比企谷君と虜の魔女 (LY)
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第一話

基本的には最初に高校一年生での話、次に高校二年生での話と言う感じになります


高1 

 

 

 

「あなたが比企谷八幡ね」

 

 

たとえば、もしゲームのようにひとつ前のセーブデータに戻って選択肢を択び直せるとしたら

 

 

「喜びなさい」

 

 

人生は変わるだろうか?

 

 

「あなたを私の部下第1号にしてあげる」

 

 

 

 

答えは否である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

高2年 

 

 

 

林間学校と言えば学校でのイベントでもっとも大きいといっても過言ではない一大イベント。

 

 

はっきり言って修学旅行と何が違うのかは全くわからんが取り合えず学校外でのお泊りだ。

 

 

林間学校前はクラスの奴らがうるさくなり、正直うざい。

だがそんなことはどうでもいい。問題は他にある。

 

 

そう

 

 

班決めである。

 

 

「はい、じゃあこの時間は林間学校の班決めにします」

 

 

クラスの担任の先生がそう言った瞬間、クラス連中がいっせいに動き出した。

仲のいい奴と班になるために皆さん必死で頑張っておられる。

 

 

やっぱりボッチ最高、頑張らなくても班決まるしね。

 

 

余った人と…。

 

 

「男子4人、女子4人で一班になります。男女の組み合わせはくじで決めます」

 

 

ただでさえ男子ともまともにコミュニケーションがとれないのに女子とも同じ班になるとは、恐悦至極だな(白目)。

 

                  

まあ、どっちにしても誰とも関わらないだろうしあいつ以外ならだれでもいい。

 

 

 

 

二十分ほどたつと男子、女子の4人グループが決まってきた。

 

 

俺はいかにも冴えないメガネ君と冴えないノッポ君に声をかけられてそこに入った。

 

 

クラスに男子は19人なのでこのグループだけ3人。たぶんこのクラスで一番地味な男子グループになっただろう。

 

 

「では、くじ引きを始めたいと思います。グループで一人くじを引きにきてください」

 

 

二人のどっちかにまかせるつもりだったが、メガネ君にはなしかけられた。

 

 

「比企谷君いってきてよ」

 

 

なんで俺が?とも思ったが断わるのもめんどくさく、少しは働くことにした。

 

 

「ああ、わかった」

 

 

教卓にくじがありそれぞれ番号が書いてある。

うぇいうぇいうるさい奴らからしたら好きな女子と一緒の班になれるかどうかの大切なくじだ。

 

 

「3」

 

 

俺が引いた数字を言うと、先生が黒板に書いていく。

まだ女子の方は3番がでていないようだった。

 

 

班なんて本当にどうでもいい。しいて言うならうるさい奴らとは一緒になりたくないが、まだそれも我慢できるだろう。

 

 

 

だができればあいつとは同じになりたくない。

 

 

 

せっかく落ち着いた感情がまた不安定になる。

 

 

 

「3番」

 

 

 

そんな願いもむなしく後ろから彼女の声が聞こえてきた。

 

 

教室からはうわぁ~と、残念がる男子の声をあげる。

そりゃそうだよな、こいつ顔はいいし。

 

 

「じゃあよろしくね」

 

 

「…あぁ、よろしく」

 

 

少しぶっきらぼうになったが、軽く返事をした。

 

 

「全く、運がいいのか悪いのか…」

 

 

 

 

こうして、高2の俺はまた小田切寧々と出会った。

 

 

 



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第二話

高1

 

 

「ちょっと何で無視するのよ!」

 

 

 

放課後、日直の仕事で教室に一人残っていた俺は知らない女子生徒に話しかけられた。

 

話しかけてきた女子は何故か俺の名前を知っていて、ご親切に部下第一号にしてくれるとのことだ。

 

 

......完全に変な奴だな。

 

 

 

「いや、初対面で何言ってんの?」

 

 

「…...確かにそうね、とりあえず自己紹介するわ。

私の名前は小田切寧々よ。二年生になればこの朱雀高校の生徒会長になる名前だから覚えておくといいわ」

 

 

そこまでは聞いてねえよ。何なら名前も聞いてないし。

 

 

「そうか、じゃあボッチに優しい学校を作ってくれよ。

それじゃ、俺はこの辺で」

 

 

カバンを持って教室から出ようとしたら制服の襟を掴まれた。

 

 

「待ちなさい。まだ話は終わってないわ」

 

 

ちょっと、首しまったんですけど。

 

 

「それでね、生徒会長になるにはまずは副会長にならないといけないわけよ。

まあ、副会長にならなくても無理ではないかもしれないけど、副会長は次代の生徒会長候補として扱われるからなっておいた方がいいじゃない?

ああ、副会長は毎年一年生から二人までなれるらしいわ。でも生徒会に入りたい奴なんてたくさんいるから簡単には入れないのよね」

 

 

ペラペラペラペラずっと一人で喋ってるけど帰っていいかな?

 

 

「そこであなたよ!」

 

 

どこでだ?全然聞いてなかったわ。

 

 

「成績も良くしておこうと思うけれどボランティア活動や周りからの人気も得ていたいのよね」

 

 

たぶん、副会長になる時に他より有利になっておきたい的な話か。

 

 

「で、何で俺なわけ?」

 

 

「そんなの暇そうだからに決まってるでしょ」

 

 

こいつマジでなんなの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

高2

 

 

 

「それでは今日はここまでにします」

 

 

終礼が終わり今日の学校がやっと終わった。

6限目の数学は眠すぎて爆睡してしまった。まぁ、聞いても分からないからべつにいいけどね☆

 

 

特に学校でやることもはないので、帰る準備をしていたら小田切がやって来た。

 

 

「ねえ、林間学校で一応班行動の時間あるでしょ。

その時どうするか今から相談しましょ?」

 

 

後から知ったが林間学校では班でご飯を食べたりレクリエーションに参加したりで、結構めんどくさいらしい。

 

 

「俺はいいわ、てきとうについて行くから。

他の班の奴と決めてくれ」

 

 

「何言ってるのよ、比企谷だって班のメンバーなんだから一緒に考えなさいよ」

 

 

こいつはボッチが話の中に入れないって知らないのか?

 

 

「…すまん、用事あるから帰るわ」

 

 

どちらにせよ話に参加する気のない俺は小田切の誘いを断り、文句を言われながらもその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*

 

自宅にて

 

 

 

「ただいま」

 

 

靴を脱いでリビングに入ると小町がソファーでくつろいでいた。

 

 

「おかえりー、おにいちゃん。今日も帰ってくるの早いね」

 

 

「特にすることないからな」

 

 

「ふぅーん、一年生の時はそうでもなさそうだったのにね」

 

 

マイシスターよ、痛いところを突いてくるな

 

 

「まぁ、いいや。それより来週修学旅行でしょ!お土産ちゃんと買ってきてね」

 

 

どうでもいいが修学旅行じゃなくて林間学校な。

家でも林間学校の話とか、みんな林間学校好き過ぎだろ。

 

 

「いいけど。何買ってくればいい?」

 

 

「う~ん、やっぱりお兄ちゃんの思い出が一番のお土産かな。

今の、小町的にポイント高い」

 

 

満面の笑みで楽しそうに言ってくる。

それ言いたいだけでしょ。あざと可愛いから許しちゃうけどね。

 

 

「分かった分かった。メガネ君やノッポ君とUNOでもしてくるから」

 

 

「えー、そんなんじゃだめだよ。せっかくなんだから女の子と遊んできてね」

 

 

「MURIです」

 

 

「はぁ~、どっかにお兄ちゃんの面倒見てくれる可愛い子いないかな~」

 

 

「まぁ、2Dの世界にはいるんじゃね?」

 

 

「おぉ、神よ!この哀れなゾンビに修学旅行で女の子との出会いを!」

 

 

小町はソファーの上で立ち上がり、神様に祈る。

 

 

「どうでもいいけど、修学旅行じゃなくて林間学校な」

 

 

 

 

この時は全く気にしていなかったが

 

 

 

このバカみたいなお祈りが、案外叶ったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 



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第三話

感想くれた方ありがとうございます


高1

 

 

「情報によると、あなたは友人いないし恋人もいない。あと目が腐ってる。

そんな可哀そうなあなたを部下にしてあげようって言ってるのよ。

この私が生徒会長になるためにね」

 

 

誰の情報だよ。あと、目の事は言わないでくれる?気にしてるんだから。

 

 

「と言うか、何で部下が必要なんだ?一人でやればいいじゃねえか」

 

 

「あなた話を聞いていなかったの?

ボランティア活動での役割分担、敵の情報集め、それに他にも仲間を増やしたいのよ」

 

 

「言いたい事は分かったが俺が手伝うメリットがないな」

 

 

「フフフ、その点に関しては大丈夫よ。

手伝ってくれるならこの私が友達になってあげるわ」

 

 

 

…そろそろ帰りますか。

 

 

「更に、もしそれなりに仕事の効率が良ければ、私が会長になったとき秘書にしてあげるわ」

 

 

「秘書?そんな役職もあるのか?」

 

 

「ええ、この朱雀高校での生徒会長は絶対的な権力を持てるけれど仕事はなかなかの激務らしいのよね。

それで、会長を直々サポートするのが秘書よ」

 

 

ほーん、この学校の生徒会長ってそんなにすごいのか。

 

 

「で、どうするの?やる?それともやる?」

 

 

「それYES以外選択肢ないんですけど」

 

 

「そう、分かったわ。それじゃあ明日から早速行動開始するからまた放課後にね!」

 

 

そう言って小田切は嬉しそうに教室を出て行き、あっという間に俺はひとりぼっちに戻った。

 

気付けば彼女との会話で時間が結構過ぎており、日直の仕事をしていたことなど忘れかけていた。

 

 

うるさくて嵐みたいな奴だな、と彼女がいなくなってから思う。

 

 

......まぁ嵐が去ってくれて嬉しいが、

 

 

 

「俺、やるって言ってねえんだけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

高2

 

 

日曜日、俺は家からそう遠くないデパートにやって来た。

 

昨日の夜に来週の金曜日に行く林間学校のしおりを見ながら持っていくものを用意していたら、バスタオルやら歯磨きセットやらがないのに気が付いた。

 

バスタオルは家にあるのをもっていってもよかったが、家にあるのはもうくたびれているし新しいのを買って来いとマザーに言われたので、遥々ここに来たと言う訳だ。

 

 

 

デパート到着から約20分、すぐにお目当ての物を見つけて買い物は終わり、思っていたよりも早く用事がすんでしまった。

 

相変わらず効率だけはいいな、俺。将来社畜になりそうで怖いぜ。

 

 

そんなくだらない事を考えていたら、あることを思い出した。

 

 

「そういや、ラノベの最新刊でてたっけな?」

 

 

冴えカノ、詩羽先輩超かわいいよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本屋にて

 

 

「あれ、比企谷君じゃないか」

 

 

ラノベコーナーをうろうろしていたらどっかで見たことある奴に声をかけられた。

 

 

「…なんだ玉木か」

 

 

「つれない反応だね。僕と君の仲じゃないか」

 

 

玉木真一、イケメンそうに見えるがよく見るとそんなことのない残念ボッチ。

たしか生徒会長になるために現生徒会長にいいように使われている。あと、こいつは魔女から能力を奪える魔女殺しだ。今は透明人間の能力を持ってるだとか。

 

 

…俺は一体誰に説明してるのん?

 

 

ちなみにこの情報は聞いてもないのにペラペラ本人が話してくる。

 

 

「用がないならもう行ってもいいか?」

 

 

「まぁまぁそう言わずに、せっかく会ったんだからフードコーナーでライトノベルについてでも語ろうじゃないか。いつもの図書室のように」

 

 

「勝手に記憶を捏造するのはいいが、3回くらいしか図書室で話してないからな」

 

 

基本無視してるし…。

 

 

「僕の最近のおすすめは‘ヤンキーの俺がメガネの女を好きになるはずがない’。

略して“はがない“さ」

 

 

全然きいちゃいねえし、それに“はがない“は友達少ない奴だろ。

 

 

 

そんなこんなで玉木にまとわりつかれながら書店を出て行ったら、またもや偶然の出会いがあった。

 

 

「あら?比企谷じゃない」

 

 

全く、今日はもう疲れているのに…。

 

 

「…小田切」

 

 

小田切寧々。虜の魔女でクラスメート。

 

 

 

高2の俺たちは、ただのクラスメートだ。

 




ちょっとしたやまじょの説明


朱雀高校には魔女と言われる不思議な力を持った生徒がいる


魔女殺しとは魔女の力が効かない人の事で、玉木は自分の事を魔女殺しと言っています



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第四話

高1

 

 

あれから何だかんだ文句を言いながらも小田切とつるむようになった。

 

 

「やっぱり、副会長になるには優秀な成績をとっておいた方がいいわね」

 

「まあ成績良くて損することはないだろうな」

 

「後は今の副会長がどんな人でどこが良かったのかなどの情報が欲しいわね」

 

「直接聞きに行ったらいいんじゃねえの?」

 

「それと生徒会のメンバーで誰かと仲良くなっておきたいわ」

 

 

まぁこの通りてきとうに相槌を返しているばっかりだが。

 

「あんたも働きなさいよ」

 

「ん?俺は特にすることなさそうだが?」

 

「安心しなさい、明日の放課後にある校庭の草刈りのボランティアに私のと一緒に申し込んであるから」

 

「小田切さん、マジですか?」

 

「マジに決まってるでしょ。人数多い方が早く終わるから助かるわ」

 

 

これはさぼっても文句を言われないやつですね。

 

 

「それに、話し相手がいた方が楽しいでしょ」

 

「…ちっ、しゃあねえな」

 

 

しぶしぶ承諾すると小田切はクスクス笑いながら言った。

 

 

「あなた、文句を言いつつもやってくれるわよね」

 

「ただの気まぐれだ」

 

「そう?でも私、比企谷のそう言うところ結構好きよ」

 

「そーですか」

 

 

ここで“あれ?こいつ俺の事好きなんじゃね?”って思う奴は三流だ。

一流ボッチのハートはこの程度では砕かれない。

 

ちなみにダイヤモンドは砕けないと言う言葉を聞いたことがあるかもしれないがダイヤモンドは普通に砕けるらしいぞ。

 

 

 

「探したぞ小田切」

 

 

小田切と会話していると急に後ろから声が聞こえてびっくりした。

 

 

「あら、潮君」

 

 

後ろを見てみると結構背が高いメガネをかけた男がいた。

うむ、なかなかのイケメンだ。さぞかしモテるのだろう。

 

 

リア充は○ね!っとどこかの隣人部の部長なら言うだろうが、俺はその程度のことでそのような汚い言葉を吐かない。

 

 

......いや、本当にちょっと背が高くて眼鏡が似合っててイケメンな位な位じゃあ俺はイライラしたりしない。

 

 

本当にちっとも羨ましくないし......。

 

 

 

......。

 

 

 

リア充は○ね!

 

 

 

「紹介するわ、この人は五十嵐潮君。で、こっちは比企谷よ」

 

「こいつが比企谷か…、五十嵐だよろしく」

 

「はぁ、どうも」

 

 

 

......ふむ、小田切の仲間か。

 

 

 

 

この前小田切を嵐の様だといった気がするが、また一つ嵐が増えちまったな。

 

 

 

五十嵐だけに(ドヤ)。

 

 

 

……。

 

 

 

…くだらねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

高2

 

「ふぅ~、とりあえずはこんなもんね」

 

 

土曜の夜、来週にある林間学校の荷物をキャリーケースに詰め込み終わり、少し休憩する。

最近は何かと忙しいのよね。生徒会の仕事をメガネ(会長)に押し付けられたり、生徒会長になるために親衛隊のメンバーを増やしたりで。

 

 

ブツブツ文句を言いながらリビングにジュースを取りに行くと弟がお風呂からでてきた。

この子は小学6年生でもう一人中学3年の弟がいる。

 

 

「ねーちゃん、風呂空いたよ!」

 

「ハーイ、今から入るわ」

 

 

少し疲れていたので丁度いい。そう思って着替えを取りに行く時に思い出した。

 

 

「あぁ、荷物にバスタオル入れてなかったわね。あと歯磨きセットも…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはどうゆう状況だ。

 

 

 

 

今、俺はデパートのフードコーナーで三つ椅子のある丸形のテーブルの一角に座っている。

隣には玉木、もう一方には小田切が腰かけている。

 

 

「小田切君、少し空気を読んでくれないか。僕は比企谷君と話があるんだ」

 

 

偉そうに言ってるけどラノベの話なんだよなぁ。

 

 

「アーラ、あなたこそ空気を読んだらどうなの?

私は比企谷と話があるのよ」

 

 

小田切の方は何の話か知らないがどうせろくなことないだろう。

 

 

「そもそも、なんで君がここにいるんだい?こんなところで油を売っている暇があれば生徒会の仕事でもして会長のポイント稼ぎをした方がいいんじゃないのかい?

まあ、生徒会長になるのはこの僕だけどね」

 

「うるさいわね、来週の林間学校のためにバスタオルと歯磨きセットを買いに来たのよ。

あんたなんかに言われなくても仕事は完ぺきにこなしているわ。それに、私を支持する親衛隊のメンバーも増えてきているし、このままだと私の圧勝で生徒会長になるでしょうね」

 

「「………フフフ」」

 

 

こいつら二人とも生徒会長の座を狙ってたな。あと宮村と言うイケメンを入れた3人が今期の生徒会長候補だろう。

どうでもいいけど向こうで話してくれないかな?俺関係ないから。

そして地味に買い物リストかぶってるし。

 

 

「まあいいわ。それより比企谷、あなたも私の親衛隊に入らないかしら?」

 

「…いや、遠慮しとくわ」

 

「そうそう、比企谷君は僕の味方だからね」

 

 

あんな変な奴らの一員になるのはごめんだな。

 

 

「別に遠慮しなくてもいいわ。今のうちに入っていたら私が生徒会長になったとき何かと得するかもしれないわよ」

 

「ボッチはどの集団にも属さないんだよ。

それに俺いてもいなくても大差ないだろ」

 

「そうそう、比企谷君には僕がいるからね」

 

 

さっきから横の奴うるせえな。

 

 

「そう…、じゃあ今日はこの辺にしとくわ。

……どうせいつでも仲間に入れれるしね」

 

 

それじゃあね、と言って小田切は立ち去って行った。

 

 

さっき小声でボソッと付け足された言葉の意味を俺は理解している。

小田切は虜の能力を持つ魔女、相手を能力にかければ簡単に言うことを聞かせられるだろう。

 

 

「全く、いやな女だね。

だが彼女が言っていた通り親衛隊とか言う連中の数も増えてきているし、やっかいな敵だ。

どうやって倒そうか?」

 

 

小田切が立ち去ってから玉木が口を開いた。

 

 

「俺に聞くな、自分で何とかするんだな」

 

「…相変わらずつれないね」

 

 

はぁ、とため息をして、玉木は何かを考える。

 

 

「…僕が思うに、彼女は魔女の力を持っていて、

それであれだけ自分の支持者を増やしていると思うんだ」

 

「ほぉ、面白い考え方だな」

 

 

まぁ実際その通りなんだが。

 

 

「だからもしこの考えがあったっていれば、彼女から能力を奪えば勝ったも同然というわけだ」

 

「そうだな、おめでとさん。

 

それじゃあそろそろ俺も帰ろうかな」

 

 

そう言って席を立とうとしたら玉木に止められる。

 

 

「少し待ってくれ、まだ話の続きがある」

 

「なんだよ、まだあるのか」

 

「たださっきの作戦には問題があってね。

君は知っていると思うけど、僕は生徒会長に頼まれて既に能力を持ってるんだ」

 

「ああ、透明人間だろ」

 

「そう、この能力は僕も気に入っているんだよ。

つまり他の魔女の能力は奪えない、そこで君に頼みがある」

 

「断る」

 

 

もう嫌な予感しかしない。

 

 

「もし彼女が魔女の能力を持っているなら君が奪ってほしい。

 

 

 

僕と同じ“魔女殺し”の力を持つ比企谷八幡君」

 

 

 

「そんな事だろうと思ったよ」

 

 

玉木が言っている通り、玉木の能力では一人の魔女の能力しか奪えない。

 

 

だからもし小田切の能力を奪いたいのなら、俺に頼むのは当然のことではあるが、

 

 

「断る。そもそもお前らの勝負なんだから自分で何とかしろ

俺は帰ってプリキュア見る」

 

「そんなぁ~、頼むよ比企谷君」

 

 

そして今度こそ席を立ち上がり、帰ることにした。

 

 

 

 

そもそも玉木にこんなに絡まれるようになったのも、あいつが俺と同じ能力を持ってるって知ってからだったな。

 

 

…山崎先輩め、余計なことしやがって。

 

 

「頼むよ比企谷くーん」

 

 

 

「…」

 

 

 

「無視しないで!透明人間の能力なんてかけてないでしょ!」

 

 

 

「…」

 

 

「比企谷くーん」

 

 

 

もちろんこの後何度も頼まれたが、すべて無視した。

 

 

 

 

 

 



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第五話

高1

 

 

五十嵐と会ってから数か月、特に大きなことはなかったが五十嵐は結構いい奴だということが分かった。

ちなみに五十嵐は小田切の事が好きっぽい。

 

 

そして季節が変わり、今は夏の真っ最中である。

 

 

夏と言えば海!!

 

そう、今俺がいる場所は!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では比企谷君、この二次関数の頂点はどこかね?」

 

「…わからないです」

 

 

朱雀高校のクラブハウスだ。

 

 

“もぉーマジで数学は無理だって~、もぉーまじ、ほんとマジだから~“っと俺が今どきのギャルなら言ってしまうくらい数学は分からん。

 

何で今どきのギャル風に考えたのかも分からん。

 

 

「では山田くんは?」

 

「…分からないっす」

 

「では姫川君」

 

「…わ、わかりません!」

 

「では大塚君」

 

「…見たことないです」

 

「見たことはあるでしょ!」

 

 

そろいもそろってポンコツである。

 

 

朱雀高校は成績がよろしくない者は夏にクラブハウスを合宿所とした補習合宿があり、追試で80点以上取らないと帰れないらしい。

 

俺としたことが、このことを知らずに数学のテストに挑んでこの様である。

 

数学の補習メンバーは全員で6人。大塚率いる漫研の3人、姫川とか言うおっとり系のドジっ子、不良で有名な山田、ボッチなので全く有名じゃない俺。

 

 

ちなみに補習中に姫川と山田は仲良くなったっぽい。

 

 

 

全く、補習の分際で色気付きやがって。

 

 

なめんな、勉強しろ!

 

 

 

 

 

そして俺は一匹オオカミ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルッブルッ、ブルッブルッ

 

夜、合宿所の部屋にこもって勉強してるとスマホが震えだした。

どうやら着信のようだ。

 

 

「はい、もしもし」

 

「こんばんは、小田切よ」

 

 

そう言えば携帯番号交換したな。

 

 

「補習どうなの?帰ってこれそうかしら?」

 

「いや、もうちょいかかると思う」

 

「はぁ~、比企谷がそこまで数学苦手なのは計算外だったわ」

 

「現国はトップクラスだからいいんだよ」

 

「よくはないでしょ。

…それより、ま、前に話した約束覚えているかしら?」

 

 

急に声が裏返ったな。

 

 

「前?どれくらいまえだ?」

 

「な、夏休みまえに話したやつよ」

 

「ああ、あれね」

 

 

そうそうあれあれ。

で、なんだっけ?

 

 

「ちゃんとおぼえてるのね!」

 

 

嬉しそうなところ申し訳ないが分かりません。

 

 

「じゃあそのことだけど、あなたが合宿終わってからでいいかしら?」

 

「ああいいぞ。詳しいことはまたメールしてくれ」

 

「わかったわ。早く合宿終わらせるのよ」

 

 

じゃあと言って電話は切れた。

 

 

何の約束か知らないが、てきとうにハイハイ言って約束してしまったのだろう。

 

どうせまた生徒会長になるために頑張るわよ!的な事だな。

 

とりあえず早く補習から抜け出したいので数学の教科書を読み始めたが、それから30分後。

 

ブルっと一度だけスマホが振動した。今度はメールの様だ。

 

 

 

[FROM 五十嵐 潮]

小田切と二人でお祭りに行くのは本当か(怒)?

 

 

 

 

 

…身に覚えがありませんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

 

 

高2

 

 

はぁ~

 

パトラッシュ、僕もう疲れたよ……なんだかとっても眠いんだ…。

 

バスに乗ってから早二時間、全然つかないじゃん。到着する前から家に帰りたくなったわ。

マイラブリーエンジェルの小町たんに会いたいよ。

 

 

「ねぇ比企谷、酔い止め持ってない?」

 

「何だ?酔ってきたのか?」

 

「まぁ、ちょっとだけね。今まではこんなことなかったのに」

 

 

それは俺が隣に座ってるからじゃないですよね?

 

 

「ほれ」

 

「ん、ありがと」

 

 

一応持ってきておいて正解だったな。

 

まぁそれより…

 

 

「小田切よ、なんで隣にすわっているんだ?」

 

「…別にいいじゃない。私が隣だと何か問題でもあるのかしら?」

 

「いや、いいけど」

 

 

周りの男子からの目線が嫌だけどな。

 

 

「んじゃ、俺音楽でも聞いて寝るから着いたら起こしてくれ」

 

 

カバンからスマホとイヤホンを取り出して準備をする。

 

こう言う時は変な行動はせず、静かに時の流れを待つべきだ。

 

 

「あら、くちづけダイヤモンド聞いてるの?以外ね」

 

 

ひょいっと頭を傾けて俺のスマホをのぞき込む。

 

 

…近い。

 

 

「私もスマホに入れてるのよね」

 

 

酔い止めはまだ効いていないと思うが顔色がよくなってきた。

割と元気だな。

 

 

「皆さーん、そろそろ到着でーす」

 

 

やっとついたか。

 

 

「はぁーついてしまったか」

 

「何で嫌そうなのよ?」

 

「俺ホームシックだから。いや、妹シックだから」

 

 

「…妹シックって何よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅館 松の宿

 

 

とりあえず今日は旅館でゆっくりして明日は川で遊んだりバーベキューしたりで楽しむらしい。

 

 

どうせ暇になるし本などを持って行くか。

 

丁度この前に買っておいた‘ヤンメガ’(ヤンキーの俺がメガネの女を好きになるはずがない)をな。

 

 

 

 

 

コンコン!

 

この前買った本で無駄にテンションが上がり始めたとき、部屋のドアがノックされた。

 

 

この部屋のメンバーは俺、メガネ、ノッポ。

客が来るとは思えないが、いったい誰だ?

 

 

「どちらさんだ?」

 

「やぁ~比企谷君。遊びに来たよ」

 

 

お前かい、玉木。

 

 

「何だ、部屋に友達いなくて気まずいから逃げてきたのか?」

 

「い、いやだなぁ~、そんなことあるわけないじゃないか~」

 

 

こいつ分かりやすっ。

 

 

「全く、友達いない程度でなさけねえな。

一流ボッチは気まずくならないように空気になるもんだぜ」

 

「言ってて悲しくならないのかい?」

 

 

なりません(泣)。

 

 

「それより、1階でお土産売っていたんだけど見に行かないかい?

どうせ暇しているのだろう」

 

 

そういや小町に何か買ってやらんといけなかったな。

 

 

「…ふむ、行きますか」

 

 

 

 

 

そうして玉木と1階に来て、色々見回ったが、

結局てきとうなお菓子を2箱買って済ませた。

 

 

「2箱?比企谷君が自分の家以外にお見上げを買うなんて…」

 

 

何か玉木がぶつぶつ言ってる。

 

 

「まさか……

 

 

僕にくれるのかい?」

 

 

ほざけ。

 

 

「お世話になった先輩に持っていくんだよ。

そろそろ会いに行きたいしな。」

 

 

「へー、そうかい」

 

 

自分のじゃないと分かった瞬間から興味ゼロの様だ。

 

 

「じゃあ、これは僕からのプレゼントだ」

 

 

そう言って見たことないキャラクターのキーホルダーを渡してきた。

 

 

「…おぉ、さんきゅ」

 

 

あんまりプレゼントとか貰ったことないからちょっと感動しちまった。

 

 

「ちなみに、僕のとおそろいさ」

 

 

ドヤ顔で言ってくるけど、その情報はなかなか嬉しくない。

 

 

「…気持ちは嬉しいが、やっぱり返そうかな」

 

「ふっ、相変わらずのひねデレさんだね」

 

 

俺の嫌気など気にもせず、変な造語で返してくる。

 

まぁせっかくもらったプレゼントだから大切にするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、ホントに僕へのお土産はないの?」

 

 

 

「ねぇよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アニメ 山田くんと七人の魔女のオープニングのくちづけDiamond

歌もとっても好きですが、アニメで流れている時の絵がとても好きです。

見たことない方は良かったら見てみてください。



魔女帽子をつけた魔女たち可愛い




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第六話

高1

 

夏休み終盤

 

 

「お兄ちゃん出かけるの?」

 

「ああ、ちょっとな。夜飯いらないって言っといてくれ」

 

「いいけど、ご飯食べに行くの?」

 

「まあそんなところだ」

 

 

へ~と言いながらじろじろ見てくる。

 

 

「お兄ちゃんが外食なんて珍しい…、しかもこんな時間から行くなんて」

 

 

ムムム、と悩んでいる小町も可愛いがそろそろ行った方が良さそうだな。

 

 

「それじゃ行ってく「まさか、お兄ちゃん!」…ん?」

 

「…夏祭りに行くんじゃ?」

 

 

あらら、バレちまった。

 

 

「別にいいだろ、なんでも」

 

「まさか、女の人と?」

 

 

無駄に鋭いマイシスターの前で嘘を言っても意味がないので、正直に白状することにした。

 

 

「…成り行きでな」

 

「うおっしゃーーーーーーー!!!!」

 

 

テンション上がり過ぎてキャラ崩壊してますよ。

 

 

「お兄ちゃん、写メ!写メ撮ってきて!

あと今度家に連れてきて!どうしよう、小町美容院の予約しないと」

 

 

 

さて、ほっといて行きますか。

 

 

 

 

 

というわけで駅で小田切を待っている。待ち合わせ時間より五分早く着いたからもう少し待たないといけないだろう。

 

てきとうに近くの壁にもたれかかり、目を閉じて肩の力を抜く。

誰かと出かけるなんていつぶりだろうな。

 

 

 

 

トントン

 

「比企谷」

 

 

誰かに肩を叩かれ目を開くと小田切がいた。

 

 

「まさか寝てたの?」

 

「いや、人ごみにあてられてな」

 

 

どうでもいい嘘をついて小田切の格好に目をやる。

 

小田切は草履を履き、黒い柄のついた浴衣を着ていた。

 

 

「それで、私に言うことはないのかしら?」

 

「そうだな、浴衣にあってるぞ」

 

「い、意外とストレートに言うのね」

 

「こういう時はストレートに褒めろって妹に言われてるからな」

 

 

そう言った後にパシャっとスマホで写真を撮った。

 

 

「そんなに気に入ったわけ?」

 

「いや、別に」

 

 

こうしてまた、どうでもいい嘘を言った。

 

 

「はいはい、それじゃあ行きましょうか」

 

 

おう、と言って小田切の顔を見ようとしたら

 

パシャっと携帯の音を鳴らせて小田切が俺を撮っていた。

 

 

 

「フフン、帰ったら弟に見せてやろうかしら」

 

 

 

…どこの兄弟もこんなもんなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたりを見まわせば人の群れ。

 

屋台から美味しそうな匂いがし、遠くからは祭りでよく聞く音楽が聞こえ、視界の端にはちょうちんが光っている。

 

 

「これぞ祭りの感覚よね」

 

「いきなりどうした?」

 

「いえ、何でもないわ。まずは何しましょうか?」

 

「焼きそば、たこ焼きあたりが鉄板だな」

 

 

お祭り気分で少しはしゃいでる私に対して、比企谷はいつも通りに見える。

 

同級生の女子と二人っきりでお祭りに来ているのになんとも思わないのかしら?

 

ちょっと緊張している自分が馬鹿みたいに思えてくるけど、誘う時の緊張は半端じゃなかったわ。

 

今でも電話で比企谷を誘った時の自分に感謝する。おかげで浴衣も褒められたし…。

 

 

「フフフ…」

 

「急にニヤッとするとかなかなかキモ…変だぞ」

 

「ちょっと、今キモイって言おうとしなかった!?」

 

「してません」

 

 

クッ、思わずにやけてしまったわ。意外と私って顔に出やすいのかしら?

 

 

「なぁ小田切」

 

「ん、どうしたの?」

 

比企谷は何かから視線をそらさず、私に声をかける。

 

「あっちにプリキュアのお面売ってるから見に行ってもいいか?」

 

 

子どもか!

 

 

「せめて仮面ライダーにしときなさいよ」

 

「これは譲れねぇな」

 

 

それからも色々な屋台に行き、色々な話をした。

 

特に妹の話を熱く語っていることからシスコンだということも分かり、比企谷について少し詳しくなったことが嬉しい。

 

 

時間は流れ、祭りの終わりが来る。

 

祭りの終わりは私に夏の終わりを感じさせ、少し寂しい気がする。

 

 

「…来年も、一緒に行きましょうね」

 

「ん、暇だったらな」

 

「絶対だからね」

 

 

 

夏の最高の思い出ができ、来年の約束もした。

 

 

来年の私と比企谷はどうなっているのかしら?

 

 

もっと仲良くなって来れたらいいけど…。

 

 

そんな気持ちで家に帰ったが

 

 

 

 

 

 

比企谷との約束が守られることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

高2

 

林間学校二日目にして最終日

 

 

今日は川の近くでバーベキューだ。

と言っても、めちゃめちゃ暇だがな。

 

てきとうに自分の分を焼いて皿に盛り、離れた場所で食べる。

これぞボッチの極み。

 

ふわっとアホ毛を揺らす風が気持ち良い。木の陰でゆったりしながら食べるのも悪くないな、と思っていたがそれもここまでの様だ。

 

 

「アーラ、お一人で食事かしら?」

 

 

こいつ同じ班になってからやたらと絡んでくるな。

 

 

「ああ、なんか用か?」

 

「せっかく同じ班になったんだし一緒に食べてあげてもいいわよ」

 

 

小田切さん、そういう態度だから五十嵐以外友達できないんだぞ。

 

 

「いや、遠慮しとくわ。

俺は本持ってきてるし」

 

「む、本なんて帰りのバスで読んだらいいでしょ」

 

バスで本読んだら気持ち悪くなるらしいけどな。

 

「わかったよ。で、最近何で絡んでくるわけ?」

 

「まぁとりあえずいつもの親衛隊の勧誘よ、それでもう一つは玉木の情報を教えて欲しいのよね」

 

玉木の情報?生徒会長戦絡みか。

 

「あいつやけに山崎会長に気に入られてるっぽいのよね。

内容は知らないけど仕事とかも任せられてるし」

 

 

なるほどな、玉木は小田切が魔女であることを知らないし逆に小田切も玉木が魔女殺しであることを知らないのか。

 

 

「それで、あなた玉木と仲いいんでしょ。何かあいつの弱点知らない?」

 

「別に趣味が似ているだけで、とくに弱点とかは知らねえな」

 

「はぁ~、やっぱりそんな簡単にはいかないか…」

 

しかし相変わらず生徒会長目指しているようだ。

 

「まあいいわ、じゃあもう一つあるんだけど」

 

「まだあるのか?」

 

「あなた、親衛隊のメンバーじゃなくて私の仲間にならない?」

 

 

…何時しかの事を思い出させるセリフだった。

 

 

「何でそんなに俺にこだわるんだ?別に必要ないだろ」

 

「そうかもしれないけど、なんて言ったらいいのかしら?」

 

珍しくはっきりしない。

 

「まあ、インスピレーションってやつよ」

 

紅の豚か。

 

 

…カッコイイから俺も今度使おう。

 

 

「前にも言ったが俺はどこの派閥にも入らねえから」

 

「言うと思ったわ、それじゃあ友達になりましょ。

あなたの事、なんとなく気になるのよね」

 

 

…これは昔の事が関係しているのか、それともたまたまか。

 

どちらにせよ、俺は小田切に近づくべきなのか?

 

どうしたら正解なのかが分からない。

 

 

「…何よ、そんなに迷う事なの?」

 

 

返事に困っていたら先に小田切が口を開いてしまった。

 

 

「比企谷ってやっぱり私の事嫌いなの?

