失敗作だけど白い特等みたいになれたらいいなー (九十九夜)
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どうも、失敗作です。

こんにちは。

はじめまして皆さん。九十九夜と申します。

まだ始めたばかりなので至らないところは多々あると思いますが生暖かい目で見ていってください。


 ーーーかないで。

 

 

 ーーーーかれたよ。

 

 

 ーーーえせばいいの。

 

 

 ーーーーもうつかれたよ。

 

 

 ーーーねがいだから。

 

    だれかわたしをーーー。

 

 

 

 

 

   ◆ ◇ ◆

 

 

 

 こんにちは。皆さん。

 わたしの名前はウルレシュテム。現在13歳です。

 ある事情から現在王様やってます。

正確には繋ぎ程度のだけど。

 

 まあ今回は自分の身辺整理とともになんでこんな小娘が王様代理なんてやっているのか愚痴っ...失礼。お話ししたいと思います。

 

 まず、前提としてわたしいろんな所に転生してたいわゆる多重転生者だったんです。多重転生と言うと聞こえはいいんですが要は上手いこと一切合切洗い流して輪廻の輪に還るっていう魂として当たり前のことができなかった不良品だったのですよ。わたし。

 

 んで、いつもみたいにあー今度は何処に流されるのかなーとか思いながらさまよってたらいきなり引っ張られまして...気付いたら王様の器(予定)に転生していました。

 が、どうやら器を造ったひと...まあ神々なんですが。曰く、最終工程でミスったらしく。この身体は失敗作なのだとか。

 廃棄するのが普通なのでしょうが、いかんせん後継機を産み出すのは更に時間が必要とのこと。

 後継機がその任を全うできる様に成るまで、当時もう隠居に片足突っ込んでる先代王様の代わりとして王務をすることになりました。

 きっと、その後継機とやらが出来上がったらお役御免でこの世とさよならなんですね。わかります。

 

...なーんてさせねーよ?

 

 こんな理不尽あってたまるか。そもそもわたし神様嫌いだし、神様嫌いだし、神様嫌いなんだよねー。

 何なんですかね。あの気まぐれに現れて神様ですけどなにか?的な無意識上から目線とか、自分の力見せつけて信仰広めるために態々災害起こしたりとか。

ワケわからん。

 

...と、失礼。ちょっと疲れが出たのかもしれません。

ともかくわたしはただで殺されてやるつもりはないので精々抗ってやろうと思います。

 

具体的には...そうですね。某NOUMINとか白い特等とかみたいな白兵戦に強い系の奴を目指したい。なれるかわからないけど。

 

まず手始めとして稽古をつけてくれる兵士に件の目的を隠して間接的を心掛けてお願いをしてみた。

 

「皆を守るために強くなりたいのです」

 

「お、王...私でよければいくらでもっ微々たるものではありましょうが協力させていただきますっ。」

 

内心で握りこぶしをつき出した。ヨッシャ好感触っ。

 

「して、王よ。得物はどちらにいたしますか?」

 

「あ、まだ武器は早いと思うので身体造りから始めていこうかと」

 

「なんとご聡明な。ですが、得物を決めそれに適した...」

 

「はい。全て扱える様になりたいので」

 

ここで照れたように笑うのを忘れない...今だっ。

 

「どうしたらそんなにムキムキになれるのか教えてください。わたしは王である前に戦士で在りたいのです。

ムッキムキになりたいのですっ!」

 

一瞬、その場が凍った。何を間違えたのだろうか。

 

その後実践訓練の量が減らされ、変わりに座学だの作法だのの時間が増えた。何故だ、解せぬ。

 

 




始めての長編なので何処で纏めたら良いやら...。

ちなみにこの主人公割りと本気でゴリ...ムッキムキを目指そうとしてました。
まあ、見た目はギルガメッシュというより六道骸みたいなのに近いイメージの子なのもあって周りが必死に止めたという...でも、将来有望な美貌の子がゴリラみたいになりたいっていったらやっぱり全力でとめにかかるよねっていう。


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千里眼って便利だよね

 

 

 さて、皆さん。人の基本的な欲求は大きく分けて3つある。それは睡眠欲、性欲、食欲の3つなのだか...。

 その3つはどれか1つが欠ければ何処かに皺寄せが出るほど大事なものだ。大事なものだ。大切だから2回言った。

 で、わたしは、前言った通り転生を重ねている 

 だからその大切さを身をもって知ってる。

 特に食欲。泣きたいくらい。

 

もう幾度目か忘れてしまったが滅茶苦茶飯の不味い国に転生したことがあった。もう絶対あそこには転生したくない。きっと数日と持たず死んでしまう。

 

だってなんかよくわかんないのと戦って仲間が死んで絶望して飯のあまりの不味さに絶望して、戦況が悪くなって絶望して飯の不味さに絶望して...もう絶望しかねーよ。よくもったよ自分。

 

ともかくそれほど食欲とは大切なものなのだ。

 

で、肝心の現在の食事に関してなのだが。

うん、悪くない。美味しい。でも、割りと神代だからなのかまだまだ発展途上のためなのか簡素なものが多い。例えばバターケーキとか、貴重品だけど。他に果実そのままとか丸焼きの肉とか。欲を言えばもっとバリエーションが欲しい。もっと贅沢言えば日本食食べたい。

 

そしてわたしは思い付いた。無いならつくればいんじゃね?と。

残念ながら遥か昔に食べた日本食は朧気にしか思い出せなかったが、何を隠そう私には千里眼がある。見たいと思ったものが見れる検索機能付き千里眼が。

 

思い立ったが吉日と早速厨房の方に向かう。

「すみません。ちょっとお邪魔します」

 

「王。この様なところに来られては...」

 

まだ年若い、おそらく入ったばかりの料理人がおろおろしながら苦言を言う。

 

「あ、大丈夫です。直ぐ帰るので」

 

そのまま終始笑顔を崩さずウルレシュテムはそそくさと立ち去った。然り気無くその手に食材を奪取して。

彼女は既に追い出されることなど予想済みで計画を進めていた。

 そう、彼女は秘密裏に簡易キッチンを己の部屋に備え付けていたのだ。もちろん原始的なもののため場所を取り、決して簡易とは言えないのだが。

 

 

「あれ?今日は何を作るんですか。お姉さん。」

 

ひょこりと出入口から顔を覗かせる少年が1人。

輝かんばかりの金髪に神性を顕す紅の眼の紅顔の美少年。我らが子ギル君である。

 

少し前といっても数年前。彼が生まれたことがわかり、そろそろリミットなのかと染々感じたものだ。

 

何だかんだで可愛くて可愛くて仕方ない自慢の弟であるのだかこの子。頑なに私とのボディランゲージを拒むのだ。後から分かったのだが彼も転生経験がありあまりなれないのだとか...あれ?君の肉体も魂も神様お手製じゃないの?つーかここfateのメソポタミアかよ。

 

「今日は肉じゃがもどきを」

 

「わーい、日本食ー」

 

彼も日本食を食べたことがあったらしく眼を爛々と輝かせながらこちらに近付いてきた。

 

不意打ちで抱きつくと顔やら耳やらを真っ赤にして固まる。

 

...子ギル君。どうか君はそのまま育ってくれ。

 

 



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キッショーさんへの道は遠い

今回はやっとこさ修行回
となるわけですがはたしてまともな修行になるのかどうか・・・。
そもそも世界観が全く違ってるのにまともにそのキャラ目指すのって無理じゃね?
と書いておいてなんですが思う今日この頃です。


 どうも、皆さん。ウルレシュテムです。

 あれからわたしは実践訓練の時間もまともに与えられなくなってしまいました。書類仕事つらい。

 

 唯一の癒しだった子ギル君とはいろいろ(主に餌付け)あって姉様、ギルと呼び会う仲になりました。

が、近付き過ぎたせいか幼い彼はわたしを安全地帯と判断したらしくよく後をくっついてくる様になった。ここまではいい、可愛い弟だなー位で済んだ。

問題は最近夜になると決まって部屋に枕持って添い寝を要求してくる。

 王の自室に夜赴くということは余程聞かれたくない話があるかあの…アレをするためかのどちらかである。

 わたしは100歩譲ってブラコンではあるが断じてショタコンではない。yesロリショタNOタッチ。

それとなく注意してはみるものの知ってか知らずか「じゃあ僕が姉様の王配か、姉様が僕の后になれば万事解決ですね」と無邪気に笑いながら宣った。ダメだこの子。早く何とかしないと。

 

 そんなこんなでわたしの胃腸は悲鳴をあげていた。

 だがそんなわたしを、周囲は待ってくれない。

 結果、現在サボタージュと相成った訳である。

 

 ちなみに現在地はウルク郊外の森の何処か。幻想種みたいなのとかゴロゴロいるからかまず人はいない。

なんて無茶をと思うだろうがいい加減わたしもストレスが溜まってしまって発散するところがないため仕方なく、そう、仕方なくこのような場所で当初の目的だったNOUMINやキッショウさんに近付くための修行(というよりサボタージュ)をしているのだ。

 

 第一、なんでただの稽古にあんなギャラリーができるんだよ。おかしいだろ。

日に日に増えてってるし。おかしいだろ。

みせものじゃねーんだよ。わかる?ただの稽古だよ?稽古。

 

 

「あーなんかまた腹立ってきた。」

 

 言って、手に持っていたなんかいい感じの木の棒を投げる。

ゴスッとか聞こえたが気にしない。何かの悲鳴じみた鳴き声も聞こえた気がしなくもないが気にしない。

 予備の木の棒を取り出すとぶんぶんと振り回しながらさらに歩みを進める。

不意に背後から駆け抜けるように突風が吹いた。

ガツッと振り回していた棒に何かが勢いよく当たる。

 

 ブギギイィッと鳴くそれはたしか…魔猪とかいう魔獣だったか。

しかしレアだ。なんせ今まで遠目で見ていたヤツらと違いこいつの頭部には角のようなものが二つ・・・あれ?よく見ればあれ二つともたんこぶじゃね?で、奴が銜えてる木の棒って確か・・・。

 

 思考の途中であろうとお構いなしに魔猪はウルレシュテム目掛けて突っ込んでくる。

 

 そんな突進をいともたやすく躱すウルレシュテム。

躱されたことを理解した魔猪が次なる攻撃のために前足で幾度か地面を引っ搔いているのを尻目にいまだ彼女は思考に浸っていた。

 

 

 せっかくの戦闘だからもっとこう実のあるものにしたいんだけど…。

そもそも得物が拾った木の棒ってどうよ、絶対にそこらの農夫の装備の方が充実してるよ。

NOUMINは刀でキッショーさんはクインケだもんな…初期は刀型のユキムラ1/3だったけど。

 

 よくよく考えれば出自からして…いや待てよキッショーさんは半分人間だったし、NOUMINは人間のはず。

 今は私も喰種の血こそ入っていないが半分人じゃないっていう点では一緒だし、NOUMINのは純粋な鍛錬の成果らしいし、これはまだわたしにも希望あるかも…!

 

 

 思考はしていた。思考はしていたが完全にそれは現状とはずれたものであった。

 

 唐突にウルレシュテムは顔を上げた。

 

 先程までの思考とは打って変わってその顔は絶望に満ちた敗者のそれだった。

 そこにここぞとばかりに魔猪が再び突進を仕掛ける。

 

バリバリバリッ ゴドッシャッ

 

 閃光が周囲を覆ったかと思うとすぐにそれはウルレシュテムの手中。

正確には先程まで木の棒だったものに吸収されるかのように収まった。

 

 そこにあったのは最早木の棒などではなく複雑な意匠の彫られた美しい木刀であった。それは光が収まって尚自ら輝きを放っており、見ただけで相当の神秘の込められた業物であることがわかる。

 しかし、それを即興で創り出した少女はそれに目すらくれず、言葉を発した。剣撃と共に。

 

「赫胞ないとクインケ作れないじゃん!」

 

言って、彼女は地面に膝をついた。

彼女の夢は、たった今途絶えようとしていた。

主に材料やら世界観やらの問題で。が、この少女。立ち直りも早かった。

 

「あ、そっか。」

 

ゆらりと幽鬼のように少女が立ち上がる。

 

「なんだ、そうだよね。ないなら似たようなもので作ればいいんじゃないか。」

 

あははと笑って、今度こそ彼女は魔猪を見た。

大きく木刀を振り上げて。彼女は言った。

 

「素材。置いてけ。」

 

放たれた一撃は光となって一直線に森を焼いた。

それはかくも美しき白銀の一撃。

 

 

「ん?なにこれ?」

 しかし、肝心の得物の存在に気付いたのは巻き込まれた魔獣の死骸と先程の魔猪の死骸から素材を回収した時であった。

 

 

 




ウルクあたりって森より砂漠っていうイメージだったんですがFGOやってて森林があったみたいなので急遽魔獣とか幻想種ゴロゴロ・・・っていう感じにしたんですが・・・。

魔猪ってこの時代から存在していたのだろうか。たぶんドラゴンみたいなのはもういたんだろうけどしょっぱなドラゴンに木の棒一本って無理だっとなってこちらの都合で魔猪にしてしまいました。ごめんなさい。


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わたしの弟はこんなに怖くて可愛い

読んで字の如く子ギル君半暴走回です。

ところで、王族にしろなんにしろ世代交代って面倒な事が起こりがちですよね。
今でもちょっとした家の方が亡くなると相続の話し合いが大変なんだそうな。

今でこうなんだから昔はもっと血で血を洗うような惨劇が繰り広げられていたのかと思うといろんな意味で昔の方って逞しい。


森で野焼きモドキをした後、少し寄り道(素材狩り)をしながら城まで帰ると辺りが騒がしくなった。

はて、今日は何か催しごとがあっただろうかと考え込むウルレシュテムの前には様々な職種の城仕えの者たちが跪き一様に無事を喜ぶ旨を伝えてくる。

 

 

 かいつまむとどうやら城を抜け出してから既に三日が経過していたようで、捜索隊も出されたらしい。

らしいというのは帰り道で一度も人と出会っていないからである。

ということは情報に虚偽があるか、全く別な方向に行ったかでもない限り十中八九幻想種の餌か、喰われずに放置からの土に還るパティーンかのどちらかだ。

 おいおい、捜索隊の捜索隊出すのかよ。・・・まあ仮に出したとして更にその捜索隊の捜索隊の捜索隊を出すことになりそうだけど。

 

いや、元はわたしが悪いんだけどね。ごめんね。

 

「姉様ーーーーッ」

 何やらじゃらんじゃらんと不協和音の様な金属音と大勢の足音とともにかわいい弟の声が聞こえてくる。

・・・大勢の悲鳴も引き連れて。

 

「お、王よっ。どうか王子をお止めくださ、ひっ。」

 言った老人の頭頂部をかすって何かがザクッと勢いよく支柱に突き刺さった。

 

「やめるのは貴方達の方ですよー。」

 

 にこにこと笑いながらギルが手に持っていた鎖を思い切り引く。ヴォンという音とともに先ほどまで刺さっていた戦斧のようなものが戻ってくる。鎖鎌の様に繋がっているらしかった。

 

「ギル。それは。」

 

「ああ、これですか?武器庫にあったものを少々・・・とそれより聞いてください姉様。この人たち姉様の帰りが遅いからって僕を王様に仕立て上げようとしたんですよ。」

 

 ギルガメッシュがちらりと視線をやった先にいたのはこちらに必死に助けを求めて駆けてきた老人数名。

 どれもウルレシュテムにとって見覚えのある顔だ。

 

「これは極刑案件ですねー。」といつもと変わらない無邪気さで複数名の今後を左右させかねないセリフを言うギルガメッシュの傍らで、この策謀に巻き込まれんとしていたウルレシュテムは決して慌てる様子もなく。

あの頭頂部・・・終わったな。南無。

などと少しずれた。河童ハゲ同然になってしまった相手の頭の今後を考えていた。

 

 

 かくして、ギルガメッシュ引き継ぎ強制事件は長老会の再構成と捜索隊派遣の虚偽報告の洗い出しで幕を閉じた。この際にこの作戦に関わったと思われる人物が総じて不慮の事故で死亡ないし行方不明になったことは闇に葬られることとなった。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

「姉様。」

 

やれやれといった様子で報告を終えた兵が部屋を出て行ったのを見送ると不意に名前を呼ばれた。

 

「ん?どうした?ギ・・・ル。」

 

椅子の真横に弟が立っている。それ自体は別段普段と変わらない。が、

 

「おかえりなさい。」

 

ボロボロと。ボロボロと。

泣くという表現を知らないのではないか、と思っていた弟が。大粒の涙をこぼしていた。

しかし、口元にはいつもの微笑みが形作られ、目は心なしかハイライトが消えかけている。

 

泣いているのか笑っているのかわからない。

正直滅茶苦茶怖い。

 

 

走り寄るかの様に抱き着かれる。

 

 

「おかえりなさい。」

「ただいま。」

 

腕の力が強くなる。少し苦しい。

 

 

「無事でよかった」

 

反射的にではあるが背中をさすってやる。

内心で戻れ戻れと思いながら。もうヤケクソだ。

 

「おいて・・・いかれた・・・かと。」

 

 

「次は、僕も一緒にっ・・・いえ」

なんでもありませんと顔を離してちからなげに笑うギル。

 

もしかしなくても寂しかったのだろうか?

それにしてはいささか必死過ぎる気がするが...まあ、今は置いておくことにして。

 

「ギル。」

 

「はい?なんでしょう?」

 

「今日、一緒に寝ようか。」

 

「っ・・・はいっ!!」

弟は、花がほころぶ様に笑った。

 

まだ危なっかしいし、少しくらい姉離れが遅くなっても多めに見てくれる・・・よね?




子ギル君は既に王の財宝を使えますが今回のは単純に武器庫から
より広範囲を一撃で。複数に、重症ないし戦闘不能にできるものをチョイスした結果無断で持ち出したものです。

もうお気付きかと思いますがこの作品の子ギル君は姉に依存といっても過言でないほど執着しています。これには一応ちゃんとした理由があるのですがそれはまたの機会に書きたいと思います。


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道具作成(笑)

前回の作品までを読み返してみてとんでもなく短いことに気付きました。

そしていまいち話が話になってないという絶望的な事実にも。

・・・すみません。近々書き直したいと思います。



 目の前には素材狩りに使った銀色に輝く木刀。

 

さて、どうしたものか。

 

咄嗟に魔力を込めた結果に出来た即興品。

原材料はそこら辺の木の棒。

 

「どうしてこうなった」

 

いや待て、もしかしたら見た目だけのポンコツかもしれない。...と思っていた時期がわたしにもありました。

 

どんなに魔力の出力を調整してもあの銀色の光線が出る。

 

こないだなんて稽古のついでに精々アミュレット作る程度の魔力注いだら壁ぶち壊して。否、1区画吹き飛ばしてお空に飛んでったんだけど。どうなってんのコレ。

 

まあ、見た目はユキムラ1/3に似ているから気に入ってるけど。

 

ウルレシュテム は ユキムラ1/3(偽) を てにいれた。

 

 

ただこれには1つ問題がある。

耐久性が無い。

耐久性が絶望的に無い。

 

見立て通りなら後一発あの光線を撃ったらこの木刀は壊れる。

加減して撃っても2、3発が限界の使い捨てだ。

 

使い捨てなら使い捨てらしく量産すればいいんじゃないかとかも考えた。

だが、しまう空間ならわたしにもあるが目録見たとき光線剣がゲシュタルト崩壊とか嫌だ。

という訳で却下。

 

本当にどうしようコレ。

 

誰かにあげるか?---イヤ、だめだ。下手したら国の一部が更地になる。

 

飾り物にするか?---これも無し。この間の様にギルが勝手に持ち出して使いかねない。

 

自分で使うか?---無し。出所尋ねられても困るし、不思議剣持ってるなんて噂されても困る。3回くらいしか使えないから。武器一つ満足に扱えないとか言われたら滅茶苦茶恥ずかしい。

 

なるべく不自然じゃない、それとなく此処(ウルク)から木刀(コレ)を持ち出せないものか。

 

そもそもこれ目立つんだよね。常時光ってるから。

売るにしても簡単に足が付きそうっていうか・・・。

 

まあ、自分の手元にあるよりはましかと思って身支度を始めた。

 

 

◇ ◆ ◇

ある商人の息子、ヘアフスは困惑していた。

 

「で、いくらですか?」

「・・・。」

ある商家の玄関らしきところに人影が二つ。

一つはその店の店番らしき男性。もう一つは背の低い、子供の物だ。

真剣に物品を検分する男性とは対照的に、子供の方は肘をついてさして興味がないかのように振舞っている。

 

しばらくしてから溜息をついて眉間の皺を伸ばした男性・・・ヘアフスの視線が剣からその持ち主の子供に移る。

剣は材質はよくわからなかったがとんでもないほどの神秘を内包した逸品だ。装飾などの外装はどこか粗削りだが将来性を感じさせる。

しかし、それを持ってきた人物。目の前の子供は到底そういった場所に縁はなさそうな外見をしていた。

 

どこか後ろ暗さを感じさせるフードが顔を覆っている。

身に着けている服もそこらの子供と同じようなボロを纏っている。

手脚は包帯で包まれ一切肌色が見えない。

 

どこをどう見ようが怪しいとしか思えない。

 

怪しい子供が、その身の丈に合わなそうな剣を持ってきた。

 

追い返してしまった方がいいのか。それとも、このまま外出している親父が来るのを待っていた方がいいのか。

前者は手っ取り早いがそうするとこの剣の出所がわからない。それは惜しい。

後者は頼みの綱である親父が帰ってくるまで相手を足止めしておかねばならないという任務が発生する。

後者は絶対に無理だと早々に切り捨ててヘアフスは口を開いた。

 

「お嬢ちゃ」

 

言葉は続かなかった。

二人の間を横切った男が物のついでの様に慣れた動作で剣を持ち去ろうとする。

一瞬何があったのか理解できなかったヘアフスがハッとして慌てて相手の腕を掴む。

 

「ち、ちょっと困るよっ。お客さん。」

それはこの嬢ちゃんのっと言おうとして鈍い痛みを感じるとともに呼吸が止まる。

ふと下を見ると鑑定していた剣の刃の部分が自身の腹と密着していた。

刃の切っ先が見えない。ということは今その切っ先は。

 

そう、切っ先はヘアフスの背中から生えていた。

なんせ、貫かれたのだから。

 

「がっ、え・・・?」

 

「邪魔だ。どけ。」

 

言って、ヘアフスを刺した男は剣を引き抜こうとする。

 

きっとそのまま事も無げに立ち去るつもりで。

 

自分はゴミを捨てるかのように殺されるのだろうか。

いや、きっとこの自分を刺した男にとってはように(・・・)ではなく正しくゴミなのだ。

そこらへんに転がっている貧民(ニンゲン)という形のゴミ。

こんな形で終わってしまうのかと意識を手放そうとした。

 

「ねえ、おじさん。」

 

幼い声が聞こえた。

この声は。

この声はさっきまで自分と話していた子供の物(・・・・)だったのではないか?

 

剣を抜き取ろうとしていた男の手が止まる。

まずい。

 

「あ?」

「まず、そのお兄さんに謝りましょう?で、その剣を返しましょう?今ならまだ見なかったことにできますから。」

「んだこのガキ?俺は長老会の×××××の子の×××だっ。その俺が邪魔だって言ってんだよっ。」

なるほどなとヘアフスは危機的状況に一周回って冷静に現状を整理する。

長老会といえば国王陛下にも意見できる集まりだと聞く。いまここにいる男はたぶんその中でもかなり位の高い貴族の子息といったところか。確かに身なりは少々汚れてはいるものの商家の次男であるヘアフスには一目で上等なものだということがわかった。その割に目は血走り髭と髪は鳥の巣の様に伸び放題の荒れ放題だ。いったいお前に何があった。

 

唐突に男が髪を掻き毟りだす。

「なんなんだよおっ揃いもそろってよお・・・親父はいなくなるしょお...そうだそうだ全部あいつだアイツのせいだ。俺がこうなったのもぜんぶっ...あのウルレシュテムとか言う生意気なクソガキのせいだっ」

 

口から唾液を飛び散らせながら男がわめき散らす。

口の端には泡。この錯乱具合からして何かの中毒者か何かなのだろうか。

不意にその動きが、騒音がピタリとやむ。

 

「まずはお前だ、ゴミ。俺の邪魔してくれたんだ。消えろ。」

 

今度こそヘアフスからその刃を引き抜かんとする。

その先には、変わらず子どもが立っていた。

 

たぶん、このまま大人しく死んだふりでもしていればイチかバチかだが自身は助かるだろう。

 

だが、目の前の子どもは?

あの細さにボロ切れだけ。防具等の類いは一切見受けられない。

きっと。きっと、死んでしまう。

 

ああ、俺は助かるために子どもを見殺しにするのか。

自身のために。保身のために。

 

本当にそれでいいのか?

 

鈍化していく意識の中で、滲んでいく感情を手繰り押せながら違うと思い直した。

 

思った直後。自身に刺さる凶器が半分ほど引き抜かれたところで、目視出来ている刀身を思い切り両手で掴んだ。

 

「待ちやがってくださいお客様。」

 

無理に動いたためかせり上がってきた血が口から溢れるけれど、そんなの知ったことかと歯を食い縛って耐えた。

 

「お代がまだだぞコノヤローっ」

 

渾身の一撃を打ち込もうと腕を振り上げ、一気に相手の顔面目掛けて下ろす。

 

さて、時間は稼げるだけ稼いだ。ちゃんと逃げろよ、嬢ちゃん。

 

そんなことを考えていると、視界の中に白い、包帯が巻かれた細い腕が映った。

 

「ごめんなさいお兄さん。やっぱり、買い取りはなしの方向で。」

 

子供を少女だと判断できた唯一の材料であった声。

その声はいまだに震えることがなく、ひたすらに平坦だった。

 

視界に映った手はためらうことなくヘアフスの手。正確にはその下の刃へと伸ばされる。

「なっっ」

何しようとしてんだ、早く逃げろよっ。

心の中でのみ絶叫にも似た叫びをあげる。口を開けたら今度は吐血という表現では生ぬるいような血反吐を吐き出しそうで現実でその叫びをあげることは叶わなかった。

 

「んだ?ガキ」

 

男が子供を視界に捉える。

一方子供の方はそれすらどうでもいいらしく、緩慢な動作で刀身に触れた。

瞬間、剣を持っていた男が。男の身体が隆起しだす。

否、隆起するとまとめるにはいささか言葉が足りない気がする。

剣の柄を握っていた男の手から何かが体の方に向かっていく。

その際の男の身体は、生き物が入っていたのかもしれないし、はたまたは内側から沸騰していたのかもしれない。生物なのか、はたまたは巨大な泡なのかわからない何かが体中を這いずり回っている。

一瞬止まったかのようなそれになぜか見ていただけのヘアフス自身も胸をなでおろすような心地を覚える。

が、その一瞬は所詮一瞬でしかない。

先程とは違い最早風船に突起物を三つつけたかのような肥大した何かになった後、さらにそれは膨張し、爆発した(弾け飛んだ)

 

 

飛び散った肉片に放射状に広がる赤。

意外にも(あか)の量が少ないのは爆風で吹き飛んだからだろうか。

ガシャンという音とともに剣が砕け散る。

 

「壊しちゃいました。」

それはどちら(・・・)の事を指しているのかヘアフスには分からなかった。ただ呆然とした表情のまま少女を見る。

 

 

くるりと軽快な動作で大通りに向かおうとした少女が振り返った。

「それじゃあまた今度。お父様によろしくね。ヘアフス?」

今度こそ、ボロをひるがえして少女は立ち去った。

 

いつの間にか戻ってきた喧騒の中。

ヘアフスの脳裏には去り際に見えた少女の紅玉の様な紅い瞳だけが強烈に残っていた。

腹の傷と周囲の赤はいつの間にか無くなっている。

ただ、口内に残った鉄の味だけが先ほどの出来事が現実だったのだと如実に表していた。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 

ある一室の窓から室内へと人影が飛び込んでくる。

その人影はその勢いをものともせず、ふわりと床に着地した。

そのまますたすたと奥の方にある衝立の向こうへと消えるとするすると衣擦れの音が聞こえてくる。

衝立の向こうの少女---ウルレシュテムはおもむろに取り終えた包帯を握りしめた。

 

包帯は瞬く間に色を変えてブロンズ色の硬質な何かへと変化していく。

その様を見ていたウルレシュテムはふふっと微かに笑うとそれを放り投げ、自身は寝台へとその身を投じた。

「なるほど」

これはいい(・・・・・)。ウルレシュテムは顔にこそ出さないものの、内心では凶悪な笑みを浮かべた。

 

望んだものを望んだ形へ、望んだ能力(チカラ)へと形成させる能力。

他の神秘の助力を受けない、神秘そのものを作成する作成能力。

「アレが集め、(ボク)が造る。なんだ、存外。神々(やつら)も粋なことをしてくれる。」

今回の木刀の件から考えるに自身の作り出したものになら出来上がってからでも手を加えることは可能だということも分かった。

クインケも作れるし修復もできる。ほんとに便利だ。

これからはこのチカラを使いこなす訓練もしなくては。

 

彼女の心は今白い死神にまた一歩近付けたと狂喜乱舞していた。

それはもう読んで字の如く小躍りするくらいには。

武器の問題はだいたい解決した。さて、次はやはり容姿だろうか?たとえ顔は真似ることができなくとも白髪に位はなりたいものだ。

それとも誰かふさわしい役者でも揃えて先に舞台を整えるか?今のところの最優候補はギルガメッシュだがアレはあれで既に手を加えるには完成しすぎている。一応は候補内に入れておくか。

道徳的なものから非人道的なことまで。全てを混ぜて歓喜する。

 

 

 

そして、だからこそ彼女は気づかない。

自身から伸びる影に異常なほど巨大な二つの突起が頭から伸びていたことに。

 

 





相変わらずの出来ですが読んでいただきありがとうございます。

本作の主人公、ウルレシュテムですが。
まず、彼女には己の性別という概念が既にありません。
平気で有馬さんみたいに脱いだらすごいみたいな筋肉を目指す(ゴリラ案件)
みたいなことを平気で実行するのもここにあります。

彼女の魂は浄化は受けませんが代わりにその状態を維持するために肥大した部分の一番古い箇所を削がれて輪に入っていきます。そのため一番古い記憶である始まりのあたりは在ったことはわかっていてもどんなものかはもう思い出せないといった状態です。
元々の自分は男だったのか女だったのか、それすらも思い出せないので自分の自意識すらどちらの物だったのかわからない。転生のし過ぎで摩耗しかけのところにほかの理からの介入という今まではなかったことがあったため多少の期待はしてますが、それもあくまでも多少程度。諦めながらも内心では期待せずにはいられない。
それが彼女です。


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変化と天の帯

詰め込み回?です。

まあいうほど詰め込んでないかもしれませんがどうぞ見ていってください。



ーーーして。

 

 

ーーーおーーーして。

 

ーーーわーーがーーーだーーうことを

 

 

ーーーってきて。

 

わたしーーーに。

 

か え っ て き て

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

ーーーあたたかい/暗い夢をみていた気がする。

 

無性にかえりたいと思うようなそんな夢。

 

帰りたかったのか、はたまた還りたかったのかは、もうわからなかったけれど。

 

ぼんやりと幸福な微睡みが徐々に醒めていくのを見送る。

 

窓...のように空けられた壁の隙間から差し込む光と寒さが朝だということを知らせてくる。

 

「かえってきて・・・か。」

 

最近奇妙な夢を観る。

 

暗い水底の夢。

不思議と恐怖はない。

 

沈んでいくのに。

なくなっていくのに。

 

恐怖はないのだ。

あるのは安心だけ。

 

引き摺られていく。

引き込まれていく。

 

けれどしばらくしてから別の声が聞こえてくる。

 

ーーーいかないで。

 

ーーーひとりにしないで。

 

そこで徐々に降下していっていた自身の意識が浮上する。

 

そんな夢をここのところ繰り返し観ている。

 

いや、実際には以前から観ていたのだが最近は特に頻繁になってきている。

 

「・・・まずいな。」

 

確実に何かに引っ張られている。

それもとんでもないものに。

正直あの終わりの声がなければかえってこれるかも怪しい。

早急に対策を考えなくては、とまで思いながら身を起こそうとする。

 

動かない。

 

もう一度試してみる。

 

やっぱり動かない。

 

掛布をめくってみた。

 

さらさらとした朝日に輝く金髪。

太陽神シャマシュに与えられた至高の容姿を持った自慢の弟。

そんな弟が、自身の腰に抱き着いて眠っていた。

 

ZENRAで。

 

すやすやと眠るあどけない寝顔はかわいい。癒しだ。

 

だがこの弟ZENRAである。

 

拘束から抜け出そうと上に這いずるように手に力を込める。

 

「あ、姉様。おはようございます。」

 

目を覚ました弟がへにゃりと笑って挨拶をしてくれた。かわいい。

だが、その前に。

 

「おはよう。とりあえず服着ようか。ギル。」

 

こうして、一日が始まる。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 

こんにちは皆さん。ウルレシュテムです。

 

最近わたしだったのが(ボク)になりました。

背が伸びました。体の構造が女性的になってきました。

でも筋肉はいまだにつきません。何故。

 

ようは現在(ボク)は幼年期から青年期に差し掛かる途中だということなのだと思います。

正直成長するのはありがたいのですがこの厨二じみた口調にはあまりなりたくなかったです。できればもっとまともな成長がしたかった。

 

あれから道具作成(笑)の幅も広がりました。

おかげで現在(ボク)の部屋のキッチンは旧式の物からシステムキッチンに、調理器具もフライパンや包丁など着々と進化を・・・と、失礼。

(ボク)の部屋はちょっとこの時代の方々にはお見せできないことになってしまいました。王を退位するときにここも撤去しなくては。

え?電気はどうしたのか?代替品として魔力を使っています。

 

あ、クインケ造りの方も順調ですよ。あれからちゃんとユキムラ1/3(モドキ)とナルカミ(モドキ)作りましたし。フクロウは・・・これっていう材質にまだ巡り合えてないんですよね・・・。

残るIXAは作ったんですがモドキどころか全く違った代物に・・・。

出来心だったんです。作ってるうちに楽しくなっちゃったんです。

材料は(ボク)の髪。それに(ボク)の象徴でもある天の糸をより合わせて編んで(ボク)の血に浸してを繰り返してできた『天の帯』。

自動防衛機能と遠隔操作とあらゆる形に成る変換能力を持つ武器であり防具。

おまけとしてこれを装備しているとあらゆる状態異常を無効化する。壊れ性能だ。

 

そも、(ボク)は裁定者ではなく調停者。

神々が裁定を前にしての最後のあがきとして生んだ。神と人とを繋ぎ、留め、結ぶ者。

天の帯(これ)ほど(ボク)にふさわしい武器もないだろう。

 

ちなみに天の帯は(ボク)の戦装束にも転用している。

不測の事態においては天の帯(補充用)にもなってくれるのだがいかんせんそれをしてしまうと必然的に布地の面積が狭まってしまうため基本しない。

特攻掛けるとかなら話は別だが。

ついでにいえばこの戦装束。発案当初は有馬さんと同じ白のロングコートに黒のスーツっぽいものをと考えていたのだがギルガメッシュ含め臣下から頼むからもっと重装にしてくれと嘆願されて諦めたという経緯を経て作ったものである。それでもだいぶ軽装なのでいまだに皆ハラハラしている。そんなに心配しなくても敵の首級ぐらいとってこれるのに・・・。そんなに頼りないのだろうか。

 

周囲も各々で変わっていっているらしく、特に近くで見ていたためかギルガメッシュの成長が著しいように感じる。背もだいぶ伸びた。・・・いつか追い抜かされるんではというちょっとした恐怖を覚えるほどに。さすがに青年期並というほどではないけれど。

 

 

と同時にあーもうそろそろ世代交代の時期かなーとか思ってたりする。

なんかちょこちょこ王務の引継ぎみたいのあったし?夢にもちらちら神様出てくるし?

そうだよねーだいたい自分が王務引き継いだ時と同じような年齢になったもんねー。

 

どうせなら残り僅かな在位期間は日記を書いて過ごそうと思う。

たぶん(ボク)はきっと、王位を返上したらよくて追放。十中八九適当な理由で粛清されるという末路が待っていることだろうし、何か残したいからさ。なんてね。

 

 




子ギル君とオリ主の間には明確ではありませんが年に開きがあります。

後継機を作るときに時間がかかったのもあって10歳とまではいかなくても割と。


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王務備忘録という名の日記

天の牡牛も女神も目じゃない。

そんな超進化を遂げた我が家の主人公。
力はキャスターっぽいのに筋力とか敏捷がセイバーとかランサーレベルというクラス詐欺サーヴァントになりそう。


〇月◎日

 

 

女神イシュタルと遭遇した。

ウルク上空を天舟マアンナに乗ってうろついていたのを敵襲かなにかかと勘違いした(ボク)が撃ち落としてしまったのが始まりである。

普通ならこの時点で神罰ものなのだろうが墜落時に強く頭を打ったらしい女神様は直前の記憶をなくしていた。ラッキーである。

何が目的なのか聞いたところ最近評判のウルクの王がどんな奴か見に来たのだそうだ。

おい、評判ってなんだ評判って。

 

 

 

〇月✖日

 

 

イシュタルに撃ち落としたのが(ボク)だとばれた。

おいだれだチクったやつ。

おかげでイシュタルがエビフ山騒動もどきをかまそうとウルクに侵攻しようとしてくる始末。後始末がめんどくさい。せめて決闘とかの方が被害が抑えられていいんだけど。

結局天舟マアンナと天舟(試作)との打ち合いになった。ウルク上空でだが結界を張り巡らせたおかげでウルク自体にダメージはない。

散々打ち合った後、お互いに何やってたのかわからなくなって和解した。

天舟の実物も見れたし、試作のデモンストレーションにもなった。ほんといい経験になった。

 

 

 

△月◎日

 

 

あれからすっかりイシュタルと茶飲み仲間になってしまった。

最近ギルをよく目で追っていたので興味があるのかと聞いてみた。

あれは御せなさそうだしいらない。ときっぱりいわれた。

それにと続けようとしてちらりとこちらに目線をやるとなんでもなーいといってお茶をすする。おい、いったい(ボク)に何を観た。

 

 

 

□月△日

 

 

最近夢見が悪い。いや、別に悪夢とかではないのだがなんだかもう戻ってこれなさそうな感じがするというか。こうして日常生活が送れているのが無事だというこの上ない証明なのだが。以前観た夢に対しての対策は一応お守りを作るなどしているものの効果が出ているかは不明なままだ。ギルが添い寝をやめて自室で一人で寝るようになったため余ってしまったスペースを見て少し心細くなってしまった。人の温もりが恋しい。

 

 

 

 

✖月△日

 

 

イシュタルがお出かけに誘ってきた。正直ろくなことにならなさそうだがアヌ神からも娘をよろしくとこの間言われたばかりなので支度をして出かけた。

 

・・・ら、なんか険しい崖みたいなところでドラゴンっぽいのとご対面からのバトルになった。肝心のイシュタルはやる気満々だし。貴様の狙いはこれか。

 

なんでもイシュタルはその瞳が欲しいらしいが力の加減がうまくできないため勢い余って消し飛ばしてしまう可能性大。さてどうしようかとなったときに自分と戦える(ボク)が思い当たったのだとか。

 

めんどくさかったのでブレスを躱しつつ首を切り落とした。終了。

 

取り分はイシュタルが両目、その他はすべて(ボク)の。

こんなにもらっていいのかと思ったのだがイシュタルが欲しいのは瞳だけだから後は好きにしていいとの言葉をもらったため有難く素材の足しにすることにした。

得した。

 

帰って早速クインケ造りに取り掛かる。せっかくの竜種の素材なのでその炉心としての性能を生かしたものにしたい。

 

 

結果、ロッテンホロウもどきができた。あのままのチェーンソウ型だと隙もできるし重くなるだろうから可能な限り小型化した。

 

 

 

✖月□日

 

 

自主練をギルに見られた。質問攻めにあった。主に武器の出所関連。

あんまりにも勢いがありすぎて恐怖した(ボク)はつい自分が造ったといってしまった。らんらんと目を輝かせる弟をみてそう言えばコレクターEXだっけと、自分の失言を悟った。取り敢えず(ボク)に勝ったら何か武器を作ってやるという約束をすると

それなら一石二鳥ですねとか言ってから退散していった。

まるで嵐のようだ。こわい。

 

キシュの軍勢が国境を侵攻してきた。折角のお茶の時間を邪魔されたのでイラついてつい天舟から射撃というか光の矢をブッパしてしまった。

一発で軍勢を無に帰した。よし、・・・国境も更地になってしまったが。

ま、まあ、こちらの犠牲者はいないわけだし大丈夫。

・・・(ボク)は何も知りません。

 

 

 

◎月〇日

 

 

あれ以降ギルが度々勝負を仕掛けてくる。

こころなし目が生き生きとしているのを見てあれ?これ疑似親子(有馬排世)ごっこできんじゃね?と思った。きっかけはきっかけだが物は取り様である。

身体ズタズタなんていうのはしょっちゅうなのだがそれでもギルは諦めずに向かってくる。スゲーなその根性。お手製の霊薬もあるから怪我はすぐに直せるのだが。奴には恐怖とかあるのだろうか。

 

 

キシュの王がなめた手紙をよこしてくれた。

曰くいつまでも繋ぎの小娘に頼ってるとか俺のとこの属国の自覚あるの?このままだとそっち荒らしに行くよ?まあ、隷属の証としてその小娘献上するなら辞めてもいいけど?(意訳)みたいな。

届けに来た使者も使者でこっちを品定めするような目で見てニヤニヤ。

即座に魔術で気絶させて焼き鏝持ってこさせた(ボク)悪くない。

くっつけたとき有機物の焼ける臭いと共に悲鳴が上がったがもう一回気絶させる。それを紐で縛って天舟に乗り込みキシュ上空へと移動。生成した矢に外殻を形づくるとそこに先程縛った使者を括りつける。そして思い切り引いた。放たれた矢は王城前に落ちる。

任務完了を見届けた後そそくさと帰った。

人目につかないようにと森で時間を潰し夜闇に紛れて室内に降り立つと丁度ギルガメッシュの部屋だったらしい。何度か撫でて部屋を立ち去る。

癒された、今日はいい夢見れそう。

 

 

 

☆月□日

 

 

伝言が効いたのかどうかはわからないがあれからキシュは沈黙を続けている。

このまま何事もないことを願う。切実に。

 

相変わらずギルガメッシュと(ボク)の手合わせは続いている。

けっこういい感じに強くなっていっている。

この調子ならいつか本当に(ボク)を    くれるかもしれない。

楽しみだ。ああ、楽しみ。早く強くなっておくれ。

子は親を裏切るもの。

上は下を守るもの。

なら、(ボク)あの子(ヤツ)は?

関係性がなんにしろ。

できることなら神などではなくかの人に   してもらいたいものだ。

 

 

 

★月〇日

 

 

とうとうこの日が来た。ギルガメッシュに王位を継承し、(ボク)が王位を退く日が。おそらく奴なら私よりもウルクを発展させよい国を築くだろう。

結局勝負に関しては(ボク)の勝ち越しとなってしまった。

式が終わってからすぐに自室に向かった。なんせ今日中に迎えが来てしまうため時間がない。既に部屋の中は任に着いた当初の姿に戻っておりシステムキッチンなどの未来からの逆輸入じみたものは一切排されている。よし、あとはこれだけだ。

グッバイウルク。いい王になれよギル。

楽しかったよ。

 

 

 

簡素な箱に納まったそれとウルレシュテム・・・正確にはその髪を見てギルガメッシュは固まっていた。

「ね、姉様。これは・・・というよりその髪は」

 

「ん?ああ、これですか?」

造るのに少々と言って軽く自身の髪を梳くウルレシュテム。

彼女の髪は長さこそ変わっていないものの髪の色が元の黄金ではなく白銀へと変化していたのだ。一本も金は見当たらない。

 

ギルガメッシュが2歩、3歩とふらふらとウルレシュテムに近づく。

「姉様。」

「はい。」

「これ・・・は?」

ウルレシュテムがそんな呆然としている弟に向かって手招きをする。

そのままの足取りで近づいて来る弟が手の届く距離まで来ると優しく抱きしめた。

「ギル、ギルガメッシュ。(ボク)の愛しい弟。」

優しく、だがしっかりと抱擁する。

「きっとこれから貴方は王として様々な者と出会い、学び、関わることとなるでしょう。」

それは姉として諭すように。

「それはきっと良いものばかりじゃない。この世には良いこともあれば理不尽なことも山ほど存在している。特に貴方は他者より多くのものを持っているからこそ、その理不尽に突き当たってしまうこともある。」

母が子を案じるように。

(ボク)はそんな肝心な時に貴方の傍にはもういてあげられない。だから、代わりにこれを受け取ってほしいんだ。」

改めて箱をぐっと手に押し付ける。

そのまま振り返ることもせずにウルレシュテムは部屋を出て行った。

神々の使者が待つ広場へと。

ギルガメッシュはその箱を開けた。

中には姉が大切に、何より誇らしそうに使っていた天の帯が入っていた。

唯一姉が所有していたものと違うのは帯の色が一片の隙も無く輝かんばかりの黄金(・・)だったということだ。

帯を腕に巻いて走り出した。

せめて、この姿だけでも姉に見せようと。

ところどころにいる使用人に姉の行き先を訪ねながら走っていく。

やっとの思いで広場に着いた頃にはもう姉は迎えの者たちとともに姿を消していた。

 

悔しさやらいろんな感情が入り混じる中でポツリと言う。

「見ていてくださいね。姉様。」

立派な王になって見せますから。言って、餞別の帯をギュッと握った。





主人公はギル君にあげた天の帯(正確には二式)を作るにあたって時間がなかったため急ピッチで作った結果魔力を与えすぎて黄金に輝くとんでもねー代物を作ってしまいました。
そのため魔力の与えすぎで銀髪になってしまいます。
本人はこれで有馬さんにまた一歩・・・よっしゃー。
ですが傍から見たギル君は僕のために姉様が・・・姉様の髪が・・・という感情の落差。
ことごとくすれ違っています。でも最後のあれ、あれはきっと本心のはずです。


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神代編
ある王の手紙


感想、お気に入り、投票ありがとうございます。

それぞれの件数を見て思わずリアルで叫んでしまいました。

怒られました。ごめんなさい。

拙い文章ではありますが今後ともよろしくお願いします。

では、少し早い気もしますが新章をスタートしたいと思います。


姉様へ

 

 届かないと思うのでしまっておきますが、もし姉様が帰ってきたとき不備がないよう近況報告の手紙を書くことにしました。

 僕が王になってからしばらく経ちますが、いまだに僕含め皆時折姉様の名前を口にしては口を噤んでいます。王位が移ったのは承知の上ですが姉様がいないという事実がまだ飲み込み切れていません。どうしたものでしょう。

まあ、王務に支障はないのでしばらく放置したいと思います。

 

                                 ギルガメッシュ

 

 

 

 

姉様へ

 

 姉様・・・後始末ぐらいちゃんとして行ってください。

今日たまたま王の寝室の衝立を移動させたら仕掛け階段が出てきました。

閉まらないようにつっかえの棒をねじ込んで下に行ったら地下室があったんですが。

すごく怪しげな工房みたいだったんですけど、いったい何してたんですか。姉様。

まだ数種類薬品があったようなのでいただ・・・没収します。

自分で試すのも怖いので気になる薬品を丁度よさげな牛がいたので飲ませてみました。

・・・雄叫びみたいな鳴き声と共に牛が狂暴化したんですが。

いえ、ここまでは予想の範疇内です。

けど、滅茶苦茶な細胞増殖による身体強化とか。貴方どれだけ筋肉に憧れてたんですか。

牛は牛で肥大し過ぎた胴体を支えられなくてただの肉塊と化しちゃうし・・・。

その死体を啄みにきた鳥は食べた瞬間同じ様な肉塊になって飛べなくなっちゃうし・・・。ほんとに何してたんですか姉様。

 

                                 ギルガメッシュ

 

 

 

 

姉様へ

 

 最近時間がないので食事の片手間に書いています。

食べかすとかついていたらごめんなさい。

こんな行儀の悪いことをしているときっと姉様がいたら食事中なんだから食べることに集中なさいとか言って引っ叩かれそうですね。あの頃が懐かしいです。

姉様が作ってくれたニホンショクが恋しいです。

姉様は似せただけの別物だと言っていましたが本物はもっとおいしいのでしょうか・・・。

できればこの王務から抜け出して食べてみたいものです。

・・・王務が終わりません。いえ、終わるんですが空き時間がありません。

切実に一人の時間が欲しいです。

朝も昼も夕方も食事以外は王務に追われ、夜は夜で知らない女の人が僕の部屋にやってきます。一夜として同じ顔の人に会ったことがありません。なんでも今夜のお相手?なんだとか。

疲れているしめんどくさいので適当にお話しして朝になったころに帰ってもらっています。

僕、お悩み相談所じゃないんですけど。

今日も寝不足です。王様にも休みがあればいいのに。

 

                                 ギルガメッシュ

 

 

 

 

姉様へ

 

 王務の量が落ち着いてきました。

成長痛で全身がギシギシです。痛い。

それでも今日はイシュタル神の祭事の日なので現場含めみなめまぐるしく働いています。

ともかく量が多いので足りるかどうか不安なものが多々・・・。

 三日ぐらい連続で寝所にやってくる女の人。ぐいぐい来るので苦手です。

なんでも彼女、割と高い地位の貴族の御令嬢なんだとか。

どうりで三日も連続で来れる訳ですね。納得。

今日は僕の寝台に無断で入り込んで待ってました。正直やめてほしいです。

香水の臭いが染みついて眠れなくなりました。おえ。

姉様みたいな匂いが当たり前だと思っていたのですが認識を改める必要がありそうです。

もう眠れないので前立ち寄った地下室に行くことにしました。

姉様の匂いがするので落ち着きます。・・・時々それとはまったく別の変な臭いもしますが。取り敢えず僕は元気・・・かどうかはわかりかねますが生きてます。

  

                                 ギルガメッシュ

 

 

姉様へ

 

 イシュタル神が最近頻繁に僕のもとにやってきます。

要件を聞いてもべっつにーと言って結局お茶して帰っていきます。僕何かしたんでしょうか。一応、イシュタル神の神殿への供物の量を増やすことにします。

どうか何もありませんように。姉様の所に行ったほうが、いいと思いますよー。

場所わからないですけど。

 

                                 ギルガメッシュ

 

 

 

姉様へ

 

 最近周囲とのズレが顕著になってきました。

女の人をお話ししてはそのままさよならする僕にある臣下からなぜ王はお子をお作りにならないのかと言われました。ああ、あれはそのための人達だったのかと思いつつ必要ないからと返すと何事も先をみて~云々説教的な何かが始まりました。

僕千里眼あるんで先読みについては困らないんですが。

その補足をするように別の方からも声が。

王がいかに優れているかわたしたちは知っているが、それ故に頼り切っているのもまた事実。王は戦場に置かれましてもわたしたちの導になっていただいています。が、それ故に怖いのです。もしあなたを遠からず失ってしまったとき我々がどうなってしまうのかが。故、目に見える形の安心が欲しいのです。と。

人間って自分の事で手一杯なんですね。姉上。

 

〈ここから先は何故かインクで塗りつぶされている〉

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 

「ふん、何が安心か。正直に我の保険が欲しいと言えばいいものを。」

 

 

いまだ幼い貌には不釣り合いな凶悪な笑みがそこには在った。

 

足元には今しがたまで執拗に言い寄ってきた女の肢体が転がっている。

その体を中心として白の掛布と衣服が真っ赤に染まっていく。

瞼の動きも呼吸も先程止まったばかり。

死にたての、死体である。

凶器の類は見受けられない。

 

それを見て再度嗤った少年は唐突に目を瞑って一拍おくと再び目を開いた。

そこにはもう先程のような悍ましさはない。

 

「あれ?なんだか一瞬意識が飛んだような・・・?」

 

そして、足元の死体に気が付く。

 

「あややー。随分派手だなあ。いったい誰の仕業なんだか。」

 

取り敢えず人を呼んで片さないと。と少年は使用人に声を掛けようと回廊に出た。

 

ここで何があったのか、死体は自殺したのか殺されたのかは。

死体と、もう一人の人物しか知りえないことである。




今回は一方的な手紙形式をとらせてもらいました。

ちなみに主人公の事を子ギル君は姉様ですが青年体の方は姉上と呼んでいます。
一応これはプロローグだと思ってください。


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天の鎖と泥


エルキドゥの人としての姿のモデルとなった聖娼婦シャムハトさん。
fateの世界のエルキドゥを見ても美人だし。そうでなくとも叙事詩の説明の中で野人だったエルキドゥを魅了してみせるというとんでもない方だ。こっちもきっとすごい美人だったんだろう。けれど大体の資料には彼女は比較的下位の聖娼婦だったと書かれている。

 彼女を下位だとしたら上位の方々はいったいどんな人達だったのだろう。
それとも神代のメソポタミアには美人はありふれた存在としてそこら辺歩いているようなものだったのだろうか。

すごく、気になります。


 

 こんにちは皆さん。お久しぶり、ウルレシュテムです。

 

ウルクを離れた(ボク)は今杉の森に住居を構えています。

そう、叙事詩に出てきたあの杉の森ね。

あの、フンババっていう番人のいる森。

そこに、住んでる。

 

たぶん(ボク)が余計な事したり、逃げ出したりしないかの見張りの役割もかねてここにしたのだろうけれど。

君も大変だねと同じ森にいるのに一回もあったことのない番人を憐れむ。

 

「さて、仕事の続きをしましょうか。」

 

言って、思い切りたたきつける。

 

何を?

 

粘土を。

 

(ボク)は今ひたすら粘土を捏ねています。たたきつけるごとに少し飛び散っているのはご愛嬌。

 

何故(ボク)がこの作業をしているのか?

 

神様が仕事しないからさ。あはは。

 

 

・・・夢の中に久々に(ニンスン)がでてきまして。

なんでも最近ギルガメッシュの様子がおかしいのだとか。

短くまとめると弟がグレそうだからお姉ちゃん何とかして。といった要件だった。

できる訳ねーだろ。何言ってんだ。と、弟の平行世界(原作)の姿を知っている(ボク)は当然の如く拒否した。もっともらしい理由もつけて。

(ボク)の出る幕じゃねーよ。朋友さんだよ。今必要なのは。

しかし母は食い下がる。アルルの粘土あげるから、と。

言いながら(ボク)に無理矢理粘土を手渡し去っていった。夢の中だけど。

押し付けられたあああ。

参加不可避じゃねえかっ。

つか、仕事しろや(ニート)どもおおおおぉっ

 

ゴシャアッ

 

「あ」

 

粘土・・・三分の一紛失した。

やばい。

どうしよう。

あたりを見回すと丁度自身の影になっているあたりにぬかるみができており、いい感じの泥が溜まっていた。これなら・・・いけるっ。

どうせ作るなら自分の好きなものがいいよねっ。

 

 

結果。物の見事に怒られました。

曰く誰がこんな怪物造れって言ったよっ。もっとまともなもん造れ(意訳)だとよ。

ちぇっエルキドゥはもともと野人で人からはかけ離れた毛むくじゃらの生物だったって言うからせっかくならとエトさん(赫者)もどきを作ったのに・・・。けーちけーち。

 

「かあ・・・・さん。」

男か女かもわからないくぐもった声で(ボク)を呼ぶ。

ちなみにこの子知能がとんでもなく高い。教えたことはすべて吸収する。

・・・何故(ボク)の事をかあさんと呼ぶのかはいまだ謎だが。

いや、間違ってはないんだけどね?

 

「どうしたんです。エルキドゥ。」

「おな・・か・・・・すい・・・た。」

まだまだ発音は稚拙だがもう普通に単語ではなく文章を使える。

我が子ながらすげえ。と同時に思う。

もったいないのではないか、と。

 

「・・・エルキドゥ。」

「?」

「人みたいに・・・なりたい?」

「?」

 

言われていることの意味がいまいちわからないらしく首を傾げている。

なんだかかわいい。

 

(ボク)みたいになりたいかってことですよ。」

 

しばらくぎょろぎょろと隻眼を巡らせた後ガパリと口が開いた。

「かあ・・・さん・・と・・なじに・・・なり・・・たい・・な。」

 

目を細めて、その巨体をできうる限りの高さで撫でる。

さて、そうと決まればやはりモデルはシャムハトさんだろうか。

なんにしろこれからさらに忙しくなりそうだ。

「・・・わかりました。まずご飯にしましょう。」

今日は肉じゃが(もどき)ですよ。というと嬉しそうに巨体が揺れた。

かわいい。やっぱり、このままではだめだろうか。




はい、この話の中にあるようにこの作品のエルキドゥは主人公作です。

ギルガメッシュに対しても今回の件(エルキドゥ)に関してもマッチポンプ的な存在になってます。

ちなみに何故フンババと主人公が出会わないのかに関しては向こうが本能的な所で会ってはいけない相手として認識しているからです。強い強くないとは別のところで。


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女神の来訪

ある一説によるとシュメール人は手フェチだったのだとか。
・・・ということは前回言っていた美人の基準の中には手も含まれていたのだろうか。
やっぱり美の基準ってわからない。



「そこ、溢さないっ。」

言って思い切りハリセンもどきを叩き付ける。

「ぶふっ」

モロに入ったエルキドゥが吹っ飛んでいった。

現在(ボク)はエルキドゥに人間としての教育を施している最中だ。主に食育?の。

え?スパルタすぎる?虐待だ?

いやいや。呼び掛けようと軽く小突こうとびくともしない犬食いしている輩にどうやって注意しろと?

この子の耐久性は、作り出してからずっと一緒にいる(ボク)は知っている。

そう、下手したら逆にこちらが吹き飛びかねないというと言うことも。

頼むからぼろぼろ溢しながら犬食いとか止めてほしい。

折角シャムハトさんモデルにして人型にしたのに。

美人が一瞬で台無しだ。

 

衝撃から立ち直ったらしいエルキドゥが頬(当たった個所)をさすりながらこちらへ歩いてくる。

「ひどいなあ。いてて」

「折角人の姿になったんです。ちゃんと手を使った食事の仕方を覚えましょう。」

それとわざとらしく痛がるのはやめなさい。と言うと途端にあ、ばれた?っといたずらっ子の様な笑顔を返してくる。これで顎やら頬に食べカスがなければほんとに絵になるんだが。現実は残酷である。

 

「うーん。どうして人はわざわざ手を使って食事をするのだろう。

器さえあればあとはそのまま顔を突っ込んだ方が横取りもされないし、より食べ物のおいしさを感じられると思うんだけど・・・。」

「いや、人は味を感じられるのは舌だけだから。顔突っ込んでも顔面じゃ精々感触と息苦しさくらいです。あと、匂い。そもそも横取りするような輩自体いませんよ。少なくともここには。」

 

母さんが言うならそうなんだろうけど・・・と納得いかなさそうなエルキドゥを余所に自身の足元に目線を移す。

エルキドゥを作ったときに用いた泥。後で同じ場所を見に行っても何もなかった。

不審に思って辺りを散策してみたがやっぱりどこにもそれらしきぬかるみは見つからない。・・・今更ながら(アルル)から譲渡された粘土にそこら辺の泥なんていう不純物らしきものを混ぜてよかったのだろうか。一応神の所有する森の物だが。

ちらりとエルキドゥに視線を戻すとそこら辺の木に寄りかかってライオンと話し込んでいた。エルキドゥを前にして逃げない動物なんて珍し・・・ライオン?ライオンッ!?

ここに来てから見た動物の中にライオンはいなかったはずだ。ということは・・・。

 

「こんにちは。ご機嫌いかが?ウルレシュテム。」

「・・・やっぱり貴女ですか。イシュタル。」

 

今度は何しに来たんだ天災女神。

前回の来訪の時にエルキドゥの分までお茶菓子独り占めしやがって。

おかげであの後宥めるの大変だったんだからな。

 

「へー君も大変なんだね。あんな年甲斐もなく放蕩してる年増に連れまわされるなんて。」

おいそこの泥んこ。本人の前でデマ言うな。随獣のライオン困ってんだろ。

 

「・・・なんだか外野が少し煩い様ですがまあいいでしょう。私はただ様子を見に来ただけですから。」

 

様子を見に来ただけ?十中八九送り込んだのはアヌ神あたりだろうがイシュタルの様なただでさえ扱いずらい上位の神をただ様子を見るため(・・・・・・・・・)だけに派遣するなんてことがあるのだろうか。

 

「それと伝言です。アヌ神が近々そこにいる人形には嵐の中に飛び込んでもらうことになりそうだから調整を完了させておくようにと。」

 

「はあ。嵐・・・ですか。」

嵐と抽象的な表現が用いられているが、今のところ神々が手をこまねくような問題なんてきっとアレのことぐらいだろう。好きにさせればいいものを。

 

「あら、怖い顔。ふふ、安心なさい。今のところ順調にいい男に育っていましてよ?貴女の教えの賜物かしら?最近は余裕(・・)も出てきて・・・見ていて飽きないわ。」

 

まあ、いまだに欲しいとは思わないけれど。と続ける目の前の女神に溜息をついた。

 

「君の大丈夫、安心の類は全然大丈夫ではないんですが・・・まあ、こちらも手段がないのでどのみち現状維持の様子見ですね。」

「何なら私が・・・「様子見で」まあ、つれませんね。」

その先は言わせない。聞いたが最後共犯者にされてうまいこと利用されて事態の収拾がつかなくなるなんてことになりかねない。

伝えるべきことは伝えたので私はこれでとまで言うと再度天舟を起動させ去っていった。

去り際にエルキドゥがその辺の土塊投げつけようとしてたから経験者として必死に止めた。どんだけ根に持ってんの君。誰が後始末すると思ってんだやめろ。

「ねえ、エルキドゥ。」

頬を膨らませて不貞腐れているエルキドゥ(我が子)に話しかける。

「明日いいものあげるね。」

へ?いいもの?食べ物?と目を輝かせるエルキドゥ。

期待させてごめん。食べ物じゃないんだ。

エルキドゥのサラサラの頭をなでながらアイツ何やってんのかな。そろそろ結婚適齢期のはずだけど嫁さんとかいるのだろうかと弟のことを考えた。できることならこんなおばさんのことも笑顔で姉様と呼んでくれる可愛い子だといいな・・・中身を別として容姿なら隣にいるこの子みたいなかわいい子。そうだ、シャムハトさん・・・はダメか。仕えてる身だしね。あー誰かいい子いないかな。




叙事詩内でも悔しそうにしてるイシュタルに向かって肉を投げつけるほど仲の悪いエルキドゥですがこの作品内でもやっぱり仲悪いです。
主に食べ物の恨み的なもので。

そして姉は意図せずして今弟を取り巻いている状況に関して考えを巡らせているわけです。全然疎通はできないけれど。
イシュタルに至ってはただただ面白がっているだけというカオス。


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僕と我の日記

今回はギルガメッシュの日記です。

だいたい主人公が出て行ってしばらくたったころからくらいですかね。

たぶん・・・。




〇月□日

 

 

最近記憶が飛ぶようになった。

姉様がいつだったか父上のお話をしていたときに聞いた認知症という病。

その認知症に、僕は罹ってしまったのだろうか。

確か姉様はあのとき不治の病だとか言っていた気がする。

そのうち記憶障害だけでなく妄想とともに記憶改竄までするようになる恐ろしい病・・・。

どうしよう。退位すべきなんだろうか。

でも僕の後継はまだいないし・・・姉様帰ってこないかな。

そしたらきっとおしつ・・・安心なのに。

 

 

 

〇月◎日

 

 

イシュタル神がお茶をしにやってきた。

頻繁に訪ねてくるけれど神様って暇なのだろうか。

今日は茶飲み話に姉様とヤンチャしていた時(本人は姉様がヤンチャだったって言ってるけど実際はどっちもどっちなんじゃないかな)の話をしてくれた。

ある時イシュタル神の寝所に盗人が入り枕を取っていってしまったんだそうな。

なんで寄りにもよって枕なのかは謎だけれど。

で、これに切れたイシュタル神が盗人を追っかけていた・・・。

ここまではよかったが盗人はそこで大蛙に丸のみにされてしまったらしい。

お気に入りの枕だったので諦めきれないイシュタル神はそのままウルクで執務に勤しんでいた姉様を無理矢理引っ張り出してきて対応をお願い。

姉様は溜息吐きながら団子のような何かを蛙の口の中に放り込んで放置。

しばらくしてから胃袋ごと枕と盗人の骨(溶けかけの肉付き)が吐き出されたんだとか。

さすがに胃液付きの枕は嫌だったイシュタル神は結局新しい枕の材料探しに姉様と珍道中みたいなものを繰り広げたんだとか。

・・・苦労してたんですね。姉様。

 

 

 

×月△日

 

 

幼い我の書いている日記を見つけたのでかわりに書いてみることにした。

今日もイシュタルの奴が王務の邪魔をしにやってくる。

王務だけでも煩わしいが・・・その上で女神の愚痴の聞き役とは・・・。

姉上も幼い我もよくこれを続けられたものだ。面倒くさい。

適当に相槌を打っているとイシュタルがにやにやと笑っていた。

正直に気持ちが悪いぞというと失礼ね。あんたがあの子の身内じゃなければ今頃天船の餌食にしてたところよなどと言っていた。

いいのか?被っていた化け猫が剝がれているぞと言うとあら、失礼。今日はこの辺でと言って帰っていったが・・・。さて、あやついったい何をしに来たのだ?

 

 

 

×月◎日

 

 

キシュから使節団が送られてきた。

一緒に持ってこられた書状を見てあまりの内容に宝物の中の悍ましい呪いの宿った剣を手にしていた。流石に兵から止められた。

長老会の連中も様子見の姿勢を崩さない。

おのれ、いつか目にもの見せてやる。

・・・そういえば使節団の中の一人がひどくおびえた様子だったがなにがあったのやら。

 

 

×月★日

 

 

なかなか法案が通らない。青年会までは快諾してくれるが長老会ですべからく却下される。

苛立ちが募る我の元に言い寄ってくる女が増えた。更にストレスが追加、蓄積されていく。

いや、耐えるのだ我。姉上と約束したではないか。

あと、言い寄ってくる女ども。お前ら長老会と神々からの差し金だろう。

我に取り入って上手いこと操ろうとしていることはお見通しだ。

残念だったな。ふははははははっ。

・・・周囲にまともな人間がいないときはどうすればいいのでしょう。姉上。

 

 

□月◎日

 

 

姉上、姉上。姉上。

切実に姉上に会いたい。

もう我ヤダ。法案通らないし、出かけられないし、変なやつが言い寄ってくるし。

姉上・・・姉上っ。

 

姉上の捜索隊を編成。出立させようとしたがまたも長老会の連中に却下された。

おのれおのれおのれっ。我と姉上の逢瀬を邪魔立てする気かっ。このクソ老害どもめっ。

・・・気が付いたら人数が3分の1くらいに減っていたが我は何も知らん。

辺り一面が何だか赤い染料みたいなものが広がっていたがきっとどこぞから流れてきたのだろう。

我は知らんと言ったら知らん。

 

 

□月△日

 

 

今日もイシュタルが姉上の情報を持ってやって来る。

子どもが出来た(いる)ことを聞いたときは思わず金属の器を握りつぶしてしまった。手が滑った。

おのれ・・・名も知らぬ子雑種め・・・我の姉上を独り占めしおって・・・。

そんな我の様子を見て終始楽しそうにニヤついていたイシュタルが我と姉上が会えるよう便宜を図ると名乗り出たがそんな器用な真似がこやつにできるとは思えん。

 

・・・まさか断って尚強行するとは思わなんだ。絶対になにか企んでいるな。

それにしても姉上の子供か・・・子がいること自体は百歩譲っていいとして。

もしその子供につきっきりで我に構ってくれないなんてことになったら我間違いなく泣く。




この□月◎日時点で主人公はエルキドゥに食育(というより礼儀作法)を教えていました。
で、前回のイシュタルの介入となるわけですが、このとき既にイシュタルは父アヌからの命を受けていましたが、それとは別に主人公を森の外に引っ張り出すのはどうすればいいのかと考えた末ギルガメッシュをうまいこと焚き付けつつ、あたかもそれが本人の意思であるかのように神、主人公陣営に思い込ませるように言い方をうまいこと変えていました。・・・という裏があるわけです。
まあ、この話の中にこそ書いていないもののこの作品のギルガメッシュ。興味のあることにはとことん、それこそヒャッハーっ。みたいな感じなので度々無断で旅に出かけたりとかして周りを困らせていたので、一概にイシュタルだけが悪いわけではないです。
そもそも火のないところに煙は立たない。


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ある商家の青年H

今回は以前少しだけ出てきたある青年のお話です。

それと、さりげなく能力が徐々に開示されていく主人公。

全部・・・というか大体だすまでにどのくらいかかるのか。

先は(いろんな意味で)前途多難です。


 がらがらと荷車を押しながら歩く一団の姿がある。

皆一様に風避けのついた白の装いに身を包んでいるその一団は一見行商隊(キャラバン)のようだがそれにしては不自然すぎた。

陽射しの強い日中の装いとしてはごく普通の格好であるはずが、目元すら覆い隠す肩まである薄布と過剰なまでに肌を覆い隠す両の手のみしか見えない装束が異様さを放っている。

 そして、何よりも荷車の中身。

白の布で隠されてはいるが隙間からは食料品と龜に入った水と砂がみてとれた。

前者はどこぞの都市への行商なのだと納得出来ただろうが、後者は工事に使うと言えどわざわざ売りにいくにしては粗末なものだ。

いったい何に使うというのか。

 

荷車を押していた一団の一人が横を歩いていた同じく白装束の一人に近づく。

 

「隊長。もうすぐ奴の領域(テリトリー)です。」

 

平静を保った。しかし、それでも隠しきれない不安の滲んだ声。

その声に返す白装束はポツリと呟いただけだった。

 

「ああ、そうだな。」

 

部下と思わしき近づいてきた男が呟きしか返さない男に

戸惑いを感じていると、更に白装束の男は言葉を続けた。

 

「そう焦るな。迎えが来る手筈になっている。」

 

男が言い終わるのとほぼ同時に轟音が響き渡る。

否、巨大な何かの飛来によって地面が抉れ、轟音が響き渡ったのだ。

 

「やあやあやあみなさん。ヘアフスさん一行であってるかな?」

 

女か男か、老人か子どもかすら判別しかねる声が開いたまま動きのない何かの口から漏れる。

 

「ああ。」

 

男が顔の薄布を頭までずらす。

 

「久しぶりだな。エルキドゥ。」

 

男...ヘアフスが先程と変わらぬ平淡な声で言った。

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 何年か前。謎の子供と衝撃的な邂逅を果たしたヘアフスはジッグラトまで来ていた。

正確にはジッグラトへと続く道の途中。その地点を行ったり来たり。

 

 

 あの出来事の後、珍しく息を荒立てながら店に駆け込むように戻ってきた父親が自身の両肩を掴みガクガクと揺さぶった。

 

「お前、いったい王に何したんだっ。」

 

父親の勢いと剣幕に気圧された自身を置いてけぼりにして尚、話を進める。

 

「まあ、いい。いざとなればお前がだめでもスドムがいる。いいか、絶対に俺の顔に泥は塗るなよ。」

 

スドムとは自身の4つ下の弟の事だ。なぜここで弟の名前が出てくるのか。どうして跡継ぎである兄ではないのか。そもそも、いったい何のことを言っているのか。疑問は次々浮かび上がるが、自分が口を開くより先に父親が粘土板を置き、顎をしゃくった。

どうやら見ろと言いたいらしく、その通りに粘土板をのぞき込む。

刻まれている内容を読んで今度こそ固まった。

 

「王が、お前をご指名だそうだ。」

 

それは今のヘアフスには死刑宣告も同然だった。

 

 

 

曰く、神から与えたもうたその類稀なる美貌で男どもを意のままに操る魔性の女。

曰く、たった一撃でキシュの精鋭軍を壊滅させた護国の英雄。

・・・等々どれが嘘っぱちでどれが本当なのかわからないがその噂一つ取ってもとんでもない規格外、女王ウルレシュテム。

かたや、そこまで裕福ではないそこらの商家の次男(スペア)である自分。どこをどう取っても接点など見つからないわけだが、なぜ自分が選ばれたのか。

ヘアフスは頭を抱えた。

 

今朝から父親は「女王に見初められた。これで我が家にも箔が付く。」と上機嫌に母や弟に触れ回っていたし、兄は兄で差して興味なさげに「見初められたにしろ失礼があったにしろ下手したら首が飛ぶな」と平然と言ってのけた。

そして、母は母でどうしたらいいのか迷った結果。とりあえず精の付くものをと思ったらしく、いつもより朝から重めの食事になってしまった。

緊張から胃が重いのか、食事のせいで胃が重いのかわからないが気持ちが悪い。

というよりハッキリ言って逃げたい。しかし、それを許す父ではなく、身支度を整えるとすぐに家を追い出された。

 

そして現在。ヘアフスは逃げるべきか行くべきか決めかねていた。

逃げればきっとただでは済まない。自分だけではなく家族も。王族の命に逆らったのだから一族郎党問答無用で死体を晒すことになるかもしれない。

けれど、それは逃げなくとも同じではないのだろうか。それこそ、これから向かった先で本物の死刑宣告が待っているのかもしれない。

そう思うとまた身体が重くなった。

 

「迷子?」

 

突然の声に振り向くと先日の子供が背後に立っていた。

思わず後ずさる。

 

「きみ・・・はっ」

 

冷や汗が米神を伝う。

あの出来事が脳内で勝手に再生される。

心音が速度を上げ、より大きく聞こえる。

 

膨れる身体。

 

身体を這いずる何か。

 

風船。

 

風船に突起物を三つつけたような。

 

はじけ飛ぶ何か。

 

飛び散った肉。肉。赤が孤を描くように。

 

赤、赤。赤っ。

 

そこまで考えたところでポンと何かが、違う。目の前の子供の手が自身の肩に触れている。

 

「あ、ああ、あ。」

 

逃げられない。

 

逃げられない。

 

「ねえ、少し。落ち着こうか(・・・・・)。」

 

呟くように子供が言った。

 

「あ・・・あ・・・・・?」

 

嗚咽が止まる。まるで波が引いていくかのように不安が、恐怖心が引いていく。

おかしい。なぜ自分はこの自分よりも幼い子供に恐怖心を抱いていたのだろう。

この間、少しばかり(・・・・・)衝撃的な出会いをしただけ(・・)だというのに。

何かが変わったようなそうでないような曖昧な感情を持て余しつつ、もう一度子供を見た。

 

「落ち着いた?」

 

「へ?・・・あ。は、へい?」

 

返事をしようとして間抜けな言葉が口から零れる。

 

「・・・本当はジッグラトについたら話そうと思ってたんだけど。」

わたし、今日はあまり時間がないんだ。と残念そうに子供が言った。

どうやらこの子供もジッグラトに用があったらしい。

丁度いい。きっと一人で行くよりこの子と一緒の方がきっと何倍も(精神的に)心強い。

「なら、俺と一緒に行かないかい?」

「はい?」

子供が小首を傾げる。

そして、自分が今何を口走ったのか理解して弁解に走った。

「あ、待って。別にそういったことじゃ・・・いやあのなんというか。」

・・・ら、もっとしどろもどろになっていく。

傍から見れば完全に変質者じゃなかろうかと思いつつさらに言い訳をしようとしたヘアフスの耳がクスクスという笑い声を拾った。

「あ、いえ。ごめんっ・・・なっさ。ふふっ・・・。」

貴方のその反応、いいですね。と言った子供は失礼。と言ってぐるぐると己の頭部に巻き付けていた包帯のみを解いていく。目深に被っていたフードも外すと出てきたのは混じりけ一つない黄金に輝く髪。こういう時はせめて誠意として顔くらいは見せなきゃねと言って、噂の神より与えたもうた美貌が薄く微笑んだ。

「初めまして。厳密には先日ぶりですね。ヘアフス。

 わたしはウルレシュテム。此処の王をしています。よろしく。」

「  。」

その紹介を聞いてまずヘアフスがしたのはここにはまだない日本という国の文化。

土下座であった。

 

この後、貴方のその非凡なまでの平凡さが気に行っただの言いだしたウルレシュテムによって鍛え抜かれ、武器を与えられ、彼女の私設部隊の隊長に任命されたり。

 

訓練と銘打った国境防衛線に現地調達の木の棒一本で臨もうとする彼女に驚愕したり。

 

彼女の命を狙ってきた暗殺者集団に囲まれた状態で戦闘態勢のまま仮眠をとっている彼女を傍目に部下に指示を出したりと彼女によって様々な出来事に巻き込まれていくこととなる。

 

すっかり人が変わってしまったかのようなドライな姿勢で彼は言う。

「はあ、いつもこうなのか?そうだよ。いつもこうだよ。あの人(我らが王)は。」

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

「ああ、よく来てくれましたね。ヘアフス。皆もお久しぶり・・・とそっちの人は新人ですか?エルキドゥもお疲れさまでした。」

 

エルキドゥに案内されたヘアフスたちは女性・・・ウルレシュテムにぺこりとそれぞれ頭を下げた。

一番早く頭を上げたヘアフスが粘土板を持ってウルレシュテムに近づく。

 

「これが今回の目録です。」

 

「・・・はい、確かに。」

 

しかしよくラピスラズリなんて積めましたね。というウルレシュテムにドゥゼに少し頼みました。とこともなげに切り返すヘアフス。淡々としてはいるが決して嫌悪等の類は見受けられない。

 

「それと、陛下のご様子ですが。」

これまでと変わらぬ淡々とした口調でヘアフスが新たな話題の口火を切った。

「時々前に言われていた我とかいうのが出てますが半日程度です。日によっては柱に頭を連打するなどして無理矢理覚醒(もど)しているのでまだ猶予はあるかと。

・・・連絡を入れずに書置きのみを残して旅という名の失踪をすることがあるらしく、祭司長のシドゥリはじめ、中枢の者が手を焼いているそうです。」

 

彼の口から出てくるとんでもない出来事に小隊メンバーは皆下を向いている。

報告を聞いているウルレシュテム自身は特に表情を動かさずその報告を聞いていた。

 

「それ以外の活動はありません。・・・が、最近妙な噂が流れてきています。」

 

「妙な・・・噂?」

 

ウルレシュテムが微かに眉根を寄せた。

 

「はい・・・まだ、確証はないので定かではありませんが・・・なんでも国中の花嫁を奪うとかなんとか。発信源は一致しません。村娘だったり、聖娼だったり・・・。しかし、どの発信源となっている人物も女で、高い適性(・・)を持っていることが現在までの調査で確認済みです。」 

 

以上です。と締めくくったヘアフスにウルレシュテムが口を開いた。

 

「・・・何か、裏にいますね。(ボク)の考えてる通りならとんでもなく、敵に回すとめんどくさいのが。」

 

引き続き調査をお願いします。と言ってこんばんは泊っていくといいでしょうと寝床を造り出す準備に取り掛かろうとする彼女にヘアフスがぽつりと言った。

 

「今度は何を考えてるんですか。いったい。」

 

今日の荷にしても。という問いに聞こえていないのか、はたまた聞かないふりをしているのか。答えが返ってくることはなかった。




というわけで、ヘアフスさんは平子さん立ち位置になってもらうことになりました。
ちなみに主人公。戦の時は最初こそ意図して有馬さんみたいなお惚けだけどすごいみたいなエピソードが欲しいな・・・と思っていましたが結局素で天然なのでそれとなく本人無意識のうちに有馬さん的なエピソードが出来上がっていくという。ある意味勘違い拡散機。


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森と母子

エルキドゥのエトさん化が止まりません。
主に外見が。

エルキドゥにはバーサーカーの適性もあるという話をどこかで耳にした記憶がありますがさて、何処だったのやら...。


 

「ねえ、母さん。」

 

木から木へ跳び移りながらエルキドゥがウルレシュテムを呼ぶ。

今は獣の殻(という名のエトのフクロウ姿)を被っての戦闘訓練を行っているため、跳び移る度に木がメシメシと嫌な音を立てているがエルキドゥもウルレシュテムも別段気に留めない。

 

「僕が闘うことになるかもしれない母さんの弟って...」

 

「ギルガメッシュ。」

 

「そう、そのギルガメッシュってどんな人?」

 

エルキドゥの何気無い問いにウルレシュテムは遠い目をしながらしばし考えて、再度口を開いた。

 

「...姉思いのいい子ですよ。」

 

「か、母さん。大丈夫?なんだかこの間解体した豚みたいな荒んだ目になってるよ!?」

 

「ああ、うん、ダイジョウブ。ダイジョウブ。」

 

 

エルキドゥは徐々に変わっていく母の様子を見て口をつぐむと攻撃に転じることにする。

 

背中にあたる部分から鎖と大きな円錐の様な土塊を射出する。

 

最初はこの巨体と敏捷性を活かした力押しの攻撃ばかりをしていた。が、母の所有する雷撃を打ち出す『ナルカミ』。

この武器はいかんせん射程が広くなかなか隙ができない。そこでエルキドゥは単純な力押しではまず届くことはないと悟り闘い方を試行錯誤し出した。

 

この格好で闘っているときに直接噛んだり潰したりといった攻撃だけでなく遠距離からの攻撃手段があった方がより闘い方の幅が広がるのではないかと思い開発した結果がこの投擲にも似た射出だ。

こころなし母の目が爛々と輝いていたのが不思議だったが、きっと期待してくれているのだろうと思うと嬉しくなった。

 

気分が高揚していくのを自覚する。

この感覚こそ母が前言っていた暴走なのだろうと頭の片隅で理解した。しかし、理解したからと言って実際に押さえ込むかといえば必ずしもそれがイコールで繋がっているのかといえばそうではない。

エルキドゥは理解した上でその衝動に身を任せた。

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

暴走し、手当たり次第に射出を繰り返してくるエルキドゥの攻撃をかわしつつ、表情にこそ出さないもののウルレシュテム自身も暴走していた。

 

教えてもいないのに赫子(違う)の射出まで...。

よく自力でそこまで到達したよエルキドゥ。

さすが自慢の我が子。うちのエルキドゥはすごいんだ!

