過去ではなく異世界へGOしたトランクス (しろろ)
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プロローグ
最後の戦士


どうも、しろろです!

ドラゴンボールとハイスクールD×Dのクロスオーバーを投稿したいと思います!

亀更新になるかも知れませんが、どうかお許しください!


では、どうぞ!



 

 

 ━━━西の都。

 

 

 近代的な高層建築物が建ち並ぶこの都は、たった二人の人間に・・・・・いや、()()人間に壊滅させられた。

 

 人が長い年月をかけて発展させた都市を、まるで不要となった玩具を壊すかのように。

 

 二人に罪悪感は無い。ただの遊び、暇潰しなのだ。

 

 どちらが多く建物を、人を殺せるか。

 

 そんな軽い気持ちで、プチプチと蟻を潰すかのように殺していき、世界の人口はあっという間に数万人にまで減少した。

 

 生き残っている人たちは、皆息を潜めて日常を過ごす。

 

 ━━━少しでも足音を立ててみろ。

 たちまちあの人造人間(バケモノ)共がやって来るぞ━━━

 

 そんな恐怖に駆られた日々を過ごせば、心身ともに磨耗してしまう。

 

 だが、生きるためにはこうするしかない。耐えるしかないんだ。

 

 市民を守るための軍も、今では立ち向かうよりも背を向けて逃げ隠れている。

 

なぜ戦わない?なぜ守らない?

 

 その理由は簡単だ。

 人類の知能を結集させた軍の兵器も紙くず同然、傷を負わすどころか無傷。もう戦う術は残っていないんだ。

 

 

 そう、兵器では。

 

 

 でもこの世には、人造人間(バケモノ)以外にも人智を超えた力を持つものがいる。

 

 空を飛び、容易く地を砕くそんな存在が。

 

 しかし、10人近くいたその超人達も、人造人間に命を奪われて今では二人。

 

 そして、その内の一人がたった今・・・・・亡くなった。

 

 

 

 

 廃墟と化した都の中心。

 

 土砂降りの雨の中、片腕を失った一人の男が、固く冷たいコンクリートにうつ伏せで倒れている。

 

 人は誰もいない。

 雨の音だけが嫌に響く。

 

 

「あ、あぁ・・・・・嘘だ・・・・悟飯さん・・・ッ!!」

 

 

 その男の体に、震える手で触れる紫髪の少年。

 

 コンクリートと雨の冷たさのせいだと信じたい。ただ気絶しているだけだ。自分の師が、死ぬ訳がない。

 

 

 ━━━でも

 

 

「嫌だ・・・・・嫌だ・・・・・死んじゃ嫌だ・・・・・悟飯さん」

 

 

 彼の手が、頬が、全てが冷たかった。

 雨のせいじゃない。

 

 脈が、“気”がもう無いんだ。

 

 そう理解した瞬間、少年の中に悲しみと怒りが止めどなく溢れ出てくる。

 

 

 憎い。恩師を殺した人造人間(アイツら)が憎い。

 

 

「うぅ、ぐうぅ・・・ッ!!」

 

 

 少年は涙を流し、嗚咽を漏らす。

 

 悲しみと憎しみがごちゃ混ぜになって、頭が狂いそうだ。

 

 気のせいか、少年の周囲にある瓦礫の破片が浮き上がる。

 

 常人には扱いきれない力、人が生まれながらに持つ生命エネルギー、“気”が少しずつ上昇しているのだ。

 

 

「クソッ・・・・クソッ・・・・俺が、もっと強ければ・・・・ッ!!」

 

 

 人造人間に対する怒り、そして、自身の弱さに対する怒り。その二つの怒りが、少年の中で激しく渦巻き騒ぎ立てる。

 

 ギリギリと歯を食い縛る彼から、底知れない力が現れ始めていた。

 所々金色のオーラを放ち始め、周囲の瓦礫はさらに浮き出す。

 

 少年はただ叫ぶ。

 

 師が、自分にとっては兄のようなこの人は、もういないのだ、と・・・・。

 

 

 

「うああぁぁぁぁああああぁぁぁぁッ!!!」

 

 

 

 ドオォォォォォオオオオォォォッ!!

 

 

 

 悲しみの咆哮。

 

 ━━━それと同時に、少年は金色の戦士へと至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━━3年後

 

 

 

 残された最後の戦士、そして最後の希望。

 

 背に一本の剣を携えた紫髪の少年『トランクス』は、二人の人造人間を倒すべく過去へ行くことを決めた。

 

 しかし、この世にはパラレルワールドが存在する。

 例え、“過去”に行って人造人間を倒したとしても、この“現在”の世界には影響が出ないのだ。

 

 トランクスはその事を勿論知っている。

 

 そんな事をしても意味が無い、人は口を揃えてそう言うかもしれないが、彼と彼の母は違う。

 

 今は亡くなった戦士達と共に力をつけて戦い、人造人間を破壊。または弱点を見つけてくる。

 

 そして、現代に戻って来て倒す。

 

 確かな覚悟と託された希望を胸に、トランクスは母が発明した一世一代の発明品━━━『タイムマシン』に乗り込んだ。

 

 

「元気でね、トランクス。頼んだわよ?」

 

 

「はい、母さんも。では、行ってきます!」

 

 

 機体に『HOPE』と書かれたタイムマシンのスイッチを入れ、辺りに機械音が鳴り響く。

 機体は徐々に上昇していき、一定の高さまで浮かぶとその場で停止。淡い光に機体が包み込まれる。

 

 

 ヒュンッ!!

 

 

 人々の希望を乗せたタイムマシンは、過去へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、何の因果、運命の悪戯だろうか・・・・・。

 

 

 

 本来、過去に辿り着く筈のトランクスは━━━

 

 

 

「に、西の都・・・・・じゃない!?一体ここは、何処なんだ!?」

 

 

 

 

 ━━━異世界へと足を踏み入れてしまったのだ。

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございました!
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旧校舎の未来戦士
1話 過去じゃなくて・・・・・異世界?


トランクスが、何か可哀想になってきました。


 

 

 ━━━はぐれ悪魔

 

 

 それは、爵位持ちの悪魔に下僕にしてもらった者が主を裏切り、殺し、欲望のままに生きる悪魔の事を指す。

 

 はぐれ悪魔は周囲に被害を及ぼすケースが多く見られる。

 

 そのため、討伐依頼が届けられることも少なくないのだ。

 

 

 そして今、そのはぐれ悪魔の討伐の為に、とある悪魔の一行が駒王町の外れにある廃屋に足を踏み入れていた・・・・・。

 

 

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

 

 

 

「━━━と、レーティングゲームについてはこんな感じかしらね。他に聞きたいことはあるかしら、イッセー?」

 

 お化け屋敷のような雰囲気の廃屋の入り口で、何事もない調子で言う紅髪の女性。

 

 彼女こそ、公爵の爵位を持つグレモリー家次期当主の“リアス・グレモリー”だ。

 

 その容姿は老若男女問わず魅了する。

 現に、彼女の眷属の一人である“兵藤一誠”が、だらしなく鼻の下を伸ばす程。

 

 そんな一誠はリアスの問いにあっ、と声を漏らして質問する。

 

「部長。そういえば、俺の駒って何なんですか?」

 

「そうね、イッセーは━━━ッ!?」

 

 そこまで口にして、リアスは歩みを突然止めた。

 

 彼女の眷属である“姫島朱乃”、“木場裕斗”、“塔城小猫”も、新米悪魔である一誠でさえ、()()()()()に足を止めた。

 

 その原因として挙げられるのは、一重に『殺気』を感じ取ったから。

 

 ただ、この殺気は尋常じゃない。

 

 形容しがたいくらいに濃密な殺気。

 それなりに討伐依頼をこなしているリアスでさえ、震える体を止められない。

 

 目的のはぐれ悪魔はこんなにも危険性があったのか?

 

 私たちに・・・・・この殺気を放つ者を相手に出来るのか?

