この素晴らしいキャンセルに祝福を! (三十面相)
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プロローグ

この素晴らしい世界に祝福を! が面白くて、書いてしまった。
駄文ですが、温かい目で見てくださると幸いです。


 目を覚ますと、そこは真っ白な空間だった。そして何も無い――訳ではなかった。簡素な机と椅子が置いてある。俺はとりあえず、一呼吸して、大声で叫ぶ。

 

「どこだぁぁぁぁ!!! ここはぁぁぁぁぁ!!!?」

 

「ちょ、ちょっと!! うるさいわよ、アンタ!!」

 

「あぁ?」

 

 突然、声を掛けられてしまい、俺はそちらを向かざる得なくなる。叫びを一旦やめて、その声に反応する。

 

 すると、目の前に青色をベースとした、なんか女が居た。

 

 うん、女だ。顔はかわいいが、正直、俺好みではないな、俺はもっとこう、いじめたくなるような感じの娘が好きだからな、うん。

 

「オッホン! 突然ですが、私は女神アクアと申します。そして峰沢龍斗(みねさわりゅうと)様……あなたは不幸な事にもお亡くなりになりました」

 

「え? どして? 俺って確か……どうやって死んだっけなぁ? 確か……車に轢かれて……あぁ、ダメだ。その後が思い出せない」

 

「アンタ、子どもを助ける為に、子どもを突き飛ばして、自分は轢かれたのよ?」

 

「それで、死んだのか……?」

 

「違うわ、それでもあなたは全身から血を垂れ流していたけど、死にはせずに、バナナの皮に足を滑らせて、綺麗に転んで、頭を強く打って死んだのよ?」

 

「……ちょっと待て、それはギャグで言ってるのか……?」

 

「そうね、確かに今まで……異例の……ププ……プークスクス!! あり得ないんですけどぉ! 車に轢かれて死んだ人はいっぱい知ってるけど、車に轢かれた後にバナナの皮に足滑らせて死ぬ人とか漫才でしか見た事ないですけどー!!」

 

「笑ってんじゃねぇ!! こちとら死んでんだぞォォ!!? つか、ふざけんな!! なんだその死に方! 納得できねぇ!! せめてトラックに轢かれて死ぬか、通り魔に殺されて死ぬかのどっちかにしろぉ!!! 車に轢かれて死ぬのもギリギリありだぁぁぁ!!!」

 

「アンタを轢いた車って軽自動車だったけど、それでも死ななかったのってアンタ、相当の耐久力あるのね、それでも頭打ったらさすがに死んだけど、プークスクス」

 

「お前、覚えてろよ? いつか、殺す」

 

「絶対に無理なんですけどー!」

 

 そんな会話をし、一旦女神が区切る。

 

「さてと、そろそろ本題に入ります。まず、あなたには選択肢があります。天国に行く事、人生をもう一度やり直す事」

 

「ふーん……正直、どっちも嫌だな、つまんなそうだし」

 

「ふ、アンタならそういうと思ったわ、私の目に女神アクア様の目に狂いは無かったのよ! そう、アンタ、ゲームは好き?」

 

「あ? まあ人並みに」

 

「だったら、転生を選んだほうがいいわ」

 

「転生って?」

 

「実はこことは違う世界で魔王が居る世界があるのよ、そしてその世界は人生をやり直す人が少なくて、人工が減る一方でね、それぐらい過酷な場所なんだけど、魔王さえ討伐してくれれば、それも無くなると思うのよ、だからあなたに転生して、魔王を討伐して欲しい訳なのよね」

 

「へー。でもよ、その魔王を討伐できる力って俺には無い訳で」

 

「そこは心配しなくてもいいわ。転生にはね、特典がつくの、言ってみればチートね、それでアンタは即戦力になる訳よ! まさにウィンウィンなのよ!」

 

「ふーん……即戦力ねぇ。まあいいけどさ。それで特典ねぇ……なんかカタログ的なものねぇの?」

 

「あるわよ、さぁ、選びなさい!」

 

「ほう……結構分厚いな、さてと、選ばせてもらいますかい……」

 

 ペラ、ペラ、ペラ、ペラ、ペラ、ペラ。延々と捲り続ける。

 

 ふーむ、そもそも、どうしてあれなんだろうか、その世界の魔王は倒されて無いんだ? 多分、俺以外にも来てるぜ、あの女神様の反応を見れば……だったら、適当なチートじゃ魔王は倒せないな……。一応は魔王と名乗るだけはあるみてぇだな。だったら、絶対に俺がぶっ殺す為に……強いやつを選んでやる。

 

「ねぇ、さっさとしてよー。まだ女神様の仕事は残ってるんだしさぁ」

 

「うるっせぇな……こちとら、そっちの世界で生き残るための知恵絞ってんだから、ちっと黙ってろよ……」

 

 それに大して、まだ駄々をこねる女神。正直、あんまり女神っぽく見えない。というか女神じゃねぇんじゃね? もしかして、俺、女神選択間違えたんじゃね? ったく、もしキャンセルができるなら、キャンセルしたいぐらいだな……。キャンセル……? キャンセル……キャンセルか……ちょっと面白い事考えたぞ。

 

「えっと……無いかな、無いかなぁー? っと、あ、あった」

 

「何、何? 何にしたの?

 

「俺はこの『フルキャンセル』を選ぶよ」

 

「へぇ、そんなのあったんだ。まあそれでいいなら、それでいいわ」

 

「読んでたら見つけたんだよ。ま、これぐらいありゃ、大体は大丈夫だろ」

 

「まあね、それじゃ、さあ勇者よ、願わくば、新たな勇者候補の中からあなたが魔王を倒す事を祈っています、さすれば神々からの贈り物として、一つだけ願いを叶えてさしあげましょう」

 

「マジかよ!?」

 

「さぁ、旅立ちなさい」

 

 異世界への門は開かれた。俺はそのまま、異世界へと旅立つのだった。

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。



感想、批判。大歓迎です。


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初クエスト

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると幸いです。

あと短いです。


 俺が一番初めに居た場所は街だった。広場に俺は居て、そのまま辺りを軽く見回す、なんというか異世界らしい異世界って感じ、誰もが想像する異世界ライフだ。

 

 さいっこうだな!!! おい!! 楽しそうだぜ! チートと言う最初の『武器』は手に入れた。

 

 次はやっぱりハーレムだよなぁ!! ハーレム、ふむハーレムかぁ……え、どうやって作ればいいんだ……!!? ハーレムなんてありきたりなそんなモノすら俺は作れないのか? いいや、ありきたりならば、俺は作れるはず、そうさ、絶対に作ってやる。

 

 さーてと、まずはありきたりな存在のギルドに行きますか、うん。きっとありきたりだし、あるよね? 無かったら……うん。どしよ。

 

「ちょっといいですか?」

 

「あぁ? なんだい兄ちゃん」

 

「この辺りでギルドってありますか?」

 

「あぁ、それならここから真っ直ぐ行って右だ」

 

「ありがとうございます」

 

「何、気にするな。なんだ、お前、今日からギルドに入るのか? 一応言っておくが、あんまりオススメはしねぇぞ?」

 

「大丈夫ですよ、俺、結構強いですから」

 

 素でもね、車に轢かれても大丈夫程度だよ。あぁ、バナナの皮には弱いけどな……。チッ、あの女神、絶対殺す。魔王を殺した後はアイツだ……! 願いで殺す。

 

「……はぁ」

 

 そのまま俺はギルドへと足を運んだ。

 

「……ここがギルドか結構大きいな」

 

 俺はガランッと入っていく。やはり一番初めは肝心だな。さてと、威風堂々と行くぜ。

 

「……」

 

 かち、こち。ダメだ。威風堂々じゃない。どちらかと言えば緊張でカチコチになってる人になってる。顔だけでも、顔だけでも厳つくしよう。正直、自分の顔がどうなってるかわからないから、厳ついかどうかわからない。

 

「あの、えっと、その、ちょっといいですか」

 

「あ、は、はい。なんでしょうか?」

 

「ギルドに、登録、したいん、ですが」

 

「で、でしたら、登録料が千エリスになります」

 

 スーハー……ちょっと待て、一旦落ち着かせろ。ここに来た所為で変に緊張してしまった。大丈夫だ。受付の人もかわいいし、大丈夫なのだ。

 

「えっと、千エリスですね」

 

「あ、はい」

 

 俺は懐からお金を出す。一応は女神様がここら辺は見繕ってくれているようだ。まあ無ければ、より一層ぶち殺し確定だったが、ふん、運が良かったな、クソ女神。

 

「……えっと千エリスですね、はい」

 

「はい、丁度……それではまず、ギルドカードを作りますので、あなたのステータスを数値化させていただきます」

 

「ステータスを数値化?」

 

「はい、それではこれに触れてください」

 

 と俺は言われるがまま、差し出されたカードに触れる。すると、俺のステータスが数値化されたようだ。

 

「な……!? 『筋力』と『生命力』と『敏捷性』が凄まじいですね……。他のステータスも結構高めですね……これなら、上級職の『クルセイダー』か『ソードマスター』になれますね、他の職業も上級職以外でしたら、何にでもなれますね」

 

「ふーん……だったら、『ソードマスター』にしてもらうか」

 

 正直、どっちでも良いが、なんというかクルセイダーよりはソードマスターの方がカッコいいよさそうに聞こえるからそちらにしよう。

 

「わかりました。それでは、良い旅路を」

 

「はい」

 それでは、さっそくクエストを受けよう。どうせ、何やっても同じだ。えっと、一番難しいので……は? グリフォン? いや、これは無理だな。死ぬ。違うのにしよう、そうしよう。

 

 さてと、えっと? スライム? これは余裕っしょ。スライムっつったら雑魚中の雑魚やん。はーっはっは!! コイツにするぜ。

 

 そうして、俺はスライム討伐のクエストを受けて、さっそくスライム探しに行くぜェ!!

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 フラグって本当にあるんだなって実感しました。

 

 俺は今、スライムから全力に逃げている。なぜかって? 想像以上に厄介だからだよ。俺はまず、クエストを受ける前にショートソードを買ったんだ。一応は最強の攻撃力を誇るのがソードマスターだ。だから、まず、俺は剣を一振りした。それでどうなったと思う? 吸収されたんだよ。衝撃を、斬れても、液体生物な所為ですぐに元に戻るし、あれだ。スライム雑魚とか言ったヤツ出て来い!!! 俺が死んだら、絶対に後悔させてやるぅぅぅぅぅぅ!!!! ま、俺なんですが。

 

「チッ、このタイミングで使わざる得ないぜ……『フルキャンセル』!!」

 

 俺のチートスキル。『フルキャンセル』を使った。これは簡単に言えば、事柄をキャンセルする力を持つ。目の前の敵に向かって、言うだけでこれは発動される。これは超絶チートスキルと言わざる得ないだろう。

 

 たとえば、魔法を放ったとしよう。それの威力をキャンセルしたら――? 意味のない現象になる。だからスライムに『斬れない』という事柄をキャンセルした。つまり――。

 

「ただの柔らかい生物は斬れる」

 

 俺は一瞬で五体撃破した。これでクエストは達成だ。なんとも軽く面倒な仕事だった。『フルキャンセラー』を持ってなかったら、多分一瞬でやられてたな。うん。俺、ここで死んでた。それにしても、使い勝手が良いな、これ……。やばくない?

 

「……ん?」

 

 でかい……蛙? なんだ、アイツ、こっちに来てる……? ショートソードを構える。そして、一閃。俺の攻撃がでかい蛙を一刀両断したのだ。

 

「……弱っちいな、おい……スライム以下かい!!」

 俺はそんな事を呟きつつ、とりあえず、街まで戻る事にした。俺はその道すがら、適当に狩りつつ、戦っていた。街から少し出れば、モンスターは結構出てくるので、俺は一通り目に入った、モンスターを斬って、斬って、斬りまくった。

 

 俺はその後、とりあえず、ギルドへと戻り、このクエストの完了を伝えて、報酬を貰う。これが一連の流れだ。

 

 とりあえず、初クリアなのだが、やはりチート持ちという事で、楽はしている。ちなみにこの『フルキャンセル』、チートと呼べるだけの代物ではあるのだが、これには一応、制約がある、それは一日、三十回までという制約だ。

 

 微妙であるのだが、どうやらこれは俺のレベルと共に上がる仕様になっているようで、そこは良い部分だ、つまり俺が強くなればなる程、強くなるって事だよな? うん、それは素晴らしい。威力は最初からマックスだけど……。

 

(さてと、報酬は六万エリスと結構高額だっ……さてと、とりあえずは宿屋に泊まるか……。金はこんだけあんだ、その前に飯食えばいいか。さてと、適当に頼むか)

 

 そうして、適当に頼んだ結果――。

 

「……これ、炭酸飲料? 酒? んー? わからん……わからんが、いける」

 

 そんな感じで、ハマりにハマり、結構金を使って、正直、ちょっとだけ後悔してる。だが、いくら後悔しようとも、金など戻ってこないのだ。だから、俺はとりあえず、後悔先に立たずという言葉を胸に、宿屋に向かった。

 

(うげっ!? 結構高いじゃねぇか。最悪って言葉がお似合いの世界だな、おい。さっきからよぉ!? まあいい。そもそもあのクソ女神が選択したんだ。これぐらいは想定の範囲内――という事にしておこう)

 

 俺はそうして、宿屋で一泊する事になった。さて、明日はどんなクエストを受けようかな!




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女神アクア 降臨

今回も駄文ですが、できる限り頑張っているので、温かい目で見ていただけると、幸いです。


 俺は今、どこに居るでしょう。正解は宿屋という場所です。いや、聞いた事ぐらいはあるだろう。RPGとかではお決まりだしな、ちなみに現実はそんな甘くなく、決して一日寝たら、完全に体力回復なんてあり得ないからな、そこら辺、ちゃんと予習しとけよ。

 

 そんなこんなで、俺は着替え、ギルドへと向かう。ちなみに『フルキャンセル』は俺のレベルに応じて上がっているので、今の俺のレベルは6で回数は36と増えていた。これを見る限り、おそらく一レベルにつき、一という感じだな。

 

 そうして、俺はギルドへと入っていく。それはもう堂々として、だ。そして俺はクエストを受けようと思い、また張り紙が貼ってある所に行こうとした瞬間だった。

 

「お、お金……貰ってきたんですけど……」

「あ、あぁ……」

 

 アイツ……クソ女神? クソ女神なのか!? クソ女神かぁぁぁああ!!!? 俺はおそらく今までで一番のハイテンションでクソ女神の所に走り出す。

 

「おい」

「ん?」

「何?」

 

 二人が俺の呼びかけに反応する。ちなみに男の方は、来たか。なんて感じで待ち構えてた感じだったが、クソ女神の方は厄介事に関わりたくないのか、少し嫌そうな顔をしている。

 

「ちょっといいか? そっちに居る、女さ、女神……じゃねぇか?」

「ん? あぁ……もしかして、お前も転生者なのか?」

「あぁ、お前もか? つか、なんでクソ女神と一緒に居るんだよ?」

「クソ女神って言ったぁぁぁ!! 私は女神アクアよ!! クソ女神なんかじゃないわ!!」

 

 とか、頭湧いた事を申しておる、変人アクア。んな事はぁ、どーでもいい訳ですよ、それよりも、だ。このクソ女神が俺の死因をバカにした事が許せねぇ!! それが一番腹立つ。

 

「あぁ、そういえば、カズマとリュウトって結構、死因、似てるわよね。バカな所が、プークスクス!」

「あぁ? カズマっつーのか、お前どうやって死んだんだ?」

「う……トラクターをトラックと勘違いして、女の子をかばって、ショック死した……」

「……そりゃ、まあ、あれだ……うん」

「お前こそ、どうなんだよ、えと、リュウトって言うのか」

「あぁ、俺は……軽自動車に轢かれそうになった子どもを助けて、轢かれたけど、とりあえずは生きてたらしく、帰り際にバナナの皮に足を滑らせて、頭打って死んだ」

「……」

「……」

 

 両者、どちらとも無言になり、そして俺とカズマは握手する。

 

「……俺、カズマとは仲良くなれそうだ」

「俺もだ、リュウトと仲良くなれそうだ」

 

 奇妙な友情ができた瞬間だ。

 

 

 

―――――

 

 

 

 そんなこんなで、俺達はパーティーを組む事になった。ちなみに二人とも収入が安定してないとかそういうの以前に金が全然無く、俺自身も金はどちらかと言うと無いので、二人の分の装備を整えてやるなんて事もできないし、そもそも俺はショートソード買っただけで、まだ、シャツとジーンズのままだからね? こんな俺を頼りにする方が間違っている。

 

「てな訳で、お前らの明確な目標はとりあえず金だ。お前らは圧倒的に金が足りない。つか、こんな異世界に来て、金の心配するとか思わなかったんだけど……」

「俺もだ……」

 

 そんな風にションボリするカズマにとりあえず、仕事を紹介する、つっても、ギルドに行けばわかるんだが、仕事は何も冒険者だけではない。確かに、俺はさっそくその職に就いたが、それよりも安定して生活できる仕事などいっぱいある。そもそもここは始まりの街と呼ばれるだけあってか、かなり治安が良い。

 

 それこそ子どもが走り回れるぐらいに、だからこそ、モンスターってのは遠出しなきゃ、当然出会えないし、強さはさまざまだが、基本的に弱い。なんせ駆け出し冒険者しかいねぇからな。

 

「さぁてと、俺は俺で、他のクエストをやりますか……」

 

 そんなこんなで、俺は俺で、やる事をやる。クエストだ。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 俺は今、『ジャイアント・トード』というモンスターと戦っている。ちなみに見た目は完全に大きい蛙だ。だが、強さは俺も前に戦った事があるが、雑魚モンスターではある。だが侮るなかれ、繁殖の時期に入ると、体力をつけるために、山羊や子どもを丸呑みするらしい、そして当然だが、そんなのを丸呑みできる程のモンスターだ、俺も食われもする。

 

「ま、食われる前に殺るが」

 

 バッサリと斬っていく、やはりソードマスターは良い、筋力が上がりやすく、スキルポイントは、もう100を超えている。そろそろ良さそうなスキルを取得するべきか? 『フルキャンセル』があるのだが、これだけだと、意味ねぇしな。ま、とりあえず、『片手剣』と『両手剣』は取得しとこう。

 

「さて、どうする? 小物共……悪いが、俺は簡単にゃ食えねぇぞ?」

 

 徐々ににじり寄る俺。傍から見りゃ、どっちが悪役がわかんねぇな、まあいいが、俺はどちらかと言うと、こっちの方が似合ってるかもしれねぇがな、さてと、そろそろ遊んでないで、サクッと狩っちまうか。

 

 そうして俺は、残りのジャイアント・トードもバッサリとぶっ殺す。ちなみに全部で五匹倒している。これでクエストは完了だ。そうして俺は一度、アクセルの街にあるギルドへと戻り、ささっと、これらを金に換え、俺はカズマ達が働いている所に向かい、歩き出す。改めて見回すと、やっぱりここは治安が良いんだな。

 

 外には魔物がいやがるが、それでも街の外に出ても、そこまで心配は要らない。そもそも近くならば、そこまで問題は無いのだ。時期にもよると思うが、そんな感じで、俺が見ていると、土木作業をしているカズマ達を見つけた。

 

 

 俺はそれを見て、軽く絶句した。なんというか、イキイキと仕事をしていた。冒険者家業よりもこちらの方が向いているのではないだろうか? と思わせる程に、俺は早めにギルドのクエストを達成し、暇になっていたので、近くのベンチでその様子を見ていた。だが、その内眠気に襲われ、俺は眠ってしまった。

 

 声が……聞こえる?

 

「まずいってアクア。リュウトはチート持ちなんだろ? 最悪、ぶっ殺されるぞ!?」

「ちょっと黙ってなさい、カズマ、リュウトは私をクソ女神呼ばわりしたのよ、これぐらいの報いは受けるべきだわ!」

「人の死因を笑っといてそれはないだろ……」

 

 そんな声が聞こえたので、俺はとりあえず、ガシッ! とアクアの腕を掴む。

 

「ぎゃああああああああああああッッ!!!」

 

 おおよそ、女神様が上げるとは思えない声が轟く。俺はそんな事を思いながら、とりあえずコイツをどうしようか、と考えたが、その前に、だ。

 

「おい、カズマ、俺は一体どうなってる?」

「顔面に落書きされてる」

「ちょ、ちょっとカズマ!! なんでバカ正直に話しちゃうのよ!! バカなの!? バカなの!!?」

「『フルキャンセル』」

 

 俺の顔面の落書きを消し、そして俺は、落書きを書いた張本人をぶっ飛ばしたくなってきた。無性にぶっ飛ばしたくなってくるぜ、違うな、ぶっ飛ばす。

 

「……おい、アクアァ……?」

「ヒッ!」

 

「『フルキャンセル』! はい動けねぇ。どうして欲しい?」

 

 俺はその間、アクアの頭をギシギシと力を込めて、押していた。

 

「やめてぇぇぇぇリュウトさぁぁぁん!!!」

 

 はぁ……徐々に涙目になるアクアが少しだけ不憫になり、俺はとりあえず放してやる。次、俺を怒らせたら、もっとすげぇ事しよう、エロい方向じゃないけど。

 

 そうして、今日という一日は終わった。




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紅魔族とジャイアント・トードとヌルヌルプレイ

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると、幸いです。


 ふぅむ……。ギルドに居る、俺達、どうやらカズマは気付いてしまったらしい、自分が全然、冒険者らしい事をしていないと。

 

「という事で、一応、金もある事だし、俺はショートソードを買って、クエストを受けさせて貰うぜ」

「まあいいが……どうすんだ? 何からにする? 一応、オススメとしては『ジャイアント・トード』なんだが、どうする? 正直言って余裕だぞ?」

「そうなのか? だったら、俺達はそれにしようぜ」

「そうね、私は女神様だから、こんなの余裕よ」

 

(さて、本当にコイツらは余裕なんだろうか……なんつーか、嫌な予感がして仕方ねぇんだけど……)

 

「いくぞ! アクア!!」

「おー!!」

「あ、あと、俺はお前らに力を貸さないから、いいな? その程度の雑魚はできる事なら、二人でなんとかして欲しいしな」

「余裕よ!」

「あぁ!!」

 

 

 

―――――

 

 

 

 

「余裕だな――なんて訳がねぇだろうがぁぁぁぁああああああ!!! 嘘吐きやがったのかぁぁぁ!! リュウトぉぉぉおおおお!!!」

「プークスクス! カズマ、超必死に逃げてるんですけどー! 超ダサイんですけどー!!」

「アクア、お前も早く行きやがれ」

「もう仕方ないわね。ほら、カズマ、助けて欲しかったら、私の事をアクア様と崇めて、アクシズ教に入信する事、そして私が頂戴って言ったら、反抗せずに私に――」

 

 その言葉は最後まで紡がれず、バクッ! と頭から喰われた。どうやら、偉そうに声を上げている間に、標的がカズマからアクアに変わったようだ。俺はさすがにマズイ! と思ったが、それよりも先に近かったカズマがアクアをなんとかしてくれた。

 

 ちなみに何かを食べている最中だと、『ジャイアントトード』は動きが止まり、カズマでも倒せたという事だ。

 

「うぅぅ、グスッ! ありがどうねぇ、ガズマァァ、ありがどうねぇ!!」

「な、生臭い……」

 

 カズマがそんな事を呟いていた。俺はハァ、とため息を吐き、今日はやめておこう、と言おうとした瞬間だった。

 

「め、女神をここまでコケにして……か、神の怒りを喰らいなさい!!! 『ゴッドブロー』!!! ゴッドブローとは神の怒りの一撃、相手は死ぬ!!」

 

 そんなエターナルなんちゃらを真似したヤツを出したところで正直言って――。

 

 バクリ! と再び食べられるアクア。俺はハァ……と一際大きい、ため息を吐いて、アクアを助けに、ショートソード片手に蛙をぶっ殺した。

 

「あ、ありがどぉ……リュウドォォ……!!」

「……なんつーか、うん。今日は止めよう、止めとこう……な?」

 

 俺はそんな事を言いながら、アクセルの街に行き、大衆浴場へと――。アクアはさっぱりしたようだ、俺達も何気に粘液まみれになっているので、浴場で浸かっている。そしてギルドで話をする。

 

「パーティーを増やしましょう!」

「あぁ、確かにな……そうした方が俺も良いと思う。そもそもリュウトがチート持ちなだけに、強いからな……他から引っ張りだこになる可能性もあるしな……できる限り、強いヤツを入れたい所だな……」

「まぁ、確かにここより待遇が良い所があんなら、そっちに行くけどさぁ……」

「何言ってるの!? チート持ちなんだから、私のお願い聞いてよ! 鬼畜! 悪魔! リュウト!!」

「ちょっと待て、鬼畜、悪魔と並んで、俺の名前があるのはなぜだ?」

 

 そんな事を喋っていたが、とりあえず、パーティーメンバー募集の張り紙をアクアが作っていた。ちなみにそこにはこう書かれているのだった。

 

 『パーティーメンバーを募集しています ※ただし上級職に限る』

 

(上級職に限るって……かなり制限されるんじゃねぇか? ここはただでさえ、アクセルの街って言う始まりの街なんだからよ……)

 

 そんな事を思っていたのだが、どうやらアクアは自信満々なようだ。自分がアークプリーストというのが、一番の自信になっているようだ。正直言って、あんまり役立ってる場面が見当たらなくて、困る。

 

 まあいいか。とりあえず、待とう――。

 

 

 

―――――

 

 

 

 それから半日が過ぎ、一人、来たのだ。それは美少女で年齢はおそらく十四歳ぐらい。そして黒い髪に赤い眼と眼帯という少しばかり中二病心をくすぐる美少女だった。

 

「募集の張り紙を見てきたのですが」

「……ん? あぁ、そうか……えっと……俺はミネサワ・リュウト。アイツはアクア、んでこっちの男がカズマっつーんだ」

「我が名はめぐみん! アークウィザードにして、最強の魔法、爆裂魔法を操る者!!」

「……………………バカにしてるのか?」

「ち、ちがうわい!!」

 

 ふむ、バカにしてる訳ではないみたいだな……一瞬、冷やかしにきてるのかも、とも思ったが、どうやら大丈夫みてぇだな。

 

「その瞳の色と変な名前……もしかして、あなた紅魔族?」

「いかにも! そ、その前に……何か、食べさせてくれませんか……もう三日も何も食べて無くて……」

「まあ、それぐらいなら、問題ねぇよな?」

 

 二人に聞いてみる。

 

「えぇ、無いわ」

「大丈夫だ」

 

 どうやら大丈夫のようだ、そうして、めぐみんと名乗った変な女の子に食べ物を与えた。

 

「それで、紅魔族つったか? それってなんだ?」

 

 それはカズマも知らないので、気になっているようだ。アクアは胸を張りながら、説明を始める。

 

「えっとね、紅魔族は赤い瞳と変な名前が特徴的で生まれながらに、高い知力と魔力を持っているわ、そして大抵の人は変な名前を持っているの」

「ちょっと、待て。私の名前に文句があるなら聞こうじゃないか」

 

 めぐみんがそう聞いてきたので、俺はこう返した。

 

「両親の名前は?」

「母はゆいゆい。父はひょいざぶろー」

「…………まあ、あれだ。アークウィザードって事は強ぇって事だ。それに爆裂魔法とか言う、なんか超強そうな魔法を持ってんだし、きっと強ぇんだろう、彼女は」

「私の両親の名前に文句があるなら、聞こうじゃないか!!」

 

 それに続いて、二人は。

 

「そうね、きっと強いのよ、この子は」

「そうだな、きっと強いんだろう、コイツは……」

 

 そんな事を言うと、めぐみんが。

 

「この子とかコイツとか、彼女ではなく、ちゃんと名前で読んで貰おうか!」

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

「爆裂魔法はその威力が絶大な故に詠唱が結構、長いのでその間に時間稼ぎをお願いします!!」

 

 ほう、ちなみに俺はまた高みの見物だ。『アークウィザード』がいるんだからおそらく、瞬殺だろう。上級職ってのは本当に強いからなぁ……それも魔法使いだ。いくら駆け出しと言っても、多分、火力じゃ俺達の中じゃ最強かもしれないしな。

 

「うらぁぁぁ!!!」

 

 今、二匹のジャイアント・トードがいる。遠くにいるカエルを狙っているのが、めぐみん、そして近くにいるのが、二人で戦っている。というか、本当に大丈夫なんだろうか……ちょっと見てて、心臓バクバクしてきた……いいや! 大丈夫だ。カズマは正直いって、なかなか、強いからな、それに何気に機転がきく、おそらく上手くコイツらを使うだろう。まぁめぐみんも爆裂魔法とか言う、最強魔法を使うんだ。その威力を見てみるか。

 

 そしてカズマは喰われたアクアを囮にし、カエルを倒した。軽く鬼畜に見えたが、仕方が無い。この世は弱肉強食。

 

「できました! いきますよ!! 『エクスプロージョン』!!!」

 

 激しい閃光がすべてを穿った。光輝くその爆焔は凄まじく、カエル程度には完全にオーバーキルとなっていた。ほう、やっぱり火力は最強だな。俺もあそこまでの攻撃はできない……。軽くチートだよなぁ……何気に凄いヤツが仲間になったんじゃないか? と俺はめぐみんの方に視線を移すと、なぜか倒れこんでいるめぐみんがいる。

 

「…………?」

 

 俺の目にはなぜか、倒れているめぐみんが映っている。どういう事だろうか? どうして倒れているのだろうか? 俺はここで一つの可能性に辿り着く。それは魔力切れ、ここの世界は魔力が切れると、激しく体力を使うため、動けなくなるらしい。つまり、彼女は今、魔力切れを起こしているということだ。しかもと言うべきか、その爆音に引き付けられ、ポヨンッポヨンッとカエルがこちらに来ている。そしてカエルに今にも喰われそうになってるのに、動かないところを見ると、本当に動けないようだ。

 

「バカやろぉぉぉぉおおおおおお!!!」

 

 俺は叫びながら、カエル達を倒しに行く。ジャイアント・トードなんて一気に三匹ぐらい来たし、カズマ一人では絶対に無理だ。そもそもその間に二人が死ぬ。とりあえず、こちらに来たジャイアント・トード三匹を殺しに行こうとしたのだが、カズマの方にも一匹来ていたようで、どう頑張っても、めぐみんは食べられる運命になってしまったようだ。ちなみに食べられる速度はそこまで早くないので、俺はなんとかめぐみんも助け出す。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……わ、わかった。俺はどうやらパーティーを間違えたようだ……」

「おい、俺を置いて、別のパーティーメンバーに行くなんて絶対に許さないからな」

「わかってる。さすがにこんな状況を放っておける程、鬼になれない」

 

 そんな事でカズマはとりあえずめぐみんを背負い、ギルドへと戻る。一応はジャイアント・トード討伐は成功したので、なんというか、はっきり言って、状況が状況なだけに涙目でしかない。

 

 俺はそんな事を思いながら、めぐみんに言う。

 

「なぁ、今度から爆裂魔法以外の魔法を使ってくれないか?」

「――使えません」

「「……は?」」

 

 二人は素っ頓狂な声をあげた。そう、爆裂魔法なんていう最強魔法を操る者と言っていたな。なんというか、え? これしか使えないわけなの? 他にも覚えれるだろ? こんな魔法が使えるんだから、こんな使い勝手が悪い魔法でただただスキルポイントが高い、クソ魔法だろ? おい。

 

「どういう事だ? まさか、これだけしか使えないのか? 他の魔法もスキルポイントで使えるのに?」

「あ? スキルポイントってなんだ?」

「あぁ? 知らないのか? スキルポイントってのは、レベルに応じて貰えるポイントだよ。そしてそれでスキルを覚えなきゃいけねぇんだよ、お前も結構あるんじゃないか?」

「えっと……あ、本当だ」

「だろ? さて、それで、だ。めぐみん、お前は爆裂魔法以外覚えるつもりはないのか?」

「はい。私はスキルポイントが溜まったら、それををすべて爆裂魔法に使います。私は爆裂系統の魔法が好きなんじゃないんです、爆裂魔法が好きなんです。おそらく、他の魔法を覚えたら、冒険も楽になるだでしょう。ですが! 私は爆裂魔法しか愛せない!!!!」

「素晴らしいわ! 非効率的ではあるけど、ロマンを求めるその姿に感動したわ!!」

 

 あぁ、なるほど、これはアレだ。ダメなやつだ。ダメなアークウィザードだ。

 

「そ、そうかぁ……それじゃ、俺達はこの辺で、また機会があったらなぁ」

 

 とカズマはめぐみんを引き剥がそうとしている。だがめぐみんも負けじと、頑張って抵抗している。そんな事をしていると、周りから囁き声が聞こえてくる。

 

「ちょっと見て、あの男、あんな女の子を捨てようとしてるわよ!」

「それに後ろの女性と女の子どちらとも粘液まみれよ、一体どんなプレイをしたのかしら!? あの男共は!!」

 

(俺もかよ!!!!)

 

 そんな俺の心の声も知らずに、めぐみんはニヤリと笑みを浮かべ――。

「カエルを使ったヌルヌルプレイでもなんでもやりますからぁぁぁああああッ!!!」

「わ――っっ!!! わかった! パーティー組もうな、めぐみんッ!!!」

 

 新たな仲間ができた……その名をめぐみん。ポンコツ魔法使い。




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変態ドMクルセイダー

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると、助かります。



 そんなこんなで、めぐみんと言う一応、上級職の女の子をパーティに入れたカズマ。ちなみにこの状態はなんだか合コンみてぇだな。なんて事を思ったりしたが、一方はポンコツクソ女神でもう一方はポンコツ中二病魔法使いだ。どちらも勘弁していただきたいので、決して合コンとか言う言葉は使わないようにしよう。

 

 そんな事を考えながら、俺は新たなるスキルを覚えようかと思ったが、なんというか、何を覚えればいいのか、わからず、結局、覚えずにしている。ずっとスキルポイントだけ上がっていくんですが……。

 

「さてと、今日もクエストに行こうか……? いや今日は一人で行動しようかなぁ……ちょっとアイツらと付き合うの疲れるんだよなぁ……たまには休日も必要だよな、うん! 今日はちょっとゆっくりしよう!!」

 

 俺はそうと決めたら、実行する男だ。俺は有言実行の男。リュウトだぜい!! そんな感じで今日一日は適当に、過ごす事に決めて、まずはギルドでクリムゾンビアでも浴びるほど、飲もうかと思い、ギルドへと入ると、三人がもう既に居た。その内、二人、知らない美女が居た。一方は銀髪の細みな盗賊っぽい女性、もう一方は金髪の女騎士って感じの女性だ。

 

「なんつーか、どうしたんだ?」

 

 そんな事を言いながら、俺は近づいていく。そうして、話を聞くと、どうやらカズマがこの銀髪の女性、クリスと言う女性にスキルを習得して貰おうとしてるらしい。冒険者は誰かからスキルを教えて貰わないと習得ができないらしい、そのおかげか、すべてのスキル、魔法を取得できるという事だ。

 

 そんなこんなで、クリスと金髪の女性、ダクネスとカズマはギルドの外へと出て行った。

 

「ふむ、良いな。あの女」

 

 そんな事を呟いたら、めぐみんとアクアから軽蔑の視線を頂いた。もちろんMじゃない俺には全然嬉しくない。はぁ……なんだよ、良いだろ。俺だって男なんだら、ああいう体に興奮したってよぉ……。

 

 そんな事を胸中で呟く俺だった。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 どうやら『スティール』というスキルを手に入れたカズマがクリスに向かってスティールを放ち、ぱんつを奪い取ったという話をギルドで大きな声でクリスが言っていた。どうやら復讐を受けているようだな。そんな事を思いながら、俺はカズマに近寄って行く。

 

「なぁ、そのスティールって言うスキル、俺でも使えるかな?」

 

「知るか!」

 

 くっそ! こんな事なら、盗賊にでもなっとくべきだったぜ!! スティール! なんて甘美な響きだ。俺も欲しい! スティールが欲しいよォ!!! そんな煩悩満載な俺を下卑た目でアクアとめぐみんは見ていた。

 

 その後、そのスティールを見てみたくて、俺が言ったら、めぐみんに対して、スティールを使い、真っ黒なぱんつがカズマの手の中にすっぽり入っていた。

 

「なんですか、レベルが上がって、ステータスが上がったから、冒険者から変態にジョブチェンジしたんですか……あの、スースーするので、ぱんつ返してください」

 

「あ、あれぇ……? ランダムのはずなんだけどなぁ……」

 

 なんつーか、アレだな。あんな目で見られたくないから、やっぱりいらない。

 

「な、なんと言うことだ、こんないたいけな少女の身ぐるみを公衆の面前に剥ぎ取るなんて、真の鬼畜だ! 許せない!! ぜひ、私を仲間に入れてくれ!!」

 

 なんでだぁぁぁぁぁ!! 俺は心の中で叫んでいた。そうして、なぜだか仲間になったダクネスだったのだ。

 

 

 

―――――

 

 

 

 『緊急クエスト、緊急クエスト! 今すぐに街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください! 繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!』

 

 ん? どうやら緊急のクエストが来たようだ。なんだ? 何か緊急事態なのか? 俺がそう思っていると、ダクネスが呟く。

 

「む、そうか、もうそんな時期か」

「早いものですね」

「なんだ? なんだ? 何の時期だ?」

 

 俺がそう聞くと、二人はそろって答えた。

 

「「キャベツの収穫だ(ですよ)」」

「……???」

 

 俺だけでなく、カズマも疑問を浮かべている。キャベツの収穫にどうして、俺達冒険者が集めさせられるんだ? そんな疑問はすぐに解消される事になる。

 

「あぁ、二人は知らなかったわね、ここのキャベツはね、飛び回るのよ! 時期になると、簡単に食べられてたまるか! って事で、キャベツ達が逃げ出すのよ、それで山を越えて、海を越えて、誰も知らない秘境の地で枯れると聞くわ」

 

 んなバカな……これを大真面目で語ってるからおそろしい。なんつーか、アレだなぁ……確かに異世界だ。

 

「えぇ、もう察している方もいらっしゃると思いますが、キャベツ収穫です、一玉一万エリスです。すでに住人には非難して貰っているので安心して、できる限り、捕まえて、ここに入れてください! では、くれぐれも怪我をせずに!」

「……はぁ、異世界って凄まじいな……」

「なんつーか、俺、馬小屋帰って、寝てていいか?」

 

 そんなこんなで、結局、キャベツ収穫を駆り出された俺達。これが結構な速度をつけて、激突してくるので、結構体力が削られる。おそらく結構耐久力があるダクネスが誰かれ構わず、庇ったりしている。しかもなぜか――。

 

「はぁ、はぁー、はぁー、はぁ、はぁ、はぁー」

 

 なんだか、息が荒く、顔がほんのり赤い。なぜだ? 息が荒いのはまだ、納得できるが、どうして顔が赤くなる……? なんだろう、凄く嫌な予感がする。できる事なら、こんな予想は当たらない方に全身全霊を賭けたい。

 

 

 

―――――

 

 

 

(う、うめぇ! 何このキャベツ!? こんなたかが野菜炒めが俺の舌を蕩けさせる!!?)

 

「それにしても、この顔ぶれも結構凄くなってきたわね、アークプリーストにアークウィザード、そしてクルセイダーにソードマスターなのよ? 上級職の前衛職が二人に、上級職の後衛が二人……カズマってば、超恵まれてるじゃない!」

「そうなのか……正直に言って、これから苦労しかなさそうな気しかしないんだが……」

 

(それは完全に同意)

 

 俺はそんな事を即座に思ってしまってる時点で、ここのパーティメンバーはきっと残念集団なんだろうな。うん……そうして、俺達は新たな仲間、ダクネスを加え、これからも冒険をしていくのだろう。

 

 さぁ、明日は一体どんな冒険が待っているのか、そして、カズマの苦労は天井知らずなのだろうか。一体これからどんな仕事が舞い込んでくるのか、俺はどういうポジションでそれを見ていれば良いのか。

 

 そうして、今日という一日は幕を閉じるのだった。なんつーか、面倒ごとが徐々に増えていきそうな、嫌な展開に陥ってないだろうな……。




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リッチーのウィズ

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると、幸いです。


「金が欲しい……大量に……」

 

 そんな切実な願いをギルドの中でいきなり言うカズマ。うむ、確かに欲しいが……でもどうした、いきなり。

 

 

「なんだっていきなり」

「そりゃ、お前……チート持ちのお前にはわからんだろうが、俺はチートなんてモノは一切無くてな! 毎日馬小屋暮らし! いい加減に安定した生活を送りたいんだよ!」

「ちょっと、カズマ!! 私はチートよ!!」

「うるせぇ!! 駄女神! お前が役立ってる所なんて、今の所、一つも見つかってないんだよぉ!!! カエルに食われるわ、何やらで足しか引っ張ってねぇじゃねぇか!!! それに借金もこさえてくるしよ!!! キャベツの報酬だって、もう底をつきかけてるんだぞ!?」

 

 ちなみに、俺はそのキャベツの報酬でやっと、まともな装備品で整えている。鉄の籠手にに鉄の胸当て、マントもつけている。異世界らしさを演出する為だ。特に意味は無い。ついでに剣も新調したのだ。それはカズマも同じのようだ。

 

「なんですってぇー!! 私だって、回復で役立ってるじゃない!!!」

「まあまあ、その辺にしておけ、二人とも」

「そうですよ、それに、大量にお金が欲しいんでしたら、高難易度のクエストを受ければいいだけの話じゃないですか、幸い、ここには爆裂魔法を操る、この我が居るですから、まさにうってつけですよ!」

 

 と決めポーズを取るめぐみん。ふむ、だが、安心、安全でクエストを受けたいという気持ちがある俺にとっては、そんな高難易度のクエストなどそもそも受けないし、最近は正直に言って、あまりチートも使ってない、というか使う場面がどうして、なかなか見つからない。最近使ったのだって、落書き消したぐらいだし、何それって感じだな。だから、正直言うと、多分、普通のチート持ちより、そこまで楽しんで異世界に来てないかもしれない、カズマは言わずもがな、だな……いや、多少は楽しんでるかもしれないが――そこら辺は俺は知らないしな。

 

「まあ、いいや。だったらさ、これを受けようぜ、ゾンビメーカー討伐、難易度もそこまで高くないし、高難易度なんて受けたら、死ぬぞ多分」

「ほお、ゾンビメーカー討伐か……確かに簡単そうではあるな」

「ふ、ふふ、ゾンビにあられもない姿に……はぁ、はあ、はぁ」

「ふっ、この私の爆裂魔法とどちらが強いか……!」

「ゾンビ? アンデット系なら、私の十八番じゃない! ぶっ殺してやるわ、さ、行くわよ! カズマ!! リュウト!!」

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 街はずれの丘の上。

 

 ここには、お金の無い人や身寄りのない人がまとめて、埋葬される共同墓地が存在する。ここの世界の埋葬方法は土葬なので、ここに湧くアンデットモンスター討伐が今回のクエストだ。

 

 そして、俺達は今何をしているかと言うと――。

 

「ちょっと、カズマ、お肉ばかり取ってないで、野菜を取りなさいよ、ほら! そこにある良い感じに焼けてるヤツ!」

「ふざけんな! お前、これ完全に焦げてるじゃねぇか!」

「カズマ、コーヒー入れてくれ」

 

 俺はマグカップにコーヒーの粉を入れたのを、カズマの前にだし。

 

「おう、『クリエイトウォーター』」

 

 水を入れて貰い、そして。

 

「『ティンダー』」

 

 火で炙る。これで完成だ。

 

「便利だよな、その魔法。俺も覚えたいな」

 

 ズズー、とコーヒーを飲みながら、俺はそんな事を口にする。めぐみんはそんなカズマの事を。

 

「おかしいですよ、何ちゃっかり、魔法使いよりも魔法を上手く扱ってるんですか、そもそも、初級魔法なんてスキルポイントの無駄とまで言われているのに、何ちゃっかり上手く扱ってるんですか」

「そんな事言われてもな、そもそもこうやって使うんじゃないのか?」

「こんな使い方聞いた事ありませんよ」

「へぇ、まあ、カズマって何気に機転が効くからな、キャベツの時とかも、割といろんなスキルを活用してたし」

「そうですね。カズマはずる賢いです」

「そうだな、カズマはこんなにいろんな扱いが上手いんだ。さぞ、私の扱いも上手いんだろうな、んんっ」

「おい、ダクネス。お前は少し、自制という言葉を学んでこいよ」

「んっ! リュウト、お前もなかなか……はぁ、はぁ」

 

 あ、ダメだった。このドMクルセイダーに何を言っても、無駄だった。さてと、もう肉も野菜も一通り食ったし、いいか。

 

「あ、そうそう、一つ気になってる魔法があってな、この『クリエイト・アース』! これなんだけど、これってどう使えばいいんだ?」

 

 そんな事を言って、手のひらからさらさらの砂を生成する。それを見て、めぐみんが。

 

「えっと、魔法で作った砂は良い作物が取れるんですよ…………それだけです」

「なになに? ちょっとカズマさん、畑作るんですか? 農家に転職ですか? クリエイトウォーターも使えるし、天職じゃないですか! やだー、プークスクス」

「『ウインドブレスト』」

「ぎゃあああああああああああ!!! 目がぁぁぁぁぁ!!!」

 

 クリエイト・アースをウインドブレストで飛ばしたのか、考えたな……。つか、普通に敵に回したら厄介なヤツじゃねぇか。

 

「なるほど、こうやって使うのか」

「絶対に違いますよ!」

 

 そんないつも通りの日常を満喫していた。俺達だった。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

「ねえ、カズマ、リュウト、受けたクエストって確か、ゾンビメーカー討伐よね。そんな小物よりも、もっと凄いヤツが来るような気がしてならないのよね」

「やめろ」

「そんなフラグっぽい事言ってんじゃねぇ! 今日は何もイレギュラー無く、終わらせるつもりなんだからよ」

 

 二人して、反論する。というか、わざわざ低レベルのクエスト受けたのに、そんなの居たら、マジ洒落にならねぇぞ。もはや詐欺だ。ったくよ……。

 

 さてと、確か、カズマ『敵感知』持ってたよな? だったらここは任せるか。俺はそうして、カズマ頼りにしていたら、カズマが少しだけ不審そうな顔をした。

 

「敵感知に引っかかったぞ。一匹、二匹、三匹、四匹…………?」

 

 あれ? 思ってたより多いな? ゾンビメーカーの取り巻きは二、三匹じゃねぇのか? まぁ、誤差の範囲か。

 

 そんな事を考えながら、先に進んでいくと、墓場の中央が青白く光りだした。なんだ? 俺達は先に進んでいくと、そこの中心には大きな魔法陣、そしてそこには黒いローブの人影があった。

 

「……あれ、ゾンビメーカーなの、か? 違う気がしてならねぇんだけど」

「突っ込んでいいのではないか? 仮にゾンビメーカーでないとしても、アクアが居るんだ。なんとかなるだろう」

「ま、まあそうかもしれませんが……」

 

 二人して、言っている。ダクネスなんてちょっとソワソワしてるし。はぁ……さてと、そろそろ決心して行くか。

 

 と思った時だった。アクアが信じられない行動に移る。

 

「あ――――ッ!!!」

 

 突然叫んだアクア。何を思ったのか、そのままローブの人影に走り出しやがった。

 

「やめろ!! 何する――ッ!」

 

 俺の制止なんてモノともせず、走り出した、アクアがその人影に指を指し――。

 

「出たわね、リッチー! 私が成敗してくれるわ!!!」

 

 …………ほわい? リッチー? リッチーってあの、リッチーか? なんかこう最強なイメージが滅茶苦茶強い。あの? え、待て、こ、ここはチートを使う場面なのか? そうなのか!? く、くそ、やってやるよ……な、なめんなよ! コラァ! つか、何アクアのやつ、突っ走ってやがる! やめろ、刺激するな! ここは後ろからソローリと動けなくすれば、完了だろうが! 俺は一応、お前からチートを貰った男なんだぞ!

 

 そんな感じで、心の中で発狂している俺。そんなこんなで、ラスボスクラスの敵と相対する事になるかと思いきや。

 

「や、やめやめ、やめてくださーい!! 誰なの? どうしていきなり私の魔法陣を壊そうとするの!?」

「うっさい黙りなさいリッチー! どうせこの魔法陣でろくでもない事をしようとしてたんでしょう!? 何よ、こんな物! こんな物!」

 

 ぐりぐりと魔法陣を踏みにじるアクア。それを泣いてしがみ付きながら止めるリッチー……? 取り巻きっぽいアンデットも止めようともせず、ボーッとしているし……何なんだ? なんか想像と違う。あ、そっか、ここって異世界だった。

 

 しかも結構アレな感じの、そこまでああいうのを求めてる訳じゃなかった。うん。そうだよ、何をシリアスになってたんだ、俺。どうせこの世界の事だ。すべてがこんな感じになるに決まってんだろ。

 

「やめてー!! 本当にやめてください! ここにはいまだ、彷徨える魂を天に還してあげる為にしてる物です! ほら、魂達がどんどん還って言ってるでしょう!?」

 

 あ、ホントだ。へぇ、でもやってる事は結構凄いけど、なんか虐められっ子みたいだな。

 

「そんな善行は私達アークプリーストがやるわよ!! 見てなさい!!」

 

 そう言ってアクアは魔法を唱えた。

 

「『ターンアンデット』!」

 

 そういって取り巻きのゾンビや魂を浄化させるアクア。だが――。

 

「あああぁぁぁ!! わ、私の体が消えちゃう! 成仏しちゃうっ!!!」

「あはははははは!!! アンタごと、成仏させてやるわ!! 愚かなるリッチーよ!! 浄化されなさい!!!」

「「やめろ」」

 

 二人して、カズマは小剣を俺はチョップをして、止める。

 

「いったいわね! 二人とも! 何するのよ!!」

 

 そんな事を言ってるアクアを無視し、とりあえずリッチーと話をする。

 

「えっと、大丈夫か? リッチー……で良いんだよな?」

「は、はい、大丈夫です。えっとありがとうございましたっ! おっしゃる通り、私はリッチーのウィズと申します」

 

 そう言って、目深に被っていたフードを外すと、月明かりに照らされ、その顔が露わになった。そこには二十歳ぐらいにしか見えない茶髪美少女の顔が映っていた。

 え? リッチーってもっとこう、骸骨的なモノをイメージしてたけど、案外普通なんだな。

 

「それで、アンタはここで何してたんだ? アクアの言うとおり、確かにリッチーがする事じゃない気がすんだけどよ?」

「ちょっとリュウト! こんな腐ったみかんみたいなのと喋ってたら、アンタにもアンデットが移るわよ!」

「カズマ、ちょっとコイツ黙らせてくれないか?」

「わかった、おい、アクア。お前ちょっと黙ってろ」

「カズマまで……もういいわよ!」

 

 なんか、ちょっと可哀想になったから、あとでなんかしてやるか、あ、でもつけあがるのか……面倒臭いな。

 

「それで?」

 

 俺が聞くと。

 

「あぁ、えっと……私は見ての通り、リッチー、ノーライフキングなんてやってます。それで、アンデッドの王なんて呼ばれるぐらいですから……私は迷える魂達の話が聞けるんです。ここの共同墓地の魂の多くはお金がない為、ロクに葬式すらしてもらえず、天に還る事なくここを彷徨っていましたから、私が定期的にここに訪れて、天に還りたがってる子達を送ってるんです」

「……良い話やなぁ……」

 

 なんだこれ、普通に良い話だ。あれ? ここの世界のリッチーでこんなのばかりなの? わからないけど……なんつーか、悪いヤツじゃないよなぁ……。どうやらそれはカズマも同意らしい。なんつーか、ここに来て、初めてのまともな人なんじゃないか? そうだよな、こういうのってあれだよな……良いよな。

 

 俺がそんな風にシミジミ思っていると、カズマが。

 

「確かに立派だとは思うが、それこそ街のプリーストに任せておけば良いんじゃないか?」

「え、えと、その……なんと言いますか。この街のプリーストさん達は拝金主義……と言いますか。いえ、そのお金が無い人は後回し……と言いますか……その……」

 

 なんだか、言いづらそうだな。まあ根は良い人だからな、仕方ないか。

 

「つまり、アレだろ? この街のプリーストはお金優先で、こんな墓地には寄り付きもしねぇって事だろ?」

 

 俺が言うと、ウィズが言いづらそうに。

 

「えと、その……そうです」

 

 その場に居た、全員の視線がアクアに、アクアはすかさず目を逸らす。

 

「そうか……だったら、せめてここのゾンビ達を呼び起こすのはどうにかならないか? 俺達はそのゾンビメーカーを倒してくれってクエストを受けたんだからよ?」

「あ、そうでしたか……その呼び起こしてる訳じゃなく、私がここに来ると、私の魔力に勝手に反応して目覚めちゃうので……ここに私が来る必要がなくなれば、良いのですが……」

「ん? だったらよ?」

 

 俺が名案を思いついた。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 墓場の帰り道。

 

「納得いかないわ!!」

 

 アクアがいまだに文句を言っている。そう名案とはアクアに任せる事だ。コイツは毎日暇してるし、問題ないと思った。あのウィズ自体は危険はなさそうなので、見逃す事にし、とりあえずは解決って感じだ。それにウィズの住んでいる住所を教えてもらったりした。ウィズはアクセルの街に普通に住んでいて、生活しているらしい。ちなみにマジックアイテムを売って、生計を経ててるとかなんとか。

 

 それにしても、ダンジョン内とかには住んで無いんだな? なんてカズマが聞いていたら、そんな不便な場所に住むはずないですよね、なんて言われてたな、確かにその通りなんだがねぇ……なんだか、異世界感ってのがどんどん薄れていく感じがなんとも言えねぇ。

 

「それにしても、良かったですね、穏便にすんで、もしも、戦いになってたら、危険でしたからね」

「やっぱりそうなのか」

 

 俺が何気なく言うと。

 

「当たり前ですよ。そもそもアクアの魔法がどうして効いたのかが不思議で仕方ありません」

 おぅ……やっぱり怖いな。この世界。見てくれで判断するなって感じか。そういえば、リッチーのスキル教えて貰うってカズマが言ってたな、俺も付いていく事にしよう。だ、大丈夫……だよな? 

 

 そんな危険がいっぱいなクエストは――あれ? そういえば。

 

「そういえば、ゾンビメーカーの討伐はどうなったのだ?」

 

 ダクネスがそう言い、俺以外の三人が――。

 

「「「あっ」」」

 

 俺達は駆け出しですら、簡単に完了できるクエストをこんなにいっぱいの上級者パーティが居るのに、失敗したという事で、しばらく笑い話になってしまった。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

「ここがウィズの魔法具店か?」

 

 俺が言う。どうやら間違いは無いようだ。そんなこんなで、俺達全員で来たのだ。店の扉を開ける。カランという音が響き、ウィズが来た。

 

「あ、いらっしゃいませ! あ、カズマさん達、来てくださったんですか!」

 

 と言って、歓迎してくれた。しかし……人が一人も居ない。ここあんまり繁盛してないのか? いやいや、毎日来てる人なんて居ないよな、そりゃ。うん。

 

「あら、ここはお茶も出ないのかしら?」

「あ、す、すみません! すぐに用意します!」

 

 待て待て。待て! おかしいだろ! どこの世界にお茶を用意する店があるんだよ! あ、ここか!!? 異世界なら普通なのか……? ジェネレーションギャップって言うのか? 違うな。

 

「……さてと、そろそろいいか?」

 

 カズマがそう切り出した。そう、今回の目的はスキルを増やす事だ。カズマがリッチーのスキルを与えられる。リッチーのスキルなんだぞ? カズマの手札はどんどん増えていくな、それに引き換え、俺は……。ま、まぁ『フルキャンセル』って言うチートスキル持ってるから問題ねぇよな。うん、問題なし!

 

 だんだん、俺の存在意義が試されている気がする。そろそろ活躍しないと……最近一切役立ってない気がする。い、いや、そんな事無いよな? 俺ってちゃんとやってるよな? チートの癖にそこまで役立ってないって言われたら、自殺する勇気があるぞ、いやそれって勇気って言わないか。

 

「あ、それで、何か良いスキルないか?」

 

 カズマが切り出した。それにアクアがすかさず反応を示した。

 

「ちょっと!! カズマ!! こんな、ジメジメした所が好きな、ナメクジみたいなヤツのスキルを覚えるつもりなの!? やめなさいよ!」

「ナ、ナメクジ……!」

 

 ちょっとショックを受けているウィズ。確かにナメクジ呼ばわりされちゃぁな……。さてと、今回は俺が引き受けるか。

 

「おい、アクア、ちょっとお前は黙ってろ」

 

 ずいずいと引きずる、アクアがまだ何か言ってるが、これでカズマもウィズと安心して話ができるだろう。なんだろう、なんで俺がこんな事してるだろう……本当にわからない。

 イスに座りながら、俺達は二人の会話を聞いていると、どうやらウィズのスキルは誰かに使用するスキルばかりらしく、少しだけ申し訳なさそうに俺の方を見てくる。仕方ない。

 

「どれ、俺が喰らってやるよ」

「す、すみません!」

「気にするな。これもウィズの為……俺にはこの程度しかできねぇからさ」

 

 ちょっと格好つけたが、あんまり似合わないな……まあいいや、後ろの視線にも別に気にしないし。

 

「さてと、どうしたら良いんだ?」

「えっと……とりあえず、手を貸してください」

「わかった」

 

 そう言って、ウィズの手を握る。瞬間、俺の体から何かが吸われる。ん? 少しだけ力が抜けた。

 

「えっと、これが『ドレインタッチ』です……」

「へぇ、ドレインタッチねぇ……小手先と機転が効くカズマにはピッタリだな」

「おい」

 

 カズマが文句を言いたそうにしてる。いやいや、文句なんて言えないだろうが、その証拠におい、とは言ったが、それに続く言葉がねぇだろうが。

 

 

 

 

 




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魔剣持ちのチート、その名をミツルギ

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると、幸いです。


 さてと、そろそろクエストを受けないと、冒険者ってのは、その日暮らしが当たり前だ。そりゃチート持ちならば、もう少し良い暮らしをしているだろう、たまにそうじゃないヤツも居るが……ち、ちなみに俺は宿屋でそこそこな暮らしをしてるからな! べ、別に俺は良い暮らししてるからな!? ふ、普通のチート持ちだ! 決して、カズマみたいなダメチートではない! という事で、今日は久々に男二人だけで、クエストを受けていた。

 

 他の連中には何やら、やる事があったらしい、ちなみにアクアは面倒だからと断っていた。ふざけんなと言ってやりたい所だな。

 

「……男二人ってのは寂しいな」

「いや、むしろ面倒が少なくてラッキーなんだが……」

 

 うむ、それは言えてる。ちなみに今回のクエストはスライムを五体狩るという楽なクエストだ。いや、楽かどうかは別だが、そういえば、俺のチートって今まで、役立たせる見せ方してなかった、初めて見せたのは、落書きを消したぐらいだし、なんつー使い方だ、と俺ですら思ってしまうな。

 

「お、なんか居るぞ!」

「そうみたいだな、さ、行くぜ! リュウト!」

「おうっ!」 

 

 俺はショートソード片手にスライムどもをなぎ倒そう――とはせず、まず、大声で叫んだ。

 

「――フルキャンセル!」

 

 ビタッ! と一匹が止まり、液体生物という事をキャンセルする。俺はソイツを斬り、さらにもう一度、フルキャンセルを使う。計六回使い、全員の行動を不能にした、ちなみにこれでやっと二人で討伐できる。これは一回1匹しかできない、ようは範囲でできないという事で、いちいち使わなければならないのだ、これが面倒な所ではなるが、それでもソイツの何かをキャンセルできるし、逆に俺に掛かった何かをキャンセルする事だってできるし、仲間の誰かが何かされてもキャンセルできる。やはり応用はだいぶきくようだ。そうして、六匹のスライムを二人で倒した。

 

「さすが、チートだな。やっぱり勢い任せにアイツにするんじゃなかった」

「そう言ってやるなよ、俺は案外感謝してるんだぜ? お前がアクアを呼んでくれた事を」

「え? どうしてだよ?」

「ボコボコにするチャンスが増えたからに決まってんだろうがァァ……ま、最近はもう気にしてねぇんだけどな。時間の経過と共に、怒りなんて去っちまうモンなんだな、これが、まあ、これから俺の怒りが増えていかない保障はねぇんだけどさぁ……」

 

 そう、アイツは結構面倒ごとを増やしてくるクソ女神だ。これには変わりは無い。と言う事は、逆にこれから面倒ごとは増え続けるって事だ。まったく、勘弁してほしいもんだぜ、なんであの女神は本当にどうしようもねぇんだろうな……。

 

 そんな文句を募らせても、結果は変わらない訳で、とりあえずギルドへと戻り、今回の報酬を山分けする事にした。

 

 クエスト自体は簡単で、それに結構高額だった為、二人は仲良く、クリムゾンビアを飲んでいた。なんつーか、男友達みたいで、良いなこういうの、元の世界でも、男友達とこうして、遊んだなぁ……っと感傷的になるなんて、俺らしくないな……。

 

「もう一杯頼むか」

「おう、じゃんじゃん飲もうぜー」

 

 結構酔いが回ってるな……俺は強いのか、知らんが、全然酔った事ないんだよな……まぁ、あんまり飲まないようにしてるしな、当たり前か……。

 

 そうやって、楽しい時間を過ごした二人だった。

 

 

 

―――――

 

 

 

「カズマさーん!!! リュウトさーん!!」

 

 そう言いながら、縋りつく女神。め、がみ……? まあとりあえず、なんだ急に……。

 

「借金が返済できないの!! クエストをしましょう!!」

 

 め……がみ……? アクアがそんな事を言ってきた。何なんだ。一体、コイツは本当に、アレなやつだ!! そんなこんなで、今日は仕方なく、アクアがクエストを選んでくる。

 

「おい、カズマ!! 危険だ! 危険信号が発信してる!! アイツ一人で選んじゃ危険だ!」

「おう! わかってる!!!」

 

 カズマがすかさず、反応を示して、なんとか、アクアがしようとしている、超高難易度クエストを取り上げる。

 

「何しようとしてんだ!! お前は!!?」

「だって、早く借金返済したいんだもん!!!!」

「だもんじゃねぇ!!! なんだ今のクエスト! 難易度が洒落になってならなかったぞ!! グリフォン討伐とかふざけんな!!!」

「大丈夫よ!! こっちにはチート持ちのリュウトだって居るのよ!?」

「ふざけんな! 一人しかチート持ちが居ないんだぞ! アイツ一人で、なんとかできると思ってるのか!!?」

「できるわ!! 間違いないわ!!」

「ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 そうして結局、別のクエストを受けることにしたアクア。ちなみに受けたクエストはタルラン湖を浄化する事だ。どうやらそこの湖は濁り、淀んでいるようで、そこを浄化してもらわないと、ブルータルアリゲーターが出てくるらしい。

 

「ね、ねぇ、リュウト、カズマ……浄化するのは言いんだけどね……その守って欲しいんだけど……浄化したら、ブルータルアリゲーターだって逃げるんだし、その間だけ……」

「ちなみに、湖の浄化ってどれぐらい掛かるんだ?」

「うーん? 半日ぐらい?」

「「できるか!!!」」

 

 さすがに誰かを守りながらの戦闘なんて俺ができる訳ねぇだろうがぁ!!!! チートはそこまで万能じゃねぇから!! い、いや……できるか? いや、できないだろう……そもそも水辺の戦いなんてした事ないし……。

 

 そんな風に考え込んでいたら、カズマが名案を思いついたように、ポンッと拳で手のひらを叩いた。

 

「古いな」

「うるさい」

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 今、アクアはオリの中に閉じ込められている。いや、正確にはオリで守っていると言った方が良いか。ちなみにカズマの作戦はこうなのだ、まず、アクアをオリに入れて、ブルータルアリゲーターからの攻撃を守る為だ、アクアは嫌がっていたが、これ以上の作戦は見当たらないし、そもそもアクアの知能じゃ絶対に無理だろうし、だから渋々ながら、従っていた。ちなみにこのオリは結構重たかったので馬車で運んで貰ったのだ。そしてこのオリはギルドから貸して貰った、そうしながら、進んでいくと、そろそろタルラン湖が見えてきたので、俺達はアクアを入れたオリを湖に沈める。

 

「あの、これ……紅茶のティーバッグの気分なんですけど……」

 

 そんなふうにぶつくさ文句を言っている水の女神アクア。ちなみにこれは鎖で繋がれており、それを大きな石にくくり付けている。なんつか、結構凄い事考えるよな、カズマも……。

 

 そんな風に考え、ひとまず、俺は木陰で休憩を取る事にした。これは大分時間が掛かるみたいだし、正直に言えば、ここに居る事自体がもう面倒臭い、帰りたい。

 

 それからしばらく時間が経ち、俺達全員が木陰に居た。

 

「それにしても、全然出てきませんね。ブルータルアリゲーター」

 

そんな言葉を発しためぐみん。バカやろ、それはフラグっちゅーやつでな!! と思った瞬間だった。

 

「ぎゃあああああああああ!!!!」

 

 そんな時、叫び声が聞こえた。声の主は当然――。

 

「ぎゃあああああ!! 来た! なんか来た!!! ぎゃあああああああああ!!! 『ピュリフィケーション』! 『ピュリフィケーション』!! 『ピュリフィケーション』!!!」

 

 うるっせぇ女神なんですけど……。もっと可愛らしく悲鳴をあげられないものかね。いや、もし実在してたら、俺は本当に叫びたくなるような状況なのか、と問い詰めたくなるがな……。アクアはめっちゃ、怖がっていた。ブルータルアリゲーターってワニみてぇなヤツだな。まぁ名前からして、そうだろうとは思ったが、それにしたって、群れで移動するワニなんて厄介な事この上ねぇな……あれ結構居るよなぁ……5匹近く居るんですが……さ、さすがにあれは可哀想だな……というか悲惨だ……。この世界は女神にまで厳しいんだな。

 

「いいな。あのオリの中……」

「行くんじゃねえぞ……」

 

 俺が半ば呆れながら言う。

 

「おーい! アクアぁ! トイレに行きたくなったら言えよ!」

「ア、アークプリーストはトイレになんか行かないわよ!!」

「ちなみに、紅魔族もトイレには行きませんよ」

 

 なんだ、その一昔前のアイドルみたいなのは、だったらお前らが毎日バクバク食ってるモノはどうやって排出されてんだって話になるだろうが、いや、あんまり深く考えるのはよそう。

 

「ク、クルセイダーも、ト、トイレには……うぅ」

 

「良いんだよ、ダクネス。本当かどうか確かめる為に、コイツらには一日じゃ終わらねぇクエストを受けさせてもらう」

「いいな!! それ!!」

 

 カズマが一番反応した。おいおい……。

 

「や、やめてください! こ、紅魔族はトイレには行きませんが、謝るのでやめてください……」

 

 なんだろう、ホンワカしてるなぁ、うちのパーティ。あっちでは必死に頑張ってる女神様も居るのに……。と俺は他人事のようにしていたのだった。

 

 それからしばらく経ち、どうやら浄化は済んだようだ、湖の方も澄んでいる、この水なら飲めそうだな。飲まねぇけど。

 

「……さてと、帰りますか、おいアクア、もうオリから出てもいいぞ」

「いや、外の世界は怖いもの……このまま連れてって……」

 

 どうやら女神様に強烈なトラウマを植えつけたようだった。なんつか、本当に可哀想になったんだけど……。そこで俺はこう提案したのだ。

 

「なぁ、今回の報酬はアクア一人にあげても良いんじゃねぇか? 三十万エリス全部さ」

「あぁ、さすがにな」

「私も問題ないと思うぞ」

「私もです」

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 そんなこんなでアクセルの街まで来たのだが、まだオリから出ようとしないアクア。なんていうか、そろそろ周囲の目線が気になるので、出てくれませんかね……。

 

 そんな風に馬車でゆっくり引かれていると、向こうから突然、声が聞こえてきた。

 

「女神様!!? 女神様ではありませんか!!!!」

「あぁ?」

 

 俺がそっちに顔を向けると、そこにはゴツイ鎧とゴツイ剣を身にまとった、顔が整った男が居た。なんつーか、コイツを女神様って言ってる事はコイツもチート持ち、つまり俺達と一緒って訳か。いやカズマはどうだろうか……。

 

「どうして、女神様がここへ? というかどうしてオリの中に!?」

 

 と突然、こちらに走り出し、オリを曲げた。うお!? すげぇ、コイツ、俺より筋力あるんじゃねぇの!!? すっげぇ!! なんて事を思ってると、アクアが女神という言葉に反応したんか。

 

「そ、そうよ!! 私は女神! 女神なのよ!!!」

 

 と元気を取り戻した。圧倒的、慰め甲斐のなさ! というかコイツ、さては忘れてやがったな!? 自分が女神である事!! コイツの頭は本当に大丈夫なのだろうか……最近、本気で心配になってきたんだけど……。

 

「で、あんた誰?」

 

「え!? あ、いや……御剣ですよ! 御剣響夜!! あなたにこの魔剣グラムを頂いた!」

「…………?」

 

 小首を傾げている、というか気付いてやれよ、ちょっと不憫になったぞ、この男を。

 

「あぁ、居たわね、そういえば! いやぁ、いろんな人を送ってたんだから、わからなかったのも無理ないわよね? ハハハ!」

 

 そんな感じで良い感じに誤魔化すアクア。それに若干顔を歪ませたミツルギ。うん、やっぱり不憫な野郎だな。

 

「えっと、久々です、アクア様。あなたに選ばれた勇者として、順調に頑張っていますよ。クラスはソードマスター。レベルは37まで上がりました。……ところで、アクア様はなぜここに? というか、なぜオリの中に……?」

 

 そんな事を言いながら、カズマと俺の方をチラチラ見てくる。まぁ、状況から考えて、俺達がやったと見てるのだろう。酷いが仕方ないな、そうも見える。というか俺が同じ状況でもコイツ何考えてんだって思うし。だが、いけ好かないな。というかこの女神、そんな適当な事言って、送り出したのか。コイツもコイツでそれを鵜呑みにしてるようだし、まあいいや。

 

 そんなこんなで、アクアが今までの事をこのミツルギってやつに説明する。

 

「な、なんですって!!? し、信じられない!! あなたは一体何を考えているんですか!!? 女神様をこの世界に引きずり込み、今回のクエストでオリに閉じ込めて湖に浸けたぁぁぁ!!!?」

 

 と言いながら、カズマの胸ぐらを掴んでいた、コイツ、ちょっとやりすぎだな。

 

「ちょちょ、ちょっと!!? いや別に私としては結構楽しい毎日送ってるし、一緒に連れてこられたばかりの頃は気にもしてたけどもね!!? ていうか今日のクエスト報酬なんて、30万よ30万! それを全部くれるって言ってくれてるし!!」

 

 とアクアが珍しく、カズマを庇っている。なんというか、案外好かれてるもんなんだな、カズマは。

 

 だが、それをミツルギは憐憫の眼差しで見る。それに少しばかり嫌なモノを感じる俺。なんだ、コイツはさっきから。

 

「……アクア様、どう丸め込まれたのかは知りませんが、今のあなたは不当ですよ。そんな目に遭って、たったの30万……? ちなみに今はどこで寝泊りしてるのですか?」

 

 となんというか、今にもキレそうな感じだ。というかコイツ、まともにカズマの意見を聞こうとしねぇな。ふてぇ野郎だ。こっちの意見を取り入れて、しっかりと考えて、それでもカズマが悪いと思うのなら、良いんだけど、こいつ、一方の意見しか聞いてねぇじゃねぇか。バカか。もっとしっかりしろよ勇者様?

 

 そうして、アクアがおずおずとミツルギの言葉に返答する。

 

「えっと……一緒に馬小屋……だけど」

「馬小屋ッッ!!!!?」

 

 それを聞いた瞬間、さらに強く胸ぐらを掴む。ちょ、おい!! 

 

「おい、いい加減にしないか、先程から失礼ではないか、カズマとは初対面のようだし」

 

 お、クルセイダーっぽい事をしてる。珍しい、っとここは俺も便乗してっと。

 

「あぁ、お前さっきから、アクアの意見しか聞いてねぇだろうが、カズマも意見も聞けよ」

 

 ミツルギが手をパッと放す。なんだ、言えば聞くのか。

 

「……クルセイダーにアークウィザード? それに随分と綺麗な人達だ。フンッ、パーティメンバーには恵まれてるようだね。だったら尚の事、こんなメンバーに恵まれて、馬小屋なんかに寝泊りなんて、恥ずかしくないのかい? それに君は初期クラスの冒険者のようだし」

 は? 何言ってんだ? 馬小屋で寝泊りなんて結構普通だって聞いたぞ? コイツ、何言ってんだ? いや、俺は宿屋で寝泊りしてるが、俺だってチート持ちだからな、まぁ、あんまりクエストなんて受けて無いから、結構宿屋暮らしも厳しくなってきたけど。まあ、そこは一人でクエスト受けた時の報酬でなんとかしてる。だから逆にチート持ちのお前がそう偉そうに語るなよ……。アイツ凄ぇ、頑張ってると思うぜ。まあ、お前は知らないのか。

 

「君達、今まで苦労したみたいだね。これからは僕と一緒に来ると良い、勿論、馬小屋なんかでは寝かさないし、高級な装備品も買い揃えよう。というか、パーティ編成的にもバランスが取れてていいじゃないか。ソードマスターの僕に、ランサーとクルセイダー。そして盗賊とアークウィザードにアクア様。まるであつらえたみたいにピッタリなパーティ編成じゃないか!」

 

 おっと、俺とカズマは入ってませんが? いや、別に別嬪さんでパーティを揃えたいなら、構わないが、絶対に後悔するぞ。重荷にしかならないからな。

 

 それにしても本当に身勝手なヤツだなコイツ。まあでも、悪くない提案だ。コイツらなら、特にアクアなら、呑みそう――。

 

「ねぇ、ちょっとヤバイんですけど、あの人、本気で引くぐらいヤバイんですけど! ちょっとナルシも入ってるみたいなんですけど!」

「攻めるより守る方が好きな私だが、アイツだけは何だか、無性に殴りたい……!」

「撃っていいですか? 唱えちゃって良いですか?」

 

 唱えるのはやめなさい。俺がガッとめぐみんを抑え付ける。さて、どうやら大不評のようだ。まあ、確かにごめんだな。

 

「ねえカズマ、そろそろギルドに戻りましょう?」

 

 ま、ここはそろそろ退散すべきだな、俺もカズマになんとなくジェスチャーで伝える。カズマはハァ、とため息を立ち去ろうとしたする。

 

「えっと、俺の連れが満場一致であんたのパーティに入りたくないみたいなので、俺達はクエスト完了の報告があるので、これで」

 

 そう言って、立ち去ろうとしたら、ミツルギが退路を塞ぐ。コイツ……本当にいい加減にしろよ、俺は結構温厚なんだぜ? それをここまでキレさせたのは、アクアに続いてお前が二番目だ、こっちの世界に来て。

 

「すみません、退いてくれます?」

 

 カズマもさすがにイライラしてるようだった。

 

「悪いが、魔剣という選ばれた力を与えてくれたアクア様を、こんな境遇には置いてはおけない。どうだ? 勝負をしないか? アクア様を『物』として選択したんだろう? 僕が勝ったら、アクア様を譲ってくれ。君が勝ったら、何でも一つ、言う事を聞こうじゃないか」

 

「よし分かった」

 

 と先手を打とうとした、カズマを俺が止める。

 

「ぐぇ!? 何しやがる! 先手でも打たないと勝てないだろうが!!」

「待て、待て。こっちには俺という一応チート持ちが居るじゃねぇか、おい! お前、こっちの方がレベルが低いんだ。二人で掛かっていっても問題ねぇよな?」

「良いよ? お好きにどうぞ」

 

 と、魔剣を構えて言うミツルギ。はぁ、失敗したな、ミツルギ。お前は重大な選択ミスをしたぞ?

 

「おい、ゴニョゴニョ」

「あぁ、なるほど……さすが!」

 

 そう言って、カズマがさっそくショートソードを構え、突撃する。当然、ミツルギだってレベルが37もある上に魔剣持ちだ。カズマが先手でも取らない限り、勝つのは難しいだろう。というか、先手を打ったとしても負ける危険性があった――だが……俺が居れば話は別だ。

 

「フルキャンセル」

 

 俺は無情にもミツルギの体を動けなくした。俺のチートスキル。フッフッフ! 別に俺だって苛立ってなかった訳じゃねぇ。さすがに仲間をあそこまで言われちゃ、苛立ちもするし、ソイツに当たりたくもなるぜ? 

