LUKに全振りした少女の奮闘記 (騎士見習い)
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プロローグ
やってしまったぁぁ!!!という経験を人は少なからず一つや二つぐらい持ってると思う。それが解決できる事柄なら反省し、己を高めるキッカケになる。
じゃあ、逆なら?落ち込む?それとも現実逃避する?いくつかある選択肢の中で私は……。
──開き直りました!!
☆
SAO(ソードアート・オンライン)と呼ばれるVRMMORPGが話題となった……のも束の間。サービスが正式に始まって、すぐに開発者茅場晶彦の手によってゲームの死=現実の死となるデスゲームと化した。脱出方法は一つ、ゲームのクリア。
それはそうとして……
「えっ〜と……なんで、ここに、階層のレベルと全く比例してないモンスターがいるんですかね……?」
現在、攻略組と呼ばれる人たちが頑張ってますが私も絶賛、森林での採掘クエストで精を出していたのに目の前には《ウェアウルフ・マスター》と表記された狼男が絶好の獲物を見つけたとばかりに唾液を垂れ流している。
「ついてないよ!!!私!」
全力で来た道を走る!走る!走る!
見た目が狼なだけあって徐々に距離が詰められていく。獣臭い息が鼻腔にツンと刺すほどの距離まで近づかれ死を覚悟した私は走るのを止めようと足でブレーキをかけた瞬間。
たまたま足元がぬかるんでいたらしく後ろから倒れるように転んでしまった。
たまたま転んだことによって一瞬で視界から私が消えたことに混乱した《ウェアウルフ・マスター》は辺りを見渡しながら走ったことで目の前の岩に気付かず、ぶつかってしまった。
そして、たまたまぶつかった衝撃で岩は崩れ落ち《ウェアウルフ・マスター》は下敷きになりポリゴンとなって消えていった。
その光景を見届けた後、私はドロップしたアイテムを獲得すべく、崩れ落ちた岩の近くに立つ。
「あ、クエストアイテムだ。はぁ、運が良いのか悪いのか分からないよ………」
☆
私の名前は宮野 結萌 (みやの ゆめ)プレイ前は高校生でした。今はプレイヤー名YUUとしてSAOで日々がんばってます。
私が唯一、他のプレイヤーと一線を画すものがあるとすれば、それはLUKつまり幸運にステータスのポイントの全てを振っていること。初めてのステ振りである程度溜まったポイントを振ろうとした瞬間に街人Aが私と不運にもぶつかってしまい、私は《LUK》という忌まわしき三文字を押してしまったのが事の発端だった。
誰もがSTRやVITに振る中、私は……やらかしてしまったのだ。あの時のことは鮮明に覚えている。指先から血液が冷たくなって行く感覚が全身に回り虚空を何分も見つめていたものだ。
この世界にはステータスの初期化といった便利な機能など存在せず、私は何もせず死ぬくらいなら生きてる限り《LUK》に振り続けると開き直った。
それからの私は訪れる街、村で発生条件不明&受注制限ありの高レアクエストに挑戦することができたり、圏外に違和感ありありの宝箱を見つけたり、高レアモンスターと遭遇できたりと、この世界のプレイヤーなら羨ましい限りなんだろうけど、現実は非常です。
高レアクエストでは、自分のレベルでは勝てるはずがないモンスターが出たり、宝箱を開けたらミミックでHPがレッドゲージまで減らされたり、遭遇した高レアモンスターにも走馬灯を見るぐらい、ギリギリの戦いをしたり、と命がいくつあっても足りないのです。その甲斐あってか、装備やアイテムは伝説級やら幻想級と素敵なものを手に入れることができました。
と、こんな感じで私は日々の生活を平凡に暮らすために頑張っております。
拝啓、両親どの。私の運が尽きない限り、この世界で生きていけると思います。
ゆるく書いていくので、矛盾してたりしますがご了承ください
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ダンジョン探索
平凡な日々を過ごそうと努力しているにも関わらず非平凡な日々の訪れがすぐに来る。
「ユウちゃんは私たち血盟騎士団と共にダンジョンへ連れていきます!」
栗色の長い髪の毛が、発せられる言葉の強さを表現するかのようになびく。整った美しい容姿が若干、怒りに満ちているところを見るとコチラが怯みそうになる。
「い〜や、ユウは俺が二週間前から予約済みだ。残念だったな」
涼しい顔で平然と嘘を吐く彼。黒い髪に幼さを残す中性的な容姿と反対にメンタルは黒曜石並である。
「見え見えの嘘をつくな、黒の剣士」
「おいおい、人を嘘つき呼ばりなんて酷いぜ騎士様。俺が予約をしていないっていう証拠があるのか?」
お、おのれ…、と火に油ではなくガソリンを注いだらしく、剣の柄に手をかけようとする名も知らぬ血盟騎士団の団員。
「もう……勘弁してよぉぉ……」
☆
私はホームを持たないけど毎朝の日課として、42層でNPCが経営している『森の窯』という喫茶店での朝食が私にとっての幸せの一時である。ここのフレンチトーストと日替わりの果物が絶品である。
黄金色と少しの焦げ目がフレンチトーストの表面を彩る。今日の果物は《クヌの実》というキウイフルーツに似た果物。
この店の良いところはプレイヤー自身がNPCに好みの味や食感を伝えれば、それに合った果物を用意してくれるところです。
「いただきます!」
出来立てのフレンチトーストをフォークとナイフで一口サイズに切り、口に運ぶ。絶妙な味付け、とろける食感、まさに絶品!