 

 リアスの頭の中に様々な疑念が過る。

 しかし、討伐を頼まれた以上は完遂させなければならない。

 

 この町の管理者として、上級悪魔として、グレモリーの名を汚す訳にはいかなかった。

 

「皆、各自戦闘に備えて。イッセーは神器を出して私たちの後ろにいなさい」

 

 恐怖を抑え込み、今は王として指示を出す。

 その指示を聞いた眷属も頷いて従い、これから起こる事態に気を引き締めた。

 

 幸いにも、悪魔は夜目が利く。

 一歩、また一歩と、周囲への警戒を最大限にして殺気の元凶へ近付いていった。

 

 ━━━そして、とうとう対面する。

 

 

 

「貴様たちもコイツの仲間か?」

 

 

 

 底冷えた声と共に、発せられる殺気。

 

 そこにいたのは、リアス達とそう歳が変わらない紫髪の少年だ。背には剣が装備してある。

 

 ただ、彼の足元には切断面が綺麗な肉片が転がっていた。

 これはリアス達の討伐対象である、はぐれ悪魔“バイサー”()()()()()

 

「し、死体・・・!?う、うげぇぁッ!?」

 

 一誠はそれを目にして思わず嘔吐してしまう。

 だが、誰も彼を気に掛ける事が出来なかった。

 

 少しでも視線を外せば、気を抜けば一瞬にして命を刈り取られる、そんな圧力が掛けられているのだ。

 

「もう一度聞く。貴様らはコイツの仲間か?」

 

 次は無いぞ、と言わんばかりの声音に、リアスは慌てて否定する。

 

「ち、違うわ!私たちははぐれ悪魔の討伐に来ただけよ!」

 

「そうか・・・・・嘘は、ついてなさそうだな」

 

 彼女の必死さを感じてか、少年は殺気を抑える。

 そして、先程までの殺気が嘘のように爽やかな笑みを浮かべた。

 

「これは失礼しました、試すような事をしてしまって。どうも貴女達の気がコイツと似ているものだったので・・・・・つい」

 

『・・・・・・え?』

 

 あははは、と死体の傍らで頭をかきながら笑う姿に、リアス達は呆然とする。

 

 まるで二重人格。別人だ。

 

 こんな無垢な笑みを浮かべる者があの殺気を?

 まだ、油断は出来ない・・・・・。

 

「あの、一つ聞きたいんですけど」

 

「な、なにかしら?」

 

 突然話しかけられて、リアスは思わず体が強張る。

 

 

「ここはどこですか?」

 

 

『・・・・・・は?』

 

 

 見事なまでに間の抜けた声が木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━━リアス達が到着する10分程前。

 

 

 

 木々が生い茂る森の中、トランクスは頭を悩ませていた。

 

「どの地形にも一致しない・・・・・タイムマシンの帰る分のエネルギーも無い・・・・・悟飯さんの・・・・・気もない」

 

 何度もマップと照らし合わせても、合致する場所は存在しない。

 

 往復分あったタイムマシンのエネルギーも何故か空っぽに。

 

 極めつけは、過去の孫悟飯の気が感じられない事。

 

 過去の世界で、幼少だと言っても悟飯は悟飯。劇的に気が変質する、何てことはまず有り得ないだろう。

 

 他にも、意図的に気を消している可能性も0ではないが、態々そうする理由がわからない。

 

「どうしよう、このままじゃ・・・・・ん?」

 

 ふと、トランクスは変わった気を感じた。

 

 人間と似ているようで似つかない気。

 初めて感じるタイプの気だ。

 何とも気分が悪く、粘ついた悪意の塊のような・・・・・。

 

「ここから案外近いな・・・・・行ってようか」

 

 決して強い気ではないが、万が一という事もある。

 

 トランクスはタイムマシンをカプセルに戻し、ケースに閉まってから舞空術でその場へ向かった。

 

 

 

「ここか」

 

 着いた場所は、寂れた廃屋だった。

 

 中に入るが、窓から射し込む日差しはもう無く、電気も繋がってる訳がないため真っ暗だ。

 

 しかし、そこはサイヤ人トランクス。

 直ぐに周囲を見渡す程度には暗闇に慣れてしまう。

 

 暫く歩くと、少し開けた場所に出た。

 辺りはやけに静かだが、敵意と殺意はひしひしと伝わってくる。

 

 

「そこにいるのは分かってるんだ。隠れてないで出てきたらどうなんだ?」

 

 

 トランクスは奥の暗闇を睨み付ける。

 気を感じ取れる以上、隠れる行為は無意味に等しい。

 

 すると、ドシンドシンと重量を感じさせる音を響かせながら、暗闇から『ナニか』が現れる。

 

 

「ゲヒャヒャヒャヒャッ!お前はうまそうだ!でも不味そうだ!甘いのか?苦いのか?」

 

 

 デカイ図体だ。

 上半身は女性の裸体だが、下半身は異形そのもの。足は四本あり、どれも太いのが特徴的だ。

 

「これは・・・・・随分と醜い生き物だな。人間の突然変異?それとも・・・・・人造人間の試作品か?」

 

「ゲヒャヒャッ!!人間風情が醜いだとぉぉ?生意気なぁ!!踏み潰してぐちゃぐちゃにしてやるッ!!」

 

 トランクスの何倍もの大きさの足を上げ━━━脳天目掛けて踏み潰す。

 

 

 ドゴォォオオオォォンッ!!

 

 

「あぁ〜潰れちゃったぁ!ゲヒャヒャ・・・・・あ?」

 

 ここで、自身に起きた異変に気がつく。

 

 ただの虫けらな人間を、たった今踏み潰して殺した・・・・・なのに、何でこっちの足が無くなっている?

 

「あ、あぐぅッ!うぎゃあぁぁ足がぁぁぁッ!?」

 

「どうした?歩きづらそうだったから足の数を減らしてあげたんだけど、まだ多かったかな?」

 

 

 ズバババッ!!

 

 

 トランクスはそう言うと、剣を抜刀してそのまま高速で三本の足を切り裂いていった。

 

「ギィィャァァアアアァァッ!!足が!?足が!?」

 

 あまりの激痛にのたうち回る。

 

 しかし、敵と判断したトランクスは一切の情けをかけずに次々と体を切断していく。

 

「次は腕。尻尾。最後に・・・・・首だ」

 

 一閃。

 

 残像すら残さない太刀筋で、異形の存在の首を跳ねた。

 

 先程まで騒がしかったこの廃屋も、最後の一閃でピタリと静寂に包まれる。

 

 

「明らかに人間じゃなかったし、襲い掛かって来たから殺してしまったけど、大丈夫だったのだろうか・・・・・」

 

 

 今更になって不安になる。

 

 もし、これで犯罪者扱いされたら堪ったものじゃないな・・・・・と、苦笑いを浮かべて剣に付着した血を振って落とし、鞘に納める。

 

 この死体・・・・・どうすべきか。

 気功波で跡形もなく消し飛ばすのも有りだが、それだと音が響きそうで良くない。

 

 頭を捻らせるトランクスだが、不意にはぁ、と溜め息を着いて入り口の方に目を向ける。

 

 

()()同じやつか?数は・・・・・5体。あ、いやでも、今のやつとはまた気が違う・・・・?」

 

 

 トランクスは、この廃屋に入ってくる複数の気を感じ取った。

 

 さっきの化け物と似たような気ではあるが、此方は嫌な感じはしないし、悪意も感じない。

 

 でも、この化け物を助けに来た仲間という可能性も否定できないだろう。

 

 

「・・・・・ちょっと仕掛けてみるか」

 

 

 そう言うと、トランクスは()()()殺気を来訪者に放った━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、こんな感じです。理解して頂けましたか?」

 

「え、ええ・・・・何とか」

 

 トランクスが笑顔でそう言うも、リアスはぎこちない笑みを浮かべて頷く。

 

 今は廃屋から移動して、リアス達の拠点であり、部室でもある旧校舎に移動していた。

 

 トランクスとリアスは対面するようにソファーに座り、残りのメンバーはリアスの後ろで待機。

 

 一応の敵意無しを表して、トランクスは持っていた剣をリアスに渡した。

 

「それにしても、未だに信じられないのだけど・・・・・貴方が未来から来たなんて。かと言って、嘘はついているように見えないし・・・・」

 

「ははは、そう・・・ですよね。現実離れした話ですから無理はありません」

 

 しゅん、と小さく気を落とすトランクス。

 信じて貰えないのも悲しいが、何より一番堪えたのはこの世界に“西の都”が存在しないこと。

 

 それどころか、東、北、南、中の都の名前すら聞いたことが無いと言う。

 

 トランクスは半信半疑で、部屋の中にあった地図を見せてもらったが、その時はショックで声も出なかった。

 

 つまり、それが何を意味するのか━━━

 

 

「俺は・・・・・過去どころかまったくの別世界に来てしまったんじゃないのか?」

 

 

 頭を抱えたくなるような衝撃。

 

 リアス達は、始めこそ驚異的な力を持つトランクスを警戒していたが、この様子を見ているとそれも馬鹿らしくなってくる。

 

 

「ええっと、取り敢えずお茶でもいかが?」

 

 

「はい・・・・・頂きます」

 

 

 随分としんみりしてしまったトランクスに、リアス達は何だか可哀想に思い始めていた。

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございました!

えー、トランクスくん病みそうです。
でも大丈夫!きっと何とかなるさ!



