二人で一人 (シャリル)
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プロローグ

これはちょっとぐろいです。


 

ああ……本当にウザイ…

 

 

ふふっ……やるの?

 

 

……今日、の夜にね

 

 

あらあら…それまでの間お預け?

 

 

……我慢して。…夜になったら気が済むまでやっていいから

 

 

くすっ……わかったわ…

 

 

人混みに紛れ込みながら、少女は笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だぁ!くそっ!今回も失敗か~」

 

ソファーでだらしなく座る、黒い猫っ毛気質の髪を片手で掻きながら、数枚の紙を見る青年。

 

「また、逃がしたみたいだね。ほら、苛ついてないで、紅茶なんかどう?」

 

白銀の女性と言っても過言ではない、青年より少し年下の少年。

 

彼らは、一般人とは少し違った仕事をしていた。

 

「確か、ここ最近活発になってるんだったな。」

 

少し長く赤い髪をした中年の男性は、ゆっくりと紅茶を飲みながら、しかめっ面になった。

 

「しかも今回のも酷い……夢で四肢を斬られるわ、腸を引き千切るわ……言うだけでも惨いな……」

 

「それをさらっと言う支部長もどうかと思うけど?」

 

苦笑いをしながら、少年は青年に紅茶を渡した。

 

 

20XX年、突如として狂人と化した人々が急増した。

 

原因は人の心にある闇が具現化、もう一つの人格として、人々を狂わせていたのだ。

 

それを防ぐため、政府は精神保安管理局を設置、この混乱を制した。

 

しかしこの管理局の存在は、一般市民には公表されてはいない。

 

市民に不安を募らせては、元も子もないので、非公式なのだ。

 

そして、ここは精神保安管理局の東京支部の拠点。事務所として使っている。

 

ここでは、二人の若いエージェントに支部長が一人の三人で活動していた。

 

「……前までは、分かりやすい思考で追跡も楽だったのになぁ…」

 

青年もとい、安藤司は紅茶を飲みながら、ため息をつく。

 

「確か、その闇人デュダの裏って、幼児さんらしき姿で、誰かも分からないんだよね?」

 

「あぁ。」

 

白銀の少年、篠田佑はいつも座る椅子に腰掛けながら、紅茶を飲んだ。

 

闇人デュダ

 

それは心の闇を人格として受け入れた二重人格者の呼び名。

 

裏というのは、その者の心の闇の人格のことを指している。

 

通常は、その闇に全てを任し、本能のままに狂うのだが。

 

「今回は本能、ていうより“従ってる”って感じでしかも、多分本人とは違う姿か……」

 

その人の闇であるのだから、その人格もその人を模すのだが、今司が追っている闇人デュダは、多分だけれども、姿は違うし、裏もいつもの奴らとは違った。

 

「はぁ……わかんね。……はぁ…被害者の関連系調べて来る…」

 

頭を掻き毟りながら、司は事務所を後にした。

 

 



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一話:いつもの日常

連続であと七話ぐらい出します。


 

 

…識、朝よ?起きたらどう?

 

 

私のもう一人の“声”により、朝だと知った私は、ゆっくり目を開ける。

 

「ふあ…もう朝か…」

 

 

お寝坊さんだこと。今日から高校生になるのにさ?

 

 

黒い真っ直ぐな髪をポリポリと掻いて、布団から出て、洗面所に向かう。

 

 

あんたみたいなのに言われたくないね

 

 

ふふっ……言ってくれるわね?

 

 

誰にも分からないように小さく口を上げ、すぐに戻す。

 

 

今日は凄く調子が良い。昨日はだいぶ遊んだみたいだね。

 

 

洗面所で濡れた顔をタオルで拭きながら、体の感覚を研ぎ澄ます。

 

 

あら?……よく分かったわね?さすがは識。

 

 

「ふぁ……あ、おはようございます。大家さん。」

 

わざとでもあるが、不自然に感じさせずにアクビをし、挨拶。

 

「おはよう。識ちゃん。今日から高校生だね~。」

 

「あ…、はい。そうですね。」

 

にっこりと営業スマイルをし、髪を整える。

私の髪は肩まで伸びていて、毛先がいつもどこかに向かっているのもあり、数分の時間を費やした。

 

 

やっぱり不便ね~。その髪、バッサリ切っちゃたら?

 

 

このぐらいでいい。と言うより、これ以上切ると毎晩遊ぶ事になるよ?

