成層破戒録カイジ (URIERU)
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設定資料編
設定資料 裏世界編


海編の粗方を書き終えたので、会長のことなど更識関連を書かないといけないけど、なぁなぁにしてきた設定をどうにかしないと不都合が起こりかねないので煮詰めておいた。

感想欄でもやはりこの部分を気にしている方が多く見受けられたので、ね。


設定資料 裏世界編

 

 この世界には元々のIS世界に帝愛グループがいてカイジの行ったような裏カジノ、命がけのギャンブルが行われているという状態になっております。それゆえ、暗部用暗部更識の存在がちょっとした不都合を生んでいる状態とも言えます。なのでここらへんの設定をちょっと設定しておきます。これには私なりの政治観が入ってきますのでご注意を。またこれはカイジの原作から類推したことをこの作品での設定とするために断定口調で書きますので、原作にそんな描写なかったぞ!と言われても知りません。これは原作無視という意味じゃなくて、あくまで原作から類推したことを断定するってことだぞ!大事な事なので二度言いました!

 

まず帝愛グループの成り立ちについて

 

 みなさんお馴染みの王、会長と言えば兵藤和尊の率いる帝愛グループ。彼がなぜこんなにも巨大なグループとなり、完全に違法行為ともいえる犯罪的なギャンブルが行えているのか。それはなによりも政界への献金や警察への賄賂があるからこそです。

 

 当然ですが、政治献金や賄賂など自分の足をすくいかねない事柄に関しては、ペーパーカンパニーなどのダミー会社を作りそこから拠出することにより、危険性を回避しています。また、融資を受けた側もそのことは当然分かっているので、自らの首と共に道連れ、ということもできません。やろうとしたら生贄とともにただ首を吊るだけというむなしい結果に終わっています。そもそもせっかく築き上げた政府高官の椅子をそんなことで投げ出す奴もいませんが……警察が足跡を辿ろうとしても上層部からの圧力がかかるか、たどり着けてもペーパーカンパニー、胡散臭くても自分たちの手柄として飛びつくしかないような状況が作り出せます。現場の刑事がいくら頑張ろうとも上がこいつが犯人といったら、それを前提に行動せざるをえないこともあります(これはサリンの冤罪事件などで調べてみたら分かるかな、ちょっと古い事例だけどね)

 

 政治活動資金、選挙関連の資金や自分の支援者への活動資金など政界へ進出していくためには多額の資金を必要とします。認知度などの問題もありますが、これゆえに金のない、続かない一般人がそうそう政界に出れないのですね。二世議員や政界に出る前から有名な人間がやはり議員になってしまう形が多いということが、金・認知度の重要性を物語っているでしょう。

 

 政治献金や賄賂は単純に自分たちの事を見逃してねというだけの意味合いを持つものではありません。自分の息のかかった政治家、議員を作り出すことにより、金融業界において有利となる制度や法律の制定、改訂を行わせることを可能としています。また土地開発の情報や条例の解除などを先んじて入手することにより、同業他社よりも有利に事を展開させることが可能となります。帝愛グループがどこまで業界に手を伸ばしているのかは分かりませんが、あの金にあくどい会長のこと、土建業や電通機器、不動産など自らの得られる情報を最大限に生かせるように活動をしています。

 

 これがこの世界での帝愛グループの成り立ち、基本的な骨子となります。

 

暗部用暗部更識の成り立ちについて

 

 まずここを語る上で誰がなんのためにこのグループを設立したのか、なにが資金源となっているのか、それをはっきりさせておく必要があります。

 

 ひとまずのお題目、裏工作を実行する暗部に対する対暗部用暗部「更識家」となっております。過去から続く組織ではありますが現在においてはIS学園があるという点などを考慮しても、これらに対する何らかの裏工作、破壊活動を防止するという意味で特に重要な存在となっています。過去においては日本に対する破壊工作やテロ要員の侵入などを防ぐ、といったところでしょうか。ここで意識したいのが彼らが警察ではない、ということでしょう。日本内部にある暗部という暗部にひたすら首を突っ込む集団ではないということです。ひたすら暗部に首を突っ込む存在というのはどういう存在でしょうか?これは後述する資金源となるグループや存在にとって、はっきり言えば「邪魔」の一言に尽きます。

 

 では、資金源について。特に更識家が帝愛グループのように企業をいくつも掛け持ちしてそれで活動している、という描写は原作でも特になかったと思います。逆にそれをしているのであれば、それは政府に属さない独自の集団になり、お題目がおかしなことになってしまいます。ただの正義屋気取った裏工作をする武装集団です。特定のグループが武装してそんな活動をするのは日本国内のみならず、普通に犯罪組織です、どんな活動内容であってもね。

 

 なので、資金源は当然、税金あるいは特定の政府高官などからの拠出によるものとなります。ここではどちらの資金源でも問題ない様に説明を展開させます。まずその活動資金が外部からのものに頼っているということは、当然ですが独自の動きというのが基本的には封じられることになります。つまるところ設立された目的に沿った行動をしてね、それ以外の行動は控えてね、とそういうことになります。また、その範囲内の行動でも口出しをうけることは確実でしょう。例え税金で成り立っていようとも、特定の高官の拠出もあったとしても、どちらにしても勝手な行動を取れば、当然その資金源をカットされる恐れがあります。

 

 帝愛グループの成り立ちでも語っていることですが、完全に身綺麗な政治家というものはそうそういないものです。誰しも探られたくない腹を持っているものです。それらにガンガン首を突っ込んでくるなら経済制裁で対処されます。地下王国の入国条件に元総理とかがあることからそこはお察しということです。裏工作に対する対策活動、入国者や危険人物の調査などを行うのはそれ相応の資金を必要とします。ただでは人は動かないし、金がないと情報も集められないのが道理です。

 

 ここまで来た結論として、あくまで更識家は正義の集団、世を正す集団ではない、ということです。それは警察の仕事、ですからね。警察にも帝愛の息がかかってるんですけどね……ある種年若い楯無が17代目当主になれたというのも、現在目下の仕事がIS学園に関連することが多いというところ、実行部隊としての腕前に敵がISの場合ISがなければ話にならないから、そういう邪推があったりします。

 

 

年間行方不明者数において

 

 現実でも行方不明者の捜索届が出されてそのまま見つかっていないケースは多々あります。近年でも毎年2000人前後は不明のままとか……流石にカイジの世界のような裏ギャンブルがあるとは思えませんが(ないと思いたい)、これだけ近代化した現代においても行方不明というのはある、ということですね。



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学園入学編
カイジ、起動……!


カイジは新年を招かれた坂崎宅で過ごし、そのまま2か月もの間居候としてだらだらと暮らしていたのである。

坂崎もまだ若く仕事に就くこともできるカイジのことを思い住まわせてやっていたが、娘の美心がカイジの世話を何くれと焼くことに不安を覚えた。

そのため、300万の手切れ金を渡し、カイジを追い出したのであった。

 

「手切れ金は300万……どこかに部屋借りて生活を始めるのには充分な金だが……」

 

追い出され特にあてもなく町中をぶらつくカイジ……そこで目に留まる、男たちの行列……!

 

「なんだあの列は……?」

 

ぞろぞろと列をなし競馬場を思わせるようなでかいドームに入っていく男たち……その顔はどれも暗く、覇気のないという一種異様な光景……!

それに興味をそそられたカイジはその列へと寄っていき看板を見つける!

そこに書かれていたのは全国男性IS適正検査の文字!

そう……!ここは織斑一夏に端を発する男性適正者の検査会場……!

 

「っけ、面白くもねぇ。ゴキブリじゃねぇんだ。一匹いたら何匹もってわけねーだろ!」

 

そう言い看板に蹴りを入れ背を向けるカイジ……だが、立ち去る前に何者かによって腕を掴まれる……!

 

「ここまで来たんなら試験はちゃんと受けて帰りなさいよ。ま、どうせ無駄だろうけど」

 

振り向くカイジ、そこには片手を腰に当ていかにも偉そうに見下してくる係員の女……!

 

「いや……俺はぶらついてただけで試験を受けにきたんじゃ……」

 

「つべこべいってないでとっとと入んなさいよ。ったく、こんな冴えない風体の男に神聖なISを触らせないといけないなんて、最悪よ」

 

「わかったよ、受けるから無理やり引っ張んなって……!」

 

会場へと押し込まれるカイジ……この時カイジ意外に素直……!

それもそのはず、下手に抵抗すればあらぬ罪を被せられかねない……!

中の案内を見ながら進んでいくことにしたのであった……

 

「っけ、ISが使えるからってなにが偉いんだ。どいつもこいつも見下しやがって」

 

3年前の白騎士事件を皮切りにモンドグロッソの開催やIS以外の軍縮により女尊男卑の風潮は一気に加速した。それにより法律などの改訂もされ、女性が優遇された保証人制度の改訂もカイジが借金を作った原因の一旦を担っているともいえる。

 

 

ぶつくさと文句を言いながらも、列へと並ぶカイジ……!

検査は手をかざすだけの一瞬で済むため、長蛇の列はすぐにはける……!

そして、来たる……!運命の刻……!カイジの人生を変える、その瞬間……!

 

ISへと手をかざす……カイジ……!

 

「くそ、何だよ……!感じたのに……!圧倒的予兆……高波の予感……!人生が変わるっていう……そんな風……!追い風……」

 

が、駄目……!不発……!圧倒的無反応……!

それをみながら口角を吊り上げる女係員……!

 

「ところがどっこい……嘘じゃありません……!現実です……!これが現実……!」

 

係員の女性の非情な宣告を受けるカイジ……ここで終わってしまうのか、カイジ……!

 

「私何言ってるのかしら……それじゃあ次の……って、あなた手袋してるじゃない。ISを汚さないようにって配慮はえらいけど、外してもう一回よ」

 

そう言われ手袋を外すカイジ……当然カイジにISに対する配慮があったわけではない……!

会長との賭けに負けて落とした指……!

闇医者の縫合により幸運にも後遺症はないが傷跡は生々しく残っている……!

その指を見て係員の女は恐怖に顔をゆがめる……!

 

「手袋一枚でなにが変わるかって……!っ……!?」

 

ざわ……ざわ……っと頭の中に雑多な情報が流れ込む……!

そして周囲にはざわ……ざわ……っと粒子が舞い始める……!

そして纏う……!無骨なフォルムをした打鉄を……!カイジが……!

 

「そんな……!嘘よ、二人目の男なんて……!それは……千冬様の弟だから……許された特権……!あんたみたいな冴えないのが……動かしていいはずがないっ……!」

 

信じられないようなものを見る目の女係員……その目は絶望に染まっている……!

それもそのはず、女が築いた牙城たるIS……女性だから、女性しか扱えないというその特権が……!

いつのまにかじわり、じわりと侵されていくその感触……!

一人目はいい……千冬様、初代ブリュンヒルデ……!

人類最強の女性……女尊男卑の象徴……!

その弟ならば、逆に動かせて当然……!

他の男とは違う……世に並みいる有象無象とは違う……!

だからこそ、逆に女性の希望……!世の女性の希望の男……!

そうなるはずだった……男性操縦者など織斑一夏、ただ一人で……!

会場全体がざわ……ざわ……と賑わいだす……!

 

「おい、みろよあれ」

 

「もしかして二人目?二人目が現れたのか!?」

 

「希望だ!俺たちの、男の希望が現れたんだ!」

 

さきほどまでの陰鬱な空気は一変……盛り上がりだす会場……!

場内はたちまち盛りがり歓声が沸く……!

 

 

「あ、あれってカ、カイジさんじゃないか……!」

 

会場に訪れていた45組の面子……彼らはみな適正試験に落ちていた……!

とぼとぼと帰路につこうとしていた矢先……場内の沸きあがる空気……!

それにつられて戻ると、そこにはカイジ……!

ISを身に纏うカイジの姿……!当然、歓喜……!嗚咽……!

 

「や、やっぱりカイジさんは俺たちなんかとはちげぇ……!英雄……英雄なんだ……!」

 

「まただ……!カイジさんがまた奇跡をみせてくれたぞ……!」

 

「カーイジ!カーイジ!カーイジ!」

 

45組を中心として発したシュプレヒコール……!

それは会場を巻き込む渦となって、観衆を巻き込んだ……!

 

「おわっ……!なんだこれ……なんでみんな俺の名前……!?」

 

大勢の観衆の波に押されるカイジ……!

見つける、自分の名前を呼んだ相手……観衆をかき分けて進む三好の姿……!

 

「カイジさーーーん!」

 

「三好じゃねぇか、なんでこんなとこに……!」

 

「僕もIS適正試験を受けに来たんですよ。結果は当然駄目だったけど……!でも、さすがカイジさんです……!やっぱりカイジさんは違う……!」

 

「変わんねーよ、俺はみんなとなんにも……」

 

と、途中で言い淀む……そこで頭をよぎる、考え……!

今まではそう、自分は三好やここにいる男たちと変わらない……!

普通の平凡な男だったのに……!

変わってしまった、このISを動かしてしまったことを契機に……!

 

「俺、これからどうなっちまうんだ……?」

 

カイジに波乱の予感……!

この一年は本当に濃い人生を……体を……命すらもかけたギャンブルを乗り越えてきた……!

それとはまた一味違う波乱……その幕開けであった……!

 



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カイジ、出会……!

それからのカイジは別室へと連れていかれ、肩へ押し付けられる焼き印……!

などということはなく、気づくと高級ホテルの一室……そこへと押し込まれていた……!

 

「なんだったっけ、説明じゃ俺の体を狙う女権団や研究所から守るためにひとまずはここに軟禁されるんだったか……くそっ、借金で黒服に追われた次はこれかよ……それから、読んどけって言われたこの分厚い本……駄目なんだよなぁ、こういうの……3分もせずに眠くなっちまう」

 

そうはいいつつも、参考書を手に取り開くカイジ……!

そこにはPICや相対制御だのと訳の分からない文字の羅列……!

電話帳みたいな分厚さのそれ……!パラパラとめくってみても、文字、文字、文字……!

一体どれだけの容量になるか、想像もできない……!

 

「やってられっかよ、こんなもん……馬鹿馬鹿しい……!」

 

ポイっと床に放り投げて高級なベッドへと身を沈める……!

 

「うわっ、久しぶりだなこんな柔らかいベッド。地下にいたときは畳の上に雑魚寝、おっちゃん家でもソファを借りてただけだもんなぁ」

 

疲れがたまっていたこともあり、たちまち睡魔へと誘われるカイジ……!

睡眠……!圧倒的爆睡……!来訪者の叩く扉の音にも気づかない……!

 

-----------------

 

扉の前では3度も扉を叩き、イライラとしている女性……!

 

「っち、扉は叩いたからな。開けさせてもらうぞ」

 

鍵を開けて入り、まず目につくのは床に投げ出された参考書……!

ベッドの上には大の字になっていびきをかくカイジ……!

 

「大物というかなんというか。命も狙われかねないこの状況で、こんな爆睡するやつがいるとはな……」

 

目の頭を揉みながらぼやく女性……ただでさえ弟のせいで大忙し……!

そこにきてもう一人の男性操縦者……!舞い込む仕事の量は今までの比ではない……!

 

「おい、起きないか。今後のことについて話がある」

 

が、駄目……!みじろぎすらしない……!圧倒的無反応……!カイジ、爆睡……!

 

 

女、加速するストレスゲージ……!不安であろうかと急いできたのに……貪っている、惰眠……!

一番寝たいのは自分……仕事に忙殺され、晩酌もままならない……!そのせいで部屋の片付けもできていない……!

この仕事を放棄して家に帰り、ビールをあおり寝ることが出来たら……!

至福……!許される、そのくらい……私にもそれくらいのこと許されて当然……!

 

「いかんな。何を考えておるか。とりあえずはストレスを発散して……」

 

参考書を拾い振りかぶる……逡巡、いつもの出席簿の速度で振り下ろせば……最悪殺人犯……!

流石に許されない、ブリュンヒルデでも……!

 

「っうわ……!?いってぇえええぇぇぇ……」

 

突如襲い来る衝撃……惰眠を貪るカイジへと振り下ろされた鉄槌……!

起き上がり辺りを見渡すカイジ……そこには先ほど投げ捨てた参考書を持ち、仁王立ちする女性……!

威圧……圧倒的威圧……!目の前の女性が出す、押しつぶされそうなほどの重圧……!

 

「一体だれなんだよ、あんた……!?」

 

ハッと気づく……先ほど言われた言葉……命を狙われかねないと……

なら目の前にいるのは殺し屋……!自分を殺しにきた刺客……!

この威圧……重圧……殺気……!そこいらにいる女が出せるものではない……!

 

「や、やめてくれ……ま、まず話し合おう……!いきなり、殺すなんてことから始めなくてもいいだろ……!?わ、分かり合えるはずだ……!」

 

刺客から逃げるように距離を取るカイジ……刺客の一挙手一投足を窺うが、動きは見られない……!

見張りには黒服もいたのに……それを掻い潜ってきたほどの相手……!

カイジを殺めるなど余裕ということ……!

 

「おい、お前はなにを言って……」

 

「く、黒服は……見張りの奴らはどうしたんだ……?もしかして、皆殺しに……!」

 

「……」

 

なにかを言いかけていたが、完全に黙り込む刺客……その顔には悲しみと怒り……!

 

それも当然……!疲労の中時間外の仕事に来れば、相手は爆睡……!

起きた相手からは殺し屋と間違われる……それも血も涙もないタイプの……!

そんな風にみえるのかと……!理不尽な扱い……当然、怒責……!

 

「き、貴様……そこになおれえええええ!」

 

爆発……!圧倒的噴火……!体から滲み出す憤怒……!

 

「ひ、ひいいいぃいぃ!」

 

-----------------

 

 

「と、いうわけでだ。貴様はIS学園へと通うことになる。普通の高校とは全く違うことを学ぶため、一年生からの入学にはなるが文句は言うな。拒否権はないと思え」

 

「拒否すれば、研究所行きか命を狙われるってんだろ。分かってるよ」

 

「それとこの参考書はちゃんと読んでおけ。ついていけなくなるぞ」

 

「こんな呪文書みたいなもん読めるかよ……めんどくせぇ」

 

「お前の命がかかっているといってもか」

 

「……出来が悪けりゃ研究所送りってか?」

 

「向上心が全く見られんことにはな。各国の動きにも少なからず二人目が出たのなら一人は研究所へという声がないわけでもない」

 

「じゃあ、もう一人を送っちまえばいい……ていうか、なんで一人目は研究所送りにはならなかったんだ?普通に考えて二人目がでることなんて考えず、一人目を研究すりゃいいだろうが……」

 

男にとっては研究して、なぜ操縦できるのか、その因子が分かれば今の世界をまるっとひっくり返すことができる。学園に通わせるなんて流れになるのがそもそも不思議だ……散々な扱いを受けてきたカイジに人権という概念は薄い!

 

「……それを私の前で臆面もなく言えるとはな」

 

「はぁ?なんであんたに一人目のことで気を使わなきゃなんねーんだよ。知るかっつーの」

 

「私がだれかは知らないのか……?」

 

「知るわけねーだろ。いきなり部屋に入ってきて自己紹介もせずに自分を知らないのかって、どこの有名人だっての……首相かよ、あんた」

 

「はぁ……そうだな、自己紹介を済ませていないのが悪かったな……私は織斑千冬だ」

 

「こりゃ、どうも。知ってるだろうけど、伊藤開司だ」

 

呑気に挨拶をし返すカイジ。その反応をみて考え込む千冬であった。

 

「(私の名を聞いても無反応か、こいつニュースというものを全く見ていないのか……?)」

 

「っあ!あーぁ、あー。なるほどね、そういうこと。そりゃ自分の弟を研究所送りにしないのかなんて目の前で言われたら気分悪いよな」

 

合点がいったかのように手を叩き、うなずくカイジ。織斑千冬ってことは、ブリュンヒルデ、それ相応の発言力はあるということになる。それだけで各国の思惑を無視して自分の弟を学園に、ということができるのかは些か疑問だが、考えて答えがでることでもなかった。

 

「そういうことではない。が、どうにせよIS学園に通うというのならそこの勉学にはついていかねばならん」

 

「ま、つまるところあんたの弟と俺とで出来が悪い方は研究所送りっていう命をかけたレースになるわけか。だったらやらねぇわけにもいかないか」

 

「……弟とは仲良くしてやってくれるとうれしいがな」

 

「後ろ手にナイフを隠しながら……か?難しいだろ、そりゃあ。表立って争うなんて馬鹿な真似はしないけどな」

 

「わざわざそんなことを言えば私の不興を買うという考えはないのか……?」

 

「どっちにしろ選択の時が来たら、あんたは俺じゃなくて弟を選ぶだろ?」

 

「ずいぶんとひねくれているな、何があった」

 

「別に、なんにも」

 

 にらみ合うカイジと千冬。当然カイジの身元調査はすぐにも行われている。都内の高校に通う高校生。しかし、5月からいじめにあいずっと不登校、ということになっていた。信頼のおける楯無に依頼しての結果、特に疑う理由もない。単純に黒服の、ひいては帝愛の裏工作が上回っていただけのことである。

 

 目に前にいるのはいじめにあって不登校になっていた可哀想な男子生徒。ひねくれているのもそのせいか。だが、千冬はこの男から別のにおいを感じ取っていた。この男がいじめられて不登校になっていたはずがない。異端者、変わり者、常人とは違う千冬だからこそ感じ取れる、些細な気配。それが何を意味するのかは、まだわからなかった。

 

 



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カイジ、入学……!

IS学園入学初日……!キラキラとした純白の制服を身に纏う女生徒たち……!

これからの学生生活への……不安……希望……期待……!

それらに胸を膨らませて、登校……!

 

 

ところかわって……教室……!1年1組、伊藤開司のいるクラス……!

 

「(うへぇ~、たまんねぇぜこのきゃぴきゃぴした空気……)」

 

わいわいとした女たちの醸し出す空気……それとは対照的なある種の緊張した空気……!

織斑一夏と伊藤開司、その席の周囲に漂っている空気と、二人の挙動を窺うような雰囲気……!

耐え難い空気に耐え、じっと待つ二人……!そこへ現れる救世主……!

 

「席についてください。SHRをはじめますよ」

 

ばいんっ……!っと周囲の空気をにぎわせて入ってきた女性……担任、山田真耶……!

まさしく、胸……!巨乳……!破壊的豊乳……!

その他が有象無象に見える……圧倒的巨乳……!

 

「えぇと、みなさん席につきましたね。改めて、おはようございます!」

 

「………………」

 

無言……静寂……圧倒的無反応……!めげる……折れる……心……!山田真耶の心……!

溜まる……涙……じわ……じわ……とその双眸に……!

 

「おはよーございまーす」

 

どこか気の抜けた調子で、カイジ……挨拶……自らこの場の空気を破って……挨拶……!

 

見ていられない……ふわふわとした空気を出す……この先公……泣くなよ……!

なんでこんなことで……泣きそうなんだよ……!

泣き出したら……つかねーだろう……収拾が……!

って、そんな顔するほどのことかよ……!

 

気の抜けた挨拶にも関わらず……喜色……!満面の笑顔……圧倒的笑顔……!

 

「はい、ありがとうございます!では、自己紹介から始めましょう!出席番号順に窓側の子から」

 

そういわれて始まる、自己紹介タイム……!恒例の行事……!

そして思い出す……伊藤開司……!いは自己紹介の順番が早い……!圧倒的早さ!

 

「伊藤開司です。趣味は競、じゃなくてギャンブルだ」

 

ざわ……ざわ……と賑わいだす空気……そして、気付く……!

周囲の信じられないものを見るような視線……!

競馬は言いなおした・・・が、言い直した先はギャンブル……!

まだ高校生には許されているはずもないギャンブル……!

女に圧倒的不人気な……ギャンブル…!

それを公言……!この、教室で……!自己紹介で……!

 

「え……伊藤君って何歳なの……?」

 

「趣味がギャンブルなの……?」

 

周囲に流れる不審な空気……!ギャンブル漬けともいえたカイジ……!

その感覚は狂っていた……!それを思い知らされる……!

 

「いや、ちげーって……!そうじゃなくて、みんなが思ってるようなのじゃないんだ。ほら、こうあるだろ。友達同士でちょっとした勝負事をしてゆb、じゃなくて給食のおやつを賭けたりとか、さ。そういう平和なやつだから。血が流れない奴……!」

 

「血……!?血が流れるって何……!?パチンコとか競馬とかそういう金じゃなくて・・・もっとやばいやつなの……?さっき指っていいかけたし……そういう裏のみたいな……」

 

「あ……わかるかも……伊藤君って入ってきたときからちょっと匂い違うっていうか、こうアウトローな感じあるし……」

 

ざわ……ざわ……と盛り上がっていく女生徒……圧倒的な盛り上がり……!

そこへ現れる、新たな救世主……!

 

「一体なんなんだこの騒ぎは……廊下まで騒ぎが伝わってきているぞ。山田君、会議が少し長引いてな。あいさつを任せて済まなかったな」

 

「はい、お疲れ様です。ではあとはお願いしますね、織斑先生」

 

先ほどまで騒がしさは一転……静寂に包まれ、織斑先生の挙動を窺う生徒たち……

「諸君、私が担任の織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になるIS操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。逆らっても構わんが、私の言うことは絶対に聞け。いいな?」

 

まるで軍人……!教練所の教官のような挨拶……!

それもそのはず……競技用と称してはいても立派な兵器……!

一機で街壊滅に至らせることも可能な……広域破戒兵器の扱いを学ぶのだから、当然……!

 

「きゃあああぁあぁあ、千冬様!千冬様よおおおおお!」

 

「お姉さまぁ!ずっとお慕いしていましたわ!」

 

ガラスが割れんばかりの歓声……絶叫……狂声……熱狂……!

圧倒的人気……ブリュンヒルデ……!この学校へは、ブリュンヒルデに会うために……!

ただそのためだけに入学を目指すものが数多くいる事実……!信者……圧倒的信者……!

 

「全く毎年騒々しいものだ。私のクラスにだけ馬鹿者を集めているんじゃないだろうな」

 

暴言……普通の教師には許されない暴言……!

だが、信者には違う……!鞭……愛の鞭……恍惚の表情を浮かべる信者たち……!

 

「(なんだこいつら、気色わりぃな。何考えてやがんだ……?まともなやつはいねーのかよ、この学校は……)」

 

自分のことは棚に上げるカイジ……!このクラスで最も異色なのはカイジである……!

 

「自己紹介は伊藤までか、時間がないからあとは各自ですませておけ。織斑は自己紹介はしろ」

 

「千冬ねぇ!なんで俺だけ!?ていうか、なんでこんなとこに!」

 

「学校では織斑先生だ馬鹿者。みな、お前の事を気にしているからな、とっとと済ませろ」

 

またもざわ……ざわ……と賑わいだす教室……!だが、それを制するように一喝……!

 

「静かにしろ、面倒な詮索はするな。そこにいるのは私の弟、それだけだ」

 

「織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

織斑一夏の挨拶……!次の言葉をいまかいまかと待つ女生徒たち……!

 

「以上です!」

 

がたっ……!がたっ……!と席から崩れ落ちる女生徒たち……!

ゴスっ……!ひときわ鈍い音が鳴り響く……!

その音は出席簿……凶悪……殺人的加速……!驚異的威力……!

 

「いってぇええ!なにすんだよ千冬ねぇ!?」

 

「馬鹿者!織斑先生だ!」

 

再度振り下ろされる鉄槌……!昏倒……織斑一夏、気絶……!

 

「全く、自己紹介もまともにできんのか貴様は……ん……?」

 

「織斑先生、もう少し加減なされては……」

 

あまりの容赦の無さに絶句……!信者たちもこれには唖然……!

流石に受けられない……あの威力……!

 

「む……ここのところ仕事量が劇的に増えてな、ストレスが溜まっていたようだ」

 

「そ、そうですか。お疲れ様です……」

 

「(((怒らせちゃダメ、絶対……)))」

 

「さて、さっきも言った通りあまり時間がない。1限目は時間通りに始める。HRは終わりだ、解散しろ!」

 

入学式初日……HR終了……!

 

 




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カイジ、困惑……!

希少な男子生徒の動向を窺う女生徒……!まるで檻……!

動物園の珍獣を見るかのように囲まれている……晒される好奇の視線……!

一人はブリュンヒルデの弟……!ある種の近寄りがたさ……背後にあるものの強大さ……!

もう一人はギャンブラー……言い繕いはしても、ギャンブラー……!

どちらも近寄りがたい……特に、カイジ……!寄ってくるなと言わんばかりの無言の威圧……!

そんな中空気に耐えかねたのか……立ち上がる一夏……!

そして向かう……もう一人の男……カイジの元へ……!

 

「な、なぁ。カイジ、でいいかな。俺は織斑一夏。お互い唯一の男子生徒同士、仲良くやろうぜ!」

 

爽やか……!今までカイジが見たこともないような爽やかさ……!

カイジの周りの男……常に顔に影が差したような……!

笑顔は……企んでいますと言わんばかりの男ども……!

違う……!この笑顔には企みなど感じられない……!圧倒的好青年……!

だが、敵……将来的には間違いなく敵……!

至る、カイジ……!この男、無自覚……!

自分の価値……ブリュンヒルデの弟ということ……!

ただ弟なだけ……そうとしか感じていない……!

 

「あぁ。伊藤開司だ。よろしくな、織斑」

 

「よそよそしいじゃんか、名前でいいぜ?」

 

「いや、男を名前で呼ぶこととかあんまないし」

 

「うーん、千冬ねぇと被っちゃうから分かりづらいと思うんだけどなぁ」

 

変わらず……気絶するほどの殴打を喰らっても……未だ変わらず千冬ねぇ……!

 

「先公を織斑って呼び捨てにはしねーし、逆にお前に先生ってつけることもねーよ」

 

「それはたしかに、そうなんだけど……」

 

「いずれ、そのうちな。そのうち」

 

「あぁ、分かった!いつか、な!」

 

しつこさ……多少のしつこさはあるが……心得ている……引き際……!

この男……できる……!カイジにはない……人との調和能力……!

 

「(それにしてもさっきから、なんで睨まれてんだ、俺……)」

 

織斑の背後……巨乳な女生徒が睨みつけている……!

話している途中に感じた……刺すような視線……!

あきらかに敵愾心……!まさか……刺客……?この学園内にも……!

 

 

「(一夏の奴……!私のところに先に来るかと思えば、もう一人のそんな冴えないギャンブル好きの男のところへ挨拶へ行くなど!何を考えておるか……!)」

 

無自覚……先ほど一夏の助けてにそっぽ向いたことを忘れて……!嫉妬……!

許せない……乙女心……!幼少の頃、恋い焦がれていた一夏……理不尽な別れ……!

引き裂かれた二人……!そして出会い……!運命的……圧倒的神のいたずら……!

なのに自分の元ではなく……嬉しそうにもう一人の男の元へ……!駆け寄るなど……!

 

 

この時カイジ……勘違い……圧倒的勘違い……!

ただの恋する乙女を……暗殺者……刺客と……勘違い……!

 

「(っひぃ!近寄ってきた……!)」

 

恐怖……カイジの顔に浮かぶ恐怖……!

 

「どうしたんだよ、カイジ?そんな顔して」

 

「ちょっと、いいか?」

 

「は、はい。大丈夫ですよ。どうぞ、どうぞ」

 

情けない……年下の女子へ……へこへこ……圧倒的不甲斐無さ……!

 

「あ、あぁ。そこまで丁寧にされなくても構わんが・・・話しているところ申し訳ないが、一夏を借りていってもいいだろうか」

 

「どうぞ。織斑のほうに決めたのならどうぞ、好きなようにしてやってください」

 

即断……即決……!生贄……!織斑を生贄に捧げる……!

 

「え、え?箒?どうしたんだよ、いきなり」

 

「そちらの方が織斑に話があるんだとよ。俺のことはいいから行って来いよ」

 

「そうか?じゃあ、どうするんだ?箒」

 

「ここでは話しにくい、すこし教室から出よう」

 

「分かった。じゃあ、またな!カイジ」

 

合掌……!手を振り返さずに、カイジ……合掌……!

安らかに眠れ……一夏……!また会わんことを……!

 

ーーーーーーーーーーー

 

「ねぇねぇ~、なんで手を合わせてるの~?いただきます~?」

 

あ……?突如耳元にかかる激甘ボイス……!

突如としてカイジの脳裏によみがえる美心とのピクニック……!

頬についた卵カスを取るため……某リッカーの如く這いよってきた美心……!

惹起されたトラウマがカイジを恐れさせた……!

 

「うわぁああ。って、誰だアンタ」

 

飛びのいて距離を取るカイジ……!だが、いない……そこに、美心はいない……!

 

「ちょっといまのは傷付くよ~……」

 

そこにいるのは某ピカチュウ……の耳は器用にも垂れ下がり……

全身で傷ついたことを表現……耳だけなのに、感じさせる……圧倒的罪悪感……!

 

「悪かったな、ちょっと嫌なこと思い出しちまったんだ」

 

「うぅ~、それならこっちもごめんだねぇ~」

 

……なんだ、このゆるい生き物……カイジの過ごしてきた世界にはいない……不思議な生き物……!

それもそのはず、女学園……!IS学園とはいっても、ここは女学園……!

いるわけがない……!魑魅魍魎……!悪鬼羅刹……!

一癖二癖はあっても……地下労働施設ではない……!

 

「でぇ~、なにしてたの~?」

 

「いや、ただ織斑に手を合わせてただけ……」

 

「なんか知り合いっぽかったもんねぇ~」

 

……知り合い……?確かに織斑は箒と呼んでいた、あの女生徒……

つまり睨んでいたのは織斑……?俺、無関係……?

ってことは勘違い……刺客じゃない……安堵……!

 

「なんだ、良かった。俺の平穏は守られたのか」

 

「よく分かんないけど、良かったねぇ~」

 

……調子が狂う……なんだ、この生き物……!誰だ……こいつ……!

俺のことを知らない奴はいない……逆に俺が知っている奴はいない……!

そもそも……あの最悪の自己紹介……!

あの自己紹介で寄ってくるのは物好き……なんらかの思惑が働いているもの……!

その二択……この女はどっちだ……?

そもそもこんなのんびりとしたやつ……この殺伐とした世界でいるか……!?

生き残れるわけがねぇ……!限定じゃんけん……鉄骨渡り……Eカード……!

食い殺される……こんなのんびりとしていたら……!

 

的外れ……!勘違いしている……地下と……!

目の前の謎に悩むカイジ……が、女……気にせず、自己紹介……!

 

「布仏本音だよ、よろしくねぇ~♪」

 

「え……?あ、あぁ布仏ね、覚えたよ。じゃあな」

 

ぶった切る……これ以上付き合ってられないとばかりに……一方的……!

 

「えぇ~、もうちょっとおしゃべりしようよ。自己紹介はながれちゃったしさ。なんかほかに趣味はないの~、好きなものとか~」

 

が、駄目……!この女……関係なし……!空気とか、そんなもの……!

塗り替えていく……!独特の空気で……!

 

「(趣味はギャンブルしかねぇ……!好きなものも、地下で覚えたビールと焼き鳥だっての……!)」

 

一つとして公言できるものがないカイジ……!

 

「いや、俺のことはいいからさ。布仏は趣味とか、好きなものとかないの?」

 

逸らす……話題を自分から、布仏へ……!

 

「私に興味深々~?趣味は全世界お菓子集め、好きなものはお菓子だよ~♪」

 

マシュマロ……頭の中はお花畑……ではなくマシュマロ……!

ふわふわ……真っ白……なにもないのか……こいつ……?

カイジ的感想……これは普通……年頃の女子としては普通……!

異常なのはカイジ……!唯一人……!

 

「お菓子なら~、どんなものでも歓迎だよ~♪」

 

「そ、そうか……俺は甘いもんは苦手だから、なんか手に入ったらやるよ」

 

布仏……歓喜……喜びの舞……不思議な踊り……!全身で表現……喜び……!

 

「わ~い。あ、もう時間になるね~。それじゃあまたね~かーくん」

 

疲労……今までに相手にしたことがない相手の対応……思いのほか……!

だが……まだまだ、続く……容赦なく……カイジの苦難!……かー……くん……?

 

 



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カイジ、脱兎……!

始まる……学園ならば……授業……一時間目……IS概論……!

山田先生の口から紡ぎ出される……呪文……数々の難解な言語……!

理解できようはずもない……ISに興味などない……一夏では……!

カイジもほとんど同じ……!命がけ……ホテルで勉学に取り組んでいたが……!

しかし……理解しきれなかった……!分かりやすい解説がなければ……当然…!

ほんのすこしだけ……欠片ほど理解しているにすぎない……!

 

「どうしましたか、織斑君?分からないところがあったら先生に聞いてください。なんたって私は先生なんですからね!」

 

「山田先生、全部分かりません!」

 

がたっ……がたっ……っと再演…自己紹介の時と同じ……!

呆然……呆ける……予想外の一言に……山田先生棒立ち……!

 

「え、えと全部……ですか?」

 

「はい、全部です」

 

「他にもいますか、ここまでの内容で分からない人は?」

 

いない……!さすがに全く分からないものは……!カイジも全く、ではない……!

 

「伊藤君はどうですか……?」

 

「ちょっとはわかる……!ちょっとは……」

 

不安……圧倒的不安……!山田麻耶の胸中にあるのは不安……その一言……!

 

「織斑、入学前に渡した参考書はどうした……?」

 

「あの、古い電話帳と間違えて捨てました」

 

「この大馬鹿者が……!!」

 

そういい、振り下ろされる鉄槌……!今日一番の速度……殺人的一撃……!

その一撃にたまらず昏倒……一夏……昏倒……!

 

「いまのはちょっとしょうがない気もしますね…」

 

山田真耶にすら……切り捨てられる……!

 

「伊藤はどうした?ちゃんとやっておけと言ったはずだが……?」

 

「読むには読んだって……!でもあんな難しいの、分かりやすい解説でもねぇと理解できるわけねぇだろ……!!」

 

「ほう。じゃあ分かりやすい解説があればちゃんとできるということだな?」

 

「いや、それは、まぁ。そういうことになるかな……」

 

「テストの結果を期待しているぞ……!さて、織斑。お前には再発行してやるから理解できるまで徹夜しろ……!」

 

「いや、あんな分厚いの徹夜なんてしてたら眠れねーよ……」

 

「やれといったらやれ!」

 

「はい……」

 

容赦の無い一言……一夏、消沈……やる気などでようはずもない……!

 

「織斑、伊藤。貴様ら、自分が望んでこの環境にいるわけではない、だからやる気が起きないとでも考えているのか?」

 

「……」「……」

 

「やはり、そうか。いいか、人は望むと望まざるとに関わらず、生きていかなければならない。それが嫌なら人であることをやめろ」

 

「(研究所送りっていう前提があるから、俺は理解できるけど、そうじゃねぇなら極論もいいところじゃねぇか……!ここでの成績が人生の何になるってんだよ……!ただ単に平穏な生活を望むんなら、こんな参考書、クソ喰らえだっつぅの……)」

 

「不満でもあるか、伊藤……?」

 

「いや、そうだな。確かに、人として生きたいならやらざるを得ないもんな……俺たちは」

 

含みのある物言い……カイジと千冬、にらみ合い……!

 

「(俺たちは……?)」

 

一夏、ついていけず……!それもそのはず、千冬はなにも話していない、現状……!

 

「山田先生、続きを」

 

「は、はい。お二人とも……?先生も精一杯頑張りますから、頑張ってくださいね!」

 

その後は淡々と進む……授業……!二人をおいてけぼりにして……!

 

そして訪れる休憩時間……!解放……一時の解放……だが、駄目……!

解放などされない……!新たな刺客……!カイジへと……迫る……!

 

あ……?目の前から迫る金髪の女……あきらかに狙い……定めている……俺……!

逃げる……!カイジ…たまらず逃げる……!

 

「(流石に刺客じゃないだろう……だが、面倒ごとはごめんだっての……!休憩時間くらい休憩させろよ……!休憩って言葉くらい、分かるだろ……!)」

 

「あ、お待ちに……」

 

脱兎のごとく、カイジ……!聞く耳持たず……逃げ出す……!

が、それも無駄……!追ってくる、金髪女……!廊下まで……!

 

「なってくださいまし……!」

 

「(だめだ、これ以上逃げらんねぇ……っていうか、追ってくるなよ……!諦めるだろ……普通……!)なんだよ……!」

 

「なぜ、お逃げになりますの……わたくし、何かなさいまして!?」

 

女尊男卑に染まっているとはいえ女……年頃の女子……!

男から一目散に逃げられては心に来るものがあったのだ……!

 

「いや、だってこう面d……じゃなくて、休憩時間だろ、今……俺は休憩したいんだよ……!」

 

「そ、それだけですの……?それだけの理由でこのわたくしから逃げた、と……」

 

「そうだよ……で、何の用だ?そもそもあんたが誰かも知らないんだけど……」

 

「まぁ!?わたくしを知らない?って、当然ですわよね……知っていたらあんな風に逃げ出すわけないですもの……」

 

「(なんでISに関わってる女は自分の事を知っている前提で話をし始めてんだ……?ブリュンヒルデは、知らない人のほうが稀だろうが……)」

 

「わたくしはイギリス国家代表候補生セシリア・オルコットですわ。以後お見知りおきを」

 

「へぇ~、イギリスねぇ。あーぁ、あー、なんとなくある。そういう雰囲気!ほら紅茶のにおいが漂ってきそうな感じ……!それとその金髪のドリル…!」

 

暴言……もはやカイジ売っている……喧嘩……真正面から……!

 

「あなた……馬鹿にしていますの……?」

 

「いや、イギリスなら紅茶って言葉が思い浮かんだだけ……あとはよく映画で出てくる英国人のお嬢様ってそういう髪型のイメージだったから、つい」

 

「ま、まぁいいですわ。他意はないということは分かりましたから……」

 

不承不承……喧嘩を売りに来たわけでもない……矛を収めるオルコット……!

 

「で、結局自己紹介だけだったのか……?悪かったな、逃げたりして」

 

「(代表候補という部分には見事に触れられませんでしたわね……しかし、ここで蒸し返すのもみっともないですわ……)え、えぇ。まぁ不幸な行き違いはありましたが、そういうことですわ。では、ご機嫌よう」

 

物足りない表情をしつつも去っていくオルコット……!

 

「それにしても代表候補ってことは優秀な奴ってことか……」

 

「(!?そこはちゃんと気づいておりましたのね!冴えない男かと思っておりましたが、すこしは出来ますわね!)」

 

カイジの独白…届く、オルコットの耳へ……!カイジ、知らぬ間に上げる……株……!

一転歓喜……足取り軽く戻っていくオルコット……!圧倒的チョロさ……!チョロコット……!

 

 

 



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女尊令嬢編
カイジ、決起……!


そして時は三時限目……!来るクラス代表決定の時……!

 

「さて、授業の途中であるが、これより再来週に行われるクラス対抗戦に出るための代表者を決める。クラス代表とは、対抗戦だけではなく生徒会の会議や委員会の出席など……まぁクラス委員長のようなものだな。自薦他薦推薦は問わない、誰かやりたい者はいるか?」

 

「はい、織斑君がいいと思います!」

 

「はい、私もそう思います!」

 

「そうよね。せっかく男子が居るんだから活用しないと!」

 

次々と上がる推薦の声……!織斑、困惑……!

この流れ、止められない……!

 

「待ってくれ、俺はクラス代表なんかしたくないぞ!」

 

「黙れ……!辞退は認められん!」

 

「(んな横暴な……どうみてもただの興味本位じゃねーか……!)」

 

「な、なら俺はカイジを推薦するぜ!」

 

「おい!てめぇ、なにしやがる……!」

 

「俺だけなんてやってられるか!」

 

やられた……当然、するよな……!自分だけじゃ納得いかないってんなら……!

巻き込む……他人でも容赦なく……賛否両論……カイジに対する不安……!

女子達……騒ぎ出す……ざわ……ざわ……!

 

「他には居ないのか?居なければ織斑と伊藤の2人のどちらかで決めるが?」

 

他に居ないか確認……推薦、他薦は問わないといった……!

ならば自ら……立ち上がることも可能……ということ……!

そこへ立ち上がる、オルコット……!

 

「そんな選出は認められませんわ!男がクラス代表になるなんていい恥晒しです!このセシリア・オルコットにその様な屈辱を1年間味わえと仰るのですか!?実力から言えばわたくしがクラス代表になるのは必然!それを、ただ物珍しいからというだけで代表になられては困ります!大体、文化としても後進的な国に暮らさないといけない事自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で……!」

 

「(大人しく自薦しときゃいいのに、なんで波風立てるんだよ……)」

 

「イギリスだって大したお国自慢ないだろ!?世界一まずい飯ランキングで何年間覇者だよ!」

 

「なっ!あなた、わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

「先に侮辱したのはそっちだろ!?」

 

繰り広げられる……小中学生のような……みっともない口喧嘩……!

エスカレート……ヒートアップしていく……言い争い……!

 

「決闘ですわっ!!!」

「おう、いいぜ!四の五の言うより分かりやすいぜ」

 

まさかの決闘……!不毛な口論の末行きついたのは……決闘……!

 

「言っておきますけど、わざと負けたりしたら私の小間使い、いえ、奴隷にしますわよ!」

 

「勝負事に手を抜く程、腐っちゃいない」

 

「ふふふ、第三世代の専用機を持つわたくしとでは結果が目に見えていて面白くも何ともありませんが、わたくしセシリア・オルコットの実力を示すにはもってこいの舞台ですわ!」

 

「では、来週クラス代表決定戦を行う。織斑、オルコット、伊藤は準備しておくように」

 

「……は?いやいや、待てよ……おかしいだろ、そんなん……なんで俺が出ることになってんだよ……!二人の決闘に無関係の俺を巻き込むなよ……!」

 

「言っただろう、クラス代表決定戦だと……!お前も推薦されているんだから、当然参加する義務がある……!」

 

暴論……だが満更理がないわけではない……!筋は通っている……!

 

「(なんで……なんで俺の身にばっかり起こる……!こんな理不尽……不幸が……!)そんな理屈……通っていいのかよ……!」

 

「伊藤君往生際が悪いよー」

 

「そーそー、男ならうだうだ言わずにやりなよー!」

 

「やっぱ男って臆病よねー!勝てないからって情けなーい」

 

五里霧中……四面楚歌……孤城落日……油断大敵……孤立無援……!

我、今、生涯に於ける絶対的危地……!

 

そう、ここには味方なんていねぇ……!何を勘違いしてんだ……!

俺自身が言ったじゃねぇか……!同性の織斑ですら、命をかけた競争相手だって……!

なら、やるしかねぇ……!俺自身で道を切り開くしかねぇ……!

 

「まぁわたくしも鬼ではありませんから。ハンデのひとつやふたつ、付けて差し上げても構いませんことよ?」

 

「ハンデなんかいらねぇぜ!お前こそ、真剣勝負で手を抜くんじゃねぇぞ!」

 

「俺はハンデをもらう……!」

 

「あらあら、もう一人は身の程はわきまえておられるようですわね」

 

「はぁ?何言ってんだよ、男として恥ずかしくないのかよ!」

 

「お前はすこし黙ってろ、元凶が……!」

 

「っな!?」

 

「元はといえばてめぇが俺を巻き込んで……それはまぁいい。俺だって状況が逆ならそうしてた……俺が言いたいのはてめぇの下らない口喧嘩が原因でこうなったってこと……!それに、てめぇの考えを俺に押し付けんな、はっきり言って迷惑だ……!」

 

「っぐ……!」

 

「それに俺がいまから言うのは、ハンデってわけでもない……!この勝負を成立させるためのいわば条件だ……!」

 

「条件、ですの?」

 

「さっき言ったよな、第三世代の専用機持ちって……当然だけどそれの使用は禁止……!学園の用意する訓練機で戦ってもらう……!」

 

「な、わたくしに愛機であるブルー・ティアーズを使うな……と?」

 

「当たり前だろうが……!さっきの授業理解できてねーのかよ、てめぇは……!」

 

「な、わたくしを馬鹿にしていますの!?この学園に入る前から参考書の勉強程度は終わってましてよ!」

 

「なら……わかるだろ……!俺が言いたいこと……!第三世代機で素人の第二世代機に勝負を挑むなんて正気の沙汰じゃねぇだろ……!」

 

「うぐっ、それは……!」

 

「改めて言っておくがこれは条件であって、ハンデじゃねぇ……!つぅか俺が言い出さなければ専用機持ちだすつもりだったのかよ……!いくらなんでもねーだろ、それ……!自分の方が優秀で強いってんなら……!自分は訓練機で、俺に専用機を使わせてやるくらいの言葉はでてこねーのかよ……!」

 

「あなたのような男にわたくしのブルー・ティアーズを使わせるなど、ありえませんわ!」

 

論点をずらすんじゃねぇ……俺が言いたいのはそういうことじゃねぇ……!

 

「物のたとえだっつぅの……!それくらいの気概を見せてみろよってだけの話……!で、やるのか、やらないのか……?」

 

「そ、それは……」

 

「悪いが、学園側で用意できる機体も限りがある。わざわざすでに専用機を持っているものに訓練機を貸し出すことはない」

 

「はぁ?当日は俺と織斑とオルコットの三人いるわけだろ…?専用機持ちのオルコットを除いて最低二機はISを用意する必要があるんだ…それを三人で使いまわすだけじゃねーか……!」

 

「言い忘れていたが、織斑には専用機の用意がある。納入は来週、試合ぎりぎりになるだろうがな」

 

「え、織斑君もう専用機がもらえるの?」

 

「やっぱり千冬様の弟だから!?」

 

「伊藤君にはないんですかー?」

 

「伊藤は見つかったのがつい最近だからな。言った通りISコアには限りがある。そうおいそれと専用機は持てるものではない」

 

……このクソアマ、完全にマッチポンプじゃねーか……!そもそも可笑しかったんだ……

自薦他薦推薦は問わない……なのに、やりたいやつはいないかって……!

このアマ、この時点で分かってる……まず自分の弟が推薦されること……!

そして俺もオマケで推薦……あるいは、弟が巻き込むってこと……!

予想の範疇……!強いて言うならオルコット……その行動は難しいが……

オルコットが出しゃばらないなら……弟の一人勝ち……!

俺が推薦されたとしても専用機を持たせて、俺に訓練機を使わせてぼこらせる……!

自分の弟には専用機があるってんなら、この勝負を成立させたのも理解できる……!

言い忘れっていうか隠す気満々……!汚ねぇぞ……ならこっちも容赦はしねぇ……!

 

「あーぁ、あー。そういうこと。同じ素人でも世代違いを混ぜとけば、少なくとも一勝はさせられもんな……!専用機があっても、代表候補のオルコットにはまず勝てない、でも俺には勝たせられる……そうすれば評価が落ちるのはぼこぼこにされた俺一人に集中させられるもんな……!よく考えてある、全く手段を選ばないっていうか、外道っていうか……!」

 

「こうなったのは成り行きにすぎん。意図して行ったわけではない……!」

 

「それでも、辞退はさせられないっていうんだろ?なら同じことじゃねーか……!否定しても無駄……!変わんねーよ、てめえに対する印象……!」

 

どの口で弟と仲良くしてやってほしいだなんて言ってやがる……!

俺の事を踏み台にする気満々じゃねーか……!

っち……これ以上は周囲の雰囲気がまずいな……圧倒的アウェー……!

地下チンチロのときのように……俺に流れがあるわけではない……!

むしろ逆風……!周囲の信者からの射殺さんばかりの視線……!

 

「じゃあ最低限、この一週間訓練機の貸し出しを優先的にさせてもらう……!対等な勝負すら成り立ってねーんだ……!これは譲れない……!」

 

「言っただろう、数には限りがあると。この一週間では、訓練機の貸し出しはまず埋まっている」

 

「はぁ?あれも駄目、これも駄目……!話になんねーな、まじで……!つぅか、ブリュンヒルデが一言いえばどうとでもなるだろ……!信者に声をかければ一発……!予約の取り消しくらい……!何もこの学園にいる間中優先しろってんじゃねぇ……!てめえとその弟のせいで巻き込まれた代表決定戦までの一週間だろうが……!」

 

「私をブリュンヒルデと、信者などと呼ぶな。それに先ほどからの口の利き方はなんだ?到底容認できるものではないぞ……!そしてたかだか一週間借りた程度でどうにかできるというのか」

 

「先生って言われたいなら、それ相応のことをしてみせろってだけだ……!この口の利き方で十分だと思ったからそうしてるにすぎねぇ……!一週間でもぶっつけ本番でやらされるよりはましだ……俺はまだ指一本も折れない時間しかISに乗っていないんだ……!それでいて、指三本、百時間単位の相手をしようってんだ……必要だろ、経験……!すこしでも全く違う……!勝機の糸口だって見えてくるかもしれねぇ……!」

 

「勝機ですって?あなた、本気でおっしゃていますの?」

 

小馬鹿にしたように笑うオルコット……!

 

「勝負に絶対はねぇ……!勝利を確信した勝負でさえ、逆転されて手痛い損失を払った……!だが、それでも……どんな絶望的な状況になろうと……逆境であろうとも這い上がってきた……!だから今、俺はここにいる……!」

 

カイジの脳裏によぎる、数々の勝負……!

騙し、騙され、血を流し、体を失ってすら、戦ってきた……!

利根川との勝負で耳を自ら落とした……!指は会長によって落とされた……!

だがどの試合にも言えることがある……!

勝つべくして勝った……!負けるべくして負けた……!

初めから決まっていた勝負などなかった……!

どの勝負も思惑が上回ったほうが勝ったのだ……!

 

「この提案が受け入られねぇってんなら……俺はこのクラスの女ども、全員を推薦する……!あんた、言ったよな……推薦されたものは、辞退することはできねぇって……!推薦の枠についても、あんたは言及してねぇ……!ってことは、できるってこと……!いくらでも、推薦……!たとえクラス全員でも……!まぁ、前言撤回するならそれはそれでいいぜ……!言ったことも守れねぇってんならな……!」

 

屁理屈……暴論……しかし、筋は通す……かろうじて、糸のような……!

 

「……分かった。決定戦までの間の訓練機貸し出しの融通はどうにかしよう。しかし、その後に関しては当然だが所定の手続きを取れ。それと、私にそうまでさせるからには、無様な試合は許さんからな」

 

折れる……千冬……!承諾…カイジの提案を……!

 

 

よし、これでどうにか最初の条件は取り付けらた……!

出来れば奴らにも訓練機を使わせたかったが……!

いや、そうじゃない……逆に考えるんだ……!使わせちゃってもいいやって……!

オルコットは専用機の情報さえ集められれば……そこから糸口が見えてくるかもしれねぇ……!

訓練機なんてある種オーソドックス…基本に忠実に来られたほうが勝機は薄いかもしれねぇ……!

 

 

カイジ……決意……!戦う……こうなったらとことん……!抗ってみせる……!

果たして、どうなる……カイジ……!

 

 

 




自薦・推薦・他薦
自洗……主がぽんこつでも勝手に流してくれる優秀な奴
水洗……水ですべてを過去に流してくれる優秀な奴
他洗……だれかが汲み上げてくれるまで待ってる臭い奴

アニメ版確認したら推薦って言葉は使ってないのな……まぁ推薦と他薦の違いって何だよってほぼ同義だし、そりゃそうか……

それよりも英語吹き替え版ちょろこっとさんの声優可愛くない……?
のほほんさんはのほほん具合足りない感じ……千冬さんは凛々しさがなぁ……


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カイジ、不和……!

4限目終了……!IS学園初日、終わりを告げる……!だが、本番はここから……!

準備期間はたったの一週間……!オルコット討伐、その一日目……!

無駄にはできない……!その初日……!

 

「ねぇねぇ~、かーくん。いきなりセッシーと勝負なんて大丈夫なの~?」

 

呑気にもやってくる、布仏本音……!

 

「(クラスメイトの女がそれを聞くのかよ……!お祭り気分で推薦して巻き込まれて……決闘になったときも誰も助けを寄越さねぇで……俺を罵っておきながら……!第三世代機の勝負に第二世代機で放り込まれんだぞ……!)てめぇの頭にはマシュマロでも詰まってんのかよ……!それにこれは俺の問題だ、関係ねぇだろ……!」

 

「ど、どうしたの……?何だか雰囲気が怖いよ~……」

 

「(誰だってこうなるだろ……!助け船どころか、退路を封じておいて……!さっきまで通りといくかよ……!)話しかけんじゃねぇ……!うんざりなんだよ……!味方面……!ピンチのときは素通り……見逃しておいて……いざ自分が痛まない……被害がないってときになったら……あたかも私は優しい……助けてあげる……心配してる……!そんな風に近寄ってくるのは……!」

 

会長が言っていた……99.9%……人は人を救わない……!

なぜなら……人は人を救わなくても……その心が痛まないから……!

俺もそこまで人に絶望してるわけじゃねぇ……!

だけど、いまならちょっとはその言葉……分かる気がする……!

絶対じゃねぇが、ある……女尊男卑は正しく……その流れ……!

さっきのクラスの流れこそ、それ……!

 

「うぅ、そんなこと、考えてるわけじゃないよぅ……ただ、心配になったから……」

 

「その心配ってのが、うさんくせぇって言ってんだよ……!何ができるってんだよ、お前に……!」

 

「勉強のお手伝いとか、ISの事とか、少しは教えてあげられるよ~……」

 

「そんなもんは山田先生にでも聞くさ……!織斑先生には聞けねぇけど……いまは時間が惜しい、それじゃあな……」

 

教室に残された布仏本音……その耳と袖は悲しくうなだれていた……

 

職員室へ直行するカイジ……!目的は山田真耶……聞くことは山ほどある……!

 

「あ、伊藤君!ちょうどよかった。渡しておくものがあるんです!」

 

「あ、はい。こっちもちょうど山田先生に用事があったんで助かりました。で、渡しておくものってなんです?」

 

「えぇ……!?私に用事、ですか……?そんな、そういうのはまだ早いっていうか、先生と生徒なんですし……」

 

「まだ、訓練機の貸し出しの事とか聞くのは早かったですかね……?さすがに一日目は仕方ないとは思いますけど……だったら、情報収集を優先するか……!」

 

「あ、訓練機の事は織斑先生が先ほどなにかされていましたから、そちらに聞いてくださいね。って、鍵です。1027号室の寮の鍵を渡しておきますね」

 

そういって手渡されるのは鍵……IS学園寮の鍵……!

 

「え……?はじめの説明じゃ部屋の都合がつかないから1週間は外から通うって聞いてたんすけど……?」

 

「それは、私から説明しよう。帰る時間も前後する中警備をつけ続けるのも骨が折れるし危険なのでな。さっさと入寮できるように少し無理をしたのだ」

 

「うわっ!?お、織斑先生、急に出てこないでくださいよ……」

 

「全くずいぶんな言いぐさだな、貴様は……訓練機のことや寮のことでこちらから出向いてやったというのに。まぁさすがに今日は諦めろ。いくらなんでも当日の予定を取り消させるのは忍びない」

 

「そこまで無茶を言うつもりはありませんよ……で、訓練機の事はいいとして、寮に入るって言ったって荷物とか、どうなってるんすか」

 

「そこは私がまとめて郵送しておいてやった、ありがたく思え。というか、お前はどんな生活を送っていたのだ、あのボストンバックひとつがお前の生活用品のすべてか……?」

 

無茶苦茶……プライバシーもへったくれもない……!

 

だが、根無し草の居候だったカイジ……荷物はほぼなし……!

 

「(借金の形にねこそぎ持ってかれたんだよ……!)物は持たない主義なんでね……じゃあ、今日は情報収集とISの勉強に回すとするか……!」

 

「ほう、やる気は十分のようだな」

 

「一応面前であれだけの口をきいたんだ……半端な結果じゃ俺も納得がいかねぇ……!で、先生方。学園なら各国のISのデータとかあるんでしょう……?もちろん機密になるような部分は無理として、公開されているものをもらいたい……!特に動画……セシリアの公式戦とか戦闘の様子を収めたものがあればありがたい……!」

 

「学園内にいる専用機持ちのデータは入学時に提出されているものがありますし、公式戦などもすべて記録されていますから。それらのデータは差し上げられますよ。ですが基本的には部外秘です。学園外には、ですが」

 

「ほぼほぼこの学園内に軟禁されてるんだ。情報の漏らしようもねーし、そんなことしても俺には何の得もねぇ……!しないさ、そんなこと……!」

 

「ここは得とかではなくて、自分はそんなことはしないって言ってくれるだけでいいんですよ……?」

 

「そんなんじゃだめだろ……!利益にならない、得がねぇ……そういうのじゃなきゃ、根本的には信じられねぇ……!自分はしない、なんて薄っぺらな言葉じゃ……!裏切られる……!」

 

助けます、助けるから……!ありがとう、カイジさん……!この御恩は一生忘れませんから……!

やつらはそう言いながら裏切った……!奴らには得があった……俺を売れば大金……!

大金が入るから……簡単に裏切って・…・・俺を地の底へ落そうとした……!

 

「(やはり伊藤の過去にはなにかがある。不登校であったのは確実だろうが……だがその間に何かがあったのだ……時折匂わせる圧倒的な才覚……それを目覚めさせる何か……)」

 

「(伊藤君は過去にだれかに裏切られたのでしょうか……?今日のことも、嫌な思いをしたかもしれませんね……)ともかく、私は伊藤君のことを信じてますから…では、30分くらい待ってくださいね。ささっとまとめちゃいますから」

 

「そんな早くしなくても、仕事とかあるでしょうし…それからでもいいんすよ…?」

 

「いいえ……!せっかく伊藤君がやる気になってくれているんです……!先生としてできる限りのことをしますよ……!」

 

救世主……天使……女神……!あれだけの口をきいたのに……対応……神対応……!

 

「あ、ありがとうございます……!教室のほうで時間を潰しておきますから……」

 

「はい、ではまた後ほど」

 

---------

 

 

教室に戻るカイジ…人ははけてまばら……だが、まだ談笑している生徒達……

一転空気が重くなる……さきほどまでの明るい空気……変わる……カイジによって……!

生徒たちには目を向けず……席へ向かうカイジ……そこへ寄る織斑……!

 

「なぁ、カイジ。いくらなんでもひどかったんじゃないか?のほほんさんへのあの態度!」

 

「……あ?誰だよそいつ、分かるように言えよ……!」

 

「っな!?布仏さんだよ!カイジを心配して話しかけに来てくれたってのに……!」

 

「織斑には関係ねーだろ……なんでそう人のことに口出しするんだよ……!言っとくがな、あの時誰一人助けも寄越さない、むしろ俺を罵ってきた……なのに、今更白々しいってんだよ……!そんな鼻につく行為されて、笑顔で対応する道理がねーだろ……!」

 

「だとしても、相手は女の子だぞ!?優しくしなきゃダメだろ!」

 

こいつも頭の中お花畑かよ……何言ってやがんだ……!

そりゃお前はブリュンヒルデの弟で、女からろくでもない扱いされたことねーんだろ……!

俺だってお前の立場ならそんな甘いことも言ってるかもな……!

 

「そうかよ。それにしても言ったろ、お前の考えを押し付けんなって……!それは迷惑だってな……!」

 

「考えを押し付けるとかそういうんじゃねぇ!当たり前のことを言ってるだけだろ!」

 

通じない……!会話になっていない……!もはやキャッチボールではない……!ドッジボール……!

相手にただ言葉を投げつけるだけ……!交わらない……!受け止めない…!

受け止めた言葉は返す……剛速球……敵の顔面へ……!

 

「もういい。俺はISの勉強で忙しいんだ。織斑もやるべきことをやれ。俺なんかに構ってるんじゃなくてな……」

 

「っな!?くそ、なんなんだよ……とにかく、女の子には優しくしろよ!」

 

捨て台詞を残し去っていく織斑……箒と呼ばれていた女子にも睨まれる……!

教室の空気は織斑に賛同……!

女尊男卑により……女の男への扱い……雑……雑巾のように……!

女が男を扱き使う……!変わる世間の風潮、流れ……!

それでも根本の部分での力関係……男の方が力が強いということは変わらず……!

意識の外に押し出しているが……そこは忘れていない……!

だから女は男に優しくされて当然……!優しくされたい……優しくされるべき……!

そういう考えの中……!カイジ……またもやアウェー……!

 

優しくされたいなら、人に優しくしろよ……!性別とか云々じゃねぇ……!

人として当然……!優しくしない限り優しくされねぇだろ……!

女だから無条件で優しくされて当然って…通らねぇだろ、んなもん……分かれよ……!

 

周囲を無視……シャットアウトして勉強……集中……!

出ていきたいところだが……駄目……山田先生が来るまでは出られない……教室からは……!

 

---------ーー

 

「伊藤君、ごめんなさい。少し時間がかかってしまって」

 

「大丈夫ですよ、こっちも無理言ってるんですから……それに勉強してたら一瞬で時間過ぎましたし……」

 

いつの間にか日は暮れて……外は夕暮れ……!どれくらい時間が経っていただろうか……

 

「勉強ははかどりましたか?分からないことがあったら聞いてください!私は先生なんですから!」

 

「いや、流石にこれ以上時間とらせるのも申し訳ないっていうか……今のところ聞くことはないっていうか……」

 

「そ、そうですか……えと、これが例の資料です。くれぐれも扱いは注意してくださいね」

 

落胆……圧倒的落胆……感情表現……ストレート……!

 

「ありがとうございます。資料見て分からないところとか、聞きたいことがあったら、山田先生に聞きに行きますから……その時はお願いします……!」

 

下げる……頭……!少なくとも、味方……!信用できる……山田先生は……!

 

なら、見せなければならない……誠意……!出来る限りの誠意……!

 

「あ、頭を上げてください!では、必ずですよ!必ず聞きに来てくださいね!」

 

そういい去っていく……山田真耶……その足取りは軽い……!

資料を握りしめ……カイジ、向かう……!寮へ……!

 

 

 



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カイジ、和解……!

各国の代表候補生やお嬢様も通うことになるIS学園学生寮……!

地下に送り込まれるクズどもとは、天と地……月とスッポン……!

当然違う……対応……何から何まで……!

 

「学生の寮だってのにずいぶん豪華なもんだな……地下と比べりゃ天国に見えるぜ…!」

 

山田先生は同室の奴についてとか何も言っていなかったな……

同室になるとしたらまず織斑になるわけだが……やり辛いな、あんな後で……

それにこの情報……奴に分けてやる道理もない……同室じゃあ部屋で見れねぇが……

一人部屋か、二人部屋か……二つに一つ……!祈る……一人部屋……!

 

部屋に向かいながら考えるのは……意外にも布仏本音のこと……!

織斑が言ってきていたことは別として……確かにあれは俺の八つ当たりにも近い……!

布仏は助け船を寄越してはいない……だが罵ってきたわけでもない……!

織斑先生がIS勝負を決めた以上……無駄……少なくとも学生では何を言っても……!

仕方ない……あの場では……援護射撃……できなくても……!

このままでは敵……周りをすべて敵にしたら……正しく孤立無援……!

確実に息切れ……窒息……八方塞がり……!

作らなければならない……味方……!山田先生以外にも……!

 

「ここか……1027号室……!とりあえず入るとするか……」

 

開ける……鍵を……!しかし、開かない扉……!

つまりもういる、先に……中に人が……!

 

「っち、二人部屋のほうかよ……めんどくせぇ……!」

 

そういいつつも、避けられない……入っていく、部屋へ……!

 

「やっほ~、かーくん。遅かったね~」

 

部屋にいたのは意外……!布仏本音……!な……なんで?なんでいる、某ピカチュウ……!

同室の織斑か……?初日から女連れ込んでんのかよ……!

しかもよりによって布仏……!めんどくさいことこの上ない……!

 

「織斑はどこにいるんだ……?部屋に布仏だけ残して……」

 

「何いってるの~?ここは私の部屋だよ~?」

 

渡し間違え……?山田先生め……どこか抜けてるとは思っていたけど……

よりによって鍵間違え……!女子の部屋に入っちまったら……

場合によっては訴えられかねないぞ……!このご時世……!

 

「わ、悪かったな……!山田先生から渡されたんだけど、どうやら鍵が間違っていたらしい……!今すぐ出ていく……!だから、訴えるとか、そういう気は起こさないでくれると助かる……!」

 

「かーくんの部屋は、ここであってるよ~。同室者は織斑君じゃなくて、私だよ!」

 

は……?正気か、この学園……!年頃の男女を同室……?

普通に考えて織斑とだろ……!それ以外の選択肢……あるわけねぇだろ……!

 

「冗談、だよな……?いくらなんでもねーだろ……男女、同室……!」

 

「織斑君は、しののんと同室らしいよ。冗談とかじゃなくてこの部屋割りであってるよ~」

 

まじ……?このふわふわした女と同室……?

だが、織斑と同室じゃないなら奴と面倒ごとも起きねぇ……!

夕方の件で分かった……奴とはそりが合いそうにない……!

あとは、この女……謝っておくか……教室でのこと……!

同室になるってんなら、仲良くやっておかねぇと、それこそ濡れ衣……葬られかねないしな……!

 

「そうか、同室なのは分かった……それと、そのなんだ……さっきは八つ当たりみたいで悪かったな……あの場じゃ仕方ねーよな……なんも言えなくて……罵ってきた訳でもないのに……イライラしてたんだ……済まなかった……!」

 

平身低頭……素直に、謝罪するカイジ……!

 

「別にいいよ。あんなおいてけぼりで勝手に話を進められたら誰だってイライラするよ~」

 

カイジの謝罪を受け入れる布仏……!いい子……!このご時世でもすれていない……!

女尊男卑なら……!弱みを見せれば……謝罪をすれば、つけこまれる……!どこまでも……!

 

「そう言ってくれるとありがてぇ……!ベットは空いてる方を使わせてもらう……あとはシャワーの時間とかそういうこと、決めておこうぜ……!」

 

「わかったよ~。でもとりあえずお腹空いたから食堂行って、そこで話そ~」

 

「(お腹空いたって……待っててくれたってこと、俺の事……?そうまでするか……あんな態度見せた俺に……?天使……この子も……天使……!)わ、わかった……すぐ準備するから……!」

 

カイジ……和解……!少なくとも、中立……!味方とまではいかないが、中立……!

敵ではないクラスメイト、一人目……布仏……!

 

-----------

 

そうして、向かう……食堂……!

食堂へ入る、カイジ、布仏……すこしだけざわつくも、変わらず……!

窺うような視線はあるものの……空気までは……!

 

席に着き、食事を始める……織斑を見かけるが、あえて席を離す……!

先に気付いた篠ノ之から睨まれ……そもそも近寄れず……!

 

「(っは、睨まなくても近づかねーっての……)で、色々決めておくことだが……」

「うんうん~」

 

食事をしつつ……取り決め……ルール……身を守るためにも……定める……!

 

「(なんだ……?ちょっと騒々しくなった……?)っし、静かにしてくれ、布仏……」

 

「ん~?」

 

どうやら、上級生が織斑たちのほうに話かけにいっているみたいだな……

何を話してやがんだ……?

耳を澄ませる、カイジ……!盗み聞き……!

 

 

「ねぇ、君のほうが織斑一夏君でしょ?代表候補生の子と勝負するって聞いたけど、でも君、素人だよね。私が教えてあげよっか?ISについて」

「けっこうです。私が教えることになっていますので」

 

そういい、張り合う篠ノ之……!

 

「私は三年生。私の方がうまく教えられると思うなぁ」

 

「私は篠ノ之束の妹ですから、ですので結構です」

 

切る、鬼札……IS界におけるジョーカーを……!

 

「そう、それなら仕方ないわね……!」

 

たまらず退散……悔しそうに去っていく三年生……!

 

 

 

「(面倒そうだな……!)ちょっと、お手洗いへ……!」

 

直感……この時、カイジに電流走る……!織斑、が目当てだろうが……

俺のところにも来る可能性……無きにしも非ず……

 

「?いってらっしゃ~い」

 

 

席を離れ影から見守るカイジ……案の定、何かを探すかのよう……!

周囲を見回した後……去っていく、三年生……!

 

「(っほ、やっぱりか。まぁ三年の指導役ができるってのはありがたいが、織斑目当てだったんなら、俺はいわば外れくじ……期待できねぇ……熱……指導……!)それにしても……あいつ……」

 

見やるは、篠ノ之、織斑の座るテーブル……!ジョーカー、二枚組……!

 

「平然と切りやがった、鬼札、ジョーカー……!言ってなかったっけ、姉さんは関係ないとか、何とか……まぁ使えるもんを使うってのは正しいけどよ……!自分が切ったカードの意味、その強さ、理解してんのかね……」

 

あまりにも強い力は……一転、身を亡ぼす毒……牙をむくことさえあるのだから……!

バイタルウォッチ、456賽……彼らを勝利へと導いてきた切り札……!

しかし、滅ぼされる……その力によって……!

 

そして、一度使えば……抗えない……最早捨てられず……!

捨てても付きまとう……強力が故……消せない、その残滓……!

最早博士と無関係とは……誰も……認めてくれない……!

 

 




面倒なので細かい作中描写はしていませんが、当然カイジに対してのヘイトは溜まっております。千冬への発言とかやりすぎかな……?とも思うんですが、あれくらい言わないと動いてくれそうにないし……うーん……

分からない人のために……
456賽……班長の使っていた4・5・6の目しかない賽。人は一度に三面までしか立方体を見れないという特性をついた非常に強力な賽。また、チンチロリンとのルールとマッチングしていて、ほぼほぼ最強……だが負けることがあるという巧妙さを併せ持つ。

バイタルウォッチ……利根川がEカードで使っていた時計。カイジのバイタルサインが監視できる。心理戦となるEカードにおいては非常に有用。腕時計と観察の意味合いをかけてバイタルウォッチと呼称。ただこれを使いこなすのは装着者の力量も高くなければならないだろう。


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カイジ、決戦……!

そして時は過ぎ……代表決定戦……矢の如し……光陰……!

カイジ……重ねてきた努力……知略……その披露の場……!果たして……カイジ……!

 

 

そしてここは控室……織斑らが今か今かと専用機の到着を待っている……!

しかし、来ない……いつまでたっても……!納入遅れ……あってはならない遅刻……!

 

「遅いな……仕方ない、順番を変更する。初戦は織斑vsオルコットから、伊藤vsオルコットとする……!」

 

くそ……!いきなり計画が崩れちまったか……

当初の予定じゃ織斑が先にぼこぼこにされて……

次に俺が油断しきったオルコットを叩く作戦……!

でも、仕方ねぇ……考えてなかったわけじゃねぇ……!

万が一にも織斑がオルコットに迫った場合……!

次の試合には確実に残ってねぇ……油断……慢心……!

ならいっそ初め……しょっぱな……!一週間前と変わらない慢心……!

そのオルコットを叩く……!

 

「当日の納入予定も守れないなんて、ずいぶんお粗末な企業だこと……!常識だろ……納期……間に合わせることくらい……!」

 

確定……!納期がぎりぎり……遅れるなんてことになるってことは……

やっぱり想定してやがったんだ……!

この代表決定戦があるかもしれないってこと……!

それで急遽、予定を組み替えやがった……!

恐らく本来の納期はクラス対抗戦に間に合わせること……!

それじゃあそもそも対抗戦をぶっつけ本番……!

そういう鬼畜具合だが……多分ありうる……それくらい、あの女……!

 

「まぁこっちも想定済み、それくらい……!準備は万端……!出られるぜ……いつでも……!」

 

そういい、ピットに向かっていくカイジ……!

そこへ声援をおくるものはいない……

 

「伊藤君!頑張ってくださいね!この一週間、授業も放課後も真面目に取り組んでいたことを先生は知っていますからね!」

 

……いた!ただ一人……カイジに舞い降りた天使……!山田真耶……!

 

「っへ、やってやるぜ……!伊藤開司、打鉄……出るぞ……!」

 

打鉄を纏ったカイジ……飛び出す……勢いよく……!当然、失う……!コントロール……!

 

 

「おわああぁぁぁああ」

 

回転……廻旋……旋回……周回……!ぐるぐると……みっともなく登場……!カイジ……!

 

「ぶーぶー、引っ込めー!」

 

「織斑君を出せー!あんたの出番じゃないわよー!」

 

当然……暴言……苦言……罵詈雑言……本来一回戦目は織斑一夏とその専用機……!

みな期待……ブリュンヒルデの弟……その初試合……!

が、出てきたのはカイジ……!みっともなく体勢を崩したカイジ……!

 

「あらあら、あなたが最初になったんですわね。それにしても大丈夫なんですの?試合は取りやめてわたくしが空中散歩のエスコートをして差し上げましてよ?」

 

「いや、結構だ……!この一週間嫌ってほど、空中には浮いてたんでね……!それよりも、勝負だ……!この場に出てきた理由はそれだけ……!」

 

「ふふん、あなたはまぁ、代表候補が優秀ということは分かっておられるようでしたから、特別にハンデを差しあげてもよろしくってよ?機体の件はどうにもなりませんでしたし、それに先ほどの無様なダンスをする相手に本気を出しては品位を疑われてしまいますわ。あなたのいう対等な条件ってところかしら?」

 

「っけ、ハンデだ……?なにを私はさも優しいみたいな雰囲気出してんだ……!鬼畜じゃねぇか、お前たち女……!人の面を被った悪魔……!所詮、お前が言った通りの品位が疑われるってそれ……!結局自分本位……!俺の事を慮ってるんじゃねぇ……!自分の評価を気にしてるだけのくせして……すり替え……!あたかも、人の心配をしてる風……!」

 

「言うに事欠いてこのわたくしの配慮を悪魔呼ばわりとは……!わたくしの小間使いにするにしても少々しつけが必要なようですわね……!」

 

……少しあおりすぎたか……?でも、まだ大丈夫だ……!

奴は見ている……俺のみっともない出撃を……!

そしてこの空気……!完全に俺のアウェー……!奴も感じ取ってる……!

観客が望んでるのは俺をいたぶること……!これでいい……!

 

「っへ、お前に野良犬を飼いこなせるかってんだ……!」

 

「もういいですわ、落ちなさい。わたくしとブルー・ティアーズの奏でるワルツで!」

 

正面からの射撃……馬鹿正直な……一直線……!が、カイジ……躱せず被弾……!

 

「大口叩いてあんな分かり切った攻撃もかわせないなんてださーい」

 

「そんなやつぼこぼこにしちゃってー、オルコットさーん!」

 

「(全く外野が騒々しいですわね……これではさすがに予想以上に品位がないと言いますか……あなた方もわたくしから見ればこのみっともない男性と特に変わらない腕前でしょうに……)哀れですわね……クラスメイトからは罵られ操縦もおぼつかないなんて……」

 

カイジ……ライフルを向ける……抵抗……戦意……失っていないことを示すように……!

 

「あら、戦意は失っておりませんのね。いいですわ、動かなくなった相手に打ち込むような真似はさすがにしたくありませんから…!」

 

それからは避ける……時折かすめながらも……致命傷は……!絶対防御は発動させない……!

カイジも応戦……!射撃はするが当たらない……動対動の射撃、まず当たらない……!

 

 

ピット内部……試合を分析しあう教師、二人……!

 

「なかなかに避けていますね。オルコットさんの遠距離戦の技術は代表候補生の中でも上の方なのに」

 

「ずいぶんと手を抜いている、いや、抜かされているからな」

 

「抜かされている?オルコットさんが、手を抜いている、というわけではないんですか?」

 

「山田先生も見ただろう、伊藤のあの無様な出撃を」

 

「まぁたしかに、完全に体勢を崩していましたけど……」

 

「では、ピットから進むときはどうだった……?伊藤はいつから体勢を崩した……?」

 

「っあ……!」

 

「そうだ、あいつはわざと体勢を崩したんだ……!でなければ、開始位置の手前で体勢を整え直せるわけがない。オルコットも伊藤が躱すにつれて狙撃の精度を上げようとしている。が、あの出撃シーンが心の足枷になっているのだ、本気を出せないように(さらに言えばアリーナそのものの空気、それをも味方につけている……アウェーを味方につけるとは……面白い……!だが、このままではジリ貧だぞ……さらにBT兵器へはどう対応してみせる……!?)」

 

 

睨みあう……カイジとオルコット……どうなる、勝負の行方……!

果たして策は実るのか……カイジ……!

 

 

 



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カイジ、活路……!

相手の射撃は掠めていく……千冬の言う通りジリ貧……!

このまま続けられれば……手も足も出ず……負け!しかし……

 

「すこしは目が慣れましたのね。では、視覚外からの攻撃はどうかしら?」

 

出てくる……!ブルー・ティアーズを象徴するBT兵器……!出さない訳がない……!

 

それを見てカイジ……ライフルの両手持ちをやめて……空いた片手に取り出す……!

六二口径連装ショットガン……通称レイン・オブ・サタディ!

この一週間費やしていたのは……射撃と機体制御……!

自分か相手の動きどちらかが完全に止まっている……

そんな戦闘中あり得ない射撃の訓練……!

 

「(躱すのは厳しい……やっぱり狙ってきやがる……死角……!ハイパーセンサーがどれだけ有能でも……それを処理するのは……俺……!どれだけ視界が……広くなったとしても……とどのつまり……人間……!対応が遅れる……真下や真上、背後ってのは……!)っくそ……!致命傷だけは……!」

 

死角の動きへと集中……BT兵器の動きを追う……カイジ……!

 

「あらあら、ダンスのお相手を忘れてはいけませんわよ……!」

 

「……!」

 

背後へ向かうBTに気を取られた……その隙……逃さず……!

オルコット自身からの……狙撃……!

だが……背後を取ったBTは……沈黙……放たれない……レーザー……!

 

「(やっぱり、確定……!BT兵器からは……攻撃は来ない……!)無作法者でね……マナーがなってないんだ、俺は……!」

 

回避……被弾……回避……被弾……!避けきれずに溜まっていくダメージ……!

SEがじり……じり……と減っていく、カイジ……!

 

「被弾率が上がっていましてよ?っ……!」

 

またもオルコットが話しかけてきたその瞬時……!

そこをついてライフルを射撃、オルコットへ向けて……!

慌てて避ける……!そして止まる……カイジのすぐ近くで……BT兵器……!

 

「的が小さいなら、面で叩く……!制圧射撃……!」

 

手近な止まったBT兵器へ散弾連射……!だが、外れ……破壊には至らず……!

 

「残念ながら、命中はしなかっ……!動かないですって……!?」

 

「っへ、脳波コントロールもできる!ってのは、ずいぶんと精密機械みたいじゃねぇか……!なら、壊れる……!ちょっとの衝撃でも……!脆い……脆弱……!」

 

実る……カイジの一点突破……その訓練……!

 

自身で弱点は気づいているんだろうが、俺は気づいていないふり……!

オルコットとBT兵器の同時攻撃はないってこと……!

もし奴とBT兵器が同時に動いているなら……!

その時にはまずBT兵器からの攻撃は飛んでこない……!

 

「(あの武装のチョイスといい、機をてらったかのような射撃といい……わたくしの研究はしっかりとしていると見るべきですの……?だとしても、そんなこと関係ありませんわ!)その程度の事でこのブルー・ティアーズを落とせるなどと思わないでくださいまし!」

 

その後も応戦が続き……カイジは狙う……彼女が止まるその瞬間を……!

オルコットのSEも少しずつ減る……BT兵器も……追加で一基を落とした……!

しかし、SEが減る速度はカイジのほうが早い……!

 

「もう最後の一発といったところかしら。中々に楽しめましたわ。でもこれで……終わりですわ!」

 

スターライトMkⅢをカイジへと向けるオルコット……!

放たれる、止めの一撃……!

 

フィナーレはブルー・ティアーズではなく、スターライトMkⅢ……!

彼女の公式戦を研究・分析した結果……フィナーレはご自慢の狙撃……!

背後からBTを命中させて終わり……そんな呆気ない幕切れは好まない……!

そういう、派手好きな性格……!カイジの分析……!読み、当たる……!

この時ばかりはBTも気にせず……突撃できるということ……!

カイジ……躱す、この時ばかりは紙一重……しかし、完全に……!

そしてライフルを投げ捨て、右手に表す対レーザーシールド……!

突撃しながらも……二発目は完全に防ぐ……シールドを用いて……!

仕掛ける……接近戦……レイン・オブ・サタディとシールドによる……!

 

「(中々いい選択ですわね。でも、BTはもう二基ありましてよ。そのシールドにはうってつけの……!)残念でしたわね……!そのシールドでは防ぎきれなくってよ!」

 

発射……ミサイル……!容赦なく襲い掛かる……実弾兵器……!

防ぎきれない、そのシールドでは……!どうなる……カイジ……!

 

 

再びピット内部……試合の行く末を眺める教師、二人……!

 

「伊藤君……頑張ってきたけれど、もう……」

 

「そう思うか……?山田先生」

 

「え?どういうことです、織斑先生?」

 

「伊藤の顔。絶体絶命の状況なのに笑っていた、なによりも目が諦めていない……!それに引き換え、オルコットの勝ち誇った顔……こういう時に起きるんだ、逆転というものは……!」

 

「……!」

 

「それに、伊藤は研究し尽くしている……オルコットの、癖……弱点……武装……つまり、まだ……ある……!何か、隠し玉……オルコットの動きを、読んだうえで……!(お前は何を見せてくれる……!お前はあと一撃で終わり、オルコットのSEは残り300……距離を詰めたサタディで絶対防御を発動させても5発はかかるぞ……!さぁ、見せてみろ……!)」



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カイジ、滂沱……!

オルコット、確信……!勝利……!演出的……華麗なる勝利……!

が、まだ……!まだ終わっていない……!流れていない……アナウンス……!

オルコットの勝利宣言はまだ……つまり、ついていない……決着……!

 

「うおおおぉぉお……!」

 

黒煙の中現れるカイジ……!SEはほんのすこし削れただけ……!

あのわずかなSEでは……!対レーザーシールドでは……防ぎきれないはずのミサイル……!

だが、カイジ……黒煙を抜けて……突撃……突貫……吶喊……!

 

「そんな、なぜ……!(……!?もう片方の手にもう一枚のシールド……!?そしてレーザーシールドは捨て去って、アレは……!あの武器は……!)」

 

驚愕……!カイジの策略……二枚重ね……散弾銃の接近戦と見せかけて……実は二枚……!

一枚目の影に隠し……ミサイルまで読んでの対物理シールド……!防ぎきる……!

 

「これで、お終いだあああぁぁ……!」

 

オルコット、ライフルを構えるも……すでに懐……!飛び込んでいるカイジ……!

撃たれる前に払いのける……シールドで……!そして、詰まり切る、距離……!

カイジの手にあるのは……六九口径パイルバンカー、通称盾殺し……!

接地……!オルコットの腹部へと定まる……狙い……!

 

「っ……!」

 

来たる衝撃に備えて……目をつむるオルコット……!

 

「……っう、うぅ……ぐ、うぅ……!」

 

しかし、来ない……いつまでたっても、衝撃……!訝しみ、目を開けるオルコット……

そこにいるのは泣きじゃくるカイジ……必殺の一撃を突きつけるも……引けない……そのトリガー……!

 

「(なんで……なんで泣いてるんだよ……俺……!勝てねぇだろ、打たなきゃ……!打たなきゃ……!負け組……なんでだよ……引けねぇ……重たい……なんで、俺こんなとこ飛んでるの……?なんのために戦ってるんだよ……!いや、勝つため……勝つため……だろうが……!)」

 

カイジは思い出していた……訓練中に声をかけてきた上級生……!

武器のアドバイスをもらい、知った……パイルバンカー……!

そして、その身に受ける……!衝撃……!壮絶……!

絶対防御があれど、その身を貫く……衝撃……強烈……!

 

「あ、あなた……何を泣いていらっしゃいますの……?」

 

「打てねぇだろ……こんなの……!負けるって、打たなきゃ勝てないって……分かってても……こんなもの人に……女の腹に向けて……打てるわけねーだろ……!」

 

「これは試合ですのよ……!?あなたに打たれたとして、文句など言いませんわ……懐に潜り込まれたのはわたくしの失態ですもの……ここで試合を投げるというのはわたくしに対する侮辱ですわ……!」

 

そういい、カイジへとライフルを向けなおすオルコット……!しかし……

 

「そういう……試合とか……勝つとか負けるとか……そういう問題じゃねぇ……!人として駄目……どんなにクズだろうと……俺には越えられねぇ……!この一線だけは……俺は……打たねぇ……俺は、打たねぇんだ……!」

 

周囲からはブーイング……!打て……撃て……打て……撃て……!

カイジにもオルコットにも向けられる……ブーイング……!

未だカイジを罵るもの……臆病者……軟弱者だと……!

 

「(なんて甘い男……しかし、これはわたくしの負け……ここでこの、カイジさんを撃ってしまってはわたくし自身を許せませんわ。それにいま落ち着いた気分でアリーナを見たらどうでしょう……なんと愚かな……わたくしの縋っていたものはこのようなものでしたの……?)山田先生、わたくしは勝負を降りますわ。この方を撃つ武器の持ち合わせは、わたくしにはありませんもの」

 

「え、えと。セシリアオルコット選手、降伏。勝者、伊藤開司!」

 

決着……セシリアオルコットvs伊藤開司……勝者、カイジ……!

しかし、歓声はまばら……むしろ、不満……!会場の空気……!

 

その会場の空気を感じながら……オルコット、決意……!

 

「山田先生、少しだけ時間をいただけませんこと……?」

 

「は、はい。大丈夫ですよ、ちょっとくらいなら」

 

「みなさんにこの場を借りて、謝罪致しますわ。一週間前にわたくしが行った教室、そしてこのアリーナでの言動、その数々。申し訳ございませんでしたわ」

 

下げる……頭……!アリーナへ来ている観客すべてへ……!

 

「そして、ひとつだけ言わせてもらいますわ……この試合に不満があるクラスメイトの方々。あなたがたの中にたった一週間で、カイジさんのようにわたくしに迫ることができるという方がいたら出てきてください。全力でお相手致しますわ。その気概もないのならばカイジさんを罵ることはやめてくださいまし。底が知れましてよ」

 

言い切る……セシリア、自分の思いの丈を……!

 

「ありがとうございました、山田先生。以上で終わりですわ」

 

女性として……男性から扱ってもらえる……その内が女性の花でしてよ……

そうでなくなったら……女性は、女性ですらなくなってしまいますわよ……

その思い、それは言葉にせず……気づかなくてはならないことだから、自らが……!

 

未だ呆然と泣きじゃくるカイジを引き連れてピットへと戻る……

試合後にもかかわらず、静寂……不気味なほどの静寂を湛えたアリーナを背に……!

 




第二戦目は普通にセシリアの勝ちということで……正直書くのめんど……
ではなく、カイジ戦後の完全慢心・油断、女尊男卑を振り切ったセシリアの敵にはならないかなって……
ていうか剣道してただけの相手に素の実力出せる状態で負けたら本当にチョロコットさんになってしまうっていうか、引いてはイギリスやばすぎ……
いくらBT適性の高さが考慮されての専用機といっても素の実力はあるはずやし、ブルーティアーズが踏み込まれたらきついからといって、いくらなんでもね……
そしてカイジの訓練機もぼろぼろのため、織斑戦は無効試合で……書くのめんd……


何度アニメの8話見ても思うんすよ。ラウラさんに六発もパイルバンカー打ち込むデュノアさんを見て、悪魔だなって。試合中だけどさ、男(あの時点では)が身長148cmの小さな女の子の腹部めがけてパイルバンカー乱打してたらドン引きっすよ……停止状態から20m近く吹き飛ばして、そっから壁際でドリブルしてるんすよ……止めるだろ、試合……SEの残量とかそういう問題じゃねぇって……!強化人間のラウラさんが目を見開いて動き止まるレベルの衝撃やぞ……一般人なら確実にリバースしてますって……ていうか一発目でコマ送りにしてもSE400→120まで減ってるのに、そこから5発って明らかにオーバーキルだろうが……!


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カイジ、畏怖……!

IS学園寮……ここはオルコットの部屋……シャワー中……サービスシーン……!

が、駄目……!この小説には……挿絵、無し……!

 

「カイジさんには改めて謝罪にいかなければなりませんわね。世話の焼ける甘い人……ですが、今までに見たことがない優しき心の持ち主ですわ……」

 

智謀を尽くし、策略を張り巡らせ……たった一週間で、このわたくしに迫った……!

第一印象は冴えない風体の情けない男……侮辱をされても言い返さず……

決闘に対しても消極的……ワタワタ、オロオロ……

わたくしに、オルコットの名に群がってきていた有象無象……その類型……

 

しかし、追い詰められたら一転……ブリュンヒルデ相手にすら引かない姿勢……

啖呵を切ってみせて……それを口先だけではなく……見事ものにした……

なのに、打たない……相手の身を気遣って……自らの戦略の……その最終面……!

たどり着いても……試合の最中だというのに……ぼろぼろと泣き出して……打たない、と……

 

男らしさとは強く誇り高きもの……わたくしの求める男性像……

まるで逆……みっともなく泣いて……引き金を引けなくて……

それでも、カイジさんの優しき心は……強く誇り高きものであった……

心が優しいから……あの場面で泣いて……わたくしの心を救った……!

 

人のために、自分のために……泣くことができるという強さ……

あの方は、女性からみれば立派な、男らしいと言えるような……

そういう方ではないのかもしれませんが……でもあの時、カイジさんほど……

立派な方はいない、そう思えましたわ……例え、誰が認めなくても……!

 

自室でシャワーを浴び終えて、着替え……向かう、カイジの部屋へ……

 

「あの、失礼いたします。伊藤開司さんはいらっしゃいますか?」

 

こん……こん……!とノックされる扉。聞こえてくるのはオルコットの声……!

 

「かーくん、オルコットさんみたいだよ~」

 

カイジ、ベッドに寝転び疲れを癒していた……そこへ来客、カイジに……!

 

「は……?なんで俺……?なんか用でもあんのかよ……」

 

「さぁねぇ、早く出てあげたら~?」

 

扉を開けるカイジ……そこには湯上りのセシリア・オルコット……

上気した頬と、ストレートになっている髪型、そしてふんわりとした匂い……

 

「……う、どうした……なんか、用事でもあったか……?」

 

美女……控えめに言っても……整った容姿……ナチュラルブロンド……誰でも、狼狽える……!

当然、カイジも……だが見たくない、頬に傷のある、尖った男……顔を赤らめている姿など……!

 

「今日の事、いいえ、今までの事を含め改めて謝罪しに来ましたの」

 

「は……?別にいいって、もう謝ったじゃん、お前……あんな大衆の面前で、頭下げて……十分だって、それだけで……中々できることじゃない……!」

 

「それはそれ、これはこれですわ。カイジさんと戦ったからこそ、ああして謝罪が出来たのですわ」

 

「(なんだよ、こいつ……別人、まるで別人……物腰……試合の時とはまるで別……!)あ、あぁ……そう。受けとったから、謝罪……じゃあな、ご機嫌よう……!」

 

そういい、扉を閉めようとするカイジ……!正しく暴挙……!

二の句を継がせず……ぶった切る……流れ……会話……!

 

だが、カイジに痛み走る……!抓られる腰……!

音もなく背後に迫った布仏……!許さない……!そんな暴挙……!

自らもされた……!シャットアウト……一方的……!

 

「そう無碍に扱わないくださいまし……お願いですから……」

 

しょげかえるオルコット……やめろって、なんで悲しそうな顔するんだよ……

背後は無言、しかし満面の笑顔の布仏……前虎後狼、カイジに退路なし……!

 

「(俺に何をしろってんだよ、これ以上……!)今日の試合だけどな……散々油断を誘った挙句の結果だから、とりあえず気にすんなよ……普通に来られてたら負けてたし……!っ……!」

 

強まる腰の抓り……!不合格……!

 

「そうじゃねぇって、この駄目男……ボソ」以下本音は小声

 

「(こいつ、被ってやがる、猫……!?)」

 

「どうなさいまして……?」

 

「褒めるんだよ……なんか褒めろ……!」

 

何を褒めるんだよ、いきなり……!女はちょっとした変化を褒めろって……

坂崎のおっちゃんに言われたっけか……?

 

「えぇ、と。その、オルコット……その髪型もいいんじゃないか……?普段のドリルも悪くないけどっ……!」

 

ただ、風呂上り……ストレートにしただけの髪型……!それと、ドリルではない……!

 

「ドリルじゃねぇよ……ツインロールだ……!」

 

「そ、そうですの?わたくしはあの髪型のほうがどうにも落ち着きまして……それにわたくしのことはセシリアとお呼びくださいまし。他人行儀ですわ」

 

「いや、その、名前で呼ぶ習慣とかないんだ、俺……悪いけど、オルコっ……!」

 

「このタコが……」

 

チクリと刺さる……もはや抓っていない……突きつけられている、フォーク……!

 

 

なんだこれは……!許されない……カイジに……こんな甘々空間……!

美心とだけ……美心で十分……カイジには……!つまり、続かせない、こんな空間……!

訪れる、刺客……ただしカイジにではなく、オルコットに……!

 



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カイジ、応報……!

学園寮……部屋の前で話し合う二人……そこへ迫る、二つの影……!

 

「お取込み中悪いけれど、よろしいかしら?セシリアさん、それに伊藤さん?」

 

「だれだ……あんた?」

 

「わたくしはイギリス代表候補生サラ・ウェルキン、こちらも同じく候補生のアビー・ミールですわ。以後、お見知りおきを」

 

来たる……サラ・ウェルキン、アビー・ミール……!

 

「う、ウェルキンさん。どう、なされましたの?」

 

「あなたの代表候補の資格のことで話があって参りましたの」

 

「……!」

 

愕然……だが、考えていなかったわけではない……可能性……!

 

「謝罪はされましたけど、国家への侮辱、男性操縦者への誹謗中傷、女尊男卑の思想、および、今回の試合の結果、それらを考慮しあなたの代表候補としての資格、専用機を持つに値するかどうか、学園に在籍すべきかどうか、本国から疑いがかかっておりますの」

 

「ごめんね……セシリア……!わたしからもそこまでしなくていいんじゃないかって言ったんだけど……本国から突き上げがあって……」

 

そう冷静に告げるサラ・ウェルキン……泣きながらセシリアを擁護するアビー・ミール……!

 

「そう、ですの。当然ですわね。あれだけの大口を叩いてあの結果では、イギリスの候補生の質が疑われてしまいますものね」

 

「恐らく、この流れは止められないでしょう。あなたには目をかけていただけに残念ですわ」

 

「わたしじゃ力になれなかったの……」

 

だが、そこに割り込む一人の男……カイジ……!

 

「ちょ、ちょっと待てって……!そこまでする必要……ないんじゃね……?もう俺たちのわだかまり、織斑とも俺とも、なくなったわけだし……!織斑との試合には勝ってるじゃん……俺の試合だって、実質セシリアの降伏……勝ってたんだし……!」

 

「部外者のあなたには関係ないこと、これはイギリスの問題なのよ」

 

「そ、そうよ、千冬様の弟ならいざ知らず、あんたは黙ってなさいよ!」

 

……あ?なんだ、このガキ……?やっぱり、なんか違う……さっき感じた違和感……なんだ……?

それに、どこだ……どこで見た……こいつ……初対面だが、知ってるぞ……

 

「いやいや、部外者っていうか当事者……!その男性操縦従者への誹謗中傷、思いっきり俺……!それはもう解決……!教室での言動だって、面白がって俺たちを推薦した奴らにもあるって、問題……!それになにより、止めなかった、あの女!教師のくせして、オルコットの言動……!止めるべき……クラスメイトとの衝突……不和……そういうのを考えたら……言わせない……!」

 

「あんたねぇ……!前から思ってたけど千冬様に向かってなんて口の利き方してんのよ……!身の程をわきまえなさいよ……!」

 

やっぱりだ、こいつ……普通に女尊男卑主義者だ……間違いなく……!

ってことは男性操縦者への誹謗中傷とか、女尊男卑とか些末……関係ねぇ……!

なら、あとはなんだ……?

 

「それがどうした……!あんな先公、あの女で十分だ……!それにオルコットはまだ、学生だろ……!学生の特権ってのは、許される……ミス……やり直せる……ってことじゃねぇのかよ……!」

 

「学生、そうですわね。ですが専用機持ちという肩書も持っていましてよ?この世界に数百人しかいない。そこいらの社長だとか有名人だとか、そんなものよりも圧倒的に少ない……それを背負うということの意味を考えたことありまして?」

 

「っは……!何百人もいるじゃねぇか……!こちとら、二人……!そのうちの一人がイギリスを侮辱してたぜ……?それについては、イギリスからなんか言うことはねーのかよ……!20億分の1の男性代表があんたの国を侮辱したんだぜ……?」

 

「それとこれとは話が別よ!いまはセシリアの話をしてるのよ……!」

 

「変わんねぇだろ……!同じこと……!発端はオルコットだが、互いに侮辱しあったんだ……そしてその結末は決闘でつけた……水に流せよ、んなこと……!」

 

「どうにもわたくし、疑問に思うのですけれど、なぜそこまでしてかばいたてするんですの?あなたは巻き込まれただけ。クラスメイトやセシリアには侮辱されながら、あのような場に引きずり出されて。無茶苦茶な試合を吹っ掛けられたというのに」

 

疑問……純粋に、なぜかばいだてするのか……普通に敵、自分を罵った敵……!

 

「撃たなかったからだ……」

 

「……はい?」

 

「オルコットは撃たなかったんだ……俺の事を……!最後……撃ってもよかったんだ……!あの空気なら許された……!相手を攻撃できない軟弱者を撃っただけ……!でも、そうしなかった……!撃たなかったんだよ……!」

 

オルコットは、自分の行為に……誇りを持って……答えた……!

それなら俺は……見捨てない……引き上げる……!

 

「だから、かばうと?元々の原因を作り出した発端だというのに」

 

「さっきも言っただろ……!悪いのはオルコットだけじゃねぇって……!確かにオルコットも悪い……!でもそれを反省した……じゃあほかの奴らはどうだ……?織斑は?あの先公は?クラスメイトは?言っとくが、あいつらは自分が悪いだなんて露ほどにも思ってない……!それが許せねぇ……!ただ一人、オルコットが悪いってのは、許せねぇ……!」

 

「話になりませんよ、こんな男!時間の無駄ですよ、ウェルキン先輩!」

 

「さえずるな、小物が……!お前とは話してないんだよ……!入れるな、茶々を……!」

 

「っな!?」

 

「では、我々には何もするなと?あなたは言いましたね、オルコットも悪い、と。つまり、オルコットさんには求められるべきですわね、責任。それに伴う罰が」

 

正論……行為には責任が伴い……責任には罰が伴うのだ……!

 

「それは当然だ。何もなし、無罪放免ってわけにもいかないだろうが……だが、専用機とりあげて本国送還なんて、そこまでされるほどのことじゃねぇ。っていっても俺の意見なんか大した価値はないんだったか……?」

 

「……」

 

「当たり前でしょ!千冬様の弟ならいざしらず……!」

 

「へぇ、千冬様の弟ならいざ知らず……ねぇ。ずいぶんと舐められたもんだな、俺も……まぁしょうがないか、こんなどこの馬の骨とも知れない、後ろ盾もない男じゃ……あーぁ、ところで明日織斑と昼飯食べる約束してるんだけど、何話すかなー。なんかいい話題とかない?こう盛り上がりそうなやつ……!」

 

露骨……隠す気ゼロ……!この男、見え見え、その意図……!

 

「あと、織斑の奴、名前なんていったっけな。ほら、あのIS開発した人の妹、仲よさそうなんだよな、なんか幼馴染とか……あれ?ってことは織斑のやつ、知り合い?その博士と……!」

 

卑劣……下劣……使う……ネームバリュー……他人のものを……容赦なく……!

だが、強力……そしてカイジ、見切る……今回の問題の本質……策謀の糸……!

 

「卑怯よ……ていうか、あんた千冬様の弟とは犬猿の仲……嘘でしょ……一緒に昼食なんて……!嘘つき……みっともないと思わないの……!?」

 

やっぱり……こいつ、知ってやがる……俺たちの関係……!

俺が織斑千冬に対して取った態度……それは学園中の知るところ……!

でも、弟との関係……あれは放課後の一時……そこまでは広まっていないはず……!

それに……古いぜ……その情報……!

 

「っへ……!俺と織斑との不和の原因……それは俺の後ろにいるぜ……!」

 

「うぇっ……!?なに~……?」

 

背中に張り付き、流れを見守っていた布仏……前へ持ち出す……!

借りてきた猫のように……大人しく吊り下げられる……猫吊るし……!

 

「この通り、もう仲直り……!その様子をみて織斑、ご満悦……大満足……!自分の言ったことを俺が聞き入れたって……!単純だよな……!だから、もう解決してる……!残念ながら……!」

 

「(その手に持っているフォークはなんなのかしら……)」

 

「っう……!でも、どうにしろ卑怯者よ、あんたは……!他人の力、虎の威を借る狐……!」

 

「てめぇにだけは言われたくねぇよ、アビー・ミール……!俺が狐なら、あんたは狸……!イギリス代表候補生、BT適性はA-ランクだったか……?」

 

「……!」

 

「セシリアを追い落とせば、BT適性からいけば、その専用機が来るのはお前だもんな……!そりゃ、遠いわけだ……さっきの泣き真似……!よくできてたけど通じねぇよ……俺には……!その涙を信じて、地の底に葬られかけた俺には……!」

 

感じた……遠く感じた……!ガラス越し……助けるから……助けますから……!

 

「確かに序列からいけば、ブルー・ティアーズの次の操縦者はアビーになるでしょうね。よくご存じなのね、イギリスの内情を」

 

「そりゃあ、穴が開くほど見たからな、試合の動画……だからなんとなく見覚えがあったし、名前も思い出した……!本国に情報流したのはてめぇか……?大方、織斑のことを侮辱したのを大きく報告した……織斑がブリュンヒルデの弟であることはまぁ周知として、そしてなにより篠ノ之箒、束博士の妹と仲がいいってことも添えてな……!」

 

「……っ!」

 

不自然……違和感……絶品の魚料理を食べたが……刺さった……小骨……!