 

内心ヒャッハー!と叫ぶ。

 

エトのフクロウ姿にしたのは思いつきだったがまさかここまで大成するとは...。と喜びを噛み締める。

 

これで有馬対エトの一戦に洒落込むこともめじゃなくなった。ビル所か建物すらないけど!周り木ばっかりだけど!!

 

考えつつも決して攻撃の手はゆるめない。

 

ウルレシュテムがナルカミから雷撃を放つ。とそれを避け、かつ一気に距離を縮めようとエルキドゥがウルレシュテム目掛けて跳躍する。周囲にはエルキドゥの放った射出物がウルレシュテムの周りを単純だが堅固な壁が取り囲むかのようにそびえていた。

 

絶対に避けられないように。

 

が、ウルレシュテム自身避ける、逃げるといった選択肢はない。何か策があるという訳ではなく突っ込めばなんとかなるくらいの単純さで次の一手のために態勢を整える。バカである。

 

しかし、昔から馬鹿となんとかはなんとやら。

そんなバカだからこそ案外無理じゃね?みたいな事も成し遂げられたりする。実際歴史であれ神話であれ中心になって動かしているのはだいたいバカだったりする。良く言えば常人には到底至ることの出来ない発想を持つ天才だ。

 

衝撃とともに舞い上がった砂埃が治まる前に甲高い悲鳴じみた絶叫が辺り一面に響き渡った。

 

ぼとりと巨大な腕が衝突地点から少し離れた箇所に落ちる。

叫びながら自棄になっているのかいないのかエルキドゥはウルレシュテムに突進する。

それをレイピア型に変形したナルカミを突き刺すことで止めたウルレシュテムはそのままナルカミを横にずらして傷口を拡げる。

内部で砲撃形態に変形させ雷撃を打ち込むと、中のエルキドゥを殻から引きずり出した。

 

わあ、構造までそっくりだ。

実際の行動とは裏腹に上機嫌に解体を進める。

 

「っ...か、あさ、ん。」

 

エルキドゥが眩しそうに目を擦る。

動けないところを見るにナルカミの雷撃のダメージがまだ残っているらしかった。

本人が抜けるとすぐに殻は土に還る。

 

「跳躍から着地までのムラがありすぎる。狙って下さいと言っているようなものです。」

 

「は、い。」

 

 

「折角遠距離からの射出攻撃が出来るようになったのですから跳躍までの不足分を補うなり活用なさい。」

 

言ってふと思う。これ、エトさんと有馬さんっていうより排世と有馬さんじゃね?...ま、いっか。

 

ああ、エルキドゥかわいい。尊い。と、ボロボロになりながらも真剣に自分の話に耳を傾ける我が子の頭を撫でながら。さて、次はどんなシチュエーションで訓練(遊ぶか)にするかと考えを巡らせた。

この元女王。やはり頭のネジが何本か外れている。

 

 

 

 

 

 

 




エルキドゥがエトさんの羽赫の様に飛ばしているのはあくまでも自身の纏う殻から作り出した土塊です。
けれど込める力の量によっては水晶みたいなものになったりする。益々主人公は喜びますね。
もちろん生身のままでもFGOのときのように抑止力を使って戦うことは出来ますが単純に力押しでいくならフクロウのときの方が性能...というより使い勝手がいいという設定にしています。
なんせ、主人公はわりと簡単に剥離させましたが普通の攻撃ではあの殻を貫通所か傷付けることすら難しいからです。殻自体が加護付きの鎧みたいなものなので、それこそ消耗を待って本体が出てきたところを狙うしかありません。


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暴君と兵器と女神と御菓子

「エルキドゥ準備でき・・・」

「あ、母さん。ちょっと待ってて。この蓋が閉まればおしまいだから。」

「・・・エルキドゥそのお菓子はおいていきなさい。」

「えー」

「おいていきなさい。」

「あ、はい。」


神々の森の木からちょろまかした木で作った器の中に並々と注がれた水が揺れる。

エルキドゥがギルガメッシュの元に出立してしまったため現在この小屋の中にいるのはウルレシュテムただ一人。

彼女は現在焼き菓子を片手に、もう片方の手に先ほどの木の器を持って千里眼で遠見を行っていた。

でばが・・・エルキドゥとギルガメッシュの対決が気になったためである。

断じてデバガメなどではない。例えその姿がぱっと見映画館の観客のようでも。

決して、デバガメではない。

 

焼き菓子をつまみながら彼女は言う。

 

「残念でしたねーイシュタル。(ボク)を動かすんだったらギルガメッシュかエルキドゥに求婚でもしないと。」

 

もちろん認めませんが。

 

言って次の焼き菓子に手を伸ばした。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

「アイツもうそろそろで到着するわよ。」

 

天舟に乗ったイシュタルが広場に到着すると金髪の青年・・・ギルガメッシュがそうかと短く返事を返す。素っ気ない返事とは裏腹に彼は混乱していた。

 

姉上のこども、姉上の子供。

きっと幼い頃の姉上そっくりの愛らしい童なのだろうな・・・。

これで我もおじさ・・・いや、そんな、この歳でそれは・・・ええい、意地でも兄上と呼ぶよう教え込まねば。

 

・・・割と斜め上の方向に。

 

「来たわよっ」

 

鋭いイシュタルの声に意識を引き戻されたギルガメッシュが気配を感じて横に逸れる。

と、先ほどまでギルガメッシュのいた地点に巨大な何かが突っ込んできた。

 

「よけられた・・・君が、ギルガメッシュ?」

 

地面にめり込んだ両腕を引き抜くとギルガメッシュの方に向き直ったそれは衣服らしきものこそ身に纏ってはいるもののおおよそ人とは違った外見をしていた。

澱んだ緑色の衣服がその巨体の殆どを覆っており、露出している部分は腕と頭部。そして背中らしきところから伸びる無数の突起物。

頭部にはこれまた巨大な隻眼が爛々と輝き、口は歯が剥き出しになって、長く赤い舌が垂れ下がっている。

 

さっきまでの胸の高鳴りを「あ、違ったわ」という落胆と共に消し去った。

 

「おい。主人はどうした?落としてきたのか?」

 

結果、ギルガメッシュはきっと姉上の子は振り落とされてしまったのだろう。で、乗り物だけこちらに来たのだ、きっと。と勝手に結論づける。

 

「?僕が君を戒めに来た、前女王ウルレシュテムの子。エルキドゥだけど?」

 

しかし、現実というものは残酷であった。

 

「・・・え?」

「え?」

 

ギルガメッシュがぎぎぎっとぎこちない動作で隣を浮遊するイシュタルを見る。

その眼にはちょくちょく見に行ってるお前ならわかるだろ。否定してくれ。という哀願が込められていた。

 

が、イシュタルは内心でドッキリ大成功の如くほくそ笑みつつ首を振った。

 

「現実よ。目の前のこの子が正真正銘、お子さんよ。」

 

悲しげな顔で追い打ちをかける。

ギルガメッシュは絶叫した。

膝から崩れ落ち、両手を地面につける。

 

「なんでええええ!?なんであの美人な姉上からこんな人型どころか物体Xみたいなのがうまれるのおおっ姉上の要素一片たりとも入ってないっていうかもはや人ですらないじゃんッどういうことですか姉上ええええっ。」

 

まあ貰い物の粘土とそこら辺の泥で作りましたから。かわいいでしょ?エルキドゥ(我が子)

千里眼で見ているウルレシュテムが、焼き菓子をつまみながら言う。

当たり前の如くギルガメッシュには全く届いていない。

 

「あの、さ。僕からも一つ質問。いいかな?」

 

いきなり膝をついて、おそらく自分を貶す言葉を吐き出した好敵手(予定)に若干、否ドン引きしつつエルキドゥが訊ねる。

 

「聞いてたのと印象が違うんだけど。いつもこうなのかい?」

 

絶賛暴走タイムのギルガメッシュを放置してかわりにイシュタルが答える。

 

「いいえ?今はコレだけど普段はもっとかしこまった礼儀正しい奴よ。」

「そ、そう・・・。」

「でも最近は専らこの状態ね。周囲が嫁取り合戦ならぬ婿取り合戦よろしく放っておかないらしくて、女性恐怖症になってしまったらしいわ。で、無駄好きの見栄っ張りでジャイアニズム溢れる、いいとこなしと言っても過言じゃないけど対人関係に関してはまだ傷の浅いコイツが出てきてるって訳。」

 

イシュタルの解説に納得しつつ、かなり貶しの入った内容を味方(曲がりなりにも女神だが)に言われている好敵手を見る。

エルキドゥの眼には若干の哀れみが浮かんでいた。

 

「ええい、その眼をやめよ汚物。なんだその周囲に理解者が一人もいないなんて・・・ボッチ乙みたいな眼はっ」

 

戻ってきたギルガメッシュがエルキドゥに怒鳴る。

 

「お、汚物?せ、せめて怪物とか・・・。」

 

予想外の自身の呼び名にエルキドゥは絶句し、一拍おいてから訂正を要求する。

 

「ふん、貴様なんぞ汚物で充分だ。俺は断じてお前が姉上から生まれたなど認めん。貴様を倒して我は姉上に、そして姉上の子に会いに行くのだ、そこをどけ汚物。邪魔立てすれば・・・わかっておろうな?」

 

さっきまでとは打って変わった不遜な態度のギルガメッシュに今度はエルキドゥがキレた。

 

「さっきから聞いてたら汚物汚物って・・・それに僕は正真正銘彼女から作られた、彼女の子だ。君にとやかく言われる筋合いはない。いい好敵手になるだろうとか言われたけれどもういい。君は今から好敵手ではなく殲滅対象だ。」

 

どちらともなく地面を蹴った。

 

終盤間際に手持ちの粘土の量が少なくなって殻を維持できなくなったエルキドゥが巨大な袋(母からちょろまかしてきたおやつ入り)と共にその本体を晒しギルガメッシュが驚愕したりとか

 

そもそも、なぜこんな花嫁を奪うなんて言う迷惑極まりないことをするのか問うた際

 

「うん?暇つぶしだが?あれ自体はあまり楽しくないのだが周りがうるさいのでな。一番めんどくさくなさげな所から手を付けて黙らせようか、とな。」

 

というとんでも発言に、遠見でキレたウルレシュテムがこれが世のため人のためと言わんばかりにギルガメッシュ目掛けて光線の雨を降らせたりとか

 

念話でエルキドゥに「遠慮なく徹底的にやってくれて結構ですよ。特に下半身。この際使い物にならなくなっても可です。」と指示?のようなものがあったり

 

・・・といった具合にカオスを更に黒い何かで煮詰めて合成事故起こしたみたいな戦闘の結果。

気づけば周りは更地になっていた。

住民はイシュタル・・・ではなく、彼女に仕えている神殿関係者の手によって既に別の場所へ避難させられていたが到底住めるようなところではなくなってしまっている。

そんな荒れ地の真ん中でエルキドゥ、ギルガメッシュ両名は双方大の字になって倒れこみ和解。

エルキドゥのちょろまかしてきたお手製のお菓子を二人して貪り食うという展開にウルレシュテムは首を傾げた。

 

あれ?叙事詩と違くね?と。・・・エルキドゥあれほど言ったのに・・・覚えとけよという恨み言と共に。

 

 

久方ぶりの姉の料理に、涙目になりながら食べているギルガメッシュ。

そして、そんな彼を今度は優し気なまなざしで頭をなでるエルキドゥ。

傍から見れば友人というより兄弟のようであった。

 

この光景をほほえましげに見ていたイシュタルは思う。

 

ギルガメッシュの髪についているお菓子の屑のこというべきかしら。

 

エルキドゥは汚物呼ばわりをわりと根に持っていた。

 




エルキドゥの持ってきていたお菓子は観賞途中にお菓子が切れないよう焼いておいた予備でした。


久々にお気に入りの数を確認したら腰ぬかしそうになりました。
ご指摘、ご感想を送ってくださりました方々も
ありがとうございます。

まさかここまで見てくださる方がいらっしゃるとは思わなかったもので・・・

これからも頑張っていきたいと思いますのでどうぞこれからもよろしくお願いします。


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泥の夢

一応アンチ・ヘイトタグを追加しました。

これからもよろしくお願いします。


ーーめーなさー

 

ーーごめーなさい。

 

 

 

ーーーたーはあーーを

 

 

ーーー私はーーーを愛せない。

 

 

 

 

ーーーだかーあなーもわーしを

 

 

 

 

ーーー許さないで(忘れないで)

 

 

   《ワタシ》。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

ずるずると、ずぶずぶと。

 

浸かっていく、沈んでいく。

 

 

呼び止める声はもうない

呼び留める声はもうない

 

助けは届かない。

 

身体に纏わりつく泥は温かい/寒い。

 

ただ漠然と安心/不安を感じる。

 

ああ、自分は今とても幸福(ふこう)だ。

 

このまま眠ってしまおうか。

 

思考を放棄し、肢体を投地する。

 

--a---aa---

 

 

----Aaaaaaa

 

ひどく懐かしい。子守歌が聞こえる。

 

 

いいや、これはーーー騒音だ。起こす為の誘導だ。

 

いい加減眠らせてほしい。

 

重い瞼を開いた。

 

 

何もない空間に、女が一人立っている。

 

誰かはわからない/知っている。

 

--Aaaaaaaa

 

彼女はただただ歌い続ける。

 

「そう。貴女だったんですね。」

 

目の前の彼女(ハリボテ)ではなく虚空に向かって言葉を吐き出した。

 

身体に纏わりつく/侵していくものがなくなる。

 

彼女(ハリボテ)が歩みを進め、こちらへ手を伸ばす。

 

そのまま、彼女を抱き留めた。

 

肩に顔を寄せる。---懐かしい匂いがした。

触れ合う身体は温かい。

 

耳元でパシャリという音が聞こえた。

 

ーーーああ、やはり(ボク)不幸(しあわせ)だ。

 

泥が迫る。

 

泥が自身を呑み込んでいく。

 

溶けていく

 

還っていく

 

悪夢(眠り)はまだ覚めない。

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

「...そう。引き続きよろしく。」

 

そう言って鳥を放してやる。

 

いやまあ、端から見れば鳥と話してる痛い人なんだろうけどさ。

(ボク)の今の主要情報網がこの鳥たちなのだから仕方がない。あれからイシュタルも来ない、フンババもいまだに(ボク)を避けているし...さて、どうしたものか。

 

ちらりと自身の足元...正確には影のあるべき場所を見る。

そこには影に沿うように泥があった。

しかし、只の泥という訳ではないらしい。

常にぐつぐつと煮たった鍋の中のように泡立ち蠢いている。

「...我ながら酷いな。」

視線を自身の周りにいる鳥たちに向ける。

鳥はすべからく薄灰色の体毛にぎらつく赤の目で統一されている。

この鳥たち、何を隠そう影に擬態しているこの泥に浸けられた生物である。

ちなみに記念すべき第1号は、(ボク)の食べていた果実を狙って(ボク)に影にはたき落とされた子である。

 

この泥、どうやら浸けられた生物を眷族のような何かに変えることができる不思議泥みたいだ。

この契約は術者を母、眷族を子という形で縛るらしく一斉に嘴開けられたときは少し引いた。(ボク)親鳥違う。つーかお前らとっくに巣立ってんだろ。

意志疎通が出来るようになったときも驚いたが、それもどちらかと言えばただひたすらかあさんかあさんと連呼するだけだったので溜め息をついた。

 

ざばあっと背後で勢い良く水柱(正確には泥だが)が吹き上がる。

 

「そろそろこの仮宿ともお別れですね。」

 

あいつら(神々)も黙ってないだろうしなーと思いながら腰を上げる。

 

 

彼女の背後。水柱のたった辺りには何かの腕らしき部品(パーツ)が必死にもがいている。

 

「大方エンリル辺りの差し金でしょうが...全くもって君も運がありませんね。フンババ(・・・・)。まあ、精々有効利用させてもらいますよ。」

 

 

そう、その腕は彼女を背後から奇襲せんと飛び掛かってきたフンババのものだった。

彼女が立ち去って尚足掻いている腕だったがしばらくするとそれも止まり呑み込まれていった。

 

そうして、彼女は森を出ていった。

無数の鳥と、神々の森の番人を奪って。

 

 




という訳で今回はちょいちょい出てきていた泥の正体がわかる話だったのですが...リアルでだともふもふの小鳥がたくさんっていいな...と思ってしまいました。
閲覧ありがとうございます。


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アッガとウルレシュテム

抑止力?どこぞの誰かが私の代わりとかやってくれるだろうからそんなの気にしない気にしない。

そんな、抑止力の凄さを知らないとんでも主人公。
それが我が家の主人公です。


コツリコツリと裸足でも、具足でもない靴音が響く。

 

夜営の兵士が音の発生源である前方に目を凝らすと女が一人。(こちら)に向かって歩いてきていた。

 

白い外套が夜風になびく、うなじ辺りで括られた白銀の髪がサラサラと絶え間なく揺れている。

そしてーー肌も髪も装束も明度は違えど白で統一された中に一点だけ。

爛々と輝く血のような紅い瞳が兵士を見据えていた。

 

唐突に、おそらくは本能的な恐怖を感じ、武器を持つ手に力を込める。

しかし、兵士は二人とも目の前の女以外の周囲の変化に気が付かない。

 

なぜ、目を凝らさなければならないほど遠くの女の靴音が聞こえた?

 

 

なぜ、女の靴音が聞こえるほどこんなにも周囲が静かなのか?

 

そこにさえ気づけていたのならまた違ったのかも知れない。

 

少なくともーー

 

 

女に声をかけようと息を吸う。瞬間。

兵士2人の足元から何かが噴き出した。

兵士を飲み込んだそれは、そのまま地面に吸い込まれるように消えていき、兵士が取り残される。

 

「いいですか。」

 

女が口を開く。

 

「貴方方は何も見ていないし何も聞いていません。・・・ですよね?」

 

兵士は女の元に跪くと頭を垂れた。

 

「はい。母上。」

「私共は何も見ていませんし、何もお聞きしていません。」

 

少なくとも、この様に自己を変貌させられ、ただの傀儡として使われるという事はなかったはずだ。ーー例え、命は助からなくとも。

 

女はそのまま門を通り抜ける。

その顔は僅かに微笑みを浮かべていた。

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

歩く。只々、歩く。

 

門さえ無事であれば後はどうとでもなる。

あんまり気乗りはしないが向かってくるのなら仕方がない。

 

容赦なく自分の行く手を阻まんとする輩を刺していく。

 

なるべく苦しまないように

なるべくきれいであるように

 

ふと、元来た道を振り返った。

 

人が倒れている。小さな丸い穴以外の外傷はなく、気絶しているかのようだ。

ただし、それはトクトクとゆっくりと/早く流れ出る(あか)によって誤魔化されることなく《死》としてこの場に存在している。

それも、1、2体では済まない数が。

 

ここの王は慕われているのだろうか?

自然と口角が上がる。

あの子のいるウルクもこうあってくれるだろうか。

あってくれたらいいなと思いながら王の自室へと赴いた。

 

 

「素敵な国ですね。」

こちらを振り向こうとした王の首を刎ねる。

「でも・・・。」

転がり落ちた王の首を無造作に掴んで、自分の目線くらいの高さに持ち上げる。

あの連中の国(キシュ)だと思うと・・・気に食わないなあ・・・。」

首を片手にぶら下げたまま、窓の外へと歩いていく。

外の明かりは門などの最低限の所以外一切見られない。

言葉とは裏腹に不思議と心は凪いでいる。

その顔には、やはり微笑みが浮かんでいた。

 




タイトルのわりにアッガさんの出番がない。
ごめんねアッガさん。

タイトル詐欺でごめんなさい。
閲覧してくれた方々。

ほんとに申し訳ない。


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鎖の病

神「今ならいけるっ」
主人公、爆睡中。
神「覚悟ー。」
高濃度の魔力による攻撃。
ざばあっと泥。呑み込まれる攻撃と本体。
主人公目を覚ます。
「あれ?なんか増えてるような・・・?」

だいたいの刺客の真相はコレ。


ーーーどうかどうか、幸せに。

 

金の糸をすきながら

 

ーーーどうかどうか、喜んで。

 

優しい風が吹き抜ける。

 

 

 

 

ーーーどうかどうか、

 

 

 

 

ーーーーーー(わたし)幸福な生(憐れな死)を下さい。

 

 

 

 

繋ぎ(滅び)の女王は玉座で微睡む。

 

 

いつかの願いを、夢見ながら。

 

 

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

「・・・エルキドゥの様子はどうだ。」

 

玉座からの王からの呼び掛けに、医師は首を左右に振った。

 

「ダメです。どころか、あの方の黒い血に触れてしまった者も姿を消しました。」

 

 

事の始まりは2、3日前。

エルキドゥが病に臥せってしまったのが最初だった。

熱病にでもかかったかのように、高熱に魘され体の節々は赤く脹れていく。解熱作用のある薬を飲ませるなどあらゆる手で治療にあたっているが全く効果がない。

そして、黒い血の様なものを度々吐き出す。

 

血にしては色がおかしいので専門の者に探らせてみたがその者はその日の内に姿を消した。

それからもエルキドゥの世話をしていた者が次々と失踪。

共通点はいづれもあの血に触れた者。

 

「あまりあの方の手を煩わせたくはなかったが・・・」

 

致し方あるまいと言って王座を立つ王に周囲が慌てて制止する。

 

(オレ)の心配は無用だ。聞きに行くだけだからな。」

 

「・・・何処に行こうというんですか。ギルガメッシュ王」

 

柱の影からするりと男が顕れる。

全身を白の装いで包んだ男・・・ヘアフスが。

 

「丁度いい。貴様もこい。ヘアフス。」

 

ヘアフスの問いに答えないまま王が歩き出した。

 

ヤツ(エルキドゥ)の制作者・・・姉上の所へ行く。」

貴様なら居場所くらい知っておろう?とギルガメッシュがどこか皮肉気に付け足した。

 

「・・・御意。」

ヘアフスが応えるとほぼ同時に一陣の風が駆け抜ける。

発生源となった天舟に乗ったイシュタルが、周囲を置いてきぼりにしたまま口を開いた。

 

「その案は却下よ。」

 

正確には。というところで一端言葉を切り天舟から降りる。

 

「もう、実行は不可能になった。とでも言うべきかしら」

 

「・・・どういう事だ。」

 

不穏な空気の中ヘアフスが平坦な声で問う。

イシュタルはちらりとヘアフスを一別しただけで視線を戻した。

 

「彼女は神々(わたしたち)人類(あなたたち)の敵になった。・・・少なくとも我が父アヌはそう判断したわ。」

 

そんなことがある訳無いだろうという雰囲気の周囲にイシュタルが続ける。

 

「・・・そうね。私もいまだに半信半疑よ。けれど事実、彼女は森の番人を奪ってキシュを制圧。そこを拠点にして諫めにきた神も人も片っ端から殺して回ってる。」

 

「ほう?・・・(きさまら)の寄越した神も人も・・・ではなく、か?」

 

ギルガメッシュが口を開く。その顔にはニヒルな、且挑発的な笑みが浮かんでいる。

まだ隠していることがあるだろう、と。

 

その笑みにイシュタルは溜め息で応対した。

 

「・・・話が早いんだか遅いんだか。ええ、そうよ。確かに彼女が始末して回ってるのはあくまでこちら側から手配した刺客。けど、それにもちゃんと訳があるんだから。」

「なにも、別に森を荒らして出ていったくらい。(わたしたち)の中の誰かが、それこそ神罰として何らかの罰を与えればいいし。キシュの一件なんて言わずもがな。別に人の国が一つ滅ぼうが神全体(わたしたち)にとっては別にどうでもいい。・・・問題はそこに用いられた手段よ。」

 

いつもとは違う真剣なイシュタルに皆身体が硬直する。

と、不意にギルガメッシュが待てと話を一端切り、人払いをした。

 

「・・・あら、気が利くわね。もう少し早いほうがよかったんでしょうけど。・・・で、話を戻すわね。問題なのはその手段よ。わたしにはよくわからなかったけれどアヌ含め古参の神は母なる泥だと言っていたわ。始まりの泥とも。・・・ともかくウルレシュテムが本来は既に存在しないはずの泥を持っていて、それによって世界が滅びに向かっているとでも思って納得なさい。」

 

ここでイシュタルの眼光が心なし鋭くなってギルガメッシュを見た。睨んでいるかのような女をものともせずギルガメッシュはだからなんだと言いたげに見返す。

 

そう、彼にとって今大切なのは朋友であり姉である。

神も人も。今の彼(・・・)にとっては二の次だ。

 

「で、アヌ神からアンタへ、ウルレシュテム討伐の命が来てる。他にはシャマシュ含め各神の加護の籠められた装身具や武器。」

 

ふざけるなと言いたげな表情のギルガメッシュにイシュタルは努めて冷静に告げた。

 

「エルキドゥの病が、ウルレシュテムのせいだとしても?」

 

「なんだと。」

 

苛立たし気にギルガメッシュが切り返す。

 

「さっき話してたわよね。エルキドゥの吐き出す黒い血を触ったヤツがいなくなるって。」

 

「・・・それがもし、泥だったとすれば?」

 

「そもそも制作者がさっき言ったような状態だからって既に作製が終了しているはずのエルキドゥが同時期に病に倒れること自体がおかしいと思わない?」

 

「わたしには生憎泥についての知識はないわ。だからここからは臆測で話させて貰うけど。例えば、意図的に混入させておいた泥に急激に魔力を流し込んで殻が耐えきれずに爆散。飛び散った泥からウルクをーーっ」

 

イシュタルが慌ててその場を飛び退く。

先ほどまで彼女が居たところには複数の鎖が突き刺さっていた。

 

「相変わらずあっぶないわねー。」

「っうるさい。母さんを、悪く言うな。僕が・・・許さない」

 

鎖の出所である部屋の出入り口にもたれ掛かるように緑の麗人・・・エルキドゥが立っていた。

フラフラとした足取りでギルガメッシュに近付く。

 

 

「行こう、ギル。母さんのところに。行って確かめるんだ。真相を。」

 

 

こうして、謀らずも糸の思い描いた通り。

鎖と楔が動き出した。

 




・・・このイシュタル。エルキドゥ創作秘話を知ったらどう思うのだろう。
ちなみにちょろっと設定公開。

我が家のギルガメッシュは二人います。我と僕が。
・・・両方とも読みはオレなんですけどね。

閲覧ありがとうございます。


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二人と一柱の珍道中

イシュタル「早く着かないかなー」


ギルガメッシュ「いや、何故貴様がいる?」


エルキドゥ「ギ、ギル。・・・ぼ・・・僕・・・も、行く・・・よ。」


ギルガメッシュ「いやお前病人んんんんっ!?」


「はあーあ。ねえ、まだー?」

 

めんどくさそうにイシュタルが天舟に乗ったまま低空飛行を続けている。

 

「はあ、もう少しだから我慢しなよ。」

 

殻を纏ったエルキドゥがその質問に更にめんどくさそうに返した。

そんな会話が10回を超えたころ黙っていたギルガメッシュが口を開く。

 

「・・・時に友よ。聞いてもよいか。」

 

「んん?なんだい友よ。」

 

女神との繰り返される会話に辟易していたらしいエルキドゥは、やっとこの会話から脱却できると嬉々として聞き返した。

 

「・・・何故(オレ)は友の背に括りつけられているのだろうか。」

 

 現在イシュタル、エルキドゥ、ギルガメッシュの3人はウルレシュテムに真意を問うべくキシュまで向かっている最中だ。

・・・最中、なのだが・・・。

 

天舟に乗るイシュタル。これはまだいい。

絶対にギル一人でなんて行かせない、と霊薬を飲んで一時的に健康体に近くなり獣の殻を被ったエルキドゥ。・・・の背中に括りつけられたギルガメッシュ。これはどうか。

 

目が心なし荒んできているギルガメッシュにエルキドゥは表情はそのままにその巨大な口を開けて言った。

 

「だって、目立たずなるべく早くって言ったらこれかなって。あ、もしかしてひもの事?ごめんよ。落とさない自信なかったからさ。」

いや、そういう問題では・・・と抗議の声をあげようとしたギルガメッシュに「それに・・・」と更にエルキドゥが言葉を付け足す。

 

「何処かの天災女神みたいに上空に光る何かがあったから敵襲だと思って撃ち落とされる。なんて、いやでしょ?」

 

妙に説得力のある物言いに今度こそギルガメッシュは沈黙した。

病人とは思えない友の朗らかな笑いは瞬く間に風に搔き消えていく。

 

嗚呼、空が青いな・・・。

 

結局、ギルガメッシュは抗議どころか思考すらも現実逃避し何とかこの状況をやり過ごすことにした。

 

 

 

 

 

しばらく走るとキシュの門が見えてくる。

門の両側には二人の門番が就いており、以外にも荒れた様子は無い。

立派な門に屈強な兵士と、侵略されたとは到底思えない様子だった。

 

「あら、意外と綺麗じゃない。」

 

でも、まあ。と、門番がなんらかの動作をしようとしたとほぼ同時に、マアンナに力を収束させながらイシュタルが言った。

 

「今からただの残骸(ガレキ)に変わるんだから。どちらでも一緒よね。」

 

言い終わるとほぼ同時に矢を放つ。が・・・。

門の方へ飛んで行った矢は透明な波紋が現れるとすぐに吸収され姿を消す。

門の損傷はない。ここで終われば「攻撃を無効化する壁によって攻撃を帳消しにされた」と悔しがるだけで済んだ。

 

しかし、ここは敵地。敵に情け容赦は無用と言わんばかりの対応が待っていた。

 

突然先程イシュタルが攻撃したあたりが光り出す。

瞬間バチリという音とともにイシュタル目掛けて雷のように電撃が落ちた。

 

いーーーやーーーーっと悲鳴を上げながら攻撃をよけられなかったイシュタルに同行者2名は残念なものを見る目を、門番は無表情でその様を見ていた。

 

「・・・通行証か、身分を証明されるものはお持ちでしょうか。」

 

いまだ痺れて復活できずにいるイシュタルをそのままに残る二人に門番は問いかける。

 

「・・・それはどちらだ?この国の手形か?それともあの人(・・・)に関するものか?」

 

「・・・。」

 

ギルガメッシュの問いに門番は沈黙する。

答えあぐねているというより純粋に機能を停止させているかのようなその様子は少々気味が悪い。

まあ良いとギルガメッシュは自身の片腕に巻き付けていた天の帯を見せた。

 

「「失礼いたしました。ようこそおいで下さいました。ギルガメッシュ様。エルキドゥ様。お母さまがお待ちです。」」

 

セリフからお辞儀まできっちりと揃えた兵士が開けるよりも早く扉が開いた。

 

ともかく気絶したイシュタルをこのままにしていくのも後がめんどくさいとのことでエルキドゥの鎖で括ることになったのだが、二人が門の内側に入った時点で門が閉じ鎖が引っかかる。

 

「「あ。」」

 

・・・しばしの沈黙の後、彼らはイシュタルを置いていくことにした。

 

 

 




何だかイシュタルさんの扱いがひどくなってる気がする。
ごめんねイシュタルさん。


ちなみに門の方は幻覚とかの類ではないく本当に本物の門です。
外見が大丈夫ならばれないんじゃない。
という単純な考えの元外観はそのままです。
・・・全然効果ありませんでしたが。


では、皆様。閲覧ありがとうございました。


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菓子の道

玉座に座るウルレシュテムの手元に、小鳥が1羽滑り込んでくる。

 

「・・・ああ、来たんですね。」

 

来客を報せにきた小鳥を指先で軽く撫でると小鳥をクルリと自身の方向・・・正確には自身の両目と視線が合うよう持ち上げる。

 

「さてはて、可愛い可愛い愛し子たちは今頃順調に回廊辺りまで来ているくらいですかね。」

 

クスリと笑って鳥に着けていた特性のレンズを視る。

このレンズは監視カメラと同じ様なものであり、いちいち千里眼使うのめんどくさいなと思ったウルレシュテムが自作したものである。

いちいち現在(いま)未来(さき)を選択からの視る範囲をーーとかやってられるかと前回のデバカメから学んだ結果である。

 

鳥の瞳の中の映像が安定する。

しかし、ピントを合わせた謁見の間付近の回廊には誰もいない。

おかしいと思ったウルレシュテムは更にピントを拡大してみたが何か薄茶色の何かが点々と落ちている以外はただ回廊が映っているだけだ。

 

「・・・?何でしょう、これ。」

 

見に覚えのない茶色の物体にウルレシュテムは小首を傾げつつ、客人を探す。

見つけたのは全く別方向に位置する厨房付近の回廊であった。

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

「・・・本当に此方であっているのだろうな。」

 

怪訝そうに辺りを見回すギルガメッシュに屈託のない笑顔でエルキドゥは答えた。

 

「うん。懐かしい匂いがするんだ。だから、たぶん。」

 

聞いてギルガメッシュもスンと空気を嗅ぐ。

確かに何処かで嗅いだことのある芳しい匂いが、何処からともなく漂ってきているようで強ち間違いというわけでもないらしい。

 

だが・・・。

 

「これは姉上の匂いではないのではないか?」

 

この甘い匂いは懐かしさこそあるものの遠い記憶の中の姉のものとは違う匂いに首を傾げる。

 

「うーん・・・僕の森での思い出の中にかなり深く刻まれているみたいなんだけど・・・。」

 

スンスンと匂いを嗅ぎながらある扉の前で立ち止まった友にまさかと思いギルガメッシュが口を開いた。

 

「おい、その匂いとはまさか・・・」

 

明らかに王がいるとは思えないその拙い造りの扉を蹴破り中に侵入するエルキドゥ。なにも蹴破る必要はなかったのではないかと無惨にも散らばった扉の破片を見るが今更である。

 

「あ、これかあ。」

 

言ってエルキドゥが満面の笑みを浮かべる。

二人が侵入した場所は厨房。

気になっていた匂いはプレートにのせられた焼き菓子であった。

 

エルキドゥは厨房に入っていくとおもむろに菓子に手を伸ばした。

が、伸ばした先にあった菓子は風切り音と共に消える。

 

「・・・?」

 

不思議に思い、今度はギルガメッシュもそれとなく手を伸ばしてみる。やはり消えた。

 

そんなことを繰り返している内にとうとう菓子は最後の一つになる。今まで一つも取れていないせいか二人ともこのお菓子の取り合い紛いの出来事に既に臨戦態勢に入っていた。早すぎである。

 

二人は目配せを合図に一斉に菓子に飛び掛かる。

しかし、またも菓子は無くなった。

 

ショックを隠しきれない二人の耳にかつかつと何かのあたる音が響く。

辺りを見回すと流しのすぐ側のふちに変わった配色の小鳥が一羽止まり先程の菓子を啄むべく、足で菓子を固定しているところだった。

おそらく、運ぶには大きすぎて長距離は無理だと判断し、近場で食べることにしたのだろう。

 

「ああああっ」

 

それを見たエルキドゥが叫ぶ。

 

「それ僕のお菓子っ・・・。」

 

いや、おまえのじゃねーから。

この時鳥のレンズ越しに見ていたウルレシュテムと先程まで同じように菓子の取り合いに参加していたギルガメッシュの心の声が重なった。

 

エルキドゥはそのまま鳥の方に向かって突っ込んでいく。おい、お前は博愛精神の塊じゃなかったのか。

小鳥は菓子の1/3を犠牲に軽やかな羽ばたきで避けたが、エルキドゥの叩いた部分はながしごと潰れ、半壊していた。

小鳥はそのまま厨房の窓を抜け屋外へ脱出する。

 

「逃がさないよ」

 

エルキドゥはその窓のある壁を拳でぶち抜いて鳥を追いかける。小鳥が屋内に入れば、またそこの壁をぶち抜いて中へ入ってくる。ギルガメッシュはただそのあとを歩いていく。その繰り返しだ。

 

闘うための舞台としてこの城を用意したはずが、焼き菓子一つのために使用前から穴だらけになり風通しが良くなっていく様にウルレシュテムは複雑な思いで映像をみていた。

 

「あ、ギル。ちょっと待っててね。もう少しで君にも美味しい焼鳥を渡せそうだから。」

 

焼鳥?ギルガメッシュの頭に疑問符が浮かんだ。

 

「焼き菓子ではなく、か?」

 

「え?あれは僕のだよ?」

1枚だけだし、仕方ないよね。

にこりと緑髪の麗人は笑った。

 

「え?」/「え?」

 

ほぼ同時に走り出す。

 

走る。

 

走る。

 

 

途中で妙な足場を踏み、眼前をペンデュラムが通りすぎて行こうが走る。

 

走る。

 

途中でよくわからないなんか合成獣みたいなやつがいたが気にせず「「邪魔だっ」」という息ピッタリの掛け声と蹴りで容赦なく踏み潰して走る。

 

 

走る。

そして、遂に辿り着いた。

点々と続く食べ滓(菓子の道)に。

その奥には扉が一つ。

 

「「おおおおっ」」

 

もう体力も残り僅かな二人は揃って床をスライディングしていく。もうなにがなんだかわからないが、菓子のためである。この時二人は自分たちが何故ここに来たのかすら忘れていた。

急に目の前の扉が開く。

扉の先には菓子ではないが彼らの追い求める人の姿があった。

 

しかし、ここで問題が一つ。

彼らは今彼女の方にスライディングしていっている。

スピードがつきすぎて止まれない。結局二人はそのままの勢いで突っ込んでいった。片方は向こう側の壁へ。もう片方は目の前の人物の裾の中に。

 

「っ」

 

小さく狼狽えたような声をあげてその人物、ウルレシュテムがすっと足を避ける。

そして起き上がる弟。

微妙な沈黙が流れた。

 

「ギーールーー?」

 

そこに、この世のものとは思えない悪鬼のごとき形相のエルキドゥが現れる。瓦礫の一部が突き刺さっていたりして只でさえ血塗れだったのが更にとんでもないことになっていた。かくいうギルガメッシュも血塗れだがエルキドゥほどではない。

 

「・・・取り敢えず。お風呂ですね。」

 

困った様に微笑んでウルレシュテムは言った。

 

ギルガメッシュにとっては実に10年ぶりとなるその笑顔はあの頃と同じ、慈愛に満ち溢れたものだった。




このあともれなくギルガメッシュはエルキドゥにぼこぼこにされるでしょう。
この時代はおそらくはいていないのでしょうが、一応主人公は内側にハイレグっぽいのを着ていたため見ましたが見えてません。

今回も観覧ありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。


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糸の望み、鎖の願い。

湯気が立ち昇る浴室。

 

「最近水浴びばかりだったからなあ・・・。ふふっ。」

 

そう言ってエルキドゥは顔を緩めた。

 

「それなら良かった。久々のお湯を楽しんでいって下さいね。」

 

切り返して微笑むウルレシュテム。

焼き菓子騒動の後、ギルガメッシュをぼこぼこにして鎖でぐるぐる巻きにした後放置したエルキドゥはウルレシュテムの手を引いて風呂まで直行したのであった。

現在二人はウルレシュテムお手製のお風呂に浸かっている所だ。

 

「エルキドゥ。」

 

ウルレシュテムがエルキドゥではなくたゆたう水面に目線を落としながら声を投げ掛ける。

 

「?」

 

エルキドゥは疑問符を浮かべつつウルレシュテムを見るが、その目線は水面に固定されたままだ。

 

「・・・(ボク)を倒しに来たんじゃないんですか。」

 

「・・・。」

 

突然の問いにエルキドゥが目を見開く。

 

「それは。」

それは(・・・)?」

 

固まっているエルキドゥの方にウルレシュテムが目線を移した。優しい微笑みのままだ。

ただし、何処と無く悪戯を隠す子どもに確認をする親のように有無を言わせない雰囲気が醸し出されている。

エルキドゥは何と無く居心地が悪くなり少し首を竦めながら「まだ、分からない。」と、呟いた。

その答えに満足したのかしないのか。「そう。」と短く返事を返したウルレシュテムから、少なくとも居心地の悪い雰囲気は消えた。

その様子に内心ほっと息をついた。

 

「ごめんなさい。少し狡いことをしてしまいましたね。」

 

「?」

 

はて、ずるとは何のことか。エルキドゥに思い当たる節はない。思考するエルキドゥを置いてきぼりにして尚、ウルレシュテムは話す。

 

「さっきの質問をあなただけにしたというのもそうですが・・・実のところ(ボク)は何故ここに貴方たちが来たのかも、神々の動きも把握しています。」

 

絶句する。

自分たちの動き所か神々の思惑すら分かると目の前の母は言った。今のところエルキドゥにとってはどうでもいい討伐の件ももう耳に入っていることだろう。勿論、自分やギルガメッシュがそのための駒に抜擢されていることも。

 

疑問が浮上する。

何故、彼女は自身を討たんとする勢力を放置するのか。

そして何より、何故自分たちのような下手すると寝首をかかれかねない要素を積極的に内側へ誘導したのか。

自信がある。というより慢心しているとしか言い様のない行動だ。

しかし、それは彼女の人柄を知るものなら真っ先に否定する。エルキドゥもその一人だ。

 

故に、問う。

 

「どうして・・・」

 

どうして自分たちを懐へ入れたのか。

 

「あら?愛し子に会うのに理由が必要ですか?」

 

はぐらかしているのか、笑いながら彼女が質問する。

 

「違うっそうじゃなくっ「エルキドゥ。」」

 

いつになく真剣な、ともすれば無表情にも見える顔で名を呼ばれる。思わず口をつぐんだ。

 

「一つ。知恵を授けます(いいこと教えてあげます)。」

 

 

 

「世界の滅びを避けるためにも(ボク)は殺されなくてはなりませんし、例え別の打開策を実行しても貴方たちの目指す世界の幕開けは(ボク)の死なくしては成しえません」

 

 

「どのみち、(ボク)は誰かの手によって倒される。遅い(あなたたち)早い(他のだれか)かの違いがあれど、ね。」

 

 

 

言って、(彼女)は微笑みを浮かべる。

そこには憤怒も恐怖も不安も、諦観すら浮かんでいない。

あるのはただ、自身()を見守る母の貌だけだ。

 

「な・・・んで。」

言葉が出てこない。

 

なんで、どうして。そんなことは。

 

浮かんでは消え、浮かんでは消える。

 

「仕方がないのです。・・・ああ、でも。ギルにはまだ秘密ですよ。」

 

今言ったらきっといろんな意味で(ボク)の安全が保証されかねるので。内緒噺をする少女のように無邪気に笑った。

 

 

それなら、何故自分には最後まで秘密にしてくれなかったのか。

 

これから自分はどうすればいいのだろうか。

 

 

ぐちゃぐちゃの(中身)をそのままにエルキドゥ()ウルレシュテム()に抱き付いた。

甘えるというより何かを訴えかけるかの様に、縋るかのような抱擁に一瞬驚いたウルレシュテムだったが、恐らく分かっていないのだろうがエルキドゥの頭を撫でた。

エルキドゥは時折頭を左右に振るがそれでも自らの頭を撫でる手をただ享受する。

 

「エルキドゥ。外の世界はどうだった?」

 

「・・・とても、楽しかったよ。友達も出来たし。けど。」

言葉を切ってもう一度頭を振った。

 

今は少し、苦しい(悔しい)な。

 

ただただ、優しい手と温かい体温を、一時の幸福を享受していた。

もう少しだけ、もう少しだけ続いておくれと心の何処かで願いながら。




はい、と言うわけで風呂場での母子対談でした。
ウルレシュテムは出来ることなら彼らに最期を
エルキドゥはこの時間が続くことを
とバラバラなわけですが。

何故弟には言わなかったのか。
・・・姉としても弟が無意識に自分に依存している節を感じ取っているためです。
で、あ、これいったらだめなやつ。
と言うわけで鎖に託しました。


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泥の処置

主人公もですが主人公以外の人物の限界突破も止まりません。

最初からあってないようなものでしたが・・・そろそろキャラ改変のタグをつけるべきか悩んでいます。本気で。


「で、取り敢えず貴方の中の泥。出しましょうか。」

 

抱擁を交わしていたエルキドゥを放す。

エルキドゥが名残惜しそうに涙目で手をさまよわせていたのには少し罪悪感が芽生えたが、エルキドゥの為にもなるべく早めに出来ることはしておいた方がいい。

 

「今から行う事ですが・・・先に謝っておきますね。ごめんなさい。」

 

「え?物凄く痛いとかかい?それくらい気にしないけど?」

 

「いえ、その心配はないです。」

 

そう、その心配はないのだ。その心配は。

なんせ、これから行う処置はじっとしていれば痛みとは無縁なのだから。

 

ただ、ちょっと。

人によってはメンタルに深刻な影響が出るというだけで。

 

「・・・念のためもう一度言いますね。ごめんなさい。エルキドゥ。」

 

じっとしていればそれだけ早く終わりますから。と言って背後から天の帯を出現させる。

身構え後退するエルキドゥに構わず足元から首まで満遍なく拘束すると、その天の帯を更に自身に巻き付けてエルキドゥに手を伸ばした。

 

手が両頬に届いたのを確認し、そのまま再度距離を詰め・・・。

 

 

 

自身の唇をエルキドゥの(ソレ)に押し当てた。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

「・・・これはどういうことです。姉上。」

 

「?何か?」

 

ジャラジャラと懸命に鎖を外しながら悔しそうに問うギルガメッシュにエルキドゥの髪を布で拭きながら答える。

 

「なぜ、何故(オレ)が鎖に悪戦苦闘している間にエルキドゥと姉上が一緒に沐浴などしているのですかっ。羨ましい。そしてエルキドゥっ。貴様は貴様でなぜ顔を赤らめておるのだっ。あ、こらっ。姉上に抱き着くなっ。」

 

あれからエルキドゥが(ボク)から離れなくなった。・・・やっぱりいきなりあんな内容聞かされれば不安にもなるか。

頭を撫でてやれば更にすり寄ってくる。あ、かわいい。

こちらにすり寄ってきて輝かんばかりの笑顔で母さんと呼ぶエルキドゥ。

かわいい、癒される。癒しだ・・・。

思い返せば他の僕の子(仮)は親というより餌の事しか考えてなさそうな必死な小鳥たちとお菓子の取り合いで踏みつぶされたなんちゃって合成獣(フンババ)くらいだからな・・・。あれ?(ボク)の所ろくなのいなくね?

というかそもそも鳥が焼き菓子つまみ食いしなければ城の損害もまだマシだったよね。

考えれば考えるほど気持ちが沈んでいく。と、不意に衣服を引っ張られた。

見るとエルキドゥがギルガメッシュの方を指さしている。

・・・そこだけ負のオーラが立ち上っている、キノコでも生やしそうな後姿を。

溜息をついて、エルキドゥに断りを入れるとギルガメッシュの元に歩いていく。

「ほら、行きますよ。」

「?」

ギルガメッシュが涙目でこちらを見上げる。

ぽふりと頭に手を置いた。

「お風呂、入るのでしょう?髪、洗ってあげますよ」

途端にぱあっと顔を輝かせる弟に(ボク)が言うのもなんですがちょろすぎませんか?この子。と思ったのはここだけの秘密である。

 

 

 




お姉さん・・・弟さんがちょろくなるのは貴女と朋友さんの前だけです。

今回は話としてはかなり短くなってしまい申し訳ありません。
風呂と合わせるか迷ったのですが結局分けました。
何分収拾がつかなくなったもので・・・。
あ、と。それとなく入れていましたが『菓子の道』でちょこっとだけ出てきた合成獣。
あれはフンババです。大事なのでもう一回言います。あれはフンババです。

では、ありがとうございました。


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ギルガメッシュとウルレシュテム

ギルガメッシュが入るより先回りして風呂の水質を調べていたウルレシュテムは水につけていた手を上げる。

 

「・・・取り敢えず、感染の心配はなさそうですね。」

 

ほっと胸を撫で下ろした。エルキドゥの取りこぼしから泥に侵されるとか笑えない。

そんなことを考えていると後ろの方から何やら声が聞こえてくる。

どうやらギルが入ってきたようだ。

 

「ああ、待ってま・・・」

 

振り返った先にはZENRAの弟が立っていた。

鎧を纏っていないはずなのになぜか眩しい。

 

「あ、間違いました。」

 

扉代わりに隔てていた布を瞬く間に閉める。

驚くべきことに(ボク)の中のジャパニーズ魂はまだ残っていたらしい。

全裸ダメ。腰タオルOK?

 

「え、ちょ。姉上?何故閉めるのですか?」

 

布越しの全力の攻防が始まる。ギリギリと押さえ付けられた布が不吉な音を立てている。

けれどこれもいつまでもつか。ああ、もう布が破けそうだ。

 

「っ取り敢えず恥じらいを持ちなさい慎みを持ちなさいそして腰元のブツを隠せ。」

 

(ボク)の懇願に弟は一言。

 

「?何故ですか?(オレ)の身体に恥じるべき個所など一つもないではないですか。」

 

思わず絶句する(ボク)をよそにギルガメッシュは思い切り布を引っ張った。

ついにビリビリと布が引きちぎられた。あ、もうこれ矯正とか無理だ。

幼少の時に他の事と一緒に恥じらいも教えればよかった・・・と少し後悔した。

 

 

 

仕方がないのでZENRAでの湯浴み再開。

 

今はギルの髪を洗っている。

この時代おそらく主流は水だけか泥なんだろうけど個人的に泥を塗るのは抵抗があったので代わりに花びらを練って泡らしきものを作り石鹸の代わりにしている。

見た目椿に似てるが違うと思う。まあ、いい香りするから気にしないけど。

 

「痒い所は?」

 

ブンブンと首を左右に振るギル。勢いが良すぎて泡が飛び散る、やめろ。

そのまま桶の湯で流していく。

と、両腕を肩の高さまで上げ何かを催促するかの様に「ん」と言った。

おい、体も洗えってか。と思いつつさっきの石鹸?水を染み込ませた布を渡す。

 

「後ろは洗います。けど、前くらい自分でできますよね?」

 

思い切り不満そうな顔をする弟に笑顔で再度訊ねる。

 

「で、き、ま、す、よ、ね?」

 

渋々自分で体を洗いだした。よしよし。

どっかのお狐様も言っていましたが。

 

姉に勝てる弟などいねーのです。

 

 

石鹸をお湯で流して終了。我ながらよくやったと思う。

というわけでエルキドゥに癒してもらおうとくるりと出入り口の方を向く。

瞬間、後ろから何かに引っ張られる。

結果、(ボク)はなすすべなく湯船にドボンした。

服もびしゃびしゃである。重い。

犯人・・・ギルの方を見ると輝かんばかりの笑顔をこちらに向けていた。

 

「これで湯浴みせざる得なくなりましたね。姉上。」

 

あとで覚えてろよ。

 

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「姉上」

 

さっきから仕切りにうーとかあーとか言っている弟に「はい」とか「なんです?」とか言っているがいまだに進展がない。

そろそろ切り上げてあがるかと思っているとがしりと腰を掴まれ引き戻される。

俯いたギルがぽつりと呟いた。

 

「・・・聞かないのですか。何も。」

 

「聞いてほしかったんですか?」

 

ごめん。姉ちゃん気づかなかったわ。あれそういう意図があったんだね。

ほんとに会話がなくて困ってるだけかと・・・。

 

「・・・。」

 

「聞きませんよ。何も」

 

また俯いて何事か考え込んでいるギルに返答する。

話題に乗って墓穴掘るのも無きにしも非ず。怖いもの。

主にばれた後の君が。

 

不意に手を掴まれたというか両手で包み込まれるように握られた。

 

まってえええ。これ逃がさないってことおおおお!?

嘘だろおいいい。どっから情報が漏れた?尋問後に監禁とかいやだああああ。

 

「・・・姉上。一緒に神殺しに行きません?」

 

ついでに人類と言う目の逝っちゃった弟。

お前何言っちゃってんのおおお。つかお前裁定者だろっ。神はともかく人の事は大好きだっていつだっけかのアニオタの友人のD氏(名前忘れた)がいってたぞ!?

 

「え、いやあの話がよく・・・」

 

戸惑う(ボク)をよそに、にこりとその整った顔立ちに美しい微笑みを乗せるギル。

しかし、やはりその眼にハイライトは無い。

 

(オレ)も考え、悩みました。このままでは世界は滅びる。神はどうでもいいですが人がいなくなるのは(オレ)としても困ります。が、だからと言って姉上を手に掛けるのも嫌です。しかし、結果はどちらか一つ。故に。悩んで悩んで・・・そしてたどり着いたのです。(元凶)を殺せばこの命令自体は何とかなるんじゃないかと。結果として人間が滅んだとしても造り直せばいいですし。」

 

とろけるような笑顔で弟は切々と考えを語る。

恐らく(ボク)以外の婦女子の方々はこの笑顔に落ちるのでしょうが・・・。

なにぶん言っていることがかっ跳びすぎてて若干引き気味です。

 

「つきましては、(奴ら)を血祭に上げた後に(オレ)と」/「その話乗ったあああ」

 

突如、ガパリと床のタイルの一枚が剥がれるとエルキドゥが這い出てきた。

 

どんなところから出てきてるんだお前。

 

「えええエルキドゥ貴様っ一体どんなところから出てきているのだっ。」

 

顔を赤くしてギルが怒鳴る。

いや、その恥じらいをもっと別のところに持って来ようよ。

 

そんな周囲にお構いなしにエルキドゥは服を整える。

 

「なんだ、そんなことを考えていたなんて・・・水臭いじゃないかギル。ボクにも一言っておくれよ。」

 

すごくいい笑顔だ。どうなってんだこの二人。

お姉ちゃんもうついていけないよ。

 

傍らで二人が盛り上がり、ウルレシュテムが現実逃避を始めようとしたとき。

周囲に轟音が響き渡った。

 

 

 




主人公は身内のしたことは大概のことを許します。
まあ、それが弟と我が子の行動を助長している訳ですが・・・。

このギルガメッシュですが、彼はどちらかと言えば賢王寄りです。気性は。
ただし、姉、朋友に関する執着はとんでもないのでそれを汚すようなことは一切許しません。
偽物が現れたら即抹殺するでしょう。
似たような人物がいれば興味は示すのでしょうが飽きたら即捨てる程度、他の人間は総じて玩具くらいの感覚です。で、ウルク、ひいては世界は彼にとっては玩具箱同然の認識です。
飽きたら棄てる。面白いなら生かしておく。
それを子供の様な無邪気さと大人の様な冷静さで実行するためこの方も質が悪いです。

お読みくださりありがとうございました。


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お茶会

この作品内だとほんと踏んだり蹴ったりだなイシュタルさん。
と読み返してみて思います。

けどFGO見てても割とそんな場面も多かったなと思ってなんとも言えない気持ちになりました。




「「「・・・・。」」」

 

三人が沈黙する中、轟音が止まることなく鳴り響く。

 

「・・・罠。とか」

 

言ってウルレシュテムは二人の方に目線をやる。

二人は揃って首を左右に振った。

その様子からまた、何処かの神が軍勢でも引き連れて攻めてきたのかと思い城の周囲に張り巡らせた糸に感覚を繋げる。

 

しかし、糸が感知したのはたった一人分の、それもまだ年若い女性の形だった。

この形と感知した場所から該当する人物がウルレシュテムの脳裏を掠める。

 

「貴方たち二人だけで来たんですか?・・・天災女神(イシュタル)と一緒に来たとかは・・・」

 

「「・・・」」

 

二人が黙ったまま顔を背ける。

ああ、そう。忘れてたの・・・。とウルレシュテムは内心で溜め息をついた。

 

一応結界の防音機能を取り去ると轟音に混じって言葉も聞こえてくる。

 

「・・・と・・・・・・さ・・よ。」

 

途切れ途切れに聞こえているそれは明らかに最近友人()のお気に入りだった依代の女性の声だ。

 

「ちょっとっ。置いてくなんて酷いじゃないっ私も城に入れなさいよっ。」

 

三人無言で屋外に出る。

空は結界越しに跳ね返る光線によって夜だというのに昼のように明るい。なんだか東方の弾幕みたいだというのがウルレシュテムの感想である。

 

「綺麗だね。」

「ああ、まるで流星群みたいだ」

 

現実逃避しかけの二人を尻目にウルレシュテムは張り巡らせていた糸を手繰り寄せる。

その糸を気付かれないよう慎重に友人()の身体に巻き付けると故意に結界に穴を開けそのまま思い切り引きずり込んだ。

キャーという可愛らしい悲鳴とともにいつぞやのように墜落する女神。

その姿は完全にある繋ぎの王に射られた時と同じであった。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

「いっつう。ほんっとあんたって撃ち落とすの好きよねっ。」

 

まだ痛むであろう頭に氷を乗せながらイシュタルはウルレシュテムを睨んだ。

 

「撃ち落としたんじゃありません。絡めとって引きずり込んだんです。」

 

さらりとその視線ごと言葉も言葉で打ち返すウルレシュテムに「どっちも一緒よっ」と更にムキになって反論するイシュタル。怒鳴ったせいで傷が痛んだのかもう一度頭に氷を当てなおした後着席する。

 

「・・・ほんと、心配して損した。」

 

ぼそりと言ったイシュタルの一言にウルレシュテムが持っていたお盆を落とした。

お盆に乗せてあったお茶はなんとか持ち直したウルレシュテムが零れることを阻止したが、一緒に乗っていた菓子は地面に落ちる・・・ことはなく目にも留まらぬ速さで動いたギルガメッシュとエルキドゥの活躍によってすべて無事だった。その直後二人の腹に入ってしまったためあまり意味はなかったが。

 

「ちょ、それ私のっ」

 

「・・・今、なんて」

 

どんだけ菓子に飢えてたんだと言わんばかりに菓子を貪る二人に思わず席を立ちあがったイシュタルは、呆然としているウルレシュテムの方を見て自身の失言を覚る。途端に赤面し、しどろもどろになりながらも必死に言い訳を募る。

 

「べ、別に。暇。そう、暇だったから着いてきただけよ。で、でも一応その・・・なんというか。あ、あんたは私の相か・・・ら、ライバルだから。何があったのか様子でも見に行こうかなと思ったくらい・・・・て、もう何言ってんのかしら私。」

 

「ふ、ふん。私が認めた相手なのだから精々のうのうと生きていればいいのだわ。」

 

などと頭を抱えた状態でいうものだからウルレシュテムもウルレシュテムで赤面する。

まさか、元王で半神とはいえ人間の血が混じった者に女神が遠まわしに対等紛いの関係であると吐露したのだ驚くなというほうが無理である。

 

「な、なによ。」

 

静かになった周囲の雰囲気に耐え切れなくなったイシュタルがぶっきらぼうにいう。

 

「あ、ありがとう・・・ございます。」

 

それに応対するウルレシュテムは対照的に穏やかに微笑んだ。

残る二人はその後ろで「あれ、ほんとにイシュタル?偽物じゃない?」「いや、もしや頭を打った時に一周回って改心したか、頭に異常をきたしたのかもしれんぞ。」と囁き合っている。

 

「聞こえてるわよ。そこ。」

 

言いながらイシュタルは二人をマアンナで追い回し始める。

追うイシュタルに逃げる二人。

そんな三人の姿を見ながらくすくすと笑い、お茶会の準備をするウルレシュテム。

お茶会はまだ始まったばかり。

こんな時間がもう一度来ることを願ったのはさて、誰だったことやら。

 




前回のあとがきに書いてたことを読み返してあれ?案外これギルガメッシュに近くね?とか思ってしまいましたが、まあ、この作品のギルガメッシュは子供要素過多の青年みたいな感じで・・・うん、おかしいですね。すみません。
お気に入りの数を確認して飲み物噴出した後なので正直自分も何書いてるのかいまいち・・・ほんとごめんなさい。

お気に入り、感想ありがとうございます。

それとキャラ改変タグを新たに付けさせていただきました。

これからも、閲覧よろしくお願いします。


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奇縁

壊れかけた玉座で肘をつきながら腰かける女性が一人。

お茶会が終わると早々に強制送還の陣を使って三人を転移させたため本当に一人きりだ。

 

「さて、折角見逃したんですから。十全の心構えと十分な支度を以って(ボク)をーーー。」

 

女性ーーーウルレシュテムが言い終える前に傷一つなかった扉が吹き飛ぶ。

なだれ込む様に侵入してきた神側の部隊・・・というより軍勢と呼んだ方がしっくりくる質量の集団が一斉にこちらへと迫ってきた。

純粋な人の連合軍ではない。むしろ人の割合は少なく、ほとんどは何かしらの拘束具のつけられた幻想種や自然神が占めている。

 

ーーー随分と豪勢なのが来たものだ。

 

ウルレシュテムは体勢をそのままに深い溜息をついた。

我先にと玉座に辿り着こうとする様をなんの感情も映していない面貌で見遣る。

 

「神は余程学ばないとみえる。」

 

ぽつりと放った一言に集団の先程までの侵攻が止まる。

 

ーーーなんだ、今回のはまだ考える頭があるのか。

 

思考しつつクスリと妖艶な笑みを浮かべてウルレシュテムは続ける。

 

「急いては事を仕損じる。・・・前も、その前も。原因はそれだ(分かっている)というのに・・・本当に学ばない。権能(ちから)はあってもこれでは・・・力が無い分学習する人の方がまだ見所ありますよ。」

 

いつの間にかただ妖艶だった笑みには明らかな嘲笑が加わっていた。

酷い侮辱にそれまで静寂を保っていた広間に再び数多の怒号が響く。侵攻の再開だ。

一番早く玉座付近に辿り着いたドラゴンに似た幻想種が、その肢体を引き裂かんと爪を振り上げる。

 

「誰が(ボク)の傍に寄ることを許可しました?・・・痴れ者が。」

 

ドズッという鈍いくぐもった音がどこからか。否、爪を振り上げた幻想種から聞こえる。

そのままその巨体が崩れ落ち、しばらく痙攣した後動かなくなった。

その動作を他の個体が認識するよりも先にボツッとまたどこからか音が聞こえる。

 

ボツッ ブズッ バズッ 

 

鈍い音は一つ二つと徐々に増え、それと比例するように(味方)が倒れていく。

恐怖に震える暇どころか攻撃(それ)を認識する暇すら与えられない。

ただただ、最前列から波の様に倒れていく。

 

最後に残った自然神が倒れた。少しばかり血を吐いて倒れたそれを見たウルレシュテムは弟に話しかけるような気軽さで呟く。

 

「あら、汚さないで下さい。ここは弟たちのために用意した舞台なのですから。」

 

ここでやっと彼女は玉座を立った。

そのままゆっくりと、たおやかに歩みを進める。

その様は美しく尊い、死骸の群の中でもさながら聖女の様だ。

軍勢の侵入してきた入口まで辿り着き、振り向いた。

 

ーーー惨状だ。

先程までの出来事を見ているものがいたとすれば間違いなくそう答える。

 

ーーー不可解だ。

何も知らないものはそう答えるだろう。

 

なにせ、死骸は在れど、血液どころか争った形跡すら一つもない(・・・・・)のだから。

 

「・・・さしずめ見えない爆弾ってところでしょうか。」

 

その例えが正しいものかどうか、それはこの広間の現状を作り出したウルレシュテム本人にも分からない。

彼女がしたのは単純に王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)に類似した自身の保管庫から適当に選出した武器をほんの少し展開しただけだ。あまり汚したくなかったため射出すらしていない。

もしかしたら剣先によって切られたのかもしれないし、臓器が潰れたのかもしれない。

はたまた本当に小型の爆弾による爆死だったのかもしれない。・・・どんな形の死であったとすれ使用者本人からすればどうでもいいことなのだろうが。

 

「・・・。」

 

視線を入口へと戻した彼女は足元。・・・正確には足元に転がる死に掛けのフンババを見る。

ゼヒュッゼヒュッという浅い呼吸とバラバラになった手足をはじめとした部品が、今もなお死に向かっているという事実を表しているかのようだ。

 

「・・・有効利用するとは言いましたが。」

 

ーーーまさかここまでとは思わなかった。

 

前回は不意打ちだったとはいえ今回もかと頬に手をあてて少し唸る。

しばし考えた後彼女は黒い敷物を背後から取り出すとそれをフンババに被せ、包み込む。

みるみる縮小していった布は最後には赤子ほどの大きさになり、自動的に結び合わさった。

 

「キャッチ&リリースということで。」

 

包みを更に大きめの布に乗せてその布の端に何やら文字を書いてゆく。

 

「うん、こんな感じですかね。」

 

 

 

エンリル神へ

 

ささやかながらお礼の品です。

長く置くと消化されるかもしれないのでなるべく早く開けてあげてください。

一応傷は治しておきました。

 

P.S消費魔力は着払い方式にしましたのであしからず。

 

泥持つ者より

 

 

 

 

最後に布の裏側にエンリル行きと書いて少しだけ魔力を込める。

布は動き出すと目にも留まらぬ速さで広間を駆け抜けていった。

途中どこかで何かにぶつかったらしくパリンという音がきこえた。

・・・改善の余地ありだな。と呟いて、彼女は廊下へ歩を進める。

 

「ああ、楽しみ・・・。」

 

うっとりと、先程の聖女然とした姿でも、王たる者の姿でもなく。

ただ一人の、恋する少女の様に熱っぽい視線を虚空へと向ける。

 

「早く来てくれないでしょうか・・・。」

 

しかし、その表情とは裏腹に、声には嘆願にも似たものが多分に含まれていた。




・・・というわけでフンババ着払い案件になってしまいました。
一応この対応。他の神に比べたら(主人公の中では)優しい方です。
これがイシュタルとかみたいな彼女に友好的な神でなかった場合(特に主人公を作ったときにかかわった一部の神)もっとえげつない呪いと共に軍勢の中で一番いい加護ついてるやつ=一番気に入ってるやつの惨殺死骸を送り付けるという手段に出ていました。
ちなみにエンリルとは他の神と違って変な茶々入れしてこないし、定期的に気にかけてくれていたので(面白がっているとも)割と友好的です。
まあ、それでも思うところがあったので着払い案件と相成った訳ですが・・・。

閲覧ありがとうございました。


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唯一

気付けば既に二十話を突破していました。
長くなってしまい申し訳ありません。
おそらく(できれば)あと二、三話ほどで章を完結できればなと思っております。

よろしければ見ていってください。


「話があるんだ。ギル。」

 

ウルクに転移して早々にエルキドゥが申し出る。

 

「なんだ、次の逢瀬の日取りか?」

 

久々の姉との時間が取れたからかギルガメッシュは上機嫌に答える。

 

「・・・ここじゃなんだから少し場所を変えようか。」

 

言ってエルキドゥは歩き出す。

その顔はさっきまでのお茶会のときとはうって変わって真剣なものだ。

 

しばらく歩いて、着いたのはウルレシュテムの残していった地下室だった。

 

「さて、ここなら気兼ねなく話せるかな」

 

さすがの天災女神もここじゃ分からないだろうし。と呟く友に訝しげな眼差しを送りつつ、ギルガメッシュは次の言葉を待った。

 

 

「・・・本当は口止めされてたんだけど。母さんは・・・」

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

(オレ)が姉という存在に会ったのは今生での自我が確立されて間もない頃だった。

 

きっと、今回ももうすぐで終わりが来るのだろう。

そんな諦観染みた事を思いつつ目の前の少女に笑顔を向ける。少女・・・姉は一瞬躊躇ったもののぎこちなくではあるが笑い返してくれた。とても綺麗な笑顔だった。

このときの(オレ)にとっては別にどうでもいい事ではあったが。

 

(オレ)には使命が与えられた。

一つは先代()の姿から王としての務めを学ぶこと。

そしてもう一つは、姉が神に反旗を翻さないか、不利益な存在にならないか監視し、報告すること。

 

神やそれに従う事情を知る一部の神官は(オレ)こそが本物の王の器だ。あの者さえ居なければと口を開けば姉の不満か(オレ)への見え透いた賛辞。

特に常に行動を共にしようとしてくる神官たちは何かに取り憑かれたかのようで気味が悪かった。

使命は全うするつもりだか関わり合いになりたくなかった(オレ)はより近くで観察対象を裁定するという名目で奴等の手の届かない場所・・・姉の元に通うようになる。

 

彼女の元に通うのは楽しかった。

実際、彼女はよく(オレ)の世話を焼いた。

基本的な行儀やらは彼女から教わったものが殆どだ。

甘いだけでなく、叱られたことも多々ある。

彼女は正しく王であり姉であった。

憧れた。自分が後を継いだ時もこうで在りたいと。

幸せだった。この時間がずっと続けばいいと思った。

 

けれど

 

けれど、それだけ、幸福を感じる度。同じ時を過ごす度怖くなった。

 

あとどれほど姉が(オレ)と共にいてくれるのだろう。

 

あとどれくらい(オレ)は生きていられるのだろうか。と

 

まさか、ここまで成長できたことは過去一度もなかったため期待と不安が募った。

 

 

そんな不安を余所に姉も(オレ)も成長していく。

特に姉は歳を重ねるにつれ美しくなってゆくのが目に見えて分かった。

自ずと前々から打診されていた縁談の量が更に多くなる。

比例するように姉が(オレ)に割いてくれていた時間も無くなっていった。

現実に戻されたような心地だった。

やはり彼女も前やその前の両親とやら(塵芥)と一緒なのではないか。

 

(オレ)は彼女を試すことにした。

 

例えば執務の邪魔。

例えば寝所に潜り込んで外聞を悪くする。

 

しかし、いざ実行すると姉は注意することはあれど決して怒ることは無く、どこまでも(オレ)の行いを許し、受け入れるばかりだった。

何故とは怖くて聞くことができなかった。

 

ある時寝所で夢を視た。

暗闇の中をよく見知った後姿が歩いている。

ついてゆく、追いつけない。どころか離れてゆく。

取り残される。

怖くて、辛くて。必死で行かないでほしいと姉を呼んだ。

そこでやっと気づいたかのように姉が振り返り、苦笑とともに手を伸ばしてくる。

 

目が覚めると隣に姉がいて。暖かくて、幸せで。

ここでようやく(オレ)(オレ)にとっての、手放したくない唯一を見つけた。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

「・・・う・・・おう・・・王。」

 

ギルガメッシュは瞼を開ける。

少し眩しい光とともに見慣れた兵士の顔が見える。

どうやら眠っていたらしい。

 