 

 

あら。それはそれで嫌だわ。

 

 

もう一人の“私”と端から見れば他愛もない話をする。

これはこれで私にとって、心が安らぐ一時の幸福。

けれど彼女は現実には現れない。

彼女は私。

私のもう一つの人格。

私の闇が具現化した存在。

私の願いを叶える者。

私が唯一心を開く、たった一人の親友でもある。

名前はティリア。

小3ぐらいの背丈で、服は着物のような少し違う服。

その背中には、彼女の倍はある鎌。

しかし、その性格は姿と裏腹に残忍。

そして、殺戮以外、何も考えていない。

一度、彼女に言われ、夢での殺しやら準備を全て任せ、放っておいた事もあるのだが、計画が杜撰で邪魔も入り、ほとんど楽しめなかった。

無論、目標ターゲットは私にとって気にくわない人だったので、逆にストレスが溜まった。

その後、邪魔をした人物の事をティリアに聞くと、彼らは精神保安管理局という者達だと知った。

彼らは、夢で殺戮活動をする私達を見つけ、捕らえ、ティリア達を消す存在だとも知った。

つまり、敵。

彼らに正体を掴まれないよう、行動を制限したり、殺す相手をあまり関係のない人にしていた。

 

 

……今まではうまく行った。けど、これからはまた学校に行かなきゃならない。……奴らにバレなきゃいいけど…

 

 

大丈夫よ。識。奴らは私達を消せるけど、それでも同じ人。夢で殺せば、精神が消されるんだから、死んだも同然よ。

 

 

……そうだね。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、行ってきます。大家さん。」

 

「いってらっしゃい。気をつけてね。識ちゃん。」

 

「はい。」

 

ご飯も食べ終わり、テレビを見ながら着替えを済ました私は、憂鬱な気分で学校へ向かった。

 

 



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二話:出逢い

 

 

 

やっぱり、学校は嫌いだ。

 

 

「よう!麻田~。お前もこの学校だったんだな。っぷ。だっせぇ。」

 

私の身長の約倍のうざい男子は、笑いながら罵詈雑言を放つ。

 

 

こいつマジでウザイ。殺したい!八つ裂きにしたい!……っと、落ち着かないと……

 

 

うざい男子に対する憎悪を奥底に押し込み、平常心を保たせた私は、耳に響く音を聞き流しながら、今朝のニュースを思い出した。

 

 

やはり、昨日のティリアの所業は、ニュースに流れていなかった。

実は、ティリアに会って間もない頃、ティリアの存在が信じられず、インターネットや新聞等を見ていたのだが、何処にも載っておらず、ティリアを信じるのに時間が掛かった。

ティリアが言うには、精神保安管理局が情報を操作し、ティリア達の存在を公にしていないだとか。

確かにそうしなければ、国中がパニックに陥るし、何よりも、私達を捕まえることがいっそう不可能になる。

 

 

……あっちもあっちで考えてるからな…あんまし調子に乗ると、絶対に捕まるな…

 

 

「おい!麻田ぁ!聞いてんのかこらぁ!」

 

彼方の方向を向いていたせいで、聞いていないのがバレバレだった。

うざい男子はそれにイラついた様で、何時ものように右腕を振り上げて、殴り掛かる。

私は、来るであろう痛みを覚悟しながら強く目を瞑った。

 

しかし、何時になっても痛みが来ず、不思議に思い、目を開けた。

 

「いてぇ!痛いって言ってるだろうが!放せ!」

 

黒い猫っ毛の髪に、面倒臭そうな顔の男子が、その男子でも倍はあるうざい男子を軽々にあしらっていた。

 

「君、この子に暴力振るおうとしたよね?駄目だと思うんだけど。ねえ?」

 

よく、ドラマの刑事等が犯人を捕まえた時にするので拘束、そして少しづつ強くしてる。

 

「いてぇ!わ、わかった!わかったから!放してくれぇ!」

 

さっきまで踏ん反り返った態度とは間逆で哀れな姿になったうざい男子。

内心でザマァなどと思いつつ、その光景を見る。

 

そこで満足したのか、男子は拘束していた腕を離した。

 

「お、覚えてろよ!」

 

うざい男子は負け犬の遠吠えを叫びながら、逃げて行った。

 

「はぁ……全く。何で女の子に暴力なんて振るうのかなぁ……君、大丈夫かい?」

 

ため息をつきながら、男子はこちらを向いた。

 

「あ…、はい。大丈夫です。助けてくれてありがとうございました。」

 

「え、いや、いいよ。お礼は。それより、いっつもやって来るのかい?あの男。」

 

心配そうに私を見ながら、彼は困ったような顔をした。

 

 

……?何も言っていないのに何故そんな顔を?