話しているときちょっと困った感じしてるし」

 

「別にそんな事はねえよ。友達とかいないから話すのに慣れてないだけ。」

 

「そう、よかったわ…」

 

 

ホッとしたような顔をしている小田切

 

こういう表情ははっきり言ってとてもかわいらしい。

 

 

「まぁなんだ、適度によろしく頼む」

 

さすがの俺もここまで言われて断れるほど無神経ではない。

 

「ええ、さっき言ってた玉木の情報とかはもういいわ。

私には不思議な力があるし、やっぱり自分で解決するわ」

 

冗談めかしに言っているが本当にあるから怖いな。

 

「本当はあなたも魔法にかけてやろうと思ってたけど、やめといてあげるわ」

 

「へいへい、それはどうも」

 

「あら、信じてないわね?」

 

「いや、信じているぞ。

とりあえずそろそろ戻ろうぜ、片付けとかもあるだろ」

 

「…そうね。」

 

こうして俺の林間学校は終わる。

 

どこぞの誰かが願った通り、女子との出会いがあったようだ。

 

 

 

 

 

 

*

 

帰りのバスにて

 

「ちょっと窓側私に譲りなさいよ」

 

「え?また隣座るのか?」

 

結局、小田切の相手をしていて本が読めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌々日の月曜日の放課後

 

林間学校で買ったお菓子をぶら下げて目的地へ向かう。

前に一度だけ行ったことがあったが道をちゃんと覚えていないのでたどり着けるか心配だ。

 

案の定分かれ道で迷っていたが何となく見覚えがありそうな方へ行ってみたら、どうやら正解だったらしい。

 

 

「相変わらずでかい家だな」

 

 

ひときわ大きな豪邸を前に思わず呟く。

 

元気にしているだろうか。

 

本当に最近は会っていない、俺の数少ない先輩。

 

豪邸の表札にはオシャレにローマ字でこう書かれている。

 

 

 

 

Miyamura




感想、お気に入り、評価してくれた方々ありがとうございます。

ちょっとした感想や高評価がモチベーションにつながりました。

今後ともよろしくお願いいたします。


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第七話

高1

 

 

夏休みは終わり二学期が始まった。小田切の事だからまたバリバリこき使ってくると思っていたがそんな事にはならなかった。

 

どうやら小田切は手芸部に入ったらしい。

 

他には五十嵐や夏の補習にいた山田や姫川などがいて仲良くやっているとか

 

仲良きことはよきかな。

 

あと魔女がどうとか言っていたが手芸部で衣装でも作っているのだろうか?

 

 

「はぁ~、暇だ」

 

 

放課後のお仕事がなくなったので地味に暇である。

基本的には放課後は小田切に呼ばれて、何かをしていたのですぐに家に帰ることはなかった。

そのため何となく時間がつぶしたくて校舎をうろうろしていた。

 

 

廊下を歩いて行き、掲示板の前まで来ると、そこには時季外れな部活の勧誘ポスターがあった。

 

 

「…超常現象研究部?こんな部活もあるのか」

 

 

朱雀高校はやけに部活が多い気がする。運動部はもちろんだが文化系もそこそこの数があるはず。

 

 

「我々は世界の超常現象はもちろん宇宙人や未来人、異世界人、超能力者を探したり朱雀高校の七不思議について調べたりしています……、途中でSOS団の人混ざってね?」

 

 

ポスターの内容を読んでみたがこれで入りたがる奴いるのか?そもそも部員いるの?

 

ただ一つ、たまたまだと思うが気になるイラストが描いてあった。

 

 

「…魔女」

 

 

小田切が言っていたこととは関係ないだろうが少し気になってしまった。

 

 

「おい、君!」

 

「ひゃい!」

 

 

俺がポスターに夢中になっている時に後ろからいきなり呼ばれたので変な声が出てしまった。

 

「まさか魔女に興味があるのか!?

一年生なのだろう?まだ部活には入っていないのか!?」

 

振り返ると白髪の美人に迫られ質問攻めを受けた。

 

「ちょ、一度に聞きすぎですよ」

 

リボンの色から察するに二年生だろう。

 

「あぁすまない、少し興奮してしまってな。

私の名前は宮村レオナ、その部活の部長をしている」

 

 

そう言ってさっき見ていたポスターを指さす。

 

なるほど、この人がSOS団の涼宮さんか。

 

 

「はぁどうも、一年の比企谷です」

 

「そうか、じゃあいきなりだが比企谷、

私たちの部活に入ってくれ!」

 

 

 

 

 

「…嫌っす」

 

 

 

 

 

こうして、俺はまた大きな出会いをする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

 

高2

 

 

ピンポーン

 

・・・

 

ピンポーン

 

・・・

 

ピピピピピンポーン

 

 

「しつこい!」

 

 

二階の窓からキレ気味で怒鳴られた。

 

やっと出てきたか。

 

 

「どちら様だ、新聞の勧誘なら間に合ってるぞ!」

 

 

あれほど勧誘してきた人のセリフとは思えねえな。

 

窓の方に目を向けると白い髪の毛の美人が不思議そうな顔をしている。

 

 

「その腐った目つき、比企谷か?」

 

「目で判断しないでください」

 

 

皆さん、人を目で判断してはいけませんよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

家に上がる許可をもらい先輩の部屋に入ったが服装が…

 

 

「宮村先輩、ちゃんと服を着てください」

 

「何を言っている?シャツを着ているではないか?」

 

 

下着とシャツしか着てないないだろ。

 

シャツの胸元からブラ見えてるんですけど、黒い布が。

 

 

「それにしても久しぶりだな、来てくれて本当に嬉しいよ」

 

「先週に林間学校に行ってきたのでこれお土産です」

 

 

つまらないものですがっと付け足してお菓子を渡す。

 

 

「おぉ、わざわざありがとう。そう言えば虎之介も行っていたな」

 

 

虎之介とは宮村先輩の弟で小田切と同じ生徒会の副会長である。

 

 

「それで、最近はどうだ?元気にやっているか?」

 

「ええ、そこそこですよ」

 

「微妙な反応だな、まぁ無理もないか」

 

 

少し間が空いて宮村先輩は悲しそうの表情をする。

 

 

「…お前がこんな状況に置かれたのはやっぱり私のせいなんだろうな」

 

「まさか、宮村先輩のせいじゃないですよ。それにそれはもう終わった話じゃないですか」

 

 

そうだ、このことで宮村先輩が責任を感じるのはおかしい。

 

一番つらいのはこの人なのだから。

 

 

「…そうだな、だがいつかは向き合わないといけない時が来るだろう」

 

「そうですね。あのメガネも入れた三人で」

 

「フフフ、メガネか。

山崎の奴はちゃんと生徒会長の仕事をできているのか?」

 

 

山崎先輩の話をすると、少し表情が明るくなったので安心した。

 

「ええ、美人の秘書をつけて頑張ってますよ」

 

そう言うと宮村先輩はいかにも不機嫌そうな顔になった。

 

「チッ、絶対権力だからと言って調子に乗りおって。

美人の秘書だと…」

 

 

あらあら、秘書の事は言わない方がよかったかな?

 

 

「まあいい、その事については全てが終わってから奴に問い詰めてやろう」

 

「ハサミは使わないでくださいよ」

 

 

この人無限にハサミ飛ばしてくるからな。

 

体はハサミでできているレベル

 

 

「それで、あの子とはどうなんだ?

比企谷と仲の良かった女の子がいただろう?」

 

「あぁ、特に何もありませんよ。

そう言えば2年になってから分かったんですが、あいつは虜の能力を持っています。」

 

「ほう、まさか彼女が魔女だったとはな」

 

 

そう言うとパソコンをカタカタいじりだした。どうやら魔女に関することをまとめているらしい。

 

 

「それにしても虜の能力とは、いったい誰を虜にしたかったのだろうな」

 

 

ニタニタしながらこちらを振り向く。

 

 

「あいつは生徒会長になりたがっているので仲間を増やしたかったのでしょうね」

 

「いや~私はそうは思わないがな。

やはり年頃の乙女だ、意中の相手にかけたいのだろう」

 

 

この絡み方は相変わらずめんどくさいな。

 

 

「そうですかね、あいつ能力をめちゃめちゃ使ってますよ。親衛隊とかありますし」

 

「それではつまらんな」

 

 

つまらんって、この人はどうしてほしいのだ。

 

 

 

 

その後もいろんな話をしていたら結構時間が経っていた。

 

 

「ただいま」

 

 

下の階から男の声が聞こえてきた。

 

 

「む、虎之介が帰ってきてしまったか。それにこんな時間だ」

 

「外が暗くなってきましたし、そろそろ帰ります」

 

「そうだな、今日はこの辺にしておこう」

 

 

カバンを持って部屋を出ていく。

 

 

「それじゃあ、また来ます」

 

「ああ、今日は楽しかったぞ」

 

 

そう言って笑う先輩は超常現象研究部にいた時と同じだ。

 

 

「それと最後にな、比企谷

 

君が“魔女殺し”の力を持っているのは、何か理由があるんだよ」

 

「…そうなんですかね?」

 

「あぁ、比企谷ならきっと何かを変えることができるさ」

 

 

そして今度こそお別れをして玄関に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り道で先輩が言っていたことを思い返す

 

 

俺が“魔女殺し”の力を持っている意味

 

 

そんな事考えたこともなかった。

 

 

「……。

 

…そうですね、もし理由があるとしたら

 

俺は少しでも特別になりたかったのかもしれません」

 

 

 

誰もいない夜の道で、俺は小さくつぶやいた。

 

 



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第八話

高1

 

超常現象研究部の部室にて

 

 

「おい山崎、ついに新入部員をゲットしたぞ!」

 

「ほ、本当かい!?」

 

 

俺は勧誘ポスターの貼ってあった掲示板の所から、あれよあれよと言う間に謎部の部室に引きずられてきた。

 

 

「ほら比企谷、もう一人の部員の山崎春馬だ。これからは三人で仲良くやっていこうじゃないか」

 

「比企谷君っていうのか~、これからよろしくね」

 

 

スッと山崎と言う人は右手を出してきたが握手なんてしない、新入部員じゃないし。

 

 

「比企谷、こういう時は相手の手を握って握手するんだぞ。

ほら、右手を前に出して」

 

 

後輩ができたと思って優しく教えているつもりかもしれませんが、握手くらい知ってますからね。

 

 

「すみません、俺は別に入部希望してないんですけど」

 

「「えぇーーーー!!」」

 

 

ガビーン!っと効果音的なやつが聞こえてくる位ショックを受けてる。

 

え?俺が悪いの?

 

 

「そんな、どういう事だいレオナ君!?」

 

「私は知らないぞ!ポスターを見ていて入りたそうにしていたから部室に案内したんだが…」

 

 

どう考えても入りたくなさそうだったでしょ。嫌って言ったし。

 

 

「比企谷君、何か嫌な事でもあったのかい?まさかレオナ君にハサミで脅されたとか?」

 

「な、人聞きの悪いことを言うな。

部室に来てからこんなことを言ったんだ、何か山崎に気に入らないことがあったに違いない!」

 

「それは僕のせいだって言うのかい!?」

 

「貴様こそ私のせいだというのか!?」

 

 

何だか空気悪くなってきたぞ。マジで逃げた方が良さそうだ。

 

俺の百八の特技の一つ、ステルスヒッキーを使う時が来たようだな。

 

 

「じゃあ比企谷君に聞こうじゃないか、どっちが悪いかをね」

 

「いいだろう。さぁ比企谷、山崎に言ってやれ」

 

 

そっと帰ろうとしたが宮村先輩に腕を掴まれた。

 

まさかステルスヒッキーが通用しないとは…。

 

 

「いやー、そのですね。別に先輩方が嫌とかじゃないんですよ。

お二人ともとても優しくし接してくれますし、むしろ俺が悪いと言いますか」

 

 

とりあえずおだてて機嫌をよくさせる作戦で行くか。

 

 

「宮村先輩は美人ですし、山崎先輩はイケメンでこんないい先輩いませんよ。

つまり何が言いたい「よし、いいだろう比企谷。」…はい?」

 

 

俺の言葉を遮り宮村先輩と山崎先輩が顔を合わせて何やらアイコンタクトしている。

 

 

「やはりレオナ君の見立てに間違いはなかったようだね」

 

 

そう言って部室に置いている机の引き出しから何かの用紙を取り出した。

 

 

「合格だ比企谷君、君を歓迎するよ」

 

 

差し出された紙は入部届だった。

 

 

「すまない比企谷、すこしテストをさせてもらった。

私達が喧嘩をしたら君はどっちを悪く言うか、と言う事だったが自分が悪いと言ってこの場を収めようとした君はとても優しい」

 

「…先輩」

 

「僕達は君みたいな後輩を探していたよ。

今度こそ本当に、これからよろしくね」

 

「私からもよろしくな」

 

 

…こんな時、俺は何と言えばいいのか。

 

答えはとても簡単で、とても当たり前の事なのだ。

 

そう、これである。

 

 

「いや、合格って言われましても入らないですからね」

 

「「えぇーーーー!」」

 

 

 

…茶番だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

高2

 

未来が見えたらどんな気持ちになるのだろう?

 

 

サイドエフェクトやジ・オールマイティなどで未来が見えるようになったら自分の人生を好きな方へ持っていけるかもしれない。

 

 

しかし見た未来を変えることができなかったら、そして見た未来が最悪ならばどうすればいいのだろうか?

 

 

 

 

 

 

......その答えを、

 

 

 

 

彼女は見つけることができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時間は飛んで夏休み、宿題さえ終わらせれば毎日がバケーションの最高の時期だ。

 

今年度は数学の成績もマシにしたので補習にいかなくてよい。

 

完璧すぎる夏の出来上がりだ。

 

 

「おにちゃーん、小町の宿題やってー」

 

 

あらあら、うちの受験生はこんなさぼり癖があったのかしら。

 

 

「小町ちゃんよ、宿題は自分でしないといけないだろ」

 

 

ここは兄としてしっかり喝を入れてやらんと

 

 

「でも小町受験生だし自由研究なんてやってる暇ないよ」

 

 

自由研究か、懐かしいな。確かに受験生にとってはそんなことをしてる場合ではないのかもしれない。

 

「さすがに全部やるわけにはいかないが、ある程度なら手伝ってもいいぞ」

 

「おぉ!さすがお兄ちゃん!略してさすおにだよ」

 

 

わざとらしく喜んでいるがそれでも可愛く見えてしまうのが小町クオリティーである。

 

太陽のように微笑む小町はマジでエンジェルだね。

 

あの子は太陽の小町 エンジェル!

 

 

……。

 

 

…はい、言いたかっただけです。

 

 

「そう言えば、小町はどこの高校が第一志望だっけ?」

 

 

そう言えば妹の重要なことを聞いてなかった、これでは兄失格だ。

 

 

「そんなの朱雀高校に決まってるじゃん」

 

 

ケロッと答えているがびっくりだ。まさか朱雀高校とは

 

うちの高校の偏差値はそこそこ高いはずなんだが

 

 

「小町、頑張ってお兄ちゃんと同じ学校行くから待っててね」

 

 

正直言えば小町の頭では厳しいと思うが目標に向かって頑張ってる妹を応援しない兄など兄ではない。

 

 

「そか、応援してるぞ」

 

「うん、それと」

 

「ん?」

 

「さっきの、小町的にポイント高い」

 

 

これがなければもっとかわいいのだがな。

 

 

 

 

小町は部屋に戻って勉強を始め、俺も小町の自由研究をしようと自室でテーマを考えていたが、どうやら邪魔者が入ったようだ。

 

プルプル、プルプル

 

家の電話が鳴りだした。家には小町と俺の二人、勉強している小町を邪魔してはいけないので俺が出るべきだろう。

 

 

「はい、比企谷です」

 

「お休みのところ電話してすまない、生徒会長の山崎です」

 

 

何で電話番号しってるの?生徒会長は生徒の家の電話番号も調べていいってか?

 

 

「急な話になるけれど急いで学校に来てほしい、緊急事態なんだ」

 

 

そう言ったら電話は切れてしまった。

 

 

 

…緊急事態とはどういう意味だ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会室

 

コンコン

 

「比企谷です」

 

「入っていいよ」

 

 

ノックをして入ってみたが、中には山崎先輩しかいない。

 

 

「やぁーやぁー比企谷君、よく来てくれたね」

 

「どうも」

 

 

緊急事態と言われたので一応来たが、

山崎先輩は俺の事をただの一生徒としてしか見ていないはず。

それなのに俺が呼ばれた理由となれば…

 

 

「早速で悪いけれど君に頼みがあるんだ。」

 

「魔女絡みですか?」

 

「もちろん」

 

 

やっぱりな。この人はどういうわけか俺が魔女殺しであることを知っている。

 

 

「まぁそんなに警戒しないでくれ。別に無理難題を押し付ける気はないよ」

 

 

この人生徒会長になってから悪印象しかないんだよな。

 

 

「君に頼みたいことはたった一つ!

 

ヒッキーになってしまった魔女を復活させてほしいんだ!頼むよヒッキー谷君」

 

 

 

誰がヒッキー谷だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

話を要約するとこんな感じだ。

 

一学期のほとんどを引きこもって学校に来なかった女子生徒がいて、生徒会のメンバーで何度か家に行ったが顔も見れなかったと。

そして、その生徒は魔女であるらしい。

 

…どこにも緊急事態の要素がなさそうなんだが

 

 

「いやー、緊急事態って言わないと来てくれないかと思ってね」

 

 

はっはっはっと笑っているが全然笑えねーよ。

 

誰がそんなことするか。

 

 

「じゃあ頼むよ、比企谷君」

 

「俺ではなく優秀な秘書に任せればいいじゃないですか?」

 

「いつも面倒ごとを押し付けるのは申し訳ないと思ってね。それに飛鳥君も何度か訪問しに行ったが会えなかった。やはり蛇の道は蛇とも言うし、引きこもりには引きこもりで対処しようと思ってね。

お礼には飛鳥君とのデートを約束しよう」

 

 

いらねーよ。と言うか俺とのデートも面倒ごとだろ。

それに引きこもりじゃないんですけど。

 

 

…まぁいい。生徒会長は絶対権力の持ち主。逆らっても損しかない。

 

 

「…やってもいいですけど失敗しても文句は言わないでくださいね」

 

 

山崎先輩はニコッと笑い上機嫌になる。

 

 

「いやー助かるよ。本当は魔女の情報を言ってはいけないけれど君は魔女の存在について知っているだけでなく能力もかからないからね。何かと役に立つよ」

 

 

役に立つなんて聞こえがいいが、場合によっては面倒な時もあるってことだ。

 

本当に嫌なメガネになりやがって。

 

 

「それで猿島君の住所は「その前に一つ聞きたいことがあるんですけど」…何かな?」

 

 

もちろんせっかくここまで足を運んだので収穫もなく帰るわけにはいかない。

 

 

「山崎会長、超常現象研究部についてあなたの知っている事を全て教えてください」

 

「…へぇー

 

比企谷君はそれを聞いてどうするのかな?」

 

山崎先輩はさっきまでのニコニコ顔とは違い俺を観察するような、警戒するような表情に変わる。

 

「さぁ、どうするかはあなたの情報次第です」

 

「フフフ、比企谷君は面白いね」

 

 

そう言って、今日学校に来てくれたお礼という事で超研部の事を教えてくれた。

 

 

 

そして俺は、山田竜の事を知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校を出てから山崎先輩に言われた住所に来てみたらやばいものを見てしまった。

 

 

「おい、お前ら何してるんだ。」

 

 

二人の男が目的地の住宅に不法侵入しようとしてる。

 

 

「ゲッ、おい宮村、誰かに見られちまったぞ。」

 

「しかたねぇ、気絶させるか。」

 

 

え?やばくね?

 

結構やばい奴らなのか、カッコつけて声かけるんじゃなかった。

 

 

「いや、それはダメだろ。」

 

二人のうちいかにもヤンキーっぽい奴が止めてくれる。

 

今どきのヤンキーは優しいな。

 

と言うかこいつら見たことあるな。

 

 

「じゃあどうしろっていうんだ、通報されたらシャレになんねーぞ…って朱雀高の生徒か?」

 

 

俺の服装を見て朱雀高校の生徒だと気づいたらしい。

 

そして俺もこいつらをよく見てみると気が付いた。

こいつらは不良で有名な山田と朱雀高校の生徒会副会長である宮村だ。

 

まさかたまたま超研部の奴と出くわすとは

 

 

 

「ヤダァー、キミたち人の家でなにやってんの~~?」

 

 

「「「え?」」」

 

 

三人の声が重なる。

 

宮村たちとごちゃごちゃやっていて気が付かなかったが後ろから今回のターゲットがやって来た。

 

 

「…猿島マリア」

 

 

俺たちは引きこもっているはずの魔女に簡単に出会ってしまった。

 

 

 

 




前話も感想くれた方々ありがとうございます。

よろしければ評価なども付けてみてください。

これからも投稿していくので温かい目で見てもらえると嬉しいです。



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第九話

高1

 

 

「それでは、今日は比企谷に魔女の能力を実際に見てもらおうと思う」

 

「確かに、これから魔女探しを手伝ってもらうのだから見ていた方がいいね」

 

 

あれからなんやかんやで結局入部させられた比企谷八幡16歳です。

 

どうやら俺が入部してから第一回目となる部活動は魔女の能力体験らしい。

 

 

…だから魔女ってなんだよ。

 

 

「勧誘の時も魔女がどうとかって言ってましたけど、魔女ってどういうことですか?」

 

「ふむ、まだ説明していなかったな。何から話したらよいものか」

 

 

相変わらずむちゃくちゃな人だ、こう言う所は少し小田切に似ている。

 

 

「魔女の事は聞くよりも見てみる方が早いと思うよ。僕も実際に見てみるまでは信じられなかったしね」

 

 

山崎先輩の口調や態度を見てもからかっているようには見えないし、魔女は本当に存在しているのか?

 

そもそもどんなことができるのか?

 

 

「そうだな、それではさっそく行くか!」

 

 

ほら行くぞっと腕を引っ張って前を歩く宮村先輩はやけにご機嫌に見える。

 

 

「レオナ君は後輩ができて本当に喜んでいるんだよ」

 

 

耳打ちでこそっと山崎先輩が教えてくれた。

 

だからこんなに上機嫌なのか、意外とかわいい面も持っていますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

移動している時に最低限の情報は教えてもらうことにした。

 

朱雀高校には7人の魔女が存在していて、それぞれが持っている能力は別のもので一人につき一つの能力を持っている。

 

超研部では今のところ2人までは魔女が誰だか分かっているらしい。

 

詳しくは“朱雀高校の七不思議について”と言う昔の超研部の人達が作ったノートに書いてあるとか。

 

 

そこまで聞くと宮村先輩の足は止まった。

 

どうやら到着したらしい。

 

 

「いいか比企谷、あそこにいる人が魔女だ」

 

 

指を指す方向を見てみると、二年生らしき女子生徒がいた。

 

黒髪ロングの美人。

 

結構朱雀高校って女子のレベル高いよな。

 

 

「僕が聞いてくるよ、彼女とは知り合いだしね」

 

 

そう言って山崎先輩が魔女らしい人に話しかけに行く。

 

 

「比企谷は目以外の顔のパーツいいから協力してくれるさ」

 

「目の事は言わないでください、あと顔は関係ないでしょう?」

 

「いや、そうでもないさ。」

 

 

ふふふっと笑う宮村先輩、俺は何をさせられるのだ。

 

 

 

そんなことを考えていると山崎先輩が魔女さんを連れてきた。

 

近くで見るとマジ美人。

 

 

「協力してくれるってさ、よかったね比企谷君」

 

「初めまして比企谷さん、飛鳥美琴です」

 

「…ども」

 

 

そっけないと思われるかもしれないが、俺に自己紹介を求めるなんて間違っている。

 

それにいきなり紹介されても何言ったらいいかわからないよね。

 

そして近くで見るとマジ美人。

 

 

「ごめんね飛鳥君、こんなことお願いして」

 

「いいえ、別にいいですよ。

それにしても、比企谷さんはいい目をしていますね」

 

 

クスクスと笑っておられるが、それは皮肉ですかね?

 

 

「まあグダグダしていたら埒があかない、一思いにやってくれないか?」

 

「はい」

 

 

宮村先輩から物騒なことが聞こえた気がするけど大丈夫?死なないよね?

 

俺は何をされるのん?

 

 

「では、失礼します」

 

「は?」

 

 

気が付いたらすっと両肩に手を置かれて

 

 

キスされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

 

高2

 

 

猿島マリアと遭遇してから早一時間、今は猿島家にお邪魔している。

 

この一時間で何があったかと言うと

 

山田が猿島にこき使われただけだ。宮村と俺は何もしていない。

 

洗濯に風呂掃除、部屋の模様替えまですべて山田がやってくれた。

 

山田君はヤンキーみたいだけどいい人だね。

 

 

「もういいだろ猿島!俺たちはお前に話がある」

 

 

疲労のためぜえぜえ言いながら山田が話を切り出す。

 

 

「いいわよ、でもその前に‘彼’と話したいから二人っきりにしてもらってもいい?」

 

 

そう言うと猿島は俺の方を向いた。

 

 

「…分かった。ただし終わったらちゃんと山田の話を聞いてくれよ」

 

 

宮村はそう言って山田を連れて部屋を出て行った。

 

 

 

 

「それで、俺の要件を言ってもいいか?」

 

 

長い時間をかけてやっと猿島と会話ができる。

 

さすがにそろそろ帰りたい。

 

 

「いいけど、どうせ学校に来てくれとかでしょ?」

 

「まぁそうだな」

 

「…ごめんね、ちゃんと理由があっていけないの」

 

 

まぁ生徒会で手に負えない相手がすんなり来てくれるとは思っていなかったけどな。

 

 

「分かった、じゃあお前は俺に話したいことがあるのか?」

 

 

わざわざ山田たちを追い出したのだから何かあるのだろう。

 

 

「…すごく変な話をするけど、あなたが視えたの」

 

「えっと、…視えたっていうのはどういう意味だ?」

 

「ヒッキーは私が未来を視ることができるって言ったら信じる?」

 

「俺をヒッキーっていうのが流行ってるのか?

と言うか俺の名前教えてないはずなんだが…」

 

「そうなんだけど、未来の私は君の事をヒッキーって呼んでいたわ」

 

 

…ふむ、未来が視えるか。そんな能力を持った魔女もいたかもな。

 

 

「それと今話すことと何の関係があるんだ?」

 

 

俺の簡単だと思われる質問に対して彼女は何の脈絡もなく言う。

 

 

「君は私を助けてくれる」

 

 

話が飛び過ぎて何を言っているか理解できないが、その表情は真剣なものだった。

 

 

「それは今お前が抱えている問題を俺が解決するってことか?」

 

「さぁ、それはわからないわ。ただ私があなたに感謝している所が視えたの」

 

 

感謝されるか

 

未来の俺は財布でも拾ってあげたのかな?

 

 

「だから、少しヒッキーと話してみたかったの」

 

 

ニコッと笑う彼女。

 

しかしその笑顔はどこか元気がなく、無理をしているようにも見えた。

 

 

「…別に無理して笑わなくてもいいんだぞ」

 

「……。

 

やっぱり…、無理してるように見えちゃう?」

 

 

ついつい言ってしまったが猿島も自覚があったようだ。

 

 

「本当はもっといっぱい笑いたいけど、やっぱりそんな気持ちにはなれなくて…」

 

 

こうして彼女は俺に語り始めた。

 

 

「…私ね、自分のおそろしい未来を視てしまったの」

 

 

 

 

 

 

猿島の話はこうだ。

 

猿島は一年の頃、朱雀高校に転校してきて予知の能力を宿した。

最初はその力もあり学園生活を楽しんでいたが

ある日、学校の旧校舎が目の前で燃えている未来を視た。

そしてそこにはなぜか山田が一緒にいて、後に猿島と山田は火事の犯人にされていたと。

 

 

 

「だけど一番つらかったのは仲のいい友達が誰一人私の事を信じてくれなかったことよ」

 

「それで、疑われたくないから学校に行くのをやめたのか」

 

「ええ、そんな感じ」

 

 

旧校舎で火事か。そんなのどうやったら起きるんだ?

 

 

「でもやっぱり何をしたって無駄みたい。現に今まで他人だった山田と接点を持っちゃたし、たぶん一度見た未来は簡単には変えられないみたい…」

 

 

彼女は語っているうちにだんだん表情が暗くなり、少しうつむいていた。

 

そんな落ち込む猿島を見ていると俺の頭にはあの人の顔がよぎる。

 

俺があの時からずっと救えずにいる先輩の顔が

 

「ねぇヒッキー、…私はどうしたらいいのかな?」

 

 

…俺はこの問いに対し、何を答えたらいいのか分からない。

 

 

“あの時何もできなかったお前に何が変えれるのか?”

 

 

こんな風に頭の中で誰かがささやく

 

 

「……悪い、俺じゃあ何も変えれない」

 

「うん、…そうだよね。

ごめんね、嫌な事ばっかり聞かせちゃって」

 

 

でも

 

 

「でもな、猿島。

お前の事を助けてくれる奴は必ずいる」

 

「え?」

 

「朱雀高校には猿島みたいな子を助けるのが大好きな山田がいるからな」

 

「私みたいな子ってどういう意味?」

 

「それは山田に聞いたら分かる。だから安心して相談しろ」

 

 

猿島はキョトンとし、少したってから笑い出した。

 

 

「ウフフ、ヒッキーありがと、励ましてくれて」

 

 

どうやら俺の言ったことを冗談だと思っているらしい。

 

 

「言っとくが冗談じゃないからな。これは生徒会長からのお墨付きだぞ」

 

「そう、それじゃあヒッキーは私の言ったこと信じてくれる?

今日私が言ったとても信じられないことを全部?」

 

 

彼女の目はまっすぐ俺を見ているが、何かにおびえている。

きっと猿島マリアは未来を視てから怖いのだ。誰にも信用されないことが。

 

 

だからあの時も今も、何も救うことができない俺ができるのはこれくらいだ。

 

 

「あぁ、全部信じてるぞ」

 

 

そう言うと、彼女は笑顔でこう言った。

 

 

「じゃあ私も、

 

私もヒッキーの事信じてみるね」

 

 

今度は本当の笑顔で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏休み明け 朱雀高校中庭にて

 

 

 

未来が見えたらどんな気持ちになるのだろう?

 

サイドエフェクトとかジ・オールマイティとかで未来が見えるようになったら自分の人生を好きな方へ持っていけるかもしれない。

 

しかし見た未来を変えることができなかったら、そして見た未来が最悪ならばどうすればいいのだろうか?

 

その答えを彼女は見つけることができたのだろうか?

 

 

 

 

中庭の木陰にあるベンチに座り、目を閉じながらこんなことを考えていた。

 

 

 

しかしスタスタっと誰かの足音が近づいてき、俺の後ろで止まったのでそこで思考を止めた。

 

 

「…ねぇヒッキー」

 

「ん?」

 

 

さっきの答えを俺が知るのは

 

 

「やっぱり君を信じて良かった」

 

 

 

もう少し先の未来の話だ。

 

 

 

 

 

 







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第十話

高1

 

 

「フフフ、どうだ比企谷!相手の姿が見えなくなっただろう!」

 

「これが僕たち超研部が研究している魔女の力さ!」

 

「「フハハハハハ!」」

 

「お二人とも声が大きいですよ」

 

 

まさか俺はキスをされたのか。

 

 

「すまない飛鳥君。だがやはり魔女の力はすごいね」

 

「全くだ。比企谷なんて驚きのあまり体が固まっているぞ」

 

 

Kissと書いてキスと読むあれですか。

 

 

「比企谷は今見えていないがここにちゃんと飛鳥美琴はいるぞ」

 

 

一応ファーストキスと言うやつだったんですけど。

 

 

「…おい比企谷、聞いているのか?」

 

「え?」

 

 

宮村先輩に肩を揺らされて我に戻った。

 

 

「まぁ驚くのも無理はないよ。これが彼女の能力、透明人間の魔女だ」

 

「はぁ、透明人間ですか」

 

 

透明人間って見えないやつだよね?

 

 

「つまり彼女がキスした相手は彼女を認識できなくなる。

ああ、言い忘れていたけど魔女はキスすることで能力を発動できるんだよ」

 

「どうだ比企谷、美少女とのキスの感想は?」

 

「黙秘権を行使します」

 

 

そんなこと聞くな。めちゃくちゃ柔らかかったよ!

 

 

「あらあら、比企谷さんは可愛いですね」

 

 

表情に出してないつもりだったが飛鳥先輩に照れているのがばれたか。

 

それにしてもこの人普通にキスしてきたけど抵抗とかないのか?

 

最近の若い子はいやぁ~ねぇ~。

 

 

 

と言うか

 

 

「そんな事よりもどの辺が透明人間なのかよく分からないんですけど?普通に見えてるし」

 

「「「え?」」」

 

 

三人がそろって驚く。

 

 

「嘘はよくないよ比企谷君。君は飛鳥君が認知できていないだろう?」

 

「いや、普通に綺麗な顔が見えていますよ」

 

「まさか…能力にかかっていないのか?」

 

 

そんな事言われても知らないよ。

 

 

「比企谷さん」

 

「あっ、はい」

 

 

真剣な表情で見つめてくる飛鳥先輩は少し怖い

 

 

「本当に見えているのですね?」

 

「まあ、たぶん」

 

 

何で見えるか見えないかでこんなに自信が出てこないのだろう。

 

 

「どういうことなんだ?」

 

 

宮村先輩の疑問に答えられる人は誰もいなかった。

 

 

「…もう一度やってみます」

 

「もう一度ってまたキ「失礼しますね」…スするんですよね、はい」

 

 

また普通にキスされちゃったよ。もうちょっとムードとかないんですかね?

 

 

「見えていますか?」

 

「見えてますね」

 

「そんな…」

 

 

これって何も知らない人から見たら結構やばいよね。

 

 

「まさか能力が失われているんじゃないのか?

ちょっと私で試してくれないか?」

 

「「は?」」

 

 

今のは俺と山崎先輩だ。

 

まさかの百合ですか?

 

 

「はい、分かりました」

 

 

……。

 

 

まさかの美少女二人のキスを見て俺は思う。

 

 

俺ってこんな部活に入ったの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

高2

 

 

「はぁ~、猿島さんの件は宮村に横取りされてしまったわね」

 

 

猿島マリアは二学期になってから楽しそうに登校しているようだ。

 

なんでも宮村が所属している超常現象研究部にお世話になったとか。

 

それに比べて私は夏休みも終わり二学期になったけれど、当然生徒会の活動も再開して生徒会室でお仕事しなければならない。

 

 

「よく考えてみれば夏は大して遊んでないわ」

 

 

高校二年のJKがこんなのでいいのかしら、と残念な疑問を持ってしまう。

 

…もしかして私って残念な人なの?

 

 

「ああ、もう!夏休みを全然有効活用できてないじゃない!

…こんなので本当に生徒会長になれるのかしら?」

 

 

いろんな不満や疑問が頭の中をぐるぐる回って爆発する。

私はストレスを解消する術も持っていないのか…。

 

 

「そう言えば、最近あいつと話してないわね…」

 

 

不意にあのアホ毛頭の事を思い出す。

 

 

夏休みもあったことから林間学校で話して以来ほとんど話していない気がする。

 

せっかく学校が始まったのだから教室で話しかけようとしたけれどいつも休み時間は寝てるのよね。

 

 

「…なぜかやっぱり気になる」

 

 

そんなことをぼやいていたら生徒会室のドアが開いた。

 

 

「寧々さん、調子はどうですか?」

 

「あ、飛鳥先輩。お疲れ様です」

 

 

まさか誰かが来るなんて、さっきの聞かれていないわよね?

 

 

「お疲れの様ですね。私も手伝いましょうか?」

 

「いえ、あともう少しなので。それに飛鳥先輩は今日会長から何か用事を任されていませんでした?」

 

 

生徒会の役員同士と言う立場上ある程度の会話するが、この人はそんなに得意じゃない。おかげさまで会長に虜の能力かけれないし。

 

 

「ええ、と言っても明日の事なので」

 

 

明日?土曜日じゃない。

 

 

「どんな仕事なんですか?」

 

「ある男性とのお出かけです」

 

 

何よそれ、何かやらしい、…いや、あやしいわね。

 

 

「それって大丈夫何ですか?聞いている限りでは知らない人と出かけるみたいですけど」

 

「いえ、何度か顔を合わせたことがありますよ。朱雀高校の二年生です」

 

 

二年か、同い年ね。

 

 

 

「お名前は・・・」

 

 

「は!?」

 

 

嘘でしょ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏休みが終わってから五日間、やっと生活リズムが戻ってきたが授業を受けているとやはり眠い。

 

四時間目を何とか乗り越え昼休みになったので昼飯のパンを持って教室を出る。

 

ここはやはり中庭のベストプレイスで食うか。

 

 

 

 

 

中庭にて

 

 

「やぁーやぁー比企谷君、猿島君の件は助かったよ」

 

 

外の空気に触れ穏やかな気持ちになっていたが、それをぶち壊すメガネがやって来た。

 

 

「いえ、俺は何もしてないですよ。猿島いわく超研部の山田達が助けてくれたらしいですよ」

 

「ああ、その話は知っているよ。でも君の功績も確かにあるはずだ」

 

「そんな事はないと思いますけど」

 

 

実際、俺のやったことと言えば超研部の事を山崎先輩から聞いたから、猿島に山田達を頼れって言っただけだからな。超他力本願だ。

 

まぁ超研部の事を聞いた目的は山崎先輩がどんな反応をするかってことなんだけどな。

 

 

「でもちゃんと仕事してくれたからお礼を言わないと思ってね」

 

「別にいいですよ。これからは生徒会だけでやって下さいね」

 

「善処するよ」

 

 

善処するだけじゃだめなんだよ。

 

 

「それで、お礼の件についてなんだけど」

 

「お礼?」

 

 

そんな話しあったか?