「やあ、やっとお目覚めかい?」

 

いつの間にか傍らに立っていた友が苦笑する。

まあな、とこちらも苦笑を返した。

 

「・・・とはいっても正確には(オレ)であって(オレ)では無いが。」

 

あやつは今も微睡みの最中だと告げると微かに友が目を見開いた。

 

「へえ、君がこのタイミングで出てくるとは思わなかったよ。よく(片割れ)が許したね。」

 

「ふん、何。この身体は本来(オレ)の物。これくらい造作もないわ。」

 

にやりと凶悪な笑みを顔に張り付ける。

 

「さて、エルキドゥ。行くとするか。」

 

普段とは打って変わった、これからの愉しみに舌なめずりをするかのような獰猛な笑み。

しかし、そんな人の変わったような。否、実際変わった彼に動じることなく、友は返事を返す。

「はいはい・・・本当にいいのかい?」

本当は苦しい心境であろう彼は意識して気軽に聞こえるように質問した。

 

「姉思いの弟としては姉の願いはどんな形であれ叶えてやらねばな。・・・それに、(オレ)(オレ)もかなり傲慢だと自負しておる。さらさら、元の願い道理に叶えてやる気などない。」

 

紅い目がギラギラと輝いた。

 




というわけで、今作のギルガメッシュの事情の一端を開示したわけですが。

ここで出てくるギルガメッシュ二人。
これは元々備わっていた自我とシステムとしての自我なんです。
で、互いを互いに予備だと思い込んでいるという。
一応メインは(オレ)です。

観覧ありがとうございました。


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姉弟

誤字報告ありがとうございます。早速修正させていただきました。


・・・前回あと2、3話でおわしますと言った割におぼつかない感じが出てますが取り敢えず終わると思います。・・・たぶん。


というわけで今回も閲覧よろしくお願いします。


夢を見る。

 

夢を見る。

 

 

足元を見る。

青々とした美しい草花が咲き乱れている、何処かの庭園の様だ

/黒泥に覆われている。足の感覚は無いが不思議なことに立ててはいる。

 

 

宙を見る。

太陽が眩しい。■■の言う通り日除けを持ってくるべきだったかもしれない

/暗い。星さえ見えない黒が広がっている。

 

 

視線を下げる。

美しい庭園の中を駆けてくる人影が一人。手を振っていたのでこちらも振り返す

/生命どころか文明の残滓すら見当たらない。

 

 

「姉様。」/「Aaaaaaaaaaa」

 

 

 

ーーー懐かしい、声が聞こえた気がした。

 

 

ーーー

 

 

ーー

 

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

ウルレシュテムが眠りから目覚めたのは、金色の流星の如き輝きが城の上部を突き抜けて着地したのとほぼ同時だった。

大穴をこさえた謁見の間の天井を見遣り幾度か目を擦ると視線を降ってきた隻眼の巨体ーーーもとい獣の殻を被ったエルキドゥに向ける。・・・と、エルキドゥの喉元が膨れ上がったかと思うとその何かを・・・嘔吐した。

これには思わず悲鳴を上げそうになったウルレシュテムであったが必死に飲み込む。ここで悲鳴なんて上げたら折角の緊張感が台無しだ。そう思った束の間。

 

どちゃりと出てきたのは何やら金ぴかに光り輝く何か・・・もとい金の甲冑に身を包んだ弟であった。

唾液(仮)でベトベトだけれども。こ、これは・・・芳村店長運搬方法っ。

ウルレシュテムの眼が輝いた。

 

「げっほごっほ、うえっ。」

 

「エルキドゥ・・・確かに、確かに括りつけられるのは嫌だと言ったのは(オレ)だ。が、飲み込んで運べと言った記憶もないぞっ。」

 

唾液(仮)でズルズルのままのギルガメッシュが半ギレ状態でエルキドゥに物申す。

エルキドゥはというといまだに吐き気と戦ってはいたがなんとか返答ができる程度には回復したらしく途切れ途切れに反論する。

 

「だ、だって・・・うっ・・・最初がぁっ・・かんっじんっだって・・・うえっいったじゃ・・・うぷっ・・・ないか。」

 

「・・・言った。確かに言ったな。(オレ)。ってそうではないっ。いや、そうだけれども。ともかくこんなところを姉上に見られたらっ・・・。」

 

言っているところ悪いがここは既に本人の目の前であり、繰り広げられているやり取りも完全に見られている。

慌てる弟の肩に無慈悲にも姉は手を置いた。

 

「うん。取り敢えず出直して来なさい。」

 

前の戦闘の死骸から造った拘束具で二人を拘束すると足元に大穴を開けて浴場へ転移させる。

 

流石に嘔吐の最中の奴や吐瀉物よろしくズルズルの奴とも戦いたくない。

顔を洗って出直して来な。

 

大穴を閉じて玉座を立つ・・・とばぎゃんという音と共に壊れかけだった扉が完全に破壊された。

 

「・・・おやおや、今日はいつにも増してにぎやかですね。」

 

穏やかに微笑むウルレシュテムの片手にはいつの間にか一振りの剣・・・否、ナルカミが握られていた。

 

「準備運動くらいにはなってください、ね?」

 

 

 

一方浴場では・・・

 

(オレ)一応姉上とは初対面なのに・・・これで汚い来るなとか言われたら・・・」

 

脱衣所で膝を抱えるギルガメッシュ。

 

「だ、大丈夫だよ。もう一人のギルなんてもっとすごいことしてた時もあったみたいだしそれに比べたら・・・」

 

獣の殻を脱いだエルキドゥが必死に励ます。

必死過ぎて正直エルキドゥが何を言っているのかは本人ですらわかっていない。

 

「そ、そうかっそうだなっよくよく考えてみれば(オレ)(オレ)と似ても似つかぬ根暗で性格捻じ曲がってる病んでそうな男だものなっ(オレ)の方が優れ、より好かれていることなど自明の理であったっふ、ふはっふはははははははっ」

 

「あ、うん。」

 

自分の宥めよりも持ち前の傲慢さ(ポジティブ)で回復した友にエルキドゥはこれ以上何かを口にすることができなかった。

 

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

色とりどりの亡骸の中に彼女はいた。

 

片手に見慣れた武器を持って。

 

聖母の如き(微笑み)は損なわれることなく。

 

汚れ一つついていない。

 

「随分と早いですね。・・・おや、君でしたか。」

 

バツが悪そうなギルガメッシュに向かってウルレシュテムは真っ先にそう言い放った。

それにハンと鼻を鳴らし薄く笑みを浮かべるギルガメッシュ。・・・どうやら調子が戻ったらしい。

 

「ああ、(オレ)だとも。(オレ)ではなくてすまんな。あ・ね・う・え?」

 

手厳しい一言に苦笑を漏らしながらもウルレシュテムは両腕を広げ、微笑む。

 

「いいえ。いいえ。そんなとんでもない。彼も君も時間や出会いの差は有れど(ボク)の弟に違いは無いのですから。歓迎します。・・・さあ、存分に」

 

殺し合い(あそび)ましょう。言ってウルレシュテムがギルガメッシュに向かって跳躍する。

応戦するギルガメッシュの手には嘗てウルレシュテムの造ったユキムラが握られていた。ガキンっという衝突音の後、宙返りしてウルレシュテムが距離を取るかのように着地する。

 

「・・・随分と懐かしいものをお持ちの様ですね。」

 

それ。言うと同時にギルガメッシュに肉薄せんと再度迫るウルレシュテム。

 

戦いの幕はここに開けた。




本当はギルガメッシュが出てきた時点で主人公の真ん前だということに気付いて三人そろって沈黙して・・・みたいな展開も入れたかったんですが収拾がつかなくなったのでカットしました。
ちなみにギルガメッシュは普通に剣も使います。なめているからとかではなく相手が姉だから姉を超えるべく姉に与えてもらった術を使って対抗する・・・みたいな。
原作と違って姉ちゃん(規格外)に教えを乞うていた(血まみれ)ので剣の腕もとんでもないことになっています。うん、きっとセイバーの適正もあるよこの英雄王。で、きっとステも上がってたりするんだぜ(震え声)みたいな。

閲覧ありがとうございました。
今後もよろしくお願いします。


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おやすみなさい。

「■■■■、お前は隊長の下に行って現場の状況を記録してこい。」

 

ウルクの古い屋敷の中で、男が机越しに立つ少女に告げる。

 

「はい。」

 

短く返事を返した少女はくるりと踵を返し部屋から出ようと入口へ向かう。

 

「くれぐれも、ばれるな。手出しもするな。」

 

「・・・はい。」

 

きつい口調で釘を刺す男の声に、変わらぬ声音で少女は返答し、今度こそ退出した。

 

「どうしてっ。」

 

足早に道を歩く少女の呟きは誰に拾われるということもなく消えた。

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

剣がぶつかり合う音、飛び道具がはじかれる音、地面の抉れる音。

斬り、投擲し、会話し、傷付け合う。

 

ぷつり。と、ウルレシュテムの頬が薄く切れる。

切られたことを認識したウルレシュテムは笑みを深め、一層楽し気に剣戟を振るう。

対するギルガメッシュは心底悔しそうに、けれどもどこか楽しそうに剣を動かし続ける。

エルキドゥはギルガメッシュのフォローに徹し遠距離からの射撃と鎖での回避行動を中心に動き回る。

 

良くも悪くも無駄の無い、連携と言ってもいいくらいの完成された動きはまるで剣舞でも見ているかのようであった。

 

「・・・ふむ、左脇があく癖があったはずですが・・・成長したのですね。」

剣戟の手を緩めずにウルレシュテムはふふっと笑った。

 

「ええっ、毎日欠かさず鍛錬に励んでいますから。(オレ)がっ。」

その剣戟を撥ね退けつつギルガメッシュが返答する。

 

「・・・足元がお留守です。」

 

袈裟懸けにしようと振るった勢いをそのままに足に向かって振りぬいた。

肉の裂ける音と舞う鮮血とわずかに漏れる苦痛の声。

かなり深めに足が切れたらしい。が、その普通ならば歩行は不可になるであろう傷の部位に即位時に贈った天の帯で固定、擬似修復し、戦闘を継続させる。

一連の動作にウルレシュテムは素直に驚き目を見開く。

 

「随分器用なことしますね。驚きです。」

 

流石の自分もそんな使い方したことない。

まあ(ボク)の場合、傷口に能力で糸通して瞬時にくっつけるからする必要もあまりないんだけど。とウルレシュテムは内心ひとりごちる。

 

「はっ。製作者(姉上)本人からそんな言葉がいただけるとは光栄だ。」

 

皮肉をいうギルガメッシュの胸部を軽く突く。

思っていたよりも容易く彼の身体は後ろに傾き、地面へと倒れた。その無防備な首元に天の帯で作り出した疑似IXAを突き付ける。

 

 

「まさか、ナルカミが破壊されるとは思いませんでした。・・・けれど」

 

ポツリと言葉を漏らす。

 

「けれど、いまだ(ボク)には至らない。39回・・・この戦闘で貴方を殺せた数です。・・・貴方、(ボク)をなめていませんか。」

 

静かな声には確かな殺意が籠められていた。

その問いかけにまたもはっと鼻で笑ったギルガメッシュは突きつけられた武器を素手で掴み、空いている手でウルレシュテムの胸元を掴んで顔を近付ける。

 

「なあに、(オレ)なりの触れ合いだ。あやつばかりずるいではないか。・・・それもここまでのようだがな。あやつの勝てなかった姉上を負かして組み敷いたらあやつはどんな顔をするのかと思ったが・・・残念だ。」

 

寂しげな笑顔で「ではな。」と言った途端ぶつりと糸が切れたかの様に倒れこむ。

 

「っ」

 

急に重くなった身体につられるようにウルレシュテムもギルガメッシュの上に倒れ込んだ。ウルレシュテムは体勢を整えようと起き上がろうとするが、その行為はいつの間にかがっちりと腰に回された腕のせいで成されることはなかった。

彼女が気絶したかに見えたギルガメッシュの方に顔を向けると、丁度ぎょろりとこちらへと動かされた眼球と目が合う。

 

捕まえた(・・・・)。」

 

おそらく切り替わったであろうはずのギルガメッシュが先程と同様。否、それ以上に凶悪で凄惨な笑みを浮かべていた。

 

まずい。

 

咄嗟にそう思ったウルレシュテムは瞬時に短剣を形作る。

ただ距離を取ることが目的のそれはお世辞にも業物とは言えない代物だ。

そんなことはお構いなしに出来上がったそれをギルガメッシュの顎付近を通り過ぎるよう振る。が、その瞬間ギルガメッシュごと鎖で拘束されていた。

 

「!!!」

 

何とか抜け出そうと身を捩るウルレシュテムだったがそれは無駄な徒労というものだ。

なんせ、この鎖は生ける兵器エルキドゥの用いる天の鎖だったのだから。

シャラシャラと音を鳴らしながらエルキドゥが二人に近づいて来る。

 

「ええと、ごめんね。母さん。・・・話しちゃった。」

 

気まずそうに頬を掻くエルキドゥにウルレシュテムは絶句する。

彼女の頭の中ではあれほど言うなと言ったのにとかもっと別の方法があったろとか恨み言のような思考が出ては消え出ては消えていく。

 

「姉上」

 

いつの間にか短剣を素手で掴んでいたギルガメッシュが短剣を放り投げ、血が乾いた方の手でウルレシュテムの髪を梳くように撫でる。

 

「なぜ貴女がそうまでして死に急いでいるのかは(オレ)には理解できない。が、せめて理由くらいは知りたいのだ。何故、貴女が死ななくてはならないのか。でないと」

 

きっと、(オレ)も後を追うぞ。さっきとは打って変わった澄み切った笑顔でさらりと言って退けた。が、ウルレシュテムも、そしてこの場でギルガメッシュに加担しているエルキドゥも理解した。これは脅迫だと。

おそらくこの男はその言葉通りの事を平気の平左で実行する。それこそ周りの迷惑などお構いなしに。自身の治める国も民も(自身の守るべきもの)責務(天の楔)さえも投げ出して、文字通り彼女の後を追うだろう。

それはつまり、ウルク第一王朝の崩壊を意味する。全てが終わる。続くものは無い。世界は閉じる(終わる)

三人の間に沈黙が満ちた。

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

少女は走る、走る。

 

敬愛するあの方の最期を見届けるという任を請け負ったのだ。

 

正史を乱すあの邪魔な魔女を殺すチャンスが来たのだ。

 

早くしなければ、早くしなければ

 

それが相反する感情であるとは知らぬままただただ衝動的に走る。

 

 

ひた走る少女の片手には剥き身の輝く矢が握られていた。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

「脅迫するみたいでごめん。我儘だってわかってる。けど、僕もギルも母さんには生きていてほしいんだ。だから、協力してほしい。」

 

穏やかな声でエルキドゥが沈黙を破る。

そんな我が子といまだ笑顔のままの弟の様子を見たウルレシュテムは溜息を吐くと口を開いた。

 

「・・・簡単に言ってくれますね。神に見つかったらそれこそ一貫の終わりだというのに。」

 

取り敢えずこの鎖解いてくれません?というウルレシュテムはいつものように微笑んでいた。

 

「・・・(ボク)は訳あってこの泥・・・ティアマト神の能力(チカラ)と人と神・・・牽いては万物万象を結ぶ天の糸としての役割(チカラ)を持っています。問題は前者、ティアマトの方です。」

 

ただ、淡々と言葉を紡いでいく。

表情すら既に微笑みは無く、何も映していない。

 

「神々は恐れているんですよ。ティアマト()の復活を。(ボク)がティアマトを招かないかを。」

 

(ボク)とティアマトは繋がっているんです。言ってウルレシュテムは苦笑する。

ここでギルガメッシュは何故わざわざ自身を送り込むときにあのような命を受けたのかを納得する。要は、どんなに有能であれ有害であれ。どのみち神は彼女()を殺したかったのだと。彼女という神にとっての危険を潰す為に何かしらの大義名分が欲しかったのだと。

ギルガメッシュは鎖を解いても尚放さなかった腕に力をこめた。

顔はウルレシュテムの肩に乗せられており表情を窺い知ることはできない。

ウルレシュテムがギルガメッシュの背中をあやすように軽くトントンと叩く。

そんな二人を穏やかな笑顔で見ていたエルキドゥが「僕も入れて」と言って走り寄り抱き着く。あのお茶会の時間が戻ってきたようで和やかな雰囲気がその場を包んだ。

 

 

 

 

ざくりと、何かの刺さる音。

ぶちぶちと躰の組織が断裂する。

 

「・・・?」

 

謁見の間の出入り口付近から飛んできたであろう黄金の矢が、背中を向けていたギルガメッシュ。ではなく、ギルガメッシュに抱きしめられていたウルレシュテムの脇腹に当たる。

バキリと、肉体どころか魂さえも傷をつけるような痛みがウルレシュテムの全身を駆け抜けた。

 

「あ、Aa、あ・・・。」

 

ずるずるとウルレシュテムの身体が崩れ落ちてゆく。

 

こうして、後に魔女と、ティアマトの化身と呼ばれることになる女の物語は完結した。

 

「あ、あああああああああああああっ」

 

誰かの絶叫が響く。

 

遠のいてゆく意識の中で女は思う。

 

ああ、どうか嘆かないで。

 

「あねうえっ姉上っ」「母さんっ」

 

どうか、あのお茶会の時(愛しい時間)のように笑っていて。

 

 

 

もういいの。

どうかわたしを忘れて(忘れないで)

 

 

 

「・・・絶対に死なせるものか。」

 

そう呟いたのは誰だったのか。暗闇に沈んだ彼女は知る由もない話である。




という訳で神代編完結です。
長いような短いような長いような・・・。

本当に読んでくださってありがとうございます。

いろいろ付け加える物事はあったりするのですがそれはまた今度という事で。
ちなみにちょいちょい出ていた少女も神代編のその後の話で(書く機会があれば)書きたいと思います。
それでは次章もよろしくお願いします。

閲覧ありがとうございました。


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解説編
叙事詩及び現代でのウルレシュテム


神代編やっと完結しました。

で、早速次の章に・・・と思ったのですがせっかくなので解説編を設けさせていただきました。

一応この解説編は次の章がスタートした後も付け足していきたいと思っていますのでどうぞよろしくお願いします。


ギルガメッシュの姉。

その在り方は良き王良き姉であったり、王を陥れようと画策する魔女であったりと様々。

後世ではギルガメシュにエンキドゥを差し向ける、キシュに取り入って二人を誘い込み罠にかけるといった魔女としての面が強調されているが、別の石板ではギルガメシュの即位祝いに自らの髪を編んだ帯紐を贈るといった彼を助けるような場面もあり真相は謎。

そのため、アーサー王物語の登場人物モルガン・ル・フェと同一視ないし原型ではないのかと言われている。

ちなみにこの叙事詩内での結末は後世において広く分岐しており

フランスあたりでは最終決戦の後ギルガメシュがウルレシュテムの助命を嘆願するが反対されたため二人で世界中を逃避行。先導者のいなくなった国の民たちは嘆き悲しみ国が荒れて神への供物や労働が満足にこなせなくなってしまったため神々は慌てて助命を認め二人を連れ戻す。後二人は結ばれた。という恋物語。

日本あたりでは最終決戦で倒された・・・と見せかけて実はそれは分身で本体は隙を見て脱出。以後各地を転々としつつその地の人々に様々な知恵を授けて回ったという判官贔屓っぽい話。

など本当にぶっ飛んだものから妙に信憑性のある話まで様々である。

しかし、最終決戦でギルガメシュに神々の矢を用いて倒されたというのが今のところ一番有力な説。

彼女は死後弟同様神格化されており縁の神として信仰されている(縁切り縁結び)。彼女の逸話からなのか幼い娘または息子の髪を親が熱心に梳き編みながら「偉大なるウルレシュテム神のご加護がありますように」と子供の無病息災、良縁を祈るという謎の行事があったりする。ちなみにこれ、年頃の男女だと自分の抜いた髪をミサンガの様に編み込み「いい彼女/彼氏に巡り合えますように。ウルレシュテム様、お願いします。」と願うという謎のおまじないに変化する。

恋愛関係とかもっぱらイシュタルのはずなんだけどネ。

これ以外にもウルレシュテムの帯紐という装飾された紐を木に引っ掛けてその落下の有無によってその年の縁を占うという占いもある。彼女の誕生日だと俗に言われている年の終わりから始めまでにのみ行えるということもありなんか大量の首つり跡みたいな木が毎年点々と見つかる。近年地元の自治会の手によって明朝に大体回収されるため自治会と若者との攻防戦が恒例化している。

 

現地のみではなく日本含め各国にそれとなく彼女の信仰は(いろんな意味で)広まっている。

神としての配偶神はギルガメシュだがあまりにも情報が少ないものあってこれと言った確証はなくただ一番近い身内だったからじゃないかとかとってつけたかのような設定だと思われることがほとんど。

ちなみにどこぞのバレンタイン&ホワイトデーではチョコもらえなかった人が「ああ、ウルレシュテムよ、なぜ私をお見捨てになったのですかっ」みたいなこと言ってたりするのでほんとに割と世界各国になじんでたりする。



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サーヴァントステータス

真名 ウルレシュテム

 

属性:混沌/悪

 

カテゴリ:天

 

出典:ギルガメシュ叙事詩

 

出身:メソポタミア

 

身長:168㎝ 体重:測定不能

 

性別:女性

 

クラス:バーサーカー(■■■■)

 

筋力A耐久D敏捷A++魔力A++幸運A++

 

クラス別スキル:単独顕現B狂化D-自己改造EX

 

保有スキル:生命の海EX陣地作成A++道具作成A+++神性A+(精神汚染B)

 

イメージカラー:純白(金)

 

天敵:ギルガメッシュ、エルキドゥ、???。

 

本来は耐久Eだか、有り余る魔力が即席の装甲になっているため底上げされている。しかし、他のサーヴァントに比べたらやはり紙。筋力も本来は精々Bだか上記の理由で上がっている。

ちなみに、四大騎士クラスで一番適性があるのはキャスター。三大騎士クラスならセイバー。

キャスターとして召喚された場合は陣地作成EXと道具作成ならぬ神秘、宝具の作成すら可能になる紡ぎ手EXが加わりやばいことになっていた。

ぶっちゃけ泥を必要としないティアマトファムファタール形態に近い。もちろん魔力は水爆級。しかし、彼女自身ティアマトと繋がっている(且つ彼女と同じ泥を保有している)ため実質魔力が枯れることはまずない。

今回の顕現に当たっては何故か自身の霊基を調整し、疑似バーサーカーとして顕現している。本来彼女にはバーサーカーの適性はなく擬似的なもののためクラスの恩恵は受けていない。

耐久が紙の代わりに敏捷に数値を極振りしたかのようなステータス。泥の浸食の要らないファムファタール形態という時点で脅威だがその速さは他の追随を許さない。

精神汚染に関しては元々持っているものではなく、今回の顕現によって実体を取り戻したためうまく世界になじめていない故。解除は可。だが、彼女の中に接続して情報供給と整理をしなければならないためできるものは限られてくる。

 

これらは彼女がティアマト神の化身とされているが故のステータス。

しかしそれ故に彼女が本来のクラスで呼び出されることはまずなく、呼び出せてもエクストラクラス:デミビースト。他の獣が目覚めることを宣告する獣の宣告者としてである。

要するに前座扱い。踏んだり蹴ったりな(幸運A++なのに)幸薄姉ちゃん。

 

 

 

 

 

真ステータス

 

筋力B耐久E敏捷A++魔力EX幸運EX

 

クラス別スキル:単独顕現B自己改造EX知覚共有EX

 

保有スキル:ネガ・シンクロニティEX天の帯EX

 

ティアマトの化身など仮の姿。

其は人、生物が進化するにあたって創り上げてきた集団意識に常に寄り添うもの。

同調の理を持つ番外の獣である。

 

大本が別世界の存在のため彼女の意識をもったまま別の精神、はたまたはそれらの集合体にアクセスすることができる。知性体であれば何でも。アラヤもガイヤもなんでもござれ。

ティアマトよろしく彼女の場合は知性体がいれば彼女の存在が証明される。

どこにでもいるしどこにもいない。シュレッディンガーの猫というよりイマジナリーフレンドに近い。

すぐそばにいる寄り添う者。友人であり、家族であり、恋人であり、自分である。

ちょっとした行動操作くらいから自発的に人類殲滅とか世界改変とかお手の物と言った次第。

なお、保有スキルネガ・シンクロニティによって相手が知性体(意思持つ者)であればどんな生物であれ彼女を絶対に傷付けることはできない。・・・ちなみにこの同調を使えばアラヤやガイヤだけでなく聖杯や機械の類も騙せる。例を挙げれば本来ビーストで召喚されるはずの所をクラスを書き換えてバーサーカーとして顕現したりとか・・・だからこそ前述のとおり彼女がビーストとして召喚されることはまずない。

 

 

ウルレシュテムは元々全く異なる世界の理から神々の誘導によって外れてしまった魂であった。

神々は天の楔として彼女をデザインし直すため魂の初期化を試みるが失敗。狭間に穿った歪みからティアマトの一部が流出してしまい定着。ここで廃棄しておければよかったのだが下手に封印処理などしようものならそれこそティアマトの復活に繋がるのではないかと恐れた神は急遽彼女の魂をデザインし直し急造ではあったものの『天の糸』という役割を与え自陣の駒にすることに成功する。

その後、彼女への対抗手段及び本来の裁定者としてギルガメッシュを作り彼女を見張らせた。

ここまではよかった。

 

ただ、この時点で誤算があった。

それは早急に彼女と同じ強度の者を作り上げるためにギルガメッシュの魂に自我ができるほど向こうの理の渦を周回させたこと。

そして何よりウルレシュテムを廃棄せずに天の糸という結び繋ぎ紡ぐという役割を与えてしまったこと。

 

何より、何より彼女は完璧すぎた。対抗策として送り込んだ少年が憧れてしまうほどに。

 

ーーー彼女は(象徴)である。

民を愛し、国を愛し、神を敬い、悪を諫める。正に絵に描いたかのような賢君。

その様は(聖女)であり(聖母)であり恋人(女王)であり(国母)である。いわゆる偶像の体現。

 

ーーー彼女は()である。

度重なる短命にして不幸の連続という転生という名の責め苦の中にいた少年は初めて無償の愛というものを知った。故に彼女に心酔、傍から離れなくなってしまった。

 

ーーー彼女は調停者(繋ぐもの)である。

彼女は襲撃しに来たイシュタル(女神)ですら対等に扱ったうえで絆し認めさせ、友人とした。

 

対抗策どころか自陣の重鎮からすら彼女側へつくものが出る中、神々は焦り始める。

このままでは人どころか自分たちの造った兵器に世界を奪われるのではないか、と。

結果、王位を奪し神々の森という自らの監視下に置くことで彼女を抑制することにする。

しかし、これこそが最大のミスであった。

彼女は幼いころからティアマトと繋がってはいたもののギルガメッシュの無意識の呼びかけにより泥が拒絶できていたがその呼びかけがなくなったため彼女を引き戻せる者がいなくなってしまう。

このことにより徐々に彼女と泥が一体化し着々と第二のティアマトと化していった。

最終的にティアマトのいる虚数世界に追放するわけにもいかず、彼女の魂は千々に裂かれ様々な枝分かれした世界へと流された。・・・これが元で更に彼女の人間及び世界に対する同調感度が上昇してしまった訳だが。

・・・ようは神様勢が余計な事しなけりゃそもそもこんなことにはならなかった。

まあ、仮にティアマトが入っていなくとも真ステータスの番外の獣になるからどっちにしろ脅威なんだけどネ。

 



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スキル一覧

随時更新していく予定です。


バーサーカー

 

生命の海EX

彼女の扱う泥はティアマトと同じものだが染めるものの取捨選択ができたり、残留している泥を取り除けたりと出来ることの幅は広い。

 

陣地作成A++

神殿の作成が可能。主人公の場合はどんなに周囲のマナが薄かろうが立地条件が悪かろうが泥によって延々と真性エーテルからの魔力の補給が可能なため神代並みの環境を作成することができる。

 

道具作成A+++

やる気さえあれば神造兵装モドキの作成も可能。

あくまでもモドキだが。

しかし本人いわく一応扱いは礼装、らしい。

 

神性A+

弟と同じく神は嫌いだが半神半人であると共にティアマトの化身であり死後神格化されている事から最高ランクを保持している。

 

母の面影E~A++

特定の条件下(自身が我が子、または準ずる何かとして認識した者がその場にいる)でのみ発動する。

その場に適応したパラメーターになるよう自動的に補正がかかる。プラスかマイナスかはそのとき次第というリスキーなスキル。

まあ、我が子の前で好き好んで人を殺したりする母親はそんないないよね。いないよね?

 

 

(精神汚染B)

本来魂を千々に裂かれた彼女が英霊の座に招かれることはない。故に聖杯戦争への参加も出来ないのだが何者かの手引きにより復活。魂の再構築の完成にはまだ至っていないが破片の一部を依代として聖杯戦争に喚ばれるという夢を観ることで自我を修復している。

・・・のだが、マナの薄い現代に呼び出されたためイマイチ順応出来ておらず精神汚染という形で現れた。彼女の声はすべからく歌声にしか聴こえない。例外があるとすればマスターである少女くらいのものだろう。

バーサーカーというこの世界の正規の聖杯から呼び出されたサーヴァントを取り込む事でやっと眼の機能のみ世界に順応させることができた。

本当なら生物は人であれ蟲であれ等しく黒い何かとしか認識出来ず、声も雑音にしか聴こえない。

唯一正しく彼女が認識出来るのはマスターくらいである。詰まる所、もし初対面で雁夜が真っ先に桜を引き離すか自分で特攻してたらそれこそプチっと殺られていた。取り外しは可能。ただし、彼女が気を許し、かつ泥に耐えられ、とんでもない魔力を保有している人物でなければ困難。

 

黄金律A

どれだけ金銭がついて回るか。

彼女のランクだと最早金持ちになることが宿命のようなもの。ちなみに、この黄金律体も入っている。

おそらくこのことも某恋多き女神が彼女に目をつけた理由のひとつだとおも・・・失礼。

 

 



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月主従の使い魔 ※地雷注意

ルル(■■・■■■)

 

身長:188cm/体重:72kg

 

属性:混沌/善

 

カテゴリ:天

 

性別:男性

 

イメージカラー:漆黒(金)

 

特技:黄金律

 

天敵:???

 

 

 

操縦者として召喚された岸波白野の元サーヴァントであり現使い魔兼宝具。

腰まで伸びた長い金髪をうなじあたりで括った赤目の青年。

三つの星を見過ごし、最後の四つ目に届かなかった白野を面白そうだから拾った・・・らしい。

本人曰く容姿は母親から与えられた至上の逸品。中身は父親(のシステム)にかなり似ている、父親本人にとっては悪夢の様な存在とのこと。

様々なアイテムを指パッチン一つで出現させるが仕組みや出所は不明。

何やら裏で画策していたようだが・・・?

 

常に慇懃無礼なまでの敬語で話し一人称は僕。

感情を表に出したり親しい者の前では時折素が出る。この時は古風な口調になり一人称は我でボクという。

 

マスターの白野曰く「周りの負債やら役割やらを押し付けられた苦労人その1。」

 

 

 

 

この先ネタバレ、地雷注意。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真名:ウル・ルガル

 

 

 

身長:188cm/体重:72kg

 

属性:混沌/善

 

カテゴリ:天

 

性別:男性

 

イメージカラー:漆黒(金)

 

特技:黄金律

 

天敵:ルガルキドゥル

 

ウルク第一王朝の王ギルガメッシュとその姉との間にできた長子。

生まれてすぐ余所に養子に出され母親にはその存在すら知らされなかった不遇の子。

薬品の投与によって意図的に成長を停止させられていたため青年の姿を知るのは末の妹のみ。紆余曲折あって王になったのは兄弟四人の中で三番目。

幼少期は清廉潔白と言ったらいいのだろうか・・・ともかく素直で愛らしい王を尊敬する美少年。尚、青年体はこの姿の自分を何も知らないバカと評し、元凶を黒歴史と言っている。

この人の叙事詩の内容はほぼギルガメシュ叙事詩のオマージュみたいになってる。

父親が道筋道どおりに動かなかったため負債やら役割やらが丸投げされた人。

この人の宝具の中には乖離剣エアならぬ槍の形状にした乖離槍エアがある。

こちらはモーさんと違って強奪したわけではなく、正しく父が子へと天の楔として遺した遺物である。

ただし、元から王にならないよう、目立たないようにと神の眼を欺くために画策していたのもあってどのような思いで遺したのかは不明。

 

彼の叙事詩内での友として登場するのは妹であり、最終的に神罰はウル・ルガル自身が妹の代わりに受けることとなり、彼の死で叙事詩が閉じる。

ウルレシュテムの破片を集めるという途方もない作業をどうやってか終わらせた。今回の発端にして黒幕の一人。・・・というか舞台設置だけして待つのに飽きて最後の欠片を回収後、流れに任せてCCCに暇を潰しに行ってた。

ちなみにモーさんの元マスターだったり、この聖杯戦争に召喚されたエミヤの間接的な仇だったりする。

ギルガメッシュ特攻の特性を持っている。

 



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今作品のギルガメッシュ

失敗作白のギルガメッシュプロフィール・・・という名の作者の殴り書きっぽい何か。

 

魂も肉体も型月産。

ただし、向こうの輪廻に乗っけられたため経験値、魂ともに豊富。この時のことから実の親からすら無償の愛、絶対の愛の提供は不可能だと判断してしまった。

一方で離れるまでずっと見返りを求めず自身を愛し何もかも許容してくれた姉にはかなりの執着をみせる。

離れてからは周囲の環境もあってシスコン()に拍車がかかり、もう離さないと言わんばかり。添い遂げる気満々。

母、姉、恋人、妻。全ての女性の理想像に彼女を置いている。というより周囲が勝手に嫁取りだなんだと気をまわし過ぎて我ガメッシュ(システムとしての人格)はともかく僕ガメッシュ(半神半人としての元からあった自我)は極度の女性恐怖症になってしまったため、最初から最後まで自分の中で綺麗な偶像でいてくれて、且つ縋ることが出来るのが姉くらいしかいない。尚、己ガメッシュ時には克服こそしているものの、無意識に姉の傍に座る。

彼女こそが彼にとってのベアトリーチェでありファムファタール。まさしく愛によって絶望し愛によって救われ愛に溺れた者。紆余曲折あったものの彼女との間に4人の子をもうけた。

 

ステータス(セイバー)

筋力A-耐久B敏捷B魔力A幸運EX宝具EX

クラス適正

(強いて言うなら)アーチャー、セイバー、キャスター・・・でも多分バーサーカー以外全部ある。

 

かの魂はこの世界にて造られたが、ある魂の抑止及び粛正のために手っ取り早く同じ魂の容量を得るため向こう側の流れに放り込まれた。しかし、神々は焦りすぎ事を急ぎすぎた。剥き身の階層が下の魂に向こう側の理は強すぎたのだ。生きていくための最低限の運命力すら持っていなかった魂は何度も産まれる前に死に、産まれて間もなく死に、生きれたのは最後の転生の小学生くらいまで。

多少時間を掛けてでも世を知らぬままの無垢な魂の状態を保っていれば良かったものを、ある程度成長できる、つまりその世界に適応出来るように成ったとして引き戻したのだ。その結果、彼は誰も信じることが出来なくなってしまった・・・要は生まれながらの人型不信。人も神も、明確な意思があり、人型であるのならもれなく彼の嫌悪対象となる。

 

性格を簡単に言い表すなら

 

幼少期・・・腹黒い子ギル。人型不信。ウルレシュテムに対しては心を開くとともに試し行動が目立つ。

      「姉上以外の人邪魔なんでバビっていいですか?バビっていいですよね?」

 

青年期・・・我ギル/僕ギルは男版イシュタルっぽい何か。

      片方は青年期の慢心王。もう片方は最終的に姉頼りのため。

      ここで質が悪いのはアヌ神やシャマシュ神と違って姉ちゃんが何でもかんでもやってくれること。

      「フハハハッ慢心せずして何が王かっ」「うわああああっ姉上ええええっ」

      姉ちゃんは便利屋じゃねーぞ。

 

老年期・・・己ギル。比較的術ギルに近い。多分一番姉ちゃんを思いやってくれる。

      一番いい感じに働いている・・・と思う。

      「次はこの粘土板を・・・ああ、姉上。そこにいらっしゃったのですね。今そちらに行きます。」

      (過労死的な意味で)

 



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fate/zero
間桐桜は安堵する。


新章開幕です。

悩んで悩んで悩んだ結果ZEROから始めることにしました。
結局ZEROかよとか思う人もいらっしゃるかもしれませんがごめんなさい。

ちょっとこれには他の登場人物の都合もありまして・・・申し訳ありません。




ーーーどのくらい時間がたったんだろう。

 

虚ろな心にポツリと疑問が浮かぶ。

 

底なしの闇の様な暗い天井を見上げながら少女ーーー遠坂改め間桐桜は思考する。

 

あたりにはギチギチという蟲の出す音と自身の呼吸音だけが響いている。

桜以外に人の気配どころか動物の気配すら感じられない。

当たり前である。ここは人を貪り食う、拷問部屋より悍ましい魔術師の工房・・・その一端なのだから。

 

 

ーーーあ。

 

 

キィ。と工房ーーー蟲蔵の扉がわずかばかり開く。

遠目で分かりずらいがそこから見えたのは誰か人型のシルエットときょろりと動く目だった。

それを見てまた桜は落胆する。

 

 

ーーーなんだ青髪の人(お父さん)か。

 

 

自分をただこの場所に放り込んでいくだけの人。

いつも何かに怯えているお酒臭い人。

それがこの家に来てからの桜のお父さんとやらに対する認識だった。

 

お母さんとやらはいない。

 

兄さんとやらとはここしばらく会ってすらいない。

ただ魔術(こんなもの)に憧れる可哀そうな人だという印象が強い。

 

ーーーかわいそう。

 

ーーーかわいそうかわいそう。

 

心の中で反復してふと桜は思う。

 

ーーーそれなら、私は、なに。

 

途端懐かしい/苦しい光景がフラッシュバックする。

 

日の射した公園の日陰で本を読んでくれた優しいお母様。/助けて

 

自分たちが談笑しているのを黙って微笑んで見ている厳格なお父様。/痛い

 

ここに来る前に餞別としてリボンをくれたしっかり者の姉さん。/苦しい

 

「桜、大丈夫だとは思うけれど・・・体に気を付けてね。」

私を抱きしめて涙ぐむお母様。

「桜、魔術に多少の苦痛は付き物だ。大丈夫だとは思うが・・・励みなさい。」

いつもの厳格さの中に多少の寂しさを滲ませながら語るお父様。

「桜、なんて顔してるの。はい、これ。餞別。向こうに行っても元気でね。」

いつも以上に明るく、気丈に振る舞いリボンをくれた姉さん。

 

「・・・いや。」

 

次々と頭の中で画像が記録が流れていく。

 

姉、母、父。姉、姉。父、母。

 

母姉母ーーーーーーーーーー。

 

どうしてこんなに痛いの。

 

どうしてこんなに苦しいの。

 

どうしてこんなに虚しいの。

 

どうしてーーーどうして、誰も(わたし)を助けてくれないの。

 

あの白いおじさんは言った。桜ちゃん(わたし)を助けに来たって。

お母様も姉さんも心配していたって。

なのに、なのにどうして誰も助けてくれないの。

 

こんなに我慢してる(苦しんでる)のに

 

こんなに頑張ってる(痛くて虚しい)のに

 

助けて、助けてっ。

 

「助けてーーーーーーーお母さん。」

 

 

バキリーーー何かの割れる音がした。

 

 

ーーーA----aaーーー

 

ジャラリーーーどこからともなく黄金の鎖が生えてくる。

 

ーーーA--aa--aaaaaーー

 

ミシミシとバキバキと細くしなやかな両手が蟲蔵の床の一部を突き破って出現する。

その腕が蟲蔵に開いた穴を広げるたびに聞こえてくる歌の様な音は大きくなっていく。

 

歌声と共に手が腕が頭が胴がスルスルと蟲蔵へと浮上していく。

その浮上してきた身体にはすかさず漂っていた鎖が巻き付き出現したもの・・・彼女を拘束する。

 

その様を蟲に群がられながらも桜は凝視し続ける。

 

白。

 

まるで桜の呼びかけに答えるかのように出現した人物に対する第一印象。

 

どこまでも白い。

 

純白の髪に白い肌。その中で唯一爛々と輝く深紅の瞳。

少女の様な可憐さと聖母の様な清廉さが共存しているかのような風体の女性。

しかし、その美しさよりも何よりも桜はーーー

 

ーーーそんなのあるはずない。あるわけない。

 

ーーーこんなにも違うのに、あんなにも違うのに。

 

唐突にあの公園の時間が、戻ってきた気がした。

 

ずる、ずる、と這い這いの躰でそれに歩み寄る。

それは拘束されていたため動くことができず。代わりに跪いて桜へとその両腕を広げた。

その胸に必死で抱き着く。いや、縋りつくといった方が正しいのかもしれない。

確かなそれの暖かさにしばし惚けたあと再度強く抱きしめる桜。

それはただ、静かに受け入れ桜を抱きしめ返す。

 

「・・・お母さん。」

 

桜の瞳から一筋だけ雫が滴り落ちる。

 

ーーーAaaaaaaaaaaaa

 

安堵した少女を眠りへ誘うかのように、子守歌の様な歌声は響いていた。

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

「げほっ・・・はあっ」

 

薄暗い廊下を間桐雁夜は歩く。

多少足を引きずってはいるもののできる限りの速さで。

・・・というのもいけ好かない当主とは名ばかりの化け物。間桐臓硯の発言が発端だ。

 

「ほう・・・これは奇妙なこともあるものだ。」

 

いつもと変わらぬ薄気味悪い笑みを貼り付け化け物は言う。

 

「雁夜・・・蟲蔵を見てこい。侵入者じゃ。」

 

「はあ?そんなの自分で・・・」

 

「ほう?今は桜が調整中のはずだが・・・はて、どうしたものやら」

 

お前のバーサーカーがいればすぐに終わる話のはずじゃが?言って臓硯はトントンと杖でわざとらしく床を叩いた。

この糞爺っ。思うが早いか雁夜はすぐに部屋を出で行く。

後には更に笑みを深める爺のみが残ったのだが雁夜本人はそんなことは露知らず桜の下へと急いだ。

 

 

 

扉を開けた先にいたのは正体不明のーーー明らかに人間ではなかろう類の女とその女の腕の中にいる初恋の人の大切な子だった。思考するより先に口が動く。

 

「っ・・・ばーさーか「やめて、おじさん。」桜ちゃんっ。」

 

まだ生きているということに安堵するが同時になんでそんな得体のしれないやつを庇うのかと納得がいかなかった雁夜は警戒態勢をとったまま「そいつから離れるんだ」とそれとなく桜に逃げるよう促す。

その意をくみ取るどころか桜は離れはしたもののその女の前に、まるでその女を守るかのように立ちはだかった。

 

「だめ。お母さん・・・ううん、ママを傷つけないで。」

 

「っそ・・・!!」

 

そんな奴っと言いかけて雁夜の中にある可能性が浮上する。

 

ーーーもしかして桜ちゃんはあの女に騙されているんじゃないのか?

 

古今東西その手の者は様々な姿を取って人を騙すというのは常套手段だというし、何よりさっきの言葉・・・彼女の母親は遠坂葵ただ一人。

 

ーーーそんな女は桜ちゃんの母親じゃない。そこに立つのはふさわしくない。そこにいるべきなのは葵さんだっ。

 

そんな彼の心情をくみ取ってかそれとも勝手になのかは不明だが突如漆黒の騎士・・・バーサーカーが顕現する。

 

「Arrrrrrrrrrrr」

 

急な魔力の供給によって雁夜の中の蟲が蠢き、魔力を生成すべく活動を開始する。

 

「がっ」

 

雁夜はその痛みに顔をしかめつつ膝を付く。その顔には痛みの苦悶と共に確かな笑みが張り付けられていた。

 

「いいぞ、ばー・・・サーカー・・・殺せっ。」

 

誰に聞かれるともなくただせわしない呼吸音と共に呟いた。

 

バーサーカーが女・・・牽いては桜に向かってその白刃を振り上げる。

が、桜は一歩もその場から動こうとしない。

 

「さ、桜ちゃ・・・」

 

にげ・・・そこまで言おうとしたところでやっと桜が再び口を開いた。

 

「いいよ、殺しても。」

 

出てきた言葉に雁夜が固まる。

まるでスローモーションにでもなったかのように思考だけが加速する。

 

「どれだけ叫んでも、どれだけ待っても・・・おじさんも遠坂さんも誰も私を助けてくれなかった・・・でも、ママだけは。ママだけは私の所に来てくれた、ママだけは私に答えてくれた。だから、もしどうしてもママを私から取るって言うならもうどうなったっていい。私はママと一緒にいたい。」

 

言って再度桜は後方にいた女に抱き着く。

女は桜をしっかり抱きとめると、ただ無感動に迫り来るバーサーカーを見ていた。

 

ーーーAaaaaaaaa

 

女が何事かを呟く。

その声は歌声じみて・・・否、実際に歌声であった。

同時に足元から何かが噴き出し眼前へと迫ったランスロットを覆う。その噴出した何かが消えたとき、中にいたはずのランスロットの姿も最初からそこにいなかったかのように何も残さず消えた。

 

ーーーこうして、聖杯戦争の本格的な開戦を目前にして戦うにも至らず間桐雁夜の敗北が決定した。

 




桜ちゃんがなぜわざわざ「お母さん」ではなく「ママ」と呼ぶのかというとお母さんだと何となくお母様と被るので区別するためにわざと変えています。
ちなみにお気づきの方もいらっしゃるでしょうがこの召喚には呪文も魔方陣も聖遺物すら使われていません。要は召喚()というわけです。

では、閲覧、そして感想ありがとうございます。

これからも精進していくのでどうぞよろしくお願いします。


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英雄王は一人でいい、二人はいらん。

今回はギルガメッシュ対面回です。

少し短めですがどうぞ閲覧ください。


ーーーここは遠坂邸の一室。

この家の家主、遠坂時臣の書斎である。

その中世ヨーロッパの貴族の部屋の様な高級感溢れる自室で

遠坂時臣は深い溜息を吐いた。

 

ーーー聖杯戦争とは、こんなにも予想外が起こりうるものなのだろうか。

 

・・・事は数刻前、サーヴァント召喚へと踏み切った際に起こった。

 

 

時臣は慎重に慎重を期して召喚に臨んだ。故にやはりというか。来たのは予想通りの人物。

光と共に現れたのは黄金の甲冑にその身を包んだ冷たい美貌の男。

人類最古の英雄にして英雄たちの王。

英雄王ギルガメッシュ。

ここまではよかった。実際時臣もこの時は近場で見守っていた弟子の綺礼と監督役の璃正神父に「この戦い、我々の勝利だ。」などと慢心染みたセリフを言うくらいに順調であった。

 

しかし、そこから一拍おいて更に陣が輝きを放つ。

今度は爆風とまるで閃光弾でも投げ込んだかのような光の暴力が巻き起こった。

 

「っ」

 

小さく呻いて再び目を開けたとき、そこに立っていたのは先程と違い軽装に身を包んだ英雄王であった。

 

「ギルガメッシュ。此度の召喚にはキャスターとして招きに応じた。」

 

別に装いが変わったというただそれだけであれば時臣もここまで気には留めなかっただろう。

クラスがキャスターというのもかなり残念ではあるがそこは自身の配慮が足りなかったのだ仕方がないと割り切ることもできただろう。

 

・・・問題は、そう。そのキャスターを名乗るギルガメッシュの足元に先程、キャスターが顕れるよりも先に出てきたであろう黄金の甲冑を身に着けた英雄王が転がっていることだ。気絶しているのか動く気配はない。

 

ーーーどちらが偽物なのか、いや。両方別枠の同一人物という可能性も・・・。

 

時臣は混乱していた。いったいどちらに礼を尽くしたらよいのか。

そもそもどちらが自身のサーヴァントなのか。

パスは繋がっているはずなのに一向にわからない。

時臣は取り敢えず・・・意識がある方の王(かもしれない人物)に質問する。

 

「失礼を承知で質問させていただきます。貴方様がかのギルガメッシュ王でございますか。」

 

その問いにああ、そうだと目の前の王(仮)は即答した。

苛立つ様子もない。どうやらこの場で命を奪うつもりはないらしい。

そのことに内心ほっとした時臣は重ねて質問する。

 

「でしたら王よ。そちらにおわします御仁は・・・。」

 

ちらりと甲冑を着込んだ王(仮)に視線を移す。

 

「ん?ああ、これか」

 

事も無げに王(仮)はもう一人の王(仮)に視線を向けると・・・その身体を突如出現した黄金の歪みの中に入れ始めた。

 

「え、っちょ。」

 

流石の時臣もこれには驚き、優雅も糞もない困惑の声を上げる。

 

「なに、心配するな。これは(オレ)を模した人形に過ぎん。」

 

「にん・・・ぎょう?」

 

言っている間に下半身が全て黄金中に収納された人形?の眉が・・・というより顔面がピクリと動き「うっ」っと短い呻き声を上げる。

 

「王よ、やはりこの方生きて・・・」

 

「ふははははっ、そんなわけなかろう。これは身代わりの宝具だ。」

 

高笑いする王を余所に時臣はハラハラしながらその様を見守る。

・・・まあ、どのみち見守るくらいしか今の時臣にできることなどないのだが。

 

「っ!!」

 

何やら黄金の波紋の中で声らしきものが聞こえる。

そして、残すところ頭頂部のみとなった収納作業に異変が生じる。

なんと黄金を纏った手が出てきたかと思うと必死にその飲み込む力に抗い始めたのだ。

 

「王よ。つっかえてます。」

 

ここまで来たら本当に何もできない。

結局時臣は最後まで見届けることにした。

 

「む?・・・ふむ。」

 

時臣の言葉に何を思ったのかかの王はその抵抗を続ける手と出ている頭を・・・蹴り始めた。ガッゴッバキッと、それはそれは容赦なく、ひたすら蹴る。

しばらく続いたそれは蹴るのがめんどくさくなってきた王が、出ている指の一本を逆方向にへし折ることで生まれた隙に更に蹴りを入れることで終わりを迎えた。

 

召喚が終わり次第問題の英雄王は与えられた部屋で何か粘土板を読み漁っている。

曰く昔を懐かしむのだとか。

遠坂時臣はまた深い溜息を吐いた。

 

ーーー本当に黄金甲冑(あっち)の方じゃなくてよかったのだろうか、と。

 

 

 

これは、間桐家に2騎目のバーサーカーが召喚される数日前の出来事であった。




はい、というわけでシスコンギルガメッシュの乱入回でした。

ちなみにこの世界はこの作品から連なる世界ではないため主人公含め叙事詩がありません。
つまりどんだけ正体を探ろうとしても無理なわけです。
・・・ギルガメッシュとか混乱するだろうね。なんせこの世界にも叙事詩はあるけど内容全然違うんだもの。
この話の(オレ)ギルはキャスギルであり、二人(システムと主人格)の人格が統合した後のため一人だけです。・・・なんだかコロコロ変わって申し訳ない。


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赤の出現、白の主従

とある廃工場。

その人気など全くない倉庫の中。

バチリと電流が奔るような音がした。かと思うとその音は徐々に大きく連なっていく。つられてその場一面が光りだす。

最後に一際大きく音と光が辺り一帯を支配すると、その中央には人影が一人立っていた。

 

それは華奢な少女だった。

金の髪はポニーテールに結わえられ緑の瞳には強い意志が感じられる。

服装は白の飾り気の無いブラウスに胸元に赤のスカーフが、おそらく高価なものであろう緑の宝石を填め込んだブローチとともに添えられている。

赤のロングスカートにキャメルの編み上げブーツ。

勝ち気で口よりも先に手が出そうな雰囲気とは裏腹に服装はかなり上品な装いだ。

 

「ふーん。一応は着いたみたいだな。」

 

声はどうでもよさげな様子だったが、表情はそれとは真逆・・・口元は固く引き結ばれ、眉間には深い皺が刻まれている。

しばらく沈黙した後、少女ははあっと息を吐くとガリガリと頭を雑に掻く。

 

「さーて。ここに聖杯(目当てのもん)はあんのかねえ。」

 

しゃーねえ、取り合えず歩くか。言って少女は歩き出した。

片手を閉じて開いてという確認動作を数回繰り返し、自身の肉体の状態を把握したらしい少女は閉じた手をそのまま握りしめ、拳を形作る。

 

「・・・いまの(願い)じゃこんなもんか。」

 

 

 

 

 

無意識なのだろうか少女は胸元のブローチを握りしめる。

 

 

「待ってろよ■■。必ずお前を・・・。」

 

 

少女は夜を歩く。

 

いつかの誰か(願い)をその胸に抱いて。

 

 

 

 

少女はブローチを撫でている。

優しく優しく撫でている。

 

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 

ウルレシュテムが朝食を作っていると足元に何かが当たった。

当たったというより、ぶつかってきたと言った方がいいだろうか。

 

『おはようございます桜。どうしたんです。』

 

足元に当たったもの改め自身のマスター(仮)である少女、桜に問いかける。

しばらく黙ったままだったがちゃんと聞いてくれると分かったためか口を開いた。

 

「ママが・・・起きたら・・・いなく・・・て。」

 

ぽそぽそとか細い声で話す。

 

「ママが、いなく・・・なっちゃう・・と、おもっ・・・て。」

 

言い終わるとそのままぎゅうっとウルレシュテムの脚に抱き着いた。

何だこの子、子ギル君女の子バージョンか。超かわいい。

桜本人も(ボク)のことを母と慕ってくれているみたいだし・・・これもう子供認定していいよね?愛し子認定していいよね。今日から君はうちの子だよっ。

こうして、いろいろ差異はあるものの親子という関係が二人の間に発足した。

 

 

『おいしいですか?』

 

朝食を摂りつつ桜にたずねる。

ちなみに今朝のメニューは甘めのだし巻き卵にほうれん草ともやしの和え物、鮭と大葉と白ごまのまぜご飯になめこと豆腐の味噌汁だ。

こくりと桜は頷く。心なし満足げに頬が緩んでいるのできっとおいしいのだろう・・・と思いたい。

おかずを口に放り込んでは一所懸命に咀嚼する様を見て和む。

やはり子供はいい。良くも悪くも素直だし、我が強い。そして何より手はかかるが可愛くて、癒される。

 

 

 

ーーー(ボク)ももう少し長生きできれば

 

ーーーせめて、この力が、呪いが。もう少し弱ければ、あるいはーーー

 

 

 

考えても詮無い事だと思考を中断する。

いくら願えどあの時間は帰ってこない。繰り返すことはできるだろう。それこそ、やり直すことだって。

けれど、それこそあの時間への冒涜であることはウルレシュテム自身がよく分かっていた。

 

シャラシャラと召喚された時から自身を拘束している黄金の鎖を見る。

ーーーあの子たちも頑張ってくれたしね。

 

「ママ?」

 

マスター(愛し子)の声で意識を現実へ戻す。

 

「お食事のお膳・・・多い。」

 

言って桜は用意されているお膳を指差す。

そこには綺麗に盛り付けられたお膳が二つ鎮座している。

 

『ああ、それは他の人の分ですよ。』

 

その言葉に桜は首を傾げた。

 

「じゃあ、少ないの?」

 

お父さんとおじいさまとおじさん・・・と指折り数えて確認する桜。

その様子に今度はウルレシュテムが首を傾げる。

 

ーーーはて?三つも人らしき生体反応はあっただろうか。

 

実は桜曰くのおじさんとやらと対面したとき、ウルレシュテムは桜以外の生物をまともに認識できていなかった。

桜以外は等しくサーヴァントであれ人であれ黒い人型の何かにしか見えず、蟲も同様。黒い小さい何かであった。

幸いおそらくサーヴァントであろう方を取り込んだ際に不完全ながらも目の機能をこちらの世界になじませることができた。これでまずあの黒いモザイクにまみれた世界とはおさらばできたわけだ。

しかし、だからといって警戒を怠るのもと思ったウルレシュテムは即席ながら間桐家の内外に糸を張り巡らせ様子を探ることにした。で、この家を把握するに至ったのだが・・・。

 

ーーー確か昨日の死に掛けおじさんと酒浸りのアル中と大量の蟲ならいたが・・・。

 

おじいさま?お父さん?そんなのいたか?

 

ま、いっかテキトーに部屋片っ端から開けてって片っ端から叫んで片っ端から流し込めば一緒だろう。

 

この時鶴野は「歌声が、歌声がこっちに近づいてくる。うっ。来るなっ。来るなあっ」とウルレシュテムに怯えていた。

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

所変わって蟲蔵。

そこでは現在ある1人の男が体を貪られる苦痛に声を上げてのたうち回り、その様子をもう一人の人物がニヤニヤと笑いながら見ている。

 

「ほれどうした雁夜よ。なにかいつもの様にいってみろ。ん?」

 

「ぐっ。がひゅっがひゅっ。」

 

何か言おうにも最早声帯すらまともに動かない雁夜の口から洩れるのは声というには失敗作の荒い呼吸混じりの音だけである。

 

「・・・ふん、所詮バーサーカーを引いたところでこの程度。そのバーサーカーすら御すことができず開戦前に消失とは・・・やはり半人前はどこまで行っても半人前よのう。」

 

しかし、その瞬間。翁・・・間桐臓硯の身体は切り裂かれた。

 




引き続いてのそれぞれの序章。

そして、出てくる謎の参加者。

果たして戦争は戦争としてちゃんと動くのか?

そんな予感の話でした。
閲覧ありがとうございます。


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間桐雁夜は自覚する。

雁夜おじさんって割とZEROの中じゃ動機とかいろんなところがああ、一般人だなと思います。・・・いや、一般人なんだけれどもね。

よく魔術の家系に生まれてこんな(ダメ人間かもだけど)真っ当な感性にそだったもんだ。

実はこの人が一番異様だったりして・・・無いか。


「ぐぎゃああああっ」

今までに聞いたことがないような臓硯の絶叫が響き渡る。

その身体はみるみるうちに崩れ、大量の蟲に変わってゆく。

あまりの出来事に雁夜は愕然とする。

化け物だ化け物だとずっと思ってきた人間が、実は本物の化け物(蟲の群)だったとは誰も思いもしないだろう。

 

ーーーずっと、狂っていると。化け物だと思っていた。けど。

 

けれどそれはあくまで一般人(自分)とは違う魔術師(・・・)だからこそ、あんな醜悪な魔術を平気で行使していたからこそだった。

 

ーーーけど、それが、なんだ?

 

目の前の蟲の群は翁の形を成そうとしては何かに弾かれた様に崩れ、もう一度と繰り返している。

知らず、雁夜の目からは水・・・涙が流れ出していた。

胸の内で悔しさと情けなさと遣る瀬無さと・・・様々な感情が綯交ぜになり、泣いているのに笑っているという奇妙な表情を作り上げる。

 

「は、はは。」

 

雁夜の口から出たのは、乾いた笑いだった。

 

ーーーこんなの、こんなのを恐れて俺は。

 

突然辺りが暗くなる。

 

頭に過った明確なイメージーーー微笑む遠坂葵(最愛の人)。だだし、その隣には自分ではなく遠坂時臣がいた。

こんな家に生まれた自分では駄目だと思って身を引いた。幸せになってほしかった人。

二人の周りにはまだ笑顔だった桜と凛が手を振っている。

瞬きをすると葵の表情が暗いものに変わる。

 

「雁夜君・・・桜をお願いね。」

 

ーーー託された。あの子を、桜ちゃんを・・・守るって。

 

ボロボロとジグソーパズルの様に家族の像が崩れていく。

残ったのは桜のみ。振り向いた彼女は、紫の髪に同色の目。その目に光はなく、僅かな表情すらない。

 

「誰も、私を助けてくれなかった。」

 

言い切った桜の手にはナイフが握られている。

 

ーーー桜・・・ちゃん。

 

俯いてナイフをぎゅっと握る。

そんな痛々しい少女に手を伸ばそうとしたとき、唐突に少女は顔を上げた。

その顔は間桐に入る前。遠坂だったときの笑顔だった。

 

「でも、もういいの。」

 

ーーーえ・・・?

 

おかしい、なにかがおかしい。

幸せそうなのに、決定的に何かが違う。

遠坂/間桐桜という少女はこんなにもーーーこんなにも昏い/明るい顔で笑う子供だっただろうか。

 

(わたし)知ってるよ。なんでこの家に来たのかも、どうして誰も助けてくれないのかも。」

 

言って殊更に笑みを深くする。

 

「いらない子だったんだよね。(わたし)。だって、遠坂さんのところには凛さん(姉さん)がいるし。おじさんだって・・・。」

 

ーーー違う、違うよ。桜ちゃん。時臣(お父さん)はともかく俺はっ。

 

「おじさんだって、大好きなお母様(葵さん)のためにする。お人好し(点数稼ぎ)だもんね。」

 

ーーー・・・。

 

違うと言いかけて、沈黙する。葵の頼みで桜を助ける。()のために時臣(伴侶)を殺す。

点と点を線で結ぶ。今まで繋がっていたはずのそれは最早まったくもって別の方向を向いているのだと、ようやく思い至った。

結局は、そう。

 

ーーーそうか、俺は。

 

結局はーーー間桐雁夜という人間は間桐桜という少女を視てはいなかった。

彼の中で桜はあくまでも遠坂葵の娘。遠坂桜だった。

つまるところ、彼が価値を見出し、奮起していたのは桜個人にではなく遠坂葵に連なり、彼女に少なからず影響を与えるもの。道具としてであったのだ。

 

桜が背を向けて走っていく。

雁夜はその背中を追いかけることなく、見送った。

 

 

ーーーなんだ、なんだ。そうだったのか。俺。

 

 

ただただ、自分の欲しかった当たり前(幸福)を享受している時臣が憎くて。

 

ただただ、葵に自分を視てほしかった。悲劇(彼女)のヒーローになりたかっただけだった。

 

 

ずるずると雁夜はその場にへたり込む。

 

 

ーーーーごめん。

 

ーーーーーごめんよ。桜ちゃん。

 

謝り続ける。

それは少女に捧げられたものなのかは雁夜の中でさえ釈然としていない。

それでも、雁夜は謝り続ける。

すまなかったと。延々と。

暗闇の中でただ一人。

彼の胸元には、いつの間にか少女の持っていたナイフが突き刺さっていた。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「戻らないね。ママ。」

 

しゃがみ込んで蟲を観察していた桜がぽつりと呟いた。

 

ーーーAaaaaaaaaaa 『戻りませんね』

 

傍から見たらひたすら歌っている女性に対して少女が一方的に話しかけている図に見えるのだが、この二人はラインが繋がっていることもあって普通に会話が成立しているため双方ともに気付いていない。

 

現在二人は蟲蔵に来ていた。

目の前にはなんかよくわからないばらける蟲の塊に、おじさんらしき人が倒れている。

桜曰くこの蟲の塊がおじいさまとやららしいのだがウルレシュテムにはどうしてもただの蟲の群にしか見えない。

 

ーーーAaaaaaaaa『おじいさまはもう戻ることはできないと思うのでこの食事はそこのおじさんとやらにあげましょう。』

 

たぶんさっき適当に放った即席投擲宝具(笑)のせいだがまさかこんな面倒になると思わなかったウルレシュテムは取り合えず臓硯を放置することにした。

ちなみにこの即席宝具。攻撃用ではなく、使用された者を本来の姿に戻すというものである。

・・・作ったのが神秘の色濃い神代のウルレシュテムなので神秘の薄い今を生きる現代人にどれぐらいの影響が出るのか、そもそも耐えられるのかは定かではなかったが。 

 

「おじさん。おじさん。」

 

桜がおじさんを揺さぶる。・・・実は死んでいたとか・・・はないか。さすがに。

 

うっと短く呻いてうっすらと目を開けたおじさんとやらは

桜を認識した途端。彼女に泣きながら抱き着いた。

号泣である。鼻水や涎もお構いなしだ。汚い。

 

「ごめんよおおおお。ごめんよぼお。ざぐらじゃん。」

 

桜もウルレシュテムも終始困った様子で男が泣き止むのを待つことにした。

 




突然大の大人がぎゃん泣きしたら引きますよね。

というわけで雁夜さん回でした。
おそらく爺が復活することはもうないでしょう。
主人公の最初から最後までの爺への認識が蟲なので人に戻す気は更々ないでしょうし。
これから扱いが蟲のまま定着して・・・きっと食事は昆虫ゼリーとかになるんだぜ・・・。


閲覧ありがとうございます。

お気に入りの件数も、感想もこんなに増えて・・・本当にありがとうございます。
これを糧にこれからも頑張ります。


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ギルガメッシュは嗤う。

荒ぶる賢王。

一応この年(クラス)だと姉離れできてる?はずなのに・・・。

そういえばギルガメッシュの(いける)範囲の中に確か子ギル君も入っていたはずだが、はて、賢王も範囲に入っているのだろうか。謎だ。




「な、何故だ・・・。」

 

ドサリと読んでいた本を落としてギルガメッシュは呟いた。

落とした本の題名は『ギルガメシュ叙事詩』。

 

(オレ)とエルキドゥが朋友なのはわかる。だが、だがっっ何故姉上がおらんのだっ」

 

天災女神(イシュタル)はいるのにっ。なんちゃって合成獣(フンババ)はいるのにっ。

ギルガメッシュは時臣に持ってこさせたこの世界の叙事詩を読んで愕然とした。

確かに壁は造った。天の牡牛も退治した。不老不死も探しに行った。フンババは・・・たぶん退治した。

しかし、肝心なことが抜けていたり、その抜けた形で補完するかのように改変されていたりと原型を留めていない。

姉がいなくて、天災女神(イシュタル)に求婚されて。エルキドゥを失う。

何故だああああと内外ともに叫ぶギルガメッシュ。近所迷惑である。

 

Q.なぜ叙事詩の内容が違うのですか?

A.何者かによって殆ど異なる、異世界と言っても過言でない世界に召喚されたからです。

 

しかし、そんなこと今のギルガメッシュにはわからない。

ショックが大きすぎて観ている暇すらない。

そんな時、念話での通信が入る。

正確には自身にではなく蔵の中にいる金ぴかに(・・・・・・・・・・)なのだが。

占拠(ジャック)した回線を自身へ回す。

 

ーーー王よ侵入者です。ーーー

 

自身のマスター(仮)である遠坂時臣(アゴヒゲ)からの通信にギルガメッシュは舌打ちをする。

 

「・・・まあよい。あの雑種(アゴヒゲ)(オレ)を謀っていようが、既に時は満ちた。」

 

この姿(キャスター)に甘んじていただけ充分な収穫だ。ーーギルガメッシュは凄惨な笑みをその顔に張り付けた。

 

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

主に認められ意気揚々と遠坂邸に侵入したアサシン。ザイードは狂喜乱舞しながらも細心の注意を払って敵対サーヴァントを探していく。

 

ーーーこんなに認められたのは初めてだっ。身体が軽い。今ならなんだって・・・。

 

思考の最中にふと見た・・・否、通り過ぎた一室。

何か輝いていなかっただろうか。

 

ーーーもしかしたら、キャスターらしく工房か礼装作りの最中なのかもしれない。

 

相性の悪いアサシンにとってその作業に集中している今が絶好のチャンスだ。

そう思ったアサシンは通り過ぎた部屋に戻ってその首を掻こうとした。

・・・したのだが。

 

部屋に満ちていた輝き。それは恐らくキャスターであろう男の背後に広がった杖やら錫杖やらの出てきている金の歪みだった。

 

「ほう、お前は欠けか、妙な在り方だ。が、詰まらんな。」

 

失せよ。その声と共にバチバチと背後に広がる杖の群れが一斉に光りだした。

そこに更にもう一つ波紋が浮かび上がる。

 

ーーー今度は何が来るっ。

 

一撃目の魔杖による魔術の一斉照射は何とかなるかもしれないという楽観と二撃目が既に準備されているという不安要素を前にアサシンは沈黙する。

が、杖の照射が来ることはなかった。

何故なら、キャスターが再び口を開いたからだ。

 

「ん?・・・なんだ。まだそんな力があったのか。おとなしく蔵で寝ていればいいものを。」

 

二撃目だと思っていた歪みからーーー生首が出てきた。

髪型こそ違うものの、目の前のキャスターにそっくりな男の首が・・・歪みから生えていた。

キャスターの言いぐさに生首はカッと閉じていた目を開き怒鳴る。

 

「きっさま、よくも「うるさい」ぶふっ」

 

男が怒鳴ろうとした瞬間。キャスターが思い切り生首を殴った。生首は沈黙した。

全く、煩わせおって。とパンパンと手に着いた汚れを払うかの様な動作をして、キャスターがアサシンの方を向く。

 

 

「さて、この際あまり乗り気でもない故適当にフリでもして見逃がしてやるのも一興かと思ったが・・・。」

 

ここで、アサシンはようやく悟る。

 

自分は、今まで故意にこの男(キャスター)から見逃されていたことに。

 

そして何より、今ここで。自身の脱落()が確定してしまったという事実を。

 

「気が変わった。受け取れ。」言って先程ぶん殴って気絶させた生首を残し他の歪みを閉じる。

 

そのまま、生首をまるで大砲の様に、射出した。

 

砲弾が地面を抉るようにアサシンもまた圧し潰され消滅した。

勢いが強すぎたのかそのままもう一人の英雄王(仮)(金ぴか)は遠坂邸の床に突き刺さる。

まるで犬神家か何かの様なポージングの英雄王(仮)を放置して、ついでに拝借していた回線も返却してその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、(オレ)の用も済んだことだ。時臣(アゴヒゲ)、貴様にアレ(金ぴか)を返そう。何、散々魔力を搾り取った礼だ。精々うまく扱えよ?」

 

手元には高濃度の魔力が籠った宝石が数個。

そう、なにを隠そうこの男(キャスター)は潤沢な魔力の供給によってその性能を発揮していると見せかけて、余剰魔力を蔵の宝石やら金属やらに貯めていたのだ。

「これで当面は擬似依代によって行動できるようになった。あとは・・・。」

悪い笑顔というより底冷えするような笑顔と言った方がいい笑顔をしているギルガメッシュの口が更に引き上がる。

彼の目線の先には、金色の紐。《天の帯》。

その天の帯が・・・ぐいぐいと何かに惹かれているかの様に反応している。

 

「・・・ほう。そうか、そうなのか。」

 

海外のアクション映画のワンシーンよろしく。ギルガメッシュは豪快に遠坂邸の窓を突き破り、外に出た。

 

 

 

「姉上・・・今会いに行きます。」

 

手の中の宝石が一つ割れ砕けた。




最初は時臣氏を魔力タンク扱いしようとしていた(オレ)ギル。あまりの原作ギルのしつこさとチョクチョク来る時臣氏からの依頼にめんどくさくなって面倒事(原作ギル)を押し付けてとんずらしました。姉ちゃんがいることも分かったしね。

これから時臣氏は大変です。
原作ギルの治療。((オレ)ギルのつけたやつ。バビロンの中で気絶してたから治ってない)
原作ギルの御機嫌取り。
作戦の練り直し。
一番最初のは原作ギルが自力で何とかするにしても二番目と三番目が・・・ね。

ちなみに(オレ)ギルは他の何者かによって遠坂邸に召喚されたのち、原作ギルをボコってお蔵入りにして、自分はそこから流れ込む魔力を搾り取って時臣氏のサバのフリしてた。念話回線はジャック。令呪?効かないよ?だってマス(仮)のサバのフリだもの。
サバ&マスにとってはちょっとしたチート行為である。


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お巡りさん、こっちです。

「ぐすっ・・・すまないな。みっともないところを。」

 

桜ちゃんもごめんね。と雁野は桜の頭を撫でた。

当の桜本人はそれよりも雁野の涙やら鼻水やら涎やらのついた服が気になって仕方ないようだ。

 

ーーAaaaaa『いいえ。気にしてませんよ。』

 

ウルレシュテムは気遣いの言葉をかける・・・が。

 

「?すまない。何を言っているのかわからない。」

 

「気にしなくていいって、おじさん。」

 

歌声にしか聴こえない声に混乱する雁野に桜が通訳する。

こころなし雁夜から距離をとっているが、おそらくは第二撃が来た時にすぐに対処できるようになのだろう。

 

「あ、そうなんだ。ありがとう桜ちゃん。・・・ええと、その、なんだ。」

 

ーーAaaaaaaaa 『ウルレシュテム。クラスはバーサーカーです。』

 

「・・・ママ。クラスはバーサーカーなんだって。」

 

桜からの通訳とともにウルレシュテムはたおやかに微笑みながらお辞儀をする。

さながら貴族の様に様になっているその所作を受けて雁夜は改めて、女・・・改めウルレシュテム(バーサーカー)をつま先から頭の天辺まで見直した。

 

ーーーあ、あれ?

 

あの時、蟲蔵の暗闇の中ということもあってか巨大な角の様なものを頭上に浮遊させた女怪だとばかり思っていた。・・・のだが・・・。

 

ー足。銀の具足に覆われている。

 

ー胴。白を基調としたドレス染みたシンプルな装いに所々鎧が付属している。横は紐で複数個所結ばれているだけの割と際どい恰好だ。合間からは白い肌と豊満な横胸が見える。

 

ー顔。月並みな言い方だが血が凍るような美しさとでもいうものだろうか。しかし、全体的な女性的、母性的な雰囲気も相まって柔らかい。なんだろう。例えるなら氷より淡雪の様な儚い美しい貌だ。

 

ー頭。蟲蔵で見た巨大な浮遊物などどこにもなく混じり気の無い白雪の如き髪があるだけだ。

 

ー聲。先程から歌声しか聞いていないが美声。なんかこう、安心する。

 

ー全体。聖母の様な穏やかにして包容力に溢れた美しい女性。まるでそう、葵さんの様な・・・。

 

ーーー葵さん?いやいや葵さんは時臣と・・・いやでも目の前にいるのは?え?葵さん型サーヴァント?あれ?

 

顔も声も何もかも違うのだろうが雁夜の脳は目の前のウルレシュテム(バーサーカー)と葵をどうしても重ねてしまう。・・・最も、それは葵と似ているから。ではなく、ただ単に彼の好みのタイプに葵とウルレシュテムが合致しているだけなのだが。

 

ーーーまあ、何はともあれあの臓硯を倒して桜ちゃんを助けてくれた恩人であることにかわりは無いか。

 

「ええと、バーサーカー。俺は間桐雁夜。よろしく。」

 

ーーAaaaaaaa『よろしくお願いします。雁夜。』

 

こうして、一時崩壊していたバーサーカー陣営が再構築された。

尚、この時に自身の恐怖よりも母の身の安全を優先させようと間に割り込んだ間桐桜の思考は強ち間違いという訳でもないことをここで記しておく。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

「お嬢ちゃん。迷子?よかったら俺、親御さん探すの手伝おうか?」

 

人の好さそうな笑みを浮かべて男が少女の方に手を伸ばす。

反対、ポケット付近の方にある空いている手には意識操作用の腕輪が握られてる。

がしりと、しっかりと目の前の少女の肩を掴み、そのアクセサリーを装着しようとしたその時。

 

ーーAaaaaaaaa『てめえ。(ボク)のかわいいかわいい(愛し子)に何しようとしてんだ。この変態がっ。』

 

周りには歌としか認識されていないが敬語すら外れたウルレシュテムが男ーー連続殺人犯。雨生龍之介の横っ面を殴った。

思い切り、何のためらいもなく。サーヴァントのステータスとしてのAランク相当の筋力で。

ウルレシュテムの、言いえて妙だがモンスターペアレントアタックがもろで入ったであろう龍之介はがっという声とともにゴロゴロと路地の更に奥に転がっていく。

 

「あ、ママ。」

 

ごめんなさい。と言って桜はウルレシュテムの服・・・正確には雁夜から借りている服だが、の裾を握る。

 

ーーーAaaaaaaa『いいえ。桜が無事でよかった。』

 

ウルレシュテムは桜の状態を確認してほっと息をつくと微笑んだ。

 

「桜ちゃん。バーサーカー。よかったっ、探したよ」

 

少し息を切らしながら雁夜が走ってくる。

合流した三人はそのまま龍之介の転がっていった先の路地とは別の方へと談笑しながら歩き去った。

 

 

 

 

「っだ・・・んな・・・て、撤退。しっよう。あの女の子とお姉さん。惜しいけど、今は、無理・・・かも。」

 

龍之介が倒れこんだまま虚空へと話しかける。

 

「ええ、これがおしまいではない。今は一時隠れ家に戻って休息をとりましょう。龍之介。」

 

良い作品を作るためには英気を養うのも必要なことです。言葉とともに奇怪な風貌の大男が現れる。

 

男の名はジル・ド・レェ。

この第四次聖杯戦争に召喚されたキャスター(・・・・)のサーヴァントである。

 

大男ーージルは龍之介を抱えるとゆっくりとした足取りでその場を後にした。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

ーーー虚なる杯(・・・・)敢えて逆しまに傾けん(・・・・・・・・・・)

降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する

――――告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!