 

 

「はい……。まあ、小学校も中学校も同じだったので………あれ?その制服…」

 

男子の服を見ると、黒いブレザーに赤と白の縞模様が入ったネクタイ。左胸には高校の校章がはいっている。

そして、私もその服を着ている。

 

「ん?ああ。俺もこの近くの高校に入学するんだ。……えっと。よかったら、途中まで一緒に行かない?」

 

「え……?あ、はい。」

 

突然の申し出に驚き、思わず返事をしてしまった。

 

 

あ~あ。識、何やってんのよ…。そんな男、無視してさっさと行くわよ。

 

待って。ティリア。……間違えて返事はしたけど、この男子、すっごく気になる……。少しだけ話さして。

 

 

ティリアに待てを言い渡しつつ、つい先程のこの男子の表情について考えていた。

 

「ほ…良かった。実は、ここの地域に引っ越して来たのが昨日でね……」

 

「つまり、私に会うまで路頭に迷っていたと。」

 

「うっ……。ストレートに言うね。まぁ、実際そうなんだけど……」

 

苦笑いをしつつ、男子は頭を掻いた。

私は、なんと言うか、今までとは少し違う何かを感じながら歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、君、なんて名前?俺は安藤司。」

 

しばらくの間、何を話せば良いのかわからず、ただ無言で歩いていたのだけども、男子もとい、司がその沈黙を破った。

 

「……麻田識です。」

 

「あさだ?えっと……どんな漢字?」

 

「そうですね……簡単に言うなら、大麻の麻に田んぼの田です。」

 

「た、大麻の麻って……もう少し、何か身近な物で言おうよ……胡麻の麻とか……。」

 

「小学生は知りませんが、中学生位から知る言葉で、一番分かりやすいと思うのはこれだと思いますが。」

 

「まぁ、そうかも知れないけどさぁ……。駄目な気もするけど。」

 

そんな感じで他愛もない話をしていると、いつの間にか学校に着いていた。

私はティリアがさっさとしろと煩いので、司と校門の前で別れ、クラスを調べ、指定された教室に。

そして、黒板を見て、座席を確かめると、私は休憩がてらに椅子に座る。

 

 

……ふう。疲れた。こんなに喋ったの、ティリア以外で初めてだな……。

 

 

私は小さい頃から人と話すのが苦手で、ティリア以外ほとんど話していなかった。

それに、いつもの男子とは違って相手を気遣い、私のような人にまで笑顔で接してくれて、話し易かった。

 

 

……同じクラスじゃなかったのは残念だけど、同じ学校だし、いつかは会えるよね?

 

 

そんな淡い希望を持ちながら、私は鞄を机から下ろした。

 

 

……識。ちょっといい?あの男とは、関わらない方が良いわよ。

 

 

何であなたに表の事で指図されなきゃいけないのよ。

 

 

識。よく聞いて。あれは前に私の邪魔をした奴よ。つまり、精神保安管理局よ。

 

 

「え……。」

 

ティリアの言葉に一瞬追い付けず、声を出してしまった。

しかし、私はそれに気づかず、ただ呆然としていた。

 

 



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三話:高校という名の新たな地

 

 

………識。いつまでも膨れてないで、今日の目標ターゲットでも見つけたら?

 

 

ティリアに彼の存在が敵であることを知らされた私は、苛立ちと憂鬱に見舞われていた。

 

 

……今日は、しない。

 

 

はぁ?ちょっ、識?まさかとは思うけど……

 

 

学校に敵がいると分かり、尚且つ接触した。あまり下手に動けばバレる。それに多分だけど、私は標的にされてる。

 

 

……え?ちょっ……えぇ!?

 

 

ティリアは状況を把握出来ずに、驚愕の声を出した。

けれど、私はそれを無視し、つい先程入って来た先生の話を聞く。

しかし、その説明も分かりきったことばかりで聞くのも面倒臭くなり、これからの事を考えた。

まずは、敵である安藤司の事。

今回は違うクラスで良かったが、あの困ったような表情、今だからこそ分かったが、絶対に疑ってたに違いない。

しかもこの学年は例年より少なくて、3クラスしかない。

そして、同じ階。

会う確率も高い。

 

 

……さて、どうやって遊ぼうかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学式が終わり、教室に戻ると、先生が色々な紙を配布してきた。

それらの紙を、ファイルに挟み、鞄にしまう。

帰って良しと先生に言われ、一息ついた私は、面倒臭いけど、家に帰る事にした。

 

 

そう言えば、ティリア。

 

 

何?

 

 

なんであの男が邪魔した奴だってわかった?

 

 

無論一人で帰るので、ティリアに質問しながらだけども。

 

 

あぁ。識は他の子とは会ったことなかったわね。ちょうど良いから教えるわ。まず、私達のような人格を持った人を闇人デュダと言って、私達が裏と呼ばれてるのは前に言ったわよね?

 

 

うん。それは覚えてる。けど、ティリアは私と姿が違う。それなら…

 

 

残念だけど、他の子達の裏はその闇人デュダの姿そのもの。違うのは私だけよ。

 

 

……なるほどね。つまりは本人の顔を知ってるってことね。……?けど、彼らは闇人デュダじゃないのに、なんで、夢に……?

