくりと肩を落とし項垂れるほのかを見て、聞かなきゃよかったと雫は後悔を味わうことになる。

 

 

 

 

そう、それは約1時間半前のこと…

 

咲とあずさは琢磨の生徒会の勧誘に向かっていた。新入生総代に生徒会の話をするのは入学式が終わってからという不文律がある。入学式前は生徒ではないというのが理由だ。なので入学式後に勧誘をするのだ。

 

「ありがたいお誘いではありますが、辞退させて頂きます」

 

あずさの生徒会への勧誘の答えがこれである。

 

「理由を聞かせてもらえるかしら?」

 

固まってしまったあずさに代わり、琢磨にあんまり友好的に思われていない咲が訊ねる。

 

「自分を鍛えることに専念したいんです」

 

琢磨は咲を見返しながらこう答える。今の目は咲を軽蔑する目ではない。強い意志を持った目だ。挑戦的な目とも言えるかもしれない。

 

「俺は十師族に勝てるぐらい、強い魔法師になりたい。それが俺の目標です。だから生徒会で組織運営を学ぶより、部活で魔法を鍛えたいと思います」

 

琢磨の言葉から自分の力で十師族になりたいという意志を咲は感じる。咲を嫁にもらって十師族になるのではなく。そういう考えは咲好みだ。

 

「そうですか…….」

 

思ったより早く硬直から脱したあずさがため息をつくようにそう言った。それほどショックであったのだろうか。

 

「それは残念な話だけど、七宝君がそう決めているなら仕方ないわね。部活頑張ってください」

 

そう咲が言うと、琢磨は足早に立ち去った。

 

 

ーー回想終了

 

 

 

「本人が部活を頑張りたいと言ったんだから仕方がない」

 

達也のその言葉はほのかに気にするなと言い聞かせてる意味合いが多かった。

 

「でも、新入生が誰も生徒会に入らないのは後々のことを考えると都合が悪いわね」

 

そう言うと、深雪が思いついたというように軽く手を打ち鳴らした。

 

「そうだ。水波ちゃんを役員とするのはどうでしょう」

 

深雪の発言に、これまで静かに聞き役に徹していた水波は顔を強張らせた。

 

「深雪、私の水波ちゃんを虐めないで」

 

咲は水波に抱きつきながら助け船を出す。咲に抱きつかれた水波は恥ずかしいのだろう、顔を赤くしている。そんな様子を見て3人は頭に疑問符を浮かべる。

 

「水波ちゃん家関係の人って紹介されたけど、咲の愛人なの?」

 

雫がそういうと水波はもっと顔を赤くした。

雫がそう言った理由は、咲が水波に見せる態度が一般的な使用人に対する態度には見えなかったからだ。

雫の家は富豪であり、ほのかも雫の親友として雫の家によく出入りしている。幹比古の家も古式魔法で有名な名家であるので、3人とも使用人とどう接したらいいかわかっているし、他の人の使用人との接し方も見ている。しかし咲のような接し方をする人は今まで見たことがなかったのだ。大袈裟な表現ではあるが咲の愛人と言われても納得してしまうぐらいの態度であったのだ。

 

「愛人ね、確かに水波ちゃん可愛いからそれもいいかもしれないわね。どう水波ちゃん。私の愛人にならない?」

 

咲は上目遣いで水波にそう言う。水波は咲の言葉と視線で思考がショートしていて答えを返すことができない。水波のそんな様子を見た咲はクスクス笑い水波から離れ頭を撫でる。

 

「水波ちゃんごめんね。深雪より私の方が意地悪だったかも」

 

咲は冗談半分で言っただけであったのだが水波には刺激が強すぎた。

 

 

「それに首席を生徒会に勧誘するのが慣例なんだから、代わりも成績で選ばなければ」

 

達也が何事もなかったかのように話を戻す。

 

「それだったら次席は誰だっけ?」

 

ほのかと幹比古はどう言ったらいいかわからない様子であったので、雫のあまり空気の読まない性格がここではプラスの方面に働いた。

 

「えっと、七草先輩の妹さんの七草泉美さんだね」

 

ほのかは入試の結果を端末を見るのではなく、ちゃんと記憶していた。

 

「三位が双子の片割れの香澄ちゃんね。七宝君とこの二人は本当に僅差の点数だった気がするわ、確か3人だけ突出した点数だったことは記憶にあるわね」

 

咲はもう既にいつも通りの態度に戻って思い出すように言った。

 

「じゃあ、七草先輩の妹さんどちらかが生徒会役員になってもおかしくないということですね」

「けど順当にいけば泉美さんの方じゃない」

 

幹比古の発言にまるで興味なさげに淡々と雫が反論する。その雫の言葉に深雪は少し嫌そうな顔をしている。その顔に気がついた咲は疑問に思った。朝会った時はお淑やかな子であり、深雪が苦手に思うだろう要素は思いつかなかったからだ。

 

実は入学式後、真由美と共にやって来た泉美と香澄は深雪に挨拶をした。その際、泉美が深雪の美しさに感動し、やや崇拝的な様子であったことに、深雪はやや苦手意識を持ってしまったのだ。それを別の場所で琢磨の勧誘をしていた咲は知らなかったので、疑問に思うのは自然である。

 

「決めるのは咲だが、最終的は本人のやる気しだいだろうな」

 

達也の発言は、深雪の内心を斟酌するものともそうでないとも取れるどっちつかずのものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




咲×水波 ありですね(のどっち風)


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第71局[口論]

コナンの新作映画見終わったので投稿。
和葉良かったです。


授業が始まって3日目、入学式の次の日の午後。

 

私たちA組は通称「射撃場」と呼ばれる遠隔魔法用実習室で、実技の授業があった。

今日、新入生は専門課程の見学だったはずだ。

A組は私と深雪のいるクラスであり、私と深雪は九校戦でとても目立っているので、大勢の新入生が射撃場に詰めかけた。その中には水波、七草の双子、そしてなんと七宝君の姿もある。

 

去年、私はこの時間本を読んでいたので知らないが、深雪曰く去年は七草先輩の実習があったらしい。

 

今日の実習は、移動魔法で小さいゴム弾を飛ばし、ランダムに設置された50個全ての的にどれだけ早く当てることができるかという実習である。

 

この実習は動かないものに対する素早い魔法照準、魔法発動のスピードなどを鍛えるものであり、それはスピードシューティングに似ているが、向こうは当てた数、こちらは早さを競うものであるので少し違った。

 

そしてこの実習はペアを組んで、お互いに早さを競い合い互いに高めていくものなのだが、そうなると当然、

 

「お姉様、今日は負けませんよ」

「ううん、いつも通り勝つのは私」

 

深雪と私が組むのは必然であった。

 

咲と深雪、主席と次席を同じクラスにしたのは、お互いに1年の時の実習において、同じレベルの練習相手がいなかったのが理由の一つにある。咲はよく深雪の練習相手として、座学の時間、実習に連れ出されていた。これは幾分か問題視されていたが、同じクラスにしたら丸く収まることにクラス分けを担当した人が気づいたのだ。

 

「じゃあ先にやらせて貰うわね」

 

先んずれば人を制す。私が今回は先行だ。

 

今回の実技の内容的にはスピード系がいいだろう。私は2人の神依をする

 

 

 

新子憧

阿知賀女子の1年であり、阿知賀唯一の無能力者でもある。だから弱いかというとそんなことはなく解説のプロにも阿知賀で一番上手いと言われるぐらい麻雀のセンスがある。麻雀のスタイルは鳴きスタイルであり、手役より速さを求めるタイプ。

なのでこのキャラを神依すると私の魔法力の魔法発動スピードが大幅に上昇した。

 

そして末原も纏うことにより干渉力を犠牲にし、能力による魔法発動スピード上昇も上乗せさせた。

 

 

「スピードで負けられない!」

 

私は一つずつゴム弾を放ち、的に当てていく。そのスピードは他の生徒と一線を画するスピードであり、目標タイムが40秒、平均クリアタイムが大体30〜40秒、早くても20秒強であるのだが、私のクリアタイムは10秒程度であった。

 

私の魔法の発動の早さにほとんどの1年生は度肝を抜かれているようだ。というか深雪以外の同じA組の人も私の実習を見て驚いている。

 

「どう、深雪?」

「さすがはお姉様です」

 

いつも通り私を褒める深雪であったが、どこかいつもと違う。

 

「でも、お姉様にしては甘いですね。この勝負私の勝ちです」

 

私が勝利を確信した時に浮かべる笑みにそっくりな笑みを携えた深雪がそこにはいた。

 

「え?私のスピードに深雪勝てるのかしら?」

「お姉様、この実習はただ単にスピード勝負だけじゃありませんよ」

 

深雪がそういい残し、実習台に立ち魔法を発動する。

 

深雪が行ったのは深雪自身の最高照準数18をフルに使い一気に18の的にゴム弾を当てる魔法であった。確かに私がいかに早く魔法を発動しようと、私は50個の的に当てるのに最低50回の魔法を使わなくてはいけない。しかし深雪のように複数の弾を一気に的に飛ばせば、魔法の使う回数は減るはずである。

深雪は3回魔法を発動し、わずか3秒でこの実習をクリアした。

 

準決勝の憧も末原も和了る数は多かったのに稼ぎ負けたのは、点数が低かったからであり、魔法の発動は早かったのに弾を飛ばす数で負けるという、この世界でも咲原作通りに神依が破られるという面がある。

 

深雪が私に勝ったことにより、実習場がざわめく。この場にいる人で私が深雪に負けたことを見たことあるのは、ほのかだけだ。一高では私の不敗神話が流れていたのだが、それは破られることとなった。

 

「深雪やるわね…」

「お姉様めちゃめちゃ悔しそうですね」

 

今回、深雪相手に初めて二重神依を発動したのに一発で負けてしまった。とても悔しい。

私たちはもう既に目標タイムをクリアしたので授業の課題は終わりだ。あとはまだクリアしていない人の邪魔をしない程度なら自由に過ごしていいのだが、悔しいのである提案をする。

 

「深雪、参考記録でいいからもう一回やらしてくれないかしら?」

 

私に勝って嬉しそうな深雪は首を縦に振ってくれる。こうなったら本気だ。順番を待っている間に私は憧を解除し新たな神依をする。

 

 

 

弘世菫

白糸台のシャープシューター(通称SSS)と呼ばれる打ち手であり、打ち方は狙った相手の不要牌に的を絞り、その相手から直撃を取るというものである。

これをこの世界に置き換えると、狙ったところに魔法が飛ぶというものである。

そんな強くない能力と思われるかもしれないが、そんなことはない。この能力は一度目標の方向に目を向ければ、目標をイメージするだけで勝手に魔法が自動的に飛んでいくのだ。例でいうと昨年のモノリスコード。咲は遠距離魔法で相手選手を射抜いたが、咲の目は達也のような目ではないので、1km先の相手を見ることはできない。しかしこの神依をすることで、相手の選手をイメージし遠距離狙撃を可能としたのだ。

 

 

今回の場合でいうと50個の的が目標。

私の順番が来て計測開始の音がなると、私は50個のゴム弾を私の魔法の支配下に置く。その瞬間、ゴム弾がそれぞれ50個の的に向けて飛び立った。

 

計測終了のブザーがなる。タイムは0.78秒。弾を飛ぶ速さを突き詰めればもっと早くできそうだ。

 

「咲…それずるいよ…」

「お姉様、それは反則です…」

 

私の魔法を見たほのかと深雪がそう言ってくる。私と深雪は簡単にできるが、複数の対象を狙って魔法を放つのは高等技術である。深雪でも18が限界であり、達也は30前後。普段の私は16、神依しても正面にあるものしか狙えない。

確かにずると言われればずるであろう。

 

 

会場全体が驚いている中で琢磨が馬鹿にしたような目で自分を一瞥し、会場から出て行くのを咲は視界の隅で捉えていた。

 

 

 

 

 

 

 

毎年新入生総代がメンバー入りする生徒会には入試次席の泉美を迎え入れることに決定した。新入生総代の琢磨は服部の推薦により、部活連の所属となった。本人も部活で鍛えたいと言っていたし妥当な人選であろう。

香澄は教職員推薦で風紀委員会入りした。

 

 

多少のアクシデントがあったが、大きすぎる問題は特になく、あの時期がやってきた。

そう新入部員勧誘週間である。(今年は平和ですねと呟いたあずさの言葉を去年騒動を起こしたその当事者の咲は聞かなかったことにした)

 

この時期だけはデモンストレーションのためにCADの携帯が許可されるので、新入生の取り合いで魔法の打ち合いになったり、殴り合いになったりすることは珍しくない。一種の無法地帯だ。

それらの対処に生徒会、部活連、風紀委員会総出で見回りを行う。

 

騒動は毎年起こるのだが、多少のルール破りが黙認されているのには理由がある。

学校側としては九校戦の戦績を上げてもらいたいという目論見があるから。そのためには魔法系部活に入って、魔法を鍛えてもらうのが一番であるので、新入生の入部率を高めるためにか黙認されているのだ。

そして、クラブ予算も活動実績や大会成績や九校戦の実績により、支給される活動費が左右される。それがあるので、優秀な部員を確保するために成績優秀者を自分の部活に入れたがる。

学校の思惑は成功してると言えるだろう。

 

 

新勧初日は珍しいことに大きな問題なく終わった。平和なままで終わって欲しいとあずさは願っていたが、そうは上手くいかないのが新勧である。

 

二日目、達也と深雪は部活連本部に待機していた。勧誘活動のトラブルが発生した時、実力行使込みで対応するためである。深雪の実力は誰1人として疑う余地のないものであり、達也もモノリスコードなどで実力を証明済みだ。

実力行使といえば咲がいるのだが、咲を本部においておくより、一番トラブルが起きる場所に置いておく方が効果的なのは去年で実証済みなので、昨年と同じ場所で見回りすることになっている。

その咲は文芸部と書かれた看板をベンチに置いて、自分もそのベンチに座り本を読んでいるだけであったが。

 

そんなのんびりしている咲とは裏腹に、兄妹2人は本部で、ロボ研のガレージでトラブルが発生したとの情報を聞き、現場へ急行した。

 

達也が争いの原因となった新入生と知り合いだったので、達也が到着したことによりロボ研とバイク部の争いは解決に向かおうとしていたのだが、すでに言い争いは別の人たちによって行われていた。しかも達也と同じ風紀委員会が関係している。達也にとって頭の痛くなる話であった

 

 

 

「ここは既に部活連執行部が対応しているんだ。風紀委員会はもう用はないはずだ」

 

琢磨のこれが、言い争いの引き金となるものであった。

状況を説明すると、まず最初に部活連執行部の十三束と執行部見習いの琢磨がロボ研のガレージに駆けつけた。その後、少し遅れて風紀委員会の香澄が到着したという状況である。

香澄は琢磨に帰れというような言葉を言われ一瞬怯んだが、同じ一年生ということがわかると好意的ではない声で言い返す。

 

「生徒同士の争いごとは風紀委員の担当だったはずよ」

 

香澄がそう言い放ち、琢磨の横を通り過ぎようとする。

 

「おい待てよ」

 

すれ違おうとする香澄の腕に琢磨は手を伸ばしたが、その手は何も掴むことはできなかった。香澄はくるりとターンしてその手を躱したのだ。躱した香澄が得意げな表情を浮かべているのを見て琢磨は頭に血を上らせた。

 

「鬱陶しいなあ、邪魔なんだけど」

 

香澄の前に回り込んだ琢磨に対して、香澄が心底うざいと思っているような声をあげる。

 

「ここは部活連が預かると言ったはずだぞ。七草。それとも直接言われないと分からないのか?お前たちの出る幕じゃないと」

「へえー…私のこと知ってたんだ。七宝君」

 

意味ありげな目を浮かべながら、相手が口を開く前に言葉を続ける。

 

「それに邪魔者扱いされてるぐらいわかってるよ?だけど風紀委員は部活連の指示に従わなきゃならないことは無いんだ」

 

香澄は薄ら笑いを浮かべながら、目は挑戦的な光を放っている。

 

「七草……喧嘩を売っているのか?」

「喧嘩を売るつもりはないよ。買うことはするけど。どうせ勝つのは私だし」

 

香澄がそう言うと、それを聞いた琢磨は香澄と同じように薄ら笑いを浮かべる。

 

「あの厨ニ病の会長がいいそうなセリフだな」

「咲先輩のことを悪くいうの許せないんだけど」

 

香澄は琢磨とは逆に、怒りで顔を赤くする。実は香澄も咲のファンであったのだ。泉美のように外に出して表現することはないが、心の中ではもっと仲良くしたいとは思っているのである。

2人は袖を捲り上げCADを露出させ、臨戦態勢だ。魔法の撃ちあいが始まるかに思われたその時、

 

「ちょっと待った、落ち着け七宝!」

「香澄。お前も落ち着け」

 

琢磨は今まで呆然としていた十三束、香澄は同じ風紀委員の達也が抑えた。

 

「四葉先輩。邪魔しないでください。咲先輩が馬鹿にされたんですよ?」

「香澄が問題起こしたら、お前に咲の雷が落ちると思うぞ。それでもいいなら勝手にしろ」

 

達也の言葉に香澄は大人しくなる。香澄は入学式のあの一件で咲が怒ったら怖いだろうということを入学式の日に既に感じていたのだ。

 

「生徒会はこの件を問題にするつもりはありません。風紀委員会と執行部には私が話を通しておきます」

 

深雪は香澄が大人しくなったのを見てすかさず助け舟を出す。深雪の眉間には青筋が浮かんでいたのだが。

この件を問題にしないと言われ、ロボ研はガレージへと、バイク部は割り当てられた自分たちのテントの場所に戻っていく。

 

「七宝。喧嘩を売るのは勝手にすればいいが、喧嘩を売る相手を間違えるなよ」

 

そう達也は言い残し、達也と深雪は部活連本部に帰還していった。

 

 

 

 




琢磨…喧嘩を売る相手を間違えるなよ…


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第72局[誘惑]

その日の放課後、咲は上機嫌であった。深雪が琢磨が咲のことを馬鹿にしたなど伝えても、あらそうなの程度で気にする様子もない。

 

達也が咲に聞けば、みんなが紙の本に興味を持ってくれたのが嬉しいらしい。

今現在、紙の本は普及しているとは言い難い。なぜならスクリーン型端末の書籍アプリで読むことができるので、わざわざ重い本を持ち運ぶ必要はないからだ。

しかし、咲は本を好む。達也も咲に前、本を布教されたが書籍アプリの方が便利だと断った。深雪にも布教していたようだが、深雪はもともと書籍をあまり読まない。

咲にとって紙の本に興味を持ってくれるのは嬉しいことであるのだ。達也は周りの人は本ではなく、咲に興味を持っていることに気づいていたがそれを口に出すことはなかった。

 

 

4月14日の土曜日の夜。

今日、咲は本に興味を持ってくれた子に貸す本を探すために、マンションに戻っている。マンションには本が莫大な量あるので今日は戻ってこないらしい。

 

そんな1人欠けた達也たちの家に珍客が訪れた。その珍客とは黒羽姉弟だ。

 

 

「文弥、亜夜子ちゃん、久しぶり」

 

水波からリビングに案内された姉弟は達也に迎え入れられた。水波は本来ボディーガードとしてついていくべきなのだが、咲が早朝誰にも見られないように出発したので水波が置いていかれる形となったのだ。

簡単に挨拶を交わした後、外用の服に着替えてきた深雪とお茶を4つおぼんに載せてきた水波がやってきて、全員揃う。

 

「咲お姉様は今日いらっしゃらないのでしょうか?」

「ああ、咲は今日所用で帰ってこない。何か問題があるのか?」

 

亜夜子の質問に達也が答える。達也の返答を聞き、2人は残念そうに肩を落とすが、少しの時間で気を取り直したようで、達也を見据える。

 

「いいえ、咲さんには後で伝えて貰えば大丈夫です。現在、国外の魔法師勢力による」

 

文弥は自分たちが調べたことを達也たちに話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、咲のマンションの自室にも珍しい客が訪れていた。

 

「どうして私がここにいると知っていらっしゃったのでしょうか?」

「私は四葉のスポンサーだ。このマンションにお主が入ったぐらいの情報はすぐに調べられる」

「これは失礼しました」

 

咲の目の前に座っているのは横浜騒乱の時に咲が魔法協会で出会った東道老人。その時と変わらず白く濁った左目が異様な圧迫感を与えている。

 

「それで私にどんな御用件で?」

 

四葉のスポンサーであるなら真夜に何か命令してそれを咲に伝えればいい。なぜ自分を訪ねてきたのか咲はわからなかったのだ。

 

「4月25日、民権党の神田が第一高校を訪問する」

「確か国防軍に対して極端に批判的な方でしたよね」

「そうだ。名目は魔法師権利の擁護。本心は魔法師を国防軍から排除しようとしている」

 

咲は達也に先週説明してもらったので、頷くことで続きを促す。

 

「裏で扇動しているのは七草家だ」

「つまり、私に七草家を潰せと」

 

咲の物騒な意見に東道老人は首を横に振る。その顔はどこか楽しそうであった。

 

「そこまではやらなくていい。七草家の思惑をもっとよく考えてみろ」

 

咲は仕方がないので末原の神依を行う。考察や作戦の立案は末原が一番使いやすいのだ。

咲が神依を行なった瞬間、東道老人の左目が何かを捉えたような目をしたが、咲が気づくことはなかった。

 

「世論に対しては、反論する相手がいいひんから反論することは難しい。やから反魔法主義者は早うからそれに目つけて、魔法は悪ちゅう世論を作り上げようとしとる。非魔法師が多い日本では、どちらに意見が傾くかは火を見るよりも明らかや。せやから、対象を魔法界全体から高校生と軍の癒着という話題にすり替えたんと違うんか?」

「世論は分断されると弱くなるのは道理だ。そして七草家が関係するとなると四葉と一○一の関係も考慮するべきであるだろう」

 

咲の少し砕けた言葉遣いを東道老人は心地好さそうに聞きながら付け足す。

 

「つまり七草家は四葉の弱体化を望んでるちゅうことか、スポンサーさんはうちにその神田ちゅう議員の一高で行われるだろうパフォーマンスを生徒会長の力を使って無駄にしてほしいと言いたいんか?」

「満点だ。報酬は座布団5枚でどうだ?」

「私たちも関係することですし報酬は頂けません、情報が十分な対価です」

 

途中で咲は神依を解除し、首を横に振りながらそう言う。

 

「タダより高いものはない、というのは真理だ。少なくとも私はそう思っている。それならば、適当に本を見繕って送ってやろう」

「私はかなりの数の本を読んでいますが」

「それならば私の頼みをこれから4つほど達成したら大きい図書館を建ててやろう、それでどうだ?」

 

学校の図書室が小さいと常々思っていた咲はそれに目を輝かせ、首を縦に振り直す。

 

「ある寺より美味い茶であったぞ、馳走になった」

 

そう言い残し、東道老人は席を立った。

図書館という言葉につられた咲はこれからも面倒ごとに巻き込まれるということに気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第73局[仕度]

恒星炉実験の説明読んでもイマイチよくわからん…キンクリでいいか…


翌日、いつもの家に私が戻って話をすると同じ話を黒羽姉弟から達也たちも聞いたらしい。なぜ東道老人はわざわざ私の家に来たのかわからなくなったが、まあ気まぐれということで片付けた。

 

神田議員がやるだろうことはマスコミを引き連れてのパフォーマンス。

彼は魔法師の権利擁護を名目に、軍に魔法師が入ることを一方的に悪と決めつけ、魔法師を軍と関わることを避けさせようとしている。

もし彼のような思想を持つ人たちが権力を握れば魔法師は防衛大に進むことも、魔法大学の卒業生が国防軍に入隊することもできないだろう。さらには魔法師が国防に関心を持つことすらも制限しようとする思想統制にも繋がる可能性がある。

 

それならば魔法教育が軍事目的以外にも成果が出ていることを示せばいい。そう達也は考え、神田議員の来校に合わせ行おうとしているのは加重系魔法三大難問の一つである、常駐型重力制御魔法式熱核融合炉である。

 

去年、鈴音が提案したのは断続型の核融合炉であり、今回達也がやろうとしているのは持続型である。

もし達也の恒星炉が実現すれば、昼夜の区別なく、気象条件に影響を受けずエネルギーを供給することが可能になり、寒冷化に怯えなくても良くなる。

軍事目的以外の魔法の使用法としてこの上ないデモンストレーションになるに違いない。

 

この実験は生徒会が主体となって実験を行うことになる。課程外で実験を行う場合、部活動であれば顧問、それ以外であれば担当教師に申請して学校の許可を得なければならない。

今回はこの実験の提案者である達也が、魔法工学科の教諭のジェニファー・スミス教師に申請し、許可が降りた。

 

許可は条件付きであり、先生の監督がつくものであったが、被曝の可能性もあるので、当たり前であろう。

そして、その実験の監督である廿楽は生徒会室に足を運んでいた。

 

「実験の手順を見せてもらいました。面白いアプローチだと思います」

 

ピクシーが淹れたお茶で喉を潤した廿楽は続けた。

 

「それで四葉君。役割分担はどのように考えていますか?」

「まず、γ線フィルターは光井さんにお願いしようと思ってます」

「私ですか!?」

 

いきなり達也に指名され、ほのかは驚きの声をあげる。ほのかはこの段階で実験の詳細を聞かされていないのでしょうがないだろう。

 

「電磁波の振動数をコントロールする魔法において、俺の知る限りほのかの右に出るものはいない。ほのか、引き受けてくれないか」

「わかりました!頑張ります!」

 

達也のお願いに張り切って頷いた、碌に話も聞かなかったのはほのかの気持ちを考えれば仕方がない。

 

「クーロン力制御は五十里先輩にお願いします」

 

五十里は無言で頷くのを見て、廿楽もこの人選に納得していた。

 

「中性子バリアは一年生に心当たりがありますので、彼女にお願いしようと思っています」

「1年生に……大丈夫なのですか?」

 

廿楽も不安を禁じ得なかったのだろう、思わず口を挟んだ。

 

「ええ、名前は桜井水波。実家と少し関係している子で対物理防壁魔法にかけては天性の才能を持つ子です」

 

廿楽は安心した様子で前のめりになっていた姿勢を戻した。実家と関係している、つまり四葉の家の者。それだけで十分な力を持つことがわかるからだ。

 

「要となる重力制御は妹に任せようと思いますが、第四態相転移は誰に頼むかまだ決めてません」

「咲さんでも難しいのでしょうか」

「私は工業系の魔法があまり得意じゃなく今回はお役に立てそうにないです。申し訳ございません」

 

咲は第四態相転移が達也に聞いても、全くイメージできなかったのだ。というか咲は実験内容が去年の鈴音とどう違うのかもあまり理解できてなかった。

 

「咲にはもし実験が失敗して被曝が起きそうな場合の対処に回ってもらいます」

「それも確かに大切ですね」

 

咲を水波の場所や五十里の場所ならイメージすることができたので、その場所なら活躍することはできた。

しかし咲は未来視で1日前に成功か失敗か確認できるので、成功するにしても失敗するにしても達也としては咲を自由なポジションにおいておきたかった。なので事前に2人で打ち合わせして、こういう役割となったのだ。

