そらのおとしもの 人と天使達の非日常 (龍姫の琴音)
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第一話日常

ここは九州のどこかにある空見町。人口7000程度で山に囲まれた小さな町でこれといった名物もなく、あるとすれば樹齢四百年を超える大きな桜の木があるぐらいの平和な街だ

そんな平和の街にある日、突発的な変化が訪れた

 

※※※※※

 

 

朝日が差し込み目覚ましが鳴り響き目が覚めた。眠たい目をこすりながらノロノロと起き上がりリビングに向かうと台所ではグツグツと煮える音が聞こえてくる

 

「おはよう~日和」

 

「あ、おはようございますシュウ君」

 

台所では幼馴染で現在シュウと同居している風音日和がエプロン姿で朝食の準備をしていた

日和はシュウの幼馴染で小さい頃に日和の両親が相次いで亡くなり親戚の家に引き取られる事になったが日和の町に残りたいという強い気持ちを尊重するためにシュウの親が日和を引き取りシュウの家で一緒に暮らしていた

しかしシュウの両親が突然の長期海外出張が決まり現在はシュウと日和の二人で暮らしている

 

「もうすぐで朝ご飯が出来ますのでちょっと待っていてくださいね」

 

「わかった~」

 

いつもの指定席に座りテレビをつけると朝のニュースが流れニュースを聞き流していると日和が朝食をお盆に乗せてやってきた

 

「朝ご飯が出来ましたよ」

 

「待ってました」

 

今日の朝食のメニューは悟飯に味噌汁、日和が育てている野菜で作った漬物とサラダに目玉焼きと朝から豪華だ

 

「じゃあいただきま~す」

 

「いただきます」

 

今日も朝ご飯が美味しい。代り映えのない日常だが俺はこんな日常が大好きだ

 

「ふぅ~ご馳走様でした」

 

「お粗末様でした」

 

「じゃあ、片付けはしておくからな」

 

「お願いします。私は畑を見てきます」

 

朝食後は日和は家の畑を手入れしてシュウは朝食の後片付けをするんという役割分担をしている

食器の後片付け、食器洗いを終えると日和が家に戻ってきて二人共、制服に着替える

 

「じゃあ行くか」

 

「うん」

 

家に鍵をかけ学校に向けて出発する

 

「今日も静かだなこの町は」

 

「そうですね。何か良い事がありそうですねシュウ君」

 

「そういう日に限って部長が何かしでかすんだよな・・・」

 

「部長って守形先輩?」

 

「うん。あの人は頭はいいけど何というか」

 

守形先輩とはシュウ達の通う中学の先輩でかなりの変わり者である。人類が未だに到達していない未知の場所『新大陸』を発見するために新大陸発見部という部活の部長をしている

 

ちなみにシュウは副部長をしている。理由は新大陸に行けばアニメや漫画の世界に繋がる技術があるのではないかという期待を込めて入部したが現在部員はシュウ達だけというのが現状だ

 

学校に到着しいつものように授業を受けて午前が終わりお昼休みになるとシュウの携帯が鳴り表示を見ると守形先輩だ

 

「どうしたのシュウ君?」

 

日和がお弁当を持ってシュウの席に来ていた

 

「あぁ~悪い。急用が出来たから先に食べていてくれ」

 

「う、うん。気をつけてね」

 

教室を出て電話に出る

 

「もしもし」

 

『シュウ。すまないがすぐに屋上に来てくれ』

 

「屋上ですか?」

 

『あぁ、屋上だ』

 

屋上に上がると守形先輩がハンググライダーを作っていた

 

「あぁ、来たかシュウ」

 

「飛ぶんですか部長?」

 

「風向きは良好。風力に少々不安はあるが作戦に支障はない」

 

「やるのは良いですけど怒られますよ会長に」

 

「大丈夫だ。バレる前にさっさとやる」

 

「はいはい」

 

シュウもハンググライダーの製作を手伝い十分ほどで完成する

 

「ではシュウ、行ってくる」

 

「グットラック!」

 

親指を立てると部長も任せろと言わんばかりに親指を立てて部長は大空に向けてテイク・オフ!

 

しかし風力が弱いせいですぐに墜落してしまった

 

こが俺のいつもの日常。こんな日常が何時までも続くと俺はそう思っていた



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第二話新大陸発見部

シュウが教室から出ると日和は自分の席に戻りお弁当を広げて食べ始めた

 

(はぁ・・・せっかく一緒に食べようと思ったのに)

 

残念そうにお弁当を食べ始めるとなにやら外が騒がしくなってきた

 

「屋上で誰かが飛び降りるって」

 

「え、それマジで!」

 

「行ってみよう」

 

同じクラスの女子の話を聞いてシュウが誰に呼ばれたのか予想がついた

 

「あれ、日和はいかないの?」

 

日和が一人で昼食を食べているのを見た同級生の女子生徒が話しかけてきた

 

「うん」

 

「そういえばいつも一緒にいる緋村はどうしたの?」

 

「さっき守形先輩に呼ばれて教室を出ていたよ」

 

「へぇ~じゃあ彼氏取られて日和はご機嫌斜めなわけね」

 

「か、彼氏じゃないよ!」

 

日和は顔を赤くして否定するが同級生はニヤニヤと笑いながら言葉を続けた

 

「でもいつも一緒に登下校してお昼も一緒で、しかも同棲していて付き合っていないって方がおかしいでしょう」

 

「同棲じゃなくて居候」

 

「同じようなものじゃない。そ・れ・よ・り家で二人きりなら何か起きない訳ないよね日和」

 

「何もないよ。シュウ君、アニメとか漫画が好きだし」

 

「でもカッコイイじゃない。それに頭もいいし。アニメ好きを差し引いてもプラマイゼロよ。日和が何もしないなら私、緋村君に告白しちゃおうかな」

 

「だ、駄目!」

 

自分でも思っていた以上の大きな声が出て驚いたがそれ以上に同級生の言葉に反応してしまった事に恥ずかしくなり顔を伏せる

 

「いや~日和って可愛いね。まったく、こんなにいい子がいるのに興味を示さないなんてどうなのよ」

 

「で、でも・・・シュウ君はアニメが好きだけど畑仕事を手伝ってくれるし一緒にお料理してくれたり後片付けとか率先してやってくれるし何かと気遣ってくれるいい人だよシュウ君は」

 

「あぁ~もう惚気話はいいわよ。ご馳走様」

 

「惚気話じゃないから」

 

「はいはい。じゃあ私はちょっと飛び降りを見て来るね」

 

そう言って教室から出て良きまた一人になった日和は昼食を再開するが先程のセリフを思い出し悶々とした気持ちが胸の中に渦巻き続けた

 

※※※※※

 

一方、守形先輩の飛行実験が失敗に終わりシュウはハンググライダーと守形先輩を回収して新大陸発見部の部室に戻ると守形先輩の治療を始める

 

「どうやら重量計算を間違えたようだな。次は成功するぞシュウ」

 

「はいはい。って動かないでくださいよ部長。包帯がズレる」

 

「うむ。すまないな」

 

治療をしていると部室をノックする音が聞こえてきた

 

「お客さんですよ部長」

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

入って来たのはシュウの隣のクラスの桜井智樹とその幼馴染の見月はらだ

 

「よぉ、智樹。平和が一番のお前がここにくるとは明日は嵐になるな」

 

「俺だって本当はこんな所に来たくなかったよ!」

 

「智ちゃん!」

 

そはらはチョップを智樹の頭に叩き込み大きなタンコブが出来た

 

「はは、それで何の用だ?」

 

「実は智ちゃんが子供の頃から同じ夢を見るからそれを相談したくて」

 

「夢だと?」

 

守形先輩が反応しクイッと眼鏡の位置を直す。これは話に興味を示したという証だ

 

「学説では夢とは脳が記憶の整理をする際に発生する電気信号だと言われている。だが所詮それは現実(・・)の理論に過ぎない」

 

部長の言葉に二人共驚いたような表情を浮かべる

 

「現実の理論で非現実は説明できん」

 

そう言って部長はパソコンを操作してある画面を開き二人に見せた

画面には地球が映っており地球の上を黒い穴が不規則に移動している

 

「これが何だかわかるか?」

 

「いや、全然」

 

分からないと智樹が首を横に振る

 

「そうだ。分からないんだ(・・・・・・・)。数多くの学者がこれまでに調査したが誰一人としてこの穴の正体を突き止める事が出来なかった

しかし私にはこの正体が何なのか分かっている。無論お前の夢の正体にもな」

 

「え?」

 

「全ては新大陸だ!」

 

堂々と宣言するが智樹は完全に状況を飲み込めていない

 

「学会とは愚かなものだ。これだけの質量、移動量。空に浮かび浮遊するこれを新大陸以外になんだというのだ。お前の見ている夢もまた新大陸!新大陸が我々を誘っているんだ

そして運がいいな丁度今日の夜12時に新大陸が空見町上空を通過するんだ。一緒に行く(・・・・・)よな桜井智樹

俺を信じろ。お前の『夢』は俺が見つけてやる」

 

「ステキです!」

 

「待て!そはら、こんな嘘くさい話を信じるのか!」

 

「私も付いて行っていいですか?」

 

「勿論だとも。では今日の夜12時に神社そばの大桜に集合だ」

 

「人の話を聞けや!」

 

「諦めろ智樹。そして運命を受け入れろ。俺も付いて行ってやるからさ」

 

「シュウ、俺の平和が崩れていく・・・」

 

この時、俺は思った。今回も何もなく終わって明日になれば笑い話になるのだと。でも現実は予想も出来ない事が起こる。例えば今まで何も起きなかった事が今日に限って起こり智樹の言う平和が崩れ去り非日常が訪れる事を



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第三話新大陸

その日の夜

 

「日和、これから大桜の所に行くけどお前も来るか?」

 

「行っていいの?」

 

「別に構わないぞ。新大陸発見部の部活動の一環だけど智樹とその幼馴染の月見も来るし。多分、何も起こんないと思うけど夜桜なんて綺麗かもな」

 

(シュウ君と夜桜・・・二人きり)

 

※ほかにも人は来ます

 

「私も行きます!」

 

「お、おう」

 

二人は12時10分前に桜の木に到着すると元々田舎町の空見町の電機は全部消えており空には満天の星が光り輝き桜の木を照らしとても綺麗だ

 

「部長がいない。こういう時は一番早く来ているはずなのにな」

 

するとシュウの携帯が鳴った。着信は部長からだ

 

「もしもし」

 

『シュウか。すまない今日の飛び降りで美香子に捕まったからいけそうにない』

 

それだけ言って電話が切れた

 

「発起人が休むとかどういう事だよ。とりあえず智樹に電話せねば」

 

電話を掛けるとツーコールで出た

 

『もしもし』

 

「あぁ、智樹。実は部長が来れなくなったんだけどお前は来るか?」

 

『あぁ~じつはそはらも親に外出を止められたんだってよ』

 

「そうか。智樹、今回はお前の夢の事もあるがほとんどが新大陸発見部の部活だから来なくても大丈夫だぞ」

 

『まじか!』

 

「嬉しそうだな」

 

『トラブルは御免だって言っているだろう。それより本当に行かなくていいのか?』

 

「あぁ、自由参加だ。勿論来ても構わないぞ」

 

「絶対行くか!」

 

智樹が電話を切りどうしようかと考えていると日和は桜の木を目を輝かせながら見ていた

 

「日和」

 

「あ、電話終わったんですか」

 

「あぁ、どうやら全員来れなくなったみたいだから夜桜見物して帰るか」

 

「はい」

 

桜の木の下に二人で座り込んで桜の木を見上げて鑑賞していると日和はシュウから少しだけ距離を開けている

 

(どうしよう・・・今日、色々と言われちゃってシュウ君を意識しちゃう)

 

チラッとシュウの方を見るとシュウは桜を見上げている

 

トクン!と日和の心臓が脈を打つ。この時、日和は確信した

あぁ・・・私はシュウ君の事がずっと前から好きだったんだ。子供の頃から一緒で私が困っていると助けてくれて一緒にいるのがとっても楽しくてずっとこの関係が続いていたいけどでも自分の気持ちを知ったら胸にしまっておくのはちょっと辛い

 

今、この場所には二人しかいない。誰も来ない。それなら今、ここでシュウ君に告白したい!

 

「あ、あのシュウ君!」

 

「どうした?」

 

「わ、私ね」

 

いざ告白となるとやっぱり怖い。拒絶されたらもう今みたいな関係に戻れないかもしれない。でも、何もしないで後悔はしたくない!

 

「私、シュウ君の事が・・・す『ピピピピィィィ!』

 

日和の告白を遮るようにシュウん携帯が鳴った

 

「あ、悪い。ちょっといいか」

 

「う、うん・・・」

 

「もしもし」

 

『シュウ!その場から離れろ!』

 

「は?」

 

「最新の情報を見ていたら何かおかしい」

 

「おかしい?」

 

『穴・・・常に・・・急に・・・』

 

雑音が入りよく聞こえない

 

「部長!簡潔に言ってください」

 

『お前のすぐ真上だ!』

 

上を見上げると何かが降って来た

 

ドォォォン!

 

大きな音を立てて地面に衝突し地面にクレーターが出来る

 

「なんだ!」

 

恐る恐る穴を覗いててみるとそこには女の人が居た

 

「人!・・・いや、違う」

 

よく見るとその女性には羽が生えていた

 

「シュウ君!上」

 

上を見ると石柱が次々と雨のように降ってきた

 

「日和、急いでここから離れろ!」

 

「でもシュウ君は!」

 

「俺はこいつを助ける。早く行け!」

 

シュウは急いで女の人の所まで行き抱き上げて穴から脱出すると周囲の地面には穴がいくつも開いておりここもかなりヤバい!

 

「シュウ君!こっち!急いで」

 

「うぉぉぉ!」

 

走りだすがシュウの頭上に石柱が降って来た

 

(待てよ。ここで、死ぬ)

 

目を閉じるが何時になっても痛みが襲ってこない。恐る恐る目を開けるとそこは空見町の空の上だ

シュウが助けた女性は翼を羽ばたかせシュウを担いで飛んでいた

 

「『インプリンティング』開始」

 

そう呟くと首についている首輪のようなものから鎖が伸びてシュウの左手に巻き付くとゆっくりと地上に降りると女性はシュウを下ろす

 

「初めまして。私は愛玩用エンジェロイドタイプα(アルファー)イカロス。あなたが楽しめる事をなんなりと私の鳥籠(マイ・マスター)

 

これがこれから先おそらく一生忘れないだろう非日常の始まりだった



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第四話エンジェロイド

イカロスと名乗る羽の生えた女性と鎖に繋がれシュウは日和と共に家に帰り今はちゃぶ台を囲んでいる

 

「えっと、まずは自己紹介だよな。俺は緋村シュウ。こっちは幼馴染の日和」

 

日和も軽く会釈をするがイカロスはあまり表情を変えない。無表情というよりは感情がないようにも見える

 

「イカロス、お前が知っている事を教えて欲しい」

 

「はい。私は『シナプス』で作られた製品でマスターを楽しませるのが私達エンジェロイドの仕事です」

 

「じゃあシナプスについて教えて欲しい」

 

「申し訳ございません。シナプスについての情報は私の中にはありません。私もマスターに目覚めさせて頂いたばかりですし分かるのは私は愛玩用としてシナプスで作られた製品である事とカードの使い方だけです」

 

「カード?」

 

イカロスが一枚のカードを取り出す。裏は真ん中に水晶がはめられておりそこから上と下に翼のようなマークが書かれており表は絵が動いておりまるでブラックホールみたいだ

 

「このカードはこちらで言うところの転送装置でマスターのご要望に沿った機材をシナプスから取り寄せる事が出来ます」

 

「じゃあお金が欲しい場合は?」

 

イカロスがカードを起動させるとカードから光が発生しカードが電卓になりそこに数字を入力するとシュウの頭上にワームホールのようなものが出現しその穴から一万円札の束がいくつも落ちてきた

 

「すげぇ・・・本物だぞ日和」

 

「これだけあれば何でも買えますね」

 

「他に御命令はありますかマスター?」

 

ここでシュウは少し考えた

確かに空を飛ぶイカロスといいシナプスの製品と言い人類の技術力を遥かに凌駕しているのは一目瞭然だ。だがもし、イカロスの存在が知られればそれを利用とする奴が出るのはアニメでは定石だ

つまり今、やる事と言えばイカロスをあまり人目につけないのが一番の安全策だ

 

「そうだな・・・この鎖っていわゆるイカロスのマスターが俺であるというのを証明するみたいなものなんだよな」

 

「はい」

 

「この鎖を周囲から見えなくする事は出来るか?」

 

「できます」

 

イカロスが鎖に触れると鎖が消えた。目に見えなくなるどころか触る事すら出来なくなった。まるで鎖の部分だけ別空間に飛ばされたようだ

 

「これで日常生活には支障は無くなるな。後は・・・この世界でのルールやマナーを教えないとな」

 

「シュウ君、それって必要なの?」

 

「あぁ、シナプスはこことは違う場所にあるというしイカロス自体がこの世界の常識などが欠如していると後で問題になるかもしれない。と、言う訳でイカロス俺達が学校に行っている間にこの本を読んでおきなさい」

 

そう言って20冊ぐらいの本の山を取り出した。そこには広辞苑、法律のかかれた書物といった難しい本から幼稚園生が読むような絵本など幅広い本が積まれている

 

「どうしたのこの本は・・・」

 

「両親の書斎にあった本を持ってきた。とりあえずこれだけの本の内容を憶えれば日常生活には支障はないだろう・・・多分」

 

と言ってもイカロスについて分からない事がありすぎる。シュウと自分の重さを合わせても軽々と空に羽ばたき空から落ちてきても傷一つついていない。もし、ロボならどれだけの力を秘めているか分からないのも問題だ

 

「マスター、学校って何ですか?」

 

「学校とは俺達子供が強制的に授業という苦行を受けさせる場所だ」

 

「シュウ君、それは違うでしょう」

 

「まぁ、解釈は人それぞれだが学校にイカロスを連れていくことは出来ない。だからイカロスは俺達が帰ってくれるまで留守番を頼みたい」

 

「私はマスターが帰ってくる家を守ればいいんでしょうか?」

 

「まぁ、そういう事だ。その間にこの本を読んで少しでも知識を身につけなさい」

 

「はいマスター」

 

とりあえず今日はこれぐらいにして後は全部明日に丸投げしよう。明日になったら部長に事情を説明して今後の対応策を考えないとな・・・

そう考えながらシュウは眠りについた



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第五話飛翔

次の日

イカロスに留守番を頼みシュウと日和はいつものように学校に登校してその日のお昼休みに新大陸発見部の部室を訪れ昨日の事を部長に話した

 

「と、言う訳で現在は家で保護しているんですがどうです部長?」

 

部室には部長の他に智樹とそはら、会長までもいる

 

「ふむ。なかなか興味深い話だな。しかしこれで新大陸が見つかったと言う訳だ。今もそのシナプスは空見町の上空に停滞している」

 

「うわぁ・・・俺の平和な日常が崩れていく」

 

ウキウキしている部長に対し智樹は自分の日常が壊されていくと涙を浮かべている

 

「それでシュウ、そのイカロスが持っているカードは今はあるのか?」

 

「はい。これです」

 

シュウがポケットからカードを取り出しみんなに見せる

 

「ふふ、会長、このカードでかなえたい夢があるんだけどつかってもいいかしら?」

 

「叶えたい夢?」

 

「世界征服」

 

「!」

 

会長の言葉に全員が凍り付いた。生徒会長は人をいたぶる(主に智樹と守形)のが大好きだ。そのため本来なら冗談に聞こえるはずの言葉が本気に聞こえるから笑えない

 

「あら、冗談よ。会長ジョーク」

 

ケラケラと笑うが冗談に聞こえない

 

「なぁ、シュウ、そのカードって本当に何でも夢が叶うのか?」

 

智樹が興味津々にシュウの持つカードを見つめる

 

「トモちゃん!どうせエッチな事に使う気でしょう」

 

「当たり前だろう!」

 

と普通ではありえないスピードでシュウの手からカードを奪う

 

「あ、智樹!」

 

「カードよ。俺の願いを叶えてくれ!」

 

カードを天高くに掲げるとカードが光った

 

「・・・って何も起こらないぞ」

 

シュウの言うように何かが起きた様子はない

 

「ふっ、これを見たまえ!」

 

智樹が堂々と宣言すると智樹の手には女性ものの下着が握られていた

 

「トモちゃん!」

 

そはらが怒りながらもいつものようにチョップをせずにスカートを抑えている

 

「おい、智樹。何をしたか正直に言え」

 

「何って決まってんだろう!パンツを要求した」

 

「お前はウーロンか!?」

 

あの有名漫画の豚のようにギャルのパンティをくれと願う奴が本当にいるとはちょと感動だが今はそれどころじゃない

 

「さっさと返してやれ」

 

「う~ん。確かにそうだな。そはら、次はもっと大人なやつを頼む。小学生じゃないんだから犬柄のパンツはないだろう」

 

「トモちゃん・・・どうしてまだカードが光ってるの?」

 

「え?」

 

手元を見ると確かにまだカードが光っている

 

「智樹!そのカードから手を放せ!」

 

しかしシュウの忠告も遅くカードが更に光り出した

 

「きゃ!」

 

「あら・・・」

 

日和と会長が声を上げると日和はスカートを抑える

 

「日和、もしかして・・・・」

 

「う、うん。盗られちゃった・・・」

 

「智樹!」

 

智樹の方に目を向けると智樹の姿が見えず代わりに大量の下着の山があった

 

「おい、まさか・・・」

 

下着の山が動き中から智樹が顔を出す

 

「どうやらこの辺りにいる全員のパンツを収集してしまったようだ」

 

「トモちゃん・・・」

 

そはらから殺人的なオーラが出るとシュウと部長は窓の外に視線を向ける

 

(イカロス助けてくれ・・・)

 

「そはら!動いたらスカートの中が見えるぞ!」

 

「大丈夫。今、緋村君も先輩も外を見ているからこっちは見えないしトモちゃんを殺せばだれも見ていない事になるでしょう」

 

「ひぃ!助けて」

 

するとまたカードが光り今度はカードが手錠に変わりそはらの両手を後ろで掛けた

 

「トモちゃん、これじゃ手刀が出来ないでしょう!」

 

「殺されるのに解除できるか!」

 

「会長、思うんだけど今、風吹いたらどうなるのかしらね・・・」

 

「え?」

 

そう言っていると突然、部室に風が入り込みそはらのスカートが捲れ・・・

 

「お呼びですかマスター」

 

なんとか捲れる前にイカロスが部室の窓から飛び込みそはらのスカートの中身が見えずに済んだ

 

「シュウ、こいつがお前の言っていたイカロスか?」

 

「はい」

 

「あら、結構可愛いわね。会長、ちょっと気に入ったかも」

 

「イカロス、どうしてここに?」

 

「マスターが困っているような気がしたので」

 

「そうなんだよ。朝、貰ったカードの解除をしてくれ」

 

「解除は出来ません」

 

「え?」

 

「カードも私も命令を中断する事は出来ません。命令を完遂するまで止まる事はありません」

 

「まじか・・・」

 

「ふむ。だが今回は原因が分かっている。智樹がまず下着を所望して現に現れたが好みに合わず今度はカードが周囲にいる人の下着をかっさらった。そんなところだろう」

 

「あぁ~なるほど。で、今はその命令が完遂されていると」

 

「おそらくな」

 

「で、この下着の山はどうするんですか部長。まさか返すとか言わないでくださいよ」

 

「簡単だ。カードに元の持ち主に返す様に命令するいいだけの話だ」

 

「あ、そうか」

 

「ちょ、ちょっと待った!返す前に堪能させてくれ!」

 

「駄目に決まっているだろう!」

 

「嫌だ!」

 

智樹が拒絶するとそはらに掛けられていた手錠が光り元のカードに戻りまた光るとパンツが一斉に鳥のように部室の窓を突き破って空高くに飛んで行った

 

「おい、何している智樹」

 

「い、いや・・・逃げろって命令しちゃった」

 

「トモちゃんの変態!」

 

本日のそはらの手刀を頭に喰らい智樹はその場に埋まった

 

「とりあえず下着はどっかに言っちまったし日和、ジャージはあるか?」

 

「あ、ないです」

 

「じゃあ俺の使え。部室に予備を置いてあるから使うといい」

 

「いいの?」

 

「午後の授業をノーパンで過ごす訳にはいかないだろう。この分だと多分この学校の全員の女子生徒が同じ状況に陥っている訳だからな。気にするな」

 

「ありがとうシュウ君」

 

「良いって事よ。あ、イカロス。やっぱこのカードは危険だからお前が管理して保管していてくれ」

 

「わかりました。では私はまだ本を全部読んでいないのでこれで帰ります」

 

「あぁ、悪いな。いきなり呼び出しちまって」

 

「いえ、マスターのために私達は存在しますから」

 

そう言ってイカロスは帰っていった

こうして空見町の女子生徒のパンツがなくなるという事件は終わったがその日の夜に世界各地でパンツ流星群が目撃されたというニュースがテレビに報道され一時話題になった



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第六話夏休み始まります

ここから原作とアニメの話が違う・・・
考えた結果、ここから空見町は夏休みに入りましょうか。あれ?第一話では桜が咲いていたのに春から一気に夏になったね
というツッコミや指摘は受け付けませんのでどうせ一話完結の話ですから季節なんて気にしないでくださいね


イカロスが加わり三人の生活に慣れ始めた頃に季節は夏になり子供は誰もが楽しみな夏休みがやってきた

 

しかし休みには宿題が付き物。山のように出された宿題を片付けなければならい

 

シュウと日和はちゃぶ台の上に宿題を広げ麦茶と扇風機で涼みながら宿題をしている

その後ろではイカロスがこけしの首を取ったりはめたりという作業を永遠と繰り返している

 

「あぁ~休みなのにどうして宿題なんて出るのだろうか」

 

「シュウ君、それ毎年言っているね」

 

「だってそうだろう。この量を見ろよ。5教科の宿題に合わせて他にも色々あって結局遊べるのは八月一杯だけだし」

 

シュウと日和は毎年夏休み開始の日から集中して宿題を終わらせて残りは遊ぶのが毎年の恒例イベントになっているが学年が上がれば量も増えるし難易度も上がるため年々終わるのが遅くなっている

 

「それに毎度毎度、数学教師は東大レベルの問題をだす。これ解けないのが普通だろう」

 

シュウの出した数学の問題は今の中学のレベルでは絶対に解けない。というか問題文の意味すら分からない

 

「あはは・・・今年も守形先輩に頼む?」

 

「あぁ、今回はイカロスにやってもらおうと思ったが・・・」

 

試しに解かせたがすっとんきょな答えになったので頼るのを諦めた

電算能力が低いのはイカロスが愛玩用だからそこまで電算能力を必要としないと製作者が考えたのだろう。今年も一番頭のいい守形先輩に頼むしかないな

 

「行くか守形先輩の家に」

 

「そうですね。今年も食材を持っていきましょう」

 

「そうれがいいな。イカロス、ちょっと出かけるが付いてくるか?」

 

「はい」

 

三人は家を出て歩き始め山を登り河原に出るとテントが一つ立っておりテントには守形と表札がかかっている

 

「何度見てもここが家というのが不思議だな」

 

「あはは・・・そうですね」

 

「シュウか?」

 

川の中から守形先輩が顔を出した。手にはさっき捕ったであろう魚を抱えている

 

「こんにちわっす部長」

 

「こんにちわ。今年もお願いしてもいいでしょうか?」

 

「構わんぞ。勿論、その手に持っている食材と引き換えだがな」

 

「あ、どうぞ」

 

「これでしばらく飢えずに済むな」

 

チラッとイカロスの方を見るとそれからシュウに視線を移す

 

「あぁ・・・イカロスには電算能力があまりないようです。試しにやらせたら駄目でした」

 

「・・・そうか。では私が問題を解いている間に二人には食料調達と料理をお願いしたい」

 

「了解」

 

「はい!」

 

シュウとイカロスは食料調達、日和は料理を担当する事になった

 

「シュウと風音?」

 

声が聞こえ振り返るとそこには智樹とそはら、それに会長までもいる

 

「智樹じゃないか。何しているんだ?」

 

「俺は夏休みの数学の宿題を先輩に解いてもらおうと」

 

「私もです」

 

「会長は面白そうだからよ」

 

「あ、そうですか」

 

「宿題なら俺が解いておこう。その代わりに料理の方をよろしく!」

 

「会長、魚とか捌くの得意よ」

 

「じゃあ私はご飯を炊きます」

 

「ふむ、ではイカロスには買い出しをお願いしようかな」

 

「部長、ちょっと不安なんですが」

 

「経験は大事だろう」

 

「シュウ君、それに空見町の人は優しいから大丈夫だよきっと」

 

「それもそうか。じゃあイカロス、買い出しを頼めるか」

 

「はい。何を買えばよろしいでしょうか?」

 

「野菜はあるから・・・肉をお願いしようかな」

 

「お肉ですね。わかりました」

 

翼を広げて空に飛び立つ

 

「ちょっと待て!」

 

インプリンティングした鎖を引っ張り鎖がピーンと伸びてそのまま地面に落ちた

 

「イカロス、普通の人間は空を飛ばないです」

 

「はい」

 

「ですから歩いて行きなさい」

 

「はい」

 

「良し!では改めて出発だイカロス!」

 

「了解ですマスター」

 

イカロスの初めてのお使いが今、始まる



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第七話イカロス初めてのお使い

みなさん初めまして。私は愛玩用エンジェロイド。タイプαイカロスです

私は今、マスターのご命令で空見町商店街に買い物に来ています。マスターから貰ったお買い物メモには肉とカレーのルーと書いてある。マスターのために買い物を成功させます

 

イカロスが商店街に入るとその後ろをシュウ達全員が尾行してきた

 

「やっぱり心配?シュウ君」

 

「そりゃ・・・まぁ、な。イカロスにはルールとかそういった書物は読ませたけど知識として身に着けただけで実際に使っていないから何とも言えないんだよな」

 

商店街に入り八百屋の前に差し掛かるとイカロスが足を止め八百屋にあるある物を見つめている

 

「おい、シュウ。イカロスは何やっているんだ?」

 

「トモちゃん、イカロスさんはスイカ見ているよ」

 

「スイカ?なんでまたスイカなんかを?」

 

「ふむ、エンジェロイドはスイカに興味を示すとは興味深いな」

 

「う~ん・・・日和はスイカを育ていないよな」

 

「うん。スイカは育ててないよ」

 

「もしかして見た事のない野菜だから興味を持っている?」

 

「でも、私も全部の野菜は育てていないから多分スイカだけなんじゃないの?」

 

暫く見ていると八百屋の店主がイカロスと話すとイカロスはお金を払いスイカと何故か糸こんにゃく購入した

 

「あぁ・・・なんか違うぞイカロス」

 

「あらあらいきなりつまずいちゃったわね。これからどうなるか会長楽しみ」

 

シュウの心配をよそに会長は楽しそうだ。八百屋で支払いをおえた イカロスは再び商店街の中を歩いているとイカロスがペットショップの前で立ち止まった

 

「ペットショップ?」

 

「あ、シュウ君。あれ」

 

日和が指さした方を見るとそこにはヒヨコが売られている。イカロスは一羽を手に取る

 

「お肉」

 

「シュウ!止めてくれ。カレーに肉はいらないから止めて!」

 

「私からもお願いします!」

 

智樹とそはらがシュウの体を左右に激しく振る

 

「と、言われてもイカロスの初めてのお使いを中止にする訳には・・・」

 

「安心して。会長、ヒヨコも捌けるから」

 

「そういう問題じゃない!」

 

シュウのツッコミでイカロスの初めてのお使いは終了となった

 

河原に帰りイカロスは買ってきた物を広げる。スイカ、糸こんにゃく、ヒヨコ(お肉)後は醤油だ

 

「ふふふヒヨコカレーなんて会長初めてだわ」

 

どこから取り出したのか包丁を持って笑みを浮かべる会長は物凄く怖いです

 

「会長!止めて!」

 

そはらがヒヨコを抱きかかえ止めてと必死にアピールするが会長はおほほほ・・・と笑いながら包丁を持って近寄る

 

「あぁ・・・なんか色々と混沌としている」

 

「マスター、お買い物はこれでよかったですか?」

 

「まぁ、初めてにしては良く出来たよ。偉いよイカロス」

 

そう言って頭を撫でると少しだけ表情が現れ嬉しそうに見えた

 

「次も頑張ろうな」

 

「はい。頑張ります」

 

結局、肉がないため魚を釣る事にしたがおれが結構釣れない。野生の魚は警戒心が高いためそうそう掛からない

 

「はぁ~釣れないな」

 

「釣れないですね」

 

隣に日和が座って一緒に津入り糸を垂らすが二人共全く釣れない。一方で智樹は既に二匹も釣っている

 

「あれ?シュウ君、そういえばイカロスさんは何処にいったの?」

 

「魚を捕まえるように言ったけどどこ行ったんだ?」

 

周囲を見渡すがイカロスの姿が何処にもない

 

「シュウ、鎖を引っ張ればいいんじゃないか?」

 

「部長、引っ張ったら鎖が見えちゃいますよ。もし、誰かに見られたら俺、変態になりますよ」

 

「会長的にはその方が面白いんだけど」

 

「俺は面白くない!」

 

「待て、何か聞こえるぞ」

 

部長の言葉でみんなが静かにすると確かに微かだが音が聞こえる

 

すると遠くの空から何かがものすごい勢いでシュウ達の前を通り過ぎその際に衝撃波が発生し川の水が空に巻き上がり雨を降らせる

 

「もう一度来るぞ!伏せろ!」

 

「日和!」

 

シュウは日和を庇おうと日和を押し倒す様に伏せた

 

再び来た衝撃波が川の水を空に打ち上げて天然のシャワーが降り注いだ

 

「大丈夫か日和」

 

「う、うん。ありがとう」

 

「「あ!」」

 

今になって互いの息がかかるまでに接近していたことに気づきシュウは慌てて日和から離れる

 

「わ、悪い日和」

 

「ううん。ありがとうシュウ君」

 

互いに顔を赤くして視線を外す。さっきのせいでお互いに目を合わせずらくなってしまった

 

「な、なんだアレ!」

 

智樹の驚いた声で現実に戻った二人は川の方を見るとそこには巨大な魚を抱えたイカロスが立っていた

 

「あれはピラルク。南米のアマゾン川に生息する世界最大の淡水魚だ」

 

「アマゾン!イカロス、お前どうやってアマゾンまでいったんだ?」

 

「私はマッハ24で飛べますので」

 

「マッハ!?」

 

世界最強の戦闘機より早く飛べる。というかあの黄色いタコの先生だってマッハ20で飛ぶのが限界なのにそれを超える生物がいるのか!?あ、生物ではなくロボットだけど

 

「ふむ、マッハ24というと時速は30000キロか・・・これで愛玩用とは笑わせるな」

 

イカロスに対する疑問は深まるばかりだ

 

結局、イカロスの捕まえてきた魚を会長が捌きカレーは作れなかったので糸こんにゃくがあったので肉じゃがを作った

 

「イカロスさんが作ったんだけどシュウ君、食べてみて」

 

一口食べると程よい甘さが口の中に広がる

 

「美味いなこの肉じゃが」

 

「よかったねイカロスさん」

 

「はい」

 

夕食終了後、みんなで後片付けをしていると部長がイカロスを連れてどこかに行くのが見えてシュウはこっそりと後を付けた

尾行していると二人は川辺で話しをしていた。もう少し近寄りようやく二人の話が聞こえる距離までこれた

 

「イカロス、お前はいったい何者だ?」

 

「私は愛玩用エンジェロイド」

 

「とぼけるな。愛玩用が巨大ぎょを生け捕りしたりマッハ24で飛ぶ必要があるのか?かと思えば電算能力は赤子並みで感情にも制限がある。お前は限りなく完全であり限りなく不完全だ。お前はいったい何者だ?」

 

「・・・」

 

「答えろ。お前はいったい何が目的でシュウに近づいている」

 

「私は、何を目的にいしたらいいのでしょうか?」

 

「何?」

 

「私はマスターとこの鎖で繋がっているからマスターの傍にいられます。ですが今日のお使いに失敗しましたがマスターは私を褒めてくれました。失敗したのに褒められる。私は本当にここにいても良いのでしょうか?」

 

(当の本人も分かっていないだと。これはつまり誰かがシュウの元にイカロスを送り込んだと考えた方がいいのか?)

 

「はぁ・・・ならその答えを見つける事だな」

 

「え?」

 

「シュウはお前が傍にいるのを嫌っていない。ならお前はシュウの傍にいればいいさ。シュウの傍が好きなんだろうお前は」

 

「私には好きと言った感情は理解できません。ですがマスターの傍にいるとなんというかフワフワした気持ちになります」

 

「なるほど。なら、その気持ちが分かったらいつかレポートを提出してもらおうか。シュウと永遠の別れがこないように祈りながらな」

 

「はい」

 

部長はその場から去り森の中に入りシュウの横で立ち止まる

 

「盗み聞きとは感心しないなシュウ」

 

「部長こそイカロス連れ出してマスターの知らない所で内緒話ですか?」

 

「シュウ、お前も気づいているんだろう。イカロスは「止めてください!」

 

部長の言葉をシュウが遮り部長の前に立つ

 

「部長、あいつはイカロスです。愛玩用でも他の何だとしてもあいつはイカロスです。たとえあいつが俺に何かを隠していても構いません

成り行きでマスターになっちまったけどマスターになった以上は俺はあいつを信じています。それにこんなアニメみたいな体験はそうそう出来ませんから」

 

「そうか。なら、お前にも忠告してやる。いつか、この日常は無くなるぞ」

 

「その時は俺の隠された力でも見せてあげますよ。それまではせめてあいつには幸せに過ごしてもらいたい。それがマスターとしても務めだと俺は思っています」

 

「そうか。頑張れよシュウ」

 

こうしてシュウ達のとある夏休みの一日は終わった



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第八話認められない事実

みなさん、こんにちわ。私の名前は風音日和です。今、私はシュウ君とイカロスさんの三人で電車に揺られている

何故、このようになったかと言うとそれは昨日の事だ

 

商店街で買い物をしていたら福引券を貰い試しに福引をすると

 

「大当たり!一等賞は日帰り海旅行に三名様をご招待です!」

 

なんといきなり一等が当たり今日、私は海に向かっていた

 

「それにしてもいきなり一等とは凄いな日和」

 

「たまたまだよ。でも、シュウ君は良かったの?夏休みの最後って確か毎年イベントとか行っていたよね」

 

シュウは毎年コミケに行っているが今年はイカロスがいるし折角日和が一等を当ててくれたから予定をキャンセルした

 

「いいんだよ。コミケは毎年行けるけど日和達と海に行けるのは滅多にないしな」

 

「ふふ、ありがとうシュウ君」

 

そう言ってこっちに気を遣って自分の予定をキャンセルしてこっちに来てくれるのはシュウ君の優しい所

 

電車はシュウ達が降りる駅に到着し三人が降りるとそこには太陽の光を反射しキラキラと光り輝く

 

「うわぁ綺麗・・・」

 

「これで人混みがなければ感動的なのにな・・・」

 

海は綺麗なのに砂浜には人が沢山いる

 

「じゃあ着替えて出口の所でまた集合で」

 

「はい。行こうイカロスさん」

 

更衣室の前で分かれ水着に着替えその上にパーカーを一枚羽織り外に出暫く待つと女子更衣室から二人が出てきた

 

イカロスは白のビキニで風音もイカロスと同じ城のビキニで下にはパレオを身に着けている

 

「ど、どうかなシュウ君」

 

「良く似合っているよ二人共」

 

「良かったねイカロスさん」

 

「日和さんが、一緒に選んで、くれたからです」

 

「さて、海に来たのは良いが何をするか?」

 

「じゃあ一緒に泳ごうシュウ君」

 

「そうだな。そういえばイカロスは泳げるのか?」

 

「いいえ、私達エンジェロイドは羽が水を吸って沈んでしまいます。ですが私は圧壊深度3000、無酸素活動時間連続720時間の性能を持っているので溺れることはありません」

 

「そこまで潜る必要があるのか?」

 

普段の生活で深海なんて行くことなんておそらく、いや絶対ない

 

「あはは・・・流石イカロスさんね。でもどうするシュウ君?」

 

「う~ん泳ぎ方を教えても羽が水吸ったら意味ないよな・・・」

 

「だったら俺達が教えてやろうか」

 

シュウ達に柄の笑いチャラい奴が三人近づいてきた

 

「風音、俺の後ろに」

 

「うん」

 

シュウの後ろに下がりシュウが前に出る

 

「俺達、地元の人間だから泳ぎは得意だぜ」

 

「よかったら教えてやるぜ」

 

「まぁ、お礼は貰うがな」

 

ゲスイ笑いを浮かべ風音はシュウのパーカーを掴みその手は震えている

 

「悪いけど遠慮します。では」

 

「待てよ」

 

去ろうとするが三人はシュウ達を囲み逃がそうとしない

 

「おいおい一人で美人を二人も独占とはズルくないか」

 

「そうだぜ。俺達にも分けてくれよ」

 

「大人の言う事はよく聞くべきだと思わないか」

 

「大人・・・はは、お前らみたいに無駄に年だけ喰った奴が大人とは笑えるな」

 

「あぁ!」

 

シュウの挑発に乗り三人は怖い顔でシュウに詰め寄る

 

「てめぇ少し痛い目に合わないと分からないみたいな」

 

「じゃあ一発喰らっときな!」

 

一人がが拳を振り下ろすとシュウはその拳を右手で掴むと左手で胸倉を掴みそのまま背負い投げを決め男の体が砂浜に倒れた

 

「まだ、やるか?」

 

残った二人はこのままやられてたまるかと拳を握りシュウに襲い掛かる。シュウは構えを取ると男の手をイカロスが掴んだ

 

「イカロス?」

 

「マスターに危害を加える気ですか?」

 

「あぁ!?放せよテメェ」

 

「聞いているんです。マスターに危害を加える気ですか」

 

シュウはイカロスの様子がおかしいのに気づいた。瞳の色が緑から赤に変わり背中から羽が広がると周囲に衝撃波が広がる。かなり強い力で握っているのか男二人は苦悶の表情を浮かべている。おそらく痛みで声が出ないんだろう

 

「止めろイカロス!」

 

 

シュウの声でようやくイカロスは手を放すがその手はイカロスの手跡がくっきりと残っている。おそらく骨は折れていないだろうがかなりの怪我だ

 

「お前はそんなん(・・・・)じゃないだろう」

 

「マスター・・・」

 

シュウはカードを取り出す

 

「俺達が海に来たことをなかった事に」

 

カードが光り出すとシュウ達の姿は消え海にいた全員からシュウ達の記憶が消されイカロスに捕まれた腕の怪我もなくなり砂浜はいつも通りになった

 

カードの効果でシュウ達は自宅に転送された

 

「悪いな日和。せっかくの海旅行を台無しにしちまって」

 

「ううん。あのままじゃあ大変な事になっていたしシュウ君は最善の判断をしたと思っているよ」

 

「ありがとう日和」

 

「あの、マスター。私は駄目だったでしょうか?」

 

「いいや。お前は俺を守るためにやってくれたからお前を責めるつもりはない」

 

「でも、マスターは怒っていました」

 

「あれはお前がまるで兵器みたいに見えちまって一瞬でもお前にビビっちまった自分に怒っているんだ」

 

「マスターは兵器が嫌いですか?」

 

「・・・あぁ、兵器は人の命を奪うだけで誰にも幸せにする事も出来ずただ人を不幸にするだけでなんか、イヤだなって思って」

 

「じゃあこの話はこれぐらいにして着替えましょうイカロスさん」

 

「はい」

 

二人が部屋に行くのを確認してシュウは守形先輩に電話する

 

「先輩、今日は三人で海に行ったんですがちょっとトラブルがあったんです」

 

『ほぉ、何かあったようだな』

 

「はい。風音達がナンパされてそれを俺が割って入ったら喧嘩になってそしたらイカロスが止めたんですがイカロスのやつが物凄い力を使いました」

 

『・・・それでお前はどう思った?』

 

「思いたくはないです。そして認めたくもないです。ですが事実です。イカロスは愛玩用ではない。おそらく戦闘用のエンジェロイド。シナプスの人型兵器です」



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第九話帰って来たパンツ

夏休みが終わり今日から再び学校が始まる

海で起きた事件以降イカロスの様子は変わらない。いつも持っているスイカを膝の上に置いて食パンをちぎりヒヨコに与えてた

 

「お待たせシュウ君」

 

「じゃあいってくるなイカロス」

 

「はい、行ってらっしゃいませマスター」

 

今日は始業式のため午前中で終わり日和は畑仕事があると家に帰りシュウは新大陸発見部の部室を訪れていた

 

「心の整理はついたかシュウ?」

 

「まぁ、それなりにはつきましたよ」

 

「それでもまだ信じていないようだなイカロスが兵器だって事に」

 

「正直、今でも嘘であったらいいなって思っているところはあります。でもこれは変えられない事実」

 

「そうだ。だが謎も残る。何故イカロスは空から落ちてきたのか」

 

「そして、シナプスがイカロスを回収しないというのも気になります。捨てたのか、それとも他に目的があるのか」

 

考えていると智樹とそはら、会長が部室に入って来た

 

「なんだか最近ここにみんな集合しますね部長」

 

「まぁ、良いではないか。それより今日な何の用だ?」

 

「実はパンツが俺の所に戻って来たんです?」

 

「何?」

 

「朝起きたらトモちゃんの部屋に前に盗られたパンツが全部帰って来たんです」

 

「あらあら、それじゃあ今、桜井君の家には色とりどりの下着が山のようにあるのね。桜井君も男の子だからそれを何に使うかは会長、聞かないであげる」

 

「トモちゃん!ちゃんと全部捨ててよね!」

 

「おう!任せておけ」

 

とは言っているが全然信用できないがな

 

とりあえず今日はこのまま解散し帰宅すると夕方頃にそはらが家を訪ねて来た

 

「すいません。突然お邪魔しちゃって」

 

「いや、別に構わないが何の用だ?」

 

「えっと、イカロスさんにお願いがあって」

 

「私、ですか?」

 

「はい。実はちょっと協力して欲しいんです」

 

「イカロスに?」

 

※※※※※

 

次の日

シュウは目を覚まし居間に入るとそこにはラップに包まれた朝食が置かれていた

 

「あぁ・・・そういえば日和とイカロスは外出しているだっけ・・・」

 

昨日、そはらが家に訪ねてイカロスにカードを使わせてほしいと相談に来た。そはらは智樹にお灸を据えようと『智樹が見たパンツは爆弾に変わる』という機能はないかと相談するとイカロスが可能だというのでシュウはカードをそはらに渡しそはらは日和とイカロスを連れて今日はショッピングに行くと言っていた

 

「今日は一人か・・・」

 

縁側に出て座り込み空を見上げると今日は雲一つない青空が広がっている。時々遠くから大きな爆発音が聞こえるが気にしなければいつもと変わらない日常だ

 

「そういえばこうやって一人で空を見上げるのって久しぶりだな・・・」

 

 

シュウが一人で空を見上げている時に日和達はショッピングを終えて喫茶店でお茶をしていた

 

「そういえばこうやってイカロスさんや風音さんと一緒にお出かけするの初めてだね」

 

「そうですね。結構一緒にいたりしますけどこういうのは初めてですね」

 

「ねぇ、風音さんの事、日和さんって呼んでもいいかな?私の事はそはらって呼んで欲しいの」

 

「はい。そはらさん」

 

「うん日和さん」

 

「ふふ、なんだかちょっと恥ずかしいですね」

 

「そのうち慣れるわよ。そういえば日和さんって緋村君とどれぐらいの付き合いなの?」

 

「そうですね。両親がシュウ君の両親と同級生だったみたいです。ですから生まれた時から一緒だったんですけど最初の頃は私はシュウ君の事が苦手でした」

 

「そうなの?」

 

「はい。シュウ君、今もそうですが昔からアニメとか漫画が好きで一日中漫画を読んだりしていたのであまり話す機会がなかったんです。でもこの鈴の髪飾りが私とシュウ君を繋げてくれたんです」

 

そう言って髪飾りに触れるとチリーンと音が鳴る。その音を聞いて風音は今でも昨日の事のように憶えている記憶を思い出す

 

今から数年前

日和は両親から鈴の髪飾りを貰い嬉しくて早速つけて外に出ると気づいたらその髪飾りをなくしていた

 

誕生日プレゼントだから絶対に見つけないとって思っていたんですが見つからなくて一人で泣いているとシュウ君が日和の元に現れた

 

体中傷だらけで服には泥がいっぱいくっついた

 

『大切な物ならしっかり持っていろ』

 

そう言って日和が探していた髪飾りを差し出す

 

「あ、ありがとうシュウ君」

 

「その髪飾り、似合っているよ。日和」

 

「えへへ、ありがとうシュウ君」

 

※※※※

 

「へぇ~そんなことがあったんだ」

 

「はい。それで私がその時にシュウ君にどうして今まで喋ってくれなかったのって聞いたら『女の子と話した事がなかったから何を話せばいいのか分からなかった』って答えたから私、笑っちゃったんです

でもシュウ君は優しい所があるんだなって思って私はその時に多分シュウ君の事が好きになったんだと思います

でも、その後に両親が亡くなって一緒に住むようになっちゃったからちょっと意識しちゃいますけど楽しいです。シュウ君といれて」

 

「いいな~私もトモちゃんとは幼馴染だけどいつもエッチな事ばかり考えているからそういうのはあんまりないな~」

 

「私からすればそはらさんと桜井君は仲が良いと思います。そはらさんだって桜井君の事が好きでしょう」

 

「え・・・」

 

ボフン!と頭から煙が出て顔が真っ赤になる

 

「べ、別にトモちゃんとはそういうのはないと・・・」

 

「ふふ、今はいいじゃないですか。今はただ友達として楽しければそれで。でもいつかは告白したい私はそう考えています」

 

「大人だね日和さん」

 

「私よりイカロスさんの方が大人ですよ」

 

「私、ですか?」

 

「はい。イカロスさん、掃除に料理まで何でもできますしそれに美人ですし」

 

「確かにイカロスさんって何でもできる大人って感じだね」

 

「私が、大人・・・?」

 

「あまり深く考える必要はありませんよ。今のままのイカロスさんが良いって事ですから」

 

「それじゃあそろそろ行こうか。日和さん、他に寄りたいところはない?」

 

「私は大丈夫です。イカロスさんは?」

 

「私、スイカを育ててみたいです」

 

「じゃあ次はスイカを探しに行きましょう」

 

そして三人の楽しいショッピングは続いた

 

