サイボーグ009~Another Story~ (ピッシング)
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プロローグ
申し遅れてしまった。私の名はピッシング。もちろん本名ではなく、コードネームだ。私は死の商人、「ブラックゴースト」に雇われたBG緊急対応部隊に所属していた。
死の商人「ブラックゴースト」、以降BGと呼ばせてもらおう。彼らはあらゆる兵器を開発しては、世界中にそれをばら撒き、戦争の火種を投下し、戦火を拡大させていた。
そしてBGは、どんな局地的な戦場でも対応できる歩兵、いわゆるサイボーグの開発に乗り出した。その開発によって生み出された者たちが、9人の00ナンバーサイボーグだ。
私は彼らと共にBGを裏切り、彼らと共にBGと戦った。この作品には、私が彼らと共に戦った時の戦闘の記録や、彼らと共に経験し、感じたこと、そして彼らは何故戦ったのかを書き込もうと思う。
そして現在、この作品の添削やアドバイスをして頂いている、アイザック・ギルモア博士、グレート・ブリテン氏にこの場を借りて、感謝の意を表したい。
『作戦開始まで、あと10分。』
無線機から、小さな、しかし、はっきりとした声が聞こえた。そう、今日はBGに反旗を翻す日。ギルモア博士と8人の戦士たちと綿密な打合せを行った作戦を決行する日だ。
「了解。予定通り、ブラボーチームはギルモア博士と行動を共にする。アルファーチーム、チャーリーチーム、デルタチーム、予定通りで問題ないか?」
『こちらアルファーチーム問題ない。』
『チャーリーチーム、大丈夫だ。』
『デルタチーム、OKだ。』
「了解、各チーム作戦開始まで待機。ブラボーチームアウト。」
私はBG緊急対応部隊 研究員護衛小隊 ブラボーチームリーダー、ピッシング。対ロボット・対サイボーグ用徹甲榴弾を専門に取り扱う。サイボーグは普通の弾丸では傷一つ付けることが出来ない。戦車の装甲をも貫通する徹甲榴弾なら、ロボットやサイボーグ相手にもダメージを与えることができる。
「しかし、そう簡単に上手くいきますかね?」
彼のコードネームはパルス、対ロボット・対サイボーグ用のEMP弾を専門に取り扱う。体の半分以上が機械で出来ているサイボーグや、機械そのものであるロボットに、EMP弾は効果的だ。
「心配しすぎだ、パルス。あれだけ打合せをしたんだから、大丈夫さ。」
このちょっと男勝りな彼女はフラッシュ、対人・対サイボーグ用のフラッシュグレネード弾を専門に取り扱う。閃光や爆音に対する抵抗力は、生身の人間とサイボーグは、ほぼ同じと考えてもいい。彼女のフラッシュグレネード弾は相手の目と耳を潰すのに、適している。
「彼女の言うとおりだ、パルス。問題ない。迷ってはいけない。」
作戦を決行する上で迷いは禁物だ。一瞬の迷いが命を危険にさらすことがある。
「それなら良いんですけど・・・。」
パルスは海岸に目をやった。今日は清々しい程の晴天だ。押し寄せる波が、太陽の光を反射してキラキラ輝いている。
私たちBG緊急対応部隊は、もしも、職員やサイボーグ、戦闘ロボットが、反乱や誤作動を起こした場合に、即座に事態を鎮圧できるよう編成された部隊だ。その中の研究員護衛小隊は3人1チームで編成されており、重要な研究員一人に対して、1チーム配置される。私たちブラボーチームは00ナンバーサイボーグの開発に携わった、重要研究員4人の内の1人、アイザック・ギルモア博士に配置されていた。
「それにしても、もしも反乱が起きた時に対応する部隊が裏切るとは、BGも想像できないだろうね。」
「そうですね。僕たちもBGには嫌気がさしていたけど、まさかギルモア博士もそうだったなんて・・・。」
そうだ。この反乱を計画したのはギルモア博士だ。私たちブラボーチームは、ギルモア博士のもとに配置された頃から、いつもギルモア博士と一緒に行動を共にした。いつも行動を共にすると、自然と仲も良くなる。ギルモア博士は心の内に秘めた、BGの数々の悪行、BGに対する不信感を、私たちに話してくれた。
BGの理念としては、「世界中で発生している戦争を早期に終わらせるために兵器を開発し、提供する。」だった。しかし蓋を開けてみれば、とんでもない。まったく逆のことをしてきていたのだ。
「すまんが、君たちに話がある。」
約二ヶ月前、ギルモア博士は私たちにこの反乱計画について話をしてきた。BGに対して嫌気がさしていた私たちは、二つ返事で、その計画に賛同した。そして今、決行の時が訪れたのだ。
緊急を知らせる警報があたりに鳴り響いた。