「こうして美味しいものを食べれることこそが幸福ぅ〜」
ハムハムと食べ進め、食後のミルクを味わっていると、バタン!と乱暴にドアを開ける音が店内に響き渡る。私は恐る恐る振り返ると、そこには赤と白を主体とした店に似つかわしくない甲冑に身を包んだ騎士が五人ほどいた。
嫌な予感がビンビンとする中、騎士の集団を割って入るように一人の女性が現れた。
「やっほ〜、突然来てごめんね。ユウちゃん」
「ものすごく気にしてるけど大丈夫だよ、アスナちゃん」
「あはは……。ま、まぁ、それは置いといてくれるとありがたい、かな」
困り気味の苦笑いでも絵になるのが美少女。クッ、これがヒロイン属性ってヤツなの!?
「それでね。今日、来たのは私たちと一緒に……」
アスナちゃんの言葉を遮るように、またしてもドアが勢い良く開く。
「やぁ、ユウ。元気……か。ってなんで血盟騎士団が?」
「やぁ、キリトさん。さっきまで元気だったけど今まさに元気を失ったところだよ」
平穏を脅かす奴らが来たのだ……。
☆
と、こんな感じの回想でした。はい。
未だに睨み合いが続いてる。
事が終わるまで大人しく残りのミルクを味わおうと思い、再び席につきコップに手を伸ばそうとすると、サッと横から取られる。
「いつもいつも言ってるじゃないですか……。朝だけはやめて欲しいって。ねぇアルゴさん」
今回の騒動の原因+ミルクを取った犯人の方を見る。黄色いフードを深く被っているせいで素顔は見えないが立派なネズミの髭だけは本人だと証明してくれる。そう、SAO界の情報屋である鼠のアルゴであ〜る。
「にゃはは。売れる情報は何でも売るが性分だからネ。確実にユーちゃんが捕まる場所となると、この場所のこの時間帯しかないからネ。恨むなら毎朝の日常を変えるしかないネ」
「いや、それ私にとって死ねって言ってるのと同義ですよ」
にゃははと笑われ、からかわれたことに気づく。
「真面目に言うと、ダ。ユーちゃんの幸運がとてつもないからだヨ。LUKなんてネタだと百人聞けば百人が肯定するステータスに全振りした挙句、効果が出てるんダ。この世界にとってレアアイテムは生命線だからネ」
「そりゃあそうですけど、中層プレイヤーを最前線に連れていくって非人道的行いですよ!死んじゃいます!不幸です!」
「そこは大丈夫だヨ。なんたって閃光のアスナと黒の剣士キリトが護衛役なんだゼ。ユーちゃんの幸運も、伊達じゃないみたいだゾ」
アルゴさんが横見ており、釣られて私も同じ方向を見ると、喧嘩は終わっていた。
私のダンジョンに行かないという意見は気にもせず、どうやら一緒に同行しアイテムは山分けということに収まったらしい。
「ねぇねぇ、ほんとに行かなきゃ……ダメ?」
「一緒に来てくれたらアスナが美味いものをご馳走してくれるらしいぞ」
「ちょっと!何かってに約束してるのよ。……なら、キリトくんが最高級の厳選食材を手に入れてくれるらしいわよ」
「お、おま!?」
アスナちゃんの手料理……厳選食材………。自分のチョロさが恨めしいが自分に素直な自分が大好きです!