 

 

ふふ……それはまた今度教えるわ。

 

 

勿体振って、教えないティリアに苛立ちを覚えながら、私は少し頭の整理をした。

 

闇人デュダの裏は本来は闇人デュダの闇。

それが故に現実には現れず、夢で現れる。

そして彼らは、私達闇人デュダが気にくわない者の精神へ入って行き、彼らを壊す。

しかし、私達闇人デュダは裏がする事を見る事は出来ない。

つまり、私達闇人デュダは、相手が殺されるのを見ていない。

けれど、彼は闇人デュダではないから裏もない。

どうやって、精神で行動し、他の人の精神に入れたのか。

考えてもわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、ティリアが教えなかった事は分からず仕舞いのまま家に着いた私は、部屋に直行し、ベッドにダイブした。

 

「……疲れた。」

 

 

お疲れ様。

 

 

クスッと笑いながら、挨拶するティリアにムスっとし、仰向けになってため息をついた。

 

 

……さて。今回は流石にティリアが言ってた他の子には会えるかな?

 

 

実は、私は小学四年位から闇人デュダになっているが、未だに他の闇人デュダに会った事がない。

 

 

何言ってんのよ。会えるにしても、確率は低いわよ?

 

 

今回私が入学した高校はこの地域で底辺の高校。

てことは、私とは違うけど、具現化するくらいの闇を持った人はいるはず。

それにここは不登校の子も通ってるしね。

そして、敵がわざわざこの地域に引っ越している。

多分、少なからずいるはず。

 

 

……な、なるほど。それは知らなかったわ。

 

 

焦りのような、驚きのようなよく分からないティリアの声を聞きながら、私はこれからの事が楽しみになってきた。

 




同じようなことを言ってる気が…


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四話:始まりのLHR

 

 

「皆さん。おはようございます。これから一年間、このクラスの担任をさせて頂く、佐川です。よろしく。」

 

高校生活が始まり、一番最初の授業が始まった。

と言っても一番最初なので、LHRで自己紹介だった。

先生は昨日いた先生ではなく、不精髭を生やした男性だ。

どうやら昨日は体調が優れず休んでいたらしい。

 

「じゃあ、みんなに自己紹介してもらいます。自分の名前と趣味や好きな物でも良いので、何か一言言ってください。じゃあ、出席番号順で……麻田さん。起立して、みんなの方を向いてください。」

 

うげっと思いつつ、椅子から立ち上がった私は、クラスの方を向いた。

このクラスは、他の組より一番人数が少ないが、それでも二十八人もいるので、教室全体が生徒で埋もれているように見える。

面倒臭いので、軽く自己紹介をした。

 

「麻田識です。趣味はシミュレーションと読書です。よろしくお願いします。」

 

ペコッとお辞儀をし、椅子に座ると拍手が興った。

 

「ん。一番最初なのによく出来てた。それより趣味にシミュレーションってなぁ……まぁ、いいか。次は…」

 

何か悪かったのだろうか。

私は首を傾げ、疑問に思った。

しかし、他の生徒の趣味等を聞いて分かった。

皆して、ゲームやら読書、スキーと言っている。

シミュレーションを趣味にしている人が誰一人としていなかった。

 

 

あ~あ。これは目立ったわね。

 

 

面倒臭っ……

 

 

「じゃあ、次は佐々木。」

 

イライラとしているといつの間にか、番号が12番になっていた。

 

12番の子は女の子で黒髪のショートだ。しかし。

 

「?佐々木さん?」

 

呼ばれているのに返事がない。

と思っているとゆっくり面倒臭そうな顔で椅子から立ち上がった。

 

「………佐々木真愛マナ。趣味も好きな物もありません。誰とも話したくないので、来ないで下さい。」

 

そう言って、静かに椅子に座った。

 

 

……流石に底辺の高校…。引きこもりさんいたね。

 

 

そうね。ふふ…

 

 

何笑ってんのよ。キモい。

 

 

ティリアの意味深な笑いに生理的悪寒がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

LHRも終わり、休み時間に入った。

教室はやはり騒がしいが、今回は悲鳴を上げた。

 

「識さん。さっき、趣味でシミュレーションって言ってたけど、何するの?」

 

「まさか……彼氏を作るためのだったり!?」

 

「え!?それは教えて欲しいなぁ。」

 

「たはは……違うよ。ゲーセンで使うの。あのUFOキャッチャーにね。」

 

自己紹介でヘマをし、ある意味注目の的になってしまった私は、この事を予測して、答える事を予め考えていた。

実際、このシミュレーションは日常での厄介事やティリアの殺しの計画で行っているので、本当の事は絶対に言えない。

 

「えっと……あ!いたいた!」

 

ふと、聞き覚えのある声が右耳から聞こえた。

司だ。

まさか私の所に!?と思い、目を反らすと司は、私の目の前を通りすぎた。

 

 

え……?私じゃない?