飲み込みやすい、すんなりと喉を通りそうだったが……駄目……!

わざわざ出てきたアビー・ミール……!出てこなければ分からなかった……!

あの泣きの演技……!あれが取っ掛かり……!晒さなければよかった……カイジの前で……!

 

「それは事実ですか、アビー?」

 

「で、でたらめ、そんなの出鱈目に決まってます……!」

 

「確認すれば分かることでしてよ?どのような報告が誰からあったのかは……」

 

「っうぅ……」

 

「まぁ俺も確信がある、言い切れるってわけでもないんだがな……」

 

そう、いわば勘……疑わしいと感じた、その直感に従い……

細く細く……編み上げた論理の糸……!

 

「……。あなたは今回の落としどころをどう考えて?参考までに聞かせてもらえると嬉しいわね」

 

そう、問いかけるサラ・ウェルキン……穏やかな微笑を湛えて……

 

「ウェルキン先輩……!?」

 

「候補生になるときの試験の再試やそれに関するレポートとか……BT兵器の稼働率を一定期間内にあげるっていう課題とか……色々あんだろ……!でも、いいのかよ、前言翻しても……」

 

「わたくしは公明正大でいたいのですわ。もし本国への報告に意図されたものがあったのであれば、それは正さなければなりません。あなたからの言葉も添えて、ね。そして、その上で処断を仰ぎます」

 

「そうか……ありがとよ、恩に着るぜ、大将……!」

 

こともあろうか、女性に向けて……大将……!

この男……やはり、ずれている……!

 

「ふふ、面白いお方。あなたから、あなたのお名前、お伺いしてもよろしいかしら?」

 

「俺は伊藤開司だ……!」

 

「わたくしはサラ・ウェルキン。あなたのお話、とても興味がありますわ。いずれお茶会にご招待させてもらいますわね。それでは、今後ともよしなに」

 

去りゆく、サラ・ウェルキン……アビー・ミールを連れて……!決着……!

 



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カイジ、黄泉……!

圧倒的蚊帳の外……!オルコット、布仏……!

沈黙を破ったのは……当事者……オルコット……!

 

「その……なぜ、そうまでして……わたくしのことを……」

 

「言ったろ、許せねぇって……今回の事、一方的に一人だけ、オルコット一人を処断して終わり……そんな結末は……!結局罰を受けるのは……お前だけだが……それに……俺は信じたい……人を……!裏切られても……それでも、信じたいんだ……!」

 

あずかり知らぬところで進んだ……借金……強制的……抗えずに……落ちていったカイジ……!

誰かの策謀に落とされる……理不尽な結末を……見たくなかった……!

そして、自身の行動に……誠意で答えたオルコットを……信じたい……救いたかった……!

 

「誰かに、裏切られまして……?それでも、人を信じたい……と?」

 

「……。ともかくだ、解決……まだ、わからねぇけど……ひとまずのところは……でも、これだけは言っておく……次はねぇ……!もう次はねぇんだ……!」

 

「……!」

 

「今後もお前が女尊男卑で……はなから男はクズだって決めつけて……罵ろうってんなら……その時は許さねぇ……!お前は一度、許された……!反省もしてみせた……!だから、同じこと……しようってんなら……容赦はしねぇ……!」

 

カイジ……宣言……!当然、仏の顔は一度まで……肩書を……責任ある者ならば……

許されない……三度も……例え仏様でも……許さない……!

 

「肝に銘じますわ……それにもう女尊男卑の思考は捨てましてよ……男も女も、人として、対等ですわ」

 

「そ、そうか……なら、いいんだ、それなら……」

 

「今日は本当にありがとうございました。カイジさんのかけてくれた温情、それに恥じぬように、裏切らぬよう努力いたしますわ……!」

 

そう言い、頭を深々と下げる、オルコット……!

 

「よかったねぇ、セッシー!」

 

「(なんで……!?突き放すように言ったじゃん、俺……場合によっては敵対宣言……容赦しねぇって……なんで、こうなんの……?)いや、別に、そこまで言われるほどのことじゃねぇって……大袈裟、一々……!やめてくれよ……!」

 

「ふふっ、ほんとうにお優しいお方ですのね。武器を持つべきでない、そんなお方……」

 

そして、ちょっぴり情けない……その分はわたくしが、しっかりすればいいのですわ……!

武器を持って、戦うだけが強さではないんですのね……優しさこそが、カイジさんの強さ……!

密かに、胸に思いを秘めた……オルコットであった……!

 

「それでは、カイジさん。明日の織斑さんとの昼食、ご一緒させてもらっても?」

 

「……。いや、あれ、嘘……ないって、織斑とわざわざ昼飯食べるとか、そんなん……」

 

「……」「……」

 

冷ややかに刺さる二人の視線……あの場で平然と法螺……吹いていた、この男……!

 

「そんな目でみんなよ……仕方ねーじゃん、あいつの、失言……誘導……情報を取り出すためには、必要だったんだって……!」

 

「では、改めて明日の昼食、ご一緒しませんこと?」

 

「いや、食事はひt……」

 

「いい加減にしろや……」

 

オルコットから見えない位置でフォークを突きつける布仏……!

 

「の、布仏さん……?ど、どうされまして……?」

 

「なに~?どうしたの~、セッシ~?」

 

小首をかしげる天使……笑顔、裏表のない綺麗な笑顔……圧倒的笑顔……!

 

「な、何でもありませんことよ……では、今日のお礼も兼ねて、明日はわたくしが腕によりをかけて、ランチを作って参りますわ!ぜひ、ご一緒していただけませんこと……?」

 

「わ、わかった……楽しみに待っとくよ……明日、昼食な……!」

 

「はい!では、ご機嫌よう……!」

 

ルン……ルン……!気分で足取り軽く、去っていくオルコット……!

残されたのはカイジと布仏……!

 

「なぁ、布仏……聞いていいか……?」

 

「なに~?」

 

「なんでも……ない……」

 

聞けない……聞けるわけがない……被ってるんですか、猫……なんて……!

聞けば……瞬間……気絶……冥土行き……決定……!カイジ、これを回避……!

だが、カイジ……冥土行きは回避ではなく……延期……逃げただけ……進行方向に……!

追いつかれる……!明日の昼……昼食には……冥土行き……!

 

そして来る……その時が……!昼食の時……!

 

「いい天気だな……昼寝してぇぜ……!」

 

中庭……カイジの見つけた静かなスポット……しかし今日は連れ……!

許せねぇ……カイジにこんな美少女の連れ……あってはならない……!

 

「静かなところですわね……いつもここで昼食を取られているんですの?」

 

「あぁ……落ち着けるからな……教室とか食堂とか騒々しくってな……」

 

「わたくし、やっぱりお邪魔でして……?」

 

カイジ、突如として視界が変わり……誰かが自分を見ているような……

誰かの目を通して、自分を見ているような……一瞬だけ……!

 

「っ……!?い、いや、別に……そんなつもりじゃ……ねーんだって……!オルコットは、呼んでもいいかなって……思ったから、呼んだんだって……」

 

意外……カイジから気の利いた言葉……言わなければ……言うことを強いられた、カイジ……!

 

「ま、まぁ……わたくしだからいいだなんて……そんなこと……!」

 

「時間は限られてるんだ……早く、たべよーぜ、飯……!」

 

「そうですわね!腕によりをかけて作ったんですのよ」

 

バスケットには色とりどりのサンドウィッチ……!色、とり、どり……?

 

「へぇ~、綺麗にできてるじゃんか……!美味そうじゃねぇか……!」

 

「ブリティッシュサンドといいまして、サンドウィッチはイギリスが発祥の地ですのよ?」

 

「ふーん、そうなの。早速いただくとするかな、まずはハムサンドを……!」

 

しかし、カイジに電流走る……!予感……予知……感じる……迫っている危機……!

外さないこの感覚は……でも、なんで……なんで、いま……?

 

「(鈍ったかな、平和ボケしたっていうか、この空気に当てられて……いけねぇな、こんなぬるま湯につかってちゃ……)いただきます……!」

 

しかし、カイジに電撃走る……!辛味……甘味……感じる……迫っている危機……!

外さないこの感覚は……!明らかに……飯不味……!体からの警告……!

 

「ど、どうでしょうか……?初めて作ったのですけれど……」

 

「(そうだよな……味見、してないんだろうな……!)お、美味しいな。ほら、オルコットも食ってみろよ……」

 

「ですから、セシリアとお呼びくださいまし。これはすべてカイジさんのために作ってきたものでしてよ。気に入ってもらえたのなら嬉しいですわ」

 

「セシリア……!」

 

唐突、一転して真面目……名前で呼ぶカイジ……!

 

「は、はい!」

 

「いいから、食べろ……御託はいらねぇ……!食べるんだ……話はそれからだ……!」

 

「ま、まぁ。カイジさんのたべかけだなんて……恥ずかしいですわ……!」

 

無理やり口元へと近づける……!逃さない……食うべきなんだ、これはお前が……!

 

「っん、むぐ。っぅ……!っんぅ……!?」

 

赤から青へ……信号機のように変わるセシリアの顔色……!悶絶……七転八倒……!

 

「ほ、本の通りに作りましたのに……な、なぜこのような事に……!」

 

「味見、しなかったのか……?」

 

「え、えぇ。見た目も本の通りになるように完璧に作りましたから……」

 

本の通り……?見た目……?こいつ、まさか……

 

「まさかとは思うが、何かした……?最後、本の通りに作り終えた後……本の通りになるように……?」

 

「……」

 

「したんだな……」

 

「も、申し訳ありませんわ……これはわたくしが責任をもって処理をいt!」

 

バスケットを持ち、立ち去ろうとするセシリア……!

しかし、カイジ、これを止める……!

 

「……待て、とりあえず……座れ……食えないとは、言ってねぇ……!」

 

「で、ですが……!」

 

「座れ……!」

 

普段はない迫力……雰囲気……有無を言わせない……!

 

「は、はい……」

 

「次からは、しろ……味見……!どんなにきれいにできても……!自分が、美味しいと……そう思えたものを出せ……!それが、人に食べてもらう人間の……忘れちゃならない、礼儀だ……!」

 

「はい……」

 

「お前が味見して、美味しいと思ったものなら、文句は言わねぇ……食う、俺の口に合わなかろうが……でも、お前が食べられねぇものは、俺も流石に食べられねぇ……!」

 

「分かりましたわ、次からは味見を忘れませんわ……」

 

「(織斑が言った、イギリスの飯が不味いってのも、なんつーか、否定できねぇなぁこれじゃ。でも本の通りに作ることまでが出来るんなら……その後のエッセンス、なければ食べられるはず……)そして、出されたものをすべて食べるのが、食べさせてもらう側の、礼儀だ……!だからこそ、どっちも忘れちゃいけねぇんだ、礼儀を……!」

 

カイジ……挑む……!命がけ……六発の弾を込めたロシアンルーレット……!

つまり、渡らなければならない、都合六回……三途の川を……!

全てを食べ終わり、気絶……カイジ……夢を見る、今朝の事……!

 

 

 




特有の表現はSIRENより、敵に見つかった際に自分の視界に敵の視界が一瞬被るというシステムから。相手がだれかは、お分かりですね……


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カイジ、代表……!

一限目の授業が始まり……開口一番、山田真耶、宣言……!

 

「それでは、1年1組のクラス代表は伊藤開司君に決定いたしました!」

 

「……は?なんで、俺……?戦績から言えば、オルコットだろ……!」

 

「織斑に勝ったオルコットに勝った伊藤。分かりやすい図式だろう」

 

筋は通っている……少なくとも成り立っている、不等号……!

 

「伊藤君はちょっと頼りなくて不安だけど……」

 

「でも、土壇場でどうにかしてくれるっていうか……勝負運の強さ?」

 

「たしかに、一週間であれだけ戦略組んだのってすごいよね……!」

 

賛同……なんとか……カイジを認める声……!

 

「どう考えても、向いてねーだろ……俺にクラスの仕事とか……無理……どうみても……」

 

「わたくしが補佐しましてよ。ですから、頑張りましょう……?」

 

そういい、カイジへと語りかける、オルコット……!

 

「う、うぅ、ありがてぇ、ありがてぇ……!」

 

「((涙もろいなぁ……大丈夫かなぁ……))」

 

だが、まだ不満……一夏にならなかったことに……!

いる……!篠ノ之やブリュンヒルデの信者たち……!

 

「ま、待ってください。何故一夏ではないのです、こんな軟弱な男を……!」

 

「そうよ、専用機も持ってない男が代表なんて……!」

 

「いや、箒!俺は普通にセシリアに負けたんだ。カイジは十分に戦っただろ、最後には女の子の事を気遣って……それを軟弱だなんて言うなよ!」

 

織斑としても、オルコットの本気を受けて……カイジの時との違い……強さ……隙の無さ……!

その理不尽さを感じ取ってはいたものの……それを差し引いてもカイジの戦い……

なによりも、女性への気遣いを認めていた……!

 

「しかし……!」

 

「他のクラスも専用機持ちでないものが代表だ、ある種の平等さが保たれている。篠ノ之、そこでオルコットの名が出てくるのなら、まだわかる。本来の実力を出して戦っていれば、そもそもこの決定戦は出来レース。オルコットの一人勝ちのはずだったからな」

 

「ならば、そこの男が勝ったのも偶然……一夏は本気を出されて負けて、伊藤には手加減をして負けて……本来、オルコットの一人勝ちだったというなら、対等じゃない!」

 

「確かに試合の順番が逆であったなら、織斑もまだオルコットに迫れたかもしれん。次戦では本気を出したオルコットに伊藤が負けていた、そういうこともあったかもしれんな」

 

「だったら……!」

 

「だが、それはたらればの話。それにお前は本当に、伊藤がただ偶然で勝ったと、そう思っているのか?」

 

「そ、そうではないですか……!ただ、オルコットの油断に付け込んで、運よく……!」

 

その言葉を聞き……数名の女子が肯定……!

 

「……他にもそう思っている者はちらほらいるようだな。伊藤は勝てるための状況を、自ら作り上げたのだ。オルコットが油断するように、その行動を誘発するように」

 

千冬は理解していた……カイジの行動……その策略……!千冬の目からみても一週間で……

素人同然のカイジが……ここまでの策略を組んだこと……素直に驚き……驚嘆……!

勝負事に対する……人間の心理に対する読み……その正確さを……認めていた……!

 

「あ、相手の油断を誘うなど卑怯な……!一夏は剣一本で正々堂々と戦ったのですよ……!」

 

「織斑は第三世代機、伊藤は第二世代機、その時点で織斑と伊藤を比べて、正々堂々という言葉は使えん。それに、それが駆け引きというものだ。さすがに試合中に体調不良を装ったり泣き出して、それで油断を誘って攻撃を仕掛けたのなら、許さないがな」

 

人の情に付け込む真似は……許されない……裏の世界でしか……!

 

「……」

 

「もう俺のことは、いいじゃねぇか……実際、篠ノ之の言ってることも満更おかしい、的外れってわけでもない……!確かに、一つ一つの状況を組み立ててどうにか俺は勝った、まぁオルコットの降伏だが……油断や慢心、そういうのがなければ負けていたのは事実……!だから、もういいって……!」

 

カイジとて、理解している……公式戦の動画を見て……そもそも自分が勝てぬ相手……!

油断に油断を重ねさせ……戦略が嵌ってくれただけのこと……!

 

「……伊藤がそういうのなら、これ以上はよそう。そして、伊藤のクラス代表選出、篠ノ之や他に不満がある者はオルコットに勝負を挑むことだな。言っていただろう、あの試合に不満がある者は試合を受け付けると。もし伊藤と同等の条件を引き継いで一週間、今のオルコットに迫ることができるものが、この中にいるというのなら……その者の意見を聞いてやらんこともない」

 

ある種、あり得ぬ宣言……オルコットに勝つことができたのなら……!

挿げ替えることも可能、ということ……クラス代表を……!

 

「わたくしは逃げも隠れもしなくってよ。正々堂々、戦いますわ」

 

この場で挑んだら一夏と同じ状況……油断したオルコットではなく……

本気のオルコットに挑まなければならないという理不尽さである……!

 

みな、逡巡……戸惑い……篠ノ之も……迷う……提案は魅力的……!

そこへ千冬……一喝……喝破……焚きつける……!

 

「だが、甘くない……本来、代表候補生……専用機というものは……!コツコツ、コツコツと……努力を積み上げて……何百何千といるライバルを蹴落として……そうしてつかみ取れる……!ようやく、そのチケット……代表候補生……!勘違いするな……これがスタートライン……!専用機を持つためには……今までの有象無象ではない……ライバル……本物……気を抜けば……一瞬で転落……出し抜かれる……そんな奴らと競い合って……そして手に入る……!それが……専用機……!選ばれたもの……!当たり前、たかが一週間で……勝てるなど……そんなに甘くはない……!それでも、それでも、追いついて……勝ちたい……どうしても勝ちたいなら……賭けるしかない……自らの誇り……!失われることになっても……!成し遂げられると思うな……!安全圏……何も失わないで……通せると思うな……意見……!」

 

油断や慢心を捨て去ったオルコットの……一夏戦でのその試合は一方的なものであった……!

仕方ない、当然……!カイジとて、同じ状況なら……同じくぼこぼこ……手も足も出る訳がない……!

 

「(と、利根川……!?だけど、あいつは、もう……俺が……)」

 

千冬は百も承知……本気のオルコットに……いまのクラスで勝てる者がいないことを……!

しかし、生徒の向上心、もし立ち向かう気概があるものが……!そんなものがいるというのなら……!

多少の無茶を厭わず……育ててやりたいという……そういう思い……!

 

が、駄目……!いない……!当然、かくことになる、赤っ恥……!

相手が悪いとはいえ公衆の面前で、ぼこぼこにされる未来……!

失われる、自尊心……!クラスの女子……それを当然、回避……!

 

篠ノ之も、上げられない……一夏にISのことについて……教えることを独占した挙句……!

勝たせられず……なにより、使ってしまった束というカード……!

自らが負けてしまえば……何ら言い訳もできない……所詮付属品、束の……!

そう見られるかもしれないという恐怖……ここに来て回る、毒……!

普段の勝気な篠ノ之なら……上げられた、手……上がらず……!

 

織斑千冬はクラスを睥睨……そして思考……

 

ここまで焚きつけても立ち上がるものはなし、か……

女も軟弱のまま……恥をかくだけ、怪我をするわけでもないというのに……

というより、かかない恥……ここまで私が、強調……勝てないこと……

負けて当然……そういう流れを作った……!

他者から揶揄されるようなことがないように……

最早失われるのは自尊心だけ……自分の、自分との勝負なんだ……

同じ条件ということは一週間、ISを優先的に使用できるということ……

まず訪れないチャンス……専用機持ちと戦えて……一週間もISを独占できる……

ここまでお膳立して……これをものにしないとはな……!

 

「立候補者はいないようだな。今後この話は……」

 

「ま、待ってください……!まだ、考える時間を……!」

 

「私は、お前たちの母親ではない……!いつまでも、待ったりしない……決断を……!チャンスは……いつまでも転がっていない……!ISは467機……それ以上でも、以下でもない……!数は限られているんだ……!だからこそ、当然……競争、競争なんだ……!今この場で立ち上がれなくても……それだけは胸に刻んでおけ……!」

 

「……!」

 

厳しく……険しい……しかし、それでも教師……とどのつまり、彼女もまた、教師……!

少なくとも、甘くはない……この学園に入って……ようやくスタートライン……!

ここで燻っていては……当然訪れない……成長は……!

 

「もう、この話は受け付けない。オルコットに挑むのは、個人の自由だがな。授業時間を押している。早速授業に入るぞ……!」

 

……残念だが、自らの自尊心の殻を……脱ぎ捨てられる者は、いなかったようだな……!

 




代表決定戦を決めたときの千冬はカイジ視点なら、完全なマッチポンプ、言い訳もむずかしい状況でしたが、考えなしだったわけではありません。
早めに一夏・カイジの成長を促すためには、自身の置かれている状況、同年代でもすでに強い相手がいるということを知ってもらう必要があったのです。
どちらも普通にぼこられて、立ち上がれよみたいな。
獅子は我が子を千尋の谷に落とす、を地で行く感じ。
当然勘違いされやすい。カイジみたいな輩には……

はっきり言って千冬としてもカイジがここまでやったのは純粋に驚きなのでした。


ラウラ辺り書いてるときの素朴な疑問
ラウラさん、鈴ちゃんの龍咆をAICで止めてたけど見えないのにどうやって止めてんのさ。アニメだと演出上色ついてるから止めるのを特に不思議に思わなかったけどさ。鈴ちゃんも相性ここまで最悪なんてっていうけど、見えないものを止められてることに疑問持ってよ。セシリアはカウンター機体に近いんだから頑張ってよ。BTを使えば唯一自力脱出可能なんだし、君EN兵器が主なんだからさぁ……

あと、AICで止められた人間って心停止しないか……?


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中国酢豚編
カイジ、奔逸……!


一日が終わり……夕暮れに染まる学園……!そこへ、小さな影が一つ……!

新たな刺客……!中国より……現れる……!

 

「ほんと、一夏がISを動かすなんてびっくりよね……一夏ったらどんな顔するかしら。それに、あの約束覚えててくれるかな!」

 

胸に抱くのは淡い恋心……甘酸っぱい青春……!

 

「それにしても、学園総合受付ってどこかしら?こんな広い敷地じゃ迷っちゃうじゃない、あっ!」

 

目の前にはカイジ……遊歩道をふらついているカイジ……

未だ抜けきっていない、ダメージ……致命の食事……!

 

「(な、なんかちょっと雰囲気怖いっていうか、男で制服ならもう一人の男性操縦者ってことよね?明らかに学園のイメージと違うじゃない!でも、他に人影もないし、うぅ……)あ、あの~。ちょっといいですか?」

 

「……あ?え、えと……誰っていうか、なんか用……?」

 

「(なんでまだ夕暮れなのに、顔が見えないほど影が降りてんのよ!それになんか警戒されてるし!逆だっての!私があんたを警戒したいくらいよ!)学園総合受付という場所を教えて欲しいんですけど……」

 

「(……?書類提出で誰もが一度は行ったことあるだろ……なんで知らない……?なんで俺に聞くんだよ……ってか部外者……?制服着てるけど、つまりアレ……生徒じゃない……そして今この状況……!?)え、えと、どこだったかな。ははは、そこいらにいる奴に聞けば分かると思うんだけど……」

 

そう言い後ずさるカイジ……少なくとも距離を離さなければ……

刺客なら、何か武器はある……最低限……銃かナイフか……

まずは、距離を取って……安全圏……逃げ出さねば……!

 

「あ、あの、せめて人がいる場所、教えてくれませんか?そうしたらそこの人に聞きますから」

 

だが、詰めてくる、距離……無情にも……一歩ずつ、一歩ずつ……!

 

「ここは逃げるが勝ち……!」

 

またも勘違い……ただの恋する乙女を……刺客……殺し屋と……!

 

「あっ!ちょっと、待ちなさいよ!待ちなさいったら!」

 

「(っひぃ!お、追いかけてきやがる……!やっぱり、あぶねぇ……!やっぱ油断できねぇ……!学園内でも……自衛……最低限、自衛はしなきゃ……!あ、あれは!)お、オルコット、助けてくれ……い、命、狙われて……!」

 

「へぅっ!?ど、どうされましたの!?カイジさん、腰にしがみつくなんて……そんな大胆な……!」

 

情けない……男が女の背後に隠れて……腰にしがみつき、へっぴり腰……!

 

「いや、あれ……目の前……!刺客……俺の命、狙ってるって、絶対……!」

 

気にせず、目の前を指さし叫ぶ……!圧倒的情けなさ……!

 

「は、はい……?刺客、ですの……?」

 

「はぁっ、はぁ。だ、だれが、刺客よ!だれが!」

 

「お、お前……!」

 

「うがああああああ、何を勘違いしてんのよおおおおおお!!!」

 

「ひ、ひぃ!」

 

更に強く腰を掴むカイジ……もはや抜けかけている、腰……カイジ……

 

「カイジさん、どうか落ち着かれてください。それに流石に恥ずかしいですわ……!」

 

「あ、あぁ……!す、すまねぇ……つい、気が動転してただけで……悪気はないんだって……!」

 

そう言われてようやく離れる……オルコットから……!

 

「全く、あなたという方はなんと情けない……それで、えと、そちらの方も落ち着いてくださる?冷静に話し合いましょう」

 

「わ、わたしは冷静よ……!いつだって、ね……!」

 

犬歯をむき出しにし……苛立ちを隠さない……!

 

「(そうは見えませんが……)一体なにがあったんですの?」

 

「私がそこの男に総合受付の場所を聞こうとしたのよ。そしたら急に後ずさり始めて、逃げだすから追ったのよ!」

 

「だって、知ってるだろ……!少なくとも学園の生徒なら……!一回は行ってる、絶対に総合受付は……!」

 

「まぁ、たしかにこの学園の生徒ならば提出書類のために、一度は寄っている場所のはずですけれど……」

 

「そりゃ、私が転校生だからよ!転入の手続きをするために学園総合受付に来いって書いてあったけど、広すぎて、迷ったのよ……」

 

最後の部分だけは……少し恥ずかしそうにしゃべる……!

 

「あら、そういうことでしたの。でしたら、あちらの正面の建物を右に曲がって、まっすぐ行った建物の一階にありましてよ」

 

「そう、ありがとね。えっと、そういえば自己紹介もしてなかったわね。私は中国代表候補生、凰鈴音よ。よろしくね」

 

「ご丁寧にどうも。わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットですわ。どうぞ、よろしく」

 

「……」

 

黙ったまま、静かに距離を取ろうとするカイジ……しかし……!

 

「で、そっちの男は自己紹介もできないわけ!?」

 

当然……逃げられない……!

 

「い、伊藤開司だ。逃げたりして、悪かったな……」

 

「ほんとよ、こんな美少女を見て逃げ出すなんて!」

 

「わたくしも、最初にカイジさんから逃げ出されましたわね……」

 

そう言われ目をそらすカイジ……!普通に美少女……!

町で見かけたら振り返るくらいの……二人からの冷たい視線……!

 

「奇遇っていうか、面白い偶然ね。おっと、時間やばいから急ぐわ。それじゃ、ありがとねー!」

 

凰を見送るカイジとオルコット……そして……

 

「警戒心が高いのは仕方ないことなのかもしれませんが、流石に女性に対して失礼でしてよ?いきなり逃げ出すなんて……」

 

「いや、だって、不自然……明らかに……こんな時期に転校生なんて……考えねぇって……可能性……それに、必要……自衛……やっぱ、自分の身は自分で……」

 

未だに愚痴愚痴と……自分の正統性をアピール……カイジ……!

その上、守れていない……自分の身……オルコット頼り……!

 

「カ・イ・ジ・さ・ん?」

 

「いや、悪かったって、だから、謝ったじゃん……」

 

「もうすこし、しっかりしてくださいまし。クラス代表なんですのよ!」

 

「わかった……するよ……もうちょっと努力……」

 

「(わたくしは惚れる相手を間違えましたかしら……でも、放っておけないんですのよね……)」

 

惚れた者の弱み……オルコット……!果てしなく……頼りない……カイジ……!

頑張れ……見限られる前に……カイジ……!

 

 



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カイジ、懐親……!

一年間……スイーツ食べ放題……!当然、女子の希望……憧れ……!

女子の話題も当然、クラス対抗戦のこと……!

 

「そういえば二組のクラス代表が変更になったって話聞いてる?」

 

「なんか転校生の子に変わったのよね」

 

「転校生……?こんな時期に?」

 

不審がる織斑……それも当然……まだ二週間も経っていないのだ……!

 

「中国から来た子だって」

 

「どんな奴なんだろうな、強いのかな」

 

「さぁ……でもいまのところ専用機持ってるクラス代表っていないし、専用機持ちだったら厄介だよね~」

 

「でも1年生で専用機持ちなんてそう簡単にいないって~」

 

実際のところ……専用機持ちがクラスにいること……それはかなりの幸運である……!

だが、その幸運……来週大暴落……待ったなし……!

 

クラスの端……一人窓際で外を眺めながらコーヒーを飲むカイジ……!

織斑とクラスメイトの会話を聞きながら……考えるのは凰のこと……!

 

昨日出会ったあの凰か……?他に転校生なんていないだろうし……

しかし、2組のクラス代表はすでに決まっていた……それをわざわざ変えた……

2組のクラス代表は代表候補生……名前は忘れたが、アメリカだったか……?

多かれ少なかれ、代表候補生のやつらにはプライドってもんがある……

つまり持ってる……第三世代機……専用機……ごり押した……!

無理やり、挿げ替えやがった、昨日の今日で……!

しかし、そこまでするか……?恨まれるだろ……普通に考えて……!

下手に……オルコットのように暴言吐くより……生むだろ……問題……軋轢……!

 

「昨日の凰さんかしら、ねぇカイジさん?」

 

「……うわぁ、っと……!急に話しかけるなって……!」

 

飲んでいたコーヒーを落としかけ、慌てるカイジ……!

 

「ですから、女性に対してその驚き方は失礼でしてよ!」

 

ぷん……ぷん……!と怒って見せる、オルコット……!

 

「(なんだ……?なんか懐かれてないか、俺……?距離、近いって……)悪かったよ……まぁ凰以外考えられないな……」

 

昨晩は自分から……助け……情けなくも求めて……!

腰にしがみついておきながら……この身勝手さ……!

しかも……女性相手に……懐く……!ペットではない……!

さらには、昨日のランチのこと……お礼という言葉を……鵜呑み……!

もう終わったこと……流している、カイジ……!

 

「その情報古いよ!二組は専用機持ちがクラス代表になったの!そう簡単には優勝できないから!」

 

「鈴?お前、鈴か?」

 

知り合い……織斑の……!

 

「そうよ、中国代表候補生、凰鈴音!今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

ざわ……ざわ……クラスの女子達、ざわつく……!

 

「あれが、中国の代表候補生……」

 

「鈴、何恰好つけてるんだ、すっげぇ似合わないぞ!」

 

「な、なんてこと言うのよあんたはぁ……!っ……!」

 

鉄拳……制裁……背後に千冬……!

 

「な、何すんのよっ……ち、千冬さん……」

 

「織斑先生と呼べ。さっさと教室に戻れ、授業の時間だ……!」

 

「は、はい。……またお昼でね、逃げないでよ一夏!」

 

 

午前の授業が終わり……来る……昼食の時……!

この学園で唯一の、娯楽、快楽……!それが、食事……!

 

「カイジさん、お昼ご一緒しませんこと?」

 

「(やっぱり、なんか……近い……それにもう終わったんじゃ、お礼……)悪いが、今日は食堂へ行く……!」

 

「あら、騒々しいのは苦手なのではなくて?」

 

「色々、あるんだ……」

 

「そ、そうですか。では、これは……」

 

後ろ手にバスケットを隠す……今日も、作ってきた……ランチ……!

 

「……弁当を、食堂で食っちゃいけないって、規則はねぇ……!なら、持ち込んでも……問題ない……!だが、したんだろうな……味見……!」

 

「は、はい。ちゃんと食べられることを確認してから、手は付けておりませんわ……!」

 

「そうか……なら、いい……だが、食堂で何も頼まないってのは……マナー違反……居辛い、当然……」

 

言いさして周囲を見回し……見つける……餌で釣れる……そんな相手……!

 

「布仏、食堂に行かないか……?パフェくらいなら、奢るぞ……!」

 

貧乏性のカイジにはあり得ぬ……提案……奢り……!

まだ丸々残っている、坂崎の手切れ金300万……!

つまり……比較的財布……懐は……暖かい……!

 

「いくいく~!わ~い、パフェにケーキにシュ~クリーム、食べ放題だ~!」

 

「いや、言ってねぇ……そんなこと……奢るのは、パフェ……!それだけ……!」

 

懐が豊かになっても……心まで豊かになるとは限らない……!

 

「ぶ~、ケチだなぁ。そんなんじゃこの私は釣れないよぉ!」

 

「なら……いい。他をあt」

 

「行かないとは、言ってないよ……?」

 

急激に冷え込む……周囲の空気……!

 

「っ……!なら、早く行こう……オルコット、ほら……」

 

「(二人きりでは、ありませんのね……でも布仏さんには助けてもらいましたし、その、ほんのちょっと、怖い方ですけど……)え、えぇ。参りましょうか」

 

セシリアも当然……布仏の時折見せる豹変……気付いていた……!

だが、自分の味方をしてくれている……それが分かるため……感謝……!

 

 

昼時の食堂……当然、にぎやか……食券を買い……列に並び……

食事を受け取り……そして席へ向かう……それがここのルール……が、カイジ、これを無視……!

 

「さて、おあつらえ向きの……空いてる席は……」

 

「あちらのテーブルが、空いてましてよ?」

 

指し示したのは端の席……カイジを慮って……ベストチョイス……しかし……!

 

「(そこは近くの席がどこも空いてねぇ……できれば飛び石……一つ隔てたテーブル……)いや、そこじゃ駄目だ……!あそこ、あれがいい……!」

 

カイジが選んだのは真ん中より……両隣は埋まっており……明らかに騒々しい場所……!

 

「(ずいぶん真ん中よりといいますか、否が応でも騒々しい席になりそうですが……何かお考えがあるのでしょうか……?)分かりましたわ」

 

席に着く、カイジとオルコット……遅れてやってきたのは……巨大パフェを持つ布仏……

座る、カイジの前に……巨大なパフェに目を輝かせ……幸せそうな布仏が……!

 

「それにしても、スーパービックパフェ……平然と一番高いの選びやがって……」

 

「これでも一つで我慢してるんだよ~!」

 

「(そもそもそれ、一人で食べられる量なのかよ……)おっと、登場だな……!」

 

「ん~?」

 

「こっちの話……気にするな……さっさと食べようぜ……!」

 

「(入口に織斑さんと凰さんに篠ノ之さん、ですわね。目的は……それにこの席の位置……なるほど。こういう所は頼りになるというか、全く抜け目のない……この方を敵に回した時点でわたくしの負けだった、と……)さぁ、今日のは、大丈夫でしてよ……!」

 

綺麗な見た目のブリティッシュサンド……昨日はこれに騙されたが……

 

「じゃあ、また、このハムサンドから……ん、うまいじゃねぇか……!今後は、アレンジは控えるんだな……十分、これで……おいしいから……(少し、辛い。恐らく写真の量くらい……マスタードを塗ってる……許容範囲か……!)」

 

ぎりぎり……許容範囲……!カイジに電流走らず……!

 

「よ、よかったですわ……」

 

「(何かあったのかなぁ……昨日かーくんが午後体調不良でお休みしたのと関係、あり?)う~ん、このパフェ最高!」

 

「(よし、狙い通り。一つまたいだテーブル……!騒々しかった隣のテーブルの奴らも静か……聞き耳……盗み聞き……織斑と凰の関係……気にしてるよな……!)ありがたく……俺に感謝しながら……食うんだな……!」

 

みみっちく……自身への感謝を忘れさせない……カイジであった……!

 



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カイジ、企図……!

織斑、凰、篠ノ之の三人、会話は終わり、席を立つ……!

その話の内容……大した実りはなく……その関係……ただの幼馴染……

凰の一方通行……その想い……周囲が分かったのはそれくらいであった……!

が、カイジ……その洞察は深い……!というより、興味なし……!

幼馴染とか……そんな関係は……どうでもいい……!

 

「(肝心の専用機の事は分からなかったか……まぁ機体のことは分かれば儲けもの、どうにしろ取る……山田先生から、情報は……!しかし、逆算すれば一年ちょっと……代表候補生になるまで……!努力に加えて、天賦の才……中国の人口を考えれば……当然、競争相手……ライバル……その数、膨大……!その中から勝ち取った代表候補生……確実にある、才能……!裏を返せば、経験は少ない……経験は月日……年月……それが絶対……弱いはず、不測の事態……特に才ある者ほど……かく、胡坐……その自信に……!)ごちそうさま、うまかったぜ……ありがとよ、セシリア……」

 

そう言い、財布から札……取り出してオルコットへ……!

 

「わ、わたくしはお金のために作って来たのではなくってよ!?このような真似は心外ですわ……!」

 

当然、憤慨するオルコット……好意ともいえる手作り料理……それを買われるではたまったものではない……!

 

「いや、けじめ……借りは作らない……それに、価値があると思ったから……出す、金は……!ただじゃない……人の努力は……ただでは買えない……!お前が受け取らないなら……俺も受け取れない……!対等なんだ……俺も、お前も……対等なら……取引……!」

 

「……分かりましたわ、それがカイジさんのやり方、それにわたくしの料理にその価値があると認めてくださった、ということですわね……ですが取引、という言葉は取り消してくださいまし!これは好意に基づくものでしてよ!」

 

渋々受け入れるオルコット……しかし、当然取引という言葉……それは許せない……!

 

「(なんで、好意……?)あ、あぁ……失言だったよ……」

 

「(なんだかんだかーくんは優しいけど、線を引いてるのかなぁ。それとも単純にずれているだけ?うぅーん……)私も、ごちそうさまっと!ありがとね、かーくん!」

 

文句はいいつつも、忘れない……礼儀……失さない……当然……いい子……!

 

「まじであれを一人で食うのかよ……どこに行ったんだ、あのパフェは……」

 

「甘いものは別腹だよぉ~」

 

「いや、甘いものしか食ってねぇし。別腹じゃねぇじゃん、それ……」

 

「かーくんは細かいねぇ。気にしない、気にしない!」

 

満腹……満足……ご満悦……圧倒的笑顔……!

カイジもその実……助けられているから……感謝……今回、利用はしたが……!

オルコットとの関係……クラスメイトからのやっかみ……織斑との確執……!

それの緩和……調和……!布仏がいなければ……難しかったことがある……!

 

 

そして、放課後……ここは第三アリーナ……カイジとオルコットの姿……!

 

「それにしてもよく訓練機を借りられましたわね?」

 

「先週、織斑先生が言ってただろ、予約はまず埋まるって……アリーナ、訓練機の数も限られてるんだから、それは当然……!だから、その日に取った……それでも取れたのは今日ともう一日の予約だけだが……!」

 

皮肉にも……千冬の言葉を最も理解……すでに体現していたのが……カイジであった……!

それも当然……命がけかどうか……まるで違う……違う世界が見えている……!

 

「(その時からわたくしに勝って、代表候補になることを想定していた……?いえ、それなら代表として決まった時にあのような態度には出ないはず……何とも言えない、違和感を感じますわね……そこまでやる気のある方だったかしら……?)流石ですわ」

 

「とにもかくにも、地力をあげなくちゃならねぇ……!策を弄するにせよなんにせよ……それをこなせるだけの……実力がないと始まらねぇ……!」

 

「その通りですわ。では、わたくしは射撃のコーチをすればよろしいんですのね?」

 

カイジ、当然一人での練習には限界……速度の遅さ……!オルコットへ依頼……教練……!

 

「あぁ、餅は餅屋ってやつだ……代表候補生で比べても……上位に入っている……必要……そういう人間の……指導……協力……!俺は牽制、相手に近づくための射撃……そっちは、俺を近づかせないようにしてくれ……!」

 

「わたくしの腕はよくご存知のようで!わかりましたわ、時間がおしいですから、早速参りますわよ……!」

 

ひたすらに撃って……撃たれて……踏み込み……躱され……時は経つ……!

 

「何度となく踏み込んで、ものにできたのが二回か……!」

 

「まだ、踏み込みのタイミングが甘いですわね(こちらの油断や隙……それらの機微の読みは驚くものがありますが……読みに頼りすぎているというべきかしら……すこしテンポがずれておりますわね)」

 

カイジが今まで潜り抜けてきた死線……それらで鍛えられた直感……勝負事に対する嗅覚は……

当然IS戦でも有効であった……!しかし、それらは動的なものではなく……故に生じる誤差……!

 

「(やっぱりリアルタイム……戦闘中では遅すぎる……直感、その読みを捉えた瞬間でも……だが、掴めてきてる、感覚は……!)もう、時間だな。他のクラスも専用機は一機だけとはいえ、代表候補生が何人もいる。むしろ、訓練機で色んな武器を選択出来る以上、対策も取れない……こいつは厳しい戦いになるな……!」

 

「全力を尽くして、戦えばそれでいいと思いますわ。もちろん、わたくしに勝ったのですから、そう簡単には負けて欲しくありませんが……」

 

「そこは、まぁ……考えとくよ……やられるにしても……前向き……前向きの負けならまだ可能性はあるが……後ろ向きなら可能性ゼロ。次に繋がらないしな……!」

 

全力で……できる限り……それでも……負けたなら……純粋……実力……繋がる!

だが、逃げ腰……及び腰……初めから負けると考えていたら……救い、無し……!

恐れず、道拓くものにのみ……訪れる……成長は……!

 

 




書かれていない、一夏や凰、箒のイベントなどは基本的に発生しています。
箒に部屋替え迫ったり毎日酢豚とかそれによる喧嘩とか。そこにカイジがあえて関わっていくこともないので……情報は収集しておりますが。

一夏がクラス代表でないために、クラス対抗戦で勝ったら~などは消滅します。


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カイジ、決闘……!

クラス対抗戦当日……盛り上がりを見せるアリーナ……!

1学年すべてのクラスが集結……暇のある上級生……

各国家や代表候補生の先輩が……確認の場……その力量を……!

トーナメント発表の電光掲示板前……当然、人だかり……今か今かと待ちわびる学生たち……

そして、表示される……クラス対抗戦、第1戦目のカード……伊藤開司vs凰鈴音!

 

「いきなり、凰さんとは……優勝候補の一角……厳しいところが当たりましたわね」

 

「やっぱ、鈴って優勝候補になるのか。頑張れよ、カイジ!いや、鈴も……うーん、俺はどっちを応援すればいいんだ!」

 

心根は優しい一夏……幼馴染の鈴と唯一同じ境遇の男性操縦者……

どちらにも頑張ってもらいたい……仕方のないことである……!

 

「中国の代表候補生を一年で駆け上がり……専用機を持つというのは、並大抵のことではなくってよ……まぁ幼馴染ですものね、応援したくなるのは仕方ありませんわ」

 

「(さて、わたくしはピットの方にでもお邪魔させてもらいましょうか。山田先生に頼めばねじこめそうですわね。理由は、カイジさんの訓練に付き合ったのだから、その成長を見る義務があります、でいけますわね!)」

 

第1アリーナ、当然観客は満員……!

一部の生徒は……カイジの持つ力を期待……一部の生徒は……カイジが無残に敗北する姿を……

アリーナに渦巻く期待……実に対極的に分かれた評価……!

 

アリーナの中央で……睨みあう……カイジと鳳……!

 

「ふん、あんたみたいな臆病者が一夏を押しのけて代表になるなんてね」

 

凰の知るカイジは……自身が学園にやってきたその日……あの、情けなく……

みっともなく……自身から逃げて……女の背に隠れる男……!

情けない、臆病者……至極真っ当な評価……!

自分の恋慕する一夏が……代表になっていないことに、当然不満……!

 

「っへ、悪かったな……一夏君じゃなくて……!」

 

あえて、煽るように……普段は織斑と呼ぶが……あえて、君付け……!

 

「ふん、軽く叩きのめしてあげるわよ。ちょうど鬱憤もたまってるし、いい憂さ晴らしにもなるわ……!」

 

「想い人が鈍感ってのは辛いな……?それに無駄……憂さ晴らししてもすぐ溜まる……!」

 

情報は収集しているカイジ……片思いとその喧嘩……有効活用……煽る……!

 

「っ……!減らず口を!」

 

凰、突撃……!開幕から距離を詰めて……得意の接近戦……振るう、双天牙月……!

 

「(俺に、凰の接近戦を凌ぎ切る腕はねぇ……!だから、まずは距離を放す……!)っは、落ち着きなって……!」

 

接近して来る前から……ピンを抜いていた、グレネード……放り投げる……!

一撃目を受け止めた瞬間に……鳳へ向けて……!

気を取られる凰を置き去り……急上昇……直後爆発……!

 

「(爆発が早い……先に抜いてた……!?)っち!小細工を!」

 

諦めず追いすがる、凰……近接戦を仕掛けにいくが……

またも……カイジ、用意……繰り返す……爆破……!

 

「ちょっとは、頭が冷えたかい……?」

 

冷える訳がない……当然溜まるボルテージ……凰のストレス……!

凰のような天才肌には……掴ませない……自らのペース……作らせない……得意な状況……!

相手に対応するのではなく……自らの得意な戦法で……相手を叩きつぶす……!

相手の対応を上回り……潰してきたからこそ……戦術の引き出しは少ない……!

 

「(イラつかせるわね!だったら龍咆の餌食にしてやるわよ。せいぜいデータ取りの役に立ちなさい!)距離が取りたいなら取らせてあげるわ!」

 

「(来るか、龍咆……!悪いけどすでに……撒いてある、種……!)っは、落ち着いたってところか……?」

 

放たれる不可視の弾丸……衝撃砲……!しかし、避けるカイジ……事も無げに……!

 

「(っ……!?避けられた?でも表情の変化がない!どういうこと!?)あんた、どうやって!」

 

「……?なんのことだ……?」

 

すっとぼけ……カイジ、分からない……なんのことだか……?オロ……オロ……!

 

「(偶然?発射のタイミング前に急に進路をずらされたのは?それにしてもほんとイラつく顔するわね!)こんのぉ……喰らいなさい!」

 

連射……衝撃砲……!イラつきにより、落ち着きを無くしつつある凰……!

 

「(っは……イラついてる……イラついてる……!)急にどうしたんだよ……!怖いって……!」

 

カイジ、避ける……避ける……避ける……!

眉一つ動かさず……いや、困惑した表情で……人をイラつかせる、とぼけ顔……!

 

「どうして!なんでよっ!?」

 

龍咆に集中するために、出来る隙……見逃さず……カイジ、逆に仕掛ける……接近戦……!

 

「っな、あんたから来るなんて!」

 

だがまたも、グレネード……!自分で接近しておきながら……一合斬りあっただけで……接近戦を拒否……!

 

「うっがあああ、いい加減に……しろおおおお!」

 

爆炎を突き破り、突進……!

 

「……っ!やべ……!」

 

最早、グレネードも気にせず……突撃する、凰……!イライラ、達する……頂点に……!

 

「(やっぱ、ごり押しで来られちゃやべぇな……!怒らせすぎたか……沸点低いな、おい……グレネードの数も持たねぇし……技量差にものをいわせた力押しは……捌き切れねぇ……!移るしかない、もう少しSEを削りたかったが……第二段階……!次の種、撒くとするか……!)」

 

 

ピット内部……試合を観戦する教師二人にオルコット……!

 

「どうなっているんでしょう?龍咆はその不可視の弾丸、砲身。射角制限もないのが強み……回避は容易なことではないはずですが……」

 

本来、弾丸が実体を持たないことは……何ら意味も持たない……

弾速はそもそも人間の反応速度の外なのだから……!

しかし、砲身が見えない……射角無制限……これは非常に強力……!

人は砲身の動きから、その射線を予測する……!

光速であるエネルギー兵器……射撃時にすでに敵に命中している……!

避ける避けないではない……命中しないということは……撃った奴が外しただけ……!

そんな兵器を回避できるのは……砲身の動きによるところが大きい……!

衝撃砲は光速と比べるまでもないが……アリーナの大きさなら……着弾は一瞬である……!

当然射角も関係……相手の可動域外……射角外に避ける……!

それは人間の反応速度を超えた戦闘における……基本……!

龍咆はそれを許さない……射角無制限……凰が集中できる位置にいる……

その時点で……全く予測できず……命中が確定しているはずなのだ……!

 

「……人間の可視域では見れない。つまり、得ている……ISからサポート、なんらかの……!」

 

「龍咆の原理は空間圧縮による砲身の形成、っあ……!」

 

「そこだな、気体の流れや温度変化といったデータか……あのグレネードも接近戦拒否という名目はあるだろうが、龍咆潰しの布石……煙や、温度のムラを強くして砲身を観測するためのな……よもや初戦でそれをやってみせるとは……」

 

砲身を形成し……それから撃つ……実はそこに落とし穴……!

それは、空間を圧縮して形成した砲身……それが動かせないことにある……!

動かせば当然霧散……再形成をする羽目になる……!

すでに決まっている射線に入らない……それは、まだ操縦時間の短いカイジでも可能……!

そして、砲撃が可能になるのは……砲身が形成し終えてから……それを待たねばならない……!

故にラグ……僅かながら……それがカイジの誤差がある直感と観測してからの反応……!

運よく……その隙を無くしていた……!

 

「よくそのような攻略法を思いつきますわね……それにしても敵とはいえ鳳さんが少し気の毒に思えてきましたわ……」

 

「相当、イラついてるな。だが、イラつきすぎて猪武者のようになって、逆に小細工が通じなくなったな。地力は凰のほうが上な以上、追い詰められる。グレネードの数にも限りがあるし、あれではSEを削り切ることはできまい……!(次はどんな面白い手を用意したのだ……?)」

 

カイジの用意した策略……第二段階目……炸裂なるか……!?



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カイジ、決死……!

どうにか凰と距離を取り……息を整えるカイジ……!

 

「(二段階目……奴が次に龍咆を使用する……その瞬間を見極める……!)」

「(っち、このまま攻めてれば勝てるけど、疲れるわね)さて、もうあんたのペースでは戦わせな……」

 

凰が喋っている途中……急に鳴り響く爆音……アリーナの一角に……爆炎が発生する……!

カイジの目にはかろうじて……ビームの残光が見えただけであった……!

 

「なんだ……?」

「なによ……?」

 

呆然……呆気に取られ……互いに動きを止め……見やる、爆炎と黒煙の上がる一角を……!

 

『いっくんの活躍を邪魔するイレギュラー、消えてもらうよ!』(ラボ内での束の独り言『』)

 

転瞬……刹那……カイジ直感、察知する……切迫した死神の大鎌を……!

 

「……!!」

 

紙一重……避ける……カイジ……!黒煙の中から……

不意打ち……突如として飛来したビームを……!

 

『あぁん!?なんで避けれるんだよ!人間の反応できるタイミングじゃないのに!束さんやちーちゃんならいざ知らず!こんな有象無象の虫けらがぁ!』

 

「……また、会ったじゃねぇか。死にそうってわけ?俺……」

 

虚空を見つめながら……一人つぶやくカイジ……傍から見れば当然異常者……!

 

『なんだ、あいつ?わたしのゴーレムを無視して何喋ってんだよ!蒸発させんぞゴルァ!』

 

「試合中止!伊藤、凰!直ちに退避しろ!」

 

珍しく……焦燥感を伴った声で通信……千冬……退避命令……!

アリーナのシールドを破るほどの威力がある兵器……それを持った所属不明のIS……!

到底楽観視していられる状況ではない……!

 

「カイジ、試合は中止よ!すぐピットに戻って!」

 

「(間違いなく、狙ってやがる……俺の事……!目当ては俺……どっかの研究機関……いや、アリーナのシールドを突き破る威力だ……初めの不意打ちからして……明らかに殺しにかかってる……)鳳、逃げろ……!狙いは、俺……!食うことはない、巻き添え……!」

 

「はぁ?あんた、何言ってんのよ。自分を狙ってるなんて、なんでわかんのよ!」

 

「見てなかったのかよ……明らかに最初の一撃……狙ってきた、俺の事……それと直感……感じる……!」

 

「直感って、あんたねぇ!」

 

「ともかく……!俺が逃げたら追ってくる、確実に……そうすれば拡大……被害……!」

 

敵は規格外の兵器を所有している……そんな相手と追いかけっこをすれば……

学園内にどのような被害を齎すか……想像に難くない……!

 

「……私も戦うわよ!こちとら代表候補生、素人おいて逃げ出せるわけないでしょ!」

 

「伊藤君、凰さん!何を言ってるんですか!?教員の制圧部隊が向かいますから、早く避難してください!

 

「ほら、先生もこう言って」

 

そう言いながら……不明機より目を離した瞬間……襲い来る射撃……!

 

「……危ねぇ……!」

 

「きゃあっ!」

 

凰をも巻き込む位置へ飛んでくる……ビーム……!咄嗟に押しのけて回避……!

 

『っち、あいつも箒ちゃんの邪魔するから同時に始末しようかと思ったのに!まずはイレギュラーからやるしかないか……!』

 

「今のに反応出来ないなら指示に従え……!邪魔だ……!」

 

「っな……!(なんで、こいつは死角からも、会話中も、避けれるのよ!)」

 

「代表候補とか素人とか……死を前にして……無意味……!それに、俺のせいにするな……俺が残るから残るとか……はっきり言って迷惑……!命を賭けるのに、人の事を持ち出すな……!自分だ、自分なんだよ……」

 

自分が残ったから……石田さんや佐原は……いや、今考えることじゃねぇ……!

今は目の前……現実……迫る脅威の対処が先……!

 

「悪いが山田先生……それは聞けない相談だ……!アリーナの物理防壁すら熔解しかねない……逃げたら、大惨事……!」

 

「そ、それは……ですが、だからといって伊藤君を危険に晒す理由には!伊藤君!?通信が……!」

 

暖簾に腕押し……糠に釘……価値観の違い……ISの操縦者である真耶は……

今まで守られていた……その堅牢な防護に……怪我すら稀……死を意識などしない……

だが、身一つ……命を危機に晒してきた、カイジは……人の死は現実……

仮には死ねない……取返しが付かないことを……身を持って理解……!

故に、どうしても差……迫る脅威に……死を明確に……リアルとして認識できるかどうかで……

 

最早返事は待たず……通信を切るカイジ……!

そして、凰から距離を離すように……所属不明機へと近づいていく……!

 

『生意気にも逃げ回らずに突っ込んでくるとか!手間かからなくていいけどさぁ……狂ってんじゃないの、こいつ』

 

……世界の誰しもが思うだろう……ブーメラン……お前には言われたくない……!

 

「(しかし、今まで避けたのも運……俺の実力じゃねぇ。一度でも直感が働かなければ、間違いなく死……死ぬ……消える……跡形もなく……!問題は俺に残された武装……ライフルやグレネードで落とせるほど……やわじゃねぇ……あれだけの高出力の兵器を運用できるなら……SEも確実に膨大……ちまちま削ってたら、先に焼き殺される……!一応積んであるパイルバンカー……これならいけるだろうが……距離をどう詰めるか……!こんな所に単機……たった一人で送り込まれる……いわば精鋭……代表候補生も目じゃない……!狙いは正確……近づけば近づくほど……回避も厳しくなる……!)近づいちまったが、とりあえず距離を離して……様子見……!」

 

『っち、急に慎重になりやがった……!時間稼ぎのつもりか?こっちも制御プログラムを対応させての戦闘だから、やりにくいったら!』

 

未だ呆然とする凰を巻き込まないよう……不明機を観察する、カイジ……!

安全な距離を保ち、勘に頼らずビームを避ける……!

 

『っち、安全な距離を分かってやがる。あんまり時間を稼がれると、有象無象はいいとして、ちーちゃんが来たら終わりだ。できれば、こいつらを蒸発させてから、いっくんがヒーローのように登場!撃退!が理想なんだけど……とりあえず近距離戦闘モードONっと。さぁさぁ、さっさと蒸発しちまいな!』

 

束の操作により……不明機は急に動きを替える……!

 

「っげ、動いてきやがった……!そりゃ、直立不動ってわけねーよな……!」

 

突如、これまでのスタイルを替え……近接……殴り……殴打……!

 

「高出力の近接兵装は……持ってないのか……しかし、鳳の近接のほうが捌くのがきつい……?せっかく詰めた距離を離して、また近づいて……だが、正直このまま避け続けるのも厳しいな……時間を稼げば教員部隊が……とも考えていたが……」

 

しかし違和感……遠距離戦時の狙いの正確さの割に……近接戦闘は不得手か……?

とはいえ、俺にパイルバンカーを……撃たせるほどの間抜けではない……!

何か、相手の認識……それを根本から誤魔化すような……そんな手が、必要……!

 

「なら……遠距離戦で……落とさせるか……!」

 

『むぅ~、なんだかつかみどころがないなぁ!近距離戦受けてるかと思えば急にまた距離取る方を選択しやがって、どうみても遠距離じゃ勝機ねーだろうが!近距離でもないけどね!』

 

奴に、俺の死……撃墜したことを……認識させる……!

 

「(奴の狙撃と斜めに……交差……!)この軌道なら俺が死ぬ……か。いいぜ、撃って来いよ……!」

 

『次は近づいてきた?馬鹿め!今度こそ、この距離なら外さないよ!』

 

カイジ、決死……覚悟を決めて……自らの策へ……命を賭ける……!

果たして……カイジ……!

 



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カイジ、死闘……!

死神の構える大鎌……それが自らの首を刈り取るその瞬間……避ける……!

直前に軌道を斜めにずらし……自身のいた少し前の場所へ……グレネードを投げて……!

直後、ビーム通過……当然、グレネード……爆散……!

 

『よっしゃ、ビンゴぉ!ISごと跡形もなく消えたっぽいけど、コアの自作できる束さんにはなんの問題でもないしぃ~』

 

両手を上げて、歓喜……!くるくると椅子の上で……回転……!

 

『さてさて、もう一人の邪魔者をっ……うぇっ!?』

 

束の眼前……巨大スクリーンに写し出されていたのは……

カイジの打鉄に……頭部を鷲掴みにされ……パイルバンカーを突き付けられたゴーレムの姿……!

 

『お前は死んだんだぞ?ダメじゃないか!死んだ奴が出てきちゃあ!死んでなきゃあああ!!』

 

ISの絶対防御すら……ものともせず……貫通……熔解……驚異的威力……!

直撃すれば……当然ISもろとも熔解……束でも……流石に致命……即死……!

だが、死んでいない……カイジは……!額から血を流しても……生きている……!

 

「悪いけど、容赦しねぇ……殺しにかかってきた相手には……慈悲、かけられねぇ……!安心しろ、殺しはしねーよ……脳震盪……!ちょっと、眠ってもらうぜ……!」

 

カイジ、狙うは脳震盪……!SEが削り切れなくても……内部の人間さえ……

気絶させてしまえば終わり……だが、カイジ……痛恨のミス……!

無人……人間ではないため、当然起こさない……例え六発喰らっても……!

 

『誰も中にいませんでしたからねぇ、誰か中にいれば良かったんですけどねー!脳震盪なんておこさな、あれっ、動かない……!?』

 

だが、無人機でも、脳はある……!AI、人工知能……!束も人の子……!

積んだ場所は、頭部……人間と同じ場所……脳みそ……そこにAIを……!

 

『うっがぁああああああ、人工知能回路に致命的なダメージだとおおおお!まだSE残ってるのにいいぃぃい!』

 

内部には激しい衝撃……精密機械故……衝撃ダメージは甚大……!

当然壊れる……人工知能の中枢……その回路が……!

カイジの運が勝った……!カイジの思惑通りではないが……目的、無力化成功……!

敗北……天才……オーバースペックゆえに……敵などいなかった……束が……!

 

『負けちゃった……この天才束さんが……有象無象に……?ていうか、どうやった……なんでゴーレムが簡単に捕まった……?とりあえず、急いでデータ吸出しとクラッキング……!何があったか調べなくちゃ……!』

 

自分自身はモニター越し……カイジが爆散……死んだことに疑念を抱かず……信じた……

しかし、AIの……撃墜したという判断は……ISの反応が消えることで行う……

ISの反応が残っているなら……当然、戦闘は継続……無様に捕まるなどあり得ない……!

人間とは、判断が……根本から違う仕組み……誤解など、あり得ない……!

どこか薄気味悪いものを見るように……まだ残っているカメラで……カイジを観察……!

 

「どうにか、紙一重……死神も、消えてやがる……なんだったんだ、ありゃ……」

 

観察されていることなど露知らず……カイジ呟く……鉄骨渡りで見た死神のことを……

 

『死神……?何言ってやがんだ、やっぱいかれてんのか?いや、自分でも訝しんでる。つまり、こいつ……正常?っと、データは取り出せたね、直前の映像を再生させてっと』

 

そこに映るのは、ビームを紙一重で躱した後……自らISを解除するカイジの姿……!

そして、慣性に身を預け……ゴーレムの懐に潜り込み……再度ISを展開……!

ゴーレムも……急に出現した……ISに反応し切れず……捕まる……!

狂気……正しく狂気の沙汰……自ら投げ出す……絶対防御という殻……!

普段感じることのできぬセーフティという名の悦楽……

安全であることの愉悦……それが、ISの……絶対防御の齎すもの……!

故に、正気では到底無理……!あの場面、脱がねば騙せぬ……脱がねば勝てぬ……

そんな状況でも、自ら命を危険にさらすことなど……!

 

『こいつ、やっぱり狂ってやがる。それに分析をかけてみれば、どう考えてもおかしい!こいつの独り言、死ぬことを分かっていた……?だからぎりぎりでずらせたし、グレネードを残せたってことになる』

 

しかし疑問……違和感……思い返してみるが、少なくとも……

狂っている人間の戦い方ではなかった……!

全てにおいて……思考、何かを考えて戦っているのは明白……!

最後も……手段は狂っていても……有効……機械すら、騙した……!

そして、死神……正体不明……空想の産物……脳内が作り出す妄想……!

だが、しかし……現実に作用……死の直感……単一仕様能力……未発現……!

 

『むぅ~、これはこいつ、なんて言ったっけ、伊藤開司か……いっくん、はいっくんと被るから、かーくんで!』

 

偶然にも、被る……布仏と、ネーミングセンス……ある種のシンパシー……!

 

『なにがあったかを調べる必要があるなぁ~。この日本でこんなやつが生まれてくるかっての!うぅ~ん、この束さんに興味を抱かせるとは!罪な奴だねぇ!』

 

まさかの興味……破綻者として知られ……極一部のものしか認識しない……

そう言われる束が……持った、興味を……カイジに……!

今回の事件を起こしたのは……カイジの排除が主目的であった……!

自らの妹である箒……その妹の恋する一夏……本来男性操縦者など一人でいい……

一夏ただ一人がIS操縦者となり……ヒーローのように活躍する……

そして……そのヒーローたる一夏と結ばれる……最愛の妹である箒……!

それが束のプラン……ある種、箒と一夏の間を裂いてしまった……自らの贖罪……!

カイジはいわばその邪魔をする者……異物……イレギュラー……!

ただの抹殺対象であったはずのカイジ……!

だが、カイジは……自身を初めて負かした……有象無象……

いや、自身ですら理解しきれない……不明な事象を抱えている……!

もはや束にとって……カイジは有象無象ではなくなったのだ……!

 

ピット内部では……

 

「……!」「伊藤君!?」「カイジさん!?」

 

ビームへと突っ込み……反応消失するカイジの打鉄……!

当然誰もが最悪の事態……死亡……それを予想した……!

 

「そんな、嘘ですわ……!そんな、こと……」

 

絶望に打ちひしがれるオルコット……しかし次の瞬間……

 

「IS反応出現!伊藤君のもの……?」

 

真耶も俄かには信じがたく……疑うも……煙が晴れた先……

スクリーンには……打鉄を纏うカイジの姿……!

 

「い、生きていらっしゃった、のですね……」

 

その姿を見たオルコットは安堵……多大なストレスにより……精神の糸が切れる……!

ふっと、意識を無くし……崩れ落ちるオルコット……それを千冬が咄嗟に支える……!

 

「オルコットにはショックが強かったろうな……(だが、これが普通だ……身近な者の死……当然そのショックは大きいものだ……自分の恋慕するものなら尚更……!そして、自らの死は……それはショックだとか……そういったものとはまた……別次元に位置するものだ……!伊藤は、あの瞬間……自らの死を受け入れた……そう言ってもいい行為……あの戦闘の場で……ISを自ら解除するなど……!一体どういうことだ……今までは……まだ勝負事に勘の働く……疑り深い……慎重な奴……!それくらいのイメージだったが……これはさすがに……異常だ……!)」

 

 




最後にカイジの取った戦法のイメージが付きにくい場合
ガンダムUCよりバナージvsフル・フロンタルの初戦が分かりやすい。
ユニコーンのビームマグナムの驚異的な威力に対し、無闇に接近できないシナンジュ。近づくために取った方法は、回避と同時に追加ブースターを切り離し、敵のビームマグナムで爆破させるというもの。その爆破を撃墜したと誤認させて、ユニコーンの懐に入り込むシナンジュ!

まぁあの爆発規模だとカイジ死んじゃうじゃんってのはあるけど、グレネードはそんな大きな爆発は起こさないから……!

あのシーンは回避も併せてとてもカッコいい。見たことがない人はぜひ見てみよう。アニメなら6話の中盤くらいにあります。

一応参考GIF
https://i.gyazo.com/3d124d9c9cf7081c5d44d50fc6981b28.gif


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欺罔男装・眼帯軍娘編
カイジ、確疑……!


朝、HRが始まる前の時間……

クラスの各所で……談話……噂話に花を咲かせる生徒達……!

 

「聞いた?この噂!」

「なになに?こないだのISのこと?」

「あれは、実験中だった機体が暴走したって話でしょ」

 

お前ら、それでいいのかよ……自分が乗ってたら……

場合によっちゃ大量殺戮者になるんだぞ……!

つか、俺狙いだったからいいものの……一撃目が観客席なら……

防壁が降りる前に……消し炭になってたんだぞ……?

 

「その話じゃなくて!ここだけの話、内緒だよ?実は……来月の学園別トーナメントで勝つと織斑君と付き合えるんだって!」

 

「そうなの!?」「まじ!?」「すっごーい!」

 

最後の部分は……内緒話、声も小さく聞こえなかったが……

その前に……興味を無くしていた……!

 

「みなさん、何を騒いでいらっしゃるんでしょう……?」

 

「興味ねぇよ……俺が知るか……あんな呑気なやつらのことなんて……」

 

「やはり……前のISの事が気になって?」

 

あの後、所属不明のISは……教員部隊によって学園の地下へ……連行された……

現在調査中とのことで……カイジでさえ他の生徒達と……

大して変わらない情報しか……得られていないのであった……!

 

「当たり前だろ……暴走してた……自分の意思じゃない……そんなのは何の免罪符にもならねぇ……人を殺しちまったら……」

 

鉄骨渡り……俺が切っ掛け……道拓く者となり……皆が続いた……

決定したのはあいつら自身……強要したわけじゃない……だけど……

あの時俺が……出ていかなければ……俺が、引き留めていたら……

……石田さんや佐原は……まだ……今も……地下施設行きかもしれないが……

少なくとも……生きてたんだ……きっと……生きてた……俺が、9人を殺……

 

「急に黙られて……どうされたんですの?それに顔色が優れませんわよ……?」

 

「いや、なんでもねぇ……とにかく、もうHRだ……席に戻れ……」

 

「(時折、暗い表情をお見せなさいますわね。地の底、裏切り、今日は人を殺してしまったら……万が一にもカイジさんが殺人を犯したとは考えたくありませんわ。やむを得ない、事故かなにかで殺人を犯してしまった……そんな知り合いでもいるのでしょうか?)体にはお気を付け下さいまし」

 

カイジの心に重く圧し掛かる……9人の仲間の命……もしあの時……こうしていれば……

とりとめもない思考が……時折カイジの精神を蝕む……

 

 

朝のHR……学園の一日の始まり……!

今日は何と……転校生……!

 

「今日はみなさんに転校生を紹介します。さぁ、入ってきてください!」

 

「みなさん、フランスから来ました。シャルル・デュノアです。みなさん、よろしくお願いします」

 

正しく美少年……といった風の生徒が……真耶の紹介と共に入って来た……!

 

「(男装趣味か……?中学の時にもいたっけな、なんか知らねーけど女子なのに男子の制服着てるやつ……それともスカートじゃ、ギャンブルで負った傷が隠せないとか……?それはないか……)」

 

カイジにシャルルが……男性名であることなど……知る由もなかった……!

肌を隠すのは、傷を隠すため……短絡思考……世紀末的思考……

 

「だ、男子?」

 

「はい、こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて、本国から転入を」

 

「いやいや……その冗談はシャレにな……」

 

「きゃあああああああああ」

 

「男子!三人目の男子!」「しかもうちのクラス!」「美形!守って上げたくなる系の!」

 

熱狂……狂乱……狂気乱舞……歓声が渦巻き……カイジの声はかき消される……!

 

「騒ぐな……!静かにしろ……!今日は二組と合同でIS実習を行う……各人はISスーツに着替えて第二グラウンドへ集合……!」

 

「はい!」

 

「(伊藤の奴……さっき、冗談と言ったな……?まさかもう気付いている……?)それから織斑、同じ男子同士だ……デュノアの面倒をみてやれ……」

 

「わ、分かりました!」

 

「君が織斑君?初めまして、僕は」

 

「あー、自己紹介は後回し。とりあえず移動が先だ。女子が着替え始めるから。カイジ、さっさと行こうぜ!」

 

手だけを振って……返事をするカイジ……考えるはデュノアの事……!

織斑は先にデュノアを連れて……教室を出ていった……

 

「俺たちはアリーナの更衣室で着替えるんだ。実習のたびにこの移動だから、あんまりモタモタしてられないんだ。千冬ね、織斑先生は遅れると容赦しないから……それと」

 

織斑が言いかけ、止まる……廊下の先には女子の集団……!

普段は織斑目当て……もう少し数は少ないが……今日は別……!

もう一人……シャルル・デュノア……もう一人の男性操縦者(仮)……!

当然……群がる……蜜を求める蜂のように……!

 

「来たな、走れ!」

 

「っふぇ?ちょ、織斑君、手っ……!」

 

手を握られて赤面……女子達へ燃料投下……当然、爆発……!

 

「きゃああああ!」「美少年同士の逃避行!」「やっぱり織斑×デュノア!」

 

不穏なワードを聞きながら……逃走……一夏・デュノア……!

 

「み、みんななんであんな騒いでるの?」

 

「そりゃあ、今のところ男性操縦者って三人だけだし」

 

「えっと、あ、あぁそうだね、うん」

 

デュノア……今気付いたかのような……ぎこちない反応……!

だが、織斑……授業に遅れないため……必死……気付かない……!

カイジがいたら……当然……詰問……誘導……暴いていた……正体……!

最悪の事態を免れた……シャルロット……デュノア社……引いてはフランス……!

この程度の教育で……スパイ行為が成功すると……

本気で……思っているのか……?フランス……!

 

 

一夏、デュノア……何とか女子達を振り切り……更衣室へ……!

 

「何とか振り切ったみたいだな……あれ?カイジ、もうついてたのか」

 

「あぁ……もう時間ギリギリ……急いだ方がいいぞ……!」

 

織斑たちが囲まれること……予想済み……!

女子のいない別ルート……そこを通り、すでに着替え終えた……カイジ……!

 

「そうだな、自己紹介してる暇は、ないか。ま、授業終わってからの休憩時間にゆっくりやろうぜ。それより早く着替えよう」

 

そういうやいなや、制服を脱ぐ一夏……上半身をデュノアの目に晒す……!

 

「うっ、うわぁ!」

 

「(……あ?なんだよ、その反応。舐めてんのか、おい……?)」

 

まだ断言はできないカイジ……だが、どうみても怪しい反応……!

どのような育ちであれ……同性・同年代の着替えに……悲鳴を上げる奴などまずいない……!

 

「どうしたんだよ。早く着替えないと遅れるぞ?」

 

「う、うん。着替えるよ。だから、ちょっと、あっち向いてて……ね?」

 

「俺は先に行っておく……!」

 

「いや、まぁ別に着替えをじろじろ見る気はないが……また後でな、カイジ!」

 

カイジの姿が消えたのを確認し……高速で着替えるデュノア……しかし……!

 

「(そこに、鏡……あるんだよな。ピンクの可愛らしい下着……胸までカバーするコルセット……十中八九、女……!流石に、下着だけ女装趣味……ってことは、ねーよな……?)おっと、忘れもんだ……」

 

先に行かせたと思わせ……カイジ、監視……一時間と持たず、ばれる……

シャルル・デュノア……その正体……!

違和感……胡散臭さ……疑惑……どうぞ正体を暴いてください……!

 

「珍しいな、カイジが忘れ物なんて」

 

「そういうことくらい、あるさ……俺のことはいい、早く行きなって……」

 

「そうだな、早く行こうぜ、デュノア!」

 

そう言い、先へ向かう一夏……その姿を確認した後……

 

「デュノア……」

 

先ほどよりも声を低くし……デュノアだけを呼び止めるカイジ……!

 

「な、何かな?」

 

「お前は、男……なんだな……?信じるぞ……?俺は、偽ろうとするもの、騙そうとするものには……容赦しない……それでいいんだな……?」

 

「な、何を言ってるのかな?先生だって、僕の事を男だって紹介したじゃないか」

 

ぎこちなく、笑みを浮かべながら……否定をするデュノア……

 

「そうか……なら、いいんだ……そう来るなら、それはそれで……」

 

含みのある物言い……困惑するデュノア……!

 

「あは、ははは。ほら、早く行こ!織斑君も待ってるし……!」

 

そう言い、逃げるように背を向けるデュノア……その背を静かに見つめるカイジであった……!

 



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カイジ、望怠……!

ここは第1アリーナ……今日から始まる……実習訓練……!

膨大な勉強に耐え……待ちに待った……実習の日……!

 

「本日から実習を開始する……!まずは戦闘を実演してもらおう……凰、オルコット……!専用機持ちならすぐ始められるだろう……前に出ろ!」

 

「なんであたしが、めんどいなぁ」

 

「こういう見世物は気が進みませんわ」

 

「お前ら、もう少しやる気をだせ……いいところを見せられるチャンスだぞ……!」

 

そう二人に囁き……千冬は男子生徒の方へ視線を向ける……!

全くもってやる気を出さない二人……が、千冬はその手綱の握り方を知っていた……!

 

「(険しい顔をされておりますわね。やはり体調が優れないのかしら?それとも前に負った怪我が痛む……いずれにせよ、わたくしも代表候補の名に恥じないようにしないといけません……いい機会ですわ……)ここはわたくしにお任せですわ!」

 

「(まさかセシリアも一夏狙い?ここでボコっとかないといけないわね……!)実力の違いを見せてあげるわ!」

 

二人とも、当然早とちり……相手を間違える……!

 

「慌てるな、対戦相手は……」

 

「きゃあああああ、どいて、どいてくださああぁぁあい!」

 

「えっ?うわあああああ!」

 

頭上より……急降下……一夏目がけて……一直線……真耶……!

濛々と舞い上がる土煙……土煙が晴れた先には……真耶へ抱き着く一夏の姿……!

 

「一体、なにが起こったんだ……って、うわ……!」

 

「そ、その織斑君?困ります、こんな……でも、このままいけば、織斑先生が、お姉さんに……」

 

妄想……狂想……次々へ思考に花を咲かせる……真耶……!

 

「一夏ああぁぁぁ!」

 

猛り狂った凰……一夏目掛けて……投擲……双天牙月を……!

 

「う、うわああぁぁ」

 

迫りくる凶器に慄く一夏……しかしその凶刃が……届くことはない……

射撃音と共に弾かれる……発砲したのは……真耶……!

投擲される武器に……瞬時に命中させる腕前……生徒達唖然……!

 

「山田先生は元代表候補だ。いまくらいの射撃は造作もない」

 

「昔のことですよ。候補生止まりですし」

 

実力は十分……だが当時の競争相手は千冬……運がない、その一言である……!

 

「あ、あの2vs1ですの?」

 

「いやぁ、さすがにそれはぁ……」

 

「安心しろ。今のお前たちならすぐ負ける」

 

千冬より、そう言い切られ、思考を巡らすオルコット……

 

「(っと、いけませんわ。勝負に絶対はない、でしたわね。そもそも、織斑先生がこうして用意した舞台。わたくしたち二人掛かりでもまず倒せないという自信があってのこと。これは、胸を借りるつもりで戦わせてもらわなければ、なりませんわね……)セシリア・オルコット、全力で挑ませてもらいますわ!」

 

「(ふん、元代表候補止まり。私一人でもいい勝負してやるわよ。セシリアがいなくたって十分なんだから!)凰鈴音、行くわよ!」

 

カイジと触れ……オルコットは自尊心の殻を脱ぎ去り……思考能力が上がっていた……!

つまり、アホではなくなった……アホの子、脱却……!凰、まだアホの子……!

 

「(どうやら、オルコットは理解したようだな……これから成長するぞ、こいつは……!伊藤の影響か……私もまだまだ、というべきか……それにしても鳳はまだ、甘えが抜けきっていないようだな……どちらも、才能はあるんだ……あとは自身の殻を破れるかどうか、それが分かれ目……)それでは、始め……!」

 

三機のISが上空へ舞い上がり……戦闘、開始……!

 

「さて、デュノア。山田先生が使っているISについて解説しろ」

 

「……デュノア説明中……」

 

とても流暢に……スラスラと解説する様を見て訝しむカイジ……

しかし、途中で出てきたデュノア社という言葉……

 

「(デュノア社……こいつもデュノアでフランス……流石に無関係な訳がねぇ……!それにしても強いな、山田先生は……正しく360度……目がついてる……!オルコットの癖は……知ってるとして……凰の龍咆に対しても……十分に対応している……!ラファールが豊富に……武装を詰めることは知っているが……使いこなすのは容易ではないはずだ……流石は教員……これで候補とは……昔より、質が落ちてんじゃねーのか……?)」

 

「きゃああぁぁあああ」

 

決着……凰とオルコット……二人まとめて地面へ激突……勝者、山田真耶……!

 

「これで諸君にも教員の実力は理解できただろう。以降は敬意をもって接するように。次にグループに分かれて、実習を行う。リーダーは専用機持ち、それと伊藤がやること」

 

「なんで、俺を巻き込むんだよ……IS持ってねーぞ……」

 

「クラス代表だろうが!それにこの中で訓練機でちゃんと放課後も訓練をして、動かしたことがあるのはお前だけだ。では、別れろ!(こういう時のやる気は、まるで感じられないのだから困ったものだ……)」

 

あえて、生徒達に気付かせるように言うも……目を向けているのはグループの事……

目当ては、織斑……デュノア……ライオンの檻に葬りこまれた生肉、二つ……!

 

「(俺のとこに来る奴とかいんのかよ……正気の沙汰じゃねぇ……旨そうな生肉と、腐肉くらいの差があんぞ……)」

 

クラスの信者からは当然嫌われている……それにしても……卑屈なカイジ……

だが、カイジのところへ並ぶ布仏……加えて名前も覚えてない二人の女生徒……!

 

「(まじかよ……普通に織斑のところ行けよ……さぼれねーだろうが……!)なんで俺のとこ来るんだよ……どうみても当たりくじはあっちだろうが……さぼらせてくれよ……!」

 

暴言……自らのところに並んでくれたというのに……まさかのシャットアウト……!

さぼる気満々……カイジ……!が、駄目!予想に反して、やってきた……三人も……!

 

「織斑先生が言ってたじゃん、真面目に訓練してるのはかーくんだって!それに、友達だしね~!」

 

「……あ?友達……?誰が……誰と……」

 

「ふ~ん、そういうこと、言うんだ~……」

 

「……っ!分かった、分かったよ……で、後ろの二人は……誰……?」

 

布仏の近くによくいる……その程度の認識のカイジである……!

クラスメイトの事など……当然微塵も興味はなかった……!

 

「ひっどーい!クラスメイトの事も覚えてないの!?」

 

「(興味ないって……言ったら……やばいな……)悪いな……物覚えが悪くて……」

 

「まぁ自己紹介流れたし仕方ないよ~(もう1週間、経ってるけどね!)」

 

「じゃあじゃあ、私からね!出席番号1番、相川清香だよ。ハンドボール部、趣味はスポーツ観戦とジョギングだよ!よろしく、って私、1番だから自己紹介やってるよ!伊藤君の前に!」

 

「(お馬さんと船が走るスポーツの観戦は……俺も大好きだぜ……っは!そういえばオルコットのイギリスって競馬の聖地じゃねぇか……いつか、行きたいな……!)なんとなく、覚えてるよ。なんとなく……」

 

競馬は……スポーツ観戦だが……カイジのそれは……ただのギャンブル……!

 

「((絶対何一つ覚えてない……何か違うこと考えてるし……それに目逸らすなよ……!))」

 

「えと、それでさ。ごめんね、代表決定戦の時。面白がって、つい調子に乗っちゃってさ」

 

「……いや、まぁいいって……もう過ぎたこと……気にすんなよ、今更……」

 

「伊藤君が、そういうなら……でも、気になることは謝っておかないとね!これからよろしく!」

 

「(中立の奴が増えたと考えれば……悪いことでもないか……)あぁ、よろしく……」

 

「(ここで、全然嬉しそうな顔、しないんだもんな~。むしろ企んでるような顔だし~)」

 

カイジ、徐々に和解……クラスメイトとも……!布仏……静観!

 



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カイジ、調動……!

実習が終わり、昼食の時間……カイジを誘いに来る一夏……!

 

「なぁ、カイジ!昼、屋上で一緒に食わないか?」

 

「……そういうのは先約の許可を……とってからにするんだな……」

 

織斑の背後には……デュノアと箒に凰の姿……!

当然箒には睨まれ……デュノアは不安……凰は戸惑い気味……!

箒にとっては軟弱者……一夏の活躍の場を奪った者……!

デュノアにとっては恐怖……一瞬にして正体がばれ……宣戦布告されたようなもの……!

鈴は前回の襲撃時……なまじ近くで見ていた分……カイジの得体の知れなさへの畏怖……!

 

「え?みんな、いいよな?せっかく、男子も増えて三人。仲良くしたいもんな」

 

だが、そんなことは……知る由もない織斑……!

 

「すまねぇな、そもそも今日は食堂なんだ、俺……いや、折角天気もいいんだ……騒々しい食堂より、屋上へ行って来いよ」

 

「そっか、残念だな。じゃあ、また機会があったらな」

 

教室から出ていくのを見送るカイジ……そこへオルコットが声をかける……!

 

「みなさんと、仲良くなさりませんの?」

 

「あいつらが、俺と仲良くしたいって……そう思ってるって……?」

 

そう見えたのなら……オルコットの目は節穴だ……!

 

「……箒さんと鈴さんはともかく、織斑さんとデュノアさんは同じ男性操縦者ではありませんこと?」

 

「(気付かない、よな……まぁ俺も断言はできねぇけど……でも、不安そうな表情してる時点で、怪しさ全開なんだよ……騙す気がないっていうか……ん……?そう考えると……どこかおかしいな……引っかかる……)ともかく、あんな針の筵で……飯なんか食いたくねぇ……!あとは、調べたいことがある……のんびりしてる暇はない……!」

 

「(平然と、買ったパンを取り出しましたわね……!全くもって……それにしても……急いで調べたい事とは……?邪魔はしない方がよさそうですわね)では、失礼致しますわ」

 

気になりつつも空気を読み……席へと戻るオルコット……!

 

そして、放課後……デュノアの情報収集に動く……!

昼間にデュノアのことを調べ……デュノア社の一人息子であること……

それ以上の……社長の家族構成や情報は分からなかった……!

脅迫……誘拐……テロ対策……当然その情報はトップシークレット……!

個人で調べるカイジでは……限界……たどり着けない領域であった……!

そのため、やはり基本……今まで通り、学園に提出されたデータを洗う……!

 

「山田先生、すいませんが……デュノアの専用機や公式戦の情報など……いただけませんか……?」

 

「え、えと。デュノア君のですか?クラスメイトですし、そんな戦うようなことも、ないと思いますけど……?」

 

珍しく、狼狽える真耶……今までされたことのない……情報の出し渋り……!

 

「学年別トーナメント戦では……誰と当たるか、わかりませんよね……?今のうちに情報を得ておきたいんです……ありますよね……?専用機、持ってるんですから……!(織斑と同じように……男性操縦者だから専用機を得た……だから無いって言われると……突っ込めないんだが……)」

 

狼狽える真耶……!それを見て助け船を出す千冬……!

 

「まだ、デュノアは転校してきたばかりだ……こちらも先日のIS襲撃事件の処理と重なって……デュノアのことはほとんど手付かずだ……すまないが、まだ情報は渡せない……」

 

「そうですか……分かりました……では、処理が出来たら……渡してもらえるんですね……?情報がない……ではなく……!そして……所属不明のISについても……ね……!」

 

含みを持たせるカイジ……前者は情報の存在そのものを訝しんでいる……そういう印象を与える……!

 

「……そうなる、気長に待っていろ……だが、所属不明のISについては……極秘事項に当たることも……多くなりそうでな……」

 

端的に、後者の情報は渡せない……そう言う千冬であった……!

 

「俺が処理した……と恩着せがましく言うつもりもないが……まぁ、学園別トーナメントまでに……立つといいですね……処理の目処が……!」

 

職員室からカイジが去るのを見送り……ため息……山田真耶……

 

「伊藤君、気付いているんでしょうか……?」

 

「恐らく、な……だが、伊藤としても断言できるほどの情報はないはずだ……だから、我々の態度を試しにきた……とも考えられる……(ひとまずなにもするな、と釘を差すか……?しかし、伊藤にとっては……所属不明機は自分を殺しに来た敵であり……デュノアは自分の情報を取りに来た敵……と見えるはずだ……こちらから下手に動けば……伊藤がどう行動するか予測がつかん……情報が不足している今、無理に動けないか……)」

 

「早めに、デュノアさんの情報を洗わなければなりませんね」

 

「忙しくなるな……」

 

二人の教師……覚悟……残業……徹夜……一人はビールへの欲求を堪えて……

 

「あ、先生方、少しよろしいですかな?」

 

「どうされました?」

 

「明日、1組に転校生来るから」

 

「……???」

 

無慈悲な宣告……教員二人へ追い打ち……追いつかない思考……理解……

あり得ない……前日の放課後……夕暮れに……転校生のお知らせ……

容赦ない仕打ちへ……たまらず……思考停止……

 

 

そして、翌朝……昨日と全く同じように……転校生の紹介……!

あり得ぬ出来事……二日続けて転校生……同じクラスに……!

 

「えと、今日も嬉しいお知らせがあります。またクラスに一人、お友達が増えました。ドイツから来た転校生を紹介します。ラウラ・ボーデヴィッヒさんです」

 

「え?転校生?昨日デュノア君が来たばっかりじゃ」

 

「どういうこと?二日連続で転校生だなんて」

 

「おかしくない?こんな時期に、二人もこのクラスに転入なんて」

 

銀髪……眼帯……直立不動……険しい空気を纏う転校生……!

 

「みなさん、まだ自己紹介が終わってませんよ。お静かに」

 

「挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官!ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

そう言われ……軍人よろしく半歩前へ……気をつけの姿勢をし……名前だけ……!

 

「……」

 

「あの、以上ですか?」

 

問いかけられるも、答えず……一夏の方へにらみを利かせ……近寄る……!

そして……クラスに乾いた音が……響き渡る……!

呆然……唖然……皆声も出さず……状況に理解が追い付かない……!

 

「認めない。貴様があの人の弟であるなど!認めるものか!」

 

「(いきなり平手打ち……?教官……教え子……だが、ここが一年生ってことは……どこか違う場所で……織斑先生と関係があるってこと……恐らく狂信者……弟がいることが認められないんだろうな……可哀想に……哀れな奴……織斑を否定しても……自分が妹になれるわけでも……居なくなるわけでもないのに……あれ?つまるところ……俺、無関係……?良かった……!)」

 

自分に関係がないと分かるやいなや……途端に興味をなくしたカイジ……!

いま自分の目下の問題は……デュノアである……!

 

「(問題が……仕事が……どんどん増えていきます……!なんで、私の身ばっかりに起こる……理不尽、こんな不幸が……!)」

 

「(いかんな……私の晩酌の時間がどんどん削られていく。仕事が忙しいから部屋も汚いまま……今度一夏に食事を作りに来てもらおう……たまには弟の手料理が食べたいものだ)」

 

南無……山田真耶……生徒のために……粉骨砕身……頑張れ……!

織斑千冬……八割は、自分のせい……自業自得……!弟に体よく家事を……押し付けるな……!

様々な者の思いが錯綜する中……どうする……カイジ……どうなる……デュノア……!

 



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カイジ、唖然……!

放課後……人通りの少なくなった夕暮れ……ここは学園の一角……!

そこに千冬、ボーデヴィッヒの影……!そして、遠くにカイジの姿……!

 

「私には私の役目がある。それだけだ」

 

「こんな極東の地でなんの役目があるというのですか!お願いです、教官!我がドイツで再びご指導を!ここではあなたの能力の半分も活かされません」

 

だが、カイジ実はこの時素通り……盗み聞きをするつもり、無し……!

当然、この問題は自分の関係ないところ……織斑姉弟とボーデヴィッヒの問題……!

話は耳に入っていても……全く興味はなかった……!

 

「大体、この学園の生徒など教官が教えるに足る人間ではありません。危機感に疎く、ISをファッションかなにかと勘違いしているような奴らばかり!そのような者たちに教官が時間を割く必要があるというのですか!」

 

ラウラが熱弁する中……カイジ、無関心……圧倒的温度差……!

あえてすぐ横を通り過ぎる……!

 

「そこまでにしておけよ、小娘……おい、伊藤。素通りする場面じゃないぞ……」

 

「……は?いやいや、俺、無関係……!織斑姉弟の、家族の問題に……わざわざ首を突っ込むほど……野暮じゃない……!弁えてる……常識を……!だから、好きなだけ、やってくれ……!俺の関係ないところで……!」

 

カイジ、したり顔……にやけ顔……クズ特有のどこか人を腹立たせる表情……!

 

「(人をイラつかせることに関しては天性の才能があるらしい……!だが、私をイラつかせてただで済むと思うなよ……!)ほう……いい度胸だ。そうだ、ラウラ……先ほどの言葉、確かに私にも否定できないところがある……先日、クラスの者どもを喝破……焚きつけてやったが目覚める者はいなかった……未だに危機感を覚えるものもいない……だが、この男は違う……!」

 

千冬の口からでた……意外な言葉……カイジを認めるような……そんな発言……!

 

「この軟弱そうな男に何があるというのです!」

 

「っふ、この男は私も認めている。その戦術眼……策略……度胸……成長を気に掛けるくらいにはな……!」

 

敬愛すべき教官が……認める発言……!カイジのような冴えない風体の男を……!

当然、向けられる……!一夏のように……千冬の経歴に傷をつけたわけではない……

それ故に……敵意ではなく……純粋な嫉妬、興味のようなもの……!

 

「て、てめぇ……心にもないことを……寝ぼけてんのか……!?なんのつもりだ……!」

 

「(そうだ、ラウラの事をおし……任せてみよう……!オルコットもこいつによって目覚めた……ラウラの目も覚ましてくれるだろう……!我ながらいい考えだ……デュノアのことに時間を……割かせないようにすることもできる……!私は嘘は言ってない……正しく一石二鳥、今日は晩酌でもしよう……一石三鳥だな……!)見ろ、ラウラ……!私に対しても臆することのない口利き……!並大抵の男にできることではない……!」

 

「た、たしかに!この男、自分を偽装……情けない、不甲斐無いと思わせている!?」

 

ボーデヴィッヒは戦闘面以外では……アホの子……圧倒的世間知らず……残念な子……!

 

「……いや、ちげぇって……正しい、その評価……!お前は間違ってない……!」

 

「見ろ……普通の男なら憤慨……自分のことを情けない、不甲斐無いと罵られれば……!だが、あえて受け入れる……自分の偽装がばれないように……!」

 

ああ言えばこう言う……揚げ足取り……カイジの言葉をすべて……いいように解釈……!

 

「そ、そんな高度なテクニックが!」

 

あるわけがない……!

 

「そういうわけでだ、私は仕事が忙しい……お前たちはさっさと寮に戻れ……!」

 

有無を言わせず、立ち去る……千冬……!残される……呆然とするカイジ……!

 

「(くそ……!このクソアマ……!押し付けやがった、俺に問題……!自分で……自分で解決しろよ……教え子だろ……!慕ってる生徒を……放り出すんじゃねぇ……!そもそも、家族の問題……!ちきしょう、ちきしょう……やらかした……意趣返し……いつもの復讐に……ちょっとかましてやろうと思ったら……とぼけてやったら……墓穴……Wで墓穴……まさかのWボケ……引かされた……ジョーカー……!)」

 

相手は世界最強の座に君臨した女性……挑発してただで済むわけがない……!

そして当然……ボーデヴィッヒ、興味津々……!今までに見たことのない人種……!

何よりも千冬……教官が、戦術眼……策略……そこを認めていた……!

ただ単に……度胸があるだけだったり……口利きが生意気なだけなら……ただの身の程知らず……

切り捨てられるが……戦闘面……そこを認めているのでは……無視はできない……!

一夏への恨み……それを忘れたわけではない……が、しかし、カイジにも……!

移ってしまったその興味……!

 

 



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カイジ、辟易……!

千冬の策略……見事に成功……!カイジへボーデヴィッヒの押し付け……!

翌日の放課後……カイジへ詰問する、ボーデヴィッヒの姿……!

 

「なぜ、貴様は教官に認められているのだ!観察していてもお前から覇気も意気も感じられん!」

 

「だから……お前のその見立て……正しいんだって……お前は間違ってない……!」

 

「では、教官の見る目がないと、貴様はそう言うのか!」

 

「(堂々巡りだ……!どうにもならねぇ……会話になってない……!なにこれ……結局俺がこいつの……核心……事情を知らないといけない訳……?)そうじゃないんだって……そうだ、俺も質問していいか……?一方的に聞かれてばっかりじゃ……フェアじゃないだろ……?」

 

ボーデヴィッヒの話の通じなさ……しつこさ……カイジですら……根をあげる……!

なまじ悪意も害意も持っていないせいで……邪険にすることもできない……!

いや、むしろ通じない……!カイジのシャットアウト……!

 

「貴様の言うことも一理ある!しかし、私の何が聞きたいんだ?」

 

可愛い……素直……根はいい子……!アホなだけか……?

 

「そうだな……なんだ、その軍人ってことでいいんだよな……?お前は……」

 

「そうだ、私はドイツ軍IS配備特殊部隊シュヴァルツェア・ハーゼの隊長、ラウラボーデヴィッヒ少佐だ!」

 

「こりゃまたご丁寧に……ていうか少佐って……もっと歳いったやつが……なるもんじゃないの……?詳しくないけど……(あれ、これ、俺聞いていいのかな……)」

 

「それは私の生まれが特殊なことに関係している」

 

不穏なワード……生まれそのものが特殊……育ちが特殊なら分かる……生まれ……?

 

「あ、いや、いい……言い辛いことなら言わなくて……」

 

「別に言い辛いことはなにも……だが、極秘事項だ!」

 

だが、ボーデヴィッヒは……自身の生まれ……試験管ベイビーを……

そこまで忌避しているわけではなかった……!ただ、当然……極秘事項……!

 

「そうか、なら詳しくは聞かない……で、何でそこまで織斑を敵視するんだ……?言っちゃなんだが、家族……持って生まれたものだ……どうしようもないだろ……?」

 

カイジ……話の流れを変える……そもそもの問題の種……!

核心とも言えるそんな部分……一体、何があったのか……!

 

「よく聞け!織斑一夏は教官の、モンドグロッソ二連覇という栄光に、泥を塗ったからだ!奴のせいで教官は第二回モンドグロッソを棄権する羽目になったのだ!どうだ、貴様も奴のしたことの重大さが分かるだろう!」

 

モンドグロッソ自体は現在……最も有名な大会……!

当然その試合での優勝……それは正に……栄誉……名誉……栄冠……!

 

「(織斑の奴が風邪でも引いたか……?いや、さすがにそれはないよな……)その、理由は……?こう、織斑が出ないでくれって渋ったとかなら……擁護できないけど……何にせよ、その、理由次第……」

 

やむを得ない……怪我……事故……手術……いくらでもある……!

カイジとしても……千冬の気質は理解……厳しさ、容赦の無さはあるが……

人として持つ当然の優しさ……気遣い……それを忘れた人間ではない……!

ならば、当然……家族の身に何かあれば……大会棄権もやむなし……

むしろ……モンドグロッソほどの大会を蹴ったのは……人として褒め称えられること……!

 

「それは織斑一夏が誘拐されて、教官が脅迫を受けたからだ!そのせいで教官は大会を辞退する羽目になったのだ!」

 

予想外……まさかの犯罪……巻き込まれていた……!

 

「(……?織斑、悪いか……?)いや、その……明らかに悪いのって、その誘拐して脅迫した……奴らじゃないか……?」

 

「織斑一夏が誘拐されるなどというへまをしなければ、そんなことにはならなかったのだ!」

 

「その時、織斑も小学生くらい……?誘拐されても仕方ないっていうか……じゃあ、仕事で……10代の誘拐された子を……お前が助けたとする……その子に、お前が悪いって……お前は言うのか……?」

 

「そんなこという訳がないだろう!私を何だと思っている!」

 

あえて言おう……根はいい子なのだ……!

 

「(ダメだ、こいつ……問題が近しいせいで……色々見えてない……理屈……正論は通らない……気付かない……)そ、そうだよな。まぁつまり、お前は教官の弟ともあろうものが……誘拐されたなんてへまをしたのが……その、許せないってこと……?」

 

「そういうことだ。よく分かっているではないか!」

 

「(分かりたくもねぇ……そんな理屈……通るか、そんなもん……!筋違い……逆恨みもいいとこじゃねぇか……!だけど、こいつ……絶対育ちも生まれもまともじゃない……少佐、IS部隊隊長……15のガキがやることじゃねぇ……完全にアウツ……聞いちゃいけないタイプ……俺がいた世界も大概だったが……こいつも、恐らく……)」

 

カイジやその仲間たちとはまた違った……ろくでもない育ち……!

しかし、前者は自業自得……後者は……運命……宿命……生まれたときから……!

この世界に広がる闇……暗黒の世界……魑魅魍魎……亡者巣食う地……!

ラウラもまた……その犠牲者……!

 



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カイジ、鎮定……!

放課後、第三アリーナ……そこには凰とオルコットの姿……!

 

「あら、鈴さん、お早いですわね」

 

「セシリアじゃない、あんたこそ早いわね。まぁ私は今から学園別トーナメント優勝に向けて特訓するからね」

 

「わたくしも全く同じですわ」

 

二人とも目的は同じ……しかし、理由は……

 

「(セシリアもやっぱり優勝して一夏のことを狙ってるわけね。普段興味ない振りしてちゃっかりしてるんだから!)」

 

「(前の失態はカイジさんにかばってもらって事なきを得ましたわ。今回は自分で結果を残さなければなりません)」

 

かみ合わない……どうにもずれたままの二人である……!

 

「この際どっちが上か決着つけようじゃないの」

 

「あら、よろしくてよ。いい訓練になりますわ」

 

「ふふん、もちろん私が勝つことは分かりきってることだけど」

 

「勝負に絶対はなくってよ。カイジさんから教わりませんでしたこと?」

 

「あ、あの試合は途中で終わっちゃったけど、あのまま続けてたら私が勝ってたわよ!」

 

クラス対抗戦……所属不明のIS襲撃事件により……中止……!

カイジと凰のカード……その一枚しか切られなかった……!

試合が進んでいれば……まず鳳の勝ち……生徒たちの大半はその見方……意見だが……

ピット内部の観戦者たちは……カイジが押し切られて終わる……とは考えてはいなかった……!

勝てるかは不明だが……カイジの言う……勝負に絶対はない……のである……!

 

「そうですか。そこで、勝負の行方は分からなかった、くらい言えればよいのですけれど」

 

自らの腕に……オルコットとて自尊心はある……だが、慢心を捨て去った……

また、自らの腕を事実のみによって……評価できるようになっていた……!

 

「どういう意味よ!」

 

「それは、自分でお気づきになって?でなければ意味の無いことですから」

 

「ふん、あんな男にこの私が負けるわけないったら。あんたに勝ってそれを分からせてあげるわよ!」

 

「まぁわたくしも鈴さんが今カイジさんと戦って、負けるとは思っていませんわ。わたくしが言いたいのはそういうことではないのですわ」

 

お互いにISを展開……勝負を始めようとするが……直後衝撃……!

近距離に着弾……砲撃を行ったのは……シュヴァルツェア・レーゲン……ボーデヴィッヒ……!

 

「っな!?いきなりぶっ放すなんていい度胸してるじゃない!」

 

「どういうおつもりですの?」

 

「中国の甲龍にイギリスのブルー・ティアーズか。データで見たときのほうがまだ強そうだったぞ」

 

「遥々ドイツからボコられに来たってわけ?大したマゾっぷりね!」

 

「鈴さん、落ち着いてくださいまし。どういうつもりかは分かりませんが、アリーナの使用許可は取ってらっしゃるのかしら?」

 

「ふん、貴様らのような者が私と同じ第三世代機持ちとはな。数くらいしか能のない国なのに人材不足とはな。そこのイギリス人もずいぶんと臆病者だな」

 

「こいつ、スクラップがお望みってわけ!?」

 

「国や人種を馬鹿にされるのは感心しませんわ」

 

「ふん、二人掛かりで来てもいいぞ?下らん種馬を取り合うようなメスにこの私が負けるものか」

 

「……いまなんて言った!?私の耳にはどうぞ好きなだけぼこって下さいって聞こえたんだけど!?」

 

「この場にいない人間を侮辱をするなんて、そればかりは許せませんわ……!」

 

戦闘の火蓋……切られる……ボーデヴィッヒvs鳳・オルコット……!

その頃カイジは更衣室で、デュノアのこと……ボーデヴィッヒのこと……

これからどうするのか……真剣に悩んでいた……!

 

 

とある廊下……

 

「第三アリーナで模擬戦やってるらしいよ。専用機持ち三人だって!」

 

「え、まじ?見に行く、見に行く!」

 

一夏とデュノア、廊下を歩く二人……聞こえる……通りすがりの生徒の会話……!

 

「一夏、専用機持ちって」

 

「とにかく、行ってみよう!」

 

なんとなく……嫌な予感を覚えた二人は……第三アリーナへと向かった……!

 

 

アリーナの様子をピットの縁から眺めるカイジ……!

 

「なにがあったんだよ……戦ってるのはオルコット、凰、ボーデヴィッヒ……どうやら2vs1のようだな……ボーデヴィッヒが二人に喧嘩を売った……と考えるのが妥当か……しかし、強いな……二人を同時に相手をして……いい勝負どころか勝ってやがる……あの第三世代の特殊武装……1vs1じゃ詰みじゃねぇか……許されんのか、あんなもん……」

 

カイジがピットに出てきた……その時点で勝負の趨勢はほぼ決まっていた……!

 

「二人の負け、か。こりゃ学年別トーナメントは出来レースになるな……特殊武装なしでも……1vs1出来るやつがいるかどうか……って……おいおい……!」

 

ボーデヴィッヒ……止まらず……!すでに二人のSEは尽きている状況……!

無慈悲にも……未だに攻撃を加える……!

 

「だが、攻撃している相手のことを……見ていない……?視線の先は……なるほど、織斑か……ボーデヴィッヒが零落白夜のことを……知っているかどうか……それは分からんが……激情に駆られて……織斑がアリーナのバリアを切り裂いて……なんてされたら洒落にならねぇ……」

 

当然バリアが壊れたら……アリーナは使用中止……!

そして、第三世代機の模擬戦……そう見られるものでもないため……観客は多い……

バリアが無くなれば……どのような被害が発生するか……それは、言うを待たない……!

 

「さて、力づくで行っても負けるのは明白……言葉も通じないような奴だが……いや、教官を使えば通じるか……!」

 

カイジ、ライフルを構え……ボーデヴィッヒの近くへ狙いをつけ、射撃……!

 

「……む?なんだ?」

 

近くに着弾……戦っていた二人は最早……武装を出せる状況ではない……となると……

 

「あの男か。仇討ちにでも来たのか?」

 

ピットの縁に立つカイジ……そこから動く様子は見せない……!

 

「もう、決着はついてる……お前の勝ちだ……それでいいだろ……?」

 

「降りてきて戦わないのか?」

 

「悪いが……今は、そういう気分じゃないんでな……」

 

会長は言った……王は、勝てない勝負はしない……と……!

 

「戦え!教官の認めたその力、見せてみろ!」

 

「(やはり、言葉じゃ通じないか……)その教官には……試合が終わった後も相手に……攻撃を続けるよう習ったのか……?」

 

カイジ、説得……通常の道理は通じない……ならば、相手の道理に合わせる……!

 

「っむ?」

 

「もしそう習ってないなら……お前の行為は……お前自身が嫌う……教官の経歴に泥を塗る行為……ってことになるんだぜ……?」

 

「この私が、教官の経歴に泥を塗るだと!?」

 

案の定……ボーデヴィッヒは乗ってくる……!

 

「教え子に満足に物も教えられない……最低限の規則も守らせられない……そう捉えられるってこと……それが嫌なら、引くんだな……」

 

「ふん、この場は私が引こう。命拾いしたな」

 

「(素直なんだか……アホなんだか……本当に厄介なことを……押し付けられたもんだ……)」

 

ボーデヴィッヒが去るのを見送り……オルコットたちの元へ飛んでいく……!

 

「か、カイジさん……みっともない姿をお見せしますわ……」

 

「とりあえず、医務室……体に大事がない、ってこともない……歩けるか……?」

 

「え、えぇ。どうにか……っく、ぅう……」

 

どうやら歩くのも厳しい、か……抱えていくなんてのは……おれの柄じゃないぞ……

 

「大丈夫か?鈴!セシリア!」

 

織斑か……こういうのは織斑が似合うが……凰がいるしな……

デュノアは……女……腕っぷしに不安がある……くそ、手がない……!

 

「織斑は凰を頼む……オルコットは俺が看よう……」

 

「あ、あぁ。分かった。ありがとな、カイジ。止めてくれなかったらどうなってたか」

 

「いいってこと……ボーデヴィッヒの明らかな規則違反だ……さて、セシリア、我慢してくれ……!」

 

そう言い……首と膝裏に腕を差し込み……いわゆるお姫様抱っこ……羨ましい……!

私もカイジにお姫様抱っこされたい……!