 

「ぐっ!!?」

 

 直後、動けなくなったミツルギはなんとか動こうとしたが、まったく動けず、カズマが――。

 

「スティール!!」

 

 スティールを使い、魔剣を奪った。

 

「ッ!!!?」

 

 そして、そのまま魔剣を平らにして振り下ろし、ミツルギは気を失った。ちなみに動けないまま気を失っているので、立ったまま気絶している。10レベル以上の開きがある相手にここまで圧倒されるとは……。ちょっと可哀想な気がもするが……いや、全然可哀想じゃないな。

 

「ひ、卑怯者!!!」

「そうよ! そうよ!!」

 

 あ? なんだと?

 

「アンタら二人掛りで卑怯じゃない!!」

「その魔剣、返しなさいよ!!」

 

 そんな風に言ってくる女二人組。俺はそんな事を無視し、ミツルギの装備品を外していた。

 

「な、何してんのよ!?」

「ちょ、やめなさいよ!!」

「え? いや、だって俺達二人が勝ったんだから、なんでも一つ、お願い聞いてくれるらしいから、コイツの身ぐるみを剥ごうかと」

 

 俺が全然、悪くないよ、という感じで普通に答えた。そして、俺はミツルギの装備品を全部取った。ちなみに財布も一応、貰っておいたのだ。

 

「……ふぅ、一仕事した!」

「おい、それ全部売ったら、どれぐらいになるんだろうな!」

 

 二人でニヤニヤしていたら、二人組の女がもっと、責め立ててくる。

 

「やめなさいよ!! 酷いわ! 鬼!! 悪魔!!」

「そうよそうよ!!!」

「うるせぇな。ぶっ飛ばされてぇかァ!!?」

「それで、スティールでお前らの身ぐるみも剥いでやろうかぁ? そーれぇ、それそれそーれぇ」

 

 と嫌らしい手つきをするカズマ。さすがにそれは可哀想じゃないか? いや可哀想じゃないな。それに怯えたのか、ぱんつ一枚のミツルギを引っ張ってどこかへと去ってしまった。

 後ろや周りからの視線はそれもう、痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。


感想、批判。大歓迎です。


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デュラハン 一戦目

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると、幸いです。


「ちょっとどういう事よ!! だからアレを壊したのは私じゃなくて!!!」 

 

 そんな風にギルドの受付と言い争いをしているアクア。どうやらミカガミが曲げたオリの修理代として、二十万エリスを引かれているようだ。なんつーか、さすがにアクアが可哀想だな、あんな目に遭って、しかも自分がやった訳でもないのに、二十万エリスも差し引かれるとは……アイツはなんつー手土産を……。あ、俺のキャンセルでどうにかなるじゃね? そうしよう。

 

「アクア、任せろ」

「何よぉ……」

「あの、オリをちょっと貸して貰えます?」

「え? いいですけど……」

「『フルキャンセル』」

 

 曲がっていたオリが徐々に直っていく。

 

「……ッ!! さすが、リュウトさん!!! ありがとう、本当にありがとう!!!」

「ま、さすがに、今回はな……」

 

 俺がそう言って、再び、席に戻る。

 

「なんつか、お前がアクアの為に何かしてやると思わなかったわ」

「そうか? まあ、今回はさすがにアクアが可哀想だと思ったからな……まあ、別にアクアから貰った特典だ。たまにはアクアの為に使ってやっても、バチは当たらないだろ」

「そうか……」

 

 そんな会話をしていたら、カランッ! とギルドの入り口から誰かが入ってくる、そして入ってきていきなり――。

 

「おい!! 佐藤和真! 峰沢龍斗!!!」

 

 またかよ……。せっかく良い感じに終わりそうだったのに。

 

「聞いたよ! 佐藤和真! 君、ぱんつ脱がせ魔なんだってね!! それに峰沢龍斗の方は粘液まみれにするのが趣味だとか!!」

「「おい、ちょっと待て!! 誰が言ってたか、詳しく!!」」

 

 おいおい、なんだってそんな変な噂が……あれか!!! あれなのか!!!? ジャイアント・トードの時のあれかァ!!? ふざけんなッ!! あれは俺の所為じゃねぇだろうがァ!!! くっそぉ!! 手伝えば良かったァァ!!!!

 

「そ、その……佐藤和真……虫が良い事を言ってるのは、わかってる……だが、その魔剣をかえしてくれないか? その代わり、街で一番の剣を買ってあげるから!!」

 

 あれ? 俺から全部奪われたのに、まだ持ってるの? お金? そういえば、装備もどうやら新調したみたいで、変わってる。へぇ、さすがは、チート持ちって訳か、あれ? 俺なら絶対にできる気がしないのですが……。

 

「つかさ、お前がもし勝ってたら、カズマが何を言おうと、何をあげようと、アクアをコイツに返してたか? それなのに、お前が奪われた途端にこれか……? なんだよ、それ」

「ぐっ……そ、それは……」

「はぁ……まぁ、いいや、それ以前に返せないしな」

「は?」

 

 と言って、ミカガミが顔を真っ青にしながら――。

 

「さ、佐藤和真……ぼ、ぼ、僕の魔剣は……ぁ……?」

 

 そして、金の入った袋を見せて、カズマは無情にも。

 

「売った」

「ちっくしょ――――ッッッ!!!!!」

 

 哀れなり、ミカガミ。というか、ミカガミであってたか? まあどうでも良いな。

 

 

 

―――――

 

 

 

「そういえば、前から気になっていたのだが、女神とは一体どういう事なのだ?」

「そうですね、一体何なんですか?」

 

 ダクネスが聞いてくる。そういえば、この二人にはまだ言ってなかったな。俺がジェスチャーをカズマに送ると、カズマも頷き。

 

「そうね、二人には言っておいてもいいわ。実はね……私は女神アクアなの!!」

 

 そう言って、決めポーズまでとった。そして二人はハモりながら。

 

「「という夢を見たの(ですね)だな」」

 

「ちょっとー!! どうして信じてくれないのー!!?」

 

 日頃の行いだな。

 

 そうして、今日も今日とて、ギルドでクエストを――、あれ? ぜ、全然良いのがない? どうして、こんな高難易度のクエストしかないんだ? んー……ちょっと情報収集でもするか。

 

「なぁ、どうしてこんなに高難易度のクエストしかないんだ?」

 

 俺がギルドの酒場で良く飲んでるヤツと会話をした、コイツとは結構、飲みに来る時に話とかしてるしな、結構話しやすいヤツだ。

 

「あぁ? ああ、確か近くの古城に魔王軍幹部が住んでるから、モンスターが居なくなったらしいぜ」

「へぇ、魔王軍幹部ねぇ」

 

 魔王軍幹部、字面だけ見ると、随分と怖いな。近々、相手をする事になりそうな予感もする……。い、いや、さすがにそれは……無いよな? クソ、完全に否定できないのが辛い!! まぁいい。最悪、チートを持ってるんだ、なんとかしてやる。

 

「それより、今日は酒盛りしねぇのか?」

「ん? あぁ、そうだな……今日はする事ねぇし、久々に飲もうぜ」

 

 俺がクリムゾンビアを頼み、仲良く飲む事にした。

 

 そしてその頃、クエストが無いという事で、ダクネスは鍛える為に一旦、自分の家へ、カズマとめぐみんは何やら爆裂魔法を打ちに行くようだ。え? なんでそんな危険な事をしてるのですか? カズマさん? めぐみんさん?

 

 一方、俺は本当にやる事が無いので、高難易度がどうにかなるのか、確かめに一つだけ受けてみた。

 

 内容は一撃熊討伐だ。名前通り、一撃で殺されるらしいから一撃熊と呼ばれているらしい。へぇ、結構強そうだ。俺が一人でそれを受けて、戦いに行く。

 

 そんなこんなで、そこそこの遠出だ。俺は一人で行くのだが、特に問題は無いだろう。それにたまには一人旅も悪くない。

 

 そうして、しばらく歩いていると、そこの森の木に血痕があった。え? 一瞬、俺の血の気が引いた。だが、すぐにそれがモンスターの血だとわかり、俺は深呼吸して、とりあえず、なんとか持ち堪えた。そろそろ一撃熊が出てくる場所まで来たのだ。

 

「さてと、そろそろくるかな?」

 

 俺が一言そう言った瞬間だった。凄まじい速度で、その熊は来た。俺はとっさにショートソードを構えて、防御体勢に入る、だがそれでも凄まじい力で押された。

 

「ぐっ!!? な、なんつー……力だっ!!」

 

 やだ! なんか久々に冒険してる感じがする!! 俺が軽くそんな変な事を思ったら、向こうはグルグルと唸り、そしてゴオオオオッと咆哮する。おそらく威嚇だ。だがそんなので、俺が恐れるとでも? ……俺の膝が笑っていた。

 

(こ、怖い!! コイツ!! 怖い!!!)

 

 やっぱりダメだ!! 本当にアイツらと来た時にこれをしなくて良かった。やっぱり強力なモンスター相手に、スキルだけじゃキツいんだよ! クソ!! もしかしたら死ぬかもしれん……まぁ、死んだら死んだで、次はこっちじゃないどこかへと飛ばされればいいし、うん。きっと俺が居なくなっても誰も困らないもんね! あれ、そう思ったらちょっと泣けてきたぞ。

 

「クソがぁぁぁぁ!!!! 相手になってやるぜ、ゴラァァ!!!」

「グオオオオッ!!!!」

「ギャァアアアアアアアア!!! フルキャンセル!!!」

 

 俺は必死に叫びながら、一撃熊の行動を不能にした。

 

「はぁ……これで、安心安全」

「グオオオオオオオっっ!!!」

「ギャァアアアア!!! フルキャンセル!!」

 

 俺は声をキャンセルした。これでもう雄たけびをあげる事さえ、できない。そして、俺は一撃熊をショートソードで斬ろうとしたら、バギンッ!! と剣が折れた。

 

「……」

 

 俺の心もバキンッと折れた。

 

「……フルキャンセル」

 

 俺はコイツの硬さをフルキャンセルし、再び、折れた剣を使って、バッサリ、次こそ斬りつけた。

 

「……俺にはまだ早かったんだ。レベル13程度の俺が手を出して良い相手ではなかった……」

 

 もし、2体居たら? ブルルッ寒気が……俺は死闘をするようなタイプじゃねぇよ……。ちなみに一撃熊は強く、レベルも上がったようだ。さて、そろそろスキルを開放する時が来た……! 何にしようか……。

「『抜刀術』? これにするか……。あとは……『閃光斬り』、これは強そうだな……。他には……『瞬斬』。あ、これもいいね」

 

 そんなこんなで三つのスキルを身に付けた。初のスキルだが……選びはあっているのだろうか? まぁいいか。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 それからしばらく経ち、いい加減、魔王軍幹部もなんとかしてくれねぇかなぁ? そんな風に俺が、文句をぶつくさ心の中で言っていたのだ。ちなみに武器は新調した、一撃熊の報酬が良かったので、もう少し良い剣を買ったのだ。そんこんなで、ちょっとだけ喜びに浸っていると、突如。

 

『緊急、緊急! 至急、冒険者の皆様は大至急、武装を整え、正門に集まってください!!! 緊急、緊急! 至急、冒険者の皆様は大至急、武装を整え、正門に集まってください!!』

 

 んだぁ? なんだいきなり……? 俺はとりあえず、緊急の呼び出しに対して、正門へと集まった。そして、そこには真っ黒な鎧を身にまとった、首の無い騎士が居た。

 

(……デュラハンか?)

 

 俺はそんな事を胸中で呟いた。デュラハン……なんつーか、超強そうなんだけど、なんでそんなヤツがこんな始まりの街に!!? 俺がちょっとばかり、逃げようかと画策していると、デュラハンが口を開く。

 

「誰だぁぁぁ!!! 毎日毎日、ポンポンポンポンッ!!! 私の城に爆裂魔法を打ってくる、頭のおかしいヤツはァァァァ!!!!!!」

 

 ……ん? 爆裂、魔法……だと? ま、さか……まさかぁ? 俺がギギギと油をさしてない機械のように、ゆっくりと仲間であるアークウィザード、爆裂魔法しか放てない。ネタ魔法だとバカにされているが、それしか扱えない。唯一と言っても良い存在の顔を見る。

 

 そう、めぐみんだ。

 

「……」

 

 どこ吹く風、という感じのめぐみんが口笛を吹きながら、そこに居た。俺は頭から持ち上げた。

 

「ぐぎゃあああ!! 痛い、痛いです!!!」

「めぐみんさぁん? 何をしていらっしゃったのでしょう……? えぇ? 何したゴラァァ!!!」

「わ、私じゃありませーん!!!」

「……チッ、まぁいい。別に悪気があったとも思えないしな……」

 

 俺はとりあえず、めぐみんを放した。頭を擦るめぐみんに、少しだけ申し訳なさを感じたので、とりあえずフルキャンセルで痛みを消しておく。めぐみんはそれに驚いたが、俺は知らんぷり。そして、めぐみんの腕を掴みながら、デュラハンの前まで引っ張り出す。とりあえず、誠意をこめて謝るのだ!! そうすれば、きっと大丈夫! 誠意が伝われば、きっと許してくれるはず!!!

 

 そうして、俺に続いて、他のパーティも来た。ちなみに共犯者はおそらくカズマだろう。ずっと爆裂魔法に付き合ってたらしいしな、あとコイツも悪気があった訳ではないだろうし。

 

「きさまかぁ!!? 毎日爆裂魔法を撃った、頭のおかしいヤツは!! 俺が魔王軍幹部だと知って、戦う気があるなら、堂々と城に入ってくるが良い!! その気がないなら、街で震えてるが良い!! ねぇ、どうしてこんな陰湿な嫌がらせするのぉ!? 始まりの街だからと思って見逃していたのに!!!!」

「……我が名はめぐみん!! アークウィザードにして、爆裂魔法を操る者!!」

 

 そう口上して、俺は次に続く言葉を止められなかった。

 

「我は紅魔族にして、この街随一のアークウィザード。我が爆裂魔法を放ち続けていたのは、魔王軍幹部をこちらにおびき寄せる為の作戦。そして、まんまとこの街に来たのが、運の尽き!!!」

 

「……はあああああああああッッッ!!!!!?」

 

 俺は頭を再び、掴んでしまった。そして、軽く力を入れる。

 

「ぎゃああああああ!!! 痛いです、凄く痛いです!! 泣きますよ!!? 本気で泣きますからね!!!」

「……すまん、つい熱くなった、だが、次はその痛みを継続させる」

 

 そう言って、俺はデュラハンの所まで行き。

 

「すみまっせーん!!!! 次からは絶対に爆裂魔法を撃たせに行かせませんので! 今回ばかりはどうか!! ご慈悲をっ!!!!」

「……まあいい。俺はある調査をしに、あの城に住んでいるだけだ、だからその間、あそこに爆裂魔法は撃つなよ!!」

「それは私に死ねと言ってるのですか? 紅魔族は日に一度、爆裂魔法を撃たないと死ぬんですよ」

「嘘を吐くな!!! 貴様!!! 聞いた事ないぞ、そんな事ぉ!!!!」

 

 くっそォ!! コイツは何がなんでも撃つつもりかァァァ!!!? 

 

「ゼェゼェ、き、キサマがやめるつもりが無いなら、私にも考えがあるぞ……?」

 

 そう言って、少しばかり、剣呑な雰囲気をまとわせる、そしてそれにビクッと反応し、めぐみんはすかさず、後ろのアクアに。

 

「先生!! どうか、お願いします!!」

 

 丸投げだ。……おい。

 

「仕方ないわね、ここはアークプリーストである先生がなんとかして差し上げましょう! というかそいつの所為でクエストもまともなのが無い訳だしね!」

 

 やる気は十分のようだ。なんというか……おい!! 

 

「ほう、プリーストではなく、アークプリーストか……これは少々面倒になりそうだ。ならば……」

 

 ビシッ! とデュラハンがめぐみんに指を指した。

 

 何をするつもりだ? なんだか……超絶、嫌な予感しかしねぇんだけど……。

 

「お前! 一週間後に死ぬ!!」

 

 とっさだった。俺はめぐみんの前に立ちはだかり、その呪いを――あれ? 俺の前にダクネスが居るんですが……。俺はそれに気付き、持ち前の瞬発力でダクネスを弾き飛ばして、呪いを受けた。

「…………てめぇ、ダクネス!! なんのつもりだぁ!!?」

「ぐっ……助けよとしたのに、この仕打ち……んぅ!」

 

 ダメだコイツ……。

 

「まあいい……なんか、逆に悪かった」

 

 俺がダクネスを起こす。そして、自分の体をあちこち触るが、なんともない……どういう事だ?

 

「なんともねぇんだが?」

「まさか、貴様が受けるとは、まあいい……自分がやられるより、仲間がやられる方が辛いだろうからな……」

「……っ」

 

 めぐみんが苦渋の表情だ。え? 一応心配してもらってる? 良かったぁ、これで無反応だったら、泣いてた。

 

「貴様はこれから一週間後に死ぬ!!」

「……やっぱりそうなのか」

「……? 随分と冷静だな」

「いいや、仲間がやられる方が百倍怖いからな、まだマシさ」

 

 めぐみんが俺の方を驚いたように見ている。フンッ、これは格好つけだ。正直に言ったら、超怖い!!! でも体が勝手に反応したからしょうが無いじゃん!!! 誰も俺を責めないでください!!!! どうにかならねぇのかァァァおォォォいィィィ!!!!! そんな風に内心、怯えている、俺。

 

「ソイツをなんとかして欲しかったら、俺の城に来い」

 

 そう言って、デュラハンは去っていった。

 

 そして、めぐみんが当然、歩き出す。

 

「おい……どうするつもりだ?」

「いえ、ちょっとあのデュラハンに爆裂魔法を撃って、その呪いを解除させます」

「……はぁ、おい! カズマァ!! お前も一緒にやってたんだから、一緒に来い! 全員でアイツをぶっ飛ばしてやろうぜ!!!!」

「あ、あぁ!! そうだな!!!」

 

 そうして、全員がやる気を出して、いろいろと作戦を立てていた。俺はそれに満足していながら、そして気付いた。アクアが何か魔法を唱えて、俺の呪いを解いている事に。

 

「……あ、盛り上がってる所悪いけど、もう解除しちゃったわよ、呪い」

「「「……」」」

 

 三人はなんとも言えない顔をしていた。

 

 

 

 

 

 




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冒険者らしい冒険

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると、幸いです。


「なんだと……?」

 

 カズマが何やら因縁をつけられていた。相手は酔っ払いなのか、かなり無茶苦茶な事を言っていた。

 

「だからよぉ、お前さんが足を引っ張ってんだろォ? あぁ、良いねぇ、あんなかわいくて、しかも強いヤツらと組めるなんてよ」

 

 ギルド内で爆笑が巻き起こった。コイツら……。俺が少し前に出ようとしたら、カズマが止める。カズマが止めるなら、まあ……、と俺は引く。

 

「おいおい、どうしたんだよ? 二人して、ビビってんのかぁ? なんだよ、男共はそろって全然役立ってねぇみてぇだなぁ? 本当に変わってもらいてぇよ、さぞかしいい思いをしてるんだろぉ?」

 

 まだ、我慢すんのかよ、カズマ。

 

「カズマ、相手にしてはいけません」

 

「そうだぞ、カズマ酔っ払いの言うことなど、捨ておけ」

 

「あの男、あんたら二人に妬いてるのよ、男の嫉妬は見苦しいわねぇ」

 

 そうやって、なんとかこの三人がフォローしてくれるおかげで、何も思わないカズマなのだろう。ちなみに俺も何も思わない、世の中には知らない方が良いって言葉もあるのだろう。

 

「けっ! お前と良いソードマスターの兄ちゃんと良い! 他の子におんぶで抱っこかぁ!? 羨ましい限りだよ! 苦労知らずで、幸せなもんだよなぁ!!」

 

 ブチッという音が聞こえた気がした。

 

「だったらぁぁぁぁ!!! 変わってやらぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!!」

 

 まぁ、そうだよな……。

 

 男はハッ? とちょっとだけ意味がわからないという顔をしている。それに追撃するカズマ。

 

「変わってやるっつってんだよ!!!! というかお前!! さっきなんつったぁ!!?」

 

「え、いや……苦労知らずで幸せっつったが……」

 

「そのもっと前だよ! 一番初めの方だ言ったヤツだぁぁぁ!!!!!」

 

「え……? あ、あんなかわいくて、強いやつらと組めるなていいな……」

 

「そこだぁぁぁぁ!!!! かわいい!!!? 強い!!!? どこがだぁぁぁぁ!? お前の目にはそう映ってるのか!!? だったら交換してくれよ、この俺の目とよぉぉぉ!!!!!」

 

 え? と三人が揃って言う。

 

「変わってやるよ!! せっかくだからなぁぁ!!!!」

 

「え? いいのか? い、いやぁ隣の芝生は青いって言うだろ? そ、そのお前らを羨ましがる連中は少なくないんだよ。そ、その一日変わってくれるなら、い、いいのか?」

 

「あぁ、問題ねぇよ。お前のパーティには俺とリュウトが入るから」

 

「俺もか、まあいいぜ」

 

 その提案に俺も乗ると、アクアが。

 

「あの、私達の意思は通らないの?」

 

「通らん!」

 

 そう言って、ズカズカとコイツのパーティに入っていく。

 

「よろしくな、今日一日」

 

「よろしく」

 

 俺達二人は、別のパーティメンバーに入っていくのだった。

 

 

 

 

―――――

 

 

「俺はテイラー。クラスはソードマン。このパーティのリーダーみたいなもんだ、今回は俺の命令に従ってもらうぞ?」

 

「あぁ、そっちの方が助かる。命令だすのって結構しんどいし」

 

「え? お前がリーダーやってたのか?」

 

「あぁ、カズマがリーダーだぜ?」

 

「そ、そうなのか……」

 

 そして次に女の子が自己紹介をする。

 

「私はリーン。見た通り、ウィザードよ、魔法は中級まで、まあよろしくね。ゴブリンぐらいだったら、楽勝よ、守ってあげるからね。駆け出し君」

 

 ほう、本物の魔法使いか。やっぱりあっちより、全然使えるんだろうな。だったら心強いってもんだ、結構楽できそうだな、このパーティは。

 

「俺はキース。アーチャーをやってる。狙撃が得意だ。よろしく頼むぜ」

 

 さてと、じゃあこちらも。

 

「俺はカズマ。クラスは冒険者だ。えっと得意な事とか言った方がいいか?」

 

 そう言うと、吹き出す三人。なんだ? クラスだけでこんな扱い受けるのか。

 

「俺はリュウト。ソードマスター。まあ駆け出しだからあんまり期待されても困る」

 

「俺よりクラスが上か、まあ、経験で言えば、俺達の方が上だからな、えっとカズマには荷物持ち、リュウトはいざって時に回ってくれ」

 

「まあ、クエスト報酬はちゃんと五等分してやるからさ!」

 

 そう言って、小バカにした感じで言っているキース。そんな事はどうでも良い。それよりカズマだけそんな楽なポジションとか、ふざけんな、それで金まで貰えるだと? ぶっ飛ばされてぇのか!!!

 

 まあいい。リーダーの命令だ。従わなければ。むこうからは何やら声が聞こえてくる。アクア達の声か?

 

「これだけ揃ってれば、どこでも楽勝だよ。だけど、今回は無難な所で頼む!」

 

 今回は、って……次も頼むのか? 全然問題ないが、むしろアイツらが持つかどうかが、気になるな、カズマほど、頭が回るのか? バカっぽく見えたが……。

 

「さてと、今回はゴブリン退治だ。今から出れば、深夜には帰れるだろうぜ、それじゃ新入り、早速行こうか」

 

 なんというか、嘗められてるなぁ……俺達。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 ゴブリン、知る人と知るメジャーモンスターだろう。何気に俺もワクワクしてる気持ちがある。だが、今回はいざって時に出ろと言われた。これは実質、お前の出番は無いと言われてるのと同じだろう。

 

 ゴブリン自体はそこまで強くなく、群れで移動し、武器を扱ったりするモンスターだ。普通は森に棲むらしいのだが、今回はなぜか、隣街に続く山道に棲みついたらしい。それの討伐だ。俺達は山への道すがらを楽しんでいた。

 

「しかし、どうしてあんな所に棲みついたんだろう まあおかげで、美味しい仕事ができた訳だけど」

 

 ゴブリン一匹に二万エリス。強さは知らないが、リーンが美味しい仕事と言ってるという事はそうなのだろう。ちなみに俺はカズマの荷物を分けて持っている。これも筋肉トレーニングだ。そこまでキツい仕事でもないし、いや、こんな事したら、もっとカズマが楽になるのでは? いや、まぁ……いいか。

 

 やがて、何も問題なく、目的地まで辿り着く。山だ。山と言っても、日本のように緑豊かというよりは、茶色い岩肌が占めていた。

 

 所々、茂みがある程度、まあ仕方ないな。しかし、だったらもっと不明だ。なんでこんな所にゴブリンが引っ越したのか。やっぱり何かあるのか……?

 

 そして、道の途中で止まり、いったん地図を広げる。

 

「ゴブリンが目撃されたのは、この山道を登り、ちょっと下った所だ。山道の脇にでもゴブリンが棲みそうな洞窟があるかもしれない。ここからはちょっと気を引き締めるぞ」

 

 おぉ、なんか冒険者っぽい。ぽいぞぉ!! 敵のど真ん中で、爆裂魔法撃ちたいとか、酒のみたいとか、そんな事言ってる、俺のパーティの方がおかしんだよなッ!

 

 そろそろか、全員が視線を合わせ、コクリと頷く。ぽいね。山道は完全な一本道。険しい岩肌の山。道は五、六人程が並んで歩けるぐらいの広さだ。道の片方には山のような岩肌、逆の方は崖だ。

 

 そして、徐々に進んでいくと、カズマが。

 

「敵感知に引っかかった。でも一体だけだ」

 

 一体だけ? おかしいな。群れで行動するんじゃないのか? 

 

「カズマ……敵感知スキルなんて持ってるのか? というか、一体だけ? それはゴブリンじゃないぞ? だがこんな所に一体で行動するモンスターなど……いないはずだが。茂みに隠れた所で、すぐに見つかるだろう。向かい打つか?」

 

 そこでカズマが。

 

「いや、茂みに隠れても、多分見つからない。潜伏スキル持っているからな。確か、このスキルはスキル使用者に触れていると、パーティメンバーにも効果があったはずだ。せっかく都合よく茂みがあるんだ。隠れよう」

 

 その言葉に三人は驚きながら、茂みに隠れる。そこはさすが、場数を踏んだパーティメンバー。こういうのを怠ったりしないようだ。

 

 そして、隠れながら、チラリとそちらを見やると、そこには真っ黒い体毛に覆われた。サーベルタイガーみたいなのが居た。なんだ? アイツ? 今までに見た事ないタイプの魔物だな? 強いのか?

 

「「「……っ!!」」」

 

 三人がより一層、カズマに力を入れた。

 

 そして、その真っ黒いサーベルタイガーは去っていく。

 

「ぷはー……ねぇ!! 今の初心者殺しだよ!! 初心者殺し!!!」

 

「し、心臓止まるかと思ったぜ……なるほど、ゴブリンは追いやられたという訳か、ヤツに……」

 

「ああ、しかし厄介だな。よりによって、帰り道の方に向かっていった。これじゃ街に逃げれない」

 

 カズマと俺は二人して。

 

「「えっと、そんなにヤバいのか? さっきのやつ」」

 

 その言葉に三人はどうして知らないの!? という顔で見てくる。なんだよ。しょうがないだろ。知らないんだから

 

「初心者殺し。あいつはゴブリンやコボルトなどの傍をウロウロして、初心者に美味しい獲物の近くに近寄り、初心者を狩るヤツだ」

 

「「何それこわい」」

 

 またしても、ハモった。そう言うと、カズマの荷物を持ちだす三人。

 

「もしも、初心者殺しにあったら、カズマは身軽な方がいいからね」

 

 リーンがそう言う。

 

「「べ、別に俺達はお前に頼りきってる訳じゃないからな」」

 

 ツンデレかッ!!

 

 初心者殺しが戻ってくる気配もないようで、着実に進んでいく俺達。そろそろゴブリン達が目撃された所だ。テイラーがカズマを見て言う。

 

「どうだ? 引っかかったか?」

「ありますとも……たくさん。この山道を下ったその先の角を曲がると、一杯いる。初心者殺しの気配は今はもう無いな」

 

 たくさんつってもどれぐらいだ? ビリビリ気配は感じるが、正確な数まではわからん。

 

「たくさんか、だったらゴブリンだな。ゴブリンは群れるし」

 

 気軽に言うキース。

 

「いや、ゴブリンと戦った事ないから、知らないけど、本当にこんなになのか……? ちょっと数え切れないぞ」

 

 若干不安を覚えているカズマ。

 

「カズマもこう言ってるんだし、ちょっと何匹居るか、こっそり様子を伺ってからでも…………」

 

 リーンが言い掛けた途中で。

 

「大丈夫、大丈夫! カズマにばかり活躍されちゃ、たまらねぇって!!」

 

 そう言って、飛び出すキース、テイラーも続いて飛び出す、すると二人同時に。

 

「「ちょっ!!? 多い!!」」

 

 叫ぶ二人に続いて、俺達三人も角を曲がる。

 

 そこには、三十はくだらない数のゴブリンの群れが居た。やっべ、ちょっと集まりすぎて気持ち悪い。さすがにこれはマズくないか?

 

「だから言ったじゃん!!! 私、カズマがこう言ってるんだしって!! 様子伺ってからでもって!!!」

 

「ゴブリンなんて、多くて十匹だろうが!! ちくしょう!! このまま逃げたって初心者殺し! ええい、やるぞ!!!!」

 

 ゴブリン達が山道に上ってくる。つまり俺達が上に居るという事だ。そんな事を考えていたら、矢が飛んでくる。結構な数だ。だが、意味は無い、単調な動きを避けれない程、俺は落ちぶれちゃいないが……。

 

「『ウインドブレスト』!!!」

 

 とっさにカズマが魔法を唱える。これでなんとか、リーンが魔法を唱えれる時間を稼げたはずだ。カズマの魔法で飛んできた矢を多少飛ばす事に成功している。そして――。

 

「『ウインドカーテン』ッ!!」

 

 カズマとテイラーの周りを緩やかな風が吹き出した。ほう、ちゃんとした支援魔法か。すっげぇな、こんなに使えるのか。

 

「つまり、こんな場所こそ! こういう手が効くのではないだろうか!!! 『クリエイトウォーター』」

 

 そう言って、広範囲に盛大に水を降らせた。なるほど、考えたな。

 

 リーンが叫びながら。

 

「カズマ一体何をして――ッ!!?」

 

「『フリーズ』!!!」

 

 氷結魔法。これでゴブリンの足元には氷が一面に覆われた。ゴブリン達は氷に足を滑らせ、盛大に転んでいる。

 

「でかしたカズマ!!! これなら余裕だぜ!!」

 

 キースがそんな事を叫びながら、カズマとキースとリーンとキースと俺で、ゴブリンを狩っていった。今までに無い位に凄く楽な運びをしていたので、俺も凄く驚いていた。カズマってもしかしたら、結構凄いのではないのかと。

 

 ゴブリンを討伐した、帰り道。

 

「くっく……なんだよ、あの魔法の使い方。聞いた事ねぇぜ? なんで初級属性魔法が一番活躍してるんだよ!!」

 

「本当だよー。私、魔法学院で、初級属性魔法なんて、覚える価値なしとまで言われたのよ? それなのに……ふふっ、何あれ!」

 

「やばいな……ハハハ!! こんなに楽に討伐できるなんてな!」

 

 口々に先程の戦闘の話題を盛り上げる。それにしても、カズマは大活躍だったのに、俺は全然活躍できなかったな、良くて、ゴブリンを退治した程度だぞ……。

 

「おい、戦闘が終わったんだから、荷物よこせ。最弱クラスの冒険者には荷物持ちが基本なんだろ?」

 

「ちょ、悪かった! いや本当に!! 謝るよ。カズマ!!」

 

「ごめんね、カズマ!! というか同じパーティのソードマスターより活躍するってどういう事よ! おかしいよ!」

 

「ちょっ!!!」

 

 俺がつい口を出してしまう。気にしてたのに……。

 

「あ、ごめんごめん」

 

 ったく、まあカズマも冗談を言ってたらしく、吹き出す。あぁ、いいな、こういうのが冒険者パーティなんだな……そんな風に本当にみんなが楽しんでいた。そう、楽しんでいたのだ。だからこそ、気付かなかった。あの存在に。

 

「ッ!! 何かが凄まじい速度で来てる!!」

 

 カズマが気付き、とっさにそちらに来てる影が見えた。『初心者殺し』。これはさすがに小手先のカズマでもどうする事もできない。

 

「おい、リュウト。お前の出番みたいだぜ?」

 

「おう、それじゃ、初スキルを出しますか」

 

 俺は片手でショートソードを持つ。それを見て、三人が騒ぐ。

 

「や、やめろ!! ソイツは狡猾なんだ!! 駆け出しが……いくら強くても、駆け出しが相手していいやつじゃない!!」

 

「大丈夫ですよ。カズマばかり派手に動いたんだから、俺も少しぐらいは見せ場を増やさないと」

 

 そうして、俺は剣を鞘に納める。そして……。

 

「『抜刀術』からの『瞬斬』」

 

 一瞬だった。目にも止まらぬ速度で抜刀し、そして斬る。これは完全にスキル任せだ。そしてその一撃を受けて、初心者殺しを真っ二つにした。さすがスキル。ここまでできるのか……。ちょっと怖いわ。

 

「う、嘘……ほ、ほんとに凄すぎるよ!! 二人して、ふふっ、ふふふっ!!」

 

「初心者殺しを……? や、やべぇぞ、コイツら!! ハッハッハ!!!」

 

「お、お、お前ら本当に何者だよ……ひゃっひゃっひゃ!!」

 

 そんなこんなで、俺達はギルドへと戻るのだった。

 

 そして、冒険者ギルドの扉を開いた時だった。

 

「うっ……ぐすっ! ふぐ……。ガズマぁ……リュウドぉぉ……」

 

 泣きじゃくっているアクアを見て、俺はそっと扉を閉じた。

 

「おい! その気持ちは心底良くわかるが! 頼むから閉めないでくれ!!!」

 

 ドアを開けて、半泣きで食ってかかってくる今朝にカズマと俺に絡んできた男。名前は……確かダストだっけ? そしてアクア達の新しいパーティリーダーだ。

 

 それにしても……酷いな。ダストは背中にめぐみんを背負い、アクアは白目剥いて気絶していたダクネスを背負ってる。しかも、アクアの頭には大きな歯型があり、よだれか何かは知らないが、なんとなく湿っぽい。

 

「えっと……何があったかよくわかったが、何があったかは聞きたくない」

 

「聞いてくれ、聞いてくれよ!!! 俺が悪かった!! 悪かったから聞いてくれ!! いや、街を出て、まず各自、どんなスキルを使えるか聞いたら、爆裂魔法が使えるとか言って、そいつはすげぇって言ったら、ソイツ勝手に爆裂魔法を何も無い草原に意味もなくぶっ放して、そこで現れたのは、初心者殺し! 肝心の魔法使いは倒れている。逃げようとしてもクルセイダーは勝手に突っ込んでいく!! 挙句のはてに……」

 

「よし、どうやら初心者殺しは報告してくれたらしいし、のんびり飯を食うか。新しいパーティ結成祝いだ!」

 

「「「おう!!」」」 

 

 三人が反応し、俺は。

 

「なんか、出会ったってだけで、討伐した事は報告してないらしいし、俺はそれを報告してくるよ」

 

「おう、頼んだ」

 

「俺の席もちゃんと残しておいてくれよ?」

 

「勿論だ!」

 

 

 その言葉にダストはもっと驚く。

 

 

「なんだよ!! それ!! た、頼む! 悪かったから、今回は俺が全面的に悪かったから!!! 謝るから許してくださいッ!!!!」

 

 

 

 

 




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屋敷騒動

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると、幸いです。


「ふわぁ……眠い……」

 

 俺はいつも通り、ギルドに居た。ちなみに昨日はなんか、興奮で眠れなかったから、結構長い時間まで起きてた所為か、超眠い。ふわぁ。ともう一度あくびをすると、隣に居たカズマもあくびをする。

 

「欠伸は移るというが、本当だったんだな」

 

「違う。俺も眠れなかっただけだ。ふわぁ……」

 

 口を片手で押さえながら、眠そうなそぶりをしていたら、キースが来る。

 

「なぁ、お前ら昨日のお礼に俺のスキルを教えてやるよ。有用なヤツをな」

 

 そう言って、カズマにスキルを教えてくれた。それは『狙撃』と『千里眼』。カズマはどちらも覚え、『千里眼』は結構使えるように見える。ふむ遠距離攻撃か……俺のスキルにも無いかな、それ……。

 

 ギルドカードで探ってみると――。

 

「『風斬り』。風を巻き起こして攻撃。筋力に依存する……これ、すっげぇいいじゃん」

 

 俺はそのスキルを手に入れた。

 

 そんなこんなで、キースとの会話が終わり、俺達は三人の所に向かう。

 

 もちろん、キース、リーン、テイラーが居た三人の方――――ではなく、アクア、めぐみん、ダクネスの三人だ。

 

「……? どうしたんだ? 三人とも」

 

 俺がそう言うと。

 

「別にー? 二人が他のパーティに言っちゃうんじゃないかって心配してる訳じゃないしー?」

 

「むう……随分と親しそうですね、二人とも……親しそうですね、二人とも……!」

 

「こ、これが……寝取られというヤツか!! 新感覚だ」

 

 な、何を言ってるんだ? コイツら、とうとうここまで来てしまったのか。壊れ具合が!!

 

「何、お前ら昨日のレンタル、まだ気にしてるのか? あれは別にな……」

 

 頭を掻きながら、そんな事を言うカズマ。そしてカズマが。

 

「まあそれより、今は生活の方が重要だ。特にする事もない! クエストが無いからな!! だから、暇なので、俺はとある提案をする」

 

 なんだ? そのとある提案って? 俺はそんな事を考えながら、カズマに付いていく。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

「……なあ、提案ってこれなのか?」

 

 そこには屋敷がある。ちなみにこの屋敷には幽霊が蔓延っているらしく、それをうちのアークプリーストで祓えば、そこに住んでもいいらしい。格安で。それはとても有難い条件だ。

 

 ちなみにその屋敷はかなり大きい。これはとある貴族の別荘だったって話しだ。だが、悪霊が住み付いて、すぐに手放したらしい。

 

「さてと、やってやるわ!!!」

 

 そんな感じで結構やる気を出しているアクア。ちなみにその間に俺達は部屋の割り振りをする。カズマが最も良い部屋を、他はまあそこそこって感じだな。

 

「……まさか屋敷に住めるようになるとは思わなかったぜ。正直、冒険者稼業ってのは、その場しのぎが普通だったからな、これでやっとお前らも寒さが凌げるな。そろそろ寒くなりそうだったし」

 

「あぁ、まったくだぜ。さ、ここで今日はゆっくりしようぜ」

 

「それが正解だぜ。俺もゆっくりしてぇし」

 

 そんなこんなで、俺達は中へと入ってく、カズマはジャージ姿だ。俺はTシャツとジーンズのみだ。ふぅ、やっぱりこういう拠点って最高だな……。

 

 そんな感じで時間は過ぎていき、もうみんなが寝る時間になった。そうして、ベッドで俺が横たわり、眠る。それからしばらく経ち、ふと、目が覚める。俺は視線を感じて、ベッドから動こうと――すると、ガヂッと体がまるで動かない。どうやら金縛りにあったようだ。

 

(……ぎゃああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!)

 

 俺の心の中はこれまでに無いぐらいに、発狂していた。だって、仕方ない。だってしょうがない。だって、こんな怖い目に遭ってるんだから!!!

 

 助けてくれぇぇぇぇ!!! こんな時こそ!! アクア様だろうがァァァ!!!

 

 女神様、アクア様助けてください!! 俺を!!! 迷える俺をぉぉぉぉ!!!

 

 ダメだ、声が出ないよォォ!!! 金縛りだよぉ!! 必死に俺は体を動かそうとしたら、なんとかなったようだ。

 

「やった!!」

 

 と勢い良く起き上がり、ふと隣に視線を感じたので、隣を見る、すると……。人形があった。

 

「ありきたりって言葉がお似合いですね……」

 

 そんな一言を発した瞬間。俺の体は今までにない程のスピードを発揮していた。おそらく、こういうのをリミッターを外した――とそういうのだろう。俺の体はまるで羽のように軽やかで、素早く、アクアの部屋へと到達していた。

 

「アクア!! 出た……ぞ……?」

 

 そこには何か、喧嘩している二人組の影が見えた。それはカズマとめぐみん。

 

「な、何してんだ?」

 

 俺が呆れながら言うと、二人して俺にしがみついて来る。

 

「さぁ!! さっそくトイレに行きましょう!!!」

 

「そうだ!! 今こそ、チートスキルが発揮する時だろうが!!」

 

「……お前ら」

 

 俺は半ば呆れながら、仕方なく、コイツらのトイレに付いていかなくてはならなくなった。はぁ……トイレぐらい一人で行けろよ……な、ブルッ! と俺もなんだかトイレに行きたくなった気がした。そんなこんなで三人で移動する事になった。

 

 

 

―――――

 

 

 

「さてと、ゆっくり行こうぜ? どうせ、二人ともトイレに行きたいんだ。途中で人形にあっても、さすがにスキルが効くか、わからねぇしな。つか、効かなかったら、それこそ積みだ」

 

「あ、あんまり怖がらせるなよ!!」

 

「そ、そうですよ!! 頼りにしてますからね!! リュウト!!」

 

「……ったく」

 

 なんだろう。取り乱してる人が近くに居ると、冷静になる。あれってやっぱり本当なんだな。なんというか、確かに落ち着くわ。さっきまでの怖さが嘘みたいに飛んでる。

 

 いや、また人形が来てたら怖いけど、それ以上にコイツらが取り乱しそうだから、なんとか耐えれるな……。さてと、ちょっとはコイツらを安心させる為に頑張りますか。

 

 そんなこんなで先に進んでいく。モジモジしているめぐみん。

 

「どうした? そろそろヤバイか? 漏れそうか?」

 

「な、何聞いてるんですか!!」

 

「え? いや普通に心配してるだけなんだけど……」

 

「デ、デリカシーが無さ過ぎます……」

 

「え? ……そなの?」

 

「さすがに俺もどうかと思うぞ」

 

「お前には言われたくないわ!!」

 

 そんなこんなで、会話で気を紛らわせつつ、やっとの事トイレに辿り着く。そして、めぐみんが一番初めに入る。

 

「あ、あの、ちょっと聞かれると恥ずかしいので、歌でも歌ってくれませんかね?」

 

「何が悲しくて、歌なんて歌わなきゃならねぇんだ!!!」

 

「それはカズマの言う通りだな」

 

 そんなこんなで扉の前で待っている俺達。

 

「あの、居ますよね! どこかに行ってませんよね!!?」

 

「大丈夫だから。心配すんな」

 

「あぁ、二人とも居るから――ッ!!?」

 

 突然、顔を真っ青にしたカズマ。俺は後ろを振り向くと、大量の人形がこちらに迫っていた。俺は夢中で。

 

「フルキャンセル! フルキャンセル! フルキャンセル! フルキャンセルゥゥゥ!!!!!」

 

 俺は延々とフルキャンセルと言い続けていた。ちなみに一体につき、これでどうにか、消し去っている。そろそろ尽きかける、力と共に、ただただ叫んでいた。フルキャンセルと。

 

 それから、しばらく経ち、俺の方が底を尽きた。あとは夢中だった。めぐみんとカズマはトイレを済ましたようで、俺達は必死に逃げて、隠れた。そこでしばらく待っていると、めぐみんが。

 

「黒より黒く……」

 

 詠唱を始めた。

 

「やめろッ!!!!」

 

 俺が叫びながら、口を押さえる。それから、しばらく経ち、カズマが限界になったのか、立ち向う気になったのか、扉を勢い良く開け放った。

 

 その瞬間。ドスッ! と扉で何かをぶつけた音が聞こえた。そして、扉をゆっくりと開けてみると、額に大きなタンコブができたアクアがそこで気絶していた。

 

「お、おいアクア! 大丈夫か!?」

 

 ふむ、どうやら悪霊事件はこれで幕を閉じたようだ。

 

 

 

 




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ベルディア戦

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると、幸いです。


『緊急! 緊急!! 冒険者の皆様は至急! ただちに武装し、正門まで来てください!!!』

 

 あぁ、またか? 最近呼び出し多いな……ま、今回は行かなくても良くないか? なんて事を心の中で呟き、まったくやる気を示さなかった俺だが、次の言葉で行かざる得なくなる。

 

『特に冒険者サトウカズマさんご一行は大至急、来てください!!』

「カズマァ、何をしでかしたぁぁ!!!」

「俺は何もしてねぇよ!?」

「まぁ、良い……とりあえず、行くかぁ」

 

 俺はとりあえず、急ぐ。大至急と言われてるのだ。行かざる得ないだろう。ったく、面倒臭い。一体、何があるってんだ。もし、これで超どうでも良い事だったら、カズマを宙吊りにする他無い。

 

 俺は小走りで向かいつつ、ハァ、とため息を吐いていた。

 

 そうして、俺よりも先にみんながもう既に集まっていた。俺は門で人並みを掻き分けながら、先に進んでいくと、声が聞こえてきた。

 

「……なんだ、アイツ……なんでまた来たんだ? まさかァ?」

 

 と俺はギロリとめぐみんの方を向く。めぐみんは俺の視線に気付いていないのか、ずっとデュラハンの方に集中している。

 

「どうして、城に来ないのだァァァァ!!!!! この人でなし共がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

(……どういう事だ?)

 

 俺が本当に意味がわからないという感じだ。ちなみに俺は門の一番最前列に居る。

 

「おい、どうしたんだよ? 爆裂魔法も撃ち込んでないのに、一体何が気に入らないって言うんだ? というか人でなしってなんだ?」

 

「キサマはァァァ!!! 白々しいぞォォ!!! そこの紅魔の娘はまだ私の城に爆裂魔法を撃ってきているぞォォォ!!!!!」

 

 なんだと!!? 待てよ? アイツ一人じゃ、爆裂魔法を撃てにはいけない、という事は共犯が居るはずだ。俺がギロリとアクアの方に目線をやる。この状況でカズマ以外だとしたら、コイツしか考えられない。カズマもアクアを見て、それにアクアが気付き。

 

「だ、だってしょうがないじゃない!! アイツの所為でロクなクエストが受けられないから! そりゃ、こういう事もしたくなるわよ!!」

 

 もうコイツには何を言っても無駄なんじゃないのかと、思う時があるのだ。なんというか、もう諦めよう。

 

「そんな事よりも!! キサマら!! なぜ城に来ないのだ!!! あの仲間を庇った男を助けようと思うやつは一人も居ないのかァ!!! 俺が言うのもなんだが、不当な理由で処刑され、モンスター化する前は、これでも真っ当な騎士のつもりだった。その俺から言わせれば、貴様を庇って、代わりにのろいを受けた仲間を見捨てるというのは、信じられんのだが……!!」

 

 デュラハンの言葉に、めぐみんとカズマが顔を合わせる。そして、その後、俺が前に出てくる。どうやら俺の姿は隠れてて、見えて無かったようだ。

 

「いやぁ、もしかして、俺の為に怒ってくれてる? そりゃ、どうも」

 

 と俺は頭を描きながら、近づいていく。それを見て、デュラハンは。

 

「あれ――――――――ッッッ!!!!?」

「あはははは!!! もしかして、何!? あのデュラハン、私達が呪いを解く為に城に来るはずだって思って、ずっと城で私達を待ち続けていたの!!? 超うけるんですけどー!! プークスクス!!!」

 

 相も変わらず、アクアは煽りスキルは高い……。プルプルと肩を震わせるデュラハンはきっと激怒しているだろう。俺は軽く、アクアを止めに入る。

 

「おい、やめろよ、アイツはアレでも俺を心配してくれた人だぞ」

「まぁ、やった張本人なんだが……」

「そう言われりゃそうか……! だったら、アクア、もっと煽ってやれ、あの顔なしを」

 

 そんな会話をしていたら、デュラハンが。

 

「おい、貴様。俺だって、駆け出しの雑魚共相手とはいえ、頭に来たなら、見逃してやる理由もないんだぞ? その気になれば、この街の冒険者を一人残らず、切り捨てて、街の住人を皆殺しにする事だって、できるのだ。疲れを知らぬこの俺の不死の体。お前達、ひよっ子どもには傷も付けられぬと知れ!!」

 

 ふむ、挑発にここまで乗ると、逆に清々しいな。

 

 だが、デュラハンが何かするよりも先に、アクアが右手を突き出して、叫んでいた。

 

「見逃してあげる理由が無いのは、こっちよ! 今回は逃がさないわ。アンデットのクセに、こんなに注目を集めて生意気よ! 消えてなくなりなさい!! 『ターンアンデット』!!!」

 

 白い光が放たれる。だが、デュラハンはそれを避けようとせず、悠々としている。

 

「こないだの街にアークプリーストが居ると知って、こちらが何も対策を取らないとでも思っていたのか? 残念だったな――ぎゃぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!?」

 

 魔法を受けたデュラハンの足元に白い光の魔法陣が現れている。それを受けて、デュラハンは普通にダメージを受けていた。なんというか、滅茶苦茶ダメージを受けている。ふらつきながらも、デュラハンは負けじと巨大な剣を引き抜く。

 

「お、おかしいわ!! 私の魔法が効いてない!?」

「いや、効いてるだろ。間違いなく」

「あぁ、絶対に効いてる。だってぎゃーとか言ってたし」

「ぐ……まあ良いわざわざ、俺が相手をする事もない!! アンデットナイト! この連中に地獄を見せてやるが良い!!」

 

 うげぇ、雑魚モンスターか……。

 

「あぁ!! アイツ、アクアの魔法が効いて、案外ビビってるんだぜ!」

 

 それにアクアも不安そうな顔をしつつも頷いている。まあ、そうかもな。

 

「ち、違う!! いきなりボスが戦うなど――」

 

 その言葉は最後まで言えずに。

 

「『セイクリッド・ターンアンデット』!!!」

 

 真っ白な聖なる光がデュラハンを襲う。

 

「ぐぎゃああああああああああああああああああああッッッ!!!!!」

 

 アクアがビビりながら。

 

「ど、どうしましょう!! 全然効いてないわ!!?」

「いやぁ、ぐぎゃぁああ、とか言ってるし。効いてるぞ」

 

 デュラハンがしびれを切らしたのか。

 

「も、もういい!!! この街の住人を皆殺しにしてやるッ!!! 俺は魔王軍幹部のベルディアだ!! 覚悟しろ!!」

 

 さてと、そろそろ本気で戦う時が来たようだな……。あと名乗らなきゃならなかったのか、今の……?

 

 

 

―――――

 

 

 

 ベルディアがやる気を出したようだなのだが、アンデットナイトが一番最初に全員で狙ったのが、アクアだった。

 

「ぎゃ――ッ!! どうして!!? どうして!? 私は女神なのに! 普段の行いも良いはずなのに!!」

 

 それはない。

 

「ど、どうしてアクアばかり!! 私だって本当に普段の行いは良いはずなのに」

 

 だからだろ。それにしても、アクアに本能的にアンデットナイトは救いを求めてるのか? え……ちょっと待てよ、おい!!? どうしてこっちに来てやがるゥゥゥゥ!!! 俺は必死に逃げ出す。さすがにあの量を一度に倒すのは、無理だ!! 俺は攻撃力が高いただのソードマスターだぞ!! 一対一ならともかく、あの連中には、チッ、とりあえず!!

 

「『風斬り』!!」

 

 バッ! と風が巻き起こり、少ないが、アンデットを切り裂いた。だが、圧倒的に相手が多すぎて、まったく意味を成さない。カズマも逃げながら、何かを考えてるようで、突然叫びだす。

 

「めぐみん!! 魔法を唱えて、準備してろ!!」

「わ、わかりました!」

 

 とめぐみんは撃ちやすいよう、高台へと行く。そしてアクアを引き連れ、カズマはベルディアに一直線に突き進む。それに当然ついてくるアンデットナイト。そして、アクアと連れて、ベルディアの前に来た瞬間、横へと一気に移動する。そしてその瞬間、だ。

 

「な、なんという、絶好のチャンス。カズマ! 感謝しますよ。深く、感謝します!!」

 

 そして、めぐみんは詠唱を唱え、叫んだ。

 

「『エクスプロージョン』ッッ!!!」

 

 ベルディアの周り一帯が吹っ飛んだ。さすが、俺達のパーティの火力。やっぱりこういう場面だったら、凄く使えるな。いや、カズマが居てこそなんだがな……。さてと、これで終了か? 最高だな。カズマもめぐみんを背負いながら、歩いていく。

 

 だが――。

 

 ズボッ! とベルディアが地面から飛び出す。ありゃりゃ、やっぱり死んでなかったか……さすが魔王幹部って所か、さてと一体だけなら、俺は負けないぞ? と俺が前に出ようとしたら、先に冒険者達が飛び出る。やはり、ヤツは魔王軍幹部、アイツを倒せば、かなりの額が貰える。それを狙ってか、一気に飛び出て。

 

「一斉に出れば、死角ができる!!!」

 

 と何人かで、一気に飛び出したが、突然、ベルディアは頭を上に投げる。つまり、死角を無くした……。

 

「まずい!! おい!! やめろッ!!!」

 

 俺が叫んだが、もう既に遅く。ベルディアは飛び出てきた連中すべてを殺した――。

 

「なっ……」

 

 う、嘘だろ。死んだのか……あんなに、あっさり……? 俺はそれで、動けなくなっていた。だが、先に動いた人物が居た。ダクネス。俺達のパーティのクルセイダーだ。

 

「うおおおおおッッ!!!」

「むっ!?」

 

 ダクネスとベルディアが剣を合わせる。

 

「む……」

 

 ベルディアが興味深そうにダクネスを見る。というか、耐えた……!? 俺は驚いていた。そしてダクネスが先手を打つ。先に二撃。剣を振るう。

 

 その姿はまさしくクルセイダー。素晴らしい姿だ……。俺がそう褒め称えていた。だが……。斬れたのは、岩のみだった。

 

「……おいおい」

 

 俺はかなり呆れていた。ダメだ。あのクルセイダー。そんな事を思っていたら、ダクネスが凄まじい力で振るわれた剣でぶっ飛ばされる。俺の方へと飛ばされた。

 

「ぐえ!!?」

「あ、す、すまない!!」

「な、何……気にするな。だが早く退け……」

 

 俺はダクネスが退くと、肩を回して、軽く準備運動。そして腰に携えていた剣を掴み。スキルを発動させる。

 

「『瞬斬』」

 

 素早い速度の一斬がベルディアに喰らわせる。場所は腕、そこを切り裂いた。ベルディアは片手に頭を持って戦う。

 

 つまり、ここに攻撃をすれば――と簡単な事を考えていたのだが。

 

「その剣で俺を傷つけられるとでも?」

 

 ガギンッ! と鎧で遮られた。

 

「はっ……!!?」

「ハッ、意味など無い。さぁ、どうする?」

「ぐっ……」

 

 俺は剣を押し込めようとしても、一向に斬れもしないし、何も意味が無い。

 

「リュウトォ!!! お前の切り札があるじゃねぇか!!!」

「あ、そうだ!!」

 

 俺は思い出したように言い、叫ぶ。

 

「『フルキャンセル』ッ!!!」

「……?」

 

 何も起こらない。見た目にはわからないだけだ、俺は剣で再び、切り裂こうと振り下ろす。

 

「な、貴様!!? まさか何か――!?」

 

 もう遅いんだよ!! 俺は勢い良く、振り下ろし! ガギンッ!! という音と共に、鎧によって防がれた……あれっ!? 俺は困惑しながらも、今日一日を思い出していた。

 

「……しまった。街でフルキャンセルで遊びすぎた……」

 

 よく考えたら、街でキャンセルしたり、何かして、遊んでたな……俺。こんな事になると思って無かったから……。あ、どうしよう。これ、つんだわ。

 

「……ッ!!? バ、バッカやろうォォォォおおおおおおお!!!! お前が頼みの綱だったんだぞォォォォ!!? ちっくしょー!!」 

 

 半ばやけくそ気味に魔法を放ったカズマ。

 

「『クリエイトウォーター』!!」

「ぐおッ!?」

 

 なんだ? 随分と大げさに飛びのいたな……? まさか……!!

 

「カズマぁぁぁああああああああ!!! もっとだぁぁぁあああああああああ!!!」

 

 俺が全力で叫び、一斉に。

 

「「「「『クリエイトウォーター』!!」」」」

 

 大勢の冒険者がクリエイトウォーターを放つ。それを避け続けるベルディア。よしっ! 何度も何度もクリエイトウォーターを放つ冒険者達。

 

 それと同時に俺も剣を構えながら、なんとか、相手の足を止めようとする。正直、この剣で鎧を斬れないのなら、俺に攻撃を与える術は存在しない。だから。

 

「せめてもの足止めだぁぁぁああああああ!!!」

「私もやるぞ! リュウト!!」

 

 俺とダクネスが渾身の攻撃を、ベルディアはそれを剣で弾きながら、クリエイトウォーターも避ける。クソ!! ただでさえ、強いってのに!!! なんだ、この野郎は!! 

 

「ねぇ、どうしてカズマ達は水遊びしてるの? バカなの?」

 

 そんなアホみたいな事を言ってるヤツが居た、アクアだ。もう、やっ!

 何なの、どうしてあんなにアホなの、あの子ッ! そう思ったのは俺だけでなく、カズマもだ。

 

「あーもう、このなんちゃって女神がぁ!! アイツは水が弱点なんだよ!!

 

 お前も水の女神なら、水ぐらい出せよ!」

 

「あー!!! カズマがなんちゃって女神とか言ったぁ!! 私は水の女神よ!! 洪水クラスの水だって出せるわよ!!」

 

 俺はその言葉にすかさず反応した。

 

「そうなのか!? だったら早くしてくれッ!!」

「謝って! カズマ、謝って! 私をなんちゃって女神とか言った事!」

「いいから早くしろ!! このクソ女神がァァァ!!!! たまには役に立ちやがれェェ!!!」

「私はいつだって役に立ってるわよ!! 見てなさい!!」

「な、マズイ!!」 

 

 とっさに逃げようとするベルディアを俺は掴みながら、逃がさない。

 

「ぐっ!! 放せェ!!」

「な、なめんじゃねぇぞ。お前程度、取り押さえるのなんて、訳ねぇんだからな……」

「わ、私もだぁぁぁ!!!」

 

 二人掛かりで押さえ込む、さすがにソードマスターとクルセイダーの二人に取り押さえられたら、ベルディアも簡単には逃げられないだろう。

 

「ぐっ!! この野郎ォ……なかなか力あるじゃねぇかァ!!」

 

 俺が叫びながらも、なんとか耐える。そしてついにアクアが魔法を放つ。

 

「『セイクリッド・クリエイトウォーター』ッ!」

 

 凄まじく、膨大な量の水がベルディアの頭上から降り注ぐ。まるで巨大なバケツをそのままひっくり返したみたいに。その威力も凄まじく、かなり体が痛い。こ、これは超……やばい。あまりの威力に正門すらぶち壊す。

 

「バカやろう!! もうやめろぉ!!」

 

 カズマの言葉も虚しく、それはしばらく続いた。

 

 その後、膨大な水でやられたかと思いきや、再び立ち上がるベルディア。その姿はまさしく、騎士。どんな逆境からでも必ず勝ってみせるというやる気が見られた。だが、正直、お前は敵側、そんな主人公みたいな事はして欲しくない。

 

「まだ、やるってのか……」

 

 俺も先程の水の所為で体力も残り僅かだ。もう戦うのは厳しい。

 

「き、キサマはバカなのか!! 大バカなのかッ!!!」

 

 そんな事を言うベルディア。確かに、言えてる。だがベルディアはまだまだ戦うつもりのらしい、これ以上は勘弁願いたい……どうする? あ、そうだ……カズマのアレを喰らわしてやろう。もう大分弱っているんだ。さすがにレベルに差があっても大丈夫だろう。さぁ、佐藤和真!! お前の『運』を見させてやれ!!

 

「カズマァァ!!! いまだ!! アイツに『スティール』を喰らわせてやれェ!!」

「ッ!! そうか! 武器を奪ってやるぜ、デュラハン!!!」

「フッ、駆け出し冒険者如きが、私にスティールを喰らわせられると思うな!!」

「『スティール』ッ!!!」

 

 カズマのスティールが炸裂する。そして、カズマの腕の中を見てみると……そこには綺麗にベルディアの頭がすっぽりと入っていた。

 

「え、あの……その……」

 

 さすがのベルディアもたじろいでいる。そこでカズマはあくどい笑みを浮かべた。

 

「おーい! みんなぁ!! サッカーやろうぜぇ!! サッカーって言うのはな! 手を使わずに、足だけでボールを蹴るスポーツだぁ!」

 

 そう言って、ベルディアの頭をボール代わりにして、蹴りだす。それに他の冒険者達もノリ、ベルディアの頭は無情にも、遊び道具と成り下がってしまったのだ。

 

「おーい、カズマ。俺にもパスくれ」

「おう! それ、パスッ!」

「っと、サッカーは結構、得意だったからな……それ、それっ! と」

 

 リフティングをして、何度か上げたあと。

 

「もう良いだろう、そろそろ楽にしてやれ」

 

 とダクネスが。

 

「そうだな。おい! アクア!」

「任されたわ!」

 

 どうやらアクアが魔法で倒すみたいだな。さてと、この頭もそっちにやるか。そうして俺はベルディアボールをベルディアの体の方へと蹴り上げて、アクアが魔法を唱えた。

 

 

「『セイクリッド・ターンアンデット』ッ!!」

 

 

 そうして、ベルディアが浄化され、ベルディア討伐は幕を閉じた。

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。



感想、批判。大歓迎です。


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冬将軍到来

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると幸いです。


 俺達は報酬を貰った、ベルディア討伐のMVPとして、三億エリスも貰ったのだ! これで、俺達は金持ちになった!! なんて思ってた時期が俺にもありました。

 えぇ、結果としては、三億エリスは貰いました。ですが、正門の修繕費として、三億と四千万エリスを支払って欲しいとの事で、実質俺達は四千万エリスを借金する事になりました。

 

 ふざけんじゃねェェェェェ!! マジでなんだそれ!? どう考えたってこの街の危機だったろうが!! 全員死ぬかもしれない、あの状況でなんとかして、頑張った俺達にどうして、借金なんてものを背負わされにゃあかんのだァ!! 

 なんだよ、この街! マジふざけんじゃねぇ!! あーっ! フルキャンセルでなかった事にしてぇ!!! くそ! なんでも消せるこのスキルでも、借金は消せないのかよォォォ!!

 

 

 しかし、どんなにキレたとしても、仕方ない。ちなみに今は冬、寒いのだ。屋敷があるから、まだ寒さは凌げるが、暖房がつけられないので、正直、ギルドに居る方がまだ暖かい。

 

「この駄女神がぁぁぁ!!!」

 

 ここにも約一名。ブチ切れてるヤツは居るが……というか、結構引きずるよな……こればかりは……。

 

「何よ! 私が居なかったら! この街は滅んでたかもしれないのよ!!? 私が居なかったら! だからもっと褒めてよ! 讃えてよ!!」

 

 そんな感じで反抗していたアクアだったが、そこでカズマがこう返した。

 

「そうか、だったら、報酬も名誉も借金も全部お前の物な、借金、頑張って返せよ」

 

 そう言って、立ち去ろうとするカズマに必死に縋り付くアクア。

 

「ごめんなさーい!! 調子乗ったの謝るから、見捨てないでぇ!!」

 

 なんだろう……涙が……。そんな事をしていたら、残りの二人もやってきて、カズマが宣言する。

 

「もう報酬が良いヤツだったら、なんでも良い! やるぞ!!!」

 

 カズマがやる気を出している。さすがにこんな状況だしな。そんな訳で、俺達はギルドの張り紙を見てくる。季節はもう冬に差し掛かっている。つまり、寒いのだ。そしてこんな時期、クエストもロクなモノが無く。

 

「えっと、白狼の群れ討伐、一撃熊討伐……グリフォンとマンティコアの討伐。おいおい、正直、全部無理だぞ……」

 

 他には……。

 

「あぁ? 機動要塞デストロイヤーの偵察? なんだ機動要塞デストロイヤーって?」

「なんか、凄い強そうだな?」

 

 めぐみんが驚きながら。

 

「知らないんですか? 機動要塞デストロイヤーを」

「「知らん」」

 

 二人で同時に答えると。

 

「機動要塞デストロイヤーというのはわしゃわしゃ高速移動する機動要塞で、すべてを蹂躙する子どもに妙な人気があるやつです」

「ほう、よくわからねぇが」

 

 そんな真似でもしてるのか、めぐみんがわしゃわしゃと、やりながら言う。子どもねぇ……。

 

「おい、なんだその目は言いたい事があるなら、はっきりと聞こうじゃないか」

 

「ま、いいや。お、よさそうなの発見したぞ!」

 

 俺はその張り紙をみんなに伝える。雪精の討伐だそうだ。

 

「一匹十万エリス!! これだ! これしかない!!」

 

 そんな訳で、俺達は雪精討伐にしに行く。ちなみに一匹狩るごとに春になるのが、半日早くなるだとか。

 なんか、本当に意味わからん世界だな。そういえば、めぐみんが爆裂魔法を撃つ程の相手でもないのに、文句つけなかったり、今、ダクネスが興奮してたりと、何かありそうで、怖いんだよなぁ……まあ、でも大丈夫だろう。俺の勘なんて信じない。

 

「……ほう……このそこら中に飛び交ってるのが、雪精か?」

 

 俺は雪精を見ながら、呟くと、アクアが。

 

「そうよ、この辺り一帯に居るのが、雪精。さ、ちゃちゃっと討伐しちゃいましょう」

 

 とアクアはなぜか、虫取り網を所持していた。まさか、討伐じゃなくて、捕らえる気か? 意味わかんねぇな。

 

「なんじゃ、そりゃ……」

 

 俺がつい呟いてしまった。

 そんなこんなで、討伐開始だ。ちなみにアクアはなぜか、雪精を捕らえていた。俺はそれを流し目で見ながら、雪精をぶっ殺して回っていた。見た目はシンプルだ。

 真っ白い団子みたいな感じでそれに目をつけたやつ。そして、俺はそいつらを『閃光斬り』でスパッスパッと華麗に討伐していた。

 

 ちなみにベルディア戦から、俺の弱点として、剣の脆さがあるので、俺は金が溜まったら、オーダーメイドで何か剣を作って貰おうと思っている。ちなみに今は借金があるので、作れない。まったく最悪だな、おい。

 

「……ふぅ」

 

 いい汗掻いた。寒いけど汗は掻くからな……まずい寒気が。

 

「おい、めぐみん。爆裂魔法で辺り一面、ぶっ飛ばしちまえよ」

「お、それは良いアイデアですね! いきますよ! 『エクスプロージョン』ッッ!!!」

 

 爆音が轟く、爆焔がすべてを包み込み、雪精を一気に討伐した。バタリといつものように倒れこむめぐみん、本当にこれさえなければ最高なのになぁー。

 

「……カズマ、おぶってやれよ。慣れてるだろ」

「さすがに今は、あとでおぶってやるから、ちょっと待ってろ。それにしても、これでめぐみんは合計何匹討伐したんだ?」

「9匹です。レベルも一つ上がりましたよ」

「おぉ、それにしても、雪精討伐、美味しすぎるだろっ!」

「そーだな」

 

 俺も合計十匹近く倒している。こりゃ、良い選択をしたかもしれねぇな。

 

「出たな!」

 

 ダクネスが叫ぶ。俺はダクネスが向いた方を見ると、そこには、真っ白い鎧を身にまとった。将軍みたいなヤツが居た。

 え? 何あれ? 何なの、あれ? めぐみんも死んだフリしてるし、ダクネスはワクワクしてるし! なんじゃこりゃぁぁ!! くっそ、嫌な予感ってのばかり、当てはまるもんだよなぁ……。

 

「カズマ、リュウト。なんで冒険者達が雪精討伐を受けないのか、その理由を教えてあげるわ。あなた達も日本に居たんだし、天気予報とかニュースとかで聞いた事はあるでしょ? 雪精達の主にして、冬の風物詩とも言われる。冬将軍の到来よ」

「えぇ!!?」

「なんじゃ、そりゃァ!!」

 

 俺達二人で反応したら、ダクネスが。

 

「冬将軍。国から高額賞金を掛けられている。特別指定モンスター!!」

「えぇ!!?」

「マジかよぉ……」

 

 なんつーか……絶対に勝てない相手じゃねぇか。なんだよ、あの強そうな見た目。俺は正直相手にしたくないぞ!!

 

「あ、あの冬将軍は自分の地位を利用して、おそらく私を手篭めにしようとするだろう、私も必死に抵抗するが、おそらく力及ばず、辱められ、はぁはぁはぁ……」

「くっそ、この世界はみんな揃って大バカなのかよォォォおおおお!!!」

 

 

 

―――――

 

 

 

 冬将軍はこちらに向かってくる。その速度は俺を遥か早く、迫ってきた。俺はとっさに逃げようとしたが、ダクネスが向かっていく。

 ダクネスは興奮していた。なんというか、アホなの! もう超アホッ! 俺はそんな事を思いながら、ダクネスを止めようと、逃げずに向かっていく。

 

「バッカやろうがァァァ!!!」

 

 俺は叫びながら、向かう。だが、その前に冬将軍がダクネスに斬りかかる。間に合わないッ! だが、ダクネスが斬られたのは、剣のみだった。ちなみにその剣は綺麗にスパッと斬られている。

 

「……なんじゃ、そりゃぁぁぁ!!」

 

 軽く発狂しちゃいそうなるとアクアが説明をくれる。

 

「精霊は出会って人が無意識に思い描く、思念を受けてその姿に実体化するの! ちなみにこんな時期に出歩くのはチート持ちの日本人ぐらいだから」

「つまるところ! アイツは冬なら冬将軍とか言うバカみたいな想像でできた産物ってのかァ!!!?」

「言ってみれば、そうね!」

 

 このバカチート持ちがぁ……!! なんでそんなアホの為に俺達がこんな目に遭わにゃならんのじゃァァああ!!

 

「二人とも、冬将軍は寛大よ! 誠意を見せてくれたら、きっと見逃してくれるわ!」

 

 と雪精達を放して、アクアは今まで見た事がないぐらいの綺麗な土下座をした。

 

「ほら! みんなも謝って! 土下座をすれば、許してくれるわ! 早く! 武器を捨てて謝って!!」

 

 と言っている。なんというか、プライドとか、女神とかそこら辺はもう良いのだろう……め、がみ……? めがみってなんだっけ? なんか尊いものだと思ってたのに、多分、違うんだろうな。

 

 俺はそんな事を思い、土下座の体勢に入ろうとしたら、ダクネスがなぜか、折れた剣を構えていた。

 

「何してんだァァ!! あのクルセイダーはァァァァああああああ!!」

 

 俺はつい叫んでしまった。

 

「私は、クルセイダーだ。たとえ誰にも見られていなくとも、モンスターに頭を下げるなど」

 

 カズマが飛び上がって、ダクネスの頭を押さえつけた。ダクネスの顔は雪に埋もれ、ダクネスは叫ぶ。

 

「や、やめろぉ!! 下げたくもない頭を無理やり下げさせられ、地に顔をつけられる……はぁ、はぁ、どんなご褒美だ!」

 

 俺はもう、ダメなんだ、ってそう思った。

 

「雪がちべたい……」

 

 もういいや、あの変態クルセイダーは死んでも治らないんだろうな……。そう俺は呆れていた。アクアも早くカズマに武器を捨てろと言っている。俺も既に武器は置いている。早くしろ! カズマッ! 

 

 そんな事を思っていたら、スパッ! とカズマの首が綺麗に飛ばされた。

 

「……ッ!」

 

 俺はとっさに動いていた。武器を持ち、アクアの制止すら聞かずに、夢中に飛び出していた。こんな風になるのは、初めてだ。だが俺の思考はほぼ、停止している。ただ、ただ、目の前の敵を殺す事だけを考える。

 

「『風斬り』!!」

 

 ブワッ! と疾風が巻き起こる。それに一瞬、止まる冬将軍、そして、俺は一度、剣を鞘へ納め――。

 

「『瞬斬』ッッ!!!!」

 

 凄まじい速度の太刀が冬将軍を襲う――ガギンッ!! と俺の剣が折れて、だが、俺はとっさに距離を取る。マズイ、コイツ、本当に強い。俺は剣を投げ捨て、そのまま突撃する。

 

「やってやらァァァああああああ!!」

 

 だが、そんな攻撃が当たるはずもなく、俺は斜めに体を斬られた。

 

 

 

―――――

 

 

 

「……死んだのか、俺」

 

 隣にはカズマ、そして向かいには女神様が居た。そして場所は俺が初めて来た場所、真っ白な空間に簡素な椅子と机、凄く久々に見たな。この光景。

 

「……なんつーか……死んだのか」

「あれ? お前も来たのか?」

 

 隣に居るカズマが俺に聞いてくる。ふむ。

 

「お前を殺されて、感情的になっちゃった、テヘペロ」

「お、おう……そうか、つかやめろ、お前のキャラじゃねぇだろうが」

「そうだな……」

 

 は、恥ずかしいから誤魔化しただけなんだからね! 勘違いしてよね! さてと、落ち着け。いくらいきなり死んだからって、それにしても、死ぬ経験がこれで二回目か、残念だ。これで、もう異世界生活も終わりを告げるって訳か……。

 

「……あれ?」

 

 ん? カ、カズマ……? 泣いてる……。そうか、なんだかんだ言って、あの生活は楽しかったんだな……。確かに、俺にとっても、楽しい日常だった……。

 

「あ、あの……」

「え? あぁ、えっと?」

「あ、私はエリスと言います。えっと、死んでしまわれて、残念でしたね。今度はもっと安全な世界で、できる事なら裕福な所へと、転生させますよ」

 

 なるほど、あっちのハードモードよりは楽かもな……。そんな事を冗談交じりで思っていたら――。

 

「ちょっと、カズマ! リュウト! もう生き返れるわよ!」

「ファッ!?」

 

 俺が変な声をあげてしまった。

 

「え!? こ、この声、アクア先輩!? なんでアクア先輩が!?」

「え、えっと……?」

「ダ、ダメですよ! 天界の規定により、生き返りはできません!!」

「おーい! アクアぁ!! なんか、天界規定で生き返れないみたいなんだけど――ッ!」

 

 とカズマが言う。アクアがすかさず言い放つ。

 

「はぁ!? ちょっと誰よ! そんな事言ってる頭の硬いヤツは!」

「えっと! エリス様って言うらしいけど!!」

「はぁ!? ちょっと信仰されてるからって、お金の単位になった上げ底エリス!? ちょっと! それ以上、何か言うんなら、その胸のパットの事――」

「わー!!」

「「パットなの!?」」

「わかりました、わかりました!! もうアクア先輩ったら……」

「「パットなんですね!!?」」

「さて、ではあなた達に門を開きます、本当はダメなんですが……内緒、ですよ?」

 

 悪戯っぽく笑うその笑みに少しばかりキュンッとしてしまったのは、これが本当の女神だからだろう。なんだろう、凄く心が熱くなってくるわぁ。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

「うー……?」

 

 俺が目を覚ました、途端にめぐみんに抱きつかれた。グェッ!!? な、何しやがる。どうやら、それはカズマも同じようだ。

 ちなみにカズマはアクアに膝枕されていた。俺はダクネスだ。うん……良いね!! 思ったより硬くないんだな。コイツの膝。

 そんな軽くゲスい事を考えていた俺だった。

 

「ねぇ、もっと私を褒めてよ、私がやったのよ? 私がアンタ達を生き返らせてあげたんだから……」 

 

 ドヤ顔でそんな事を言ってくる。なんというのだろう……この感じ、うん。

 

「「チェンジで」」

「上等よ!! このクズニート共!!」

「なんだと!? カズマはともかく、俺は普通の高校一年生してたぞ!!?」

「な、ニ、ニートじゃねぇし!! というか、この野郎! 俺はともかくってどういう意味だぁ!!」

「そういう意味ですが?」

「て、てめぇ! その鼻っぱしらへし折ってやる!」

 

 と俺に掴み掛かってくるカズマ。

 

「おぉ!? 上等じゃねぇか。やってやるぜ!!」

 

 なんというか、やっぱりこっちの世界ってのは、いいな。

 

 そんなこんなで、俺達はギルドへと戻るのだった。ちなみに戻ったあと、あのアクアが雪精を一匹だけ、逃がさずに隠してたらしい。

 ふむ、あの状況でそんな事できたのかよ、と軽く感心した。

 

「よし、貸せ。アクア。そいつを討伐してやる」

「いやよ!! この子にはもう名前だってつけてるのよ!! 絶対に殺させてやるもんですかぁぁ!!」

「コイツ、予想外の反抗を……」

「なんというか、すんげぇ、愛着湧いてんのな……まあ、今回はアクアの活躍があったんだし、やめとこうぜ」

「はぁ……」

 

 そんな感じで、諦めたら、アクアが。

 

「この子は冷蔵庫にして、夏になったら、いっぱい氷を作ってもらって、かき氷屋さんを作るのよ、それに、寝苦しい夜には、一緒に寝るのよ! この子って何食べるのかしら?」

「というか、そもそも雪精って何か食べるんですか?」

「というかフワフワしてて、むしろ、そいつに砂糖をかけて食べれば、おいしそうじゃないか?」

 

 たまに、コイツもバカっぽい事言うよな……。それにしても、やっぱりさっさと、冬は過ぎて欲しいものだよな。 こういうクエストしか無い以上、洒落にならない事件ばかりに遭遇するからな。もしかして、ここに疫病神でも居るんじゃねぇのか? いや、居たな。はぁ……。

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。



感想、批判。大歓迎です。


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筋力増加ポーション

今回も駄文ですが、温かい目でご覧ください。


※カズマ視点があります。あと筋力増加ポーションは勝手な想像です。本当にあるかはわかりません。


 今日は寒い。屋敷で毛布に包まって暖まってるのは、俺、リュウト。今日は特にする事が無い、というのも、昨日、死んだという事で俺は少しだけ休みを取っているのだ。

 さすがに死んだその翌日にすぐ働けっていうのは、無理がある、というか俺が嫌だ。という訳で、今日は休日にしたのだ。

 

 借金はあるが、一応、昨日の雪精がそこそこ稼ぎが良かったので、そこまで、急ぐ必要もないだろうし、俺も少しだけ懐が暖かくなったし、という訳で、気分転換に俺はウィズの店へと向かった。

 

 カランッ! と言う音と共に、俺はウィズの店へと入っていった。

 

「いらっしゃいませ、あ、リュウトさん、お久しぶりですね、どうかしたんですか?」

「おう、久々だな、ウィズ。いや、ちょっとだけ、面白い物でも入荷してないかと」

 

 と俺は店を見ていく。

 

「あ、だったら、良い物がありますよ!」

 

 とウィズが笑顔で持ってきたのが、何かのポーションだった。な、なんだ? この毒々しい色したのは、ポーションって青色のイメージが強いんだけど、これはなんというかピンク?