 

 

ヒョイっと司が行ったと思われる場所に目をやると、窓側で固まっていた男子の所にいた。

 

 

……は、恥ずかしい……

 

 

そう思いながらも、私は何時までも質問してくる女子と喋った。

しかし、男子というのは本当に煩い。

端から端なのにほぼはっきり聞こえる。

 

「あれ!?司!?え、お前なんでこの学校に来てんだよ。」

 

「あぁ。親父がまた転勤してさ。そしたらここの地域だったからさ。」

 

「へぇ~。けど、よく無事にたどり着けたな。お前、極度の方向音痴なのにさ。」

 

 

……なるほど。だからか。

 

 

「あぁ。本当にヤバかったよ。登校初日から遅刻だなんて、先生に目つけられるって。けど、偶然にさ、ここの制服来た子に会ってさ。確か…名前は麻田だったかな?」

 

 

!ちょっ!?何人の名前言ってんの!?

 

 

「え?麻田?その人なら……ほら、あそこにいるよ」

 

男子は司にわかるように、私の方を指差した。

 

 

何指差しとるんじゃぁぁあああ!

 

 

「え?あ、本当だ。ってやべ!俺もうそろ行かねえと。じゃあな。」

 

男子に手を振り、まっすぐこちらに向かい、ドアを開けたとき、小声で。

 

「朝はありがとう。」

 

と言って、教室を出て行った。

 

 



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五話:とりあえず現状維持

 

一時間目のLHRが終わり、二時間目三時間目と遅いような速いような感じで終わり、ようやく六時間目も終わった。

軽く一息つき、帰りの準備をしていると、先生が入って来た。

 

「よし。お前ら。帰りのHR始めるから席に座れ。」

 

元から座っていた私はもうすぐで終わる準備をしながら、先生の話を聞くことにした。

 

「今日は、高校に入って初めての授業だったが、まぁ、ほぼ自己紹介だったと思う。明日からは授業に入る科目が出て来ると思う。教科書など、忘れずにな。……今日の掃除はいいか……じゃあ、起立!きょうつけ。……さようなら。気をつけて帰れよ。」

 

先生はそう言って、そそくさに帰って行った。

 

 

……帰るか。

 

 

久しぶりの学校で、久しぶりの授業で、久しぶりに同い年とたくさん喋り、疲れきった私はほぼ放心状態で教室を出た。

 

 

……だ、大丈夫なの?識。

 

 

うん。大丈夫じゃない。

 

 

やはり、私の闇でもあるからだろう。

疲れすぎたのを感じて、ティリアが心配してくれた。

 

 

こんなんで学校生活大丈夫なのかな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷは~………疲れた…」

 

 

お疲れ様。てか本当にすごいわよ。精神疲労。今日は止めとく?

 

 

ん~……本当はそうしたいんだけど…今後の事話さないと。

 

 

今後の事って?

 

 

ティリアはそんなのいつも通りでいいじゃないと言ってくるが、そうもいかない。

実は今まで、彼らに邪魔されないよう、時間をバラバラに設定。

絶対に時間を被らせないようにしていたのだ。

しかし、それは春休み中の事。

今は高校生。

しかも、中学の時より授業も長い。

そして中学と違って皆して話し掛けて来る。

はっきり言って身がもたない。

 

 

……なんで皆話し掛けるんだか……お陰で家に帰るのしんどいんだけど。

 

 

確かにそうね。

 

 

「……はぁ~…疲れた。休み時間か授業中でいいから寝させて欲し…い。」

 

 

?識、どうしたの?

 

 

ティリア。確かあんたは私が寝てる時だけ他の精神に入ってんのよね。

 

 

ええ。そうよ。………あぁ、なるほど。それなら、短くて……三分?いや五分かしら。

 

 

殺すんじゃなくて悪夢を見せるだけなら?

 

 

三分ね。

 

 

了解。じゃあ、これからは面倒臭い事はしないで、じっくりと精神を追い詰めるのでいい?