「もうしょうがないなぁ〜しっかり私を守ってね」
☆
下層、中層の迷宮区はたいして変わり映えがしなかった。迷宮区を語れるほど訪れてるわけじゃないけど、明らかに最前線の迷宮区は迷路のような壁がない。開放的な広い空間に不思議な素材でできた大きな道が複数に別れている。けど、共通してるのは、とても冷たく、不安感に駆られるという点。
もちろん。モンスターも段違いの強さで単調な動きなんてなく、思考を持って動いてるように感じる。そんなのを相手にひたすら戦闘をしている攻略組を尊敬してしまう。
「お疲れ様です♪あのぉ〜HPポーションです!」
運動部のマネージャーっぽく媚を売るように猫を被り満面の笑みで血盟騎士団の団員一人一人に手渡す。もちろん、されげなく手と手が触れ合うように渡す。
「ものすごく強くって頼もしいです。こうしてるとまるで………騎士とお姫様みたいです、ね?あっ、エヘヘ……恥ずかしいこと言っちゃいました」
「「「「「(ズキューン!!!)」」」」」
SAOの男女割合は圧倒的に女性が少ない。ましてや、攻略組に女性なんてアスナちゃんぐらいしかいない。女性免疫のない男性なんてメルヘンチックな理想的女性を演じるだけで十分。日々パイプ作りは忘れない。
「ユウちゃん。私たちにもHPポーションもってきてくれないかな?」
背筋をゾクッとさせる恐怖を植え付けてくる笑顔。
「いやぁ、アスナちゃんHP減ってないから大丈夫じゃない、か……な」
「ううん。減ってるよ。だから、ね?持ってきてくれないかな?」
「すぐお持ちします!」
一気にアスナちゃんの元へ駆けつけHPポーションを震える手で渡そうとした瞬間に手首を掴まれる。細身の腕からは考えられないほどの握力でHPが減っているんじゃないかと思うほど骨が軋む。
キリトさんに助けを求めるべく、顔を見ると肩をすくめドンマイ、と体で表現していた。
「もう、あまり勘違いするようなことしてると後悔するよ。最近はストーカー事件とか起きてるのよ」
「は〜い。でもでも私みたいな中層プレイヤーには心強いプレイヤーが知り合いにいれば困らないんだよ」
「なら、私かキリトくんがいるじゃない。クラインさんもいるよ」
はっ!と納得した顔をするとアスナちゃんはため息をつき、呆れられてしまった。
ちなみにクラインさんとはギルド風林火山のリーダーです。侍らしい無精髭を生やし、誰にも優しく接する良い人。キリトさん経由で紹介してもらいました。
「面倒事だけはよしてくれよ」
「とか言いつつ自分から面倒事に首を突っ込んでいくキリトさんのこと私、好きだぜ!」
そんなこんなでワチャワチャと来る敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返しながら歩いていく。攻略済みの迷宮区を探索してもレアアイテムなんて見つかりやしないと考える。
ふっ、と足元に小石があるのを発見し、気が向いたので蹴ってみる。
すると──
たまたま蹴った方向には石柱があり──
たまたま飛んでいった小石は石柱の小さな穴に吸い込まれるようにハマった──
たまたま小石がハマった石柱は地震のような揺れと同時に倒れ落ちた──
たまたま倒れ落ちた石柱は進行不能だと思われていた浮島のようなところとの架け橋となった。
「やっぱり私は幸運なのかも!」
突然の出来事に他のみんなは目を丸くしていた。数秒後に思考を回復したキリトさんは丸くしていた目を輝かせ一目散に石柱の橋を渡り出した。それに釣られてアスナちゃんたちも渡り出す。もちろん殿は私です。
「こんなことってありえるの……」
「実際に起きてるんだから納得するしかないだろうな。……にしてもLUKか」
「もしかして上げようとしてるの?」
「ま、まさか。は、ははっ」
暖かい目で仲良し二人を見ているのを邪魔するかのように、不意に長年培ってきた経験による直感が働く。
どうか…気のせいでありますように……。
ギギギッと錆付いたような、ぎこちない動きで後ろを振り返る。
そこには、自分の背丈以上の石でできた大剣を持った中世の騎士のような石像がいた。まだ、石柱に足をかけておらず、私たちとの距離はある。
《宝の守護者》
名は体を表す、という言葉がしっくりきた。本来なら私たちが浮島に着く寸前に不意打ちであの大きな大剣で奈落へ落としたり、致命傷のダメージを与えるつもりなんだろう。
はぁ、本当に運が良いのか悪いのか分からないよ……。
でも、やるべき事を一つでしょ──
「みんな!早く石柱を渡って!」
突然の大声にみんな振り返った。たった一瞬で全部を察して全速力で浮島に走り出した辺りは、さすがとしか言いようがない。それと同時に《宝の守護者》も逃げる私たちを追うように先ほどの隠密活動を止め、恐怖心を刷り込むような重い足音を響かせ走り出した。
不安定な足場のせいで全速力といっても駆け足ぐらいの速さしか出せない。このままだと確実に死ぬ。
《宝の守護者》は射程圏内に入ったことを示すように大剣を振りかぶっていた。目測で測ると、運悪く私だけを狙った攻撃っぽい。
「……やっぱり私、不幸かも……」
今度こそ終わりかな、と自らの人生に幕を閉じようとする。
「嫌だ嫌だ!!まだ、死にたくない!!」
知り合い全員から言われ続けた『似合わない』という武器。
そう!私の武器は両手剣!!選んだ理由は特に無し!!