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2話 計り知れない力

 

 

「なるほど、この世界には天使や堕天使、皆さんのような悪魔が存在するんですか」

 

「説明した身で言うのもあれだけど、そんな直ぐに信じられるものなのかしら・・・・・?」

 

 現在、ショボくれたトランクスは立ち直り、リアスからこの世界の講習を受けていた。

 

 あまりの飲み込みの良さ・・・・・というか、驚きの無さにリアスは苦笑を浮かべる。

 

「ま、まあ、こういう事態には慣れていますから」

 

 彼はサイヤ人と地球人の混血児。

 つまり半分は宇宙人の血が流れているのだ。

 

 宇宙人がいるなら、悪魔や天使、堕天使がいてもおかしくないのでは?と、トランクスは思う。

 

 それと、トランクスが未来人かつ異世界人と言うことだが、ホイポイカプセルとタイムマシンを実際に見て貰うことで信用を勝ち取ることが出来た。

 

 巨大なものでもカプセル一つでOK。

 

 そんな発明品はまさしく未来の技術力でしかない。

 

 兵藤一誠は、そんな発明品に瞳を爛々とさせながら、何度も出したりカプセルに戻したりを繰り返している。

 

「あ、飲み物も持ってきてるんですよ。良ければ飲みませんか?」

 

 そう言って、トランクスはカプセルケースから一つ取りだし、スイッチを押して空いているところに放った。

 

 小さな爆発音と共に現れたのは小型の冷蔵庫。

 中を開けてみると、多種多様な清涼飲料がぎっしりと入っていた。

 

「はい、はい、はい、はい、はいどうぞ」

 

 トランクスはキンキンに冷えた缶の炭酸飲料をリアス達に手渡していく。

 

「あ、ありがとう、頂くわ」

 

「あらあら、親切にありがとうございますわ」

 

「い、異世界の飲み物・・・・」

 

「見たことないメーカーだね・・・・」

 

「・・・・・美味しそう」

 

 リアス達は手元にある得体の知れない缶をそれぞれ眺めるが、トランクスは気にせず喉に通していく。

 

 その姿を見て、先陣を切ったのは小猫だ。

 

 プルタブを開けるとプシュッ!と音を立てて、臆する事なくそのまま豪快に一口仰ぐ。

 飲み口から口を離し、ぷはっと息をついでから一言━━━

 

 

「凄く美味です」

 

 

『━━━ッ!?』

 

 

 久しく見ることの無かった小猫の笑顔、それをこの炭酸飲料が引き出したとでも言うのか?

 

 リアス達はあまりの事で思わず固唾を飲み込む。

 

 幸せそうな彼女の表情。

 否が応でも気になってしまう、飲みたくなってしまう。

 

 

 そして一人、また一人とプルタブを開けていった・・・・・。

 

 

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

 

 

 

「あれはもう、一種の麻薬ね」

 

「そうですね・・・・部長。トランクスはいつもあんな旨い飲み物を飲んでやがるのか!」

 

「市販のものだけど、満足してくれたならよかったです」

 

 すっかり異世界の飲料の虜になってしまったオカルト研究部。

 

 凄まじい勢いで飲み干していき、冷蔵庫の中身は残り数本となってしまった。

 

 本来ならば過去の世界の戦士たちに差し入れとして渡そうとしていたのだが、帰る手段が無い今、リアス達にあげても問題はあるまい。

 

「・・・・・」

 

 そして、感傷に浸るリアス達をよそに、“騎士”の駒を宿す木場裕斗だけがトランクスに視線を向けていた。

 

 警戒をしている訳ではない。

 ただ、純粋に闘志を滾らせていたのだ。

 

 トランクスはその事に気づき、敢えて笑みを浮かべて問いかける。

 

「何か、俺に用事があるのかな、木場裕斗くん?」

 

「はははっ、分かっていて聞いているのかい?もしそうなら、気兼ねなくお願いが出来るよ」

 

 裕斗はそう言うと、何処からともなく一本の西洋剣を出現させて切っ先をトランクスに向ける。

 

「僕と、一戦交えて貰えないだろうか?リアス・グレモリー様の“騎士”として、一人の剣士として、今の自分がどれだけ君に通用するのか試してみたい」

 

 裕斗とトランクスには絶対的な力の差がある。

 しかし、木場は百も承知で勝負を挑んだ。より高みを目指すため、少しでも得るものがあればそれでよし。

 

「私からもお願いできないかしら?あなたの力・・・・・この目で見てみたいの」

 

 リアスも同じようにお願いする。

 

 気が付けばトランクスは裕斗とリアスだけでなく、全員から視線を浴びていた。

 その中で、彼は徐にソファーから立ち上がる。

 

「勿論いいですよ。俺も丁度体を動かしたかったところなので」

 

「本当かい!?なら早速・・・・・っと、そう言えば剣は此方が預かっていたね。リアス部長、彼に返してもいいですか?」

 

「ええ、いいわよ」

 

 王の了承を得た裕斗は剣をトランクスに返し、見学者も含めて旧校舎の前へと移動した。

 

 万が一、駒王学園の生徒に見られた事を考慮して、リアスと朱乃は周囲からの認識阻害と、人寄けの結界を展開する。

 

 これで思う存分戦えるだろう。

 

 

 裕斗は煌びやかな装飾が施された西洋剣を。

 トランクスは対照的に飾り気の無い西洋剣を。

 

 それぞれが己の構えをする。

 

「俺はいつでも構わないよ、好きな時に始めてくれ」

 

「そうかい?なら・・・・・お言葉に甘えるよッ!!」

 

 

 タンッ!

 

 

 裕斗は一直線に駆け出した。

 その速度は常人には捉えられないほどで、残像がその場に残る。

 

 しかし、相手は格上だ。

 この程度のスピードが通用するとも思えない。

 ━━━だから、加速する。自分の限界なんて考えないで、ただひたすらに加速する。

 

 

「き、木場が消えた!?どこに行ったんだ!?」

 

「いいえ、イッセー君。裕斗君は消えていませんわ。“騎士(ナイト)”が有する特性で、目では追い付けない程の速度で移動しているのです」

 

「す、すげぇ・・・・・」

 

 朱乃の説明に一誠は唖然とした様子だ。

 加えて、リアスも説明をする。

 

「他にも、小猫は攻撃力と防御力に特化した“戦車(ルーク)”。朱乃は“兵士(ポーン)”、“騎士(ナイト)”、“僧侶(ビショップ)”、“戦車(ルーク)”の全ての特性を持ち合わせた“女王(クイーン)”で、最強の副部長よ」

 

「朱乃さんが、女王・・・・・何か納得できます!あれ?じゃあ俺は何の━━━」

 

 

 ギィィィイイインッ!!

 

 

 一誠の言葉を甲高い金属音が遮った。

 

 その音の正体は、側面から斬りかかる裕斗の剣をトランクスが片手で構えた剣で防いだ音だ。

 

「くっ・・・・!?」

 

 防がれたと分かる否や、裕斗は直ぐに距離をとって四方八方を高速で駆け回り、トランクスを翻弄させようとする。

 

 そして、死角に回り込んで剣を振るう。

 

「はあッ!!」

 

「甘い!」

 

 しかし、これもトランクスに防がれた。

 

 今度は鍔迫り合いへと移行する。

 騎士である裕斗がスピード勝負で敵わないとなると、残るは純粋な剣術での勝負だ。

 

 剣と剣が交差して火花が散る。

 

 常人の目では追い付けない剣速で繰り広げられる乱舞。だが、どうしても━━━━

 

 

 裕斗の剣はトランクスに届くことはなかった。

 

 

 ザンッ!!

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・参り、ました」

 

 息を切らす裕斗の手には、腹から両断された煌びやかな剣。そして、彼の首筋には剣の切っ先が添えられていた。

 

「ありがとう、悪魔との貴重な戦いだったよ」

 

 トランクスは剣を鞘に納め、緊張の糸が切れて脱力している裕斗に手を差し出す。

 

「僕なんかじゃ相手にもならなかった・・・。あそこまで圧倒されると、却って清々しいくらいだよ・・・」

 

 手を握り返して口ではそう言うも、裕斗の表情は晴れないものだった。

 

(分かっていても結構堪えるね・・・・・これは)

 

 自身で想像していたよりも遥かに遠い。

 人の身でありながらここまで強くなれるものなのか・・・・・?まるで底が見える気配がしない。

 

 内心でそのように思っているのは、何も裕斗だけじゃない。

 リアスも一誠も朱乃も小猫も、この場に居るものはトランクスに対する印象を更に強めていった。

 

 そして、同時にリアスは彼を手に入れたいとも考え始めていた。

 

 彼ほどの人材はそうそういない。

 是非とも眷属になって欲しいものだが、それはあくまで彼が頷いてくれたらの話。無理やりなんてもっての他だ。

 

加えて、彼は本来この世界にいるべき人間じゃない。未来の人間、別世界の存在。

 

今は無理でも、いずれは戻らなければならないだろう。

 

 

でも、それでも━━━━

 

 

(・・・・・私はあなたを手に入れたい)

 

 

トランクスが一誠と裕斗と話している姿を見ながら、リアスは胸の内に一つの感情を抱き始めていた。

 

 

 




と、言うわけでヒロインはリアスにしました!

ちょっと警戒を緩めるのが早すぎると思いますが、そこはホイポイカプセルのお陰だと思ってもらえれば嬉しいですね。

ただ、今のリアスは恋よりも物欲に近いです。
他にも可能な限りヒロインを増やしていければと思っている所存です!