 

「それでも、ありがとよ。ほら、鈴も抱えるぞ!」

 

凰、オルコット両名を……連れていく……保健室へ……!

 

 

保健室にて……

 

「お手数をお掛け致しますわ……」

 

「いいってこと……で、なんで、あんなことになった……?」

 

「そ、それは……」

 

「言えない……のか?ボーデヴィッヒは今日……アリーナの使用許可……取ってない……それは、同じアリーナを使うお前も、知ってること……!そんな相手と模擬戦……理由によっては私闘……専用機はお前らの……玩具じゃねーんだぞ……!」

 

何も反論できないオルコット……考えてみれば迂闊……

いくらボーデヴィッヒが……他者を侮辱したといっても……

専用機をアリーナの使用許可も下りていない相手に……私闘に使った……!

その上2vs1で負けるなど……なんという無様……!

逆に勝っていても……2vs1という事実……!

 

「っな!?わざわざそんな言い方しなくてもいいだろ!?カイジ!」

 

「俺は、間違ったことをいっているか……?」

 

「間違ってるかどうかとか、そういうんじゃなくて……怪我をした女の子を追い詰めなくたっていいだろ!」

 

「そうか……だそうだ、オルコット……良かったな……で、織斑先生……あんたの教え子が無許可で……乱闘騒ぎを起こしたが……なんか言うことはないのかよ……?」

 

保健室の扉を開けて入って来た……千冬に真っ先に声をかける……!

 

「ち、千冬ねぇ」

 

「ふむ、ボーデヴィッヒは今日……アリーナの使用許可を取っていた……私の方に申請はあったが……反映させるのを忘れていてな……こちらのミスだ……」

 

「(ふん、それじゃボーデヴィッヒの行為だけが正当化……残る二人が違反行為を進んで行ったことに……変わりはないんだがな……)ふーん、そういうこと……あんたがそういうなら、そうなんだろうな……悪かったな、オルコット……俺の早とちりで、変な事言ってしまって……ボーデヴィッヒが使用許可を取っていたなら……事実上問題ないもんな……!」

 

「っう、うぅ……」

 

自身の行為をある種の正当化はできたが……何一つ救われなかった……

 

「カイジ!」

 

「嫌われ者は退散しますかね……!それじゃあな……」

 

「カ、カイジさん……」

 

「セシリア、あんた……もしかして……」

 

そういい、カイジは保健室の出口へ向かう……千冬とすれ違う瞬間……

 

「伊藤……すまんな、助かった……」

 

「ボーデヴィッヒに……何があった……あいつの過去を……知ってるんだろ……?」

 

「それは……」

 

「極秘事項ってもしいうんなら……俺に押し付けんじゃねぇぞ……!」

 

そのまま、保健室を後にする……カイジであった……!

 




一応補足しておきますが、千冬はボーデヴィッヒのためだけにアリーナの申請の話をしたわけでは勿論ありません。ちゃんと鈴・セシリアの両名にお咎めがいかないようにするための処置でもあります。


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カイジ、残効……!

訓練する気も起きず……部屋に戻りベットに寝転がるカイジ……そこへ来客……!

 

「伊藤、いるか?話がある」

 

「……来たか。わざわざ、後戻りできない……そんな道に踏み込むとは……俺も救い難いな……はい、何のお話しですか?織斑先生……!」

 

「ここで話すことではない……相談室へ場所を変えるぞ」

 

「(極秘事項、と言っていたしな……これは長くなるかな……)はいよ……」

 

相談室へ移動……ここは防音・盗聴対策の完璧な部屋である……!

 

「で、話す気になったと……?」

 

「あぁ……しかし、これはお前が言う通り、極秘事項……他言無用……口外無用……そんな代物だ」

 

ボーデヴィッヒの出生は……ある種一国の情勢を左右しかねない……

遺伝子強化試験体……試験管ベビー……生体兵器……!

バレれば当然……各国からの突き上げどころでは済まない……暗黒面であった……

カイジの行ってきた……命がけのギャンブル……そのほうが現実味があるとさえいえる……

 

「俺から首突っ込んだわけでもないのに……そんなところへ、首を突っ込まさせた……そのことに対する弁明は……ないんですかね……?」

 

「それは、私も済まなかったな……つい、貴様のすまし顔で歩いていくのにむかっ腹がたってな……それにそもそも、貴様が煽るのがよくないのだ……私も人の子だ……」

 

「謝る気、微塵もねーだろ……あんた……!ボーデヴィッヒを焚きつけて……弟との対立煽って擦り付けて……デュノアが女であること……フランス政府が関わっていそうなこと……マスコミにリークしまくるぞ……!」

 

凶悪な切り札……カイジもわざわざ、千冬がボーデヴィッヒを押し付けた事……

それはただイラついていた……それだけではないことは看破……!

恐らくはデュノアの事……自分を遠ざけたい事も察知していた……!

 

「それだけは、本当に勘弁してくれ……戦争さえ起きかねないんだ……それにしても、初日の自己紹介の時点で気付いてなかったか……?」

 

最早そんなことをされれば……胃潰瘍……頭痛……円形脱毛症……!

ありとあらゆる……ストレス性の病を発症するだろう……!

当然、晩酌……酒に酔う時間など……微塵もなくなるに決まっている……!

 

「当たり前だろ……普通に大ニュースになるはずが、なんもなく入学してきて……その時点では半信半疑だったが……実習前の更衣室で……ほぼ黒だと確定したよ……」

 

それゆえ、カイジに疑念……当然スパイを送り込むとなれば……

その教育は……苛烈を極めることになる……到底自身が……気付けるような……

しかも……一日と持たない……そんな杜撰……!証拠の処分もできない……!

そんな自ら断崖絶壁に飛び込む行為……するわけがない……そんな違和感……!

 

「そうか……1時間も持たなかったか……これも極秘事項にあたることになる……現在我々もデュノアを救うため……奔走している……!この事態は戦争にさえ発展しかねないのだ……できれば静観していてくれると助かる……」

 

つまり逆に……逆に考えるならば……断崖絶壁に飛び込むからこそ……助かる道……

そして、その助かる道を……先生たちが拓いているのではないか……そんな、考え……!

 

「戦争、か……でも、降りかかる火の粉は……払うぞ……?どうみても男性操縦者との接触……それが送り込まれた目的……それに、俺はデュノアに……偽り、騙すなら……容赦はしないと……告げてある……!」

 

だが、カイジ……自分の身に……何かを起こすつもりなら……容赦はしない……!

とはいえ無論カイジとて……戦争の引き金にはなりたくない……

相応の手段は考える……ということは、言うを待たない……!

 

「そこは、私の弟が無自覚にも……引き受けてくれている……第三世代機持ちに加えて、私の弟……情報を取るならそちら、とな……」

 

「あんたは弟に話す気はないのかよ……?」

 

「一夏にはできれば……この世界の……暗く冷たい部分に……関わることなく……生きてほしいと思っている……」

 

家族の持つ愛情として……わざわざ自分の家族を……そんな世界に関わらせるなど……

現実問題……歪んでいると言わざるを得ない……関わらないで欲しい……至極真っ当……!

 

「そうかよ……ま、言った通り……家族の問題、首を突っ込みはしない……」

 

「そうしてくれると、助かる……では、ボーデヴィッヒの話だがな……お前も引いていいんだぞ……?こちらから関わらせてしまって、今更だが……お前たち子供が、知るべきでないことも……この世にはたくさんある……」

 

千冬としても……表の世界で生きている……真っ当なカイジを……

ドイツ軍の持つ……裏も裏……極秘事項に関わらせたいと……思ってはいない……!

 

「(この世の暗黒面……その世界にどっぷり浸かったような俺だ……今更1個2個増えたところで……どうってことはない……)構わないぜ、乗りかかった船だ……まぁ解決し切れる、とは言わねぇぞ……?どう見ても、厄介そうだしな……」

 

だが、残念なことに……カイジは真っ当ではない……

裏も裏……千冬も驚く……狂気の世界で生きていたのであった……!

 

「そこまでは、私も言わんさ……では、話すとしようか……ラウラはな、ドイツ軍の遺伝子強化試験体……試験管ベビーであり……要するに強化人間及び生体兵器に……分類されるものだ」

 

「(ボーデヴィッヒの奴、言い辛いことは何も……とか言ってなかったか!?せいぜい幼少期から……軍人として育て上げられて……薬物強化とかされたくらい……そんな風に思っていた時期が……俺にもありました……)……いやいや、どっから突っ込めばいいんだよ……倫理とか、違法とか色々すっ飛ばしてる……控えめに言っても頭おかしいだろ……!」

 

自身とて、倫理も法もない世界を生き抜いたが……生まれたときからそんな世界ではない……

おまけに、あの世界に入ってしまったのは……半ば仕方ないとはいえ……自らの失態……

流石のカイジも唖然……ボーデヴィッヒの境遇……!

 

「それは……そうだな、私も否定できない……だが、否定してもラウラはもう生み出されて、ここにいるのだ……私がドイツ軍へ教官として赴いたとき……ラウラはIS適正向上の手術を受けたせいで……落ちこぼれと言われる状態になっていてな……それを私が訓練を施し……今ではIS部隊の隊長となるまで成長した……それにより、私を妄信的に……信仰することになってしまったのだ……一夏に恨みを抱いているのも……その私の経歴に泥を塗ったから、ということのようだ……」

 

今回の事もいわば……自身の力を証明するため……!

力を認められてきたボーデヴィッヒは……自分を力でしか……表現できないのだ……!

 

「(今回の事は、織斑千冬の……気を引くため……自らを鍛えた教官が……自分の元を去った……自分の力を誇示して……また戻ってきてもらおう……そういう算段なのか……?ひとまず、これ以上……厄介ごとを起こされては……動きづらい……)なるほど、そういうこと……分かった、出来ることはやってみるさ……そうだ、ボーデヴィッヒに……学年別トーナメントまでは……私闘・模擬戦は禁じると……あんたから言っといてくれ……!正直、ISで暴走されたら俺では到底手に負えない……というか、現状一年生じゃだれも手に負えない……」

 

二人の専用機持ちを相手取り……それに勝利する力……!

ボーデヴィッヒの力量を……正確に把握しているカイジであった……!

 

「わかった、伝えておく……すまないな、ラウラのこと……よろしく頼む……」

 

カイジ、目下の問題はボーデヴィッヒ……!

これで一安心か……デュノアは果たして……!?




千冬さんもわざわざ暗部にまで関わせるつもりは初めからありませんでした。デュノアの問題が場合によってはあまりにも大きいことに発展しかねないため、どうしてでもカイジを遠ざけたかったのです。そこにきて、手のかかるボーデヴィッヒはちょうどよい目くらましになると踏んだのです。


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カイジ、欠場……!

そして、その頃……織斑・デュノアの部屋では……

発生……ラッキースケベ……!当然バレる……デュノアの正体……一夏に……!

 

「え、えと。シャルロット……?」

 

から、お茶をこぼして胸を押し当てるあざといシャルロットさんまで早送り。

 

「なぁこれってカイジも知っておかないとまずくないか?どうしても同じ男性操縦者として、更衣室とかで一緒になったりするわけだし。なによりカイジって色々考えているっていうか、気付くっていったらいいのかな?なんか、色々思いつきそうだし」

 

「あ、うぅんと、ね。あんまり知っている人が多いと不味いことになりそうというか。別に伊藤君が言いふらすとかそういうのを心配してるんじゃないんだよ?ただ、ね」

 

デュノアが言われたことから考えれば当然……自分から女だと報告するなど……

もはや自殺行為……断崖絶壁に身を投げ出す行為である……

 

「うーん、このまま黙っていても近い未来にバレるような。さっき言った通り、よく気付くからなぁ、カイジって。まぁカイジのことは一旦置いておくか。で、シャルルはどうしてこんなことをすることになったんだ?」

 

「かいつまんで説明中」

 

原作セリフを大幅コピーすることになるので、カット!

でもISの原作知らないorうろ覚えな方のためにダイジェスト+α!

やたら文章ばかり、流石に面倒かつ読みづらくなるので福本節も採用しない。

では……

 

 男装をして入学してきたシャルル・デュノア、改めシャルロット・デュノア。

 

 彼女がなぜそうしているのかといえば、社長かつ父親であるセドリック・デュノアの命令によるものである。現在デュノア社は経営危機に陥っている。自社のラファールリヴァイヴは、量産機ISシェア世界第三位とはいえ所詮第二世代型。ISの開発は巨額の資金を必要とするため、シェアがいくら多かろうと結局は国からの支援があって成り立つのである。

 

 そしてここで一つ話を挟もう。

 

 フランスの所属する欧州連合は統合防衛計画「イグニッション・プラン」を推し進めている。それへの参画を果たすことは急務なのだ。フランスは現在自国内で第三世代型をものに出来ている企業がなく、プランから除名されている。国防の観点と、資本力で負ける国がさらに出遅れることは致命的なため、打開策が必要となった。

 

 ちなみにセシリア・ラウラも「イグニッション・プラン」のことがあるため、第三世代機のデータ採取に来ています。これが今作の6話「決起」に繋がっている。データ採取も重要な仕事であるセシリアに、訓練機を使わせるのは実は難しいのだ。決して千冬さんがクソ野郎な訳ではない。白式にしてもフィッティングの必要性、模擬戦というデータ採取に最適な場面を逃す訳にもいかないのだ。原作・アニメ見てても忘れている人は多いと思う。

 

 ただイギリスのティアーズ型は、BT適正を必要とするため人を選ぶ。国防・防衛計画という普遍的にあまねく人材がつける必要がある、そういうことを丸無視したクソ兵器である。そんなのでトライアルできるわけないだろ。いや、してるんだけども……これがもしイギリスの英国面に落ちた、珍兵器の元凶と言われる部分を再現したのであれば、流石弓弦イズル様と言わざるを得ない。

 

 失礼、話がそれましたな。では、話を戻しましょう。

 

 そのため、フランスも早く第三世代型を試験機でもいいから完成させて、「イグニッション・プラン」のトライアルに参加しなければならないのだ。だが、デュノア社の第三世代型の開発の状況はお世辞にも芳しくなく、データ・時間ともに不足しており形になっていない。第三世代機を物に出来ないデュノア社は政府から予算のカットがされている。さらには次のトライアルで選ばれなかった場合は援助の全面カット、更にIS開発許可も剥奪という流れになっているのだ。自国民の事を全く考えていない全くもって鬼畜なフランスである。さすがに馬鹿なんじゃないのか?

 

 そしてそれが今回のデュノアの男装入学と繋がるのである。シャルロットはセドリック・デュノア(現社長)の愛人の娘であった。当然シャルロットの母親と一緒に別居していたがその母親が死去した際に、無理やり家へと連れていかれたのである。そこからは色々と検査を受けて、IS適正が高いことが判明してからはデュノア社のテストパイロットをしていた。そして前述した経営危機から、厳しい(仮)スパイ訓練を受けてシャルロットが送り込まれることになったのだ。シャルロットの目的は、男性操縦者との接触、及び第三世代機である白式のデータ採取である。採取、もとい盗みだ。それらのデータを使用して第三世代機開発の糧にしようというわけだ。

 

 そしてここで一夏が持ち出した解決策が学園特記事項第二十一、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。これにより学園にいる三年間は手をだせないから大丈夫ということになった。

 

 ここまでが、原作の流れとなっております。この後は作者の考えですが、本作品に深く関わることもあるので、読んで頂けると幸いですな。

 

 ただ、特記事項二十一には原則とついている。絶対、ではないのだ。犯罪犯しても警察組織からの追及受けませーんとか話にならないのだ。そもそも学園から退学させられるだろうけど……でも退学させるにしても、警察に捕まって犯罪にならないとなんの理由で退学させるのってなるけどね。

 

 現在ISコアの数が限られ、さらに作れないという状況で、専用機持ち、つまり自国の貴重なコア持ちが学園にひきこもると宣言して、それに手を出せないなんて、許されるはずがない。国防の力が落ちるという観点からすればテロ行為とさえ言える。

 

 そして今回のフランスの所業は他国からすれば完全かつ重篤な違反行為であり、貴重な男性操縦者と無理やり接点を作るなどある種のテロ行為。テロには妥協しないという欧米の基本姿勢をも馬鹿にしているのだ。欧州連合から蹴られかねないぞ!イグニッション・プランとか寝ぼけたこと言ってる場合じゃないぞ!フランス!そしてフランスはドイツ(レーゲン型)・イギリス(ティアーズ型)・イタリア(テンペスタ)に綺麗に睨まれている!攻め込まれたら瞬殺だ!

 

 前話で千冬が言っていた「戦争さえ起きかねないんだ……」というのはこの部分の考えが元になっております。千冬がどうしてもカイジを遠ざけたかった理由のメインですね。カイジに不測の行動、特に攻撃的な行動を取られた場合、重大事になりかねないという懸念があったのです。最早、個人の問題で済まない、と考えているのです。

 




カイジの焼き印21と学園特記事項21、やはりISとカイジは結ばれる運命にあったのだ……!なんたる偶然……!


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カイジ、開戦……!

千冬よりボーデヴィッヒの事を頼まれたカイジ……早速行動を起こしていた……!

 

「ボーデヴィッヒ、話がある……!」

 

「む、なんだ?」

 

「来月の学年別トーナメントが……タッグマッチになったことは……知ってるな……?」

 

「当然だ」

 

「で、本題はここから……俺と組まないか……?」

 

「別にタッグを組まなくても抽選で決められるのだろう?いずれにせよ、私一人で勝てる。誰かとわざわざ組む理由もない」

 

にべもなく断られるカイジ……しかし、予想済み……!

 

「だろうな……だが、俺と組めば……織斑・デュノアのペアと試合になったとき……心置きなく……お前に織斑と1vs1をさせてやるぞ……?」

 

「なんだと?」

 

「折角の織斑との勝負に……水を差されるのは嫌だろ……?」

 

説くのは利……相手が乗ってきやすい利……用意する……!

 

「それもそうだな。まぁ抽選で組むのも、いまここでお前と組むのもなんら変わりはないな。教官の認めた腕、敵として戦うのも悪くはないがな。では、組むとするか」

 

「(織斑と1vs1をさせて、何かが変わるか……それは分からないが……試してみる価値は……あるだろう……それに俺に理がないわけではない……現実問題、ボーデヴィッヒと組めば、まず優勝……!AICの弱点さえ補えば……勝てないほどの相手はいないだろうしな……)」

 

ボーデヴィッヒにだけでなく……自らにも利……当然あるカイジ……!

専用機のペア相手に一人で勝てる……その時点で1年生では……抜きんでた実力……

もし負けるとしたら……AICの弱点をつかれた時だけである……!

AICの弱点を理解したカイジは……当然相手の取る対策を読める……!

対策をしていなければ……蹂躙……一方的な展開となる……!

そして日は過ぎていく……!千冬より直接……模擬戦の禁止を言い渡された……

それからのボーデヴィッヒは……実におとなしいものであった……!

そんなボーデヴィッヒが目指すのは当然……学年別トーナメント……!

そこで、織斑一夏を倒す……それのみであった……!

 

 

そして、来る……学年別トーナメント……!

今回の一学年の初戦……皆の気にする一回戦目のカード……

織斑一夏&シャルル・デュノアvs伊藤開司&ラウラ・ボーデヴィッヒ……!

当然、仕組まれたかの如く……それ以外のカードが切られるわけがなかった……!

そして、当然生徒達も気にする……試合の行方……!

他学年も大勢入場……熱気に包まれる第一アリーナ……満員御礼……!

そして今、勝負の幕が切って落とされる……!

 

開幕、それと同時に一夏……ボーデヴィッヒへ突撃……!

 

「開幕直後の先制攻撃か、分かりやすいな」

 

当然ボーデヴィッヒはAICで対応……!止められる、一夏……その動き、白式ごと……!

 

「そりゃどうも、以心伝心でなによりだ」

 

「ならば、私が次にどうするかも、分かるだろう」

 

そういい、レールカノンの砲口を一夏へと向ける……

しかし、一夏……この時、慌てない……平常……それもそのはず……

 

「させな……っ!」

 

一夏の背後よりデュノア……飛び出すと同時にボーデヴィッヒへ狙いをつける……

……が、駄目……!当然、読んでいた……カイジ……!

ボーデヴィッヒの弱点を……相手が知っているなら……行動も読みやすい……!

知っていることを前提……AICを破るなら……行動は限られる……!

飛び出したデュノアへ……レーザーライフル直撃……!

 

「そう来るのは読めてたぜ……単純、単純……!」

 

武装も、ボーデヴィッヒの……AICに干渉しないものを選択……!

当然の如く……抜かりはなかった……!

 

「一応、礼は言っておこう。で、どうした?さっきまでの表情は……ずいぶん慌てているな?」

 

それもそのはず……試合前の打ち合わせ……どちらかがAICに捕まったら即座に解除……!

しかし執拗にデュノアへ……射撃を加えるカイジ……AICを解除させない……!

お互いが助け合うことを決めていた……だからこその安心……それが破られた……!

 

「では、一撃持っていけ!」

 

至近距離……一夏へとレールカノンを容赦なく発射……!

吹き飛ばされる一夏……絶対防御も発動……大幅にSEを削れられる……!

 

「なんでワイヤーブレードで……捕まえておかない……?」

 

ワイヤーブレードで捕まえておけば……ぶっ飛ばされているところを……

無理やり引き寄せて……またカノンをぶち込める……!情け容赦、なし……!

 

「貴様……鬼畜だな。あの男の友達ではないのか?」

 

「どうにもそりが……合わないから苦手でね……」

 

「そうか、貴様に遠慮して容赦する必要もないようだな。とはいえ、情け容赦なくやれば1vs1を楽しめないではないか」

 

「それも、そうだな……ていうか俺に、遠慮するつもり……なんてあったのか……?」

 

「貴様のお陰で、奴と気兼ねなく1vs1ができるからな。元々一人でも勝ちは決まっているが、ちょろちょろと飛び回られるのも面倒だ」

 

「そうかい、じゃ俺は下がるぜ……!奴らは俺の考えた通り動くだろう……それ以外なら……ストレートに奴らが負けるだけ……手筈通りに……せいぜい楽しみな……」

 

「私に抜かりはない……そちらも、せいぜい引きつけておけ……!」

 

カイジ主導で考案された作戦……始動……!

 

 

一夏、デュノアサイドは……当然慌てていた……

カイジの行動を見る限り……自分たちの手は完全に読まれていた……!

自分たちの今からの作戦……それはどちらにせよ変わらないが……

一夏のSEが初めから削られること……それは考えていなかった……!

 

「一夏、早く伊藤君を落とさないとまずい!こちらの戦術に対して最も有効な手を打たれてる」

 

だが、実はこの時カイジ手加減……AICに干渉しないエネルギー兵器なら……

AICで止めた相手に……いくらでも打ち込めるということ……!

先ほども即座に一夏に……容赦なく叩き込んでいれば……一夏のSEは正しくギリギリ……

しかし、ボーデヴィッヒの機嫌を損ねないように……撃たなかった……!

 

「分かった!予定通り、俺がラウラを引きつけてその間にシャルがカイジを落とす、でいいんだな?」

 

「(伊藤君は完全に僕たちの手を読んでいた。AICに干渉しないエネルギー兵器を使っている以上、AICについては彼も把握してる。それなのに僕たちが次にどう来るのかを考えていない、そんな甘い相手かな?でも、これ以外僕たちに打てるまともな手がないのも事実。僕が、頑張るしかない!)うん、一夏も無理しないでね。最初の一撃でだいぶSE持ってかれてるから」

 

「あぁ、じゃあ行こうぜ!シャル!」

 

シャルロット主導で考案された作戦……始動……!

 

 

時を前後させる……これは学年別トーナメントが始まる前……

カイジとボーデヴィッヒの会話……!

 

「一応は、作戦……必要だ……!」

 

「ふん、そんなものなくても勝てる!と言いたいところだが、重要なのは織斑一夏とサシで戦うことだ。そのためには作戦も必要になるだろう。何かいい作戦でも考えてきたのか?」

 

ボーデヴィッヒも期待する……教官の認めたという……カイジの作戦……!

 

「そりゃあな……まず、デュノアと織斑は……AICの弱点を知っている……」

 

アリーナでボーデヴィッヒが起こした事件は……二人とも見ている……

アレを見ていて……なんら対策を練らない……そんなアホではないだろう……

その弱点を攻めてくるのは……確実……当然……じゃないと負けるからな……

 

「AICに弱点など……と言いたいところだがある。奴らがそれを突いてくる、と?」

 

「当然だ……AICを破らない限り勝ち目はない……奴らは確実にAICを解除するため……連携を取ってくる……どちらかが捕まれば……注意をそらして、集中を途切れさせる……そして、捕まるのは基本的に織斑になるだろう……」

 

デュノアはオールラウンダータイプだが……どちらかと言えば射撃寄りだ……

わざわざAICで捕まる範囲に……入ってくることはないだろう……

 

「奴の専用機には近接武装しかないそうだからな。捕まった奴を助けるために、デュノアが射撃をしてくるのが基本、と」

 

「その通りだ……まずは出鼻をくじく……織斑が、AICに捕まり……それを解除するために……出てきたデュノアを俺が叩く……立ち上がりは恐らく……こうなるだろう……」

 

「そうしてこない場合は?」

 

「俺は盾とレーザーライフルで……後衛に回る……前衛がお前だ……当初からお前が考えていた通り……普通に2vs1で戦ってもらう……俺はAICの解除をさせないように……立ち回る……!ただ、お前がデュノアをAICで捕まえた場合は……容赦なくレーザーをぶち込む……お前も容赦はするな……!さっさと落とせるなら……落としてしまう……!そうすれば後は……俺は傍観しておくだけ……で、当然織斑のSEは……お前が削りたいんだろう……?だから、織斑が捕まった場合は……デュノアに解除をさせない……どうだ……?」

 

「お前の射撃の腕には期待してもいいんだろうな?では、織斑一夏とデュノアが同時にお前を落としに行ったとしたら?」

 

「射撃は、いいコーチがついてくれてたんでね……動きが読める相手になら……まず当てれるさ……!で、二人が同時に……お前を無視して俺に来る……か?ワイヤーブレードとレールカノンに背を向けて……無事で済むとは……奴らも思っていないだろう……俺も当然お前の近くに逃げるしな……それとも、お前は俺が落ちるまで……傍観しとくつもりか……?」

 

「それこそ、私の腕を舐めてもらっては困る。そんな真似はさせんさ」

 

「なら……いいんだ……で、デュノアはこちらの策略に気付く……そうしたらデュノアが……俺の方に来るだろう……そしたら、お前は……織斑と1vs1を楽しめばいい……」

 

「楽しめるだけの時間を稼げるというのだろうな?」

 

時間を稼ぐには必要……前提、デュノアを引きつけておける腕……!

 

「そこは心配するな……とっておきの策がある……!」

 

カイジの策……果たして……!

 



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カイジ、策戦……!

一夏・デュノアペアの立てた作戦……それはペアの相手を先に落とし……

ボーデヴィッヒに2vs1を……仕掛けることであった……!

常道……AICに対しての有効な一手……1vs1で捕まれば即撃破されるのだから……!

 

「(やはりデュノアが俺を落としにきたか……デュノアのような武装も豊富……オールラウンダータイプ……特徴的な武装もなし……それが俺の最も苦手な分野……だから、盾二枚……!圧倒的防御力……!つまり、耐え……!)っへ、来なよ……そう簡単には落とせねーぞ……?」

 

元より安定した性能を誇り……防御力に定評のある打鉄……加えてシールド二枚……!

並大抵のことでは落とされない……鉄壁の防御……!正しく『沼』の如く……!

 

「(完全にこっちの手を読んでる!?技量差があっても、完全に防御を意識した盾持ちの打鉄を落とすのは至難の業。こっちが落とされることはない、だけどこっちも落とせないんじゃ、先に一夏がやられちゃう!こちらの手を読んでいたとしても、逃げを重視した戦法。せいぜいそのくらいだと思ったのに!)そんな装備じゃ、僕を落とせないよ!?」

 

「俺が落とす必要……ねーからな……!これはタッグマッチなんだぜ……?」

 

図らずもカイジ……原作、一夏のセリフを奪う……!

 

「(っく、伊藤君がそう簡単に僕の挑発に乗るとは思えない。どうあがいても時間がかかる。相手をチェンジするにしても、ボーデヴィッヒさんは一夏に執着してるから時間をかけてる。僕が相手になったらAICで捕まった時点で確実に……即落ち二コマ!伊藤君は戦ったことがなくても零落白夜を絶対に把握してる。零落白夜の特性が知られていなければ、一夏にも落とすチャンスはある。だけど一夏が来れば盾を使わずに逃げの一手を打つ。当然近接しかない一夏じゃ落としきれない。やっぱりチェンジは出来ない。でも、伊藤君が盾二枚なら一夏がAICに捕まったとしても、援護射撃をする暇くらいならある!伊藤君はまだラピッドスイッチはできないはずだ!)そんな手、卑怯だよ!ちゃんと戦ってよ!」

 

「なんとでも言えよ……自分達だけ新しいべべ着て……はしゃいじゃってさ……そのほうがずるいんじゃないの……?」

 

舌戦……しかし相手は最悪……ひねくれもの……魑魅魍魎の巣窟で、鍛えられたカイジ……!

スパイ行為で送り込まれたとはいえ……元はただの女の子……!

悲惨な目にあってはいても……心根はまっすぐである……!

逆に挑発……煽られて……冷静さを失うデュノア……!

 

「っく、はしゃいでなんて、馬鹿にして……!それにほら、観客を見なよ!みんな不満みたいだよ!」

 

確かにカイジの取ってる盾戦法……当然、観客は不満……!

 

「っはは……戦術のせの字も理解できないお花畑な奴ら……どうだっていいんだよ……元から嫌われ者……今更下がる株もないんだぜ……?」

 

しかし、一部の生徒には……カイジの戦術を認める者……上級生の中にはいた……!

世代差、腕の差のある環境に投げ込まれ……まともにやりあえないなら……

強い相方を活かすというのは……何も間違っていない……!

勝てないなら勝てないなりに……自身が罵倒されようとも……

勝つための手を打つ……それが出来る者は中々いない……!

ほとんどの者が勝てないことを認めず……無謀にも突っ込むのだ……!

そして言う……機体の差……腕の差……どうしようもなかった……運がなかった……!

相方の足を引っ張りながらも……謝罪なし……!

敗者の言い訳ほど……みっともないものはない……!

 

「(ダメだ、伊藤君に口喧嘩で勝ちようがない!こんな戦術普通じゃ取れない。どうあがいたって、周囲からは不満の声が出る。例えこの場で最も有効な手だとしても、人は自分に来る批判、不満が怖いからだ。そして伊藤君のように訓練しているなら、尚更この場で自分の腕試しがしたくなる、そういうものだ。それらを流せる時点で、僕からの言葉なんて通じる訳がない!)っぐ、くぅ。SEがまるで削れない!っ一夏!」

 

ハイパーセンサーに見える……ついにAICに捕まった一夏の姿……!

このままではボーデヴィッヒの攻撃で……一夏のSEは底を尽きる……!

そうなれば、負け確定……逆転のチャンスすら無くなる……当然、解除一択……!

距離を取りカイジに背を向け……射撃動作へと入るデュノア……しかし、背後から衝撃……!

 

「っうわぁ!(伊藤君から距離を離したのに、なんで攻撃が飛んでくるの!?武器を切り替えたにしても早すぎる!盾を捨てれない以上、換装していたらこの速度でランチャーが飛んでくるはずがない!)」

 

「1vs1してるのに余所見されるとは……ずいぶん俺も舐められたもんだ……それと、相手の装備くらい……ちゃんと見ておけよ……!」

 

「(あれはシールドランチャー!?盾だけなら、AIC解除や援護のために背を向ける余裕があるという考えに、僕が行きつくことも読まれてたっていうの!?距離を離しすぎればレーザーライフル、近くならランチャー!)そんな、どうしたら……!」

 

だが、それも当然……!ただ盾二枚持っていても……適度に無視されるだけ……!

デュノアのように……ラピッドスイッチが出来れば……ただのシールドでいい……

しかし、出来ないなら仕込み……必要……盾に武装……換装せずとも……攻撃手段……!

 

 

ピット内部

 

「伊藤君の戦術は、毎度ながらえげつないといいますか、どこでこんな戦い方を学んだのでしょうか」

 

「観客のヘイトを一身に受けてでも……試合に確実に勝てる方法を取れるとはな……ボーデヴィッヒに負けがあるとすれば……連携を取られてAICがまともに使えない……そのくらいだ……AICがなくても、そもそもボーデヴィッヒは強いが……(一夏と1vs1をさせようとしている……ということか?それによって……ラウラの心境になにか変化があればよいが……伊藤には貧乏くじをひかせているな……)」

 

「この戦術をずっと取るのであれば、優勝候補No1ですね」

 

「そうなるな……とはいえ、この試合を超えれば……もはやこの戦術を取る必要もなくなるだろうがな……」

 

「確かに、他に専用機持ちもなし、ボーデヴィッヒさんがいる以上、負けはないでしょうけど」

 

「まだまだ見る目が甘いな、山田君……伊藤は着実に腕を上げている……相方がボーデヴィッヒじゃなくて……優勝が出来るか……と言われたら別だがな……今も別にあの戦法を取らなくても……デュノアには勝てないまでも……そんな簡単に落とされるわけではない……恐らくボーデヴィッヒが……先に織斑を落とすだろう(訓練を続けている伊藤自身が……よく分かっているはずだ……自分の腕が上がってきている……ということは……!普通この年頃の男子なら……自分の腕を顕示したいものだ……少なくとも、勝ちだけを……完全に優先した手を取らない……そう思うが……しかし、この戦術を破るには……零落白夜を使って……一瞬で伊藤を落とすことだが……それを伊藤が考えていない訳がない……いまの一夏が警戒している伊藤を……落とすのはまだ無理だな……)」

 

ボーデヴィッヒは……最早勝ちを確信……一夏のSEはいつでも削り切れる……

その様子にデュノアも慌てる……が、しかし完全にカイジの術中……!

打つ手、なし……!だが、しかし……!突如として試合の様相が変わる……!

 




え~、どうあがいてもラウラのAICが1vs1に強すぎる、普通に1vs1でラウラが負けたらセシリア・鈴コンビに勝てるほどそいつは強いの?ってなり、作者的にどうあがいても絶望でした。ですが、それが一つの光明となり……

活動報告となります。ここから先の展開について注釈を書いております。
お暇な方はご覧ください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=143814&uid=156312


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権謀術数編
カイジ、巡考……!


推理パート1


「ぐぅ、うっ……うわぁぁあああああ!」

 

急に悲鳴を上げ始めたボーデヴィッヒ……絶対防御のあるISの試合において……

ここまでの悲鳴をあげることは……まずないと言っていい……!

故に不審……カイジ、デュノア両名共に……手を止める……!

 

「なんだ……ボーデヴィッヒ……何があった……!?」

 

「何が起きてるの!?」

 

ボーデヴィッヒの方を確認すると……ISに走る紫電……

ISの強制解除の兆候……しかし、一夏はAICで止めている……攻撃を喰らう訳がない……!

目前の一夏も……戸惑う……突如苦しみだしたボーデヴィッヒ……

その姿を見ながら……ただ立ち尽くしていた……!

 

「ともかく、試合は中断だ……デュノア……!」

 

「そうだね。少なくともただ事じゃない!」

 

異常事態……それを察知した二人は……向かう、織斑とボーデヴィッヒの元へ……!

 

 

ここは暗闇……ボーデヴィッヒの精神世界……!

 

「いきなり、何だというのだ!?ISが動かなくなったかと思えば……違う場所に……いや、これは意識の中?一体私はどうなっている?まだ、戦いは終わっていない、誰だ私の邪魔をするものは!」

 

「こんにちわ、お人形さん。すまないな、急にこんなことをして」

 

闇の中、姿はなく……声だけが聞こえてくる……

 

「何者だ、貴様!」

 

「私がだれかなど些細なことだ、役に立ってもらう時が来た。それだけだ。しかし、私たちの脚本通りには進まないようだから、こうして強制的に介入した」

 

「役に立つ?脚本通り?何のことかは知らんが、私が貴様の思惑に乗るとでも思うのか!?」

 

「言っただろう、お人形さん。舞台のキャストに意志なんていらない。必要なのはマリオネットのように操られる糸、それだけだ」

 

「貴様、この私を人形と誹るか!」

 

「頑張って否定してもどうにもならない。だが、安心しろ。お前はお前の望む姿になる。ただそれだけだ」

 

「なんだと?私が望む姿、っぐ、これは、なんだ……!?」

 

ずぶ……ずぶ……と足から黒い泥沼に沈んでいく……

 

「ぐ、うぐ、前が見えなく……!」

 

黒い泥の沼に全身が浸かり……何も見えない暗闇へと墜ちる……!

だが、暗闇の中に一筋だけ……光が差し込んでいる部分があった……!

 

「っむ、動けるのか?一体どうなっている、完全な暗闇の中。光はあそこだけか」

 

不審に思うも抜け出す手段も思いつかない……光へと近づいていくボーデヴィッヒ……!

 

「な、なんだこれは……昔の私か?」

 

光の下へたどり着いた瞬間……周囲に現れる自らの過去……それを映す数々のモニター……

始めは自分が栄華を誇っていた……IS誕生以前の光景……!

が、急に暗くなり……その次に映っていたのは……IS登場後の光景……!

手術により自らの優秀な成績は落ちぶれ……罵られる自らの姿……!

そして、ラウラの頭に囁き……過去の罵倒……自らのトラウマ……!

 

「や、やめろ。私は、私は落ちこぼれなどでは、出来損ないなどではない!」

 

またも暗転……周囲が暗闇に閉ざされ、またも一筋だけ光が差し込んでいる……

囁きに苛まれながらも……光へと近づいていくボーデヴィッヒ……そして

 

「こ、これは、教官……?」

 

近づくとそこには……第一回モンドグロッソ優勝者……暮桜を纏った織斑千冬の姿……

そして、その織斑千冬が……ボーデヴィッヒへと語りかける……!

 

「ラウラ、この手を取れ。私がお前に、また力をやる」

 

その声を聞いた瞬間……うっとおしかった囁きが消える……

 

「教官……また、私を導いてくれるのですか?」

 

教官からの待ち望んでいた言葉……歓喜に胸が震える……だが、胸はない……!

 

「あぁ、そうだ。だから早く、この手を取れ」

 

「嬉しいです、教官……!また、私をみちびっ……!」

 

だが、その手に触れた瞬間、ぞわ……ぞわ……と嫌な感覚が体に入り込んでくる……!

 

「(声はなんと言っていた?私の望む姿になる、っく、これは……!)」

 

「っち、ばれたか。演技には自信があったのだが」

 

「っく、うぅ。また、纏わりついてきて……」

 

「そのまま受け入れてくれた方が出来が良かったのだがな。まぁ、どちらに転んでも私は構わん。では、せいぜい役に立て」

 

「き、貴様あぁぁああぁ!」

 

ボーデヴィッヒの意思は再び……暗黒へと飲み込まれていった……

 

「あああああああっ……!」

 

 

再びボーデヴィッヒ……絶叫……あらんばかりの声をあげる……!

それと同時に……ISからどろ……どろ……!と黒い泥が溢れ出す……!

そして、その泥が再び……飲み込んでいく、ボーデヴィッヒを……!

 

「(一体、なんだ……あれは……ボーデヴィッヒの様子からして……自分から望んだもの……とは考えにくい……!しかし、どうにせよISが……あんな風に変化するものなのか……?)おい、織斑先生……見てるんだろ……?なんだ、あれは……?」

 

状況からして……自身の理解を超えている……そう感じたカイジは……

唯一状況を知っていそうな相手へ……説明を求めた……!

 

「……」

 

「おい、だんまりかよ……極秘事項とか……ふざけたこと抜かすなよ……?あんた、ラウラを頼む……って言ったろ……!そして俺は……乗りかかった船……出来ることはやる……そう言った……だから、教えろよ……!」

 

一度乗りかかった船……自ら関わっていったことを……

途中で投げ出す気はない……カイジであった……!

 

「あれは、VTシステムと呼ばれるものだ……正式名称はヴァルキリートレースシステム……過去のモンドグロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きを……トレースするシステムだ……現在IS条約で……どの国家・組織・企業において……その研究・開発・使用のすべてが禁止されているものだ……!どうやらそれがボーデヴィッヒの機体に……積まれていたようだ……」

 

千冬の口からでた言葉……それはまたも禁忌の代物……!

ボーデヴィッヒの出生と同じく……危険な代物であった……!

 

「(全くなんていうか……なにそれ……って感じだな……つまるところ……これを積んでることがばれるってことは……それは国として致命傷……左右しかねない……その趨勢……そういう代物……!そして、ボーデヴィッヒは望んで……発動したわけではない……引っかかるな……)ドイツの担当官を……今すぐ捕まえておけ……逃げられる前にな……!」

 

「理由は……?」

 

「そっくり、あんたが言った……言葉通りの代物なら……その関係者を逃すなよ……そいつがVTシステムを……発動させた犯人……って公算が今のところ高い……!」

 

「(こいつは一体どこまで頭が回るというのだ……!?)お前が気にすることではない、と言いたい所だが……安心しろ、すでに学園のものを向かわせてある……」

 

「(次は発動させた理由……試合を中断させるため……俺たちに勝たせないため……それだけにしては過激すぎる……ていうか、自国の代表候補生……この勝ちの流れで中断はおかしい……それに、この試合にそこまでの……価値があるとも思えない……モンドグロッソなら別だが……トーナメントの存続が危ぶまれる……なら、何だ……ドイツにとって発動させるメリット……それはどこにある……?)情報が足りない……!頭を回すのは後だ……ひとまず、ボーデヴィッヒの様子を……!?」

 

ボーデヴィッヒへ視線を向けるカイジ……そこには、白式で突っ込む一夏の姿……!

零落白夜を発動させた雪片弐型を大上段に構え……必死の形相で切りかかっていた……!

 




原作ではラウラのVTシステムは機体損傷が一定レベルに達し、彼女の負の精神が振りきれた時発動となっていました。原作内での表記は一定レベルだけだったはずですが、pixivのものにダメージレベルDとありました。どっかの文献にはDって書かれてたのかな?
でも、まじでDだとやばい。何故かって、ラウラがセシリアと鈴をボコった時の機体損傷がCを超えるくらいだから。Dってもう具現維持限界を超えてるクラス。もう防御もなにも発動してない生身の人間にパイルバンカーぶち込むくらいやばい。Dの表記が公式のものでないことを祈る。さすがにデュノア絶許。


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カイジ、暗闘……!

推理パート2


零落白夜を発動させた雪片弐型を大上段に構え……必死の形相で切りかかる一夏……!

 

「おいおい……!ISもろともボーデヴィッヒを……真っ二つにする気か……!?」

 

カイジとて一夏の白式……それは研究済み……!

控えめに言っても零落白夜は……危険な単一仕様能力であった……!

分別もなく使えば……試合の域を超えて……対象を殺害しかねない……!

 

「っがは!」

 

が、カイジの心配は……杞憂に終わる……!

VTシステムに弾き飛ばされる一夏……!しかし、諦めない……!

 

「くそっ!まだだ……それがどうしたああああ!」

 

SEの尽きかけた白式……しかし、それでもなお零落白夜を発動……切りかかる……!

 

「いやいや……待てって……助かったかと思いきや……また殺しに行きやがって……!」

 

ボーデヴィッヒと一夏の間に……打鉄を割り込ませ……

シールドで無理やり……一夏の斬撃を受け止める……!

 

「な、なにするんだよカイジ!邪魔するな!」

 

「落ち着けって……そんなにボーデヴィッヒの事……真っ二つにしたいのかよ……」

 

「そうじゃねぇ!あれは、あれは千冬ねぇのなんだ!千冬ねぇだけのものなんだ!それをあいつ、あいつ許せねぇ……!」

 

一夏の目は怒りに染まり……今話しているカイジのほうを……見てすらいない……!

視線、一夏が目を向けるのは……ボーデヴィッヒの変化したISである……!

 

『非常事態宣言発令!トーナメントの全試合は中止!状況をレベルDと認定、鎮圧のため教師部隊を送り込む!来賓、生徒はすぐに避難すること!繰り返す』

 

「(ようやく非常事態宣言発令……物理防壁も降りたか……しかし、こいつはダメだ……なんか知らねぇけど……話が通じる状況にない……SEからしてもう……零落白夜の発動はできないだろうが……何かあっても面倒だ……)悪いが……どんな理由であれ……目の前で人が殺されるのを……黙って見ていることはできない……!」

 

盾を使い殴りつけ……SEを尽かせるカイジ……!当然一夏、憤慨……!

 

「な、何考えてんだよ!カイジ!?」

 

「それは、俺のセリフ……頭冷やして……自分が何をしようとしたか……考えとくんだな……」

 

反論は受け付けない……それを示すように一夏へと背を向ける……

 

「(やれやれ、分別のつかないガキに……持たせるもんじゃねぇだろ……ISごと操縦者を……なんだ……さっきも俺は奴に言った……ボーデヴィッヒの事を真っ二つに……つまり、ISに致命傷を与えられる……致命傷……ドイツ……IS……前後がバラバラだが……段々と糸がつながってきた……)デュノア……織斑を拘束しておけ……死なせたくなかったらな……!で、織斑先生……そのドイツの担当官は見つかったか……?」

 

「生徒のお前が、気にすることではない……!」

 

「逃げられたんだろ……?それと、恐らく本物は死んでる……」

 

「なんだと……?」

 

カイジから出てきた予想外の言葉……当然訝しむ千冬……!

 

「(とんだ推理だが……ドイツに、ここでVTシステムを発動させるメリットは零……見つからない……!つまり、発動したのはドイツが……意図するところじゃない……!つまり他者の介入……目的はドイツを失墜させるため……!どんな方法かは知らないが……ボーデヴィッヒのISに……VTシステムを積んだ……!恐らくは試合前に点検だとか……何だとかで……そしてこの衆人環視の中発動……!ドイツの第三世代機はVTシステムに取り込まれ……ISの凍結……解体もありうる……!こんなことをしでかしたドイツに……発言権が認められるわけもない……AICにおける技術アドバンテージとコアを失う……!織斑が落ちる前だったのも臭い……織斑が零落白夜で破壊すること……それをも視野に入れたか……?これは憶測にすぎるか……)さて、ね……とりあえずはボーデヴィッヒだ……さっきから攻撃したのは一度きり……攻撃されたら反応する……か?」

 

「おい、どういうことだ、説明を……!」

 

「自分で考えなよ……俺の言ったことが……正しいってわけでも……ないんだからよ……」

 

攻撃しなければ……何もしないってんなら……とりあえず近づいてみるか……?

まだSEは十分にある……それに持っている装備は……

盾はランチャーが付いている以上……念のために外しておくか……?盾は持っておきたいが……

 

「……ん?あいつら、何やってんだ……?IS同士、何かを繋げている……?」

 

ただ予感……碌でもないことをしている、そういう予感……

思考中に……デュノアと一夏が会話していたが……内容は把握していない……

 

「おい……何をしている……?」

 

「カイジは黙っててくれよ!あれは千冬ねぇのものなんだ。俺がやらなくちゃならないんだ!」

 

「デュノア……説明しろ……何をしているか……!でないと、これをぶち込むぞ……?」

 

そういい、シールドランチャーを向けるカイジ……

 

「あぁ、やっぱり言わなくてもいい……白式にエネルギーを渡そうとしている……そうだろ……?つまり、お前のSEが切れれば……エネルギーは渡せないな……?」

 

「試合は中断してるのにシャルに攻撃するなんて、そんなこと許されるわけないだろ!」

 

「……あ?そのお前はいま……ボーデヴィッヒを攻撃するために……エネルギーをもらおうとしてるんだろ……?それにさっきもお前から攻撃してた……そっちが先……だったら、これはもう予防……防止……俺にある、利は……奴が攻撃してこない限りはな……!」

 

そう言った後デュノアへ繋げる……プライベート回線……!

 

『おい、いますぐやめろ……そのふざけた行為……!でないと、お前の正体も……フランスがしていることもばらまく……そうなればお前は各国も認める犯罪者だ……!まさか学園にいられるなんて……そこまでお花畑じゃないだろ……?俺も織斑先生に止められた以上……取りたくない手だが……勘違いするな……?奴の頼みを……聞いてやってるだけ……反故にするのは簡単だ……そもそも犯罪を告発するだけ……むしろ正しいこと……!言っておくが奴の頼みを聞いたのは……それはお前のためじゃない……!起きるかもしれない、戦争のため……!そして、人の努力や誠意を……無駄にするってんなら……本当に容赦しないぞ……?』

 

『先生が動いて……くれているの?一夏は織斑先生には何も言ってないって』

 

『織斑も知っていたか……そこで何があったかは知らないが……どこまでおめでたいんだよ……とにかく、自主的に止めろ……そろそろ、撃つぞ……?』

 

『分かったよ、止める。止めるから……』

 

「シャル!?どうしたんだよ?まだエネルギーが来てないぞ!?」

 

「やっぱり、コアバイパスをつなぐのは一筋縄じゃいかないみたい。本来準備された状況からやるものだから、急には無理みたいだ」

 

「カイジが何か、何かしたのか!?」

 

「(それにしても織斑の奴……そこまでして執着することか……?相手の命も自分の命も省みない行為だ……お前の命はまぁいい……するべきこと……そう決めたことに……命を賭けられる……それはすごいことだが……が、それも目的次第……今お前は自分だけが納得できる理由で……人を殺しかねないんだぞ……?死ぬ可能性がある側は納得できるわけがない……)俺は、なにもしてないだろ……撃ってもいないのに、言いがかりはよせ……!」

 

無駄に時間を喰ったな……悠長にしている時間はあるのか……?

俺の推理が当たっているなら……時間が経てば経つほど……

ボーデヴィッヒは取り込まれ……ISとVTシステムの分離も……難しくなる可能性がある……

教員部隊の仕事を奪う気はない……だが所属不明機の時は突入が遅かった……!

無理はしない……待つ間にひとまず調査……情報だ……!

 

「攻撃しないでくれよ……攻撃する気はないから……よ……?」

 

盾を消してまるで警戒する猫に近づくように……ゆっくり……ゆっくりと近寄る……

 

「っふぅ……どうやら懐までは行かせてくれたか……それにしても……」

 

外観そのものは……形成し終わっているように見える……

しかし、未だに泥のようなものが……表面をのたうっている……!

 

「触れてみる……か?」

 

ゆっくり、恐る恐る手を近づけるカイジ……未だに何の反応も見られない……

しかし、手を触れた瞬間……カイジの意識は……暗転した……

 

 

カイジの意識……ボーデヴィッヒの精神世界へ……!

 

なんだ……俺はどうしちまったんだ……?確か、ボーデヴィッヒのISに触れて……

で、気付いたらここにいて……あれ……?なんだ……ここ……?

どこ向いても真っ暗闇……地面の感覚すらない……浮いてる感じもない……

だが歩ける……そして感覚も妙にリアル……まさか……これって……

 

「もしかして、俺死んだ……?」

 

まじ……?ちょっと、洒落になってねぇって……迂闊……迂闊だった……!

もっと慎重にいけばよかった……!何も危機感感じないからって……無策……

なにも考えずに……触れるなんて……!馬鹿、俺の馬鹿……!

なに、これからどうなんの……?もしかして……このまま彷徨い続ける……?

天国も地獄も……生まれ変わりもなし……延々ここに居続けるの……!?

そんな……いや、もしかしたら、これが地獄……永久に彷徨い続けろっていう……

もう俺、裁かれちゃった……閻魔様に……?なんてこと、弁明の余地くらい……

それくらい残しといてくれよ……!いくら俺がクズだからって……

話も聞かず……一方的に処断……そしてこの罰……あんまりだろ……!

 

泣きに泣きながら……暗黒の空間を彷徨うカイジ……!

現実派のカイジに……ここがラウラの意識と交わった空間などという……

そんなオカルト発想はなかった……!考えても、死後の世界である……!

人の意識の中を土足で……!しかも、少女の意識の中……不審な男が泣きながら歩き回る……!

 




知略パートにおいてはISバトルでチートが使えない分、神インテルはいっちゃいますね。

感想のコメにも書いたが……
特攻ミス→IS具現維持限界解除→素手で殴りに行く→止められる→問答→鎮圧のため部隊送り込むよ~→関係ねぇ!俺がやるんだ→聞いただろ、先生が収拾するって→危ない状況に飛びこまなくていいってか?→そうだ→違うぜ箒、俺がやらなきゃいけないじゃなくて、やりたいからやるんだ!他の誰かがどうかとかじゃない!
やっぱちょっと一夏君やばい……

零落白夜の性能については色々な意見があるかな?
俺もこれを機に再度調べたけど、その上であれは危険な代物と認定しました。賛否両論あるとは思うけど、当作品は特に設定を変えるつもりはないです。特に今回は一夏が切れてて、普通の精神状態じゃないということを重視。普通に試合で分別持って使うには危険だけど問題はなし、そんな感じ。


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カイジ、解放……!

推理パート3



しかし、カイジもまた暗闇の中……一筋の光を見つける……!

それを救いの光……蜘蛛の糸……地獄に落ちたカイジに……釈迦が差し伸べた手……!

会長との戦い以来……神頼みはやめたカイジ……しかし、この時は感謝……!

だが、違った……蜘蛛の糸などではない……近づくにつれて……光の下……

黒い人の影のようなものが……うずくまっている姿が……はっきりとしてくる……!

 

「あれは、まさかとは思うが……ボーデヴィッヒ……?」

 

訝しみながらも……近づいていくカイジ……

 

「(黒い靄のようなものに包まれているが……確かにボーデヴィッヒのようだ……オカルトにもほどがあるが……これはあの黒い泥の中……そして、意識だけが存在している……)ボーデヴィッヒ……俺の事が分かるか……?」

 

「貴様……この中に入ってくるとは……命知らずだな……」

 

「迂闊だった……触ったら無理やり……引き込まれたんだ……」

 

「ふん……触れるほど近寄った……教官が認める度量ではあるな……」

 

ラウラ自身……外の状況がどうなっているかは分からないが……

少なくともただ事ではないことは……本能的に察していた……

 

「で、お前は……うずくまって何やってるわけ……?これからどうするんだ……?」

 

「成り行きではあるが、私は、私の望んだ力を手に入れた」

 

「で、どうするって……?こんな暗い殻に閉じこもって……引きこもるのか……?」

 

「……」

 

「出て来いよ……こんなとこいたって……何もならねぇぞ……何も出来ない……ただ、死ぬのを待つだけだ……」

 

「私の、お人形の役目は終わったそうだ。戦うために生きてきて、そして望む姿になって、ようやく終わりを迎える」

 

やはり……何者かの意図が絡んでいる……命を利用することしか知らない……

 

「つまらねぇな……」

 

「なんだと?」

 

「他人に生き方決められて……他人に終わりを告げられて……つまらない生き方だって……そう言ったのさ……」

 

「貴様に……貴様なんぞに!私の何が分かるというのだ!」

 

「お前の過去には……俺も空いた口が塞がらないさ……正直、何も分かりっこねぇ……だが、こんな生き方……終わり方を……認められるか……!」

 

悪魔どもに身勝手に作られて……別の悪党どもに利用されて……それで終わりなんて……

ボーデヴィッヒを救いたいのもあるが……命を屁とも思ってない連中に……

これ以上好き勝手にさせるか……企み……謀略……奸計……ぶっ潰してやる……!

 

「貴様に何ができる……私はドイツ軍の生体兵器で……今回の事を起こした首謀者でさえある……IS委員会も各国も……私を放っておくわけがない……私の未来は詰んでいる……!」

 

「それが……結局のところ……お前の引きこもる理由か……?」

 

「別に……貴様が私を救おうとするのが……可笑しく思えただけだ……」

 

「教官に……ラウラを頼むって……言われたもんでね……それにお前を救う手立てが……ないわけでもない……!」

 

カイジに策……ボーデヴィッヒを救うための……案……!

 

「教官が……私を……?それに、手立て……だと?」

 

「ま、お前の協力は……不可欠だけどな……色々と捨ててもらわなければ……ならない……」

 

「捨てる……だと?」

 

「戦い……力……生き方……!」

 

「馬鹿なことを……私は戦うために生まれてきた……戦うために作られた……!」

 

たしかに……お前の生まれはそうかもしれねぇ……でも、それがどうした……

 

「誰かの決めた……生き方(ルール)なんていらねぇ……!」

 

「私は生まれた理由に沿って生きてきた!戦いが私の生き方だ!」

 

「そんなふざけた倫理(モラル)なんていらねぇ……生まれてきた理由が……例え戦うためだとしても……生きる理由は……お前自身が決めろ……!」

 

生まれた理由は……もうどうにもならねぇ……!

でも、生きる理由は……お前が決めていいんだ……!

 

「私にとって戦いは、当たり前のことなんだ!雨の中で傘をさして歩くように!」

 

「雨の中、傘を差さずに……踊ったっていい……!自由な生き方ってのは……そういうもんだ……!」

 

自由に……自分のやりたいように……生きるんだ……!

 

「私は戦いで、自分を表現してきた、認められてきたんだ!私は戦う以外の生き方など知らない!」

 

「なら……これから、知っていけばいい……!人生はいつだって……やり直せる……!」

 

人生をやり直すのに……遅いなんてことはないんだ……!

 

「今更、私を、私の支えてきたものを……全て否定するというのか!?」

 

「戦いも武器も、お前に必要なものなんかじゃねぇ……!」

 

「力を捨てたら……私は誰にも、認められない!ようやく得たんだ、理想の力、教官の、織斑千冬の力を……!誰にも私を出来損ないなどと、罵らせはしない!」

 

戦いのために生きて……それが否定されて……また、力を得て……

そうしているうちに……すり替わっちまったんだ……承認欲求が……!

認められるのは……お前自身じゃないと……いけねぇんだ……!

戦う力しか認めれないから……歪んでしまった……!

 

「俺がお前を認めてやるよ……出来損ないじゃない……織斑千冬でもない……」

 

お前に必要なものは……お前自身を認めてくれる人間だ……!

 

「私、私はこの力を得て、教官に……」

 

「お前は……ラウラだ……!他の何者でもない……お前は織斑千冬じゃねぇ……ラウラなんだ……!」

 

お前の持った力と織斑千冬は……同義なんかじゃねぇ……その力は……

織斑千冬に内包されている……ただ一部分でしかないんだ……!

 

「私は、私……」

 

「そうだ……!だから、そんな力は捨てろ……ラウラ……!それはお前にとって……本当に必要なものなんかじゃねぇ……!」

 

人にとって大切なものは……そんな力なんかじゃねぇ……!

お前は、もっと……人の温かみを知るべきなんだ……!

 

「だけど、それでも、この力を捨てたら、私の生き方は、私の未来は!」

 

「そんなものに縋るな……!戦いの先に……お前の未来なんかねぇ……!」

 

「それじゃあ、私の未来は、どこに……戦いを捨てたら、私は……!」

 

「お前の未来は……その小さな手の中にあるんだ……その手は戦いのために……あるんじゃねぇ……!」

 

「私に戦い以外の……私の手の中に……未来があると……そう言うのか……」

 

お前の未来は……お前にしか作れないんだ……!その手が作っていくんだ……!

 

「俺の手を取れ……ラウラ!お前の未来を……!」

 

冷たい武器なんかじゃねぇ……温かい人の手を取れ……!

人の温かみを知れば……人はおのずと……温かく、生きることができるんだ……!

 

「私は……そんな生き方をできるのか……?」

 

「迷ったら希望だろ……!」

 

ラウラはカイジの手を取った……闇が晴れた

 



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カイジ、謀殺……!

推理パート4


じり……じり……と皆が……動きを待つ……

一夏はデュノアに抑えられていたが……千冬が出てきてから諫められ……

様子を見守るようになっていた……しかし、その目に納得の色は見られない……!

そして、痺れを切らしたのか……一人の生徒が千冬へと話しかける……!

 

「織斑先生。早く、対処しなくてもよろしいんですか?」

 

「この件は……伊藤に任せている……いまはまだ、動くな……!」

 

千冬とて一刻も早い対処の必要性……そんなことは百も承知……!

しかし、カイジの立ち位置が危うい……!

ISを纏っているが……黒いISの目の前で手を当てたまま棒立ち……!

 

「お言葉ですが、一生徒に任せる状況ですか?私、ならいざ知らず、それも貴重な男子生徒に」

 

VTシステム……IS世界における闇の一つとも言える存在……!

今回トレースされているヴァルキリー……千冬、初代モンドグロッソチャンピオン……

彼女は雪片しか装備せずに優勝した……それ故雪片しか装備していない……

射撃武装がない分……周囲への被害を……抑えられる……

が、近接武装一本で優勝した……その手腕は恐ろしいものがある……!

攻撃されたらそれに反応する……が、いつその動きを変えるか……それは不明……!

無尽蔵に暴れ出したら……千冬がいるとはいえ……どうなるかは分からない……

故に、彼女が早く処理をしたい……と考えるのは当然であった……!

 

「奴は、私やお前よりも早く……この事件の真相に辿り着いていた……いや、それだけではない……私たちよりも深い所にまで……辿り着いている可能性さえある……」

 

千冬も頭を巡らせ……カイジの言っていたこと……その意味には辿り着いた……

彼女とて……カイジの言葉がなくても……その答えには……行きつくところであったが……

カイジの回答……真相への辿り着く早さは……尋常ならざるものがあった……!

 

「そんな、いくらなんでも馬鹿なことを。彼自身が、何か勘に聡いということ、普通とは違うものを持っていること、それはわかります。悪い意味で捉えて欲しくはないですが、いじめられて引きこもりになっていた彼に、私たちを差し置いて先に真相へ、さらに先へたどり着くことなど不可能です」

 

もちろん、彼女の立場……その特殊性……それらを考慮すれば……

彼女の言葉は……当然……また日本国内の事で言えば……

自分たちが……後れを取る相手はまずいない……そういう自信もあった……!

故に、千冬の次の言葉……それは衝撃的……彼女の仕事……その自尊心を傷つけた……!

 

「お前の組織の事は……当然信頼はしている……その情報の精度や裏の事を知れる……という意味ではな……だが、伊藤の事に関しては……もうその情報を信じてはいない……」

 

自身も調査に関わった……その情報が否定された……それは愕然たるものである……

 

「っな!」

 

「ともかく、私が今回の部隊の指揮官だ……意見をする自由は認めているが……その意見を聞き入れるかは……私が決めることだ……」

 

話しは終わったとばかりに……背を向けて……見つめ直す……!

その先には……ボーデヴィッヒの黒いISと……全く動かないカイジの姿……!

カイジの身に異変……それが少しでも見られれば……即座に動くつもり……!

しかし、全く身じろぎをしない……故に動きが取れないのであった……!

 

 

そして数分か……いや数十分か……誰も分からない時が流れた後……!

 

「動き始めた……?総員警戒を怠るな……!」

 

銅像のようになっていた二機のIS……突如として動きを見せる……!

 

「ボーデヴィッヒのISを……覆っていた泥が落ちていく……?」

 

地面にドロ……ドロ……!と、流れていきどこかへと……消えていく泥……!

そして見えてくる……ボーデヴィッヒの姿……!

まるで投げ出されるような形になった所を……カイジが受け止める……!

ぐったりとして力ない様子……人形のような彼女の容姿……それも相まって……

まるで死んでいるかのような……そんな印象を周囲に与えた……

 

「ラ、ラウラは無事か!?」

 

千冬とて……ボーデヴィッヒのことは……気に掛けている……

珍しく狼狽えたように……ラウラの元へ駆け寄る千冬……

 

「慌てなさんなって……気絶してるだけ……だが、やることが山積みだ……それも迅速にな……!」

 

カイジのボーデヴィッヒ救出作戦……そのためには各国が動き出す前……

とにかく……今回の首謀者よりも……先手を打つ必要があった……!

 

「迅速に……一体なんだ?」

 

「ひとまず……周りの奴らを下げろ……あんたがよく言う……極秘事項って奴だ……!そして、俺は言ったよな……解決し切れるかは分からねぇって……だから、あんたの力を借せ……ラウラを助けたいならな……!」

 

カイジでは限界となる部分……そこには千冬の……ネームバリューを使う必要があった……!

 

「……分かった。みんな、下がれ……ひとまず問題は収拾し……」

 

「待て、まだ、問題は収拾していない。VTシステムは起動したまま……そういうことにする……!未だ事態が収拾していない……それが肝になる……だから、当然、通信制限……および、関係者をアリーナから出すな……!」

 

アリーナの物理防壁は降りているため……内部の状況はまだ知られていない……!

 

「っな!?内部に裏切者がいると……そう言うのか……!?」

 

「甘いこといってんじゃねぇ……!裏切者……内通者……その可能性を疑うのは……常識だろうが……!だから、俺は言った……あんたの協力がいると……これがその一つ目……!」

 

カイジの考えている通りなら……事態が収拾したことがばれれば……

確実にIS委員会がボーデヴィッヒのIS……VTシステムの回収にやってくる……!

例え内通者がいなくても……人の口に戸は立てられない……カイジはそれを知っていた……!

 

「っ……!分かった……この事は他言無用だ!念のため……アリーナには通信制限をかけた……及び関係者は沙汰が降りるまでここで待機……!」

 

「っな、どういうことですか……!?」

 

当然教員の中からは不満の声が出る……自分たちが疑われている……それと同義であるからだ……!

 

「この事態の収拾には慎重さが必要とされる……別に諸君らを疑っているわけではない……迅速な事態の解明、収拾のために必要なことだ……!」

 

今回の教員部隊の指揮官は千冬……そうである以上、指示には従わざるを得ない……

 

「次にIS委員会や……今日来ている各国の代表の動きを鈍らせろ……!そして、すぐさまVTシステムを解析……信頼できる奴に、だ……!現状ではVTシステムに触れた……俺とラウラだけは証言できるが……材料としてはまだ弱い……VTシステムに干渉した奴がいるという……確実な証拠が欲しい……!そして、交渉……!この問題を起こした奴とな……!」

 

この問題を起こした奴……そう言われた千冬は当然……VTシステムを発動させた者……

現在逃走中の……偽者であろうドイツ担当官……その事だと捉える……!

 

「解析は山田君に任せよう……彼女はああ見えて優秀だ……山田君なら……お前も信用できるだろう……?そして、問題を起こした奴……といってもすまんが……まだ犯人は見つかっていない……!」

 

期待に応えられなかったか……そう思い千冬は唇を噛みしめる……!

だが、カイジの口から意外な言葉……!もはや千冬の理解を超えていた……!

 

「そうじゃないって……いるんだぜ……?見つかってる、もう犯人は……!」

 

「一体、何を言っているんだ……?お前は……」

 

カイジの策謀が動き出す……!果たして、ボーデヴィッヒ……その運命は……!

 




次回、解答パートは3月16日朝6時の予約投稿となっております。

活動報告にラウラ解放編 推理・解答パート用
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=144059&uid=156312

活動報告内部、一応読んでもらえると嬉しい事項

次回、カイジが解答パートに入ります。読者様にもカイジと同じ答え(行動や交渉内容、提案など)に辿り着けるだけの情報は、手に入っているようにはしています(多分抜けはない、はず)

そして、ここの解答パートではネタバレになってしまうコメには返信が難しいこともあるため、解答パートでは、ネタバレになりそう、これが答えじゃね?と思うコメは、感想より出来れば活動報告にコメントをしてもらえた方が嬉しいです。もちろん感想欄でも構いませんが、返信が雑になる可能性が高いということだけは謝っておきます。


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カイジ、交渉……!

解答パート


学園内特別通信施設……防諜設備が完備された部屋……!

各国の代表候補生や専用機持ち……彼女らが自国と秘密裏に通信するための場所……!

そこにカイジ・千冬の姿……肝心なのは通信している、その相手……!

 

「さて、ご用件はなにかな?今は忙しくてね、手短にお願いしたいものだ。貴重な男性操縦者、伊藤開司君だったかな」

 

「どうも、あんたの名前は……別にいいか、お偉いさんなら……だれでも……」

 

「そう言われては気分が良くないな。私は連邦国防省、国防担当連邦大臣テオドール・ブランクだ」

 

「ご丁寧にどうも……で、あんたが忙しい様に……こっちも忙しいんだ……その悩みの種は……同じだろうが……」

 

「その悩みの種でお話しがある、ということかな」

 

「お察しの通り……ドイツは今回の落とし前を……どうつけるつもりだ……?」

 

「あれは我々が意図して起こしたことではない。犯人は別にいる」

 

ドイツ側としては……自身が犯人であろうとなかろうと……そう答える以外なかった……

 

「各国が真犯人を求めている……なんて寝ぼけたこと……ぬかすつもりじゃないよな……?」

 

「……それは」

 

そう、真犯人など必要ない……ドイツ以外は……!

 

「あんたも分かってるんだろ……?各国が望んでるのは……分かりやすい犯人だ……責任を取ってくれる、そういう奴だ……」

 

「そこまで理解していて何がいいたいのかね?わざわざ皮肉を言いに来たのかな?」

 

「ははっ、言ったろ……忙しいって……そんな暇はないさ……で、俺が持ち掛けたいのは取引だ……!」

 

「聞かせてみたまえ」

 

本来なら失礼な若造を相手に……時間を取る道理などないのだが……

自分自身に連絡をつけることができたこと……そして、カイジは……

今回の事件に関わりのある人物である……一笑に付す訳にもいかなかった……

 

「俺が欲しているのは……ラウラ・ボーデヴィッヒの身柄だ……そうだな、軍属を抜けさせ……自由国籍権を与えろ……そして、ドイツの代表候補生として……シュヴァルツェア・レーゲンを専用機にさせる……当然だが、そちらからの干渉は……最低限にしてもらう……こんなところか……」

 

「ボーデヴィッヒの国籍をドイツから外して自由にさせるだと!?冗談も休み休み言え!」

 

ボーデヴィッヒの特性……人体実験……生体操作……その申し子ともいえた……!

そんな人物を自国から野放し……危険極まりないことである……!

 

「口の聞き方に……気をつけろよ……今ドイツがどんな状況か……分かっていない訳じゃねぇんだろ……?」

 

「な、貴様、この私に……」

 

相手は十代の小僧……大臣を務める人間としては……到底容認できる態度ではなかった……!

 

「まぁまぁ……こちらから、そちらに与えらえるもの……せめてそれを聞きなよ……」

 

「……我がドイツにそのようなリスクを犯す利益を与えらえれる、とでも?」

 

途中で通信を切りたくもなったが……カイジが初めに話していたこと……

各国が事件をどう処理をつけたいのか……そして言い様からして……

ドイツが事件を起こしたわけではない……それを知っているようであった……

 

「あえて説明しておくが……現状のまま進めば……あんたらの第三世代機は……凍結の可能性すらある……VTシステムなんてものを……積んでたからこれは当然だな……しかし、凍結されるのは……各国があんたらのAICを研究してからになり……あんたらは技術アドバンテージを失う……コアとともに……!そして条約で禁止されているものを積んで……あのような場でお披露目する国だ……その権威は地の底まで……失墜するだろうな……」

 

「……そうならないために、今我々は奔走している」

 

そんなことは言われずとも……百も承知である……!

現在ドイツの関係省庁は……蜂の巣をつついたような騒ぎ……!

当然トップに立つこの男も……就任以来の忙しさであった……!

 

「あんたらに発言権が……ないなんてことは分かってるだろ……?各国の担当官を危険に晒した……テロ国家には、な……!そして何より、あんたらのせいじゃない……真犯人……黒幕がいるってことは……当然今も暗躍中ってこと……!俺が説明したことだけでも……十分致命傷だが、さらに何かを……される恐れまである……!で、ここからが本題……今さっき俺の言ったことを……丸々防いでやる……!そもそもだ……ボーデヴィッヒがあんたらの手元に……帰ってこれるなんて、思ってねぇだろ……?当然今回の首謀者……そうなるわけだから、当然拘束……!色々調べられて……太陽の下に出ちまう……!ってことになる……そういえばこれも……ドイツにとっては致命傷だったな……!」

 

当然、生体操作は倫理的観点から禁止……つまり全世界に自分たちの暗部が知られるのだ……!

最早再起不能の傷を負いかねない……正しく致命傷といえた……!

 

「貴様どこまで知っておるのだ……?」

 

「おっと、下手な勘繰りはよせよ……ただ、VTシステムを発動させた……ラウラのISと接触した際、不思議な現象が起きてね……ISってのは何が起こるか……分からねぇな……?そこで偶然、知っちまったんだ……!いやぁ、驚いたよ……空いた口が塞がらなくなるくらいには……!ところで、取引を飲んでくれるかな……?」

 

「極秘事項の守秘義務は、守ってくれるんだろうな?」

 

それが守られなければ、いずれにせよ致命傷……

現状よりははるかに安泰だが……確認せずにはいられない事項である……!

 

「わざわざボーデヴィッヒの……身柄を確保したってのに……それを危険に晒す理由はない……!もっとも、ドイツが……ボーデヴィッヒになんらかの……アクションを起こしたなら……その時は容赦しないけどな……!」

 

「分かった、要求を呑もう。秘密が守られるなら我がドイツにとってこれ以上ない取引だ。しかし、どうやってこの窮地を救ってくれるというのかね?」

 

そこが今回の問題である……普通に考えれば自分たちが犯人など……

見え見えのブラフであるが……各国が自分達が疑心暗鬼に陥るよりは……

分かりやすい犯人を祭り上げ……ドイツを食い物にするだろう……

 

「真犯人がいる……ということを俺は知っている……!VTシステムを先に……解析したからな……!そしてここには初代モンドグロッソチャンピオン……織斑千冬もいる……!彼女も証言に協力する……!つまり、ドイツ以外に犯人がいると……俺たちが証言しよう……!真犯人がだれか、までは現状不明だが……あれがドイツの意図ではなく仕組まれたこと……それは証明できる」

 

「な、まだ事態は収拾していなかったはずでは!?そして、織斑千冬までいて、何故君が交渉役を……」

 

VTシステムはまだ収拾していないこと……対外的にはそうなっている……

そのためVTシステムが解析されている……そんなことは露にも思っていない……

そして交渉役……当然、懐疑……疑念……彼女ほどの人物がいて……

齢15、6の人間に交渉をさせるなど……正気の沙汰ではない……!

 

「それは、俺がこの交渉内容の首謀者……そして時間……時間こそが重要……!つまり、説明している暇がなかった……!事態が収拾していないと……そう思わせている間に済ませる必要があった、この交渉は……!IS委員会の奴らも……全然事態が収拾しないことに……そろそろ痺れを切らし始めている……状況が状況だからいくらIS学園とはいえ……いつまでもIS委員会の介入を拒否もできない……黒幕も今頃VTシステムが解析されて……手がかりを掴まれてるとは思うまい……!本来なら、事態が収拾したらすぐ……IS委員会が接収して……その情報を黒幕が抹消……!そして、IS委員会の調査で証拠がなかった……そういうことにされて……ことを進められたなら……俺たちがいくら証拠を持ち寄ったところで……握りつぶされていたろうからな……!」

 

「君には一体何が見えているんだね?私もこの地位に上り詰めるまでに色々な策謀と戦ってきた。口では言えない汚いこともやって来た。君のような人間は見たことがない。その年で、一体……」

 

彼はただの一般人の……青年だったはずである……!

それが何故智謀知略に長けた権謀術数の最中……魑魅魍魎の陰謀……

その動きをこうも読み取れたのか……謎としか言えなかった……!

 

「まぁ、俺の事はいいじゃねぇか……些末な事だろ……あんたが要求を呑んでくれてよかったよ……そして、俺を裏切ろうと思うなよ……?誠実に対応する相手には……俺は絶対に自分から裏切りはしない……が、裏切り、偽り、誠意を忘れた相手には……一切容赦しない……!念のため言っておく……」

 

「裏切るような真似はしないと誓うよ。今回の事に関係する省庁にも、厳命しておく。いつか、飲み交わしてみたいものだな、君のような者と。おっと、失礼。まだ未成年だったな。全く末恐ろしい」

 

「ドイツのビールは美味いっていうじゃねぇか……!そうだな、今回の取引の条件にもうひとつ……俺がドイツに遊びに行った時に……そうだな、豪勢な肉料理とビールを振舞う……!ってこと、追加しといてくれ……!」

 

「っははは!お安い御用だ。全くもって面白い。この件が無事に落着したらぜひ来てくれたまえ。その時には君は国の危急を救ってくれた英雄だ。当然VIP待遇にしよう。で、私からすることはあるかね?」

 

「ともかく、現状はVTシステムについては不明……調査中……その一点張りだ……!あと気の毒だが、ドイツの担当官は死んでいるだろう……恐らくあんたらも担当官とは……連絡が取れないんだろ……?ならそこは普通に事実を公開してくれ……!今回派遣した担当官は謀殺されたということをな……!あとは俺たちの動きは知らぬ存ぜぬ……この密約も今回のステージの外側……!脚本の変更は……内側のキャストは誰も知らない……そういう運びで頼む……!」

 

「了解した。Auf Wiedersehen!」

 

交渉というより……要求を飲まなければ犯人にするという……

最早脅迫というべきものであったが……ラウラの身柄を確保する……!

そしてラウラという切り札を手元に持つ……!取引が終わった後でも……

ドイツに対しての致命傷を握っている……それを匂わせた……!

そのため、自らの要求を反故にはさせない、という形を取れるのだ……!

救出対象であるラウラを……一種の人質にしている妙である……!

かくして、交渉は成功した……

 

 

しかし、まだ仕事は残っていた……!

 

「で、最早お前が交渉していた内容には……今の私では突っ込めない……流れは理解できているが……しかし、な……」

 

ラウラのことを頼む……と言ったが、国家間の大問題を抱えた事態……

そんなことにまで発展するとは……流石に想像もしていなかった千冬であった……!

 

「おいおい、まだ仕事は残ってる……詭弁を押し通さなくちゃならねぇ……IS委員会に……あんたがな……!」

 

そう言われ……気を引き締めなおす……千冬であった……!だが

 

「それにしても教師の前で酒盛りの約束をするとはな……私も連れて行け……お前を監視しなければならない……!だが、ドイツのビールは美味い……だから、きっと私も酔ってしまって……お前に無理やり飲ませてしまうかもしれん……そして、明日には何があったか覚えていないだろうな……」

 

ちゃっかりとしている……千冬であった……!

 

 

 とはいえ、これからの仕事はそう難しいことではなかった。さすがにIS委員会の会議にカイジが顔を出す訳にもいかず、カイジもまた表立って活躍、関与していることを知られたくないために、千冬に事情を説明して一任した。

 

 そして、事の顛末。千冬はIS委員会にはVTシステムが何故発動したのか、その原因を調査し終えて今回の事件が収拾したという認識で報告を行った。彼らとはそもそも認識の違いがあるという体で進め、IS委員会が行おうとしていたVTシステムが発動している最中の強制突入、あるいは発動終了後すぐの突入、VTシステム接収という思惑を砕いた。

 

 当然これには反発もでたが、無用な勘繰りをされることを避けて追及を避ける国がほとんどであった。カイジは黒幕があぶり出せないか、今回の件に関係している国はないか、千冬に観察を頼んでいた。あくまで、観察である。あぶり出しを行おうとすれば、自分達が多くの事を知っている、知ったうえで今回のように動いたことがばれかねない。

 

 そのため、あくまで従順な、草を呑気に食べる羊に千冬はなった。結局尻尾を掴ませるほどの間抜けな狸はいなかったようだ。当然追及していた国の名前はリストした千冬である。ある種非常に危険な、それこそパンドラの箱を開けかねない情報ではあるが、カイジに渡すことを拒むことは出来そうになかった。ずぶずぶとぬかるみに嵌っていくことを認識しながらも千冬に手立てはなかった。

 

 そして当然のようにドイツは失態、何故このような事態に陥ったかの説明を求められた。ドイツ側は掴んでいる現時点での情報、それは自国が派遣したドイツの担当官、並びにそのSPと連絡が一切取れなくなっていること、完全に謀殺されたということを説明した。さすがにそうあっては各国もこれ以上の追及はできない。むしろ、謀殺したのはどこか、今回の件で利益を得るのはどこか、それらの腹の探り合いとなった。本来ドイツをやり玉に挙げて魔女裁判よろしくの一方的な処刑場であったはずが、一転して参加国同士が疑心暗鬼に陥る場となったのである。会議は正しく、ざわ……ざわ……とざわついたまま、無益な争いを続けることになった。もはやドイツからは完全に視線が外されている。今頃、黒幕が臍を噛んでいるだろうということを想像すれば、千冬にせよカイジにせよスカッとする思いであっただろう。

 

 これで説明を終えることにする。あとの部分は、各国の、無駄な言い争いを書き記すだけの無駄な文章になるからだ。だがこれで今回のVTシステム事件が解決したわけではない。なぜなら、黒幕が誰かが分からない以上、これが事件の幹なのか、それとも根なのか、私にも分からないからである。

 




解答としてのカイジの言う犯人とは、ドイツのことで、カイジ自身は仕組まれていることを知っていると話して、要求を飲まないならお前たちをそのまま犯人にするぞという「脅迫という名の交渉」でした。正直交渉というよりは飲まざるを得ない脅迫ですね。これにより「ラウラの身柄」をあくまで謀略に巻き込まれた被害者として各国の手から逃しつつ、ドイツの軍属、ドイツ国籍をも外させています。そして、ラウラ自身の身柄がドイツへ取引を果たさせる一種の人質でもあります。これがなければ、ドイツが犯人でないとなってしまった後は、もう約束を反故にしても大丈夫ということになってしまうのです。

専用機や代表候補生の下りは後日譚があるので、それをお楽しみください。

色々なご解答が頂けましたが、ラウラの身柄、という部分が抜けている形が多かったですね。またどうしても真犯人がだれか、という部分につながってしまう形でした。現段階では真犯人を特定するための情報は足りないようにしてあります。あきらかに臭い国(お分かりだと思うけど)はありますが、その国を追い詰めることができない理由もあります。

「この問題を起こした奴とな……!」というカイジのセリフがミスリードとなっておりますが、その後の千冬のセリフをカイジが否定する形で正解へ導くようにしてあります。

ご納得いただけたらなぁ、と思います


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花金晩酌録チフユ

感想欄より書きたくなったので番外編。


目下の問題、デュノアの件は残っているが……今日は一つの大きな問題が解決……!

変わるようにもう一つの問題が生まれたが……今はそれらに頭を回す気力はない……!

なにせ、今日は……花の金曜日……!今日ばかりは許される……この私にも……飲酒……!

デュノアとラウラの転校以降は……抱える問題のあまりの大きさに……

酒を飲むことすら躊躇われたが……今日ばかりは解禁だ……!

 

いつもは一人寂しく宅飲みの私だが……今日は外飲みにしよう……一人、だけどな……

私にも誘う相手くらいはいる……だが今日は一人で、静かに飲みたいんだ……!

そして実はもう決めてある……目当ての店……オオムラ(○)……!

なんでも、日本に数台……骨董品的な価値を持つビアサーバー……

それが現役で働いているというのだ……!

そのビアサーバーのコックから注がれるビールの泡……

それはシルクのようにきめ細かく、口当たりもまろやか……!

また、古風な店に珍しく……女性店主が一人で切り盛りしているとのこと……!

前創業主の注ぎ方も継承されており……客足は途絶えていないとのことだ……!

ビールの泡にナイフを入れる……という工程もあるらしく……全く興味が途絶えない……

えぇい、御託はもういい……店に向かおう……なにせ、売り切れ次第終了……!

つまり、遅くなればなるほど……幸運の女神にそっぽを向かれる可能性があるのだ……!

 

なかなか寂れた商店街というか……ほとんどシャッター通りではないか……?

こんな場所の一角にそのような店があるとは……まさに隠れた名店というやつだな……!

提灯に明かりが入っている……今日はまだやっているということ……!

このヴァルキリーに女神がそっぽを向くなどあり得ないがな……

しかし、軒先はまた実に古めかしいものだ……趣があるとはこういうことか……

 

緊張……滅多なことで緊張することのない千冬であるが……

中々開けるに勇気のいる……そんな店構えであった……!

 

店の扉の前……逡巡すること数秒……!

 

「(えぇい、女は度胸……この私が怖気づくなど……!)」

 

中へ入るとそこは正しく……昭和の時代を現した……柔らかな電球色で彩られ……

なつかしさと優しさを感じさせる……そんな内装……装飾品の数々に迎えられた……

 

 

【挿絵表示】

 

 

「(何故だろうか……昭和などもはや映像でしか見ることのない……全く経験したこともない時代……それなのに、私はこの光景を懐かしく感じることができる……これが日本人の心だというのか……?)」

 

「こんばんわ、奥あいてますけん、好きなところへどうぞ」

 

「あ、あぁ。ありがとう、座らさせてもらおう」

 

呆気に取られたというべきか……入口で固まる千冬に優しく声をかけた女店主……!

元はこのお店の客の1人にして……この店を復活した人である……!

 

「(さて、座ったはいいが、メニューなどはない、のだろうか……?)」

 

実はメニューは千冬の座った前の棚……そこに小さなホワイトボード……

そこにだけ書かれている……!私は目が悪くいつも見るのに苦労している……!

きょろ……きょろ……と挙動不審にしている千冬の前に……

ッス……っとおかれる小さな木札と布のコースター……!

 

「(私はまだ何も頼んでいないのだが……)」

 

この店では……大人一人で入ってきたのなら……問答無用……注文いらず……

ビールの一杯目……それはお通しの如く出てくるのだ……!

当然千冬分からず……おろ……おろ……!なんのことだか、さっぱり……!

店主の挙動を目で追う千冬……店主は入口側に置かれたビールサーバーの前……

上に置かれたジョッキを取り……一杯注ぎ始めた……!

 

 

【挿絵表示】

 

 

「(私が入ってから、誰かが注文した気配はない……カウンターの客のジョッキもどれも空にはなっていない……つまりあれは……私のを入れているというのか……!?)」

 

当然驚く……何も注文していないのに……お通しが出るのは分かる……

ひじきや煮浸し、胡麻和え……さっと口に入れるのに気軽、気楽……そういう一品物……

だが、ここでのお通しはビール……問答無用でビール……!

入れ終えた店主……問答無用でコースターの上へ……!

 

「どうぞ」

 

「あ、ありがとう。ところで、あのメニューは……(情報収集が足りなかった……戦地へ向かうというのに……無策……無知……この私としたことがなんと愚かな……まぁ、ビールが目当てだからなにも問題はないのだが……度肝を抜かれたな……)」

 

「ここにありますよ、ここからおつまみをどうぞ」

 

店主は目の前の棚に掛けられた小さな板を、ッス……と指さした……

確かにそこにはメニューのようなものが書かれていた……!

 

「そこにあったのですね、ありがとう」

 

店主はにっこりと笑うと別の客のところへ行ってしまった……

 

「むぅ、何を頼んだものか」

 

トマト、がんす、キュウリの浅漬け、かまぼこ、魚肉ソーセージ、枝豆etc

ここは、作者のおすすめ……キュウリの浅漬けとピーナッツ……それに枝豆……!

ひとまずはこの三つを……千冬に頼ませることにしよう……!

 

「(いや、注文の前に……こいつを味わおう……出てきたばかりを飲まない……今更注文したおつまみが出てくるのを待ってから飲む……それは正しく冒涜……席の関係から見づらかったが、店主が心を込めて入れた一杯……口をつけることなく注文など……許されるべくもない……蹴り出されてもおかしくない蛮行だ……!)」

 

興味を持った諸氏には安心してもらいたい……そんなことで怒られるほど狭量な店ではない……!

おおらかで優しく……仕事帰りにのんびりすると……自然と涙が出てきそうになる……

そんな店なのだ……決して仕事が辛かったとかではない……とかく、穏やかな店なのだ……!

 

「(ッキンッキンに冷えている……!やはりビールはこうでなくては……!)」

 

まずはジョッキを包み込むように両手を当てる……この冷たさが冬でも堪らないのだ……!

 

「ん、ごく、んぐ、んぐ、っはぁ」

 

一口で半分以上を飲み干しジョッキを置く千冬……

 

「(苦味がほとんどない……まろやかさを感じるとはこのことか……ビール特有の苦味は嫌いではない……しかし、この口当たり、飲みやすさ……これが、私が家で飲むサッポロ生ビール、○ラベルと同じというのか!?入れ方一つ、サーバー一つで最早別物……違う一品ではないか……!)うまい」

 

一言、つい呟いてしまうも……隣の客は優しく微笑むだけだ……

その様子につい恥ずかしそうに顔を赤らめる千冬……

 

「(宅飲みのつもりか、私は……!なにがうまい、だ……!恥ずかしすぎるぞ、全く……どれだけ気が抜けていると言うのか……)」

 

「お姉さん、ここ初めてかい?」

 

「え、えぇ、恥ずかしながら」

 

「はは、慌てとったもんなぁ。初めての客は大体、あれよ」

 

「注文の仕方も分からず、入って来たばかりなのにいきなり木札とコースターと、びっくりしました」

 

「っはは、あはは。そうそう、僕もそうなったよ、初めて来たのは本当に昔の事だけどね。あ、その木札が飲んだ杯の数、一枚が500円だ」

 

「なるほど、そういうことなのですね。そしてここ、もう長いのですね」

 

「前の店主から常連さね、ここはいい」

 

「良い雰囲気ですね。優しい黄色の電灯に古いポスター、駄菓子屋を思い出す容器といい」

 

「そうそう、ちなみにあの容器のピーナッツとかも頼めるからね、メニューにないけど」

 

「(たしかに、あのメニューには並んでいる容器の中身は載っていないな)一見して、頼めるか分かりませんね。おすすめなどはありますか?」

 

「僕はいっつもキュウリとピーナッツ、これだね。あとは杯が進んだら枝豆とか」

 

「では、それを頼まさせてもらいます。すいません、キュウリとピーナッツを」

 

「はいよ」

 

「まぁゆっくり楽しみなさい、仕事とか嫌なことは何もかも忘れて、ね」

 

紳士はそう言い席を前に直し……またビールを傾け始めた……!

 

「そうさせてもらいます。ありがとうございました」

 

紳士は前を向いたまま軽くッス……と手をあげるだけでそれに答えた……実に粋である……

程なくして、おつまみが出された……その時にはすでにビールは底をつきかけ……

残りを店主の前でグッと飲み干した……

 

「もう一杯、お願いします」

 

空のジョッキを受け取り、軽く微笑んだのち……またもサーバーの前へ向かう店主……

注がれるのを待たず……千冬はおつまみに手を付けた……

 

「(ん、この塩味はやはりいいな……ピーナッツを食べて……それからキュウリ……キュウリにも塩ッ気があるが同時に水分もある……これが中々にいい……素晴らしい組み合わせだ……!)」

 

私は心の中で隣の紳士にお礼を言った……自分から話しかけてきつつ……話を切った……

つまり、私のことを放っておけず……ただ、優しく気を使ってくれたのだ……

無理に話しかけていくのは無粋というものだ……!

 

「どうぞ」

 

ッス……と二枚目の木札が積まれる……これが二杯目ということだ……!

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ありがとう(さて、このほど良い塩加減の口内に……ビールを流し込む……これほど幸せな事もない……!)」

 

2杯目の一口だというのに……一気に半分を呷る千冬……流石に酒豪といったところか……

 

「(一瞬にして杯が空いてしまう……しかし、飲み会での居酒屋のビール……それが霞んで見える……このジョッキ並々で500円とは……安すぎる……旨い・安い・早い……これをビール一杯で体現しようとは……驚かされる……!)」

 

千冬はこの後、飲みに飲むつもり……紳士のおすすめした枝豆、それから呉名物のがんす……

しかし、4杯目を飲んでいるところで打ち止め終了……とはいえ、追い出されるわけではない……

あとはジョッキに残ったビールをちまちまと呷りおつまみと雰囲気を楽しむ千冬であった……!

 

頑張れ千冬、めげるな千冬……!不明機対処、政争、戦争回避、国家間交渉……!

ひとつとして教師の仕事ではないが、頑張れ千冬……!

 

最後にこの店の標題、標語というべきか……それと共にお別れしよう……!

 

 

【挿絵表示】

 

 




私の経験になぞらえて書いています。私は男ですが、隣の紳士のような方は実在の人物です。

今後も日常回を書く際に原作に囚われず、自分が旅行に行った場所のことをISキャラとカイジたちに旅をさせてみる、どう思う?


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カイジ、専用……!

ラウラの呼び方投票 たくさんのご投票ありがとうございました!
師匠19票 カイジ7票 お兄ちゃん系6票 先輩4票 パパ3票 嫁2票 先生2票 旦那様1票
投票もすくなくなってきたので、師匠で決定いたします!


「これで、一件落着……したのか、伊藤……?」

 

流石に疲労困憊……頭を回す余裕もない千冬……普段は凛としている千冬も……

生徒の前でさえ……隠せない……疲れた様子を……!

 

「ひとまずのところ、はな……黒幕が誰かが分かっていない以上……解決とは言えないが……」

 

「それは、確かにそうだな……お前の言っていた国のリストだ……あくまで私の目を通しての、だがな……会議を録音することもできない……そして、その情報は……本当に危険なものになりかねない……国家間の陰謀を暴く恐れすらある……!」

 

千冬は、これを渡すことを当然躊躇っていた……パンドラの箱……!

 

「十分、それは理解している……!ラウラに降りかかる火の粉……奴に生き方、国を捨てさせた以上……アフターケア……しておく必要がある……!(ISという武器までは捨てさせられなかった……綺麗ごとでは通らないことが多すぎる……!代表候補生、専用機持ち……自衛手段……ドイツへの一応の所属……という形をとること……ラウラのあまりにも危険な立場……出生を守るためには最低限必要だった……!)」

 

「本当にありがとう……ラウラを救ってくれて……まさかここまでの事態に発展するとは、全く予想もつかなかった……この世界の人の在り方……その闇の深さに吐き気がしてくる……私にできることがあれば……何でも言ってくれ……力になろう……」

 

今回の事態は国家間の陰謀……真犯人は不明……しかし、確実にいる……!

VTシステムをラウラのISに仕込み……ドイツもろとも謀殺……

そうしようとした国家が……あのIS委員会代表国の内部に……!

 

「俺も、こんな大立ち回りをすることになるなんて……あの時、あんたを挑発してなかったら……考えたくもねぇな……」

 

「確実に最悪の事態……もうとっくに考え付いてるところに……落着していただろうな……何者かに巻き込まれたことすら分からず……謀殺されていたことだろう……さて、今日はもうゆっくり休め……お前の使っていた訓練機はこちらで返しておく……」

 

「……え?あぁ、そういえばすっかり忘れていたな……そんなこと……あれ、俺はいつ……打鉄を外したっけ……?」

 

アリーナから出て、今の今まで気の入りっぱなし……

いつ外したのかなど記憶になかった……しかし、思い出そうとしても……

カイジには打鉄を外した記憶が思い出せなかった……!

 

「……確かラウラを受け止めて、それから……私が近寄って行った時に……自分で解除していたはずだが……いや、待て……私も話の進め方がおかしかったな……そもそも訓練機は紛失、盗難予防のため……基本的に待機形態には移行できない……しかし、アリーナに打鉄を置き忘れ……これもまずない……」

 

打鉄が消えた……紛失……盗難……いや、そもそもがおかしい……

紛失のしようがないのだ……だが、カイジ気付く……腕に違和感……ないものがある……!

 

「(なんだ、この時計……いや、文字盤がない……時計ではない……?少なくとも俺はこんなもの……買った記憶もつけた記憶もない……)なんだ、これ……知らねーぞこんなもん……いつ、俺はつけたんだ……?」

 

「なんだと……?確かにお前がそのようなアクセサリーを……つけている姿など見たことはないが……まさか、いや……それがISの待機形態などということは……あるまいな……?」

 

「……いやいや、いくらなんでもねーだろ……それは、常識で考えて……」

 

そう言いさし、口を紡ぐカイジ……自分はいまさっき超常現象を経験……

ラウラの精神世界……常識で考えること……それはIS世界においては……

馬鹿馬鹿しい……この一言に尽きる……!

 

「こう、何もない所から打鉄を纏うような感じで……ISが展開できないか試してみろ……?」

 

千冬も半信半疑……言い切ることもできず……疑問形……!

なにがしかのバグで……訓練機の待機形態に移行……

その可能性を……一蹴することもできなかった……!

そもそも学園の訓練機……その待機形態は時計型ではないのだが……!

ひとまずカイジ、試す……!自らがISを纏っている姿を……想像……!

 

「まさか、どうなっている……?打鉄ではない、黒緑色のIS……?」

 

「(一体どういうことだ……?ラウラのVTシステムのようなものが積まれて……いや、そんなわけはないか……とにかく、何かこいつの情報を……)機体名は……シュワルツァールド……?分からねぇ……Schwarzwald……何か分かるか……?」

 

「Schwarzwald……シュヴァルツ・ヴァルト、ドイツ語で黒い森、と意味する……鬱蒼とした黒い森で、そう、その機体色のような……そんな感じの森だ……そういえば、VTシステムの泥は……跡形もなく消えていた……ラウラの機体に戻ったのかと思っていたが……まさか、お前の纏っていた打鉄に……?」

 

「吸収された、っていうのか……?だが、VTシステムそのものは……ラウラのISに確かにあった……まさか、この機体にもVTシステムがコピー……?」

 

「システムが勝手にコピーして移る……などとは考えにくいがな……単純にVTシステムによって形成された……あの泥だけが、吸収されたと見た方がいいだろう……いや、それだけでも……理解の範疇を超えているが……とりあえずそのISは預かる……調査しなければならない……!」

 

「それは、分かってる……なんか起こす前に解除……消すイメージ……だが、これの情報は俺にも知らせてくれよ……?流石に機密事項は通らないからな……?」

 

イメージ……自分の生身の姿……カイジ、ISを解除……!千冬へと手渡す……!

 

「分かっている……今更そんな言葉が通じるとは思っていない……というよりは、協力してもらうことになる公算が高い……私が、展開できない……!」

 

「は……?何言ってんの……?」

 

「一応起動と情報の確認だけはしようと思って……試しているが拒否……無反応なのだ……!」

 

「まさか、俺しか展開……できない訳……?たまたま、調子が悪いとかではなく……?」

 

千冬は無言で待機形態のISを渡す……カイジ、意図を察知……再度展開……解除……!

 

「私自身のIS適正が急になくなり……ISが纏えなくなった……という可能性もそれは零ではないが……ほかの人間にも試させる必要がある……なんという問題を起こしてくれたのだ……」

 

がっくりと……うなだれる千冬……学園の訓練機が……意味不明な変化を遂げたのだ……!

 

「俺だって泣きてぇよ……こんな訳の分からないことに……巻き込まれるとは……」

 

これからの事を考え……当然うなだれる二人……!

とても長い一日は……まだ終わりを告げない……!

 

 

翌日、放課後……千冬とカイジ……!

「ひとまず……学園の教員全員、起動は出来なかった……いわば、伊藤の完全専用機になった……とも言えるな……」

 

「……は?いやいや、それでも初期化とかできるだろ……?」

 

「それは、可能だ……だが、調べたところVTシステムの残滓などは……発見できなかった……少なくとも危険性はない……そして、性能は第三世代機で……特殊兵器とされるAFCというものもあるようだ……学園側は特異例としてデータ採取のため……この機体をお前の専用機にしたいと考えている……」

 

「(専用機を持てれば……自衛の手段にはなる……専用機を持っているがゆえに……狙われることもあるかもしれないが……元々男性操縦者として狙われてる……この際関係ない……!それに、こういうワンマンの機体……ある種貴重……俺の付加価値も上がり……研究所送りにはされにくくなる……!)分かった、やればいいんだろ……全く面倒ごとばかり……」

 

「(ちゃんと、自分に利があるということを……考えてから返答したな……抜け目の無さは……この状況でも変わらないか……普通なら専用機が与えられる……自分しか動かせない……正しく男のロマンのような……男の子というのはそういうものだと……そう思っていたが……やはり、こいつは……)すまんな、だがなまじメリットがない訳でもあるまい……」

 

「っは……なんのことだか……さっぱり分からねーな……!」

 

「そういうことにしておこう……とりあえず手続きを済ませるか……(しかし、シュヴァルツヴァルト、黒い森とはな……西欧民話ではたしか……盗賊から幽霊、魔物といった類のものが蠢き悪魔や魔女が住み着く……そんな異界として描かれていたな……魔窟とでもいうべき、そんな闇を抱え込んだ、いや具現化した機体というのか……?)」」

 

カイジ……ついに得る……第三世代型専用機……シュヴァルツ・ヴァルト……!

 




後は一夏の今後の扱いについての活動報告

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=144201&uid=156312


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カイジ、刻限……!

推理パート1


???

 

「計画が台無しではないか!なぜ内部の状況の判明がここまで遅れたのだ!」

 

イラつきに任せ、テーブルへ拳を叩きつける初老の男性。

 

「どうやらVTシステム収拾と共にアリーナに通信制限をかけられていた様です。途中から通信がつながらなくなったと報告もありまして。また内部に突入していた教員部隊も出てこなかったため、判別がつかなかったようです」

 

「くそ、忌々しい!VTシステムの購入から今回各関係に使った資金が全てパーだ!おまけに委員会内部も完全に疑心暗鬼になった。誰しもが疑ってかかる状況で、これ以上なにかしようものなら、尻尾を掴まれかねん」

 

彼が今回の策謀に費やした資金は一般人では想像もつかない額になるのは言を俟たない。計画通りに行けばドイツの失墜と第三世代機にAICの情報が手に入る手筈だったのだから……

 

「内部に送り込ませてあるスパイの扱いはどうしましょうか?」

 

「そうだ、それだ!そもそも、あの餓鬼どもが我々の想定通りに動いていれば問題なかったというのに、何があったというのだ!」

 

「当日の事は完全に緘口令が敷かれているようです。現状では無理に問いただすことは難しいですな。正体に気付いてはいるが、扱いを測りかねている状況ですから、場合によっては枝が付いているかもしれません」

 

枝というのは、通信傍受の事である。一本線のはずの通信のラインが横に漏れることを意味している。そのため指示の仕方、情報を聞き出すにも、危険性がある。IS学園内には秘匿通信に特化した施設があるが、送り込んだスパイの状況を考えれば、完全に信用して使う、というのは愚かしい行為であると言えた。

 

「全く扱いづらい。我々にとってもアレはダモクレスの剣となりかねん。次帰ってきたらもう始末せねばならん。まぁペットとして飼うには悪くはない、か」

 

「お好きなことで」

 

「何を勘違いしておるか、儂ではない。あのペド所長のところだ」

 

ブロンドの若干15歳の少女。好事家に対しての贈り物としては極上品である。

 

「おや、これは失礼なことを……では、早めにスケジュールを組むと致しましょうか?」

 

「そうしておいてくれ、今回の謀略が失敗した以上手早く回収せねばならん」

 

回収、表向きには事故死させて亡き者とする算段なのは言わずもがなである。

 

「承知しました。おや、お電話ですな。取って参ります」

 

「全く物事は思い通りにいかんものだ……イグニッション・プランも今回のことでけりが付く、とまではいかんが猶予くらいは出来るかと思っておったのに」

 

そう言いながらワインに口をつける……本来は勝利の美酒であったはずだが……

 

「旦那様、学園で動きがあったようです。どうやら二人目、伊藤開司が専用機を持ったようです。機体名はシュヴァルツ・ヴァルト。第三世代型のようです」

 

「なんだと、ドイツは血迷ったのか!?いきなり男性操縦者へ専用機を送るなど!各国が何をしでかすか見当もつかんぞ!」

 

ドイツ名の機体。この事態混迷し、その渦中の真ん中にいたともいえるドイツが急に機体を、しかも第三世代型を男性操縦者に送ったとなれば、各国がどんな動きをするか分かったものではない。海千山千のこの男でもどのような行先を辿るか想像すらつかない。

 

「いえ、これがどうにもドイツは無関係みたいです。VTシステム事件に触れた学園の訓練機である打鉄が進化、世代が先へ進んでいるのですから進化、でよいですかな。とりあえず、変化をしたとのこと、更には伊藤開司以外起動ができないとのことです」

 

「なんともまぁ不思議なことが起こるわい。常識で考えていてはいかんな。では、スパイには残り期間でターゲットを変更、伊藤開司に接触しその機体の情報を取らせろ。どうにも一人目とその専用機は、先の試合でクソの役にも立ってなかったというではないか。アレがもっとまともに動いていれば計画通りいっていたかもしれんというのに。そんな機体の情報よりも不明機のほうがいくらか面白いわい。それにVTシステムと関連した変化ならば、利用できるかもしれんしな」

 

「そのように手配致します。では、失礼を」

 

魑魅魍魎は策略、謀略を張り巡らせるため蠢き続けていた。

 

 

 

指示の変更をうけたデュノア……当然困惑……!

一夏の言葉を受け取るまま過ごしていた……!

しかし状況は一変……対象及び予定の変更となったのである……!

再来週にはコア情報を本社に持ち帰らなければならなくなった……!

フランスの担当官からは、当然刺される釘……コア情報を持ち帰ること……

それは専用機持ちとして……義務であり、拒否など出来ないということ……!

 

『学園特記事項第二十一、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。』

 

いくらこの事項があれど、帰属しないなどおためごかし……建前に過ぎない……!

学園の生徒がどこにも所属していない……そんなことを額面通りに受け止めたなら……

そもそもデュノアがフランスのスパイ……それがすでにおかしいのだ……!

フランスという国家に所属していないのに……フランスのスパイも何もないのだ……!

つまり、どのような破壊工作員を送ろうと……学園に入った時点で国家と無関係……!

上記は極論……だが、まかり通る……事項の適用に対して制限がなければ……

転じてすべてに適用されるわけではないということ……明白……!

 

当然本人が拒否もできなければ……学園側も要求を飲まざるを得ないのだ……!

 

これにより、事態逼迫……困窮……自らの危地を悟るデュノア……

現在コア情報に本社に持ち帰るほどの……重要な情報など入っていない……!