 

「これ! 最近入荷したんですけど、飲むだけで筋力が上がるポーションなんですよ! しかも、副作用が無いらしいんですよ!」

 

 本当かよ……騙されてんじゃねぇだろうな? でも飲むだけで筋力が上がるポーションか……どれ、一つだけ買ってみるか。

 

「じゃあ、それ一つだけくれないか?」

「はい、五万エリスになります」

 

 ひ、一つ五万エリスか……。結構値が張るな。サイフがまた極寒に……。とりあえず、俺は買い、それをその場で飲み干す。

 

「どうですか? 感想は……?」

 

 味は悪くない……力は、上がった気がしないでもない……でも、なんか……頭がポーッとするような……? 気のせいか?

 

「そうだな……なんか、ウィズを見てると、ぶん殴りたくなってくる……ぐらいかな? なんていうか、嫌いになりそう」

「えぇっ!?」

「とりあえず、サンキューな、また今度来るわ、多分ウィズをぶん殴りに。嫌いだし」

「えぇっ!!?」

 

 そんな訳で、俺はウィズの店から出て行く。なんで俺はこんな所に居たんだ? 絶対に行きたくない場所、ベスト3には入るのに。

 

「な、なんかリュウトさん……今日は変な気が……?」

 

 そんな声が聞こえた気がしたが、気の所為だろう。俺はその後、適当に回る。それにしても、この街は素晴らしいな、魔王軍幹部をぶっ倒したというのに、借金を背負わされたり、本当に素晴らしい! 

 それにしても、俺のパーティメンバーは性格は素晴らしいが、顔がダメな連中が多いのが残念なんだよなぁ、こう考えてると、なんだか嬉しくなってくるぜ。まあ、パーティメンバーは正直、アイツらじゃなくても良いんだけどな。

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 そんなこんなで屋敷に戻ると、めぐみん、ダクネス、アクアの三人とカズマが居た。ふむ、めぐみんとダクネスはボードゲームをしているようだ、アクアとカズマは二人で暖炉の取り合いをしている。

 おいおい、カズマ、アクアに譲ってやれよ、まあいいや。それにしてもこの世界にもボードゲームがあるんだな。

 

「どうかしたか? リュウト?」

 

 ふむ、俺はボードゲームを終わるのを待っている。だが、先程からずっと見ているから気になっているのか、こちらをチラチラ見てくる。

 

「な、なぁ、何なのだ?」

「『エクスプロージョン』!!」

 

 そこでめぐみんがエクスプロージョンと言って、台をひっくり返した。

 

「あぁ!!」

「フフ、どうです……」

「クソぅ、あと少しで勝てたのに」

「まだまだつめが甘いですよ、それよりリュウトはどうしたんですか?」

「あぁ、そうだった、それでどうしたんだ? リュウト」

「いいや、お前らがあまりにも変でさ、ちょっと気持ち悪いなって」

「「「「……」」」」

 

 その瞬間、なぜか、周囲が固まった。

 

「どどどど、どうしたんですか! リュウト!!」

「リュ、リュウトが責めを……んぅ!」

 

 ガクガクと揺さぶるめぐみんに、変態ドMクルセイダーは興奮している。そして俺は笑顔で。

 

「ハハ、なんだよ、いつも思ってる事だぜ、お前らは性格は最高だが、顔は悪いと。そして嫌いなんだよな、お前らの事」

 

 愕然とする四人、カズマだけは。

 

「おい、どうしたんだよ? コイツらは性格は最悪だが、顔は良いだろうが……というか言ってる事がなんか支離滅裂だぞ?」

「性格が最悪って、カズマには言われたくありません」

 

 とめぐみんがおかしな事を言っていた。

 

「あぁ? 何言ってんだ。お前……つか、お前アレだろ、お前、えぇっと……名前忘れたわ、誰だっけ? お前、俺、嫌いなヤツの事はすぐに忘れちゃうんだよな」

「ひ、酷いぞ!?」

「何驚いてんだよ、いつも通りだろうが……つか、暖房を占拠してんじゃねぇよ。アクアに譲ってやれ」

「まぁ、今日は良い事言うわね、リュウト!」

「ど、どうしたんだ、今日のコイツはいつもと様子が違うぞ……?」

 

 カズマが引き気味に言ってくる。チッ、なんかコイツの顔見てると、無性に腹が立ってきたぜ。あぁー、世界が滅亡すれば良いのに。

 そんなこんなで四人が集まって、話合いをしている。

 

「どうする! リュウトの様子が今日は絶対に変だぞ!」

「そうですよ! あれは間違いなく、何かありましたよ!」

「そ、そうだな……あれじゃ、私も興奮できない」

「何言ってんの、お前……」

「と、とにかく、アイツがなんでああなったか、調べる必要があるぞ」

「そういえば、今日、リュウトは確か、ウィズの店に行くと言ってませんでした?」

「……それか!! ウィズの店で何か買ったんだ、多分、飲み物系だろう、それでその副作用かなんかで、アイツは今、おかしくなってるんだ。今すぐ、ウィズの店に行くぞ!」

 

 とカズマが言った瞬間だった。屋敷からチャイムが鳴る。カズマは屋敷の玄関の方へと向かうと、そこにはウィズが居た。

 

「あ、あの……すみません、リュウトさんは……いますか」

 

 と息を切らしながら、来るウィズ。

 

「なんだ、ウィズ。ぶっ飛ばされに来たのか?」

「ち、違います! そ、それよりカズマさん! あの、今のリュウトさん何ですが!」

 

 とウィズがカズマに説明した。なんでも俺が先程飲んだ、筋力増加のポーションには実が副作用があったようで、本心とまったく逆の事を思って、口にしてしまうという恐ろしい副作用があった。

 ちなみに一時間で元に戻るらしい。チッ、また適当な事を言いやがって。やっぱりウィズは後でぶん殴る事にしよう。

 

「そ、それであんな態度を取ってたのか……」

「って事は、私達って結構リュウトに好かれてるんですね」

「そうなのか、以外だな……てっきり嫌われてるかと、思ったぞ、私を満足させてくれないからな……」

「というか、なんか照れるな、こういうの……」

 

 と口々に言う三人。

 

「ねぇ、私だけちょっと優しくされてなかった? ねぇ、もしかして私、嫌われてるの? ねぇ!」

「あぁ、なんかアレだなぁ、世界破壊したくなってきたわ、お前らの顔見てると」

「と、突然なんだ!? これも副作用の効果なのか!?」

「マズイですね……今の状態のリュウトならやりかねませんよ」

「そ、そんなにイライラするなら、私を殴ると良い!!」

「あぁ、だったらそうさせてもらう!!」

 

 ブンッ! と俺の渾身の一撃がダクネスの腹部へと直撃した。それを喰らったダクネスはと言うと。

 

「んっ!! こ、これは凄まじいぞぉ!! もっとだ、もっとだぁぁぁ!!!」

「こんな時にバカやってる場合か!! そ、それよりも、お前、本気なのか……?」

「あぁ、本気だぜ? えっと、カズマ……? カスマ? ゲスマ……? クズマだ! おい、クズマ、俺はお前もぶっ飛ばしてやるぜ!?」

「おい、なんだその名前は!!?」

 

 そんなこんなで、俺達は外へと出て、決闘する事になった。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 俺、佐藤和真。今、凄い大変な事態になってるんだ。俺達のパーティメンバーで最も安定した火力を持っているリュウトってヤツが居るんだが、ソイツが今回、敵に回っている。

 なんでもウィズの店で買った筋力増加ポーションを飲んだ、その副作用でああなってるらしい。本当に恐ろしいものだ。

 

「ほ、本当にすみません! 今回は私が悪いです!!!」

「いいや、ウィズの所為じゃないよ、とりあえず、一時間、時間を稼ぐしかない……めぐみん! ダクネス! アクア!! 戦闘準備はバッチりか!」

「えぇ、いつでもいけますが、本当にリュウト相手に戦わなきゃいけないんですか?」

「私もバッチリだ。いつでも喰らう準備はできてるぞ」

「ねぇ、私って嫌われてたの? ねぇ」

「わ、私も戦います! 元はと言えば、私があんなポーションを入荷していた私が悪いんですから」

 

 ウィズが居るなら、心強い! ここまでの布陣だ! そう負ける事はない。アクアは回復、ダクネスは壁、めぐみんはいざって時の火力で、安定した火力のウィズ。これで勝てる!! そう思った瞬間だった。

 

「『フルキャンセル』」

 

 無情なまでのチートスキル。俺の体は途端に動かなくなる。そして、それを連続で使われ、全員が動けなくなった。

 

(しまったぁぁぁ!! アイツにはチートスキルがあるんだったぁぁぁ!! ま、まずい……いくら盾が居ようと、火力があろうと、動けなくちゃ、何もできねぇ……クッソォ!! どうして俺の仲間にあんな超強いやつが居るんだよぉ!!)

 

 本気で困っている俺。

 

「ぐ、動かない……っ! どういう事だ!?」

「わ、私もです……! これは一体」

「カズマさーん!! 私達どうなっちゃうのー!!」

「な、なんですか、このスキルは……?」

「くそぉ!! 三度も死にたくねぇぞ!!!」

 

 俺は必死に叫んでいたが、リュウトが一番初めに俺の方に来た!! クッソ!! どうして、俺が一番初めなんだよ!! 

 むしろアクアにしやがれぇぇぇぇ!! と俺は必死で心の中で叫んでいた。待てよ? アイツは俺に殴りかかってくるつもりなんだよな? そうしないと、俺には攻撃できない……ある、たった一つだけ、アイツを倒す方法が……!!

 

「さてと、一丁いきますか!!!」

 

 とリュウトが言った瞬間、とてつもない衝撃が俺の腹部を襲う。うげぇぇ!!? こ、こいつ、手加減なしだと、やべぇ!!? だ、だが俺の体に触れたな……! 

 

「『ドレインタッチ』ッ!!」

「何? ドレインタッチか、考えたな、クズマ……だがよ……その前に気絶させてやる!!」

 

 と俺の腹部に入れている拳を押し出してきやがった!! ぐえぇぇ!! だ、だがぁ!!

 

「なめんな!! ウォーターからのフリーズ!!!!」

「ぐ!!? この寒空の下にはちと、こたえるが……まだまだだぁぁぁ!!」

 

 うごぉぉぉぉ!! コイツ、もっと力入れやがった……! なめんなぁぁぁぁ!!! 

 どちらが、先にやられるか、ドレインタッチが先なのか、俺が気絶するのか、というか内蔵が……!! ぐぅぅぅ!!! う

らぁぁぁ。

 

「……ハァ、ハァ、ハァ……」

「ど、どうした……随分と顔色が悪くなってきたじゃないか、リュウト……」

「な、なめんな……俺は……まだ……やれ――」

 

 そう言って、リュウトはバタリと倒れこんだ。さすがにこれだけ吸われちゃな……その後、俺達の体も動くようになり、ひとまずは決着がついた。

 

「ねえ、結局、私だけ嫌われてたって訳?」

「ち、違うと思いますよ。アクア様……」

 

 そんな風にしつこく聞いていたアクアにフォローを入れたウィズだったのだ。というかアイツしつこすぎるだろ。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

「……んぅ……?」

 

 目を覚ますと、なぜかイスで寝ていた。あれ……? なんで俺、屋敷に居るんだ? なんか記憶が……おかしいな? 俺が起き上がって周囲を見回すと、ビクッと肩を震わせたカズマが居た。どうしたんだ?

 

「どうかしたのか、カズマ」

「え、いや……大丈夫なのか?」

「は? 何がだよ」

「……ふぅ、元に戻ったみたいだな」

「これで、ようやく一安心ですね」

「まったくだ」

 

 そんな感じで三人に心配された。ちなみにアクアは向こうでグースカ眠ってる。本当に何なんだ? それにウィズも居るし、なんか珍しいな。

 

「あの、本当に、この度はすみませんでした!!」

 

 唐突に謝られた。

 

 俺はその後、事情を聞いて、納得する。

 

「なるほど、そりゃ、あれだ……なんつーか、悪かった」

 

 俺は頭を下げる。どうやら今回、俺がコイツらに迷惑を掛けてしまったらしい、まったく冬将軍に続いて、また迷惑を掛けるとは、俺もまだまだだな。

 そんな事を思っていたら、三人が、ニマニマとこちらを見てくる。

 

「な、なんだよ……」

「いえ、なんだかんだ、私達は好かれていたようなので」

「そうだな、好かれてるというのは、悪くないんだが、だったらもう少し私に厳しくな、ハァ、ハァ、ハァ……」

「だ、そうだ」

「ぶん殴りてぇ……はぁ、まあ嫌いだったら、同じパーティには居ねぇよ……」

 

 もっと笑顔になる三人に俺は呆れながら。

 

「とりあえず、今日はなんか奢るわ。迷惑掛けた謝礼に……ウィズも来るか? ついでに奢ってやるよ」

「え、良いんですか? 私の所為でもあるのに……」

「良いんだよ、丁度、そこの女神様は寝てて、来ないみたいだし」

「行くわ!!」

 

 ガバッ! と起き上がる現金女神アクア。

 

「…………ま、金はある。大丈夫だろ」

 

 俺がそう言い、今日は外食する事になった。いろいろあったが、やっぱりいつもが一番って事でね。

 

 

 

 




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サキュバスは悪魔っ子

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると、幸いです。


「……んー、はぁ……」

 

 あれから、数日が経過した。もう大分、体の方も治ってきた。いやぁ、いいね。本当にいいね。それにしても、やっぱり、俺ってレベルが凄い低いと思うんだよな……。

 まぁ、基本的にあんまり戦いに参加しない訳じゃないんだが、積極的に戦おうという気が無い所為なのも重々承知なんけどよ、それでもやっぱり、足を引っ張るのは嫌なので、クエストついでにレベル上げを決行した俺だった。

 

 ちなみにフルキャンセルも使おう、というかフルキャンセルが切れたら、それで終了って事にしよう。そうした方がなんか、キリが良いし。

 そんな訳で、俺はクエストを受けに行く。ちなみに道中、カズマ達と遭遇した。

 なんとサキュバスが経営しているいやらしい店に誘われた、俺はそれよりレベル上げがしたかったので、断った――今度、絶対に行こう……! 俺は心にそう誓った。

 

 クエストを受け、俺は今、森の中、と言っても、戦うのはコボルトやゴブリンなどの雑魚モンスターばかりだ、ここで一発、一撃熊とでも遭遇すれば、結構良い。

 経験値稼ぎになるんだがな。剣を買いなおした、俺にとってはそこら辺のやつに負ける気はしねぇ。

 

 そんな若干フラグ的な事を考えながら、コボルトやらゴブリンと戦っている。寒いこの時期の敵は基本的に強い。やはりこういう境遇で生き抜く為には、強くなくてはならない。ちなみに冬将軍とかには絶対に遭いたくない、一人だったらもっと無理だろ、死ぬだろ。

 

 まあ、敵としては申し分ないのだが、とりあえず、敵を倒しまくろう。

 

 そんなこんなで、クエストも完了し、『フルキャンセル』も使い切った。

 

「あぁ、あと少しでレベルが上がるのかぁ……いや、でもまあ、今日はもういいか」

 

 そうしてギルドへと戻ると、そこには居た。一撃熊が――ではなく、『初心者殺し』。懐かしい相手だ。そういえば、一回だけパーティを組んだ時に遭遇したっけ? だが、コイツには負けないぜ?

 

「『瞬斬』」

 

 ズバッ! と剣で切り裂いた。フハハハ!! 俺は強い、強いよぉぉぉ!!! そんな喜びに浸っていると、向こう側から雄叫びが聞こえてきた。

 

「「「グオオオオオッッ!!!」」」

「え?」

 

 突如、目の前に一撃熊と思しきモンスターが三体も目の前に居る――。

 一旦整理をしよう、まず、俺は今、『フルキャンセル』を使えない、そして逃げ道も無い。そして、相手は一撃熊が三体……ふむ、殺される未来が決定している件について、ちょっと話をしようじゃないか。

 どうしよう、本当にどうしよう……。

 

 え、マジでどうしよう。こんな状況に陥ってるんですが、どうしてフルキャンセルが使えるときにこねぇんだ、この三下どもがァァ!! と軽く叫びたい気持ちになってくる。

 い、いや、待て待て、落ち着け。俺だって、レベルは上がってるし、スキルポイントだって、割り振りして、きちっと高くなっている。だから大丈夫。はい、吸ってぇ、吐いてぇ……。

 

(ひとまず、逃げながら考えよう)

 

 俺はアクセルの街とは、まったく別の森の奥の方へと逃げる。当然だが、そちら側でないと、一撃熊とすれ違わなきゃいけなくなるので、こちらに逃げているのだ。

 さすがに三体を一斉に相手するのは、骨が折れる、というか死ぬので、向こう側へと逃げつつ、三体が別れるのを待つ。

 

(くっそ! こうなりゃ、二度と一人でなんてこねぇ!! せめて、アクアを連れてく!! いや、よく考えたら、アイツは絶対に俺の誘いには来ないか……いや、待てよ? クリムゾンビアで釣ればいいのか。だがとりあえず今は逃げる!!)

 

 必死に逃げる俺。ちなみに速度は俺の方が上のようで、三体のモンスターは追いつけてない。くっそ! このまま逃げ切れれば、一番良いんだが!! 逃げるな、峰沢龍斗! 

 お前は何の為にここに来たってんだ! レベル上げだろうが!! くっそ、やってやるぜ、あぁやってやる!! 死に晒せぇ!!! 

 

 そう思った瞬間、一撃熊の一匹が良い感じに俺の方へと襲い掛かってくる。俺はそれを避けつつ、『閃光斬り』を喰らわす。わかりきってはいたが、ヤツはかなり堅い。だからこそ『風斬り』ではおそらく、ダメージは当たられないだろう。だが、これなら!! 

 

「グギャァア!!?」

「うっしっ!! 一体撃破!!」

 

 これで、他の連中が少しでも怯めば……! なっ!? 二体で来やがったぁ!? くっそ、一体じゃ勝てないって事でか!!? チッ、この野郎! そこまで頭良さそうに見えない癖にっ! くっそ、どうする。この距離じゃ、間に合わない。終わり……なのか……? 

 

 いや……待てよ? あと少しでレベルが上がりそうになってたよな……?

 

 さっき『初心者殺し』を倒したし、『一撃熊』も一体だけなら、倒せた……。よしっ!!

 

「『フルキャンセル』ッッ!!!」

 一撃熊の一体が硬直する。よしっ! 俺はもう一体の方の攻撃を避けて、すれ違いざまに。

 

「『閃光斬り』」

 

 ズバッ! と胴体が真っ二つになる。そして――。

 

「動けないなら、もう怖くねぇぞ!!」

 

 俺は剣を鞘に納め……。

 

「『瞬斬』!!!」

 

 一撃熊三体を見事、討ち取った――。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

「ふ、冬は全体的に厳しい戦いが多い……ひ、久々に死を間近に感じた……」

 

 ちなみに冬将軍は無しだ。あれは死んだ。

 そんな風にぼやきつつ、俺はギルドへと行って、報酬を貰い、そして、屋敷へと戻った。

 

 暖房に暖まりながら、ポカポカしている連中を見て、はぁ、日常ってのはこういうのを言うんだろうなぁ、とか思い、俺もポカポカしたいなぁ、とソファーの前をウロウロしたが、結局、譲って貰えなかった。

 

「おい、アクア、俺に譲ってくれよ」

「嫌よ、寒いもの」

「…………アクア、お前、今日いつまでそこに居た?」

「え? ずっとだけど?」

「……退く気は?」

「無いわ」

「……もういいわ」

 

 俺は自室の毛布に包まった。寒いので――。もう誰か労わって! 俺の苦労を労わって! はっ! そうだ。サキュバス……! 俺も明日行ってやる!! 

 フフフ……。頭まですっぽりと包まっている俺は静かに笑みを浮かべていた。

 

 そんなこんなで、いつの間にか、眠っていた、俺は目を覚まして、目を擦りながら、みんなの元へと行く。

 

「……?」

 

 なんか、騒ぎが聞こえてくるな……?

 

「あ、起きたか、リュウト」

「おぉ……ダクネスか、というか、それなんだ……?」

「ん? これか、これは、家からの仕入れだ。蟹だ。リュウトもほら」

 

 と俺に蟹を差し出してくる。みんなもかなり美味しそうに食べていた。ちなみにこの蟹は結構高級らしい。俺はそれに対して、率直な感想を述べた。

 

「お前ん家って金持ちなのか?」

「なっ! い、いきなりなんだ!?」

「え、いや。普通に考えて、こんな高級な品を送ってきたんだ。多分、相当な金持ちだろ。お前」

「そ、そ、それは……」

 

 と黙り込むダクネスに対して、俺はそこまで追求せずに。

 

「まあ、いいや。とりあえず俺も食おっと」

 

 蟹を食い始めた――こ、これは!! あのキャベツ以来の蕩け具合だ!! うめぇ……。

 

「こいつは……やばいな」

「ですね。これを食べれるなら、『爆裂魔法』を我慢して、これを食べた後に『爆裂魔法』を放ちますよ!!」

 

 ほう、我慢するのか、ん? 今ちょっとおかしくなかったか? まあいいや。そういえば、酒も良いのがあるらしいな、俺も飲もう、高校生に味の良さがわかるか、知らんが、ちょっとだけ飲んでみる程度にしよう。

 

「……美味いな……全部美味いわ、今日ほど、労ってもらった事はないなぁ!! やっぱりこういうご褒美的なの無いとやってられねぇってな」

 

 美味い……美味い、美味い、美味い!! 今日は随分とご馳走だな。ちょっと幸せすぎて、明日が怖いぜ。明日、変な事起きなきゃいいけど。

 

 そんなこんなで、結構食い進めていった、ちなみにカズマは酒を飲まずに、そのまま寝にいった。なんというか、お酒を飲まないとは珍しい事もあるもんだな。あ、いや……多分だけど、サキュバスに関係があるのか?

 

 まぁいいか……。

 

 そんな訳で、俺はお酒も、蟹も存分に堪能した後、風呂に入って、さっぱりして、再び、自室に行く。ふぅ、酒も入ったから、ちょっと眠いな……というか……ねむ、い……。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 ふと、俺は目が覚める。もうここには悪霊はいない。だが体がなぜか、ブルリと震えた。これは……。

 

「トイレ、トイレっと」

 

 俺はそのままトイレへと向かう。向かう、途中、風呂から音が聞こえた。こんな時間に誰か入ってるのか……。

 なんて思いながら、俺はトイレで用を足し。そのまま自室へと戻ろうとしたら――。何か、変な気配を感じた。

 

(なんだ? これは……)

 

 俺はそちらの方へと足を進めていくと、際どい格好をした、女の子が魔方陣に引っかかっていた。俺は泣きそうな女の子を見ながら、一つ考えた。

 これはおそらく、カズマが頼んだ、あのサキュバスではないのだろうか? そして、この今にも泣きそうな女の子は多分、うちの女神が掛けた魔法陣に掛かったのだろう。

 そして、このままではすぐにアクアが駆けつけてしまう、さて、どうしよう。このままこの子を助けてもいいのだが……というか助けるべきなのだろうが……。

 その場面をアクア達に見られたら、なんか言われそうだしな、まあ別に構わないか。

 

「どれ、ちょっと助けてやるよ……」

「あ、す、すみません……」

 

 と俺はその魔方陣を消そうと思ったのだが、その直後、後ろから怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「あぁ!! リュウト、先に来てたのね!! それは……サキュバス!? リュウト、下がりなさい! 危ないわよ!! 生気を吸われるわ!」

 

 と俺に心配をしてくれてるみたいだな、だが、この子は悪いサキュバスじゃないぞ。うん、ただの仕事だ。

 

「あぁ、えっと……」

「下がってください、リュウト。危ないですよ……!」

 

 めぐみん付きと来たもんだ。

 

「えぇ、あぁっと……その……」

 

 クソッ! なんつータイミングだ。ええっと、どうしたら良い! あ、そうだ。カズマだ! カズマがここで説明をくれれば……ダメだ、そんな役をアイツにはさせられねぇし、アイツは多分しねぇ。

 あ、そうだ。サキュバスってのは魅了みたいな、男を手玉に取る事ぐらいできるんじゃねぇか? 

 

 そうだ、そうしよう。操られてる事にしよう。ふむ、という事は普段しないような事を……え? セクハラか? コイツら二人か……。せめてダクネスが良いな。まぁいい。

 

「フフフ、二人ともォォォおおおお!!」

 

 と俺はまるで、変態のように、二人に襲い掛かる。それに対して、二人はとっさに。

 

「なっ! まさか、操られたんですか!」

「もう! 何やってんのよ!!」

 

 文句をいっている。ふむ、操られてはいないが、というか操られても、多分、どうにかできる。

 だが今回はすまない。二人とも。俺を心配してくれてるのに! でもこの子が可哀想なんだよ! と思っていたら、そのとき、救世主の如く、彼、佐藤和真がやってきたのだ。

 

 俺の所まで来たので、俺は小声で。

 

(おい、お前、なんだ。その格好! なんでタオル一枚なんだよ)

(いろいろ理由がある。だが今は……)

 

 そんな会話を小声でしていると、カズマがやってきた後にダクネスがやってきた。

 

「今のカズマはサキュバスに魅了され、操られている! 先ほども設定がどうのとか、ぶっ殺してやるぅ!!」

「フフ、カズマとリュウトとは一度、決着をつけるべきだと思ってたのよね……いくわよ!!」

 

 こっわぁ! あのダクネスこっわぁ! ちょっと口の効き方が悪いですよ。ダクネスさん! それに決着ってなんだ、決着って!! そんなこんなで、カズマと俺がちょっと、時間を稼いでいる間にサキュバスが窓ガラスを割り、逃げたようだ。

 

(ふぅ、これで一安心……? ではないな)

 

 にじり寄ってくる、彼女達に手をあげるなど、今の俺にはできない訳で……。

 ドガバゴガギッ! とボッコボコにされてしまいました。

 

 その後、顔を紅潮させながら、カズマに昨日の事を聞いていたダクネス。昨日のは操られているという事にしていたので、俺達は一切の記憶を失っているという事にしておいた。

 だが、実際は覚えてる訳で、俺はカズマに言った。

 

「避妊はちゃんとしろよ?」

「そ、そ、そ、そういう関係じゃねぇし!!」

 

 

 

 

 

 

 




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機動要塞デストロイヤー

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると、幸いです。


 翌日。

 

 俺は目覚めの良い朝を迎えていた。そして、今日は俺の番だ。サキュバス淫夢サービスを今日は俺がやる! 

 フフフ、楽しみだなぁ、やっぱり男ってのは、こういうのをしっかりとしないとなぁ。うん。異世界ってやっぱり最高だぜい!!! 

 

 そう、そんな事を思っていた、昼下がりの午後だった。ちなみに俺ってやつは仕事が無い日はというか、仕事をしない日はもっぱら、昼過ぎまで寝てる事が多い気がする。

 というか多いな。そんなこんなで、俺が起きてから、すぐだった。本当に突然の事だった。

 

『デストロイヤー警報、デストロイヤー警報! 住人の皆様はただちに避難してください!! 冒険者は装備を整え、冒険者ギルドへ!!』

 

 デストロイヤー……? なんだ、デストロイヤーってそういえば、前にギルドのクエスト募集にそんなのあったな……。んー……。

 なんて心の中で唸っていると。

 

「何してるの! リュウト、逃げるわよ! デストロイヤーよ! デストロイヤー!!」

「……あのさ、そのデストロイヤーって言うのが、いまいちわからんのよ、俺は」

「デストロイヤーとは暴走した古代兵器だ。そいつが通った後は草も木も残らないとされている」

 

 暴走した古代兵器、どっかの爆裂狂が聞いたら喜びそうな、感じだな。まぁ、そのどっかの爆裂狂も今回ばかりは逃げる準備をしているみてぇだが……。

 

「そうか、それが接近してるって訳ね……。つまり、この街が今にも終わりそうだと」

「いってみれば、そうね! ほら、早く逃げるわよ!!」

「……」

 

 ちょっと待て……つまりそれはあれなのか……凄く不味い事態に陥ってるって訳か……俺は一も二もなく。

 

「とりあえず、冒険者ギルドに行くか」

「当たり前だ! この屋敷を苦労して手に入れたんだぞ!! 絶対に壊させてやるもんかぁぁぁ」

 

(そう、当たり前だ。俺だって、簡単にはこの街を手放したくないぞ、まだ淫夢サービスもしてもらってないし!!)

 

 そうして、俺達五人は冒険者ギルドへと足を運ぶ、当然なのだが、アクアは渋った。

 逃げようとしてたからな、コイツは。まあ、最悪、俺には『フルキャンセル』がある訳だし、ぶっ壊そうと思えば、ぶっ壊せるだろう、……多分だけど。

 

「さて、どうするかぁ……」

 

 ギルドの雰囲気はまさに世界の終わりクラスにまでに、落ち込んでいた。それはもう、ダメだねって言えるぐらいに、だ。

 

「おい、カズマ、何かいい手はねぇのか、正直、俺のチートも相手が相手だから、効くのか怖いところがあるぞ」

「んー……そうだ。アクア!」

「な、何?」

 

 と、突然自分に矛先が向いて、驚いているアクア。

 

「お前なら、結界を破れるんじゃないか?」

「んー……まぁ、できない事もないかもしれないけど……」

「何!? そうなのか!!」

 

 冒険者ギルドの雰囲気が一気に明るくなった。希望が見えてきたな……さてと、次は火力か……まぁ、火力なら問題ないヤツが居る。そう、アイツだ。

 

「めぐみん! 今回はお前の爆裂魔法が最高に活躍するぞ!!」

 

 とカズマは言ったのだが、めぐみんはどうも、自信なさげに。

 

「で、ですが、さすがに一発の爆裂魔法では無理かもしれません……」

 

 そう言ったら、人ゴミを掻き分けて、ウィズがやってきた。冒険者ギルドがもっと明るくなった。用意はできた。この三人が、俺達の最終防衛ラインだろう。さてと、一丁やりますか!

 

 

 緊急クエスト この街をデストロイヤーから守りきれ!

 

 

 さてと、今回は一段と大変になりそうだ。まずは、砦を固める所から始める。やはりと言うべきか、仕事は早い。

 本職はやはり違うのか。そうして、様々な仕事がみんな一致団結させた。やはり、目的があると人間ってのは真っ直ぐに進めるもんだな。と素直に感心してしまった。

 

 というかどんだけ上からなんだ、俺は。まぁいい。それはそうと、ダクネスが今日は妙に張り切ってたな。なんでだ? と言っても、何かできる訳でもない気がするけど。

 まあとりあえず、あとはアクアが結界を消して、めぐみん、ウィズが爆裂魔法を撃って、止めれば、それでもうこの仕事は終了だろう。

 

 俺の出番は今回は無いだろう。というか無いと困る。さすがに俺は今回、ロクな活躍できないぞ。あ、いや待てよ……。俺は一度、めぐみん達の居る方へと、行き。

 

「おい、めぐみん、聞きたい事があんだけ……ど……」

「だ、だ、大丈夫、わ、わ、私は強い……強い。わ、我が爆裂は、さ、さ、最強」

「わぁ、ヤバイ、とても話を聞ける雰囲気じゃなあい」

 

 仕方ない。ここはカズマにでも任せて――あれ、動かないぞー。なんだー、なぜ裾を掴むんだ、めぐみんさーん、放せぇ。

 

「どうした」

「だ、大丈夫ですよね、我が爆裂魔法が勝ちますよね。ね?」

「んー。まあ、大丈夫だろうぜ、うん。大丈夫」

 

 投げやりであるが、ここで気の利いた台詞など思い浮かばない。怖いねぇ、緊張してんのかな、俺も。

 そんな訳で、少しだけ、落ち着きを取り戻しためぐみんに。爆裂魔法の射程を聞くと、大分長いようで、結構な距離だ。うむ、それなら俺のフルキャンセルの射的距離だな。

 あれって結構使い勝手悪いんだよな。実際、射程なんて、俺から三十メートル程しか無いし。仕方ないのか? だが、一つだけ言える事がある!

 

 今日は最大級に嫌な予感がする!! なんか、こう言い表せないぐらいの!! どうせ当たるんだ! それぐらいに立ち向ってやる!! 死んだら死んだで、また生き返るしな!! 

 死体させ損失してなければ!! 大丈夫だ。俺にはチートがある。それでぶった切ってやる。デストロイヤーなんかが目じゃないぐらいに粉々に破壊してやるぜっ!!!

 

 そんなやる気十分な意気込みをしていたら、ついに、ついに、ついにぃ!! デストロイヤーが登場した。ゆっくりと、だが確実に俺達の街へと進行を進めている。

 

 くっそぉ!! 誰だ、あんなダメな古代兵器を作り出したバカは! なんか、冬将軍と同じ臭いがするぞ!! あれだろ、絶対にあれだろ!! 日本人だよ、だってあの感じ、日本人考えそうだし!! 

 

「……さてと、ちょっとばかり、緊張してきたぞ」

「……だ、だ、だ、だ、だ、だいじょうぶ……わ、わ、わ、わ、わ我は……最強」

「うおおおおお!!? 大丈夫なのかぁぁぁぁ!!? ウィズ!! お前の方は…………」

 

 なんか、向こうで必死に大丈夫なんでしょうね! って言ってるアクアが居る。

 

 あの感じはそう、結構不安だ。不安要素が強いぞー? どうしたら良い。でも、大丈夫だ!

 コイツらは本番に強いか弱いかは知らないが、今までしぶとく生き残ってきたヤツら。そう簡単に負けるはずがないし、こんな状況だ。なんとかできるはずだぞ。

 

 とそうしてると、カズマがやってきた。

 

「大丈夫か! めぐみん」

 

 と一応、心配してるようだ。そこには自分の心配も混ざってるのか? よくわからんが。

 

「だ、だ、だ、だ、だいじょうび」

「うん。大丈夫じゃない、全然」

 

 俺が乾いた笑みで言った。カズマもこれではマズいという事で、いろいろと慰め? 応援? というか、そんなのをしている。

 目の前のデストロイヤーは刻一刻と迫ってきている。さてと、そろそろ本格的に逃げたい気分が満載な俺ですが……やっぱりやめる訳にはいかねぇよな。

 

 ……スーハー……さてと、心機一転だ。俺だって、簡単には負けないんだ。俺はそのまま下に降りて、この結果を見る事にした。

 そうして、そろそろ、その時が来た。まず手始めにアクアが。

 

「『セイクリッド・ブレイクスペル』ッッ!!!」

 

 おお!! なんか、興奮してきたぞ。なんだろう、なんかできそうだ!!!

 

「……いけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 俺はいつの間にか、腕を高く上げて、叫んでいた。凄まじい力を間近で見ると、やはり興奮するものだ! 

 そうして、アクアの魔法がしばらくデストロイヤーの結界と拮抗している。そうして、もっと強く、強く、強く! やった! 結界を破壊した。

 

「「今だぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 カズマと俺がほぼ同時に叫ぶ。だが、めぐみんはまだ緊張しているようで、そこでカズマが。

「お前の爆裂愛はそんなものなのかッ!!!」

 

 と怒鳴りつけていた。それを聞いためぐみんの瞳は真っ赤に光りだした。

 

「私に名前をバカにするより、言ったらいけない事を言いましたね……!!」

 

 やる気は十分!! そうして、めぐみんとウィズが、同時に。

 

「「『エクスプロージョン』ッッ!!!」」

 

 凄まじい轟音と爆焔がまさにすべてを飲み込んだッ! そうすべてだ。アクアが結界を破壊し、ウィズとめぐみんが爆裂魔法を撃ち込んだ! ここまでやったんだ。

 ここまでやったからこそ、きっとこれで勝てるはずだ!! 爆裂魔法の力は凄まじく、しばらくデストロイヤーが見えなくなる程の土煙に撒かれた。

 

 これは終わったな。当然のように全員が息を呑んで見ている。当然、俺もだ。

 

「……と、まった……」

 

 誰かが、そうポロッと零した。その一言でまるで決壊したかのように、全員が叫びだし、みんなが安心感を得ただろう。そう、俺達はデストロイヤーを止める事ができたのだ!!! やったぁぁぁあああッッ!!! 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 デストロイヤー戦はとりあえず幕を閉じた? いや、まだだよな。そうか、そういえば、まだ爆発する危険性を伴ってたな、くっそ。とりあえず行くぜ!! 

 

 俺はデストロイヤーに向かって走る。というか俺が完全に止まった事を確認する前にダクネス、突撃していったよな、何あの子、死にたがりの願望でもあるのか。

 いつか本当に死にそうで怖いわ。いくら硬かろうが、死ぬ時は一瞬だからな。

 

 そうして、俺達が中を駆け回っていると、あとから他の連中も続いてくる。俺達は必死にやっていると、おそらく搭乗員と思しき、骸骨がそこには居た。

 俺はちょっと不気味さを感じたが、アクアによると、この骸骨は既に成仏しているらしい。その骸骨の手元にあった日記を手にとって読んでみた。

 

 中身は日本語で書いてあった。つまりは、俺やカズマ、ミカガミと同じって事だ。

 

 俺は日記を読んでみた。粗方の内容はこうだ。

 

『○月×日 お偉いさんが無茶な要求をしてきた、たったこれだけの予算で機動兵器を作れとか、無茶すぎるだろ。絶対に無理だよ。だから、伝説の鉱石コロナタイトでも持ってこい! って言ってやった。言ってやったぞ、ひゃっほー!』

 

 

『○月×日 なんか、只今暴走中。国が滅んだ。やっべー! 国滅んだよ! やっべぇー! でもなんか、スカッとした。満足だ。よし決めた。ここで余生を暮らそう。だって降りられないしな、止められないし。これ、作ったやつ絶対にバカだろ! あ、これ作った責任者が俺でした』

 

 

 とこんな内容だった。俺は心の中でこう言った。なめんなっ!!! おそらくウィズとアクア以外はこう思っただろう。なるほど、そりゃ未練もないだろうな……。俺はそんな事を心の中で呟いた。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

「それで、これがそのコロナタイトか」

 

 俺は忌々しくそれを見る。なんつーふざけた結果でできた産物だ。コイツはぁ!! 俺は文句しかでてこなかった。

 

「さてと、それで、どうしたら良いんだ? つか、こんな時こそ、女神パワーでなんとかできねぇのかよ、アクア」

「何よ、その身勝手な妄想! ウィズ! アンタこそ、どうにかできないの?」

「えぇ! えっと……テレポートが使えれば、良いのですが、もう魔力が残り僅かで」

「カズマ、アンタ、ウィズに魔力分けなさいよ」

「えっ!? いや、こういうのはリュウトの方が適任だと、思うんだが?」

 

 と俺の方を見てくる。ふむ、まあ問題は無いな。ただ、倒れるかもしれないけど。

 

「まぁいいが、俺はそこまで魔力自体は高くねぇぞ。生命力はあるけど……まぁ、いいや。ウィズちゃちゃっと吸ってくれ」

「すみません。『ドレインタッチ』」

 

 そうやって、俺は首をそっと触れられ、どんどん魔力が吸われていく。う、あぁ、いい感じ……。あぁ、俺の体から体力が吸われていく、あぁ! やばい、この感じ、前にも体験した事がある気がするけど、思い出せないけど、あぁ!! 

 

 と俺の体から吸い取られていく。

 

「ちょ、ちょっと!! ウィズ!! リュウトさんが干物になっちゃう!!」

「あ、す、すみません! リュウトさん!」

「い、いいんだ……ウィズ……うぐっ……ちょっと気分が悪くなってきた」

「す、すみません!! 加減ができなくて!」

 

 そうして、コロナタイトをテレポートさせようとしたのだが……。

 

「あ、あの、すぐにテレポートさせるなら、場所が制限されまして、なんでもテレポートならすぐにでも、できるのですが……下手したら、人の多い所に飛ばされるかもしれませんので……」

 

 そんな事を言ってる間にも、コロナタイトは白く輝きだす。怖い怖い怖い。ここで死んだら、おしまいだぞ。破片どころか、塵一つ残りはしないだろう。

 

「だ、大丈夫だー。カ、カズマの運ならば、きっとできるー。今こそ、カズマの運をー……」

 

 と俺は枯れた声で言った。もう体力が限界に近い……ド、ドレインタッチ。きょ、強力だ……。

 

「あぁ、俺は結構、運がいいみたいだぜ」

 そうして、なんでもテレポートを実行し、コロナタイトはやっと消え去った。

「……ふぅ、よ、よかった……」

 

 そうして、俺達は一度、外へと戻る。もう既に夕日が出ていた。なんというか、やっとの思いで終わると、あの夕日も良いものだ。

 なんて思っていたら、突如、そのデストロイヤーが赤く熟しだす。

 

 え? 俺はつい、変な声を上げてしまった。地面が熱くなってきて、俺はとっさに飛び降りた。

 

「な、なんだ!!?」

 

 そうして、気付く。これはあれだ。暴走だ……。

 

「も、もいっかい、エクスプロージョンを!! おい! カズマ! アクアから魔力を貰って、ウィズがもう一度!!」

 

 と言ったら。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! 私の神聖な魔力を大量に注入したら、ウィズが消えちゃうわよ!!」

 

 と指差しながら言う。しかもウィズも滅茶苦茶、頷いている。マジかよォ!!! どうしたら良い!? くっそ、この世界は本当に主人公みたいに上手く行く事が少ないなぁ!!! 

 あ、もう一人居るじゃねぇか!! 爆裂狂!! 

 

「めぐみんっ!!」

「真打ち……登場」

 

 おぉ、背負われて無ければ、凄くカッコイイ台詞だ。口には出さない。大人ですから。

 さてと、アクアの魔力をカズマに渡し、そしてそれをめぐみんへと注ぐ。無尽蔵な魔力が取り柄のアクアだ、おそらく今までにない、強大な爆裂魔法が撃てるだろう。

 俺はちょっとした、興奮を覚えていた、と同時に、やはりこういうのは、テレビとかで見てる方が良いな、つくづく思った。

 

 自分もやってると、やっぱり、恐怖しか生まれなかった。

 そうして、めぐみんが爆裂魔法の準備をはじめた。それを見守っている俺達。

 

 ついに――。最強の爆裂魔法が今、解き放とうとしていた。こう言い方はめぐみんは喜ぶだろう。遠くへと避難しつつ、めぐみんはついに、発動した、そう。

 

「『エクスプロージョン』ッッッ!!!!」

 

 爆焔がすべてを包み込む。あの今にも爆破しそうだったデストロイヤーすらぶっ壊した。そんな一撃を彼女は喰らわせたのだ。あの矮躯(わいく)であそこまでの力が出せるのだから、魔力とは本当に不思議である。

 あれの一体どこに溜まっていると言うのか。

 

 俺はそれを眺めながら、勝ったと確信していた。それは申し分ない力だったはずだった――のに、何が足りなかったのか、ボロボロにはなっていた。なのに、赤熟したままだった。え? なんでだよッ!? 

 

「ど、どういう事ですか!?」

「まさか、わ、私の一撃が……!?」

「クソッ! 足りなかったのか……!?」

 

 カズマも叫んでしまう。ちくしょう、どうするんだ……? ここは、俺がやるしかねぇのか……ったく、体力もまだ戻りきって無いからな、キツいが……やるしか、ねぇよな。

 

「……お前ら、先に街に戻ってろ、ここは俺がなんとかする……」

「な、何言ってるんですか!! もう、逃げるべきです! 危ないですよ!! もう間に合いません!」

「そうだぞ、もう無理だ。これはもうあと少しで爆発する。もう間に合わないぞ」

「……いや、大丈夫だ。コイツには『フルキャンセル』がある。だから、大丈夫だよな」

「わ、私達は先に行ってるから、その頑張ってね!?」

「……大丈夫だっつーの」

 

 ウィズも心配そうに見ている。気にしないで欲しい……。俺だって、活躍できるって所を見せてやるよ。

 さてと……できるかな、このデカブツを一気に飛ばす事は……。

 

 しばらくして、彼らは大分、離れた所に居た。俺はスゥーと息を吸いながら、本気で叫ぼうとした瞬間だった――突然、強く熱しだし、その瞬間すべてが、飲み込まれた。

 

 間に合わなかった!!? と全員が思っただろう。だが、その瞬間。その爆音と爆発がすべてを包み込んで、そして消え去った。

 

「あ、あ、あぶなかったァァァあああああああ!!!」

 

 完全にあと一歩で死ぬところだった。やっべぇ! 超ボロボロじゃねぇか!!? もう本当に怖いわ。いきなり暴発しやがって、本当に死ぬところだったってここどこだ? 

 あ、俺、結構勢い良く、ぶっ飛ばされたみてぇだな……。

 俺はボロボロの服の埃を払いながら――。

 

「お、終わったぜ……」

 

 サムズアップ、正直、今回ばかりはマジで死ぬかと、思った。とりあえず、終わった……正真正銘にデストロイヤーを破壊する事に成功したのだ!!! 

 もう二度と、こういう死ぬ目には遭いたくないが、多分まだ、あるんでしょうね。わかってますとも、あぁ、わかってる。だったら、もう付き合いきってやる、

 

 全部の面倒事をできる限り、回避しつつ、目の前の面倒事を一撃でぶっ飛ばせるぐらいに強くなってやる!!

 決意新たに、俺はまた、彼らと冒険する事になるのだろう。と胸中で思いながらも、面倒ごとに、また巻き込まれる事になるのだろうと思う。

 

 まあ、でもたまにはいいか……こういうのも、悪くはねぇ……か?

 

 




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容疑者サトウカズマ

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると、幸いです。


 デストロイヤー戦から、素晴らしい功績を残した、俺達のパーティ。これできっと、借金も返済できるだろう、なんて楽観しながら、ギルドの扉を開けると――。

 

「私は王国検察官のセナと言う、サトウカズマ、貴様には今、国家転覆罪の容疑が掛けられている」

 

 ……ホワイ? 国家転覆罪? なんだそれ、つかそんな罪があるのか、それに王国検察官って随分と大仰な肩書きだな。

 スーツ姿のメガネ美人、セナさんが俺達もとい、カズマに向けて告げていた。

 

「何した、カズマ」

「何もしてねぇよ!!?」

「謝って! カズマさん。ほら謝って! 私も一緒に謝るから!!」

 

 とアクアがカズマの頭を無理やり下げさせながら、言っている。というか、本当に何をしたんだ? 

 最近のやった事と言えば、デストロイヤーを撃退したぐらいなのに、だったらカズマは犯罪者じゃなくて、むしろ英雄だろうに……ま、とりま、事情を聞こう。

 

「えっと、セナさんでしたね、その、俺のパーティのこのカズマが何かしでかしたんでしょうか?」

 

 俺がなるべく、冷静な感じで言うと、メガネを一度、クイッとした後に、セナが。

 

「貴様の指示でコロナタイトを転送した結果、領主様の屋敷を爆破したのだ」

 

 うぇ!? あれか、あれなのかぁ!! で、でもあれは不可抗力ってヤツじゃない……?

 

「幸い、死人は出なかったが、貴様にはテロリストもとい、魔王軍の手先ではないかと疑われている」

 

 マジですかー……。

 

「ちょ、ちょっと待ってください、デストロイヤー戦において、カズマの機転が無かったら、被害はもっと大きくなっていたかもしれません!」

「めぐみん……」

 

 おぉ、やっぱりちゃんとカズマの事が心配して――。

 

「せいぜい、カズマはセクハラとかの小さい犯罪をやらかす程度です」

 

 ……うん、まあな。否定はできない。カズマの顔も微妙なものになっている。そこで次に。

 

「検察官殿、何かの間違いだ」

「ダクネス!」

 

 おおっと、次こそ、まともな――。

 

「この男にそんな度胸はない。屋敷で薄着の私をあんな獣のような目で見ていながら、夜這いの一つも掛けられないヘタレだぞ、コイツは」

 

 うん、まぁ……ダクネスは体だけは良い。うん、だけはね。おおっと、二人の視線が厳しくなりましたぞ! やめろぉ! そんな目でカズマを見てやるなぁ! あれ? 俺も見られてる? あ、ごめんなさい。

 

「べべべ、べつに見てないし! つか、お前! ちょっとエロい体してるからって図に乗るなよ! こっちにだって選ぶ権利があるんだからな!!」

「なんだと! 貴様! 風呂場ではあんな事をしたくせに!!」

 

 ん? あんな事? やっぱりしてるじゃねぇか。もうそういう関係になっちゃえよ。

 

「あの時はサキュバスに魅了されて、操られてたんだ! というか、お前だってあんな風に簡単に流されて、どんだけチョロいんだよ!」

「お前、やっぱり、あの時の事を覚えてるじゃないか! それに私は敬虔なエリス教徒で、まだ清い体だ。それをチョロいだと……! ぶっ殺してやるぅ!!」

 

 そーだ! そーだ! とみんなもカズマを擁護し始めた、さてと、俺も便乗をしよう。

 

「そうだぞ、検察官だかなんだか、知らんが、カズマは別に好きでやった訳じゃねぇ、あの状況だったら、やらざる得なかったんだよ、感謝されこそすれ、捕まるなんて、あり得ないぞ」

 

 なんて言ってたら――。

 

「国家転覆罪は主犯以外にも適用される事がある。この男と一緒に牢獄に入りたければ、止めはしないが……」

 

 とメガネの位置を直す。その一言で全員がスイーと離れていく、アクアとめぐみんもだ。俺もできる事なら、前科持ちにはなりたくないが、カズマがこのままってのも、癪だし、仕方ない。捕まらない程度にフォローを。

 

「おい、セナさん。いくらなんでもおかしいだろ。あのなぁ――」

 

と言おうとしたら、アクアとめぐみんに止められる。

 

「やめなさい! リュウト! 犠牲は一人で良いの! カズマがお勤めを終えたら、私達でしっかりと労ってあげるから!」

「そうですよ! ここはつらいですが、我慢です!」

「あぁ? お前らだっておかしいと思うだろ、牢獄に入れられるんだぞ? 何も悪い事をしてねぇのに!」

 

 と言ってたら、向こうからウィズが顔を出して、自分がテレポートをしたと、言ってきたが、それをアクアが遮る。おい、意地でもカズマだけにするつもりか! 

 

 そこでダクネスが。

 

「わ、私だ! 私が指示したのだ! だから、その牢獄プレイ――じゃない、私を牢獄に!」

「は? 何を言っているのですか? あなたは肉の壁になったらしいじゃないですか」

「んぅ!!! 肉の壁……!」

 

 ダメだ。コイツ。

 

「やめろ、恥ずかしい!!」

 

 俺が叫ぶと、セナは若干呆れながら、話を変えて。

 

「と、とにかく、牢獄へ連れていかせてもらいます。サトウカズマ!! 一緒に来ていただこう!」 

 

 とそのまま連れてかれてしまいました……。俺が止めても、意味が無い。だったら、公の場でなんとかするしかねぇんじゃねぇの。

 その後、連れて行かれたカズマを助ける為に、アクアが作戦を立てた。

 

「めぐみんが爆裂魔法を放って、倒れてるめぐみんはダクネスが、それで追いつけられそうになったら、リュウトが追っ払って。守衛が驚いてるスキに私がカズマになんとか脱出の手立てを教えて、脱出させるのよ、そうすればいいわ!」

 

 頬杖しながら、俺はその話を聞いたが。

 

「バカか、爆裂魔法を使えるバカなんて、この街に一人しかいねぇんだ。すぐにバレるだろ」

「バカとは私の事ですか! それより一体どうしたら良いのですか……? このままではカズマは最悪、死刑になってしまいますよ」

「そんなの簡単だ。やる事っつったら一つしかねぇだろ。俺の力だよ!」

「「なるほど」」

「え? 何? どうするの?」

 

 まあ、理解してないやつはどうでもいい。

 

「とりあえずは、夜になるまで、待たないとな」

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 夜になり、俺が一人でカズマの捕らえられている場所まで行く。

 俺は静かに慎重に進みながら、出会った守衛には、気絶させると共に相手の記憶を抹消させながら、進む。

 

 そして小さな鉄格子を見つけ、俺はそこら辺にある箱を足場にしながら、覗くと、そこには体育座りしながら、顔を下にしてるカズマを見つける。

 

「おい、カズマ!」

「ん? あぁ、リュウト!」

「助けに来たぞ!」

 

 そうして、俺はまず、小さな鉄格子を消す。

 

「よし、えっと……ここに昇ってこれるか?」

「無理だ」

「……鍵をどうにか、できないか?」

「できない、ダイヤル式だ」

「……」

「……」

「お前の事は忘れねぇぞ」

「おい!! まさか、諦める気か!? 嘘だろぉ!?」

 

 そんな声が聞こえたが、俺にはどうする事もできなかった。ただ、一つ言える事があるとすれば、それは……。

 

「骨は拾ってやる」

「薄情者ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

「どうでした?」

「無理だ。どうする事もできない。まず脱出ができないようになってる。多分、どうする事もできない」

「……なんだ。全然使えないわね! やっぱり私の作戦の方が良かったんじゃないの?」

「……面目ない」

 

 今回ばかりは、俺に落ち度があった。どうにかできるかと思ったけど、鉄格子は高い場所に取り付けてあって、カズマは届かないし、箱は中に入れれないし、どうしたらいいんだ? クソ……。このままじゃ、本当に死刑になっちまうのか……。

 

「それにしても、本当どうしたらいいんだ。さすがに相手が国だと、手の施しようがねぇぜ……頭が痛くなってきたぜ」

 

 と頭を掻きながら、考える。

 

「これはもう、裁判を待つしかないな」

 

 とダクネスが言ってきた。裁判……裁判なぁ。裁判か……この中世の時代の裁判なんて、どうする事もできそうだな……嫌だなぁ、でっちあげとか普通にありそうで。

 

 くそ、仕方ないか……なんとか、裁判で無罪に持ち込んでやる。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 そうして、数日が経ち、いよいよ裁判の日。俺は心臓をバクバク言わせながら、席についていた。

 この心構えでなんとかできるのか? だ、大丈夫だよね……。スーハー……。見物人も多いし、緊張するなぁ、もう。

 

「えぇ、これより、被告人サトウカズマの裁判を執り行う」

 

 きたぁぁぁぁ!!! お、お、お、落ち着け……。つか、カズマの顔やべぇ、まあそうだよな。

 

「うえええぇぇぇ……!」

「うおおおお!! 大丈夫か! カズマぁぁ!!?」

「だ、だ、だ、大丈夫じゃねぇ……助けて欲しい」

「大丈夫ですよ、私があの検察官が涙目になるぐらいに論破してあげますから」

 

 めぐみんは爆裂狂でおかしな名前だが、頭は良いからな、一応。

 

「安心しろ、カズマ。今回の件に関して、お前は何も悪くない」

 

 おぉ、なんか頼もしいぞ、まあ一部除いて。

 

「まぁ、この私にドンッと任せれば良いと思うの」

「お前は喋るな! いいか、絶対だ! カズマの首が掛かってるからな!」

 

 念には念をさす。

 

「な、何よ、それ。まるで私が役立たずみたいじゃない!!」

「みたいじゃねぇ、そう言ってんだよ。わかるか!?」

 

 そんな会話をしていると、咳払いが聞こえてきた。そちらを向くと、何やら変な目でこちらを見て、髭を弄ってるヤツが居た。

 なんというか、悪徳領主ってあんなのをイメージするよね、ってぐらい典型的な悪徳領主だな。

 

「あれ、誰だよ?」

「あれが領主のアルダープだ」

「そうなのかよ? ありゃ、典型的な悪徳領主顔だぜ? あんなの領主で良いの? なんかいろいろ裏で狡賢く何かしてそうだよな」

 

 なんて会話をしていたら、裁判が始まった。はじめに検察官が前に出る。

 

「領主という地位の人間の命を脅かしたのは、国家を揺るぎかねない事態です。よって被告人サトウカズマには国家転覆罪の適用を求めます。証人をここへ」

 

 とはじめにやってきたのは、クリスだった。

 

「あはは、なんか呼びだされちゃった……」

 

 と頬を掻きながら言う。というか、アレだよな、多分アレだ。

 

「ということで、クリスさんは公衆の面前でスティールで下着を剥がれた。間違いないですね」

「えぇっと、間違いではないですけど、でもあれはそもそも――」

 

 と続けて言おうとしたら、突然、見物人の方から声が響く。

 

「私見たんです!! 路地でぱんつを振り回してる男を!!」

「その振り回していた男とは……?」

 

 と言って、見物人はカズマの方を指差す。クッソォ、反論できねぇぜェ……。こればかりはカズマが全面的に悪いとは言わないが、それでも下着を剥いだってのは事実だァ。

 

「事実確認が取れたようですね。それではありがとうございます」

 

 もう聞かんのかい。最後まで話はきかんかい。アンタ、絶対に検察官向いてねぇぞ。

 次に来たのは、ミカガミだった。うわぁ、懐かしい。久々に顔を見たよ。

 

「ミツルギキョウヤさんあなたは被告人に魔剣を奪われ、売り払われたと」

「ま、まぁ、その通りです。でも、あれはそもそも僕から挑んだ事でして――」

「ありがとうございます!」

 

 ひでぇ……。つか、ミツルギだったか、んーでもしっくりこない。やっぱりミカガミでいいや。

 そして次にミカガミの取り巻きの女二人が。

 

「そして、そちらの二人は魔剣を取り戻そうとしたのですが、脅されたのですね」

「そうです! あの人に、スティールで身ぐるみを剥いでやろうか! って脅されました!」

「そうですそうです!!」

 

 ふむ……。

 

「ちょっといいですか? あの、これで証明された訳ですよね?」

「そうですね。これで、証明された訳です、やはりこの被告人が――」

 

 最後まで言わせず、食い気味に俺は言った。

 

「いやいや、そうではなく、やはりこの被告人にそんな度胸が無い事が」

「は?」

 

 呆けた顔をするセナに俺は言う。

 

「一つ言いますが、いままでこのカズマがやってきた事は全部、不可抗力が入ってます。たとえば、スティールというスキルはランダムで何か一つ、物を奪う。

という事はたまたまぱんつが手に入った訳です、そしてミカガミキョウヤの場合も同じです。

先に勝負を仕掛けてきたのはミカガミなんですよ? それで報酬を得ただけです。

ほら、何も悪い事はしてない、むしろそれに文句をつけた彼女達の方が頭がおかしいと言わざる得ないでしょう。

もしも、そうして、得た物に文句をつけるのなら、彼女達はカズマにではなく、むしろミカガミに文句をつけるべきですよね。

ここまでくれば簡単です。今までの証人の中で一つとして、カズマが悪かった事など、無いのですよ」

 

 ハァハァ、ハァハァ……疲れた。噛まずに言えて良かった……。さすがに全部悪くなかったなんてのは言いすぎかもしんねぇが……いや、ここはこれぐらい言わねぇとな。

 

「そうですよ!! 今までの証言でカズマが悪いと言える事は何一つ無い!」

「そ、そうだ! それに俺は本当にあの時は俺はみんなを助ける為にやったんだよ!! テロリストでもなんでも無いんだ!!」

 

 と言う。そうだよな、あの場でこれを使って領主様を爆破させて、どうにかしてやろうぜ、なんて事を考えれる余裕なんてなかった。だから、これは不可抗力だ。仕方ない損失だったんだよ。

 

「何を嘘を! この魔道具で嘘は感知できるんですよ!!」

 

 となんだ、あの鈴みたいな道具、なんであるんだろうって思ってたら、そんな効果がある魔道具なのか……こわっ! そして、その鈴の方を見ると、何も鳴らなかった。これが最大の証拠だな。

 

「…………やはり、あまりに証拠が少なすぎますね……今回、被告人サトウカズマには無罪を――」

「おい、ちょっと待て。いいのか? そんな事をして、良いのか?」

 

 と領主は裁判長の方をジロリと睨みつける。

 

「う……被告人サトウカズマには有罪を……よって、判決は」

「はぁ!!? ちょ、ちょっと待てよ! さっきは無罪って!!? おかしいだろうがァァ!!!」

 

 なんだ? あの悪徳領主。何かしたのか!? クッソ、悪徳領主めぇ……その鼻っ柱をへし折ってやりてぇ!! クソ、どうしたらいい! さすがに俺は、権力までは消せないぞ……! 

 ちっくしょーめぇ……。とどうしようも無いと思った矢先だった。

 

 

「ちょっと良いだろうか、私の話を聞いて貰えないだろうか」

 

 

 とダクネスが口を開いた。なんだ、この状況で一体何をするつもりだ……? そうすると懐から何やら出てきた。なんだ? 紋章? そうしたら、全員がアッと驚く。

 

「それは、ダスティネス家の紋章……」

 

 ダスティネス? なんだ? 何なんだ? そうしていると、見物人の方から声が聞こえてくる。

 

「国王の懐刀と言われる、名家ですよ!!」

 

 や、やっぱりお嬢様だったのか。でも、思ったより大きい……。なんだよ、権力やべぇじゃねぇか。

 

「この裁判、私に預からせて貰えないだろうか」

 

 領主もさすがに格上の相手には何も言えねぇか。ハッ、ざまぁみろ。それにしても、ダクネスが初めてカッコよく見えた。

 なんというか、うん。あれだ。クルセイダーっぽい、まさに英雄だな。

 

「なかった事にしてくれと言ってる訳ではない、時間を貰えれば、この男の潔白を証明してみせる」

「いくら、ダスティネス家だろうが!」

 

 と机を叩くと、ダクネスが続けて。

 

「これは私からあなたへの借りにできる。だから私にできる事なら、なんでもしよう」

「……ッ! ほう、なんでも」

 

 うっわぁ、悪徳領主特有のいやったらしい目ですよ、死ねよ、マジで。あ、でもダクネスにはご褒美か? いや、さすがにあれはねぇだろ……セコイ感じがすっげぇ、うぜぇ。

 そんなこんなで――。

 

「被告人サトウカズマの判決を保留とする!」

 

 今回の裁判はダクネスの活躍でなんとかなりました。俺ってば、なんの活躍もできてないわ!

 

 

 

 

 




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我が名はゆんゆん

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると、幸いです。


「ぶわっくしょん!!」

 

 寒い……。それにしても、さっぱりした部屋になったもんだ。俺は今、屋敷に居る。そしてその屋敷のほぼすべてを持ってかれちまった。

 残念で仕方ないが、まあ潔白を証明すれば、なんとかなるだろ……はぁ……寒い。

 はぁ、それに……心も寒い。ダクネスは、もう一日帰ってこなかったし、なんか、アレだ……うあああああああああああッッ!!! 

 

 あの悪徳領主をぶっ殺すぅぅぅぅ!!!! 

 

 ぜってぇ、粉々にして、二度とそういう事ができねぇ体にしてやるぅぅぅ!!!! もう嫌だ、このまま黙ってると、嫌な気分に押しつぶされそうだ!! 

 

「うわあああああああああああッ!!!」

「わっ! どうした、カズマ」

「どうしたのよ!」

 

 と二人で反応すると。

 

「お前ら! いいか、ダクネスが一日帰ってこなかったんだぞ!! つまり……!」

 

「「……うわああああああああああああああああああっっ!!!」」

 

 やめろぉぉぉぉ!!! 俺はそれを考えないようにしてたのにぃぃぃぃぃぃ!!!! アクアも叫んでいる。でも知らない!!! もう嫌だぁぁぁぁ! 心が壊れそうだぁぁぁ!! 外に出る!

 

 気分転換に俺が外に出ようとしたら、めぐみんが猫を持って、来た。猫、猫、猫……。黒猫だ。かわいい。

 

「なんだ、めぐみん。それ」

「あの、絶対に迷惑は掛けないと思うのです……」

「なーお」

「つまり飼いたいって事か? カズマどうする?」

「ん、別に構わないが……名前はなんて言うんだ?」

「ちょむすけです」

「……えっと、今なんて――」

「ちょむすけです」

 

 食い気味にそう言っていた。

 俺はかわいいこの生物を撫でる。アクアも撫でようとしたら、爪で引っ掻かれた。うむ、猫に嫌われるとは、可哀想なヤツだ。本気で同情するぞ、アクア。

 俺は猫を撫でながら、癒されていた。

 

「それにしても、何を騒いでいたのですか?」

「いいか、めぐみん。ダクネスが一日帰ってこなかったんだぞ?」

「確かに、あの領主の悪い噂は耳にしますが、そんな簡単に――」

「あぁぁぁ、もう! まだお前はアイツの事をわかってない! アイツは、どうせ、ロクでもない事言ってるぞ、きっと!!」

「あ、あぁぁ、ダ、ダクネスが酷い目に!!」

 めぐみんもやっと、事の重大さに気付く。うん。だから。

「ダクネスが帰ってきたら、優しくしてやろうな」

 

 はぁ、なんというか、クエストを受けに行こう。お金をできるだけ、お金を増やそう。もう借金生活は嫌だ。いい加減、この生活から抜けたい。なんというか、始まりの街で借金をこんだけ、増やすって芸当。

 なかなかできねぇぞ。レベルは上がらないのに、なんで借金は増えるんだよ……。

 

 クエストは『ジャイアント・トードの討伐』。超ひっさびさにジャイアント・トードだ。ちなみに武器も取られている俺は、今回、ガチで使えない。

 筋力がいくら高くても、肉弾戦ではジャイアント・トードには勝てない。打撃は効きづらいからな。

 

「ガンバレー。『フルキャンセル』ぐらいはしてやるぞー」

「ぎゃああああああああああ!!!」

 

 必死の形相で逃げているアクア。俺の方には一切来ない。なんというか、笑いそうになるわ。ちなみに先程エクスプロージョンを発動させていためぐみんはもう既に使い物にならない。

 しかも使い物にならない時に食われてしまっているのだ。俺は一応、助けようと、引っ張りだして、代わりに食われそうになったが、なんとかなった。

 

 そしてその粘液でベタベタのめぐみんを背負っていて、凄く、気持ちが悪い……。しかも、めぐみんの爆裂魔法でさらにモンスターが増えた。今の火力は完全にカズマだけなので、非常にマズイ。合計でおそらく、五匹近く居る。

 

「『フルキャンセル』!!」

 

 アクアを追いかけているジャイアントトードの動きは止まる。俺のフルキャンセルで止めたのだ。さすがにあのままだと、粘液まみれが二人になる。それは嫌だ。

 

「カズマー。やってやれ」

「狙撃!!」

 

 そう、カズマは新たなスキル。狙撃を手に入れたのだ。凄いカッコいい。俺も欲しいぐらいだ。そして、狙撃をジャイアント・トードに喰らわせた。……効かない。

 

「……」

 

 俺は呆れつつ、見える全てのジャイアント・トードを止める。うっしゃ。でもどうしよう!! そんな事を思っていると。

 

「ライト・オブ・セイバー!!」

 

 光の刃がカエル達すべてを斬って、殺した。うっははー。すっげぇ事しやがんなぁ。

 誰だ? 俺がその魔法を放った子の方を見てみると、そこには真っ黒い髪に真っ赤な瞳のめぐみんとよく似た子が居た。

 というか、おそらく紅魔族だよな……。というか、今の超強そうな魔法だったんだけど、ヤバい。あれはヤバい。

 

 その後、カズマがめぐみんに『ドレインタッチ』で魔力を少し分け与えて、動けるようにして、とりあえずベタベタの体の俺は屋敷に戻って、風呂に入りたいな、なんて思ってる。

 

「誰だか、知らんが助かった」

「べ、別に助けた訳じゃないから! ライバルがこんなカエル程度に倒されると困るだけだから!」

「ふむ、ライバルってのは、めぐみんの事か」

 

 めぐみんの方に視線を移すと、めぐみんは立ち上がり、女の子の方を見る。女の子はそちらを見て。

 

「今こそ、永きに渡る、決着をつける時よ! めぐみん!」

 

 それに対して、めぐみんは。

 

「誰ですか、あなたは?」

「えぇ!?」

「大体、名前も名乗らないなんて、おかしいじゃないですか」

 

 ん? そういえば、この女の子も紅魔族なんだよな? だったら何も言わずに普通に名乗りそうだけどな、すっげぇ自信満々とした感じで、変なのに。

 

「これはきっと、以前、カズマが言ってた。オレオレなんとかってヤツなんじゃないでしょうか」

 

 カズマは何を教えてるんだよ。

 

「わ、わかったわよ! し、知らない人の前で恥ずかしいけど……」

 

 と決心したように。え? というか恥ずかしいの? え、もしかして紅魔族ってめぐみんみたいなヤツの方がおかしかったのか? いや逆にこの子みたいなのが、珍しいのか、うーん……わからん。

 

「我が名はゆんゆん。アークウィザードにして、上級魔法を操る者!! やがては紅魔族の長となる者!」

 

 とキメポーズもしっかりと取りながらゆんゆんはそう名乗った……。めぐみんはため息を吐きつつ。

 

「と彼女はゆんゆん。紅魔族の長の娘で、私の自称ライバルです」

「ちゃんと覚えてるじゃない!」

「なるほど。俺はリュウト、んでそっちのが、カズマ。よろしくな。ゆんゆん」

「あ、あれ? 私の名前を聞いても笑わないんですか?」

「何? 笑って欲しかったら、笑うけど、多分笑われたくないんだろ。君、めぐみんと違って普通の感性してるみてぇだしな」

「おい、私に文句があるなら聞こうじゃないか」

 

 そんなこんなで、勝負を始めようとする二人。何やら体術で勝負を決めようとしてる。めぐみんから言ったのだ。体格的にはめぐみんの方が小さい…………どっちも小さい。

 なんていうか、神様って残酷だよな、同い年なのに、ここまでの差を生んでしまうんだから。

 

「おい、私を見て思った事を言って貰おうか」

 

 やめろー俺はそんな残酷な事をしたくないー。

 とにもかくにも、とりあえず勝負を始めて、二人とも構えを取る。

 

「……ッ!? あ、あのめぐみん……その、あなたの体、テラテラしたままなんだけど……」

「えぇ、これは全て、カエルの分泌液……」

 

 ダッ! と駆けだすめぐみんに必死に逃げるゆんゆん。なんというか、ご愁傷様。

 

「いやぁぁぁぁ!! 降参ー!! 降参――ッ!!」

 

 だが、結局追いつかれ、寝技に持ち込まれていたゆんゆん。なんというか、本当に可哀想です。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 アクアは先にカエルをギルドへ、俺達三人は風呂場へと向かっている。先程、カズマが余計な一言を言った所為で抱きつかれてしまったのだ。

 これだけを言えば、ケッ、なんだよ。リア充爆発しろよ、なんて思うかもしれないが、めぐみんはヌルヌルのテラテラ、そのすべてがカエルの分泌液だ。

 

 正直、そんなの美少女でも抱きつかれたくない。少なくとも俺は抱きつかれたくない。

 それで、今は順番を決めている。何をって? それは決まっている。

 

「誰が一番最初に風呂に入るかだぁぁ!!」

 

 二人が攻めあっている。どちらが先かで喧嘩をしているのだ。ちなみに俺はその喧嘩をしてる間に、ちゃちゃっと入ろうとしたら、止められそうになるが、その前に『フルキャンセル』を使って、二人の動きを止める。

 

「俺が洗うまで、そうしてろ」

「汚ねぇぞ!! リュウトォォォおお!!」

「そうですよ!! ここはレディーファーストではありませんかー!!」

「汚ねぇ……? レディーファースト……? フッ」

「おい! それはどういう意味だぁ!!」

「今、どこ見て笑いましたか!? どこを見て笑いましたか――ッ!」

 

 そんな話を無視して俺は風呂に入って、体を綺麗に洗った。ちなみに三十分以上、洗った。念入りに念入りに洗った。ポカポカした俺は、二人に睨みつけられた。俺はその二人に対して。

 

「解いて欲しくなかったら、そう言ってくれよ。じゃあな」

「「待ってください!!!」」

 

 俺は解いてやり、文句を言いたそうな顔をしていたが、とりあえず、二人でまた喧嘩をしている。

 それで、そのままなんか知らないけど、二人で入る事になっていた。アホなの? 俺は何も思わないけど、とりあえず、一つだけ言おう。

 

「ロリコンは大概にな?」

「ち、ち、ち、ちげぇぇ!!!」

 

 

 

―――――

 

 

 

 翌日。

 

 借金返済という目的がある俺達はウィズの店に魔道具を売りに来ようとしていた。やはりクエスト報酬だけでは、足りないのだ。そうだ、圧倒的に足りないのだ。あと、俺も武器を返して欲しい。

 

「ウィズ、これ買い取って欲しいんだが」

 

 とカズマが水晶玉を持って言う。ちなみにこれはそこそこ高い――と思う。

 

「あ……」

 

めぐみんがそう漏らすと、そこにはゆんゆんが居た。そしてゆんゆんは身を乗り出しながら。

 

「な、なんという偶然! なんという運命の悪戯! やはり私とめぐみんは永遠のライバル!」

「あ、この方。カズマさん達が良く来ると聞いて、ここに朝からずっと待ってらしたんですよ?」

「なななな、何を言ってるんですか! 店主さん!! 私はマジックアイテムを買いに来ただけで!! あ、これください!!」

 

 なんというか、面倒臭い子だな……。

 

「何もそんな回りくどい事をせずに、俺達の屋敷に訪ねにくれば良かったのに」

 

 まったくもってその通りだな。俺もそれに頷きつつ、同意してると。

 

「え、でもいきなり家を訪ねるなんて……」

 

 んー……やっぱり面倒な子だ。

 

「煮え切らないですねー。これだからぼっちは」

 

 え? 今、嫌な言葉が……。

 

「し、失礼ね、友達ぐらい居るわよ! ふにふらさんやどどんこさんが私が友達よね? って言ったら、友達だよって言って、私の奢りで一緒にご飯を食べてくれたり!」

「や、やめろ! それ以上は聞きたくねぇ!!」

 

 それは友達って言わない。カモって言うんだ。

 

「で、爆裂魔法しか使えない私としては、できるだけ魔法勝負は避けたいのですが」

「ま、まだ魔法を覚えて無かったの? スキルポイントも溜まったはずでしょ?」

「えぇ、漏れなくすべてを爆裂魔法に費やしました」

「バカ! どうしてそんなに爆裂魔法にこだわるの!」

 

 確かに言えてる。

 

「それで、ゆんゆんっつったけ? 君はなんでそんなにめぐみんにこだわるんだ? めぐみんってそんなに優秀なのか?」

「えっと……その……」

 

 ふむ、これは典型的なコミュ症だな。まあいい、気長に待とう。

 

「ええ、私はいつも一番で、ゆんゆんはいつも二番でした」

 

 え、永遠の二番手ってか……。なるほど、だからライバルね。

 

「勝負、勝負って同級生なのに殺伐としてるわね。あ、これなんて良いんじゃない? 仲良くなる水晶」

 

 と水晶玉を出してきた。おぉ、すっげぇな。

 

「あぁ、これは熟練した魔法使いじゃないと上手く使えないんですよ」

「う、上手く使えたら、仲良しになれるんですか!!?」

「仲良くなる必要が微塵も感じられないのですが……」

「怖気づいたの? めぐみん」

「あ?」

 

 おぉ、煽り耐性ゼロだな。めぐみん。

 そんなこんなで、勝負が始まった。やはり紅魔族は伊達じゃないようで、成功している。そして、そこに映っていたのは――。

 

 まずはめぐみんだ。めぐみんは生活がとても苦しかったのだろう。なんというか、残ったパンの耳をごっそり盗っていってる。ちなみにゆんゆんの方は一人で誕生日会を開いていた。その、正直見るに堪えなかった……。

 それからしばらく、まさに黒歴史とも言えるモノが映し出されていた。そして、堪えかねためぐみんがその水晶玉をガシャーンと割りやがった。

 

 これって……ただ、黒歴史を見る為だけの魔道具じゃね? 悪魔の道具だな……。

 ウィズ曰く、これでお互いの事を良く知り仲良くなれるらしいが、それは仲良くというよりは同情に近い気がする。

 なんなの、もう……。

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


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キールダンジョン

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると、幸いです。


「ダンジョンに潜ります」

「嫌です」

 

 そんな口論がずっと続いていた。今日この頃、ちなみに俺はどうでも良いなぁー、って感じで頬杖つきながら、聞いていた。

 ダンジョンに潜ろうが、潜らないだろうが、どちらでも俺は役立てる――立ててるよな……?