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3話 堕天使と超戦士





投稿が遅れてすみません!
それに、文章もだらだらと長くなってしまいました。


 

 

 

 時計の針が12時を回ろうとしている深夜。

 普通なら就寝する人が多い時間帯だ。

 

 日中での町の賑わいが嘘のように今は静寂に包まれ、街灯だけが淡い光を放ち続けている。

 

 そんな暗闇が主役の時間だが、悪魔にとっては本領を発揮できる時間でもあるのだ。

 旧校舎を根城にしているオカルト研究部員も悪魔故に同様だ。

 

 その内の一人を見て、異世界から来た紫髪の少年は意外そうに声を漏らした。

 

「悪魔って、てっきり魔法陣か何かで転移するかと思いましたが、自転車で依頼者の元に行くんですね・・・・」

 

「違う、違うのよ、トランクス・・・。イッセーはごく稀なの。普通ならちゃんと魔法陣でジャンプするわ」

 

 悪魔の基準が一誠に定められる前に、リアスは正しい認識に引っ張っていく。

 

 新人悪魔の兵藤一誠。

 彼は極端に魔力が少ない。少なすぎるのだ。

 

 その為、悪魔の仕事の一つ・・・人間との契約を取りに行く時に使う転移魔法陣すら発動させることも儘ならない。

 

 だから、仕方なく自転車で向かう。

 

 ━━━前代未聞の悪魔だ。

 

「兵藤くんは契約こそ取れていないけど、依頼者からの評判は凄くいいんだよ。何から何まで前代未聞だね」

 

 ソファーに腰掛ける裕斗が苦笑を浮かべてそう言った。

 

 まだ今一悪魔について知識が浅いトランクスには分からないが、恐らくそれが変わった事なのだろう。

 そもそも、悪魔との契約といったら対価として命を差し出す、というのがイメージ出来るが・・・・・。

 

「お願いによっては命と同等の代償が必要だけど、今は対価に金品や芸術品などを頂戴しているわ。勿論、契約内容によってその量も増えるけどね」

 

「契約内容というのはどんなものが・・・?」

 

 恐る恐る聞いてくるトランクスに、リアスはくすっと笑んで説明する。

 

「勉強を教えたり、料理を作ってあげたり、愚痴を聞いてあげたり、様々よ?難易度はピンからキリまであるけれど、大抵はお手伝いレベルなの」

 

「え?そ、そんなのでいいんですか・・・・?」

 

 本当に想像を覆してくる。

 全然悪魔らしく思えない・・・・これなら、人造人間の方がよっぽど凶悪で悪魔らしいじゃないか。

 

 思い描いていた悪魔像と現実がまるで違う事に戸惑うトランクス。

 

 その後、契約を取りに行っている一誠が帰ってくるまで、彼らはトランクスの世界とこの世界での相違点について話していた。

 

 神器の存在や、科学技術の差など、話せば話すほど違いは浮き出てくる。

 

「━━━ッ」

 

 しかし、その会話の途中でトランクスが突然ある方角にバッと顔を向けた。

 

「トランクス・・・?」

 

 リアスたちは怪訝そうに顔色を窺うが、トランクスの表情は焦りに満ちて、冷や汗を流している。

 

「・・・・・一誠くんの気が・・・・・減っていってる」

 

 トランクスの呟き。

 それがどう言う意味か、リアス達は一瞬でこそ理解は出来なかったが、そう時間はとらせなかった。

 

 一誠の魔力を探知して、その危機を察したリアスの行動は迅速だ。

 

「ッ!?イッセーが契約先で襲われている可能性が高いわ!朱乃、直ぐにジャンプの用意を!・・・・・・イッセーを死なせるわけにはいかないわッ!」

 

「分かりましたわ、直ちに準備を!」

 

「トランクス!貴方には悪いのだけど、ここで待っていて貰ってもいいかしら?」

 

 女王の朱乃が転移魔法陣の展開をしている傍らで、リアスは立ち上がって剣を装備するトランクスを制止させる。

 

「で、でも・・・!?」

 

「貴方がいれば心強いけど、これは悪魔の問題・・・・巻き込む訳にはいかないの。その優しい気持ちだけで十分よ」

 

 会ってからまだ数時間しか経っていないのに、この少年は一誠を助けようとしてくれる。

 

 優しいからか、ただ甘い性格だからか・・・・。

 

 どちらにせよ、リアス達を遥かに超越した力を持つのに威張らず、人のために力を使うその姿勢、その行為でリアスの欲は更に掻き立てられる。

 

(ますます欲しくなるじゃない・・・・)

 

 そう思うが、直ぐに頭を振って思考を切り替えた。

 非常事態に余計なことを考えるべきじゃない。今は下僕の命に関わる時なのだから・・・。

 

「リアスさん・・・!」

 

 トランクスは納得がいかないと目で訴えるが、リアスはどうしても頷かず眷属を率いて魔法陣の上に乗った。

 そして、朱乃に指示を出す。

 

「朱乃、お願い」

 

「分かりましたわ」

 

 朱乃が手を翳すと、床に展開された魔法陣が光を放ち始め、リアス達を目映い光が包み込んでいった。

 

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

 

 

「『悪魔の問題』・・・・か」

 

 トランクスは無人になった部室の中でそう呟く。

 

 確かに、彼は部外者だ。

 彼女達には彼女達の、トランクスにはトランクスの問題がある。

 それに、リアス達が行けば戦力的にも何ら気にする程ではない。

 

 ━━━でも

 

 トランクスの脳裏に鮮明に映る恩師の死・・・・それがどうしてもこびり付いてくる。

 

 力が無かったあの頃と今の自分は違う。

 少なくとも、あの悪魔らしくない悪魔達を救えるくらいには強くなったつもりだ。

 

 余計なお世話だと言われるかもしれないけど・・・・もうあんな思いはしたくない!

 

 トランクスの青い双眸に決意が宿る。

 

 そして彼は部室の窓を開け、一誠の元へと宙を飛び出した。

 

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

 

 

 トランクスが飛び出した頃、リアス達は転移先にいる一誠を保護し、敵意を剥き出しにして不気味に笑っている白髪の少年神父と向き合っていた。

 

「これはこれはクソ悪魔様ご一行!仲間のピンチに駆けつけたって感じですかぁ?」

 

「ええ、そうよ“はぐれ悪魔祓い(エクソシスト)”さん。私の可愛い下僕を傷つけるなんて・・・・・万死に値するわッ!」

 

「ぶ、部長・・・・・俺」

 

 一誠は膝を震わせながら申し訳なさそうに表情を翳らせる。

 

 彼の左足からは大量の出血。

 その怪我が誰の手によって与えられたのか、言わずとも知れたことだ。

 

「仲間を傷つけた報いは受けてもらうよ」

 

「・・・・覚悟してください」

 

 裕斗は剣を、小猫は拳を構えてはぐれ悪魔祓いの“フリード・セルゼン”と対峙する。

 

「はぁぁ!クソ悪魔からの濃厚な殺気はたまらんですなーっ!!ぼくちん、殺気を放つのも好きだけど受けるのも嫌いじゃないざんす・・・・よッ!!」

 

 殺気が飛び交う中で、フリードはヘラヘラと笑いながら裕斗と小猫に光の剣で斬りかかる。

 

「ふっ!」

 

 裕斗が前に出て、振り降ろされる光の剣を白銀に輝く剣で受け止めた。

 態度とは裏腹に、攻撃は重く鋭い。

 

「えい」

 

「うおっと!?ロリっ子の癖にえげつないパンチ!ぼくちん怖い!!」

 

 裕斗が抑えている隙に小猫がフリードに拳を放つが、軽々と避けられてしまう。

 そして今度はにらみ合いが続き、この場に緊張感が走る。

 

「━━ッ!?リアス部長、ここに複数の堕天使の気配が近づいてきていますわ!」

 

 朱乃が気配を察知してリアスに報告する。

 

 恐らくこのはぐれ悪魔祓いの援軍・・・・・そう考えるのが妥当だろう。

 現在一誠は負傷している。庇いながらとなると堕天使との正面衝突は些か不利だ。

 

「・・・わかったわ。直ぐに転移の準備をしてちょうだい」

 

「部長、それならアーシアも一緒に!」

 

 一誠はそうお願いするも、リアスは首を横に振った。

 

「ダメよ、イッセー。この魔法陣は私の眷属じゃないと使えないの。悪いけれど・・・・・諦めなさい」

 

 リアスは、シスター服を着た金髪の少女“アーシア・アルジェント”を一瞥してからそう言った。

 

「そ、そんな!?・・・・・なら俺も残ります!残ってアーシアを守ります!」

 

「イッセーさん、私は大丈夫ですから。皆さんと行って下さい・・・・」

 

 イッセーの固く握り締めた拳を、アーシアは優しく両手で包み込み、聖母のような笑みを浮かべた。

 

 だが、彼女の笑みからは悲しみが伝わってくる。

 

 悪魔だけど親切な悪魔。

 道に迷っていた自分を助けてくれた男の子。

 

 ━━━今度会ったときは、お友だちになってくれるでしょうか・・・?