一方シュウは暇で桜井家を訪れるとそこには家がなく焼け野原になっていた。焼け野原の中心には智樹が全裸で倒れていた

 

「シュウ、俺のパンツと家が・・・なくなっちまったよぉ・・・」

 

「後でカードの力で戻してやるから元気出せ。俺も今日は一人だから一緒に飯でも食いに行かないか智樹」

 

「・・・ありがとうシュウ」



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第十話クリスマス

秋が終わり次第に寒くなり空見町の商店街はすっかりクリスマスムードになり色々な店がクリスマス用の装飾を施しクリスマスソングが流れている

 

「もうこんな季節になりましたねシュウ君」

 

「そうだな。今日はクリスマスだが特にやる事もないしな」

 

「マスター、クリスマスって何ですか?」

 

「あぁ、イカロスは知らなかったか。クリスマスってのは元々はイエス・キリストという人の誕生日を祝うイベントだったんだがそれがいつのまにか家族や友達でパーティーするイベントに変わったんだ。まぁ、家は毎年何もしないからあんま関係のない話だがな」

 

「シュウ君、今年はパーティーやらない?」

 

「はぁ?なんでまた突然」

 

「だってイカロスさんが来てそろそろ半年ですしお祝いしませんか?」

 

よく考えてみればそうだ。イカロスが来て日常から非日常になったがそれもなれれば楽しい日々だった。そうか、もう半年も経つのか・・・

 

「いんじゃないかシュウ」

 

「おわぁ!部長」

 

いつの間にか部長がシュウの背後に立っており思わず距離を取ってしまった

 

部長の後ろには智樹、そはら、会長といつものメンバーがいる

 

「面白い話をしているのね。会長も混ぜてもらえないかしら?」

 

「じゃあみんなでやりましょうシュウ君。みんなでやった方が楽しいですよ」

 

「まぁ、いいけど。料理とかケーキとかは買えばいいとして他に何か必要な物は・・・」

 

「会長、クラッカーが欲しいわ。桜井君を人間大砲で鳴らすとかどうかな」

 

「ふむ、智樹、人間大砲の設計図があるがやってみないか?」

 

「死ぬわ!だけどクラッカーは欲しいな」

 

「トモちゃん、クラッカーは隣町までいかないとないよ」

 

「それならイカロスに買い物に行かせるか」

 

「お任せくださいマスター」

 

「では、第二回イカロスのお使い。今回の目的は隣町でクラッカーを購入せよ。隣町には人が多いから空を飛んでいく場合は人気のない所で降りて歩いてクラッカーを購入、その後また人気のない所で空を飛んで俺の家まで戻る。分かったな」

 

「はい。では行ってきます」

 

イカロスが羽を広げ空に羽ばたくとシュウ達は商店街で買い物を始めた

 

空を飛び暫くすると隣町が見えてきたのでイカロスは近くの山に降りた

 

「あら、ここで降りるのね」

 

イカロスの前に現れたのは水色の髪をツインテールにした少女だ

 

「久しぶりねアルファー、ステルス機能が万全だから探すのに苦労したわ」

 

「・・・」

 

イカロスは自分の記憶のメモリーを探すがそれに該当する人物はいなかった。つまりイカロスはこの子に会ったことはないという事だ

 

「あぁ、そういえばプロテクトがかかっていたんだっけ。だったら一応自己紹介しておくべきかしら。痛みつける前に」

 

少女は思いっきり地面をけると物凄い速さでイカロスに接近するとイカロスの顔を掴み

後ろの岩山に激突し岩山に亀裂が走る

 

「初めまして、ではないけど私は電子戦用エンジェロイドタイプβ(ベータ)nymph(ニンフ)。落し物は持ち主の所に帰るべきよアルファー」



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第十一話取り戻した記憶

ニンフと名乗る少女はイカロスの脳にハッキングを開始した

 

「機能プロテクト99%正常、可変ウィングプロテクト72%正常。記憶域(メモリー)プロテクト100%に思考制御(エモーシャル)プロテクト100%。なるほど。それで瞳の色が緑色に変化しているのね」

 

「貴女は、だ、れ?」

 

記憶(メモリー)だけでなく感情にまでプロテクトをかけられているなんてまるで人形ね」

 

手を放しイカロスを蹴り飛ばすと岩山は完全に壊れイカロスは岩山を貫通し吹き飛んだ

 

「あはは、これがあのシナプスを震撼させた空の女王(ウラヌス・クイーン)なんてね」

 

 

空の女王(ウラヌス・クイーン)・・・?私は愛玩用、エンジェロイド」

 

「はぁ?愛玩用?あなたが愛玩用?あんまり笑わせないでよ」

 

逃げられないようにニンフはイカロスの頭を踏みつける

 

「シナプスに連れ帰れってマスターに言われているの。大人しく付いて来るわよね」

 

「わたしは・・・愛玩用、エンジェロイド」

 

「そう、もう少しお仕置きがしなくちゃ」

 

※※※※※

 

イカロスが敵と接触している頃シュウはみんなと家の飾りつけを行っている

居間には何故かイカロスさんお誕生日おめでとうという横断幕が掲げられている

 

「日和、イカロスって今日が誕生日なの?」

 

「ううん。この前、聞いたら分からないって言われたからそはらさんと守形先輩に相談したの」

 

「天使と言ったらクリスマスだろう」

 

「あぁ、確かにそうですね」

 

守形先輩の意見に智樹が同意する。確かにイメージとしては合っている

 

「そりゃ、そうだけど・・・」

 

「それにイカロスさんってまだ人形みたいなところがあるっていうかあんまり笑わないし少しでも笑えるようになったらな~って思って」

 

「日和の言う事は分かったが俺からすればイカロスは十分に感情を出しているように見えるがな」

 

「そうなの?」

 

「表には出ていないけどヒヨコやスイカ可愛がったりスイカを畑に植えて育てているし初めてのお使いで買ったスイカが腐っているのがわかったら落ち込んでお墓を作って手を合わせたりとイカロスって感情ではないけど行動だけで見れば十分に感情表現できているんだと思うんだよな」

 

「それにしてもイカロスちゃん、少し帰りが遅くないかしら。もう一時間は経つわ」

 

会長の言う通り既にかなり時間が経っているが一向にイカロスが帰ってこない。歩きならわかるがイカロスは空を飛べる。こんなに遅くなるなんて普通では少し考えられない

 

「まぁ、あいつなら平気だと思うが・・・早く帰って来いよイカロス」

 

最後だけみんなに聞こえないように小声で呟いた

 

シュウの心配するようにイカロスはずっと痛めつけられ羽は片方が折れており体中ボロボロだ

 

「マス・・・ターが・・・呼ん・・・でいる。そう・・・だ。クラッカーを・・・買いに行かないと・・・」

 

「どこへ行く気なの」

 

ガシッと頭を掴まれニンフはイカロスの顔を木に何度もぶつける

 

「ねぇ、聞いているの。どこに行くの空の女王(ウラヌス・クイーン)さん」

 

木が折れると今度は地面に顔を叩きつける

 

「わた・・・しは、愛・・・が、よう・・・」

 

「あくまで愛玩用って言い張る気ね。いいわ、だったら思い出させてあげる。私は電子戦用エンジェロイド。私のハッキングシステムで記憶域(メモリー)のプロテクトだけ解いてあげるわ

そして思い出しなさい。自分が愛玩用なんてちゃちな物じゃないってことを教えてあげる」

 

ハッキングを暗いイカロスの頭の中で何かの映像が流れ込んできた

 

自分の目の前に翼を生やした人間が食事をしている

 

地蟲(ダウナー)どもが巨大な塔を建設している」

 

「どもう天まで届く塔を建ててこのシナプスに攻め入る気らしい」

 

「ククッこのシナプスまで!?地を這う虫は空が遠くて大変だな」

 

「あの国には地蟲(ダウナー)が全部で何百万もいるらしいがどうする賭けるかね?」

 

「おいおい空の女王(ウラヌス・クイーン)相手にか?賭けにならないだろう」

 

ふふ・・・だから何分もつかだよ」

 

「よし、決まりだイカロス」

 

「はい」

 

踏みつぶして(・・・・・・)こい。一匹残らずだ」

 

「はい」

 

これは・・・私の記憶?

イカロスは地上降りると次々と街の人間を殺していき最後は矢を国の中心に放つと着弾と同時に巨大な爆発が起こり国はたった一瞬で滅んだ

 

この映像を見て前にマスターが言っていた言葉を思い出した

『・・・あぁ、兵器は人の命を奪うだけで誰にも幸せにする事も出来ずただ人を不幸にするだけでなんか、イヤだなって思って』

 

あぁ・・・私は兵器なんだ

 

その事実が分かった時、悲しくて、苦しくて涙が止まらない

 

「あーはっはっは!何よ。泣く程悲しかったの。自分が愛玩用じゃなかったのが泣く程!?アハッアハハ!ハハ・・・ちょっと待て。お前、なぜ泣ける(・・・・・)?」

 

「・・・」

 

「私が解いてのは記憶域(メモリー)だけ・・・思考制御(エモーショナル)のプロテクトは・・・解いていない!」

 

その時イカロスから膨大なエネルギーが発生した

 

思考制御(エモーショナル)プロテクト100%解除。可変ウィングプロテクト解除進行中・・・80・・・90・・・。並行して自己修復プログラム開始。昨日プロテクト解除進行中。70・・・80・・・90・・・100』

 

マズい・・瞳の色が紅く・・・ヤツ(・・)が目覚める。あのシナプスを恐怖におとしいれた空の女王(ウラヌス・クイーン)

 

瞳の色が緑から紅に変わり頭の上には天使を思わせるリングが浮かんでいる

 

『自己修復完了。目標(ターゲット)捕捉(ロックオン)

 

Artemis(永久追尾空対空弾)発射

 

イカロスの羽からいくつものホーミングミサイルが発射されニンフに襲い掛かる

 

「くっ!」

 

ニンフはその場から離れるがアルテミスは追尾型の兵器。どこまで逃げても追ってくる

 

(何故だ!何故プロテクトが解けた・・・まさか私のハッキングをシステムを逆二乗っ取った?いや、そんなことあり得ない!)

 

ニンフが動揺しそのせいで一個のミサイルがニンフの前から迫って来た

 

「しまっ!」

 

着弾し爆発が起こりニンフは地面に叩きつけられた。起き上がると自分の顔に泥が付いているのに気づいた

 

「私の顔に、泥が・・・いや!汚い汚い汚い!汚いもの大っ嫌い!

よくも、私の顔に泥を・・・許さない!粉々にしてやる!」

 

大きく息を吸い込むとエネルギーが収束されていく

 

超々超音波振動子(パラダイス=ソング)

 

口から超音波のブレスを放つとイカロスは自分の周囲に防御層で囲むとニンフの技を簡単に防いだ

 

aegis(絶対防御層)・・・ですって」

 

次にイカロスは弓と矢を形成していく。矢は普通の矢だが弓は黒く禍々しい気配を出しており威圧感がある

 

「おい・・・ちょっと待て。それは最終兵器(APOLLON)。正気か!この国ごと吹っ飛ぶぞ」

 

「大・・・丈夫・・・貴女に着弾したら・・・aegis(イージス)を全開にして地上を守る」

 

「バカな!そんな事をすれば貴様もただではすまない!」

 

「それ・・・でも・・・私は・・・マスターの所へ戻る・・・。私は愛玩用(・・・)エンジェロイドタイプα(アルファ)イカロス・・・お願い・・・退いて・・・ニンフ・・・」

 

「・・・分かったわよ。私もむざむざ消える気はないわ。だけど一つだけ言っておく。いつまでだまし続けられる(・・・・・・・・)のかしら?」

 

「!」

 

「あんたの正体を知ったらあんたのマスターはどう思うんでしょうね。この『大量破壊兵器』」

 

言い捨てる様にしてニンフは認識をされないようにする光学迷彩のようなシステムを起動させてイカロスの視界から消えイカロスは武器をしまい瞳の色も紅から緑に戻った

 

「私はどうすれば、いいんでしょうか・・・」

 

応えの出ない自分に投げかけイカロスはマスターの元に帰った

 

時刻は日付が変わる五分前。シュウは自宅の居間でイカロスの帰りを待っていた。みんなには謝って帰ってもらいパーティーは後日やる事が決まった

日和にも先に寝る様にって言っておいたため今はシュウしか起きていない

 

ガララ・・・

 

玄関の戸が開く音がし帰って来たと思い玄関に向かうとそこにはボロボロになったイカロスがいた

 

「イカロス!どうしたんだその怪我!?」

 

「えっと・・・ぼーっとしていたら・・・木に、ぶつかって」

 

「まぁ、いいや。とりあえず風呂に入って泥を落としてこい」

 

「はい」

 

私はマスターに嘘をついた。嘘は人を傷つけるもの。でも大丈夫。隠し通せれば絶対に大丈夫

 

そう自分に言い聞かせ風呂場に向かうために居間の横を通り過ぎると居間にかかっている横断幕を見て急に胸が締め付けられるようになった

 

「あ・・・」

 

居間の中ではシュウガ薬箱を取り出し消毒液を探している

 

「待てよ・・・イカロスに消毒液とかって効くのか?いや、そもそも消毒液を使っていいのか?」

 

悩んでいるとシュウの背中にイカロスが顔をうずめてきた

 

「イカロス?」

 

そこには涙を流し必死に泣き声を抑えようとし泣いているイカロスの姿があった

 

「何があったか知らないが泣きたいなら思う存分に泣け。お前がそれで少しでも楽になれるのなら俺はマスターとしてお前の傍にいてやるから」

 

「はい・・・ありがとう、ございます。マスター」

 

イカロスがこの家に来て半年が経つが俺はこの時、初めてイカロスが自分の感情を表に出してしかも顔に出ているのをみた。でもその表情が笑顔ではなく悲しい顔だったのがとても悔しかった



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第十二話ありがとう

イカロスと戦闘後ニンフはシナプスに帰還しマスターに今回の事を報告していた

 

「失態だな空の女王(ウラヌス・クイーン)を連れ戻すどころか逆に目覚めさせてしまうとは・・・」

 

β(ベータ)」はもう廃棄していいんじゃないか?地蟲(ダウナー)共は何千年たってもシナプスを見つける事も出来ないようですし電子戦用など必要ないだろう」

 

「お待ちください!次こそは必ず」

 

「そうだな・・・目覚めた空の女王(ウラヌス・クイーン)にお前がかなうはずがないがお前にチャンスをやろう」

 

一枚のカードを取り出し起動させると黒いスライムのようなゲル状な物がニンフの体をよじ登り首輪と合体すると激痛がニンフの体に電流のように走る

 

「さぁ、行け。私達を愉しませろ」

 

「は、はいぃマスター。タイプβ(ベータ)ニンフ出撃します」

 

※※※※※

 

イカロスが初めて感情を表に出した時から数日が経ったある日の事だ

 

「シュウ君、起きて。シュウ君」

 

「イカロス~今日は休みだからもう少し寝かせて・・・」

 

「イカロスさんじゃないよ。それより起きて」

 

確かに声がイカロスではない。目を開けるとそこには日和の顔があった

 

「珍しいな。お前が起こしに来るなんて」

 

「実は、ちょっと見て欲しいの」

 

「何を?」

 

日和に連れられ居間に行くとそこにはイカロスの他にもう一人いた。イカロスとは違い七色の光り輝く透明な羽を持っており綺麗だ。黙々とお菓子を食べながら昼ドラを鑑賞している

 

「あの子、知っている?」

 

「俺は知らないぞ。俺よりイカロスの方が知っているだろう。多分同じシナプスの出身だろう」

 

「どうするの?」

 

「気にしなくていいだろう。とりあえずお客さんの感じで対応すれば大丈夫だから」

 

「うん。じゃあ私は準備に戻るね」

 

「準備?」

 

何の準備か聞く前に日和は台所に引っ込んでしまったのでシュウはとりあえず居間に入るといつもの指定席に座り新聞を広げる

 

「おぉ、今日の夜の映画は見ないとな」

 

「ねぇ・・・」

 

「何かね?」

 

「私の事はスルーなの?」

 

「・・・構って欲しいのか?」

 

「違うわよ!普通、家に知らない奴がいたら警戒するでしょうが!」

 

「ほら、家にはイカロスがいるだろう。イカロスが警戒しないという事はお前を無害だと判断しているからだ。だったら俺が心配する必要はないだろう」

 

「うっ・・・」

 

正論を言われて何も言い返せないでいると家のチャイムが鳴り智樹達のいつものメンバーがやってきた

 

「よぉ、みんな揃って今日は何の用だ?」

 

「シュウ、花見をするぞ」

 

「は?」

 

こうしてシュウが聞かされていない所で花見の話が進みみんなで花見をする事になった

 

今日は空見町の大桜の下でお祭りがおこなわれており沢山ので出店が出ており人が沢山いて賑わっている

 

「シュウ、お前の家にまた未確認生物が来たのか?」

 

「あぁ、朝起きたら居間に居座っていた」

 

「騒動に巻き込まれるなお前」

 

「一日で家を跡形もなく爆発させたお前よりはましだ。こっちは基本的に無害だから」

 

「お、おう。それにしてもあいつら未確認生物への順応が早くないか?」

 

そはら達は既にニンフを真ん中に置いて一緒にご飯を食べている

 

「まぁ、仲良き事は良い事だという事だよ智樹」

 

「そういうもんか?」

 

「そういうもんだ」

 

食後になりニンフはイカロスを連れて皆と少し離れる

 

「ねぇ、いい加減永久追尾空対空弾(アルテミス)捕捉(ロック)解除してくれない。頭の中でアラームが鳴りっぱなしで変になりそうなんだけど」

 

「何しに・・・来たの?」

 

「別に、あんたに対抗できないし下界にちょっと興味が沸いたから観光しに来たのよ。安心してあんたの正体をばらすような事はしないから」

 

「そう」

 

アラームが鳴り止みイカロスが捕捉(ロック)を外したようだ

 

「随分と今のマスターのご執心ね。刷り込み(インプリンティング)のせいというのもあるけど地蟲(ダウナー)なんて見下して踏みつぶす存在じゃない」

 

「マスターの傍で人間を見ていればその考えは変わる。ニンフもきっとわかる」

 

それだけ言ってイカロスは皆の所に戻っていった

 

「考えが変わる?人間達に何を教わるっていうのよ。私はあんたを連れ帰らないと行けないのよ。そのためにもまずはあいつの今のマスターを人質に取る」

 

ステルス機能を発動させニンフの姿が周囲から見えなくなるとみんなから離れて一人でいるシュウの元に近づく

 

(マスターを人質にすれば流石のあいつでもこっちのいう事を聞くはず)

 

そっと背後から近寄りシュウとの距離が縮まっていく

 

(捉えた)

 

「それで隠れたつもりかニンフ」

 

「な!」

 

ステルス機能を解除しシュウから距離を取る

 

「お前、私が見えるのか?」

 

「いや、全く見えなかったよ」

 

「じゃあどうして」

 

「確かに姿は全く見えないし気配も感じない。でも草を踏む足音までは消せないだろう」

 

「!」

 

自分達より下等な存在である人間と侮りそれにより作戦が失敗した。文字通り足元をすくわれたと言う訳だ

 

「まぁ、丁度お前と話してみたかったからちょっと隣に座って話さないか?」

 

「・・・分かったわ」

 

シュウの隣に座りシュウは口を開いた

 

「お前はイカロスを奪還に来たのか?」

 

「えぜ、そうよ。『イカロスを奪還せよ』それが私のマスターからの命令よ」

 

「命令、ね。お前はそんな生き方で楽しいのか?」

 

「楽しい?」

 

「あぁ、半年前はイカロスはいつも俺の命令を待つだけだった。でも暮らしている内に自分で動くようになりいつしか自分のやりたい事をやるようになった。そんな姿を見ていたらただマスターの命令に従っているだけって楽しいのかなって思って」

 

「楽しいも何も私達エンジェロイドはマスターを喜ばせるためだけに作られたのよ」

 

「でも、感情はあるだろう。嬉しければ笑うし悲しければ泣く。感情だってあるんだ。だったらお前らエンジェロイドは自分の意思で物事を決められるんじゃないか?」

 

「・・・じゃあ聞くけど私達がマスターに逆らって自由になってそれからどうするのよ?私達は命令される事が存在意義なのよ。自由なんて逆に生きていけないわ」

 

「・・・そうか。少し、お前達の事が分かったよ。ありがとなニンフ」

 

「え?」

 

お礼を言われて驚きの顔を浮かべる

 

「なんだよ。俺がお前に質問してそれにお前が答えてくれたんだから礼を言うのは当たり前だろう」

 

「あ、そう」

 

シュウは立ち上がりみんなの元に戻るとニンフは胸の中にある感情に戸惑っていた

 

(ありがとうは私が言う言葉じゃなかった?)

 

シナプスではマスターの命令は絶対。だからどんな理不尽な命令でも遂行しなければならない

私は電子戦用エンジェロイドのため戦闘力は低い。それに加え地上の人間はシナプスに攻めてくる事もないので電子戦用の私には何もすることがなかった

だからマスターからは毎日のように役立たずと罵られてきた

 

ある日、シナプスに地上の鳥が迷い込んできたことがあった。その時、私はその鳥を飼っていたがある日、マスターの命令でその鳥を自分の手で引き千切り殺したこともあった。やらなければ廃棄される。私は廃棄が怖くて鳥を殺した

その時でも私はマスターにありがとうございますというしかなかった

 

「お~いニンフ!」

 

突然名前を呼ばれ現実に戻るとシュウがイカロスを連れてやってきた

 

「何よ。まだ何か用があるの?」

 

「いいや、さっきの質問に答えてくれたお礼だ。ありがとなニンフ」

 

そう言ってシュウはニンフにリンゴ飴を渡した

ニンフはリンゴ飴を受け取り一口舐めるとリンゴの酸味と飴の甘みが口の中に広がる

 

(惑わされるな。私はエンジェロイド。この鎖がある限りマスターには逆らえない)

 

でもシュウに出会い初めてありがとうと言われてとても嬉しかった

そう思うと目から涙が止まらなく流れ出してきた

 

「ニンフ、大丈夫かお前」

 

「だ、大丈夫よ。なんでもないから」

 

「いや、でも・・・」

 

「大丈夫だって言っているでしょうが!」

 

「わ、分かったよ。はぁ~イカロス、後はお願い」

 

「はい。マスター」

 

シュウがみんなの元に戻るとニンフは再びリンゴ飴を舐め始める。イカロスはニンフの頭にそっと手を置き撫でる

 

「何しているのよアンタ」

 

「ニンフ、地上(ここ)の空は広いわ」

 

「はぁ?何それ意味分かんないんだけど」



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第十三話笑えないエンジェロイド

祭りの次の日

ニンフは洗面所についている鏡に映る自分の首輪を見る。そこには何かのゲージが表記されておりそれが少しづつ消えていっている

 

「もう、時間がないようね」

 

「どうしたのニンフさん?」

 

日和が洗面所にやって来た。手にはカゴを抱えており中には洗濯物が入っている

 

「何でもないわ。それよりそのカゴはここに置けばいいの?」

 

「え、そうだけど」

 

ニンフは日和からカゴを取り上げてその場所に置いた

 

「ありがとうニンフさん」

 

「いいのよこれぐらい」

 

そっけない返事をしてニンフは洗面所から出ていく

 

「ありがとう・・・か」

 

不思議な事にありがとうと言う言葉を言われるとすごく嬉しい。でも、どうしてかわからないけど日和に言われるありがとうとシュウに言われるありがとうは同じだけど何かが違う。シュウのありがとうは胸の辺りが熱くなって日和に言われる以上に嬉しく思える

 

「ほんと人間って変な生き物ね。でも楽しかったわ。ありがとうシュウ。そしてさようなら」

 

別れの言葉をつぶやきシュウの家を出てニンフは空へと飛び立っていった

 

ニンフと別れた日和は居間に戻るとイカロスがシュウにお茶を淹れていた

 

「どうぞマスター」

 

「ありがとうイカロス」

 

「ふぅ~イカロスはお茶を淹れるのが上手くなったな」

 

「日和さんが教えてくれたので」

 

「幸せそうだねシュウ君」

 

「そりゃあ、こうやってのんびりしていればね。何も起こらないから幸せだよ」

 

「ねぇ、シュウ君はニンフさんの事をどう思っているの?」

 

「イカロスとは違うタイプのエンジェロイドだと思っているよ」

 

「そうじゃなくて・・・」

 

「あいつさ、笑わないんだよな。こっちに来て一度も笑った顔を見ていないんだ。あいつはイカロスと違って感情が表に出るけどそれでも笑った顔を見た事がないんだよな。イカロス、お前はニンフが笑っている顔って見た事あるか」

 

「いいえ、見た事ありません」

 

思い出すのはシナプスでのニンフの境遇。毎日マスターに酷い目にあわされ泣くのを我慢している。エンジェロイドは笑えない。それは感情がないからではなくマスターの命令を聞くだけのエンジェロイドには笑うなんて必要ないからだ

 

「そうか・・・さて、ちょっと出かけるか」

 

「どこかに行くの?」

 

「あぁ、ニンフを迎えに行く」

 

「じゃあ私も一緒に行くよシュウ君」

 

「ありがとな日和」

 

三人が家を出ると家の前には智樹達が待っていた

 

「ニンフの所に行くんだろうシュウ」

 

「ニンフさんのために私もトモちゃんも手伝うわ」

 

「友達が困っているなら助けないとなシュウ」

 

「会長も頑張っちゃうわよ」

 

「作戦は任せろシュウ」

 

「じゃあみんな、一つ俺のわがままに付き合ってくれ。ニンフを迎えに行く」

 

※※※※※

 

シュウの家を飛び出したニンフは祭りが行われていた大桜の所にやって来た

 

「お祭りが終わったら寂しいわね・・・あぁ、来年も行きたかったな。その時は、今度は一緒にシュウとリンゴ飴、食べたかったな」

 

「こんな所で何しているのニンフ」

 

「!」

 

思い出に浸っているとニンフの前に二人のエンジェロイドが現れた

 

「どうして・・・どうしてここにあんた達がいるのよγ(ガンマー)

 

「そう、私たち(・・・)は要撃用エンジェロイドタイプγ(ガンマ―)Harpy(ハーピー)』案内しなさい壊し(・・)に行きましょう空の女王(ウラヌス・クイーン)



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第十四話力の意味

ハーピーと合流したニンフは三人で作戦会議を行っていた

 

「まずはあんたの『P=ステルス』システムで私達の姿を空の女王(ウラヌス・クイーン)が知覚不能になるまで消す

後は空の女王(ウラヌス・クイーン)の後ろなり正面から近づいてこの摂氏3000度の気化した物体を秒速4Kmで打ち出す超高熱圧縮発射砲prometeus(プロメテウス)で壊す

絶対防御層(イージス)さえ展開させなければ空の女王(ウラヌス・クイーン)も一瞬で黒焦げよ」

 

「マスターの命令は『連れ戻す』じゃなかったの」

 

「それが色々事情があってねぇ・・・可変ウィングの(コア)だけ持って帰って来いってさ」

 

「そう・・・」

 

「それにしてもあんたはマスターに相当気に入られているようね」

 

「え?」

 

「私達がここに寄越されたのはあんた一人じゃ空の女王(ウラヌス・クイーン)に勝てないって心配しているから私達を寄越したのよ。後も一つ伝言。早く帰ってこい。お前がいないと寂しいだってさ」

 

マスターが・・・私がいないと・・さみしいって・・・

 

ニンフが嬉しそうな顔をしているのを空の王とやらはシナプスから眺めていた

 

「これは傑作だな。まさかここまでの反応を示すとは。お前のは良き性分はもう決まっている。意気揚々として帰ってきた所で『お前は廃棄処分だ』っていったらあいつはどんな絶望的な顔をするのか楽しみだ。ハハ・・・ハハハハ!」

 

「じゃあP=ステルスシステムをかけるね」

 

「えぇ、お願い」

 

ハーピー達が背中を向けニンフが二人の背に手を当てると大きく息を吸い込んだ(・・・・・・・)

 

 

超々超音波振動子(パラダイス=ソング)

 

「!!!」

 

意外な行動にハーピーも空の王も驚いた。大きな爆発が起こりニンフの前は木っ端微塵に吹き飛んだ

 

「はははは・・・!粉々だ!ざまぁみろ。マスターが寂しいだってそんなウソに騙されるわけないでしょう!そんな・・・ウソに・・・」

 

本当は信じたかった。でも、あの人は私を必要としていない。ハーピーを遣わせたのは居間の状況を愉しむ。ただそれだけの事

 

「よくも、やってくれたわね」

 

「!」

 

ハーピー達は生きていた。ニンフの腕を掴み逃げられないように拘束する

 

「どうする?このクソチビ」

 

「さぁ、痛めつければ言う事聞くんじゃないの?」

 

「じゃあ、とりあえず逃げられないように羽をむしっておくか」

 

「いや、それだけは」

 

片方の羽を掴み力任せにひっぱいり羽が引き千切られていく

 

「いやぁぁぁぁ!」

 

激痛が全身を駆け巡る

 

「どうだ、少しは言う事を聞く気になったか?」

 

「いや・・・だ」

 

「何?」

 

「いや・・・だ!」

 

「わかったわ。じゃあもう一つの羽もむしるか」

 

「止めて!もうやめて!」

 

しかしハーピーはニンフの言葉を聞かずに残った羽を引き千切る

 

「手間かけさせないで欲しいわね。さっさと私達にP=ステルスシステムをかけろ。さもなくばこの街を消し飛ばすぞ」

 

「やれるものならやってみろよ」

 

「!」

 

ハーピー達が顔を上げるとそこにはシュウ達の姿があった

無残なニンフの姿をみてイカロスは怒りと言う感情が芽生えた

 

「可変ウィングシステム安全装置(セーフティ)解除」

 

「駄目よアルファ―バレちゃう!」

 

イカロスはこの時、覚悟を決めていた。シュウが兵器が嫌だと言っていた。でも、それでもニンフを助けたいと

 

「モード空の女王(ウラヌス・クイーン)発動(オン)

 

瞳の色が緑から紅に変わり頭には天使の輪が出現する

 

「イカロス、お前・・・」

 

「申し訳ありませんマスター。私は今まで嘘をついていました。私は戦略(・・)エンジェロイドタイプα(アルファー)Ikaros(イカロス)。マスターの嫌いな兵器です」

 

これで私はきっとマスターに嫌われて・・・

 

「知っていたさ」

 

「え?」

 

「俺はお前がそういう兵器だって知っていたさ。俺が兵器が嫌だって言ったのはお前が可哀想に思えたからだ

お前はスイカを可愛がったりヒヨコを育てたりそういう優しい面があるのにそれが生まれた時から人殺しの兵器だってのはかわいそうだなって思った

 

でもなイカロス、知っているか。力って言うのは使い方でなんにでも変わっちまうんだ。昔はその力を人を殺すために使っていたかもしれない。でも今、お前は何のためにその力を使うんだ?」

 

「ニンフを・・助けたいです」

 

「だったらそれは立派な誰かを守る力(・・・・・・)だ。お前は戦略エンジェロイドなんかじゃない!お前は俺の愛玩用エンジェロイドだ!」

 

あぁ・・・私はこの人がマスターでよかった。私の事を信じてくれる

私の事を好きでいてくれる。こんなに嬉しい事は他にはない

嬉しさが胸いっぱいに広がり涙が止まらない。本当の事を言ってそれを受け入れてもらえるのってこんなにも嬉しい事なんだ

 

「その力で友達を救ってくれイカロス!」

 

「はいマスター。タイプα(アルファー)イカロス出撃します」

 

空の女王と呼ばれた天使は空へと上がりニンフを守るために再び戦場へと身を投じた

 



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第十五話自由

イカロスとハーピー達が上空で戦闘を行っている間にシュウ達に駆け寄る

 

「今の内にニンフの鎖を切るぞ」

 

皆がニンフに繋がっている鎖を掴む

 

「駄目!そんなことをしたら・・・!」

 

皆が鎖を引っ張ると鎖から電流のようなものが流れ弾かれた

 

「なんだよこの鎖」

 

「この首輪は爆弾になっていてタイムリミットになったら起爆コードが鎖から送られて爆発するの。下手に刺激したら誤爆するかもしれないのよ」

 

「ん~、部長。なんかいいアイディアないですか?」

 

「ふむ、鎖とは引っ張る力には強いがねじられる力には極端に弱いからな。極力にじったところからこの斧で叩ききればいけるんじゃないか?」

 

「よし、それでいこう」

 

「人の話を聞きなさいよ!この辺り一帯もあんた達も吹き飛んじゃうかもしれないのよ」

 

「だからどうした?」

 

「え?」

 

「私、もっとニンフさんと一緒にお話ししたいの」

 

「私もだよニンフさん。今度、女の子達だけでショッピングに行きましょう」

 

「日和・・・そはら・・・」

 

「お前は俺達を巻き込まないように一人になった。だけど俺達はお前を助けたいんだ。それにイカロスが一人で頑張っているんだ。イカロスが体張って頑張っているのにマスターである俺が逃げるわけにはいけないだろう」

 

シュウ達が下で頑張っている時に上空ではイカロスは二人を相手に戦っている

 

ハーピーは二人の連携攻撃でイカロスに攻撃を仕掛けるがイカロスはその攻撃を防ぎ反撃して相手に着実に攻撃を当てていく

 

「くそ、こうなったらprometeus(プロメテウス)で押し切るぞ」

 

二人は片腕を銃火器に変えイカロスに狙いを定めて発射する。着弾し爆発したが煙が晴れるとイカロスはaegis(イージス)を展開して攻撃を防ぐ

 

「構わず撃ち続けろ!」

 

絶え間のない連射を行うがその全てが防がれる

 

「コネクト」

 

イカロスの羽が電子に変わり空中に接続されるとイカロスの後方から巨大なロボが出現した

 

「あれは・・・」

 

「ウラヌス・システム」

 

「ケルベロス」

 

イカロスの言葉でロボの中から大量のビットがハーピー目掛けて発射された

 

「くっ!」

 

ケルベロスには追尾性能もありどこに逃げても追いかけてくる

 

「この!」

 

ハーピーが無理な態勢でPrometheus(プロメテウス)を放つがイカロスはビットを自分の前に六つ持ってくると六角形の形を取りシールドを形成しハーピーのPrometheus(プロメテウス)を防ぐと攻撃を吸収しハーピーに跳ね返した

 

「何!」

 

跳ね返った攻撃をかわすとかわした先にケルベロスが直撃しPrometheus《プロメテウス》を破壊した

 

「こうなったら接近して肉弾戦だ」

 

「おう!」

 

ビットの雨の中を潜り抜けイカロスに接近するとイカロスの後方からウラヌス・システムから巨大な二本のアームがステルス機能を解除してハーピーに迫る

 

「しまっ!」

 

回避する事も出来ずアームから形成された重力の結界に閉じこまれそのまま後方へと押されていった

 

イカロスは後方のロボにエネルギーを収束していき巨大なエネルギー砲を放つ準備を整える

 

シュウ達も電流の痛みを我慢しながら鎖をねじっていく

 

「シュウ!最後はお前が決めろ!」

 

「了解!部長」

 

部長から斧を受け取り思いっきり振り上げる

 

「砲撃!」

 

「いっけぇぇぇぇ!」

 

イカロスの砲撃がハーピーの間を通り過ぎていきシュウが振り下ろした斧はニンフの鎖を断ち切った

 

イカロスの砲撃でハーピー達は空へと逃げて行った

 

「敵勢力の撤退を確認。通常モードに移行します」

 

瞳の色がいつもの緑に戻りゆっくりと下に降りる

 

「マスター、鎖の方はどうですか?」

 

「断ち切ってやったぜ!」

 

自慢げにイカロスに切れた鎖を見せる

 

「良かった」

 

イカロスはホッとした様子でニンフの傍に行く

 

「ニンフ」

 

「何よ?」

 

イカロスは空を指さしニンフは空を見上げると前にイカロスの言った言葉を思い出す

 

「あぁ・・・地上(ここ)の空は広いわね」

 

この日、初めて自由を手に入れたニンフはきっと初めて笑う事が出来た



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第十六話自由とは

ハーピーの襲撃から数日が経った

鎖が切れ一人になったニンフをシュウは引き取り家に住まわせている

 

それから数日後ニンフは洗面台の鏡に映る自分を見つめている

 

「これからどうしようかな・・・」

 

鎖が切れて首輪に仕掛けられた爆弾が爆発する危険は無くなった。鎖が亡くなったという事は同時に私はマスターを失ったという事であるわけでエンジェロイドはマスターの命令を遂行する事に存在意義があるのに私にはそのマスターがいない

 

「新しいマスターか・・・」

 

一番最初に頭に浮かんだのは鎖を切ってくれたシュウの顔だ。イカロスのマスターでもあるけど別に一人が複数のエンジェロイドと主従関係を結んではならないという制約もない

 

洗面台から移動し居間に行くとシュウはいつもの指定席でお茶を飲んでいる

 

「おはようニンフ」

 

「おはようじゃないわよ。もうお昼よ。日和なんて朝早くから畑で仕事しているのよ」

 

「ここは俺の家。つまり俺が何をしようと自由だ。それよりそこのリモコン取ってくれない?」

 

「あぁ、これね」

 

足元に転がっているリモコンを取りシュウに渡す

 

「ありがとうニンフ」

 

「・・・」

 

「どうした?」

 

「別に、何でもないわよ」

 

地上の人間はすぐにお礼を言う。地上とシナプスで違うのは分かるが正直止めて欲しい。調子が狂うというか言われ慣れていない言葉だからどう対処していいか分からない

 

「ねぇ、シュウ」

 

「うん?」

 

「シュウは私とインプリンティングをしようとか思わないの?」

 

「ニンフ、ちょっとそこに座りなさい」

 

「う、うん・・・」

 

ニンフはシュウの前に座りシュウもニンフに向かい合う

 

「ニンフ、この際だから色々と言っておこうと思う。俺はお前に自由に生きて欲しいと思っている」

 

「自由に?」

 

「そう、誰かのために生きるのが悪いとは言わないがそれはインプリンティング有り無しとかじゃなくて自分がこの人だったらいいと思った奴のためにすればいい

今は自分の頭で考えて自分の意思で決めて生きればいいと思う。そうすればそのうちにそういう奴に会えるさ。焦らずにゆっくりやればいいさ」

 

「自分で、決める・・・」

 

今までそんな事をした事はなかった。ずっとマスターの命令で動いていた

 

「それでも命令されたほうが楽な事もあるのよ。エンジェロイドは命令を遂行するのが存在意義だから」

 

「それはお前を見ればよく分かるよ。命令を遂行する事で自分の存在を実感できる。だったらちょっと俺と賭けをしないか?」

 

「賭け?」

 

「あぁ、一年。今から一年の間に俺がお前に自由の素晴らしさとやらを教えてやる

一年の間にお前が自由の素晴らしさを理解して納得したら俺の勝ち

だけどお前がもし、自由の素晴らしさを理解出来なくてマスターが必要だと思うなら俺がお前のマスターになってやる。どうだ?」

 

「いいわ。その賭け乗ったわ」

 

「よし、じゃあ早速やるか」

 

「何をするの?」

 

「みんなで出掛けるぞ」

 

こうしてシュウの自由は素晴らしい作戦が始まった



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第十七話みんなでお出かけ

外から日和とイカロスが戻ってくるとシュウはみんなを連れて空見町にあるファッションセンターやまむらを訪れた

 

店の中に入ると色々な服が並んでおりその光景にニンフはしばし言葉も出ずに目を見開いている

 

「さてと、早速、ニンフに似合う服を選ぶとしよう。日和、手伝ってくれ」

 

「はい」

 

二人が服を探しに行きニンフはイカロスと二人きりになる

 

「ねぇ、アルファー。アルファーのその服は日和が選んだの?」

 

「うん」

 

イカロスは手に持っているスイカを撫でながら頷く

 

「人間ってどうして毎日違う服を着るのかな。シナプスではあの服装が普通だったし私達のこの服は自分の機能に合わせて作られて自動的に汚れも取れるから変える必要もないのにどうして人間はこんなにもたくさんの服を作るんだろう?」

 

「私にはわからない。でも前にマスターが言っていた。服の数だけコーディネートがある。その服をどう着こなすかを自由に探すのが楽しいって」

 

「自由・・・」

 

「お~いニンフ。ちょっと来てくれ」

 

「はいは~い。ねぇ、アルファー、アルファーはマスターがいるけど幸せ?」

 

「わからない。でも空の上にいた頃よりいいなって思う」

 

「そう。私もこっちにいる方が楽しいって思う事はあるけどやっぱりマスターは欲しいし命令されたいとも思うのはエンジェロイドだからなのかな」

 

そう言い残してニンフはシュウと日和の元に行くと二人はフリルの付いたワンピースを持っている

 

「なに、これ?」

 

「これはワンピースと言う服だ」

 

「装甲ゼロ、ステルス性なんて皆無じゃない。こんな服着れるわけないでしょう!」

 

「ニンフさん、地上ではそういった昨日は必要ないんですよ」

 

「そうだぜ。イカロスだっておんなじの着ているから大丈夫だろう」

 

「アルファーは強いからでしょう。私はアルファ―程強くないわよ」

 

どうしよう・・・ニンフにとって服というものは自分を守るための装備としか見ていない。イカロスの場合は俺が着てと言ったから着ているな

 

「いつも同じ服だし地上にいる間ぐらいはこういう服を着たっていいんじゃないか。それともお前が選ぶか?」

 

「・・・まぁ、シュウが言うなら良いわよ」

 

「そっか。じゃあとりあえずこれ買ってくるな」

 

会計を済ませニンフにワンピースを着替えさせている間にシュウと日和は次に行く場所を相談していた

 

「さて次はどうするかな」

 

「遊園地なんて楽しいんじゃないですか?」

 

「遊園地は駄目だな」

 

「どうして?」

 

「だってあいつらは人の常識を超えたスピードで飛べるんだぜ。ジェットコースターとか楽しめないだろう」

 

「そ、そうだね・・・」

 

ニンフはわからないがイカロスはマッハの速さで飛べる。そんな人達がジェットコースターに乗っても楽しめるとは到底思えない

 

「じゃあどうするんですか?」

 

「とりあえず動物園にでも行くか」

 

シュウ達一行が動物園に到着すると予想以上にニンフが食いついた

 

「まさか動物が好きだったとは・・・シナプスには動物がいないのか?」

 

「シナプスには動物はいません」

 

「そうなんだ」

 

てっきりペガサスとかそういった空想上の動物がいるのだと勝手に思っていた

 

「ねぇ、シュウ早く行こうよ!」

 

「はいはい」

 

ニンフがシュウの手を取り引っ張るとイカロスはそのシーンを見て一瞬だけ動力炉に痛みを感じた

 

『システムスキャン開始・・・各部異常なし。動力炉異常なし。オールグリーン』

 

「どうしたのイカロスさん?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

「そう、なら行きましょう」

 

日和に手を引かれイカロスもシュウ達の後を追うがさっきの動力炉の痛みはなんだったのかと考えていた

 

「地上って色々な動物がいるのね。えも、どうしてみんな檻の中にいるの?」

 

「理由は色々ある。こうやって人間の見世物になる動物、人間が狩りすぎて数が少なくなり保護するためにいる動物と色々だ

 

だけど動物達はどうなんだろうな

 

ここにいれば天敵にやられる心配はないし餌だって毎日もらえて野生にいるより長い間生きている事が出来る

だけど檻の中にいる以上は自由に走り回る事も出来ない

お前達エンジェロイドもマスターと言う檻の中にいるんだ。鎖につながれている以上は何処にも行く事は出来ない。お前なら分かるんじゃないか。マスターの居なくなったお前なら」

 

「確かに鎖が切れてマスターがいなくなったら空が広く感じたのは事実よ。でもやっぱりマスターは欲しいし命令されたいとも思うわ。自分がいて良い場所が欲しい。誰かに必要とされたいという気持ちもあるのよ」

 

「そっか。なら俺の家にずっといればいいさ」

 

「え?」

 

「俺の家にずっといればいいしやりたい事を自分で見つければいい。それはインプリンティングしなくても出来る事なんだぞ」

 

「ふふ、そうね。何だかシュウの言う事が少しは分かった気がする。鎖はあくまで主従関係を現すためのもの。別になくたって居場所もあるし誰かを手伝えるそういう事でしょうシュウ」

 

「それだけ理解出来ればいいさ。どうだ俺の勝ちか?」

 

「まだ始まったばかりでしょう。後一年はゆっくり考えさせてもらうわ」



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第十八話転校生

どうも、緋村シュウです

昨日、俺は日和とイカロス、ニンフを連れて動物園に行きました。の後からなんだかイカロスとニンフの様子が少しおかしくなりました

イカロスはあの日以来よく分からないが時々歯切れの悪くなりよそよそしい態度を取るようになりニンフは感謝の言葉を述べたりすると顔を赤くなるようになった

 

「日和、俺は二人に何かしただろうか?」

 

学校に行く前にイカロスに食器の後片付けを頼みシュウは日和と共に畑仕事をしていた

 

「私に聞かれても・・・心当たりないんですか?」

 

「ないな。イカロスにしては感情の表現が出来ないから歯切れが悪くなったりしているのだと思うがニンフに関しては分からん。出掛けた日は日和だっていたから何か知っているかなと思って聞いたんだが駄目か・・・

日和、女の子同士の方が聞きやすい事もあると思うからそれとなく聞いておいてくれないか?」

 

「うん。分かった」

 

「じゃあそろそろ学校に行くか」

 

二人は仕事を終えて制服に着替える

 

「それじゃあ行ってくる」

 

「行ってきます」

 

「行ってらっしゃいませマスター」

 

二人を見送り居間に戻るとニンフはお菓子を食べながらテレビを見ていた

 

「ねぇ、シュウ達はどこに行っているの?」

 

「学校」

 

「学校?なにそれ」

 

「マスター達の年齢の子供は通う義務があるの」

 

「ふ~ん。面白そうだから私も行きましょう。アルファーもいかない?」

 

「私は留守番」

 

「でもマスターの私生活を覗きたいと思わない」

 

「・・・」

 

暫く考え込みイカロスは一枚のカードを取り出した

 

学校に着き二人は教室に入り朝のHRの時間になると先生がやってきて教卓の前に立つ

 

「え~突然ですが今日より転校生が二人来ています」

 

突然の転校生に教室が一時騒がしくなった。学校が小さいため転校生が来るとなればすぐに話題になるがそういった話題もなく突然の転校生でしかも二人となれば余計だ

 

「二人の転校生が同じクラスなんて珍しいね」

 

「あぁ、どんな奴でも驚きはしないがな」

 

「あはは・・・イカロスさん達が居るからある程度の事ならスルーできちゃうよね」

 

「それでは入りなさい」

 

教室の扉が開き入って来た二人を見てシュウと日和の思考が停止した

 

威枷鷺主(イカロス)さんとニンフさんだ。二人共この前まで外国にいたため今回は特例として同じクラスに入りました」

 

夜露死苦(よろしく)

 

「・・・」

 

二人共制服を着ておりイカロスは制服の上にパーカーを羽織り羽を隠している

かくして未確認生物が二人も学校にやって来た

 

朝のHRが終わるとシュウは速攻で二人の手を引っ張り新大陸発見部の部室に二人を連れ込んだ

 

「イカロス、ニンフ。お前らどうして学校に来ているんだ?」

 

「面白そうだから♪」

 

「興味本位で来るな!ていうかどうやって転入手続したんだ」

 

「カードを使って先生の記憶を弄りました」

 

「犯罪だぞそれは!」

 

「うるさいわね。別にいいじゃない。シュウが自由にしていいって言ったんだから来てもいいじゃない」

 

「それにも限度があるだろう・・・はぁ、とりあえずイカロス、カードでお前達に羽があるのは当然だという風に記憶を弄っておけ。この町全体だ

そうすれば羽を隠さなくても良くなる。窮屈だろう羽を隠していたら」

 

「ありがとうございます」

 

カードを起動させ記憶を書き換えた

 

「あのマスター、怒ってますか?」

 

「まぁ、最初は怒ったがよく考えれば新しい刺激が合っていいんじゃないかと思った。それにお前が自分の考えを持って行動したんだからもう何も言わない。とりあえず今日一日過ごしてみろ」

 

こうして未確認生物との学校生活が幕を開けた



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第十九話学校生活とラブレター

1時間目 社会

今日はオーストラリアについての授業だがイカロスはまるで教科書の絵を写したかのように綺麗なオーストラリアの地形を書いていた

 

2時間目 家庭科

先生が脱帽するほどの魚を丸ごと一匹使って豪華な魚の造りなどを作り美味いとクラス中で評判になった

 

3時間目 数学

東大クラスの問題を竹原が出すがイカロス、ニンフが共にすべて答えて竹原は惨敗した

 

4時間目 英語

イカロスが完璧な発音で英単語を読み上げ先生は自信を無くし自習になった

 

お昼になるとうわさが広がり学校中で二人は有名人となり二人を見ようと男子が食堂に詰めかけていた

 

一方二人は食堂にあるテレビの前のテーブルに座りニンフは昼ドラを鑑賞しイカロスは昼食のお弁当を食べていた

 

「う~む、これは良い傾向、なのか?」

 

「でも心配していたほど大きな問題は起きていませんからいいんじゃないですか?」

 

「いや、既に起きているだろう。見ろよ、男連中がこぞって集まってきている状況だぞ」

 

「まぁ、いいじゃないかシュウ」

 

シュウの隣で部長が昼食を食べながら話に加わって来た

 

「でも、緋村君も大変よね~」

 

「大変?何が大変なんですか会長」

 

「二人共す~ごく人気でしょう。そんな二人に加えて風音さんとも一緒に住んでいるって知ったらどうなと思う?」

 

「・・・ヤバい」

 

それはつまりこの学校の全ての男子生徒を敵に回すという事だ。既に智樹はこの学校の全ての女子を敵に回せているというのにこのままでは自分の身が危ない

 

「いや、待て!ニンフは口が悪いから人気が減るはずだ!」

 

そう思いニンフの方を見ると男子の騒がしい声に怒り立ち上がる

 

「ちょっとそこの男共!うるさくて昼ドラが見れないでしょう!どっか行きなさいよ!」

 

「こ、これで・・・」

 

「い、いい~!」

 

ニンフに罵声を浴びせられて逆に男子は全員が興奮している。大丈夫かこの学校は・・・

 

「まぁ、二人共ちゃんと学校に馴染んでいるから大丈夫だろう」

 

シュウが言ったようにそれから二人は学校に馴染みクラスの女子とも話す程度になったある日の事だ

 

イカロスとニンフ、日和と一緒に帰るために下駄箱に行きイカロスとニンフが下駄箱を開けると中から大量の手紙が出てきた

 

「これはまた凄い量のラブレターだな」

 