 

 そうして、結局、潜る事になった。ちなみにめぐみんは完全に役に立てない。

 いわば一般人になってしまったので、一人でダンジョンの入り口で待ってもらわないといけないのだ。

 

 ちなみにダンジョンはキールダンジョンと言われるらしく、初心者ダンジョンだ。無論、初心者ダンジョンというだけあって、もうほぼ全て探索されていて、正直、潜っても無意味――と思われるだろうが、実は、まだ未探索の場所が見つかったのだ。

 

 そして、今回は特別に斡旋してもらったのだ。これもカズマの行動があってこそなのだが。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 そして、大分、街から離れた場所にあるダンジョンエリアだ。

 

「へぇ、結構、離れてるんですね。これなら爆裂魔法を撃っても大丈夫そうです」

 

 と杖を構えてるアホ。俺は。

 

「絶対に撃つなよ。今から潜るんだから」

「こほん! むかーしむかし、国最高のアークウィザードが造ったダンジョン。いったいこんな所に造って何をしていたのでしょう」

「んじゃ、とりあえず、俺一人で潜って、先に調査してくるわ」

 

 そう言って、カズマが先に進んでいく。それに有無も言わさず、付いていったアクア。カズマは初めは渋っていたが、結局、押されて付いて行ったのだ。

 

「……そんじゃぁ、俺も行きますか」

「え? 私一人にするつもりですか」

 

 ビッと俺の指差した方向にはちょむすけが居た。

 

「……まさか、ちょむすけと二人にするつもりですか」

「……」

 

 勢い良く頷く。当然だ。だって、アイツらだけじゃ正直、不安だもん。

 

「ま、大丈夫だ。どうせ、すぐに帰ってくるだろうし。正直、あの二人だけだと、なんかこう……嫌な予感がするんだよなぁ」

「……それは言えてますね、早く行ったほうがいいですよ」

「悪いな」

 

 俺はそんなこんなで、アクアの後ろに付いて行った。初めに階段があり、俺は下って行くとすぐにカズマを見つけた。

 ちなみに中に入っていくと、もうそれは真っ暗。正直、俺はもう真っ暗で何も見えない、だが気配はわかるので、一応は足を踏み外したりはしない。あと、怪我をしても、基本的にどうとでもなる。魔力が凄まじくて、ヒールが使える、アークプリーストが居るからな。

 

「それにしても、いいな。敵感知と千里眼か。使える使える」

「そうだなぁ、お前は素で化け物な気がするけど」

「いや、これはこっちに来て、身に付いたんだけどな、そういうのは無いけど、なんとなく気配が読めるようになって」

「それにしても、アクア。お前、見えてるのか?」

「私を誰だと思ってるの? アークプリーストとは仮の姿、ほら、言って!

 二人とも、めぐみんとダクネスは頑なに信じようとしないけど、私の正体をほら、言ってみて」

「なんだ、うるせぇぞ、宴会芸もとい借金をこさえてくる神様」

「そうだぞ、借金の神様」

「ちっがうわよ!! 水の神様でしょ!! いくらこっちに来て、力が弱まったとは言え、神様らしい力の一つや二つ、あるわよ!」

 

 と言いながら、近くにあった、宝箱に駆け寄って、それを調べ始めた。なんというか、アレだな。見えてはいるんだな。

 そんな事を思っていると、宝箱を置いて、こちらに近づいてきたときに、何かに躓いたのか、倒れこむ。

 

(大丈夫か……本当に)

 

「ダンジョンにはね、アンデットが居るものなのよ、そして彼らは生者を感知して、近づくものなの、そんなヤツに潜伏スキルなんて使えないわよ?」

「そーんなもんか……?」

 

 そんなこんなで、新たに見つかった部屋に繋がる道をトラップを解いて、先に進む。ここからが本番だ。

 

「ここから先が未知の領域ね。お宝ざっくざくじゃない?」

「でないと困る」

 

 そんな風にカズマが返しながら、俺達は先に進んでいく。階段を下りていく、前からカズマ、アクア、俺だ。

 先ほどから、二人ともビクビクしながら進んで行ってる。まあそうだろうな。かく言う。俺も怖いが、そこまで前に出さないので、怖がって無いように見えてると思う。怖いけど。

 

「わ、私の曇りなき眼には、カズマが怯えてるように見えてるんですけど?」

「こっちだって、お前が物音する度に怯えてるのが、しっかり見えてるんだからなぁ!」

「私はこの中でも走って逃げれるから! 敵が接近したら教えてね。あとこの暗闇に乗じて、おしり触ったりしないでね」

「俺が今、何考えてるか、教えてやろうか? どうやったらお前をダンジョンの奥深くに置いて行けるかだよ」

「……や、やだもう、カズマってば、冗談ばっかり、クスクス」

「おいおい、俺達もう結構長い付き合いなんだから、冗談じゃないぐらい分かるだろ? アハハハハ」

「……はぁ。お前ら……」

 

 と呆れていると、何かが近づいてるのに気付いた。俺はとっさにカズマに目配せする。それにカズマも気付く。俺はジェスチャーでアクアに伝える。だが――。

 

「何、何? 指芸披露? ちょっとリュウト! もっと明るくしないさいよ! 犬とかそんなのじゃなくて、機動要塞デストロイヤーを見せてやるわ!」

「バカ野郎!! 敵が来てるから、下がってろって言う合図だよ!!」 

 

 俺がつい叫んでしまう。それに反応したのか、一気に駆け上ってきた。え? ちょ、早い!!!? ボロボロになりながらも、俺はなんとか倒した。 ちなみにクエストの報酬で一番安い剣を買ったので、戦いは楽になっている。なんというか、悲しいかな。一番安いやつじゃないといけないというこの事実が……。

 

「なんだ……この化物……?」

 

 泣きながら、アクアが。

 

「グ、グレムリンって言う下級悪魔ね。ダンジョンには弱い悪魔がたまに湧くのよ」

 

 ふーん……なんて思っていたら、カズマがふと何かを思い出したかのように、言う。

 

「な、なぁ、アクア。お前ってどこまで暗闇でも見えてるんだ?」

「え? 昼間とほぼ変わらないわよ?」

「あの、前に俺が夜中ゴソゴソしてるの知ってたって言ってたよな?」

 

 ん? そんな事言ってたか? あぁ、俺が居ない時かな?

 

「あぁ、ゴソゴソしだしたら、反対向いて寝るようにしてたわ」

「…………ありがとうございます」

 

 …………カズマは結構、凄いな……いや、仕方ないのか?

 

 それからどんどん先に進み、結構奥まで来たな。途中で何かありそうな物はしっかりと調べていたが、今のところ、ロクな物が無い。そして、先に進むと、そこには亡骸が――。

 

「ふわああああああああッッ!!」

「……ッ!?」

 

 亡骸に驚いたカズマに驚いた俺はつい驚き、肩を震わせる。

 

「な、なんだ。冒険者の亡骸か……この先に何かあるのか?」

 

 そう言って、先に進もうとすると、アクアがストップを掛ける。

 

「ちょっと待って……」

 

 とアクアが何か、女神らしく、その亡骸を成仏させた。

 

「アクア……今日のお前――」

 

 と言おうとしたら――。

 

「ちょっと、カズマ、さっき、ふわああああっ! って……! 一人で行くなんて粋がってたのに、プークスクス!」

「お前、本当にダンジョンの奥に置いていこうか!?」

 

 うわぁ、せっかく女神らしかったのに、今まで女神らしかったのに……。本当に残念だ……。

 そうして、さらに先に進んでいく、とそこは小さな小部屋だった。そこで、俺達はゴソゴソと探っていた。

 

「チッ、ロクなのねぇな」

 

 俺はそんな風にぼやきながら――。

 

「ねぇ、リュウト、あんまりそう言うのやめてくれない? なんか、コソドロの気分になってくるんですけど」

「やめろ、俺も気にしてんだよ」

 

 それにしても、本来なら、きっともっと警戒して進みながら、もっといろんな事があるはずなのに、俺達と来たら……真面目にやってきてる人達にとったら、邪道もいいところなんだろうなぁ……なんて思いつつ、進めていた。

 

「あ! 見て見て! あそこに宝箱があるわ!!」

 

 と嬉々として近づこうとしてるアクアに。

 

「ちょっと待て!!」

 

 カズマが止める。そして、落ちていた石をそちらに転がすと、大きな口が出てきて、その口を動かしていた。もしも、ここでアクアが普通に近づいていたら――想像するに難くない。

 

「ア、アクア……もう少し慎重に動け。俺は嫌だぞ。お前がグチャグチャになってるのを見るのは……」

 

 真っ青な顔になりながら、俺は言う。そういえば、ダンジョンもどきとか言うモンスターが居たなぁ、なんて思い出しながら。

 もっと先に進んでいく、その間、アクアが『ターンアンデット』を使って、ダンジョンに彷徨っている魂を還してあげたり、まるで本物の女神様のような事をしていた。……あ、そういえば本物だったか。

 

「なんというか、アクアが居なかったら、ヤバかったな」

「そうだな。でも気になる事もあるんだが……」

「あ、やっぱり? いくらなんでも、アンデットの数が多すぎる気がしてたんだよ、俺も」

「だよな……」

 

 二人して黙考をしていたが、やはりこれはおかしいという結論に至り、少しだけアクアに聞いてみようとしたら、アンデットがまだアンデット臭がするとか言って、辺りの臭いを嗅ぐ。

 その姿はまるっきり犬である。そして、探している内に、また新たな場所を見つけ出すアクア。こればかりはアクアの手柄だ。

 

 俺達がそれに気付いたら――。

 

「そこにプリーストがいるのか?」

 

 声が響いた。声の主はどうやらこの先に居るようで、俺達は奥へと入っていくと、そこには魔王が座りそうな椅子に座っている男を発見した。

 そいつはフードを被っており、顔はよく見えないが、どう見ても、人間ではなかった。

 

「私はこのダンジョンをつくった者キール。貴族の令嬢を攫った悪い魔法使いさ……」

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 ある所にそれはそれは、民から尊敬された魔法使いが居た。その名はキール。王様はそのキールという者にどんな願いでも一つだけ叶えてやると、そう言ったのだ。

 そして、そのキールという男は言った。自分の愛する人がもう虐げられないようにして欲しいと、彼女はご機嫌取りの為に嫁がされた女性だった。その女性は王にも気にいられず、日々、虐げられていたのだ。

 

 

 キールはその女性を愛していた。

 

 

 いらないのなら、自分が欲しいと、自分にくれと、そう言ったのだ――。

 

「そういって、私はその令嬢を攫ったのだよー」

 

 とかなり軽薄な感じでそのアンデットは言った。なんというか、先程のテンションと今のテンションではまったく違うじゃねぇか、ちょっとだけシリアス期待しちゃったじゃねぇか!!

 

「というか、話を聞く限り、悪ぃってよりは良いって感じだな……」

 

「まあ、そういう事かなー? で、その攫ったお嬢様にプロポーズしたら二つ返事でOK貰っちゃった! お嬢様と愛の逃避行とかしちゃってねぇ、王国とドンパチやったわけだぁ、いやぁ、あれは楽しかった、ちなみにその攫ったお嬢様がそこに眠ってる人だよぉ? どう鎖骨のラインとか美しいだろ?」

 

 そのお嬢様は既に骨と化しており、鎖骨のラインとかモロすぎて困る。ちなみに先程からずっとアクアがこのアンデットを消そうとしているのを俺は止めている。

 まあ、女神だから。アンデットをぶち殺そうとするのは、俺達がゴキブリを殺すのと同じ感じなのかもしれない。

 

「どうと言われても……」

「困るとしか言いようが……」

「この方は安らかに成仏してるわね」

 

 そして、キールが滅茶苦茶テンション高めだったのが、すんなりと落ち着き。

 

「でだ。君達にお願いがあってね、私を浄化して貰えないか。彼女はそれをできる程の力を持ったプリーストだろう?」

 

 その願いを叶える為に、アクアが魔法陣を描いてる。さすがにここまでくれば、やっぱりそういうのも必要になるのか? 

 ちなみにキールという男はお嬢様を守る為に、人間である事をやめて、リッチーになったらしい。

 

 お嬢様を守るため、リッチーになる、なんか、カッコいいな……。

 

「さっ! 準備OKよ」

「いや、助かるよ、アンデットが自殺するなんてシュールな事できなくてね、ここで朽ち果てるのを待とうとしてたら、とてつもない神聖な力を感じてね、思わず、私も永い眠りから覚めてしまったよ」

 

 そんなこんなで、アクアがキールを浄化している。その姿はまさしく女神と言っても過言ではなかった。それはまさしく女神だった。俺はそれを見ながら、カズマに。

 

「アレは誰だ?」

 

 とつい言ってしまった。ちなみにカズマも。

 

「俺達のパーティのアクア……らしい」

 

 とこんな感じに軽く半信半疑になっていた。

 その後、キールから譲り受けた宝を持って、俺達は帰ろうとしていた。カズマがふと、こんな事を質問していた。

 

「なぁ、アクア。あの人、とてつもない神聖な力を感じて、目覚めたって言ってたけど、お前が一緒に居るから、アンデットがこんなに寄って来てるわけじゃないよな……?」

「なななな、何言ってるの……そそそそ、そんな訳ないじゃない」

 

 おっと、この反応は――?

 

「そういえば、アクアってさ、デュラハン戦の時も、なんかアンデットに追い掛け回されてなかったっけ?」

 

 と余計な一言を付け足して、ずいずいと距離を取るカズマと俺。

 

「ね、ねぇ、二人とも……どうして、そんなに距離を取るの? いつモンスターが襲ってきてもいいように、私達もうちょっと近くに居るべきじゃないかしら?」

 

 そう言った瞬間、もっと離れたカズマと俺に。

 

「ねぇ、ちょっと待って! 私が居たから、二人はなんとかなったんじゃない。私をこんな所に置き去りにしたら許さないわよ! ねぇお願い待ってぇ!!」

 

 泣いて縋り付いてくる、いつものアクアにちょっと安心しながらも。

 

「うるせぇ! そのお前が、アンデットを引き寄せてるんじゃねぇか!!」

「ダメよ! 他のモンスターだっているんだから!!」

 

 そんな口論を続けていたら、後ろからとてつもない量のモンスターがこちらに迫ってきていた。カズマは静かに呟いた。

 

「潜伏……」

 

 俺はそんなカズマに捕まりながら、潜伏していた。その間、泣き叫ぶアクア。

 

「ちょっと! 悪い冗談はやめてよね! カズマ!? カズマ様ぁぁ!!」

 

 結局、その後、大量のモンスターを俺が駆逐しながら、戻るのだった。

 

 

 

―――――

 

 

 

「カズマがぁ、カズマがぁぁ」

 

 と泣き叫びながら、ダンジョンの外に出たアクア。そして俺達の方を冷めた目で見るのはめぐみんだ。

 

「ちょ、ちょっと待て。俺だけじゃない、コイツだって!」

 

 と俺の方を指差す。

 

「ん? まあ、結局助けてやったんだから、いいだろ。どうでも」

 

 それにしても、あの量はヤバかった。すっげぇ、本気で逃げた。

 

「しょうがないだろ! コイツがアンデットを引き寄せる体質なんだから!!」

「だって仕方ないじゃない! 私は神聖な魔力を持っているんだから! 何? 私がカズマ並のヒキニートになれって言うの!? そんな事をすれば、敬虔なアクシズ教徒がどれだけ嘆き悲しむか!!」

「このヤロー。全然反省していやがらねぇ!!」

「落ち着けよ、カズマ。どうせコイツは言ってもわからないし、まったくあの二人の純粋さを少しは分けて貰った方が良いと思うがな」

「あー!! リュウトが私にアンデットを見習えとか言った――!!」

 

 そんなこんなで、いろいろあったが、キールダンジョンの調査は終わった。俺達はその調査の報酬として、大分お金を貰った、当然だが、それは借金に当てる。だが久々に酒ぐらいは飲もう! その後、ギルドへ戻り。

 

(ふぅ……ちょっと酔った気がする……)

 

 なんて事を思ったりして、少しだけテンションが高くなっていた。その後、ゆんゆんが来たり、たゆんたゆんしてたり、アクアがカズマに介抱されたりで、今までと変わらねぇな、と悲しさを覚えた。……借金はまだ返済できてない――。

 

 

 

 

 




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ダクネスのお見合いぶっ壊し計画

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると、幸いです。


「……」

 

 寒い屋敷の中、地べたに頬杖つきながら、横になってアクアとカズマのいざこざを眺めていた。

 何やら高級クリムゾンビアを取り合って喧嘩をしている。やはりひもじいというのは人をイライラさせてしまうのだろう。あ、今『スティール』でアクアの羽衣取った。

 

 今、特に何か問題があった訳ではない、どちらかと言うと、何も音沙汰がない事が問題なのだ。

 それはダクネスの事だ。そう、ダクネスがずっと帰ってきてないのだ。まったくもって、音沙汰が無い。というか、もしかしたら帰ってこないかも――いや、それならそれでいいのか? いやでもこういう形では……。

 

 すると突然、バタンッ!! と勢い良く扉が開いたと思ったら――。

 

「大変だ!! 大変なんだッ!!!」

 

 そこには綺麗な女性の人が立っていた。姿はまさに良家のお嬢様という感じだ。んー……? 知り合いに居たか? 

 こんな女性。居たら俺はきっと夜も眠れなくなるだろう。まあ、もうこの悪ふざけはいいか……良家のお嬢様、金髪、豊満な体。ここまでくれば、誰かわかるだろう? 

 ――ダクネスだ。見た目がここまで違うと、誰もドMクルセイダーとは思わないんじゃないだろうか。

 

「「「誰?」」」

 

 他の連中が本当にわからないという感じでダクネスに対して言う。やめろ!! そういうのはアイツを喜ばせるだけだ! 

 ほら、少しだけ体を震わせちゃっただろうが!! だから俺は即座に答えた。

 

「ダクネスだろ」

 

 俺の言葉に全員が驚いた。ちなみにまた震えるダクネス。

 カズマはあからさまに喜びを示す。すると一番最初に縋り付いたのはアクアだった。

 

「ダクネス!! カズマが、私を脱がして!! それを売りに出そうとしてるの」

 

 間違っちゃいない。間違っちゃいないが、少しだけ語弊があるような気がする。というかわざとだろ。ダクネスもちょっとだけ興味を示したようだし……。

 

「おーい! 言い方ぁぁ!!?」

「ダクネス、お帰りなさい……」

 

 とめぐみんはちょむすけを抱きかかえながら、少しだけ近づいていく。

 

「お、おお。めぐみん、ただいま。その猫……?」

 

 と猫の存在を気にしたダクネスだったが、めぐみんは涙目で顔を片手で覆いながら。

 

「まずはゆっくりとお風呂に入って、心と体を癒してください……」

「な、何を言ってるんだ? そ、それよりもアクアが言っていた事が気になるのだが――」

 

 とやはりそちらに興味津々で、いろんな意味で裏切らない平常ダクネスに対して、アクアがダクネスの着ている服を撫でながら。

 

「間違いないわ……高級品よ……うぅ」

「苦労掛けたなぁ……」

「なんというか、俺がもう少し、情け容赦なく、あの悪徳領主を『フルキャンセル』できたら……」

 

 全員で泣いていた。ダクネスは辛い思いをして帰ってきたのだ……今日は精一杯彼女を癒そう……うぅ。

 

「な、何を勘違いしているんだ!! 領主に弄ばれたとでも思っていたのか!? さすがにあの領主もそんな度胸は無い! それよりもこれを見てくれ」

 

 と差し出してきた紙。そこにはイケメンが映っていた。カズマはそれを受け取り、一も二もなく、ビリッと破いた。

 

「何をする!!?」

 

 さすがにそれはダメだろ――カズマ……。

 

「アクアってこういうの得意だろ? 直せるか?」

 

 と俺は紙を差し出すと、胸を張りながら。

 

「任せなさい!」

 

 と俺は紙を渡して、米粒でせっせと直していく、こういうのに関しては素直に感心する。

 

「それにしても、これがあの領主のねぇ……まったく似てないぞ」

「アイツはカズマの猶予を延ばす事を条件に私に見合いを申し込んでな……私が帰ってこなかったのも、それをどうにか阻止しようとしていたからだ、私の父もアルダープはともかく、息子の事は高く評価しているのだ……一番乗り気なのが、私の父なのだ……頼む! 父を一緒に説得してくれないか!」

 

 でも、息子の出来次第って感じなんだよなぁ……見た目は全然イケてるみたいだし、特に問題は無い気がする。

 それどころか、ダクネスという筋力と生命力は凄まじいが、剣術はダメダメ、ドMですぐにモンスターに突進していく。

 そんな問題が多い、彼女が言ってみれば、寿退社するのだ……だけど、彼女だって、盾役としてはかなり優秀だ。

 それを簡単に手放しても良いものか……仲間は多いに越した事は無いし……うーん。

 

 悩んでいると、直した紙を見ながら、カズマはこう叫んだ。

 

「これだぁぁぁぁぁ!!!」

 

 とアクアが折角、直した、紙を真っ二つに裂いた。発狂なのか、それとも何かを考えたのか、いまいちわからない行動を取ったカズマはきっとロクでもない事を考えているのだろう。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

「見合いを受けろぉぉぉ!?」

「ダクネスがこのまま冒険者を止めても良いんですか!?」

 

 アクアが裂いた紙を見て、泣いてる中、二人がカズマを責め立てる。それもそのはずだ、大事な仲間が困ってる中で、あえてそういう事をしようとしてるのだから。

 

「見合いを断ったところで、あの領主は相当の無理難題を吹っかけてくるに決まってる! だから受けた上で、それをダクネスの家が傷つかない程度にぶち壊す」

 

 ふむ、一理ある。

 

「それだ! それで行こう! だったらお見合いの度に、家に戻って、いちいち父を張り倒さなくても済む!!」

 

 い、いちいち張り倒しに行ってたのか……。よほど嫌なんだな……それにしても、カズマのヤツは何を考えてる? 

 わかってるぞ、コイツが言ってるのは間違いなく、建前だ。こんな事を言うのはカズマらしくない、日頃から自分のパーティに文句をつけいたアイツがここぞという時に限って――いや、ここぞという時に役立つのが、コイツか……だったら、結構真剣に考えてくれてるのか? 

 

 もし、そうだったら、俺の考えが失礼か……。ま、とりあえずはコイツに任せるか。

 

「サトウカズマ!! サトウカズマは居るか!!」

 

 またかよ――。最近、結構見てるんですけど、検察官。

 

「今日はなんだよ?」

 

 俺が言うと。

 

「街に雑魚モンスターが蔓延っている。キサマの仕業ではないのか? 出頭してもらおうか」

 

 はぁ、コイツは何かある度にカズマの所為にするつもりか? 

 

「ダメです。今、私達の仲間が危機に陥ってるのですから、そんな事に構ってられません」

「……確か、雑魚モンスターが蔓延っているんだよな?」

 

 とカズマがセナに聞く。

 

「そうだが?」

「だったら、めぐみん、お前の爆裂魔法の出番じゃないか……! これはお前にしか頼めない事なんだ。最強の魔法使いのお前にしか……」

「私に……しか……。し、仕方ありませんね! ではさっそく行きましょう!!」

 

 お、おぉ……扱いが上手い……。

 

「ついでに、リュウト、お前も行ってきたらどうだ?」

「いいえ! 必要ありません! この最強のアークウィザードの私一人で十分です!!」

「そ、そうか……、た、頼むぞ、めぐみん……」

 

 とカズマが若干、上手く事が運ばずに困惑した感じになっている。やっぱりコイツは何かを企んでるな。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 お屋敷は広い……。俺達はダクネスの実家に連れられて、ダクネスの父親と会っていた。どうも、ダンディーなお父さんだな。

 イケメンで、それでいて、なんというか、娘に甘そうなイメージ、というか実際そうだろ。

 

「ほ、本当にいいのか? ララティーナ……」

「はい、お父様。ララティーナは此度の見合いを受けようかと思いますわ」

 

 肩をプルプル震わせている俺、二人も堪えきれず、噴出しそうになっている。だって、キャラが違いすぎるんだもん。さすがにそれは反則でしょう……。クッ……ククク……。

 

「それで、そちらの方は……?」

「あ、わ、私の冒険者仲間です。今回のお見合いに臨時の執事とメイドとして同伴させようかと」

「そうか」

 

 そんな訳で、俺達は着替えている。カズマと俺はスーツ。アクアはメイド服だ。あんまり窮屈な服は好きじゃないんだが……たまにはこういう格好も悪くない。

 

「サイズはどうですか?」

「ん、大丈夫みたいです」

 

 と鏡の前で整えていると。

 

「おぉ、ちゃんと似合ってるじゃないか、一流の使いっ走りに見えるぞ」

「あら、カズマこそ背伸びしてる執事見習いに見えるわよ?」

「おぉ、お前、そういう事言っていいのか? もしも、ここじゃなかったらすんごい事してるぞ? なぁ、ララティーナお嬢様」

「ら、ララティーナお嬢様はやめろぉ!!」

 

 俺は鏡を見たまま。

 

「何、気にする事ないだろ、ララティーナお嬢様」

「だからやめろぉぉぉおおお!!!」

 

 そんなこんなで、お見合い相手を待つ。親父さんからは頼むと言われてしまったが、ラ……ダクネスが嫌なんだから、このお見合いは成功させないようにしないといけねぇだろ。

 

「それにしても、受けて貰って、うれしいよ」

「いやですわ、ララティーナは見合いを前向きに考えると言っただけですわ。そして考えた結果!! やっぱり私には嫁入りは早いという結果に至りました! ぶっ壊してやる……! こんな見合い! ぶっ壊してやるぅぅぅ!!!」

「ら、ララティーナ……」

 

 さすがのお父さんもドン引きだぞ、ララティーナ。

 

「はしたない言葉遣いはやめてください。お嬢様……先方様に嫌われてしまいますよ」

「キサマ、裏切る気か!?」

「今の私は臨時執事。お嬢様の幸せが自分の望みです」

「か、カズマ君……!」

「カズマ、キサマァ!!」

 

 と掴みかかるダクネス。いやぁ、こういう手を取るつもりだったのか、ま、大方の予想はついてたけど、なんというか、酷いなぁ、今回も。

 

 キィィ、と扉が開かれる。そこに居たのは、イケメンな領主の息子。確か、名前はバルターだったっけ? とか思ってた瞬間、ダクネスが走って向かう。

 

「お前がバルターか! 私の名前はダスティネス・フォード・ララティーナ! 私の事はララティーナ様と――」

 

「お嬢様! お足元にご注意を!!」

 

 とスカードの裾を踏んで、転ばせた。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

「手助けしてくれるのではなかったのか!?」

「お前、名前に傷が付かない程度ってのを忘れてるだろ?」

「まぁ、それは言えてるな……」

「いいではないか! 悪評が立てば、もう嫁の貰い手など無くなる! 冒険者稼業を気兼ねなくできる! 私は親に勘当されるのも覚悟の上だ!! それでも生きようと無茶なクエストを受けて、力及ばず、魔王軍の手先に捕らえられ……いろいろされて、私はそんな人生を送りたい!!!!!」

 

 ……コイツはアレだ。あの……もうあのバルターってヤツに貰われるべきではないだろうか。

 

「おい、アクア……コイツ、やっぱりあのバルターに貰われた方が幸せじゃないか?」

「……ノ、ノーコメントでお願いするわ……」

 

 それはもう、貰った方が良いとか思ってるだろ。お前……。

 

「大体、あの男は私の好みではない……」

 

 なんだ? あの男、超爽やか、好青年だったじゃねぇか? あ、もしかしてあの顔の裏はやっぱり領主の息子らしく、ゲスいとか? そういえば、バルターってヤツは養子だったんだっけ? なんかそんな話してた気がする。

 

「人柄が良く、誰に対しても、怒らず、努力家で、最年少で騎士に叙勲された腕も持つ……」

 

 えぇ? 何それ、絵に描いたような好青年なんですけどぉ……そんな人間が存在するのぉ? 非の打ち所が無いって言葉を俺は始めて目で見た気がするぞぉ……?

 

「あ、あの、それって非の打ち所が無い。まさに最高なんじゃねぇのか……?」

 

 勢い良く、首を縦に振っている二人。だよな? 何か理由でもあるのか?

 

「どこが、最高だ! 貴族ならば、貴族らしく! 常に下卑た目を浮かべていろ! あの曇りも無い真っ直ぐな視線はなんだ! もっとこう……よくカズマがするような、舐め回すような視線で見られないのか!! お前は正直、たまにで微妙だ。」 

 

 とこちらに指を指すダクネス。なんか俺はなじられた気がする。

 

「みみみ、見てねぇし!!」

 

「……ま、まぁ、そこは置いておいてな」

「誰に対しても、怒れない!? バカが!! 失敗したら、お仕置きと称してメイドにあれこれやるのは、貴族の嗜みだ! そもそも、私の好みはあのような出来る男とは正反対!! 外見はパッとせず、ガリでも太っていても良い、私が一途に思っているのに、すぐに他の女に行ってしまうような、意思の弱いヤツが良いな! 年中発情して、スケベそうなのは必須条件だ! それで人生を嘗めていて、それを社会の所為にして、一切働きもせずに、私に言うのだ! 『おい、ダクネス。お前のそのスケベそうな体を使って、金を稼いでこい』。んぅぅぅ!!!!」

 

 ………………コイツはもう手遅れなのかもしれない。アクアとカズマがドン引いてる。もちろん俺もだ。コイツはもう手遅れだ! 終わりだぁ!!! どうする事もできない! どうして、ここまで放っておいてしまったんだ! あと、貴族に対する意見が貴族の癖に偏見すぎやしないか。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

「では、自己紹介を……僕はアレクセイ・バーネス・バルターです」

「私はダスティネス・フォード・ララティーナ。当家の細かい紹介は省きますわね。成り上がりの領主の息子でも知っていて、当然――――ッ!!?」

 

 カズマが首に『フリーズ』を掛けていた。

 

「ど、どうなされました?」

「い、いいえ、バルター様を見たら、気分がぁぁ――ッ!!」

「お嬢様はバルター様とお会いできて、少々舞い上がっているだけです……」

「そ、そういえば、顔が赤いですね……い、いやぁ、お恥ずかしい」

 

 耳元まで近づいて、カズマが――余計な事を言ったら、どうなるかわかってるな。と言っていたが、望むところだと、返していた。

 当家のお嬢様はどんな時もブレない。

 

「アハハ、私が居ては、お邪魔かな? どうかね、庭の散歩でも?」

 

 そんなダクネスのお父さんの提案で、俺達で庭に来ている。暇なので、アクアの芸を見せて貰っていた。指笛を吹いた後、二回手を鳴らしたら、魚達が集まってきた。

 

「何、これすげぇ!!?」

「ふふん」

 

 得意げだ。アクアはこちらの道で食っていけると思う。水の女神から宴会芸の女神に鞍替えしたらどうだろうか? と本気で考える。

 そして、あの二人はお見合いよろしく、趣味などを聞いていた。ちなみにダクネスがゴブリン狩りを少々なんて、バカみたいな回答をしようとする前に、カズマが止めに入る。でもあんまりそういう風にしてると……。

 

「仲が宜しいんだね?」

 

 なんて、ちょっと苦笑いで言うバルター。あんな姿を見て、やっぱりコイツは根が超良いやつなんだなぁ……。あの領主の息子ってのが、本当に信じられない。

 

「えぇ、こちらの執事とは常に一緒におりますの。食事もお風呂も一緒、も、もちろん……夜寝るときも……んぅ」

 

 コイツって時々、意味わかんないところで恥ずかしがるよな……よくわからん……。

 

「ええい!! もうこんな事をやってられるか! バルター!! 私と勝負しろ!!」

 

 と長い裾のドレスをビリビリに引き裂き、短くして、動きやすくする。本当にああいうのするヤツ居るんだ……というか、もったいねぇ、あれ一つで借金どれぐらい返せるんだろうぉ……。

 

 なんて貧乏臭い事を考える。

 

「今から修練場に付き合って貰う! そこでお前の素質を見定めてやる!」

「お、おい! ダクネス……ゥゥ……」

 

 カズマの視線は完全に下である。まあ仕方ない。これが万有引力というヤツだ。そう視線だって、重力によって下に向いてしまうのだから、一切問題は無い。

 

「ねぇ、カズマ達、何しようとしてるのかしら?」

「ありゃ、まあ……いろいろとだな……」

 

 初めは渋っていたバルターだったが、結局、押し切られ、修練場へと移る事になった。

 結果から言えば、最年少で騎士に叙勲されるほどの腕を持つバルターに攻撃がまったく当たらないただ、硬いだけの女が勝てるはずはないのだが、三十分も一方的にバルターが攻撃していたが、一切、負けを認めず、それで意思の強さによって、降参という形になった。

 

 ちなみに実際は殴られて喜ぶドMだからだが、バルターがそんな事を知る由もない。

 

「……カズマ! 見せてやれ! お前の強さを! 私は一度、お前と戦ってみたかったんだ!!」

 

 とカズマとも戦う事になった。バルターもダクネスが信頼を寄せる、カズマの強さを見てみたいと囃し立てたのだ。

 

「まあ、もう、お見合いは失敗だ。相手してやるよ」

 

 とカズマと勝負をする。まず、カズマは――。

 

「クリエイトウォーター!!」

 

 水をぶっ掛けた。

 

「え!? 木刀の試合で魔法は使わないんじゃ……?」

「そういうもんなの……?」

 

 格好が格好だけにもっと扇情的な格好になったダクネスの姿。それを見て、アクアが。

 

「さすが、セクハラに掛けては並ぶものの居ないカズマ……引くわぁ」

「な! 別にそんなつもりじゃないしぃ!!」

「ま、わかってるさ。それより続きをしないのか?」

 

 俺は努めて冷静に言った。マズイ。あの格好は俺でもちょっと……良いと思ってしまう。くっそ、あんまり女子に免疫がない俺には衝撃的なシーンだぜ!!

 

「あぁ、もう!! 全力で行くぜ!! 『フリーズ』!!!」

「こ、この寒い中、水を掛けるだけでなく、氷結魔法まで……」

「ま、伊達にカスマとかクズマとか呼ばれてる訳じゃないからな……」

「……この、この容赦の無さが……良いぃぃぃぃぃぃぃっっ!!!」

 

 と突撃して、組み合いに入る。組み合いに入れば、カズマは圧倒的に不利だ。冒険者とクルセイダー、この差が圧倒的なのだ。だが、カズマだって伊達にここまで生きてきた訳ではない、卑怯な搦め手ならば、他の追随を許さない程だ。

 

「ドレインタッチ!!!」

「ぐ……! ドレインタッチか!! だが、その前にこの腕へし折ってやる!!!」

「ぐあぁ……お、おい……賭け……でもしないか!?」

「ほう……良いだろう。私が勝ったら、お前に土下座させてやる!!」

「言ったな……? だったら、俺はお前に勝ったら、お前が泣いて謝るような事をしてやるぅ!!!」

「な、泣いて謝る事……!!? あ、あぁ……て、抵抗したいが……ドレインタッチで体力を吸われて抵抗ができない……」

 

 棒読み……。やっぱりお嬢様ってブレない精神力持ってるんだなぁ……。俺はそんな事を思いながら……バタンと扉が開かれる。

 

「お茶でも持ってきたのだが、ちょっと休憩して――」

 

 ガシャンッ! と器が壊れる音がした。

 

「誰がした?」

「「コイツらです」」

 と俺達はバルターとカズマに指を指す。

「よし、処刑だ」

「「ちょっと待ってください!!!」」

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

「娘は元々、人付き合いが苦手で……エリス様に日頃から祈っていたのだ。友達が欲しいと、そしたらある日、盗賊の子が友達になったと、喜んで帰ってきたのを覚えてるよ……。家は家内を早くに亡くなって。自由に伸び伸びと育てていたのだが……多分、それがダメだったんだろうなぁ……」

 

 いいえ、あなたの娘さんは間違い無く、真性です。

 

「ララティーナ様は良い人ですよ、カズマさんが居なかったら、本気で僕の妻に貰いたいぐらいです」

「すみません。ちょっと良くわからない」

「君の方がララティーナ様を幸せにできると思います……」

「おい、領主の息子だが知らんが、表でろ、ぶっ飛ばしてやる!」

「おい、やめろ! カズマ、うわっ!? コイツ結構本気だっ!?」

 

 俺は羽交い絞めをしながら、カズマを止める。

 

「ハッハッハ。カズマ君……これからも娘をよろしく頼む」

「はっ!」

 

 ダクネスが目を覚ます。

 

「こ、ここは?」

「おい! お前が寝てる間にちょっと微妙な空気になってるから空気を読め!」

「ん? ふひ……」

「ふひ?」

 

 ダクネスが立ち上がりながら、お腹を擦りつつ。

 

「実は、この中にはカズマの子がいるんです……」

「お前! ふざけんなぁ!!? 童貞の俺に何言ってやがる!!!?」

「そうか……だったら、僕は貰えないな」

 

 なんて笑いながら言うバルター。俺はそのあからさまな嘘に無反応でいたら、アクアがみんなに広めなきゃなんて、変な事を言いながら、ダクネスのお父さんは孫ができてる事に泣いて喜んでいた……。

 そんな空気の中。

 

「サトウカズマ!! サトウカズマは居るかぁぁぁ――!!!」

 

 と王国検察官であるセナがここに入り込んで来た。またしても、面倒事に巻き込まれてしまうのだろうか……最近、そこそこ平和だった気が……しないでもない。

 だが命に関わるような事はなかった。少なくとも俺は……。一体、今回は何があるんだよぉ!!?

 

 

 

 

 




今回もここまで読んでいただき、ありがとうございます。


感想、批判。大歓迎です。


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魔王よりも強いかもしれないアイツ

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただければ、幸いです。




 俺達は今、ダンジョンに潜っている。

 

 というのも、セナからの話によると、最近、ここで、変なモンスターが出現するらしく、しかもそのモンスターが出てくる場所が俺達が前に潜ったキールダンジョンから出てくるという事らしい。

 

(これは疑われてもしょうがないな……でも、俺達は悪くない。だって覚えが無いしな)

 

「なぁ、お前ら特に何もしてないよな?」

 

 と俺が聞くと。

 

「えぇ、爆裂魔法絡みで無いなら、私ではないです」

「そうだな、そもそも私はそんなに問題は起こしてないはずだ」

 

 まあそうだろうな、こういった事に関しては、コイツは問題を起こさないからな、どちらかと言えば、コイツと居ると、生命の危機を感じる程度だ。うん、ダメダメじゃねぇか。

 

 だがこの二人は良い、それよりも問題なのは、俺達と一緒に潜った、こっちの二人だろう、いやもっと言ってしまえば……。

 ジロリとアクアの方を見る。

 

「私も無いわよ! いくらなんでも私を疑いすぎじゃないの? あのダンジョンに関しては、モンスターが寄り付かないはずよ!」

 

 んんっ? なんか……大丈夫か? ちょっと後ろを向かせながら、小声で聞くと。

 

「私がリッチーの部屋で描いたのは、本気も本気、今でもしっかりと残ってて、邪悪な存在が立ち寄れなくなるわ!」

 

 ……つまり、だ。邪悪な存在が立ち寄れないから、ダンジョン外に出てるって事か。

 

「バカやろうぉぉぉぉおおおおおお!!!?」

「ひゃっ!?」

 

 この駄女神がぁ! 悪気が無い分、性質が悪い!!! はぁぁ……なんで、後始末はいつも、こっちに回ってくるんだ……。

 カズマに目配せし、言い訳を言わようとする、カズマはとりあえず、セナに対して。

 

「こほん……とりあえず、そのモンスターの事は放ってはおけません。俺達がそれをなんとか、解決します。困ってる人を見捨てないのが、冒険者ですから」

 

 後ろの目線に、負ける程、カズマの意思は弱くない。そう、弱くないから、きっと、普段はダメ人間的なカズマだが、別にこういう後始末をしない訳ではないぞ。

 というか、しなきゃ、さすがにマズイだろう。カズマ自身の事もあるんだし、ここはビシッと決めるしかない。

 そうして、俺達はキールダンジョンへ再び、向かう。

 

 辺りはもう既に真っ暗、俺はダンジョン外から出てくる人形のようなモンスターを見ながら。

 

「なんだ? あのモンスター……? 人型……だよな? 仮面をつけてる小さい人みてぇだな」 

 

 俺はそれを見ながら、思った事をそのまま呟く。

 

「サトウさん」

「はい?」

「ご協力感謝します。どうやら何者かが、あれを召喚してるらしく、だから術者を倒して、これを召喚の魔法陣に貼って下さい」

 

 と渡されたのは、小さな紙で、その紙にはそういう効果があるのだろう。俺はそんな事を思いながら、俺はモンスターを見ていると、そのモンスターの一人が、アクアの方へと近づいてきて、そのまま足に抱き付く。

 

「あら、これを見てると、無性にムカムカしてくるけど、案外かわいいかも――――ッ!」

 

 その言葉は最後まで発されず、数秒して、爆発した。倒れてるアクア。

 

「ご覧の通り、このように、しがみ付き、自爆するという方法を取ってきます」

 

 なんとも冷静に返していた。俺はアクアに近づき、しゃがみ込んで、ツンツンと頭を突付く。

 

「だ、大丈夫か? おーい、生きてますかー?」

「だ、大丈夫……」

 

 生きてるみたいだな。さすが女神。この程度では死なないってか。すると、ダクネスが歩き出すと、人形がダクネスに抱き付き、自爆する――だが、どうやらほとんど無傷のようだ。

 こ、こいつ、ここまで硬かったのか……驚きだ。

 

「私が露払いをしよう。カズマとリュウトは私の後ろに付いてこい」

 

 やっだ、頼りになるぅ!! ちなみにダンジョンに潜るのは、前の時にトラウマになったアクアは嫌がり、めぐみんはそもそも役に立たないので、入らず、俺とカズマとダクネスだ。ちなみに他の冒険者達も俺達と一緒に入る事になっている。

 

「し、しかし、カズマとリュウトと一緒に入るのか……モンスターよりもそちらに身の危険が……はぁ、はぁはぁ」

 

「お前もダンジョンの中に置き去りにして、トラウマ植えつけてやってもいいんだからな?」

「まぁまぁ……気にするな。あとで、ゴニョゴニョ」

「あぁ……覚えてろよ? ダクネス?」

「……?」

 

 そんなやり取りがあったが、とりあえず俺達はダンジョン内へと入り込む。結構、モンスターの量が多い、俺は『フルキャンセル』をしながら、止めつつ、相手を切り裂いていく。

 強さで言ったら、たいした事は無い。ちなみにダクネスは剣も当たるらしく、ご機嫌で突き進んで行った。

 

「あぁ!! なんだこの高揚感は!! 初めて、クルセイダーとして活躍してる気がする!!」

 

 ちなみに他の連中は途中で、抱きつかれて、自爆されたので、そのタイミングでカズマが走れ! と言い、俺達はなんとかアイツらを撒く事ができた。

 そうでもしないと、バレてしまうからな、俺達の仲間がしでかした事だってな。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 前に潜っただけに場所は覚えているし、ダクネスという盾が居たおかげか、苦なく、進む事ができた。そしてダンジョンの奥に人形をせっせと作ってる男が居た。

 格好はスーツで仮面をつけている男だ。というか姿が完全に作っている人形と同じなんですが……。

 

 なんて思っていると、ダクネスが突然、走り出す。

 

「お、おい!?」

 

 制止する間もなく、突撃するダクネス。

 

「貴様が元凶か!」

 

 と剣を構えながら、堂々と言い放つダクネス。おぉ、やっぱりカッコイイ時はカッコイイな。俺はそんな風に思ってた。ちなみに向こうに居る仮面の男は立ち上がり。

 

「よもや、ここまで来るとは、歓迎するぞ。冒険者共よ、我輩こそが諸悪の根源にして、元凶。魔王軍の幹部にして悪魔を導く、地獄の公爵……この世のすべてを見通す、大悪魔バニルである」

 

 ま、マジですかい!? おいおい、魔王軍幹部とか、一対一で!? 

 

「お、おい! 一回、態勢を立て直して!!」

 

 と俺は叫んだが。

 

「女神エリスに仕える身である私が、悪魔を前にして引き下がれるか!!」

 

 ともっと堂々とする。コイツはどうして余計なところで、クルセイダーとしての身分を発揮するの!? 

 

「ほう、魔王よりも強いかもしれないバニルさんと呼ばれる、この我輩を? まあ、結界の維持を頼まれてる、いわばなんちゃって幹部ではあるのだ、ベルディアの消息が断ったので、それを調査しに来てたのだがな……」

 

 ほう、つまりはこういう事だ。俺達で倒した所為で、他の魔王軍が来たという事で……おいおい、自分の身を守れば、守る程、魔王軍がどんどん襲ってくるって事かよ!?

 

「ついでに、働けば働く程、貧乏になっていくという不思議な能力を持つポンコツ店主にも用があるのだ」

 

 あ、それってもしかして……ウィズの事なのか?

 

「そして、私は悪魔族。悪魔の最高のご飯は汝ら、人間の悪感情でなぁ、汝ら人間が一人生まれる度、我は喜び、庭を駆け回るだろう!!」

 

「というか、お前が作ってるこの人形の所為でダンジョンから出てくる、このモンスターに俺達は難儀してるんだが?」

 

「なんと? コイツらを使い、ダンジョン内の敵を駆除していたのだが……どうやらモンスターは駆除し尽くしたようだな……ならば、次の段階へと移ろうか……」

 

 何? コイツ、何かするつもりか……?

 

「何を企んでいるんだ!?」

 

「失礼な! そこの鎧の娘が何日も帰ってこなかった所為で自室を熊のようにウロウロして心配してきた男よ」

 

「お、おい!!? なんで見てきたみたいに言ってるんだよ!? お前もモジモジするなぁ!!」

 

 お、おそろしい! 恥ずかしいってのも悪感情だよな? 食ってるのか……?

 

「我輩にはなぁ、とびきりの破滅願望があるのだ」

 

「はぁ? 破滅願望ってぇ事は……お前は死にてぇのか?」

 

「あぁ!! まず、ダンジョンを手に入れる。各場所に悪魔やら罠を仕掛ける。そして挑んでくるのは歴戦の冒険者達、やがて、苛烈な試練を潜り抜け、最奥の部屋へと辿り着く!! 勿論! そこで待ち構えているのは、我輩!!! よくぞ、ここまで来たな! 冒険者共よ!! 我輩を見事倒し! 莫大な財宝を手に入れよ!! そして始まる最後の戦い! 凄まじい戦いの末に倒される我輩、そしてそこに封印された宝箱が出てくる! そしてその中には――スカと書かれた紙が、呆然とする冒険者達を眺めながら……私は滅びたい……」

 

 た、性質悪ぃ……。それが正直な感想だった。二人もなんとも言えないという顔をしている。そりゃそうだろうさ……だって、性質悪いもの。

 

「その計画を実行しようと思っていたのだが……友人の店で金を貯め、巨大ダンジョンを造るつもりだったのだが、主の居ない、このダンジョンを見つけたので、もうここでいいかなぁ。なんて思い、だがこの奥にけしからん魔方陣がありな」

 

「あぁ……」

 

 俺がつい呟くと。

 

「ほう、そこの鎧の女が数日帰ってこなかったから、領主をぶっ殺してやりたかったそこの男の仲間か……どれどれちょっと拝見」

 

 コイツ……本当に性質悪い……!!

 

「見るな、俺を見るなぁ!!」

 

 そうすると――。

 

「なんという事だ!! お前達の仲間のプリーストがこのけしからん魔方陣を作ったのかぁ!! 見える。見るぞぉ……」

 

 目が淡く光るそれに見られると、本当に覗かれて気分だ。というかなんか嫌だ。

 

「そのプリーストが茶を飲んで、寛いでるところ見えるわぁ!!!」

 

 アイツ……。こっちが結構ヤバい状況なのに!! 本当に身勝手だなぁ、おい!!

 

「その男との賭けに負け、どんな要求が来るかと持て余して、モジモジしてるそこの娘よ!!」

「も、持て余しても! モジモジしてもいない!!!」

「その凄い要求、俺にも見せてくれよな」

 

 見たい、超見たい。

 

「この件が終わったら、どんな要求をしようかと思ってるそこの男と、それが楽しみで仕方ない男よ!! そこを通して貰おうか!」

「やめろ!! てめぇ! 本当に性質が悪ぃなぁ!!」

「お、思ってねぇし!! 思ってねぇしぃぃ!!!」

「まあ、人間は殺さんのが主義の我輩だ。人間は殺さない……そう、人間はなぁ、こんな迷惑な魔方陣など作りおってぇ!! 一発キツいの喰らわしてやるぅ!!!」

 

(コイツ……アクアの正体に――? いや、それよりも……アクアを殺すつもりか、コイツ……!!?)

 

「アクアに危害を加えるというのなら、引く訳にはいかない!!」

「腹筋だけでなく、脳筋の娘よ! 今すぐそこを退いて貰おうか!! そうすれば、二人は邪魔されず、ゆっくりと、その要求とやらを楽しめるぞ! 貴様もそれを鑑賞するとよい!!」

 

「あ、悪魔の囁きだ! 耳を貸すな! ダクネス!!」

 

「だ、誰が惑わされるか!! カズマこそ! 時と場所を考えろ!!!」

 

 コイツら顔を真っ赤にして、何、言い合ってんだか……。ま、良い。ちょっとだけ、楽しみでもあるが、今はそれよりもコイツをどうにかする事が先決だ!! 

 

「ええい!! お前と話してると頭がおかしくなる!!」

 

 とダクネスが先手を取り、掛け出して、バニルを斬りつけようとするが、バニルはそれを優雅に避けつつ、しかも、ダクネスは攻撃が当たらないだけに、完全にバニルの方が有利だ。

 

 ここは俺が参戦するしかねぇな。

 

「こっちは当たるぞ! 『瞬斬』ッ!!」

「おおっと!! 早くそちらに行き、しけこめば良いモノを! ご休憩といけばよかろう!!」

「ご、ご休憩!!!」

「カズマ!! 惑わされるな! そもそも一緒に屋敷に住んでるのに、そんな関係になってどうする!!?」

「はっ! 見てくれは良くて、体も良いが、性格がアレな、ダクネスだ……! しっかりしろぉ、俺」

 

 うんうん、そうやって保とう。

 

「か、帰ったら、覚えておけよ!」

 

 涙目で言うダクネス、うん。そういう言い方されると、傷つくよね。ま、とりあえず。

 

「悪いが、そんな甘言に惑わされる程、甘かねぇんだよ! 『閃光斬り』!!!」

 

「おおっと!! そちらの小娘よりはやるようだなぁ……! だが、甘い、甘いぞぉ!!」

 

「くっそ、コイツ、マジで強い……!」

 

「ん? あの姑息そうな男はどこに行った? こっちの脳筋二人より、あちらの方が厄介な手合いなのだが」

 

 どこに隠れてるかは知らねぇが……多分、すぐだ。だったら、こちらに引きつけつつ、近づけた方が良いか……? というか脳筋だとか、失礼だな。俺は脳まで筋肉のこの女とは違ぇ! 

 

「嘗めんなぁ!」

 

 振り下ろした剣を右へ左へひらひらと避け、向こうへと後退していく。

 

「チッ、なかなか上手い事、避けるじゃねぇか」

 

 そろそろ……。バニルが避けたタイミングで、カズマが隠れた場所から一気に飛び出し、剣を振りかぶろうとした瞬間、岩か何かで躓き、転んだ。何してんだぁぁぁあ!!? だが、バニルにぶつかり、そのままこちらに向かってくるバニル。お、だけどチャンス!! 

 

「終わりだぁ! 『閃光斬り』!!」

 

 そのまま砂になったバニル。お、終わった……。なんだか今回は呆気なかったな。

 

「やったな!」

「あぁ」

 

 二人が喜んでいると、不穏な空気を感じ、そちらを見ていると……。

 

「と、期待させて」

 

 

 バニルが復活した。そしてなんと、仮面をダクネスに張り付けられた!!! 

 

「もしや討ち取ったとでも思ったか? 残念、何のダメージもありませんでしたぁ! 汝らの悪感情、大変美味だ」

「だ、ダクネス!? 返事をしやがれ!! ダクネス!!!」

 

「フ、フハハハハ!! 小僧共、聞くが良い。我が力により『どうしよう! どうしよう二人とも!! 体を乗っ取られてしまった!!』貴様らにこの小娘を攻撃する事は『一向に構わない! 早くやってくれ! 絶好のシチュエーションだぞ! これは!!』やかましいわ!!! 何なんだ!! お前はぁぁぁ!!?」

 

 ……すみません。なんかすみません。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

「な、なんだ……この『麗しい』娘は……!? 一体どんな頑強な精神を……『まるでクルセイダーの鏡のようなやつだな』。ええい!! やかましいわ!! ゼェーゼェー……わ、我が支配力に耐えるとは、なかなかどうして、大した娘よ……『いやぁ』、だが耐えれば、耐えるほど、その身には抗い難い激痛が『なんだと!?』……喜びの感情!?」

 

 コイツはドMだ。きっとバニルが思っているような事では、コイツを喜ばせる事しかできないぞ。

 本当に魔王軍に対して、悪い意味で予想の斜め下を行くやつだよなぁ……。

 そうこうしてる間に、カズマが魔方陣を消して、再び戻ってくる。

 

「『わ、私はこんな痛みに負けはしない!』その心意気や良し! だが、いつまで耐えれるか……? 許容量を超えると、精神が崩壊し…………お前、この状況を楽しんでないか?」

 

「お前ら、コントでもしてるのか……?」

 

「さ、そろそろ帰るぞ、ダクネス」

 

 と言ったが、そうしたら、剣の切っ先をこちらに向けてきたダクネス。

 

「それ以上近づくな……『二人とも、先に行くんだ』そうそう貴様を思い通りに行くか。『んぅ!! 一度は言ってみたかった、台詞!!』貴様らも憎からず、思っているこの小娘を傷つけたくないだろう? 『はっ! い、今気になる事をこの自称見通す悪魔が言ったのだが!』ええい!!! やかましいわぁぁぁ!!! この体は失敗だった!! 『し、失敗とか言うな!!』。さっさとこの体から出て――」

 

「それは困る」

 

 そう言い、カズマが封印の札を貼る。

 

「……? なんだこれは」

「このまま、お前をここで倒させてもらう。リュウト」

「合点!」

 

 剣を構える。

 

「ほう、貴様が私を……? さて、できるか? 『た、楽しみにしてるぞ! 私はリュウトとも戦ってみたかったからな!』よくわからんがかかってくるがよい」

「魔王らしく、待ってるってか、嘗めんなよ。すぐ終わらせてやる!! 『瞬斬』!!」

 

「ぐっ!?」

 

 とダクネスは剣を使って、ガードする。筋力は俺の方が上だ。そして、この距離ならば――。

 

「『フルキャンセル』!!」

「『ん!! 避けろ! まずいぞ!』むっ!?」

 

 とっさに横へと飛んだダクネス、俺のフルキャンセルを避けやがった……初めて避けられた。

 というか避けれるものなのか、あぁ、そういう事か、これは相手に向かって言ってるから、その相手がタイミングよく避ければ、意味なくなっちまうのか……俺がそう思った瞬間、ダクネスが俺の方へと攻撃してきて、片手に血が滴る。

 

「ぐっ!? な、何教えてやがる……」

 

 片手を押さえつつ、悪態をつく。

 

「『す、すまない。リュウト。だが、この時間をそんなスキルで止められるのは嫌だったから、つい……』き、貴様らも苦労してるな」

 

 悪魔にすら同情される始末、俺はかなり涙目になりながらも、スキルを発動する。光の太刀――。

 

「『閃光斬り』!!」

「『光る太刀だぞ!! 気をつけろ!!』あ、あぁ……」

 

 コイツは敵か? 敵なのか!!? もういやっ! 味方にやられそうになる!! 何これ! 凄い悔しいんだけど……。しかも、避けた瞬間に俺の方へと太刀が再び来る。俺の頬に血が伝う。

 

「て、めぇ……!」

 

 血を拭いつつ、俺はちょっと本気でキレそうになっている。

 

「『あ、す、すまない!! わ、わざとではないのだ。こ、こいつに抗えないから……!』だが、貴様が手伝った所為でもあるのだがな」

 

 あーイライラしてきた。ぜってぇぶっ殺す。

 

「ど、どっちもうろたえてる……というか、いくらなんでもリュウトが可哀想なんだが……」

「ええい、うるせぇ!! もう見れない顔にしてやるからなぁ!!!」

 

 俺が駆け出し、一気に距離をつめる。それに対して、バニルつきダクネスが後ろに飛び退く、そして俺はその瞬間、右手に。

 

「『フルキャンセル』!!」

 

 ガタンッ! と剣が落ちる。俺はニヤリと笑みを零した。そして、驚いてるバニルに続いて、左手、右足、左足という順に『フルキャンセル』していく、さらに笑みが深くなってくる。

 

「どうする?」

「貴様……なかなか『やってくれるな』。わ、我輩の命もあと『少しのようだ』……やかましいわぁぁ!! 先程から、我輩の台詞を取るなぁぁぁ!!! ゼェゼェゼェ……」

「ま、まぁ……良い。とりあえず、これで最後だぁ!! 『瞬斬』ッッ!!」

 

 ズバッ! とバニルの仮面のみを綺麗に切り裂いた。ダクネスの顔は一切、傷はなく、そのままダクネスは倒れこむ。

 どうやら、さすがに、あれだけの時間、ずっと激痛が走ってたのだから、体力が限界だったのだろう。

 

「大丈夫か?」

「し、心配してくれるのか……? わ、私の所為で傷をつくってしまったのに……」

「バカだなぁ、俺があの程度で怒るはずないだろ?」

 

 優しい笑みを浮かべながら、俺は静かに微笑んだ。

 

「俺も似たような事するけど、これってこんなにあからさまだったんだな……」

「あぁ、そうだな」

 

 俺はまだ笑みを浮かべたままだった。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 ギルドへ戻り、俺達は借金を全額返して、しかも4000万エリスが報酬として、貰った。バニルはそこそこの報酬があったという事だ。俺は生傷をアクアに治してもらい、そして、俺はギルドのテーブルに立ち、言い放った。

 

「みんなぁぁぁ!!! 今日は飲むぞぉぉぉぉぉおおおおお!!」

 

 ワイワイとバカ騒ぎ、それはまるで宴のようで、俺は気分爽快だった。だがそれでも、俺にはやりたい事があった。

 そう酒の勢いってやつで、俺は大声で、叫んだ。

 

 

「知ってるかぁぁぁぁ!! ダクネスの本名は、ララティーナって言うんだぁぁぁぁぁぁああああああああ!!」

 

 

 ワイワイバカみたいに騒いでる連中はそれを聞くと、ダクネスの方を見て、大声でみんなが一斉に言ったのだ。

 

「そうだったのか! ララティーナ!!」

「ララティーナ!! かわいいよ、ララティーナ!!」

「ララティーナ! ララティーナ! ララティーナ!!」

 

 ダクネスは真っ赤な顔をして、こちらをジロリと睨み、今にも襲い掛かってきそうだ、だが、俺には勝てない。襲い掛かってくるダクネスに対して、俺は言う。

 

「『フルキャンセル』」

 

 途端に動けなくなるダクネスに対して、俺は酒の所為もあったのだろう。俺は魔王のように笑いながら。

 

「貴様が俺に勝てるはずがなかろうがァァァァあああああああ!!!!」

「貴様! ぶっ殺してやるぅぅぅぅぅううううううう!!!」

 

 フハハハハ!!! と笑いながら、満足した。俺は超満足だ。その後、フルキャンセルを解いてやる。

 こちらに次、襲ってきても、俺は何度も、何度も、使うだろう。

 その後、俺達は、報酬を均等に分けて、一人一人に800万という割り振りになった。カズマがちょっと気にして。

 

「な、なぁ、いいのか? 俺達は今回、あんまり役立ってないぞ?」

「良いんだよ、俺一人に4000万エリスも要らないし」

 

 俺はそう言いながら、今日は最高の日で終わったのだ。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


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リザードランナー

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると、幸いです。


 春。

 

 そうなると、モンスターも活発化する。

 春先は変態とモンスターが増えるという訳だ、最近、つやつやになってる事が多くなったカズマがその例だ。

 

 いくら金に困ってないからと言って、さすがに行き過ぎな気がする。まあいい。最近、カズマは新しいビジネスをしていて、日本にある物をこちらに持ってきている。

 

 割りと、他の人もしてるんじゃないか、なんて思ったりしてるのだが、誰一人としてやってない所を見ると、やっぱりチート持ちはこんな事をしなくても良いなんて考えているんだろうか。それにしても――。

 

「暖かい……」

 

 こたつ。これは魔の道具だ。俺はトイレ以外で俺はここから出ていない。そんなこんなで、俺は目の前の状況を眺めていた。

 そこにはダクネスとめぐみんが暖房の前に居るアクアを引き剥がそうとしていた。

 

「おい、アクア! 早くクエストを受けに行こう!!」

「そうですよ! いい加減爆裂魔法を放ちたいんですよ!!」

 

 おーおー、騒いでるなぁ……はぁ、しゃあない。そろそろ出るか。

 

「んあー……ふぅ、寒っ」

 

 俺は自室に一旦、戻って、着替える。いつもの冒険者スタイルだ。マントを翻し、ちょっとカッコつける。

 誰も居ないからこそ、できる。そのまま広間に戻ろうとしたら、ダクネスとめぐみんが倒れこんでいた。

 

「……? 一体何があったってんだ?」

「俺だって、数多の敵と戦ってきたんだ。この程度の連中、倒してしまう事だって……ッ!」

「……どうした?」

「いや、大変、虫の良い話をしているというのは、わかっているんだが……トイレの前まで、これを持っていってくれないか」

 

 とふざけた事を抜かす、カズマ。当然、そんなのは断るに決まって――。

 

「よし、めぐみんはそっちを持ってくれ」

「はい」

「あ、あれ? 案外素直なんだな……」

 

 とカズマもちょっと拍子抜けした感じだった。俺も驚いている。いつの間に、あそこまで、ふざけた事を抜かしても、許されるようになったのだろう。なんて、思ってたら。

 

「リュウト、ちょっとドアを開けてくれ」

「……ッ!? お、おい! お前ら、まさか俺を放り出す気か!? そ、そんな事しないよな!? な!?」

「ま、見てねぇから、知らないけど、カズマが悪ぃんだろ?」

「……ち、違う」

 

 目ぇ逸らすな、おい……。

 そんな悪ふざけをしていたら、ドンドンッ! と勢い良く、扉が叩かれる。全員がそれに反応したら、扉が開かれ、勢い良く、メガネ美人のセナさんが現れた。

 

「大変です! サトウカズマ! サトウカズマさん達は居ますか!!」

「どうしました?」

 

 俺が対応すると、メガネの位置を直して、今回、クエスト依頼に来たようだ。

 しかし、基本的に、ギルドから発注するのが、基本な訳だが……。

 

「いいえ、前にカズマさんが言ってたではありませんか。困ってる人を見捨てないのが、冒険者だと」

 

 あーそういえば……。ギロリとこちらを睨むカズマ、おーい、俺は悪くないぞー。本当だぞー。

 

 そして、俺達はリザードランナーを討伐する事になった。リザードランナーはもともと、そこまで危険ではない。

 だが繁殖時期に入ると、大きなメスである姫様ランナーが現れて、その姫様ランナーとつがいになる為に――――走るのだ。

 

 そう、走って、最も早いのが、姫様ランナーとつがいになれるのだ。そのトカゲが二足歩行で走るのだ。

 しかも、かなりの群れで、結構、ヤバい。

 

 それで、姫様ランナーとつがいになったものが王様ランナーと言うらしい。

 それにしても、なぜランナーなのに、姫様とか王様なのだろうか、本当にわからない。

 

 そして、俺達は迎え撃つ為に、まずは準備をする事にした。

 金が余っている俺はさっそく何を買ったかと言うと、剣を買おうと思ったのだ。

 だが、その前にカズマが何やら、面白そうな事をしていたので、俺はそちらに金をまわさせて貰った。

 

「さ、行こうぜ」

「おう! 楽しみだなぁ、どんなのできてんだろ」

 

 俺達はそんな事を話しながら、鍛冶屋の親父の所へと行く。そして、そこで、俺達用にと、『刀』を作ってもらったのだ。

 カズマとかが結構そういうのに、詳しくて、まあ俺も多少だが、手伝った。

 

 そんな事を話しながら、ついでにカズマは鎧とかも買ったりしていた。俺は身軽な方が良いので、鎧までは買わない。

 

「あとは銘を刻むだけだ」

 

 と紙を渡される。俺は最初から決めていた。『龍刀』だ。なんか、俺の名前には龍も付いてるし、こんなので、良い。俺はそのまま銘を刻んだ。

 

「うーん、どうしようかなぁ? 『小烏丸』? 『菊一文字』?」

 

 なんて、名前を思案していたら。

 

「ちゅんちゅん丸」

 

 そんな声が聞こえてきた。うん、こんなヘンテコな名前をつけるのは、たった一人だろう。

 

「は? お前、そんな名前をつけれる訳――」

 

 だが、そんな文句を言う間もなく、カズマが置いていた刀にその銘を刻んだ。

 

「あああああああっっ!!? お、おま!! おまえ!?」

「あぁ、嬢ちゃん、銘を刻んじまったか……」

 

 カズマは叫びながら、めぐみんに迫り。

 

「お前、これどうしてくれるんだ! これ……!! もし、俺がこの刀で魔王を倒したら、これは一生名前が残るんだぞ!?」

 

「違う。お前が倒す訳じゃない、俺だ」

 

「何おう!? この私の爆裂魔法で倒すんですよ!!」

 

 そんな誰が魔王を倒すか、で喧嘩をしていた。

 

「そもそも、私以上に火力が無いリュウトにできますか?」

 

「お前、何勘違いしてんだ? 俺は日に一度しか、放てない。最強魔法よりも、俺の『フルキャンセル』の方が明らかに格上だろ。お子様はそんな事もわからねぇのかぁ?」

 

「良いですよ! だったら、放ってあげましょう! 爆裂魔法を……」

 

「やめろー!! お前らぁぁぁぁああああ!!」

 

 カズマの制止もあり、とりあえず、ここで喧嘩は終了だ。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 そして、リザードランナーを倒しに行く事になった。

 俺達は、まず大きな木を見つける、そして、カズマがその上に登り、まずは狙撃で姫様ランナーと王様ランナーを倒す。

 

 そうすれば、自然と解散するらしい。それが失敗したら、ダクネスが盾になりつつ、そこから狙撃する。

 そして、それも失敗したら、俺の『フルキャンセル』の出番だ。やはり後ろにこういう大きな力があるのは、良いらしい。

 まあ俺も近づけば、ぶっ飛ばされるし、でも近くに行かなきゃ、『フルキャンセル』もできないし。ダクネスー! 頑張ってー!

 

「それにしても……」

 

 木の上から、眺めながら。

 

「姫様ランナーはわかるんだが……王様ランナーはどれだ?」

「あ、そうだ! 王様ランナーというのは、一番早いのが、王様なんでしょう? だったら、こうしてこちらに来て、一番早いのが、そうなんじゃない!」

 

 と言って、魔法を放って、こちらに反応を示したリザードランナー達。そして、こちらに向かってくる。

 

「おい!! お前は本当に、余計な事をしなくちゃ、行けないのかぁぁぁあああああ!!」

 

 カズマが怒鳴りながら、上から狙撃の準備をする。アクアは。

 

「私だって、良かれと思ってやったのよ!! そんなに怒る事ないじゃない!! どうせ、私がまた泣かされるんでしょ!! やりなさいよ、さっさとやりなさいよぉぉぉぉぉぉおおおお!!!!」

 

 か、カオス……。っと、俺も準備しとかなきゃ。

 

「めぐみん! 早く爆裂魔法の準備を!」

「は、はい!!」

 

 カズマの指示でめぐみんは詠唱を始める。

 

「リュウト! ダクネス! できるだけ時間を稼いでくれ!!」

「任せろ! ハァハァ……」

「合点!」

 

 息が既に荒いのは、いつもの事なので、無視し、俺は剣を使って、斬りながら、突き進む。ちなみに鎧を身に着けて無いのに、こういう無茶をすると――。

 

「ぎゃあああああああ!!!」

 

 連続の突進が強くて、突進を連続に受けて、飛ばされるわ、飛ばされるわ。宙に浮いてる俺は静かに思った。

 

(あ、死ぬかも……)

 

 ドドドドッ!! と踏まれる。踏まれ続ける。ぐぎゃあああああああ!!! 