 

 

「飛鳥君とのデートだよ。明日の土曜日にディスティニィーランドで二人っきりでね。

彼女もとても楽しみにしているよ」

 

「は?」

 

「詳細は夜にでも電話するから明日は空けておいてね」

 

「ちょっと待ってください」

 

「おっと、そろそろ行かないと。じゃあ楽しみにしておいてね」

 

 

それじゃあねーと言って走っていく山崎先輩。

 

 

まさかマジで行くわけじゃないよな?

 

 

そもそもいきなり明日行けって言われても他に予定が…。

 

 

予定が……。

 

 

 

 

…別に何もないな。

 

 

 

まぁ、あの人なりの冗談として言ったのだろうと期待して食べかけのパンに噛みつく。

 

 

 

夜に電話がかかってきて分かったが、当然冗談などではなかった。

 

 

 




感想くれた方ありがとうございます。

やはり面白いと言ってもらえると嬉しいです。


相変わらずの乏しい文才ですが、皆様これからもよろしくお願いします。


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第十一話

注意
アニメしか見ていない人は知らないキャラが出てきます。
と言っても知らなくても大丈夫です。



高1

 

超研部にて

 

 

あらゆる研究の結果、俺は少し変わった能力を持っていることが分かった。

 

俺は魔女とキスすると相手の能力を奪うことができる。

そして二回目にキスすると能力が相手に戻る、と言うへんてこな能力だ。

 

あらゆる研究なんて言ったが飛鳥先輩と宮村先輩と俺の色々な組み合わせでキスしただけだ。

 

まぁ美人の二人とキスできたのだからだいぶ役得だろう。

 

ちなみに山崎先輩は何もしてない、俺と宮村先輩がキスするときはかなり不機嫌だったとだけ言っておこう。

 

 

「これはすごい発見だぞ!さすが私が勧誘した男だ!」

 

「そうだね、こんな事はノートに書いてなかったよ」

 

 

ノートとは超常現象研究部が書いた朱雀高校の七不思議について記されているノートの事だ。

 

 

「今までに見たことないケースだが、他にも比企谷のような奴がいる可能性があるな」

 

「これは研究のしがいがありそうだね」

 

 

二人はやたらテンションが上がっていて俺だけ取り残されてる。

 

もしかして俺の姿見えてないの?ちゃんと飛鳥先輩に能力返したはずなんだけど…。

 

 

「それで、これからはこの部活は何をするんですか?」

 

「とりあえずあと2人の魔女を見つけたいかな。もちろん魔女以外にも気になることがあればどんどん調べるよ」

 

「2人?魔女は全員で7人で今は4人分かっているから、後は3人じゃないんですか?」

 

「…まぁそうなんだけどね」

 

 

微妙な反応で答える山崎先輩。

 

何か変な事言ったか?

 

 

「いや、あと3人で合っているぞ。あと3人見つければこの部活は救われる」

 

「レオナ君、その話は前にしたじゃないか。

7人目の魔女は探してはいけないのは先代の先輩方から言われているだろ」

 

 

ふむ、話が全く分からんな。

 

 

「その話は比企谷を入れた3人でもう一度だ」

 

「はぁ~」

 

 

頭を押さえる山崎先輩。

 

それから今の超研部が廃部になりそうな事、山崎先輩が生徒会長を目指している事、7人目の魔女の事、そして

 

 

「魔女が7人そろえば何でも願い事が叶えることができる儀式を開けるんだ」

 

 

朱雀高校の禁忌を知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手芸部にて

 

 

「寧々ちゃん、ついにプリティーうさちゃんが完成しました」

 

「こ、これはウサギと言えるのかしら?」

 

 

今日は山田も潮君もナンシー?さんも来ていないから姫川さんと二人きりだ。

 

 

「なかなかの自信作なんですよ。…山田さんは褒めてくれるでしょうか?」

 

「…」

 

「黙り込まないでくださいよぉ~」

 

 

だってこれはなかなかのグロ動物よ。

 

 

まぁそれよりも、......山田か。

 

 

「ねえ。前から気になってたけれど、あなたって山田の事好きなの?」

 

 

思わずニヤッとして聞いてみたが

 

 

「なっ!何でそう思うんですか!?」

 

 

分かりやすいわね。

 

 

「見てたら誰でも分かるわよ。まさに恋する乙女って感じよ」

 

「そんな!絶対隠せてると思っていたのに」

 

 

真っ赤な顔に手を当てる仕草は何とも可愛らしい。

 

そう言う所を山田に見せたらいいんじゃないかしら?

 

 

「で、でも寧々ちゃんだって好きな人いるでしょ?」

 

「な、何の事かしら?」

 

 

一瞬動揺してしまったがここは余裕の表情を浮かべないと。

 

 

「私知っているんですよ。

…確か猫背で」

 

「さぁ?」

 

「髪はてっぺんがぴょこって飛び出てて」

 

「知らないね。」

 

「目が変で」

 

「変って…。」

 

「名前はひ「ちょっと!何で知ってるのよ!」

 

 

そんな!誰にも言ってないのに…。

 

 

「前に部室で携帯の画面眺めてたから何見てるのかなぁってちょっとのぞき込んだら男の人の写真が見えて…」

 

 

くっ、私としたことが

 

 

「それで数日後に寧々ちゃんと学校で話しているのを見かけたのでちょっとだけ調べました」

 

「はぁ~、完全にミスったわね」

 

 

顔にすごい熱を感じる。たぶん姫川さんみたいに赤くなっているのだろう。

 

 

「私はてっきり五十嵐さんが好きなんだと思っていました」

 

「確かに潮君はいい人ね」

 

 

顔を見られないように部屋の窓辺に向かい外の風にあたる。

 

 

「だけど…」

 

「だけど?」

 

 

熱い顔にはとても気持ちの良い風が吹く。

 

 

「何だか分からないけど、あいつのことを好きになっちゃったのよね」

 

 

きっと今の私の表情は誰にも見せてはいけないのだろう。

 

 

彼以外には

 

 

「寧々ちゃん…。」

 

 

こんな事を誰かに言うなんて考えてもみなかったけれど、言ってみたら案外スッキリするわね。

 

 

「私!寧々ちゃんの事応援します!」

 

「あら、それはありがと。私も応援してるわ」

 

 

彼女の方を見ると少し幼い表情でニッコリ笑っている。

 

癒されるスマイルね。

 

 

「寧々ちゃん大好き!」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 

前からぎゅっと抱き着かれた。

 

 

 

こうして姫川そらと私は前より少し仲良くなった。

 

 

 

 

 

 

「それで、どんな所が好きなんですか?」

 

「秘密よ!何も聞かないで」

 

「ええ~いいじゃないですか~」

 

 

…いや、仲良くなったというより懐かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

高2

 

土曜日の朝10時

 

 

わざわざ土曜の朝から出かけないといけないなんてどんな罰ゲームだよっと思いながらもちゃんと指定された駅に来る俺はマジ紳士。

 

まぁぶっちゃけ行かなかったら飛鳥先輩が怖いから来ただけなんですけどね。

 

それにしても飛鳥先輩と出かけるとか3分で限界だわ。会話が続く気がしない。

 

3分なんてすぐだと思ってるそこの君、3分あったらでっかいヒーローが怪獣倒せるんだからね、勘違いしないでよね!

 

 

…何言ってんだ俺。

 

 

「飛鳥先輩遅いな、時間には厳しそうなイメージなんだが…」

 

 

まさかあれか、俺修羅で読んだことがある相手が何分待つか賭け事でもしてるんじゃねえのか?

 

 

トントン

 

くだらない事を考えていたら後ろから肩を叩かれた。

 

やっと来たか、飛鳥美琴よ。

 

 

「ごめん、遅くなった」

 

 

走って来たのか少し息が荒い。

 

 

「…いや、今来たところだ」

 

 

デートの決まり文句を言ってしまったが別にかっこつけたわけではない。

頭が少し混乱してついつい言ってしまっただけだ。

 

 

「そっか、それじゃあ早速行きましょうか」

 

 

約束通りに女の子は来てくれたが何かが違う。

 

 

「…なぁ一つ聞いてもいいか?」

 

 

何かというか人が違う。

 

 

「ん?」

 

 

俺の目の前にいたのは飛鳥美琴ではなく、

 

 

 

「小田切は何してんの?」

 

 

「それは…で、デートしに来てあげたのよ」

 

 

 

小田切寧々だった。

 



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第十二話

高1

 

超研部にて

 

 

超研部での日々はすぐに過ぎてゆき、気づけば中間テストが近づいていた。

というわけで今日の放課後は部室で勉強だ。

朱雀高校はそれなりの進学校だしうかうかしていたらシャレにならないことになる。

数学とかな。

 

「時に比企谷よ、お前は彼女とかいないのか?」

 

 

「…いきなりなんですか?」

 

 

部室で同じく勉強している宮村先輩が急に質問してきた。

 

 

「ずっと勉強していてもつまらないだろう、ただの息抜きだよ」

 

「それは僕も興味あるね」

 

 

またまた同じく勉強している山崎先輩も口を開いた。

 

 

「何の意外性もなくて申し訳ないですけど普通にいませんよ」

 

「「はぁ~~、つまらないな~~」」

 

 

ほっとけ。

 

 

「でも比企谷君も男だ。意中の相手くらいはいるんじゃないのかな~?」

 

「確かにな、そこの所はどうなんだ比企谷~」

 

 

今日の先輩めんどくさっ

 

 

 

「まぁいますけど」

 

「「えっ!」」

 

 

二人がガタッと音を立てて席を立ちあがった。

 

 

「これは勉強どころではないぞ。山崎、超研部の次の部活動はこれだな」

 

「至急、比企谷君の意中の相手を探さないといけないね」

 

 

なんだこの人たち、暇なの?

 

 

「いや、別に隠していないですし名前くらいは言いますよ」

 

「…やけにあっさりしているな」

 

 

当たり前だ、別に隠す必要なんて何もない。

 

俺にとって大切な存在、そんな奴はあいつだけ。

 

 

「小町です」

 

「「小町?」」

 

「はい、小町です」

 

 

 

「…小町君か、そんな名前の子は知らないかな。

お米にはそんな名前があったような…」

 

「私も知らないな。比企谷と同じ一年だろうか?それともお米か?」

 

米じゃねえよ。

 

う~んと唸りながら考える二人をほっといて勉強に戻る。

 

ふっ、永遠に探しているといい。マイラブリーエンジェルは朱雀高校にはいないからな。

 

 

 

 

 

コンコン

 

 

 

部室のドアがノックされた。

 

この部を訪ねてくる人がいるとは驚きだな。

 

 

「どちら様だ?」

 

 

部長の宮村先輩がドアを開けに行く。

 

どうせ俺には関係ないだろとか思っていた時もありました。

 

ガラッとドアが開きそこにいた女子生徒が問いかける。

 

 

「あの、比企谷って名前の人いますか?」

 

 

遠慮がちな声だが聞き覚えのある声だった。

 

 

「…小田切か」

 

「あっ、ホントにいたわ」

 

そう言えば最近会っていないから部活に入ったこと言ってなかったな。

 

「おぉ、比企谷の友達か」

 

「比企谷君にも友達がいたんだね。それも女の子の」

 

ちょっと、メガネの方失礼じゃね?

 

 

「それで、どうかしたのか?」

 

「まぁ、その、忙しかったら別にいいんだけど」

 

「いや、たいした部活動もしてないし大丈夫だぞ」

 

 

「失礼な、勉強もちゃんとした部活動の一つだぞ!」

 

 

横から文句が飛んできた気がするけど、あなたたちは小町探しだろ。

 

 

「えっと、…も、もう少しでテストがあるじゃない?」

 

「ああ、そうだな」

 

「そう、それでね、よかったら一緒に勉強でもどうかと思って」

 

 

一緒に勉強か。小田切は現国以外の成績良かったはず、

 

…数学聞けるのは助かるな。

 

 

「いいぞ、数学ちょっとでいいから教えてくれ」

 

「ええ、何でも聞きなさい。今日は部活みたいだし、またメール送るわ」

 

「ん、分かった。

でもわざわざ来なくてもメールで言えばよかったんじゃねえの?」

 

「だってひめかわさんが…」

 

「ひめかわさん?べるぜバブのリーゼント頭か?」

 

「違うわよ!別に、偶然通りかかったのよ」

 

 

それじゃあ失礼しました、と言って超研部から小田切は出て行った。

 

 

「なぁ比企谷」

 

「何ですか?」

 

 

そう言えば先輩たちの事忘れてたな。

 

 

「さっきの子、なかなかかわいい子じゃないかぁ~。」

 

 

ニタニタした顔でこちらを見ている。

 

…そう言えば今日の先輩はめんどくさい事を忘れていたな。

 

 

この後、小田切の事をしつこく聞いてきて、勉強出来なかったことは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

高2

 

ディスティニィーランドにて

 

ディスティニィーランドの中に入ると何ともウキウキさせてくる音楽が流れており、人々の楽しそうな声と一緒に聞こえてくる。

 

 

「長期の休みじゃなくても休日ならやっぱり人いるわね」

 

「そうだな、そしてなぜ小田切が来てるんだ?飛鳥先輩はどうした?」

 

「明日は日曜だから多少遅くに帰っても大丈夫よね。

久々に遊ぶわよ~」

 

 

ふふん、と楽しそうにしておられる小田切さんは完全に俺の質問を無視する。

 

マジで飛鳥先輩どうしたの?消えたの?透明人間だし消えたの?

それとも俺が嫌いだから逃げたの?

 

…後者に違いないな。そもそも今は玉木が透明人間だし。

 

 

「で、ホントに何で小田切が来たんだ?」

 

「飛鳥先輩は熱を出して来れなくなったから代わりに頼まれたのよ。

私じゃ不満かしら?」

 

「いや、ぶちゃけ助かったわ。飛鳥先輩相手じゃ間が持たないしな」

 

「どういたしまして」

 

ニッコリ笑って頭を下げる小田切。

 

なぜかその顔から視線をそらしてしまった。

 

 

「それで、何から乗る?私スぺマンに乗りたいわ」

 

「いいぞ。俺は基本的について行くスタイルだから」

 

「よし、さっそく向かうわよ」

 

 

 

 

それからは俺にとっては本当に夢のような時間だった。

 

 

あの時と同じ様に小田切と話し、あの時と同じ様に笑った。

 

 

だが話をすればするほど、

 

 

彼女が本当に覚えていないのだと実感してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

比企谷って話してみれば意外と面白い。

 

これが素直に思ったことだった。

 

 

アトラクションに並んでいる時間も全然暇じゃなかったし、話が尽きることもなかった。

 

この勢いなら何でも話してしまいそうで怖いくらいだ。

 

飛鳥先輩の代わりに来て本当に正解だったわ。

 

 

 

 

だいたいの乗り物は制覇し、お土産コーナーなどもたくさん見て回った。

 

比企谷は妹にキーホルダーを買っていたが、ここは普通私に買うものじゃないのかしら?

別にいいけどね。

 

 

…別にいいけどね。

 

 

 

「そろそろ暗くなってきたし、帰りましょうか?」

 

「そうだな、久々に歩き回ったからさすがに疲れたわ」

 

「確かに、バイオハザードに出てくるゾンビみたいよ」

 

「ゾンビみたいなのはデフォだから大丈夫だ」

 

「はいはい、そうだったわね」

 

 

 

こんなくだらない会話でさえも、とても楽しく感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

それから私達はディスティニィーランドから出て駅へ向かった。

 

駅に行くまでも電車に乗っている時も比企谷との話が尽きることはなかった。

 

 

「そう言えば朱雀高校の生徒はいなかったわね。よくよく考えてみれば知り合いに見られたら少し面倒なことになるところだったわ」

 

潮君とか能力をかけた親衛隊の子とかに見られたら特にね。

 

 

「ふっ、俺は友達いねえからそんな心配はいらないがな」

 

「はぁ、何の自慢にもならないわよ。

あなたそんなんじゃこの先彼女もできないわよ」

 

 

「……彼女か」

 

 

おっ、意外と気にしてるのかしら?

 

 

「言っておくけど、わたし「おい、この駅で降りるだろ」…あっ、ホントだ」

 

 

話に夢中で気が付かなかったが、もう駅に着いたのか。

 

駅のプラットホームから改札に向かって歩きながらも話の続きをする。

 

 

「話は戻るけど、私は好きな人いるから狙っても無駄よ」

 

 

今までこんな事誰にも言わなかったのに普通に言ってしまった。

 

変にテンション上がっているせいで言ってしまったが比企谷なら別にいいか。

 

 

改札を出て今日の集合場所だった所に到着して、私も比企谷も自然と足が止まった。

空はすっかり暗くなり、周りを歩く人たちは多くなかった。

 

 

「……まぁ高2の女子なら好きな人の一人や二人いてもおかしくはないな」

 

 

「……そう、…そうよね」

 

 

比企谷の返事を聞いて私はガッカリしたような気がした。

 

でもそんなはずはない。私が傷つくようなことは何一つないのだから。

 

 

 

だって、

 

 

 

だって私は、

 

 

 

 

 

「私、山田の事が好きなの」

 

 

 

 

 

言った。言ってやったわ。誰にも話していない秘密を。

 

 

比企谷がどんな反応をするのか彼の顔を見てみると、その顔は驚いているのか困っているのか悲しんでいるのかよく分からない表情だった。

 

 

 

「なぁ…小田切…」

 

 

 

比企谷に声をかけられて気が付いた。

 

水滴が私の頬を伝っていき、ぽたっと地面に落ちていく。

 

 

 

一度流れればもう止まってはくれなかった。

 

 

 

 

「泣かないでくれ」

 

 

 

私は山田が好きで、それを比企谷に言った。

 

ただそれだけなのに、

 

どうしてこんなにも私の心は泣いているのだろう。

 

 



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第十三話

高1

 

手芸部にて

 

 

「ちゃんと誘えましたか、寧々ちゃん?」

 

「まぁ、一応ね」

 

 

超研部で比企谷を勉強に誘ってからすぐに手芸部に戻ってきた。

 

手芸部はテスト前なので休みということになっているが、姫川さんと私だけはここに来ている。

 

来ているというか姫川さんに呼び出されて、比企谷を勉強に誘えだなんて事を言われた。

 

 

「大成功ですね!あとは一緒に勉強して好感度アップです」

 

「…この作戦大丈夫なのかしら?」

 

 

言われるがまま行動してしまったが、今になって不安を感じてくる。

 

 

 

少し大胆過ぎたかしら?

 

いやいや、前は夏祭りに誘ったのだからこれくらいは…。

 

でも、先輩たちもいる中で誘ってしまったし…。

 

 

「大丈夫です!ちゃんと恋愛攻略本で読みましたから」

 

「……本当に大丈夫なのかしら?」

 

「信じてくださいよ~」

 

 

姫川さんと部室で恋バナ?して以来、こんな感じで彼女なりに応援してくれている。

 

おかげさまで実際に勉強の約束をできたのだから素直に感謝するべきだろうか。

 

 

「応援してくれるのは嬉しいけど、姫川さんはどうなの?山田を勉強に誘ったりしたの?」

 

「私と山田さんが集まってもあまり意味がないと思ったので誘っていません…」

 

 

そう言えば、この子も山田も成績悪かったわね…。

 

 

「それじゃあ他の作戦があったら手伝うから、その時は言ってね」

 

「はい!」

 

 

にこにこスマイルが今日もまぶしい姫川さん。

 

この子を泣かせたら山田をぶっ飛ばしに行かないとだめね。

 

 

「ところで、自分のテスト勉強はしなくていいの?」

 

「あっ、忘れてました!」

 

 

 

本当に可愛らしいわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

高2

 

朱雀高校にて

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

「……また寝ちまったな」

 

 

最近はよく眠ってしまう、と言うより色々考え込んでしまって気が付いたら寝ていることが多い。

 

 

 

 

...一年前の事をよく思い出すようになった。

 

一年前と言っても超研部の事と、小田切や五十嵐の事が主にだ。

 

 

 

 

「…あいつは大丈夫そうだな」

 

 

 

同じ教室にいる小田切に目を向ける。

 

 

 

一昨日、俺は泣いている小田切を家に送って行った。

 

なぜ小田切が泣いてしまったのか分からなかったし理由を聞く気もないが、小田切自身もよくわかっていない様子だった。

 

 

それから日曜日を挟んだ今日、小田切はいつも通りクラスメイトと話している。

 

もともと俺と小田切が教室で接することはないし、少し気まずいから目を合わさないようにしているので今日は一度も会話をしていない。

 

 

 

 

 

…帰りますか。

 

特に教室に居座る理由もないし、帰ってマックスコーヒーでも飲みながら小説の世界に没頭しよう。

 

そう思って荷物をカバンに詰め込み廊下に出てたが、

 

 

「やぁーやぁー比企谷君、久しぶりだね」

 

 

まさかの玉木と遭遇した。

 

こいつ久しぶりに見たわ。

 

 

「なんか用か?」

 

「久しぶりに会ったのに反応が薄いね。

まぁそれはいいとして、今日はデートの約束をしに来たんだよ」

 

「は?デート?」

 

 

精霊の好感度でも上げてキスするのか?

 

 

「もう少しで開催される文化祭を一緒に見回らないかい?」

 

 

「あぁ、文化祭か。そういや今日もクラスの出し物について話し合ってたな」

 

「僕の親友である比企谷君なら一緒に見回る人なんていないと思ってね、ぜひ僕と一緒に行こう!」

 

「俺はいつからお前の親友になったんだよ…。

 

まぁ小町が来たらそっちに行くけどそれ以外なら特に予定はないな」

 

「へぇ、比企谷君の自慢の妹も来るかもしれないんだね」

 

「まぁな、宇宙一可愛いからって朱雀高のノリでキスしたらお前の頭吹き飛ばすからな」

 

「こわっ!」

 

 

朱雀高校の魔女に関わった奴らはキスに対しての気持ちが軽くなるからな。

 

もし小町が朱雀高校に通うことになったらその辺がとても不安だ。

 

 

「大丈夫だよ、僕が比企谷君の妹を傷つけるわけないじゃないか」

 

「そうか、んじゃこの話は文化祭前にな」

 

 

 

それじゃあな、と言って今度こそ家に帰「比企谷さん」…今度は誰だ?

 

 

 

 

「お久しぶりです比企谷さん」

 

「飛鳥先輩…」

 

 

あまり会いたくない人に遭遇してしまった。

 

「この間のディスティニィーランドの事は申し訳ありませんでした。

私が体調管理を怠ったため、急遽代わりに寧々さんを呼んだのですが」

 

「いえいえ、別にいいですよ」

 

「…せっかくのチャンスでしたのに」

 

「はぁ、何のチャンスだったんですか?」

 

「…いえ、何でもありません。

謝罪も済んだことですし、会長がお呼びになっているのでこれから生徒会室まで一緒に来てくれませんか?」

 

 

ほらな、こうなるから嫌なんだよ。

 

 

「またですか?」

 

「はい、またです」

 

 

やだなぁ、いきたくないなぁ、かえりたいなぁ。

 

 

「そんなにお時間取らせませんのでよろしくお願いします」

 

「はぁ~」

 

 

当然のことながら、俺は断ることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会室にて

 

 

「失礼します。会長、連れてきましたわ」

 

「ありがとう、飛鳥君。ちょっと席を外してもらっていいかな?」

 

 

連れてこられた生徒会室には生徒会長以外の他の役員はいないようで、完璧に二人きりで話すつもりのようだ。

 

これが可愛らしい女子生徒ならドキドキする場面かもしれないが、残念ながら相手はメガネで狸な男なので何一つときめかない。

 

 

「突然呼び出してすまないね、比企谷君」

 

「申し訳ないと思うのなら今すぐ帰らしてください」

 

「さて、分かっていると思うけど呼び出した理由はまた魔女の事でね」

 

 

すげぇ、完璧に無視してくる。

 

 

「いや、前にも言いましたけど生徒会で何とかしてください。

俺は働きたくありません」

 

「それも今回はなかなかの曲者でね、相手は一年生なんだよ」

 

 

あれれ、耳の鼓膜が破れているのかな?

 

 

「生徒会でも手に負えないのなら俺に頼んで無駄ですよ、それに年下相手なんてなおさら無理です」

 

「そんな事ないよ。比企谷君は妹がいるらしいし、その辺の扱いは心得ているでしょ」

 

 

あっはっはっと笑いながら言うがこっちは全然笑えないよ。

 

 

「妹と年下は関係ありませんよ。

そういうことで話もまとまったし帰りますね」

 

 

お疲れ様でーすっとさわやか野球少年のように声をあげて帰宅したかったのだが、今回ばかりはどうにも逃げられないらしい。

 

 

「いいのかい?これは君のために言ってあげてるんだよ」

 

 

会長の顔はいつものふざけた顔ではなく、真剣さを感じさせる表情だ。

 

 

「…そのようには感じませんね」

 

「まだ肝心なことを言っていないからね」

 

 

会長はそっとテーブルの上に置いてあったティーカップに手を伸ばし、一息つく。

 

 

「魔女の名前は滝川ノア。今のところ彼女に関わった三人の生徒が問題を起こしている」

 

 

滝川ノアか、どっかで聞いたことあるような無いような感じだな。

 

 

「そして一番の問題は・・・・・・」

 

 

「......ふん、なるほどな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、失礼しました」

 

「うん、それじゃあ気をつけて帰ってね」

 

 

思っていたより長い話を終えて、生徒会室に出る。

 

今度こそ帰ろうと、今日は2度も思った気がするが、まだもう少しだけ帰れないようだ。

 

 

 

 

生徒会室のすぐ手前でさっき部屋から出てもらった飛鳥先輩と小田切が立っていた。

 

 

「話が終わったようですし、私は入っておきますね」

 

 

 

 

そう言って飛鳥先輩は生徒会室に入っていき、小田切と俺だけになった。

 

 

「よう」

 

「ええ」

 

 

まだディスティニィーの帰りの事を気にしているのか、あまり表情は良くない。

 

 

「その…、こないだはごめんなさい。いきなり、泣いてしまって」

 

「別に、もう済んだことだし気にしてないぞ」

 

「そう、でもやっぱりちゃんと謝っておきたかったから…」

 

 

そう言ってもう一度謝り、小田切は軽く頭を下げた。

 

 

「本当に気にしてないから謝るな。それに、そんなにペコペコ謝るのも小田切らしくねえよ」

 

「…そうよね」

 

 

どうやら納得してくれたようだし良かった良かった。

 

 

「…それじゃあ、ありがとね、あの時家まで送ってくれて。あと今励ましてくれてるのもありがと」

 

「ああ、やっぱりそっちの方が小田切らしくていいな」

 

 

本当に、こっちの方がいい。

 

 

「ええ、それじゃあ生徒会の仕事あるからそろそろ行くわね」

 

「ん、頑張れよ」

 

 

それじゃあと言って本当に今度こそ家に帰った。

 

 

 

運が良かったのか飛鳥先輩がてきとうな理由を言ったのかは分からないが、なぜ俺が生徒会室から出てきたのか小田切に聞かれなかった。

 

 

小田切は俺が魔女の存在を知っていることに気づいていない。

別に隠さないといけないわけではないが、知られると何となくめんどくさそうだし念のため隠している。

 

 

まぁ今回の魔女の方がよっぽどめんどくさそうだけどな。

 

 

 

今回の問題魔女の名前は滝川ノア

 

 

 

彼女の目的は朱雀高校から他の魔女を消すこと。

 

つまり、魔女を何らかの方法で退学させようとしている。

 

本来こんな事には関わりたくないのだが、

 

標的が魔女となると、黙っているわけにはいかない。

 



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第十四話

高1

 

休日、サイゼリヤにて

 

 

サイゼリヤの中は珍しく客が少なく、勉強しやすい環境だった。

 

聞こえてくるのは誰かの話声や食事中の食器の音、窓から聞こえる雨音と、

ときどき話す彼の声。

 

何故かとてもこの場所が心地よく、ずっとこの時が続けばいいと子供じみたことを考えてしまう。

 

 

「そういや、二学期の終わりくらいには生徒会役員の募集が始まるんじゃねえの?」

 

「ええ、そうよ」

 

 

比企谷も私も視線は手元の問題からそらさず会話する。

 

 

「毎年一年生から二人副会長になるんだろ?割と余裕なのか?」

 

「はぁ~、甘いわね、比企谷。

あなたがたまに飲んでるあの馬鹿みたいに甘いコーヒーより甘いわ」

 

「マックスコーヒーを馬鹿にするな。俺のソウルドリンクだぞ」

 

 

比企谷が飲んでるから真似して飲もうとしたけど、あれは甘すぎるのよね。

 

 

「いいかしら。朱雀高校の生徒会は学校内でかなりの権力を持っているの。学校行事のイベントはすべて取り仕切り、新しい部活の申請の受理や部費の配分なども全て生徒会が行っているわ」

 

 

問題を解くのをやめ、ビシッと手に持っていたシャープペンシルで比企谷の方を指す。

 

 

「それって先生の仕事入ってねえか?」

 

 

比企谷もキリがいいのか問題を解くのをやめて私の方に顔を向ける。

 

 

「ほかの学校ならそうね。だけど朱雀高校は全て生徒会任せ、つまり学校内ではそれだけ大きな存在ってことね」

 

「生徒会すごすぎるだろ…」

 

「朱雀高校では常識よ」

 

 

比企谷のように生徒会に興味がない人はほとんどいないわよ。

 

 

「それで、当然のことながら私たち一年生の中でも生徒会に入りたがる人は多いわけよ。

たぶん副会長に立候補する人数は少なくても十人はいるでしょうね。ちなみに選出は生徒会メンバー前での面接で決まるわ」

 

「思っていたよりも競争率高いな。しかも面接か」

 

「大丈夫よ。何人だろうが全員蹴散らしてやるわ」

 

「かっけぇ…」

 

「だってそのためにずっと比企谷にも手伝ってもらったしね」

 

 

そう、私の目標は生徒会長になる事。その前段階の副会長なんかでコケるわけにはいかないわ。

 

 

「…そう言えば、

小田切は何で生徒会長目指してるんだ?」

 

 

たしかに、初めに会った時からなりたいとは言っていたけど理由を言ってなかったわね。

 

 

「そうね、やっぱり上があるならそこまで登りたかったんだと思う」

 

「実に小田切らしいな。

それじゃあ、今はどうして目指してるんだ?その言い方だと過去形になるが…」

 

「今か」

 

 

今の私が生徒会長を目指している理由なんて言ってしまえば大変なことになるわね。

 

 

「まぁ私も乙女ってことよ」

 

「いや、どういうことだよ」

 

 

入学したての私はただ強い権力に憧れた。

 

でも今は“生徒会長の私と秘書の比企谷で楽しく生徒会をやりたい”

 

なんて事を思ってしまうのだから、

 

恥ずかしながら実に乙女の様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

高2

 

放課後 朱雀高校中庭にて

 

 

「それで、今のところ何人魔女を知ってる?」

 

「えっと、私を入れたら4人よ」

 

 

山崎先輩から滝川ノアの話を聞いた翌日、俺は猿島から魔女について知っていることを聞いている。

 

 

「じゃあそいつらの名前を聞いてもいいか?」

 

「ええ、私たちと同じ学年の白石うららさん、大塚芽衣子さん、小田切寧々さんよ」

 

 

白石うららと大塚芽衣子

 

学年一位の秀才と補習の常連が魔女か。

 

本当に魔女は問題児ばかりだな。

 

 

「ありがとな、猿島」

 

「ヒッキーのお役に立てたのならよかったわ。

 

それにしても、やっぱりヒッキーって魔女の事知ってたのね」

 

「まぁちょっとだけな」

 

 

そう言えば猿島の家でそれらしいことを言った気がする。

 

 

「ああ、あと一つ頼みがあるんだが」

 

「なになに?」

 

「知り合いの魔女全員に今は能力を使うなって伝えてくれるか?」

 

「いいけど、何で今は使ったらダメなの?」

 

「ちょっと話は長くなるが、猿島には話していいか…」

 

 

 

それから俺は山崎から聞いた事を猿島に話した。

 

 

 

「なるほど、つまり1年の滝川って名前の魔女が私たち魔女を狙っているのね」

 

「ああ、旧校舎の火事の原因もたぶん滝川って奴のせいだと思う。

もし未来を変えられなかったら猿島は火事の犯人として退学処分されていただろうしな」

 

「そんな…」

 

「つまり猿島はもう魔女だと滝川にバレている可能性が高い。

だから十分に注意しておいた方がいいぞ」

 

「…分かったわ。何かあったらすぐにヒッキーの所に逃げ込みに行くね」

 

「俺でもいいけど超研部でもいいぞ。あそこには山田がいるし、たぶん山田も滝川の事は既に知らされていると思う」

 

 

山崎先輩が手を焼いているのだから俺だけに頼むわけがない。

 

 

「フフフ、ヒッキーは随分と山田の事を買っているのね。

仲いいの?」

 

「いや、話したことない。ただ山田の事知っている人に聞いただけだ」

 

 

山田の事は前に山崎先輩から聞いた。

本来の目的は超研部の事を聞いたら山崎先輩がどんな反応をするか知りたかったから聞いたのだが思いもよらぬ収穫だった。

 

 

「とりあえずはさっき言った通り警戒しとけよ」

 

「任せなさい。言われた通り他の子にも伝えとくわ」

 

 

えっへんと胸を張る猿島

 

もう張る必要ないくらい大きいのでそういうのはやめていただきたい。

 

万乳引力で目線が引っ張られる!

 

 

「それじゃ、まだ用事あるからそろそろ行くわ」

 

「うん、またね」

 

 

 

 

 

 

 

 

猿島と別れてからまっすぐ超研部の部室に向かう。

 

猿島に言った通り能力を隠すことと普段から滝川に注意することで守備はいいだろう。

あとは実際に滝川に接触して根本的な事を解決しないといけない。

 

たぶんまた山田が動くと思うが、さすがにこのまま何もしないと言う訳にはいかないから一応山田に会って話を聞こうと思う。

 

正直ぼっちの俺がいきなり他人に話しかけるとか嫌すぎるのだが今回は仕方がない。

 

 

「久しぶりに来たな…」

 

 

超研部の部室が見えて思わず呟く。

 

部室からは誰かの話声が聞こえるのでまだ部活はやっているようだ。

 

「はぁ、やっぱり入りたくないな」

 

部室のドアに手を伸ばそうとするが止まってしまう。

 

だっていきなり目の腐った奴が訪ねてきたらみんな警戒しちゃうでしょ。

それに“こいつ誰だよ“みたいな雰囲気で目線刺されるとか超嫌だし。

 

 

なんて事を頭の中で考えていると部室の中から大きな音が響いてきた。

 

 

「なんだ?机でもひっくり返したのか?」

 

 

ドアに耳を近づけると、次々と物が壊れるような音が聞こえてくる。

 

 

「……まさか」

 

 

意を決して戸を開くと、そこには超研部のメンバーではない男子生徒2人と女子生徒2人がいた。

 

 

「お前ら何やってんの?」

 

 

思わずいつもより声のトーンが下がり、鋭い口調で言う。

 

俺の目の前にはむちゃくちゃに荒らされた超研部の部室があった。

 







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第十五話

二話連続投稿です。





高1

 

 

「なぁ比企谷、私は何か西園寺の気に障る様な事をしたかな?」

 

「普通に山崎先輩以外に興味ないだけじゃないですか?」

 

 

先週に中間テストは終わり、またいつも通り部活が再開された。

 

しかし今日はいつもと違って部室ではなく学校近くのファミレスで宮村先輩と話をしている。

 

 

「私としては四人仲良くやっていきたいのだが…」

 

「俺は無理だと思います。と言うか無理です」

 

「はぁ」

 

 

宮村先輩は深いため息をつく。

 

それも仕方のない事で俺だってため息をつきたいものだ。

 

 

 

先日、朱雀高校でもトップクラスの変な部活である我らが超常現象研究に新入部員が入ってきた。

 

まぁ正確には仮入部らしいがそんな事はどうでもいい。

 

問題はその生徒の性格だ。

 

 

「あの人ほとんど宮村先輩と話そうとしないじゃないですか。部室では山崎先輩としか話さないし、あれと仲良くなるなんてドラゴンボール集めないと無理ですよ」

 

「ドラゴンボールに頼らずに仲良くしたいのだ!