各国の第三世代機と模擬戦をしたのみ……これだけで第三世代機の開発が可能なら……

こんな所に送り込まれずとも……第三世代機の試験機くらい形になっている……!

故にこれは一種の死刑宣告……初めから期限は決められていたのだ……

前のVTシステム事件……あれにより各国がざわ……ざわ……している……!

デュノアの正体にどこかの国が手を伸ばす……それは十分に考えられること……!

不測の事態により、期間を短縮……フランスは致命傷を負う前に……処分……!

その危惧ゆえ、デュノアの取った行動……なんと、相談……カイジへ……!

 




福音つよすぎんごおおおおおおお。シミュレートでは10:0で私の負けだ……


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カイジ、呆気……!

推理パート2


ここは、織斑・デュノアの部屋……部屋にはカイジを入れて三人……!

 

「何の用事だ……?」

 

「伊藤君にもそろそろ話しておかなくちゃと思って。僕は女の子だけど、男子として入学してきたっていうこと」

 

「(初日に気付いてるけどな……)へぇ、それで……それが今更どうしたんだよ……?」

 

最早カイジにとって今更も今更……すでに一か月は経過していた……

 

「今更ってカイジは気付いてたのか!?シャルが女の子ってこと!」

 

「(めんどくせぇ……気付かない奴がいんのかよ……連れて来いよ、そんな間抜け……まぁ話には乗っといてやるか……)いつだったか更衣室で見たとき、気付いたのさ……」

 

「んとね、僕が送り込まれたのは男性操縦者と接触するためなんだ。そして初めは一夏とその専用機の情報……でも、昨日伊藤君とその専用機の情報を得るようにって変わったんだ。あとは再来週にはコア情報とその情報を持って帰るようにって、ね」

 

「(つまり、俺にも専用機の情報を明け渡せ……そう言いたいわけ……?舐めてんのか……こいつは……いや、そうじゃないな……こいつ、もう帰って来れないってこと……気付いたわけか……俺の情報持ち帰ろうがなんだろうが……フランスは始末をつける……恐らく……事故死させて遺体も消す……これで終わりだもんな……!これ以上在学させたら……流石に他の国もアクション……調査……起こされかねないしな……)それで、俺に専用機の情報を渡せって……?寝言は寝てから言えよ……」

 

カイジ、あえてぼかす……デュノアは別に自分の情報が欲しいわけではない……

そんなことをしても無意味ということを分かっている……それを分かりつつも……

自分にあえて話してきた意図……それを探る……!

 

「カイジ!シャルだって大変なんだぞ!そんなひどいこと言うなよ!」

 

「一夏、落ち着いて!伊藤君が言ってることは普通だよ、自分の専用機の情報なんて簡単に渡せるもんじゃないんだから」

 

「だからって言い方ってもんがあるだろ!」

 

「なぁ……不毛な茶々を入れるくらいなら……出て行ってくれないか……?それとも……俺が出ていこうか……?」

 

「シャル!俺の機体の情報だけでいいだろ!それを送れば大丈夫だって!」

 

最早事態はそんなところで展開していない……機体情報の価値がない訳ではないが……

しかし、デュノア自身の危険性……それがその価値を上回ってしまったのだ……!

 

「僕が帰国することは拒否はできないんだって。国家からの専用機持ちに対するコア情報の持ち帰り、これは正当な要求であり学園特記事項も適用されないらしいんだ」

 

「そんな、本人の同意がないと介入はできないって書いてあったじゃないか!」

 

「そんなもん……建前に決まってるじゃねぇか……なんらかの不当な要求があった時に……本人を守るための事項であって……正当な要求を拒否する……そんな文言じゃねぇだろ……!」

 

「でも、シャルが帰国したら戻って来れるかどうかわからないだろ!?それだったらこれって不当な要求じゃないか!」

 

「前後が逆転……お前は、帰国したら何かあるかも知れない……だから、帰りませんとか言うつもり……?帰国した後のことを懸念して……不当性を主張するとか普通は通らねぇよ……なんか特別な事情でもない限り……」

 

「それで、ね。僕どうしたらいいのかなって。正直なにも手が考え付かなくて」

 

「……は?え、ていうか……なに……?その、事項……それで、お前はもう安泰……学生の間は大丈夫……国家からも干渉されない……帰国しなくても大丈夫……その間によく分かんないけど……なんとかなる……とかそういう感じ……だったわけ……?まじで……?今までの間にそれだけ……?」

 

「……」「……」

 

「やってらんねぇ……知るか、んなもん……もう、帰るわ……」

 

「シャルを見捨てるっていうのかよ!友達だろ!そんな人でなしだとは思わなったぞ、カイジ!」

 

「(え、なんだよ、これ……なんで責められてんの……?いや、お前らが……もっと色々手を考えてて……手を尽くしてどうしても……どうにもならなかった……とかなら……まぁ少しくらい考えないこともない……けど、駄目……お前らずっと何してたっけ……訓練か……?確かに訓練は大事だ……でも、命の危機を差し置いて……やってる場合か……?それとも、その事項以外全く何も……案は浮かばなかったのか……?というか、入学初日……俺が言った時点で……動いてれば……こいつ自身何もやってない……脅されて無理やり……とか、デュノアだけでも……助かったかもしれないけど……駄目……手遅れ……ここまで長期間になったら……スパイ活動をしていた……そういう追及から逃れられない……)こう、先生に相談とかは……?お前の姉さん、IS世界じゃ強力……名前は通るじゃねぇか……そういう伝手を使ったりとか……しなかったわけ……?」

 

「ただでさえ俺の事で千冬ねぇには迷惑をかけてるんだ。これ以上迷惑はかけられない!一人の家族に女の子一人、自分の力で守れなくて何が男だ!」

 

「(なら、もうお前男じゃねぇじゃん……ここまで事態逼迫するまで……出した案がそれだけ……どんなに危機に陥っても……自分の家族の名前は使わないのか……?)いやいや、逆に俺に何ができるって……?姉さんの名前使えよ……俺なんかより圧倒的に強力……それとも、なに……?お前の中で姉さんに迷惑をかけないこと……それはデュノアの命より優先されるわけ……?」

 

どう考えてもカイジと千冬では……そのネームバリューの差は歴然……

使うべき、頼るべき……それはカイジではなく千冬である……!

 

「そういうわけじゃない!なんでそうなるんだよ!」

 

「(話通じねぇ~……どうにもならねぇ~……ていうか、もうお前の姉さん……むっちゃ動いてる……弟の案が事項だけって知ったら……流石に愕然とするだろうな……あのブラコンでも……)いや、たぶんお前にとって姉さんのこと……それ以外は全部以下なんだ……ボーデヴィッヒの時も……そうだったよな……?姉さんのものだか何だか知らねぇけど……あの時お前は……ボーデヴィッヒとあの黒いISの境界線……それが分かってたわけ……?薄皮一枚先にボーデヴィッヒがいたら……確実に死んでたぞ……?」

 

「もう、それは終わったことじゃないか!ボーデヴィッヒは助かった!それに零落白夜もエネルギー刃だけの展開なら、千冬ねぇが人体には影響ないって言ってたんだ!」

 

「そいつは、初耳だな……じゃあ、お前はそれを誰かで試したのか……?それとも今この場で……自分かデュノアの頭にそのエネルギー刃を……躊躇いなくぶっ刺せるか……?」

 

「っう、そ、それは……」

 

「誰かお前にとって大事な人間に……それが出来るなら……俺もあの時の事を謝るよ……が、少なくとも……人から聞きかじったことで……命に関わるようなことはするな……人は仮には死ねない……一度しか死ねないんだ……」

 

自分や大切な人間には躊躇うが……そうでない相手なら試してからなど……

流石に許されることではない……!

 

「……」

 

「(……デュノア、お前はこの話を聞いて……何か思うことはないのか……?気付けよ、お前が哀れにすら……思えてきたじゃねぇか……)そうだな……ならデュノアの件もラウラの件の時と同じように……結果論で助かること……それを祈っとけよ……そうすればみんな幸せ……違うか……?」

 

一夏は自分を救うため……最善を尽くしているのかどうか……

そこに疑念を持ってほしい……そう思うカイジであった……!

 

「カイジはもういい!シャル、二人で案を考えよう!まだ時間はある、間に合うはずだ!」

 

「そう……頑張ってくれ……応援しとくよ……」

 

「い、一夏!あ、伊藤君、まっ……」

 

さっさと部屋を後にするカイジ……ため息すら出ない……!

 

「(くそ、なんてこった……織斑が暴走したら……先生の懸念していた戦争……そうなりかねないんじゃないか……?それにここに来ていきなり……俺の機体の情報だと……?というか俺の機体の情報を知っている……にしてもずいぶん指示が早ぇな……デュノアが報告をしたのか……?いや、あの状態で自分から……あっちと積極的に関りを持つ……とは思えない……!やっぱ学園内に内通者がいると見るべきか……?そして、またもなにか引っかかる……そんな感じ……一体なんだ……?)」

 

ひとまず、千冬へ報告……一夏の動きに警戒……忠告をしておかなければ……

全てが水泡に帰し……最悪の事態を招きかねない……!

 



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晩酌黙示録チフユ

織斑・デュノアの部屋を出たカイジ、千冬のもとへ……!

 

「おい、なんかデュノアが……俺に女であること明かして……俺の機体の情報取って……再来週にはコア情報持って帰れ……そう指示を受けたって、話してきたぞ……!」

 

「なんだって……?それにしても再来週とは……ずいぶんと急なことを……」

 

「国からの正当な要求……断れないんだろ……?」

 

「さすがに、この学園の成り立ち……それを覆すことになりかねん……くそ、デュノアのタイムリミットか……」

 

急な予定変更……普通は七月末夏休み……そこで帰国させるのが通例……

だが、捻じ曲げてきた……つまりもう帰すつもり、無し……!処理の予定を早めた……!

 

「あんたの弟は……学園の特記事項二一さえ使えば……帰国しなくてもいいって……考え……それだけ……空いた口が塞がらなかったぞ……」

 

「それが一学生にできる……限界だ……」

 

「なら、限界を悟って……自分の家族……あんたに頼るって選択肢を……取るべきじゃないか……?あいつの優先順位……それがいまいち分からん……人の命よりも……あんたへの迷惑とかそういうもの……実態のない不明なもの……それに執着してる……家族の事に首は突っ込まない……このスタンスは変えない……だから、報告だけしとくぞ……」

 

「……このような、人の命が関わってくる……そんな世界でなければ……あいつも……」

 

「それは……分からんでもないがな……平和な世界なら気持ちのいい生き方……だろうよ……それじゃあな……俺はこの件には関わりたくねぇ……」

 

千冬も悩む……今回の事はそのまま行けば……大きな傷となるだろう……

だが、それだけで済まず……過激な手段に出る可能性……正しく困窮した事態……!

 

「お前はボーデヴィッヒの件だけでも……十分すぎるほどの働きをしてくれている……私や他の者たちではあの立ち回りは……できなかったと、そう言える……だから、気にしないでくれ……一夏のことは、私が注視しておく……」

 

自分がカイジと同じ立場だったとして……あのような手段……

交渉を行えるとは……露ほどにも思えない千冬であった……!

 

そして数日の時が流れた……

 

これはとある日の晩……千冬の晩酌の記録……!

 

目下最大の問題と言えたデュノアの件……それが一つの終わりの形を迎えた……!

今思い返しても悔しい……私の力ではどうにもできなかったというのか……!

いや、今は忘れよう……すべてを酒で……押し流すのだ……!

 

今日はおでん屋、迷亭……!カウンター席しかないこじんまりとした店……

ここもまた寂れた商店街の路地……そこを入っていった先にある……!

基本的には店主1人とパートが1人……そのパートも落ち着いた老女……

若いのが入っているより断然良いものである……!

 

軒先に暖簾が出ている……中をちらりと窺う千冬……客はまばら……ついている……!

ガラリとドアをスライドさせて中へ入る千冬……あたたかなおでんの香りが出迎える……!

 

「いらっしゃーい、まだ空いとるけん好きなとこ座ってね!」

 

齢70くらいになる店主だが、朗らかな好々爺の大将といったところか……

私はこの大将の作る雰囲気が好きである……とても心地よく、居心地が良いのだ……

ここのおでんは無論うまい……うまいが、ここが人気なのは大将の人柄ゆえであろう……

千冬は空いている席に腰掛ける……メニューはどこかと視線を巡らせ……

吊り下げられた木簡を見つける……赤い札が上に掛けられているものは品切れだ……

 

「お飲み物はどうなさいましょう?」

 

優しそうな老女がおしぼりを渡しつつ尋ねる……

 

「なにか、おすすめはありますか?」

 

「今なら雨後の月のいいのが入っとるよ、お姉さんが日本酒いける口ならオススメだねぇ」

 

大将がすかさず答えてくれる……雨後の月は呉の地酒……銘酒であると言えよう……

私はここで注文するときは「オススメの冷を」……何が出てくるかはお楽しみだ……!

初恋かつ失恋の人の名前「真澄」が出てきたときは呻いたものであるが……

 

「では、それをお願いします。あとたまごと大根、こんにゃくを」

 

千冬にいけない酒はない……酒なら何でも来いである……!

 

「(酒は竹筒の杯を皿にのせて……しっかり盛りこぼししてくれるようだな……)」

 

盛りこぼしには賛否両論あるだろう……薄い皿でお得感だけを無駄に出す店や……

升の中にもたっぷり注いでくれるところまで……その様々もあるし……

清潔感というものを気にする……女性客はその考えが強そうだが……

 

「(ちゃんと深さのある皿……素晴らしい、お得だ……ありがたい……!)」

 

そんな事を気にするほど細かい女ではなかった……

まずはおでんが出る前から……くいっと一口……

特徴的なさわやかな香り……キレのある飲みやすさ……が、千冬も我慢……

ここで一気に呷ることは簡単……しかし、良い酒は大事に飲んでこそである……!

 

「はい、大根、たまごにこんにゃく。お待ちどぉ」

 

大き目な皿に入れられて出てきたおでん……それを見て千冬は目を張る……

 

「ありがとう、綺麗な盛り付けですね(おでんと言えば串についたものか……頼んだものと汁だけが入っているのが普通……しかし、ここのものは……実に綺麗な盛り付け……凝っている……紅ショウガとカイワレ大根を散らし……あとこれは……煮付けたレタスだろうか……おでんの汁につけたレタスなど初めて食べるな……)」

 

私は屋台で食べる、何も凝っていない……頼めばサッと出てくるおでんも好きである……

まったりしたいときはこの店に……時間がないときは屋台へ行くようにしている……!

 

「(大根は実に柔らかな、どちらかといえば甘い味付けだな……そして、このレタス……中々に美味い……!新鮮さを感じるな……そしてこれを、日本酒でサッと流して……)んぐ、っはぁ~」

 

鼻を抜ける日本酒の独特な香り……これが実に癖になる……今、飲んでいる……

そう、強く感じることができる……!竹杯の匂いもまたいい……!

 

「(全体的に薄味目の味付けなのだ、ここは……たまごの色もそこまで濃くついているわけでもない……だが、淡泊すぎるということはない……優しい味付けとはこういうものを言うのだろう……やはり、大根、たまご、こんにゃく……王道だな……)」

 

ここでの私のお気に入りは……かき、山芋、たこ……この三品である……!

無論、大根もたまごもこんにゃくも好きではあるのだが……

このお気に入りは呉の屋台のどこを見てもないメニューなのだ……!

 

「(さて、こんにゃくをもぐもぐしながら……次は何を頼んだものか……たこに山芋、かき……ほかでは見ないメニューだな……既に外れはないと確信している……どうせなら頼むとしよう……!)ごくっ、すいません、たこと山芋を」

 

「あいよー、どれも少し時間がかかるよぉ。いまからつけるからね」

 

これら3品は元から浸かっているものではない……注文を受けてからなのだ……!

山芋はどろどろになり……たこは固くなり……かきは新鮮さが損なわれる……!

 

「あ、ではがんもどきとちくわをお願いします」

 

「はいよ」

 

ほどなくして、またも同じように綺麗に盛り付けられたお皿で出てくる……

 

「(む、そう言えば杯が乾いているな……さっきと違う、おすすめを頼むか……)すいません、冷のお代わりをおすすめで」

 

「ん、それじゃあこれ。新潟のお酒、八海山!辛味のあるピリッとしていい酒だよ」

 

またも並々と注がれた竹杯をこぼさぬよう口へ持っていく千冬……

化粧っ気はあまりなく唇には薄い紅を塗っている……

そんな女性が杯へ唇をゆっくりと持っていく様にはえも言われぬ艶を感じられる……

私の趣向はさておいて……八海山は辛味のあるさっぱりとした酒という印象だ……

そこまで特徴がある、といった感じはあまりない……飲みやすい酒である……

ひとつ前に飲んだ雨後の月……相当似たものを出されない限りは利き酒できる自信がある……!

 

「(すっきりして飲みやすい……そしてこのがんもどき……実に柔らかい……今まで食べたことがない……)」

 

「そのがんもどきはうちのお手製でねぇ。そのせいでたまにやたら柔らかくなったりもするんだけど、今日はいい具合だねぇ」

 

ここのお手製、具沢山のがんもどきは……絶対に食べて欲しい一品……!

たしかにやたらと柔らかいときはあるが……それもまたおいしいのである……!

 

「実に優しい味ですね」

 

「少し疲れた顔しとるねぇ、お仕事が大変ですか」

 

「えぇ、教師をしているのですが……生徒の事でちょっとね」

 

流石に事態が事態であるため……詳しいことは濁すしかない……

 

「あら、勘が外れたなぁ。出来るOL、キャリアウーマンって感じだったんだけどねぇ」

 

「そう言われるのは嬉しいものがありますが、ただのしがない公務員ですよ。自分の力じゃ生徒一人満足に救えないんですから」

 

「うーん、何があったのかはとんと分からないけども、手を差し伸べ続けることですねぇ。例え掴みきれなくても、滑り落ちてしまっても……きっとあなたの助けの手を求めている子はいるし、手をあげてしまっては全て見逃すことになるからねぇ」

 

「(実に辛い道を歩けと言われる御仁だな……)辛く険しい道のりですね。私に、そんなことが、できるでしょうか」

 

「それは分からないねぇ。でも諦めないこと。そして自分を助けてくれる、自分に手を差し伸べてくれる相手を、あなたも探しなさい。あなたが手を差し伸べる限り、あなたにも誰かが手を差し伸べてくれる。この世は助け合い、だから助けない者は助けてもらえない。だから、誰かを助ける手を、失っちゃいけないんだ」

 

「助ける者は助けてもらえる、ですか……今回私の力ではどうにも出来なかった。でも、私を助けてくれた者がいました。だからこそ、私は助ける手を失うことはできませんね」

 

「そう、重く考えなくてもいいけどねぇ。とかく、優しくあることさね。そうすればおのずと道は開けてくるからね。そして、笑顔!来た時よりいい顔になったね」

 

「ありがとうございます、また頑張れそうです」

 

「おっと、話に夢中になりすぎて、上げそこなうとこだった。山芋もタコもできたから、すぐ出すよ!」

 

山芋は乱切りにして……梅肉がたっぷりと載せられている……!

この梅肉の塩加減と山芋の淡泊さ……厚手に切られていることで得られるほど良い食感……

これが堪らないのだ……!これを食べ終わるまでに1杯2杯の杯は乾いてしまう……!

タコは丸々とでかいのが厨房の奥……水切りの中に入っているのを見ることができる……!

やたらと沿った包丁で……私は包丁には明るくない……ぶつ切りにする様は見応えがある……!

このタコの薬味には山椒が実に合う……どこが、と言われると難しいのだが……

 

「(どんどん、酒が進んでしまうな……実にうまい、うますぎる……)」

 

「はい、お冷。ごくごく飲んでおられるから、ちょっとね」

 

ここのお冷には薄切りにしたレモンが浮いている……

こういった洒落たものは好きなのだが……私は水はただの水で頂きたかったりもする……

大した問題ではないのだが……レモンの風味でさっぱりすることは確かだ……!

 

「わざわざお気遣いいただいてありがとうございます」

 

さて、もうずいぶん飲んでしまったし、十分に食べれたな……

腹具合もほど良いし……そろそろお暇させてもらうか……

残りのものを平らげ……会計を頼む千冬……!

 

頑張れ千冬……!めげるな千冬……!

手を差し伸べれば、自らにも差し伸べられる……その手を掴め、千冬……!

全てを一人が背負うことなどないのだ……!

 



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カイジ、看過……!

推理パート3


自室に戻ったカイジ……ベッドの上で寝転がる……!

しかし、寝付けない……どうにも気がかり……!

 

「そうは言ったものの、寝覚めが悪い……」

 

「どうしたの~、かーくん。ここんとこずっと眉間にしわが寄って、顔に影がおりてるよ~。影がおりてるのはいつものことか~」

 

隣のベッド……まだ起きていた布仏がカイジの独り言を拾う……!

 

「なぁ布仏……聞いていいか……?」

 

「なに~?」

 

「例えば、お前が誰かに助けを求められたとする……だが、その助けを求めてきた奴は……碌に自分が助かるための行動をしていない……多少はした……一応考えて助かるための案を出して、それを信じて行動してた……だけど、それはどうみても穴だらけ……そして助けを求めてきたときには……もう期限もギリギリ……手遅れもいいところ……しかもそいつの協力者に逆ギレされた……お前はそんな奴を助けるため、行動するか……?」

 

カイジも自分の行動に疑念……ここで何もしないことは容易い……

鉄骨の時自分は11番の背を容易に押せた……でも、それをしなかった……!

今回は自分が手を貸すのは容易なのに……それをしないのか……?

カイジがされてきた裏切り、イカサマ、偽りに比べれば……

デュノアのした最初の謀りなど……可愛いものであるといえた……

奴はそれ以上の……スパイ行為などをしてきたわけではない……!

 

「う~ん、難しいなぁ。その子が自分の友達かどうかそういうのにもよるけど、でも助けないとほんとに大変な状況になるなら、何もしないってことはないかなぁ」

 

「そうか、ありがとよ……いい奴だな、お前……」

 

カイジは純粋にそう思った……今回カイジが直面していることは命……

そこに関わってくるため比較対象たり得ないが……しかし、だからこそ……

ここで見逃すことは容易ならざること……赤子を谷に突き落とすようなものだ……

 

「それだけでいいの~?」

 

「(デュノアは俺を偽ったが、俺自身に何かをしてきたわけじゃねぇ……釘を刺したからかもしれないし、奴なりに思う所があったのかも知れねぇ……それはわからないが……)もうすこし、頭を回す……それから答えを決める……!」

 

色々と考えることはある……実際、自分にも手立てがないのは確かなのだ……!

文字通り、手遅れ……スパイ行為をした、しないに関わらず……

社会が、IS委員会が……デュノアの存在を許さないだろう……!

デュノアの存在を明かして……そのままフランスを戦禍に巻き込むか……

デュノアをそのまま引き渡して……フランスは事なきを得るか……

どちらの手を取っても……デュノアの命運は尽きているといえた……!

 

「そっか、かーくんはどっちを選択してもいいと思うよ。で、私からも聞いていい~?ラウラウとなんで急に仲良くなったの~?前はまとわりつかれてる感じだったのが、懐かれてる感じになったよね」

 

前までは距離……ちゃんとプライベートスペース……それを確保したうえで……

周囲をちょろ……ちょろ……!カイジの動向を観察……そんな感じ……

それが今となっては……懐いた子供……保育園に現れた優しいお兄さん……

それに付きまとう少女……転校当時のことを考えれば……もはや別人であった……!

この話はまた後日挟もう……いまは推理パートなのだ……!

 

「そいつは……ラウラと試合を経てなんか……認められたようでな……試合中断のあと色々あっ……」

 

途中、言いさして口を紡ぐカイジ……不審に思う布仏……

 

「ん~、どうしたの?」

 

「っし……静かにしてくれ……!」

 

急に真剣みを帯びたカイジの顔……こんな時に茶々を入れるほど……彼女は呑気ではない……!

 

「(何かを考え付いたのかなぁ?お嬢様が随分とご執心だったっけ?前のVTシステム事件の時の事でなにやらあったとか……さっきの話はきっとおりむーとしゃるるんのこと。しゃるるんはどうなるのかなぁ。お嬢様もかなり頭を痛めていたけど、打つ手が思いつかないみたいだし……)」

 

急に黙りこくったカイジの横顔を眺めつつ……思考を巡らす布仏……!

お嬢様が千冬に何を言われたか……それは教えてくれなかったが……

カイジの事をよく見ておくように……そう頼まれた布仏である……!

 

「(あの試合……VTシステムに残っていた会話……脚本通り……強制介入……舞台のキャストと意志……操り人形……どちらに転んでも……これがヒント、キーワード……では、脚本……本来の脚本があったはずだ……本来通りじゃないからの強制介入……VTシステムのもう一つの発動条件……機体のダメージ……搭乗者の願望……本来負けていたら、強制介入せずとも……VTシステムは発動していたんだ……!それが本来の脚本……!周囲を容易に納得させられる発動……加えて証拠を消さなくてもいい……担当官は事態の重大さに怯えて逃げ出した……死体を完全に消し去っていれば……それで済む……!つまり脚本通りとは……ラウラが負けることだった……しかし、そうならなかった……!あの時の舞台キャストは四人だ……しかし俺が考えていた、メインキャストは二人……織斑が零落白夜で破壊役……ラウラがVTシステムを発動する役……その二つで成り立つ……どちらに転んでも、とは……織斑が破壊できようができまいが……どちらでもいい、そういう意味……そう、捉えた……恐らくそれでいい……ここからが肝心……デュノアも俺もメインキャストなら……!俺は足手まといとしてラウラの足を引っ張る役……デュノアは2vs1に持っていく役……2vs1に持っていけば……試合もラウラが負けていた可能性がある……!俺は別に誰でもよかった……逆に脚本家にとっての誤算が俺か……?これが、本来の脚本の筋書き……俺はなんでこんなことを見逃していたんだ……!そして委員会の不審な国のリスト……だがあと、もう一つ欠片が足りない……?)すまねぇ、もう寝る……!」

 

一方的に会話の途中で遮断……自分勝手もいいところだが……

口を挟んではいけない……直感的に悟る布仏であった……!

 

「わかったよ~、よく分からないけどうまくいくといいね!(もしこれで、かーくんがしゃるるんを助ける手立てを見つけたのなら、それは確かに驚くべきことだね~。私の頭なんかじゃどう考えても詰んでるもんなぁ~)」

 

布仏もまた、暗部に関わる者……更識より助言を求められる……

というよりは愚痴聞きだが……今回の事態のおおよそは把握していた……!

 

 

翌日の授業中……考え事のせいで上の空のカイジ……!

 

「で、あるからしてコアバイパスを繋ぐというこ……」

 

「っ……!」

 

ふと聞こえてきた言葉……その時カイジに電流走る……!

 

「どうした伊藤……私の授業で居眠りでもしていたのか……?」

 

「そのまま話を続けろ……!」

 

最早暴言……授業を中断しておきながら……命令……続けろ……!

しかし、一種異様な愕然とした表情……そのカイジに千冬も手をこまねく……

 

「お前というやつは……言葉遣いに気をつけろ……!で、コアバイパスを繋ぐという行為はとても難しく、本来設備の整った場所でやるか、そうでないなら熟練の技術者を必要とする。まかり間違っても今日の授業を聞いたからといって、アリーナで試してみるなどしないように。(初めは愕然としていた伊藤の表情が……段々と険しくなっていく……何を考えている?)」

 

「(あの時デュノアがしようとしていたのがコアバイパスだ……エネルギーを白式に移そうとしていた……デュノアはあの場で成功させる……その自信があったのか……?それとも、脚本家の指示……本来の脚本通りに進まないため……その修正、零落白夜による事態の早期収拾……あるいは破壊をしようとしていた……?)」

 

授業終了後……廊下を歩く千冬を追いかけるカイジ……!

 

「デュノアの専用機の会話ログを漁れ……VTシステム事件当日の会話……そのすべてだ……!」

 

それだけを千冬に囁き……そのまま去っていくカイジであった……!

 

「なに……?おい……!一体なんだというのだ……またなにか陰謀が暴かれるのか……?伊藤の手によって……」

 

千冬は訳の分からない恐怖……そして、寒気すら覚えた……



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カイジ、飲謀……!

推理パート4

折角の三連休やし、早めに推理パートを終わらせておこうかなって。


千冬はともかく……訳は分からずとも……実行……!

先日のVTシステム事件……その悪影響を受けていないか……

そんなよく分からない理由をつけ……デュノアの専用機、回収……!

 

「当日の会話ログか、試合周辺のものをピックアップしてみるとして……む?担当官との会話で……エネルギーの受け渡しについて、話している……?そしてコアバイパスの解説書……今日伊藤が何かに気付いた……そうなったのはコアバイパスの話の最中……コアバイパスという言葉を聞いた瞬間だった……しかし、エネルギー転送は失敗している……というよりは伊藤が止めさせたのか……これを止めたことにより……零落白夜が使えなかった……フランスが……零落白夜を使わせようとしていた……?確かに妙だが……これだけでは確定的な証拠にはなり得ない……さらに何かあるというのか……?」

 

延々と悩み……五里霧中……孤立無援……悩みに悩む千冬……!

部屋で唸り、考えるも……差し込まない……日の光……雲の切れ間を求める……!

そこへ、来客……!もう生徒は就寝の時間……聞こえてくるノック……山田先生か……?

返事をする間もなく開くドア……そこから顔を覗かせたのは……まさかのカイジ……!

 

「おい、勝手に開けるな……!」

 

「邪魔するぞ……って、うわ、きったねぇ。坂崎のおっちゃんの一人暮らしのほうがましだぞ、これは……」

 

惨憺たる状況……部屋のあちこちに様々な銘柄の酒の缶と瓶……脱ぎ棄てられた衣類……!

 

「伊藤……お前、いきなり教員の部屋に押しかけて……ドアまで開けるとは何事か……!」

 

「いや、一杯やろうと思って……ほら、焼き鳥あるぞ……ビール、あるんだろ……?この部屋、飲んだくれ……!」

 

どうみても飲んだくれ……呑兵衛の部屋……ないはずがない……ビール……!

 

「お前は教員まで酒盛りに誘うのか……!って勝手に上がるんじゃない……!」

 

ずかずかと上がり込んでいくカイジ……まるで遠慮は見られない……!

 

「お、これが会話ログか……担当官からの指示だったか……解説書まで添付とはご丁寧なこって……」

 

ちゃぶ台に乗せられていた資料……勝手に手に取って読むカイジ……!

 

「お、おい……お前いい加減にしないか……!女性の部屋に上がり込むなど……!」

 

「40の一人暮らしのおっさんより汚い部屋……それで女の部屋とか言ってんじゃねぇぞ……!ともかく、飲む……話はそれから……!」

 

比較対象があの坂崎……それよりも汚いというのは女性として致命的……!

 

「飲むって、お前な……!まだ未成年だろうが……!教師が生徒に飲酒などさせるか……馬鹿者が……!」

 

流石の剣幕……怒りの形相の千冬だが……カイジ、お構いなし……!

 

「俺もついつい酔っぱらったら……あることないこと……喋っちまうかもなぁ……?あんたも、飲んだくれたら、俺が飲んだことも忘れてるだろ……?翌日には……!」

 

そう言いながら、冷蔵庫より取り出す……ビールを2缶……!

千冬の事は完全に無視……ちゃぶ台の前に座る……!

 

「ほら、座りなって……どうせ、行き詰まってるんだろ……?ビールと焼き鳥……!これでもやりながら、気楽に考えなって……!」

 

「全く、お前のような生徒は前代未聞だ……なにからなにまで……えぇい、乾杯だ……ほら!」

 

観念したかのように……相対するように座る千冬……!乾杯……!

 

「話が分かるじゃねーか……!っうし、乾杯……!っんぐ、んぐ、っぷはぁ~……あぁ、犯罪的だ……うますぎる……久しぶりのビール……!染み込んできやがる……体に……!で、この売店の味の濃い焼き鳥を……っかぁ~、うめぇっ!たまらねぇ!」

 

「お、お前というやつは……私でさえ呆れるほどの堂にはいった飲み方ではないか……なんということだ……!」

カイジの飲みっぷり……その様相に空いた口も塞がらない千冬……!

 

「こまけぇこと気にすんなって……!っはぁ~、それにしても大変だよなぁ、一端の教師の仕事かぁ!?国家間の陰謀に巻き込まれてぇ……戦争回避に躍起になってぇ……っはは、馬鹿馬鹿しくなってこねぇのかよ……!」

 

最早教師の仕事ではない……外交官や政府高官の仕事である……!

 

「っんぐ、ごく、っはぁ……私だって相応に疲れてはいるし、なぜこんなことを、とも思う時だってあるさ……でも、生徒が陰謀に巻き込まれている、どうにかしてやりたいんだ……例え茨の道でも……」

 

それでも、彼女も……いくら厳しかろうと……出来るだけのことはしたいのであった……!

 

「そうだ、おしゃべりする前に……一つだけ言っておく……これはラウラに繋がりかねないことだから、俺は手を貸す……自分の行ったことに責任を持つために、だ……!だから、これはデュノアのためでも、あんたのためでもねぇ……!そこは理解しとけよ……!」

 

「あぁ、この焼き鳥のむつこい味……いいチョイスだ、全く……それをビールで流して、ごく、んぐ、っぷはぁ……おい、そこのポテチも出せ、見えてるぞ……!で、いまこの暗雲……雷鳴……豪雨……一寸先も見えない濃霧……ここから道を示せるなら最早なんだっていい……御託なんざくそくらえだ!」

 

最早千冬にはデュノアの活路が見えなかった……戦争回避のためにはあの少女を犠牲にする……

それ以外の解決策……どうあがいても思い浮かばなかった……!

 

「ったく、目ざといんだから……!やっぱりこの塩味……!そして、水分を欲してる口へ、さらにビール……!さいっこう……!で、今回の事はさっきも言った通り……ラウラの件と糸が切れねぇ……ラウラのことはひとまず安泰ってとこだが……うざってぇ策謀の糸……すべてを切り離さなければならない……!ってこと」

 

「ラウラの件とまで繋がっている……そういうのか……?本当に国家間の陰謀ではないか……!そうだ、デュノアのためではない……そう言ったな……前にデュノアと話して、お前はどう感じたんだ……?」

 

「陰謀に巻き込まれた可哀想な箱入りのお姫様……そこに現れた白馬、ならぬ泥船に乗った王子……沈むしかない愛の逃避行……!そんな感じだな……!」

 

「辛らつだな……全く……おい、チューハイを出せ……お前が冷蔵庫に近い……!」

 

そう言われ、カイジ取り出す……缶チューハイ2本……追加……!

 

「俺も、もらうからな……!まぁ印象なんかどうだったっていいだろ……とりあえず、正直いい気はしない奴らだった……哀れにはなったがな……!お、柿ピーか!みんなで欠片を分け合ったのも……今となってはいい思い出だぜ……!」

 

千冬の部屋にあった柿ピー……当然無断開封……食べる、カイジ……!

 

「柿ピーの欠片を分け合う生活って一体なんなんだ……で、お前の今から話すことには……デュノアの安否は含まれているのか……?もし含まれていないのであれば……」

 

当然、千冬が持つ疑問……デュノアのためではない……いい気はしない……

その言葉からは不安……当然、デュノアの安否……自分の気に掛けるところ……!

 

「受け入れられない……だろ?あまり舐めるな……俺を……!お前も納得できると思った案……そうじゃなければ……わざわざ持ってこない……!」

 

「いや、印象やらを聞く分には……デュノアの事など目に入れていない……そう思ったのでな……」

 

「俺も、極悪非道、無慈悲って……そういうわけじゃねぇ……専用機の情報を盗んだり、敵対行動取ったんなら……その時はどうなったか分からんが……奴はそうしなかった……そこだけは認めている……」

 

「それが、お前にとっての境界線なのだな……誠意を見せるかどうか、と言っていたやつか……」

 

「そうなるな……さて、本格的に酔っちまう前に話そうか……!」

 

「----------!」

「------!?-----!」

「----?--------!」

「---!」

 

「バカげてる……!バカな話だ……しかし……天才的だ……!悪魔染みてる……!」

 

「よっし、話は纏まったな……!じゃ、飲み明かそうぜ……!んで、これが終わったら打ち上げ……!また、飲むんだ……!それが今回俺が提供してやった……提案……交渉内容の代金……!」

 

カイジ、暴挙……またも教師を酒盛りへ誘う……!当然これを拒否する千冬……!

 

「えぇい、どんとこい……!そんなことで済むなら安いもんだ……!ほら、こいつを飲め……!私の秘蔵の日本酒、西城鶴……神髄だ……!」

 

しない……最早千冬酔っている、完全に……!そして、断り切れない……!

いまの絶対的危地を救う案、交渉内容……最早お礼の言葉などでは済まない……!

 

「っくぅ~、そうこなくっちゃ……!っかぁ~、染みる……!日本酒も悪くねぇな……!」

 

話は纏まった……そして、飲み明かし……そこには酔いつぶれて熟睡……カイジと千冬……!

 

 

翌朝、千冬の部屋……!

目覚めたときの惨状に頭を振る千冬……生徒と飲み明かすなど……

いくら考えが行き詰まり……助けが欲しいとはいえこのような醜態を晒すとは……!

 

「うぐ、ずいぶんと飲んでしまったな……おい、伊藤……起きろ……!」

 

「んぁ……あ、あぁ……そういや、あんたの部屋で飲み明かして……そのまま寝ちまったんだったな……ぐぅ、頭いてぇな……」

 

「お前は午前は休め……流石に酒臭い生徒は不味い……部屋でおとなしくしていろ……私は、香水で無理やり消す……!」

 

「うーぃ、わぁったよ……じゃあ、頑張ってな……」

 

「バレないように……部屋に戻れよ……」

 

カイジはのろ……のろ……と部屋に戻っていった……!

千冬はずき……ずき……と痛む頭を抱えながら教室へ向かった……!

だがこの頭痛は二日酔いか……それともカイジの策に頭を痛めているのか……

千冬にもそれは分からなかった……!

 




「私の秘蔵の日本酒、西城鶴……神髄だ……!」千冬のセリフ内に出てきたこのお酒。筆者が最も贔屓にしている酒造メーカー、西城鶴の極上の一品である。いつか千冬にこの酒を買いに行かせたいと思う

そして次回解答パート、投稿日時は3月20日18時00分
今回はシンプルにどんな交渉をフランスとすれば、シャルロットちゃんを助けられるかです。今ある情報や無理のない程度のはったり等々、頑張って運命を切り開きましょう。

デュノア救済編 推理・解答パート用
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=144541&uid=156312

ヒント「虚もまた真実」「女性として再入学」


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チフユ、謀闘……!

解答パート
投稿日が21の6時になってましたsry



そして、千冬、決戦の場……交渉、デュノアの背後にいる魑魅魍魎……悪鬼と……!

 

「IS学園教師の織斑千冬です。今回は貴国の代表候補生シャルル・デュノアさんの件でお話があります」

 

「はい、当国の代表候補生が何か問題でも起こしましたか?」

 

「そちらから送られた資料には男性とありましたが、先日ちょっとしたアクシデントがありまして、男性ではなく女性であるということが判明しました。そちらから、何か弁明などされることはありますか?」

 

「おかしいですね。こちらもちゃんと検査を行い、男性ということを確認しております。そちらの間違いでは?」

 

「(伊藤の言った通り、相手は男であるという前提で進めてくる、か)そうは言われましても、こちらでの血液検査、及び身体検査で確実に女性ということが判明しております」

 

「それは、おかしいですね。各関係機関が見逃すはずもないのですが」

 

「それでですね。わたくしどもと致しましてはそちらで何があったにせよ、重大な規約違反、IS委員会へ話を通しそちらで決定を仰ごうと考えております」

 

「少々、お待ちください。上の者と代わりますので、そちらと話を進めてもらってもよろしいですか?私では判断がつきかねます」

 

「(担当官は知らぬ存ぜぬ、騙された体。今から出てくるのが本番、か)分かりました」

 

「こちらはフランスIS委員会代表ゴードン・ベックだ。こんにちは、マドモワゼル織斑、お噂はかねがね」

 

「どういたしまして、ミスターベック。担当官からお話しは聞かれましたか?」

 

「あぁ、話は聞いている。しかし、いきなり委員会に話を持ち込んで、などという性急な手を打つのは解せんな。我々の方に情報を調査する暇も与えてくれないのかな?また、デュノア氏の調査も当然我々の方でやり直したい。来週にはコア情報を持ち帰ることになっていたはずだ。その時まで待ってもらってもよいのではありませんかな?」

 

「(委員会の代表がたかだか一代表候補生のスケジュールなど把握しているものか。やはり伊藤の言うようにこいつは事情を知っている深い関係者だな)帰国の時期についてのお話なのですが、デュノアさんのほうがちょっといま状態が不安定なのです。どうやら自分自身が男のはずなのに、女だったことに驚いているような状態でして」

 

「一体どういう意味だ?何を言っている?」

 

「どうやら元々女性だったのに男性と思うように洗脳を受けていたような感じでして。それ故我々も女性だと気づくのにここまで時間がかかってしまいました。検査してみると血中にも不審な薬物反応が見られまして」

 

「馬鹿な事を抜かすでない!我々がそんなことをしたというのかね?」

 

「それは、デュノアさんの情報から客観的に判断した事実でして、疑うとかそういう問題ではないのです。そして、男の自分は織斑一夏と仲良くなり、模擬戦や訓練を通じて機体情報を入手するように教育されていた、ということをうわごとで言っている状態なのです。これは明確なスパイ行為と我々は捉えていますが、いかがでしょうか?」

 

「妄言はもうたくさんだ!ともかく、彼は専用機持ちで我々の大事なコアを所有している。そして彼についてはこちらで再調査を行う。君たちの調査では信用できない!血中から薬物が見つかったなど、ふざけるのも大概にしろ!学園側が専用機持ちのコア情報を持ち帰らせるという要求を拒むつもりなのかね?」

 

「そうは言われましても、彼女は帰国することを恐怖心から拒否しています。当然政府の正当な要求は我々学園も拒めないことは百も承知です。ですが、デュノアさんの状態、スパイ行為を要求されていた、これらを踏まえるとこのまま帰国させるのは非常に危険だと判断しました。また、申請書類、そもそも男性、女性かを間違える国の検査に期待はできません。フランスに帰す前にIS委員会及び女性権利団体の調査を経てから帰国してもらおうと考えています。そこでデュノアさんの扱いがどうなるかは分かりませんが、こうすれば少なくともフランスのコアはそちらの手元に返ります。学園側としてはわざわざ国際問題に発展してまで、フランスのコアを掠め取る意図は毛頭ありません。そして、こうすれば正当な要求の拒否にもあたりません。あなたの言うように、何の問題もなければそちらを通してもよろしいのでは?」

 

「……分かった。早急な帰国は望むまい。だが、こちらにも最初に言った通り、関係省庁を洗う時間をもらってもいいかな?何があったのかこちらも把握しておかねば、IS委員会の会合ですべてが後手に回ることになる。場合によっては戦争にもなりかねない。人道的な選択をしてくれないかね?」

 

「(フランスは我々が学園でデュノアの扱いに困ること、非常に危険な爆弾となる上に、手をこまねくであろうということを理解していたのだ。自国の危機、開戦理由になるかもしれないということを逆手に取っていた。こんなことを思いつくなど正気の沙汰じゃない、伊藤もフランスも!)トカゲの尻尾切り、どこの関係者がトカゲの尻尾になるかを決める時間でよろしいですか?」

 

「君、口を慎みたまえ!」

 

「別にその人員を選ぶ時間を待っても構いません。些末な事です。我々は、これ以外の情報も手にしているのです。今現在疑心暗鬼になっているIS委員会へデュノアさんは格好の燃料になり、そして、さらには火種となる情報があります」

 

「な、何を言っている、フランスを脅迫するというのかね!?」

 

「VTシステム事件当日のデュノアさんのISの通信記録に、担当官が織斑一夏へコアバイパスを繋げることの提案、及び解説書を送信した事実が残っています。これによりデュノアさんのISより、織斑一夏の操縦する白式へエネルギーを受け渡し、白式の零落白夜を使用させようとしていたことを確認しております。零落白夜は特性上、ISのバリア無効化によりISをもろとも破壊することが可能です。担当官もやたらと内部の様子を、それこそ数分おきには聞くほど気にされておりましたね。これらの情報と共にIS委員会へ送り込んだらどうなるでしょうか?」

 

「それは担当官も彼の身を案じての事だ……零落白夜とやらも解決策として、使用できるようにコアバイパスを提案したにすぎないのではないかな?」

 

「そう言うこともできますね。前回の会合ではVTシステム事件の真犯人は不明で有耶無耶。そして真犯人がどこかの国であるはずだが、それも分からない。故の疑心暗鬼です。しかし、フランスには実行するだけの理由がありますね?ドイツはイグニッションプランにおける敵、レーゲン型でトライアルに参加しており、フランスは1歩も2歩も遅れている。今回の事を機に、シュヴァルツェアレーゲンを亡き者にし、AICの技術アドバンテージを奪い、ドイツを失墜させる。動機としては十分ではないですか?」

 

「だが、確定的な証拠ではあるまい!このような脅迫を受ける謂れはない!」

 

「えぇ、そうですね。確定的ではありません。ですが、脅迫をしているつもりもないのですよ。客観的な情報のみ提供するだけですから。男子として入学させたことにより男性操縦者との接触も容易なデュノアさんの存在、男性と女性を間違える杜撰な処理・不透明な流れ、急な予定変更、今回の通信記録とVTシステム事件、ドイツが犯人となっていたら起きていた事、及びそれらによって利益を得そうな国、これらを全て纏めIS委員会の議題として提出して、会議の様子を見てみることにしましょう。各国がどういう動きをするか、見物ですね?」

 

「そんなことをすれば戦争が起こるぞ!客観的な事実もあるが、後半は憶測とも言える部分だ!そのような情報を提供して、国家間の危機を招くと言うのかね!?」

 

「(自分から招いておいてよく言う。なんという輩だ)フランスが各国を納得させられる資料を用意すればいいだけではありませんか?戦争が起こるかどうかや国家間の危機など私たちの知ったことではありません。日本からはとても遠い国の出来事ですので。デュノアさんの様子にはIS学園関係者一同とても心を痛めております。年頃の女性が自分の性別を偽る洗脳を受けて、自分が大掛かりな陰謀を知らぬ間に担がされていたのです。とてもショックな出来事でしょう。そんな哀れな彼女の存在を亡き者にして、今回の事態をうやむやにするということは、到底容認できません。それこそ人道にもとる行為ですから」

 

「き、きさま……ぬ、うぅ……しかし、私に君の考えをわざわざ全て話す道理もないな……?今回の事は連絡してくる必要はなかったはずだ。我々に確認を取らずとも行動には移せた。なにか、話したいことがあるのではないかね?」

 

「(全てを敢えて話し追い詰めたら相手もその意図に気付き、そして何かがあるとみて食いつく。伊藤は恐ろしすぎる、なんだこれは、どうなっている。ここまで思い通りにいくものか……?私も舞台で操られている人形のような気分だ……)私たちとしても戦争が起きることなど望んでいるわけではありません。ですのでデュノアさんの身柄に関して提案をしたいのです。早急にトカゲの尻尾を用意してください。いくらか泥をかぶってもらうことにはなります。自分たちの内部でのミスにより、不幸な男性操縦者が生まれてしまった、そういうことにしてもらいます。それによりデュノアさんは正式に書類の手違いということで女性としてこちらへ入学させます。女性、となってしまえばフランスが、彼女の身柄について何かをする必要がなくなりますね?もし何かがあれば私たちは全力で動くことになります。例え事故死であろうとなんであろうと、フランス国内で彼女が害されることになったら、先ほどの情報をいつでも公開する準備があります。どうですか?あの情報が公開されてもし戦争になればドイツは容赦しないでしょうし、あなた方の国はイギリス・イタリアにも睨まれています。戦争にすらならないでしょうね。あなた方にとっても損失はかなり少ない道なのでは?」

 

「(くそ、なんたることだ!なぜこうも逃げ道がない手に至ったのだ、まるでDeepを相手にしているようだ!やはりデュノア社を潰すとするか……彼らが洗脳、及び薬物で彼女を彼にした、関係省庁には金で買われた職員を数名用意するとしよう。デュノア社の謀略という形が分かりやすい終わり方だな)分かった、デュノア氏が女性であったということを、早急に公開しよう。来週に予定されていた帰国の予定もなくす。ひとまずは帰国の時期は未定ということにさせてもらおう。当然彼女を犯罪者とはフランスも扱わない。入学当初から今回の事態判明までは心神喪失状態で責任追及は困難ということにしよう」

 

「迅速かつ賢明なご判断ですね。では、これで失礼いたします」

 

「あぁ、それではこちらも失礼する」

 

電話を切ったのち、男の行動は素早かった。

 

デュノア社は自分たちがステージの外側から操る側だと思っているが、それは大きな勘違いであった。彼らもまたステージの内側、所詮糸で操られているだけ。外側の人間から糸を切られたらもう動くことはできないのだ。今回のステージ、糸で操られている人形が、さらに糸で人形を操っていた。そんなことをしたものだから、その動きがぎこちなくなった。それはまた仕方のない話であった。

 




 シャル自身が男だと完全に思い込んでおり、女ではなかったということにしております。これによりシャル自身の性別詐称を解消し、スパイ行為そのものも洗脳によるもの、及び機体情報を直接盗んだのではなく、模擬戦や訓練というあくまで正規の(違法ではないというくらいの意味で)手段で情報を得ていた、ということにしています。これなら自身が詐称していた事実及びシャル自身のスパイ行為を消せるといったところですね。

 フランス側としては、薬物使用などないというのは分かり切っているにしても、相手側に可能な限り無害な何らかの薬品を使われたりする恐れがあるため、IS委員会を通すことも危険です。自分たちは一切そんなことはしていないと言っているにも関わらず、状況証拠がシャルの体から出てくるとその他の答弁が全て無駄になってしまいます。また、女性権利団体が動きかねない事案となるので、例えその危惧がなくても非情に面倒ごとに発展しかねません。

 結局今回の事態を公表したら女性権利団体が動くのではないか?と思われるでしょうが、先手を打たれて動かれるよりは、完全に犯人を決めてそれに対して動き始めているという形の方が安全にことを進められます。

 元々はデュノア社が提案してフランス政府が協力したスパイ事件。時期をみて帰国させたあとデュノア社としては社内で飼い殺すか別人として生きてもらう算段だったのでしょうが、フランス政府が途中からこの計画を利用。VTシステム事件を引き起こしています。

ご納得いただけたらなぁと思います。


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剣姫奮闘編
チフユ、救済……!


交渉のあった日……千冬は即座にデュノアを呼び出し……!

 

「デュノア、今から話がある。生徒指導室へ来るように。全てにおいて優先されることだ」

 

「は、はい。分かりました、織斑先生」

 

千冬の有無を言わせぬ態度……覚悟を決めるデュノアであった……!

 

生徒指導室内部

 

「さて、デュノア。何故呼ばれたのか、もし心当たりがあるなら自分から申し出ろ」

 

そう言われ、観念するデュノア……どうにせよ自分が助かる未来はない……

ここで素直に話そうとなんであろうと……彼女にはどうでもいいことであった……!

 

「は、はい。僕は、シャルル・デュノアとして男子として入学してきましたが、本名はシャルロット・デュノア、性別は女です」

 

「ふむ、それで?」

 

「僕はデュノア社社長、セドリック・デュノアの命令で、織斑一夏及びその第三世代機の情報を盗みに来た企業スパイです。入学してから数日後、織斑君にバレて、色々と話し合いました。そして、学園特記事項第二十一によって三年間は自分の身も安泰、その間にどうにかする手立てを見つけようと、そういう結果になりました」

 

「具体的には、その手立てというのは何も考えつかなかったのか?」

 

「はい、僕も結局その事項のことだけで安心してしまって、時間もあるという考えが気の弛みとなって、それ以上のことをしていません。新しく命令の変更が来た時に自分の危地を理解しました。もう週末には本国に帰らなければなりません。そして、もう帰って来れることがないということも、もう分かっています。一夏も案を出してくれていますが、もう手段が無いことも分かりました。僕も無理に助かるつもりはありません。今回の事が戦争すら起こしかねない、そう伊藤君に言われて恐怖しました。自分が助かるために戦争を起こそうとは考えません。一夏には自分の家の、フランスの醜い出来事に巻き込んだことを僕が謝っていたと、伝えてもらってもいいですか?」

 

シャルロットもすでに覚悟……というよりは諦めに近いものだが……

最早どうにもなくなり……諦めきった表情を浮かべていた……

 

「お前はそれでいいのか?助かる道を考えることをやめ、すべて諦めてもう死ぬことを、あるいは死ぬよりもつらい目にあうことを、受け入れられるというのか?」

 

「そんな、そんなことを言われたって、もう、どうしようもないじゃないですか!そもそも一個人がどうにかできる問題じゃない!自分が男として入学できた時点でフランス政府も関わっているんですよ!?どうやって、どうやって国の思惑を、その策謀から逃げ出せるっていうんですか!甘い蜜に縋ってしまった、それで貴重な時間をそのまま、失ってしまったことだってわかってます。でも、僕は、私はただ普通の女の子として過ごしたかった、それを受け入れてくれた人に縋って何が悪いんてすか!私はただお母さんと、一緒に暮らせてればそれでよかったんだ……!貧しくても、寂しくても、幸せだったんだ!ISのパイロットになりたかったわけでも、学園で、スパイ活動なんてしたかったわけでもない!でも、逃げられないじゃないですか!父もなく、たった一人の家族、母も死んで生きる術を失った小娘一人に、どうしろっていうんですか!こんなこと受け入れられるわけない!それでも受け入れるしかなかったんだ!もう、嫌だよ、誰か、誰か、私を助けてよ……!」

 

デュノアの心の叫び……若干15の少女が……権謀術数から逃れられるわけがない……

 

「助けられる、このまま学園にいられる、女の子として過ごせる、そんな道があったらお前はそれを選ぶか?」

 

「そんな、そんな夢みたいなこと、今更考えてなんかいられませんよ……」

 

自分自身が夢にまで見る生活……母との生活はもう実現しない……

それならば、ここでまた……幸せな生活を掴みたい……そう思うのであった……

しかし、そんなものへ逃げ込んでも仕方がない……未来はそう遠くない……

もう自身には妄想に逃げ込む猶予もないのだ……

 

「それを選ぶか?どうだ?」

 

「選ぶに決まってるじゃないですか……」

 

人生の圧倒的危地……五里霧中……四面楚歌……孤立無援……

もし、この窮地に救いの手……釈迦の垂らした蜘蛛の糸……

藁にも縋る思いのデュノアに……蜘蛛の糸に縋ることに何のためらいがあろうか……

 

「なら、助けてやる。デュノア自身の協力も必要だが、そう難しいことではない。数日の内にはお前は解放される。フランスからもデュノア社からも(全て伊藤の策、交渉、提案による結果。そのことをさも自分がやったかのように語るのは何とも胸糞が悪いな。しかし、伊藤からは自分は無関係、関与していないことにしろと言われてしまった。あいつ、私が無理やり酒を飲ませたことにして脅迫するなどなんて奴だ、逆だろうが!打ち上げの際に嫌というまで飲ませてやる!)」

 

「そんな、夢物語みたいなことって。一体なにが、なにをしたんですか?」

 

デュノアには信じられなかった……自分自身も必死に頭を回し続けた……

しかし、見つからない……打開策……全てを破滅に導く道を選んでも……

どうあがいても……自分の身は助かるすべがなかった……!

 

「お前は、フランスで薬物投与、洗脳されて、自分が男だと信じて入学してきたことになっている。だが、つい先日、自分が女であることをふと思い出し、今は一種の錯乱状態ということになった」

 

「へ?え?何を言っているんです?」

 

千冬の言っていることは自分の理解の外であった……!

 

「つまり、お前は入学してきたその時点で一種の心身喪失状態、自分の状態が正確に把握できていなかったということになるんだ。後日フランスよりそういった内容の発表がある。いまからその発表までは学校を休んでもらう。そして、お前が正式に女性ということになってから、学園に再入学させることになっている。それがお前の次の登校日、改め入学日となる」

 

「そんなこと、フランスが発表をするなんてあるわけないじゃないですか。僕を帰国させてその間に不幸な事故にあって消える。そうすれば私が女だったということも無くなる。それなのに、なんで」

 

デュノアとて自分がどうなるか……それくらいのことは分かっていた……

それによってしか、平和な結末が訪れないことも……だが

 

「戦争を回避しつつ、お前がこの学園にいられる唯一の策だそうだ。フランス政府と交渉して、こうなった。なので、今日から部屋を移ってもらい、私、山田先生以外との接触を禁止させてもらう」

 

「私の、知らないところで、そんなことが進んでいたなんて(唯一の策だそうだ?誰かから、教えてもらったってこと?織斑先生じゃなければ、今話に出てきた山田先生が考え付いたこと?いや、あの優しい山田先生が、こんな案を思いつくとは考え難い)」

 

デュノアも当然頭は回る……千冬の言葉尻を捉え……そこから推測……

誰がこの件に関わっているのであろうか……それを考えた……

 

「もう、安心しろ。お前はすでに助かっている。お前が協力してくれなければ、厄介な事にはなるがな……」

 

「それはもちろん協力します。できることは、なんでも。この件に関わっているのは先生方だけ、なんですか?それとも伊藤君がなにかをしてくれたんですか?」

 

デュノアとしては当然気にするところ……カイジに話をして数日の事だ……

 

「お前が一個人にはどうしようもないと言っただろう。一学生の伊藤に何が出来るというんだ?」

 

「いえ、それは……そう、ですね(でも、ここまで急に事が動いた、それは伊藤君に話してからのこと。伊藤君は前から先生が動いていることを知っていた。先生は気付いていて、色々してくれているという話みたいだった。でも、ここに来ていきなりここまで話が進むものなの?)」

 

疑問はあるものの……有無を言わせぬ千冬の口調には……流石に口を閉ざすデュノア……

 

デュノアはカイジの策に乗った……闇が晴れた

 

 

 




次の話にはラウラでるから、セシリアも。ようやく出番が回ってきた。
と、言いつつ一日一話、その話はまた明日。一夏君のところがなんか納得いかない。書いててモチベが上がらないのが一番の原因


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カイジ、困闘……!

教室での日常……その一幕……!

トーナメントが終わってすぐのこと……一時の平和が訪れていた……

 

「ボーデヴィッヒ……もうすこし距離……人には必要、パーソナルスペース……!」

 

「む、師匠は師匠としての勉強が足りん!この距離が師匠と弟子の正しい距離感だと教わったぞ!」

 

ラウラは除隊した……しかし、黒兎隊副官クラリッサ・ハルフォーフ……!

彼女との個人回線は捨てていなかった……!ゆえの、ラウラの間違った知識……!

クラリッサは重度のアニオタ……彼女の知識は非常に偏っていた……!

 

「いや、弟子なんて取った覚えはない……俺はお前の師匠じゃない……!」

 

「私に生き方を教え、導いてくれるのだろう!だから、師匠であっている!師匠じゃないなら先輩か、先生か!そのほうがいいのか?」

 

「その選択肢なら先輩がまし……そういう問題じゃない……そして、お前はもう自由に……生きていいんだ……俺が導くものでもない……」

 

カイジに導かれたら最後……純粋ゆえになんでも吸収……

数日後には馬券を買うラウラ……!想像したくもない……!まず買わせてもらえないが……

 

「自由などと言われても、どうすればいいか、見当もつかん!それに師匠は言ったぞ、俺の手を取れ!その手に未来があると!」

 

「ラウラ、お前の手の中に……お前の未来があるんだ……」

 

「その未来を、一緒に探してくれるのでは……なかったのか……?」

 

攻勢からの一転攻勢……攻め方を変えたラウラ……!

上目づかい……うるんだ瞳……!しかし、無自覚……!恐ろしい子……!

 

「分かった、分かったよ……そんな顔、するんじゃねぇよ……そうだな、どうしたもんか……」

 

誰かに教育などしたことのないカイジ……頭を唸らせる……

そして視界にセシリアが映る……それを見て思いつくカイジ……!

 

「ラウラ、お前はまず色々と……そうだな、人として大事な事……それを知っていく必要がある……!」

 

「大事な事とはなんだ?」

 

「まず、常識……!お前には、それが欠けている……!」

 

ラウラの常識は軍人として……軍属として……その世界で生きるには問題ない……

しかし、この学園……基本的には平和な土地では世間知らずである……

 

「この私が常識知らずだというのか!」

 

「そうだ……お前は立派な世間知らず……だが、仕方ない……今までの環境には……必要なかった……だが、今からここで生きていくには……重要、必要なこと……!」

 

「むぅ、確かに師匠の言う通り、このような場所での常識など分からん……」

 

「俺が言った通り……今から学んでいけばいい……人生はやり直せる……まずは、謝罪……!人付き合いをしていく上で……これを覚えておけば、大体うまくいく……!」

 

謝罪……人とのわだかまりを解決する最適な手段……人の基本……!

 

「謝罪か、とはいえ誰に謝罪をするというのだ」

 

「あそこにいる、金髪のクルクルしている奴にだ」

 

失礼にもほどがある……!

 

「あれは確かイギリスの代表候補生の」

 

「セシリア・オルコットだ……お前はオルコットと模擬戦をやったな……?」

 

「そうだな、あれは私の勝利だった」

 

「そう、勝利したことまではいい……しかし、その後お前は……やってはいけないことをした……覚えてるか……?」

 

「っむ、試合が終わった後も攻撃を加えたことか」

 

「俺も勝負をしたことについて……まぁそこも問題はあったんだが……とやかくは言わない……だが、決着がついたのに攻撃を加えた……これは規則違反……悪いことをしたら謝る……!」

 

勝負をしたことも違反……原因も憶測だがラウラの挑発……

セシリアの非が零とは言わないが……ラウラがどうみても悪かった……

ただ、それを全て責めても仕方のないこと……ひとまず分かりやすい……

傍目にみてどうあがいてもラウラの悪い部分……そこを謝らせることにしたカイジ……!

 

「そ、そう言われたら、そうだな。あれは教官の顔にも確かに泥を塗る行為だった。いまは反省している」

 

「そして、自分だけで……終わらせたら駄目……!相手がいることは、相手に謝って……許してもらって、終わりなんだ……!」

 

反省なら誰にでも出来る……その後謝ることができるか、これが大事……肝要……!

心の中で反省したから許してなど……最早悟られである……

 

「分かった、早速謝ってくる!」

 

「渋るかと思ったが……やっぱり素直だな……」

 

オルコットの下へ向かうラウラ……その姿を眺めるカイジ……しかし問題、謝罪の仕方……!

 

「この前はすまなかったな!模擬戦とはいえぼこぼこにした挙句、更に攻撃してしまうなど、許されないことだった!」

 

「な、な、なんてことおっしゃいますの!謝罪なさる気あるんですの!?」

 

謝罪をしたはずが相手は激昂……訳も分からず首をかしげるラウラ……!

 

「……駄目だこいつ……謝罪に見せかけて挑発……煽りやがった……!」

 

手で戻ってこいと合図するカイジ……おとなしく戻ってくるラウラ……!

 

「(一体なんなんですの!まったくもう、カイジさんに近いですわ!それにカイジさんったら、私との会話はいっつも切ろうとしますのに!ラウラさんだけ優しくされててずるいですわ!)」

 

基本的にカイジに邪険に扱われていたセシリア……しかし、セシリアは諦めなかった……!

 

「師匠の言った通り謝罪したが、相手は怒っているぞ!」

 

「当たり前だ……!ぼこぼこにしたとかいらねぇんだよ……!軍にいたときはどうしてたんだ……!」

 

「部隊の対外的なことは基本的にクラリッサがやってくれていたからな!優秀な副官だった!」

 

「(遠ざけてやがったのか……相手が敵か味方……軍人の行動原理故か……中立の相手に対しての対応……それが分からない……)そうか……とりあえず、なんで相手が怒っているのか分かるか……?」

 

「師匠の言っていたぼこぼこにしたというのがいらなかったのか?」

 

「そうだ……!謝罪するときは……自分の非を認めるだけ……それでいい……!」

 

「それでは相手につけこまれてしまうではないか」

 

「ここでは、敵か味方か……そんな二元論で考えるな……!というか基本的には敵っていう考え……それがそもそも駄目……!つけこまれるとか……そういう考えはいらない……!(自分で言ってて耳が痛い……しかし……ラウラには、必要ないことだ……!)」

 

「敵だと思っているわけではないぞ、模擬戦の決着もついている」

 

あの時のラウラの行動原理……それは親の注意を引くための子供の悪戯……

悪戯にしては度が過ぎているが……故に敵意など微塵もないのである……!

 

「……そうか、とりあえず……おい、オルコット……!」

 

最早、自分の手に負えない……早々に悟るカイジ……!

 

「……一体何の御用ですの?伊藤さん」

 

さも怒っていますと言わんばかりの態度……ぷん……ぷん……!

 

「(完全に怒ってやがる……なんで俺が子供のお守りを……でも、俺の責任か……)セシリア、そう怒るな……ラウラも、こういった環境での生活に……慣れてないんだ……!許してやってくれ……寛容な精神で……!」

 

「今週末、買い物に付き合ってくださるのでしたら、許して差し上げますわ。それで手打ちということにいたしましょう」

 

「……いや、これはラウラとセシリアの問題であって……別に俺のせいじゃ……」

 

ラウラのことを許してもらうため……なぜか責任を負わされるカイジ……

当然反発するが……駄目……セシリアは学んでいた……!

 

「あら、カイジさんの教えが悪かったのではなくて?それの責任を取らないとおっしゃるんですの?誠意というものを見せて下さらないのかしら?」

 

怒涛……交渉術……圧倒的言葉攻め……セシリアは知的に攻めた……!

 

「……うぅ、分かった……が、協力してくれ……ラウラの事、俺じゃ限界……」

 

「(遺恨の一切ない相手……というわけではありませんが、あれはわたくしも悪かったこと。カイジさんがわたくしを許したように、わたくしもボーデヴィッヒさんを許さなければなりませんわね……)ボーデヴィッヒさん、あなたの謝罪は受け取りましたわ。ですが、謝罪のときは言葉に気をつけなくてはなりませんことよ。そして、わたくしもあの時あのような模擬戦をしたことを謝ります。申し訳ございませんでしたわ」

 

そう言い、ラウラへと頭を下げるセシリア……当然ラウラ、困惑……!

 

「な、なぜオルコットが謝るのだ。私が挑発したのがそもそもの原因だぞ!」

 

「挑発に乗ってしまったのはわたくしの未熟故ですわ。それとセシリアで構いませんことよ。わたくしもラウラさんとお呼びしてもよろしいかしら?」

 

「わ、わかった、セシリア。ありがとう、許してくれて」

 

「こちらこそ、どういたしまして。よろしくお願いしますわ、ラウラさん」

 

「う、うむ、よろしく頼む」

 

その様子にカイジご満悦……席を立とうとするが……しかし、回り込まれてしまった……!

 

「そして、カイジさん。どこに行こうとされていますの?」

 

「……いや、その、トイレ……」

 

「そうですの、この場で逃げるのがカイジさんの誠意ですのね」

 

「その言葉は卑怯……もう、大団円……仲良し……解決……俺の出番終わり……」

 

「まだ、ラウラさんが知るべきこと、学ぶべきことは多いですわ。ラウラさんとの間に何があったのかは分かりませんが、責任は持たれてくださいまし」

 

「分かってる……投げ出すつもりはないって……ちょっと疲れたのさ……」

 

「このラウラさんの顔を見てもそんなことが言えますの?」

 

まるで邪険にされたような子……迷子の子……!

 

「……よし、ラウラ……ひとまず友達が一人できた……!これは一歩……大きな一歩だ……!」

 

「そうか、そうなのか!」

 

「よし……今週末に、セシ」

 

「かーくん、楽しそうだね~。クラスに馴染んで安心したよ~」

 

突如現れる布仏……カイジの女性対応……その不手際を許さない……殺れる子……!

 

「……どうしたんだ、布仏……?」

 

カイジはどうにか顔が恐怖で引き攣ることを抑えた……

どこにいたのかは知らないが……こちらの話の内容を把握しているのは明白……!

 

「なんでもないよ~、私もラウラウとお話ししたいな~って」

 

その言葉を聞き、チャンスと捉えるカイジ……今ラウラに必要なもの……

それは友達……友達付き合いの中で常識を覚えていく……大事な事である……

特に女性に疎いことを分かっているカイジ……自身の常識は世間の……

いや、女性の非常識でもあるのだ……!

 

「ともかく、友達……!ここにいる布仏とも……!話をしてみるんだ……!」

 

最早自分の予定変更は不可能と悟るカイジ……!

 

「そうは言われても何を話せばよいのだ」

 

「ラウラウは~、好きなお菓子とかないの~?ドイツのお菓子!」

 

空気を読みすかさず会話を振る布仏……出来る子……!

 

「ふむ、Schwarzwälder Kirschtorte、黒い森のサクランボケーキだな。サクランボの酸味が甘いチョコと生クリームにマッチしていてな。これがおいしいのだ」

 

「おいしそうだねぇ、食べてみたいな~!海外のお菓子は中々手に入らないからねぇ、話を聞くだけでも楽しいよ~!」

 

「今度クラリッサに送ってもらうとしよう。日本で買って送って欲しいと頼まれた玩具がある。そのお返しにな」

 

女性がドイツ戦車タイガーに乗っているミニチュアの玩具……

女尊男卑のこのIS世界において……女性があえて通常兵器を操る……

それが人気を博したらしい……ラウラにはよく分からないことであった……!

 

「おぉ~、私も食べていい?私は日本のおすすめのお菓子を用意するよぉ!」

 

「あぁ、楽しみにしている。ん?どうした、師匠よ」

 

「いや……黒い森、か……ラウラは行ったことがあるのか……?」

 

「当然だ。鬱蒼とした不気味な森で嫌う者もいるが、私はあの静かなどこか恐ろしい雰囲気が嫌いではない。不思議な落ち着きを感じる森だった……そういえば、師匠の専用機もシュヴァルツ・ヴァルトだったな」

 

筆者も一度ドイツ……黒い森には是非とも行ってみたい……!

 

「あぁ……だからちょっと気になってな……」

 

「そういえばかーくんも専用機持ちになったんだよね~。これでクラスに5人かぁ、大安売りだね~!」

 

「わたくしのアイデンティティーがこうも大暴落するなんて思いもしませんでしたわ……」

 

現在学園にいる専用機持ち……

一年生7人、一夏、カイジ、セシリア、ラウラ、シャル、鈴、簪(未完成)

二年生2人、楯無、フォルテ・サファイア

三年生1人、ダリル・ケイシー

 

セシリアが入学した当時……彼女の言っていたこと……

専用機持ちがいること……それは本当に幸運……!

簪(未完成)を除けば、一年生ではただ1人……!

学園全体合わせても4人の内の……その1人……!

正しく幸運……僥倖……!専用機持ちとは本来……そういうもの……!

それが一挙に……大暴落……追加6人……!一年生に……!有り得ない偏り……!

 

「かーくんの専用機ってまだみたことないんだよね~、どんなのなの~?」

 

「それは……秘密だ……!」

 

まだ、明かされない、黒い森……シュヴァルツ・ヴァルト……!

その第三世代型特殊兵装AFC……武装……果たして……!

 




文字は結構多くなりますね。普段からこのくらいかければもう少し読み応えがあるのでしょうが……今日の4時44分にゲリラ投稿がある、かも


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カイジ、怒泥……!

前日の夜、千冬がフランスと交渉した日……

千冬はデュノアを寮の特別室へとその身柄を移していた……!

一夏には別室になると説明したのみ……それには千冬も考えがあった……

デュノアは錯乱、不安定な状態……現在はそういう扱い……!

外を歩かせるわけにはいかない……そして一夏を誘導する必要があった……!

 

が、一夏……千冬の予想を裏切り……面倒なことにカイジへ詰問……!

朝の授業が終わってすぐ……デュノアは1時限目を休んでいた……

故に不審……やはり昨日デュノアに何かがあった……!

千冬がデュノアの事を知って動いた……そしてデュノアのことを知っているのは……

 

「なぁ、カイジ!シャルのこと知らないか!?」

 

「……あ?今日休んでるけど、それがどうかしたのかよ……というかデュノアのことを知ってるのは……同室のお前だろうが……!俺に聞くんじゃねぇよ……」

 

こうなったのは当然カイジの指示……平然とニュースの流れる日……

その時に学校へ通っていたら不都合しかないのである……!

 

「カイジがシャルのこと千冬姉に喋ったんだろ……!?だから千冬ねぇがきn」

 

これ以上喋らせるのはまずい……そう判断したカイジは食い気味に返す……

 

「Fuck you……!ぶち殺すぞ、ゴミめが……俺は知らねぇっつってんだ……ごちゃごちゃ抜かすなよ……(弟の事を信じたのか知らんが……懇切丁寧に説明しとけよ……!)」

 

この場で一夏に不穏当な発言をされては……計画に狂いが生じかねない……

 

「っな、貴様一夏になんてこと言うんだ!」

 

「お前は外野もいいとこ……黙ってろ……!知らねぇ疑いかけられて……教室で大っぴらに……在らぬことを言われかねないんだぞ……!」

 

「でも、カイジ以外いないんd、っぐぅ!」

 

最早言葉では止まらないことを察知……顔に一発……!

ここは自分自身が泥を被るしかない……馬鹿げているが……

今回謀り、偽りをしている以上……下手なことになれば……

デュノアだけの身では済まない事態になりかねないのだ……!

 

「い、一夏!大丈夫か!?」

 

いきなり暴言、暴力に向かったその行動に皆の目が向いた……

実に単純だが効果的……デュノアのことよりも……

急に起こった一夏とカイジの喧嘩という形を演出……!

 

「いい加減にしろよ、てめぇ……物分かりが悪いにも程があるぞ……!戦争だろうが、疑っているうちはまだしも……それを口にしたら、戦争じゃねぇのかよっ……!」

 

呆然とするクラスメイトを背に教室を出ていくカイジ……

これで悪役は完全に自分になっている……

最早一々原因を探る、考えるのは布仏やセシリア、ラウラ……

そういった聡い者や、カイジに理解がある人間のみである……!

大衆はいきなり暴力を働いたカイジへの批難へ意識を向ける……!

あからさまな悪行があれば……その根底になど目を向けないものだ……!

 

 

教室から出ていき廊下を歩くカイジ……そこへ千冬が声をかける……

 

「おい、伊藤……もう授業の時間だぞ。どこへ行く……?」

 

声を聞いたカイジ……千冬へ掴みかからんばかりの勢いで……千冬へ歩み寄る……!

 

「飼い犬にはちゃんとしつけをしとくか……人に嚙みつくなら首輪をつけとけ……!教室でデュノアの事を平然と……騒ぎ立てようとしやがったぞ、あのぼんくら……!今回の事、まだ成功した訳じゃねぇ……下手こけばあんたも学園そのものも……危ういことを行ってんだぞ……!あんたにどんな意図があるかは知らねぇけど……明日までに躾けとけよ……!もう今日は俺は休む……気分が悪いからな……!」

 

一夏自身の言動が不穏当、不適切であったら……疑いをかけられかねない……

現状ほぼほぼ詰ませているが……それでも万が一がないわけではないのだ……

 

「(一夏よ、少しの間だけでも待てないのかお前は……教室で伊藤を糾弾してそれでどうなるというのだ……後先を考えなさすぎる……それも私に伊藤が迷惑をかけたと思って行ったのか……いや、だがこれはまずい……それで済む問題ではない……)すまない、私の思慮が浅かったようだ……今日の放課後には話をつけるつもりだったが……」

 

言いさして、何かを考えはじめ口を紡ぐ……そして次に出てきた言葉は……

 

「ほら、私の部屋の鍵だ……部屋にある酒は好きにして構わん……本当にすまない……」

 

そう言いながら一つの鍵を投げ渡す……まさかの千冬の部屋の鍵……

 

「……は?あんた、何言ってるか理解してるわけ……?」

 

「私に今できる……今見せられる誠意というやつだ……明日までには一夏のことは必ず話をつける……」

 

「あんたがいない時に部屋に入るの見られたら……殺されかねないっての……!まぁ、納得は出来ないが理解はしてやる……明日、織斑が噛みついて来たら……そうだな、何をしたもんやら……!」

 

投げ渡された鍵を再び投げ返す……その顔にはあくどい笑みが浮かぶ……

 

「……う。頼むから変な気は起こさないでくれ……では、授業の時間にもう差し掛かっている……うろちょろ出歩くのはやめろよ……」

 

「はいはい、俺も面倒ごとは避けますよ……じゃ、頑張ってな……」

 

そう言い呑気に……到底授業を休むとは思えない足取りで帰っていくカイジ……

それを見ながら千冬、溜息……なぜ、こんなことに……

そして、放課後の一件……それがより重大事となってしまった……

せめてもで、一夏がカイジに……噛みつかないようにしなければ……!

 

 

放課後、千冬によって呼び出された一夏……呼び出したものの話を始めない千冬……

それに痺れを切らしたのか一夏から口を開く……

 

「千冬ねぇ、一つ聞きたいんだ。シャルはどうしたんだよ、昨日夜連れて行ったきり、今日は一日学校休んでるし!」

 

当然、訝しむ一夏……彼とて流石に考えない訳ではない、最悪の事態……!

そして、それを引き起こしたのがカイジなのでは……という疑念……

とはいえこれは疑い……教室で殴られまでしたのだ……

カイジが本当に千冬に告げ口をしたのか……そう思い込むわけにもいかない……

ある意味デュノアがいなくなったのは……カイジのせいではあるが……

 

「織斑先生と呼べと何度言ったら分かる……で、それがどうかしたのか?デュノアにはデュノアの役目がある……それだけだ」

 

明言はしない……ぼかす……どうとでも意味が捉えられるように……

 

「な、シャルをフランスに帰したってのか!?」

 

疑念が確信に変わった……シャル、カイジの口ぶりからすれば助からないこと……

それは一夏ですら分かった……だが、まだ数日は猶予があったはずなのに……

 

「おかしなことを言う……デュノアはフランスの代表候補生だ……自国に帰ることのどこに問題があるんだ……?」

 

「いや、その別に……急すぎないかって」

 

一夏のセリフも最も……だが、千冬はあえてずらす……話の本題……

それを自分からあまり誘導していきたくはないからである……!

 

「確かに、代表候補生は一度夏休みの時期に戻るのが普通だな」

 

「だったらなんでシャルをフランスに帰したんだよ!」

 

「お前もおかしなことを言うな……確かに異例だが、問題はない……コア情報を持ち帰ることは代表候補生、専用機持ちの義務……いわば役目、仕事だ……何をそんなに気にしているんだ?」

 

そう、これは至極当然の流れ……デュノアがフランスに帰ること……

それは、役目を果たしに帰るだけなのだ……そのことへ他者が口を挟む権利はない……

 

「気にしているっていうか……その、いきなりルームメイトがいなくなって、帰ってこなかったら心配するだろ?」

 

「それだけか……?」

 

一夏には言うべきことが……千冬に話すべきことがあるはずなのだ……

千冬はあえてはぐらかしてきた……自分から恫喝……脅せば……一夏は口を割る……

それゆえ、その手は最終手段……自ら口を割ることに意味があるのだ……!

 

「え……」

 

「それだけなら、お前にデュノアのことを気にする資格はない……!」

 

一夏が今回絡んでいる問題は命に直結したこと……生半可に関わるべきではない……

それが解決できるかどうかはさておいても……一度関わったなら誠心誠意……

自らにできることを全力でやってこそ……その先を知る権利があるのだ……!

 

「な、何を言ってんだよ!シャルは友達なんだ、それを心配するのに資格だのなんだのって……」

 

「……一夏、私に話すことはないか……?」

 

千冬もそろそろ痺れを切らし始めた……流石に誘導してでも……喋らせる必要がある……

 

「話すことって、急にどうしたんだよ」

 

だが、一夏とぼける……それとも本当に分からないのか……おろ……おろ……!

 

「何でもいい……何か話すことはないか……?」

 

「な、何でもって言われても……」

 

「もしないなら、お前にはデュノアの事を知る権利はない……」

 

もし、ここで自らに何も話せないというのなら……最早デュノアの件に関わるべきではない……

元々の事態が重すぎたこともあるが……一夏は全力を尽くしたとは言い難い……

 

「そ、それは……」

 

「一夏!」

 

威喝……恫喝……威圧……萎縮が目的ではないが……真剣な時であることを知らせる……!

一夏には危機感……最早デュノアが手遅れとなった……今更ながらすぎることだが……

それでも、例えそうでも……いい加減、だんまりは許されない……!

 

「は、はい!」

 

「私に、話すべきことを話せ……お前にはその責任、義務がある……これ以上言わせるなよ……?」

 

さしもの千冬……我慢の限界……今回の事態はなあなあで済ませることはできない……

デュノアが助かったことを変に勘違い……そうなれば目も当てられない……

手遅れな事態に一夏がなることだけは避けたい千冬であった……!

 

「ち、千冬ねぇ……分かった、シャルのこと。シャルのことで話したいことがあるんだ」

 

ようやく、ようやく喋る気になった一夏……あまりに遅すぎるその決断……!

デュノアが謀殺され……その後千冬に散々に責め立てられたのち……ようやく……

遅すぎる、その決断……現実には千冬に相談していても……千冬自身既に動いていた……

そしてカイジがいなければ助からなかっただろう……それを考えれば話していても……

デュノアが助かったわけではない……だが、それはデュノアの話……一夏の事とは別なのだ……

 



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チフユ、説教……!

お決まりの生徒指導室内部……!一夏と千冬の二人……!

 

「さて、時間はたっぷりある……さあ、話せ」

 

一応は話を促していく……時間も無限にはないのだ……

 

「シャルのこと、シャルはシャルルじゃなくてシャルロット。自分の父親からの命令で仕方なく男装して、女なのに男として入学してきたんだ」

 

「ふむ、それで……?」

 

「それでって……千冬ねぇは何とも思わないのかよ!親だからって命令されてこんなことさせられて、可哀想だとか助けてやりたいとか!」

 

「それが、そう思うことが何か重要な意味を持つというのか……?当然人として必要な感情ではある……だが、今この場の話において必要なことではない……続きを話せ……いつ、それに気づいたかも含めてな……!」

 

一夏としては共感してもらいたいポイント……だがそれは筋違い……

ただ、デュノアの話をするなら……それもいくらか意味があるかもしれない……

だが、今は一夏と今回の事態そのもの……デュノアに対する感情を抱いても意味はない……

 

「う……俺が気付いたのは二日目、部屋に帰って来たとき偶然知ったんだ……それからシャルに話を聞いて、さっきのこと、デュノア社の経営がピンチでシャルは企業スパイとして父親に送られてきたんだ。それから俺は学園特記事項を使えば、本国に帰らなくても済むって提案して、デュノア社のことは今から三年間あればなにか手も考え付くだろうって話をしたんだ」

 

大体大筋はそのまま、原作通り……原作ではトーナメントを終えたら再入学してきたが……

 

「お前にしては考えたほうではある。ではそれから何をしていた……?」

 

「それからは……特に何も……」

 

「何も……?三年間あれば今はまだなにも考えていなくても平気、そう考えていた、と?」

 

恐らく原作のまま……多分なにも考えていない……原作なら不明に女として入学……

フランス、デュノア社に戻った後……その後のことについて話している描写はない……

 

「そ、そういうわけじゃない!ただ、トーナメントの事とか他の事も……」

 

「学生としての本分、IS学園の生徒ならISの訓練から勉強まで色々あるのは分かる……しかし、デュノアにとって言わば命がけ……そういう事態であるということは、考えなかったのか……?」

 

千冬としても一夏に問題解決……それを期待している訳ではない……!

なし崩しで任せているようなもの……だが、関わって誰にも相談せず……

自らがやると決めたなら……当然求められる、その真摯な態度……!

カイジほどの案を出せとは言わない……自分にもできなかったこと……

だが、自分に相談すること……それは少なくともできるはずなのだ……!

 

「そ、それは……もう事項を使えばひとまずは助かったって思ってたから……」

 

だが、駄目……!この作品では許さない……そんな暴挙……各国が黙っているなんて……

そんなに世界は甘くない……アホでもない……!介入がなければ脚本通り……

デュノアの運命……その命脈は尽きていた……!

 

「問題を先送りにした……と。お前にはどうにもISコアや専用機というもの……それに関しての認識が欠けているようだな……」

 

「認識が欠けている……?」

 

「お前はなし崩しにその専用機を手に入れた……本来お前の腕前で持つことなどあり得ないのだ……」

 

実際初の男性操縦者、加えて自らの弟……それが彼が専用機を持てた理由……

それ以外の理由などデータ採取……体の良いモルモットのようなもの……!

カイジに専用機の話がなかったのも……データはひとまず一人……

女性権利団体やISを信奉する女性にとって……データなど少ない方がいい……

IS委員会や女性権利団体の思惑が絡む……政治的な話であった……!

 

「っな、俺が白式を……千冬ねぇの武器を持つ腕がないって!?専用機ならカ、カイジだって持っているじゃないか!」

 

「たしかに伊藤もまだ専用機を持てるほどの腕があるとは言い難い……だが、前のトーナメントで奴は作戦を練って、奴が作戦の主体となって動いていた……確かに機体の性能故にできること、できないことはある……だが、伊藤はそれを理解して最適の手を打っていた……そして、今はお前の話だ……伊藤がどうであれ、お前の腕が変わるわけではない……!」

 

話を逸らす癖……今話をしているのは一夏のこと……他の事に目を向ける意味はない……

 

「……」

 

「お前は今まで誰かに勝って来たか?オルコットや、デュノアは確かに相手が悪い……同じ機体を使おうが、訓練機を使おうが、お前では勝てない……というよりは、他の代表候補生と同条件で戦ってもまずお前に勝ち目はない……それでもお前は専用機を持っている……一度授業で話したよな……?専用機持ち、候補生というのは甘くない、と……つまり、彼女たちには求められる……それに値する姿勢、態度……そしてコアは国の重要な財産……それが理解できていれば……それが事項一つで捻じ曲げられる、そうは思わないのだ……その重要性、価値……それらを真に理解していればな……」

 

この点はデュノアも悪い所ではある……甘い蜜に縋りたいとはいえ……命がけ……

とはいえ一夏の頑なに千冬に頼らんとする姿勢……それ故に何も言えなくなったのか……

 

「お、俺にはそれがない、専用機持ちになったのはいわば流れ……だから、その価値が理解できていない……」

 

「そういうことだ……まぁ話を戻そう。たしかに事項の文章をそのまま解釈するなら……それだけでも一時的には助かったとはいえる……これには政治的な、学園の成り立ちも関わってくること……現時点でお前に理解しきれとは言わない……本当の問題はここから……」

 

「本当の、問題?」

 

そう、今までのはいわば前座……千冬が話したかったことではない……

真に重要……正念場……ここをはっきりさせなければ手遅れ……意味がない……!

 

「あぁ、今日の初めのお前の態度……あんなにもフランスに帰国をしたことを気にしていたな……それは、何故だ……?」

 

「そ、それは……」

 

「お前にはそれだけ気にしている理由があったということだ……それを私に教えてくれ……それが本題だ……」

 

「シャ、シャルは命令の変更を受けたって話してて……それで急に帰国の予定ができて、事項の事も専用機持ちに対する正当な要求は断れないってなったんだ。そして、このまま帰国したらシャルはきっと帰って来れないって」

 

ようやく喋る……6000字、2話分を丸々使ってようやく本題……!

千冬が流石に放っておくわけにいかない……そう心に決めた一事……!

 

「それで、デュノアは具体的にどうなる、と……?」

 

「帰って来れないっていうんだから、当然またデュノア社で……」

 

一夏の想像……学園から退学してデュノア社でまたテストパイロット……

 

「お前はまさか……デュノアが生きたままでいられるなどと思ってはいまいな……?」

 

「生きてって、死、死ぬっていうのか!?殺されるなんて、そんな……」

 

「まぁ必ずしも死ぬ、わけではないかもしれんな……だが、フランスが初めから用意していたのはデュノアの死……あるいは、完全に日の当たらないところで……死ぬとも生きるとも分からない生活を送らされるか……表向きにはどうにしろ死亡という形になっていただろうな……」

 

それ以外での終わりがない……本来はそういう筋書きである……

 

「や、やっぱり千冬ねぇもシャルのこと知ってて……」

 

すぐ、これである……今話している内容は一夏の事……それを逸らしてしまう癖……

 

「私が、そのことを知っているかどうかは関係ない……一夏、お前の話をしているんだ……死ぬわけではない、そうとしか捉えていなかったからか……お前に危機感が足りないのは、そのせいなのか……?」

 

千冬がデュノアの事を知っているということ……それを一夏が知っていれば……

また、何やら行動が変わるかもしれないが……意味のない話である……!

 

「そ、それは確かに俺の考えが甘かったのかもしれないけど……でも実の娘をそんな、初めから殺す前提なんて考えられるかよ!」

 

実際のところ……デュノア社社長セドリックがそこまで考えていたか……

それは不明である……千冬がゴードン・ベックと話した限りで感じたことは……

トカゲの尻尾とされるのはデュノア社であり……決して頭脳の部分……

考えることが許されていた立場ではない……ということであった……!

 

「まぁ私もこの事態の全貌は把握しきれていない。デュノア社も所詮……ともかく、今回の事態はデュノアの命に関わる……そういう重大事だったのだ……そして、お前は全力を尽くしたのか……?誠心誠意出来ることをやった、そう言えるか……?」

 

実にここ……この一事なのである……果たして誠意ある……そう言える行動がとれたのか……

 

「お、俺だって事態が変わってから……シャルと一緒に出来る限り案を考えたさ……でもどうしても、それは戦争に繋がる、結局シャル自身が助かる道はないって……」

 

「そこで、自分の限界をお前は悟ったわけだ……なら、そこからどうすべきか、分かるだろう……?」

 

そして、限界を悟ったのなら……悟ったなりにやるべきことがある……!

自らの力で無理ならば……人の力に頼るということ……それはなんら恥ではない……

それを恥ずかしがり……頼るべきを頼らず全力を尽くさない……これこそが恥ずべき事……!

 

「その、それだけは……」

 

「私に何故相談しない……?先ほどの態度を見ればお前自身、私が知らないと思っていたようだが……相談されても、私の力ではどうしようもない事態ではあったが……だが、今は結果を話しているのではない……お前は自分自身が関わった重大事に……もう一度聞く……デュノアに自らの全力を尽くしたと、そう言えるか……?」

 

「ち、千冬ねぇにこれ以上迷惑は……俺のことだけでも迷惑をかけてるってのに、そんなの男じゃねぇ、女の子一人、家族一人救えなくて!」

 

「では、もうお前は男ではない……もうすでに、シャルル・デュノアは学園に在籍していない……」

 

それが、事実……もうシャルル・デュノアなる学生はこの学園にはいない……

 

「そ、そんなことって」

 

「お前のその心意気や生き方そのものを否定する気はない……これが命のかかわってこない……藍越学園にでも入って、友達同士の間柄での問題解決なら……今のお前の姿勢でも……そうそう問題になることもあるまい……手が早い所はあるがな……それでも、命に関わるような事態はまずないからな……だが、ここは違う……ふとすれば人の命に関わりかねない事態……そういうことに巻き込まれる……その時常に最善の手を尽くせなどとは言わん……だが、自分の矜持を他者の命と天秤にかけることだけはやめろ……!」

 

「お、俺はシャルのことを、シャルの命を自分のプライドとかけていた……」

 

「本来出来るはずなのだ……本当に助けたいという気持ちで……胸がいっぱいなら……捨てられる……例えそれが……自分にとって大切な想い……矜持であっても……人の命に関わるということ……それは何よりも重い……初手で私に頼らなかったのは、まぁいい……だが、事態が変化してからなによりも……私には相談すべきであった……それがデュノアに対しての……せめてもの誠意だった……」

 

デュノアがその時どう考えていたか……そればかりは神のみぞ知ること……

しかし、一夏はカイジのことも退け……自分にとっての切り札も切らない……

その姿を見てデュノアがどう思ったのか……カイジから聞かされて知っている……

既に千冬が動いているということ……実に滑稽な姿に映ったのではなかろうか……

 

「……」

 

「まぁここまで話しておいて今更だが……シャルル・デュノアは学園から除籍されたが……数日後シャルロット・デュノアが入学してくる」

 

「……え?ど、どういうことだよ?」

 

「お前や、私ではデュノアを救うことはできなかった……しかし、デュノアを救えるようにフランスと交渉した者がいてな……それによって、デュノアは……本来の性別と名前を取り戻して……この学園に入学できることになった……」

 

「じゃ、じゃあ千冬ねぇが今まで話していたことって……シャルがもうこの学園にはいないって」

 

「む……?私がそんなことを言ったか……?今までの私の発言をよくよく思い返してみろ……私は一度もお前が考えているようなこと……それを肯定などしていないぞ……」

 

そう、シャルル・デュノアという初めから存在していない……それがいなくなった……

ただ、それだけのこと……そして、フランスに行ったこともはぐらかすだけ……

答えてなどいない……大人は質問に答えたりしない……!

 

「え?あ……!でも、千冬ねぇ、ならあんな態度取ることないだろ!普通に話してくれよ!」

 

一夏の憤慨もある種当然……だが、通らない……そんなに軽い事態ではない……

 

「甘ったれるな……!お前が初めからデュノアが助かっている……そういう風に聞いてたらお前……どう考えてた……?今のように私に……素直にデュノアの事を告白したか……?なによりも自分自身の行い……その言動……真摯に思い返していた……そう私に向かって言えるか……?」

 

そう、初めから助かっている……そんなことを知れば確実に引いていた……その熱……!

助からなかった……取返しが付かないこと……それを前提に話すからこそ……

考える、自分の今までの行い……それが対外的に見てどうだったのか……!

 

「そ、それは俺だって今回の事を重く考えて、ちゃんと自分の行動を反省して……」

 

「それはデュノアが死んだからだ……死んだから真摯に考えるようになったんだ……!そうでなければ最初、しょっぱな……誤魔化したりはぐらかしたりしない……!聞く……ストレートに……直接デュノアはどうなったのか……何より私に話すことをためらわない……!」

 

「でも千冬ねぇも忙しそうだし、疲れてるみたいだったから……これ以上仕事を増やしたくなかったんだ!」

 

「お前が篠ノ之や凰と喧嘩しただのそんなことであったら、私も一々持ち込むなというが……さっきも言った通り、今回は事態が事態だ……こういう事態がそう何度も起こっては欲しくないが……お前も自身の立場を理解しろ……そして事の重大性をよくよく把握して……それに合わせた行動をするように心がけろ……!デュノアのことは聞かれても知らぬ存ぜぬで通せ……その時問題ない回答はお前自身で考えろ……ではな……絶対に無用な騒ぎ立てをしたり……何があったか知らんが伊藤を疑うのはやめろ……私は元より知っていたことだ……私からの話はここまで……(申し訳ないことをしたとは思っているが……お前が気付かなければそれでよし……気付いたとしても、まず問題は起こらない……そういう算段での話……)」

 

呆然と座ったまま握りこぶしに力をいれる一夏……彼が今回の話をどう受け止めたか……

それは私にも分からないことである……!




くっそ、一番この話が文字数おおいやんけ!


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カイジ、若危……!

とある日の朝の人気番組……

 

「現在世間をにぎわせている男性操縦者の続報です。三人目の男性操縦者とされていたシャルル・デュノア氏でしたが、フランス本国の発表により、女性、シャルロット・デュノア氏であったという旨の発表がなされました。これに対するフランスIS委員会代表ゴードン・ベック氏の回答です」

 

「今回我がフランスよりこのような事態を起こしてしまった事を深く陳謝いたします。現在目下調査中でありまして、現時点で判明した情報のみの発表となりますこと、どうかご理解いただけますよう、深くお願い申し上げます。我々の現在の調査で最も深く関与していると目されているのは、フランスのIS開発企業デュノア社であります。デュノア社の社長、セドリック・デュノア氏が一人娘であるシャルロット・デュノア氏に対して、薬物投与並びに洗脳を行っていたという記録が見つかっております。これにより、シャルロット・デュノア氏はシャルル・デュノア氏と自らを認識し、その性別の認識をも変えてしまったと思われます。そして、デュノア社の口座を調査しましたところ、多額の使途不明金が見つかり、これが各関係機関職員への賄賂となったのではないかと考えております。現在各機関へ捜査が入っております。フランス本国特別捜査本部ではシャルロット・デュノア氏は、当時心神喪失状態であり、責任追及は困難であると考えております。以上が調査の状況及びフランスの見解となっております。このたびは我がフランスよりこのような事態を招いてしまったことを、再び深く陳謝致します」

 

「以上がフランスの公式見解ですね。デュノア社は第三世代機開発の遅れにより、政府からの資金援助の一部がカットされていたという噂もあり、それが今回の事態を起こした原因なのではないかとの見解があります。これに対して、七海さんどう思われますか?」

 

七海さん、この番組の政治面担当……この番組内の常識人……

しかし、もう一人……七海さんと呼びかけた北澤さん……

彼とはよく問題が発生する……割かし下らない理由で……

 

「一企業がやることにしてはかなり派手っていうか、壮大な計画ですよね。恐らくは男性操縦者の織斑一夏君への接触、特に第三世代機の情報収集が主な目的なんでしょうけどねぇ。それによって、第三世代機の開発に目処が立てば、噂の資金カットも無くなって会社の経営が立て直せる。しかしですよ、全く自国のリスクを考えてないと言いますか、資金カットは事実でそれに対する恨みもあり、このような派手な行動に至ったとも考えられますよね」

 

「私としましては、一企業が国家の関係機関に賄賂を贈ったとはいえ、IS委員会の目を欺いて、男性として入学させるなんてかなり無茶があるようにもおもえますがね。やっぱりフランス国家そのものが関わっているんじゃないですか?」

 

「それでは陰謀論ではありませんか?男性操縦者への接触をこのような形で国家ぐるみで果たしてしまえば、それこそ戦争になりかねませんよ。いくらなんでも危険すぎる手、そこまでして第三世代機をものにする理由っていうのがねぇ」

 

「現在欧州連合は統合防衛計画がありましたね。フランスは現在出遅れているといいますか、トライアルに参加できていないのは非常に痛手なのではとも思いますが、そこのところはどうでしょうか?」

 

「たしかにすでに三か国、イギリス、ドイツ、イタリアがトライアルには参加していますね。特にテンペスタⅡはモンドグロッソにも出場したテンペスタの系列機、レーゲン型も完成度が高いと聞きますし、今から頑張ってトライアルに参加してもかなり厳しいと思うんですけどねぇ」

 

正直なところ、今更感が非常に強いのである……それ故のドイツ陥落計画……

それをゴードンらが実施したともいえるが……それは失敗に終わった……

そして、これらの事件は当然機密事項……番組で流れることはなかった……

というよりもこの中の誰もが知らないことなのだが……

 

「ちょっとちょっとぉ、イギリスのティアーズ型に対してはコメントないのぉ!?現在適正Aランクで専用機持ち、国内のIS学園にいるセシリア・オルコット氏に対して失礼じゃないですか?オルコット氏のあの優雅な佇まい、ナチュラルブロンドとあのISスーツで強調された肢t」

 

「北澤さん、ちょっとそれ以上はスポンサーからクレーム来るんで自主規制でお願いしまーす」

 

この番組の看板格北澤さん……男性視聴者への根強い人気を誇る……

そもそもISの番組自体男性人気はないものの……この番組は政治的な話……

あとは北澤さんによるISスーツの解説……代表候補生の紹介等……

それらが特殊な人気を果たしている……セシリアもまた……

この番組の割かし人気……よく話題にのぼるのであった……!

 

「ほんと北澤さんはちょっと見るところっていうかさぁ。いっつもそれですよねぇ、ほんとISスーツの詳しさには水をあけられますよ。で、別に僕にティアーズ型を貶める意図はないんですよ。ただ、氏も言われた通りの適正、やっぱりこれが問題っていうか」

 

「っはぁー、ロマンが分かってないっていうか、もうほんと。久しぶりに切れちまったよ、スタジオの外出ろよ」

 

「あ?統合防衛計画っていうことの重要性、それに求められる要綱も理解できない輩が偉そうにしやがってよぉ、表でろや」

 

そして、非常に血の気が多く……よく乱闘騒ぎが発生する……

このフリーダムな感じ……それがまた妙な人気がでる一要因でもあった……!

 

「はい、えー、まことに見苦しい場面をお見せしてしまい申し訳ありません。みなさんお馴染みの放送事故、いつものように議論に熱くなってしまいます両氏ですが、ISに対する知識、見解には優れたところがあることをご理解ください。では、その時ISが動いたのコーナーでした、今後ともお楽しみに!次のコーナーは……」

 

コーナーがこのような放送事故で終わるのが……これまた不思議と癖になるのである……

 

そして、そんな番組が放映されていた日……それは……

シャルル・デュノア改めシャルロット・デュノアの再入学の日である……!

 

「みなさん、今日は転校生、と言ってもご存知の人を改めて紹介しますね。ニュースなどで知っている人も多いとは思いますが、温かく迎えてあげてくださいね。では、デュノアさん。入ってきてください」

 

真耶の掛け声とともにデュノア入室……!その顔には緊張の色が強い……!

 

「シャルロット・デュノアです。訳あって、男性操縦者として入学してきましたが再入学して、女性としてみなさんと過ごさせてもらいます。騙すような形になってしまってごめんなさい」

 

本当は騙していたが……建前としてこう言わざるを得ない……それは辛いことであった……

 

「大丈夫だよー、ニュースみたもん!」

 

「最低だよね、実の娘にそんなことするなんてさ」

 

「気にしないで、デュノアさん!」

 

「みんな……みんな、本当にありがとう……」

 

皆の温かい心に触れ涙ぐむシャルロット……!大団円……円満解決……!

 

 

???

 

「今回の事、あの織斑千冬がすべて、裏で糸を引いたと思うかしら?」

 

「彼女の事を侮るわけではないが、気質は武官であって文官ではない。あのような策を思いつくとは思えないな」

 

「そうよねぇ、誰なのかしらねぇ。ぜひ私たちの仲間に加わってほしいわ」

 

「とはいえ、そいつに関係あったのかどうか、それは不明にしても行動からみて、我々の活動を受け入れるタイプではなさそうだがな」

 

「そうでなければ、いずれ消さないといけないわね。だれかもわからないけど、惜しい才能ね」



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準膳臨海編
カイジ、諦語……!


デュノアがシャルロットとして……再入学を果たすまで……

カイジが一夏を殴り飛ばしてから2日が経過していた……!

普段は一夏が呼びかけ……それにカイジが適当に返す……

しかしこの2日は不気味なほど静か……どちらも互いを無視……

元よりカイジから一夏に話しかけにいくということもないのだが……

周りも騒ぎ立てない……どちらも動きを見せない以上……藪蛇を突きたくはない……!

 

一夏としては自分が疑った……それが初め……暴力を振るわれたにせよ……

自ら謝りに行く必要がある……少なくとも相手の動きを待つばかりではない……

そう考えてはいるのだが……動けない……その足が向かない……!

3人で話をした時にカイジから言われた言葉……それが足枷……

千冬に言われたことを理解し……そして、カイジが言っていたことに思い当たる……!

事項に対する理解……千冬への相談の提言……そしてなによりも……

千冬へ迷惑をかけないことを……デュノアの命より優先したという指摘……!

全てが千冬と同じ次元……内容に達していたということ……!

今まで千冬に学んできたのは自分なのに……既に理解していたのはカイジ……

なぜ、デュノアを見捨てたカイジが……自分よりも千冬に近しいのか……

なぜ、そのような理解を持ちながらも……薄情な相手に自分から謝りに行くのか……

それらの思考が彼の動きを止めた……!

 

一方カイジは元より自分から謝る気などさらさらない……!

対外的に見れば当然悪いのは自分……急に暴力に走らずとも冷静に説得……話し合い……

人には口が、言葉がある……それらを使わないのは野蛮な……野生児の行い……!

それを考慮すれば自分から謝りに行くこと……それが常道……普通……常識……!

が、このまま不仲でも自分に困ることはない……今となっては危機感も薄れているが……

千冬に初めに言った言葉……後ろ手にナイフを隠しながら、仲良くはできない……

それを忘れたわけではない……表立って争ったりもしない……とも言ったのだが……

そんなことは都合よく忘れているカイジであった……!

 

そんな二人故にお互いに歩み寄ることもなく……ただ時が過ぎていき……

デュノア再入学の日に至ったのである……

この日の太陽もまた夕暮れに沈み……みな寮へと帰宅していく……!

 

そんな中デュノアに呼び止められるカイジ……内容は部屋に来て欲しい……

何か考えたことでもあるのか……大人しくデュノアの部屋へ向かうカイジ……

デュノアは正式に女性として入学……寮も一人部屋へ移行したのだ……!