「『フルキャンセル』!!!」

 

 叫びながら、自分を踏んだリザードランナーの動きが止まる。

 俺はそのまま持ち上げて、ふっ飛ばしながら、一気に斬りつける。そして、そして、それを連続させて、なんとかしていた。

 そろそろ爆裂魔法を……なんて思っていたら。

 

「ば、爆裂魔法が撃てません!!」

「はぁ!!? なんで、こんな時に――あれかぁぁぁぁぁああああああ!!!」 

 なんだ!? 俺はその声に反応を示したら、他の連中が邪魔してくる俺を目掛けて、殴りかかってきたり、蹴りかかってきたりするが、そうやって俺を狙ってくるヤツはよりやり易い。

 

「『フルキャンセル』! 『フルキャンセル』!!」

 

 と2体のリザードランナーを倒しながら、俺はとりあえず、時間を稼ぐ。そのまましばらく時間を稼いでいたら、向こうから声がしたのだ。

 

「狙撃!」

 

 その瞬間。姫様ランナーを倒したカズマに俺はホッとしていたら――、木の枝が姫様ランナーがぶつかった衝撃で折れて、そのまま体勢を崩したカズマが首から――落ちた。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 その後、解散したリザードランナー達、ボロボロの俺は刀の切れ味とか楽しんでる余裕が無かったが、あの程度の敵だったら、スキルを使わなくても、結構いけるんだな、と思った。

 今なら、きっとベルディアとも良い勝負ができるだろう。剣技だけで。

 

「……はぁ、はぁ……」

 

 頭を掻きながら、カズマの方を見る。一切、動かなくなっているカズマを見て、俺は首がとんでもない事になっているカズマから視線を逸らす。

 

「あの、アクア。悪ぃんだけど、早く『リザレクション』をかけてやってくれないか?」

 

 大の字でぶっ倒れてるアクアに言う。ボロボロのアクアは立ち上がりながら。

 

「わかったわ」

 

 と言って、リザレクションをかける。俺はそれを見ながら、あんな感じなのかぁ、なんて思ってたりした。初めての時は俺も死んでたからな。

 

「……ちょ、ちょっと? 帰らないってどういう事よ!?」

 

 ……? 俺は首を傾げつつ、アクアに聞くと、どうやら帰る気が無いとか言っている。アクアとダクネスは慌てながら、ダクネスがちょっと悪戯しながら、気を引こうとしていると、めぐみんが無言で馬乗りになる。

 そして――。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

「……なぁ、お前何したの? お前は名前と爆裂狂なところ以外はまともなのに、俺に何したの……」

「おい、名前に文句があるなら、聞こうじゃないか……戻らないとか……バカな事言ってるからですよ……」

 

 まぁ、正直、今回はふざけんなって言いたくなるな、俺に押し付ける気か、この野郎は……前、死んだ時は泣いてた癖によ、まあいいや。

 

「おい」

 

 と俺の方を見てくる。そう、俺はずっと顔を抑えながら、笑いを堪えていた。

 だが、俺は無言だ。うん、絶対に言わない。俺が言わないとわかると、次にダクネスの方を見るが、顔を真っ赤にして、何も言おうとしない。

 アクアの方を見ると、アクアが下卑た感じで。

 

「神聖な女神に何を言わせるつもりなの?」

 

 ふんっと顔を逸らす。

 

「本当に何されたんだ。俺は……!?」

 

 その後、ギルドに戻り、報酬を貰って、俺達は屋敷に戻った。屋敷に戻り、俺達が寛ぎ、カズマが風呂に入ろうとしていた、俺はまた笑いを堪える様に、顔を抑える。

 そしてしばらくして――。

 

「おい!! めぐみん!! めぐみんは居るかぁぁぁぁぁぁ!!! お前ふざけんなぁぁぁぁぁああああああ!!」

 

 タオルで大事な所を隠しながら、来たカズマ。

 

「めぐみんなら、友達と一緒にしばらく泊まると言って……たああああああああああっっ!」

 

 と顔を隠すダクネス。恥ずかしがってる、本当に羞恥どころがわからない……。

 

「あのさ、カズマ。自分に自信があるのは、構わないけど……そういう自己主張はどうかと思うの」

「バカ!! お前ら! 俺がこれをされてる時になんで止めないんだよ!! 特にリュウトぉおおお!!!!」

「あぁ? 面白いんだから、良いだろ」

「クソォォォォォオオオオオ!! 何が!! 聖剣エクスカリバーだぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 そう、カズマの大事な所のちょっと上に聖剣エクスカリバー↓が書いてあるのだった。

 

 




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走り鷹鳶とドMクルセイダー

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると、幸いです。


 今日はウィズの店に来ていた。

 

「おぉ、貧乏店主かと思ったか? 残念我でした!」

「ぶっ殺されてぇなら、そう言えよ。ぶっ殺してやるからさ」

「何? 貧乏店主に良からぬ劣情を抱いてる少年よ、汝が我輩を倒せるのか?」

 

 刀を引き抜きながら、俺は本気でコイツを殺そうと決めた。

 というか、ああいうのに劣情を抱くのって結構普通じゃない? 俺は鈍感系主人公のように、何の劣情もなく、女性に話しかけるやつは絶対におかしいと思う。

 

「……それで? 今日はいかような用事があるのだ?」

「いいや、普通に暇だから来た」

「そうか……まぁ、今のオススメはこの『バニル人形』夜中に笑いだすという欠点があるが、悪霊を寄せ付けなくなる効果があるのだ」

 

 へぇ、結構凄いな。というか、お前、買えってか。

 

「この店の売れ筋の一つでもある。ちなみに余計な事をした貧乏店主は今、私の『バニル式殺人光線』を受けて、気絶している」

 

「お前、あんまりやり過ぎるなよ……あ、そういえば、アイツらが、確か、水の都のアルカンレティアに行くとか言ってたな?」

 

「ふむ、なるほど……だったら、この店主を連れてってはくれないか? じゃないと本当にお金が溜まらず、お前達に金を渡せない」

 

 そういえば、カズマが作ってる道具がすげぇ、売れるらしいな。ま、いいや。

 確か、今日行くらしいし、俺はウィズを背負いながら、先に進んでいった。

 

「……ふわぁ」

 

 欠伸をしているアクアを見つけ、俺達は馬車の待合場に行く事になった。

 そんな訳で、どんな馬車に乗ろう、最低でも六人乗れなきゃ困る……。 いろいろと探していたら、背中に居るウィズが透けだしてきていたので、カズマに。

 

「おい! ドレインタッチ!!」

「お、おう!」

 

 焦りながら、俺にドレインタッチをしながら、ウィズに送る。意識を取り戻したウィズは俺に何度も。

 

「ありがとうございます! ありがとうございます! でも、どうして私に、旅行なんて……」

 

「なんか邪魔だからっつってたな」

 

 なんて、一切、隠さずに言ったら。

 

「もう、バニルさんは素直じゃないですから……」

 

 とどうやら、別の捉え方をしたようだ。だが何も言わずにおこう。俺は無言で下ろして、なんというか、なんというかね……みたいな顔をしていた。

 

「……?」

 

 ウィズはどうやら意図を理解してないようだった。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 馬車の六人乗りがあったのだが、どうやら一つだけ席が先に取られていたようだ。なんでもレッドドラゴンの雛らしい。

 だから、一人だけ、荷台に乗らなきゃいけないのだ。俺は別に荷台でもいいのだが、とりあえずアクアの提案のじゃんけんにする事になった。

 

 結果。カズマがヤバい。確かに、カズマの運の良さは知っていたのだが、それでもあり得ない。

 今まで負けた事が無いと言っていた。あり得無くない? 俺は普段のじゃんけんは普通だけど、何かが掛かると途端に弱くなる。本当にこうなるのは、なんでだろう。

 

 ちなみにアクアが『ブレッシング』という運を上げる魔法を使ったが、結局、無意味だった。

 

「なんでよー!! チートよ! そんなのチートよ! アンタ、最初からのチート持ちだったの!? だったら、返してよ、こんな素晴らしい恩恵を授かった事を!! 私を天界に帰してぇぇ!!」

 

 なんて駄々を捏ねだすアクアに対して、カズマがブチ切れた。

 

「バカかお前!! 俺のチートはじゃんけんに勝つ能力か!!? バカか!! こんなのでどうやって魔王を倒すんだよ!!?」

 

「もういいわ! リュウトじゃんけんよ!!!」

 

「えぇ? 俺、ジャンケン弱いんだよな……」

 

 そう言い、俺とアクアがじゃんけんをした――――。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 ゴドンゴドン、と馬車が揺られている。レッドドラゴンと戯れるめぐみん。膝にちょむすけを乗せるウィズ。

 身を乗り出しながら、外を眺めるダクネス、その隣にカズマが居て、ウィズの隣に俺が居る。ちなみに荷台にはアクアが居る。

 

 俺達のいつも居る街から大分離れ、なんというか、冒険というのは、こういうのだろう。

 ずっとはじまりの街にいるのに、どうしてなのか、幹部が現れたり、機動要塞が現れたりして、正直に言えば、おそらく他の場所に移ったとしても、多分、怖い事に巻き込まれるんだろうな。

 なんて事を普通に考えていた。実際、絶対そうなるに決まってる、むしろ、そういう事に巻き込まれない事が無かった。

 

 ちなみに今回、水と温泉の都アルカンレティアに向かっているのは、湯治が目的だ。カズマが最近、死んで、生き返ったので、凄くねぇか、この言葉、生きてる内に絶対に言わない言葉だろ、これ。

 まあいいや。死んだので、それで生き返ったカズマの湯治が目的だ。

 

 そんな訳で、俺は心地よく揺らされながら、瞼が重たくなってきたような気がしてくる……朝が少し早かったからな……。眠そうに目を擦っていると。

 

「大丈夫ですか?」

「ん? 大丈夫……眠いだけ」

「あの、ドレインタッチで私に生命力を渡したからですよね……本当にすみません」

「いいや、ウィズの所為じゃねぇよ。俺は、俺の好きで――ふわぁぁ……」

 

 むっ、マズイ……眠くなってきた、本格……的に…………ん? なんか、柔らかい……枕? 何これ、凄い心地良い……。

 

「……あ、あの、リュウトさん……その……」

「ん……?」

 

 なんだろう、目の前に居るカズマの視線が凄く、羨ましそうにしている。なんだろう、何が羨ましいんだ? 眠ってるだけだぞ……。

 

 でも、ウィズもなんか、困って感じだったな……どういう事だ? ちょっとだけ、視線を変えてみよう。

 俺の視線の先にウィズの豊満な胸があった。つまりだ、俺の頭にはウィズの、たゆんたゆんがあるわけだ。

 

「…………まぁいいか」

「良くねぇよ!!!」

 

 カズマに突っ込みを受けて、逆の方に体重を預ける事にした……。それから、しばらく時間が経ち、カズマが何かを見つけたようだ。

 俺はカズマに聞いてみると、どうやら御者のおっちゃんが走り鷹鳶だと言っている。

 

「……おい、おっちゃん。それは――」

「っと、早とちりしないでくださいよ、お客さん、私が名づけた訳じゃないですからね」

 

 どうやら、おっちゃんの話によると、走り鷹鳶は、タカとトンビの異種間配合の末に生まれた、鳥類界の王らしい。

 ちなみに繁殖期に入ると、硬いモノに突撃する寸前で、避けるという求愛行動を取るらしい。

 

 だから、大体が、勝手に岩に激突したりして、特に何も心配は無いらしいし、もし、何かがあっても、後ろに俺達を護衛する為に冒険者も居るので、特に心配は無いのだ。

 

 そうして、どんどん土煙が俺の目から見ても、見えてきた。そして、俺はちょっとだけ焦りながら、おっちゃんに言う。

 

「おい! なんかあれ、こっちに向かってきて無いか!?」

 

 そうしていると、後ろの方から、ダクネスの声が聞こえてくる。

 

「あれ? おかしいな、アダマンタイトとかの凄まじい硬度の鉱石があるのかもしれないな」

 

 なんて言っていた。硬い、硬い、硬いかぁ……ちょっと待てよ……?

 

「おい! 見ろ! カズマ、リュウト! 何か、熱い視線で私を見て、凄い早さで襲い来るモンスターが居るぞ!!」

 

「お前の所為だぁぁぁ!! てめぇの硬ってぇ、筋肉の所為で、走り鷹鳶みてぇな、ふざけたモンスターが来てんだぞォ!?」

 

「おい、リュウト、私だって乙女の端くれなんだぞ。そんな風に言われては、ちょっと……この鎧には、アダマンタイトを少しだけ含んでいる、だから、そんな目で私を見るなぁ――!」

 

「お客さん! 止めさせてもらいますよ!!」

 

 と馬車を止めて、俺達は本来は戦わなくても良いのだが、この責任はどうやら仲間にあるのだから、戦わなきゃいけねぇだろ。カズマに目配せしながら、俺達は降りる。

 

「……チッ、降りるぞ!」

 

 そう言い、俺達は一斉に降りて、戦う。ウィズには馬車の中に居て貰う。おそらくこの中じゃ一番の戦力だ、だったら、御者のおっちゃんの護衛に回って貰う。

 

 戦うためにはそれなりのスペースというものが必要だ。ちなみに、そんなものを普通に無視して、飛び出そうとしてるクルセイダーが居る。

 凄く嬉々として、走り出した、元凶を見て、戦士風の男が。

 

「お、おい!!! そこのクルセイダー! アンタは関係ないんだ! 下がってろ!!」

 

 だが、歩みを止める事など、あるはずがないクルセイダー。

 

「あれは『デコイ』!! あのクルセイダーは護衛でも無いのに、それを使って、自らを囮にしてるんだ!!」

 

 アーチャー風の男がそう叫んでいる。

 正直に言えば、かなり申し訳ない気持ちで一杯だ、そんな風に賞賛しないで欲しい。ちなみに『デコイ』は一切使ってない。

 

「あ、あれだけの敵を前にして一歩も引かない……! どれだけ勇敢なクルセイダーなの!!」

 

 まったく違う理由で、褒め称える女魔法使い。やめて、本当にやめてください。

 ダクネスは頬を火照らせながら、後ろ姿だから、確認できないが、きっと凄い笑顔なのだろう。嫌だ。本当に嫌だ。

 

「護衛じゃない冒険者ばかりに危険な目に遭わせる訳にはいかねぇ!! 援護は任せろ! 『バインド』!」

 

 盗賊風の男がそう言い、援護とばかりに『バインド』を放つ。

 

「何っ!!」

 

 とっさに、本当にとっさにダクネスはその言葉に反応して、走り鷹鳶を庇うように、『バインド』を喰らう。

 『バインド』とは盗賊スキルで、縄で相手を縛るスキルだ。ダクネスはあっという間に手足を縛られ、地を這う。

 

「くう!! なんという事だ! このままでは、あのモンスター達に蹂躙されてしまう!!」

 

 嫌だ、聞きたくない。勿論、冷めた目でそれを見る。そして、盗賊風の男は。

 

「まさか! 俺が『バインド』でモンスターの群れに俺がターゲットとならないように……!? 援護のつもりが、かえって邪魔になっちまった!! ゆ、許してくれぇぇ!!!」

 

 悲痛に叫ぶが、決して、そんな理由ではない。

 言ってみれば、凄く自己中心的な考えで、そうなっているのだ。だが、状況が状況なだけに、おそらくそういう風に見えているのだろう。

 

 仕方ない事だ。だが、勘弁して欲しいという所である。

 

 本当になんというか、かえって邪魔して、すみませんでたぁぁぁぁ!!!




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水と温泉の都アルカンレティア

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると、ありがたいです。


 チキンレース。

 

 それは、硬いモノに激突する寸前に避けるという走り鷹鳶の度胸だめし。それに選ばれていたのが――。

 

「あぁ! もうダメだ! ぶつかってしまう!!」

 

 ダクネスがそう叫ぶが、『ブレッシング』により、一時的に運を上昇して貰っているダクネスがそうそう当たる事はなく、それにアクアが胸を張っている。

 俺が後で、変わってやるから、少し待ってろ、と言ったら、よしっと拳を握っていたが、今はどうでもいい。

 それよりも、だ。

 

「魔法だ! 魔法を使うんだ!」

 

 護衛の人達が本格的に動き始める。その言葉をはじめに、次々と。

 

「『ライトニング』!」

「『ブレード・オブ・ウインド』!」

「『ファイアーボール』!」

 

 魔法が乱雑に放たれている。俺も隙あらば、『フルキャンセル』を使い、動きを封じてから、切り裂いたりしている。

 最近、動きばかり止めてばかりだ、もっと有効活用できると思うのだが――。

 まあ、基本の使い方はこれでいいや。

 

 走り鷹鳶はかなりのスピードだ。

 滅茶苦茶早い為、普通に激突されるだけでも、大ダメージは免れない。つまり、このままでは危ないという事だ。

 

 俺はカズマの名案を待ち続けつつ、『フルキャンセル』を使い続ける。

 

「『フルキャンセル』!」

 

 ピタッと目の前でとまった瞬間を見計らい。

 

「『瞬斬』!」

 

 ズバッ! と勢い良く、切り裂く。単調な作業だ。

 だが、いつまでもこれが続く訳ではない、このままではキリが無いのだ。そして、俺はカズマの声を聞いた。

 

「おい、おっちゃん! この辺りに崖とか無いか!?」

 

 崖? あぁ、つまり落とすって訳か、だがそう上手くいくか?

 

「いや、この辺りには、崖はないな。あるとしたら、突然の大雨で休憩する洞窟ぐらいのもので」

「チッ……ん? 洞窟?」

 

 洞窟……いや、使える。俺はとっさに縛られているダクネスを解こうとしたが、どうやらこれには結び目が無いようだ。

 面倒だからそのまま持ち上げようとしたら――。

 

「うぐっ!? け、結構重たい……」

「なっ! やめろ! 重たいなどと言うな! ちゃんと鎧が重いと言い直せ!」

「うるせぇぇぇぇえええ!!!」

 

 気力で持ち上げて、俺はそのまま走りながら、馬車に飛び乗る。息を切らしながら、それを眺める。

 馬車で一気に移動させてもらう。

 

「おい! アクア! めぐみん! お前らも早く乗れ!! あとめぐみんはいつでも魔法を放てるようにしておいてくれ!!」

「はい、わかりました!」

 

 急ぐ。急がないと、すぐに追いつかれてしまう。

 俺は刀で一本一本、縄を切っていく。かなり面倒な作業だ。

 走り出した馬車目掛けて襲い来る走り鷹鳶。距離が距離だけに、届きそうで届かない。俺が少し困っていると。

 

「『ボトムレス・スワンプ』!」

 

 突如、声がしたと思ったら、馬車と走り鷹鳶の間に巨大な沼が現れる。おそらくこれは魔法で、足止めをしたのだろう。

 声の主はウィズだ。やはりこういう場面だったら、魔法使いというのは役立つのだろう。めぐみん? 知らん。

 

 あの走り鷹鳶の狙いはウチのクルセイダーだ。

 ちなみに刀で一本一本取ってる内に、またコイツ勝手に走り出さないか、心配になってきて、ちょっとだけ手の動きが止まってしまう。

 

「おっちゃん! 洞窟まではまだなのか!?」

 

 カズマが叫び、聞く。

 

「あと少しで見えてきますよ!!」

 

 そうして、間もなく、見えてきた。そこそこ大きな洞窟だ。

 

「カズマ! いつでも魔法を撃てますよ!」

「よし! おっちゃん! 洞窟まで着いたら、そのわきに止めてくれ! アクア! 俺の支援魔法を!」

 

 そう言ってカズマが支援魔法で筋力を強化しつつ、狙撃で狙っていく。俺のできる限り、前に出て、フルキャンセルで止めていく。

 

「フルキャンセル! フルキャンセル!! フルキャンセル!!! フルキャンセル!!!!」

「ピィーヒョロロロロロ――ッ!!」

 

 走りながら、翼を広げ威嚇。ここが鳶の遺伝子ね。うん。

 次第に洞窟が近づいてくる。そして、洞窟のわきに止めると。

 

「ここは雨でも降らない限り、誰も近寄ってきません! 遠慮なくやっちゃってください!!」

「リュウト!! ダクネスを投げろぉ!!!」

「ええぇ!!? わ、わかったぁ!!」

 

 驚いている暇など無いのだが、さすがに驚く。そんな事させるのかよッ!? みたいな、まあ仕方ない。

 俺はダクネスを縛ってる縄を持って、ハンマー投げの要領で、投げた。

 

「うおおお!! いいぞ!! いいぞ!! この仕打ち!!」

「…………」

 

 罪悪感が皆無という……。

 

 走り鷹鳶がダクネスを目掛けて、ピョン! ピョン! ピョン!! とダクネスを飛び越えていく。背面跳び、ベリーロールとかいろいろだ。

 全部の走り鷹鳶が入って行ったのを、確認すると、カズマが――。

 

「やれ!! めぐみん!!!」

 

 ダクネスを引きずり、少しだけ離した後、めぐみんの爆裂魔法が放たれる。

 

「『エクスプロージョン』!!!」

 

 そうして、爆音と爆焔で全てが飲まれた――。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 すっかり日も暮れて、商隊の人達と共に、キャンプファイアーみたいな焚き火をいくつも作り、その焚き火を中心に円形を囲む形で、商隊の馬車がバリケードのように止められている。

 

 これは風除けとモンスターに対してのバリケードらしい。その代わり、馬車を走らせる事はできないが、この暗闇だ、不可能だろう。

 

「さぁ、どうぞ、どうぞ! いい部分が焼けたので!」

 

 と歓待を受けている俺達。今回の出来事は実は、ウチのクルセイダーの所為なので、本当はこんな歓待は受けたくないのだが――。

 

 

「しかし、お見事でした! まさか、爆裂魔法を扱いになる大魔法使いに、あれだけの怪我人をすぐに治してしまうアークプリースト様に、相手の攻撃を一身に受けて、足止めをしたクルセイダー様とソードマスター様! そしてとっさの判断で、上級魔法で巨大な沼を作り出し、的確な判断で洞窟にまで、おびき出した、あなた様のその機転! いやぁ、本当にお見事でした!!」

 

 

 やめて、本当にやめて、やめろぉ!!

 

「そんな事ありませんよ。あと、何度も言ってますが、護衛の報酬は結構ですので……」

 

 そう言って、遠慮する俺、当たり前だ、

 さすがにこれは貰えない。これじゃ、あれだ。詐欺とかに近い。

 

「な、なんという方々だ! わ、私は感動しました! あなた方のような、まさに本物の冒険者が居たとは!!」

 

 うん。ダメだ、こりゃ。

 

 よし、そろそろ離れよう。アクアは宴会芸を披露して、拍手喝采を受けていたり、カズマはボロボロになった鎧を『鍛冶スキル』で直していた。 へぇ、凄いな。ふむ、俺はどうしようか。とりあえず、座ってるか。

 

「リュ、リュウトさん……」

「ん? ウィズ? どうした」

「いえ、その……」

「あぁ、アクアに構われて、疲れたのか? まあいいや。とりあえず座れよ」

 

 隣を進める、それに従って、ウィズは座る。

 

「いやぁ、やっぱり、悪評が広まってない場所だと、あんな扱いを受けるんだなぁ……」

「あ、悪評ですか……」

 

 なんとも言えないような感じだ。まあ仕方ない。

 

「いや、でも……やっぱり仲間ってのは良いよ、本当にこういうのは、楽しく感じるよ……」

 

 ちょっとだけ顔を綻ばせる。ウィズがちょっと驚いた顔をしている。

 なんだよ、こういう顔をする俺は珍しいってか? いや、確かにこういう笑顔になるのは、珍しいんだけどさ……。

 

「そうですね……」

「…………」

 

「……? リュウトさん? あの……眠っちゃいました? ……疲れてしまったんでしょうか……? フフ、寝顔は子どもみたいですね」

 

 そう言い、膝枕をするウィズだった。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

「リュウトさん、リュウトさん……」

「んぅ……?」

 

 俺が目を覚ますと、焦った様子のカズマが目に映る。

 なんだ? まさか、何か来たのか……。俺は目を擦りながら、辺りをキョロキョロしていると、ゾンビの姿が俺の目に映った。

 

 はぁぁぁ……ため息を吐いてしまう。これはあれだ、状況的に考えて、青髪の女神様の所為なのだろう。

 カズマが俺が何かするよりも先に動く。どうやら、わかったようだ。

 

 そのまま、俺は特に何かする必要もないだろう。

 そうして、アクアは浄化しようとする。ちなみにアクアの魔法については、威力が絶大だからリッチーであるウィズでも効く。

 

「……おい、ウィズ! 下がってろ! 危ないぞ!!」

「あ、はい!!」

 

 ウィズを下がらせ、俺はその状況をただ眺めていた。

 それで、結局すぐに解決する。まあ、女神だし、強いアークプリーストだし。

 

「な、なんて、神々しいんだ!!」

「アンデットが襲ってくるなんて、珍しい事があるものだが、ここにプリースト様がいてくれて良かった!」

 

 うん。そのプリーストがいなければ、おそらく襲われる事は無かったんだろうけどね。

 結局、最後の最後まで、なんだがなぁ、って感じで終わらせた俺達だった。

 

 その後、水と温泉の都アルカンレティアに着き、あのおじさんは意地でも報酬を受け取らない俺達にその代わりにと、アルカンレティアで経営してる大きな宿屋の人数分の宿泊券を貰った。

 

 めぐみんがレッドドラゴンに『じゃりっぱ』なんて変な名前をつけていた。

 しかも、ドラゴンは一度つけた名前じゃないと二度と返事をしないらしい。つまり飼い主は一生、ドラゴンを『じゃりっぱ』と呼ばないとダメという事だ……。

 可哀想だな。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

「ついに着いたか……!! 水と温泉の都アルカンレティア……!!!」

 

 やっとだ! やっとなのだっ!! いろんな出来事があったが、ついに着いたのだ!! 

 よっしっ! いやぁ、楽しみだなぁ、温泉街という訳だからさ、すっげぇ、良い場所なんだろうなぁ……なんて思っていたら。

 

「ようこそ!! 水と温泉の都アルカンレティアへ!! 観光ですか!? 入信ですか!? 冒険ですか!? 今、入信したら、さまざまな特典がありますよ!? どうですか!?」

「いえ、結構です」

 

 そうここは温泉街と同時に……アクシズ教の総本山でもある。はぁぁぁ……。凄い、アレな人が多い、まあ仕方ないそういう場所なんだからな……。

 

「じゃあ、私はちょっと教会に遊びに行ってくるわ!」

「お前、自分が女神とか絶対に言うんじゃねぇぞ。あと名前もな」

「わかってるわよ! 私を誰だと思ってるの!?」

「……めぐみん、アイツについてやってくれないか? 一人にしておくと、怖い」

「わかりました。では、すみませんが、荷物、お願いします」

「おう」

 

 と荷物を預かり、俺、カズマ、ダクネス、ウィズが先に宿屋の宿泊券をありがたく使わせて貰う。

 そして、いろいろと終わらせ、さっそく俺達も観光をしようと思い、街を歩こうと思っていた、ちなみにウィズは先に休ませておいた。

 なんか長旅なのか、アクアと一緒に居た所為なのか、薄くなってたから……リッチーって不便だなぁ、なんて思ったりする。そうして歩いて、店を覗きこんでいると。

 

「お客様、そんな下品なお店で物を買うと、お客様の品位が疑われますよ? 高貴なお客様には相応しい、天然素材オンリーで作られたエルフ族特製のアルカンレティア饅頭です。どうかこちらを見て言ってくださいませ」

 

 エルフ、エルフだ。耳が長い、うわっ! 本物!? すっげぇ! あの耳、触ってみてぇ……。

 そう、話しかけてきたのは、緑の髪色をした、肌が白く、美形の男性だった。

 

「おうコラ! お高くとまりやがって、この野郎! 物ってのはなぁ、高けりゃいいってもんじゃねぇんだよ!! お客さん、こっちにしておきな! 肉汁たっぷり、日持ちするって言うお得な物だぜ!」

 

 ドワーフだ! 頑固っぽい感じの俺のお腹ぐらいの背丈で凄い!! 

 うわぁ、凄いな……。もっさりと髭があって、典型的だ!! 本当に典型的だ!! そんな感じで、喧嘩を続けていたので、カズマはどちらも買うと言うと、二人して笑顔で。

 

「「まいどありー!!」」

 

 ふむ、なんというかパフォーマンスっぽいなぁ? 

 気の所為か、どこか演技臭い……。ま、いいか。なんというか、この世界には幾度となく裏切られてきた。

 今回も何かありそう、いや、さすがに疑心暗鬼になりすぎか。

 そうして、ダクネスは使用人や親父さんの為にいくつか買っていた。

 

「それにしても、本当だったんだな!! 絵本で見た通りだった!!」

「……んー」

 

 少し腑に落ちない感じだったが、まあいいや。そんなこんなで、ちょっとだけ歩いた後にカズマが話してる最中にオススメな場所とか聞いておけば良かった、と言い。

 ダクネスはここで待機してもらい、戻ると、そこには誰もいなかったようで、どうやら、休憩場に居るようだ。

 カズマが二人の声が聞こえてきたので。

 

「おい、また喧嘩してるの――」

「あっ! ちょっと困りますよ。ここ休憩場なんで……」

 

 そこには丸っこい耳をしたエルフと髭が一切無いドワーフが居た。

 うん。なんというか…………わからない事も無い。きっとこんなオチがあるのだろう、なんて思ってたし、この世界だし。

 

「えっと、一応言っときますけど、私はエルフっスからね? 一応、混血っスけど……いるんスよ、イメージと違うって騒ぐから、こうやってイメージ保つ為に」

 

「そうなんですね、私も方もそんな感じで、先程の喧嘩もパフォーマンスなんですよ、ほら、なぜか仲が悪いって言う噂が流れてますから、だから、それに乗っかっておこうかと」

 

 ま、仕方ないよね。よくあるよくある、ねぇよな……。はぁぁぁ……なんというか、もっと異世界感を出せよ、この世界、頑張ってくれよ、もっとぉ!!

 

 そんなこんなで、観光名所を聞くと、しばらく前には混浴がある温泉が良かったらしいのだが、最近はなぜか、質が悪くなって、入れなくなってしまったらしい。

 しかも原因がわからずじまいという、ふざけた事だ。

 

 そうして、俺達はダクネスの元へと戻る。

 

「良い場所は聞けたか?」

「……とりあえず、そこら辺ブラブラしようぜ」

「……?」 

 

 ちょっと元気が無いカズマに対して、小首を傾げて、カズマの方を見ていた。

 

 

 

 




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アクシズ教=忌々しい教団

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると、幸いです。


 俺達三人はブラブラと歩いていた、正直に言おう、というか叫びたくなるぐらいに――。

 

「うぜぇ……アクシズ教……」

 

 右を見てもアクシズ教、左を見てもアクシズ教。どこを見てもアクシズ教。一人みたら三十人は居ると思え、アクジェットとか無いのかなぁ……なんて思ったり、勘弁してもらいたい……。

 なんでさっきから、執拗に勧誘してくるんだ? それに勧誘の仕方も仕方だ、友達のフリをしたりとか、襲われてるフリをしたりとか、小さな女の子がしたりとか……なんつーか、トラウマになるわ。

 

 しかもというべきか、ダクネスがエリス教徒のお守りを出したら、いきなり唾を吐いたりするし、やだもう。

 

 ちなみに、アクシズ教とは、マイナーな宗教らしいが、野盗や魔王軍に対して、自分はアクシズ教徒だと言うと、見逃して貰えるらしい。

 それぐらいにイカれてる宗教団体だと思われてるのだ。なんというか、彼らはきっと悪気は無いのだろう、ただ、そうなるとよりいっそう性質が悪いという事に気付いて欲しい。

 

 そうこうして、カズマも俺も我慢の限界というのが、あるので、ちなみにダクネスは喜んでるが、コイツは例外だ、気にしない。

 教会の扉を開き、大声で叫んだ。

 

「「責任者だせーっ!! 説教してやるっ!!」」

 

 そうしたら、掃除をしていた女性が。

 

「あら、どうなさいました、入信ですか? 洗礼ですか? それとも私」

「わ、私って……」

「何ちょっと照れてるんですか、冗談ですよ、初対面の女性に対して、何を本気にしてるんですか、頭大丈夫ですか?」

 

 握り拳を作ってるカズマを傍目に俺はこの女性に対して。

 

「ここに眼帯つけた魔法使いと青髪のアークプリーストが来なかったか? 俺の仲間なんだ」

「あら、お連れ様でしたら、二人とも、奥にいますよ」

 

 奥? なんで奥?

 

「それよりも、後ろのお連れさん大丈夫ですか? 子供達に石を投げられてますけど」

「は? あ、おい!! クソガキ共!! 何やってんだぁ!! シッ! シッ!!」

 

 カズマが追っ払って、俺はとりあえず、しゃがみ込んでいたダクネスに対して。

 

「大丈夫か?」

「リュ、リュウト、カズマ。ここは本当にレベルが高いな、女子供にいたるまで……ハァ、ハァ……」

「お前……ちょっとエリス教のお守りしまっておいてくれないか?」

「断る」

 

 そんなどうしようもないエリス教徒を無視して、再び、教会内へ。

 すると、ほうきを掃いていた、女性が。

 

「お連れ様の一人はあちらにおられます。只今、当教会のプリースト達は出払っておりますので、あのアークプリースト様に懺悔室をお願いしております」

「カズマ、リュウト、私はめぐみんの方へ行ってくる」

「だったら、俺は一度、宿に戻ろうかな……」

「なんでだぁ!! お前も来るんだよ!」

 

 ちょっと、だんだん面倒になってきたので、宿に戻って、温泉に入りたい俺。

 耳を引っ張られながら、進んでいく、結構痛い。

 

 懺悔室は二部屋あって、アクアが居る場所はどうやら鍵が掛かっているようで、仕方なく、普通に入らなければならない。

 まず一人一人入らなくてはならないだろうから、カズマが入る。俺は待っていた。

 

 しばらく時間が経ち、中から叫び声というか、泣き声が聞こえてきた。俺はなんとなく察したので、めぐみんの様子でも見てくるか、という訳で、そちらに向かっていくと。

 

「リュ、リュウト……早くここから出ましょう。早く!! 一刻も早く!!」

「わ、わかった! わかったから! その必死さは十分理解できるから!」

 

 うん、確かに、こりゃトラウマもんだ。あのめぐみんですら、こうなんだからな……あのめぐみんですら、あの頭のおかしい爆裂娘ですら、アクシズ教徒のおかしさには勝てなかった。

 

「……カズマが戻ってきたら、もう宿に行くか」

 

 それからしばらくして、カズマが疲れた顔で戻ってきた。

 まあ先程、別の人が懺悔しに来てたりと、いろいろと大変だったのだろうなぁ、なんてちょっと思ってたり。

 

「んじゃ、俺そろそろ戻りたいんだけど、みんなもそうするんだろ?」

「そうですね、私はもう早く、宿に帰りたいです……」

「うむ、私も、今日はもう満足だ」

「それじゃ、行くか」

「私は、ここの温泉に入ってから、行くわ」

 

 アクアだけ残り、他のみんなは帰る訳だ。

 宿に戻る道中も、また宗教勧誘がしつこかったが、無視をし続けて、なんとかした。

 もうしつこくて怖かった。そうして、宿に戻ると、ホカホカしたウィズが居た。

 

「あ、皆さん。お帰りなさい! ご心配をお掛けしました、先程、お風呂を頂いてきました。店員の方が教えてくれたので、入ってきたんですが、混浴の方はとても広いですよ。人が居なかったので、貸切みたいでした」

 

 ………………。つまり、もう少し、早く宿に戻っていれば……今頃、もしかしたら、背中を流してもらったり、できたかもしれなかったのかよ、もしかしたら、もしかしたら、どうにかなったのかよ!? 

 うわぁぁぁぁぁああああッッ!!

 

 ガクッと膝から落ちる俺。

 

「……あ、あの、どうしたんですか? 今日の観光がそんなに疲れたんですか……?」

「……いや、そうじゃねぇけど……俺は正直、明日から宿から出たくない」

「あぁ、この街はいろいろとおかしい」

「アクシズ教徒……怖いです。紅魔族並みに恐れられてる理由が良くわかりました」

「わ、私は、明日も観光しようかなぁ……」

 

 何言ってんだよ。もう嫌だ。それより、風呂に行くか……。

 さっさと下着を取りに行って、そういえば、カズマと俺は同じ部屋だったな。

 

「カズマ、俺達、風呂に入るか」

「ん? あ、あぁ。入るか」

「聞こえましたよ。早く行ってください」

「お先に入らせて頂きましたので、カズマさんとリュウトさんもどうぞごゆっくり」

 

 ウィズとめぐみんが答えてくれた。仕方ない……ダクネスの方をちらりと見て。

 

「俺達!!」

「早く行け」

 

 ダクネスが冷たく言い放った。あぁ……。仕方ない……。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 下着を取りに部屋へ戻り、そして用意をした後、俺達は寂しく温泉へ。誰も付いてきてくれなかったが、初めから期待などしてないし、関係ねぇし。それよりも、本日のメインイベント。

 

 俺の目の前には、三つの入り口が存在している。

 右から、男湯、混浴、女湯。

 俺達は本能のまま、真ん中へと突き進む。混浴、そう混浴なのだ。

 

 ようは合法的に覗きが――こほん、確か、広かったから、入りたいだけなんだからね!

 脱衣場に入っていったら、服の入ったかごがあった。すーはー、落ち着け。この世界、俺をいつだって騙してきた……。

 今回もおばあちゃんとか、そんなイメージなんだろう? 

 わぁってんだよ。

 

 そうして、全裸になり、いざ中に入ろうとした瞬間、扉の前に行くと、声が聞こえてきた。

 

「忌々しい教団もこれで終わりだ……秘湯の破壊工作が終われば、あとは待てばいい……何、十年や二十年ぐらい、俺にとっては問題ない」

 

 ――なんだ? この悪の組織的な……。

 あるある? それにしてもこの言葉だけでいくつかわかる事がある。

 まず、忌々しい教団、これは言わずもがな、アクシズ教団だろう、間違えない。そして、十年や二十年ぐらい、と言っていた。

 おそらく人間ではない誰かなのだろう。

 

「ハンス、いちいち、そんな報告しなくてもいいわ。それに私は湯治に来てるのよ? あんまり私を巻き込まないで欲しいわね?」

 

 聞こえてきたのは、女の、それも間違いなく若い声だった。俺はタオルを腰に巻き。

 

「そう言うなよ、ウォルバク。正攻法じゃ、どうにもならないこの教団を潰せるんだぞ? 引き続き、報告するから、この宿で湯治しててくれよ?」

 

 ガラガラ!! と勢い良く、俺達は入った。

 

「「ッ!?」」

 

 突然、入ってきた俺達に驚愕していた男女二人だが、俺も驚いた。

 何にって? あの女……たゆんたゆんがウィズと同レベルだったのだ! すげぇぇぇぇ!!! 

 男の方は湯船に浸かっておらず、腰にタオルを巻いて、お姉さんのそばで片膝をついていた。

 茶髪で短く揃えた髪で筋肉質な男だったが、こっちはどうでも良い。

 それよりも、赤髪のショートカットでスタイル抜群のこっちの方が、気になる。

 

 俺達は即座に体を洗い終え、ジィー。とお姉さんの方を見ていた。

 

(バ、バレたのか?)

(さ、さぁ? どうかしら……)

 

 ジィーと見続ける。

 

(ねぇ、私の方ばかり見てる気がするんだけど……)

(あぁ、ありゃ、疑いの目じゃなくて、好奇の目だな……)

 

 その小声でボソボソと喋ってる男の言葉でお姉さんの方が湯船に深く浸かった。

 チッ、余計な事を言いやがって、まあいい。そのしぐさはどちらかと言えば、グットだ。

 

(ね、ねぇ……)

(ま、まぁ疑われるよりは良いだろう! 俺、先に行って、仕事してくるから!!)

 

 そのまま一切、湯船に浸からないまま男の方は温泉から出て行った。

 

 勿体無い。少しぐらいは入れば良いのに、もしかしたら、入れない理由でもあるのかもな、まあ良い。

 

 そんな余計な事を気にするよりも、あっちの方が重要視すべきだろう。

 で、でも……なんかちょっとだけ、恥ずかしくなってきた……。

 

「あの、あなた達、ここの住人じゃなさそうね? もしかして旅行?」

「旅行と言えば、旅行ですかね……コイツがちょっと怪我をして、今回はその湯治に仲間と一緒に行ったんですよ」

「そうですよ、歴戦の傷と言いますか……」

 

 その言葉にクスクスと笑いながらお姉さんは。

 

「私は、自分の半身と戦った時に、力を完全に奪いきれなくてね、それで、本来の力を取り戻すために、こうして湯治をしてるの」

「へぇ、ウチのアークウィザードが聞いたら喜びそうな単語ですね」

 

「ふふふ、あなた達の仲間って、もしかして紅魔族? そういえば、私が魔法を教えた紅魔族の子、元気にしてるかしらー? あぁ、そこら辺に私の半身が転がっていれば、こんな事しなくて、済むんだけどねぇ……」

 

 ……? なんか不穏な空気? いや、気のせい……か?

 

「あ、あと、君達、もうこの温泉には入らない方がいいわよ?」

 

 と言い残してから。

 

「じゃあ、私はそろそろ上がるわ…………あ、あの、上がる時の無防備な時を見るのは、勘弁して欲しいかなぁ……」

 

「「お構いなく」」

 

 ちょっとだけ、涙目になるお姉さん。仕方ない……二人して、後ろを向く。その後、ありがと、と言い残して――。

 

「はぁ、せっかく湯治してたのに、また別の場所探さないと……」

 

 ……今までの言葉を思い出せ。もしかしたら、この街をぶっ壊すような、そんな危険な施しをしてるかもしれないな……でも、今回は旅行に来たんだし、無視するべきだな。

 忌々しい教団。正直、俺もそう思うし。

 

「ほう! 私達の屋敷も結構広いですが、やはり高級宿! 泳げるぐらい広いじゃないですか!!」

「おいめぐみん! 泳ぐのは、マナー違反だぞ。お、おい!? なんでタオルを剥ごうとする!?」

「ここは混浴じゃないですよ!! 何、今更恥ずかしがっているのですか。荒くれ稼業の冒険者の私達がそんなに女々しくてどうします!!」

「いや、その理屈はおかしい! というかめぐみんが男らしすぎる! あ、タオルがっ……!」

 

 聞き覚えのある声が聞こえてくる。めぐみんがどうやらダクネスのタオルを剥いでるらしいな。もっとやって欲しいが、いかんせん見えないからな……。

 

 スイスイと泳ぎ、女湯の方へ向かう。

 女湯を隔ててるのは、天井の開いた壁。つまり、覗こうと思えば、覗けるのだ。だけど、俺はそこまで変態じゃない。

 しっかりと節度を守る。だから、耳をたてる。

 

「それにしても、本来は物臭なあの三人を連れ出して、アクアがアンデットを引き寄せて、二人に討伐させたりしたかったのですが、こちらに来て、正解でした」

 

 本来的にはそういうのが目的だったのか……カズマの方を見てみると、拳を握り締めていた。

 

「そういった理由で湯治に……まあ、あのまま街に居ても、そうはならなかっただろうしな、本当にアイツらどういう男なのだ……基本的に自堕落な癖に、魔王軍幹部と渡り合ったり、私が貴族とわかっても、態度が変わらなかったり……」

 

「シッ! ダクネス、それ以上は言うのは待ってください。この隣は混浴です。あの二人なら、男湯と混浴、どちらを選ぶか、すぐにわかるでしょう?」

 

「確かに、カズマは混浴だな。リュウトの方は微妙だが、おそらく混浴だろう。二人とも、大義名分があれば、堂々としてるヤツらだからな」

 

 アイツら、ぶっ飛ばしてぇ!! だが、一切間違ってないから、文句も言えない。

 

「二人ともー! 居るんでしょう!! 壁に耳を当てて、ダクネスがどこから体を洗うか、想像して、ハァハァしてるのでしょう!!」

「お、おいめぐみん! どうして、私を引き合いに出す!!」

 

 ……答える義理は無い。カズマも何一つ、喋らず、無言で居ると――。

 

「おかしいですね……返事がありません……でも居ないはずが……」

「むっ、だが一向に返事が無いな……」

 

 そのままずっと静かにして、やがて――。

 

「どうやら本当に居ないようですね、私とした事が、一方的に決め付けてしまいした、あとでジュースでも奢ってあげましょう」

「そうだな。アイツらはなんだかんだ、頼りになるヤツらだ、それに困ってるヤツは放っておけないようなヤツらだしな……」

 

 二人がちょっとだけ沈んだ声音で話している、どうやら反省してるようだ。俺はちょっとだけ罪悪感に駆られ、離れようとした時だった。

 

「それにしても、めぐみん気になっていたのだが、その尻にある――」

「おっと、いくらダクネスでも、それ以上言うのなら、勘弁しませんよ!!」

 

 バシャバシャと水の音が聞こえてくる。

 

「私のお尻を気にする前に、この自己主張の激しいモノをもっとコンパクトにする方法を考えてください!!」

「め、めぐみん、そこは、や、やめぇぇぇ――!」

 

 その瞬間の動きは凄まじかった。

 再び、戻り、俺達は耳を当てていたら――。

 

「今です!!」

「ふんっ!!」

「「ぐあっ!!?」」

 

 突然の衝撃。俺達は一斉にぶっ飛ばされ、湯船へドボンッ! と落ちた。

 

「ほれ、見た事ですか! やっぱり居ましたよ!!」

「フッ、私の目に狂いは無かった、やはりアイツらは混浴に居た!!」

 

 コイツらぁ……!!

 

「『クリエイト・ウォーター』!!」

「「ひゃああっ!」」

「いいぞ!! やったれぇぇ!!!」

 

 俺が便乗して、笑っていると。めぐみんとダクネスが桶やら何やらを投げてきた、あとちょむすけも来た。

 俺はとっさにキャッチすると、必死に落ちないように、俺にしがみ付いている。やっぱり水が怖いのか。

 

「おい、お前ら! 猫を投げるなよ!! 危うく湯船に落ちるところだったぞ!」

「その子はお湯を嫌がるので、私の代わりにたまには洗ってやってください!!」

 

 水を怖がって、必死に爪を立てて、しがみ付く。正直に言えば、痛いが……。

 

「なんだよ、せっかくの温泉旅行なんだし、一緒に入ろうぜ。何、俺達は仲間、家族みたいなものじゃないか! それに二人とも、俺と一緒に風呂に入った事あるんだし」

「ああ、そういえばそうだったなぁ……」

 

 知ってる、知ってる。

 

「この男! 普段は厄介者扱いしてる癖によくもぬけぬけと!!」

「お前は本当にヘタレなのか、度胸があるのか、さっぱりわからん!!!」

 

 騒がしい風呂から上がり、ジュースを買って、飲みながら、皆の部屋へ戻ると。

 

「あんまりよおおおおおお!!! 私、ただ温泉に入ってただけなのにいいいいいいい!!!」

「ア、アクア様、災難でしたね、というかその、お願いですから、泣き止んでください……アクア様の涙がピリピリして痛いんです……」

「なんだ、なんだ。今日はどんな厄介事をしたんだ」

「厄介事ってどうして、私が悪いみたいに言うの! 私は悪く無いわ!!」

「その、アクア様が教会の温泉に入られたら、どうやら浄化してしまったようで……ただのお湯に変えられたようで……」

 

 あぁ、そういえば、触れただけで、浄化するんだもんな、コイツ……。

 

「それよりも一番腹立つのは、管理人のおじさんが、『温泉を浄化した事は謝るわ! でもそれは仕方ないことなの! なぜなら私は水の女神アクアだから!!』……って言ったら、『フッ』って鼻で笑ってええ!!!」

 

 俺とカズマがアクアの方を見て……。

 

「「フッ」」

「うわあああああああ!!」

「カズマさん! リュウトさん!」

 

 ウィズに怒られちゃった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


感想、批判。大歓迎です。


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やっぱり強いウィズさん

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただければ、幸いです。


 宿の一階で飯を食っていたら。

 

「この街、危険が危ないみたいなの!」

 

 朝食、俺は美味しいご飯を食べながら、アクアの話を片手間に聞いていた。それにしても。

 

「バカっぽい事言ってるんじゃねぇよ。それよりお前、絶対に部屋についてる露天風呂以外に使うんじゃねぇぞ」

 

 俺の言葉にテーブルをバシバシと叩きながら。

 

「ちゃんと聞いて!! 私だって好きこのんで、浄化した訳じゃないの。まあ、屋敷のお風呂場に置いてあった高級入浴剤ですら、全部使ったにも拘わらず、簡単に浄化しちゃったし、そりゃ温泉も浄化しちゃうわよね」

「ええ!? あれを全部使ったのか!? わざわざ王都から取り寄せたのに!」

 

 そう言うダクネスを無視して、アクアは続ける。

 

「でも、変なの、あの温泉を浄化するのに、凄く時間が掛かったの、私の浄化能力はそれはもう凄いの」

 

 と言って、カズマが飲もうとしていた、コーヒーに人差し指を入れて、一瞬で浄化する。わぁ、すげぇけど、嫌がらせっ! 

 みんなに見つめられる中、アクアが小首を傾げ。

 

「……ね?」

「ね? じゃねぇよ。何すんだバカ! さっさと新しいの買ってこい!!」

 

 ただのお湯には興味はねぇ、カズマはそう憤っていた。

 いや、これが普通なんだけどね。俺は自分のコーヒーをちびちび飲みつつ、アクアの話を最後まで聞く。

 

「そう、普通ならこんなに早く浄化できるのに、という事は、それぐらい汚染されていたという事よ、それも、突然よ。つまりアクシズ教徒を恐れた魔王軍が真っ向から勝てないと踏んで、大事な財源を奪いに来たのよ!!」

「「そうなんだ! 凄いね!」」

 

 めぐみんとダクネスが揃って、それもかなり適当な感じで返す。

 

「信じてよー!」

 

 泣いて言うアクアだが、さすがに突拍子が無さ過ぎる、というのが二人の言い分だろうな。

 俺はアクアの言ってる事が一概に間違いとは言えないと思うが、というか、十中八九当たってる。アイツらはおそらく魔王軍の者じゃないか? 人じゃなさそうだったし。

 

「そもそも、温泉が汚染されてるという話だろう? それなのに、どうしていきなり魔王軍とか言う話になるんだ」

「まあアクシズ教徒がいろんなところでドン引かれてるのは、知ってますが、そこまで回りくどい事をしますかね?」

 

 してんだよなぁ。あの二人はやっぱり魔王軍なんだろうなぁ、それに、アイツらは多分強いよなぁ。

 俺の勘だけど、多分、バニルとかベルディアとかと同クラスなんだろなぁ。あの感じは。そもそも一人でこの街を破壊しようと画策してるんだ。

 

 それぐらいの強さは間違いなくある。今回もまた、こういう事に巻き込まれるのかなぁ、いや、黙ってれば、平気か、面倒だし。

 

「とにかく、私はこの街の為に、立ち上がるわ! 当然、皆も手伝ってくれるわよね?」

「あー、俺はいいや。適当に街をブラブラ歩きたいし」

「ああ、俺も同じ」

「私も、アクシズ教徒の恐ろしさは嫌という程、味わったので、遠慮しておきます。カズマにくっついていきます」

「ダ、ダクネス!! ダクネスなら、いいわよね!?」

「え、あ……ああ、えっと」

「お願いいいいいいい!!」

「わかった!! わかったから!! 私のグレープジュースを浄化しないでくれ!!」

 

 アクアに泣きつかれ、半ば強引に折れた。ふと、俺はウィズを思い出す。そういえば、まだ来てない。起きてないのかな? なんて思いながら、アクアに聞いてみた。

 

「なあ、ウィズはどうなんだ? ウィズの方が良いだろ? アイツなら、すぐに良いって言うんじゃねぇか?」

「ウィズなら、私がずっとしがみ付いて泣いてたら、朝には私の涙で消えかかったわよ」

「街より、先にウィズを救えよ!! アイツ、今回寝てばっかじゃねぇか!?」

 

 結局、ダクネスはアクアに引っ張られ、そのまま違う場所に行き、俺は一人でどこかに行こうかなー? なんて思っていたら、めぐみんが突然。

 

「爆裂魔法を外に撃ちに行きましょう!」

「はぁ? なんでだよ」

 

 とカズマが聞くと。

 

「だって、温泉街で、特に見るものもありませんし」

「へぇ、俺もついていっていいか? 一日一爆裂」

「まあいいか……」

 

 そんな会話をしていると、ウィズが起きてきて。

 

「大丈夫か? ウィズ」

「あ、はい。大丈夫です……先程、冒険者の時の仲間が川の向こうから、こっちに来るな! と慌てている姿が見えましたが、なんとか持ち直しまして」

「!?」

 

 サラリととんでもない事言いやがった!? ま、まあ、大丈夫なのか……?

 

「そういえば、ウィズは何か、今から何か予定とかあるのか? 俺達は今、外に出ようと思ってるんだけど」

「いいえ、ありませんが外に行くのでしたら、この辺りは強力なモンスターが多いですから、よろしければ、私もご一緒に……」

「「ぜひ、頼む!!」」

 

 正直に言えば、俺一人よりも、リッチーとか言う滅茶苦茶強い魔法使いが居るほうが、心強い。

  そんなこんなで、爆裂魔法を撃ちに行きたいと言う前にちょっとだけ街を散策してた。めぐみんも上機嫌で肩にちょむすけを乗せて、歩いている。

 

「そういえば、さっき、冒険者の時の仲間とか言ってたけど、ウィズってさ、どういう経緯でリッチーになったんだ?」

 

 本当にふと思った事だ、軽い雑談程度の感覚だったのだが、よくよく考えてみると、何気に重たい感じになるんじゃねぇか? 

 あ、ヤバい。少し考えなしに言っちまったか? なんて、一度言った言葉は取り消せないが、悶々としてると、ウィズは少し悩んだ後。

 

「そうですね、これは少しだけ長い話になりますし、またアクア様で居る時に話しましょうか」

 

 屈託の無い笑顔でそう言うウィズ。

 リッチーになった理由をアクアが聞けば、もう少しは態度も改まるかも。前にあったリッチーだってやむを得ない状況だから、なった訳だったしな……。俺がわかったと言うと、ニコニコしながらウィズが。

 

「それでは、バニルさんも交ぜて、昔話でもしましょうか。私が冒険者だった頃にバニルさんと死闘を繰り広げた事もあるんですよ?」

「何それ、聞きたい」

 

 そんな事を俺が言ったら、カズマが。

 

「そういえば、昔話って言ってたけど、ウィズって何歳なんだ?」

「20歳です」

「なるほど、まあそれぐらいの見た目だもんな、リッチーになってから、何年経ったんだ?」

「何年経ってもずっと20歳ですよ?」

「そうか……」

 

 有無を言わせない! って感じだった。

 女性に年齢を聞くのはマナー違反ってのは、どの世界でも変わらないって言うのがわかりました。そんな会話をしていたら、めぐみんが突然。

 

「そういえば、ウィズに聞きたい事があったんですが、魔王軍に爆裂魔法を扱う巨乳のお姉さんに知り合いは居ませんか?」

「いえ、私の知る限りでは居ませんね……。まあずっと昔の事ですから、それより後の事は知りませんが……」

「そうですか、ならいいです」

 

 ホッと息を吐くめぐみん。巨乳のお姉さんって言ったら、あの時の温泉に居たお姉さんは巨乳だったなぁー。

 それに顔も可愛かったし、今度また会えないかなぁー。なんてまったく別の事を思い出していた。

 

「おい、なんだよ。巨乳のお姉さんって、俺にもわかるように説明してくれよ。勝手に自己完結するなよ」

「こ、この男は……。別に大した事ではありませんよ。というか私がアクセルの街に来た一つの理由に、アクセルの街に爆裂魔法を操る女魔法使いが居るというのがありましたから、まあそれはウィズの事だったようですが」

 

 そんな会話をしていたら、ふと、思い出したかのようにウィズが。

 

「そういえば、リュウトさんはどうして、この街にずっと留まっているのですか? リュウトさん程の腕前ならば、王都でも十分活躍できると思いますが?」

「あ、それは私も思ってました。なんでですか?」

 

「……んー。そうだな、特に理由は無いけど、王都とかって完全に最前線じゃん。そんな所で日に何度も戦うのは、正直なぁ。それに、俺は積極的に戦いたいってタイプじゃねぇし。だったら、治安の良いところで、楽に生きて行きたい。正直、命の危機に毎回瀕するのなんて、嫌だしな、もし危険な状況に陥ったら、俺は真っ先に逃げるね」

 

「リュ、リュウトさん……」

 

 なんだ。なんだよ、その顔! なんだよ、お前ら!  

 

「大丈夫ですよ、リュウトはなんだかんだ、みんなを助ける為に奔放するタイプですから」

「はぁ? ふざけんな。俺が今まで、助けた事があると思ってるのかよ!?」

「助けてるだろ。結構何度も」

「…………ま、もうこの話はいいだろ。そろそろ爆裂魔法を撃ちに行こうか」

「強引だなぁ」

 

 ふと、俺がそんな会話をしてる最中に辺りを見てみたら、そこに温泉で出会った男が見えた。何してんだ。アイツ……。なんて思いながら、俺達は外に出る事にした。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 エクスプロージョンを森で放った。森にわざわざ来たのだが、ウィズという強いリッチーが近くにいると、モンスターも怖がって近づいてこない。

 めぐみんももっと大量のモンスターが居る場所で撃ちたかったようだが、ウィズが居るから叶わずという感じだ。

 という訳で、放った後、例の如く、倒れこむめぐみんはカズマにおぶられて、さあ、帰ろうとした時だった。

 

「ゴルルル――ッ!!」

 

 あ? なんだよ、初心者殺しかよ。

 初心者殺し程度だったら、本当に瞬殺できることになっちゃったからなぁ、これってもう初心者じゃねぇだろ。絶対にアクセルの街に居るべきやつじゃねぇだろ。

 

「うおおお!! ウィズ! ウィズ!! なんとかしてくれぇぇぇ!!」

「カ、カズマ! 狙撃、狙撃です!!!」

「装備品なんて、宿に置いてきてるよ!!」

「なんという事でしょう!! リュウト! リュウト!!」

「はいはい……」

 

 と刀を掴もうとしたら――。

 

「あ、俺も忘れてきちまった」

「……ななな、なんて使えないんですか、この二人はぁぁぁ!!!」

「大丈夫だって、落ち着け、落ち着け。ほらウィズ居るし」

「はい、三人共、どうか下がっていてください」

 

 と言って、何もせずにウィズが近づいていく。初心者殺しも少しだけ警戒していたが、飛び出し、ウィズに噛み付いた。と同時だった。ウィズの体に噛み付いた初心者殺しの方がやられてしまった。

 

「そういえば、リッチーというのは、触った相手に異常状態を引き起こす特殊能力を持っていたんでした。魔法の掛かった武器以外の攻撃が効かないですしね」

「……ッ!?」

 

 魔法すら使わない相手だってか!? 普段の姿とギャップがありすぎだろ。

 アクアとかバニルに結構いろいろされてる姿から忘れてしまいがちになるが、彼女だって、リッチー。ラスボスクラスの強さを持つリッチーだったんだよな。

 

 魔法使いの最高峰が人間を止めた姿がリッチー。つまり、人間の時から化物クラスという訳なのだ、貧乏店主と呼ばれ、親しまれてるリッチーねぇ……。

 やっぱりツッコミどころが増えるという訳だった。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 街に戻ると、歓楽街の中心が妙ににぎわっていた。俺とカズマがそれを掻き分けて、進んでいくと、そこにはアクアとダクネスが居た。そしてアクアが拡声器っぽいヤツを持って、叫んでいた。

 

「この街には魔王軍による破壊活動が行われています! 温泉に毒を入れるという破壊活動がいくつもある事を私は確認しました!!」

 

 そう言ってたら、野次馬の一人が。

 

「でも、私が入った時にはなんともなかったわよ?」

「それは私が浄化して回ったからです! 私も軒並み温泉を浄化して回りましたから、でも安心はまだ早いです! ですからこれが解決するまで温泉に入らないで欲しいのです!」

「おいおい、ここは温泉街なんだぜ? 一番の目玉である温泉に入れなかったら、この街が干上がっちまうよ」

「それに、魔王軍による破壊活動ってなんでそんな事を?」

 

 他の野次馬もそう言って、囁きだす。

 

「それはアクシズ教徒を恐れているからです。ですから、私が温泉に入れない! ズルイ! って思ってるから言ってる訳ではありません!!」

 

 そんな事を言っていると、向こうから。

 

「ああー!! こんな所にいやがったかぁ! おい! ソイツを捕まえてくれ! ソイツは温泉を浄化してただのお湯に変えて、回るって言う性質の悪いヤツだ!」

「何!? だったら、アイツが魔王軍の手先なんじゃねぇか!?」

 

 超展開。

 俺はめぐみんとカズマの肩を叩きながら。

 

「危険だ、逃げるぞ。俺達じゃ、あれを収拾つけれない。多分、まずい。このままじゃ俺達にも飛び火が来るぞ」

「ええ!? い、いいんですか!?」

「確かに……」

「で、ですが……」

 

 そんな風に言ってる最中にアクアが。

 

「ちちち、違うの!! これにはちゃんとした訳があるの! あの温泉には毒が入ってたの! そりゃ、普通の温泉もあったかもしれないけど、だから、私は温泉を守る為に!」

「だったら、一言ぐらい何かあってもいいだろうが! それにあれだけの量の温泉を簡単に浄化できる訳ないだろ! 人が居ない時ばかり見計らって、温泉のお湯を勝手に抜いて、お湯に変えてるんだろ!」

「ち、違うの! 私の正体を知ったら大騒ぎになるから! 大変な事になるから!!」

 

 あ、これは本格的にマズイ。逃げるべきだ。

 

「おい、ダメだ。もうダメだ。逃げるぞ!」

「ちょ、この状況で見捨てるんですか!?」

「カズマ! 逃げるぞ! これはマズイ、多分、あと少しで暴動が起きる!」

「あぁ、わかってる。行くぞ。二人とも!」

 

 そうやっていると、野次馬が。

 

「大騒ぎとか大変って既になってるじゃねぇか!! なんだ正体って! 魔王軍の関係者なんじゃねぇか!!?」

「ええ!? ち、違う! ねえダクネスも恥ずかしがってないで、言ってよ!!」

「ア、ア……クシズ教を……お、願い……」

 

 赤面しながら、無理やり言わされてるダクネス。災難だ……。

 

「ああもういいわよ!! だったら正体を言うわ! 私は水の女神アクア! あなた達を助ける為に、こうして来たの!!」

 

 シンと民衆が静かになった。俺は二人の肩を叩いて、頷き。

 

「これは無理」

 

 そう呟き、俺はウィズを引っ張り、カズマ、めぐみんと共に逃げ出すことにした。

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 宿に遠回りして戻ると、既に二人は先に戻っていた。

 アクアはずっと泣いたまま、ウィズに慰められていた。面倒見がいいなぁ、なんて思いながら、俺は足を組んで、頬杖しながら、冷めた表情で言った。

 

「お前さ、もっと後先考えて物事、発言しようぜ?」

「あんまりよおおお!! 私はみんなの為に頑張ってるのに!! 頑張ってたのに!!」

「そ、そりゃ、そうだろうけどさ……」

「ア、アクア様、どうか落ち着いてください。興奮すると、神気に当てられて……薄くなってきてますから――!」

 

 慌てたウィズがアクアにホットミルクを差し出した。アクアはそれを見て、グズグズ鼻を鳴らしながら。

 

「お酒がいい……」

「お前、実はそこまで気にして無いだろ?」

 

 カズマが綺麗にツッコミをいれてきた。ウィズがいそいそとお酒を用意し、泣き腫らした顔をあげて。

 

「何にしても、ここの温泉が汚染されてるのは確かよ。もし入ったら、お客さんが病気にでもなっちゃったら、大変だし」

「プリーストとしての力は確かなんだし、まあ本当なんだろうけどよ、犯人の特定すらできないんだぞ?」

「ですね。ここは冒険者ギルドとかに報告して待つしか……」

「うぅ、でも、私のかわいい信者達がぁ……」

 

 涙目でテーブルの端をギュッと握るアクアに対して、ハァ。とため息を漏らしながら。

 

「わぁったよ。明日は俺も手伝うから。カズマも手伝うだろ?」

「しょうがねぇな……」

 

 俺達の言葉にアクアの顔は輝いていた。

 




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捜索すべき対象

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただければ、幸いです。


 翌日。

 

 俺達は、冒険者ギルドへ向かってきた。ちなみにウィズは連絡係として残ってもらっている。俺は欠伸をしながら、

 

「ほれにしても……犯人の特定って、どうすりゃいいんだよ? 怪しいヤツを見つけても、毒混ぜてる最中とかじゃないと捕まえられないぞ」

「それについては、大丈夫よ! 私はいろんな温泉宿の人にアンケートを一件一件取って貰ってたの!」

 

 おぉ、そりゃ、また頑張るねぇ……。

 なんつーか、他の時でももっと頑張って欲しい所だ。朝に弱い俺は、再び欠伸をしながら、目を擦りつつ、アクアの話を聞いてる。

 

「それで、アンケートの結果が出たわ!」

 

『髪と瞳が水色の、淡い紫色の羽衣を纏った女の人』

 

 …………。つまり?

 

「犯人はお前だったのか」

 カズマがそう言う。そういう事になるよな。

 

「違うわよ! ちょっと待ちなさいよ、確かに私もマメに入ってたけど、最後よ、やっぱり最後の人が一番怪しいはずよ!!」

 

『髪と瞳が水色の女の人が、温泉をお湯に変えるイタズラ……』

 

「やっぱ、お前じゃねぇか」

「なんでよー!! こんなの一切役立たずじゃない!!」

 

 何言ってんだか、俺はアンケートを強引に奪い取り。

 

「『浅黒い肌で、短髪の茶色い髪の男の人』。これが二番目に目撃情報が多い。コイツが十中八九犯人だ」

 

 というか、知ってるんだけどね。一応、最終確認って事で。

 

「やっぱりソイツが犯人か」

「だろうな」

 

 俺とカズマが頷いていると、アクアがニヤニヤしながら。

 

「何、何? 二人とも、口では嫌々言ってたけど、陰ながら、探しててくれたの? 何? 二人ともツンデレ?」

「んにゃ、温泉に入った時に、『この忌々しい教団もこれで終わりだ……』みたいな事を言ってるヤツが居てな、ソイツが多分、犯人なんだろうなぁーって」

 

 と言った瞬間、アクアが俺につかみかかってくる。

 

「なんだよ!?」

「あんた! そんな事を知ってたなら早く言いなさいよ!! わざわざ私がこんな苦労しなくても済んだじゃない!!」

「知るか! あの時は無視しようとしてたしな! というか、毎度毎度、厄介事に関わってられるか! 俺は戦闘狂じゃねぇんだよ!!」

 

「言い切りましたよ!! 冒険者の癖に、そんなのどう考えても、魔王軍の企みじゃないですか!!」

「アクア! このクズ男を押さえつけてやる! ちょっと痛い目に遭わせてやれ!!」

「おぉ!? やるかこの野郎!? チート持ちを嘗めんなよ!?」

 

 そんな訳で全員の髪を脱色させて、白髪にしてやった。

 

「ぎゃあああああ! 水の女神である私が白髪にいいいいい!!」

「な、なんですか、これは!?」

「こ、これは……」

「悪く無いだろ? アハハハ!!」

 

 俺は腹を抱えて爆笑しながら、それを見ていた。

 カズマは軽く引いていた。笑い終わり、ちょっとだけ冷静になって、コイツらの顔を見ていたら。

 

「はぁ、戻そ」

 

 三人の髪色を戻して。

 

「うん。やっぱりこっちの方がスッキリするな。全員白髪になったら、キャラ立たない」

「キャラってなんですか」

「……髪色というのは、そこまで大事か……?」

 

 二人とも、なんだか微妙な感じだった。驚いていたが、そこまで気にしてないみたいな。

 まあ実際、そこまでの事をやったつもりはないし。

 冷静にさせるのが、目的だったし。ま、いいや。

 

 その後、カズマと俺の証言から、写真と見違える程の出来の絵を描いて、それを冒険者ギルドへ持っていくが、結局、信用されなかった。

 だから、ダクネスの家の紋章を出し、信用を得た。ちなみにその後、ダクネスにたっぷり絞られた。

 

「ったく、お前って時々、全然役に立たない時があるからよ、こういう役立ち方だってあるだろうが……って事だよ」

「余計なお世話だ! くそう、私をバカにしおって……!」

 

 と剣を振り回すダクネスの攻撃を俺はひょいひょいと避ける。俺は舌を軽く出しながら。

 

「無理だよー? バニル付きだったら、まだしも、今のお前じゃ俺と戦っても、全然勝てねぇっての!」

「ぶっ殺してやる!」

 

 アハハハハ!! と笑いながら、俺は避け続けてた。ちなみにその直後にめぐみんが。

 

「人が見てますってば!!」

 

 と怒ってた。

 

「まったく、私を貴族と知らなかったのと知った後でここまで態度が変わらないヤツなど珍しいぞ」

 

 俺はカズマを見て、指を指す。

 

「ソイツもその珍しいやつだ。どんな人間でも多少は気を遣うものなのだが……」

「ああ? 何言ってんだ。どうなろうとも、ダクネスはダクネスだろ? それ以下でもそれ以上でもない」

「そうですよ、紅魔族は権力や貴族に屈しませんから!」

「リュウト、めぐみん……」

 

 それに続いて、カズマが。

 

「俺が住んでた国では、政治家に文句を言うやつなんてザラだったぞ? それに俺は上下関係とか一切気にしないし、男女差別もしない。だからお前が貧乏貴族でも容赦しないからな?」

 

「カズマ……。ん? 今貧乏貴族って言ったか?」

 

「ほら、アクアも何か――」

 

 そう言って、カズマがアクアの方を見ると、アクアが粘土で何かを一心不乱に作っていた。

 どこから出したのか、なんてのはどうでもいい。

 そして、作り終えて、それを見せびらかしてきた。

 

「ほら! ダクネスの家の紋章! これで私も、ワガママ言い放題!!」

 

 その粘土をグチャグチャにして、ダクネスがどこかへ放り投げた。それはメジャーリーガーも真っ青の良い投球だった。

 

「お帰りなさい! どうでした?」

 

 宿で出迎えてくれたウィズに、とりあえず報告する。

 

 ギルドに手配書を渡して、各所に配って貰った事で、やる事が消えた俺達。もうこれで悪事も働けないだろう。

 こんなにアッサリと行くのなら、別に手伝っても良かった気がする。

 

 

 俺は頬をポリポリ掻きながら、ウィズと混浴に入りたいなぁーなんて劣情を抱いていたら、突如、部屋のドアに慌しく、ノックが響いた。

 

「はいはーい」

 

 俺が出ると、荒い息の職員の人が居た。そして、早口でその人は言った。

 

「大変です! 温泉に次々と汚染されたお湯が!!」

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「源泉が怪しいと思うの!」

 

 街中の温泉が汚染された、その翌朝。

 昨日一日中、アクアが温泉を浄化して回った結果、その結果に至ったらしい。もっと早く気付くべきだろう。なんて言うのは野暮なんだろうか。

 

「源泉って確か、アクシズ教団の裏手にある、森の中だろ?」

 

 アクシズ教団の本部である左隣に、この街の水源になっている巨大な湖が、そして、教会の裏には、源泉の湧きだす山がある。

 源泉へ行く道へは、騎士団が厳重に警備している。

 

「だから! 私はアクシズ教のアークプリーストなんだって! ほら、見て、これ! あなたも敬虔なアクシズ教徒なら」

 

「「あ、自分ら、エリス教徒なんで」」

「なんでよー! なんで、エリス教徒がこの街に居るのよー! お願い! このままじゃ源泉が……この街を救いたいだけなんです!」

「無理なものは無理なんだ。さぁ、帰った帰った」

「あ、あなたって、そこはかとなくイケメンよね?

「え?」

 

 あ、チョロいぞ、コイツ。

 

「レッドドラゴンに似てて、カッコいいと思うの!」

「そりゃ、俺の顔がトカゲ顔だって言ってんのか!」

 

 あの手この手でなんとか、入ろうとするアクア。これよりももっと早い方法があるんだけどなぁ……。ま、面白いし、もう少し見てるか。

 

「わかったわ! そこまでして通さないなら、アクシズ教会にエリス教徒に酷い事されたって泣きながら、駆け込んでやるから!」

「ああ!? クソッ! これだからアクシズ教徒はタチ悪いんだ! というか、その水色の髪と瞳! アンタ、温泉を浄化して回ってたヤツじゃないのか!?」

 

「ち、違うの! あれは、ただ温泉をお湯に浄化しただけで」

「やっぱりアンタか! だったら尚更だ! さっさと帰ってくれ」

「はぁ、ほら、ダクネス。お前のお金持ちの力を見せてやれ!!」

「何!? や、やめろ押すな!!」

「お前の唯一の取り柄じゃないか。なぜ拒む?」

 

 と俺が言っていると、めぐみんが。

 

「この方をどなたと心得ているのですか! この方はダスティネス・フォード・ララティーナお嬢様ですよ! ここには緊急の用事があってきたのです!」

 

「「え!?」」

 

「そう、これはダスティネス家の命令だ。昨日起こった、街中の汚染騒ぎ、それが温泉に毒を投げ込まれたというよりも、源泉に直接、毒が投げ込まれた可能性が高い。その調査に俺達が来たんですよ」

 

 めぐみんとカズマは本当に察しが良い。そして最後に。

 

「さ、お嬢様! ペンダントを!!」

「や、やめろ!! このような権力の行使は!!」

「うお!? や、やめろ。つ、強い!? くそ! 手伝え! お前ら!」

 

 そうして、無理やり押さえ込み、めぐみんがペンダントを取り上げる。

 

「も、申し訳ございません!」

「とんだご無礼を! さ、どうぞお通りください!!」

 

 慌てて道を開ける二人を見て、めぐみんが。

 

「これ、しばらく借りてもいいですか?」

「ダメに決まってるだろ!!」

 

 そんなこんなで、やっと入る事ができた俺達。

 そして、先に進もうとしたら、二人の騎士団に聞いたところ、どうやら先に管理人が入ってたらしい。

 

 ちなみにカズマが犯人と思しきヤツの特徴を言ったところ、金髪のおじいさんと返ってきたので、おそらく別人と思われる。

 タイミング的に怪しかったのだが、まあいいだろう。この先には、モンスターも出るらしいから、気を付けてとの事だった。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

「ダクネスさんはご令嬢だったんですね。今まで、大変ご無礼を……」

 

 そういれば、ウィズは知らなかったんだっけ? 

 

「いや、今までどおりの接し方で構わない。というか、そちらの方が助かる……」

「そう仰るなら、わかりました」

 

 とニコリと返すウィズにダクネスは。

 

「ウィズを見ていると、安心する。これが健全なんだ……最近、この連中は私に対して、おざなりすぎるからな……」

 

「面倒臭い女だな、仲間として扱われたいのか、お嬢様として扱われたいのか、ハッキリして欲しい」

 

「面倒臭い言うな! というか、カズマは私よりも年下だろう! それなのにどうしてタメ口なんだ!?」

 

「そりゃ、お前の事をれっきとした、仲間と認めてるからだよ。そう年上の貴族のお嬢様、ララティーナではなく、頼れるクルセイダーとしてな」

 

「そ、そうか……ならいい」

 

 ……。

 

「チョロいな」

「チョロいですね」

「チョロいわね」

「チョロいぞ……」

「み、皆さん!」

 

 だって、事実なんだぜ? ウィズさん。

 その後、突き進んでいくと、そこには異様な光景が広がっていた。黒い毛皮と犬歯があり、その残骸は、強力な酸で溶かされたようになっていた。

 

 おそらく、この黒い毛皮から、初心者殺しというのが、わかる。ただのおじいさんにそんな真似ができるとは思えない。

 

「……確か、初心者殺しは中堅でやっとって相手だよな……?」

 

 俺が言うと、他の連中も察してくれる。

 

「ということは、おじいさんがものすごく強いってことね! さ、早く行って、私達も守ってもらいましょう!!」

 

 一人だけ、察せないおバカが居るが、全然気にしない。だっていつもの事だから。

 

「バカか! 初心者殺しを一人で倒せるじーさんなんて居る訳ないだろ!」

 

 カズマが堪らず、ツッコミを入れる。

 

「な、何よ! アクセルの街に居た肉屋のおじさんは一人でカエル狩ったり、ファイアードレイク狩ったりしてるのよ! 初心者殺しを素手で殺せるおじいさんが居たっていいじゃない!」

 

「そんなキワモノと一緒にするな! というかこの死体から見ても、いろいろ不自然だろうが! 何にしても、ただのじーさんじゃないようだしな、警戒していくぞ」

 

 アクア以外、全員が頷く。アクアは不満そうに。

 

「板前のお爺ちゃんは昔、ブルーアリゲーターを活け作りにしたって言ってたのに……」

 

 どれだけの距離を歩いたのだろうか、幸い、モンスターとは遭遇してない。

 道にも迷う事もなく、ただただ歩いていく、ただ、カズマだけかなり疲れが見えてきている。他の連中は全然大丈夫のようだが……。

 

「おーい、ここで一旦休憩取ろう」

 

 俺がそう切り出す。それに対して、アクアが。

 

「あれー? リュウトってば、体力ありそうに見えて、実は全然無いんじゃないのー?」

 

 俺が無言で近づき、アクアに『フルキャンセル』と呟き、動けなくして、頭を両手でかち割ろうとしながら。

 

「ここまで登る最中に疲れてたら、話にならないだろ、というかカズマがもう限界そうだ」

 

「そうですね。一旦休憩しましょうか、というか、カズマ、どれだけ貧弱なんですか、体力がアークウィザードの私と同じだったら、目も当てられませんよ。ちょっとステータスを見せてください」

 

 ゼェゼェ息を切らしながら、カズマは冒険者カードを見せると。

 

「そうですね。カズマはこの中じゃ一番レベルが低いですから、問題ないですよね……あげればいいんですから」

 

 何、その反応ヤバくない? 