 

「それならば中条さんではどうでしょうか?」

「中条先輩には全体のバランスを見てもらいたいと思っています」

「なるほど、確かにその方が適切ですね」

 

廿楽は自分の提案を引っ込め、思案顔になる。

 

「あの、よろしければ、私たちにお任せいただけませんか」

「私たちというのは泉美と香澄の2人ということかい?」

「はい。私1人では力不足かもしれませんが、香澄ちゃんと2人でなら、お役に立てると思います」

 

泉美の言葉を聞いて7人中4人が戸惑った表情を浮かべる。

 

「……廿楽先生がご存知なのはともかく、四葉先輩や咲先輩にまで知られているとは思いませんでした」

 

泉美にとっては疑問に思われる方が自然であり、当然のように受け入れられると警戒してしまう。

 

「その話はまた別の機会に。廿楽先生、光井さんと七草さんは実験の詳細は知りません。確認をするという意味でも一通り説明しておこうと思うのですが」

 

廿楽の了解を得て、実験の詳細を改めて生徒会メンバーに説明する。ほのか、泉美以外は知っている内容だが、暇そうな顔をしているのは咲だけであった。

 

 

 

 

 

 

恒星炉実験の準備期間は4月21〜24日までの4日間。その日数は論文コンペの準備期間と比べ絶望的に少ない。

さらに今回は全校生徒を総動員するわけにはいかない。これはあくまで達也が生徒会の協力を得て行う実験。投入できる人員は生徒会と有志の協力者でしかない。

しかも、私たちは野党議員とマスコミが来校するのを知らない上でこの実験を行うことになっている。

 

しかし論文コンペのように実際に作動する実験装置を組み立てようというわけではないので、達也は十分に準備が間に合うと判断していた。

準備が進みゴールが見えてくるにつれて、実験に参加しているメンバーの焦りの色も無くなっていった。

有志の中には十三束君や十三束君に無知の善意で巻き込まれることとなったが一時も手を休めることのない平河さんや、達也に憧れ一高に入学しロボ研とバイク部の諍いの原因となったらしい隅守賢人などの姿があった。

 

 

 

そして4月24日の火曜日。

本番を明日に控え、最終リハーサルが行われた。

その最終リハーサルも順調に終了し、私たちは生徒会室へ移動した。私は会長なので生徒会室の戸締りもしなくてはいけない。

 

「お帰り」

 

私たちを出迎えたのは雫。

風紀委員の部屋と生徒会室は中の直通階段で繋がっており、千代田先輩や渡辺先輩と同じく、生徒会室に入り浸っているのだ。

 

「1人で待たせちゃってごめんなさい、雫。すごく助かったわ」

「別に気にすることはないよ。特に何もなかった」

 

私がお礼の言葉を言うと、気にするなと言う風に首を振りながら雫が言う。

そして雫は親友へ目を向けた。

 

「あれは、ほのか?」

 

雫の言葉を聞いて、ほのかは怯んだ表情を見せる。それだけで質問の答えがわかったのであろう。ほのかの背後に移動し、肩を掴んでほのかを無理やり達也と対面させた。

 

「あの、達也さん!」

 

ほのかが意を決したように言う。

 

「今日、達也さんのお誕生日ですよね!つまらないものですが一生懸命考えて選びました。どうか受け取ってください!」

「ありがとう、もちろん受け取らせてもらうよ」

 

達也がほのかのプレゼントに触れた瞬間、氷刃にも似た貫くような視線を深雪は達也に一瞬向けたが、それは一瞬だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

水波という家のメンバーが1人増えたが咲や深雪の時と同じく、誕生日会が開かれた。終始ハイテンションだった深雪と咲に水波はちょっと呆れているようだった。そんな水波を巻き込み3人で合唱し始めた時は水波を不憫に思ったが、咲と深雪は明日の実験に備えての気分転換になってほしいと考えたのだろう。

 

そんなことを考える達也は今自室で寛いでいる。今日のパーティで咲に披露された無駄に上手いマジックの時に見せた、咲のドヤ顔を思い出し1人で笑っていると控えめなノックの音が届いた。

 

「深雪です。お兄様、今よろしいでしょうか」

 

声もギリギリに室内に届くようなボリュームの声。その意図を読み取り達也は静かにドアを開けた。

 

そこには華やかにドレスアップした深雪と咲が立っていた。色違いのワンピースは背中と胸元を大胆に露出したローブ・デコルテ。この露出度は咲の好みじゃないので、咲が深雪に頼まれて着させられたのだろう。その証拠に咲は顔を赤くして恥ずかしそうにしている。

衝動を奪われている達也でさえも、征服欲に駆られるような色気があった。

 

「ん?」

「あの、お兄様?」

「ああ、ごめん。入って」

 

不覚にも達也は2人に見とれてしまっていた。その達也が入り口を塞ぐ形となっていたので、2人の声を聞いた達也は横にずれて2人を招き入れた。

 

折りたたみ式の机と椅子を出し、狭い机で顔を向かいあわせる。

 

「去年のこの日を覚えておいででしょうか?」

「覚えているさ、もちろん。2人で振袖姿で現れたあの時は何事かと思ったよ」

 

今回のドレス姿にも驚かされたが、とはまだ口に出さない。

 

「そんなこともあったわね…」

 

深雪と咲は視線を外しながら言う。その時は大真面目にやったことでも時間を置くと、自分でも気恥ずかしさを抑えることはできないのであろう。

 

「それは脇に置いておくとして、去年はお兄様とお姉様、私の3人だけでお祝いしました」

「そうだね」

 

達也はこの段階で既に深雪が言いたいことに察しがついた。咲も深雪を優しい目で見ている。

 

「一昨年も3人だけでした」

「それも覚えているさ」

「今年は水波ちゃんがいるので4人でしたが…」

深雪は言葉をきって恥ずかしそうに俯く。

 

「でも、やっぱり、3人の時間も欲しいんです。私のわがままを聞いていただけませんか?」

 

そんなことを言う深雪の頭を、身を乗り出しながら撫でてあげると深雪は嬉しそうにした。そんな深雪を咲は今度は嬉しそうに見ていた。

 

「2人とも乾杯するわよ」

 

そう言い、咲自身が持ってきていたグラスにシャンパンを注ぐ。

3人分注ぎ終わると3人でグラスを掲げる。

 

「達也さん、ハッピー・バースディ」

「お兄様がここにいてくださることに感謝します」

「ありがとう2人とも。2人と一緒に暮らせることに、感謝する」

 

3人は同時にグラスを傾けた。

 

 

 

 

咲と深雪が自分の部屋に戻り、2人のプレゼントを見てみると、深雪は月と星と太陽をモチーフにした彫金が施されたロケットペンダント。その中には2人のドレス姿のバストショットが入っていた。

咲はマネーカードを入れるための財布と写真立てであった。写真たてにはどうやったのか知らないが、咲がマジックを成功させたシーンの第三者視点の写真がすでに飾ってあった。

 

咲がマジックを成功させることで見せたドヤ顔、そのマジックを見て驚く深雪と水波の顔、そんな光景を見て笑っている達也自身の顔。そんな写真が飾られた写真立てを達也は自分の机にそっと立てかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




[第42局]咲の誕生日の時に2人が送ったプレゼントの意味の解説

達也が送ったオルゴール
オルゴールを送ることは心から感謝していると言う意味が篭ってます。そして潜在意識の観点でいうと本当に心の底からあなたのことが好きだという表れです。あんまりベタベタしないけど本当は咲のこと愛している達也らしい贈り物。



深雪が送ったブレスレッド
アクセサリーとしては定番ですが込められた意味は独占。独占欲が強い深雪ならでは。ちなみに指輪やネックレスなども独占の意味を持ちます



おまけ
原作でほのかが達也に送った時計
あなたと同じ時を刻みたい、あなたと一緒に過ごしたいという意味を持ちます。依存心が強いほのからしい贈り物ですね。



贈り物の意味は色々あるので調べてみると面白いです






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第74局[衝突]

恒星炉は何度読んでもイマイチイメージできなかったのでキンクリしました


琢磨は「新秩序」を目指す同盟者、小和村真紀との密談を終え、帰宅した。

時刻は二十三時、そんな時間に帰宅した琢磨だったが、使用人から書斎の父親に呼ばれていると告げられる。面倒だとは思うのだが、無視するわけにはいかないので、父の書斎へ足を向けた。

 

書斎に入るなり、デスクに座っている父、七宝拓巳にソファーに掛けるように言われる。琢磨がソファーに座ると拓巳も移動し、琢磨の対面に腰を下ろす。

 

「高校はどうだ、琢磨。楽しんでいるか?」

 

こんな時間に呼び出しておいて世間話とは何事かと琢磨は思った。これが話の切り口であることはわかっていたが、ムッとした感情が理性に勝ったのである。

 

「親父、何度も言っているはずだ。俺にとって高校は楽しみに行くものじゃない」

 

そんな息子のセリフに拓巳はやれやれという顔を見せる。

 

「お前は強情だな、琢磨。何もそう肩肘をはらんでもいいのに」

「親父こそなんでそんなに暢気でいられるんだ!次の十師族選定会議は来年に控えてるっていうのに。このままではまた風見鶏の七草に十師族の地位をかっさらわれて、俺たち七宝はあいつらの下風に甘んじなければいけなくなるんだぞ!」

 

力の抜けた拓巳の態度に、琢磨は苛立ちを爆発させた。

 

「師族選定会議は二十八家から十家を選ぶものだ。七草家だけにこだわっても意味がないぐらいわかるだろうに」

 

拓巳がこの話をするのは、もう何度目かわからない。しかし琢磨が首を縦に振ったことはなかった。一体誰が琢磨にそんな妄執を植え付けたのは拓巳としては気になるところではあった。

 

「三枝が『三』を裏切って、なおかつ『七』の研究結果を盗み取って十師族の地位を手に入れたのは事実じゃないか!」

「『七草』が『三草』だったのは十師族体制が定められる前の話だ。老師がその体制を提唱された時には既に『七草』は『七草』で、二十八家の中でも他の二十七家…いや、二十六家と比べ頭一つ抜きん出ていた」

 

「その抜きん出た能力を持っていたのは、第三と第七、両方の研究所の研究成果をつまみ食いしたからじゃないか。第三研の最終作品でありながら第三研を抜け出し、七宝が基礎理論段階から開発に携わっていた『群体制御』を我が物顏で使っている。三矢も三日月も七夕も七瀬も、七草にまとめて虚仮にされているんだぞ!親父はどうしてそれなのに平気なんだ!?」

「琢磨、七草も我々と同じ実験体だったんだぞ」

 

苦い声で言われた指摘に、琢磨は絶句する。

 

「彼らもまた作られた存在だ。ただ彼らは単なる実験体に甘んじていた他の二十六家と違い、四葉家と同じく自らの道を選び取った。それは責められることではなく、褒められるべきことだ。……あと四葉といえば四葉咲殿に失礼なことはしていないか?」

 

七草の話から咲の話に話題が移る。

 

「どうして親父はそんなにあいつに気を使うんだよ。同じ二十八家のたかが高校生じゃないか!」

 

琢磨が咲を敵視している理由がこれであった。相手は四葉であり、同じ二十八家としてある程度尊敬を払うべきだとは琢磨も思うのだが、父親や父親の側近達の咲に対しての特別視が度を過ぎていると思ったのだ。二十八家の当主である父が高校生にそれほど気を使う、それが琢磨には許せなかった。

 

「神を敬うのは当然のことだろう」

 

拓巳がそういうが、琢磨はその言葉に顔を顰める。琢磨が咲を軽蔑する理由、それがこれであった。

現代魔法にも古式魔法にも神と呼ばれるものは存在しない。神話上には神が存在するが、常識的に考えて琢磨は咲が神の力を使うとは考えられなかった。ただ単に固有魔法を使って、それを神の力と自称している痛い奴だと琢磨は考えていたのだ。

 

実は神代小蒔と獅子原爽の神依を除けば琢磨の考えはあっているので、咲は否定できないのだが。

 

入学する前はこの2つしか感じていなかったのだが、咲と関わるうちに得体の知れない気持ちが自分の中に生まれていたのが琢磨自身わかっていた。そんな気持ちを吹き飛ばすために他の四葉の2人を無視して、強く咲に当たっているという理由もある。

 

「七草に固執するのは勝手だが、四葉、特に咲殿とは敵対するな」

「親父達は神なんてものを信じるているのか」

「お前は咲殿の魔法を見たことがあるか」

 

琢磨の質問に拓巳が質問で返す。

 

「ああ。せいぜい50個程度を操る群体制御をだった。あれぐらいで神の力とは笑わしてくれる」

 

あの時咲が行ったのはゴム弾50個の群体制御と50の的への照準であったのだが、琢磨は50の的への照準をしたことがなかったので群体制御だけで判断したのであった。50ならミリオンエッジと比べて桁が5つも足りないのでその点では琢磨が優っている。

 

「……お前に対していい薬となるかもしれんな。それはそうと、琢磨。明日は学校を休め」

「いきなり何を言いだすんだ」

 

咲の本当の力を知らない琢磨との主張のズレにどうしようもないことに気づいた拓巳は本題を切り出した。いきなり命令された琢磨は不審感を覚える。

 

「明日、野党の神田議員が一高へ視察に訪れる」

 

拓巳は琢磨が不審に思うことは承知していたので、もったいぶることなく理由を話す。

 

「野党の神田?人権主義者で反魔法主義者のあいつか?」

「そうだ。マスコミを連れてな」

「何のために」

「魔法を強制されている少年少女達の人権を守るためのパフォーマンスだろう」

「人権!?」

 

琢磨はある程度答えを予測していたが、吐き捨てずにはいられなかった。

 

「お前の言いたいこともわかる。だが、相手は曲がりなりにも国会議員だ。問題を起こすのはまずい」

 

マスコミを連れてくるあたり、何か一つでも小さい事故が起きれば、それを針小棒大に書き立てるだろう。そしてメディアが発信することに聴衆は影響されやすい。

 

「いくら気にくわない相手だからって、何も考えず喧嘩を売ったりはしない。そこまでガキじゃない」

「相手の方から挑発してきてもか?」

「…っ。当たり前だ。そう簡単に挑発に乗るものか」

 

ちなみに咲は、負けるのが怖いの?と挑発されるとすぐに乗るので、琢磨ですら挑発に対しての抵抗は咲よりあった。

 

「ならばいい。そこまで言い切るのなら自分の言葉に責任を持てよ。この件は七草が対処する。くれぐれも余計な手出しをするなよ」

 

拓巳はこの情報を言うタイミングを計っていたのだ。

 

「七草が!?」

 

案の定、激しい反発を琢磨がしめす。

 

「自分の言葉に責任を持て」

 

既に琢磨は言質を取られている。

 

「ーー分かったよ!」

 

琢磨はそうとしか答えようがなかった。

 

 

 

 

 

 

4月25日

まるで神田議員とマスコミが来校するかが分かっていたように四葉達也の発案で、四葉咲が生徒会長を務める生徒会主導の元、恒星炉実験が行われた。

実験は成功したのだが、実験の詳細をよく分かっていなかったマスコミが『灼熱のハロウィン』のような秘密兵器のような実験かと、終始悪意のある質問が見られた。しかし、廿楽の理論的な反論に何も言うことができず、神田議員は本来の意図から外れる発言を記憶されてからはたまらないということから、逃げるように退散した。

 

 

翌日の26日

昨日の実験に対する報道の中には、水爆実験に挑戦かのようなセンセーショナル狙いのタイトルのついた記事もあったが、好意的な記事の方が多かった。

中でもFLTと並ぶCADの大手、ローゼン・マギクラフト日本支社長、エルンスト・ローゼンがこの実験を大きく評価したことが一高の中でも話題になっていた。

 

これにより、一高の生徒の気分は高揚した。その日の一高では、同じ学校の生徒が社会から認められたという事実が、若い彼らの承認要求を満たしていた。

しかし、もちろん例外もいる。琢磨だ。

 

琢磨は実験に咲ではなく自分でもなく七草を使ったのが気に入らなかった。四葉と七草は仲が悪いはずだが、もしかしたら今度の師族会議のために一時的に手を結んだのかもしれないと穿った見方をするほどに。

クラブの活動中も、このせいで集中できずに術式が雑になり、いつもできることを失敗して余計に苛立ちをためていた。

 

だから間が悪かったとしか言えないだろう。

 

クラブが終わり、自分のCADを受け取って下校する途中、風紀委員会本部へ戻ろうとしているのだろう七草香澄に遭遇した。風紀委員は新入部員勧誘週間もおわって、当番制に戻っており、1人で見回っていた。だから、香澄がちらりと一瞥しただけで何も言わずすれ違おうとしたのは少しもおかしくはない。しかし、それは一昨日からストレスを貯めていた琢磨にとって間が悪かった。

 

「七草、うまくやったもんだな」

 

琢磨は香澄が自分のことを鼻先で笑ったと感じた。

 

「何のこと?」

 

そう足を止め言い返す香澄は琢磨の目にはとぼけているように写った。

 

「昨日の公開実験のことさ。ローゼンの日本支社長にまで注目されるなんてすごいじゃないか」

「公開実験?あんたなにか勘違いしてない、七宝?」

 

香澄は琢磨の悪意に対する不快感を隠そうともせずに反論する。

 

「とぼけるなよ。魔法師を否定している国会議員がやってくると知っていて、昨日のことを仕組んだんだろう。四葉を利用してうまく名前を売ったものだぜ」

「利用ですって?変な言いがかりはやめてくれない」

 

香澄の反論は少し歯切れが悪いものであったので、自分の推理が正しいと判断する。琢磨の言ったことは半分あっていたのだが、四葉を利用したとか名前を売るとかについては言いがかりである。

 

「迂闊だったよ。あの人たちは魔法科高校だけではなく魔法界で有名人だったもんな。さすが七草、抜け目がない。姉に続いて、色仕掛けで四葉を引き入れたのか?お前たち双子は見てくれだけは一流だからな」

「ふざけるな!」

 

香澄がいきなり爆発するように啖呵をきる。その剣幕は琢磨が一瞬ひるむぐらいのものであったが、香澄が逆上したのは一瞬だけであった。

 

「誑し込むとか色仕掛けとか、随分七宝は下品なことを思いつくんだね。あんたこそ、可愛い顔してるんだからツバメにでもなったら?まあ、今時ツバメ飼ってるのなんて頭お花畑の色ボケ芸能人ぐらいのものだろうけど」

 

今度は琢磨の顔を赤くする番であった。

香澄が揶揄した年上の女の愛人になっている男を指す「ツバメ」という単語は、最近芸能ニュースを騒がせた某ベテラン女優の買春事件を借用したに過ぎない。

だが琢磨には、小和村真紀との関係を指摘されたとしか思えなかった。

 

「…喧嘩を売っているのか、七草」

「先に売ってきたのはあんたでしょ、七宝。それに言ったじゃない。二度と売ろうという気が起きないぐらい、安く買い叩いてあげるって」

 

睨み合う2人の右手は左の袖口にかかっている。2人が使用するCADはともにブレスレットタイプであり、それがそこに装着されている。

 

「そこの二人、何をしているんだ!」

「二人とも、手を下ろしなさい」

 

魔法の撃ちあいになろうとした瞬間、琢磨の背後から男子生徒の声、香澄の背後から女子生徒の声の制止がかかる。

琢磨は左袖をまくりながらいつでもCADを使用できるように振り返り、一方香澄は右手を下ろして振り返った。

琢磨の視界では、見覚えのある上級生が厳しい顔で左の懐に右手を差し入れているのが見えた。ショルダーホルスターに収めた拳銃形態の特化型CADを抜こうとしていると判断した琢磨は反射的に反撃しようとする。

彼の右手はまだホルスターから抜き切っておらず、自分はCADのスイッチに触れている。

勝ったと考えた直後、身体を前後に揺さぶられ脳震盪を起こして、目眩に襲われた琢磨は膝をついた。

 

 

香澄は自分が向けられているわけではないが戦闘用魔法が発動されたことに緊張する。

 

「ドロウレス…」

 

香澄の口から呟きが漏れる。琢磨を抑えたのは香澄と同じ風紀委員会の森崎であった。特化型は汎用型よりスピードに優れているが、すでに構えていた琢磨に対して、その差は意味がないと香澄は見ていた。普通に魔法を使っていたのなら。

 

その形勢をひっくり返し、琢磨に膝をつかせることを可能にしたのは、拳銃形態CADの高等技術「ドロウレス」。これはホルスターに入れたまま自分の感覚だけで魔法を放つ技術であり、簡単そうに思えるが拳銃形態のCADは照準補助機能を持つために、抜かずに打つのは思ったより難しい。それを特化型CADの発動の速さの利点を損なわず実行してみせた。

 

正直言って、香澄は今まで森崎をあまり評価していなかった。魔法発動は速いとはいえ入学二日目に見た神速というのがふさわしい圧倒的速さを持つ咲よりははるかに遅く、そこそこでしかない。

しかし、上級生は持って生まれた能力関係なしにこれぐらい当たり前にやってのけるのだと香澄は感心していた。自分も頑張らなきゃと思ってた矢先。

 

「香澄」

「北山先輩…」

 

ムッとした顔をしている雫に後ろから声をかけられ、背筋を伸ばした。

 

 

 

 

 

今日の自分の分の生徒会業務を終わらせ、持ってきていた本がちょうど読み終わった時、雫が風紀委員会室から上がってきた。今日雫は非番だったはずと疑問に思うが雫自身の言葉によって解決した。

 

「香澄と七宝が魔法の撃ちあいになりかけた。事情聴取のために誰か来てくれない?」

 

それを聞いた生徒会メンバー+私と深雪の帰りを待つために生徒会室にいた達也はこめかみを押さえる。みんな頭が痛いようだ。

 

「じゃあ、面白そうだし私が行こうかしら。ちょうど本も読み終わったところだし」

 

七宝君の狂犬ぶりは見てて面白いので、手が空いていた私が行くことになる。

 

 

雫に連れられて風紀委員会本部に入るとそこには、当事者2人と取り押さえた森崎君、風紀委員長の千代田先輩、部活連からは服部先輩と十三束君が集まっていた。

 

「最初に言っとくわ。香澄は完全な未遂だから、退学の可能性はないけど、停学の可能性はある。未遂とはいえ、CADの操作に入っていた七宝は最悪退学ね」

 

千代田先輩の宣告を2人は黙って聞いている。CAD使わなくても魔法が使える私はずっと未遂に入りそうなものだが、話が絡まることは目に見えているので黙っておく。

 

「それを念頭に置いて、何が原因だったのか話しなさい」

 

思考を読み取る神依はないので聞くしかないだろう。

 

「七宝君が七草家を侮辱しました」

「七草から耐え難い侮辱を受けました」

 

どちらが先に因縁をつけたかわからないが、お互いにお互いの家を侮辱したのだろう。四葉が馬鹿にされても怒ることはないが(当主があんな人なので)、深雪やみなもが馬鹿にされたら私も怒るかも知れない。

 

千代田先輩は互いに目を合わせようとしない2人の態度に頭を抱えている。

 

「はぁ、服部。どうすればいいと思う?」

「七宝は部活連であり身内だ。俺が判定するのは公平ではないだろう」

「それをいうなら香澄は風紀委員会の身内よ」

「だったら第三者、生徒会に裁定してもらおう」

 

2人の目は私に向く。ここに来た時点でこの展開は予期できていた。

 

「決闘で決着をつければどうでしょうか?」

 

私はちょっとウキウキしながら言う。決闘で決着をつけるという言葉を、この世界にやって来てからずっと言いたかったのだが、普通に言ったら失笑ものなので、チャンスを伺っていたのがようやく実を結んだ。

 

「それって2人を見逃すってこと?」

「話し合いで解決できないことは実力で決める。それが当校では推奨されていると渡辺先輩から聞きました。お互いの誇りがかかっているなら、実力で白黒つけたほうが面倒くさくなくていいかと」

 

香澄と七宝君以外は納得顔であった。何せ私は去年入学早々先輩に喧嘩を仕掛けているのである。いかにも私らしいという目で私を見ていた。

 

千代田先輩も服部先輩も私の意見に賛同してくれて、生徒会主導の下、実習室を借りて白黒はっきりつけることとなった。

 

私は試合承認書面などを書かなくてはいけないので生徒会室に戻ろうとすると、後ろから声をかけられる。

 

「会長、一つお願いがあります」

「七宝、不服なのか?」

咎めたのは十三束君である。

 

「いえ、七草との試合を許して頂けるならばお願いがあります」

「何かしら」

 

七宝君は本来条件をつけられる立場にない。それが逆に私の興味を誘った。

 

「相手を七草香澄だけではなく、七草香澄、七草泉美の2人にして下さい」

「あんた、私のことを馬鹿にしているの?」

 

香澄が乱暴な口ぶりになるのも当然だろう。

そんな七宝君の提案に思わず笑ってしまった。そんな私に全員の視線が集まる

 

「笑ってしまってごめんなさい七宝君。去年の私の1vs10を思い出しちゃって。七宝君はこう言いたいのよね。七草家と七宝家の誇りをかけた試合だから相手の全力、七草の双子を相手にしたいと」

「……その通りです」

 

自分の提案を馬鹿にされたと七宝君は最初思ったようで顔を赤くしたが、私が何を言いたいか理解していたのがわかると元の顔に戻る。逆に少し警戒した目を送って来たが。

 

「香澄ちゃんもそれでいい?」

「構いません」

「ではそのように、審判は私がしますね」

 

私は軽やかに生徒会室の階段を上った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




†新秩序†のほうがよっぽど厨二病な気がする

琢磨可愛い顔って香澄に言われていたけど普通な気がするんですけどどうなんですかね


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第75局[勝負]

七宝vs七草


第二演習場に私たちは移動した。

 

対戦する3人はもう既に向かい合っている。

七宝君は闘志を溢れ出しているが、香澄と泉美は最初そこまで積極的ではない様子だった。生徒会で事務をしていた泉美は完全に巻き込まれたとしか思っていないだろう。しかし、面倒くさいことはここで叩き潰すという意見で香澄と一致したのか、今2人は負けないぐらいのやる気を持って七宝君と向かい合っている。

 

この試合のルールはノータッチルール。身体的接触を禁止するルールで異性間では余程のことがない限りこれが適用される。相手を戦闘不能にするか、コートから相手を押し出したら勝利のいつも通りのルールだ。

 

「直接攻撃はダメだけど、魔法で遠隔操作する武器は使っていいわよ。あと致死性の攻撃、治癒不能の怪我を負わせる攻撃も禁止ね。危なくなったら私が止めるから」

 

私がそういうと七宝君はやれるものならやってみろ風に鼻で笑うような仕草を見せたが、まあそれはご愛嬌であろう。

 

「では双方構えて」

香澄と泉美はエリアの中央に移動したが、琢磨は境界線近くから動かず、脇に抱えていた本を足元に落とした。

私が試合開始の合図をすると、サイオンの光が閃き、魔法が放たれた。

 

 