「くっだらない」

 

ニンフはそう言って手紙を全部ゴミ箱に捨てた

 

「ちょっと待て!」

 

「何よ。捨てるのに文句あるの?」

 

「あるよ。お前な、相手が気持ちを込めて書いた手紙を読まずに捨てるのは失礼だろう」

 

「シュウ、一つだけ言うわ。気持ちを伝えるなら直接口で言いなさいよ!」

 

「た、確かにそうだ!」

 

「昼ドラで言っていたわ。男なら自分の口で言えと」

 

「そうだな。ニンフの言う通りだ。男なら口で伝えないといけないよな」

 

「そうよ、じゃあ帰りましょう」

 

「そうだな。帰りにお菓子でも買ってくか」

 

「じゃあ私はポテチがいいな」

 

「あの~シュウ君。それでいいの?」

 

「問題ない」

 

親指を立てて問題ないと主張する

 

「あの、マスター、私は読んでから帰ります」

 

「そうか。どこで読むんだ?」

 

「図書室で」

 

「そうですか」

 

図書室で読むとは差出人に同情するな

 

シュウ達が家に帰りイカロスは一人で図書室で一通一通丁寧に読み始める

全部の手紙には好き、愛しているなどの言葉が使われておりイカロスはその言葉に疑問を持った

 

「愛・・・意味は知っている。でも、どういう事なのか私には理解できない。どうしてだろう。この言葉はすっごく気になる」

 

愛について考えるとイカロスの頭から煙が上がって来た

 

「やっぱりこうなるのね・・・」

 

図書室の扉を開けるとそこには先に帰ったはずのニンフが居た

 

「先に帰ったんじゃなかったの?」

 

「あんたが心配で戻って来たのよ。どうせ理解出来なくてオーバーヒート起こしているんじゃないかと思ってね」

 

「うん。愛って何だろう・・・」

 

「誰かを好きという事よ」

 

「好き?ニンフはいるの好きな人」

 

「え・・・い、いるわけないでしょう!」

 

「そう・・・」

 

突然イカロスに好きな人がいるかと聞かれて慌てて否定するがイカロスに質問された時ニンフの頭にシュウの顔が浮かんでいた

 

(ちょっと、どうしてそこでシュウの顔が出てくるのよ。あいつは人間で私はエンジェロイドなのよ)

 

だけどそう思えば思う程にシュウの事が頭から離れなくなり異常があるわけでもないのに動力炉が痛くなる

 

(どうしよう。私、もしかしてエンジェロイドなのにシュウの事が・・・)

 

自分の気持ちに戸惑うニンフと愛の事が分からないイカロス

二人の心は何処に行くのだろう



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第二十話ダイブ・ゲーム

ある日の事だ

新大陸発見部の部室をみんなで掃除をしていると智樹が今日見たという夢について話した

 

「夢って前にトモちゃんが見ていたっていうあの夢?」

 

「う~ん前の夢とはちょっと違うん感じだったんだよな。最近は全然見ていなかったから気にしなかったんだが今日久し振りに見たら気になっちまって」

 

「そうか、智樹もついに新大陸に興味を持ったと言う訳だな」

 

「それは絶対に違う!」

 

部長の言葉を全力で速攻で否定する

 

「ねぇ、アルファー。あれ、使ってみない?」

 

「え?」

 

「昔シナプスで流行ってたでしょう?アレよ」

 

「でもアレは危険じゃ・・・」

 

「イカロス、何か知っているなら教えてくれ」

 

「マスターがそう言うのなら・・・『ダイブ・ゲーム』」

 

「昔、シナプスで流行ったゲームよ。文字通り地蟲(ダウナー)の夢に潜る遊びよ」

 

「シナプスとは」

 

「ストップ!」

 

部長が言い切る前にニンフが部長の言葉を遮る

 

「言い忘れていたけどシナプスに関する質問は一切禁止よ。私達の最上位機密事項に設定されているし知らない方がいい(・・・・・・・・)

 

「知らない方がいいとはどういう事だ?」

 

「そのままの意味よ。世界には知らない方が幸せな事実もあるのよ。それよりダイブ・ゲームやってみる?」

 

ニンフがカードを取り出し尋ねると智樹は頷きそれに続いてみんなも頷いた

 

カードを起動させると卵の形をした機械が出現しニンフが機械に文字を打ち込んでいく

 

接続(コネクト)開始。リンクゲート開門」

 

機械が動き始めるとゲートが出現した

 

「それじゃあ気を付けてね」

 

「イカロス達はいかないのか?」

 

「はい。私達は行けないのでここでマスター達の帰りを待っています」

 

「エンジェロイドは眠らない。私達にとって夢は禁忌(タブー)だから」

 

みんなはゲートをくぐり桜井智樹の夢へとダイブした

 

転送された先は草原だった

 

「ここがトモちゃんの、夢?」

 

「桜井君の夢って言うから会長もっと凄いの想像していたけど~普通ね」

 

「それにしても和だな~」

 

「ほんとですねシュウ君」

 

「智樹、それでこれからどうするんだ?」

 

「うぅ~ん・・・いつもならここで羽の生えた女の子がバサバサッと飛んで来るんすけど」

 

すると遠くから羽が羽ばたく音が聞こえてきた

 

「お!来た来た。お~い!」

 

振り返った先にいたのは巨大な翼竜だった

 

「あれ・・・?」

 

「いやぁぁぁ!」

 

「あれ?あれあれ?」

 

そはらは悲鳴を上げ智樹はおかしいな~と思いながら全員は全速力で逃走を開始するも翼竜は智樹たちの後を追いかけてきた

 

「随分と大きな女の子ね桜井君」

 

「メスか?」

 

「今はオスもメスを関係ないでしょう部長!」

 

会長は楽しそうに話し部長は冷静に解析しているが今は逃げなければ食われる

 

「違う!これは俺の夢じゃない」

 

走っていると突如地面に大きな穴が空きみんなそこに落ちていき落ちた先は水晶が生えている洞窟の中だ

 

「はぁ~死ぬかと思った」

 

「これ、トモちゃんの夢じゃないなら誰の夢なの?」

 

「会長こういうスリルのある夢好きよ」

 

「日和、大丈夫か?」

 

「う、うん大丈夫」

 

ゴゴゴゴゴゴ!と今度は地響きが洞窟内に響き渡る

 

「・・・部長、洞窟でこの音と言ったらあれ、ですよね」

 

「あぁ、あれだな」

 

後ろを見ると巨大な石が転がってきた

 

「ぎゃぁぁぁ!」

 

「桜井君の夢ってマニアックね~」

 

「違う!俺の夢じゃない!」

 

「智樹、すまん。これ、俺が昨日見た夢だ」

 

「部長の夢なら納得です!」

 

シュウ達の前にさっきくぐったゲートが出現しそこに飛び込むとシュウ達は元の世界に戻って来た

 

「ゴメンゴメン。間違えちゃった」

 

「間違えたで済むか!本当に死ぬかと思ったぞ」

 

「何よ、間違えたぐらいでそんなに怒んないでよね」

 

「まぁ、収穫もあったからよしとするか」

 

そう言って智樹はポケットから水晶を取り出した

 

「トモちゃん!それってさっきの洞窟にあった水晶!」

 

「ふっふっふ、この大きさと輝きからしてこれ一つで一生遊んで・・・」

 

しかし水晶は智樹の手元から消えていった

 

「へ?どうしてだ!?」

 

「言い忘れてたけど夢の中の物は持ち帰れないから。元が夢だけにね」

 

「チクショウ!」

 

「智樹、今回の目的はお前の夢の謎を解くことだからな。そこを忘れるな」

 

「分かったよシュウ!ニンフ、次は間違えるなよ!」

 

「うっさいわね。じゃあ改めて桜井智樹の夢に繋ぐわね」

 

「日和、これ結構危険だし危ないからここで待っていたらどうだ?」

 

「そうですね。私じゃあ足手まといかもしれないですしここでイカロスさん達と待っています」

 

「繋いだわよ」

 

再びゲートが開き夢の中へとダイブした

 

ダイブした先は廃墟と化した街の中だった。硝煙が立ち込め辺りには銃を持った兵士達が倒れていた

 

「な、なんだこの夢は?」

 

「智樹の夢じゃないのか?」

 

「全然違う!」

 

「日和が来なくて良かったって心底思うな。しかしこれじゃあまるで本物の戦争だな」

 

「ゲリラだ!」

 

「やっちまえ!」

 

声が聞こえそっちに視線をやると銃を持った兵士がこっちに銃口を向けている

 

「やば!隠れろ!」

 

智樹、そはら、部長は近くの瓦礫に身を隠しシュウと会長は違う瓦礫に身を隠すと兵士達は銃を撃ちがれきが削れていく

 

「ねぇ、緋村君?」

 

「なんですか会長?」

 

「緋村君ってサバゲーとかしたことある?」

 

「ゲーム内ではしましたがやるしかないですよね」

 

「じゃあ私が突っ込むから緋村君はサポートお願いしてもいいかしら?」

 

「了解」

 

二人は落ちている銃を掴み会長ががれきから飛び出すとシュウは瓦礫から顔を出し銃を構えて引き金を引き兵士を銃撃すると会長は笑いながら引き金を引き兵士を殺していき最後にはランチャーを取り出し飛んでいたヘリコプターに放ち墜落させ爆発した

 

「また、滅ぼしてしまったわ」

 

会長はこっちを向くと銃を乱射しながらこっちに走って来た

 

「これ、会長の夢だわ」

 

「ニンフさん!ニンフさん!なんか一番来ちゃいけない人の夢に来ちゃったみたいですよ!」

 

 

再びゲートが出現し飛び込むとそこは今までとは違う本物そっくりの草原だ

 

「あれ、みんなは?」

 

周囲を見渡すと智樹達の姿が見当たらない

するとバサバサッと音が聞こえて空を見上げるとそこには羽の生えた女の子がいた



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第二十一話智樹の夢

羽の生えた女の子はゆっくりとシュウの前に降りてきた

腰まで届く青い髪をしており紙に隠れて目元は見えない。女の子には羽が四枚ありおそらく結構位が高いのかもしれない

 

「初めまして緋村君」

 

「俺を知っているのか?」

 

「えぇ、今までずっと見てきたから。本当はトモくんの所にイカロスを落とすつもりったけどまさか貴方が拾うなんてね」

 

「どう言う事だ?」

 

「詳しくは言えないわ。ただ、私の娘達を助けて欲しかった」

 

「じゃあ、あんたがイカロス達を造ったのか?」

 

「えぇ、私はダイタロス。シナプスの科学者よ。と言ってもシナプスの王とは敵対関係だからシナプスとは無関係だけどね。緋村君、ここで私と会った事はトモくんには内緒にしておいてください。そして私の娘達をどうか守ってください」

 

女の子を羽を広げて空へと上がっていく

 

「待て!まだ聞きたい事が!」

 

手を伸ばすがその手は空を切りシュウは現実世界へと戻された

 

「マスター!」

 

「あれ、イカロス?」

 

「どこに行っていたのよシュウ。探すの大変だったんだからね」

 

「ここは・・・現実か」

 

「なにかあったのかシュウ?」

 

「いえ、ちょっと昨日の夢にいたようです。それより部長、その頭のタンコブはどうしたんですか?智樹もなんかボロボロだし」

 

部長の頭には大きなタンコブが出来ており智樹はそはらから制裁を受けたかのようにボコボコにされている

 

「まぁ、色々とあってな」

 

「そうですか。ニンフ、智樹の夢に行けない原因は分かったか?」

 

「ちょっと待ってて。今調べて・・・ってなにこれ!?智樹の夢にプロテクトが掛けれれている」

 

「プロテクトだと?」

 

「ちょっと待ってて。いますぐクラックするから」

 

「部長、おかしいと思いませんか?」

 

「あぁ、プロテクトをかけているという事は誰かが人為的に智樹の夢に行けないようにしているという事だ。いったい誰が?」

 

おそらくあのダイタロスの仕業だろうと思うが彼女の事は秘密にしてくれと約束している以上は言えないからここは黙っておこう

 

「あの、マスター」

 

「どうしたイカロス?」

 

「ダイブ・ゲームはもうやめた方が・・・」

 

「危険でもあるのか?」

 

「いえ、そうではなく・・・」

 

イカロスの言葉は歯切れが悪く何か隠しているようだ

 

「よし!クラック完了。今度こそ正真正銘智樹の夢よ」

 

ニンフが再びゲートを開く

 

「イカロス、何かあるのかは分からないけど俺は大丈夫だ。それにダイタロスにお前達を頼むって頼まれたから心配するな」

 

「会ったのですか?」

 

「あぁ、さっきな。あ、これは秘密にしておいてくれよ」

 

「はい」

 

「じゃあ行ってくる」

 

ゲートをくぐり出た先は何かの機械の上で何もない殺風景な場所だ

 

「ここが、トモちゃんの、夢?」

 

「やっとこられたわね」

 

「違う!」

 

「え?ここ、トモちゃんの夢じゃないの?」

 

「全然違う。俺の夢は緑あふれる草原だし、こんな殺風景なところじゃないし」

 

「それじゃあまた失敗?」

 

(おかしい。俺が訪れた場所が智樹の夢だとすればあの場所に出るのが普通だ。それなのにどうしてこんな所に。それにイカロスの心配していた事と関係があるのか?)

 

考え込んでいると部長が座り込み何かを見ている

 

「何を見ているんですか部長?」

 

「これを見てみろ」

 

指さした所を見るとそこは葉を落とした小さな木が立っておりどんぐりが落ちている

 

「これはシイの木と言って常緑樹なんだ」

 

「常緑樹って確か一年中葉が茂っている木ですよね」

 

「あぁ、だがこの木は葉を落として冬眠しているという事は現実では有り得ない」

 

「つまりここは夢の中と言うわけですか」

 

(だが、それはあくまで現実の常識で考えた場合だがな)

 

「ねぇ、あれ、なんだろう」

 

そはらが指さした方を見るとそこには何か塔のようなものが建っている

近くに寄ってみるとそれは石で出来ており石板には文字が書かれているが読めない

 

「なんか怖く思うな」

 

「怖い?」

 

「文字って書き方で感情が出るじゃないですか。この文字は何というか悲しみ、怒り、絶望、そういった感情が伝わってきてなんんだか怖いです」

 

「私も、なんだかちょっと気持ち悪い」

 

「帰るかそはら?」

 

「うん・・・」

 

数々の謎を残しながらみんなは現実世界へと帰還した

 

「結局智樹の夢については分からずじまいだったな」

 

「そうね。でも会長的には楽しかったわよ」

 

「まぁ、智樹の夢はその内分かるさ。イカロス、ゴミ捨てを手伝ってくれないか?」

 

「はい」

 

部長とイカロスはごみを持って学校の焼却炉に行きゴミを捨てる

 

「イカロス、お前、本当は智樹の夢の正体を知っているんじゃないのか?」

 

「それは・・・」

 

「答えられないと言う訳か」

 

「・・・すいません」

 

「まぁ、良い。それよりこれが何か分かるか?」

 

部長はポケットからドングリを取り出しイカロスに差し出す

 

「ただの、ドングリですが・・・」

 

部長はニンフの言葉を思い出す『言い忘れていたけど夢の中の物は持ち帰れないから』このドングリはさっきの智樹の夢と思われる場所で拾ったドングリだ

 

「そうだ。ただ(・・)のドングリだ」



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第二十二話文化祭

ダイブ・ゲームを行ってから数日が経過して中学校は文化祭の準備に取り掛かっていた

 

「今年も文化祭の季節が来ましたねシュウ君」

 

「そうだな・・・特にやる事は無いがな。日和はなにかするのか?」

 

「ううん。私も特には何も。シュウ君は?」

 

「俺も。部活では部長が智樹を使ってペットボトルロケットで大気圏突破するんだってさ」

 

「それって大丈夫なの?」

 

「普通に考えてあり得ないから大丈夫だよ。それにもし成功したら空気が薄くなって死ぬけどね」

 

「あはは・・・相変わらず考える事が凄いね部長さんは」

 

「と、いうわけで今年もブラブラと回るつもりだ。それに今年はイカロスとニンフもいるし目を離す訳にもいかないからな」

 

二人共色々なところを物珍しそうに見ており目を離すとどこかに行ってしまいそうだ

 

「ねぇ、シュウ。文化祭って何?」

 

「文化祭っていうのは・・・」

 

「シュウ!」

 

突然呼ばれて振り返ると智樹と部長、そはらに会長が走りながらこっちに接近してきた

 

「え?ちょ、止まれ!」

 

「ちょっと来い!」

 

シュウの腕を掴みそのまま攫われ音楽室に連行された

 

「で、どういう事だ?」

 

シュウだけでなくイカロスとニンフまで拉致って来た

 

「私立の奴らと音楽対決するぞ!」

 

「・・・部長。どういう事ですか?」

 

「簡単に言うとだな。私立に喧嘩売られたから買っただけだ」

 

「それで音楽対決ですか」

 

「あの、マスター。私立の奴らとは?」

 

「あぁ、お前達は知らなかったな。空見町には二つの中学校があるんだ。一つはここの県立空見中学校。そしてもう一つが空見町の中心にある富裕層が通うお坊ちゃん、お嬢様向けの私立空見学園の二つ

二つの学校はとも人が少ないから毎年文化祭は合同で行っているが仲がめちゃくちゃ悪いんだ」

 

「へぇ~面白そうね。私も混ぜてよ」

 

「私も、お役に立てるならなんでもします」

 

「あぁ、その時は頼む。それで智樹達は演奏できるのか?」

 

実際に演奏させてみると部長はホラ貝を吹きイカロスはタンバリンを叩いているはずなのにペニョ~ンという妙な音が出る。会長は完全にヘビメタ演奏だし智樹とそはらは付け焼刃程度にしかならない

 

「これ、マジでヤバいな」

 

「シュウは出来ないのか?」

 

「智樹、確かに俺はアニメや漫画で楽器の演奏方法は知っている。だが知識があるだけで演奏は全くできない!」

 

「威張る事かよ・・・」

 

「俺は他の所で頑張るから演奏は任せる。なぁ、ニンフは何かできないのか?」

 

「う~んと、これなら」

 

キーボードに指を走らせるとそこからとても綺麗な伴奏が流れた

 

「私、こういった機械系は得意だから」

 

「よし、ニンフは智樹達の付け焼刃なところを誤魔化してもらおう。後はイカロスだけだな。イカロス、とりあえず一通りやってみるか」

 

「はい」

 

色々な楽器を演奏させそして・・・

 

「これだ!イカロス、いけるか」

 

「はい。マスター」

 

「よし、俺もやる気が出てきた。ニンフ、ちょっと手伝ってくれ。一晩で明日の文化祭を大いに盛り上げてなおかつ私立に勝てる最高の舞台を用意してやる」

 

その日の夜にシュウは部屋にニンフと一緒に閉じこもりパソコンに向かい合って何やら作業をしている

 

「よし、ニンフここをもう少しアップにできないか?」

 

「えぇ~これ以上したら画質が悪くなるのよ」

 

「だったら画質の情報処理をして鮮明にしてくれ。お前の電算能力なら出来るだろう」

 

「出来るけど大変なのよ」

 

「やるからには全力で取り組む。後でなんでも奢ってやるから頼む!」

 

「もう仕方ないわね。じゃあリンゴ飴が食べたい」

 

「任せろ!」

 

二人の様子を扉の前でイカロスが二人の様子を見ている

 

「心配ですかイカロスさん」

 

「日和さん」

 

「マスターであるシュウ君がニンフさんに取られちゃったみたいで」

 

「わかりません。ですが、ニンフが頼られているのがなんだか羨ましく思えて」

 

「大丈夫よ。イカロスさんは明日がんばるんですから。だったらイカロスさんは明日いっぱい頑張ればシュウ君だって褒めてくれるわよ」

 

「そうしたら・・・手を、繋いでくれるでしょうか?」

 

「手を?う~んと・・・あ!大丈夫です。明日になればきってシュウ君はイカロスさんの手を繋いでくれるます。絶対に」

 

「絶対に?」

 

「はい!絶対にです」

 

日和は楽しそうに笑いイカロスは何が何か分からないでした



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第二十三話音楽対決と後夜祭

文化祭が始まる前に智樹達の元に私立の連中がやって来た

 

「やぁ、庶民共。わざわざ負けるために僕らに演奏勝負を仕掛けて来るなんてお礼を言わないとだね月乃」

 

「そうですわね義経お兄様。庶民がどんな演奏するのか楽しみですわね」

 

「なんだと!そっちこそ負けた後に吠え面かくなよな!」

 

「ははは!弱い犬程よく吠えるな」

 

「行きましょうお兄様。ここにては馬鹿が移りますわ」

 

「あいつら・・・言いたい事だけ言って・・・」

 

「あ、智樹!」

 

「なんだ、ニンフか。それよりシュウはどうしたんだ?」

 

「実はそれでちょっとお願いがあってね」

 

「お願い?」

 

※※※※※

 

文化祭が始まり体育館では私立の人達がフルオーケストラの演奏が行われていた

一糸乱れない完ぺきな演奏が行われていた

 

「私立の演奏凄かったね」

 

「あぁ~これじゃあ今年も私立の連中に馬鹿にされるかしら」

 

「やっぱり勝つなんて無理なのよ」

 

既に智樹達の負けというムードが広まっていた

 

「そんなことないよ!」

 

「日和・・・」

 

「新大陸発見部のみんなは私達のために頑張ってくれているんだから私達が応援しないと!」

 

「そうね。今年は桜井君や緋村君がいるもんね」

 

「そうよ。空見中の変人であるあの三人がいれば何でも出来るはずよ」

 

「頑張れ!桜井!」

 

「頑張れ!緋村!」

 

「俺達のために頑張ってくれ!」

 

『これより新大陸発見部の演奏を行います。曲名は『チクチク・B・チック』です』

 

幕が上がると作詞、作曲桜井智樹による演奏が始まった。ニンフが伴奏しイカロスがタンバリン、守形先輩がほら貝で演奏し智樹が歌うが歌詞が乳首に関する歌のためドン引きする

 

曲がサビに入ろうとした時にそはらがチョップを智樹に食らわす

 

「トモちゃん、この歌は何?」

 

「すいません。即興だったんでこれしか出来ませんでした」

 

「はーはっはっは!これはまた面白い物を見せてもらったよ」

 

「本当、貧乏人にふさわしいコミックバンドでしたわ」

 

「悪いけど!今までのは全部余興だよ」

 

「なに?」

 

「なんですのその余裕は?」

 

「ヴォーカル交代だ!俺に変わりイカロス」

 

マイクをイカロスに渡しイカロスが前に出る

部隊袖に目をやるとそこにはシュウがおり親指を立ててイカロスにサインを送るとイカロスは頷きまっすぐ前を向く

 

「曲は『Fallen down』」

 

曲が始まりイカロスが羽を広げそしてシュウが仕込んだ動画を後ろの画面に映した

イカロスの声に映像が合わさり観客達は息をするのも忘れるかのようにイカロスの歌声に耳を傾ける

 

「よし、掴みはOKだ。次は照明だ」

 

すぐさま部隊袖から体育館の二階に上がりそこに設置していた照明をスタンバイし曲がサビに突入すると照明を点灯させて光をイカロスに当てイカロスは羽を羽ばたかせ羽が舞い散る

 

そして曲が終了すると私立の連中は逃げる様に体育館から逃走し体育館ではイカロスの名前を呼ぶ声が何時までも続いた

 

演奏終了後シュウ達は中庭で打ち上げを行っていた

 

「いや~私立のやつらを負かせて良かったっすね」

 

「会長も大満足よ」

 

「それよりトモちゃんの最初の演奏は何だったの?」

 

「あぁ、実は俺が一晩徹夜したんだが完成できずに仕方なく時間を稼ぐように智樹にお願いしたんだ。まぁ、余興程度で済むと思ったらまさかあそこまで良くしてしまうとはさすがはイカロス。今回は助かったぜ」

 

「あの映像を一晩で作ったのか。流石オタクのシュウだな」

 

「まぁ、ニンフの手伝いもあったからできた事だ。おかげで最高のPVが出来ましたよ。ありがとなニンフ」

 

「後でリンゴ飴」

 

「分かってるって」

 

「そういえばトモちゃんは後夜祭はどうするの?」

 

「あぁ、行けるわけないだろう。後夜祭は男女が手を繋いでいかないと入れないんだぜ」

 

「俺は興味ないので帰るがシュウはどうするんだ?」

 

「俺も予定なし」

 

「じゃあ、私と・・・」

 

そう言いかけた時ニンフはイカロスが何か言いたそうにしているのが目に入った

 

(あぁ、そうか。アルファーもシュウの事が・・・)

 

「ねぇ、シュウ。アルファーを後夜祭に連れて行ってあげたら?」

 

「イカロスをか?」

 

「だって今回一番頑張ったのってアルファーでしょう。それぐらいしてあげないさいよ」

 

「まぁ、いいか。じゃあイカロス」

 

そう言ってシュウは手を差し伸べる

 

「はい」

 

イカロスはシュウの手を握りシュウと一緒に後夜祭に向かった

後夜祭では一緒に踊る生徒やその様子を見ている生徒がおりシュウとイカロスは手を繋いだまま近くの木陰で話していた

 

ニンフは学校の屋上からその様子を見ていた

 

「やっぱりシュウにはアルファーがいなきゃ駄目よね。大丈夫。私はエンジェロイド。人間なんかよりよっぽど高級に作られているんだかヘーキよ。ヘーキなんだから・・・」

 

そう自分で思っても動力炉が痛くて目からは涙がこぼれ落ちていく



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第二十四話シュウと智樹の抹殺任務

石板(ルール)文化祭が終わりいつもの日常に戻りシュウ達は家でのんびりとくつろいでいた

シュウは茶をすすりながら新聞を読みニンフは煎餅を食べながら昼ドラを鑑賞し日和は庭でイカロスの育てているスイカ畑でスイカの様子を見ている

 

「あ、お煎餅が無くなっちゃった」

 

新聞から目を離し煎餅の入っていた袋を見ると中は空っぽになっていた

 

「俺まだ二枚しか食べていないんだが」

 

「いいでしょう。美味しいんだから」

 

「はぁ・・・仕方ない。買いに行くか」

 

「私も行こうか?」

 

「近いから平気。昼ドラでもみながら待ってろ」

 

「は~い。いってらっしゃい」

 

「行ってきます」

 

家を出て近くのスーパーでいくつかお菓子を購入し家への帰り道を歩いていると近くの茂みがガサガサと揺れている

 

「犬か?」

 

立ち止まり茂みから出てくるのを待っていると出てきたのは羽の生えた金色の髪をした女だった

 

「お腹、空き、ました・・・」

 

そう言ってバタンと道の真ん中に倒れてしまった

 

(これ、絶対に厄介な奴だ!)

 

経験から分かる。イカロスの時もニンフの時も突然、目の前に現れて厄介事が起こる、これはもうパターン化してしている

そして今回もおそらく何らかの使命を持って地上に降りて来たエンジェロイドだろう

しかし、今はイカロスもニンフもいないため自分の身は自分で守らないといけないが目の前で倒れられてスルーする事は出来ない

 

「はぁ~、お人好しだよな本当に」

 

頭を掻きながらシュウはエンジェロイドに近付きさっき買ったお菓子をエンジェロイドに差し出す

 

「食べ物の匂い!」

 

シュウの手からお菓子を目にも止まらない速さで奪った

 

「いただきま~す!」

 

モグモグとお菓子を食べ進める

 

「それで、お前は何しにここに来たんだ?」

 

「それは秘密です!」

 

「そうかい」

 

エンジェロイドの前にお菓子を出して左右に揺らし取ろうと手を伸ばしてくるとサッとそれをかわしていく

 

「・・・」

 

「・・・」

 

サッサッサッサッサ!

 

サッサッサッサッサ!

 

「話したらくれる?」

 

「おう、全部くれてやる」

 

「サクライ・トモキ、及びヒムラ・シュウの抹殺です!」

 

袋にぎっしり入ったお菓子を見るなりすんなりと喋った。これはもう少し話を聞けそうだ

 

「なんで抹殺を?」

 

「数日前にサクライ・トモキがシナプスの中枢に侵入したから!」

 

中枢と言うのはおそらくあの石板があった場所だろう

 

「中枢にはなにかあるのか?」

 

石板(ルール)ってのがあってそれに干渉されたらマズいと判断したから」

 

「じゃあもう一人の方を抹殺する理由は?」

 

「イカロス先輩とニンフ先輩を奪ったから!」

 

「なるほど」

 

つまり自分の所有物を盗られたから仕返しに来たと言う訳か。器が小さいな空の王様は

 

「ねぇ、お菓子ちょうだいよ!」

 

「あぁ、じゃあ最後の質問。俺がその緋村シュウだがどうする?」

 

エンジェロイドはすぐさま間合いを取ると剣を取り出した

 

「貴方がヒムラ・シュウですか。いい人だと思ったのに残念です。貴方にうらみはありませんがマスターの命令によって殺します」

 

「マスターの命令ね。エンジェロイドはどうして命令に従う事しかできないのかね」

 

「うるさい!弱い人間が何を言う!」

 

「確かに俺は弱い。お前のその剣を一太刀でも喰らえば死ぬ。だが俺はお前達と違って自分で考えてやりたい事とやりたくない事を自分で決める意思を持っている。お前達なんかよりよっぽど強い」

 

「弱いのに強いなんておかしいです。貴方はバカですか?」

 

「意味を理解できないお前も馬鹿だろう。悔しかったら自分で決めろ。お前のやるべき事はお前が決めろ」

 

「・・・うるさい」

 

「ハイ?」

 

「エンジェロイドは命令を遂行する事が存在意義なのよ!だから黙って殺されろ!」

 

ほとんど逆切れ状態で剣を振りその一振りはシュウののど元を的確に捉えた

 

カキィン!

 

「!」

 

何か硬い物に剣が当たり弾かれた。見るといつの間にかシュウの前にイカロスがイージスを展開してシュウを守っていた

 

「久しぶりアストレア」

 

「イ、イカロス先輩。お、お、お久しぶりです」

 

「やっぱりイカロスの知り合い?」

 

「はい。私やニンフより後に作られたエンジェロイドです」

 

「あぁ~だからお前達の事を先輩と呼ぶのか」

 

「元気そうねアストレア」

 

「は、はい!イカロス先輩もお元気そうで・・・」

 

アストレアと言う名前のエンジェロイドはイカロスが登場するなりガチガチに緊張し冷や汗をかいている

 

「アストレア、マスターに何かあったら許さないから」

 

普段と同じ顔だが目が紅くなっているのでかなり強力な脅しになっている

 

「は、はい!」

 

「そう、ならいい」

 

「終わったか?」

 

「はいマスター」

 

「んじゃ帰るか。あ、そうだアストレア、お前も来いよ」

 

「へ?」

 

「どうせ家とかないんだろう。俺の家に来い。イカロスとニンフがいるからお前を安心できるだろう」

 

「じゃあ、お邪魔します」

 

家に帰り日和達にアストレアを紹介し地上に来た理由を話した

 

「抹殺って大丈夫なのシュウ君」

 

「うん。イカロスが脅したから平気。ニンフはどうだ?」

 

「まぁ、アルファーが言うならいいんじゃない。アストレアは馬鹿だから多分大丈夫よ」

 

「馬鹿ってエンジェロイドだろう。馬鹿なわけ・・・」

 

だが空腹で道端に倒れたりお菓子で簡単に機密情報を答えたりと結構馬鹿なところがあった

 

「馬鹿だな」

 

「でしょう。この機に説明しておくわ

私達第一世代エンジェロイドはこの三つの機能しか積めないの。例えばアルファーの場合は戦闘力と電算能力に特化している分感情が低いし逆に私は電算能力と感情制御に特化した分戦闘能力は低いの」

 

「へぇ~じゃあアストレアは?」

 

「デルタは戦闘能力と感情制御に特化した分電算能力が低い。つまり馬鹿って事」

 

「納得」

 

「じゃあ大丈夫って事でいいんですか?」

 

「そうね。デルタは近接に特化した接近型のエンジェロイドで接近戦ならアルファーよりも上。でも私とアルファーがいれば大丈夫でしょう」

 

「良かったです」

 

こうして新しいエンジェロイドのアストレアが加わったのであった



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第二十五話シナプス侵入

アストレアを家に迎えた次の日に部長から呼び出されシュウ達は部長の家のある山の中にいた

 

「部長、来ましたよ」

 

「あぁ、すまないな。呼び出してしまって」

 

「別に構いませんが何の用ですか?」

 

「ちょっと出掛ける用事があってな。俺の代わりに食料の調達をお願いしたいんだ」

 

「冬の時期に食料調達は難しいんですよ部長」

 

「まぁ、みんなでキャンプファイヤーと言うのも面白いじゃないか。それと、ニンフに頼みたい事がある」

 

「私に?」

 

「わかりました。じゃあイカロスは魚を釣ってくれ。日和とアストレアは山菜を取ってきてくれ」

 

「はいマスター」

 

「わかりましたシュウ君」

 

「ご飯のために頑張る!」

 

各自食料調達のために行動に移るとニンフは部長に連れられテントの中に入っていった

 

「それで私は何をすればいいの?」

 

「その前にこれを持ってくれ」

 

ニンフに手渡したのは腕時計だ

 

「時計?」

 

「それと、ダイブ・ゲームを使ってもう一度智樹の夢にダイブする事は出来るか?」

 

「出来るけどどうしてまた智樹の夢に?」

 

「智樹の夢がシナプスに通じているからでしょう部長」

 

シュウがテントの中に入ってきて部長が言おうとしていた台詞を先に言った

 

「知っていたのかシュウ?」

 

「まぁ、色々とありましてね。俺も行きますけど構わないでしょう部長」

 

「あぁ、問題ない」

 

「じゃあ早速ダイブ・ゲームを起動させるわね」

 

カードを起動させてダイブ・ゲームの機械を取り出しそこに文字を入力していきゲートを作る

 

「じゃあ行ってくる」

 

「留守番よろしくなニンフ」

 

「気を付けてね」

 

部長とシュウを見送りシュウと部長はシナプスへと向かった

 

着いた先は前に訪れたあの石板がある場所だ

 

「それでシュウ、何かを隠しているようだが何を隠している?」

 

「ダイブ・ゲームで一度だけ皆とはぐれた事があったじゃないですか。その時にイカロスを造ったシナプスの人に会ったんです」

 

「なに!?どうして今まで言わなかった?」

 

「口止めされていたからです。でも部長は既に智樹の夢がシナプスに通じていると判断しているからいいかなって思って。それよりここには何にもないですけどどうするんですか?」

 

「いや、下を見てみろ」

 

端っこまで移動して見下ろしてみるとそこには円盤のようなの物がいくつもの浮かんでおりその上に木々が生えている

 

「うわぁ~その下に見えるのは空見町かな?」

 

「おそらくな。行くぞシュウ」

 

「了解です」

 

ハンググライダーを組み立ててシュウと部長は空へと飛び近くの浮かんでいる円盤に着地するとそこは家がいくつも建っておりおそらく住宅街だろう

 

「それにしても自然溢れる場所ですね。イカロスを造ったというから機械的な所を想像していたんですけど」

 

「ここはおそらく一部だろう。だがそれよりも家や店があるのに誰もいないという方が気になる」

 

「いいじゃないですか部長。エンジェロイドに囲まれたりしたらシャレにならないですよ。ここは現実。つまり殺されたら死にます」

 

「それもそうだな。ここからは二手に分かれて調査しよう。シュウはこの周辺を頼む」

 

「了解です!」

 

部長と別れて周囲の調査するがエンジェロイドどころか人にすら会わない

 

「ここ美棲んでいる奴らはどこに行ったんだ?道も家の中もちゃんときれいに掃除されている。それなのに誰もいない。まるで時間が止まっているみたいだ」

 

その時、シュウの肩を誰かが叩いた

 

「!」

 

咄嗟に距離を取り振り返るとそこにはエンジェロイドがいた

 

(マズい。見つかった)

 

拳を握り戦闘態勢に入るがエンジェロイドは手に持っている箒で先程までシュウが立っていた場所にあった枯葉を掃いた

 

「もしかして掃除用のエンジェロイドか?」

 

敵意は感じられない。というより感情がないのかもしれない。何も言わずに近づき方を叩いたという事はもしかしたら言語能力も積んでいないロボに近い存在かもしれない

 

「なぁ、名前とかあるのか?」

 

試しに聞いてみるとエンジェロイドは掃除を一時中断しシュウの方を見て頷く

 

「じゃあ喋れるか?」

 

今度は首を横に振った

 

「う~ん、意思疎通が出来ればな・・・それにしても感情がないとイカロスに似ているな。イカロスに似ていてイカロスよりサイズは小さい・・・よし、君をミニロスと命名しよう」

 

「おい!こっちから声が聞こえたぞ」

 

「うわぁ!誰か来る」

 

シュウは慌てて近くの木に登り隠れるとやってきたのはニンフを襲ったハーピーの二人だ

 

「くそ、どこに行った!?」

 

「次はあっちを探すぞ」

 

その場をやり過ごし木から降りるとシュウの下にさっきのミニロスがやってきた

 

「なんだ?」

 

と聞いてみても言語能力がないため話は出来ない

 

「悪いな。ちょと忙しいからまた今度話そうなミニロス」

 

頭をそっと撫でてシュウは部長と合流するためにその場から離れ残ったミニロスはさっきシュウに撫でられたところを触ると動力炉がいつもより温かくなるのを感じた

 

※※※※※

 

シュウと別れた部長は住宅街から離れた所に建っている建物を見つけた

中に入るとそこにはいくつものカプセルが並んでおりその光景を見た瞬間に部長の脳内にいくつものイメージが流れ込んできた

 

電車の中で今日も仕事かとぼやくサラリーマン、縁側で膝の上に猫を抱いてくつろぐお婆さん。色々な景色が流れ込みやがてイメージが無くなると急に疲れが出てきた

 

「まさか、シナプスの住人は地上の人間に紛れて人間を監視しているのか」

 

だがその推測はすぐに外れた

近くのカプセルを覗くとそこには風音日和(・・・・)にそっくりな羽の生えた女性が眠っていた

 

「『夢』を見ているのさ」

 

いつの間にかハーピーが部長の背後に立ち銃口を向けている

 

「夢とはなんだ?」

 

「そうね。教えてもいいけど残念ながら処刑の時間よ」

 

「・・・そうだな。こちらも時間だ」

 

部長の後ろにダイブ・ゲームのゲートが出現した

 

「な!ダイブ・ゲームの転送!?」

 

「どういう事だ」

 

「なに、簡単な事だ。あらかじめニンフに時計を渡し時間が来たら転送するように言っておいたんだ。十二分にシナプスを調査しお前達に捕捉されるまでの時間を予測してな」

 

部長が説明し終えると部長は元の場所へと転送された

 

「おかえりシュウ、守形」

 

「ふぅ~疲れた。何か分かりましたか部長?」

 

「あぁ、色々な。ニンフ、一つだけ聞きたい。俺は・・・現実(・・)か」

 

「あぁ・・・あれを見たのね。心配しないで現実よアンタ(・・・)は」




ちょっとオレガノを登場させましたけどいいよね。だって後で登場するんだもん。接点があったっていいじゃない


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第二十六話予兆

アストレアを家に迎えてから食事に使う食材の量が一気に増えたせいでいつの間にか緋村家から食材が消えてイカロスと日和は二人で買い物に出かけておりシュウは自分の部屋で漫画やアニメを見ていた

 

「あぁ~お腹空いた・・・」

 

ニンフは縁側で太陽の日差しを浴びながら暇を持て余していた

 

「アルファーもドジよね。買い物を忘れるなんて。おかげで戸棚にも何にもないじゃない。あーおやつ食べたい!おやつ食べたい!」

 

とうとう駄々をこね始めバタバタと足を振るがやったところでお菓子など出てこない

 

「あ!まだ冷蔵庫を見ていなかったわ。もしかしたら何かあるかも」

 

一抹の期待を込めてニンフは冷蔵庫を開けるとそこにはアストレアが冷蔵庫の中で体育座りしていた

 

「・・・何、やっているのよ」

 

「お腹空いたから、冷蔵庫を開けたら、何にもない!お腹空いた!」

 

「うっさいわね!私だっておやつ食べたいのよ!」

 

「お腹空いた!お腹空いた!!お腹空いた!」

 

「おやつ!おやつ!おやつ!」

 

「はっ!」

 

その時、アストレアの目に鶏が目に入った

 

「コケ?」

 

鶏がこちらを向きアストレアと目が合う

 

「・・・ジュルリ」

 

「コケッ!」

 

アストレアのお腹がグゥゥゥ~と鳴り涎が垂れると命の危機を感じた鶏が逃げ出すがアストレアは剣を取り出した

 

「チキン・・・」

 

「待ちなさいよデルタ!」

 

「チキン・・・」

 

「その鶏はアルファーが大事に育てているのよ。食べたら殺されるわよ」

 

「はっ!」

 

ようやく我に返り剣をしまうがさっき暴れたせいで余計にお腹が空いた

 

「ニンフ先輩・・・何かないんですか?」

 

「ないわよ・・・あ、あるわ」

 

「どこですか!?」

 

ニンフが向かった先は庭だった。庭には丸々と大きく育ったスイカが実っている

 

「アルファーが庭で育てているスイカよ」

 

「マズいんじゃないんですか?イカロス先輩って確か、スイカを大層可愛がってませんでしたっけ」

 

「えぇ、バレたらシャレにならないわ・・・でも、少しならバレないんじゃない?」

 

「そうですよ!バレなきゃいいんですよ」

 

二人はスイカを食べ始めて三十分後・・・

 

「はぁ~お腹いっぱい」

 

「満足ですね~ところでニンフ先輩。これ、どうしましょうか?」

 

目の前には二人によって食い尽くされたスイカ畑が残っているだけだ

 

「マズくないですか先輩」

 

「以前にこの畑に害虫が寄って来たことがあったんだけどアルファーは一匹残らずArtemis(アルテミス)で撃墜していたわ」

 

Artemis(アルテミス)って半永久的に追いかけてくるあれですよね。どうします?」

 

「とりあえずアルファーが帰ってくる前に片付けて・・・」

 

「ただいま」

 

だが、天は二人を見放した。イカロスと日和が帰ってきてイカロスが無残になった自分の畑を見つけてしまった。イカロスの目が紅くなり頭上に輪っかが出現しニンフとアストレアをArtemis(アルテミス)が補足した

 

「こ、これは・・・デルタがやったのよ!」

 

「えぇ!」

 

「アストレア」

 

「ニンフ先輩!一人だけズルいですよ!」

 

「私は何もしていないもん」

 

言い逃れようとだんまりを決め込んだがイカロスが何かに気付いた

 

「ニンフ、口元についているのは何?」

 

「え?」

 

口元に手をやりくっついているものを取るとそれはスイカの種だ

 

「ニンフも同罪」

 

「まっ・・・!」

 

イカロスが容赦なく二人にArtemis(アルテミス)を発射し二人は逃げる事も出来ずに攻撃を喰らい大きな爆発が起こった

 

「はぁ~良く寝た」

 

さきほどの爆発で目をさましたシュウガ下に降りると家の一部が倒壊しておりその隣ではニンフとアストレアが黒焦げになって倒れていた

 

「これは一体・・・」

 

「ニンフさんとアストレアさんがイカロスさんのスイカを全部食べちゃったの」

 

「それで二人は黒焦げか・・・」

 

イカロスは畑の前に立ち尽くし落ち込んでいる

 

「イカロス」

 

「マスター」

 

「修復カード使って元に戻すか?それとも新しくスイカを買って一からまた育てるか?」

 

「また、育てます」

 

「そうか、頑張れよ。次は手を出してきた者を迎撃するシステムで付けてやれ」

 

「はい」

 

「ほら、ニンフとアストレアはさっさと畑を直すのを手伝え。イカロスはスイカを買ってこい。日和、付いて行ってやれ」

 

「はい。行こうイカロスさん」

 

「行ってきますマスター」

 

「行ってらっしゃ~い。さてとお前らもイカロスのスイカに手を出すとか死にたいのか?」

 

「だっておやつがないんだもん!」

 

「お腹空いていた!」

 

「だったら俺に言えばよかっただろう。ほら、俺も手伝ってやるからさっさと直すぞ」

 

「は~い」

 

「了解です!」

 

三人は畑を直し始めるとその様子をダイタロスはシナプスから映像として見ていた

 

「アストレアも緋村君の所で楽しそうね」

 

その時、突如ドォォォン!という大きな音が聞こえ家が大きく揺れた!

 

「何!」

 

慌てて映像を確認すると外にはハーピーを連れた空の王がいた

 

「探したぞダイタロス」

 

「ミーノス!」

 

「先日、地蟲(ダウナー)がこのシナプスに侵入してきてな。さすがにほおっておけんと思いサクライ=トモキの夢をくまなく調べたらお前のアクセス痕が見つかった。空の女王(ウラヌス・クイーン)の封印を解き地上に落としたのはお前の仕業だな」

 

「・・・だから何?いっておくけどこの家の周りに張り巡らしたバリアはアルファーの絶対防御層(イージス)をさらに改良したもの。ハーピーの超々高熱体圧縮発射砲(プロメテウス)じゃビクともしないわ」

 

「分かっているさ。だから今日は伝えに来ただけだ」

 

「え?」

 

第二世代(・・・・)のエンジェロイドを完成させた」

 

「な、何ですって・・・」

 

「お前の造った第一世代を遥かに凌ぐ戦闘力を持った第二世代(・・・・)だ」

 

「何を、するつもり・・・なの?」

 

「何を?決まっている。α(アルファー)β(ベータ)を破壊する」



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第二十七話第二世代エンジェロイド

スイカ畑の修復を完了した頃にイカロス達が買い物から戻ってきてイカロスはさ早速スイカを植えてカードを起動し防衛システムをスイカ畑の周りに展開する

 

「これでもう手を出すなよ。ニンフ、アストレア」

 

「わかったわよ」

 

「わっかりました!」

 

「・・・ニンフ、ジャミングシステム使うなよ」

 

「使わないわよ!それに羽がないから前ほどの力もないしね」

 

「あ、そう・・・」

 

(ヤバ、地雷踏んだかも・・・)

 

顔には出ていないが声のトーンが落ちたのは分かった。やっぱり羽がないのを気にしているようだ

 

「シュウ!お客さんだぞ!」

 

庭に入って来たのは部長だった

 

「ニンフに用があるんだが大丈夫か?」

 

「私?」

 

ニンフと部長は居間でダイブ・ゲームの装置を使っておりイカロスは庭でスイカの世話をして日和は外の畑に出て畑仕事をしておりシュウとアストレアは特にやる事がないので散歩に出た

 

「なぁ、アストレア」

 

「なに?」

 

「お前ってさ、なんか他のエンジェロイドと違うよな」

 

「なんですかいきなり?」

 

「いや、イカロスとニンフを見ているとさ。二人共命令して欲しいという感じなんだがお前はそういうの無いよな。自由って感じがする」

 

「・・・それって褒めてる?」

 

「う~ん・・・多分褒めてるんじゃん」

 

「多分って・・・あんたって変な人間だよね」

 

「俺が変ならお前はバカだよ」

 

「むっ!バカって言う方が馬鹿なんだぞ!バーカ、バーカ!」

 

「行ってる傍からバカと言うとはやっぱりお前バカだろう」

 

「もう知らない!」

 

怒ってそっぽをむいてアストレアは空に飛んで行ってしまった

 

「行っちまった。さてと、俺はどこに行こうかな」

 

あともなく散歩を始めている時ニンフは部長とダイブ・ゲームを使ってシナプスへの調査を行っていた

 

「ニンフ、次は40秒だ。行けるか?」

 

「え~まだやるの」

 

「そういうな。シナプスを調査しないとな」

 

「まぁ、いいけど。じゃあ次は40秒ね」

 

「よろしく」

 

再びダイブ・ゲームのゲートを開き部長はシナプスへと向かった

ゲートを閉じるとニンフは置時計の針を見て数字を数えていく

 

「ニンフ」

 

「あら、シュウ。お帰り」

 

「来いよ。デートしようぜ」

 

「え?」

 

突然の申し出に戸惑いながらもシュウはニンフの手を引っ張る

 

「ちょっと待って。今スガタが・・・」

 

しかしシュウは聞く耳持たずにニンフを連れ出した

 

シュウはニンフと共に大桜の木の下に行くとシュウは足を止めてニンフに向かい合う

 

「今日、ここに連れ出したのはお前にどうしても伝えたい事があったからだ」

 

「え?」

 

「俺はお前のマスターになりたいんだ」

 

「あはは・・・いきなりなにい出すのよ。冗談キツイわよシュウ」

 

「冗談じゃない」

 

「・・・でも私には羽がないし」

 

「いいんだ」

 

「ずっと出来損ないだって言われて役立たずだって」

 

「それでも俺はお前がいいんだ。ニンフ」

 

「ほんと・・・」

 

嬉しくて涙があふれてくるとシュウはそっとニンフの涙を拭った

 

「ありがとうシュウ。じゃあ早速刷り込み(インプリンティング)するね」

 

「あ、その前に一つだけ命令を聞いてくれない?」

 

「なに?なんでもするよ」

 

「自爆してくれ」

 

その言葉にニンフは驚きシュウの顔をまっすぐ見つめる

 

「何、言っているのよ・・・」

 

「愛って凄いんだろうシナプス(・・・・)を裏切るほどに」

 

この時、ニンフは悟った

 

「そうよね。シュウのはず・・・ないよね。お前は誰だ!」

 

シュウから距離を取り戦闘用の服に切り替える

 

「あーあ、ばれちゃった。もっと・・・愛を教えて欲しかったのに・・・」

 

シュウの姿が歪んでいき現れたのは金色の髪をし修道女の格好をした小さな女の子だった

 

「初めましてお姉様。私は第二世代エンジェロイドタイプε(イプシロン)Chaos(カオス)。ねぇ、愛ってなぁに?」

 

「ふざけるな!」

 

渾身の力を込めたニンフのパラダイス・ソングがカオスに直撃した

 

「はは・・・ざまぁ見ろ」

 

 

マスターになってくれると言われて嬉しかったのに騙されていたと考えると悲しくて悔しくてそれでいて・・・

 

「なにがざまぁみろなの?」

 

「なぁ!?」

 

直撃したはずなのにカオスは傷一つつくことなくニンフの後ろに回り込んでいた。ニンフが振り替えるがカオスはニンフん首を掴み持ち上げる

 

「ますたーからイカロスおねぇさまの可変ウィングの(コア)を取ってこいって言われた。でも、私はそんなものには興味ないの。だからヒムラ=シュウに化けておねぇ様に教えてもらおうと思ったんだ」

 

「教えてもらう?・・・何を?」

 

「言ったじゃない。愛ってなぁに?」

 

「あ・・・い?」

 

「だってそうでしょう。エンジェロイドはますたーの命令を遂行するのが存在意義なのにおねぇさまたちはシナプスを裏切った。マスターはおねぇさまたちが愛に狂ったって言っていたけどエンジェロイドには愛なんてプログラムされていない。だから知りたいんだ私・愛ってなぁに?ニンフおおねえさまはヒムラ=シュウと愛し合っているの?」

 

「私は・・・」

 

「あーあやっぱりニンフお姉様じゃだめか」

 

カオスの姿が変わっていき会長の姿に変わった

 

「そうよね。羽もない出来損ない(・・・・・)じゃね」

 

「!」

 

これはカオスの幻覚だとすぐに理解するがニンフはこの幻覚を解くことが出来ない。次々と姿が変わっていきやがてシュウがニンフの前に出た

 

「ニンフ、お前は廃棄処分だ」

 

自分が好きな人にもっとも言われたくない台詞を言われニンフの心は完全に壊れてしまった



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第二十八話自分で決めろ!