 

「おい、なんだ。それ。まさか俺はめぐみんと同レベルなのか!? まさか、それより低いなんて事はないよな!?」

 

 ちなみにこの中でレベルが高い順にアクア、めぐみん、俺、ダクネス、カズマだ。

 レベルが一番上がりやすいのは、カズマなのだが、アイツは基本的にフォロー役に回るので、あんまり自分のレベルは上がらない。

 逆にアクアやめぐみんは大量に一掃するのが、得意な連中なので、レベルの上がりも早い。

 

 ダクネスは攻撃が当たらない為、レベルは上がりにくいのだが、最近、バニル人形と戦った為、結構上がった。

 

「……レベル上げしよう」

 

 カズマは小さく呟いていた。

 その後、ずっと突き進んでいくと、やっと温泉が見えてきた。そしてその温泉が――真っ黒だった。

 

「毒なんですけど! 思いっきり毒なんですけど!!!」

 

 アクアが叫びながら、近づき、その真っ黒な温泉を必死に浄化していた。俺は何度か、呟いた。

 

「『フルキャンセル』、『フルキャンセル』、『フルキャンセル』!」

 

 俺が何度か、叫ぶ。これにも、一応制限があるからな、大きくすればするほど、回数が増えていくからな、少しだけ回数を重ねないといけない。

 

「……熱いぃぃぃいいい!! 『ヒール』!!」

 

 チッ、毒が強すぎるか。しかも、何度かやってみたが、意味が無かった。多分、まだ毒を流してるやつが居るな。俺は何本かのパイプの源泉を『フルキャンセル』して、進んでいくと、居た。

 

 浅黒い肌に茶髪の男が――。

 

 

 

 

 




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VSハンス

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただければ、幸いです。


 浅黒い肌で茶髪の男が俺達の姿を見て、ギョッとする。

 まさに毒を流している最中で、俺はまさに、その現場に出くわした。俺はそのまま睨みをきかせながら――。

 

「おい、どうする? 今ここで俺に討伐されるか、許しを請うか?」

「……えっと、なんでしょうか? いきなり。というか、ここは立ち入り禁止ですよ? どうやって入ったんでしょうか?」

「しらばっくれんなよ? おい、今ここで、殺すのだって簡単なんだぞ」

 

 そう言って、俺は片手を前に突き出す。見た目的に俺はどちらかと言うと、剣を使うソードマンとかソードマスターだろう。

 だが俺が片手を前に突き出した事で、絶対に警戒はしたはずだ。

 向こうも、ピクッと眉を動かす。

 

「何なんですか? 本当に、今すぐに騎士団を呼びますよ?」

 

 ほう? もし、彼が魔王軍だとしたら……。なんて思っていたら、後ろから他の連中も来る。一番最初にアクアが。

 

「あー!! アンタが、犯人ね!!」

「あれ? ……どこかで見た気が……?」

 

 ウィズが反応する。やっぱりな、アイツが魔王軍の可能性がほぼ100%になったな。浅黒く茶髪の男が少しだけ、挙動不審になり初めて。

 

「あ、ここには調査に来ただけなので……私はここで……」

「ああー!! ハンスさん! ハンスさんじゃないですか!! お久しぶりです。私ですよ、私! リッチーのウィズです!」

 

 ハンスはジーッと見ているウィズをチラッと見て。

 

「えっと、リッチーってあのリッチーですか? あの超危険な、いやぁ、私の知り合いにそんな人は、それに毒も持ってませんしね」

「あ、毒と言えば! ハンスさんはデッドリーポイズンスライムの変異種でしたね! ひょっとして、ハンスさんが源泉に毒を?」

 

 ハンスの言い訳を次々と潰してく、ウィズ。なんというか、怖いね。こうやって次々と、無自覚なんだし。

 

「ねえハンスさん! 先程からどうして無視をするんですか? そういえば、ハンスさんは擬態ができましたよね? もしかして、管理人のおじいさんに擬態して、ここまで来たんですか?」

 

 そうやって揺さぶるウィズにハンスは意地でも知らないふりをする。そして逃げ出そうとしたら。

 

「どこへ行こうと言うのだハンス」

「ここは通さないわよハンス」

「そんな言い訳を通じると思ってるんですかハンス」

 

 表情を引きつらせて、下がるハンス。

 

「悪あがきはやめろハンス」

「お前はもう既に、逃げ場はなくなってるんだよハンス」

 

「ハンス、ハンスと! 気安く呼ぶんじゃねぇ! クソ共! それよりウィズ! お前、店を構えるんじゃなかったのか!? 温泉街うろついてないで、さっさと働けェ!!!」

 

「ひ、酷い! 私だって、頑張ってるのに……働けば働くほど貧乏になりますけど……」

 

「ったく、お前は俺達、魔王軍に干渉しないんじゃないのか? どうして邪魔をする?」

 

「え!? 私、邪魔してました!?」

 

 素で驚いているウィズ。やっぱりわざとじゃなかったんだ。面白ぇ。

 

「で、どうするんだ? ウィズ。俺達とやり遭うか?」

「え、こ、この方は私のお友達なので、えっと話し合いでなんとなりません?」

「ハッ、昔のお前だったら、話し合いなんてあり得なかったがな」

 

 その言葉に少しだけ恥ずかしそうにしながら。

 

「え、えっと、あの頃は私も周りが見えて無かったと言いますか……」

 

 へぇ、ウィズって昔は好戦的だったんだぁ? ちょっとだけ、印象が変わるな。

 でもまあ、一応はアークウィザードで凄く強かったんだろうしなぁ、だからこそリッチーになれた訳だし。

 

「おい、そろそろいいか? 俺は佐藤和真。俺はベルディアやデストロイヤー! バニルという連中の討伐に参加した者だ」

 

 おー。超強そう、嘘は言ってないけど、微妙に語弊がある気がする。

 

「な、何!? そんな貧弱そうな貴様が!? ベルディアやバニル討伐に関与しただと!?」

「貧弱とは、失礼な。俺は数々の死線を潜り抜けてきたんだぜ?」

 

 おぉ、超カッコいい、今日のカズマさん。俺はコイツに頼って、そのまま帰ろうかなぁ。

 

「この俺を前にして、どうやらハッタリじゃないみたいだな……」

 

 スライムかぁ、確か、前に戦った事があるはずだ、というか、アイツってどこに脳とかあるんだよってツッコミたい。

 やめておこう、そういうのを考え出したらキリが無いし。

 さて、どうするか。俺がそう考えていたら、カズマが刀を取り出し、刀身をキラリと光らせる。

 

「大人しく降伏するんだな! ウィズ! 元同僚で、多分戦い辛いと思うから下がっていてくれ!」

「カ、カズマさん!? た、確かに私としては戦いは遠慮したいところなんですが、大丈夫なんですか!? そのハンスさんは……!」

 

 カズマの隣にダクネスも来て、いよいよ戦闘開始って感じだ、俺も前に出る。

 

「どうやら本気らしいな。いいだろう! 一介の冒険者が俺に掛かってくるとは、本当に久しぶりだ。この俺を前にして、挑んできた者は全員、泣き、ひれ伏し、逃げ惑うからな。お前は骨がありそうだ!」

 

 おぉ、ウィズの反応、ハンスのこの言葉、ここまでくると、多分強いんだろうなぁ、本気出さないと。

 ハンスは両手を広げ、まるで大ボスの如く、叫ぶ。

 

「俺の名はハンス! 魔王軍幹部、デッドリーポイズンスライムの変異種、ハンス!!」

「今なんて……?」

 

 ……よりによって、魔王軍幹部かよ……。カズマもそれを聞いた瞬間、目に見えてわかるぐらいに狼狽えている。

 やっぱりこいつ、嘗めてたか……。しかも、追い討ちかけるように、ウィズが。

 

「カズマさん! 気をつけてください! ハンスさんは、高い賞金を掛けられている方です! とても強いので、十分注意してください!」

 

 今更だな。

 俺は本格的に臨戦態勢に入る。

 

「な、なぁ、スライムってのはさ、雑魚だろ? 雑魚なんじゃないのか!?」

「スライムが雑魚? 何言ってるんだ? 小さなスライムはともかくとして、ある程度の大きさになったスライムはかなり強敵だぞ? 物理攻撃はまず効かない。張り付かれたら、消化液で溶かされたり、口を塞がれて、窒息させられるぞ」

「それに、この温泉街の温泉をすべて、汚染できるほどの猛毒です、触れれば、即死だと思ってください!」

「そ、即死?」

 

 強いね。思った以上に。さすが、魔王軍幹部って訳か、触れれば、瞬殺とか、死ぬじゃねえか。

 もう人間じゃないし、液状生物って言う事をキャンセルしてやろうかな。

 

「大丈夫よ! カズマ! 死んでも私がついてるわ! でも捕食はされないでね! 捕まって溶かされちゃったら、いくら私でも蘇生できないからね!」

 

 あー。トドメだ。カズマの次の行動が目に浮かぶ。うーん。向こうさん、ちょっと強すぎるな。俺一人だと厳しいけど、さてどうするか。

 

「さぁ、掛かってくるが良い! 冒険者共!! 俺を楽しませてみ…………ろ?」

 

 カズマ達は背を向けて、全速力で逃げていた。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 草木を掻き分け、斜面を降りている。小枝が頬を打ち、小さな掠り傷ができている。

 フルキャンセルで消したいが、これは自分にはできないので、仕方ない。

 

「カズマさん! リュウトさん! 待って! 待ってー!!」

「馬鹿野郎! 早くしろ!! 置いてくぞ!!」

「そーだぞー。アレは、普通じゃねぇ」

 

 全員が逃げ出した以上、一人で戦うのはちょっと辛い。というか、多分一人じゃ無理だ。多分、アイツにはまだ底がある。あれ、全然強さが違うと思うぞ。

 

「ダクネス! ちゃんと逃げてください! アレは危険です!」

「あぁ、スライムがぁ……」

「カ、カズマさん、登るときは息を切らして、やっと登っていたのに、降りるのは早いですね……!」

 

 ウィズが最後尾だ。俺はカズマの後ろって感じ、俺は後ろを見ながら、ハンスが叫びながら、追いかけてくる。

 

「嘗めてるのか! 人間!! あれだけ啖呵を切って、恥ずかしくないのか!? 仮にも冒険者だろうが!!?」

 

 顔を真っ赤にしながら、言ってる。そりゃ仮にも冒険者の冒険者かもしれないけどさ。所詮冒険者だぜ? 

 

「そうだよ! 冒険者なんだよ! 仮にも最弱の冒険者なんだから、魔王軍の幹部なんて相手にしてられないんだよ!!」

「何が、最弱職だ!! ……何?」

 

 突然ピタリと止まる。それに釣られて、俺達も足を止める。

 

「お前、冒険者なのか? 最弱職と呼ばれる? 通称的な意味じゃなくて、アークウィザードやアークプリーストとかのクラスとしての意味の冒険者?」

「そうですが……?」

 

 一瞬、カッと目を血走らせたが、やがて目を閉じて、はぁ、と息を吐く。

 うん。わかるよその感じ、凄くイラッとしただろ? でも相手が相手だけに、それが長続きもしないんだろ?

 

「見逃してやる。失せろ!!」

 

 ハンスは来た道を戻っていく。再び、温泉の方へと戻っていった。

 

「これにて、一件落着!」

「落着じゃないわよ!? どうするの!? 戻って言っちゃったわよ!?」

 

 アクアがカズマにすがっているが、相手が悪くないか? 触れたら、死亡なんだろ? 

 俺、正直、何度も死ぬ気がするんだけど、ただでさえ、近距離戦しかできない、俺は死にまくるぞ。

 

「でも、どうするんだよ? ウィズは戦えない、ダクネスは盾になれない、めぐみんの爆裂魔法で遠くから不意打ちで仕留めるか?」

「あの、爆裂魔法をハンスさんに使うと、爆発して、いろんな場所に飛び散った、ハンスさんの体でこの辺り一帯が汚染されると思います。スライムには、魔法耐性が強いので、完全に焼き尽くすのは厳しいと思います」

 

 あーこりゃ、詰みだなぁ。だったら。

 

「俺の出番じゃないですか!」

「そうだよ! お前だよ、お前がいた! やってくれ!」

「スライムの特性はとりあえず、毒があって、魔法耐性があって、飛び散っても死なない。ようは液状なんだ。だったらやる事なんて一つだろうが」

 

 そうして、俺を先頭に突き進む。後ろでアクアがギャーギャーと騒いでいた、アクシズ教がどうのこうのとかだ。というか、よく考えたら、今の俺ってアクシズ教徒の為に何かしようとしてるんだよな……? 

 参ったな。嫌になってきた。

 

「ねえもっと慌ててよ! もうあと一つのパイプが汚染されたら、当分温泉に入れなくなるのよ!? 終わっちゃうじゃない! この街が崩壊しちゃうじゃない!」

「「「良い事じゃないか(ですか)」」」

 

 ま、そこは俺も共感だな。泣きながら、俺の方に縋り付いてくる。嫌だなぁ。止めて欲しいなぁ。

 

「わ、わかったから、コイツらだって、なんだかんだでお前の為にやってくれるから」

「本当!? 何よ、みんな素直じゃないわね!」

 

 はぁ、なんだよ。その余計な事をするなって言う目は、やめろ。俺だってしたくねぇよ。

 

「だから、離れてくれ」

 

 俺がそう言うと、離すアクア。見てくれだけが良いと前は思っていた、だけど、蓋を開けてみると、やはり見てくれだけというのはダメなんだなと認識してみる。

 

「なんだ。また来たのか? 何にせよ、あとこれを汚染すれば、この忌々しい街からおさらばできるんだ。さっさとさせてもらうぞ」

「はぁ……ん? そういえば、確か、ここには金髪のじいさんが来てたはずなんだけど、その人はどうした?」

「食った、俺は食うことが本能だ。食わないと擬態できないしな」

 

 ……は? くった? 食った……って事か? つまり、まったく関係無い一般人を殺したって事なのか? おいおい、久方ぶりに敵らしい敵の登場じゃねぇか? 人を殺しちまったのか……こりゃ、手加減はいらないみてぇだな。

 そう思って、『フルキャンセル』をやろうとした……瞬間だった。

 

「『カースド・クリスタルプリズン』!!」

 

 冷たい印象の声が響き渡る。その声は底冷えのするような声だった。そのハンスが腕を突っ込んでいた源泉ごと、ビシッと一瞬で凍結させたのだ。その声の主を俺は見る。

 ウィズ。温厚な雰囲気など一切見せない、まさにリッチーとしての貫禄を見せるウィズ。俺はゴクリと唾を飲み込む。

 

「ッッッッッ!!? うああああああああああッッ!!!?」

 

 叫んでいるハンスを無表情で見ながら、ウィズは。

 

「確か、私が中立の立場でいる条件は、戦闘に携わらない者以外の人間を殺さない方に限る、でしたね」

「や、やめろウィズ!! お、俺と本気でやる気か!? そうしたら、ここら一帯は……!」

 

 ウィズの変化に少しばかり、怯えていたアクアとめぐみん。カズマの裾を掴んで、ピッタリと張り付いている。カズマも少しだけビビってるな。いや、人の事は言えないけどね?

 

「ウラァァァァ!」

 

 俺は刀を取り出し、力一杯振る。

 

「『風斬り』ッ!!」

「くっそ!!」

 

 俺の風斬りが届く前に、ハンスが凍った右手を砕き、半透明な腕を出しながら、逃げ出す。そして、精一杯走り出した。

 全員でハンスを追いかけながら、走っている。

 

「カズマさーん! ねえ! あのスライム、超早いんですけど! スライムってもっとこう、プニプニしてて、可愛いやつか、ドロドロして鈍いやつじゃないのー!?」

 

 アクアの言ってるスライム像が完全に日本のゲームのやつなんだけどさ、何なの?

 

「ハンスさん! それ以上は行かせませんよ!! 『カースド・クリスタルプリズン』!」

「ッ!? クソ! やっぱりお前とは相性が悪い!」

 

 ま、確かに、凍らされたら、終わりだと思うしな。下半身が凍ったハンス目掛けて。

 

「『風斬り』!!」

 

 バッサリッ! と上半身を斬る瞬間だった。その上半身が源泉の方へと飛んでいた。

「何してるの、リュウトおおおおお!!」

 

 揺さぶられながら、俺は押し退けようとしたが、力一杯やられているので、ちょっとだけ、押さえ込まれそうになる。

 

「や、やめろ!! ちょ、おい!!」

「狙撃!!」

 

 カズマの運の良さが、光った。そう、狙撃だ。カズマは矢を取り出し、何度も、何度も、何度も、狙撃で打ち落とす。

 

「アクア! ジャンケンで使った時の運上げる魔法を使ってくれ!」

「わ、わかったわ! 『ブレッシング』!!」

「よし! 狙撃、狙撃、狙撃!!」

「あッ!? なんだ、そのふざけた命中率はぁぁぁ!?」

「はっ! 嘗めんなよ! カズマは今まで運の良さで勝ち続けてきたんだぜ!?」

「そうですよ! 運だけで、魔王軍幹部と渡り合ってきた男ですから!」

「お前ら! 褒めるならもっとちゃんと褒めろよ!!?」

 

 ふぅ、なんとなくみんなも落ち着いてきてるな。よし、この調子だったら、大丈夫だ。

 ハンスは自分の体を千切って、源泉へ投げようとするが、カズマに掛かれば、余裕だ――これを慢心だったのを、後になって気付く。

 

「さ、カズマ! 見せてやれ!!」

「おう、そげ…………」

 

 孤を描いて、ポチャンと源泉にハンスの体の一部が入った――。

 

「カ、カズマ……?」

「矢が無い……」

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

「――わ、わああああああああああッッ!!」

 

 アクアは叫びながら、源泉の方へと突っ走っていく。浄化するためには、触れなければならない。

 黒く変色してるお湯を見ていると、あんなのに触れて大丈夫なのか? と思う。

 

「ア、アクア様いけません! そこにはハンスさんの一部が入ってます! 先程までとは全然違います!」

 

 ウィズが制止するが、そんな言葉を聞くはずもなく、躊躇などするはずもなく、手を突っ込み、浄化する。

 

「熱い、痛い、熱いぃぃぃいいいい!! 『ヒール』。『ヒール』!! ウィズ!! なんとかしてー!!」

「ア、アクア様……っ! 『ライト・オブ・セイバー』!!」

 

 光の刃がパイプをカットした。これで源泉からお湯が流れ出ない。汚染したお湯が浸入した部分のみを切り取ったので、修理に時間はそう掛からないだろう。

 俺はそろそろハンスにトドメを刺そうと近づいていったら、ハンスの体が変貌していく。スライムらしいスライムになっていくのだ、その大きさは俺達が住んでいる屋敷とほぼ同じだった。

 

「大きいなぁ……ちょっと、これは全部キャンセルするのは……厳しいぞ」

 

 どうしたらいい? 

 キャンセルは一気にできない。だったら一部ずつか。

 

「『フルキャンセル』! 『フルキャンセル』!! 『フルキャンセル』!!」

 

 よし、とりあえず、動けなくしてやったぜ。あと『フルキャンセル』はあと、どれぐらい使える? 

 あの大きさでキャンセルしたから、大体、十回分ぐらいか? だったら、三十回分か……。あと、十回分ぐらい使えるな。

 

「おい、みんな! アイツは動けない! さっさと決めるぞ!!」

「お、おい、それより毒をキャンセルした方が良かったんじゃないか?」

 

 カズマの一言に。

 

「……まあ、アイツはきっと体で毒を生成してるから、意味ねぇんじゃね?」

「そ、そうなのか?」

 

 毒を消しとけばよかった。これはカズマの言う通りだな。ま、やっちまったもんは仕方ない。さてと、あと十回か……。

 

「よし、動けなくなった以上、策はいろいろある。めぐみん! 爆裂魔法だ! ウィズは飛び散った一部を凍らせてくれ」

「す、すみません。それだけの魔力が、今は足りません!」

「よし、だったら、俺が吸われよう。というか、毎回だし」

 

 俺が自分から率先して言う。

 

「あとは、凍らせたら、アクア! お前が浄化してくれ!!」

「わ、わかったわ!」

 

 アクアは源泉に片手、突っ込んだまま、言っていた。

 

「私は、飛び散るハンスから皆を守ればいいんだな?」

 

 そうカッコよく言う。俺は多分、気絶するから、飛び散らない場所に逃げたいけど、無いね?

 

「そういう事だ! さ、やれ、めぐみん!!」

 

 そう言って、めぐみんが詠唱を始める。

 ちなみにその最中に俺に『ドレイン・タッチ』をするウィズ。

 ほぼ、すべてを取られ、俺は意識が薄れゆく中、めぐみんの爆裂魔法の轟音を聞いていた。やっぱり、こういう時には、役立つ……よ、な……。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 すべてが終わり、俺達はかなり批判を受けていた。まず俺が気絶していたので、知らないのだが、どうやらアクアが本気を出して、浄化した所為で、温泉が完全にただのお湯になったらしい。

 俺は正直、アクアが本気で浄化したんなら、もっと別の効能があるかも、なんて思ったが、どうやらそうはならなかったようだ。

 

「今回は本当に頑張ったのにぃ……ぐすっ、ひっく……」

 

 馬車の中で泣いていた。ちなみに今回の報酬は全部、賠償金に回ってしまった。まあ本当だったら、もっと高額だけど、良かれと思ってやったことなので、許して貰った。

 

「ま、まぁ、でも二人とも、今回は私の力が凄かったって事なのよ! どう? 私は水の女神って言うのを信じてくれた?」

「……次はもっと効能がある温泉に行きましょう」

「あぁ、頭に効くやつをな」

「信じてよー!」

 

 憐れなり、と思ったが、やっぱり普段の行いが大事だと心の中で思った俺。馬車の中に響き渡ったのは、アクアの泣き声だった。

 そうして、湯治旅行も終えて、俺達はやっと屋敷に帰ってきた。いやぁ、やっぱり我が家が一番ってこの事かなぁ、正直、もう二度と、あそこに行きたくないね。

 

「ただまー」

「ただいまぐらいちゃんと言えんのか」

 

 アクアの言葉に綺麗にツッコミを入れるカズマ、そのまま、俺はソファーへ、バフッと飛び込み、体重を預ける。いやぁ、楽だわぁ。

 カズマが何か、考え込んだような顔をしていると、アクアがその顔に対して。

 

「どうしたの、愉快な顔がより愉快になってるわよ? 新しい遊びかしら?」

「お前の真似をしてるんだよ。似てるだろ」

「帰ってきたばかりだと言うのに、少しは静かにできないのか。どれ、紅茶でも入れてやるから、ちょっと落ち着いてろ」

 

 コイツの入れる紅茶は何気に美味しい。普段は不器用なのに、どうして美味しいの、入れれるの? 不思議。そんな風に日常に心地よさを感じていたら、その日常とは一変する程、急いだノックが聞こえてきた。

 

「めぐみん! めぐみんはいるー!? カズマさんもー!!」

 

 この声はたゆんたゆんのゆんゆんかな? 切羽詰った感じで、ドアを開ける。そして、ゆんゆんが息を荒くしながら。

 

「あ、あの、こんな事をいきなり言うのは、何なんですけど……」

「どうしたー? 魔王軍幹部でも、賞金首でもなんでも掛かってこいって感じだ」

 

 その言葉に目を白黒させるめぐみん。俺はそれを見ながら、紅茶をズズーと飲みながら見ていた。

 ゆんゆんが意を決するように。

 

「どうしたのですか? 私にまた何か用ですか?」

 

 ゆんゆんは首を横に振る。そしてカズマの方を見てくる。どうやら用事はカズマにあるらしい。俺は聞こうと思い、紅茶を口に含むと。

 

「わ、私、私! カズマさんの…………子供が欲しい!!!」

 

 俺は口に含んでいた紅茶を噴出しそうになるのを、我慢した。ちなみにカズマは噴出していた。




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紅魔の里へ行く為の準備

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると、幸いです。


「えっと、落ち着け。ゆんゆん。一旦深呼吸。スーハー」

「スーハー……えっと、子供が欲しいです! カズマさん!!」

 

 ダメかー。

 なんだ。何なんだ? 一体どう言う意味なんだ? もしかして、狂っちゃったのか? 俺達がアルカンレティアに行ってる間に、何か凄い惨状になっちまってるのかァァァァァ!?

 そうこう気にしていたら、カズマが。

 

「よし、俺は最初は女の子が良いんだが」

「いいえ! 絶対に男の子じゃないとダメです!!」

 

 おっと? 話が進みましたね? というかゆんゆん、いっつもオドオドしてるけど、こういう時はキチンと言えるんだな。感心した。って違う違う、そんな事を言っている場合じゃない。

 何を考えているんだ。あ、でもこれって二人の問題じゃね? だったら、俺は関係無くね? ウィズの所に行こうかなー? それとも、適当にクエストでも受けに行こうかな……?

 なんて事を考えている最中だった。

 

「お、落ち着いてください! というか、どうしてそこまで話が進んでいるのですか!? ゆんゆん! あなたはたまに突っ走って前が見えてない時があります! 順を追って説明してください!!」

 

「そうだぞ! 落ち着くんだ。言ってはなんだが、この男がどういう男かわかっているのか!?」

 

 二人が妙に突っかかるな。カズマの事好きなのかな? いいなぁ、ハーレムじゃん。俺も作りたい。あ、でもコイツらは……いや、まあ多少の事なら、目を瞑れば……アリ?

 

「でもでも、カズマさんとの間に子供を作らないと世界が、魔王が!!」

「なるほど、俺達の間に子供ができれば、なんやかんやで魔王が倒れ、世界が救われる訳か、俺が断る訳ないだろ? 世界の為だ」

「おお、お前は! クエストを受けるのに、あんなに嫌がり抵抗した癖に!!」

「ちょちょ、ちょっと待ってください! なんで、こんな時だけ物分りが良いんですか!!?」

「うるせー!! さっきからなんだ!! 俺達の関係の話だろうが! 関係ないヤツが横から突っかかってくるな! せっかくのモテ期到来なんだ! 邪魔するな!!」

「こ、この男、逆ギレしましたよ!! というか、友人が変な男に引っかかろうとしてるんですよ!? 止めるに決まってるじゃないですか!!」

 

 はぁ、そろそろ事態に収拾がつかなくなる。しょうがねぇ。

 

「『フルキャンセル』『フルキャンセル』『フルキャンセル』」

 

 一触即発だった。三人の動きを止める。何気に戦いより、こういうのに役立ってる気がしないでもない。

 

「それで、ゆんゆん。一体どういう事なのか、説明して貰いてぇんだけど?」

「え、えっと、とりあえず、この手紙を読んでください」

 

 と手紙を差し出してきた。内容はこうだ。俺は音読する。

 

「『この手紙が届く頃には、私はもうこの世にはいないだろう。我々の力を恐れた魔王軍が、とうとう本格的な侵攻に乗り出したようだ。軍事基地の破壊もままならない現在、我らに採れる手段は限られている。この身を捨てても、魔王と刺し違える事。愛する娘よ。お前さえ残っていれば、紅魔族の血は絶えない。族長の座はお前に任せた。この世で最後の紅魔族として、その血を絶やさぬように』」

 

 粗方の内容はこうだ。これだけではない。もう一枚ある。俺はそれも読んでみようとしたら、めぐみんが。

 

「ちょっと待ってください! 私は? 私はどうしたんですか!!?」

 

 ……知らん。俺はめぐみんを無視して、もう一枚の手紙を読む。

 

「『星の占い師が、魔王軍による襲撃で、里壊滅という、絶望の未来を視たと同時に、希望の光も視る事になる。紅魔族唯一の生き残り、ゆんゆんは……』」

 

「ちょっと待ってください! だからどうして、ゆんゆんが唯一の生き残りなんですか!? 私は!? 私の身に一体何が……!?」

 

 この俺に対して文句を言うめぐみんが揺さぶる。そんな事を俺に言っても意味はねぇだろうが。まあいい。続けよう。

 

「『いつの日か、魔王を討つため、修行に励む彼女は、ある日一人の男と出会う。その男は頼りなく、それでいて何の力も無い、その男こそが、彼女の伴侶となる相手だった……』」

 

「ちょっと待て、なんで俺をジッと見る。というか、ゆんゆんはこれだけの情報で俺の所に来たのか!?」

 

 カズマがそう言い、ゆんゆんを見ると、ゆんゆんはサッと目を逸らす。俺は笑いを堪えつつ、続ける。

 

「『……やがて月日は流れ、紅魔族の生き残りと、その男との間にできた子供はもう、少年と呼べる歳まで成長していた。彼は知らない。その少年こそが、男の跡を継ぎ、旅へ出る事になる。だが、少年は知らない。彼こそが、一族の敵である魔王を倒す者であると……』」

 

 俺の言葉に全員が息を呑む。俺はその最後に書いてある文に着目した。そこにはこう書かれていた。

 

 『紅魔族英雄伝 第一章 著者あるえ』と。

 

 おそらく、一枚目は本物で二枚目が創作という訳だろう。

 ゆんゆんは焦っていた所為で、それに気付かず、持ってきたという訳だ。俺がこうして、考えてる間に、みんなが大騒ぎしていたので、俺が、いてつく波動でも出してやろうと、一言。

 

「これ、二枚目は創作だわ」

 

 この一言で確かに俺は聞いた。ピシッという音が。それで最もダメージを受けているのは、カズマかもしれない。

 だって、カズマはちょっと期待していたのだ。ゆんゆんとそういう行為をできるという事に、期待していたのだ。

 

 

 十四歳という、普通だったら条例に引っかかりそうなお年頃の子と、そういうのを関係無く、できるという事に。

 俺は静かに、肩に手を置いて、笑顔で、呟くように囁いた。

 

「ドンマイ」

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

「それで、どうしたらいいんだ?」

 

 カズマが言う。落胆と言えばいいのか。確かに、あそこまで言われて、一切意味がなかったというのは、災難と言えば、災難だが、仕方ないだろう。

 

 ちなみに二枚目の手紙はゆんゆんがくしゃっと丸めて、投げ捨てていた。俺はクシャクシャにした紙を拾って、中身を読んで見ると、やはりどことなく、小説チックになっているように感じる。というか、これは小説だ。著者とか書いてあるしな。

 

 ちなみになぜ同封されていたかと言うと、お金が結構掛かるかららしい。

 

「なあ、ゆんゆん。このあるえ? って子誰なんだ?」

「え? あ、そのあるえって言うのは、小説家を目指してるちょっと変わった子で……」

「へぇ、その子も女の子なのか?」

「え? ま、まあそうです」

 

 ふーん。あ、そこは良いって顔してるね、皆さん。でもね男にとっては結構大事な事でしてね。

 だって、男の大半は性欲でできてるからね? いやいや、別にそういうやましい目で見ている訳ではありませんよ! 

 でも、まあゆんゆんとか結構良いしね……でもウィズも捨て難い……それに俺が初めて、クエストを受けに行った、受付嬢のお姉さんも良かったなぁ、確か、名前はルナさんだっけ? 

 

 いやぁ、異世界に来て、良い事って言ったら、可愛い子が多い事だよなぁ。まあ性格うんぬんは置いておこう。

 まあ性格も素敵な子もちゃんと居るし。大丈夫だ。ゆんゆんとかウィズとか。あれ? ただ押せばイケるかも? って子なだけじゃね? あ、やめとこう。

 

「それで、俺はどうしたらいいんだ!? 部屋で脱げばいいのか? この場で脱げばいいのか!?」

「現実を見ろ。あれは嘘だ」

「うわあああああああああ! 俺の甘酸っぱい気持ちを返せぇぇぇ!!!」

 

 叫んでいるカズマを無視して、先に話を進めていくと、どうやら紅魔の里。めぐみんとゆんゆんの生まれ故郷がピンチに陥ってるらしいが、それは結構前からわかりきっていた事なので、そこまで慌ててないめぐみんと相反するように慌てるゆんゆんはめぐみんのこういうテンションに対して怒りを露にして、そのまま出て行ってしまった。

 

「えっと、結局、どうするんだ? お前の故郷がヤバいんだろ? だったら行ってやらなくていいのか? ゆんゆんが一人で行くつもりらしいぞ?」

「知りませんよ」

 

 結局、特に行動は移さず、夜になってしまった。俺が自室でゴロゴロしてると、隣から、ガチャッと言う音と共に、めぐみんの声が聞こえてきた。俺はとっさに耳を壁に傾けると。

 

『あの、カズマ。ちょっと話があるのですが』

 

『どうした? ゆんゆんに触発されて、俺に夜這いにでも来たのか?』

『カ、カズマは、私が十四歳になってから、セクハラにブレーキがなくなりましたね!?』

 

 まったくだな……。それにしても、だったらこんな時間に本当に何の用なんだ? 俺が耳を傾けながら、静かに息を潜めて待っていると。

 

『あの、ゆんゆんは全然関係ないのですが、実は歳の離れた妹がいまして……』

 

 おぉ? これは?

 

『ですから、その妹の為に――な、なんですか、ニヤニヤして!!』

 

 ビクッと一瞬、俺に言われたのかと思ったが、俺はここに居るので、見えるはずがなかったのを思い出して、カズマも同じ表情をしていたのか、と納得する。

 これはアレだ。いわゆるツンデレというヤツだ。

 俺は良いモノが聞けたと満足して、そのままベッドで寝たのだ。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 翌日。

 俺達は再び、別の場所へ行く。そこは紅魔の里。正直に言えば、昨日の時点で行っていれば良かったと思ったのだが、連中が行こうとしなかったのだ。特に素直じゃない子が居るからな。

 

「なんですか? 何か文句でもあるのですか?」

 

 めぐみんがこちらに問い詰めてくるが、俺はチラッとめぐみんを見て、ニヤリと表情を歪めて。

 

「いいえ、ありませんとも、ツンデレっ娘って訳ですね。わかります!」

「なんですか、それは? わかりませんが凄くイライラします」

「ハーッハッハ! あ、そういえば、紅魔の里ってさ、強いモンスターがウロウロしてんだろ? 俺、正直火力が全然ないこのパーティで、そんな場所行って役立つか?」

 

「遠くから、里の様子を窺って、手紙の通り危なそうだったら、即座に帰る。道中で見かけても即座に帰る。モンスターとのバトルも極力避ける方向だ!」

 

「さすがカズマ! 凄く後ろ向きな作戦ね。まあ旅行から帰ってきたばかりだけど、私の力で救済してあげるわ!」

 

「紅魔の里は今、魔王軍と交戦中だ。数が、数だ。私は取り押さえられ、あられもない姿に……! 皆! 私が捕まった際は私に構わず、逃げるのだぞ!」

 

「いや、別にそんな事しなくても、俺なら余裕で全員を助けれるから、心配すんな」

 

「わ、私の望みどおりにいかないのか……」

 

 落胆してんじゃねぇよ。

 俺達がそんな会話をしていて、アルカンレティアに行った時の荷物のまま、出かける。そして、向う場所はウィズの魔道具店だ。

 

「むっ、私はエリス様に仕える身としては、あまり来たくないのだが……何せ、ここには」

 

「へいらっしゃい! 上がり易い職業のくせにちっともレベルが上がらない男に、最近、家の威光以外で、あんまり役立ててない娘! うっとうしい光溢れるチンピラプリーストにネタ魔法しか使えないネタ種族! それに最近、微妙に力をつけて、ちょっと調子に乗っている男よ! 丁度良いところに来たな!」

 

「び、微妙だと……!?」

 

「コイツが居るから……っ!」

 

「ネ、ネタ種族……っ!」

 

 店先でせっせと箒を掃いている仮面を被った怪しい男に挨拶をされたバニル。

 公爵クラスの悪魔らしく、強さで言えば、かなり高いが、一度俺に倒されてるヤツだ。フンッ! 一度倒せたもんは何度も倒せんだよ! 調子に乗ってるんじゃねぇ!

 

「つか、店先でお前みたいな不審者居たら、普通、怖がるもんだけど、子供に人気みてぇだな?」

 

「フハハハ! そんな事はどうでも良かろう! それよりも気にならんか? 丁度良いところというのが!」

 

「まぁ……」

 

 そうして、店の中に入っていくと、そこでオススメされたのは、アンデット除けの魔道具だそうだ。

 蓋を開けておくと、半日程、効果がありアンデットを寄せ付けない神気が出てくるようだ。ちなみにこの効果の所為でウィズが出られずに、中で泣いてるらしい。

 

「大概にしとけよ?」

 

 俺がそう言い、窓を開け、効果を薄めていく、それでもそれなりに時間が掛かるだろう。それからバニルがカズマに耳打ちをしながら。

 

「そこに居る、アンデットに好かれる妙なのが居るだろ?」

「ちょっと、妙なのって私の事じゃないでしょうね?」

「それで、デメリットは? ここの商品のデメリットは俺も一度、大変な目に遭わされてるからな……」

 

「そんなものは無いぞ! 強いていうなれば、値段が高い上に使い捨ての商品って事ぐらいか?」

 

 ふむ、それなら確かに、でも値段にもよるか?

 

「ちなみに値段は?」

「百万エリス」

 

 呆然とする俺とカズマ。

 

「たけぇよ!!? そんなんだったら、アンデットと戦う方がマシじゃねぇか!?」

 

「いいじゃないですか、お客様! なんせお客様はこれから大金持ちになるのですから、三億エリスですよ? 三億エリス。その内の百万エリスなんて安いものでしょう?」

 

 三億エリスかぁ。ま、正直に言えば、俺は冒険職が強さ的に合ってるから、結構予算もあるんだよな、今、手持ちでも、五百万エリスぐらいは持ってるし、総額で多分……二億? はいってると思うし。

 やっぱ、俺に冒険職を与えたら、これぐらいはいくんだな。チート万々歳ってなぁ!!

 

「ね、ねぇ、カズマさんカズマさん。私、屋敷にプールが欲しいの」

「私も、魔力の回復効果が上がると言われている、魔力清浄機が欲しいです」

 

 コイツら……。

 

「おっと、金の臭いを嗅ぎ付けた金の亡者共! そんな高いのは今は無理だから、今の内に旅に必要そうなものは取り揃えてこい!」

 

 

 ニコニコと笑顔のまま、旅の品を選んでいるアクアとめぐみん。

 こういうのに反応しないダクネスはやはりお嬢様だからなのだろう。

 俺も適当に旅に必要そうなモノを見繕いながら、品物に触れようと思ったが、寸でのところでやめる。

 なぜなら、触って碌な事にならないモノがありそうだからだ。

 

 爆発したら洒落にならない。どうしてそんな科学実験のベタな失敗みたいな心配をしなくてはならないのか、不思議でしょうがないのだが。

 ちなみにアンデット除けの魔道具は三億から引いて貰ったようだ。

 

 

「えっと……? それで気になったんだけど、カズマ、今日はどうしてここに来たんだ? 向かう先は紅魔の里なんじゃねぇのか?」

 

「あぁ、そこはウィズに任せたかったんだよ」

 

 ウィズはそれに怪訝な反応を見せながら、カズマが説明すると、ウィズはどうやらテレポートでアルカンレティアを登録させていたらしく、そこに飛ばそうという訳らしい。

 その間、ダクネスが振りかけられると、嫌われるポーションとか、一時的に魔力を上げる事ができるが、その残っているのが、

 

 『呪縛魔法』と『泥沼魔法』で、範囲を広める為、術者も掛かってしまうという、ふざけた効果がある。

 

「そういえば、前に紅魔の里で高名な魔道具職人のひょいさぶろーさんを訪ねたのですが、あいにくいらっしゃらず」

 

「え? 今、ひょいさぶろーと言いましたか? ちなみにウィズが紅魔の里に来たのってどれぐらい前ですか?」

 

 めぐみんが反応して、聞いていた。

 俺は怪訝な顔をしながら、自分もポーションやら何やらを見ている。欲しいのは一切無い。

 正直、ウィズはセンスが無い。魔道具店が向いてないと思う。人間、向き不向きがあるが、ウィズにこれは不向きなのだと思う。

 

「二年ぐらい前ですね」

「うぅ……わ、私の所為で、商談が……」

 

 よくわからんが、めぐみんが呻いていた。なんだか後悔でもしたのだろうか? 

 とりあえず、こんな会話をしながら、アクアとバニルが喧嘩したりと、あの二人は女神と悪魔で、水と油って言葉がお似合いだな、この場合、バニルが油か……。

 

「おい、小僧! 高い買い物をしてくれた礼だ。見通す悪魔が忠告しておいてやろう……貴様はこの旅の目的地にて、仲間が迷いを打ち明けられる時が来る。その時の選択次第で、その者の未来が大きく変わる。汝、よく考え、後悔の無いようにな」

 

 何やら意味深な事を言っていたが、カズマにだけ言ってるのだ。俺には関係ないだろう……という訳にもいかないか。

 仲間って事は俺達の中に誰か、迷いねぇ……この中で迷いなんてあるヤツが本当に居るのか? むしろ、突っ走りすぎて、たまには悩んで欲しい連中ばかりなんだけどさ……。ま、いいか。

 

 そうして、俺達五人が一箇所に集まり、ウィズにテレポートをして貰った。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。


感想、批判。大歓迎です。


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今までもっとも強いかもしれない敵 『安楽少女』

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただければ、幸いです。


 ウィズの魔法を受けて、目を開いて、広がっている景色は、水と温泉の都アルカンレティア。

 正直、あまり良い思い出がない為、すぐさま、逃げ出したいというのが本音である。アクアは目を輝かせ、辺りを見回し、カズマの裾を引っ張り。

 

「ねぇ、ねぇ!」

「言っとくが、ここはすぐに出るぞ」

「なんでよー!」

 

 まるで、子供のような反応をするアクアに対して、面倒臭そうにしながら、カズマは先に進む。

 おそらくゆんゆんよりも早くにここまで着いた俺達は、すぐさま、この街を後にする。

 

 ちなみにここからは商隊で行く事ができないぐらい、危険な場所らしい。

 

「どうやらこの街から、二日程で里まで着くらしいから、ここからのモンスターは俺の『敵感知』とお前が頼りだからな?」

 

「おう、カズマを先頭に先に進むか」

 

 テキパキと事が運んでいく事に若干の不安を覚えながら、俺達は先に進んでいく、今回もしかしたら、また魔王軍幹部と戦うなんて、ふざけた事になる危険性がある。

 

 正直、あまり相手にしたく無い相手ではあるが、今まで戦ってきた相手で、俺が死ぬ目に遭ったのは……冬将軍のみだ。

 それを考えてみると、魔王軍幹部よりも、もしかしたら、そこら辺に居る敵のが強いのかもしれない。

 

「そういえば、リュウトってレベルどれぐらい上がったんだ? 俺は14でさ、最近新しいスキルの『逃走』を手に入れたんだよ」

 

「んー? あぁ、そういえば、あんまり興味なくて、見てなかったな。えっと……29だな」

 

 結構、上がってんだな。

 

「フフン、まだまだですね。私は33ですよ!」

 

 ま、アイツは広範囲の魔法があるからな、一気に倒す事だって可能だ。俺はそっち系は無いからなぁ……刀一本だし、ちょっと射程があるのだって、風斬りぐらいだしなぁ。

 そんな会話をしながら、歩いていると、俺がピクッと何かに反応した瞬間、ダクネスが。

 

「おい、そこに誰か居るぞ?」

 

 その言葉に俺達の視線が一箇所に集まる。そこには、林の入り口に出っ張った岩に腰を掛けたボロボロの緑髪の少女が居た。

 こちらに気付いたのか、小さく手を振っている。俺は別にロリコンじゃないが、手を振り返す……笑顔で。

 

 その少女はチラチラと自分の包帯の巻いた足を見ては、痛そうに顔をしかめる。

 俺はその顔にちょっとだけ、不憫と感じて、近づき『フルキャンセル』を掛けてやろうとしたら、それよりも早く、アクア、めぐみん、ダクネスが近づく。

 

「ちょっと怪我してるじゃない。あなた、大丈夫?」 

 

 そう言いながら、彼女の元へ急ぐが、その前にカズマがガッと肩を掴む。それで。

 

「おい、敵感知に反応する。アイツ、擬態したモンスターだ」

 

 ギョッとした顔をする三人。うん、知ってた。知ってるけどさ……もしかしたら、良いモンスターだって居るかもだし。俺は彼女を助けたいって気持ちが湧くんだけど。

 カズマは遠巻きに警戒を強めながら、離れようとする。それに対して、悲しそうな表情をする少女、これが全て演技か? えぇ、演技……かなぁ? 俺はちょっとだけ、カズマの肩を叩きながら。

 

「なぁ、大丈夫じゃないか? ちょっと可哀想じゃねぇか?」

 

「お前、いつもはもっと警戒心高めだろうが! 何、ちょっとああいうのが弱点な訳?」

 

「んー……かもしれない。少女とか少年というか、子供の為に命を掛けた事がある」

 

「……あれは、少女でも少年でもない。モンスターだ!」

 

 えぇ……。カズマが俺の表情を見て、露骨にため息を吐き、アルカンレティアから紅魔の里までのモンスター情報で、この少女に該当するのを探しているのだろう。

 どうやら見つけたようだ。俺に見せてくる。俺は音読する。

 

「『安楽少女』。その植物型モンスターは物理的な危険は無い、だが通りかかる旅人に対して、強烈な『庇護欲』を抱かせる行動を取り、それは抗いがたい、一度情が移ると、死ぬまで囚われる。一説では、かなり頭の良いモンスターではないか、と言われてる。冒険者は辛いだろうがどうか、駆除して欲しい」

 

 できるかぁ!!? ってこれが、あのモンスターの掌の中って事なのか……。

 お、恐ろしいが、俺にはどうやら無理のようだ。あ、決してロリコンではありませんので、あしからず。

 

「な、なぁ、カズマ。あの凄く泣きそうな顔をしてるが、本当にモンスターなのか?」

 

 ダクネスが珍しくも、オロオロとしながら、カズマに言う。うむ、女性陣は特にこういうのに弱そうだもんな。

 

「旅人がモンスターの傍に居ると、酷く安心した表情をするので、とにかく離れがたく、『善良な旅人』程、このモンスターに囚われるので、注意していただきたい」

 

「あの、カズマ、あの子。泣きそうな顔を必死に堪えた笑顔でこちらにバイバイと手を振っているのですが、ちょっと抱きしめてはダメでしょうか」

 

 カズマがアクアから手を離して、次にめぐみんの襟を掴む。俺はそのまま続きを読む。

 

「一度、囚われると、そのままそっと寄り添ってくるため、跳ね除けるのは困難。本来ならば、腹が減れば、旅人が離れると思うが、ここがこのモンスターの危険なところで、自らに生えている実をもぎ、旅人に分け与える。それは大変美味で、腹も膨れる。が、その実はまったく栄養が無く、どれだけ食べてもやせ細る。自らの実を千切ってる姿に、『良心の呵責』から食事を取る事すら無くなり、最終的には栄養不足で死に至る」

 

「くっ、たとえモンスターでも傷ついてる者を放っておくなど……!」

 

 そうして、先に進んでいく、ダクネス。俺はどうやら物理的に攻撃してこないようなので、とりあえず無視して、続きを。

 

「安楽少女の実は身体に異常をきたす成分が入ってあるのか、空腹や眠気、痛みなどが遮断され、寄りそう少女と共に夢見心地で、衰弱して死んでいく。年老いた冒険者はそれを求め、生息地へ向かう事から、『安楽少女』と呼ばれる由縁になっている。その後、その旅人の上に根を張り、それを養分とし――」

 

 それ以上は言っても無駄のようだ。彼女達がもう既に近くに行ってしまっている。

 だが、安易に触れようとしないのは、これも意味があったと言えるだろう。俺はこれだけ読むと、なんというか……なんとも言えない感情に支配される。

 

「とりあえず、近くによってもそこまで危険じゃない、みたいだな」

 

 俺がそう言うと、なぜか安心したようにしながら、三人は近づいてく。俺はそれに続いて、近づいていく。

 それをニコニコしながら見る安楽少女。しっかりと見てみると、包帯や怪我もすべて擬態のようで、この岩も擬態の一部みたいだ。

 

 どうやら、すべては庇護欲をそそる為に用意されているようだ。

 ここまで見てしまうと胡散臭くて、俺の中で庇護欲が徐々に薄れていく、どうやら俺は純真が好きみたいだ。

 

「おい、どうする。殺すか? 見たくないなら、みんな先に行ってていいけど?」

 

 俺の言葉に驚いた顔をする三人。

 

「な、何言ってるのよ!? まさか、この子を経験値の足しにするつもりなの!?」

 

 とアクアが庇うよう抱きしめながら、俺を批判する。だがなぁ……。

 

「それは命を奪うモンスターなんだぞ? 殺さなきゃ、ダメだろ?」

 

「で、でも、安楽少女と言う名前は知っていましたが、こんな少女を殺したりしませんよね? 二人とも、なんだかんだ優しいところがあるんですから、そんなそんな事……しません……よね?」

 

 手を握りながら、めぐみんがそう訴えかけてくる。まるで捨てられてる犬を拾うように縋る子供のように、二人して、ここまで言われてしまうと、さすがに、俺も決心が鈍る。

 

「いや、そのモンスターをここに残しておけば、もしかしたら誰かが犠牲になるかもしれない、辛いが、ここで討伐する方が……」

 

 そうダクネスが言うと、舌足らずな感じで、安楽少女が。

 

「コロス……ノ?」

 

 とめぐみんの手を縋るのように両手で掴んで、涙目でダクネスを見るのだ、俺はちょっとだけイラッとした。

 どうやら、ここまであからさまだと俺は苛立ちを覚えてしまうようだ、本気で殺してやろうか……。

 そう思っていると、ダクネスが安楽少女とまったく同じ表情で俺とカズマを見てくる。魅せられてんじゃねぇ! アクアもこっちに向かって、シャドーボクシングをはじめてる始末だ。

 

 なんだ? 俺か? むしろ、俺が悪いんじゃないのか? 俺、俺が悪いのか……俺が……。

 少しずつ、自分の事が疑心暗鬼になり始める。恐る恐るという感じで、俺の方を見ながら、安楽少女は。

 

「コロス……ノ……?」

 

 刀を収めながら、俺は……ガクッと膝を突く。俺はもうこれ以上戦えないようだ。どうやらいくらチートを持っていようが、こんな相手に矛先を向けるなんて、俺には無理みたいだ。

 

「カ、カズマ……もう去ろう……そろそろ限界に近い……」

 

 まるで決壊したように、俺の身体から罪悪感が滲み出てくる。

 今まで、この子を殺そうとしていた、罪悪感が俺を苛ませる。俺は今日以上に自分が悪者だと思った事は無い……。それはカズマも同様だ。

 

「良い? 二人とも……迷っている時に出した決断はね? どっちに進んでも、きっと後悔するものよ、だったら今、楽チンな方を選びなさい」

 

 う、うわぁ。ダメ人間製造機だな、この女神……。アクシズ教がああなる理由を垣間見た気がする。そうだな、こういう考え方したヤツがご神体だったら、それを崇めるヤツもああなって当然だわ。あぶねぇ……。

 

「カ、カズマ……お前、確か、レベルがこの中で一番低かったよな? だったらお前が倒すべきなんじゃねぇか? いや、お前が嫌だったら良いんだけどさ、もし、お前がここでこのモンスターを退治したら、きっと結構な経験値が貰えると思うんだよ……それでめぐみんの里を救える為に少しでも助力できれば良いんじゃねぇか」

 

「お、おま!? き、汚ねぇぞ!? 俺にそんな役をやらすつもりかよ! つか、俺が思ってた事をサラリと……!」

 

「そうだよ、これはモンスターだ! モンスター! モンスターなんだよ。モンスターなんだ! だからこそ、倒すべき対象なんだ。人の形をしたモンスター! はい、繰り返して!」

 

「人の形をしたモンスター! そうだよ! モンスター! これは少女の形をしたモンスターなんだ!!」

 

 よしっ! これならできるはずだ! と俺が歓喜した瞬間だった。

 

「クルシソウ……ゴメンネ、ワタシガ、イキテル、カラダネ……」

 

 儚げに微笑むその表情を見た瞬間、俺は凄まじいボディーブローを喰らったような感覚に陥った。今にも倒れこみそうだ。コ、コイツは本当に危険すぎる。ほ、本当に危険だ……!!

 

 

「ワタシハモンスター、ダカラ……イキテルト、ミンナニ……メイワク、カカル……カラ。ダカラ、コウシテ、サイゴニ、ニンゲントハナシガデキテヨカッタ……サイショデ、サイゴニ、アナタニデアエテヨカッタ。ツギハ……モンスタージャナイト、イイナァ……」

 

 

 ………………無理だろ、これは。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 俺達は街道へと戻った。もう無理だ。アクアとめぐみんだって、離れるのに大分時間が掛かった。きっとあれはああやって人々に同情を誘うのだろう。生きる為に。

 あれを倒す事ができるヤツなんて、それこそ、人の心が無いヤツぐらいだ。もしくは、あれは実はどうしようもないくらいに、腹黒な反面があるとか、そういう何か裏を知ってるやつだろう。あればの話だが。もしかしたら、あれだって生きる為に、どうしようもなくて、やってるのかもしれないし。

 

「それにしても良かったわ、カズマとか、経験値の足しとかで、ティンダーで燃やしたりしないかと、冷や冷やしてたし」

 

「お前とは、俺の事をどう思ってるか、ちょっと話が必要だな。俺だってさすがにそんな事しない。お前らは俺がそんな事しないってわかってたよな?」

 

 めぐみんとダクネスは二人して、そっぽ向く。カズマはなんか、呆れた感じで前を向き……ふと、思い出したように、いきなり顔を青ざめて走り出した。

 

「ちょ、ちょっとどこに行くのー!?」

 

 アクアが驚きながら、言うが、カズマはそれを無視して、走り出した。俺は少し考えて、カズマのしたい事がわかった。

 おそらくゆんゆんの事だ。彼女の事だ、あんなの見せ付けられたら、絶対に終わる! 俺はカズマの方へと走り出す。

 

 そうして、カズマが突然、姿を消す。俺は一瞬、驚いたが、おそらく潜伏スキルを使って、気配を消したのだろう。俺は微かな気配を辿って、カズマに触れる。

 

「うおっ」

 

 驚いた声をあげるカズマ。

 

「シッ、静かにしろ、あの木こり……殺すつもりかもな……」

「あ、あぁ……」

 

 カズマに触れて、俺も潜伏スキルの恩恵を受ける。

 そして、しばらく葛藤してる木こりを見ていると、あの安楽少女が先程、俺達に最後言った言葉とまったく同じ言葉を言っていた。そしてそれを受けて、木こりはすまんっ!! と言いながら、走って逃げていった。

 はぁ……とため息を吐き、カズマは潜伏スキルを解いて、俺達が安楽少女に近づこうとしたら――。

 

「あーあ、また失敗か、あの木こり、結構肉付き良くて、良い栄養になりそうだったのに、くああ……っ。仕方ない。ちょっと曇ってるけど、光合成でもするかぁ――」

 

 背を反らして、潜伏スキルを使っていない俺達と目が合った。安楽少女は――。

 

 

「……イマノ、ナカッタコトニデキマセンカ?」

 

 

 …………無理だろ、これは。その後、カズマと俺はニコニコしながら、みんなの元へ戻る。

 

 

「あら、遅かったわね? 何してたの?」

 

「いや、なんか、スッキリしたぜ」

 

「見ろ見ろ、アイツを倒したら、レベルが三つ上がってさ、これでめぐみんの里行っても、役立つよな!」

 

 アクアとめぐみんの顔が青ざめる。そして、カズマに食って掛かる。

 

「なんて事してんのよー!! せっかく、見逃したのにー!!」

 

「わ、私の所為です、私がレベルの自慢なんてしたから……!!」

 

 それとは違い、ダクネスは。

 

「辛い役目を押し付けてしまって、すまない。辛かったろう……」

 

 

 

 この誤解を解くのに時間が掛かったのは、言うまでも無いだろう――。

 

 




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猫耳少女と犬耳少女の天国

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると、幸いです。


 辺りはもう暗く。俺は、寝やすいよう、大きめの石などを取り除き、レジャーシートぐらいの大きさの布を敷く。

 この辺りのモンスターは強い為、焚き火をしないようにしていた。

 

 そして、バニルから買ったアンデット除けが役立つ時が来た。というかこの為に持ってきたからな。これで粗方モンスターが近づいてこないだろう。

 だがそれでも、全員が全員、眠るのはまずいという事で、カズマはどうやら徹夜をするらしく、他は交代で起きるらしい。ちなみに俺も徹夜するつもりだ。

 

「……ふぅ」

 

 曇っていたのか、星が一切見えず、本格的に真っ暗だ。

 

「それにしても、二人とも大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。俺達の国じゃ、徹夜ってのは珍しくないんだよ」

「い、一体どんな暮らしをしていたら、そんな事に……?」

 

 めぐみんが怪訝そうに聞いてくる。カズマは少し考え込んだ後。

 

「そうだなぁ……俺は国じゃランカーだったんだ」

 

 ランカーって……。専らゲームしてたって訳か? 俺は軽く呆れていると。二人は。

 

「「ランカー?」」

 

 まあ、わかるはずねぇよな。

 

「まあ言ってみれば、ランキング上位者って意味だな。『インしたらいるカズマさん』やら『レア運だけのカズマ』なんて呼ばれて、みんなから頼りにされてな、砦を攻略したり、大ボスを力をあわせて倒したり」

 

「そうなのか、凄いな、それは凄いッ!」

 

「今のカズマから想像もできませんが、嘘を言ってるように見えませんね。だからあれだけの機転を……?」

 

「ねぇカズマ、それってネトゲの話よね? ねえ、猛烈にツッコミしたいんだけど、良い?」

 

「止めてくれると、助かるな」

 

 ゲームの話をここではこんな風に語れるのか……。まあ運の良さは、どこに行っても健在って事だな。

 ゲームかぁ……久々にやりてぇな……。なんか懐かしくなってきたわ。

 

 そんなこんなで、ダクネスは多少乱暴でも即起こしてくれとか、なんとか言って、カズマが一発で起きる凄い起こし方をしてやるとか、言ったりして、今はめぐみんとカズマが番をしている。

 ちなみにカズマとめぐみんは隣に座り、俺は反対側の方で横になりながら、辺りを警戒する。

 後ろで軽い会話を聞きながら、辺りを見る。

 

「そういえば、遠くの国から来たって言ってましたけど……帰る気はないんですか? 二人とも」

 

 恐る恐るという感じで、聞いてくるめぐみん。

 帰りたくても帰る術が存在しない訳で、俺達は帰る事は絶対に不可能と言ってもいいし、そもそも別に帰る気はそんなに無い。

 

「いや、帰りたくても、そもそも帰れないし、まあ帰る予定は今のところないな……」

 

 とカズマが俺もそれに続き。

 

「そうだな。今の生活もなんだかんだ、気に入ってるし」

 

「そうですか」

 

 ホッとした感じで言うめぐみん。

 

「私も、今の生活が気に入ってるので、このままがいいです。しょっちゅうピンチになるけど皆と一緒に乗り越えていく、そんな今の楽しい生活に……」

 

 

 カズマが何かを言い掛けた時だった――。

 

 

 

「――ずっと、このまま皆で一緒にいられるといいですね」

 

 

 

 俺はその言葉につい顔を綻ばせる。

 カズマは何か、緊張した面持ちでいる。

 よく見てみると、カズマの手とめぐみんの手が重なっている。俺は空気を読み、そのまま黙っている事にした。

 こういうのは、やっぱり異世界ならではなのかもしれない。今じゃ、携帯電話やら何やらで、こんな甘酸っぱい感じになる方が少ない。

 俺はラブコメ空間に居る、いわばモブだ。

 そんな事を考えていたら、寝息を聞こえてきた。

 

「……すかー」

 

 なんというか……台無しである。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 その後、一悶着あった、翌日。俺は眠そうに目を擦りながら、欠伸をする。

 さすがに久々の徹夜は厳しい。まだまだ成長期なのに、背が伸びなくなる……目指せ、180センチ……。

 

 俺はそんな事を渇望しながら、頭を掻きながら、目覚めの朝として、コーヒーを一杯飲む。

 これで少しは、頭も冴えるだろう。ちなみに夜の事で、騒いでいた事に対して、アクアが文句を言っていたのだが、そのアクアは結局、最後まで起きずに、代わりにダクネスがやってあげたりと、文句を言える立場ではない気がする、が彼女にはそういうのは関係無いのだろう。

 

 そんな訳で、無事朝を迎えた俺達は、先に進む事にしたのだが――。

 

「だだっ広いなぁ……」

 

 広がっているのは、平原。見通しが良い為、敵感知スキルと潜伏スキルが上手く使えないのだ。

 だからと言って、めぐみんが爆裂魔法を放ったところで、その音で他のモンスターが出てくる危険性だってあるので。

 

「よし、俺を先頭に進む。敵と遭ったら、全員撃退させっから、他の連中はある程度、離れた所から付いてきてくれ」

 

「お、おぉ! やっぱりこういう時はお前に任せるのが一番だな!」

 

「で、ですが、ここのモンスターは危険なのばかりで、私よりもレベルの低いリュウトが敵うのですか!?」

 

「よーし、喧嘩を売ってるなら買うぞー? ったく、大丈夫だよ、知ってるだろ? 俺のスキルを、ヤバくなったら、止めまくる」

 

「た、頼り甲斐があるのか、無いのか、微妙だな……」

 

「黙れ、ドMクルセイダー! 頼り甲斐があると言え! さてと、行くか」

 

 そうこうしている間に、俺は先に進んで行く、敵と出会っては切り裂き、出会っては切り裂きを繰り返してる。

 ちなみに相手が相手だったら、少しだけ時間が掛かったりする。モンスター情報で、情報を得ながら、できる限り、倒し易い状況を作り出しながら、倒してる。

 

 順調といった感じで先に進んでいくと、人影があった。

 おそらく人型モンスター。情報の中にあった『オーク』の可能性がある。今までボスっぽいヤツばかり相手にしてきたのだ、今回の敵は楽だ。その人影もこちらに気付き、近づいてくる。

 俺は取り出していた刀を振るいながら、相手を待ち構えるのだが。

 

「こんにちは、良い男なお兄さん。私と良い事しない?」

 

 ま、まさか流暢に喋るとは、というかオークだから完全にオスを想像してたけど、見た目がアレだ。リボンをつけた立ってるブタみたいな感じだ。女子からお誘いってのは、珍しいが。

 

「残念だけど、丁重にお断りさせてもらう」

 

 悪いが、まったくタイプじゃない。安楽少女ぐらいになってから、出直してこい。……あの性格は真似し無くても良い。

 

「あら、残念ね。合意の上が良かったんだけど」

 

「というか、話が通じるなら、そこを通してくれないか? だったら、代わりに食料を分けるけど? 相談が必要だが……」

 

「あら、そんな物いらないわ。私が欲しいのは……あなたっ!! あなたからは強い力を感じるわ! 本能が、私の本能が囁いてる!! さ、私と良い事しましょう?」

 

 俺は少しだけ、困惑しながら、後ろの方をチラリと一瞥すると、アクアとめぐみんが必死に何か、ジェスチャーをしていた。

 どうやら『逃げろ』というジェスチャーをしてるみたいだ、俺はそれに困惑しながらも、とりあえず、目の前のオークを見る。

 

「あら、あっちにいるのは、三人はメスで一人はオスだね……フフ、二人もいるのね……! しかもあっちも悪く無いわ! そうね、三日、三日だけ私達の集落に来て? そうしたら、天国を見せてあげるわ。まあ、その男達は本当に天国を見る事になるんだけど」

 

 な、何言ってやがる……。それにしても集落って事は他にもいるのか。殺すとあとあと面倒になりそうだな? だったら。

 

「『瞬斬』」

 

 刀を逆刃にして、オークを気絶させた。

 

「余裕、余裕っと……」

 

 俺はそのまま先に進もうとしたら、後ろから気配がした。驚きながら、振り返ると、四人が走ってきていた。

 

「……何してやがる。お前らがこっちに来たら、意味が無いだろうが」

 

「リュウトこそ何をしてるのですか!? リュウトはオークを倒してしまったのですよ!? ここはオークの縄張りです! つまり平原を抜けるまで、リュウトはオークに狙われるという事ですよ!?」

 

「はぁ? その為にわざわざ先に行ってたんだろうが? というかお前らが酷い目に遭わされるところの方が見たくないんだけど……?」

 

「あぁ、そういえば、リュウトとカズマはこの世界の事を知らないあんぽんたんだったわね」

 

「知力が低いお前に言われたくねぇよ」

 

 前にアクアのカードを見た時に、知力が俺以下だった事に驚いていた。というか知らないってのは何の事だ? アクアは俺を泣きながら殴ってきて、話にならないのでめぐみんに促すと。

 

「良いですか、まずオークにオスは存在しません。仮に生まれたとしても、成人もしない内にメスに弄ばれ、干涸びます。

おかげで、オークは各種族の優秀な遺伝子を兼ね備えたもはや、オークとは呼べない代物のモンスターです。現在オークとは縄張りに入り込んだ男を集落へと連れ去って、干涸びさせる男達の天敵です」

 

 俺はそれを聞くと、全身から血の気がサーッと引いていく。

 背筋が凍りそうな事実を聞かされ、しかも俺は先程倒してしまった。優秀な遺伝子を求めるヤツらにとってそれは……。と考え込んでいたら。

 

「な、なんだと!? オークにオスはもう存在しないのか!? せ、性欲絶倫な女騎士の天敵の!?」

 

「はい、もういません。それで、先程リュウトがその、倒してしまったので…………」

 

 後ろで、身の毛もよだつような、気配を感じ取る。俺はゆっくりと後ろを振り向く。

 汗を一滴、垂らしながら、俺が後ろを振り向くと、そこには凄まじい数のオークの群れがあった。猫耳やら犬耳やらのオークだ。俺はそれを見た瞬間、凄まじい速度で逃げていた。

 

「うわああああああああああああッッッッ!!!」

 

「待ちなさいー!!」

 

 なぜだ。なぜ俺がこんな目に遭う!? そこまで悪い行いはしてないのに! もっと言えば、カズマの方が絶対に悪い行いしてるのに! 滅多にセクハラとかしてないのに、神様とか、ぞんざいに扱って――――るけど!! 

 それでも、こんな目に遭うほど、悪い事はしてないはずだッ!! ガッと俺はついに捕らえられる。涙目になりながら、俺は叫び続けた。

 

「『フルキャンセル』! 『フルキャンセル』! 『フルキャンセル』! 『フルキャンセル』! 『フルキャンセル』!! 『フルキャンセル』!!!」

 

 今まで、ここまでの叫びをあげた事は無い。俺はそれぐらい、今の状況を怖がっていた。

 いくら叫んでも、どうやら意味が無いようだ。カズマァァァ! とカズマの方を見ていたら、なんとカズマもちゃっかりと襲われ掛けていた。

 

「うわあああああ!!?」

 

 カズマは俺よりもヤバいかもしれない……。後ろから、ガッと捕まれる。うわっ!? ま、まずい!! だ、誰か……誰か……。

 

 

「助けてくれぇぇぇぇぇぇえええええええええ!!」

 

 

「『ボトムレス・スワンプ』!」

 

 

 聞き覚えのある声が響いた。そして、聞き覚えのある魔法。沼魔法で足元が動けなくなっているオークを見ながら、俺は走り出す。そして、その声の主に。

 

「ゆゆゆ、ゆんゆんーっ! 助かったぁぁあああーっ!! ありがとうー!!!」

 

 泣きながら、つい抱きついてしまう。

 

「わわっ! あ、あの……よ、良かったですけど……あの」

 

 ちょっと困った感じだったので、俺は即座に離れて、そのまま膝をつきながら。

 

「な、な、なさけねぇ!!」

 

 自らの情けなさを痛感しながら、トラウマが出来上がった。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 オークの縄張りを抜けて、森の中へと入り、俺達はそこで小休憩を取る事にした。

 カズマはアクアの傍で羽衣の裾を掴んで、離れていないようだ、おそらくなんだかんだで、長い付き合いのアクアと一緒にいると、落ち着くのだろう。

 だって、あの集団に服破られたりしたんだからね、怖いよね……。

 ちなみに、俺はと言うと。

 

「……」

 

 身体が小刻みに震えながら、マグカップを持ちながら、コーヒーをちびちび飲んでいる。隅っこで。

 もう二度と、あそこに行きたくない。異世界コワイ。

 

 一人で隅っこで居ると、徐々に落ち着く、それと同時にどうしようもなく恥ずかしい気持ちになってしまう。あそこまで情けない姿を見せてしまうとは、だがそれだけじゃない。

 

「本当、ゆんゆんが居なかったら、俺、死んでたわ……いろんな意味で、改めて、本当にありがとう」

 

 俺は徐々に震えが止まり、とりあえずゆんゆんにお礼を言えたのに満足する。

 

「本当だ。俺も改めて、ありがとう。本当に感謝してるよ。どれぐらい感謝してるかって言うと、尊敬する人は? って言ったら『ゆんゆん』って真っ先に答えれるぐらいに」

 

「や、やめてください! それはなんだか嫌がらせみたいですから!」

 

 そんな事を言いながら、自然と話の流れは変わる。

 

「えっと、それよりどうしてめぐみんはここに? やっぱり、里のみんなが心配になったの?」

 

「え、ええ! 私の妹が心配になりましてね……! あの子、結構無茶やらかすので!」

 

「あぁ、確かに、あの子、魔法も使えないのに、結構好戦的だからね……」

 

 そうなんだー。妹ちゃん結構怖いんだねー。ニヤニヤ。皆が揃って、ニヤニヤしてる。

 

「な、なんですか!!」

 

 めぐみんが恥ずかしそうにそう言う。ハハー、素直じゃねぇなー。

 

「……それにしても、お前ら、全員揃いもそろって、綺麗な顔してるよなぁー」

 

 カズマが突然、そんな事を言う。俺はと言うと――。

 

「まったくもってその通りだ。お前ら、本当に美人揃いだよな……」

 

「な、何? こ、この二人、いつもより変だわ!!」

 

「おおお、落ち着いてください! あげて落とすのが好きな二人ですから、きっと何か罠があります!!」

 

「そ、そうだぞ、何を企んでいるのだ!」

 

 し、失礼だな……。

 いや、今までの事を考えると、そこまで……言えないかもしれない。ま、いいか。ゆんゆんは可愛らしい反応してるし。

 俺はそんな事を思いながら、コーヒーを全部飲みきっていた。




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紅魔の里

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると、幸いです。




 

「めぐみんは学校生活時代は、魔法学でも魔力量、常に一番で……みんなも天才天才と言っていたのに、こんな爆裂魔法しか撃てない欠陥魔法使いに成り下がったと知られると……」

 

 欠陥魔法使い……何その名称。超面白い。笑えないけど、面白い。

 

「おい、欠陥魔法よばわりはやめてもらおうか。一応、威力だけなら、紅魔族随一のはずです。だから、その爆裂魔法の悪口はやめてもらおう!」

 

「その魔法を撃ったら、倒れるって時点で、欠陥って事にいい加減気付きんしゃい……」

 

「なんですとぉ!?」

 

 めぐみんが俺に掴み掛かってくる。

 

「お、お前!? お前が、他の魔法を使えたら、もっと楽になるのだって、わかってるだろうが!? 拘るのは悪くないが、拘って死ぬのは、馬鹿のする事だぞ!!?」

 

「い、いつかきっと、私は爆裂魔法を撃っても倒れなくなりますよ!」

 

「それは何百年後でしょうかー?」

 

「いい加減やめておけ、二人とも」

 

「言っとくが、お前だって欠陥クルセイダーだからな?」

 

「欠陥クルセイダー……んぅ!!」

 

 おっと、ドMクルセイダーには無意味だったか……。

 

 ゆんゆんはその後も、爆裂魔法の欠陥な点を言っていたら、ついにめぐみんも本気でキレだし、一触即発――という時に。

 

「おい、やっぱりこっちから人間の声が聞こえてくるぞ!!?」

 

 敵か? 俺は臨戦態勢に入り、とっさに刀を抜く。そうして、声のする方に向かって、一直線で走り出す。敵が多ければ、『フルキャンセル』でどうにかする事ができる。どうとでもなるな。

 

 そうしたら、一匹出てきた。そいつは耳が尖り、赤黒い肌のスリムな鬼だった。鎧もつけてるし。

 

「……おい、こっちに冒険者風の男が居るぞ!!」

 

 他に誰か居るのか?

 

「……! そっちに居るのは……! 紅魔族の娘二人も居るぞ!!」

 

「んー? 悪魔にすらなれない、悪魔モドキがなんか言ってるんですけどー? プークスクス。アンタ程になると、破魔の魔法が効かないのよね。見逃してあげるから、さっさと立ち去りなさい。悪魔崩れ?」

 

 ちょっと待て? 破魔の魔法が効かないって事は、お前、攻撃手段がねぇんじゃねぇのか?