 

 アーシアはそんな思いを胸にして微笑む。

 彼が、一誠が不安にならないように。

 

「兵藤くん!」

 

 裕斗は一誠の腕を引っ張り、魔法陣の上に移動させる。そろそろ転移の準備が完了するのだ。

 

「アーシア!アーシアッ!!」

 

「ばいちゃーするつもりですかクソ悪魔どもッ!」

 

 フリードは退却するリアス達に向かって駆け出し、剣を振るう。

 

 

 ギイィィィインッ!!

 

 

 光の刃が一誠の顔に迫り一刀両断しようとするが、届く前に一本の剣に防がれた。

 そのお陰もあって、無事にリアス達は転移することに成功する。

 

 

 ただ、今防いだのは裕斗ではない。

 

 

 リアス達には後ろ姿しか見えなかったが、その者の髪色、服装で理解できた。

 

 

「よかった・・・・一誠くんは無事だった」

 

 

 そう、異世界未来戦士トランクスだ。

 

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

 

 

 転移の際に生じた光の残留も無くなり、この場にはトランクスとアーシア、フリードの3人だけ。

 

 余談だが、トランクスはこの部屋に入るために壁を突き破るか玄関から入るかで悩み、結果として玄関から入ってきたのだ。

 

「・・・なんすか君?何防いじゃってんの君?新手?新キャラなんてお呼びじゃないんですけどぉぉ!?」

 

 突然の乱入者に動揺するフリード。

 しかし、トランクスは彼を無視してアーシアに近寄る。

 

「一誠くんの知り合い・・・・でいいのかな?敵ではないんだよね?」

 

「え?あ、は、はい!そうです!」

 

 戸惑うアーシアにトランクスは出来るだけ笑顔で問いかけた。

 アーシアも質問されたからには答えようと、慌てて返事をする。

 

「まさかのスルーっすか?ぼくちん、こう見えてもガラスのハートなので優しくして欲しいんですけどぉ!!」

 

 フリードは駄々をこねるように光の剣を振り回し、そのせいで壁や家具が破壊されていく。

 しかし、それでもトランクスの反応は無だ。

 

「よし、直ぐに逃げよう。どうやら敵の仲間も此処に向かってるようだ」

 

「え?あの・・・え?」

 

 アーシアは混乱する。

 一誠が悪魔であることにも驚いたが、突然出てきたトランクスにもビックリだ。

 更に、彼はアーシアを逃がそうとする。

 

 悪魔なのだろうか、と疑問に思う彼女だが次の瞬間にはさらに疑問が増える事になるだろう。

 

「あらら、ぼくちんに興味なし?あ、そう。ならいいや、どうせ首ちょんぱしちゃうし?」

 

 フリードはトランクスの首に目掛けて光の剣で一閃した。

 確実に刈り取ったと口角を大きく歪ませるが、それは次第に驚愕へと変わっていく。

 

「うそん・・・・刀身が消えたんですけど!?」

 

 フリードの持つ光の剣。

 光力を用いた悪魔祓い専用の武器の一つだ。

 

 悪魔に害をなす光力だが、人間への殺傷能力が低い訳ではない。フリードの剣は、容易に人を殺すことが出来るのだ。

 

 しかし、相手が悪かった。

 

 光の剣はトランクスの首に触れる前に、彼の周囲に発生する“気”の壁で消滅させられた。

 

「さっきから近所迷惑だ」

 

 そう呟いた瞬間、ドゴッ!と鈍い音が響き渡った。

 見れば、トランクスの拳がフリードの腹部に深くめり込まれている。

 

「あぐ・・・・・がっ・・・・!?」

 

 苦悶に満ちた表情になるも直ぐに意識を手放した。

 

 たとえ(仮令etc……)、下級悪魔や中級悪魔を数多く消滅してきた悪魔祓いだろうと、所詮はその程度。

 フリードが相手にしている男は、それらの比較にもならない。

 

 その気になれば、地球そのものを破壊することだって不可能ではないのだから。

 

「あの・・・・・今首が!?」

 

「ん?ああ、無傷だから大丈夫。それよりも早く行かないと・・・・・ごめん、ちょっとだけ我慢してくれ」

 

「え?・・・はうっ!」

 

 トランクスは先に謝るとアーシアをひょいと持ち上げた。

 俗に言うお姫様抱っこなるものになっているが、本人にそんな自覚はない。

 早くこの場から離脱することだけ考えている。

 

 アーシアを抱えたトランクスは、ベランダに出て舞空術で上昇。

 そのままリアス達の元に戻ろうとするが・・・・・どうやら一足遅かったようだ。

 

「貴様、その小娘を置いていけ」

 

 行く手を阻む漆黒の翼を生やす者たち。

 外見は人間に似ているが、決して人ではない。

 

(多分、この3人がリアスさんの言う堕天使か・・・・)

 

 一人はロングコートを着た男。

 残り二人は女で、青い長髪でボディコンスーツを着た者と金髪ツインテールでゴスロリ姿の少女。

 

「一つ聞かせて欲しい。何故この子を狙うんだ?」

 

「ふん、人間に教えてやる義理はない。見たところ空を飛ぶ神器を宿しているようだが・・・・・悪いことは言わない。死にたくなければ小娘を置いていけ」

 

 男の堕天使が殺気を向けて警告する。

 と言っても、この程度の殺気で狼狽えるトランクスではないが。

 

「そうか、なら断る。どうにもこの子が怖がってるんだ。引き渡すわけにはいかない」

 

「バカめ・・・・命を一つ無駄にしおって。カラワーナ!ミッテルト!この愚かな人間を始末するぞ!」

 

「了解だ、ドーナシーク」

 

「オッケー!」

 

 青髪の女━━カラワーナと、金髪の少女━━ミッテルトはドーナシークの指示に従い戦闘体勢に入る。

 トランクスは、アーシアを一度地面に降ろしてから再び飛び上がり、堕天使共と同じ目線に位置した。

 

 3対2・・・・正確にはアーシアを抜かして3対1だ。

 

 深夜だから出歩いている人は居ないものの、此処は住宅地のど真ん中だ。派手な気功波は控えるべきだろう。

 

 加えて、トランクスが“気”を解放すれば周囲にどんな被害が及ぶか・・・・。

 

(一撃だ。一撃で倒せばいい)

 

 トランクスはそう決めて相手を睨んだ。

 堕天使3人は光の槍を生成し、それを構えるがどこか余裕が見られる。

 

「ねえねえ、たかが人間一人に3人で戦う必要なくない?」

 

「そうは言うがな、この男も神器所有者だ。我々に歯向かう愚者は確実に排除せねばならない」

 

「ふーん。じゃあパパっと終わらせちゃおうよ。うち、レイナーレ様に怒られるのはもう懲り懲りっすから」

 

「ふっ、それは同感だな」

 

 ミッテルトの意見に頷くドーナシーク。

 完全にトランクスを神器所有者の人間だと思い込み、舐めきっている。

 

 それがどれだけ愚かなことか、彼らは身をもって体験することとなるだろう。

 

「私から先に行かせてもらおうか!」

 

 先に飛び出してきたのはカラワーナだ。

 黒い翼をはためかせて、光の槍をトランクスに向ける。

 

 ━━━しかし、その時には既にトランクスは彼女の背後に移動した後だった。

 

「・・・隙が多いな」

 

 トン、と静かにうなじに手刀を放つ。

 たったの一動作だが、洗練された動きで意識を刈り取る。

 

 そして、間髪を容れずにドーナシークの背後にも高速移動して同様に手刀を繰り出した。

 

「ば・・・・・か、な・・・」

 

 ドーナシークは途切れ途切れにそう言って、崩れ落ちるように落下する。

 

 時間にして何秒かかっただろうか。

 

 ミッテルトは自分の目を疑う。

 瞬きをしたらカラワーナがやられ、もう一度瞬きをしたら今度はドーナシークがやられた。

 

 わからない、わからない・・・・・いつの間に?

 どうやって二人を倒した?

 ただの人間じゃないのか・・・・?

 

 トランクスは、気絶させた二人の堕天使が地面に墜落する前に拾い上げて、ミッテルトに投げつける。

 

「これで分かったか?お前たちは俺には勝てない。諦めてこの二人を連れて帰るんだな」

 

「・・・・・そ、そんなこと・・・」

 

 出来る筈がない、と口にすることができなかった。

 

 このままおめおめと帰れば、上司のレイナーレに激怒、罵倒されるのは間違いない。もしかしたら罰を受けるかもしれない。

 

 けど、ここで撤退しなければ殺される。

 堕天使の、生物としての本能がそう告げているんだ。

 

(まだ・・・・・死にたくない!)