試合の最初は地味な戦いであった。香澄は七宝君に空気の塊をぶつけたりしてコート外に出そうとしているが、障壁でそれを防いでいる。

一方七宝君はエア・ブリットという空気弾の魔法で攻撃しているが泉美の領域干渉に防がれている。

5歳の頃の深雪より3人とも魔法の使い方が下手な気がして、せっかく新しいイメージに繋がるかもしれないと思って楽しみにしていた私はげんなりしていたが、香澄と泉美が発動させた窒息乱流により私は息を吹き返した。

 

窒息乱流とは移動・収束の複合魔法であり、空気中の窒素の密度を引き上げ、その空気塊を移動させる魔法だ。酸素濃度が極端に低下した気流を少しでも吸い込んだら、低酸素症で意識を失う。

流れを操るという術の制御が非常に困難であり、私でも神依をしないと七草双子と同じように気流を完璧にコントロールすることはできず、少し荒さが目立ってしまう。

 

それぐらいの高等魔法であり、まず高校生レベルではまずお目にかかることはできない。

それを可能にしているのは『七草の双子』と言われる理由である『乗積魔法』を使用したからである。

普通魔法師が同じ魔法を発動しても事象改変の威力が増すことはなく、お互いに干渉し合って、結果として効果を表すのは、最も魔法力のある者の魔法である。例外として古式魔法には複数の魔法師が一つの儀式を行うことで単独では不可能な大規模魔法、高等魔法を実行する技術は確かに存在するが、その手の魔法儀式は必ず詠唱、祭壇などの五感で共有できる媒体やプロセスが必要になる。

 

しかし、七草の双子の場合魔法式を分担するのではなく、魔法力を掛け合わせて魔法を行使している。2人は同一の遺伝子を持っているだけではなく、魔法演算領域の特性までもが完全に一致しているからできる芸当であった。

すごい簡単に言うと2人でやる無能力キャラの神依だ。

 

イメージしたら深雪とできないだろうか。みなもとならできる気がするがそれならリザベーションでいい気がする。

 

そんな魔法に押された七宝君はミリオンエッジを発動させた。七宝君が持ち込んだ本は普段私が学校に持ってるものと比べても大きく分厚いもの。それが一斉に紙吹雪となって飛び散って2人を押し包もうとしている。その紙吹雪は硬化されており、無数の刃で構成されていた。

 

これに似たものは前の世界の何かの漫画で見たことがある。それが思い出せただけでもこの試合を見にきた方があった。

 

そんな魔法に対して双子は新たな魔法を発動した。それは「熱乱流」のアレンジ魔法。

多種類多重魔法制御は第三研の研究テーマであり、その成果は十文字家の「ファンランクス」にも取り入れられている。

そんな第三研の成果を得たまま第七研に移動した七草家の魔法師にとって、これぐらいのことは困難なうちに入らないものであった。

 

呼吸を許さない嵐が七宝君を襲い、発火点を超える熱を浴びながらも、紙の刃が香澄と泉美に迫る。このまま行けば七宝君は低酸素症で倒れ、泉美と香澄は紙の刃によって無数の傷を負うだろう。

枕神怜も予知を使いそろそろ止めろと言っているので、ナビに従い止めることにする。

 

「そこまでよ!」

 

私は術式解体を使い3つの魔法を全て吹っ飛ばした。魔法を無効化された3人は何が起きたのかわからないという表情をしている。

 

「この試合はどっちも失格でどっちも負けね」

「どういうことです!」

 

最初に私に食って掛かったのは七宝君。

 

「試合前に言ったわよね。致死性の攻撃などは禁止、危なくなったら止めるって」

「しかし、咲先輩。窒息気流はミリオンエッジと違い、致死性の魔法でも後遺症を残す魔法でもありませんが」

 

泉美が言外に七宝君の反則負けと言う。七宝君が反論の声を上げようとするが、その前に泉美に返答をする。

 

「確かにそうね。だけどそんなコントロールする余裕、さっきの貴方達にあったのかしら?」

 

私にそう言われ双子は口ごもる。

 

「そのようなことはありません!そうなる前に決着はついていました」

「自分の勝ちだと言いたいのかしら?」

「そうです。七草の熱乱流では俺のミリオンエッジを止めることは出来ませんでした。窒息乱流が気密シールドを破る前に、俺の攻撃が届いてました」

 

七宝君が私の判定に食って掛かるように反論してくる。

 

「怜、本当はどうなる未来が見えたん?」

「3人とも同時に倒れたで。彼は低酸素症で倒れただけやけど、彼女達は止めんとひどい有様やったで」

 

私は無理やり怜をみんなに聞こえるように喋らせる。初めてこの光景を見る3人はともかく、九校戦のバスの中で見た以来の他の立会いメンバーも皆驚いていた。

 

「まあ怜の予測はともかく、七宝君の言う通りなら七宝君の負けね。ミリオンエッジを浴びせられたらどういうことになるか知っていたでしょ?」

「では、最初からミリオンエッジを使えば俺の負けだと決まっていたんですか!」

「攻撃力をコントロールできない限り反則となるわね」

「無茶苦茶だ!」

 

七宝君は私の言葉を聞いていきり立っていた。私の冷静な態度がそれを煽っているのかもしれない。彼のエキサイトぶりを見て部活連の先輩の十三束君だけではなく、さっきまで試合をしていた香澄まで心配している様子が視界に入っていた。

 

「じゃあ、俺は試合が始まる前から切り札を封切られていることになるじゃないか!とんだハンデキャップマッチだ!」

「別に条件は同じよ。切り札を1つしか用意できてない七宝君が悪いんじゃないかしら」

 

面倒くさくなってきたのでちょっと煽る口調になっていった。

 

「詭弁だ!禁止されるような殺傷力のある魔法をあいつらは使っていたじゃないか!」

「窒息乱流は十分な殺傷力を持つけど、最初止めなかったのは怜のアラートがならなかったから。つまり威力がルール内だったってわけ。だけど七宝君がミリオンエッジを放ってからはアラートが鳴り響いていたわ。ミリオンエッジの威力を抑えることができなかったことは明白よ」

私はルール内に収まらない致死性の攻撃が発生した時に怜のアラームがなるように設定したのだが、七宝君に説明する手段がない。

そんな私の言葉を聞いた七宝君は顔を真っ赤にしてこう言い放った。

 

「怜、怜って、それは何の妄想ですか?神とか怜とかそういう頭お花畑の厨二病設定は見てて痛いですよ」

 

それは七宝君精一杯の反論だったのだろう。

 

私はそれを聞いて顔を青ざめる。別に七宝君の言葉に顔を青ざめたわけではない。確かに神とか神依とか自分でも厨二病ぽいなあとは常々思っていた。私も自分みたいな奴がいたら痛いやつだと思う。実際言われてみても確かにと思うだけで、何も不快に思わない。しかしここで、達也と深雪がいる前でそれを言って欲しくなかった。

深雪は私の神依の力に陶酔しているし、達也も私が馬鹿にされるのを許さない人だ。私が守ってあげないと七宝君の命は危ないだろう。

第二次四葉大戦(第一次はこの前の喧嘩)が勃発しそうであったので、とりあえず守ってあげるために、塞の神依をしようとするがその必要はなくなった。

十三束君が七宝君を殴り飛ばしからだ。

 

「十三束先輩?」

「七宝いい加減にしろ!さっきから失礼なことばかり。そんなに自分が偉いと思っているのか!」

 

何が起こったかわからないという表情で床に手をついたままの七宝君に十三束君が血相を変えて怒鳴りつける。

 

「俺は…そんなつもりじゃ…」

「七宝。お前がそんなに自分の力を証明したいと言うなら、僕が付き合ってやる!」

「十三束君、その役目私にやらせてもらえないかしら」

 

驚いたように十三束君は私の方に振り向くが、他の立会いメンバーはまたかという顔をしている。

私的にはここまで何も仕掛けなかった私を褒めて欲しいのだが。

 

「咲さん、それじゃあ意味が…」

「私の試合の後、適当に理由をつけて達也さんとの試合をセッティングしてあげるから」

 

私は十三束君に小声でそう言う。十三束君は昨年度、クラスで何度か達也と対戦したいと言っていたのだ。

十三束君はまた驚いたような顔を見せたが、私のそんな提案にうなづいてくれる。

 

「今日はもう時間がないし、七宝君もミリオンエッジの準備がいるだろうし、試合は明後日にしましょう。それと服部先輩に話を通さなくてはいけないわね。行くわよ、達也さん深雪」

 

まだ少し怒っている第二次四葉大戦を引き起こしそうな2人を連れて逃げるために、早口でそう言ってその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ダブルセブン終了後のIFのすこやん書こうとしたら3話目にて挫折したのでIFは同票だった照から始めます。


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第76局[支援]

帰宅し部屋着に着替えてリビングに戻ると、そこには同じく着替えてソファで寛いでいる達也がいた。

帰り道、達也は何か考えている様子であり、それに深雪も気づいていた。普段と変わらない様子であったのだが確かに悩んでいた。怒りなら理由はわかるのだが悩みは見当がつかないので深雪がリビングにやってくると達也の前に2人で座り聞いてみる。

 

「達也さん、何を悩んでいるの?」

 

ど真ん中ストレートの質問であったので達也も面を食らったようで私を見返す。

 

「七宝のことが少し気になってな」

「あのお姉様への態度は許し難いです」

「深雪、嬉しいけど怖いから抑えて」

 

深雪の目に殺意一歩手前の剣呑な光が宿ったのをみて私が抑える。

 

「確かに、咲への態度はなっていなかった。だけど気になったのはどうして七宝があそこまで強気でいられるのかだ。生徒会入りを断り、七草家に噛みつき、なおかつ生徒会長であり四葉でもある咲を敵に回す」

「何も考えていないのではないのでしょうか」

「違うわね。あの子の目は強い意志を持った目。何も考えていない子があんな目はできないわ」

 

深雪の辛辣な意見に私は否を返す。

 

「どうして咲はあんなこと言われたのにそんなに七宝を買っているんだ」

 

達也がそう言うと深雪も気になるという目で私をみる。

 

「あの子は強い上昇志向があるのよ、誰にも負けたくないっていう。それが私に似ているからかしら。あと十師族になりたいのに私を娶ってなろうとしてないところもプラスポイントね」

「それなら、生徒会に入って人脈を築くのが普通だと思われますが………では何か普通ではない考えがあると、お兄様はそれをお考えでいらしたのですか?」

「まあ、そうなんだが」

 

私の言葉で深雪は達也の考えていることに辿り着いたようだ。

そんな時、水波がコーヒーを持ってきたので達也が水波を引き止める。

 

「水波はどういう印象を七宝琢磨に持っている?」

「身の程もわきまえない愚か者です」

 

水波は間髪も入れず答えた。

どうやら七宝君を買っているのは私だけらしい。

 

「そう考える理由は?」

「咲様を馬鹿にするなど許されるべきことではありません。あの相手との力量差を考えずに噛み付いているのは、まるで狂犬です。あの全方位に対しての見境ない攻撃性は、自分が一番強いと思ってるのではなく、自分が一番強くならなければならないと思い込んでいるようです、まるで誰かに煽てられているかのように」

 

水波も私が馬鹿にされていたことに相当苛立っていたようで、いつになく饒舌に自分の思いを述べた。

 

誰かに煽てられているかのように、一番強くならなければならないと思い込んでいる、そんな水波の意見が確信をついているように感じられるのであった。

 

 

 

 

 

 

七宝君は次の日、学校を休んだ。様々な噂が飛び交っていたが、その中にも正しいと思われるような部分があった。その正しい部分とは上級生との試合のために備えているという点だ。

ミリオンエッジはCADを使用しない群体制御魔法。あらかじめ魔法を発動直前の待機状態に置いておくのだが、その待機状態を維持する方法がユニークで、本に発動直前の状態にある術式をシンボルを書き込んで記録するのだ。

これは、敵の目の前で魔法式をくみ上げる必要がないのが利点であるが、自分でそのシンボルを刻まなくてはならなく、事前準備に大変手間がかかる魔法である。

 

明日の私との対戦に備えて休むことは想定の範囲内であったのだが、達也はまた違うことを考えているように見えた。

 

 

 

 

 

 

その日の夜、1人で達也が出かけ数時間後に帰ってきて言うには、七宝君の後援者は北山家のホームパーティーに会った時の小和村真紀。彼女は七宝君に私達四葉と七草家が今度の師族会議に向けて手を結んでいるかもしれないという嘘の情報を流し、私達にヘイトを向けさせたらしい。七宝君はまんまと手にひらの上で踊らされていたのだ。

そんな小和村真紀に対して達也は七宝君と切れることと、高校生以下には手を出さないことを取り付けたらしい。どうやって脅迫したのか知らないが、あの顔を見るによほどえげつない脅し方をしたに違いない。まあいつものことだが。

 

 

 

 

翌日の土曜日、午後3時。

第三演習室に、服部先輩に連れられて時間通り七宝君がやって来た。

今日の審判は服部先輩。立会人として、深雪。風紀委員会からは沢木先輩と吉田君と達也。部活連としては桐原先輩という錚々たるメンバーが集結している。

 

彼らはいざという時の仲裁役だ。この試合はノータッチルールが採用されているが少し特殊ルールが付け加えられている。

それはミリオンエッジについては使用制限なしというものだ。ミリオンエッジに関しては威力に関係なく使用を止めることはしない。

相手に過度の傷を与えるという結果が明らかになってから、試合を中止するという普通に考えればリスクが大きすぎるルールだ。私は大きなハンデを背負う形になるがそのルールを言い出したのも私だ。

 

七宝君は野外演習用のツナギ姿であるが、私はノータッチルールなのでロングスカートのワンピース。今回は雀明華の神依をするつもりはないのだが、女子生徒用のツナギは密着度が高いので恥ずかしいのだ。そしてこの服には隠し玉がある。

 

服部先輩が私たちの間に立ってルールを説明するが、これは形式的なものだ。

ルールを聞いている間、私の余裕な態度を七宝君は睨みつけている。昨日の後遺症らしきものは見えないのでうまくあの女優がフォローしたのだろう。

 

服部先輩が私たちから離れ手を挙げると、緊張感が一気に高まった。本を抱えている七宝君にとりあえず軽く本気の5%ぐらいのオーラをぶつけておく。しかし、七宝君は負けることなくそれを跳ね返してくる。なかなかやるじゃない。

 

七宝君は私の神の力を信じていないようだし、それなら見せてあげよう。私が神と呼ばれる理由となった神依の力を。

 

「始め!」

 

服部先輩のその声が、室内の静寂を破った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やめて!咲の神依の特殊能力で、ミリオンエッジを焼き払われたら、闇のゲームでモンスターと繋がってる琢磨の精神まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないで琢磨!あんたが今ここで倒れたら、真紀さんや拓巳との約束はどうなっちゃうの? 本のページはまだ残ってる。ここを耐えれば、咲に勝てるんだから!
次回「琢磨死す」。デュエルスタンバイ!


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第77局[模倣]

おまたせ


試合が開始され、最初に動いたのは琢磨であった。

咲が動かなかった、と表現する方が正確かもしれない。

琢磨は本を開き、最初の数十ページを右手の指に挟み込んでそのページを破りとるように力を加えると同時に、そのページは紙吹雪と化した。

琢磨は一気に100万の刃で攻め立てるのではなく、初手は8万ぐらいの刃を細かくコントロールする戦術を選んだのだ。

その刃は2つに分かれ狙うのは両膝。膝にダメージを与え膝を着かせて、その間に本命の一撃を与える作戦だ。

そんな空中を進む二匹の白い蛇のような攻撃に狙われた咲は、右手を銃の形にし、蛇に狙いをつけて魔法を発動させる。

 

「ばーん」

 

サイオン弾が咲の指から発射され、それに撃ち抜かれた白い蛇は紙へと戻った。発動させた魔法は術式解体。使い手がほとんどいない希少技術であるが、咲にとっては問題なくできる魔法だ。

 

琢磨はこの攻防で咲にミリオンエッジが通用しないと思いしらされた。しかし、それは正面から攻めた場合のみ。咲は照準を合わせて術式解体を放っていたのでまだ不意打ちならまだいけると自分を奮い立せる。

琢磨はミリオンエッジを発動させるフェイクを入れながら、空気弾を発動させる。こんな魔法で咲を仕留められるとは思っていないが、これは目くらましだ。咲が対処しているその間、少しでもミリオンエッジが当たる確率を上げるためにエリアの端から端まで移動し、ミリオンエッジを放つ。

 

今度のミリオンエッジは16万、先ほどの倍だ。それを1つに重ね正面から術式解体に挑むーーと見せかけてこれはブラフ1だ。

そんな魔法を咲は先程のように術式解体を使って紙吹雪を紙くずに変える。

そんな白い雲を突き破るように時間差で解き放たれた20万の竜巻が咲に襲いかかる。

決まるかと琢磨は思ったがそんな竜巻も咲の術式解体に無効化されてしまう。

だがこれで終わりじゃない。これまでの2回の魔法はどっちもブラフ。わざと無効化させて咲の視界を奪っている間に咲の後ろに移動させた16万の紙片。白い龍が背後から咲を襲う。

 

今度こそ決まったと琢磨は思った。完全な不意打ちの形であったし、咲は完全に自分の方を向いている。今までの術式解体は指を向けて放っていたのでそれが必要な動作なはずだ。

琢磨の予想は外れた。それは予想ではなく願望だと気づいたのはだいぶ後になってからだ。

 

「惜しいわね、でも残念」

 

咲はそういいながら、背後からの不意打ちを魔法で防いだ。

 

そんな光景をみて琢磨は口が塞がらなかった。背後からの魔法を防がれたからではない。もちろんそれも驚いたのだが、そんなものどうでもよくなる驚きが琢磨を占めていた。

 

琢磨の紙片から咲の身を守っているのは、咲のロングスカートの裾から出たピンクの紙片。その紙片を制御している魔法こそ、自分が得意としている七宝家の魔法、ミリオンエッジだったからだ。

 

 

 

 

 

「ミリオンエッジを使うことができるなんて流石はお姉様です」

「なんであんなスカートの中に本を仕込んでいるのか気になっていたがそういうことだったのか」

 

達也は咲のスカートの中に文庫本サイズの本が仕込まれているのも気づいていたし、いつもより裾が広いものだと気づいていた。本を持っているのを見せず、スカートの中から紙片を出してびっくりさせたいがために裾を広くしたのだろう。

 

「咲さんは相変わらずやることが派手だね達也」

「まあな。咲ならミリオンエッジぐらいの魔法ならイメージしたらできそうだし、読めないぐらいボロボロの本だけどなにかに使えそうって言っていたしな」

 

目には目を。歯には歯を。ミリオンエッジにはミリオンエッジを。いかにも咲らしい考えだ。

琢磨の白い紙片のミリオンエッジをピンクの紙片のミリオンエッジで防いでいる咲は、まだ何かやるのだろう。楽しそうな表情をしている。

ここからが楽しみだと達也は珍しく年相応な好奇心に目を光らせていた。

 

 

 

 

 

琢磨は好奇心を持つどころではなかった。七宝家の魔法ミリオンエッジ、魔法は知られていても術式は公開されていないはずである。どうして四葉である咲が使えるのか。

そんなことを考える琢磨は動きが止まっていた。

そんな琢磨を桜の花びらのようにピンクの紙片を自分の周囲に撒き散らせながら咲は見ていた。そんな咲の目はこれで終わりかと言っているようで、琢磨は頭に血が上ってしまう。

 

琢磨は残りの40万全てを一気に放った。不意打ちも何も効かないなら数でねじ伏せるしかない、そう思ったからだ。

やっときたかという顔をした咲はポケットから文庫本サイズの本を取り出してミリオンエッジを発動させ、スカート内の紙片とともに琢磨のミリオンエッジを防ぐ。

数は琢磨の方が多いのだが、干渉力が咲の方が強く、互いに相殺し合った。

 

琢磨はミリオンエッジ全てを打ち切ったが咲を倒すことができなかった。しかし、咲もミリオンエッジを打ち切ったようでこっからは普通の魔法戦になると琢磨はそう予想していた、この時までは。

 

琢磨が正面に目を向けると対面する咲は笑っていた。この時を待っていたかのように。

 

「卍解」

 

咲以外の皆が聞きなれないような言葉を咲が言い放ちながら、手に持ったもう既に中のページがない本を手から床に落とす。

 

「千本桜景厳」

 

 

戦闘エリアの境界線に演習場の天井にギリギリ迫るぐらいの巨大な刀身が何本も地面から立ち上った刹那、それらが全てピンク色の紙片と化した。

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

私は一昨日ミリオンエッジを見た時、どこかで見たことがあると思っていたが、昨日それを思い出した。それはBLEACHのキャラである朽木白哉。彼はミリオンエッジのように剣を花吹雪にして攻撃していたのだ。

 

しかし、それを再現にしようにも花吹雪の数は足りない。ボロボロになって読めない本は何冊かあるので、それを媒体としてミリオンエッジもどきを使えばいいのだが、せいぜい30〜40万程度の紙片しか作り出せない。

それならば相手の紙片をプラスで使えばいいじゃないと思ったので今回の私の神依のキャラは亦野だ。

 

 

 

 

 

亦野誠子

白糸台高校の2年であり、打ち筋は鳴きスタイル。3副露したら5巡以内であがると言われており河から自在に牌を釣り上げるフィッシャーというあだ名がついている。

この世界に置き換えると、相手が過去に使用した物質を使った魔法の強化だ。彼女が他の人が捨てた牌を利用して能力を発動させていたように。

今回の場合は七宝君が発動して私が無効化したミリオンエッジの紙片。

 

私は七宝君が使ったミリオンエッジの紙片と私のミリオンエッジを再利用して、ミリオンエッジもどきを発動させた。

 

 

私はミリオンエッジの術式は当然知らないので、ただ本のページをバラバラにしてピンク色に染めて硬化した紙片を群体制御で操っているだけである。亦野の神依をしてると言えどもこんなことをするには魔法力、特にスピードが足りなくなる。

何せミリオンエッジはスピードを上げるために遅延型術式のシンボルを先に書いておくという方法を取っているため、その準備が出来ない私の魔法は発動スピードは遅いものとなってしまう。亦野はスピードはあるのだが鳴きを三回しなくちゃいけないという無駄があるのでそこまで魔法速度の上昇は起きないのだ。

しかし、簡単に発動できたのはもう1人の神依のおかげである。

 

 

 

龍門渕透華

龍門渕高校の2年であり、打ち筋は基本デジタル。しかし、天江衣の従姉妹なだけあって目立ちたいと思ってデジタルを捨てると流れに乗って倍満を和了ったりしていた。

この世界に置き換えると大規模魔法、特に目立つような魔法を発動する時、魔法力が大きく上昇するというものになる。

 

今回の魔法は、床から刀身を出して花吹雪のような紙片を舞わせるというド派手なものであるので、魔法力が上昇しているのだ。

ちなみに去年クラウドボール1回戦でもこの神依を発動させている。

 

 

 

そんな2人の神依をした私は今約150万のピンク色の紙片を操っていた。これで攻撃してはさすがに怪我をしてしまうので、ただ見せたかっただけなのだが、これで十分私の力を七宝君に見せつけることができただろう。

 

 

「吭景・千本桜景厳」

 

私は紙片で相手の周りを取り囲み、群体制御でその中の酸素分子の密度を低下させて七宝君に低酸素症を引き起こさせた。

 

 

 

 

 

「それまで。勝者、四葉」

 

七宝に怪我がなくて少しホッとした様子の服部先輩からの勝利宣言を受ける。私が吭景・千本桜景厳で七宝を押しつぶしてしまったと思ったのかもしれない。まあ本来そういう技なのだが。

私は七宝君に近づき、その横に膝をついた。

 

「七宝君、大丈夫?」

 

低酸素状態で意識が朦朧としていて、床に座っている七宝君に話しかける。意識がギリギリ残るぐらいに酸素濃度を調整したので大丈夫なはずなのだが。

 

「大丈夫です、ありがとうございます」

 

頭を振りながら七宝君は答える。驚いたことに七宝君の私を見る目が試合前から変化していた。悔しそうではあるが、試合前までは敵意や軽蔑などが混じった目であったのだったものが、今はなんとなく深雪が私を見るような目に変化していたのだ。

 

「じゃあ立って、壁際で休んでいてくれるかしら」

「はい」

 

七宝君は私のいうことを素直に聞いて壁際まで移動する。私はそれを確認して私は達也の方に目を向ける。

 

「どうした咲?」

 

自分を見る目に悪寒を感じたのか達也が私が口を開く前に水を向けられる。

 

「達也さん、十三束君と試合してくれないかしら?」

 

私がそういうといつもの何言っているんだ、頭大丈夫か?みたいな目で私を見てくる。

 

「達也さんの実力を七宝君に見せてあげて欲しいのよ」

「訳がわからないんだが?」

 

私の言葉に達也はさらに困惑を深めたようだ。

 

「本当の実力者同士の対決を七宝に見せてやって欲しいんだ」

 

事前にこのことについて私と打ち合わせしていた服部先輩が援護射撃してくれる。

 

「本当の実力者同士を見せるのなら咲や服部会頭、沢木先輩が試合をする方が適しているのではありませんか?」

「四葉、お前の実力を見せることに意味があるんだ」

 

服部先輩と私の説明は十分なものではなかった。

 

「お兄様、よろしいのではありませんか」

 

だが、ここで私たちにとって最強の援護射撃が放たれた。

 

「下級生に実力を示すというのであれば、風紀委員会に相応しい役目だと思います。それにお姉様の貴重なお願いを無下にする必要はないと」

「お前がそういうのなら…」

 

深雪のいうことを達也は拒否することは基本できない。十三束君の方を見ると試合が決まって少し嬉しそうだった。

 

 

 

 

達也と十三束の試合は達也が勝利した。

 

十三束君の二つ名「レンジ・ゼロ」と呼ばれる所以となった接触型術式解体に達也は苦戦するが、無系統の振動魔法を攻撃に組み込むことにより、十三束君の周りを纏っている身体のサイオンを少しずつ引き剥がした。

それに恐怖したのか、十三束君は自分の切り札『セルフマリオネット』を使用するが一撃で達也を仕留めるまでにはいかず、達也はセルフマリオネットを分解して十三束君の体勢を崩した間に、サイオンの高濃度弾「徹甲想子弾」により十三束君を吹っ飛ばして勝利したのだ。

 

 

そんな高レベルの試合を見て七宝君は衝撃を受けたようで演習場の外へ駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




77局で第7研の琢磨が倒されるのは運命を感じる


咲vitaで育成した亦野は原作と違って強いのでおすすめです(ポン1回したら有効牌しか引かなくなる)



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第78局[心情]

ダブルセブン編オーラス


演習場から逃げ出した琢磨は、滅多に人が来ない格好の密談場所となっているロボ研のガレージの奥の空き地に辿り着いた。

別にそれと知っていてここに来たわけではない。ただ人目を避けて逃げていたら、ここにたどり着いただけだ。

 

そこには大きな木が一本生えており、その前で琢磨はしばし立ち尽くしていた。だが高ぶる感情が抑えきれなくなったのか、その木の幹を殴り始めた。

 

「クソッ、クソッ、クソッ」

 

何度も拳を叩きつける。

 

「やめとき。血でとるで」

 