『緊急警報発令!緊急警報発令!研究員は至急避難してください!緊急対応部隊は至急、対応願います!』
基地の各所に設置されたスピーカーから、落ち着いた男性の声が聞こえてくる。
「始まったな。」
私たちは、ギルモア博士のもとへ走った。
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第1話 誕生
ギルモア博士のいる研究室へ向かっている間、無線機からは怒号や悲鳴交じりの声が聞こえていた。
『こちら第4区画!実験体のサイボーグが脱走した!至急応援頼む!』
『こちら第7区画!奴の姿が消えた!』
『こ、こちら第5区画・・・!あの野郎、重機を持ち上げて・・・うわぁー!』
「・・・ずいぶんと派手にやってるね。」
無線を聞きながらフラッシュがつぶやいた。
「サイボーグ8体が一気に反乱を起こしたからな。対応が追いつかないのだろう。」
私がそう言うと、パルスが首をかしげながら言った。
「う~ん、でも緊急対応部隊も、そこまでヤワじゃないでしょう?僕たちが持っているようなEMP弾とかありますし、そう簡単に脱出できますかね?」
「パルス、無線をよく聞いてみろ。」
私がそう言うと、パルスは無線に耳を傾けた。
『EMP弾が爆発しない!フラッシュ弾も駄目だ!一体どうなっている!?』
『何故弾が当たらない!?弾が曲がる!?何が起こっている!』
無線を聞き、ハッとしているパルスに、私は笑みを浮かべながら言った。
「今日はイワンが起きている日だ。」
サイボーグ001 本名:イワン・ウィスキー 容姿は、かわいい赤ん坊だが、超能力を扱うことができる。彼が本気を出そうものなら、どんなに訓練された緊急対応部隊や、優れたサイボーグであろうとも歯が立たないだろう。
研究室に入ると、ギルモア博士と研究員たちが待っていた。
「お待たせしました、ギルモア博士。我々が護衛致します。」
「おお!来たか。頼むぞ!」
「避難シェルターに移動しましょう。僕たちが先導します。」
「いや、そこより格納庫へ向かってくれんかの?」
私とパルスは顔を見合わせながら、
「格納庫ですか?何故です?」
「ここは海に囲まれた孤島じゃ、奴らがここから逃げ出すとしたら、空からじゃ。」
「しかし、格納庫へ向かったとしても、あいつらを止められるかどうか分かりませんよ?」
「問題ない。すでに手は打っておる。皆も良いな?」
研究員たちに向かってギルモア博士が言うと、
「ええ、もちろんです博士。」
と、研究員たちは薄笑いを浮かべて言った。
「分かりました。では、格納庫まで護衛します。パルス、先導しろ。フラッシュは後方を警戒しつつ、ついて来い。」
「了解。」
「了解。」
そうして私たちは格納庫へ足を進めた。
格納庫へ進んでいる最中、8人のサイボーグたちが集結したと連絡が入った。
予定通りの時間だ。そう思いつつ、私たちは格納庫まで博士たちを連れて行った。
格納庫に入ると、博士は格納庫に備え付けられたスイッチを押した。
その途端、私たちがいる部屋が上昇し始め、5mほど上昇したら動作を止めた。真下を見ると、床がガラス張りになっている。
「格納庫に入るための道は、わしらが通ってきた通路1つだけじゃ。やつらは必ずこの通路を通り、わしらのいる部屋の真下の部屋を通過する。その時にこのボタンを押せば・・・。」
ギルモア博士がボタンを押すと、真下の小部屋の通路が全て、鋼鉄の壁で塞がれた。
「なるほど、ここで奴らを閉じ込めるということですね。」
パルスが言うと、ギルモア博士はニヤリと微笑んだ。
その時、無線に新たな情報が入った。どうやら、最新鋭のサイボーグ、サイボーグ009が勝手に起動し、反乱を起こしている8人のサイボーグと合流したというのだ。
サイボーグ009、はっきりとした能力は分からないが、今まで行われた実験の成果を応用して造られたため、他の8人のサイボーグよりも優れた戦闘能力を持つらしい。
その情報に研究員たちはざわめいたが、ギルモア博士の問題ないという発言に、安堵の笑みを浮かべた。
「あとは、奴らが来るまで、身を潜めておればいいじゃろう。」
そう言うと、ギルモア博士は部屋のライトを消した。
よし、ここまでは予定通り。あとは時間通りに9人がここまで来れば良い。
私は所持している武器、グレネードランチャーGL-06の安全装置を掛けながら、予定通り事が進むことを願った。
息を潜め続けて、およそ20分後、ついに8人のサイボーグが格納庫へ姿を現した。約5分の遅刻だ。
8人が格納庫へ入り、私たちが居る部屋の真下へ来た時、ギルモア博士が例のスイッチを押した。