「私は私の運を信じるから!」
みんなが私が戦うことを止めさせようと必死になる。残念だけどそれはできない。自分の一瞬一瞬の行動を信じなければ幸運というのは自分の元にやって来ない。
《宝の守護者》は大剣を綺麗な洗練された構えから確実に死へ導く横薙ぎの一閃が放たれる。
恐怖をで足が竦む。身体が鉛のように重たくなる。呼吸が荒くなる。現実では味わえないこの感覚が嫌いではない。
もちろん怖いのも痛いのも嫌だけど、『生きてる』って感覚を全身で味わってる状態は……
本当に──
「悪くないかもぉぉ!!!」
全身全霊で放つ私の二連撃ソードスキル《イラプション》
今の私の装備なら一撃は耐えられる。てか、絶対に耐えれる。それが胴装備の特性で一撃死の攻撃を受けてもHPが三分の一は残るという逸品。
ずばっ!と腹部に深い傷ができる。筋肉痛のような不愉快な痛みが全身を襲う。それでも私はソードスキルをキャンセルすることなく一連撃目の上から下への振り下ろしに力を込める。
「はぁぁぁぁ!!!あ、あれ?!」
力み過ぎたせいなのか気合いを入れすぎたせいなのか手から両手剣がすっぽ抜けてしまった
──あ、死んだ。
たまたま両手剣がすっぽ抜け──
たまたますっぽ抜けた影響でソードスキルはキャンセルされ──
たまたま両手剣は上へ飛んでいった──
たまたま飛んでいった両手剣は切っ先を下にし落ちていく──
たまたま落ちてきた両手剣は《宝の守護者》の頭上に落ちていった──
たまたま頭上に落ち、バランスを崩した《宝の守護者》は石柱から落ちていった──
「そう。私の両手剣と共に……」
☆
無事に九死に一生を得た私たちは晴れて浮島の奥にあった宝箱を見つけることが出来た。泣きかけの私はアスナちゃんにあやされながら宝箱をみんなと一緒に開けました。
ここからが本題!
中には、そう!私が落とした両手剣がはいっていました!!
もちろん満場一致で私のものとなり、ダンジョン探索は幕を閉じました。
そして!約束通り厳選食材とアスナちゃんの手料理が私を待っているのです!!
ふう疲れました(o´Д`)
ボチボチがんばっていきます。
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遅めの始まり
いつもの平穏な日々を送るべく一日一善をできる限り心がけるように生きております。けれど、そんな私の行いとは裏腹に平穏をぶち壊す者がやってくる。
ほんと勘弁して欲しいよ……。
☆
毎朝の習慣で『森の窯』で朝食を取っていると私の平和守るセンサーがビンビンに敵を感知する。食べきっていないのに席を立ち上がることを申し訳ないと思いつつ、店のドアの前で構える。そしてゆっくりとドアが開き、一人の男性と向き合う形になる。
「君がユウ……」
「人違いです。帰ってください」
最後まで言わせずに全力でドアを閉めようとするが、寸前のところで男性の指がドアを掴んでしまった。
「ググッ、君が……ユウ君だぁ……ね」
「うぎぎっ!人、違いで……すぅ!」
両者譲らず、ドアが壊れてしまうんではないかというぐらい軋む音が反響しているが、均衡していたと思われていた力の勝負はあっという間に決着がついてしまい、徐々にドアが開きつつある。
「やめてぇくださいぃぃ。ハラスメントコードが出てますよぉ!!」
「ふふっ、この程度ではハラスメントコードが出ないことは検証済みだよ!ふんっ!!」
本気を出され、なすすべなくドアは完全に開けられてしまった。
くっ、こんなことならレベルを上げてSTRに少しでも多く振っとけばよかった。と後悔しながら睨みつけるように目の前の男性を見る。
「やぁ。何度かギルドで会ったと思うが、あらためて名乗った方がいいだろう。血盟騎士団団長のヒースクリフと言えば通じるかね?いつもダンジョン攻略で世話になったね」
先程までの攻防はなかったかのように爽やかな自己紹介をされ、腹が立ってしかたがない。だが目の前にいるのがアインクラッドで最強を誇るギルドの血盟騎士団と同時にキリトくんのように最強プレイヤーの一人として名を馳せているヒースクリフさんである。
「で?何のようですか?」
中でゆっくりと話そう、と半ば強引に連れられてしまい小さな復讐として普段の私には手が出せない最高級ケーキと最高級ミルクを注文してやった。奢るなんて言葉を易々と言えないようにたらふく食べてやる!