 

 

紅い少女が詠唱を終えると同時にふっと周りを照らしていた蝋の火が一瞬消失する。

途端に輝き出した水面が次第に波紋を描き始める。

ザバンっと音を立てて水柱とともに何者かが水面に出現した。

 

「なんだ、召喚早々にずぶ濡れとは・・・私は相当マスター運が悪いらしい。」

 

しかし、やれやれといった具合に発言した男はマスターの顔を見るなり僅かに目を見開いた。

対する少女は内心少し残念に思いながらも態度には出さずただ目の前のサーヴァントを見遣る。

 

「っ・・・一応、確認しよう。君が、私のマスターか?」

 

「ああ、そうだ。俺が、お前のマスターだ。」

 

かくして、赤の少女はサーヴァントを手に入れた。

ー意図せずして同じような目的を持った協力者を手に入れた(叛逆の騎士と赤い弓兵は出会った)のだった。

 

 

 




モンスターペアレントアタックっ。・・・改めウルレシュテムのぐーぱん。
筋力Aの攻撃・・・シャレになりませんね。うん。

まあ、本当はもっと複雑なので純粋にAと言う訳ではないのですが。


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取り敢えず、一発殴らせろ。

今回はモーさん回想回。


マスターに関しては・・人によっては地雷注意な案件になるかもしれないです。
此処では敢えてまだそこまで詳しく書きませんがお気を付けください。


ーーーおはようございます。セイバー。

 

自分に向かって微笑むかつてのマスターの姿にああ、これは夢なんだなとモードレッドは自覚した。もう過ぎ去ってしまった記憶を観ているのだと、自分の女々しさに舌打ちをしたくなる/胸に何かが込み上げてくる。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

ーーーそんなに前に出すぎないでください。間違って貴女まで貫いてしまいそうではないですか。

 

敵対サーヴァントとの戦闘になったときの言葉。その麗しい容姿とは打って変わって好戦的だったマスター。その言葉に自分はなんと返したのだったか。

 

ーーーはっやってみやがれっお前みたいな腰抜け野郎にオレが負けるかよっ。

 

最初は最悪だった。相性召喚だと聞いたときは聖杯は欠陥品じゃないかと疑うほどに。

魔術師らしく緻密な作戦と準備をして万全の状態で臨む。確かに、それ自体は悪いことではない。魔術師には魔術師なりの戦い方がある。かくいうモードレッドも魔術師でこそないものの勝てれば何をしてもいいと騎士としては姑息な手段を用いることも躊躇わない。

 

だから、例えモードレッドの様に前衛として戦うことができなくともそこは自分が何とかすればいいのだと思っていた。

 

だが、それは・・・そもそも根底から違っていた。

マスター・・・男は自身で立てた緻密な計画を自らの手で滅茶苦茶にした。

 

 

 

なにせ、自分を召喚したマスターは勝敗すら/聖杯などどうでもよかったのだから。

 

ーーームカつく。

 

男の采配や手段を問わない戦法を、モードレッドは気に入っている。

割と好きに(暴れ)させてくれるし、あの忌々しい優等生(太陽の騎士)等の様な正々堂々、騎士らしくみたいな反吐の出る説教も騎士道精神とやらもない。そのあたりも好感が持てた。

 

ただ。

 

ただ、全てを見通して楽しんでいるかのようなあの顔。あの目が。あのクソ魔術師(花の魔術師)を見ているようで気に食わなかった。

極めつけは勝ちにすら拘らないときた。

 

かくしてモードレッドの不満はサーヴァント戦を前に爆発。敵対サーヴァントを放って味方同士の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

どういった原理かは理解しかねるが男の打ち出す数多の宝具級の攻撃を持ち前の直感でよけ続ける。弾く、掴むといった芸当はしない。してはならないと、これも直感が言っていた。

 

モードレッドはそのまま男の下に走っていく。

・・・そして、勢いをつけて推進し。男の懐に迫る。

 

ーーー取ったっっ

 

そう、モードレッドは確信した。その直後。

 

 

 

 

これまで、ずっと男は微笑んでいた。まるで聖人か何かの様に。

けれど、モードレッドは見た。見えてしまった(・・・・・・・)

 

一瞬の無表情の後。

 

氷の様に冷たく、闇夜の様に昏い。美しくも恐ろしい笑みがそこに在るのを

 

悪鬼の様なその存在を

 

 

思わず、反射的にモードレッドは飛び退く。

 

ーーーふ、ふふ。

 

嗤いが響く。それは発音するたび大きくなる。

 

ーーーふはははははははっこの(ボク)の懐に飛び込んでこようとは・・・面白いな貴様。

 

赤い瞳は獲物を見つけた肉食獣の様にぎらついて獰猛な輝きを帯びている。

穏やかな聖人君主の如き仕草など、セリフなど、姿勢など仮初の物に過ぎなかった。

モードレッドはここでようやく男の視界(価値あるもの)に入ったのだ。

 

 

 

結局、残念(幸福)なことに決着は着かなかった。

その代わり、お互いのことを認め、理解するように努めるようになった。

 

悪友の様な恋人の様な家族の様な他人。

互いに関係に名前など付けていなかったが、それでも別によかった。

 

サーヴァントとマスターの繋がりから互いの過去も知った。

 

ーーーああ、なんだ。こいつとオレ似てるのか。

 

何故かは分からなかったが、その記憶()を観たとき。

モードレッドはただ嬉しかった。

 

記憶を共有できたことが嬉しかったのか。

はたまた同類を得たからこその親近感から来るものだったのかはわからない。

ただ、だた嬉しかった。

 

 

場面が変わる。

 

 

ーーーなあ、■■。お前は聖杯に何を望むんだ?

 

ある時、ふと気になったことをそのまま聞いてみたときがあった。

 

ーーー聖杯に・・・ですか?

 

珍しくキョトンとした表情でモードレッドを見てから男は首を傾げて言った。

 

ーーー特にありませんね。君が使ってくれて構いませんよ。セイバー。

 

ーーーってねえのかよ。なんで参加したんだお前。

 

ガリガリと頭を掻きながら困ったような表情を作ったモードレッドにクスリと男は笑う。

 

ーーー強いて言うなら探し物・・・ですかね。もう見つかってしまったので、今はただの趣味。ついでですね。

 

聖杯戦争(コレ)は何度見ても飽きませんし。セイバー()にも会えましたし、ね。と笑みを深くする。男の肩に掛かった長い金髪がサラサラと滑り落ちる。

 

ーーーなっおッ前なあ。

 

狼狽えるモードレッドを余所に今度は男が質問した。

 

ーーーそれならセイバー。君の願いは?

 

ーーーオレか?決まってんだろ。選定の剣に挑戦することだっ。あ、■■。折角だ、お前もオレの勇姿をその目に焼き付けろよ。

 

胸を張って答えるモードレッドに男は穏やかに微笑んだ。

 

 

場面が切り替わる。

 

 

 

聖杯とは名ばかりの、黒い、溢れんばかりの泥。

 

ーーーんだ、こりゃっ。

 

ーーー懐かしい。いや・・・あれより些か薄い・・・か?ああ、セイバー。安易に触ると飲み込まれますよ。

 

忠告に出していた手を引っ込める。

 

ーーーおいおい、ほんとにこんなんで願い叶えられんのか?ロクでもねえぞきっと。

 

ーーーでしょうね。これは早急に処分すべきです。

 

言った直後。バーサーカーの投擲が迫る。

弾いたモードレッドは舌打ちをするとサーヴァント戦を開始した。

これまでに脱落したサーヴァントは五騎。あとはこの目の前にいるバーサーカーのみだ。

そう思って更に攻勢に出ようとしたモードレッドの背後に更に別の影が迫る。

小柄なその影に突き飛ばされる形で泥の中に堕ちた。

 

ーーー八騎目、だとっ!?

 

ザバンと勢いよく入ったそこは怨嗟や侮蔑、負の側面をありったけ集めたかのような。

響くのは悪口雑言と言っては生易しい。呪いの集合体だった。

 

ーーーが、あああああああああああっ

 

どんなに抗おうと終わることのないそれに徐々にモードレッドの精神も削られていく。

 

と、ガシリと温かな人の手の感触に引っ張られ外界へ帰還する。

 

ーーーあ、がぐっ。ぐっ。

 

されどそれはもう泥に浸かってしまったというその時点でもう遅かった。

完全に黒化するのも時間の問題だろう。

さすがに自身の現状を冷静に把握したモードレッドは男に最後の言葉を告げようと向き直る。男はなぜかいつもと変わらぬ笑みを浮かべて言った。

 

ーーーおやすみなさい。モードレッド。君の願いがきっと叶うことを願っています。

 

突然眠くなる。視界が暗転する。

 

 

次に目を開けたとき。そこには敵対サーヴァントも泥もない。---もちろん信頼し、慕ったマスターも。

 

そして、自身の身体を蝕んでいた呪いも。

 

転がっているのは聖杯のみ。泥に持っていかれたかと思ったが思いの外残存魔力が残っているそれは忌々しいほど光輝いている。

 

ーーーざ・・・ん・・・。

 

 

ーーーざけ・・・・ん・・・な。

 

 

 

ーーーざけんなよ。・・・・ざけてんじゃねーぞっっテメエエっ。

 

 

その願望器を手にモードレッドは吼える。

びりびりと周りの空間を震わせるほどのそれは泣き叫んでいるかのようにも聞こえた。

 

ーーー認めねえ。こんな終わり。

 

在ってたまるかっ。そう言い放ったモードレットは聖杯を使用した。

 

果たして、彼女の願いはーーー。




閲覧ありがとうございました。


ちなみにモーさん登場時に来ていた服もこのマスター縁の品だったりして。

そういえばこの作品って笑顔の描写が多いよねって書いてる作者自身思います。
・・・下手な怒り顔より笑顔とか無表情の方が怖いよねっていう経験からなんだけれどもね・・・ほんと、怖い。

あと、マスターの口調ですが素はあの恐ろしい笑顔のときのセリフみたいな。
普段の丁寧な口調はある人物に対しての当てつけでやってます。


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衛宮切嗣は気づけない。

最近イレギュラーサイドの話ばっかりだったので他の陣営の話も投稿してみます。

衛宮切嗣とか遠坂時臣。特に遠坂時臣は世間一般から見ればとんでもなく幸福な環境にいるんですよね・・・。
まあそれもこの聖杯戦争(自業自得)のせいで全てなくなるわけですが。


アイリスフィール・フォン・アインツベルンは聖杯戦争に於ける小聖杯の役割を担うために鋳造されたホムンクルスである。戦争で脱落したサーヴァントの魂はまず彼女の中の小聖杯にくべられ、大聖杯起動の魔力として蓄えられる。

 

「・・・?。」

 

冬の城の中で荷造りをしていた彼女は、自身。正確にはその中にある聖杯の状態に違和感を覚えた。

 

「どうかしたのかい?アイリ。」

 

不意に手を止めたアイリスフィールに夫、衛宮切嗣が声をかける。

わざわざ荷物の整理の手を止めてこちらに歩いてきた夫に心配させてしまっただろうかと苦笑してアイリスフィールは口を開いた。

 

「いいえ。大したことじゃないの。ただ・・・。」

 

言ってよいものか暫し考えたが、やはり隠し事はよくないだろうと素直に事の次第を話し出した。

 

「ただ、もう私の中の聖杯に魔力が送られてきているみたいなの。」

 

その言葉にたいして表情を変えずに切嗣は顎に手をやる。

 

「それは、もう聖杯戦争が始まったということかい?」

 

そうすれば出遅れたことになる。

しかし、聖杯戦争とは七騎のサーヴァントが揃って初めて儀式として成立する大掛かりな術式だ。

故に教会から派遣された監督役によって全騎の召喚が確認されて初めて戦争が成り立つのだ。

どちらかと言えば出遅れたというよりフライングがあったとみるべきだろう。

夫の問いにアイリスフィールは左右に首を振る。

 

「・・・違うみたい。サーヴァントの一騎がくべられたにしては魔力が少なすぎるわ。仮にこれが一騎分だったとすれば七騎分くべても精々小聖杯を起動できるかどうか・・・。」

 

それにこの魔力・・・と悩む妻を前にまた切嗣は考え込む動作をする。

 

「・・・翁に情報の提供を願おうかな。」

 

小さく呟くとともに電話の着信音が鳴る。

ごめん。ちょっと外すよ。と断りを入れて部屋を出ていく夫の姿を見送ってアイリスフィールは胸元に添えた手に力を込めた。

 

ーーー例え、何があっても成功させてみせる。切嗣とイリヤのためにも。

 

 

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

「何があった。」

 

電話越しに相手・・・おそらく女性であろう声が聞こえる。

 

『・・・間桐家の聖遺物到着及びサーヴァントの召喚を確認しました。聖遺物から裏切りの騎士ランスロットかと推測しましたが、サーヴァントと思われる反応体は妙齢の女性です。常に歌声のようなものを発しており、おそらくクラスはバーサーカーかと。ここ数日、霊体化することなく顕現しています。

 

同じく、遠坂邸のサーヴァントらしき存在を確認。遠坂邸の結界を破り市街へ降下。こちらはキャスターだと思われます。それと、アサシンの脱落を確認。撮影したものがあるのでこちらにつき次第確認してください。以上です。』

 

淡々とした女の語り口に切嗣は無感動にそうかと返す。

 

「わかった。そのまま監視を続けろ。」

 

短い会話の後電話を切る。

 

「さて・・・。」

 

どうしたものかと思いながら切嗣は煙草に火をつける。

 

残るは時計塔のロードと聖堂教会の元代行者言峰綺礼。

そのほかの空枠に不安はあるモノの人物としての言峰綺礼の他に、更にある不安要素に切嗣は思考を進めていく。

 

ーーー何故遠坂はわざわざキャスターを召喚した?

 

遠坂邸に聖遺物が送られて来ていたのは確認済みだ。だが、何故寄りにもよってキャスターなんぞを召喚したのか。遠坂はここ以外に儀式に適した霊地を持っていない。あるにはあるが主だった霊地は青崎が所有している。

そんな貴重な霊地の、それももっとも儀式構造においては適しているであろう自宅をわざわざ戦場にするような愚行をするのだろうか。それなら三大騎士クラス・・・セイバーは切嗣が引いてしまったがアーチャーあたりでも呼べばいいものだろうに。何故、わざわざ聖遺物まで使ってキャスター(アナグマ)を呼んだのか。

今回のアサシンの脱落と魔力の蓄積具合から幻術か何かの類いでの陽動のために呼んだ・・・という考えもないことはないがそれでは最初のそれも一回のみしか効果は無い。そんなハイリスクローリターンな駆け引きを魔術師がするだろうか。

 

そして

 

ーーー間桐雁夜。間桐の家(魔道の家)に生まれながら反発、以後は一般人として生きてきた男。

 

最近間桐に出戻った急造の魔術師。遠坂とそれなりに親交があったようだがそれもここ最近断絶している。

一般人。が故に謎に包まれた人物。こんなのに頼るとは間桐もそれだけ余裕がないのかと思っていた。のだが、英霊をアストラル化させずに顕現させ続けているということは一般人と偽った魔術師の可能性が高くなってきた。ムラは多そうだが。呼び出した女性はきっとランスロットで間違いないだろう。なんせ、騎士王が女性(アレ)だ。

 

ふうっと煙草の煙を吐き出す。

 

ーーー取り敢えず、作戦に変更はない。

 

窓の外の雪の降る寒空を観ながら衛宮切嗣は妻と子を思い浮かべた。

 

「イリヤ・・・アイリ・・・。」

 

そのまま踵を返して立ち去る。

向かう先はこの城の主の下だ。

 

衛宮切嗣は気づかない。否、情報が少なすぎて気づけない。

 

既に此度の聖杯戦争で一騎は脱落とは言えないもののそれに近い形に成っていることも。

 

本来いるべきではないイレギュラーが複数紛れ込んでいるということも。

 

 

 




舞弥さんに関してはもう数ある世界の一つとしか・・・。

事情知ったらきっとアインツベルンもっとカオスになるよなとか思いながら書きました。

そして切嗣さん。・・・あんたセイバーに確認取ったら別人だって気づけただろうね。
しないだろうけど。


閲覧ありがとうございました。


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再会(偽)とかアリですか?なしで。

誤字報告ありがとうございました。
早速修正させていただきました。

今回はちゃんと倉庫街回。・・・たぶん。

主人公の世界のギルガメッシュはfate原作のギルと違ってまず剣。投擲はない。まず剣。
姉ちゃんとの血みどろの特訓経験もあるから多少ステータスにも変化が・・・あったりなかったり。


ーーーAaaaaaaaaaa『避けるな。疾く消え失せろ。』

 

言ってウルレシュテムは手に持った剣・・・ナルカミから無数の斬撃を英雄王に対して放つ。その剣閃を英雄王は回避しようとするが動きが追い付かず、致命傷こそ避けているものの無数の赤い線となって体に刻まれてゆく。

 

「ぐっ。おのれっ。狂犬如きがっ。」

 

忌々し気にウルレシュテムを見る英雄王ではあるがそこまでの余裕は今の彼にはない。

いや、慢心さえ捨てていればあるいはもう少し楽だったのかもしれないがそれは彼のプライドが許さない。

 

無数の黄金の砲門がウルレシュテムの背後に浮かび・・・宝具級の攻撃を射出する。

その数は優に二十を超えている。

対面する英雄王もにやりと口元を歪めた。

 

しかし、そんなものは次の瞬間消え去った。

 

射出された武器が突き刺さり爆風じみた風と砂埃が辺りを覆う。

 

アイリスフィールは思わず口を覆い、ウェイバーは高所にいるため被害は無いものの反射的に顔面を腕でガードする。

 

「!!っ」「ほう」「なっ」

 

サーヴァントは英雄王を除き三者三様ではあるものの僅かに驚きが見て取れた。

 

「な、なんだ。いったい何が・・・」

 

慌てふためくウェイバーに静かな声でイスカンダルが告げる。

 

「なんだ、坊主見えてなかったのか。」

 

まあ、儂も信じられんがなと言う声に「はあ?僕にも分かるように言えよ。」と不機嫌気味に返した。その返答に対して、尚も目線をウルレシュテムに固定したままイスカンダルは返事を返す。

 

「あの雨合羽。あやつは一切あの場から動いとらん。」

 

「?だからどうしたってんだ。あの場から動かなくたってサーヴァント対サーヴァントなんだ。弾くぐらい・・・。」

 

ウェイバーが話途中だというのにイスカンダルは問答無用でデコピンをかます。

 

「いったっ。何す「阿呆。あのバーサーカーの周りにある武器を見てみろ。ついでに数もな。」

 

イスカンダルの言葉に従いウェイバーは周囲の惨状を観察する。

バーサーカーの周囲には先程英雄王が投擲した宝具級の武器が突き刺さっている(・・・・・・・・)。落ちているものは一つも見当たらない(・・・・・・・・)

 

「あっ。」

 

「わかったか。坊主。あのバーサーカーは正しくあの場を動いていない。もちろん防ぎもしとらん。信じられんが攻撃が勝手に奴を避けた(・・・・・・・・・・・)のだ。」

 

それが例え必中の軌道にあった一撃であってもな。イスカンダルの言っている内容と真剣さをにじませた声音にごくりとウェイバーは唾液を嚥下した。

周囲が異様な静寂に包まれる中。渦中の人物であるバーサーカー・・・ウルレシュテムが歌声を発する。

 

 

ーーーAaaaaaaaaa『今度は、(ボク)の番ですね。』

 

ナルカミを形態変化させて電撃を放つ。

 

その、心なし怒っているらしき彼女の手には千切れたリボンが握られていた。

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

町中で買い物をしていたバーサーカー陣営はある店の前で立ち止まる。

 

「どうしたの?桜ちゃん。」

 

突然立ち止まった少女に雁夜は不思議に思い声をかける。

少女・・・間桐桜が立ち止まって見ていたのは手芸屋のウィンドウだった。

 

「これ・・・。」

 

桜が指さしたのは白いリボン。飾り気の無い簡素なものだが生地は上質なものの様だ。

 

「ママの色。」

 

キレイとぽつりと呟いた。ほんの少しだけ口元に笑顔が見える。

 

ーこれが間桐の家に来て初めて桜の笑った瞬間だった。

 

そんな桜の様子を見たウルレシュテムはありがとうと歌声でお礼を言って微笑む。

一方で雁夜は・・・。

 

「うっ・・・買ってあげる。がっであげるよざぐらじゃんっ。」

 

号泣再び。町中だというのに涙だけでなく鼻水やらも垂れ流しながら泣いていた。

本人はなんて健気ないい子なんだっと感動に打ち震えているのだが傍から見れば立派な変質者である。

 

リボンは三人とも桜の選んだ色を購入し、それぞれ思い思いの場所に巻き付けた。

 

 

 

・・・のだが・・・。

 

倉庫街のセイバーとランサーの戦いに釣られてやってきていたところにイスカンダルの挑発が入る。

出ていくかどうか悩んでいたところにやってきた人影にウルレシュテムは目を見開いた。

 

思わず二歩三歩とふらふらと歩いていく。

 

ーーーAaaaaaaaa『ギルガメッシュ。』

 

雨合羽のフードを目深に被っているため周囲に知られることは無かったがウルレシュテムは・・・泣いていた。

歩みは徐々に早くなり、次第に駆け足に変わっていく。

周囲の声などもう彼女に聞こえていない。

駆け足から弟の元へと跳躍する。・・・と同時に刃を構え振った。

 

ーーーAaaaaaaa『ああ、会いたかったっ。』

 

突如現れたバーサーカーらしき雨合羽を着込んだ人物の登場に周囲が騒然とする中黄金の王に直進する。

 

「誰の許しを得て(オレ)を見ている。狂犬めが。」

 

背筋の凍るような声が黄金の王から発せられるが、当の狂犬と言われたウルレシュテムは気づかない。

 

ーーーAaaaaaaa『さあ、今度こそ存分に、誰に邪魔されることなく殺し合おう。ギル。』

 

「せめて、散り様で(オレ)を興じさせてみよ。雑種。」

 

方向を変更した黄金の歪みがウルレシュテムの方を向く。と武器を射出した。

全くかみ合わない会話の末に射出されたそれは一直線にウルレシュテムの方へ向かっていくと彼女の頭部のすぐ横を通って後方へと突き刺さった。

 

此処で初めてウルレシュテムは気づく。

目の前にいる存在は自身の弟に似て非なる存在なのだと。

 

ーーーAaaaaaaaaa『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)(ボク)相手にそんな気休め・・・?もしかして、ギルじゃ・・・無い?ならなんで王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を・・・?」

 

そんな彼女の足元に落下する何か。それは白い紐であった。

・・・正確には先日手芸屋で買ったおそろいのリボンである。

足元に落ちた破れたそれにウルレシュテムの思考が一時停止する。

 

 

周りを無視しての幾許かの沈黙の後、ブチリと何かの切れる音がした。

 

 

ーーーAaaaaaaaa『貴様・・・(ボク)の弟の偽物(パチモン)の分際で・・・よくも桜の選んでくれた・・・おそろいのリボンをっ・・・』

 

片手に持った愛刀・・・ではなく、素手を平手打ちの要領で思い切り英雄王の立っている街灯にぶつける。結果、街灯は見事にへし折れ、英雄王は落下した。

 

「痴れ者がったかだか狂犬の「---Aaaaaaaa『消えろ』」っ」

 

かくして、物語は冒頭へと繋がる。

 




訳のわからない理不尽な暴力がギルガメッシュを襲うっ。

ちなみにこの倉庫街戦で着用している雨合羽はウルレシュテム特製の隠蔽能力付き雨合羽です。ただ、少しでも術式の核になっている留め具に傷がつくと壊れる脆い代物です。

で、この時は一応偽のマスターとして雁夜さんが近場で待機していました。
桜ちゃんはお留守番です。
魔力関連は桜ちゃん。回線だけおじさんが借りています。
なんだかんだ言って一番危ないであろうおじさん。
・・・強く・・・生きてくれ。おじさん。

閲覧ありがとうございました。


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月の主従、参戦。

倉庫街にて戦闘が行われているのとほぼ同時刻。

円蔵山、その地下にある鍾乳洞にてーーー。

 

 

地面に波紋が描かれる。

 

その波紋は徐々に大きくなり波紋と言うよりは波の形状に近くなっていく。

 

その波紋の中心部から突如、誰かの腕が出現した。

 

その腕はそのまま、まるでそこに透明な板でもあるかのように波紋の浮き出している地面に手をつく。

 

ざばっというまるで水中から上がってきたかのような音と水飛沫と共に二人の人影が姿を現す。

人影の片方はまだ成人していないだろうセーラー服に身を包んだ少女。

もう片方の人影は背の高い長髪の、中性的な容姿の男性だ。

 

「おや?おやおや?これはこれは・・・喜べ我が宝物。此度の観光面白くなりそうだぞ。」

 

男の方は至極愉快そうに言葉を紡ぎ、少女へと投げかける。

対して少女自身は遅れて男に掴まって這い上がると何が?と湖の湖面に立っているという不安を隠そうとせずに問いを返した。小鹿か何かの様にプルプルと震えながら自身に必死で掴まっている少女を両の手で・・・いわゆるお姫様抱っことか言われる抱え方で抱え上げる。

「全く手の掛かるマスターよな。」と言いつつも男の少女を見る瞳は優し気なものがあった。

男の首をガッチリとホールドし、それでも尚震えている少女にクスクスと笑いをこぼしつつ男は歩を進める。

 

「流石に一片一片集めるのは苦労しました・・・。が、おかげでこうして尊き御方の復活は成された。事は順次うまくいっているとみて間違いないでしょうね。」

 

まあ、おまけで忌々しい黒歴史がいるのは気に入りませんが。と男は笑顔のまま眉根を寄せる。

ねえだから何が!?とされるがままになっていた少女が必死な声音で男に再度問いかける。余程落ちるのが嫌らしい。

 

「ええい、うるさいぞ。そんなに大声で言わずとも聞こえておる。・・・まああれだ。(ボク)にとって懐かしいことがこの地で行われている。今はそれさえ分かっていればよい。」

 

えええ!?それで終わり!?横暴だっ。と言い募る少女になんだ、(ボク)は前々からこうだろう?耄碌するには早いぞ?と男は小馬鹿にした笑みで返す。

 

「・・・そうだった。そうでしたねー。出会ったときからルルのその横暴さに振り回されたね私。」

 

ジト目で少女、岸波白野はルルと呼んだ自身のサーヴァントを見遣る。

 

「そう、今更です。」

 

口調を敬語に直した彼は楽し気に答えた。

対照的な表情の二人組はじゅうっという何か肉の焼けるような音に首を傾げる。

周りの変化に気を配っている白野の片手を掴み、ルルはああ、と呟いた。

 

「令呪が消失した様ですよ?我がマスター。」

 

こんな時だけ都合よくマスター呼びするサーヴァントに溜息をついて・・・一拍おいて白野ははい?と言葉を認識し、呟いた。

 

「え、ちょっもっかい、もっかい言って」

 

「ですから、令呪が・・・「オーマイゴッドっなぜお月様は私に優しくないのかっ」うるさい、少し黙れ。貴様はどこぞの沙門か。」

 

ルルの言葉に白野は沈黙した。余程あの暑苦しい僧侶と同列にされることが堪えたらしい。

 

「いいですか。確かに君は僕の令呪を消失しました。けれどそれはこの世界・・・というより器に順応したからに過ぎない。此度の聖杯戦争に君はサーヴァントとして召喚されたんです。業腹ですが僕はその使い魔兼宝具としてね。」

 

端末の方はどうなってますか?というルルの問いに白野は制服のポケットを漁り端末を操作する。

 

「ええと、ルルのステータスに・・・あ、これかな。」

 

新しくできた項目をタップ。画面が切り替わる。

 

 

岸波白野

 

属性:中立/中庸

 

カテゴリ:星

 

出身:月

 

身長:160㎝ 体重:45kg

 

性別:女性

 

クラス:アンノウン(ルーラー)

 

筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:EX 幸運:D

 

 

 

 

「低っ私のステータス低っ・・・確かに元々データだし?こんなん(ルルみたいな)に勝てるとか思わないけどさ・・・。」

 

これで生き残れと?鬼畜仕様だよ。と落ち込む白野の横から顔を覗かせたルルがふむ・・・。と考える仕草を見せた。

 

「まあ、魔力に関しては向こう側での君の都合もあるので納得です。が、気に食わんな。」

 

白野の手から端末を奪い取ったルルは何かを書き込んでいく。

 

「ちょっ勝手に何して。」

 

ルルの手から奪い返した端末の画面を覗き込む白野。別段変わった個所は無い。

首を傾げる白野にんっと言ってルルが指さす。

 

クラス:操縦者(ハンドラー)

 

「貴女にルーラーやらアンノウンやらは似合いませんから、手を加えさせてもらいました。」

 

勝手に何してんのっという相棒の憤る姿に今度はルルが首を傾げる番だ。

 

「何この操縦者ってっ何を操縦するの?ライダーじゃないんだから何も持ってないよっ。」

 

それなら僕・・・と宣うルルに尚更悪いわっと白野の勢いが増す。

 

「そんな操縦者(意味深)みたいなのやだよ。傍から見たら変質者じゃん。」

 

その言葉にぷっと噴き出した後ふはははははははははと盛大にルルは笑った。

 

「な、なにを言うかと思えばっ・・・っふ。何、心配するな。この聖杯戦争に参加しているチーム全員に言えることだ。なんせ、全員夜中に珍妙な恰好で殺し合いを始めるのだぞ?今更一人二人増えたところで変わりあるまい。むしろ全身タイツやら全身甲冑よりはマシなのではないか?」

 

「ぐ、ぬぬ・・・確か、に。そうとも言え・・・なくもないのか?」

 

その後も談笑を続けながら二人組はその場を後にする。

 

こうしてルーラー(偽)陣営改め操縦者(ハンドラー)陣営が新たにこの地に降り立った。

 

 

 

 

 

 

感動(最悪)の再会にでもなりそうですね。■■王■■■■■■」

 

遺された王は嗤う。

 




はい、というわけで二名様ご案内です。

白野のカテゴリーを星にするか悩みましたがこの白野はCCCをクリア後の白野のため星にしました。
サーヴァントは大妖怪でも赤い暴君でも正義の味方でも悪鬼の様な王でもありません。

最近新たに書いている番外編の方です。

・・・問題は色々ありますが進めていこうと思います。

閲覧ありがとうございました。


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ディルムッドの撤退、乱入者来たれり。

戦闘とは、対等な、はたまたはそれ以上の相手と行うことによって成立する行為だ。

 

しかし、今この場で行われているのは果たして戦闘と言えるのだろうか。

 

こんなーーーあまりにも一方的な、虐殺一歩手前の行為を。

 

 

 

 

 

あれからまず最初に、英雄王ギルガメッシュと名乗った男の片腕がなくなった。

少し遅れて血が噴き出す。余程切り口が綺麗だったのか、まるでシャワーの様に勢いよく噴き出すそれを、俺を含めこの場の全員が唖然と眺めていた。

 

いつの間にかギルガメッシュの片腕を奪ったであろう女人が、後方・・・コンテナの端で歌っていた。その片手には剣を、もう片方には先程切り取ったであろう甲冑の着いた腕を持って。

 

 

ーーーAaaaaaaaaaa

 

 

悲し気な、けれど優しいその歌声は、姿はきっと。他者を惹きつけるのだろう。

こんな状態でなければ。

先のセイバーとの決闘では高揚感が全てにおいて勝っていた。が、これはなんだ?

 

冷や汗が顔を伝う、全身が、本能が逃げろと警告する。

それなのに肝心の足はまるで縫い付けられたかのように動かない。

どうするか思考している最中に頭に声が飛んできた。

 

ーー撤退だ。ランサー。

 

主人の声が聞こえる。

先程までのセイバーの首級を取れと言っていた声とは違う静かなものだ。

 

「は、しかしセイバーが・・・。」

 

ーーもうよい。手傷ぐらいは負わせられたのだろう?ともかく戻ってこい。

 

そして、私を連れてこの場を離脱しろ。という言葉を最後に回線が切れる。

動かない首を無理矢理セイバーの方へと動かすと目が合う。

セイバーが先に離脱しろと言わんばかりに顎を反対側へと動かした。

彼女が剣を構え直すと同時にびゅうっと風が鳴り、一閃剣を振るうと途端に地面が削れ砂埃が煙幕の様に立ち上る。

 

「っすまない。セイバー、恩に着る。」

 

ふっと小さく笑ったセイバーを見て、地面を強く蹴るとそのまま駆けだした。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

本拠地兼工房と化しているホテルに戻ってからランサーのマスター・・・ケイネス・エルメロイ・アーチボルトはひとつ息をつくと部屋に入っていく。

 

「あら、思いのほか早かったのね。それで、なにか収穫はあったのかしら?ケイネス。」

 

冷たい口調で答える婚約者ソラウ・ヌゥザレ・ソフィアリにああ、と短く返答する。

その様子にほんの少し目を見開いたソラウはそう、とこちらも短く返事を返し次の句を待った。

 

「・・・落伍者が参加するなどと言うからどのようなものかと思っていたが。」

 

最初は、恨み節でも語っているような重苦しくも激情を秘めた風体で話す。

 

「何が落伍者だっ。あんなっあんなものを使役させておいてっ」

 

言葉を荒たげたケイネスが失礼と言って再度息を吐くと今度こそソラウの方を向いた。

 

「ソラウ、君には一旦この街を離れてもらう。」

 

突然の提案にソラウはぎょっとするとそのままケイネスを氷の如き眼差しで睨んだ。

 

「嫌よ。絶対に嫌。だってディルムッドがいないじゃない。彼が一緒じゃなきゃ嫌。」

 

頼む、聞き分けてくれ、絶対に嫌という応酬が続く。

しばらく続いたそれに終止符を打ったのはケイネスだった。

 

「・・・わかった。そんなに提案を聞き入れられないなら教会に行こう。」

 

その言葉にソラウの氷のような眼差しに更に侮蔑の色が入る。

 

「・・・今度は令呪の返却でもするの?それなら「いいや、違う。」?」

 

「私は抗議と情報提供に行くのだよ。ソラウ。」

 

ーーーー星の内海を映す赤の瞳に、大地を象徴する一対の大角。私の予想が正しければ・・・あれは。

 

まだなにか言い足りなさそうなソラウをそのままにケイネスは一つの確信を心の中で反芻する。

 

ーーーーこの聖杯戦争は、聖杯はおそらく正しく機能していない。

 

 

何処かで破綻しているのだ、と。

 

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

「アイリスフィールっ。」

 

セイバーは姿勢をそのままに後方にいたマスター役のアイリスフィールに声を掛ける。

 

「セイバー、撤退しましょう。」

 

アイリスフィールも態勢をそのままにセイバーに声を掛ける。

 

が、そこに電撃が落ちた。

 

「っ」「きゃあああっ」

 

幸い直撃はしなかったものの衝撃に地面が揺れる。

 

ーーーーしまったっ。

 

セイバーは砂埃が晴れていくのを見て内心歯噛みする。

おそらく敵は今頃ギルガメッシュを葬って次の獲物を探しているはずだ。それに、もう一度さっきの様に小細工が通用する相手とも思えない。

セイバーは剣を握る手に力を込めた。

 

ーーーーイチかバチか。

 

(歌声)に接近せんと足に力を籠めるセイバー。

そこに笑い声が降ってきた。

 

「ふははははっ魔力の反応が集結していたから様子見程度にと立ち寄ってみれば・・・桜、あたりの様だぞこれは。」

 

笑い声の方をみてみるとこれまたコンテナの所に一人の男が立っていた。

その顔をみてセイバーは混乱する。おそらくアイリスフィールも。否、この倉庫街に集まっている全員が驚きの表情をしている事だろう。なんせ、その男は装いこそ現代のスーツだが顔は先程腕を持っていかれたギルガメッシュに酷似していたのだから。・・・肩に年端もいかぬ少女を乗せているあたりロリコンに見えなくもないがこの際黙っていた方が吉である。そのままコンテナから飛び降りると一直線にある人物・・・バーサーカーの元へと走り寄る。

 

「姉上っ。」「ママッ。」

 

例え辺り一面血の海になっていようが、その姉上/ママが返り血を浴びて真っ赤になっていようがお構いなしに突っ込んでいく。正体不明の男に至ってはギルガメッシュの胴を平気で踏みつけていった。

 

感動の再会からの抱擁。一瞬驚いたらしかったがバーサーカーの頬も緩み、涙を誘う。血塗れだけれど。

 

桜と呼ばれた少女をぎゅうっと抱きしめたバーサーカーは何事かを少女に言う。

 

歌声にしか聞き取れないその声を何故か少女は理解できるらしくううん。いいのと返答している。

 

「でも、私、またママとお買い物がしたいな。」

 

いじらしい少女の頼みに、さっきまでの気迫はどこへやら。

バーサーカーは美しい微笑みを浮かべている。

そして、肝心の乱入者の男はバーサーカーの胸元あたりに顔を埋めたまま身動き一つしない。

・・・いや、よく見れば小さく震えていた。スンスンと鼻をすする音やらが聞こえてくるあたり泣いているようだ。そんな男の頭をポンポンと撫でるとさあ帰るかと言わんばかりに惨状はそのままにどこぞへと消えていった。

バーサーカーの着衣の端を握りしめつつもう片方の腕で俯いた顔をひたすらにのごう男とそんな男に「お兄さん大丈夫?飴舐める?」と気遣いを見せる少女。いろいろ濃いメンツが退場した後は沈黙がその場を支配する。

 

 

尚、この後動けるものが全員去った後取り残されたギルガメッシュは、たまたま通り掛かった操縦者(ハンドラー)の使い魔に面白いものとして回収されたのだが気づいたのは初戦からサーヴァントが殺されかけてあたふたしている遠坂家の当主のみだったりする。




zero見ててこれ、普通に正攻法で争ってたらケイネス先生勝つんじゃね?と思った結果書いた回です。切嗣さんがいなきゃたぶん死ぬことはまずなかったでしょうし。
いや、英雄王がいる時点で終わったも同然なんでしょうけどね。
英雄王がいなくて、マスターに切嗣さんがいなければな・・・あ、でも主従仲が悪いと(震え)。
己ギルは生前姉ちゃんにいろいろとんでもないことしてて(子供の件とか)申し訳なさとか溢れんばかりの愛情(いろいろ)のせいでSAN値がやばい。
そのあたりはまた今度解説編に置こうかと思っています。

閲覧ありがとうございました。


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遠坂時臣の困惑/バーサーカー陣営会議

遠坂時臣は焦っていた。

 

自身が最強のカードとして引き当てたであろう存在が脱走し、実は偽物だったという最初から難題にぶち当たったこともあるが、その後に契約し直した本物の方の件で今は頭を抱えている。

 

まさか、最強のカードが初戦で敗退直前にまで追い込まれることなど、その後に何者かに回収されて行方知れずになるなど誰が考えようか。

 

極めつけは、時臣自身が浅ましい落伍者だと軽視及び蔑視していた間桐雁夜のモノと思わしき歌うバーサーカーが自身のサーヴァントである英雄王を敗退直前にまで追い込んだという認めたくない事実。

 

 

常に優雅たれ

 

この家訓に沿って日常動作を意識して継続することで何とか冷静になろうとする。

というよりも、この家訓があるからこそ、縛られているからこそ時臣はこのような不測の事態に対処しきれないともいえるのだろうが。

 

 

味のしない紅茶を嚥下しながら時臣が物事の整理を始めようとしたその時

こんこんと扉がノックされる。

「誰だね。」

「私です、時臣師。ご報告の方をしに参りました。」

扉越しの声は師弟関係にあり情報収集に徹していた言峰綺礼のモノだった。

「・・・入り給え。」

失礼しますと言って綺礼が入室する。

彼からの報告を聞いた時臣の内心は先程までの動揺を混乱にまで変えざるえなかった。

「報告します。ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが教会に、聖杯の経過とメンテナンスの方の確認を至急お願いしたいと抗議にみえられました。

二つ目に、間桐家の三分の二が黄金のキャスターの手によって潰されているそうです。

幸い死体などは見つかっていないようですが・・・。」

思わずティーカップを取り落としそうになる。

そんな時臣の混乱に追い打ちを掛けるようになーうという鳴き声が聞こえた。

見ればいつの間に入り込んだのか黒猫の形の使い魔がテーブルの端によじ登り、何やら紙を銜えて時臣を見ていた。

「これは・・・。」

その手紙の内容を見て時臣は目を見開いた。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

幸せだった。

 

厳しくも優しい■、優しくて穏やかな■、一つ上の自分にはないものを持った勝気な■。

 

■せだった。

 

当たり前にあった穏やかな時間。

木漏れ日の中で過ごす緩やかな午後。

 

ーーー■せになりたかった。

 

ーーーー

 

ーー

 

 

意識が覚醒し、瞼を開く。

 

隣には桜とギル。いわゆる川の字というやつだろう。

 

どうか昨日のことを見られていませんようにと念じつつ桜のサラサラの髪を撫でる。

 

「・・・ママ?」

 

どうやら起こしてしまったらしい。

桜がこちらへとすり寄ってくる。

 

「さびしいの?・・・悲しい、の?」

 

ああなるほど、さっきの夢は記憶の共有だったのかと納得する。

 

「わたしじゃ、代わりになれないかな・・・。」

 

もう一度髪を梳く。

 

「桜は桜のままでいてください。代わりなんかにならなくていいんですよ。」

 

ただ、あの頃は何かを遺したかっただけだ。それに必死になっただけだった、たぶん。

アイツの事だから何か遺していかないとあと追ったりろくなことにならなそうだったし、と一応言い訳をつけてみる。

ぎゅっと抱きしめると抱きしめ返される。

ぬくぬく。ああ、幸せ。

 

桜も同じようにおもってくれていればいいな・・・。

 

 

 

 

 

 

「えーではこれより、チキチキ第一回陣営会議を始めたいと思います。」

 

無事だった部屋のテーブルを囲んで雁夜を筆頭にギルガメッシュ、ウルレシュテム、桜が顔を合わせる。鶴野は心労とアルコールの過剰摂取から入院することになったため不参加である。

 

「はい、ではまず(ボク)の方から。ギルの尽力もあって、まあ御覧の通り意思疎通が可能になりました。」

 

周囲から拍手が起こる中、少々気まずそうに雁夜が疑問を投げかける。

 

「ええーと、つかぬ事をお聞きするが、生前二人は何か関わりがあったとか?」

 

昨日一直線に走ってて泣いてたし・・・。と言われて気まずげに目をそらした。

 

「「姉弟兼夫婦/愛人です/だ。」」

 

声が揃う。

 

「「・・・え?」」

 

認識の誤差が確認されるやいなや雁夜が「オッケーわかった。じゃあ次。」と素早く議題を切り替えた。これ以上はだめだと判断したらしい。

おかしい、式上げた覚えすらないんだけど。気づいたら軟禁状態だったんだけど。

隣にいたギルが抱き着いて「姉上、姉上。」と言いながらめそめそ泣いている。

・・・こんなんで(ボク)がいなくなった後国は回ったのだろうか。

そんなギルの頭を撫でて宥めている桜。優しい、いい子だ。

 

「じゃあまず今後の対策について。」

 

はいっと手を上げる。はい、じゃあバーサーカー。と指名を受けて意見を述べる。

 

「捕まえてきたマスターを片っ端から蟲蔵に放り込めばいいと思います。」

 

泥で染めて絶対服従もあるが個人的にあんなおっさん連中を我が子に加えたくはない。

 

「それはTOKIOMIくらいにしてやってください。再起不能になります。では次」

 

震えながら雁夜がギルガメッシュに掛ける。そんなに酷いことだっただろうか。

 

「ぐすっ・・・ふむ、ならばピーーを■■■■にして〇〇〇〇を△△「あーっあーっもういい、もういいから黙れくださいっ。」・・・。」

 

「てめーらは何でそう物騒な方にしか話いかないんだよ。片方は最早規制音の塊だよこれ!?」

 

雁夜の怒鳴り声に物怖じすることなく、桜が純粋に質問する。

 

「おじさん。ピーーを■■■■ってなあに?どうするの?」

 

「桜ちゃーん。それ言っちゃダメな奴うううう。」

 

桜の質問に血涙を流す勢いで雁夜が膝を付く。

難航した会議は結局マスターを見つけ次第即ボコって身包み剥いで生け捕りにすることで一応の決着を見た。要はガンガン行こうぜスタイルである。

 

そんな賑やかな会議の喧騒の中にピンポーンと軽快なインターホンの音が鳴り響いた。

 




時臣さんは教会と組んでいることもあって今回の戦争は何かと大変なんじゃないのかなと思います。

Q.前回桜ちゃんが何故ギルと一緒にいたのか
A.姉ちゃんの魔力の残滓を追っていたギルがたどり着いたのが間桐家で試しにぶち抜いたらそこに桜がいたため。・・・というか姉ちゃんとのパスの繋がりを確認したため。

ちなみにこの時桜ちゃんの護衛としてついていたのはあのお菓子奪ってくのが早い小鳥の大群です。

時臣さんの運命やいかに。


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遠坂時臣の困惑/バーサーカー陣営会議2

見るも無残な惨状となっている間桐邸前。

その辛うじて原型を保てている玄関で時臣は応対を待っていた。

胸ポケットにはハンカチと共に使い魔によって運ばれた手紙が忍ばせてある。

パタパタと何者かが駆けてくる音が扉越しに響き、時臣は姿勢を正した。

 

ーーーさて、お手並み拝見といこう。

 

ガチャリと扉が開く。

 

と、そこに現れたのは・・・件の警戒すべきだと認識していた白いバーサーカーだった。

何故かはわからないが黒地のワンピースの様な服の上に白のエプロンというエプロンドレスの様な・・・俗にメイド服と世間一般では言われる装いで綺麗に起立している。

まさかサーヴァントが直接出迎えに、それも使用人のフリまでしているとは思っていなかった時臣はギョッと目を見開いてしばし固まる。

 

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか。」

 

アポイントメントはお済みですか?と歌声ではない綺麗な日本語での会話が発せられこれまた混乱する。

 

ーーーおかしい、彼女は精神汚染のついたバーサーカーだったはずだ。

 

昨晩の戦闘の際にステータスも確認した。

試しにもう一度ステータスを見て更に混乱する。

なんと昨晩は確かにバーサーカーと表記されていたクラス名はキャスターに変更されていたのだ。

ステータスも変わっている

 

筋力はB、耐久はE、敏捷は変わらずA++、魔力と幸運はともにEX。

 

クラスが変更されたというサーヴァントの形式を作り提供した遠坂にとっても異例の事態に頭が真っ白になりそうだった。

そんな時臣の内心など露知らず。否、おそらく興味関心も無いのだろうが。手紙を見せると目を通したバーサーカー(元)は少々お待ちくださいと言っていったん退場した。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

「雁夜、全身赤いスーツに身を包んだ男性が貴方に用があると玄関先に来ていますが・・・それとこれを。」

 

その赤スーツが持っていた本人曰く招待状とやらです。といってウルレシュテムは封の切られた手紙をテーブルに置く。中に入っていたのはセルフギアススクロールの模写とここに来るようにという旨が書かれた手紙だったのだが、肝心の雁夜は生粋の魔術師どころか一般人に毛が生えた程度の急造の魔術師である。当然知識もない。

 

「なんだこれ?」

 

頭に疑問符を浮かべる雁夜をそのままにいつの間に出したのかワイン片手に上機嫌にギルガメッシュが口を開いた。

 

「あーっ(オレ)その赤スーツ知ってるっアゴヒゲだろう、アゴヒゲ!」

 

つい最近知った出来事を口にする小学生の様に無邪気に口にした単語は・・・まあ酔っぱらいのいっている事なのでおいておくというのがこの場の総意である。

そんな様子を黙って見ていたウルレシュテムがあのう・・・と気まずそうに口を開いた。

 

「もう、この服脱いでもいいですか?なんか、あの。・・・すごく、居た堪れなくて。」

 

やっぱり見た目が二十歳前でもなにか滲みでてるんですよきっと・・・おばさん臭的なのが。と落ち込んでいた。

部屋の隅に蹲って膝を抱えて暗いオーラを放っている。

 

「ご、ごめんねウルレシュテム。あとで何か好きな服買いに行こう。」

 

と慌ててフォローする雁夜にじゃあ、白無地の男物のコートに男物のスーツが欲しいですとポソリと呟いた。

あまりにも小さすぎて聞こえなかった雁夜はもう一回聞くのも悪いと思いギルガメッシュの方を向く。

その意味をくみ取ったらしいギルガメッシュはちらりと姉に視線をやってから雁夜に向き直った。

 

「白のゴスロリに白のトレンチコート、ついでに編み上げブーツが(オレ)はいいと思う。」

 

いや、てめーの好みじゃなくてよと雁夜は思ったがウルレシュテムも否定してこないので、おそらくそこまでの気力がないのだろうが。取り敢えずそのままにしておくことにした。

 

「・・・おじさん。」

 

ポツリと桜が呟いた。

雁夜はん?とその続きを待つ。

 

「私、会わなきゃダメ?」

 

「・・・そんなことないよ。」

なるべく優しく微笑むよう善処する。

そんな雁夜の様子にほっとしている桜を見て雁夜は寂しくなった。

 

間桐桜という少女にとって遠坂時臣(実父)とは幸せを奪った恐怖と終わりの象徴の一部なのだ、と。

憎めもしないがもう以前の様な肉親の情など持つことはできないだろう、と。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

遠坂時臣は先程感じていた混乱など既に無く、目の前の男。間桐雁夜に対する疑念と憤怒が心の大半を占めていた。

 

贈られてきたセルフギアススクロールの中身。要はこの聖杯戦争での協定を結ぼうというからその取り決めをより密なものにするための会合かとばかり思ってわざわざこうして出向いてきた。のにもかかわらず。

目の前の、この間桐雁夜という男はっそんなものは知らないと来たものだ。

そもそも彼は一般的な魔術教養すら備わっていないらしく、なんとこの手紙。セルフギアススクロールの意味すら知らなかった。

何たる態度、何たる怠慢、何たる愚者。

落伍者は所詮落伍者でしかなかったということか。

あのバーサーカー、もとい現キャスターの件にしてもきっとこの男は運よく出来の良い英霊を引いたに過ぎなかったのだ。と心中で結論付けた。

 

「ところで、間桐臓硯殿はどちらに?」

 

「あー、父は、その。亡くなった・・・と言いますか。」

 

歯切れの悪い回答ながら臓硯の不在を確認した時臣は席を立つ。

 

「そうですか・・・では、そろそろ帰らせていただきます。・・・桜は?」

 

「は、はあ。そうですか・・・なぜ桜ちゃんを?」

 

つられて席を立った雁夜は言葉の最後の方に首を傾げる。

 

貴方には関係のないことだ(・・・・・・・・・・・・)。ともかく、臓硯氏がおらず、貴方の様な者しか残っていないのだとしたら魔術の継承はほぼ不可能と言っていい。桜はこちらに返していただきます。では。」

 

時臣の言葉にギョッとした雁夜は思わず口調を荒たげる。

 

「ちょ、ちょっと待てよ。そんなのっ」

 

そんな雁夜の反論など無視して時臣は部屋を出る。とそこには丁度良く/運悪く桜が居た。

たまたま通り掛かったらしい彼女は心の準備など当然の如くできておらず、硬直する。

 

「ああ、桜。丁度良かった。」

 

ーーー何が丁度良かったのだろうか。

 

微笑みながらかつての父が/幸福を奪う影が桜に近づいてくる。

 

ゆっくりとその手が桜の腕に伸びてーーー。

 

掴んだ。そのまま引っ張られる。

 

ーーーいや。

 

ーーーーいや、いやっ。

 

ーーーー助けて、連れて行かないで。

 

「うっ・・・けて。」

 

ーーー助けて、助けてっ。

 

「助けてっママーーーーーーーーーっ」

 

涙と鼻水でその顔をぐしゃぐしゃに歪めながら桜は絶叫にも似た悲鳴を上げた。

時臣がその事実に顔色を変えるよりも、表情にするよりも早くーーー白が駆けた。

 

「がっ」

 

瞬間。時臣の、桜を掴んでいた手は取れて、腹には穴が開いていた。

桜は泣いて袖で目のあたりを擦っており、白ーーーウルレシュテムは持っていた長刀を軽く払い鞘に納めた後桜を抱え上げてなにやら優し気に話掛けている。桜がそれに頷きで返すと、部屋から顔だけ出した雁夜に桜を預け時臣に何かを飲ませた。大きめの錠剤を思わせるそれを時臣は嚥下することを拒んだが何やら水の様な物を口に流し込まれ、無理矢理嚥下させる。途端無くなった腕と腹が再生した。

 

 

 

 

 

 

君はだのなんだの言っている赤いアゴヒゲを無視してウルレシュテムはその赤いアゴヒゲの首根っこを掴んで何処ぞへと引き摺っていく。そんな彼女の隣にはいつの間にか金色の、時臣が呼び出したと思って裏切られたキャスターがいた。そのキャスターは嗤っている。

 

「姉上、姉上。これ、どうするのですか。」

 

「・・・最初は腕の一本、足の一本くらい削いでから考えるつもりだったのですが・・・」

 

気が変わりました。ニコリとウルレシュテムが笑う。美しいのになぜか震えの止まらない笑みで。

 

「足の一本、腕の一本がなくなったくらいどうってことないでしょう?なんせ、あともう一本あるのだから。」

 

明らかにそういう問題じゃないというような話がさらりと出てくる。

 

「あそこに入れようかと。」

 

「?生け捕りではないのですか。」

 

ウルレシュテムはしばし考える動作をした後、一応生け捕りですよとさらりと言ってのけた。

殺さず、生かさず。ですがね?と付け足す。

そんな他愛のない会話が交わされていくうちにその足はぴたりとある場所で停止した。

その扉がためらいなく開かれる。

 

「さあ、これより受けるは間桐の真髄。」

 

「心して受け取るがよいわ。」

 

どん、と二人のうちのどちらかに突き飛ばされる。

落ちた先は何か小さなものが蠢く暗い湿った場所だった。

 

「一名様。ご案内でーっす。」

 

愉快そうな明るい声が響く。

そのまま蟲蔵の扉が閉じた。

背後から何か必死にたたく音やら声にならない悲鳴が絶え間なく聞こえてくるがそれすら話題の種にして盛り上がりながら姉弟は消えていった。

 

 

おまけ

 

「あれ?ウルレシュテム。時臣は?」

 

帰ったの?と周囲を見回す雁夜に笑顔でウルレシュテムは告げた。

 

「蟲蔵です。」

 

「おいいい、一応全員生け捕りっていったよなあああ、最初から破ってどうすんの!?」

 

必死の形相でツッコむ雁夜に笑顔のままで補足する。

 

「大丈夫ですよ。文字通り身包み剥いで、胃の中には目一杯回復薬(固形)詰め込みましたから。時間になったら引き上げます。」

 

「あ、そうなの?」

 

ウルレシュテムに逆らうのはやめておこうと雁夜は固く誓った。

 




ちなみに己ギルは姉ちゃんに調整してもらったためセイバーになりました。

時臣さんは・・・どうなるんでしょうね。

おじさんは原作よりは体調いい感じ。
寿命が短いのは変わらないけれどね・・・。


閲覧ありがとうございました。


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月主従、麻婆と出会う

誤字のご指摘ありがとうございます。
修正させていただきました。

それと新たに地雷注意タグと原作崩壊タグを着けました。

少し更新が遅くなるかもしれませんが、これからもよろしくお願いします。


「ルル、ルルっ次あっち行ってみよう!」

 

キャラキャラと幼子の様にはしゃぎながら商店街を歩く白野。

 

「はいはい。初めての外にはしゃぐのは結構ですが、前見ないと危ないですよ。白野。」

 

そんな白野をやれやれとこころなし微笑ましげに見るルル。

・・・そして、そんなルルに襟ぐりを掴まれて引きずられているこの世界における正当な聖杯戦争のアーチャー、英雄王ギルガメッシュ。現在は意識はないものの一応現代風の服装に着替えさせられ、欠損した片腕は義手が取り付けられている。

 

洋服店、雑貨店、洋菓子店と回ったところで白野がある店の前で立ち止まった。

 

「どうしました?」

 

急に立ち止まって動かない白野にルルが声を掛ける・・・と振り向いた白野は目を輝かせて答えた。

 

「なんかここ、運命の出会いがある気がする。うまく言えないんだけど・・・。」

 

一端話を区切ってから店の名前を再度確認し、もう一度ルルの方を振り返って満面の笑みで彼女は言った。

 

 

 

 

「紅州宴歳館 泰山。だって!」

 

 

こうして、一人の少女と青年は運命の食物(激辛マーボー)に出会い、一人の男は運命の劇物(トラウマ)に出会った。

 

 

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

店内は割と混雑しているようで空いているテーブルは一つもない。

どうやら相席するしかなさそうだ。と、ルルは店内を見渡す。

 

丁度いい塩梅に空いているテーブルが一つだけあった、四人掛けのテーブルに一人。

カソックと呼ばれるであろう礼装を着た、あの裏側の購買員を若干若返らせたような神父が掛けている。

 

「相席よろしいですか。」

 

にこりといつもの笑顔(営業用スマイル)でルルが話しかける。

物思いにふけっていたらしい神父然とした男ははっとした後席を立った。

 

「ええ、構いませんよ。私はもう食べ終わって帰るところでしたから。」

 

それでは、と言って立ち去ろうとする男の肩にルルが手を置く。見た目はぽんとおかれた程度だが、その見た目に反して効果音はガシリとかつきそうな手の置き方だ。

 

「僕たちここには観光で来たばかりでして・・・おすすめとか、教えていただけませんか?神父さん?」

 

ついでにこの方のことも、といまだ目覚めぬ英雄王を前に突き出す。神父の纏う雰囲気が一瞬殺気立つ。

 

「・・・ええ、いいでしょう。」

 

一同が着席した。

神父は店員に何事か注文をし、向き直った。

 

「失礼。それで、何故貴方はそこの男を・・・そもそも何者なんだ。」

 

警戒の色を隠すことなく神父はルルに問う。

ルルはそれを特に気に留めることもなく、微笑でもって返した。

 

「まあ、そう焦らなくてもいいじゃないですか。折角君がおすすめを人数分注文したのに、待ちきれなくなる。」

 

微笑の瞳の奥にはその表情には似つかわしくない獰猛な色が覗いている。

獰猛な、と言っても猛禽を思わせる意思ある暴力と言うわけではなく。どちらかと言えば断頭台にセットされたギロチンの刃。無機質な凶器を思わせるものだ。

 

ですが、こうして引き留めておいて自己紹介の一つもないのはさすがに無礼でしょう。とルルは笑みを深める。

 

 

「僕はそこの人の付き人・・・のようなことをしています。ルルと申します。ついでに、こちらは主人の岸波白野。」

 

よろしく。と言われて神父・・・言峰綺礼は戸惑う。

聖杯戦争の期間中にこの町に来て。且つ、魔力を纏う疑似主従関係者など参加者に他ならない。まさか、こんな白昼堂々公言されるとは思っていなかったのだろう。

綺礼は頭の中でイレギュラークラスか?と作戦を思考し始める。最も、その作戦を立てたところで、得をするような人物は既にいないも同然なのだが。

思考の後ふう、と息を吐いて綺礼は目線を目の前の男に戻した。

 

「それで、貴方たちはどの様な用件で私に声を掛けた。」

 

「いいえ。別になにも?」

 

即答だった。

 

「は?」

 

丁寧な言葉すら忘れて綺礼は唖然とする。

ならば何故此処に来たのか。

 

「偶然僕らが此処に食事に来て、偶然君のところしか空いていなかった。ただ、それだけです。」

 

さっきまでの表情を引っ込めて、感情のみえない目でルルは言う。その真意はわからない。

 

暫しの沈黙の後、顔の前で手を組んで肘を突きながら再度ルルが口を開いた。

 

「遠坂時臣。」

 

その名前にピクリと綺礼が反応する。

 

「彼が今どんな状態か、ご存じで?」

 

「っ貴様っ。」

 

何故今その様な質問をするのか。

簡単だ。目の前の男、ルルがおそらく時臣の現状、ひいては事の真相をよく知る者、はたまたは実行犯なのかもしれないのだから。

 

今朝からアサシンを付けていたにも関わらず行方を眩まし、連絡の取れなくなった師を思い浮かべーーー浮かべて、綺礼は忍ばせてした黒鍵の柄に手を掛けた。

 

綺礼が臨戦体勢に入ろうとするのを腕で軽く制したルルはふふふと笑った。

 

「怒りました?悔やみました?どちらでもいいですが。君、今笑ってますよ。」

 

言われた一言に綺礼はぎょっとする。

その表情の移り変わりを見てルルはおや、もう少しだったのに、残念。と言って少女に叩かれた。

 

「っ?」

 

「はいっそこまで。余計な茶々入れしないっ。」

 

気にしないで下さいと言って少女、白野は再び着席した。いつの間にか起きたらしいギルガメッシュは綺礼をニヤニヤと笑いながら見ている。先程の男の笑みとは異なるものの、何故か言わんとしていることは同じなのだと綺礼には感じられた。

 

「なんだ?(オレ)が暫し惰眠を貪っていた間に随分と面白いことになっているではないか。」

 

して?答は出たか?綺礼と半神半人の王が問う。

対する綺礼は顔を俯け、答えない。

 

其処へ丁度店員が注文の品を運んできた。

コトリコトリと置かれたのは人数分の赤黒い麻婆豆腐だ。

グツグツボコボコと鍋を離れて尚煮たっており、見ただけでヤバイなにかということが理解できる代物だ。

出てきた料理を見ておおーと白野は目を輝かせる。

ルルも心無し口角が上がっている。

只一人ギルガメッシュのみがなんだこれは・・・と口許をひきつらせた。

そんな個々それぞれの反応を見せる中、食事が・・・始まった。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

「ご馳走様でした。あー楽しかった。」

 

満足げな表情でルルが呟く。

横には同じ様に満足げな白野。

前方には同じく満足げな綺礼。隣を見て口許を楽しそうにひくつかせている。

斜め前には・・・テーブルに半身を投地したギルガメッシュ。口からは真っ赤な血・・・ならぬ麻婆が一筋、垂れている。

 

「君も楽しかったですか?」

 

そんなルルの問いに間髪入れずに、綺礼は興奮気味にこたえた。

 

「ああっ特にお前がそこの男を煽って麻婆を食わせたところにラー油入りの水で追い打ちを掛ける様など・・・いや、すまない。」

 

途中までの意気揚々とした喋りは鳴りを潜め項垂れる綺礼にルルは微笑み掛ける。

 

「気休め程度かもしれませんが一応言っておきますね。」

 

お代わりを完食しようとしている白野を自身の膝に乗せつつルルが話を続ける。

 

「神の在り方はその時代時代で違いますが、例え人間を愛している神がいたとしてもそれは人全体(・・・)を愛しているのであって個人を愛している(・・・・・・・・)訳ではないのです。神に目をかけてもらうとすれば、それは英雄くらいでしょう。

 

ともかく、善であれ悪であれそれくらい目立たなければ奴らの目に留まりもしませんよ。」

 

君がいくら自身の生き方に思い悩もうが奴らにとって些末なことです。と、聖人の様な微笑みで呟いた。

 

「そ、れは・・・。」

 

言い淀む綺礼をそのままに席を立つと白野と共に背を向けた。

 

「間桐邸にこれを持っていきなさい。まず殺されることはないでしょうし。もしかしたら、君のお探しのものも見つかるかもしれませんよ?」

 

そう言ってシャラリとテーブルの上になにか、ネックレスの様な貴金属を置き、今度こそ立ち去った。

 

 

 

 

「よかったの?言っちゃって。」

 

白野が隣を歩くルルに尋ねる。

月の表側の戦いが情報収集からの決闘様式だっただけに誰かに情報を与えることに慎重になる。

それ故に今回のルルの行動に白野は疑問を抱いたのだ。

 

「ええ、これで教会(向こう)もうまい具合に勘違いしてくれることでしょう。」

 

令呪の様な赤い痣が所々から覗く白野に見た目からして普通の人間を装っているように見えるルル。

 

見たものはおそらく、白野がマスターだと考えるだろう。

 

「真似事とは言え存外、まともに機能するものですね。」

 

戦争参加者は勿論。教会も思いもしないだろう。

 

まさかクラスを改竄することができる、なんて。

 

 

 

ルルはそばによってきた黒猫を撫でた。




月主従、麻婆と邂逅す。

白野は元ルーラー(偽)と言うわけで令呪を複数所持しています。しかし、あくまでも(偽)のため聖骸布作成などは選べませんでした。

閲覧ありがとうございます。


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キャスターの始動/ライダー陣営と謎の少女

誤字報告ありがとうございます。

本当助かります。



このところ主人公以外が出張過ぎなきもしますが取り敢えず今回も出張ります。


「おお、おお、なんということだ。我が同志、龍之介よ。」

 

大男の叫びが広い下水処理施設の中に響き渡る。

 

「ああ、何故神はこのような仕打ちを・・・おのれ、ジャンヌだけでは足りぬというのか。」

 

嘆きに満ちた声の持ち主の見る先には一人の男。・・・正確にはその亡骸(ヌケガラ)

先日の白いサーヴァントとの遭遇の後すぐにこの工房の中に運び込んだが、時すでに遅く彼はもう息を引き取っていた。

その手は己が血に濡れ、その顔は安らぎに満ちた穏やかなものであった。が、それでも叫ぶ男ーーージル・ド・レエ(キャスター)には許せなかった。

今生で出会った良きパートナーだった龍之介を失ったこと自体も悲しみではあった。

しかし、何よりも彼が憎悪を抱いたのは、悔いたのは、龍之介を殺した。その原因にあたる白のサーヴァント。まるで白百合を連想させるかのような白の、神々しいーーーまさしく神の様な存在(・・・・・・)によって彼が死に至らしめられたという事実が何よりも許せなかった。

 

ピタリと、先程までの嘆きの声がやむ。

 

「見ていてください。龍之介、貴方の仇は必ず。」

 

ーーー貴方の亡骸も、貴方から与えられた贈り物(令呪)も無駄にはしません。

 

キャスターはゆっくりとした足取りで男の亡骸へと歩を進める。

その手に、彼の宝具たる本を持って。

 

 

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

陽気に鼻歌を歌いながら歩く少女が一人。

腰まで伸ばしたストレートの黒髪に乱れ一つない制服を着込んだ少女、月城久遠はそんな清楚な見た目に反して行動的で、思い立ったら即行動を地で行くタイプの人間だった。

おかげで自他ともに痛い目にあうことが多々あり、本人もやっと前の失敗から学んだらしくこれからは控えよう。控え方わかんないけど。と思っていたりする。

 

ーーーまあ、聖杯戦争にさえ関わらなければいいよね?