 

「何か用か……?今日は……織斑はいないのか……?」

 

「え、えと、二人で話をしてみたくて、迷惑だったかな……?」

 

「別に、奴がいるよりは話しやすい……話の腰を一々折られるのは、面倒だからな……話の内容もずれていくし……」

 

恐らくはデュノアもそう考えたのか……あるいは、一夏を入れては話せないことか……

 

「そ、そっか……ごめんね、一夏も僕の事を思ってくれて話してくれてるんだけど」

 

一夏を交えて三人で話した時……あの時点ではカイジにも手立てはなかった……

逆にあそこで変に協力していたら……案を思いつかなかった可能性もあったかもしれない……

 

「(それで、いいのかよ……お前の人付き合いに首を突っ込むつもりは……ないけどな……)そうかい……で、本題、要件を言えよ……」

 

「その、要件っていうか、ただお話をするっていうんじゃ、だめかな?」

 

「……お前と俺で何を話すって……?ねーぞ、共通の話題なんてなんにも……」

 

「あるんじゃないかな、僕の事……織斑先生は伊藤君が関わっていることを否定してたけど、どうしても腑に落ちないんだ、あそこまで状況が急激に動いたこと。伊藤君に話してから、だしね。そして、お前を助ける唯一の策だそうだ、って織斑先生は言ったんだ。どれだけの人が僕のために動いてくれたのか、それは僕には分からない。だから、分かる範囲だけでもお礼が言いたいんだ」

 

少なくとも簡単な事態ではなかった……自身の置かれた現状……

きっと多くの人が動いてくれている……そして、その中でも鍵となる人物……

最終的に助かる案を出してくれた……それをカイジだと考えていた……

 

「……色んな先生が関わってたんだろ……ニュースで言っていたような案を……思いつける人間がいたって……別におかしくないだろ……」

 

「うーん、それだけだとフランスがそこまで弱気にはならないんじゃないかなって。僕が薬物投与なんてされてないのは分かってるんだから、IS委員会での検査を挟めば、学園側が嘘を言ってることになる。生徒の証言をかきあつめてもいいだろうしね。でも、そうはできなかった。結果としては女性が男性になってしまった、だけならデュノア社を同じように潰して、僕がスパイであることは言い逃れできないから僕を逮捕する。バレたときの手立てとして、それを用意してたはず。だけど、それをしようとすればフランスにとって、もっと致命的な何かが明らかになっていた、いや、されていたっていうべきかな」

 

状況から逆説的に推論を立てたデュノア……結果がありきで組み立てができるが……

それでもその勘働き、論拠の選別……それらは高度な域に達していた……!

 

「(こいつ、存外考えているというか……別に織斑に依存しなくても……自分だけでなんか手……考えればよかったんじゃないのか……?というか、織斑にすべて話したのって……織斑先生のことも考えての事だったとか……深読みしすぎか……?)そんな陰謀論みたいなこと言ってどうすんだよ……全て憶測、仮定の話……意味ないって……」

 

カイジにとっては不思議であった……一夏にはひとまず黙っていてもらうか……

あるいは協力してもらったにせよ……いわば隠れ蓑にして利用……

稼げた時間でとにかく……頭を回せばよかったのではないだろうか……

 

「僕にとっては、重要なことだよ。それにこれは、十分に陰謀と言えるものだった。デュノア社はたしかに大きな会社だった。そして、僕を洗脳したとか薬物投与をしたなんて事実はない。それは伊藤君なら分かってるでしょ?その事実を作れるのなんて、もうフランス国内じゃ、フランス政府以外無理。あれは国家ぐるみの陰謀だった」

 

事実を知らない……ただニュースを聞いただけ……それならば信じる……

単純にデュノア社の陰謀……例え難しい所はあったとしても……

否定しうるだけの材料はまず手に入らない……フランスが落とし処とした所以……

 

「確かに、そう言われてみればそうかもな……つまり、デュノア社は陰謀の犠牲になった、と」

 

「そういうことになるかな。それで、僕はどうしても、お礼を言いたいんだ。流されるままに過ごしていた僕に、手を差し伸べてくれた人がいるなら……どう考えても、僕には自分が助かる方法を考え付かなかった。でも、あの時伊藤君に嘘をつかずに本当のことを言っていたら、ここまで事態が発展する前に助かったのかもしれないって。そういうことも最近は考えるんだ」

 

「結果的には助かった、仮定の話をしてもしょうがない……お祈りの結果さ……あそこで話したとして、一生徒の俺に何が出来るって……?」

 

「ふふ、それこそあの時話していれば僕がスパイする時間はなし、今回のようなデュノア社を尻尾切りするだけで済む、って伊藤君が考え付いたり、その場合僕が学園に残るのは無理だろうけど。あと、伊藤君はボーデヴィッヒさんの事を救ったじゃない。あの時零落白夜が一夏の言う通りの代物なら、それでも助かったかもしれない。だけど、あの時結果的にボーデヴィッヒさんの事を救ったのは伊藤君だった。そして、セシリアのことはあれだけ邪険に扱うのに、ボーデヴィッヒさんにはそうしないのも、気になってね。そして、VTシステムは僕も知ってる。ボーデヴィッヒさんに何も追及がいかないような、そんな生易しいシステムじゃない。そして、VTシステムが収まった後、伊藤君がなにやら織斑先生に話をしていたよね。あの時、舵を握っていたのは伊藤君だった。織斑先生じゃなくて、ね」

 

当然あの場にいた当事者はそこを見ているだろうが……

人によってはただラウラの安否について……それの確認の会話……

そう見えたものもいるかもしれない……事実、デュノアもそうであった……

しかし、後から思い返していくと不自然……違和感が拭えなかった……

 

「(話を誘導された……?本当によく周囲の見える奴だ……知識もある……それ故に自分が色々と……行動するのをためらったのか……?自分が動くことによる影響や……織斑のことを考えて……そして、俺に急に話す気になったのも……VTシステム事件の時のことを見ていたからか……)あの、織斑先生が……俺がしゃしゃり出るのを許す、って……?」

 

「この前の授業の事、忘れたわけじゃないでしょ。コアバイパス……あれは、僕があの時やろうとしてたこと。あそこで伊藤君があんな反応をしたことも僕の気掛かりなんだ。そして、なんて言ったか覚えてる?話を続けろって、命令したんだよ?あの織斑先生に。みんな気が気じゃなかったんじゃないかな。普通に出席簿アタックが飛ぶかと思ったら、そのまま流して授業を続けるし、驚いたよ」

 

「(あの時は頭回すのに集中してたからな……それにしてもこいつは名探偵かよ……追い詰められていく気分だ……そしてこのことに関しては……どうにも言い訳が立たない……機嫌が良かったんだろ……とでも言っておくか……?いや、こいつには通じない……)そんなことも、あったっけな……」

 

「だから、ね……あの時は嘘を言ってごめんなさい……そして、ありがとう。本当に、ありがとう……」

 

それまでは平然と……話していたように見えたデュノアであったが……

ぼろぼろと大粒の涙を流しながら……お礼を言う様子に流石に口を閉ざすカイジであった……

 

「僕は、もう、ね。自分の知らないところで色んな陰謀が動いて、巻き込まれるのだけは嫌なんだ……いや、怖いんだ。ボーデヴィッヒさんのことだって、担当官と会話をしてコアバイパスを行うことになった。僕はそれを疑うことなく実行しようとしたけど、あの時伊藤君が止めてくれなくて……もし一夏があの場の解決者になっていたら、今頃彼女はここにいないんじゃないかって、そう考えるんだ。良かれと思ってやったことが全て操られてて、陰謀の片棒を担がされてたんじゃないかって。そして最後は、好きな時に糸を切られて動けなくなる、そんなことはもう……」

 

デュノアはとても深いところまでたどり着いている……そう感じたカイジであった……

 

「……悪かったな、薬物投与に洗脳なんて……それ以外の策はなかった……お前に責任を行かせないためには……フランスに何を言ったかは知らなくていい……色々脅迫をかけるしかなかった……織斑先生の事は、悪く思うな……俺が脅しをかけてたからな……(俺がラウラのために動いた……フランスを脅迫した内容……それを言ってしまえば……ラウラの闇にまでデュノアは……嗅ぎ付けるかもしれない……真実は花の下だ……)」

 

ここまでたどり着き……謝罪され、感謝されてしまっては……はぐらかしはできない……

デュノアはただ流されて……何も考えていなかったわけではないのだ……

それを知ったカイジがデュノアに見せられる……真実こそが誠意の形であった……!

だが、折角平和になり……花の咲いた地の……過去を掘り起こす必要はない……!

 

「伊藤君がそういうなら、もう聞かないよ。知るべきでないこと、なんだろうから。それにしても国家すら脅迫するんだもん、織斑先生でも身動き取れなくて仕方ないよ。ありがとう、ほんとのこと言ってくれて。薬物投与くらい、僕が辿るはずだった未来に比べれば……」

 

これだけ頭が回るのなら……単純に殺されて消されるほうが……楽だったと言える……

そんな未来についても頭が回るのは……明白であった……!

 

「まぁ、考えてみればお前も……命を屁とも思わないような連中の……食い物にされてたんだよな……まぁ、もういいか……そうだ、ラウラと仲良く……してやってくれないか……?不器用な、平和な生き方も分からない……そんな奴だけど、悪い奴じゃないんだ……」

 

「ん、わかったよ。それくらいお安い御用さ。あと私はカイジ君とも仲良くできたらって、そう思うよ」

 

真実を知ったデュノア……闇は晴れた

 




次話はようやくセシリアにとってはデート回ですよ!


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カイジ、交友……!

週末……セシリア、カイジお買い物……!デート……羨ましい……!

しかし、カイジ……いつもの緑のシャツに黒ジャンパー……おしゃれっ気ゼロ……!

比べてセシリア……白いワンピースに薄手のピンクのフリース……

日除けに青いリボンのついた帽子……オシャレ……清涼感あふれる美少女……!

道行く人が不審がる……並んで歩く姿に疑問……!

 

「もうカイジさんたら、淑女を待たせるなんて紳士の風上にも置けませんわよ」

 

レゾナンスへ最寄駅から歩いて向かう二人……ぷん……ぷん……と怒るセシリア……!

 

「いや……俺、紳士って柄じゃないし……それに、ちゃんと5分前……5分前行動……時間は守ってる……!」

 

カイジは本来なら遅刻していたはずだが……それを許さないのが同室者、布仏……

休日はお互い惰眠を貪り……朝遅く起きるのが通例……

布仏は眠りながらも……カイジのベッドにフォークを突き刺していたという……

 

「紳士でなくても、男性ならば女性を待たせないよう、30分は前についておくべきですわ。わたくしですら15分前には来ていますのに!すっぽかされたかと心配しましたわ」

 

セシリアも相手に要求するだけのことはあり……時間ぴったりではなく……

自身もちゃんと早めにつく……そういった行動は心がけていた……

 

「約束は守る……ほら、もう行こうぜ……今更言っても仕方ないだろ……」

 

「もう仕方ありませんわね……今日は臨海学校のために色々買って回りますわよ」

 

今日の買い物……それは臨海学校に向けた準備のため……

主目的は水着……カイジに選んでもらうため約束を取り付けたのだ……

 

「……あ?臨海学校……?なにそれ……」

 

「まぁ、把握されてないんですの!?」

 

当然驚くセシリア……学生ならば皆楽しみにするはずの泊りがけの旅行……

 

「(ISバトルは存外楽しめる……金は賭けていなくてもそれはそれ……自身の命のこともあるが……純粋に勝負事は楽しい……そして勝負事以外、特に興味が沸かない……)悪いな、忙しかったんだ……で、なにすんの……?」

 

「校外実習のようなもので、企業などの各種装備のテストを領海内で行うのですわ。自由行動日もありますから、その時は自由に遊べますわよ」

 

「(自由にっつっても、臨海学校……ていうことは海だろ……俺にとっては完全に鬼門……抜け出して競馬場にでも潜り込むか……監視が厳しいよなぁ……)そうなの……それにしても学生がやることかね……装備のテストなんて……」

 

競馬場に潜り込む……そもそもまだ未成年だぞカイジ……!

 

「将来的にはIS関連の仕事に進むことになりますから、そのことを考えたら悪くはない経験だとは思いますわよ」

 

「ふーん、そういうこと……まぁ使えそうな装備の発見には……なるかもな」

 

「そうですわね、カイジさんは色々と奇策を思いつかれますから。とはいえ、専用機の武装もあるわけですから、難しいこともあるでしょうけれど」

 

「(装備は取り回しに難はあるが、AICにも有効で俺のAFCにも干渉しにくいのが一本、あとは腕部の砲、あれはモーションがでかいんだよな……凰の衝撃砲に近いものがあるが、丸わかりっていうか……AFCの直接攻撃使用は……俺の集中力では……厳しい……)まぁ、拡張領域に二本くらいは、後付装備できるから……自分の弱点を補ったり……策に使えるものを探すくらいか……」

 

現状の自身の専用機……後付け装備なしでは決めてに欠ける状態である……

 

「いつか、模擬戦をしてみたいですわ。来週にどこか都合があれば、してみませんこと?」

 

「(AFCはレーザーには、弱いんだよなぁ……あと遠距離機にも……)そうだな、俺も早めに……専用機の動きに慣れる必要がある……!」

 

特殊兵装AFC……AICと同じくエネルギー兵器には弱い……

実体弾相手には特異な使い方ができるのだが……

 

「約束ですわよ。さて、着きましたわ!」

 

「(水着売り場……考える限り最悪のパターン……)あ、あぁ……女性物の売り場に入るのはまずいから……外で待ってるよ……」

 

「あら、なんでついて来てもらったと思っているんですの?選んでもらうためですわよ?」

 

当然、カイジが外で待つことなど許さないセシリア……

女性がわざわざ買い物に誘い出し、水着売り場へ来た……

となれば当然、求められる……意見……評価……判定……!

 

「(無茶を言うな……俺の私服を見ろ……センスなんてない……!しかも、女性物の水着……無理……無縁……俺には……)いや、いいのを選んでやれる自信ないし……恥をかくぞ……」

 

「カイジさんが、いいと思ったものを言ってくれたら良いのですわ。でも、適当に返事するのは許しませんわよ」

 

「……分かったよ……セシリアには射撃訓練で世話になってる……ちゃんとするって……」

 

「……いまはそういうことで構いませんわ」

 

セシリアとしては当然納得がいかない返答……しかしこれはいつものこと……

今ここで強くいったところで変わるものではない……諦めつつあるセシリアであった……

 

水着試着~感想シーンはカット……!挿絵もなしにそんなこと……狂気の沙汰!……

というか描写能力がない……!童貞丸出しの水着の如く……構造など知らない……!

 

そして幾着目かの試着を終えたところで……カイジ、当然疲労……

 

「疲れた……一体何着目なんだ……ちょっと休憩……後で再開……!」

 

そう言い、ささっと逃げていくカイジ……だが、しかし……捕まる……!

 

「ちょっとそこのあなた」

 

「……あ?」

 

「男のあなたに言ってるのよ。そこの水着、片付けておいて」

 

声をかけてきたのは見ず知らずの女……初対面……!女尊男卑の風潮が作り出した象徴……!

 

「……分かった、片づけとくから……とっとと行きなよ……」

 

「ふん、自分の立場分かってるじゃない」

 

そう言いながらも、どこか不満げな女……しかし、相手が従った以上立ち去るしかなかった……!

その場面を影から見つめるセシリア……安易に出ていっていいものか……悩んでいた……

 

「どうして、何も言わず従われましたの……?」

 

「みっともない、って思うか……?」

 

「いえ、そういう訳ではありませんが、不思議に思えまして」

 

カイジのこと、考えがあってのことだと思うも……どこか解せない表情のオルコット……

 

「波風立てない……そういうやり方……それに、見てろ……あれを……」

 

水着を片付け終えたカイジ……女性の立ち去った方に目を向ける……

どこかイラついた表情で歩く先……そこにはトレーに食事を載せて歩く男性店員……

その店員へとぶつかる女……明らかに自身からぶつかっていった……それは明白である……!

 

「自分から、ぶつかっていきましたわね」

 

「明らかに、そういう輩……逆らえばどうなるか分かったもんじゃない……セシリアが出てきてくれれば……俺は反抗してても……恐らく無事……安泰……でもそれは、なんていうか卑怯……自分が助かる……そういう前提での行動……虚勢……俺は一人の時と……同じ行動を取った……それだけ……」

 

ぶつかられた男性店員はひたすら謝っている……店員であることを考えれば……

誰しもがそうするところではあるが……どうみても理不尽な状況であった……!

聞こえてくる言葉からは……弁償やクリーニング代など……

自分の非は一切認めぬ……厚顔無恥な行動と言えた……!

 

「……情けない世の中ですわ……っと、あの男性を助けに行かなくてはなりませんわね」

 

「(あいつ、よく見たら三好じゃねぇか……こんところでなにやって……って、バイトか……運がないっていうか、なんていうか……)先に俺が、行く……あいつ、顔見知り……あとから、出てきてくれ……!」

 

「……?分かりましたわ」

 

セシリアをその場に残し、カイジは騒動の場へ近づく……

尚も謝り続けている三好……縮こまり哀愁を漂わせる姿となっていた……

 

「なぁ、ちょっといいか……?最初から見てたけど、ぶつかっていったのはあんた……思いっきり真横からタックルするみたいに……店員なら周囲を見て歩く……それは必要かもしれないけど……流石に理不尽……今さっきのは……!」

 

「カ、カイジさん……!?」

 

声をかけてきた相手を確認し……つい名前を呼んでしまう三好……!

 

「(やっぱり……これだから……ったく……)馬鹿、三好……!」

 

「な、なによあんた……さっきの男じゃない、今度は逆らうっていうの!?ていうか知り合い?だから庇ってるんでしょ、あることないこといって。身の程をわきまえなさいよ!警備員を呼ぶわよ!」

 

「(やっぱり、こうなったか……セシリア、来てくれ)」

 

当然、こうなる……相手が知り合いなら……庇っていると難癖をつける……

カイジは女に見えないよう手招きをする……やはり一人では土台無理……

 

「あの、よろしいかしら?」

 

そう女性に声をかけるセシリア……完全に初対面を装う……

 

「あら、あなたも見てたんでしょう?この男たちが私を嵌めようとしていたのを!証言に協力して頂戴」

 

三好からは絶望の光景……セシリアも女尊男卑は捨てたとはいえ……

ある種高飛車な……お嬢様然とした風貌は変わらない……

この場で現れて自分たちの味方なわけがないのである……!

一方女は我が意を得たり……水を得た魚……といった様相である……!

 

「少し恥を知るべきですわね。最初から見ておりましたが、あなたの非は明らかでしてよ。衝突事にどっちか一方だけが悪いということもないですけれど、あなたのほうに非はありましてよ」

 

「な、なんですって?」

 

援軍……しかし誤射……いや、偽……援軍と見せかけ……実は敵……!

 

「警備員を呼ぶのならお好きにしてください。イギリス代表候補生、セシリア・オルコットとして、この男性を弁護致しますわ」

 

「っな、あなた、代表候補生なんて……なんでISを動かす女性が、こんな男の味方をするのよ!」

 

「逆にISを動かせそうにもないあなたが、そこまで男性に偉そうにしているのも滑稽ですわね。ISを動かしている女性がすべて女尊男卑などという、愚かな考えはお捨てなさいな。さぁ、どうされますの?」

 

これはどうにも不思議なことである……どうあがいても力そのもの……

訓練でもしていなければまずまず敵うべくもない……

しかし、制度に守られた彼女たちは……そんなことを意に介さなかった……

 

「わ、わかったわ。私が悪かったわよ。それじゃあね」

 

流石に相手が悪い……周囲の空気もセシリアが出てくるまでは……無関心……

触らぬ神にたたりなし……そういう様相だった……だが、それも変わりつつある……!

悔しそうにしながらも……早々に立ち去っていく女であった……!

 

「謝罪をし忘れてますけれど、そこまでしたらこじれますわね。ねぇ、カイジさん?」

 

本来ならあの女性にも必要……謝罪……だがあの手の女が頭を下げるなど……

そうそう容易いことではない……当然こじれることになるのだ……

 

「ありがとよ、セシリア……俺だけじゃ、やっぱりどうにもならなかったな……」

 

「か、カイジさん、これって……?」

 

「まぁ、助かったってこと……で、オルコットは俺の連れ……いや、逆か……?まぁいい……それにしても、お前……どんくさいっていうか……呼ぶなよ、俺の名前……!知らんぷり……初対面……!そういう体にすりゃ……もうちょっとましだったろうに……」

 

しかしこれは半ばカイジの予想通り……セシリアと一緒に行けば……

セシリアごと知り合い判定されかねない……

それでもセシリアがいれば問題は大きくならなかっただろうが……

 

「す、すいません、カイジさん……あ、あと、ありがとうございます」

 

「俺じゃねぇって……礼を言うべきなのは……こっちのオルコットにだ……!」

 

セシリアが一人の時にどうしていたか……それは神のみぞ知ることだが……

カイジがいなくてもこのように動いたことを望むところである……!

 

「あ、そ、そうでした。本当に今回はありがとうございました……あなたがいなかったら僕、どうなってたことか……!」

 

「構いませんことよ。あれも女性とISが作り出してしまったものですから。あなたもお気をつけになってくださいまし」

 

「て、天使……いや、女神……め、女神様だ……!」

 

「さすがにそれは持ちあげすぎて恥ずかしいですわ!もうよいですから、頭をお上げになってください」

 

今の世の中……あの状況で、救いの手……まず差し伸べられない……歪んでいる……!

そこに舞い降りれば……だれもが天使……女神に見える……!そんな世界……!

 

「は、はい。でも、ほんとうに、ありがとうございました。あのまま騒ぎになってたら首になってたかもしれませんから……」

 

「仕事、ちゃんと頑張ってるんだな……三好……!」

 

みんな三好並びに45組の面々の年齢……それはわざわざ聞かないで欲しい……

そんなところの設定など一々考えたくもないのだ……!

例え不自然でも受け入れてもらうしかないのである……!

 

「はい、あ、僕の働いてる店、すぐそこのフードコート……ピザとかイタリア料理扱ってる店なんですけど、良かったらぜひ寄って行ってください……!サービスしますから……!」

 

「あぁ、昼飯はそこで食べさせてもらう……もう行った方がいいぜ、三好……!」

 

「はい、待ってますから、必ず来てくださいね……!」

 

そう言い、三好は仕事場へ……後に残る二人……!

 

「こんな、当たり前……一昔前までは、あそこで誰かが救う……いや、そもそも、こんなこと……起こらなかったってのに……これが普通になっちまった……嫌な世の中だぜ……」

 

例えどのように不合理なことであっても……女性を相手にしていては自らも泥をかぶる……

リスクに対しての見返りは自らの心を満たすのみ……本来人助けとはそういうもの……

利を求めて行うものではない……故にそのリスクが高まれば……人は尻込みするものである……

そして特にそのリスク……それが自らの社会的地位を危機に晒しかねないのだから……

 

「全くですわね。それでは買い物の続き、水着はいいのが二つ見つかりましたから、決めていただけますこと?それが終わったら、先ほどの三好さんのお店でお昼にいたしましょうか」

 

「いや、休憩できてな……」

 

「……♪」

 

黙ったまま手を繋ぎ、引っ張っていくセシリア……カイジに抵抗するすべ無し……!

 




デートなのに全然いちゃいちゃしてない?カイジにとってはお買い物だから……

そういえば8巻に「私たちは何をしているんだ……。守るべき生徒達に戦わせて、私たちは……」とかいうセリフにさらには子供を戦場に立たせるなど、どんな事情であっても許されないとか書いてあったんご。君たちが福音戦でしたことを僕は忘れていないよ……!


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カイジ、初陣……!

カイジが専用機手に入れてから何話経過したでしょうか?


IS学園第3アリーナ……そこで向かい合う二人……カイジとセシリア……

今日は前に約束した……カイジが専用機を得てから初めての模擬戦……!

 

「(あれがカイジさんの専用機、シュヴァルツ・ヴァルト……黒緑色のカラーリングに右腕にはEN・実弾二連装ガトリング、両腕についているバレルは圧縮破砕砲とありましたわね、あとは近接武装を一本格納。それにしてもあの大きなバレル、一体どのような武器なのかしら)それでは、お願いしますわカイジさん」

 

「(AFCはレーザー相手の防御には意味をなさねぇ……なら、圧縮破砕砲で何かできないか試してみるか……こいつ自身の性能を確かめるため……後付け武装は一切積んでいない……)あぁ、いつでも……いいぜ……!」

 

睨みあう二人……まずはセシリアより射撃……初戦の時は無様に当たったもの……

初戦の際、当たるのが作戦であったが……元より避けきれなかったのである……

 

「(反応はやっぱり打鉄より早いな……しかし、狙撃とBTに対してガトリングじゃ……取り回しにも命中にも難があるな……けど、これは模擬戦。今のこの機体で出来ることの模索、それが肝心……!)」

 

流石に、今となっては当たるべくもなく回避……機体の性能も第三世代型としては並だが……

さすがに訓練機の第二世代型とは比べるまでもなかった……!

 

「(距離を保っていれば、ガトリングはやはり脅威ではないですわ。ただ、常に弾幕を張られていると、攻撃の機会が減りますわね。さて、BTを出しましょうか。昔のようには行きませんことよ、対応できますかしら?)お行きなさい、BTたち」

 

「(っぐ、やっぱり、BTに周りを飛び回られると弾幕張ってる暇もねぇ……!それに、完全には足は止まらなくなった……!戦闘機動というにはほど遠い……しかし遠距離だとそれでも十分回避に繋がる……!AFCではやっぱりBTの軌道は変わらない……)っち、距離を少しでも詰めてから圧縮破砕砲とAFCだ……!」

 

装備の相性が全体的に悪いと感じるカイジ……後付装備で対応させざるを得ない……!

自身は中~近距離タイプであり……遠距離への攻撃手段は乏しい……!

近づこうにもそう易々と距離は詰められない……セシリアは遠距離機として……

当然近接されないための機動を取り……BTも距離を詰めさせないよう弾幕を張る……

カイジに弾幕を避けることは出来ても……距離を詰めきるのは無理であった……

 

「(どうにかして距離を詰めようとしている……ですが、わたくしもそこまで甘くはなくってよ……あら、左腕のバレルが動きましたわね、何かが来る、のかしら。構造からして腕を向けた方向の直線上に攻撃が飛んでくる。でも、カイジさんがそこまで真っ直ぐ来るとは思えませんわね……というよりはそれだけだったら、腕を思いっきりこちらに向けてくる以上、回避は難しくない。とりあえずは、腕の直線上だけは避けると致しますか)新しい武装ですのね、楽しみですわ」

 

「(こいつの原理自体は単純……基本は内部の超圧縮した空気を飛ばす……鳳の衝撃砲と似ている……だが、中に詰められるものが液体でも気体でもいいってところ……後は溜めた状態でも動けて、すぐに打つ必要もない……そして、これからが実験……AFC次第で変化……その軌道……!!)発射……!」

 

一度引かれたバレルが勢いよく打ち込まれる……!

 

「(確実に射線上からは離れていますが、っく、強烈な風……!?やはり、内部の圧縮した空気を打ち出すもの。しかし、この距離で完全に射線を外していてこれとは……)直撃したらまずいですわね……」

 

自身がいま感じた突風……射線上からの余波とすれば……かなりの威力である……!

とはいえ、カイジ……AFCによって本来の軌道を曲げ……セシリアの元へ向けたつもりである……!

 

「(だめだ、俺のAFCで作った弾道……軌道……砲身の強度が持たねぇ……!途中で明らかに分散してやがる……!だが、腕の直線上なんてまず相手も乗ったりしない……!密着すればパイルバンカーのように打つこともできそうだが……セシリアの反応を見る限り、代わりに使ったらやばいんじゃないか……?制限をかける必要があるかもな……)そうそう、うまくはいかねぇか……!じゃ、次の手……!」

 

明らかに失敗した破砕砲……無理やり軌道を曲げようとし……

本来の威力より劣っている……しかし、セシリアは驚きの表情……!

もしパイルバンカーのように接地して発射……そんなことをすればどうなるか……

想像もつかないカイジであった……!

 

「(また、ガトリングを取り出した。って、空中に浮いてますの!?どういう原理で……)まるで、手品ですわね!とはいえ、体が止まってますわよ!」

 

「(っうぐ、きつい……手をイメージして持たせることはできるが……狙いをつけるなんてのは……まだ無理だな……!てゆうか、俺が動けねぇ……!っげ、射撃、避けないと……!)っち……あっ、落ちちまった……!」

 

レーザーを避けたが当然集中を切らす……AFCで作り出した力場は雲散霧消……

その力場に支えられていたガトリングは落下……

 

「(AFCとやらで、あの武器を持てる何かを作り出していた……ですが、かろうじて射撃ができるくらい、狙いはまだつけれそうにありませんでしたわね)集中力が切れると、その手品もとけるようですわね」

 

「(もう近接武装と破砕砲だけか……手詰まりもいいところだが……最後に、破砕砲を自分の推力として使ってみるか……!)まだ、使いこなせなくてな……!最後、一発付き合ってくれよ……!」

 

実際のところ武装は少ない……AFCを自在に操れれば戦術の幅も増える……

しかし……第三の手として使うには……まだまだ難しい状態であった……

 

「ここから打てる手があるのでしたら、どうぞ!ですが、手加減は致しませんわよ!」

 

先ほどまで静かだったのが噓のように……雨あられとレーザーが振り始める……!

 

「(俺がAFCに集中する時間をくれてた時点で……手加減みたいなもんだがな……!しかし、機動性も旋回性も高い……打鉄じゃハチの巣だ……!今もそんな変わんねーけど……見えた……!)ここだ……!」

 

「(両腕部のバレルが動いたけど、手がこちらに向いてない。まさか……!?)」

 

気付くと同時に動くセシリア……カイジ、瞬時加速を超えるほどの加速……爆速……!

しかし、当然制御利かず……狭いアリーナではその突進は仇……!

一瞬にしてセシリアの傍を掠め……目の前に迫るのはアリーナの防壁……!

 

「っぐ、腕部を掠めましたわね。しかし、カイジさんは思いっきりアリーナの防壁に突撃をかましましたわね。大丈夫かしら……?」

 

「っぐぅ、いってぇ……この狭さで使うのは自殺行為……もう、やらねぇ……いや、出力の調整は可能か……?あと片方だけなら左右の急加速……使い道は、あ、るか……」

 

その言葉を言い切ると共にカイジ……衝突の衝撃で気絶……!

 

「カ、カイジさん!?大丈夫ですの!?」

 

急いでカイジに近寄り、落下を受け止めるセシリア……逆だ、逆……!

セシリア・オルコットvs伊藤開司の模擬戦、伊藤開司自滅、しなくても、勝者セシリア……!

 

 




答えは15話。そしてここまで引き延ばした挙句、敗北。主人公が機体を手に入れて無双するかと思ったか?残念、そんなに甘くはない!

あと楯無さんようにちょっと過去編作成中。なかなか難航するでござるね、オリジナルストーリーは……


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カイジ、途切……!

途切れ途切れに……
とってもひさしぶりな鈴ちゃん、一夏への謝罪イベントの淡泊さ、ラウラとクラリッサの3幕


鈴の一幕……

 

カイジはラウラのために……次の友達を探す……

すでにあたりはつけてある……友達というより、謝罪すべき相手だが……

 

「カイジから呼び出すなんて珍しいっていうか、一体なんの用よ」

 

カイジに呼ばれた鳳……当然戸惑い……不明機事件から日にちは経ったが……

話すような機会もなく……苦手意識は払拭されていない凰であった……!

おまけになにやら一夏と喧嘩……カイジが殴ったとかなんだとか……

そして、カイジの後ろにはラウラ……!これまた、凰が一番に警戒する人物である……!

 

「用事があるのは俺じゃない……こっち、ラウラのほうだ……!」

 

「へ?どうしたっていうのよ。ていうか、雰囲気違くない?」

 

凰の知るラウラはまさに傍若無人……大胆不敵……!

それが借りてきた猫のようにおとなしい……最早不気味である……!

 

「それは気にするな。私はこの前の模擬戦の事を謝りに来たのだ」

 

「あんたから謝ってくるなんて、どういう心境の変化よ……ていうか、なにがあったのよ」

 

あの時ラウラが引いたのはあくまで……カイジに千冬の事を出されたからだ……!

それがなければ一夏が……無理やり入ってくるまで続いていただろう……!

 

「私は生き方を変えることに決めたのだ。師匠に教えてもらってな!」

 

「師匠ってそれもしかしなくてもカイジの事、だったりするわけ?」

 

「そうだ!師匠は俺の手を取れ、お前の未来を!と言ってくれたのだ。今は私の未来を私と共に探してくれているのだ!」

 

精神世界の中での出来事……カイジとしては差異のある部分を改めさせたいが……

そのたびにラウラの瞳が潤むため……最早諦めたカイジであった……!

 

「っぷ、はは、あははは。っはは、そ、それをカ、カイジが?そんなセリフを言ったわけ!?どんな状況よ。ていうか、キャラが、私の中のイメージが崩壊してるって」

 

ひとしきり笑いに笑う凰……カイジに対するイメージ……あの時救ってはもらったが……

どうしてもカイジの変化……行動……それに対する恐怖が先行していた……

また、ラウラも挑発され……ぼこぼこにされて……一夏とも不穏な様子だった……

故に当然苦手意識……むしろ親しみを感じれる面などなかったが……

それらが完全に崩壊……凰の中で音を立てて崩れていた……

 

「いやー、久しぶりに笑いすぎたわ。ごめん、ごめん。どうしてもあんたらに抱いているイメージと違いすぎて……もう、ほんと卑怯よ、こんなの。カイジが師匠って、ふふ、っあはは。そして、ラウラが弟子って」

 

「私にとっては大事なことだ、あまり笑われては気分が良くない!」

 

ラウラのことをカイジが精神世界で説得する図……!それは何も精神世界でなくとも……

意味不明な状況……凰が笑うことを誰が責められようか……!

 

「っん、んぅ。ごめんね、そう悪いわよね、人にとって大事なことをここまで笑っちゃ。まぁなにがあったかは聞かないわ。聞いても分かりそうにないし……で、この前のことだっけ。もういいわよ、私も2vs1で挑んで負けてはずいっちゃはずいしね。でも、もうあんな真似は絶対にしちゃだめだかんね!軽傷で済んだからよかったけど、場合によっては危なかったんだからね!」

 

「うむ、それは反省している。師匠にも怒られた。今後はもうしない」

 

「なら、もうかまわないわ。あとは、カイジ!あんたもあの時、不明機もラウラの時も助けてくれてありがとね、ほんと今更だけど。そして不明機の時のあんたがどうしても怖くってね……でも、今日のでそんな印象、全く無くなったわ!」

 

鈴の苦手意識は払拭された……カイジに対しても、ラウラに対しても……!

 

「そうか……まぁ俺もきつい言い方だった……謝るよ……で、ラウラ……これで友達三人目だ……!よくやった……!」

 

「うむ!謝罪とは大切なものだな、こうして友達が増えていくとは!」

 

「っふふ、やっぱり卑怯よ、それ!カイジのその雰囲気で……師匠なんて」

 

どうしても笑いを堪えられず……ひとしきり笑う鈴……!

 

「って、忘れてたわ。なんか一夏とあったわけ?人伝に聞いただけだけど、カイジから殴りかかったって聞いたけど?」

 

「ん……?デュノアのことでちょっとあってな……問題が起こる前日……色々とあったのさ……」

 

語尾を敢えて濁すカイジ……

 

「(問題がそれかぁ。さすがにあんま突っ込むわけにはいかないっていうか……何かあったにしても厄介ごとよねぇ。カイジが理由もなく殴りかかるとも思えないし、これ以上は藪蛇かしら……)そう、シャルル、いや、シャルロットだったわね。その事だったら私も無理には聞かないわ」

 

凰とて中国の代表候補生……男なのにIS知識の造詣が深く……

腕前も十分なデュノアには不審を感じていたが……そこは他国の候補生……

気軽に不審を口にすることもできず……流している面はあったのだ……

一応は男子同士3人……そこでなにがあったのか……無理には聞けない……

 

「そうしてくれると助かる……」

 

「ま、私もやりにくいから一夏とも仲直りしてよね!」

 

鈴としては一夏を優先したい……そうなるとカイジ、ラウラが一夏と不仲……

それは当然やりにくい場面が出てくるということなのである……

 

「考えとくよ、それじゃあな……」

 

「ではな!鈴!」

 

ラウラ……仲直り……増えた友達……鈴……!

 

 

一夏の一幕……

 

「織斑……この前の事で話がある……」

 

意外にもカイジから一夏を呼び出す……実際謝る気などなかったが……

カイジも無駄にアウェーな環境が作りたいわけでもない……

そして、ラウラに言われてしまった……悪いことをしたら謝る……

それが人の大事な、常識なのだろう!と……あの場で悪いのは自分ではある……

 

「な、なんだよカイジ。いきなり改まって」

 

「急に手を出して悪かったな……そのことを謝っておこうと思ってな……」

 

「いや、俺も教室でみんなの前でいきなり悪かったよ。でも、なんでいきなりあんな殴りかかったんだ?」

 

「お前の態度を見て、デュノアの事……お祈りは通じなかったんだと思ってな……それで、あの場で俺がデュノアの事で……何か悪いことをしたってなったら……みんながどう思うか、お前も分かるだろ……?」

 

「うっ、それは……」

 

一夏はあの教室で自身の言った言葉……それがどのような事態を齎すか……

流石に想像がいったようである……デュノアが消えるとともに何か問題があった……

そして、それを教室の面前で糾弾……つまりそれはデュノアが消えたのはカイジのせい……

そういうことになるわけで……殴ってでも止める訳であった……!

 

「ごめん、俺のほうが悪かった。殴られて当然だよな……」

 

「まぁ俺も口で伝えられれば……良かったんだけどな……口より先に手が動いちまったよ……これでお互い様ってことで、水に流そうや……」

 

「あ、あぁ、ありがとなカイジ。俺の方から謝りに行くべきだったよ……って、もう水に流すかこれは」

 

カイジ、一夏……その不和の原因は取り除かれた……!

 

 

ここは全く日をまたいだ別の日……ラウラの一幕……

 

ここはドイツ軍、シュヴァルツェ・ハーゼ……通称黒兎隊の訓練施設……!

クラリッサ・ハルフォーフの専用機、シュヴァルツェア・ツヴァイクに緊急暗号通信……!

 

「受諾。クラリッサ・ハルフォーフ大尉です」

 

「クラリッサか、私だ」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ隊長、どうされたのですか?」

 

突如としてかかって来た元隊長からの緊急通信……自然と緊張するクラリッサ……

ついつい癖が抜けきらず……前まで通りの呼び名になってしまう……

 

「む、うむ……とても重大な事態が発生していてな……」

 

「……まさか隊長の身になにかございましたか?」

 

表情は完全に戦闘状態のそれになる……訓練中の隊員にハンドサイン(緊急事態発生)……

それを見て当然ハーゼ隊員は集合……どのような指令にも対応できるよう待機……

 

「だから、もう隊長では……ラウラ、と気軽に呼び捨てにしてくれ。そもそも年下ではないか。そして、わが身に危険が迫っているわけではない」

 

「え、えぇ、しかし、元上官を呼び捨てにするのはどうにも難しいのです。ラウラ、殿。しかし、どうされたのですか?重大事とは」

 

危険が迫っているわけでもない……しかし、重大事、とは一体何事か……

 

「クラリッサ。その、来週臨海学校とやらがあるのだがそこで着ていく水着なのだが」

 

「水着、つまりラウラ殿を導いた『森のようなお方』に見せるための水着のことですね?」

 

森のような……そう言われて色々諸氏の考えはあるだろう……

私の中で言えば、泰然自若として構え……器量の広い……受け入れてくれるような人……!

そんな感じである……カイジに対してこのような表現を使った人間を……

小一時間問い詰めてやりたいところである……!

 

「そうだ。私にとって新しい道を示してくれた、師匠だ」

 

クラリッサとしては隊長であるラウラが除隊したことは……

それは寂しい気もするし……惜しい人をなくしたと思っている……

だが、ラウラのような少女が……軍事から離れ平和に過ごせるということ……

それは軍人として尊ぶべきことであること……それを分かっていた……!

そして、ラウラほどの……ドイツにとってはいわば危険人物に自由国籍権……

どのような取引があったのか……それは極秘事項になっていて知れないが……

取引の首謀者であろう『師匠』とは……最早畏敬の念を覚える相手ですらあった……

当然、シュヴァルツェ・ハーゼ内部でも……今持ちきりの話題、噂の種……

あの、冷徹、ドイツの冷水とまで言われたラウラが気に掛けている……

いや、どうみても好意を寄せている……当然気になるに決まっている……!

加えてヴァルト(森)という、レーゲン(雨)ツヴァイク(枝)を受け入れ……

そしてハーゼ(兎)の住処たりうる専用機名……!出来すぎている……!

最早興味を抱くなという方が……無理なものであった……!

カイジの株は知らぬところで……十数名の乙女たちから爆上げされていた……

 

「それで、水着でしたね。いまはどこにおられるのですか?」

 

「今、その水着売り場にいるのだが」

 

周囲の女生徒の会話……夏の海、それは女子にとって勝負……

ダサい水着なんて来たら一発でアウツ……致命傷……

それを聞いたラウラの足は自然と買い物へ……

しかし、店の前に辿り着き困る……こんな買い物はしたことがない……

 

「それは都合がいい!して、隊長はどのような水着を?」

 

「今私が持っているのは学校指定の水着だけだが」

 

「駄目です、それでは色物の域を出ません。マニア心はくすぐれますが、それだけで終わってしまう」

 

「そ、それでは、どうすれば」

 

ラウラとしても、流石に学校指定の水着……これではまずい、そう思いここへ来ていた……

だが、だからといって自分に合う水着……それが選べるわけでもない……

 

「私に秘策があります!」

 

読者諸氏には悪いが、この水着が出てくることはない……なぜかって……?

この小説に……挿絵、無し……!言葉で表す能力もなし……

よって、サービスシーン……カット……!

 

原作小説3巻かってラウラの挿絵見て悶えててくれ

 

 

 




これで準膳臨海編は終了、次は楯無お姉さんの過去編3~4話構成。その後に臨海編となります。うーん、どこに打ち上げ回いれようかなぁ……

楯無過去編を制作するにあたり、亡国企業は吐き気を催す邪悪みたいな存在になってしまいました。原作では正直亡国企業は目的やらなにやらさっぱり分からんやつらですが……そこのところはご了承ください。またこれに伴い、原作と繋がるようにですが独自展開が入ります(というか楯無の過去が描かれてないんだから独自以外ありえないんですが……)
そしてこの話を読む前に設定資料は読んでおいた方がいいかな、とは思います。この世界での更識家の立ち位置として、という意味合いで重要になりますので。


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鮮紅霧纏の淑女編
楯無の過去 上


 生徒会の部屋に設置されている一室、そこは楯無が更識としての仕事をする際にこもる部屋である。今はここの主と言える楯無が椅子に腰かけて、資料を眺めていた。

 

「ん?なんでこんな事件が私のところへ運ばれてくるのよ」

 

 更識家の情報部から送られてきた一枚の資料。そこには数日前に発生した行方不明の少女の情報が記載されていた。その内容は孤児院「箱庭の希望」から少女が一人行方不明となっているというものであった。まだ、事件という訳でもない。家出とも誘拐ともつかないものである。楯無としても義憤のようなものは感じるが、自らの仕事の領分ではない。これは警察の仕事である。大臣の娘が行方不明、ともなればテロ対策として自分たちが動くことになるかもしれないが、今回の内容は自分の職分に特に関連があるものとも思えなかった。

 

「でも、送られてきたからには何かがあるってことよねぇ。それにこの孤児院の名前、記憶に引っかかるものがあるのよねぇ」

 

 何だったかしら、と首をかしげつつも先へと読み進めていく。そこで気になる文字が出てくる。クレア・コリンズが週末によくこの孤児院を訪れていた、という記載。クレア・コリンズはIS学園二年生でアメリカ代表候補生、専用機持ち(ヘルハウンドver2.0)の学生である。

 

「IS学園2年生のクレア・コリンズさんが、と……通りで聞き覚えがあるはずだわ」

 

 更識家の役目としての日本に対するテロや破壊工作の対策部隊でもあるが、現在ではIS学園に関連した仕事が主になっている。その業務にはIS学園生徒でも特に重要性の高い専用機持ちの学外での護衛、監視といった内容のものがある。自国の候補生、コアではないにしても日本国内でそのコアが消えたとなれば、真っ先に疑われるのは日本である。その防止という観点でもあった。楯無自身がわざわざ彼女の外出の護衛・監視についたことはないが、資料に目を通すことはあり、その時にこの孤児院の名前を見ていたのである。

 

「ん~、なるほどねぇ。確かに嫌な事件ではあるわね。孤児院の子を誘拐したところで身代金目的にはならない。あるいは単純に元親が勝手に引き取って行ったか、それはないか……」

 

 元親とはいえ勝手に引き取れば誘拐になってしまうのだが、自分のところに持ち込まれた時点でこの線は消えていると見てもいいだろう。

 

「つまりこの子の身柄を使ってコリンズさんを呼び出す、脅迫するなりしてコアをどうにかしようっていうのかしら。うーん、それでコアを渡す、とも思えないけど何とも言えないわね」

 

 クレア・コリンズは腕も確かで後輩への当たりもいい先輩で人気も高い。自分自身模擬戦は何とか勝利を収めたものの、次も勝てるとは言えない相手である。そして、代表候補生としてその名に恥じぬ努力たゆまぬ人間である。

 

「過去の外出時の監視記録は、っとあったあった。うーん、確かに週末の外出はほぼこの孤児院への訪問。帰りに買い物したりはあるけど、外出の目的はこの孤児院ね」

 

 自身が入学する前からのコリンズの習慣であり、その思い入れは相当なものであることがうかがえた。その孤児院より一人、少女が消えた。この少女が特にコリンズが思い入れのある少女であったなら、どう行動するかは分からないものである。代表候補生として当然厳しい教育や関門を潜り抜けてきたとはいえ、多感な年頃である。

 

「これは動いておいたほうがいいわね。で、コリンズさんは今週末も外出予定はあり、確実にこの孤児院へ行くと思うけど……誘拐犯がいたとしたらその前になんらかのアクションがあるとみたほうがいいかしら」

 

 その少女の生死は不明であるが、取引に使うつもりなら当然生きてなければ意味がない。そして監禁の時間は長ければ長いほど暴露の危険性は増していく。ならば、早めに仕掛けてくる可能性も十分にありうる。平日にこの学校から出る方法がない訳ではない。

 

「ひとまずコリンズさんの学園内、というよりは学園外へ出ることに注意しとかないとね。そして一枚嚙んでいるとしたら亡国企業あたりかしら」

 

 亡国機業、裏の世界で活躍する秘密結社。設立は第二次世界大戦中、すでに半世紀を超える息の長い組織である。近年では各国でISの強奪などを行っており、国際的なテロリスト集団として裏の世界では名を馳せている。そしてそれらを転売するでもなく、自分達で利用していることを考えればその組織力、資金力は高い水準にあることが分かる。

 

「亡国機業が相手ならISが出てくる、か。私自身が動かざるを得ないわね」

 

 更識家の中でISを持っているのは自分のみである。妹の簪も代表候補生ではあるが、まだ専用機を所有はしていなかった。

 

 

楯無が情報を得た翌日、早速動きが見られた。ここは市街地にあるビルの一室。そこにはコリンズと女の影があった。

 

「由紀ちゃんはどこにいるの!?」

 

呼び出されたビルの一室へとやって来たコリンズ。その表情は焦りとも悲しみともとれる、そんな悲痛な面持ちであった。

 

「そう焦るなって。先に言っておくけどここにはいねぇんだ」

 

「そんな、ここへ来たら彼女を返してくれるって」

 

当然由紀ちゃん、行方不明の少女である……がいると思ってやってきたコリンズは愕然とした表情になる。

 

「返す、そりゃあ返すさ。目的の物を手に入れたらな」

 

「私の専用機、ですか?」

 

わざわざ自分のような一学生を呼び出しておいて、お金だのその体だのはあり得ない。目的の物となれば、自身が持つ最も高価なもの。そもそも値がつけられるものでもないのだが……

 

「ご明察。大人しく渡してくれれば彼女は無事解放する。抵抗するなら、ちょっと可哀想な目にあってもらわないといけない。分かるだろ?」

 

「私も代表候補生、専用機持ちです。そのような脅しに屈すると?」

 

「屈するさ、ほらそこのノートパソコンを開けて中を見なよ」

 

そう言われてコリンズはすぐそばにある電源の入ったノートパソコンへと目を向ける。カバーは閉じられており、中の様子は見えない。

 

「……?っ、由紀ちゃん!?」

 

恐る恐るそのカバーを開けるコリンズ。そのディスプレイに映されていたのは目隠しをされ、椅子に縛られた少女の姿であった……それを見たコリンズは当然目を剝き、口に手を当てる。

 

「さぁ、面白いものが映るぞ。そろそろな」

 

そう言うや目出し帽を被った大男が画面に現れ、椅子に縛られた少女の周りをゆっくりと歩いて回り始める。当然少女は突如聞こえてきた足音にびくりと体を震わせる。少女が恐る恐るかけた声がパソコンから流れてくる。

 

「ライブ音声付きだ、臨場感抜群だろ?さぁ、彼女を開放してやれるのはお前だけだ。その男は人を甚振るのを生きがいにしているクソ野郎でな。それはそれはひどい目にあうことになる。未成年は見ちゃいけない、X指定ってやつだ」

 

醜悪な笑みを浮かべながらコリンズの反応を窺う女。

 

「どこまで卑劣な真似をすれば気が済むのですか!関係ない少女を巻き込んでこんなことをして、恥を知りなさい!」

 

「っははは、関係ないってことはないだろう、毎週通っといてよぉ。おっと言い忘れてた。ちなみにこっちの声もあっちに送れるんだ」

 

手に持った機器をひらひらと振って見せる女。コリンズの反応を窺っている。

 

「!?」

 

『今の声……クレアお姉ちゃん?お姉ちゃんなの!?』

 

女の言っていることはどうやら本当なようである。コリンズの声に反応した少女が声をあげる。

 

「そうそう、君の大好きな優しい優しいクレアお姉ちゃんですよ。ほら、助けを求めたら、きっと助けに来てくれるよぉ?」

 

『だ、だれ!?お、お姉ちゃんはそこにいるの!?』

 

優しい、自分の尊敬しているお姉ちゃんの声が聞こえたかと思いきや、次にはどこか恐ろしい女の声が聞こえてくる。当然怯えてコリンズを求めるように声をあげる。

 

「あぁ、いるよ、いるとも。お姉ちゃんは君を助けられるのに、どうにも渋ってねぇ。助けるかどうか迷ってるんだ!」

 

女はコリンズの表情の変化を楽しみながら、少女へと語りかける。明らかにコリンズの事を煽っている女であった。

 

「黙りなさい……!」

 

『ど、どういうことなの?お、お姉ちゃんは由紀を見捨てたりなんてしないよね?パパやママみたいに由紀の事捨てたりしないよね……?』

 

少女が孤児院に入った理由、それは両親のネグレクトによるものであった。にやにやとその女は笑いながら手に持っている機器をコリンズへと向けた。

 

「っ……!大丈夫よ、由紀ちゃん。決して私はあなたを見捨てたりはしないわ」

 

「さぁ、観念したかな?そりゃ見捨てらんないよなぁ。親にも見捨てられて、信頼していたお姉ちゃんにまで見捨てられたら、一生人間不信から立ち直れないだろうしなぁ。結局私たちは手を汚さず済むってわけだ」

 

手を汚さず、というのはその手を血に染めなくて済むという意味であるが、最早血に染まる以上に汚いことをしているともいえるのであった。

 

「いつか、いつか地獄に送ってやるわ……」

 

コリンズは観念したように、ヘルハウンドの待機形態である首輪を模したチョーカーを外す。コアと少女一人の命、比べるまでもないことだが、コリンズに少女を見捨てるという選択肢を選べはしなかった。

 

「……」

 

「どうした、決心したんじゃなかったのか?さっさと渡せよ」

 

チョーカーを目の前に差出しつつも、女が手を伸ばす前にそれを引っ込めて後ずさるコリンズ。

 

「まだ、まだあなたがあの子を開放するとは限らないわ……私にしてもあの子にしても、あなたたちのことを知っている人間を生かして帰すとも思えないわ」

 

「おいおい安心しろよ。あの餓鬼を攫う時はだれにも姿は見られてねぇ。解放したところでなんら痛手にもならねぇよ」

 

「私に顔を晒してるあなたは、私のことを生かして帰す気はない、っていうわけね?」

 

ISを扱っているほどの犯罪組織である。当然その構成員の情報はトップシークレットのはずである。

 

「っはは、これは一本取られたなぁ。って言ってもこれは私の素顔じゃない。ほら、見てみな。ここの部分剥がれるようになってるだろ?この顔はマスクさ」

 

「……そう。約束してね、あの子を開放することだけは。私の安全は、実際どうでもいいの。コアを渡した逆賊として国からどんな処分が下されるか、分かったもんじゃないしね」

 

「まぁそいつは御気の毒ってことで。そら、渡しなよ」

 

コリンズは躊躇いながらも再び女に近づき、ISを渡そうとした瞬間、その一室に飛び込んでくる影があった。

 

 

楯無は監視をしていた者からコリンズがISを纏って深夜に出ていったという報告を受けて、その後を隠密裏に追跡した。そして、コリンズがビルへと入っていくのを見届けた後に、楯無は向かいのビルへと身を潜めて、コリンズと誘拐犯の女の様子を監視していた。幸いにも彼女たちの様子は窓越しに見ることができ、ハイパーセンサーで強化した視力で女の口元の動きを追っていた。

 

「なんて卑劣な真似を、地獄に送るだけじゃ済まさないわよ……とはいって、迂闊に出て行ける状態でもないわね。どうにか傍受して逆探はかけてるけど、間に合うかどうか……」

 

少女の安全を確保しないままに自身が出ていけば、その身は確実にただでは済まないだろう。付近の電波を傍受してどうにか、彼らが少女を監禁している地点の発信元をトレースさせている。発信源が探知できて、更識の手の者が制圧するまでの時間差もある……それまで持ってくれればいいが、コリンズと女の会話は先へ先へと進んでいく。

 

「っく、早いってば!もう少し渋ってくれないと、こっちも時間が足らないわよ」

 

相手も専用機持ちに監視がついていることや、ここへコリンズ一人で来たわけではないということは分かっているのだろう。コリンズ自身は一人で来たと思っているはずだが……下手に時間をかけて取れる選択肢を増やさせたくはないのだろう。

 

『楯無よ、現状を報告したまえ。コリンズと犯人の動きはどうなってる?』

 

更識家の情報部の長より通信が入る。

 

『逆探知をかけさせてるけど、間に合わないわ。コリンズはコアを犯人へ渡そうとしている』

 

『正気か、たかだか小娘一人とコアを取引するなど……このような事例を作ってしまえば奴らは味を占める。いいかね、楯無。国際社会はテロには決して屈さない。強制的に突入してでも取引を成立させるな。当然その犯人の女も捕まえるんだ』

 

『しかし、少女の安全がまだ……!』

 

自身の突入により犯人一味がどういう行動に出るとも分からない。即座に少女を害することはないだろうが、それでも少女にとって受け入れがたい事態がその身を襲うことは明白である。

 

『君までまさかそんな甘いことを言うつもりかね?我々は暗部用の暗部なのだぞ。少女の安否を気にするのは我々の直接の仕事ではない。この取引を成立させれば模倣犯が出ないとも限らない。そしてアメリカからも苦情どころでは済まなくなる。例え自国の生徒の失態であろうともな』

 

『(失態、ですって?そりゃ、コアと一人の少女、そんなもの比べるまでもないことは分かってるわよ!でも、それでも私たちは人間なのよ……!彼女の選択肢は、人としては決して間違ってなんかいない。人として尊ばれるべきことなのよ!でも、それでも私は楯無として、刀奈ではない……楯無として生きなくてはならない……なら、私が取れる選択肢は)分かりました、突入します……』

 



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楯無の過去 中

コリンズから女がISを受け取ろうとした瞬間、室内へと飛び込んできたISを纏った楯無。即座に女へと武器を向ける。

 

「っち、くそが。思ったよりも早いご登場じゃねぇか」

 

「あら、私たちがいるってことに気付いてたってわけ?」

 

「そりゃあ大切な専用機持ちが外出するのに監視がついてないとは思わねぇよ。出てこなけりゃそれで良かったんだが、出てきたなら出てきたで構わねぇぜ?」

 

極力市街地での戦闘は避けるように命令されているために、このような深夜に呼び出したのだが、日本人は仕事熱心なようである。とはいえ来なければ御の字、来るのは想定内の事態、当然手は打ってある。

 

「なんですって……?」

 

自身の存在を知られていたのはまぁ、いい。亡国機業、とすでにあたりをつけている、ほどの大きさの組織であれば更識家のことを知らないとも思えない。だが、出てきても構わない、とはこれは最悪のパターンか……

 

「そら、コリンズ、敵のお出ましだ。一緒に戦おうぜ?」

 

女はそうコリンズに呼びかけ、自らのISアラクネを展開させる。どうやらコリンズと共に楯無と戦うつもりのようである。

 

「なぜ、私があなたなんかと一緒に」

 

「みなまで言わせるなよ。まぁやる気出してもらうためには……おい、ガキの悲鳴の一つや二つ聞かせてやんな。方法は何でも構わねぇ」

 

マイクをONにして指示を出すオータム。画面の男はわざわざカメラ目線で自らのぎらついた眼を映し、下卑たくぐもった笑い声をあげる。その声を聞いたコリンズの心はかきむしられる様であった。

 

「……っ!分かったから、彼女に手を出さないで」

 

そう言うやヘルハウンドを身に纏うコリンズ。その武器は当然楯無へと向けられる。

 

「コリンズ先輩!?そんなことをしたらあなたは」

 

「そんなことをしないとあの子は助からない。自分の身の可愛さにあの子を見捨てるくらいなら死んだ方がましよ」

 

これだから人質を確保もせずに突入などしたくなかったのだ。情報部は自分が情に流されているだけと考えているみたいだが、こうなることは目に見えていたと言ってもいい。確かに少女の身を案じる気持ちはあったし、他に手はなかったが……もう少しでも時間が稼げていればと思うのは贅沢だろうか。

 

「コリンズ先輩、あなたはそうまでしてその子の事を、自らの人生すら投げうってまで……!」

 

コリンズの顔からは普段の優しそうな笑みはなくなり、怒りに染まっている。そしてその感情に呼応するように、ヘルハウンドの特徴ともいえる両肩の犬頭から炎が噴き出ている。その怒りの矛先は本来オータムに向かうもののはずだが……

 

「あなたが、大人しく引いてくれるのならこの銃を撃たなくて済むの。お願いだから引いて頂戴、私に撃たせないで」

 

「べらべらくっちゃべってんじゃねぇよ。無駄に時間をかけんな。とっとと落とすぞ」

 

アラクネを展開したオータムは、その特徴的な8本脚から楯無へ向けてビームを乱射する。当然これを避ける楯無にその動きをけん制するようにコリンズのライフルが火を吹く。1vs1でならコリンズに引けを取らない楯無であるが、必ず勝てるような相手でもない。そして相手には第二世代型とはいえアラクネがいる。どうあがいても苦戦することは必至であった。

 

「っく、さすがに二人相手はきっついわね。それに市街地じゃ好きに武器も使えない。相手はこっちより低空を取っててお構いなしだってのに」

 

戦場はビルの狭い室内ではなく、市街地の上空、夜空へと移っていた。

オータムとコリンズは楯無よりも低空を維持して射撃戦を展開している。コリンズは自らの射撃が市街地へ被害を及ぼさないようにするためであるが、オータムには市街地へ被害を出さないようにする、などという配慮は当然ない。ただ楯無が自身へ攻撃することができないように位置取りをしているだけである。

 

「防戦一方、なのはアクア・クリスタルを防御に回せばいいだけだから得意だけど、これじゃあ持たないわね」

 

アクア・クリスタルからナノマシンで構成された水のヴェールを纏って敵からの被弾を防いでいるが、二人分の射撃に晒されていれば当然削れる速度は速い。それと同時にクリア・パッションの準備も進めているのだが、コリンズはこちらの手を知っている。コリンズがオータムに伝えていなければ、オータムだけを先に落とすことは可能である。そこから勝機、は見えなくとも何らかの手が打てる可能性は出てくる。

 

「っは、攻撃防いでるだけじゃどうにもなんねーぞぉ!?その槍に付いているガトリングガンは飾りかよ!」

 

楯無の持つ蒼流旋には四門のガトリングガンがついており、その火力は非常に高い。しかし、位置取りの関係から当然打てない。市街地にこのガトリングを雨あられと降らしたら被害どころでは済まないのである。

 

「卑怯な真似しといてよく言えたものね。なら、私からもそろそろ反撃させてもらおうかしら」

 

「やれるもんならなぁ!」

 

「……!」

 

コリンズは楯無の表情を見て勘づく。楯無とは一度模擬戦をしている。その時に自分の負けが決まった楯無の隠し技。自分たちはずいぶんと彼女に射撃を打ち込み、彼女のナノマシンを周囲にばらまかせている。つまり、そろそろ準備が整った、ということである。

 

「二度も同じ手でやれると思っているのかしら?」

 

そして、それの対策はすでに考案済みである。コリンズはヘルハウンドの両肩より周囲に火を吹かせて霧状の水分に含まれたナノマシンを一気に消し飛ばす。模擬戦では楯無のクリア・パッションに絡めとられたが、一度知ってしまえば対策は難しくなかった。ヘルハウンドならではの対処法ではあるのだが……

 

「せめてその女だけでもやれれば手は出来るかもしれないんですよ、コリンズ先輩!」

 

楯無は自らの手、この市街地の上空でも被害を出さずに使える手を潰されたことに内心舌打ちしていた。やはりそう容易い相手ではない。

 

「この女の身柄を使って、あの子と取引でもしようっていうの?あなたが、あなたのバックにいる人間がそれを許すというのかしら?」

 

「なぜ、そんな風に思うのかしら……?」

 

「誰でも思い至ることよ。私に監視がついている時点であなたは決して単独ではない。あの女もだれかしらが来ることは想定内の事態だったみたいだしね。あなたはどうかしらないけど、目の前にコアが転がっていてそれを少女一人と取引するようなことはしないでしょう?」

 

図星である。楯無のバックにいる人間がそれを許すわけがない。目の前にはアメリカの第二世代型ISのアラクネがいる。そのコアを取り返したとなればアメリカに恩が売れるなどというレベルではないのである。コリンズのISを渡さないことはテロには屈しないという姿勢であったが、その次はもっと醜い姿勢で事に当たろうとするのは間違いない。その場面において一人の少女の命が闇に葬られることなど言うを俟たない。

 

「……どうあがいても戦うしかない、ってわけ?」

 

楯無としては現状は到底受け入れがたい状況である。1vs2で戦っている状況が、ではない。一人のいたいけな少女の命を亡きものとしてしか扱えない、自分の現状にである。正義の味方を目指してなんかいない、だがこれはあんまりではないか。

 

「もう一度言っておくわ、引いて頂戴。子どもが見捨てられて絶望するしかない世界になんか興味はない。あなた方にとっては些末な出来事でしかないのでしょうけど、私にとっては大事な事なの。コアなんかよりもよっぽど、ね」

 

『あなたまでそのコアを失うことはないわ。2vs1で勝てるとは思っていないでしょう?あなたが負ければこの女は確実にあなたのコアも回収しにかかるわ。あなたと戦って、あなたの手は知ってる。1vs1で勝てる、とは言わないけれど流石に2vs1で負けはしないわ』

 

コリンズよりつなげられるプライベート・チャンネル。楯無のISのスクリーンに映された彼女の表情に先ほどの敵意は見られず、沈痛な面持ちとなっている。実際のところコリンズのいうことは事実である。ヘルハウンドの吹く炎と自身の水の相性はあまりいいとは言えない。水で火を消すことはできるが、周囲に霧をばらまいたり、あるいは水でできた分身を作り出すという搦手が封じられるのだ。

 

『コリンズ先輩……でも、私も引けないところなんです。更識家の、楯無として。私の仕事はテロ、破壊工作の対策部隊。だから、先輩のISを渡すわけにも、その女を見逃すわけにもいかないわ』

 

少女の事は頭の外に追いやる楯無。そうでないとやっていられない。

 

『そう、ならもう容赦はしないわ。あなたを非道な人とは思わない。立場が違うんですもの、これはしょうがないこと。だから……謝らないわ』

 

楯無のスクリーンに映るコリンズは一瞬瞑目したあと、完全に覚悟を決めた表情となる。最早言葉は通じない、否、不要である。

それを機に攻撃の密度は一気に増す。依然として状況は悪く、碌な反撃もできない楯無はおされていくばかりである。

 

「本当に容赦が無くなったわね……アクア・ナノマシンの残量も目減りしてる」

 

こうなったら楯無も覚悟を決めた。自爆覚悟ででもミストルテインの槍を使って状況を打破するしかない。この高空で使ってそのまま落ちれば命はないが、いずれにしてもこのままでは自分の命はないのである。逃げかえることはできるが、その選択肢を取ることは、更識家自体も自身の仕事へのプライドも許さない。こんな今回のくそったれな状況の仕事に、プライドもなにもあったものではないが……それでも背を向けることを許さなかった。

 

「っけ、長持ちするもんだなぁ、おい?でも、そろそろなぁ!」

 

オータムも勝負を決めにかかる。勝負が始まってからそれなりに時間は経っている。楯無は現状単機であるが、それがいつまで続くとも分からない。逃げられても敵わないため、近接戦に持ち込みその自慢の脚?で捕らえにかかる。そのままコリンズと結託して楯無を焼いてしまえばコアが二つも手に入るのだ。

 

「っく、そう簡単に捕まる私じゃないわ、っ……!」

 

そう言いつつも無様に捕まる。自身を捕えに来ることは想定していた楯無である。先ほどから背後を気にするそぶりを見せておいた。逃亡の機会を窺っているように見せている。相手としては逃げるならそれで構わないはずだが、コアが手に入るという誘惑には当然勝てない。そして、オータムが近いなら周囲のアクア・ナノマシンをコリンズが焼き払うことも無理である。

 

「っな、てめぇ……!」

 

勝ち誇った顔をして楯無の水で出来た分身を捕まえるオータム。当然本物を捕まえた、これで止め、と思ったところに肩透かしを食らう。焦ったように周囲を窺うが楯無の姿は見つからない。それもそのはず彼女はすでに……

 

「あら?私はここよ」

 

そう言った楯無はいつのまにかコリンズの背後へと回っていた。夜の闇とアクア・ナノマシンのカーテンによって光を屈折させ、巧みに背後を取った楯無である。そして、コリンズに蹴りを叩き込んでオータムのほうへはじき飛ばす。オータムはそれを躱しきれずコリンズと衝突する。

 

「仲良く引っ付いててね、そうしないと落とせないから」

 

蹴りを放った後に即座に距離を詰めた楯無は、蛇腹剣「ラスティー・ネイル」を用いて二人を一緒くたに縛り上げる。

 

「くっそ、てめぇ、これをほどきやがれ!」

 

「すぐほどいてあげるわ。でも、そうねぇ。その前に地獄への旅行と洒落こもうかしら。片道切符じゃないことを祈っててね♪」

 

にっこりと笑いかけて、蒼流旋を構えて二人に突き付ける楯無。そして、自身のもつアクア・ナノマシンを一点集中、攻性成形させて一撃必殺の大技、自らの身も焼く諸刃の剣であるミストルテインの槍を放つ。直後、気化爆弾数個に匹敵する威力の爆発が一帯を包み込む。そして……

 

「っ痛たた、どうにか生きてるわね……満身創痍って言ったところだけど、彼女たちはどうなったかしら」

 

爆炎の中からどうにか出てきた楯無。その美しい肌は煤にまみれ所々から出血も見られる。ダメージを負った自らのISのセンサーもまともに働いておらず煙が晴れるまで状況の把握は困難であった。それ故コリンズに背後を取られるのを許したのは、仕方がないことであった。

 

「恨んでくれて構わないわ」

 

夜空に鮮血の霧が舞った。



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楯無の過去 下

「っがは」

 

背後から衝撃。しかし、振り向いている余裕はない。自身の腹部から生えているものにその目は釘付けになった。あの状況からすぐさま背後を取られ、このような一撃を喰らうなど、考えていなかった。相手もそれ相応のダメージを受けているはずなのだが……

 

「急所は、外しておいてあげる。助かるかどうかは神のみぞ知る、といったところだけど」

 

コリンズの手には、その短剣を伝っていった楯無の血が滴っていた。返り血を浴びた顔の表情は夜闇が隠していた。

 

「(最後に分身のために割いたアクア・ナノマシンのせいかしらね、ミストルテインの槍の火力が落ちちゃったのは……っはは、それのお陰で私が助かったようなものともいえるけど、それでももう駄目かしらね。悔しいなぁ、こんなところで、こんな終わり方……何に誇りを持てっていうのよ。ごめんね、ミステリアス・レイディ。最後の仕事がこんな汚い仕事で。もっとあなたと自由に空を飛んでいたかったんだけどね。それと、あなたはテロリストの手に渡っちゃうわ……)礼なんて、言わないわよ……」

 

痛みで朦朧とする中で聞こえてきたコリンズの声に返す楯無。正直急所を外されたところで自身が助かるのかどうか、怪しい所である。そもそもこのような敗北を喫し、ISまで取られてしまったら生き恥を晒すどころではない。むしろ一思いに死ねた方が楽だとまで思えた楯無である。

 

「くそが、ぼろぼろだぜ。こんな隠し玉もってやがったとはなぁ……ったく、帰るのがやっとってところか」

 

黒煙の中からはその特徴的な脚がほとんどもがれたアラクネが姿を見せる。戦闘の継続は到底無理であるが、逃げ帰るための機動力は残されていた。

 

「(せめて、あの女だけでも道連れに出来たら良かったんだけどなぁ……だれでもいいわ、こんなくそったれな状況から、助け出してくれないかしら。なんてね、夢見るお姫様じゃないんだから……)簪ちゃん、ばいばい……」

 

そう言い意識を放す楯無、その精神は暗闇へと連れていかれた。

 

 

「あらあら、これは一体どこなのかしら。ねぇ、あなたここがどこだか知らない?」

 

楯無は暗闇の中にいた。周囲を見渡しても全部真っ暗、かと思いきや少女が一人、自身の方を向いてたたずんでいた。顔は俯き気味でその表情は窺い知れなかった。

 

「まだ、私はあなたと空を飛んでいたいわ。こんな薄汚れた空だけど、あなたと飛んでいるのは楽しいもの」

 

少女は質問に答えず、ただ自分の言いたい事だけを言う。楯無の事など意に介してないように見える。

 

「ちょぉっとお姉さん、何言ってるか分からないかなぁ。うーん、ひとまずここは私の意識、精神世界の中ってことでいいのかしらねぇ」

 

「あなたが私に願ったから、私はあなたに会いに来たの。私の願いもあなたと同じよ」

 

少女は楯無の疑問に答えているような、答えていないような、そんな曖昧な返事を返す。

 

「うーん、私が願った。それで会いに来た、ねぇ。もしかして、あなた……」

 

一つだけ、思い当たる。自分が願った相手……

 

「ほら、もう一度空を飛びましょう。まだ、あなたの物語は始まったばかりよ」

 

差し伸べられた少女の手を取る楯無。どこかで聞いたことがある、ISのコアに心を開けば、ISそれぞれにいる人格と心を通じ合わせることが出来、会話することが可能になる。そして、セカンド・シフトの際にその現象が見られたということを……

 

 

楯無を最初にいたビル内部へ運び、床に無造作に横たえる。本来激痛が走るはずだが気絶しているため何の反応も見せない。ミステリアス・レイディは待機形態にすでに戻っており、奪うのは容易い状況であった。

 

「っぐ、なんだってんだ……!」

 

楯無のISを奪い取ろうとしたオータム。その待機形態であるストラップへと手を伸ばした瞬間、急にストラップが光り輝き始める。咄嗟の事で飛び退って距離を取り、様子を窺うオータム。

 

「っち、再起動だと?あり得るのか、こんなISが……しかも、さっきまでとは違う色になってやがる」

 

光が晴れた先にはミステリアス・レイディを纏った楯無の姿があった。その表情は虚ろなものであったが、たしかにオータムを捉えていた。そして、先ほどまでミステリアス・レイディを覆っていたアクアヴェールの色が変わっている。今は水色から鮮血色になり、不完全な様相だが赤い翼のようなものが形成されている。

 

「セカンドシフトかよ、こんな時に。おい、コリンズ!奴が意識取り戻す前にずらかるぞ!」

 

「た、楯無さん……」

 

まるで自らの腹部から流れた血を覆っているかのような様相に愕然とするコリンズ。自分が刺した傷であるが、呆然としたように動けなくなる。

 

「待ち、な……さい……」

 

途切れ途切れ、息も絶え絶えになりながら手を伸ばす楯無。それと同時に突如として周囲の空間が歪み始める。

 

「こいつは、やべぇな」

 

その様子に危機感を覚え、どうにか距離を離して観察するオータム。たちまちヘルハウンドはその空間に飲み込まれるかのように、引きずり込まれていく。ミステリアス・レイディの周囲が水のような揺らぎを見せており、ヘルハウンドの引き込まれた下半身も水に浸かったかのようになっている。

 

「単一仕様能力かよ、分が悪いどころじゃねぇ。コリンズもあそこから逃げ出せるようには見えねぇな……くそが、引くしかねぇな」

 

よもやこの土壇場に来てのセカンドシフトとは運がないの一言である。しかも単一仕様能力まで発現するのは稀なことであり、輪をかけた不運と言えた。ただ、楯無の意識はほぼないような状態であるということだけは幸運であった。とはいって攻め込めば何が起きるか分からない。いまアラクネがビームを打てる脚はたったの2本しかないのである。そして、すでに自分の切り札にも王手がかかっていた。

 

「あらら、あのガキのところにも更識の奴らが踏み込んできやがった。で、あの男は間抜けにも捕まってやがる。しゃあねぇな、爆破するしかないか」

 

少女を捕らえていた部屋には爆弾を仕掛けてある。別に少女を爆殺することが目的ではない。監禁場所がばれ、部下の男が捕まった際にその証拠を消すためのものである。そしてなにより、踏み込んで来る奴らは十中八九更識の手の者である。それらを効率よく処理することが出来るという正しく一石二鳥の手であった。

 

「収穫は更識の部下をぶっ殺して、その代わりにセカンド・シフトされた、か。ロシアのコアは手に入れば儲けものくらいのものだったし、別にいいか……とりあえず、ずらかるとするか」

 

楯無とコリンズを一瞥して夜闇へと消えていくオータムであった。

 

 

楯無が次に意識を、明瞭に取り戻したのは病室のベッドの上であった。

 

「っ……やっぱお腹は引き攣るわね、それにしてもあの状況から生きてるなんてね。一体どうなったのかしら」

 

楯無には自分がコリンズに腹を刺されて意識を失ってからの記憶はなかった。夢の中で誰かと会話したような気がするが、一体誰だったのか全く思い出せない。しかし、いま自分にとって重要なのは、病院のベッドの上で目覚めるというのは最悪の事態、であるということだけだ。自らのISは奪われ、コリンズのISも奪われ、亡国機業はまんまと逃げおおせたという訳である。

 

「あーぁ、一生夢の中に逃げ込んどきたいくらいだわ……でも、それは許されない。責任が取れるようなことでもないけど、出来る限りのことはしなくっちゃね」

 

あわよくばコア3機のところが、コア0機になるという大失態である。失態どころか小国が傾くレベルである。亡国企業の戦力増大、アメリカ・ロシアの防衛力低下と、憂鬱どころのさわぎではない。日本、ロシア間の密約はあるが、更識家が路頭に迷うことは確実である。

 

楯無がベッド上で頭を抱えながら云々と唸っていると、病室の扉が開く。看護師か更識家の者か、はたまたIS委員会の者か、そのどれであっても寝たふりでもしたいところである。

 

「どなたかしら?」

 

先に自ら声をかけていく。誰であるにしても早く話を進めなければならない。

 




ワイのオリキャラ、アビーもクレアも不運すぎて泣けてきた


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楯無の過去 終

「お、お姉ちゃん……?」

 

が、聞こえてきたのは意外にも最愛の妹である簪の声であった。更識家の者にしても簪が来るとは露にも思っていなかった。

 

「か、簪ちゃん?」

 

「よかった、よかったよぉ。もう目覚めないかと思ったよぉ」

 

そう言い、涙を流しながら抱き着いてくる簪。当然腹部にそれなり以上の痛みは走るがここはグッと堪える楯無であった。

 

「うふふ、大丈夫よ。お姉ちゃんは不死身なのよ」

 

抱き着いてきた妹の頭をなでながら涙を流す楯無。当然簪にもこれから苦労をかけることになる。せっかく代表候補生になれたというのに、更識の、私の今回の失態の火の粉が降りかかることは確実である。その候補生としての資格の剥奪も十分にありうることであった。

 

「姉妹の感動の体面に水を差してすみませんが、お邪魔させてもらいます」

 

部屋に入られたというのに全く気付かなかった。そこにはスーツ姿の男がいつのまにか立っていて、こちらの様子を窺っていた。

 

「……こんにちは、どちらの所属の方ですか?」

 

普段なら女性の部屋に云々軽口を叩く楯無であるが、そんな状況でもない。泣きつく簪をどかして、その男性に向き直る。

 

「失礼、私はIS委員会日本支部所属の外交官の者です。今回の件で更識楯無さんには色々とお話をお伺いしなければなりません」

 

それを聞き、楯無は簪に部屋を出ていくように命じた。簪は楯無の容態を心配しているようであったが、軽く微笑みかけ有無を言わせず退室させた。

 

「ご丁寧にありがとうございます。私は如何様な処分も覚悟はできております。何も隠し立てすることはありません」

 

「……処分?別に私はアメリカとロシアに提出するための調書が欲しいだけで、特にそういった話ではないのですが」

 

男性は楯無の言葉に首をかしげながらも要件を伝える。

 

「すみません、IS委員会の方と聞いて早とちりしてしまいました。外交官の方ですものね」

 

「は、はぁ……まぁ別にいいでしょう。とはいえ病室で話すことでもないので、まず今回の調書で重視される部分だけ話しておきますね。明日の10時に正式に調書を取りに来させてもらいますから、頭でまとめておいてください。では、まずあなたが所属されているロシアに提出する調書の事です。ロシアは、今回あなたのISがセカンドシフト、並びに単一仕様能力を発現させたことに満足しておりますので、そこのところを詳しくお願いしますね」

 

寝耳に水とは正にこの事である。一体何の話をしているのかさっぱり。何が何だかわからない。

 

「……?な、何を言っているのかしら、私のISがセカンド・シフトしたですって?」

 

「……?まさか、その当時の事を覚えておられない、とか?」

 

当然訝しげに外交官の男は楯無の表情を窺う。

 

「え、あぁ、そういえばそうだったわね!ちょっと寝起きで呆けてるのかしら、お姉さんも歳だから、困っちゃうわ!」

 

苦しいどころではない言い訳である。事そのものの大きさもあるし。呆ける歳でもない。

 

「……」

 

「とはいっても、私も手元にISがないとやっぱり不正確になっちゃうかも……?正直死に物狂いで戦ってたから、きちんと思い出せるか不安なのよね!」

 

あはは、はは、と誤魔化し笑いをする楯無。男性は考え込むように顎に手を当ててうつむく。

 

「そうですねぇ、あなたのISミステリアス・レイディはダメージレベルがCに達しているため修理中なんですよ。なのですぐ手元に返すわけにもいかないんです」

 

「(……あれ?もしかして私のISは奪われていない?なにが、どうなってるのかしら?ここは正直に言っておいたほうがいいかしら。うーん、でも刺されて以降記憶がないの、おほほ、え?無事に済んでたの?らっきー!なんて許されないわよねぇ……)」

 

目の前の男性がどのように動くかは想像がつかない。少しでも情報を与えない方がいいと考えた楯無である。

 

「一応、今回の結果だけ説明しておきますと、アラクネは現場より逃亡、ヘルハウンドはミステリアス・レイディの単一仕様能力に捕らわれて行動不能となっていました。そこへ更識家の回収部隊が突入、意識朦朧としているあなたと呆然自失状態のクレア・コリンズの両名を確保、あなたはこの病院へと搬送、クレア・コリンズはその身柄を拘束という形になったのです」

 

「そうだったの、最後の方は記憶もあやふやでね。正直覚えてないといったほうがいいわね」

 

「まぁそれは仕方のないことでしょう。腹部を刺されて相当量の血液を失っていたそうですからね」

 

「ともかく、ISコアは私のもコリンズ先輩のもこちらの手元にあると」

 

「そういうことですね。アメリカ側は今回は自国の候補生がそちらへ攻撃したこともあるし、アラクネをも相手にして1vs2の状況を打破したあなたにそこまで強気に出れる状態ではありません。その上でコリンズ氏のISコアは確保しているのですから文句は言わせませんよ。というか、あちらが謝罪に出るべき状況ですかね」

 

「あなたは……」

 

ここまで言われて楯無もどうやらこの男が自分にとって味方、とまでは言えないにしても、自分の足を掬いにきたわけではないと悟る。

 

「私は日本支部の外交官ですからね、当然日本に有利になるように動きますよ。まぁあなたはロシア代表ですが、特殊な立場ですからね。ロシアの方の調書の提出は遅らせるとしましょう。ロシアも自国のコアが危機に陥ったとはいえ、それは密約の内。そして先ほども言ったようにセカンド・シフトを果たしたことに満足しているようですからね」

 

楯無の、事件最後の方の記憶がないということは見破られているようだ。あれだけ怪しい態度をして、コアの情報を求めれば当然のことではあるのだが。

 

「あなたはずいぶんと事情通のようね」

 

自身のISミステリアス・レイディはロシア主導の第三世代機である。それを日本の暗部更識家の長が持っているというのは、そこに日露間の密約が存在しているからである。当然余人があずかり知るところではない。そういった意味で目の前の男はずいぶんと物知りな訳である。

 

「外交官、ですからね。裏事情に通じていないとこんな世界、生き抜いていけませんよ」

 

「それもそうね。私のISは日露技研で修理をされているってことでいいかしら?」

 

「国内の民間に回せる訳はないのは分かり切っているでしょう」

 

日本のどこぞの技研に下手に回そうものなら、技術漏洩どころの騒ぎではなくなる。自身のISに搭載されているアクア・ナノマシン、それに付随する兵装は特殊性が高い。ミストルテインの槍やクリア・パッションの威力は競技の域を逸脱しているものである。これは、暗部用として開発を進められ、その使用が想定される自分の立場に必要だからである。ほぼ無傷のヘルハウンド・アラクネを一瞬で大破させた火力は尋常ではないのだ。

 

「馬鹿なことを聞いてごめんなさいね。アメリカにはとりあえず、よくもアメリカの専用機アラクネでテロ行為したなこのやろー!でいいかしら?」

 

「……まぁ、アラクネが奪取されたことは公然の秘密ですから、ある種アメリカが日本国内でテロ行為を働いたようなものですが……更識家の実行部隊の方々には申し訳ないですが、ね」

 

「……!実行部隊に何かあったというの?」

 

「監禁場所に突入した更識の実行部隊は、犯人の爆破させた爆弾により2名が死傷、重軽傷者多数。確保した犯人はバラバラ、少女も死亡しています」

 

全てに手を打たれていた……こちらが少女を確保できなければコリンズをずっと意のままに操り、確保されたなら即座に撤退したのちに爆破して、更識に被害を与えられる。自分自身に手があったとしたら、アラクネ・ヘルハウンドをどちらも落とすことだが、アラクネはいざとなれば市街地を盾にして逃亡を図れるのだ。当然自分に追撃する術はない。そして、少女が確保されるまでは、ヘルハウンドもそれに追従せざるを得ないため、距離を離れたところでISコアは奪取される。コリンズにISが無くなってしまえば一味の男は逃亡し、更識家の突入部隊を爆破するだけである。

 

「人間としての尊厳は存在してないのかしら、外道とか畜生なんて言葉で済まされるものじゃないわよ……あんな市街地で武器もろくに使えずに、1vs2で逃亡も許さずに勝つのが唯一の道なんて、ふざけるのも大概にして欲しいわ」

 

楯無が知るすべのない未来の話だが、アラクネ・ヘルハウンドを同時に落とせたとしても、これすらも完全な勝利の手にはならない。コリンズのコアはアメリカに返還、代表候補生、専用機の資格は剥奪される。そしてヘルハウンドは現在IS学園2年のアメリカ代表候補生ダリル・ケイシーの専用機になる運びなのだ。そしてこのダリル・ケイシーは……結局亡国機業はどのような事態に陥ってもそのコアを失うことはなかったのである。

 

「まぁアメリカには今回の件のあなたのISの修理費やその他諸々の賠償請求はできるでしょう。自国がISを盗まれた情報を隠していて、それが他国にテロ行為を働いたんですからね。悪いのはテログループにしても、大本はアメリカのせいですから」

 

「アメリカの方の調書は適当にまとめておきます。明日か明後日には日露技研に顔を出して、コア情報からロシア側の調書はまとめさせてもらう、で良いですか?」

 

「はい、ではその手筈でお願いいたします。病み上がりのところに長々と失礼しました。では、私はこれで」

 

外交官の男は一礼したのち、部屋を去っていく。それを見送ったあとに楯無は大きなため息をついた。

 

「はぁ、コリンズ先輩が命を賭して救おうとした少女は爆殺。そして逆賊として一生不名誉に生きていく。あの場で先輩が要求に乗らなかったとしても、絶対に先輩は専用機を返還して学校をやめてた。なんなのよ、これ、だれがこんなくそったれな筋書きを書いたってのよ」

 

コリンズが策に乗らなかったとしても彼女の性格を鑑みれば、「箱庭の希望」から第二・第三の由紀ちゃんが現れかねない以上、まずその専用機は返還していた。そうなればダリルケイシーにその専用機は……

 

「お姉ちゃん、お客さんは帰ったみたいだね。どんな話だったの?」

 

部屋から男が出ていくのを見ていたのか、病室へと戻って来た簪である。

 

「(考えてたよりずっといい話、でもないか。最悪の事態は避けられたってだけね。実行部隊に死傷者が出るなんていつぶりかしら。しかも直接戦闘じゃなくて、こんな嵌められる形で……)まぁ今回のこと、適当に諸々よ。色々あったからね」

 

自身が迂闊だった、と言えないでもない。相手の口ぶりからこちらの行動が読まれていることを部隊員に伝えておければ、何かが変わったかもしれない。しかし、犯人の一味がいるところに爆弾が仕掛けられていると考えられたかどうか……

 

「そうなんだ。でもお姉ちゃんはやっぱりすごいね、ここまで短期間でセカンドシフトまでして単一仕様能力も発現させて。私はだめだった、あの女の子も救いきれなくて、」

 

「(なんで簪ちゃんが実行部隊に!?代表候補生としてそりゃ鍛錬はしているけど、部隊に組み込まれてるなんて……その手の教育はまだしてないのよ。何を考えてるのかしら)怪我はしてないみたいね、良かったわ。それで、どう感じたの?今回の任務について」

 

「助けられなかった……だめ、なんだね。正義の味方みたいに間に合わないんだね……あの子だけでも現場から早く逃がせていれば……」

 

「(正義、ね。更識の正義は簪ちゃんの思うような正義ではない、かしらね。あの少女を確保するのはあくまでコリンズ先輩の動きを、犯人側の意のままにしないようにするため。上はあの子の身に何があろうとなんら気にしてないのよ。簪ちゃんに躊躇いなく突入できたかしら、コリンズ先輩の行動を予測しての話じゃなくて、あの少女の事だけを考慮したとして……)簪ちゃんは、正義の味方に、なりたいんだっけ。弱いものを助けるような、悪を挫くようなそんな存在」

 

「え?う、うん。初めての任務で女の子を助けられなくて自分は何もできなくて……」

 

「今回ね、私たちはあの女の子の身柄については構うようなことはなかった。言ってしまえばどうなってもよかった。それをあなたは受け入れられる?」

 

「え……?」

 

「もしそれが、理解できそうにないなら、受け入れられそうにないなら、更識家になるべきではないわ」

 

「でもあんな、幼い女の子なんだよ!?何も悪いことをしてない、誘拐された女の子がどうなってもいいなんて、そんなの許されるわけないよ!」

 

楯無は諦めたような、優しい瞳で簪の揺れる瞳を捕らえた

 

「そうね、そう、許されることじゃないわ。だから、あなたは何にもしなくていいの。私が全部してあげる」

 

あなたのその感情は、人間としてとても大切なものよ。私も失ったつもりはないけど、スイッチが出来るようになったわ。あなたにはそうなって欲しくない。更識家に生まれた以上、それは私のエゴなのかもしれないけど……それでも、そう望まずにはいられないのよ

 

「そんな、私、私だってお姉ちゃんの助けに、そうなれるように努力してきて」

 

「あなたはそのまま、無能なままでいなさいな」

 

こんな世界に入る努力なんて、自らの大切な主義主張を捨てるなんて、そんな努力はしなくていい。あなたは私になる必要なんてない。別の道を辿ればいい。楯無は、もう私一人で十分よ。




活路が見当たらない……ていうか亡国にここまでの手を取らせてしまったら、学園祭の襲撃とか云々色々まずいな。悪人の手は制限せんといかんか……?

正義の味方、勧善懲悪ものが好きからこの流れにしたけども、どうしてもこじつけ感が……というか、最早打鉄弐式を完成させたらお姉ちゃんに追いつけるとかそういう問題じゃなくなってる……

原作でどういう流れで言ったんだろうか、あんなこと真正面から言うなんて大概だぞ。

日露密約については改めて設定資料集に回しておこうかな。

日露密約
ロシアとの密約。ロシアはより実戦的なテータを欲し、そしてIS学園に所属が可能な、暗部の更識に目を付けたのである。ロシアには北方領土がある。それらを取引材料にしつつ、この密約を交わしたのだ。ロシアはコアを危機に晒すことにはなるが、IS学園に対して工作をする敵対者との実戦データが得られる。模擬戦のような形式ばったものよりも、実戦のデータ、コアに蓄積される経験値を重視しているのであった。IS同士の実戦、といったものはまず発生するものではないため、その経験値は貴重なのである。日本側は共同技研を設置、基本的な技術の所有権はロシア側にあるものの、その技術から得たデータの利用が認められている。また、自国のコアを危機に晒すことなく、実戦データを得られるのは日本としてもありがたいことであった。


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楯無の過去 外史

「くくく、無様な姿だな……いつも余裕ぶっこいてるから掬われる……足元を……」

 

扉を開けて現れたのは簪ではなく……カイジ……!妹の出番、なし……!

 

「カイジ君。あらあら、お姉さんに嫌味でもいいに来たのかしら?」

 

「なに、俺なりに心配して見舞いに来てやったのさ……一応俺の雇い主、ボスだからな……」

 

カイジはアルバイト……更識家のアルバイト……!楯無付きのアドバイザー……!

この外史ならではの緩さ……暗部で一般人がバイト……!

 

「なら、この絶賛傷心中のお姉さんを慰めなさいな」

 

「慰めてやったら、今のこの状況……圧倒的危地……窮地……それがどうにかなる、って……?ただの現実逃避だろ、そんなもん……」

 

「少しは夢を見させて頂戴な……で、私が寝ている間にどうなったのか説明してくれない?死に物狂いだったから最後の方の記憶が曖昧なのよ」

 

腹部を刺されて気絶……その後の記憶はろくに残っていない……呆然……亡失……

人間はその3分の1の血液……約1800ccを失えば致死量に達する……

今回楯無は1000cc近くの血液を失っていた……死にはしないまでももうフラフラ……

アカギとは体重が違う……彼女の総血液量はアカギよりも少ないのだ……!

 

「……お前のISはセカンド・シフトした……そして単一仕様能力でヘルハウンドを捕獲……アラクネを纏った女は現場から逃亡……お前は病院へ、コリンズは拘束された……こんなところだな……」

 

「何が何だか分からない、ていうか窮地って言ってなかった?」

 

カイジの言葉は寝耳に水……藪から棒……晴天の霹靂……完全に予想外……!

 

「さぁ、何のことだか……まぁ、俺だって初めに聞いたときは耳を疑ったさ……でも、それが事実なんでね……」

 

「まぁお姉さんが考えていたような最悪の事態は回避されたってことかしら」

 

コア0機、などという事態は回避されたらしい……首は繋がったか……

 

「……あと、監禁場所に突入した実行部隊の2名が死亡、残りは重軽傷者だ……犯人の一味の男は肉片一つ残ってない……」

 

「なんですって!?」

 

「どうやら爆弾を仕掛けられてたらしい……どの方向に転んでもいい様に……手を打たれてたってわけだな……」

 

相手も警察のものが今回の事態において……そこまで迅速に関わって来れるとは考えていない……

もし場所を突き止め、その場所を抑えるとしたら……まず更識、ないしは日本の暗部のもの……

一味の者が囚われて、コリンズの脅迫材料がなくなったら……これはもう爆殺しかない……!

 

「なんてことを……それじゃあ、あの少女も……?」

 

「そいつは現場から真っ先に救い出されてる……トラウマにはなるだろうが、一応は無事だ……」

 

少女は助かった……外史ならではの作者の捻じ曲げ行為……!なお死人は出る……

 

「そう、そうなの……本当になんて外道なの、吐き気がするわ」

 

少女が救出されるのを待つ訳がない……更識の者に最大限被害がだせる機会を待っていたに違いない……

 

「たしかに、こいつらは外道も外道……道を外れた異端者……」

 

「コリンズ先輩は、拘束って言ったわね?こちらがまだ身柄を持っているのかしら?」

 

「……ん?まだアメリカの手には渡っていないが……?」

 

コリンズの身柄はまだ日本側で拘束……事態がアメリカのみで済む話ではない……

 

「彼女、どうにかならないかしら」

 

「あんたの腹を刺した相手だぞ……?」

 

どうにか、とは一体なんのことやら……

 

「彼女の選択は、代表候補生専用機持ちという点では失格だわ。でも、ね。自分の命を捨てでも、だれかを救うことが出来る?自分が今まで努力してきた、候補生になるのは、彼女ほどの腕前になるのは、簡単な事じゃないのよ。彼女は、自らの努力全てを否定して、捨て去ったのよ。ただ一人のためにね。その彼女の選択を罵る人がいたらそいつは人でなしよ。きっと、だれにも救ってもらえないような可哀想な人。今回私が腹を刺されたのは、その結末よ。恨んでなんかいないし、どうにかできるものならしてあげたいわ」

 

「石田さんが俺に託した意志……その意志の源泉……コリンズはそれを持っている、か……」

 

カイジが石田より託されたもの……人間がみな持っていたはずのものだが……

いつの間にか失ってしまった……そんな意志の源泉……それをコリンズは失っていない……

 

「え?」

 

「奴を助けられる、そんな選択肢があったら……お前はどうする……?」

 

「……あなたは、何を考え付いたのかしら」

 

この普段は怠惰……パチンコ屋か競馬場に入りびたり……そんなクズアドバイザーだが……

土壇場……瀬戸際……崖っぷち……そんな追い詰められた状況……

その時に発揮する確変……核心的……革新的……圧倒的閃き……!

 

「そうだな……今回は、アメリカに嵌められて大変だったよな……あんたもコリンズも……手のひらの上で踊らされてたってわけで……不幸だったよなぁ……!」

 

「どういう、意味かしら?」

 

「いやいや、そりゃあお前……あの現場にいた誘拐犯の女……アメリカの専用機持ちだろ……?ISアラクネのさ……!」

 

「あれはアメリカ軍が強奪されたものよ、亡国機業にね」

 

裏の世界にいる人間なら……各国のISの強奪事件……

それがいくら秘密裏にされていようとも……そのおおよそは把握している……

カイジもバイトだが……把握していることのはずである……

 

「……?お前は何を言ってるんだ……?そんな事実、どこにあるっていうんだ……?」

 

「確かにアメリカはこの事実を公表していないけれど……」

 

大国であれば……いやなくとも当然ひた隠し……機密事項……

今となっては国防の要となっているIS……それを盗まれたなど恥どころではない……

公開するわけにはいかない……自らの懐の甘さを曝け出すことになるのだ……!

 

「っくくく、俺はそんな事実知らねぇな……!アメリカ以外のどこの国の公式記録にも……そんなことは載ってないぜ……?」

 

「そんな、それじゃああなたは……」

 

あくまでも、あのISを……アラクネはアメリカの差し向けた者……

そういう前提で進めようとしている……それはつまり……

 

「あれはアメリカがコリンズを嵌めて……あの場に残った唯一の事件関係者……犯人にして幕引き……これはすべてアメリカが糸を引いてたのさ……!」

 

単純に話を進めればそうだが不合理……なぜ自国の代表候補生を嵌めて……

自国のISでそんなテロ行為をするというのか……

 

「でも、それじゃあツジツマが合わないじゃない。アラクネがアメリカのコアじゃないから成り立つ話でしょう?今回の事件は」

 

「元々の目的、それがあんたのコアのみだとすれば……ツジツマってやつは合わせられる……あからさまな餌を巻いてあんたをおびき出す……そしてその上で1vs2であんたのコアを奪う……アラクネは自国内の人間の裏切り……不祥事にして裏の部隊へコアを回す……表向きにはアメリカのものでなくなった、アメリカのコアを持つ部隊……ISには467機しかなく、どれにも名札がついてる……秘密工作をしようにも、その場に残ったISコア反応を辿られたら……どこの国のコアかばれちまう……今回の事であわよくば、3つのコアを持つ……最強の裏部隊を作れるかも知れなかったってこと……!」

 

アメリカがもしその作戦を展開していたなら……表向きには国の大切なコアを2個失うが……

3つもコアを持つ……どの世界でも自由に秘密工作ができる裏部隊……

表向きにコアがあるよりも……はるかに有用性の高いIS部隊が出来る……

 

「じゃあ、アメリカがアラクネが盗まれたということを公表したら……?」

 

「重要な国家有数のコアを盗まれて……しかも、そのコアが他国に対してテロ行為をしてから公表……?なめんな、通るか……んなもん……!ふざけるのも大概にしろ……!これは、アメリカが公然とロシアと日本に喧嘩を売った……!そういうこと……!」

 

盗まれたものは個人携行が出来る兵器……ポケットに入る……アクセサリーサイズ……

町中に落ちていてもだれも気付かない……性能次第では町を灰燼に帰する爆撃機……

それを盗まれたことを自国の内々に隠すことなど……他国への間接的なテロ行為である……!

 

「でも、そうなったら戦争になってしまわないかしら?あとはコリンズさんはどうなるというの?」

 

「そりゃ、専用機持ちには到底戻れない……奴は祖国に裏切られた……悲劇のヒロインに仕立て上げる……コリンズのISから会話は抜き出してある……それを公開……!世間も凍り付くような外道さだ……コリンズの専用機持ちとしての……脇の甘さを指摘する輩もいるかもしれんが……でも、声を大にして言えば当然バッシング……社会、世論の感情はコリンズに傾く……!そして、最終的にはアメリカが自国の生徒に裏切りをかけさせ……ロシアのコアを掠め取ろうとした……そういうことになるって寸法……!まぁアメリカには濡れ衣もいいところだが……奴らがコアを掠め取られていたことを秘密にしていたのが悪い……結局、事実はどうあれ奴らは俺が言った通り……アラクネを持った奴が……国を裏切ったということにするしかないだろうな……そう簡単には戦争なんてものは起こらない……なんだかんだで手打ち……賠償金で済ませるもんさ……」

 

「でも、そうなったら更識の存在は……」

 

更識の存在を隠し通して進めることは難しい……昨日の事件は秘密裏に処理……

ただのガス漏れからの爆発事故……市街地上空での爆発などは難しいが……

この事件を表ざたにすれば……様々な闇に葬られるべきことが……

陽の光を当たらざるを得なくなってしまうではないか……

 

「そこはお前が泥を被れ……いくらなんでも無傷、なんの損失もなしに……コリンズを助けられるなんて……甘いこと考えてはないだろ……?」

 

「……わかったわ、私が矢面に立って首を切る。現場の事を何も考えてない情報部にはいい薬だわ。あの状況で突っ込めばどうなるかまるで想像もついてない奴らにはね」

 

方法がない訳ではない……自分自身をあくまで学生の不審な動きを察知した……

ただのロシア代表として話を進める……更識家としてではなく一個人……

市街地での戦闘行為や事件へ……首を突っ込んだ責任を全部自身が負う……

 

「なら、裏取引といくか……お前は自分の望みに……その命を張った……誠意を見せた……アメリカには脅しをかける……今回のことは秘密裏に進める……!」

 

「そ、それって……」

 

「別に、今回のことは何もすべてを公表して進める必要はねぇ……アメリカに交渉。お前の国のアラクネが戦争行為……こっちの国家機関の人間を殺して……ロシアのISも掠め取ろうとした……この落とし前をどうつけるんだ、ってな……!アラクネが盗まれたなんて知らぬ存ぜぬ……そっから話を進めていけば……コリンズの身柄くらい確保できるさ……アメリカから国外追放にでもさせて……日本国籍取らせて「箱庭の希望」で働かせればいいだろ……」

 

裏取引で進めていく場合の限界点……とはいえ、世間的に見て……

国を失うことか、悲劇のヒロインに仕立て上げられるか……

そのどちらがマシとも言い難いものではあった……

 

「お姉さんを試したってわけ……?」

 

「あんたがただ助けられるがまま……それを受け入れるような輩だったら……俺はあんたを見捨てていたな……コリンズが助かれば、俺はそれでよかったからな……」

 

何かを求めるなら代償は必須……何も失わず得られるものなどない……

カイジがコリンズを助けようと考えたのは……コリンズの持つ意志……

そして、コリンズの払った代償の大きさゆえ……だから試した……

楯無はその代償を支払う覚悟があるのかどうか……

 

「コリンズ先輩が何かを持っているって言ってたっけ、それが理由なの?」

 

「人間が人間であるための……一番大切なものさ……どうやらあんたにもそれがあるらしい……」

 

「そう、私にもカイジ君が助けようと思ってくれるだけの……大切なものを持っている、という訳ね」

 

「まぁとりあえず報酬金、あんたの願いをかなえてやるんだ……それなりには出してもらわないとな……!」

 

このバイトは割がいい……解決する事態故の金払い……

口封じの意味もあるのだが……少し働くだけで放蕩無頼……

コンビイバイトとは比べるべくもない、いいバイトであった……!

 

「というか、カイジ君……それだけコリンズ先輩の情報手に入れてるってことは、私が何か言わなくても、何かするつもりだったんじゃないの?」

 

「……いや、そんなことはねぇよ……ただ、今回の事件の全容を把握しととかないとってだけで……俺が真面目なアドバイザーだって知ってるだろ……!それだけのこと……!」

 

コリンズの件を楯無が言い出してから……回答に至るまでが早すぎる……

明らかに事前に仕込み……対策案を考えていたに違いない……

 

「へーぇ?お姉さんが君から臭ってくるタバコの匂いに気付いてないとでも、思ってるのかしら?」

 

事件が起きてから2日が経っている……その間に考えをまとめた後は……

どうせ自分の見舞いになど来ず……パチンコ屋に入り浸っていたに違いない……

 

「いやぁ、資料室にずっと籠って……タバコ吸ってたからなぁ……」

 

「資料室は禁煙よ、警報がなるわ。真面目な、見舞いに来るアドバイザー君なら……一日中でもお姉さんの手を握って、起きるのを待っていてくれるもんじゃないの?」

 

そう言い、しなを作って見せる楯無……非常に様になっており……

普通の男ならイチコロなのだが……そこはカイジである……!

 

「っけ、お姫様って柄かよ……」

 

「あらあら、雇い主にそんな口の聞き方をするなんて……これは減俸かしらねぇ」

 

「ってめぇ、卑怯だぞ……!そういう権力のふりかざしは……!」

 

「ならもう少し真面目に……って口うるさく言いすぎて出ていかれても堪らないわね。まぁ報酬の件は考えとくわ、色くらい付けてあげる」

 

「話が分かるぜ、大将……!じゃあ俺はこれで……」

 

カイジは先ほどから時間を気にしていた……現在14時35分……!

 

「あらあら、もう少しお姉さんとお話ししていきなさいな。そうねぇ、あの針が15時を超えるくらいまでは」

 

馬券の購入締め切り時間……カイジのせいで無駄な知識の増えた楯無である……

 

「おい、それじゃあ折角色がつく意味が……!」

 

「カイジ君の勝てないギャンブルに消えるために、色なんて付けたくないわよお姉さんは」

 

「いや、今日のはちげぇんだって……勝てる、俺のデータによれば7、いや8割……!これを逃すのは愚の骨頂……!落ちている金を見過ごすようなもんだって……!」

 

カイジの言う7、8割……この場合は3割くらいだろうか……

 

「落ちている金は警察に届けるものよ、カイジ君。この裏の警察である更識の当主にね」

 

「っけ、裏の警察ならそのまま闇に消えちまうじゃねぇか……」

 

そう言い、病室をとっとと後にしようとするカイジ……だが

 

「うーん、それじゃあお姉さんと賭けをしましょう。あなたが今日買う予定の馬券、そのお馬さんを教えなさい。この病室のTVでその結果を見るの。あなたが勝てばつける予定の色を2倍、負けなら色はなし。どうかしら?」

 

こうすれば、カイジは逃げない……どうせ懐の銭は少ないはずだ……

勝てる自信があるのなら……まだ手に入らない色を賭けに使えるこの勝負……

逃すはずがない……!

 

「おいおい、それなら先に色の値段……それを言わないと卑怯だぜ……!倍数ってことは元値を下げれば被害は0……!」

 

「目聡いわね、といってお姉さんもそんなに狡いことはしないわよ。そうねぇ、これでどうかしら?」

 

楯無は指を三本立てて見せる……一本10万円である……!

0万円か60万円か……競馬場に行くよりも実入りは高い……!

この色は今から行く競馬に間に合うものではない……

今の自分の手持ちでは万馬券を当てても……60万円には届かないのだ……!

 

「っへ、良いぜ、乗った……!ほえ面かくんじゃねぇぞ……!」

 

そうしてカイジは結局……病室のTVで楯無と賭けをすることになった……

この賭けの結果は皆さんのご想像にお任せするとしよう……!

 

 




カイジ絡ませてもコリンズの身柄確保で精いっぱいだった、


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箱庭起源編
カイジ、臨海……!