…まぁ実際かなり困難な事ではあるがな。比企谷の事はそもそも認知されてないかもしれない」

 

「部屋に置いてあるオブジェくらいにしか思われてないでしょうね」

 

 

マジでゾンビの標本か何かと勘違いしてるんじゃないだろうな。

 

 

「どうにか仲良くなる方法を見つけるんだ!このままでは魔女探しに集中できん」

 

「諦めましょうか」

 

「馬鹿者!あと二人なんだぞ。ここまで来て諦めるものか!」

 

「まだ“儀式”の事言ってるんですか」

 

 

思わずさっきの宮村先輩より深いため息が出る。

 

“魔女が七人そろえば何でも願いがかなう儀式ができる”なんてまさに超常現象を信じるなんて

 

それこそドラゴンボール探しに行った方がいいだろう。

 

 

「このままだと本当に超研部がなくなってしまうからな」

 

「それは山崎先輩が生徒会長になるから大丈夫ですよ」

 

「しかし他にも候補者がいるからな」

 

 

ムムムと苦悩する宮村先輩。

 

確かに小田切に散々生徒会長になるのは大変だと聞かされているので俺も簡単になれるとは思っていない。

 

 

「まぁその時はその時で流れに任せましょう。

 

と言うか何でうちの部活って廃部になるんですか?」

 

「ふっ、知れたこと

私たち超研部は何一つ功績を残していないからな」

 

「…なるほど、とても納得しました」

 

 

そう言えば俺たちの活動ってはた目からしたら遊んでるだけじゃね?

体育会系の部活は大会とかあるし、文科系は大会とかがなくてもちゃんとした目的があるのだろう。

小田切の所属している手芸部とかなら、...なんかほら、女子力とか上げれそうだし。

 

 

それに比べて俺たちは......。

 

 

 

「よくよく考えたら廃部してないことの方がおかしいですね」

 

「だろぉ」

 

 

いや、だろぉとか部長のあなたが言ったらダメだろ。

 

 

「しかし私は超研部をなくしたくない。だから何としても儀式を行う」

 

「それより山崎先輩を応援した方がいいんじゃないですかね?」

 

「山崎が生徒会長になるのはBプランだ。私たちはAプランを進める。

そのためにはまず、西園寺リカと仲良くなる方法を考えるぞ」

 

「めんどくせぇ~」

 

 

そんな事を呟いても宮村先輩が止まるはずはなく、持ってきたノートに何やら書き込んでいる。

 

本当にこの人は…

軽く呆れてしまいそうになるが、宮村レオナはこういう人なのだ。

 

こんな図太い神経を持っているからこそ、俺を入部させることが出来たのだろう。

 

 

「こら、比企谷も考えるんだぞ」

 

「…了解っす」

 

 

 

 

 

 

 

こんなくだらなくも楽しい日常はずっと続くものだと

 

 

 

 

心のどこかで、俺は思っていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

高2

 

超研部 部室にて

 

 

 

「あんた超研部の部員か?」

 

 

部室を荒らしていたメンバーの一人が口を開く。

 

他の三人も俺の方を睨んでくる。

制服のリボンの色から一年だということが分かった。

 

 

「今は違うな」

 

「なんだ、山田の仲間じゃないのかよ。

つうか誰かが外見張っといた方がいいって言ったじゃねえか」

 

「あれだけ大きな音を出したらどの道気づかれていましたよ。

それよりどうします?見られてしまいましたよ?」

 

「ボコったらいいんじゃね?」

 

 

やっぱりそうなるか。

正直無策で突っ込んできたから喧嘩になると人数的にも俺の筋力的にも無理だな。

あれっ?俺ちょっとやばくね?

 

 

…なんか猿島の家の前でもこんな事あったな。

 

 

「あっ!この人…」

 

「ん?どうしたの滝川さん?」

 

 

四人の中で一番ちっさい女子が俺を凝視して何かに気づき声を出す。

 

そしてなぜか険しい顔つきが少し緩み、また口を開いた。

 

 

「ああ~、いや、たいしたことじゃないよ。

それよりもさ、三人とも先に帰ってくれない?ノート以外使えそうな物はなさそうだし」

 

「は?こいつはどうすんの?」

 

「私が能力使うから大丈夫だよ。長居して他の人にも見られたら面倒でしょ」

 

「…そうだな、じゃあ頼んだわ」

 

 

そう言うとちっこい女子を置いて他の三人は本当に部室から出て行った。

 

止めようかとも思ったが今止めても面倒になるし、顔を覚えたから後で生徒会長にチクればいいだろう。

 

 

それで問題は

 

 

「本当に三人を返してよかったのか、滝川ノア?」

 

「ええ、問題ないですよ」

 

 

やたらニコニコ笑うこの一年生は今回の問題児である滝川ノア。

 

まぁさっきから滝川さんだの能力だの言ってたから分かったんだがな。

 

 

「と言うかノアの名前覚えててくれたんですね!

嬉しいです、比企谷先輩!」

 

「いや覚えてたっていうか人に聞いただけで…って、何で俺の名前知ってるんだよ?」

 

「いやですね~。

前にお互い自己紹介したじゃないですか」

 

 

え?何それ?初耳なんですけど

 

 

「あーあれな。なるほど、あの時ね」

 

 

そうそうあれあれ

 

で、どれなの?

 

 

「そうです!あの時ノアに優しくしてくれましたよね。

本当に感謝してます」

 

 

なぜかビシッと警察の敬礼ポーズをして深々と感謝してくる。

 

うーむ、どこで出会ったのかね?話してみると確かに他人とは思えない何かを感じる。

 

 

「今では少ないですけどちゃんと友達もできましたよ」

 

「おぉ、そうか。それは良かったな」

 

「はい!」

 

 

何だろ、この妹を相手にしているような感じは…。

 

 

妹…?

 

 

 

「あっ、分かった」

 

「いきなりどうしました?」

 

 

そうか、この娘。

 

 

「妹の小町と声が激似」

 

「それ初めて会った時も言ってましたね!」

 

 

またニコニコ笑う彼女を見ていると、さっき部室を荒らしていたのが嘘のようだ。

 

 

「それで比企谷先輩はどうして超研部に来たんですか?部員じゃないんですよね?

そう言えばあの時も超研部のクラブハウスに来てましたよね?」

 

 

ん?クラブハウス?

 

 

…クラブハウス、ちっさい一年生、声が小町に激似

 

導き出される結論は…。

 

 

「......あっ、思い出したわ。

お前滝川ノアか!?」

 

「はぁ、それはさっきやったと思いますけど…」

 

 

 

......思い出した。

 

 

 

俺は滝川ノアと会ったことがある。

 



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第十六話

今回は少し長くなりました。




高1

 

 

「中間テストの返却をしまーす」

 

 

大丈夫。あれだけ勉強したんだから何も問題ないわ。

 

 

「遠藤君」

 

「はい」

 

 

手ごたえはなかなかのものだったし80点前後はあるはず。

 

 

「小田切さん」

 

「はい」

 

 

先生に名前を呼ばれたので教卓まで答案用紙を取りに行く。

 

先生との距離は約2m。早く点数みたい!

 

 

「今回はよくできていましたね」

 

 

答案用紙を返されるとき先生がこそっと私に言った。

 

 

「……85点」

 

 

…ここではしゃいではダメよ。我慢我慢。

 

平静を装い席に戻り、ゆっくりと席に座る。

 

 

「さすがは私ね」

 

 

私はこっそりと机の下でガッツポーズをした。

 

 

 

 

 

 

 

さっきの授業で先週のテストが返され、安堵する。

 

 

「数学で68点か、俺にしては上出来だな」

 

 

心の中で小田切に感謝する。これなら追試にはならないだろう。

 

 

「一応、報告しとくか」

 

 

小田切に感謝の気持ちを伝えようとカバンの中からスマホを取り出したが、どうやら先に向こうからメールが送られていたらしい。

 

 

 

[FROM  小田切 寧々]

放課後ちょっと顔かしなさい

 

 

 

「お前はチンピラかよ…」

 

 

たぶん小田切もテスト結果の報告だろう。

 

現国教えたからいい点数取ってくれてたらいいのだが。

 

 

「了解…っと

 

あぁ、宮村先輩と山崎先輩に部活遅れるって言っとかないとな」

 

 

宮村先輩は今日西園寺先輩と仲良くなるために色々するって言ってた気がする。

たぶん小さなパーティーでも開くのだろう。

 

 

 

......まぁあの人なら一人でも上手くやるか。

 

 

そう思って宮村先輩にメールを送り、次の授業の準備をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし俺がこの時、普通に部活に行っていれば

 

何か変えることが出来たのだろうか...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

高2

 

 

今年の5月の事だ。

 

俺は“朱雀高校の七不思議について”と言うタイトルのノートを見るために朱雀高校が所有しているクラブハウスに行くことにした。

 

 

「我ながらめんどくさいな」

 

 

クラブハウスは朱雀高校から離れた場所にあり、今は一年生が泊りの講習で使っているはずだ。

 

補習合宿の時のように学校からバスが出れば嬉しいのだが、今回は電車で行かなくてはならない。

 

片道約2時間ってところだな。

 

 

「ノートに七人目の魔女の能力に関して詳しく書いてたらいいんだけどな」

 

 

正直言えば、一度軽くだが目を通したことがあるので俺の欲しい情報は書いてないと思う。

しかし万が一書いていたらかなりの収穫になる。

 

 

今はちょうど一年の講習で使っているので、クラブハウスは必ず入ることができる。

他の日に行ってクラブハウスに誰もいなくて鍵がしまってました、なんてことになったら最悪だからな。

 

 

「しゃあねぇ、偶には外出するか」

 

 

 

 

 

そんなわけで、俺はクラブハウスに行ったのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうしてこうなった」

 

ただ今の時刻、18時13分

やっとの思いでクラブハウスに到着した。

 

 

昼にだらだらし過ぎて出発は遅れたが、到着時間は17時前の予定だったのに

 

 

「まさか電車の中で寝てしまうとは」

 

 

寝過ごして一時間のロスとは俺らしくない。

 

 

だがそれをぐだぐだ言っても仕方ない。精神的にも身体的にも疲れてきたし、さっさとノート探して帰るのが吉。

 

そう思って俺は今日の講習が終わって自由時間を過ごしている一年生の中に紛れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうしてこうなった」

 

 

ただ今の時刻、18時46分

やっとの思いで超研部の倉庫のカギと懐中電灯を手に入れた。

 

クラブハウスの職員室ですぐにカギを借りる予定だったのに少し誤算があった。

 

 

「おっさん話長いんだよ…」

 

 

カギを借りるために“現生徒会長である山崎先輩に頼まれた”

と、てきとうな理由をでっちあげて職員のおっさんに説明したら

 

 

「へぇ、山崎君の後輩なの?あの子はホントによくできた生徒だよね。

彼が二年生の時に数学の担当したけど・・・・・・・」

 

 

ペラペラペラペラ山崎トークが止まらず、無駄な時間を過ごしてしまった。

 

こちとら早く用事済ませて帰りたいんだよ!っとマジで言いたくなったが、おっさんがあまりにも楽しそうに話すからやめておいた。

 

懐中電灯は超研部の倉庫の電気が点かないらしいので貸してくれた。

 

 

 

そしてやっと倉庫前に到着した。

時刻は18時51分

 

一年生は風呂に入っているのか夕食を食べているのか知らないが、この時間帯には超研部の倉庫の周りに人の気配はない。

 

 

「ふっ、ずっとお前に会いたかったぜ」

 

 

あまりの疲れで倉庫のドアに話しかけてしまう。

 

これからノート探して家に帰るとか想像すると絶望でしかない。

家につくの21時くらいだぞ。

 

 

「はぁ……。

 

…ん?中から声が?」

 

 

あまりのダルさにため息をついた瞬間、倉庫から誰かの声が聞こえた気がした。

 

...ホラーな予感。

 

 

「きっと来る人でもいるんじゃねえの?」

 

 

まぁそれは冗談としてこの時間帯に生徒が倉庫の中にいるはずがない。

 

ちょっと恐怖を感じつつも、カギを開けて倉庫を開けてみると

 

 

 

 

「…グスッ」

 

 

 

窓から月明かりが射す倉庫の中で、一人の少女が泣いていた。

 

 

「…おい、大丈夫か?」

 

「あっ…」

 

 

うずくまっていた少女は俺の声に気づき、涙を見られたくはないのか服の袖で必死に拭い、小さく頷いた。

 

 

「…先生呼んでくるか?」

 

「…」

 

 

返事はくれないが、顔を横に振ったので呼ばなくていいらしい。

 

 

「…そうか」

 

 

19時頃までカギのかかった倉庫に一人ぼっちとは

正直言って誰かが意図的にそうしたとしか思えない。誰かがこの子をここに閉じ込めたんだろう。

 

 

「質の悪い奴がいたもんだな」

 

 

高校生になっても、どの学校に行ってもこういうことをする奴らはいるもんなんだな。

 

 

「……ィㇾ」

 

「はい?」

 

 

やっとまともに喋ったのだが声が小さすぎて聞き取れなかった。

決して難聴系主人公を気取っているわけではない。

 

「トイレ……行ってくる」

 

 

そう言うと立ち上がって倉庫から出て行った。

 

 

「…とりあえず、ノート探すか」

 

 

思わぬ展開になったがあくまで俺の目的はノートを見ることだ。

これで俺の努力が報われる結果になればいいのだが。

 

 

「ちっ、暗くて探しにくいな」

 

 

倉庫の中は窓からの月明かりと懐中電灯の光しかあてにならない。

 

まぁ倉庫と言っても普通の小さい部屋に机や棚が置いてあり、その上に荷物が置かれているだけなので比較的見つけやすいはずだ。

 

 

「ノート、ノートっと

うーむ、机にも棚にもねえぞ」

 

 

まずい、これでは長い時間をかけてクラブハウスに来た意味がなくなる。

 

 

それから探し続けてもノートは見つからず、そろそろ諦めだしたその時、

 

 

「ねえ」

 

「うお!」

 

 

ドアの方から急に声をかけられる。

振り返ってみるとさっきトイレに行った少女がそこにいた。

 

...まさか帰ってくるとは思ってなかった。

 

 

 

「…探してるノートってこれの事?」

 

 

ひょいっと挙げた右手には確かに俺の探しているノートを持っている。“朱雀高校の七不思議について”の下巻だ。

暗くてあまり見えていなかったが、どうやらトイレに行く時に持って行ったらしい。

 

 

「そう、それだ。ちょっと借りてもいいか?」

 

「別にいいけど…」

 

とりあえずここではノートが見にくいので倉庫から出てカギをかけ、電灯のある所に向かう。

ノートだけ貸してくれたらよかったのだが少女は後ろからついてきた。

 

 

倉庫から少し離れたところに座れるところがあったので、二人ともそこに座り話を始めた。

 

 

「じゃあそのノート借りてもいいか?」

 

「うん、でもその前に一言お礼を」

 

 

ありがとう、と言い少女は軽く頭を下げた。

 

 

「いや、たまたま用があっただけだし、別にお礼を言われる筋合いは…」

 

 

そう言ってもなお、頭を下げ続ける彼女は、よく見ると涙を流していた。

 

 

「グスッ…。ごめん、でもやっぱり、…悔しくって

ノアは何も、…何もやってないのに」

 

「…そうか、やっぱり誰かにやられたんだな」

 

 

人間は誰かを見下していると安心する。だから誰かをいじめ、そいつは自分より下だと思い込み優越感に浸る。

気持ち悪い、気持ち悪い奴らだ。

 

なんでこの子がそんな奴らのせいで泣かなければならないのだ。

 

 

「…絶対に見返してやる」

 

 

泣きながら少女はそれを口にした。

 

 

「…見返してやるか、確かにそれは良さそうだな」

 

 

彼女が見返してやるといった時、昔の事を思い出した。

 

 

俺が小学生の時、いじめてくる奴に一度だけ仕返ししたことがある。

まぁ下駄箱に砂やら水やらを入れるいかにも小学生な方法だ。

 

結果、相手の事をイラつかせて、その仕返しを食らってボコボコにされた。

 

ボコボコにされた後、その場を去って行く奴らを見ていると涙が出てきた事をよく覚えている。

 

 

ボコボコにされて体が痛かったとか、やられたことが悔しいとかそういう事じゃなくて

 

ただただ、あいつらと同じ様な事をした自分が情けなかった。

 

 

 

「…見返す方法は考えているのか?」

 

「えっ?まだだけど…」

 

「まだか、それなら…。

 

 

…友達作れば?」

 

 

「友達?……何言ってんの?」

 

「言葉通りだ。友達作るんだよ。

一流ボッチの俺は友達いねえけど、お前は顔も可愛らしいし、友達百人作れるだろ。

 

……お前を閉じ込めた奴らに直接仕返ししても、お前の立場は何も変わらないし何一つ得るものはない」

 

 

少女は俺が話をしているうちに泣き止んでいた。

 

 

「……友達作れば、本当にあいつらを見返すことが出来るの?」

 

 

「そうだな、見返せるかどうかは分からないが…。

 

そいつらがうらやましく思えるほど仲のいい友達作って、誰よりも楽しく過ごせたら

俺はそれで十分だと思う」

 

 

“俺がそうだったように”と最後に付け足した。

 

少女は足元を眺め、何かを考えているようだった。

 

 

「どうして、……どうしてそんなに優しい事言ってくれるの?」

 

 

必死で絞り出した声は涙ぐんでいた。

 

また少女は目に涙を溜めている。

 

 

「別に優しい事を言ったつもりはないが、しいて言うならそうだな。

……妹に声が似ているからだな」

 

 

そう言うと少女の瞳から涙は流れているが、同時に笑ってもいた。

 

 

「フフフ、そんな理由で優しくしてくれるなんて」

 

「だから優しくしてないって」

 

 

小町の声に似ているのはマジだけどな。

 

 

「こんなに面白い人も同じ学校にいるんだね。

私は滝川ノア、名前教えて」

 

「比企谷八幡だ」

 

「比企谷か、聞いたことないな。何組なの?」

 

「あぁ、俺は二年生だからクラス言ってもあまり意味ないと思うぞ」

 

「えぇ!年上なの!?」

 

 

そう言えば言ってなかった。

まぁ普通に考えればここに二年の俺がいるのはおかしいから一年だと思ってしまうのも無理はないか。

 

 

「ちょっと用事があって来ただけだ。そのノート見たらすぐ帰る。

と言うかそろそろ帰りたい」

 

「ああ、忘れてた。ごめん…じゃなくてごめんなさい」

 

 

そう言うとスッと俺にノートを渡してきた。

 

 

「ん、ありがとな。

もう時間も遅いし写真撮って後から見るわ」

 

 

そうして俺はある程度撮るところを抜粋してスマホで撮影した。

 

 

「んじゃ、やることやったしそろそろ帰るわ」

 

 

疲れているのかやたらと重く感じる腰を上げ、カバンを手にした。

 

 

「そうですか。今日はありがとうございました。

比企谷先輩!」

 

「いや、偉そうに年上ぶっただけだ」

 

 

それじゃあなと言って職員室に向かい、カギを返してクラブハウスを出た。

 

 

 

これでクラブハウスでの長い長い話は終わりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、あの先輩にメアド聞いとけばよかったなぁ」

 




誤字の報告、感想、評価をつけてくださった皆様ありがとうございます。

良ければこれからもお願いします。


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第十七話

高2

 

超研部にて

 

 

長い回想を経てやっと思い出した。

 

 

「まさか、あの時の泣き虫がこんな事をしているとはな」

 

「まさか、こんな事をしている時に比企谷先輩と再会するとは思っていませんでした。

正直言って、比企谷先輩には見られたくなかったです」

 

 

荒らされた部室を再度見ると、怒りより悲しさの方が感じられた。

 

 

「……さっき帰ったお前の連れの事は少し知ってる。

体育祭のボイコット、定期テストでのカンニング、他校との乱闘事件。

これらは全て集団でおこなわれたが、さっきの三人はそれぞれの首謀者と言われてる」

 

「クスッ、少しじゃなくて結構知ってるじゃないですか。先輩友達いないって言ってたのに情報通ですね。

 

もしかして、生徒会の差し金ですか?」

 

「よく分かったな」

 

「はい、最近あいつら何かとうざいですから」

 

 

口の悪い後輩だ。

 

 

「権力だけ持ってて何もしない。今先輩が言った三人の事だって何もわかってない。

あの三人が首謀者?

笑わせないでくださいよ、三人とも濡れ衣を着せられただけなのに」

 

 

滝川の口調はだんだん強くなっていく。

 

 

「みんなが敵で教師も生徒会も、誰も頼れない。

だから私は「魔女の力を欲しがった、そうだろ?」……はい」

 

 

滝川ノアの目的は朱雀高校にいる魔女を退学させること。

だが本当の目的は退学させることではなく、退学させることによって能力を誰かに循環させることだ。

 

 

「“朱雀高校の魔女は、退学または卒業などで学校からいなくなると、

その能力は他の生徒に継承される“。これは先輩と初めて会った日に手に入れたノートに書いてありました」

 

「ノートの下巻だろ。持って帰ったんだな」

 

 

これに関して言えばクラブハウスで倉庫のカギを持っていた俺がちゃんと元の場所に戻さなかったのが悪いな。

 

 

「そして重要なことがもう一つ。

“魔女は問題のある生徒から生まれる”。つまりあの三人は十分に魔女になり得るという事です」

 

 

滝川の言う通り、魔女は変わり者や悩みを持った生徒ばかりだ。

だからもし、猿島やほかの魔女が退学してしまえばその能力はあの三人の誰かに宿るかもしれない。

 

 

「確かにお前の言ってることは筋が通っているが、魔女の能力を手に入れたらどうする?」

 

「そんなの決まってますよ。

あいつら全員見返してやります」

 

 

「……そうか」

 

 

今の滝川と話していてよく分かった。

 

俺は結局何も伝えられていなかった。

 

何も変えてやれなかった。

 

 

 

「もちろん先輩には何もしませんよ。

 

……だからもう生徒会には関わらないでください」

 

 

彼女は小さい足で俺との距離を詰め、触れそうなくらい近くまで来た。

 

 

 

「……ノアの仲間になって下さいよ、比企谷先輩」

 

 

元々身長は低く、しかも俺の目の前で少し下を向いているため滝川の表情は見えない。

 

でも滝川が何を思って俺を仲間に誘ったか、それは分かる気がした。

 

他人を知った気がして、理解したつもりでいるのは俺がとても嫌いな事なのに

 

 

 

「…魔女の力は誰かを傷つけるためにあるんじゃない。

これは俺が一番尊敬している先輩が言っていた事だ」

 

 

昔、魔女の力は悪用できるんじゃないか、と冗談交じりで言った時に軽く怒られた。

今は誰よりも魔女に苦しめられているのに、それでもあの人の考えは変わっていないだろう。

 

 

「そんなの…きれいごとですよ」

 

「俺もそう思う。

だが今、一番魔女に苦しめられている人がそう言うから、俺はそうであってほしい」

 

「…いい先輩さんですね」

 

「まぁな」

 

 

俺にはもったいないくらいのいい先輩だ。

 

 

「でも、ノアはそんないい子じゃいられません…」

 

 

気づけば滝川は俺の制服をぎゅっと握りしめている。

 

 

「魔女の力でも使わないと、…あの三人を救えない」

 

 

滝川の声は昔と同じ、涙声だった。

 

 

「いや、お前はいい子だし、能力で誰かを傷つけたりはできない」

 

「…何を根拠に言ってるんですか?」

 

「誰かを傷つけることは、お前を傷つけた奴らと同じ様な事をするってことになる。

それをお前は許すことが出来るのか?」

 

 

滝川は言葉が出てこないのか、俺の体に頭を打ち付ける。

 

 

「そんな言い方……ずるいですよ」

 

 

ずるいか、確かにずるいのかもしれない。

 

こういえば滝川は動けなくなる。

 

 

「年上はずるい奴が多いからな。

まぁ俺がこんな事を言おうが言うまいが結果は変わらねえよ。

 

どうせお前は、…いやお前ら四人とも、こんな事本当はやりたくないって思ってるんだろ」

 

 

そう言うと、何かが切れたかのように滝川は嗚咽を漏らし、泣き出した。

 

 

「泣き虫のくせに我慢するからこういうことになるんだよ」

 

 

俺は泣き続ける滝川にもう一つだけ話をした。

 

 

「ずっと前に言っただろ。

 

うらやましく思われるほど仲のいい友達作って、誰よりも楽しく過ごせたら、

 

俺はそれで、十分だと思う」

 

 

滝川ノアは泣きながら、強く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

滝川が泣き止み、少し話をしたら彼女は家に帰った。

 

 

もう一度、あの三人と話してみるそうだ。

 

 

一方俺は、生徒会室に向かった。

 

 

今日はカッコつけすぎたから早く帰りたいが、やるからには最後までカッコつけなければならない。

 

 

 

たぶん俺がこんなにもカッコつけたのは、

 

滝川ノアが妹に似ていたことと、

 

俺にカッコいい先輩が二人もいるからなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日

 

 

滝川ノアを含む四人の一年生は超研部のメンバーに謝罪に行ったらしい。

 

超研部のメンバーも許してくれたそうだ。

 

そしてもう一つ。

 

体育祭のボイコット、定期テストでのカンニング、他校との乱闘事件。

これらの行為の主犯は今までそうだと思われていた人物の仕業ではない、と言う噂があらゆるところで流れ、絶対権力を持つ生徒会からも、それに近い報告が掲示板に出されていたという。

 

 

 

 

 

 

最後に一つ。

 

その日、一年生の四人組が誰よりも楽しそうに一日を過ごしたそうだ。

 

 







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第十八話

高1

 

 

人との別れは経験したことがあると思う。

中学を卒業した時もそうだ。あれは確かに別れの時だった。

 

でも俺は、自分にとって近しい人との別れをしたことが今までになかった。

それは自分にとって家族以外で近しいと思える人が今までいなかったからだ。

 

だから本当に大切な人との別れはこれが初めてかもしれない。

 

 

 

 

ほとんど何の前触れもなく、別れの時はやって来た。

 

俺は何もできずに、ただ立ち尽くしていただけだった。

 

 

お前とまだ一緒にいたい。

 

本当は思い出してほしい。

 

 

……。

 

 

でもこれは、

 

 

誰にも言えないただの独白だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後 超研部の部室にて

 

 

静かな部室の中で、ついつい小言を言ってしまう。

 

 

「比企谷の奴め、今日は西園寺と仲良くなろう作戦を行うと言っていたのに遅れるだと?

私一人では盛り上がりが欠けてしまうではないか。

山崎も用事があって遅れるらしいし…」

 

 

授業が終わり、先に部室に来て比企谷と色々準備をする予定だったがこれでは時間が足りないかもしれない。

 

 

「日にちをずらすべきか?いやそもそも山崎にも説明して協力してもらった方がいいかもな」

 

 

誰もいないので当然返事はなく、少し寂しい気持ちになる。

 

 

「フフ、これくらいで寂しく感じるなんて、

最近賑やかになったせいだな。」

 

 

私と山崎が一年生の時は三年の先輩はいたが二年の先輩はいなかった。

 

だから二年生になってからは山崎と二人だけ。

 

もちろん楽しかったが他にも仲間が欲しかった。

 

 

「今では後輩もでき、仮入部の西園寺もいる。

私は幸せ者だな」

 

 

問題があるとしたら廃部になりそうなことだが、これも心配ないだろう。

 

山崎も会長になろうと頑張っているし、比企谷もああ見えて本当はしっかりしている。

 

部長としては情けないが本当に困ったときは彼らに頼ったら何とかなる気がする。

 

 

だからこれからもずっと……

 

 

「レオナ君!!」

 

「ひゃ!」

 

 

部室のドアが乱暴に開けられ、山崎が私の名を呼ぶ。

 

 

「山崎か、びっくりしたぞ」

 

 

山崎は走って来たのか息が荒く、声は大きい。

 

 

「今すぐに家に帰るんだレオナ君!」

 

「どうしたというんだ、いきなりそんな事を言って」

 

「すまない、でも急いでくれ。西園寺君が来る前に」

 

 

そう言って私の腕を引き、走って部室を出る。

 

 

「待て山崎、なぜ西園寺がきたらダメなのだ?」

 

「…七人目の魔女だ」

 

「え?」

 

「西園寺リカは七人目の魔女だったんだよ!!」

 

「な、何を言っている…?」

 

 

腕を引っ張られ、全速力で走っているせいか頭がうまく回らない。

 

 

「僕はさっき西園寺君本人にそう言われた。

そしてその時何かをされた、たぶん能力をかけたんだろう」

 

 

下駄箱の前まで来て、ようやく山崎は止まる。

 

 

「このままじゃ君も比企谷君も記憶を消されてしまう。だから逃げるんだ」

 

 

山崎は掴んでいた私の腕をはなし、家に帰るように私の背中を軽く押す。

 

 

「ちょっと待ってくれ、何かされたと言っても現にお前は私たちの事を覚えているし、記憶を消されるようなことは何もしてないじゃないか」

 

「…いや、僕たちは魔女を探し過ぎたんだ。

だから生徒会は僕たちに目を付け、七人目の魔女に記憶を操作させるつもりなんだ。

 

きっと魔女に関すること、つまり今まで超常現象研究部でやってきた事は全て忘れさせられるかもしれない…」

 

「そんな…」

 

 

分からない。私はどうしたらいいんだ。

 

 

「僕は比企谷君を探してこの事を伝えないといけない。

メールで遅れるって言ってたから学校内のどこかにいるはずだ。

西園寺君と鉢合わす前に必ず見つけだす」

 

「でも、私は…」

 

「大丈夫だよ」

 

 

山崎はいつもの様にニコッと笑顔をみせた。

 

 

「必ず、また三人で集まるから」

 

「…うん」

 

 

 

こうして、私は逃げるようにして家に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから私は、一度も学校に行っていない。



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第十九話

高1

 

 

人との別れは悲しいけど確実に会って、それはいつか迎えると分かっている。

でもそれには節目があって、大切な人であればさよならを必ず言えると思っていた。

 

だから私の心は叫んでいる。

 

だから私の心は泣いている。

 

理不尽だ。

 

彼ともう一度会いたい。

 

 

……。

 

 

でもこれは、

 

 

誰にも聞こえないただの独白だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後 中庭にて

 

 

「フフン、来たわね」

 

「おう、早いな」

 

 

メールで言われた通り、授業が終わってからすぐに中庭に来たが小田切の方が先に着いていた。

 

 

「呼び出した理由は他でもない、中間テストの結果についてよ」

 

「いい点とれたのか?」

 

「ええ、聞いて驚きなさい。

何と、現国で85点も取ったのよ!」

 

「おぉ、思ってたよりも点数高いな」

 

「そうでしょ!」

 

 

小田切はよほどうれしかったのかテンション高めだ。

 

 

「この点数なら比企谷ともいい勝負してるんじゃないの?」

 

「まぁ確かにそうだな。

 

94点だから9点しか差がねえな」

 

「…94点」

 

 

ふっ、学年2位(国語だけ)の実力をなめてもらっちゃ困る。

 

 

「…比企谷のくせに生意気だ」

 

「何それ、つるはしで穴掘って攻め込んでくる比企谷君を倒すゲームか?」

 

「…何言ってんの?」

 

 

あらら、こいつゲームとかしなさそうだからネタが通じないか。

 

 

「それで、数学どうだったの?90点取れた?」

 

「さすがに90点は無理だ。

68点だった」

 

「68か、もう少し取りたかったわね。私の教え方がダメだったのかしら」

 

 

小田切の教え方はかなり分かりやすかった。単純に俺の基礎力が足りなかったのだろう。

 

 

「いや、本当に助かった。ありがとな、小田切」

 

「べ、別にそんなに改まってお礼しなくてもいいわよ。

…私もあなたのおかげで点数上がったし」

 

「そうか。

また機会があれば頼んでもいいか?」

 

「当然よ。あなたは私の秘書になるんだから遠慮なんていらないわ」

 

 

私に任せなさいっと付け足して言う。

 

いつの間にか俺が秘書になるのは決定しているようだ。

 

 

「…それじゃあ、そろそろ部室に行くわ。

小田切も手芸部あるんだろ?」

 

「ん、分かったわ。じゃあまたね」

 

 

小田切は胸の前で軽く手を振ってから、部室の方に走っていく。

 

 

「…“またね”、か」

 

 

俺も部室に向かおうと思った時、後ろから少し冷たい風が俺のアホ毛を揺らした。

 

風は草の匂いと一緒に、甘い香水の香りも運んでくる。

 

 

何故かそれが気になり、俺は振り返った。

 

 

 

 

「……西園寺先輩?」

 

 

「こんにちは、比企谷くん」

 

 

 

 

俺の視線の先には日傘をさした西園寺リカが立っていた。

 

 

 

 

 

 

……。

 

……。

 

 

俺はずっと思っていたことがある。

 

 

 

小田切寧々は明るくて可愛い女の子だ。

 

実は努力家で、俺には誰からも尊敬され、愛されたがっているように見えていた。

 

しかし不器用で上手く友達が作れない所が、また可愛らしかったりする。

 

 

 

 

 

そんな小田切の事がとても好きだった。

 

 

 

 

 

「俺に何か用ですか?」

 

「うん、用ならあるよ。でもその前に言わないといけないことがあるの」

 

 

 

たぶん“また”会っても、俺は小田切寧々の事が好きだと思う。

 

 

 

「…ゴメンね。比企谷八幡くん」

 

 

 

 

 

 

たとえ俺の事を忘れていようとも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やけにぐったりした朝だった。

 

いつもは張り切って学校に行く準備をしていたのに今日はあまり気分が冴えない。

 

今まで何が私の気持ちを明るくしていたのだろう?

 

 

 

登校しながら昨日の事を思い出す。

 

私の苦手な国語のテスト、いつもは60点台なのに今回は85点。

 

それが頭に浮かぶと私は少しうれしくなった。

 

「うーん、でも何でそんなにいい点数がとれたのかしら?」

 

不意に疑問に思ったが、その理由を考えなかった。

 

 

 

 

 

そうして私は歩き続け、いつの間にか朱雀高校前の大通りについていた。

大通りには私と同じく通学する生徒でいっぱいで、みんな同じ方向に向かって歩いている。

 

 

 

しかし、正門の脇に一人だけ、

 

私達の方を見て立ち止まっている男の子がいた。

 

 

 

たぶん誰かと待ち合わせでもしているのだろう。

 

私はそう思って、校門に向かいながら何となく彼を見ていた。

 

彼はキョロキョロと誰かを探し続け、次第に私との距離は縮まっていく。

 

 

そしてすぐそばまで来て、

 

 

 

彼と目が合った。

 

 

 

 

「......何か用かしら?」

 

 

「なぁ俺の事、

 

……いや、何でもない。すまん、人違いだった」

 

 

 

「…そう」

 

 

 

 

一瞬胸がざわっとした。

 

でも会話はそれきりで、私はまた歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「…さっきの男の子」

 

 

 

 

私が声をかけた時、とても悲しそうな顔をしていた。

 

何故か分からないけど、それがとても気になって私の歩くスピードはどんどん遅くなっていく。

 

やはり今日は気分が冴えない。

 

今まであった気がする楽しみは何だったのだろう?

 

さっきの男の子はなぜあんな顔をしたのだろう?

 

私は考え続けた。

 

考えて、

 

考えて、

 

 

そして下駄箱の手前でついに立ち止まってしまった。

 

 

 

「……どうして、あんな顔をするのよ」

 

 

私はそう呟いた瞬間、元来た道を走り出した。

 

 

 

何でこんな事をしているか分からない。

 

でもどうしても気になる。

 

さっきの彼の顔を思い出すと胸が締め付けられるように痛い。

 

 

私は校舎へと向かう生徒達の中をすり抜け、さっき彼と会った場所まで戻って来た。

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 

でも、あたりを見回してもさっきの子はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数か月後、

 

私は生徒会副会長に就任した。

 

 

 

 

 

そして二年生になり、私は魔女の能力を持っていることが分かった。

 

相手を虜にする能力。

 

これはとても便利で、たくさんの人を虜にして私の親衛隊にした。

 

 

これで生徒会長になれる。

 

そう思い、能力を使い続けた。

 

 

しかし能力に夢中になっているせいで私はすっかり忘れてしまった。

 

校門のそばで会った彼の事を...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6月

 

クラスで行われる林間学校の班決め。

男女の組み合わせはくじで決めることになった。

 

「ではくじを引きに来てください」

 

私はグループを代表してくじを引きに行き、自分の引いた紙を見たら3番と書いてあった。

 

 

「3」

 

 

隣で私より少し早く、くじを引いた男子が番号を言う。

 

 

私と同じ番号だ。

 

 

先生は彼から番号を聞くと、“比企谷班”と綺麗な字で黒板に書く。

この子は“比企谷”と言う名前なのか。

 

 

 

そして先生がチョークを止めるのを見計らって、私も番号を伝えた。

 

 

「3番」

 

 

それを聞いた彼は、席に戻ろうとしていたが私の方を振り返り、私と目が合う。

 

 

 

たった数秒、

 

 

ほんのわずかな数秒だけ見つめあって、私は彼にこう言った。

 

 

 

 

「じゃあよろしくね」

 

「…あぁ、よろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが彼を忘れてしまった私と、

 

 

私の事を覚えている彼の出会いだ。

 



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第二十話

高2

 

朱雀高校 文化祭

 

 

「はぁー、人が多いわ」

 

 

周りを見渡すと人、人、人。

 

やれメイド喫茶をやっているだの。

やれお化け屋敷をやっているだの。

やれ100パーセント当たる占い(焼きそばパン付き)をやっているだの。

 

今まさに、朱雀高校は最高の盛り上がりである。

 

 

「何か面白いものないかしら」

 

 

廊下を歩き、いろんなクラスや部活などの屋台を一人で見て回る。

 

いつもなら誰かと一緒に行動するのだが、今回は誰も誘わなかった。

 

もちろん友達がいないわけではない。

 

 

「一緒に行きたい奴は誰かって聞かれたら、真っ先にあいつの顔が出てきたのよね」

 

 

同じクラスだから思い切って誘えばよかったのに。

 

私って案外ヘタレなのかしら?