 

「あーそれにしても・・・おなか・・・すいた。」

 

久遠は自分の腹部をさする。

実はわけあって彼女は現在住所不定の無一文状態である。

 

「それもこれも、あの腹黒魔術師のせいでっ」

 

くっそーと歯噛みする思いでフラフラと歩を進めていると一人の少年とぶつかった。

 

「あ、ごめんなさ・・・」

 

言いかけて、少年、正確にはその後ろに佇む存在に腰を抜かしそうになる。

 

「い、いやああああっ」

 

停止した思考を再起動させた結果、彼女がとったのは情けない叫び声を上げながら逃げるという行動だった。

 

「ちょっは?え?」

 

目の前で行われた逃亡劇はその場で少年の後ろに佇んだ大男・・・サーヴァントに捕獲されることで呆気ない幕切れを迎えた。

 

 

 

 

ウェイバーは目の前で美味しそうにジャンクフードを貪る少女をマジマジと観察する。

 

「むが・・・もごもご・・・ふう、ご馳走様。君、マスターにしてはいい人だね。」

 

その細身のどこに入っていくのか少女はウェイバーの軽く五倍の量を完食し、満足げな表情でくつろいでいる。

今なら簡単に質問に答えてくれるかもしれないと、善は急げといわんばかりにウェイバーは月城久遠から情報を引き出そうと試みた。

 

「なあ、お前。僕を見てマスターって言ったよな・・・もしかしてお前も・・・。」

 

「ぶぶー。残念ながら私、君の言ってる聖杯戦争の関係者じゃないんだなーこれが。」

 

参加者なのかと聞こうとしたウェイバーよりも早く少女が回答する。

にこにこと笑いながら久遠はテーブルに肘をついて、ウェイバーとライダーを見た。

 

「うーん・・・こうしてご飯も頂いちゃったし・・・いい人そうだからなあ・・・うん、決めた。」

 

ガタリと席を立ちあがりびしっとウェイバーを指差し久遠は言った。

 

「これからこの私、久遠が君に特別講義をしてあげよう!!」

 

周囲に沈黙が満ちる。

それもそのはず、現在三人がいるのはファーストフード店の中の窓際に面した一つのテーブルである。

完全に周囲から痛い奴のレッテルを張られてしまった。

そのことに気付いた彼女はかあっと一気に真っ赤になるとすとんと席について咳払いをした。

 

「それじゃ、聖杯戦争の成り立ちから・・・」

 

「待った。そんなの僕でも知ってるぞ。此処の聖杯はアインツベルン、マキリ、遠坂の御三家の奴らが造ったもので・・・」

 

「は?アインツベルンはわかるけど残りは久世、憑城でしょう?確かマキリは既に血が途絶えているし。遠坂も血が薄まりすぎてもうまともな魔術師は用意できないって話だし、聖杯戦争云々の望みは二次で潰えたって話だけど。」

 

「お前こそ何言ってるんだ」

 

お互いに疑問符をつけて会話の嚙み合わなさに四苦八苦しているとさっきまで黙って事の成り行きを見守っていたライダーから制止がかかる。

 

「待て待て。坊主も嬢ちゃんも、そうことを急くな。まず互いの主張をぶつけるだけでなく情報を互いに提示して整理せんことには話が進まんだろう。」

 

その一言に思わずわかってるよっと二人そろって噛みつくとおお、その調子だ。とライダーが笑う。

大声でギャーギャー騒いでいるので当然このテーブルが目立っているのだが当人たちは全く気付いていなかった。

 

ウェイバーがノートを取り出し自身の参加している聖杯戦争の形式を図で描いてみせる。

 

「・・・ふーん。君の所の聖杯戦争ってかなり自由なんだね。」

 

なんかゲリラ戦みたいと言葉をこぼす久遠にお前の所はどうなんだとウェイバーが先を促す。

 

「ん?私の所はねー。」

 

言いながらウェイバーが書いた図の隣に同じように図を描いていく久遠。

描きながら彼女の口が動く。

 

「ええと、まず。聖杯戦争って言うのはアインツベルン、久世、憑城、綾取、この四家から造られた儀式なんだ。

 

 アインツベルンは聖杯・・・正確には第三魔法の一端を、久世は運営システム・・・要は令呪とか異常があったときの緊急システムとか・・・まあ、ここら辺私もよくわかんないけど。で、次に憑城、ここは英霊を呼び出し使役するためのシステムを提供したの。最後に例外で綾取。正確には魔術師の一族じゃなくて魔術使いの一族で・・・手広く此処みたいな土地を管理していた整備屋にして、聖杯戦争の土地を受け持った一族だよ。

 

元々は此処の聖杯みたいにアインツベルンは遠坂、マキリと組んでたらしいけど二次あたりで通ってた霊脈が何故か消失しちゃって、こっちの話に乗ったんだって。」

 

で、事後処理に追われるうちに他の二家は没落の一途を辿ったって訳。と言いながらオレンジジュースをすする久遠。ウェイバーの図の二家にバツが引かれる。

 

「次に英霊。これは基本八騎(・・)召喚される。七騎は変わらず、残る一騎はルーラーと決まっているんだ。

 

此処のみたいに下手に監督役なんて人間を配置すると最悪最初から最後まで掌で踊らされることになるだろうから絶対に公平になるだろうサーヴァントによる裁定を行うのを基本として構築されてる戦争なのさ。

 

・・・もっともこの八騎目は第一次の時のあるマスターと監督役の不正が発覚したのが元だから割と新要素だけどね。」

 

更にルーラーと書かれた枠を増やし例外と付け足す。・・・ウェイバーの監督役の所にバツがつけられた。

次に戦い方ーと変わらず呑気な口調で久遠が続ける。

 

「決闘方式・・・みたいな?」

 

歯切れの悪い物言いにライダー陣営二人が首をひねる。

続く沈黙に苦しくなったのか、慌てて久遠が話す。

 

「決闘だよ、決闘。聖杯によってランダムに決定される決闘。告知、審判はルーラーが担当してくれる。・・・ただ、その。時々ルールを守らないやつらもいて、いろんな小細工があったりするから似非のつく決闘なんだけどね。」

 

まさかそのうちの一人が自分でしたとは言えない久遠は乾いた笑いをこぼしながら頬を掻いた。

 

以上、何か質問は?と強引に締めくくった久遠にウェイバーがうなだれる。

それは自身のノートを見てのものだった。

この三十分足らずの時間の中でバツだらけになった自身の図。もう何が本当で何を信じたらいいのかわからない。

 

「・・・かなり矛盾だらけだけど、気にしなくていいと思うよ少年。」

 

久遠の宥め染みた言葉にどこがだよっと声を上げようと彼女の方に視線を戻したウェイバーは口を噤んだ。

彼女の顔には宥めの色など一切ない。苦しそうに、けれど懸命に笑顔を作っている。

 

「・・・たぶん。この世界に私が入り込んじゃったってだけだからさ。」

 

ご飯おいしかったよ。ありがとう。それじゃっと言って彼女は席を立った。

そのまま店の中を走り去っていく。

ウェイバーとライダーは着席したままだ。

 

「追いかけんでいいのか?貴重な情報源だろう。」

 

ライダーの言葉にウェイバーが別に・・・とそっけなく返す。その両手はズボンの上で固く握られていた。

 

周囲に認めてもらえさえすればいい。自分の事が先決だ。

こんな大事な戦争中に自分以外にあんな初対面の奴を背負い込むなんて自殺行為になりかねない。

 

様々な言い訳染みた言葉がウェイバーの心中を飛び交う。

 

「---っああっもう。」

 

言ってウェイバーが走り出した。

向かった先は店出入り口にまで差し掛かっている久遠の所だ。

彼女の手をがしりと掴んで半泣きになりながら大きく息を吸う。

 

「中途半端に説明して去っていこうとするなよっ。お、お前ひとりくらいっべっ別に・・・その、大丈夫なんだからなっ」

 

いったい何がどうなってそんな回答を導き出したのか。

本人たちには本来の意味で通っているが、周りからすれば喧嘩したカップルが別れ話になって帰る彼女に追い縋る彼氏という構図に見える。

 

シュウイハ ナマアタタカイメデ フタリヲミマモッテイル。

 

はっとした二人はお互いに顔を赤くして席へと戻っていた。

その間中店内は拍手で包まれていた。野次というか・・・感動をありがとう的な言葉と共に。

 




キャスターが何故龍之介なしに生きていられるのかというと龍之介の一部をさらってきた子供の中に移植した(改造して擬似魔力供給機)からです。令呪は偽臣の書よろしく、取ったのを張り付けた。


ちなみにこの話の中で出てきた久遠さん。彼女は主人公の世界からわけあって原作の世界に紛れ込んでしまった人です。おそらくこの聖杯戦争の全容(サーヴァント)を知ったら・・・。そんな話も書いてみたいです。そのうち。

閲覧ありがとうございました。


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間桐桜は淘汰する/間桐家の食卓+α

お待たせしました。


今回は少しばかり長いです。


・・・最近携帯が壊れました。暇を見つけてショップに行こうと思います。
いつになるかわからないけど。通話すらできないけどっ。

あははははは(泣)


ギチギチガサガサと蟲の蠢く音が絶え間なく聞こえる蟲蔵の入口に一人の少女、間桐桜が腰かけていた。

足をブラブラと揺らしながら無表情で底を、正確にはそこにある蟲の塊を見ている。

よく見ればそれは蟲の塊では無く、人に蟲が群がっているのだということがわかる。が、肌や髪が時折ほんの少し見えるだけでやはりただの蟲の塊にしか見えない。

 

まだもがくぐらいの気力は辛うじて残っているらしいそれは先程蟲の合間から入口に人がいることを知ったらしく、その片手を必死に桜の方へと伸ばしている。

ほんの少しだが桜のいる方へと動くこともできるのだからやはり名家の名は伊達ではないのだろう。

 

 

ーーーなんでこの人なんだろう。

 

 

そんな最近までの自分の追体験をして無様を晒す元の父を恨むことも怒ることも哀れむこともなく、疑問のみが桜の胸中に渦巻く。

 

 

ーーーどうして私のお母様はママじゃなくて、お父様はパパでもおじさん(おとうさん)でもなくこの人なんだろう。

 

 

現在桜が母親として慕っている女性は蟲など気にせず桜を救い出してくれた。その上で桜の母親になってくれた人。

 

本名はわからないが母の伴侶だと豪語している金髪の青年(パパ)も一切の蟲を寄せ付けなかったし、桜がママの子だと説明されたときには「なに、今更四人も五人も六人も変わるまい。」と快活に言い切ってくれた(おそらく)優しい人だ。

 

おじさん改めお父さんは・・・あまりこれといって何かをしたということはなかったが、少なくとも一緒に蟲蔵に入れられたときは桜を真っ先に気遣ってくれたし、あんな風に必死に助けを乞おうとなんてしなかった。

 

ーーーなんで私はこんな人の所に産まれてきたんだろう。

 

ママの所に産まれたかったなといまだ拙い抵抗紛いを続ける男を見下ろす。

 

ザザァっと桜の記憶がノイズ交じりに再生される。

 

「桜、魔ーー多少の苦ーー付き物だ。大丈ーーとは思うが・・・ーーなさい。」

 

はっきりしない画面の中で赤い誰かがなにか言っていた気がする。

が、まあどうでもいいかと思い直した桜はそのまま底の様子を見続けることにした。

見れば見るほどかつての記憶の中の父とはかけ離れてゆく。

威厳があって優しい父親/蟲に集られ体中を貪られる何か(誰か)

かつて、間接的とはいえそこに投じた娘に助命を乞い、必死に手を伸ばしている。

 

「おかしいなあ・・・。」

 

記憶の中の自分のお父様とやらならこれくらい簡単にこなして見せるだろう。

そう思って観察していたのだが結果は御覧の通りだ。

第三者か、はたまたはもっと成長した価値観の定まった年齢ならばてめーもできねーんじゃねーかっと思うくらいで済むのだろうが、いかんせん桜はまだ小学生である。

 

幼い子供にとって親は絶対の指針。それこそ神様だと言って差支えがないほどには。

そんな彼女の目の前で繰り広げられている惨状は彼女にとってのある種の理想の否定と言っても過言ではない行為だ。

だからこそ、桜は己の中の矛盾を処理することができず、思い悩む。

 

悩んで、悩んで・・・---

 

ーーーこれ、誰なんだろう。

 

結果、桜は本来の父親を、その存在(事実)を否定した。

 

 

そんな知らない人を観察する桜の許に一人の男が近づいてくる。

 

「桜ちゃん。バーサ・・・お母さんがご飯できたって、一緒に行こう。」

 

男・・・間桐雁夜は極力蟲蔵を見ないように気をつけながら桜に笑顔を向ける。

その顔にはケロイドじみた跡はなく、ただ穏やかに笑っている。

そんな雁夜に無表情ではあれどどことなく嬉しそうに桜は顔を上げた。

 

「あ」

 

「っさくらちゃっ」

 

しかし、それもつかの間。雁夜が差し伸べた手を取って立ち上がろうとした桜の足を何かが引っ張った。

 

がくりと桜が体勢を崩し、慌てて雁夜が引っ張ることで何とか廊下に出る。

その引っ張られる瞬間。桜が見たものはおそらく這い上がってきたのだろう時臣の落下していく姿だった。

 

「・・・。」

 

ドシャっと落ちたそれを終始無言で見た後、桜はパンパンっと自身のスカートと靴下の汚れを払う。

そのまま、時臣(誰か)の事など気にも留めず、雁夜の方を向いた。

 

「行こう。お父さん。」

 

「・・・。」

 

「お父さん?」

 

無言で固まっている雁夜を心配した桜が再度問いかける。

雁夜は視線だけ蟲蔵に向けたまま、口を開いた。

 

「ごめん、桜ちゃん。お父さんちょっと用事ができちゃったから先に行っててもらっていい?」

 

お父さんのデザートあげるからというと暫し思案した後、こくりと頷いて桜が歩き出した。

桜が完全に遠ざかったのを見計らって、雁夜が先程まで桜のいた出入り口付近に腰を下ろす。

 

「よう、時臣。」

 

言いながら、雁夜は時臣の様子を改めて見返す。

手ーーー爪はぼろぼろになっている。よく見ればそのうち何枚かは爪がはがれているらしく、出血していた。その血を求める蟲が集って輪をかけて傷が増えていく。

 

顔ーーー口にも蟲が収まっているのか呼吸もままならずに苦し気に呼吸を繰り返すだけの口。そして、まるで死体の様に虚ろな見開かれた目。

 

聞こえているのかいないのか、雁夜の投げかけに答える声も、動作も無い。

それでも雁夜は言葉を続けた。

 

「・・・皮肉なもんだな。お前を殺したいと思って魔術(ソレ)を受け入れた俺が今はこんな隠居じみた幸せの中にいて、あれだけ俺が欲しかった生活(幸福)の中にいたお前は敬意を払っていたであろう魔術(ソレ)の中で延々苦痛に苛まれている。・・・いったい」

 

何がしたかったんだろうな、俺たち。と言って雁夜は一旦口を噤んだ。

沈黙が続く。響くのは蟲の蠢きのみ。

しばらくしてから「・・・もう聞こえてないか。」と言って雁夜は扉を施錠してその場を後にした。

 

ーーーあの男。桜ちゃんに縋りたかったんだろうか。・・・もしかすると、謝りたかった・・・のか。

 

確認のためにさっきの様子観察までやったが、表情は既に削ぎ落とされた後だったため結局分からず仕舞いだったが・・・。遠坂時臣は、あの時本当は何がしたかったのだろう。

わざわざあのタイミングで這ってまでしようとしたこと・・・ただの足掻きにしては・・・。

思考して、雁夜はふうっと息を吐いた。

 

なんにせよ、報われなかったのには変わらない。

 

既に雁夜の中には時臣への憤怒も増悪もなく代わりに同情が顔を覗かせているのに気付いた彼は、目を細めるとちらりと後ろを振り返り、三人の待つ食堂へと向かって歩き出した。

 

 

  

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 

四人の人影・・・もとい元バーサーカー陣営の面子が食卓を囲んでいる。

 

「ママ。このお料理おいしいね。」

 

「よしよし。まだあるのでもっと食べてくださいね。桜。」

 

花を飛ばしながらそんなありふれた食卓のやり取りをする親子。

その一方で残る二人。雁夜とギルガメッシュはというと・・・。

 

迫りくる箸から今日のメインである肉じゃがを守るべく手に持った雁夜。

次の瞬間。ドゴオッという音と共にさっきまで肉じゃががあった処には穴が開いていた。

 

「ちっ感づかれたか。」

 

「いや、これ俺のおおおっなんでさも当たり前の様に取っていこうとしてんの!?てか力強いなっ」

 

雁夜は基本流動食である。が、少しでもみんなと同じものが食べたいという本人たっての希望で辛うじて原型がわかるくらいの固形のメインが一品だけ付け加えられている。それが今回は肉じゃがだったのだが・・・。

現在進行形でギルガメッシュから狙われている。

 

「ふん、この世のすべては己のモノ。即ちこの肉じゃがも己のモノだ。よって直ちに献上せよ。」

 

「とんだジャイアンだな!?やらねーよっ自分のはどうした自分のはっ」

 

言いながらギルガメッシュの皿を見る。と、綺麗に完食されていた。

はっと鼻で笑ってギルガメッシュは唖然とする雁夜の方を見る。

 

「たわけ、そんなものもう完食したわ。」

 

「って、てめえ・・・そもそもなんで肉じゃがなんだよっどうせ狙うなら他のにしろ他のにっ」

 

俺だってたまには固形が食べたいんだよっという雁夜の抗議を前にギルガメッシュは真剣な面持ちで口を開いた。

 

「そう、あれは忘れもしない。姉上がウルクに戻られて目を覚まされたときのこと・・・」

 

「え?何?語り始まった感じ?それ長いの?ねえ。」

 

いきなり始まった語りを前にじりじりと後退していく雁夜。

顔は至極めんどくさそうで迷惑ですとわかりやすく描かれている。

 

「・・・ところで雁夜。お前は餓死しかけた事はあるか?」

 

唐突な質問だったが苦笑いしつつ雁夜は答えた。

 

「餓死も何も・・・この身体じゃあろくに物も食えやしないし・・・毎日生命の危機だよ。」

 

雁夜の言った内容はどう考えても重いものなのだが、気にせずギルガメッシュが続ける。

 

「うむ。餓死はおそらく刺殺や毒殺よりもつらい。なんせすぐに死ねないからな。・・・己もうあんな思いしたくない。」

 

涙目で話すギルガメッシュに雁夜が首を傾げる。

目の前の男。英雄王ギルガメッシュ。魔術師ではない雁夜ですらも知っている人類最古とされる叙事詩、ギルガメシュ叙事詩の主人公であるこの男は毒殺やらには慣れていても餓死なんてことは万に一つでもないのではないか?・・・いや旅先で・・・?と思考を巡らせる。栄華を極めた暴君が餓死とかちょっと気になるどころではない。好奇心は猫をも殺すとはいうが抑えきれず恐る恐る本人に聞いてみることにした。

 

 

「お前が?お前王様だろ。なんで餓死なんてするんだよ。」

 

「阿呆。直前までいっただけだ。そんな死に方しとらんわ。・・・姉上の戯れでな。」

 

おとなしく答えてくれたことに驚きつつ、最後の聞き捨てならない言葉にばっとウルレシュテムの方を向く。彼女は桜の口元についたデザートのホイップクリームを拭ってやりながら雁夜に何か?と笑顔で言った。

・・・なぜかその笑顔が綺麗なのに恐ろしいと思った雁夜はぶんぶんと首を左右に振る。なんでもありません。

後桜さんその顔やめてください。私とママの至福のひと時の邪魔しやがってって言いたいんですよね。わかります。でもやめて、おじさんのヒットポイントはもうゼロです。

 

「あれはそう、ヌンガルが産まれる前。いつもの様に姉上の横で熟睡していたのだが、目が覚めた姉上に追い出されてな・・・詫びをしようと執務が終わってから姉上の屋敷に向かったのだが・・・。」

 

あ、結局語り始まるんですね。と心の中で呟いた雁夜は諦めて話を聞くことにした。

 

「歩けど歩けど一向に歩みが進まんのだ。いや、進んではいる。が、目的地に辿り着かない。・・・結局、姉上に用があって後から来たエルキドゥが一直線に壁も何もかもぶち抜いて内装に施された円環型結界を解かなければ己は確実に餓死していただろう。なんせ、かれこれ一週間飲まず食わずだったようだからな。ふははははっ。」

 

笑うギルガメッシュとは対照的に雁夜は顔を引きつらせる。

(こいつ)の扱い酷くね?というかお前もよく殺されかけておきながらそんなにシスコンでいられるな。こじらせてるの?

 

ーーー・・・なんか報われねえな・・・こいつも。

 

少し前までの一方通行だった自分を見ているようで雁夜の中で憐れみじみた感情が沸き上がる。

 

「ギルガメッシュ・・・。おまえ。」

 

しかし、言いかけた雁夜の言葉を遮るように口を出してきたウルレシュテムの言葉によってそれは霧散する。

 

「・・・まさか餓死直前まで粘るとは(ボク)も思ってませんでしたので、すみません。あの時はほんとにパニックになっていたといっても過言ではなかったので・・・なんせ、死んだと思って目が覚めたら隣にZENRAの弟がいるとは思わなくて・・・。」

 

「は?」

 

え?全裸?ZENRA?・・・いや、そう言えばこいつ寝るとき服着ないって話だし。古代だから仕方・・・。

 

「ほんと、驚きました。ギルがZENRAで寝ているのは幼いころからだったので何とも思いませんでしたが。まさか(ボク)もZENRAだとは・・・。なんだかけだるかったし。」

 

「なくなかったあああああ。つかストップウウウウ。何か恐ろしい事件の全容が見え隠れしてるんだけどおおおお。」

 

「という訳で、その日からしばらく流動食だったのだがやっと食べられた固形物が肉じゃが(モドキ)だったのだ。」

 

・・・と言いつついつの間にか雁夜から奪取した肉じゃがを食べるギルガメッシュ。

 

「お前がぜんぶわるいんじゃねえかあああ。何が戯れだよっ自業自得だろっむしろ拷問とかされなかっただけありがたいよっ心広いよお前の姉ちゃんっ。」

 

激高したせいかごふぁっと吐血した雁夜の背中を大丈夫?と言って桜がさする。

ウルレシュテムはそんな様子の雁夜から顔を逸らしつつ口を開いた。

 

「ええと・・・ですね。誰もこの一件で終わりにするとは言ってないですよ・・・?」

 

その一言にギルガメッシュがうむっと頷く。

へ?っといまだ血を垂れ流しながら雁夜が首を傾げた。

ティッシュでは心許ないと判断した桜が空になったスープ皿を差し出すと、そこに血が滴り落ちて、真っ赤なスープが出来上がる。一部では人気がありそうだ。

 

「流石にそれじゃ(ボク)の気が済まなかったので、後日改めて報復させていただきました。」

 

にこりと笑ったウルレシュテムの言葉にギルガメッシュが続く。

 

「ああ、両の目を潰された後に手足の先から順に一つずつ骨を砕かれたな。それから回復の後に体中穴だらけにされて回復して・・・別の世界の扉開きそうになった。」

 

姉上のためならそんなこと些細なものだがっとさらっと言ってのけた。

この弟もやばいが姉はその数倍やばい。っと雁夜は確信する。

 

ーーーでも、まあいいか。

 

魔術の苦痛も無く、隣には桜ちゃんがいて、頼もしい仲間(家族)が二人。

例え誰かが偽物だと言おうと、雁夜にとってはかけがえのないものだ。

 

雁夜は皿を抱えている桜の髪をくしゃりと撫でた。

 

ーーーみんなで、幸せになりたいな(ずっと、続けていたいな)

 

彼は、ささやかな幸せの継続を願った。

 

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

ぎゃあぎゃあわあわあと騒ぐパパとお父さん。それから、私を抱きかかえて微笑んでいるママ。

 

間桐桜は、幸福の中にいた。

遠坂にいたときとは違う。けれど、確かに幸せだと感じられる空間。

 

ポロリと、何かが桜の片目から落ちる。

それは一粒、また一粒と止めどなく頬を伝い流れ落ちる。

 

ーーー温かい。

 

そんな桜の様子にぎょっとした様子で固まる周囲。

 

ーーーどこか痛いのか?何があったんだと近寄って心配してくれる優しい人たち。

 

ーーー間桐桜を拾ってくれた人たち。

 

「ううん。なんでもないよ。」

 

涙は止まらない。が、桜は笑った。

さ、桜が笑ったっと再度驚いた面々が、今度は一斉に抱き着いてくる。

 

ざざっと頭の中で何か、かつての記録(何か)が霞んでゆく。

 

「ママ、パパ、お父さん。」

 

もう、何も思い出せない(いらない)

 

ーーーそっか。

 

「大好きだよ。」

 

脳裏をかすめていた赤い何かが完全に無くなった。

 

ーーー赤い誰かはいらないものだったんだ。

 

赤い誰かも、それに寄り添う誰かも、このリボンをくれた誰かも。

 

ーーーだって、私にはママとパパとお父さんがいるもの。

 

結ばれていたリボンがポトリと床に落ちた。

 

それはどこからともなく出現した影に飲み込まれ、跡形もなく消える。

 

ーーーそういえばお父さんがデザートくれるって言ってたっけ。

 

桜は雁夜のお膳の方へと歩いて行った。

 

 

 

こうして彼女は遠坂桜を淘汰した。

彼女はーーー間桐桜になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「桜、おじいちゃんに餌やってきてもらっていいですか?」

 

そう言って、バケツ一杯の・・・昆虫ゼリーを桜に差し出すウルレシュテム。

 

「はーい。ママ。」

 

素直にそのバケツを受け取った桜はんっしょ、んっしょ。と部屋の隅のケージの様なスペースにやってきて、上からゼリーをぶちまけた。突如降ってきたゼリーの雨に、中の蟲が身もだえしようがお構いなしである。

 

「沢山食べるんだよ。おじいちゃん。」

 

そう言い残して、桜はママーっ終わったよーっと叫んでその場を後にする。

 

蟲の入れられているケージの上の方にはプレートがあり、大きくゾウケンと書かれている。

 

これが、間桐臓硯改めゾウケン。愛称はおじいちゃんの最近の餌やり風景である




という訳で、神代編の裏話もありつつの回だったわけですが、まあその・・・今でも犯罪だが、それ以前にこの姉ちゃんに対してそんな無体働いたらまあまず無事じゃすまないよねっていう。
そして、いろいろありすぎてとうとう桜ちゃんのキャパがオーバーした。

ウルレシュテム「死んだと思ったら見知らぬ部屋でZENRAで寝てました。隣には同じ格好の弟。全部終わった後でした。もうどーにでもなーれ。あと桜可愛いです。」

ギルガメッシュ「姉上のためならSでもMでも。」

雁夜「サーヴァントたちがいろいろやばすぎてついていけません。そろそろ胃に穴が開きそうです。」

桜「みんな大好きです。赤い人はいつまでここに滞在するんだろう・・・。」
(訳:さっさと出ていってほしい)


閲覧ありがとうございました。


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赤い従者は追憶する。

誤字報告ありがとうございます。・・・すいません。ほんとに、わざとではないんです。ほんと・・・。助かります。


更新遅くなってしまい申し訳ありません。
今回のは少し短いですが、投稿させていただきます。


あはは うふふ それでーー が、

 

ある家のよくある団欒の一時。

 

この家族も例に漏れず一家四人でリビングに集まり、テレビを見ていた。

 

今日の出来事。学校での愚痴。

様々な話題が飛び交う暖かな談笑がピタリと止まる。

 

ガタリと父親が、母親が、息子が、娘が立ち上がる。

 

「行かなきゃ。」

 

一様に声を揃え、動き出す。

 

その目に光はなく、その動きは人形じみていた。

一家は暗い夜の町へと繰り出す。

 

外にはその家族と同じように人形じみた人で溢れかえっていた。

ドアの開閉の音と共に現在進行形で増加しているそれは、一挙手一投足乱すことなく歩みを進めている。

ぼそぼそと聞こえてくる呟きはみな同じもので行かなきゃと抑揚のない声のみが響く。

 

まるで覇気のない軍隊の様に統率された動きを見せる人々。

大人も子供も、女も男も、老人でさえ頼りない足取りで動いている。

その中に一人だけ、幾分か急ぎ足な人間が一人。

 

「おじいさん、おばあさんっどうしちゃったんだよっ僕がわからないのか!?」

 

少年、ウェイバー・ベルベットは自身の居候先の老夫婦の前に立ちふさがり、必死に呼びかけている。

しかし、その呼びかけも虚しく二人はウェイバーを避けて進もうとする。

 

「待て、坊主。」

 

必死なウェイバーをライダーが制止する。

 

「ウェイバー。多分これ、洗脳系の魔術だ。・・・臭い嗅いでみて。」

 

周囲を警戒しつつ久遠に促されてウェイバーはすんと臭いを嗅いだ。

鼻腔に甘ったるい異臭を感じ、げほっと盛大にむせる。

 

「なっんだ・・・これっ。」

 

まるで果実を腐らせたような、甘い腐敗臭が漂っている。

咳き込むウェイバーの背中をさすりつつ片目を抑えて何事かを呟いた久遠は、その押さえていた手を上に向かって突き出した。瞬時に手の平から放たれた鳥型の使い魔が上空へと上昇し、3分も立たないうちに落下し消えていった。

 

「・・・なるほどね・・・。ねえウェイバー。」

 

此処から海岸までどれくらいかかる?という久遠の問いには?と間の抜けた声で返したウェイバーが考える仕草をすると久遠が再び口を開き、極めて静かな声で言った。

 

「・・・たぶんこれ大掛かりな術式の前座・・・というかこの人たち、人質か・・・生贄だよ。きっと。」

 

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

ーーーマスター。

 

念話によって脳内に直接響いてくる音声にああ、わかってる。とモードレッドは静かに返事を返した。

 

「くせえな、きっとこの匂いのせいでこんなだるい列ができてんだろうが・・・。」

 

鼻を擦るとその場を立ち上がった。背後に赤い外套を纏った男が動作とほぼ同時に姿を現す。

 

「この列を辿ってみたが、一様に海に向かって伸びている。それと、この匂い。これは恐らく川・・・というより水辺を中心に発生しているらしい。川以外のルートを辿ってみたがそこにはマンホールが多く設置されていた。湿度もこころなし上がっているし・・・何者かが意図的に流したものを気化させて誘導しているとみて間違いないだろう。」

 

残念ながらサーヴァントどころか魔術師の姿すら確認できなかったが、とため息をついている背後のサーヴァントをそのままに、モードレッドは現在いるビルの屋上から飛び降りた。

赤いロングスカートをはためかせながら華麗に着地を決める。

 

「んじゃ、一狩り行くとするか。」

 

取り敢えず片っ端からぶん殴って気絶させるかと言う赤い騎士。

いつの間にか手元に自身の武器である剣を出現させ、肩に担ぐように乗せる。

その肩、否。全身は既に銀に赤の装飾が施された重厚な鎧に覆われていた。

 

「いつになくやる気だな、マスター。」

 

後ろからかかる声に振り向かずに赤い騎士は答えた。

 

「・・・このまま放置するなんてのはまっぴらごめんだ・・・それに。」

 

アイツも父上も、きっとこうする。っとぼそりと呟くとそのまま歩き出した。

 

 

「・・・まあ、その意見には私も概ね賛成だがね。」

 

言って、自らの主人である騎士の後を霊体化してついてゆく弓兵。

既に霊体化しているため周囲には聞こえていないが、それ故に彼もぼそりと呟いた。

 

「・・・犠牲は、多くないに越したことはない。」

 

弓兵の脳裏にざざっと壊れかけのビデオテープのような古い記憶が蘇る。

 

色とりどりの花が咲き乱れた美しい庭。

そんな庭を窓越しに見ていた一人の少女。

 

ーーー正義の味方・・・そう、素敵ね。とても・・・眩しい。いい夢だわ。

 

ガラガラと崩落する大空洞。

手には弓。地には自身が放った矢を受けたーーー

 

ーーーありがとう。これで・・・。

 

あの時、自分はなんと言ったのだったか。はたまた既に言葉は無く咆哮じみた叫びをあげていたのか。

彼女はなんと言ったのだろうか。

 

ただ一つだけ、わかったのは。

この時点で自分が助かったであろう救いの可能性を潰してしまったのだということだけだった。

 

 

「進め、止まるな。前を向いて、歩みを進めろ。」

 

 

既にこんなことしか私には許されていない(できない)

こんな私を見たら、いったい君はなんと言うのだろうか。

 

 

 

「っ。感傷に浸っている場合ではないな。」

 

マスターの直感を頼りに現場に急行する。

頭の中の映像(彼女)は闇へと溶けて消えた。




タイトル名を悩んで悩んで・・・あ、そういえば赤主従の話最近出してない。と思い、タイトルだけでもと赤主従にちなんだものにさせてもらいました。


モーさんとドンファ・・・アング・・・アーチャーの拠点は主に廃墟。
常に転々としているので拠点というのも怪しいです。
モーさんがあまりに豪快なのでアーチャーはハラハラしているというよりきっとオカン化してくるのかもしれませんが、まあその時はその時ってことで。

閲覧ありがとうございました。


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言峰綺礼の成長(?)/緊急事態だよ、全員集合。

FGOのガチャ、キアラさんが出ません。爆死です。

なのに隣で一緒にガチャしてた身内は一発で引き当ててました。おのれ。

もうどーにでもなーれ・・・。


お気に入りの数が・・・数が・・・思わず夢だと思って二度寝を決行しようとしました。
皆様。当作品を読んでいただきありがとうございます。

これから諸事情あって、今回の様に作品の投稿が不定期になることが多くなるとは思いますがなるべく調整しようと思っているのでこれからもよろしくお願いします。

誤字脱字報告ありがとうございました。修正完了しました。
切実に文才と辞書と・・・国語力が欲しいです。



コツコツと硬質な床に靴音を反響させながら、言峰綺礼は間桐家の回廊を歩いていた。

斜め前には白いサーヴァントが案内役として同行しており、その気は全くないとしてもまず逃走などできないであろう状況だということは明白だ。

 

ーーー間桐雁夜は用心深いのだな。

 

単純に綺礼はそう思った。自身と時臣の関係と経過を観れば家に上げすらしなかったのだろうが、更に綺礼本人ではなく教会そのものが暗躍しているということがわかっているのであろう、何か探りを入れるためにわざわざ綺礼の面会を許可したのだと、綺礼は推測する。

 そして、今自身の案内役を務めるこの英霊が綺礼が何か行動を起こした際に命を刈り取る者なのだと。

 

「雁夜が」

 

不意に前方を進むサーヴァントが呟いた。

 

「雁夜が特別に、貴方にならあれ(・・)を見せてもいいと。」

 

いいえ、とひとりごちに否定の言葉を述べた女は更に続ける。

 

「貴方には、知る権利があると。」

 

ピタリとサーヴァントがある部屋の前で立ち止まる。

ジャラリと鍵束を取り出すとそのうちの一本で解錠し、おもむろに扉を開いた。

 

「あ、ママ。」

 

暗闇の中から幼い声が聞こえる。それ以外はガサガサギチギチというなにかの蠢く音だけだ。自身の背後から漏れる光で辛うじて見える室内に綺礼は目を凝らした。

そこにあったのは、大量に蠢く何かと、それに集られ、黒い紐のようなものでところどころぐるぐる巻きにされた敬愛する師。そして、その元息女である少女。

 

「見て。私、影をここまでできるようになったの。」

 

無表情ではあるが嬉しそうな声で、少女は師の身体を紐状の何かで持ち上げる。

 

「はい、素晴らしいです。桜。まださわり程度しか教えていないのにもうここまで・・・よくできましたっ。後でお祝いしましょうっ。」

 

今日はお赤飯ですねっ。と先程までの冷たい気配はなくまるでテストを見せた子供を褒める母親の様なサーヴァント。どうやらこの、長年代行者として死徒やら魔術師やらを狩ってきた綺礼ですら見たこともない魔術体系は彼女の指導によるものらしい。

ブンブンと黒い紐が揺れると、どしゃりと師の身体が落下した。

 

「あ」

 

生身の人間の、それも実父の痛々しい姿にてっきり心痛めているのだろうかと思い少女の方を見ると、残念そうに見はしても別段悲哀や憐憫といった感情は無い様だった。

 

「・・・お人形でこれだから。まだまだ修行が必要。」

 

ね。と少女が言うと同時に背後からずるりと黒い何かーーー巨大な影の犬が出現する。

全長は目視であれどまず2mは超えている恐ろしく精巧なオブジェの様な黒犬は、桜を庇うかのように顔をこちらに向けたまま胴を桜の後方に滑り込ませる。少女の番犬(護衛)であろう。

 

片やお人形と言われた男は今だ目が虚ろながらも時折娘である少女に向かってパクパクと口を開閉し、必死に何かを訴えかけようとしていたが、対する少女は極めて事務的に告げた。

 

「ロット。その人(それ)を上に運んで。あっちにいるお兄さん、多分迎えに来た人だから。」

 

先程から一切鳴いていなかった犬がこれまた鳴くことなく時臣の頭を噛み、跳躍した。

ズダンという音と共に途中で放られた時臣の身体がゴトンと回廊の床に転がる。

この時、綺礼の何かがざわついた。師と慕った人物が無下に扱われていることに怒りを覚えたわけでも、その元息女が実父に対してあんな反応をするような胸糞悪い環境への侮蔑でもない。

むしろ、その全く逆。此処で起きたすべての出来事に狂喜し、喚起した。

手の届くところまで落ちてきたのだ、自身への答が。

 

あんなに誇り高くあろうとした師の蟲にまみれた醜態。

 

大切だったであろう愛娘に必死に、それこそあの犬に銜えられていても手を伸ばした師の姿。

 

そんな実父に毛ほどの関心も見せず、全く父親の意を解さない娘。

 

 

ーーーなんとその様の美しいことか。

 

 

ーーーああ、天にまします我らが主よ。そして、尊敬する師よ。此度の導き、感謝いたします。

 

思考しながらも綺礼は口角が上がり笑みを形作っていくことに、最早何の抵抗もしなかった。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

「ヒャッホ―――――ッ。どけどけえっこの俺、モードレットの前を走るんじゃねえええっ。」

 

「マ、マスターっ君はもう少し道交法というものをだねっ。ぐっ、と、とりあえず私にハンドルを貸したまえっ。頼むからっ。」

 

現在、マスターであるモードレッドとそのサーヴァントであるアーチャーはある住宅から拝借した自動車を使い海岸を目指している。

しかし、モードレッドの運転はかなり荒く、彼女本人は至って何もなく気にもしていない。が、助手席に座っているアーチャーは先程から体の節々をどこかしらにぶつけたりと二次被害が半端ない。アーチャーはこのままでは海岸に着くまでの間に脱落(死亡)してしまうと思い、切実に運転を交代するよう己のマスターに懇願する。

 

「あ?んなの却下だ。第一お前騎乗スキルないんだから無理だろ。・・・んじゃ、かっ飛ばすぜえええええっ。」

 

ヴォオオオンッと一層車を唸らせ、・・・つまり一気にアクセルを踏み込んだ。

そんな彼女に彼は一言。

 

「じ、地獄に堕ちろっマスタアアアアアッ」

 

 

 

 

そんなやり取りがあってから数十分後。

やっと自動車が停止し、死のドライブが終わりを告げた。

 

「ふう、やっとか。やっぱ回り道ばっかじゃ仕方ねえか・・・。」

 

怪訝そうに自動車を降りるモードレットに対して反対側から降りてきたアーチャーは心なし足取りがおぼつかなかった。

 

「うっ、全く、ひどい目・・・に・・・?」

 

車体によりかかることで何とか体勢を保つ。

周囲に目を向ければ既に何人かの・・・恐らくマスターとサーヴァントだと思われる人物たちを発見する。

 

現代風ではない、まだ動物に頑丈な御者席のついている形状の戦車に乗った少年少女と大男。

 

見覚えのある青い装いの少女騎士と白い女性。

 

そして、そして。

 

ーーー誰かの面影のある面差しの少女と髪と目の色こそ違えど、成長した彼女がいた。

 

「あ・・・ああ・・・。」

 

自然と微かな嗚咽が口から洩れる。

ふらふらと、先程とはまた違った危うげな足取りで、彼は彼女の許へ歩き出した。

 

「なんで・・・お前が・・・。」

 

そして、それはそんな彼のマスターも同じであった。

その眼は驚きに見開かれている。

主従の歩みは最初こそふらふらとしたものであったが、徐々に速度を増していき、そのまま彼女に突撃する。

 

「なんでお前がここにいるんだっ。」

「何故君がここにいるんだっ。」

 

ほぼ同時に言われてがくがくと肩を揺さぶられ何が何だかわからないウルレシュテム本人はというと・・・。

 

「Aaaaaaaaa」

 

やっと出てきた言葉がそれだった。

急展開過ぎて言葉が歌声に戻ってしまっている。

 

いきなりやってきた変な二人組が母親に絡みだしたのを見ていた桜にある人物の言葉が過ぎった。

 

ーーーよいか、桜。もし何か自分でどうにもできないような事が起きたら・・・。

 

手順を思い出しながら、首から下げていた子供用の可愛らしい携帯電話を開く。

そのダイヤルの上の方に並んだ1,2,3という数字の中から1をタップし耳をあてた。

 

「もしもし、警察ですか。」

 

ーーーこのけいたいでんわとやらのこのボタンを押して警察に電話を掛けろ。何、きっとすぐ解決する。

 

 

 

 

 

 




言わずもがな金ぴか(弟)の入れ知恵によって桜ちゃんが警察(?)に電話。
まあ、警察かどうかも定かじゃないが。だって、教えたの金ぴかだぜ?

そして赤主従は勘違いです。裏側にはそれなりに事情ありますが・・・。

やったね!神父が覚醒したよ。
ちなみにこの神父。間桐さんちの雁夜君とその後顔を合わせた際に
綺(あれ・・・なんか・・・普通・・・?)
雁(やっとまともな人来たーーー)
とお互いに思っていたり。

時臣、蟲蔵卒業するってよ。

・・・とまあ、詰めてみました。

閲覧ありがとうございます。


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謎の警官と世界のズレ

なんだかんだいいつつ遅れてしまってすみませんでした。

それでもお気に入りでいてくれた方、新しく登録してくれた方ありがとうございます。

では、久方ぶりの投稿で少しおかしな部分もあると思いますがどうぞお読みください。


桜の通報(?)からわずか数分後、けたたましいサイレン音とともに一台のパトカーがウルレシュテムと彼女に詰め寄る二人・・・正確には後者二人を確実に亡き者にしようとするかのようにとんでもないスピードで突撃してきた。

獲物二人がサーヴァントとしての身体能力を生かして軽々と避けると、勢いを殺しきれなかったパトカーはそのまま近くのコンテナに突っ込んでいく。

ごしゃあああっという聞こえてはいけない音とともに煙が噴き出し、その中から三人の人影が姿を現す。

 

「げっほごっほっ・・・ゔえぇ、し、死ぬかと思った・・・。」

 

「なぜ私まで・・・。」

 

「おい貴様ら、打ち合わせ通りにせんかっ。」

 

その場に沈黙が訪れる。

煙が晴れて、パトカーからコンテナの中身に引火したらしい爆発をバックに出てきたのは・・・三人の、警察官だった。

 

「ふはははは、もう安心するがよい。さく・・・名も知らぬ子雑・・・子供よ。この(オレ)が来たからには不逞の輩の好きになどさせぬ。」

 

あまりの事態にライダーの戦車に乗っていたウェイバーと久遠は口をあんぐりと開けて唖然とする。

セイバー主従に至っては完全に引いた目でその惨状を見ている。

皆沈黙する中でギルガメッシュが隣に来た雁夜の脇を小突いた。どうやら何か言って場を和ませろと言いたいらしいが、生憎そんなネタは雁夜には存在しないため、良くも悪くも鉄板の・・・かどうかはわからないがイチかバチか口を開いた。

 

「あ、I'm ninja.It's syugyou.」

 

・・・それは警官の制服を着た一般人(笑)の、苦しい言い訳だった。

 

 

「え!?貴方NINJAなの!?あの有名なSINOBI!?すごいわ。おじい様の言う通りね。さすが日本。」

 

「SINOBI!?あの!?魔術を使わずに口から火の玉を出したり、目が赤くなって相手を先読みできたりするっていうあの!?腹に大きなKYUBIって言う狐飼ってて掌に風のエネルギー球生み出せるあの!?・・・ただの病人にしか見えないのに・・・凄過ぎる・・・ら、ライダーどうする・・・こんなんが相手じゃ・・・。」

 

・・・だったのだが、未知の国日本。海外の人々にとってはいろんな意味で受けが良かったようだ。

 

特にウェイバーの取り乱しようは半端なものではなく、頭を掻きむしらんとしているのを隣の少女・・・久遠が「だから現代にそんなすごい忍者いないってっ」などと言いながら必死に宥めている。

 

そんな各所の様子をニヤニヤと笑いながら見ているギルガメッシュの許に桜がてこてこと歩いてくる。

 

「何してるの?パパ。それにお父さんと・・・神父さんも。」

 

その一言に更に外国人組から「お父さん?ということはあの子はKUNOITI!?」「ち、父親が二人・・・だと!?」と驚きの声が上がる。

 

一方で轢かれかけた赤主従はというと二人ともギルガメッシュの方を鋭い目つきで睨みつけていた。

 

「てめえ・・・俺はともかく俺のマスターまで巻き込まれたらどうしてくれんだ糞野郎。」

 

「ふう・・・やれやれ。昨今の警察は状況も分からんうちに通行人を轢くのが主流なのかな?」

 

二人揃って臨戦態勢になっている。そんな二人をギルガメッシュは鼻で笑った。

 

「なに、そこに困ったものがいるのならば手を差し伸べるのも一興。王と・・・いや警察・・・いやいや一個じ・・・ああ、もうめんどくさい。もうよい。ともかく、姉上はこちらに返してもらう。さっさと離れろっ。」

 

「うっせえ。誰が姉上だっここにいるのは俺のマスターウル・ルガルだっつうの。」

「ここにいる女性は久世幾世。君のいう姉上とやらではないはずだがね?」

 

此処でこの主従にも行き違いの様な物が発生しているらしいことが判り、両名ともに首を捻った。

 

「ん?なんだ貴様。ウル・ルガルの知り合いか?」

 

そんな二人の反応を見つつ、今度は聞き覚えのある名にギルガメッシュが首を傾げる。

 

「あ?だったらどうしたってんだよ?」

 

「いいや?なるほどなと納得しただけだ。なんせ、そこの我が姉も、そして(オレ)も、奴の縁者だからな。」

 

アヤツまだ生きておったのか・・・そう言って先程まで被っていた警察官の帽子を取ると見目麗しい容姿がその場に晒される。

 

 

「ウェイバー、ライダー。チャリオット出して。今すぐ。」

 

ギルガメッシュの姿を見た久遠は先程までの必死さはどこへやら、無表情に戦車を出すよう要求する。

 

「はあ?なんでだ「いいからっ早くっ。」

 

いきなり焦り出した久遠にまあまあ落ち着けと二人係で宥めるも彼女は引く気配がない。

 

「早くっ早くしないと・・・。」

 

「おい嬢ちゃん。何をそんなに焦っておる。」

 

今だ渋る二人にとうとう涙目になって彼女は口を再度開けた。

若干ヒステリック気味に話し出す。

 

「あんたたちまだわからないの?ここまでヒント盛りだくさんなのに?どうして・・・もう終わりよ。この戦い、勝利は絶望的だわ・・・ううん。絶望よ。・・・ここの聖杯、やっぱぶっ壊れてんじゃないの?」

 

ヒステリーは最初だけで、そのうち減速したかのように彼女の中の感情が諦めにも似た何かに変わっていく。

 

「いい、ウル・ルガルの近しい者で、神性を現す赤の瞳の男。此処までで二人にまで絞り込めるの・・・で、肝心なのは姉がいること。ここまでくるともう一人しかいないのよ・・・あの男、おそらく英雄王ギルガメッシュよ。」

 

その淡々とした回答にウェイバーが首を傾げて疑問を投げかける。

 

「?ギルガメッシュには姉なんていないだろ。それに子供もいなかったはずだ。」

 

一瞬目を見開いた久遠であったが、ここが違う世界であるという事実を思い出し嗚呼そっか・・・と言って更に説明を続けた。

 

「そうよね。この世界。私のいたとことは色々誤差が出てるんだっけ。・・・ここではそうかもしれないけれど、私のいた世界ではギルガメッシュには四人の子がいるの、原罪の子ウル・ルガル。功罪の子、ウル・ヌンガルとウドゥル・カランマ。そして贖罪の子、ルガルキドゥル。この四人よ。そして、それら四人の母親はすべて同じ人・・・彼の姉であるウルレシュテムだと言われているわ・・・まあ、真偽のほどはわからないけれど。でね、問題は此処からなの。」

 

あははと乾いた笑いを漏らしながら久遠はウェイバーの肩をひっつかんでがくがくと揺さぶる。

ウェイバーが若干具合が悪そうになっていても止める気はないらしく揺さぶり続ける。

 

「そのお姉さん・・・ウルレシュテムなんだけど。白銀の魔女。ティアマトの化身。天の糸・・・まあ、呼び名は多々あるの。ただ、それが広まる過程である叙事詩がやばいのよ。

具体的にはアーサー・ペンドラゴンにとってのマーリンよろしくギルガメッシュに武器作ったり、かと思ったらエルキドゥ差し向けたりして彼の成長に助力するキングメーカーだったりとか、神の森滅茶苦茶にしたあとに門番盗んでそのまま隣国乗っ取ったり、天の使いである聖牛をビームだしてとどめさしたりとか・・・ほんともう、規格外よ。で、もしかしたら、ううん。しなくてもあの姉上って呼ばれてた女性はウルレシュテムで間違いないわ・・・というわけで無理。撤退しましょう。そうしましょう。」

 

この比較的大きな声で発せられる説明に一同呆気に取られていた。

何故か本人ですらも驚愕に顔を染めており、この場ではうむ、と頷くギルガメッシュとママ凄い・・・と純粋に喜ぶ桜のみが反応らしい反応であった。

 




久方ぶりの投稿で内心ドキドキですがもし誤字脱字があったら遠慮なく報告してください。お願いします。

・・・話をまとめるのって、難しいですね・・・。


それでは閲覧ありがとうございました。

また、これからもよろしくお願いします。


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四人目(一人目)の子供

今回は短いです。ごめんなさい。

というか前回もあの長さで今回もとか・・・ほんと申し訳ない。

なんだか・・・もう・・・どこで話として区切ったらいいモノやら。

もしかしたらこれに加筆するかもしれないし、次回が出るかもしれない。

すまない、すまない。

6月19日、加筆しました。・・・してしまいました・・・。


一瞬の沈黙の後。ウルレシュテム(カノジョ)はにっこりと笑って弟の方を向いた。

 

「・・・さっきの、四人(・・)の子供ってどういうことですか?ギル。姉上(ボク)、初耳なんですけど?」

 

あまりにも混乱し過ぎでいたがゆえに大声で戦車上での会話が他の面々に伝わっている。

もちろん、当人たちの元にも。

 

瞬間ビシリと固まったギルガメッシュの許に笑顔ではあるものの全く目の笑っていないウルレシュテムが移動する。

赤い主従はまるで瞬間移動でもするかのように自分たちの間をすり抜けていった彼女とさっきまでいたであろう位置を交互に見比べ、戸惑いつつも警戒対象にウルレシュテムを付け加えた。

 

「ねえ。ギル。」

 

すっと固まって、更に震えが加わり出したギルガメッシュの両頬を優しく姉の冷たく白い手が包み込んだ。

 

「うふふ。(ボク)の記憶が正しければ確か三人(・・)のはずなんですが・・・さて。その知らないはずの子供の名前もすごーく身に覚えがあるんですけれど・・・?」

 

まるで不倫を問いただす妻と不倫がばれた夫の様な構図になってしまった二人を、部外者である他の陣営は生唾を飲んで片時も目を離すまいと見守っている。

 

ここに、紀元前約三千年、おおよそ五千年越しの修羅場が開幕した。

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

「ぶふっ。何アレ超ウケるんですけどーーーっ。」

 

「もールルうるさい。折角隠れてるのにばれたらどうするの。」

 

最早キャラも何もないハンドラーの使い魔にして現在の件の中心人物であるウル・ルガル。

そんな彼の隣でこんな夜中に何処から調達してきたのか、激辛麻婆ラーメンを啜るハンドラー、岸波白野。

二人は海岸近くにある住居の屋根に腰かけつつ、防音、姿隠しなどの効果のある宝具のマントを羽織って修羅場を観戦していた。

 

「ふっふふ。いや、すみません。だって・・・ぶふぉっ。ナイス右ストレート・・・ちっ惜しい。すんでで魔力の障壁でガードしたか・・・しぶとい。」

 

片手にワイン、片手に果実。ここに居座る気満々といった状態に白野はふうっとため息をついた。

 

「・・・出て行ってあげないの?」

 

そうすればもっと早く解決しそうなことなのにと心の中で思いつつジト目で自らの使い魔の男を見遣ると、本人はこてっと首を傾げた。

 

「おや?何故ですか。」

 

「何故って・・・会って安心させるとか・・・誤解?・・・を解く?とか?ともかうむっ!?」

 

はっと鼻を鳴らして不遜気な態度に戻った後、自身が食べていたであろう果実を白野の唇に押し付けつつウル・ルガルは口を開いた。

 

「出ていきはしますよ。ただ、誤解も何もないということは君が一番知っているでしょう?マスター?隠されたのも止められたのも、あの人にされてきたのは事実だ。まあ、今回の事は当然の報いと取るべきでしょう。」

 

それとも今更仲良く家族ごっこでもしろと?とあの、裏側のときより久しく見ていなかった冷たい眼光が、岸波白野(こちら)・・・ではなく、ギルガメッシュ(父親)に向けられる。背後には最小限ではあるものの、黄金の波紋ができている。

 

「待て待て待てえいっ。何でそう早まるの!?そうじゃなくて、そうじゃなくってっ。」

 

必死で止める白野を怪訝そうに見て今度はなんですか?と少しめんどくさそうに言うルルに白野はポツリと呟くように返答した。

 

「いや・・・よく考えたらお家事情含めルルの個人情報が曲解してあそこの面子に伝わりかけてるから早く乱入したほうがいいんじゃないかなって・・・。」

 

微妙な沈黙が流れる。

 

「な」

 

先に口を開いたのはルルだった。

しゅんっと瞬時に先程まで出していたワインやら果実やらを蔵にしまい、白野の腰を掴む。

 

「何故それを早くいわんのだっ」

 

そのまま白野を抱えて屋根を足場に跳躍した。

 

「ルルが言わせてくれなかったんじゃないかああああああっ」

 

白野の叫びが夜中の冬木に響き渡った。

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

ガスっという鈍い音がギルガメッシュの頬、そこから数cm上に張り巡らせた魔力の膜にあたる。正確には、同じように魔力で強化されたウルレシュテムの拳が、だが。

 

「待て待て待て、まず話を聞け、姉上。」

 

必死に言い募るも連続する打撃が止むことは無い。

 

「話?そんなに素直に話すのならここに来る前の段階で話しているでしょう?話さないということは少なくとも(ボク)に対しては本当のことを言う気は無い・・・違いますか?」

 

言われたことが図星だったのか一瞬ギルガメッシュの動作が鈍り、拳を避けきれずこめかみあたりを掠った。掠ったとみられる個所は出血しており、頭部ということもあってか派手に血が噴き出している。

 

「っつ」

 

「ほら御覧なさい。やはり丁寧に丁重に・・・削っていくしかないですね?」

 

さあ、っと再びウルレシュテムが拳を構え直したとき。一陣の風が吹く。

 

それは特別強いというわけではなかったがその場にいた面々がピタリと静止した。

 

瞬間、爆音が、地響きと共に広がる。

パラパラと舞う地面の欠片に砂埃、それは煙幕の様に自身たちの中心、正確にはギルガメッシュ目掛けて空から降ってきた。

 

「随分楽しそうなことをしているじゃないですか。」

 

いまだ舞う煙幕の中からおそらくまだ若いであろう男声が響く。

 

ブオッという風切り音と共にまず最初に見えたのは金色の紐。

どうやらその紐で煙幕を無理矢理払ったらしい。

 

「さあ、最悪(かんどう)の再会と洒落込みましょう?」

 

次に見えたのはその肉体に刻まれた赤の幾何学模様。

 

「会いたかったですよ。」

 

腰まで伸びた、括られた金髪に、血の様な赤の眼。

母によく似たその面貌。

 

その声は台詞とは裏腹に、憎悪に満ちて/無機物の様な冷たさを伴って。

 

「お久しぶり・・・いえ、初めましてですかね?」

 

 

「おと~さん?」

 

わざとらしい言葉遣いに、わざとらしい声音で父を呼ぶ。

 

不遜気な、されど一片の隙も無い微笑みを携えて、青年。

 

ウル・ルガルはその場に降臨した。

 




ちなみにここで四兄弟の簡易説明。

長男・・・いろんな負債を押し付けられた苦労人(無自覚)。父親がすべきだった行動(叙事詩)をしたこの世界でのギルガメッシュと言っても過言でない存在。外見は母親にかなり似ているがフェチズムは心の折れる音、何かの壊れる音またはその様。と中身はfate原作のギルガメッシュに近い。

次男・・・外見は父親。中身は幼年期の父親。と言った人物。賢君。これと言って目立った活躍は無いが人間たちの黎明期を支えた偉大な王であることに変わりはない。一番王の財宝を使うことに長けている。

長女・・・外見中身共に父親似。ぶっちゃけにょギル様である。訳あって自身の教師をしてくれていた幼少期の長男が大好きで大好きで大好きでいろいろやばい人。

次女・・・両親をうまい具合に合わせてマイルドにした外見。中身は他の兄弟より人間寄りではあるものの、決して人間には理解されないという感性の・・・要は騎士王みたいな・・・聖女みたいな・・・。長男の叙事詩の際には朋友の位置を担ったが、その末にある破滅に絶望し現在はマジで騎士王二号と化している。苦労人その2。

と言った具合になっている。

閲覧ありがとうございました。


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修羅場煮込み。嫉妬のソースを添えて

ごめんなさい。なんだかへんな文章書いた上にねおちとか・・・なんといっていいやら。

誤字修正しました。ありがとうございます。

気にせず読んでいただければ幸いです。

それでは今回も閲覧よろしくお願いします。


煙幕を払った黄金の紐・・・もとい天の帯を回収したウル・ルガルは続け様に背後に展開した合計十の黄金の波紋から、それぞれ違った武器を射出する。

それは一様にギルガメッシュに狙いを定められており、一斉に放たれる。

 

機関銃のような速度で放たれた高ランクの宝具を受け無事でいられるわけがない。

その場の誰しもがギルガメッシュの生存は絶望的なのではとその放たれた場所を見つめる。

 

しかし、流石英雄たちの王を名乗るだけあってか土埃が晴れた場には無傷の彼と白いサーヴァント、ウルレシュテムの姿があった。

 

「ふむ、噂をすればなんとやらといったところか。再会にしては随分な挨拶ではないか?ルル?」

 

言って、ギルガメッシュはいつの間に出したのか取っ手の飾りから刃の切っ先まですべてが新雪のように真っ白な剣を足元に突き立て、そこから突き出した水晶体によって全ての宝具を弾いていた。真っ白な剣の刃に当たるであろう部分には青緑に発光する幾何学模様が全体に刻まれており、その模様は剣を突き刺したであろう地面にも広がっている。

宝具を完全に防いだことを確認するとその剣を引き抜いた。

同時に地面に広がっていた模様も水晶体も消え失せる。

 

チッとウル・ルガルが舌を打つ。

その顔には増悪の色が色濃いもののどことなく悔しさというか苦痛が見えるような気すらする何とも言い難い表情が、ほんの一瞬だけ見て取れた。すぐに、不遜気な笑顔に戻ったが。

 

「ふむ、仕留めようと思ったのですが・・・存外、老いても健在というわけか・・・はたまたはその武器(・・・・)のおかげ、ですか、ねっ。」

 

言いながら更に波紋の数を増やし、合計二十艇の宝具を射出する。

否、しようとした。

 

「ルルッ。ストップ。いきなり攻撃とかやめてよ。」

 

いきなり現れた少女の忠告によって彼の動きが止まったからだ。

少女、岸波白野はそのままウル・ルガルの腕に絡まっている天の帯をクイクイ引っ張りながらどうもうちのものがご迷惑をおかけしました。と頭を下げた。

 

「なぜ止める白野。遅かれ早かれいずれはこうなるのだ。今であろうとそう変わらんだろう。放せ。」

 

「いやだからなんで選択肢が攻撃一択なんだGSO(ゲスオウ)。訂正に来たんじゃなかったのかっ」

 

「拡散される前に息の根を止めてしまえばよいではないかっ。というかその不穏な響きの略称をやめよとあれほどっ・・・。」

 

なんだろうこれ。

 

周囲の心が一つになる。

五千年越しの修羅場に割って入ってきた仲裁人らしき一組が更に痴話喧嘩おっぱじめやがった・・・。どうなってんだこれ。と。

もはやカオスごった煮風昼ドラを添えて、である。

 

この少女と青年の会話を聞いていたモードレッドの顔が、傍にいたアーチャーが引くほどすごい表情をしていた辺り添えるだけだった昼ドラ感が更に増して加わっている。

 

「・・・これこそは」

 

すっとモードレッドは自分の獲物である剣を胸元あたりで構える。

 

「我が父を滅ぼす邪剣」

 

「ちょっマスター!?君は一体何をっ」

 

構えられた剣に収束する魔力を見たアーチャーが危険を感じ声をかける・・・も時すでに遅し。

 

我が麗しき父への叛逆(クラレントブラッドアーサー)っ。」

 

収束された心なしドス黒い何かの混ざった赤雷が、セイバー・・・ではなくウル・ルガルに向けて放たれる。

それが直撃する直前、何があったのかわからないウル・ルガルは白野の観察眼を頼りにその攻撃を寸でで回避。結果、赤雷はそのままギルガメッシュに向かっていった。

 

「おおおおおおお!?」

 

流石のギルガメッシュ()もまさかウル・ルガル(息子)の痴話喧嘩(というか最早こちらもこちらで修羅場)に巻き込まれると思っていなかったのか咄嗟にさっきまで使用していた白の剣で防ぐも、展開が少々遅れたのか服はところどころ焼け焦げている。

それでも収まらなかった赤雷は港を突き抜け海に流れ込む。

結果、黒髭、ジル・ド・レエの召還していた海魔が感電、浮き上がりだしていたそれは再び沈んでいった。

 

「・・・なあ、ライダー。」

 

昇ってくる朝日を見て、意識の戻った人々の困惑の声を聴きながら少年ウェイバー・ベルベットは自身のサーヴァントであるライダーに問いかける。

 

その目は何処か遠くを見ていた。

 

「僕らは何のために集まったんだっけ?」

 

その言葉は虚しく虚空へと消えていった。

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

一方海魔の内部にて宝具である本を片手に今や只の回路と化した子供たちを使って炉の調整をしていたジル・ド・レエは突然の降下の衝撃に動揺し、バランスを崩した。

 

 

「これはっ・・・オノレっ次から次へと神の遣い(小蠅)どもがああっ。」

 

モードレッドの雷撃によって弱体化した部分を削ぎ落とし、落とした部分を肉団子のような形状に、本体はまるで砲台の様な形状へと変化させる。

 

「おおっジャンヌよっ今助けに参りますっ」

 

そう言って更に本体から幾つかの個体を生み出し海に放つ。

 

その間にも生きた回路として起動させられている子供たちは悲鳴を上げることも死ぬことも許されず、只痙攣しながら魔力を循環させるための道具として苦痛に苛まれていた。

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

「きゃっ」

 

突然の地響きにアイリスフィールがよろける。

 

「っアイリスフィールっ」

 

咄嗟にセイバーが支えるも地響きが止むことはない。

 

「今度はなんなのよっもうっ」

 

戸惑う女性陣・・・というよりここの面子に対してポツリと静かにライダーが口を開いた。

 

「おいおい。こりゃあ・・・向こうは相当執念深そうだぞ。」

 

崩れたかに見えた本体は形状を変え隆起し、そこから広がるように無数の影か海に漂って・・・否、陸地を目指して散らばりながら近づいて来ていた。

 

「なっ倒したんじゃっ」

 

「倒したんじゃなく、倒しきるべきでしたね。」

 

驚愕の声を上げるウェイバーにウル・ルガルがさらりと答えた。

後ろでは膝を抱えるモードレッドを白野がなだめている。一応決着は着いたらしい。

 

「取り敢えず非常事態みたいなのでその辺にしてください。お母さん。後それ僕も後でしてみたいです。」

 

ギルガメッシュに向けて的当ての如く礫を投擲しようとしていたウルレシュテムが動作を停止し、物凄い早さでウル・ルガルのほうを見る。泣いていた。

ルルが、ルルがっお母さんと・・・とか言ってる辺り相当嬉しかったらしい。

 

「相手は海中で、群体。か。」

 

ウェイバーはチラリとライダーの方を見るもそれにライダーは首を横に振ることで応えて見せた。

 

「ありゃ一掃したところでまた産み出されるだけだ。一度まっさらに出来てもその後がないんではなあ」

 

「セイバーも無理よ。火力はあっても連発には向かないもの。」

 

すかさずアイリスフィールが言う。

セイバーの宝具は確かに連発には向かないものの敵を丸ごと消し去るくらいの威力はもっていそうな代物ではあったが、現在は隠すように言われているため早めに声を上げたのであった。

 

じゃあどうすればっと唇を噛むウェイバーに沈黙する周囲。

しかし、その沈黙は早々に破られる事となった。

 

「在りますよ。海の中で群体相手におあつらえ向きのやつ。」

 

まあもっとも、と発言者、ウル・ルガルが続ける。

 

「僕ではなく、彼女が、ですが。」

 

視線の先にはウルレシュテムが立っていた。

 

 




ギルガメッシュの持ってる剣に関してはカラーリングと幾何学模様の色(青緑ってどっかの女神にも・・・ごほっ)から察している人もいるかもしれないが素材に秘密が・・・ごほっ。

ちなみに、ウル・ルガルは幻想王という呼び名からギャグ調にしてGSO(ゲスオウ)。英雄王がAUO(エーユーオー)呼びされているのと同じやつ。

モーさんはこうして嫉妬しているわけですがいまいち自分の感情はわかっていません。
こちとらさんざん探しまくったのにうわあああああああっバーカバーカっってくらいです。

まあ嫉妬云々抜きでも何としても見つけ出すくらいの執念のある人が突然現れて自分蚊帳の外だったらそりゃ切れるよね。

いままで感想を書いていただいた方々、あまりお答えできずすみませんでした。
これからはもう少し余裕ができてくると思うのでなるべく答えられるようにしたいと思います。これからもよろしくお願いします。

閲覧ありがとうございました。


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ウルレシュテムは動き出す/槍兵、再び

周囲の視線を一斉に浴びたウルレシュテムがため息を吐いた後、仕方なさげに白状する。

 

「ええ、確かに、妾《ボク》の力を使えばあるいは・・・いえ、余程の事がない限りは可能でしょうね。」

 

「じゃっ、じゃあっ!」

 

その言葉にウェイバーが食い気味に喜びの声を上げる。が、その先が続くことはなかった。

 

「ですが、それをして一体妾《ボク》になんの得があるんです?」

 

その一言にその場の空気が軋む。

皆一様に彼女を非難するでも肯定するでもなくただただ彼女を、その一挙手一投足を静かに見つめているだけだ。

実際その通り、ここで青髭の暴挙を止めるためという建前でほとんどの陣営の前で手の内を見せていったい彼女に何の得があるというのか。教会や御三家のいずれかの家から何かしらの通達があるわけでもないただの異常事態だ。褒賞も何もあったものではない。詰まるところタダで情報公開と面倒事の始末をしろと言われているのとそう変わらないだろう。

いいや、ウルレシュテム自身は別に宝具として記されているものの一つや二つ見せたところで痛くも痒くもない。ただ、そう彼女は人間に対して友好的ではあるものの決して人としての、人に沿った考え方をするような人物ではない。彼女の感性はあくまでも半神半人。人でも神でもなく、その中間を位置づけられた別種族である。

故に彼女の中での人間とは大勢の人間をそのまま愛しいものとしてカテゴライズしただけのものであり、個人に向けられている訳ではないのだ。もちろん桜やギルガメッシュと言った身内(例外)は別だが。

たかが数百人いなくなったところでまだ、数億人いるではないか。

要は、どうして、自身の治めていた国の民ですらない大勢いる人間の中のたった数百人の人間のためにわざわざタダ働きをしなくてはならないのかということであった。

例え民であったとしても女神には供物を、王には献上品をと願い事には対価が発生することが当然の如く定められている。それがなくても許されるのは対等であればこそ成立する話であって、少なくともウルレシュテムは彼らとの間では成立させることができないと見ていた。もっと言えばもらう対価にしたって宝具を使っての海魔に取り込まれてしまった数百人の命の救出、及びこんな事態の収束と後始末と言った依頼と恐らく渡せるものの一例としてこれからの生を対価として支払われたところで、神代の人間ですらない脆弱な人間三、四人のこれまた短い八十にも満たない人生とサーヴァントの霊基をもらったからと言ってやはり見合わぬ出費になるであろうことは目に見えて分かっていた。

そして何より、とウルレシュテムは桜と雁夜を見遣り。次いでこの港から離れたビルの上にいる銃を構えた男女を意識のみずらして(・・・・)認識する。

ここで見せた力の一部への対策を練る云々はまだいいとして、危険度を認識したうえで勧誘、利用しようと雁夜や桜に近づこうとする輩がいないとも限らない。即座にマスターを排除するということも無きにしも非ずだ。まあ、そんなことは自分だけでなく弟がこちらにいる限り土台無理な話だが。

 

「仮に(ボク)がこの場を収めることを快諾したとして、貴方達はどんな対価を支払うというのですか?魂?魔力?珍品?それともそれ以外(令呪とか)?」

 

意地が悪いと思いつつも聞かねばならないこととして一番反応が豊かそうな少年少女の乗るチャリオットに視点を合わせて問いかける。心なし、否。見てわかるほど少年少女は怯えていた。・・・けれど、少年は意を決したようにほんの少し前に歩み出ると大袈裟に深呼吸をする。

 

「っぼくはっ「横やりになって失礼するが、この場は俺に預けてもらおうっ」

 

ギャインっという音とともに投擲した槍が突き刺さると同時に港のコンテナの上から不在であったランサーが現れる。

片手には投擲したものとは別の槍を、もう片方には何やら書簡を持っている。

その封を少々乱暴に開けると、それを全陣営が見えるように高々と掲げ、宣言した。

 

「現在より、キャスターの暴挙が神秘の秘匿などのルールに抵触するとの理由からキャスターの討伐令が教会より下された。貢献したものには教会の保有する令呪を一画。報奨として譲渡することとなった。これはその旨を書いた教会からの正式な文章だ。」

 

言い切った瞬間、ランサーに向かって一振りの黄金の剣が飛んでいく。

咄嗟の判断で槍で刃を弾いたランサーに対してチッとどこからか舌打ちが聞こえてきた。

正確には、先ほど同じように乱入してきたハンドラーの使い魔、ウル・ルガルのほうから。

 

「折角そちらの少年が面白そうなことを言ってくれそうだったというのに・・・邪魔しないでくださいよ。こっちはただでさえ汚物の集合体みたいなのに戦闘中止せざる負えなくなって困っている(イラついてる)っていうのに・・・ああ、イライラする。」

 

いやお前も乱入者じゃね?とかさりげなく責任擦り付けんなとかいろいろ言いたいことはあるだろうが、触らぬ神に祟りなしならぬ触らぬ王に祟りなし。皆反論しなかった。

 

「あ、ああ。それはすまないことをした。少年と・・・どなたか存じ上げないが高貴なる御仁。何分火急の報せとあって出ていくタイミングを見誤ってしまったようで・・・すまない。」

 

至極申し訳なさそうにランサーが謝罪する。ウェイバーは言葉を紡ぐことが出来ず口を数回開閉したのちにブンブンと思い切り頭を横に振って答え、ウル・ルガルに至っては既にあまり関心もないのか、はたまた敢えて感情を抑えているのかはい。と短く返事をして終わった。

 

「さて、こんな風な形式に整ったわけですが」

 

どうします?というウル・ルガルーーールルの問いにウルレシュテムは自らのマスターである桜の方に改めて視線を向けると微笑みとともに「大丈夫だよ。ママ。私は大丈夫。」とこちらの心情を察したかのように気遣いの言葉が飛んできた。ふと軽く溜息を吐いて彼女は再び口を開いた。

 

 

「---わかりました。やりましょう。令呪一画だなんていささか足りないような気もしますが・・・マスターも背中を押してくれましたしね。」

 

そうと決まればやはりそのための時間稼ぎが必要になるわけですが・・・と言って桜のもとに歩いていくと屈んで二、三言耳打ちする。それに対して桜はこくりと頷くと肩にかけていたポシェットの中から明らかにそれよりもサイズも量もある小枝を取り出した。

それをウルレシュテムに手渡すと彼女はそれをおもむろに握りしめる。

瞬間、有り得ないことが起こった。

先程まで彼女の手の内にあった小枝が明らかに現代には存在しないであろう濃度の神秘を内包したーーー宝具らしきものへと姿を変えたのだから。

サーヴァントはともかくこの工程を見ていた魔術師たちは目を見開き、一様に驚愕をその顔に浮かべている。

それもそのはず、いくらキャスターという桁外れの魔術師またはそれに準ずるものを呼び出すクラスがあったとしても、できることといえばせいぜい陣地作成によって工房、または神殿の作成と、道具作成によるこの時代に準じた力持つ礼装の作成程度である。間違っても今目の前で行われているような、神秘そのもの(・・・・・・)をその場で作り出すようなものは存在しないのだ。たとえサーヴァントという人の枠から外れた存在であっても無から有を作り出すなんてことはそれこそ魔法の域の話。到底信じられるものだはなかった。

その工程を枝の数分繰り返し、最後の一本を無造作に地面に投げ捨てるとウルレシュテムは息を吐いた。

 

「まあ、即席ですがこれぐらいあれば十分でしょう」

 

彼女の足元には先程の小枝・・・ではなくその小枝を芯にした剣(どう見ても神代級の代物)がおびただしい数転がっている。

 

「それじゃ、あとは頼みましたね。」

 

ふわりと現代服のコートを靡かせて水面へと歩いていく、と、海へ落ちた。

飛び込んだとかではなく、普通に。足を踏み外したかのように構えることなく落下した。

音もなくその姿は海中へときえる。

 

全員が立て続けに起こった出来事のショックで放心するなか、ギルガメッシュが落ちていた剣のうちの一つを手に取る。

 

「何をしているか、雑種ども。早々に位置につけ。」

 

 

轟音とともに何かが港に向かって飛来する。

それは空中でバラけ、中身が地上へと降り注ぐ。

ビシャリと張り付いたそれは海上に姿を現している海魔を人より僅かに小さくしたくらいのサイズの海魔だった。空からだけでなく、海からも次々と上陸してきている。

 

アイリスフィールに飛び掛かろうとした海魔を切り捨てたセイバーがアイリスフィールをライダーのチャリオットに乗せ、いくらかの問答をした後にその足で海上へと歩を進めようとする。が、それを寸での所で桜が虚数の触手で拘束した。

 

「なっ何をするのですっ。あの海魔は海からも来ているのでしょう?なら水上を歩ける私が海上の前衛に適役のはずでは?」

 

それに、桜ではなくルルが代わりに返答する。

 

「海上は駄目です。巻き込まれますから。ああ、空が飛べるとかも駄目ですよ?下が海なら同じなので。僕らはただ、ここで防戦に撤していればいいんです。」

 

にこりと微笑みを浮かべる顔には暗に余計なことをするなと言う無言の圧力があった。

 

「モードレッド。」

 

そのままルルは、自身の後ろで項垂れる少女騎士に声をかける。

 

「・・・んだよ。」

 

相変わらずブスくれたままモードレッドは投げ遣りに返事を返した。そんな様子の彼女の前に先程の剣を投げる。

 

「ほら、今度は一緒に戦いましょう?・・・と言うか君何言っても最終的に前線に出てくるでしょうし。」

 

ああ、それとと付け足すように言った一言にモードレッドは顔を真っ赤に染めて胸元を掴むような動作をした後ふいっとそっぽを向いて、仕方ねーなと言ってクラレントではなく足元の剣を手に取り立ち上がる。

 

「取り敢えず今はこのまま戦ってやる。けど後で何があったのかしっかり話せよ。ゼッテー今度こそ逃がさねーからな。」

 

あと、一発殴らせろ。と言ってルルを通りすぎて前へ出る。その様子に苦笑すると了解しました。出来れば御手柔らかにとルルが返す。

 

その様子をセイバーは複雑そうに、ギルガメッシュはそれとは対照的に僅かに笑みを溢すとそのまま海魔を切っていく。

 

と、これまたライダー陣営から声が上がった。

 

「なんだ、あれ?」

 

「海が・・・どんどん黒くなって。」

 

 

目を向けた先、ウルレシュテムが先程飛び込んだ辺りの水面から徐々に黒いコールタールのような粘度のある液体が沸きだし、海を侵食していた。

 

 



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呪いの泥/ケイネスの憂鬱

誤字修正させていただきました。
もうね・・・自分のいたらなさがね・・・もう。

本当にありがとうございます。


さて、今回は新キャラが・・・って何人出すんだ、自分。

ええと、まあそんなわけでいろいろカオスになりつつありますが閲覧よろしくお願いします。


黒い液体は徐々に海を侵食し、その体積を拡げていく。

 

ーーーAーーーaa

 

その液体が拡がるにつれ、それに同調するかの如く絶えることなく聞こえてくる歌声のような音も大きくはっきりと輪郭を持ってきた。耳を塞ごうが直接呼びかけるかのように鼓膜を揺らすその音はもはや逃げる場所などないのだという不安と、何かに見守られているかのような奇妙な安心感を同時に与えてくる。

 

ーーーAaaーーaaaa

 

歌声がはっきりしてくると何故か戦闘音は少なくなる。さすがにおかしいと思ったアイリスフィールがチャリオットから顔を出すと上陸してきていた海魔の生き残りがずるずると鈍い動きで海へと帰っていくのが見えた。

あまりの急展開にただでさえついていけなかったアイリスフィールは事態が呑み込めず、同じチャリオットに同席している・・・この場合はむしろアイリスフィールが同乗させてもらっているといったほうが正しいのだろうが、二人のうちの少女の方。月城久遠に状況を聞こうと声を掛けた。

 

「ねえ、そこの貴方。・・・ええとライダーの・・・。」

 

「マスターじゃないです。・・・取り敢えず久遠でいいですよ。アイリスフィールさん。」

 

先程までの焦っているような声音とは打って変わって冷静な声音とはにかんだような笑顔で「さっきはお見苦しいところを・・・すみません。」と謝罪する少女にアイリスフィールがきょとんと彼女を見た。

 

「あら、私自己紹介したかしら?」

 

その単純な疑問に少女、久遠が苦笑を浮かべる。

 

「さっきセイバーさんが呼んでたのでそうかなって。すみません。」

 

「ああいいのよ。どうして名前を知っていたのか純粋に疑問に思っただけだから。・・・ところで貴方、さっきあの白いサーヴァントのことについて説明してくれていたけどあの黒い液体については何か知っていたりとかは「呪いの泥」え?」

 

「呪いの泥、ですよ。」

 

先程まで浮かべていた笑顔を消して真剣な、ともして無表情にも見える顔でアイリスフィールから海へ視線を移した久遠はぼそりと「でも、そんなものがどうしてここに・・・というかあのサーヴァントは一体・・・」などとブツブツと呟いていたが余りにも小声で、且つ早口だったためその内容のほとんどはすぐ傍にいたアイリスフィールにすら聞き取ることはできなかった。

 

「久遠?」

 

「え?あ、ああ。前に一度見たこと・・・が・・・。」

 

瞬間。久遠の脳裏にノイズ交じりの場面が浮かび上がる。

 

ーーー地下。空洞。瓦礫。二人の人影。片方が倒れて。姉さん。どうして。赫。銀色の何かが生えて。誰。だれーーー?

 

鈍痛と共に遠のいた感覚が戻ってくる。

 

「っつ。」

 

「久遠・・・ごめんなさい。なんだか無理をさせてしまったみたいね。」

 

「い、いえ、そんなことは・・・。」

 

否定の言葉とは裏腹に身体から発せられる眩暈や吐き気を必死に取り繕う。

敵陣営に弱っていることを悟られまいとする気丈さからくるものではなく、久遠はごく自然にこの目の前にいる白い貴婦人にそんな悲しい顔をしてほしくないという人としての感情からその体調のことを隠し通すことにした。

 

「・・・本当に、少し立ち眩みがしただけですから。お気になさらず。」

 

「そう?でも無理はだめよ?」

 

「はい。」と短く返事を返し、久遠は再び説明すべく口を開く。

 

「ええと、呪いの泥・・・なんですけど。どこから話したらいいかな・・・私、実は聖杯戦争に参加するの初めてじゃないんです。」

 

久遠の発言にアイリスフィールは口元に手を遣り、小首を傾げる。それはそうだろう。聖杯戦争というのはそもそもアインツベルン、マキリ、遠坂の三つの家が編み出した術式でありその一部が漏れてしまったとしても到底真似できるものではない。故に久遠が言っているのはこれまでに開催された一次から三次までのどれかということにアイリスフィールの中では絞られるのだが、少なくともアイリスフィールの聖杯としての記録の中に彼女のような人物に該当するような者は存在しなかった。しかし、目の前の少女が嘘をついているようにも見えない。それが更にアイリスフィールを混乱させた。

 

「・・・残念ながら途中で負けちゃいましたけど。一応私にも役割があったんでそのまま経過を見守ってたんです・・・途中でアクシデントがありまして、その時ですね。あの泥を見たのは。」

 

こともなげにさらりと役割やらアクシデントやらと言っている久遠の話を聞きつつアイリスフィールは頭の中を整理していく。

仮に、冬木(ここ)以外の聖杯が存在したとして。彼女はそこで、ここでいう御三家、もしくは監督役のような立場にいたということなのだろうか。返事を返しつつ、夫に報告すべきかまだ黙っておくべきか考えながら、更に話を聞こうと真剣な表情で久遠の方を見る。

 

「・・・実はそこの聖杯。欠陥品だったんですよ。聖杯どころか霊地そのものが汚染されてて、で、無色の魔力の代わりに溜まってたのがあの泥だったわけです。ほんとにもう最後まで勝ち残ってたセイバー組はちょっとかわいそうでした。結局、セイバーのマスターがそうゆうのの除去が得意な人だったんで最終的な仕事は全部その人がしてくれたんですけど・・・確かあの時はサーヴァントが一体残っただけであとは全員手遅れ・・・というかいなくなりましたね。確か。」

 

「そ、そう。」

 

言われた結果にアイリスフィールの背中に冷たいものが走る。今まで自分も夫も、そしてアインツベルンも儀式が成功することだけを考えて、成功することが前提で(・・・)ここまで来たのだ。もちろん異なる地の異なる器、それも与太話かもしれない話をそこまで鵜呑みにしたわけではない。ないのだが・・・。

 

「(イリヤ・・・。)」

 

もし、もしも何らかのアクシデントがあってこの器(アイリスフィール)が破壊されたら?

もしも最初から先程の話の中であったように何らかのことが原因で聖杯が正しく機能しなかったら(・・・・・・・・・・・)

 

もしも・・・儀式が失敗して我が子(イリヤ)が自分と同じように戦争に参加することになったら?