 

 顔に浮かび上がる恐怖の色。

 トランクスは彼女の戦意が喪失したのを確認し、一息ついてからアーシアの元に降りる。

 

「じゃあ行こうか」

 

「は・・・はい!」

 

 呆気にとられていたアーシアをもう一度持ち上げ、トランクスは闇夜に紛れるようにこの場を後にした。

 

 

「・・・な、何者っすか・・・・・あいつ」

 

 

 気絶する同胞を両脇に抱えたミッテルトは、遠ざかる超戦士の背中をただ黙って見ていることしか出来なかった・・・・・。

 

 







因みに、アーシアちゃんはヒロインではないのです。
ミッテルトちゃんはぐらぐらと傾いていますが・・・・・。



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4話 以外と初心です。



投稿が遅れて申し訳ありません!
忙しかったのと、上手く話が纏まらないので時間が掛かってしまいました。

それでも、口調や設定に疑問を抱く方、どうかご了承下さい!


 

 

 

 ↑(意外と初心です)今は廃墟となった教会の中で、私━━━ミッテルトとドーナシーク、カラワーナは恥ずかしさで頭を上げる事が出来なかった。

 

「それで、あなた達は人間一人にやられた挙げ句、アーシア・アルジェントを逃がしたの?」

 

「は、はい・・・すみません、レイナーレさま」

 

「面目無い・・・・」

 

「恥ずかしい限りだ・・・・」

 

 私たちに嘆息するのは一人の女性堕天使。

 ボンテージ姿で魅惑の肢体の露出が激しい。一見して、そっち系の女優かと思うけど、私たちのリーダーなのだ。

 

「・・・・人間とは言え、あの男には注意すべきだ。私が気絶させられた時、何をされたかも分からなかった」

 

「ああ、まさに瞬殺と言っても過言ではない・・・・」

 

「ふん、揃いも揃って情けない。それでも至高の種族である堕天使なの?・・・・・はぁ、まあいいわ。それよりも今はアーシアよ」

 

 ドーナシーク達の報告を気にも留めず、レイナーレさまは話題をあの金髪シスターに変えた。

 

 分かっていない・・・・この人は知らないんだ。

 あの眼。あの青い眼に捉えられた時を思い出すだけで背筋が凍る。

 

 堕天使としては下級も下級。そんな私でも感じる事ができた圧力(プレッシャー)は尋常じゃない。

 うぅ・・・・正直怖かったよ、あいつ・・・・。

 

「まったく、念を入れておいて正解だったわ」

 

 頭部が丸々無くなっている聖人の彫像に腰を降ろしたレイナーレさまは、胸元から一枚の小さな紙を取り出した。

 

 うわー、相変わらず大きいっす。

 それに比べて私の胸は・・・・・・。いや、ま、まだ成長期だし?これからボインになる!・・・・・よね?

 

 自分のペッタンな胸に淡い期待を抱いていると、レイナーレさまは取り出した紙の説明を始めた。

 

「あの子には予めマーキングを施していたのよ。どんなに離れていてもこの転移用の陣で呼び戻すことが出来るようにね」

 

 表には堕天使御用達の魔方陣が描かれ、裏は白紙だ。

 流石レイナーレさま!準備が良いと言うか、用心深いっす!これでアイツらに一泡吹かせられますね!

 

「なら早速━━━」

 

「残念だけど今は無理よ。恐らく、忌まわしい悪魔共の張った結界内にアーシアはいるわ。そのお陰で転移を妨害されてるの・・・・・ほんっとうに忌まわしい!」

 

 カラワーナの言葉を遮ったレイナーレさまは、憤怒の表情で歯をギリッと鳴らす。

 めっちゃ不機嫌そうなのは一目瞭然だ。この時にはあんまり関わりたくないのが本音でもある。

 

 でも、そういう時に限って・・・・・。

 

「ミッテルト、あなたは悪魔どもの監視に行きなさい。戦いもせずに逃げてきたのだから、少しは働いて貰うわよ?」

 

「え、私一人っすか・・・・?」

 

「そうよ?何か問題があるかしら?」

 

「い、いえ、ありません」

 

 ひぇ・・・・こんなの死にに行くようなものだよ。で、でも、このままじゃ役立たずの烙印を押されちゃう!

 

 うぇーん!何で私だけなの!?

 無理だ!うん、無理無理!だってあの怖い人もいるんでしょ?

 さっきは見逃してくれたけど、次会ったら殺される気しかしない・・・・!

 

「そうか、頑張ってくれミッテルト」

 

「私も手伝ってやりたいが、直々にご指名ならば仕方ない」

 

 ド、ドーナシークゥゥ!カラワーナァァ!

 他人事だと思って安心してるよね!?ああ、もう!どうせなら私が先に戦えば良かったわ!!

 

 

 ━━━━。

 

 

 やっぱ怖いからそれは無理・・・。

 第一、私って戦うの苦手だし、そもそも弱いし。

 

 ・・・・・はぁ。

 

 これが出来なきゃお払い箱にされるかも知れない。

 もう・・・・・やるしかないよね。

 

 

 

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

 

 

 

 トランクスがアーシアを救出し、無事にオカルト研究部部室に到着してから数十分。

 慌ただしかったこの部屋も、今では大分落ち着きを取り戻している。

 

「どうですか、イッセーさん?」

 

「ああ、痛みが和らいでいくよ。ありがとな、アーシア」

 

「い、いえ!これくらいの事は当然です!」

 

 一誠はソファーに座り、左足の方のズボンを捲り上げて、怪我をしている所をアーシアの神器、『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』で治療してもらっていた。

 その回復速度は目を見張るもので、あっという間に怪我が修復していく。

 

 ━━━アーシア・アルジェント

 

 ・・・・本来ならば、教会関係者は悪魔の敵。

 この拠点に連れてくることも、当然快く頷けるものでは無い。

 

 しかし、事情が事情だ。

 一誠の説得もあって、リアスは特別に此処への滞在を許可した。

 その前に一誠は自分の家を勧めたが、それだと一誠の両親が巻き込まれる可能性が出てくるので却下。

 

 ここならば、簡易だが結界もある。

 加えて、トランクスも暫くはここで寝泊まりする事になったのだ。

 

 戦力的にも申し分無い。・・・・・無いのだが。

 

「やっぱり、年頃の男女を二人っきりにするのは不味いわよね・・・・」

 

「じゃ、じゃあ!俺も一緒じゃダメですか?」

 

「それはそれで、いけない気がするわ・・・・・」

 

 たった今足が完治した一誠の申し出に、リアスは首を横に振る。

 それもその筈、兵藤一誠とはまさにエロの権現。脳内ピンク1色と言っても過言ではないほどの男なのだ。

 

 まあ、だからと言ってアーシアに邪な事をするとは思えないが、念には念を、だ。

 

「仕方ないわね、私もここに泊まろうかしら。それなら変なことも起こらないでしょうし」

 

「あ、あの・・・・・俺、外でも平気ですよ?態々迷惑を掛けるわけにもいきませんし」

 

「それは駄目よ、トランクス。客人にそんな失礼な事は出来るわけないでしょう?」

 

「いや、でも━━━」

 

「出来るわけないでしょう?」

 

 有無を言わせないその笑顔に、渋々頷かざるを得なかった。

 一誠からは凄まじく恨めしそうな視線を向けられ、内心で勘弁してくれ、と溜め息をつく。

 

 日々戦場のような環境の中、異性と一つ屋根の下で過ごすなど母親であるブルマ以外に経験がない彼にとっては赤面ものだ。

 

 ましてや年の近い少女で、それも『美』が付く程。

 これを意識するなという方が無理な話だ。

 

 そんなトランクスの心中に気付くこともなく、リアスは手をパンッと叩いて本日の悪魔家業を締める。

 

「堕天使については私の方から調べてみるわ。でも、取り敢えず今日はこれでお開きにしましょう。イッセーも怪我は治っても疲労は溜まってる筈よ、トランクスも同じくね」

 

「はい!アーシアの事、よろしくお願いします!トランクスも今日はありがとな!お前がいなかったら、今頃アーシアはどうなってたか・・・・!」

 

 一誠は頭を下げて感謝を伝える。

 

「そんな大したことじゃ・・・。俺の方こそ、皆さんが無事で良かった・・・・本当に」

 

 静かにトランクスはそう言った。

 

 その言葉の真摯さ、向けられる安堵の眼は17の少年に出せるとは到底思えない。

 年不相応、と言うべきか。

 

 一体、彼の世界はどのような場所なのだろう。

 

 全員が心でそう思っても口には出せずにいた。

 哀愁漂う彼に、その発言を塞き止められる。

 ただ、今は聞くべき時ではない。聞いても答えてくれるだろうが、それでもだ。

 

「あの、どうしました?」

 

 自覚の無いトランクスが、黙りこむリアス達に怪訝そうに問いかける。

 

「あっ・・・・・いえ、何でもないわ。さあ、皆も明日は学校があるんだから今日はもう帰りなさい」

 

 その掛け声の後、眷属の皆は各自挨拶をして部室から退室していった。

 

 

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

 

 

 

「眠れない・・・」

 

 ソファーが二つある内の一つに仰向けになるトランクスがそう呟いた。

 向かいのソファーにはアーシアが横になり、スヤスヤと寝息を立てている。

 

 そして、リアスはと言うと、魔力で作った即席のベッドで眠りについていた。

 魔力知識の無いトランクスにとって、新鮮且つ驚愕の業だ。

 

 目を瞑って試しに羊を数えても寝られず、仕方なしに夜景を眺める事にする。

 

 窓から差し込む月光。

 神秘さを感じさせる輝きだ。

 スポットライトのように降り注ぐ光は、何故か孤独感を感じさせる。

 

「・・・・平和だな」

 

 

 破壊された所はどこにもない。

 

 

 黒煙も見当たらない。

 

 

 悲鳴だって聞こえない。

 

 

 ━━━このまま、帰れないのか・・・・?