 

 

「…はっ!もちろん好きだからとかじゃないわ。ディスティニィーランドに行ったとき話が結構合って、楽しかったからまた話したいなと思っているだけで…」

 

 

…私は誰と話しているのよ。

 

 

「…ディスティニィーのときにLINE交換しとけばよかった」

 

 

せっかく二年生になってからガラケをスマホに変えて、話題のコミュニケーションアプリを入れたんだからもっと活用しないと。

 

 

「まぁ今更ブツブツ言ってもしょうがないわ。

とにかく甘いものでも買いましょう」

 

 

そう言ってまた屋台を見るのに集中しようと思ったが、ほとんど無意識に通り過ぎる人に目をやる。

 

まるで誰かを探すように。

 

 

ゾンビのような目に姿勢の悪い猫背。

 

頭のてっぺんにはぴょこっとアホ毛が飛び出している奴…。

 

 

「そんな簡単に見つかるわけな「うわ…っぷ」…あっ!?」

 

 

前をちゃんと見ていなかったため誰かとぶつかってしまった。

 

幸い相手は私より小柄で、ぶつかりはしたが二人ともコケていない。

 

 

「すみません、よそ見してました」

 

「あっ、その、私もよそ見していたわ。ごめんなさい」

 

 

ぶつかったのは顔立ちから中学生くらいの女の子だと思われ、片手に文化祭のパンフレットを持っている。

 

 

そして頭のてっぺんには

 

アホ毛が揺れている。

 

 

「あの~、失礼ですけど朱雀高校の人ですよね?

ちょっと道を聞きたいんですけど…」

 

「ええ、構わないわ。

良かったらそこまで送るわよ?」

 

「ええ!いいんですか!?」

 

 

私は生徒会だし、それにどうせ暇だからね。

 

 

「ありがとうございます!

いやー、兄と待ち合わせしたんですけど場所がなかなか見つからなくて」

 

 

パンフレットの地図を指さしココです!と女の子は言う。

 

 

「へぇ、お兄さんと一緒に見て回るの?」

 

 

指を指している所を確認し、女の子を誘導しながら会話の続きをする。

 

 

「はい!うちの兄は妹がいないとダメダメですから」

 

「フフフ、仲いいのね」

 

 

思わず微笑む。かわいらしい妹さんだ。

 

 

「そう言えばお姉さんはお連れの方はいないんですか?

美人さんですから男の人とか」

 

「それがいないのよねぇ。

誘おうと思ってた人はいるんだけどタイミング逃しちゃって」

 

「それは残念です……。

 

それじゃあうちの兄はどうですか?

今なら無料でレンタルしちゃいます!」

 

「いや、それはさすがに…。

そもそもお兄さんは何年生なの?」

 

「二年生ですよ」

 

 

同い年か、案外玉木とかだったりするかもね。

 

 

「はい、着いたわよ。」

 

 

話している間に目的地に到着した。

 

 

「お兄さんいる?」

 

「えーとですねぇ……、あっ、いました!

あれですよ!」

 

 

妹さんが指さす人を見ると、どこかで見たことがある顔だった。

 

 

「あれって、…玉木よね」

 

 

まさか予想が当たるなんて。

 

 

「お兄ちゃん!こっちこっち!」

 

 

大きく手を振り玉木を呼ぶ妹さん。

 

それに気づいたのか向こうから玉木は歩いてくる。

 

正直全然似てないわ。

 

 

「おぉ、奇遇だね、小田切君

相変わらず友達いないのかい?」

 

 

フッと鼻で笑い、小ばかにしてくる。

 

 

「あん?あなたと一緒にしないでくれる?

それにあなたの妹連れてきてやったのよ」

 

 

やはり生徒会長の座を狙う者同士、仲良くできないわね。

 

 

「は?妹?」

 

 

何を言っているのか分からなそうな玉木。

 

目の前にいるのに見えないの?

 

 

「いやいやお姉さん、うちの兄はこの人じゃないですよ。

うちの兄はこの人の後ろにいるアホ毛頭です」

 

「ん?後ろ?」

 

 

玉木の後ろには確かに頭のてっぺんにぴょこっとアホ毛が飛び出している、猫背でゾンビみたいな男がいた。

 

 

「…うっす」

 

「ひ、比企谷!?」

 





誤字の報告、感想等ありがとうございました。

読んでくださる皆様も、いつもありがとうございます。

お気に入り登録や評価付与は大歓迎です。

これからもよろしくお願いします。


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第二十一話

高2

 

朱雀高校文化祭

 

 

 

「自己紹介が遅れました。

いつも兄がお世話になっております。妹の小町です!」

 

「えっと…、小田切寧々です。」

 

「比企谷君の親友の玉木真一です」

 

「嘘つくな」

 

 

いきなりの展開にあまりついて行けず、きちんと自己紹介が出来ていない。

 

 

「いやー、うちの兄がこんなきれいな人と知り合いだなんて小町感激です!

何で教えてくれなかったの、お兄ちゃん?」

 

「何で逆に教えるんだよ」

 

 

確かに二人を横に並べてみると頭のアホ毛は似ているけど…。

 

 

「アホ毛以外似てないわ」

 

「うるせぇほっとけ」

 

「確かに、いつも可愛いって言っていたけどまさかここまでよくできた妹とは…」

 

 

本当にこの男の妹がこんなに可愛いなんてそんなことあるのかしら?

 

…まさか義妹!?

 

結構複雑な家庭なの!?

 

 

「照れますねぇ、これでも一応、血のつながった兄弟ですよ」

 

「「え、マジ?」」

 

「お前ら反応ひどすぎだろ。

と言うか小町ちゃん、ちゃんと血のつながりあるから一応とか言わないで」

 

 

うーん、兄弟と言われてもやっぱり納得いかないわね。

目が違いすぎるわ。

 

 

「それにしてもお兄ちゃん、いつの間にこんなにコミュ力つけたの?

もしかして他にも知り合いいたりするの?」

 

「いるわけねぇだろ、小田切は同じクラスで玉木は……。

 

小田切はクラスメイトだから知ってるだけだ」

 

「今僕の事言いかけてやめたよね!」

 

 

自分の説明に不満を持ったのか玉木は比企谷に文句を言う。

 

 

そして今の説明に私も不満がある…。

 

 

「今の説明じゃただのクラスメイトみたいじゃない…」

 

 

林間学校でちゃんと友達申請したし、曲がりなりにも一回デートしたんだからせめて友人って言ってくれてもいいのに…。

 

 

「だいたい比企谷君は僕の説明が荒いんだよ、さっき二回も比企谷君の知り合いに会ったのに二回とも今と同じような説明するし…」

 

「えっ!?玉木さん、今のほんとですか!?」

 

「ばっか、おまえ、いらんこと言うな」

 

 

私もはっきり聞こえた。

 

 

「…比企谷に私達以外の知り合い?」

 

 

あまりイメージしにくいけどさすがの比企谷でも知り合いくらいは数人いるか。

 

 

「ああ、本当だよ。

僕達と同い年の猿島マリアと後輩のくせに生意気な滝川ノアと言う二人だよ」

 

「おぉ!!二人とも女の子!!」

 

「だからいらんこと言うなっての」

 

「…猿島マリアと滝川ノア?」

 

 

それって……。

 

 

「小町、そろそろ行くぞ。小田切にちゃんとお礼言えよ。

それで玉木は言ってた通り図書館に行くのか?」

 

「そうだね、人が多いのはそんなに得意じゃないし、休憩がてらそうするよ」

 

 

それじゃあと言って一足先に去って行く玉木。

 

私もそろそろ行った方がいいかもね。

 

 

「それじゃあ、私もそろそろ…」

 

「えぇ~、もう少しだけお話を……、

 

はっ!小町ひらめき!」

 

「いきなりどうした?」

 

 

妹さんは何かを思いついたようで、私を見ながらニタニタ笑っている。

 

 

「な、何かしら?」

 

「いやー、さっき言ってたレンタルの件覚えてますか?」

 

 

こそっと耳打ちで話しかけてくる。

 

 

「レンタルって…お兄さん貸してくれるってやつ?」

 

 

ついつい言ってて顔が熱くなる。

 

 

「そうです。ここまで送ってくれたお礼もかねて、ぜひ楽しんでください!」

 

 

そんな…、つまり比企谷と一緒に見て回るってこと?

 

 

「ねぇお兄ちゃん、小町一人でてきとうに見て回ってから帰るから、寧々さんのことちゃんとエスコートしてよ」

 

「は?急にどしたの?

まさか俺と一緒に回りたくないとか?」

 

 

そんじゃバイバイキーンと言って人ごみの中に消えていく妹さん。

 

そして残ったのは私と比企谷

 

 

「えっと、そういうわけだからお願いね」

 

「いや、どういうわけだよ」

 

こうして私は、当初の願いを果たせた。

 







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第二十二話

高2 

 

 

「やっと目覚めたようね。

さぁ、洗いざらいはいてもらうわよ」

 

「俺は何も知らん、と言うかマジで何の用ですか?」

 

 

 

午後四時ごろ、朱雀高校の文化祭は終了し、ほとんどの人達が片付けをしている。

 

 

 

そんななか、俺は見知らぬ空き教室で

 

 

監禁されている。

 

 

 

 

 

事件が起きたのは約一時間前、俺は小町の余計なお世話で小田切と文化祭巡りをしていた。

 

 

しかし、途中で小田切の電話が鳴った。

 

 

聞こえてきた会話から察するに、同じ生徒会の宮村からの様だった。

 

生徒会長戦でとても必要な用事があるらしく、小田切は本当に申し訳なさそうに謝り、宮村の所属している超研部に向かった。

 

ここまでは別に問題なく、俺は普通に帰宅しようと思った。

 

 

そんな時、知らない女子が俺に声をかけてきた。

 

 

「あなたがヒキタニね」

 

女子の身長は推定で150ちょっと、髪の長さは小田切より少し短い。

 

 

「…いや、人違いだな」

 

「嘘ついても無駄よ。もうネタはあがってるんだから」

 

 

なんだかめんどくさそうだから無視して帰ろうとしたが、女は道を塞ぐ。

 

 

「言っとくけど、逃がしはしないからね」

 

 

そう言って女はパチン!と指を鳴らした。

 

俺はこの時、ただの電波女かと思っていたらそうではなかった。

 

 

目の前の女に気を取られていた俺は、背後から近づいてくるもう一人の仲間に気づかなかった!!

 

俺はその男に気絶させられ、目が覚めたら…

 

 

 

監禁されていた。

 

 

 

 

 

 

そして今に戻る。

 

 

俺は椅子に縛られ身動きが取れない状態だ。

 

 

「この縄ほどいてあげた方がいいんじゃないかしら?

比企谷君が苦しそうよ」

 

「ダメようららちゃん、ほどいたら逃げられるわ」

 

 

俺の目の前にはさっきの電波女と長髪の美少女がいる。

 

話してないでさっさと開放してもらいたいんだが…。

 

 

「まぁとりあえず自己紹介するわ。

私は伊藤雅、そしてこっちの子は白石うららちゃん、それでさっきあんたを気絶させてここまで運んできたのは椿剣太郎、彼は今外で見張りをやってもらってるわ」

 

「自己紹介とかいいから早く帰らせてくれねえか?」

 

「話が終わるまでダメよ」

 

 

やはり簡単には帰らせてくれないらしい、そして電波女はどこか不機嫌そうだ。

 

 

「それじゃあ早く帰りたそうだし本題に入るわ。

 

ズバリ、私たちが言いたいことは……。」

 

 

「言いたいことは?」

 

 

……。

 

 

……。

 

 

 

間が長げえよ、溜めるな。

 

 

「私たちの出番がない!!」

 

「はい?」

 

「どうして宮村や山田が出てるのに私たちの出番がないのよ!!

こんなの不公平よ!!」

 

 

…何言ってんだこいつ。

 

 

「そもそもうららちゃんは原作でメインヒロインなのよ!

出番がないなんてあり得るの!?」

 

 

…何言っているか分からないけどやめとけ。

 

 

「落ち着いて雅ちゃん。

今日は比企谷君に聞きたいことがあったのよ」

 

 

どうやら常識を持った人もいるようで、白石うららと言う子が電波女を落ち着かせる。

 

 

「ん?…そう言えば白石うららって学年トップの秀才じゃなかったか?」

 

「そうね、たぶんその白石よ」

 

 

マジか。

 

 

「…ふぅ、落ち着いてきたわ。

それで、聞きたいことは他でもない魔女の事よ」

 

「はぁ、魔女?悪いが存じ上げないな」

 

 

おかしい、俺が魔女と関りを持っている事を知っているのは玉木、宮村先輩、生徒会長、それに秘書の飛鳥先輩、あと猿島に滝川くらいのはず…。

 

 

…結構知ってるやつ多いな。

 

 

「しらばっくれても無駄よ。ここに証拠があるわ!!」

 

 

そういって空き教室の端っこから学校の備品であるテレビを引っ張ってきて、俺の見やすい位置に置き、何やら準備をする。

 

 

「ごめんなさい比企谷君、気が済むまで付き合ってあげて」

 

 

白石はこそっと俺に伝える。

 

 

…何だかこの子だけとてもいい子に見えてきた。

 

 

「よし!スタンバイOK。

 

それでは5秒前、4,3,2,1、アクション!」

 

 

アクションは撮影する時の奴だろ。

と心の中で突っ込みながら再生されたビデオを見てみる。

 

 

 

どうやら誰かがビデオカメラか何かで撮影した動画の様だ。

 

 

 

 

「……これでちゃんと録画できているかしら?」

 

「大丈夫ようららちゃん、こっちのほうにカメラ向けて…。

 

……はい、と言うことで始まりました!

伊藤雅と白石うららが行く 正体を掴め!魔女に関わる謎の男!?

 

進行は私、伊藤雅がお送りします。よろしくお願いしまーす。

 

それでは早速何ですが、謎の男について参考人の方に聞いてみたいと思います」

 

そう言って映し出された人の目元は、動画に修正を加えたのか黒い目線で隠されている。

 

 

 

参考人 1    S,Mさん

 

Q1、彼とはどのような関係ですか?

 

「そうねぇ、ヒッキーとは一言では言い表せない関係よ♪」

 

Q2、彼はどのような人ですか?

 

「とても優しい人よ、私が困っていたとき励ましてくれたの!」

 

Q3、彼は魔女について何か言っていましたか?

 

「何か知ってそうだったわよ。でも詳しくは聞いてないかな…」

 

Q4、ご協力ありがとうございました。最後に彼に言いたいことはありますか?

 

「う~ん、もっと仲良くなりたいから今度一緒にショッピングでも行かない?」

 

 

 

参考人 2    T,Nさん

 

Q1、彼とはどのような関係ですか?

 

「彼女以上嫁未満です」

 

Q2、彼はどのような人ですか?

 

「頼りになる先輩で~、ノアには優しくしてくれるんですよ~」

 

Q3、彼は魔女について何か言っていましたか?

 

「先輩との出会いはクラブハウスで~、何でも妹に似てるとか言って------」

 

Q4、…質問対する答えがおかしいですが、ご協力ありがとうございました。

最後に彼に言いたいことはありますか?

 

「式はいつあげますか?」

 

 

 

参考人 3 4    生徒会所属 Y,Hさん A,Mさん

 

Q1、彼とはどのような関係ですか?

 

「そうだね、持ちつ持たれつって感じの関係かな?」

 

「基本的に会長の用事でしか話さないので、…知り合いでしょうか?

本当はもっとお近づきしたいのですが…」

 

Q2、彼はどのような人ですか?

 

「文句を言いつつもちゃんと仕事してくれるいい子だと思うよ」

 

「そうですね、何から話したらいいんでしょうか?

…血液型はA型、八月八日生まれ、座右の銘は押してダメなら諦めろ、家族は父母妹、飼い猫の名前はカマクラ、好きな飲み物はマックスコーヒー、得意な科目は現国、苦手な科目は数学、将来の夢は専業主夫、日曜日の楽しみはプリキュア、趣味は読書や人間観察、高校では基本的に一人で行動し、昼休みや放課後は中庭にいることが多いです。あっ、あと名前の由来は自分の誕生日から来ているらしいです。やはりチャーミングポイントはあの目でしょうか」

 

 

Q3、……彼は魔女について何か言ってましたか?

 

「それは秘密かな」

 

「秘密です」

 

Q4、ご協力ありがとうございました。最後に彼に言いたいことはありますか?

 

「ぜひ生徒会に入ってほしい」

 

「そうですね、少し興味が…、いえ、かなり興味がありますので一度ゆっくり話してみたいです」

 

 

 

参考人 5     T,Sさん

 

Q1、彼とはどのような関係ですか?

 

「フッ、大親友さ」

 

Q2、彼はどのような人ですか?

 

「少しひねくれている、まぁそこが彼の良いところでもあるんだけど…。

あと妹思いだね」

 

Q3、彼は魔女について何か言ってましたか?

 

「宮村君の仲間にそうやすやすと情報はあげられないな。」

 

Q4、ちっ、ケチめ。最後に言いたいことある?

 

「僕が生徒会長になったら生徒会のメンバーにならないかい?」

 

 

 

参考人 6     O,Nさん

 

Q1、彼とはどのような関係ですか?

 

「私は友達だと思っているけど、あいつはどう思っているのか分からないわ。

 

……さっきもただのクラスメートみたいに言ってたし」

 

Q2、彼はどのような人ですか?

 

「そうね、話してみたら意外と面白いのよ。

この前二人でディスティニィーランドに行った時は結構会話が盛り上がった……じゃない!

今のなしよ!カットしといて!」

 

Q3、ディスティニィーランドでは彼とうまくいきましたか?まさかキスしました?

 

「し、してないわよ!と言うかさっきのなしって言ったじゃない!」

 

Q4、彼の事が気になりますか?

 

「なってない」

 

Q5、彼は魔女について何か言ってましたか?

 

「あっ、そうそう。今日あいつが猿島さんと滝川ノアの知り合いって言事が分かったのよね。

クラスとか違うのに、まさか偶然魔女二人と知り合うなんておかしいと思うのよ。

今日ちゃんと聞いとけば良かったわ」

 

Q6、ご協力ありがとうございました。最後に彼に熱い思いの丈をぶつけてください!

 

「だから違うってば!

 

…とりあえず、もう知らない仲ではないし、lineでも交換しないかしら?」

 

 

 

「以上、正体を掴め!魔女に関わる謎の男!?

ご視聴ありがとうございました」

 

 

 

そうして、ビデオは終わった。

 

 

「どうだった?複数の動画つなげたり、顔隠すために目元に黒い線入れたりで結構頑張って作ったのよ」

 

「私も初めてこういうの作って楽しかったわ。ちなみに最後の二人は一時間ほど前にあなたが気絶している時に撮ったから目隠しの修正が間に合わなかったわ」

 

 

二人は自作の映像を発表できてうれしそうにしている。

 

 

「いや思いのほか長いし、ほとんど関係ない話ばっかりじゃねえか。

しかも全員誰だかわかるし…。猿島、滝川、山崎飛鳥先輩、玉木、小田切だろ。

と言うか4番の人怖いんだけど?あの人何であんなに俺の事詳しいんだよ」

 

 

ツッコミどころは他にもたくさんあるが、長い時間ほとんど同じ体勢で椅子に縛られて、体が痛くなってきた。もうそろそろ帰りたい。

 

 

「もう帰らしてあげてもいいんじゃないかしら?私もそろそろ塾の時間だわ」

 

「出番もちゃんと作れたし、動画もなかなかの出来だったし帰ろっか!」

 

 

お前ら結局何がしたかったの?ホントに出番がほしかっただけ?

 

 

「それじゃあ私たち帰るから椿に縄ほどいてもらって」

 

 

そういってカバンをもって教室を出て行く。

 

 

「お嬢様たち、ちょいと勝手すぎませんかね?」

 

 

もちろん俺の声は届かず、本当に帰って行った。

そして入れ替わるように、爪楊枝をくわえた男が入ってきた。

 

 

「さっきはいきなり気絶させて悪かったな。今外してやるよ」

 

 

意外とちゃんと謝罪し、黙々と縄をほどいていく。

だがしかし、よく見てみるとしくしくと泣いていた。

 

 

「…うっ、…うっ、俺だけ出番がすくねぇ」

 

「…うん、なんか、…どんまい」

 

 

 

お前らホントになんなの?

 

 

 

 

 

超研部にて

 

文化祭当日の夕方

私と宮村と玉木、次代の生徒会長候補の三人は会長になるための重要なゲームの内容を知った。

 

 

「…七人目の魔女を探すことか」

 

 

どうやら朱雀高校には七人の魔女がいるらしく、私たちの誰もが知らない七人目の魔女を見つけた人が晴れて生徒会長になれるらしい。

 

 

「……」

 

 

普段の私ならやる気満々で行動を起こすはずなのだが

 

なぜか七人目の魔女と言う言葉を聞いたとき

 

背筋が冷えるような感じがした。

 





原作のメインヒロインである白石さんがまだ出ていなかったので、
今回は超常現象部でまだ出ていないキャラを出してみました。

更に余談なんですが、やまじょの原作十一巻の途中(アニメで放送されたところです)の所でこの作品は終わらせようとしていますが、続編も作ろうかとも考えています。

これからもよろしくお願いします。




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第二十三話

高2

 

 

 

 

場所はどこかの空き教室、もしかしたら自分の教室かもしれない。

かすかに運動部の声が聞こえ、オレンジ色の光が教室の窓から差し込んでくる。

 

 

放課後だろうか?

 

私は一人の男の子と会話をしている。

 

 

 

彼の顔はクレヨンでぐちゃぐちゃにされたように塗りつぶされていて、声はラジオのノイズみたいで聞き取れない。

 

聞き取れないはずなのに私と彼の会話は続いていく。

 

 

 

 

ああ、これは夢だ。

 

 

私は眠っているのだ。

 

 

 

そう気づいてしまったらいつもの様に視界が暗くなっていく。

 

まだ起きたくない、もう少しここにいさせてほしい。

 

 

……。

 

 

 

それがダメなら教えて。

 

 

 

 

 

「あなたは誰なの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------------------------*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、私の寝起きの調子は最悪だった。

 

 

「また泣いてる」

 

 

私は起床してからすぐ、目に溜まっていた涙をふき取った。

 

寝ている間に涙を流すなんて中学生までは全くなかったのだが、最近ではそんなに珍しい事ではない。

 

寝ている間に限らず、一人でいるときにポロッと泣いてしまう時もある。

 

 

何だかウサギみたい、私って寂しすぎたら死んでしまうのかもしれない。

 

 

「…我ながらバカバカしいわね。

学校に行く準備しないと」

 

 

 

 

 

そう言って、いつも私は私をだましている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朱雀高校には“魔女”と呼ばれる生徒が存在している。

 

 

“魔女”は各々が特殊な能力を持っており、キスをするとその能力を発動できる。

 

“魔女”になるのは決まって問題のある生徒であり、“魔女”が学校からいなくなると、その能力は他の生徒に受け継がれる。

 

能力の種類は六つ。

 

入れ替わり、虜、思念、予知、過去視、透明。

 

 

「…まとめるとこんなもんか。

ありがとな、滝川」

 

「いえいえ!先輩のお役に立てたのなら全然問題ないです!」

 

 

文化祭が終わって数日後、俺はノートの下巻を見るために滝川を中庭に呼び出した。

 

以前俺が何枚か写真に撮って見てみたのだが欲しい情報がなかったので、今日はノートの隅々まで探すことにした。

 

 

「やっぱりノートには七人目の事は全く書かれていないか…」

 

「それは困りましたねぇ、…どうします?とりあえずデートでも行きます?」

 

「とりあえず帰るしかねえな」

 

「あぁ!ちょっと無視しないでくださいよ!」

 

 

そう言って俺に向かって抱き着こうとしてくる滝川

それを俺はひらりとかわす。

 

 

「…比企谷先輩のケチ、ちょっとくらいくっついてもいいじゃないですか」

 

「ダメです。お兄さんそういうハレンチな事は許しません」

 

 

ええーっと文句を言うがそんなのはすべて無視する。

 

どうやら前の一件で必要以上になつかれたらしい。

 

 

「…まぁいいです。それよりさっきの七人目って何のことですか?」

 

「…それはあれだ。

六花の勇者なのに七人集まるのはおかしいだろ?つまり六花の勇者じゃない偽物の事を七人目って呼んでるんだ」

 

「何言ってるんですか?七人目の魔女のことでしょ」

 

「…知ってるなら聞くなよ」

 

 

てきとうな言い訳をしたのが恥ずかしくなる。と言うか何で滝川が七人目の魔女の事を知っているのか謎だ。

 

ちなみに六花の勇者の七人目はちょいちょいあやしいところがあって疑っていた。

見終わってから、あ~あいつね、俺疑ってたんだよ、と小町に言ったらガン無視されたのをよく覚えている。

 

 

「ついさっき超研部の山田先輩にもノート見せてくれって言われて断ったんですけど…」

 

「断ったのかよ」

 

「その時七人目の魔女を探してるとか言ってたんですよ。それで、ノートに七人目のことなんて書いてないから帰れって言って、追い返したんですよ」

 

「扱いひどいな」

 

 

山田かわいそう。

 

 

「それが聞いてくださいよ、ノアがノート持ってるからって文化祭の時も色々質問してきたんですよ。前の一件が終わってから無駄になつかれて困ってるんですよ」

 

「最後の言葉はそっくりそのままお前に返してやるよ」

 

「まぁ部室荒らしたこともあるので親切に教えてあげましたけど…」

 

 

普通に無視された。朱雀高校の生徒は俺が言う事を無視する奴が多くないか?

 

 

「それで結局比企谷先輩や山田先輩は何で七人目の魔女を探しているんですか?」

 

「さぁな、必要な事なんじゃないのか?」

 

「う~ん、なんだか隠し事されてるみたいです…」

 

 

こちらとしては幸運なことに滝川はそれ以上聞いてこなかった。

 

山田が七人目を探している理由、

俺がそれを知ったのは先日の事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会室

 

 

コンコン

 

 

「失礼します」

 

「やぁー比企谷君、待っていたよ」

 

 

今日もいつもと同じように呼び出されて、律儀に生徒会に足を運んだ。

 

たまには待ってないでそっちから来てもらいたいもんだ。

 

 

「それで、今日のお話は生徒会長戦についてだ。

先日その内容が決まってね、比企谷君にも話しておこうと思って」

 

 

なぜ俺がそんな事を聞かされなければならないのかと思ったが、それを口に出すと話が長引きそうだったので言わなかった。

 

 

「次期会長は七人目の魔女を見つけた人になってもらう事にしたよ」

 

「…そうですか」

 

「あれ?反応が薄いね?」

 

「いつもこんな感じですよ」

 

「そうかな?

まぁそれはいいとして、君に聞いておきたいことがある。

 

…実際君はどこまで知っているんだい?」

 

「俺が聞きたいくらいですよ」

 

 

どこまで知っているかなど分からない。

俺も宮村先輩も中途半端に知っていて、中途半端に知らないからずっとこんな事になっているのだろう。

 

 

「相変わらず食えない子だね。

僕も君の事は調べたけど結局よく分からなかった。

前会長から君について少し説明されたこと以外は何一つね」

 

「さらっと調べたとか言わないでくださいよ。

いつの間にかストーカー行為をされていたなんて聞きたくない」

 

「こっちだって大変なんだよ。飛鳥君にどれほど負担をかけたことか…。

それこそストーカーレベルで調べてくれたんだから」

 

「え!?」

 

 

何それ怖い、家にカメラとか付けられてないだろうな。

 

 

「フフフ、冗談だよ。

安心してくれ、あくまで学園生活の中でどんな感じか少し見ていてもらっただけだよ。

…まぁ、もしかしたらそれ以上の事を調べているかもしれないけど、それは僕と関係ないから。彼女は比企谷君の事をかなり気になっていそうだし」

 

 

全然安心できねえ。

 

 

「それで話は戻すけど、やっぱり君が何を知っているかは聞かないことにするよ。

ただし約束してほしい。

今回の件には口を出さないでくれ」

 

「それは時と場合によりますけど…」

 

「くれぐれも頼むよ。

数少ない話し相手に恨まれるようなことはしたくないからね」

 

「話し相手になったつもりはないですけどね」

 

「僕にとって君との会話はとても有意義な時間だったよ。

…何故だかね、とても落ち着くんだ」

 

 

山崎先輩は部屋の窓から外を眺め、俺に語る。

 

 

「君と話していると、なぜ僕が生徒会長になったのか思い出せそうなんだ。

……もしかしたら比企谷君は、そのことも知っているんじゃないかな?」

 

「さぁ、どうなんですかね?

答えは自分で見つけてください」

 

 

約一年ほど生徒会長になったこの人を見てきたが、やはり山崎先輩は山崎先輩のままで、他の誰でもなかった。

 

今も昔も知的で面白く、よく頬が緩んで笑っていた。

 

 

「フフフ、やっぱり君は食えないやつだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はこのようにして生徒会長戦の事を知り、口出しするなと言われた。

 

もちろん口を出すつもりはないし、邪魔するつもりもない。

 

だが俺にだってやらねばならないことがある

 

 

 

記憶を戻す手段は何一つ見つからなかった。

 

もう俺が頼れるのは二つだけ。

 

 

記憶を消した本人、もしくは魔女七人による儀式。

 

 

「…今回は残念ながら敵になりそうですね、山崎先輩」

 

 

 

俺は誰にも聞こえないように、ボソッとそれを口にした。

 





最近誤字が多くてすみません。
もし見つけた方は教えてください。



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第二十四話

高2

 

 

次代の生徒会長を決めるゲームで小田切寧々、宮村虎之介、玉木真一の三人は各々が魔女を探し続けたが、成果を得られず難航していたようだ。

 

 

しかし、全員が全員難航し続けているわけではなく、少なからず手掛かりを見つけた奴がいるらしい。

 

 

 

 

宮村率いる超常現象研究部だ。

 

 

 

だが正直これは予想していた展開で、あまり驚くことでもない。

 

超研部が掴んだ手がかりとは宮村虎之介の姉、つまり宮村レオナ先輩だ。

 

彼女いわく、昨日弟が家に山田を連れてきて七人目の魔女について聞いてきたから、何も教えずにハサミを投げつけて追っ払ったと言っていた。

 

相変わらず彼女の体は無限のハサミでできているようだ。

 

 

まぁこんな感じで宮村先輩から生徒会長戦についての情報が流れてき、山崎先輩の後見人が誰になるのかを予想しているなか、

 

 

もう一人、俺に情報を流してくる輩がいる。

 

 

 

「そう、比企谷君のベストフレンドこと玉木真一さ」

 

「何言ってんだお前?」

 

 

毎度おなじみの玉木である。

相変わらず話し相手がいないから聞いてもいない俺にペラペラ話してくる。

 

 

「そう言えばお前はどうやって魔女を探しているんだ?

他の奴らと違って仲間いないのに」

 

「フフフ、本来は機密事項なんだけど比企谷君には特別に教えよう。

 

確かに僕は一人で行動しているが、魔女を探しているのは僕じゃない。

超研部の奴らだよ」

 

「……あぁ、分かったわ。

お前せこいな」

 

「せこくないよ、とても効率的で比企谷君なら絶対に行った作戦だよ」

 

 

ドヤ顔を決めているこの男の考えは分かった。

 

玉木は透明人間の能力を持っている。

つまりそれを超研部の奴らに使えばあいつらが話している事を簡単に盗み聞ぎすることができる。

 

よって玉木は自分で魔女を探さなくても超研部が見つけた情報を横取りすればいい。

 

 

…せこいな。

 

 

「そんなんで生徒会長になっていいのか?」

 

「問題ないさ、特にルールの指定はなかったしね。

 

……っと、そろそろ行かないと。

それじゃあ失礼するよ。会長選が終わったらまたゆっくり話をしよう」

 

 

そう言って玉木は超研部の部室の方に歩いて行った。

多分盗み聞きしに行ったのだろう。

 

 

俺は会長戦に口出しするつもりはないし、玉木の事を目の敵にしているわけでもないが、小田切がずっと目標にしていた生徒会長があんな作戦を行っている玉木になったら癪なので、あいつの作戦が失敗することをこっそり願った。

 

別に俺の性格が悪いとかそういう事じゃないからね、勘違いしないでよね!

 

 

…まぁ玉木の事は置いといて、俺は俺で魔女を探さなければならない。

 

あいつらと違って誰が七人目なのか知っているので、その人を見つけるだけでいいのだがなかなか見つからない。

 

と言うか全然見つからない。

 

三年のクラスを全部見て回ったが西園寺と言う生徒はいなかったし、校内をうろついても彼女のような生徒は見つからなかった。

 

もしかしたら俺が彼女の前前前世から探し始めても見つからないかもしれない。

 

 

「はぁ~、あの人本当にうちの生徒かよ。

三年のどのクラスにも名前がない時点でだいぶ無理げーだろ。

…もしかしたらもう学校やめたとかなんじゃねえの?」

 

 

ある意味でそれは最も俺が恐れる事だ。

西園寺先輩がいなくなったとしたら誰かほかの人が七人目の魔女になったということになる。

 

 

そんなネガティブな事を考えて現実のめんどくささに直面していたその時、

 

 

 

後ろから視線を感じた。

 

 

な、何奴!

 

 

ばっ!っと振り返れば柱の後ろに誰かが隠れたのが分かった。

 

 

…マジで誰なんだ?

 

 

どうしたら良いか分からなかったのでとりあえずまた前を向いた。

 

 

 

……。

 

 

じぃーーーー

 

 

 

やはり視線を感じる。

 

…仕方ない、誰から見られているか俺も気になるし確認するか。

 

 

本命、小田切 対抗、超研部の電波女 大穴(願望)、西園寺先輩

 

さぁ一体誰だ!?

 

 

「そこで隠れている奴、俺に何か用か?」

 

「…やはりさっきのでバレてしまいましたか」

 

 

勇気を振り絞った俺の問いかけに、柱で隠れている人は返事をした。

 

…この声は聞いたことがある。

 

 

「こんにちは比企谷さん、調子はどうですか?」

 

「…飛鳥先輩でしたか」

 

 

残念ながら予想は大外れ、犯人は生徒会長の秘書、飛鳥美琴だった。

 

…この人とは遭遇したくなかったな。

 

 

「えっと、何をされていたんですか?」

 

「比企谷さんを見ていただけですよ」

 

「…そうですか」

 

 

それは普通に怖いんですけど。

 

 

「それで比企谷さんは何をなされているんですか?

何やら悩んでいたようですけど、…私で良ければ相談に乗りましょうか?」

 

「いや、全然大丈夫です。大丈夫すぎて怖いくらいです」

 

「…そうですか、もし何かあれば相談してください。

私は比企谷さんの先輩ですから」

 

「ありがとうございます。

…それではそろそろ帰宅しましようかな。妹が待ってるし」

 

 

何かの危機を感じた俺は早々にこの場から逃げ出すことにした。

 

 

「比企谷さん、七人目は変わっていませんよ。

詳しくは私も知りませんが、これだけは事実です」

 

 

帰ろうとしていたが俺の足は止まった。

 

 

「…何故そんな事を俺に教えるんですか?」

 

「そうですね、強いて言うならあなたは私の憧れですから」

 

「は?」

 

「…私は目立ちたくないんですよ。普通でいたいんです。

廊下を歩くだけで視線が集まったりするのがとても嫌」

 

 

そして彼女は平然とした顔で言う。

 

 

「私は透明になりたいです」

 

 

 

 

 

飛鳥美琴を最初に見たときに思ったことは“美人”だった。

それに加えて色々な事を聞いたことがある。

 

運動神経抜群だとか、

 

山崎先輩に負けないくらい頭いいとか、

 

どこかの社長令嬢だとか。

 

 

周りに注目されても仕方がないスペックの持ち主で、

彼女が横を通れば自然と目が追いかけてしまうのかもしれない。

 

…まるで偶像を見るように。

 

 

 

だから彼女は“透明になりたい”なんてことを言うのだろうか?