 

 

良いわよ。じゃあ、今日は早く寝なさいよ。

 

 

はーい。

さて、明日が楽しみだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、疲れていたせいもあり、ぐっすり眠れてしまった私は、機嫌よく道を歩いていた。

その前を見たことのある男子がふらふらと歩いていた。

 

「司。おはよう。」

 

「……え?麻田さん……?おはよう。なんか元気だね。」

 

私とは間逆に疲れきった司は、羨ましそうにこちらを見た。

 

「うん。昨日、クラスの子ととかと話してね。疲れてね。久しぶりにぐっすり寝れたんだ。そんな司は寝てないの?目の下の熊凄いよ。」

 

「あぁ。……ちょっとね。」

 

司は遠くの方を見ながら答えた。

 

 

……昨日は何もしてないのになんでこんなにやつれてるんだろう…

 

 

そんな事を思いつつ、司を横目で見ながら、昨日の実行の為の言葉をいつ言おうか迷っていた。

昨日、休み時間中に実行しようという話になっていたものの、敵がどの位の情報を持っているかわかったものではない。

つまりは、気づかれない為の布石をしておくのだ。しかし。

 

「あのさ「えっと…」」

 

喋ろうとした瞬間、見事に被った。

 

「……先、良いよ。言っても。」

 

しかし、司は紳士だ。譲ってくれた。

 

「あ、ありがとう。ええっと、この前さ、初めて会った時、最初無言だったの覚えてる?」

 

首を傾げながら、司を見ると、うんと頷いた。

 

「実は私、中学から苛められててね、人と話す事が殆どなかったの。しかも、あの男子に暴力を振られながらね……」

 

少し悲しげに話しながら、私は下を向き、雰囲気を出す。

 

「けど、ここに来て、またあいつに会って、またかって思ったら、司が来てくれて、しかも皆話し掛けてくれる。とても嬉しいんだ。けど、ちょっと問題があってね。皆して一斉に話し掛けて来るもんだし、その……君らの声も大きいせいで、だいぶ参っちゃうんだ。だから…その…もう少し静かにして欲しいんだけど……その、ごめん。本当は騒がしくてもいいんだけど、なにせ久しぶりだから…」

 

「わかった。じゃあ、休み時間は廊下にいるよ。」

 

嬉しげに返事をし、了解をする司。

そしてこれにもう一言。

 

「あと、私が皆と慣れた後での話なんだけど、……司とも話したいなって……この前も一緒にいた時、なんと言うか、こう、ほっこりする感じがするんだ。……いい?」

 

その一言を言うと司は満悦の笑みを見せた。

どうやら、作戦は成功したもようだ。

 

「うん。いいよ。麻田さんも頑張ってね!」

 

元気良く言って、教室の前で別れた。

 

 

チョロイね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~司視点~

 

今日は嬉しい事があった。

あの無言で闇人デュダの可能性があった麻田さんが話し掛け、しかも、皆と仲良くなると言ったのだ。

もうこれ以上に嬉しい事はない。

本来、闇人デュダは人を憎む事が多く、人とも接する事を嫌う。

だけど、彼女は違う。

朝なんかは僕に話し掛け、休み時間は女子達と苦戦しながらも喋っていた。

つまり、彼女は闇人デュダである可能性が低い!

この事で嬉しすぎて、今日の授業は一つも覚えていない。

けれど、本当に嬉しいのだ。

 

「ただいま戻りました。支部長。」

 

「ん。お帰り。今日の収穫はどうだった?顔を見ると良いことがあったようだが。」

 

赤い燃えたような髪の男性、寺田偲はここ精神保安管理局東京支部の支部長だ。

 

「はい。まずは、今回俺が入った高校ですが、闇人デュダである可能性の人は一人に減りました。」

 

「?減ったのか?何故だ。」

 

俺の言葉に何か引っ掛かったのか、眉をピクリと動かす支部長。

 

「はい。その子はこの前言ってた子で、麻田さんと言う人なんですが、皆と仲良くするって!しかも上機嫌で僕に話し掛けて!」

 

「ふむ……そうか。」

 

支部長はゆっくり頷き、難しそうな顔をした。が、すぐに緩め、報告の続きを聞いた。

 

「それと、麻田さんと同じクラスにいる女子で、佐々木真愛さんと言う人は自己紹介で人と話したくないと言っていて、しかも休み時間は全て寝てます。可能性はあるでしょう。」

 

「そうか。わかった。引き続き、司は高校での闇人デュダの捜索を。…気をつけてな。」

 

支部長、偲はそう言うと、また難しそうな顔になりながら、紅茶を飲み始めた。

彼は危惧したのだ。

今回、司が担当している闇人デュダが相当に厄介だと。

 

 



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六話:やったね

 

 

昨日はうまくいった。

 

予想以上に彼が単純だった事もあるが、やはり、一番の決め手は誰かと話す事。

ティリア曰く、本来闇人デュダは人と話す事を嫌い、話し掛けもしない。

これで、司は私を闇人デュダとは疑わない。

しかし、司は精神保安管理局の者。

他に仲間がいる可能性はある。

だから一応のため、布石を敷いた。

 

“だいぶ参っちゃうんだ”

 

この言葉はまぁ、他の人からはうん。それで?ってなる。

けれど、参ってる。つまりは疲れてるので、寝てていい?という感じに持ってけば、司には怪しまれずに済む。

そして、そのあとに言った、止めとも言ってもいい言葉。

 

“司とも話したいな”

 

これは、司から情報を得るために言ったのだ。

しかし、私も人と話すのは苦手だ。

このクラスで慣れてから話そうと思う。

 

 

我ながらに今回は良かった。

 

 

本当ね。流石に小学校から磨き続けた演技力は誰にもわかられてないしね。

 

 

だって、これぐらいしなきゃ思いっきり遊べないじゃない。

 

 

まぁ、それもそうね。あら?チャイム鳴ったわよ?