 

 

 不意にその考えが過った。

 

 大丈夫、きっと何とかなる。そう何度も反復するが、一度出てきたこの不安はどうしようもなく纏わり付いてくる。

 

 それでも、何度も何度も思い込ませた。

 そうでもしなければ・・・・・今にも不安に押し潰れてしまいそうだから。

 

「・・・ダメだな、もっとしっかり気を持たないと・・・・」

 

 己に喝を入れる。

 こんな腑抜けた所を見られては、孫悟飯(恩師)に呆れられてしまう。

 

「よし」

 

 トランクスは小さく頬を両手で叩くと、音を立てないようにそっと部室から出ていき、軽く鍛練を始めた。

 

 しかし、『軽く』とは言っても、一度集中してしまえば時間なんて忘れてしまう。

 

 気が付けば、既に夜明けを迎えていたのだった。

 

 

 




むむ、3話使って漸く1日が終わりました。
もっと話を纏められるように頑張っていきたいです!


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5話 失敗

久しぶりの投稿です。長い間投稿できずに申し訳ありませんでした!
感想にも返信が遅れてすみません!

それと、視点がころころ変わって見にくいかもしれません。もしそうだったら、是非教えて下さい!


 

 鳥の囀ずりで、リアスは目覚めた。

 普段とは違うベッドを使ったせいか、快眠とまではいかず、寝惚け眼を擦りながら上体を起こす。

 

 ⋯⋯ああ、そう言えば部室に泊まったのだった。

 

 ハッキリと覚醒しない意識の中で、ぼんやりと昨日の出来事を思い出しながら周囲を見渡す。

 

 ソファの上に小さく丸まってすやすやと眠る金髪の少女。アーシア・アルジェント。

 同性であるリアスの目から見ても、その姿は小動物を連想させる程に可愛らしい。

 

 しかし、この少女と悪魔であるリアスたちは本来相容れないのだ。教会関係者であるが故に。

 一誠が必死になって擁護し、トランクスが彼女を救出しなければ、恐らく立ち入りは拒んだだろう。

 

 まあ、彼女と会話をしてみて、純粋で優しい子なのだとリアス自身も思ったのだけれど。

 

 私も甘いわね、と思いつつ視線をアーシアとは反対側のソファに向ける。

 

「⋯⋯あら?」

 

 寝ている筈のトランクスがいない。

 タオルケットだけが丁寧に畳まれてる。

 

 まさか出ていった⋯⋯?

 

 そんな考えが過ったが、ふと、外から掛け声のようなものが聞こえてきて、その声の主がトランクスであると気付き、安堵する。

 

「こんな時間に一体何をしてるのかしら?」

 

 丁度窓から見える位置なので、気になり覗いて見ると⋯⋯。

 

「⋯⋯え?」

 

 思わず間の抜けた声を漏らしてしまう。

 そして、自身の目を疑ってしまった。

 

 確かにトランクスは旧校舎の前にいて、恐らくはトレーニングをしているのだろう。

 あれほどの実力なのだから、何らおかしい事でもない。

 

 おかしいのは、周囲の風景だった。

 

 整地された地面に出来た幾つものクレーター。

 見事にへし折られた木々。

 

 リアスの寝惚けた頭をショートさせるには十分すぎる。

 

 それから数分後、魔力を迸らせて微笑むリアスに、トランクスは謝罪を繰り返すこととなった。

 

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

 

 

 俺がこの異世界に来てから、1日(半日)が過ぎた。

 

 悪魔であるリアスさん達の拠点に滞在することになったのだが、早速迷惑を掛けてしまった⋯。

 悪い癖だ。

 修行にのめり込むと、いつもこうなってしまう。

 

 直ぐ様リアスさんに謝ったが、正直怖かった。

 ニコニコと微笑んでいるのに目がまるで笑ってないのだ。

 

 これからは気を付けよう⋯。そう肝に命じておいた。

 

 さて、リアスさん達が学校で授業を受けている間に全てのクレーターを埋め直さなきゃ。

 へし折った木は俺では修復出来ず、後でリアスさんが直してくれると言っていた。

 

 本当にすみませんでした!

 

 スコップを片手に再度、心の中で謝罪した。

 

「あ、あの⋯⋯私もお手伝いしましょうか?」

 

「ああ、いや大丈夫!俺がやったことだから、俺が何とかするよ」

 

 アーシアさんが俺を手伝おうとしてくれるが、流石に手伝わせるわけにはいかない。

 それに、これもある意味修行じゃないか。

 

 前向きにいこう、俺!

 

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

 

 

 わ、私、ミッテルトは⋯とんでもないものを見てしまった。

 というのも、またあの男。紫髪の奴だ。

 

 レイナーレさまの命令で悪魔共の監視をすることになって、結界に反応しないように遠目で見張ってたんだけど。

 

 あいつ、本当に人間?

 いくら神器(セイクリッド・ギア)を宿してるからって、姿を消したり、地面陥没させたり、拳の風圧で木を折ったりなんて。

 

 あー、今すぐ逃げたい!

 

 ってか、たまに目が合うのは気のせいだよね?

 気のせい⋯⋯だよね?

 え、バレてないよね?まさかね。

 

 流石に有り得ないだろう、と考えないようにしていると、紅髪の美女が魔力を滲み出しながら建物から出て来た。

 

 あれはグレモリー?だっけ。

 滅びの魔力を持つというとんでもない悪魔だ。

 そのグレモリーにあの男は必死に頭を下げていた。

 

 その光景に思わず目を丸くしてしまう。

 あれほどの力を持ってるのに、グレモリーに頭を下げるなんて驚きだ。

 

 それから、あの男はスコップを渡されてせっせとクレーターを埋め直した。

 その時にアーシアの姿も確認。特に怪我は無いっぽいし、無事ならレイナーレさまも喜ぶ筈。

 

 暫く穴埋め作業が続いて、漸く終わった頃に学校のチャイムが聞こえてきた。

 続々と悪魔が拠点である建物の中に入っていく。

 

 うーん、中で何をしてるのか全然分かんない。

 と、焦れったい気持ちになっていたが、直ぐに動きがあった。

 

「あ、出てきた!ええっと⋯⋯3人か。アーシアと、レイナーレさまが一度殺した兵藤一誠と⋯⋯げっ、あの男もいる」

 

 今言った3人が建物から出てきて、何処かへ移動を開始する。

 ど、どうしよう。このままグレモリー達に動きが無いか監視すべきか、3人を尾行すべきか。

 

 ⋯⋯⋯⋯。

 

 よし、3人を尾行しよう!

 

 レイナーレさまの目的はあくまでアーシアなのだ。ここはこの判断で間違いはない!⋯⋯はず。

 

 一度レイナーレさまに報告してから、私は3人の跡をつけることにした。

 

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

 

 

 見慣れない様々な住宅が建ち並ぶ光景に目を奪われながら、俺は一誠くんとアーシアさんと一緒に外を歩いている。

 

 何故外に出ているのかというと、リアスさんからの提案で、一誠くんにこの町を案内してもらうことになったからだ。

 その為、一誠くんの悪魔の仕事はお休みになったらしい。

 

 邪魔をしてしまったのではないかと思っていたが、「気にすんな!」と、一誠くんは嫌な顔一つしなかった。

 

 正直な所、この町をじっくり見てみたかったところなんだ。

 技術の発展は俺がいた世界の方が進んでいるようだけど、だからと言ってこの世界が劣っている訳じゃない。

 活気に満ちている⋯⋯というのかな?