声が震え始めた頃、後ろから彼を呼ぶ声がした。勢いよく振り返り周りを見るが何もいない。首をキョロキョロさせて周りを見渡すと再び声をかけられる。

 

「せやった、せやった。咲以外はうちのこと見えんのやった。うちは怜、咲の精霊や。やけど心配せんでええで、咲に黙ってついてきただけやから」

「それで精霊が何の用だ」

 

琢磨は声が聞こえてきた方に話しかける。琢磨は精霊魔法に詳しくなかったので、精霊が喋ることや咲のいう事を聞かずに自分の意思を持って行動することの異端さに気づくことはなかった。

 

「いや、咲が興味を持っとったからな。ただ見にきただけや」

 

咲が興味を持ってると聞いて琢磨は顔を赤くしてしまう。

 

「ははーん、自分も咲に惚れとる口か」

「なっ……」

 

琢磨は絶句してしまう。考えないようにしていた事を言われたからだ。敵視していた咲と同じく四葉の深雪や達也に比べ咲に強く当たっていたのはこの気持ちを否定していたからである。

 

「わかるでわかるで、その気持ち。咲は美人やし優しいし、惚れるんのも無理ないわ」

「それならあの人はどう思ってるんですか!」

 

琢磨はついそう聞き返してしまう。自分が咲に対して強く当たっていたのは自覚している。いい感情を持たれていないに決まっていると感じていた琢磨は、答えを聞くのが怖くて目を瞑ってしまう。

 

「随分と悲観にくれとるみたいやけど、そんな悪く思ってへんみたいやで。うちは最初、自分に対していい感情持ってへんかったけどな」

 

そう言われたので琢磨は顔を上げるが、また次の言葉で顔を落とす。

 

「やけど、今の段階では恋人になるのは到底無理やな。あくまで咲の好意は興味があるレベルやからなあ」

 

そりゃそうだろう。知り合ってからまだ一カ月も経っていない。

 

「まあ、咲と結婚する方法ならあるで。咲に勝つことや」

 

そう怜が言うがそんな簡単なことではないことは琢磨自身わかっている。

 

「どうしてあの人たちはあんなに強いんですか!たかが1年の差じゃないですか!」

 

琢磨が演習場から逃げ出した理由、それは自分との実力差に絶望したからである。

その理由を思わず聞いてしまう。

 

「せやなあ、強いから強いって言いたいんやけど。しいていうなら強くなろうと努力したからとちゃうか?」

「俺だって努力はしてます」

「実力差があるならそれより努力しただけやで。けど、1人で練習するのは成長に限界あるやろうなあ」

 

咲は深雪を練習相手として自分をさらに高めているという事を怜は言う。

 

「咲がカンカンやからもう帰るわ。視覚同調と聴覚同調を拒否してたのがいかんかったのやろうなあ。ほな、これからも頑張ってや!」

 

そんな声が聞こえた後には、空き地に吹く風の音しかしなかった。

 

 

 

 

 

 

翌朝

私は登校して、本を読みながら深雪とほのかと雑談していると私たちのクラスに珍しい来客があった。クラスメイトはそんな来客を訝しげに見ている。

 

「会長」

 

その来客とは七宝君であった。深雪は一瞬敵意を向けるような目を向けるが、琢磨の目にそんな色がないのがわかり困惑したような顔をしている。

 

「何かしら?」

 

私がそう尋ねると七宝君は勢いよく深々と頭を下げた。

 

「今までの数々の失礼な態度、すみませんでした!」

 

そんな七宝君の声はクラス中に響きわたる。私は口が塞がらなかった。横にいたほのかと深雪もビックリしている。すごい態度の変わりようだ。昨日怜が勝手に会いに行ったのだが、その時に何かあったのだろうか。

 

「いいわよ別に。気にしてないわ」

 

このまま放置すると土下座までしかねないと思ったのでそう声をかける。そんな私の声を聞いてホッとしたような表情が七宝君の上げた顔にはあった。

 

「会長、いえ咲先輩。お願いがあります」

 

ホッとした表情は消えておりそこにあったのは真剣な顔。そんな表情を見た私は目で続きを促す。

 

「俺を咲先輩の弟子にしてください!」

「「「え!?」」」

 

先ほどのようにクラスに響き渡る声を発しながら頭を下げた七宝君の言葉に私たちは驚く。

 

「つまり、七宝君は私の弟子になりたいということ?」

「はい、その通りです」

 

聞き間違いじゃない事を確認するが、聞き間違いではないようだ。

 

「私魔法を教えるのそんな得意じゃないわよ?」

「近くで魔法を見せてもらうだけでも結構なので」

 

私を見ている目は真剣だ。冗談で言っている目ではない。強くなりたいという意志がある。深雪もこういう目をするのだが、私はこの目が好きだ。

 

「いいわよ。でも今度勝手なことしたら破門ね?」

「ありがとうございます」

 

勝手なことというのはあの女優と企んでいた事を指していたのだが、どうやら七宝君もそれを感じ取ってくれたようだ。

深雪とほのかは心配そうな目を向けてくるが私が決めた事なので何も言えないようだ。

 

 

 

私はこれからの学校生活は、よりいろいろありそうだという気配を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




琢磨って根はいい奴だと思っています。


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スティープルチェース編
第79局[変更]


間違えて変な投稿したり遅くなったりしてすみません


6月末、定期試験を間近に控えた放課後。

そんな日にもかかわらず国立魔法大学付属第一高校の実験室では週に1回の咲の特別指導が行われていた

 

「七宝君、あと少しね。だいぶ形になってきたわよ」

「ありがとうございます、師匠」

 

特別指導というのは、弟子入りした琢磨に対して咲が魔法を教えるというものだ。

 

当初、咲は琢磨にここまで指導するつもりはなかった。深雪との試合を何度か見せればいいと思っていたのだ。

しかし、咲のお人好しというか優しさといえばいいのだろうか、だんだん咲は琢磨に魔法のアドバイスをし始め、次に自分の考えた魔法を教え、今は週に1回つきっきりで指導している。

 

咲は身近な人にとても甘いのだ。それも身近になればなるほど。逆にあまり好きではない人や知らない人にはあまり好意的に接しなかったり、もともと姿を見せなかったりする。琢磨は咲と似ているところが多く、琢磨に対して咲は親近感が湧いているので魔法を教えるようなことまでしているのだ。

 

琢磨がこの一ヶ月教わっているのは、空気の群体制御。普通空中には何もない存在しないようにみえる。しかし、空気中には窒素、酸素、二酸化炭素など様々なものが本当は存在している。酸素分子や窒素分子などを一つの物体と考え、それが群体となって空気となっていると咲はイメージしたのだ。

それを群体制御として操り、空気中の分布を偏らせることによって、窒息乱流のような効果を持つ魔法として使うことができたり、他にも空気を全て移動させることによる強力な収束・発散系のような風を引き起こすようなこともできるなど使い方は様々だ。

 

この技術と空気中の水を分解する技術があれば淡の超新星が使えるのだが、琢磨には魔法力的に無理があるし、そもそも咲は教えるつもりは流石になかった。

 

琢磨は自分の家のお家芸であるはずの群体制御でも咲の方が上と4月の対戦で理解していたので、咲に群体制御の魔法を教えてもらっているのだが、授業や家で今まで練習していたことよりはるかにハイレベルなことであるのでなかなか苦戦しているのであった。

 

「魔法はイメージよ、魔法の結果をイメージできないならイメージを鍛える訓練をした方がいいわ」

 

「いえ、イメージはできてるんですが…」

 

魔法の結果のイメージは七草戦で窒息乱流を目にしているからできているのだが、中々成功しない。それが魔法士にとって普通でありイメージだけで魔法を使える咲がおかしいのだが琢磨はイメージできているのに成功しないので悔しそうに手を握りしめた。

 

 

 

琢磨への指導が終え、2人で喋りながら実験室の片付けをしていると話題は自然と1年生が一番気になっている目前に迫ったものの話となる。

 

「師匠はテスト勉強しなくていいんですか?」

 

そう、目前に迫った定期試験の話となる。琢磨は咲が昨年度総合で学年トップであり、理論も2位であることを知っており大丈夫などと返ってくると予想した問いかけであったのだが

 

「そうだったわね…赤点ギリギリ回避できるぐらいは勉強しないと…」

「師匠は理論昨年度2位だったじゃないですか」

「合計はそうだし、勉強しなくても一科目を除いてほとんど2位は取れるわ。だけど応用魔法理論は全く理解できないのよね…」

 

咲ができないもの。二年生になって始まった応用魔法理論だ。去年の基礎魔法理論ですら全く理解できずにあやふやで乗り切ったイメージで魔法を発動する咲にとって、基礎の上の応用など理解できるはずがなかった。

 

「師匠でも苦手なものあるんですね」

「魔法を使えるのだから使えるでいいと思うのだけど。最近家で九校戦のメンバー選出もしているからあまり勉強してないのよね」

「こんなに早くからですか?」

「直前であわてたくないもの」

 

九校戦の種目が公式に発表されるのは7月2日。琢磨が言うように準備が早いように思えるが数年ルール、競技と共に変更はないので先に始めてても問題ないという咲とあずさの判断だ。

 

「師匠は去年と同じ種目ですか?」

「クラウドボールは出ると思うけどバトルボードは面白くないしあんまり出たくないとは思ってるわ。今のところは去年と同じ種目に出ることになってるけど」

 

バトルボードは対戦相手に気を使うので咲はあまり好んでいなかった。本当は九校戦自体がめんどくさいのだが生徒会長であるので出ないわけにもいかず、もし仮に出なかったら深雪が怖いので出るしかないのだ。咲は片付けを行いながら琢磨に隠れてため息を吐くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

定期試験を終え(応用魔法理論は達也に頼ってなんとか乗り切った)、九校戦の種目が各魔法科高校に正式発表される7月2日。その日の放課後、達也と深雪はいつもと同じように生徒会室に向かった。達也が生徒会室の扉を開けた直後、部屋の中から漂ってきた暗く重い空気に達也は足を止めてしまった。

 

「どうかなさいましたか?お兄さ…」

 

達也だけではなく深雪も簡単なセリフを言うことができなかった。2人の視線の先にはこの世の終わりのような絶望感を放ちながら頭を抱えているあずさと机に金髪を広げ突っ伏している咲がいたのだ。

 

「あ、2人とも。ご苦労様」

 

そんな2人がいる机から途方にくれた顔の五十里が2人に話しかける。それがきっかけで達也はこの重苦しい部屋に入る決心がついた。ちなみに達也は生徒会ではないのだが五十里には生徒会メンバーと変わらないと思われている節がある。

 

「お疲れ様です、五十里先輩。一体何があったんですか」

 

机に突っ伏している咲のケアには深雪が向かっているので達也は五十里に事情を訊ねた。

 

「いや、それがね…」

「九校戦の運営委員会から今年の開催要項が送られてきたんです!」

 

歯切れの悪い五十里や突っ伏している咲のかわりにあずさが質問に答える。

 

「確かに、今日でしたね」

 

達也は咲が家で今日発表されると言っていたことを思い出す。

 

「それで何が問題だったんですか?」

「「何もかもです(よ)!」」

 

あずさと咲、2人が同時に顔をあげて呪詛のような愚痴をこぼし始めた。

 

「開催要項は競技種目の変更を告げるものでした!」

「何が変わったんですか?」

咲が家で去年と変わらないことを前提に準備しているということを達也は咲自身から聞いていた。達也は競技が変更されるということを考えていたが、近年競技種目の変更をされていないのでこの2人は考えていなかったようだ。別に今日種目変更の通知があったのはルールどおりの手続きであり、種目を変更しないというルールはないのだ。

 

「三種目よ…」

 

咲の怒りと落胆が入り混じったような声で返した答えには、達也も驚かずにはいられなかった。

 

「スピードシューティング、クラウドボール、バトルボードがなくなって、新たにロアーアンドガンナー、シールドダウン、スティープルチェースクロスカントリーが追加されました!」

 

咲の回答にあずさが付け加えるようにこう言った。全6種目中半数が入れ替え、そして必要魔法の種類がかなり異なる。これでは最初の選手の選考からやり直さなければならないだろう。

しかし、ここまでの話で決めつけるのは早計すぎた。あずさの回答に付け加えるように再び咲が口を開いた。

 

「しかも今回は掛け持ちできるのスティープルチェースだけなのよ。その上今回追加されたものとピラーズはソロとペアに分かれてるのが面倒なのよね…」

 

咲が無気力状態で言った言葉にあずさは大きく頷いている。ここまで至って達也は妙に納得感を覚えた。今回のルール変更は九校戦の戦い方に劇的な変更を強いるものである。戦略も戦術も一から見直さなければならないだろう。

早めに準備してたことが裏目に出たのだ。咲とあずさが落ち込むのも無理はない

 

「あの、お兄様…」

 

咲とあずさをどうやってなだめようかと考えている達也に、後ろから深雪が遠慮がちに声をかけた。

 

「新しく追加された3つの競技とはどのような競技なのですか?」

 

深雪は咲のあの状態を戻すのをひとまず諦め、九校戦の選手としての興味を優先したらしい。

 

「俺の知ってるルールとは同じとは限らないが…ロアーアンドガンナーはロアー、漕ぎ手とガンナー、狙撃手がペアになって無動力のボートを走らせながら水路脇に設置された的や水路上を動き回る的を狙撃する競技だ。ゴールまでのタイムと命中したマトの数で競う。ソロがあるということはどっちも兼ねる競技形態もあるのだろうな。」

 

深雪からの質問がないのを見て達也は続けた。

 

「シールドダウンは盾を使った格闘戦だ。一段高くなった試合場で行われ、相手の盾を破壊する、奪う、または場外に相手を落とせば勝利だ。相手に身体的物理的な攻撃を加えることは禁止されているが、盾に対する攻撃は可能。つまり魔法、自分の盾、自分の身体で相手の盾を攻撃するか、魔法で場外に落とすのが戦い方だな」

「お姉様が好きそうなルールですね…」

「深雪?」

「なんでもありません、お兄様」

 

深雪が小さく呟いた声を達也は聞こえていたが聞かなかったことにして話を続けた。

 

「スティープルチェースクロスカントリーは名前の通りだな。障害物競争をクロスカントリーで行う競技で走破するタイムを競う競技だ。各国の山岳・森林訓練で取り入れられてる軍事訓練の一つで、障害物には物理的な自然物や人工物の他、自動銃座や魔法による妨害も用いられる」

 

「随分とハードな競技ですね…」

 

「前二つはともかくスティープルチェースクロスカントリーは高校生にやらせるものじゃない。運営委員会は何を考えているんだ」

 

詰るように達也が呟くと五十里から驚愕の情報が追加された。

 

「しかもスティープルチェースは2,3年生なら男子女子全員エントリー可能。実質、全員参加だね」

 

「余程しっかり対策を練らなければドロップアウトが大勢でますよ」

 

達也の言うドロップアウトは競技ではなく魔法師人生からのドロップアウトという意味だ。

 

「そんな……!」

 

「女子の部は上位独占、ドロップアウトなしでいけると思うけど問題は男子ね」

 

絶望して再び突っ伏したあずさと対照的に咲は顔をあげて何か考えるポーズをしていた。

 

「どういうことだ咲?」

「だってこの競技、簡単にいうと『山を走る』競技なんでしょ?だったら女子のスティープルチェースは任せといて」

 

謎の咲の自信に達也と生徒会メンバーは頭に疑問符を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第80局[悪夢]

アンチヘイト注意、アンチヘイト注意(大事なことなので二回)


生徒会活動が終わると、私たちは定番となった喫茶店「アイネブリーゼ」に寄り道していた。メンバーはいつもの二年生9人と水波だ。

 

今日、放課後の集まりを言い出したのは吉田君で珍しい積極的な態度である。

オーダーを済ませてすぐに達也に吉田君から質問が飛んだ。

 

「九校戦の種目が変更になったのは本当かい?」

「随分と耳が早いな」

 

私の方をチラリと見ながら達也は答える。私に気を使ってくれているのだろう。

 

「誰から聞いたの?」

「委員長と五十里先輩が話してた」

 

種明かしは吉田君ではなく雫から明かされた。吉田君と雫は風紀委員会で同じという共通点がある。つまり風紀委員会本部で盗み聞きしたということだ。まあ達也も風紀委員会だし知られて困ることでもないので別にいいのだが。

 

「詳しい内容までは知らないんだけど」

「種目変わるんだ、何から何に?」

 

真面目な吉田君には後ろめたいのかもしれない、必要がない言い訳にエリカが食いついた。

達也が変更した競技と競技説明を行うとエリカはにんまり笑みを浮かべた。

 

「へえ…楽しそうじゃない。特にシールドダウンとか」

 

エリカは私の方を見ながら言う。その顔には言いたいことが書いてあった。

 

「確かにシールドダウンは工夫のしがいがあって楽しそうだわ」

 

エリカと私は顔を見合わせて笑う。こういうところはエリカと気が合うのだ。

 

「え、そうかな。なんか怖そう…」

 

見るからに戦闘狂の血が騒いでる私たちに対して控えめな反論を行う。

 

「去年までは採用されていた競技はどれも直接ぶつかり合わないものばかりだったよね」

「モノリスコードですらそうでしたのに」

 

ほのかのセリフに美月もそう思っていたのだろう、すぐさま相槌を打った。

 

「でも本当に一番危険なのはスティープルチェース」

「ええ。お兄様もそうおっしゃっていたわ」

 

そこに雫が意見を挟み、深雪がその言葉に頷いた。

 

「道のない森じゃ、ただ移動するだけでも危ないからな。それに加えて障害物や魔法による妨害とくりゃ、怪我人が出なかったら不思議ってもんだぜ」

「そうだね。山を駆けるのは道があっても経験豊富な先導者が必要だ。不慣れな森の中でスピードを競うのは無謀すぎるよ」

 

レオと吉田君も批判的というより否定的意見を口にする。

 

「女子のスティープルチェースは私に任せて。一高で上位独占してみせるわ」

「咲、お前山道走ったことあるのか?」

「私はないわよ、でも私は現実の修行の山路も、有為の奥山も超え、その先にいる深山幽谷の化身。その私に山道を走ったことがあるって聞くのかしら?」

 

この言葉を聞いて達也と深雪、水波は理解したようだ。他の人の頭には生徒会室と同じようにハテナマークが浮かんでいるが私は言葉を続ける。

 

「ねえ、達也さん。今回加わった種目って軍事色強いような気がするんだけど気のせいかしら?」

 

「気のせいじゃないだろう。おそらく横浜事変の影響だ。去年のあの一件で国防に携わる関係者が改めて魔法の軍事的有用性を認識し、その方面の教育を充実させようとしているんじゃないか」

 

お前が目立つことをやったせいだろと言外に言われてる気がするが気のせいだと思いたい。

 

「反魔法主義マスコミが言っている通りになってるね」

 

エリカが人の悪い笑みを浮かべて茶々を入れる。

「ああ、なぜこんな分かりやすい変更を行ったのか。現在の国際情勢で焦る必要はないと思うんだがな」

 

ほのかと美月が達也の言葉で顔を曇らせたのを見て達也が続ける。

 

「それはともかく、これから忙しくなりそうだ」

 

私は思い出したくないことを達也のせいで思い出し、違う理由で顔を曇らせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

次の日から予想通り大忙し。まず外された種目に出場予定だったクラブの部長に断っておく必要がある。

そして選手選びも一からやり直しだ。入れ替えにならなかった競技の代表選手も新たに追加された競技の方が適しているケースもあるし、ソロとペアがある、掛け持ちができないという新ルールも考慮しなくてはならない。代表の選考は生徒会が主体となって行うことになっているが、関係するクラブの意見も無視できない。ここでも各部や部活連との折衝が必要となる。

また、新競技に必要な器具の手配も行われなければならない。これは単なる事務作業ではなく、新競技にどんな装備が必要なのか、何が禁止され何が許可されているのか、まず大会ルールから読まなくてはいけないのだ。この日、校門から出た時には生徒会役員全員が疲れ切った顔をしており、咲も深雪もそして生徒会長権限により動員された達也も例外ではなかった。

 

 

 

帰宅し、夕食を終え、いつもならコーヒーや紅茶を飲む時間。私は深雪に断って自分の部屋に戻り軽く睡眠を取ろうとしていた。さすがに普段の業務もこなしながらメンバーの再決定まで神依をフル稼働で行ったので怜を使用した時ほどではないが体力の消費が激しかったのだ。

重たい足をひきずってベットに潜り込んで寝ようとした時、異変が起きた。

 

確かに今ベットに潜り込んだはずである。なのに私が今いるのは、何もない草原。そこで1人で立っている。地平線には山も見えずこの草原がずっと地平線まで続いているということがわかる。

この草原で特徴的なものといえば近くに立っている一本の木ぐらいであろうか。

その木がなんとなく気になり、近づいていくと木から何かが降ってきた。

 

「林檎ね…」

 

木から落ちてきたのはリンゴ、しかも黄金のリンゴであった。黄金のリンゴで連想できるのは

 

「黄金のリンゴで連想できるのはギリシャ神話と北欧神話。だけど私と関係するならここは北欧神話と関係する世界の可能性が高い」

 

「誰!?」

 

私は思っていることを口に出していないはずなのに思考を読み取られたことを警戒し、姿の見えない私の思考を読み取った人を探す。

 

「そんなに警戒しなくてもいいよ。私は目の前にいるから」

 

「鳥?」

 

「ピンポン、正解」

 

目の前にいた動物を答えるとその鳥は飛び上がって答えた。その鳥はどこかあれに似ている。

 

「前置きはなしね。聞きたいことを何個か聞かせてもらうわ。まず1つ目、ここはどこなの?」

 

「ここは私の世界だよ。あ、言うの忘れてたね」

 

その鳥は礼をするようにして言った。

 

「ようこそ、ヨトゥンヘイムへ」

 

私はその言葉を聞いてこんなだだっ広い草原にいるのにどこか狭いところにに囚われているような悪寒がした。それはこの世界の名前や声色に恐怖したとかではなくもっと直感的なもの。

 

「巨人族の住む国ね…巨人は見えないけど?」

 

「本当のこの世界の名前の意味、咲ちゃんならわかってるよね」

 

「あなたは誰なの?」

 

「質問には答えてよ…まあいいけど」

 

私に対する鳥は背伸びするような態勢をとりながら答える。

 

「私はあなた。あなたは私。まあ細かくは違うけど咲ちゃんと私は同一と言っても過言じゃない。もっと正確に言うと私は咲ちゃんのおねーちゃんかな」

 

「ふざけないで!」

「ふざけてないよ、私はちゃんと自己紹介し」

 

鳥の言葉が最後まで言い切らなかったのは私が鳥にめがけて精霊を破壊する魔法を放ったから。私は最初、その鳥を見たときから鳥は精霊だと気づいていた。精霊魔法を習得している私は当然、精霊魔法に対する魔法も習得している。何者かの悪ふざけに付き合ってられないと鳥を魔法で破壊しようとしたのだ。

 

「ただけ。だけど、ひどいなあ。何にもしてないのにいきなり攻撃してくるなんて」

 

私は目を見引いた。ありえない。私の精霊破壊魔法を耐えるには私より精霊魔法に精通しなおかつ精霊魔法の才能がなければならない。そんな人なんて今までいなかった。

 

「なんでって顔してるね。まあ理由は咲ちゃん自身わかってると思うけど」

 

鳥が言う通り私は理由はちゃんとわかっていた。鳥の精霊を使ってる人は私より精霊魔法に精通し才能を持っているということ。

 

「今日は挨拶だけにしようと思ってたけどやっぱりやめた。そっちから攻撃してきたし正当防衛だよね」

 

投げやりな感じで鳥がそう言うと地平線の方から世界が崩壊し始めた。

 

「なんなのよこれ!」

 

「自己紹介の最中に攻撃してきたサキが悪いんだ。サキの自業自得さ」

 

いきなり鳥の口調が変わったがそんなこと気にしてる余裕はない。とうとう私の立っている地面まで崩壊し私は虚空に放り出された。

 

「Gute Nacht und auf Wiedersehen」

 

その言葉を言ったとともに鳥も世界とともに消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新鮮な畳の匂いが私の鼻腔をくすぐっている。そんな匂いに誘われ目を覚ますとそこは最近はあまりいないが見慣れた場所、本家の私の部屋であった。どうやら部屋の座椅子に座りながら寝てしまっていたらしい。一つ背伸びをして周りを見渡してみるがおかしなものは何もない。先ほどまでの変な夢とは違うことがわかりホッとしていると部屋がノックされた。このノックの仕方はみなもだ。

 

「どうぞ」

 

「お姉ちゃん、準備はできた?」

 

みなもは普段明るい色の服を好むのに黒い喪服のような服を着て現れた。

 

「準備?何の?」

 

何の準備かわからなかったので聞き返すと何言ってんのみたいな顔で見返される。

 

「お葬式だよ、お姉ちゃん寝ぼけてんの?」

 

「そ、そうだったわね」

 

自分の姿を見てみると黒い中学のセーラ服を着ている。

 

「で、誰のお葬式だっけ?」

 

葬式といっても心当たりがない。祖父は私が生まれる前に死んでいるし、祖母が亡くなったのだろうか

 

「何言ってるの?大丈夫お姉ちゃん?『深雪お姉様』の葬式だよ」

「え?みなも、もう一回言ってくれないかしら」

「だから、深雪お姉様の葬式だって。沖縄の合同そ…」

「嘘よ!そんなことあるはずないわ」

「本当だって!おねえちゃん沖縄から深雪お姉様の亡骸と一緒に帰ってきたじゃん。おねえちゃんこそ何言ってるの」

「絶対に嘘嘘嘘!」

「待ってよおねえちゃん!」

 

私は部屋を飛び出し走って大広間に向かう。葬式など四葉本家で大きい行事が行われるとしたら大広間ぐらいしかないからだ。そこで確認するのだ。深雪が死んでいないことを。深雪が死んだなんてありえない。みなもの悪い冗談に決まっている。

喪服を着用した何人もの使用人とすれ違い大広間に到着すると、いつもは真夜が座っている上座に真っ白な布団と純白な白装束を着た不自然にまで顔が白い深雪が横たわっていた。

 

「何か悪い冗談よね、私を嵌めるためにみんな話を合わせてるのよね。深雪そろそろ起きないと私怒るわよ」

 

布団に近づき、私が深雪のほっぺたをつんつんするが深雪はその名の通り身体が冷たかった。

 

「深雪起きてよ…そんな私に意地悪しないで。今ならまだ許してあげるから…深雪起きてよ…起きて…」

 

私が冷たい手を握りそう言っても深雪は起きない。私はそこで深雪が本当に死んでしまったことを確信してしまった。

 

「なんでよ!なんで!なんで深雪が…」

 

「咲さんどうしたの?」

 

私が涙で畳を濡らしていると後ろから声をかけられた。声をかけてきたのは真夜だ。

 

「お母様!深雪は死んでないわ!これは何か悪い冗談よね!私をはめる」

 

私が全て言い終わる前に真夜に抱きしめられた。

 

「咲さん、深雪さんは亡くなったのよ。沖縄で銃に撃たれて」

 

銃に撃たれて?確かに深雪は銃で撃たれたけど

 