通路に鋼鉄の壁が下りてくる。罠と気づいた8人が、その壁に打撃、レイガン、火炎を浴びせるも、壁が壊れることはない。
「ハハハ、無駄なことはやめたまえ。」
研究員の一人が、部屋の明かりを入れながら、8人に、人を見下したような言い方で言った。
一斉に顔を上げる8人。
「おとなしく研究施設へ戻るのじゃ。もう少しデータがほしいんでな。」
おお、ギルモア博士、悪の研究者っぽいセリフを言うもんだ。
「なんだと!僕たちはモルモットじゃない!」
こう叫んだのはピュンマだ。
サイボーグ008 本名:ピュンマ 戦闘のプロフェッショナルでもあるが、彼の真の実力が発揮できるのは水の中だ。彼は他のサイボーグよりも深く、長く、そして速く泳ぐことができる。その速さは、小型潜水艇ほどの速さだ。水中戦において、彼の右に出る者はいない。
「反乱などと、馬鹿な真似はよせ。こんなことをする為に、力を与えたんじゃない。」
ひげ面の研究員が言った。
「与えた?感謝してほしいような口ぶりだな!」
アルベルトが言う。
サイボーグ004 本名:アルベルト・ハインリヒ 右手はマシンガン、左手はレーザーナイフ、両足にはマイクロミサイルが発射できるようになっている。それぞれの武器の威力は凄まじく、彼の前に立つ敵は一瞬にして破壊されるだろう。
「こんな体になることを、私たちが望んでいたと言うの!?好き好んで改造されたって言うの!?」
これはもはや演技では無かった。一人の女性の、心の中の叫びのように感じた。
彼女はサイボーグ003 本名:フランソワーズ・アルヌール 彼女は索敵に特化しており、4km四方の索敵ができる聴覚と50km範囲を遠視する能力がある。彼女を敵に回したら、彼女のいる場所に近づくことは不可能になると言ってもいい。
このような会話が研究員と8人との間で繰り広げられている最中、私たちの目の前に、一匹のねずみが現れた。そのねずみは私たちにウィンクをしてみせた。
なるほど、グレートだ。
サイボーグ007 本名:グレート・ブリテン 彼の能力は変装、いや変身と言った方がいいだろうか。どんな物体にも化けることができる。彼ならば、敵地への潜入はもちろん、破壊工作まで、いとも簡単に出来てしまう。
よしよし、計画通りだ。
ねずみがグレートだと気づいた私たちは、ねずみが研究員たちの死角に入るよう整列した。グレートはへそのスイッチを押すと、白衣をまとった研究員の姿へ変身した。グレートは研究員の一人にレイガンを突き付けると、仲間を解放し、壁を開くよう促した。そこへ、予定通りグレートへ飛びかかろうとするギルモア博士。逆にレイガンを突き付けられ、人質となってしまった。
「おい、そこの傭兵集団、博士の命が惜しかったら、言う通りにするんだな。」
グレートが、にやつきながら私たちに言う。
「分かった。どうすれば良い?」
私は両手を挙げながら訪ねた。
「おたくらは、対サイボーグ戦闘のプロなんだろ?俺たちを倒す事を得意とする奴らを、野放しには出来ないね。一緒に来るんだ。」
私たちはグレート、博士と一緒に格納庫内部にある大型輸送機まで移動した。
移動している最中、ギルモア博士は
「撃つなー!撃たないでくれー!こいつらは基地の爆破コードを知っとる!わしがやられたら、基地を爆破するつもりじゃ!」
と言っていた。
私たちは予定に無い博士のアドリブに戸惑いつつ(笑いを堪えつつ)、大型輸送機に乗り込んだ。
「乗って!」
フランソワーズが009であろう青年に言う。
「何しているの?早く!」
009は輸送機に乗り込むことを躊躇していた。無理もない。彼が8人と初めて出会ってから、まだ一日も経っていないのだ。一緒に行くべきか迷っているのだろう。
「僕の案内はここまでだ。この先どうするかを決めるのは、君自身だよ。」
幼いながらも、力がこもった声でイワンが言う。そして続けてこう言った。
「僕たちはBGに鎖で繋がれている。だけど、その鎖を自分たちの力で、強い絆に変えることだって出来るかもしれない。」
009の表情が変わる。何かを決意し、覚悟を固めたような顔だった。
力強く009は前へ一歩踏み出し、輸送機に乗り込む。9人全員が乗り込むと大型輸送機は動き出した。
輸送機の離陸後、コックピットで、イワンは009に右手を差し出す。戸惑いながらも009はそれに応える。日は暮れかかっており、夕日の日差しがコックピット内に差し込む。夕日を背に009に笑顔を向ける8人、それを見据える009。9人の戦士が揃った瞬間だった。
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