 

知らず、アイリスフィールは口元に添えた手に更にもう片方の手を添え、震えていた。

どうすればいい。どれが本当で何を信じればいいのか。自分たちは本当に正しい道を歩んでいるのか。

そんな様子のアイリスフィールを余所に無感動に久遠が「動きました。」と目の前の光景をアイリスフィールに伝える。

はっとしたアイリスフィールが海に意識を向けた時には親に当たる海魔を包囲するかのように拡がる呪いの泥と、そこに向かっていく分離した夥しい海魔の群れだった。

 

ーーーAaaaaaaaaaaaaaaa

 

既にかなりはっきり聞こえるようになっていた歌声がより大きく響く。この音がするたびに海魔の群れが動くところを見るに泥に向かってというよりこの歌声に釣られてというほうがしっくりくるのかもしれない。

 

 

ーーーい・・で。

 

ーーーおいで。

 

ーーーかえっておいで。

 

ーーー還っておいで。

 

ーーーさあ、この母の元に。

 

ーーーーーー還っておいでーーーーーー

 

歌声がはっきりとした音声に変わる。と、久遠は自然と一歩前に踏み出している自らの足に気づいた。

このままあと数歩歩けばチャリオットから落ちてしまうのだが何故か向こうの泥に行かなくては、否。行きたいと彼女の本能的な部分が告げているようで、理性で理解していてもずりずりと足が海に向かって前に出る。

 

 

ーーーーか  え   っ   て    お    い    でーーーー

 

 

ふと周囲を見るとサーヴァントもマスターも一般人、動物でさえ皆一歩、また一歩とふらふらと頼りなさげに海を、泥を目指して歩いている。

このままではまずいと久遠が思ったとほぼ同時にざぼっという音とともに親の海魔の周辺の水が根こそぎ消失し、上澄みすらない純粋な泥がその消失した部分を補うかの如く満たしていく。

その泥は明らかに他の海水とは違う動きを見せており、海魔に向かって波が立っている。その波は徐々に大きくなり、最終的に海魔の全長より大きくなるとまるで巨大な手か口のようになった泥が海魔を包み込むように呑み込んだ。

 

ーーー魔女神の顎(ゲート・オブ・ティアマト)---

 

その声と共に海魔は完全に泥に飲み込まれ姿を消す。

正しく一飲みにされたそれは例え異常なまでの再生能力を持った海魔であっても足掻くことすらできず、一瞬で無に還った。

一同がほっとしたのもつかの間。今度はまだ泥の範囲内に入っていなかった海魔の群れが陸地を目指して進行してくる。どうやら生存に必要な魔力を得るために生き物の血肉を求めているらしい。

防戦に徹していたサーヴァントたちがもう一度武器を構えなおす。

 

 

しかし、ウルレシュテムもこれで全て獲ることが出来たとは思っていない。故に、彼女もそのままにはしておかなかった(・・・・・・・・・・・・・・)

 

ざぷざぷと小さな何かが海・・・ではなく泥から顔を出すと一気に飛び出てくる。それは一匹・・・否。一羽二羽どころではなく数えきれないほどの大群となって、一斉に港に向かって飛んできた。

そのうちの一羽が勢い余ってチャリオットまで突進してくる。結果見事にぶつかって落下。その一羽はすんでのところで久遠に抱えられた。

 

「・・・かわいい。」

 

その正体は灰色の羽毛に赤い瞳の手のひら大の小鳥であった。

 

小鳥たちは一斉に上陸した海魔に向かっていくと一匹につき数羽掛かりで啄み始めた。

しかし、このままやられるほど海魔も脆弱ではなかったらしくならばと言わんばかりに近くの個体と融合して巨大化する。が、この小鳥たちも伊達にウルレシュテムと共に神代を生き抜いてきた訳ではない。

ある一羽がぴいぴいという鳴き方をやめたかと思うと突如ぎょろろろという奇妙な鳴き声を出し始める。そして、その一羽に続きまた一羽また一羽と同じ鳴き方を始めたのだ。

そこに新たに泥から排出された数羽の鳥が嘴に何かを咥えてやってくる。と、その何かを鳴いている仲間の口に放り込んだ。

 

「ギャギョオオオオオオオッ」

 

放り込まれた個体が次々と始祖鳥を思わせるフォルムの怪鳥に姿を変えていく。

始祖鳥とは言ったもののサイズがまず違う。この鳥たち一羽につき大きさが大型トラックぐらいある。

この時点でやばいのだが更に現代の鳥には必要ないであろう立派な(鋭い)歯が嘴から覗いている。・・・この鳥たちの歯はサメの様とでもいうのだろうか・・・鋭い歯が隙間なく並んでいた。

翼・・・手羽先の先端は鋭い鉤爪になっており、それ以外の個所は大量の羽毛で覆われ余裕で飛ぶことが出来そうだ。

脚・・・こちらも恐ろしく頑丈そうなつくりの足で、現存する鳥類の中だとおそらくヒクイドリに近いような気がする。ただし大きさも爪も(略

 

最早小鳥でも鳥でもない、TORIである。

 

 

とんでもねえ進化を遂げた鳥たちが先程まで数羽で一匹を啄んでいた海魔を一羽で貪り喰っていく。

地獄絵図というかここだけ軽く時代朔行紛いの出来事が起きている。

流石に魔術師といえどこれは見ていられなかったらしく皆一様に顔を背け、口を覆っていた。

そこに上の方から何か繭のような球体がゆっくりと降ってきたかと思うと、それがシュルシュルと解け、中からウルレシュテムと大勢の人々・・・大部分は子供であった。が出てくる。

近くにいたTORIの頭を撫でながら「これでいいんですよね?」と聞いたのだが返事が返ってくることはなく、しばらくしてから桜のみが「ママってすごいんだね。私も頑張らないと」と言って雁夜が泣いた。

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

ダンッというテーブルを乱暴にたたく音が静寂の漂う空間を震わせる。

 

「おのれ・・・ランサーのやつめ、混乱に乗じて仕留めて来いと言ったというに・・・教会も教会だっ何故こんな異常事態だというのに調査もしない?すべて後手に回っているではないかっ」

 

ケイネスが苛立だし気に頭を抱える。

これだから異教徒狩りと神秘の秘匿にしか頭のいかない輩はっなどとブツブツと文句を言っているとコツリとヒール独特の硬質な音とともにソラウが入室する。

 

「起きてしまったことは仕方ないわ。それより頼みの綱だった教会がこんな体たらくでこれからあなたはどうしようというのかしら?こんな些細なことにわざわざディルムッドまで使って・・・。」

 

ディルムッドがいないせいかいつにも増して冷徹な視線がケイネスを射抜く。

 

「・・・まさか、ここまで教会が頼りにならないとは思ってもみなかった。とりあえずランサーが帰還次第今の工房は転居する必要がある。君は・・・。」

 

「言い訳はいいわ。行き当たりばったりはもうたくさん。やっぱり頼れるのは彼だけよ。」

 

大袈裟に溜息を吐いたソラウはそのまま部屋を退出する。

彼女が退出した後、ケイネスも溜息を吐く。

 

動かない教会。不安要素にそれを決定づけるに値する材料。魅了の解けない婚約者。

ケイネスはそんな増えていく問題に頭を痛める。

 

ーーーこんな時に彼女がいてくれたら少しは楽だったろうに。

 

時計塔に在籍している教え子の一人で魔術師の当主のスペアとして育てられたにも関わらずケイネスの補助業務すらやってのける生徒。

容姿は婚約者に少し似ていて、赤毛のーーー。

 

「名前は確かーーー何だったか。」

 

こんなことなら意地を張らずにつれてくるべきだった・・・。

正確には意地ではなくソラウに対する見栄なのだが、減らないどころか増えていく悩み事にケイネスは再度頭を抱えた。

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

ところ変わってイギリス。某空港にて

 

いかにも重そうなキャリーケースにこれまた重そうなボストンバックを幾つか手に持った女性が飛行機の予定を確認していた。背格好からして女性だということはわかるが肝心の顔は長い赤毛に覆われよく見えない。

 

「・・・ええと。日本行きの便は・・・あった。」

 

搭乗口へと歩を進めると女性の髪が揺れて顔が現れる。

 

「待っていてくださいね先生。今行きますから。」

 

現れたその顔はソラウ・ヌゥザレ・ソフィアリと瓜二つであった。

 




・・・というわけで一行が海魔を討伐している間にケイネスさんに不穏な影が・・・?
みたいな回であったわけですが・・・。

うん、まあ今回はそれよりも鳥の超進化が個人的には・・・。
あんなにかわいかったのにね・・・あ、ヒクイドリはかわいいですよ。よろしければ検索してみてください。

それでは閲覧ありがとうございました。


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衛宮切嗣は失敗した。序.

お久しぶりです皆さん。

なかなか投稿できなくてすみません。

不定期更新の件ですがとりあえず難は逃れそうといいますか・・・一応大丈夫になりつつあります。・・・このまま何事もなければ。

それでは今回も閲覧よろしくお願いします。


とある港付近の建物の屋上。

風に羽織っているコートをはためかせながら男ーーー衛宮切嗣はスコープから目を離さずに、さりとて決して動じていないというわけでもなく港の方を見ていた。

その額には彼にしては珍しく、一粒。汗が伝っている。

 

ーーーどういうことだ。

 

間桐雁夜の召還したであろうサーヴァントを切嗣は裏切りの騎士ランスロットであると仮定していた。

何故バーサーカーで顕現したのかは不明だが、円卓一の剣の使い手であり策謀にも長けたかつての理想の騎士。

そう思って作戦も練って、確認と各陣営の炙り出しのために、そして何よりよりアイリスフィールがマスターであるという誤情報をさらに刷り込むためにこの海魔退治に赴いたのである。

少なくとも最初はそのつもりであった。

 

 

再度脳内で確認作業を行う。

バーサーカー。円卓の騎士、ランスロット。湖の乙女に育てられた、円卓一の剣の使い手、湖の騎士。

彼の逸話は多数あるがその中でも有名なのは円卓の他の騎士の身代わりの決闘、王妃との不義の恋etc.

しかし、彼はあくまでも使い手であり、身代わりの決闘の時は武具を借りて(・・・)戦ったのだ。

武器を作り出すなんて言う器用を通り越した能力など彼にありはしないのだ。逸話を見る限りは。

彼女と接触したセイバーもこれといった反応をしていないところを見るに彼、否。彼女は十中八九ランスロットではないのだろう。それこそこれもまた逸話故に姿を偽る能力でも持っていない限り確実だといえた。

 

「・・・図られた、か。」

 

舌を打つ音が虚しく響く。ボリボリと自身の頭を掻いて切嗣は懐から無線機を取り出すと早速中継地点に待機している助手に連絡を取った。

 

「・・・してやられたよ。まさか、聖遺物がダミーだったなんてね。映像も経路もしっかり魔術師らしいものだったから油断してたのかな。・・・舞弥、使い魔の方はどうなってる。」

 

『はい。一機も破壊されることなく万全の状態で情報を収集しています。・・・おそらくあのライダーのマスターだと思われる少年と間桐雁夜、その肉親と思われる少女以外察知している可能性が拭えませんが・・・いかがしますか。』

 

無線から抑揚のない女声・・・助手の舞弥の声が淡々と響く。

 

「・・・そのまま続けてくれ。ただ、君は既に使い魔越しに位置が把握されている可能性がある。このまま使い魔を残して撤退しろ。」

 

 

了解。と短い切り返しが返ってきたかと思うと即座に通話が切断される。

さて、と呟いて無線をしまうと今度は携帯電話を取り出す。

 

「・・・もしもし、アイリ?ああ、僕だ。少し頼みがあってね。それとなくセイバーに彼女と面識は・・・いや、似たような特徴の人物はいなかったか聞いてみてくれないかい?・・・うん。それじゃ。」

 

携帯電話を閉じる。もしもの可能性としてアイリスフィールに言伝を頼んだがきっとあまり期待できないだろう。

口元に柔らかな微笑を浮かべつつも、目には剣呑な色を残したまま切嗣は港を再度見た。

 

「間桐雁夜に、謎のサーヴァント・・・ね。」

 

もし、彼女が本当にかのランスロット卿、またはその関係者でなかった場合。この偽物の聖遺物入手からこれまでの手際の方を考えてもサーヴァントだけでなくマスターも一筋縄ではいかないような人物だろう。むしろーーー。

 

「・・・面倒なことになってきたな。」

 

間桐雁夜。代を重ねた魔術の家に生まれながらも家を出て以降。時計塔や・・・これはさすがにないとは思うがアトラス院といった組織に与すことなく一般人として生きながらもただひたすらに牙を研いできた魔術使い。

切嗣を同じタイプの生き方の人間であることは無きにしも非ずである。ご立派な魔術師を相手取るより厄介だ。

 

ーーーさて、どうする。

 

この隙に暗殺。なんてことは他のサーヴァントがいる手前まず無理だ。

しかし、この会合が終わってしまった場合間桐の結界が邪魔をして始末が面倒になる。

アナグマを外に、切嗣にとって優位な場所におびき寄せるには・・・。

 

意を決して、切嗣はもう一度携帯電話を取り出した。

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

「・・・ええ、分かったわ。」

 

夫からの着信が切れた後、アイリスフィールは己に与えられた役割を実行すべく気取られないよう考え込む。

 

「アイリスフィールっ。ご無事ですか。」

 

そこへ己のサーヴァントのふりをしてくれているセイバーが駆け寄ってくる。

純粋な心配もあるのだろうが仮にも守るべき存在であるアイリスフィールが敵陣にほど近い場所に一人で、という状況も鑑みての警戒もあったのだろう。

駆け寄ってきた少女騎士を安心させるかのようにアイリスフィールは微笑みを浮かべた。

その様子に共にチャリオットに乗っていたライダー陣営の二人は苦笑すると、ライダーに言ってチャリオットを地に着けアイリスフィールをセイバーの許に降ろした。

 

「ありがとう。助かったわ。・・・久遠とはもう少し話していたかったのだけど・・・またの機会によろしくお願いするわね。」

 

その言葉に久遠がこくりと気恥ずかしそうにうなずいたのを確認したアイリスフィールはセイバーの方に向き直ると、音量を小さめにセイバーに話しかける。

 

「セイバー・・・貴方の知り合いにあの白いサーヴァントの様な人はいた?」

 

突然の問いにセイバーは意図が飲み込めないなりに「は、はあ。いなかったと思いますが。」と回答する。

「そう・・・。」とまたも考え込むアイリスフィールに今度はセイバーが重い口を開いた。

 

「・・・申し訳ありません。アイリスフィール。なにぶん自身の統治する国の事にしか、目を向けていませんでしたから。」

 

言ってセイバーはわずかに俯き、その面貌に影が差した。

彼女は清く正しい王として国を、民を導こうと剣を取った。しかしその実彼女は民や国を一個の群体としては見ていたもののひとりひとりに寄り添えたわけではない。仮にあの白いサーヴァントが故国の民か、はたまた異国の同時代を生き抜いたものだったとしても彼女には思い出せなかった。心当たりすらない。

目の前の夫人の期待に答えられない悔しさと、どれだけ自分が全体を重視したが故に個を大切にしてこなかったかを見せつけられたかのようで不甲斐無さがその表情に見て取れた。

対するアイリスフィールはセイバーからの答に更に思考を巡らせて、一つの可能性を見出す。

 

「いいえ、いいのよセイバー。ただ・・・ね。あなたが思い出すのもつらいかもしれないのだけれど・・・」

 

アイリスフィールが更にセイバーとの距離を詰め、何事かを耳打ちする。と、その言葉が余程衝撃だったのかセイバーは目を見開いてしばし唖然とした後、眉を顰めた。

 

『ランスロット卿の愛人だったりとかは・・・無いかしら?』

 

「・・・あまり考えたくはないですが、無くはない・・・ですね。」

 

私の(妻の)件は有難かったですが、それ以外にも複数の方と関係を持ってそのことが原因で我が卓を囲む騎士たちと諍いがあったりもしましたから。と、遠い目をしながらかの騎士王は呟いた。

女関係のエピソードが豊富なランスロット。やはり円卓時代も相当爛れていたらしい。

セイバーの複雑そうな表情を見ていられなくなったアイリスフィールは何とか話題をそらさなければと思い無理に明るい声で、再度セイバーに話しかける。

 

「そ、そういえばあの白いサーヴァント。剣を作ったり、かと思えば海の一部を泥に変えたり、TORIを出したり芸達者ね。もう現代ではああいうものはそれこそ大掛かりな儀式が必要だろうけど・・・セイバーの時代の魔術師はどんな魔術を行使していたの?」

 

「魔術師・・・ですか?やはりよく知っているのは私の教育係の・・・所かまわず花を咲かせる魔術とかでしょうか。女性関係がおおらかすぎてあまり人としては・・・そういえば件の騎士もどこぞの姫を手酷く振って死体が呪詛入りの手紙と一緒に国に流れ着いたことがありましたね。そのうちなんだかよく分からないうちにこれまた他所の方との間に知らない間に子供ができていたりとかしました。本人は誤解ですとか言ってましたが。そのくせ詰めが甘くて、私の(妻の)時も遁走の時に一緒に連れて逃げればいいものを・・・。」

 

子どもの方は彼の息子とは思えないほど純真で・・・彼こそが最高の騎士なのではないかと思ったほどです。言葉を吐き出すごとにセイバーの瞳が淀んでいく。ここまでくるとアイリスフィールもセイバーの心配よりも彼女の口から語られたとんでもねえ男の、その被害者(かもしれない)の女性の方に同情を禁じえなかった。

のだが、此処で最大の矛盾が発生する。

 

「あら?でも彼女。ギルガメッシュの姉って・・・?」

 

アイリスフィールの疑問に対しセイバーがぽつりと返した。

 

「・・・いえ、接触した可能性は捨てきれません。」

 

蛮族との戦闘の際にかの騎士のみが数日間戻ってこず、てっきり死んだものかと皆で葬式の用意をしていた時にひょっこり戻ってきた彼は目をそらし、挙動不審ながらも「実は穴に落ちまして・・・。」と何やら軽く時空越えた的な話をしたことがあったそうな・・・。なんだか眉唾物な気もするが、此処までの彼の奔放?な女性関係にセイバー、アイリスフィール共にランスロットの株は急降下中であったため疑問も突っ込みもない。

語るセイバーの眼は何故か黄金の冷たい輝きを放ち始めていた。

 

「・・・全くどれだけの女性に迷惑を掛ければ気が済むんだ・・・傍迷惑騎士め。」

 

勘違いが加速する中、桜の隣に待機していた大きな犬・・・ロットがおおきなくしゃみをした。

心なし耳が垂れ下がっているような気がしなくもない。

 

「一体どう謝罪すれば・・・あっ。」

 

セイバーと共に申し訳なさやら悲しさで押しつぶされそうになっていたアイリスフィールは脳裏によぎった愛する夫のもう一つの言伝を思い出し、さっきまでの暗い表情は何処へやら。セイバーに一声かけた後、気丈な態度で一歩、前進する。

 

『バーサーカー陣営と同盟を組もうと思っているんだけど・・・。きっと僕からじゃ怪しまれるだろうから。それとなくアイリから同盟の申し入れではなく・・・こう、今日の件での食事会でも。みたいなノリで約束だけ取り付けてきてくれないか?・・・もし怪しまれるようならアレ(・・)を出してもいい。頼めるかい?』

 

 

頭の中で切嗣の言葉を反芻し、すうっと息を吸い込むと真っ直ぐに白いサーヴァント、ウルレシュテム。正確には彼女の立っているこの場の中央に近づいていく。

 

「此度の騒動の鎮圧。他の二家と教会に変わって感謝いたします。そして、こちらから何の行動もなくこのような事態を引き起こしてしまったこと、深くお詫び申し上げます。・・・本当に申し訳ありませんでした。システム上教会からしか令呪や特別な措置というものは取れない仕組みになっているが故にあなた方が満足いくような品をご用意することは不可能かとは存じますが、私もこれでも御三家の端くれ。何も贖うことなくこの場を辞してしまうのは恥の上塗りに他なりません。よって、ささやかながら我が城にて宴を開こうかと思っております。後程使いのものをお送りしますのでよろしければご検討ください。」

 

裾を摘まんで頭を下げる。その優雅な動作はやはりというか、完璧な貴族の気品が漂うものであった。

その一連の動作に呑まれつつもやはりというか半人前であっても魔術師社会で生きてきたウェイバーが精いっぱい声を上げる。

 

「謝罪はわかった。・・・けど、それだけじゃやっぱり判断する材料には弱い、と思う。御三家としての誇りや責任があるのはわかるけど、それだけだ。僕はあなたたちのことを何も知らないし。悪いけど信用することは・・・もがっ」

 

「ふむ、その話乗ったっ。では余は極上の酒を持参してゆこうっ。」っぷはっ、おいっ何勝手に決めてんだ。僕がマスターだぞっ。」

 

途中で押しつぶされていたウェイバーが抗議の声を上げるが、それを意に返さないかのような態度でライダーが「うん?はっは。何いっとるんだ坊主。どこぞ・・・いやこの国のものだったかの諺には虎穴に入らずんば虎子を得ずなんて言うものもあるくらいだ。まずは何事も挑戦してみなくては先に進めんぞ」と言って豪快に笑う。

 

「そんなの知ってるよバカ。けどそれはあくまでも一般人っ。魔術師だと通用しないんだよっ。このバカっ。」

 

言い返すウェイバーは既に涙目であるがそんなのお構いなしにライダーは豪快に笑ったままだ。

久遠はその様子をおろおろしながら見ているところを見るといまいち判断しかねるといった所であろうか。

そんな騒がしいライダー陣営以外の陣営は恐ろしいほどの沈黙を保っている。

 

「そうですか・・・。」

 

その様子にアイリスフィールは溜息を吐くとポケットの中から一枚の封筒を、更にその封を切り、中に入っていた一枚の紙を取り出す。

そこに入っていたのはーーーーーセイバーの本来のマスターである衛宮切嗣、並びに彼のサーヴァントであるセイバーは此処に集まっているであろう人物には今後一切手を出さない旨の書かれた誓約書・・・セルフギアススクロール。だった。

 

「・・・これは単に私のわがままですが、既に味方からの許可は取ってあります。どうしても信用するに値しないというならばそこまでですが・・・こちらを証拠に・・・ということでは駄目でしょうか?」

 

余りの急展開に魔術師であるウェイバー、久遠、そして遠見をしていたケイネスは唖然とする。

もちろんといえばいいのか何故と問えばいいのかわからないがセイバーも呆然と固まる。

いくら御三家で責任感じてるからってそこまでするとかないだろ。かたやそんなこと聞いてませんよっ。と。

ただ一人、急増の魔術師でありことの重要性がわかっていない雁夜だけが、雰囲気に乗せられて険しい顔をしつつも、隣にいた綺礼に「あれ、俺も見たことあんだけど。あれって結局なんなんだ?確か時臣の奴がセルフギアスなんちゃらとか言ってたけど・・・あれのことか?」などと魔術師にあるまじき発言をしていたが皆スルーした。

 

「それでは、色よい返事をお待ちしております。」

 

再度行われた優雅なお辞儀とそのアイリスフィールの言葉が、この場の幕引きとなった。




色々収集がつかなくなりつつある勘違い。

ちなみにこちらの世界のランスロットと主人公は面識ありませんが向こうの世界のランスロット含めいろんな方面の人と(間接的に)主人公は面識あります。
赤弓こと衛宮士郎とも久遠とも面識があったりします。
・・・彼女本人というわけではないんですが。

閲覧ありがとうございました。


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迷走

誤字脱字修正しました。
ありがとうございます。

更新が遅くなってしまい申し訳ありません。
よろしければご覧ください。

・・・切実に機械と相性の悪い自分を改善したいです。




簡素な作りの寝台にこれまた簡素な作りの机と椅子、そしてテーブルが置かれているだけの部屋に二人の人影があった。

一方の男・・・ウル・ルガルは机とセットになっている椅子に腰かけて本を読んでいる。

その様子を寝台に寝っ転がった少女、白野はちらりと盗み見た。

足を組んで椅子に腰かけて本を読む様はまるで絵画のように様になっている。

・・・たまたま目に入った本のタイトルが「これで奴もイチコロ!!バレない最期の作り方!!」だったのはこの際見なかったことにした。

 

ーーーいつもと変わらない・・・みたい・・・だけど。

 

自身の中の疑念のようなものが沈下せず、燻ぶっているような不快感が波のように揺らめいている。

ついさっきあった、ことの発端である出来事を回想する。

 

 

確か、アイリスフィール?と呼ばれていた女性の進言からだった気がする。

 

彼女の進言にいつの間にか近くに戻ってきていたルルが一瞬眉根を寄せた。大方指図されるのが嫌いだからとか・・・いや、もしかしたら他の、自分には考えつかないようなことも多分に含まれていたのかもしれないが。不快感と・・・自分に向けられているわけではないとわかっているのに、のにも係わらず寒気の止まらない殺気が垂れ流された。ルルが静かに、けれど確かに怒りを表現しているのが伝わってくる。

 

その場にいるマスターはそれが何なのかわかっているのかは定かではないが、動けない。もちろん自分も。

 

動いたら確実に死が待っている。

足先と手先から冷たく重くなり、徐々に石化でもしていっているかのような錯覚に陥る。

極度の緊張と恐怖から歯の根がガチガチと音を立てそうになるが、それすらも、許してくれない。

 

ここでの挙動の継続を、彼は許していない。

 

ここでの暴挙の成立を、彼は認めていない。

 

ここでの生命の継続はーーーー彼に見定められている。

 

 

唯一自分が自由に動かせる部位・・・目を使って周りの様子を見ると固まったマスターに、警戒または感心といった表情のサーヴァントたち。特に誰に対しての殺気か如実に察知しているセイバー?らしき青いドレスに甲冑の少女がアイリスフィールの前に歩み出て、完全とは言えないが、ウル・ルガルの視線からその姿を隠し、剣を握るような構えを・・・いや、恐らくは見えていないだけで持っているのかもしれないが構えを取る。

 

その少女騎士の強気な態度にルルの口元がかすかに綻んだ。

・・・笑い方からするにまだ取り繕えているのだろうが、きっとこんな大衆の面前でなければニヤリとかという擬音が似合いそうな笑みを浮かべていたに違いない。そういえば、月の裏側で彼のSGを取得した際に更新したプロフィールの好みのタイプにかなり当てはまってるな彼女。確か、金髪碧眼で、スレンダーで、反骨精神溢れた乙女だったか・・・。あ、なんかモヤッとしてきた。

 

・・・話がかなり脱線してきているのを自覚し、軌道修正を図ろうとしたとき。

ガシャリと自分の、牽いてはルルのすぐ近くから硬質な鋼の音が聞こえる。

そちらに目を遣ると先程の少女とよく似た、同時に対照的な少女がこちらに剣を向けていた。

こちらというか、正確にはルルに。

 

「おい。あの人は俺の獲物だ。勝手に手えだそうとすんじゃねえ。それでもやるってんなら・・・まず俺が相手になるぜ。」

 

きわめて冷静な声音のそれを聞いたルルは先程までの笑顔とは打って変わってはあ、と溜息を吐いた後、唐突に「飽きた。帰りましょう。白野」と言って自分を抱えてその場を後にした。

そのままこの仮宿であるホテルにチェックインしたのだが・・・。

 

 

ちらりともう一度己の相棒を見ると今度こそ完璧に目が合った。

 

「・・・さっきから視線を感じるんですが。何か。」

 

「・・・別に。何にもありませんよ。好みの少女が続々現れて両手に華状態のウル・ルガル・サン。」

 

思考をごまかすために少々憎まれ口をたたいてみることにした。

 

「は?両手に華?」

 

「本当に何でもないので気にしないでください。前半子供の自分にまかせてたウル・ルガル・サン。」

 

あ、なんかこれ楽しくなってきた。

 

「・・・・。」

 

「SG2のせいで本当に大切になった相手にはプラトニックでピュ「白野」

 

強い調子で名前を呼ばれて反射的に相棒の方に顔を向けると滅茶苦茶いい笑顔のルルがすぐそばまで移動していた。

 

「それ以上言っても一向に僕は構いませんが・・・もれなく君の寝床はそこになりますよ?」

 

指さされたのは冷たくはなさそうだが硬そうな床だった。

あの校舎のマイルームと違って木で無い分まだマシだろうがカーペットの毛が短く硬いため、やはり硬いことに変わりはない。あの月の裏側での前半の苦しみが頭をよぎった。

 

「ごめんなさい。調子乗りました。ほんとスミマセンでした。」

 

正直に謝っておくが吉。ということで速攻で謝罪した。

ベッドの上で正座はなかなか難しい。足が痛くなってきた。と、足を気にしていた、ら。

いきなり放り投げるかのような勢いで体勢を崩された。

不時着の際ぐっっと少しうめき声をあげるとさらにその上にルルがドスリと乗っかってくる。

思わずグエっというカエルの潰れたような、おおよそ年頃の女の子が出してはいけないような情けない声を上げてしまう羽目になった。耳元でふふっと笑う声が聞こえてくる。あと何気にいい匂いがする。ムカつく。

謝ったのに。

 

「何考えているのかは知りませんが。僕があの場を何もせずに離れたのはなにも邪魔が入ったからとか。好みのやつがいたからとかじゃないですよ?あの人形の今後が見たくなったからです。」

 

「え」

 

普段からいろいろとムラがありそうで、且つ自分勝手で全部おじゃんになっても楽しければそれでいいとか言っちゃう災害みたいな奴なのに!?見たくなったからっていう理由だけで抑えて帰ってきたっていうのか?

ありえ・・・るな。うん。

 

「・・・なんか君の中の僕がどんな奴かすごく気になりますがまあいいでしょう。」

 

言って、バビロンからワインを取り出し呑み始める。

その前にこの体勢を何とかしてほしい。正直キツイ。

 

「あの様相から鋳造されて数年ってところですか。それであんな確固たる自我を得ているとは恐れ入ります。いい教師に恵まれでもしたんですかね?・・・あの一心不乱な献身、動力源(りゆう)が何であれこの茶番のいきつく先が見えた時。あの人形がどんな顔をするのか・・・ちょっと興味があります。まあ、他二人にもモデルケースとしては興味あるので一概に外見が好みの二人=興味がないとは言えませんが。」

 

そんなことをいいながらさらにワインを一口口に含む相棒。

いや、だからさ。そろそろ・・・。

 

「早く退けろください。GSO(それが理由?というかモデルケースって・・・。)」

 

間違った。

 

思わず発した言葉に自分の口をふさぐ。

が、時すでに遅し。ズシリと更に体重が掛けられた。

 

「おっと急に眩暈が・・・。」

 

わ、わざとっ。絶対に楽しんでやがるこのGSO。

と、とりあえず抵抗しないと本当につぶれる。

 

 

ガシャンっと部屋の窓ガラスが割れ、何かが室内へと突っ込んできた。

羽をばたつかせるそれは蝙蝠の形をしている使い魔だった。首に何かが巻き付いている。

ルルがその首についた紙を取って使い魔を窓の外へと放り投げる。

酷く雑な扱いをされた使い魔はそのまま落下し、ホテルを囲むように設置されている塀の突起のデザインの部分に突き刺さって消えた。自分はその様を窓から口を開けてみていたのだが、そこまでの動作を行った当の本人はその出来事に一瞥すらくれてやらず、使い魔の運んできた手紙に目を通している。

その口元はよく見れば笑っていた。やばい。絶対にろくでもないこと言いだすぞこのGSO。

 

「ふふっ・・・白野。疾く身なりを整えよ。出掛けるぞ。」

 

やっぱりいいい。そうだよね。そうだと思ったっ。

 

「え、さっき帰ってきたばっか・・・」

 

「気が変わった。何、寝るだけなら向こうで済ませればよかろう。」

 

「いやあの・・・」

 

「んん?なんだ?先程の戯れで足が動かんのか?よし、今(ボク)は気分が良い。故に抱えて行ってやろう。(ボク)の寛大さに咽び泣くがよいぞ。フハハハハッ」

 

「それ只単に私に拒否権無いって言ってるだけだろっ・・・ってぎゃああああっ。」

 

この後白野はウル・ルガルに俗にいうお姫様抱っことやらをされながらライダー陣営にお出掛けという名のカチコミを掛けることになった。

後に白野はこう言った。

 

「もうヤダ。白野、ムーンセル(おうち)。帰る。」

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

ウェイバーはザッザッと箒と塵取りを使ってガラスの破片を集めながらふうっと溜息を吐いた。

なぜこんな作業を仮宿にしているマッケンジー家の部屋で行っているのかと問われれば侵入者が来たからに他ならないのだが、自分が幾重にも厳重に掛けた自信作の結界やら暗示のトラップやらを難なく抜けられてしまったことは思った以上に彼の心に堪えていた。

最も、その侵入者である妙なサーヴァントとそのマスターらしき少女も「呼ばれてないけれどお邪魔します」とか言って自身のサーヴァントであるライダーにアインツベルンの招待の件で何か持って行かないかなどといったまるで遠足の打ち合わせのような話をして帰って行った後なのだが、正に嵐の如くである。

バカにしやがってとか、いつもの自分なら言うのであろうが今の自分にそんな余裕はない。

 

「ライダー。久遠の様子。どうだ?」

 

「どうだ・・・と言われてもなあ・・・さっきからずっと何事かを呟いておるぞ。」

 

「そう・・・か。」

 

先日拾った可笑しくも何処か頼もしい・・・否、何処か危うげな少女は現在何か、自分の殻に閉じこもるかのように部屋の隅で膝を抱えて何やらブツブツと独り言を呟いている。時折ノートを取り出してはそこに何かを書いて、それを塗りつぶして消すという作業を繰り返すそれは頭の整理をしているというより狂気のそれに近い。

かと思えば出会った当初のように自身の世界とこの世界の聖杯についてすり合わせを行いこの戦争の解明やら、アドバイスやらをしてくれる良き協力者に戻るときもあったりと・・・ともかく不安定なのだ。

 

「坊主・・・悪いことは言わん。あ奴を遠回しに引き入れたのは余だが、あまり深入りしようとするな。」

 

「・・・っけどっ。・・・僕にだって何かできるかもしれないだろ。」

 

納得いかなそうな表情のウェイバーに諭すようにライダー・・・イスカンダルは続ける。

 

「お前のそういう放っておかない所は美点だろう。が、お前はまだまだ未熟だ。故に隙も多く、何より引っ張られやすい。」

 

ああゆうのには特にな。とイスカンダルは顎をしゃくって久遠を指した。

 

「・・・あの娘は物事を客観的に捉えているようでその実主観的に、一方向しかみとらん。それも今にも堕ちそうなほうにだ。ああいうのは周囲に影響を与えやすい、良くも悪くも、な。」

 

普段はそんなところはおくびにも出さないんだがなあと困ったように頭を掻くイスカンダルから久遠に視線を移したウェイバーは言い返したかったが、そのあとに続く言葉が見つからず、ただ、久遠を見つめることしかできなかった。

 

そんな二人を余所に少女はブツブツと話し続ける。

 

「姉さん。どうして。」

 

「彼岸。何処にいるの。」

 

「■■。あなた。」

 

「獣、泥、セイバーの・・・?」

 

「残りは何騎?」

 

「許さない。許さない。許さない。」

 

 

ーーー果たして。その言葉は誰に向けられたものだったのだろうか・・・?




久遠さんは一応中身のイメージは遠坂凛・・・というよりオルガマリー所長に近いです。
ただ、元居た世界での出来事と、そのあとにある人物からちょっと記憶とかその他もろもろいじられているので滅茶苦茶不安定かつ性格とかも元とは大分違います。

では、閲覧ありがとうございました。


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衛宮切嗣は失敗した。壱.

今回はわかりやすい間違い探しもあります。


「ママ、ママ。こっちにおいしそうなお菓子があるよ。」

 

薄ピンクを基調にしたふんわりとしたデザインのドレスを着た桜が顔を輝かせながらウルレシュテムの方を見る。

そんな愛娘の様子ににこにこと微笑みながら対応する彼女は内心かなり荒ぶっていた。

 

(ボク)の馬鹿っ。なんでカメラ持ってこなかったよっ。超かわいいよ我が子っ。

くっ仕方ない。今は心のレンズに・・・網膜に焼き付けるしかっ・・・後で思う存分写真撮らせてもらおう。

 

魔力吸収、物理半減、魔力障壁・・・etc.etc.幾重にも機能を重ねて作られた礼装ドレス。

桜に似合うようにデザインも細部までこだわった安心と信頼のウルレシュテム製である。

そんな自作のドレスを着て喜んではしゃいでいる我が子。

 

・・・ああ理想郷(アヴァロン)は此処にあったんだ。

 

余りの感動に彼女の持つクラッチバックがミシミシと嫌な音を立てているがそこはご愛嬌である。

 

 

一方そんな親子を微笑まし気に見守る男が二人。

 

「無邪気にはしゃぐ桜にそれを見守る姉上・・・いい、実にいいではないか。」

 

「さ、桜ちゃん。あんなに明るくな・・・ゔぅ。」

 

片方は涎。もう片方は身体から生成されるであろう汁という汁を垂れ流しており、両方とも不審人物のそれである。

しかし、悲しいかな。この場にその有様にわざわざ突っ込みを入れてくれるような人物はいなかった。

 

 

「うわあああん。オレが、オレだけがあいつのサーヴァントじゃねえのかよおおおっ」

 

「・・・マスター。やけ酒も結構だがせめて食事を摂り給え。そのままではアルコールのまわりも早いし、何より身体に悪いぞ。」

 

泣き叫びながら酒を煽る少女が一人。そしてそんな少女の元に食事を運びつつ苦言を申し立てる男が一人。

 

「うっせえええ。うわああああん。」

 

少女は何を思ったのか男に足払いを掛け相手を転ばせると馬乗りになる。その手には酒瓶が握られていた。

 

「ぐっマスター!?いったい何をっ」

 

「この際テメーも付き合いやがれっ吐くまで飲むぞっ」

 

「ぐっがぼっぐぼぼっ」

 

相手の状態がどうであろうと酒を流し込んでいく。質の悪いノミニュケーションが始まった。

 

 

「ウェーバー、うぇーヴぁー。このお肉おいしいよ。」

 

ヒックと言って顔を紅潮させた久遠がウェイバーとライダーに思い切り手を振っている。

 

「僕の名前はウェイバーっ。ウェーバーでもうぇーヴぁーでも・・・ってクサッ」

 

あまりの酒臭さにウェイバーは顔をしかめた。が、そんなこと彼女は気にせずに今度はライダーにお肉を勧めに行っている。これくらいの酒臭さは平気なのかライダーと会話を弾ませた後彼女はこれまた大きな声で「ちょっとトイレに行ってくるっ。」と意気揚々と何処かへ歩いて行ってしまった。

 

「はあ・・・元に戻ったと思ったらこれだよ・・・あれ?」

 

そういえばあいつ、トイレの場所わかるのか?ウェイバーの素朴な疑問はそのまま場の空気に流され消えた。

 

遅れて到着したイレギュラー(ハンドラー)陣営はサーヴァントらしきウル・ルガルの姿は既になく白野のみが、なぜか一緒についてきたらしき正規のアーチャーである英雄王と共にひたすら出された食事を食べつつライダー陣営に歩を進めている。その様子に一瞬呆けたライダーはガハハと豪快に笑うと手招きをしつつ「一杯どうだ!」と樽を叩いた。

 

 

「ケイネス。私はあっちの魚料理を取ってくるけれど貴方も食べる?」

 

「う、うむ。・・・いや、やはり私がとってこよう」

 

「あら、いいのよ。気にしないで。私が好きでやっていることだもの。」

 

「そ、そうか?それでは頼もう。」

 

ランサー陣営はなぜかサーヴァントを実体化させておらず、マスターであるケイネスとその婚約者であるソラウが出席していた。ケイネスを献身的に気遣うソラウに照れたようにはにかみながらも応えるケイネス。初々しい二人である。ケイネスに関しては確執のあるウェイバーが近くにいるにも関わらず何も反応しないところを見るに相当浮かれているのだろう。

 

「ふふっ。」

 

そんな各陣営の様子を見ていたアイリスフィールの口から自然と笑いがこぼれる。

 

「楽しそうですね。アイリスフィール。」

 

コツリと隣に立った黒スーツ姿のセイバーが微笑む。

 

「・・・ええ。ここの所戦争のトラブル続きだったから・・・自分でもわからなかったけれど、私かなりピリピリしていたみたいなの。だから、たとえ今だけだったとしても楽しまないとなって。あ、別に無理しているわけじゃないのよ?ただ、緊張は取れたみたい。」

 

その言葉にゆっくりと首を左右に振ってセイバーは言葉を返す。

 

「いいえ。貴方が笑ってくれているほうが私もうれしい。」

 

その言葉に一瞬呆気にとられたアイリスフィールだったが、すぐに立ち直ってもう、上手ね。セイバーは。とクスクスと少女のように笑った。その言葉に返答しようとしたとき、ライダー陣営の方からセイバーを呼ぶ声が聞こえてアイリスフィールに背中を押されたセイバーが渋々とそれに応じる。セイバーを見送った後、アイリスフィールは先程までとは打って変わって少し沈んだ面持ちで自身の手の甲を見る。

そこにはもしもの時のためにと最愛の夫から託された令呪が一画浮かんでいた。

 

「・・・切嗣。」

 

ーーー何もないといいのだけれど。

 

 

アイリスフィールは、祈るような気持ちで自身の両手を握りしめた。

 

 

 

 

    ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

そんな庭の様子をちらりと眺めた後、衛宮切嗣は作業を再開した。

暫くカチャカチャと導線を弄るとそれを柱に固定する。

 

ーーーここの設置は終わった。後は・・・。

 

「随分と。」

 

そんな作業が終わって一息吐いた切嗣に背後から不意に声が掛けられる。

 

「随分と念入りに準備をなさるんですね。」と背後の人物が呟くのと切嗣がその人物に向かって発砲するのはほぼ同時だった。

背後にいた人物ーーーウル・ルガルは弾が掠って血の流れる頬(・・・・・・)をそのままに微笑を浮かべている。

 

「何処から入った。」

 

切嗣の背中に汗が伝う。彼は今純粋に焦っていた。

不確定要素をはらんだバーサーカーにそれに引けを取らない複数のイレギュラー陣営。

そんなイレギュラーどもを一掃するためにいささか強引ではあったもののセルフギアススクロールまで出して一網打尽にするための策を練ったというのに。

 

こんなに早く、それも一番厄介そうなやつにバレることになるとは。

 

ーーーどうする。

 

本能が警鐘(アラート)を鳴らす。

理性が数多の余分な機能を抑制する。

 

 

「何処から?そんなのどうでもいいじゃないですか。」

 

沈黙を割いたのはウル・ルガルであった。

 

「僕と、取引しませんか?魔術師殺し(エミヤキリツグ)。」

 

 

此処に、裏側の宴が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

「まず、前提として宣誓します。僕は聖杯を欲していません。聖杯が成立し次第君に差し上げます。それどころか、僕に協力してくれるなら僕の持っている聖杯を君に譲渡してもいい。」

 

「なんだと。」

 

最初からぶっ飛んだ前提を話され、流石の切嗣も混乱を隠せない。

この男は今聖杯を要らないと、どころか既に所有しているといったのだ。

 

ーーー攪乱して懐に潜り込もうって腹か・・・。

 

あのマスターらしき少女がこんな指示を出来そうな感じではなかったゆえにおそらくこの男の独断なのだろうが、それこそマスターを傀儡の如く操っているという時点で対等な関係は望めまい。切嗣も同じように傀儡にされるだけだ。

そう警戒を強めることで立ち直った切嗣に更に男は畳みかける。

 

「もちろん。君が僕の持つ聖杯の機能を疑うのだったら僕のサーヴァント(・・・・・・・・)込みで聖杯獲得をサポートしてもいい。」

 

「・・・サーヴァント?お前はマスターではなくサーヴァントだろう。いやどっちだっていい。仮にあのお嬢さんが君のサーヴァントだったとしていったい何ができるっていうんだ。」

 

切嗣の精一杯の威嚇じみた問い掛けに今度こそウル・ルガルは声をあげて笑った。

 

「フフフッ・・・と、ああ笑った。・・・何を言い出すのかと思えば。残念ながら彼女は僕のサーヴァントではありませんよ。ほら、いるでしょう。開戦早々に手酷くやられて、マスターもアナグマを決め込んでいて出てこない陣営が一つ。」

 

「情報収集、得意でしょう?君。」という男に向けた銃口を下げることなく切嗣は脳内の情報を厳選していく。

確かに、あった。マスターがアナグマどころか既に生死不明になっていて、かつサーヴァントの情報が全く入ってこない陣営が一つ。ーーー始まりの御三家が一つ遠坂時臣がマスターを務めるアーチャーの陣営が。

 

「ああ、わかっていただけたようで幸いです。極めつけの証拠はあの庭にいる金色のチンピラ紛いとこれですかね。」

 

するすると手袋を取ると、その白く美しい手の甲に爛々と赤く輝く令呪が刻まれているのが目に入った。

形状からするに、まだ一画も損なわれていない。

 

 

「これでも信じていただけないとなると、それこそセルフギアススクロールとやらを書かなくてはなりませんね。あなたのように。」

 

クスリとまたもや笑う男に表情を変えないままちらりと時計を見て切嗣は諦めたかのように口を開いた。

 

「それで、僕に何をしろっていうんだ。君は。」

 

「おや?聞く気になりました?」と茶化すかのような物言いを無視して続ける。

 

「御託は言い。君がマスターかどうかも信じちゃいない。けど僕には時間がないんだ。手短に話せ。」

 

「・・・まず、聖杯戦争は基本7騎かそれ以下の数で構成される儀式。ここはいいですね?

 

 

セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、アサシン、キャスター、バーサーカー。

 

けれど今回の聖杯戦争にはイレギュラーが多すぎる。上記の7枠に更に4枠が追加された大戦に及ばない中途半端な大儀式になりつつあります。・・・おそらく、聖杯がもう一つある可能性すらある。」

 

 

「聖杯が二つ・・・だと・・・いやだがしかし。」

 

「聖杯はアインツベルンしか成しえないものである・・・ええ、まったくもってそのとおり。この世界では(・・・・・・)それこそ盗みでもしない限り無理でしょうね。

 

・・・まあ、その話は前座として置いておきまして。なぜこんなにも異常事態が発生していると思います?

 

ありもしない御伽噺のサーヴァントに同名のサーヴァントが2体。そのサーヴァントの逸話を知る物言いのちぐはぐな少女に、サーヴァントでもないのに宝具を行使できるイレギュラー。そして僕ら。

 

戦争のルールは常に変動しているにしてもあまりにも多くはありませんか?」

 

「何が言いたい。」

 

あまりに男が勿体付けるかのように話すせいか、切嗣の中に苛立ちが募ってゆく。

時計の針の刻むカチカチという音が更に切嗣を駆り立てる。

 

「・・・この聖杯戦争は最初から問題が生じていたんですよ。おそらく、前の戦争あたりから。まあ、これだけ連続であればよくある話でしょうが、その欠陥・・・いや、どちらかといえば混入物、でしょうか。それが、出てきてはいけないものを呼んでしまったんですよ。この戦争に。

 

 

ーーー本来、この世界に現れるはずのなかった番外の獣(ビースト・アナザー)をね。

 

 

で、彼女がこちらに来るために穿った穴を通って理由や経緯はどうあれ余分がこちらに召還されたってところでしょうか。」

 

ここまで大丈夫ですか。と一端話を切る。

ビースト。人類のアポトーシス。人の罪の形。

余りにも突飛すぎる話に思わず切嗣は否定の言葉を口にしようとした。が、それをウル・ルガルが遮る。

 

「ですから。お願い(取引)をしに来ました。彼女()に、あの白のサーヴァントに決して手を出さないように、と。もちろん、彼女だけでなく、その周辺にも。なるべく触れずに放置の方向でいてほしいなと思いまして。」

 

「何かあったら封印すらできなくなりそうで・・・僕からの要求はこれだけです。ね?いい条件でしょう?」と再度微笑む男に向けていた銃口を切嗣が降ろした。

そのまま手を背広の後ろに回すとはあっと溜息を吐く。

 

「・・・話は分かった。」

 

次の瞬間。切嗣はウル・ルガルに向けて再度発砲した。

今度は固有時制御と起源弾という切り札を用いて。

徹底的に、確実に。彼を葬るために。

 

「ぐっ・・・。」

 

血を吐き出しながら、あっけなく男の体がずるずると崩れ落ちていく。

 

「だが、別に君の助力なんて僕には必要ない。・・・それに、もともとここでマスターの8割方を葬る算段だったことに変わりはない。・・・ああ、もうすぐ時間だ。」

 

そんなことを言いながら衛宮切嗣はその場を立ち去ろうと踵を返した。

 

しかし、ここで問題だ。

なぜ、ウル・ルガルはあれだけの戦闘能力を持っていながら衛宮切嗣の行動をまるで反応できなかったかのように最初から最後まで無防備に受け止めたのか。

 

なにより、そんな戦闘能力を持っているのも関わらずなぜ切嗣に協力を要請したのか。

 

そして、その答えは早くも切嗣の前に現れた(・・・)

 

「あーあ。勘弁してくださいよ。次の器が芽吹くまであとどれくらいかかると思ってるんですか。」

 

自身の背後から聞こえる声にもう一度発砲しようとした切嗣が見たのはーーー死体と、その横に立つウル・ルガルの姿だった。死体はその死に顔に面影こそあるものの、目の前で先程と寸分たがわず立っているウル・ルガルとは別人の少年のものであった。

その様に目を見開き、停止する切嗣を余所にウル・ルガルはその少年の横に屈むと・・・その右手の令呪が浮き出ていた個所の皮膚を剥ぎ取り、後ろの空間に貼り付けた。

 

「これで良しっと。・・・ああ、交渉は決裂ということで。爆破でもなんでもご自由にどうぞ。・・・まあ尤もできれば(・・・・)の話ですが。」

 

そういって男が消える。おそらく霊体化したのだろう。

あれだけ切り札を使わせられて逃げ切られてしまうという余りの失態に思わず切嗣は苦虫を噛み潰す。

 

しかし、事態はこれだけでは終わらなかった。

 

「なに?これ。---彼、岸・・・?」

 

 

ゆっくりと開けられたその扉の向こうに、一人の少女が立っていた。

 

この時初めて、切嗣は自身が男に完全に嵌められていたことを知った。

 

 




前回あたりからちょろっと出ている彼岸とは人の名前です。
あれ、重要なんだろうかコレ。



では、閲覧ありがとうございました。


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月城久遠は目を覚ました。

お久しぶりです。

誤字訂正ありがとうございます。こりゃドリル買ってきたほうがいいかな・・・。

ところで今日で特異点ピッグアップが終わるわけですが皆さまは誰が来ましたか。

自分のところには太陽王とセイバーオルタが来てくれました。うれしい。

うれしいけどいまだ弓陣営が薄すぎて剣の敵が現れるたびに悲鳴を上げる今日この頃です。



フラフラと覚束無い足取りで少女(ワタシ)は回廊を歩いている。

 

一応同行者に手洗いに行くと許可を取ってはいるが、実のところこれと言ってあてはない。

ただ、なぜか呼ばれているような気がしたのだ。懐かしい気配がとでもいえばいいのか。

何かが(誰かが)私の頭の中でただひたすら訴えかけてくる。

 

進め進め。立ち止まるな。間に合って。と。

訳の分からぬ焦燥といっそ不気味なまでに狂喜しているかのような陽気さが波のように押し寄せてくる。

 

気持ちが悪い、けれど向き合わなくてはならない。

 

逃げ出したい。けれど、けれどけれど。

 

 

 

 

 

ーーーー・・・私は、成し遂げなくてはならない。

 

何をなんて聞かれても知らないし、いくら考えても私はわからない。ただの衝動だった。

 

どのくらい歩いていたのか。いつの間にかある扉の前に着いていた。

逸る気持ちも、据わりの悪いような不快感もすべて許容しきれないまま、なぜか何のためらいもなく。

私は扉を開いた。

 

 

そこで私を待ち受けていたのは・・・草臥れたスーツ姿の男と、床に転がった見知った、否。片時も忘れたことのなかった■の骸だった。

 

 

「なに?これ。---彼、岸・・・?」

 

自分から放たれた言葉に頭の中で疑問符が浮かぶ。

はて、彼岸とは(・・・・)目の前の骸は果たして誰なのだろうか(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

瞬間周りが酷くスローモーションに見えて、バチリという音を最後に彼女の意識は消えた。

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

自分、月城久遠は魔術師の家系に生まれた。

魔術師の家としてはかなり落ちぶれていて本家筋とは分家の分家ほどの遠さ故か回路や質も月と鼈くらい差のある。一般人に毛が生えたくらいの家ではあったが、彼女は幸せだった。

 

家族四人で食事を摂って、談笑して、時々何処かに遊びに行って。そんなありふれた日常を自分は愛していた。

魔術の修行はつらかったが、我慢した。ひとりならべそをかいても気にしなかったのだろうが、弟の前では良き姉でいなくてはと思うとそれが当たり前だった。

 

ある時から父と母が頻繁に喧嘩をするようになった。

理由はわからなかったが、自分たちは関わってはいけないことだと思って弟と身を寄せ合って時間が過ぎるのを待っていた。

それの繰り返しで3か月くらい過ぎたころ、両親から本家への養子入りの件を聞いた。

なんでも、こんなところで燻ぶらせるには勿体ない才能だからとかで私たちのどちらかを引き取りたいと言っているらしく、私は既にこの家で魔術の修練を積んでいたから、まだ魔術の基礎すら知らない弟が行くことになった。

 

弟がいなくなるのは寂しかったが、我慢した。

それがあの子のためになるのなら邪魔をしてはいけない。

 

だって、私は彼岸のお姉ちゃんなんだから。

 

 

 

それから少しして長い間相互不干渉を貫いてきた久世と月城の本家、憑城は友好条約を締結した。

その祝宴の際に一人の少女と出会った。

久世幾世。久世家の秘蔵っ子にして、次期当主候補の一人。

私とは全然違うと思っていた彼女と何故か意気投合してしまい、お茶までする仲になった。

流石にどういった経緯か、外交役兼彼女の付き人が弟だったのは驚いたけど。

 

それからたびたび、それこそ彼女が久世から勘当されてからも交友を続けていた。

 

ーーー幸せだった。

 

              はずだった。

 

 

 

高校二年生の末のこと、聖杯戦争が始まるまでは。

 

私たち3人と、■■■を巻き込んで。

 

結果だけ見るなら、聖杯を掴んだのは私だった。

 

他にはもう、誰もいなかったけれど。

 

彼岸がいなくなって。幾世もいなくなった。

■■■の姿も既にその場にはない。

他でもない私が吹き飛ばしてしまったから仕方ないが、GPSでもつけておくべきだったか。

・・・私には現状これ以上進むことが出来ない。

なんせ、もう私には何も残されてはいないのだから。

 

だから、私が前を向いて進めるようにケジメをつけなくては。

そのためにも、■■■を探し出して・・・倒さなくては。

 

首を洗って待ってなさい。衛宮士郎(・・・・)

 

泣こうが土下座しようが、貴方が本当のことを言わない限り許してなんかやらないから。

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

ブツっとまるでパソコンの電源を入れるかのような感覚が訪れた後。

 

へたり込んでいた月城久遠という少女は初めてこの世界を、自分を認識した。

目の前には銃をこちらへ向けようとする男と弟の死体がある。

 

ならば、彼女の今取るべき手段は一つだけである。

少女は自身のポケットからキャラメルくらいの大きさの銀色のキューブを取り出すと、それを勢いよく目の前の男に向かって投擲した。

途端キューブが卵か何かのように内側から裂け、割れて光を零す。

切嗣はこれに片目をつむることで対処しようとするが、その一瞬の隙を久遠は見逃さなかった。

 

 

素早く服の中に手を突っ込みFlashbang HolsterからS&W M&P9 シールドを取り出して即座に発砲する。

勿論切嗣の方に銃口は向いていない(・・・・・・)

が、その弾丸は勢いを殺すことも無駄打ちに終わることもなく、確かに切嗣を、そのわき腹を貫いた。

 

「!・・・っ」

 

痛みに反応しつつ、切嗣は予定よりも早く作戦を開始すべく、銃口を少女ではなく

先程設置していた、柱に取り付けられている起爆装置に向け、発砲した。

 

轟音と爆風がその場、牽いてはアインツベルン城を包んだ。

 




情緒不安定少女久遠覚醒回でした。

・・・覚醒というより元に戻っただけなんですが。


彼女が士郎に対して抱いている本当の感情としては前に少し載せた支離滅裂な言葉の方があっているのですがちゃんとした人格が戻ってきたため抑えられてこうなりました。

では、閲覧ありがとうございました。


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少年の決意の一片

お久しぶりです。

一応生きてます。


・・・いろいろガリガリ削れているが一応生きている・・・。


場所は戻ってアインツベルン城広場。

宴も終わりへと差し掛かった頃。

 

轟音と共に城が倒壊した。

 

周囲が茫然とそのさまを見るなか、同じ様に固まっていたアイリスフィールがハッとしたように城に向かって駆け出す。

 

「切嗣っ」

 

「っ無茶ですっ。アイリスフィールっ」

 

そんな彼女を先程まで意気消沈していたセイバーが制止する。

 

「離してセイバーっまだ中に切嗣がっ」

 

その声とほぼ同時に二度目の轟音が響き、今度は広場そのものが崩落する。各陣営はマスターを抱え、何故かランサーのマスターであるはずのケイネスは己がサーヴァントを呼ぶことなく自らとソラウを礼装である水銀に乗せて難を逃れる。

 

更に今度はアインツベルン城内部からと、外部から。それぞれ1発ずつ中央に向かって弾丸が放たれ、ともに地面を穿った。

 

「あ、アイリ・・・。」

 

その直後、倒壊した城の中からザリリと瓦礫を踏みしめて衛宮切嗣が姿を現した。その腹からは止めどなく血が流れ落ち、片手の令呪は皮膚を剥がされ喪失している。

口唇からこぼれ落ちる血をそのままに彼はおもむろに口を開いた。

 

「に、逃げっろっ、セイバーっアイリを連れって・・・」

 

ゲホッと吐血しその場に膝をつく。

「キリツグッ」と血相を変えてアイリスフィールがセイバーと共に駆け寄っていくと、そこに今度は反対方向から銃弾が放たれ、セイバーに弾かれる。

 

「くっ、そこかっ」

 

セイバーが弾丸の放たれた物陰へと切り込むがそこには壊れた遠隔操作型に改良された猟銃がセットされているのみ、そんな様子を見てソラウが自身の懐から魔力指針を取り出し、周囲の痕跡を探る。

彼女の持つ指針は特注品であり、使用者に方角と共にその方角にある魔力の大きさを光と数で伝える仕組みになっていた。それを見た彼女の顔がどんどん青褪めていく。

 

「け、ケイネス。」

 

ガクガクと震えだした彼女のただならぬ雰囲気にケイネスが「どうした。」と多少固くはあるもののできうる限りの優しい表情で聞く。そんな彼の気遣いを知ってか知らずか意を決したように彼女は衝撃の事実を口にした。

 

「城の向こう側の、町の方にサーヴァント級の反応が4つ。それと魔術師の反応が一つ。・・・ここに、私たち以外のサーヴァントの反応が8つもっ・・・。せっ・・・ケイネス。不味いわ。向こうから一騎、こちらに近づいてきてるっ。」

 

「・・・君は私から離れずにそのまま探知を続けていてくれ。・・・少しこちらに集まってくれ給え。マスター諸君。」

 

その言葉に切嗣を介抱しているセイバー陣営以外のここにいるであろう人物がじりじりと周りを伺いつつ集まってくる。

 

「心して聞いてほしい。今、こちらの戦況は絶望的だ。・・・ついさっき、狙撃手が何処にいるのかソラウに調べてもらっていたんだが・・・こちらに八つ、向こうに四つ。サーヴァント級の魔力反応が確認できた。・・・向こうにいるうちの一騎がこちらに移動していることもな。」

 

「さっ、サーヴァントが僕ら以外に十二騎!?いくらなんでも」

 

蒼白になって驚愕の声を上げるウェイバーにケイネスが溜息を吐く。

その溜息は今まで向けていた蔑みやら皮肉やらの籠ったものではなく、純粋に苦渋に満ちたものだった。

 

「ああ、そうだなウェイバーくん。いくら何でも多すぎる。これでは正に大戦ではないか。」

 

そんな会話の最中でも狙撃は止まらず、絶えず彼らの足元にめり込んでは弾痕を作っている。

 

「あちらは魔術師が一人にサーヴァントが十二騎。対するこちらは魔術師が五人に、もどきが一人。サーヴァントは六騎。多少の小細工くらいならなんとかできるだろうが・・・全て殲滅するというのは難しいだろう。・・・そこで、だ。ウェイバー君、君ならここをどう乗り切る。」

 

「う、ええ!?ぼ、僕ですか!?」

 

急に話題を振られ動揺するウェイバーと打って変わって対面するケイネスは苦し気な表情の裏側で冷静に思考を巡らせていた。

 

「なに、そう慌てなくていい。今ここで君がどんな答えを言ったところで君に何かしようというわけではない。そもそも私は今のサーヴァントがいる状態の君を殺すことは到底不可能と言っていい。言ってみたまえ。」

 

ーーーさあ、言え。ウェイバー・ベルベット。(ロード)ではなく半人前(生徒)が言う。それこそ効果があるのだから。

 

ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは魔術師である。それも魔術の系譜の中では古き血の中に入るロードの一人。それゆえに周りの人間は決まって魔術師であった。

そんな彼だったからこそ、この場で誰よりも発言権を有するにふさわしいのは、指示を任せるのにふさわしいのかは既に決定していた。

この場で一番未熟で、良くも悪くも裏表がなく、それを持つような余裕もない。もちろん、誇れるような肩書もない。それは、言い方を変えれば縛るものが何もないということだ。

故に、優秀な。・・・正確には腹に一物抱えてそうな自分よりもこの目の前にいるウェイバー(無鉄砲なバカ)に任せたほうが不信感もなく烏合の衆もまあ何とか円滑にまとめられるのではないか、といった所である。

・・・もっとも、変な方向に向かないとも限らないので絶え間なくフォローを入れなくてはならないだろうが。

 

 

 

「ええっと、た、たぶん狙撃手・・・というか、犯人は此処にはいない・・・と思う。」

 

「ほう?」

 

「ひっ・・・だ、だって、攪乱目的の囮だったとしてもいくら何でもこの用意された銃の多さはおかしい。まるで自分がいなくてもどこにでも当てられるように等間隔で設置していったみたいに弾が発射されてくるし。な、何より魔術師だったら魔術の正体や使う戦法の仕組みがわかる前に速攻でつぶしにかかってきてもよかったはずだ・・・時間稼ぎとかじゃないなら。だ、だから。ええと、その、僕たちを二手に分けて、少数精鋭で向こうを撃破、恐らく監視されているだろうから、こっちはなるべく派手な奴が残ってわざと目を引くように立ち回ってみるっていうのは?」

 

ケイネスの言葉に怯えつつも自分の意見を言うウェイバー。

最初こそ怯えていたが、話している途中に仲間の少女のことを思い出して自分を奮い立たせる。

 

ーーーここをなんとか切り抜けて早くあいつを助けに行かないと。

 

瓦礫の下敷きか、あるいは脱兎のごとく既に逃げ出した後か。なるべくなら後者であってほしいが、現状は確認すらままならない。

 

ーーー待ってろよ。必ず、助けに行くからっ。

 

「取り敢えず人選の候補としてはーーー」

 

こぶしを強く握って先程とは打って変わって堂々と作戦を話し始める。

そんな少年の様子を隣で彼を庇うかのように立っていた(ライダー)はまるで眩しいものでも見るかのように目を細めていた。

 

 

 



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騙し騙され

なかなか投稿できなくてスミマセン。
それでも今作品を読んでくださる方々、本当にありがとうございます。

切るかどうか悩みましたが一応これで、そろそろ長かったZEROも完結・・・させられたらいいな・・・。

皆さん星四は誰を選びましたか?私はランサーオルトリアを・・・

ピッグアップ回してもランサーオルトリアもマーリンも来ません。


「ああ、やっと来てくれたんですね。おとーさん♥・・・と、その他大勢。」

 

上機嫌に一行を出迎えたのは海魔討伐の際に突如として現れた謎のサーヴァント、ウル・ルガルであった。

「うーん、まさかここまでこちらに戦力を割くとは、割と予想外でした。」と、さして気にも留めない様子で言葉を続ける。

 

その全くこちらを舐めているとしか思えない態度にウェイバーは内心でバカにしやがってと思いかけるもその言葉を飲み込んだ。例えこちらにが現在ライダーを含めアサシン、アーチャー、キャスター(今はセイバーらしいが)の四体を味方につけているとはいえ、この二名は目の前の男と無関係というわけではない。下手に刺激すれば逆にこちらを見限って敵になることすらありうる。

油断や慢心といったたぐいのものが自身には無縁のものであるとは思っているがそれでも慎重に慎重を重ねて言葉を模索した。

 

「・・・おまえ。いったい何がしたいんだ。なんでこんなまどろっこしい真似・・・それこそ僕たちを順に狩っていったほうが確実だろうっ。」

 

「目的?」

 

ウェイバーの問いにきょとんと眼を見開きウル・ルガルが聞き返した。

・・・続いて何処か嘲りを含んだ笑いが空気を震わせる。

 

「くっ、ふふふっ・・・なんだ?あの男、なんと言い訳をでっちあげてそのような方向にもっていったのだ?・・・で?小僧。貴様はそれを当然のように信じて僕の元に来たと?」

 

「・・・。」

 

「図星か。」

 

途端にウェイバーの顔に朱が差す。今更ながら自身がその場の勢いでとんだ愚行に走ったものだと自分自身を呪いたくなった。あのちょっとした作戦会議の後、アイリスフィールの治療を受けて何とか容態のよくなった切嗣の話を聞き、「海魔戦で見た正体不明のサーヴァントに一方的な服従を迫られ、断ったら手酷くやられ、残りの令呪も奪われた」「交換条件として提示された奴の望みは原罪の獣を使役し、世界を作り変えることだ」と言われ、急ぐようにと頼まれたのだ。本当に何故こう流されてしまうのか、本当に穴があったら入りたい。

 

「ちょっと」

 

そこに更なる声が加わる。それは先程の会議でも聞いたよく通る声だった。

その場にいた味方全員が一瞬固まる。

 

「な、あなたは、さっきまで。」

 

「?なんでもいいのだけれど、いつになれば私とランサーは逃がしてもらえるのかしら。なるべく早くしてほしいのだけれど。」

 

その場に立っていたのはアインツベルンの城で別れたはずのソラウ・ヌゥザレ・ソフィアリだった。

彼女の手には一画分損なわれた令呪が刻まれている。

そんなここにいるはずのない彼女の心底苛立っている様子をなだめることもせずに「さあ?」とウル・ルガルがかえす。

 

「それは僕ではなく彼・・・ああ、君としては彼女との契約ですか?なので、僕の預かり知らぬことですね。」

 

「なっ話が違うわっ私は貴方達が私たちを匿って幇助してくれるっていうかガアッあっ」

 

激高したソラウの腕がその場で千切れとんだ、そして遅れて銃声が聞こえる。

その衝撃で倒れた彼女はそのままその場で半狂乱になってのた打ち回る。

 

「あああああっは、話が違うっはなし、はなしいいいいいっで、ディルムッド、でぃるううううううっわ、私を、わた、たすけてええええああああああいや、いやああああっ」

 

交渉の席に着く間もなく敵側であれ人一人がもがき苦しむ姿に緊張が走る。

しかし、それも長くは続かなかった。

続いて放たれた弾丸が、的確にのた打ち回っている彼女の脳髄を打ち抜くことでその、人体の機能を停止させるに至ったからだ。後に残ったのは動かない肉の塊と広がる血だけだ。

 

「・・・早速一人脱落っと・・・この人数を一人で相手しろとは、なんですこれ、今流行りの無理ゲーとかってやつですか?」

 

やはりなんの感情もない表情のまま大袈裟に男が溜息を吐いた。

が、その直後にウェイバーに向かって微笑みかける。

 

「ああ、でもこれぐらいで吐かなくなったんですから、まあ、君の成長ぶりには及第点を上げましょう。褒美としてちょっとだけ独り言を君に。僕はただここにとどめたいだけなんですよ。ある人を。ただ、それを向こうがおじゃんにしようとしてるだけで。・・・まあ、というわけで、僕は後戦いも何もしないので早急に向こうに帰ったほうがいいですよ?特に誰とは言いませんがシスコン拗らせた王様(笑)とか覿面で・・・間に合わないかもしれませんが。あ、と。そこの赤い人にはこっちを」

 

笑顔を崩さぬまま片手をすり合わせぱちんと音を出したと同時に赤い外套のアーチャーの足元に唐突に魔法陣が浮かび、そのまま彼ごと消失した。

 

「移動させただけですよ。じゃ、僕もこれで。」

 

 

「あーあ。散々引っ張っておとーさんにだけアドバイス(笑)しようと思ってたのになあ。」と言って何か帯のようなもので包まれ彼はそのまま退場していった。

四苦八苦するウェイバーたちを置いて。

 

「間に合わないって・・・」

 

そこに突如閃光が走りぬけ視界を焼いた。

次いで、地鳴り。

先程までウェイバーたちのいたアインツベルンの城あたりから天に向けて一条の黄金の輝きが立ち上がっているのが見える。その光は徐々に色を変えていき、夜だというのに視認できる暗黒の色へとその姿を変えた。

 

 

「・・・おい、そこな雑種。己は先に行く。お前は道すがら、探し物でも探しているがよい。」

 

「今あそこに行ってはお前まで汚染されかねんからな。」そう言った最古の王は何処か遠くを見るかのような瞳で立ち上る柱を見た後によくわからない飛空艇のようなものを出し、それに乗り込んでいってしまった。

 

「・・・何が起こってるんだよ。いったい。」




着々とヒロインをヒーローにできないかめしめし固めてみてます。

そしてあまり親子を絡ませられない悲劇。
・・・戦闘シーンが始まって収集つかなくなるっていうこの何とも言えない感からいつもどっかに逸れます。スミマセン。


閲覧ありがとうございました。


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此処にて眠れ/こうして賽は投げられたのです。

前回ここらで最終回的なことを言いましたが・・・うん、無理。
恐らくあと2話くらい続きます。ごめんなさい。

更新もかなり遅くなってしまいましたし・・・申し訳ないこと尽くしですね。ほんとにごめんなさい。



あ、Aaaaaあaaaaaaaaa

 

複数のシャドウサーヴァントらしき影たちと交戦していたアインツベルン城に残った一行は突然の出来事に動揺隠せないでいた。

先程まで戦っていたシャドウサーヴァントが四方八方に散ったかと思うと消え去り、代わりに出現したのは細くはあるが何故か頑丈そうに見える黄金の鎖だった。

その鎖は共に戦っていた白いサーヴァント、ウルレシュテムの首、両手足、胴にそれぞれ幾本かずつ巻き付いたかと思うと、そのまま杭のようなもので縫い留められ、完全に彼女を拘束して見せた。

引きちぎろうにも余程丈夫なのかギャリっという音が少し出たぐらいで変化はなく、拘束されている当人にはその鎖に見覚えがあるのか少々不機嫌そうに鎖を見つめている。

 

「・・・ま、ママっ。」

 

ただ見ているだけの味方の中からマスターである少女・・・桜のみがウルレシュテムの元に駆け寄っていく。

否、駆け寄っていく、はずだった。

 

彼女がウルレシュテムの方に駆けていく最中に響いた銃声。

その弾丸は容赦なく少女の細い足に被弾し、特製の礼装を突き抜けて、その片足を潰した。

 

「え・・・?」

 

どちゃりっ

 

嫌な音とともに、無造作に桜の身体が地面に転がる。

 

「あ、あれ・・・?」

 

極度の緊張状態故か、はたまたまだ片足が吹き飛んだという情報が脳に伝達されていないのか。

単に自分は転んだのだという認識らしき桜は再度立ち上がろうとしてその体勢を崩した。

 

「ま、まま。おかしいよ。桜。立てな―――あ。」

 

続いてまたも銃声。今度は少女のもう一方の足首に被弾し、膝から下が無くなった。

瞬間歌声のような絶叫が響き、動けないでいたウルレシュテムが桜に駆け寄り抱き締めた。

余程無理をしたのか鎖を引きちぎったらしき個所からは肉の焼け焦げた匂いと出血がみられる。

幾本かの残った鎖はいまだに彼女を拘束し恐ろしいほど神々しい輝きを、一層強く放っていた。

 

安心したのか、痛みでなのかしゃくりあげ始める桜の背中をあやす様にポンポンとさすりたたきながら礼装の様子を確認する。

ドレスは単純に弾が当たったような跡ではなく疑似回路を滅茶苦茶にして潰して壊したようであった。これは、単純に弾いたりすることはできず、恐らくそれは桜にとって致命傷になりかねない何かだ。

 

(・・・なら)

 

その礼装の確認をしたウルレシュテムはある覚悟を決めた。それは

 

再度銃撃。肉がその銃撃を受ける嫌な音。

 

「ママぁ・・・ひく・・・えっ・・・。」

 

泣き声は止まることなく続いている。

 

「だ、大丈夫。大丈夫・・・だから。・・・ね?」

 

それは―――桜に降りかかるであろう攻撃を全て自身の肉体で受けることだった。

 

それでも続く銃声は止まることなく、むしろ邪魔だから早く消えろと言わんばかりにウルレシュテムの白い衣を、肌を貫いていく。

その様子を騎士であるセイバーが許すはずもなく遅ればせながらも彼女らを守ろうと剣を片手に前へ出る。

が、その剣のいきついた。その先は―――

 

 

 

 

―――令呪を以って命じます。セイバー。その白いサーヴァントとマスターの子供を殺しなさい。

 

 

 

 

 

 

―――必死に我が子を守ろうとする母親の、その背後であった。

 

 

 

ザクリ

 

刺さった剣を引き抜けば銃弾によってできた傷とは比べ物にならない量の血液が、幅広の傷口からどろりと流れ出した。

 

「っ・・・え?」

 

桜の泣き声が大きくなる。

 

一瞬何が起こったのか、周囲どころか行使したセイバー自身も追いつけないでいた。

しかし、そんな心情を余所にセイバーの両腕は次なる一手を、それでも生きているのならと更なる一手をその背中に加えていく。

 

「や、やめろっ・・・」

 

既に血濡れのその背中に元の純白は見当たらない。

尚も、ほんの少し身じろいだから―――剣を突き刺す。

 

「やめろっ」

 

髪が揺れたから―――剣を突き刺す。

 

「や・・・めろっ」

 

間から垣間見た幼くやわらかな指が動いたから―――剣を突き刺す。

 

「たのむっ・・・もうっやめてくれええええええっ」

 

白が動いたような気がしたから―――剣を突き刺す。

 

「あああああああああああああああっ」

 

叫んで、泣いて。されど、その手は止まることなく庇護するべきだと判断した者を滅多刺しにしていく。

 

非力な女子供を。

幼子の目の前でその母親を。

 

 

セイバーがその手を止めたのは見覚えのある槍によって剣を弾かれた時だった。

 

「セイバーっ」

 

「あ、ああ・・・ら、ランサー・・・わたし・・・は。」

 

「何をしている・・・と言いたいところだが、ああ、大体は把握した。恐らく令呪を用いた強制行為だな?」

 

颯爽とその場に現れたランサーはズルズルと崩れ落ちそうになるセイバーを支え、ウルレシュテムに視線を遣る。

先程まで抱き締められていた桜はいつの間にか緩んだ腕の隙間から上半身を起こし、ウルレシュテムを懸命に揺すっている。

 

「ママ、ママ。酷いこと。もう終わった?どうして眠ってるの?」

 

「桜ちゃん、ママはもう「うるさいっママは少し疲れただけだもんっ」

 

ねえ、ママ。と既に亡骸と化した自らのサーヴァントに語り掛ける少女の姿は痛々しかった。

 

「アイリスフィールっ直ぐにこの者たちの手当てをっ「セイバー」

 

必死なセイバーの懇願めいた声をランサーが遮る。

 

「お前ならわかるはずだ。もう、このサーヴァントは手遅れだ。」

 

もうじき座への退去が始まる。という言葉を前に今度こそセイバーは膝をついた。

 

「そん・・・な。」

 

そんな沈黙を、この場に似つかわしくない快活な笑い声が切り裂いた。

 

「ふはははははははっ何をそううなだれることがある?そうしていたほうが見ごたえがありそうな気もするが・・・喜ばずしてどうするのだ?・・・まあ、その女怪を思えばいささか哀れではあるが。」

 

 

 

そんな英雄王の声を余所にただ見ていることしかできなかった雁夜が桜を再度ウルレシュテムの亡骸から引き離そうとする。

その腕を桜は自由の利かない身体のまま振り払った。

 

「うるさいっうるさいっうるさいっままはっママは疲れてるだけだもんっ死んでなんかないもんっ私を・・・一人になんかしないもんっ」

 

まるで威嚇するかのように、己に言い聞かせるかのように言い放つ桜の姿は一層の悲哀を感じさせた。

その時、一陣の風と共に黄金の天翔ける玉座がその場に舞い降りる。

 

「・・・なんだ、来たのか。てっきり道化に徹してこないかと思ったぞ。(オレ)。」

 

「・・・ぬかせ。初めからわかっていたくせに何を言うか(オレ)。」

 

玉座から降りたギルガメッシュに桜がわずかにその沈んだ表情を動かした。

 

「ぱ、ぱぱっ。ママが、ママが目を覚まさないの。どうしたらいいかなっ。」

 

ギルガメッシュはそのまま返事を返すことなく桜の傍まで足を進めると桜を抱きかかえた。

いきなり体勢を変えたせいか足の傷口から漏れる血の量が更に増え、血だまりを拡げる。

僅かに表情を歪めるに留めていた桜の頭を撫でてギルガメッシュがやっと口を開いた。

 

「よく持ちこたえたな。さすが(オレ)の娘だ。・・・故に、褒美を遣らなくてはな・・・しばし眠れ、桜。」

 

言って、バツッという何かを打ち抜くような音が聞こえた後、ギルガメッシュの首に回されていた桜の腕がずるずると下がって垂れた。

 

「・・・ぱ・・・ぱ。ま・・ま・・・・。」

 

少女の最期の顔は、母親の返り血と口の端から垂れる少女の血で汚れてはいたが、確かに其処には涙を流した跡があった。

 



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我が腕の内側より、逃れられたものは無し/ほら、投了の合図はすぐそこに

色々詰め込み回。

若干空気が何名かいますが・・・どうぞよろしくお願いします。


「え、英雄王っ・・・きっさまああああっ」

 

セイバーが感情任せにふるったであろう拳を魔力で編んだ障壁でいなしたセイバー状態のギルガメッシュは表情を変えないまま、ゆっくりと口を開いた。

 

「・・・ならば、貴様に何ができるというのだ?女。」

 

崩れ落ちた桜の亡骸からはいまだ血が滴りおち、ギルガメッシュの衣を汚している。

しかし、そんなのは些末事だとばかりに桜を抱えつつ、自らの姉の身体がいまだ遺る地点へと歩いていく。

尚、その間にセイバーに視線をよこすということは一切なかった。

本来なら一番激情を顕わにしてもおかしくないであろう雁夜すら黙ったまま。ただ、ギルガメッシュのみが口を開く。

 

「そも、(オレ)は姉上がそうあってほしいと、そうでありたいと願っていたが故にそれに合わせたまでのこと。だというのに、なぜ(オレ)が貴様らの不始末の尻拭いをせねばならんのだ。」

 

「尻拭い?尻拭いだとっ」

 

ランサーが表情を強張らせつつわずかに槍を構えた。

セイバー、ランサー双方ともに武器を構え、アーチャーに至っては手を出すつもりも、助けるつもりもないのかただニヤニヤと笑っている。ハンドラーに至ってはそもそもが論外だ。

 

「ああ、そうだ。此処は姉上のために我が子が作った舞台だった。・・・少なくともそこな雑種が余計な真似をしてくれなければ今頃は、姉上をここで止めることが・・・一時的とはいえ留めることが出来たというに。」

 

言って、血溜まりに沈む姉の亡骸に、桜の亡骸を抱かせて、更にそれをギルガメッシュ自身が抱き抱えた。

 

「遅くなった。・・・今回は此処で幕引きの様だ。また、約束を違えてしまったな。」

 

ぽそりとギルガメッシュが亡骸に何事かを囁き、その顔についた泥や血を拭い去っていく。

そのあと、心底大切そうにその頬を優しく撫でた。

 

 

その様を他のサーヴァントたちとは違い訝しげに様子をうかがっていた衛宮切嗣は此処でやっと違和感に気付く。

 

(何故、肉体が残っている・・・?)