ニンフが連れ出された事によりシナプスでは部長がハーピーの二人に捕まっていた

本来ならニンフが転送のためのゲートを開くのだが一向にゲートが現れない

 

「すいません。どうやら地上で問題が起きたようで・・・」

 

「あらそうなの?心配ね・・・じゃなくて覚悟はできているんでしょうね!」

 

「こっち!」

 

守形を殺すための一撃を叩き込もうとした時ダイブ・ゲームのゲートが開き中からダイタロスが守形をゲートの中に引き込んだ

転送された先は色々な機械が置かれた研究所のような場所だ

 

「お前・・・は?」

 

「ごめんなさい。本当はもっと早くに教えてあげられれば良かったんだけど」

 

「教える?何をだ?」

 

「第二世代が完成する前に」

 

部屋にテレビのようなものが置かれておりvそこにはニンフが映っている

 

「これは!」

 

「私が造った第一世代を遥かに凌ぐ第二世代が」

 

「私が・・・造った?」

 

「大丈夫。・・・それでも彼女にかなうエンジェロイドなんていない」

 

カオスの前にイカロスが降り立ちニンフの異常ではないのを見て空の女王(ウラヌス・クイーン)となり戦闘態勢を取る

 

「ニンフに何をしたの」

 

『可変ウィング安全装置(セーフティ)解除。出力上昇・・・80・・・90・・・敵未確認機をロック。Artemis(アルテミス)発・・・』

 

アルテミスの発射しようとしたした時カオスの姿が再びシュウに変わった

 

「マス、ター・・・?」

 

「イカロス、命令だ。ニンフを壊せ」

 

「命・・・令・・・」

 

イカロスはニンフに向き直るとニンフの胸倉を掴みかかる

 

「ちょ・・・アルファー!?」

 

「逃げて」

 

ニンフを思いっきり投げ飛ばし空高くへと投げ飛ばした

 

「おい・・・どういう事だイカロス。お前、命令に逆らう気か?」

 

「いえマスター・・・でもニンフを壊すのは・・・」

 

「イカロスお前は、何だ(・・)?」

 

「私は・・・」

 

チャラ・・・と首の鎖が揺れて音が鳴るとイカロスはシュウの前にひざまずく

 

「マスターのエンジェロイド。タイプα(アルファー)Ikaros(イカロス)どうぞ。何なりとご命令を・・・」

 

「じゃあおしおき(・・・・)だ。自分を壊せ。まずは右腕から」

 

「はい・・・」

 

イカロスはためらいもなく自分の右腕を破壊した

 

※※※※※

 

ドォォォン!散歩をしていると大きな音と振動がシユウに伝わって来た。シュウは頭を掻きながら音の方へと向かう

 

「騒がしいな。まったく・・・」

 

イカロスに投げ飛ばされたニンフは山の中に墜落した

 

「アルファーを・・・助けに行かないと・・・」

 

よろよろと起き上がりアルファーの下に向かおうと歩き出す

 

「助けに・・・」

 

だが、その時に気付いた。自分には羽がない。戦闘能力だってない。結局イカロスに助けられて逃がされそれで助けに行って何が出来る

事実を現実を突きつけられニンフは自分の力の無さに絶望し涙が流れる

 

「アルファーも助けられない。戦闘も出来ない。羽もない欠陥品を誰が拾ってくれるっていうのよ・・・!」

 

「ニンフ先輩?」

 

そこにいたのはキノコを両手一杯に抱えたアストレアの姿だ

 

「うわぁ!どうしたんですかその傷!?」

 

(そうだ!デルタなら)

 

「お願い!アルファーを助けてデルタ」

 

ニンフはアストレアにしがみつき必死に懇願する

 

「え!?ちょ、いきなりなんですか?」

 

「きっと・・・ひどい目に合ってる・・・だから・・・」

 

いつも強気でいるニンフが泣きながら頼み事をするなんて異常事態だという事は分かる

 

「分かりました!よくわからないけど行ってきます!」

 

翼を羽ばたかせ空に上がるとシナプスから地上に声が届いた

 

『待て、デルタ。命令(・・)だ。β(ベータ)を破壊しろ』

 

「え?」

 

空の王はあえてニンフに聞こえる様に地上に向かって言っているのだろう

 

『どうしたデルタ・・・早く破壊しろ。いやゆっくり(・・・・)いたぶれ』

 

「マス、ター・・・」

 

『ククク、逃げられると思ったか?お前は一生私の奴隷(オモチャ)だ。さぁ、デルタ命令だ。まずは手足をもぎ、顔にグチャグチャにしろ。命令だ』

 

アストレアはニンフの前に降りると剣を取り出す

 

「すみませんニンフ先輩。マスターの御命令です」

 

「いいのよデルタ。わかってる・・・エンジェロイドはマスターの命令に逆らえない。はは・・・何、夢見てたんだろうな・・・私・・・人形(エンジェロイド)が夢なんて、見れるはずない・・・のに・・・」

 

「ふっざけるな!」

 

ニンフとアストレアの前にシュウが割って入って来た。突然のシュウの登場に二人も驚いたが空の王ですらこの状況に驚いた

 

「シュウ・・・?」

 

「エンジェロイドが夢を見ちゃダメか?エンジェロイドはマスターの命令を聞かなきゃダメか?エンジェロイドは羽がないとダメか?甘いものが好きでお菓子が大好きで動物園で動物見て喜んだりしちゃダメなのか?」

 

「そ、それは・・・」

 

「俺は!」

 

アストレアの言葉を遮りシュウはニンフに振り返りそっとニンフの顔から流れ落ちる涙を拭きとる

 

「良いと思う」

 

「あぁ・・・シュウ!うわぁぁぁぁ!」

 

シュウに抱き着きニンフは思いっきり声をあげてシュウの胸の中で泣いた。シュウは子供をあやすようにニンフの頭を撫でてギュッと抱きしめる

 

「アストレア、その命令はお前が決めた事なのか?自分で決めろ!お前が何をしたいのか」

 

人間は弱い存在。でも今、自分の目の前にいる人間は自分なんかよりよっぽど大きな存在に見える

 

「・・・」

 

『デルタ』

 

「は、はい!」

 

「カオスがいつまでも空の女王(ウラヌス・クイーン)に止めを刺さずに遊んでいる。お前が行って代わりに止めを刺してこい。その地蟲(ダウナー)は後回しだ」

 

「・・・後で、必ず殺しに来てやるから」

 

殺しの宣告をしてもシュウは怯まずにアストレアを見つめる

 

その場から離れたアストレアの頭の中にはシュウの言葉が繰り返し流れてくる。付き合いは短い。最初はお腹空いていたのを助けてくれて、家に招待してくれて美味しいご飯を食べさせてくれて空では一度も味わった事のない幸せが確かにあってそれは全てシュウが与えてくれたものだった

 

「何よ!何よ!何よ!イカロス先輩もニンフ先輩もあんな奴にたぶらかされて・・・あいつに惚れたっていうの?」

 

自分の気持ちが分からずイライラする。いや、分かっているけどその気持ちを素直に受け止められずにいるだけだ

 

「あら、アストレアおねぇさま・・・」

 

剣を振り上げイカロスに止めを刺そうとする。だがその問いシュウの言葉が脳内に響き渡る『自分で決めろ!』

 

「私も好きになっちゃったわよ!」

 

剣をカオスに振り下ろしカオスの羽を一枚破壊した

 

『何をしているデルタ!』

 

「あ、いや。好きと言っても友達として・・・」

 

『早く空の女王(ウラヌス・クイーン)に止めを刺せ!聞いているのか!?』

 

「う、うるさーい!」

 

怒ってアストレアは鎖を力づくで引き千切った

 

「おどろいた自分で鎖を切るなんて・・・ねぇ、それは愛なの?」

 

「わかんないよ!私、バカだもん。でも、これは私が・・・私が決めた事だもん!」

 

カオスと戦う事を決めたアストレアはカオスとの戦いに挑む



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第二十九話守りたい者

カオスとアストレアが激突し二人の戦いが始まるのをダイタロスと守形はその光景をモニター越しに見ている

 

「始まったな。第二世代エンジェロイドタイプε(イプシロン)Chaos(カオス)。ニンフもイカロスでさえも奴に手玉に取られた。正直なところ、勝てるのか?アストレアで」

 

「デルタは一言で言えばバカ」

 

「・・・」

 

自分で造っておいてバカ呼ばわりするのに守形はちょっと理解が出来なかった

 

「感情制御と戦闘能力を積めるだけ積んだおかげで電算能力は皆無」

 

「いや、ま・・・そうれはそうなんだが・・・」

 

「アルファーのように弾道計算もできなければベータのような高性能レーダーを積んでいる訳でもない。でも・・・私はあえて(・・・)デルタに電算能力を積まなかったの。あの子にはそんなもの(・・・・・)必要ないから」

 

カオスは黒い炎の塊を作り出しアストレアに撃ち込むがアストレアはそれをすべてかわしカオスが攻撃しようとしてもアストレアは高速で動いてカオスをかく乱させる

 

「デルタの翼が超加速型。その加速性能はエンジェロイドで一番」

 

カオスがアストレアの行動を先読みして攻撃を放つが明アストレアは左手に装備している盾を前に出すとイカロスが使うイージスのようなバリアが展開された

 

「加えてデルタの持つ盾aegis=L(イージス・エル)アルファーのaegis(イージス)のように全方位はカバーできないけどその強度はアルファーより上」

 

攻撃を防ぎ切ったアストレアは剣から光の粒子が収束されていき巨大な剣に変わる

 

そしてデルタの持つ剣は超振動光子剣chrysaor(クリュサオル)アルファーのaegis(イージス)をも軽々と斬り裂く最強の矛と最強の盾を併せ持つエンジェロイドそれがデルタ・接近戦でデルタに敵うエンジェロイドなんていない!」

 

剣を思いっきり振り下ろしアストレアの斬撃はカオスを一刀両断し爆発した

 

「驚いた。まさか、これほどまでの戦闘能力を持っていたとは・・・」

 

「でも、弱点があるの」

 

爆発酔って生じた煙の中からカオスが飛び出してアストレアから距離を取る

 

「くそ!気づかれた!」

 

ダイタロスが苦虫を嚙み潰したように苦い顔をする

 

「どういう事だ!」

 

「デルタは遠距離兵器を一切積めなかったの!しかもaegis=L(イージス・エル)は長時間展開できない」

 

「馬鹿な、それでは・・・一度でも離されてしまったら嬲り殺しだ」

 

アストレアと十二分な距離を開けるとカオスは黒い炎を収束させていく

 

「ちょっと・・・驚いちゃった。でも、もう近寄らせない!」

 

黒炎の砲撃を放ちアストレアはaegis=L(イージス・エル)を展開して防ぐが長時間展開が出来ないため次第にバリアが消えていく

 

「負けるもんか!だってこれは自分が決めた事・・・自分が決めた事なんだから!」

 

「さよなアストレアおねぇさま」

 

「いいえ、さよならは貴女の方chaos(カオス)

 

止めを刺そうとした時カオスの背後にイカロスが姿を現した

 

「イカロス先輩!」

 

「どうして・・・?あんなに壊したはずなのに・・・まさか、自己修復したの?アストレアおねぇさまと遊んでいたこんな短時間で?」

 

イカロスは何も答えずに顔祖の顔面を掴みそのままマッハのスピードを出して飛んだ

 

 

「なにを、するつもりなの?」

 

「私達エンジェロイドは泳げない・・・あなたは泳げるの?カオス!」

 

「!」

 

既に海まで来ておりカオスはもう無理だと諦めたのか抵抗をしない

 

「このまま海に沈めたらイカロスおねぇさまも深海で壊れちゃうよ。ねぇ、それより愛が何なのか教えてよ・・・ねぇ、私m愛が知りたいの!愛が愛が愛が愛が!」

 

「わから・・・ない。私も愛が何なのか分からない・・・でも、マスターの事を考えると動力炉が痛い・・・どうして!?私、マスターの事を考えると動力炉が痛い!これが愛なの!?分からない!でも、あなたを放っておいたらきっとマスターに危害がおよぶ。そう考えたら私、壊れてしまいそうなの」

 

海の上に急停止してそのまま急上昇しそして急降下する

 

「だから!私は大好きなマスターを守る!」

 

海に突っ込み大きな水柱が上がるとそこからイカロスを抱えたアストレアが出てきた

 

「何やっているんですかイカロス先輩!?私が助けなきゃイカロス先輩も沈んでましたよ!」

 

水面には空気の泡がボコボコと浮かんできてカオスが沈んでいったのだと理解した

 

「これでマスターは安全です」

 

「イカロス先輩・・・帰りましょうイカロス先輩のマスターの所に」

 

「うん」

 

戦闘が終わったのを確認しダイタロスと守形はようやく一息つけた

 

「これで第二世代はいなくなったと考えて良いのか?」

 

「えぇ、いくら第二世代が強くても長い間水の中に居ればやがて活動限界を迎える。大丈夫よ。もう心配ないわ」

 

「そうか」

 

「それじゃああなたを地上に返すわね。緋村君の家でいいのよね」

 

「あぁ、頼む」

 

コンソールに文字を打ち込むとダイブ・ゲームのゲートは開いた

 

「帰る前に一つ聞きたい。シナプス奴らは何故、夢を見ている」

 

「・・・それあは聞かない方がいいわ」

 

それだけ答えると守形は地上へと転送された

 

シュウの家に戻ると何故かイカロスとアストレアが正座をさせられている

 

「何があったシュウ?」

 

「ニンフの治療をしていたらこいつらが空から降って帰って来たから家がめちゃくちゃになったから説教していたんです」

 

上を見上げると天井が抜け落ち空が見える

 

「イカロス!帰ってくる時は玄関からだろう!」

 

「はい。申し訳御座いませんマスター」

 

「まったく・・・まぁ、今回は無事に帰って来たからいいけどよ」

 

「はい、マスター」

 

「それからニンフ!」

 

「は、はい!」

 

「いつまで羽がない事を気にしているんだ!」

 

「だって、私はエンジェロイドよ。マスターの命令を遂行する事が存在意義なのに私には羽もマスターも」

 

「だったら!」

 

シュウが腕をニンフの前に差し出す

 

「俺がお前のマスターになってやる」

 

「え?」

 

「俺がお前のマスターになってやるって言っているんだよ。俺は羽があるとかないとか関係なくお前のマスターになってやるって」

 

「いいの・・・羽もない出来損ないの私でもいいの?」

 

顔を上げるとシュウが驚いたような顔をしておりシュウガニンフ指さす

 

「ニンフ、お前・・・羽が生えているぞ」

 

「え?」

 

後ろを見ると確かに羽が生えていた

 

「いきなりどうして・・・?」

 

シュウが驚いているとニンフはそのまま空を飛んだ

 

「シュウ!私、羽が生えて飛んでいるよ」

 

嬉しそうに飛んでいるのを見て良かったと思えた

 

「こうしてみると天使ってより妖精だな」

 

ニンフが飛んでいる姿をシュウはいつまでも見続けた

 

その頃イカロスによって深海に沈められたカオスは自分にかかる水圧で動けないでいた

 

「あ~あ、愛を教えて欲しかったのにな・・・痛い・・・痛い・・・」

 

その時、カオスの頭にイカロスの言葉がふと甦った『動力炉が痛い!これが愛なの!?』

その言葉を思い出しカオスは笑みを浮かべる

 

「そうか・・・これ(・・)が愛なのね」

 

カオスは翼を動かし深海魚を串刺しにする

 

「おさかなさん痛い?これが愛なんだよ。もっともっとたくさん食べて早く大きくなって今度は私がみんなに愛を教えてあげるの。みんなに、みんなに。ふふふ・・・」

 

不気味に笑いながらカオスは深海の魚の殺戮を始めた



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第三十話シュウと日和

ゴォーン・・・ゴォーン

ここはシナプス人が眠っているドームの建物から少し離れた木の陰に守形は隠れていた

ドームの前にはハーピーが侵入者である守形を見つけようとやっきになっておりハーピーがあの場から早くいなくならないかと待っていた

 

「風音日和にそっくりのシナプス人・・・」

 

初めてシナプスを調査したあの日、このドームで見た風音日和にそっくりなシナプス人について色々と推測したがどれも推測の域を出ずにいた

答えはあのドームの中にあるはずなのだがハーピーが邪魔をしているため入れない

 

「さて、どうするかな・・・」

 

一方、地上では・・・

 

「こら!アストレア!人の朝食を勝手に食うな!」

 

「もっと食べたい!」

 

「朝から騒がしいわね。もっと静かに食べられないのかしら」

 

ニンフが文句を言いながら自分の朝食を食べるとアストレアが今度はニンフのおかずを横からかっさらった

 

「ちょっと!私の朝ご飯まで盗るんじゃないわよ!」

 

シュウとアストレアの喧嘩にニンフが混ざりより一層騒がしくなった

 

「あはは・・・止めなくていいのイカロスさん?」

 

「楽しそう、ですし」

 

確かにはたから見れば楽しそうだが当の本人達はおかずを奪い合って争っている

 

「そうだね。楽しそう、だね」

 

前まではシュウと日和の二人だけの生活だった。だけどイカロス達が来てから二人だけの生活は変わった

 

あの日、イカロスが地上にやってきてイカロスを連れ戻すためにニンフがやってきてそして最近ではアストレアもシュウの家にやってきていつの間にか賑やかで楽しい日々になっていた

 

だが、日和はシュウの事が好き。イカロス、ニンフ、アストレアが加わりシュウの周りには女性が常にいるような状況になり三人とも空くなからうシュウに好意を持っている。この状況に日和は少し焦っている

 

あの日、本当なら自分がシユウに告白をするはずだった。しかしそれはイカロスが降って来た事により告白が駄目になり今日に至るまで毎日がドタバタとした日常になり告白する機会がなくなり唯一シュウと二人っきりになれる時間と言えば・・・

 

「まったく、アストレアの奴・・・少しは自重と言う言葉を知らんのか」

 

ぶつぶつと文句を言いながらシュウは畑に生えている雑草を抜いていく

 

「大変だねシュウ君」

 

二人で畑仕事をしているこの時間だけが二人っきりになれる唯一の時間だ。でも畑仕事は土を触る仕事のためどうしても泥まみれになってしまいこんな格好では告白どころではない

 

「まぁ、あいつに自由に生きろって言ったのは俺だし家に来いって言ったのも俺だからあまり言えないがな」

 

「誰に対しても優しいよねシュウ君」

 

「そうか?それより日和、何か悩みでもあるのか?」

 

「え?」

 

「お前、たまにボーっとしていて溜息をついたりしているか何か悩みでもあるのかなって思ってさ」

 

「な、何にもないよ!大丈夫だから」

 

「そうか?、まぁ、俺より同性の奴にしか話せない悩みもあるだろうし深くは聞かないが何かあったら相談してくれよ。俺達は昔から一緒に暮らしている家族のようなものなんだからさ」

 

家族・・・その言葉に日和は少し胸が高鳴った。今までずっと一緒だった。だから家族であるのは当たり前なんだと思う。でも、出来れば幼馴染とかずっと一緒に住んでいるからとかではなく恋人として家族になりたい

そう思うと泥だらけでもいいじゃないかと思えた。これも一つの自分の姿でありシュウはそれを知っている。だったら格好なんてなんだっていいだと思えた

 

「ねぇ、シュウ君。これから、大桜の木に行きませんか?」

 

「どうした急に?」

 

「そこで聞いてもらいたい話があるの」

 

シュウには日和が何かを決めたような目をしていると分かりシュウは頷いた

 

「分かった。じゃあ行こうか」

 

「はい」

 

桜の木へと続く道。いつも通っているはずなのに今日はなんだかとっても新鮮な感じがする

 

「そういえばこうして二人で出掛けるのって久しぶりだな」

 

「そうですね。今までイカロスさん達も一緒でしたからね」

 

「こうして二人で歩いていると静かでいいな」

 

「そう、ですね。こんな時間は久しぶりですね」

 

「・・・いつまでもこういった時間が続けばいいのにな。こうやって日和と静かに過ごしたりたまにはイカロス達と一緒に騒がしい日を送ったりして毎日が楽しくて明日は何をしようかなって考えながら寝られたら最高なんだろうな」

 

「続きますよ。だってみんなシュウ君と一緒にいるのが大好きなんですから。私達だけじゃありません。守形先輩に会長さん、桜井君にそはらさん。みんなみんな一緒です」

 

「そうだな。ずっと一緒だよな」

 

そう思って・・・いたのに・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、トラックが道路を脱線しこっちに向かって突っ込んできた

シュウは日和の名前を呼び手を伸ばす。日和もシュウの手を取ろうと手を伸ばすがその手は触れ合う事はなく風音日和はトラックに轢かれた

 

ドォン!鈍い音がして日和の体は宙に飛び地面に叩きつけられ血が流れだす

 

「日和!」

 

日和を抱き起すと周囲からは救急車を呼べ!とパニックになっている

 

「日和!しっかりしろ日和」

 

「シュウ、君・・・私、シュウ君の、事が・・・」

 

だがそこで力尽きてしまい日和は涙を流しながら目を閉じてしまった



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第三十一話残酷な現実

日和が事故に遭った時、家でくつろいでいたニンフが突然立ち上がった

 

「どうしたのニンフ?」

 

「何かありましたかニンフ先輩?」

 

「地上のヒヨリが・・・死んだ・・・。目が覚める(・・・・・)・・・始ま・・・る。全て消される(・・・・)わ」

 

その瞬間、日和に関する記憶が全ての人間から消されていった

 

その影響はシナプスにいる守形の身にも起こっていた。自分の記憶から風音日和に関する情報が次々に消えていき頭を押さえて忘れないように抵抗するが記憶は次々に侵食されていき消されていく

 

「くっ!・・・風音の記憶が、消えていく。一体・・・何が起きているんだ」

 

「姉さん!あそこ」

 

「見つけたぞ人間!」

 

「どけ!」

 

記憶が消える前にあのドームに入るために守形はハーピーの前を強行突破しドームの中に入ると一つのカプセルが空いており翼の生えたシナプス人が起きていた。そのカプセルは風音日和に似たシナプス人が入っていたカプセルだ

 

「守形・・・先輩・・・」

 

「誰だ・・・?」

 

「わ、私です。風音日和です!」

 

「すまないが私にはシナプス人の知り合いはいない」

 

言葉では優しい感じだが守形の目にははっきりとした警戒心が伺えた。それを見て自分に関する全ての記憶が消されたのだと理解した

そしてシュウの記憶にも自分は既に存在していないと

 

「もう一度!あの夢を見せて!」

 

カプセルについているコンソールに何度も打ち込むが返ってくるのはエラーを知らせる音だけだ

 

「同じ夢は二度と見れない。そうお前らが決めた事だろう」

 

ドームの入り口が開きハーピーを連れたシナプスの王が入って来た

 

「お前がシナプスの王」

 

「そうだ。今日は気分がいいから名前を教えてやろう。俺はミーノス。シナプスを統治する王だ。それにしてもお前のさっきの狼狽ぶりは見ものだったぞ」

 

「俺が、狼狽しただと・・・?」

 

「それすらも覚えていないか。まぁ、当然だな。ここのシステムに全て消去されたのだからな」

 

「消去?どういう事だ」

 

「所詮、お前達は我々の手の平の上で踊っているに過ぎんという事だ。今すぐにここを立ち去れば逃がしてやるぞ」

 

「・・・」

 

警戒しながらも守形はドームから出ていくとミーノスはさっき目覚めたばかりのシナプス人に声をかける

 

「お前はもう一度、ヒムラ・シュウに会いたいか」

 

「あ、会えるのですか!?」

 

「あぁ、出来るさ。ただし、お前の全てを差し出す覚悟があればの話だがな」

 

※※※※※

 

風音日和に関する記憶が消された次の日

シュウは違和感を感じていた。いつもに日常、いつもと変わらぬ風景なのに何かが足りない。そう思わずにはいられなかった

 

朝、いつものようにイカロスがシュウを起こし四人で朝食を食べてアストレアは留守番でシュウとイカロス、ニンフの三人で学校に登校する

空はどんよりとし雲が覆っており風が強い

 

「凄い風だな。嵐でも来るのかな」

 

シュウより少し後ろにイカロスとニンフが一緒に歩いている

 

「アルファー、これで良かったのかな。地上のヒヨリがいなくなって記憶が無くなっていなかった事になったけどシュウは今の状況に納得しているのかな」

 

「わからない。でも、マスターは少しイライラししているように感じます。多分、今の状況が分からないんだと、思う」

 

「でも、時間が経てばいつものシュウに戻るわよね」

 

「うん・・・」

 

本当はこのままでいいのか分からない。でも、今までずっと一緒に過ごしていた人が偽物だって知ったらシュウはきっとショックを受ける。そう考えたら例えシュウに嫌われてもこの嘘はつき通さなければならないとイカロスはそう覚悟した

 

学校に登校はしたが時間が経つにつれて風が酷くなり学校側はすぐに生徒を帰宅させるように促し授業は午前中のみで終わった

帰ろうとした時、部長がシュウの下にやってきた

 

「シュウ、今日、お前の家に泊めてくれないか?」

 

「いいですよ、部長の家じゃこの天気だと飛ばされるかもしれませんしね」

 

「すまん」

 

帰宅途中に日和が事故に遭った現場を通ると道路に鈴が付いた髪飾りが落ちているのに気づき拾い上げた

 

チリーン

鈴が鳴るとその音に聞き覚えがあるように思えた

 

「どっかで聞いた事があるような・・・」

 

だが思い出せずにとりあえず髪飾りをポケットにしまい部長と共に帰宅しシュウは自分の部屋に入ろうとドアノブに手をかけるとシュウの隣の部屋に目が留まった

 

「あれ?ここって何の部屋だったっけ?」

 

隣の部屋の扉を開けるとそこには机と本棚、ベッドが置かれており一人が暮らすには十分な部屋がある

本棚には参考書や辞典の他に少女漫画が置かれている

 

「なんだよ・・・この部屋」

 

始めて見たはずなのに見たような気がする。でも思い出せない。何か、大切な事を忘れているはず。絶対に忘れてはいけないはずなのに・・・

 

「くそっ!」

 

思い出せない事にイライラし机を叩くとぽけえっとに入っていた鈴がチリーンと鳴った

その時、シュウの頭の中に記憶が流れ込んできた

それは子供の頃から今までの日和との記憶だ

 

「そう、だ。風音日和だ!」

 

全てを思い出したがすぐに記憶が消えようとし抵抗すると物凄い頭痛がシュウを襲う

 

「くっ!何で・・・今まで、忘れて、いたんだ。絶対に、忘れちゃ・・・いけないのに」

 

頭を押さえながら下に降りてイカロス達の居る居間に入る

 

「イカロス、ニンフ、アストレア」

 

「なんですかマスター?」

 

「どうしたの?頭なんか抑えて」

 

「?」

 

「日和は、どこだ!?」

 

「!!!」

 

シュウの口から日和の名前が出て三人が驚きの表情を浮かべる

 

「その表情からして何か知っているな。記憶が戻ったと思ったらすぐに記憶が消えよとする。こんなのお前らシナプスが関わっているはずだよな。どこだ!?日和が何処に行った!答えろ!」

 

「あ、あのマスター・・・」

 

「駄目よアルファー!」

 

「何を隠しているんだニンフ!」

 

「ヒヨリは・・・地上のヒヨリはもう死んだのよ」

 

「死ん、だ・・・」

 

嘘だと否定したい。だがニンフ達の悲しげな表情を見るとそれが事実なんだとだけどそれを受け入れられない

心に動揺が広がりシュウの中から風音日和の記憶が再び消え始める

 

「ぐあぁぁぁ!」

 

「マスター!」

 

「シュウ」

 

イカロスとニンフがシュウに駆け寄る。シュウは頭を押さえて必死に痛みに耐えている

 

「ニンフ先輩、ハッキングでどうにかならないんですか!?」

 

「無理よ。どっちに味方をしてもシュウが苦しむのが伸びるだけよ」

 

「それじゃあどうすれば・・・」

 

その時、イカロスがシュウの異変に気付いた。ポタ、ポタ・・・とシュウの両耳から流血している

 

「これは・・・まさか!」

 

レーダーを展開すると驚くべき事実が分かった

 

「気圧が・・・急速に下がっている」

 

「それってどういう事ですかイカロス先輩!」

 

「私達は平気だけどマスターのような人間は気圧の急激な低下は命の危険がある」

 

三人が外に出ると外では竜巻がいくつも発生しており異常事態だ

 

「こんな状況は自然界ではあり得ない。考えられるのはシナプスからの攻撃」

 

「まさか気象兵器!」

 

「ニンフ、レーダーで探して私のレーダーじゃジャミングされて上手くいかない!」

 

「わかったわ」

 

レーダーを展開すると竜巻の中心に何かを発見した

 

「見つけた!あの竜巻の中心にエンジェロイドがいる」

 

ニンフが前に飛び出し大きく息を吸い込んだ

 

超々超音波振動子(パラダイス・ソング)

 

「決まった!」

 

竜巻がかき消され中からエンジェロイドが姿を現した

止めをさそうともう一度超々超音波振動子(パラダイス・ソング)を放とうとした時エンジェロイドの姿を見て驚愕した

 

「ヒヨ・・・リ・・・?」

 

そこにいたのは紛れもない風音日和がそこにいた

 



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第三十二話おかえり

竜巻の中から現れたエンジェロイドは風音日和にそっくりだ

 

「ヒ、ヒヨリ・・・」

 

「・・・」

 

ニンフが声をかけるが何も答えずに杖を振り上げる

 

demeter(デメテル)起動

 

杖から風の刃が放たれイカロス達の羽をたやすく切り裂いた

 

「羽が風で切り裂かれる!」

 

「ニンフ!ここにいてはみんなやられる!」

 

「ヒヨリ!私達が分からないの!?ヒヨリ!」

 

この光景をダイタロスはシナプスから映像として見ていた

日和の首にはエンジェロイドと同じように枷が付けられておりそれは両手両足にもつけられており五人から刷り込み(インプリンティング)されている

 

「なんて・・・事を・・・正気なの!同胞をエンジェロイドに改造するなんて!」

 

「はははは!別に構わんだろう。どうせ夢ばかり見ている連中だ。シナプス人としての誇りを忘れ薄汚い地上に夢ばかり見ている連中だ

だから与えてやった臨んだ現実を・・・望むままにならぬ現実を!さぁやれ!Ζ(ゼータ)地蟲(ダウナー)共を皆殺しにしろ!」

 

 

杖を振り上げると更に気圧が低下していく

 

「気圧が更に低下!このままではマスター達が・・・」

 

「なんとかならないんですか先輩!?」

 

「ヒヨリを・・・壊すしかないわ」

 

「でも、それじゃ日和さんが」

 

「そうですよ!他にだって方法があるはずですよニンフ先輩!」

 

「無理よ。このままじゃヒヨリは全ての人間達を殺すまで止まらないわ。だから私がやるわ

大丈夫。大した装甲は積んでいない・・・超々超音波振動子(パラダイス・ソング)で十分やれるわ」

 

「で、でもニンフ先輩!」

 

「大丈夫。シュウはヒヨリの事を憶えていない。今なら、誰も傷つかない」

 

これが最善の選択。誰かがやらなければならない事。だから私がやるしかない

 

「駄目だニンフ。お前が傷つくだろう」

 

シュウと部長が三人の所に到着しシュウガニンフの攻撃を止めさせた

 

「シュウ・・・でも、ヒヨリが・・・」

 

「安心しろ。俺達は風音日和を憶えている」

 

「そんな!システムに削除されたはずじゃ!?」

 

「あぁ、確かにシュウと同じように俺も記憶を削除された。だが、一人だけ思い出した(・・・・・)奴がいてな」

 

シュウは前に出て日和の前に出る

 

「あの時は忘れていて悪かったな日和。だけどもう忘れない。絶対に助けるから!」

 

 

日和は更に気圧を下げてシュウの耳からは更に出血する。だがこんな所で負けるわけにはいかない

 

「イカロス!日和を足止めをしてくれ!」

 

「了解!」

 

「アストレアはニンフを日和の場所まで運んでくれ!」

 

「え、・・・は、はい!」

 

「シュウ、何をする気!?」

 

「ニンフ、お前の力が必要だ!」

 

「え?」

 

「部長が言っていたんだ。インプリンティングは一種のプログラム。だったらお前のハッキング能力でインプリンティングを破壊するんだ!」

 

「ハッキングでインプリンティングを破壊なんて・・・」

 

「やるしかありませんよニンフ先輩!」

 

アストレアがニンフを抱きかかえアストレアの超加速型の翼で一気に日和の下にニンフを運びニンフが日和の頭を掴んだ

 

「分かったわ!やってやろうじゃないの!ハッキング開・・・」

 

しかし日和もニンフの頭を掴み日和が逆にニンフをハッキングし始めた

 

「きゃぁぁぁ!」

 

「ニンフ!イカロス、ニンフを助けろ!」

 

「駄目です!今近付けば私達までハッキングされます」

 

この状況にミーノスは空の上から意気揚々と見物して地上へとメッセージを送った

 

「お前達がそう来るのは織り込み済みだ。だからとびっきりの電子戦装備を積んでおいた。ハッキングされて私のエンジェロイドに戻るがいい」

 

「くそ!このままじゃアイツの思い通りかよ。何か・・・何か手はないのか・・・」

 

「命令して・・・シュウ」

 

「何言っているんだよニンフ!今はそんな場合じゃな・・・」

 

「お願い・・・命令してくれたらもっと力を出せる気がするの。だから、お願い・・・どうか御命令を・・・」

 

俺はニンフに自由に生きろと言った。だから命令しないと誓っていた。だけど、日和を助けるために俺は一度だけこの誓いを破る!

 

「分かった。お前に最初で最後の命令をしてやる・・・命令だニンフ!」

 

シュウの命令という言葉にニンフが反応する

 

「負けるな!お前の力で日和を・・・家族を助けてくれ!だから、絶対に負けるな!」

 

「はい・・・マスター」

 

あぁ・・・どうしてだろう。シナプスにいた頃の命令なんかよりよっぽど嬉しい

シュウの命令・・・絶対に遂行する

 

その瞬間ニンフの羽が大きくなった。これにはダイタロスもミーノスさえも驚いた

 

「素粒子ジャミングシステムaphrodite(アフロディーテ)展開」

 

ハッキングの空間を展開し日和にハッキングを開始するとあっという間にニンフの注入したウイルスが日和を侵食していき日和のインプリンティングを破壊していく

 

「止めろ・・・β(ベータ)私のエンジェロイドに戻れ。もう一度空に・・・」

 

「黙れ・・・お前は、もう私のマスターじゃ、ない!」

 

システムを制圧し日和を縛っていた五つのインプリンティングhが完全に破壊された

 

これにより気象兵器は機能を停止し竜巻は収まりイカロスとアストレアがニンフと日和を抱きかかえて空から降りてきた

 

「イカロス、日和とニンフは?」

 

「大丈夫です。ニンフはオーバーヒートして冷却モードに入っているだけです」

 

「日和さんも眠っているだけです!」

 

「良かった。お疲れ様ニンフ。そしておかえり日和」

 

こうして事件は終わった

しかし日和はエンジェロイドに改造されてしまいイカロスの話では元の姿に戻る事は出来ないそうだ。だけど俺はそれでも良かったと思える。だって大切な幼馴染で家族が戻ってきてくれたのだから

 

日和が戻って来た次の日シュウと日和は桜の木の下に座っていた

 

「体は大丈夫なのか日和」

 

「はい。こんな体になってしまいましたがもう一度シュウ君に会えたので後悔はしていません」

 

「そっか。なぁ、あの日、俺に話って何だったんだ?」

 

その話題を振られて日和は立ち上がった

 

「それは、また今度にします」

 

「そう言ってまたいなくならないだろうな日和」

 

「大丈夫ですよ。もう何処にも行きません約束します。エンジェロイドになってようやくイカロスさん達と同じになれてようやくスタートラインに立ったと思うです。ですからその時が来たらあの時に話したかった事を言いますので待っていてください」

 

「そっか。じゃあ俺はこれをお前に返さないとな」

 

そう言って日和に鈴の髪飾りを差し出す

 

「シュウ君が持っていてくれたんですね。ありがとうございます」

 

「いいんだよ。昔のようにまた見つけられたんだから」

 

「ふふ、そうですね」

 

日和は髪飾りをシュウから受け取り髪に結ぶ

 

「これからもお願いしますねシュウ君」

 

「あぁ」

 

二人は並んで自分達の家に帰っていった



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第三十三話イカロスの気持ち

日和を助け出しようやくいつもの日常が戻ったのだが・・・

 

現在シュウは自分の部屋の机で頭を抱えていた

 

「どうして・・・どうしてこうなったんだ・・・」

 

事の発端は日和を助け出した次の日の朝食での出来事だ。いつも通りみんなで朝食を食べている時の事だ

 

「ニンフ、漬け物を取ってくれ」

 

ニンフの近くに置かれている漬け物を取るようにニンフにお願いするとニンフは漬け物の入った器を手に取る

 

「御命令ですか?」

 

「いや、頼んでいるだけだが」

 

「・・・はい」

 

残念そうな顔をしてニンフはシュウに漬け物をシュウに渡した。たけどこれだけでは済まなくなった

ニンフは事ある毎に命令ですか?とシュウに聞いてくるとイカロスも命令が欲しいと催促が来てシュウは困り果ててしまった

 

「全員がアストレアみたいに馬鹿ならいいのに・・・」

 

ディすっているがアストレアは一人で物事を決められるようになった

それはイカロスにもニンフにも出来ない事だ

そう思いながらシュウは自分の左手に巻かれている鎖を見る

イカロスと初めて会った時に無理やりインプリンティングをさせられてそのままなし崩し的にマスターになってはみたがこのままでいいんだろうか

 

「はぁ・・・どうしたものかな」

 

シュウが悩んでいる時、居間のほうでは新大陸発見部の面子が集まっていた

 

「それで、シュウは部屋で考え事をして出て来ないと言う訳か」

 

「はい、毎日のようにニンフさんがシュウ君に命令がないかと聞いてくるので流石にまいってしまったそうです

それに最近ではイカロスさんもニンフさんと一緒に命令を求めるようになって・・・どうにかならないでしょうか守形先輩?」

 

「無理だな。シュウは自由に生きて欲しいから命令したくない

それに引き換えニンフとイカロスは命令の遂行を存在意義としている

互いの意見が平行線である以上どうする事も出来ない」

 

「トモちゃん、何か良い案とかないの?」

 

「俺に振るなよ。俺達がどうこう出来る話じゃないだろう」

 

「そうだな。ニンフはともかくイカロスは少し心配だな」

 

部長の言うようにイカロスはさきほどから落ち込んでいるのか部屋の隅で黙々とこけしの首を取ったりはめたりを繰り返している

 

「イカロスさんはシュウ君のエンジェロイドなのに命令されないからとニンフさん以上に落ち込んじゃって」

 

「じゃあ会長がどうにかしてあげる~」

 

会長が挙手してイカロスに近付く

 

「イカロスちゃん。緋村君に命令されたいなら私の命令きいてくれないかしら?」

 

「なんでしょうか?」

 

「緋村君をどこか深い海にでも捨ててきてくれるかしら~」

 

会長が突拍子もない事を言うとイカロスは空の女王(ウラヌス・クイーン)を発動し瞳の色が緑から紅に変わると天井を突き破りシュウの部屋に突撃した

 

「おわぁ!イカロス、どうした!?」

 

「マスター、会長さんの命令です」

 

「はぁ?ちょ、まっ・・・」

 

こちらの話は聞く耳持たずにイカロスはシュウを抱きかかえて空高くに飛び上がった

風景が物凄い速さで後ろに吸い込まれていきたった数分で海に到着し海の深い所にまで移動する

 

「イカロス!何をしする気だ!?降ろしてくれ!」

 

「御命令ですか?」

 

「は?」

 

「御命令であればすぐに止めます」

 

「命令じゃなくて頼んでいるの!」

 

イカロスは急停止するとシュウの腕を掴み思いっきりに振り上げ海に向かって投擲する

 

「わぁぁぁぁぁ!」

 

「御命令、ですか・・・御命令・・・ですか」

 

海にぶつかる直前にイカロスはシュウを抱きかかえて再び空に上がる

 

「あ、危なかった・・・イカロス、そろそろ戻ろうぞ」

 

「それは、御命令ですか?」

 

「いや、だから頼んでいるだけで・・・」

 

「どうしてですか!」

 

イカロスが声を荒げてシュウは面を喰らったように目を丸くしてイカロスの顔を見る

その顔はとても辛そうで目からは涙がこぼれ落ちシュウの頬を濡らしていく

 

「イカロス・・・?」

 

「どうして私には命令してくれないんですか!マスターにとって私は要らない存在ですか!?」

 

「そんなわけ・・・」

 

「じゃあどうして命令してくださらないんですか!

ニンフに命令した時、私はニンフが羨ましかった

マスターは私に一度も命令してくださらなかった。マスターにとって私は必要ないのではないかって不安でした

お願いです・・・どうか、私にも・・・命令してください

私を捨てないでください。私の鳥籠(マイ・マスター)

 

「・・・お前もアストレアと同じ馬鹿なんだな」

 

そう言ってシュウはイカロスを抱きしめる

 

「俺がお前を捨てるわけないだろう。俺はお前が降って来たあの日になにもわからないままマスターになったのもあるがお前達には自分の居場所を自分で決めて欲しいんだ」

 

「でも、私はマスターの傍に」

 

「それはお前の意思かそれともインプリンティングをしているからなのかイカロス」

 

「わかりません。ですがマスターが居なくなると考えると動力炉が痛いんです

自分が壊れてしまいそうな気持になります。だから、私は自分の気持ちを知りたいんです

その答えはマスターの傍にいればいつか分かると」

 

「そっか。じゃあ俺はお前に最初で最後の命令をする」

 

「はいマスター」

 

「その答えがでるまでは俺の傍に居ろ。答えが出た時にそれでも俺の傍に居たいと思うなら俺の傍にいればいいさ」

 

「はい・・・ありがとうございますマスター」

 

「じゃあ帰ろうぜ俺達の家に」

 

「はい」

 

シュウとイカロスのひと騒動が終わりダイタロスも一安心した

 

「良かった。元の鞘に収まって」

 

二人の光景を微笑ましく見守っているとビー!ビー!と警戒音が鳴り響いた

 

「警報?いったい何が・・・」

 

映像を切り替えるとそこには新型のエンジェロイドの姿があった

 

「これは新型のエンジェロイド!場所は!?」

 

エンジェロイドの現在位置を調べるとそこはシュウ達の真下。新海8000メートルの地点だ

 

「新海8000メートル!ありえない!エンジェロイドにとって水は最大の弱点のはず!」

 

『クククク随分とうろたえているなダイダロス』

 

ミーノスがダイダロスに通信を送り映像が出現した

 

『ヒムラ・シュウには随分と辛酸をなめさせられてきたからな。だから・・・こちらも多少本気を出すことにした。これが私が作り上げた新型のエンジェロイド水中戦闘用エンジェロイドタイプη(イータ)seiren(セイレーン)

いかに空の女王(ウラヌス・クイーン)といえど弱点である水中に引きずり込まれればひとたまりもあるまい。しかも今は脆弱な人間を抱えてとあってはなおの事だ』

 

「逃げて・・・緋村君・・・」

 

『行けセイレーン。ヒムラ・シュウを殺せ』

 

「逃げて!緋村君!」

 

ダイダロスの声は届かずセイレーンが動き出すとセイレーンの背後から何者かが姿を現しセイレーンの心臓を刃が貫いた

 

「!」

 

突然の出来事にセイレーン、ミーノス、ダイダロスの三人は何が起こったのか理解できずにいた

 

「何が起きたのだ!?」

 

慌ててミーノスはピアノの鍵盤にみたてたコンソールを操作するとある者がモニターに映し出された

 

「バカな・・・あいつは・・・」

 

そこにいたのはイカロスとの戦闘で海の底に沈んだカオスの姿だった

 

「たくさん、たくさん・・・食べたの。でもおさかなさんじゃダメ。だからちょうだい・・・あなたの力を」

 

次々とカオスの羽である刃がセイレーンの体を貫いていく

 

「あぁぁぁ!助けて!助けてくださいマスター!」

 

『やめろカオス!命令だ』

 

だがカオスは止まらない

 

『どうしたカオス!俺の命令が聞こえないのか!?』

 

ダイダロスはカオスのデータを分析して恐ろしい事実を見つけた。カオスがセイレーンのシステムを食べて吸収していたのだ

 

「まさか・・・カオスにあれ(・・)を積んだの?自己進化プログラム『Pandora(パンドラ)』を」

 

セイレーンの全てを喰らいつくしたカオスは前回の戦闘で壊された片翼の翼を修復した

 

「ミーノス!貴方は何をしたのか分かっているの!?これでもうカオスは命令なんて聞かない。いずれシナプスにも牙を向けるわ。Pandora(パンドラ)は進化するのよ。もう誰にも止められない」

 

カオスの首のインプリンティングしている鎖が砕け散りカオスは自由となったカオスは深海から地上へと上がり空見町に視線を向ける

 

「つぎは私が愛をあげるね。あははははは!」



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第三十四話愛

イカロスとシュウが空見町に戻ると家の前ではみんながシュウ達の帰りを待っていた

 

「お帰りなさいシュウ君、イカロスさん」

 

「どうやら無事に事が済んだようだなシュウ」

 

「はい。お陰で色々とイカロスと話せたので会長には感謝しています」

 

「ふふ、イカロスちゃんって自分の意見を言えない子だからこれぐらいしないとね~」

 

「あの、マスター。一つだけお願いをしてもよろしいでしょうか?」

 

「うん?何だ?」

 

「私のインプリンティングを解除してくれないでしょうか」

 

イカロスの申し出に全員が驚いた

 

「ちょっとアルファー!何言っているのよ!?」

 

「そうですよイカロス先輩!自分からインプリンティングを解除して欲しいなんてどうしたんですか!?」

 

「私はマスターの傍に居たいと思っている。でもそれはマスターとインプリンティングしているからではないかと思うんです。だから私もインプリンティングを解いて自分の気持ちを知りたいんです」

 

イカロスは本気だと感じたシュウはイカロスと向き合う

 

「それがお前の出した答えか?」

 

「はい」

 

「分かった。お前が納得するまで悩め。その時にどんな答えが出ていたとしても俺はお前の意見を尊重する」

 

「はい。ありがとうございます」

 

鎖が砕け散りイカロスとシュウの関係が解消された

 

「まぁ、これで俺とお前の関係までもが解消されたわけじゃないから安心しろ。それと俺の呼び方はお前が決めてくれ。今まで通りマスターでもいいからな」

 

「では、これまで通りマスターと呼ばせてください」

 

「あぁ、これからもよろしくなイカロス」

 

こうしてシュウとイカロスのちょっとした騒動はイカロスのインプリンティングを解く事で終わった

 

※※※※※

 

騒動から数日後のある日の夕方の事だ

シュウはすることもなく散歩をしていると公園を見つけて中に入りブランコに座っていると背後から人の気配を感じた

 

「ん?」

 

振り返ってみるとそこには誰もいない

 

「気のせいか?」

 

向き直るとそこには修道女の服を着た少女が目の前にいた

 

「・・・うぉぉぉぉ!」

 

突然、目の前に少女が現れた事に驚きブランコから飛び上がってしまった

 

「ねぇ、愛って痛いんだよ」

 

「え・・・?」

 

「愛って・・・痛いんだよ」

 

「・・・いや、違うぞ」

 

「違・・・う?」

 

「愛が痛いって違うぞ。それは」

 

「違うの?」

 

「うん、違う」

 

「じゃあ愛ってなぁに?」

 

「愛っていうのはだな・・・」

 

なんだろう~

私、緋村シュウはたった十五年しか生きていない若輩者に愛を語るなんて出来るはずがありません

でも流石に愛が痛いというのはかわいそうだ。ここは俺の見てきたアニメ漫画の知識を集大成すればこの状況を乗り越えられるはずだ!