 

だから彼女は透明の能力を持った魔女になったのだろうか?

 

 

「ですが今の生活には満足しています。

春馬様と言う注目の的のおかげで私は目立ちにくくなりました」

 

「それでなぜ俺が出てくるんですか?」

 

「フフフ、私は春馬様に言われてあなたの事調べたんですよ。

 

調べた結果は大して何も出ませんでした。

玉木さんと同じ魔女殺しの能力を持っていること以外は特にこれと言った良い点はなく、ただ交友関係が少ないだけ。

魔女殺しの能力も使う事を嫌っているように見えますし、これでは少し魔女の事を知っているだけの生徒ですわ。

 

なのに春馬様は必要以上にあなたの事を気に入ってました」

 

「気のせいだと思いますけど」

 

「そんな事ないですよ。

 

それが不思議なので私はあなたを見続けた。

 

そしたら分かったんです。

 

あなたは私と違い決して目立つような事はない。

それでいてあなたは特別な魅力を持っている。

その魅力に気づく人が少ないだけ」

 

 

……。

 

 

…何も言えなかった。

 

 

 

まさか人生でこんな事を言われるとは思ってもいなかった。

もちろん俺はそんな奴じゃないと思うが、彼女には俺がそのように見えているのか。

 

 

「これって私にとっては一番理想的な事じゃないか、と思いました。

 

透明のようでそうでない。本当に近しい人だけには特別でいられる。

 

だから私はあなたに憧れた」

 

 

否定する気になれなかった。もちろん肯定するつもりもない。

 

ただ飛鳥美琴が言ったことを否定したくなかったのかもしれない。

 

 

「……すみません、帰ろうとしていたのに長々と話してしまいましたね。

お気をつけて帰って下さい。

 

……それと本当に最後に一つだけ、今度は比企谷さんについて教えてくださいね」

 

「…まぁその、機会があれば」

 

 

それでは、と言って飛鳥先輩は歩いて行く。

 

 

それを少しの間眺め、俺も下駄箱に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

飛鳥美琴

 

彼女は覚えていないが俺が初めてキスをした魔女。

 

今までずっと何を考えているか分からない魔女だったが、

 

今日は少しだけ、彼女の素顔が見えたような気がした。

 

 

 

 

 

 

それから二日経ち、俺は久々に超研部女子と会った。

 

 

「久しぶりねヒキタニ」

 

「こんにちは比企谷君」

 

「…うっす」

 

 

相変わらず俺をヒキタニと呼ぶ電波女(伊藤雅)と入れ替わりの魔女である白石うらら。

こいつらとの関係は、監禁された側と監禁した側と言う変な関係なのでどのように接すれば良いか、いまいち分からない。

 

 

「ほら、あなたにプレゼントよ」

 

 

そう言ってケースに入ったDVDを渡してきた。

 

 

「プレゼントって、何だよこれ?」

 

「前に比企谷君と一緒に見た動画よ。ちゃんと完成したから持ってきたの」

 

「感謝しなさいよ」

 

 

ほう、前に監禁されたときに見たやつか。

 

 

「ありがとな。家のベランダにでも吊るしとくわ」

 

「吊るすな!ちゃんと保管しときなさいよ!」

 

 

いやだっていらないし。

せめてカラス除けにでも使おうと思ったんだが…。

 

家にカラス来ないけど。

 

 

「比企谷君、私もちゃんと保管しといて欲しいわ」

 

「分かった。せっかくのもらい物だし大切に持っとくよ」

 

「何でうららちゃんの時だけ素直なのよ!」

 

 

だってこの人には逆らってはいけない気がするし

 

 

「…まぁそれはいいわ。

それよりも、また今度動画を作りたいから協力しなさいよね」

 

「断る」

 

 

何で俺がそんなことしなければならんのだ。

 

 

「同じ部活の山田とかにやらせたらいいだろ」

 

 

猿島の家で見た時に意外と優しそうだったので、電波女にそう提案したのだが、返ってきた言葉は俺の予想とは全く違っていた。

 

 

「はぁ?山田って誰よ?」

 

 

伊藤雅は何のおふざけもなく、本当に何を言っているか分からないよう俺に言った。

 

 

「いや、俺よりもお前らの方が知っているだろ」

 

「だから知らないって。超研部にそんな奴いないわよ」

 

「は?何言ってるんだよ?」

 

 

何かがおかしい。

 

何かがズレている様な感覚に襲われた。

 

 

「はぁ~、目だけじゃなくて頭も腐ってしまったのね。

ねぇうららちゃん、私たちの部活にそんな奴いないよね?」

 

「…そうね、そんな人知らないわ。

誰かと勘違いしているんじゃないかしら?」

 

 

表情も変えず、声のトーンも変わらず、平然と白石うららは答えた。

 

山田を知らない

 

そんなあり得るはずのない事を…。

 

 

「……そうか、俺の勘違いか」

 

 

俺の頭がおかしいのでなければこの状況は昔の俺と同じ。

 

 

 

こいつらの中から、…いや、朱雀高校の生徒の中から

 

 

 

山田竜と言う存在が消えた。

 




少し忙しくなってきたので投稿スピードが遅くなると思います。

そして余談なのですが、来週は”やはり俺の青春ラブコメは間違っている”の新刊と、山田くんと七人の魔女の最終巻の発売日で、今からとても楽しみにしています。

と思っていたら、俺がいるの方は発売延期になったらしいです。


感想、誤字の報告、作品評価等は大歓迎です。



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第二十五話

本日は二話投稿します。





高2

 

 

白石たちと話した次の日の放課後、俺は山田を探すことにした。

家に帰っていればゲームオーバーだが、探さないよりマシだと思い、とりあえず超研部の方に行ってみる。

 

 

 

 

部室につくと、白石が昨日俺と会った後に山田が部室を訪ねてきたと教えてくれた。

 

何でも入部したいと言って、部活に参加したがすぐに帰ったらしい。

そして今日は不参加だと。

 

 

 

超研部にいなければ他に探すところが思いつかないので、帰ろうかと迷いながら歩いていると、2-B教室から何やら物音が聞こえた。

 

 

 

興味本位でこそっとドアから覗いてみると、

 

 

 

普通に山田がいた。

 

 

 

「ふぅ、くすみ一つない仕上がりだぜ」

 

 

 

 

他に誰もいない教室の中で黒板に向かって独り言を言い、達成感に満ちた顔をしている。

 

 

「そんじゃ、次は窓でも磨くか」

 

 

 

そう言ってあらかじめ用意していたであろう水の入ったバケツに雑巾を浸け、絞り、窓を拭き始める。

 

 

 

どうやら掃除をしているらしい。

 

 

 

 

 

…いや、なんでだよ。

 

 

 

「おぉ、窓の裏側って結構汚れるな」

 

 

何故か窓が汚れている事で喜んでいる山田を見ていても仕方がないので、相手が気付くように音をたててドアを開く。

 

 

「…?誰だお前?

B組だったか?」

 

「…いや違う、お前に用があって来た」

 

 

一応、猿島の家で会っているんだが覚えられていないようだ。

 

 

「別にいいけど、今掃除中だからその辺を汚すなよ」

 

 

俺と話しつつも窓を磨く。

 

そう言えば猿島の家でも掃除したり、部屋の模様替えやら布団干したりもしていたな。

 

 

 

…もしかするとこいつ、俺と同じ専業主夫希望か?

 

 

 

「それで、俺に何の用だ?」

 

「…超研部に行っても誰も覚えていなかっただろ?」

 

「っ!…お前、俺が誰だかわかるのか!?」

 

 

山田は窓を拭くのをやめ、俺の方を向く。

 

 

「ああ、それでお前に頼みたいことがある」

 

 

しばらく沈黙して、山田は俺に聞いた。

 

 

 

「…お前誰だよ?」

 

 

 

「比企谷八幡。

お前と同じ、専業主夫を夢見ている」

 

 

 

 

「…俺は別に専業主夫に興味はねえよ?」

 

 

 

 

 

 

 

それから俺は宮村先輩の後輩で超研部に所属していたことや、七人目の魔女に会ったこと、俺が玉木と同じ能力を持っている事を教えた。

 

 

「…なるほどな。魔女の能力が効かないから俺の事を覚えてるってことか。

と言う事は玉木も俺の事覚えてるのか?」

 

「あいつも能力が効かないはずだから覚えているだろうな。まぁ玉木だし居ても居ないようなものだけどな」

 

「そうだな」

 

 

ちょっと玉木さん、陰でボコボコに言われてますよ。

 

 

「それにしてもお前すげえ奴だな。何か解決策を知ってるんだろ?」

 

「いや、可能性はあるが絶対じゃない。つまりこのままかもしれない」

 

「…そっか」

 

 

さっきまでテンションの高かった山田だが、絶対じゃないと言うと少ししょんぼりした。

 

 

「まぁこればっかりはしょうがねえか。

美化委員の仕事も飽きてきたし、お前を手伝うぜ、比企谷」

 

「ん、よろしくな」

 

 

山田のコピーの力と行動力は必ず何かの役に立つので味方としては心強い。

 

 

「それで、まずは何をすればいいんだ?」

 

「…そうだな、とりあえず宮村先輩の所に行きたいな。

俺よりあの人の方が色々知っているし。

…あと玉木も引き入れるか」

 

 

玉木は透明人間の能力を持っているから後々必要になるかもしれない。

 

 

「玉木を入れるのはいいけどあいつが味方するか?結構性格悪そうなやつだぜ?」

 

「まぁどうにかなるだろ」

 

 

山田は俺と真逆の考えを持っていた。

 

あいつなら一瞬で頭を縦に振りそうだ。

 

 

「いろいろやりたい事はあるがとりあえず今日は帰ろうぜ。また明日ここに来るわ」

 

 

時計を見てみると18時前、授業が終わってから結構時間が経っている。

 

 

「そうだな。それじゃあまたここで」

 

 

意外とあっさり俺の提案を受け、帰る支度をする山田。

 

俺もカバンを手に取り、教室を出ようとしたその時

 

 

がたっ!

 

教室のドアから物音が鳴り、外で誰かが走っていくような気がした。

 

 

「ん?誰かいたのか?」

 

「…気のせいだろ」

 

こうして俺達は家に帰った。

 

 

 

 

生徒会室にて

 

 

「会長、比企谷さんが山田さんに接触しました」

 

「はぁ~、全く比企谷君は…。

意外とやんちゃなんだから」

 

「フフフ、そうですわね」

 

「…ところで飛鳥君。なぜ比企谷君を見張っていたのかな?

僕は頼んでないと思うけど…」

 

「個人的な趣味ですわ」

 

「…そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二十六話

本日二話目


高2

 

 

「神よ、僕の所に比企谷君を返してくださったことに感謝します。

アーメン」

 

「そう言うのいいから早くしろ、ほっていくぞ」

 

「待ってくれ!もう僕を一人にしないでくれ!」

 

 

そう言って俺の足にしがみつく。

 

 

「ええい!離れろ!

お前はもともと一人だろ」

 

 

無理やり引きはがそうとするがなかなか離れない。

 

 

「そうだ、僕は一人だ。だがそれがどうした!それがどうしたというんだ!!」

 

「お前の方がどうした?頭でも打ったのか?」

 

 

どうやらついに頭がパーになったらしい。

 

 

「私はここにいる!!」

 

「うるせぇ叫ぶな!」

 

 

はた目からするとかなり気持ち悪がられるこの光景を作り出しているのは、

毎度おなじみ、…いや本当におなじみの玉木真一である。

 

 

こいつのウザさがいつもの十割増しなのは理由がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

30分前

 

俺は昨日の約束通り、2-B教室で山田と話をするつもりだったがある事を思い出した。

 

 

「…あぁ、そう言えば玉木を引き入れるんだったな」

 

 

少しめんどくさいが俺は山田に会う前に玉木を探すことにした。

 

探すと言ってもあいつのいる所には何か所か心当たりがあったのでそんなに手間を取らないと思い、散歩するような気持ちで探し始めた。

 

 

 

 

 

そして案の定、心当たりの二つ目である図書室に玉木はいた。

 

しかし様子がおかしく、玉木は本も読まずに椅子にもたれかかり魂の抜かれた屍の様だった。

 

 

「おい玉木、大丈夫か?」

 

「……ん?……あぁそうか、幻覚の比企谷君が見えるくらい僕の頭はダメになってしまったんだね」

 

 

…何言ってんだこいつ?

 

 

「…今まで会長になるためだと思い山崎の雑用を我慢してやって来たというのに、

遂に訪れた会長戦には敗れ、僕の夢は潰えた。

そしてそれだけじゃなく、まさか周りの人から忘れられるなんて…」

 

 

まさか西園寺先輩にやられたのか?

 

 

「おぉ神よ!他の人達はいい、ただし親友の比企谷君の記憶だけは持って行かないでください!もし持っていかれたのならお返しになって下さい!」

 

「おい、そろそろ戻ってこい」

 

「…フッ、そんな事を言ったって何も変わるわけないか。

現実は残酷だね」

 

 

何だかイラっとするな。

 

 

「おい、バカやってないで話を聞け」

 

 

バシッと頭を叩き、こっちを向かせる。

 

 

「なっ!なぜ幻覚の比企谷君が僕に触れられるんだ!?」

 

「どういう発想をしたら俺が幻覚になるんだよ。

俺はお前と同じ体質だから記憶は消されていない。つまりお前に話しかけてもおかしくない」

 

「…確かに。と言う事は比企谷君は僕の事を…」

 

「ああ、お前のウザさは忘れられねえよ」

 

 

そう言うとさっきまでただの屍だった玉木は魂を取り戻し、山田の所まで連れて行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今に戻る。

 

 

玉木を2-B教室に連れて行こうとしてもはしゃぎまわって一向にたどり着かない。

小学生を相手にしているようだ。

 

 

「おい、山田を待たせてるから早くしろ。お前も周りの人の記憶を戻したいんだろ?」

 

「そうだね、あまりの嬉しさではしゃぎすぎたようだ。以後気を付けるよ」

 

 

少し落ち着いてきたのか俺の言う事を素直に聞き入れ、教室の方まで歩き出した。

 

 

「それで、なぜ山田君の手助けをするんだい?

比企谷君がそんな事をしてもメリットはなさそうだけど…」

 

「別にあいつの為にやってるんじゃないからな。

…俺も思い出させたい人がいるんだよ」

 

「……?

比企谷君も周りの人から忘れられたのかい?」

 

「もうずっと前の事だけどな」

 

「ずっと前?」

 

 

玉木は首を傾げ、続きを聞きたがる。

 

 

「もうこの話は終わりだ。

 

ほら、目的地に着いたぞ」

 

 

話しながら歩いていると2-B教室の前まで来ていた。

 

教室のドアは空いており、中から誰かの声が聞こえる。

 

 

 

 

「おっ、……俺と付き合ってください!!」

 

 

 

「「っ!!」」

 

 

 

その瞬間、教室に入りかけていた俺と玉木は瞬時に近くの壁に張り付いた。

 

 

 

こ、これは…。

 

 

教室の中で誰かが告白している!

 

 

「比企谷君どういう事だい?こんなの聞いてないぞ」

 

「俺だって知らねえよ」

 

 

教室内に声が届かないようにひそひそ話をしていたらまた声が聞こえてきた。

 

 

 

「ごめんなさい。……私好きな人いるから。

 

…そういう事だかもう行くわ」

 

 

 

そう言うと教室から俺たちの方に足音が近づいてくる。

 

マズい!こっちに来る!

 

隠れないと!!

 

 

 

 

出てきた女子は教室のドアを閉め、俺たちの前で止まった。

 

 

「……比企谷君?なんで両手で顔を隠しているの?」

 

 

俺と玉木はとっさの事で逃げることもできず、手で顔を隠すというバカみたいなことしかできなかった。

 

しかしそれも無意味なことで、俺の名前が呼ばれた。

 

 

「…おぉ白石か。ご機嫌麗しゅう」

 

「ええ、それで何で顔を隠していたの?

それにそっちの人は友達?」

 

 

白石はなおも顔を隠している玉木に目をやり俺に問いかける。

 

 

「…気にしないでくれ。ただの趣味だ。

 

それにそっちの人は友達じゃない」

 

「そうなの?

…それじゃあ私は部活あるから」

 

「おう、じゃあな」

 

 

別れの挨拶をしてスタスタと白石は歩いて行く。

 

 

「白石が出てきたってことは…」

 

 

俺はドアを開けて教室の中に入った。

 

 

「やっぱりか」

 

 

さっきの告白で断ったのは白石うらら

それじゃあ断られたのは誰でしょう?

 

 

 

 

正解は……

 

 

 

 

「山田、大丈夫か…?」

 

 

 

山田は床に顔を伏せ、微動だにしない。

 

たぶん膝から崩れ落ちたんだろう。

 

 

「はぁ、これからどうするんだよ…」

 

 

俺達魔女殺しはまだスタートすらできていなかった。

 

 

「フン、無様だね」

 

 

宮村に負けて生徒会長になれなかった腹いせなのか、玉木は瀕死しかけている山田に追撃を食らわせる。

 

 

 

「玉木、お前はいつまで顔を隠しているんだ?」

 

 

何故か顔を隠したままで…。

 

 

 

 

……。

 

 

 

 

本当に先が思いやられる。

 




高く評価してくださった人達、ありがとうございます。



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第二十七話

高2

 

宮村家前にて

 

 

 

俺は先日に言った通り、山田と玉木を連れて宮村先輩の家に来た。

 

理由としては今の状況を伝えたかったし、魔女の事は俺よりも先輩の方が知っているので山田達と一緒にいろいろ聞きたかったからだ。

 

 

「着いたぞ」

 

「へぇ、大きい家だね」

 

「……白石の好きな奴って誰なんだ」

 

 

宮村先輩には前もって訪問することを連絡していて、インターホンを鳴らせば返事を待たなくても入っていいと言われたので、言われた通り一度鳴らしてドアを開けた。

 

 

「勝手に入ってもいいのかい?」

 

「許可をもらっているから大丈夫なはずだ。

それより、少し待たせているから機嫌が悪いかもしれない」

 

 

ついさっきフラれた山田はまだ回復しておらず、ここに連れてくるまで少々時間がかかってしまったため宮村先輩を結構待たせている。

 

 

 

 

 

二階に上がり先輩の部屋のドアをノックすると、入れと中から言われたのでドアを開けた。

 

 

 

その時

 

 

シュッっと空気を裂き、二本のハサミが飛んできた。

 

 

 

「「あぶなっ!!」」

 

 

ハサミは山田と玉木の頬にギリギリ当たらず、廊下の壁に刺さった。

 

 

「遅いぞ!何をやっていたんだ!」

 

「すみません、少しアクシデントが」

 

 

予想通り少しお怒りの様だ。

ちなみにハサミを投げるのは通常運転なので機嫌が悪いのとは関係ない。

 

 

「ちょっ!比企谷君。僕と山田君の頬がパックリ割れる所だったよ!」

 

「当たってないから大丈夫だ」

 

「何で比企谷君には投げつけないんだよ!」

 

 

宮村先輩と初対面の玉木が文句を言う。

 

 

「バカ者、私が可愛い後輩にハサミを投げつけるわけないだろ」

 

「…理不尽だ」

 

「まぁおふざけはその辺にして、そろそろ本題に入りましょうか」

 

 

いつまでもグダグダやってられないので話を切り出す。

 

 

「大体予想していると思いますが、そこにいる山田と玉木は西園寺先輩によって周りの人の記憶を消されました」

 

「ほう、…つまりそいつが比企谷と同じ能力を持っている奴か。

山田は予想通りだが、まさか君もやられたとはな」

 

「…まぁ、たまたま七人目の魔女の名前を知ってしまいまして」

 

 

そう言えばなぜ玉木が西園寺先輩にやられたのか聞いていなかったが、どうせしょうもないミスでもしたんだろう。

 

 

「それで、記憶を取り戻す方法についてなんですが…」

 

「ああ、それについて話したいがその前に…、

 

おい山田、さっきから元気ないぞ。どうしたというのだ?」

 

 

ずっと後ろで黙っている山田を見て、宮村先輩は声をかけた。

 

 

「さっき女にフラれたんですよ」

 

「おい!言うんじゃねえよ!」

 

 

俺がばらした瞬間、怒り始める。

どうやら怒る力はある様だ。

 

 

「ふっ、男が情けないな。それに忘れられているのだから仕方ないだろう。

告白なら記憶を戻してからもう一度すればいいじゃないか」

 

「…確かに」

 

「そしたらまたフラれるんじゃないかい?」

 

「余計な事言うな」

 

 

実際、白石うららの好きな人など想像できない。

それは俺と白石は仲がいいわけじゃないから当然のことかもしれないが、あのタイプの女子がどんな奴を好くのが普通に見当つかない。

 

 

「まぁ山田の告白は後に回すとして、西園寺リカに消された記憶の事だが正直に言うと戻せるかどうかわからない。

 

ただ超研部に置いてあった資料にはこんな事が書いてあった」

 

 

宮村先輩は一枚の紙きれを玉木と山田の前に出し、その内容を読み上げた。

 

 

「“七人全ての魔女を集結させると願い事が叶えられる”

これを私は“儀式”と呼んでいる」

 

「…これが比企谷の言っていた奴か」

 

「儀式と言っても七人の魔女を集める以外何もわかっていない。

つまり七人の魔女を集めることが出来たとしても、本当に儀式が出来るのか分からないし、出来たとしてもやり方が分からない」

 

「望み薄って事だな」

 

「ああ、だが私はずっと疑問に思っているんだ。

 

なぜ生徒会は七人全員の魔女を知ったものの記憶を消そうとするのか?

これは奴らにとって何か都合の悪い事があるからじゃないのか?…とな」

 

「つまりそれが儀式って言いたいのか?」

 

「そうだ」

 

 

山田も玉木も息をのむ。

 

 

「どちらにせよ俺達には他に手段がない。

 

だから俺は、…七人の魔女を集めたい」

 

 

 

…もう時間が経ちすぎているのだ。

宮村先輩は学校を休み過ぎている。

正直留年するんじゃないかと心配でたまらない。

 

 

「玉木に山田、お前たちはどうする?」

 

 

俺の質問に対してすぐに返事をしたのは玉木だった。

 

 

「フフフ、愚問だね。

親友の比企谷君のピンチは僕のピンチだ。

君が困っているなら当然手を貸すよ」

 

 

こういう時だけ無駄にかっこいい事を言う玉木。

 

少し見直してしまった。

 

 

「前にも言ったが俺だって手伝うぜ。あいつらとまた話したいし、白石にちゃんと告白したいからな」

 

 

山田も賛成し、協力してくれることになった。

 

 

「…話がまとまったのなら帰るといい、魔女集めは明日からするのだろう?

今日はゆっくり休め」

 

「そうだな、話も聞けたし俺は帰るわ」

 

「それじゃあ僕も」

 

 

そう言って山田も玉木も挨拶をして帰っていく。

 

 

 

 

 

 

 

「……俺もそろそろ帰りますね」

 

 

二人が帰って行ったので、自分も帰ろうと思いカバンに手を伸ばしたが、その手を宮村先輩がそっと握った。

 

 

 

「……なぁ比企谷。

もし記憶を戻すことができなかったら、もうお前は自由に高校生活をやって行くんだ」

 

 

「…何を言っているんですか?」

 

 

「お前はとても優しい奴だ。

山崎が私たちを忘れてしまって、私が学校を行くのをやめてからずっと、

お前は私たちの事だけを考えているだろう?」

 

 

宮村先輩は優しく微笑んでいるようで、何かを悲しんでいる様な、

そんな表情だった。

 

 

「でも、もういいんだ。

 

比企谷はもっと自分の事を考えるべきなんだ。

お前は周りの人から忘れられてしまった事にもっと悲しんで、これからどうして行くか考えるべきなんだよ」

 

「…別に俺は、もともと覚えられていないですし」

 

 

「そんな事ないさ。

比企谷の事を想っている子がちゃんといたのを私は知っているんだぞ」

 

 

この人が誰のことを言っているのか、俺は分かっていた。

 

 

「だから私と山崎の事じゃなく、比企谷はその子にもっと目を向けるんだ」

 

 

「……はい」

 

 

宮村先輩はまるで何でも見通しているかのようだった。

 

 

「それとな、

私もそろそろ学校に行くよ。後輩のお前が頑張っているのに先輩の私がいつまでもこんなんじゃカッコ悪いからな」

 

「……そうですか」

 

「…そこで頼みがある。

もし私が西園寺に記憶を消されて、お前や山崎の事を忘れてしまったら、

今度は比企谷が私に声をかけてくれないか?

私と比企谷が初めて会った時のように」

 

 

 

 

この時、懐かしい記憶が脳裏に浮かんできた。

 

 

 

 

“おい、君!まさか魔女に興味があるのか!?”

 

 

 

 

先輩はそう言って、初対面なのに何一つ遠慮せず、俺を部室まで引っ張って行った。

 

 

 

 

「…あの時君に声をかけて本当に良かった。

私も山崎も初めて後輩が出来て本当に嬉しかった」

 

「…俺もですよ」

 

 

彼女は俺の手を握り続け、俺の目を見た。

 

 

「…ずっと言いたかったんだ。

 

 

 

ありがとう。

私たちの後輩になってくれて…。

 

 

 

どうかこれからも、私たちの後輩でいて欲しい」

 

 

 

彼女の優しさに、俺は何度救われたか分からない。

 

“ありがとう”なんて言葉は俺が言うべき言葉だ。

 

あの時からずっとこの人を救えずにいる俺は、あの時よりずっと前からこの人に救われ続けている。

 

 

「…先輩、俺は超常現象研究部に入って良かった」

 

 

 

だから俺はこの恩を返したい。

 

 

また宮村先輩が笑っていられるように、

 

 

宮村先輩と山崎先輩が一緒に笑っていられるように……。

 

 

 

 

「……ありがとう。比企谷」

 

 

 

 

 

もうこの物語も、終わりにさせる。

 

 

 

 

 



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第二十八話

高2

 

朱雀高校2-B教室にて

 

 

「それじゃあ魔女集めしようぜ!」

 

「まずは誰から声をかけるんだい?」

 

 

昨日、宮村先輩の家に行ってから山田も玉木もやる気が出たようで、二人とも昨日より元気がある。

 

 

「効率重視で考えると手分けして集めるのがいいかもな」

 

「ふむふむ、なるほどな」

 

 

山田は納得すると、教室の前にある黒板にそれぞれの魔女の名前を書き、その上に何かの絵を描く。

 

 

「…山田君、その名前の上に描いている変なキャラクターは何かな?」

 

「は?似顔絵に決まってるだろ。

こうすると分かりやすいと思って描いたんだよ」

 

 

どうやら魔女たちの似顔絵だったらしい。

 

絵のレベルは幼稚園児と比べればいい勝負をしそうだ。

 

 

「とりあえず生徒会の仲間である西園寺リカは後回し。

それと宮村先輩からメールで言われたが、儀式は魔女本人じゃないとできないらしい」

 

「ふむふむ、なるほどな」

 

 

山田はうなずいているが本当に理解しているのか?

 

 

「…つまり元々透明人間の能力を持っていた飛鳥美琴が必要って事かな?」

 

「そうなるな。だから玉木は飛鳥先輩とキスして能力を元に戻さないといけない」

 

「え!?能力って元に戻せるのかい!?」

 

 

こいつ知らなかったのか。

 

 

「とにかくさっき言った西園寺リカと飛鳥美琴は後回しにした方がいいだろう。

となると白石、小田切、大塚、猿島、滝川の五人に手分けして協力を頼む」

 

「じゃあ誰が誰を担当する?

俺と玉木はあいつら全員から忘れられているからな」

 

 

俺が面識を持っているのは大塚以外、しかし小田切は俺が魔女に関わっている事を知らない。

 

山田に白石を頼むのは×。

 

玉木は小田切と敵同士だからそれ以外。

 

 

 

つまり一番いい分配は……。

 

 

「…俺は白石と猿島に声をかけてみる。山田は小田切と大塚、玉木は滝川を頼む」

 

「えぇ!なぜ僕があの生意気な小娘を担当しなければならないんだ」

 

「別に深い意味はない。普通に声をかけるだけでいいんだよ。

もし断られたら後から三人で行けばいいしな」

 

「…まぁ比企谷君の頼みならば仕方ないか」

 

「それじゃあ早速行こうぜ。

大塚は漫研部だからすぐに見つけられるし、小田切はその辺にいるだろ」

 

「滝川は一年の教室でも見てみるよ」

 

「分かった。じゃあ一通り終わればまたここで」

 

 

 

こうして俺達は手分けして魔女を集め始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が向かったのは超常現象部。

 

白石はここにいるはずなのでとりあえず協力を頼む。

 

 

 

 

コンコン

 

 

 

「はい」

 

 

ノックをすると女性の返事が聞こえた。

 

 

「あら、比企谷君。こんにちは」

 

「おう」

 

 

部室のドアを開けて出てきたのは白石だった。

 

 

「どうかしたの?」

 

「あぁ、ちょっとな」

 

 

部室の中には白石以外いないようで、俺にとっては絶好のチャンスだ。

 

 

「その、…今すぐじゃないんだが、今度用事があるから集まってほしい」

 

「集まり?誰が来るの?」

 

「魔女の奴らを集めてやってもらいたいことがある」

 

 

我ながら変な事を言っているが大丈夫だろうか?

 

 

「……魔女?

魔女って朱雀高校の七不思議にある魔女の事?」

 

 

「......?

 

もちろんそうだが......」

 

 

おかしい。思っていた反応と違う。

 

 

「フフ、意外ね。比企谷君はそう言う話は信じない人だと思っていたわ。

 

私も魔女の力があったらいいなって思ったけれど」

 

 

…この何かズレた感じは二回目だな。

 

 

「…そうだな。変な事言ってすまん。

とにかく今度来てほしいから前もって話しておこうと思ってな」

 

「分かったわ。その時はまた言ってね」

 

「ん、ありがとな」

 

「ええ、……あっ」

 

 

話が終わったので帰ろうと思ったが、白石が何かに気づいたような声を出した。

 

 

「どうかしたか?」

 

「そう言えば忘れていたわ。比企谷君にはこうした方が良かったわね」

 

 

白石は顔を隠すように、両方の手のひらを顔につけた。

 

 

「…あの、何をなさっているんでしょうか?」

 

「この前こうするのが趣味って言ってたから喜ぶと思って」

 

 

白石は指の隙間からチラッとこちら見てくる。

 

 

何これ、めちゃめちゃ可愛いんですけど。

 

 

 

「ああ、前の事は忘れてくれ」

 

 

多分山田の告白後に会った時のことを言っているのだろう。

 

 

「そう?

それじゃあ約束ちゃんと覚えておくから」

 

「あぁ、またな」

 

 

 

白石は別に目上の人ではないが、俺は軽く会釈をして踵を返しその場から歩き出した。

 

 

 

 

 

「ねぇ、比企谷君」

 

 

「ん?」

 

 

 

話はもう済んだと思っていたが、数歩進んだところで白石は俺を呼び止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「“約束よ”」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………え?」

 

 

 

 

一瞬、頭が真っ白になった。

 

 

 

「約束、比企谷君忘れそうだから念を入れてもう一度言ったのよ」

 

「…ああ、さすがに自分から言い出したことだから大丈夫だ」

 

「それなら良かったわ」

 

 

 

クスっと少しだけ笑って白石は部室に戻って行き、廊下は俺だけになった。

 

 

 

 

 

 

「……猿島探すか」

 

 

さっきの言葉を気にしないように、俺はまた歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから校内をぶらつき猿島を探してみたがなかなか見つからない。

もうすでに下校してしまったのだろうと思ったので2-B教室に戻った。

 

 

「おう、比企谷。

どうだった?」

 

 

教室には山田がいた。玉木はまだの様だ。

 

 

「白石には声をかけておいたから大丈夫だ。

だが少し面倒なことがあってな、白石は自分が魔女であることを覚えていない」

 

「……そうか。

白石は俺と偶然キスして自分の能力を自覚した。

だから俺との思い出を消されて、自分が魔女であることも忘れちまったのかもしれない」

 

 

なるほど。まぁ本人が分かっていなくても儀式に関係ないから大丈夫ではあるが…。

 

 

「そっちはどうだった?」

 

「漫研部に行ったら大塚はいたがめちゃくちゃ警戒してきて話にならなかったわ。

小田切も見かけたが忙しいって言って話を聞かなかったし…。

何かあいつまだ七人目の魔女を探してたぜ?」

 

 

ふむ、西園寺先輩が記憶をいじったせいで色々おかしなところがあるな。

 

 

「だが俺も収穫ありだ!猿島を見かけて魔女の話をしたら信じてくれてな!

儀式の事も頼めたし、ついでに能力をコピーさせてもらった!」

 

 

能力のコピーって、つまりキスしたって事だろ。

 

…猿島よ、

帰国子女だからってキスに抵抗なさすぎだ。

 

 

「あとは玉木だな。あいつ遅くねえか?」

 

「確かに」

 

 

玉木は滝川を探しに行ったはず。

そんなに時間がかかるものなのか。

 

 

 

そんな事を話していると、タイミングを狙っていたかのようにドアが開いた。

 

 

「遅くなってすまない」

 

 

噂をすれば影、玉話をしていたら玉木が来た。

 

 

「滝川の奴全然話を聞いてくれないし、取り巻きの三人に追い払われるし、苦労したよ」

 

「それで結局、滝川と話せたのか?」

 

「ああ、それがむかつくことに比企谷君の名前を出したら目の色変えて話を聞き出したよ」

 

「…そうか」

 

 

まぁこれで三人。

 

一日目にしては上出来だろう。

 

 

「とりあえず今日はここまでにして帰ろうぜ」

 

 

山田はそう提案し、俺も玉木も賛成した。

 

 

「それじゃあ比企谷君、一緒に帰ろうか」

 

「一人で帰れ」

 

 

それから下校するため廊下を歩き、下駄箱に到着した。

 

 

「…またか」

 

 

下駄箱を開けると封筒が入っていた。

 

前回もこのような事があったので、誰からの手紙かすぐわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

[比企谷君へ  明日生徒会室に来てください]

 

 

 

 

 

どうやら動き出したのは俺達だけではなく、生徒会も同じ様だ。

 



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第二十九話

こちらの都合で、前話を一部修正しました。
今後ともよろしくお願いいたします。





高2

 

朱雀高校 午前 生徒会室にて

 

 

昨日の手紙で呼び出され、俺は土曜と言う休日に学校へ来た。

 

 

「何だかご無沙汰な気がするね、比企谷君」

 

「そうですかね?」

 

 

二年になってから事あるごとに呼び出され、少し慣れ親しんできた生徒会室。

これでここに来たのは何度目になるのだろうか?

 

 

「早速で悪いけど聞きたいことがあるんだ。

…君は山田君たちと何をしているのかな?」

 

「ボッチが集まって暇をつぶしているだけですよ」

 

「フフ、嘘は良くないね。

何でも魔女達に接触しているらしいけど、彼女達を集めて何をするのかな?」

 

 

フン、この狸が。

 

 

「別に言わずとも分かっているでしょう?」

 

「そうだね、だから僕は君を止めないといけない。

 

朱雀高校には七人の魔女全員の正体は生徒会長以外知ってはいけない掟がある。

僕は生徒会長として学校の掟を守らないといけない」

 

 

山崎春馬のやっている事は正しい事なのだと思う。

生徒会長として決まり事を守っている。

 

ただその決まり事自体は、正しいとは思えない。

 

 

「…そうですか。でも俺は、

もう、うんざりしているんですよ。

 

 

 

あの人を待たせることも、

 

 

あいつを待たせている事にも」

 

 

 

だから

 

 

 

「だから俺とあなたは敵同士ですね」

 

「……そうか、残念だね」

 

 

山崎先輩は本当に残念そうに呟く。

 

 

「でも僕は、君ならそう言うと思っていたよ。

…君や山田君がどうやって抗っていくのか楽しみだ」

 

「それならご心配なく。

もう先手は取らせてもらいましたから」

 

「ほう。それなら僕も何手か打たせてもらうよ」

 

 

山崎先輩はニヤッと笑う。

 

それを見てから俺は山崎先輩に背を向け、生徒会室を出て行く。

 

ドアに手をかけ、去り際にボソッと言う。

 

 

「……規則や決まり事よりも大切な事は、俺にもあなたにもあると思いますよ」

 

「…」

 

 

 

 

多分声が小さすぎて聞こえなかったのだろう。

 

 

 

山崎先輩は何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後五時、生徒会室にて

 

 

「会長、山田さんたちの事でお伝えしたいことが」

 

「山田君たちかい?」

 

「はい、比企谷さんが生徒会室に来ていた時、猿島マリアが山田さんたちと接触。

それから山田さんと猿島マリアは行動を共にしていました」

 

「へぇ、この短期間でよく仲良くなったね」

 

「いえ、会話の内容を少し聞き取ったところ、どうやら猿島マリアは山田さんに関する記憶を思い出したようです」

 

「っ!!記憶が戻るなんてそんな事は…」

 

「それから山田さんは部活で来ていた宮村虎之介、大塚芽衣子、七人目の魔女を探している小田切寧々、五十嵐潮、以上の四名とキスしていました。

 

それで私なりに考えた結果、仮に消された記憶を戻す方法があるとすれば、それは“相手とキスする事”ではないかと思います」

 

「…フッ、キスをしたら思い出すか。

飛鳥君にしては乙女チックな考え方だね」

 

「はい、私も乙女ですので」

 

「……もしかしたらこれが比企谷君の言っていた先手ってやつかな?