 

通常倒されたサーヴァントは血痕などは残るもののその本体は小聖杯、牽いては大聖杯起動のためのエネルギーとして小聖杯にくべられ消滅するのが常である。

 

(まさか、まだ死んでいないのか)

 

それは非常に困る。このサーヴァントを潰すために、わざわざアイリスフィール、舞弥に一画ずつ令呪を譲渡し、こうして被害者の振りまでして暗躍していたというのにしぶといにもほどがある。

内心で舌打ちをしつつサインで舞弥に指示を出そうとした際にそれは起こった。

 

血溜まりの中でウルレシュテムと桜を抱きかかえるギルガメッシュ。不謹慎ではあるが大変絵になる光景だろう。

しかし、ここでハンドラーが首を傾げた。

 

「・・・おかしい。」

 

「どうして・・・血が止まらないんだ。」

 

その一言に再度切嗣を含めた周囲が注目する。

ギルガメッシュの足元に広がる血溜まり。その血は既に成人女性の内容量を遙かに上回る量が現在も流れ続け、それは徐々に、しかし確かに黒く変色してきていた。

そう、まるで海魔戦で見せたあの泥のように。

 

「ゔっき、り・・ごほっ」

 

それを皆が確認するより早くアイリスフィールが胸を押さえて倒れこむ。

 

「アイリっ」

 

切嗣がよろけつつも駆け寄ろうとするが時すでに遅く、彼女の目や口といった粘膜の間から、ウルレシュテムの泥と同じような何かが溢れ出す。

 

「あ、主イイイイっ」

 

咄嗟にランサーがケイネスとソラウの前に立ちふさがり、槍を構えた。

瞬間。

暗い閃光が辺りを包んだ。

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

ウェイバーとライダーが久遠を見つけたとき、彼女は瓦礫の上で一人膝を抱えていた。

 

へっぴり腰ながらもなんとか瓦礫の上に着地することが出来たウェイバーはそのまま自分の方すら見ようとしない少女に声を掛ける。

 

「ほら、何やってんだ。さっさと帰るぞ。」

 

「・・・帰るって、何処に。」

 

「はあ?決まってんだろう「聖杯戦争?利用してる夫婦のところ?ああ、それとも時計塔?」

 

「・・・好きになさい。私も勝手にするから。・・・敢えて言うなら、なるべく遠いほうがいいわよ。以上」

 

いままでと打って変わって無気力な風の彼女にウェイバーはむっとしつつ答えを返した。

 

「なに他人事みたいに言ってんだ。お前も一緒に行くんだよ。」

 

「嫌よ、無理よ。というか消えて。今すぐに。」

 

取り付く島の無いとはこのことかと言わんばかりの拒絶の言葉のオンパレードに気圧されるもウェイバーが諦めずにもう一度口を開こうとする。と、ここで始めて、彼女が質問にこたえる以外の形式で自己主張をした。

 

「もういい、もういいのよ。もうすべて終わったの。だから、私に構わないで。」

 

「お前は終わったと思っても僕は終わってない・・・ていうか、放っとけるかよ。そんなフラフラで。ほら」

 

差し出されたウェイバーの手は思い切り振り払われた。

次いで、悲鳴じみた怒号。

 

「もういいって、構わないでってっいってるでしょうっもうっ放っておいてよっ。」

 

そんな平行線の会話を今まで黙って聞いていたライダーははあっと息を吐くと、怒鳴った。

 

「いつまでも甘えるなよ。小娘っ。」

 

「良いか。余らは人間だ、自棄になってもいい。後悔してもよい。拒絶してもよい。だが、己を真に思いやり手を伸ばす者をないがしろにするのはやめろ。・・・人は一人では生きていけん。もしそれを覆して一人で生きていけるなんぞというやつは既に人ではなく化け物だ。・・・そんな風に命を腐らせていくというのなら、いっそここで余が摘み取ってやろうか。」

 

ひとしきり言いたいことを言ったらしきライダーはもう一度溜息を吐くと「後はお前の仕事だ坊主。余はこのあたりの状況を確認してくる。」と言って戦車で駆けて行ってしまった。

こんな状況に一人で置いて行かれるのかよ!?と内心で慌てふためいていたウェイバーが身を乗り出そうとしたとき、不意に裾を引かれた。

見ると、久遠が裾の方をこれでもかというほど力を込めて摘まんでいた。

 

「すまなかったって」

 

ぽつりと久遠が呟いた。

 

「許さなくていいって。ただ、生きていてくれって」

 

「ああ、」

 

自然とウェイバーが相槌を入れる。

その後も少女はぽつぽつと語っていく。

 

「少し、せつなそうに、仕方ないなって顔で笑って」

 

「ああ」

 

「わたし、殺すつもりでいったのに、独り相撲、みたい、で」

 

「ああ」

 

「わた、わたしっわたしは・・どう、すればよかったのよ」

 

「・・・」

 

「みんな、みんな、私に何かを言って残していくのっ。」

 

「・・・」

 

「ひ、人の気持ちも知らないで、勝手に消えてっこんなに苦しいのにっ」

 

「そっか」

 

「きらい、嫌い嫌い嫌いっみんな嫌い。」

 

「うん」

 

「お願い。お願いだから、おいて・・・か、ないでっ。

            

一人にしないで。

 

傍にいて。同情だっていいの、だから・・・お願い・・・します。傍にいて・・・ください。」

 

「・・・馬鹿だなあ。」

 

久遠の背中に腕を回し、背中をあやす様にさすってやる。

 

「お前は危なっかしいから、仕方ないから僕が面倒見ててやるよ。大丈夫(約束)だ。ずっと、傍にいてやる。」

 

ライダーの戦車が見えるとウェイバーは腰を上げて、ボロボロと泣いている少女に手を差し出した。

その手は弾かれることなく今度こそ固く握られていた。

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

暗い閃光の後、そこは泥の海と化していた。

 

ーーーAaaaaaaaaaaa

 

一面に歌声が響き渡る。

目を開けた切嗣は状況を確認する。

どうやらランサー陣営は最初の一撃で何処かへ吹き飛ばされたらしく、サーヴァントもマスター、関係者の姿もない。というよりいまだ姿が見えるのはアーチャーとセイバーと自分のみである。

 

(っついったい何が・・・。)

 

無機物の聖杯が光を放っている。つまるところこれで小聖杯は起動したわけだが、その聖杯を守るかのように周囲を囲う泥のせいで奪取は困難を極めるだろうことは既に確定しているとみるべきか。

 

「ほう、なにやら懐かしいと思っていたがあの女怪よりにもよって母神の化生かなにかであったか。」

 

唯一感心したように声を上げるギルガメッシュに若干の苛立ちを感じつつ切嗣は固有時制御を発現させる。

 

が、その瞬間巨大な何か、見えないものが頭上を掠めていった。

 

それはまるで巨大なこん棒か何かのように周囲の木々をなぎ倒し、遠方の町までを一撫で、否。一薙ぎし消える。

森の向こうの町からは火の手が上がっているのがわかった。

 

(・・・聖杯さえあれば)

 

そう思って固有時制御をフル活用し一気に駆け抜けていく。

そして、聖杯は目前に迫った。

しかし、これで勝てると思っていた切嗣は此処で絶望することとなる。

何故ならその厄介な泥は、間違いなく聖杯から生成されていたのだから。

 

嘘だ。

 

しかし、そんな感情とは切り離された理性が口を勝手に動かした。

 

「セイバー。令呪を三画用いて勅命とする。---聖杯をーーー。」

 

そして、それとほぼ同時に泥から何かが二つ。出てくる。

 

「破壊しろ。」/「万物創造す原初の水(エヌマ・エリシュ)

 

巨大な腕を模したそれは、無慈悲にもその場にいた者たちを抱擁(ツブ)した。

 

ーーー我が(カイナ)の内側より、逃れられたものは無し。




大丈夫。次が最終回です!!←?


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さようなら。貴女の幸せを願っています。/どうか、忘れますように。

―――ザアアアアア

 

雨が降っている。

 

 

―――ザ、ザザザ、ザアアアア

 

いいや、違うこれはノイズだ。

まるで巨大なテレビのモニターを見ているかのように脳内がノイズに埋め尽くされていた。

 

早く終わってくれないだろうかと思案しつつそのまま身体を預けようとすると、ふと後ろから呼び止められた。

 

「どうしたんですか。×××(マスター)。そっちはアリーナとは逆方向ですよ。」

 

瞬間、ノイズが消え去る。

良く見知った声に思わず安堵から膝をつきそうになった。

 

「・・・いや、何でもない。ちょっと考え込んでいただけだ。」

 

話をしながら廊下を歩く。

 

「あれ?そういえば××××××(セイバー)は?」

 

あの元気いっぱいどころか常時暴走気味のセイバーは珍しく今朝からその姿を確認できていない。

 

「ああ、彼女ならもう先に――「おせーぞ。てめーら」・・・アリーナ入口で待機しているはずでした。」

 

心なし、いや。確実に不機嫌なセイバー。え、私何かした?

 

「アリーナ。今タイガーとかいう奴がぶっ壊したのの修復中で使えねーんだと・・・たくっついてねーぜ。」

 

しかもそんなに暇なら教会にでも行ってその粗末な霊基上げとけとか言われてよー。くそっペナルティがねーならぶん殴りてえよあのクソ神父。と愚痴るセイバーに苦笑いを返す××。

ああ、いつも通り/不思議な光景だ。

そのまま会話を続けながら中庭へと繋がる扉へと手を掛けた。

 

―――・・・?

 

取っ手を掴んだまま、どうしようもない悪寒が臓腑の底からこみあげてくるような感覚が自身を支配する。

 

此処を開けてはならない。―――開けたら、後戻りできなくなる。

 

それでも行くのか?

 

自分に対する、不思議な問いかけだった。

 

―――ああ。

 

隣でにこにこと穏やかに笑っている××と反対にむくれているセイバーを見遣る。

片やこの生き方を見て面白そうだと引っ張り上げた王に片やたとえマスターに謀られ消滅しかけたのだとしても最期の時を私を助けるために使ってくれた、最後まで一緒に来てくれた二人だった。

 

この2人がいるから前に進めた。

この2人がいたから今の岸波白野がある。

 

だから

 

だから、岸波白野(わたし)は今もこうして前に進むのだ。

 

 

扉を―――・・・開いた。

いつか何処かで受けた突風じみた圧迫感を全身で受ける。

 

 

 

―――なら、君はもう。(ボク)がいなくても大丈夫ですね。

 

 

 

 

 

閉じていた瞼を開ける。

大好きな(優しい)声が、聞こえた気がした。

 

 

さて、自分は誰だったのだろうか。

―――岸波白野だ。と自信をもって答える。

 

此処は何処だろうか。

―――わからない。が、薙ぎ倒された木と燃え盛る炎。そして転がっている人々の様子からここは危険地帯だと本能的にアラートが鳴っている。

 

何故、自分は此処にいるのだろうか。

―――わからない。忘れてしまった。恐らく、大切な何かと一緒に。

 

だって、そうでなくては・・・こんなにも涙を流すことなどないだろう。

そう思って乱暴に袖で目を擦った。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

簡素な机に向かう女が一人。年の頃はおそらくギリギリ10代くらいの彼女は一心不乱にカリカリとペンを走らせている。

 

 

―――こうして、第4次聖杯戦争は終結した。

 

今度は終結後の各陣営の様子について語っていきたいと思う。

 

先ず始めに、小聖杯を所有していたセイバー陣営。

マスター:衛宮切嗣。生存。

サーヴァント:セイバー。退去。

彼が何故サーヴァントを失ったのかは、本人が硬く口を閉ざしているため定かではない。が、彼の身体は発見時ズタボロになっており、何か得体のしれないものに侵されていた。恐らく以てあと数年といった所だろう。

魔術師殺しとしての活動は不可能とし、現在は協力者であった久宇舞弥と戦災孤児になってしまった男の子と一緒に冬木に残り、静養している。

 

アーチャー陣営。

マスター:遠坂時臣。死亡。

サーヴァント:アーチャー。退去・・・?

マスターである遠坂時臣は戦争終了後シェルショックに似た症状を発症し、カウンセリングなど治療を試みていたものの数か月後、書斎で首吊り自殺を図っているところを娘が発見。

直ちに病院に搬送されたものの脳に重度の障害が残り、更にその半年後死亡。

妻葵も献身的な介護の末に後を追うように倒れ、帰らぬ人となった。

 

ランサー陣営。

マスター:ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。生存。

サーヴァント:ランサー。退去。

どうやら、最終決戦の開始直後にランサーのおそらく壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)の余波を受けて戦場を離脱。後の会談の中であの時すでに令呪をソラウ・ヌゥザレ・ソフィアリに奪われていたことを激白。

しかし、肝心のソラウ・ヌゥザレ・ソフィアリ自身が既に故人のため追及はならず、何故彼女がこのような強硬に及んだのかは謎に包まれたままだ。令呪の持ち主が変わっても主に忠を尽くしたランサーも既に座へ帰っている。

その後、ソフィアリ家とアーチボルト家の関係悪化、また。聖杯戦争の責任の所在追及に伴い、ロードの資格を剥奪され追われる身となった彼はそのまま協力者だった婚約者の影武者・・・ソフィリア・ミルフォリエと冬木へ渡り、結婚。

現在は1男1女の子に恵まれ、塾の講師をしつつ幸せな家庭を築いている。

 

アサシン陣営

マスター:言峰綺礼。生存。

サーヴァント:アサシン。生存。

終了後に余った魔力で受肉したハサンはそのまま教会の貴重な労働力として重宝されている。

マスターの方は厳罰覚悟で今大会の参加者との会談の際に本来なら公平であらねばならない監督役、牽いてはその実子である自身がアーチャー陣営に加担していたことを暴露。謝罪した。

璃正神父は遠坂家の悲劇のこともあってしばらくの間落ち込んでいたが息子とアサシンの献身もあり、徐々に元に戻っていった。・・・言峰綺礼は前の硬い雰囲気が軟化、穏やかな笑みを絶やさないような男になったようだが一体この男は何を得たのだろうか。

 

キャスター陣営

マスター:???

サーヴァント:キャスター。退去。

キャスターは正体不明の純白のサーヴァントの宝具?に飲み込まれそのままだ。恐らく退去したのではないかとの見解ではあるがいまだに泥のようなものは残ったままだし、不明だ。

マスターの方はキャスターが作っていた工房のようなものの中で見つかった。

その時は既に腐敗が進んでおり、辛うじて男と分かったくらいの酷い有様だったらしい。

もっとも、その工房内にあった他のとは違った死に方をしていたから位しかマスターだと決定づける要素がなかったので、あまり期待はできないが。

 

バーサーカー陣営

マスター:間桐雁夜(間桐桜)死亡(生存)

サーヴァント:バーサーカー。退去。

セイバー陣営は早くから気づいていたようだが、この陣営は雁夜ではなく実際はその姪桜がマスターを務めていたらしい。しかし、さらに驚くべきは彼女は確かにあの純白のサーヴァントのマスターではあるものの実はバーサーカーではなく、彼女を通して与えられていたでかい犬。あれこそが本来のバーサーカーだったらしい。

詰まる所サーヴァントがサーヴァントを使役しているというとんでも陣営だったようだ。

最終決戦後、叔父をなくし、父親はアルコール依存症に陥り、当主である御大ですら姿を見せない中で、なにやら彼女に(表面だけでも)救いの手(笑)を差し伸べようとした魔術の家は割とあったようだが彼女自身がそれをかたくなに拒否した。なんでもやるべきことがあるのでと言われて取り付く島もなかったそうな。

自分のサーヴァントをママと呼び慕っていた様子を見たことがあるだけに貼り付けた無表情で耐えるような彼女の様は見ていて本当につらかった。一緒に来るかと誘いもしたが悲し気に微笑んで何かをぼそりと呟いた後、首を振られてしまった。

 

ハンドラー陣営

マスター:岸波白野。

サーヴァント:岸波白野。生存。

散々引っ掻き回してくれた使い魔の青年はどこぞへと消え、マスター兼サーヴァントの岸波白野というらしき少女のみが正式に受肉し、この地に留まった。

しかし、最終決戦の影響か定かではないものの記憶の混濁が激しく、記憶喪失の状態に近い。

日常生活に支障はないようで、こちらも時計塔へそれとなく誘ってみたのだが少し寂しそうな笑顔で覚えていないけれど待っているひとがいるから、自分一人が先に行ってはいけない(ズルをするわけにはいかない)と謝られてしまった。

 

???陣営

 

この陣営に関しては本当によくわからない。

何故か受肉している叛逆の騎士はいるわそのサーヴァントがあの正義の味方だわでほんっとーに訳が分からない。

人に言いたいことだけ言ってかっこよく消えていくオレ・・・みたいな感じに(思ってないでしょうけど)思ってたら大間違いよ。ていうかぶん殴るわよ。

失礼。この陣営に関してはサーヴァントの退去は確認済み。マスターは・・・ハンドラーのように、いえ、ハンドラー以上に記憶が混濁しているようだけれど取り敢えず、名目上はハンドラーの護衛として一緒に冬木で暮らしている。最近はなぜか料理にはまっているらしいが山駆けまわって捕まえてきた動物をなめして丸焼きにするというワンパターンは嵌っていると言っていいのかしら・・・。

 

最後にライダー陣「先生ー。そろそろ時間だってロードが。」

 

あ、邪魔しちゃいました?と聞いてくる弟子にもうそんな時間かと椅子から立ち上がる。

 

「ううん。大丈夫。もう終わったところよ。じゃ、行きましょうか。凛。」

 

「はい。」

 

ポンと頭を撫でるとぱあっと嬉しそうな顔をする弟子の元気な返事を聞いて自然と笑顔になる。

 

扉を開けるとそこには勇ましい赤毛の大男と、あの頃より背も髪も伸びた―――

 

「ごめんなさい。遅くなったわね。」

 

「おお、久しいな、久遠。いや、気にせんでよい、余も今来た故な!!」

 

「・・・なんでよりにもよって下見のときに・・・。というよりなぜ戦車できた!!車をつかえ車を!!」

 

百歩譲って下見の同席は許可したがその戦車をどうやって説明するつもりだ!!と青筋を立てている相方の姿に思わず笑みを溢す。

 

―――ほんっと、あのころから変わったようで変わってないんだから。

 

・・・聖杯戦争が終わってからライダーは受肉し、ちょっと京都行ってくるわみたいな軽いノリで世界旅行へと旅立っていった。

で、残された私こと月城久遠とウェイバーは時計塔に行くことになったわけだが・・・。

向こうに行ってすぐにアーチボルト家の因縁をケイネス・エルメロイ・アーチボルトから押し付けられ二人揃って馬車馬の如くこき使われ、そのデスマーチをこなしているうちに相方がいつの間にかロードとかもらってしまって逃げ場が無くなっていた。所謂完全とばっちりというわけだ。

そもなんでお家騒動まで私たちが駆り出されるのか。もう訳が分からない。

 

なんだかんだ言いつついろいろ陰ながら助けてくれたケイネス先生に頭が上がらないとウェイバーがいつだったか言っていたが違う。確実にいいように使われてるだけだ、気付け。

 

あ、なんか思い出したら無性に腹立ってきた。

今度持っていくお土産のクッキー。奴のにだけわさび入れてやる。

 

まあ、こうして遠坂家の遺児となってしまった凜を引き取り、魔術師ではなく魔術使いとして育成できるのも一重にロードの名の助けがあってのところもあるので悪いことばかりではないのだけれど。

 

「あ、先生。課題クリアしたので後で見てください!」

 

「うん。でも箱の作り方はまだ駄目だからね。」

 

えーっとむくれる愛弟子。愛しい人。頼もしい友人。

 

「どうした。早くしないと間に合わないぞ。」

 

「はいはい。今行くわ。」

 

―――次の聖杯戦争を担うことになるだろう者達へ

 

貴方の運命に出会いと祝福があらんことを・・・。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

()の調子はどう?桜。」

 

ベッドの中の少女に彼女の兄・・・間桐慎二が話しかける。

 

「大丈夫。ママから貰った足だもん。すぐ慣れるよ。」

 

よいしょっとベッドの端に腰かける彼に桜は穏やかな笑顔を向けた。

 

「ママから貰った足、ママから貰った命、ママから貰った力。・・・ああ、早くママに会いたいな。」

 

「だいじょうぶ。すぐ会えるよ(会えますよ)。だって、またすぐに溜まってしまうだろうから(でしょうから)。」

 

愉しみだね(ですね)。少年の姿が一瞬ぶれて歪む。

しかし少女はそんなことは一切気にする素振りもせずに、華のように笑った。

 

「はい。本当に。愉しみです、兄さん(お兄様)。」

 

 

―――end・・・?




というわけで一応zero編完結です。

次、SN書くかFGO書くかで悩んでますが・・・どうしたらいいものやら。

まあ、SN書くならほぼほぼ主人公でないからそれこそ別物として連載すべきか・・・。

本当は皆さんにアンケートを取りたかったのですが。
いかんせん自分アンケートのやり方がわからないもので・・・

もう、あみだでもいいかなとか自棄になってます。

あ、でも新しく書いても需要は・・・。


本当にここまで長くなってしまいましたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。


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FGO編
きっと、全ては此処から



いつかの何処かであったであろう

始まりの話。


ヒソ

 

ヒソヒソ

 

 

「聞いたか。また駄目だったとよ」

 

「おいおい。これで何人目だ?勘弁してくれよ。」

 

 

噂をする二人の兵士の横を簡易的な担架が通る。

布で覆われたそれからはみ出て見えているのは白く細い、恐らく女のものと思わしき腕だった。

 

「ああ、あの腕から見て多分奴隷とかじゃなくきちんとした家のお嬢様だったんだろうが・・・」

 

「かわいそうになあ。父親も遣る瀬無いだろう。」

 

「手塩にかけた娘も駄目。孫も駄目じゃ、なあ。」

 

「上の方の奴らはまだあきらめてないらしい。」

 

「そりゃ、王族とつながりが出来れば利権が増えるしな、それも娘が国母、その子が次期王にでもなったらそれこそ怖いものなしだろうよ。」

 

「けど俺はそんな奴らの気が知れねえよ。」

 

「ああ、全くだ。なんせ我らの王には―――銀の魔女の呪いがかかってんだからよ。」

 

「っ馬鹿お前、そっから先口にしてみろっお前も呪われるぞっ」

 

「っといけねっ。悪い悪い。」

 

 

ヒソヒソ・・・。

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

―――え・・・ええん。

 

―――ええええんっ。

 

 

人気のない閑散とした回廊に響く産声に、その回廊を歩いていた男が顔を上げる。

 

「産まれたか。」

 

男が顔を戻すとそこには先程までいなかった覆面の姿があった。

 

「はい。滞りなく。ただ―――。」

 

「ただ―――なんだ。申してみよ。」

 

言い淀む覆面に男は少しばかり眉根を吊り上げて先を促した。

 

「・・・見ていただいたほうがよいかと。」

 

幾分かの逡巡の後、観念したかのように覆面は男を今だ産声の上がる室内へと迎え入れた。

 

簡素な扉を開けて踏み入った室内には産婆と意識を失った母親と思わしき女性。そして、産婆が抱えている白い布の塊。否、この布の塊こそが先程から産声を上げている赤子である。

産婆は突然の来訪者に目を見開くも、覆面から幾許かの口添えを受けるとまず覆面に頷きを返し、そのまま男に一礼し、赤子を手渡してきた。

 

「元気な王子でございます。」

 

手渡された赤子の顔を覗き込む。と、赤子が泣き止んだ。

大きな瞳が男をめいっぱい映している。

その顔を見た男はわずかに目を見開いたかと思うと覆面にその子供を渡した。

 

「いかがなさいますか。」

 

「こやつは王の系譜には並べぬ。余所へやれ。」

 

「・・・よろしいので。」

 

「くどい。やれと言っている。」

 

「御意。」

 

ほぼ即決といってもいい。

我が子の行く末を決めてしまった男に承諾しかねるといった風に確認を取った覆面は今度こそ無感動に言葉を紡ぎ、その場を退出した。

その背中を見送った後、男がぽつりと呟きを落とす。

 

「エンリルよ。あれがああも似てしまうことを、お前は知っていて―――。」

 

誰にも届かないであろう言葉は窓の外の嵐の風音に掻き消された。

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

パタンっとなるべく優しくドアを閉めた覆面の前に一人の女が姿を現す。

 

恐らく年の頃は20、21辺りなのだろうが猫背で顔も俯きがち、その上全体的に病人のように痩せ細り血色もあまりよくないという事もありもっと年上に見える。

 

「あ、兄様。わたし「ちょうどよかった。受け取れ。」

 

「王から下賜されたものだ。丁重に育てろ。」

 

 

暫くえ、あ、え?と戸惑っていた女だったが意を決したように布を取り、赤子と顔を合わせた。

女はしばし呆然と赤子の顔を見ていたが、いつしかその目には膜が張り、一つまた一つと涙が頬を濡らしていく。

 

「あ、ああああ、あ。」

 

先程とは違った嗚咽を涙交じりに流しながら女は呟いた。

 

「お、お役目っは、いりょう。しましたっ。せ、せいいっぱい、勤めさせて、いただきます。」

 

覆面が姿を消した後も、女はその場で膝をついてぎゅっと赤子を抱き締めた。

 

「大丈夫。今度こそ間違えません。××××××様。今度こそ貴方を―――。」

 

 

 

 

 



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こうして始まりの鐘は鳴るのです。

遅ればせながら、誤字の訂正ありがとうございました。

取り敢えず、こちらにはこれからFGO編を掲載しようと思っています。

我ながら懲りないなと思いつつもこれからも書いていく所存ですので、よろしければ見ていってください。


―――大好きよ。

 

白い人はそう言って僕を抱き締めました。

 

―――お前がもっとしっかりしていればっ。

 

青白い人はそう言って僕を打ち叩きました。

 

―――貴方は、まだ彼女を覚えているのか。

 

茶色の人はそう言って僕に語り掛けました。

 

 

 

けれど、ごめんなさい。

 

 

貴方に掛ける言葉を僕は持ち合わせていません。

 

だって僕は、どの『僕』も本当の僕だと思えないのですから。

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

―――ふぉ・・・ふぉ・・う。

 

頬の上を何か暖かいものが這う感覚がする。

これは・・・なめられているのだろうか。

 

「う、うーん。」

 

「おーい。君。大丈夫ー?おーい。」

 

次いで、誰かの呼び声。

 

「はあ、ファーストオーダーまで時間もない。起きろ。夢遊病患者。でないと今にこれを貴様の鼻先に叩き込むぞ。」

 

1、2、3のカウントの後に顔面・・・正確には鼻に衝撃が走った。

 

「ぐがっ!?」

 

衝撃に意識を覚醒させると、いつの間にか見知らぬ廊下で、これまた見知らぬ二人の少女と少年、それとリスのような生き物に囲まれていた。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

どうぞ。と薄ピンク色の髪色の少女がハンカチを手渡してくる。不思議に思い顔に触れるとひたりと濡れた感触。

手を見てみると血が付いていた。恐らく鼻血。

ありがとうと言いつつ素直にハンカチを受け取る。

 

「ええと・・・君たちは・・・?」

 

「あ、と・・その・・・」

 

「もーマシュったら初々しいなあ。あ、私はリッカ。リッカ・アームストレイム。一応魔術師、だけどそんな代数も積んでないし、私自身は人数合わせで呼ばれたようなものだから、気軽にリッカでいいよ。」

 

「す、すみません。あまり口にする機会がなかったもので・・・えっと、マシュ・キリエライトと言いますっわっ。」

 

「フォーウ!!」

 

「あ、フォウさん。そうですね。失念していました。こちらのリスっぽい方はフォウ。カルデア内を散歩する。謎の特権生物です。」

 

先輩を見つけたのもフォウさんなんですよ。といって少女は謎の生物フォウの頭を撫でようと手を遣るも・・・フォウはその手をするりと抜けて廊下の向こうに消えていった。

 

「・・・あのように特に法則性もなく散歩しています。」

 

少し肩を落とした少女の肩にポンと橙色の髪の少女が手を置く。

と、わざとらしい咳払いと橙色の少女が「あ、」と呟くのとが重なった。

橙色の少女が音の発生源である青髪の少年の後ろに回り込む。

 

「ととっ。忘れる所だった。こっちはアンデルセン。現在カルデアにいるサーヴァントのうちの一人だよ。言い方はきついけどいい人だから。困ったら頼るといいよ。ね。」

 

「何が、ね。だっ。そんなものはごめん被る。ただでさえ子守りなんていうめんどくさい業務を請け負っているのに更にもう一人だと?はっカルデア(ここ)は余程オレを過労死させたいと見える。そんなものはどこぞの王にでも請け負ってもらえ。・・・そういえばお前らそろそろ時間だがいいのか?」

 

「何が?」

 

「何だと?ファー「ああ、そこにいたのかマシュ。」ちっ」

 

突如聞こえてきた声に青髪の少年・・・アンデルセンは舌打ちをすると「それではオレはこの辺で退散するとしよう」と言って足早に歩きだした。

 

「あ、待ってよアンデルセンっ。じゃ、また後でねー。」

 

そのあとをリッカがこちらに手を振りながら小走りでついていった。

 

「ああ、また後で。」

 

言って手を振り返す。

・・・アンデルセンとレフ教授って仲が悪いんだろうか。

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

「・・・ふーん。じゃあ今日がレイシフトの初起動なんだ。」

 

「うんうん。というわけで今日はバトルスーツに袖を通してみたわけだけど・・・どう?似合ってる?」

 

薄暗い、培養器のみの設置してある室内でリッカがクルリと回って見せる。

 

「馬子にも衣裳。とはまさにこれだな。おいメア、今すぐ目を閉じろ。こんなピチピチの服を着て喜び、あまつさえこんな痴女同然の格好でカルデア内のほぼ全域を歩き回るような女が目の前にいるぞ。確実に教育どころか目にもよくない。・・・いや、やはり見ておくべきか、後学のためにも目に焼き付けるべきだ・・・と考えたほうがためにはなるか。」

 

「お、おのれっ言わせておけばこのショタ爺めっ」

 

その掛け合いに培養器の中の・・・おそらく10にも満たないような少年、メアが苦笑する。

 

「アンデルセンは素直じゃないなあ。大丈夫ですよリッカさん。ちゃんと似合ってます。特にカラーリングがオレンジな辺りリッカさんって感じがして、僕は好きです。」

 

「よっしゃ!メア君、私も好きだよ!」というリッカをアンデルセンがうわあっと言いそうな若干引き気味の表情で見ている。

 

「うんうん。いい感じにメア君成分を充電できたし、じゃ、私行ってくるね!!」

 

手を振ってリッカが駆けていった。

溜息を吐いてアンデルセンが肩を竦めて見せる。

 

「やれやれ、あの猪女。ちゃんと会場にたどり着けるのか?」

 

「だ、大丈夫だよ。リッカさんはアンデルセンとここの管理人の人たち以外に初めて僕を見つけた人だよ?」

 

「ああ、フォウとかいう謎の生物を追っていて迷った末にな。」

 

「・・・。」

 

「まあいい。何かあったらきっとさぼり癖のあるロクデナシかあのヒステリック強情女のどっちかが回収するだろう。」

 

所で、調子はどうだ?とアンデルセンがどことなく不安げな光を宿しながら少年に声を掛けた。

その問いにメアはにこりと笑ってアンデルセンと目線が同じになるよう培養器の下方へ移動する。

 

「今日も夢は見たけど、それ以外は全然。うん。すこぶる絶好調かな。」

 

「そうか、お前が絶好調とは明日は槍でも降るんじゃないか?せめて調子がいいくらいにとどめておけ。」

 

ふんと鼻を鳴らしつつ不敵な笑みを浮かべるアンデルセンは安心したように軽口を叩くと、二人でどちらともなく笑いあった。

 

次いで、爆音。地鳴り。

 

ヴー。ヴー。

 

非常事態を知らせるアラートが鳴り響いた。

 




もう主人公が主人公してない・・・。

で、でも一応出るんですよ?出番はあるんですよ?一応・・・。


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取り敢えず、生きている。

タイトルまんまだなとかいろいろあるけど投稿。
もしかしたら変えるかもしれない。


薄い唇が囁く

 

ああ、どうか恨まないでくださいね。

 

私は貴方を■します。

肩に置かれた冷たい手に赤黒い糸くず。

それはよく見るとその手から自身の足元へ、更に辿ると身体を這いあがって、それは、僕の首を一周して。

貴方と■の歪な縁。流石の蓋も間に合わない。

視界の端に金糸がちらつく。貴方はだあれ?

でもだいじょおぶ。きっとそのうち迎えに行くよ(その時は今じゃないからさ)

 

 

ああでもほら、君があんまりにも欲しがりだから■はすぐそこに・・・。

 

 

 

「今はその時じゃない。だから」

 

―――おやすみなさい(引き返しなさい)。僕。

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

「う・・・。」

 

始めに感じたのは何かの焼ける匂いと煙の息苦しさだった。

身じろいだだけで悲鳴を上げる身体に鞭打って、身体を起こす。

 

「ここ・・・は・・・?アンデルセン・・・?」

 

親しい(と少なくとも自分は思っている)サーヴァントの名を呼ぶも返事は返ってこない。

それどころか今自分がいるのは専用の培養器どころかカルデアの一室ですらなかった。

何か、いろいろな何かがともかく燃えている。いつだったかアンデルセンが見せてくれた本に載っていた町とやらに似ている気もするが、こんなにぐちゃぐちゃではなかった気がする。

ふと一糸纏わぬ自身を見てこれではやはり駄目だろうかと運よくその辺に転がっていた襤褸切れを頭から被った。

 

「ぷうっ・・・と、よし。」

 

素足だがまあそれは仕方がない。

なるべく安全そうな個所を選びながら探索を開始した。

 

 

 

「―――っの。―はっ。」

 

破壊音。戦闘音。戦闘音。破壊音。

何かが燃える音以外の音を探していると遠くから誰かの呟きが聞こえてきた。

聞き覚えの無い音が無数に聞こえてくるも、それよりも今は自分以外にも人がいたという事実の方に対する喜びの方が大きい。思わず駆けだした。

その音源に着くと、何やら制服染みた格好の女性が影のような何かと交戦しているところだった。

女性の方が分が悪いらしいが、それでも必死に抵抗を続けている。

がらりと自分の足元の瓦礫が崩れる。

 

「っつ。誰っ。」

 

いいながら女性はこちらにも何かを打ってきた。

 

「うっわわっ待って待ってっ」

 

うわああああっと我ながら情けない悲鳴を上げる。

対して女性は「こ、子供・・・?」と呆然とこちらを見ていたが、我にかえったかと思うと再度指をこちらに向けてきた。

 

「あ、貴方は何者。なぜこんなところにいるのかしら。返答によっては・・・」

 

「僕はカルデアの研究観察対象。名をディルメア・ストルファイスと言います。・・・お姉さんのお名前は?」

 

「お、オルガマリー・ア・・・て、違うっあ、貴方まさかあの子と一緒なの!?・・・いえ、いいえそんなデマ信じるものですか。第一カルデアに所属していて何故私のことを知らないのっ」

 

「あ、えと・・・。」

 

自意識過剰。とも言い切れなくもない。なんせ僕は生まれてこの方あの培養器から出たことはない。

今となってはできたのかはわからないが培養器から出て出歩くということはなく、向こうから来てもらうというのが人とかかわる手段だった故に、僕の交友関係は狭いのだ。

 

「・・・ごめんなさい。今は信用に足るものは何も・・・ただ、僕のことを知っている人なら挙げるのでそれで今はご勘弁を・・・まずカルデア所長マリスビリー・アニムスフィア。ロマニ・アーキマン。リッカ・アームストレイ「ええ、わかったわ。わかったからそれ以上は言わないで頂戴。」

 

なんでロマニどころかあのリッカが知ってるのに私には・・・一言も・・・と苛立たし気にオルガマリーさんは溜息を吐く。

 

「あ、あの。オルガマリーさんが知らないのも無理はないと思います。僕、ずっとカルデアの何処かの培養器に入ってましたから。」

 

「っ。同情してくれているのかしら?はっきり言って不愉快よ。やめて頂戴。」

 

僕の言葉にオルガマリーさんはギリリと唇を噛んでこちらを睨みつける。

同情というものがどういうものかはあまりよくわからないが、何か気に障ることをしてしまったらしい。

 

「ご、ごめんなさい。」

 

「ああもうっ。そうじゃなくてっ。貴方、あの子と同じってことはデミサーヴァントなのよね?」

 

謝罪の言葉に頭を掻きむしったオルガマリーさんは僕を見た。

 

「い、一応は・・・そうなっているはず・・・です?」

 

「一応?まあいいわ。それなら貴方に緊急の任務を与えます。ディルメア・ストルファイス。これから通信に必要な霊脈を探します。その間、私の護衛をしなさい。いいですね。それから、これからは私のことを所長と呼ぶこと。」

 

僕を指さしてそう、彼女は宣言した。

 

「・・・オルガ、所長。大変申し訳ないのですが。その。僕、戦闘経験がないもので・・・ごめんなさい。英霊化も出来ません。」

 

その言葉に所長は顔を引き攣らせた。

 

「な、なんですって。」

 

じゃ、じゃあ貴方どうしてレイシフトが出来たの?サーヴァントでもマスターでもないのにっと詰め寄られる。

否、襟首を掴んで揺さぶられているので首を絞めにかかられているといったほうが適切かもしれない。

 

「し、所長っうっしろっに敵っがっ」

 

は?と少し間の抜けたような声とともに所長は僕を放すと決して小さくはないであろう悲鳴を上げた。

 

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

間一髪のところを謎の人物・・・僕と同じデミサーヴァントのマシュさんとそのマスターである藤丸さんが助けてくれた。助けてくれた・・・のだが。

 

「?如何なさいました。ディルメアさん。」

 

マシュさんのつま先から頭まで視線を巡らせてみる。うん、やっぱり露出が多い。

仮に僕が英霊化した場合もこんな感じになるのかと思うと力は欲しいけれど複雑な気分だ。

まあ、これ以上見ていてもアンデルセンが言っていたセクハラとかいう行為になってしまってもあれなのでそんな思考は早々に切り上げることにした。

 

「いいえ。なんでも。ただ、マシュさんはできるんですね。英霊化。」

 

「え?あ、はい。ただ、完全に自らの意思で、というわけではないので奇跡的に成功したと言った方が良いかと。」

 

そんな会話をしていると召喚サークルから通信が入る。

そこに現れたのはレフ・ライノールではなくロマニ・アーキマンだった。

 

「シーキュー、シーキュー。もしもーし!よし、通信が戻ったぞ!二人ともご苦労様、空間固定に成功した。これで通信もできるようになったし、補給物資だって・・・」

 

「はあ!?なんで貴方が仕切ってるのロマニ!?レフは?レフは何処?レフを出しなさい!」

 

ヒステリックに叫ぶ所長に情けない悲鳴を上げたロマニは、その隣にいる僕を見て更にその顔を驚愕で染めた。。

 

「ええええ!?なんで君がそこにいるんだい!?メアっ。君はまだ調整中のはずじゃあ」

 

「っ。そう、そうよ。ロマニ。なぜ、なぜこんなのがここにいるの!?というかなぜあなたがその席に座っているのよ!」

 

少し冷静さを取り戻した所長がこちらを見る。

その瞳、表情には、必死だった先程までとは違い明確に僕への恐怖や侮蔑やらが含まれていた。

マシュにもそれらしきものを向けていることが見て取れるものの、僕に向けるそれよりは幾分か薄い気がした。

 

「なぜ、と言われると僕も困る。自分でもこんな役目は向いていないと自覚しているし。でも他に人材がいないんですよ。オルガマリー。・・・現在生き残ったカルデアの職員は僕を入れて20人に満たない。僕が作戦指揮を任されているのは、僕より上の階級の生存者がいないためです。・・・レフ教授は管制室でレイシフトの指揮を執ってた。あの爆発の中心にいた以上、生存は絶望的だ。」

 

「そんな―――レフ、が・・・?いえ、それより待って、待ちなさい、待ってよね。生き残ったのが20人に満たない?じゃあマスター適性者は?コフィンはどうなったの!?」

 

マスター適性者。そうだ、Aチームが予定通りにレイシフトを起動させていたのだとしたら―――。

 

『うんうん。いい感じにメア君成分を充電できたし、じゃ、私行ってくるね!!』

 

彼女(・・)の笑顔が、頭を過った。

 

 

「・・・46人が危篤状態です。医療器具も足りま「ドクター。その中に、リッカと。リッカ・アームストレイムという人物はいませんか?」

 

思わず身を乗り出した。隣で所長が何か言っているが気にしている余裕はない。

 

「・・・ごめん、メア。彼女はコフィンに乗り遅れてしまって・・・爆発の直撃を受けて・・・もう。」

 

「っ。生存者をすぐに凍結保存に移行しなさい。蘇生方法は後回し、死なせないのが最優先よ。」

 

その後もドクターと所長の話は続く。

僕はその場でぺたんと尻餅をついた。

隣でマシュが「リッカさんが・・・死んだ?」と呟いているのを聴覚が拾った。

 

 

―――リッカ・アームストレイムが死んだ。

 

嘘だ、嘘だ。

 

だって、つい数時間前まであんなに元気だったのに。

いつもの笑顔で、笑っていたのに。

 

それに、遺体も見ていない。

 

きっと、今にひょっこり通信に顔を出して―――。

 

 

ぐずぐずと

 

黒い何かが蠢いた気がする。

 

悲しいね、虚しいね?

 

その黒い何かは僕の耳元まで回って尚も囁いた。

 

あーあ、まただよ。またまたまたまた死んじゃったね。君のすきなの。

でも仕方ないよねえ?だって君は今回も届かなかったんだから。

仕方ない仕方ない。なーんてね。

 

何かは子供のように無邪気な笑い声を上げた。

 

あ、また届かなかったとか思ってる?

違うよ君は手を伸ばさなかったのさ

 

違う

 

宝の持ち腐れ、君に意気地がなかったから、君が気にしなかったから

 

だから彼女は死んだんだ。

 

 

違う

 

君が気付かないふりをしたから、彼女は死ななきゃいけなくなったんだ

 

違う、違うっ

 

ざわりと

 

視界が

 

      ―――――

 

 

赤―――く—な―――て。

 

 

「メア。」

 

急に名前を呼ばれて意識を戻した。

 

「は、い。」

 

見れば立花さんがこちらを心配そうに見ていた。

 

「大丈夫?移動するみたいだけど・・・辛いならおぶろうか?」

 

「い、いえ。大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」

 

そう?無理そうなら言ってくれよ?と言って立花さんはニコリと微笑んだ。

 

―――名前だけじゃなく笑い方も似てるんだ。

 

「・・・?」

 

内側にくすぶっていた何かが少しだけ薄くなった気がした。

 




だ、大丈夫大丈夫。リッカさんもまだ出番あるから!!(震え声)


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戦う力

「gaaaaa――」

 

盾を叩きつけられた敵が消滅する。

 

「敵性生物、排除しました。先に進みましょう。」

 

「あの怪物を見た時はどうなるかと思ったけど、さすがはサーヴァント体、スペックでは圧勝ね。」

 

所長がマシュさんに向かって安心したような声でそう告げる。

その声にマシュさんは怖いのは変わらないと言いつつこの特異点となってしまった冬木の現状について所長に質問を繰り出していた。

 

―――どうして、僕もデミサーヴァントのはずなのに・・・。

 

心の中で呟いた。危機的な状況に陥ってレイシフトしたことも、おそらくではあるが製造された期間だってそう変わらないはずなのに。

なのに、どうして彼女は英霊に成れて(戦えて)僕は何もできないの(戦えないのだろう)か。

 

僕と彼女。いったい何が違うというのだろうか。

 

僕は浮かない顔のまま、足を動かした。

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

「はあっ、はっ」

 

走る。ただ、ひた走る。

 

「ディルメアっもっと足を動かしなさいっ死にたいの!?」

 

斜め前から所長の声が聞こえる。

無茶を言わないでほしい。こう見えて生まれてこの方培養器から出たことすらなかったのに出て早々に全力疾走しろとか、包丁を使わずに綺麗にスイカを割れと言われるくらい難易度が高い。というか高すぎる。

そんなことを考えていると踏み出した先にあった小石に躓いた。

 

「っあ、」

 

そのまま転倒する。

あ、僕。やられ―――

 

「メアっ」

 

そのとき、僕の前に歩み出る人影があった。

白い制服に、黒い髪の毛の。

藤丸、立花。

 

瞬間ぞわりと、背筋を何かが、脳天まで駆け抜けた。

 

 

――――――

 

 

迫る刃/迫る瓦礫

 

それは僕の方に近づいて

 

現れる人影

 

立ち向かう立花さん/覆いかぶさる誰か

 

止まらない、止まらない。

 

なんで

 

だめだ。

 

僕なんか庇わなくていいから

 

やめて

やめて

 

―――

 

「やめてえええええっ」

 

刹那、閃光。

立花さんが驚愕をその顔に浮かべてこっちを見る。

 

―――敵が、吹き飛んだ。

 

何が起こったのかわからず、光の発生源である自分の手元を見る。

と、そこには一振りのシンプルな直刀が握られていた。

妙な安心感とともにぎゅっと柄を握りこむとどう使えばいいのかが自然と胸中に蘇ってきた(・・・・・)

 

―――これなら・・・戦えるっ。

 

 

目の前の吹き飛んだ敵に追撃のように一閃。

 

「せりゃあっ」

 

ガキンっと攻撃が防がれる。

 

「―――話ニナラン。コレデハ 私一人デ 充分ダッタカ。」

 

「マシュっメアっ」

 

その言葉に立花さんが慌てたように叫んだ。

その直後、背後で誰かの斬りつけられる音がする。

 

「くっ、つあ・・・。」

 

「マシュっ」

 

背後を確認しようと振り向いたと同時に斬りかかられる。

 

「っ・・・。」

 

咄嗟に得物を構えて相対する。ギャリギャリと得物同士が擦れ、耳障りな騒音が鳴った。

 

―――重いっ。

 

あと何分。いや、何秒持たせられるか・・・。と思考し始めた時、自分と敵サーヴァントの間に炎が舞った。

 

「ヌウ、何者ダ・・・」

 

「何者って、見れば分かんだろご同輩。なんだ、泥に飲まれちまって目ん玉まで腐ったか?」

 

薄青の衣を纏った、戦士と見紛う藍色の髪の賢人がその場に現れた。

 

「おう、よくやったな坊主、嬢ちゃん。そら、呆けてねえで構えな。腕前じゃああんたらはヤツに負けてねえ。気を張れば番狂わせもあるかもだ。」

 

「は、はい。」

 

「頑張りますっ。あ・・・れ・・・?」

 

立花さんの指示を受け、戦闘を開始しようとして、意識がふとブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 




ディルメア・ストルファイス

現在の装備

そこらへんで拾ったぼろ布

不思議な剣←new



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愛してください、お願いします。

タイトルが迷走してきてる件。


「あああああっ」

 

マシュさんの叫び声で目が覚めた。

 

「・・・?」

 

―――何処だろう。ここ。

まるで洞窟のような薄暗く、広い空間が広がっている。

なにかの余韻のようにびりびりと空間が震えているところを見るに戦闘があった直後のようだ。

 

「――いずれ貴様も知る。アイルランドの光の御子よ。

 

グランドオーダー—――聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだという事をな。」

 

そう言い残して、退治していた黒衣の剣士のサーヴァントは光の粒子となって消えた。

後には謎の水晶体のみが残される。

 

「おいまて、それはどういう・・・ん?起きたのか坊主。ってうおお!?ここで強制送還ってか!?っち。後は任せたぜ嬢ちゃん。それと坊主。お前はそれ以上無理に同調すんなよ。つか、それ以上こっち側の力を使うのはやめろ。出ないとお前――挿げ替えられんぞ(・・・・・・・・)。―――じゃ、次があんなら、そん時はランサーとして喚んでくれ!」

 

そう言い残して薄青の賢人はさっきの黒衣の剣士と同じように光の粒子となって消えていた。

もう何が何だかわからない。

僕をおぶってくれていた、これまた驚くことに所長が僕が起きたことに気が付いたらしく慌てて支えていた手を放した。

 

「うぎゅっ」

 

結果、当然の如く落下からの転倒である。酷い。

 

「お、起きてるなら起きてるって言いなさいよっ。ていうか、ていうかっ」

 

俯いてプルプルと震えだす所長。

あれ、僕また何かした?と記憶を探ってみる。駄目だ、わからない。

 

「なんでっ下に何も穿いてないのよおおお。セクハラよ!セクハラだわ!!」

 

よくみたら顔を真っ赤にして涙目になっていた。レア・・・?

というか所長。文句は僕じゃなくカルデアの僕担当の職員たちか前所長かドクター辺りに言ってください。

ずっと培養器漬けで衣服もこの襤褸布が初めてなんです。

 

「か、カルデアに帰ったら支給品の服を見繕いますから早急に着替えなさいっいいわね!」

 

「あ、はい。」

 

「・・・こほん。ま、まあ、何はともあれよくやってくれた。マシュ、立花君、メア。これで、この特異点は修正されたはずだ。後は所長の指示に従って・・・所長?」

 

「う、うう。確かにこういう魔術についてもたしなんではいたけど・・・いたけれど・・・もっとこう・・・」

所長は心ここにあらずと言った体で何事かをブツブツ呟いている。

 

「マリー所長。マリー所長ー?」

 

そんな所長に話しかける立花さん。僕にはできない芸当だ、だってきっと殴られそうだもん。すごい。

 

「ふぁ!?・・・ええそうね。よくやったわ、立花、マシュ・・・メア。不明な点は多いですが、ここでミッションは終了とします。それではセイバーが残した水晶体の回収を、恐らくあれがこの特異点を作り出した要因よ。」

 

 

「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ。」

 

マシュさんと立花さんが水晶体を回収しようと足を踏み出した時、不意にここにいる誰でもない声が聞こえた。

・・・よく、聞き覚えのある声が。

 

「48人目のマスター適性者。まったく見込みのない子供だからと、善意で見逃していた私の失態だよ。」

 

続く言葉とともに現れたのは死んだと聞かされていたレフ・ライノールその人だった。

いつものように温和な笑顔をその顔にうかべている。けど、なにか様子が・・・おかしい。

 

周囲が彼の生存に驚愕の声を上げる中、何でもないように。さながらカルデアの廊下で雑談でもするかのような気軽さで、会話を続ける。

 

「うん?その声はロマニ君かな?君も生き残ってしまったのか。すぐに管制室に来てほしいと言ったのに、私の指示を聞かなかったんだね。まったく―――どいつもこいつも統率の取れていないクズばかりで吐き気が止まらないな。」

 

直後、告げられた言葉は。今までの彼からは想像がつかないほどひどい言葉の羅列だった。

 

「人間というものはどうしてこう、定められた運命からズレたがるんだい?」

 

そこまで言ったとき僕と同じようにレフ・ライノールに違和感を感じたらしいマシュさんが立花さんに下がるよう進言する。

 

「あの人は危険です。・・・あれは、私たちの知っているレフ教授ではありません!」

 

「レフ・・・ああ、レフ、レフ、生きていたのねレフ!良かった、あなたがいなくなったらわたし、この先どうやってカルデアを守ればいいかわからなかった!」

 

言って、距離を詰めようとする所長。

走り出そうとする所長の腕を咄嗟に掴んだ。

 

「ちょっとっ。放しなさい!!」

 

「駄目ですっ。所長っ。近寄ったら!!」

 

近寄ったらいけない。だって、人間で、且つここまで緊張状態が続いていたせいか、立花さんも所長も気づいていないが・・・あの男は――

 

「やあオルガ。元気そうで何より。」

 

あの男は、僕らを殺したくてたまらないとでもいうかのように現れたその時から殺気を振りまいている―――!!

そんな、内心冷や汗を垂らす僕を置いてけぼりにして。

君も大変だったようだね。というレフに所長はその場で会話を再開した。

 

「ええ、ええ、そうなのレフ!管制室は爆発するし、予想外のことばかりで頭がどうにかなりそうだった!

でもいいの、あなたがいれば何とかなるわよね?」

 

だって今までそうだったもの!今回だって私を助けてくれるんでしょう?と所長は期待と安心に満ちた目で目の前の男を見つめている。

 

「ああ、もちろんだとも。―――本当に予想外のことばかりで頭にくる。

その中でもっとも予想外なのが君だよ、オルガ。爆弾は君の足元に設置したのに、まさか生きているなんて。」

 

「―――――、え?・・・・・レ、レフ?あの、それ、どういう、意味?」

 

先程までの安心しきっていた所長の顔が驚愕に彩られる。

 

「まったく、最後の最後に余計なことをしてくれたものだ。あの女(・・・)。あの女さえいなければ、今頃君はちゃんと死んでいたはずだったのに、あの女が起爆直前に君をコフィンの中に放り込んだりなんてしなければ・・・ああ、本当に思い道理にならない。まったくもって腹立たしいね。そして、その直後に乖離した君の精神体をトリスメギストスがご丁寧に回収してこの土地に転移させたんだ。おめでとう。君は疑似的とはいえ死ぬことであんなに欲しがっていたマスター適性を手に入れたんだ。私は憎くてたまらないが、君はあの女に感謝すべきだね、オルガ。」

 

ああ、そうそう折角だ。今のカルデアの現状を見せてあげよう。と言って背景が変わる。

見えたのは真っ赤に燃え盛るカルデアスと思わしき巨大な地球儀のような球体。

 

「な・・・なによあれ。カルデアスが真っ赤になってる・・・?

嘘、よね?あれ、ただの虚像でしょう、レフ?」

 

「本物だよ。君のために時空を繋げてあげたんだ。聖杯があればこんなこともできるからね。・・・さあ、よくみたまえアニムスフィアの末裔。あれがおまえたちの愚行の末路だ。」

 

まるでカルデアスを覆った赤色を賛美するかのように、所長を、牽いては人類をあざ笑うレフ。

 

「嘘よ、ふ、ふざけないで!!わたし、わたしは・・・!!っあんたなんてレフじゃない!わたしのっ私のカルデアスにいったい何をしたの!?」

 

そんな所長の様子に溜息を吐いたレフは仕方がないといった様子で言葉を返した。

 

「あれは君の、ではない。―――まあいい。この際君ごときいてもいなくてもそう変わらないが、念には念を。一応この場で始末しておこう。もちろんそこにいるメア(ゴミ)。君も一緒にね。」

 

言葉が終わると同時に僕と所長が何かに引っ張られるかのように宙に浮く。

向かう先は――カルデアス。

 

「か、身体が宙に・・・。何かに引っ張られて・・・。」

 

慌てる所長と僕を余所にレフ・ライノールは温和な声音で答える。

 

「言っただろう。そこは今カルデアに繋がっていると。このまま殺すのは簡単だ。しかしそれでは芸がない。

だから、最後に君の望みを叶えてあげよう。・・・君の宝物とやらに触れるといい。なに、私からの慈悲だと思ってくれたまえ。」

 

ここでようやく所長の顔に冷や汗が浮かんだ。

やっと、目の前の男が本気で自分を消そうとしていることに気が付いたのだ。

・・・もっとも、僕としてはいささか遅いような気がするが。

 

「ちょ、冗談でしょう?レフ。宝物ってカルデアスのこと?

や、めて。止めて、止めて!お願い。だって、カルデアスよ?高密度の情報体、次元が異なる領域、よ?

そんなの、そんなの・・・!!」

 

「ああ、ブラックホール、いや。太陽かな?まあ、どちらにしろ人間が触れれば分子レベルで分解される地獄の具現だ。遠慮なく、生きたまま無限の地獄を味わいたまえ。」

 

その言葉を前に例え無駄で、周囲から見たら滑稽かもしれないが、所長が慌てたようにさっきよりも一層身体をバタつかせ始めた。

 

「いや、いやいやいやあああああっお願い誰か助けて!お願い、お願いします!!死にたくない!私まだ死にたくないの!いやよこのまま死ぬなんてっだって、だってわたし・・・まだ誰にも認めてもらってない!!なんで!なんでこんなことばっかりっ・・・わたし、私ばっかり・・・なんでっ・・・どうして、みんな私を評価してくれないのっみんな私を嫌ってばかり、わたしだって一度でいいから誰かに褒められたい、それだけなのにっ。

誰かに、そこにいていいんだよって、生きていていいんだよって。認めてほしいだけなのにっ!!」

 

所長の涙に濡れた悲痛な叫びが周囲に響き渡る。

カルデアスは既に目前まで迫っていた。

 

ジリジリと思考回路にノイズが混じりだす。

 

眼前に真っ赤なカルデアス

 

まるで新鮮な血をぶちまけたかのような赤が迫る。

 

ああ、ここで死んでしまえたら、きっと

 

僕は、何処かにいけるのだろうか。

この世界の縮図のようなものと、たとえ仮染めでも一体になれたのなら

 

あの人の元にいけるのだろうか。

 

そんな現実逃避染みた思考をしているとノイズに交じってやけにはっきりとした音声が脳内に響く。

 

 

 

――いい加減になさい。死ぬつもりですか。

 

 

はい。だって、どうしようもない。

元より僕のような失敗作(ゴミ)。いままで生きてこれたのが奇跡だったのだから。

ゴミはゴミ箱へ(ダスト・ザ・ダスト)。というでしょう?

ただ・・・。

 

 

―――ただ?

 

 

ただ、心残りなのは所長(彼女)のことです。

あなたが誰なのかは存じ上げません。ですが、この場を何とかできる力があるというのならお願いがあります。

僕は、どうなってもいい。けど、彼女を無事にカルデアに帰してくれませんか?あの優しいマスターとデミサーヴァントと一緒に。

 

 

―――何故?

 

 

なぜ?なぜ・・・ですか。

 

 

 ふと、彼女の一言が思い浮かんだ。

『か、カルデアに帰ったら支給品の服を見繕いますから早急に着替えなさいっいいわね!』

 

 

・・・敢えて言うなら、理由はどうあれ始めて僕に贈り物を約束してくれた人だから・・・ですかね?

 

 

―――そうですか。でも、今君に死なれては困ります。・・・僕もあの人も、ね。

 

バチリ

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

空中に浮いていたメアが姿勢を変え、所長の前に躍り出た。

 

そのままカルデアスに接触する。

 

バジッ

 

バジバチバジジッ

 

接触したと思われる面から電流が走り爆発が起こる。

 

爆発の煙が晴れて俺・・・藤丸立花が目にしたのは無傷で地べたに座り込む所長と、同じく無傷でその前に立つディルメア・ストルファイスの姿だった。

 

「ふう。さて、オルガが助かるというのは百歩譲ってわかる。君がクッションになって軌道がずれたとでも言えば納得ができるからね。が、なぜ君は無傷なのかな?ディルメア・ストルファイス君。君がデミサーヴァントだとしてもカルデアスに飲み込まれれば一溜りもないはずだが。」

 

その問いに、赤い瞳を爛々と輝かせてメアは笑顔で答えた。

 

「さあ?―――それこそあなたの魔術が誤差修正不可案件(ノーコン)だっただけでは?

ああ、でも。あえてあなたたちのような頭でっかちな夢想主義者風(リアリスト/ロマンチスト相手)にいうのなら・・・子を思う親の愛・・・ですかね?」

 

その言い方は、ありありと目の前の男―――レフ・ライノールを嘲るかのように紡がれた。

 

「・・・今の安い挑発は、私への宣戦布告と受け取っていいのかな?メア。」

 

「どうとでも。ただ、不意打ちしてくる卑怯者(噛ませ)に宣戦布告もクソもないと思いますよ?ねえ?レフ・ライノール・フラウロス(身の程知らずのクソ野郎)さん?」

 

その言葉に一瞬レフ・ライノールはその顔を歪ませたものの、すぐに元の表情に戻った。

 

「・・・そうかい。改めて、自己紹介をしようか。私はレフ・ライノール・フラウロス。

貴様ら人類を処理するために遣わされた、2015年担当者だ。―――諸君(ゴミども)仮染めとはいえ一時は肩を並べた仲として、最後の忠告をしてやろう。―――カルデアは用済みになった。お前たち人類は、この時点で滅んでいる。カルデアスが深紅に染まった時点で既に!人類は、人類史は焼却されたのだ!!カルデアの外は既にこの冬木と同じ、たとえカルデアの中にこもっても2015年が過ぎた時点で終わりを迎える。貴様らに最早未来(逃げ場)などないっ」

 

そう言って、レフ・ライノール・フラウロスはこの場のあらん限りを嘲笑した。

 

人類を(オレたち)

 

世界の有様を

 

そして―――人類史(人の営み)

 

崩れ行く大空洞の中で、オレはマシュの手を掴み、命からがら脱出した。

 

 

 

―――あの、メアの変わりようは、一体何だったのだろうか。

 

そのことが頭の片隅にちらついた。

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

カルデアに帰還したのち、立花がダ・ヴィンチちゃんと話していたころ。

別な一室では所長とメアが膝を突き合わせていた。

 

「はい。これ。支給品の制服。それじゃ、私はもう行きますからね。」

 

そう、素っ気なく告げて、所長が椅子から立ち上がりクルリと背を向けた。

 

「あ、ま、待ってくださいっ。所長!!」

 

テーブルを踏み台にしてメアが出て行こうとする所長に飛び掛かった。

 

「えちょ!?は!?」

 

そのまま所長とともに床に倒れこむ。

 

「いっつうー。あ、あなたねえ!!」

 

「所長は」

 

「え?」

 

「所長はもっと自信を持ったほうがいいと思いますよ。少なくとも、僕は所長のこと好きですから。」

 

まあ、僕なんかに言われても何の足しにもならないかもしれませんがとメアは苦笑する。

その言葉に所長が返事をするよりも早くメアがあ、そうだっと明るい声を上げた。

 

「所長っ。少し目を閉じていてください。」

 

「こ、今度は何よっ。」

 

「閉じてください。」

 

にこりと笑うメアに根負けした所長は仕方ないと諦め半分に目を閉じる・・・と、少しの間を置いて。彼女の手の甲に鋭い痛みが走った。

 

「っいったい何を・・・」

 

痛みを感じたほうの片手に目を向ける。

そこには望んでやまなかったマスターの、サーヴァントとの契約の証である令呪が刻まれていた。

 

「これ・・・。」

 

信じられないものを見るかのような目で目の前の少年と己の手の甲とを交互に見比べている。

 

「えへへ。所長はちゃんと約束を守って僕に服をくれたので。僕からは令呪を。」

 

初めての贈り物なので、大切にしますね。と言ってそのままメアが駆けて行った。

アンデルセーン!!とカルデアの英霊召喚成功例の第4号の名前を呼びながら走っていくその様はさながら新しいおもちゃを自慢しに行く子供のようだが人選が人選なだけに扱き下ろされそうである。その人選でいいのか。

 

 

 

暫くしてからカルデアに「ロマニイイイイイっマシュウウウウウっリッカアアアアアっわたしっ私いいいいいっ」という絶叫が響き渡った。



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その謎は開示されないままー。

誰かが終わりに呟いた。

どうして、わたしが■■■になる前に■■■■くれなかったのですか。


―――暗闇の中で、一対の目が開かれた。

 

ズリ・・・ズリ・・・

 

何かを引きずるような音とともにシャラシャラと、ジャラジャラと何か金属のようなものが擦れる音が聞こえる。

 

『ど・・て・・・。』

 

誰か/何かの呟く声が聞こえる。

 

『ど・し、て・・・?』

 

その声は深い悲しみと、そして、憎しみに彩られていた。

 

『・・・てと・・たのに。やく・・し・の・・・に・・・。』

 

ジャラリと一際大きく金属音が響いた。

 

『ひ・りに・・・ら・なら、・な・てくれ・・くらいなら・・・』

 

パタリパタリと鮮明に、雫の落ちる音が聞こえる。

暫く、その音のみで途切れていた音声が再度聞こえてきた。

 

『ああ、でも。それでも(■■)は―――しているわ。あ、して。あぃ・て・・る、わ。愛しているわ愛しているわ愛しているわ愛しているわ愛しているわ愛しているわ愛してる愛してる哀して愛して会いして愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して哀して愛して愛して愛して愛して―――。』

 

延々と続く狂気じみた愛の言葉の羅列もいつの間にか終わり、やがてすすり泣く声は何処か喜色を浮かべる声へと変化していた。

 

『だから、ずっと、何度でも。いつまでも。待っているから。』

 

―――今度こそ、(■■)を・・・。

 

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

―――とても悲しいような、切ないような何か。

消化不良気味の感情が胸元まで何かを迫り上げる気がした。

ボケていた感覚が戻るとともに、外気にさらされた両頬が冷たさを感じ取ったことで、自身がさっきまで泣いていたのだろうことが分かる。

 

「メア、ロマニがブリーフィングの前に貴方のメディカルチェックを行うそうだから医務室に行きなさい。」

 

探したわよ。と所長が入室する。

入室すると言ってもある事情から現在の彼女に物理法則は粗方効かないため読んで字の如く壁を通り抜けての入室であった。流石に足が透けてたり、浮いていたりと言ったことがない分まともに見えるが。

 

「わー所長。ノックぐらいしてくださいよー。」

 

棒読みで言うと「わわわ悪かったわね!仕方ないじゃない。まだうまくこの身体を使いこなせなくて生物や任意の強く念じたもの以外に触れられないのよ!!」と面白いくらいの慌てぶりが返ってきた。

 

「まあ、そういうお前はあの変人からご指名を受けてるわけだがな」

 

その後ろからアンデルセンがひょこりと顔を出した。

「ひっ」っと所長がかわいらしい悲鳴を上げる。

そんな所長の様子を差して気に留めるわけでもなくアンデルセンは食堂の方へ歩いて行ってしまった。

 

固まってしまった所長の頭をよしよしと撫でる。限界まで背伸び、つらい。

またも驚く所長。

 

「大丈夫。そんなこともありますよね。」

 

誰にも言いませんから。と笑うと所長は何処かに走って行ってしまった。

ダ・ヴィンチちゃんの工房はそっちじゃないと思うんだけど・・・忙しい人だな・・・。

 

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

「ああ、来てくれたんだね、メア。」

 

そこにかけてと相対するように置かれていた椅子を差すドクター。

 

「本当はもっとちゃんとした検査がしたかったんだけどブリーフィングの時間が迫ってるから軽い診察だけしておくけど、もし何か異常があった場合は特異点から早々に帰還するんだよ。」

 

いつものおチャラけた雰囲気は何処へやら、真剣なドクターの表情にこちらも真顔になる。

触診、聴診など一通り健康診断染みたチェックが終わると、ドクターは息を吐いた。

 

「・・・ふう。はい、一応これでメディカルチェック終了!うん、どこもかしこもおかしなくらい健康体だね。」

 

つい先日まで培養器で調整受けていたとは思えないほどだよ。とドクターは苦笑する。

そこには隠し切れない僕への罪悪感のような何かが見て取れた。

 

「ただ・・・。」

 

ドクターはその表情をすぐに消し去って、もう一度遊びのない表情になって言い淀んだ。

 

「ただ?」

 

「・・・特異点Fでの観測は立花君やマシュ、そしてもちろん君も意味証明含め様々な面から急ごしらえながらサポートをしていた。これはいいね?その中で、君に魔力の変調が数度観測されたんだ。敵性サーヴァントに襲撃された際に一回。それから、レフ・ライノールに所長ごと分解されそうになった際に一回。これは単純に君のサーヴァントとしての性能が発揮されたとかなら、まあ、僕も文句はないんだけど。明らかにこの変調数値はおかしい。マシュもデミサーヴァントで、英霊化も出来る。けれど、こんな大幅な数値の変動は起きていないんだよ。特に二度目の変調時は一時的ではあるが君の霊基が英霊に限りなく近いが全く別物に塗り替わったしね。・・・なにか心当たりはないかい?」

 

言われて、特異点での出来事を思い出す。

あの時は、たしか・・・。

 

「・・・わかりません。ただ、必死だったとしか。」

 

お役に立てなくてすみません。と申し訳なくなって顔を俯ける。と慌てたようにドクターが話を続けた。

 

「え?や、そんな気にしないで!?むしろ謝るべきはそれに対処する術を見つけることが出来ない僕の方なんだから!!うん!とりあえず無理せず元気でいてくれたらそれで充分だよ!」

 

あ、ココア飲むかい!!というドクターの気遣いにこくりと頷く。

ドクターの淹れてくれたココアは甘くて美味しかった。

 

そういえばねーとその場を和ませようと雑談を始めるドクターに笑顔を向けながらふと思う。

 

薄青の賢人が言っていた。

―――それ以上こっち側の力を使うのはやめろ。出ないとお前――挿げ替えられんぞ(・・・・・・・・)

 

ノイズ交じりの誰かも言っていた。

―――そうですか。でも、今君に死なれては困ります。・・・僕もあの人も、ね。

 

その言葉を思い出しまたココアに視線を移す。

ブラウン一色の液体はいつの間にか半分くらいまで飲み干してしまっている。

 

―――僕は、あとどれくらいこうしていられるのだろう。

 

知らず、カップを握る手に力を籠めた。

 



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ご紹介に与ります。

ディルメア・ストルファイス

 

マシュとほぼ同時期に造られたデミサーヴァント。・・・の試作品であり失敗作。

ただし、試作品としてマシュや他の素体より早く融合術式を受けており、その時の出来事が原因で培養器漬けで調整を施される日々を強いられていた。

成長も著しくなく、マシュと同い年にも関わらずFGO開始時は小学生くらいの体躯しかない。

文字や知識は主にアンデルセンとレオナルド・ダ・ヴィンチから教えてもらっていたため一般的なことは(おそらく偏っているが)わかる。

リッカと出会ったのはアンデルセンと知り合った間もなくのため割と付き合いは長く、仲も良好だった模様。

 

 

身長:140cm

体重:28kg

趣味:読書、観察。

好物:童話、ココア(というより甘いもの全般)

苦手なもの:過度な運動、夢。

イメージカラー:群青。

 

視力がかなり低下しており、培養器から出た後はダ・ヴィンチちゃんお手製の眼鏡を着用している。人は基本声で記憶している。もちろん自分の姿も見たことがない。

マシュのような英霊化の兆候はない。

そのため、サーヴァントというより身体能力の高い人間と言った方が近い。

序章で現出させた刀のような形状の武器はそのまま残ってしまったためメインウェポンとして使用することが決定した。宿った英霊の真名もわからず、宝具も使えない。

時折妙な魔力の変調があるが・・・?