 

 俺がいた世界も、人造人間がいなければこんな感じだったのだろうか⋯⋯。

 あいつらがいなければ⋯⋯。

 

「どうした、トランクス?」

 

「あ、ああ。ごめん、少しぼーっとしてたよ」

 

「ど、どこか具合でも悪いんでしょうか?」

 

 一誠くんとアーシアさんが心配そうに顔を覗き込んでくる。どうやら顔に出てしまっていたようだ。

 

「ははは、本当にぼーっとしてただけだよ。そこまで心配しなくても大丈夫」

 

「そ、そうか?ならいいんだけど⋯」

 

 一誠くんはそう言うが、あまり納得していなさそうだ。でも、そこで深く聞いてこないのは彼なりの気遣いだろうか。

 

 少し微妙な空気になってしまう。

 

 そんな時、この空気を破るかのように“きゅるるる〜”と可愛らしい音が聞こえてきた。

 まず俺からではないし、隣で歩く一誠くんでもない。

 

 まあ、誰から鳴ったとは言わないけど。アーシアさんは顔を真っ赤に染め上げていた。

 

「ち、丁度小腹が空いたし、飯食べに行こーぜ!それでいいか、二人とも?」

 

「うん、俺も賛成だ」

 

「はぅ⋯⋯は、はい」

 

 そう言うわけで、俺達は一誠くんの先導のもと繁華街へと向かうことにした。

 

 

 少し歩いて、住宅街とはまた違った趣のある繁華街に着いた。

 娯楽施設や百貨店、スーパーなどなど。知識としては知っていても、実際に行ったことのない場所も結構あって興味がそそられる。

 

 色々なものに目移りしながら、俺達はハンバーガーショップへと入っていった。

 アーシアさんは初めて食べるらしく、一誠くんに教えてもらいながら食べていた。

 

 因みに、俺の世界のお金は使うことは出来なかったよ⋯⋯。

 少し期待してみたけど、やっぱり駄目だったか。

 

 今回は一誠くんが奢ってくれて、感謝の言葉しか出ない!

 

 昼食を済ませてからは、ゲームセンターへ。

 これは俺も興奮した!

 初めてのゲームセンターは、ある意味俺の夢というか憧れだったんだ。

 

 夢中になって3人で遊んでいれば、気づけば夕日が出てくる時間帯。

 

「んじゃ、そろそろ時間だし帰るか」

 

「はい!」

 

 アーシアさんはネズミが元のマスコットキャラクターのぬいぐるいを抱き締めながら、満面の笑みを浮かべた。

 “ラッチューくん”と言うらしい。

 

 一誠くんがUFOキャッチャーで取ってあげていた。

 

「トランクス、お前本当にゲーセン初めてなのか?危うくレーシングゲームで負けるとこだったぜ」

 

「これでも機械弄りは得意なんだ。ゲームも似たようなものだよ」

 

「トランクスさんは凄いです!私なんか全然で⋯⋯」

 

「いやいや、アーシアも練習すれば上手くなるって!」

 

 3人で興奮が冷めないまま帰路につく。

 他愛ない会話。だからこそ、幸せだと俺は思う。

 

 いつかは俺の世界でも平和が訪れるだろうか⋯。

 いや、俺がやらなきゃいけないんだ。

 俺が⋯⋯最後の希望なんだから。

 

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

 

 

 繁華街から少し離れ、人通りも少なくなってきた。だからこそ、俺は確信する。

 

 ⋯⋯誰かに見られているな。

 

 隣で歩いている二人は気付いていない。

 俺もまさかとは思ってたけど、どうやら勘違いじゃなかったらしい。

 

 多分、俺が旧校舎で修行してるときからだろう。害はないと思って放っておいたが、ここまで監視されてるとなると無視できなくなる。

 

 それにこの気⋯⋯人間の持つ気じゃない。

 

「ごめん二人とも!ゲームセンターに忘れ物をしたから先に行っててくれ!すぐ戻るから!」

 

「あ、おいトランクス!」

 

 一誠くんには悪いが、聞こえなかった事にさせてもらう。二人を危険な目に合わせる訳にはいかないから。

 

 俺は来た道を走って戻る。

 人はいないし、少し本気で走っても大丈夫か⋯。

 

「ふ⋯ッ!」

 

 風を切る音と共に、景色が一瞬で変わっていく。

 目標の気へと一直線。そこまで遠くない。

 あと少しだ⋯⋯!

 

「見つけた!」

 

「や、やばっ!?」

 

 物陰から焦りの声が聞こえてきた。

 声からして女か?まあ、性別なんて関係ないが。

 女は黒い翼を生やして空を飛び立とうとする。

 

「逃がすか!」

 

「ふぎゃっ!?」

 

 ギリギリのところで片翼を掴み、そのまま地面に叩きつけて動きを止める。

 生憎、人気のない場所で良かった。今の現場を見られてたら色々まずかったからな。

 

 仰向けに地面に倒れる女の顔を見てみると、どこか見覚えがある。

 この金髪にゴスロリ姿。

 

 ん?確かこいつ⋯⋯昨日の堕天使か?

 この堕天使が監視していたということはつまり⋯⋯。

 

「おい」

 

「な、何すか!?やるんすか!?痛いのはやめて下さい!お願いします!」

 

 既に戦意喪失。そして涙目⋯⋯いや、もう泣いていた。

 

「またアーシアさんを狙っているのか?昨日は逃がしてやったが、2度目はないぞ」

 

「ちょ、ちょっと待って!私はただあんたらを見張ってただけで、狙ってないっすよ!今頃レイナーレさまが迎えに行った筈だから!」

 

「何?どういうことだ?」

 

 俺が聞くと、女堕天使は直ぐに全てを語ってくれた。

 口が軽すぎるとも思えるが、もし教えなかったら強行手段をとっていた為、手間が省けただけ。

 

 それよりも、不味いことになった⋯。

 こいつの話が本当なら、一誠くん達が危ない!!

 まさか俺の行動が裏目に出るなんて⋯⋯!!

 

 気を探ってみると、一誠くんとアーシアさんの他にもう一人堕天使の気が感じられる。

 向こうにいる堕天使がこいつのボスらしく、直々にアーシアさんを回収にきた、と。

 

 もはや一刻も争えない。

 俺は女堕天使の腕を掴み、舞空術で飛び上がった。

 

「くそっ、間に合ってくれッ!!」

 

「え、ちょっ!?何で私も!?」

 

 俺が向かってる隙に逃げられでもしたらいけないからな。一緒に来てもらうぞ!

 人目など気にせず、俺は全力で一誠くん達の元に向かった。

 

 走るよりも飛んだ方が断然速く、目的地までは直ぐだ。

 着いた場所は、一誠くん達と別れた場所から少し移動した先にある広場。

 

 そこにいたのは、一人の女堕天使⋯⋯恐らくこいつがレイナーレか。

 そして、レイナーレに捕まっているアーシアさんとボロボロの姿で倒れる一誠くんだった。

 

「⋯⋯っ、一誠くん!アーシアさん!」

 

「ト、トランクスさん!!イッセーさんが⋯⋯!!」

 

 アーシアさんは自身の身を案じるより、一誠くんの事を心配する。

 その瞳には、うっすらと涙が浮かんでおり、必死に堪えているのが伝わった。

 

「あなたがドーナシークとカラワーナを倒した男ね。初めまして、私は至高の種族である堕天使のレイナーレよ。よろしくね」

 

「貴様⋯ッ!よくも二人を⋯!!」

 

「あら、動かない方が良いわよ?もし私に危害をくわえようとしたらどうなるか⋯⋯分かるわね?」

 

 何もないところから光の槍を作り出し、アーシアさんに向けるレイナーレ。

 此方を見下すように笑みを浮かべる。

 

 くっ、これでは手が出せない。

 瞬時に助け出す事も出来るかもしれないが、それではリスクが高すぎる!!

 

「レイナーレさま!私を助けて欲しいっす!!」

 

 未だに俺に腕を掴まれていた堕天使は、懇願するように叫んだ。

 

 しかし、目の前のレイナーレは冷えた目をして言い捨てた。

 

「ミッテルト⋯⋯あなたはもう用済みよ。アーシアが手に入った今、利用価値も無くなったわ」

 

「え、⋯⋯え?」

 

「せいぜい、私が逃げる為に囮くらいにはなりなさい」

 

「レ、レイナーレさま?⋯⋯言ってる意味が」

 

 ミッテルトという堕天使は混乱しているが、レイナーレはもう答える気はないらしい。

 つまり、見捨てられたんだ。気の毒だとは思うが、それ以上思うことは何もない。

 

「まあ、アーシアのマーキングが解除されてたのは予想外だったけど、あなたの報告も役に立ったわ。ありがとうね」

 

 そう言い終えると共に、レイナーレの足元が光出した。これは確か⋯⋯転移するやつか!?

 こいつをここで逃がす訳にはいかない!

 

「させるか!!」

 

 こうなったら、一か八かで!!

 

 俺は一歩、強く踏み込んだ。

 それだけでレイナーレと俺の距離は一瞬で詰められ、遅れて地面が陥没する音が聞こえてくる。

 

「━━━!?」

 

「届けッ!!」

 

 レイナーレには俺が消えたように見えてるだろう。頼む⋯⋯届いてくれ!

 

しかし━━━そんな俺を嘲笑うかのように、伸ばした手が掴むものは⋯⋯何もなかった。

 

 





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