 

「……っ!」

 

 ギリッと歯軋りをする鬼。ダクネスも大剣を構え、臨戦態勢だ。そうしていたら、後ろから同じような格好をしたヤツがちらほら……おお、結構な数だな……。

 

「見逃してやろうとか聞こえたんだが……こっちだって煮え湯を飲まされてんだ! 今更見逃すはずねぇだろうが!! 紅魔族の小娘も居るんだ! ぜってぇ八つ裂きしてやる」

 

「はぁ……」

 

 ため息混じりで俺は、相手にフルキャンセルと小さく呟き、動きを止める。止まった鬼はそれに驚き、戸惑いながらも必死にもがいている。その後ろに居た連中も、いきなり何してんだコイツ? みたいな顔をしている。

 俺は一歩、一歩とゆっくり近づいてく、それに動けない鬼の後ろいた連中は警戒を始める。

 

「動けないだろ?」

 

「て、てめぇ! 何をしやがった!?」

 

「まぁまぁ、落ち着けよ。もしもここで俺達を見逃してくれたら、俺もお前らを見逃すからさ。これでわかったろ? 実力の差がさ。本気を出せば、お前らを一瞬で消す事だって可能なんだぜ?」

 

「なっ!?」

 

「言っておくが、ハッタリじゃねぇ。俺だって別に博愛主義者じゃねぇんだ。殺すって言ってる以上、殺す事だって厭わねぇぞ……ん?」

 

 掌を鬼の胸に当てる、そして殺気が混じってる声をソイツの芯まで響かせる。鬼は一瞬、躊躇ったような顔をしたが、観念したのか。

 

「こ、ここはやめとこう……」

 

「なっ!? 何言ってやがる!」

 

「そうだぞ。折角のチャンスを!?」

 

「無理だ……俺達じゃ絶対に勝てない」

 

 そこそこ利口みたいだな。

 ま、俺はどっちでも良いけど、あの量はちと面倒だからな。こう言って納得してもらうのも一つの手だろう。幸い、向こうは話が通じるみてぇだしな。

 そうしてソイツの言葉を聞いて、とりあえず今回は逃げる事を選択したようで、鬼たちは逃げ出す。俺はそれを一瞥した後、後ろに居た連中の所に行くと。

 

「お前、結構脅しが得意なんだな」

 

「脅しが得意……ッ!?」

 

「だって、お前。さっきの俺でもちょっと怖かったんだけど、ウィズの時を思い出したぜ?」

 

「……ウィズかぁ。あれは怖かったなぁ、ってそんなにッ!?」

 

 それを知らないゆんゆん以外がコクコクと頷いてる。俺は正直少しショックを受けた。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 ようやく紅魔の里に着く。俺達が着いたのと少しの差があいて四人の集団も帰ってきたようだ。その集団は武器を持っていたり持ってなかったり、黒いローブを身に付けてたり、ライダースーツみたいな格好をしていたりと、全員の格好が同じではない。

 この中、共通してる部分と言えば、全員が紅魔族という事ぐらいなのだろうか。

 

「あれ? 靴屋のせがれ、ぶっころりーじゃないですか」

 

「ん? 冒険者風の人たちが居ると思ったら、めぐみんとゆんゆんだったのか!」

 

「はい。里のピンチと聞き、来ましたよ」

 

 ピンチ? と怪訝な顔をするぶっころりー。だが、俺達の方を見て、ちょっと嬉しそうにした後、真剣な顔になり……。

 

「我が名はぶっころりー。紅魔族随一の靴屋のせがれ。アークウィザードにして、上級魔法を操る者……!」

 

 唐突にそんな紹介をしてくる靴屋のせがれぶっころりー。

 本来、これを聞いた人は唖然とすると思うが、耐性がついてる人にとっては、こんな返しだってできる。

 

「我が名は峰沢龍斗。ソードマスターにして、いずれ最強となる者……!!」

 

 いずれ最強になれるとは思えないが、こんなのはその場のノリだ。

 カッコつけて左手で目を押さえる。ここなら、別にこれぐらいならできる。カズマも俺に続き。

 

「我が名は佐藤和真と申します。アクセルの街で数多のスキルを習得し、魔王の幹部と渡り合った者です。どうぞよろしく」

 

「「「「おおおおおぉ」」」」

 

 どうやら俺達の返しに驚きの声をあげる。

 

「素晴らしいよ。普通の人は微妙な反応を示すんだけど。外の人にそんな返しをするなんて……!」

 

 普通の人じゃないって自覚はあるんだな……。

 そんな事を思ってたら――。

 

「二人とも、随分とぶっころりーと仲が良いじゃないですか。私の時はそんな返しをしなかったのに」

 

 めぐみんが妙な事を口走る。どうやら、紅魔族の感性的にイラッとする部分があったのだろう。だって妬いてるにしてはおかしいしね。

 そんないまいちラブコメに発展するのか、しないのかが本当に微妙だなぁ。なんて思ってると。

 

「我が名はアクア! 崇められし存在にして、やがて魔王を滅ぼす者! そしてその正体は水の女神!」

 

「「「「そうなんだ。凄いですね!」」」」

 

 まったく信用してもらえない。というか俺だって、目の前の人が私は神ですとかイカれたとしか思えない。むしろ病院は勧める。

 

「待ってよー! なんで? どうしていつもそんな反応なのー!」

 

 当たり前である。

 

 そして、この場でたった一人、まだ紅魔式の挨拶をしてない人が居る。……ダクネスだ。彼女はたじろぎながら……。

 

「わ、我が名はダスティネス・フォード・ララティ……ナ……ア、ア、アクセルの街で……ううぅぅ」

 

 いつもと同じだ。だが気付いて欲しい。普段してる事の方がよっぽど赤面ものであると。

 

「紅魔の里へようこそ!! 外の人たち、めぐみんとゆんゆんもよく帰ってきたね!」

 

 俺達は紅魔の里で歓迎された。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 その後、彼らは姿を消す。俺達はあの四人の強さはわからないが、全員がアークウィザードで上級魔法ばかり使うとか、向こうからしてみれば、ふざけんな。と言いたくなるだろうな。

 

 同情を禁じえない。

 

 ちなみに戦場へ戻る為に、テレポートを使ったのかと思っていたのだが、気配があるので、おそらく姿を消す魔法を使ってるだけだと思う。

 

「テレポートを使ったのか!! なんかカッコいいな! 戦闘のエキスパートって感じで!」

 

 カズマがそんな子供のようなキラキラした目をしていた。…………また夢を一つ崩されるのか。またしてもって感じだ。

 

「そうですか。きっと喜んでると思いますよ。そこら辺で」

 

「そこら辺? 何言ってるんだ? テレポートで飛んで行っちゃったじゃないか?」

 

「光を屈折させる魔法で姿を消しただけですよ。テレポートは魔力を大量に消費しますから、そんなに何度もポンポン使える訳ではないので、おそらくそこら……あいた!?」

 

 小石が飛んできた。ほーら。また一つカズマの夢は崩れ去る。

 

「ちなみに、人や物を指定して、数メートル内に結界を張り、姿を消します。ですから近くに寄れば見えますよ」

 

 それを聞いたアクアが無言で近づく。それに反応して、足音が聞こえた。そういう訳。

 

 何時の間にか、追いかけっこが始まっていた。

 

 ちなみに聞いた話によると、彼らはニート集団らしい。先ほどカッコイイ事を言ってばかりいたが、蓋を開けてみると、そんなモノだと俺達に教えてくれるらしい。

 それにしても高スペックのニートとかあまりにも才能の無駄遣いすぎる。きっとコイツらがもっと頑張るようになれば、魔王との戦いもすぐに終わりそうだと思うんだけど。

 

「紅魔族は大人になれば、上級魔法を覚えられるようになりますから……なのに」

 

 とゆんゆんはチラリとめぐみんを見る。まあめぐみんはそんなのを受け流してるが、ま、どう言おうと、めぐみんと爆裂魔法は一心同体レベルだからな。どう言っても、めぐみんが爆裂魔法以外のを覚える気が無いのだろう。

 俺は辺りをキョロキョロする。ここは小さな農村と言った大きさの集落で、春の陽気で呑気な連中ばかりが目につく。

 

 一応、今日来た理由はピンチの紅魔族を助けに来たという名目だったはずなのだが……どう見ても、魔王軍と交戦中には見えない。

 それはもう、拍子抜けもいいところだ。もしかしたら、あの手紙の内容は少し誇張したのかもしれない。そうした方がカッコいいからとかそんなふざけた理由で、いや、あり得ない話ではない。

 紅魔族は変わった感性を持っている。普通の人ならば恥ずかしいと思うような事を平気な顔でやるような人たちなのだ。それぐらいしても不思議ではない。

 

 そんな風に考えながら、歩いていると、ダクネスが。

 

「おお、これは随分と立派なグリフォンの石像だな。名うての彫刻家が彫った物なのか?」

 

 めぐみんは平気な顔で。

 

「いいえ、それはグリフォンを石化魔法したモノですよ」

 

 

 ……やはり紅魔族は高スペック変人集団だ。




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ようこそ、めぐみん家

 俺たちは今、ゆんゆんの家に向かっている。その前にアクアが石化したグリフォンを解こうとしてたり、とふざけた事をしていたので、耳を摘んで、引っ張って進んでいた。

 

「痛いー! 痛いわよ!! リュウト――ッッ!!」

 

「うるせぇ。お前はなんかアレだ。ここにいると、洒落にならない事態になりそうで怖いわ」

 

「大丈夫よ!! もうしないからー!」

 

 ハァ……。

 

 その後、耳から手を放し、ゆんゆんの実家に向かっていた。里の中央に位置する大きな家がゆんゆんの家だ。コイツは金持ちという訳か。里の長なんだよな? 里の次期、長が普通の感性とか……。

 ゆんゆんの家に向かい、テーブルの向こうに中年の、ゆんゆんの父親が居る。俺たちはゆんゆんの父親の話を聞いてる。

 

「いやぁ、あれは娘に宛てた、近況報告でね。紅魔の血が、どうしても普通の手紙を書かせてくれなかったんだよ」

 

「ちょっと何を言ってるか分からないです」

 

 ゆんゆんはポカンと口を開けている。

 

「あ、あの、お父さんが生きてるのは、大変、嬉しいんだけど。あの手紙にあった『この手紙が届く頃には、もう私はこの世に居ないだろう』って言うのは……」

 

「ん? あれは紅魔族時候の挨拶じゃないか。学校で習わなかったのか? あぁ、めぐみんとゆんゆんは優秀だったからなぁ、卒業が早かったから、習わなかったか!」

 

「…………魔王軍の軍事基地が破壊できない状況だって」

 

「あぁ、それは破壊するか、新しく観光名所にするか、意見が割れててなぁ」

 

 つまり……あの手紙は全部、受け取り方を間違っていただけって事か? カズマが苛立ちを隠せない表情で。

 

「なぁ、ゆんゆん。お前の親父さん、殴って良いか?」

「どうぞ」

 

 ゆんゆんも変わらずだった。父親は驚きの声を上げていたが、悪いが全面的にゆんゆんの父親が悪い。それを聞いたダクネスは。

 

「魔王軍の基地が建設されたのだろう? 大丈夫なのか?」

 

「魔法抵抗が強い、魔王軍幹部が来てますが、まあ大丈夫でしょう。あ、そういえばそろそろ攻めに来ますね。見ていきますか?」

 

「……ッ!?」

 

 驚きだよね。このテンション。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 魔王軍が千匹程度、攻めに来たという通告があり、驚いた俺たちだったが――。

 

「慌てなくても大丈夫ですよ。ここは強力な魔法使いの集落、紅魔の里ですよ。皆も見ますか?」

 

 凄い。

 凄すぎる。

 圧倒的蹂躙。もう魔王軍に逆に同情をしてしまう。

 

「うわあああ、うわあああああああ!!」

 

「シルビア様ー!! 撤退を! どうか、あなただけはーっ!!」

 

「畜生! 畜生!! せめて、近づければ、一矢報いれるのに!!」

 

 えっと……千匹だったよな……。それで、紅魔族は五十人程度。千VS五十……その圧倒的差を埋めるかのように、上級魔法の雨が降り注いでいる。

 正直強すぎて、微妙に引く。というかこれ見ると、範囲攻撃が強いってのが分かるな。凄く欲しい。そろそろそういうのを取っておくべきかもな、ちょっと考えとくか……。

 

 戦闘も一通り終わると、今度はめぐみんの家へと向かう。ゆんゆんは手紙を送った張本人に制裁をしてくると、かなりやる気に満ち溢れていた。あんなゆんゆんを見た事が無いぐらい。

 

 にしても……。

 

「あれが本物の紅魔族かー」

 

 俺が思った事を先に言うカズマ。それを。

 

「ほう、本物がいるという事は、偽者も居るというわけですか、その偽者についてちょっと聞こうじゃないか!」

 

「ま、爆裂魔法を使える偽者の話は置いといて」

 

「なんですと!!?」

 

 元気だなぁ。

 

 さて……ここがめぐみんの家のようだが、なんというか、言っちゃなんだが、こぢんまりとしていて、なんというか……一言で申すと、貧乏そうだよね。

 

「ここが私の家です」

 

 そうめぐみんが言い、コンコンとドアをノックする。すると、ドタドターッ!! と勢い良く駆けてくる音が聞こえてくる。

 玄関のドアがそっと開かれ、中から覗くのは、めぐみんそっくりな、少女だった。年齢は多分7,8歳ぐらい。

 

「ほう、めぐみんの妹か? 随分とかわいらしいな」

 

「ちっこいめぐみんだわ。小めぐみん。飴ちゃん食べる?」

 

 二人がめぐみん妹に構ってる間、俺はついつい、顔を綻ばせ、手を振っている。俺は決してロリコンではない……。俺は小めぐみんに近づいて、しゃがみこみ、笑顔で。

 

「名前はなんていうのかなー?」

 

「こめっこ!」

 

「そうか、そうか。自己紹介できて偉いぞー」

 

「うん!」

 

 よし。つかみはバッチリだ。カズマたちが、またか……。みたいな顔をしているが、俺は気にしない。

 

「こめっこ。ただいま帰りましたよ。元気にしてましたか?」

 

 カズマの隣に居ためぐみんがそう言うと。こめっこは少しだけ目を見開き、その後、大きな声で。

 

「おとうさーん!! 姉ちゃんが、男をひっかけて帰ってきたー!!」

 

 俺はその言葉に少し驚きながら、カズマの事を指しているのだろうと気付く。カズマはちょっと固まった笑顔をしていた――。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 カズマはめぐみんの親父さんとお袋さんと対面している。ちなみに俺はアクアの手品を見ていた。種はわからんけど、なんか鉄製のマグカップを動かしている。ちなみにテーブルの後ろから磁石か何かで動かしている気配が無い。 

 

 どーなってんだろ。

 

 カズマも驚いたようにしていると、カズマの向かいに居る親父さんが――。

 

「あー……ゴッホンッ!」

 

 わざとらしく咳払いをすると、カズマが気付き、すぐさま目の前に視線が移る。めぐみんの親父さん。ひょいさぶろーさんだ。

 黒髪で鋭い目つきのおじさんって感じだ。その親父さんが威圧感を醸し出しながら、カズマと対面しているのだ。

 

「あー。娘のめぐみんが世話になっているようだね。それは心から感謝する」

 

 そう言い、ペコリと頭を下げる。

 そしてその隣には黒髪のめぐみんの面影がある女性が居る。綺麗な女性だ。

 

「本当に家の娘が、お世話になっています。娘からの手紙で、よくカズマさんの事を書かれているので、知っていますよ」

 

 へぇ、カズマの事を良く書いてるのかー……なんの事書いてるんだ……ッ!? 

 あ、あのカズマの事を親に伝えるなんて、親父さんのあの態度だって、頷けるぜ。俺が親だったら、ぶっ殺してる。

 

「ほらー、お菓子だぞー? 何か食べたいのがあるかー?」

 

「全部ー!」

 

「そうかー。じゃあ全部あげよう!」

 

「わーい!」

 

 カズマが目の前の威圧に晒されてる間、俺はこめっこと会話している。子供好きのリュウトさんと呼ばれた俺だぞ。いや呼ばれた事ないけどね。子供好きは確かだ。

 

 ちなみにめぐみんはそんな俺に対して、ちょっとだけ警戒しながら、こめっこを離そうとする。

 

「おい、なんだその顔は……ふざけるな。ロリコンじゃねぇ!!!!!」

 

「そんな事を言っても、無駄です。私のかわいい妹が毒牙にかかろうとしてるのですよ?」

 

「ひ、ひでぇ……なんでそんなに信用が無いんだ? 俺ってそこまで酷い事……してる……かも?」

 

「はい」

 

 そ、即答……だと。

 そんな会話をしてる間に、向こうも向こうで会話をしているようだ。

 

「それで、君は娘とはどんな関係なんだね?」

 

「だから、何度も申しますが、友人です……」

 

 そう言うと、同時にひょいさぶろーさんが……。ちゃぶ台返しをしようとする。なんか凄い古い。

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 その後、いろいろと会話をした。カズマがつまらない物と言いながら、食べ物を差し出すと、それを二人で奪い合うめぐみんの両親。

 そしてそれを食べる際に、こめっこが物欲しそうにしていたので、カズマが渡そうとすると、アクアとダクネスが危ないと、近づけようとしなかったりと、結構面白かった。ちなみに俺も渡した。

 そして、その後、めぐみんに対してしていた事が手紙で書かれていたらしく、それを言うめぐみん母。

 

「それでも放っておけないからって、私が目を離すとすぐ死ぬからだとか、書かれていたわ」

 

 ……それってダメ男に引っかかる女じゃね? すーはー……まあ、まだダメ男よりもマシだよね? た、多分……。

 

 その後、いろんな仲間の事が書かれていたらしく、ちなみに借金の事についても書かれていたらしい。

 

「それで、まだ借金はあるのかしら?」

 

「いえ、もう借金は無くて、近々、三億エリスが入る予定で」

 

 

 

「「三億!!?」」

 

 

 

 その言葉を聞いた途端。

 

「な、なら、私達の家に住まないか!? ぼ、冒険者なんてやってるなら、家なんて無いだろうし!」

 

「い、いえ、アクセルの街に屋敷があるので」

 

 

 

「「屋敷!!?」」

 

 

 

 なんか聞くだけだと、貴族みてぇだな。さらに目を輝かせてるよ。俺達に助けを求めるように見るが、口は災いの元……。

 どうする事もできませんので、俺はアクアの手品を見る事にした――。

 

 

 




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観光スポット巡り

今回も駄文ですが、温かい目で見てください。


 時刻は夕暮れ、めぐみんは先に休むと部屋へと戻ってしまった。最初はそれも悪いかな? なんて思っていたようだが、長旅で疲れたのだろうか、すぐに眠ったようだ。

 そして、今、目の前で繰り広げられている何か茶番劇のようなモノに視線を移す。

 

「お肉! お肉!!」

 

「いやぁ、母さんにはいつまでも若々しくいて欲しいからな! ほら! 白菜は美容に良いと聞くぞ!!」

 

「あら、あなたこそ、最近薄毛が気になりますよ? 添え物の海藻サラダの方が良いと思うわ!!」

 

 がっつくなぁ。

 久々に帰ってきた娘が寝ているが、それを一切気にせず、先程、俺たちが買ってきた食材を取り合っている。

 

 献立は鍋。

 俺はそれを軽くつつきながら、と言っても、目をギラギラさせながら、食べている二人を邪魔などできないから、あまり人気のない食材にばかり手をつけているが――。

 なぜお金を払っているのに、ここまで遠慮をしなくてはいけないのだろう……なんて事を考えるが、紅魔族だし、関係ないか。というか結構貧乏みたいだし、前に見たしな、めぐみんの学生時代のヤツ……おそらく俺の想像を遥かに超えるぐらい金欠なのだろう。

 

 

 そんな騒がしいが穏やかな食事を終え、風呂に上がった時だった。

 人の気配がする。カズマに風呂を先に譲り、そのあとすぐに入った俺だった。後ろから迫る何かに気付き、とっさに身構えると、そこにはめぐみん母がいた。

 

「あら?」

 

「あ、すみません。なにか嫌な気配がしたので……どうやら気のせいだった――」

 

「『スリープ』」

 

「え?」

 

 とっさに魔法を掛けられる。それに驚きを覚えながらも、猛烈な眠気に襲われ、バタリと倒れこんでしまった。こ、れは……? 一体何を考えているんだ……? 疑問に思いながら、どうする事もできないこの眠気に負けた――。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

「……」

 

 朝。

 目を覚まし、昨日の事を思い出す。あれは一体何の真似だったのか、聞こうと思ったが、特にその必要はなくなった。

 その後、仕事に行く親御さん。特に何をするでもない手持ち無沙汰になってしまった為――。

 

「めぐみんめぐみん。せっかくだし、この里を観光して欲しいんですけど」

 

 アクアがそんな事をめぐみんに対して言う。

 

 確かに、ここで何もせずにいるよりはそちらの方が良いだろう。というか断然良い。だが――タイミングというものがあるだろう。ここは仮にも魔王軍が攻め込んできている状況。そのためにわざわざ遠路はるばる来たのだ。

 

「おい、魔王軍と交戦中なんだぞ? なんだ、観光って……」

 

 呆れ気味に言うカズマに対して俺は――。

 

「いいんじゃねぇか? 魔王軍と交戦中だけど、今の紅魔族の状況からして、特に困ってる事もなさそうだし」

 

 そういう答えを出した。確かに、こちらに来たのはそれが理由だが、あれを見て、さすがに自分たちを必要と思うほど、思い上がってない。それはどうやらカズマも同意見のようだ。ならば、わざわざここに長居しなくてもいいかもしれないが、わざわざ来たのだし、観光ぐらいはしてみたいものだ。

 

「私も特に構いませんよ。里も特に問題がなさそうなので、テレポートでもうアクセルへ帰っても良いと思いますが、二人がそう言うのでしたら、今日一日のんびりして、明日、帰りましょう」

 

 めぐみんの許可も貰った。

 

「へぇ、テレポート使いがいるのか、だったら帰りは楽でいいな」

 

 素直な感想だろう。そうカズマが言う。

 だがそれに対してのアクアの反応はこうだ――。

 

「『クズマ』さん。随分と嬉しそうね。それで私はめぐみんに案内してもらうけど、みんなはどうするの?」

 

「そうだな。俺も特にやる事ないし――おい、お前、今、なんて呼んだ?」

 

 そう言うと、アクアはキョトンと首を傾げる。

 

「私、何かおかしな事言った?」

 

 どうやらシラを切るつもりのようだ。

 

「え? いや……俺の気のせい……か? まあいいや。ダクネスお前はどうするんだ?」

 

 鎧を手入れしているダクネスに向かって言うカズマ。それに対して――。

 

「私はちょっと行きたい所がある。この里には腕の良い鍛冶屋がいるのだ。鎧愛好家としては、ぜひ顔を出しておきたい。『カスマ』たちは遠慮なく、観光に行ってきてくれ」

 

「そっか、わかっ――おい、今なんつった?」

 

 カズマが間髪いれずに言う。

 

「では、アクアとゲスマとリュウトの四人という事ですね? ここはいろんな観光名所があるので、退屈は――」

 

「ちょっと待てやこらぁぁぁあああああああああ!!」

 

 さすがにもう我慢ならないとカズマが叫ぶ。いや、まあ……。声を張り上げるカズマに対して、キョトンとした顔でアクアが。

 

「どうした? 寝ているめぐみんにイタズラしようとした『クズマ』さん?」

 

「すみませんでしたっ……!!」

 

 こういう訳だ。

 おそらくというか間違いなく差し金はめぐみん母である。

 だが、考えてもみて欲しい、思春期男子が、女の子と一緒の布団に寝ている……これだけ考えれば、そりゃ少しはそういう気分になるさ、仕方ない、と言っても、女性陣からしたら、それが大問題なのだろう。

 

「なんというか、まあカズマ、俺は味方だぜ? たとえ寝てる間にめぐみんに対してイタズラをしようとしたって、特に気にする事ねぇって、ほら、アレだ。不可抗力に近いさ! だからその……うん」

 

 途中で目をそらしてしまった。

 

「おい、頼むから、味方するなら、最後までしてくれよッ!!」

 

 そうは言うが……。さすがになぁ。

 

「またオークに襲われればいいんです」

 

 ……頼むからそういう恐怖を煽るような事言わないでくれよ。あれは無理。

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 その後、やっとめぐみんがカズマと口を聞いてくれるようになった。

 そして今、いる場所は神社っぽい場所だ。そこにご神体があるらしく、それを見て、俺とカズマが同時に――。

 

「「なんだ、このスク水猫耳美少女フィギュアは……」」

 

 なんでもこれは旅人が命よりも大事と言って、用意してくれたものらしい、そしてこの神社というのも、その旅人から教わったらしい。

 絶対に日本人だ。間違いない。

 

「これが、私と同じ神様扱いされてるのが、腹立たしいんだけど?」

 

「お前が送ったやつの仕業だよ……」

 

 そんな事を言いながら、次の観光場所は――。

 剣が刺さっている場所だった。

 なんでも、これを引き抜くと、強大な力を手に入れる事のできる聖剣らしい。

 

 凄いな聖剣か……。これは素直に感動だ。その後、これを引き抜こう思っていたのだが、めぐみんに――。

 

「あぁ、挑戦するなら、結構経った後の方がいいですよ。あれは丁度1万人目が引き抜ける魔法を掛けてますから、まだ挑戦者は百人ぐらいのはずですよ。まだ四年ぐらいしか経ってないはずですし」

 

「随分と浅いじゃねぇか。歴史……」

 

 そうツッコまざる得なかった。

 

「ねぇ、あの魔法、解除できそうだから、私やってきてもいいかしら?」

 

「ダ、ダメですよ! あれも立派な観光名所ですから!!」

 

 必死に止めるめぐみん。本当にろくでもない事しか考えない女神である。

 

 

 

 ――続いての観光地は『願いの泉』と呼ばれるもので。

 斧やコインを供物としてささげると、金銀を司る女神様を召喚できるらしく、今でも時折、ささげる人がいるらしい。

 俺はその聞いた事のあるような話を流しながら聞いてる。どうやら定期的に鍛冶屋のおっさんが拾い、武器や防具としてリサイクルしているらしい。おそらくこの噂を流したのはその鍛冶屋だろう。

 

 そんな事を考えていると、アクアがその泉に飛び込んでいた。

 

「ねえめぐみん! ここ観光シーズンになったら、私を泉の女神として雇ってもいいわよ!!」

 

「そうか、だったら今から何か投げるから、それを金にしろよ?」

 

 カズマがそう言いながら、何、投げる物を探している。

 

「おい、いい加減、次に行くぞ」

 

 このまましていたら、またろくでもない事をしでかす。さっさと次に行くとしよう。

 次の場所は地下への入り口だった。

 

「おい、ここ何なんだ?」

 

 俺がめぐみんに対して言うと、めぐみんは平然と。

 

「謎施設です」

 

「……なんだよ。謎施設って。ふざけてるのか?」

 

「『世界を滅ぼしかねない』物が眠っているらしいです。ですが、その何もかもが謎なので、謎施設です」

 

 そんなのをずっと残してるのか……やっぱり琴線に触れてるのか……本当に意味のわからない事ばかりだな、紅魔族の里……。

 




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魔王軍幹部は敵ではありません

 久々の投稿です。


 謎施設をあとにし、めぐみんが寄りたい場所があると言って、服屋に来ていた。

 そこにいた、服屋の店主がマントを翻しながら、紅魔族らしく。

 

 

「我が名はちぇけら! アークウィザードにして上級魔法を操る者。紅魔族随一の服屋の店主!」

 

 

 またかよ……てかあれなんだろうな。こういう人種なんだろうな。この里の連中って。こう言わなきゃならない使命感にでも襲われているのだろうか、そんな支離滅裂な事を考えていると、カズマがしっかりと反応する。

 

 

「俺は佐藤和真と申します。というか紅魔族随一の服屋って凄いですね」

 

 

「まぁ、ウチしか服屋が無いからね」

 

 

「バカにしてんのか」

 

 

 キレあるツッコミだな、おい。まあこういう種族だってのは、結構前から知ってたろ? だからそこまで気にするなよ。という事を伝えると、カズマもなんだかんだ、順応してるのか、ため息を吐くだけで終わった。

 

 

「それで、どうしたんだい? 何か入り用なのかな?」

 

 

「実は、今着てるローブの代用が欲しくてですね。昔、ゆんゆんから貰ったローブなのですが、これ一着だと不便で」

 

「あぁ、丁度、染色が終わったのが、あるよ」

 

 

 そう言って、ズラリと並んだローブがある。めぐみんはそれを見て。

 

 

「とりあえず全部ください」

 

 

「お、随分とブルジョワに、冒険者として成功したみたいだねぇ!」

 

 

「まあ、そろそろ私の名前がこの里に響いてもおかしくない頃ですよ。というわけでお金持ちになる予定のカズマ、お金を貸してください」

 

 

「お、お前……まあいいけどさ」

 一気に商品が売れて、随分と機嫌の良い店主。そのまま物干し竿から、ローブを…………? ん? ちょっと待ってくれ。これは……。

 

 

「カズマ、俺の目はどうもおかしくなったみたいだ。あの物干し竿。どう見ても、ライフルにしか見えねぇんだけど」

 

 

「奇遇だな。リュウト。俺もだ」

 

 

「というか、どう見てもライフルでしょ」

 

 

 アクアが現実を突きつけてきた。へぇ、ライフルなんてあるんだ。へぇー。こっちの世界でもあるんだぁ。うん……絶対にアレだよね。ここに居たよね。日本人。

 俺はそんな事を思いながら、せっせと運ぶローブを見ているのだった。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 里をあちこち巡り、小高い丘で休憩していたご一行。

 

 

 俺は心地良い風に吹かれながら、ゴロンと寝転がっていた。これは日本ではなかなか味わえない気持ち良さだ。というか、日本にこんな場所あんのか。やっべぇんだけど、ちょっとずつテンションが上がってくる。今なら本気を出せば、もしかしたらソードマスターヤマトになれるかもしれない……。

 

 

「見晴らしの良い場所ね? お弁当でも持ってくればよかったわね!」

 

 

「景色を見たいなら、山の頂上に展望台がありますよ。超強力な遠見の魔道具がありますから、オススメのスポットは魔王の娘の部屋です」

 

 

「ろくでもねぇな」

 

 

「魔王すらも稼ぎの対象か……」

 

 

 軽く魔王に同情すらしてしまう。

 

 

「ねえめぐみん。景色はいいけど。私はムーディーな場所に連れてってって言ったんですけど」

 

 

「ムーディーな場所ですよ? この丘の名は『魔神の丘』。丘の上で告白したカップルは魔神の呪いによって、永遠に別れる事ができないと言われている。恋人達に人気のロマンチックスポットで――」

 

 

「どこがじゃ!?」

 

 

「ロマンチックの欠片もねーじゃねーか!? ってあれは……?」

 

 

 とカズマが里の方に目を向ける。なんだ? そんな事を思っていると、カズマが焦ったように。

 

 

「おいめぐみん、あんな所に魔王軍の連中が居るぞ! ていうか、あれめぐみん家の近くじゃないか!?」

 

 

「マジか」

 

 

 また魔王軍か。性懲りもなく。というかよくあんな変人集団を相手にあそこまで頑張れるな。何気にブラック企業なのか、魔王軍って。いやそんな事はどうでもいい。

 

 

「どれどれ……ふむ、あんな風にコソコソしてるって事は里の襲撃が目的ではなさそうですね、もしかしたら里の施設を狙っているのかも」

 

 

 里の施設……まあ、面白そうなのはいくつかあったが――。

 

 

「確か、邪神が封印されてる墓があるんだっけ? 魔王軍の目的っちゃ、目的っぽいが……もう封印は解けてるんだよな?」

 

 

「はい解けちゃいましたね……ハッ、もしや猫耳神社のご神体……!?」

 

 

「そんなんが目的だったら、この里も魔王軍も根絶やしにしてやる」

 

 

 そんな物騒な事を言いながら、さっさと魔王軍の方へと行く。道中。紅魔族の人を連れながら、めぐみんの家へと向かった。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

「なんだこの女はっ! どこから出てきたんだ!? というか何がしたいんだ!?」

 

 

「シルビア様、お下がりください! 助けを呼びに行くでもなく、強力な攻撃手段も持ってない、コイツの目的がわかりません!」

 

 

 大剣を構えたダクネスが魔王軍と対峙している。

 どうやら、魔王軍の進攻を阻止していたようだ。ダクネスの意外な活躍に少しだけ驚いている。まあ、とりあえず。

 

 

「助けに来たぞ。ダクネス」

 

 

「! なんだ、もう来てしまったのか……」

 

 

 ガックリきてるダクネスを見て、いつも通りすぎて、安心してしまう自分が居る。どんな時でも残念なのが、このパーティメンバーだ。それこそ活躍を根こそぎ無くしていくような。

 

 

「へえ……わざと剣を当てないように、演技をしていたのね? 私達の攻撃を耐えてるという事は高レベルクルセイダーみたいだけど、攻撃を当てれば、それが相手に伝わってしまうから、こうして時間稼ぎをしていたのね? なかなかやるじゃない……」

 

 

「あ、あぁ、バ、バレてしまっては仕方ないな……」

 

 

 嘘が苦手なクルセイダーはこちらをチラチラ見ながら、そう言う。そのキョドり方で相手にバレるんじゃね? なんて思ったが、まあいいだろうそんな事は。

 

 

「確かシルビアとか言ったか? まあ、ウチのクルセイダーはかなり頑丈だからな。そちらさんの攻撃なんて大して効かないだろうさ。それだけじゃない。俺の隣に居るコイツだって、数多のスキルを駆使して、魔王軍と対等に渡り合ってきたんだぜ? 最弱職の冒険者でありながらな、それにこっちのめぐみんって紅魔族だって、魔王軍幹部を倒せる実力を持ってる。その隣に居るアクアもそうだ。実際、デュラハンを倒した実績があるしな……あれ? これだけ聞けば、超すげぇパーティじゃん。どうなってんの?」

 

 

 本気で疑問に思う。なんでこんな優秀なパーティっぽいのに、こんなに残念な感じなの……一体どういう事なの……? そう唸っていると、向こうさんの反応もなかなか気持ちいいモノが返ってくる。

 

 

「な、なんですって……!?」

 

 

 驚きを露にしていた。

 

 

「あ、アンタがこのパーティのまとめ役なの……?」

 

 

 俺の方を見て言ってくるが、それは違う。

 

 

「コイツだ……」

 

 

 とカズマを前に突き出す。

 

 

「な、名前を聞かせて貰ってもいいかしら?」

 

 

 そう言ってくる。カズマは堂々と名前を言い放つ――。

 

 

「何を隠そう、俺がこのパーティのまとめ役にして、リーダー。数多の魔王軍幹部を葬り去ってきた……ミツルギ・キョウヤだ」

 

 

 そう堂々と他人の名前を騙った。

 まあそういうヤツだ。コイツは何も間違ってない。名前をわざわざ敵に知らせるなど愚の骨頂。さすがというべきだろう。いや格好悪い上に最低という事は変わり無いが。

 

 

「ミツルギ・キョウヤ……いい男って聞いてたんだけど、随分とパッとしないわね。でも腰に差してるそれは確かに変わった形の剣ね……という事は間違いないって事かしら。あなたまで居ると、厄介ね。今日の所は見逃して貰えないかしら」

 

 

 俺のは、いつも背中に携えてるのに対して、カズマは腰に差してるからな、確かにパッと見て、同じには見えないか。まあ刀にもいろんな種類があるからな、ちゅんちゅん丸とは違うからな俺の。

 

 

「それじゃ、今日の所は見逃してやるよ。まあ後ろに控えてる紅魔族が良いって言ったらだけど」

 

 

「感謝するわ。ミツルギ……私は魔王軍幹部のシルビアよ。それじゃ、撤退!!」

 

 

 そう言って、去っていくシルビアを追いかける紅魔族達。実験台にしてやるとかそんな物騒な事を言っていた。捕まったら文字通りジ・エンドだろうなぁ。完全に他人事だからこそ、このテンションだ。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 まあ結果から言うと、そのあと、来た紅魔族の人たちに結構な目に遭わされていた。一応逃げる事はできたようだ。

 その後、めぐみんの家にもう一泊する事になり、ダクネスの今日の活躍で褒め称えられていた。普段から褒められ慣れてないダクネスは恥ずかしそうに照れている。

 

 

 なかなか貴重な場面と言えるだろう。

 

 

 その後、めぐみん母が、口早に今日の部屋割りで、カズマとめぐみんを同室にさせようとする。まあ、主に金が目的なのだろうが、俺は特に何も考えずに、適当にゴロゴロしている。

 

 

「えぇっと、あ、そうだ。ひょいさぶろーさんは?」

 

 

「あぁ、主人なら、仕事が溜まってると、家の工房で寝ると、それでは私はお風呂を沸かしに行きますね」

 

 

 またか。ひょいさぶろーさん。心配だからと俺達と同室にさせろって言ってたよな。まあなんというか、力関係がわかりやすいよな。

 

 

「しかし、あの啖呵はなかなかカッコ良かったですよ。カズマ。シルビアとの決着が楽しみですね」

 

 

「そうだな。実は私も、近日中に鎧が出来上がるらしいから、鎧とシルビアどちらも楽しみだ」

 

 

「シルビアねぇ、もっと強くなってくれりゃぁ、多少は骨があるヤツになるかもしれねぇけど。あのままじゃ、即座に倒しちまうよ」

 

 

「いや、シルビアとは戦わないよ。観光も終わったし、朝一で帰る予定だったしな」

 

 

「「えぇっ!?」」

 

 

 めぐみんとダクネスが驚きを露にしているが、正直な話、カズマっぽいと言えばカズマっぽい。そもそもあそこで啖呵切ったのもなかなか、珍しい体験だった気がする。魔王軍相手にあんな態度を取ったカズマを不思議に思ったが、ようやく謎が解けた。

 

 

「なるほどねぇ、でもシルビアは再戦する気満々だったけどな?」

 

 

「美人幹部だったから、ちょっと後ろ髪引かれるけど、安全策を取ろうぜ。そもそも家帰ったら、ニート生活できるんだ。わざわざ危険冒す必要性がなさすぎる」

 

 

 とカズマは完全に帰る気満々だった。二人はそのカズマに食って掛かる。

 

 

「この男、最低です! 酷すぎますよ!」

 

 

「お前、人としてそれは良いのか!?」

 

 

 どうやらお風呂も沸いたようで、カズマは耳を塞いだまま、風呂に向かっていった。

 

 

「まあ、アレだよ。カズマってああいうヤツだろ?」

 

 

「そ、それも……そうだが」

 

 

「いくらなんでも……あれでは」

 

 

 二人が納得いかないという感じだ。

 

 

「そういや、アクアどこ行った?」

 

 

「ああ、アクアなら近くの温泉に行くと言ってましたよ」

 

 

「温泉? 近くにそんなのあったのか」

 

 

 温泉か、異世界の温泉ってあんまり良い思い出が無いのは、アルカンレティアの所為か。

 俺はそんな事を感慨深く思いながら、カズマが上がるのを待っていた。

 

 




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まさかの新事実

駄文ですが、読んでいただければ、幸いです。


 ホカホカになって帰ってきたアクアとそのすぐ後にカズマが上がってきた。

 

 

「あれ? なんでアクア、お前風呂上りみたいになってるんだ?」

「外のお風呂に入ってきたの。『混浴温泉』って言う」

「何っ!?」

 

 

 帰るのを一日だけ伸ばそうとか考えてるんだろか。なんて適当に考えながら、俺は風呂に入りに行く。

 サッパリした後に、居間に行くと、後ろから気配が感じる。俺はとっさに、言う。

 

 

「別に邪魔しませんから、『スリープ』はやめてくださいよ」

「あら、気付かれちゃいましたか?」

「俺だって、冒険者の端くれですから。どうせ、カズマとめぐみんが一線越えて、財産をっ! とか思ってるんでしょ?」

「そんな事考えてませんわ。ただ、めぐみんに幸せになって欲しいだけで……」

「まあ、なんでも良いですけど」

 

 

 俺は呆れながら、ひょいさぶろーさんの部屋で眠る事にした。

 

 

『魔王軍襲来! 魔王群集来!! すでに魔王軍の一部が里に侵入した模様!!』

 大きな音が響く、突然だが、俺は実は寝起きがあまり良くない。何が言いたいかと言うと。

 

 

「……」

 

 

 眉間に皺を寄せながら、俺はイライラして、魔王軍幹部シルビアと戦う。

 外に出て、気配を感じ取りながら、一番強い気配を発している場所に一気に向かう。するともう既に、カズマとめぐみんと対峙していた。俺は遠くから、そちらに向かうと――。

 

 

「あら、もしかしてその子とお取り込み中だったのかしら? それは悪い事をしたわねぇ?」

「へぇ、そうなの?」

「え?」

 

 

 ガヅンッと俺の一撃がシルビアの頭を打った。

 

 

「リュウトッ!」

「おぉ、一緒に寝てて良い雰囲気になってたのに、シルビアに邪魔されて、苛立っている少年よ! その感情――美味である!!」

「何、バニルの真似して、遊んでんだよ! さっさと倒してくれよ」

「まあ、焦るなよ。おいテメェの所為で寝起きが最悪なんだよ。責任ぐれぇ取ってくれるんだろうなァ?」

「こ、このっ! 『バインド』!」

「『フルキャンセル』」

 

 

 即座にスキルを打ち消し、俺は笑みを浮かべる。

 

 

「どうしたァ?」

「あ、あなた……一体何者なの?」

「そうだな。一言で言えば、魔王を屠る者ってところか? このスキルを封じない限り、お前に勝ち目なんてな――」

「『スキルバインド』!」

 

 

 『スキルバインド』? 俺は聞いた事のないスキルを聞いて、その上で、少しだけ嫌な予感がした。

 

 

「……カズマちょっといいか?」

「なんだ?」

「『フルキャンセル』」

 

 

 髪の毛の色素を完全に抜いてみようと思ったが、一切そんな事は起こらず、正常な状態である。つまり――。

 

 

「……えっ? 俺のスキルってああいうので防がれるの……?」

「フ、フフフっ!! どうやらあなたはそれだけのようね!! 『バインド』!!」

 

 

 うぉっ!? 俺はそれから逃れようとしたが、さすが、魔王軍幹部相手に、そんな簡単に逃れるはずもなく、いとも容易く捕らえられてしまった。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

「マジかよ」

 

 

 俺が捕らわれちゃったよ。

 

 

「フフフ、人質としてあなたを使わせて貰うわよ」

「……人質ねぇ」

 

 

 まあ実際、そこまで辛くない。胸の心地はなかなか良いし、そこまで辛くもないし、俺、このまま人質で良くないー。

 

 

「ど、どうしたら……」

「あら、ミツルギ・キョウヤ。あなたの仲間が人質だと言うのに、剣の一つも振らないの?」

「……っ!」

「バッカ、お前。アイツが剣を振ったら、俺まで死んじまうわ。だがよぉ、アイツだってバカの一つ覚えみてぇに、剣だけ振るうわけじゃねぇんだぜ」

「それよりもお前、なんか羨ましいぞっ!!」

「好きでこんな事してる訳じゃねぇんだけどな」

 

 

 せっかくハッタリをかましたが、その後の台詞で台無しである。正直、なんとか俺さえ、抜け出せれば、この状況はなんとかなんだけどよぉ。

 そんな事を考えていたら、アクアが来た。

 

 

「ほーん? あんた、なんか悪魔っぽいわね。そこに居る、胸に顔を埋めているのはウチの大事な……大事な……? ねぇ、リュウトー! 私とリュウトの関係って何かしらー?」

「なんでもいいから、助けてくれ」

「あら、ボウヤ。私の胸がお気に入りじゃないのかしら――?」

 

 

 ぎゅぅっと俺に抱き寄せる。ぐ、ぐるじぃ……。

 珍しいぜ。いつもだったら、こういうのは俺以外の誰かの場面のはずなのに、まあ自力で絶対に抜け出さないと、いけないと思うし、少し頑張るか。

 なんて考えていたら――。

 

 

「セイクリッド・エクソシズムッ!!」

 

 

 輝かしい光がシルビアに襲い掛かる。恐ろしい程の光の柱がシルビアを包み、そしてその一撃は悪魔系にとっては、最大の攻撃と言えるだろう。

 

 

「あああッ――ッ!?」

 

 

 む? 思ったよりも効いてない? てっきり完全に消え去るかと思ったが、よく考えたら、デュラハンのアイツも一発では死ななかったから、多分そういう耐性があるんだろうな、というかそう考えたら魔王って結構やばくね? 

 俺とは正反対にボロボロになったシルビアを見ながら、そんな事を考えた。

 

 

「ぐっ、下級悪魔の皮でこしらえたドレスが……。結構効いたけど、私は純粋な悪魔じゃないわ。次、攻撃したらこの子の命はないと思いなさい」

 

 

 そんな脅しをしている。半裸で、まあ俺は動けないし、殺されたら最悪、生き返らせて貰おう……生き返らせて貰えるか? いや、さすがに貰えるだろ。

 なんつーか、眠くなってきたわ。

 

 

「我が名はシルビア! 強化モンスター開発局局長にして、自らの身体に合成と改造を繰り返してきた者! そう、私はグロウキメラのシルビアよっ! さあ、この男は貰っていくわ、なかなかの力を持っているようだしね、私もより一層強くなれるわっ!」

 

 

 グロウキメラ――合成と改造……改造生物か、なんというかこういうのを聞くと、やっぱり技術力なり倫理観なりが欠けてると思うが、まあ自発的に自分にしかやってないならいいのか? 

 そういやコイツのさっきの名乗りに既視感があると思ったら、アレか、紅魔族か……。ハァ……敵ながら、憐れだな。

 

 

「な、何? あなた、どうして私をそんな憐れむような目で見るわけ……?」

「いいや、気にするな」

 

 

 俺はそう言って、とりあえず黙って見てる。そろそろ動きづらくて、もっとどうにかして欲しいが。

 

 

「リュ、リュウト……羨ましいぞ」

「お前はブレねぇな」

「そろそろ私の仲間を返してほしいのですが」

 

 

 めぐみんってこうしてみると、実はまともなのか……? よく考えたら、面倒事ってなんだかんだ、アイツらばっかり持ってきてる気がする。たまには俺にも、休みというものがあってもいいんじゃないか? たまにはこういうのも悪くないだろ。

 でも、俺が飲み込まれたら、いよいよやべぇよな。コイツの実力の上がり方が……。能力はスキルバインドでどうやら封じられるみたいだから、これは新しい発見だな。

 

 

「くっ……! この私がこんな時になんという不覚!」

 

 

 と、俺がこうしていると、ダクネスがやってきた。どうやら鎧を着ている時間がなかったようで、ラフな格好に大剣だけを所持している。黒シャツにタイトスカート姿で、息を荒げていると、なんか浮気現場に走ってきた奥様みたいだな。いや、そんな事はないか、頭の寝癖も直さずにやってくる辺り、割と本当に心配してたみたいだな。そんなダクネスがアクアの前に立ち、シルビアを睨みつける。

 

 

「魔王軍幹部っ! この家の者が、援軍を呼びに行った、援軍が来るのも時間の問題だ、そこで貴様に捕まえられた、ちょっと幸せそうな顔をしているどうしようもないヤツを置き去って、さっさと去るがいい! ど、どうしても言うのなら、わ、私が代わりになろう、というか私を人質にしてくれっ!」

 

 

「あら、ボウヤ……なかなか罪作りね?」

「いや、アレは一種の病気だからな……」

「あなたさえ良ければ、魔王軍に降ってもいいのよ? あなたの実力はそれこそすぐに幹部になるだけの実力だもの」

 

 

 なぜか頭を撫でられながら、色仕掛けっぽい事をしてくる。

 確かに、悪くないかもしれない。こうして、いつまでもおかしな連中とおかしな空間に居るよりはどちらかと言えば、魔王軍の方がまともっちゃまともだ。まともよりだ。というかこの世界には魔王軍以外のおかしな連中が多すぎる。それに問題がある。

 

 

「おい、リュウト……らしくないぞ! どうしてそんなところに居るのだ。お前なら油断でもしてない限り、そんな事になるわけないだろう。まったく仕方ない……今助けてやるから、大人しくしていろ」

 

 

「お前が、俺を助けれるのかよ、ポンコツクルセイダー」

「くぅっ! リュ、リュウト! 時と場所を考えろ!」

「ブーメランッ!!」

 

 

 俺、こんなヤツに助けられるの。

 

 

「あら、あの子、別にあなたの事が好きってわけじゃなさそうね」

「あぁ、どっちかって言うと、カッ……ミツルギの方が好みなんじゃないか?」

「あらそうなの」

「というか、魔族の癖に、随分と女心をわかってるじゃねぇか」

「えぇ、そりゃわかるわよ、女心も男心も」

 

 

 なんだ? 魔性の女気取りか?

 

 

 

 

「だって、アタシ、半分男ですもの」

 

 

 

 

「は?」

 

 

 何つった? 半分男? つまり何か……俺は男の胸で――。

 

 

「あら聞こえなかった? アタシはキメラよ? あなたにつけてるこの胸は後からつけたものよ」

 

 

 ……嘘だろ。しかも、あのピアス。右耳にピアスをつけるのに、確か理由があったはずだ。確か――右耳にだけピアスをつけてる男は……確か。しかもこのシルビア、なかなか大きいからコイツの下腹部辺りが俺の太股辺りに当たってるんだが、何かが――。

 

 

「あの、シルビアさん。何か当たってるんですが……」

 

 

 

「あててんのよ」

 

 

 

 俺はその一言を聞いた瞬間、フッと意識が飛んだ。




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魔術師殺しシルビア

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると幸いです。




 意識が飛んでからどれぐらい経っただろうか、俺は目を覚ますと、近くにおぞましい顔があった。俺はとっさに叫んだ。

 

 

「うぎゃぁああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

「キャッ!? な、何突然っ!?」

 

「て、てめぇ! シルビア!! 俺に何するつもりだ、ぶっ殺すぞッ!!?」

 

「ちょ、ちょっと落ち着きなさい!? 別に何もするつもりはないわ!! そ、それに昼間は逃がして貰ったしね」

 

 

 その言葉に多少の警戒心を抱きつつも、俺はとりあえず状況を整理するために辺りを見回すと、そこは真っ暗な地下室のような場所だった。

 

 

 だが、一瞬でピンッとくる。

 ここはあれだ。あの……『世界をほろぼしかねない兵器』を隠してる場所だろう。

 

 

「なるほど、お前が無謀にも何度も何度も紅魔族に挑んでたのは、これが目的だったのか」

 

「そうよ、それにこれ……この結界殺しで、この封印をとけば……あ、あれ? おかしいわね?」

 

 

 どうやら封印をとく事はできないようだ。そもそも封印というのがどういうものなのかを知らない俺にとっては、どうでもいい事だ。

 だが封印自体に興味がないわけではない。なかなか面白そうだし、と俺は横から覗きこんでみると、そこにはアルファベットと数字、それに十字キーがあった。そしてそこにはこう書かれている。

 

 

「『小並コマンド』……」

 

 

 つい小さな声で呟いてしまった。そしてその瞬間目を光らせるシルビア。俺はとっさに身の危険を感じ取り、距離を置く。

 

 

「まさか、あなたこの古代文字を読めるわけ!?」

 

 

 古代文字って……俺達の居た場所に普通にある文字だが、古代文字じゃないぞ、日本語だぞ、それ。

 

 

「……封印って、こんなことかよ」

 

 

 あの有名な裏技コマンド。それが封印をとく事ができるとは、完全にお遊びである。逆にふざけすぎて、ちょっとだけイラッとするレベルの。

 

 

「……あなた、どうやらこの封印をとくことができるようね……」

 

 

 それに目をつけたシルビア。

 

 

「あぁ、そうみたいだな……」

 

 

 特に焦った様子も見せない。おそらくこれをとけなんて言われるかもしれないが、俺はそんな事は絶対にしない。

 

 

「おいおい、俺だって冒険者なんだぜ? いくらなんでも魔王軍の言う事なんて――」

 

「あら、別にあなたを脅すのに、暴力なんて必要ないのよ、色仕掛けだってあるわけだし」

 

 

 俺はその一言を聞いた瞬間に小並コマンドを入力していた。どうやら俺は屈服してしまったようだ。

 

 

「あ、あなた……」

 

 

 シルビアからも若干呆れられているが、知るか。俺は俺が一番大事だ。

 その後、ゴゴゴと扉が開き、シルビアがその扉の中へと入る。シルビアは俺に対して、一切危機感を見せていない。

 どうやら完全に舐められているようだ、確かに武器はどこかに落としたのか持ってないが、ここまで舐められていると、さすがに腹立つな。

 俺自身、一応は『フルキャンセル』というチートを持っているというのに、いや、今は使えないが。

 

 

「……よく見えないわね。ここまで真っ暗だと……ねえ、灯りか何かないかしら――」

 

「ねぇよ」

 

 

 俺はそう言って、シルビアの様子をただ眺めていた。どうやら中には世界をほろぼしかねない兵器があるらしい、それを一応、この目で確かめでもしておこうかと思ったのだが――。

 

 

「あら、これは――」

 

 

 シルビアがそう呟いて、自身に『何か』を取り込んだ。するとシルビアが――。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 シルビアが暴れまわっている。

 里は燃えさかり、それを見て、紅魔族のめぐみんと同じように眼帯をつけている女の子が――。

 

 

「……里が、燃えていく……」

 

 

 そう悲しそうに呟いた。

 俺は胃がきゅぅと縮こまる感じがした。それと同時に手足が痙攣し、背中が凍りつくような感覚に陥る。これがなんというか、なんとも言えない罪悪感というやつだろうか……。

 

 

 シルビアは『魔術師殺し』というものをどうやら取り込んだらしく、それを使われると、魔法攻撃がほとんど効かないらしい。魔法を主とする攻

撃をする紅魔族にとっては天敵とも言えよう。

 

 

 俺はもしかしたらとんでもない事をしたのかもしれない。

 すぅーはぁ……と俺は呼吸を整え。

 

 

「おい、カズマ」

 

「ん? な、なんだ?」

 

 

 逃げる気満々だったカズマを引きとめ、俺は一言。

 

 

「確か、世界をほろぼしかねない兵器って言うのが地下の格納庫にあるらしいから……それを取ってきてくれ」

 

「で、でもその間、アイツはどうするんだよ?」

 

 

 俺は近くに落ちていた木の棒を拾い。

 

 

「俺がアイツを食い止める」

 

「バ、バカ野郎!? そんな事できるわけないだろっ!? つか、そもそも刀はどうしたんだよっ!?」

 

「どっかに落としてきたらしい、ただまあ剣っぽいものがあれば、スキルでなんとかなっからよ、頼んだぜ」

 

 

 俺はそう言って、シルビアの方へと向かっていく。その姿はまさしく主人公と言えるかもしれない――ただ、こうなった原因が俺でなければ……だが。

 シルビアがまるで今までの恨みを込めているかのように、里を破壊し尽くしてるところへ向かう。

 

 

「あら、あなたは……私はあなたを見逃したのよ? さっさと逃げないと、死ぬわよ?」

 

「いいや、死なねぇよ。まがりなりにもこうなったのは俺の責任だし、お前にはここでやられてもらわねぇとな……」

 

「あら? いいのかしら? あなた程度で私に勝てるとでも?」

 

「あぁ」

 

 

 俺が木の棒を構える。するとニヤリと口角が上がるシルビア。

 

「ふふ、面白いわ。特別にこれをあげるわ」

 

 

 そう言って、俺の刀を投げて、渡してくるシルビア。

 

「落ちてから、拾ってあげたわ。まああなたじゃ、これを持ってたとしても、また私にやられるのが――」

 

「サンキューな……これで負ける可能性は0になったよ……」

 

 

 『フルキャンセル』はおそらくまだ使えない。一体、スキルバインドがどれだけの時間効果があるのかわからないが、感覚的におそらく使えないのはわかる。

 だったら。

 

 

「――『瞬斬』」

 

 

 とてつもない速さでシルビアの胴体を切り裂こうとしたが、頑丈すぎてそれは叶わず、切り傷程度の傷ができるだけだった。

 

 

「なんつー硬さ……ッ!」

 

「あら、その程度?」

 

 

 ニヤリと笑みを浮かべると、シルビアの攻撃が俺の全身を襲い、その衝撃で俺は背中から地面へと叩きつけられた。

 

 

(こ、こいつ……マジでつえぇ)

 

 

 今まで、なんとかなって来た事が多かったが、それは俺の実力というよりも『フルキャンセル』の実力である事をはっきりと告げられる感じだっ

たなんというか、使えないというのがここまでマイナスになるとは思わなかった。所詮、俺もミツルギをバカにできないってわけか。

 

 

「あら、その程度なの? やっぱりたいした事ないわねぇ、さて他の連中もさっさと嬲り殺し――」

 

「舐めんな……『風斬り』」

 

 

 遠距離攻撃。その速度は『瞬斬』には遠く及ばないが、威力においては、こちらの方がやや上である。

 その攻撃でシルビアの胸に先程よりも深い傷をつけた。舐めているシルビアはこちらの攻撃を避けない。だからこそ、俺の確実に強い一撃を喰らわせてやった。

 

 

「ぐっ……ちょっとだけ効いたわ……でも本当にちょっとよ?」

 

 

 シルビアが口から炎を吐き出す。さすがにこの一撃はまずい。俺はとっさに横に転がるように移動する。その威力で辺りが焼け野原になった、おそらくこれを喰らえば、俺はこんがりと焼けていただろう、何それ怖い。

 

 

「おいおいおいおいおいおい!!!?」

 

「さぁ、もっとやるわよ!!」

 

 

 くっそ、この野郎、調子に乗りやがって、俺はシルビアに背を向け、一気に走り去る。

 

「あら、あなたも結局逃げるのかしら?」

 

「どうかな!?」

 

 

 俺はスキルカードを見る。そこで攻撃力に今までためていたスキルポイントを全振りした。もったいない事をしたかもしれないが、正直、レベルなんてまた上げればいいだけの話、それにスキルポイントはポーションであげる事もできるらしいし。

 そして、俺はすぐさまシルビアの方を向き。

 

 

 両手で剣を持ち。

 

 

「喰らえ――『閃光斬り』」

 

 

 光り輝く太刀がシルビアに襲いかかる。その威力は先程とは比べ物にならないだろう。

 

「あら、最後の一撃かしら――?」

 

 

 そう余裕を持っていたのも束の間だった。その一撃で胴体に深い傷がつく。俺はニヤリと口角をあげた。

 

 

「どうした? シルビア……? お前にとってはその程度……じゃなかったか?」

 

「ぐぅ……こ、このっ……!」

 

 

「誰が一回だけと言った?」

 連続で、何度も何度も攻撃を繰り返す。確かに、シルビアは強い。

 だが――。

 

 

「俺はもっと強い」

 

 

 シルビアは血だらけの状態で、こちらを睨み付ける。そして――同時に。

 

「お……戻った」

 

「?」

 

 

 その一言にキョトンとした顔をしていたシルビアだったので、俺はおかまいなしに――。

 

 

「『フルキャンセル』」

 

 

 シルビアが取り込んだ魔術師殺しを完全に消し去った――。

 

 

 




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ナイス爆裂

戦闘員、派遣しますって面白いですよね。


 魔術師殺しの消えたシルビアなど、雑魚に等しい。先ほどのようにスキルバインドを俺に対して、使おうとしてきたが、それを『フルキャンセル』で無効化させ、『風斬り』を使い、吹っ飛ばす。

 

 

「さっきまでは威勢はどうしたァ? もっと強いシルビアさんが見たいですよぉ?」

 

 

 威力が上がっており、さらに向こうが弱体化しているので、かなり効いてるようだ。さて、ここまでくれば、もうシルビアに勝ち目など無いだろう。あとはどう料理するか――だが。

 

 

「おいおい、シルビアさーん? 今のシルビアさんなら紅魔族の連中にボッコボコにされちまうぜ? ただでさえ、もう俺の攻撃にすら耐えることができねぇのに、どうする? いよいよおしまいだな。前回はまだお前を許せたが、今回ばかりはそういう訳にもいかねぇしよ」

 

 

「ぐっ……ね、ねぇ坊や? こっちに寝返る気はない? 今なら良い事も教えてあげるわよ」

 

 

 妖艶なポーズをするシルビアだが、そんなものは吐き気ものだ。悪いが今更、そんなのに乗る程、俺はバカじゃない。さて、あとどれぐらい時間稼ぎすればいいか。

 

 

「どう?」

「ねぇな……良い事なんて言われたところで罠にしか聞えねぇぞ」

 かなり焦っているシルビアの前に俺は特に考えもせずに『閃光斬り』でぶっ飛ばした。威力が高すぎたのか、それとも今のシルビアが弱体化していた所為なのか、思った以上に吹っ飛ぶシルビアの姿が見えなくなってしまった。

「あ……やりすぎちまった」

 

 

 頭をポリポリと掻きながら、面倒臭そうにシルビアの方へと駆け足で行く。なんとなく嫌な予感がしつつも――。俺はそちらに向かった。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

「フフフフッ!!! 形成逆転ね!!」

 

 

 カズマが捕らわれていた。次はお前かよ……。なんて思いながら、片手に持っているライフルに目を向けながら、アクアにこそっとそのライフルについて聞いてみると――。

 

 

「あれは魔法を圧縮する秘密兵器よ!」

 

 

 そう高らかに言い放ちやがった。当然――それぐらいの大きさで言えばシルビアの耳にも入る訳で――。

 

 

「へぇ」

 

 

 カズマから取り上げたそのライフルをシルビアは体内に入れやがった。つまり、アイツは今魔法を圧縮して放てる状態になってしまったという事だ。

 

 

「もう、アンタに用はないわっ! 坊や……次こそボロボロにして、その減らず口利けなくしてあげるわぁ!!」

 

 

 どうやら思いの他、シルビアに効いていたみたいだ。カズマを放りだし、俺を睨みつけてくる。

 

 

「さて……どうするか」

 

 

 そう呟くと、同時にシルビアからまるでレーザーのような攻撃が放たれる。俺はとっさに『フルキャンセル』と叫び、なんとかそのレーザーを消し去る事ができたが、そろそろフルキャンセルの制限がくる。何度も何度も使えるわけではないのがこのフルキャンセルの弱点とも言えるだろう。威力自体はかなりのものだが、実際、圧縮された魔法ですら難なく消し去ることができたのだから。

 

 

「あらあら、これはとんでもない力ね……軽くでここまでとはね……」

「マジかよ……」

 

 

 凝縮された魔法の威力は普通の魔法よりも何倍も威力が高い。それは当たり前だ。だがそろそろ逃げるのも大変になってきたな。

 

 

(何度も何度も連続で撃てるような代物ではないみたいだが……軽くであの威力か……本気でやったらフルキャンセルで打ち消せるか?)

 

 

「このガキがァッ!! 絶対に八つ裂きにしてぶっ殺してやるからよっ!!!」

「やってみろや、クソカマ野郎!! 先に八つ裂きにしてやっからよぉ!!」

 

 

 ほぼ同時に動く。ここまでの威力ならば下手に動き回る方が危険と判断した。溜めるのに時間が掛かるのならば――先に攻撃してぶっ飛ばしてやる、と俺は刀を一度鞘に納め――。

 

 

「『抜刀術』からの『瞬斬』ッ!」

 

 

 その速度と威力は今までに比べて遥かに上がっている。当たれば、抜刀術の効果も相まって凄まじい威力を発揮した――。

 だが思ったよりも威力と速度が上がっていたのか、うまく制御できずに見当違いのほうへと当ててしまった。

 

 

「あら、何の真似かしら?」

「くっ! こういうギャグはダクネスだけで十分だっつのっ!!!」

 

 

 刀をスキルを使わず、攻撃を喰らわせようとする。だがその直前に、シルビアはニヤリと口角を上げる。これまでにないぐらいに……。マズイと直感で察した俺は、とっさに横へと移動しようとした瞬間だ。後ろにカズマ達が居る事に気づく。どうやら俺がここで受けきらないと、後ろの連中が大変な事になる。俺は――。

 

 

「来い! シルビアァッ!!! 『フルキャンセル』ッッ!!!!」

 

 

 掌を前に突き出し、俺は叫び、スキルを発動させた――。凄まじい威力のレーザーが放たれる。その大きさは俺をすべて飲み込む程のものだ。フルキャンセルでその攻撃を打ち消そうとしたが、思ったよりも威力が高いのか、すべて消しきれなかった――だが後ろに被害を与える事なく、俺一人だけで済んだようだ。フルキャンセルを使ってなかったら間違いなく、俺は消滅して、後ろの里にまで被害があっただろう。なんとか里は守りきれたようだ。

 

 

「……ゼェ、ゼェ……」

「う、嘘でしょ」

 

 

 ボロボロの姿で、しかし立っている――そもそも俺は耐久力はそこそこある方だ。ダクネスに比べれば、さすがに無いが。痛ぇと思いながら、フラフラした足取りで俺はシルビアの下まで行こうとしたが、途中で意識が途切れ――俺はその場で倒れこんでしまった。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

 

 ――今朝方。

 

「なんだ、こりゃ……」

 

 

 壊滅した里ではあったが、物凄い速度で修復されていっている。建材などは一時的にゴーレムへと姿を変え、建設現場まで歩いていっていたりと魔法の力って凄まじいなと思ったり、いやここが凄いってのもあるだろうけど。

 

 

「なあ、この里が元に戻るのってどれぐらい掛かるんだ?」

「三日ぐらいでしょうか、というかリュウトは大丈夫なんですか? もう動いて」

「アクアに魔法かけてもらったからな、本調子じゃないけど、平気」

 

 

 それにしても。

 

 

「三日……『里が……燃えていく……』なんて悲壮感漂わせてたやつが居たっつーのに……」

「え? それはおかしいですね。これぐらいならすぐに戻ることはわかっていたはずですが……一体誰が言っていたんですか?」

 

 

 見た目を伝えようとしたら、たまたまこちらに近づいてくる。しかも見た目を言ったところで全員が似たような格好をしているからわかるのかもわからなかったので、丁度いい。

 

 

「この子だよ」

「私に何か用かい? 外の人? めぐみん、探してたんだよ」

「あるえではないですか、どうかしたのですか?」

 

 

 どうやらめぐみんの知り合いのようだが。あるえってあの小説書いた子か? なんか嫌な予感が……。

 

 

「めぐみんこれ見てくれないか? ついさっき書き上がった『紅魔族英雄伝』の二章なんけどね。紅魔の里が燃えるシーンが秀逸な、傑作だと思うんだよ」

「……」

 

 

 何もいえなくなった。俺はそのままトボトボとここから立ち去った。まだ本調子じゃないし、なんだかもう疲れて何も言えなくなった。

 紅魔の里、最後の夜。明日になったらここからおさらばだ。最近、遠出すると必ず魔王軍幹部と戦ってる気がするのは俺の気のせいではないだろう。今回は確かに、魔王軍と戦うことになるのは承知の上で来ていたが、あんまりじゃないだろうか。まあ魔王を倒す為と思えば、これぐらいはどうって事は無いと考えればまだ大丈夫か。

 

 

 決着というのは思ったよりも簡単につくものだ。俺が倒れた後、どうやらめぐみんが『爆裂魔法』でシルビアを倒したようだ。俺が少なからずダメージを与え、さらには『魔術師殺し』も取り除いていたのだ。めぐみんの最高火力の爆裂魔法があれば、十分だろう。ただ――。

 

 

「大丈夫なのか……爆裂魔法覚えたって里に知られて……」

 そんな事を呟きながら、俺は別の部屋で寝ためぐみんとカズマの心配を少しだけしつつ、眠りに入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝――里では結構めぐみんの事が噂になっていた。まあ確かに、噂にならない方がおかしいというわけか。まあ仕方ない事だな。そんな事を考えていると、ゆんゆんが友達と思しき連中と話をしていた、どちらかと言うと、ゆんゆんが弄られているようにも見えるが。

 だがまあ、そんな噂よりも神妙な面持ちでカズマと一緒にどこかへ行っためぐみんの方が気になるが……。

 俺はその時――バニルの言っていた言葉を思い出す。

 

 

「迷い……まさか……?」

 

 

 俺はあり得ない可能性で頭の中を巡らせていた。外に出て行ったカズマ達を追いかけようかとも思ったが、ここはカズマに任せるべきか、カズマが……バニルはカズマにだけ言ったのはそういう意味だったのだろう。

 

 

「はあ……」

 

 

 ゆんゆんがしばらく里の友達達と一緒に話しており、俺には特に何も考えずに、そこら辺をプラプラしていた。里が直っていく速度は尋常じゃないのは昨日のうちにわかっていた事だ。

 

 

「ん? ゆんゆんどうした?」

「いえ、あのカズマさんとめ、めぐみんの関係について教えてもらいたくて!」

「……関係、ねぇ」

 

 

 正直俺にもそこらへんはよくわからないが……まあ。

 

 

「信頼はしてるんじゃないか? パーティメンバーの中だと一番……」

「じゃ、じゃあ本当に……?」

「ん? 何が?」

 

 

 うわぁーんと走り去ってしまった。何があったのだろうか……。まためぐみんがゆんゆんに変なことでも吹き込んだのだろうか。ズキッと身体中が軋む音がする。どうやらしばらくは俺はしっかりと動けないかもしれない。まああのレーザーを喰らえばな……。

 

 

 そんな事を考えていたら――凄まじい爆音が辺りに鳴り響く。その威力は今までにないぐらいの――――『爆裂魔法』だった。

 

 

「まあ、一番……信頼してるだろうな……」

 

 

 その音に驚いている連中を見ながら、俺は笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 

 テレポートで俺達はやっとアクセルの街に戻ってきた。本調子に戻るのには時間が掛かるが、それでもそんなに時間は掛からないだろう。俺はソファーでゴロゴロしているアクアを見ると、その手にはゲーム機が握られていた。

 

 

「なんだ、それ」

「あら? リュウト。これはゲームガールよ! 何? 貸して欲しいの?

 もし貸して欲しいならお風呂当番を代わってくれたら貸してあげてもいいわよ?」

 

 

「…………『フルキャンセル』」

「ちょ、汚いわよ!!」

 

 

 動きを止めて、俺はゲームガールを見てみる。どうやら本物のようだ。

 

 

「ふーん、すげぇな」

「アクア、お前……勝手に持ってきたのかよ……」

 

 

 そんな取っ組み合いをしてる時にノックの音が響いてくる。

 

 

「どなたかいらっしゃいますか?」

 

 

 来客者だ。あんまり良い気はしないが、いきなり変な事もできないだろう。

 

 

「一体どうしました?」

 

 

 俺がそう尋ねると、カズマが飛び掛ろうとしていたので、俺はグイッと襟を掴み、引き寄せる。俺は半目でカズマを見ると、カズマは明らかに余計な事に巻き込まれたくないという意思が見えた。

 

 

「何してんだよ」

「離せ! 俺はもう面倒ごとは御免なんだぁ!!」

「ハーゲン。何しに来たんだ?」

 

 

 ダクネスの話を聞く限り、おそらくハーゲンという人はダクネスの関係者ということだろう。俺は、その成り行きを見ていると。

 

 

「このままではお嬢様の唯一の取り柄がなくなってしまいます!!」

 

 

「「なんだとっ!!?」」

 

 

 カズマと俺が同時に反応を示す。

 

 

「ま、まさか! ダクネスのその豊満な身体が萎むのか!?」

「おかしいと思ってたんだよ! その身体はエロすぎるからな! 大方魔道具か何かで大きくしたんだろ!?」

 

 

 確かに、考えられる……そんな事を思いながら、ダクネスが。

 

 

「お前らは何を言っている! それに私の取り柄といえば、この防御力で! そもそもハーゲンも酷いではないかっ!? 私にはもっと取り柄があるだろう! なあ! めぐみん、アクア!」

「それよりも、その胸を大きくする魔道具は本当にあるのですか? あるのでしたら詳しく」

「カズマもリュウトもおじさんも酷いわよ! ダクネスにはいいところが沢山あるの! 泣いて頼めば大体、聞いてくれるぐらいチョロいし、世間知らずだから、適当な事を鵜呑みにして、飽きないし――痛い痛い痛い! やめてダクネス! どうして!? 私はダクネスの良いところを言ってるのに」

 

 

 それは褒めてねぇと思いながら、執事の手にあった手紙を見つける。俺はその手紙に指を指しながら執事に聞くと。

 

 

「こ、これが当家の危機を伝える手紙であります……」

 

 

 当家の危機? つまりはダクティネス家がマズいって事か。

 その手紙を読んでみると――。

 

 

「『数多の魔王軍幹部を倒し、この国に多大なる貢献を行った偉大なる冒険者、サトウカズマ殿。貴殿の華々しいご活躍を耳にし、ぜひお話を伺いたく、つきましてはお食事をご一緒できればと思います』」

 

 

 差出人はアイリス。第一王女だ。

 

 

「ついに俺の時代が来たか……」

 

 

 カズマがそう呟いた。

 

 

「俺には無いのか、結構頑張ってるのに……最近、いまいちだけど……」

 

 

 少しだけ気にしてしまった。 

 

 

 

 




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大売れウィズ商品

今回も駄文ですが、暖かい目で見てください。


 ポチポチッとゲームを一人でボーっとやっていた。正直このゲームの難易度はそれほど高くない。ゲーム自体は結構いろいろなジャンルをやっていたからこそ、このゲームでもなんとなく次にやってくる事が予想できる。

 

 

「……にしても、うるさいなお前ら」

 

 

「うるさいってねぇ、リュウト! アンタに貸すと悉く、ノーミスでクリアしちゃうじゃない! 私たち三人が必死になってやってたステージだって、ちょっと貸したら、2,3分でクリアしちゃうし!!」

 

 

「まあ、仕方ないだろ。できちゃうんだし」

 

 

「わ、私達だって頑張っているんだぞ! その努力の結晶を……」

 

 

「お前らが上手くなりゃ、そういう愚痴はでなくなるんだがな……カズマみてぇに。アイツ俺より上手いぞ」

 

 

「しかし、本当になんでそんなに上手いんですか?」

 

 

「え? いや、まあ慣れ……?」

 

 

 そんな事を言いながら、カズマの方を見ると、カズマは口を開く。

 

 

「妹が欲しい」

 

 

「なんだ? 通報案件か?」

 

 

「違う!! 俺は様々な美女、美少女と出会ってきた。年上の癒し系ウィズ、活発系の元気娘クリス、クール系お姉さんセナに、幸薄いゆんゆん! それこそ王道派ヒロインのエリス様に至るまで!」

 

 

「カズマさんカズマさん。私は? 私は何系の美女になるの?」

 

 

「ペット枠か色物枠だな」

 

 

 俺が口を挟むと、カズマは縦に頭を振る。俺はアクアに掴みかかられ、取っ組み合いをしていると、カズマは話を進める。

 

 

「俺は大事な事に気づいた……まだ足りない枠がある……! 俺の生まれた国、日本には一応幼馴染も居た! ならあと足りないのはわかったな?」

 

 

「……それが妹って事か」

 

 

「はぁ、仕方ないですね。つまり私に妹代わりになれと……」

 

 

 めぐみんが積極的な事を言っているが、カズマは即答する。

 

 

「何言ってんだ。お前はロリ枠だろ」

 

 

「あれっ!?」

 

 

 驚いているめぐみん。俺はダクネスの方を見ると、おずおずとして手を挙げ。

 

 

「じゃあ、私は何系なのだろうか?」

 

 

「「エロ担当だな」」

 

 

「エロ担当ッ!?」

 

 

 ショックを受けているダクネスやらめぐみんを尻目にとりあえず話を続けるカズマ。

 

 

「ほら、こないだ紅魔の里に行った時にさ、めぐみんの妹がいたろ? そこであらためて思ったわけだ、ああ、やっぱ妹がほしいなって」

 

 

「分かりたくないが……まあ、言わんとすることはわかる」

 

 

 そう答えた俺に対し、カズマは続ける。

 

 

「王女様かぁ、俺より年下らしいけど、妹キャラかなあ」

 

 

 カズマは期待していたのだ、手紙をくれた第一王女に対して、しかも結構失礼な期待の仕方だ。

 

 

「おい、カズマ……お前な、仮にも王女様だぞ? 下手なことしたら、打ち首になるかもしれねぇんだぞ」

 

 

「まあ、そこらへんは大丈夫だろ」

 

 

 王女様の年齢は12歳とカズマのストライクゾーンからは外れているらしいが、それでも仲良くなりたいという気持ちは変わらないらしい、大方、お兄様とかなんとか呼ばれたいとか思っていることだろう。

 

 

 リュウトはチラリとダクネスの方を見ると、ダクネスはあたふたしながら。

 

 

「なあカズマ。今からでも遅くない、この話は断ろう! な? 相手は国のトップなのだぞ? 会食といっても、お前が期待しているようなものではない。きっと堅苦しいものになる。な? 今からでも断ろう!」

 

 

 おそらく、今一番危機的状況であろうダクネスがそんな事を言っている。

 

 

「つか、向こうから誘ってきて、断ったら逆に失礼にならないか? 仮にも王女様なんだろ? ここでの王女様がどんな感じかは知らねぇが、12歳なら、まだまだ子供って事だろ? 変に機嫌を損ねて、とんでもねぇ事にならねぇだろうな?」

 

 

 俺がそんな心配をしているが、ダクネスはむしろ会食をして、俺含め、四人がとんでもない事をしでかさない事のほうが怖いらしい。まああんな事を言っているカズマを前にそんな状況になるのは、仕方ないといえば仕方ない。

 

 

 だが、カズマはカズマで、その態度に対し。

 

 

「お前、俺が王女様に無礼を働くとか思ってるだろ?」

 

 

 面白くないようで、そんな事を言う。

 

 

 ビクリと肩を震わせ、ダクネスが目を泳がせながら。

 

 

「そ、そんなことない……ですよ?」

 

 

 慣れてない敬語を使い、目を逸らすダクネスに追及するように責めたてるカズマ。

 

 

「俺達がダスティネス家の顔に泥を塗るとか、そんな心配してるんだろ!? その慣れない敬語をやめて、俺の目を見て言ってみろぉッ!!」

 

 

「そうなのっ!? ダクネス酷い! 私だって礼儀作法ぐらい知ってるんだから!!」

 

 

「そうですよ! 私達は仲間でしょう! もっと信頼してください!」

 

 

「うぅ、お前達をよく知っているからこそ、心配してるんだが……」

 

 

「ま、今更この状況だ。もう意見は覆らねぇから、諦めようか」

 

 

「うぅぅううう!」

 

 

 泣きそうになりながら、唸るダクネス。不安いっぱいという顔をしているダクネスにカズマが。

 

 

「俺だって身分の違いはちゃんと理解しているし、最低限の礼儀は知ってるさ、俺が浮かれているのは、上流階級のお嬢様に会えるから、ただそれだけさ」

 

 

「お、おい! わ、私だって上級階級のお嬢様なんだが!」

 

 

「そこはしっかりと反論するのかよ……」

 

 

 俺はついそんな事を言い。

 そんなこんなで、ドレスやらタキシードやらを仕立てる話に移り変わっていた。ドンドン盛り上がってカズマは着物やら袴やらの話まで出していた。

 

 

「お、おい頼む! なんでもするから! 聞いたこともない奇抜な格好はしないでくれっ!!」

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。泣いて縋っていたダクネスがカズマの願いを何でも聞いてくれるとの事で、色々と家事をやってくれるらしい。

 ダクネスは小さめのメイド服を着用し、丈の短さが、まさにエロ担当という名にふさわしい色気がある。ダクネスは何もかもを諦めた表情をしながら、カズマの前に待機していた。

 

 

「それじゃ、一週間家事を頼むな」

 

 

「分かった……」

 

 

「そこはかしこまりました、ご主人様だろ?」

 

 

「ん……くっ! か、かしこまりましたご主人様っ! 私は卑しいメス豚ですっ!」

 

 

「誰がそこまで言えと言った……」

 つい、口を出してしまった。

 赤い顔で震えだしたダクネスに待ったをかけるカズマ。それをソファーで寛ぎながら俺は見ていた。眼福というのはこういう事だろう。丈が短いダクネスが顔を赤くして震えている、まあまあ悪くない。どうしようもない変態であることも、まあ目を瞑ろう。

 

 

「では、何からしたらいいだろう、正直家事などしたことがないから、何から始めれば良いのかさっぱりわからん。とりあえずカズマのズボンの股間部分にお茶でもこぼして、それを慌てながら拭けばいいのか」

 

 

 あの変態は一体何を言っているんだ? 俺はそんな事を思いながら、カズマは言う。

 

 

「お前、お茶いれ禁止な?」

 

 

 アイツの頭の中ではメイドという職業は一体どんなものなのだろう。

 

 

「とりあえず、掃除でもしといてくれ、食器洗いはいいから、割るだろうし、そんな非経済的な約束はいらない」

 

 

「……むっ、わかった……」

 

 

 あからさまにガッカリした様子で、居間へ向かっていく。アクアとめぐみんはウィズの店へ出かけているため、今日は俺とカズマとダクネスだけだ、おそらくカズマは今日はこき使ってやろうと、考えているだろう、顔に出ている。

 

 

「きゃあああっ!」

 

 

 わざとらしい悲鳴と共に陶器の割れる音が響いてきた。そして何か破片を抱えたダクネスがこっちに向かって駆けてきた。

 

 

「申し訳ありませんご主人様! ご主人様が大切にしていたツボを割ってしまいました! この仕置きはどんな事でも!」

 

 

「俺はツボを大事にしてないし、もし本当に大事なものを壊したら、その格好で冒険者ギルドまで行ってもらうからな」

 

 

「!?」

 

 

 埃まみれになるのも構わず、ダクネスはせっせと掃除していた。思ったよりも綺麗に掃除しているダクネスに軽く感心していると、カズマが姑のように窓枠などに指をなぞっていたが、どうやら一切埃はなかったようだ。

 

 

「くっ! 器用度は低いくせに、どうしてこんなに綺麗に!! 文句つけてメイド服クルセイダーララティーナの名をギルドに定着させてやろうと思ってたのに!」

 

 

 願望駄々漏れである。

 

 

「ふっ、そんな簡単に仕置きなど受けてやるものか、というか、ララティーナと呼ぶのは本当にやめてくれ、お願いします」

 

 

 頬を赤くして、掃除をしていたララティーナは掃除においては及第点のようだった。

 

 

「暇だな、俺もウィズの店行くか……」

 

 

 見るものも見たしと思い、俺もウィズの店に行く事にした。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

「あれ、リュウトさんじゃないですか! いらっしゃいませ!」

 

 

「おいーっす、遊びに来たぜ」

 

 

 茶菓子を食っておとなしくしてるアクアといろんな魔道具を見ているめぐみん。一番厄介なヤツは留守のようだ。

 今日は日本にあった数々の便利グッズを店に売り出す日。どうやらまだカズマ考案の着火具はきてないようだ。まあライターのことなんだが。

 

 

「まだきてないのか、楽しみにしてたんだがな……」

 

 

「はい、あともう少しで到着すると思うんですが……」

 

 

 ウィズが申し訳なさそうにしていたので、俺が慌てて言う。

 

 

「いやいや、気にしなくてもいいから。んじゃ、俺もちょっと魔道具でも見とくか」

 

 

「あ、はい。ごゆっくり!」

 

 

 めぐみんが目をキラキラさせながら、魔道具を見ている横で、品を見ている。俺がめぐみんを横目でチラリと見て、俺はボソッと呟くように言う。

 

 

「なあ」

 

 

「……ん? なんですか?」

 

 

「お前さ、紅魔の里でカズマとなんかあった?」

 

 

「なななっ! なんですか突然ッ!?」

 

 

「いやね、帰ってきてから、なーんか、気になるなぁって思って……ま、なんでもいいけど」

 

 