「銃で撃たれた傷は達也さんが再成で治したはずじゃ…」

「何言ってるの、咲さん」

 

真夜は一つ区切りをおいて再び答えた

 

「達也さんにそんな能力ないわよ」

 

本当に心からそう思っているような声色で真夜は私に返答した。

 

「それは嘘ね!達也さんの能力は分解と再成の2つよ!」

「分解は確かにあるけど再成はないわよ、本人に直接聞いて見たらいいわ。そこにいる達也さんいるわよ」

 

真夜が指差した大広間の端に達也がいたので、私は急いでそこに向かい達也に話しかける。

 

「ねえ、達也さん!再成の力が使えないって嘘よね。嘘。嘘だと言ってよ!」

 

私が達也の襟を掴み揺すってそう言うと、達也は私を突き飛ばした。

 

「な…」

「俺にはそんな能力はない」

 

突き飛ばされた驚愕で何も言うことができなかったが続く言葉がさらなる追い討ちをかける。

 

「深雪が死んだのはお前のせいだ。俺はお前を絶対に許さない」

「私の…せい…?」

 

新しく言われた事実に私はさらに固まってしまう。私を見下ろす達也の目には憎悪の感情が渦巻いている。

 

「周りの声をよく聞いてみろ」

「周りの声……?」

 

達也に言われ私は耳をすます

 

『精霊が見えるのに使役できないって本当に役に立たないな』

 

違う。あの時はまだ使役できなかっただけで…

 

『軽率に部屋から出て行くという勝手な行動をしたから深雪様は撃たれたんだ』

 

違う…私があの時部屋から出て行ったのは軽率だったけど…理由はそうじゃなかったはず…

 

『神依とかいう力も役に立たないな。人1人守ることすらできないなんて』

 

違…わない…私は深雪を守ることができなかった…そのせいで深雪は死んでしまった…

 

『撃たれるなら深雪様より咲様の方が良かっだろ』

 

違わない。こんな無能な私は深雪の代わりに撃たれるべきだったんだ。

 

 

「もう一度言う。俺はお前を許さない」

 

そう。私は許される存在ではない。

 

「だからお前は俺に撃たれて死ね」

 

私はそれを許容する。だってこんな私に生きている意味なんてない。

 

「じゃあな咲」

 

達也のCAD、シルバーホーンを向けられて目を閉じ最後の時を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サキ……咲…咲!咲ッ!」

 

私は家のベットで達也に大声で名前を呼ばれ揺すられながら目を覚ました。本家ではない。いつもの私たちの家だ。周りには達也、水波、そして深雪の3人が心配そうな顔をしながら取り囲んでいた。あのCADの引き金は引かれていないのだろう。

 

「大丈夫か咲?」

「大丈夫よ、でも本当に良かった…深雪が生きてて」

「お姉様!?」

 

私が深雪が生きてることに歓喜あまってベッドから立ち上がって抱きつこうとしたが、ベッドから立ち上がるおろか身体を起こすこと、腕を動かすことすらできなかった。こんなことがバレたら2人は心配するだろうし、それにさっきまでの夢を悟られるわけにはいかない。

 

「ちょっと悪い夢を見ただけで大丈夫だから。今日はこのまま寝るわ、おやすみ」

「そうか、おやすみ咲」

「おやすみなさい、お姉様」

 

達也も深雪も不審そうな顔を向けてきたが一応納得してくれたようだ。

 

「あ、水波ちゃん。下から冷たい飲み物だけ持ってきてくれるかしら」

 

「承りました」

 

3人が出ていって私はこれからどうしようと考えを巡らせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第81局[念力]

今回オリキャラの話多めです


「咲様、飲み物をお持ちしました」

 

「ありがとう水波ちゃん、入って」

 

達也と深雪を部屋に返し、水波を再び呼んだのは訳がある。私が寝てる(?)間に何が起きたのか説明してもらうためだ。達也と深雪に聞いた場合、場合によりこっちのことも話さないといけなくなるので、心配させるだけだと思ったのと、このまま部屋に居られると身体を動かせない状態がバレる可能性が高くなると考えたのだ。

 

「水波ちゃん、私が寝てる間のことを話してくれるかしら」

 

私がそう言って聞くと水波は喋り始めた。

 

「咲様がお部屋にお戻りになられて1時間後ぐらいでしょうか。咲様のお部屋から何か声が下まで聞こえたのです。達也様が咲様のお部屋を魔法で確認なさってその時はまだ動きませんでしたが、次第に回数が多くなり、悲鳴ということに気づいた私たちは咲様のお部屋に向かい、先ほどの状況になったということです」

 

「ありがとう、よくわかったわ」

 

時計を見ると布団に入ってから2時間経っていることからあれは夢であったのだろうか?確かに夢特有のご都合主義で展開が早い場面が多かった。しかし私の体が動かせないということが説明つかない。

もしかしたら夢を操って精神攻撃する精神干渉系魔法だろうか。いや、もし魔法なら達也が気づいているはずであるし、怜のアラートもならなかったし魔法ではなさそうだ。

それにあいつが言っていた『あなたは私、私はあなた。同一と言っても過言じゃない。おねーちゃんみたいなもの』。つまり私のように神依を使える可能性もある。だけど悪夢を見せるキャラなんて咲にいただろうか?

 

 

 

 

 

次の日、まだ身体を起こすこともできないことから達也と深雪には風邪をひいたふりをして学校を休んだ。2人は朝どこかに行ってきたようだがこの時間に行くとしたらたぶん九重寺だろう。しかし深雪が行くとは珍しい。何かあったのだろうか?

 

申し訳ないことにこのズル休みには私のボディーガードであり従者でもある水波も付き合わせてしまっている。私の部屋で甲斐甲斐しく看病をしてくれている水波に罪悪感が湧いてきた。

 

「ねえ、水波ちゃん。ちょっといいかしら」

「はい、咲様」

 

私は水波に昨日のことを言うか迷った。もし、言ったならば水波も標的にされるのではないかと。

 

「今日、私が休んだ理由は風邪だからじゃないの」

「え?」

 

そう思いながらも話し始めてしまった。たぶん1人で抱え込むには私にとっては大きすぎる問題だったからだろう。

 

「私は今、身体を起こすこともできないの。多分精気を抜かれたのね」

「精気…ですか?」

 

精気とは生命力の塊であり、レオも吸血鬼事件の時に精気を抜かれて入院していた。

 

「精神干渉魔法の攻撃だと思うんだけどどんな魔法か見当がつかないのよね」

「それを達也様や深雪様は?」

 

私が攻撃を受けたということを私のボディーガードとして驚きを隠せない様子であったが、あの攻撃は守りようがないし仕方がないだろう。

 

「教えてないわ。これはあの2人には秘密よ」

「それはどうしてでしょうか…?」

「私しか解決できないし解決するべき問題なのに心配かけたくないじゃない」

 

達也が気づかなかったということはサイオンを使う攻撃でもないし、深雪が気づかなかったということは霊子が関係する攻撃でもないということだ。それに会話の内容的に私を狙っているのは明白である。私の問題に心配をかけたくないという思いは本当であった。

 

 

次の日の木曜日もその次の日の金曜日も私は学校を休んだ。流石に精気をほとんど抜かれた状態は1日では回復しなかった。竜華の膝枕は自分には当然できないので一般人よりちょっと早いぐらいしか回復量がないためだ。

私はあの夢のことを隠していたが、私を見舞いに来た深雪の反応から達也と深雪も私に対して何か隠しているように思えた。

 

 

週末になって第一高校はようやく「運営ショック」から脱却しつつあった。月曜日にもたらされた競技種目の変更の報せから代表選考のやり直しを経て、週末の土曜日、競技の練習が再開された。新種目のロアーアンドガンナーとシールドダウンはイメージを掴むために模擬戦をやってみようという話になった。私はようやく歩けるようになったので午前中の授業に出席し、午後はシールドダウンの選手ということでこの模擬戦に参加している。

 

シールドダウンの女子用リングにはソロで出場する私と練習の助っ人に選ばれたエリカがペアを組み、ペアで出場する千倉先輩と手川先輩の代表ペアと矛を(盾をというべきか)交えていた。

シールドダウンのリングはサイズを除くと外見は「ロープと柱がないボクシングのリング」なのだが、床面は滑らない素材が使われており上下振動も最小限になるように抑えられている。そのいかにも走ってくださいというようなリングをエリカは縦横無人に走り回っていた。

 

「くっ、速い……」

 

こちらの陣形はエリカが2人をかき乱し、私が後ろから援護するという陣形である。相手もそれに合わせて手川先輩が前衛、千倉先輩が後衛という布陣をとっているのだが、自己加速魔法を使うエリカの速さに全くついていけてなかった。ジグザグにステップを踏むエリカを手川先輩が見失った瞬間、彼女のシールドを強烈な衝撃が襲った。エリカが盾が接触する瞬間、自分の盾の慣性を極大化させ、それを手川先輩のシールドに叩きつけシールドごとリングの外に弾き飛ばした。

 

「やるわね、エリカ」

 

エリカが1人を倒したのを見て、私は練習は終わりというように本気を出す。私が発動した魔法は七宝君に教えている気体群体制御魔法の応用。シールドダウンは流体、固体を使う魔法は盾に当てなければいけないが気体はどこに当ててもルール的には問題ないのだ。

私は空気中の分子を移動させ、気圧が高い場所とほとんど真空な気圧が低い場所を作り出し、それを一気に解放させた。そうするとどうなるか。気圧は高い方から低い方に移動するので、一気に空気が移動するのだ。

普通の魔法では起こすことのできない台風を上回る竜巻ほどの風力が発生し、千倉先輩を吹き飛ばした。しかしこの魔法には弱点がある。

 

「ちょっと…咲!なにやってんのよ!」

 

この魔法は範囲を設定できないので硬化魔法で地面と自分の相対位置を固定していた私はともかく仲間のエリカも吹っ飛ばしてしまうという弱点がある。すまぬ、エリカ。

 

男子の方を見るとレオと沢木先輩ペアが代表ペアの桐原先輩と十三束くんペアに勝利していた。

 

 

エリカの批判を受け流し、この結果を見てため息をついている服部先輩とこっちを見ている達也の方に歩いていく。

 

「四葉…やはり千葉と西城を選手にした方が良かったんじゃないか?」

 

「攻撃部位に縛りがなければあの2人は最有力候補だったのですが」

 

そんな話を2人でしている。この話は私が休んでいる時に代表選考の席でもそういう話が出たらしいが、もっとも強く反対したのは達也らしい。

 

「シールドダウンのルールでは勝てないと?選考の時にも言っていたが、実際に試合をして見るとこれでは」

「みんなシールドダウンの戦い方に慣れてないだけです。なあ、咲」

 

服部先輩の疑念をやんわり否定した後、近づいてきた私に声をかける。

 

「ええ、そうね」

 

私がうなづいているのを見て達也はまた別の人に声をかけた。

 

「エリカ」

「何?」

「エリカ、咲の相手をしてやってくれ」

「ペアを組むんじゃなくて今度は対戦相手ってこと?」

「ああ」

「いいわよ、咲にはさっき吹き飛ばされた恨みがあるしね」

 

エリカはやる気満々で物騒な笑顔を携えながら跳ねるようにしてリングに上がった。

 

「咲」

「わかってるわ」

「だろうな」

 

そんな会話をしてリングに上がった私を見てエリカは顔を引き締めた。

 

「エリカとやるのは初めてかしら」

「そうね、楽しませてもらうわ」

「2人とも構えて」

 

試合場内に審判がつかない九校戦の慣例にもれず試合場内には審判はいない。試合開始を告げるブザーの代わりに達也がホイッスルを吹いた。

 

エリカが先に動いた。エリカはあまり遠距離魔法は得意ではない。なので自分の得意な近距離戦闘に持ち込んでからが勝負だと思っているのだろう。

確かにエリカは近距離戦闘は私より強い。ノールールの斬り合いなどであったらガイトさんを神依しない限り100%負けるであろう。しかしエリカは大事なことを忘れている。このルールは普通の近距離戦闘ではない。攻撃してくる方向が限られている魔法近距離戦闘だ。

エリカの身体が急停止する。自分の身体にかかる慣性を中和しているからこそこうなる行動なのだが、止まったのはエリカの意思によるものではない。私が展開した対物障壁にエリカの盾がぶち当たったのだ。

私はエリカがどんなフェイクをかけてどんなに早く動こうと最終的には私の盾に向かって突っ込んでくることを予期していた。なぜならこのルールの近距離攻撃は盾にしか認められていないから。それなら盾に突っ込んでくるのは自明の理である。私は次のステップに移動した。

 

エリカの身体がふわりと浮かび上がる。自分で飛んだわけではない。私が斜めに使った障壁に乗り上げた格好だ。慣性を中和しても重力は作用してるから踏ん張ることはできる。だが足場から切り離されたら抵抗するすべはない。ここで慣性を中和してる術式を破棄すれば問題ないのだがエリカの能力では間に合わなかったのだろう。

そのままエリカは私の障壁によって羽のように場外に運ばれた。

 

 

 

「やられたやられた、咲はやっぱり別格だわ」

「このルールはエリカの行動が制限されやすいからエリカにとって不利なルールよね」

「そんなこと言ったら咲も病み上がりだから動き悪かったじゃない」

 

達也が見ていないときは調子が悪いのがバレないように軽い自己加速魔法で動きを補助していたのだがその魔法を気づかれたのだろうか?

 

「そんなに動き悪かったかしら?」

「今日の咲、全体的に歩幅がいつもに比べて狭いよ。これって身体がだるくて重いからでしょ」

「流石エリカね」

 

流石エリカ。武道の道を極めたらそんなことまでわかるのか。

そんなことを喋っているとさっきの試合を見せて、肉弾戦を挑んでくる相手の対処方法を千倉先輩と手川先輩にアドバイスを終えた達也は端末を取り出し、別会場に向かった。

お目付役がいなくなった私はやりたかったことを提案する。

 

「服部先輩」

「ん?なんだ」

「私と桜井の対戦を許可してもらえるでしょうか?」

 

ずっとやりたかった水波との対戦。ボディーガードとガード対象者の戦闘は当然許されていない。達也や深雪がいれば止められるに決まっているのだが、そんな四葉家のきまりを服部先輩が知る由も無い。私は達也と一度対戦したことはあるが、達也は深雪のボディーガードであるので問題なかったのだ。

 

「向こうはペアの代表なので2vs1で大丈夫ですが」

「会長のお前との練習はためになるだろうな、対戦を認めるが俺に許可を取る必要はあったのか?」

「はい、ありました」

 

この許可はバレて本家から文句を言われても先輩と後輩の対戦だったという言い訳をするための工作である。

 

私はリングの側に立っている水波とペアの子に声をかける。

 

「水波ちゃんとえーと…」

「は、羽田です」

 

水波と緊張している水波とペアを組んでいる子に話しかける。

 

「次は1vs2で私と対戦だそうよ」

 

いかにも服部先輩が提案した風に言う。

 

「咲様…!ですが…」

「今は先輩、後輩の関係と思って、ね?」

「……わかりました」

「羽田さんもよろしくね」

「よ、よろしくお願いします」

 

 

 

私と2人はリングに上がり向かい合っていた。最初水波は戸惑っていたし、羽田さんは緊張していたが選手に選ばれただけあって向かい合っている今は集中した顔をしている。

 

「3人とも構えて」

 

試合開始を告げる笛を今度は服部先輩が鳴らした。

最初に動いたのは私と水波。私がドライブリザードを放とうとするが、その前に水波が対物障壁を貼る。私はそれを見て先ほどの試合で放った暴風を起こすが水波はそれを読んでいたのであろう。真空の膜を貼る気密シールドを発動し私の暴風を防ぐ。

自分が起こした暴風の中、相手を見るがどちらも動いていない。いや動く必要がなかったのだ。

 

「…詠唱魔法ね」

 

詠唱魔法。古式魔法の中でも特に特徴的なものであり、現代魔法が発達した今、ほとんど使われていないものである。

詠唱魔法の特徴として発動までに長い詠唱を必要とし、隙が大きい。そしてその詠唱を知られていた場合、その詠唱を聞いた段階で対策を取られてしまうという大きなデメリットがある。しかし、発動できた時の魔法の規模や干渉力は高く、詠唱魔法でしか起こせない事象もある。

 

達也が羽田さんと水波を組ませたのは水波の高校生離れした防御力で羽田さんの詠唱魔法の発動までの時間を稼ぐという作戦を考えたからだろう。シールドダウンは近接戦闘に優れた選手を代表にしがちなので逆に遠距離系の選手を代表にする達也の考えにおそれいる。詠唱魔法の効果がわからないが確かにこの戦法をこのペアを新人戦のレベルでは攻略するのは難しいだろう。

そんなことを考えていると詠唱が完了したのか羽田さんの魔法が発動した。

 

「TK(テレキネシス)なんて始めて見たわ…」

 

 

『テレキネシス』。物を能力で持ち上げ移動させる魔法。ものを浮かせる魔法ならば単一工程魔法などでも再現可能であるがこの魔法は他の魔法と違い加速、減速、ベクトルなどを自由に変化することができる。この魔法を自分にかけることにより飛行魔法として使用することもできるので、汎用性も強度も段違いである。飛行魔法を開発した達也はTKにも注目していた時期があったので羽田という苗字でピンときたのであろう。

 

羽田さんは私が持っている盾を浮かび上がらせて、盾と共に私をリングの外に出そうとしている。盾から5秒間手を離したら負けであるので普通の人ならこの魔法を発動された時点で負けであろう。普通の人ならば。

 

「よっと」

 

いきなりの盾の浮遊は止まり、盾と共に私は地面に着地した。

 

「嘘…」

 

テレキネシスをやぶられて驚く羽田さん。強度は高いし、魔法式を使う魔法でもないので発動された時点での無効化する方法はほぼない。私が無効化した方法はこの魔法特有の弱点、テレキネシスを使う時、魔法式の代わりに浮かべるものと自分の間にpassをつなぐ必要があるという点をついた。私は塞の神依を行い、盾と羽田さんのpassを塞いだのだ。それによりテレキネシスは効果を失い、私は盾と共に地面に着地することとなった。

 

「そろそろ反撃しないとね」

 

しかし反撃は容易ではない。普通ならば水波の障壁を破って盾を攻撃しなくてはいけない。

 

「サキ、テレキネシスできる気がします」

「これが咲様の…」

「え、なにこれ…」

 

私は『詠唱なし詠唱魔法』で発動したテレキネシスによって相手を場外まで運び勝利した。

 

私が今回使った神依はマホ。原作では一度見た相手の能力を1日に各1回真似できるというチート能力であり、この世界に置き換えると相手が発動した魔法をデメリット無しで使用できるという能力となる。なぜデメリット無しになるかというと、咲vita全国編でのマホは1局ごとにランダムで14人のキャラの中から1つの能力を得るのだが、玄の能力がきた場合、ドラを切ると次の局からドラが来なくなるという能力は次の局から別の能力が発動されリセットされるのでドラをきっても何も問題がないという玄ちゃん涙目の能力になっているからだ。

 

今回の場合詠唱が長いというデメリットを無視して詠唱魔法を発動することができたのだ。

 

 

なんか水波と対戦したというより羽田さんと対戦した感がいなめないが水波の障壁魔法の強度を知ることができたのでよしとしよう。

 

「咲様、ご指導ありがとうございました」

「ありがとうございました」

 

水波と羽田さんが頭を下げてくる。水波はどうやら自分の中で指導ということにして折り合いをつけたらしい。

 

「2人ともすごいわね。負けるかと思ったわ」

 

私に褒められて羽田さんは嬉しそうにしている。実際、初見でこの2人相手に勝つのは深雪レベルじゃないと厳しいと思えた。

 

「それに羽田さんのその魔法、私好きだわ」

 

詠唱魔法はいかにも魔法って感じで私は好きだ。私がそういうと羽田さんは何か思い直したような顔をしていた。

 

 

 

 

羽田飛代

 

古式魔法の名家、羽田家の1人娘。羽田家は詠唱魔法、特にテレキネシスを利用した飛行魔法を得意としており、この方法による飛行は羽田家の人間しかできないと言われていた。飛代もそれを誇りとしていたし古臭い詠唱魔法と陰で言われていても我慢することができた。

しかし一年前、その誇りは完全に打ち砕かれた。FLTのトーラスシルバーによる汎用飛行魔法の発表。それも詠唱無しに簡単に飛べるものだ。

 

飛代は迷った。それまでは三大難問の1つ、飛行魔法を実現している例外の1人であったので自信を持って魔法科高校に進もうと思っていた。しかしその自信が打ち砕かれた今、自分は魔法科高校に進むべきなのか。

 

そんな迷いと共に夏休み、九校戦を見に行った。そこで飛代は1人の選手に度肝を抜かれた。飛代の度肝を抜いた選手こそ、咲であったのだ。

自分のように単に1つの魔法を使うのではなく、複数の強力な魔法を使いこなす咲。そんな咲の姿にすっかり虜になってしまった飛代は第一高校に進学することを決めた。

 

飛代の入試成績は1科生に入ったものの1科生の中では中の下程度。飛行魔法が実現していないならともかく、自分が九校戦の選手に選ばれるとは夢にも思っていなかった。九校戦の選手に選ばれたとき、選ばれて嬉しいという喜びもあったがそれよりも咲とお近づきになれるかもという期待を持った喜びの方が大きかった。

金曜日に行われた代表選手が集まる最初の顔合わせでは咲は欠席。少し落胆する飛代であったが、次の日、待ち望んだ日がやってきた。憧れの咲との対戦。結果は1vs2だったにも関わらず完敗だった。自分の得意とする詠唱魔法を発動させても勝てない相手。そんな憧れの相手に自分の魔法を褒められたのだ。

 

飛代は飛行魔法が発表されてから心の底で自分の詠唱魔法を蔑んでいた。それは自分自身を否定していたのと同じであり、自分自身を蔑んでいたのだ。憧れの咲に褒められたことによりその胸につかえていた暗い気持ちは取れ、まだ詠唱魔法も捨てたものじゃないという誇らしい気持ちに再び置き換わったのである。

 

 

 

このように咲は何気ない言葉で人の負の気持ちを正の気持ちに変えることが多々あるのだが、咲自身は気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第82局[信頼]

22巻の水波ちゃん可愛いですね


7月も下旬になって、達也もようやく身動きが取れるようになってきた。1ヶ月ほど積み重ねられてきた九校戦の新ルール対応も目処がついてきている。ロアガンもシールドダウンも選手が随分慣れてきていて今週の戦績は選手が練習相手に勝ち越している(なお咲は未だ無敗)。唯一の懸念はスティープルチェース・クロスカントリーなのだが、これは整地されていない地面になれる以外特にやれることはない。

 

そうしてなんとか時間をひねり出した7月21日の土曜日の夜。達也は八雲と計画していた第9研の調査に踏み切った。

こうなった要因は実は咲が夢の中で謎の攻撃を受けていた時、不可解なメールが届いていだからだ。

 

その送られてきたメールには差出人がなく(今の時代差出人を空欄にすることは不可能)、そこには今回の九校戦種目変更は国防軍の圧力によるものだということ、九島家がこれに乗じて秘密裏に開発した兵器の性能試験を企てていること、その舞台となるのがスティープルチェース・クロスカントリーであることが書かれていたのだ。

それを八雲に次の日相談し、今日の調査に乗り出したのだ。

 

この件は深雪と水波には知らせているのだが咲には知らせていない。あの日からの咲は普段通りにしているように見えてもどこか怯えているようで精神状態が不安定な時が多々ある。それは深雪も気づいていて、深雪がそれとなく夢で何を見たのか聞いてもはぐらかされたそうだ。そういうことから咲にこの件を伝えるのは咲の精神状態を悪化させることがあるので咲の力を借りず達也自身でやることにしたのだ。

 

今達也は奈良に向かうリニアの個室で寛いでいた。スパイの真似事をしに行く達也がどうしてそんなに贅沢をしているのか。その理由は同行者にあった。

当初の予定では、達也と八雲の2人だけであったのだが、現在乗客数は1人増えて3人。「連れてって下さい」と訴える深雪に押し切られたのだ。

 

一方咲と水波の2人は家で留守番だ。咲は今日も地下の実験室にこもって魔法の練習で水波はそれのお守りだ。

 

咲はあの日から少し変わった。今までは魔法を楽しそうに練習していたのだが、今は苦しそうに、怯えるように、そして鬼気迫って練習しているようにみえた。魔法の練習に1日の時間をほとんど取っているため、あまり睡眠もとっていないらしい。

達也が大丈夫かと聞いても大丈夫と答えるだけ。咲は頑固なのでたぶん話してくれないと考えた達也は咲が話してくれるまで待つことにしたのだ。

 

そんなこんなで3人での奈良までのリニアの旅が中盤まで差し掛かった頃、少しウキウキしてる深雪の横で達也が口を開いた。

 

「師匠、1つ伺いたいことが」

「なんだい、達也くん」

 

達也が八雲に質問することは珍しいことではないが、八雲は達也の顔を物珍しげに見返した。

 

「遅延型の術式で、夢に干渉する魔法をご存知ないですか?」

「咲くんがその攻撃を受けたという可能性があるということかな?」

 

理由を寸分狂わず当てられたことに達也は少し面食らってしまってしまった。

 

「驚いているようだけど達也くんは咲くんと深雪くんのことになるとすぐ顔にでるからね」

 

達也の鉄の仮面を被ったポーカーフェイスも八雲には看破されていた。

 

「それで、師匠はご存知ないですか?」

 

達也はそれには言及せず話を進めることを優先した。

 

「少なくとも僕は聞いたことはない。それにどうして遅延型だと思ったのかい?」

 

達也はこの前の日の説明を始めた。

咲が寝ながら絶叫していたこと。

その時、外部からの魔法攻撃の兆候はなかったこと。

その日の後の3日間、咲は風邪と嘯いていたが実際は歩けもしなかったこと。

 

「その起こす時、サイオンは出ていなかったのかい?」

「恐らくは」

「たぶんそれならテレパシーが使われたんじゃないかな?」

「テレパシーですか?…」

 

達也の横で静かに聞いていた深雪が疑問の声を上げる。

 

「テレパシーは魔法の兆候はなく、お互いに意思伝達するためのパスを繋ぐだけだから君の目じゃみえない。咲くんの目だったらたぶん見えるけどね」

 

「テレパシーを用いて攻撃することなんて可能なのでしょうか?」

 

「可能だよ。例えば自分の一番言われたくないことを耳元でずっと言われ続けられたらどうだい?夢の中に干渉する方法はわからないけど肉体攻撃ではなく精神攻撃なら可能さ」

 

2人は八雲に頭を下げる。2人は八雲を見直すと共に、そんなことがあったならどうして咲は自分たちに話してくれないんだという小さな怒りも混じった心配を募らせていた。

 

 

 

奈良で行われた旧第九研の調査は満足のいく結果が得られた。旧第九研で開発されていたのはパラサイトと人型機械を融合させた戦闘用ロボット、パラサイドール。それがスティープルチェース・クロスカントリーで実験の場として使われることがわかった。それだけならまだ良かったのだがパラサイドールの開発に携わっている大亜連合から亡命してきた方術使いが、そのパラサイドールを暴走させようとしていることも判明したのだ。