 

全ての情報を参照していきシュウは答えを出した

 

「いいかね。愛と言うのは人に与えたり人から与えられるものなのだよ」

 

「?」

 

「君は痛いを貰って嬉しい?」

 

「痛いは・・・いや」

 

「嫌ならそれは愛じゃない。愛ってのは色々ある。例えば・・・誰かのために行動するのも愛だ」

 

「おねぇさまがしていた」

 

「ならそれは愛だよ。誰かのために行動するなんて普通は出来ないんだから」

 

「そっか。これが愛なんだね」

 

「そう、それが愛だよ。君はお利口だね」

 

そう言って頭を撫でてやると女の子は笑った。どうやら嬉しかったようだ

 

「おにいちゃん、私、もっと愛がほしい!」

 

「あ~でも今日はもう遅いから今日はもう家に帰りな」

 

「お家に・・・帰る?」

 

「それで明日、またこの公園で一緒に遊ぼう。その時にまた教えてあげるから」

 

「約束だよ」

 

「あぁ、約束だ。あ、そういえばまだ名前を知らなかったな。俺は緋村シュウ。君の名前は?」

 

「私はカオス」

 

「じゃあなカオス、また明日な

 

「うん!バイバ~イ!」

 

公園からシュウが居なくなりカオスは空を見上げる

 

「私の帰る場所・・・それは、ますたーのところ」

 

刃の羽を広げてカオスはシナプス目指して空を飛ぶ

 

帰るんだ。ますたーのところに・・・ますたーのところに、帰るんだ

 

雲の亀裂からシナプスが見えようやく家に帰れたと安心したカオスだったがシナプスから高エネルギーの収束砲が放たれカオスの右半分の羽を撃ち抜いた

 

「ます、たー・・・?」

 

『カオス、お前は廃棄処分だ』

 



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第三十五話おうち

「カオスの片翼撃破!やりましたねマスター」

 

ハーピーの報告を聞いてミーノスは不服そうな顔をする

 

「脆いな。私の造った第二世代は」

 

「マスター・・・?」

 

Pandora(パンドラ)にしてもそうだ。あのダイダロスが作るだけ作って使わなかったわけだ。残念だが・・・認めねばなるまいな。エンジェロイドの開発においては未だにダイダロスの方が上、か・・・」

 

「・・・」

 

「マスター・・・」

 

「だが・・・所詮はエンジェロイドだ。この私が作ったシナプス最強の防空システムZEUS(ゼウス)に抗う術などない!」

 

カオスの周囲に何十枚ものカードが展開されるとカードから電流が放出されカード同士の電流が繋がりカオスが逃げられないように電流の結界を作るとZEUS(ゼウス)にエネルギーが収束されていく

 

「ますたー・・・私、おうちに・・・」

 

だがエネルギーの収束を終えるとエネルギー砲を発射した。カオスに直撃するが第二世代の装甲は硬く一撃では倒せない

ハーピー達も加わりカオスに攻撃を与えるがカオスは反撃もすることなくただただ攻撃を受けているだけだ

 

「おうちにいれ・・・ますたー。私、愛がほしいの・・・」

 

しかしミーノスはカオスの言葉を無視して再びZEUS(ゼウス)を作動させてカオスに向けて何発ものエネルギー砲を浴びせる

 

「ちがうよますたー。痛いのは愛じゃない。おうちにいれて・・・おうちに・・・」

 

「黙れ!この私に、シナプスに刃向かって何を言う。お前のような出来損ないのエンジェロイドに帰る場所などこの世界のどこにもない!」

 

「いや・・・」

 

カオスはミーノスの言葉を否定しマッハのスピードでその場から離脱し再び空見町に降り立ち道をおぼつかない足取りで歩く

 

「なかなか・・・なおらない。イカロスおねぇさまのようには・・・いかないな・・・」

 

歩くたびに体からギシギシと音が出てイカロスと同じ自己修復機能が付いており作動させているがそれでもイカロスよりは修復が遅い

 

「きゃっ!ちょっとあなたどうしたの!?」

 

顔をあげるとカオスの前に同じエンジェロイドの風音日和が慌てた顔をしていた

 

「ひどいケガ!お母さんは!?おうちはどこ!?」

 

「おう・・・ち・・・私のおうち?」

 

「そうよ。あなたのおうちはどこ!?」

 

「おうち・・・」

 

おうちなんてない。だって、さっきますたーに居場所はないっていわれた・・・

 

「おうち・・・私のおうちは・・・おにぃちゃんの、のところ・・・」

 

最後の力を振り絞りカオスは羽を広げシュウの元に向かった

レーダーでシュウの位置を特定し家の前に降りると家の中からシュウの声が聞こえる

 

「いいよね。おにいちゃん・・・帰ってきても、いいよね・・・」

 

戸に手をかけた時、ますたーの言葉を思い出した『出来損ないのエンジェロイドに帰る場所などない!』

 

その言葉がカオスの動きを止めた。あと少しで戸が開くのに力が入らない

 

「そう・・・だよね。出来損ないじゃ・・・ダメ・・・だよね。頭が、よくないと・・・帰れない・・・よね」

 

戸に掛けた手を離した

 

「さようなら、おにぃちゃん」

 

目に涙を浮かべながらカオスはシュウにお別れを告げて飛び立っていった

 

カオスが居なくなってから十分後に日和が帰って来た

 

「ただいま」

 

「おかえり日和」

 

丁度シュウが廊下に出た時に日和が帰って来たのでシュウが日和を出迎えた

 

「シュウ君、誰か来なかった?」

 

「いや、誰も来ていないが何かあったのか?」

 

「はい。さっきシスター服をきたエンジェロイドの女の子を見たので」

 

日和の言った特徴にシュウはある人物が頭に浮かんだ

 

「日和!それって金色の髪をした小学生ぐらいの小っちゃい女の子か!?」

 

「え!う、うん。そうだけど・・・ひどいケガをしていたので手当てしようとしたらどっかに行ってしまって・・・」

 

「くそっ!」

 

シュウは自分に毒づき靴を履き外に飛び出した

 

(くそ!俺のバカ!どうしてあいつがエンジェロイドだって気づけなかった。どうしてあの時もっと一緒に居てやろうとしなかったんだ!)

 

カオスを探しながら自分のした事を後悔していた。おうちに帰れっていった。あいつにとっての家はシナプス。つまりニンフの元マスターの元に帰れと言ってしまったんだ

それで怪我をしていたという事は空の王に何かされたに違いない

 

「間に合ってくれよ!」

 

そう思いながらカオスを探しに空見町を探し始めた



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第三十六話カオスの居場所

シュウの家から飛び出したカオスは今、桜の木の下で自己修復に専念していた

これからどうしていいか分からないのでとりあえず修復を優先すべきだと判断しカオスはこの桜の木で一休みしていた

休憩していると空が曇りそして雨が降り始めた。最初は桜の木が雨よけになっていたが雨が強くなり雨のしずくがカオスの体に当たり始めた

 

「冷たい・・・寒い。あのまっくらな海の底みたい・・・いや、もう・・・暗いのは、イヤ・・・」

 

涙がとめどなく流れ落ちていく。寂しい。一人がイヤ。でも自分はこの世に居場所がない。どうする事も出来ない

 

「会いたいよ・・・おにぃちゃん・・・」

 

「呼んだかカオス」

 

「!」

 

顔をあげるとそこにはずぶ濡れになったシュウの姿があった

 

「おにぃ・・・ちゃん?」

 

「あぁ、俺だぜカオス」

 

「私、頭が悪いの。だから帰れないの・・・」

 

「なら、俺の所に来るか?」

 

「え?」

 

「頭が悪くたっていいじゃないか。俺の家にはお前より馬鹿な奴がいるんだぜ

それに、頭が悪いなら頑張って勉強して努力すればいい。そうすれば頭だって良くなる

俺がずっとお前の傍にいてやる。だから俺の元に来ないかカオス」

 

「いい・・・の?」

 

「もちろんだ」

 

「あぁ・・・」

 

自分の居場所。シュウの居る場所が自分の居場所でいいんだ。そう分かった時、カオスは泣きながらシュウに抱き着いた

 

シュウはカオスを抱きとめるとカオスが泣き止むまで桜の木の下でカオスの頭を撫で続けた

 

しばらくしてカオスが泣き止むと空も雨がやみ満天の星空が顔を出していた

 

「じゃあ行こうかカオス」

 

「うん!おにいちゃん」

 

二人は手を繋ぎ家へと向かった。家の前では日和達がシュウの帰りを待っていた

 

「おかえりシュウ君」

 

「良く分かったな。俺達が帰ってくるって」

 

「私のレーダーならすぐに探し出せたのにシュウがさっさと飛び出しちゃったから待っていたのよ」

 

「そっか。ニンフに頼めば空見町中を走り回らなくてよかったのか。忘れていたよ」

 

「別にいいわよ。それで、カオスをどうするのよ?」

 

「どうやらもうイカロス達と同じマスターの居ないエンジェロイドらしい。だからこのまま引き取ろうと思うんだがいいかな?」

 

「私は大丈夫ですよ」

 

「マスターがそうしたいなら」

 

「はいは~い!私も賛成です!」

 

日和、イカロス、アストレアは了承してくれた。残るは・・・

 

「それで、ニンフは?」

 

「私は・・・」

 

ニンフはカオスに一度ひどい目に遭わされている。本当なら許せないがカオスもニンフと同じようにマスターからひどい目に遭わされたのは恰好からして分かる

でも、それでも許せない気持ちがあるのも確かだ

 

するとカオスがニンフの前にトコトコと歩いてきた

 

「な、なによ・・・」

 

「ニンフおねぇさまごめんなさい」

 

「え・・・?」

 

突然カオスが謝りペコリと頭を下げたのでニンフはあっけを取られた

 

「おにぃちゃんに教わったの。愛は与えるもの。ニンフおねぇちゃんに痛いことしちゃった。だからごめんなさい」

 

「シュウ、あんたカオスになにしたのよ?」

 

「何ってただ愛とは何なのかを教えただけだよ。それで、ニンフはどうする?」

 

「・・・わかったわよ。今までの事は全部許すわよ」

 

「ほんと!」

 

「えぇ、でも次やったら許さないからね」

 

「うん!それとイカロスおねぇさまとアストレアおねぇさまも痛いことしちゃってごめんなさい」

 

「もういいよカオス」

 

「そうですよ。気にしてませんから」

 

みんなの和解の光景をシュウと日和は見守っていた

 

「シュウ君の周りにはいつの間にか賑やかになりましたね」

 

「昔みたいな静かなのもいいがこいつらをほってはおけないからな。日和は良かったのか?」

 

「私は昔からシュウ君のそういう優しい所が好きですから。そのおかげで私もいま、こうしてこの場所に居られるんです。シュウ君やイカロスさん達が私を助けるために頑張ってくれた

だから私はシュウ君がやる事は間違っていないってわかっていますから」

 

「そうか。ありがとな日和」

 

「いえ、明日からまた賑やかになりますね」

 

「騒がしくなるの間違いじゃないか。でも、それもいいんじゃないか。人間とエンジェロイドの日常なんてアニメみたいでさ」

 

そう笑いながらシュウは笑い合っているカオス達を微笑ましく見守っていた




遂に!自分がしたかった事を実現できた
元々はカオスのマスターとして物語を始めようとしたがどうせならイカロス達全員のマスターになっちまえと思ってこのスタイルで書き始めてようやく主要メンバーが全員揃った!めっちゃうれしい

さて、次回はオリジナルの話を一本やります。これは前々から考えてやってみたいと思っていたので早速やらせてもらいます
そしてオリジナルの次はついにそらのおとしもの最後のエンジェロイドであるオレガノの再登場回です
お楽しみに!


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第三十七話風邪

カオスを引き取った次の日の事だ

朝、目が覚めるて時計を見ると起床時間の五分前だ

普段ならいつものように二度寝を始めるのだが何故か今日は頭が重く感じ起き上がると体がだるく感じる

 

「あぁ・・・だるい」

 

身体がだるいだけではなく寝汗をびっしょりとかいている

寝汗で湿ったパジャマを脱ぎ捨てて新しいシャツに取り換えて部屋を出ると丁度イカロスがカオスと手を繋いで二階に上がって来た

 

「あ!おにぃちゃん」

 

シュウの姿を見てカオスがイカロスの手を放してシュウの元に駆けてきた

 

「おはようカオス」

 

「おはよう。おにぃちゃん」

 

「おはようございますマスター」

 

「おはようイカロス」

 

「今日はお早いですね」

 

「なんか目が覚めた。行こうカオス」

 

「うん」

 

カオスとシュウは手を繋ぎ下に下りて居間に行くと既に朝食の準備が整っていた

 

「あら、今日は早いわねシュウ」

 

「おっはようございます!」

 

「二人共元気だな。おはよう」

 

「あ、シュウ君おはようございます」

 

「おはよう日和」

 

「シュウ君?」

 

「・・・ん?どうした?」

 

「いえ、なんでも・・・」

 

気のせいかしら・・・

 

いつもの席に座るとカオスはシュウの隣に座る

 

「じゃあいただきます」

 

「いただきます」

 

シュウにならって食事の挨拶をして朝食を始まった。シュウは味噌汁を一口すすると味がいつもより薄く感じた

 

「隙あり!」

 

アストレアがシュウのおかずを一品奪い取った

 

「・・・アストレア!人のおかずを盗るな」

 

「へへ~ん。隙を見せたら終わりですよ」

 

「・・・シュウ君」

 

「うん、どうした日和?」

 

日和はシュウの元に移動するとシュウの額に自分の額を押し当てる

 

「う~ん・・・シュウ君、少し熱っぽいよ」

 

「熱?」

 

額を放して日和はシュウの頬や首を触り口の中を見る

 

「喉は腫れていませんが風邪ですね」

 

「風邪か・・・いつぶりだろう?」

 

「今日は一日休んで様子を見た方がいいですね。後で消化の良いものを作るので今は部屋に戻って休んでください

イカロスさん、シュウ君の部屋の押し入れからお布団を出してください」

 

「はい」

 

シュウとイカロスが部屋に戻ると日和は早速料理を始める

 

「日和おねぇちゃん。おにいちゃんはどうしたの?」

 

「少し体調が悪いから今日は一日休ませないとね」

 

「何作るの?」

 

「おうどんを作るの。昔から風邪の時はこれを作っていたから」

 

冷蔵庫からうどんを取り出し早速料理を作り始めカオスはその光景をじっと見ていた

 

部屋に戻るとイカロスは新しい布団を押入れから取り出し整える

 

「悪いなイカロス」

 

「いえ、マスター早く良くなってくださいね」

 

「大丈夫だって。一日寝てれば治るよ」

 

布団を整え終わると扉が開き日和とカオスが鍋を持ってやってきた

 

「これ食べて早く元気になってくださいね」

 

「おぉ!ありがとう」

 

鍋を受け取ると醤油だしの良い香りが鼻孔をくすぐる

 

「あぁ~いい匂い・・・いただきま~す」

 

味はあまり感じられないがそれでもおいしいと感じられた。でもシュウからしてはひとつだけ足りない

 

「なぁ、日和」

 

「駄目ですよシュウ君」

 

「・・・まだ何も言っていないぞ日和」

 

「一味が欲しいって言いたいんでしょう。駄目ですよ。体調が悪いのに辛い物は体に良くないんですから今は我慢してください」

 

「うぅ~はい・・・」

 

「おにいちゃんは辛いの好き?」

 

「うん。ピリッてくる辛さが好きです」

 

「風邪が治ったら作ってあげますから今日は我慢してください」

 

「へいへい」

 

不服そうにシュウはうどんを完食した

 

「今日は半日で学校が終わるので帰ってくるまでは大人しく寝ていてくださいね」

 

「分かってるって。いってらっしゃ~い」

 

日和、イカロス、ニンフが学校に出かけシュウは部屋で寝ておりアストレアとカオスは居間にいた

アストレアは縁側で空を見上げながらボォ~としておりカオスはお絵描きをしているがシュウが気になるのかシュウの部屋を見ている

 

「気になるの?」

 

カオスの行動に気付いたアストレアがカオスの隣に移動してきた

 

「おにいちゃんの、傍にいたい・・・」

 

「う~ん・・・ちょっと覗いてみようか」

 

「いいの!」

 

「起こさないようにね」

 

「うん!」

 

そっとシュウの部屋の前まで移動し扉を開けるとシュウが寝ている

 

「起こしちゃ駄目だよカオス」

 

「うん」

 

「それにしてもお腹空きましたね」

 

時刻は十二時ちょっと前。日和達が帰ってくるまで後一時間ぐらいだ

 

「アストレアおねぇさま、おにぃちゃんにご飯作りたい」

 

「でも私、料理できませんよ」

 

「大丈夫。朝、日和おねぇちゃんの作っているの見て憶えた」

 

「じゃあ頑張って作りましょうか」

 

「うん」

 

カオス達が料理をしている時にシュウは目を覚ました

 

「大分良くなってるな・・・」

 

朝ほどのだるさも頭の重みも感じない

 

「少し起きるか」

 

寝巻のまま居間に行くと居間には誰もいなかったが隣の台所に二人の姿を見つけた

 

「何やっているんだ?」

 

「あ!おにぃちゃん」

 

「起きて平気なんですか?」

 

「朝よりは楽になった。それより何しているんだ?」

 

「おにぃちゃんのご飯作ってるの!」

 

「期待していてくださいね」

 

「あぁ、楽しみにしてる」

 

そう言ってシュウは居間で座って料理の完成を待った

 

カオスとアストレアは料理を完成させお椀にうどんを盛りつけた

 

「これで完成だね」

 

「まだだよアストレアおねぇさま」

 

「まだなにかやるんですか?」

 

「これ」

 

カオスが取り出したのは一味唐辛子だ

 

「おにぃちゃんは辛いのが好きなんだって」

 

そう言ってキャップを開けてうどんに一味唐辛子を振りかけると振った衝撃でキュポッ!と蓋が外れて瓶の中にあった一味唐辛子がスバァッ!とうどんの上にかかりうどんとスープが真っ赤に染まった

 

「・・・これ、大丈夫かな?」

 

「おにぃちゃんは辛いのが好きだし大丈夫だよ」

 

「そ、そうですね・・・」

 

「おにぃちゃん、出来たよ」

 

「まってました!」

 

しかし運ばれてきた料理は全てが真っ赤に染まったうどんだった

 

「・・・」

 

匂いが鼻を刺激し鼻が痛い

 

「がんばって作ったよ」

 

「じゃあ、いただきます」

 

カオスが一生懸命作った料理を食べない訳にはいかないとシュウは覚悟を決めて箸を取り一口

 

「!!!」

 

口に入れた瞬間辛さが舌を通して脳を直接叩かれたかのような辛さが痛みとなり鈍っている味覚も辛いを通り過ぎて痛い

 

「どう?おにぃちゃん」

 

「スパイシーで美味しいです」

 

「うん!」

 

カオスがものすっごく無邪気な笑顔をこちらに向けてきた。シュウはここまで来たら全て完食してやると意気込み無言で箸を進める

その様子をアストレアはカオスの後ろで心配そうに眺めている

 

「ご、ご馳走様でした・・・」

 

三十分かけてようやく一杯食べ切った

 

「全部食べたからきっと良くなるね」

 

「あぁ・・・ありがとうカオス」

 

カオスは笑いながらお椀を台所の方にもっていった

 

「・・・で、大丈夫ですかシュウ?」

 

「・・・」

 

シュウは顔を天井に向けて口を開くと勢いよく炎を噴き出た

 

「辛かった・・・です」

 

それだけ言ってシュウは倒れてしまった

 

目が覚めるとシュウは自分の部屋の布団の上で寝かされていた。夢かと思ったが舌が痺れており夢でなかったんだと気づいた

起き上がると体の不調は消えておりどうやら舌が痺れている事以外は治ったようだ

 

居間に行ってみるとみんな夕食を食べていた」

 

「あ、おはようございますシュウ君」

 

「マスター、お身体の方は大丈夫ですか?」

 

「おはよう。もうすっかり良くなったよ。それよりカオスは?」

 

「そこよ」

 

ニンフが指さした方を見ると部屋の隅っこでカオスが体を丸めて落ち込んでいた

 

「シュウ君が倒れてからずっとあれで・・・」

 

「ははは・・・」

 

シュウはカオスに近寄り後ろに座る

 

「カオス」

 

「おにぃちゃん・・・」

 

こっちを見ないでシュウの言葉に応えた

 

「落ち込むなよ。失敗なんて誰だってあるさ」

 

「でも、おにぃちゃんに愛を上げられなかった」

 

「そんな事はないさ。確かに辛かったけどカオスが一生懸命作ってくれたという気持ちは伝わった。だから俺はカオスの作った料理を全部食べたんだ。だからありがとうカオス」

 

「うん」

 

「それにニンフやアストレアは料理できないからお前の方が優秀だぞ」

 

「ちょっと!こっちまで巻き込まないでよね!」

 

「はいは~い!私は食べる専門です!」

 

「だからさ、次は失敗しないように一緒に作ろうぜカオス」

 

「うん!」

 

ようやくこっちを向いてくれた。シュウはカオスの頭を撫でてやった

 

「えへへ~おにぃちゃん大好き!」

 

カオスがシュウに抱き着きようやく笑ってくれた

 

これが緋村家の日常であり非日常



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第三十八話オレガノ

私はシナプスの居住区の掃除を担当するエンジェロイドのオレガノ

 

ここでは毎日決まった時間に掃除を始めるのが私達の仕事

 

いつものように掃除をしていると私は時々掃除の手を止めて空を見上げる

 

その時に思い出すのはもうずっと前になるがこの場所を訪ねてきた一人の人間の事だ

人間など初めて見たがその人間はとてもおかしい人だった

 

言葉も話せない私に話しかけミニロスと名前を付けてくれて頭を撫でてくれた

 

頭を撫でられるなんて今までなかったので少し動揺もしたが嫌な感じはなくむしろ心地よかった

 

あの人にもう一度会ってみたいという気持ちが生まれ始めたある日、この居住区にあの人以外の人間を見つけた

 

※※※※※

 

ここはシナプスの誰もいない居住区

ここには居住区を掃除するエンジェロイドがいるだけだがその居住区に守形がパソコンを持って立っている

 

「フム・・・あらかたこの辺りは調べ尽くしたな」

 

パソコンに調査した内容を記録し終えもう一度居住区を見渡すが誰もいない

 

「人のいない居住区か・・・奇怪だな」

 

シナプス人のほとんどはあのドームの中で眠っている。何故、シナプス人は眠っておりこのエンジェロイド達は主のいないこの場所を掃除しているのだろうか

 

謎は深まるばかりだ。この辺りをこれ以上調査しても意味がない。もっと調査範囲を広げねば

 

そう考えていると守形の裾を誰かが引っ張った

顔を横に向けるとそこには箒を持ったエンジェロイドが裾を引っ張っていた

 

「お前が喋る事できれば謎は解けるのかもしれないな」

 

そう言って守形はエンジェロイドの頭を撫でる

 

あの人が撫でたようにこの人も私の頭を撫でるがあの人と同じ気持ちにならないと感じた

あの人だからなのか、それとも二度目だからそうなのか分からない

 

「見つけたぞ!眼鏡野郎」

 

見るとハーピーが息を切らしてこっちに走って来た

 

「学習しない奴らだな」

 

守形の予想通りに二人が現れるとダイブ・ゲームのゲートが開かれ地上へと帰還した

 

「さて、次は・・・ん?」

 

背後に気配を感じ振り返るとそこにはさきほどのエンジェロイドが守形の裾を握って立っていた

 

「・・・」

 

「・・・」

 

※※※※※

 

「・・・というわけでついてきてしまった」

 

あの後守形はそのままエンジェロイドを連れてシュウの家に連れてきていた

 

「なぁ、ニンフ。エンジェロイドはダイブ・ゲーム出来ないじゃなかったのか?」

 

「う~ん・・・シュウの言う通りだけどあの子は私達とはかなり違うのよ」

 

「違うというと?」

 

「医療用エンジェロイドoregano(オレガノ)感情制御は希薄で言語能力も積んでいないからこっちでいうところのロボットに近い存在なの。だから禁忌(タブー)に触れなかったんだと思う」

 

「じゃあもう一度ダイブゲームを使えば戻せるんじゃないか?」

 

「あくまで推測だから次やって元の場所に無事に戻れる保証はないわ」

 

「というわけでシュウ、面倒を見てくれ」

 

「良いっすよ」

 

「随分とあっさりと返事するな。既に五人もエンジェロイドがいるのに」

 

「まぁ、みんな好きでここに居るわけだしこのままオレガノを放置するわけにもいきませんし。それに以前イカロスから数千億の大金がまだまだ余裕で残っているので一人増えたぐらい問題ありません。いいよな日和」

 

「はい。私もこのままというのも可哀想ですし大丈夫です」

 

「ねぇねぇおにぃちゃん。あの子もここに住むの?」

 

「そうだぞ。お前のおねぇさまがもう一人増えるって事だ」

 

「わ~い!」

 

「出来れば言語能力があった方がいいんだがイカロスの持っているカードで言語能力とか追加できないのか?」

 

「それは無理ですマスター。カードの力ではどうする事も出来ません。エンジェロイドを造った科学者でなければおそらく新しく能力を付け加えるのは難しいと思います」

 

「でもこのまま喋れないというのも可哀想だしな。家族になる以上は話せた方がいいだろうし」

 

八方塞がりかと思っていたら会長が手を上げた

 

「はいは~い!じゃあ会長が何とかしてあげるわ~」

 

「え?出来るんですか会長」

 

「明日、家に来てもらえばればこの子に言語能力を付け加えておいてあげるわ」

 

「じゃあ、お願いしてもいいですか?」

 

「任せて~じゃあ明日また連絡するわね~」

 

そう言って会長はオレガノを連れて帰っていき今日が終わった



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第三十九話言語能力

会長にオレガノを預けた次の日に会長から電話がかかってきた

 

『緋村君~いまから家にきてもらえるかしら~?』

 

「いいですよ」

 

『じゃあ、待ってるわね~』

 

電話を切りシュウは着替えるとニンフが部屋に入って来た

 

「どっか行くの?」

 

「あぁ、会長から家に来てくれって言われたな。多分、オレガノの言語能力を取り付けられた連絡だろう」

 

「じゃあ私も行くわ」

 

「お前も?」

 

「うん。暇だし」

 

「まぁ、いいか。大人しくしてろよ」

 

「デルタじゃないんだから平気よ」

 

台所に行くと日和とイカロスが料理を作っておりそれを後ろからカオスが見ている

 

「日和、ちょっと会長さんの家に行ってくるから昼は先に食べていてくれ」

 

「わかりました。そういえばオレガノさんが来るとなれば夕飯は一人分多く作らないとだねイカロスさん」

 

「そうですね」

 

「おにぃちゃん、私も行っていい?」

 

「別にいいけどちゃんとしているんだよカオス」

 

「うん!」

 

「よし、じゃあ行くか」

 

カオスと手を繋ぎシュウは出掛けニンフもシュウに続いて出掛けて行った

 

外に出てニンフはシュウ達より少し後ろで歩いている。前ではシュウとカオスが手を繋いで仲良さそうに歩いている

 

(何よ。私もいるんだから私と手を繋ごうと思ったっていいじゃないの。あ~あ、本当はシュウと出掛けたくて一緒に来たのにカオスがシユウを独占していちゃ私がいる意味ないじゃない)

 

不機嫌になりながらも行くと言った以上シュウに付いていくとシュウがこちらを向いた

 

「ニンフ、一緒に行こうぜ」

 

そう言ってシュウはニンフに空いている手を差し出す

 

(何よ、気付いているなら最初からそうしなさいよね)

 

「分かったわよ」

 

嬉しさを隠しきれずにニンフはシュウと手を繋ぎ会長の家に向かって歩き始めた

 

十分ほど歩いてようやく会長の家の前に到着しシュウはチャイムを鳴らすためにニンフから手を放した

 

(帰りはもっと長く繋いでやるんだから)

 

ニンフはそう心に決めた

 

「会長さん!緋村ですけど」

 

『あら早かったわね。今開けるわね~』

 

扉が開くとそこには着物に身を包んだオレガノの姿があった

 

「お待ちしておりましたシュウ様、カオス様、それと・・・コンブ様」

 

「ニンフよ!」

 

「ちょ、落ち着けニンフ」

 

怒りだしたニンフをシュウが必死に制止するがいくら電子戦用のエンジェロイドでも力は人間より遥かに上だ

 

「カオス!ちょっとニンフを止めてくれ!」

 

「いいよ~」

 

そう言って刃の羽を出現させてニンフに突き立てた

 

「動くと首が飛んじゃうよニンフおねぇさま」

 

「は、はい・・・」

 

カオスは善悪の判断が出来ないので人だって簡単に殺せる残忍な一面を持っているのでこの行動もおそらくカオスがニンフを止めるのに一番早いやり方だと判断したからだろう

 

「申し訳ございません。まだ言語能力になれていないのでこれから先、言い間違いがあるかと思いますがどうぞよろしくお願いします」

 

カオスが羽をしまうとオレガノはシュウ達に謝罪した

 

「いや、こっちも悪かったな。ほらニンフ」

 

「分かっているわよ。こっちこそ悪かったわよ」

 

素直には謝れないのでニンフは視線を逸らしながら謝った

 

「素直じゃないなニンフは。それにしても言語能力があるとやっぱいいな。前は話すら出来なかったからな」

 

「シュウ、あんたこいつを知っているの?」

 

「う~んと・・・前にシナプスにいった時に会ったエンジェロイドじゃないかなって思うんだけど・・・違う?」

 

「いえ、私はあの時シュウ様に会ったエンジェロイドです。ですがどうして私だと?」

 

「昨日、家に来た時にずっと俺のことを見ていたからもしかしたらあの時に会ったエンジェロイドじゃないかなって思って

まぁ、あの時は名前が分からなかったからミニロスって呼んでたけどな」

 

「ミニロス?なんでまた」

 

「感情が無くて無表情なのがイカロスに似ていてそれでイカロスより小っちゃいからミニロスって呼んでいたが悪かったな変な名前付けて」

 

「いえ、私も少々楽しかったので構いません。オレガノでもミニロスでもどちらので呼んでいただいても構いませんので。では美香子お嬢様がお待ちしておりますのでこちらへどうぞ」

 

踵を返しシュウ達を案内し始める

 

(これが感情というものなのでしょうか。気持ちが昂り高揚状態でとても清々しい気持ちです)

 

シュウが自分の事を憶えていてくれたことが嬉しくて口元が少し緩んだ



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第四十話ニンフとオレガノ

会長の家は江戸の宿場町だったころから空見町を仕切っているいわば極道の家系である

そのため家はめちゃくちゃ広く庭には黒スーツの強面の男達が警備している

 

「銃まで装備させているなんて本当に極道って感じだな」

 

「あら~どうしてわかったの?」

 

「本日はお招きありがとうございます会長」

 

「挨拶はいいからさっきの推測について教えてくれないかしら~」

 

「単純ですよ。あの人達の右手にはタコがあった。あれはリボルバー式の銃をよく使う者に現れるタコだ

そしてさらに言えば左肩が少し下がっている。あれは左の内ポケットに銃を持っているからじゃないですか」

 

「ブラボー。大正解よ緋村君」

 

パチパチパチパチと手を叩き称賛を送る

 

「そりゃよかった。アニメで得た情報も案外役に立つんですね」

 

「まぁ、そういう事は置いておいて。緋村君はこっちの部屋で会長とお話でニンフちゃんはちょっとオレガノちゃんとこっちの部屋で待っててね

あ、カオスちゃんは緋村君と一緒で大丈夫だからね~」

 

「うん!」

 

シュウとカオス、会長が同じ部屋に入りニンフとオレガノが隣の部屋に入るとそこは茶室だった

 

「どうぞお座りください」

 

「う、うん」

 

ニンフが座りオレガノはニンフの前に座り茶をたて始めた

カシャカシャという茶をたてる音だけが部屋の中に響く

 

「どうぞ」

 

オレガノが茶をたて終えてニンフに差し出す

 

「ありがとう」

 

差し出された茶を受け取ると差し出された茶器の中にはどす黒い液体がボコボコと気泡が出ている

 

「えっと・・・これは何?」

 

「黙って飲めチビ」

 

「・・・は?」

 

突然のオレガノの暴言にニンフは固まってしまった

 

「カオス様が来るのは予想していましたがどうしてチビまでくっついてくるんでしょうか」

 

「・・・あぁ~そっか。きっとかいちょうが口が悪くように改造して・・・」

 

「チ~ビ。チビ、チビ、クソチビ」

 

この言葉にはニンフは激怒してゆらりと立ち上がる

 

「あんたいい加減に・・・」

 

その時シュウの言葉を思い出した

 

(あ・・・大人しくしてろって言われていたんだ。ここは耐えないと・・・)

 

「フフン・・・好きなだけ悪口を言えばいいわ。何を言われようと私は怒らないからね」

 

自信満々に胸を張るとオレガノも立ち上がりニンフと対峙する

 

「貧乳」

 

その言葉にニンフは遂に切れた。ハッキングシステムを展開する

 

「あんた、覚悟は出来ているんでしょうね」

 

殺す気でニンフは息を大きく吸い込み攻撃の準備をする

ニンフが攻撃を仕掛けようとした時オレガノは天井から垂れているロープを引っ張るとパカッ!とニンフの足元の畳が開きニンフは落下していきその間にオレガノは庭に逃げ出した

 

「逃がすか!」

 

穴から抜け出しオレガノを追いかけてニンフも外に飛び出し周囲を見渡すと走っているオレガノの姿を見つけた

 

「見つけたわよ!」

 

オレガノが庭に生えている木の傍にまでいき振り返ってニンフの姿を確認すると木の幹にあるロープを引っ張ると再びニンフの立っている場所に穴が空落下した

 

「こんなの飛べれば!」

 

ガシャン!と落ちた穴が鉄格子で塞がれた

 

「は?」

 

オレガノは手に籠を持ってニンフを見下ろす。気のせいかオレガノの持っている籠の中からゲロゲロと声が聞こえる

 

「プレゼントです」

 

籠をひっくり返すと中からカエルがニンフにめがけて落下してきた

 

「イヤァァァァ!」

 

狭い場所のため逃げる事も回避する事も出来ずにニンフの体にカエルが降り注がれた

 

「ぬるぬるして気持ち悪い!」

 

「おや、カエルはお気に召しませんでしたか?」

 

「そんなわけないでしょう!」

 

「では、これならどうですか?」

 

再び籠を持って現れ籠をひっくり返すと今度はウナギが投下されてきた

 

「ちょっと!本当に止めさな「ガツン!」」

 

言葉の途中で何か硬い物が当たった。見るとそれは安全ピンの抜かれた手榴弾だ

 

「これで最後です」

 

そういって大量の手榴弾が投下されオレガノはその場から離れ耳を塞ぐと大きな爆発音が鳴り響きニンフの落ちた穴は完全に埋もれた

 

※※※※※

 

一方シュウと会長は向かい合って座って話しをしていた

 

「会長、どうやってオレガノに言語能力を取り付けたんですか?」

 

「あら~気になる?」

 

「えぇ、イカロスの持っているカードでも無理なのも今の科学力でどうやって取り付けたのかすっごく気になります」

 

「・・・何が言いたいのかしら?」

 

「これはただの推測です。イカロスが落ちてきたあの日、あの場所には本来なら部長もいたはずだった。でも部長は会長に捕まり来れなかった

どうして会長は部長の桜の木の下にいくのを邪魔したのですか?」

 

「それはその日に守形君が屋上から飛び降りた件についてのお話よ」

 

「それならいつでも出来たし桜の木の下でも出来たはずですよね。どうしてですか会長」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

互いに沈黙が続くとシュウは口を開いた

 

「まぁ、言いたくないのであれば構いませんけどね」

 

「あら、随分と引くのが早いわね」

 

「別に会長が悪い人という訳ではないですしね。人の事情にまで首を突っ込むような真似はしませんよ。でも、一つだけ覚えておいてください

もし、イカロス達になにかよからぬ事をするのであれば俺は相手が会長でも全力で倒しに行きますよ」

 

「えぇ、心に留めておくわ。次は私の話でいいかしら?」

 

「えぇ、どうぞ」

 

「オレガノちゃんの事だけど暫くこっちで預かてもいいかしら?」

 

「オレガノをですか?」

 

「えぇ、彼女の意志よ。彼女が言語能力を取り付けたお礼がしたいって」

 

「構いません。彼女がそう決めたのなら俺はそれに従います」

 

「ありがとうね緋村君」

 

「それじゃ僕はこの辺で失礼します。行くよカオス」

 

「うん!」

 

カオスを連れて部屋を出て会長は一息ついた

 

「英君みたいに頭がいい人もそうだけど緋村君のように観察眼と勘がいい人って隠し事をするにはちょっと骨が折れるわね」

 

そう呟きながらカップに残っている紅茶を飲み干した

 

会長の家の玄関を出るとオレガノが待っていた

 

「あれ、ニンフはどうしたんだ?」

 

「ニンフ様ならお先に帰られました」

 

「そうか。邪魔したなオレガノ」

 

「いえ、こちらこそ私のワガママを聞いていただきありがとうございますシュウ様」

 

「気にするな。あぁ、一ついいか?」

 

「なんでしょう?」

 

「ニンフをあまりイジメるなよ。あいつはあぁ見えて心は子供だからすぐに傷ついちまうからな」

 

「・・・はい」

 

「じゃあな」

 

シュウが帰るのを見届けオレガノは溜め息ついた

 

「バレないようにしたのですがやはりバレましたか。流石ですねシュウ様」

 

素直に称賛をし次はバレないようにやらねばと決意するオレガノであった



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第四十一話外殻

ここはシナプスにあるミーノスの研究所

ミーノスが作業をしていると部屋の扉が開きハーピーの二人が入って来た

 

「失礼しますマスター」

 

「何の用だ?」

 

「お食事をお持ちしました」

 

部屋の中に入るとハーピーが何かに気付いた

 

「マスター!これは・・・!」

 

そこにあったのはイカロスに搭載されているのと同じ可変ウィングの(コア)

 

「流石ですマスター!遂に可変ウィングの(コア)の開発に成功したんですね」

 

「いや、残念ながらこれは未完成だ」

 

「え?」

 

「ダイダロスが空の女王(ウラヌス・クイーン)にに組み込んだ可変ウィングの(コア)・・・あれはダイダロスが膨大な時をかけて少しずつ凝縮、安定化していったものだ。あの出力と同じ力を出すにはこちらも永い時をかけなければならなん」

 

「そう、ですか・・・」

 

残念そうな顔をするハーピーと違いミーノスは口元に笑みを浮かべる

 

「だが、これで十分だ。どうせこれ以上の出力を出せても『外殻』が耐えられない。そう、問題なのは外殻なのだからな」

 

そう呟きながらミーノスは次の作業に移った

 

※※※※※

 

ミーノスが新たな企みを進めている頃、シュウh自分の部屋で寝ていた

 

「ZZZ~」

 

気持ちよさそうに寝ていると部屋の扉が開きカオスが入って来た。部屋に入室してシュウが寝ているのを確認すると椅子に登りシュウを見下ろす

 

「とぉ!」

 

椅子から飛び降りてシュウの腹部へとダイブする

 

「ゴフッ!」

 

「あはは~おはよう。おにぃちゃん」

 

「お、おう・・・その起こし方はやめてくれカオス」

 

「だっておにいちゃん全然起きないんだもん」

 

「はい。すいません・・・」

 

とりあえずシュウは寝巻から普段着に着替えてカオスと一緒に居間へと向かう

 

「おはよう」

 

「おはようシュウ君」

 

居間では日和とアストレアがおりイカロスは台所で朝食の準備をしている

 

「今日も朝から変な悲鳴が出てましたねシュウ」

 

アストレアがニヤニヤと笑いながらシュウをからかいにきた

 

「カオス、アストレアにもやってあげたら?」

 

「うん!いくよアストレアおねぇさま」

 

「え、ちょ、まっ!」

 

「とぉ~!」

 

待ったの声も聞かずにカオスはアストレアに全力でタックルしアストレアはカオスのタックルをもろに受けて家の壁に大穴を開けて庭まで吹き飛んだ

 

「容赦ないねシュウ君」

 

「アストレアだから仕方ない」

 

謎の理論を展開しながら席に座り日和は困ったように笑う

 

「あ、起きたんだシュウ」

 

ニンフが居間にやって来るとニンフはいつもの服ではなくお出かけ用の洋服に着替えていた

 

「おはよう。どこか行くのかニンフ?」

 

「その前にシュウって今日空いている?」

 

「まぁ、特に予定はない」

 

「じゃあ私とデートしない?」

 

その言葉に台所で朝食の準備していたイカロスが反応した

 

「はいは~い!デートって何ですか?」

 

ボロボロになったアストレアがカオスを連れて穴から家の中に入って来た

 

「でーとってなに?それは愛なの?」

 

「あ!二人で美味しい物を食べに行くんですね。私も行く!」

 

「うっさい!ついてくんじゃないわよ!」

 

台所で話しを聞いていたイカロスも話に加わろうとしたら鍋が泡を吹いたので一度火を止めてエプロンを外し再び居間に戻る

 

「あの、私もデートに・・・」

 

しかし居間には既に誰もいなかった

 

「あ・・・」

 

イカロスは諦めて台所に戻り朝食の準備を再開するとズキンッ!と動力炉が痛んだ

 

(また動力炉が痛い。マスター、どうしてこんなにも辛いんでしょうか)

 

翼を広げ答えの出ない問題を自分に投げかけ続けた

 

一方でシュウを強制的に連れ出したニンフとアストレアは空見町の駅の前で喧嘩していた

 

「動物園!動物園に行くのよ」

 

「しめさば!しめさばの食べ放題がいいです!」

 

かれこれ十分もこの喧嘩を繰り広げており二人から離れてシュウと日和、カオスが二人の喧嘩を見ていた

 

「ねぇねぇ、日和おねえちゃん。でーとって何?」

 

「う~んとデートっていうのは男性と女性が二人っきりで遊びに行く事よ」

 

「それは愛なの?」

 

「そうですね。愛ですね」

 

「でーとって愛なんだ」

 

「まぁ、こいつらは俺の意見を無視でデートしたいっていうけどな。おかげで朝食を食いそびれた・・・」

 

「何か食べますか?」

 

「いいや、一度帰ってイカロスも誘ってくる」

 

「じゃあ私とカオスちゃんはここで待ってますね」

 

「分かった。お~いアストレア、ニンフ。両方行けばいいから一度俺を家まで運んでくれ」

 

「シュウがそう言うならいいわよ」

 

「しめさば食べ放題!」

 

アストレアに捕まりニンフと共にシュウは一度家に戻った

 

「お~いイカロス」

 

家の中に入りイカロスに声をかけるが返事が返ってこない。不審に思いながらもシュウは台所に向かう

 

「これから動物園とすし屋に行くけどお前も一緒にどう・・・だ」

 

台所に入るとそこには血だらけになって倒れているイカロスとそれを見下ろすもう一人のイカロスがいた

 

「イカロス!」

 

反射的にわかった。倒れているのが本物のイカロスだ

 

駆け寄ろうとしたがそれより早く偽物のイカロスがシュウの顔面を掴みそのまま床に叩きつけた

手の平から電気が放出されそれがガスに引火し家が爆発した

 

「何!」

 

外で待っていたニンフとアストレアが突然の爆発に驚き爆発元に行くとそこにはシュウの髪を掴み立っているイカロスとその後ろにもう一人のイカロスが倒れている

 

「イカロス先輩が・・・二人?」

 

「いえ、違うわ」

 

ニンフの言う通り立っているイカロスの羽が次第に黒く染まっていった

 

その様子をミーノスはモニターを通じて見ていた

 

「いくら可変ウィングの(コア)の出力が膨大でもある一定以上の出力を出せば外殻が持たない。なら未完成でよいではないか空の女王(ウラヌス・クイーン)を造り出すにはな。見ているかダイダロス。これが第二世代の新たなエンジェロイドだ!行け!そして全てを蹴散らせ!」

 

「戦略型エンジェロイドタイプθ(シータ)Ikaros(イカロス)Melan(メラン)可変ウィング安全装置(セーフティ)解除。モード空の女王(ウラヌス・クイーン)発動(オン)



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第四十一話襲撃

緋村家の襲撃でダイダロスの家の警報装置が鳴り響く

 

「な、何!?」

 

モニターを見るとそこには全壊した緋村家がありそこには一体のエンジェロイドが立っていた

 

「黒い・・・空の女王(ウラヌス・クイーン)・・・」

 

ダイダロス同様ニンフ達もと突然の敵の襲来に驚いている

 

「そんな可変ウィング、Artemis(アルテミス)aegis(イージス)何もかも一緒だなんて」

 

ニンフが敵をスキャンし搭載されているのがイカロスと同じなのに驚いているがアストレアはニンフの言葉が耳に入ってこないでいた。目の前に傷だらけになっているシュウの姿が目から離れず次第に怒りが込み上げてきた

 

「な・・・何するんだこのやろう!」

 

怒り任せアストレアは突っ込み左手でメランの首に手を掛け空に上がる

 

「駄目よデルタ!そいつはアルファーと同じあの空の女王(ウラヌス・クイーン)なのよ」

 

しかしアストレアは怒りに囚われニンフの言葉に耳を傾けずに怒りに任せて動いている

 

「よくも・・・よくもよくもよくも!」

 

空いている右手でシュウを掴んでいるメランの手を掴む

 

「お前なんかが・・・お前なんかが・・・!」

 

メキッ!とメランの腕を潰しシュウの体が宙に放り投げられるとニンフがシュウを受け止める

 

「シュウ!大丈夫!?」

 

怪我はしているが気絶しているだけのようだ。良かったと安心するのも束の間メランはArtemis(アルテミス)を発射する

 

「そんなもの・・・効くか!」

 

アストレアの超加速型の翼で加速し一気に距離を取りArtemis(アルテミス)が一か所に集まるるとアストレアはaegis(イージス)=Lを展開し全てのArtemis(アルテミス)を防ぐと爆風の中からアストレアが飛び出す

 

aegis(イージス)展開」

 

全方位のaegis(イージス)が展開され防御を取る

 

「そんなの張ったって無駄だよ」

 

アストレアはクリュサオルを取り出し出力を最大まで引き上げる

 

「私のクリュサオルはイージスをも切り裂く。お前なんか真っ二つにしてやる!」

 

怒りに身を任せていても戦闘時は冷静のようでただ攻撃するのでなくイージスを斬り裂いたその先にメランおりイージスごとメランを斬れるようにしている

 

「捉えた!」

 

ニンフとダイダロスが勝利を確信した

 

 

ガキィン!振り下ろされたクリュサオルはイージスを壊す事は出来ずに逆にクリュサオルが折れた

 

「え・・・?」

 

最強の矛であるはずのクリュサオルが折れた事に驚く

 

皆が驚いている様子をみてミーノスは笑う

 

『クククク・・・言ったはずだ。問題なのは外殻だと』

 

メランはイージスを解除し拳を握りしめ反撃に転じる

 

aegis(イージス)=L」

 

盾でaegis(イージス)=Lを展開するがメランの拳はアストレアのaegis(イージス)=Lを打ち砕き盾が壊れた

 

『メランの外殻は第二世代のもの。第一世代の外殻とは強度がまるで違う。それはつまり空の女王(ウラヌス・クイーン)でさえ出せない出力を出せるという事だ』

 

アストレアが空から地上に落ちニンフはこの光景に絶望する

 

『お前らが相手にしているのは空の女王(ウラヌス・クイーン)を遥かに凌ぐ最強のエンジェロイドだ』

 

メランは弓矢を取り出しニンフ達に狙いを定める

 

「そんな・・・まさかアポロンまで・・・」

 

『やれ、メラン』

 

アポロンがニンフ達に狙いを定めて放たれた

 

「あぁぁぁぁぁ!」

 

もう駄目だと思ったその時だ。イカロスが前に飛び出しアポロンの矢の前に立ち塞がった

 

「アルファー!」

 

「イージス展開」

 

イージスでイカロスとメランを閉じ込めた

 

「ニン・・・フ・・・マスターを、お願い・・・」

 

イージス内でアポロンが爆発しイカロスとメランが地上に落ちてきた

 

「敵エンジェロイド撃墜」

 

ニンフが敵の反応が完全に消滅した事を確認し次にイカロスを見る

 

「可変ウィング全壊。システム損傷97%・・・自己修復機能全壊。タイプα(アルファ)Ikaros(イカロス)・・・修復・・・不能・・・」

 

それはイカロスが完全に壊れた事を示す

 

「うそだ・・・うそだうそだ。うそだ!」

 

現実を受け入れずにアストレアはなきじゃぐりニンフを涙を流す

 

しかし二人には悲しみに浸る暇もなく二人の前にイカロスのようにニンフとアストレアに似た黒いエンジェロイドが何体も現れた

 

「嘘・・・でしょ」

 

二人共メラン達に取り押さえられてしまった

黒いニンフはニンフの頭を掴みニンフにハッキングを開始する

 

「あぁぁぁぁぁ!」

 

『いい様だなβ(ベータ)シナプスにいた頃を思い出すだろう。なんならもう一度俺のエンジェロイドにしてやってもいいぞ』

 

「ふざけ・・・ないで・・・」

 

『そうか。だがこの状況はお前も望んでいたのではないか』

 

「何ですって・・・?」

 

ニンフの前に映像が浮かび上がる。それはイカロスとシュウがいる光景だ

 

『欲しいだろう?ヒムラ=シュウが。だがヒムラ=シュウは空の女王(ウラヌス・クイーン)のマスター

いつも空の女王(ウラヌス・クイーン)がヒムラ=シュウを独り占めする

奪いたくても相手はシナプス最強のエンジェロイド。出来損ないの自分ではかなわない

だが、もしお前が私の元に戻ればヒムラ=シュウを生かしてやる。そうすればヒムラ=シュウはお前のもになるぞ』

 

「つまらない男ね」

 

「なに?」

 

「こんな事をしてシュウの心が手に入るなんて本気で思っているの?」

 

ニンフは手を上げてハッキングしている黒いニンフの顔を掴む

 

「おい、いつまで人の頭をいじくってる」

 

逆にニンフがハッキングを開始する

 

「マスター!大変です。β(ベータ)がハッキングを脱出!逆にハッキングされています」

 

「なんだと!?」

 

「誰が出来損ないですって・・・誰がアルファーには敵わないですって・・・」

 

ニンフ・・・マスターをお願い。その言葉を思い出し歯をくしばる

 

「何よ・・それで私に譲ったつもり・・・?ふざけないで!私は・・・私の力でシュウを、手に入れる!」

 

 

ニンフの羽が日和を助けた時と同じように大きくなった

 

「素粒子ジャミングシステムAphrodite(アフロディーテ)展開」

 

ハッキングシステムが展開されメラン達が苦しみだした

 

『なんだ・・・これは。まるでカオスのように進化しているようではないか』

 

『そうよ』

 

『ダイダロス!どういう事だ!?』

 

『第一世代はみんなPandora(パンドラ)を積んでいるの・・・』

 

『嘘をつくな!お前はパンドラを造ったが使ってはいないじゃないか!』

 

『私は彼女達を造った時に迷っていた。心まで籠の鳥にしてもいいのかと。だからせめて心だけはと私はPandora(パンドラ)を積んだ

感情制御以外では作用しないように何重にもプロテクトを厳重にかけて・・・

そしてβ(ベータ)はそれを打ち破った・・・カオスのように間違った進化をする事もなく・・・』

 

『おのれ・・・おのれおのれおのれ!・・いやまだだ!まだだ!見ろ!』

 

先程まで優勢だったニンフは苦しみ始めた

 

「ニンフ先輩!」

 

『オーバーヒートだ!いくらPandora(パンドラ)で進化しようともβ(ベータ)にはそれを支えるだけの動力がない。可変ウィングの(コア)のような強力な動力が・・・いや、待て』

 

何かに気付きミーノスはイカロスを映すとそこには倒れているイカロスが映っている

 

『いや大丈夫だ。空の女王(ウラヌス・クイーン)は破壊したはず・・・』

 

だがもう一つの画面にはさきほどまでいたあいつがいなくなっている

 

『おのれ・・・どこに行った!ヒムラ=シュウは!』

 

シュウはイカロスの元に駆け寄っていた

 

「イカロス、死ぬな!そして、みんなを・・・守って、く、れ・・・」

 

それだけ言ってシュウは再び気絶し倒れるとドクンッ!とイカロスの体が動いた

 