 

そうだとすればさすが比企谷君だ。随分と面白い事をしてくれる」

 

「会長、どうしましょう?」

 

「仕方がない。

急遽七人目の魔女にもう一度能力を使ってもらうよ。そうすればまた山田君の事を忘れるだろう」

 

「分かりました。では私は比企谷さんの方に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、打開策として七人目の魔女がもう一度山田の前に現れたが、

 

誰の記憶も消えることはなかった。

 



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第三十話

本日二話目です。





高2

 

朱雀高校にて

 

 

月曜日

 

 

 

「ちょっと山田!これはどういう事よ!」

 

「はぁ、説明するのめんどくせぇな」

 

 

土曜まで七人目の魔女を探していたが、今日は山田の所まで来た。

 

 

今、私たちのいる2-B教室には私以外に山田、玉木、大塚さん、猿島さんがいる。

 

 

「だから、お前らは七人目の魔女に記憶消されてたんだって」

 

 

山田の隣で玉木がうんうんと言いながら首を縦に振る。

 

山田達の説明によると、七人目の魔女は記憶を操作することが出来るらしく、その正体を知った人は魔女に関する記憶を消されてしまう。

 

しかし山田と玉木は魔女の能力が効かないので、特別処置として周りの人の記憶を消されたらしい。

 

 

「じゃあなぜ私たちの記憶は戻ったのでしょうか?」

 

 

大塚さんが控えめな声で質問する。

 

 

「それは山田君とキスしたからだと思う。最初に記憶が戻ったのはそこにいる猿島マリア、山田君がキスした翌日に記憶が戻った」

 

「そうね、それで山田はあなたたちにキスして回ったのよ」

 

「なるほど」

 

「それで、後分かっている事は二つ。

俺とキスして記憶が戻るのは魔女だけだ。実際宮村と潮は記憶が戻ってない。

二つ目は西園寺リカの能力は一度しか効かない。

土曜にまたあいつが来て能力を使ってきたが、猿島の記憶が消えていないからな」

 

 

その後記憶を戻すための儀式について聞いて、以上だと言って長い説明が終わった。

 

私はにわかに信じられない話だと思うけど、実際に昨日までは山田の事を完全に忘れていた。

 

 

今日説明されたことはとても驚くべきことで、すごく衝撃的な事だけれど、

 

それ以上に、私にはショックなことがあった。

 

 

「…と言う事は、私は負けたのね」

 

 

会長戦に勝ったのは宮村、私は知らず知らずのうちに負けていたのだ。

 

 

「比企谷に、…謝らないとね」

 

「ん?何で比企谷君に謝るんだい?」

 

 

私の独り言を聞いていた玉木が反応する。

 

 

「何でって、……あれ?

そう言えば何で比企谷が出てくるのかしら?」

 

 

その時、ズキッと頭痛がした。

 

 

 

“それなりに仕事の効率が良ければ、私が会長になったとき秘書にしてあげるわ”

 

 

 

いつだったか、そんな事を比企谷に言った気がする。

 

 

「あぁそうそう、比企谷君も手伝ってくれているよ。

彼は別行動をとるらしいけどね」

 

 

「…そう」

 

 

やっぱりあいつ、魔女と関係あったのね。

どおりで猿島さんや滝川ノアと仲がいいわけだわ。

 

 

「それで、私たちは何をするの?」

 

「さっき比企谷君からメールが来てね、少し頼みごとをされた」

 

「ふーん、メールね」

 

 

…こいつ比企谷の連絡先持っているのね。

 

 

「そう、比企谷君からメールが来たんだよ」

 

「二回も言わなくていいわよ」

 

「…それは失礼、

それで比企谷君からのメールによると…」

 

 

こいつ喧嘩売ってるのかしら?

 

 

「西園寺リカの事を調べて欲しいだって。

きっと君が生徒会の役員だから頼んだじゃないか?」

 

「…勝手な奴。頼むなら面と向かって頼みなさいよね」

 

「機嫌が悪いね」

 

「ええ、最近あいつの事考えると疲れるから機嫌悪いのよ」

 

 

本当に、あいつのせいで喜んだり悲しんだりよ。

 

 

「お前ら話はまとまったか?」

 

 

そう言って山田が会話に混ざる。

 

 

「俺は白石の方に行って、キスしようと思ったんだけど…」

 

「ん?」

 

 

山田はプリントを一枚こちらに渡してきた。

 

 

「山崎の野郎掲示板にこんなもん貼り付けやがった!!」

 

 

 

 

 

警告

最近、キスをせがんでくる男子生徒が校内で目撃されます。

そのような生徒に注意してください。

また、学校内でそのような行為を発見次第、厳重処分を下します。

 

生徒会より

 

 

 

 

 

「これじゃあ白石とキスできねえ!

ただでさえ伊藤や椿の目をすり抜けるのは難しいのに」

 

「西園寺の能力が二度目は効かないと分かって手を打ってきたね」

 

「まぁところかまわずキスするのもどうかと思うけど…」

 

「そういうわけで、お前らも白石とキスするために作戦練ってくれ」

 

 

こうして、私たちは白石アンド西園寺を担当することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

3-A教室にて

 

 

「お待ちしていましたわ、比企谷さん」

 

「…どうも」

 

 

いつものことながら生徒会から呼び出しがあり、今回は三年生の教室に来た。

放課後なので、飛鳥先輩以外いない。

 

 

「それで、今回は何の用ですか?

俺達は一応、敵同士なはずですが」

 

「そんな、敵だなんて悲しい事を言わないでください。

先に言っておきますと、今回は春馬様に頼まれたのではなく私が独断で行っている事ですよ」

 

「あまり信じられませんね」

 

 

この人は生徒会長の側近、前に多少話をしたからと言って油断はできない。

 

 

「むっ、この前仲良くおしゃべりしましたのに、その反応は傷つきますわ」

 

 

飛鳥先輩は少し拗ねてしまった。

この人はあまり感情を出さない人だと思っていたが、今までと違う表情を見せてくるから調子がくるってしまう。

 

 

「はぁ、それで結局用事は何ですか?」

 

「私が呼ばなくてもあなたは近々私の所に来るでしょう?

だって私は魔女なのだから」

 

「…そうですね」

 

 

俺達が七人の魔女を集めるのに最も困難な事は、生徒会側である飛鳥美琴と西園寺リカに協力してもらう事だ。

 

西園寺先輩に関しては山田達に任せようと思っているが、飛鳥先輩は他の人には任せられない。

この人は優秀が故、危険すぎる。

 

 

「では単刀直入に言います。俺たちに協力してくれますか?」

 

「…比企谷さん、物事には順序があると思います」

 

「はい?」

 

「私、さっき比企谷さんに傷つけられたままなんですけど…」

 

 

飛鳥先輩はぷいっと拗ねた子供のように振る舞う。

 

いつもとのギャップでとてもかわいく見えるが、とてもめんどくさい。

 

 

「…さっきはすみませんでした。以後気を付けます」

 

「そうですか。それでは私のささやかなお願いを聞いてもらってもいいですか?」

 

「お願い?」

 

「…私、恥ずかしながら男性とお付き合いした事がなくて…。

それで、…その、比企谷さんさえよければ私とお付き合いしてくれませんか?」

 

 

顔を赤らめチラッとこちらを見てくる。

普通の男なら100人中100人が彼女に惚れてしまうだろう。

 

 

「断ります」

 

 

だが生憎俺は普通の人ではない。

訓練されたボッチはこの程度のハニートラップには引っかからない。

 

と言うか全然ささやかなお願いじゃないだろ。

 

 

「…チッ、さすが比企谷さんですね。ガードが堅い」

 

 

舌打ちしやがった。

 

 

「…じゃあ写真のツーショットで妥協しますわ」

 

「いや、それもちょっと…」

 

「ではお話はここまでですね。さよなら比企谷さん」

 

「…クッ、分かりました。やりますよ」

 

 

帰ろうとする飛鳥先輩を止めるためにやると言ったが、女の人と一緒に写真撮るとかハードル高すぎるだろ。

 

 

「それでは、こちらに来てください」

 

 

飛鳥先輩は自分の隣に来るように指示する。

 

 

「…これでいいですか?」

 

「それではカメラに入りませんよ。肩と肩をくっつけて下さい」

 

 

飛鳥先輩はスマホを取り出し内カメラにセットする。

 

 

「…近い」

 

「そんな事ないですよ。…それじゃあ撮りますね」

 

 

そう言って左手でスマホを持ち、腕を伸ばしてピントを合わせ、右手は俺の右肩に置く。

 

 

近すぎる。と言うか何でこの人こんなにいい匂いがするの?

 

 

 

「はい、チーズ」

 

 

 

そう言った瞬間、右肩に置いてあった彼女の右手は俺の頬に触れ、俺の首を90度回転させる。

 

 

 

そうすると顔の前には飛鳥先輩の顔があり、唇に柔らかい感触がした。

 

 

 

 

パシャっと音が鳴り、写真が撮られた。

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「…なっ!」

 

 

飛鳥先輩のスマホにはどう見てもよからぬ写真が撮られた。

まさかこれは…。

 

 

「いい写真が撮れましたわ。

正月の年賀状に使って皆さんに自慢しましょう」

 

「何言ってんだやめろ、と言うかやめてください」

 

「フフ、私の機嫌もなおったところでさっきのお返事をしますね。

 

答えはノーです。私は生徒会長の秘書として、あなたの手助けはできませんわ」

 

 

それではさよならと言って教室のドアの方に向かっていく。

 

 

「あぁちなみに、さっきの告白は本気でしたのよ」

 

 

それを最後に言って、彼女は俺の前から去っていた。

 

 

「……やられたな」

 

 

俺はさっきの出来事の衝撃が強すぎて、彼女を追う気にもなれなかった。

 

 

 

しかし、本当は力ずくでも止めるべきだったのだろう。

 

 

 

なぜって?

 

 

それは…、

 

 

 

山田が持っているプリントに書いてある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして次の日の朝

 

 

「お兄ちゃん。早く起きないと遅刻するよ」

 

 

いつもはとっくに起きている時間なのに、一向に目を覚ます気配がない俺を可愛い妹が起こしに来てくれた。

 

 

「ああ、……大丈夫だ小町」

 

「…ん?学校休みなの?」

 

 

しかしそれには意味がなく、怪訝な顔をしている妹にそのわけを教えてあげた。

 

 

「いや、…お兄ちゃん停学にされちゃったから」

 

 

てへっと小町に言ったが、小町の顔は青ざめていく。

 

 

 

「お、…おにいちゃんが、

……お兄ちゃんが不良になったぁ!!」

 

 

 

 

……。

 

 

 

 

あの女狐、絶対に許さん。

 





みなさまゴールデンウィークはどうお過ごしでしょうか。

私はこの作品をどこまで続けるか、日々考えて過ごしています。

もしかしたら残りわずかで最終話になってしまうかもしれませんが、これからもよろしくお願いします。


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第三十一話

高2

 

 

今日、朝のホームルームから最後の六時間目の終わりまで、比企谷はクラスに来なかった。

 

 

風邪でも引いたのだろうか?

 

早めに伝えた方がいい事があるから話をしたかったのだが、その手段がない。

 

 

「それにしても、まさか本当に比企谷が魔女と関わっていたなんて…」

 

 

私は二年生になり自分の能力を理解して、それから超研部の白石さんに会って、他の魔女の事も知った。

 

 

しかし比企谷はどうやって魔女の事を知ったのだろう?

 

あいつ友達もいないし…。

 

 

 

「ねぇ、飛鳥先輩が停学って本当なの?」

 

「うん、確か男子とキスしたのがばれて生徒会長が直々に罰を与えたって噂だよ」

 

「なにそれやらしぃ~」

 

「っ!!」

 

 

色々考えながら昨日と同じ2-B教室に向かっている途中、女子たちの会話が聞こえてきた。

 

何で群れている女子ってうるさいのだろう、と言うのは置いといて、飛鳥先輩が停学なのはビックリだ。

 

それにあの女が男子とキスするなんて…。

 

 

「まぁ、ただの出鱈目よね。飛鳥先輩が山崎以外の男に興味を持つわけないし」

 

 

そんな独り言を言い、2-B教室のドアを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

「山田に玉木、二人とも早いわね」

 

 

教室にはすでに、何故か不機嫌そうな玉木と頭を抱え苦悩している山田がいた。

 

 

「俺はもともとこのクラスだ。それよりヤバいぞ、山崎のやつ仕掛けてきやがった」

 

「僕の所にこんなものが届いた。たぶん君の所にも来ただろう?」

 

「ええ、特別集会のことでしょ」

 

 

そう、今日私の所には生徒会から三日後にある集会の呼び出しがあった。

 

やれ伝統的な行儀だから必ず来いだの、来なければ罰則を与えるだの、

こんなの横暴だわ。

 

 

「生徒会って最低ね」

 

「いやいや、お前生徒会だろ」

 

「ふん、そんなの昨日までの話だわ。

今日からは普通の生徒よ。昨日山崎にクビにされたの。

新生徒会の発足にあたっての任期終了だって」

 

 

まぁ自分でもやめようと思っていたけどね。

 

 

「…話はズレたけど特別集会に呼ばれているのは魔女全員だ。

もしかしたらだけど山崎は僕たちが七人を集める前に儀式を開こうとしているのかもしれない」

 

 

玉木は相変わらず不機嫌そうで、指の爪で机をカツカツ言わせている。

 

 

「つまり残りの期限は三日。

全く、こんな大変な時なのにあのゾンビ男は何してるのかしら?」

 

 

私がそう言った時、玉木は反応した。

 

 

「……比企谷君は罠にかかったんだ」

 

「は?」

 

 

「比企谷君は罠にかかって停学になったんだよ!!」

 

 

「ちょ!…何でいきなり大声出すのよ」

 

 

 

玉木は怒りが爆発したように、声をあげる。

 

 

「山崎め!!この僕の親友である比企谷君に手を出すなんて!!

必ず裁きの鉄槌を下してやる!!」

 

「いや、どういう事よ?比企谷が停学?」

 

「ああ、さっき玉木の所にメールが届いてな。

何かあの秘書にやられたらしいぜ」

 

「秘書って飛鳥先輩でしょ。

…そう言えばあの人も停学だって噂で聞いたけど」

 

 

 

その時、私の頭の中でパズルのピースが揃った。

 

比企谷が停学。

 

飛鳥先輩も停学で、噂では男子とキスしたから。

 

そして昨日山田に見せてもらった警告の内容

 

 

「ま、…まさかあいつ」

 

「秘書にキスされて停学くらったって」

 

 

この時、私の中で確かに怒りが沸いてきた。

 

 

「へ……、へぇ~~。

あいつ昨日はここに顔も出さずに何してるのかと思ったら、飛鳥先輩にそんなふしだらな事してたのね。

 

......あっそう、そういうことするんだあいつ」

 

「いや、落ち着けよ。あいつは被害者だって」

 

「ふーーん、まぁこれっっっぽっちも気にしないけどね」

 

「どこがだよ!」

 

 

比企谷の件でもう少し言いたいことはあるけど、とりあえず今はクールにいかないと。

 

 

「ふう、…今はやるべき事をやりましょう。

期限は後三日しかないんだから今すぐにでも手を打つわ。

山田は今から白石さんの所に行って記憶を戻してきなさい。比企谷が協力を頼んだとはいえ、記憶を戻しておいた方が便利だわ。

そして私と玉木は西園寺リカを全力で探しましょう」

 

「…確かに、もうなりふり構ってられねえな」

 

「ああ、分かったよ」

 

 

もちろん比企谷の事は後でキッチリ問い詰めるけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして私と玉木は西園寺リカを探し始め、彼女を探すのは困難極めると思っていたがそんな事はなかった。

 

 

「やっほー☆」

 

 

西園寺リカは自分から姿を現したのだった。

 

 

「ふん、僕たちの記憶を消しておいてよくもまぁのこのこと出てこれましたね」

 

「そんな事言われてもリカだって好きでやったわけじゃないしぃ、それにずっと探されるのも嫌だしね」

 

 

ふざけているように感じさせる態度で玉木をさらにイラつかせている。

 

 

「…聞きたいのですけど、あなたは私たちに協力してくれますか?」

 

「それは無理かな。私は春ちゃんの味方だし」

 

 

春ちゃんて、…山崎のあだ名?

 

 

「じゃあ山崎は魔女を集め、儀式を開いて何をしようとしているんですか?」

 

「うーん、それは本当に知らないな。

 

でも多分、

 

春ちゃんは山田君を消そうとしているんじゃないかな?

魔女の能力が効かず、消した記憶を戻せるなんて春ちゃんからしたら邪魔過ぎるからね」

 

「そんな事が…」

 

「まぁテキトーに言っただけだけどね。

それじゃあリカも質問してもいいかな?

 

何で春ちゃんは比企谷君の事をあんなに気に入ってるの?」

 

「山崎が気に入ってる?」

 

 

聞いたこともない話に私は驚く。

 

 

「今の彼って春ちゃんにとって山田君と同じくらい面倒な子でしょ?

だから前に山田君に関する記憶を消す時に、春ちゃんに比企谷君の所にも行こうかって聞いたら行かなくていいっていうんだよ!

何でって聞いても答えてくれなかったし、こんなの特別扱いだよ!」

 

「どこが気に入っているんですか?比企谷君は今停学させられているんですよ」

 

「それは美琴ちゃんが勝手にやったことでしょ?春ちゃんが命令した事じゃないし」

 

「でも……」

 

「まぁ知らないならいいや。

じゃあそういう事でリカは協力しないから」

 

 

ばいばーいと言って背を向く彼女に、私は必死で言葉を探した。

 

少しでも彼女と交渉するのに必要な事を聞き出さないと…。

 

 

「…なんでそんなに山崎会長にこだわるんですか?」

 

 

 

 

 

「クス、

 

それはね、私たちはお互いになくてはならない存在だからだよ。

 

春ちゃんは私がいないと会長の役目を果たせないし、私は能力を使うと春ちゃん以外の人達から忘れられちゃうからね」

 

「能力を使うと忘れられる?」

 

「難しい話はここまで。

それじゃあ行くから」

 

 

そう言って西園寺リカはそれ以上何も説明しなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宮村家にて

 

 

 

「……と言う事があったんですが」

 

「ふむ、なるほどな」

 

 

西園寺リカが去った後、私は玉木に連れられて宮村の家に来た。

宮村のお姉さんは私たちと同じ朱雀高校の生徒で、魔女についてよく知っているらしい。

 

 

「それで、山田は何があったんだ?

さっき下で虎之介を連れ出そうとしていたが」

 

 

そしてなぜか白石さんの所に行ったはずの山田も宮村家に来ていた。

 

 

「それが白石にキスしようとしたけどそいつは白石じゃなかった」

 

「「「?」」」

 

「だから、白石と飛鳥が入れ替わってるんだよ!

つまり今超研部にいる白石は飛鳥美琴で、自宅で謹慎処分を受けている飛鳥は白石なんだよ」

 

「あぁ、なるほどね」

 

 

飛鳥美琴は比企谷を停学にするだけじゃなく、入れ替わりの能力を持つ白石さんと体を交換して、白石さんも捕まえたって事ね。

 

…思っていたより厄介なことになっているわ。

 

山崎の奴、特別集会までに儀式を開かせないつもりね。

 

 

「だから今すぐ宮村を連れて飛鳥の家に行かねえと。

生徒会役員がいないと中に入れてくれないんだ」

 

「…お前の言っている事は分かった。

 

だが今は待て。

 

今すぐに白石を連れ戻しても同じことが繰り返されるだけだ。

お前だって四六時中彼女を守ってやれるわけではないだろう?」

 

「……確かに」

 

 

宮村先輩は私達と違って冷静に判断し、イラついている山田を正論で落ち着かせる。

 

 

「今ややこしい事になっている白石と飛鳥美琴は後にしろ。

それよりも優先すべきは西園寺リカだ。

もう時間も残っていないのだろう?明日までにあいつを味方につけろ」

 

「「明日!!」」

 

 

今日の調子じゃ全然いける気がしないんだけど。

 

 

「…ああ、分かった。明日までに何とかしてやる」

 

「ちょ、山田君、大丈夫かい?」

 

「それができなきゃ俺達は負けるんだろ?

もう当たって砕けるしかねぇよ」

 

「砕けたらダメだよ!」

 

「分かってる。それじゃあ帰るぞ」

 

「待ってくれ、山田君」

 

 

帰る山田を追いかけて玉木も出て行く。

 

私も帰って明日の事を考えないと。

 

 

「じゃあ、お邪魔しました」

 

 

「ああ、

……お前に会えて良かったよ」

 

 

 

宮村先輩は私と初めて会ったはずなのに、

 

何かを懐かしむように、そう言った。

 

 

 

「私もです」

 

 

 

そして私も、懐かしい気持ちになった。

 

 

まるで、

 

 

 

比企谷と一緒にいるときのように。

 

 

 

 

 

 

「…寧々、比企谷の事をよろしく頼む」

 



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第三十二話

高2

 

 

 

 

またあの夢を見ている。

 

 

 

 

顔が塗りつぶされて、声にノイズがかかっている男の子。

 

 

今回は二人で夏祭りに来ている。

 

 

 

屋台の列を眺めながら二人で歩いて行き、すれ違うカップルを見てドキドキする。

 

 

 

隣を歩いているのは私の好きな人。

 

 

勇気を出して彼の手を握ろうとしたけど、やっぱりそれはできなかった。

 

 

 

 

そうして祭りは終わり、私は彼と約束をした。

 

 

 

 

「来年も、一緒に行きましょうね」

 

 

 

 

そこで私の視界は暗くなり、夢が終わったと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

“いつまで夢を見るの?”

 

 

 

いつの間にか閉じていた瞼を開くと、目の前には[私]がいた。

 

 

 

 

“いつまで[彼]から目をそらすの?”

 

 

戸惑いながらも、なぜか質問してくる[私]に返事をする。

 

 

「目をそらしてなんかいないわ。……あの子の顔は見えないのよ」

 

 

 

 

“何で生徒会長を目指したの?”

 

 

「最高権力が欲しかったから」

 

 

 

 

“誰を虜にしたかったの?”

 

 

「…私が能力を手に入れたのは、生徒会長になるために仲間が欲しかったからよ」

 

 

 

 

“じゃあ私は誰が好きなの?”

 

 

 

「……山田よ」

 

 

 

 

 

 

“…そう、[私]は[彼]が好きよ”

 

 

「そんなわけないわ!あなたは私でしょ!」

 

 

私と違うことを言う彼女に、思わず口調が強くなってしまった。

 

 

 

 

“[彼]のそばにいるのが好き。だから[私]はずっと一緒にいたい。私は山田にそう思えるの?”

 

 

「っ!それは……」

 

 

 

 

 

“……それじゃあ最後の質問。私が一番そばにいたい人はだれなの?”

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

“もう顔も見えるし声も聞こえるわよ。……後は向き合うだけ”

 

 

 

 

 

そう言うと[私]は役目を終えたかのように、ゆっくりと消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

「……それくらい、分かっているわよ」

 

 

 

 

そして今度こそ、私は目が覚めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残りの期限はあと二日

 

 

玉木から聞いた情報が間違っていなければ、残りはたったの二日しかない。

 

そんな中、俺は家で停学中の課題をやっていた。

 

 

「何をやってるんだか…」

 

 

文句を言いながらもペンを握り、課題を解いていく。

今はこれ以外にすることがないのだ。

 

もちろん今日を課題だけで終わらせるつもりはない。

 

 

 

放課後は、学校に行こうと思っている。

 

 

 

 

今日中に玉木たちは西園寺リカを仲間に入れないと時間的に間に合わない。

 

もちろん俺が行ったところで何が変わるとも思えないが、さすがに家にこもっているわけにはいかない。

 

 

それにあの人も俺と同じ様な事を想って、学校に行くだろう。

 

 

だからなおさら行かなくてはならない。

 

 

 

もし儀式が成功しなかったら、あの人と俺はお別れになるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朱雀高校 放課後

理科準備室にて

 

 

「だってあんたは気づいているんだろ?

自分が山崎に利用されているだけだって」

 

 

私達は予定通り、西園寺リカを説得している。

 

 

「…山田君は分かってくれると思ったのに、

リカが今までどんな気持ちで学校に来ていたか…」

 

 

しかし私は彼女の話を聞いて、敵であるはずなのに同情してしまった。

 

 

 

自分の能力を使うと周りの人達から忘れられる。

学校に来ても話をできる人がいないまま、ずっと七人目の魔女としてやってきた。

 

 

でも唯一、彼女を忘れずにいる人がいる。

 

 

それが生徒会長、山崎春馬だ。

 

 

 

「だからリカには、春ちゃんを裏切れないよ!!」

 

 

 

彼女の悲しい叫びが、理科室を駆け巡った。

 

 

私には誰からも忘れられるという気持ちが分からない。

 

でもここにいる山田や玉木なら、彼女の気持ちが理解できるのだろうか?

 

 

 

 

……それにあいつなら。

 

 

 

「…そっか、でも今は違うだろ?少なくとも俺達三人は、あんたの事を知っているぜ」

 

 

彼女は黙り込む。

 

 

「このまま山崎の味方をしていたら、またあいつと二人きりになるんだぞ。俺に協力すればもうそんな思いをしなくて済むんだ!!」

 

 

そして答えた。

 

 

「…分かった。リカ、…山田君に協力する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから30分後

 

山田と玉木は宮村先輩の家に行き、私は学校に残っている。

 

 

何故そんな事をしているかと言うと、七人目の魔女は協力するのに条件を付けてきた。

 

 

「協力する代わりにレオナちゃんをここに連れてきてくれるかな?

聞いてると思うけど、リカはあの子に名前を知られているのに記憶を消せてないでいるんだよね。

そういうの、七人目の魔女としてのプライドが許さないっていうか」

 

 

 

つまり協力する代わりに宮村先輩の記憶を消させてほしいという事だ。

 

山田はそれを断り、宮村先輩をこの件に関わらせてはいけないと言ったが、

なぜか運の悪い事に宮村先輩が今から学校に行くとメールで送って来た。

 

 

それで山田と玉木は彼女を止めるために急いで彼女の家に向かった。

 

私は待機して、山田達と彼女が入れ違いになった場合に止める役目と言うわけだ。

 

 

「小田切」

 

 

言われた通り正門で待機していた私は、誰かに後ろから声をかけられた。

 

 

「何をやっているんだ?会長戦はどうしたんだ?」

 

「潮君」

 

 

ここ三日間、山田の事を忘れている潮君には会長戦の事をまだ伝えていなかった。

 

 

 

「ごめんなさい。私は辞退することにしたの」

 

「は?何を言っている」

 

「…いえ、辞退ではないわね。本当のことを言うとね、勝ったのは宮村だわ。私たちは敗北したのよ」

 

 

「そんな、急に言われても納得が…」

 

「あなたにも、親衛隊の子たちにも悪い事をしてしまったわね。…もう自由にしていいのよ」

 

「ま、待ってくれ。今まであれだけ頑張って来たのになぜそんなに簡単に切り捨てられるんだ!?お前は会長になりたいのだろう?」

 

 

潮君は必死に説得しようとしてくれる。

 

 

 

「…えぇ、もちろんなりたいわ。

でもそれ以上に、私はやらないといけないことがあるから…」

 

 

そこまで言うと、正門の前の大通りを宮村先輩が歩いて来るのが見えた。

 

 

「やらないといけないこと?」

 

 

「そう、私はあいつと、……あいつと向き合わないと」

 

 

私に気づいた宮村先輩はこちらに手を振っている。

 

そしてその隣には、相変わらずけだるそうに歩く比企谷がいた。

 

 

 

 

「だから、とても勝手だけど、…今までありがとう」

 

 

 

 

「…そうか」

 

 

 

 

 

それから潮君は、笑顔を作ってこの場を去って行った。

 



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第三十三話

高2

 

朱雀高校 校門前

 

 

 

「寧々、待っていたのか?」

 

 

潮君が去ってすぐ、宮村先輩と比企谷は私の前まで来た。

 

 

「あの、山田達から電話とかメールとか来ませんでした?」

 

「ああ、あいつらから全部聞いたよ。

西園寺に私を連れて来いと言われたのだろう。

それで私を止めようとしているらしいな。

 

でもいいんだ、西園寺の所まで案内してくれ」

 

 

どうやら山田達は宮村先輩に全てを伝えたが、その上で彼女はここに来たらしい。

 

 

「…私も、宮村先輩は西園寺先輩と会うべきではないと思います。

だって記憶を消されたくないから、今までずっと来なかったんでしょう?」

 

 

そんな事は宮村先輩が一番分かっているはずなのに、私は彼女を止めてしまう。

 

 

「…心配してくれてありがとう。

お前の言う通り、私は儀式が成功しなかったらずっと大切な記憶を忘れたまま、……大切な人を忘れたまま生きていくかもしれない」

 

「なら、どうして…?」

 

 

私が聞くと彼女は少し笑みを浮かべ、ずっと静かにしていた比企谷を見た。

 

 

「しかし私には、信頼できる自慢の後輩がいるからな。

それなら何も心配することはないだろう?」

 

 

 

……そうか、だから彼女は、

 

 

 

「だから寧々、西園寺の所まで連れて行ってくれ」

 

 

 

 

こんなにも明るく笑っていられるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小田切に連れられて、俺達は理科準備室の前まで来た。

 

ここからは私一人でいい、と宮村先輩が言ったので、俺と小田切は準備室の外で待機している。

 

 

周りは静かで沈黙が少しの間あったが、小田切が口を開いた。

 

 

「あなたと話すのも、…何だか久しぶりな気がするわね」

 

「かもな」

 

 

俺も小田切も廊下の壁に背中を付け、向かい側にある教室を眺めている。

 

そのため、彼女がどんな顔をしているのか分からない。

 

 

「私、あなたに聞きたい事や話したいことがたくさんあるわ。

 

……だから全部終わったら、もう一度二人で話しましょう」

 

 

「…ああ、そうだな」

 

 

 

でも彼女は、きっと穏やかな顔をしている。

 

 

 

 

俺の好きになった、穏やかで優しい表情だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後、宮村先輩は理科室から出てきた。

 

 

「二人とも待たせたな」

 

 

宮村先輩は理科室に入る前と何の変わりもなく、平然としている。

 

 

「大丈夫でしたか?精神汚染とか、精神支配とかされませんでしたか?」

 

「フフ、何を言っているんだ。

大丈夫だよ。今のところ特に問題ない。

西園寺も約束はちゃんと守ると言っていた」

 

「そうですか」

 

「まぁこれで私の役目も果たせた事だし、用事を済ませて帰ろうか。

比企谷、途中までついて来てくれないか?」

 

「ええ、もちろん」

 

 

どうやら彼女の最後の用事を済ませるのに、俺が道案内をしていいようだ。

 

 

「あの、…用事って何ですか?」

 

 

小田切が控えめに質問をする。

もしかしたら宮村先輩は小田切に昔の超研部の事を話していないのかもしれない。

 

 

「最後に会っておきたい奴がいてな、悪いが寧々は山田達に連絡を入れてくれ」

 

「…分かりました」

 

「それじゃあ行こうか」

 

 

そう言って、宮村先輩は歩きだす。

 

 

「じゃあまたな、小田切」

 

「ええ、また」

 

 

俺は彼女に挨拶をして、宮村先輩の後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静かな廊下に、俺と宮村先輩の足音がよく響く。

廊下の窓から夕陽が綺麗に差し込む時間帯だ。

 

 

「…ついにお前ともお別れだな。

魔女に関する記憶を消されるという事は、やはり超研部の事を忘れ、超研部のおかげで会えた比企谷の事も忘れてしまうだろうからな」

 

「まぁ、案外覚えていたりするかもしれませんけどね」

 

「フフ、それならラッキーだな」

 

 

制服を着た宮村先輩の隣を歩いていると、あの時の事をよく思い出す。

 

 

「明日からは普通に登校していると思う。

だから儀式が終わっても私がお前の所に来なかったら、約束通り比企谷が声をかけてくれ」

 

「変な奴と思ってハサミを投げないでくださいよ」

 

「ああ、善処するよ」

 

 

彼女との会話はずっと続けるわけにはいかず、もう目的地はすぐそこにあった。

 

 

「…それじゃあすぐそこにあるので、俺は先に帰っておきます。

これでも一応、停学中なので」

 

「そうだったな。

それじゃあここでお別れか」

 

「ええ、お別れです」

 

 

宮村先輩は俺の二歩前を行き、こちらに振り返った。

 

 

「比企谷に言いたいことはたくさんあるけれど、今は一つで我慢しておくよ」

 

「何でしょう?」

 

「…寧々と上手くやるんだぞ。

あの子はとてもいい子だ。泣かせたら許さんからな」

 

 

ニシシと子供っぽく笑って、からかってくる。

 

いつまでたってもこの手の話は大好きなようだ。

 

 

「ええ、宮村先輩も山崎先輩と上手くやって下さいね」

 

「フフフ、ああ、そうだな」

 

 

そう言って彼女は廊下を曲がって行く。

 

ここを曲がって少し進めば、俺がよく呼び出された生徒会室がある。

 

 

「……と、一つで我慢すると言ったがもう一つ話したいことがあったな」

 

「ん?どうしました?」

 

 

彼女はすぐに戻ってきて、俺に言う。

 

 

「もし山崎がいなかったらな、

 

私は間違いなく比企谷の事を好きになっていたよ」

 

 

彼女の不意打ちに呆気を取られたが、俺は笑って返事をした。

 

 

「俺もあいつがいなかったら、間違いなくあなたの事を好きになっていましたよ」

 

 

こうして彼女は笑いながら、あの人の所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会室前

 

 

「はぁ、疲れた。飛鳥君がいないと仕事が多いな。

…ちゃんと鍵も返しておかないと」

 

 

今日の仕事を終わらせ、生徒会室の鍵を閉める。

 

久しぶりの激務で疲れたけれど、あと少しで生徒会長の任期も終わると思ったら少し寂しい気がした。

 

 

 

「山崎」

 

「ん?」

 

 

 

誰かに呼ばれ、振り返ってみると見知らぬ女子生徒がいた。

 

 

 

「君は……?

僕に何か用かな?」

 

 

「……いや、何でもない」

 

 

「そうかい?

そろそろ下校時間だから気を付けて帰ってね」

 

 

 

そう言って、カギを返すために職員室に向かう。

 

 

 

 

一歩一歩立ち止まっている彼女に近づき、

 

 

そのまま横切ろうとした時、

 

 

彼女は言った。

 

 

 

 

 

「いつかまた……、出会えたらいいな」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

それから数歩進んで、彼女が何を言ったのか理解した。

 

 

しかし振り返ってみても、彼女は歩いて行き、こちらを振り向こうとはしなかった。

 

 

 

 

「空耳だったのかな?」

 

 

あの子は何もなかったかのように去って行くので、自分もまた静かな廊下を歩き始めた。

 

 

 

 

 

……。

 

 

 

 

 

コツン、コツンと廊下にいい音が響く。

 

 

 

 

僕はこの時、何を思ったのかは分からない。

 

 

 

「……涙?」

 

 

 

 

 

でもなぜか、涙があふれてきた。

 








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第三十四話

高2

 

停学三日目

 

 

 

 

 

 

たぶん今日ですべてが終わる。

 

 

 

そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

 

 

「…どうぞ」

 

 

「失礼します」

 

 

何度も聞いた声に、何度も開けたドア。

 

 

 

俺はまた、生徒会室に来た。

 

 

「これはこれは、比企谷君じゃないか。

停学中なのに堂々と僕の前に来るなんてね」

 

「ええ、少し話をしに来ました」

 

 

 

これが俺の最後の仕事。

 

 

 

 

 

「今日、儀式を開きます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超研部 部室にて

 

 

私たちは、超研部の部室にある大きな段ボールの中に隠れている。

 

 

 

「うららちゃん、ちょっとトイレ行ってくるね」

 

「うん……」

 

 

 

伊藤雅が出て行った。

 

 

仕掛けるなら今!