カルデア内では二重人格疑惑も浮上している。

会いたい人物がいるらしいが自分でもわからない。

 

所長がマスターを務めている。

・・・のだが、正式な英霊どころか英霊化のできないデミサーヴァントなためかステータスを見ることすら現在は不可能である。

 

彼のことはマシュら他の素体に輪をかけて秘匿されていたため、ロマニやダ・ヴィンチが知ったのは既に彼が手遅れになった後であり、マシュの一件に追い打ちをかける遠因にもなった。彼を造るにあたり携わった人物は二人であり、一人は前所長、マリスビリー・アニムスフィアであるがもう一方の方は既にどの記録からも名前が抹消されている。

彼の中にいる誰かの霊基パターンも、彼の身体を構成する遺伝情報もこの失踪した元カルデア職員からの提供だったため実質迷宮入りとなってしまった。

 

毎度のように夢を見ては忘れる。ただし、だいたい悪夢の様で苛まれているため、覚えていないほうがいいのかもしれない。基本的にこの噺の冒頭部分は彼の夢から始まる。

 

 

 

刀のような武器の銘にはユキムラと彫られている。



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第一章 ―邪竜百年戦争 オルレアン―
古い縁、始動


誤字報告ありがとうございます。

そして、新たにお気に入りに登録していただいた方、また、お気に入りに登録し続けてくれている方。ありがとうございます。

タイトルの件と神代からzeroにかけての(FGOもですが)文章と感想対応などを読み返してみて余りの自分の酷さに何度か筆をおこうかと考えていたのですがこうして読みに来てくれてくださる方がいるという事もあってこのまま続けていこうと思っています。

本当に皆様には感謝してもしたりないくらいです。
色々とお目汚しすることとは思いますが今後とも当作品をよろしくお願いします。

また、以前書くと言っていたSN編とともにできればこの作品のリメイクにもチャレンジしてみたいと思っているのでその時が来たらご一読していただければ幸いです。


長くなってしまいましたが本当にありがとうございます。

では失礼しました。


僕と彼が出遭ったのは何の因果か結婚式場の前だった。

 

「お前が――の言っていた――か?」

 

ああ、そうだ。彼が答えた。

 

「我が―――――だ。―――をもらい受けに来た。」

 

言って同時に地を蹴った。

 

おそらく、言葉はただの飾りで、なんの意味もなかったのだと思う。

ただ、そう。形だけの確認作業として行ったのだ。

 

向こうも、そして僕も。

こうなるという事は何年も前からまるで決められていたかのようにわかっていたのだから。

 

宿敵。

 

或いは友。或いは兄弟。或いは隣人。

表現は探せばいくらでもあるであろう同胞。

 

たぶんこの出会いはきっとこれから先何があっても忘れることなんてできないのだろう。

 

元来忘却というものを備えていないこの身体をもってしても、そう思ってしまいたいと思うほどの感激を今でも僕は覚えている。

 

 

 

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「や、やめろっ離さんかっわたしを誰だと思っておるっ」

 

城・・・否、既に監獄と言って差し支えのない様相に変化した建物の回廊からズルズルと軽快に何かを引きずる音と、恐らくその引きずられているであろう人物の悲鳴じみた罵声が流れてくる。

 

「おいっ!!聞いているのか!!」

 

「・・・。」

 

引きずられている男・・・ピエール・コーション司教の怒鳴り声を、そして何よりその清貧であるはずの聖職者としてはあるまじき肥満体をものともせず引きずっていた人物は、ある扉の前にたどり着くとその荷物(司教)をまるでゴミを捨てるように無遠慮に部屋の中に投げ捨てた。

 

「ぎゃっ!!」

 

「そら、連れてきてやったぞ」

 

何処か無機質さを孕んだ声を聞いた司教は今度こそ溜まりに溜まった鬱憤を晴らさんとばかりに前のめりに倒れた自身を起こし、自身を投げ捨てた男の方に向けて怒鳴りつけた。

 

「きっさまっわたしをピエール・コーションと知っての行いか!?ええ!?野蛮人がっ!!今すぐ査問に掛けるまでもなくお前なぞ!!・・・ひっ!?」

 

このときはじめて運んできた男を直視した司教は思わず小さく悲鳴を上げた。

まず目についたのは男の顔立ちだった。恐らく中東の出身であろう浅黒い肌に、肩と言わず腰まで伸びた艶やかな黒髪、黄金の眼、そしてそれらに彩られた精悍な顔。年の頃は20前後であろうかと予想される美丈夫だ。

次に服装、何故かここらでは滅多に見る機会のない極東の着流しとかいう装束に女物の雪駄を履き、肝心の脚は包帯に隙無く包まれている。

そして、男が片手に持っている司教が悲鳴を上げる原因になったもの・・・今も尚鮮血をボタボタとだらしなく垂らしている人間の()

 

「連れてくる手間を省いていただきありがとうございます。・・・ただ、もう少し欲を言うのならもっと穏便に連れてきてくだされば尚良かったのですがねえ・・・」

 

司教の横から聞こえてきた声が溜息を吐くと、始めて自分の持っていたものに気が付いたといった風に青年がきょとんと自分の手を見た。

 

「ん?ああ、これか。すまん。その、うっかり投げるときに放すのを忘れてしまったらしい。」

 

くっつけるから許せ。と司教に近づくが訳の分からない司教にとって青年は常軌を逸した恐怖以外の何者でもなく、その場を後ずさろうとして首根っこを掴まれた。

「ああ、動くなよ。間違える」と言って今度は司教の片手を掴む。

そこでようやく自身の腕を見た司教は言葉を失った。

司教の片腕は肘から先が無く、傷口はまるで毟られたかのようにズタズタに裂けている。

青年の「ああ、間違えて逆手につけてしまったが、まあいいか。」という声を最後に意識を失おうとしたが、それは即座に却下された。

 

「ああ、ピエール!ピエール・コーション司教!お会いしとうございました!貴方の顔を忘れた日は、このジャンヌ・ダルク一日とてございません。」

 

黒い―――竜の魔女の登場によって。

 

 

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

「・・・き・・・・。」

 

熱くて、辛くて、でも幸せで。

 

楽しかった。

 

「・・・きろ・・・ば・め・。」

 

たぶんこの夢の中の誰かもそう思っていたことだろう。

 

ああ、なのにどうして・・・。

 

「っ起きろっ!!馬鹿メア!!」

「!?」

 

思わずベッドから転げ落ちると誰かが僕の目の前に立ちはだかった。

見慣れた全体的に青を基調としているサーヴァントに愛想笑いのように苦笑いを向ける。

 

「お、おはよー!アンデルセン!!」

 

「なにがおはようだ!!寝坊もいいところだぞ阿呆め。早く着替えて管制室に来い。」

 

ではなと言ってそのまま部屋を出て行ってしまう。

やらかしてしまった・・・と沈みつつ手を動かしていると簡素な備え付けのテーブルが目に留まった。

始めてみたが包み紙にはchocolateの文字が印刷されている。

おお、これがうわさに聞くチョコとかいう嗜好品か!

そんな興奮した気持ちで裏の継ぎ目をほどこうとすると裏には手書きで『私を食べて』と書かれていた。

ありがとうアンデルセン・・・でもどうしてルイス・キャロル?

取り敢えずポケットにしまっておくことにした。

 

 

 

「おっくれましたー!!」

 

管制室に着くとそこにはドクターをはじめとしたカルデア職員の人達とダ・ヴィンチちゃん。立花さんとマシュさんがいた。

 

「?所長は?」

 

「私ならここよ」

 

みんなに挨拶をして所長を探そうと辺りを見渡していると、上の方から所長がゆっくりとした速度で降下してきた。

 

「・・・とうとう人間離れしてきましたね・・・。」

 

「失礼ね。体の使い方が上手くなったと言ってちょうだい。」

 

「おい、無駄口はその辺で閉じろ。ブリーフィングを始めるぞ。」

 

アンデルセンの掛け声を皮切りにドクターが説明を始める。

ひとしきり説明が終わった後でドクターがこちらを向いた。

 

「で、メア、アンデルセン。君たちは立花君たちとは別編成の部隊として活動してもらう・・・ですよね。所長。」

 

「・・・ええ。では、ここからは私が説明します。

まず、この別動部隊は基本戦闘は避け、さっきロマニが言っていた物資の供給、調達を最優先事項として行う補助が主な役割だと思ってくれていいわ。その他は現地民やその土地の様子からより詳しく特異点の状況を知るための諜報活動を行います。ポータルも立花たち主力部隊とは離れた場所に設営、この召喚サークル設置にはメア。貴方のその武器を使います。アンデルセンの本でもよかったんだけど・・・何故かそちらに秘められた神秘の方が年代が古いのよね・・・。」

 

所長が僕の背に背負われている刀を見遣る。

結局僕が意識を失っても、帰還しても無くなることのなかったこの刀はそのまま僕のメインウェポンになることになった。自分の身長よりも少し大きいため振り回されてる感がどことなくあるのだがそれはご愛嬌という事でこの際目をつぶってもらおうと思う。

 

『アンサモンプログラム スタート 霊子変換を開始 します。』

 

「あ、そうそう。メア。これつけて。絶対なくさないでね。」

言ってドクターが慌てた様子でイヤリングを渡してくる。

「?はい。」

 

『レイシフト開始まで 3、2、1・・・ 全行程 完了。

グランドオーダー 実証を 開始 します。』

 

 

 

 

―――――第一特異点  邪竜百年戦争オルレアン―――――

 

 

 

――――開幕――――

 

 



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ストックホルム・・・?

誤字訂正ありがとうございます。

前回の文章を読んだらしい姉が「これ前置き最終回っぽ
くね?なに、途中でやめるの?」と聞いてきました。

止めませんよ!!ちゃんと終わりまで書きます!!

では今回もよろしければお読みください。


「ここが・・・ラ・シャリテ・・・。」

 

立花がぽつりと呟いた。

ジャンヌ・ダルクと合流し、情報を集めるためにと立ち寄った町は見るも無残な瓦礫と化している。

 

「なんて・・・酷い。」

 

「だ、誰か生きている方がいないか捜索をっ」

 

マシュ、ジャンヌ両名が悲嘆に暮れつつも声を上げる。

と、その声に制止が掛かった。

 

「その必要はないぞ。」

 

ガタッという音とともに瓦礫の影から姿を現したのは別動隊としてメア、所長とともにレイシフトしてきたはずのアンデルセンだった。そのままその瓦礫におもむろに腰かけた彼の格好を改めてみてみると全身が煤やら泥やらで酷く汚れていた。

 

「既に確認済みだ。」

 

『・・・悔しいが、アンデルセンの言う通り。そこには生命と呼べるものは残っていないみたいだ。』

 

ふう、と溜息とともに首を左右に振るアンデルセンに管制室から通信越しにロマニが同意する。

 

「そ・・・んな。」

 

「おっと、悲嘆に暮れている場合ではないぞお前たち。じきに奴らがまたここをかぎつけてやってくる。その前にずらかるぞ」

 

「?奴ら・・・あれ?というかアンデルセン。なんで君一人なんだ。メアと所長は?」

 

『私ならここよ』

 

チャリっという音とともに差し出されたアンデルセンの掌にはシンプルなイヤリングが乗っている。

よく覗き込んでみるとそのプレートになっている部分にはここには姿を見せていないオルガマリーが映っていた。

 

「しょ、所長!」

 

「え?なんで?だって所長オレたちと一緒にレイシフトして・・・」

 

慌てる各方面の顔はプレートに映るオルガマリーにも見えているのか、彼女はふうっと溜息を吐いた後に口を開いた。

 

『私のこれは特別製・・・というか、これが私の触媒みたいなものになっているの。正確には意識の媒体・・・かしら?私はあくまでも精神体であって貴方やマシュみたいに生身の身体があるわけでも、サーヴァントのように調整された確固とした霊基があるわけでもない。脆いのよ。少しでも傷ついたりしたらそれこそ意味証明がなされなくなってしまうかも・・・というほどにはね。だからこうして何かを媒体にして、そこに私が憑依するっていう形をとっているの。・・・本当なら義体とかがよかったんだけど・・・生憎資材とかの都合で今のところは無理ね。』

 

連れていくにしても嵩張るし、とドライに言ってのけるオルガマリー。

話に途中からついていけなくなった立花はわーSFみたいと考えることを放棄しそうになったが、何とか踏みとどまった。

 

『それで、肝心のメア・・・なんだけど。』

 

此処で先程まで饒舌だったオルガマリーが言いにくそうに言葉を濁した。

そんな様子の彼女とは反対にはっと鼻を鳴らして眉根を寄せたアンデルセンが再び口を開く。

 

「あの低燃費なへなちょこならお前たちが来るほんの少し前に、恐らくだが敵性サーヴァント・・・いや、あれはサーヴァントなのか?に連れ去られたぞ。ああ、まったくもって忌々しい。」

 

その場を暫し静寂が支配した。

次いで、悲鳴。

 

「え」

 

「「ええええええ!?」」

 

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

ピチャン    ピチャン

 

 

―――どれくらい時間がたったんだろう。

 

「・・・あ、ような子、を?」

 

「別・・・で・い・だろう。わ・・の勝手・・・いか。」

 

―――だ、れ?

 

 

意識が覚醒していくに従って外気の寒さと全身の痛みと疲労がどっと押し寄せてくる。

それとともに自分のすぐ傍で話しているであろう二人の人物の会話もハッキリと拾えるようになってきた。

片方は此処に僕を入れた後に酷いことをいっぱいした人だ。もう片方は・・・誰だろう。初めて聞く声と足音だ。両目も潰れているから相手を盗み見ることはできない。

それどころか自分の身体がどうなっているのだろうかもわからない。今の僕に知る術はないが、きっと見ないほうがいいのであろう状態であろうことは容易に想像がついた。

 

「・・・まあいいでしょう。御好きになさい。今までの貴方の働きを鑑みればこれくらいは目をつむりましょう。」

 

しばらく僕のこれからの待遇の話を続けていたようだが話が終わったのか一人分の足音が遠ざかっていく。

 

早くもう一人も此処から去ってくれないものかと緊張しているとその人物はあろうことか僕のいる牢屋の中に入ってきた。

 

―――この人も、僕に酷いことをするのだろうか。

 

そんな僕の心情を知ってか知らず僕の前まで来たその人は酷く穏やかな口調で話し出した。

 

「・・・もう寝たふりなど続けなくとも良いぞ。というか、(ワタシ)の前でその様な芝居をしようが何をしようが等しく無駄だ。と言っておこう。」

 

頭を撫でられる。その手つきは優しく、僕を誘拐した一味にしては敵対していることなど微塵も感じさせなかった。バキリという音とともに僕の片手を吊っていた鎖が外れ、何か暖かいものに寄りかからせられる。

・・・たぶん、話している人の身体・・・なのだろうか。

 

「貴様。名は?・・・いやいい。所詮名など記号だ。社交辞令だと思い忘れよ。」

 

「は、はあ。」

 

自分で聞いておいてなんなのだろうこの人。

一応形だけでも助けてもらったにもかかわらず素直に変な人だなと思う。

 

「え、と。貴方はどうして僕を」

 

「連れてきたのか?」

 

食いぎみに正に今聞こうとしていたことを言われてしまう。まるで此方の思考もなにもかもお見通しのようでなんだか・・・。「気持ちが悪い、か?」

黙り込む僕を差して気にすることなく彼は続ける。

 

「何、少し聞いてみたいことがあっただけよ。」

 

 

 

「貴様は何故苦しむのだ?何故もがく?」

 

 

 

「え・・・?」

 

「楽になろうとは思わんのか?」

 

変わらず穏やかな口調に優しげな雰囲気をもって彼は僕に問い掛けた。

何故か震えの止まらない唇で言葉を紡ごうとして閉じる。

僕が、苦しんでる?もがく?なんで?

 

「譲ってしまえばすぐにでも部外者になれるというに」

 

そんなの、決まっている。

 

「ぼ、ぼっく、は」

 

かさついた口内をそのままにまだ無事らしい肺に目一杯空気を吸い込んで、告げた。

 

「し、死にたく・・な、い・・・から。生きて、いたい。ひと・・りは、嫌だ。」

 

何か暖かいものが目のあたりから流れてくる。とても、痛い。いたいいたいいたい。

けど、止まらない。

 

「・・・それがお前の答えか。・・・つまらんな。」

 

変わらない声色で彼は呟いた。

全然知らない、赤の他人だというのに悔しいような悲しいような、何とも表現しにくい感情が湧き上がってくる。

 

「ああ、あやつの残滓があるが故にそのような凡庸な答えは求めていなかったのだが・・・ふむ、まあいいか。」

 

シュルシュルと衣擦れの音が聞こえる。

両頬に暖かい・・・両手が添えられた。

 

「お前の行く末には興味がある。何、気を楽にしていろ。こちらで勝手にお前を修復してやる。」

 

添えられた手も声も、何もかもが何処か懐かしかった。

 

―――意識が、溶けて・・・いく。

 

―――

 

――

 

 

「・・・まさか、ここで呼び出されるとはおもいませんでしたよ」

 

先程とは打って変わって不機嫌さを隠しもせずにメアは目の前の男を睨み付けた。

 

そんな突然変化したメアを前にした男は・・・。

 

「会いたかったぞ!!友よ!」

 

穏やかな変化のない笑顔を止めて、今度こそ満面の笑みで興奮気味にメアに抱きついた。

咄嗟に男の顔と腕に手を押し付けてメアはその抱擁を拒む。

しかし、それでも捲し立てるような男の勢いは止まらない。

 

「ああ、ああ。ほんに会いたかった。お前を忘れたことなど一時も無い!!ああ、友よ!お前に付けられた傷痕すら今では愛しい!!」

 

「気持ち悪いんでほんとにやめてくれません?・・というか今僕滅茶苦茶怒ってるんですが。なんで起こした。そもそも起きる条件をどこで知った。」

 

「うん?そんなの(ワタシ)が会いたかったからに決まっているだろう。条件は平行世界をかたっぱしから検索した、いや中々に面白かったぞ。これで息苦しかった包帯ともおさらばだ!」

 

 

眉間に皺を寄せるメアの様子など意に返すこともなく、当たり前だと言わんばかりに男が返答する。

 

「まあ、その事は別にいいとして。お前。()を覗こうとしたな?」

 

メアの瞳が紅く変化していく。

 

「そんなの――覗いたに決まっておろう?(ワタシ)の知らない所で(ワタシ)とヤツ以外の特別を作るなど、例えお前の残骸()であろうと容認出来るとでも?」

 

お蔭でこのほの暗くドロドロとした感情を得ることは出来たが。と笑顔のままに瞳の奥には暗い何かを乗せて男は言い切った。

 

「それじゃあ困るんですよ。彼にはこれからもこうして人間らしく成長して貰わないと。」

 

そう言うメアの手には武器であるユキムラがいつの間にか握られていた。

 

―――目映い光がその場を包んだ。

 

 




2回に区切っての投稿とかすみません・・・。


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壊滅寸前。その裏で

ドォ・・・ンッ

 

白煙を上げ、無残に半壊している。否、現在進行形で破壊されているオルレアンの城の様子を空の上から見るものがひとり。

ラ・シャリテから一人帰還した竜の魔女が、その邪悪な様相に反してぽかんと口を開けて凝視していた。

 

ドッドドドッドドッ

 

そんな彼女を置いてけぼりにして、城の破壊行為は着々と進んでいく。

 

―――いったい。私のいない数時間の間に何が起こったの。

 

「おおっご無事でしたか!ジャンヌ!!」

 

着地しようにも煙だらけでいまいち下の様子がわからず、仕方なしに旋回し続ける彼女の元によく見知った声が届いた。今自分が最も信を置き、こんな風になっても唯一着いてきてくれた戦友の声だ。

普段なら耳障りもいいところなそのハイテンションな声は、破壊音の響くこの状況下でもよく響いた。

なるべく声の方に近寄っていくとようやく本人の姿が見えた。埃やら土やらで薄汚れているが、一応怪我などは無い様だ。

 

「・・・これはどういうことなのかしら。ジル。」

 

驚愕を何とか落ち着かせると再び込み上げてきた苛立ちと憎しみ、そして、ほんの少しの安堵の情を以て戦友であるジル・ド・レェを見る。

パラパラと自身に着いたゴミを払いながらジルは首を緩慢な動作で左右に振った。

 

「私にもわかりかねます。城の全域には私の海魔を張らせていたのですが・・・おそらくこの様子からしてあちらの棟の分は全滅でしょうね。申し訳ありません。」

 

報告すら上がってきませんし。とやけに冷静に言い放つと触媒である魔導書を撫でる戦友の様子にはあっとジャンヌは溜息を吐いた。

 

「呆れた。何のために城に残ったのよ貴方。こうなるより前にその原因を取り除くどころか作らないためじゃないの?・・・まあ、いいです。どうせ城自体は後から貴方に直してもらえばいいですし、私が敵を一掃します。」

 

 

いうが早いかジャンヌは魔力を集中させ宝具を発動する準備に入った。

 

吼え立てよ、我が(ラ・グロンドメント)―――「ジャンヌ!!」!?」

 

ジル・ド・レェの言葉とほぼ同時にジャンヌの眼前を何か、巨大な板・・・壁のようなものが横切った。

続いて煙を突き抜けてくる人影が一つ。それはつい最近ラ・シャリテを完膚なきまでに破壊した際に連れ去ってきた捕虜の少年だった。しかし、あの時のまるで強がった小動物のような雰囲気など欠片もなく、その紅い瞳は蛇を連想させる妖しさと恐ろしさが宿っている。

その瞳に気圧されたのか、はたまた突風の反動でかは定かではないが思わずジャンヌはその場に尻餅をついた。

 

と、そこに今度はジャンヌの頭スレスレを横薙ぎに先程の板が物凄い速さで通過していく。

 

最初は自分を狙っての攻撃かと警戒していたジャンヌは、この地響きのような騒音と煙の合間から見える振り回される板のような何かを見てその考えを訂正した。

 

―――私を狙ってじゃ・・・無い?

 

そう思い至ったころには既に城全域がほぼ等間隔に輪切りにされてしまった後だった。

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

メアは現在城内を適当に走っていた。

 

予想外の早すぎる旧友との再会から無理矢理逃げ出すためとはいえ奥の手を使ってしまったため、そこまで余裕は今の彼にはない。時間的にも、能力的にも、体力的にもだ。

響き続ける轟音をBGMに一端速度を落とした。

 

―――こういう大雑把なとこ。何年たっても変わりませんね。

 

苦し気に汗を掻く顔に自然と笑みが零れた。

次の瞬間、メアの目の前をジャンヌの時と同様に巨大な板のようなものが通り過ぎ、通路の風通しがよくなった。

 

―――僕も悠長にしてられないか。

 

走るのをやめて立ち止まると自身の斜め後ろに手をかざす。

するとそこには黄金の波紋が浮かび上がり、何かの端らしきものがずるりと出てくる。

 

「あれは今使えませんし・・・まあ、これが限度ってとこですか。」

 

「鬼事はもう終わりか?」

 

風通しのよくなった回廊の外から声が聞こえたかと思うとペタリとその素晴らしい切り口に手がかかる。

そのままその手の持ち主がゆっくりと回廊の内部、メアの前に姿を現した。

ガリガリというよりズリズリ、ズリズリというよりズザザッズザザッとその人物が進むたびに音が出ているのだが今のところ気にするようなものではない。

 

「で『天の帯(エ・ドゥル・アン・キ)』!!」

 

黄金の帯が幾重にも男に巻き付き、身体の自由を奪っていく。

もともとこの宝具は拘束用のものではないのだがこの帯の出所と特性から、恐らくこの男には最適だろうとふんだのだ。

 

「・・・ほう。これはさすがの(ワタシ)も知らなかったな。」

 

このようなものまでお前の宝物庫にはあったのかと目を爛々と輝かせながら目の前の男は宙づりになっている。

 

「ええ、そうでしょうね。貴方の前では今初めて使いましたから。・・・ところで、今君が散々ぶん回してたのは僕の『千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)』では?」

 

「何故わかった。」

 

「いや、何故わからないと思った。」

 

「・・・。」

 

心なし反省していますと言わんばかりに居心地悪そうに顔を背ける男にメアは溜息を吐く。

 

「まあ、いいですけどね。この身体の時はそれ使えませんし。」

 

じゃ、貸し一つってことでといい笑顔で続けたメアはすっと目を細めると男の方に近寄っていく。

男の方は男の方でさっきまでのハイテンションぶりは何処へやら、されるがままだ。

男の耳元まで近づいて、ぽそりと耳打ちを一つ。

 

 

 

 

「僕と取引しましょう。ヘルケ?」

 

 

 




ちなみにこの主人公の人格ONOFFの条件は二つ。
・メインの人格に何らかの命の危機が迫った時。
・特定の人物の顔を見た時。

更に言うと、人格の切り替え(というよりサブに切り替わるとき)によって自動で怪我が治ります。


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それは、遠い昔で近い未来に起こりうるであろうお噺/聖女?とぬいぐるみ

「・・・ふむ。話はわかった。良かろう、しばしお前の駒になってやろうではないか。」

「ええ、では先ほど話した通りの手筈でお願いします。」

それから、くれぐれも(カレ)に手を出さないようにして下さいね?と笑顔で念を押すメア?にへルケと呼ばれた男が頷く。

「何、他ならぬお前からの頼みだ。無碍にはせぬ故、安心するが良い。・・・ところで、肝心の其奴の精神が入って居ないようだが・・・。」

「・・・おや。勢い余って座標をずらしてしまったみたいです。・・・一日ほどで元に戻るでしょう。」

それまでは不用意にこの身体を使うわけにも行きませんし高みの見物ですねとメア?は無邪気に笑った。


「×××、×××、こちらにお出でになってください!かなりの数の外商が来ています!とても賑やかて楽しいですよ!。」

 

「わかったからそうはしゃぐでない!また転ぶぞ!」

 

「大丈夫ですよ!もう、しんぱいしょうわっ!!」

 

「言ってる傍からこれでは説得力に欠けますね。×××。」

 

「あ、あははは・・・申し訳ありません。××。」

 

何のことはない日常の一コマ。

普段とは打って変わって年頃の少女のように、否。それよりも一層子供らしくはしゃぐ少女。

そんな少女を窘めつつ慈しむ青年と自身。

大切な二人。大切だからこそ手放したモノの一部。

 

近く終わりが来るであろうことは知っていた。

それが未来にとってどうしても必要なことだという事も。

だからこそ、緩やかに、ただ穏やかに見守ることにした。

二人がこのまま安寧の中で終われるように、そう願いながら。

 

 

それなのに、ああ。

何ともまあ無慈悲で、無惨で、滑稽な終わりなのだろう。

幾通りもある、あったはずであった途からこの終わりが選ばれるなど。

 

 

燃え盛る業火に、倒壊する建物。

逃げ惑う人々。

つい数刻前までは生きていたであろうこちらに向かってきた逆賊の、ぐしゃぐしゃにされた死体。

ともすればそれを辿るかのように玉座へと向かっていく自身は、玉座より三段ほど前で足を止める。

 

そこにあったのは、王として崇め奉られていた少女の亡骸と、そんな少女に寄り添う少女にとって唯一無二の存在だった男であった。

 

「―――――――――。」

 

大切だった少女の冷えた肢体を見ても、同じく大切だった男の伏した情状を見ても。

不思議と、自身から涙も嗚咽も漏れることはなかった。

悲しみやら憎しみと言った感情が強すぎて泣けなかったというわけではない。

何も、想うことなど不思議となかったからだ。

薄情なことに、心に残した存在であれど、感情を明け渡せるほどではなかったのだろうかと冷静に、そのとき自身は分析した。

そんなことを考えて首を傾げていると、突如少女の亡骸が光の粉に包まれてその場から消失した。

遺体に添えられていた男の手が名残惜しげに宙を切る。

 

「もう、黄金郷(ゆりかご)に持っていかれましたか。」

 

いささか早いような気もするが、肉体も持っていかれた事例は初めてだ。

 

―――さしずめ後継者候補ってところですかね?

 

あれに後継者、否。後継機なんて必要なのだろうか?と不思議に思いながら何の気なしに天井を見上げているとズルズルという音の後にドシャッという鈍い音を拾ってピントを玉座に戻す。と、残されてしまった男の身体がバランスを失って玉座から転げ落ちていた。

 

「おやおや、これはいけませんね。」

 

わざとらしく茶化す様に言いつつ男の元へと歩を進める。

と、胸倉を掴まれた。

 

「・・・貴様は、知っていたのか。」

 

「何のことですか?」

 

わざとらしく惚けた様に言うと更に胸倉を掴む手に力が籠ったのが分かった。

 

「貴様は予めこうなることを知っていたのかと聞いているっ!!」

 

「ええ、まあ。一応は」

 

応えるとほぼ同時に腕が離れる。一瞬の後、斬馬刀にも似た巨大な刃を持った男の武器が目の前に迫る。

溜息を吐いて応戦する。

 

 

―――――こんなことをしたって、無駄なのに。

 

 

 

 

 

   ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

ブチッ ブチブチッ

 

無惨に引きちぎられた人形が放り投げられる。

引きちぎったであろう人物・・・竜の魔女、ジャンヌ・ダルクは心なし不機嫌そうに落ちた人形を思い切り踏みつけた。部屋の中にはジャンヌと大量の人形とぬいぐるみだけという居室にしては奇妙な部屋の中で、彼女はその場に座り込む。

 

「何よ、何よ何よ何よっ!!私なんか眼中にないとでもいいたいわけ?」

 

今し方あった居城崩壊の戦闘において、彼女はてっきり自分が狙われていると思っていた。

今城を戦場に選ぶのは余程の田舎者(バカ)かジル達、牽いては何らかの理由でその頭目である自身をねらっているからだろう、と。

しかし、どうだろう。まるで殴り込みか何かのように始まった戦闘による崩落は、自身たちがたまたま捕らえた捕虜の少年と誰かの身勝手なものだった。おまけにまるで歯牙にもかけない存在だとでもいうかのようにジャンヌやジルの脇を過ぎ去っていったのだ。現実を見せられたかのような気分だ。最悪だと彼女は思う。

 

――――どうして!私は誰よりも誰よりも深い闇から帰ってきたジャンヌ・ダルク(・・・・・・・)なのに!!

 

別に被害者ぶりたいわけではない。

ただただ・・・自分がまるでいないもののように扱われているという事実。

それが許しがたいものだった。というだけだ。

 

金切り声じみた怒鳴り声とともにさっきとは別の人形を掴んで思い切り両足を毟り取る。

人間としての握力なら見た目通り少女の力であったのだろうが、今の彼女は英霊であり、その基準には当てはまらない。よって、人形はまたも無惨に引き裂かれ、宙を舞い、冷たい床に落ちた。

続いて、彼女は何度も床を蹴る。蹴るというよりも何度も何度も地団駄を踏んでいる。

 

「ジルもジルよ!何故あんなにも呑気にッ・・・!」

 

「わっ」

 

ビタンッと思い切りその辺にあったぬいぐるみを叩きつけた。

できるだけ人に近い見た目の方がスッキリすると思って人形を選んでいたのだが、衝動的に近くの山から引っ張り出したぬいぐるみを叩きつけた、のだが・・・。

 

「・・・わ?」

 

ぐるりと部屋を見回す。  何もいない。

・・・となると。

彼女の眼は先程投げたぬいぐるみに向かった。

 

「ねえ、ちょっと。」

 

言いながらぬいぐるみの首・・・というか胴と頭の繋ぎ目を乱暴に掴む。

が、今度は何の声もしなかった。

 

「・・・貴方。喋れるんでしょう、喋りなさいよ。」

 

やはり反応は返ってこずまたイライラが募りだした。

そこでジャンヌはふと、手段を変えればいいだけではないかと内心でほくそ笑んだ。

 

「ふーん。そう。私の勘違いだったのね、もういーらない。」

 

先程の人形たちの元に放り投げると扉に向かうべく背を向けた。

 

「あーあ、つまんない。ジルは城の修繕に忙しいし、この遊びにはあきたし・・・暇で暇で死んでしまいそう。・・・ああ、そうね。あるじゃない一つだけ。あの一行ならきっと忌々しいくらい私を楽しませてくれるはずだわ。早速ファブニールを用意して」

 

そう言いながらドアを開けようとする彼女の手にふわりとぬいぐるみ特有の柔らかい手が乗っかっていた。

 

「ま、待ってくださいっ。」

 

その手を辿ればやはりさっきのぬいぐるみだ。

 

―――これで当分は退屈しなさそう。イラついたら・・・まあ、壊せばいいでしょうし。

 

震えるぬいぐるみを見てジャンヌはニヤリと笑った。

 

 

 

 

 



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約束

久々のこの作品の投稿。
期待も何も放り投げて、手ぶらになってみてください。


「この魔女め!!」

 

「ペテン師だ!ペテン師が通るぞ!!」

 

そんな民衆の罵声を浴びながらしっかりとした足取りで歩いていく少女が一人。

彼女の周囲は衛兵で囲まれており逃げることはまず叶いそうにない。

 

がつんと訳も分からず罵倒していた子供の投げた小石が彼女の額を割った。

たらりと血が流れるも、それでも唇を噛んで、彼女は処刑台への道を歩む。

 

 

―――何故、何故だっ。彼女はいつだって、私たちの、この国のことを考えてっ。

 

 

「おお、神よ!何故彼女をお見捨てになったのですか!?」

 

 

どうして、どうして私が・・・

 

 

 

  □ ■ □

 

 

 

とても悲しい夢を見た気がする。

 

「あら、目が覚めたのね。というか貴方寝るのね」

 

ぬいぐるみのくせに。と隣にいる彼女・・・ジャンヌ・ダルク?がメアに話しかける。

その言い草とは裏腹に心なし声も表情も柔らかい。

 

「それで?今度はどんな話をしてくれるの?」

 

「うーん。そうですねえ・・・。ジャンヌさんって家族とかいます?」

 

「はあ?当り前じゃないの。」

 

何言ってるんだ。と怪訝そうにする彼女に言葉を続ける。

 

「僕には家族みたいな存在が、二人ほど・・・とは言ってもそのうち一人は目下捜索中なんですけどね・・・。」

 

「・・・そう、きっとあんたみたいな能天気なやつに構う様な奴らだから、よっぽどのもの好きか、お節介焼きね。」

 

「じゃあ、ジャンヌさんもそんな優しい人の一人ですね。」

 

「はあ!?あ、あんた馬鹿じゃないの!?何処をどう見たら・・・わたし、が・・・。」

 

わたし、わたし、は・・・と悲しそうな、寂しそうな面持ちでジャンヌが目を逸らした。

 

「わたしは、そんな気持ちの悪い人間なんかじゃないわ。」

 

さっきまでとは打って変わって優し気にメアを持ち上げる。

 

「ねえ、あんたはどうして、そうも平気そうにしてられるの?どうして、あんなに痛かったのに、くるしかった、でしょうに・・・。」

 

そのままギュウッと強く強く胸に押し付けられる。

 

「笑いません?」

 

「分からないわ、少なくとも聞き終わるまでは笑うつもりは無いわよ。」

 

「・・・だって、かっこ悪いじゃないですか。心配してくれている人たちの前で大丈夫だよって言えないなんて。」

 

それでなくとも僕、もう17歳なんですよ?とふざけた様に付け足すと、しばしの沈黙の後ブフッと噴き出す音が聞こえる。

 

「確かに、17にもなって泣きべそは無いわね。・・・まさかそんな単純なものだとは思わなかったけど。」

 

さて、と。と言って彼女は鎧を鳴らしながら扉へと向かう。

 

「私も、行かなくちゃ。」

 

「ジャンヌさん。」

 

思わず呼び止めたメアを、今度は振り返らずにジャンヌが応答する。

 

「今度は何。」

 

「あ、あの、あの・・・待ってますから、必ず、帰ってきてくださいね。」

 

「・・・あっそ。」

 

そのまま扉は閉められた。

 

「約束ですよ!!」と扉越しに声が聞こえてくる。

 

「・・・勝手に約束取り付けてんじゃないわよ。」

 

そう言って歩いていく聖女の如き魔女の口元は、僅かに上がっていた。

 

 

 

―――こうして、この出来事から数刻の後、竜の魔女、贋作英霊ジャンヌ・ダルクは元凶であるジル・ド・レエとともに討ち取られ、特異点は修復された。

 

 

 

 

  □ ■ □

 

 

 

 

「こ、こは・・・。」

 

目が覚めると、そこは見慣れたマイルームだった。

 

「目が覚めたか。」

 

横からかけられたよく知っている/全然知らない声に瞳を瞬かせてそちらを向くとあの、城であった男がいた。

相も変わらず包帯は乱雑に巻き付けられている。

 

「なに、そう身構えるな。我もここで世話になることになった。それだけだ。」

 

緊張が伝わったらしいその男は穏やかな声音でそう言うとメアを再度寝かしつける。

 

「あの時はすまなんだ。少しお前を試してみたかったのだ。」

 

くふふと男は笑い、特異点の顛末を話してくれた。

 

「・・・そう、ですか。」

 

「なんだ?名残惜し気だな?愛着でもあったか?・・・ああ、悔しいのか。」

 

妙に納得したかのように男が感嘆の如き声を上げる。

 

「・・・。」

 

それにメアは沈黙でもって返した。

その様子に気分を害するどころか上機嫌になった男は「良い良い!」と言ってメアの頭を撫でた。

 

「悔恨はいい。全てを諦観にやつし、自堕落に過ごすよりは遥かに我好みのソレだ!!その感情の起伏、大切にしておくがいい。貴様にとって、何かしらの役には立つだろうよ。」

 

くつくつと笑って「ではな」と言って立ち去ろうとした男は立ち止まると思い出したように自己紹介を始めた。

 

「我の名はアメンヘルケプシェフ。長い故、ルー君とでも呼ぶがよい。あ、アメンは止めよ。」

 

食堂に行っている故用事があるのならそこに来るがいいとアオザイの長い袖を振って、今度こそ出て行った。

 

メアが自分で連れてきたのだと知ったのはそれから数刻後にきた所長から聞いてやっと知った出来事であった。




ジャンヌとのやり取りも、そのあとのルー君()とのやり取りももっと書きたかった。
が、どうしてもぼろが出るからやめた。泣


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第二章  ―封鎖終局四海オケアノス―
衝撃の出会い


セプテムを飛んでオケアノスへ。

今更だけど、内容はドンドンアレになってきてるのに文章は相も変わらず薄くて軽い。
どうなんだろうねこれ。


「ああああああああああ―――」

 

叫びながら、メアは下に目を向けると、其処には見渡す限りの青が広がっていた。

 

そう、海である。

 

普段なら素直に産まれて初めての海に感動している所なのだろうが残念ながらそんな余裕は今のメアにはなかった。

 

「うわああんっ。どうして僕だけええええっ」

 

何故なら今彼はこうして落下している最中だったからだ。彼の脳裏にレイシフト前のドクターの言葉が呼び起こされる。

 

―――陸地だって言ったのに。

 

フランスの一件から此処までずっと怪我人扱いで何もできなかった分張り切って参加したらご覧の有り様である。

 

「ど、ドクターのっ、嘘つきいいーっ」

 

 

  □ ■ □

 

 

「た、助けてくれて、ありがとうございました。」

 

現在メアは無人島らしき小島で恩人の少女と一緒に焚き火を囲んでささやかな食事と洒落込んでいた。

 

「どういたしまして。はい、焼けたわよ。」

 

渡された焼き魚を礼を言って受け取る。

 

「それにしても災難ねえ。まさか着地点を間違った所にセットされて突き落とされるなんて・・・。」

 

「あ、あはは・・・。」

 

何といえばいいかわからなかったメアはかなり突飛な経緯の説明の仕方をしてしまったのだが、この目の前にいる少女は丁寧に聞いた後自分の様な飛行する船を定員オーバーで操作、内輪揉めの末墜落したのだと思ったらしい。

本気で悲しみ、心配してくれたようでこうして魚までごちそうになっている次第である。

メアにとっては有難いような、申し訳ないような、胸の中は罪悪感でいっぱいだった。

と、そう言えばまだ自己紹介もしていないことに気がついて慌てて佇まいを正した。

 

「あ。僕、ディルメア・ストルファイスと申します。改めまして、先程はありがとうございました。ええと・・・。」

 

「あら、礼儀正しいのね。私は■■あら?・・・そうねえ・・・。」

 

しばし考え込む素振りを見せて、金髪赤眼の可憐な少女は輝くような笑顔で言った。

 

 

「―――ウルクのキャスター。って呼んでほしいな。」

 

何故かその向けられる笑顔に、声に。

 

―――胸が苦しくなった。

 

 

 

  □ ■ □

 

 

 

ドレイク船長とこの奇怪な海に関して情報交換をしていた立花とマシュのもとに新たにロマニから通信が入った。

 

『大変だっ。立花君、マシュ、落ち着いて聞いてほしい。』

 

「今度はなんですかドクター・・・」と立花が呆れ交じりに返答する。

隣ではフォウも心なしげんなりした様子でフォウ・・・と一声鳴いた。

 

『じ、実は、メアを、メアを君達と同じようにおんなじ場所(・・・・・・)に転送したんだけど・・・』

 

その言葉に一同が黙り込む、意味が解らないといった表情をしているのはカルデアではないドレイクやその手下たちだけだ。一方でカルデア一同はジト目である。

 

再度フォウとフォウが鳴く。

彼がカリカリと引っ掻いているそれはよく見ればはぐれないようにとメアが自身とフォウを結んでいたベルトだった。もちろん、本人はいない。あるのはベルトだけだ。

 

「それで?」

 

なんでしょう。とマシュが淡々と聞き返した。

 

『・・・転送した途端通信が遮断された・・・。』

 

ごめんとドクターが謝罪すると同時にカルデアと一行から溜め息が漏れた。

 

理由はどうあれ、またかよ。と・・・。

 




セプテムは構想が無かったわけではないけど、どうあがいても主人公と歩く道筋自体は変わらないし、今ここであのサーヴァントに出会うともれなく見に覚えのないトラウマガガガ・・・


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ウルクのキャスター、その一端。

ただ可愛いだけの奴なんていない。

遡れば遡るほど。


―――それでも、貴方が私にしたことを私は許します。

 

―――私を止めようとしたことを許します。

 

―――私を暴いたことを許します。

 

―――私を起こしたことを許します。

 

―――私を生かしたことを許します。

 

――――――私に、平穏なる夢を抱いた(みた)ことを許します。

 

だからどうか・・・。

 

 

 

 

美しい水中からの水面を眺めながら解けていく躰。

ゴポリという水音は、果たして誰の吐いた泡だったのだろうか。

 

・・・たぶんこれは、誰かの終わりの夢。

誰かが終わりに願った、ささやかな祈りの様な何か。

 

 

   □ ■ □

 

 

 

「おはよう。メア。・・・大丈夫?」

 

メアのぼやけた視界が最初に捉えたのは、心配そうにこちらを見る少女―――ウルクのキャスターだった。

いったい何が心配なのだろうか?

確か、昨日は少し話をして、食事を摂って、少し夜更かしをして眠りに就いたくらいである。

彼女にそんな顔をさせるようなことは一切ない筈だが・・・。

 

「とても魘されていたようだったから・・・。」

 

申し訳なさそうに言う彼女に、メアの中にあった漠然とした何かが急激に萎んでいく。

そうして、メアも自覚のない何らかの意識も。

やっとフィルター越しではなく現実に帰ってきたかのような奇妙な感覚に苛まれながらも、メアはいつもの調子を取り戻していく。

 

「・・・?魘されてた?」

 

「え、ええ。てっきり怖い夢でも見たのかと思ってたんだけど・・・。」

 

はて、そんな夢だっただろうか。と、メアは首を傾げた。

いつもの悪夢なら何も覚えていないくせに何故か身体が不調をきたしがちで、体調が悪い=夢見が悪いだったのでいまいち今回の夢はそうでない気がする。と内心で訝しんでいた。

 

「うーん・・・夢自体もあまり覚えていませんので何とも・・・。」

「・・・ああ!それとも人肌の温度で悪夢加減が緩和されたとか?」

 

納得したかのように手を叩いてウルクのキャスターが言った一言に一瞬おくれて固まっていたメアが真っ赤になる。

 

「ひ、人肌!?」

「うん。ま、此処野外だし。安心するための手段としては仕方ないと思うよ?」

 

どうやら(おそらく)嫁入り前の少女に抱き着いて眠るという、とんでもないことをしてしまったらしいという事実に打ちのめされたメアに、相も変わらない様子で苦笑したウルクのキャスターは続ける。

 

「あ、いいのいいの。気にしないで。少なくとも私は弟で慣れてるし、気にしていないから。」

 

私の弟とってもかわいいんだよ!ちょっと重いけどと照れたように言う彼女。

 

「でででででも僕は赤の他人でででっ・・・ごめんなさい。」

 

素直にその場で頭を下げた。

気にしなくていいのにとクスクスと笑うウルクのキャスターに調子が狂うメア。

そんなメアを見てひとしきり笑ったウルクのキャスターは今度は真面目な顔をしてメアに何か、地図の様なものを差し出す。

 

「おふざけはこのくらいにして。現在地が此処。他のところも一応魔力反応がないか念入りに調べてみたんだけど・・・この海域をひたすらグルグルグルグル回ってる変な反応が一つ。同じように、でもちゃんと目的があるかのように進んでる反応が一つ。それに追いかけられてるような反応が一つ。全然動かない反応が一つ。・・・て所ね。」

 

残念だけど、まだ貴方に似た反応は感知できてないから救援はまだね。と申し訳なさそうに彼女は言うが、果たして救援は無事に到着するのだろうか。というか気付いてもらえるだろうか。メアに関してはソレが問題だった。

 

「で、ここからが問題なんだけれど。」

 

彼女が指差したのは先程追いかけられてると言っていた反応だった。

 

「私、此処に介入ないし手助けしたいんだけれど。いいかしら?」

「え゛っ」

 

彼女の思わぬ提案にメアは硬直する。

ついこの間オルレアンでひどい目に遭ったばかりのメアはこの役不足極まりない自分と可憐な少女二人でいったいどうやって介入するというのか。はっきり言って無謀。自殺行為である。

そんな真っ青なメアと対照的にニコニコと溌溂とした笑顔で彼女は続けた。

 

「うふふ。だってほら。もしかしたらこの人からこの海域の事情が聴けるかもしれないし、悪人だったら適当に伸して後方集団への取引材料にして、これまた情報が得られるかもしれないじゃない?」

 

策はあるから大丈夫よ。と少女は屈託なく笑う。

会ったこともない相手にどう策を巡らせるのかとか、たくましすぎる彼女を前にメアが突っ込める所はなかった。

 

 

   □ ■ □

 

 

 

水を切る駆動音が鳴り響く。

 

「うんうん。やっぱり作っといてよかった!BI〇KI!!・・・じゃなかった、Airbus」

「いや、うん。まあ、楽しいんですけどね・・・。」

 

現在二人はキャスター製作の水陸両用バイクBI〇KIならぬAirbusに乗って海上を駆け抜けている。

因みに時速80㎞。メーターは200まであるが、果たして使うときは来るのだろうか。

そんなことを考えながらキャスターの指示に沿って走行している彼らの元に船が近づいてくる。

というか向こうはこちらのあまりの速さに気付いていないらしく無防備にこちらを轢こうとしていた。

 

「・・・あれヤバくないですか?」

「ん?・・・ああ、あれ、ね。うん、大丈夫。そのまま進んで。」

 

トンッと軽く後部座席の何処かをキャスターが押すと、小気味いい音とともに何か、ビームの様なものが正面のライト辺りから照射された。

その飛距離はあまり長くもなく、途中で波に遮られたこともあって、丁度先程の船の進路方向を爆破させた。

ドオオオオンっという音とともに盛大な飛沫と水柱が立ち昇る。

 

「え・・・。」

「さ、行きましょう!!」

「や、でも・・・。」

「いいからいいから。」

「・・・はい。」

 

そのまま騒がしい船を取り残して、二人は先を急いだ。

 

 

 

「お願いですから、はやく見つけてください。」

 

デミサーヴァント ディルメア・ストルファイスの明日はどっちだ!?

 




突っ込みなんていなかったんだ。


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出遭い

最近常に迷子状態なんだが……。




まるで、古い映画フィルムを上映しているかのように耳障りな音と窮屈そうなイメージが視界を蝕む。

 

――愛というものが解らなかった。

 

愛。人が生きていく中で何処かで育んでいく感情の一つ。

その在り方は千差万別。十人十色とはよく言ったものだ。

そんな適当な解説を心の中でぼやいていると声が続いた。

 

―――誰かを慈しむという事ならわからなくもない。けれど、自身のそれはよく言う慈愛とやらとはかけ離れたものだったから、きっと愛とはまた別なのではないだろうか。

 

 

白くぼけたイメージが滲んで、形を変え、次に映ったのは決してそこに生えるはずのない大木と、花。

そんな光景を確認することが出来るその部屋唯一の小窓と、窮屈とは言えないながらも広いとも言えない豪奢な部屋。

そして……そんな部屋の大部分を占領している寝台とその上で微笑む足枷の付いた哀れな女(美しい人)

 

―――何度、一緒に逃げようと提案しただろうか。

……そのたびに首を横に振られて『約束だから。』と断られてしまったのだけれど。

 

―――余りにも可哀そうな人だった。

 

―――もしかしたら、何か重い罪を犯したのかもしれない。存在そのものが悪とされるものなのかもしれない。

それでも助かってほしい。救われてほしい。……報われてほしい。

 

視界が順繰り変わってゆく。

徐々に視界が高くなっていくところを見るにきっとこの視界の持ち主が成長でもしているのだろう。

 

―――その人の近衛だったという男は言う。

『それは王がお決めになることです。……そして、そのことは忘れなさい。いいですね。』

 

―――ああ、どうして忘れることなどできようものか。

 

成長とともに本当は■は■で■は■だったのだと気づいた■■(だれか)

そこにあったのは自身が■の■であることへの歓喜でも自信でも誇りでもない。

酷く冷え切った周囲への嫌悪と灼けつく熱砂の様な自身への憎悪だった。

 

―――■を騙して無理を強いる■が嫌いだった。近衛の男が苦い顔で仕方のないことだと言ったのもわからなかった。

だって、自分にはただ■の持つ力を独占したいが故に、自身のエゴのために犠牲を強いているようにしか見えなかったから。

 

―――強いくせに従順な■が嫌いだった。何故それだけの力を持ちながら、ただの人間の様に粛々と日々を過ごし、憂いに伏せるのか、無駄なことばかりをしているその姿が、理解できなかったから。

 

―――ただそこにいる自分が憎かった。ただそこにいるというそれだけで■■を■■へと誘うであろう自身が、そうしてそれを何ともできない自分が、ただひたすらに憎かった。

 

『仕方のないことなのです。■はただ■■■■■■様のことを……。』

 

―――(ボク)は■を理解することが出来なかった。

 

 

  □ ■ □ 

 

 

 

「…あ……メア!!」

 

「へうあ!?」

 

がくんという不意の衝撃で遠のいていたらしい意識が戻ってくる。

 

「ちょっと、本当に大丈夫?こんな海原で居眠り運転何てしたらそれこそ転覆してお陀仏……いいえ、あの世行きよ?ガルラ霊とこんにちわすることになるわよ?」

 

「……あー大丈夫。大丈夫です。睡眠はしっかりとりましたし。さっきの海図からするともうすぐ陸地のはずですよね?」

 

そんな気の抜けた返事を聞いてウルクのキャスターは眉を下げる。

 

「たしかにそうだけれど……よかったら運転交換しましょうか?一応今でこそキャスターだけどライダーの適性も持ってる筈だから。」

「いいいいいえ。だだだだだ大丈夫ですから!!」

 

善意100%の申し出をすごい速さで断るメア。

確かに本人の腕はいいのかもしれないが、少し前の船への対応のことを考えてそういう事になりかねないという考えに至ったからだ。多少の無茶位なら目も瞑れるが、メアとてまだ死ぬわけにはいかないのだ。

 

「……あら?」

 

そんな青い顔のメアを余所にウルクのキャスターは後ろで海図を手に首を傾げている。

不思議に思ったメアが口を開くよりも先に彼女が話し出した。

 

「魔力の反応が、一つ増えてる。もしかしたら……。」

 

「……カルデアの……?」

 

かもしれないとキャスターが頷いた。

暫しの沈黙が訪れる。

 

「……取り敢えず状況が解らないと何ともしようがないのでこのまま情報提供者(予定)を優先で。」

 

「ん、じゃあその島で降りて。」

 

この場から数キロ離れているらしい島を指差して簡単に言ってのける彼女にはいはいと返事をして見せる。

幾度かの操船の後島にたどり着くと真っ先にウルクのキャスターが足を強めに地面につける。

と、黙り込んで動こうともせずにじっと密林の方を見遣っている彼女にメアは首を傾げた。

何をしているのかとメアが聞くよりも早く密林の方から悲鳴が上がる。

……目を遣るとまるで引きずり出されるかのように、否。実際黒い何かに雁字搦めに拘束されて引っ張られてきたのは紫髪の華奢な少女といった体の何かだった。

 

「ちょ、ちょっと。何よコレ!?どうなってるの!?」

 

必死に、とは言っても見苦しさを感じさせない抵抗をしている少女()の姿に普通なら経緯はどうあれ何かしらフォローを入れたりするところなのだろうが何故かメアの内心にそのような感情は湧かなかった。

勿論、守ってあげたいだとか好き勝手してみたいなんてことは一切湧かない(・・・・・・)

普段なら例え余計なおせっかいだとしても気に掛けるはずなのだが、微塵もそんな感情が湧かないメアに本人が内心で驚く。

それとともに自身と同じように動こうとしない隣のキャスターをちらりと見ると、何故か彼女は浮かない顔で自身の手の平を開閉させ、見つめていた。

 

「……そう、もうこんなにも……。」

 

ポツリとこぼされた言葉の意味は解らなかったが何やら芳しいことではないようだ。

そうこうしているうちに捕らわれの身の少女()もこちらの存在をちゃんと認識したのか話しかけられる。

 

「ちょ、ちょっと!そこの貴方!そこで見ている貴方、早くこの黒い奴を取って頂戴!!」

 

全っ然、取れないのよ!と悲鳴を上げながらいう彼女に溜息を溢しつつメアは行動を開始した。

正直あまり関わり合いにならないほうが良いのだろうがそうも言ってられない。

なんせきっと、当初の情報提供者(予定)とはきっとこの少女の装いの女神の事なのだから……。

例えよくわからないめんどくささが拭えなくとも贅沢は言えないのだ。

 

 

取り敢えず、こうして、女神様(エウリュアレ)英霊(キャスター)半人前(メア)は出遭ったのである。

 




一話一話を何処で区切ったらいいかが最近分かりません。

たぶんこれからも解らないでしょう。

……駄目じゃね?これ?


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何度だって繰り返す/だって僕にはわからない

所詮独りよがりでも、気付かないほうが幸せなことはそこら中に転がっている。

それこそ、無駄なくらい。


キャスターの罠に引っかかっていた女神。エウリュアレは内心でかなり焦っていた。

現在彼女は先程罠にかけた二人組とともに行動を共にしている。一応情報提供と護衛という関係で。

しかし、確かに戦闘能力がほぼほぼ無い彼女にとっては渡りに船であるとともに、その申し出はこの上なく不安でもあったのだ。

これが人ならばまだやりようはいくらでもあった。

ちょっと優しくしておだててあげれば皆自ら自滅へと歩みを進めてくれるのだから。

苦しみ破滅する姿も見られるのである種彼女にとっては一石二鳥である。

けれどいま彼女の護衛を買って出ている二人は……ちらりとエウリュアレが何気ない風を装って二人を盗み見る。

 

自身と同じくらいの背丈の少年……彼は確かに人間だ。人間なのだ、が、なにやらその器には到底似付かわしくない何かが無理矢理詰め込まれているかのような歪さが見て取れた。と同時に先程の対応にも納得する。

 

(……なるほど、これじゃワタシの魅了も効かないわけね。)

 

どんなに無垢な子供と言っても男である。必ずしもではないが効かないわけはない、と自信を持って言える魅了も確かに本人にそんな余裕すら無いのであれば、視えていなかったのなら効かなくても仕方がないのだ。

 

続いて、もう片方の、これまた同じような背丈の少女。

貌や体つきはエウリュアレとはまた違っているものの完成された見事な物だ。

が、この際そんなことは置いておいて、エウリュアレとしては先程の少年よりもこちらの少女の方が恐ろしかった。

何故って、少女が神であるエウリュアレにすらよくわからないもの(・・・・・・・・・)だったから。

人にも見えるし神にも見える。しかし、決定的に違う何か。末恐ろしい、何か。

この少女がこちらを向くたびに、何かを話しかけてくるたびに、悪寒が止まらない。

更に言うとそのあとで否、同時に来る不可解なまでの安心感も彼女の恐怖を増長させていた。

何かこう、例えばだが、ステンノ(最も信頼のおける人物)から思いもよらぬ怪物やらを嗾けられる様な、脅威はすぐそこにあるのに、安心しきっていて警戒できない。そんな感覚に包まれる。

 

まずい、まずい、まずい。

 

(たまったもんじゃないわ!!こんなのっ)

 

だからと言ってこの得体のしれないの2体対自身では絶対に逃れられないと思ったエウリュアレはダメもとで少年を懐柔させようかと、幾度かの思案の後にさりげなく少年に声を掛けようと、振りむこうとした。

 

「ねえ、エウリュアレ。」

「っつ、あ……。」

 

いきなり呼ばれて即座に少女の方を振り返る。

 

「エウリュアレには兄弟とかいるかしら?」

 

さりげない何の気なしに振ったらしき話題を少女は満面の笑みで振ってきた。

それに対してエウリュアレはというと先程までの思考すら抜け落ちて頭が真っ白に顔は蒼白となる。

何故なら少女の眼は笑顔の態を保っておきながら少年に何かしたら殺すぞ。と如実に物語っていたのだから。

 

「きょ、きょうだ……い……?」

「ええ、そうよ。ちなみに私は下に弟がいるの。メアは、一人っ子だっけ?」

「あ、はい。そうですよ。一応兄妹らしき人たちはいたみたいなんですが……知ってるのは一人だけですね。」

「ふうん?で、エウリュアレは」

「……一応、姉が一人に。妹が一人、よ。」

「あら、じゃあエウリュアレに似て美人なんでしょうね。」

「そ、そうよ!こうみえてもワタシも、ステンノ(ワタシ)も美の女神なんだから。」

 

さらりと言われた一言に食い気味に答える。ついでにエッヘンと言った風に胸を張って。

と、なにを思ったのか嬉しそうにうんうんと少女が頷いて見せた。

 

「私の友人にも美の女神がいるけれど、うん。美の女神ならこうでなくちゃね。やっぱり神話によって違いがあれど性質は似てるっていうか、懐かしいわ。」

「……なんでしょう。とても申し訳ないんですが、エウリュアレさんはともかくその人の話は頭痛が痛いな状態になりそうです。お会いしたこともないのに不思議ですが……。」

 

反対に頭に両手を遣ってブンブンと振りながら少年……メアが苦渋の色を滲ませた。

 

「あなた酷い顔色だけれど大丈夫なの?」

 

先程までの企みなどは一切抜きにしてエウリュアレはメアに視線を向ける。

別に本気で心配しているわけではない。訳ではないが何故か気になる。恐らく自分にそういった意味で興味を持たなかった彼に何か気になるところでもあるのだろうと他人事のように考えてそのまま考えることを放棄するが、その彼女の顔はそんな内心とは裏腹に美の女神としての取り繕ったものではなく、年相応の少女の様な心配の面持ちであった。

 

「はい、■■■■■■(大丈夫ですよ)■■■■■(エウリュアレ)さん。」

 

まるで声の上からノイズを被せたかのようにも、音声を多重に被せているかのようにも聞こえるその声に思わずエウリュアレも、そしてキャスターもぎょっとしてその場に立ち止まる。

 

「ど■■(うし)まし()?」

「あ、貴方っそれ……。」

「それ?」

 

どうやらメアは本当に自身に起こっているであろう変化に気付いていないらしく、可愛らしい仕草で小首を傾げた。彼の身に起きた変化……片目のみが紅玉の如き赫を称えていることなど本当にわかっていない様子だった。

が、であったばかりと言えど打ち解けてきていたエウリュアレと、何故かどことなく訳知り顔のキャスターさえも「なんでもない」といって移動速度を速める。

特にキャスターに関してはその憂いを濃くして、ただただ安全地帯へとその足を動かした。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

「はっ」

 

ギャイン  ザシュッ

 

幾度目かの敵との遭遇をこれまた勝利で飾り最後にブンッと刀を振って鞘に収納し、やっとメアが息を吐いた。

 

「ふう……それにしてもこう何度も敵対行動をとるモノが現れるという事はもしかしてこの土地にゆかりのあるモノが僕らと敵対する意思があるという事でしょうか……。」

「……それはちょっと早計ね。エウリュアレの話を聞く限り彼女を追っていたのは服装も何もかもバラバラな一隻の船だったようだし。……あまり考えたくはないけれど、もしかしたらこういったものを召喚可能なキャスターか特殊クラスのサーヴァントが召喚されているのかも……。」

「どちらかと言えばそっちの方が可能性ありそうね。なんせ、こうして何故か何の力もない神霊であるこのワタシがサーヴァントとして現界させられているんだから。でも、牙竜兵、ね。心当たりは……あまり考えたくはないけれど神霊なら同じギリシャ神話のヘカテーかしら。……いえ、でも彼女ならこんなどんくさい手段とったりなんてしないわよねえ……。」

 

三者三様に考え込むような仕草をして黙り込む。

と、突然メアがうめき声をあげてその場にしゃがみ込んだ。

 

「づぅっ……う゛……。」

「「メア!?」」

 

慌てて駆け寄る二人に片手で先程変色していた瞳の方を覆って、もう片方の手で二人を制止し、微笑んで見せる。が、いくら穏やかに微笑んだところでその顔色は既に紙の様に白く、隠しきることはもちろん出来なかった。

よく見てみると抑えているほうの眼のあたりからジュウッという何かが焼けるような音とともに煙が上がっていた。

 

「だ、大丈夫。慣れてますから。」

「な、慣れてるって……。」

「フラフラじゃない!全然大丈夫じゃないわよ!!」

 

どうみてもやせ我慢だ。顔を見合わせた二人は頷きあった後に伴場強制的にメアを引き摺るかのように近場の、都合よくあった洞窟に避難した。少しでも時間稼ぎが出来ればという一心で。

三人は迷宮(ラビリンス)へと軽率に足を踏み入れた。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

そこは、つつましくも確かに楽園だった。

少なくとも彼女たちにとってはこれ以上ないくらいの充足の場所だったのだ。

 

かつて人から捧げられた供物も、求める声もない。

女神としての意義は着実に放棄されていった。

けれど、それでも確かに彼女たちは、彼女は笑っていた。

 

姉妹さえいればよかった。姉妹だけいればよかった。

 

自身らを貶めた神に思うところがないわけではないが、別にさして気にすることではない。

人間たちのそれなど論外も良いところである。

正直どうでもいい。

 

けれど、一体どこで間違えたのだろう。

妹に人の血の味を覚えさせたとき?

この島に初めて人間を招き入れたとき?

 

解らない。分からない。

 

でも、もしも叶うのならもう一度……。

 

―――

――

 

ぼんやりとした視界が映し出したのは薄暗い石壁だった。

覚醒したての頭はやはりというかうまく働かないがそのままメアは起き上がる。

 

「気が付いたの?」

 

すぐ横には心配そうな面持ちのエウリュアレがこちらを見ていた。

よく見れば手を握ってくれていたらしい。恐らく魔力の調整をしてくれたのだろう。と推測を立てる。

 

「あ、りがとう。ござい、ます。ここは……?」

 

ダイジョブそうね。といってペイッと放るかのように手を放すとその場に座りなおしてエウリュアレが続ける。

 

「ここは迷宮(ラビリンス)。貴方が突然気を失ったからあの子と二人で運んだの。覚えてる?」

「……。」

 

いまいち思い出せないメアは眉間に皺を寄せて深く考えこもうとしてエウリュアレに制止される。

 

「別に無理に思い出さなくてもいいわよ。それより戦闘の準備をした方がいいかもしれないわ。奴ら、もうここを嗅ぎつけてきたみたいだし。」

 

今は此処の番人とあの子が対戦してるみたいだけど……。とこともなげにというか若干投げやりな態度で言うエウリュアレにメアは純粋な疑問が浮かび、即座にそれを口に出した。

 

「……どうして、エウリュアレさんは僕を優先してくれたんですか?」

 

どうして、と疑問を投げかけるとふと脳裏に思い浮かぶには短い時間ではあったが共に過ごした、助けられなかった少女が思い浮かぶ。たぶん、彼女が自分に対して問いかけた時もこんな気持ちになったのだろうか?と身勝手にも思いながら。

 

「どうしてって、貴方が気になるからよ?」

 

はて、そんな大それた行動したかと真面目に思案しているメアに何故か安堵の溜息を吐きつつ「なんてね。」と目の前の女神は不遜に微笑んだ。

 

「英雄どころか人としても半人前も良いところな貴方は、例え将来性を鑑みても現在はそんなに魅力は無いわね。皆無とは言わないけれど。」

 

中々に辛辣だが事実なだけに反論せずにメアは沈んだ面持ちで次の言葉を待つ。

「でも。」ポツリと零れるかのような繋ぎの言葉にメアが顔を上げる。と、普段の小悪魔的な女神然とした笑顔ではなく穏やかな、もっと近しいものに向けるかのような柔らかな笑顔がメアの視界に映った。

不意に、心臓が跳ねる。

 

「その分不相応なやせ我慢は目を見張るモノがあるわ。……例えそれ(あなた)が一時のモノだったとしても、私からすればそれは、とても尊いモノなのだから。」

 

精々頑張りなさい。と言ってエウリュアレが立ち上がる。

釣られるようにメアも立ち上がるとエウリュアレと目が合う。

変わらず笑顔を向けてくるがその表情は更に変化しており懐かしさと何処か悲哀を感じさせるソレが混ぜ込まれているかのようなものへと変貌していた。

そこで潔くメアは気付く。

彼女が見ているのは自分ではなく、自分を通した遥か彼方。

恐らくは既に失われてしまったであろう一時の幸福を見ているのだと。

 

「―――はい。」

 

だから、メアは何も言わなかった。

言ったが最後、どんな言葉を掛けようと彼女の中の自分の価値はそこで止まってしまうのだとわかってしまったから。

彼女の隣に立つどころか共に在ることすらできはしないのだと、わかってしまったから。

そこにわずかに芽生えたそれすら名前がわかる前に踏み潰して。

所詮、そんな血迷った感情など持っていても何の得もないのだから、と。

 

―――こうして、獲得するはずだったそれを■■はまた(・・)放棄したのである。

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

同刻、カルデア某所。

 

先程まで閉じていた目を開いて、男……アメンヘルケプシェフは目を細めた。

 

「……そうか、貴様は例えどう変わろうともそうなるのだな。……我としてはうれしい反面……なんだか、とても、悲しいのだ。友よ。」

 

物事はどんなに綿密に進めようとうまく進まんものだな。と独り言ちる彼は自身の来ているアオザイ……基、式服の袖を捲り上げる。

 

「……全くもって折角こうして来たというにこの体たらくではあやつにも我にも面目が立たぬ。何より我が許せぬ。予定を変更して少々強引にでも加勢に行くか……?」

 

式服に包まれていた腕の部分にはびっしりと何か帯の様な繊細な模様が刻印されていた。

 

 

 

 

「それとも、このまま別の軸に移動する(潰してしまおう)か……?」

 

何やら不穏な言動を残して、彼はその部屋を後にした。

シャラリシャラリと何処ともなく美しい金属の音色を響かせながら。




ちょっとしたことで初恋に落ちて、ちょっとしたことで失恋する。
二度目からはその分慎重になる。

そんな臆病な感じが割と好きだったり……(書けるとはry



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カルデア側から見た彼女

いるだけで害悪なんて言われたらもうどうしていいかわからないよね。

……でも混沌悪みたいなのって方向性が無いみたいな分そう言われている気がしてならない……

実際は違うんだろうけど。


ズガガガガガガガっ

 

魔弾の雨が頭上から降り注ぐ。

 

「っつ。ロード・カルデアス、展開します!!」

 

宝具が展開されスレスレのところで弾かれたそれは霧散する。

かれこれ十数回目のこのやり取り。

要であるマシュは既に限界が差し迫っており、他のサーヴァントたちも疲労の色が見え始めていた。

 

向こうは既に二人だけ、その筈なのに、その二人が倒せない。

 

「っつ、キャスター!宝具頼める!?」

「おうよ!任せな!!ウィッカーマン!!」

 

ゴウという熱風とともに現われ出でた巨人の如き人形が、燃え盛るそれが二人に迫る。

が、それにこれと言って動じずに少女の方がごく自然に口を開く。

 

「ふうん、随分豪快な目くらましね。ま、いいけど。」

 

スキル:天の糸発動。とぽそりと口にして大男の方に手を伸ばすとまるで首輪の様に黄金に光り輝く何かが緩く漂うように巻き付いた。

 

「え?……天の、糸……?」

 

後ろ側でサポートに徹していたオルガマリーが呆然と呟くのが立花の耳に入る。

視線だけ其方にやると本当にオルガマリーは呆然と立ちつくしていた。

宝具の決まる音にハッとした立花はオルガマリーに言葉を投げかける。

 

「所長っ所長!!しっかりしてください。次が来ます!!」

 

立花がそれが分かったのは単に晴れていく煙の中に未だたたずむ二つの影と光り輝く何かが目視で来たからである。彼の勘やら戦術眼やらはまだ心もとないのだ。

しかし、そんな必死な彼に煙が晴れるとともに恐るべき現実がそこにあった。

 

「そ、んな……。」

 

マシュが悲痛な声を溢す。

 

「マジかよ……。」

 

宝具を使ったキャスターも冷や汗をかいている。

そうして、立花も余りの現状に目を見開き、ヒュっと空気を吸い込んだ。

 

「無、傷……。」

 

そう、無傷。傷一つ無く、二人組は健在だった。

状態異常が付与された様子もない。

 

「ねえ、もう、いいかしら?」

 

にこやかな少女の呟きに。

そして、彼女の手のひらに集中している可愛げのない魔力の密度にカルデア側の背筋が凍り付いた。

 

「っつ、撤収、ッ撤収よ!!」

 

ふり絞るかのような声音でオルガマリーが叫ぶ。

マシュっという立花の声を皮切りに転移によって離脱しようと瞬時に準備を始めるカルデアに、これまた可憐な笑顔で少女は告げる。

 

「うん。賢明な判断ね。―――でも、それはあと数分前でないと意味がないわ。『我が身は王にして王にあらず(ウル・ナンム)』。」

 

少女の手に突如現れた水が濁流となって立花たちに向かってくる。

最早ここまでか、と諦めかけたその時だった。

 

「なんだ?もう諦めると?つまらん、実につまらんではないか。そら、ここは何とかしてやる故足掻いて見せよ!!」

 

傲岸不遜な物言いとともに、本来此処にはいないはずの人物の姿が目の前にあった。

 

「許せ、お前とて創造主に逆らいたくはないだろうが致し方あるまい。―――罷り越せ、天の帯。」

 

その言葉とともにアメンヘルケプシェフの袖口から出てきた何かがまるで結界か何かの様に壁の様なものを作り出した。かと思うと先程の水を相殺する。

 

「そら、今のうちにさっさと転移せよ。」

 

その壁越しに見た少女は寂しげな、されど嬉しそうに笑っていた。

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

転移でマシュが先程設置していたポータルの場所に戻ってくる。

と皆一様にその場にしゃがみ込んだ。

 

「さて、皆。無事か?」

 

聞こえた声の方を向いて、お礼を言おうとしてぎょっとする。

声の主、アメンヘルケプシェフの姿は他の誰よりも悲惨なものだったからだ。

全身血まみれといっても過言ではない。し、片腕に至っては完全に切断されている。

その切断された腕はもう片方の無事……とも言えないが繋がっている腕で持っていた。

 

「ちょっ藤丸立花!彼にすぐ応急手当を!!」

 

「ん?ああ、何気にするな……あと数時間もすれば元に戻る。」

 

焦るオルガマリーとは対照的にマイペースな口調で当然の様に答えるアメンヘルケプシェフ。

幾度かのやり取りの後無理矢理応急手当を使って治療した。

 

粗方面々が落ち着いてきたときにマシュがポツリと呟く。

 

「あの方……いったい何者なんでしょう。」

 

言わずもがな先程の戦闘に参加していた少女の事だろう。

皆が黙り込む中でオルガマリーが「もしかしたらだけど。」とぽつりと言った。

 

「あの子、天の糸って言ったわよね?」

 

その確認するかのような物言いに立花は頷きマシュが「はい。確かに。」と返事をする。

確かにあの少女は天の糸と言ってスキルを味方の大男に付与していたのは全員が目撃している。

 

「……私の仮説があっていれば彼女、とんでもなくめんどくさい相手よ。でも味方に加えられたらこれ以上ないってくらい頼もしいわね。」

 

そんな様子をニコニコと見守っていたアメンヘルケプシェフを「どうしてあなたがその天の帯とやらを持っているのかも気になるところではあるけれどね!!」といってじろりと睨みつけながらも解説を続ける。

 

「……先に真名だけ言わせてもらうとメソポタミアのウルクの王、ウルレシュテムね。恐らくは、だけど。宝具の名前もアレだし、確定したようなものだわ。はあ、ほんとなんでこんなところで、あんな大物が……。」

 

「ウルレシュテム?」

 

「せ、先輩。ほら、あれです!大晦日から新年にかけて紐を引っ掛けるというおまじないの……。」

 

「ああ!!あの紐神か!!」

 

慌ててフォローを行おうとするマシュに斜め上の答えを立花が出した。

その答えにオルガマリーが顔を引き攣らせる。

 

「ひ、紐、神……?」

 

「あ、あれ?違った?ええと、じゃあヴァレンタインの邪神??」

 

「邪神……って……あなたそんな覚え方してたの?」

 

はあ、とオルガマリーが溜息を吐く。

しかし、藤丸立花……というか日本人の認識としては大体がそんなものである。

そちらに流れて行くにあたって様々に曲解されていき現在はそう言った恋愛行事で気まぐれに祀られる程度だ。

 

「……もういいわ。わかりました。藤丸立花。貴方には個人的に授業を開く必要がありそうね。でも今回は時間がないし、まあ、いいでしょう。そもそも彼女は、というかさっきの彼女は神霊ではありません。生前……半神半人だったころの彼女でしょう。故に彼女が恐らくは天の糸と呼ばれていたころ……詰まる所神と人の調停者として君臨していたころの彼女にあたるわね。その分何事にも公平だし、きっと交渉の余地はあると思うの……これが実は大人の彼女が擬態していたとかなら、話は変わってくるんでしょうけど。」

 

「あの、所長。もし彼女が擬態だったらどうするんですか。」

 

「……その時は逃げに徹して、極力関わらない方向で進めるしかないわね。私たちじゃ到底太刀打ちできないもの。」

 

最低でも高位の神霊か複数の神性持ちサーヴァントがいないとお話にならないわ。と頭を押さえて所長は言い切った。

 

「っつってもあの嬢ちゃん。きっとこっちの話になんざ耳かさねーぜ?」

 

問答無用で攻撃してきやがったしよ……とやれやれとキャスター、クー・フーリンが首を竦めて見せる。

 

「そこは……申し訳ないけれど、マシュとヘルケプシェフに頑張ってもらうしかないわね。」

「悪いがそれは無理だ。」

 

所長の言葉に間髪入れずにきっぱりとヘルケプシェフが断る。

あれは日に一回程度が限界だ、そもそも我は借り受けているだけで本来の担い手ではないからな。とこともなげにいうヘルケプシェフ。その場が騒然となる中、これまた解決策を提示したのも彼であった。

 

「だが、あの者への対策はないこともない。……この場でサーヴァントを召喚することは可能か?」

 

「……出来なくはないけれど、一体何をするつもり?無駄にできる聖晶石何て……。」

 

不機嫌なオルガマリーとはこれまた対照的に快活に笑ったヘルケプシェフは先程の帯の先端を見せつけて言い放った。

 

「決まっておるではないか聖遺物(コレ)でおびき出すのだ!」

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 

「それじゃあ立花。さっき言った言葉を復唱しなさい。他はこっちで何とかするから。」

 

巨大な召喚陣を敷いてヘルケプシェフを所定の位置に立たせたオルガマリーが立花に召還を促した。

黙ってそれに頷いた立花は陣の方へ向き直る。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。供物に古き糸の名残。

降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

「――告げる。

汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に。

聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば応えよ――」

 

「――誓いを此処に。我は常世にて糸を辿る者――」

 

「――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――」

 

シャン

 

シャン シャン

 

シャン シャン シャン

 

明滅を繰り返していた陣が一際激しい閃光を放つ。

と同時に現れたのは―――

 

「……セイバー、ギルガメッシュ。不敬にも我をそのようなもので呼び出したこと、本来ならあらゆる手段を使って後悔させるところだが、良い。今この身は王ではない故な……特別に許そう。」

 

思わずぽかんと口を開けて驚愕する一同。

そこからいち早く覚醒したオルガマリーと、続いて覚醒した立花がどういうことだとヘルケプシェフをみる。

と、肝心のアメンヘルケプシェフは……。

 

「す、すまぬ。友よ……余りの姦しさに、フィルターを掛けるのを忘れてしまった……すまぬ……。」

 

……酷く落ち込んだ様子で、膝を抱えていた。




余り出せなかった姉ちゃんへの反応を書いてみたかった。

このギルガメッシュはなにガメッシュなんでしょうねー(すっとぼけ

……ちなみにメアがいたら強制的にもっと違う誰かが召喚されていた模様。


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