『再起動・・・システム確認・・・オールレッド。危険と判断しPandora(パンドラ)起動タイプα(アルファ)Ikaros(イカロス)ヴァージョンⅡ起動します』

 

イカロスから膨大な出力が出るとイカロスはみるみるうちに修復されていき傷は完全に治った

 

翼が二枚から四枚になりイカロスが新たな力をもって完全に復活した



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第四十二話進化

復活したイカロスは進化して第二世代すらも凌駕する程の出力を機械が検知した

 

『怯むな!相手は一人だ!数で押し切れ』

 

ミーノスの命令でメラン達はイカロスにアルテミスを一斉に発射する

 

『動作テストを開始します』

 

イカロスから機械的なアナウンスが流れるとaegis(イージス)が展開されメランのArtemis(アルテミス)が当たるとArtemis(アルテミス)aegis(イージス)を滑りイカロスの後方に受け流された

 

aegis(イージス)Ⅱ伝達に支障。反応速度に3.5f(フェムト)の遅れ。修正します』

 

修正が始まるとaegis(イージス)に当たるArtemis(アルテミス)が次第に受け流される角度が変わっていき修正が完了するとArtemis(アルテミス)aegis(イージス)に当たり放ったメランに跳ね返りメランを一撃で破壊した

 

aegis(イージス)Ⅱの修正完了。次にデュアル可変ウィング動作テスト開始』

 

イカロスの背後からアストレアのメランが剣を振り下ろすがイカロスは一瞬にして背後に回り込んだ

 

『動作テスト良好。稼働装甲テストモードⅡクローズ』

 

装甲を薄くすることによりイカロスの素早さが上昇する

 

『装甲42%減少。旋回性能372%上昇さらに加速!加速!加速!加速!』

 

拳を握りしめアストレアのメランに拳を連続で振り下ろす。初めにアストレアは盾で防いでいたが次第に押されていき遂に盾が破壊されアストレアのメランにラッシュを浴びせアストレアのメランは破壊された

 

『動作テスト終了。通常モードを起動します』

 

テストが終了しイカロスが目を開き最初に目に入ったのはボロボロになったシュウの姿だ

 

「マスターの生命反応・・・極めて微弱・・・誰が、マスターにこんな事をしたの・・・?」

 

イカロスのメラン達は警戒し少し距離を取る

 

「あなたたち・・・?」

 

イカロスは出力がどんどん上昇していく

 

『出力上昇400・・・500・・・Artemis(アルテミス)発射準備完了(スタンバイ)

 

「私のマスターに何をしている!」

 

感情制御が低いはずのイカロスが声を荒げれArtemis(アルテミス)を発射するとその全てが命中し爆発した

 

「敵機全機撃墜」

 

「凄いですよイカロス先輩!」

 

アストレアがイカロスに抱き着くとイカロスの体が震えているのに気づいた

 

「イカロス・・・先輩?」

 

イカロスは目から涙を流しておりシュウの元にかけよりシュウを抱き起す

 

「マス、ター・・・お願い・・・しっかりして。やだぁ・・・死んじゃ・・・やだ・・・」

 

イカロスは本当にシュウの事を愛している。そう思い知らされるとニンフは溜め息が自然と零れた

 

「大丈夫よアルファ。結構な出血をしているけど軽い脳震盪を起こしているだけよ。シュウが石頭のおかげで命に別状はないわ」

 

「良かった・・・」

 

(私は私の力でシュウを手に入れる・・・か。こんな光景を見せられると本当にヤに・・・なるわね)

 

ようやく戦いが終わったとモニター越しに見ていたダイダロスも安心した

 

『今回も貴方の負けのようねミーノス』

 

『クククク・・・』

 

『なにがおかしいの?』

 

『勝負はまだ、ついていない!』

 

イカロス達のレーダーが何かを感知し視線を向けると空の上にイカロスのメランが五体おりアポロンをこちらに向け狙いを定めている

 

「ダメ・・・防ぎきれない・・・」

 

aegis(イージス)を展開して自分達を守れたとしても地上を守る事は出来ない。このままでは空見町からかなりの広範囲が火の海に変わってしまう

 

打つ手がない・・・諦めかけたその時だ

 

Chimaira(キマイラ)はっしゃ」

 

黒い炎の砲撃がメラン達を飲み込んだ

砲撃の発射元を見るとそこにはカオスと日和がいた

 

「みなさん大丈夫ですか!?」

 

日和はシュウの元に駆けよるがカオスは敵だけをまっすぐに見つめている

 

カオスの攻撃でも第二世代の装甲は対したダメージを与えられず砲撃の中からメラン達が出てきた

 

「アストレアおねぇさまに怪我させたのはだれ?私のおうちを壊したのはだれ?おにぃちゃんに怪我させたのは・・・お前達!」

 

カオスは刃の羽を展開すると周囲に落ちているメランの残骸に刃を突き刺しプ可変ウィングの(コア)を吸収していく

 

『マズい!いますぐカオスを破壊しろ!』

 

Artemis(アルテミス)をカオスに向けて発射し全弾がカオスに命中し爆発する

 

『これで・・・』

 

だが煙が晴れるとそこにはaegis(イージス)を全方位に展開したカオスが傷一つなく立っていた

 

「クスクスクスねぇ・・・お人形遊びしましょう」

 

ゾクリッ!とニンフの背筋が凍り付いた。あの表情はカオスと初めて会った時と同じ表情をしている。カオスは本気で壊す気だ

 

「あるてみすはっしゃ」

 

カオスがArtemis(アルテミス)を発射するとメラン達はもう一度Artemis(アルテミス)を発射しぶつかり爆発し撃ち落としきれなかったArtemis(アルテミス)がカオスに降り注ぐ

 

「じゃみんぐしすてむてんかい」

 

ジャミングシステムを展開しArtemis(アルテミス)をハッキングしArtemis(アルテミス)どうしをぶつけて爆発させる

 

『馬鹿な!あれ程の力を制御できるはずが・・・』

 

『いえ、出来るわ。あなたがカオスにアレを乗せたせいでそれを可能にしてしまったのよ』

 

『まさか・・・Pandora(パンドラ)

 

『そう、今のカオスは前とは違う。自分のためではなく誰かを守るために強くなろうと進化するのよ』

 

カオスは攻撃に転じ何本ものクリュサオルを出現させる

 

「これで終わり!」

 

Artemis(アルテミス)になったクリュサオルを発射しメラン達に襲い掛かる

メラン達はaegis(イージス)を展開するがクリュサオルはaegis(イージス)を斬り裂く最強の矛。それがArtemis(アルテミス)として発射されればaegis(イージス)を容易く切り裂き全てのメランを一撃で撃墜させた

 

「敵全機撃墜。敵影反応なし」

 

メランの襲撃でかなりの被害は出たがそれでもイカロス、ニンフ、カオスが進化する事により戦況は大きく変わりようやく戦いが終わった



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第四十三話戦いの後

メランとの戦いが終わりダイダロスは先程の戦いでのイカロス達のデータを整理していた

 

今回の戦いでβ(ベータ)は素粒子ジャミングシステムAphrodite(アフロディーテ)を習得した

これは今までのジャミングシステムを遥かに凌ぐハッキングシステムだが可変ウィングの(コア)のような強力な動力がないβ(ベータ)では展開できる時間は限られている

 

次にα(アルファ)は出せる出力が大幅に向上し第二世代の出力を上回り出力が向上した事により全ての武器の火力も上がり攻撃力が上がったが逆に装甲が以前より薄くなり防御力が低下したが旋回性能が向上した

 

そして今回の戦いで最も進化したのはカオス。メランの可変ウィングの(コア)を大量に取り込んだことによりα(アルファ)Artemis(アルテミス)aegis(イージス)APOLLON(アポロン)

β(ベータ)のジャミングシステム、P=ステルスシステム

Δ(デルタ)chrysaor(クリュサオル)を取り込みよりカオスは史上最凶のエンジェロイドに進化した

 

しかしカオスはまだ善悪をの判断が出来ないため一歩間違えれば大量殺戮兵器に変わる危険があるが私はカオスが緋村シュウの元に居る限りその心配はないと思う

 

なぜならカオスにとって緋村シュウは自分を受け入れてくれる存在であり彼の傍にいる限りカオスは無害である

 

「よし、こんな所かしらね」

 

作業を終えて一息つきダイダロスはもう一度みんなのスペックを確認すると昔とは比べ物にならないぐらい進化している

 

「緋村君に出会って私の娘達は変わったわ。毎日を本当に幸せそうに生き生きしている。きっとこれから先も・・・」

 

楽しみながらダイダロスはモニターに視線を移すと病院の病室が映っていた

 

※※※※※

 

シュウが目を覚ますと真っ白な天井が視界に入った

 

「ここはあの世か?」

 

よく二次創作である死んだらあの世で神様から転生出来るのかなと思っていたらシュウの視界に日和の顔が入って来た

 

「目が覚めましたかシュウ君?」

 

「日和?」

 

「はい私です」

 

「・・・なぁ、日和」

 

「なんですか?」

 

「部長と会長を止めてくれない?」

 

シュウの横では会長が木魚を叩き部長はシュウの遺影を持っている

 

「あれ~生きていたの緋村君」

 

「生きてますよ!だからその縁起の悪いのを止めてください!」

 

生きているのに死んだ扱いされるのはいい気分ではない

 

「まったく・・・そういえばイカロス達はどうした?」

 

「イカロスさん達なら家の修復作業をしています」

 

「あ~そういえば家壊れたんだっけ・・・カオスもそっちに?」

 

「カオスならそこだ」

 

部長が指さすと病室の隅でシュウに背を向けて椅子の上に体育座りしている

 

「なんだこのデジャブ感は・・・」

 

「実は・・・」

 

日和から事の全容を聞くとイカロス達が敵を退いたがその後に予備戦力が投入されピンチになったがカオスが介入したおかげで被害はシュウとアストレアが怪我をするだけで済んだらしい

 

「なるほど。俺達が怪我したのを見て落ち込んじゃっているのか」

 

「はい。どうやらシュウ君が怪我をしたのは自分のせいだと落ち込んじゃって」

 

「あ~なるほど。カオス」

 

「・・・」

 

名前を呼ぶがカオスは返事をしない。気のせいか物凄く落ち込んでおり暗いオーラが漂っている

 

「カオス、俺は大丈夫だからこっちに来てくれないか?」

 

カオスは立ち上がりゆっくりとシュウの横にまで移動してきた

 

「おにぃちゃん・・・痛い?」

 

「もう痛くないよ。それよりカオスも戦ってくれたのか?」

 

「うん・・・でも。もっと早く行けてたらおにぃちゃんは怪我、しなかった・・・」

 

「そっか。でもカオスのおかげで助かったんだからカオスには感謝しているよ。ありがとうカオス」

 

そう言ってカオスの頭を撫でるとカオスはようやく笑顔を見せてくれた

 

コンコンと病室の扉がノックされ看護師が入って来た

 

「すいません。今日の面会時間が終わりですのでそろそろ退室をお願いします」

 

「じゃあ帰りましょうか~」

 

「そうだな。シュウ、また来るぞ」

 

「カオスちゃん、帰りましょう」

 

「おにぃちゃんと一緒に居たい」

 

「そういってもらえるのは嬉しいけど日和達を困らせちゃ駄目だよカオス」

 

「わかった・・・」

 

渋々と了承し日和と手を繋いだ

 

「カオス、明日も来てくれるか?」

 

「うん!」

 

嬉しそうに頷いて病室を出て行った

 

一人になりシュウはベッドに倒れ込み天井を見つめる

 

「今回の襲撃でシナプスはかなりの痛手を負ったがあのイカロスをあそこまで追い込んだとなるとこれから先何が起こるか分からないな・・・非力な人間の俺じゃイカロスに守ってもらわないと死ぬだろうしそうなるとカオスが心配だな。あいつは何をするかは分からないからな

あぁ~あ、不老不死になれたらこんな心配はしなくて済むのにな・・・」

 

そう思いながらシュウは眠りについた



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第四十四話アストレアの気持ち

「あぁ~ようやく退院出来た」

 

あれから検査やらなんやらで結局三日も入院する事になり今日、ようやく退院する事が出来た

 

「ようやく帰れるねおにぃちゃん」

 

「良かったねカオス」

 

今日は学校があるのでシュウの退院にはカオスとアストレアが来てくれた

 

「さてと、じゃあ我が家に帰りますかな」

 

家に帰ると家は既に直っていた

 

「あれだけ壊れていたのにそれをたった三日の間に直すなんてやっぱりシナプスの技術力って凄いな」

 

シナプスの技術に素直に感心しながら家に入り居間に行きいつもの指定席に座ると大の字になって寝っ転がる

 

「あぁ~やっぱり家が一番落ち着くな」

 

するとカオスがシュウの横に寝っ転がり右腕に頭を乗せる

 

「私もおにぃちゃんの傍が一番好き!」

 

「そうか。そう言ってもらえると嬉しい」

 

そう言いながら頭を撫でてやるとえへへ~と嬉しそうにする

 

「アストレアおねぇさまも一緒に寝っ転がろう」

 

「わ、私ですか!?」

 

「来ても構わないぞ」

 

空いている左腕を振って手招きする

 

「そ、それじゃ・・・失礼しま、す」

 

シュウの左腕に頭を乗せる

 

(わわぁ!シュウの顔が近い。顔が熱いけど赤くなっているの気付かれていないよね)

 

ここまで接近した事は一度もないのでアストレアは緊張し顔が赤くなっていく

 

「アストレア・・・」

 

「は、はい!」

 

「すまん。ちょっと重い」

 

「女性に向かって重いって失礼じゃないですか!」

 

「重いものは重いんだよ。すまんが頭をどけてくれ」

 

「もういいです!」

 

怒ってアストレアは外に飛び出してしまった

 

「いっちゃったよ。おにぃちゃん」

 

「そだね」

 

「ただいま」

 

「あ!日和おねぇちゃんたちが帰ってきた!」

 

カオスが起き上がり玄関に向かって走り出した。シュウもカオスに続き玄関に向かう

 

「おかえり日和、イカロス、ニンフ」

 

「ただいまシュウ君」

 

「マスター、お身体はもう大丈夫ですか?」

 

「あぁ、お陰様で」

 

「あれ、デルタは?」

 

「外に飛び出していった」

 

「え!せっかくかいちょうがケーキ持ってきたのに」

 

見ると外には部長達全員がいた

 

「じゃあ俺が探しに行くから部長達は先に上がっていてください」

 

「そうか、ではお邪魔する」

 

「お邪魔しま~す」

 

「お邪魔しますね緋村君」

 

「邪魔するぞシュウ」

 

部長、会長、見月、智樹が家の中に入りシュウは外に出た

 

「さてと、あいつが行く場所といえばあそこだな」

 

やって来たのは川辺。行くと予想通りアストレアが石の上に座って空を見上げていた

 

「やっぱりここだったかアストレア」

 

「あ、シュウ」

 

シュウもアストレアの隣に座り空を見上げる

 

「ねぇ、私って役立たずかな?」

 

「どうした突然?」

 

「だって前の戦いでクリュサオルとイージスが壊されちゃったし結局イカロス先輩とニンフ先輩がいなかったらきっとみんなやられていた。戦闘用なのに私、何も出来なかった・・・」

 

「・・・まぁ、お前はバカだからな」

 

「そうかもね・・・」

 

怒って反論すると思ったら素直に認めて膝に顔をうずめた

 

「言い返せよ。調子狂うだろう」

 

「だってその通りなんだもん。私はイカロス先輩達には敵わないよ。未だにパンドラが起動しないし」

 

「バカでも悩むのか。まぁ、俺からすればお前はイカロス達より凄い所があるじゃないか」

 

「例えば?」

 

「ニンフは戦闘ではお前より弱いが電子戦ならお前より強い。イカロスはお前より強いが近距離戦になればお前の方が強い

戦闘で言えばお前は二人より強い部分があるって事だ

 

誰にだって得意な事と不得意な事がある。だったらそれをみんなで補っていけばいい。前はお前は何も出来なかった。だったら今度はお前が二人を助けてやればいい

 

それにさ、メランが襲撃してきた時にお前は誰よりも早く俺を助けてくれた。そこは感謝しているんだぜ。ありがとなアストレア」

 

「・・・どう、いたしまして」

 

感謝されてつい照れてしまいアストレアはシュウからそっぽを向いた

 

「そういえばさっきいっていたパンドラの事だがお前は多分イカロス達よりよっぽど上手に使えると思うぜ」

 

「どうしてですか?」

 

「ニンフから聞いたがパンドラは自己進化。つまり自分が思ったように進化出来るって事だ

イカロスは俺の願いを聞くために、ニンフは俺の命令を遂行するために日和の時に一度発動しそして今回はみんなを守るために発動した

 

二人共俺のためにパンドラが起動した。でもお前は二人と違って自分で物事を決められるだろう

 

自分で物事を決められるからその鎖を自分の意志で壊すことが出来た。それはイカロスやニンフには出来ないお前にしか出来ない事だ

 

これからもおまえは自分の意志で自由に生きる事が出来ればきっとパンドラもそれに応えてくれる

 

今はその答えを自分なりに探せばいいんじゃないか。自分がどんな風に生きたいかを」

 

「自由に・・・」

 

この川辺はアストレアにとって人生を変えた場所である。シュウに自分の意志で決めろと言われて自分はそれに従った。でも次はきっと自分で決める

 

「そっか!なんだか元気が出来てきました」

 

「そっか。やっぱりお前はその方がお前らしくていいよ。少し前なんて緊張で顔を赤くしていた時よりな」

 

「気づいていたんですか!?」

 

「当たり前だろう。微妙な雰囲気にならないように失礼な事を言って雰囲気をぶち壊すつもりがお前が怒って出て行っちまうから少し焦ったぞ」

 

(あぁ・・・そうか。シュウは私達の事をしっかり見ていてくれているんだ。きっと、これがシュウの優しさなんだ。イカロス先輩達がシュウの事を好きになった理由が分かる気がするな。そして私もシュウの事を好きになった理由も・・・)

 

「そろそろ帰ろうぜ。会長がケーキを持って来たらしいから早く帰って食べようぜアストレア」

 

「ケーキ!早く行こう」

 

私はバカだから自分で何を決めるかなんてわかんないけど私はイカロス先輩達に出来ない事が出来る。だったらきっといつかそれが見つかるはず

そう思いアストレアはシュウと共に家に帰っていった

 



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第四十五話オレガノとニンフ

「ただいま」

 

「ケーキ♪ケーキ♪」

 

家に帰りルンルン気分でアストレアが居間に入る

 

「お帰り~今すぐケーキを用意するわね」

 

「わ~い!」

 

会長がケーキの入った袋を探っているとその手が止まった

 

「あら?」

 

「どうした美香子?」

 

「おかしいわね~確かここに緋村君達の分を入れて置いたはずだけどどこ行ったのかしら。英君、緋村君達の分も食べた?」

 

「いや食べてないぞ」

 

「私も食べてません。トモちゃんは?」

 

「俺は食べかけがここに」

 

「私のはここにありますので」

 

「見月は一つ、智樹は食べかけで日和は自分の分はまだある。イカロスは・・・」

 

チラッと見るとイカロスは会長が買って来た新しいこけしを眺めたり首を取ったり付けたりして遊んでいる

 

「イカロスちゃんならずっとあんな感じよ~」

 

「という事は俺とイカロス、アストレアの三人分と自分の分の四つを食べたという事だが・・・」

 

これだけの数を食べられる奴なんて一人しかいない

 

「ニンフ、お前だろう」

 

「私じゃないわよ」

 

頬を大きく膨らましもごもごと口を動かしている

 

「じゃあその下に落ちているケーキのフィルムはなんだ?」

 

ニンフの足元にはケーキのフィルムが三つも落ちている

 

「ニンフ先輩・・・」

 

アストレアから怨みのオーラが沸き上がる

 

「食べましたね。私のケーキを」

 

「うっさいわね!あんた末っ子なんだから我慢しなさいよ!」

 

「私よりカオスの方が末っ子じゃないんですか!?」

 

「カオスは別よ!」

 

「もう・・・許しませんからね!」

 

遂に怒ったストレアが立ち上がりニンフもそれに応戦する

 

「あぁ~これはまた家が壊れるな・・・カオス、イージスを張ってくれ」

 

「うん。いーじすてんかい」

 

カオスがシュウ達をイージスで包み安全地帯を作る

 

「助かったぜカオス」

 

「えへへ~おにぃちゃん、ケーキ食べる?」

 

フォークでケーキを刺してシュウに差し出す

 

「いいのか?」

 

「うん!はい、あ~ん」

 

「じゃあいただきま~す」

 

一口食べると高級なだけあって甘さが絶妙でとても美味しい

 

「うん。美味しい」

 

「良かった♪」

 

ほのぼのとした二人だがイージスの外ではアストレアとニンフが戦闘を繰り広げていた

 

「極地戦闘型の私に勝てると思っているんですか!」

 

アストレアがクリュサオルを取り出すと出現したクリュサオルは刀身が折れていた

そこにニンフが蹴りを叩き込みアストレアは壁に激突した

 

「喰らいなさい!超々超音波振動(パラダイス=ソング)

 

「そんなのイージス=Lで!」

 

盾を出すが盾は前回の戦闘で壊されており勿論イージス=Lは展開できずにニンフのパラダイス=ソングを喰らう

 

「フフン。どうよ思い知ったかしら。これに懲りたら末っ子は末っ子らしく・・・」

 

その時、オレガノが突然現れるとニンフの顔を蹴飛ばした。倒れたニンフに追い打ちをかけるようにマシンガンを連射し往復ビンタして完全にニンフは撃沈する

 

「コンブ駆除の御用命は私まで。お電話お待ちしています」

 

「誰に向かって言っているんだオレガノ?」

 

「ノリですのでお気になさらないでくださいシュウ様」

 

「なぁ、オレガノはニンフに何か恨みでもあるのか?」

 

「そうですね。丁度いい機会ですしお話いたしましょう。あれはまだ私がシナプスにいた頃の事です

 

いつものように居住区を掃除しているとコンブ様が居住区にやってきました

マスターのお怒りにふれたのか傷だらけでとても寂しそうでした。私達は本来生体しか治療できませんがせめて傷を洗ってキレイにしてあげようとそう思って近づいた時でした」

 

「よし!気晴らしに歌でも歌おうか」

 

「その先からは地獄でした。姉妹達は一体、また一体と倒れていきました。その方は度々訪れては歌を歌いました。私達は逃げようとしたのですが撃ハッキングを受けて石畳の上に正座させられ何時間も聞かされたのです

ですから私はこの音波兵器を破壊しなければならないのです。オレガノ代表として」

 

「こ、この・・・」

 

「まだ生きていましたかこのちんちくりんが」

 

再びオレガノとニンフが戦闘を始めた

 

「ニンフが音痴ってどういうことなんですかね部長」

 

「いや、おそらく音痴という次元の話ではないのだろう。音は空気を振動させて耳に伝わり鼓膜が音を拾いそれを脳に送る。これが耳の原理だ

しかしニンフのパラダイス=ソングは空気の振動を大きくしてなおかつそれ超音波として放出される。勿論、そんなものを聞いたら鼓膜が破け最悪の場合脳に大きなダメージがある。そのせいでオレガノの姉妹はやられたのだろう」

 

「なるほど」

 

「いや、納得していないでそろそろ止めないとお前の家が崩壊するぞ」

 

智樹の言う通り既に屋根は壊れておりオレガノはロケットランチャーなどを取り出しアストレアは床に横たわりさっきから踏まれたり流れ弾を受けたりと散々な目に遭っている

 

「そうだな。お~いイカロス。二人を止めてくれ」

 

「あ、はいマスター。二人共、喧嘩は・・・」

 

その時イカロスの持っているこけしにオレガノが撃った銃弾がかすりこけしが壊れてしまった

 

「・・・」

 

イカロスの目が紅くなり出力が上昇していく

 

「ニンフさんがいじめる~」

 

と即座にオレガノはイカロスの後方に退避して全責任をニンフに押し付ける

 

「え!?」

 

「ニンフ・・・反省、しなさい」

 

イカロスは超々高熱体圧縮対艦砲(ヘパイストス)を取り出しニンフに狙いを定める

 

「ちょっ・・待・・・それ、反省どころじゃ・・・」

 

しかし今のイカロスはこけしの事で頭が一杯でニンフの声は届かない

 

「なにか!なにかないの!」

 

必死に周りを見渡すとあるものが目に入った

 

「これだ!必殺!末っ子バリアー!」

 

説明しよう!末っ子バリアーとはアストレアを身代わりにして自分は逃げるというようは身代わりである!

 

「発射」

 

イカロスが砲撃をするとアストレアに見事に命中し空の彼方へと消えていった

 

「アストレア・・・強く、自由に生きろ!」

 

アストレアに向かって敬礼するのであった



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第四十六話姉妹襲来

朝、イカロスがいつものように庭のスイカに水を上げている時だ

イカロスの前にハーピーの二人が空から舞い降りてきた

 

「ハー・・・ピー・・・何をしに・・・きたの?」

 

「・・・」

 

二人がここに来る事になったのは空の王であるミーノスの命令だ『空の女王(ウラヌス・クイーン)を破壊しろ』これが二人がミーノスからの命令だ

 

「どこか・・・人のいない所に行くぞ」

 

「え?」

 

「お前を破壊する。私達と戦え」

 

「ム・・・リ」

 

「何?」

 

「あなた達では私に敵わない。わかってる(・・・・・)でしょう?」

 

瞳の色が紅くなり出力が上がっていく。それはハーピーの二人が力を合わせても遥かに凌駕する出力の差がありどうあがいても勝てる可能性は全くない

 

「~~~!黙れ!」

 

ハーピーの姉の方が出力を上げて地面が陥没する

 

「姉さん!」

 

「こっちは気を遣ってやっているんだ。なんならココで始めてもいいんだぞ。お前の貧弱な地蟲(マスター)のいるこの家で!」

 

「上等じゃない」

 

ハーピーがプロメテウスを家に向けるとニンフが庭に入ってきた

 

「ニンフ!」

 

「あんた達にされたこと・・・忘れてないから」

 

蘇るのはあの日の記憶。羽をむしられた嫌な記憶

 

「粉々にしてやるわ!」

 

「ハッ!上等だ!」

 

「姉さん!」

 

ニンフとハーピー姉は既に戦闘態勢に入っておりイカロスは戦わないといけないと判断し空の女王(ウラヌス・クイーン)モードに入ろとした時だ

 

「止めんか!」

 

縁側のドアが開きシュウが戦いの仲裁に入った

 

「マスター・・・」

 

「止めないでシュウ。こいつ等とは因縁があるのよ!」

 

「だから止めろって言っているんだニンフ。例えお前がここで二人を倒してもスイカ畑を壊したら次にお前がイカロスに倒されるぞ」

 

ここで戦えば被害が出るのは必然。もし、スイカ畑に被害が出ればイカロスが黙っていない。また前みたいにイカロスにボコボコにされるのは目に見えている

 

「うっ・・・」

 

以前にやられた記憶がよみがえりニンフは通常モードに戻る

 

「お前らも戦ったら命はないぞ」

 

「マスターの命令を遂行するためならお前を人質に!」

 

「待って!姉さん!」

 

プロメテウスをシュウに向けるとハーピー姉の首元に刃が付きつけられる

 

「クスクスクス・・・ねぇ、おにぃちゃんに・・・なに、する気なの?」

 

カオスがハーピーの後ろに立っており刃の羽を展開している。どうやらニンフのP=ステルスシステムで背後に近寄ったらしい。首元に刃を突きつけられ背後からカオスの物凄い殺気や出力に圧されて息をする事すら出来ないでいた

 

「カオス、それぐらいにしてやれ」

 

「は~い」

 

刃を下げてようやく殺気がなくなり空気を吸う事が出来た

 

「さてとイカロス、ニンフ。今日は水着を買いに行く予定があるんだからさっさと行くぞ」

 

「はいマスター」

 

「は~い」

 

「それとお前らも来いよな」

 

「なっ!お前、何を言っている!?」

 

「その恰好じゃ不審者だからな。地上にいる時はこっちの服装になってもらうぞ」

 

「ふざけるな!私達は空の女王(ウラヌス・クイーン)と戦いに来たんだ!遊びに来たのではない」

 

「なら、イカロスを倒す方法はあるのか」

 

「それは・・・」

 

「ないだろう。だったら行くぞ」

 

「おにぃちゃん、肩車して!」

 

「いいぞ」

 

カオスを肩車してシュウはイカロス達と共にこの町にあるファッションセンターヤマムラを訪れていた

 

「やっと来ましたねシュウ君」

 

「お待たせ」

 

ヤマムラに到着すると日和はそはらと一緒にいた

 

「イカロスさんとニンフさんの水着とカオスちゃんの水着をいくつかピックアップしておきました」

 

「んじゃ、そっちはよろしくね」

 

「はい!」

 

イカロスとニンフ、カオスを日和に任せて一人になったシュウはヤマムラ内で智樹を探し始めた

 

「・・・・やっぱりここか」

 

そこは女性の下着コーナー。その中に智樹がパンツを吟味している

 

「おう!シュウ。お前もどうだ?」

 

「変態になるつもりはない。それより智樹ちょっとこいつらの服を選ぶの手伝ってくれ」

 

「お前、またエンジェロイドの厄介事に巻き込まれているのか?」

 

「成り行きだ。それより服選び手伝ってくれ」

 

「任せろ!」

 

十分後・・・

 

ハーピーの二人はショートパンツにTシャツを選んで着てもらった。二人のシャツには姉には1妹の方には2の数字が入っている

 

「やっぱり姉妹っていったら数字の入った服だな智樹」

 

「奇遇だな。俺もそう思うぜシュウ」

 

「姉さん、この服、装甲性ゼロだしステルス性皆無だよ!こんなの着れるか!」

 

「どっかで聞いた事のある台詞だな。でもそれがこっちでの普通の格好だぞ」

 

「どうして地蟲(ダウナー)はこんな服を着れるの!?」

 

「そりゃ、地上では戦いなんてないからだよ」

 

「え・・・?」

 

「周りを見てみろよ。誰も争いなんてしないしみんな仲良くやっている。人間は争わない。だから装甲性もステルス性も必要ない」

 

「そう・・・か」

 

空の上から地上を見ても争いなんてほとんど起きない平和な場所だ。毎日が楽しそうにしているのを知らない訳ではない

 

「ん?おい、お前の姉はどうした?」

 

「あれ?そういえばどこに・・・」

 

「私ならここだ」

 

「あ、姉さん・・・って!何その恰好!?」

 

姉を見つけたと思ったら姉はバニーガールの格好をしていた

 

「こいつに着ろと言われて着てみたが結構動きやすいなこの服は」

 

「そうじゃなくて恥ずかしくないの?」

 

「はぁ?こんなのが恥ずかしいのかお前は?」

 

「智樹、何着せているんだ?」

 

「だってここにあったんだもん!」

 

着せる智樹も智樹だが何でこんな服がこの店に置いてあるんだ?

 

「お姉さん、じゃあ次はこの服を着て!」

 

それから智樹の着せ替えが始まった。警察服、ブルマ、チャイナ服にメイド服。ありとあらゆる服に着替えていく

 

「次は、なんだ?」

 

「すいません、もうありません」

 

とうとう着せる服がなくなり智樹が膝をつき降参した

 

「智樹、遊んでないで服を探してくれ」

 

「あぁ・・・そういえばプールに行くんだよな。じゃあ最後にこの水着を着てくれ」

 

そう言ってビキニを取り出しハーピー姉に渡した

 

「あ、これ知ってる。水遊びの時に使う水着ってやつでしょう。これぐらいな私でも・・・」

 

妹は大丈夫だと言っているが姉の方はビキニを持つ手が震えている

 

「姉さん?」

 

「ぎゃぁぁぁ!」

 

顔を真っ赤にしてハーピー姉が悲鳴を上げて三人は固まる

 

「こんなの着れるか!この変態!」

 

「ちょ、姉さん。さっきの服の方が全然恥ずかしいでしょう」

 

「バカを言え!こんなの着たら・・・み、見えちゃうだろう・・・へそが見えちゃうだろう!」

 

「へそって・・・」

 

「いや、その通りだ!」

 

「智樹に同意!」

 

何故か智樹の台詞にシュウも同意した

 

「初心者は皆、最初におっぱいやおしりにいこうとする」

 

「だが、へそは現実でもアニメや漫画の日常シーンでも規制なしで出現するいわゆるプチエロゾーン」

 

「走ってチラリ」

 

「背伸びしてチラリ」

 

「「それが堪らない!」」

 

ドガシャ!いつの間にかそはらが二人の背後に立ち二人の頭にチョップを叩き込んだ

 

「もう!トモちゃんだけならまだしもどうして緋村君までトモちゃんと混ざっているの!?」

 

「待て!見月、俺だって男だぞ。智樹程でなくても性欲ある。そしてアニメを見る以上はそういった服とかシーンとかがあるわけででして・・・」

 

「分かっているわ。取り敢えず二人共止めさすけど文句、ないよね」

 

ふたりは全てを悟ったかのような顔つきになる

 

「智樹、俺、最後にお前の事を理解できてよかったよ」

 

「あぁ、俺もシュウの事をアニメ一筋かと思っていたけど女の子が好きというのは現実でもアニメでも同じなんだなってわかったよ」

 

互いに最後の言葉を残して見月のチョップを受けて二人は地面に沈んだ

 

その後に見月と入れ替わりでニンフがやって来た

 

「まさかシュウまで智樹と同じなんてびっくりね」

 

β(ベータ)!私を笑いに来たのか?」

 

「そんなことしないわよ。それよりはいこれ」

 

そう言って渡したのは競泳用の水着だ

 

「これならへそが見える心配ないでしょう」

 

「何故、私達にそこまでする」

 

「別に、シュウが止めろって言ったから戦うつもりはないし」

 

「なるほど。マスターの命令ってわけか」

 

「命令じゃないわよ。それに私とシュウはインプリンティングをしていないし」

 

「インプリンティングしていないだと。ならどうして?」

 

「どうして?なら私も聞くけどどうしてまだアンタ達はあのつまらない男の元に居るの?」

 

「そんなのあの方が私のマスターだからだ。それ以外に理由なんてない」

 

「ふ~ん。なら、しばらくは地上で暮らしてみることね。そうすればその考えも変わるかもしれないわね」

 

「どういう事だ?」

 

「そのままの意味よ。シュウの元に居ると自分の常識とかがひっくり返るのよ。どうせ泊まる所もないんだからシュウの家に来るといいわ」

 

「悪いが情けを受けるつもりはない。行くぞ」

 

「あ、待ってよ姉さん!」

 

二人はその場から飛び去り残ったのは地面に埋まった二人の男だけだった



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第四十七話ハーピーとシュウ

プールの話を書こうと思ったがハーピー達もいるとなるとちょっと難しいと判断したので急きょ予定を変更しました



ファッションセンターヤマムラでの一件が終わった次の日シュウはニンフに頼みハーピー達の居場所を聞いて二人のいる場所に一人で訪れていた。二人がいるのは空見町の大桜のある場所だ

 

「なぁ、一緒にプールに行かないか?」

 

「お前は何を言っているるんだ?行くわけないだろう」

 

「せっかく水着かったのに?」

 

「お前が勝手に買ってそれを私達に押し付けただけだろう!私はあんなのはいらん!」

 

「でも姉さんその水着ちゃんと保管してあるじゃん」

 

そう言って妹が姉の水着を取り出した

 

「バッ!余計な事いうな!」

 

顔を赤くしていもうとから水着を奪い取る

 

「捨ててないなら一緒に行こうぜ」

 

「行くかバカ!」

 

どうやら行く気はないようだ。シュウは諦めて携帯を取り出しひよりに電話を掛ける

 

「もしもし日和」

 

『どうしたのシュウ君?』

 

「ちょっと用事が出来たから先にプールにっていてくれ。俺は後から追いつくから」

 

『わかりました。先にってますからシュウ君も早く来てくださいよ』

 

「了解」

 

通話を切るとシュウは桜の木の下に座る

 

「なぁ、聞いてもいいか?」

 

「何だ?」

 

「お前らのマスター。つまり空の王は何がしたいんだ?」

 

「それはどういう意味だ?」

 

「そのままの意味だよ。イカロスの破壊がお前らの任務。だけどカオスやメランもやられてイカロスは更に進化した

そんなイカロスをお前達二人だけで出撃させてイカロスを破壊するなんて到底不可能だ」

 

「どんな命令であれマスターの命令を遂行するのが私達エンジェロイドの存在意義だ」

 

「それに最近のマスターは少し・・・寂しそう」

 

「寂しそう?」

 

「うん。シナプス人はみんな眠りについて今起きているのはマスターを含めて立った数人しかいない

私達が出撃する前にも残っていた二人が眠りについてマスターは少し寂しそうでした」

 

「ふ~ん」

 

どうやらあっちにも色々と事情があるようだな。そうでなければハーピー二人で出撃させるなどしないからな

 

「あ、そういえばお前達に聞きたい事があったんだった。二人はニンフの歌って聞いた事があるか?」

 

シュウが質問を投げかけると二人は身体を硬直させ動かなくなったと思うと突然震えだし汗が滝のように流れ出した

 

「止めろ!その話題を出すな!」

 

「えぇ!どうしたいきなり!?」

 

「あいつの・・・あいつの歌はシナプスを崩壊の一歩手前まで追い込んだんだぞ!」

 

「はぁ?」

 

「今で覚えている。数百年前にマスターが暇つぶしにマイクを持たせて歌わせたことがあった。だが、その時の歌声は拡声器を通してシナプス中に聞こえその歌声は鼓膜を破り脳を破壊した!

その後、カードの力を使ってなんとか元に戻ったがあの日以来マスターは歌う事を禁止した

だが時々居住区から歌声が聞こえてきてその歌声が聞こえるとマスターはその時の記憶がフラッシュバックすると言っていた」

 

「なんか・・・すまん」

 

どうやらオレガノの言ったようににニンフの歌声は相当ヤバいようだ。こっちもニンフが歌わないように気を付けなければ・・・

 

「色々と教えてくれてありがとな。お礼といったら何だが今日の夜に家に来てくれないか?」

 

「言っただろう慣れ合う気はないと」

 

「まぁ、そう言わずにさ。一回だけ付き合ってくれよ」

 

「・・・」

 

「姉さん、一回だけ付き合ってあげようよ」

 

「正気か!?」

 

「だってこのまま何もしない訳にはいかないしいいじゃん」

 

「・・・分かった。夜に行けばいいんだな」

 

「うん。じゃあ待っているから」

 

約束を取り付けてシュウはプールへと向かった

 



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第四十八話花火

シュウが居なくなりハーピーの姉の方は人間、いや正確に言えばイカロス達のマスターである緋村シュウという存在が気になり始めていた

 

人間なんてエンジェロイドからしたら力の無い無力な存在のはず。それなのに緋村シュウという存在は今まで見てきた人間とは違うように感じた

私達エンジェロイドはマスターの命令を遂行するだけの存在なのに緋村シュウは私達を対等の関係のように見ている。今までそんな風に見られた事がないせいなのか少し戸惑いも覚えた

 

「ねぇねぇ、姉さん。今日の夜に行ってみない?」

 

「本気か?」

 

「だってこのまま何もしないとマスターに怒られるしそれに楽しそうじゃん」

 

「まぁ・・・いいが目的は忘れるなよ」

 

「は~い♪」

 

「全く・・・」

 

妹のテンションのあがりように溜め息を吐きながら姉は夜に何があるのかと少し楽しみであった

 

※※※※※

 

その日の夜ハーピー達はシュウの家を訪れた

 

「ようやく来たか。とりあえず入れ」

 

「ねぇねぇ、何やるの?」

 

「しょうもない事だったら帰るぞ」

 

「とりあえずこれに着替えろ」

 

数十分後

 

ハーピー達はシュウに渡された浴衣に着替えて外に出てきた

 

「似合っているじゃないか」

 

「これってなんなの?」

 

「浴衣といって祭りを楽しむ際に着る服装の事だ」

 

イカロス達も既に浴衣に着替えており祭りを楽しむ準備は出来ているようだ

 

「んじゃ行くか」

 

祭りが行われる大桜の隣に経っている神社には沢山の出店と人がおり賑わっている

 

「おにぃちゃん、お祭りって楽しいの?」

 

「そうだよ。みんなで楽しむものだよ」

 

「シュウ!リンゴ飴買って!」

 

「ハイ!私は屋台の料理全種類食べたいです!」

 

「マスター、ヒヨコ買ってもいいですか?」

 

「ちょっと待て。一人ずつ順番に回るからそうせかすな。日和、はぐれるなよ」

 

「大丈夫ですよ。それより早くいかないとイカロスさん達を見失っちゃいますよ」

 

「うぉ、もういない!」

 

急いでみんなの後を追いイカロスにヒヨコを買いその後ニンフのリンゴ飴、アストレアの屋台全ての料理を買いあっという間に両手では抱えきれない程の量になり近くの長椅子に座って食べる事にした

 

「ほら、お前らも食べてみろよ。地上の食事が口に合うかは保証はしないがな」

 

「わぁ~いただきます!」

 

「・・・いただく」

 

姉はお好み焼き、妹は焼きそばを受け取り一口食べる

 

「美味しい~!」

 

「美味いな・・・」

 

「それは良かった・・・ん?」

 

見るとカオスがわたあめの屋台の前でわたあめが作られる様子を見つめている

 

「どうしたカオス?」

 

「おにぃちゃん、これなぁに?」

 

「これはわたあめだ」

 

「おいしいの?」

 

「甘くて美味しいよ。一つ食べてみるか?」

 

「うん!」

 

「すいません一つください」

 

「あいよ!」

 

屋台のおっちゃんは慣れた手つきでわたあめを作っていき大きなわたあめが作られた

 

「出来たぜあんちゃん」

 

「ありがとうございます。はい、これがわたあめだよ」

 

「わぁ~・・・」

 

手渡されたわたあめは大きくて真っ白でとっても綺麗だ

 

「あ~ん」

 

大きく口を開き食べる

 

「甘~い!」

 

「気に入ったか?」

 

「うん!おにぃちゃんも食べる?」

 

「いいのか」

 

「うん。あ~ん」

 

「あ~ん」

 

一口貰うと砂糖の甘さが口の中に広がる。わたあめなんて小学生の頃に食べたの最後だから懐かしい

 

「うん。美味しい」

 

「えへへ~」

 

嬉しそうな顔をするとカオスのほっぺたにわたあめがくっついているのに気づいた

 

「カオス、わたあめが付いているぞ。取ってやるかジッとしてろよ」

 

ハンカチを取り出しそっと取ってやる

 

「ありがとう~」

 

「どういたしまして」

 

二人のやり取りをみてハーピー姉妹は驚いていた

 

「姉さん、あれって本当にカオスなの?」

 

「私達が知っているカオスとは全く違うな」

 

カオスは第一世代を遥かに凌ぐ性能を持って戦闘型として作られたエンジェロイド。だが目の前にいるのは無邪気な笑顔を振りまく女の子だ

 

「カオスちゃんの違いに驚きますか?」

 

「お前はΖ(ゼータ)!」

 

「お久しぶりですね。貴方達も気づいていいるはずですよ。シュウ君は私達エンジェロイドを人間と同じように対等な関係で見る。そのおかげで私を含めイカロスさん、ニンフさん、アストレアさん。そしてカオスちゃんもシュウ君のおかげで今、この場所で心の底から楽しんでいるのです」

 

二人は今、自分の前にある光景には空の上では見られない光景が広がっていた。皆で笑い、そして楽しんでる。こんな光景は空の上では一度も見た事がない

 

「私達と対等・・・変な人間だなあいつは」

 

「ふふふ・・・そうかもしれませんね。ですがそれでいいんです。それがシュウ君の魅力なのですから」

 

「お~い!そろそろ行くぞ!」

 

「は~い!さぁ、行きましょう」

 

「あぁ」

 

シュウ達は川岸まで移動するとそこには智樹達が集まっており智樹の手には両手一臂愛に花火を持っていた

 

「智樹、これから花火を見るのに何で花火を持って来たんだ?」

 

「いやぁ、やっぱり見るだけじゃつまらないから始まるまでやろうかと思って」

 

「ねぇねぇ、おにぃちゃん、花火って面白いの?」

 

「まぁ・・・百聞は一見に如かず。実際にやってみよう」

 

「おぉ~!」

 

シュウは智樹の持っている花火を一本貰いカオスに渡し火を点けると花火がシャァァァーとシャワーのように流れる

 

「わぁぁぁ!綺麗・・・」

 

「シュウ!私にもやって!」

 

「はい!わたしもやりたいです!」

 

「マスター、私も・・・」

 

「はいはい。智樹、もっとくれ!」

 

「沢山あるからみんなでやろうぜ」

 

「トモちゃん、私にもちょうだい!」

 

「俺も貰おうか」

 

「会長にも一つちょうだい」

 

「どうぞどうぞ」

 

智樹にもらいシュウはイカロス達に花火を渡す

 

「ほれ、ハーピー達も」

 

「あ、あぁ・・・」

 

「わぁ~やるやる!」

 

二人共シュウから受け取り花火に火を点ける

 

「わぁ~綺麗だね姉さん」

 

「そう、だな・・・」

 

(これを持って帰ればマスターは、喜んでくれるかな・・・)

 

そう思っていると真っ暗な夜空に満天の花を咲かせた

 

「おぉ~これはまた大きな花火だな」

 

「会長、頑張っちゃった~」

 

「わぁ~綺麗だね姉さん」

 

「あぁ・・・とても綺麗だな」

 

二人の笑った顔をみてシュウは一安心した

 

(ようやく笑ったな。これで後は・・・)

 

「なぁ、ハーピー姉妹。前に行ったが家にこないか?こっちにいる間だけでもいいから家で泊まればいい」

 

「そう、だな。じゃあ・・・世話になろうかな」

 

「やった~!これからよろしくね!」

 

「こちらこそよろしく」

 

「緋村君~そろそろ花火が始まるわよ~」

 

「あぁ!」

 

「あ、その前に私、喉渇いちゃったから飲み物買って来るけどいる?」

 

「あぁ、じゃあ俺も行こうか?」

 

「大丈夫だよ、ねぇ、ちょっと手伝って」

 

「うん」

 

妹はイカロスを連れて空に上がりジュースを買いに行った

 

暫く飛ぶと自販機を見つける

 

「自販機」

 

「もうちょっとあっちに行くよ」

 

妹は止まらずさらに進みある場所で降り立った。そこは大桜の下だ

 

「どうして、ここに・・・?」

 

「姉さんを頼んだよ」

 

そう言ってハーピーはイカロスにプロメテウスを向ける

 

「どうして・・・どうしてなのハーピー・・・」



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第四十九話決別

ハーピー妹がイカロスに銃口を向けるゆすを空から見ていた空の王はこの光景を見て高笑いしていた

 

「そうだ。戦えハーピー」

 

勝てるはずのない戦いだなんて火を見るより明らかだ。それでも空の王はこの無意味ともいえる戦いを愉しんでいる

 

「アルファー・・・最後に一つだけお願いを聞いてくれない?」

 

「え・・・?」

 

「不器用で怒りっぽくておへそが見られるのが嫌いな私の姉さんをお願いね」

 

「だったら貴女も!」

 

「それは駄目だよ。二人共マスターの命令に逆らうのは流石にいかないでしょう

私は迎撃用エンジェロイド。タイプγ(ガンマ)Harpy(ハーピー)私と戦え空の女王(ウラヌス・クイーン)

 

「止めてぇぇぇ!」

 

イカロスの声をかき消すようにハーピーの攻撃が夜空に響き渡る

 

※※※※※

 

イカロスとハーピー妹の二人が飲み物の買い出しに行ってからしばらく経つが一向に戻ってこない二人をシュウは心配していた。嫌な感じが胸の中に渦巻いていた

 

「浮かない顔だなシュウ」

 

「部長、嫌な予感ってなんで当たるんですかね」

 

「嫌な予感とは人の危険察知能力や経験で発生する。つまり嫌な予感とはそのまま起きて欲しくはない事象のため嫌な予感は良く当たると思い込んでいるだけだ」

 

「そうですか・・・」

 

「何か気になるのか?」

 

「まぁ・・・ちょっと・・・」

 

「緋村君~ハーピーの姉の方知らないかしら~」

 

「え?」

 

そういえば姉の方の姿が見えない。さっきまで一緒に花火を見ていたはずなのに。それに飲み物を買いに行った二人の帰りも遅い

この二つの事実が頭に入るとシュウの中にある嫌な予感が膨れ上がる

 

「智樹、ハーピーを知らないか?」

 

「あぁ、さっきトイレに行くって言っていたがそういえば少し遅いな・・・」

 

帰りの遅いハーピー妹とイカロス、いなくなった姉。そしてこの胸騒ぎ。全ての情報がそろうと胸騒ぎは大きくなる

 

「あいつら、まさか・・・!」

 

間に合ってくれよ!そう心の中で祈りながらシュウは走り出した

 

※※※※※

 

一方イカロスとハーピー妹の戦いは一方的なものだ

ハーピー妹はプロメテウスを乱射しイカロスはイージスを展開しハーピーの攻撃を防ぐだけだ

 

「こんな事しても無駄よ。プロメテウスではイージスは破壊できない!」

 

「うるさい!そんなのやってみないと・・・分からないでしょうが!」

 

カチッ!

 

「え・・・?」

 

ハーピーのプロメテウスから砲撃が止んだ

 

「しまっ!弾切れ!」

 

チャンス!とイカロスはイージスを解除し突っ込むがイカロスの横から砲撃がイカロスを直撃した

 

「まったく・・・残弾数は常に確認しておけといっただろう」

 

ハーピー姉がプロメテウスを構えて妹の前に降り立った

 

「どうして姉さんが!」

 

「決まっているだろう。マスターの御命令を遂行するためだ」

 

「でも、あの時ヒムラ=シュウに世話になるって言っていたじゃん!」

 

「あれは私が壊されて残った妹の居場所のつもりで言ったんだ。それはお前というやつは・・・どこまでも私と同じ考えなんだか」

 

「だって・・・私達、双子の姉妹だもん・・・」

 

「そうだな。双子なら考える事も一緒か」

 

「うん。あ~あ、せっかく姉さんのための居場所を用意したのにな~」

 

「それはこっちの台詞だ。だが・・・」

 

「うん」

 

「「これでいいのかもな(ね)」」

 

二人がプロメテウスを構えるとイカロスは何かを決意したように立ち上がり二人にまっすぐな視線を送る

 

「分かったわ。あなた達が私を壊すつもりでいるなら私はあなた達を傷つけずに止めて見せる!」

 

「はは・・・相変わらず優しいなお前は。だけど・・・これが何か分かるか?」

 

二人はプロメテウスを解き首輪をイカロスに見せる。その首輪からはピッ!ピッ!と規則正しく電子音が鳴っている

 

「まさか!」

 

「そう、β(ベータ)に取り付けられた爆弾と同じものだ。それを二つ持って来た。どう意味か分かるよな。これが二つも爆発すればこの辺りは火の海になる」

 

「もし私達を止めたかったらメランのアポロンの時と同じように私達をイージスの中に閉じ込めないといけない」

 

「やめ・・・なさい!そんな爆弾では私には傷一つ付けられない。そんなのは分かっているでしょう!どうして!どうして!どうして!どうしてなのハーピー!」

 

「お前にはわかるまい。あの方がどれだけ苦しんでいるかなど・・・」

 

ハーピー姉の言葉に空の上でこの状況を見ていた空の王は画面を注視する

 

「マスターは空の王としていつも苦しんでこられたかな・・・わかるまい!」

 

二人は同時に首の爆弾を起動させた

 

「あの方が少しでも笑ってくださるのなら私達は・・・」

 

「やめろ!」

 

シュウの声が響きシュウ達がこちらに走って来た

 

「アルファー、最後にあいつに言っておいてくれないか。短い間だったが楽しかったとな」

 

ピー!