今回の一件も一筋縄じゃ行きそうにない。わかってしまえば単純な構図なのかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達也たちが調査に出かけた後、咲は達也の予想通り実験室に篭って魔法の練習をしていた。

 

「この前の攻撃はテレパシーを使った攻撃だろうから先手は打たれる…問題は先制リーチ打たれた後、どうやってその魔法を掻い潜って相手の居場所を突き止め反撃にでるのか」

 

咲はブツブツと独り言を発して、自分が今まで考察したことをまとめる。

 

「反撃は無理でも、あの夢の世界を打ち破るくらいはしないといけないわよね…今回は達也がロキだったわけだけど」

 

咲の前には何枚ものルーズリーフが重ねられている。あの世界を攻略するための作戦のプロットが何個も書かれているがたどり着いた方法は全部同じで1つ。

 

「やっぱり冷やし透華の神依を使うしかないわね…」

 

 

 

冷やし透華

公式には冷たい透華。龍門渕透華が多数の強者とまみえると発現する人格であり、原作では咲.衣.カツ丼を相手にして四連続トップという圧倒的な力を持っていた。能力は治水。鳴きもツモ上がりも相手に許さない圧倒的な支配力で卓を支配していた。

 

咲はこの能力を自分以外の近くで発動した魔法を無効化し、自分に対しての魔法も全て無効化という能力に変えた。キャストジャミングや絶対安全圏などのような生ぬるいものではない。完全にその場を支配する能力である。これで夢の攻撃を無力化できるだろう。

 

問題はどうやって冷やし透華を神依をするかであった。冷やし透華を最初から神依することはできず、透華を神依して多数の強者にまみえることによって冷やし透華に進化するのだが多数の強者ってところが問題であった。

 

達也と深雪も強者に分類されるのだが、咲は2人をどうしても強者ではなく家族としか見ることができず、冷やし透華になることができない。そこが悩みどころであった。

 

「咲様」

 

実験室の扉の外から水波が咲に声をかける。

 

「何かしら水波ちゃん」

「今日の達也様と深雪様のお出かけは…」

「言わなくていいわ、わかってるわよ」

 

水波は唯一の咲の悩みと達也深雪の隠し事の両方を知っている人物である。水波は咲が主人であるので達也深雪の隠し事を報告しようとしたのだが咲はそれを止めた。

 

「私はあの2人を信用してるから」

 

水波が聞いた声は本当に2人を信用しているような声であったが、自分のことは信用していない、なんとなくそんな風に聞こえる声であった。

 

 




話が進まない…


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第83局[初見]

今回は原作準拠
文字数結構書いたのに話全く進んでないな…


今年の九校戦は8月3日が前夜祭パーティ、5日に開会、15日閉会の日程になっている。競技日程だけで去年より1日多い11日間だ。

 

ただ日程は変わっても開催場所は変わらない。一高選手団は例年通り、前夜祭パーティ当日午前8時半に学校集合で、そこから大型バスとエンジニア用の作業者に分かれ会場に隣接された去年も泊まったホテルに行く段取りである。

 

今年の達也は深雪の圧力で強引に大型バスの方に乗ることになり(達也は技術スタッフも兼ねているので問題ないのだが)、今作業車の前で銀髪の一年生に移動中の注意をしているようだ。

 

私は窓からその姿を見ていたがふと横からの視線が気になって一旦目を離した。

 

「どうしたの、深雪?」

「いえ、お姉様お加減はいかがですか?」

 

どうやら横に座っている深雪は私のことを心配してくれていたらしい。

 

「流石に最近の睡眠不足はきついわね。残りの事務任せていいかしら?」

 

私が言う事務とは会長が本来やるべき仕事であるが、点呼はバスに乗る前に取るので実際はほとんどない。なので何かもしあったら深雪に任せて寝ようと考えたのだ。

 

「大丈夫です、深雪にお任せください」

 

深雪が微笑みながら返答してくれたので私は久しぶりにゆっくり寝ることにした。

 

 

 

バスは私が未来視した通り途中事故もなく、私たちは無事ホテルに着くことができた。細かなトラブルも起こらず全て予定通りに進み、また面倒なイベントが始まろうとしていた。

 

「サボっちゃダメ?」

「ダメです」

 

前夜祭パーティ、また気が重くなるイベントだ。

 

「お願い深雪」

「…… だ、ダメです」

 

上目遣いを使って可愛くお願いしたのだがダメだった。こうなったら最後の手段だ。

 

「見逃してくれたらキスしてあげるから」

「キ、キ、キ、キス?!!?!」

 

よし上手くいった。深雪は私の言葉に脳内でショートを起こしてる今がチャンスだ。

 

「冗談よ深雪」

 

私は逃げるために部屋のドアを開ける。

36計逃げるに如かず、逃げるが勝ち、先手必勝。

 

「ゲッ」

「人の顔を見てゲッとは大層な挨拶だな」

 

つい思ったことを口に出してしまった。ドアを開けた先には達也がいたのだ。深雪があらかじめ私が逃げると読んで、達也を配置したのだろう。後手必敗…

「お姉様」

 

おそるおそる後ろを振り返ると笑みを浮かべた深雪がこちらを見ていた。目は笑っていなかったが。

 

「さっきの発言はどういうことでしょうか?」

「そんなにして欲しかったの?」

「そ、そんな訳ではありませんが…」

 

私の言葉に深雪は再び顔を赤くした。

 

「そろそろ時間だ行くぞ」

 

達也が呆れたように私たちを見ながらこう言ってこの場は流れることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

達也、深雪、水波の3人が前夜祭パーティーの会場に入場すると入口近くの生徒の視線を一点に集めた。当然この3人の中で一番注目されているのは絶世の美女である深雪だが、引けを取らないぐらい達也も注目されていた。単に四葉というだけではなく去年のエンジニアとしての評判も各校に広まっているのだ。水波はそんな2人と一緒にいるので同じような視線を受けて落ち着かないようだが、ふと異変に気付いて達也に声をかけた。

 

「達也様、咲様はどこへ?」

「いつものことだ、問題ない」

 

達也は手を軽く振って答える。どうやら水波はパーティーで咲が姿をくらますことを知らなかったようだ。水波はボディーガードとして護衛対象が見えないのは不安なのだろうが、近くにいるのは見えているし別に出席はしているのだから問題はないだろう。

 

前夜祭パーティは立食形式とは言ったものの、前夜祭の段階では各校固まっている。生徒会や部活連の顔役(生徒会の顔役は咲があずさに任せた)は挨拶回りをするのだが、開始前であるのでまだそのような者は各校いなかった。

 

達也の隣には深雪がおり、その深雪は達也の肩に刺繍されたエンブレムを見て嬉しそうに微笑んでいた。

 

「深雪、何がおかしいんだい?」

 

愛想笑いか本物の笑顔か、咲と深雪限定だが達也は見分けることができる。なぜかいきなり急に浮かべた嬉しそうな微笑みの理由が気になり、達也はそう声をかけた。

 

「いえ、お兄様の魔工科の制服がよくお似合いで、深雪は嬉しくなってしまったのです」

「どうしたんだ、改めて。もう四カ月も見ているはずだろう?」

 

近くで聞いていた水波はなんなんだこの人は、という冷たい目をしていたが、この場において彼女は少数派、というか1人であった。

 

「達也さん、私もそう思います!」

「私も」

 

威勢良く深雪の意見に賛同したほのかに続いて、雫も同じ意見。

 

「そうだね、去年は借り物だったせいかな。なんとなくしっくり来ていなかった感じだったよ」

「そーだねー」

 

スバルと英美もこれに同意する。ここにいる二年生女子全員は同じ意見であるようだった。

 

「達也なんかに花は似合わないからね、プププ」

 

といったような最後の二年生女子の笑い声が小さく後ろから聞こえたような気がするが達也はスルーした。

今、達也の周りには咲をのぞいた二年女子の選手が勢ぞろいしていた。傍からみたらハーレム状態である。同じ二年生の男子、十三束と森崎、そしてモノリスコードの選手に選ばれた幹久古は部活と風紀委員会の先輩である沢木に捕まって三年生の中に囚われている。

 

達也は別に女性が苦手ではないが、美少女と呼ばれる娘ばかりという状況はやはり落ち着かないものであった。

ジロジロと女子を見る訳にもいかないので達也は会場をぐるりと見回して見ると、同じように女子生徒に囲まれている知人を見つけた。

その人物も達也に気づいたようで達也に向かって歩いて来た。

 

「お久しぶりです。四葉さん」

「ええ、ご無沙汰しています、一条さん」

 

達也に声を最初にかけるのではなく、将輝は深雪に対して声をかけた。緊張した声で挨拶した将輝に対し、完璧な愛想笑いの深雪。将輝は咲に婚約を申し込んでいるはずだがと思ったが、同じぐらい美少女の深雪に対して目移りするのはおかしいことではないだろう。

そんなことを考えられるぐらいの間が一瞬あくがそれを取りなしたのは吉祥寺であった。

 

「横浜以来ですね、変わりなさそうで何よりです、四葉達也君」

「そちらも壮健そうだな、吉祥寺」

 

ややぶっきらぼうだが、達也にしてはそれなりに友好的な表情で応じ、そのまま隣へ顔を向ける。

 

「そして一条も。横浜では大活躍だったと聞いているぞ。さすがはクリムゾン・プリンスだ」

「その呼び名、やめてもらえないか?」

 

達也が彼の2つ名を呼ぶと少し嫌そうに顔をしかめた。

 

「嫌なのか?からかっているわけではないんだが」

「仰々しいのは嫌いなんだよ。普通に一条でいいだろ」

「わかった」

 

素直に達也が答えると将輝は意外感を示したが口にしたのは別のことであった。

 

「ところで今日のパーティは欠席しているのか?」

 

主語がない文ではあったが、達也は正確にその文でさしている人物を理解していた。

 

「咲さんの姿が見えなくて一目見ようと各校楽しみにしていた人が肩を落としているんだよ」

 

咲はこの会場に入る前からステルスモモを発動しているので気づいている人は知覚能力を持つ選手だけであろう。もしかしたら咲に気づけるのは達也自身だけかもしれない。

 

「一応、この会場にはいるんだがな。ちゃんと探したのか?」

「彼女がいたら人垣ができるに決まっているんだからすぐにわかるだろ!それに四高の机付近で咲さんが見当たらなくて大騒ぎしている生徒がいたんだぞ」

 

四高、咲が見当たらなくて大騒ぎ、誰のことかわかった気がしたがその件について関わると頭が痛くなることは確定なのでその件に関しては咲に任せることにした。

 

「まあいい、ところで四葉っと、この呼び方で構わないか?」

「無論だ」

 

三人の側では一高と三高の女子の間で交流しており、深雪に対して少し遠慮気味に見えたが和気藹々とお喋りをしている。

そんな声をBGMに将輝が声のトーンを低めて達也に話しかけた。

 

「今年の九校戦、何か変だと思わないか?」

 

かなり唐突な話題であったが彼は大真面目であり、横の吉祥寺も同じような表情だ。

 

「そんなにおかしいのか?俺は去年しか知らないからよく分からないのだが」

 

達也の言っていることは半分嘘である。将輝が言っていることはほとんど見当がついていたがそれが正解という保証はない。達也は将輝の口からもっとはっきりした意見を聞きたいということを考えたのであった。

 

「競技種目の変更はまだわかる」

「運営要領も種目変更を前提としていますからね」

挨拶だけで済ませるつもりはなかったらしく、吉祥寺も会話に参加して来た

 

「戦闘的な面に偏っているが、国際情勢を考えれば妥当だとは思う」

「ですが最後の競技、スティープルチェース・クロスカントリーだけは違います」

 

将輝と吉祥寺が交互に言葉を達也に投げかけていく。

 

「そう、あれは他の競技と比べて行き過ぎていて、異質だ」

「あれは元々森林ゲリラ戦の訓練として陸軍の訓練で行われるもので、スティープルチェースと名前が付いているのも不思議なぐらいです。公開されている情報も少なく、大雑把なことしかわかりませんでしたが、長さ4kmというのは現役の部隊でもほとんどやることがない大規模演習用のメニューであるようですね」

「それを高校生の競技会、しかも疲労が残っているだろう最終日に行うなんてリスクが高すぎる」

「おまけに二年生以上全員参加です」

「おかしな点は他にもあるがこの競技は観客やケーブルの視聴者に見せるためではない、何か別の目的があるとしか思えない」

 

2人の話を聞きながら達也はかなり本気で感心していた。彼は差出人不明のメールによって九校戦の裏を調べ始めた。だがこの2人は、おそらく自分たちの思考だけで九校戦の裏にある意思を感じ取っている。

 

「それは一条家と調べた結果か?」

「ん?いや、そこまでは、そんな必要あるのか?」

「気になることがあって調べる手段があるなら調べたほうがいい、割けるだけのリソースがないなら仕方ないがな」

 

達也は挑発したつもりはなかったが将輝がそう受け取っても仕方がない言い方であった。

 

「その程度の余力は常に残してある!俺が言いたいのはそこまでする必要があるのかということだ!」

「知らない方がいいこともある、なんて言うがあれは嘘だ。九校戦最終日のスティープルチェースまでは12日。十分とは言えないが何もできないと諦めなければならない程短くないと思うが」

 

咲にこの件について秘密にしている自分が言うのかと思った達也だがそんなことは顔に出すわけがない。

 

「将輝、ここは四葉君の言う通りかもしれない、僕たちの手には余るけど剛毅さんなら何がわかるかもしれない」

 

剛毅、というのは一条の父親、つまり一条家の当主だ。吉祥寺の意見は達也の意見を支持するものであった。

 

「わかった、家の連中に調べさせてみよう」

 

将輝は吉祥寺ではなく達也の方に向かってそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

達也たち三人がそんな話をしている同じ頃、咲は去年と同じく隅っこでジュース片手に会場を見回していた。最初の方は一高のテーブル付近にいたのだが、達也達のところへ一条が来たのできな臭い話をするんじゃないかと感じ取り、逃げてきたのだ。

君子、危うきに近寄らず。面倒ごとは達也に処理してもらおうと考えた結果だ。それにしても今年は中々見つからないと咲は喜んでいた。去年は九鬼先輩にすぐ見つかったのだが今年は探知系能力持ちの生徒がすくないのかもしれない。このまま見つからずに過ごしたいと思ったが、そうは簡単に問屋が卸さなかった。

達也から離れて少し時間が経った後のことである。

 

「んん……//」

 

不意に身体を駆け巡る快感にモモの神依が解除される。新たな神依が発動するがそれは一瞬だけ。咲はこの一瞬で理解した。つまりこれは…

 

「やっっっっっっと見つかったよ、お姉ちゃあああん」

 

こういうことだと。咲は抱きついて来ようとする自分の神依を解除した張本人のみなもにチョップをかまそうとするが、みなもはそれを加速魔法で躱す。その勢いを保ったまま、みなもは咲に腹にシノチャースタイルの頭突きをかましながら抱きついた。

 

「久しぶりのお姉ちゃんの匂い、今のうちに堪能しないと」

「………」

 

みなもと咲が会うのは、実に8ヶ月ぶりなので会えなかった分シスコンぶり(気持ち悪さともいう)にも拍車がかかっていたのだが、咲は痛みで悶絶して突っ込むことができなかった。咲が声が出せるようになる頃には咲はみなもの餌食になっていた。

 

「…み、、みなも久しぶりね…」

 

みなもは書類上は第四高校に入学していることになっている。みなもは十四使徒(劉雲徳が去年のマテリアルバーストで戦死したので十三使徒の方が正しい)である都合上、行動はなるべく知られない方が重要であるので、普段は四葉本家で通信教育という風に教育を受けている。しかし、九校戦はみなもの頼みもあり第四高校の選手として出場することとなったのだ。

 

「お姉ちゃん、僕がいるのに中々出てきてくれないだもん。酷くない?」

「私がこういう場嫌いなの知ってるでしょ」

 

咲はみなもに抱きつかれながらそう答える。みなもはマタタビを嗅いだ猫のような顔をしていて、その抱きつかれている咲も満更ではない表情をしている。みなもは当然として、咲もシスコンであるので久しぶりに会えて嬉しいのだ。

 

「そういえば、お姉ちゃんに紹介したい人たちがいるんだけどいい?」

 

少したわいもない会話をした後、みなもは何か思い出したようにそう話を切り出した。

 

「いいわよ」

「おーい、2人ともこっちこっち」

 

なるほどそうきたか。

 

「お初にお目にかかります、黒羽亜夜子と申します。去年の咲先輩の九校戦の姿を見て一度お会いしたいと思っていましたの」

「初めまして、黒羽文矢と言います。姉とは双子で自分は弟になります」

「2人は四校で同級生、魔法の使い方もかなり上手いよ」

 

九校戦でやれと咲たちが言われた命令の1つに黒羽姉弟との接触がある。

秘密主義の四葉家。知られているのは当主の真夜と咲たち三人、筆頭執事の葉山ぐらいだ。『黒羽』は四葉家の中で諜報を担う分家である。四葉家の数少ない光である咲との関係を知られるのは闇に潜む黒羽としても困るだろう。だが同じ高校生である以上、接触することはあるので、関係を持つことが必要だ。なので今回は『みなもの友達』として紹介された。その意図を汲み取れない咲ではない。

 

「初めまして、四葉咲です。みなも共々どうぞ仲良くしてくださいね」

 

咲は綺麗に一礼して答えた。実際は知り合いなので何度も顔を見合わしているはずなのだが、優美なその姿を見て文弥が顔を赤く染めたことを責めることは誰もできないだろう。

 

「達也お兄様にも挨拶したいらしいんだけどアポ取れる?お姉ちゃん」

「余裕よ、余裕」

 

咲は三人を引き連れて達也の方へ歩いていく

 

「一条さん、お久しぶりです」

「…咲さん、ご無沙汰しています」

「ねえねえ、ちょっと時間取れる?」

 

咲は達也達三人が話しているところに向かって行き、一条と挨拶したあと、くいくいと達也の腕を引いた。都合よく一条達との話がひと段落ついたところを見計らったのだ。咲に話しかけられた一条は驚いた顔をしていたので三人でそんな深い話をしていたのかと咲は少し気になったが、重要な案件ではないのでスルーした。

 

「なんだ?」

「四高の一年生が達也さんに挨拶したいって」

「俺にか?ああ、わかった」

 

達也が腑に落ちた理由とは別の理由で将輝と吉祥寺も納得顔をしている。咲の妹の『みなも』が四高に席を置いていることは九校戦の生徒なら知っているし、それだけ「四高」と「達也の実績」は親和性の高いものであった。

 

「一条さん。吉祥寺さん、少し達也さんを借りて行きます」

 

「え、ええ。大丈夫です。ちょうど話も終わったところですし」

 

深雪の時と同じく緊張してしまった将輝に対して完璧な淑女の笑みで一礼して、咲はみなもが待っているところへ先導する。

 

「またな、一条」

 

達也の投げかけた声に返事は返ってこなかった。将輝は咲の微笑みによって棒立ちになっていた。

 

 

 

「初めまして、四葉先輩。黒羽文弥です」

「初めまして、黒羽亜夜子と申します。文弥とは双子の姉、弟の関係になります。よろしくお願い致します、四葉先輩」

 

咲とみなもに紹介され、文弥と亜夜子が達也に対して咲の時と同じように初対面の挨拶をする。2人の初めましては不自然さが全くなかった。

 

「初めまして、四葉達也です。みなもや咲とはいとこの関係にあたる」

 

しかしそれは達也も同じだ。

 

「しかし、俺は一高生だ。2人の先輩ではないんだが」

「学校が違っていても四葉さんは魔法師としての先輩です」

「四高生とはいってもわたくしたち姉弟は技術系が余り得意ではないですが、それでもよろしければご指導をいただけませんか?わたくしも弟も先輩の技に感銘を覚えましたの」

「九校戦中は無理だが別の機会なら構わない」

「本当ですか!?」

「ありがとうございます」

 

2人は無事、咲・達也と他人同士という印象を残して四高生徒の集団に戻っていった。

 

 

 

 

そんなお芝居の後、達也は目の前の事態に頭を悩ませていた。

 

「お姉様から離れなさい」

「深雪姉様はいつもお姉ちゃんを独り占めしてるんだから今日ぐらい僕に譲るべきだと思うよ」

「けど、みなもちゃんみたいにそんなにベタベタしてないわ」

「それは深雪姉様が勝手にしてないだけ、僕は好きなようにするだけさ」

「お姉様も困っているわ、ね?お姉様」

「別に困ってないわよ。深雪、今日はいいじゃない?みなもも私と久しぶりに会ったんだし」

 

この3人が揃うと毎回起こる事象。それは咲の取り合いである。

毎回みなもが咲とベタベタし深雪がそれに怒り、口論が起きるというのが鉄板パターンだ。その当人、咲はこの2人には特別に甘い人間であるのでだいたい収集がつかない。今回はみなも優勢であり勝ち誇った笑みを浮かべており、対照的に深雪は唇を噛み締めている。

この口論は止めないといくらでも続くので毎回達也が裁定を下さなくてはいけないのだ。

 

「深雪、今日ぐらいはみなもに譲ってあげたらどうだ?」

「ですが!?……わかりました…」

 

深雪は達也にそう言われ肩を落とししょんぼりしているが、あんまり会えないんだからと達也としては珍しく咲と深雪以外に気を使った。まあ感情論を無視してもみなもの意見の方が筋が通っていると考えられたのだが。

 

「じゃあお姉ちゃん連れて行くから。またね達也お兄様、深雪姉様」

 

みなもは咲と腕を組みながら第一高校とは違うテーブルに歩いていった。

 

 

 

 

 

 

達也と深雪が一高のテーブルに戻ると話題は咲の話であった。

 

「咲ってあんな風に笑うことあるんだね」

「あの咲はお姉様ってよりお姉ちゃん」

 

それがほのかと雫の感想であった。

 

「雫のいうとおりいつもの咲ではないなあれは」

「仲がいいんだね〜あの2人」

 

スバルとエイミィも自分の感想を述べたが達也としてはやめて欲しかった。

 

「そうね」

 

友人たちの言葉を聞きさらに怒りを募らせた深雪の小さい呟きに4人は震え、そして慌てた。どうにかしないといけないと。

 

「み、深雪と一緒にいる時も楽しそうだよ咲は」

「い、いつもの深雪と一緒にいる咲もお姉様っていう感じでいいんだがな」

「咲は深雪のことも大好きだと思うよ〜」

 

「咲はみなものことを妹と見てるけど深雪のことはもっと何か違う大切なものと見てる気がする」

「大切なもの…」

 

慌てて付け足したほのか、スバル、エイミィの言葉で深雪の機嫌はだいぶ上昇傾向で、自身も弟を持つ姉、雫の言葉で深雪の機嫌は完全に治ったようだ。達也は少しホッとすると同時に来賓の挨拶が始まった。

錚々たる顔ぶれの後、例年なら九島烈が最後を締めくくるのだが、今年はないまま来賓挨拶は終わった。

 

雫が聞いてきたところには具合が悪くなったらしいが、九島家の計画を掴んでいる達也にはそれが偽りとしか思えなかった。

 

 

 




22巻面白かったですし、映画も楽しみです。
映画にリーナが出てくると最近知って歓喜しました(リーナは二番目に好きです)


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第84局[夜行]

繋ぎ回


一高女子選手の内、二年生は6人。ホテルの部屋はツイン。そうなると咲と深雪が同部屋になるのは確定しているようなものである。

一方、男子技術スタッフは5人であるので1人余る。そこは達也が去年と同じく相方が機械の1人部屋だ。

達也は寂しいなどいう気持ちは当然なく、逆にこのことはこれから行うことに都合がいいものと考えていた。達也は今、目立たないように黒一色の服に着替え、スティープルチェース・クロスカントリーのコースを調べようとしていた。無論、既にパラサイドールが配置されているとは思っていない。それでもコースの地形が分かれば、何処に罠を仕掛け何処に伏兵を置くか少しは予測できると考えてのことだ。

だが達也はコースに潜り込むことはできなかった。

蟻の這いいる隙間もない警戒システムを見ながら、達也はなぜ去年無頭竜の侵入を許したのかと思ったがすぐ自分の勘違いに気づいた。去年のことがあったからだと。

正規軍の基地が犯罪組織ごときの侵入を許すなど、昔であれば打ち首ものだ。基地の幹部は憤死寸前の恥辱を覚えたに違いない。この厳重な警戒態勢は去年の事件を踏まえたものに違いなかった。

咲の未来視でコースを確認してほしいと達也はふと思ってしまったが、かぶりを振ってその考えを頭から追い出す。今回は咲の力を借りないと決めたのだ。そんな思いと共に、国防軍の魔法師に見つからないよう慎重に視野を広げる。達也の視力はサイオンレーダーに感知される類のものではないが、彼の異能に気づくような能力を持った監視者がいるかもしれない。すぐアクセスを遮断できるよう密やかに、認識を世界に浸透させていく。

 

達也の広げた視界の端に見覚えのある存在が引っかかった。達也の目で見えるものは映像ではなく情報だ。地形などを見るときには使えないが、相手が隠れていたり見つからないようにしているときは咲の範囲を見る目より効力を発揮する。その物理的な距離が近くて情報的な距離が遠い2人の方へ、五分ほど歩いて行き、闇に紛れた影に向かって声をかける

 

「文弥、亜夜子」

 

いきなり話しかけられて驚いた、という気配が生じた。その後すぐ、影が固まり出し形を作る。そこには目を丸くした亜夜子と嬉しそうな文弥の姿があった。

 

「達也さん…驚かさないでください」

「別に驚かすつもりはなかったんだが」

「だったらあんなに怖い声を出さなくてもいいんじゃないですか」

 

亜夜子の抗議は本気の割合がかなりの部分を占めていた。短く吐いた息はホッと胸をなで下ろすものであったし、目尻には反射的なものであろうが少し涙が滲んでいる。

そんな言葉に達也は反論しなかった。戦闘中ではないが、それに近い心理状態であったし優しい言い方ではなかったことを自覚していた。

 

「お前達もコースを調べに来たのか?」

 

謝ったりはしなかったのだが。

 

「……ええ。ですが警戒が厳しくて」

「中に入れなかったんです」

 

亜夜子が言い淀んだ部分を文弥が補填する。

 

「亜夜子の魔法でも入れなかったのか?あ、いや、悪かった、責めているわけじゃないんだ」

 

意外感に捕らわれてきくまでもない質問をしてしまったことを謝罪する。達也が驚いた以上に亜夜子が悔しい思いをしているのは確かめなくても分かることだった。

亜夜子の得意とする『ヨル』といった二つ名の元になった魔法の開発については達也も関わっている。そんな亜夜子でも入れないとは警備の厳重性がうかがえるであろう。

 

「達也兄さんも調査に来られたんですか?」

「ああ、だが俺も中には入れず困っていたところだ」

 

達也の得意とするところは戦闘や暗殺である。八雲に指導を受けているので忍びの技術も一流に近いが、生来の適性からして亜夜子に遠く及ばない達也が、亜夜子に侵入できない場所に侵入できるはずがなかった