「そんな邪険に扱わないでくれたまえ。今日は日頃からお世話になっている感謝という名目で君を勧誘しにきたんだよ」
「お礼ですか……まぁありがたく受け取っておきますけど中層のプレイヤーなんて勧誘したら団員が騒いじゃいますよ」
「ただの中層プレイヤーならそうかもしれないが、君の重要性を知らない攻略組プレイヤーなんていないだろう。これを機にギルドに来てくれれば我々としては今以上に攻略は早く安全にできるだろう」
そんなわけないと否定したいところだけど、LUKが高ければトラップは発動せず、レアなアイテム手に入ることやモンスターとのエンカウントが減ったりとボス部屋までの道程が効率的かつ有意義になる。けれど……。
「知らないわけないですよね?LUKは自分以外には反映されないことを。トラップがありそうな部屋には私を入れて様子を見るということを毎回するんですか?LUKは万能じゃないです。本音を言えば死にたくないだけです」
柄ではない力説をしたことに少し恥ずかしくなりがら喉から出かけてる文句を飲み込むようにミルクを流し込む。
自分でもいまだにLUKのことを全て把握しているわけでない。信じすぎて思わぬしっぺ返しを食らうかもしれないしね。
「君を勧誘できたらアスナ君が喜ぶと思うのだが……残念だ」
「思ってたよりもヒースクリフさんって……性格悪いですよね」
正直者は嫌いではないよ、とヒースクリフさんは用事が済んだらしく席から立ち上がった。なんだかんだ奢ってもらったのでお礼を言いながら私も立ち上がる。
「有意義な時間だったよユウ君。いつでもギルドに来て他の女性団員たちの相手をしてほしい」
「はい、もちろん行かせていただきます。でも、勧誘はなしですからね」
「それは残念だ」
なかなかノリが良い人だと今までの認識がガラッと変わったことに私も有意義な時間を過ごせたと考える。ヒースクリフさんの背中を見送っていると、ドアに手をかけたヒースクリフさんは振り向かずに一言、言い残していった。
『今度のダンジョン攻略、心待ちにしているよ』
まるで全てを見透かされているかのように心の内側に響く声で言われた瞬間、背中は命の危機とはまた違う悪寒を感じた。
ヒースクリフさんが出ていってから私は少しの間だけドアを見つめ続けた。
☆
先日の約束通り、キリトくんが採ってきた最高級の厳選食材をアスナちゃんに腕によりをかけて料理してもらうためにアスナちゃんの家に来ましたよ。
良い機会だと思い、あの一件のことを教える。
「ってことがあったんだよ!アスナちゃん!!どゆこと!?!?」
「ん〜そう言われてもなぁ〜困ったなあ」
滅多に見ることができないアスナちゃんの私服にエプロン姿というブロマイドなんかにすれば巨万の富をアインクラッドで築けるだろう。
そして空気のように存在感を消しながら私の話をBGMのように聞き流しアスナちゃんの手料理を夢中で食べるキリトくん。
「私からも一応団長に注意しとくから気にしない方がいいよ」
よっこいしょ、とオヤジくさいセリフを言いながらイスに座る動作も絵になってしまうことに同じ女性として負けた気分になる。
「ほんとアスナちゃんは良いお嫁さんになるよ。どうかな、私と結婚しない?」
「ちゃ〜んと働いて快適な生活をさせてくれるなら考えてあげるよ。ユウちゃん」
「ユウはどちらかというと養われる側だろうな」
私の性格を知っていて意地悪なことを言って仲良く笑うお二人さん。
こいつら早く結婚しちまえよ。
「でもまぁヒースクリフの言ったことも一理あるんだよなぁ。ユウがいればって場面がちょくちょくあるし」
「LUKはそんなに便利じゃありませぇぇん。良い機会だから教えてあげるよ」
ちゃちゃっとアイテムストレージから丁寧に包装された小さな箱を二つ取り出す。