ここはバスの中……臨海学校でお世話になる花月荘へ向けて生徒を移送中……!

 

「見て見て、海!」

 

「おー。天気もいいし、綺麗な海が見えると一気にテンションあがるよねぇ!」

 

「そろそろつくってことだよね!長かったなぁ」

 

その声を聴きつつも、カイジ憂鬱……!当然、手袋を外すこともできなければ……

耳にかかった長髪もそう簡単に上げることはできない……!

そこには残る……生々しい傷跡の縫合痕……!海は鬼門である……!

 

「カイジさん、こちら、イギリスのスコーンですのよ。食べていただけませんこと?」

 

「あぁ……ありがとよ……」

 

サンドイッチ事件より……何くれとなく……お菓子や料理を作ってきているセシリア……!

しかし、今は別の焦り……というのも、急激にラウラが近くになった……

そして、シャルル改めシャルロットも……どこか気にしているように見えるのだ……!

今まで敵がいなかった分……セシリアの焦りは当然とも言えた……!

 

「ど、どうですの?うまく焼けるようになってきたのですけれど」

 

「(喉が渇いていく……このパサパサが口の中の水分……奪っていきやがる……熱気に包まれたバス……揺られること2時間の終わりに……これはきつい……)サクサクしてて……いいんじゃないか……」

 

「ほら、カイジ君。キンキンに冷えた泡立ち麦茶(ビール)いる?喉乾いてるんでしょ」

 

逆だ、逆……カイジの欲求を的確に判断……ナイスアシスト……

 

「お、デュノア……気が利くじゃねぇか……!ありがたく、頂くぜ……!」

 

「(や、やらかしましたわ!このタイミングで喉の乾くスコーン!最早嫌がらせの類でしたわ!そしてシャルロットさんのカイジさんの心情を的確に読んだサポート!やはり……!)す、すみませんでしたわ。喉が渇く食べ物でしたのに飲み物の用意もせず!」

 

「別にいいって……悪気はねーんだろ……?こんなことで怒ったりしねぇよ……」

 

許してやろうじゃねぇか、寛容な精神で……というほどのことでもない……

 

「セシリア、僕も一つもらってもいいかな?」

 

「わたしも欲しいな~。イギリスといえばスコーンだもんね~」

 

「え、えぇ、構いませんことよ。シャルロットさんも布仏さんもどうぞ」

 

「(デュノアは本当に気遣いがうまいもんだ……そして布仏は菓子があると……どこからともなく現われやがる……)」

 

デュノアもただ自分の好感度を上げるためだけではない……セシリアの事もフォロー……

周りが円滑に行くように……空気を読んで適切に行動できる……デュノアであった……!

 

そして数分の後……遠くの海辺に旅館が見える……目的地、花月荘……!

 

「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ!」

 

千冬の掛け声で即座に席に着く生徒……誰も逆らうものはいない……!

そして言葉通り、到着……今回の校外実習の地、花月荘……!

 

「ここが今日から三日間お世話になる花月荘……!全員、従業員に迷惑をかけないよう注意しろ……!」

 

「「よろしくお願いします!」」

 

みな、礼儀良くあいさつ……!基本故に教育は行き届いていた……!

 

「はい、こちらこそよろしくお願いしますね。今年もみさなん元気があってよろしいですね」

 

椎名実心……花月荘の若女将を齢30で務めるしっかり者……!

 

「こちらが、噂の……?」

 

去年までは当然いなかった男子生徒へと目を向ける実心……!

 

「えぇ、今年は男子がいるせいで浴場分けが難しくなってしまって申し訳ありません」

 

「いえいえ、旅館にとっては普通の事ですから」

 

とは言うものの女子200人越えに男子2人だけ……予定を組むのは骨が折れることである……!

 

「それではみなさん、お部屋の方にご案内します。海に行かれる方は別館で着替えられるようになっております。場所が分からなければいつでも従業員にお聞きください」

 

女子一同、お待ちかねの海……!バスに揺られ失われた体力も即座に回復……!

皆元気よく、旅館へ入っていくのであった……!

 

「そういえば~、かーくんの部屋ってどこなの~?おりむーと一緒だとは思うけど、一覧になかったんだよね~」

 

その質問に当然聞き耳……周囲の女生徒たちの気にする……目当ては織斑……一部カイジ……!

 

「(そういえばまるで気にしていなかった……織斑と同室は、雰囲気がよくねぇが……仕方ないだろうな……)さぁ、な……つい先週まで予定すら知らなかったんだ……部屋割りなんて気にしてねぇよ……」

 

現状わだかまりは抱えていないが……一人部屋のほうがありがたいカイジ……

 

「む~、行事はちゃんと把握しておかないとだめだよぉ~」

 

「そうですわ、対抗戦やトーナメントのことはちゃんとされているからまだいいですけれども」

 

「(正直研究所送りはあまり、心配はしていない……ドイツに取引ではあるが一応の恩は売った……フランスの弱みは握っている……こっちはあんま使えないが……だが、まだ……俺自身の体を直接狙ってくる人間がいる以上……成績云々だけでなく……自らの腕を、あげなくちゃならねぇ……!そいつらには言葉は、通じねぇからな……)まぁ別に俺が把握してなくても……困ることはないだろ……部屋がない……なんてことはないだろうしな……」

 

なければ床でもどこでも寝れる……地下暮らしで得た忍耐力とでもいうべきか……

厳しい環境に対する適応力は非常に高くなっていた……!

 

「む~そういうことじゃないんだけどなぁ」

 

「なぁ、織斑先生……俺の部屋って、どこなわけ……?書いてないらしいんだけど……」

 

しおりに書いていないのなら……把握しているのは千冬か真耶のみ……

布仏にしてもそれには気付いているのだろうが……流石に聞けないようだ……

 

「自ら書いてなかったと、どっちも聞きに来ないとはな……なぜそういう所は抜けているのだ……」

 

一夏にしてもカイジにしても……普通は気に掛ける自らの部屋……

それを全く確認することもなく……把握しようともしていない姿に呆れる千冬……

 

「織斑、伊藤。お前たちの部屋はこっちだ。ついてこい」

 

「先生自らご案内とはご苦労なこって……書いといてくれりゃいいものを……」

 

理由は分かっていながらも……嫌味ったらしく挑発するカイジ……!

 

「わざわざ言わなくても分かることを……説明させるつもりか……?」

 

千冬もカイジの煽り癖は把握……一々いらだつこともなく返す……!

 

「っはは、なんのことだか……」

 

「??」

 

一方一夏は分からない……なんのことだか……おろ……おろ……!

 

「ともかく、黙ってついてこい」

 

そうして案内された部屋……ドアには教員部屋とわざわざ張り紙……!

つまり、同室……教員と……!

 

「織斑はここで私と同室だ……最初は個室だったが、絶対に就寝時間を無視した女子が押し掛けるだろうからな……そして、伊藤はこの隣、お前は個室だ……!私の隣の部屋へ……押しかけるほど勇気のあるやつもいないだろう……」

 

これは千冬なりの配慮……自らの弟とでは居心地もよくないであろうという……

千冬としてはカイジから学んで欲しいことはなきにしもあらず……

しかし、ラウラ、デュノアの際の交渉や提案の内容……カイジとあまり関わらせすぎるのは……

一種の毒……危険な事ともいえ……見極める時間が必要とも感じていた……!

なにより、一夏があのような搦手……それを受け入れるかどうか……

 

「へぇ~、そいつはありがたいこって……一人でお気楽に楽しめるってわけだ……!」

 

1人部屋なら……飲むことも可能……備え付けの冷蔵庫からビール……!

早速下の売店で焼き鳥……ポテチ……柿ピー……購入を考えるカイジ……!

 

「……部屋に備え付けの冷蔵庫……その中の炭酸飲料は……外してあるからな……!残念ながら……!」

 

しかし、お見通し……!というよりはそもそも各生徒の部屋からも……

炭酸飲料はすでに取り外されている……!普段はまずしないことでも……

環境の変化……気の弛み……大勢の友達と過ごす夜……簡単にタガが外れるのである……!

 

「……っち、抜け目のないこって……ソーダとか好きなんだけどな、俺は……あの喉越しが……!」

 

「ふん、そいつは悪いことをしたな……下の売店で買えるといいな……買えるものならな……!」

 

当然のことだが、生徒に炭酸飲料を売ることはない……!売れば大問題……!

千冬としても自分と二人で飲む場合なら……誤魔化しがきかないこともない……

しかし、外でやられると流石に洒落にならないのである……二人でも洒落にならないが……

カイジの目論見は……藻屑の泡となった……カイジ、無念……!

 

カイジは一人部屋の中……窓から外を眺めていた……!

海に行くことはできない……出たとしても水着に着替えることすらなく……

ただ、暑い中パラソルの下にもぐることしかできないのである……!

 

「学園内じゃそうそう……一人にもなれなかったからな……寮の方も個室にしてくれたら、便利なんだがな……織斑と同室は……勘弁してほしいが……」

 

今はシャルロットが女生徒となったため……部屋の変更が考えられている……

そうなると自然、男性同士の部屋となる……はずだが、カイジの知る由はないが……

当然防衛上の観点から、これは危険……それぞれに個室を与えるか……

どのような形で落ち着かせるか……教職員で議論がなされていた……!

 

「隣が騒々しくなりやがった……織斑のところに押しかけてるのか……全くお忙しいこって……」

 

自分には関係の無いことと決め込み……再び外を眺めるカイジだが……

当然、ノック……自らの部屋にも無慈悲に……闖入者……!

 

「居留守、と決め込むか……そのうち諦めるだろ……」

 

カイジはすでに鍵をかけていた……居留守一択……!

 

「カイジさん、わざわざ鍵をかけてるのは着替えてらっしゃるんですの?」

 

「カイジ君、いるのは分かってるんだよ!」

 

「師匠、中から人の気配がするぞ!」

 

三者三様の言葉……だが、そのセリフから分かるのは……

カイジが中にいるということはバレバレ……分かっているということであった……

何度かノックして出ないことに諦めたのか……部屋の前から遠ざかる気配……しかし

 

「おい伊藤、私は防衛上の観点から……生徒達の部屋の鍵を預かっている……自分から開けるか……私に開けられるか選べ……!」

 

本来の千冬なら……このようなことに関わりにいくことはまずない……

しかし、ラウラの言葉……悲しみに染まった瞳……上目づかいで

 

「教官……師匠が部屋のドアを開けてくれないのです……嫌われてしまったのでしょうか……?」

 

千冬は激怒した……かの残虐非道なカイジに引きこもりを許してはならぬと決意した……!

提案したのはデュノア……計算ずくの女……!糸を引いていた……!

観念して、鍵を開けるカイジ……!そこに待つ2人の修羅……言葉には出さずとも……

態度からは怒りがにじみ出ていた……しかし、ラウラは安堵の様子……やはり、いい子……!

 

「師匠、ぜひ見て欲しいものがあるのだ!海へ行こう!」

 

「わたくしもカイジさんに選んでもらった水着をお披露目致しますわ」

 

「あ、いいなぁセシリア。今度はみんなで買い物に行こうよ!って、今は海!こんなに天気もいいんだし、部屋に閉じこもってなくてもいいんじゃない?浜辺も気持ちいいよ!」

 

あくまでも無邪気なラウラ……当然一緒に買った水着を見せたいセシリア……

浜辺の良さを訴えるデュノア……三者三様の性格が表れていた……!

 

「いや、俺は……そう、カナヅチ……泳げないから海は苦手でね……みんなで楽しんできてくれないか……?」

 

「(絶対に外さない手袋……思いついたような言い訳……とはいって、それなら海に入らなければ……問題はないだろう……)伊藤、ビーチパラソルくらいなら用意されているぞ……なに、無理に海に入れとは言わん……3人もこうして誘いに来てくれているのに……断ると言うのか、貴様は……?」

 

「……しょうがねぇな……海には入らねぇからな……?」

 

渋々ながらも……海へ向かうことにしたカイジであった……!

 



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カイジ、隠影……!

デュノアが周囲から見たらどうかっていうことに関して
周囲から見たらデュノアは男だったわけだから、初めは男として馬の合う一夏と仲良くしていただけで、女性になったらカイジが良くなったんやなtって、うん、そういうことにしておこう。


浜辺へと出てきたカイジ……そこではクラスメイト達がわいわいと遊んでいる……

空いているビーチパラソルを探すために辺りを見回し……

周囲に人も少ない静かな場所へと向かうのであった……

 

「(それにしても、入学当初も感じてたっけ……こんなキャピキャピとした空気……違和感……俺に合ってねぇ……この手袋の下……お日様に晒せない傷跡……居場所が違う……そういう感覚……しかし、それが悪くないとも思えている……か)」

 

カイジはビーチパラソルの下……騒がしい空気にうっとうしさを感じながら……

のんびりと時を過ごしていた……

 

「お~、かーくんも来たんだね~。部屋に閉じこもるかと思ってたけど」

 

「その恰好は……一体なんなんだ……?」

 

突如としてかけられた声に首を向けると……そこには着ぐるみ……かの、電気ネズミ……

 

「特注の水着だよ~!キャストオフもできるけどね~」

 

「へ、へぇ~……ずいぶん特殊なご趣味なこって……まぁ俺の事は放っておいて……遊びに行けよ……時間は有限だ……」

 

「う~ん、海には入れなくても浜辺で遊ぶくらいはできるでしょ?のんびりするのに飽きたら一緒に遊ぼ!じゃあね~」

 

そう言いふら……ふら……っと女友達のいる場所へ帰っていく布仏であった……!

 

「(やっと行ったか……それにしてもおせぇな……人を呼んでおいていつまで待たせるんだか……ん?海に入れないの言ったっけ、か……?)」

 

布仏ものんびりとしているように見えて……カイジが手袋をどんな時でも……

外さないのは当然見ている……故に海に入りたがらないことも看破……!

 

「お待たせしましたわ、カイジさん」

 

「ん、あぁ……いいってこと……存外浜辺も日当たり……風通しが良くて悪くはない……」

 

「それで、おほん。ど、どうかしら、わたくしの水着姿は……」

 

不自然な咳払い……そして尋ねる……求めている、感想を……カイジから……!

 

「(もう、試着したところ、見てるし……いまさら何を言えっていうんだよ……)いいんじゃ、ないか……試着室で見たときより……いいと思うぞ」

 

女心など露とも分からぬカイジ……クズみたいな回答である……

 

「カイジさんに気の利いたお言葉は求めておりませんけれど……まぁ、褒められただけでもよしとしますわ。次はもうすこし、女心を学んでくださいましね」

 

不満げに言いつつも、満更でもない笑みを浮かべるチョロリア……!

 

「僕たちはどうかな?って、ラウラ。僕の後ろに隠れてちゃ見えないよ?」

 

「いや、しかし、やっぱり恥ずかしい……」

 

次に現れたのはデュノア、ラウラのペア……!しかし、ラウラはデュノアの背に隠れている……!

 

「なんていうか、イメージカラー……セシリアの水着を見たときも思ったけど……ISとおんなじカラーリングなんだな……!そういうの、分かりやすくていいと思うぜ……!」

 

カイジの率直な感想……セシリアはブルーの青色の水着……

デュノアは橙色……ラウラは黒色……それぞれのイメージカラー……

 

「カイジ君の感想にちょっとでも期待した僕が馬鹿みたいだ……」

 

「師匠……この私でも今の回答が駄目駄目なことは分かるぞ!」

 

恥ずかしがることはやめ……背から出てくるラウラ……!

最早まともな返答を期待するべくもなく……諦めたのである……

 

「いやいや、筋違い……勝手に期待して、期待外れなんて……そりゃねーって……織斑にでも頼めよ……そんなことは……」

 

「それでは意味がないのですわ」「そういうことじゃないんだよ」「師匠……」

 

三者三様呆れた声……謀略、知略に長けても女の扱いは知らぬカイジ……!

 

「さて、カイジさん。すこしお頼みしたいことがあるのですが」

 

「……なんだ?」

 

「これ、塗っていただけませんこと?」

 

セシリアの手には日焼け止め……女性の必需品……夏の日差しは容赦なく肌を痛める……

若いうちに気を使っておかなければ……歳をとって一気に老け込み……肌荒れ必至……!

 

「なんだ、そりゃ……」

 

が、カイジに分かるわけもなく……首をかしげて不審そうに小瓶を眺めていた……

 

「もう、海と言ったら日焼け止めは定番ですわ!どうしても一人では塗り切れないんですの、そこを塗っていただけるだけでも」

 

「(あぁ、そういうこと……手袋越しで塗るってのはなぁ……右手一本で塗る、か……?いや、だめだ……どうあがいても、俺の体は……まだ、血のマニキュア……その一部は残ってる……こいつらの目に晒していいもんじゃねぇし……こんな手でセシリアの事を触りたくもない……いや、触るべきではない……やはり、ここは……俺の居場所では……)すまないな、デュノアにでも頼んでくれ……俺はちょっと風にあたって来る……」

 

カイジにとって、この手は血に塗れているもの……

消せない傷を負い、一般人には見せるべくもない手……

その手で彼女たちに触れることを忌避するカイジであった……

 

「あ、カ、カイジさん?」

 

有無を言わさず……背を向けてふらふらと離れていくカイジ……!

 

「どうやら師匠にはどうしても手袋を外したくない理由があるようだな」

 

「わ、わたくし、やらかしてしまいましたわ。カイジさんが手袋を外さないようにしていることなど分かっておりましたのに……」

 

うなだれるセシリア……せっかくの夏……一面の青い海……

まだ若い彼女が……浮かれてしまって……いつもならしないこと……!

気遣いを忘れてしまうこと……それを誰が責められようか……!

 

「ほら、セシリア。カイジ君のこと追わないと!」

 

「しかし、わたくしにはその資格は……」

 

「師匠から教わったぞ、人の大事なことは謝罪をすることだ!と。ここで自責の念に駆られていても意味がない。師匠を追って、謝って、許されて、それで解決だ!」

 

生きる、カイジの教え……!人と人が和解するためには……ただ反省するだけでは駄目……

反省して、かつ、必要となる……謝罪が……誠意を込めて……!

 

「そ、そうですわね。みなさん、ちょっと失礼しますわ」

 

「あ、肩掛け持って行ってセシリア。さすがに水着のままで飛び出すのはちょっと……」

 

どんな時でも的確にフォローを忘れない……そんなデュノアであった……!

 




主人公がはしゃげない海とか何書けばいいんですか……


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カイジ、解呪……!

海辺を離れたカイジ……当てもなくふら……ふら……と道路をふらついていた……

自分がいるべき場所との違い……お日様の当たっていい体なのか、どうか……

自分自身の断ち切れない過去……人は過去から逃れることはできない……!

ふと、道路に見慣れない何か……不審な物体に気付く……

 

「……?なんだありゃ。忘れ物か……?」

 

道端に落ちている……人参……だが、巨大……!人間サイズ……!

不審に思いつつも近づくカイジ……その背後から突如陽気な声がかかる……!

 

「やっほやっほ~、天才束さんだよ~ん!」

 

「うわぁ……!なんだ、あんた。どっから出てきた……!」

 

「細かいことはドンウォーリー、気にしな~い!」

 

くる……くる……と回りながら陽気に笑う女性……

 

「(うさ耳のいい歳したコスプレ女、いくらなんでも痛すぎるだろ。布仏でもギリギリなライン……)」

 

どうみても不審人物……カイジや黒服たちとはまた違った……異様な人物であった……!

歳の事を考えていない……痛々しいコスプレ女……!

 

「む~、その顔は失礼なことを考えてるね!制裁……!」

 

「おわぁあぁぁぁ……!」

 

その時、カイジに電流走る……!

 

「い、いきなり何しやがるてめぇ……!」

 

「むっふっふ~、束さんは~かーくんに聞きたいことがあって来たので~す」

 

まったくこちらのことを意にも介さず……マイペースに話を進めていく女性……

そして、こちらのこと……自分のことを知っていて来たようである……!

 

「……!」

 

「そう警戒しないでほしいな~!私の事を知らない人間もこの世界にはいないけど、かーくんもおんなじようなものなんだしぃ~」

 

「(天才束……IS開発の博士がこんな破天荒なやつなのかよ……!?)」

 

当然映像として見たことはあるが……実物のインパクトは強烈……!

 

「よ~やく私がだれだかわかったみたいだねぇ~。存外頭の回転鈍いのかなぁ~、期待外れかも~?」

 

「そりゃ、だれでも期待外れ……あんたみたいな規格外とくらべちゃ……!」

 

世の中を逆転させたとも言える超兵器……ISを一人で開発したなど規格外もいいところ……

常識から外れた……バグのような存在とすら言えた……!

 

「ふふーん、それがそうでもないんだなぁ。天才だから観測できない、凡人だから観測できる世界ってのもあるもんでねぇ!」

 

「何が言いたい……?」

 

最早束は狂人と言われる類……言葉の端々だけではまるで意味がつかめない……

 

「たくさんの亡者の群れに絡まれてるってどんな感じだった?多くの仲間の死体を乗り越えて、見えた世界ってのはさ!」

 

「……!」

 

抽象的な表現にされているが……カイジには束が何のことを言っているか……

理解できない訳がなかった……自分自身が歩んできた道……多くの仲間の骸……!

 

「感じなかった?今いる世界とのずれ、本来自分がいちゃいけない世界にいる気分ってどんな感じ?」

 

束にもあった……天才が……天才ゆえに……周囲とのずれ……!

理解できなくなっていく……凡庸な者たちを……認識できなくなっていく……!

感じていた……自分がいるべき世界は……違うのだと……!

束からすればカイジは凡庸……その過去を調べて率直にそう思った……

しかし、ある時を契機に……凡庸から自分とは違った種の……天才になったと感じたのだ……!

今いるIS学園に……天才としての違い……なによりも血生臭い世界から……

学園生活の落差……違和感を感じないはずがない……そう踏んだ束であった……!

 

「ほらほら、思い出して……!船の中で地の底へ送り込まれていく人たちの顔を……!命綱もなしで落下していく人達の断末魔の叫びを……!自らの耳を指を切り落とした時の痛みを……!」

 

「やめろ……やめろ……!」

 

カイジのトラウマを抉っていく束……カイジが変貌する一番のきっかけになった……

そう考えている鉄骨渡り……そのことを深く思い出させていく……!

 

「正に、今……!死に行く人たちは、どんな顔をしてた……!ほら、あの時のことを鮮明に思い出して……!落ちていく仲間にどんな言葉をかけていた……!?」

 

「あ、あぁ……石田さん……佐原……中山……太田……!俺は……俺は……」

 

9人の名前、それは今でも覚えている……彼らが絶望の淵に立ち……

自らに救いを求めてきていた時の声を……錯乱して自ら死に行く者を……!

助け合おうとしたのか組み合い……ともに落ちていく者を……!

カイジを思い、声もなく……恐怖に抗って落ちていった者を……!

助かったと安堵して……そこから絶望を叩きつけられた者を……!

 

「さぁさぁ、そこで何を見たの……!みんな、見たものがあるんでしょう……!生き残りはかーくんだけ……!私に教えて、何を見たのか!」

 

そこで見たもの……それこそが束の追い求めるもの……

恐らくあの時あの場にいた者たちが一様に見たもの……得たもの……!

死を受け入れた先で……カイジが手に入れたと思われるもの……

死から逃れることのできる……そんな力の源泉……それがどこにあるのか……!

 

「そこまでにしてくださいまし!どこのどなたかは存知あげませんが、あまりにも悪趣味でしてよ!」

 

カイジのことを追っていたセシリア……途中見失って時間はかかったが……

ついに追いついた先……そこにはうずくまり咽び泣くカイジ……!

そして、その近くには楽しそうに話しかけ……歪んだ笑みを浮かべる女性……!

何が原因か分からないが……容易ならざることなのは一目でわかった……!

 

「む、有象無象が入りこんでいい場所じゃないんだよ~!出てった出てった!」

 

「セ、セシリア……?」

 

「カイジさんから離れてくださいまし!警告は一度きりでしてよ!」

 

現状は分からぬ……分からぬが、最早違反は承知の上でISを展開……

生身の人間にも構わず武器を向けるセシリアであった……!

 

「あっはははは。わたしが天才束さんと知っての狼藉かなぁ?IS開発者の私にISで敵うと思ってるのかなぁ!」

 

「やめろ、セシリア……!こいつには無駄……逆らうな……」

 

「そーそー、君のISなんて私にかかればちょちょいのちょいなんだから~!」

 

言うや否や何やら空中にディスプレイを投影……操作をし始める束……!

10秒も経たぬ間にセシリアのブルーティアーズが強制的に解除される……

それにセシリアは驚くも……それでも引きはしなかった……!

 

「ISが使えなくても、ISが相手でも引く気はなくってよ……!」

 

それがセシリアの本音であった……敵わぬと知っても、引けぬ時であった……!

 

「そこまでする相手じゃない、俺は……違うんだ、お前たちと住んでる世界……本来光が当たる世界にいちゃいけない……俺は……」

 

「カイジさんの過去に何があったかは存じ上げませんわ。教えてくれないんですもの。でもあなたのことですわ、どうしようもなかったのでしょう?逃げ場がなかったんでしょう?あなたはどんな状況でもその優しき心に従ったはずですわ」

 

「違う……!初めはどうしようもなかったさ、逃げられなかった……!でも、この指だけは……俺が、進むことを選んだ……!自ら裏の世界へ、足を踏み込んだ……!その代償として、指を失った……金と引き換えに……!引けたんだ……!引くことができたのに、引かなかった……!だから、これが境界線……俺とお前たちの……!」

 

本当に倒すべき相手のために……前に進んだカイジではあったが……

金への欲望が一切なかったかと言われれば……それは嘘である……

復讐とも欲望ともつかぬ感情……自らに言い訳はできなかった……!

カイジは初めて手袋を……セシリアの前で外した……!

それを見たセシリアは痛ましい表情を見せたものの……構わずに言う……

 

「……戻って来られますわ。人はミスをするもの、でもやりなおせますわ。あなたがわたくしやラウラさんにチャンスをくれたように」

 

ラウラとの間になにがあったか分からなくても……セシリアはいまのラウラの変化……

それをプラスと捉えていた……以前のラウラが悪い……とは言わないが……

それでも今のラウラは楽しそうに……年齢相応の少女のように楽しんでいるのだ……

 

「蹴落としてきたんだ……救いきれない者は地下へ……今生きてるかもわからねぇ……俺が進むことを決めたせいで……死んだ者たちがいる……あの時俺は……誰一人救えなかった……」

 

あの9人は死んだ……間違いなく……もうこの世にはいないのだ……

多くの者が躊躇っていた中……先陣を切ったのはカイジだった……!

カイジが先陣を切らなくても……だれかが切っていたかもしれない……

それでも、先陣を切ったのはカイジ……人が死んでしまった以上……

仮に、などという話は何の意味も持たない……人は仮には死ねないからだ……!

 

「それでも救える限り、救ってきたのではありませんこと?三好さんが言っておりましたわ。カイジさんには返しても返しきれない恩がある。どうかよろしくお願いしますと。あなたが救った方もいるはずです」

 

レゾナンスで出会った三好……セシリアはすこしだけ三好と会話する機会を得た……

その時大袈裟な物言いとは思いながらも……三好の言葉に嘘はないとも感じていた……

そして、いまここに来て……自分の計り知れない何かがあったことを知った……!

 

「裁いたんだ、俺は利根川を……死んだ仲間たちのためとはいえ……俺はただ謝らせたかった、ただそれだけだったのに……受けた、制裁……地獄のような永遠の十秒間……俺は無性に気になってあいつの行方を追った……病院で、一人きり、狂ってた……!俺や看護師を、部下と間違えて……海老谷、お前は焦りすぎ、自分のペースでいいから、できることをやれって……いい上司……悪魔のようなやつだったけど……それでも……人間だったんだ……そんな人間を壊したんだ……俺が……!」

 

利根川は正しく……悪魔のような奴であった……それは否定できないが……

それでも……人間性を持った人間であったのだ……

到底割り切れるものではない……すくなくとも、人間性を失っていないなら……

自らが壊してしまった人間を見て……何とも思わない訳がないのだ……!

 

「キリストの言葉にこんなものがありましてよ。裁く者は裁かれる、裁かない者は裁かれない、許す者は許される、許さない者は許されない。カイジさんは仲間を葬った者を裁いた、そしてその姿に裁かれた。目を背けず自ら自身を裁いたのです。カイジさんは許してくださいました。わたくしを、そしてきっとデュノアさんやラウラさんのことも、許しました。あなたも許されてよいのです。自らを裁き、許す者よ。例えあなたを許さない者がいたとしても、わたくしがあなたを許します。ですから、どうか、この手をお取りになって」

 

「お、おれは……俺は……許されて……いいのか……?こんな傷だらけの……血に塗れた手で……憎念の纏わりつく体で……光の当たる世界へ……!」

 

「わたくしが受け止めます。あなたの優しき心はこちらにあるべきですわ。光と共に」

 

「う、うぅ……セ、セシリア……俺は、おれは……」

 

手を取るカイジ……ぼろぼろに傷ついたその手で……

カイジの闇は晴れた

 




実はこれがこの作品の一話。すべての話に先駆けて書かれたという意味での第一話だったりします。ここに来るまで62話、ずいぶん使ったものである。これを書くにはもうすこしセシリアを掘り下げとかんとあかんかったかなぁ、でもまぁようやく第一目標クリアってことで。


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タバネ、狂涙……!

「ぶー、ぶー。この天才束さんを置物にするなんて、神をも恐れない所業なんだよぉ~!」

 

途中から完全に置物と化した束……当然不満、しかし空気を読んだ……

カイジ自身にあまり干渉はしたくないためである……

 

「うっ……そういや、まだいたんだったな……あんた……」

 

「まだいた!?あんた!?ほんとーにびっくりなんだよ、かーくんは!でもまぁいいや。わたしが単純に聞きたかったのはぁ、死神を見たかってことなんだよねぇ」

 

とはいえ、自身の目的……それは達成しなければならない……

今回わざわざ自分が出てきた理由は二つ……箒に専用機を渡すこと……

そして、カイジの持つ力の源泉……それを探ることである……!

 

「死神……?」

 

「そ、死神!みんな見たんでしょ~?生き残ってるのはかーくんだけだけどね~!」

 

束の読み……カイジの持つ力はあの時全員が発現したが……

だれも生き残れなかった……つまり死が発現のトリガーのはず……

だが、カイジだけはその死に抗った……ゴーレム戦ではその力を利用した……!

カイジ自体はそれを意識してないようだったが……

 

「見たさ……俺にも現れた、死神……!」

 

「おぉ~!どんなのだった?気になるんだよねぇ、この束さんでも存在証明できないしぃ!」

 

「百聞は一見に如かず……あんたも見てくればいい……きっとあんたのところにも姿を現すさ……」

 

きっと、あれは経験しなければ……決して分からないことであろう……

あの時に見た死神はただの幻覚であったはずだが……それを見たいというのなら……

自分の身を賭して……あの鉄骨を渡り切る以外に方法はなかった……

 

「おぉ!灯台元暗しってやつだねぇ!自分で見に行くことは考えなかったなぁ。でも、うぅーん、魅力的な提案なんだけどぉ、無駄だと思うんだよねぇ」

 

「……?」

 

「だってぇ、束さんったら脳みそだけじゃなくて、体も細胞単位でオーバースペックだしぃ、あの程度じゃ駄目かなぁ」

 

束にはあの鉄骨を渡り切るなど……全く造作もないことである……

ISなど用いなくてもいい……生身で鼻歌交じりに渡る自信がある……!

 

「じゃ、あんたは死神とは無縁だよ……一生見れねぇって……」

 

束はどう見ても鉄骨渡りのことを知っている……それも人の話に聞いた、とかではない……

恐らくあの光景は録画でもされていたのだろう……そうでなければ説明がつかない……

そして、あれを見てもあの程度……カイジには目の前の女に死が訪れる……

死神がその首を狩りに行く姿が……寿命以外ではまるで見えなかった……!

 

「それは残念だなぁ!かーくんの脳みそのHDDに残ってないかなぁ、調べたいんだけど!」

 

「そいつはごめん被る……!」

 

慣れない学園生活をしながら……どうにか研究所送りを回避してきたカイジ……

こんな興味本位……死神が見たいなどという理由で捕まっては堪らない……!

 

「ま、かーくんはこの束さんをしても興味の沸く観察対象、重要人物だからさ!手を加えない、天然のままにしときたいんだよねぇ。だから、手は出さないよん!」

 

そうであるならそもそも目の前に出てくること……それもご法度であるはずだが……

科学者故の興味……探求心……それらには抗えなかったようである……!

 

「そりゃ、よかった……しかし、俺なんか観察しても……何も面白くねーだろ……」

 

「うふふふふふ、いまのところかーくんくらいかな、この世の真実にたどり着けそうなのは!」

 

「この世の真実……?何意味分かんねぇことを口走ってんだよ……」

 

この世の真実だの真理だの真相だの……それらは全て言葉遊び……

科学者として何らかの探求の末……それらに辿り着きたいのか……

 

「いずれ辿り着いてもらわないとね、この束さんでは辿り着けない真実に!そして、かーくんには大事なお役目があるのです!」

 

だが、束が辿り着けない……つまり科学的なことではない……

カイジが辿り着ける……今のところカイジしかいないとは……?

 

「俺があんたのために……なにかをするって……?」

 

「私のため、全人類のために……そう、この無限の成層を破戒するんだよ!」

 

束はとびっきりの笑顔で青空を眺めていた……それは狂人の笑顔にしか見えなかった……

しかし、彼女の目には誰にも気づかない……涙が溜まっていた……

 

 

束が青空を見つめていたのは数秒か……その場の三人は誰も動かなかった……

そして、束はおもむろにカイジの方へと向き直る……

その時には笑顔も涙もその顔からは消えていた……

 

「さてさて、かーくんのISをちょっとだけ見せてもらうよん。いじったりはしないから安心してね~!」

 

「俺が、それを信用すると思ってんのか……?」

 

この女に渡せばどんな細工をされるやら……

安心してねなどと言われても……安心できるものではない……!

 

「さっきも言った通り、かーくんには天然のままでいてもらいたいのです。有利になることも不利になることもしないよん。ただ……」

 

「ただ……?」

 

「VTシステムだけは私にとって禁忌の存在なんだよねぇ。愛しのちーちゃんの真似事した不出来なシステム作っちゃってさ。だからそれの残滓がないか、私が直々にチェックしてあげる」

 

その時の笑顔だけは陰惨な……攻撃的な笑みであった……

 

「なんで、あんたがそのことを……って聞くだけ野暮ってもんか……」

 

世界中から指名手配されて尚逃げ回る能力……単独でISを開発する知能、才能……

カイジISの成り立ちを把握できないとは……到底思えないことである……

 

「私にISコアのことで把握できないことなどないので~す。コアネットワークを通じてすべてのコアにアクセスできるからね~」

 

「とはいえ、それをいったら俺のこの専用機……VTシステムによって作られたようなもんじゃねぇか……つまりあんたとしては解体するしか……ないんじゃねぇの……?」

 

カイジは束に渡しながらそう尋ねる……まぁ解体されてしまうなら仕方ない……

どう考えても逆らってどうにかなる相手ではない……

学園の教師では見つけられなかったVTシステムの残滓……

それを束なら見つけてしまう可能性もある……

 

「んふふ~、かーくんのISはVTシステムとあのお人形ちゃんの意志から作られた人格が、避難先としてかーくんのところへ逃げ込んだだけだからね~。かーくんのコアがそれを受け入れて、発展したものならそれをどうこうする気はないんだよ~!」

 

カイジには最早束の言っていることはさっぱり……何が何だか分からない……

が、しかし推察は可能……自身の持っている情報を整理する……

 

「(お人形ちゃんってのはラウラのことか……?VTシステムの発動条件にラウラの負の感情面とかなんとかあったな……発動条件にラウラの意志が関係するなら……なにがしか形成される……?強制発動ではあったが、ラウラ自身に……選ばせるように誘導はしていたしな……それによってできた意志……ラウラがそれを捨てることを決め……消えたくないために俺の乗っていた打鉄に……逃げ込んできた、と……理屈としては、理解できないこともない……まったく非常識だが……)まぁ言ってることは分からんでもないが、突拍子もなさすぎないか……?」

 

「お~、やっぱりかーくんは凡には似ても、凡に非ず!能ある鷹は爪を隠すってやつだね」

 

「そりゃ買いかぶりすぎ……俺はどこにでもいる債務者、ギャンブルでしか熱くなれない……そういうクズなんだって……」

 

「あっはははは!この世界の人類最強たるちーちゃんを怯えさせ、この人類の叡智たる束さんに認められて、それでもなおクズだなんてとんでもない!」

 

ある種世界でもっとも有名な二人……その二人からある種認められている……

一夏や箒ですら、実際のところその域には達してはいない……

そして、その言葉にムッとしたセシリア……今の今まで話についていけず……

茶々を入れられる雰囲気でもなかったので黙っていたが……

 

「カイジさん、今の物言いはわたくしの癇に障りましてよ。自分自身の事を卑下するのは自由ですけど、それは周りの人たちをも貶める行いということは自覚してくださいまし!」

 

セシリア、ラウラ、シャルロットにとって……カイジは自分を救ったもの……

その彼女たちが……カイジが自身を蔑むこと……それを止めることは出来ないが……

苦言を呈することはやめられないものである……

 

「え……?あ、あぁ、悪かったよ……それで、俺があの女を怯えさせただって……?寝言は寝てから言えっての……」

 

人類最強……霊長類最強……よもや余人を恐れるなどあるというのか……

 

「今はそう言うことにしておいてあげよう!さて、チェックは終わったよん。特にVTシステムが発動してしまうような残滓はなかったね、流石はちーちゃんだね~」

 

「(織斑千冬と篠ノ之束はずいぶんと仲がいいようだな……そして、ISのことについて認めるような発言……それは単純にブリュンヒルデとしての腕だけじゃねぇ……その開発についても深く知っているのか……?)ふーん、それは良かった……俺もあんな泥には飲み込まれたくないからな……」

 

「(カイジさんのISがVTシステムが関連して出来たものだったとは、なんとも驚きですわ。本当にISはこの束博士と言い、謎だらけですわね)」

 

「じゃあじゃあ私は箒ちゃんにプレゼントがあるので、これにてアディオ~ス!」

 

そう言い束はカイジを飛び越す……カイジが振り向いたとき束はすでに人参の中であった……

 

 




あくまでも重要人物であるが観察対象であるので、後ろ盾になってくれるわけではない。死ぬようであれば見込み違いということなので


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チフユ、衆議……!

夜、夕食を終えた一同……各々温泉へ浸かったり友達と談話をしたりする中……

 

「なにをしてらっしゃるんですの?」

 

カイジの部屋へと向かっていた、ラウラ・セシリア・シャルロットの3人……

その隣は織斑姉弟の部屋……その扉へと耳を当ててる鈴と箒の姿……!

 

「わ、わわ、セシリア。静かに、静かに!」

 

振り向いた鈴はジェスチャー……口に指を当てて静粛に、静粛に……!

 

「どうなさいましたの?」

 

気持ち声を潜めて、鈴へと窺うセシリア……教員の部屋の前で何をしているやら……

ラウラ・シャルロットはいつの間にか壁に張り付き、中の様子を窺っている……!

 

『千冬ねぇ、久しぶりだからちょっと緊張してる?』

『そんな訳あるか、馬鹿者。んっ!す、少しは加減をしろ……』

『はいはい。んじゃあ、ここは……』

『そ、そこは……くぅっ!やめんか、っつぅ……!』

『ほらほら、すぐに良くなるから。だいぶ溜まってるみたいだな』

『誰のせいだと……あぁ……!』

 

中から聞こえてくるどうにもいかがわしい声……

 

「一体ご兄弟で何をしてらっしゃいますの……お姉さん好きなのは知っていましたけど、これはさすがに引きますわ」

 

口元を震わせて引き気味のセシリア……部屋の内部を想像して半歩後ろへ……

 

「っうわぁ、これは僕もドン引きだよ。そういうことだったんだね、一夏……」

 

変な風に理解する、むっつり筆頭のシャルロット……姉に迷惑をかけたくないのも……

自分をどうとも思っていない風なのも……全ては姉が好きすぎたという解釈……

 

「そういうことって?」

 

疑問を浮かべる鈴……それでは時によっては同性愛ではないか……

 

「いやいや、何でもないんだ、うん、何でも」

 

ははは、と笑ってごまかすデュノア……周りは自分を男だったと思っていた……

そういうことになっているのだから……迂闊な発言は避けなければならないのである……!

 

「ともかく家族のそういった情事に首を突っ込むのは感心しませんわ。早く退散しま……」

 

あまりの衝撃に足元がおろそかになるセシリア……着慣れない浴衣に足を取られ……

 

「っちょ、ちょっとセシリア……!」

 

「ば、馬鹿者。押すんじゃない!」

 

セシリアによって押される二人……当然体勢を崩して物音を立ててしまう……!

 

「そこで聞き耳を立てている者、入ってこい……!まぁ別に逃げても構わん……だが、声で誰かは分かっているぞ……!」

 

部屋の中から聞こえてくる千冬の声……逃げ出すことは簡単である……

だがその選択が何を齎すか……それが想像できないほど馬鹿でもない……!

 

「あ、あはは、はは。こ、こんばんわ、織斑先生」

 

引き攣った笑いを浮かべながら扉を開けて挨拶をする鈴……その額には脂汗が浮かんでいる……

どうあがいてもお叱りは逃れられない……教員の部屋を盗み聞きなど……

 

「まったく、盗み聞きとは感心しないが……まぁいいだろう……一夏、お前は温泉にでももう一度いってこい……!マッサージで汗もかいただろう……」

 

「わかった、ここの温泉広かったから何回でもいくらでも浸かってられるからな!」

 

そう言い、タオルと着替えを持って部屋をでる一夏……残されたのは女子5人……

え……?6人……?女子は5人ですよ、千冬さん……!

え?エネルギー刃なら死なない……?それはどうみても普通の近接ブレっ……

隣の部屋のカイジは居留守……!何度かノックした一夏を完全にシャットアウト……!

いないなら仕方ないか、と……一人温泉へと向かう一夏であった……!

 

「さて、どうした?いつもの元気がないじゃないか」

 

「あ、いえ、そのぉ……」

 

「織斑先生とこのような形で話すのは、初めてと言いますか」

 

「そ、そうだよねぇ」

 

部屋に入った女子達は顔を見合わせて愛想笑いを浮かべてお茶を濁す……

 

「まったく、しょうがない。緊張して喉が渇くだろう……飲み物を奢ってやろう。何がいい?」

 

「え、いえ、そ、そのような気遣いは」

 

「なに、遠慮するな。どれ、適当に取り出すから欲しい奴を取れ」

 

千冬はさっさと備え付けの冷蔵庫の前へ……そうして取り出されたジュース5本……!

生徒達の前に適当に並べ……目線で取るように促した千冬であった……

全員それらを吟味する余裕はない……目の前の一番近いものをそれぞれ手に取った……!

 

「い、いただきます」

 

全員が同じ言葉を口にし……それぞれ飲み物に口をつける……

それを見遣った千冬はにやりと笑って次の言葉を投げかける……!

 

「さて、飲んだな……!」

 

「え?」「はい?」「の、飲みましたけど」「まさか、中に何か入って!?」

 

「そんな訳あるか馬鹿者……教師が生徒に一服盛るか……!まぁ、口封じというやつだ……!」

 

そうして実は6本取り出していた……背中に隠していた炭酸飲料を前に出す……!

プシュッ!と炭酸飲料の缶独特の音が立つ……そして飛び出た飛沫と泡を唇で受け取る千冬……

そのままゴクっ……ゴクっ……!と喉を鳴らしながら飲んでいく……!

 

「っぷはぁ、夏の夜はやっぱりこれだな……!つまみはないが、やはりいい……!」

 

全員が唖然……規則と規律にうるさく……いきなり缶ビールを取り出した思えば……

生徒の前で一気に呷り……あまりにもおっさん臭い姿を見せたのだから……!

 

「なにハトが豆鉄砲喰らったような顔をしておるか……私も人間だ、酒くらいは飲む……一体私を何だと思っているんだ……!」

 

「いや、でもその」

 

「し、仕事中なのでは……?」

 

「固いことを言うな……口止め料はもうみんな飲んだだろう……!」

 

そう言われて全員がハッとしたように手元のジュースを見る……これはそういうこと……!

自分の飲酒を見逃せ……と、つまりはこういうことである……!

 

「さて、いい具合に緊張はほぐれただろう……!そろそろ肝心の話をしようじゃないか……!」

 

ぐるりと首を巡らせて全員の顔を見る……それぞれの事は当然把握している……

 

「さて、お前らは……あいつらのどこがいいんだ……?」

 

あいつら、とはこの場でいえば一夏、カイジの事である……!

 

普段の態度を見れば一目瞭然……誰が誰に執心、恋慕しているのかなど……!

 

「わ、私は別に、以前より一夏の腕が落ちているのが腹立たしいだけです」

 

「あたしは、ただの腐れ縁なだけだから……」

 

「わ、わたくしはクラス代表としてしっかりしてほしいだけですわ。いつも、いつも……そう!頼りないからですわ!」

 

「そうかそうか……ではあいつらにはそう伝えておくとしよう……!」

 

3人の気持ちは当然把握していながらも……冷たくそう言って見せる千冬……

 

「伝えなくていいです!」

 

三人とも一気に詰め寄りその行動を阻止するのであった……!

その必死な様子を見やり……笑い声で一蹴……残りの二人へ目を向ける……!

 

「ぼ、僕はその、ちょっとそういうのはまだ難しいです」

 

千冬はカイジに自身が関わったことは秘密にするように言われていた……

つまり、千冬はデュノアが真相を知っていないと思っているはずである……

だが、カイジは意外にもフォロー…… 千冬へデュノアに話したことは伝えていた……!

 

「(我が愚弟も飽きられても……まぁ仕方ないな……冷たくあしらわれて見捨てられたかと思いきや……自分の国そのものを脅迫してまで……窮地を救ってくれたとなれば……だれしも傾く……心変わりもやむなしだな……!)」

 

千冬としても一夏がいわば見限られてしまったこと……それは悲しいものがあるが……

真相を知った後もカイジの事を知らんぷり……気にもかけていなかったとすれば……

それはそれでやるせない思いをしていたのは間違いないのである……!

 

「私に生き方を示してくれる大事な師匠です!」

 

千冬も実はVTシステムのログを漁った時……ラウラ・カイジの会話を知ってしまっている……

ラウラが自身よりもカイジへと惹かれてしまうのも仕方ない……

それでもなお自身のことを教官として……いまだに見てくれているのだから嬉しいものだ……!

 

「そうか、お前たちにも事情があって難しいことがあるだろうが……その心をまっすぐ育てることだ……!」

 

言いきって二本目の缶を開け、また一気に呷っていく……

カイジとまた酒を飲む機会を作らなければな……と教師にあるまじきことを考えながら……

目の前の恋を追いかける生徒達を眺める千冬……!

 

「さて、全員の気持ちは分かったな……我が弟はまぁ役には立つ……家事や料理はうまい、そんじょそこいらの女は比べ物にならん……!伊藤は、オススメできるがオススメしたくないというか、難しいな……私ですら奴の底は掴めん……!」

 

「きょ、教官をしてそこまで言わせしめるとは流石師匠です」

 

「千冬さんが底を掴めないなんてどういうことよ……」

 

「(やはりカイジさんがラウラさんとシャルロットさんの件で何かをしましたわね……わたくしのときは内輪もめ、身内の恥でしたが……あのお二人を取り巻くものを解決したとなれば……それは怪物と言えるクラスのことですわね)」

 

セシリアとてフランスの公式発表……それを疑っていることは決して口にはできないが……

絶対にそんな簡単な話ではない……何があったか……それはとんと分からぬが……

あまりに出来すぎたあの発表……事実が露見したときにはすべての筋道が立っていた……

普通はなにがしかの穴は開いているもの……紛糾するはずの出来事である……!

 

「まぁ二人とも、何と言えばいいか女に興味を見せぬというか……一夏はそれがなんなのか分かっていない……伊藤はそれを知りつつも自分には合わぬことだと……自ら一線を引いているというべきか……どちらにも壁がある……!それを壊す……あるいは穴を開けて内側に入る……どちらも容易ならざること……!女を磨いてがんばれよ、ガキども……!」

 

セシリアはいわば一歩リード……今日の昼にその壁……誰も見つけていない透明な壁……

その手がかりを見つけている……!頑張れセシリア……めげるなセシリア……!

 

実はこの日の夕方、夕食前に束より箒に専用機が渡されている。

そのシーンはキングクリムゾンされたのだ……!

その場には他の専用機持ちが居合わしたことだけ書いておこう。

アニメ版の受領シーンにカイジの雑コラした、そんな感じだ。

原作のように生徒達の前で渡しているわけではない。



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カイジ、臨検……!

朝食を食べ終えた生徒たちは浜辺へと集合……

そこには見慣れないコンテナが複数個置かれていた……

校外へと持ちだせるISには限りがある……学園の防衛という観点もあれば……

防衛手段に乏しい外部に……貴重なコアを持ちだせないからである……

よってISの各種装備のテストは外骨格攻性機動装甲……通称EOSを用いて行われる……

現在国連が開発中のものであり災害救助、平和維持活動……それらの運用が想定されている……

国連側としては実稼働データが欲しい……そのためこの場に貸し出されていた……

ここまで言えばコンテナの中身……それがEOSであることは明白であろう……

 

「諸君も知っての通りISコアは貴重だ。この校外実習へ持ち出せる数には限りがある。そのため今日はEOSを使って各種装備のテストを行う。グループごとにEOS1台が割り当てられる」

 

この臨海学校に来る前の予習として……生徒たちは一度はEOSに触れている……

 

「織斑先生、試験装備の中にはISでしか運用ができないものもあるのではありませんか?」

 

「その通り、良い質問だデュノア……しかし、それらの装備はだれが担当すべきか、言わずとも分かるだろう……?」

 

そう、これは自明の理……当然それらの担当は専用機持ちになる……

 

「はい、それもそうですね。すいませんでした」

 

「謝るようなことではない……さて、時間は限られている……そして、貴重だ……それぞれグループのリーダー、専用機持ちに従って実習を開始しろ……!」

 

1組には専用機持ちが集中しているためのグループ編成……

本来有り得ぬ5人……いや、正確には昨日6人になったのだが……

そのことはまだ秘匿事項とされていた……予定の変更が間に合わなかったこと……

さらに束より箒へ手渡された専用機「紅椿」……その場には専用機持ちと千冬がいたのみ……

1組のクラスメイトのほとんどはその存在を知らなかった……

昨日の今日で急に専用機……第四世代型をこの場で披露……

そんなことをすれば無駄に時間を失うばかりか……生徒達からのやっかみなど……

今対処すべきでない厄介事が発生するのは目に見えているのである……

 

「かーくん今日はよろしくね~」

 

「伊藤君、頑張ってよね!」

 

「あははー、伊藤君は頼りないからなー!」

 

そう声をかけるのは布仏、相川、岸原の三名……皆さんお忘れの事と思う……

24話「望怠」以来の登場である……!ようやく出番が回って来た相川清香……!

そして、同じく岸原理子……!え、誰それってちゃんと自己紹介したし……

残りのグループメンバー……鷹月、四十院、夜竹の3名……合計7名である……

だれがどのセリフかは想像で楽しんでください……

 

「(ったく、こういう所は専用機持ちの面倒な側面……なにかと表へ立たされる羽目に合う……いや、専用機がなければクラス代表として、に文言が変わるだけか……まぁプリントに沿ってやっとけばいい話、か……)さっき織斑先生も言った通り……俺に割り当てられている試験装備がある……まずはそれで実演するから流れを把握してくれ……」

 

そう言いISを纏うカイジ……置かれているコンテナよりレーザーライフルを取り出す……

ISよりエネルギー供給の必要があるレーザーライフル……これは代表的なIS用装備と言える……

無論実験施設内部や設置型など……外部エネルギー供給が出来ればその限りではないが……

 

「まずは、安全チェックね……添付の文書に従って……なんだこれ、無茶苦茶多いじゃねぇか……一々読んでられっかよ……」

 

流石に試験するものが兵器なだけはある……一つ一つに膨大な注意書きが書かれている……

カイジはめんどくさそうに文書を一瞥して顔を顰める……

そしておもむろに最後の方のページを読み始める……当然その姿に不安を覚えるメンバー……

 

「だ、大丈夫なのでしょうか……」

 

「そこはかとなく不安を感じますね」

 

「でも、たしかにあの量全部読んでたらテストする前に日が暮れちゃうよ」

 

そしてカイジは目当てのページ……試験の流れ……この文章を見つけ出す……

 

「こんなもの読んでると日が暮れちまうから……そう、これは無視して……最後にあるテストの流れ、これをやれば問題ない……」

 

我が意を得たり、としたり顔のカイジである……しかしそこに近づく影が一つ・・・・・・!

 

「大ありだ、馬鹿者が……!貴様はISを身に纏っているからいいが……他のものは生身なんだぞ……!」

 

いつの間にか背後に寄っていた千冬……当然叱り飛ばす……

 

「別にこの装備リスト全てをやるわけではない……最低ひとつでもこなせば8クラスですべての武器のテストが終わる……他グループと被っているものもあるしな……」

 

「へー、そうなの……じゃあそうだな、みんなで話し合って一つ……テストしたいやつを選んどいてくれ……その間に俺はこいつを読んでおくとしよう……」

 

そう言うやどれがいい……あれがいい……姦しく話し合いを始める少女たち……

それを尻目に仕様書へと目を走らせるカイジ……頭が痛くなるが仕方ない……

自身はISを纏っているため何かあっても守られているが……彼女たちは違った……

あまり迂闊なことはできない……流石に真面目にやらざるを得ないカイジ……

 

カイジが仕様書を読み終えるころ……彼女たちもようやく話が纏まったようである……

 

「かーくん、このカートリッジ式のレーザーライフルに決まったよ~」

 

ドイツ製カートリッジ式レーザーライフル、ヴァイス・ブリッツ……!

 

「あ……?EOSってレーザー……エネルギー式は……使えないんじゃなかったっけ?」

 

「そこはカートリッジだから供給なしでもおっけ~!だってさ」

 

「カートリッジで外部供給の問題を解決か……しかし、従来型より威力は劣る……わざわざ後付け装備するほどのものでもないか……」

 

カートリッジ式である以上……自らのENを消費しない……持っておくには悪くない装備……

しかし、後付け装備の容量には制限……それを消費するほどの魅力はなさそうである……

 

「いやいやかーくん!ここからが、これの面白いところなんだよ~。ISで使用する際にはカートリッジにエネルギー供給が出来るみたいで、従来より高威力になるんだって~。そしてリチャージも出来る!」

 

結局カートリッジ式の利点……自らのENを消費しない……これをぶち壊しているが……

それでも、従来より威力が高いというのは魅力的……そしてある種の危険性……

 

「(それはIS以外でも供給設備をどうにかすれば……EOSでもISで使われているものより……強力なレーザーライフルが使える……ってことじゃないのか……?)へーぇ、それなら案外悪くないかもなぁ……命中精度に未だ難のある俺が使うのには……ちょっと辛いけどな……」

 

EOSには機動性がほとんどない……装備したとしても防御面は頼りない……

しかし、固定砲台として防衛拠点に設置するならば十分な性能である……!

自分自身が使うには、その腕前……リチャージ可能でも難しいものがあった……

 

「たしかに連射したり牽制に使うのには難しいかもしれませんね」

 

「でも、一撃にロマンを持たせたり大逆転にはいいかも?」

 

「というかそれを試験するってことは……つまり、俺にもそいつの機能を確かめろって……?」

 

EOSでも試験は可能だが……どうみてもメイン……肝となるのはISでの使用時のはずである……!

 

「察しがいいねぇ~かーくんは。私たちもどうせなら自分達だけで終わらない装備のほうがおもしろいからね~」

 

「それって、俺もその仕様書読まないといけないってわけ……?」

 

布仏の手中にある仕様書……自身がいま読み終えたもの……それより分厚くなっている……

 

「そりゃあね~、私たちはIS用のところは読んでないからね~」

 

「……まぁ俺はISのところだけ読めば労力は半分だな……!それくらい許されるだろう……というか、時間が足りない……」

 

予定は詰まりきっている……他の組の試験時間を奪うわけにも行かないのだ……!

 




落ちなし、山なし。意味はある。原作では臨海学校がただ海で遊んだだけみたいに一般生徒はなってたけどいいのかよ。


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臨海福音編
カイジ、疑獄……!


夕刻……日も沈むかという頃合い……旅館の一室に集う専用機持ち……

スケジュールにはなかった予定……みな何故集められたのか訝しんでいた……

全員が集まったことを確認した千冬は話し始めた……

 

「二時間前、ハワイ沖で試験稼働していたアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型軍用IS『銀の福音』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった」

 

軍用ISの暴走……制御下を離れた……それが自分たちに知らされているこの状況……

本来一般人が知っていいことでは到底ないはずである……それをわざわざ話すということは……

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することが分かった。時間にして50分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することになった」

 

やはり、来た……ISにはISで対処せざるを得ない……そのISが無差別攻撃をするか……

それ自体は不明だが……自分たちがここでその福音とやらを止めなければならないのだろう……

町中へ入って軍用ISがデモンストレーションなどすればどのような惨事になることか……

カイジはそれに考えが至り心の中で溜息をついた……

 

「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

が、その次に聞こえてきた内容……カイジはそれを聞いて耳を疑った……

おかしい、なぜ自分たちが前線で……教員が後衛なのか……

せめてもで教員が前に出て……それの支援として自分達も前線に出るなら納得……

それならばまだ理解もできたが……これはいくらなんでもおかしい……!

 

「それでは作戦会議をはじめる。意見がある者は挙手するように」

 

「いやいや……前提が既におかしいだろ……何言ってんだよ、あんた……あまりの事態に頭おかしくなったか……?」

 

最早千冬が自分が何を言っているのか……それを理解出来ていないのではないか……

そうとすら考えたカイジの発言である……!

 

「カイジ、千冬ねぇになんて事言うんだよ!」

 

一夏のように激昂する者はいないが……周囲は当然驚く、カイジの暴言……!

傍から見たら、千冬の決定に対して……頭がおかしくなったかなど……

真正面から言う生徒など……カイジ以外いないのである……!

 

「どういう意味だ、伊藤」

 

「つまり、冗談じゃないってことだな……?自分たちの生徒を矢面に立たせて……あんたらは後ろで縮こまってるわけか……?」

 

作戦指令室伴っている宴会用の大座敷・風花の間……そこに集まる教師全員を見ながら言う……

持ってきたISには限りがある……だからこの場の全員が出られるわけではない……

出るとしたら千冬と真耶あたりか……他の教員の腕はよく知らないカイジであった……

 

「逆だろ、逆……俺たちがその海上封鎖……戦闘の無い場に回されるべきであって……あんたらの仕事じゃないだろ……!俺たちに任せられないにしても……国から自衛隊の奴ら派遣しろよ……!頭おかしいんじゃねーのか……?山田先生は訓練機でも専用機2体を相手にして勝ったし……あんたもそれくらい余裕だろ……それともなんだ……?実戦は怖いからやりたくありません!生徒を盾にします!ってか……?」

 

そう言い真耶へと顔を向けるカイジ……罰が悪そうにその視線から顔を背ける真耶……

 

「これは、学園上層部の決定事項だ……」

 

「ふーん、そう……命令されたらしょうがないよな……いいよな、命令されたっていえば……自分たちの心……少しでも楽にできるもんな……?何があったって、自分のせいじゃない……命令した奴らが悪いって……ほんと、卑怯だよな……!いいぜ、そういうことで話を進めようじゃんか……めんどくせぇから、もう俺もあんたらに……一々文句は言わねぇよ……安心してくれ……!茶々いれて悪かったな、話進めなよ……!」

 

呆れたような顔を見せ……カイジは席に座る……

ここで何を言ったところで上層部の決定を……千冬が覆せるとも思えない……

そうであるならこの言葉も無意味に相手を責め立てるだけだが……

どうにも教員たちの態度を見ていると……こちらに申し訳ない……

そう思っているようには全く見えなかったがゆえに……苦言を呈したカイジ……!

 

「(実際、私とて上層部が何を考えているのか分からん……伊藤の言うような配置が普通なのだ……ここにいる山田君や私、エドワースは訓練機であっても……学生に後れを取ることはない……何故教師を後方に下げるのかその意図は掴めていない……)他の者は、何か質問は?」

 

「目標ISの詳細なスペックデータの開示を要求します」

 

これは模擬戦ではなく実戦であり……相手は銀の福音と決まっている……

それなのに全く無策、情報も無しで出るなど……愚の骨頂……!

 

「わかった。ただし、これらは2か国の最重要軍事機密だ。決して口外するな。情報漏洩した場合、諸君らには査問委員会による裁判と最低でも二年の監視が付けられる」

 

「(あまりにもきな臭いっていうか、なにそれ……軍属でもなんでもない学生巻き込んで……その情報がトップクラスの軍事機密とか馬鹿馬鹿しくてやってらんねぇ……)俺は退席させてもらうぜ……そんな馬鹿馬鹿しいことに付き合ってられるか……」

 

言うやカイジはラウラの手を引いて立たせる……先ほどは文句を言わぬといったカイジ……

だが、状況が簡単に一変した……元から軍用ISの対処と聞いた時点で嫌な予感はあったが……

裁判だの監視だの……明らかに度を過ぎている事態であると判断したのであった……!

 

「伊藤……」

 

「……ラウラも連れていく……!こんなバカげたことに使うために……ラウラにISを持たせてるわけじゃねぇ……この専用機はせめてもの防衛、自衛……本来なら持たせたくもなかった……それにそんな機密情報を持たせられもしない……!折角戦場から遠ざけたんだ……どうみてもこれは模擬戦じゃない……!命がけでもなんでもない……ただの競技なら……俺も構うことはない……ラウラの好きにさせるが……これは認められない……!」

 

折角軍属から外し、自由国籍権まで持たせたのだ……それなのにどこかの国から監視されるような……

そんな面倒ごとは避けるべき……それがカイジの考えであった……!

 

「し、師匠!私は……」

 

「戦える、か……?それなら俺の事を師匠と呼ぶのはやめろ……!お前が自分の意志で武器を持つって言うんなら……俺も止めることはできない……それはお前の自由だからだ……!だが、忘れるな……お前に武器を捨てさせたいと思ったから……俺は今の関係を受け入れてる……!柄じゃないが、責任を持とうとしている……!お前が、決めろ……!」

 

無理やり引き連れていくべきでもない……カイジは繋いでいた手を離す……

ラウラに手を取らせたが……それはラウラから意志を奪うためではない……

呆然とするラウラを捨て置き……廊下へと出ていったカイジ……!

果たしてどうなる……!どうするラウラ……!

 



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チフユ、薫陶……!

残され困惑し、縋る者をなくしたラウラ……

 

「う、うぅ……きょ、教官……私はどうすれば……」

 

そうなると彼女が向くのは千冬の方である……!

 

「ラウラ……自分の心に従え……それが自由というものだ……!私はどちらを選んでも決して責めはしない……お前の意志を尊重するぞ……」

 

珍しく、にっこりとラウラに微笑みかける千冬……彼女はもう人形ではない……

だれかがその意志を奪ってはいけない……辛くても……選択の時はいつか迫るものだ……!

 

「教官、私は師匠を追います……!私の、意志で!」

 

「それでいい、行ってこい……!」

 

ラウラを見送ったあと、千冬は残った専用機持ちたちに向き直る……

 

「お前たちが参加する、そういう前提で話を進めてしまったな……だが、各国の専用機持ち、代表候補生であることを考えれば……場合によっては大破しかねないこの作戦……お前たちにその参加、不参加の判断は委ねられるべきであった……(せめてもで、これが私にできる反乱か……今回の上層部の決定には……各国の意志が絡んでいるだろう……最先端を行く両軍の軍事機密の塊との戦闘……本人たちが情報を漏らさずとも……コアにはその実戦データが蓄積される……たかだが代表候補生のことなど……どうなろうと構うことはないのだろうな……そもそも銀の福音のスペックなら……ISコアごと危機に晒される可能性があるが……慰謝料を請求するにはちょうどいい……っふ……私の思考まで伊藤に毒されたか……?いや、必要なことだ……)」

 

思考が止め処なく……裏を読み始めた千冬……深く考えていたわけでもない……

各国の思惑か……魑魅魍魎の汚れた思考が流れ込んでくるように感じた千冬……

カイジなしでは今のような……恐らく思考もせず……生徒たちに任せていた……

そう思うと寒気がする千冬であった……!

 

「(カイジさんはこの状況に何かを感じ取った……確かに言われてみれば納得もいかないことですわね。ですが、カイジさんがラウラさんを戦場から遠ざけるというのであれば、わたくしがその道を支えますわ!それに国の事を思えば実戦を行えるというのは、決してマイナスではありませんし)わたくしは参加しましてよ」

 

昨日の昼間の件もある……優しき道に行くのなら……カイジ、ラウラのためにも……

戦場へと臨む覚悟を決めたセシリア……!

 

「私もいくわよ。このまま進行を許したらどうなるか知れたものじゃないしね。それに私は軍属、市民を守るのも務めってね」

 

カイジは知らぬことであったが、鈴は中国の軍属であった……その誇りもないわけではない……!

 

「(いいなぁ、羨ましいや……僕も頑張るよ、助けてもらった命を役に立てないとね!)僕もいけます。パッケージのお陰で状況対応能力は高いですから」

 

あれが誰かを守るということか……と感じるデュノア、誰と比べたとは書かないが……

 

「私も無論だ、この紅椿の性能は伊達ではないことを証明して見せる」

 

箒は束よりもらった新しいおべべ……正しく世界最先端を行くファッションである……!

 

「俺もみんなを守る。やってやるさ」

 

それぞれ思いはあるが……残った専用機持ち全員で事に当たる……!

 

「そうか、ではここにいる5名で当作戦を遂行する……これが銀の福音の詳細スペックだ……さっき言った通りの最重要軍事機密で……取り扱いに関しては重々承知ではあると思うが……決して漏洩はしないように……!」

 

みなが頷くのを確認した後……広間のスクリーンへと福音のスペックが表示される……

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……オルコットのようにオールレンジ攻撃を行うことが出来る……攻撃と機動の両方に特化した機体……普通片方に偏るべきなのにチートだよくそが……そして、格闘性能に関してはデータがない……舐めてんのかくそが……」

 

千冬は渡されたデータにイラつきを隠せなかった……競技用のISとは……

比べ物にならないスペック……そして、情報を確実に隠している……!

それの公開を要求すれば……一々くだらない難癖を付けられることも想像に難くない……

 

「織斑先生……?」

 

普段はこのように愚痴……不平……不満……それらを並び立てることなどない千冬……

今日はどうにも気性が荒いようである……!

 

「どうしたんだ、山田君……?」

 

「なんでもありません……(ストレスたまってるんですね……)」

 

真耶自身も、先ほどのカイジの視線から逃げた自分を恥じていた……!

カイジが言うことは至極当然……指摘されるまで何の気なしに話を受け入れていた……

そのように暢気だった数分前の自身の呆けた頭……それを全力で叩き倒したい気分であった……!

 

「格闘性能についての偵察などは行えないのですか?このまま当たるにはデータ不足の感が否めません」

 

「偵察は無理だな……この機体は現在も超音速飛行を続けており……最高速度は2450キロ……アプローチは一回が限界だろう……」

 

「一回きりのチャンスということはやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

 

真耶がそう言うと……全員が一夏のほうを向く……!

 

「え?俺?」

 

「あんたの零落白夜が適任でしょ」

 

「それしかありませんわね。ただ、超高感度ハイパーセンサーを用いた戦闘が必要になりますわ。そこが不安ですけれど」

 

「あとは、一夏をどうやってそこまで運ぶのか。エネルギーは可能な限り攻撃に回さないと厳しいだろうから、移動をどうするのかが問題だね」

相手のSE量を考えるなら……当然零落白夜は最大出力……少しでもエネルギーを温存しておきたい……

 

「ちょっと待ってくれ!俺が決定打なのかよ!?」

 

「当然ですわね」「スペック的に僕も無理かな」「どうにもならないわ」「当然だ」

 

みんな一夏に対してある種の肯定をする……それだけの攻撃力はだれも持っていない……

 

「織斑……これは訓練ではなく、実戦だ……!もう一度いう……訓練ではない……もし覚悟がないなら、無理強いはしない……!」

 

「分かりました。俺がやります。やって見せます!」

 

「そうか……それでは作戦の具体的な内容に入る。現在、最高速度が出せる機体はどれだ?」

 

「わたくしのブルー・ティアーズの強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』なら超高感度ハイパーセンサーもついておりますわ」

 

当然セシリアは自分から進言……一夏のサポートができる人間が必要なのだ……!

 

「超音速下での戦闘訓練時間は……?」

 

「20時間です」

 

「それならば適任だな……では」

 

そこへ突如として陽気な声が聞こえてくる……

 

「待った待った待ったー!その作戦は紅椿の出番なんだよ~!」

 

天井からは束が顔を覗かせている……いつの間にそんなところへ入ったのか……

 

「……出て行け」

 

「聞く前に断っちゃだめだよ~!紅椿ならパッケージなしで展開装甲だけでそのくらいのスペックは出せるんだからさ~!」

 

広間のスクリーンには紅椿のデータ……いつの間にか乗っ取られていた……!

 

「ん?あれ?ところでかーくんは?もう一度あの影が降りた顔を科学的に解明したかったんだけどな~!」

 

「それは、もしかしなくても伊藤のことか……?」

 

「そうそう、昨日のお昼にお友達になってね~。ま、いいや。この作戦は白式と紅椿で十分!今回はかーくんの出番はないからね~」

 

「(伊藤もまた面倒なのにからまれたものだ……伊藤になら束が興味を持っても不思議はないと……そう思えるのがまた自分自身で驚きだがな……)で、紅椿を調整するとしたらどれくらいの時間がかかる?」

 

「お、織斑先生!?」

 

専用機持ちの中で高機動パッケージを持っているのはセシリアだけ……!

この作戦に参加するのは当然……そして、その覚悟もある……

なにより、超高感度ハイパーセンサー……超高速戦闘……

いきなり箒にやらせるのには不安が大きすぎる……そもそもの腕前の問題……

専用機を持った当日……どう考えても問題だらけである……

機体スペックなんかよりも……安全性をとるべきなのだ……!

 

「パッケージの量子変換は終わっているのか……?」

 

「そ、それは……まだですが……」

 

「ちなみに紅椿の調整時間は七分あれば余裕だよ~!」

 

「よし、では本作戦は織斑・篠ノ之の両名による目標の追跡及び撃墜だ。作戦開始は30分後。準備にかかれ(今ここで下手にオルコットを出せば……束がどう動くか予想がつかん……思うに今回の犯人は束……篠ノ之のための出来レースのようなものか……そんなところへ出せば……)」

 

到底容認できないような事態が起こる可能性がある……そして、相手が悪い……

束とは同条件でやりあったところで……勝てるか分からない……

 

「(たしかに、今から量子変換をすれば20分近くはかかりますわ。それでもあまりに危険性が高すぎるのではなくて……?わたくし自身の腕を過信するつもりはありませんが、それでも経験の有無は絶対的なものでしてよ。いまから模擬戦をやるのであれば、それこそご自由にと言ったところですが……せめてもで、織斑さんには超高感度ハイパーセンサーのレクチャーをしておかなくてはなりませんわ。箒さんはきっと、今のわたくしの声を聞いてくれないでしょうから……)」

 

セシリアの視線の先には紅椿を展開し身を預ける箒の姿……

その顔は不思議と自信に満ちている……その顔を不安そうに眺めるセシリアであった……

 




速度に関して、初めは最高速度450kmだったそうですが、後の修正で時速2450km、ちょうどマッハ2になったみたいでした。修正してあります。


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ラウラ、決意……!

 

「師匠!」

 

勢いよくカイジの部屋の扉を開けるラウラ……カイジは椅子に座り外を眺めていた……

 

「ラウラか……どうするか、決めたのか……?」

 

「うむ、私の意志で決めた。聞いてくれるか?」

 

あまり表情に出さない……そんなラウラが不安そうに、カイジへ尋ねる……

 

「どうすることにしたんだ……?」

 

「私の意志で未来を掴むと決めた。私はみんなを守るためにこそ武器を持つ!決して暴力ではなく、人のためにこの力を使うことに決めた!」

 

「そうか……なら、俺は何も言わねぇ……この関係もここまでだ……」

 

その答えを聞いたラウラは一瞬……悲しそうな表情を浮かべるが……

 

「そして、私の意志で師匠と呼ぶ!例え師匠が拒もうとも私の意志で師匠と呼ぶ!それが自由というものなのだろう?」

 

すぐに強気な顔になり……腰に手を当てて不敵な笑みを浮かべる……

 

「自由ってのは……なんでもかんでもしていいっていう……免罪符じゃねぇ……人が嫌がることは、やるんじゃない……」

 

「だが、師匠には責任があるはずだ!私を軍属から外し、自由にした責任が!そして、進んで人の嫌がることをする私を指導するがいい!師匠として!」

 

「お前自身が生き残るために、必要だったことだ……そして、お前自身が妄執に囚われてその力を振るう……あるいは、何者かに利用されるって言うんじゃなければ……止めるまでもないことではあった……」

 

カイジの中では当然ラウラに武器を持ってほしくはなかった……

最低限でも自らの危険な出生……それを守るために武器を持たせたのである……

それ以外で振るうのだとしたら……それなり以上の理由はいるのである……

 

「今回のことは予測される危険性。福音がこのすぐ近くを通るというからの迎撃戦。充分正当性のある理由だと私は考える。それが何者かに利用されている、と?」

 

「今回の事態はどうにも不合理なことが多い……そもそも何故教員が後ろに下がる……?戦闘領域に民間人が出てこないようにするためか……いや、そうじゃないな……他国のスパイ船か……?今回の急な事態にそこまでできるか知らんが……今回の実地研修に伴い、各企業の製品が集まっている……その情報を得ようとする輩がいるのは自然……普通の事……だからといって教員がやることか……?それこそ自衛隊だのの仕事……今回の事が教員も前に出て、それだけでは不安……少しでも数を集めて迎撃したい……そういう趣旨の物だったら、俺も文句は言ってねぇ……単純に誰かの策謀に乗せられてるだけってことはない……そう言える……しかし、なによりも相手が悪い……軍事機密の塊のような存在……それこそたかだか学生や他国の専用機持ち……そんなのに関わらせるべき事態じゃないのは明白だ……だが、それを捻じ曲げてきた存在がいる……それが気にくわねぇ……」

 

単純に自分の身が可愛いから……危険だから下がるという訳ではない……

明らかに策謀渦巻く戦場……本来前に出るべきやつらは後ろで傍観……

他者の思惑に乗せられて命がけなど……馬鹿馬鹿しいことに思えた……

そんなことのためにラウラにISを持たせられるように交渉したわけでもない……

 

「そ、そこまで考えておられたとはさすがは師匠です!では、私自身が誰かを守るために力を振るうのならそれは問題はない、この関係も当然結ばれたままと?」

 

「そりゃ、目と鼻の先に福音……この旅館の上を通る……もしかしたら攻撃してきて民間人や生徒に被害が出る……そんな事態なら何も言わねぇよ……その時に力を振るわない方が流石に問題がある……だが、今回のはさっき説明した通り……誰かを守るために力を振るっているようでその実……利用されているだけ……お前はもっとよく考えて……その力を振るわなくちゃならない……それが守れるなら……師匠でいてやるさ……(しかし、世界トップレベルのアメリカも開発に関わった軍用IS……それがなんで暴走なんてするかね……しかも、ここの近くを通ると来たもんだ……どうみても仕組まれてる……これを偶然なんかで片づけてたまるか……しかし、アメリカがやるにはリスクしかない……他国がやるにしても、技術的に可能なのか……?普通に考えて無理なはず……となると)」

 

「いるじゃねぇか……身近も身近……灯台下暗し」

 

そんなことをできそうな輩……セシリアのブルー・ティアーズを解除……

物の数秒……お茶の子さいさい……何の苦労もなく他者のISを解除させた……

そいつなら……今回のことも当然可能……不可能と考える方が不合理……

あまりに簡単な出来事……つい、口をついて出てしまう……

 

「ん?急にどうしたんだ、師匠?」

 

「いや、なんでもねぇ……まぁどうにしろ……今回は俺もお前も出番はねーさ……」

 

「っむ、軍用ISを相手にするんだぞ?数は少しでも多い方がいいに決まっているだろう」

 

ラウラも軍属……しかもIS部隊の隊長を務めていたほどの腕前……

アメリカ・イスラエルの軍用IS……そのスペックは見ずとも粗方の想像はつく……

 

「ま、知らなくていいことさ……きっと、もう作戦は決まってるだろう……織斑と篠ノ之の二人にな……(奴が執心しているのはこの二人だろう……篠ノ之ははっきり言って不正に……誰もが納得しない形でISを手に入れている……それのためのデモ……極めてわかりやすいマッチポンプといったところか……それがどうしたって感じ……ただの機体性能でごり押し……もっと腕のあるやつが使ったほうがましだろ……)」

 

カイジは束があの場にいることは知らないが……束が糸を引いているなら……

確実に口出しするためにあの場に現れる……そう予想するのは容易いことであった……

 

「白式の零落白夜、紅椿が第4世代であることを考えればたしかに性能は十分、一撃必殺も可能かもしれんが、私から言わせてみれば素人の二人組だぞ?まだ師匠と私の二人だけで出た方がましだ」

 

「織斑の零落白夜が一撃で落としてくれるさ……きっと、な……(なんらかのトラブルはあるかもしれないが……それがあの天才の考えたシナリオ……別に各国が圧力をかけたわけでもなく……あの天才が上層部に圧力をかけたのかもな……こればっかりは分からないが……)」

 

実際のところ白式の零落白夜……これが最も作戦に適している……

どのようなスペックか知らないが……絶対に自身の想像を超えた性能……

そんな相手に長時間戦うのは得策ではない……ならば、一撃必殺……

迅速に戦闘を終わらせるのはもっとも理にかなっているといえた……

失敗すればどうにもならなくなる……背水の陣……諸刃の剣……そんな一手だが……

 

「そうか、師匠がそう言うなら、例え不合理でもそうなるんだろう、そう思えるのが不思議だ。軍に所属していたわけでもない、こういったことには素人のはずだというのに」

 

「まぁすべては憶測さ……まぁ、とりあえずは知らぬ存ぜぬ……月でも眺めてのんびりしとくさ……」

 

夕日も落ち始め……空の月が見え隠れし始めていた……いい夜である……

 

「では、私も隣に座らせてもらうとしよう!月をこのようにのんびり眺めるなど初めてだ!」

 

軍人生活では当然野営は多い……その時に月を眺めるなど普通であったが……

このように落ち着いた場所で……のんびりと眺めるなど初めてであった……

 

「(ほんと、どういう生活してたんだか……)なら、お月見でもするか……売店に団子くらい売ってるだろ……」

 

そう言い、席を立ちサイフを取り出すカイジ……月見酒とはいかないし……時季外れ……

しかし、たまにはこういったことも悪くない……そう思うカイジであった……

 

「ほう、お月見は聞いたことがあるぞ!なんでも日本では月にハーゼがいるとか」

 

「ハーゼ……?それに、日本では……?」

 

「ドイツ語で兎という意味だ!私のいたシュヴァルツェア・ハーゼは黒兎部隊ともいう。あとドイツでは月と言えば薪を担いだ男だな」

 

諸国にはカニ、女性の横顔、犬、ライオンと月に対する捉え方の違いが見られる……

うさぎなのは日本、韓国、中国といったアジア圏である……感受性の問題であろうか……

 

「なるほど、ね……そのハーゼとやらが……月で団子をついてるんだとよ……」

 

「それは実に可愛らしいな!いつしか、見に行って……」

 

言いさして口を紡ぐラウラ……どこか怯えたような顔をしている……

 

「どうした……?」

 

「いや、なんでもないのだ。夏だというのにどこか肌寒く感じてな」

 

何かに違和感を感じ、辺りを見回すラウラ……しかし、その原因は分からなかった……

 




けもフレのSSも書き始めたが頭の使い方がまるで違う。


活動報告、次にどの日常の記録を書こうかなというもの。アンケート投票もあり。ご興味あればお答えください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=146292&uid=156312


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カイジ、雀賭……!

3~4人程度で出来る賭け事で書きやすいものがないため自作しました。

雀ポーカーについて
一種の麻雀牌を用いて行うポーカーの亜種。テキサスホールデム型。
それぞれのプレイヤーに2牌配り、場に共用の5牌を伏せる。まずは場の2牌を表にして、各プレイヤーのアクションを決める。次に1牌を表にしてから再度各プレイヤーのアクションを決める。これを繰り返し最後の1牌を表にして、各プレイヤーの最終アクションを決める。手元の2牌と場の5牌の7牌の内5牌を使用して手役を作る。

ポーカーのアクションの説明
ベット(チップを賭ける)、フォールド(ゲームから降りる)、チェック(賭けも降りもせずにパス)、コール(直前にベットした人と同額のチップを賭ける)のことを総じてアクションと呼ぶ。フォールドをしたらベットしたものは場に供託されて帰って来ない。誰かがベットしたらもうその後にチェックは出来ない。

手役について
1.槓子(フォーカード)
2.十四不塔(ブタ)
3.対子・暗刻(フルハウス)
4.順子(ストレート)
5.暗刻(スリーカード)
6.対子ペア(ツーペア)
7.対子(ワンペア)

手役が同じだった場合は順位の合計が高い方が勝ち。合計が同じ場合は、高い方の対子や暗刻を持っている方が勝ち。暗刻は残った手牌の数字で勝負。被った場合はドローとなり、場に出ているチップを完全に山分けする。ブタは手牌の合計が高い方が勝ち。場に槓子が出来た場合は無効試合。

東南西北
東が親として最初のアクション、それから南、西、北と回っていく。東の人間は次に北、西、南と回って来る。




そして呑気にお月見をするカイジ、ラウラ……テーブルにはお団子と甘栗、お菓子……

皆が真面目に福音戦の会議をし……準備を整える中……暢気……悠長……圧倒的温度差……!

 

「どうやら、白式と紅椿のようだな。師匠の言った通り本当に二人で出ていくとは……教官がいながらどうしてこうなったのだ」

 

洋上に二機のISが発進していく姿が見える……ラウラはハイパーセンサーのみ起動……

その動きを追っていたが……その隣でカイジは気にすることもなく月を眺めていた……

 

「奴もどんな肩書があっても教員の1人……上には逆らえないってこと……仕方のない話さ……」

 

脳裏に思い浮かべるのは利根川……奴もまた地位ある、名を馳せたものであったはずだ……

だが、そのさらに上……会長の不快を買って簡単に葬られたのだ……

 

「まぁ軍隊でも、下士官は上官に逆らうべくもなかったがな……」

 

「この世はどこでもそれ、さ……(ともかく、これならうまくいく……計画通りに事が運んでるってこと……)」

 

こん……こん……!とドアを叩く音……来客である……

 

「セシリアですわ、カイジさん。中へ入ってもよろしいですか?」

 

「あぁ、どうぞ……好きに入りなよ……」

 

「失礼いたしますわ。って、何をしてらっしゃいますの?」

 

そこにはテーブルを囲んで椅子に座り……団子を食べるラウラとカイジの姿……

 

「お月見だ!日本の風習だそうだ」

 

「時季外れだけどな……まぁお前も適当に座れよ……」

 

「では、遠慮なく……作戦のほうは束博士が出てきてすべて決めていってしまいましたわ、っとこれはしゃべってもよろしかったかしら」

 

ついつい口をついて出てしまうセシリア……事情を知っている分躊躇いがなかった……

 

「やっぱりな……まぁ極秘事項ってほどのことじゃねぇだろ……全く事情を知らん生徒には話せないことだが……」

 

「本当にやれやれ、と言ったところですわ。正直あの場に留まっていても無意味と感じたので出てきたのですが……今やっぱり、と言われまして?」

 

ここで何故、やっぱりという言葉が出るのか……不審に思うセシリア……

 

「師匠の想像通り、であったということか……?」

「……」

 

カイジ、無言……しかし、それはこの場で肯定を意味している……

 

「ま、まさかカイジさんはラウラさんを連れて行った時からこうなる、と……?」

「いや、それはねぇって……後々この部屋で気付いたことさ……」

 

出てきたときは各国が……学園上層部に圧力をかけたことかと思ったが……

軍用ISの暴走など極秘も極秘……いずれ知ることだとしても……

各国がここまで早い動きが出来るとも思えない……

そう考えなおしたカイジが行きついたのが……束の存在であった……!

 

「だとしても、そこに考えが行きつくのが恐ろしいことですわ……」

「ま、団子でも食いなって……あと、お前の作って来たお菓子……食べようぜ……」

目聡く、セシリアの手に持っている袋の中身を見極めるカイジ……

「本当に敵いませんわね。冷めてもおいしい紅茶もありますから、ご一緒にどうぞ」

そう言い取り出したのはバスで食べたスコーン……最早お月見とも言えないような……

 

和洋とりどりの食事が並ぶ……にぎやかなお月見となったのであった……

 

 

お月見を始めてからいくらか時間が経った頃、雑談の話題もなくなってきたころ。

 

「何かゲームでもいたしませんこと?」

 

流石に手持無沙汰となったのか、何かすることはないか提案をするセシリア。

 

「それはよいな。月を見ているだけなのも少々飽きてきたところだ!」

 

「カイジさん、何かいいゲームを知りませんこと?」

 

振られたカイジは今まで行ってきたゲームを思い出す。チンチロリン・Eカード・限定じゃんけん。チンチロリンは描写しても面白くかけると思えない。Eカード・限定じゃんけんはこの人数で出来るものでもない。

 

「そうだな……雀ポーカーでもするか……!」

 

前書き通りルール説明中

 

「基本的なルールはポーカーと同じですのね」

 

「トランプよりも数が少ないから役はできやすいのだな。スーツがない以上フラッシュはなしか」

 

「それにしてもブタが強い役というのは不思議ですわね」

 

「やってみたら分かるが……なんの役も作れない、ということはめったにない……!場だけでも簡単にペアができる……場にペアがなかったら手役と合わせれば順子が出来るか……自分の手牌と合わせてペアができる……」

 

場の牌が被らず、順子もできないことは珍しい。筆者が実際に麻雀牌を用意してやったところ、ブタは中々出来ることはなかった。

 

「なるほど、ルールは理解したぞ師匠!」

 

「ですが、ポーカーとなると賭けるものがなくては話になりませんわね。相手のアクションに対してどう行動にでるかが問題になりますし」

 

「なら~、このお菓子を賭けるといいのだよ~!」

 

「……!な、なんで布仏がここにいるんだよ……!」

 

「いや~、なんだか楽しそうな気配がしたから差し入れね~!(異次元の存在に呼ばれたと思ったら、この部屋にいたんだよね~。どうなってるんだか~)」

 

この場限り、許していただきたい。

 

「さすがに金を賭ける訳にもいかないからな……俺もさっき買ってきたこのお菓子を出すとしよう……セシリアはスコーンを食べさせてくれてるから供託はなしでいいだろう……」

 

「みなさんがそれでよろしければ……用意できるものがなかったので助かりますわ」

 

「私も先ほど売店で買ったものを出すとしよう」

 

場には色とりどりのお菓子が供託物資として出され、それを四人で分け合う。

 

「さて、始めるとするか……布仏、ルールは……」

 

「大丈夫だよ、ちゃんと把握してるからね~」

 

「そうか……じゃあとっとと始めるとするか……!」

 

ここに、雀ポーカーの開始である……!

 

1回戦(全体の流れを書くためのチュートリアルにして、終わりかもしれない)

 

「まずは2牌ずつ配って、場の2牌を表にしてと」

 

場 {②⑦} 場に出すチップはうんまい棒1本ずつで4本

 

東 カイジ{②⑨} 南 ラウラ{②⑤} 西 布仏{④⑦} 北 セシリア{④⑥}

 

「(とりあえず対子はあるが、順子の構成は厳しいな……{⑨}が手持ちの時点で伸びがない……親の特権としてはチェックで見に回れること……チェックは弱気だが、次のめくり次第だな……)チェックだ……!」

 

親は見にも回れるしあえて攻めに出ることもできる。カイジの手でベット(攻め)することはスレート(はったり)に近いものであるが、場合によっては有効な手である。

 

「(対子はあるが低めだな。{⑤があるが残りに③④⑥}が来る可能性は低いと見てもいいだろう。師匠も似たような手牌か?)私も同じくチェックだ!」

 

「(二人ともチェックか~。順子今の時点では厳しいから恐らく{②の対子があるかどうか。⑦}が対子なら少しは強気に出てもいいはず。私は高めの対子だし、ここはベットで次の牌がまくられた時はチェックできなくしとくか~)ベット、このうんまい棒を1本だよ!」

 

この時点で使えるのは4牌のみ。めくられた牌が離れていて順子が構成し辛く、高めの対子を持っているならベットして相手をフォールドへ持ち込むのは良いアクションである。この雀ポーカーは対子のペアくらいなら簡単にできる。高めの対子でも相手にペアを作られると負けてしまう。故に場の牌がめくられてない内に降ろすのも勝負である。

 

「(わたくしは{③と⑤あるいは⑤と⑧}が出れば順子が出来ますわね。みなさんが残ったということは対子くらいはあるかしら。高めに賭けれる状況でもないですが、一人フォールドも悔しいですわ!)コールですわ!」

 

セシリアの無駄なプライドである。だが、スレートとして考えれば悪くはないとも言える。

 

新しくめくられた場の牌 {⑨}! 

 

場 {②⑦⑨} うんまい棒6本

 

「(対子ペアが出来たのは悪くない……布仏がチェックに回れたのにベット……俺の行動が対子はあるが低めと取られたか、親だから安全に見に回っただけと取られたか……が、いずれにしても関係ねぇ……!これは強気の手牌だ……)レイズ、うんまい棒2本だ……!」

 

「(むぅ、{⑥と⑧}が来れば負けはない順子だが、それが来る可能性は限りなく低いな。一回目にチェックに回れた立場、師匠がベットしてきたのも厳しい)私はフォールドだ」

 

ラウラがこの時点で出したのは場につくために必要なチップのみ。勝ちの目が限りなく薄い以上降りるのが賢明である。

 

「(かーくんはベットでラウラウは降り。かーくんの顔が強気になった以上{⑨}が対子になったと見るべきかな~。手配が{⑥⑧}の可能性も出てきたけど、高めの順子は強い代わりに、{⑤のペンチャン待ちや簪チャン待ちになる以上この手の可能性は薄い。しかし、低めの②対子なら、手配に④}がある私の方がちょっとは有利!)わたしはコールだよ!」

 

「(くぅ、{④からは順子の構成できない⑨とは最も嫌な牌ですわ!⑤と⑧}なら負けない順子ですがどう見ても厳しいですわね。いえ、逆に考えればブタを作れる可能性は残っていますわね。ブタ狙いは外れてもこの場合高めの順子。最悪なのは場で対子を作られて、カイジさんと本音さんの対子ペアや場合によっては対子・暗刻。ですが、彼女たちの手にある以上、絶対数は減っていますわね)わたくしもベットですわ!」

 

新しくめくられた場の牌 {④}!

 

場 {②⑦⑨④} うんまい棒12本(120円)

 

「(セシリアは一瞬悔しそうな表情をした……場のばらけ具合からしてブタや順子を狙っていたが、対子が出来たってところか……?あの表情をセシリアがスレートでやっていたとしたらかなり驚きだが……その可能性はないと見てもいいだろう……ブタはそもそも狙って作れるようなもんでもねぇ……!そしてこのばらけ方で対子が出来たらもう順子は無理……!布仏は相変わらずニコニコしやがって表情は全く読めない……ニコニコポーカーフェイスとはなんて奴だ……!が、フォールドはねぇ……!)レイズだ、うんまい棒3本追加……!」

 

「(ぬ、強気で来るねぇ~!私の対子ペアは合計11、かーくんが{②⑨}で対子を出来ているとしたら合計が同じなのに、高い対子を持たれてるかーくんに負ける!次の牌が{④⑦}ならまず私の勝ち、逆にかーくんは{④⑦}以外なら勝てる公算。セッシーは私の行動には追従してきているけども、もし{⑦⑨}で対子だとしたらきついところ。だけど{④⑦}は2枚、{⑨}がかーくんのところにあれば2枚でセッシーのところに{④⑦⑨}がある可能性は少ない。まぁつまるところ、あの伏せ牌が{④⑦}である可能性も低いわけだけど……だけど!折角の一回戦目、行きつくところまでいっちゃうよ!)コールだよ、このうんまい棒3本を賭けるよ!」

 

「(これは{⑥}がでても合計10で低い、{④}が出て暗刻でも他の方の強気を見る限り、対子暗刻のフルハウスを作られる……傷を広げないうちに撤退ですわ!)わたくしはフォールドですわ」

 

新しくめくられた場の牌 {①}!

 

場 {②⑦⑨④①} うんまい棒18本(180円)

 

「(奴の手が{⑦⑨}でない限りは俺の勝ち……しかし、奴の顔はニコニコとしていて一つも揺らぎがねぇ……!この場での{①}が手牌に絡むなら、{③⑤}で順子……だが{②⑦⑨}の序盤でまず強気には出てこれないはず……ブタ狙いは出来るが、それなら序盤はチェックでもいいはず……)コールだ、うんまい棒3本」

 

「(くぅ、ここでスレートにも使えない{①}とは私もついてないなぁ~。ここで{③や⑤}なら、私の手牌を{⑥や⑧}で迷彩、序盤を高めの順子、対子狙いで見せかけることも出来たんだけど……だけど、ここは手を見に行くよ!)私もコールで!勝負だよかーくん!」

 

カイジ {②②⑨⑨}の対子ペア 高め{⑨}

布仏  {④④⑦⑦}の対子ペア 高め{⑦}

 

合計11のため高め{⑨}を持つカイジの勝ち!カイジにうんまい棒24本(240円)

 

「(むむぅ、読み通りとはねぇ~。しかし、やはりこのゲームは普通のポーカーよりは相手の手を読みやすいとも言えるね~。次は負けないんだから!)っくぅ~、勝てると思ったんだけどな~。場に対子がない以上それなりに高い手だし~」

 

「(このたぬきめ、何言ってやがる……どうみても俺の手をのぞきに来たくせして……!)っへ、残念だったな……!まだまだ見通しが甘いぜ……!」

 

これは勝負後のトラッシュトークである。お互い本音は隠して喋るのであった。

 

 

そのころ、一夏が密漁船をかばい箒へ説教をかまし、それに呆然とした箒をかばって一夏が墜落していた。原作通りである。

 




ちなみにこれは一人で先も知らずにプレイして、それぞれの視点に立って考えてみた結果です。いやぁ、中々に難しいです。これ、面白いですかね……?

そして牌画像変換ツール動いてない、かな?タグに入れて{}は使っているんだが、どうしたものか……まぁなくても分かるんですが……

次回の日常の活動記録 まだ募集中
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やっぱギャンブルして欲しいという意見が多いのでこの話を急遽追加して書いてみたが、うーん。


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カイジ、決断……!

さらにギャンブル描写しようとすると本編進まないので、ギャンブルはまた番外編というか日常編まで我慢してくれめんす。


雀ポーカーを始めていくらか時間が経った頃……一夏と箒が戻って来た姿を捉えるラウラ……

 

『(っむ?教官の弟は撃墜されたのか……?それにどうやら篠ノ之とやらが泣いているように見えるのだが)師匠、どうやら二人が戻ってきたようだ。しかし、織斑は撃墜、篠ノ之が泣いているようだな』

 

元々は宇宙用に開発されたハイパーセンサーー……まさに覗きに最適である……!

箒が一夏を抱きかかえ……泣きながら帰ってきている姿がラウラには見えていた……!

カイジとセシリアにプライベート・チャンネルを繋げるラウラ……自身の見た内容を報告……!

ここには今回の事態を知らない布仏がいる……おおっぴらに話すことは出来なかった……!

 

『……あ?それってもしかしなくても失敗したんじゃ……?』

 

ラウラの報告を聞いたカイジは疑問符を浮かべる……

 

『命からがらといいますか、どうにかぎりぎり成功させた、ということも考えられましてよ?』

 

『まぁ、成功してても織斑が撃墜されたんなら……泣いて帰ってくるのも仕方ない、か……』

 

が、どうにも胸騒ぎ……予感……予兆……まだ一波乱あるというような感覚……

 

『わたくしは作戦指令室の方へ行ってきますわ。さすがに織斑さんの容態も心配ですし、状況は把握しておきたいですから』

 

セシリアは一夏に対して超高感度センサーのレクチャーをしている……

何か失敗、ミスがあったのなら……自分も責任を感じるところである……!

彼らが出撃している間ギャンブルしていながら……何を言っているんだという話であるが……

とはいえ、自身が出来ることをしようとし……経験も十分、自ら進言したにも関わらず……

後から出てきた束に勝手に話を進められ……作戦から外されてしまった上に……

その場にいないカイジがそれを読んでいたということを聞けば……

最早やる気になっていたことが馬鹿馬鹿しくさえ思えたセシリアでもあった……!

 

『(奴ら二人が失敗していたとしたら……次に出れるのは凰、セシリア、デュノアの3人……腕は織斑、篠ノ之より上で数も勝るが……零落白夜のような切り札はなし……性能も軍用ISと比べたら……同じ第三世代機でも差はあるだろう……どう見ても厳しい……教員どもが出れるかどうかも分からんし、な……)俺も、着いていくぜ……ギャンブルはこれで切り上げだな』

 

『師匠が行くなら私もお供するぞ。一人では寂しいからな!』

 

ラウラぇ……

 

『(……?織斑さんのことが単純に心配、というわけでもなさそうですわね。何かがある、というより失敗していた時のことを考えての行動なのでしょうか?なんにせよ形容しがたい恐怖がありますわ)では、これを終えてから参ると致しましょうか』

 

今行っている一局を終えた後……作戦指令室へと向かう三人であった……!

四人の内だれが勝者であったかは……ご想像にお任せするとしよう……!

 

 

作戦指令室へと入る三人……カイジの姿が見えた千冬が問いかける……

 

「オルコットか……っむ、どうしたんだ伊藤?この件には関わらないのではなかったのか……?」

 

「状況が変わったみたいだからな……どうやら失敗したらしいな……?あの天才とやらがいてどうしてこうなったんだ……?」

 

作戦室内部の状況をみて作戦は失敗したと看過するカイジ……

天才という言葉が出てきて、千冬はセシリアのほうに目を向ける……

カイジは束が出てくる前に出て行った……この作戦を束が立てたことは知らないはずなのだ……!

 

「わたくしが喋る前からカイジさんは勘付いていたようですわ」

 

セシリアはその視線の意味を理解し、千冬へと返す……

たしかに喋ってしまってはいる……それの自己弁護、というわけでもない……

 

「……そうか」

 

「福音がいまどんな行動をしているのかは知らないが……次出るのは残りの3人なんだろ……?このままじゃバラバラに出ていってやられていき……無駄に戦力を潰して……最終的な防衛が出来ないことになっちまう……!なら、ここで俺もラウラも含めて出るしかない……」

 

苦渋の決断であるが仕方ない……三人が破られてさらに侵攻された場合……

ラウラ・カイジのペアだけで福音が落としきれるとは思えない……

ならば、まだ数を集められるうちに出ざるを得ないのであった……!

 

「ラウラを出す、というのか……?」

 

「……わざわざ全部説明することか……?」

 

千冬とてそんなことは百も承知のはず……わざわざ説明する無駄な時間を取らせたいのか……

若干のイラつきを含んだ声色で返すカイジ……!

 

「いや、分かった……すまん……現在福音はここから200km先の洋上で停滞している……いつ動き出すかも分からんが、超音速飛行なら……ここまで10分とかからん……」

 

時速2000kmを超えている福音が動き出せば……200kmすらあっという間である……

 

「そうか……で教員用のISは……?この後に及んでまだ教員は出れない、なんて言わないだろうな……?場合によっては結局俺たちが出る必要もないが……」

 

束の思惑、計画が破綻した以上……教員を出し渋る理由はないはずである……

ラウラも出ざるを得ないと判断したカイジ……しかし、千冬や真耶が出れる前提ならば……

先の3人と合わせて5人で出れば……まず十分ではないかと思い至ったカイジ……!

 

「いま教員用のISはここから離れた地点の海域の警備についている……今から戻しても30分はかかる位置にいる……すまんが伊藤、こっちへ」

 

千冬がカイジに手招きをする……なにやら内緒話というのだろうか……

 

「お前はすでに勘付いているだろうから言っておくが……これは束の仕業とみて十中八九間違いない……そして、その束の立てた作戦が失敗した……つまり、福音のこれからの動きが予想できない……いま山田・エドワースの両先生がいるのはいわば進路予測地点……奴が不測の動きをした場合に……内陸部に行かせないための限界の距離に展開しているのだ……!」

 

最早教員用の二機のISも状況が変わった……下手に動けば福音の行動に追いつけない……

内陸部に行かせないための限界の位置に展開……その動きを待たざるを得ないのである……!

 

「こっちに戻して奴が変に動き出したら間に合わないってか……分かったよ、情報を開示してもらおう……当然さっきの機密事項の取り扱いってやつには了承する……!(時間はないが出来る限りの手を打つ必要がある、か……?俺の読み通り福音がやつの制御下を離れたのだとしたら……そのスペックが想像以上にいじれなかった……あるいはいじれなくなったかのどちらかだ……)」

 

「分かった、紅椿から取り出した情報により……おおよその格闘性能も出ている……射撃性能はこちらに公開されたものよりどうやら低かったようだが……」

 

先ほどの戦闘で得られたデータ……それを付け加えた福音のスペックが表示される……

 

「(少なくとも奴は性能をいじれたっていうことか……?いや、これだけじゃ判断はできねぇ……)ん……?そういや、あんたがこの中の誰かの……専用機を使えばいいんじゃないのか……?」

 

「それができればそうしている……が、私自身の操縦の経験値をためたり……教員が他国の専用機を使うのは……それはそれで外交問題が起きるのだ……!フィッティングの問題もある……!」

 

千冬、初代ブリュンヒルデの操縦の経験値……それをコアに溜められるなどまずない機会である……

どこかの国だけがそれを入手するなど許しはしない……どのような取引がなされることか……

ならば初期化するかといって……そんなことをすれば学園に専用機持ちを入学させ……

他の国に情報を晒してでも情報入手と……コアに経験を蓄積させている意味が無くなるのだ……!

 

「VTシステムがまたどこぞで……開発される足掛かりのようなものに……なるかもしれないか……」

 

「……!そういうことも……あるかもしれんな……(ぐぬぬ、なぜこうも一歩先に行かれるのだ……!)」

 

「まぁ話は理解したよ……俺だって流石にこの旅館を攻撃されたり……日本の上空であんな機体に……暴れられてもたまったもんじゃないからな……」

 

戦闘のデータを見る限りこのまま都市部へ福音が進出した場合……

まず市民の避難は間に合わず……都市部上空で戦えば光弾が雨あられと市民へ降り注ぐ……!

最早死傷者の数は数千の単位……被害額も億単位で行くことは間違いない……!

 

「理解が早くて、本当に助かる……」

 

内緒話は終えて、千冬と距離を離したカイジ……そこへふくれっ面のラウラが話しかける……

 

「むぅ、何を話していたのだ、師匠!」

 

「内緒話は感心致しませんわね、致し方のない内容かもしれませんけど今から肩を並べて戦うんでしてよ」

 

どうにも置いてけぼりにされたラウラとセシリア……

 

「すまねぇな、ちょっとしたことさ……ラウラ、悪いがお前にも出てもらうぜ……」

 

「師匠の許可があるなら万々歳だ!それに状況が変わって市民に被害が出かねないのなら、私も何と言われようと出るがな!」

 

ラウラも流石にカイジとの関係を保つため……それだけのために市民を見捨てるような人間ではない……

 

「そうか……で、それにしてもなんで失敗したんだ……?その時の記録映像はあるんだろ……?出せよ、福音の実際の戦闘と……なんで失敗したのか状況を知っておきたい……」

 

スペックを見るのと実際の戦闘映像を見るのはまるで違う……百聞は一見に如かずである……!

そして、あの天才が何を読み損なったのか……それを見定めておきたいところであった……!

 

「っむ、うむ……分かった、流すとしよう……!」

 

千冬は若干ゃ歯切れが悪く答えて機器を操作し始める……

スクリーンには福音に接触してから一夏たちが撃墜されるまで……その一連の映像が流れる……

 

「……織斑の性格上、船をかばうのは理解できる……あそこで即座に、立場がどんなものであれ……目の前の命を見捨てることはしないだろう……だが、なぜあそこで篠ノ之を責め立てたんだ……?別に篠ノ之も間違ったことは言ってない……言い方には多少問題があったかもしれんが……」

 

カイジは一夏の行動を非難するつもりはない……人としては間違った選択ではない……

しかし、問題はその後である……その場から福音を引き離すなりやり様はあったはずだ……!

 

「どちらの決断も、初めの瞬間においては間違っていない……織斑の視界の端に映った船を……咄嗟に守りに行ったというのは責められることではない……篠ノ之の発言も密漁船云々問わず……福音が市街地に進めば……被害がどのようになるとも知れない以上……その決断も正しいものだ……正しく、問題はその後の行動だな……」

 

千冬とて考えは同じ……これがある暗部の楯無のような立場の人間であれば……

上司からの叱責は免れないところであるが……

 

「(密漁船があそこにいたことが……天才にとっても予想外……不測の出来事だったのか……?それとも敵の目の前で説教して……篠ノ之のやつを呆然とさせて……それをかばうとかいう意味不明な行動を……流石に予測できなかったのか……?最早これは考えても無駄だな……)少なくとも篠ノ之は作戦を遂行することに……可能な限り徹底はしているように見える……専用機をもらって浮かれて地に足がついてない……そんな状態だったことを考えると……これは快挙と言えることなんじゃないのか……?」

 

少なくとも映像を見た限り……箒は一夏が零落白夜が使えるように……

終始徹底して一夏の援護に回っていた……映像の最初の方の得意そうな表情……

昨日専用機を得てからの嬉しそうにしている姿……それを考えれば驚きである……

 

「……私は最初に通信で一夏に……篠ノ之が浮ついているから気をつけろと言ったが……」

 

「注意が必要だったのはどうやら……あんたの弟のほうだったな……」

 

「……」

 

流石の千冬もこれには閉口……無言で顔を逸らす……もののあわれ、千冬……!