 

「咲お姉様はいらっしゃらないのですか?」

「咲をこの件には関わらせない」

 

亜夜子の質問に対して強い口調で返ってきた返答に2人は少し面食らった。

 

「まあ咲の協力があったら、こんな場所には来ないんだがな」

「…じゃあなぜ?」

「まあいろいろな」

 

最近咲の調子がおかしいのは、同じ親族といえども咲の許可なしにいうのは好ましいところではないし、文弥たちは四高で対戦相手である。咲は別にいいというだろうが、一応気を使った結果だ。

 

「そうですか…じゃあ達也兄さんと僕たちで力を合わせてみませんか?もしかしたら3人の力なら」

「いや、その必要はないよ」

 

文弥の具体性のない提案に応えたのは達也でも亜夜子でもなかった

 

「誰!?」

 

亜夜子が警戒心を一気に上げながら発した声に森の中から1人の影が浮かび上がる。

 

「師匠もっと普通に登場はできないんですか?」

「僕は忍びだからね」

 

達也のため息交じりの苦情に、いつもの返しで八雲は応えた。

 

「……達也さん、もしかして」

 

亜夜子は八雲の正体に思い当たったのか、警戒心を緩めながら達也に訊ねる。

 

「たぶん、亜夜子の考えている通りだ」

「ではこの方が、九重八雲先生ですか」

 

感慨深げに文弥が頷いた。黒羽姉弟にとって、2人の力を持ってしても八雲は全容がつかめない相手であり、自分たちが近づかれても気づけないのも悔しいが納得できる。

 

「それで師匠何かわかりましたか?」

「いいや、コースには何も仕掛けられていなかったよ」

「コースに入れたのですか!?」

 

亜夜子が驚きで思わず声をあげ、慌てて口を手で塞ぐ。この警備システムを2人でも無理だったのに1人で突破したのが信じられなかったのだ。

 

「いやいや、それほどでも」

 

八雲は鼻高々といった感じに返答をする。大人気ないと思ったが、それを追求する場合ではないので話を進めた。

 

「それで中はどんな様子でしたか?」

 

パッシブセンサーなら亜夜子の魔法でいくらでも無効にできるのだが問題はアクティブセンサーである。そのアクティブセンサーをどうやってごまかしたのか達也は気になったが、八雲がそう安安と手の内を明かす訳がないと考えた達也は本来の目的を優先したのだ。

 

「そのままの意味だよ。今はまだ、普通の障害物しかない、ただの演習用の人工森林だね」

「パラサイドールが配置されそうな場所の予測はできませんか?」

「できないね。たぶんどこにおいてもそう大差は無い。地形に左右されず運用可能という程度には実践的に作られているということだろうね」

 

今夜はどうやら無駄足だったようだ。達也は八雲に礼を述べようとするとその前に八雲は一つ言葉を付け足した。

 

「あとこれは別件で忍びの勘だけど、何か悪い予感がするから身の回りには気をつけたほうがいいかもしれないね」

「去年の無頭竜のような輩が嗅ぎ回っていることですか?」

「いや、彼らのように大規模な組織ではなく単独犯という気がするね。九校戦全体を大きく狙っているというより誰か個人を見張って狙っている。そんな気がするよ」

「師匠でも尻尾は掴めないと」

「いやはや申し訳ない、だけど忠告はしたんだ。これで許しておくれ」

 

それを聞いた3人は情報と注意をくれた八雲に礼を述べ、ホテルに別々に戻った。

 

 

 

ホテルを抜け出していたのは達也達だけではなかった。咲も時を同じくしてホテルを抜け出していたのだ。富士の裾野は神聖な場所であるので、精霊や神依の力が上昇しているのが肌で感じられ、咲としては練習として最適な場所であったのだ。

咲はシールドダウンで使う神依を確認した後、衣の神依の練習を行った。最近は照の神依の練習も行なっていたのだが、満月に近い今日は久しぶりに衣を練習することにしたのだ。

 

「咲様」

 

練習を始めてからしばらくして、海底撈月の強度を確かめていると不意に後ろから声をかけられた。相手は水波だ。

 

「どうした水波」

「いえ、咲様がホテルを抜け出すのが見えましたので、ボディーガードとしてついてきたまでです」

 

水波は普段の咲の口調と全く違う衣の口調を聞くのは初めてのはずなのだが、疑問を覚えない様子で淡々と応えた。それを聞いて咲は再び練習を再開した。

 

「あの時のことを咲は夢寐にも忘れられないんだ。だから夢中でもあのようなものを見るし、敗滅することを極端に恐れている。咲と衣達は唇歯輔車なのだから、衣が今度は咲を支える番だ…」

 

そんな咲の独り言はこの場にいるただもう1人の人物、水波にしか聞こえていなかった。

 

 

 

 

 

 




次回から競技開始だけど咲以外カットかなあ…


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第85局[弁明]

書いてて思うけど、スティープルチェース編今までに比べてほんと地味だな…


前夜祭パーティーの翌日。特に特筆するべきことは珍しく起こらなかった。強いて言うなら応援のエリカ達が人間主義者に捕まって到着予定時刻より少し遅れたのと、昨日と変わらず咲は朝からずっと魔法の訓練(水波も同伴)に明け暮れていたぐらいか。

 

 

そして次の日の8月5日、いよいよ九校戦が開幕した。今年は競技種目が変わっただけではなく、各種目の運営要領も変わっている。

大会1日目はアイス・ピラーズのペアの男女の予選とロアー・アンド・ガンナーのペアが行われる。

達也はアイス・ピラーズ・ブレイクで雫のCADを担当し、ロア・アンド・ガンナーで英美のCADを担当している。2人の試合時間が重なることがなかったのでホッと一息つく達也だったが忙しいことには変わりない。一方、咲も生徒会長として選手の激励に忙しく、2人はほとんど言葉を交わすことなく初日の競技を終えた。

 

 

初日の結果は英美達のペアが一位、男子のロアガンは三位。そしてピラーズは男女ペアともに無事予選を突破した。

 

「エイミィ、ナイスゲームだったね。ほとんど撃ち漏らし0だったじゃないか」

「ありがとースバル。自分でもびっくりだよ」

 

英美が使った魔法、それは『不可視の弾丸』を散弾型に改良したものである。

実は起動式は公開されているが、この魔法はあまり普及していない。なぜならば魔法の用途自体が限定されているためである。

 

『不可視の弾丸』は、指定したポイントに圧力を発生させるというただそれだけのもので、対象物の状態を直接変更する効果はなく、戦闘用としても非戦闘用としても有効活用できるシーンが限られている。

学術的には極めて有意義だが、実験室以外では他の魔法を使うほうが効率が良いことが多く、これが普及の妨げになっている。

 

その魔法をあえて達也は改良し、英美に使わせたところ、これがまた上手くハマったのだ。

 

 

だが一高の夕食席はそんな明るい声ばかりが飛び交っているわけではなかった。

幹部席-あずさ、服部、五十里、花音、達也、深雪、咲が集まっている一角ではお通夜とは行かないまでも、真面目な雰囲気で1日目の反省会が開かれていた。

 

1日目の一高の順位は2位、1位は七高である。さすがは海の七高といったところか。そして明日のロアガンソロは最も苦戦の予想される種目であった。

 

「明日のソロは七高が一位を独占してくれた方が、後々の星勘定が有利になるかもしれんな」

「三高との点差が開かないから?」

「自分でも消極的な意見だとはわかっている」

 

三位の三高との差は20点。一種目の結果とはいえ現時点でリードしながら「点差を開けられない」というのは確かに消極的な考え方だ。つまりそれだけ明日のソロに自信がなかったのだ。

 

「やっぱり四葉君がロアガンのソロを担当するか、咲がロアガンに出る方が良かったんじゃない?四葉さんなら誰が担当しても優勝するだろうし、咲なら何に出ても優勝できるでしょ」

 

暴論を繰り出したのは花音であった。いや理屈では正しいのだが、控えめにいってもそれを口に出すのは蛮勇な行為であった。

その言葉を聞いて凍てつくようなプレッシャーが幹部席を襲うが深雪を達也が、花音を五十里が抑えることによって場外乱闘は未然に防がれた。

 

「今からエンジニアの担当変更は不可能です。咲が出場すれば優勝するというのは否定できませんが、俺が担当したからといって戦績が好転するわけではありません」

 

1人を除いて前半は全員が道理だと納得し、中盤は皆確定した事実といった顔で聞いていたが、後半のセリフで胡散臭そうな表情に変わった。今日の競技で女子ペアが一位を取れたのも達也の改良魔法のおかげだということは明白であったからだ。

 

「今日の様子を見た感じだと1周目の練習走行が鍵ですね。そのあたりをアドバイスして貰えるだけでも違うのではないでしょうか。咲は何か他にも意見あるか?」

「あ、うん。達也さんの意見でいいと思います」

 

1人ぼーっとしていた咲に達也が話を振ると少しちぐはぐした答えが返ってきた。そんな咲を見て、達也深雪を除く残りメンバーは珍しいものを見るような顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

去年と同じく達也の部屋を溜まり場にするというアイデアもあったが、今年はCADの調整もしなくちゃいけないということで、達也のグループが雑談場所に選んだのは、CAD調整用の作業車の脇であった。

 

深雪やほのかたちが座っているのはキャンプ用折りたたみ椅子。彼女たちの前にはキャンプ用の組み立てテーブル。頭上にはキャンピングカーのルーフから伸ばしたオーニングテント。ほのかがキャンプみたいと呟いていたが実はこの作業車はキャンピングカーを流用したものである。去年は単なるワゴン車であったことを考えれば格段の充実ぷりであり、贅沢にも思われる。他校の生徒が一高の作業車を見て目を丸くするのは仕方のないことだろう。

この暴挙の首謀者は当然深雪であった。去年の尊敬する兄が受けた待遇に未だに不満と怒りを抱いており、半ば強引に技術スタッフの居住性改善を断行した。なお、その費用は咲のポケットマネーから支払われた(咲は怜+競馬や、かおりんネリー+宝くじなどで簡単にお金を増やすことが可能)。深雪は最初、父親に払わせるつもりであったが、その話が生徒会で決まった次の日には、咲がキャンピングカーの注文から支払いまで一通り終えたあとだった。どこまでも深雪に甘い咲であることがこの一件からうかがえる。

 

「で、咲はどうしてるの?」

「お姉様ならまた裏の森で魔法の練習をしていらっしゃるはずよ」

「咲の魔法力なら負けるはずがない。逆に負ける姿が想像できない」

 

コーヒー片手にほのか、深雪、雫がそんな話をしていた。ちなみにこのコーヒーを淹れたのは達也が連れてきたピクシーであり、深雪と水波は不機嫌を隠しきれていない。しかし、キャンピングカーのシステムはピクシーが掌握している以上、2人に手の出し用がなかった。

 

「妹のみなもちゃん?だっけ、と対戦するから気合入っているのかもしれませんね」

「確かにそれもあるかもしれないわね…」

「他にも理由があると」

「ううん、たぶんそれが大きな理由よ」

 

みなもが咲と同じ本戦シールドダウンソロの代表ということも理由としてあげられるだろう。みなもの魔法力と近接戦闘力を考慮したらシールドダウン、それの本戦に出ても全くおかしくない。深雪は理由がそれだけじゃないこともわかっていたが、2人に本当の理由を教えようとはしなかった。なにせ、深雪も咲がこんなになってまで魔法を特訓する本当の理由を分かっていなかったからだ。

 

 

ちなみにいつものメンバーは咲の他に2人に欠けていた。その2人はエリカとレオだ。エリカは野暮用で来れないと事前に連絡があり、レオはしばらくするとお茶会に合流した。どうやらローゼン日本支社長のエルンスト・ローゼンと話し込んで遅れたらしい。レオにとってその話は気分のいいものではないらしく、達也は深く追求することなくお茶会は進んでいった

 

 

 

 

22時を過ぎてお茶会はお開きになった。幹比古とレオと達也の助手的な役割を果たしている一年生のケントに雫とほのかと美月を送らせ、深雪と水波は後片付けを手伝うといった名目で残った。深雪は兄が帰るまでに帰ることはないし、水波はせめて後片付けだけでもという「メイドの使命感」が割合を占めていた。そして水波のその心は満たされた。なぜならばピクシーは達也に言いつけられた他の仕事にかかりっきりでテーブルの片付けに参加しなかったからである

 

パラサイトは同類を感知できる。人間を宿主にした個体同士だけではなく、人間を宿主にした個体と機械を宿主にした個体同士でも相互に探知可能なことは二月の事件で証明済みだ。ならば機械同士でも相互探知が成り立つはずであった。

 

「同胞の反応は感知できません」

 

しかし、ピクシーはパラサイトドールの所在を感知できなかった。達也は、その理由がパラサイトドールがその存在を捉えられない状態にあるからと考えたのである。機械同士の場合だけ通信ができないというありえない想定は排除した。

 

(休眠状態にしているのか。随分と用心深いな)

 

活性の低い個体は感知しにくいと達也はピクシーから聞いている。九島はそれを聞いているのか分からないが、少なくとも今の段階でわかったことは本番直前までこの方法で向こうの居場所を突き止めるのは難しいとのことだ。

後片付けを終えたという水波の報告を聞いた2人はピクシーをサスペンドモードに戻しホテルへ戻った。

 

 

 

 

8月6日、大会2日目。

今日はピラーズのソロ予選とロアガンのソロが行われた。当然のように深雪は危なげなく予選を突破し、男子は何度かひやりとする場面もあったが無事予選を勝ち上がった。そして一高の幹部が昨日予想したとおり、ロアガンのソロは男女ともに4位、得点0の惨敗に終わった。

他の学校の結果を見てみると七高が男女ともに優勝して勝ち点100、累計200点で一位に立っており、その七高を追いかける形で三高が男女ともに2位、勝ち点60。累計120点で一高を抜き2位に躍り出た。

 

三高のロアガンソロの代表の吉祥寺は七高の走力に全振りして射撃は捨てるというとんでもない強引な作戦に負けたのだが、まあこれは作戦負けというよりは運負け主張をしてもいいかもしれない。

 

 

 

 

その日の夜もお茶会が予定されていたが、達也とケントが参戦するのはCADの調整が諸々終わってからだ。明日は午前にシールドダウンの男子ペア、午後にアイス・ピラーズ・ブレイクの女子ペア決勝リーグがある。ピラーズでは予選に引き続き雫を担当するのに加え、シールドダウンペアでは桐原の担当エンジニアを務める。更に明後日は午前アイスピラーズブレイク女子ソロの深雪、午後シールドダウン女子ソロの咲と中心選手の担当が控えており、この2日が最も忙しくなると予想されていた。

 

達也はケントの手も借りて雫と桐原のCADを調整(点検の方が正しいか)をしていると達也に来客があった。

 

「一条か、どうかしたか」

「こんな時間にすまん、ちょっと今時間あるか?」

 

作業車を訪れたのは将輝であった。

 

「俺たちにとってはそんな遅い時間でもないし、少しぐらいなら構わない。ケント一旦休憩だ」

「はい」

 

ケントにそう声をかけ、2人は作業車の裏手の光の当たらない場所に移動する。

 

「一年生にエンジニアを任せているのか?」

 

並んでついてくる将輝が意外そうに聞いた。

 

「俺も去年は一年だったがな」

 

そんな達也の回答に将輝は苦笑いを浮かべた。

 

「それで?お前が俺に会いにくる用事はスティープルチェースの件しか思いつかないが」

 

咲や深雪に会いに来たという線もあったが、こんな真面目な顔をしているなら流石に違うだろと思ったので無駄話を避け、相手のセリフを先取りした。

 

「ああ、そうだ。思ってたよりきな臭いぞ」

「何かわかったのか?」

「確定とは言えないが国防軍の強硬派が一枚噛んでいるようだ」

「強硬派?」

 

訝しげに達也が問い返すと将輝もすぐに『強硬派』では何に対するものかわからないことに気づいた。

 

「ああ、すまん。国防軍内の対大亜連合強硬派のことだ」

「それが九校戦の裏で暗躍してると?」

 

確かにわかりやすい図式だ。戦争による勝利を望む勢力が、軍事適性の高い魔法師を選別する。

しかし、九島烈と強硬派は結びつけて考えるのが難しい組み合わせであった。九島烈は魔法師を兵器として使用することを嫌っていると以前風間から聞いていたからだ。

 

「酒井大佐は、俺たち魔法科高校生が防衛大を経由せずに、そのまま国防軍に志願することを望んでいるそうだ」

 

達也はますます当惑を覚えた。

戦闘色の強い競技を採用して、魔法科高校の生徒たちの破壊衝動と闘争本能を解放する快感をすりこみたかったのだろう。そうすることで軍人魔法師を目指す若者を増やしたい思惑があったのかもしれない。

だが、それとパラサイドールを暴走させる術式が結び付かない。強硬派はどこまで九島の思惑を知っているのか、もしくは別に黒幕がいるのか、現段階の情報では確定的な判断はできない。

 

「だが、よく酒井大佐の名前まで分かったな」

 

達也はふと湧いた疑問を口に出した。一条家も国防軍とパイプを持っているだろうが、この短期間で首謀者の名前まで調べ上げるのは容易ではないだろう。政党でもあるまいし、軍内の派閥が名簿になっていることもないはずだ。

達也の独り言のような問いかけに、将輝は苦い表情を浮かべた。

 

「親父と酒井大佐は昔の知り合いなんだ」

「まさかとは思うが、一条………」

「いや、違う。誤解するな、四葉!」

 

達也が水を向けると、案の定将輝は慌てた。達也としても否定してくれて一安心といったところだ。敵が増えるならだけまだしも、状況がこれ以上ややこしくなることは流石の達也も面倒だったので、もしそうなったら咲のように力ずくで盤面をひっくり返していたかもしれない。

 

 

「知り合いだったのは昔のことだ!酒井大佐は、佐渡侵略事件で現場の最高責任者だったんだ。お前ならたぶん周知の事実だとは思うが、あの時は親父が中心となって義勇軍を組織して、一先ずは佐渡を奪還し、親父は連隊規模の援軍を回してもらえるように依頼したんだが、国防軍は一大隊を派遣する予定しかなかったんだ。当時は政府も国防軍の意識も沖縄に目が向いていたから、仕方ないと言ってもいいかもしれない。

だが、酒井大佐が親父の要請を受け入れてくれたおかげで、大兵力があったからこそあれ以上の攻撃はなかった。親父はそう言ってたし俺もそう思っている。その点に関しては俺も親父も感謝はしている」

 

早口で否定内容を説明する将輝の話を耳に入れながらも、達也はこじれた事態に備えて、コースの破壊の計画を頭の中で整理し始めた。パラサイドール対策がめんどくさいならコースを破壊すればいいじゃない、まるで咲の発想である。

最終日は結局、咲、深雪、ほのかや雫など主要な競技が終わった後であり、スティープルチェースがなくなったところで別に問題はない。中途半端に九校戦が中断されると魔法協会の面目はつぶれるが、達也の知ったことではない。一高の優勝も達也にとって別に必須ではない。最優先は深雪や咲の安全である。

 

『自作のサードアイ』でも数キロ程度の近距離なら微量質量の照準が付けられ、通常兵器との見分けもつかない。地表付近ならば火山を刺激することもなく、夜中ならば各校の生徒に被害も出ない。問題は咲や深雪の説得と誰に責任をなすりつけるかだ。

 

「だが、大佐は沖縄の戦闘が一段落した後、今度は新ソ連へ逆侵攻をしようと軍部に提案したんだ。親父がいくら諫めても大佐は翻意しようとしないし、結局逆侵攻は実現されなかったが、派遣された連隊が通常配備に戻るまで相当激しい口論は続いて、喧嘩別れのようになったらしい」

 

そんな事を聞きながら考えていると達也は八雲が注意しろと言っていた事を思い出した。もしかしたらそいつに責任を押し付けられるかもしれない。

 

「昨日親父と話した時も『反乱なんてバカな真似をしなければいいが』と悩んでいたが、『もはや他人だから仕方ない』と何度も頭を振っていたくらいだ」

「反乱?」

 

将輝の言い訳と全く無関係のことを達也は考えていたが、聞き捨てならない言葉が耳に入った。

それまで達也が無言で彼の話を聞いていると将輝は思っていたので、突然達也が反応したことに驚き、『反乱』の言葉は過激だったかと少々別の焦りも生じていた。

 

「いや、酒井大佐のグループが実際に反乱の疑いがあるわけではないが、『そのうち反乱でも起こすんではないか』と噂されている程度だ」

「根拠はないが、噂にはなっているということか」

「あ、ああ…そうらしい。とにかく!一条家と酒井大佐との間には今は何にも繋がりがない。過去に関係はあり、共通の知り合いも多いから今回のこともその伝手で分かったことだ。酒井大佐も反乱までは企んではいまい。何か悪いことを企むとしたら若い魔法師を自分の派閥に大勢いれて大亜連合に攻め込もうと考えているくらいだろう」

「それだけでも十分穏やかとは言えない話だが………礼を言う。参考になった」

 

達也は将輝の考えが違うことを分かっていたが、パラサイドールの件に彼を巻き込むつもりはなく、話を切り上げた。

 

「べ、別にお前のために調べたわけじゃないから、礼には及ばん。大会中に特に手を出してくることは無いだろうが、手を出してくるとなると大会が終わった後、閉会パーティーか、個別に接触してくるかだとは俺は思っている。また詳しいことがわかったら、連絡する」

「助かる」

 

将輝は達也の謝辞を受け取り、必要以上にせかせかと歩きながら、ホテルへと戻っていった。

 

 

 

 

替え玉に使えそうな首謀者が見つかったことで、逆に達也は冷静さを取り戻した。偽装工作をするにしても最終日まで正味10日を切っており、明らかに時間が不足している。四葉や八雲の手を借りれば可能かもしれないが、彼らが達也の軍事演習場の部分爆破に手を貸すとは思わない。真夜になら咲が頼めばイチコロだろうが今回の件に咲は関わらせるつもりはない。

柄にもなくあれこれ迷っているようだと、達也は自身の疲れを認めた。一先ず、今日の作業を仕上げてお茶会でリラックスしようと、達也は作業車に戻ることにした。

 




頑張って更新速度あげたいですね


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第86局[意志]

大会三日目

今日はシールド・ダウン・ペアの予選+決勝とアイス・ピラーズ・ブレイク・ペアの決勝リーグが行われ、シールドダウンでは十三束、桐原ペアが優勝。

ピラーズ・ブレイクのペアも花音、雫ペアが他校を寄せ付けない実力を見せつけ、優勝を飾った。

しかし、シールドダウン女子ペアが三高のペアに接戦の末、予選敗退。三高ペアがそのまま優勝したが、もし予選で三高に勝っていたならば逆に一高ペアが優勝していただろう、それほど白熱した試合であった。

だが結果は結果である。2日目終了時点では40点だった一高と三高の点差は100点に開いてしまったため、夕食の席は優勝したペアを祝うという雰囲気は盛り上がらなかった。

 

 

その代わりと言ってはなんだが

 

「雫、優勝おめでとう!」

「まあ雫の実力なら当然よね」

「おめでとー、雫」

 

もう既に定例化した達也の作業車で行われる夜のお茶会で、雫の優勝を祝う言葉が飛び交っていた。

 

「ありがとう、みんな」

 

何度祝われてもやはり嬉しいのだろう。雫ははにかみながら頭を下げた。

 

「明日は深雪だね」

 

雫は恥ずかしさを誤魔化すのと、深雪へのエールを込めて、話題を振った。

 

「私も頑張らないと」

 

深雪も冗談や誤魔化しのない笑みで雫の言葉に答える

 

「深雪は頑張りすぎない方がいいんじゃないかな。肩に力が入ると思わぬ落とし穴にはまるかもしれない」

「落とし穴にはまった程度で深雪が負けるなんてあり得ないんじゃない?気をつけないといけないのはフライングで失格になるのぐらいじゃない?」

「もう。スバルもエリカも私がそんなおっちょこちょいだと思っているの?」

 

スバルとエリカの言葉に深雪はおどけた口調で抗議をした。

 

「いや、そういうわけじゃないんだけどね」

 

スバルが苦笑いを浮かべながらそう返し、深雪からもそれ以上の追及はなかった。

 

「それで咲は今日も練習?」

「ええ、試合前の今日ぐらいお休みになったらいいですのに」

「咲、初日から一回もお茶会に来てないよね」

「咲こそ、そこまで頑張る必要なくない?咲が負けず嫌いなのは知ってるけど、咲に勝てる人なんてほぼいないって」

 

雫の質問に対する深雪の返答にほのかとエリカがそれぞれの言葉を重ねる。

 

「あといつも静かだが今日は人が変わったように静かだった。あれは咲の二重人格なのか?」

「あ、それ私も思いました」

「確証はないけれど、そうだと思うわ。お姉様は去年みたいなことを防ぐために気を張っているのじゃないかしら」

 

スバルと美月が発した言葉に深雪も同意する。深雪は姉が神依をしていたことをわかっていたが、その神依は深雪が知っている神依じゃないような気がしていた。

 

「やっぱりそうですか。今日の咲さんは精霊を使って何か探しているようでしたし、それに」

 

咲と同じく精霊を見ることができる美月が納得するような声色で言葉を発した。

 

「それに?」

「今日の咲さんに見られた時に思ったんです。あ、今見られちゃったなって」

「え?なにそれ見られたんだから見られたに決まってるでしょ」

 

エリカは反論したが、深雪は美月が言っていることが分かる気がした。

 

「ううん、そうじゃないのエリカちゃん。何か自分の大切なもの、本質を見られた気がするそんな気がしたの」

「え、そんな感じしなかったよ」

「私もしなかった」

「僕は気づかなかったな」

「私も美月みたいに思ったよ〜」

 

美月がいう咲のそんな視線に気づいたのは深雪、エイミィ、美月の3人だけであったので、なんとも言えない結果となった。

 

「それより、昼間のエイミィがそんなこと気にしていられたのかい?僕としてはエイミィの機嫌が直って安心したよ。あのまま一晩中拗ねられていたら、困ったものだった」

「す、拗ねてないもん。拗ねてなんかないもん」

 

無気になって反論する英美にスバルは「まあまあ」と彼女を宥める。

スバルと英美は同室である。ほのかや雫たちほど達也たちと仲良くない彼女たちは、会場に来てから二人で行動することが多く、彼女に機嫌を傾けられるとスバルも居心地も悪いだろうし、それ以上に友人として何とかしてやりたいと思ったのだろう。

 

「何があったの?」

 

深雪は英美にではなく、スバルに聞いた。英美に聞いても何も返ってこないことは明白だったからだ。

 

「何でも無いってば!」

「いや、十三束のヤツがね……」

 

スバルの口を英美が横から赤い顔で大声を出し妨害しようとしたが、そんなもので彼女の口を塞げるはずもなかった。彼女が暴露した原因に、ああ、と納得した顔を浮かべるものが多かった。

 

「十三束君がどうかしたんですか?」

 

美月は隣に座っていた雫に問いかけるが、その質問に回答したのはエリカであった。

 

「どうせあの女とイチャイチャしてたんでしょう」

「あの女って?」

「平河、平河千秋よ」

 