 

行くわよ、玉木……。

 

 

 

 

段ボール箱から勢いよく飛び出し声をあげる。

 

 

「覚悟しなさい飛鳥美琴!」

 

「大人しく僕たちに捕まってもらおうか!」

 

「あら?」

 

 

 

さぁ、超S級モンスター飛鳥美琴の捕獲作戦の開始よ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 飛鳥家前

 

 

 

「…っとまぁそんな感じで昨日姉貴がお前について行けって言われたけどさぁ。

何かあいつおかしいんだぜ。今日突然学校に行きだしてな」

 

「…そうか、まぁとりあえず行くぜ。

白石が待ってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会室にて

 

 

「…儀式を開く、か。

それが本当だとしたら僕に言うべきじゃないと思うけどね。」

 

「いえ、どうせ気づいているでしょう?」

 

「さあね…。

それよりもせっかく来たんだから少し僕の話に付き合ってくれないか?」

 

 

そう言って山崎先輩は自分の事を語りだす。

 

 

 

生徒会長になった彼と初めて会話したのも、この場所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二年の初め頃、俺は生徒会に呼び出された。

 

 

「失礼します」

 

「やぁ、呼び出して悪いね」

 

 

初めて入った生徒会室に少し緊張しつつ、辺りに目をやると生徒会室には俺のほかに三人いた。

 

 

山崎先輩、飛鳥先輩、それに玉木。

 

 

今思えば、玉木と初めて会ったのもこの時だ。

 

 

 

「さて、玉木君に比企谷君。

君達を呼び出したのには理由があってね。

 

……君たちは“魔女”を知っているかい?」

 

 

それから山崎先輩は少し魔女の事を俺たちに話した。

 

 

「それでここにいる飛鳥君は、その“魔女”なんだよ」

 

 

おぉ、と玉木は驚嘆していたが、俺は知っているのでほとんど何の驚きもなかった。

 

 

「そこで君たちのどちらかに頼みがある。

飛鳥君の能力を奪ってほしいんだ」

 

「……」

 

 

記憶を消された山崎先輩が俺の能力について知っているので、もしかしたら覚えているんじゃないかと、一瞬だけ淡い期待を持ったが、山崎先輩の様子を見ているとやはりそのような感じではなかった。

 

今思えば、前会長に俺の事を知られていただけでそれ以外の事はほとんど何も知らなかったのだろう。

 

 

「俺は遠慮しておきます」

 

 

それだけ言うと、俺は生徒会室を出た。

山崎先輩が部屋を出る前にもう少し話を聞かないか?と言ったが何も返事をしなかったと思う。

 

 

 

これが俺と生徒会が初めて関わった日。

 

 

 

 

まぁそれ以降、魔女のことで呼び出されたり、同じ能力を持っていると知った玉木が付きまとったりしてきたが、悪くない生活だったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生徒会長になりメンバーと仕事をしたり、君を呼び出して魔女の事を相談したりして、この一年は大変だったけど楽しかったよ」

 

「…そうですか」

 

「でもね、前にも言ったけど、どうしても思い出せないんだ。

 

なぜ僕が生徒会長になったのか」

 

 

俺はその答えを知っている。

だが俺がそれを伝えたところで本当にそれを信じることはできない。

 

 

「…僕にとって大切だったもの、でもどうしても思い出せずにいる中、君達は儀式を開こうとした」

 

「…やっぱり、俺達を止めますか?」

 

「……」

 

 

先輩は黙って、天井を見上げる。

 

まるで見えもしない天を仰ぐように。

 

 

「……何故だろう。

 

僕が本当はやりたい事を、…僕が本当はやらなくちゃいけない事を、

君が代わりにやってくれている様な気がする」

 

 

山崎先輩が呟いたすぐ後に、ブルッとポケットに入れていたスマホが振動した。

 

多分玉木からだろう。魔女を七人集めた合図だ。

 

 

「……そろそろ行かないと、魔女が七人集まったみたいだしね」

 

「っ!!」

 

「フフ、驚いているね。

まぁ僕も生徒会長だ、彼らをほっておくわけにはいかない」

 

「山崎先輩…」

 

「じゃあ君はそろそろ帰るんだ。停学中だしね。

先生に見つかったら大変だよ」

 

 

先輩は立ち上がり、コツコツと足音を鳴らして部屋の外に向かって歩いて行く。

 

 

「…ねぇ比企谷君」

 

 

去り際に先輩はボソッと呟く。

 

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

 

良く聞こえなかったが、

 

 

先輩はたぶん、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朱雀高校 ?室にて

 

 

 

 

いつの間にか、雨が降っていた。

 

いつもは使われていない協会を模したような部屋に、私たちは集まった。

 

 

「さぁ飛鳥先輩、大人しく協力してもらいますよ」

 

 

私と玉木、それに他の魔女も加えた5人がかりでやっと捕まえた飛鳥先輩は、白石さんと体を元に戻し、今玉木が能力を返し終えたところだ。

 

ちなみに縄でしっかり縛っている。

 

 

「さぁ時間がないわ。リカが儀式のやり方知っているから!」

 

 

それから西園寺リカの指示に従い、部屋の前にある祭壇をどかすと、七角形に書かれた魔法陣のようなものがあった。

 

 

「何だよこれ!?」

 

「呪われたりしないのかい!?」

 

 

バカな男二人はこんな感じでお気楽だ。

 

早くしないと山崎に気づかれてしまうのに。

 

 

「輪になってもらうための目印みたいなものだよ」

 

 

つまりこの七角形の上に、七人の魔女が立てばいいらしい。

 

 

「それじゃあ始めるよ!」

 

「何だかワクワクするわ」

 

「ノアもこういうの好きです」

 

 

西園寺先輩の開始の合図に魔女達は盛り上がる。

 

 

「さぁ、飛鳥先輩もですよ」

 

 

さすがに縛ったままやらせるわけにはいかないので、彼女の縄をほどいた。

 

 

「……フフフ」

 

 

その瞬間、彼女が私の前から消えた。

 

 

「そう簡単に儀式を開かせるわけにはいかないわ」

 

 

声がする方を見てみると、彼女は部屋に置いてある長椅子の上に立っている。

 

 

「あの女、まだ悪あがきするつもりか!」

 

「取り押さえるのよ!」

 

 

そう言って全員で捕まえようとするが、するりとかわしてドアの方に逃げていく。

 

 

「その程度では捕まえられませんわよ」

 

 

飛鳥先輩は難なく私達全員をすり抜け、ドアの取っ手に手をかける。

 

 

 

そして最悪の事態が起こった。

 

 

 

ガチャッと音が鳴り、ドアが開く。

 

 

 

「やれやれひどいな、僕だけ仲間外れなんて」

 

「会長!」

 

 

飛鳥先輩がドアを開く前に、山崎がやって来た。

 

 

「会長、ここを早く出ましょう」

 

 

せっかく捕まえた飛鳥先輩には逃げられ、山崎も来てしまった。

 

これじゃあ儀式が……。

 

 

 

「いや、…いいんだ飛鳥君。

 

僕は儀式を見学しに来たんだよ」

 

 

「「「え?」」」

 

 

「だから儀式を続けてくれ」

 

 

今まで敵対していた山崎の信じられない言葉に、みんなが驚く。

 

 

「なぜ止めないんですか?」

 

「…一つ、分かったことがあるんだ」

 

 

山崎は部屋の前まで歩いて行き、一番前にある長椅子に腰かけた。

 

 

「僕がなぜ生徒会長を目指したのか、それはやっぱり分からないし、それを考えると胸が苦しくなる。

…でも比企谷君と話して、……昨日会った女の子を見て、思ったんだ。

 

 

記憶は消せても気持ちは消せない」

 

 

 

力のこもった、迷いのない声だった。

 

 

最後の言葉は、私に深く響いた。

 

 

 

「そうだろう?西園寺君」

 

「……うん」

 

 

西園寺先輩は山崎から目をそらし、申し訳なさそうに頷いた。

 

 

「僕も大切な事を思い出したい。

だから決めたんだ。…後は君たちに託すよ」

 

「会長がそうおっしゃるのでしたら、…仕方ありませんわね」

 

 

山崎が儀式を開くことに肯定したことで、飛鳥先輩も儀式を開こうとする。

 

決して皆が同じ気持ちではないかもしれないが、必要なものはすべてそろった。

 

 

 

 

「それじゃあ儀式を始めるわよ!」

 

 

 

私の掛け声が合図になり、七角形の印の上に七人の魔女が全員立つ。

 

 

「それじゃあ山田君は真ん中に来て」

 

「えっ!?俺も!?」

 

 

文句を言いながらも真ん中に入る山田。

 

 

「それじゃあみんな目を閉じて横の人と手をつないで」

 

 

 

西園寺先輩の指示に従い、目を閉じて手をつなぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、これですべてが終わる。

 

 

 

そんな気がした。

 






次話、お見逃しなく!!


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第三十五話

高2

 

 

西園寺先輩の指示で、隣の魔女と手をつなぎ、七人で輪を作る。

 

 

目を閉じていると、窓がパラパラと音を立てているのが良く聞こえる。

 

 

いつの間にか雨が降っていたのか。

 

 

そんな事を考えていると、徐々に体は固まり、意識だけがあるような気分になった。

 

 

 

 

そして、ふわっと浮遊感を感じ、

 

 

私は夢の中へ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

 

 

 

 

そこでまた、[彼]と出会った。

 

 

 

殺風景な場所に一人で立っていて、こちらを向いている。

 

 

 

顔が塗りつぶされて、声が聞こえない男の子。

 

 

 

…私はずっと思い出せずにいる。

 

 

 

……。

 

 

 

でも本当は山田を思い出した時から、

 

 

 

……いや、本当はそれよりもずっと前から[彼]の事を思い出せたのかもしれない。

 

 

 

ただ私が[彼]から目をそらし、耳を傾けていなかっただけで。

 

 

私が、ちゃんと向き合っていなかっただけ。

 

 

 

 

「……ずっと待たせてゴメンね」

 

 

 

そう言った瞬間、

 

 

周りの景色が色づき、少しずつ思い出していた記憶が、一気にあふれ出てくる。

 

 

そして[彼]の顔に塗られたクレヨンのようなものがはがれて行き、ノイズのかかった声が綺麗に聞こえてくる。

 

 

 

「小田切」

 

 

 

久しぶりに呼ばれたわけではないのに、とても懐かしく感じた。

 

 

 

「じゃあ、またな」

 

 

「…ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢から覚め、曖昧な意識で見えたものは、私たちが作った輪の中にいる山田と西園寺先輩。

 

 

彼らは光に包まれ、見えなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

——————*

 

 

 

 

そして私は完全に目覚める。

 

 

 

長い長い、とても長い夢はもう終わった。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

気づけば雨は止んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日 

 

 

今日は朱雀高校の創立記念日で学校は休みになっているが、私は学校に向かった。

 

もちろん私だけじゃなく、昨日の儀式に関わった人達や超研部のメンバーも学校に行っていると思う。

 

 

みんな山田に呼ばれたのだ。

 

まぁ山田が呼ばなかったとしても、誰かがみんなを集めることになっていたと思うけど。

 

 

 

「やぁ小田切君、君も呼ばれたようだね」

 

「…何だ玉木か」

 

 

 

学校を目の前にしてどうでもいい奴と遭遇し、はぁ~っとため息が出てしまう。

 

弟がスマホのアプリゲームではずれのモンスターを引いていた時と同じような顔をしていると思う。

 

 

「相変わらず失礼な人だね」

 

「まあいいわ。

それより、……がやって来るの?」

 

「え?何だって?」

 

 

玉木は耳をこちらに傾け、もう一度言えと言ってくる。

 

 

「…きがや」

 

「悪いけどもう少し大きな声で言ってくれないかな?」

 

「だから比企谷は来るのかって聞いてるのよ!」

 

「おおう…、今日は一段と神経質だね」

 

 

いいからさっさと教えなさいよ。

 

 

「彼と僕は一心同体、もしくは運命共同体といっても……」

 

「そう言うのいいからさっさと教えなさい」

 

「……来ます」

 

 

…そりゃまぁ来るわよね。

 

…うん。大丈夫よ。

 

リラックスしていけば問題ないわ。

 

 

「さっきも言ったけど今日は一段と神経質だね」

 

「ちょっと今日は余裕がないのよ。

…強く当たってしまってごめんなさい」

 

「…いや構わないよ。最近色々あったし疲れているんだろうね」

 

 

それから私たちは黙って朱雀高校まで行き、超研部の部室についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超研部 部室にて

 

 

部屋に入ると、もうほとんどの人が揃っていた。

 

超研部のメンバーに魔女全員、それに山崎生徒会長と宮村先輩も。

 

 

「おぉ寧々に玉木、お前たちも来たか」

 

「宮村先輩どうも」

 

 

部室には大きな机が置かれ、その上に飲み物やお菓子が広がっている。

 

よく見ると部室内がリボンや風船で飾り付けられている。

 

小さなパーティーの様だ。

 

 

「後は比企谷だけだな」

 

「彼はいい子だけど時間にルーズなところがあるからね」

 

 

宮村先輩の後ろから山崎が言う。

 

 

「そう言えばお前、私の可愛い後輩を散々こき使っていたらしいな。

何でも魔女に関わる面倒ごとを押し付けていたとか…」

 

「ち、違うんだレオナ君!

だからハサミは出さないでくれ!!」

 

 

そう言いながらも楽しそうに話す二人を見ていたら、ちょっとだけ嫉妬してしまう。

 

でもそれ以上に、とてもうれしくなった。

 

 

「それにしても比企谷君は遅いね、電話をかけてみようか」

 

 

そう言って玉木はカバンからスマホを取り出し、電話をする。

 

 

「……あっ比企谷君?みんなもう集まっているよ」

 

 

数コールしてから玉木が会話を始めた。

 

この時自分が話しているわけじゃないのに、私の心拍数が上がった。

 

 

「ふーん、分かった。じゃあそう言っておくよ」

 

 

それを最後に、玉木はスマホを切って、カバンにしまった。

 

 

「小田切君、比企谷君が来てくれないか、だって」

 

「え!?」

 

 

思わず声が出てしまった。

 

 

「ど、…どこに行けばいいのかしら?」

 

「それが場所は言わずに電話を切ってしまったんだよ。

何だかあえて言わなかったようだけど…」

 

「っ!!

分かったわ!行ってくる!」

 

 

私は急いで部室を出て行った。

 

たぶんみんなに見られたと思うけど今はそんなこと関係ない。

 

 

今はそんな事より比企谷君に会いたい。

 

 

 

とてもとても、彼に会いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朱雀高校 中庭にて

 

 

 

俺は静かな中庭で、この一年を思い出していた。

 

 

周りの人から忘れられて始まったこの一年。

 

 

はたして俺は不幸だったのだろうか?

 

 

 

そんな答えのない事を考えて、俺は彼女を待っていた。

 

 

 

「比企谷!」

 

 

 

呼ばれた方を見てみると、校舎から女子生徒が走って来るのが見えた。

 

 

 

彼女と別れ、そして彼女と出会ったこの一年。

 

 

 

俺は不幸だったのか?

 

 

 

 

 

「はぁ…、はぁ…」

 

 

 

小田切は息を切らしながら俺の前まで来た。

 

 

「私、…あなたに言わないといけないことがたくさんある」

 

 

息を整え、彼女は俺に言う。

 

 

 

「……ごめんなさい」

 

「…何でお前が謝るんだよ」

 

 

 

小田切は何時しかのように頭を下げた。

 

 

 

「……生徒会長になれなくてごめんなさい。

あんなに手伝ってくれたのに」

 

「別に謝る事じゃないだろ」

 

 

 

小田切は頭を上げ、何かに耐えるようにスカートの裾をギュッと握りしめる。

 

 

 

「……あなたを忘れてしまってごめんなさい」

 

「…別にいい」

 

 

 

真っすぐに俺を見ていた彼女の目からは涙がこぼれだした。

 

それを必死に袖でふき取り、話を続ける。

 

 

 

「あなたを、一人にしてしまって……、ごめんなさい」

 

 

 

そして小田切はついにボロボロと泣き出してしまった。

 

 

 

「ごめん、……ごめんね。

あなたを忘れて、…あなたを一人にしてしまって。

夏祭りの約束も守れなくてごめんなさい」

 

 

 

彼女は泣いた。

 

泣いて泣いて、これでもかと言うほど大きな涙の粒が流れ続けた。

 

 

 

「…山田を好きって言ってごめんなさい」

 

 

 

彼女はなおも謝り続け、泣き続けた。

 

 

 

 

「私はずっと……、あなたが好きでした」

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

小田切が泣いてくれて、俺は嬉しかった。

 

 

 

泣かないでいようとしていたが、それでも泣いてくれたことが嬉しかった。

 

 

 

彼女が流した涙の分だけ嬉しかった。

 

 

 

 

 

だから俺は彼女にそっと近づき、気持ちを伝えた。

 

 

 

「ありがとな、俺のために泣いてくれて」

 

 

 

小田切は首を横に振る。

 

 

 

「…俺もお前も、たぶん遠回りし過ぎて疲れたんだよ。

だから今は、泣いてもいいと思う」

 

 

 

気の利かない俺は涙を流す彼女にこんな事しか言ってやれない。

 

 

 

 

 

 

……でもいつもと違って、

 

 

惚れた女の前くらい頑張ってみようと思った。

 

 

 

 

「俺もずっと、お前が好きだった」

 

 

 

 

なぜなら俺の一年間は、これを言うための物だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し冷たい風が吹く中庭から校舎に向かう。

 

もうすぐで秋が終わり、冬が来る。

 

 

「目、めちゃめちゃ赤いぞ」

 

「…仕方ないでしょ。

あなたこそ、目が腐ってるわよ」

 

「ほっとけ」

 

 

隣を歩く小田切に歩幅を合わせ、ゆっくりと歩く。

 

彼女の隣を歩いていると、寒いはずの風が温かく感じられた。

 

 

「……結局、何が悪くて、誰が悪かったのかしらね」

 

 

小田切は校舎に入る数歩手前で立ち止まり、青い空を見ながら呟く。

 

 

「誰も悪い奴なんていないのかもしれないな。

西園寺先輩は山崎先輩に従っただけで、山崎先輩はルールに従っただけ」

 

 

俺も彼女と同様に立ち止まり、彼女の見ている景色を見上げた。

 

 

「…そうよね。

 

じゃあ何で魔女って存在するのかしら?」

 

「さぁな、小田切は魔女になったことを後悔しているか?」

 

 

 

ふと思うのだ。

 

 

たとえば、もし小田切が魔女じゃなかったら、

 

もし俺が魔女殺しではなかったら、

 

人生は変わるだろうか?

 

 

 

「いいえ、この能力は私が心のどこかで望んだものだから…」

 

 

 

俺は自信を持って言える。

 

 

 

人生は変わったはずだ。

 

 

 

「そうか、それじゃあ……、

 

たとえば、もしゲームのようにひとつ前のセーブデータに戻って選択肢を選びなおせるとしたら、人生は変わると思うか?」

 

「うーん、急に難しい話ね」

 

 

 

一方通行の道は、何度通っても同じところにしか行けない。

 

では俺たちが時間を戻って、何かを選択しなおせたとしたら?

 

 

 

「……変わらないんじゃないかしら」

 

「何でそう思うんだ?」

 

 

 

俺は自信を持って言える。

 

 

 

「まぁやり直せるとしたら、何かが変わってしまうかもしれないけど」

 

 

 

答えは否である。

 

 

 

「でも何度やり直しても、私は今みたいにあなたの隣を歩いていたと思う。

だからそういう意味では、結局私の人生は変わらないわ」

 

 

 

なぜなら、いくら選択肢が増え、道が折れ曲がろうとも必ず同じところにたどり着から。

 

 

 

俺は何度やり直しても、小田切寧々を好きになるから。

 

 

 

 

 

 

「なぁ小田切、これから俺達……」

 

「ん?」

 

 

 

言いかけた言葉が止まり、それが気になった小田切は俺の方を向いた。

 

 

 

 

不意にある歌を思い出した。

 

 

 

「何よ、気になるじゃない」

 

「いや、…フフ、何でもねえよ」

 

「何で隠すのよ、教えなさい」

 

「さぁな、そろそろ部室に行かないと先輩達に怒られる。

先に行ってるぞ」

 

「あっ…、ちょっと待ちなさいよ!」

 

 

 

小田切より先に進んだが、彼女はすぐに俺の横に並んだ。

 

 

 

「それで、何を隠しているのよ。

言わないと宮村先輩に言いつけるからね」

 

「それは勘弁してください。

 

…と言うか、隠してるとかそう言うのじゃなくてだな」

 

 

 

それからも間を待たせつつ、何とか超研部の部室前までたどり着いた。

 

 

 

「ほら、入る前に教えてなさいよ」

 

 

小田切はさっきの事がとても気になっているようで、最後の問い詰めをする。

 

 

「…小田切となら大丈夫だと思ってな」

 

「…急にどうしたのよ?」

 

 

 

俺達なら大丈夫だ。

 

 

こんな違う俺達でも、何度も出会う事が出来たのだから。

 

 

 

「それじゃあ入ろうぜ」

 

「…まぁいいわ。みんなを長い間待っているわよね」

 

 

 

ガラッと音を立てて、ドアを開ける。

 

部屋の中には、俺がこれまでに関わって来た人たちがいる。

 

 

「遅いぞ比企谷」

 

「待ってたよ比企谷君」

 

「全く、親友の僕を一人にしておくなんてね」

 

「ヒッキー!」

 

「比企谷先輩!」

 

「比企谷さん」

 

 

 

そう、これからの事は何も言わなくていい。

 

 

 

「やっぱり待たせていたわね」

 

 

 

今はただ、隣にいる奴と一緒にいればそれでいいんだ。

 

 

 

「あなたがゆっくりしているからよ」

 

「俺のせいかよ…」

 

 

 

そしてこれから、

 

 

この場所から、

 

 

 

 

俺と虜の魔女の青春ラブコメを始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

比企谷君と虜の魔女  了

 













読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました。

感想で誤字の報告や励ましの言葉を下さった方には、重ねてお礼します。

この第三十五話まで読んだ感想などもよろしければ書いてください(優しめの言葉を)


この作品の続編の事ですが、本当に書くか迷っていますので、皆様の感想や評価なども見て考えようと思っています。

長々と語ってしまいましたが、これで最後とさせてもらいます。

皆様本当にありがとうございました。また何かの作品で会えたらよろしくお願いします。


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超研部であったこと

お久しぶりです。勢いとノリで書いたようなもので、ただのおふざけ回です。
良ければ暇つぶしに読んでください。


 

超常現象研究部 部室にて

 

 

 

この部室には色々な思い出がある。

 

 

俺が新入部員となり宮村先輩と山崎先輩がはしゃぎまわってパーティーをしたり、魔女探しの事で話し合ったり、テスト勉強に使ったり、宮村先輩がハサミで壁に穴をあけたり、その穴を隠すために山崎先輩の持っている変なお面を壁にかけたり。

 

いろんなことをここでやった気がする。

 

 

……だが、

 

 

 

今の様な事は、一度もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————*

 

 

「さぁ始まりました、“ヒキタニの事を一番理解しているのはこの私!!”選手権。

司会は毎度おなじみ超研部伊藤雅と」

 

「白石うららです」

 

 

「待て待て、何だそれは」

 

 

 

「いやーそれにしても、何だか久しぶりの登場な気がするね」

 

「ええ、三カ月ぶりくらいかしら?」

 

 

「そう言う発言やめろ。相変わらず無茶苦茶な奴らだな」

 

 

 

俺の声は届かず、ノンストップ彼女たちは話し続ける。

 

 

 

「とまぁ軽い雑談をしていたいところですが、選手の皆様が今か今かと待っていますので選手の紹介をさせてもらいます。

うららちゃん、お願いします」

 

「はい、それでは早速一人目」

 

 

 

完全に無視。

本当に何するの、これ?せめて説明してくれよ。

 

 

 

「エントリーナンバー1番。

“比企谷が欲しくば私を倒して行け”

もはや比企谷君の姉的存在である宮村レオナ先輩です」

 

「ああ、よろしく」

 

 

 

白石が手元の紙に書いてある文を読み終えると、宮村先輩は椅子から立ち上がりぺこっと挨拶をする。

 

…何ださっきの紹介文。

 

 

「宮村先輩は比企谷君の部活の先輩で、一年の二学期の放課後はほぼ毎日会っていたというキャリアを持っています」

 

「期待できそうですねぇー」

 

 

 

何に対する期待だよ。

 

 

 

「続きまして、エントリーナンバー2番。

“比企谷さんの事を一番理解している?そんなの私以外に誰がいるというのですか?”

もはや比企谷君のストーカー的存在である飛鳥美琴先輩です」

 

「よろしくお願い致します」

 

 

 

先ほどの宮村先輩のように飛鳥先輩も椅子から立ち上がりぺこっと挨拶をする。

 

…だから何だその紹介文。

それに飛鳥先輩ストーカーって言われてるんだから否定しろよ。

と言うかお願いだから否定してくれ。100円あげるから!!

 

 

 

「飛鳥先輩は今大会の出場者の中では一番比企谷君との接点が少ないですが、かなりの情報を持っているそうです」

 

「期待できそうですねぇー」

 

 

 

 

「続きまして、エントリーナンバー3番。

“比企谷について勝負する?……まぁ、暇だし参加してもいいかしら。暇だし…。

別に比企谷の事だから参加したいとかそういう事じゃないから。別に比企谷の事だからってムキになってるわけじゃないから”

元生徒会副会長で比企谷君のクラスメート、小田切寧々さんです」

 

「ちょっと、私の紹介文だけ長いんだけど!」

 

 

 

…お前も参加するのかよ。

 

 

 

「彼女は二年の春から比企谷君と同じクラスなので接点も多く、林間学校では同じ班になり、休日にはディスティニィーランドでデート、文化祭では一緒に見回ったほどの実力者です」

 

「ちょ!あんまり言いふらさないでよ!!」

 

 

「期待できそうですねぇー」

 

 

 

お前さっきからそれしか言ってないぞ。

 

 

 

「そしてそれだけでなく、実は小田切さんと比企谷君は一年の時から仲良くしていたという新たな情報も入っています」

 

 

 

白石よ。誰にそんな事教えてもらった。

 

 

 

「そして最後の一人。エントリーナンバー4番。

今回唯一の男性、玉木真一君です」

 

 

「僕の紹介文は!?」

 

「長いので省略させてもらいます」

 

 

 

こいつは無視。

 

 

 

 

 

「はい、というわけでこの四人にヒキタニについての質問を早押しでしてもらい、一番多く答えられた人が勝者となります。

 

ちなみに、この四人は予選を通過した猛者達です。白熱した戦いが期待できそうですね」

 

 

「予選?そんなのあったのか?」

 

 

俺の問いかけを聞き、目を合わせてきた白石が言う。

 

 

「ええ、さっきじゃんけんで決めたのよ」

 

「じゃんけんかよ…」

 

 

じゃんけんで勝った奴らを猛者とか言うな。

 

 

 

「観客には予選で敗退してしまった猿島さんや、滝川さん、それに山崎先輩。

あと普通に見ているだけの宮村君、山田君、椿君がいるわ」

 

 

「丁寧なご説明ありがとう」

 

 

 

今超研部では、司会席とか言って左奥に白石と伊藤が座っており、左側の真ん中になぜか俺が待機させられ、手前の方には観客。

 

 

そして向かい側には椅子と机を並べられて、そこに四人が座っている。

 

 

 

「ではルールを説明します。

こちらが出題する問題に対し、答えが分かった方は手元のボタンを押してください。

早押しですので、問題が言い終わる前にボタンを押しても構いません」

 

「答えの正誤はヒキタニに判断してもらうわ。机の中に問題書いた用紙が入っているから確認しておいてね」

 

 

 

誰だよヒキタニ君。俺の代わりにやってくれ。

 

 

 

「そして、見事優勝した方には豪華景品が!」

 

「「「「おぉ!!」」」」

 

 

豪華景品と言う言葉にやたら食いつく四人。

何を期待しているんだ。

 

 

 

「それはまさか、比企谷に何でも命令できる的なあれじゃないでしょうね」

 

「……何でもですか。…そうですか」

 

 

「優勝賞品は勝ってからのお楽しみとさせてもらいます。

 

……では早速、第一問!!」

 

 

 

まて、優勝賞品先に言ってくれ。場合によっては本気で逃走するから。

 

 

 

 

「えー、比企谷君の嫌いなた[ピンポーン]……はい、飛鳥先輩」

 

 

 

……ボタン押すの早過ぎだろ。

 

 

 

「トマトですわ」

 

 

……しかも合ってるし。

 

 

 

「さぁヒキタニ、判定は?」

 

 

 

……俺の嫌いな食べ物は確かにトマトだ。

が、しかし、今回の答えは俺が決めていい。つまりここで俺が嘘をつけば飛鳥先輩の得点にはならない。

 

……この人だけには勝たすわけにはいかねぇ。

 

 

 

「残念ながら不せい「なお、ここで嘘をついた場合は後から飛鳥先輩にお仕置きしてもらいます」……正解です」

 

 

「……クス、私としては嘘をついてくれても良かったのですけど」

 

 

「飛鳥先輩1ポイント!」

 

 

 

おぉ!!と観客から歓声が上がる。

 

 

 

 

「クッ、さすがは山崎の秘書をしていただけはある。

まさか先手を取って来るとはな」

 

「ああ、比企谷君の親友として絶対にこの戦いに負けるわけにはいかない」

 

「何で比企谷の嫌いな食べ物知ってるのよ……」

 

 

 

先を越され悔しがる二人と、当然の疑問を持つ小田切。

誰でもいいから頑張って飛鳥先輩に勝ってくれ。

 

 

 

「さぁ皆さん次に行きますよ。続いて第2問!」

 

 

 

「えー、比企谷君の好きなの[ピンポーン]……はい、飛鳥先輩」

 

 

だから早すぎーー。

 

 

「マックスコーヒー」

 

 

 

「ではヒキタニ、判定は?」

 

 

机の中に入っていた問題用紙には好きな飲み物について、と書いてある。

 

……つまり合ってるな。

 

 

 

「せ、…正解です」

 

 

おぉ!!とまた観客から歓声が上がる。

確かにすごいけども…。

 

 

「フフ、私の圧勝になりそうですね」

 

「「「「…早すぎて手も足も出ない」」」

 

 

 

「他のお三方も頑張ってください。

続いて第3問!!」

 

 

「えー、比企谷君のきゅ[ピンポーン]……はい、飛鳥先輩」

 

 

……もうツッコまない。

 

 

 

「特に出かけず家でダラダラする」

 

 

 

問題文、比企谷君の休日の過ごし方。

 

 

 

「……正解です」

 

 

 

「「「嘘だ!!」」」

 

 

 

三人が一斉に叫びだす。

 

 

 

「あらあら、皆様負け惜しみとはみっともないですよ」

 

「いや、いくら何でもこれはおかしいだろ。

おい司会者、問題が漏れているんじゃないか?」

 

 

 

宮村先輩にギロっと睨まれ、一瞬おびえる電波女(伊藤)。

 

そうだ、そうだ。絶対におかしいわ。

チートやチート! チーターや!!

 

 

「い、いやぁ、そんなはずはないですけど……」

 

 

おどおどしながら答える伊藤を見ているとさすがに少しかわいそうになって来たので、宮村先輩を落ち着かせる。

 

 

「まぁまぁ宮村先輩。飛鳥先輩は早押しクイズが得意なだけですよ。

別に問題を知っているとかじゃないと思いますよ」

 

「…うーむ、確かに、さっきは言いすぎたかもしれないな」

 

 

こうして宮村先輩はすまんな、と言って伊藤に軽く謝る。

 

 

まぁ宮村先輩も怒っていたわけではない。

彼女が怒れば必ずハサミが出てくるから。トーレス、オンするから。

 

 

「……ちょっと考えたのだけれど、比企谷君について誰が一番知っているか、と言うのを競うものだから、さっきのように早押しだとちゃんと競えないと思うの」

 

 

 

先ほどまで静にしていた白石が新たな提案をする。

 

 

 

「少しやり方を変えて、早押しではなく、みんなが答えられるようにした方がいいんじゃないかしら?答えを紙か何かに書いて一斉に発表するの」

 

「…確かに、そちらの方が僕達も答えられるしいいかもね」

 

 

 

ふむふむと皆様納得したようで、少しやり方を変えるらしい。

 

正直どうでもいい戦いのどうでもいい争いだったのでどうでもいいのだが。

 

 

 

「私からも提案があります。

長々と問題を出していても意味がないと思うので、一番難しい問題を一題出すのはどうでしょう。それを正解した人の優勝と言う事で」

 

 

「……意味がない、とはすごいですね。どのような問題を出されても答える自信があるのですか?」

 

「ええ、なので一番難しい問題を答えて早々に勝たせてもらおうかと」

 

「「「ほーう」」」

 

 

 

完全に対立する飛鳥先輩と他三人。

かなり闘争心を刺激されたようだ。

 

 

 

 

「………はい、ではこちらで考えさせてもらった一番難しい問題を紙に書いて一斉にお答えしてもらいます。比企谷君も紙に書いてね」

 

「あぁ」

 

 

 

そうして電波女がさささっと紙とペンを配り、準備が整った。

 

 

 

「さぁ予定より早く最後の問題がやってきましたが、泣いても笑ってもこれが最後。

張り切って行きましょう、最終問題!!」

 

 

 

「えー、比企谷君の好きなものは?」

 

 

 

 

………。

 

 

 

……ん?

 

 

 

「……好きなもの?」

 

「はい、比企谷君の好きなものを書いてください。

もの、と言いましたが生き物でも食べ物でもアニメでも人でも何でもいいです。

この問題のみそは比企谷君が好きなものと聞いて何を答えるのか、というところまで予測しなければならない事です」

 

 

「……なるほど、さっきまでの問題と違い比企谷の思考まで理解していないといけないという事か」

 

「ふむふむ、なるほどな」

 

 

 

……俺が好きなものか。

 

何を書くか迷うな。

 

 

 

「「「フフフ、これなら楽勝」」」

 

「え!?」

 

 

 

問題を理解した途端、小田切以外の三人はペンを走らせる。

 

そして取り残された小田切は頭を悩まし、何かを書いては消し、何かを書いては消し、と悩んでいるようだ。

 

 

……俺まだ何もかけてないのに、何で三人は書けるのでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

そして1分後

 

 

 

「はい、時間となりましたので発表とさせてもらいます!!」

 

 

「「「…勝った」」」

 

 

「…難しい」

 

 

 

やはり自信満々な三人と、最後まで悩んでいた小田切。

 

 

自信なさげに小田切がチラッとこちら見てくるが、普通にドキッとするだけなのでやめていただきたい。

 

 

 

 

「ではでは皆さま、一斉にお答えをどうぞ!!!」

 

 

電波女の掛け声で、四人が一斉に紙をこちらに向かって広げる。

 

 

 

「これに間違いない!!!」

 

 

 

宮村レオナの解答: 私!!

 

 

 

「小学生の低学年レベルの問題でしたわ」

 

 

 

飛鳥美琴の解答: 私

 

 

 

「あまりなめてもらっちゃ困るね」

 

 

 

玉木真一の解答: 僕

 

 

 

「……なんか他の人と違う」

 

 

 

 

小田切寧々の解答: 妹さん

 

 

 

 

 

「ではヒキタニ、答えをオープン!!」

 

 

「ん」

 

 

 

比企谷八幡の解答(答え): 小町

 

 

 

 

 

 

「と言う事で!優勝は小田切寧々さんです!!!!」

 

 

「「「そんなバカなぁぁーー」」」

 

 

 

君達バカなのかな?

 

 

 

 

 

 

こうして、観客のおおぉ!!!という歓声と、

 

三人の叫び声で戦いの幕は閉じられた———————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………何だこの雑な終わり方は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに優勝賞品は

 

 

 

 

 

 

 

「小田切さんには、私達超研部が文化祭の時に売り出した、“山田君が素材にこだわりぬいた最高級焼きそばパン”一月分を贈呈します。

おめでとう、小田切さん」

 

 

 

 

「……別に欲しくないわ」

 

 

 

 

 

 

と言う事で、後日小田切さんは優勝したからと言う理由で比企谷君にデートへ連れてってもらいました。

 

 

 

 

 

 




前まで読んでくださっていた方々、お久しぶりです。


比企谷君と虜の魔女の続きは書くと思いますが、今は他の作品を書いていますのでそちらが落ち着いてから書き始めようと思っています。


ちなみに今書いているのは俺ガイルと東京喰種を混ぜた作品です。
興味があれば読んでみてください。


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