「い、一体何ですか、まったく……」

 

 

 顔をほんのり赤くしながら言う。俺は別の魔道具を見て、そこまで興味を示さない。別にそこまで深く興味があるわけでもないし。ただ気になるからちょっとだけ聞いてみたが、あまり深く掘り下げるのもよくないだろう。こっちの精神を削られる可能性もあるし。

 

 

「……はぁ」

 

 

「どうかしたんですか?」

 

 

「いや、なんというか、遅咲きの青春かなぁって……」

 

 

「? どういう事ですか?」

 

 

「気にするな」

 

 

 そんな会話をしながら、適当に暇を潰していたら、どうやらライターが届いたようだ。俺はそれを見ながら、一本だけ手に取る。そのタイミングで、私服のダクネスとカズマが来た。

 

 

「あれ? ダクネスはメイド服じゃねぇのか?」

 

 

「さすがにやめてくれって泣きつかれてな、まあ仕方なく」

 

 

「そか、それより来たみたいだぞ、これ」

 

 

 ライターを持って、カズマに見せる。どうやらカズマもこれを見にここまで来たようだ。

 

 

「カズマカズマ、早く見せてください、この魔道具の力を!」

 

 

「魔道具じゃないって、俺の国の便利アイテムって言ってるだろ。リュウトつけて見せてやれよ」

 

 

「中にオイルは入ってるみたいだな」

 

 

 俺がライターに火をつけると。

 

 

「「「おおっ!?」」」

 

 

 俺の灯した火を見て、めぐみん、ダクネス、ウィズ三人が同時に声をあげる。どうやらそれほど驚きがあったようだ。俺自身は、この道具を見慣れている為、驚きは一切ない。当たり前だが。

 

 

「それにしても、こっちの世界でもこういうのは、再現できるもんなんだな、そっちの方に驚いたぜ」

 

 

「これは凄く便利なものですね、まんまティンダーの魔法じゃないですか! これは売れますよ!!」

 

 

 ウィズが興奮した面持ちではしゃいでいる。まあ、実際こういった物が売ってないのが不思議でならない。まあ、チート持ちなわけで、こういったものを普及する必要がなかったのか。

 

 

「それにしても、こんな簡単な構造なのに、魔道具ではないのが信じられないです。大事に使えば、長く持ちそうですし」

 

 

「そうだな、火打石を使うよりも簡単そうだし、火種も濡らさないように持ち歩くのも面倒だが、それらの問題がこれだと一発で解消だ。ウィズこれは幾らだ? 私も欲しい」

 

 

「お金なんていりませんよ。カズマさんが考案してくださって、皆さんにも協力してもらったんですから。好きなものを持っていってください」

 

 

 既に一本手に持っていた俺は、それを貰うことにした。ライターを弄っ

ていると、アクアが肩を竦めながら。

 

 

「ライター一本にそこまで喜んじゃって、これだから未開人は、こんなの本当に簡単な構造なのに、まったく」

 

 

 そういって、ライターを取ろうとしたら、ぱしんっと手を払われるアクア。払ったのはカズマだ。

 

 

「……ちょっと、何すんのよ、私にも選ばせてよ」

 

 

「いや、お前は金を払えよ」

 

 

「ちょっとなんでよ? どうして私にばっかり意地悪するのよ! めぐみんとダクネスはよくて、どうして私だけ!! ウィズも良いって言ってるのに! 私だけを仲間はずれにしないでよ!」

 

 

「いや、お前がからかったりしなきゃ良かったんだけど、つか、この件で、お前は何もしてないだろ。リュウトは俺と一緒に考案してくれたし、めぐみんは魔道具の製作の仕方を教えてくれて、ダクネスは大手卸売り業者のコネを紹介してくれたんだぞ。お前は食っちゃ寝してただけだろうが、分け前が欲しいってんなら、外で客引きの一つでもしてこいよ!」

 

 

 カズマの言葉に涙をぐみながら、吐き捨てるように言葉を残して出て行った。

 

 

「うわあああ! カズマの甲斐性なし! せっかく私達が脱ぎ散らかした洗濯物クンクンしてるの黙ってあげようと思ったのに!」

 

 

「お、おい! 俺はそんなことしてないぞ!? 滅多な事言うなよ! な、なんだよめぐみん、ダクネス。本当だって! ウィズまでっ!?」

 

 

「まあ、あんまりバレないようにしろよ?」

 

 

「おい、お前までふざけんなよっ!?」

 

 

 店から出て行ったアクアがひょこっと入り口から顔だけをのぞかせて。

 

 

「人いっぱい集めたら、一つくれる?」

 

 

「やるから、まずこの誤解を解いてから行けッ!!」

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 なんだこれは。帰ってきたバニルがそんな事を言いながら、店の前に立っている。アクアが宴会芸を使い、客をいっぱい集めたまでは良かったのだが、それらすべてがアクアの宴会芸目的の為、どれだけ集まったところで、ウィズの店には一人も入らない。何なら、チラシを見て入ろうとした客すらも、その人だかりに興味を示し、入っていく。

 

 

 そしてアクアがウィズの店から持ってきたであろう、大量のポーションを消し去ろうというマジックをやろうとしていた。

 

 

「やめろ!! たわけがっ!! 貴様、ドアノブに聖水を振るだけに飽き足らず、とうとう真正面から営業妨害をしにきたなっ!!?」

 

 

 あぁ、よくアクアが出かけてたけど、それやってたんだ。

 

 

 そんなこんなで、アクアとバニルのいざこざは終息し、ウィズが。

 

 

「皆さん、本日は便利な商品が数々揃っております、ぜひ、ご覧になっていってください!」

 

 

 ウィズが店主っぽい事してる……初めて見たかも。

 山のようにあった商品だったが、もう既に底を突きかけている。月末まで三億エリスを用意してくれるとバニルは笑いながら、そう言った。

 

 

「いやぁ、飛ぶように売れるとはまさにこの事! 改めて礼を言うぞ、旅先で仲間といろいろあったが、戻ってきてから何もなくてソワソワしている小僧よ!」

 

 

「なぁああ!? し、し、してねぇし! めぐみんもこっち見るなっ!?」

 

 

「み、見てませんよ!? あ、悪魔の戯言を真に受けないでください!!」

 

 

「貴様らが、つがいになろうが、子作りしようが、どうでもよいがそのソワソワしているのは非常に鬱陶しいので、さっさと宿屋に行くのが吉だぞ!」

 

 

「さすがに、そういうのはやめねぇか?」

 

 

「むっ、貴様にそんな事を言われるとはな! 貴様も先ほどそのような事を聞いていたではないか」

 

 

「お前みたいにぶっこんでねぇよ」

 

 

「それはそうと、月末まで待たせる代わりというわけではないが、巷で密かに人気なこの量産型バニル仮面を渡そう! 月夜につければ、謎パワーで魔力上昇、血行促進、お肌つるつるになり、絶好調になるぞ! これはその中でも、レアな商品だ。近所の子供達に自慢すると良いぞ」

 

 

 あんなのをつけて呪われないのだろうか……。そんな事を考えながら、俺はカズマが貰った仮面を見ていた。

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


感想、批判。大歓迎です。


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第一王女アイリス様との会食

今回も駄文ですが、温かい目で見ていただければ幸いです。


 あの日以降、ウィズの店が大変繁盛しているようだ。大変珍しい事だと言える。

 そうして今日は待ちに待った王女様との会食だ。

 

 

「おい、お前ら分かってるな?」

 

 

 カズマがダクネスのいない広間に俺とアクアとめぐみんを前に言う。

 

 

「もちろん分かってるわ。こんな機会滅多にないもの、とっておきの宴会芸で盛り上げてみせるわ。そう、ダクネスが恥をかかないようにね! ところで、帽子から虎が出る芸をしようと思ったんだけど、そもそも虎がいないのよ。この際、虎っぽい初心者殺しで我慢するから、捕まえるの手伝ってくれない? リュウト」

 

 

「私も紅魔族流の派手な登場で、お姫様を驚かせて見せましょう。カズマ、派手に煙を焚く物と花火が必要なのですが、そういったものはどこで買えば良いのでしょうか?」

 

 

 ダクネスの心配はやっぱり間違いでなかったか。

 

 

「おい、お前ら。そんな事した日には、わかってるだろうな?」

 

 

 俺が手をワキワキさせながら、そう言った。

 ダスティネス邸。アクセルの街において、最も大きな邸宅であり、厳戒態勢が取られていた。見栄えの為、普段よりも多い使用人の数。相手が相手だ、当然の対応だろう。

 なぜならば既に先日から王女様がこの邸宅に泊まっているのだから。

 そのダスティネス邸の玄関にて――。

 俺達の前で、ダクネスが純白のドレスを身に纏い、三つ編みにして、肩から前に垂らした格好をしている。

 

 

「サトウカズマ様、ならびに皆様方。当屋敷にご足労頂感謝いたします。本日はわたくし、ダスティネス・フォード・ララティーナがホステスを務めさせていただきます。どうかご自分の家だと思い、ごゆるりとおくつろぎください」

 

 

「ご丁寧にどうも、本日はお招きいただき、誠にありがとうございます」

 

 

 俺がそう対応する。ある程度の常識は弁えておりますよ、という感じで、柔らか笑みを浮かべていたダクネスは顔を俯き、肩を震わせていた。この野郎。

 

 

「おい、ダクネス。笑ってないで、案内しろよ。これ窮屈なんだよ」

 

 

 借りた黒スーツに苦い顔をしてしまう。慣れない格好は面倒だ。

 アクアとめぐみんはドレスの仕立てが間に合わず、ダクネスのドレスを借りていた。

 

 

「それでは皆様方、どうぞこちらへ」

 

 

「いつまで笑ってんだよ」

 

 

 俺達はダクネスの案内により、屋敷の中へと入って行った。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

 ここは応接室。使用人はお茶を出し、ごゆるりと言い残し、部屋を後にした。隣の控え室にダクネスに呼ばれ、アクアとめぐみんが隣の部屋に入っていった。

 

 

「暇だな」

 

 

「そうだな……」

 

 

 カズマがお茶を手に取り、ズズーと一飲み。

 

 

「なあ」

 

 

 ソファーに座り、隣同士だったため、俺は顔だけをカズマの方へ向けて言う。

 

 

「ん?」

 

 

 再び、お茶を含むカズマ。

 

 

「お前、めぐみんとなんかあった?」

 

 

 お茶を含んでいたカズマはブブーッ! と噴出す。

 

 

「汚ねぇな。一応、屋敷やぞ、屋敷……」

 

 

「お、お前がいきなり変な事を言うからだろ!? な、なんだよ。なんかって!」

 

 

「そんなに驚くなよ。つかめぐみんも似たような反応してたな。まあいいや。一応異世界だしな。犯罪じゃないから、気にしなくていいんじゃねぇ?」

 

 

「な、なにが? よくわかんないなー」

 

 

 わかりやすいとぼけ方をされたが、それ以上は続けず、俺はズズーとお茶を飲む。出されたお茶は良いお茶だったのか、おいしかった。

 

 

「つか、お前だってウィズとか好きだろっ!?」

 

 

「おう、だから?」

 

 

「ぐっ、少しはうろたえろよ……」

 

 

「必要がねぇ!」

 

 

 そんな男同士の会話をしていると、隣からも音が聞こえてくる。どうやらダクネスが子供の頃のヤツですらサイズが合わないめぐみんだったり腰まわりが大きいドレスを試着しているアクアだったり。

 やがて着替え終わった三人がこちらの部屋に戻ってきた。疲れた顔をしたダクネスの後ろに二人が居る。

 肩口をむき出しにしたドレスを着用しているめぐみんと白いドレスを着たアクア。

 

 

「随分と似合ってるじゃねぇか」

 

 

「そうでしょ! 馬子にも衣装ってやつよ」

 

 

「おう、まさにその通りだな」

 

 

 随分とテンションの高いアクアだ。こいつは言葉を知ってるけど、意味まで理解してない事が多い気がする。褒めてないから、それ。

 

 

「ねえ、カズマ、リュウト。これだけ美女ぞろいなんだからちょっとぐらい褒め称えて、崇めたって罰は当らないわよ?」

 

 

「はいはい、綺麗綺麗。そんな事よりもお姫様だ。昨日からここに泊まってるんだろ?」

 

 

「らしいな。姫様だぞ。本物の、俺初めて会うな、そういうの」

 

 

 三人の衣装よりもそちらの方が気になってしまう。それはカズマも同じのようだ。ダクネスが俺達のそんな態度に心底不安げな表情を浮かべて言う。

 

 

「本当に無礼を働くなよ? お前はたまに、素でとんでもない暴言を吐くことがあるからな。荒事商売である冒険者という事で、多少は大目に見られるかもしれないが、言葉一つで首が飛びかねんからな」

 

 

「一度、本当に飛んでるがな」

 

 

 ネクタイを緩めながら、そう言う。ダクネスは多少申し訳ない気持ちになったのか、俯き加減で、うっ、という言葉を漏らす。

 だが俺のそんな言葉ももう既に届いてないようだ。カズマはお姫様という言葉に夢中になっているようだった。

 

 

「おい、お前らに言っておく。屋敷は惜しい。長く住んで愛着も湧いてきたあの屋敷は惜しいが……もしお姫様が俺を親衛隊か何かにぜひという話が出たら、俺は引越しも考えてしまうかもしれない。その辺は覚悟しておいてくれ」

 

 

「お前の頭の中で、どこまで話が進んでいるんだ。ただの会食だといってるだろ」

 

 

「親衛隊か……姫様守るんだから、すげぇ強いんだろうな……」

 

 

 そんな見当違いの方に意識を向けていた。ダクネスに案内されながら、晩餐用の大きな部屋へ。ダクネスはあらためて俺達の方へ振り返る。

 

 

「よし、いいなお前達。相手は一国の姫君だ。……カズマ、お前はなんだかんだ常識は一応あるし、良い。メイド服姿で奉仕までしたのだ。これで何かやらかしたら、タダでは済まさんぞ。アクア、お前は過度な芸は止めてほしい。特に危険が及ぶものは禁止だ。めぐみんは……身体検査をさせてくれ。リュウトはまあ、大丈夫だろう。なんだかんだいってお前が一番安心できる」

 

 

「待ってください! ダクネス! どうして私だけ身体検査を!? あぁっ!! 待ってください! カズマが見てます! ここぞとばかりにガン見してます!!」

 

 

 もみ合いを始めた二人を無視し、さっさと室内に入りたくなっている。こんなのは無視しても良いような気がしてくる。アクアの方を見て、カズマが。

 

 

「お前は一体どんな芸をやらかすつもりだ」

 

 

「やらかすって失礼ね? せっかく王族と会えるんだから、お姫様にだけ見せるのもつまらないわ。即興で似顔絵を、それも砂絵で仕上げてみようと思うの。それをお土産にね」

 

 

「お前は芸という事に関してだけは、すげえよな」

 

 

「芸だけはって何よだけはって!」

 

 

 そんな事をしていると、めぐみんがどうやらモンスター除けの煙球と爆発ポーションを隠し持っていたらしい。何をするつもりだ、何を。

 ここまでついてきていた使用人まで。

 

 

「とっばちりで私達にまで被害が及ばないかしら……」

 

 

 それはおそらくここにいる全員が思っている。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

「では行くぞ。いいか、アイリス様の相手は主に私がするから、お前達は飯でも食いながら頷いてくれていれば良い私がその都度説明する」

 

 

 ダクネスが先頭に扉を開いた。そこは広く、そして派手すぎない高級感が醸し出されている晩餐会用の広場。燭台には火が灯されており、明るさを保っていた。

 

 

 数人の使用人が取り囲み、無言で待機している。テレビとかで見たまんまだ。大きなテーブルに豪勢なご馳走が並べられており、テーブルの奥にはダクネスやアクアと同じ純白のドレスを着た少女が座っていた。

 

 

 その少女の両隣に二人の若い女性が立つ。一人は黒いドレスを身に纏った武器を持たない地味目な女性。だがその手にはゴテゴテした指輪がいくつもあり、おそらく魔法使いなのだろう。

 

 

 もう一方の方は白いスーツを着用し、腰には剣を帯びた短髪の美人だ。

 

 

「お待たせしましたアイリス様、こちらがわが友人であり、冒険仲間でもあります。サトウカズマとそのご一行です、さあ四人とも、こちらが第一王女アイリス様です。失礼のないように」

 

 

 金髪セミロングの澄んだ碧眼の少女がそこには居た。ダクネスと系統が一緒だな、なんて思いながら、このファンタジー世界において期待を裏切られなかったまさにお姫様といった少女だった。

 

 

 俺は、多少の感動に打ち震えていると、カズマの隣に居たアクアがドレスの端を軽く摘み、完璧な作法と仕草で一礼をした。

 

 

 その姿についギョッとしてしまった。というかさっきから王女様を敬っているのは大変良い事だが、アクアは女神という一応姫様よりも立場は上なんだよな、なんて考えたりして。

 

 

「アークプリーストを務めております。アクアと申します。どうかお見知りおきを。……では挨拶代わりに一芸披露を」

 

 

 言いながら、アクアが何かを始めようとした瞬間、ダクネスが手を掴む、アクアはダクネスの三つ編みを引っ張って抵抗していた。

 

 

「ちょ、ちょっと失礼アイリス様、仲間に話がありますので!」

 

 

 アクアに気を取られていたダクネスの隙をつき、めぐみんがスカートの中からマントを取り出し、バッと広げようとした瞬間。俺はそれを奪い取った。

 

 

「何しようとした、やめろ」

 

 

「やめてくださいっ! 紅魔族には紅魔族なりの挨拶が」

 

 

 俺が奪った黒マントを奪い返そうと、掴みかかってくるが、さすがに体格の差と筋力の差で、めぐみんはどうする事もできない。

 

 

「力だけだったらダクネスを超えてんだぞ。俺は」

 

 

 そんな俺達の目の前で、王女様が白スーツの女性に耳打ちをする。

 

 

「下賎の者、王族をあまりそのような目で不躾に見るものではありません。本来ならば身分の違いから同じテーブルで食事することも、直接姿を見ることも敵わないのです。頭を低く下げ、目線をあわさず、それよりも早く挨拶と冒険譚を……との仰せだ」

 

 

 ああ、王族ってこんな感じなんだ。ダクネスとかその親父さんとかは結構親しみを持ってたんだけどな。まあしゃあねぇか。相手王族だし。

 

 

 だがまぁ……。

 

 

「チェンジ」

「はぁ?」

 

 

 カズマがそういった。俺も反抗的な態度を取ってしまった。

 

 

「ちょっと待ってください! 仲間はあまりの興奮にちょっと話してまいります!」

 

 

 広間の隅で、五人が集まっている。

 

 

「貴様! チェンジとはなんだチェンジとは!! 何のために恥ずかしい思いまでして、奉仕したと思っている!?」

 

 

「お前、楽しんでいた部分もあるだろ」

 

 

 俺の一言を無視し、カズマの首を絞めているダクネス、カズマは三つ編みを引っ張って抵抗する。俺は動き出したアクアに目を追っていた。

 

 

「ええい! さっきからなんでみんな私の髪を引っ張るんだ!? というか、ここではやめろ、こういうのは二人きりのときで……」

 

 

 何を言ってるんだ。そんな事を思いながら、俺は砂絵で似顔絵を描いていたアクアの方を見ていた。

 

 

「あれは無視していいのか?」

 

 

 俺がそう言うと、ダクネスが焦ったようにバッとアクアの方を振り向く。

 

 

「これは口の端にだらしなく付いているソースまできっちり再現された一品で……」

 

 

 それを聞いた王女様が慌てて口元を拭う。

 

 

「アイリス様! 今、この無礼者どもをたたき出しますので、少々お待ちを!!」

 

 

 大慌てのダクネスがドレスの裾を両手で鷲づかみにして駆け出した。

 それを見ていた王女様が白スーツに耳打ちをする。

 

 

「寡黙で冷静なララティーナが、そのように慌てる珍しい姿を見られたので良しとします。冒険者は多少なりとも無礼なもの、それよりも早く冒険譚を、と仰せだ」

 

 

 アクアと砂絵の取り合いをしているダクネスを見て、王女様が少しだけ微笑む。

 

 

「も、申し訳ありませんアイリス様、なんというかこの三人は冒険者の中でもとくに問題ばかり起こす連中で!」

 

 

 三人がこうして暴れまわっている中、俺は一人でご馳走を食していた。途中で飽きてしまった。黒いスーツを汚さないようにナイフとフォークを器用に使って食べている。

 

 

「そういえば、さっきから冒険譚をって言ってるけど、そんなにそういった話に飢えてるのか?」

 

 

 白スーツに耳打ちをする王女様。

 

 

「そうだ、あのミツルギ殿が一目置くとされる、あなたの話を」

 

 

 どうやらミツルギは国の上の方じゃ結構な有名人のようだった。それよりもアイツカズマの事なんて話したんだ? 鬼畜のカズマとか? 期待に満ちた視線を向けられていたカズマが話をしていた。

 

 

 とはいうものの、カズマの話はどうにも壮大な事を言っていた。しかもどこか勘違いさせるような感じでだ、嘘は吐いてないが……うーん、しかし話自体は面白かった。

 アクアがそれを見て、何か言いたそうにしていたが、めぐみんとアクアはダクネスの三つ編みを弄って、特にぶっこんだ事はしない。ダクネスもこうしていれば二人が静かになると、半ば諦めている。

 

 

 そうこうして話が進み、冒険者の前の仕事を聞かれたカズマは、こう答えていた。

 

 

「この国に来る前は、家族の帰る場所を守りる仕事をしていました。日々黙々と腕を磨きながら、襲い来る災厄から大切な場所を守り、それでいて誰にも理解も評価もされない、そんな悲しい仕事をしていました」

 

 

「そりゃ、引きこもりはな、評価されないわな……」

 

 

 飲み物をグビグビと飲みながら、小声でそういう。

 調子に乗りまくっていたカズマはふと、白スーツの女の一言にピンチに陥る。

 

 

「カズマ殿の冒険者カードを拝見させてはもらえないだろうか? カズマ殿のスキル振りを後学の為に参考に……」

 

 

「それはやめておいてくださいよ。コイツ、強いには違いないっすけど、クラスは冒険者なんで」

 

 

「冒険者? ……あなたは先ほど言っていたような活躍を本当にされていたのですか? なんでもミツルギ殿にも勝ったらしいですが」

 

 

「それは俺のスキルを使ってな」

 

 

「それはどういった?」

 

 

「まあ、見せたほうが早いか、カズマかけるぞー。『フルキャンセル』」

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 一切動けなくなったカズマに怪訝そうな顔をする白スーツ。

 

 

「こうして、相手の動きを止めました。これは一応これの使い方の一つですが、まあ他にもいろいろできますよ」

 

 

「これは凄まじいスキルですね……」

 

 

「まあ、いろいろと理由がありますからね『フルキャンセル』」

 

 

 カズマが再び、動きを取り戻す。

 

 

「そうですか、それではいくら魔剣を持ったミツルギ殿とて、勝てないのは無理ないですね……というか、これだとカズマ殿がというよりもリュウト殿がと言った方が良いのでは?」

 

 

「ま、たぶん。俺が手を出さなくても、コイツ勝ってましたよ。アイツコイツの事、嘗めてましたからね。言ったでしょ? コイツは結構強いんで」

 

 

「そうですかね……? イケメンのミツルギ殿が……いや、あの最弱職の者に負けるとはとても、イケメンですし……と仰せだ、私も、イケメンのミツルギ殿が……」

 

 

「お前ら、さすがの俺でもひっぱたくぞ」

 

 

 そうツッコミを入れたカズマだったが、それに激昂した白スーツが。

 

 

「貴様! 王族に向かってなんて無礼な口の利き方をっ!!」

 

 

 ヤベッとカズマが口をつい押さえていた。とっさに剣に手をかけた白スーツに俺も『フルキャンセル』を使おうかと迷ったが、ダクネスがとっさに謝罪を行う。

 

 

「も、申し訳ない、私の仲間が無礼な事を! なにぶん礼儀作法も知らない男なので、私に免じ、どうかご容赦を! この男も華々しい戦果をあげているのは、事実ですし、会食を求めたアイリス様が、それを罰してしま

うと外聞というものも!」

 

 

 王女様が白スーツに耳打ちをする。

 

 

「……アイリス様はこう仰せだ。この国に対して多大な功績のある、ダスティネスの名に免じて不問とする。ですが気分を害しました冒険譚のご褒美はちゃんと取らせます。そこの最弱職の嘘つき男は、それを持って立ち去るがいいと」

 

 

 カズマはそれを聞き、とっととこの場から立ち去ろうとしていたが。というか嘘は誰も吐いてないが。

 

 

「いたたっ! こらっ、めぐみん何を!?」

 

 

 めぐみんが今まで揉んでいた三つ編みを怒りに任せて引っ張ったようだ。俺はサァと血の気が引くのを感じ取った。おそらく今顔は真っ青になっているだろう。だがそれは俺だけではないようだった。

 

 

 魔王軍幹部を相手にしようが、喧嘩を売るようなめぐみんだ。そんなめぐみんがこんな行動に出たのだから。

 

 

「ちょっ……」

 

 

 俺がとっさに止めようとした瞬間だった。めぐみんは何度か三つ編みをニギニギと握ったあとに、また料理を食べる作業に戻った。

 ふぅ、と俺は全身から脱力する。

 

 

「……めぐみん。今日はやけにおとなしいな。てっきり爆裂だのなんだのと騒ぎ出すのかと……」

 

 

 めぐみんは黙々と料理を口に運びながら、それを飲み込んだ後に。小さな声で言う。

 

 

「私一人だったらもちろん我慢なんてしませんが、ここで私が暴れたら、ダクネスが困るじゃないですか」

 

 

 それを聞いたダクネスがめぐみんをしばし見つめていた。ちょっと黙まり込んだダクネスはその場にスッと立ち上がる。

 

 

「申し訳ありませんアイリス様。先ほどの嘘つき男という言葉を取り消していただけませんか? この男は大げさには言っていましたが、嘘は申しておりません。それに最弱職ではありますが、いざという時は誰よりも頼りになる男です。お願いします。アイリス様、どうか先ほどの言葉を訂正し、彼に謝罪をしてはいただけませんか?」

 

 

 ダクネスの言葉に白スーツがいきり立つ。

 

 

「何を言われるダスティネス卿! アイリス様に、一庶民に謝罪せよなどと」

 

 

 その時だった。王女様がスッと立ち上がって、自分の口でハッキリと。

 

 

「……謝りません! 嘘ではないというのならば、そこの男はどうミツルギ殿に勝つというのですか!? それを説明できないのであれば、そこの男は弱くて口だけの嘘を!?」

 

 

 その言葉は最後まで言えなかった、ダクネスに無言でその頬を引っ叩かれていたからだ。

 

 

「何をするか、ダスティネス卿っ!!!」

 

 

 激昂した白スーツが、頬を張られて呆然とする王女様の前に立ち、怒りに任せてダクネスに斬りかかる。

 

 

「あっ、ダ、ダメッ!!」

 

 

 切羽詰った王女様の声。

 その静止の声も聞かず、白スーツは剣を引き抜こうとした瞬間。動きが硬直する。

 

 

「なっ!?」

 

 

「こんなとこで、流血沙汰は勘弁だぜ。そもそもアンタの一撃じゃ、ダクネスは斬れねぇよ。そいつの頑丈さは普通じゃねぇからな」

 

 

 ダクネスは俺を一瞥すると、すぐに王女様の方を見る。

 

 

「アイリス様、失礼しました。ですが精一杯戦い、あれだけの功績を残した者に対しての物言いではありません。彼にはどうやって魔剣使いに勝つのか、それを説明する責任もありません。そして、それができなかったとしても、彼が罵倒されるいわれもありません」

 

 

 ダクネスが張った王女様の頬を申し訳なさそうに撫でて、まるで子供を優しく諭すよう静かな声で言う。

 そういう事もできるのね。

 

 

「よし分かった。ここまで仲間が庇ってくれて、教えないわけにもいかないだろ。見せてやるよ。どうミツルギに勝つのか、あんまり格好良くは勝てないが……」

 

 

「『フルキャンセル』」

 

 

 再び、動きを取り戻した白スーツは目を白黒させ、こちらを見る。俺は首だけでカズマの方を指す。白スーツは慌てながら、剣を引き抜き、カズマの方に構えを取る。

 

 

「もういい、もういいから! クレア! 私はもういいから!」

 

 

 それは悲痛な王女様の声。今まで王女様は結構高圧的だったが、一体どうしたんだ? この豹変振りは……? もともとそこまで悪い子ではないのか。

 

 

「お前が良いのなら、私は何も言うまい……やってやれカズマ。まさか遅れを取ったりしないだろう?」

 

 

 ダクネスが挑発的に笑いかける。随分と格好良いな。カズマは白スーツに片手を突き出して、カズマも言う。

 

 

「当たり前だろ! 俺が渡り合ってきた相手を考えてみろ。魔剣使いに魔王の幹部、果ては大物賞金首まで! 日ごろからそんな連中と渡り合ってんだ。これでも喰らえ!! 『スティール』!!」

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 結果は簡単に予想できるだろう。カズマはあんなに格好良い事を言ったはいいものの、取ったものはパンツ一つという。女にはどうしてパンツなのだろう……男相手だと、割と好きなものを取ってると思うのだが。

 

 

「その、こんな事になってしまい、申し訳ありません」

 

 

 白スーツがカズマに謝罪をしている。その隣では王女様が隠れるように白スーツの腕に顔を埋めていた。

 そんな白スーツにダクネスが。

 

 

「お気になさらず、こちらにも非礼があった。痛み分けというわけで、今回は水に流すのが一番だと思います」

 

 

「そうですね」

 

 

 そうは言ったものの、白スーツはカズマをちらりと一瞥。

 

 

「ま、基本的にそれを喰らったヤツは全員同じような反応をするよな」

 

 

 俺がそう言うと、白スーツは俺の方に睨みつけてくる。おそらくフルキャンセルの事でだろう。

 そんな事をしてると、王女様がもじもじとしながら、今まで一言も言葉を発してなかった魔法使いに耳打ちをしていた。

 

 

「それはご自身の言葉でおっしゃったほうが良いですよ? 大丈夫です。先ほどから見ていたら、カズマ殿はアイリス様のような方には甘いようなので」

 

 

 さっそくロリコン認定を受けてないか? 俺はそんな事を思いながら、王女様が近づき。

 

 

「嘘つきなんて言って、ごめんなさい……また、冒険話を聞かせてもらえますか?」

 

 

 恥ずかしそうにしながら、上目遣いで言っていた。

 

 

「喜んで!」

 

 

 そんなこんなで、テレポートであの三人は帰ることにするようだった。ダクネスもアイリスとの仲が良いのか、先ほどからまるで姉と妹のような会話をしていた。

 テレポートの詠唱も終わり、三人が帰ろうとした瞬間だった。俺達は手を振り、帰るまで、見届けるつもりだったが――。

 

 

「何を言っているの?」

 

 

 王女様はそう言った。王女様は不思議そうな表情で、カズマを手を取っていた。

 

 

「『テレポート』!」

 

 

 その声と共に、カズマを含めた王女様ご一行は光に包まれ、消えていった。

 

 

「……マジか」

 

 

 俺は一言だけそう呟いた。

 

 




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晩餐会

今回も駄文ですが、温かい目で見てください。


 テレポートでカズマが一緒に飛ばされてしまった。

 目の前で起こった出来事といえばそれぐらいだろう。ダクネスが慌てふためいていたが、そんなに慌てていても仕方ないだろう。

 

 

「あ、アイツ一人で、も、もし何かあったら」

 

 

「まあ、大丈夫だろ。王女様ももう少し話したかっただけだろうし、すぐに帰ってくるんじゃないか?」

 

 

「そうですよ。とりあえず帰ってくるまでは、私達は屋敷で待ってましょう」

 

 

「そうね! どうせ、カズマの事ですもの、すぐに帰ってくるに決まってるわ!」

 

 

 まあ、そんなところだろう。

 と、俺達が思っていたのだが――。

 

 

「って訳で、アイツいつまで経っても帰ってこないんだよ。アクアはいつも通りだけど、ダクネスとめぐみんが気が気でないというか、見てて面白いというか……」

 

 

 日本からのアイデア道具をすべて売りさばき、客が居なくなって暇な時間に俺は来ていた。

 

 

「何か、変な事に巻き込まれてなければいいですけどね」

 

 

 ウィズがそんな心配をしてくれたが、俺はどちらかと言えば、城での生活が楽しすぎて、帰ってきてないだけのようにも感じるが……。というか、アイツが変な事に巻き込まれても、なんだかんだなんとかなるだろう。

 

 

「見通す悪魔が、一つだけ忠告しておいてやろうか? 何、代金は必要はない。まだ現金を用意できてないからな。貴様がどうしてもと言うのなら」

 

 

「いらん。チート悪魔が」

 

 

 そんな会話を済ませ、俺が屋敷に戻ると、なぜか全員が揃っていた。どうやら俺を待っていたようだ。

 

 

「何してるんだ?」

 

 

「リュウト。お前どこ行ってたんだ?」

 

 

「ん? ウィズの店に行ってた。ていうか、何かあったのか? 全員揃って」

 

 

「行くぞ、カズマを連れ戻しにな!!」

 

 

 あぁ、いい加減行くのね……。

 

 

 

 

 

 

●●●●●

 

 

 

 

 

 王都に着き、すぐさま城に入り、俺達はカズマのいる部屋に案内されて、コンコンと静かにノックし、入る。

 

 

「おはようメアリー。だがそう簡単に、この俺のシーツを取り替えさせると思うなよ? さあ、手早くシーツを取り替えて他の仕事に取り掛かりたいのなら、こう言うんだ。『ご主人様、どうか……』」

 

 

 その続きは言わずに、固まるカズマにダクネスは真顔で。

 

 

「……ご主人様、どうか……? 何だカズマ、言ってみろ。ほら、この場の全員で聞いてやる。その先を言ってみろ」

 

 

 俺は笑いを堪えつつ、口を抑える。カズマは口を開き。

 

 

「ご、ご主人様、どうかわたくしめに、ご主人様の香りの付いたシーツを……」

 

 

「香りの付いたシーツを? なんだ、セクハラはお手の物だろうが。恥ずかしがってないでとっとと言え! この場の全員で聞いてやる!」

 

 

「ゆ、許してください……っ! てか、なんでダクネスがここにいるんだよ!? この部屋は俺に与えられた聖域だぞっ! 誰の許可得て入ってきてんだ!」

 

 

 誰も何も、そもそもこの城はお前のものではないだろうが。とは口には出さないが、俺は思ってしまう。それにそんな言葉は今のダクネスには通じないだろう。いくら言い訳の上手いカズマでも、この状況は分が悪い。

 

 

 実際、ダクネスの眉間にじわじわと皺が寄っていく。

 

 

「なぜ私がここにいるかだと!? 決まっている! お前を連れ戻しにきたのだ! まったく、いつまで迷惑をかけているつもりだ!? とっとと帰るぞ!」

 

 

「そうだぞカズマ。めぐみんなんてお前が心配で、夜も眠れずに心配してたんだぞ」

 

 

「べ、別にそこまで心配していませんよ!? たまたま夜更かしする日が続いただけです! 変な誤解はしないでください!」

 

 

「変な嘘吐く事ねぇだろ。まあいいけどよ」

 

 

 そんなめぐみんとの会話を少し気にしたカズマだったが、すぐに反論が来る。

 

 

「ふざけんな、俺はアイリスの遊び相手役に就任したんだ! この城で面白おかしく生きていくんだ、安泰な俺の人生を邪魔すんな!」

 

 

「バカ者!! この国にそんな役職はない! いいか、よく聞けカズマ。お前がこの城に留まる理由がないのだ。どこの馬の骨とも分からん男をいつまでも理由なく城に置いておくのはマズイのだ!」

 

 

「じゃあアイリスの教育係とかやるよ! 世間知らずで騙されやすい、お姫様を俺がちゃんと鍛えてやる! ついでにお前もどうだ? 世間知らず度で言えば、お前はアイリスと同レベルだろ!」

 

 

「き、貴様というやつは、本当に……っ! 何が教育係だ、クレア殿から聞いたぞ! 貴様のせいでアイリス様がおかしな影響を受けているらしいな! 軍事や戦闘の授業で、突拍子もない事を仕掛けたり、搦め手を使ってきたり……! 冒険者と違い王族や騎士団とは正々堂々と戦うものなのだ! お前の姑息な戦い方を教え込むな! ほら、アクアもなんとか言ってやれ!」

 

 

「そうよカズマ! 魔王軍幹部を倒せたのは、みんなのおかげなんだから、カズマ一人がお城で面白おかしく暮らすのは不公平よ! みんなで住むべきだわ!」

 

 

「アクアはやっぱり黙ってろ! 話がややこしくなる!」

 

 

「ま、いいからさっさと帰って来いよ。ギルドの皆も心配…………してるヤツもいたぞ?」

 

 

「絶対に帰らないからな! 俺はここで面白おかしく暮らすんだ! 引っ張られたって帰らんがな!!」

 

 

「俺を相手にそう言うのか……」

 

 

 力だけならば、このパーティー最強という俺に対し……。面白い。いくらドレインタッチがあろうが、俺が本気を出せば、引っ張って連れて行くなんて訳ないだろう。その代わり下手したら、腕が引きちぎれるかもしれないが。

 

 

「さてと……」

 

 

 ポキポキと俺が腕を鳴らしながら、近づいてく。さすがのカズマも少しだけ引き気味になる。

 

 

「うらぁぁぁっ!!」

 

 

「うがああああッ!!?」

 

 

 足を引っ張り、ここから引きずりだそうとするが、カズマが必死に抵抗する。手を引っ張れば、ドレインタッチが来るかもしれないからな。

 

 

「放しやがれぇぇぇえええ!」

 

 

「お前が放せぇぇええ!!?」

 

 

 壮絶な引き抜き合いが繰り広げられてる中で、部屋の外から王女様がやってくる。

 

 

「あ、あの、どうか酷いことはしないであげて……?」

 

 

 遊びにでも来たのか、王女様が上目遣いで俺にそう言ってくる。そうなると弱い俺だ。カズマの足を放して、息を整える。

 

 

 ダクネスはそれを見て、王女様に一言。

 

 

「アイリス様、この男を甘やかしてはいけません! こやつは人の皮を被った性獣です。女と見れば、一緒に風呂に入りたがり、スキルを使えば下着を盗む。これはそんな男です。この私が人身御供になります故にアイリス様はどうか外へ」

 

 

「ひでぇ言われようだな。欲望に忠実な故か、それはお前が文句をつけれない事ではあるが……」

 

 

 具体的に言えば、ドMなとことか、めぐみんも爆裂狂だし、アクアはアクアでああだし、あれ、全員じゃね? 

 

 

「ええい! お前は黙っていろ!」

 

 

 王女様が何も言わずに、俯いて黙り込む。

「えっと、王女様? コイツには、アクセルの街でそれなりに名が売れた冒険者で、屋敷もあって、友人もいるんですよ。かくいう俺達も、コイツを心配して、ここにやってきました。だから、コイツを解放してくれませんか?」

 

 

 王女相手にこうした喋り方が良いのか悪いのかいまいちわからんが、とりあえず俺はそう言うと、王女様は悲しげな表情のまま、小さく頷き。

 

 

「そうですね……ワガママ言ってごめんなさい」

 

 

「いえ、こちらこそ、すみません」

 

 

「ねえララティーナ? それならせめて、今晩だけでもお別れの晩餐会を開いてはいけませんか?」

 

 

 申し訳なさそうに、上目遣いでそう言った王女様の頼みだ。聞かないわけにはいかないだろう。

 

 

 

 

 

 

●●●●●

 

 

 

 

 

 貴族や王族の晩餐会。

 それは華やかで豪勢で、俺は今までこんなパーティーに招待されたことなんて一度もなかった。

 

 

 アクアもめぐみんも会場に用意されたご馳走をモリモリとほおばるのを見て、俺達一般人にはきっと場違いな場所なのだろうと理解する。

 一応、全員が着飾ってはいるものの、雰囲気と佇まいで完全に浮いている。

 

 

 こういう時にとめるヤツがいるのだが、それがどうにもそうもできる状況でなく。チラリとそちらを見ると。

 

 

「ダスティネス卿! お父上のイグニス様はお元気ですか? わたくし、若い頃にはイグニス様にお仕えしていた事がございまして……」

 

 

「いいや、噂などあてにならないと思い知りましたよ! あなたの美に比べれば、百年に一度咲くといわれる幻の一夜草、月光華草ですら霞んでしまう! 実は、あなたに似合う良い店があるのです。このパーティーが終わったら、ぜひご一緒にいかがですか?」

 

 

「皆様お上手ですこと。パーティーには不慣れな身なもので、どうかお手柔らかにお願いしますね?」

 

 

 それを見て、カズマが隣に来たので、思わず。

 

 

「あれ、誰だ? 俺達のパーティにあんな美人いたっけ?」

 

 

「俺も気になってたところだ」

 

 

 そういうと、カズマと俺は、ダクネスのところまで行き。

 

 

「こんなところにいたのかララティーナ! お、モテモテだなララティーナ! 今日もドレスが似合ってるじゃないか、ララティーナ」

 

 

 カズマがそんな事を連呼すると、口に含んでいたワインを噴出したダクネス。

 

 

「ゲハッ! ゴホッ! し、失礼!」

 

 

 周りの貴族がギョッとした目を向けてくる中、むせているダクネスはハンカチで口元を拭うと。

 

 

「いきなりどうされたのですか? 冒険者仲間のサトウカズマ様、このような場で名を連呼されるのは困りますわ。相変わらずイタズラ好きですね。私達の関係を誤解されてしまうじゃありませんか」

 

 

「誰だ、コイツ……」

 

 

 どうやら先ほどの一言で貴族達もホッとしたのか、また口説き始める。カズマがまた何か企んだ顔をした瞬間だった。

 

 

「ここ近年、次々と多大なる功績を挙げているダスティネス様には、もっと相応しいお相手がいるだろう。少なくとも、貴公らでは話にならん」

 

 

「あれ? 領主様じゃん。なんでこんなとこいんの?」

 

 

「き、貴様らが! デストロイヤーのコアをワシの屋敷に送りつけたせいで、いまだに屋敷は建て直しをしているのだろうが! 今は王都の別邸に住んでおる。大体、平民の分際で、なんだその口の利き方は! もっと気をつけろ!!」

 

 

「唾飛ばさないでくださいよ。領主様」

 

 

「ところで、アルダープ様。ダスティネス様相応しいお方とはどなたで? まさか……」

 

 

 皮肉まじりな一言をアルダープに向ける貴族様の一人。それに対し、アルダープは第一王子ジャティス様と言う名をだす。どうやら前線で活躍している王子様らしい。というか王子様が前線で戦ってんのかよ。

 そんなお似合い話をしていると、カズマが爆弾話を連発。やれ風呂を一緒に入っただの、やれ背中を流しただの、特殊なプレイをしただのと。まあそれに黙ってるダクネスではなく、腕力にものを言わせ、黙らせてしまった。

 

 

 そんなこんなで隅っこにおいやられた俺達。めぐみん、アクアは貴族の女子達と楽しげに話をしている。俺はワインを片手にチビチビ飲みながら、テーブルに向かい、料理に手をつける。

 

 

「うまっ……」

 

 

 隅っこに居たカズマが王女様と何か話している。あら本当にぼっちになっちまったぜ。何回か貴族のお嬢様にも話しかけられたが、まあ結局すぐに離れていくんだけど。

 

 

 そんな事をしてたら、カズマが叫ぶ。

 

 

「これだぁぁぁああ!!」                                  




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義賊を捕まえよう

今回も駄文ですが、暖かい目でお願いします。


 どうやらカズマは義賊を捕まえるらしい。貴族達を困らせているという、その義賊を捕まえる為、カズマが一肌脱ごうと言ったのだ。

 

 

 無論、これは正義感から来るものではない。それは理解している。おそらく城への滞在期間延期を考えての事だろう。

 

 

 それにもし、義賊を捕まえることができれば、城の滞在も許されるかもしれない。カズマの考えそうな事だ。

 

 

 だが、あては外れたようで。城ではなく、現在最も狙われそうなアルダープの屋敷に来ている。

 

 

「――迷いもせず、ワシのところに来たのか」

 

 

 あからさまに不機嫌な態度を隠しもせず、ダクネスの身体を舐めまわすように見ていた。その次にアクアに視線を移す。ひぃと悲鳴をあげてカズマの後ろに隠れるアクア。

 

 

「領主様は、随分と欲望に忠実でいらっしゃる」

 

 

 俺は、呆れながらそう言うが、その言葉を無視し、領主はアクアを褒めちぎる。まるで女神のような美しさだと。

 

 

「まるで女神のようなじゃなくて、女神なんですけど!」

 

 

 カズマの後ろから頭だけ出して、そう言うが、それを冗談と受け取られる。次にめぐみんの方を見る、そして何か言葉を綴ろうとした瞬間に護衛の男が何か耳打ちをする。

 

 

「……には、お気をつけを……、あれが……噂の……頭が……」

 

 

「……あれが……おかしい……危険な……」

 

 

 聞き取れるワードだけで、おおよそ何を言おうとしてるのが分かる。俺ですら分かるのだから、めぐみんならば――。

 

 

「おい、私から目を逸らしたのは、どういう意味か聞こうじゃないか! 返答によっては、その男が言った噂どおりの力をお見せしますよ!!」

 

 

「いや、その……あなたもその、可憐で美しく……」

 

 

「ほう、それでそれで? 日頃からアクセルの街を守っている功労者へのお褒めの言葉が少ないのでは? 今から爆裂魔法の凄さをお見せするのでちょっと、庭を貸してください!」

 

 

 ギョッとした顔をしたアルダープは俺とカズマの方を見て、助けを求めるような眼差しを送る。

 

 

「いや、あなたの凄さは十分分かったので……!」

 

 

 なんというか、ウチのパーティメンバーは強かだな。

 

 

「し、しかしダスティネス卿は、私を義賊に狙われる悪徳領主だと言いたいのですか? それにワシの家に泊まりたくもないのだと思っていましたが、案外嫌われていなかったご様子だ。だがダスティネス様ともあろう方が、巷に流れる悪い噂を鵜呑みにされ、ワシに疑惑を抱いているのだとしたら心外ですな、どうぞワシが義賊に狙われる男と思っているのならば、いつまでもご滞在ください」

 

 

 こうした嫌味混じりな事を言われ、しどろもどろしているダクネスに続く。

 

 

「火のないところに煙はたたない。悪い噂が流れるということは、それだけ疑惑があるという事ですよ、領主様。これも捜査ですので、手がかり一つないとなると、こうした巷の噂に頼るしかないので、まあ好きなだけ泊まれるとおっしゃるならば……」

 

 

 ここで部屋の争奪戦が始まった。カズマが一番大きい客室を選択し、アクアは食堂から近い部屋を所望する。次にめぐみんは一番天辺の部屋と好き勝手言い合っている。

 

 

「待てコラァァ!! 俺も混ぜろやぁぁああ!!」

 

 

 もちろん俺も参戦する。

 

 

「す、すみません。お世話になります」

 

 

「あ、あぁ……構いませんとも、ダスティネス様も大変そうで……」

 

 

 若干の憐れみ目をダクネスに向けていた。

 

 

 

 

 

●●●●●

 

 

 

 

 巷で噂の義賊は単独犯らしい。貴族の屋敷に侵入しては、その盗んだ金を孤児院にばら撒くという、まあ典型的な義賊といえるだろう。しかもかろうじて捉えた目撃者の話では、どうやらその義賊はかなりのイケメンとの話だ。

 

 

「義賊のやってることは犯罪であり、褒められたことではないのだが、正直に言って、あまり気は進まないな」

 

 

「ま、犯罪っつっても、やり方がやり方だから責めにくいってのがあるよな。悪い事と良い事併用してやってっからそう見えるだけだけど」

 

 

 カズマの部屋でそうした話をしていると、カズマが。

 

 

「だが盗みは盗みだ。俺は弱者の味方とか、困ってる庶民を救うとかそういう大層な大義名分を掲げるイケメンが大っ嫌いだ!」

 

 

 カズマがそう言い放つと、ダクネスとめぐみんが微妙な顔をする。

 

 

「なんというか、お前の顔もそこまで捨てたもんじゃないからあまりいじけるな。以前から感じていたが、イケメンという言葉にコンプレックスでもあるのか?」

 

 

「私はカズマはそこそこ格好良い顔立ちだと思ってますよ。そこまで自分を卑下しないでください」

 

 

「や、やめろよ。そこで優しくされると俺がちっぽけに見えてくるからやめろよ! なんだよアクアまで、いつになく真剣な顔で」

 

 

「汝、迷える引き篭もりよ。あまり自分を責めることなかれ、頑張れないのは世間が悪い、性根が悪いのは環境が悪い、見栄えが悪いのは遺伝子が悪い。自らを責めずに他人の所為にするが良い」

 

 

「ふざけんな! そこまで卑下してねぇーよ!! 見てくれはともかくとして性根の方は……おい、なんだよその目は、やめろよ! これ以上俺に優しくすんじゃねぇー!」

 

 

「カズマ、お前の性根は悪くねぇよ」

 

 

 俺が優しい笑みを浮かべてそう言うと、カズマはまるで一筋の光を見つけたかのような顔になり。

 

 

「ただちょっとひねくれてるだけだ」

 

 

「味方するなら、最後までしろよぉぉおお!!?」

 

 

 そう言われてしまった。

 微妙に優しくされたカズマは俺達を振り払い、考え込む。おそらく義賊を捕まえる作戦を練っているだろう。

 

 

 この屋敷に泊まることになった翌日。

 

 

 カズマは義賊が忍び込めそうな場所を探していた。一人では面倒だと、俺も付き合っている。するとカズマがキッチンの窓の立て付けが悪い事に気づく。簡単に外れるようにできているようで、忍び込むならここだろうと予測する。

 

 

 そして、カズマは次に中に入り、そこからどう行くかを予測する。壁に手を当ててそれに沿って歩いていく。おそらく忍び込むなら夜と考えての事だろう。そこから歩いていくと、こぢんまりとした部屋の扉にたどり着く。

 

 

 そこには何もなさそうだが、義賊ならば入り込むだろうと、そこを開くと、そこは大きな鏡があるだけの部屋だった。

 

 

「むっ? なんだ貴様らか、どうした、この部屋には何もないぞ? 用もないのにウロウロするな」

 

 

 領主様の足元にはバケツとタオルがあり、どうやらこの鏡を拭いているようだった。

 

 

「なんだよ、この部屋は……試着室か何かか?」

 

 

 俺はそう言いながら、鏡に近づくと、そこから奥が見えてくる。その映っている先は浴槽。どうやら隣の風呂場と繋がっているようだ。風呂場にメイドさんが入ってくる。どうやら掃除をするようだ。そのメイドさんはこちらに気づく様子もなく、掃除を続けている。

 

 

 ここはどうやらこちら側からしか見る事のできない、所謂マジックミラーのようになっているようだ。

 

 

「領主様さぁ……」

 

 

 俺は呆れたようにそう言うと、領主様は顔を背けながら。

 

 

「お、お前達も覗くか?」

 

 

「俺達がそんな話に乗ると思うか? まったくダクネスが泊まることになったから鏡の手入れに来たんだな? せめてもの情けだ。ここの事は内緒にしておいてやる。その代わり俺達が滞在している間はこの部屋は使わせないぞ? その間は俺がこの部屋で寝泊りする。ほらさっさと出て行った」

 

 

 シッシッとカズマが手で払うと、領主様は悲しそうに肩を下げながら、出て行こうとするが、扉の前で止まり。

 

 

「ちょっと待て! 貴様がこの部屋で寝泊りするという事は……?」

 

 

「おっと、ゲスの勘繰りはやめてもらおうか! 俺は仲間が心配だからここで寝泊りするだけだ!」

 

 

「ならば、入浴時間中にワシを見張ればいいだけの話ではないか! わざわざ寝泊りする必要はない! 貴様のような小僧にララティーナの裸は拝ませんぞ!」

 

 

「残念でしたー! 俺はもうダクネスと一緒に風呂に入ってました!」

 

 

 見苦しい言い合いである。

 

 

「それに、メイドさんたちにこの事を知られて嫌われたくないだろ! これは皆が幸せになれる取引なんだよ!」

 

 

「お前しか幸せになってねぇだろうが、俺も混ぜろや」

 

 

「ウチのメイドはセクハラされるのも仕事の内だ! だがやつらは脱いだら凄いぞ? どうだ、お前らからはワシと同じ臭いがする。お前らこそ取引しないか? 仲良く一緒に幸せになろうではないか?」

 

 

「そ、そんなに凄いのか?」

 

 

「あぁ、すんごいぞ」

 

 

「ぐ、具体的にどれぐらい……」

 

 

 俺がそう聞くと、扉の外から声が聞こえてくる。

 

 

「面白そうな話だな、なにがすんごいのか聞こうではないか」

 

 

 ほとんど反射的な動きだった。俺達三人は一斉に指差して、俺とカズマは領主様に領主様は俺達二人に。

 

 

「「「コイツが覗きをしようと……」」」

 

 

 マジックミラーは叩き割られました……。

 

 

 

 

 

●●●●●

 

 

 

 

 

 

 

 

 この屋敷に泊まって一週間が経過しただろうか。そうすればいい加減この生活にも慣れてくる。めぐみんは一日一爆裂を欠かさず続けており、そして武勇伝をメイドさん達に、果ては領主様にもしていた。

 

 

 アクアはこの屋敷にある酒をすべて飲み干さんばかりに飲んで、飲んで、飲み漁っていた。

 

 

 カズマも贅沢とワガママの限りを尽くしている。

 

 

「いやぁ慣れたもんだなぁ……」

 

 

 俺が屋敷に入るや否や、こんな感じ。ちなみに俺は軽く外に出てモンスターを狩っていた。ここら辺はアクセルの街にも出ないようなモンスターが見られたので、俺はそれを見物がてら倒して回っていた。クエストとかではない。

 

 

「あ、メイドさん俺に何かつまめるものとお酒頂戴」

 

 

「はい、かしこまりました」

 

 

 そう言いながら、俺はソファーで横になって、おつまみとお酒を待つ。そんな贅沢三昧をしていた俺達。部屋の隅にはダクネスが小さくなっていた。

 

 

 そこに領主様が現れる。一週間前よりちょっとだけ痩せたような――やつれたような顔をしながら、ダクネスに声をかけていた。

 

 

「ダスティネス様。その……遠慮なくいつまでもと、そう言っておいて何ですが……」

 

 

「分かってます! すぐに出て行かせます!!」

 

 

 ダクネスが恥ずかしそうに今にも泣き出しそうな顔でそう言って頭を下げていた。

 その日の深夜にふと、俺は目を覚ました。ぶるりと身震いをする。

 

 

「トイレトイレっと」

 

 

 俺は尿意に襲われ、トイレに駆け込んだ。トイレで用を足した後、自室へ戻ろうとした時だった。大きな物音がキッチンの方から聞こえてきたので、俺はすぐさまそちらに向かう。

 

 

 そこには縄で拘束されたカズマが横になっており、すぐさま俺はキッチンの窓を覗き込む。そこには人影は見えずに、おそらく既に立ち去った後なのだろう。

 

 

「大丈夫か、カズマ」

 

 

「あ、あぁ……俺とした事があと一歩のところで義賊を取り逃がしちまった」

 

 

 カズマが対人戦闘で負けるとは……なんて考えてると、後ろからダクネスが入ってき、それに続いてアクア、めぐみんが来る。

 

 

「無事か、カズマ! リュウトもいたのか! 二人とも無事か!?」

 

 

「あぁ、俺はこの通りだけど、カズマがな」

 

 

「義賊は仮面をつけた男だった。あれはかなりの手練れだった。下手すれば魔王軍幹部なんて目じゃないぐらいの……」

 

 

「そ、そこまでの相手だったんですか!?」

 

 

 めぐみんが驚きの声をあげていた。

 そこからずっと黙っていたアクアがカズマの前に出てくる。

 

 

「ねぇ、そのミノムシみたいな状態のカズマさんって身動きできないの?」

 

 

「あぁ、『バインド』のスキルでこうなっちまってな。そういやお前ってこういうスキルを解除する事できないのか?」

 

 

「私を誰だと思ってるの? できるに決まってるじゃない」

 

 

「だったら早くなんとかしてくれ」

 

 

 カズマがそう言うと、アクアは。

 

 

「その前にカズマさん。一つ聞いてほしいことがあるの……」

 

 

「なんだよ、言ってみろよ」

 

 

 そこからアクアはカズマの居ない間に、カズマの部屋にあったフィギュアを壊した事、カズマの部屋で飲み散らかして、さらには他にもいろんなモノを壊したことを話していた。

 

 

「ごめーんね?」

 

 

 アクアはそう謝ると、カズマはあからさまにこめかみに青筋を浮かべながら。

 

 

「おい、リュウト! お前の『フルキャンセル』でこれを解いてくれ! 今からコイツを張っ倒してやる!!」

 

 

「あ、ああ……」

 

 

 俺が『フルキャンセル』を放とうとした瞬間に、俺はダクネスに止められる。

 

 

「そういえば、随分と面白い状態じゃないか」

 

 

「今、気づきましたがそうですね……」

 

 

 ダクネスとめぐみんがニヤリと顔を歪めた。まあ今回はやりすぎってのもあるかも。

 

 

「ちょ、おい……待て! リュウト助けてくれ! やめてくれぇぇえええ!」

 

 

 騒ぎを聞きつけた領主様がキッチンに駆けつける。

 

 

「おい、何の騒ぎだ! まさか本当に賊が……!?」

 

 

「助けてぇ!!」

 

 

「助けてぇはないだろう! ほら、今回散々迷惑をかけてごめんなさいと! 調子に乗ってごめんなさいと! 恥をかかせてごめんなさいと言ってみろ!!」

 

 

「迷惑かけてごめんなさい! 調子乗ってごめんなさい!! 恥をかかせてごめんなさいっ!!!」

 

 

「カズマ! あの格好良いセリフをもう一度お願いします! ほら、何点ですか!? 私の爆裂魔法は何点!?」

 

 

「ああいうのは一回しか言わないからいいんだろうが!! 何回も言わせるな恥ずかしい!!」

 

 

「助けてくれ、リュウト!! 助けてくれぇええええ!!」

 

 

 さすがに可哀想になってきた。俺はそこで皆を止めて、カズマを解放してあげた。




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久々の再会

今日も駄文ですが、温かい目で見てください。


 翌朝。

 

 

 俺達は昨日の件で、城にやってきた。ここは謁見の間と言われる、城の最奥。そこで昨日出会った怪盗の話を王様の代理であるアイリスにしていた。

 

 

 凄腕の怪盗だったと語っている。だが周りの貴族の印象はあまり宜しくない。だが実際、本気のカズマ相手にロープでグルグル巻きにした挙句、あっという間に逃げたのだ、凄腕と言われても問題ないと思う。

 

 

「ふむ、まあいいでしょう。魔王軍の幹部と渡り合ってきたカズマ殿の言葉です。嘘発見の魔道具を使うまでもない。ええ、その義賊とやらはきっとよほどの相手だったのでしょうね」

 

 

「なんか、感じ悪ーい」

 

 

 そう空気を読まず、俺がそう言い、続けて何かを言おうとした瞬間、ダクネスに口を塞がれる。

 

 

「モガモガー!!!」

 

 

「ええい! お前は少し黙ってろ!!」

 

 

「その……。何にしてもご苦労様でした! あなたは義賊逮捕に失敗したのではなく、義賊の盗みを防ぐことに成功したのです。何者にも責められるいわれはありません!」

 

 

 顔を赤くし、拳を握り、そんな事を言っている。そんなアイリスを見て、クレアも苦々しい表情だ。

 

 

「寛大なアイリス様がこう仰せだ。本来ならば、あれだけの大言を吐き失敗したのだから、本来罰があるものだが、アイリス様のお慈悲に感謝するのだな! さあ、あなたをこれ以上城に置いておく理由がない! とっとと立ち去れ!」

 

 

 謁見の間から出ると、カズマに対し、随分とよそよそしい態度となっている執事とメイド。どうやらカズマはこの城でもう大したことないと知れ渡ってしまったようだ。実際のところ、対人は最強だと思うがな。

 

 

「まあ何だ、今回のことは気にするな。お前はよくやった。アイリス様のおっしゃる通り、賊の犯行を防いだのも事実だからな。だが、もう帰ろう? 街に帰ったら、しばらくは働けとも言わん。バニルから大金を得るのだろう? 少しゆっくりするが良いさ」

 

 

 ダクネスがそんな事言うとは……。

 

 

「カズマ、もう気が済んだでしょう? アクセルの街に帰りましょう。別にこの城じゃなくても、アクセルの屋敷でゴロゴロすればいいじゃないですか」

 

 

 二人がカズマを慰めている。

 

 

 ため息を吐き、カズマが一旦帰ると了承する。その言葉にダクネスとめぐみんもホッとした表情をしていた。

 

 

(ま、何もカズマもここでの生活のためだけに、ここまで固執していたわけでもない気もするが……)

 

 

 王女様の事を考えながら、そんな事を心の中で呟く。確かに快適であっただろうが、それにしたって固執しすぎと感じていた。なんだかんだアクセルの街での生活が悪いわけではない、なのにわざわざ義賊を捕まえるなどと言い出すほどに固執したのには違和感があった。

 

 

 おそらく王女様関連の何かだろう、なんだかんだ、あの王女様もカズマを気に入っていた、カズマも妹のように接していたし、きっとカズマはあの王女様のためにあそこまで頑張っていたのだろう。クズだなんだと言われるが、根っこの部分はどうしようもなく善人なんだ、コイツは。

 

 

「ねえカズマ、リュウト。帰るなら明日にしない? どうせならお土産を買いたいの。王都には良いお酒が沢山あるのよ、ねえ、どうせ暇なんでしょ? 一緒に買い物付き合ってよ」

 

 

 アクアがそんな事を言ってきた。完全に荷物持ち目当てだろう、お前……まぁいいけど。

 

 

 

 

 

●●●●●

 

 

 

 

 

 

「王都のお酒もぜんぜん大した事ないわね。これならアクセルの街のマイケルさんのお店の方がよっぽど良いものがあるわ」

 

 

「お前、着実に知り合い増やしていってるよな……。こないだ屋敷に肉屋のおっさんが来て、治療の礼にって高級な肉を置いてったぞ」

 

 

 カズマがそう言ってたが、俺、それ知らないな。

 

 

「ねぇ、それ私知らないんですけど、それ貰った記憶ないんですけど」

 

 

 アクアがジロリと見ながら言う。カズマはさも当然とばかりに。

 

 

「あぁ、お前とめぐみんとリュウトがいなかったからな、ダクネスに調理してもらって二人で食べた」

 

 

 ガシッと取っ組み合いが始まる。俺は傍から見ていた。

 

 

「あれ? こんなところで奇遇ですねアクア様!」

 

 

 背後から突然声を掛けられた。そこには魔剣使いのソードマスターの男が立っていたのだ。久々に会ったな。えっと、ミカガミだっけ? 確かそんな名前で俺達と同じ出身のはずだ。取り巻きに女性が確か二名居たはずだが、今日はどうやら一人のようだ。

 

 

 アクアの方は戸惑いながら。

 

 

「だ、誰?」

 

 

 何回か会ってるはずなんだがな。ミカガミはそれを聞いて可笑しそうに吹き出す。それも少し様になっているのだから、イケメンは得だな、と思う。

 

 

「まったく、冗談がお好きですねアクア様」

 

 

 というか、アクアに様をつけてるのって何気にコイツだけだな。アクアがカズマと俺の後ろに隠れながら。

 

 

「ねえ、カズマ、リュウト。この人誰? 随分と馴れ馴れしいんですけど……?」

 

 

「お前なぁ……自分で送り出しておいてそれはないだろ。コイツはミカガミだよ」

 

 

「え? カツラギじゃなかったっけ?」

 

 

「あれ? そうだっけ? 悪いカツラギ」

 

 

「ミツルギだ! 誰だ、それはっ!?」

 

 

 青筋を立てながら、そう言うミツルギ。一応、何度も顔を合わせているはずなのだが、どうやらまだ思い出せてないようだ。

 

 

「まだ、わかんないか? 魔剣の人だよ、魔剣の」

 

 

「その前に残念な、がつきそうだがな」

 

 

「おい、誰が残念な魔剣の人だ! 言っておくが、僕はな……ッ!」

 

 

 そう言い終える前に、アクアがポンッと手を叩き、思い出す。その仕草にさすがに本気で忘れられていたことに気付くミツルギ。

 

 

「お、おい、佐藤和真、峰沢龍斗。二人はさすがに本気で僕の名前を間違えたわけじゃないよな? た、試しに僕の下の名前を言ってみてくれないか?」

 

 

 唇を震わせながら、そう言うミツルギに、俺とカズマはお互いに顔を向け。

 

 

「「どうぞ、お先に」」

 

 

「キョウヤだっ! ミツルギキョウヤ! 覚えてないなら、素直にそう言ってくれ! 何譲り合ってるんだ!!」

 

 

 声を荒げるミツルギは、頭を振り、大きく息を吐いて落ち着く。

 

 

「やはり、君達とは決着を付けておかないといけないようだ。あれから僕も腕を上げた。今度はあんな簡単にはいかない! さあ、もう一度僕と」

 

 

「お前何言ってんの? 決着ならもう付いただろ? 俺達が勝ったじゃないか、そしてもう再戦はしない。駆け出しの頃にお前に勝ったという事実だけ抱いて、俺は勝ち逃げさせてもらう」

 

 

「……」

 

 

 悲しそうな顔をするミツルギ。実際、負けは負けなので仕方ないが、俺がミツルギの肩に手を置き。

 

 

「俺なら、別に構わないぜ? さあ、やろうぜ」

 

 

 顔を伏せていたミツルギが少し嬉しそうな表情になり、広場で俺とミツルギが向かい合っている。

 

 

「さあ、今日は前のようにはいかないよ」

 

 

 そう言い、魔剣を構え、ミツルギが迫ってくる。当然、それを真正面から受けるような真似はしない、俺も同じく近づきはするが、ミツルギが剣を振り下ろす、と同時に半身を逸らしながら、それを避けると同時に、剣を横薙ぎに払う。

 

 

 鎧を全身に身に纏っていても、同じソードマスターの一撃は効果的だ、それで軽く飛ばされるミツルギにさらに追撃を加え、猛攻を仕掛ける。だが当然それを何度も喰らうミツルギでもない、すぐさま魔剣で弾く、そして次は自分の番だと言わんばかりに、鋭い一撃を放つ。それを紙一重で避ける。

 

 

「つか、お前。んな重いそうなもん着てよくもまあ、そんなに動けるなっ!?」

 

 

「当たり前だ! 僕はソードマスターだぞ。筋力だってそれなりにある!」

 

 

「うちのドMと良い勝負しそうだぜ」

 

 

「それにしても、思ったよりもやるね。君自身も大分強くなっているようだ、だが……」

 

 

 次の瞬間。思った以上の速度で、魔剣を横薙ぎに払うミツルギ。避けるために後退しようにも、さすがに間に合わず、咄嗟に剣でガードするが、それを弾かれ、飛ばされる。

 

 

「うおっ!?」

 

 

「フッ、僕の勝ちのようだね」

 

 

 そう言って、持っていた剣を振り下ろそうとした瞬間だ。掌を構え、放つ。

 

 

「『フルキャンセル』!」

 

 

「ッ!!」

 

 

 とっさにミツルギが大きく後退する。ミツルギは格好をつけた笑みを浮かべながら、サラサラの髪を靡かせる。

 

 

「フフッ、甘いよ。僕がそれを一番警戒していたに決まってるだろう? 僕と同じなんだから」

 

 

 そう言い、再び剣を構える。

 

 

「チッ、面倒臭ぇな」

 

 

 すぐさま剣を持ち、構え、目の前のミツルギを見据える。まさか避けられるとは思わなかったが、とりあえず剣を握る力を強め、一気に距離を詰める、持っていた剣を振り上げ、袈裟斬りを行う。だがそれよりも早く魔剣で鍔迫り合いに持っていく。

 

 

「くっ、この野郎……」

 

 

「ぐっ、随分と君自身も実力を磨いたようだね……!」

 

 

(このままじゃ埒が明かないな……)

 

 

 ほんの一瞬だった、俺が力を急に緩めたことで、ミツルギが体勢を崩し、剣を片手に持ち替え――。

 

 

「『フルキャンセル』」

 

 

「くっ――!」

 

 

 体勢を崩していたことにより、満足に動くことが出来なかったため、フルキャンセルをまともに喰らい、動けなくなった。

 

 

「はーい、俺の勝ち!」

 

 

 正直、あと少しで負けそうだったが、なんとか勝つ事ができた。いや、正攻法でいったら普通に強いわ、ミツルギ。

 

 

「いや、負けたよ。峰沢龍斗。君も随分と強くなったようだね。僕もこれから精進して、君を超えるよう努力するよ!」

 

 

「お、おう」

 

 

 熱血っぽい感じで来られると、少々たじろいでしまう。とりあえずミツルギに勝てた事で、満足だ。

 

 

「じゃ、俺らはこの辺で、そろそろ」

 

 

 そう俺が言い、二人と共にここから離れようとした時に、ミツルギが慌てたように呼び止める。

 

 

「あ、ちょっと待ってくれないか! そういえば、君達に話さなければならない事があったんだった!」

 

 

 そう言って、近くにあった喫茶店にミツルギと向かい合っていた。ちなみにテーブルにアクアとカズマが隣同士で、俺とミツルギが隣同士だ。一通り注文をした後にミツルギがテーブルに両手を組んで前屈みになる。

 

 

「話す前に……ちょっとアクア様に渡したいものがあるんですよ」

 

 

 そう言って取り出したモノはかわいいラッピングをされた小箱。ナプキンでせっせと何かを作っているアクアの前にそれを差し出す。

 

 

「アクア様は、アクセサリーの類を身につけておりませんでしたよね? そんなものがなくても、あなたは十分お美しいのですが、もしよろしければ、どうぞ……」

 

 

 と、なかなかに気障ったらしい台詞を並べながら、差し出すそれは、妙に様になっており、顔が歪んでしまう、それはカズマも同じようで。

 

 

「……? 何? くれるの?」

 

 

「ええ、どうぞ。安物ですので、アクア様がお気に召すかわかりませんが……」

 

 

 爽やかな笑顔を浮かべながら、それを差し出す。

 

 

「そういや、お前といつも一緒にいる二人はどうしたんだよ? こんなところでナンパなんてしてていいのか?」

 

 

「いや、彼女達は大事な仲間でそういった関係ではない。それと彼女達は隣国でレベル上げをしている。僕がいるとどうしても、僕が一番倒してしまうからね」

 

 

 向こうは絶対にそう思ってないだろうが、気がないのかご愁傷様。

 

 

「随分と立派なご身分で……」

 

 

 カズマがそう言いながら、プイッと顔を背ける。

 

 

「さっきから、随分と機嫌悪いな。お前」

 

 

「あぁ? そうか? いや……まあ良くはない」

 

 

 そんな会話をしている俺達だが、アクアは何の関係も無く小箱を開ける。そこにあったのは指輪であり、とてもじゃないが安物とは思えない、というかおそらく結構な高級品だ。しかしアクアの指のサイズをミツルギは果たして知っていただろうか? そんな事を思ってると、アクアが指輪をはめようとしたが、どうやらサイズがあってなかったようだ。

 

 

「あぁ、それは魔法でサイズを調整――」

 

 

「ねえカズマ、リュウト見て見てー」

 

 

 ミツルギの話に被せ、そう言ったあとにナプキンでその指輪を隠し、そしてもう一度ナプキンをそこから取ると――。

 

 

「ででーん」

 

 

 そこにあったはずの指輪がどこかに無くなってしまった。

 

 

「凄いな……というか、どこにいったんだ?」

 

 

「消えたんだから、どこにいったかなんて分かるわけないじゃない」

 

 

「え?」

 

 

 ミツルギが間の抜けた声を漏らす。

 

 

「サイズの合わない、安物の指輪だったけど、一芸の役に立ったわ、ありがとうね」

 

 

 そう言って、屈託の無い笑みを浮かべるアクアに何も言えなくなった、ミツルギは。

 

 

「い、いえ……アクア様の芸のお役に立てたのなら、僕も嬉しい限りです……」

 

 

 乾いた笑いを浮かべるミツルギ。さすがに気の毒だ。

 

 

「それじゃ、話をしようか……これは君達にとっても、人事じゃないんだ」

 

 

 そうしてミツルギの話を纏めると、どうやらアクセルの街に巨大な光が舞い降りた、と魔王城の預言者が伝えたらしく、それの確認のためにベルディアが派遣され、そのベルディアが討たれ、続いてバニルも行方不明。さらにシルビアまでもが最近、討たれたとの事で、それらに関して、全てにある冒険者パーティが関わっているという噂が立っているらしい。

 

 

 そしてそのアクセルの街を拠点にしている冒険者パーティに興味を持っている魔王が、再びアクセルの街に魔王軍幹部を送るかもしれないという事だった。

 

 

「はじめは、その巨大な光というのは僕のことかと思ったのだが……そ、そんな目で見ないくれ」

 

 

 まず間違えなくアクアの事だろう。

 

 

 カズマがこの勘違い野郎って顔でずっと見ている。それを嫌そうに顔をしかめるミツルギに。

 

 

「できたわ。はい、これ。指輪のお礼に、作品タイトルは変形合体エリス神。胸部装甲は着脱式で、三段階の変形が可能なの」

 

 

 そんな訳のわからない事を言いながら、差し出したそれを苦笑しながら受け取るミツルギ。その作品を俺とカズマもなんとなく視線を移した瞬間。

 

 

「「「凄っ!?」」」

 

 

 三人同時にハモる程度には凄い作品が出来ていた。どことなくエリス様の面影がある、その折り紙は既に折り紙などの領域を軽く凌駕して、アートと化していた。

 

 

「おいおい、俺にも作ってくれよ」

 

 

「俺もほしいな」

 

 

「嫌よ、同じものは作らないの。高速機動冬将軍なら作ってもいいわよ、リュウトは機動式デストロイヤーね」

 

 

「なんでもいいけどさ」

 

 

 そういって、ナプキンを折り始めるアクア。

 

 

(ナプキン足りるか?)

 

 

 そんな疑問を浮かべていると、ミツルギがフッと笑みを浮かべて立ち上がる。

 

 

「佐藤和真、僕がもう少し強くなるまで、アクア様のお守りを頼む。それでは女神様、失礼します。この折り紙は大切にしますね」

 そう言うミツルギにうん? と声をあげて顔をあげるアクア。

 

 

「……? ああ、うん。またね? ……ねぇ、カズマ。やっぱり変形機能は必要よね?」

 

 

「いるだろ。常識的に考えて」

 

 

 そんな二人のやり取りを見て、ミツルギは少し寂しそうな顔をしながら。

 

 

「君はアクア様と本当に気が合うんだね」

 

 

 そう言って、それじゃあと言ってミツルギは立ち去っていった。

 

 

(なんというか、不憫属性でも持ってるのだろうか、アイツは)

 

 

 

 

 

●●●●●

 

 

 

 

 

 宿屋の帰り道。

 

 

「そういえば、久々に女神様って呼ばれた気がするわ。あのカツラギさんって人、そんなに悪い人じゃないかも」

 

 

 そう思うなら、名前ぐらい覚えてやれよ。

 

 

 そうウキウキな感じで言っているアクア。これを魔王が気にしている、気にしているのか、これを。

 

 

「それより、今晩の飯、どうする? 王都って激戦地だからか、強力で新鮮なモンスターがたくさん獲れて、宿屋はそれを持ち込みが基本らしいぜ。持ち込んだ材料で経験値たっぷりな美味しいモノが食べられるから、俺はこってりとした高級な肉で焼肉が食べたいな」

 

 

「ええ? 私は今日あっさり気分なんですけど? 生野菜と何かのタタキとかで、強めのお酒できゅっとやりたいんですけど」

 

 

「俺はどっちでもいいけどな、二人で決めろよ」

 

 

「じゃあ、ジャンケンで勝負しようぜ。お前を女神だと思い出したから、三回勝負で一回でも勝てたら、言うこと聞いてやるよ」

 

 

「えぇ? 随分と殊勝な心掛けじゃない。それならいっそ、いつも素直に言い分を聞いてくれたらいいのに」

 

 

 そう言ってジャンケンをやる二人。

 無論、カズマが勝ち。その日は高級肉で焼肉になった。

 

 

 




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