そこでようやく美月はエリカが言いたいことを理解したようだ。

平河千秋は今回、十三束のエンジニアとしてCADの調整を行っていた。彼女は元々起動式のようなソフトよりCAD本体のようなハードの方が得意であり、起動式のアジャストはいいが、アレンジは苦手分野だった。しかし、十三束のエンジニアに選ばれたことで気合が入っており、苦手な起動式のアレンジも担当教員であるジェニファー・スミスの元に通いつめ、爆風の起動式を扱いやすいよう組み替えることに成功した。遠距離魔法を苦手としている十三束でも遠距離攻撃ができるように手元の空気を打ち出すという『遠距離型近距離魔法』という風にアレンジしたのだ。

コンセプト自体は作戦参謀の達也が考案したものだが、それを十三束が使いこなせるようにしたのは平河千秋の努力の結晶である。

試合後の夕食の席で十三束と親しげに(親しげというには千秋はうつむいていたが)話していたのを選手のほのかたちメンバーは見ていた。

 

「エイミィ。十三束君のことだから、本当に感謝の気持ちを示しているだけだと思うよ」

「だからなんでも無いって」

 

ほのかの慰めに、英美は再び否定したがその姿を見て英美の言葉を信用できるわけがなかった。

 

「エイミィ。十三束君はダメだよ」

「何が!?」

 

ましてこんなわかりやすい反応を見せるんだから隠す気があるのかという状態だが。

 

「十三束君は達也さんと違って本当に鈍いんだから、はっきり言ってあげないと」

 

雫が省略していた部分を後出しされて、英美は微妙な顔をしていた。弁護する気はないが弁護したくても無理だという顔だ。

ちょうど男性陣の会話がひと段落つき、女性陣の話に耳を傾けていた達也は、引き合いに出されてどんな顔をすれば良いのか選択に困っている様子だった。

ただ幸い、彼の困惑は長く続くことはなかった。

 

「マスター」

 

いきなり達也のことをピクシーがテレパシーで呼びかけた。彼はある特定の状況にならない限り、テレパシーの使用を禁じていた。

つまりその状況が来たということだ。

 

「お兄様?」

「機械の調子が少しおかしいようだから見てくる」

 

達也は静かに立ち上がると、深雪にどうとでも解釈できる言い訳を残しながら、作業車の中へむかった。

 

 

 

 

作業車の中に入るとピクシーが運転席の情報パネルに地図を表示させていた。同胞の位置をキャッチ、つまりパラサイドールの位置を捕捉したようだった。わかったのは向こうのパラサイドールの位置とパラサイドールは16体いるということだ。それは達也が調査に向かった時、旧第九研の中に確認した戦闘用ロボットの数と一致していた。

しかしこちらが捕捉できたように、当然向こうもこちらを捕捉したようで、反応はすぐになくなった。どうやら休眠状態に移行したようだが、ピクシー曰く反応の継続中には移動した様子はないらしい。

向こうにこちらの存在を認識されたのは不安材料だが、達也は無駄足になっても構わないと考え、隠していた装備を身に着けて車外へ出た。

 

車外に出ると、お茶会は既にお開きになっていた。

 

「達也さん、また明日」

「深雪も、また。あと咲にも頑張れって言っといて」

「達也、深雪さん。お邪魔しました」

「じゃあな達也」

 

ワイワイと賑やかにホテルへと戻っていく友人たちに小さく手を振っていた深雪が達也を見上げにっこり笑った。

 

「お兄様は今からお出かけなのでしょう?」「ああ」

 

あまりに的を射ていて誤魔化すことすら考えられず達也は頷いた。

 

「そう思いまして、みんなには引き揚げてもらいました」

 

恐ろしいまでに見透かされていたが、達也もそれも今更かと動揺は顕在化する前に消え失せた。しかし、次の言葉には達也も動揺を抑えれなかった。

 

「お兄様、行かないでください」

「深雪…お前?」

「いいえ。お兄様、行かせません」

 

深雪の顔には興奮の色はない。強い意志を目に滾らせ、達也の前に立っていた。

 

「お兄様が今、敵の元に向かわれる必要がありますでしょうか?深雪は思いません」

「ピクシーが敵の居場所を探知した。ようやく掴んだ手がかりだ」

「それ以前の問題です。私がお尋ねしたいのは、何故お兄様が九島家の実験を事前に阻止しなければならないのかというところです」

 

達也は珍しく言葉に詰まった。達也は差出人不明のメールを受け取った時から、自分が阻止するのが当然のものだと考えていた。だが、本当に自分が成さねばならないことなのだろうか。

 

「深雪は今から、お兄様に身勝手で、浅ましく、差し出がましいことを言います。お叱りは後から甘んじて受けます。ですが、お兄様聞いてください」

 

そう言いながらも深雪は毅然としていた。彼女はそれをしっかり受け止めた上で達也の前に立ちふさがっていた。

 

「九島家の実験にお兄様が責任を負われるいわれは一切ございません。この実験にお兄様は、なんの責任も負っていません」

 

それは達也自身も理解している。彼は心の中で深雪の言葉に頷いた。

 

「それと同時に、スティープルチェース・クロスカントリーに出場する全ての選手に対してお兄様が責任を負わなければならないことは決してありません」

「……」

 

達也は深雪が言いたいことをおぼろげながら理解した。

 

「お兄様。深雪は今から浅ましく、差し出がましいことを言います」

 

深雪の口調に卑下や偽悪は含まれていない。彼女の芯は全く揺らいでいない

 

「優先順位をお忘れではありませんか?お兄様」

 

達也は深雪のその言葉に天啓を打たれるようであった。

 

「お兄様は私とお姉様だけを守ってくださればそれでいいのです」

 

深雪の声は泣き出しそうな声であり、目に溜まった涙を隠すためにか彼女は俯いた。

 

「パラサイドールなど当日まで放っておけばいいのです。パラサイト本体さえ解放してしまうことさえ考えなければ、あのような物などお兄様の敵ではありません。競技終了後に解放された本体は私がまとめて始末します。それでも行くというならば、僭越ながら全力で止めさせていただきます」

 

睨むように、挑むように、深雪が涙をもう流してない瞳で達也と視線を合わせた。この宣言には達也を本気で狼狽させる効果があった。

 

「よせ、深雪。まさか俺の『眼』を封じるつもりか!?そんなことをしたらお前まで魔法が使えなくなるぞ!」

「明日の競技は棄権どころか、退学の可能性もありますね。ですがこれ以上お兄様にご無理をさせるよりましです!」

 

深雪はここではじめて興奮を露わにした。

 

「お兄様はご自分がどれほど無理を重ねているのかお気付きですか?朝から夕方まではエンジニアとしてCADの調整、試合が終われば相談を聞いてアドバイス。夜は遅くまで後輩を指導しながら翌日のCADの準備。それと並列して九島家と国防軍を相手にとっているんですよ!これではいくらお兄様でも持ちません!」

 

深雪の目から涙がポロポロと溢れる

 

「それにお兄様は気づいていらっしゃいましたか?ここ最近、毎日お姉様が疲労困憊でいたことを。お姉様は無理して私たちに笑顔を作ってくれていたんですよ!そんなお姉様を無視するのはあまりにお姉様がかわいそうです!お兄様はお姉様をこの件に関わらせないことで、問題を抱えているお姉様の問題を減らそうと考えられたようですが、まずお姉様の抱えている問題を解決しようとするのが先ではないでしょうか。それに深雪はもう嫌なのです。趣味の読書もせず、ひたすら過剰に魔法に打ち込んでボロボロになっていくお姉様を見るのは」

 

達也は自分が疲れていることを、妹がここまで思いつめていたことに気づかなかったほど、咲のことを考える余裕がなかったほど、疲れ切っていたことを覚った。

 

「深雪がそんなことをする必要はない」

 

達也は穏やかに優しく深雪に語り掛けた。

そんな達也を深雪は意外感に打たれた顔で見上げる。

 

「今日は裏で魔法の練習をしている咲を拾って、このまま部屋に戻ることにするよ」

「お兄様……?」

「俺が間違っていた。お前の言うことが正しい」

 

深雪は説得は無理だと思っていた。人間の一般理論からしたら、達也の方が正しいのは明白だったからだ。

 

「俺はお前たちだけ守れればそれでいい。俺が守るべき相手は深雪と咲だけだ。お前の言う通り、最近の俺は咲が悩みを抱えているのを知っていながらあいつを蔑ろにしすぎた。深雪の言葉で目が覚めたよ」

 

その言葉は深雪の望む言葉と同時に、心を縛る言葉だ。深雪は先ほどまでの雄弁さは嘘のようにただ無言で達也を見つめていた。

 

「咲を迎えにいこう」

 

そういって達也は隠し持っていた武器を戻しに車内に一旦戻った。

 

 

 

お茶会が終わった後の片付けは水波がやってくれていたので、達也が武器を片付けるとすぐに咲が魔法の練習しているらしいホテルの裏手の森に向かいにいく準備は整った

そこで、ふと達也は胸に疑問が湧いた

 

「水波、そういえばお前。咲にお茶会の方に参加してと言われたらしいがそれは命令だったのか?」

「はい、咲様には珍しく命令でした」

 

普通、ボディーガードが護衛主から離れるのはおかしいが、咲が命令したならおかしくないと思える。しかし、咲は部下に命令することが少ないということは四葉家の中では有名である。咲の命令は大体、危険な状況の時に部下を傷つけさせないための時であった。

 

達也は嫌な予感がした。咲の性格、咲にしては珍しい命令、異常なまでの魔法練習、今日の何かを見通す目、そして八雲の警告。何個もの点が一つの線で結ばれた。

 

「咲が危ない。急ぐぞ」

 

達也は慌てて深雪と水波に声をかけると同時に、ホテルの裏手の山の奥で雷鳴が鳴り響いた。




ここからはオリジナル色、原作改変がだいぶ強くなると思います


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こーこちゃんとすこやん編1

IFはこーこちゃん+すこやんからスタート。


全国魔法科高校親善魔法競技大会、通称:九校戦。これは日本国内に9つある国立魔法大学付属高校の生徒がスポーツ系魔法競技で競い合う全国大会のことである。

日本魔法協会主催で行われているが、この大会は生徒の魔法モチベーションをあげるだけが目的ではない。

魔法を知らない一般人の非魔法師にも魔法というものの理解を深めてもらうためという一面も持つ。

 

つまり何が言いたいかというと、九校戦の中継はテレビ放送されるのだ。そして九校戦は見栄えがいい競技が多いいので視聴率も案外高い。もちろん非魔法師には何が起こっているのかわからないと思うので解説付きだ。

 

この解説と実況は毎年九校戦を通して同じであり、次の年になるとどちらも変わる。解説には魔法界の著名人が、実況は旬のアナウンサーが採用されるので魔法師非魔法師のどちらにも注目されるポジションであった。

 

 

 

そんな大役を今年任されたのは

 

「ついにこの時がやって来た。全国魔法科高校親善魔法競技大会。九校各校の誇りをかけた戦いが、今始まる」

 

「何その動作…変な音入るよ」

 

私、小鍛冶健夜はツッコミを入れながらどうしてこうなったとばかりにため息をつくのであった。

 

☆★☆★☆★

 

「九校戦のアナウンサーに選ばれた?」

 

「そう、スーパーアナウンサーの私にとっては当然だけどね」

 

そう言ったのは福与恒子。私はこーこちゃんと呼んでいる。彼女に行きつけのファミレスに呼びつけられたと思ったらそんなことを言われたのだ。

こーこちゃんは入社2年目の新人アナウンサー。そんな立場であるはずなのだが、自分のことをスーパーアナウンサーと称しており、実際子供からお年寄りまで広い世代に人気である。九校戦のアナウンサーに選ばれるのは今が旬のアナウンサーなので本当にスーパーアナウンサーなのかもしれない。

 

「おめでとう、こーこちゃん。お祝いに今日は私がもつよ」

 

「身に余るご懇情を賜り誠にありがたく」

 

「サンキューぐらいでいいよ!」

 

相変わらずこーこちゃんは…黙ってれば美人なのに。まあ生まれてこのかた彼氏がいない私がいうのもなんだけど…

 

「乾杯しよ、すこやん。ドリンク取って来てあげる」

 

すこやんとはこーこちゃんが私を呼ぶ時に使うあだ名である。

 

「いいよ、私がやるよ」

 

「いいのいいの、任せて!」

 

そういうとこーこちゃんはドリンクコーナーに歩いて行ってしまう。ファミレスのドリンクバーは昔と同じくセルフサービスだ。

さっきの言葉は別に遠慮とかではない。

こーこちゃんにドリンクバーなんて任せたら

 

「すこやん、お待たせ〜」

 

ほらぁーー!!やっぱり!なんか変な色だもん!どうやったら青色のドリンクなんてできるの!?

そんなドリンクを手に持ち2人で乾杯し、まずいまずい言いながら飲み干した後(見た目より味はそれでもマシな方だった)、私は気になることを聞いてみた。

 

「それで、魔法の解説役は誰なの?」

「そんなのすこやんにきまってるじゃん」

 

ほらやっぱり!嫌な予感はしてたんだよ。 別に九校戦のアナウンサーの報告だけなら電話でいいもん。

 

「個人5種魔法競技日本最強小鍛治プロの数少ない出番だよ」

 

「数少ないとかいうのやめて」

 

5種魔法競技とは5個の魔法競技、スピードシューティング、バトルボード、クラウドボール、アイスピラーズブレイク、ミラージバッド(男性はモノリスコード)を行い、各種目の順位ごとに点数が割り振られ5種目全部終わった時点での点数で競う競技である。

各種目1人ずつ選出する団体と1人で5種目全てやる個人がある。

ちなみに団体の出る人数を多くして、規模を少し大きくしたものが九校戦のルールとなる。

 

ちなみに私は各競技+個人+団体で7冠を3回達成しており永世7冠の称号があるが、今は地元のチームでプレイしておりタイトルとは遠い存在になっている。

 

「九校戦の解説とか緊張するよ…」

 

「え?よく男子の試合とか解説してるじゃん」

 

「九校戦はそれぐらい別格なの。高校生の三年間しか出れないからね」

 

いつもの競技は有料チャンネルでしか放送されないが、九校戦の解説は全国放送されるものである。

 

「すこやんもアラフォーなんだから未来のお婿さん九校戦で探したら?」

 

「アラサーだよ!何言わせるの!」

 

ていうかこーこちゃん…高校生に手を出したら犯罪だよ!

私は顔を真剣なものに戻す。

 

「九校戦の解説役は名誉な事だし引き受けるよ。よろしくねこーこちゃん」

 

「よろしく、すこやん」

 

私はこの時、こーこちゃんの実況スタイルが頭から抜けていた。

 

★☆★☆★☆★

 

「CMあけたぞお前らーーー!!TVの前に集まれー!」

 

「CMないがしろにするとまたスポンサーからクレームくるよ…」

 

「局アナなのにすみません☆」

 

「フリーでもダメだよ!」

 

こーこちゃんの実況スタイルは自由奔放。私を小鍛治プロと呼ぶだけで他は普段とほとんど変わらない。

 

「それじゃあ入場校の紹介、いっちゃう?」

 

「行かない手はないよね」

 

今は開会式の入場が行われている。

 

「熊本県にある第九高校。国際評価基準にこだわるだけでなく戦闘魔法も併用して学んでいます。その戦闘魔法いかせるか」

 

「九高は過去一度優勝していますからね。ダークホースになるかもしれません」

 

「北の大地、北海道からやって来た第八高校。厳しい野外訓練が授業に取り入れられています。その実力はいかに!?」

 

「モノリスコードの森ステージなどでは無類の強さを発揮しそうです」

 

こーこちゃんが紹介し、私が付け加える感じで各校の紹介が進んでいく

 

「高知県からやって来た第七高校。海の七校と言われる通り、水上や海上で実用性の高い魔法を学んでいます」

 

「去年の七高と一高の選手の女子バトルボード決勝は非常に見応えがありました。今年もバトルボードに要注目です」

 

「島根県にある第六高校。砂丘のある県の力を見せてくれるのか」

 

「砂丘は島根じゃなくて鳥取だよ!」

 

こーこちゃん…鳥取と島根間違えていいの小学生までだよ…しかも鳥取砂丘って言われてるのに…

 

「仙台からやって来た第五高校。仙台は七夕祭りで有名なのにどうして七校じゃないの、小鍛治プロ?」

 

「知らないよ!しかも今関係ないよね!」

 

台本と違う事喋らないでよ、こーこちゃん…

 

「九校戦会場の地元、静岡県の第四高校。魔法工学に重点をおいています。九校戦裏方のエンジニアでは四校が最巧か?」

 

「ソフトウェアの面であれば分かりませんが、第四高校がCADの面では有利であるのは間違えないでしょう」

 

「小鍛治プロの母校、優勝2回の第三高校。今年は絶対王者を倒すことができるのか!」

 

「私の母校ですから頑張って欲しいです」

 

2回のうち1回は私が在籍していた時に優勝している。

 

「兵庫県にある第二高校。優勝は1回。西日本最強の意地をみせれるか!」

 

「二校の生徒会長の九鬼選手や去年新人戦のミラージバッドで圧倒的力を見せた三日月選手もいますからね。目が離せません」

 

「そして、優勝大本命第一高校!!言わずと知れた一昨年と昨年の優勝校です」

 

「九校戦史上最強のチームという呼び声もありますね」

 

「おっ、ていうことは小鍛治プロの20年前のチームより強いってことですか?」

 

「え、いやそれは比べられないので…って20年前じゃなくて10年前だから!」

 

「え、そうでしたっけ。確か小鍛治プロはアラフォーでしたよね?」

 

「アラサーだよ!何言わせるの!ってやっぱりこの話をするたびに時の流れを意識させられるよ」

 

「そんな人生薔薇色になったことがない小鍛治プロも大注目の第一高校、どこが注目ポイントなんですか?」

 

何それ…確かに1回も恋人いたことがないけど…

 

「私が注目しているのは1年生の四葉咲さんと四葉深雪さんですね」

 

「あの2人はえらく美人ですからね。小鍛治プロ、狙ってるんですか?」

 

「違うよ!」

 

あの2人からは溢れ出る力を感じることができる。特に咲。年の差はあるが仲良くさせてもらっている真夜さんの娘であるので個人的にも注目している。

確か四葉は3人入学しているはずなのだが、選手名簿には2人の名前しかなかった。もう1人は家の用事でもいいつけられているのだろうか。

 

入場が終わり、多少の挨拶の後に選手宣誓が行われる。例年、昨年度の優勝校の生徒会長が行われることとなっているので、今年は一高の生徒会長であり七草家の直系七草真由美嬢が宣誓を行った

 

「第11回全国魔法科高校親善魔法競技大会、スタートです!」

 

そうこーこちゃんが言うと同時に祝いの花火が打ち上がり九校戦がスタートした。

 

 

 




最初は教師で書こうと思ったんだよ…そしたらいつの間にかこーこちゃんとの実況になってた…すこやん能力不明だし闘牌シーン0だからイメージが湧かなかった非力な私を許してくれ…

IFは本編咲(原作咲ではない)が出てくる場合とでてこない場合があります。

すこやん編は全7回程度予定しています


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こーこちゃんとすこやん編2

久しぶりにハーメルン開いたらですね、自分の咲シリーズが更新されててビビりましたね。一年前に自動投稿として残していて時限爆弾的に投稿したぽいです。


「第一種目スピードシューティングが始まるぞ、お前ら。テレビの前に集まれええええ!」

 

開会式が終わり、長いCMが開けて遂に第一種目が始まろうとしていた。

 

「視聴者をお前らとか言ったらダメだって!そんなんじゃクビになっちゃうよ」

 

「クビになったら小鍛治プロが養ってね☆」

 

「何それ!?ちゃんと働かないとダメだよ!」

 

こーこちゃんの言葉を私は否定する。

 

「私の愛の告白が断られたところで、小鍛治プロの注目選手は誰ですか?」

 

「愛の告白って…私の注目している選手は昨年優勝選手である七草真由美選手ですね。『魔弾の射手』がどれほど早くなっているか楽しみです」

 

「勝負ごとにはガチな小鍛治プロ。注目選手もガチだあああ!」

 

「変な持ち上げ方やめて!?」

 

そんな私の叫びがお茶の間に響きわたってしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

スピードシューティングの予選は5分間に打ち出される100個のクレーを何個落とせるかというものである。これを撃ち落とした数で勝負が決まる。

準々決勝からは2人の対戦形式になるので魔法を予選と魔法を変える選手が多いのだが…

 

 

「おっっっと!!魔弾の射手、使っている魔法が予選と変わらないぞ。いったいこれはどういうことだ?」

 

「七草選手は予選と決勝トーナメントでは魔法を変えないんです。これって有名ですよ」

 

「それってリスキーじゃないですか?」

 

こーこちゃんが言う通り、私もリスキーであるとそう思う。

彼女が使っている魔法はドライブリザード。

空気中の二酸化炭素を集め、ドライアイスを作り、凍結過程で余った熱エネルギーを運動エネルギーに変換し、ドライアイスを高速で射出する魔法である。

 

彼女はこの魔法を使い、自分のクレーだけを確実に撃ち抜いている。これは逆に相手がミスで自分のものを破壊するというミスを誘えなくなるのだ。

 

「そうですね。逆に言い換えればそれほどの力の差があるとも言えます。同レベルとの対戦だと仇になる可能性も高いですが」

 

圧倒的差があるならば問題ないのだが、かなりリスキーなのは違いない。実力が拮抗した相手であれば相手も余裕を持ってパーフェクトになるだろうし、格上だった場合はこの方法ではまず勝つことができないだろう。私が七草選手と対戦する場合、空間を捻じ曲げて弾の軌道を逸らしたり、相手の打ち出した弾を叩き落としたりする。

 

しかし七草選手の魔法力は高校生の中でもずば抜けて高いものであり、そんなことできそうな高校生はいないだろう。

 

「決着!!優勝は第一高校の生徒会長七草真由美選手だああああああ!!」

 

そのまま七草選手が圧倒的力を見せつけスピードシューティングを優勝した。

 

「午後は女子バトルボード。チャンネルはこのままで今のうちに昼食とか取っといてね」

 

こーこちゃんがそうアドバイスして午前の部は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

昼食後

午後は女子バトルボードが中継される。午前と同じく女子が放送されるのは女子の方が見映えがいいからであろう。試合会場においても男子の競技の方は魔法関係者、女子の方は一般観客が集まる傾向がある。

魔法協会も魔法の見識を広げるために九校戦を行なっているので視聴率が取れることは望ましいのだ。

 

「午後の司会も私、ふくよかじゃないスーパーアナウンサー福与恒子と」

 

「す、すこやかな小鍛治健夜でお送りします」

 

「流石日本最強!ノリの良さも日本最強だあああ!」

 

「だから変な持ち上げ方やめてよー!」

 

 

なんかこーこちゃんがノリノリだったからつい乗ってしまった。

もし私とこーこちゃんが2人で番組を持つならふくよかすこやかインハイレディオって名前とかいいんじゃないかな。

 

「そんな日本最強の小鍛治プロの注目選手は誰でしょうか?」

 

「まず第七高校の選手ですね。海の七校と言われているように、海上での魔法を校外活動で習います。バトルボードで使われるような魔法は得意としているでしょう。他の学校と比べて第七高校の選手はこの競技有利だと思います。しかし今年も出場する前年度の優勝者、第一高校の渡辺選手のように他の学校の選手が優勝する可能性も十分ありますので、どの学校も目が離せません」

 

「第1レース目から小鍛治プロの第七高校の選手が行われるぞ、みんな見逃すなあああ」

 

 

 

第1レースの七校の選手は去年2年生ながら準優勝の選手である。今年も危なげない走りで一位を取り予選を通過した。

 

 

 

 

「第2レースは昨年度の覇者、渡辺摩利の登場!今年もその力を見せてくれるのか!」

 

「彼女を他の学校がどう止めるのか。そこも見ものです」

 

彼女を妨害しないと独走されてしまうので、妨害する作戦があるのは確実だろう。私なら開幕に妨害魔法を使うのだが他の選手はどうなのだろうか。

 

「さあ第2レース間も無くスタートです」

 

「それにしても渡辺選手に対してすごい声援です。スピードシューティングの七草選手もそうでしたが第一高校の選手は人気ですね」

 

「もしかして小鍛治プロ僻んでるんですか?」

 

「そんなことないよ!羨ましいのは確かだけど…」

 

私は同世代ではなく子供やお年寄りのファンが多い。それだけでもありがたいことではあるが2人や咏ちゃんのように同年代のファンも欲しい。

 

「そんな残念な小鍛治プロは置いといて第2レースが今スタートです」

 

スタートの合図と同時に8校の選手が動いた。

 

「おっと!8校の選手が大波を起こしたぞ!!」

 

「大波を起こして他校の選手、特に渡辺選手を牽制しようといったところでしょうか。しかし、渡辺選手には効いていないようです。作戦が悪かったですね」

 

「小鍛治プロはやっぱり若い子には厳しいですね」

 

「そんなことないから!」

 

渡辺選手は何事もなかったかのようにそのまま走り出し、他の選手は態勢を崩してしまった。そのままレースは渡辺選手の独走状態になってしまった。

 

 

「渡辺選手!ジャンプ台から思いっきりジャンプして後ろの選手に水をかけたぞ!」

 

「なかなかの戦術家ですね…」

 

この場合戦術家というよりは性格が悪いといったほうが正しい気がする

 

そのまま渡辺選手は一位で予選を抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

九校戦2日目

 

「今日も司会はこの私、ふくよかじゃないスーパーアナウンサーの福与恒子と」

 

「解説のすこやかな小鍛治健夜でやっていくよ」

 

こーこちゃんに昨日のノリいいよ、やるじゃんすこやんって放送後に言われたので今日もやることになった。

 

「今日は女子クラウドボールと女子アイスピラーズブレイクが放送されるからみんな見逃すな!」

 

「午前中はクラウドボールの放送だけだけどね」

 

「日本最強にしては面白くないツッコミが入ったところで、今日も注目選手を聞いちゃいたいと思います。小鍛治プロが注目してる選手は誰でしょう?」

日本最強だからツッコミが面白いわけじゃないよ…

 

「クラウドボールでは昨日スピードシューティングで優勝した第一高校の七草選手です。彼女は昨年度のクラウドボールの優勝者でもありますし、今年も優勝候補筆頭です。アイスピラーズブレイクでは第一高校の千代田選手ですね。千代田家の固有魔法『地雷源』が上手くハマれば間違いなく優勝すると思います」

 

「え、どっちも第一高校?」

 

「今年の第一高校はそれほど強いです。過去最強と言われるほどに」

 

「やっぱり小鍛治プロの20年前より強いってことですね」

 

「20年前じゃなくて10年前だから!?20年前はまだ九校戦やってないよ!」

 

昨日もやったやりとりを繰り返してしまう。

 

 

私の予想通り七草選手はクラウドボールでまた優勝し、千代田選手も危なげなく予選を抜けた。

私は少しだけホッとしたが、こーこちゃんの「日本最強は予想も最強」とかいうよくわからない持ち上げ方はやめて欲しかった。



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