 

 

前も言った通り、遊ぶ時間はランダムだよ。

 

 

覚えの悪いティリアに呆れつつ、授業に集中する。

もし、この授業が楽で寝れそうなら、授業中に行動を開始する。

授業が簡単である事を願いつつ、授業に挑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……5x+2+3x+5………何これ……」

 

今日は入学式が始まってから、三回目の数Iの授業なのだが、何を言ってるのかさっぱりわからない。

けれど、ここはこの地域でも底辺の高校。殆どの皆が開始十分で脱落していた。

 

「……えっと…大丈夫か?」

 

「「大丈夫じゃない!!」」

 

先生が心配するも、皆は疲れてぐだっていた。

けれど、私はなんとかわかろうとするが、どうすれば良いのか分からない。

 

「……麻田さん。これ、解ける?」

 

しかし、その姿勢がまだ大丈夫な方と思われたらしい。先生にこの問題の答えを黒板に書いてと言われた。が、

 

ふるふるふる

 

頭を小刻みに振り、無理であることを伝えた。

 

「……無理……か。」

 

全員が教科書の問題が解けず、先生は落ち込んだ。

しかし、分からないものは分からない。

先生は途方にくれながら、その問題の解き方を残り四十分で教えてくれた。

 

 

……授業に集中出来たのはいいけど……

 

 

寝る暇がないわね。

 

 

チャイムがなり、授業が終わると同時に、机にうつ伏せになった私は、ため息をついた。

 

 

はぁ~疲れたって皆寝てるし……静かだな……ん?皆寝てる?

 

 

顔を上げ、時計を見る。

 

 

次の授業まであと五分。

やるなら今だね。ティリア。

 

 

了解。じゃ、作戦通りにやって来るわね。

 

 

そう言って、目の前が真っ暗になった。

 

 



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七話:三分間の悪夢

 

さて、あの男子の精神はっと……あったあった。

 

 

一面真っ白の空間をふわふわと浮かぶ少女。

クスッと笑みを浮かばせ、“kumioda mithio”と表示されている壁に手をやる。

すると、手が波紋を出しながらズブズブと壁に入って行く。

 

 

やっぱり。あれは寝てるね。

 

 

組尾田道雄。そいつは識曰く、うざい男子の名前。

そして、今私が入っているのはその男子の精神。

けれど、今こうして簡単に入っているが、実はこの精神に私達が入るためには、少しばかり条件がある。

一つは私達の本体、闇人(デュダ)が寝ている事。

もう一つは殺す相手が寝ている、もしくは相手の精神を抉じ開けるくらいの強さを持っていること。

識は、これら全て出来るが、抉じ開けると、大概の人が悲鳴を上げて、失神する。

それではバレるので、寝ている間に入る事にしている。

 

 

しかもご丁寧に寝ている時間を調べてね。

 

 

ようやく自分の体があの男の精神に全て入り、辺りを見回す。

すると、斜め右に白い空間にカラフルな、と言うより動画のように動く空間があった。

 

 

……今、休み時間よね……レム睡眠って……まぁ、浅い眠りだろうけど……

 

 

それは、俗に言う夢なのだ。

その夢の風景を見ると、道雄は遊園地で何人かの人と遊んでいた。

 

 

……にっ……いい事思いついたわ。

 

 

獲物を見据えたような、恐ろしい猛獣の顔をしながら、ティリアは笑った。

 

 

 

 

 

 

~道雄視点~

 

 

うん。夢だな。

 

 

意識が少しだけはっきりした俺は、この場所がなんなのかはわかった。

 

『しっかしな~…。夢で遊園地って、俺どんだけ遊びてぇんだか。』

 

喋ってんのか、思っているのかはわからないが、頭に響く自分の声を聞きながら、適当に歩く。

しかし、その束の間、ジェットコースターに乗っていた。

 

『……え。』

 

しかも、セーフティーバーも何も付けずに。

 

『ひっ……や、……高い所は嫌だぁぁぁ!!!』

 

そのまま、直角に急降下していき。

 

ガコン!