 

電子音が止まり爆弾が爆発した。イカロスはイージスで二人をイージスの内部に閉じ込め被害は出なかった

だが解除されたイージスからは二人の痕跡は跡形もなく爆発により消え去った

 

悲しみに包まれる中シュウの中には二人を失った悲しみの他に空の王に対する怒りと憎しみが増していく

 

「これが・・・お前の望んだ結末なのか空の王!」

 

返事など返ってくるはずもない。だけどシュウは出せるだけの大きな声が空に響き渡るだけだった



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第五十話作戦

ハーピーの事件から一夜が明けシュウは布団の上に大の字で寝っ転がり天井を見上げながら考え事をずっとしている

 

シュウが部屋の中で考え事をしている頃、居間ではいつものの新大陸発見部のメンバーが集まっていた

 

「それで、シュウはずっとあの調子か?」

 

「はい。朝食後からずっと部屋に居ます。シュウ君が部屋に閉じこもるのはいつもの事なんですが昨日の一件がありましたから・・・」

 

「緋村君なりに責任みたいのを感じているのね。爆弾に気付かなかった事や助けられなかった事とか」

 

「でも、それは緋村君のせいじゃ・・・」

 

「止めろそはら。例え誰のせいでなくてもアイツは自分に責任があるって思っちまうんだよ。それよりシナプスに乗り込んでこの騒ぎを終わらせるのが先じゃないのか?」

 

何時も平和と連呼している智樹が珍しくエロ以外で行動力を発揮している

 

「それはシュウ次第だな。風音、その辺は何か言っていなかったのか?」

 

「はい。なにも言っていません」

 

「そうか。なら、シュウは何もするつもりはないのかもしれないな」

 

「先輩はこのままでいいって言うんですか!?短い間だったけどそれでもマスターのやった事は許せないです!」

 

「いや、シュウの判断は正しい。現状では我々はシナプスには辿り着けない

ダイブ・ゲームなら乗り込めるがあれは人間だけしか使えない。エンジェロイドであるイカロス達は通れない

本拠地となればそれなりの数のの警備するエンジェロイドがいる。その中を俺達だけで進むのは不可能だ

それを知っているからシュウは何もしない。いや、何も出来ないというのが正しい。そうだろうシュウ」

 

いつの間にかシュウは居間の入り口の前に立っていた

 

「正解です。打つ手なし。それが今の現状です」

 

「シュウ・・・お前だって見ただろう。あいつらは俺達みたいに笑うし泣く。それなのにマスターの命令なんてつまらないものために自分の命を犠牲にしたんだぞ

お前はそれでいいのかよシュウ!」

 

バンッ!とテーブルを叩いて智樹は声を荒げながら立ち上がりシュウの胸倉を掴む

 

「いいわけないだろう!」

 

今度はシュウは声を荒げて智樹は驚きシュウの胸倉から手を放し一歩後ろに下がった

 

「いいわけ・・・ないだろうが。本当なら今すぐにでもシナプスに乗り込みたい。だが、それは出来ない。そうだろうニンフ」

 

「えぇ、シナプスにはZEUS(ゼウス)がある」

 

「それは第二世代のカオスですら太刀打ちできない強力な兵器って事か」

 

カオスを拾ったあの日カオスは体中傷だらけだった。イカロス達の攻撃ですら傷一つつかなかったカオスの装甲を破壊したとなれば相当の威力を持った兵器という事だ

 

「シュウの言う通りね。シナプスには天才と呼ばれる二人の科学者がいるの

一人は私達エンジェロイドを造ったダイダロス博士。そしてもう一人が前まで私達のマスターだった空の王ミーノス

 

ダイダロス博士はシナプス史上最高の科学者と呼ばれているけど昔から大型兵器の開発においてはあの男の方が遥かに上だったらしいわ。その天才が作り出したのが防空システムZEUS(ゼウス)

あれは進化したアルファーでさえも突破できないわ」

 

「分かったか智樹。俺達がどう足掻いてシナプスにはいけないんだ。それに、俺はイカロス達を兵器として使うつもりも戦わせるつもりもない」

 

「くそっ!打つ手なしかよ」

 

バンッ!とテーブルを叩くとポチッ!と音がした

 

「へ?」

 

見るとさっき智樹が立ち上がった事でテーブルの上の機械が倒れ再びテーブルを叩いた時にボタンに触れてしまった

 

光が機械から放たれるとその光はシュウ、智樹、そはらを包み込み機械の中へと吸い込んでしまった

 

「おい二人が消えたがどこに行ったんだイカロス?」

 

「それは・・・」

 

機械の装置には-8と表記されていた

 

光に包まれたシュウが出た先は自分の家の前だった

 

「いてて・・・何だったんだ今のは・・・」

 

「大丈夫・・・ですか」

 

「え?」

 

視線を上げるとそこには子供の姿をしたシュウと日和の姿があった

この時、シュウの頭には一つの可能性が浮かんだ

 

「まさか・・・過去の世界?」



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第五十一話幼少時代

数秒前に智樹が間違ってシナプスの機械の起動ボタンを押してしまいシュウはそれに巻き込まれ着いた先は・・・

 

「過去か・・・」

 

頭を抱えながら目の前の光景を受け止めようと頑張っている。今、目の前にいるのは恐らく8年前の自分と日和だ

 

「日和、変な人には関わらない方がいいぞ」

 

「でも、何か困っているようだよシュウ君」

 

「あぁ~気にしないでくれ。心配してくれありがとう。君は優しいね」

 

「い、いえ・・・」

 

照れているのか日和はシュウの背中に隠れるとシュウは日和を隠す様に立ち位置を少しずらして日和を見えないようにする

 

(ほぉ~流石は俺だな。対処の仕方がアニメで見たのとまんまだ。確かこの時って姫様を守るアニメにはまっていた気がする・・・

ヤバッ、急にまた見たくなったな。DVD何処にあったかな?)

 

いや、今はこんな事をしている場合ではない。はやく二人と合流しないと

 

「では、俺は急いでいるのでこの辺で失礼!」

 

有無を言わさずにその場から去りシュウはとりあえず智樹の家に向かった

家に到着すると智樹とそはらが家の中に入っていった

 

「おいおい、過去の人間に関わるのは歴史が変わってしまうとかで禁忌なのがお約束だろう」

 

過去に戻る事に関して今まで見てきたアニメや漫画の情報から推察すると過去に戻るには二種類ある

 

まずは過去で起きていた事は既に体験済みの場合だ

この場合は世界には特に何の影響を与える事はない。なぜなら未来の人が過去に行くというのは既に決まっていた運命だからだ

これなら特に影響が出る事はない

 

だがもう一つは違う。もう一つとは未来を変えてしまう危険のあるタイムトラベルだ

さっきのシュウと過去のシュウと日和の出会いを例に挙げるとすれば本来、あの二人はあの場所で未来のシュウに会う事なんてなかった

 

だが出会ってしまった。これにより未来が改変される危険性がある。どのような危険があるかはわからいが俺達のような未来から来た人間は過去の人間には関わっていけないのだ

 

「まぁ、会っちまったなら仕方ない。俺はこれ以上関わらないようにとりあえず身を潜めなければ・・・」

 

「家に何か用ですか?」

 

「え!?」

 

振り返るとそこには智樹の母親である桜井智代がいた

 

(しまった!言ったそばから遭遇!)

 

「いえ、観光で」

 

「こんな田舎で?」

 

「はい。この町には樹齢400年を超える大桜があると聞いたもんで。ですが迷いまして」

 

「大桜ならこの道をまっすぐ行くと神社があるからその隣にあるわよ」

 

「ありがとうございます」

 

一礼してその場から足早に離れる

とりあえず大桜の元にまで行き大桜の根元に座り込む

 

「まさか智樹の母に会うとは焦った~大丈夫かな」

 

「こんな所で何をしている?」

 

「は?」

 

いつの間にかシュウの隣に眼鏡をかけた少年がいた

 

(こいつはまさか・・・部長?)

 

「この桜の木を見るために観光だよ」

 

「そう」

 

素っ気ない返事を返し部長はシュウの隣に座る

 

「一人なの?」

 

「うん」

 

「俺も一人なんだ」

 

「うん」

 

何を聞いても素っ気ない返事しか返ってこない

 

(気まずい・・・そういえば部長の事ってあまり知らないな。でも、人の事を詮索するのは良くないよな。部長ってなにか闇みたいなものを抱えていそうだし・・・)

 

「ねぇ・・・訊いてもいい?」

 

「何を?」

 

「人生って楽しい?」

 

「お前、子供のくせに生意気な事を訊くな。子供は普通はそんな事を考えずに毎日が楽しいんじゃないのか?」

 

「そんな事、ない」

 

「まぁ、人生ってのは色々あるんだ。苦しい事も楽しい事も全部ひっくるめて人生だ。この先にも色々な苦悩がある。でも、どんなに苦しい事があっても終わらない苦しみなんてない

いつかは終わりが来る。不幸が終わりその先にあるのはきっと新天地もしくは新大陸って言うんだろうな

 

「新大陸・・・」

 

「そう、そこにはきっと幸せがある。もし、今が苦しとしても生きていればなんとかなる。それが人生の先輩としてのアドバイスだ」

 

それだけ言うとシュウはその場から去っていった

 

次第に日が沈み始めた頃に再び智樹の家の前に行くと家から智樹とそはらが出てきた

 

「ようやく合流出来た」

 

「シュウ、お前まで来ていたのか?」

 

「お前がボタンを押さなければこうはならなかったんだけどな」

 

「うっ!悪い」

 

「過ぎた事だ、それよりイカロス達が迎えにこない以上今日は野宿だな」

 

「やっぱりか・・・・となればあそこか」

 

日が沈み夜になり智樹達と共にシュウは再び桜の木の元を訪れ拾ってきたダンボールや新聞紙を集めて布団代わりにした

 

「そういえば智樹達は何をしていたんだ?」

 

「俺とそはらはじいちゃんと昔の自分に会っていた」

 

「トモちゃん、昔から変わらないんだなぁ~って実感した」

 

「そういえばそはらって昔は体が弱かったけどいつから治ったんだ?」

 

「そういえば・・・いつからだろう?」

 

「まぁ、昔の事なんてあんまり覚えていないだろう。俺は昔の自分と日和、部長に会った。後、智樹の母ちゃんに」

 

「マジか!」

 

「あぁ、お前にそっくりだな。いくら親子にしても似すぎだろうというぐらいにそっくりだった」

 

「あはは・・・それより、俺達はいつ帰れるんだ?」

 

「さぁ?まぁ、その内帰れるさ。今は寝ようぜ。明日には帰れると希望を持ちながら」

 

そう言って三人は眠りについた

 

次の日

三人は起きるともう一度智樹の家に向かった

 

「お~い俺!」

 

智樹が過去の自分を呼ぶが返事が返ってこない

 

「留守じゃないのトモちゃん」

 

「じゃあ家の中で待とうぜ。どうせ母ちゃん鍵かけないし」

 

智樹の言う通り鍵は開いており智樹は家の中に入り自分の部屋に入るとそこには過去の智樹がいた

 

「なんだいるじゃないか。何やってんだ俺?」

 

智樹が顔を覗き込むと過去の智樹は泣いていた。その時、頭がズキンッ!と痛みシュウと智樹は頭を押さえた

 

「二人共どうしたの!?」

 

シュウ達とは反対にそはらは頭が痛いという様子もなく二人の心配をする

 

「おい!何をどうして泣いているんだ俺!」

 

智樹が過去の自分をこっちに振り替えさせると過去の智樹は突然に泣き止んだ

 

「あれ・・・どうして泣いているんだ、俺・・・」

 

過去の智樹のリアクション・・・それはまるであの時と・・・同じ!

 

「智・・・」

 

しかしシュウの言葉を遮るように突如シュウ達の体を光が包み込むと元の世界に戻されイカロス達が出迎えてくれた

 

「戻って・・・来たのか・・・」

 

「はい。修理するのに一日ほどかかりました。申し訳ありません」

 

「いいって」

 

(それにしてもあの時、過去の智樹に何があったんだ?

泣いたと思ったら泣き止んでなんで泣いていたか分からない。これではまるであの時と一緒だ。日和が俺達の記憶から消えた時のように)

 

謎を残したままシュウ達の時間旅行は終わった

 



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第五十二話願い

シュウ達が過去に時間旅行を終えてから数日後シュウの家では事件が起きていた

それはカオスが熱を出したのだ

 

「どうだニンフ?」

 

カオスは苦しそうに布団の上で横になっている

 

「原因はメランの襲撃時に可変ウィングの(コア)を大量に取り込んだことによる負荷が来たんだと思うわ」

 

「ニンフ先輩、あれって結構前でしたけどどうして今頃?」

 

「情報処理の限界を迎えたのよ

可変ウィングの(コア)は一つだけでもかなり強大な力を秘めている

それを未完成といえど一度にあんなに大量に体に取り込んだら体が持つ筈はない

 

でもカオスは長い時間をかけてゆっくりと可変ウィングの(コア)を情報処理を行い自分の身体に取り込んでいった

 

でも情報処理も取り込む体の両方が限界を迎えてカオスは今オーバーヒートのような状態になっているのよ」

 

「じゃあニンフさんのアフロディーテを使えば」

 

「それは無理よヒヨリ。カオスの情報処理を助けたとしてもそれを取り込む体が既に限界の状態

情報処理を手伝えば確かに少しは楽になるけど解決にはならない。根本的に解決するには情報処理を助けるのとカオスが取り込むための新しい容量が必要になるの」

 

「えっと・・・つまりどういう事なのシュウ君?」

 

「カオスをパソコンに例えて話すがまずカオスというパソコンは内蔵している容量が32GBとする

可変ウィングの(コア)というデータを取り込んだことによりカオスの容量の全てがそれで埋まってしまっている

つまり全てを取り込むには外部メモリー、もしくはデータを拡張して32GB以上にデータを取り込めるようにバージョンアップさせなければならないんだ」

 

「じゃあどうしたら・・・」

 

「・・・イカロス、ダイブ・ゲームの装置は部長の所にあるんだよな」

 

「はい」

 

「じゃあ今からダイブ・ゲームでシナプスに行ってダイダロスに会って事情を話して対処法を聞くしかないな」

 

「ですがシナプスにマスター一人で行くのは危険です」

 

「分かっている。だが、やらなければカオスが危ない。俺はカオスをこんな状態で放置するわけにはいかない

イカロス、俺を部長の元に運んでくれ。ニンフは俺達と一緒についてきてくれ。アストレアは会長の家にいるオレガノを連れてきてくれ」

 

「どうしてオレガノを?」

 

「オレガノは居住区には詳しい。あの辺に転移した場合の地形を教えてもらうためだ。頼む」

 

「わっかりました!すぐに連れてきます」

 

「日和はカオスを看ていてくれ」

 

「はい。任せてください」

 

「カオス、少しだけ頑張ってくれよ」

 

シュウ達が行動を開始し残った日和はカオスの看病を始める

 

「今、シュウ君達がカオスちゃんのために頑張っている。だからカオスちゃんも頑張ろうね」

 

それから数分後カオスの体に異変が起き始めた

急に熱が上がりオーバーヒート状態になり苦しみ始めたのだ

 

「カオスちゃん!」

 

「あぁぁぁぁ!」

 

苦痛な悲鳴があがりもう見るからに痛々しい

 

「とりあえずシュウ君に連絡しないと」

 

携帯を取り出しシュウに電話を掛ける

 

『もしもし』

 

「シュウ君!カオスちゃんが急に苦しみだし・・・きゃぁ!」

 

カオスの体から発生している電流が日和にあたり持っていた携帯が電気に当たりショートした

 

「カオスちゃん!」

 

「いたい・・・くる、しい・・・頭が・・・割れ、る・・・」

 

頭を押さえて苦しそうにしている。どうしていいか分からない

 

「カオスちゃん。大丈夫だから」

 

日和はカオスを抱きしめて精神的に安定させようとするが痛みで周囲が見えずカオスは暴れる

 

「やめて・・・いたい・・・いたいは、愛じゃ・・・ない!」

 

「カオスちゃん!」

 

カオスは翼を広げるとそのまま飛び庭に日和ごと飛び出し地面に激突した

 

「いた・・」

 

カオスが怪我しないように日和はカオスを庇い地面に激突したことにより額が少し切れて血が流れる

でも、日和はそんな事を気にする余裕なんてなかった。腕の中では今でもカオスが苦しそうにしている

 

「どうしよう。わたしじゃあニンフさんのようにハッキングなんて・・・」

 

その時、あることに気付いた。ハッキングは出来る。なぜなら自分がエンジェロイドに改造された際にミーノスは日和にとびきりの電子戦用のプログラムを積んでいて今もそれは自分の中にある

だが今の自分ではこのポログラムを上手く使う事は出来ない

 

「自分では使えない。でも、カオスちゃんなら・・・」

 

日和の頭にこの状況を一時的にだが好転させるアイディアが浮かんだ。でもそれはとても危険な賭けでありたとえ成功しても・・・

 

「・・・ふふ」

 

少し考えて自然と笑ってしまった。何故かってそんなのもう答えが決まっているからだ

 

「シュウ君、私は一度死にました。でもあなたに会いと願いエンジェロイドとしてですがもう一度あなたに会えてとっても嬉しかった

 

もう二度と戻る事のないこの場所に戻れて私は、本当に幸せでした。この幸せを手放したくないと思いました

 

いつか、あなたと結婚して沢山の子供達に囲まれて、二人でおじいちゃん、おばあちゃんになってあなたにそっくりな孫を抱くのが夢でした

 

でも私は今、目の前で苦しんでいるカオスちゃんを見捨てる事は出来ません。ごめんねシュウ君」

 

カオスを放しカオスの刃の翼を掴み自分の胸の元にもっていく

 

「おねぇ・・・ちゃん?」

 

「きっとシュウ君が、助けてくれるからねカオスちゃん」

 

日和は自分の手でカオスの刃で自分の胸を貫いた

不思議な事に痛みも恐怖も感じなかった。胸から血が流れ落ち力が抜けて倒れた

 

「日和!」

 

どこからかシュウの声が聞こえてきた。でも、日和は既に目を開ける力すら残っていない

 

(あぁ・・・最後にシュウ君の顔が見たかったな。ごめんねシュウ君・・・でも最後にシュウ君の声が聞けて良かった。本当に良かった)

 

幸せそうな顔をして日和は意識を手放した



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第五十三話二度目の別れ

家を出てシュウはイカロスとニンフを連れて部長のいる河原に向かいアストレアはオレガノのいる会長の家に向かった

 

シュウ達が河原に着くと部長は釣りをしていた

 

「どうしたシュウ?」

 

「実は・・・」

 

シュウは部長に今日の朝に起きた出来事を話しシナプスにいるダイダロスの元に行くという計画を話した

 

「なるほど。なら俺も行こう」

 

「ありがとうございます」

 

「シュウ!連れてきましたよ」

 

丁度アストレアがオレガノを連れて合流出来た

 

「アストレア様から大体の事情は聞きました。シュウ様のために微力ではありますがお協力させていただきます」

 

「ありがとうオレガノ」

 

オレガノから話を聞こうとした時シュウの携帯が鳴り見ると日和からの着信だ

 

「もしもし」

 

『シュウ君!カオスちゃんが急に苦しみだし・・・きゃぁ!』

 

「日和?おい、日和!」

 

「マスター、どうかしましたか?」

 

「日和から電話があったけどそれが突然切れた」

 

「ヒヨリに何かあったの!?」

 

「わからない。だけどカオスが急に苦しみだしたって。イカロス、急いで家に戻るぞ」

 

「はい」

 

「なら、シナプスは俺が行こう。ダイダロスには俺から話しておく」

 

「ありがとうございます」

 

部長に後の事を任せてシュウ達は日和の元に向かった

 

「くそっ!なんか嫌な予感がする。イカロス、俺の事は構わず全速力で飛んでくれ」

 

「はい!」

 

羽を羽ばたかせ一気に加速シュウの体にGがかかる。息が出来なくなり苦しいがそれ以上に胸の中にある違和感が気になってしまう。あの時の・・・ハーピーの時のような違和感が拭えない

 

(頼むから無事でいてくれよ日和!カオス!)

 

数分で家に到着し家に入ろうとした時、庭に二人の姿を見つけた

何をしているのか分からなかったがその時、シュウのの中にあった嫌な予感は確信へと変わった

 

「日和!」

 

シュウが叫ぶがすでに遅かった。日和はカオスの刃の羽を自らの胸に突き刺し力なく地に倒れた

 

急いで日和に駆け寄り抱き起すが既に日和は息をしてなくシュウの手の中で日和の体温は急速に無くなっていく

 

「おねぇ・・・ちゃん・・・。いや・・・いや・・・」

 

日和は自分の中にある電子戦用のプログラムをカオスに食わせるために自分の命を捨ててまでカオスを救おうとしたんだ

 

「マスター!カオスの様子が!」

 

カオスは頭を押さえて日和が死んだ事を拒絶するように否定の言葉を何度も呟いている

 

「ニンフ、今のカオスの状態は!?」

 

「ダメ・・・日和のプログラムを食べて少しは良くなったけど日和が死んだ事に拒否反応を示している。このままじゃ暴走してカオス自体が壊れる」

 

「やむ得ない・・・イカロスとアストレアはカオスの動きを止めろ!ニンフ、お前の力でカオスの情報処理を助けながら可変ウィングの(コア)のデータを削除しろ」

 

「データを削除するって危険よ」

 

「それは重々承知だ。部長がシナプスでダイダロスから対策案を持ってきてくれるそれまでの時間稼ぎだ。少しでも可能性があるなら今はこれに賭けるしかない」

 

「わかった!素粒子ジャミングシステムAphrodite(アフロディーテ)展開」

 

ニンフがハッキングを開始しカオスがそれを跳ね返そうと苦しみ暴れ出し周囲に刃を振ったり黒炎を飛ばす

 

「アルテミス発射!」

 

イカロスは黒炎をアルテミスで相殺しアストレアは羽の刃をパンチや蹴りで弾く

 

「よし、ニンフ、どれぐらいで完了する?」

 

「五分あればある程度は出来るけどそれ以上はカオスに負担が大きくかかる。強制的に冷却モードにして動きを止めるわ」

 

「そうか。イカロス、アストレア。五分だけ耐えてくれ」

 

「はい!」

 

本当ならニンフの周りをイージスで囲みたいがイージスを張ればニンフのハッキングの邪魔になる。危険だがこれが今できる最善の策だ

 

「ハッキング、80%成功。あと少し・・・」

 

「よし、そのまま頼むぞニンフ」

 

「二人共、あと少し頑張ってくれ!」

 

「はい!」

 

「任せて!」

 

「あぁ・・・あぁぁぁぁ!」

 

カオスが悲鳴を上げると手の中に黒炎を収束させていく

 

「マズい!イカロス!イージス全力展開!」

 

「イージス展開」

 

「キマイラはっしゃ!」

 

イージス展開と同時にきまいらが発射されイージスがキマイラを受け止める。全てを受けきりイージスを解除するがさきほどの衝突で煙が生じカオスの姿が見えない

だが二人はレーダーでカオスの姿をきちんと確認しているはずだ

 

「これは・・・アンチシステム!」

 

イカロスが何かに驚くと羽の刃が煙の中から跳び出しイカロスとアストレアがぶつかり吹き飛ばされた

 

「イカロス!アストレア!」

 

煙が晴れると目の前にカオスが三人いた。カオスの持つ知覚アンチシステムを使ったんだ

分身が消えて一人に戻ると刃がニンフに向けられ放たれた

 

「ニンフ!」

 

「ニンフ先輩!」

 

イカロスとアストレアが逃げるように言うがニンフはハッキング中のため動けない

 

「ダメ・・・」

 

もう無理だと思い目を閉じるが一向に自分の身体に痛みが来ない

 

恐る恐る目を開けるとシュウがニンフの前に立っている

 

「シュ、ウ・・・」

 

シュウの体をカオスの刃が貫き血が地面に落ちていき地面を赤く染めていく

 

「おにぃ・・・ちゃん」

 

刃を抜くとシュウは一歩、一歩とカオスに近づく

 

「ごめん、な。カオ・・・ス」

 

頭を撫でてやろうと手を伸ばすがその手はカオスに触れる事無くドサッ!と倒れる

 

「マスター!」

 

「シュウ!」

 

「しっかりしなさいよ!シュウ」

 

みんながシュウの心配をしている中カオスは自分がした事を受け止められないでいた

 

自分は日和を殺しそしてシュウも・・・

 

「いやぁぁぁぁ!」

 

全てを拒絶するように悲鳴を上げるとカオスのパンドラが発動しカオスの体が子供から大人に変わりその場から飛んでいった



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第五十四話石板

真っ暗な中に自分が一人いる

力が入らない。目が開けられない。身体が重くて動かない。次第に頭の中が真っ白になっていき何も考えられなくなってきた。眠い・・・このまま眠ってしまっていいんだろうか・・・

 

カオスの攻撃を受けた倒れたシュウをイカロスが体がスキャンする

 

「胸部の損傷40%動脈・・・いや・・・このままじゃ・・・」

 

確実にシュウは死ぬ。応急処置だがイカロスは傷口を手で押さえてこれ以上血がでないようにするがシュウの体からは血がとめどなく流れてくる

 

「アルファー!ビョーインに連れて行けば助かるわよね・・・」

 

「駄目!今動かしたら・・・」

 

「だって血が・・・血がでいているのよ。だったらビョーインに・・・」

 

「今無理に動かしたらそれこそ・・・」

 

「じゃあこのまま何もしないっていうの!だったら私が連れて行くわ」

 

「駄目!やめてニンフ!」

 

しかし今のニンフは完全に思考が混濁しており正常な判断が出来ないでいた

 

「何やっているのですかポンコツ」

 

突然オレガノが現れるとニンフをどかす

 

「何するのよ!はやくビョーインにいかないと」

 

「まったく電子戦用のエンジェロイドのくせに忘れたのですかポンコツ」

 

「あ・・・」

 

その時、ニンフはオレガノが何のエンジェロイドなのかを思い出した

 

「医療用・・・」

 

「そう、私はシナプスが作り出した医療用エンジェロイド」

 

オレガノはあらゆる医療器具を生成し初めにシュウの体をスキャンする

 

『患部スキャン。肺損傷、動脈損傷、出血多量』

 

「なるほど。病院に運んでいたら間に合わない」

 

シュウの今の状況を確認するとオレガノは右手を振り上げ右手をシュウの損傷している胸部に突き刺す

 

『血液生成タイプO注入開始。胸部再生。細胞構築移植開始。死滅細胞除去。自己再生加速・・・終了』

 

施術が終わるとシュウは息を吹き返し目を覚ますとそこには安堵の表情を浮かべるイカロス達の顔が目に入った

 

「あれ・・・俺はあの時」

 

「マスター!」

 

「ちょ!イカロス、ま・・・」

 

待て!と言おうとしたがイカロスはシュウを力一杯に抱きしめた

 

「ぎゃぁぁぁ!イカロス待って。変な音が出ているからメキメキ言っているから!」

 

「あ、あの・・・今度こそ死んでしまいますので・・・」

 

「あ、すいませんマスター・・・」

 

ようやくイカロスはシュウを放す。危うくもう一度死ぬところだった

 

「そうだ!カオスは何処に!?」

 

「シュウ様。美香子お嬢様から伝言です『終わりが始まり、始まりが始まる。また・・・繰り返される』と」

 

「まるでアニメみたいな言葉だな。どういう意味だオレガノ」

 

「申し訳ありません。これ以上は何も言えません」

 

「そうか。色々と助かったありがとうオレガノ」

 

「いいえ、では私はこれで失礼します」

 

オレガノの活躍によりシュウは一命を取り留めた頃カオスはシナプスの石板の前に来ていた。理由はそこには部長が居るからだ

 

「お前はカオスか?」

 

突然のカオスの登場に部長は驚く。しかもいつのまにか大人の姿に成長していれば

 

「あなたのねがい、かなえてあげる」

 

「願いだと?」

 

「このせきばんはるーるっていって、ねがいをかなえてくれるの。しなぷすのひとびとは、なんどもこのせきばんにねがいをかきこんだ」

 

「願いを、書き込む?」

 

「あぁ・・・そっか。よめないよね。なら、よめるようにしたあげる」

 

カオスは部長の頭をハッキングすると部長の頭にシナプスの言語が流れ込んできてもう一度石板を見るとそこには願いが殴り掛かれていた

 

こんな世界イヤだ!

 

新しい世界をくれ!

 

他らしい世界をよこせ!

 

それは怒りや憎しみ希望を込めた殴り書きが書かれている

 

「これは・・・」

 

「るーるはねがいをかなえるそうち。でも、えんじぇろいどはこのそうちをうごかせない」

 

「そうか、だからここに俺を・・・この石板を動かすために・・・だが俺に願いなど・・・」

 

ないと思った時、石板の後ろに子供の頃の自分が見えた。その時、カオスが何をしようとしているのか察した

 

「まさか・・・!」

 

部長の体が自分の意志と関係なく動き石板に一歩、また一歩と近づく

 

「さぁ、あなたのねがいをかなえて」

 

「やめろ・・・」

 

「あなたがのねがいはわたしとおなじ」

 

「やめろ!・・・やめろ!やめろ!やめろ!やめろぉぉぉ!」

 

石板に手が付くと石板は起動し文字が刻まれていく

 

『こんな世界などいらない・・・新しい世界を・・・新世界を!』

 

「違う!おれは・・・!」

 

しかし石板は起動してしまった。起動し石板から光の柱が空に向かって噴き出し光は世界を包み込んだ

 

石板が発動した影響はすぐに地上にも及んだ

 

「何が・・・起ころうとしているんだ・・・」

 

「まさか・・・石板(ルール)が起動した・・・」

 

「イカロス、石板(ルール)って何だ!?」

 

「私達エンジェロイドが造られる遥か昔にシナプスの日知人が造った願いを叶える装置。それを使いシナプスの人々は何度も世界を作り替えたと・・・」

 

「世界を・・・作り替えるだと・・・?」

 

「その初期段階としてまず、シナプスを覗く全てのものが消去されます。人も・・・動物も・・・植物も・・・大地も空も海もなにもかも消えてしまうんです」

 

「じゃあまさか智樹達も」

 

「もう・・・」

 

「どうして・・・こんな事に・・・」

 

その時シュウの携帯が鳴り部長の名前が表示されていた

 

「もしもし部長!」

 

『シュウ、少し、俺の話を聞いてくれないか?』



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第五十五話居場所

部長の話とは自分の昔話だった

自分の兄は優秀で空を飛ぶのが好きだった。ある日、些細な事で喧嘩してしまいその日兄がのるハンググライダーの点検を疎かにした

 

いつも完璧に組まれているため兵器であろうと思ったその日に限ってボルトが一本緩んでいた

 

これにより兄は墜落し亡くなった

 

将来は守形の家を継ぐはずだったが兄が死に両親は部長を恨み弟が生まれると自分は完全にいないものとして扱われるようになったと・・・

 

「それから俺は新大陸を目指した・・・だが目指していたのは新大陸なんかじゃない!ただ、新しい世界が欲しかったんだ!俺が存在していい新しい世界を!」

 

「~~~!ふざけるな!自分が居て良い場所だって、ふざけんなよ!

そんなの自分で決めろばいいだろう。俺は、部長と一緒に新大陸発見部で色々なことをしているのが楽しかった

 

そして俺の目には新大陸発見部にいる部長は楽しそうだった!自分の居場所を探しているなんとより一緒に楽しんでいた!

 

それから智樹が来てイカロス達が来て賑やかになった・・・イカロス達の事で部長は相談に乗ってくれて俺は部長をずっと頼りにしていたんだ

だから・・・そんな風に。自分には友達も何もいないような事を言わないでくださいよ部長・・・」

 

「シュウ・・・お前は俺を認めてくれるのか?」

 

「当たり前です!俺の周りには日和、イカロス、ニンフ、アストレア、カオス、オレガノ智樹に見月、会長がいてその中には部長だって当然いるんです!」

 

「そうか・・・俺には、既に居場所があったんだな・・・」

 

「だから部長、いつものように俺達を助けてください。部長なら何かできるはずです」

 

「あぁ・・・任せておけ。やれるだけのことはやってやる」

 

通話を切り部長はパソコンを取り出しルールにコードを繋げる

 

「いくら石板といえどプログラムだという事は変わらない。今の俺はシナプスの言語が理解できる。落ち着いてやれば出来るはずだ」

 

解析プログラムを使うが石板自体のデータが膨大過ぎて思うように解析が進まない

 

「時間が足りない。何か手はないのか・・・!」

 

気が付くとイカロスのメランが数体やってきた。どうやら部長を侵入者として排除するつもりだ

カオスは既に姿を消しており今は部長一人しかいない

 

(今パソコンを壊されるわけには・・・)

 

部長はパソコンをその場に残しその場から離れようとしたがメランはアルテミスを発射し逃げるのを阻止しメランは部長を取り囲む

 

「くそ・・・ここまでか」

 

だがメランの視線がこちらに向いている事でパソコンの存在をうまく隠せた

 

「まぁ、俺にしてはよくやったんではないか。後は任せたぞシュウ」

 

メランの腕が部長の胸を貫き部長はその場に倒れ後の事をシュウに任せてゆっくりと意識を手放した

 

※※※※※

 

部長との通話を終えたシュウは次の方針をみんなに告げた

 

「シナプスに行くぞ。あそこに行ってこの崩壊を止める。ニンフ、お前の力でZEUS(ゼウス)を無効化できるか?」

 

「無理よ。でも、一回ぐらいなら出来るわ」

 

「なら、俺を連れて一気にシナプスに」

 

「それは無理よ。ゼウスはそこまで甘くないわ。だから私が直接ゼウスを叩いて無力化する

アルファーはその後にシュウを連れてきて分かっている(・・・・・・)でしょう」

 

「うん・・・」

 

「ニンフ先輩!私も行きます」

 

「お願いね。じゃあ行くわよ」

 

「はい!」

 

「待て!二人共」

 

空に上がるとシュウは二人を呼び留める

 

「絶対に・・帰って来いよ」

 

二人はキョトンとした顔をして顔を見合わせると笑った

 

「「命令?」」

 

「そんなわけないだろう!でも・・・もし、それでお前達が帰って来るなら命令でもいい。だから絶対に帰ってこい!」

 

「わかったわよ」

 

「じゃ、行ってきます!」

 

二人は空に上がりシュウは返ってくるように強く願った

 

※※※※※

 

部長が亡くなった石板の前に会長とオレガノが現れ部長の亡骸を抱き起す

 

「英くん。みんなが来るわ。きっと変わる。今度こそ・・・だから英くん・・・今度こそ」

 

そっと抱きしめるとカリカリっと小さな音がした

会長が音のする方を見るとそこには部長のパソコンが置かれており何かのプログラムが実行されていた。それを見て会長は感心しキーボードに何かを打ち込む

 

「やっぱり英くんは天才ね」

 

※※※※※

 

空を飛ぶニンフとアストレアはシナプスがもう目の前にまで迫っている

 

「もうすぐZEUS(ゼウス)の射程に入るわ!覚悟はいい?」

 

「はい!」

 

防空システムが作動し二人に収束砲が向けられ発射された

 

「先輩!」

 

『素粒子ジャミングシステムAphrodite(アフロディーテ)展開』

 

アフロディーテが展開され一撃目の攻撃を防いだ

 

「よし!効いた。今の内に!」

 

「先輩、先に行ってください」

 

「え・・・?」

 

アストレアの視線の先にはカオスの姿があった

 

「カオス!」

 

「クスクスクス・・・行かせない・・・行かせない。やり直すの!やり・・・直す!」

 

「先輩!時間がありません。カオスは私に任せて先に行ってください!」

 

「~~~!分かったわ!」

 

アストレアを残しニンフはZEUS《ゼウス》の中枢に飛び込んだ

 

「クスクスクス・・・アストレアお姉様が私の相手をするの?

私知っているんだよ。くりゅさおるもいーじす=Lも壊れている。そでれどうやって・・・」

 

「カオス。私・・・戦うのが嫌いなんだ」

 

「え・・・?」

 

「喧嘩するの嫌い。傷つけあうの嫌い。美味しいご飯を食べてコタツでぬくぬくしてトランプするのが好き。だから、私だけパンドラが発動しなかったんだ。でも・・・」

 

突然アストレアの出力が上昇する。アストレアのPandora(パンドラ)が発動したのだ

 

「でも、今は約束がある。私は戦う。戦ってあなたを・・・連れ戻す!」

 

現れたのは新しい剣と盾を持ったアストレアが現れた

 

「行くよカオス!」

 

二人の戦いが今、始まった



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第五十六話自由に生きる!

進化したアストレアとカオスは空の上で何度も激突しその度に空気が振動し衝撃波が周囲に広がる

 

「あははは!」

 

カオスは自分の黒炎をクリュサオルに纏わせ振り下ろしアストレアも対抗してクリュサオルでその一撃を受け止める

 

「マルチ光子力ウィング安全装置(セーフティー)解除!」

 

ブースターの安全装置を解除しカオスの斬撃を弾くと物凄い速さでその場から離脱する

 

「すごいすごいすごい!にんふお姉様のレーダーでも捉え切れない。なんて速さ」

 

今度はアストレアが攻撃を仕掛ける。上からクリュサオルを振り下ろしカオスはそれを黒炎を纏ったクリュサオルで防ぐ

 

「なら、これならどう!」

 

クリュサオルのアルテミスを作り出しアストレアに向かって発射する

 

「こんなもの効かない!」

 

アストレアは一振りでカオスの攻撃を粉砕しカオスがそれに驚いた瞬間に一気に加速しカオスに接近する

 

「いーじす=える!」

 

逃げられないと判断したカオスはイージス=Lを作り出しアストレアの攻撃を防ぐがアストレアの攻撃はイージス=Lを砕きカオスの目の前で止まっていた

 

「あはは・・すごいすごい!これがアストレアお姉様ほんとうのちから・・・しんかしたアストレアお姉様のちからなんだ。でもね・・・私、わかっているよ」

 

「?」

 

アンチ知覚システムMedusa(メドューサ)

発動するとカオスの姿が何体にも増え試しに一体を斬ってみるとそれは手応えのない幻だった

 

「こんなの纏めて!」

 

斬り裂いてやろうと構えるとアストレアが搭載しているレーダーがピーッ!と大きな警告音を鳴らす

 

カオスの策に気付くが既に遅い。カオスは既にアストレアからかなりの距離を取り黒炎を収束させている

 

Chimaira(キマイラ)はっしゃ」

 

「イージス=L!」

 

巨大な砲撃が発射されたが寸でのところでアストレアはイージス=Lを形成し直撃は防げた

 

「ほらね。お姉様はきょくちせんとうよう。離されたらなにもできない。あの時といっしょ」

 

カオスと初めて戦ったあの時も距離を取られて一気に不利になった。アストレアは近接戦では最強を誇るが遠距離用の武器を持っていないため距離を取られれば何も出来ない

 

「あの時とは・・・違う!」

 

ChrysaorⅡ(クリュサオル)発射!

 

光で形成された剣が何本も出現しカオスに向かって発射された

 

「へぇ・・・えんきょりせんも、できるようになったんだ。でも、えんきょりせんなら・・・これは、どう!あるてみすはっしゃ!」

 

黒い炎が発射されるとカオスはハッキングシステムを自分の発射したアルテミスをハッキングしアストレアの張ったイージス=Lに当たる前にアルテミスは弾道を変えてイージス=Lを避けアストレアの後方に回り込みアストレアを攻撃する

 

「きゃぁぁ!」

 

「あなたがたたかっているのはイカロスお姉様。私が食べてよりつよくなった。イカロスお姉様。イカロスお姉様はしじょうさいきょうのエンジェロイド・・・アストレアお姉様じゃかてないよ?」

 

そう言ってカオスは止めを刺すためにアポロンをいくつも生成しその全ての矢がアストレアに向けられる

 

「さようなら!アストレアお姉様」

 

「ちがう・・・」

 

「は・・・」

 

この絶望的な状況で口にしたアストレアの言葉にカオスは攻撃の手を止めた

 

「まだだ・・・こうじゃない。何かが違う。何かが足りない・・・」

 

考え込むと前にシュウに言われた事を思い出した『自分で決めろ!』。その言葉はアストレアはある事が分かった

 

「そう・・・だね」

 

再びアストレアのPandora(パンドラ)が発動する

 

「そうだね自分で決めないといけない。私は自由に生きられる。守りたいのは自分じゃない。大盾(こんなもの)は・・・いらない!」

 

大盾を捨てると更にアストレアの出力が上昇した

 

「私は決めた!私は自由に生きる。自分で決めた!私はあなたを助ける!」

 

更に出力が上昇するとアストレアの首についている枷が砕け散った

 

「私は・・・あなたのおねえちゃんだから!」

 

現れたのは首の枷がなくなり翼が二枚から四枚に増え手には大きな大剣が握られている

その姿はまるで本物の天使のようだ

 

「~~~!うぁぁぁぁ!」

 

アポロンを発射するがアストレアは大剣を振り上げる

 

「カオス!そんなものは・・・いらないの!」

 

たった一振りでカオスの攻撃を全て薙ぎ払う

 

「いや・・・おにぃちゃんがいないきゃ私にいばしょなんて・・・ない。だから、やりなおすの!じゃましないで!」

 

パンドラが起動しカオスの出力が更に上昇していく

 

「カオス!」

 

駄目・・・それ以上進化したら・・・

 

「あはは!もっと・・・もっとつよくなってやりなおさないと!」

 

しかしカオスが進化した時、ボフンッ!とカオスの左の羽が爆発した

 

「え・・・?どうしたの私のからだ?もっとつよくならないと・・・」

 

「駄目!それ以上進化したら・・・!」

 

ボフンッ!追う一度爆発が起こりカオスの左腕と右足が爆発した

 

「おにぃ、ちゃん・・・。私、ひとりはいや・・・くらくてつめたいうみは、いや・・・」

 

「カオス」

 

そっとアストレアがカオスを抱きしめる

 

「アストレア・・・お姉様・・・?」

 

「一緒にいてあげる。私はカオスのお姉ちゃんだから。寂しくないでしょう」

 

あぁ・・・シュウに帰って来いって約束したのに守れなかったな・・・

 

「ありがとうアストレアお姉様・・・」

 

そして二人は幸せそうな表情を浮かべながら消えていった



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第五十七話幸せ

カオスとアストレアが消えるとその光は地上にいるシュウとイカロスも目視する事が出来た

 

「イカロス、何があったか・・・教えて欲しい」

 

「・・・タイプΔ(デルタ)アストレア、カオス。共に全壊・・・」

 

「アストレア・・・カオス・・・」

 

両手を握りしめ悔しそうな顔を浮かべる

 

「ニンフは・・・無事、なんだよな」

 

「タイプβ(ベータ)ニンフ。ZEUS(ゼウス)」内部に到達」

 

イカロスは何も言わないがニンフは今、絶望的な状況に置かれていていた

ZEUS(ゼウス)に侵入すると中にはメラン達がZEUS(ゼウス)を警護しており電子戦用のエンジェロイドであるニンフでは歯が立たない

 

「はぁ・・・はぁ・・・。まったくついてないわね・・・」

 

壁に背をつけてもう駄目だと観念するとメランの動きが止まりメラン達の後ろから一人の男がやって来た

 

「久しぶりだなβ(ベータ)

 

「マス・・・ター・・・?」

 

ミーノスが現れたのに驚きニンフは彼をマスターと呼んでしまった

 

「今まで散々裏切ってくれたな・・・だが、それももう意味をなさない。なぜならまもなく世界は造り直される。もはや何もかも意味の、ない事だ」

 

「意味がなくなんか・・・ない!」

 

「何?」

 

「私は・・・幸せだった」

 

壊れかけの体を無理に動かしながらもニンフは立ち上がる

 

「みんなに出会えて・・・シュウに出会えて・・・幸せだった。幸せ・・・でした」

 

ニンフは変わった。今までは自分が生きるために何でもやった。何をされても耐えて耐えて・・・時には友達だった小鳥を殺して・・・自分は今まで生き残ってきた

 

そんな自分が幸せになる資格なんてないとずっと思っていた

 

でも、シュウやみんなに出会ってインプリンティングが解けてから毎日が幸せだった。毎日、他愛のない事で笑ったりして毎日が賑やかでそんな日常が大好きで大切だった

 

「フン、それがどうした。そのボロボロになった身体ではハッキングもパラダイス=ソングも満足に撃てまい。非力で壊れかけのお前がどうやってこの強固なZEUS(ゼウス)の心臓部を破壊する?」

 

悔しいがミーノスの言う通りだ。今の自分の身体では満足に攻撃もハッキングも出来ない。今の自分では心臓部を破壊するなんて不可能に近い

 

β(ベータ)、もう一度・・・私のエンジェロイドに戻る気はないか?」

 

「え・・・?」

 

「今更かもしれない。だが、もう一度、もう一度だけでいい。戻ってきてくれβ(ベータ)

 

「・・・」

 

突然の申し出に驚きニンフは目を見開いたがすぐに顔を伏せミーノスから視線を外し数秒が流れると

 

『インプリンティング開始』

 

ニンフの首についている首輪から鎖が形成されていきミーノスの手に巻き付きインプリンティングが完了するとミーノスは嬉しそうな顔をする

 

「これからは・・・」

 

「ク・・・クク・・・クククク」

 

β(ベータ)?」

 

ニンフは不敵な笑みを浮かべながら起き上がる

 

「なるほどね。起爆コードはこう、なっていたのね」

 

ニンフの首からはピッ・・・ピッ・・・と音が聞こえてくる

 

「!」

 

「覚えてる?あんたが私につけた爆弾」

 

「やめろ・・・やめろβ(ベータ)・・・」

 

「勿論覚えているわよね!でも以前のものとは違う」

 

β(ベータ)よせ!」

 

「そんな命令聞かない!私の・・・私のマスターはもういるのよ!インプリンティングみたいに目には見えないけどどんなことがあろうと切れる事もなく変えの効かないとっても大切な絆っていうのが私にはある!

 

私のハッキングで爆弾を進化させておいたわ。このZEUS(ゼウス)の心臓部を粉々に出来るぐらいにね!これでアンタ達も道連れよ!」

 

自爆を阻止しようとメラン達がニンフに飛びかかる

 

「遅い!」

 

しかしそれより早くニンフは爆弾を起動させる

ニンフの目に必死にニンフに呼びかけるミーノスの姿が見えた

 

「あぁ~結局シュウに好きって言えなかったな・・・でもシュウにはアルファーがいるんだよね

それでも、もしシュウが私を選んでくれたらきっと・・・これ以上の幸せはないんだろうな・・・

ゴメンねシュウ。約束、守れなくて。ゴメンね。後は・・・頼むわよシュウ」

 

後の事を全てシュウに託しニンフは笑って自爆した

 

爆発が起こりシナプスから煙が上がる

 

「何が・・・起きたんだ?」

 

ZEUS(ゼウス)破壊・・・」

 

「じゃあニンフの奴やったんだな!」

 

「ですがニンフは・・・」

 

「まさか・・・あいつも・・・」

 

「はい・・・」

 

これで残ったのはシュウとイカロスだけだ。シュウは空を見あがて決意する

 

「イカロス。俺を、シナプスに連れて行ってくれ!」

 

「はい」

 

イカロスに抱きかかえられシュウは空に上がり地上を見ると既に地球の殆どが消滅しておりシュウ達が居た場所も消滅してしまった

 

「マスター、少しだけお話してもよろしいでしょうか?」

 

「こんな時に何だ!?」

 

「私がまだ、シナプスにいた頃の話です。遥か昔に私はマスターの命令で地上を攻撃した事があります。その時、私は原因不明の動作不良に陥りやむなく初期化して地上に墜落しました

その時、たまたま生き残っていた人間とインプリンティングしてその人間の命令でシナプスを逆に攻撃した事がありました」

 

「なっ!」

 

「当時シナプスにはZEUS(ゼウス)のような防空システムがありませんでした

シナプスに存在するわずかな兵器とニンフ、ハーピー、アストレアが四人がかりでやっとの思いで私を止めました

しかし、当時最強のエンジェロイドであった私の攻撃はシナプスを崩壊する一歩手前まで破壊しました

それからです。私のコアにある装置が付けられました」

 

その時、あることに気付いた。イカロスの羽に炎のようなものが灯っているのに

 

「おい・・・なんだよ。その炎は・・・・」

 

「一種の自爆装置です。私がシナプスに許可なく近づくと私の体は・・・燃え尽きます」



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第五十八話想い

「シナプスに近付くとお前が、燃え尽きる・・・?」

 

「はい・・・」

 

「どうして・・・どうしてそれを今言うんだよイカロス!」

 

気付いていなかった訳ではなかった。ニンフがイカロスに『分かっているでしょう』と言った時にニンフの言葉に疑問を思ったがまさか自爆装置の事だったとは

 

「申し訳・・・ございません」

 

「そうか・・・この状況になって話したのはもう後戻り出来ないようにするためか」

 

人間は脆弱な生き物だ。生きるためには酸素が必須だ。大気がなくなれば生きていけない

地上は既になくなっておりもう引き返すことが出来ない

 

「アストレアがカオスを止めてニンフがゼウスを破壊し今、マスターをシナプスに連れて行かなければもう誰も近づくことが出来ない。そしたらマスターの世界もみなさんも救えない」

 

「みんなを救うためにお前を見捨てろって言うのか!もうこの世界には俺とお前しかいない・・・それなのに、お前まで消えたら俺は一人だ・・・俺を、一人にしないでくれよイカロス・・・」

 

自然と涙が出てくる。自分の無力さ、イカロスの真意を見抜けずに死なせてしまうという事に

 

「マスター・・・私がマスターに拾われてから随分な時が流れました

兵器が嫌いと言われたり兵器で良かったと言われた事。日和さん、ニンフやアストレア、カオスがいるあの家が私は大好きで毎日が、一分一秒が幸せでした」

 

「やめろ!イカロス!」

 

イカロスが言葉を紡ぐためにイカロスの体に亀裂が走りイカロスの体は崩れていった

分かる

アニメや漫画で仲間が主人公に最後の思いを託すための場面だ。アニメとして見れば感動的なシーンだがシュウが居るこの場所は現実。そんな現実は受け入れたくない

 

「違う・・・」

 

「え・・・?」

 

「幸せなんて言葉じゃ足りない。なんて言葉を使えば・・・・」

 

その時、イカロスは前にもらった手紙に書かれていた言葉が思い浮かぶ

 

「愛しています・・・マスター」

 

そう言ってイカロスは初めて笑った顔を見せた

 

「ふざけるなよ・・・なんで最後の最後で笑うんだよイカロス・・・」

 

「愛してます。愛してますマスター」

 

イカロスの体は既にほとんどが壊れているがそれでもイカロスはシュウに同じ言葉をずっと繰り返していた

 

「いくなイカロス!なんだっていい。お願いでも命令でもいいから・・・いかないでくれ!イカロス!」

 

イカロスの体は全てが壊れるとシュウの手の中には可変ウィングの(コア)だけが残った

 

「イカロス!」

 

シュウの叫びが空に響き渡り日和、カオス、アストレア、ニンフにイカロス。みんなの思いを全て背負いシュウはシナプスへとたどり着いた



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第五十九話願い

今回はかなり長いです
今回で原作は最終回ですが次の話がこの小説の最終話になります(文章の長さによっては二話に分割します)


シナプスには神殿のような造りの建物が建っておりシュウはその神殿に入り奥へと進んでいくと神殿の奥の部屋にミーノスが座っている

 

「来た・・・か・・・」

 

かつてのイカロス達のマスターのミーノスと今のイカロス達のマスターのシュウ

二人のマスターが今、対峙する

 

「こうして会うのは初めてだな。ヒムラ=シュウ。よくぞここまで私を手こずらせてくれたものだ褒めてやる。だが・・・」

 

ミーノスの右手に粒子が収束されていくと槍が形成されると穂先にはエネルギーが収束されていく

 

「たかが地蟲(ダウナー)の分際でこの私の前に現れて何かできると思ったか!たかが地蟲(ダウナー)の分際でこのシナプスの王である私に敵うとでも思ったか!」

 

穂先にエネルギーの収束が完了するとミーノスの足元に亀裂が走る。そこまで膨大なエネルギーが穂先に収束されていることが分かる

 

「死ね!ヒムラ=シュウ!これで・・・終わりだ!」

 

渾身の力を込めてミーノスはシュウめがけて槍を投擲する

 

バキィィィン!