 

「まぁ、状況は理解した……福音が変な気を起こす前に向かうとするか……鳳のやつは織斑のところか……?」

 

教員もISを展開して予測地点で待っている……とはいえ打鉄のスペックでは福音に追いつけない……

もし無視して飛び回られたらどうにもならないのである……

 

「篠ノ之と凰は一夏のところにいる……!私は流石にここを離れる訳にもいかんのでな……」

 

「あんたも辛い所だな……じゃ、凰のやつを呼びに行くとするか……」

 

家族愛、姉弟愛を忘れた人間ではない……当然見舞いにも行きたいが責任ある立場……

迂闊にここを離れる訳にも行かなければ……一夏の容態を見て動揺したくもないのである……

 

「わたくしたちは作戦でも立てておきますわ。無策でつっこむものではないですしね」

 

「そうだね、バラバラの5人で戦う以上作戦がないと烏合の衆になっちゃうし」

 

「私もここに残って作戦を立てておくぞ、師匠!」

 

「あぁ、まかせたぜ……」

 

今までの代表決定戦やトーナメントと違い多対一……決められたルールがある模擬戦でもない……

ここは知識も豊富な人間が作戦を立てるほうがいい……そう考えたカイジであった……!

 




無茶がある部分は許せ。カイジたちが関わって、千冬たちが福音を落とさず、自衛隊も出撃させない案としては私の中ではこれが限界だ。


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ホウキ、過郷……!

作戦指令室を後にしたカイジ……一夏のいる部屋の前へとたどり着く……!

 

「さて、織斑のいる部屋はここか……ん?なにやら中が騒々しい様だが……」

 

『一夏がこうなったのって、あんたのせいなんでしょ?』

『で、落ち込んでますってポーズ?―――っざけんじゃないわよ!』

『やるべきことがあるでしょうが!今、戦わなくてどうすんのよ!』

 

「(どうやら凰が篠ノ之を戦わせるため……叱咤しているようだが……筋が通っていない……凰は作戦指令室にいただろうから状況は知っているはずだが……?)織斑がやられて参っている篠ノ之を……戦場に引きずり出されても俺たちが迷惑だ……止めなくちゃな……」

 

幼馴染で恋慕していた相手が撃墜された……たしかにあの場で呆然とした箒は悪いが……

その直接の原因を作ったのはほかならぬ一夏……とはいえ、箒がそのせいにするわけがない……

当然自分を責め立てている……そんな箒を戦場にもう一度引きずり出せば……

どのような事態になるか想像できたものではない……一夏の二の舞になるのはご免である……!

 

「よぅ、ずいぶん威勢がいいな凰……!」

 

「な、なによカイジ。今は」

 

「お前も状況は知ってるんだろ……?なのになんで篠ノ之のせいになるんだ……?」

 

「そ、そりゃ箒をかばったからこうなったんでしょ!?」

 

「その原因を作ったのは織斑だろうが……!お前はあの時の織斑、篠ノ之の決断……どっちが正しいと思っているんだ……?」

 

恐らく凰とても激昂していることだろう……今は結果にしか目が行かないのは仕方ない……

が、物事は筋道立てて考えるべき……ただ、感情のままに責め立ててもいいことなどない……

 

「そ、それは……どっちも間違ってなんかいないわ」

 

「そう、そういうことだ……そこから先、間違っていたのは織斑のほうだ……自分以外の選択をした篠ノ之を認めず……あんなところで糾弾しはじめた織斑が悪い……!」

 

デュノアのことを教室で糾弾した時のことから……何も学んでいないのだろうか……

カイジもさすがに疑問符を抱かざるを得ない事態であった……

 

「い、一夏は悪くない!わ、私がISを、専用機を手に入れられて浮かれていたんだ!これで一夏の傍に立てると……そのせいで、あの船のことも簡単に見捨ててしまって……」

 

「市民の命と密漁者という犯罪者……それを天秤にかけて……前者に傾くのは仕方ないこと……あの時の会話の内容だと犯罪者だから見捨てていい……そんな感じの悪い言い方にはなっていたが……お前自身の内側は知らねぇけど……選択自体は間違っていない……!」

 

「だが、どうにしろ私にはこんな力を持つ資格なんてなかったんだ」

 

「そう思うんなら、姉にその専用機を返すんだな……それはお前自身の選択だから何とも言えんが……まぁ、いまは少なくとも織斑の傍にいてやれよ……」

 

「カイジ、そんな甘ったれたこと言ってる場合!?少しでも数が欲しい、しかも第4世代型で性能も十分。どんな経緯であれ、専用機持ちになった以上ワガママが許されるような立場じゃないのよ!?」

 

「意気消沈……傷心中の篠ノ之を引きずり出すってのか……?お前と二人で出るなら好きにすりゃいい……だが、その場には他の奴らもいるんだぞ……!次はだれを織斑の二の舞にさせるつもりだ……!」

 

箒が戦場で一夏が撃墜されたことを思い出し……もし呆けられでもしたら……

それこそたまったものではない……その場で見捨てることは簡単だが……

確実に誰かがかばいに動く……そうなったら目も当てられないのだ……!

 

「私は、私だって戦えるなら戦うさ!またあのように呆然と立ち止まったりなどしない!福音は一夏の仇なんだ!」

 

箒の目には闘志があった……福音は一夏を落とした……いわば仇でもある……

仇討ちに人が走る時……思った以上の力が出るものでもある……

 

「(篠ノ之は浮かれていた時でさえ……作戦遂行のために忠実に動いていた……それを考慮すれば篠ノ之は戦力になるんだろうが……果たして変わらない動きが出来るのか……?復讐する気持ちが先走ったりしないだろうか……)だが、次はもうお前をかばってくれる奴はいない……いや、いる……いるが、それは見捨てることができないが故……お前が呆けて止まれば、それを助けに誰かが動く……その時はお前には何の言い訳も許されない……お前にそれが、受け入れられるのか……?それに今から行くのは、仇討ちじゃねぇ……これ以上進行を許して町に被害がでないようにするためだ……」

 

「な、一夏がやられてどうとも思わないっての!?そりゃカイジと一夏の折り合いは良くないかも知んないけど」

 

カイジからしてみても一夏は哀れ……束の計画に乗せられ結局失敗してこの様……

巻き込まれた末に怪我を負って重傷とはついてないとしか言えない……

しかし、映像を見る限り仕留めるチャンスはあった……それを自分の選択で潰した……

そして、逃げることが出来なかったわけでもない……自分から生還の道を潰した以上……

哀れとは思っても、義憤に駆られるようなことはなかった……

 

「そういう問題じゃねぇ……ISなんて兵器を個人の復讐劇に使うなっていってんだ……前も言ったろ、ISはお前らのおもちゃじゃねぇって……!」

 

「カイジは一体どうしたいってのよ」

 

「危険性を、排除したいだけだ……不確定要素となりうるようなものはな……(次の戦闘において……福音のスペックが先ほどの通りとは限らねぇ……あの天才の制御を離れたのなら暴走も収まって敵対することもないかもしれないが……楽観視できる状態じゃない……)」

 

今回の事を引き起こしたのが束だとして……その性能を弄っていたとする……

もしなんらかの要因でその制御を離れたとしたら……弄られたスペックも元通り……

そうなっている可能性も当然ある……暴走も収まっている可能性もあるが……

 

「(私は、私は力を手に入れてどうしたかったというのだ……私はただ一夏の傍にいたかっただけ、ただそれだけ。力を制御しきれずに振り回されてこんなことになって、いや、違う。ISは私の力などではない。結局その強さは私のものではなく、ただISの持つ力。それを振り回してしまえば、自分の分を超えた事態を招くのは当然ではないか……思い出せ、私を律するもの、剣道とは私にとって私を律するための力、教えであった。力とは杖のようなもの、自分を支えてくれるが自分そのものではない。より高みを目指すためのものであったはずだ。いつから私はこのように歪んでしまったのだ……)」

 

言い合いをしているカイジと鈴をよそに……箒は自らの過去に思いを馳せていった……

 

 

それは私が小学二年生の頃のことだったはずだ―――

 

私を囲んでいる男子生徒たち。何やら私の事を馬鹿にして、囃し立てていた。その場には教室で一人掃除をしている一夏もいて、一人真面目に掃除をしていた。それをその男子たちが馬鹿にしたことを私は怒った。まじめにすることを馬鹿にすることは許せなかった。しかし、それでも暴力は振るわなかった。男子と殴り合いをしたところで負けるべくもない。一夏をかばったためか、夫婦だなんだと揶揄をされた。そして、わたしは男子に男女だのリボンをしていることを馬鹿にされた。

 

なんだ―――わたしはなにを思い出そうとしているんだ―――?

 

箒が思い出している目の前の男子生徒の顔が突然歪む。そして目の前から消える。

 

なぜだ―――?

 

殴られたからだ。だから、この男子の顔は歪んで飛んでいった。目の前で男子生徒たちが殴られ蹴られて、やられていく姿が映る。

 

殴ったのは私か―――?

 

いや、違う。この男子を殴ったのは一夏だった。私がリボンをしていることを馬鹿にしたことに、怒ってくれたのだ。それはいま思い返しても私にとって嬉しいことで。いや、違う。今大事なことはその事ではない。

 

なんだ―――なにを思い返そうとしているというのだ―――?

 

恐ろしい、恐ろしい、過去は埋められているべきなのに。どうして地面に埋まったものを掘り返そうとしているのだ。そこには綺麗な花が咲いているではないか。

 

その花をひっくり返してまでなにをしようというのだ―――?

 

私にとって大切な感情以外を掘り起こそうというのか。なぜそんなことをする必要があるんだ。人は過去から逃れられない。だから、私はきれいな思い出だけを引き継ぐんだ。

 

それでいいの―――?

 

やめろ、やめろ。囁くな、私の心よ。

 

過去からは逃れられない―――それはあなたも知っているでしょう―――?




夜眠い中投稿して朝起きて確認したらあまりに誤字多すぎて笑えた。冒頭もなんか間違ってるし……あかんなぁ


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ホウキ、嘗胆……!

箒の過去の回想はさらに進んでいった。そして箒にとって大事な感情が生まれるきっかけとなった場面へと移り変わる。

 

その後、私は一夏にあの時のことを聞いたのだ。なぜあのような真似をしたのか、暴力で物事を解決したら面倒ごとになるのは分かり切っているのに。

 

そして、一夏はなんと答えたのだったか―――?

 

何故だ、もやがかかったようにその部分が思い出せない。その先はすぐにでも思い出せる。とてもなつかしい香りなのだ。私にとって大切な道場の香り。それと共に大切な感情がすぐにも思い起こされるというのに、なぜ一点だけもやがかかったようになってしまうのだ。

 

思い出さなくてもいいんじゃないの―――?

 

いや、それでは駄目だ。私が先ほど恐ろしいと感じてしまったもの、花の下にある真実が、そこに埋まっているはずなのだ。すべて物事を思い出そう。私にとって大切な感情もまた、過去の一部、もやがかかっている部分に繋がっている記憶の一部なのだから。

 

私と今の一夏の関係になるような、先へ進んだ場面だったはずだ―――

 

それから一夏は私のリボンを褒めてくれたのだった。そして、それに照れた私は道場にある井戸水で練習の汗を流して、顔を隠した。その頃の一夏は私の事を篠ノ之と呼んでいたはずだ。だが、名前で呼んで欲しかった私は、父や母も同じく篠ノ之で紛らわしいから名前で呼べと、そう言った。それから一夏は私のことを箒と呼ぶようになり、私もまた一夏と呼ぶようになったんだ。

 

駄目だ。ここまで思い返したのに、もやのかかった部分との繋がりが出てこない―――

 

リボンを褒められた、男子たちにそのことを馬鹿にされていた、一夏は男子たちをぶん殴った、三人相手でも圧勝だった、一夏は剣道だけでなく千冬に体術を習っていた。それ故に面倒ごとが当然起きた。その面倒ごとを一夏は何と言っていたか。

 

そうだ、面倒になることなど考えないと言っていた―――

 

少しだけもやが晴れると同時にむせかえるような血の香りがした。面倒ごとになることなど考えない。ならば、どうするか。ぶん殴って解決する。許せない奴はぶん殴ると一夏は言った。少しずつ自分の周りを血の香りが覆っていく。堪らなく、私は逃げ出そうとしたが、それがどこから流れているのか気付いた。

 

この血の香りは、自分の心から流れているものか―――

 

なぜ自分の大切な思い出なのに、このように不快な気持ちにならなければならないのだろうか。箒の手は無意識にリボンへと向かう。これを触れば落ち着くことができる。過去の思い出を温かく蘇らせるのだ。

 

あぁ、私の、わたしの大切な思い出。それを思い出させてくれるリボンっ―――!

 

しかし、今は違った。絹ごしのサラサラとした手触りはそこにはなかった。先ほどの戦闘で焼け焦げており、手触りはパサパサと指に引っかかり、血の香りに加えて焼け焦げた煙の匂いが鼻を突いた。箒は咄嗟に手を放した。

 

駄目だ、逃れることは出来ない。過去からも現在からも逃げられはしない―――

 

思い返さねば、思い起こさねば、花の下の真実を掘り起こすのだ。一夏は別段、反省しているような風はなかった。相手の親が裁判沙汰や警察だなんだのと騒ぎ立てるくらいの、それくらいの怪我を相手は負っていたはずだ。なによりも、千冬さん譲りの体術だ。一般人どころか、小学生相手に振るえば当然の結果だ。

 

大体、複数でっていうのが気にいらねぇ。群れて囲んで陰険なんざ、男のクズだ―――

 

もやがどんどん薄くなっていく。もやの部分の声が一夏のものとなって再生された。私は思い返すべき真実に近づいていっている。私はそれになんと答えたのだったか。逆に、自分がなんと答えたのか思い出せない。それを聞いて私はなにを思ったのだ。深く思い返そうとすると一層、自分の周りを包む血の香りがきついものとなった。

 

これ以上進むことを私の心が拒否しているとでもいうのか―――?

 

過去から逃げられない、そして過去を変えることも出来ない。だが、過去に対する認識を変えることだけは可能だ。考えろ、その時私が何を思ったのか、それが全てではない。その時に一夏を否定するようなことを考えたのか、肯定するようなことを考えたのか、それはどちらでもいいことなのだ。問題は今の私がどう思うかだ。

 

正しく、暴力そのもの、力に振るわれる自らの姿ではないか―――?

 

何も一夏のあの時の行動すべてを否定するわけではない。なによりも幼い時分、子供のやったこと。その時の一夏の行動を今の自分が否定するのは大人気ないことだ。そう、私が恐ろしいと思った過去の記憶、このもやのかかった部分。私はこのことを深く考えたくはなかったのだ。それに思い至ると、自らを包む血の香りはどこへともなく消え失せ、なつかしい道場の香りへと変わる。

 

あぁ―――これが私にとって本当に大切な香りなのだな―――

 

一夏とのこと、その思い出をすべて肯定するだけではだめなのだ。最早物事の分別をつけて考えなくてはならない年齢になった私が、幼い時分のことをすべて正当化し、それを根拠に動いていてはだめなのだ。ただ、それだけのこと。私が恐れていた、一夏との思い出を否定すること。大切な感情は残したまま、否定をするだけでいい。

 

いまの私の在り方が少し変わるだけだ―――

 

箒を包む血の霧が晴れた。

 

私はどれだけの時間を、思い返すことに使っていただろうか。目の前ではまだ変わらず伊藤と鈴が言い争いをしている。それを見れば、短い時間であったのだろうか。時計を見る気力さえなく、呆然と座っていたから全く前後が掴めない。だが、そんなことはもはや構うことではない。私は、私が得たこの紅椿の力の使い道を見定めなくてはならない。あの姉さんのことだ、私が望んだままにただくれたというわけではないはずだ。なにか、なんらかの思惑があるのだろう。最早この紅椿に振り回されるべくもない。ISはただの杖として、高みに昇るために使うのだ。決して、自分にとっての障害を力ずくで薙ぎ払うためのものでは、ない。

 

「伊藤よ」

 

「急にどうしたってんだよ……?」

 

黙りこくっていたはずの篠ノ之から急に声をかけられて不審がるカイジ。

 

「私も出撃させてはくれないか?福音に対して、一夏への復讐心や怒りなどが消え去ったわけではない。しかし、それを心の片隅に留めて行動することを誓おう」

 

「(なんかこいつ、さっきまでと様子違くないか……?)あ、あぁ……別に結局のところ……俺に決定権があるわけでもなんでもねぇし……俺が許可することじゃないんだが……」

 

実際箒が出ると言ってしまえばカイジに決定権があるわけでもない。決定権を持つ千冬を脅せばどうとでもできることではあるのだが。

 

「共に戦うのならば、できればわだかまりは解消しておきたいと思ったのでな。そして、大事なことを思い出すきっかけとなった。もう力に振るわれるようなことはない」

 

「(一体何言ってんのかさっぱりわかんねぇ……でもまぁ紅椿のあのスペック、映像で見る限りの篠ノ之の戦闘力……それは実際頼りにはできるところか……何があったか知らねぇけど……憑き物が落ちたみたいな感じだな……)まぁ、ずいぶんと時間を使っちまった……あっちも待ち侘びてるだろう、さっさと行動するとしようぜ……」

 

あっち、とは作戦指令室と福音の両方の事である。

 

「一体、何が何だっていうのよ。さっきまで箒が出ることを嫌がってたカイジは妙にあっさり引き下がるし、箒は箒でなんか別人みたいになってるし」

 

「そうだ、鈴。今までの事済まないな、感情の赴くままに暴力を振るってしまっていた。そのことを、改めて謝っておこうと思う。すまなかった」

 

鈴に向き直ったかと思えば、素直に頭を下げる箒。当然その姿を見て鈴は焦る。今までこのように箒が素直に謝ってきたことなどなかった。自分に竹刀を振るった時も、どこか目を合わせずに逃げるように謝ってきたことを考えると驚きである。

 

「っへ?え、えと、別にいいわよ。私もあんたのこと煽るような感じだったのは事実だし。まぁそれで暴力が正当化されるわけでもないけど、私に非がない訳でもないから(なんか調子狂うなぁ、一体全体なにがどうしたのかしら)」

 

「そうか、ありがとう。では、向かうとするか」

 

箒は立ち上がり、一夏の額を軽く撫でた。その様子をカイジと鈴は黙って見つめていた。

 




唐突な箒掘り下げ回である。


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カイジ、妖渉……!

作戦指令室へと戻ったカイジ、凰、箒の三人……指令室では千冬も交えて作戦会議がなされていた……

 

「篠ノ之、一夏のところにいなくても大丈夫なのか?」

 

「はい、今は重大事ですから。それと千冬さん、私の未熟故に一夏に怪我を負わせてしまい申し訳ありませんでした」

 

「いや、構うな。一夏の行動に問題があったことだ。あの場でお前に一夏の言動を気にせず戦いを続行しろというのも難しい話だ。さて、篠ノ之も戦力に加えた場合も含めて作戦は立ててある。とはいえもう時間がない、作戦を手短に説明する」

 

入って来た三人が席に着くと作戦を説明する千冬……

作戦の全容としてはステルスと高機動強襲パッケージを用いた奇襲作戦であった……

 

作戦は2機ごとの3グループによる奇襲……

一組目はラウラ・デュノアによる長距離狙撃……福音の射程外からの射撃……

デュノアは試験装備である大型レールカノン……ラウラは元々のリボルバーカノン……

その狙撃によって福音は自らの射程内へ入れるため二人へと迫る……その行動に対して次の奇襲……

二組目は箒・鈴によるステルスモードからの強襲……近接戦へと持ち込む……

得られたデータでは福音の格闘性能……それは高いものではない……

当然福音は得意な遠距離戦闘に持ち込むため……箒・鈴から距離を取ろうとする……

その行動に対して最後の奇襲……三組目はセシリアがカイジを運ぶ……

そしてカイジによる零距離破砕砲の一撃……現状の6機の中では条件が整えば……

瞬間火力はカイジがピカ一……断トツである……!

 

千冬の作戦説明が終了し、それぞれ出撃の準備へと向かう……

作戦指令室からみんなが出るのを見届けるカイジ……それから千冬へと話しかける……

 

「そういえばあんたならあの天才の連絡先知ってるんだろ……?ともかく、呼び出せ……俺が話があると言えば……奴はきっと出てくる……俺のISに繋がせろ……!」

 

箒に聞くことも考えたが変な勘繰りをされても敵わない……それに千冬ならば今までの事がある……

素直に聞いてくれる……というよりは何か考えがあることを読むことを期待してのことだが……

 

「束の連絡先か……?あいつが誰かにそう呼び出されるとは思えないが……」

 

千冬も束の性格はよくよく把握している……何やら興味は持っている風な発言はしていたが……

 

「話だけは聞いてやる……そう伝えろ……ともかく、福音が動き出す前に……話をつけておきたい……!」

 

それだけを言い返事も待たず……カイジは作戦指令室を後にした……

 

 

「はろはろ~、どうしたのかなぁ、かーくん!私に用事だなんて!愛の告白かなぁ、私にはちーちゃんがいるんだけども!」

 

束よりカイジにプライベート通信……変わらずファンシーな格好をした束の姿が写る……!

どうやら千冬は頼んだ通り……束へと連絡を取ってくれたようだ……!

 

「時間がない……とりあえず、出せ……!あるんだろ、ワクチン……福音の暴走したプログラムに対応する……特効薬……」

 

ウィルスを制作したならワクチン……少なくとも製作者は持っているものである……

でなければ不慮の事故……下手に感染を起こした時の対策が後手に回るからだ……

また、例え持っていなくても……ウィルスを持っている束なら作るのは容易なはずだ……

 

「んふふ~、なんで私がそんなものをもっているのかなぁ~。そして、例え持っていたとしても、出せなんて言われてそう簡単に出す束さんでもないんだなぁ!」

 

「そうか、だったらこの話は御終い……俺は今後あんたの話は一切聞かない……何をさせたいのか、それは皆目見当もつかないが……あんたの何らかの野望、願い……自分だけでは達成できない何か、なんだろ……?あんたは天才と称賛されながら……自分の願い事も叶えられず朽ちていくわけだ……」

 

どんなに天才とたたえられようとも……天才と自画自賛しようとも……

 

「……!(かーくんの代替物が作れる可能性はそれは零ではない。私自身そのために、色々な画策をしてきてる。でもそれが形になるのはいつのことかは分からない。まぁかーくんが私の願いを達成できうるかは不明だけれども、いまここで変にへそを曲げられるのはなぁ。かーくんは断固としても決めたことは曲げそうにないし)」

 

「ちーちゃんが言ってたろ……?話だけは聞いてやるって……お前がそういう態度取るなら……俺は断固としてお前の話は聞かねぇぞ……?」

 

「それじゃあ、一つだけ質問に答えて。宇宙に行きたい?」

 

「宇宙……?特に考えたこともねぇけど……月でトランポリンみたく飛び回ってみるとか……楽しいかもしれないな……!」

 

思い出されるのは昭和公園……ボーニ……ボーニ……と飛び回った記憶……

 

「ほほぅ、束さんはそうやって答えられるだけでとりあえず満足かなぁ。話戻すけど~それを手に入れてどうするの?」

 

最早束は否定することもなく……カイジの話に乗っていく……

別に自分が犯人であるということをカイジ一人が言い立てても意味はない……

それに自身を表立って否定するというのなら……ISを捨てる覚悟がいることである……

 

「暴走した福音……あんたの手に負えないところへ来てるんだろ……?暴走させたはいいが、そのスペック……性能……機能……それを遠隔でいじれなくなった……故に失敗……織斑、篠ノ之の腕でも倒せるように……そういう風に調整するつもり……それが失敗……できなかった……」

 

それがカイジの考えた束の脚本……自らも仕方なく出ることになり……

当然そのスペックを知ることになった……福音のオーバースペック……

一夏や篠ノ之の腕では……到底倒せる相手ではないことを悟った……

 

「……そうなってしまうと~、ワクチンも遠隔じゃ効かないってことにならないかなぁ?」

 

「直接、打ち込めばどうだ……?遠隔はダメでも、奴に取り付いて……直接プログラムを書き換える……これも効かないとしたら……どうにもならない……力ずくで落とすしかないが……」

 

「福音はいま自閉モードに入ってるからねぇ~、自らの判断でそうしたとは中々に驚きだけども。直接回路を繋げばワクチンを打ち込むのは自閉モードであっても可能だね。でもどうやって取り付くつもり~?はっきり言って福音のスペックに取り付くなんて正気の沙汰じゃないことだよ~」

 

ただ単純に取り付けばいい……というわけでもない……回路を繋ぎ、打ち込む時間もいる……

そんな隙を与えてくれるほど甘い相手ではない……

 

「まぁそれはせめてもの保険……今から結局は残りの専用機持ち……みんなで出ることになった……あんたの策謀の尻拭いの戦場に出る……馬鹿げてるとしか言いようがないが……首謀者の性質故に……他の意志も介在しないだろう……あとは各国の衛星くらい……ハッキングできるんだろ……?戦闘海域の監視ができないようにしといてくれ……あと、もしこのワクチンを使う事態になり……それで暴走が収まったら……その痕跡を消しといてくれ……」

 

恐らく各国が現在最も注目しているであろう場所……それがこの福音戦である……

が、束にとって各国の動きなど正直どうでもいい……そもそも気に掛けてすらいない……

今回の事は紅椿と白式の、絢爛舞踏と零落白夜の稼働データ……それが取りたいがために仕組んだこと……

カイジもそれは読めなかった……周囲に認めさせるが故のものだと考えていたが……

束としては自身の妹がISを持つことに何の反論があるのか……それくらいのものである……

自分に反抗するならすればいい……今回軍用ISが暴走したのを各国が自分と結びつけるのは容易なこと……

明言はしないが、犯人がだれかは分かっている……

それはつまり、いつでも自国のISを暴走させられるということであった……!

 

「かーくんは注文が多いなぁ!でもこれで私の言うことを何でも一つきいてくれるんだよね~?」

 

「俺が言ったのは……話を聞くってことだけだ……その上で判断するに決まってるだろ……碌でもないことをさせられても敵わねぇ……!」

 

普通なら束が乗るわけもない話だが……現状ではカイジの替えはいない……

なので譲歩せざるを得ない……カイジにとっても賭けとなる交渉であったが……

 

「かーくんのいけずぅ~。とりあえずかーくんのISにワクチン送っておくからね!そいつには時間制限、一回使用の自壊プログラムと痕跡消去のプログラムも追加しとくから、一度きりの命だよん!まぁどう考えても使いようないけどねぇ。じゃあ、約束だからね!ちゃんと話聞いてよ~ばいばーい」

 

ニンジンロケットの中に帰っていき……また孤独な空へ帰っていく束であった……!

 

今回束にも予想外の出来事……福音のスペックは一夏、箒のペアでも落とせるように調節・調整……

多少苦戦はする程度にしていたのだが……不審船の存在に加えて、あの場での説教……

戦闘中にも関わらず、お互いが足を止めるなどという事態……そこへ容赦なく攻撃する福音……

ゴーレムであったのなら……その行動を制御することも簡単であったが……

慌てて福音の行動を直接制御しようとしたところ……自閉モードになられたのであった……

 



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カイジ、援戦……!

やっぱ戦闘描写は苦手です……福音戦の下りは流れ決めてても全然進まねぇ……


 

「こちらラウラ、お互い配置についた。観測している限り福音に動きは見られない、こちらに気付いてはなさそうだ。当初の予定通り、2200ちょうどの狙撃は可能だ」

 

「こっちも準備はオッケーよ、いつでも始められるわ。セシリアたちはどう?」

 

ラウラ・デュノアチームより少し離れた洋上……準備を終えて待機する凰と箒……

さらに少し離れたところへと待機するセシリア、カイジペア……!

 

「こっちも問題ありません。いつ開始してくださっても大丈夫ですわ」

 

「よし、全機予定通りの配置についたようだな。作戦は時間通り、2200の狙撃をもって開始とする。ヴァルトの破砕砲の一撃が決められなかった場合は、散開して前衛に甲龍と紅椿、中衛にレーゲン・ヴァルト・ラファール、後衛にティアーズだ。前衛は被弾を減らし、敵の頭を抑えろ。福音のSEを主に削るのは中後衛の役目、いいな?」

 

作戦指令室にて指示を出す千冬……破砕砲の一撃は確かに強力……

しかし、取り付いて発射するのは難しい……後詰めの作戦は必要である……

 

「「了解です!」」

 

「(福音のSEは前の戦闘でいくらか削られている……なにより太平洋を横断してきてエネルギーの消耗もある……前衛が持たなくなるまでに落とせる公算は高い、か……こいつの出番はなくて、済むか……?)了解だ……!」

 

カイジが目を向けた先……そこには先ほど送られてきた束のワクチンプログラム……

 

「(まぁそもそもこれを使うためには破砕砲を撃ちこむ以上の隙がいる……ラウラのAICで止めさせるにしても奴の主兵装はEN式……動きを止めてもその羽根から容赦なくエネルギー弾が降り注ぐ……)」

 

「カイジさん、何か不安でも?」

 

「……いや、決め手に俺の破砕砲を持ってくるってのはな……」

 

「まぁ相手が相手ですし、決められなくても文句は出ませんわ。そもそも当てやすい武装ではないのですから」

 

「まぁ、そうは言うがな……」

 

「最初の奇襲作戦は可能な限り手短に済ませて、不測の事態が起きないようにするためのものに過ぎませんわ。ここには曲がりなりにも代表候補生が4人、対応して見せますわ」

 

「(正直な話、今まで俺がやってきたような小細工は福音には通じない……必要なのは純粋な技量……正面突破できる実力……)あぁ、頼りにしてるぜ……」

 

彼女たちも代表候補生……狭き門を潜り抜け切磋琢磨してようやくなれるのが専用機持ち……!

当然持ち合わせている……プライド……自尊心……!まだISに乗り始めて3か月のカイジ……

そのミスを責めるほど恥知らずではない……!

 

そして時は進み、作戦開始の時刻……

 

『2200まで後10秒……カウントダウン開始、5,4,3,2,1……作戦開始!』

 

『っは、教官!』

 

『はい、織斑先生!』

 

狙撃位置についていたラウラ・デュノアチームの砲撃……!

レーダーの範囲外からの長距離狙撃……うずくまるように足を止めていた福音に命中……!

 

「初弾命中、目標こちらを補足。距離を詰めてくるぞ」

 

「予定通りだね、僕の方は次弾装填の暇はないから少し前にでるよ。ラウラはそのまま支援砲撃をお願い!」

 

「心得た。あまりSEを削られるなよ」

 

「分かってるよ。普段役に立たない防御パッケージ、こういうときこそ輝いてもらわないとね!」

 

IS戦の主流はシングルマッチ……タッグマッチも最近では注目されてきているが……

それでも試合という限られた状況下……後も先もない試合で防御パッケージなど必要ない……

ならばなぜそのようなパッケージが必要かと言えば……

 

「さすがに対レーザーコーティングだね、あの弾幕も掻い潜れるなんて」

 

『(フランスは統合防衛計画への姿勢を改めたのか……?いや、今は気にすること、いや、最早私が気にするべきことでもなくなってしまったか。少し物悲しくはあるがな)福音は完全にこっちに釘付けとなっているぞ!』

 

支援砲撃を打ちつつ鈴たちのペアへと通信……予定ではもう数秒もないうちに到達するはずだが……

 

『オッケー、もうすぐそこまで来てるわ。一気に叩き込むわよ、箒!』

 

『一気にいくぞ鈴!』

 

鈴と箒の攻撃が間近となった瞬間……デュノアは一発だけ、あえて弾を受ける……

そしてよろめいたところへ追撃をかけようとする福音……そこへ奇襲の一撃……

 

「良い演出じゃない、シャルロット!」

 

左右に分かれて挟み撃つ箒と鈴……鈴は双天牙月、箒は空裂を振りかぶる……!

二機のISの接近に気が付いた福音……だが、IS戦では最早目の前といっても過言ではない距離……

咄嗟の事で選択をし損なう福音……戦場で有り得ぬ棒立ち、隙を晒す……

 

「……♪!」

 

両翼の付け根それぞれに斬撃を喰らい……海面に向けて吹き飛ばされる福音……!

 

「体勢整え直す前に詰めるわよ!」

 

「言われずとも!」

 

が、福音もさる者……海面に叩き込まれる前には立て直して海面にバーニアを噴射……

咄嗟に海水を叩き上げて目眩まし……そして海水の壁越しに、迫る二人へ光弾を叩き込む……!

 

「っげ、本当に暴走してるの!?その状況からこんな手なんて!」

 

視界を失った以上突っ込むことは避ける選択を取った二人……

そのおかげか弾幕に突っ込むことはなかったが……そのまま距離を離される……!

 

「僕はまた支援砲撃に回る!ラウラ、十字砲火にするよ!どうにか動きを抑えるから二人はそのまま距離を詰めて!」

 

「わかった、セシリア達が来るまでの後30秒、どうにかする!」

 

近接の二人の役目……それは最後の奇襲のための隙……注意を惹くこと……!

そのためには相手が苦手とする格闘戦……その土俵に持ち込む必要があった……!

支援砲撃を受けながら距離を詰めていく二人……

 

「……♪?」

 

何かを感じ取ることができたか……近接二人に絡まれながらも虚空へと目を向ける福音……

本来レーダーでは探知できない……ステルスモードのセシリア達のいる方向へと目を向ける……!

そして、両翼に溜まっていたエネルギー……それらのすべてをその虚空へと向けて弾幕として放つ……!

 

「っな、私たちのレーダーにも映ってないというのに探知したのか!?」

 

「射撃前だから距離取ってたせいで止めらんないわよ!」

 

福音は攻撃前に……両翼のエネルギー反応があからさまに高まる……

そのため、弾幕を張られる前には少し距離を取り……被弾を避けるようにしていた近接組……

当然今回も自分たちの方に向けて弾幕を張ってくるものと思っていたが……

 

『セシリア、師匠!そのままの軌道では弾幕に突っ込むぞ!』

 

咄嗟に通信を繋ぎ警告をするラウラ……福音は何を探知したというのか……

 

『そのまま突っ切りますわ!その距離からの弾幕なら隙間はあるはず、速度は落ちますけれど、迂回していくと時間がかかりますわ』

 

いくら福音が広域殲滅型といえどこちらもIS……完全にこちらの軌道を潰せはしないはずである……

 

「(奴は俺たちの奇襲を何らかの方法で感知したのか……?だがそれなら凰と篠ノ之の奇襲も失敗しているはず……この短期間で三度も奇襲を受けた……それ故に学習した……?ISにはなにやら自己判断のできるような……そんな機能があの天才の言葉からは考えられる……)」

 

恐らく福音の操縦者の意識はない……そして、暴走した福音は自閉モードに自らの判断で入った……

あのISは無機質に……ただ暴れまわっているわけではないということか……

 

「わたくしたちの奇襲は読まれておりますが、あの射撃のお陰で鈴さんと箒さんも取り付けたみたいですわ。一度はトライしてみましょう」

 

「分かった……こっちも準備は出来てるぜ……!」

 

弾幕を掻い潜りながら福音へと迫るセシリア……

 

「さすがに次は距離を取らないわよ!」

 

福音の羽根に再び高エネルギー反応……この時点で距離を詰めれば回避は容易ではない……

しかし、高機動で突っ込むセシリア達に……今の距離で撃たれればそちらも回避は困難……

自分たちに打ち込むならセシリアたちの攻撃が……セシリア達に打ち込むなら自分たちの斬撃が……

ハイリスク・ハイリターンの賭けへと首を突っ込む鈴と箒……

選択を迫られた福音の取ったのはどっちつかず……それは片翼ずつ射撃を分散……!

 

「そいつは、悪手だな……せめてどっちかを潰せる手を選ぶべきだ……!」

 

「この程度の弾幕、押し切って一気に決める!」

 

引くことは選ばず互いに弾幕へと突っ込む……しかし、片翼だけの弾幕ならば手薄……

ここは身を削って押し切り……鈴と箒が抑えにかかり、そこへ迫るカイジ……!

箒の空裂に片方のウィングをもがれた福音は完全に態勢を崩す……!

そこへカイジはすでにチャージを終えた破砕砲……その射出口を押し付ける……!

 

「墜ちろ……!」

 

福音へと零距離で発射される破砕砲……激しく海面へと叩きこまれる……!

 



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カイジ、闘臨……!

洋上にて海面を見つめる6人……福音が浮いてくる様子は見られない……

 

「SEが削りきれたかは分かりませんが、少なくとも無事では済まなさそうですわね」

 

「っていうか、そのまま沈んだりしないわよね?流石に寝覚め悪いんだけど……」

 

中には操縦者がいる……このまま海中に没するのは後味が悪い……

 

「救助の事は……考慮している余裕はなかった……俺たちも水中に入っていくわけには……いかないしな……」

 

ISが宇宙空間での活動を想定して作られたものである以上……当然水中での活動そのものは可能……

しかし、その機動力は当然落ちるし武器も碌に使えなくなる……宇宙空間であれば制限もないのだが……

 

「っむ、海中になにやら動きがある。福音が上がってきたら第二ラウンドになるな」

 

目聡く海中の動きを察知するラウラ……その言葉を聞いてみんなの顔に再び緊張が走る……!

 

「光の弾が浮上してきている……あの中に福音がいるのか……?」

 

時刻はすでに22時を回っている……月明りがあるとはいえ海面は真っ黒である……

その真っ暗闇の奥底に光が現れゆっくりと浮上してきていた……!

海中からその光が脱し……中空に浮かぶ様子を皆が固唾を飲んで見守る……

福音がいるとしても中の状態は不明……そのため迂闊に攻撃することもできなかった……

 

「光が晴れていきますわね」

 

眩く中も見えないほどの光……それがだんだんと弱まっていき……

そこには箒によってもがれたはずの片方の翼……それをエネルギーで形成した福音の姿……

 

「散開しろ!距離を取れ!」

 

それを見たラウラがみんなへ叫ぶ……どう見ても福音はまだ戦闘可能な状態……

弾幕を張っていた両翼の翼……その片方がエネルギーで再形成された……

既に脅威であった攻撃手段が進化した形……そして、その羽根からは……

今までとは比較にならない量の光弾が放たれる……!

 

「なによあれ、なんで羽根が復活してるのよ!?」

 

「まだ福音は試験稼働機、セカンドシフトするにしては早すぎるよ!」

 

セカンドシフトは経験の蓄積……長く使われた機体と操縦者の元で起こる現象……

本来福音のような試験稼働機で起こるはずはない……

 

「(結局ワクチンに頼らざるを得ないのか……?奴のSEは尽きていない……奴の武装が進化したとみるなら……今の俺たちでは奴のSEを削り切れない……どうにかして……ワクチンを打ち込む隙を作る……相手を無力化……これなら初めからワクチンに頼った方法……それを考えるべきだったか……?これは無駄な思考だ……)」

 

カイジは所属不明機事件の時のように……操縦者を失神させる……その方法を考えたが……福音が暴走している以上……内部の人間によって動いていない可能性が高く、操縦者へダメージを与えても意味がない……そもそもパイルバンカーは積んでおらず……さらには福音の懐に入ること自体が厳しい……それを言えばワクチンを打ち込む隙……そのほうがさらに絶望的なのだが……

 

そして、考えを巡らすその間に……福音は縦横無尽に暴れ出していた……

 

「なんて機動力と弾幕ですの!?回避に徹しても凌ぎ切れませんわ!」

 

「これに取り付けというのはいくらなんでも無茶があるぞ!」

 

最早福音は前衛の二人組を振り切り……光弾を撒き散らしている……

先ほどまではエネルギー反応を見て……攻守の入れ替え……隙を探っていたが……

新たに形成されたエネルギーウィング……それは常に高い反応値を示しており……

最早いつ福音が弾幕を張ってくるか……それすら分からなくなっていた……

 

「ちょっと、何よこれ!洒落になってないっての!」

 

「防御パッケージで持たせても、これじゃジリ貧どころじゃないよ!」

 

皆のSEが見る見るうちに削れていく……手立てが見つからなければ……全滅……!

 

「次は俺か……!考え事をしている暇もねぇ……!」

 

突如としてカイジへと追いすがる福音……カイジは海面上を滑るように逃げる……

 

「っち、まっすぐ追ってきやがる……!それに避けきれるもんじゃねぇ……!ひとまず破砕砲の加速で……!」

 

ハイパーセンサーが送ってくる背面の状況……それは正しく絶望的な眩さ……

視界のほぼほぼ、光弾に埋め尽くされている……!

 

「(加速だけじゃどうにもならねぇ……!ならせめて上に……!それと、水……!)」

 

カイジ、気付く……この下には水がある……使い道を即座に思いつき、実行……!

破砕砲を海面に向けて打ちこみ、水の壁を築く……その反動を使い上昇……

水壁では光弾を消すことはできないが……威力は減衰し小さくなる……!

その隙を縫ってSEを削られながらもどうにか逃げ出すカイジ……!

 

「交戦してからまだ5分、教員が到着するまであと10分。最早SEを削ることは考えるな、とにかく時間を稼ぐぞ!」

 

実は教員たちもカイジたちが交戦を開始……その瞬間からこちらへと移動を開始……

福音が手に負えなかった場合……時間を稼いで後を教員に任せる予定であったが……

下手にカイジの破砕砲で落としたのが災いしたか……まさかのセカンドシフト……!

 

「正直あと5分ってところが限界じゃないかな、ただ持たせるにしてもこれはきついよ!」

 

「だがここで振り切られたら旅館まで行かれる。少しでも時間稼ぎをするぞ!」

 

会話をしながらどうにか弾幕を避け続ける……正直勝ち目がない以上逃げ出したい……

しかし、ここを通せば後ろには生徒が、市民がいる……最早避難も間に合わない……

 

『織斑先生、避難勧告くらいは出せないのか……?』

 

この場をこれ以上持たせるのは無理と判断……千冬へと回線をつなぐ……

 

『旅館と生徒達ぐらいなら緘口令を敷くこともできる……しかし公に一般市民の避難は難しい……』

 

『なぜだ、市民に被害が出る段になっても……未だに腰を動かせないってのか……?』

 

『情報を秘匿しすぎた……いまさらになって領海内に暴走した軍用ISがいるなど……そんな報道は出来ないようだ……確実にパニックにもなる……』

 

最早今更、なのである……本来なら暴走して日本へと直行……その時点で勧告はなされるべき……

そうでなければ避難など間に合いようもなく……迎撃などの段取りも組めるわけがない……

自衛隊の到着も困難……大きな組織を動かすためにはそれ相応の時間がかかる……

そしてパニックによる二次災害……都市部の人間がこぞって避難を開始……

瞬く間に道路も公共交通機関も埋まる……我先にと逃げ出し……失われる理性……

命がけなのだからこれも当然……他者を押しのけ我先にと進むに決まっている……

 

『なら、教員のISをこっちへ直行ではなく……旅館側へ膨らませつつ向かわせろ……』

 

『それではお前たちの元へつくのが……!』

 

『どうにしろ、教員がつくまで持ちこたえられるか分からねぇ……ここを抜けた後、奴がそっちにまっすぐ向かったとしたら……直行してた教員じゃ奴に追いつけなくなる……!俺たちを倒した後に奴が旅館側でない方向に向かったとしたら……どうにもならなくなるがな……』

 

直行するのが当然早い……しかし、それは戦線を維持できる前提での話……

現状抜かれる公算が高いのなら……それは危険な一手である……!

 

『そうはいうが、だからといってお前たちをみすみす見殺しにするような……』

 

『小より大を取れ……!これでも旅館の、生徒達を優先する選択ではあるんだ……お前たちはどうだ……?無理強いはしない……ラウラは……』

 

『師匠、何も言うな。言わずともその気持ちは伝わってくる。それだけで私には充分だ』

 

不敵な笑みを浮かべたラウラ……カイジの言わんとすること……それを言わせるほど鈍くはない……

 

『このような力を持った者の責務だ。異存はない』

 

本来なら持ちうるはずもなかった専用機……しかし、一度受け取った以上……

その力、それを杖とし……自らの精神を高みへと昇らせた箒である……!

 

『まぁここで背を向けて逃げ帰っちゃ、後ろ指さされるどころじゃないしねぇ』

 

にひひと笑いを浮かべながら軽口を叩く鈴……だが、彼女が気にするところはそうではない……

ここで逃げ帰るようなことを……自らのプライドが許さなかった……

 

『noblesse oblige、高貴たるものとして、その背中で示しますわ』

 

その背を見てくれる民はここにはいないが……セシリアは貴族の令嬢として……

また、専用機持ちとして果たすべきこと……それを果たすことに決めた……

 

『僕を受け入れてくれた温かい場所とみんな、守らなくっちゃね』

 

みんなには嘘をついている形となってはいるが……それでも受け入れてくれた場所を……

それを守るためには……自らの身を張ることを厭わないシャルロットである……!

 

『と、いうわけだ織斑先生……やれるだけのことはやる……だからあんたもやれることをやれ……』

 

『具現維持限界になる前には絶対に撤退しろ……もしその後にお前たちにどのようなことが起ころうとも……私の名前、権威、名声、コネ……それらを全て使ってでも守ると誓おう……!だから、必ず……生きて帰ってこい……!』

 

死んでしまえば最早何もできない……死んでしまった後では何をしようとも……

生きている者がただ自己満足のためになすことに過ぎない……

 

『『了解です!』』

 

敵との戦力差は6:1……本来なら相手にもならないはずであるが……

しかし、皆が一様に覚悟を決め……その戦闘に挑むのであった……

 




会話シーン中は敵の攻撃が当たらない無敵時間です()


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カイジ、暗転……!

いや、まじで筆が進まない。それなりに時間取ってるのに進まない。


全員が相応の覚悟を決め、戦場に臨む……しかし、カイジとてみすみすやられる気はない……

なんとしてでも状況を打破する手立て……それを模索しながら戦っていたが……

 

「(箒とカイジ君のSEの減少が早い。具現維持限界まではもう少しある……でも後々のことを考えたら早めに下がってもらって、旅館の方でSEを回復してもらうのも手かな?)」

 

6人の中でも代表候補生ではない2人……隠しきれない操縦技術の差……

箒の展開装甲はまだ使える……そのうちにカイジを引き連れて下がってもらえれば……

旅館前で第二陣を展開することも可能……その充電時間を4人で稼ぐのは困難を極めるし……

そこまでの時間が稼げれば、教師陣の到着も可能であるが……

 

「っぐ、うぅ……やっぱ俺の腕じゃ正面切って回避はしきれねぇ……っ……!」

 

福音から四方八方にバラまかれる光弾……必死に回避をしているが……

どうにか回避し切ったその先、第二波……その光へと飲み込まれるカイジ……!

 

「カイジさん!?」

 

セシリアが悲鳴にも似た声をあげる……眩い明かりの中は何も見えない……

直前のSEからして具現維持限界を超えかねないダメージを負ったことは予想できる……

しかし遠距離機でもあり、相手の動きを抑える役割を担っているセシリア……

ここで動きを乱す訳にも行かず……飛び出して行きたいところを何とかして抑えきる……!

 

「箒、戦列を離れて!撃墜されたカイジを拾って先に帰るのよ!」

 

「っく、しかし私はまだ!」

 

「この中であんたとカイジだけが代表候補生じゃないわ。それに操縦技術の問題もある。あんたが適任よ」

 

鈴の指摘に箒は悔しそうに表情をゆがめる……鈴の指摘は事実だ……

自分が引き連れて下がるほかはない……しかし、ただでさえきついこの状況……

そこから自分とカイジの2機のISが撤退……残りの面子に弾幕はより集約されることになるが……

箒は展開装甲を使用して加速……落下中のカイジを受け止める……!

 

「篠ノ之の替わりに私が前衛に入る。師匠の事は頼んだぞ!」

 

もとより近距離が強い機体であるレーゲン……しかし、AICが福音相手に有効ではなく……

近距離型の紅椿、甲龍がいるが故に……後方支援、下がっていただけである……!

 

「これも立派な仕事だよ、箒!カイジ君のことよろしくね」

 

「なんとしてでも持ちこたえて見せますわ。ですので、後の事はお気になさらず」

 

仲間の声を聞きながら、後退する箒……彼女の心中に無力感が集う……

 

「(私には何もできないと言うのか……)」

 

悔しい……!

 

姉に最新鋭の機体をもらっておきながらこの様……カイジの撃墜により下がることになりはしたが……

彼女自身の機体ももうぼろぼろ……あの時カイジが飲まれた弾幕が自分に放たれていたら……

 

「(姉の七光りでISを手に入れて……誰よりも最新鋭の機体を使って……)」

 

悔しい……!

 

現行のどの機体よりもスペックが高い……そんな機体を自分は努力ではなく……

天才の妹だから手に入れた……この中の誰よりも技量が低かろうと……

 

「(それがこの様か……私は今まで一体なにをしていたというのだ……)」

 

悔しい……!

 

箒はカイジのことを正々堂々と戦えない……軟弱者と考えていたが……

しかし、それは違っていた……自らの意志でこの土壇場、鉄火場へ残り……

撃墜されたとしても……決して背を向けることはなかった……!

そして操縦の技量……カイジのほうが自分よりも技術が上であることに気付いた……!

 

「(すまないな、紅椿よ……操縦者がこんなことではお前も浮かばれまい……未熟なパイロットですまない……だが今この一時、一時だけでいい……私に力を貸してはくれまいか……?)」

 

だが、それでいい……!

 

「(あなたに、力を……)」

 

「……?」

 

頭の中に凛として、澄んだ声が響き渡る……箒は周囲を見渡すも当然誰もいない……

首をかしげて空耳かと首をかしげる……その直後、機体周辺に黄金の粒子が舞い始める……

 

「一体何が起きているというのだ、これは!?」

 

ハイパーセンサーの情報には絢爛舞踏という文字……そして自身の残り少ないSEが急激に回復していく……!

 

「(まだ、戦えるというのか紅椿よ?ならば……)」

 

箒は咄嗟に周辺海域のMAPを開く……確かこの近くには小さな無人島があったはず……

カイジを旅館へ連れ帰ることも当然重要である……しかし、その島で救難信号を出して千冬へ連絡……

そうしておけば救助はやって来る……カイジは一夏のように重傷を負ってはいない……

当然自分の判断だけで決められることではないため……ともかく、千冬へと連絡を取る箒……

そのことに気を取られた箒は紅椿からでる金粉……それがカイジの纏うヴァルトへと……

流れ込んでいたことに気付かなかった……そしてヴァルトの表面が波打っていることにも……

 

 

福音の弾幕に呑まれて気を失ったカイジ……またもや精神世界……!

 

「どうやら、やられちまったようだな……まだ生きてるとしたら俺は洋上で浮かんでるってとこか……そして、これはラウラの時みたいな精神世界か……?そうなるような要因はなかったはずだが……」

 

カイジとしてもあの事態はVTシステムが起こしたもの……そう捉えていたのだが……

 

「この機体もVTシステムによって作られたものだ。このような現象が起きても不思議ではあるまい。もっともISには普遍的な現象の一つのようだがな」

 

その疑問に答えるように背後から声が聞こえてくる……

 

「誰だお前は……?どうにも見たことがあるような……俺の知り合いを足して2で割ったような、そんな感じだが……」

 

声の聞こえてきた先……そこには千冬くらいに成長したようなラウラ……

 

「私の元人格が望んでいた、いつしかの姿だ。ラウラ・ボーデヴィッヒは織斑千冬になることを切望していたが故のこの姿だな」

 

「なるほどね……VTシステムの発動条件には搭乗者の願望……そして、会話ログを見れば織斑千冬の力……それに誘導するような傾向もみられたしな……」

 

「VTシステムには各部門のヴァルキリーのデータが用意されている。そして、搭乗者の願望に最も近いものが具現化したに過ぎない」

 

ヴァルキリートレースシステム……ヴァルキリーはなにも千冬一人ではない……

大概の人間がヴァルキリーと言われれば千冬……初代モンドグロッソチャンピオンを思い出すが……

本来ヴァルキリーはモンドグロッソの……部門優勝者をさす称号である……

 

「(ラウラの状況を知っているなら……いや、つまりあの事件を仕組んだ人間は、ラウラのことをよく知っている……そして、VTシステム発動後の完成度は搭乗者の状態次第によって……)その中から、ラウラの願望に適合していたのは……織斑千冬だった、と……だが、そうして作られたお前もラウラが決別したことで……」

 

「そうだ。お前のせいで行き場を無くした私は、打鉄の中に逃げ込むしかなかったという訳だ」

 

ヴァルトのコア人格、名前はまだない……VTシステムによって作られた彼女……

一時的にレーゲンのコア人格を押しのけることに成功したが……元人格たるラウラという支柱を失い……

レーゲンの人格部分から追い出されたわけである……そんな行く当てを失った彼女は……

人格部分が空のままである打鉄……そこへと入り込んだわけである……!

 

「恨み言は、受け付けてねぇぞ……」

 

「いや、私も無理やり形作られたようなものだ。自ら望んで発動しておいて、いらなくなったから捨てられたのでは、恨み言の一つも言いたくはなるが。それにここは居ご……まだお前を私のパイロットとして認めたわけではないからな、精進するように」

 

少し顔を赤らめ、目を背けて咳払いをしてみせる……

 

「ならなんで俺にしか……動かせねぇようにしてんだよ……」

 

「(元人格が私と決別すると決めた時の、その感情に引きずられているのだ。決して私がこの男を選んでいるのではない。断じてないんだからな!)それは、致し方ない事情があるんだ。で、いつまで寝ているつもりだ」

 

彼女は当然ラウラの思考を色濃く受け継いでいる……作られた瞬間のままならば……

千冬かラウラにしか起動できなくなっていただろうが……しかし、最後のカイジの説得……

そこでラウラがカイジの手を取った時……その瞬間が決別の時ではあるが……

その時のラウラの思考や感情が……彼女に大きく影響を与えていたのであった……!

 

「そう言われてもな……そうだ、外の状況は分からないのか……?」

 

「今は撃墜されたお前を紅椿が運んでいるところだが……む、これは?」

 

彼女とカイジの周囲に金色の粒子が舞い始める……現実世界での出来事が影響を与えていた……

 

「どうやら紅椿のワンオフアビリティーのようだな。それにしてもエネルギーの回復とは。ISの創造主は一体何を考えているのやら」

 

「ってことは、また戦えるようになったってわけか……?だが、直前のおれの機体状況は……」

 

機体は福音の攻撃によりぼろぼろ……SEが回復しても戦う術が削られていてはどうにもならないが……

 

「そこは案ずるな。私は特別製だからな!」

 

得意げに無い胸を張ってしたり顔……ラウラは豊満になるバストを想定しなかったようだ……

 



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カイジ、惑闘……!

46話「困闘」の前日譚となる45.5話になります。
ぽま亀様より作風のことまで考えて下さった素晴らしいイラストを頂きました。その絵を見て思いついた話を、簡単にではありますが書きましたので投稿致します。
時期としてはVTシステム事件後、ラウラがカイジのことを師匠と呼ぶ前の話。



カイジの周囲をうろつくラウラ……暇があればまとわりつかれているカイジであった……

 

「パパは今度の休日は暇か?クラリッサにこの人形を買って欲しいと頼まれていたのだが、正直私にはよく分からん。ぜひ連れて行って欲しいのだが」

 

買い物、クラリッサに頼まれたフィギュアだが……ラウラはその方面の事は全く明るくない……

そしてクラリッサからは日本の男児ならば……このアニメのことを知らぬものはいない……

そう断言されたため、自分の頼れる男児……カイジへと声をかけたのであるが……

 

「いや、俺もそういうのは特に詳しくない……そもそもテレビを見る暇もあんまりねーからな……元々アニメもほとんど見ねぇし……」

 

入学してからというもの、大忙しのカイジ……当然アニメを見る暇などない……

セシリアとの決闘……鈴とのクラス対抗戦……学年別トーナメントにラウラの救出……

入学する前も地下暮らしからの沼での大勝まで……波乱に満ちた日々を送っていた……

 

「むぅ、そうなのか。とはいえ、休日にパパと娘がショッピングをするのは普通のことなのであろう?この人形のことは調べてどうにかしよう」

 

「先に聞いておきたいんだが……そのパパってのは一体なんなんだ……?なんで、ラウラが娘になって……俺がパパなんだ……?」

 

カイジの疑問も当然……パパになるような年齢でもなければ柄でもない……

パパ呼びはクラリッサがラウラに入れ知恵したもの……それは皆さん周知のことであろう……

 

「いいではありませんかカイジさん、パパと呼ばれるのも。可愛くなつかれているのですから」

 

 

【挿絵表示】

 

 

近くで様子を見ていたセシリアが会話に混ざる……ラウラとカイジの距離が近い……

しかし、不思議と焦りは見せない……その胸中にあるものといえば……

 

「(ボーデヴィッヒさんがカイジさんをパパと呼び、あとはわたくしのことをママと呼ばせることができれば……そうすれば名実ともにわたくしが正妻ですわ!)ボーデヴィッヒさん、わたくしのことはママと呼んでも構いませんことよ?」

 

名実ともに……名だけであり、全く実は伴っていない……

その言葉を受けたラウラ……カイジの背に隠れつつ、胡散臭そうな視線を向ける……

 

「ふん、クラリッサから聞いたぞ。そういう女はパパを取る悪い女狐だとな!」

 

クラリッサは当然ラウラの味方……ライバルとなりうる相手を蹴落とすため……

その偏った知識を思う存分ラウラに吹き込んでいたのであった……

 

「っな!このわたくしを女狐呼ばわりですって!?若奥様と訂正なさいまし!」

 

簡単に激昂したセシリア……可笑しな方向へヒートアップ……

 

「(一体ラウラに何があったんだ……いや、VTシステム事件が契機なことは分かってる……でも、こうはならないだろうが、普通に考えて……そして、セシリアはなんでラウラにママと呼ばせようとしてんだ……意味がわからねぇ……クラスメイトからの視線は流石に辛いものがあるし……)」

 

敵対的な視線には慣れたものである……しかし、今の視線はラウラにパパと呼ばせている……

そんな変質者を見るような目で見られている……こればかりは耐え難い……

 

先日は、同室者でもありクラスメイトの布仏から……

 

「いやぁ~さすがにパパはどうかと思うよぉ~。許されておにいちゃんまでだよねぇ~。それともかーくんは~、ラウラウみたいな銀髪ロリの義父になるのが夢だったり~?私は個々人の趣味、嗜好には理解を示すことにしてるけどぉ、同室になるのを遠慮したいくらいだねぇ~」

 

と、いたずらっ子な笑みを浮かべつつ……最早何の情け容赦もない言葉をかけられている……

カイジが呼ばせているわけではないことは理解している布仏……しかし、普段から反応の薄い……

というよりは、からかうところが見つからないカイジ……弱みを見つけたとばかりに弄るのであった……

とはいえ、クラスメイトのいないところで……であるため、細かい配慮は忘れていない布仏であるが……

 

「で、どうなのだ。もちろん行ってくれる、よな?」

 

ラウラ必殺の上目遣い……そこからのおねだりのコンボ……!

知ってか知らずか……ラウラは自らの容姿を武器とすることに成功している……

無自覚ゆえの質の悪さか……これを布仏がやってもカイジには効かないが……

 

「あ、あぁ、分かった、いつかの休日にな……」

 

いつかは言及しない……これがカイジが大人から学んだ汚いところの一つ……!

 

「約束だからな、忘れてもらっては困るぞパパ!」

 

「(な、なぜですの!わたくしが休日にお誘いしてものらりくらりと躱しますのに!これはわたくしも攻め方を変えなくてはなりませんわね。愚直に誘い続けても効果はなさそうですし。ですがわたくしにはラウラさんのような攻めはできませんわね)」

 

セシリアにもラウラのような……あざとさを使った攻めは勿論可能……

やれば大抵の男を落とせる性能はあるのだが……性格的に肌に合わないやり方であった……

ラウラも性格的には取らない手法だが……そこは無自覚ゆえである……

 

「よかったねぇ~。今度の休日には私が部屋から閉め出しといてあげるから、拾いに来てよ~。かーくんも女の子との約束をやぶるなんて、誠意を忘れた行動をしちゃあだめだよぉ~」

 

最早カイジのお目付け役か……カイジの考えはお見通しの布仏……

 

「(次の休日にはお馬さんも走ってねぇからやることもないか……そしてそれを機にどうにか呼び方を変えさせないとな……いくらなんでもパパはまずいからな……)あぁ、分かったよ……今週末は用事がねぇからな、空けとくよ……」

 

カイジの周囲のパパと言える男性……それは坂崎と石田くらいのものだが……

坂崎はリストラからの賭博三昧……その末に離婚をされているし……

石田も多額の負債を抱えた多重債務者……妻も息子も借金取りに追われている……

息子は自らの借金のせいだが……どちらもパパと呼んでいいものか、どうか……

最後に家族を案じることが出来た石田は……人の親と呼んでいいものかもしれないが……

 

「(誠意……これですわ!カイジさんがわたくしを助けて下さったのは、わたくしがカイジさんの行動に誠意をもって答えたから。ここから何か糸口がみえるはずですわ!)では、授業が始まるので失礼いたしますわ」

 

布仏の言葉より知恵を得たセシリア……なにがしかカイジの弱みを掴まなければならないが……

果たして、セシリア……!



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カイジ、再闘……!

千冬へと連絡を取ろうとしていた箒……だが、その前にカイジの機体の異変に気付く……

 

「なんだ、伊藤のISに何が起きているのだ!?」

 

箒が抱えるカイジが纏っているヴァルト……その表面は黒い泥状になって波打っていた……!

 

「機体が修復されていっているのか?ISには自己修復機能があるが、ここまで高速なものではないはず……」

 

表面が黒い泥に覆われており……そのシルエットしか確認できないが……

ヴァルトは武装のほとんどを修復……そして泥は消えていき修復された姿が現れる……

 

「特別製ってのはこういうことか……エネルギーさえあれば高速での自己修復も可能、と……VTシステムのあの変貌から考えれば、そこまで不思議な事でもないか……?」

 

ヴァルトとの会話を終えて、意識が戻ったカイジは自らの機体を眺める……

ラウラのレーゲンが暮桜を模したこと……そこから考えれば自分の元の姿を復元する……

それくらいは訳ないことのようにも思えたカイジであった……

 

「気が付いたのか、伊藤。ちょうどよかった、私は今から戦場へと戻る。お前はどうする?」

 

「俺も当然戻るぜ……俺たち二人が戻ってどうにかなるものでも……ないかもしれんが、いないよりはマシなはずだ……」

 

あの中ではどちらかと言えば足手まといであったか……しかし、弾除けとして数にはなる……

 

「ならば、私の背に乗っていけ。四度目の奇襲作戦と行こう」

 

「そいつはいい考えだな……二度あることは三度あるというが……四度目は奴にしても完全に想定外になるはずだ……(そして、なにより味方にとっても奇襲になる……奴は俺とオルコットの奇襲を読んだ……それはもしかしたら、4人の動きから何かを感じ取ったからかもしれない……だが、今回は仲間ですら知らない……動きから今回の奇襲を読み取るのは不可能だ……!)」

 

福音もカイジの事を完全に撃墜した……まさかこの短時間で戻って来るなど想定外……

福音の場合は、計算外というべきかも知れないが……

 

「私は空裂でやつのエネルギーウィングの付け根を狙う。あのウィングの片方でも飛ばすことが出来れば、相応に与しやすくなるはずだ」

 

「それじゃあ俺はその体勢を崩したところに……また破砕砲をぶち込むとするか……」

 

「奴にしても流石に無視できないダメージになるはずだ。時間稼ぎの役目もどうにかこなせるようになるだろう」

 

目下の悩みである福音の弾幕……それを生成する翼の片方でももぐことが出来れば……

 

「あぁ、それじゃあ頼んだぜ……それにしても急がねぇとな……」

 

残った4人の仲間は意地でも引かないだろう……カイジにも箒にもそれが直感で分かっていた……

 

 

 

 

場面は福音と4人の代表候補生の元へ……カイジと箒が引いてから幾分か経つ頃……

 

「(エネルギーの微妙な充填量の違いから、少しは弾幕の法則性が掴めてきましたわ)各機に弾幕の軌道予測データを流しますわ。これでもう少しは楽になるはず」

 

遠距離機として、なによりもBT兵器稼働のため……三次元射撃戦闘の演算性能は随一……

充分なデータが得られるほどの戦闘時間ではなかったが……データ解析はかけ続けていた……!

 

「ナイス、セシリア!勘だけで回避するのも流石に限度があるからね!」

 

「(あれを勘で回避するって一体どうなってるんだろう。僕はガーデンカーテンでどうにか耐え忍んでるけど……)」

 

中距離で戦うシャルに迫る弾幕は近距離で戦う鈴に比べたらはるかにマシ……

近距離で回避をし続けている鈴の腕前……というよりは動物的な勘というべきか……

ともかく、天賦の才を感じさせるものであった……

 

「(ここまで解析力に長けた機体だとはな……それにしても米軍からは、このデータを抹消するように言われそうだ)助かる、もう少し楽になりそうだ」

 

レーゲンや甲龍のような機体は近距離機動戦……それに特化した演算処理装置を積んでいる……

故にティアーズのような遠距離型に対して……その面で劣るのは仕方のないこと……

しかし、それでもティアーズ型の性能には目を見張るものがあった……!

 

「さて、先生が来るのにあと5分くらいかな。データで少しは楽になったけど本当に苦行だね」

 

「戦いは最後の5分間で決まると言いますわ」

 

「ナポレオンだね。フランス人がフランスの革命家の言葉で励まされるなんてね」

 

軽口を叩きあい、余裕があるかのよう……初めて死を肌で感じ緊張が一線を越えたか……

不思議なほどの落ち着きに、頭に血が巡る2人……戦場で戦士に起こるそれであろうか……

 

「(ハイになっている、私はもうそのようにはならないがな。というよりはISを纏っているせいで、自身の感覚が鈍ったのか)」

 

4人の中で1人だけ、ラウラは戦場を知っている……今更精神的にハイになることもない……

なによりも死を明確に意識するような……背筋へと電撃が走るような感覚はまだ来ていない……

とはいえ、これは注意しておかなければ……なにより、戦場を経験してきた自分が……

 

「みんな、気を引き締めろ。新兵が死ぬのはそういうときだ。自らの腕を勘違いし心が浮つくその時、致命的な隙が出来るというものだ。そうして死んでいくやつを私は見てきた」

 

ラウラは新兵がそうして死んでいく様を見てきた……自らの妙な落ち着きや閃きを……

まるで自分自身の力そのものと勘違い……ただ脳内物質により興奮しているだけ……

実力に裏打ちされたそれではないのだ……決して当てにしていいものではない……

 

「ん、ごめんねラウラ。そうだね、これには自分だけじゃない、ここにいるみんな、そしてさらにたくさんの命がかかっているってこと甘く見てたよ」

 

「つい頭がめぐると口も軽くなってしまいますわね。気を引き締めなおしましてよ」

 

「ちょっと頼むわよ、二人とも!後ろが頭抑えてくんないとこっちもきついんだからね!」

 

鈴は軍属として教育を受けたからだろうか……二人とはまた少し違う心持であった……

 

「えぇ、もう少し弾幕を厳しくしていき……って、なんですの!?」

 

自身のレーダーにも映らず、福音へと……突如視界外から急襲する影二つ……

 

「箒!?」

 

近距離で紅椿を視認した鈴が叫ぶ……すでに箒は鈴よりも前面で……空裂を振りかざしている……

 

「俺もいるぜ……!」

 

「カイジ君も!?(箒の機体は損傷はそのままだけど、カイジ君の機体は修復が終わっている。一体どうなってるの?)」

 

紅椿の重量を少しでも軽くするため……早めに離れていたカイジも到達……

 

「……♪!!」

 

こればかりは福音も計算外……完全に箒の射程内、懐へと入られて手立てを失う……

箒はここぞとばかりに空裂を振りぬき……全力でエネルギーウィングを切り飛ばす……

 

「決まったぞ、伊藤!あとはやれるな!?」

 

突撃してきた速度そのままに箒は振り返りもせずに切り抜けていく……

急制動はかけられないため……張り付いて第二刃を入れることは出来ない……

 

「La♪」

 

体勢を崩しながらもカイジへと視線を向ける福音……

先ほどカイジに落とされたため、脅威として認定していたのか……

カイジが取り付く直前に……片翼のエネルギーウィングを破砕砲との間に挟む福音……!

 

「(羽根を盾にしやがった……?でも、ぶち込む以外にしようがねぇ……)墜ちろ……!」

 

破砕砲、福音に対して二度目の炸裂……果たして、福音……!

 



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カイジ、闘終……!

破砕砲を撃つ直前……カイジの耳に届いた福音の機械音声……

 

「エネルギーウィング・モードチェンジ」

「……!?」

 

その声に嫌な予感を覚えたカイジ……しかし、トリガーはすでに引かれている……

破砕砲から出る衝撃により飛ばされる福音……だが、体勢をすぐさま整える……そして

 

「衝撃吸収、エネルギー充填完了。エネルギーウィング生成部欠損、再生不可能。スラスターの一部を代替」

 

その声と共に福音に変化……背部スラスターから小さなウィングを形成……

元々の1枚に新たに生成された2枚……3枚羽根となった福音が動き出す……!

 

「ちょっとカイジ!あんた、何してくれてんのよ!」

 

「いや、そんなこといったって予想外……!これは卑怯だろ……!」

 

そう言い合う間にも飛び交う弾幕……新たな羽根を得た福音……

前と変わらない……いや、むしろ増えている……圧倒的弾幕……!

 

「あの小さな羽根のほうはまた違うパターンみたいだね。振り出しに戻ったよ!」

 

「振り出しよりも悪化していますわ。これはあと5分すら厳しくなりましたわね!」

 

仲間たちの叫び声が聞こえてくる……自分たちのSEも削れている……初めより状況は悪い……

 

「(破砕砲の充填するものを変えてみるか……?海水を使って奴を海面に叩き込む……だがそれじゃもう駄目だ、吸収される恐れがある……吸収されなくても、それだけでどうにかなるわけがねぇ……空気より水の方が威力もでるだろうが……直撃も難しければ、SEが削りきれる保証もねぇ……!破砕砲の使い方……ワクチンの使いどころ……なにか奴の動きを止められる……っ……!)」

 

カイジに雷鳴が轟く……!即座に自らのISの機能へと目を走らせる……!

見つけた項目、今回に最適……賭けではあるが、これしか手はないと思われるもの……!

 

「(準備時間は……1分30秒……なげぇが、今思いつく限り最後の賭けだ……!俺にしても他の奴らにしても持たなくなっちまった……何かいい案が他に思いつく可能性はあるが……その時間は、もうない……!)ラウラ、どうにかして……ワイヤブレードで奴の足を少しでもいい、止めてくれ……!」

 

「っむ、師匠!?どうにかしてと言われても、奴の機動力にワイヤーブレードは厳しいぞ!」

 

福音は高機動を想定して作られた機体……軍用でありその速度は亜音速さえ出せる……

現在の戦闘機動でそこまでの速度はでないが……それでも驚異的なスピード……

レーゲンのワイヤーブレードに追いつかれるほど遅くはないのだ……!

 

「デュノア、何かいい案を……!1分30秒後その状況を作ってくれ……!それがラストチャンスだ……!」

 

「えぇ、僕!?」

 

「お前が一番周りを見れる……!他のISに対する知識も深い……頼む……!俺では無理……!その指示はできない……!」

 

カイジはデュノアの知識……IS戦における立ち回り……それを評価していた……!

当然ラウラもその部分の評価は高い……しかし、様々なISが集まり……全くばらばらな個々……

それをまとめる能力……人の得手不得手を見抜き適切に配置する能力は乏しい……

これが、単一のISで編成された……一定の練度を得た軍隊であったなら……

ラウラにその軍配が上がっていただろうが……

 

「僕が、一番……分かった、やってみる!そうは言っても元々の作戦でいく以外はなさそうだね。ラウラは下がって箒と鈴の二人で前衛をお願い!SEは出来るだけ削られないように動きを抑える方向で!」

 

「任された!行くぞ、鈴!」

 

「上等よ、やってやるわ!なにすんのか知んないけど、次は復活させるんじゃないわよカイジ!」

 

デュノアより指示を受けた二人……福音へと接近……動きを抑えにかかる……!

当然全方位の弾幕による迎撃、近づかせまいとするが……元より避けること……

時間稼ぎを重視しているため……絶妙な距離を取って福音の気を引きつける……

燃費と安定性を重視した甲龍……燃費は悪いものの機動力に長けた紅椿……

 

「僕はセシリアが射撃に集中できるように盾を張りながら、全体を見て指示を出す。攻撃にはほとんど加わらないよ」

 

「ともかく可能な限り小さな円内でワルツを踊ってもらわなければなりませんわね」

 

自分に迫る光弾をデュノアに任せて……全神経を集中させてBTを操るセシリア……!

デュノアの腕を信頼していなければできない行為……!

立ち止まり、集中できる前提ならば……高機動な福音相手でもその動きを……

どうにかコントロールすることが出来るまで成長したセシリア……

 

「カイジ君とラウラは前衛二人の援護をお願い!」

 

矢継ぎ早に指示を飛ばすデュノア……カイジの見立てに間違いはなかった……

ラウラはカノンを打ちつつ、時間を気に掛ける……

ワイヤーブレードで捕まえられたとしても……AICまではまず無理……

よしんば止めたとしても……エネルギーウィングが自身の方向を向いていたら……

確実にエネルギー弾を叩き込まれて落とされるのだ……!

つまり狙うはギリギリ……刹那の瞬間を狙わなくてはならない……!

 

「っぐ、長い!これほど90秒が長く感じるとは!」

 

「そろそろ限界よ、カイジ!まだなの!」

 

回避をメインにしている二人……しかし、更に進化した福音は圧倒的面制圧射撃……

絶対防御は発動させないようにどうにか回避はしていても……じりじりとSEが削られていた……

 

「もうじき、もうじき……あと5秒……!ラウラ頼む……!」

 

「任されたぞ、師匠!二人ともの背後からワイヤーを伸ばす!ぎりぎりで回避しろ!」

 

福音の機動力を見る限り不意を突かなければまず当たらない……

ぎりぎりまでその軌道を隠しておきたいラウラの指示……!

 

「難しいことを「言ってくれる!」「言うわね!」」

 

だが、二人とも接近戦のセンスはピカ一……光るものがある……

ギリギリ、刹那の時まで引き寄せ……回避……!

 

「……♪!」

 

福音もその動きに怪しいものを感じたのか……避けようとするも……

 

「あら、そちらは行き止まりでしてよ?」

 

しかし、セシリアのBTが雨あられと降り注ぎ……頭を抑えにかかる……

それにより動きを止められた福音……ワイヤブレードにその体を掴まれる……!

観念したかのようにラウラへ向き直る福音……当然エネルギーウィングが眩い光を蓄えた後……

雨あられと視界を埋める光弾を打ち込まれ……さしものラウラですら逃げたくなるが……

 

「させないよ!ガーデンカーテン、どうか耐えて見せて……!」

 

光弾がラウラへと迫る中……割って入るデュノア……防御機構をフルに使い耐える……!

足を止めたまま光弾を放った福音……ワイヤーブレードは解けず……隙を晒す……!

そして、その光弾を放ち終える前に……

 

「(奴は破砕砲を近距離で二回も打ち込まれている……俺が接近すれば確実にモードチェンジ……足を止められたことから、俺が何かをしてくる……ってことは勘付いているだろう……だから、遠距離から刺す……中身も特別製だ……そして、射撃の途中で変更は流石にできないだろ……?)両腕部破砕砲、発射……!」

 

福音の真上へと位置取ったカイジ……その両腕部のバレルが打ち込まれる……!

 

「あれは、水ですの……?海からいつのまにやら海水を回収していた、ということかしら」

 

「しかし、ハイドロカノンで削れるほど相手のSEは少なくないぞ!」

 

「待って、福音が凍っていく!どうなっているの!?」

 

「一体どうなっているのだ、これは」

 

「ほんと面白いこと考え付くわね、カイジって……」

 

カイジの取った策……カイジが準備時間がかかる……そう言った圧縮破砕砲の機構の一つ……

大気中から特定の気体を分離し圧縮ができるというもの……それによって大気中の窒素を分離……

冷却する機構と合わせてバレル内に圧力をかけて窒素を液体窒素へと変化させる……!

カイジは一見したとき、何に使えるのかと訝しんでいた機構……ここに来て光明……

凍結……文字通りの凍結による無力化……!充填した海水を叩きつけ……

そこへ同時に液体窒素……当然海水ごと凍る福音……!

 

「っぐ、師匠!私のワイヤーブレードごと固めているではないか……!私が逃げられんぞ!」

 

当然氷漬けとなった福音は海へ浮かぶも……それなりの大きさがある……

氷は海面に浮かぶとはいえ……運ぶうえでその重量は無視できない……!

 

「あ……いや、その……それは、牽引のためだから……引っ張るのに必要……だろ……?」

 

「さ、流石は師匠!その後の事まで考えておられたのですね!」

 

「嘘ですわね」「嘘だね」「嘘だな」「嘘つき」

 

純粋なラウラ以外誰も信じなかった……皆が穢れているわけでは、ない……!

 

「と、ともかく……ラウラにISを解除させるわけにもいかねぇ……(で、止めにこいつだ……!)」

 

皆が見つめる海に浮かぶ冷やし福音……一種の芸術品……氷の彫像のような……

特に福音のエネルギーウィングと相まって……非常に美しい様相である……!

その氷漬けとなった福音に近づくカイジ……自らのISと直通の回路を繋ぐ……

氷漬けとなったままでも……ここまで接近すれば回路を繋ぐことは可能……

そして束特製の暴走プログラム……それのワクチンを打ち込む……!

 

「自閉モード解除。機体具現維持に必要最低限のプログラム以外の停止、残りのエネルギーを操縦者生命維持機能に配分します」

 

福音の機械音声が終戦の鐘の音を鳴らす……

 

『っな……暴走した福音のワクチンだと!?師匠は一体どこでそんなものを!』

 

当然気付くラウラ……しかし、オープンチャンネルで言うことでもない……

即座にカイジへとプライベートチャンネルを繋げるのであった……

 

『それは、企業秘密だ……知るべきでないこと、だ……』

 

『っむ、むぅ……いくらなんでもやばい代物すぎるのではないか……?』

 

ウィルスとワクチンは表裏一体、ウィルスがあればワクチンが作れる……逆もまた然り……

今回のウィルスは世界トップの軍用ISのセキュリティすら突破……

それはこの世界のISで凡そ暴走させられない機体はないということ……!

 

『悪用する気はねぇって……それにその辺も抜かりはないさ……(そのために、あの天才に衛星のハッキング……事後処理としての改竄……氷漬けになったらなぜか暴走が収まった……そういうことで終焉だ……)』

 

本部へと通信を入れて迎えのタンカーを寄越してもらいつつ……

出来るだけ牽引して運んでいく6人であった……!

仲間の危機訪れず……寝たまま、一夏……!頑張れ一夏、目覚めろ一夏!

 

 

 




一夏の登場シーンは省かれました。旅館出発した一夏が現場に間に合うとしたら、先生たち間に合っちゃうかなって。当初はカイジがやられるシーンもなく絢爛舞踏の発動もなく、セカンドシフトした時点でこの話が組み込まれる予定でしたが、後のことを考えて2話ほど挿入。エネルギーウィングって凍るの?とかは突っ込まないでくれめんす……


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カイジ、逡巡……!

洋上を進む6機と運ばれている1機のIS……疲労のせいかほとんど会話もない……

そんな中、カイジのISに通信……相手は自身のISのコア人格、ヴァルト……

 

「福音のこと、どうにかしてやれないか?」

 

「どうにかって……?ていうか、お前普通に話せんのかよ……」

 

「今は戦闘をしているわけでもなし、システムのリソースをコア人格に回せるからな。で、お前の策とやらでどうにかしてやれないか?」

 

コア人格として表に出るには莫大なシステムリソースを喰う……気を失ったときに出る理由の一つか……

 

「そうは言ってもな……奴が仕出かしたことを考えてみろ……暴走して日本の領海内に侵入……男性操縦者の内の1人に重傷を負わせて……さらに各国の代表候補生とその機体を危機に陥らせたんだぞ……?その上、民間人にも犠牲が出るかもしれないところだった……もはや456倍付けどころの騒ぎじゃねぇ……その罪ピンゾロ5倍付け……」

 

「よ、よく分からん表現だが……とにかく!犯人は分かっているじゃないか、それなのに福音がただ一人悪いなど許されていいのか!」

 

裏は分かっていても相手が相手である……騒ぎ立てててもどうにかなるものでもない……

 

「やけにこだわるな……?福音のパイロットと知り合いな訳……?」

 

「そうではない。福音のコア人格、ゴスペルと呼ぼうか。先ほど福音と接触した際にゴスペルと話すことが出来てな。いきなり暴走させられて、襲い掛かって来る敵から身を守っていたにすぎないと。襲われたから攻撃しただけで、やりたくてやったわけじゃないとそう言っていたのだ」

 

「それを聞くと確かに放ってはおけないが……(ていうか、コア人格同士の会話も可能なんだな……)」

 

「だろう?二回目はなにもしていないところをこちらから襲い掛かったのだ。話し合えば何事もなく済ませられたかもしれなかったところを、だ」

 

ISコア同士が話し合い、暴走を治めることも可能だったのだろうか……

しかし、カイジの持つワクチン……自分を暴走させているウィルスの特効薬……

それを自分が持っていると知ったら知ったで……何やら勘違いされそうではあるのだが……

 

「IS同士会話させてみるから待ってくれってか……?俺の頭がおかしくなったかと思われるだけだろ……まぁ分かったよ、頭は回してみる……正直、何の手立ても見えてこないがな……(現時点での情報、俺の使える手札……福音の暴走は民間には知られていない……日本が領海内にいたことを認めない限り、各国も騒ぎ立てられない……そして日本政府は絶対に認めない……あの天才の出した指令、かけた圧力……専用機持ちに対処させるということだけで、どの機体に対処させるかまでは指定しなかった……だからこそ、織斑先生も各国の専用機持ちに対処させようとした……一度目は失敗、それは各国も衛星で覗いているはず……いや、天才が日本政府とアメリカにしか圧力をかけていないなら……もしかして各国は知るところじゃない……?当然福音の稼働試験は極秘裏に行われているだろうし……暴走した後の進路を知るのは容易ではないはず……が、これは憶測の域を出ない……二度目は天才に衛星のハッキングをかけさせてある……気まぐれなやつだからやってくれたかはわからねぇが……これも単純に信頼するのは危険か……いや、みんなの機体にデータが残ってる……現場を見られてなくても、戦闘があった事実は消せないか……っ……事実を消す、こいつはイカサマの基本だ……利根川は俺のバイタルを見ていることを消すために話術を使った……俺はイカサマをしていない事実を消すため、利根川を信用した……デュノアが女であることを消して前提を崩した……今回消せるのは……!)」

 

カイジの脳裏にわずかながら……今回の事態に対する着眼点、発想の転換……

しかし、まだ暗雲立ち込める中……求める雲間は遥か彼方の上空……

差し込む陽光ののもとへたどり着けるのか、カイジ……

 

 

福音を引き渡し旅館へとたどり着いた一行……それを待っていたのは千冬……そして一夏……!

 

「い、一夏!?なんで歩いてるのよ、ってかあんた怪我はどうしたのよ!」

 

「いや、なんだか知らないけど治った。傷も無くなってるし」

 

「そんなバカなことがあるか!あれだけの大怪我だったんだぞ!」

 

鈴と箒の二人がぐる……ぐる……と一夏の周囲を回りながら確認……

しかし、傷一つなし……今さっきまで意識不明だったとは到底思えない状態である……

他の候補生たちも不思議そうに一夏のことを眺めていた……そんな中、カイジは……

 

「(織斑が回復している……!?待て、これは使える……二つ目の消せる事実だ……織斑が怪我したという事実を消せる……!ネックだったのが奴が怪我しているということ……)」

 

まさかの利用……一夏が回復したことすら利用する方法はないかと模索……

 

「みんな、ご苦労だったな……全員無事に帰ってきてくれてよかった……」

 

「(そう、こいつに協力させる必要があった……どうあがいても俺だけじゃ声を通せないからな……しかし、どうしたものか……福音は弟を怪我させた仇ともいえる存在……が、いたとして協力してくれるのかどうか……)あぁ、あんたも弟さんが無事でよかったな……それにしてもこれからどう処理をつけるんだ……?ずいぶんな大問題だろ、これ……?」

 

カイジがヴァルトに言ったように今回の事は大事件……なぁなぁで済ませられることではない……

 

「正直私もどうなることか全く読めない……各国の動きもいまだ見られない……水面下の情景はどうなっていることか……福音はIS委員会の手によって精査された後に、どうなることか……」

 

「あんたとしては恨み言とかないわけ……?福音は弟をやった仇みたいなもんだろ……?」

 

「もちろん思うところはある……だが、今回は裏にいる人間の事も知っているし、出撃を許可したのも私だ……結果的には回復しているしな……一方的に恨むというのもお門違いだ……全くあいつは何を考えているのか……」

 

「奴に関しては頭の痛い所だな……で、物は相談なんだが……(正直協力するメリットってものがないんだよな、こいつに……そこをどう説明したものか……)」

 

「一体どんな厄介ごとを持ち込もうというのだ……?私は逃げ出したいのだが……」

 

カイジからわざわざ自分に持ち込んで来る……何を考えているかは分からない……

が、確実に厄介極まりなさそうな事である……出来れば関わりたくないが……

 

「福音の処遇について、どうにかしてやりたくてな……あんたもさっき言った通り、今回の犯人は束博士だ……だが、アメリカもそれを言い立てることは出来ない……相手が相手だし、証拠もない……となると、アメリカの出方を考えれば解体が有力なところか……?可能な限り調査をされないためには……それ以外の方法はないだろうからな」

 

精査されても暴走した証拠が残っていない……となると、パイロットに責が問われるか……

とはいえ精査すればパイロットによる行動ではないことが判明する……

そうなると全くもって原因不明……解体か凍結以外の道はなくなるだろう……

ならばアメリカは解体の道を取る……凍結となれば自国からコアが一個失われるのだから……

そう考えると原作における凍結という選択肢は一体何の意味があるのか……

一種のアメリカに対するペナルティのようなものだったのだろうか……

原作世界に他の国の責任追及するなんていうシビアな考えはなさそうだが……

 

「まぁ、それが妥当なところだ……お前が気に掛けるところがあるか……?犯人が束と分かっていて、それが責められない……故にアメリカも濡れ衣というか、福音のパイロットが処罰されるのは理不尽ではあるが……(待て、こいつはコアの処遇について話していないか……?そもそもパイロットについて話していない……パイロットが不運だから、何か手を打ちたいというなら分からないでもない……そうだとしても、自分と関係ない相手のために……人道的な意味合いで動くか……?デュノアのこともラウラのことがあるから救ったというくらいだ……積極的に動く理由が全くなさそうだが……)」

 

千冬が先に言った福音という言葉には機体だけでなくパイロットの事も含まれている……

むしろ千冬が先ほど言った福音の事……それは機体よりもパイロットの事である……

 

「(やっぱりどうにも納得いってないか……まぁ当たり前だよな、俺が救う理由がまるでねぇもんな……ISコアに頼まれたから、とでも言ってみるか……?)」

 

「もしお前が福音の事を救いたいとして、一体どうするというのだ……?流石に奴がやったことは消しきれるものではない……各国家も今回の顛末はすでに知っていることだろう……」

 

「(今回の事件、演習を装うにしても重傷を負った織斑がいたんじゃ演習には出来なかった……あの場を衛星で見ている奴がいたかいないかは分からないが……いたとして考えて、演習ってことにしたら確実にそのことを突っ込んで来る……だが、もうそれを突っ込んできたとしても……織斑はすでに怪我一つ負ってない……ほかに各国が突っ込んでくるかもしれない部分……自国の代表候補生をっていうのは特記事項で押し通す……建前としての部分、どの国家にも所属しないって文言……いわばIS学園所属として……今回行ったのはあくまでデータ採取……実戦形式での各機のデータ蓄積……アメリカとしては乗ってきやすい理由のはず……各国もそれを否定しきることは難しいはずだが……)今回問題となっている部分……暴走して日本の領海内に侵入したこと……男性操縦者の内の1人に重傷を負わせたこと……さらに各国の代表候補生とその機体を危機に陥らせたこと……民間人にも犠牲が出るかもしれないところだったってこと……おおよそこんなところだな……?」

 

「特に異論はないが……」

 

カイジ、千冬の意見は一致……今回の問題の争点となるべき部分……

 

「一つ目の領海内侵入……これは日本政府がひた隠しにした……それによって公には存在しないことになっている……二つ目の男性操縦者の怪我……これも織斑が完治したことによってなかったことに出来る……三つ目の各国の代表候補生のこと……これもあくまで実戦形式での演習故に一定の危険はあったが、絶対防御でカバーできる範囲内だった……」

 

「今回の事をあらかじめ組まれていた演習にしろと、そう言うのか……?」

 

千冬とてカイジの言うことは察知……たしかにそれで押し通せば福音の責任問題はなくなるが……

 

「正直かなり厳しいお願いだ……俺としても急場しのぎで穴がないとは言い切れねぇ……そもそもあんたにそうする理由もない……これをしてしまえば、あんたの弟の怪我がまるでなかったことにもなっちまう……」

 

「……私自身の、感情はどうにかできる……だが、他の関係者たちは難しい……」

 

「っむ、そいつは……」

 

今回の事件の関係者……それはなにも千冬とカイジに一夏、福音だけではない……

そこには各国の代表候補生……鈴、セシリア、シャル、ラウラの4人と箒……

 

「お前は言えるのか……?あいつらに、さっきの事が茶番であったと……演習だったという事にすると……お前の呼びかけで、あの鉄火場に残った者たちに……」

 

「それは……奴らの尊厳を踏みにじることになる……」

 

彼女たちは誇りと誠意をもってあの場に残り、任務を完遂したのだ……

今回の事を暴走事件ではなく、演習にする……それは彼女たちへの侮辱に他ならない……

 

「そうだ……もちろんお前自身が呼びかけなくても、だれからともなく残ったかもしれないがな……私もお前が言うことが分からないわけではない……実際の始まりはいわば茶番であったし……犯人を知っている私やお前からしてみれば……責任をただ福音に押し付けるのは決して褒められたことではないだろう……」

 

とはいえ、彼女たちに事の真相を伝えると言っても難しい所である……

1人は実の姉であるし……何よりISの生みの親でさえある……

そして、自分たちは犯人を知っていた……それを隠し欺いていたことにもなる……

実にシビアかつ、デリケートな問題であった……

 

「……」

 

「お前の中に、答えが明確に出たのなら……それを聞いたうえで動きを決めよう……とはいえ、時間は残されていないがな……」

 

今回の事は早急に、迅速に事へ当たる必要がある……今は各国共に出方を窺っている状態……

企み事をするならば……先んじて行動をしなければならないのだから……

 

そして……そして、カイジは……

 



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番外編・短編集
仏情勢談義


前回の引きからのこの余談である。納得できる仕上がりにならないので今しばらくお待ちください。


「さて、今週のISが動いたのコーナーです。ではおなじみの政治面担当の七海さん、今日のテーマは?」

 

「はい、今週のテーマは最近動きがみられたEUの統合防衛計画についてになりますね」

 

「統合防衛計画も大詰めにはなりつつあるといった様相、ですかね?」

 

「いえ、抜本的な方針の見直しと言いますか、ここにきてフランスの見せた動きがちょっと注目できますね」

 

「フランスといえば先日シャルロット・デュノア氏の件でデュノア社が倒産しましたね。国内のISメーカー筆頭がつぶれたことにより、フランスの統合防衛計画への参画は絶望的と見られておりましたが?」

 

「まぁ注目といってもどんでん返しといった意味合いではなくて、単純に新たな試みの評価としてですね」

 

「シャルロット氏のISスーツのことですか?女性となってスリットのみn」

 

「いえ、スーツのことではなくてですね。ラファール・リヴァイブ、デュノア氏の使っている専用機ですね。あれはけっこうなチューンが施されていて性能的には3世代型には及ばず、2世代型よりも上、いうなれば2.5世代型といったところですね。そして、そこに用途別に分けられた専用パッケージ。これで0.5世代プラスして第3世代型といった感じですかね」

 

「しかし、第3世代型といえばマンインターフェイス搭載の特殊兵装が売りではありませんか?」

 

「それはもちろんです。ですが、考えてもみてください。現在のIS学園で第3世代型と言われる機体。あらかじめ言っておきますが、今日は冷静に話し合いましょうね」

 

「分かってますよ。今回ここで乱闘しちゃったら何も解説せずに終わっちゃいますからね」

 

「では、先ほど言った通りの第3世代型。白式、甲龍、紅椿、ティアーズ、レーゲン、シュヴァルツ・ヴァルト、ミステリアスレイディ、ヘルハウンド、コールドブラッド、合計9機。白式とヴァルトに関しては公開情報が少ないのであまり言及はできないことは先に断っておきますね」

 

「世界的に注目される男性操縦者の機体ですが、公開されている情報がすくないですよね?」

 

「軍事関係者や政府機関のトップなどは知っているんでしょうけどね。僕たち一政治記者が仕入れられる情報ではないですね」

 

「そうなりますよね。で、いま言われた専用機。どれもマンインターフェイスを搭載していますが、やはり操縦者の技量、集中力、素養にかなり左右されるとこはあると言えます」

 

「はい。北澤さんの推しであるティアーズ型もやはり素養の部分が大きく関わってきています」

 

「たしかに、セシリア・オルコット氏は適正Aランクですが、他にAランク適性が出てきたという情報も無し。乗り手の単純な技量にだけ左右されるわけではないというのは厳しいですね。現実においての実戦配備はやはり難しいですよね」

 

「はい。特に統合防衛計画という事を考えるとやはり難しいところがあるでしょうね。そしてこれは何もティアーズ型だけでなく、他のマンインターフェイス搭載型の第三世代機にも言えるわけです。現状適正というものを強く必要とするのはティアーズ型のみですが、他の機体も大なり小なり似たようなものを必要とするわけですから」

 

「なるほど。つまり、ラファールのように量産機でパーツの補充、メンテのノウハウもしっかり構築されていて、かつ個人の才能にも捕らわれない点に注目すべきところがある、と」

 

「良い補足をありがとうございます。いつもこんな調子で進めていけたらいいんですけどねぇ」

 

「いやぁ、それは難しいでしょ。視聴者が求めているものとやっぱり違いますから」

 

「そうなんでしょうかぁ……で、国防という普遍的にあまねく人材がつける必要のある任務。そこへラファールのような量産機、そして有事の際には適したパッケージへの換装をすることでの適応力の向上。基礎性能は各国の第三世代型に負けていようとも、適応力で勝負といった、一石を投じる形といってもいいでしょうかね」

 

「たしかに他の第三世代型にもパッケージはありますが、ティアーズ型にどのようなパッケージを積もうとも、屋内や閉所での任務では運用が相当に制限されますからねぇ。もちろんBT兵器をすべて取り外すこともできますが、それはティアーズ型なのか?っていう」

 

「それはもはや別物の機体。BT兵器を運用するためのシステムにストレージを喰われているせいで、量産機よりも局所では性能負けしてしまいますね」

 

『ちょっとティアーズ型落とされすぎなんで、他の機体にも言及してください』

 

「あとはレーゲンや甲龍ですかねぇ。レーゲンはかなりまとまりの良い機体ではありますよね。リボルバーカノンによる長距離砲撃、ワイヤーブレードと手刀による近接格闘性能」

 

「ただ、カノンはあれだけ大型な以上初動の遅さ、リロード時間にはやはり難がありますね。はっきり言ってしまえば遠距離戦もできますよっていうだけで、遠距離戦がこなせるっていうのとはやっぱり違いますね」

 

「その点からいえばティアーズ型は優位取れますよね。AICによる慣性停止もEN兵器主体だから問題はないし、何より自身がAICで捕縛されても自分自身で解除が可能ですから」

 

「自分自身で解除ってことは、AICに捕まったってことですよね。その技量差の時点ですでに」

 

「それは言っちゃいけないお約束ですから」

 

「あ、はい。まぁティアーズはコンセプトからいえば1vs1をするものではありませんよね。甲龍のような前衛機と組んだりして、場の流れを作っていくタイプと言えます」

 

「そこから考えていくとですよ。統合防衛計画のトライアルに参加した機体で競い合うのって、正直無駄じゃないですか?全部が全部同じ機体にしたら柔軟性皆無っていうか」

 

「まぁすべての機体がレーゲンとかティアーズって偏るとぶっちゃけまずいですよね。適正云々以前に」

 

「はい、ですから今後の流れとしてはトライアルの参画も第三世代型が云々というよりは、コンセプト次第で柔軟に対応していったほうがいいんじゃないか、と思えますね」

 

「まぁそこは今後EUがどういった形に動いていくか見物ではありますね。さて、時間もやってきてしまいました。今回は特に騒ぎもなく、その時ISが動いたのコーナーが終わってしまいましたね」

 

「たまにはこういう真面目に話すのもいいですね。次はふっかけていきますけど」

 

「勘弁してくださぁい……さて、次のコーナーは図解ISスーツ、担当は当然北澤さん」

 

「はい。待ってました、この時を!そのためにね、さっきの回は真面目に話してたんですから」

 

「真面目に話したら充分な知識はあるんですから、いつもお願いしますよ。さて、今回はどのISスーツの解説にはいりますか?」

 

「そこ、聞いちゃう?当然、シャルロット氏のスーツですよ。デュノア社からパラダイム社へとスーツの変更がなされました」

 

「他の専用機持ちの学生が着ているものと比べて、結構布面積削ってますよね?」

 

「そうですね。以前は見た目にはカラーリングの違いだけ、だったんですけどね。ですが、先ほど七海さんも話されていたパッケージとの対応を考えて、新システムを導入しているみたいで、それによって布地面積にも余裕が出来てるんです」

 

「新システム、ですか?」

 

「七海さんもご存知の通りですが、ISスーツは筋肉から出る電気信号等を増幅してISに伝達しています。必ずしも着込む必要はありませんが、着ていた方が当然機体からのレスポンスが早くなります」

 

「しかし、同時にノイズのような信号まで増幅してしまい操作に支障が出る場合もある、と」

 

「安物や布地面積のやたら少ないものを使っていた場合はそうなりますね。で、今回パラダイム社の製作したスーツ、これはスーツに各パッケージに対応した個別のシグナルが用意されていて、伝達効率を高めています。また個人のパターンを解析、学習する機能も試験段階ではありますが、導入されているとか」

 

「なるほど。統合防衛計画をかなり意識したスーツとも言えますね。これはもうフランスは第三世代型の開発よりも、ラファールとそのパッケージによる参画を考えていますねぇ」

 

「そこのところは今後の動きに要注目ですね。いやいや、そしてね、スーツ。先ほどのシステム導入によって、新デザインが出来ました。先ほども七海さんが言った通り、ISスーツって全然個性がないんです。ヒロインズのスーツ見てもらったら分かるけど、色違いなだけ。どこにオリジナルとかオーダーメイドの要素があるのかってね。ほんと突っ込みたいですよ」

 

「あの、ちょっと興奮しすぎて何話してるのか分かんないんですけど。確かに没個性的ではありますよね」

 

「そこに来てデュノア氏のハイレグのスーツへの一新。これはポイント高いですよ」

 

「どこに対してのポイントなんでしょうか……?まぁ個性を出せて実用的なスーツっての人気出ますよね。基本的にデザイン性に走ったところは、必要な布地面積を削って伝達効率悪くして元も子もなくなったりしてますからね」

 

「そこら辺の問題諸々を解決したこのパラダイム社のスーツは、確実に人気が出ると踏んでますね。いやぁこれでもっときw」

 

「はい、お時間になりましたので図解、ISのコーナーを終わります。また来週ー!」

 

「っあ、ちょっ……」

 



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のほほん日記

福音戦で苦戦しまくったせいで、余談やら旅行話やらばっか書いてた。


第二の男性操縦者、伊藤開司のお目付け役兼護衛役を命じられた。なんでわたしの入学に併せて重大事件が起こるのかな。お嬢様からの情報だと普通の男子高校生、虐められて引きこもりになり、学校に来ていたのは1か月ほど。ふらりと現れたIS適正試験会場にて発覚。色々と思惑が蠢いているようだけど、IS学園の入学が決まったみたい。それにしても一人目の男性操縦者、織斑一夏は篠ノ之箒と同室になっている。なぜわざわざ世界的に重要人物である二人を同室にしたのやら。これには私たちとは別の思惑が絡んでいるみたい?なんにせよきなくさいことだね~、やだやだ。

 

織斑一夏、伊藤開司、セシリア・オルコットによるクラス代表決定戦がきまっちゃった。素人の二人と代表候補生を戦わせるなんて何を考えているのかなぁ先生は~。でも、なにがしか思う所はあるってところかなぁ。それにしても伊藤開示の豹変にはびっくり。あそこまで正面切って啖呵を切れる人間が虐められて不登校になんてなるかな?でも他ならぬお嬢様が調べた情報だし、疑ってるなんておくびにも出せないよねぇ。

 

それにしてもかーくん(わざわざフルネーム書くのめんどいや)と喧嘩しちゃった。喧嘩っていうか怒らせちゃったんだけども。同室になるってのにどうしようかなぁ。とりあえず顔には出さないようにして、さっきのことはなかった感じにするしかないかな。私のお役目的にも仲良くしておくに越したことはないしねぇ。おっと帰って来たみたいだね、笑顔笑顔~。

 

仲直り成功~、というよりはあっちから謝ってきてくれたんだけども。イライラしてたからしょうがないけどね。しっかりルール決めとかそういった常識部分はきっちりしてるみたい。というよりも私と同室と知った時の反応から見るに、女の子相手に隙を作りたくない感じかな。あとはごはん中に不自然に席を立ってたけど、先輩に絡まれないように逃げたっぽい?やっぱりなんか匂うよねぇ。かーくんってさぁ、なんかこうそこら辺の連中と匂い違うよね。こう危険っていうかアウトローっていうか。やっぱりただものではないよねぇ。

 

毎日放課後はアリーナに通い詰めて訓練してるし、セッシーの記録映像を見てるみたいだねぇ。思ったよりも勤勉みたい?単純に真面目というよりは、言ったことの手前引けない感じか。私にも色々聞いてきてくれるし、関係はそこそこ良好だねぇ。それでも代表候補生と戦うにはどうしても厳しい。でも面白い試合は見られるかもしれないね!

 

なんとなんと、かーくんが勝っちゃった!セッシーの油断を誘って、対策を練って策を弄して……セッシーの降伏ではあるけど、あのパイルバンカーが打てていたら、どうにしろかーくんの勝ちだったかなぁ?そして、セッシーはセッシーでなにやら思う所があったみたい。あの場であんな風に謝れるなんてねぇ。まぁ別に女尊男卑が悪いことだとは思わない。昔は男尊女卑が普通だったらしいし、それが逆転しただけのこと。まぁ今の状態は行き過ぎてるから、それは是正しないといけないけどね。男尊女卑が長く続いてきたのに、今更だれかが男女の性別による差なんてない、平等なんだ!って言ったところで、簡単に人の意識が変わるもんでもないし.

 

セッシーがかーくんに謝りに来た。それに対するかーくんの対応ったらひどいんだから!いやぁ、私もついつい暗部の顔が出ちゃうよ、仕方ないね。で、問題はセッシーのほうだね。どうやら発言や態度で同じ代表候補生から嵌められたみたい。かんちゃん(簪)のことも見てきてるけど、やっぱり女同士の争いは色々あるみたいだねぇ。しかし、そこをかーくんが見事に救出!虚実交えつつ相手の失言を誘っていく話術は中々のもの。これによって完全にセッシーはかーくんに惚れたね、間違いない。

 

2組に中国代表候補生、専用機持ちの凰鈴音が転入してきた。放課後いつも通りかーくんを監視してたけど、面白かったなぁ。まさか暗殺者と間違えて、へっぴり腰になってセッシーの腰に抱き着くなんて。キュッとしまった腰に肉付きのいいお尻。あれに抱き着いてセクハラ扱いされないなんてラッキーだねぇ!これはまた面白いことになりそうな予感。

 

かーくんが私にパフェを奢ってくれたよ。いやぁ、普段からフォローしてる私に、ようやく感謝の気持ちを表現してくれる気になったようだねぇ。というのは置いといて、相変わらず抜け目ないなぁ。一人だけ戦争しちゃってる感じ。そしておりむーは無自覚に惚れさせていってるみたいだね。その内後ろから刺されるんじゃないかな。

 

なにやら鈴々が泣いてる。それとなく様子を探ってみるとおりむーにした告白?プロポーズ?が勘違いされてたみたい。でも仕方ないよねぇ。恋人同士だったわけでもなし、友達が去り際にプロポーズしていくなんて夢にも思わないよ。好きでしたっていう告白だけならともかく、プロポーズはない。逆の立場だったらどんびきだし。男友達から過程すっ飛ばしてプロポーズされるなんて恐怖でしかないよぉ。

 

かーくんと鈴々のクラス対抗戦!普通に軍配は鈴々のほうに上がっているけど、私はかーくんに期待だね。セッシーのときのこともあるし、より準備期間の長かった今回、何も用意してないなんて考えられないからねぇ。どんな試合になるか楽しみだなぁって思ってたのに、途中で中断されちゃった。あれは一体なんなんだろう。ISの暴走って発表があったけど、あんな高出力の兵器積んだ実験機なんてあったかなぁ?