 

『へ?』

 

レールから外れ、空中に放り出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

~識視点~

 

「うわあぁぁぁぁ!!!」

 

夢から唐突に覚め、椅子から勢いよく落ちたようだ。

あれは確か二組だったが、こちらの教室まで丸聞こえだ。

その声により、私の教室の生徒までざわついた。

しかし、あいつが叫んだのはチャイムと同時刻。

先生がざわつきを静め、あの男のもとに。しかし、

 

「おいおい。ミッチー。怖い夢見たからってそんなに叫ぶなよ!はぁ?ジェットコースターに乗ってたらレール外れて空中に放り出されたぁ?……っぷ。お疲れ~。ミッチー。」

 

二組の男子だろう。他の先生にしっかり聞こえるように大声で言った。

むろん、それは私にも聞こえた。

 

 

……これは……面白い…

 

 

でしょ?あいつ、呑気に夢なんか見てるからね。悪夢を見せてやったわ。

 

 

自慢げに話すティリアにナイスと思いながら、あのうざい男子の哀れな声を聞き、少し楽しかった。

 

 

なるほど。悪夢にすれば、こっちでもあいつの無様な姿が拝める……これはいい…

 

 

 

しばらくして、今回の騒動が収まり、授業が再開された。

 

 



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八話:休日

 

 

入学式が終わってから四日過ぎた今日。

久しぶりの休日になった。

 

「あ~。疲れた……」

 

しかし、どの日も忙しく、疲れていた私は部屋に引き込もって、ベットに仰向けになっていた。

 

 

ふふっ……お疲れ様。識。どうやらあなたにとって学校は疲労が溜まる場所なのね。

 

 

まぁ、ね。けど、慣れないと。昨日みたいに少ししか遊べれないのは嫌だから。

 

 

「ふぅ……」

 

深く息を出し、ボーッと天井を見る。

けれど、それは逆に暇すぎてストレスが溜まり始めた。

 

「暇……ん?今何時?……よしっ!」

 

勢いよくベッドから立ち上がり、出かける準備をする。

 

 

……?識。何処に行くの?

 

 

ちょっとした情報収集。

 

 

そう言って、私は主な貴重品を持って家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

来たのは、学校に少し近い、本屋。

けど、私は本を買いに来ただけではない。

ちょっとした、情報を入手するためだ。それは。

 

「ぐぉーーー……がーーーーー……ぐぉーーー……がーーーー」

 

本屋の真ん前で熟睡するあのうざい男子の様子と、ついでにこれからのために必要な本を買いに来たのだ。

 

“悪夢”

 

それは恐ろしい夢であり、不吉と言われる。

しかも、現実ではほぼ起こりえないような事や、恐ろしい現実を見る人もいる。

普段から、殺しという恐ろしい事しでかしている私だが、本を買うことにしたのには、理由がある。

私は今まで、ティリアにはただ殺す準備を手伝うだけで、あとは何もしていない。そして、ティリアは殺戮以外何も考えていない。

確かに昨日みたいに夢の内容を変えることは出来るようだけど。

ティリアはそんな風にあれこれ考えるのは嫌いだ。

すぐに殺しにかかるだろう。

けど、それでは意味がない。

だから、そこら辺の事も考えて、夢についての本を買うのだ。

もちろん、悪夢重視のを。

 

「こらっ!道雄!寝てないで店番しなさいって何度言ったらわかるの!?」

 

ふと、甲高い聞いた事のあるような声が店内に響いた。

うざい男子の母で、この書店のオーナー。

そして、ほぼ役立たずのうざい男子は、店番としてこの書店にいつもと同じ時間帯にいる。

しかもいつも豪快に寝ているのだ。

 

「だ、だって母ちゃん!昨日も言っただろう!俺、高所恐怖症なのに、ジェットコースターに乗って空中に放り出されたって!こ、腰抜けて、寝れなかったんだって!」

 

 

へぇ……良い事聞いた。あいつ、高所恐怖症なのか……これは使える。

 

 

どの本にしようかと迷いながらも、店主と店番の話を聞きながら、情報を得る。

たまに要らない情報も入っては来るが、そこら辺は無視。

 

 

お……これ、良いかも。買うか。

 

 

あの煩い場所を通らなければならないのかと、うんざりしながら、レジに本を置く。

しかし、現在店番をしているうざい男子は口喧嘩中で、レジに客がいるのに気づいていない。

 

 

……………この店大丈夫なの?いっつもこうだけど。

 

 

それはわざと私がこの時間に来てるから。いつもは普通。

 

 

ティリアと話しながら、こちらに気づいてくれるのを約十分待たされた。

 

しかも、レジに来たのはうざい男子の方で、悪夢の事について色々と聞かれたので、適当に、“そんな頻繁に見ないよ”とだけ伝えておいた。

しかし、それはこれを安心させるための嘘であることを、周りにいた客はわからなかった。

 

 



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