 

甲高い音響き渡るとシュウの前にミーノスが投擲した槍がカラン・・・カラン・・・と音を立てて落ちた

 

「馬鹿な・・・何が起きた!?」

 

自分の目の前にいるのはシナプス人より下等な地蟲(ダウナー)。自分たちのように羽がなく地を這うだけの存在のはず。しかし、その下等な存在のはずの地蟲(ダウナー)に自分の攻撃を防がれた事にミーノスは激しく動揺する

 

「たかが地蟲(ダウナー)にポセイドンの槍を弾く力など・・・」

 

その時ミーノスはシュウの手に握られているものに目がいった。それはシュウの手の中にすっぽりと収まっており光が周囲に広がっている

 

「それは・・・可変ウィングの(コア)!バカな!たかが地蟲(ダウナー)に可変ウィングの(コア)を使えるはずが・・・」

 

「可変ウィングの(コア)だと・・・。これは、そんなちゃちなもんじゃねぇよ。これは・・・あいつ等の、心だ!

てめぇが散々踏み潰してきたあいつ等の心だ。死ぬ寸前にしか笑えねぇ・・・そんなあいつ等の心だ!」

 

シュウの心に応えるかのように可変ウィングの(コア)はシュウの手の中で大きな力となっていく。まるでイカロス達がシュウに力を貸すかのように

 

「あいつらの痛みを思い知れ!この・・・くそ野郎がぁぁぁ!」

 

握りしめた拳で思いっきりミーノスの顔面を殴るとミーノスは後方に思いっきり吹き飛び殴った衝撃がシナプス全体に響き渡った

 

「がはっ・・・」

 

血を吐きながらミーノスは近くに転がっている槍を取り杖のようにして自分の身体を支えながら身体を起こす

 

「・・・」

 

「なぜ、止めを刺さん。今の私に止めを刺す事など造作もないはずだ。何故だ!?」

 

「・・・ここには何にもないな。こんな退屈な所にずっといたら性格の一つもひん曲がるよな。でも同情はするがお前を許す事は出来ない

だからさ、お前も一度地上に来てみろよ。シナプスの王としてではなくただのミーノスとして。そうすればきっと楽しい事もあるかもよ」

 

おそらくミーノスがこうなってしまったのはミーノスが空の王であるからだと思う

王としてシナプスを守っているのに臣下であるシナプス人はシナプスを捨てて夢を見ながら地上で暮らしている

ミーノスは空の王だからシナプスを捨てることが出来ずに皆が眠っていくのをただ見ている事だけしか出来ない。それが悔しかったのだろう

 

「知ったような口を・・・きくな!」

 

ミーノスは自分の心臓に自ら槍を突き立てて絶命した

 

「・・・王らしく死ぬか・・・その心意気だけは尊敬するよ」

 

神殿を出てシュウはシナプスにある石板(ルール)の前に行くとそこには誰もいなく眼鏡が落ちていた。シュウははそれが誰のものかすぐに分かった

 

「部長の眼鏡・・・やっぱりここにいたんですね部長」

 

「ここまで来ましたね緋村君」

 

フワフワと浮かぶ機械に乗ってダイダロスがシュウの元にやって来た

 

「久しぶりだなダイダロス・・・いや、見月そはらの本体」

 

「!」

 

シュウの言葉にダイダロスは驚き口が開いてしまった。その顔を見てシュウは確証を持ち話を続ける

 

「どうしてわかったって顔だな。最初に違和感に感じたのはお前と会った時だ

あの時、お前は智樹の事をトモ君と呼んでいた。まるで昔から知っていたかのような口ぶりだった

 

あの時は空から見ていたからと思っていたが少し前に智樹達と一緒に過去に行った時に昔の智樹が泣いていたのになぜ泣いているのか分からないと言った後に頭が痛くなった。まるで日和が死んだ時のように

 

そこで一つの仮説を立てた

見月そはらとはダイダロス、お前が地上での姿であり見月が死んだ事によりお前は目覚めた

だが、その後にお前は見月の複製を造り地上に送った。だから俺達は見月そはらを覚えている。エンジェロイドを造ったあんなだからこそ出来た芸当だ」

 

「凄い・・・そこまで分かっているなんて」

 

「まぁ、これぐらいはアニメなんか見ていれば予想はつく。ダイダロス、一つだけ聞かせてくれ。どうしてシナプスの人々は眠っているんだ?」

 

「そうですね。お話ししましょう。私達シナプス人は緋村君達より遥か昔から存在する文明」

 

「遥か昔の文明・・・なるほど。そう考えれば納得だな」

 

世界には今の科学では証明できない事が沢山ある

例えばエジプトのピラミットがいい例だ。あのピラミットの建造は今の数学や建築の知識を使っても建造できないと言われている

 

「私達は貴方達がいうビックバンより前に存在しています。そもそもそのビックバンを起こしたのもこの石板(ルール)によって引き起したものなの」

 

「何故シナプス人はそんな事を?」

 

「昔は私達もあなた達と一緒っだったの

獣から進化して火を覚え少しずつ発展させていった。あなた達と違うところといったら羽が生えている事と夢を見ない事ぐらい

永い年月をかけて少しずつ科学は進歩していった。まず、私達は不老不死の体を手に入れた。でも・・・それが間違いの始まりだった

 

次々に不自由がなくなったわ。叶わないものを探す方が難しくなるぐらいに。そして私は遂に石板(ルール)を完成させた。シナプスの人々は大いに喜んでくれたわ。でも、それは最初の内だけだった」

 

「・・・」

 

なんとなと予想は出来る。人間というのは目的を完遂するために行動し成功すれば次の望みを求める。だが、永遠という永い時を生きていればいつかは欲望自体がなくなっていき人は生きる意味を失う

 

石板(ルール)の完成で叶わない願いは無くなりシナプスの人々は生きる意味と希望を失いシナプスの人々は死を選び次々と自らの命を絶っていったわ」

 

「普通なら自然年を迎えるのに不老不死のせいで自ら命を絶たなければならないっていう事か」

 

「そう、人々は何度もこの石板(ルール)に願ったわ。新しい世界が欲しい。新しい世界にはきっと希望があるはずだと信じて・・・」でも、何度も世界を作り替えてもそんなものは存在しなかった。そして次第に人々は歪んでいったわ。なにかを作りそれを虐げるのに快楽を覚えてしまったの」

 

「はぁ!?」

 

いくらなんでも歪み過ぎだろう・・・でもそう考えるとミーノスの性格が歪んでいるのはそのせいもあるのかもしれないな

 

「人間という存在も私達が造ったの。翼もなくただ地を這うだけの人間を眺めてときにはエンジェロイドで人間を殺したりして楽しんでいた。でも・・・人間達は私達の持っていないものを全て持っていたわ」

 

「それがシナプスの人々が眠っている理由か」

 

「そう、最初は虐げるはずだった人間をいつしかシナプスの人々は羨ましく思い始めた

だって人間達は短い人生の毎日を一生懸命に生きて毎日が楽しそうだった

特に人間の見る夢というのは私達の探していた『不自由』そのものだった。

 

だからシナプスの人々は眠ったわ。眠って人間として夢を見る事でしか不自由を得られないから・・・

 

私は、みんなを幸せにしたくてエンジェロイドや石板(ルール)を造ったのに・・・それが逆にシナプスの人々を不幸にしてしまった。もうどうしたらいいか分からなくなって私は空の女王(ウラヌス・クイーン)の封印を解き地上に放った。きっと何かが変わると思って」

 

「そして俺がイカロスを拾ったってわけか」

 

「そう、ゴメンね。私達の都合に付き合わせちゃって・・・」

 

「気にするな。俺はお前に感謝しているんだぜ。お前のおかげでイカロス達に出会えてそして日和にも再会できた。全部お前の技術のおかげだ。少なくとも俺はお前に感謝しているぜ。ありがとうなダイダロス」

 

今までずっと自分の技術が人を不幸にしてしまっていたと思っていたのにそれなのに礼を言われたことにダイダロスの心は救われたように感じた

 

「ありがとう・・・そんな言葉を言われたのは何十年ぶりかしら・・・」

 

「さてと、じゃあサクッと世界を救うとしますか。ダイダロス、この石板を止める事は出来るのか?」

 

「それが・・・出来ないの。願いを止めるには新しい願いを上書きするしかないんだけど・・・守形先輩が書き込んだ願いで最後だったの」

 

「最後?」

 

石板(ルール)を見て。最後の行まで埋まっているでしょう。こうなったらもうこの石板(ルール)はもう使えない。手としては新しく作るしかない」

 

「そうなった場合どれぐらいかかる!?」

 

「緋村君が何億回とおじいちゃんになっても足りないぐらい」

 

「・・・そうだ!だったら俺に不老不死の薬を飲ませてそのときまで待てば・・・いや、無理か。そうしている間にここには新しい世界が誕生してしまう

俺の世界を復活させるためにいまある世界を壊すのは横暴だ

くそっ!何か・・・何か他に手はないのか!?」

 

「手なんて・・・」

 

その時ザザザザと音が聞こえると守形先輩が書き込んだ願いが消え始めた

 

「ウソ!誰かがプログラムを書き換えたですって!そんな芸当いったい誰が・・・!?」

 

ダイダロスが驚くがシュウにはこれが誰の仕業かすぐにわかった

 

「そうだよな・・・こんな芸当ができるのはあの人しかいない。ありがとう部長」

 

感謝の気持ちを部長に述べるとシュウはチャンスを逃さないようにダイダロスに質問する

 

「これで、願いが叶うんだろう。どうすればいい!?」

 

「そのまま石板(ルール)に手をつけて願えば何でも叶えてくれるわ」

 

「そうかい。じゃあ石板(ルール)よ。ちょっと俺の願いを叶えてくれよ。この世界を元通りに」

 

シュウの願いにより世界は元の姿を取り戻した。イカロス達も日和もみんなが生き返りカオスはシュウが生きていた事に喜び何度もシュウにごめんなさないと言いながらシュウの胸の中で泣いた

 

空見町には平和が戻り見月とダイダロスが同一人物がある事をみんなに打ち明けてダイダロスも地上で暮らす事になった

 

「世界は元通りになった。お前も少しは生き方を考え直せよミーノス」

 

きっとミーノスやハーピー達も蘇っているはずだ。失う悲しみを知った今のミーノスならきっと同じ過ちをしないだろうと信じてシュウはとりもどした日常をみんなと過ごすがシュウにはある大きな問題が残っていた事を忘れていた



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第六十話結婚

元通りの日常が戻りいつもの生活が戻ったある日の事だ

シュウはいつものように自室のパソコンで深夜番組をリアルタイムで視聴してきた時の事だ。画面には男女が向かい合っている

 

『愛している』

 

「え・・・?」

 

その言葉にシュウはピクッ!と反応した。その時にシュウの脳内にあの時の言葉を思い出した

 

『愛してますマスター』

 

その言葉が脳内で何度も再生されるとシュウの頭から煙が上がりそのまま気絶した

 

次の日

日和、イカロス、ニンフ、アストレア、カオスの五人はのんびりとリビングでくつろいでいる時だ

 

「ねぇ、アルファー」

 

「なんですかニンフ?」

 

「私達が居なくなってあんたとシュウが地球最後の二人みたいになったけど何かあったりしたの?」

 

「え・・・?」

 

その時、イカロスの脳内メモリーにあの日に起きた事を脳内で再生された

壊れていく自分の事を見ているマスターに自分は・・・

 

「!!!」

 

愛している。そういった事を思い出しイカロスは顔を赤くし頭から煙が噴き出す

 

「ちょっ!どうしたのよアルファー!?」

 

「わ、わた・・・私・・・」

 

「一度落ち着こうイカロスさん」

 

日和が急いでイカロスを落ち着かせなんとかオーバーヒートするのを防いだ

 

「すいません取り乱しました」

 

「イカロスお姉様だいじょうぶ?」

 

「一体どうしたんですかイカロス先輩」

 

「実は、シナプスにマスターを連れて行って私の体が壊れ始めて消滅する前に私、マスターに愛していますって・・・言ってしまったんです」

 

イカロスの告白に日和とニンフは衝撃を受けるがアストレアとカオスに至っては何の事か分からないのかキョトンとした顔をして頭の上に?マークを浮かべている

 

「それでシュウから返事は貰ったの!?」

 

「いえ、まだ・・・です」

 

「はぁっ!事件が終わってから何日経っていると思っているのよシュウの奴は!?」

 

「落ち着いてニンフさん。多分、色々あってシュウ君も憶えてないんじゃないかな?ほら、その後に世界を元通りにしたり色々あったし」

 

「でも、それじゃあ納得いかないわ!ここはシュウに白黒はっきりつけてもらいましょう!」

 

「ですがマスターに迷惑が・・・」

 

「う~ん・・・シュウ君が起きてこないのってもしかしてイカロスさん同様に思い出したからでしょうか。そうなると無理に聞き出すのは良くないですよ」

 

無理には聞き出せない。だけどこのままと言う訳にもいかない

悩んでいると縁側の窓が開き会長が現れた

 

「ここは~緋村君に白黒はっきりつけてもらいましょう~」

 

会長は新しいおもちゃをみつけたかのようないい笑顔をして不敵な笑みを浮かべた

 

一方イカロス達が会長の新しい遊びに巻き込まれている頃シュウは自室の机に突っ伏して真っ白に燃え尽きていた

 

「あぁ・・・どうしよう・・・」

 

一晩考えたが結局いい案が浮かばずにただ時間だけが無意味に過ぎていった

いや、答えは既に出ている。だがこれは自分のワガママであり到底イカロスが納得してくれるとは思えない

 

「これってもしかして世界が崩壊するより重大問題じゃね?」

 

自分に質問しても答えなんて出ない。だが一晩考えているせいで思考が若干おかしくなっているようだ

 

「あぁ~どうしよう・・・」

 

その時シュウの携帯が鳴った。表示画面には会長と表示されており嫌な予感がするがシュウはとりあえず電話に出た

 

「もしもし」

 

『緋村君~ちょっと窓の外を見てくれないかしら~?』

 

「窓の外?」

 

窓を開けて外を見るが特に変わった様子はない

 

「特に変わった様子はないですよ」

 

『もっと身体を前に出して~』

 

「もっと・・・」

 

窓から身を乗り出すとオレガノが飛んでいた。手には何故かロープを持っている

 

「・・・オレガノさん。そのローブは何ですか?」

 

「拘束のための道具です」

 

「ですよね~」

 

そこからは速かった。あっという間にオレガノはシュウをロープでぐるぐる巻きにすると家の前に停めてあった会長の車に押し込まれて拉致られた

 

車に乗せられ向かった先は空見町に唯一ある教会。教会の前で降ろされるとロープに拘束されたまま教会の中に入るとそこには神父の格好をした部長が立っていた

ご丁寧に口に髭をつけて神父っぽくしている

 

「何やってるんすか部長?」

 

「まぁ・・・色々とあってな。智樹達も来ているぞ」

 

「はぁっ!?」

 

見渡すと長椅子に智樹と見月、ダイダロスが座っておりこっちに向かって手を振っている

 

「一体何をするつもりなんだ?」

 

ここに来ても一向に状況が飲み込めずにいると会長が現れるとマイクを手に取る

 

「では、これより緋村シュウ君の結婚式を執り行いま~す」

 

「ホワッツ!!?」

 

突然の言葉にシュウは英語が出てしまった。待て、結構式って・・・まさか!会長はあの時の事を知っているのか!?

 

「それでは新婦の登場で~す」

 

登場したのは真っ白なウエディングドレスを着たイカロス、ニンフ、アストレア、カオス、オレガノ、日和が会長のSPに誘導され入場してきた

 

「ちょっ!会長!これどういう事ですか!?」

 

「イカロスちゃんから話は聞いたわ~告白されたのにそれに対する答えを出していないなんて男らしくないんじゃな~い緋村君」

 

「うっ!」

 

そこを突かれると痛い・・・

 

「ここではっきりとした方がいいんじゃないの~緋村君。今なら会長が婚約指輪を上げるわよ~。ちなみにお値段は・・・二つ合わせて一千万~」

 

「一千万!」

 

という事は一つ五百万。どれだけ高価な指輪を用意してくれているんですかこの人は!

しかし、このままでは色々とマズい。決断しなければ・・・

覚悟を決めたシュウはイカロス達に向かい合う

 

「イカロス、お前に言われた事は嬉しかった。だから俺もお前に俺の気持ちを伝える」

 

一度深呼吸をして覚悟を決めてイカロスを見る

 

「イカロス、俺は・・・みんなが好きなんだ!」

 

シュウの告白にその場に居た全員が驚き言葉を失った

ここで何か言われると話の流れを持っていかれると思いシュウは言葉を続ける

 

「イカロスに告白されて俺なりに一晩考えた。でも、答えは出なかったんだ。俺にとってイカロスも日和もニンフもアストレアもカオスもオレガノもみんな俺にとっては全員が大切な人でいつもの日常が大好きだ

だから俺は自分のためだけの事を考えて答えを出した

 

駄目だというのは分かっている。だけどたとえ誰かを一人なんて決めたれない。だからもしみんなが許してくれるならでいい。俺はみんなを選びたい」

 

これがシュウが選んだ答え。自分が後悔しないために他人の事を考えず自分の事だけを考えて出した答えだ

 

「ふ~ん。それが緋村君の答えなんだ。それでイカロスちゃん達はどうなの?

緋村君は多分どうなっても構わないという覚悟で話したんだろうけどイカロスちゃん達はこの答えに対してどう思う?」

 

「私は・・・私はマスターが私の気持ちに応えてくれた事が嬉しいです。例えマスターがどのような答えを出しても私はマスターの意志を受け入れます」

 

「私もアルファーと一緒。シュウらしい答えで私も納得」

 

「はい!私もです!」

 

「シュウ君が出した答えなら私は構いません」

 

「これも愛なの?」

 

「私はシュウ様と出会ったあの時からシュウ様の事を意識しておりました。感情のない私に話しかけてくれて私の美香子お嬢様の元にいるというワガママも聞いてくださった寛大な心をお持ちのシュウ様の考えであるのなら私は構いません」

 

「う~ん・・・という事はみんな納得という事でいいかしら。これだと指輪の意味もなくなっちゃったわね~」

 

「その指輪は会長の結婚の時にでも使ってください」

 

「あら、ありがとう。それじゃあ指輪の交換ならぬ刷り込み(インプリンティング)を行いま~す」

 

「何すかそれ!?」

 

「だって誓いのキスはマズいでしょう。カオスちゃんがいるんだし」

 

「た、確かに・・・」

 

流石にロリコンで逮捕されるのはごめんだ

 

「それにこれはイカロスちゃん達全員の意志なのよ」

 

「・・・はぁ~・・・分かったよ。お前らがそれでいいというなら俺はお前らの気持ちを尊重する」

 

最初にシュウはカオスの元に向かいカオスの前で膝をつきカオスと同じ目線の高さに合わせる

 

「カオス、俺のエンジェロイドになってくれるか?」

 

「うん!私はずっとおにぃちゃんと一緒だよ」

 

刷り込み(インプリンティング)開始。鎖がシュウの手に巻き付いた

 

カオスとの刷り込み(インプリンティング)を終えてシュウは次にオレガノの元に向かう

 

「お前とは付き合いは短いが本当にいいのか?」

 

「はい。これからシュウ様の事を知っていければ私はそれで」

 

「分かった。じゃあこれからよろしくなオレガノ」

 

刷り込み(インプリンティング)開始。鎖がシュウの手に巻き付き刷り込み(インプリンティング)が完了する

 

オレガノとの刷り込み(インプリンティング)を得て次にシュウはアストレアの元に

 

刷り込み(インプリンティング)していいのか?俺はお前に自由に生きて欲しいと言った。刷り込み(インプリンティング)するという事は俺がお前の自由を縛る事になるんだぞ」

 

「う~ん・・・やっぱり私はバカだから良く分かんないんだけど一つだけ分かった事があるんだ。それはシュウの元にいるのは楽しいんだ

 

シュウのいる場所、みんなと一緒にいるあの家にいるのが楽しくて居心地が良いんです。だからシュウのいる場所が私にとって自由な場所です。だからお願いします」

 

「分かった」

 

刷り込み(インプリンティング)開始。シュウの手に鎖が巻き付き刷り込み(インプリンティング)が完了すると次にニンフの元に向かう

 

「・・・」

 

「何よ。なんか言いなさいよシュウ」

 

「いや、お前とこんな日が来るなんて思っていなかったからな」

 

「まぁ・・・私もこうなるなんて思っていなかったわよ。でもじぶんで 考えて決めた事だからお願いシュウ」

 

「これじゃ昔やっていた賭けはお前の勝ちだなニンフ」

 

それはニンフの鎖を断ち切った時にニンフとかわした賭け。自由の意味を理解させるという賭けだ。しかしニンフは首を横に振る

 

「ううん。シュウの勝ちよ。私がシュウと刷り込み(インプリンティング)したいのは命令して欲しいからでもマスターになって欲しいからでもない。私とシュウとの繋がりを目に見える形で残したいから。だからこの賭けはシュウの勝ちよ」

 

刷り込み(インプリンティング)開始。ニンフから鎖が伸びシュウの手に巻き付く。シュウは少し戸惑うがニンフが自分の意志で決めた事ならシュウは何も言わない。そう考えてシュウはニンフの想いをしっかりと受け取った

 

次にシュウは日和の元に向かった

本当なら互いに人としてこれから先も生きていくと思っていたがあの日の事故がキッカケで日和の事が良く分かりそれから日和との距離が縮まったのも事実だ

 

「シュウ君。私は何も後悔はありません。人として生きていけなくなったけどエンジェロイドとしてもう一度シュウ君に会えて今、こうしてシュウ君の前に居られることはわたしにとては最高の幸せです

 

ですからあの日、言えなかった事を私の気持ちをシュウ君に伝えます

私は、シュウ君の事が好きです」

 

「俺も日和の事が好きだ。お前が居なくなって初めて分かった。日和はいつも俺の傍にいてくれていつも一緒に居てくれた。俺にはお前が必要だ。これからも俺の傍にいてくれないか日和」

 

「はい。喜んで」

 

刷り込み(インプリンティング)開始。日和から鎖がシュウの元に伸びシュウの手に巻き付いた

 

日和が終わりシュウは最後にイカロスの前に行く

 

「イカロス、前にお前が言っていた答えは出たか?」

 

「はい。マスターとの刷り込み(インプリンティング)を解いてもらって世界を見渡してやっぱり私にはマスターの存在は大きなものでした

兵器だった私を受け入れてくれて殺戮兵器である私を誰かを守るため力だと言ってくれてマスターは私の考えや世界を変えてくださいました

ですから私はマスターの事が好きです」

 

「そうか・・・こうしてお前と刷り込み(インプリンティング)するのは二度目だが最初に一回目は何が何だか分からずにお前と刷り込み(インプリンティング)しちまったが今回は全てを理解した上でお前に言うよイカロス

俺のエンジェロイドなってくれ」

 

「はい。マイマスター」

 

刷り込み(インプリンティング)開始。イカロスの鎖がシュウの手に巻き付きシュウは全員との刷り込み(インプリンティング)が完了しシュウは全員と刷り込み(インプリンティング)という名の結婚をしたのであった



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第六十一話頼み

平穏を取り戻したシュウはある日、ダイダロスを家に呼んだのだがなぜか智樹達も全員集合している

 

「俺はダイダロスを呼んだはずなのになんでみんないるんだ?」

 

「まぁ、気にするなシュウ」

 

「会長は~面白そうだから~」

 

「俺はそはらに連れられて」

 

「私はダイダロスが心配で」

 

「何もしないよ!何を心配しているの見月さんは!」

 

「あの、それで今日は私に何の用で?」

 

「あぁ、ちょっと聞きたい事と頼みがあってだ」

 

「私に出来る事であれば」

 

「じゃあまず聞きたい事なんだがアストレア達はニンフやイカロスみたいな爆弾はついているのか?」

 

「いいえ、α(アルファ)のような爆弾はついていないわ。Δ(デルタ)達には必要ないから」

 

「そっか。じゃあイカロスとニンフの爆弾を取って欲しいんだ」

 

「マスター、それは難しと思います。ニンフの首の爆弾はカードによって付けられたものですが私の場合は可変ウィングの(コア)に内蔵されているものです。取るのは難しいと思います」

 

「そうなのか?ダイダロス、爆弾を取るだけならどうすればいい?」

 

「そうなると可変ウィングの(コア)を取り除く必要はあるけど爆弾を残しながら爆弾としての機能を停止させることは可能よ。勿論、そうした場合は二度と爆弾は使えなくなるわ」

 

「それでいい。イカロス達のマスターになった以上は前みたいに勝手に自爆していなくなられたら困るからな」

 

「はい、マスター」

 

「もうしないわよ。それにシュウの命令じゃ仕方ないわね」

 

「分かったわ。二人の爆弾の解除は私が責任を持って取り除くわ」

 

「頼む。それとカオスの自己進化プログラムPandora(パンドラ)の発動を俺の承認がなければ出来ないようにしてくれ」

 

カオスはイカロス達と違い感情の高ぶりで発動してしまうためPandora(パンドラ)にブレーキを作っておく必要がある

 

「確かに暴走した時の事を考えるとその方がいいけどどうしてPandora(パンドラ)の取り外しでなく制御する方なの?」

 

「確かに、物騒な物は取っていた方がいいと思うぞシュウ」

 

ダイダロスの疑問に部長が同意してシュウに問いかける

 

「これはカオスに対する願いだ。イカロス達は自分達がこうなりたいと考えて自らPandora(パンドラ)にかけられた何重もの厳重なロックを突き破り発動させた

 

だからカオスもこれから色々な事を見たる聞いたり体験したりしてそして自分がこうなりたいと思って自分の力でPandora(パンドラ)を発動させてほしいんだ」

 

そう言ってシュウはカオスの頭を撫でるとカオスは嬉しそうな顔をする

多分、今シュウが言った事をカオスは理解できていないんだろうがいつかシュウの言葉を理解してくれたらそれでいい

 

「本当に緋村君は娘達の事をよく考えてくれますね。分かったわカオスの事も私が責任を持って何とかするから」

 

「悪いけど頼むなダイダロス」

 

「いえ、そういえば緋村君自身のお願いはないの?」

 

「ん?俺の願いか」

 

「うん。頼みって言っても自分のじゃなくて誰かのためのだし一つぐらい自分の願いを言ってもいいんじゃない?」

 

「う~ん・・・まぁ、願いが無いわけではないが・・・」

 

「遠慮せずに言っていいのよ」

 

「じゃあ・・・不老不死の薬ってある?」

 

その言葉に全員が呆気を取られて言葉が出なくなった。しかしダイダロスはシュウの真意が分かったのか口を開く

 

「それも・・・みんなのため?」

 

「確かにそれもある。みんなと一緒にいると言った以上は俺も長生きしたい

それに、もし、俺が死んだらカオスがまた世界を作り替えようとしないとも限らないからそうならないためにも不老不死になりたいっていう気持ちもある

 

でも一番は俺がみんなとずっと一緒に居たいと思ったからだ。俺はみんなと過ごすこののんびりとした時間が好きでいつまでもずっと一緒に居たいとも思う

 

そのために智樹や部長達と共に年を取る事も出来なければ死ぬ事もできない。でもそれでも俺は不老不死になりたいと思う」

 

「覚悟は出来ているという事ね」

 

「まぁな」

 

「・・・分かったわ。次、地上に来る時に持って来てあげるけど一度飲んだら二度と人には戻れないから覚悟してね」

 

「あぁ、楽しみに待っているよ」

 

ダイダロスはイカロス、ニンフ、カオスを連れて自分のラボへと向かっていった



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第六十二話不老不死

イカロス達の修理を頼んで数日が経過してようやくイカロス達が家に帰って来た

 

「ただ今帰りましたマスター」

 

「ただいま~」

 

「おにぃちゃん~」

 

帰って来るなりカオスはシュウに飛びつきシュウはしっかりとカオスの飛びつきを受け止める

 

「おかえりイカロス、ニンフ、カオス」

 

三人を出迎えてその後ろにはダイダロスがいる

 

「要望通りにしておいたからもう自爆の心配はないわ」

 

「ありがとうダイダロス」

 

「ううん。これぐらいしか私にはできないから。それと、はい、コレが不老不死の薬よ」

 

差し出されたのは一錠の薬でこの薬で不老不死になれると考えるとシナプスの技術は凄いなと感心する

 

「使用する前にいくつか説明するけどこれを飲むという事は・・・」

 

ダイダロスが説明を始める前にシュウはダイダロスの手から不老不死の薬を取って口の中に放り込んで飲み込んでしまった

 

「ふぅ~」

 

「ちょっ!なんで説明する前に飲んじゃうの!?」

 

「だって不老不死になりたいって言ったのは俺だしそれで何か副作用があるとしても俺の気持ちは変わらないから」

 

「はぁ~・・・まぁ、言っても無駄だとは思っていたけどまさか説明する暇もなく飲んでしまうとは・・・」

 

「これで俺も不老不死か~人生何が起きるか分からないな」

 

「そうね。これで貴方は不老不死だけど一つだけ勘違いしないでね。これはあくまでも死ぬ事がないってだけで不死身ではないのよ

シナプスの人達は自ら命を絶ったように毒薬を飲んだりリストカットしたりすれば死ぬから注意してね」

 

「それって不老不死って言うのか?」

 

「緋村君はアニメや漫画みたいに死んでも生き返るのが不老不死だと持っているけどあれは体が不死身という特性を持っているから死んでも再生できるの

 

緋村君もシナプスの人も元々は命に限りのある種族なんだからそんな事は出来ないわ。もしできたとしてもそれは体の構成を一から作り直す事になるのよ」

 

「なるほど」

 

「だからこれを持っていて」

 

手渡されたのは一枚のカードだ

 

「これは?」

 

「これはエンジェロイドと同じ性能を得られるカードよ」

 

「つまり?」

 

α(アルファ)達と同じ能力を得られるカードです」

 

「・・・まさか変身できる!?」

 

「変身・・・まぁ、変身と言えばそうかもね。使用するエンジェロイドのイメージカラーの戦闘服になれるわ」

 

「ねぇ、ちょっと変身してもいい?」

 

「えっ!今!?」

 

「当たり前だ!変身とは男の、いや漢のロマンだ」

 

「そ、そう・・・」

 

シュウの勢いに若干押され気味になりながらも頷く

 

「で、なんか掛け声とか必要?」

 

「特にはないけど」

 

「じゃあこっちで考えるか・・・よし!」

 

左手の人差し指と中指でカードを挟み天高く上げる

 

変身(フォームアップ)!モードα(アルファ)!」

 

光に包まれお約束の変身シーンとなり光が破裂し中から現れたのはイカロスのイメージカラーであるピンク色のコートを羽織り背中にイカロスと同じ羽が生えた

 

「おぉ!」

 

「お気に召しましたか?」

 

「あぁ、めっちゃ気に入った!これでアルテミスとかイージスとかつかるの!?」

 

「威力や性能は少し落ちるけど使えます。後、変身できるのはα(アルファ)、β《ベータ》、Δ(デルタ)とカオスの四種類です」

 

「よし、じゃあ全員分やるぜ!変身(フォームアップ)モードβ(ベータ)

 

コートの色が水色に変わり羽もニンフと一緒の透明な羽に変わった

 

変身(フォームアップ)モードΔ(デルタ)

 

コートの色は水色から青に変わり背中の羽もアストレアの超加速型の羽に変わり左手に剣を持ち右手に盾が形成された

 

変身(フォームアップ)モードε(イプシロン)

 

コートは青から黒に変わり羽は禍々しい刃の羽に変わった。全員の変身を見てシュウは変身を解き元の姿に戻った

 

「はぁ~もう満足」

 

「多分ないと思うけど何かあったら迷わず使ってね」

 

「あぁ、わかった」

 

※※※※※

 

一方その頃シナプスでは空の王であるミーノスは新たなエンジェロイドを完成させていた

 

「ついに完成した。新しいエンジェロイドだ!」

 

ミーノスの前には赤い髪をし大きな胸と下を隠すだけの際どい服を着ており尻尾が生えており羽はコウモリの様な形をしておりまるで淫魔(サキュバス)のようだ

 

「命令だ!地上に降りて小手調べにサクライ=トモキを抹殺しその後にヒムラ=シュウを殺せ!」

 

命令を受けたエンジェロイドは羽を羽ばたかせ地上へと降りて行った



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第六十三話エロとは

ミーノスの命令で地上へと降り立つとハーピーの二人がミーノスのもとにやってきた

 

「あのマスター」

 

「今回はどのようなエンジェロイドなんですか?」

 

「名前はリリス。戦闘能力は全くない」

 

「えぇ!」

 

「ないって・・・じゃあどうやって倒すんですか」

 

「簡単だ。人間には三大欲求がある。食欲、睡眠欲。そして性欲だ。その中でも人間は性欲にはブレーキが利かない

今回の第二世代エンジェロイドは人間の夢に侵入し人の性欲を具現化させそれを全て吸収すると人間は死に至り死んだ人間の精神を乗っ取る事が出来る。この能力でまずはサクライ=トモキを抹殺してその後にヒムラ=シュウを抹殺する」

 

※※※※※

 

リリスが地上に降りると地上波既に夜になっている

サクライ=トモキの家に到着すると家主は既に寝ていた。リリスは胸からカードを取り出すとテレポートを使い部屋の中に侵入するとサクライ=トモキの額に自分の額を当てるとサクライ=トモキの精神世界へとダイブしていった

 

景色が変わると目の前にはピンク色のエロい夢が広がっていた

 

「これがこいつの夢。マスターに聞いた通り本当にどうしょうもない奴のようね」

 

夢の主を探していると遠くで女の子と遊んでいるこの夢の主であるサクライ=トモキを見つけた

 

「ねぇ、君」

 

「誰だね君は?」

 

「私はリリス。ねぇ、私と楽しい事しない?」

 

腕で胸を挟み自分の胸を更に大きく見せて誘惑する

 

「わ~いお姉さん!」

 

智樹はすぐに色仕掛けにひっかかりリリスの元に行ってしまった

 

「なぁ、何をしてくれるんだ?」

 

「そ・れ・は・・・気持ちい事よ」

 

そう言ってリリスは智樹の額に指を当てると智樹の頭から泡のようなものが外に出てきた

 

「おぉ~なんかいい気持ち~・・・」

 

泡を取られるといい気持ちになるがこれがリリスの技だ。この泡は本人の心の中にある欲求だ。夢の中は自分に正直になれる。だからこそ何の抵抗もせずに言われるがままに行動してしまう

 

「ふふふ、さぁ、全て吸収してあげるわ」

 

取り出された泡をリリスは自分の身体に取り込むとリリスの力が上がりそれに比例して智樹の中から次々と泡が吸い出されていった

 

泡を吸い出されていくうちに智樹は自分の身体の変化に気付いた。なんだが力が入らなくなり体が寒くなって来たのだ

 

「どうやら死が近いようね」

 

「死・・・だと」

 

「そうよ。この泡はあなたの性的欲求。私はこの性的欲求を吸収吸うことによって力を高めそしてそれとお同時に貴方から精気を吸っている。貴方の性欲を全て吸収する時、それはあなたが死ぬときよ」

 

「やめろ!今すぐやめろ!」

 

「残念だけどここまで来たら全て吸い取ってあげるわ」

 

吸い取る力が強くなっていきとうとう智樹は立っていられることが出来ず倒れ意識が掠れ始めやがて眼を閉じてしまった

 

「サクライ=トモキ。抹殺完了」

 

リリスが勝利を確信する中、ともきはあの世へと続く道を歩いていた

しばらく歩くと川が流れておりその先の川岸には智樹の祖父が立っていた

 

「じいちゃん・・・俺もそっちに・・・」

 

川に足を一歩踏み入れたその時だ

 

「バカモン!!!」

 

祖父の一喝で足が止まった

 

「トモ坊。お前の女の子に対する欲求はその程度か」

 

「!」

 

「お前はこの先にも色々な女に出会う。それなのにこんな所で死んでよいのか」

 

「でも・・・じいちゃん。もう、俺には性欲がないんだ。女の子見ても、パンツを見ても興奮しないんだ」

 

「それが辛いのはよぉ分かっておる。じゃがなトモ坊。エロとは無限なんじゃ。エロに終わりはない。この世に女が存在する限りエロは存在する。興奮しないなら新たな興奮を見つければよい

 

儂にはもうそれが出来ん。じゃからお前の儂の全てを託そう。儂の分まで世界中の女を追求しエロを追求するのじゃ我が孫よ!

 

それが我らが桜井家の人間じゃ。エロに背を向けるな!そこに女がおる限り桜井の名を持つものとして命を懸けて前へと進むのじゃ!」

 

「じいちゃん・・・分かったよ!俺、こんな所じゃ終わらないよ。頑張るから見ていてよ!じいちゃん!」

 

智樹は決意を固め祖父に背を向けて走り出す

 

「それでいいんじゃトモ坊。達者でな。儂はいつまでもお前の事を見守っておる」

 

祖父の姿が煙になると智樹の体に憑依するかのように身体を包み込むと体から力が湧いてくる

祖父の気持ちを胸に秘め智樹は夢の世界に帰還する

 

※※※※※

 

「!」

 

何かに気付いたリリスは死んだはずの智樹の身体を見ると心音が聞こえ始めゆっくりと立ち上がった

 

「どうして・・・何故、立ち上がれる。私は全ての性的欲求を吸収したはずだぞ」

 

「我がエロに終わりはない。お前のおかげでそれが知れた。だから俺もお前に礼をしよう。我が全てのエロを喰らうがいい」

 

両手を前に出し胸の前で手を合わせると智樹の体から凄まじい量のエロパワーが放出され智樹の着ていた服はそのパワーに耐えられるずにはじけ飛び全裸になる

 

「これが俺の・・・いや、エロの真髄の辿り着いた者が至れる真の姿だ」

 

智樹の背中から十・・・百・・・千本もの手が出現しその一つ一つの手に先程の様に智樹の性欲の塊である泡がのっている

 

「喰らえ!煩悩千手観音!」

 

千本もの手がリリスに向かって放たれた

 

「私は第二世代型エンジョロイドリリス全部食い尽くすてくれる!」

 

真正面から全ての性欲を受けて体中ボロボロになりながらもリリスは立っていた

 

「私の・・・か・・・!」

 

その時リリスの目の前には腕を組みこちらを見ている智樹の姿があった

股間にある男の紋章には強大なエネルギーが収束されておりそのエネルギーはミーノスのゼウスやイカロスのアポロンの出力を遥かに上回る量のエネルギーだ

 

「止めだ・・・トモキ砲!」

 

股間からビームが放たれるとリリスを直撃しリリスは跡形もなく消えてしまった

 

「ありがとう。俺に新たなエロを教えてくれて」

 

感謝の気持ちを述べ現実の智樹は目を覚ました

 

「あれ?」

 

目が覚めると先程までの記憶はなくなぜか自分の布団の横にカードが落ちているのに気づいた

 

「これはシュウの持っているカード・・・?」

 

なぜこんな所にあるのかと思ったがそれよりも先にこのカードを使えば何でもできると考えた智樹は不敵な笑みを浮かべるのであった



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第六十四話ネット仲間

智樹がリリスとの戦闘を行っている時シュウは自室のパソコンでリアルタイムでアニメを視聴していた

ウィンドウを二つ開き左側ではアニメの中継を見て右ではシュウのネット仲間と一緒に放送しているアニメの感想が次々に投稿していっている

 

「バトルシーンが凄いな」

 

『でも技名がダサいwww』

 

『それは言わないお約束www』

 

「本音は?」

 

『技名ダサいwww』

 

などと話している内にアニメはエンディングを迎えて次回予告に入りそして放送が終了する

 

「戦闘シーンは過去編を入れて結構引っ張ったね」

 

『来週で決着!』

 

『つくの?』

 

『知らんwww』

 

などと話しているとシュウのパソコンにテレビ電話の着信が入った

 

「ゴメン。電話が来たから落ちるね」

 

『まさか彼女か!』

 

『抜け駆けで御座るか!』

 

『リア充爆発しろ!!!!!』

 

「彼女はいねぇよ。切るぞ」

 

嘘はついていない。彼女()いないが婚約を交わした人ならいるだけで嘘はついていない

 

『ではまた明日』

 

『いい夢見ろよ!』

 

『あばよ!』

 

「さいなら~」

 

ネット回線を切ってホーム画面に戻るとマイク付きのヘッドフォンを装着してプラグを伸ばしてパソコンに繋げて電話に出る

 

「もしもし」

 

『うぉぉぉ!シュウ殿!!!』

 

「うるさぁ!」

 

繋ぐと同時に物凄い大音量が耳に流れ込んできたので大きな声を上げてヘッドフォンを投げ飛ばしてしまった

すぐにヘッドフォンを取り上げてもう一度装着する

 

「もう少しボリュームを抑えろノブ殿」

 

『これは失敬。拙者としたことが取り乱してしまった』

 

電話の相手はノブというネット仲間の一人

 

「それで何の用だ?」

 

『実は・・・今週の日曜日のコミケを手伝って欲しいのです』

 

「いつメンはどうした?」

 

『その日だけ予定が合わず拙者一人なのです。ですから助けて欲しいのです』

 

「そう言われてもな・・・」

 

カオスが家に来てからシュウの傍を片時も離れようとしないあいつがいる以上それは難しい。最近になってようやくシュウが学校から帰って来るまでは我慢できるがここからコミケの会場までは普通に言ったら1日かかる

 

単純計算すれば行きに1日、コミケで1日、そして帰りで1日の計3日はかかる

これにカオスが我慢できるとは到底考えられない

 

『お願いします!一生のお願いです!』

 

「お前の一生のお願いを聞いたのはこれで5回目の気がするんだが・・・」

 

『違う!7回目だ!』

 

「はぁ・・・分かったよ。何とかしてみる」

 

『ありがとう!このご恩は一生忘れないで御座る!』

 

電話を切りシュウはどのようにしてコミケに向かうか考え始めた

 

※※※※※

 

電話から数時間が経過して朝を迎えるといつもの時間にカオスがシュウの部屋にやって来た

 

「おにぃちゃ~ん」

 

「おはようカオス」

 

「あ!おにぃちゃん起きてた」

 

「おう、起きていたぞ。行こうか」

 

「うん!」

 

カオスと共に居間に向かうとみんなすでに起きておりみんないつもの指定席についていた

 

「おはようございますシュウ君」

 

「おはよう日和。みんな、ちょっと話があるんだけど」

 

「なんでしょうかマスター?」

 

「実は週末にちょっと東京の方にまで行く事になってな。少なくても3日は家を空ける事になるんだが一緒に来るか?」

 

朝まで考えたがこれしか方法はない

 

「シュウ君、東京っていつものイベント?」

 

「実は友人からそのイベントの手伝いを頼まれたんだが人手は多い方がいいからな。お前達がもし暇なら手伝ってくれないか」

 

「私は構わないわよシュウ君」

 

「はい、マスター」

 

「仕方ないわね。手伝ってあげるわよ」

 

「はいは~い!私も頑張ります!」

 

「私は医療用ですが出来る限りの事は頑張ります」

 

「おにぃちゃんを助けるのも愛だよね?」

 

「よし、じゃあ週末はみんなで東京に行くぞ!」

 

「おぉ~!」

 

こうしてシュウ達の東京への旅行が決まった



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第六十五話東京へ

東京への旅行が決まりシュウ達は支度を整えて現在は新幹線の中だ

 

「わぁ~おにいちゃん。景色がとんでいく~!」

 

新幹線に初めて乗ったカオスはテンションが上がりまくりになっている

 

「はぁ~まさかここまで大変な事になるとは・・・」

 

カオスのテンションとは対照的にシュウと日和は疲れ切っていた

 

ここに来るまでに珍しいものが沢山ありそれに全部イカロス達がふらふら~とどこかに行ってしまうというちょっとした事件が起きた

 

イカロスの場合

 

「こけし・・・」

 

お土産売り場に売られていた珍しいこけしを見つけてその場から動こうとしなかった

 

「イカロス、買ってあげるから早く行かないと新幹線に遅れちゃうから」

 

「ありがとうございますマスター」

 

ニンフの場合

 

「見た事のないお菓子がいっぱい・・・すいませ~んこれ全部ください!」

 

「ニンフさん、もう時間だから一つ二つにしよう」

 

「えぇ~全部食べたい!」

 

「でも時間が・・・」

 

「日和様、ここは私にお任せください」

 

日和が困っているとオレガノが現れた

 

「えっと・・・任せてもいいのかな?」

 

オレガノはニンフを嫌っているので任せるのには一抹の不安がある

 

「大丈夫です。迅速かつ穏便に事態を収束させていただきます」

 

「じゃあ・・・お願いします」

 

「かしこまりました。おいコンブ」

 

「誰がコンブよ!」

 

振り返るとオレガノは右手の拳を握りしめニンフの懐に入り込んでいた

 

「ちょっ!・・・ゲフゥ!」

 

オレガノの右ストレートがニンフの腹部に炸裂しニンフは一撃で悶絶した

 

「オレガノさん!どこが穏便なの!?」

 

「私なりの穏便です。さぁ、行きましょう」

 

ニンフを縄でぐるぐる巻きに縛り上げて引きずりながら新幹線へと向かっていた

 

アストレアの場合

 

ジィ~~~!

 

「あの~お客様・・・」

 

「お腹空いた・・・」

 

ショーケースの前にへばりついて離れようとしない

 

「アストレアおねぇさま、置いてかれちゃうよ」

 

「・・・食べたい」

 

「む~・・・」

 

アストレアに無視をされてカオスは頬を膨らませると背中から刃の羽を展開しようとする

 

「ちょっ!ストップだカオス!」

 

寸でのところでシュウがカオスを制止してカオスを脇に抱えアストレアを引きずり発車ギリギリで新幹線へと乗車した

 

こんな事がありシュウと日和はまだ出発したばかりなのに疲れ切っておりイカロスはこけしに夢中でニンフは未だにダウンしている

 

「はぁ~まさかここまで予想通りになるとわな・・・貸し切りにしておいて良かった」

 

シュウはおそらく色々と問題が発生すると思いシュウは新幹線の一両分を丸々と貸し切った

 

「ねぇ、シュウ君。私達の羽ってどうするつもりなの?」

 

「それは考えてある。今、空見町全体にはイカロス達に羽が生えているのは普通だという思い込みを植え付けているのは知っているよな」

 

「うん。そのおかげで私達の羽について疑問視する人はいないんだよね」

 

「あぁ、シナプスの技術力が高いのは知っている。でも、最悪の事態を想定しないといけない

この場合の最悪の事態はイカロス達が人ではないという事がばれる事だ。コミケ内ではイカロス達はコスプレと言って誤魔化せるけどコミケ以外では空見町の数十倍の人間達にイカロス達の羽についての暗示を使わないといけない

 

もしその機能が許容量を超えて壊れたら騒ぎになる。だからなるべく騒ぎにならないように移動手段はこういった新幹線を貸し切ったりして人目につかないようにしないといけない」

 

「う~ん・・・理由は分かったんけどそれならニンフさんのP=ステルスシステムで見えないようにして東京まで行って人目の付かない所でステルスを解除ってやり方じゃダメなの?」

 

「・・・」

 

「シュウ君?」

 

「・・・」

 

「もしかして思いつかなかった?」

 

「人生に失敗はつきものだよ日和君」

 

「ふふ、シュウ君でもそういう事あるんだ」

 

「俺は完璧人間ではありません。まぁ、もう人間じゃないけど」

 

『次は東京。お忘れ物にお気を付けください』

 

「ようやく到着か」

 

「はっ!ここは何処!?」

 

丁度いいタイミングでニンフも起きた

 

「みんな下車の準備をしろ」

 

下車の準備を終えて新幹線を降りるとそこは空見町とは違う沢山の人々が住む大都会の東京だった



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