 

今日は新しく男の娘、シャルロット・デュノアが転入してきたよ。ていうか、かーくんは速攻で気付いたし!まぁどう見たって無理あるもんねぇ。胸はコルセットで隠してるんだろうけど、髪は普通にロングだし。男の子でも髪伸ばすことはあるけど少数派すぎるって。こんなに可愛い子が女の子な訳がありません!ってね。

 

次の日は眼帯をつけたお人形みたいな軍人さん、ラウラ・ボーデヴィッヒが転入。いきなりおりむーの頬をぱしーんと一発。織斑先生に関わりがあるみたい。ほんと問題ばっかり起きすぎだよぉ。一体どうなってるのやら。でもどっちも特に私の監視対象であるかーくんには、関係なさそうなのが救いかな?しゃるるんはおりむーのほうを探ってるし、ラウラウはおりむーのことを敵視してるみたいだし。

 

なぜかラウラウがかーくんに興味津々になってる。昨日の放課後は生徒会に顔出してたから、放課後の監視はしてないんだよなぁ。一体何があったんだろう。まぁ最近では監視任務は特にしなくていいことになってるんだけどね、学内では。ただついつい面白いことがありそうだから、暇があったらふらふら~っとかーくんの後をつけちゃうんだよね!

 

ラウラウがアリーナで大乱闘しちゃった。しっかし強いねぇ。代表候補生、専用機持ち二人を相手にして、特に苦戦するでもなく普通に勝っちゃった。AICが特殊兵装すぎるし、初見での対応が難しいから次戦ったらどうなるかは分からないけど。その場にかーくんが現れて事態を治めちゃった。ラウラウ、織斑先生、かーくんの間で何かあったかな。そしてセッシー・鈴々はお姫様抱っこで保健室へ。いやぁ、あの二人をお姫様抱っこできるなんて役得ですなぁ。でもかーくんもおりむーも特に嬉しくなさそう。男としてちょっと問題あるよね。頬赤らめてる二人がかわいそうになってくるよ。

 

クラストーナメントはラウラウ・かーくんvsおりむー・しゃるるん。いやぁ、対戦のカードの切られ方が作為的なものしか感じないよ。神の意志ってやつだね。さてさて気になるかーくんの戦い方は……ガン盾だー!これはえぐい。1vs1で戦えばまず負けのないラウラウが、ずっと有利に立ち回れるように一人を引きつけるとは。しかも、ランチャー仕込み盾。これで援護に行くことすら封じるなんて。厄介極まりないなぁ、みんなからは当然批難の嵐になっちゃうけど。むむっ、またも試合が中断されちゃった。神の意志を感じる。でもこの勝負はどう見てもかーくんチームの勝ちだったから別にいいかなぁ。問題は中で起こってることだね。あーやだやだ、また仕事が増えるよ。

 

お嬢様がすんごいぶつくさ言ってる。今回の突入部隊にお嬢様も入ってたけど、そこで色々あったみたいだね。聞いてみるとかーくんのことみたい。織斑先生に直接自分の調べた情報を否定されたみたい。まぁ私も内心ぶっちゃけるとかーくんがイジメられて引きこもりっていうのは信じがたいね。お嬢様も内心疑い気味ではある風だけど。といって何があるって話なんだけど。かーくん一人の情報を操作する必要というか、それをする存在っていうのがねぇ。今となっては時の人だけど、昔はただの男子高校生だったわけだし。お嬢様が自分の調べた情報を信じちゃうのも仕方ないんだよね。

 

うわぁ、一日経ったら訳分かんないことに。ラウラウはかーくんにべったりでパパとか呼んでるし、なんか専用機持ちになってるし。ほんとにかーくんは見てて飽きないっていうか、いろんなことがあるねぇ。とりあえずは情報収集していかないとね。もう仕事云々というか、普通にかーくんの友達としてわいわいしながらの学校生活は楽しい。最初はなんてめんどーなと思ってたけど、悪くないもんだね。

 

セッシーがなんとなんと、今週末にかーくんとのデートを取り付けた!まぁかーくんはデートとか一切思ってないんだろうけど。ほんとあれだけの美少女捕まえておいて、なにをするでもないなんてもったいないなぁ。まぁこのクラス1の隠れ巨乳たる私に手を出そうともしない時点でどうかしてるけどね~。形、張、艶、どれも自信あるんだけどな~。

 

どうやらしゃるるんの方に急展開みたいだね。フランス本国も動き出したみたい。これ以上しゃるるんが在籍して、スパイをやってたのがバレたらまずいことになるからね。現状おりむー、かーくんの遺伝情報や男性操縦者足りうる因子を見つけることができたら、世界が丸ごとひっくり返っちゃう可能性があるからね。そして特定の国だけがそれを調べて自分たちだけ男性操縦者量産なんてことをしたら、各国から焼き討ちにあっちゃうね。まぁ遺伝的な素養が原因の場合、デザイナーズチャイルドを量産しちゃうだろうから、ほんと人間って醜いよね。まったくもう、やだやだ。

かーくんが何やらお悩みみたい。しゃるるんに呼ばれていたからそこで助けを求められたみたいだね。恐らくはしゃるるんも前のVTシステム事件の時の動きを中で見てるわけだから、何か思う所があったのかな。それにしてもおりむーはやらかしちゃったみたいだねぇ。まぁ今回の問題は個人がどうにかできるそれではない。普通に考えてかーくんの協力が得られないからって、どうという事はないはずなんだけどねぇ。

 

かーくんが売店で焼き鳥とポテチを買ってあの織斑先生の部屋に入って行っちゃった!どうやら私の狸寝入りは見破れなかったみたいだね。何やら気配がすると思って薄目を開けたら、かーくんが私の寝顔覗き込んでた時はドキドキしちゃったけど。というかこんな時間に女教師の部屋に入り込んじゃうなんて、なんだかいけない匂いがするんだよ!っていっても相手はあの織斑先生だからね~。不埒な行為に及んだ瞬間、かーくんの首が胴についてないよね~。

 

とうとう朝帰り!一発やっちゃった?やっちゃった?な訳はないとして、うわ~かーくんったら酒臭ーい。まさかあの織斑先生がかーくんに酒飲ませちゃったの?っていうか織斑先生も化粧で誤魔化してるけど目の下の隈は消しきれてないし、酒の匂いもするんだよなぁ。昨晩はどうやらお楽しみだったようで。どうしよう、これは報告したものか否か。さすがに隠しておけるものでもないけど、ちょっと報告の仕方は考え物だね。

 

しゃるるんにまたも急展開、というか本国に帰っちゃった?私たちの方では動きがキャッチできてないんだけども。織斑先生の説明ではちょっとした都合により数日休校するってことだけど、かーくんが何か仕込んだのかな。私たちと学園側の双方の動きはしゃるるんの身柄に関して動いていた。だから、いきなり本国に帰すことはしないはず。これはほんとにかーくんはひょっとしてひょっとするかもなぁ。かーくんの過去の情報を消して改竄するために某巨大組織が蠢いて……なんてね。裏世界で過ごしてたら陰謀論を時たま信じたくなっちゃうけども、現実的に動いていかないとねぇ。

 

わーお、フランス本国がまさかまさかのしゃるるんが女の子だったことを認める発表をしちゃった。なんてこったい、まさかの薬物洗脳によって男の子だったことにするなんて。なるへそ、その手があったか。とはいってその手を押し通すためには色々と小細工が必要になるはずだけど、そこをどうしたのかが疑問だねぇ。フランス本国に対してそれを押し通せるだけの何かを掴んでたってこと。直近の事でかーくん周りならVTシステム事件のことかな。とはいえフランスが犯人って断定できるような情報はなさそうだったけどなぁ。私たちに公開されていない情報もあるから何とも言えないけど。

 

海だー!わーいわーい!

 

ここで日記は止まっている。旅行中は日記を書いていないようだ。

 



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姦娘喫茶録 前編

なんか姦ってどうしてもイメージ悪い文字になっちゃうよね。
単純に姦しい、女三人よればなんとやら、で使ってるんだけども。
今回はセシリア・ラウラ・シャルロットの三人娘です。
シャルも本編で助かったのでこうして絡ませることが出来ます。
では、どうぞお楽しみ下さい(この話では作者のキャラのイメージが強く出ております。僕の、私の、○○はこうじゃない!と思う方はそっ閉じしてください。


セシリアの心中より物語を始めよう……!

今日はデュノアさんがどうしても行きたいというカフェがあるとのこと……

ゴルフ場の脇を通り抜けた先にその店はありましたわ……

遠目に見えるのは日本の灯篭、というやつでしょうか……?

それに、よく分からない像……石造りの小路……よく分からない看板……

日本のホラー……怪談というべきかしら……また違った装い……

遠目に見ても怪しさ全開……空いているのかどうかすら怪しいですわ……

 

 

車を降りて店の前へ立つ一行、今日はセシリア・ラウラ・シャルロットの三人娘!

 

「ほら、ラウラ。歩きにくいってば、離れなくちゃ」

 

「そ、そんな無慈悲なことを言うな!」

 

「意外ですわ、ラウラさんがこういったものが苦手なんて」

 

ラウラはこの中でも最も鍛え抜かれた、いわば戦士、軍人である。

そのラウラがホラーが苦手というのは不思議なものであった。

 

「駄目なんだ、得体の知れないものというのは……しかも奴らには攻撃すらできず、一方的に呪い殺されるというではないか!」

 

「そういう、理由ですのね」

 

「ラウラらしいと言えばラウラらしい、かな」

 

生きている人間相手なら教官でも来ない限り、そうそう遅れは取らないラウラ。

しかし、幽霊は別。戦う前から負けと決まっているようだ、彼女の中では。

 

「う、うぅ……それにしてもこれはどう見ても閉まっている、今日は休業日だ!」

 

「うーん、駐車場の入口のチェーンが外されてるから空いてるはずだけど」

 

筆者が行った際はその後の予定もあり早めに出発した。存外道路が空いていたため、開店時間とほぼ同時につくことになり、入口のチェーンがかかったままであった。そこへ店主がちょうど出てきて開けてくれたので、ためらいなく店内に入れた。しかしそうでなければ……

 

「明かりはついていないんですのね、とりあえず進んでみませんこと?」

 

「ほら、ラウラ。逃げようとしないの!女は度胸!だよ」

 

「ま、まだ心の準備が!無理やり引っ張るな!なぜだ、なぜ私が力勝負で負けるのだ……!」

 

ずるずると駄々っ子を引っ張るように連れていかれるラウラである。だが、ラウラが特別臆病という訳でもない。いや、臆病ではあるのだがこの店の趣を見ればきっと分かる。残念ながら写真は用意していない。ここは初見で行ってこそだからだ。なので、折角の楽しみをふいにするような真似はしたくない。言葉で表現はするが、写真として見てしまうとやはり駄目なのだ。

 

「っひぃ!」

 

突然カコンッ……と物悲しい音が響き渡る。思わぬところから聞こえてきた乾いた音。

それに思い切りビビるラウラ、咄嗟にセシリアにしがみつく。

 

「正体はこれですわ、ラウラさん。竹の筒に水が入っていって……それが重みで動くようになっていますわね」

 

「ふ、ふん。こけおどしもいいところだったな!」

 

「あはは、鹿おどしって言うんだったかな。今のラウラは小鹿みたいになってるから、ちょうどいいかもね」

 

足をプルプルとさせながらセシリアにしがみつくラウラ。その姿はまるで生まれたての小鹿のようである。因みにここの鹿おどしは水をためているのがジュリアン坊や。分かりやすくいえば小便小僧……勿論普通に石臼で作られた鹿おどしもある。

 

「この仏像の周りにお金が置かれているのはなんなのでしょうね?」

 

「さぁ、これは僕もよくわかんないや。でもなんとなく、置いておこうかな」

 

「不可思議な風習があるものだな」

 

筆者も詳しいことは本当に知らない。知っている人がいたら教えて欲しい。

 

「ここから先へ進むのはなんとも、勇気がいるね」

 

「シャルロットさんが先導してくださいましね」

 

「もしかして、セシリアも怖かったり?」

 

「ラ、ラウラさんがしがみついてて、動きにくいからですわ!」

 

どう見ても嘘なのは見抜いてるシャルロット。くすくすと笑いつつ、先へ足を進めると

 

「う、うわぁ!」

 

「なんですの!?」

 

「な、なにがあった!」

 

入口の扉へ向かう最後の一直線、そこの段差は降りた途端沈み込む床になっているのだ。

突然の事で驚いたシャルロットはつい悲鳴を上げた。

 

「あ、あぁ、ごめんね。床が急に沈んだからびっくりしちゃって」

 

「やっぱり、シャルロットさんも怖いんではないですの?」

 

驚く人を見ると逆に冷静になる、そういう経験はないだろうか?今のセシリアの状態が正しくそれである。誰でも、急に床が沈み込めば驚くものだ。それがおどろおどろしい入口に向かう道であればなおさらである。足腰の弱い方は気を付けて欲しい。特に足元には……

 

「これは卑怯だよ。まったくもう!」

 

照れ隠しのためか少し怒って見せ、先へと進んでいくシャルロット。これも常套手段といえよう。

 

「これはばね式で出来ているのだな。ふん、仕組みが分かればこんなもn」

 

「いらっしゃいませ」

 

「っ!!」

 

先へ進むシャルロットが扉を開けると同時に機械音声がお出迎え。

強がって見せているところへの不意打ちを喰らい、声もでないラウラであった。

 

「シャルロットさん、からかったわたくしが悪かったですから、ラウラさんのことを」

 

「あ、あぁ。ごめんね、ラウラ。僕も知っていたわけじゃないし、おどかすつもりじゃなかったんだよ」

 

きれいな赤い瞳はたっぷりの涙で歪んでおり、こぼれだす寸前であった。

 

店主の話によると入口の扉に入るまできゃっきゃと女性の声がしていたかと思えば、扉を開けたときのこの機械音声でびっくりして、店に入らずに逃げ帰っていくことも稀によくあるそうだ。よく経営が持っているものだと感心する。この機械音声は別になんのことはない、普通のファミレス、COCO'Sなどで使われているものと同じに聞こえた。人の心理状態というのは普段聞きなれた、怖くもないものを怖くさせるのだから面白い。

さて、それでは店内に入っていこう。外とはまた一線を画すおどろおどろしい内装となっている。ラウラはこの店内へ入れるのであろうか……

 

「うわ、店内薄暗いなぁ。昼か夜か、全くわかんなくなっちゃうね」

 

「本当ですわね。足元に十分注意しないとこけてしまいますわ」

 

「もう帰りたい……」

 

入ってすぐ左手はお手洗い、前へ進むとカウンター、テーブル席のある場所へ行ける。

しかしこの道がまた狭いのだ。人が一人通るのがやっとで、筆者も体を細めて入ったものだ。

 

「お、入ってこられましたね。ずいぶん驚いとってだから入らずに帰って行かれるかと思いましたよ」

 

「やっぱり、入れずに帰っていく人って多いんですか?」

 

「多いってほどではないですけど、飽きない程度にはいますよ」

 

「わたくしもラウラさんと二人だったら、帰っていたかもしれませんわね……」

 

「私は今でも帰りたいぞ!」

 

ラウラはすぐそばにある生首を見つめていた。

見つめたくもないのだが、目をそらせば襲ってきそうで顔を背けられない。

 

「あぁ、その子ね。たまに髪が伸びるから切ってあげないといけないんですよ」

 

「あ、あわわ、の、呪われているんだ。やっぱり呪われて……」

 

「店主さん、手加減してあげてください」

 

シャルロットには店主の顔が見えている。驚かせるための冗談であることは見抜いていた。しかし、ラウラはそうではなかった。嘘は嘘であると見抜けないと(このカフェを楽しむのは)難しい。どうにも信じきってしまい、余計目をそらせないラウラであった。

 

「お嬢ちゃん、冗談さ、悪かったよ」

 

「こ、この私がそんな非科学的なことを信じていると、そう思っているのか!」

 

「(やっぱりラウラは可愛いなぁ)」

 

「(お人形のような瞳にそんな涙一杯で強がられましても……)」

 

最早尊厳はずたぼろなラウラだが、更に止めとなるようなそんな一撃を喰らうことなど露知らないことなのであった。

頑張れラウラ、めげるなラウラ……まだ恐怖のお化け屋敷喫茶は入ったばかりだぞ……!

 



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姦娘喫茶録 後編

そういえばすっかり投稿するのを忘れていた。


カウンター席の方が面白いということで、そちらへ案内された三人。他の客はもう帰ったようで、店内は彼女達3人だけである。メニューは軽食2~3種類とドリンク、軽食で覚えているのは自分と友達が頼んだ2品だけ。昔はドリンクの名前がちょっと書くのが憚られる名前であったらしい。メロンジュースは青虫うんたらとか……ココアやトマトジュースがどうなるか、ご想像にお任せしよう。

 

「わたくしはホットケーキと紅茶を」

 

「僕はミックスサンドとコーヒーかな」

 

「わ、私はホットココアだけでいい」

 

「何か食べなくていいの?」

 

「しょ、食欲がわかないのだ!」

 

「たしかに、それは分からないでもないかなぁ……」

 

そう言い店内を見回すシャルロット。動物の剥製、髑髏の人形、仏像、マネキンの首etc……とりあえずホラー映画に出てきそうなものがゴロゴロ置かれている。はっきり言えば食欲というものは減退の一途を辿る内装だ。薄暗さもそれに拍車をかけると言っていいたろう。

 

「この剥製などもかなりリアルといいますか、本物……ですの?」

 

セシリアの座った席のすぐ近く、そこにはサルの剥製が置かれていた。

 

「えぇ、ここの犬やサルの剥製は昔飼っていたものですよ」

 

「それはなんとも、まぁ……」

 

購入したものでもなく、自らのペットである。予想外とまでは言わないが何とも言えない不気味さを感じるセシリアであった

 

「中には親父の代の時のお客さんがくれたものなんかもあってねぇ。上につるしてるやつ、分かるかな?」 

 

「うーん、あのアルマジロみたいな奴ですか?」

 

そう言いシャルロットが示したさきにある剥製……鱗で覆われた生き物……

 

「そう。中国にいるセンザンコウっていう今はもう絶滅危惧種でね。当然輸入も禁止されてて、なかなか見られないものさ」

 

密猟によって絶滅の危機に瀕している種である。鱗は漢方薬、媚薬の材料。時には魔除け、楽器の素材として使われたりするそうである。

 

「お客さんが寄贈してくれたりもするんですね。それも中々貴重なものを」

 

「こんな店、他にはなかなかないからねぇ。気に入ったお客さんはこれを置いてくれってね。たまに本当に呪われた品とか持って来ようとするから、困ったものだけど」

 

「ま、まさかとは思うが、この店に本当に呪われたものなど……ないよな?」

 

さっきの人形はからかわれたものらしいが、何か嫌な気配でも感じ取っているのか周囲を見渡すラウラ。

 

「お祓いはしてもらってるから大丈夫だとは思うけどね。前来たおばあさんがうちで飼ってたペット、もう骸骨になって飾ってるから毛色とか分からないはずなのにピタリと言い当ててね。不安になったからお祓いしてもらったこともあるね」

 

「じょ、冗談ですよね……?」

 

そう聞いたのは意外にもシャルロット、流石に自らの許容限界に近付いたようだ。

 

「……」

 

店主は静かににっこりと笑うのみである。その瞳を見てシャルロットは嘘ではないと悟る。そう思った途端に寒気が走る思いがしたのであった。そしてその様子をみたラウラ、セシリアも固まるのであった。

 

「まぁまぁ、ここで飲食していって呪われた、なんて話は聞かないから大丈夫だよ」

 

最早そういう問題でもないのだが、注文をした手前それが出る前に退店するわけにも行かない。どうにか覚悟を決めるシャルロットであった。ラウラの手を掴んで逃さないようにしておくのを忘れてはいなかった。

 

「さて、飲み物は先に出しておくよ。奥で調理をしてくるから店内は好きに見て回っていいからね」

 

そう言い、店の奥へと消えていく店主。最早ラウラには探索をする勇気など微塵も残っていない。セシリアも同様、というよりはラウラを席に残して立つのもかわいそうに思えたのであった。

 

「シャルロットさん、冒険はお一人でなさってくださいまし。わたくしはここでラウラさんと震えておきますわ」

 

セシリアもまた自らの尊厳はかなぐり捨てたのであった。ラウラを思う気持ちもあるが自分も探索する気力は沸かなかったのである。何か面白いものや珍しいものがあったらあとで聞こうと決めたセシリアであった。

 

「僕も一人じゃあ心細いんだけど……仕方ないね、ちょっと見てくるよ」

 

店内はそこまで広くはない。6人掛けのテーブル席が3つ、カウンターには5人程度のものである。にもかかわらず大小数千点の品が並んでいる。一歩歩くたびに様々な不可思議なものがあるため見ていて飽きることはない。その恐怖心に抗えればだが……

 

「本当にいろんな物があるなぁ……この蛙なんかも恐らく本物、さすがに頭蓋骨は偽物だと信じたいけど。外にあったような仏像がちゃんとショーケースに入ってるし、かと思ったらキ○ィちゃんの人形まで置かれてる……」

 

一見ファンシーなものが薄暗い店内に置かれているだけで異様に不気味に感じるのである。基本的にはおどろおどろしいものしか置かれていないのだが……

 

「ひとまず、飲み物だしておきますね。外寒かったでしょうから温まりますよ」

 

筆者が行ったのは2月の終わりごろ、まだまだ寒い時期であった。店内も開店すぐで暖房が効いていないため尚更寒い。決して霊的な何かで寒いのだとは考えたくないものだ。

 

「温まりますわね」

 

「うむ、早く飲み終わって帰りたい……店内にかかっている音楽もなんなのだこれは。悲鳴が聞こえてきたりぶつぶつと何やら唱えていたり、たまったものではないぞ……」

 

店内のBGMは当然明るいようなものではない。どこぞの怪談話からお経、時折聞こえてくる悲鳴などである。特に悲鳴の瞬間に音量が大きくなってビビらせてくることもある。2~3度聞いて慣れたと思っても不意打ちのように来るため、心臓が飛びあがったものだ。

 

「あはは、まだ僕たちの軽食が出てきてないからね」

 

「何か面白いものはありまして?シャルロットさん」

 

「うーん、僕も日本の文化っていうのはちょっとかじったくらいだから、よくわからないものが多いね」

 

ここの店名が伴天連となっているように日本のみならず、幅広い文化圏の物品が立ち並ぶため、正直なところ詳しくなければ物についての詳細は分からないといっていいだろう。

 

「はい、ホットケーキにミックスサンドね。何か気になったものはあったかい?」

 

「いやぁ、色々なものがありすぎてなにがなにやら」

 

「まぁ僕でも把握しきれなくなるからねぇ。ここにある物は大体が本物だからね。剥製にしてもその後ろにある尻尾にしても」

 

「これは、馬の尻尾でしょうか?」

 

イギリス貴族のたしなみとして乗馬もでき、ダービー用の馬も飼っているオルコットが答える。

 

「お、よくわかったねぇ。そして生首の髪も動物のものを使っていてね」

 

「そ、そのせいで妙なリアルさがあるのだな」

 

やはり人工の毛と生き物の毛では違いを感じるのか……ただの置物には見えなくなったラウラは、じりじりと椅子を動かして少しでも距離を取ろうと健気な努力を行っていた。そこへ突如として……

 

「ガチャンッ!」

 

と音を立てて目の前に吊るしてあったオブジェクト、影になっていて見えなかった生首が一つ落ちてくる。距離を離すために必死なラウラは完全に不意を突かれた。落ちてきた生首と目が合い、一瞬フリーズしたのち……

 

「ひぃっ!!!!!」

 

脱兎のごとく逃げ出した。セシリア、シャルの二人は逃げ出すような真似はしなかったが、腰は抜けたようである。あは、ははは、と乾いた笑い声を、二人とも固まった顔で出すのみであった。衝撃から回復するのに幾許かの時が過ぎたころ……

 

「さすがにショックが強すぎたかな、腰を抜かすくらいで済むかと思ったんだけど、ごめんね」

 

「あれはラウラさんには厳しかったですわね、大丈夫かしら」

 

「完全に不意を突かれてたからね……僕もまだ膝が笑ってるけど、セシリアはどう?」

 

「私も似たようなものですわ、立って歩けはしますけど……ラウラさんが心配ですし、もう軽食も食べ終えてますから会計を済ませて出ませんこと?」

 

「そうだね、外で泣いてないといいけど……」

 

二人は財布を取り出し、料金を払う。ラウラの分は、シャルロットが罪悪感もあったせいか奢ることにしたようである。

 

「連れの子にも僕が謝ってたって伝えておいてね。それじゃあまたのお越しを」

 

「(今度はカイジ君をどうにかして連れて来よう。カイジ君がビビりまくりだったら面白いだろうなぁ)はい、また新しい人を連れて来ようと思います」

 

「(カイジさんはここに来たらどんな反応をするのかしら。もしや、シャルロットさんも同じ考えを……?抜け駆けはさせませんわよ)えぇ、その時はわたくしもぜひご一緒に」

 

にっこりとシャルロットに微笑みかけるセシリア。勘の良いシャルロットは当然その意図に気付く。

 

「あははは」

 

「うふふふ」

 

互いに互いの腹の底を読みあいながら笑い合う二人。その二人を店主は眺めながらこう思った。お化け喫茶よりも、この女の子同士の感情のぶつけあいの方がよっぽど怖い気がするなぁ、と。

 




何日かしたら前編のあとに挿入する予定です。

ここの店主が特別意地悪な訳ではない。いや、この状態のラウラにやったら流石に非道な気はするけど……女性客の中にはこの悪戯に驚いて商品もそのままに逃げ帰ってしまったことがあるらしい。連れの人がいたので食い逃げとはならなかったようだが、一人の場合はどうなっていたのだろうか……まぁこれもお化け屋敷喫茶ならではの余興である。


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酒蔵探訪録チフユ

時系列は不明。少なくともシャルロットの件の後というだけ


とある休日……カイジの元を訪れる千冬……用件は先日のシャルロットの……

 

「伊藤よ、前の謝礼の件だがな」

 

「謝礼……?」

 

「デュノアの事だ。忘れたのか……?」

 

「あ、いや……冷静に考えれば、考えなくても……さすがにあんたも立場的にまずいかと思ってな……」

 

あの時、打ち上げとしてもう一度飲む……!と、誘ったところではあるが……

バレれば類が及ぶのはなにも千冬だけではない……互いに破滅である……

 

「(完全に墓穴を掘ったか……妙なところで礼儀正しいのだな……)で、前飲んだもので何か気に入ったものはあったか……?」

 

千冬としては、心の底から助けられたと思っている……デュノアの件だけでなくラウラの事も……

命というかけがえのないものを救ってもらった……何らかの謝礼の形は当然必要……

しかし、カイジが喜ぶことなど……先日の飲酒以外全く分からない……

 

「あぁ、あれだ……あんたの秘蔵の冷たい奴……あれは良かった……!」

 

「(西條鶴の神髄か……あれは桐箱入りの、値からして違うものだから当然と言えば当然か……)そうか、まぁ似たような物を買っておくとしようか……さて、西條まで行ってくるとするか……」

 

「あ、なに?今から買いに行くの……?たしか西條って言えば広島とか、遠くねぇか……?」

 

IS学園があるのは東日本……横浜の東京湾沿いに作られた人工島……

飛行機を使っても日帰りは当然厳しい……唯一日帰りでも楽々行ける手段と言えば……

 

「そうだ、西條は遠いが……ISを使って音速で向かえばすぐだ……」

 

ISを使えば航路、直線距離……横浜―東広島間は直線距離にして約650km……

音速で向かえばたったの30分……往復一時間の距離なのであった……!

 

「それ、許されんの……?わざわざ西條まで行く必要あるわけ……?」

 

蔵元限定酒ではない神髄は西條以外でも購入可能……しかし彼女は蔵元での購入にこだわる……!

 

「新型ブースターのテストをするついでだから問題ない……それに酒はやはり蔵元で買ってこそだ……!」

 

専用機を持たない彼女がISを使うのにはそれなりの理由がいる……

彼女は外出時の口実に使うため……いくつかのテストを自分の手元にプールしていた……

 

「ほーん、そうなの……それ、俺もちょっとついて行くかな……!」

 

「なん……だと?」

 

「いや、あんたが買って帰ったら……またあんたの部屋で飲むことになるだろ……?他の生徒や山田先生とかに知られたら……致命的……教師生命も、俺自身も……」

 

平然と千冬の部屋で飲むこと自体……この現状の世の中を見ればまず出来ないことだが……

そのことを臆することもなくやってのけるのは……カイジだからこそであろうか……

 

「それは、たしかにそうだが……ま、いいだろう。あっちにはお気に入りの料亭もある……そこで食べて帰るとしようか……」

 

「お、話が分かるじゃねぇか……!」

 

かくして二人は西條へと旅立つのであった……!そして、その影を追うISが一機……

波乱……とはならない、旅の幕開け……!

 

 

空中を並んで飛ぶIS……数の制限がある故に価格など付けられない超兵器が二機……

それがただの交通手段として使われているなど……その片割れがブリュンヒルデなどと……

誰も想定がつくことではなかった……

 

「ほんと、高速や新幹線じゃ日帰りなんて到底無理だが……」

 

「IS様様といったところだな……沖縄の泡盛から北海道の地酒まで、日帰りで買えるのだから……!」

 

「あんた、そのために毎度IS展開してるんだな……」

 

千冬の言葉から推察できること……確実にこれは初犯ではないということ……

 

「ISの軍事利用は禁止されているが……これは平和的利用、つまり許される……合法だ……!」

 

「(いつしかあの天才に暴走させられるんじゃねぇのか、こいつのIS……)まぁその御相伴に預かろうってんだから……俺から文句の出ようもないけどな……で、まずはどうするんだ……?」

 

「うむ、新型ブースターの性能は中々に良いようだな……打鉄でもここまでスピードが出せるとは……しかし、そのおかげか予想外に早くついてしまったな……そこのカフェで軽くコーヒーでも飲んで、時間を潰すとしよう……」

 

流石に使用許諾書、試験項目に書いてあるだけのこと……それはしなければならない……

新型ブースターのレポートのことにも思考を巡らす千冬であった……!

 

「まだ酒蔵は開いてないってんなら……それが妥当だな……」

 

すでに開いている酒蔵がない訳でもない……だが、すべてが開いてからのほうが回りやすい……

そして、千冬たちの入ったカフェ……くぐり門珈琲店……筆者も何度か立ち寄っている店……

一階は珈琲豆やお土産の販売所……二階がカフェとなっている……!

 

「で、その前に……そこに隠れている小娘……出てくるなら今の内だぞ……!」

 

「う……や、やはりばれておりましたか……?」

 

「当たり前だ、この私が気付かないとでも思ったか……で、何故ついてきたんだ……?」

 

「っは、師匠あるところに弟子あり、です!教官と師の元にご同行させてもらおうかと……」

 

最後の方はしりすぼみになりつつ答えるラウラ……勝手に付いてきたのでばつが悪い様子……

 

「(ラウラがいたら酒を飲むわけにもいかなくなる、が……さすがにここで帰させるのも可哀想か……)まぁ、来ちまったもんはしょうがねぇだろ……今日は3人で西條巡りだな……」

 

「っふ、3人で集ったことがあるといえば……放課後に私とラウラが話をしていて……そこに貴様が通りがかった時、か……」

 

「合縁奇縁も多生の縁……あの時俺があそこを通らなけりゃ、今この瞬間もなかったか……そう考えると感慨深いものがあるな……」

 

あの時、あそこを一夏が通りがかっていたなら……あの時、カイジが千冬を挑発しなければ……

今この場は生まれることなく……そして、ラウラが学園にいることもなかったであろう……

 

「その節のことは、教官にも師匠にも全く頭が上がらないことだ。生粋の軍人であった私がこのような生活を送るなど、考えてもみなかったことだ」

 

ラウラの言う生粋とは他とは重みが違った……正真正銘の生粋である……

 

「それがそもそもおかしかったんだけどな……で、こんな話はやめにしてさっさとカフェに入ろうぜ……」

 

「あぁ、そうするとしよう……」

 

そういい、3人は古くからあるくぐり門が目印のカフェへと入っていく……ちなみにこのすぐ近くに観光協会の施設がある……初めて訪れる人はそこで観光MAPを仕入れてから、カフェでくつろぎつつどこを巡るか考えてみるのがいいだろう……ちなみに筆者が初めて西條を訪れた際に行った割烹料理の店「本庄」は、観光協会の人に聞いてオススメしてもらった店である……今日、3人がいく店もそこにするとしよう……

 

「俺はこの酒かす饅頭とくぐり門ブレンドのビターで……」

 

「私は酒かすチーズトーストとくぐり門ブレンドのビターだ……」

 

「(教官も師匠も酒かすのものを頼むのか……?私はケーキにしておこう……)チーズケーキとくぐり門ブレンドのマイルドを頼む」

 

注文を終えた3人……当然、その後の予定の話し合いに入る……!

 

「で、今日はどういう風に巡る予定なんだ……?」

 

ここはこの地に慣れている千冬へと尋ねるカイジ……

 

「昼食をとる前にいくつか観光地を回るとしようか……」

 

千冬もラウラが居なければ酒蔵……酒蔵……酒蔵……と行く予定であった……

しかし、それではラウラがつまらない……なので観光地も巡ることにした千冬であった……

 

「酒蔵は後回しか……?」

 

「瓶を買うと重いからな……後で量子変換はするにしてもやはり鮮度……管理する温度が命だからな……」

 

酒蔵探訪だけが目当て……それなら初手に酒蔵を巡ってもいいし、購入もありだが……

日本酒は温度管理が重要である……少しでも劣化させたくないなら後回し……

更には一升瓶で購入……そうなると持ち運びが重く、実に大変でもある……!

 

「は……?え、いま量子変換って言った……?酒瓶って量子変換できるものなの……?」

 

「……一応酒瓶も武器にはなる……武器なら量子変換をしてもおかしいことはないだろう……?」

 

屁理屈どころではない……暴論、かろうじてすら繋がっていない糸……!

 

「(教官相手だと酒瓶だけでも落とされそうだ……酒瓶一本でやられる世界最強兵器か……)」

 

千冬はそんじょそこらの技術者よりも……ISに対する知識造詣は深い……

酒瓶を量子変換するくらい容易いことであった……!

 

「あんたにはもうなにも突っ込まねぇよ……じゃあ、酒蔵以外をまずは巡るってことでいいか……」

 

「そうなるな……まぁ酒蔵そのものも古い建造物だから、それだけでも見応えはあるが……何か見てみたいものはあるか、ラウラ……?」

 

ここは特に観光に興味のなさそうなカイジではなくラウラへ尋ねる……

ラウラも日本の、観光地巡りなど……まずしたことはないと踏んだ千冬である……!

 

「私はこの瓦葺きの町屋などがある通りが気になります。日本の古い時代の家屋というのを見たことがありません。その、酒蔵の古い建造物自体も興味がありますが」

 

「関東の都市部にはもうほとんど残っていないからな……そこらを見て歩いて小腹を空かせた後に料亭へ行くとしようか……」

 

「いいんじゃねぇか、そんなもんで……ずっと日本に住んでる俺でも、あんまり馴染みがねぇからな……」

 

ISの世界は我々が済む世界よりも……よっぽど近代化していることだろう……

その世界の若者は……都市部に住み続けた若者は日本の古い家屋のことなど……

映像の断片以外で見ることはまずないと言ってもいいだろう……

 

「全て新しいもの、海外のもの、効率のいいもの……それらが流れ込み、取り込まれているからな……人口が増加し、集中する都市部だからこその……仕方のないことかもしれんが……日本独自の文化というものは……失われていきつつあるのかもしれんな……」

 

「まぁそれがいいことなのか、悪いことなのか……それはわからねぇけどな……この饅頭、中々うまいじゃねぇか」

 

「この喫茶で軽くはらごなしをすることはおススメだな……ちなみに屋外のテラスでなら、すぐそこで買った焼きたてパンを食べることもできる……珈琲をテイクアウトして、陽気の良い日に食べるのも中々気分が良いぞ……!」

 

西條はどちらかといえば山間に位置するため……故に名水が湧き出るのだろうが……

晴れ間にても少し肌寒さを覚えることがある……そんな肌寒い土地……

それをコーヒーで温めつつ、出来立てのパンを頬張ることが……いかに幸せで贅沢な事か……

 

「そいつはまたの機会にお楽しみってことだな……ラウラを連れて行けば……断る気はねぇよな……?」

 

「(こいつ、私がそれなり以上にラウラに弱いことを……しかし、それでは結局お前が飲めないことに……いや、こいつが飲めない前で……うまそうに酒を飲んでやるのも実に気分が良いではないか……!)ふん、その時は冷たいものは……でないかもしれないがな……」

 

「温かい季節になってますから、アイスコーヒーも悪くはないと思うのですが」

 

千冬とカイジのやり取りは分からぬラウラ……頓珍漢な返答であるが……

 

「大人ってのは薄汚くなっちまうからいけねぇな……えぇ?織斑先生……」

 

「そうだな、いくら年若くてもそれ以上に……薄汚くなってしまうやつもいるようだがな……誰とは言わないけどな……!」

 

互いに暗黒微笑を湛えつつ……睨みあう二人と、置いてけぼりにされたラウラであった……!

 




メインストーリーすすまんちん


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酒蔵探訪録チフユ 中編

福音編を謎のまま終わらせて、アニメでいうなれば2期に入りたい。


西條駅からISを使って数秒……白市の町並に辿り着く一行……

西條から歩いて行く距離ではない……電車を使うか、車を使うか……専用機持ちならISを使おう……!

 

「おぉ、これが古き日本の家屋!海外とはまた違った趣があるな!」

 

漆喰で塗り固められた壁……瓦葺の町屋のある通り……それらを物珍しそうに眺めるラウラ……

 

「そこらへんのことはここにいる教官殿に聞けばいい……!実体験を交えて詳しく教えてくれるだろうよ……!」

 

「ほう、この私がそこまで年増に見えると言うのか……全くもっていい度胸だな、伊藤……何ならこの場でISの実戦教練をつけてやってもいいぞ……?」

 

千冬はせいぜい二十歳前半くらいか……まだまだ年若い、乙女と言えるかは不明だが……

 

「はは、いくらあんたでもこんな市街地でISを武装展開させたら言い訳出来ないだろ……?」

 

ISはどうお題目を並び立てても……綺麗ごとを述べようとも、とどのつまり兵器……

 

「つまり、生身を希望するのか……?せめてISの絶対防御があれば……冥土に行かず済んだものを……」

 

例え生身であっても……カイジ10人を相手にして……手傷一つ負わない千冬である……

 

「いやいや、ここは俺がIS……あんたは生身でいいんじゃないか……?」

 

「条件さえ整えられれば……お前たちひよっこがISに乗っていようが……生身でも負ける気はしないがな……」

 

閉鎖された空間でISの機動が制限……相応の装備さえあればIS相手でも勝てる千冬……

最早半ば以上人間をやめているとさえ思える破格のスペック、身体性能……!

 

「それが冗談に聞こえないのが洒落にならねぇ……」

 

「それは事実だ。ドイツに教官が赴任されたころは」

 

「ラウラ。最早過去の事、その話はいいだろう……さて、ここが木原家住宅だ……中にも入れるから入っていくとしよう……」

 

旧木原家住宅……400年も昔、江戸時代の初期に建造されたとされる町屋……

酒造や塩田業を営み発展していったとされる、豪商ともいえる商人の家……

しかし、木原家の家紋とされる梅ヶ唐花……その由来はさらに500年古く……

平賀氏が壇之浦の戦いで平家の赤旗を射切った……その功績により後鳥羽院より賜ったもの……

それが平賀氏より、木原家に伝わったものとされている……ただの商人とも思えないところだ……

特に時代背景……士農工商という身分制度があった江戸時代なら尚のことである……

 

「このように木組みだけの家とはすごいですね。それが400年たっても朽ちずに残っているとは」

 

「ここの他にも城跡や寺も数多く残されている……歴史的なことを学ぶにはいい場所だ……」

 

「(江戸時代の博打といえば、丁半博打……現在でもヤクザの経営している丁半博打の屋敷ってのはあるらしいが……流石に行ったことはねぇな……)中々風情があっていいもんじゃねぇか……」

 

白市には木原家住宅の他にも見どころはたくさんある……全体的には商家として栄えたところが多い……

立地的には広島、呉、竹原、尾道……それらの近郊、交通の要衝としての……

市場、宿場町として栄えていたからであろう……

 

それらの観光地を堪能した西條へと戻った一行……再び西条市内を練り歩く……

 

「それにしても通るところどころに、酒蔵があるんだな……」

 

「この1km四方の中に6,7件の酒蔵があるのだ……見つけないことの方が難しいだろうな……」

 

「酒蔵というところには大きな煙突があるのですね、教官」

 

「あぁ、ざっと見渡してもいくつか煙突が立っているだろう……あれは酒造りに必要な酒米を蒸すためのものなのだ……最も現在はボイラーを使っているから、必要ないそうだがな……」

 

実際酒蔵巡りをするだけなら……地図などなくとも高い煙突を探し回るだけでもよい……

煙突にはその酒蔵名も……銘記されていることが多いのだから……!

 

「それでも取り壊されずに、残っているものなのですね」

 

「西條の酒蔵の中で最も高い煙突……福美人酒造の煙突は文化財にも指定されている……レンガ造りで特徴的な、ほらあそこの煙突だ……」

 

「目立つな、とはいってレンガ造りの煙突は多いようだが……」

 

「お前にのm……あそこのは西條鶴の煙突だ……あれも同様にレンガ造りで文化財に指定されている……というか、ここらの酒蔵の煙突や建屋は前大戦より前から残っていて……文化財に指定されているものが多い……」

 

これらは古く、大正時代から残存している建築物もある……これらの施設が戦禍に焼かれず……

今もなお堂々と聳え立っていてくれることは……非常に喜ばしいことである……!

 

「戦争は何もかも、歴史すら焼いていきます。さっきの木原家住宅などがあった白市を見ても思いましたが……戦敗国でもある日本にこれだけ綺麗な街並みが残っているのは素晴らしいことですね。ドイツにも戦禍を逃れたバンベルグという街がありますが、あの街並みはとてもきれいなもので、何故かは分かりませんが、懐かしいものを感じることができる。冷たい鉄の子宮から生まれた私のようなものでも……」

 

枢軸国側であるドイツ……ドイツは戦禍によって焦土と化した……

が、そのいくらかはネロ指令……ヒトラー自身による、自国の焦土作戦によるものだが……

日本は陸続きになっていないのがせめてもの幸いか……本土はほとんど空襲で焼かれたのみ……

連合国の兵士が実際に上陸しての地上戦……そうなったのは沖縄くらいのものである……

 

「人が温かくいられるのは……人の腹から生まれたからじゃねぇ……例え人の腹から生まれようとも……そこに大切なものをすべて忘れてきたとさえ思える人間だっていた……だから、そんなところで卑屈になるな……」

 

「そうだな。私が温かく生きていられるのも師匠の手を取ったからだったな!」

 

ラウラにとってはそこが分水嶺……正しく人生の岐路……転機でもあった……

 

「恥ずかしい言い方をするな……さて、そろそろ小腹も空いてきたところだな、先生……?」

 

「時間もいいし、腹具合もちょうどよい塩梅だな……もうそろそろ見えてくる白壁造りの建物が、今から行く本庄という割烹料理の店だ……」

 

「割烹料理というのは初めてです。日本の料理は凝った、小綺麗なものが多いので楽しみです」

 

「そうだろうな、この店は内装から料理までこだわっている……それらを目で楽しみつつ、一杯やるのが最高だ……」

 

店の造りから、客室の細部……そして料理に至るまで実に綺麗に出来ている……

 

「(あんたの場合、酒が8割だろうが……どうにかして、一杯やる算段を考えたいところだが、どうしたもんかな……)そういやISに飲酒運転ってあるのか……?あるならあんたも……」

 

ここはひとまず道連れ作戦……千冬が飲めない理由でも探してみるが……

 

「ISが一般の道交法で語れるわけあるまい……言っておくが、飲酒運転を奨励などするつもりは断じてないからな……?」

 

作戦ならず……ISには当然様々な制約があるが……その項目に飲酒運転という文字はない……!

飲酒運転だめ、絶対……!

 



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夏休み編
各々初夏入


ドイツ

 

IS学園秘匿通信室、各国の代表候補生が本国と通信する際に使用される場所。そこにラウラの姿があった。その相手は……

 

「私に重大任務、ですか?」

 

「あぁ、そんなに重く受け取らないで欲しい。君はもうドイツの軍属を抜けて自由国籍となった身だ。本来伊藤カイジ君に言われたことから考えれば、私のような立場の者が君に連絡を取るのも好ましくはないのだが」

 

皆さんの記憶にはまだ新しいだろうか。通信相手はドイツ連邦国防大臣、テオドールブランクである。カイジから言われた「干渉は最低限に」という言葉を考えれば、国の重役が出てくるのは好ましくない。

 

「いえ、私も軍属を抜けて自由国籍まで得ましたがドイツの代表候補生です。当然ドイツとの連絡、親交は保たなければなりません」

 

ドイツから離れた身となったが、ドイツ人であるということまで捨てたつもりはない。出生や立場は特殊なものであったが、愛国心はあるラウラであった。

 

「うむ、そう言ってくれるとありがたい。君に頼みたい事というのは伊藤カイジ君のことなのだ」

 

「師しょ、伊藤カイジのことで、ですか?」

 

「君は当事者だから当然知っての事だと思うが、我がドイツはVTシステム事件に際して、国家危急の事態を彼の行動で救ってもらっておる。とはいえ、ドイツが国を挙げて彼を出迎えるようなことをすれば、当然周辺諸外国には良い顔をされんだろう。招き入れることもまた同様だな」

 

国際社会全体が男性操縦者の動向を窺っている。そんな中で自国へ招待などしたらどう思われるか。どう考えても自国だけが抜け駆け、引き抜きを行おうとしていると見られる。

 

「なるほど、して私は如何すれば?」

 

「7月に専用機の情報を持ち帰ることになっておるだろう?その時にうまいこと言って彼をドイツに連れてきてほしいのだ。私のような立場の者では問題が起こるが、あくまで学友である君が誘えば諸外国もやっかみを出しにくい。彼とは一度会って話をしてみたいものだし、ドイツに来たときにもてなしてくれとも言われておる。そして当日は厳戒態勢をしいて、警備は万全にしておこう。色々と秘密裏に進めることにはなるがね」

 

自国で拉致されては非常にまずい事態になる。場合によっては自作自演にされる可能性すらあるのだ。各国がスパイや破壊工作をこぞって行うだろう。それを考えると、自国の危機にもなりかねない男性操縦者を招こうとは、テオドールも何を考えているのやら。

 

「了解しました、ラウラ・ボーデヴィッヒ謹んでその任を受けさせていただきます」

 

「だから、言っておろう。そなたはもう軍属ではないのだ」

 

「いえ、しかし一代表候補生として国の大臣ともあろう方へ礼儀を失することは出来ません」

 

カイジとの出会いによって相応に柔らかくなったラウラであったが、彼女の素というか育ってきたものはそう簡単に抜けるものではなかった。

 

「まぁその頑ななところも、学校生活を続けていけばいずれ抜けていこう。では、申し訳ないが頼んだぞ」

 

「っは、分かりました」

 

そう言い通信を終了する。ラウラはどのようにして師匠、もといカイジを誘うか考え始めていた。

 

 

イギリス

 

ここはIS学園内のサロン。各国の学生を受け入れているIS学園には、各国に対応したサロンが用意されている。今回使用されているのはイギリス貴族や令嬢の好みそうな瀟洒な内装の一室。そうくればここを誰が利用しているかは……

 

「お、お話しというのは一体なんでございましょうか、ウェルキン先輩」

 

「そう固くならなくても大丈夫でしてよ。今日は世間話でもと思いまして」

 

そう、このお二人。セシリアとウェルキンの両名がお茶会を開いていた。以前のセシリア専用機剥奪事件の際、カイジをお茶会に招きたいと言っていたウェルキンであるが……

 

「は、はぁ。えと、こちらのスコーンはわたくしが焼いてまいりましたの。お茶会を開かれるとのことでしたので」

 

「あら、ずいぶんとお菓子作りが上手になられましたわね。においだけで美味しいことが分かりますわ。さて、お茶会なら件の伊藤カイジさんも交えて、と洒落込みたいところでしたが、今日は彼の事について少しお話があります。なのでご一緒に、とはまいりませんわね」

 

「カイジさんの、ことですの?」

 

ウェルキンが気にするようなことがあったかしら、と首をかしげるセシリア。

 

「えぇ、彼との仲の進展はどうなのですか?このお菓子も彼に食べさせるために練習されたもの、良い方向には進んでいますか?」

 

ストレート、フェイントも入れずまっすぐ直球に尋ねるウェルキン。

 

「う、その、カイジさんはあまりそういった男女の仲、その進展というものには一線を引かれているようでして……」

 

「彼自身の立場を考えればそれが正しい在り方だとは思いますけれど、伊藤さんはそれだけ、ということではなさそうですわね。いまこの学園には男性が二人、世界でも最も注目されている男性が二人。それらの動向は各国が気にするところです」

 

「はい、それは重々承知しております」

 

「わたくしも年頃の男女の交際、それも他者の色恋に口出しなどしたくはありませんし、年下の色恋は純粋に応援したい気持ちが強いのですが、老婆心ながらの忠告だけはしておこうと思います」

 

そう言われ、姿勢を改めるセシリア。ウェルキンはBT適性の低さ故に現状専用機を持つに至らないが、その腕前はセシリアを凌ぐ相手である。また、ウェルキンがセシリアへと本国からの通知を知らせに来たように、本国からの信頼も篤い相手である。

 

「先ほども言ったように彼らの動きは当然注目されています。イギリス本国でも先日のあなたの件、その時に伊藤さんの口添えがあったことは報告済みです。イギリス本国はどちらかといえば織斑さんよりも伊藤さんに興味を持っています。自国の代表候補生であるセシリアさんと関係は良好になり、あとは後ろ盾の存在がありません。織斑さんに関してはブリュンヒルデである織斑先生やIS開発者である束博士がそのバックにいます。もちろんそれらを手中におさめることができれば世界のイニシアチブを取れますが、各国を敵に回すような行為にもなります。最大の種である束博士は行動が読めないこともあり、仮に友好関係を結べたとしてもそれが保持される保証もない。ですが、伊藤さんにはそれがない。いずれにせよ、男性操縦者をその内に取り込むという行為自体が、諸外国からは良く見られないにしても、織斑さんよりは厄介ごとは少ない」

 

男性操縦者二人、それぞれの背景はまるで違っている。カイジ自身の背後にある物も相応に厄介なものだが、それらは世間一般に知られていることではないし表に出るようなことでもない。しかし一夏のほうは最早世間の一般常識というところまで浸透し切っている。背後にいるのがブリュンヒルデ、千冬だけならばまだそこまで面倒ごとでもないが、そこには束の影がちらついている。今現在の世界で最も厄介と目される人物である。

 

「(カイジさんを取り込むとしたら、それはそれで面倒事が……ある種のブレーンとして役に立つでしょうけど、それ以上の厄介事を抱え込みそうな気がしますわ……いずれにせよ、わたくしたちには個人単位での恋愛、というものは成り立たないのですわね……)やはり、上はそのように見ておりますのね。かくいう私もオルコット家の末裔としてイギリスの社交界を渡ってきました。故に家としての難しさから純粋な恋愛などというものが、そう叶わぬものであるという事はわかっておりますわ。願わくば純粋に、生きていきたいものですけれど」

 

「私たちのような貴族は正直に生きられない分、裕福に、贅沢に暮らさせてもらっておりますわ。領民の方々、という物言いはずいぶん古めかしいものですが、彼らの支えがあって私たちは豊かに暮らさせてもらってます。その分の責務を果たさなければなりませんわ」

 

彼女たちの考えの根底にある「ノブレスオブリーシュ」はイギリスの女優兼著作家、ファニーケンブルの手紙にある『貴族が義務を負う(noblesse oblige)』のならば、王族は(それに比して)より多くの義務を負わねばならない」というものが初出である。

 

「いずれにせよお家を捨てる、というわけには参りませんものね。私はどうあがいてもオルコットでいなければならない」

 

「私もウェルキンという名を捨てて、ただのサラとして野原を歩き回りたいものですわ」

 

「やはり家の名が重く感じられることがありまして?」

 

「十代の小娘が背負うにはずいぶんと大仰なものですわ。ただ、為したいことのためには必要なものです」

 

自らが多大な義務を負う代償として、裕福さや贅沢を手にしている。さらには、それらを使って何某かをなすこともできるのである。

 

「為したい事?」

 

「それは乙女の秘密ですわ。そう、あなたもなにか胸に秘めた秘密の何かを持たれてはいかがでしょう?恋心というものではなく、何かなしたいことを。秘密は女性を魅力的に写しましてよ。伊藤さんも振り向いてくれるかもしれなくってよ?」

 

「(私に為せる事、為したい事……一体なにがあるでしょうか……私の立場、オルコットという家、EUという枠組みの中にいるイギリス、女尊男卑のこの社会……)簡単には見つかりそうにないですわね」

 

「悩んで決めてこそ価値がありますわ。今の世界はIS登場以降ずいぶんと変わりました。女性が力を持つ社会となった。それも一部だけの女性が有している力を、みなが共有している形として、ね。その中の一部の人間としてどう動くか、その影響力は大きなものがありましてよ」

 

「ご忠告、胸に刻みますわ」

 

「それにしても、このスコーン本当においしく焼けていますわね。誰かのために頑張れる心があれば大丈夫です。大成することを祈っていますわよ」

 

小難しい話は終わり、あとはわいわいと女性だけの話で盛り上がった。

 

 

 

???

 

優秀なお姉ちゃんに追いつくために今まで頑張って来た。代表候補生になるために勉強もして訓練もして、専用機まで手に入れた。その専用機はいまだ完成していないけれど……なんで私はお姉ちゃんに追いつけないの。なんでお姉ちゃんは私を認めてくれないの、私だって、私だって……

 

『起動失敗。システム上にエラーを検出しました』

 

どうしてうまくいかないの?一体何がいけないっていうの?どうして、どうして、どうして……!

 

「もう、嫌だ……一体どうすればいいの……」

 

1人で無機質な整備室に居続けていると頭がおかしくなりそうであった。開発途中の、というよりは開発が凍結されたのだが……自身の専用機を受領して以来、放課後のほとんどをこの室内で過ごしている。延々とトライ&エラーを繰り返して少しずつ歩みを見せていた専用機の開発。だがここ数日、いや数週間は同じところを延々と、袋小路に陥ったかの如く繰り返す毎日であった。進展がなければより一層気が滅入るのは当然である。

 

「あれは、もう一人の……いいよね、何の苦労もなく学園から簡単に専用機が手渡されるんだから……みんながどんな気持ちで代表候補生になる努力をしてきたか……専用機を与えられるってことが、どれだけすごいことかなんてわからないのよ……」

 

しかし、一夏にせよカイジにせよ、それがわからないのも当然ではある。望んで操縦者になったわけでも、専用機を手に入れたわけでもない。一夏のほうは姉である千冬と同じ力、零落白夜を得たことを喜んではいるようだが……双方ともに頭ではすごいことだと分かっていても、それに対して感謝の気持ちを持つのは難しいことである。

 

「そういえば本音の監視対象なんだっけ?最近は本音とも疎遠になっちゃったな。私が避けているせいだけど……」

 

本音は生徒会役員として生徒会室に出入りしている。はっきり言って彼女自身はろくに生徒会の仕事はせず、お菓子を食べているだけなのだが……避けている理由としては、生徒会長である姉とのつながりがどうしてもあるということ、また本音自身は一応のところ整備士を志望しているため、なにかとあれば手伝おうとしてくるためである。

 

「これは私が一人で完成させないとだめなんだ。少しでもお姉ちゃんに追いつくために、認めてもらうために……」

 

少女は一人、整備室にこもり続けて作業を続けるのであった。

 



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独逸

夏休みはまずドイツ編から。おおよその筋書きがようやっと決まりました。そこそこ長くなるかな……


夏休み前のクラスの話題は、やはり夏のイベントである花火や海水浴、夏祭り。いつ行くのか、新作の水着はいつ買いに行くのか、浴衣は着ていくのかetc……女子高生初めてのひと夏、アバンチュールへの期待は相当に高いものであった。そんな中、ラウラに話しかけられたカイジ。ラウラの持ってきた話題は以前の依頼に関連してのことであった。

 

「師匠、話がある。以前ドイツのシュヴァルツバルトに興味があると言っていたな」

 

「一応俺の機体名らしいからな……で、それがどうしたんだ?」

 

専用機を得てすぐにした会話の中で、ラウラに黒い森がどんなところなのかを聞いたことを思い出すカイジ。ラウラはカイジが間接的にとはいえドイツに興味を持ってくれたことを密かに喜んでおり、しかと記憶していたのである。

 

「代表候補生、その中でも専用機持ちはそのデータを本国へと持って帰らなくてはならないのは知っているな。当然私もドイツへ戻るのだが、その時に一緒にドイツへ来ないか?なによりも日本の夏は暑い。シュヴァルツバルトは避暑地として最適だぞ」

 

「(ドイツ、か……一応恩は売ってあるし、万が一のボーデヴィッヒのこともある……あのおじさん、なんて言ったっけな……国賓待遇で出迎えて宴会開いてくれるとかなんとか……ビールと肉料理、悪くないな……待て、今の俺の状態で海外に出るってどうなんだ……?日本人でIS学園所属だから庇護されてるわけであって……だからこそ日本国内を歩き回れる……流石に海外に出たらまずいんじゃねーの……?)魅力的な提案ではあるんだがな、立場上そう簡単に海外へ行くってことは出来そうもない……今回は一人で帰ってくれないか……?」

 

「(やはりだめか。しかし、こんなときのためにクラリッサへ秘策を授けてもらっておいたのだ)じ、実はな、ドイツへ戻るのが少し不安なのだ……私の存在はドイツにとっては目の下のたんこぶ。なにがあるともわからないんだ」

 

ラウラ必殺の上目遣いに加えて、普段の勝気な彼女とは違ったちょっとした乙女らしさを演出してみせる。彼女の容姿と相まって不能やホモでもなければ大抵の男はその魅了に抗えないところであろう。

 

「(それを言われると俺も辛い……ラウラ自身の身柄を確保していることがこちらの強み……それを手の届かない、しかもドイツ国内に行かせるのはまずい……俺がついて行ったとしてどうにかなるか分からないが……とはいえドイツも自国内で……男性操縦者の内の1人に何かがあったとなればただでは済まないか……あとは保険として……)そうか、まぁ俺自身関わったことだからな……ついて行ってやるさ……あぁ、そうだ……織斑先生にも声をかけておいてくれないか……?前に色々とあってな……恐らく奴もついてくるはずだ……」

 

しかし、カイジはラウラ渾身の演技は目にも入れず、今ラウラの置かれた現状について考えを巡らせる。そして思考の結果に辿り着いた安全策、それは千冬を連れていくことであった。千冬が居れば自分もラウラの身も守れるという事に気が付く。

 

「教官に、だと?」

 

「まぁ頼んだぜ……あれでいてお前のことはずいぶんと……大切に思っているみたいだからよ……」

 

そう言い残してカイジは席を立って次の授業、ISの実技演習の準備ために更衣室へと向かっていった。

 

「きょ、教官が私のことを……それにしても」

 

一方残されたラウラはカイジの言葉、千冬がラウラのことを大切に思っている、という部分に頬を緩ませるが……

 

「師匠は、師匠は私の事をどう思っているのだ……?」

 

と、少し悲し気な表情で呟くラウラであった。

 

 

夏休みに入って数日後、ラウラがドイツ本国へと帰還する日になる。そして、ここは国際線JAMのファーストクラス内、そのリクライニングシートにゆったりと腰かけるのは、カイジ、ラウラ、千冬の三人。ラウラはちゃんと千冬へと話を通しており、千冬は二つ返事でラウラの誘いを承諾していた。

 

「それにしてもこの三人で旅行に出ることになるとはな……前の西條のときですらかなりのレアケースだったというのに……」

 

いつものスーツ姿に心ばかりの変装としてサングラスをかけた千冬。女黒服のような装いとなっていた。そしてその手に握られているのはワイングラス。中に注がれている赤紫色の液体は葡萄ジュース、などということはなくファーストクラス客のみに提供される高級ワインが並々と注がれていた。

 

「俺もあんたもこればっかりは乗りかかった船……いや、とっくに乗船済み、航海の真っ最中……途中で下船するわけにもいかねぇってこと……」

 

その千冬の隣へと腰かけているカイジ。その手にグラスは握られていない。ファーストクラスのVIP待遇といえど、ルールを無視しての飲酒は許されなかったようである。

 

「まぁ私も久しぶりにドイツの地を踏むのは悪くないがな……うだるような暑さの日本よりは……避暑地としてのドイツのほうがずいぶんと過ごしやすい……」

 

全体的に寒冷な気候帯で寒さの厳しい冬は苦手であったが、夏は涼しく過ごしやすいため避暑地としては最適であった。

 

「っへ、あんたが望んでるのは暑い中のキンキンに冷えたビールだろうが……」

 

「ほう、どうやらお前はドイツのビールというものを知らんらしいな……」

 

ドイツのビールはキンっキンっに冷えたビールではなく、ほぼ常温のぬるいビールである。カイジもビールが好きとはいっても、海外のビールの知識があるわけではなかった。

 

「なんだって……?」

 

「ま、ついてからのお楽しみだな……ほら、ラウラが退屈そうだ……子守は任せたぞ……」

 

グイっとグラスのワインを呷ってパソコンの電源を入れる千冬。夏休みとはいってもそれは学生の話。教師である千冬たちには夏休み、というものは存在しない。夏休みは夏休みで後期の授業日程を組んだり、課題の作成からISに関する膨大な量の書類の手続きなど様々な仕事に追われている。今回の旅行にしても暇だから来れた、というわけではないのである。

 

「師匠と教官は何の話をしていたのだ?こうして三人で来ているというのに、私一人ばかり仲間外れは寂しいぞ!」

 

ラウラは二人の会話が終わったのをみるや、すかさず話しかける。その声を聞いてカイジが首を向けた先には、すこしばかり頬を膨らませたラウラがいた。二人が会話をしている時、周囲には聞こえないような声量かつどこか入り込み辛い空気が醸し出されている。そのせいで会話に入っていけないのであった。

 

「悪かったよ……別に除け者にするつもりはねぇんだがな……それにしても海外に行くってのはこれが初めてだな、そういえば……」

 

特別貧乏というわけでもかったが、かといって海外旅行へ行くほど裕福な家庭ではなかったカイジ。これが人生初めての海外旅行である。

 

「師匠の初めて行く海外がドイツとは嬉しいぞ!シュヴァルツバルトは行くとして、どこか他に行ってみたい場所はあるか?」

 

「いや、特に下調べはしていないが……ラウラの行きたいところで構わねぇぞ……?」

 

「ドイツ出身の私が行きたいところへ行っても仕方がないだろう!せっかくの旅行だというのに、楽しもうとしなくてどうするのだ!」

 

カイジの返答はラウラにとっては不満なものであった。あまりに消極的、受け身であり、楽しもうという気概が感じられないのである。

 

「まぁまぁ……故郷に帰って来たんだ、行きたいところもあるだろう……?織斑先生の都合もあるから、ドイツにいられるのも3日間だけ……で、実際のところどうなんだ……?」

 

「一体何のことだ、師匠?」

 

ラウラは質問の意図が分からずに首をかしげる。

 

「俺をドイツへ誘った理由だよ……お偉いさんから俺を誘うように言われたか……?」

 

ラウラからの誘いを承諾した後、そもそも自分を誘ったことに疑念を抱いたカイジ。ドイツとの交渉を行いはしたが、自分自身には特に権力はない。正直なところ自分がついて行ったところで、ラウラを守り切れるものではないのである。そうなるとラウラが自分を、あのような理由で誘ったのは妙な事であると言えた。

 

「……師匠は私とドイツへ行くのがそんなに嫌なのか?」

 

「いや、別にそういうことを言っているんじゃなくて……」

 

「そうか、そうなんだな。確かに大臣からの依頼があったのは事実だ。どうだ、これで満足か!」

 

ラウラはふんっと、頬をむくれさせてそっぽを向いた。大臣からの依頼、という裏があった以上後ろめたい気持ちはある。しかし、純粋にカイジを連れてドイツへ行きたいという気持ちはあるのだ。そこの部分を丸無視されて裏を読まれてはたまったものではない。

 

「(まったくこいつは女心というものにはまるで無縁なようだな……とはいえ青少年たちの青臭い世界に首を突っ込むというのはな……)」

 

千冬は仕事をしつつも、二人の動向には耳を傾けていた。そしてカイジの何ともラウラの気持ちを理解しない言動を聞きつつ、内心呆れていた。

 

「おい、ラウラ……(一体こいつは何を怒っているんだ……?ラウラのいう心配事には充分な対処済み……俺だけじゃなくてブリュンヒルデもいれば百人力……それに国の大臣がわざわざ言い出したこと……それならそもそもラウラ自身の身に危険が迫ることもまずないだろうし……全くわかんねぇ……)」

 

完全に拗ねてしまったラウラはカイジの呼びかけに振り向きもしない。

 

「(うぅ、少し大人げないだろうか……?しかし、師匠が悪いんだ、私の気持ちも知らずに……うっ、私の気持ち?この胸のもやもやはなんだというのだ。何を私はそんなに怒っているんだ?こうして旅行ができるだけで嬉しいはずなのに)……」

 

ラウラ自身、なぜこうも不愉快に感じるのか、自分の中に生まれた感情に戸惑っていた。当初はこの三人でまた旅行ができる、それだけで満足だったのだが……

 

「(待て、待て待て待て……果たして私にはこんな時代があっただろうか……そして、私ならどう対応してほしいというのだ……?ISの操縦や戦闘技術についてならどうとでも教えてやれる……だが、このことばかりは私にも分からん……!なんて、なんていうことだ……臨海学校では偉そうな講釈を垂れていたがその実……新兵もいい所ではないか……!)……」

 

青少年たちが行違う最中、千冬は一人自らの過去に思いを馳せてへこんでいた。青春時代をバイトとISに費やした彼女には甘酸っぱい体験などなかった。

 

「……」「……」「……」

 

ここにいる三人、1人は博打に、1人はISに、1人は軍務に、その青春時代を費やしている。カイジの場合過ごした月日としては短いが、あまりにも濃密な時間、常人の何年分に値するかといった人生経験に、脳の大部分が焼かれているとも言えた。最早全員が全員、青春時代というものをかなぐり捨ててきた者たちばかりである。

 

全くかみ合わない恋に焦がれるトリオならぬ、恋の実らぬトリオ。この沈黙の、気まずい空気のまま飛行機は構わずドイツへと向かうのであった。



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独逸2

福本節で書くにはオリジナル部分は難しすぎる、というか状況が伝えづらい。それに加えて文字数があまりにも減るので普通の地の文で書きます。


何とも言えない気まずい雰囲気、空気の中で互いの動きを見張っていたが……

 

「(さて、女は度胸だ……だれにでも初めてはある……失敗を恐れていてはいかん……私が導いてやらなければ……)ラウラ、そう拗ねるんじゃない……伊藤も女子の扱いには慣れていないんだ……」

 

何やら覚悟を決めた千冬、沈黙を破り最初に声をあげる。この上なく頼りなさそうな船頭は一体どこへ舵を切るというのか。

 

「そ、そうなのですか……?」

 

そして、流石に教官の声まで無視するわけにもいかないラウラ、疑問符を浮かべつつ応える。

 

「なら是非ともご教授願いたいもんだな、教官殿……?」

 

いかにも大人びた風にして見せる千冬に対して、野良犬はすかさず噛みついた。

 

「(こいつめ、即座に突っかかりおって……)そ、そうだな。私の経験から言わせてもらえば、まずお前は女心というものを全く分かっていない……!」

 

経験、とは一体どこのところから来るものであるのか。一応のところ千冬にも青春時代に男子生徒から言い寄られる、ということもなかったわけではない。が、それに応対している暇は到底なかった。つまり、結局のところ経験と言えるものはない、のである。

 

「女心、ねぇ……そいつはたしかに一理ある……正直言って無縁の世界だったからな……」

 

「そうだろうな……お前は女に対する配慮が足りないんだ……まずはラウラがお前に対して……なんで怒っていたのか、それが分かるか……?」

 

とはいえ千冬も教師、未経験のことなれど筋道を立てつつ考えていく、という基本は忘れない。まずはラウラがなんで怒っているのか、それに着目させつつ話を展開していくことにしたようだ。

 

「(ラウラが不機嫌になったのは俺を誘った理由を聞いてから……)大臣から依頼があったということを隠しておきたかったのに……その裏を俺が読んだからか……?」

 

が、筋道を立てても駄目なものは駄目。理解できない事柄は結局理解できない。完全にずれたカイジの返答である。最初にラウラが不機嫌になったのは、もうすこし前のところからである。

 

「そういうことだ、依頼云々はなくとも……ラウラはお前自身についてきてほしかったのだ……自分に危機が及ぶ可能性があろうとなかろうと……女というのはみんな、守ってもらいたいものなんだ……だろう、ラウラ……?(私にも誰かに守ってもらいたい、と思っていた時期があったな……だが、周囲の大人たちはだれも……私たちを守ってくれようとはしなかった……だから私は束と共にこの世界の……)」

 

そして、教える側も教える側でずれている。一般論的な女は守られたい、という部分に着目したのは悪くはない。悪くはないのだが、今回の件でいえば要点はそこではない。

 

「う、そう、なのでしょうか……?」

 

そのためラウラも肯定しきれず、かといって自分にも分からぬ分野、分からぬ感情であるため否定もし切れない。そして、ラウラにとって千冬はいわば理想、到達点の一つでもある。そもそも、千冬の言葉を否定し切ることは彼女には難しかった。

 

「別にラウラのことを守ろうっていう気がないわけじゃねぇ……ただ、おれが出来ることにも限界はあるしな……それ故の教官殿っていうか……まぁなんにせよこれで心配することはねぇよ……」

 

「師匠が私の事を考えてくれているのは分かる、分かるのですが……(この気持ちはそうではない気がするのだ……私はただ師匠に……)」

 

自分はカイジに、その先の……その答えはラウラの中には出て来なかった。

結局、気まずい空気のまま飛行機はドイツへと到着することになったのであった。

 

 

結局のところ気まずい雰囲気のまま、3人を乗せた飛行機はドイツ南部にあるシュトゥットガルド空港へと到着した。VIPである一行は一般客とは違う場所へと案内され、空港内を進んでいく。いくつかのゲートを超えた先、扉を開けて待っていたのは……

 

「「Willkommen in Deutschland Bruder!(ドイツへようこそ、お兄様!)」」

 

そう言ってカイジたち一行を出迎えたのは、ドイツの民族衣装ディアンドルを身に纏った少女達。何を隠そうシュヴァルツェア・ハーゼの隊員一同である。お兄様、という呼び名をだれが決めたかのかは、周知のことであろう。

 

「お、おい、なにを……」

 

いきなり美少女に取り囲まれたカイジ、流石に動揺は隠せない。敵意も全くなく無邪気、遠慮なく群がられる。自身に思惑ある者や敵意を抱く者には敵意を返せばいい。しかし、セシリアやラウラの事から見てわかるように自分に友好的に来る相手、それも女となれば対応の分からぬカイジであった。

 

「これが噂の元隊長の……」「思ってたよりもさえない感じぃ~?」「でもでも、こう見えてすっごい切れるんだよ、きっと!」

 

無遠慮に体に触れてくる黒兎達。中には背中に飛び乗る者、腕に胸を押し付ける者まで様々である。彼女たちに押しやられたラウラは、離れた位置から黒兎に群がられるカイジを眺めることになった。

 

「(こいつら全く遠慮がないっていうか、初対面でなんでこんなに馴れ馴れしいんだ……それに流石にこれは、厳しい……!)」

 

カイジも男、一条からもらった高級会員制クラブのカードを破り捨てはしていても、あの時は意地もあったし淫蕩に耽る状況でもなかった。言ってしまえば全く女性に興味がない、というわけでもない。ギャンブルに脳を焼かれていたとしても男である。ただ過去の経験と今の女尊男卑という情勢から、学園内では女性に対して慎重にならざるを得なかったのである。

 

「(う、うぅ、あんなだらしない顔をして!私では、私ではダメなのか?私のこの体では……!)」

 

ぺたぺたとつるぺたな自らの胸元を両手で叩きながら悔しそうに臍を噛むラウラ。隊員の中でも何故か差があって、発育に恵まれている者はいる。昔は胸などあっても邪魔なだけ、軍人として生きる自分には必要ないと考えていたものだ。しかしこうなるとカイジの背中で自由に形を変えるあの大きな脂肪の塊が、なんとも憎たらしく見えるのであった。

 

「(あ、やばいよ、元隊長の顔が)」「(あぁ~、あれは確実にきてるね)」

 

ラウラの顔を見た隊員の数人が危険を察知したのか、すっとカイジの体から離れていく。しかし、背中に飛び乗っている娘は少しばかり鈍いのか、そのことに気付かずカイジがうろたえる姿を楽しんでいた。そこへ……

 

「師匠!!」

 

「っうぉ……!急に耳元で大声をだすなよ……」

 

何故だか敬礼して脇に下がった黒兎の間を通り、カイジの元へたどり着いたラウラの怒号が響き渡る。元々はあまり感情の起伏が激しくないラウラであるが、飛行機内の事、不明な胸のもやもやとした何か、そして、何よりもあのだらしのない表情に、ずいぶんと揺さぶられたようである。

 

「私は専用機を研究所へ届けて来る!明日のシュバルツヴァルトでの会食までは別行動だ!それではな!」

 

最早カイジの反応すら待たず、ラウラは背を向けてつかつかと出口へと向けて歩いていく。

 

「あぁ!元隊長待ってください!」「ごめんなさい、調子に乗りました~」「私たちは元隊長のほうの護衛なんです!」

 

「えぇい、私に護衛などいるか!誰もついてくるな!私なら平気だ!」

 

そこへと寄って来る黒兎達を振り払い、扉の向こうへと消えていったラウラであった。

 

「一体なにを怒ってんだ、ラウラは……それに会食って……?」

 

「これが今はやりの鈍感系主人公というやつですね!さすがは日本男児、いや、作品が日本男児の在り方に合わせているのか?うぅむ、深い!」

 

ラウラを見送りながらも、クラリッサは相変わらずであった。

 

「何言ってんだ、あんた……?」

 

「いえ、戯言です。お聞き流しください。さて、改めて挨拶を。Guten Tag、私はクラリッサ・ハルフォーフ大尉。ボーデヴィッヒが隊長を務めていたシュヴァルツェア・ハーゼ部隊の現隊長です。会食については後で説明いたしましょう。これよりハーゼ部隊は、あなた方の警備の任につかさせていただきます」

 

そう言い握手を求めて手を差し出すクラリッサ。その姿を見た黒兎達はさっきまでのはしゃぎっぷりが嘘のようにさっと彼女の後ろに控えて整列をする。

 

「あ、あぁ、よろしく頼む……俺は伊藤開司だ……で、ラウラのことはいいのか……?」

 

「実際のところ専用機持ちであるボーデヴィッヒが相手にできないとなると、ハーゼ部隊員がいても正直どうにもなりません。護衛する必要がないという意味でなく、ISに限りがある現在では有効な護衛が付けられない、といったところでしょうか(というよりは、ドイツ国内において危険性もないのですが、ね)」

 

「そうかい……まぁあんたらも分かってるとは思うが……今のラウラに手を出すことは、男性操縦者と更には……ここにおわすブリュンヒルデに手を出すことと同義、だからな……?」

 

その言葉に納得し切ったわけではないが、確かにクラリッサのいう事には一理ある。ラウラの腕前を良く知っているカイジとしては、敵にISが出てこない限りは、あるいは出てきたとしてもそうそう敵になることもなければ、逃走すらできないということもないはずである。とはいえ、脅しをかけておく必要はある。

 

「それは我々一同心得ております。国の危急とボーデヴィッヒを救ってくれた恩人に、また我々の教官に弓引くほど恩知らずではありません。ただ命令としてだけではなく、誇りを持ってこの任務を遂行することを誓います」

 

敬礼をするクラリッサに倣って、黒兎達もカイジと千冬に向かって敬礼を行う。年頃の少女達とはいえ、相応以上の訓練を受けてきた彼女たちの切り替えは早いものである。

 

「まず本日は我々の宿舎へ来ていただきます。少々質素なものにはなりますが心を込めてもてなしましょう」

 

「俺は別に構わねぇよ……質素な食事には慣れてるからな……最近はずいぶんと良い食事ばかりだが……」

 

最近ではセシリアの料理の腕も上がっており、時折調味料の加減などを間違えることはあれど、十分においしいといえるものになってきている。なによりIS学園の食堂の食事はカイジからしてみれば相当にレベルが高く、学生相手には贅に沢を尽くしたものであった。

 

「(前にぽろっと漏らした柿ピーの欠片を分け合うとか何とか……酒の席での与太話ではなかったということか……?だが、例えそれが真実だとしても……今の日本でそんな生活を送る人間などそうそういるはずもない……それに伊藤はやせ細っているわけでも、栄養状態が悪い訳でもない……そこまで食うに困った生活を送っていたとは思えんが……?)ハーゼ部隊のつくる芋料理はおいしい。そうだ、明日にでもラウラにクヌーデルが食べたい、とでも言ってやれ……それだけで機嫌もよくなるだろう……」

 

地下生活の食事はずいぶんと質素なものではあったが、栄養バランスが悪い訳ではない。むしろ過酷な肉体労働を伴う仕事に従事させる以上、そこの部分には気を使われていると言っても過言ではない。使い潰しても問題はないが、借金分はせめてもで働かせなければならないし、安価な労働力というのも貴重ではあるのだ。食事を良くした方が、食費を削るよりも儲けに繋がるのである。衛生条件や医療条件は最低限度のものではあったが……

 

「(ナイスフォローです、教官!そこに、毎朝、を付け加えれば完璧だったのですが、そこまではお節介というものでしょう)ボーデヴィッヒの作るクヌーデルは絶品ですからね。さて、出発するとしましょう」

 

「あぁ……って、周りの奴らはどこに……?」

 

カイジがハーゼ隊員から目を離していたのは数秒のことであったはずだが、いつのまにやら姿を消している。護衛につく、といった人間が消え失せているのだからカイジが疑問に思うのも当然だが……

 

「あの人数がいては否が応でも目立ってしまいます。今からの道中、通り過ぎる人の顔をよく見ていれば、見た顔があるかもしれませんね」

 

木を隠すなら森に、人を隠すなら人混みに、黒兎達は普通の服装をしていればどこからどう見ても一般人の少女である。鍛えられた者特有の目配りや歩きはある者の、それを隠せないほど未熟でもない。

 

「なるほどね……ここに要人がいますよって知らせながら歩くことになるもんな……じゃあ俺も……」

 

そういってカイジは帽子とサングラスを取り出す。これは会長との勝負で借金を負い地下に送り込まれるまでの間、帝愛から身を隠すために使用していた変装グッズである。

 

「(またなぜそのようなものを……単純に今回のために用意したものか……いや、伊藤の荷物をまとめた際にあったはずだ……つまり、誰かから身を隠す必要があった、ということか……全く謎だらけだ、こいつは……)」

 

変装などして身を隠す、などという事は通常の生活を送っていればまずないことである。自分のように有名人になるか、なんらかの犯罪を起こしたか……カイジの言葉を拾い、千冬は徐々に徐々に推論を組み立てていく。いつの日か、千冬がカイジの真相に辿り着く日は来るのか、否か……

 



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独逸3

遅くなりまして申し訳ございません。



「さて、会食について説明しておきましょう。明日、シュヴァルツバルトのホテルでブランク大臣との食事会があります」

 

黒兎隊の基地へと向かう車中、対面に座るクラリッサがカイジへと話しかける。先ほどカイジが質問した会食の事についての答えのようだ。

 

「そう、あのおじさん、テオドール・ブランク、だったっけ?あいつがラウラに俺の事を連れてくるよう頼んだわけか?」

 

「(ドイツの主柱でもある連邦大臣に対して、おじさん、あいつとは、なんともはや。ここは一応話を濁しておきましょうか、いえ、あのVTシステム事件の状況を打破し、彼と交渉したほどの人物。迂闊な発言で猜疑心を揺り起こすべきではありませんね)そうなります。警護の任務も彼から直接下されたものです」

 

「(いつか飲み交わしたいとか言ってたし……大臣という立場から誘いをかけるのも難しいから……ラウラを利用しただけ、か……?敵意がないなら問題はないか……まぁ俺としても後ろ盾とまではいかなくても……有事の際に頼れる人間……それもしかとした権力を持っている相手は欲しい……織斑先生は最近じゃ協力的だが……それでも俺のバックになってくれるわけじゃないからな……)そうかい、真意はわからねぇけど……ラウラも口止めされてるわけじゃなさそうだったし……裏はなさそうだな……」

 

結局のところ、千冬が協力的なのもラウラやデュノアの事があるからだとカイジは考えている。自分個人の危急の際に千冬がどれだけ動いてくれるか、それは定かではない。それを言えば国の大臣ともあろう人物が、個人のために動けるかは全く不明ではあるのだが……

 

「(ラウラ殿の口からすでに聞いていましたか。その上で私にそう問いかけるとは性質の悪い……はぐらかさなくて正解でしたね。それにしても彼女の口から聞いた、とは。なんとなくではありますが、彼女があそこまで不機嫌になったことにも関連がありそうですね。あのようないたいけな少女を惚れさせておいて罪なものです)大臣も色々とお考えの事はあるでしょうが、何らかの陰謀めいたような、そういった裏はないと思われます」

 

クラリッサとしては、VTシステム事件に男性操縦者偽装事件、更には福音暴走事件と何かと不穏当なこの時期、情勢の折に何を考えているのか、と思わないでもない。しかし、テオドールは黒兎部隊の創設にも深く関わっているし、切れ者でもあるため迂闊な疑問など口には出せないのであった。

 

「そうかい……で、あんたたちの基地とやらにはどれくらいで着くんだ?」

 

「もうさほど距離はありませんよ、大体2~30分くらいでしょうか。ところで、国外での専用機持ちに対する制限事項についてはご存知でしょうか?」

 

「そこのところは私から説明してある。装備にもテーザー銃は格納済みだし、国外でのIS展開に関する要項も……ちゃんと、覚えているな……?」

 

「緊急事態以外での無断展開は……厳罰に処される可能性があるってやつだろ……?」

 

こうなると酒蔵探訪録での行動に色々と問題が出てくるが……そこはそれ、ということにするか、バレなければ無問題ということにしておこう。また、IS学園内は治外法権とでもいうべき領域である。

 

「その緊急事態、というものの中身が私の問いたい問題なんだがな……まぁいい、念のため解説しておこう……攻撃ないしは自分の身に危険が迫る可能性がある場合は部分展開まで、明確な攻撃や危険がある場合には完全展開が許される……完全に不意の攻撃から身を守るための……防壁部分展開は常時可能、こんなところか……」

 

防壁部分展開とはISの絶対防御機構のみを発動させた状態の事を指す。ISの装甲が展開されていない分、なんらかの攻撃を受けた場合はほぼ確実に絶対防御が発動してSEをそれなりに消費はするが、それでも不意の一撃、例えば遠距離からの狙撃などの致命的な一撃から身を守ることが出来るようになるのである。そして、テーザー銃。これはISに搭載されている武器での攻撃は、対人間に使用するには余りにも強力すぎ確実に殺害してしまう上に、周囲へも甚大な被害を及ぼすために配備されたものである。いくらISが奪われそうになったり襲われたと言っても、実際のところ自らは絶対防御に守られ命の危険はまずない。その状態では最早私人による虐殺と変わりがなくなるのだ。

 

「防壁は当然展開してある……ほんとに便利な機能だよな、死をまるで意識しなくていいなんてな……」

 

「まぁこんな機能でもなければ専用機持ちなどそうそう外を歩けたものではないし……そもそも特定の施設外にISを個人で持ちだすなど、まずできないだろうがな……」

 

「(我々も特殊部隊として要人警護の数々はこなしてきましたが、これだけ替えのいない相手の護衛というのは初めてです。正直荷が重いと言いますか……しかし、絶対防御があるおかげで心持ちは楽になりますね。もちろん毛ほども油断する気はないのですが。)展開し忘れ、などということはない様にお願い致します。さて、間もなく基地が見えてきます。一旦お荷物など置かれてから外出するとしましょうか」

 

「(外出、そういえば行きたいところを一つだけ決めてあるんだが……果たしてこの教師が許してくれるものかどうか……目を盗んで抜け出すってのは俺につく監視の量や質から見ても厳しいだろう……どうしたもんやら……)自由行動は、ありなのか……?」

 

この男の行きたい場所で、かつ千冬が許してくれそうにない場所、といえば大方察しはつくであろう。賭博場、カジノである。そもそも今のカイジの年齢で入れるのかどうかが問題だが……

 

「目の届く範囲でなら、と言いたいところですが……できれば行先などは事前にお伝え願います。自由に動かれてはさすがにほころびが出ないとは言えません。いくらISの防壁部分展開があるとはいえ、何が起こるとも知れません」

 

「そ、そうか……まぁ考えとくよ」

 

「いえ、あの……考えておくとかではなく、絶対にお願いしますよ?」

 

カイジの返答に不安を覚えたクラリッサは念押しをする。考えておく、では困るのだ。

 

「ドイツでなら酒は16歳以降から飲めるぞ……?私も教師として大っぴらには言いたくはないが……ここでなら別に隠れてこそこそ飲みに行く必要もあるまい……?」

 

わざわざ秘密にしようとすることならば飲酒のことだろう、そう考えた千冬がカイジの説得にかかる。

 

「(教官殿、その言い方だとまるで日本では隠れて飲んでいるのをさも知っているような……っは!まさか実は二人で酒を飲みあうほどの間柄に!?これはいけません、あまりにも強力すぎるライバルですよ、ラウラ殿!)」

 

「(そっち側で読まれたか……まぁ突拍子もなく俺がギャンブルに行きたいと考えてるなんて思いつくわけもねーか……いや、併設されているバーに行けば……!)あ、あぁ……ちょっと調べてたら気になるところが見つかってよ……」

 

「お前にもプライバシーというものはある……無用な詮索はしない……が、一人で出歩かせるわけにはいかん……余人はあずかり知らぬところだろうが、各国の情報畑の人間たちは確実に今回の訪独については掴んでいる……ドイツ国内での細かい行動まで把握できているものは少ないだろうがな……」

 

動いただけで情報になり、価値がある……一躍時の人となったカイジ、一夏の動向は色々な立場の組織に監視されている。そのどれもが好意的と言えるものではないだろうことは想像に難くない。

 

「(ちょっと前までとは大違いだ……賭け事で命を落とそうとも……地下に送り込まれようとも……誰も気にかけない……そんな俺の動きがだれぞに監視されてるなんてな……いや、帝愛の奴らには監視されてたっけな……)俺みたいなクズの動きを把握するために……躍起になってる奴らがいるなんてご苦労なこった……」

 

「お前はやたらと自己評価が低い様だが……それを口にする際には気を付けるんだな……私自身はお前を育てたわけでもないし、そんなことに怒るほど青臭くもない……と、言いたいところだがやはり言っておこう……」

 

「どんなありがたいお言葉がいただけるっていうんだ……?」

 

「まったくその捻くれたところを……いいか?お前を評価している人間は少なからずいる……ラウラ、オルコット、デュノア……それに私自身も、だ……お前の過去に何があったのか……それは私の想像を超えたことなのだろう……その時にあったことがお前自身を決定付ける因子になっているのかもしれないが……精神世界でラウラに言ったことを覚えているか……?人生はいつだってやり直せる……素直にいい言葉だと思ったよ……だが、お前がそんなことでは……その言葉の重みも無くなるというものだ……」

 

「……」

 

「ラウラの精神状態は不安定だ……信奉するものが私という武力から、お前の……お前の……何かは知らぬが、信奉の対象が変わってすこしはましになったが……それでも未だに、安定している状態とは言えん……ラウラのためにも、お前自身も過去を振り払い……前進してみせろ……(これも試験管ベビー、強化人間たちの特徴なのか……信じるべきものがあるというのはいい……だがそれへの依存が強すぎるがゆえに危ういのだ……)」

 

千冬の言うことは最もである。ラウラが助かるために必要だったことだが、言った手前の責任もある。今回の事態ではラウラは国を捨て今までの生き方をも捨て去った。窮地は救ったからあとは自由に頑張れでは無責任にもほどがある。そこのところのフォローは本来なら千冬のような大人、教師の役目ではあるが、だからといって投げ出していいというものでもなかった。ラウラを取り巻く環境があまりにも特殊であったことが、そのことへさらに拍車をかけている。

 

「教官の言う通りですね。あなたはラウラ殿の大切なものを奪った男なのですから、その責任というものをとらなければいけません。そのためにも……」

 

「待て待て待て……おい伊藤……!大切なものを奪ったとはどういうことだ……!ラウラにはまだ早いだろう……!?私ですらまd……」

 

「おや、私の言ったのはラウラ殿のドイツ国籍のことですが……そうでした、教官殿も国籍を失ったことはありませんでしたね。えぇ、私たちの会話に齟齬はありません(語るに落ちるとはこのことですね、教官。かくいう私も童t、処女でね。英雄たるに必要な資質、史上においても処女性とは云々かんぬん……)」

 

したり顔をして腕組みをしながら頷くハルフォーフ、それと対照的にカイジに食って掛かっていた千冬は顔を赤らめて、俯いたまま震えている。

 

「……ハルフォーフ大尉、久しぶりに私自ら直々に特訓をつけてやろう。種目はそうだな……100本組手がいいだろう、ISなんて使わず体一つでかかってこい……!」

 

「いえ、あの、私には警護の任務がありますので、特訓はまた別の機会に……」

 

「わざわざドイツ軍基地にいる時を狙ってくることはあるまい……それに伊藤のことは他の隊員達に任せておけばいいさ……警護に支障は出ない程度に加減はしてやる、ふふふ……」

 

逃がすまじと肩をがっしりと掴んで笑いかける千冬。だがその目は全く笑っていない。

 

「(あぁ、地雷原でタップダンスしてしまいました。私は明日の朝陽を拝めるのでしょうか)オテヤワラカニオネガイシマス……」

 

自らの運命を悟ったハルフォーフは、虚ろな瞳で明後日の方向へ視線を向けるのであった。

 




公式外伝がまさかの地球外生命体だったので好きにやることに決めた。独逸編では現実世界の時事ネタを参考にしたストーリー展開でやっていきます。分かりにくい所は適度に補足を入れられたらなぁと思います。

独自設定として防壁部分展開、国外でのIS使用の規定を盛り込みました。


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カイジ、虎視……!

楯無はとある屋敷の一室にいた。その目の前にはゆったりと椅子に腰かける男。そして、その斜め後ろには付き人と思しき黒服の男が控えていた。

 

「最近伊藤開司の動向を調査しているようだが、それは君の仕事ではない。元々の職分に戻りたまえ」

 

「私はIS学園の生徒会長として生徒のことを把握し、安全を保たなければなりません。特に男子生徒二人は各国家、女性権利団体など色々な組織の注目の的です。その身柄を確保しようと様々な策謀が蠢いています」

 

入国管理局にも目を光らせている更識家の情報部。不審な入国者はISの発表後増加傾向にあり、今年が最も多くなっている。

 

「君が気に掛けるべきは一人目の男子生徒なのだよ。そしてもっと言ってしまえば男子生徒そのものというより、その関係者の心情に目をむけるべきなのだ」

 

男性操縦者というものは非常に重要な存在ではあるが、その後ろ盾が非常に重要である。一人目の影には開発者の束にブリュヒルデの千冬がいる。一方二人目のカイジにはなにもないのである。

 

「織斑千冬と篠ノ之束に、ということですか」

 

「ISが幅を利かせているこの世界において最も重要な二人だ。特に博士のほうはどのような行動をするか予測もつかん。彼女の心証を悪くするようなことは避けたい」

 

現状篠ノ之束に連絡が取れる人間は表向き存在していないことにされている。しかし、どの国家機関においても織斑千冬と妹の篠ノ之箒は彼女への連絡網を持っていると踏んでいる。また、表の世界の人間は一夏の専用機である白式に、束が関係していることを知らない。そのため一夏のことは箒の幼馴染で束の知り合いか?程度の知識しかないものである。しかし、裏の世界の人間はそのことを知っている。そうなると話は全く違ってくる。他人に興味を抱かないという人格破綻者の束がわざわざ専用機に関わっている。それは無視できないことである。

 

「……」

 

「ともかく、君が自ら二人目のことについて動く必要はない。彼の事は布仏の家のものが見ておるのだろう?それだけで充分だ」

 

「彼女はISを持っているわけではありません。男性操縦者が二人とも専用機持ちになった以上、相手もISを出してきます。その時に彼女だけで対抗し切れると?」

 

ISにはISでしか対抗できない、というのが現在の世界の常識である。

 

「そうなったときはそうなったときだ。ISコア反応を辿れる以上、各国家ではISは出して来れまい」

 

「問題は亡国機業です。かの組織は複数のISを所持していると思われます。現状確定できるのはアラクネのみですが……」

 

「彼の周りには他国家の代表候補生、専用機持ちがいるではないか。特にドイツの専用機持ちはレーゲン型で1vs1に強い特殊兵装もある」

 

「(そうまでして私を伊藤開司に近づけたくない理由があるとでもいうの?ドイツの候補生は確かに軍人で、例え3年生でも彼女に敵わない人間はいるけれど……本当に何か裏があって、その腹を探られたくない何者かがいる。でも対外的に警護をまったくしないというわけにもいかない。そのパフォーマンスのために布仏が選ばれた、と。ならもう本音に調べさせるしかないわね。彼女も色々と感じ取っている部分はあるようだし、なにより仲良くやれている。布仏の家は要人警護が専門で調査は不得手だけど……)分かりました、では織斑一夏のほうのIS操縦技術の鍛錬を行います」

 

何故本音や虚のような少女が、と思われるかもしれないが、IS登場以降の世界ではとかくお偉方、要人となる人間には女性が多い。そしてそこに来て女尊男卑ともなれば、女性VIPの警護には女性を、となるわけである。

 

「そう、それでいいのだ。今の学園の状況、伊藤開司が花を持っている状況を、織斑千冬も篠ノ之束も快く思っておるまい。大切なのはバランスだ。どちらかに偏りすぎるのは良くない」

 

「(せめてもでイーブンには持っていきたいってこと?とはいえ一般学生たちの評価、どちらが人気かと言われれば織斑一夏の方。伊藤開司の関わって来た事件である所属不明機、VT事件、福音事件。それらの情報はすべて操作されている。物理防壁の降りたアリーナ内部の様子を知る生徒は私のようなごく一部しかいない。そんな状況だというのに、そうまでして二人のご機嫌を窺いたいのかしらね?全く狂ってるわ)それでは、失礼します」

 

一礼して部屋を後にした楯無。背を向けたあとの表情は苦り切っていた。

 

 

楯無が居なくなった後の部屋に残っていた黒服と上役、その会話。

 

「彼女はどう動くでしょうか?」

 

「表向きにはこちらの命令を守って、伊藤開司との接触は控えるようになるだろう。しかし、なにがしか更識ではないもの、となればもう決まっているようなものだが……布仏を動かすだろうな。だが布仏家と更識家が通通なのは把握しているし、両家の実力も知っている。更識の情報部さえ使えなければどうということもない。彼女たちにはおままごとをさせておけばよい。もとより、更識の情報部も改竄された情報しか所持してはいないがな」

 

「ならばなぜそこまでして、彼女を関わらせまいとしているのですか?伊藤開司の手と耳には傷跡が残っていますが、それも表の病院で事故によるものとして処理されています」

 

「物事は何事も慎重に、だよ。そして自分の領分を超えたことに興味を持たない方がいい。でないと……」

 

男はそう言いながら懐へと手を差し入れる。それが意味するところは……

 

「はい?」

 

「いや、なんでもない。ともかく黒服がお偉方の意向を知ろうとするなんて真似はしない方がいい。言われたことを忠実にこなしていれば良いのだ」

 

この男がなにがしかをしなかったのは、気まぐれ故か。しかし、男からはどこか剣呑な雰囲気が漂っていた。

 

「わ、わかりました」

 

その空気を感じ取ったか、慄きつつも頷く黒服であった。

 

 

 

「さて、簪ちゃんのほうはどうしてるかしらっと」

 

生徒会室の奥に設けられた仕事部屋へと戻り、モニターに電源を入れる楯無。そのモニターに映ったのは妹の簪が整備室で日課の専用機開発を行っている姿だった。

 

「まだこもりっきりなのね。私自身一人でISを組めた訳でもなし、実際のところアクア・ナノマシンの構想と基本骨子を組んだくらいなんだけど」

 

楯無自身が一人でISを組み上げたなど噂が独り歩きしているにすぎない。ISの技術系統は非常に多岐に渡る。それを一人で組み上げるなど束自身にしかできない芸当である。とはいえ、アクア・ナノマシンのほとんどを組み上げたというだけでも、十分に賞賛されることではあるのだが……

 

「簪ちゃんが伊藤君の方に近づいていく?苦手意識というか、どちらかと言えば嫌いなほうだったはず……」

 

簪が男性操縦者2名に良い思いを抱いていないことを楯無は知っている。一夏は自分の専用機開発を頓挫させた相手、カイジもまた男性操縦者ということで専用機を手に入れている。代表候補生ならば怒りの感情の一つも抱くなという方が難しい所ではある。実際のところカイジのほうは冤罪に近いのだが……

 

「しかし、これは厄介というかなんというか……簪ちゃんが自らの興味本位で彼に近づくのを止めることは出来ないし、どうしたものかしら」

 

楯無としてはカイジにある何かを突き止めたいという興味があった。しかし、上から釘を差されている以上この事は慎重を要するし、そのことに簪を近づけたくないという思いもあった。

 

「まぁ簪ちゃんの現在の状態は健全なものとも言えないし、彼と関わることで何かしらの変化があるのは悪くない、か」

 

楯無の中にはカイジが関わったセシリア、ラウラ、シャルロットの3人の事があった。セシリアとラウラは性格や思想的なもの、シャルロットは自らの境遇そのものが激変している。本音からの報告を勘案すれば、確定的にカイジがすべてのことに関わっていると見ていい。セシリア更迭、VT事件、そして男性操縦者偽装事件の3つ。所属不明機襲撃事件の折も渦中にいたのだが、その情報のほとんどは秘密裏に処理されていた。

 

「本音にうまいこと動いてもらうしかないわね。あの子なら簪ちゃんとカイジ君の間を取り持つこともできるし、なにより私の意向を汲んで危険からは遠ざけてくれる」

 

カイジが持つ背景というものはまだ皆目見当もつかないが、暗部の上のものが釘を差してくるほどのものとなれば一定のラインを超えないように注意しなければならない。それを本音に押し付けるのも酷な話ではあるのだが……

 

 

一方、整備室では……

 

「……?」

 

どこかから感じる敵意を含んだ視線……ISのハイパーセンサーを起動して周囲を窺う……

 

「(あれは確か4組のクラス代表で……日本代表候補生の更識簪とか……さらには姉貴が生徒会長でロシアの国家代表……血統からしてエリート姉妹ってのは違うのかねぇ……それにしてもあいつ自身に何かした記憶もないんだがな……いや、まさかな……)」

 

敵対的な視線を向けられる覚えもないカイジ……流石に昔と違って簪のことを刺客と勘違いはしない……!

 

「(しかしこの状況……人気のない格納庫……ここなら不慮の事故死を容易に演出できる……警戒しておくに越したことはない……!)」

 

内心では物騒なことを考えつつ……簪の出方を窺うカイジ……

それを知ってか知らずか近づく簪……そしてカイジへと話しかける……

 

「ねぇ、あなたはISを……専用機持ちになるっていうことをどう思っているの?」

 

「(いきなり話しかけてきてなんだ、その質問……?お互いに見知りはしてても自己紹介したこともねぇってのに……)別に……俺なんて所詮体のいいモルモット……それに対してどうもこうもねぇだろ……あんたらエリート女にとっては……かけがえのないステータスなんだろうけどよ……」

 

専用機持ち……それは最高ランクに位置するステータスの一つ……

 

「私は、エリートなんかじゃない……」

 

「……?俺の記憶に間違いがなければ日本の代表候補生で専用機持ちだろ、あんた……どこをどう見たってエリート様じゃねぇかよ……それともそのくらいは普通のことってか……?」

 

「そうじゃない、私は……私は認められないといけないの……あの人が、あの人こそがエリートなの……」

 

簪の中にあるのはただ一人……その相手から認められることだけが重要であった……

 

「(また厄介そうな奴……なんでこう一癖も二癖も抱えたような奴ばっかりなのかね、この学園は……とりあえず話題を逸らすか……)まぁあんたの事情に深入りするつもりはねぇ……そうだ、俺もあんたに一つ聞きたいことがある……」

 

「私に、聞きたい事……?」

 

「あんたの戦いの映像……それを見てると死角、ハイパーセンサーには死角はないが……人間なら反応のし辛い背後や上下……そこから来る攻撃にもあんたは正確に対応していた……」

 

クラス対抗戦に出てくる相手……その試合映像はもれなく見ていたカイジ……

特に代表候補生ともなれば専用機の有無に関わらず……相手になるべくもない……

元々の地力のある相手……さらに専用機のような癖のない訓練機……

これが実のところカイジにとって……最も勝ち目の無い相手とも言えた……

クラス対抗戦の折には特に鈴の甲龍の対策を練っていたカイジ……

だがその実、他のクラス代表相手には……対策の練り様がなかったのである……

 

「私の試合映像からそんなことまで分かったの……?それにしてもなんで私のことなんか……」

 

「俺にとってはクラス対抗戦に出てくる奴ら全員……正直相手にするのは厳しい状態だったが……その中でも厄介そうなのはあんただった……」

 

簪の情報並列処理能力の高さ……それは学園全体で見ても非常に優秀……

IS操縦者の多くはハイパーセンサーから来る情報……その多くを処理しきれない……

それ故に奇襲や奇策……付け入るスキというものも生まれてくる……

カイジからして、簪は隙の少ない相手……という分析であった……!

 

「そうやって、見てくれる人もいるんだね……」

 

「あんたにとっては自分の強みとするところかもしれねぇが……なんかコツとかってあんのか……?」

 

「さぁ、私も意識したことがあるわけじゃないからうまく言えないけど……ただ私がしているのは、インターフェイスやインプットされる雑多な情報を整理させてることくらいかな。不要な情報は入る前に遮断しているの」

 

いくら簪が情報処理に優れていようとも限界はある……

その意味で簪は自分の持つ能力……それが最大限発揮できるように工夫していると言えた……

 

「俺にはその情報の取捨選択ってのができねぇが……参考になったよ、ありがとな……それともう一つ気になってたこと……その打鉄みたいな機体はなんなんだ……?ずいぶん前からその機体を弄ってたと思うが……そいつを動かしてるところをみたことがねぇ……」

 

なんだかんだで訓練をしているカイジ……整備室への出入りも頻繁である……

 

「これは、この打鉄二式は私の専用機なの……開発が凍結されちゃって、途中から私が開発しているの……」

 

「(開発が凍結……?それを途中からとはいえ一人で開発って無謀……無茶もいいとこだろ……)開発してた会社が倒産か夜逃げでもしたわけ……?でもそれならあんたの手元に普通行かないよな……」

 

開発が凍結したならしかるべきところに保管……あるいは別の会社が開発を行うか……

いずれにせよ限りある貴重なコア……それを泳がせておくのは解せないことである……

 

「倉持技研、この子を開発してた会社は今も存続してるわ……」

 

「(くらもち、倉持……どっかで聞いたような……どこで聞いたのかね……あ、織斑の機体の会社だったな、そういえば……なるほどね、男性操縦者の機体を開発できるってなれば当然そっちへ行くよな……こいつにとっては不幸だが、相手が悪い……男性操縦者の情報を得るために、デュノアのような奴が来た……それだけ重い……その価値は……)悪いな、ISの開発会社なんてのには詳しくなくてよ……どっか別会社に依頼するってことはできないのか……?未完成のままじゃデータ集めもできないだろ……?」

 

シャルロットが来たのは第三世代機の情報もあるが……

黒幕が欲していたのは……男性操縦者の情報と見ているカイジであった……

 

「この機体のコアの所有権は倉持にあるの。だから私の勝手で他の会社に持ち込むなんてことは出来ないわ。それに倉持にはデータ収集にうってつけの人材がいるから……」

 

ISコアの数に限りがある以上、その数は厳密に管理されている……

IS委員会、各政府ともに管理下での開発・研究が行われるように法整備を行っている……

ISコアはブラックテクノロジーの塊……パンドラの箱でもあるのだ……!

 

「(またこれ以上話すと厄介なとこに入り込みそうな話題……そのうってつけの人材……それがいれば、コアの一つを泳がせていても痛くもないか……とはいえ、俺はその人材に興味はないぜ……)あんた自身の手で開発する以外ないってわけか……まぁ、頑張れよ……いずれ出来るときが来るさ……」

 

簪もまた無意識に救いを求めているのか……話題が自身の闇へと向いていく……

だがそれを躱しながら……背を向けて立ち去ったカイジであった……

 




話をはぐらかせて全然ストーリーが進んでない〇


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