「これって《きまぐれの箱》だよね。確か28とか29階層にあるNPC商人が売ってたような」
「28階層だな。何が出るかは運次第のギャンブルアイテムで一時期大量にプレイヤーたちが買って泣きを見ていたよ」
さすが攻略組。私が説明することなくスムーズに話が進む。《きまぐれの箱》にはランダムにアイテムが入っていて、とんでもなく強力なレアアイテムからどこにでも落ちてるようなクズアイテムまで幅が広い。
「概要だけ見れば夢のあるアイテムなんだが百箱開けても迷宮区に行けば取れるような物しか出てこないっていう詐欺同然の確率だよ」
「攻略組からしたらそうかもだけど。中層プレイヤーには人気なんだよね。賭け事やパーティーの催しの一つに使えるイベント感覚でみんな使ってるよ」
それは知らなかった、と関心するキリトくん。
「それでユウちゃんは何をするの?」
当然の疑問を投げかけられながら百聞は一見にしかず、ということで早速、一箱目に手をつける。飾りのリボンを解き、包装紙を丁寧に剥がす。見栄えがしない真っ白な姿となった箱を興味津々な二人に見守られながら開ける。
《女神の涙》
簡単な表記が現れ箱から取り出す。真っ先に反応したのはもちろんキリトくん。目を丸くし、飛びつく勢いで私の手を掴む。
「後生だ!譲ってくれ!!」
《女神の涙》ランダムでステータスを2ポイント自動的に割り振られるという壊れ性能のアイテム。
1ポイントが生死を分ける世界でこれほど貴重なアイテムは攻略組からしたら喉を通り越して小腸から手が出るほど欲しいアイテムに違いない。
「ダメです。ハイ次」
さっきと同じ動作をし二つ目の箱を開ける。
《石炭》
説明するまでもなくクズアイテムがオブジェクトとされる。偶然かもしれない現象に二人とも顔をしかめ考えるように黙り込む。
「どういうことだろう。ユウちゃんなら最低でもポーションぐらいは出せると思ってたけど……。」
私も初めて試した時は驚きのあまり何度もステータス画面を見たけどいつも通りだった。
「……乱数が意図的に操作されてるのか」
大正解!という意味を込めて先程出た石炭を手渡しする。
「つまり本来なら100%や90%で出るものがカーディナルのバランス調整によって0%に無理矢理されちゃうってこと?」
「んまぁ簡単に噛み砕くならそういうことだな。」
私がドヤ顔で語ろうと思っていたことを全て言われてしまい、いじけてしまいそうだが堪えながら話を切り出す。
「だから、ね。この世界がカーディナルという全てを司る神がいる時点で私のLUKにも限界があるってことかな。ゲームバランスが崩壊しない程度ならいくらでも私のLUKは輝くけど、崩壊するようなら強制的に不幸少女になるってこと」
ヒースクリフさんと会って以来、私は自分の幸運を調べるために色々なことを試し、ようやく《きまぐれの箱》によるLUKの欠点を見つけることができた。
「これが本当なら俺たちは無理にユウを攻略に誘えなくなったな。残念というか安心したのいうか、複雑だが手遅れになる前で良かったよ」
もう攻略しなくていいなんて言われたら泣いて喜んでいたと思うけど、
「残念がってるところ申し訳ないけど。私、決めたんだよね。これからLUKをフル活用して攻略組になるって!!」
なんでかって?思春期ですから!!
「「え?……えぇぇぇー!!!!」」
私が決意表明をしてから大変でした。嘘だろ?やデバフでも付いたの?という失礼極まりない言葉から巣立ちってこういうことなんだな、と感極まってたりと。でも、力になると言ってくれる辺り、最高の友達なんだなとあらためて思えました。
拝啓、私の両親へ。
私は平穏な日々から死が隣合わせの刺激に満ちた非日常的な日々に身を投じることになりました。死なないように頑張りますので応援よろしくお願いします。
どうも騎士見習いです。
ほぼ未定期更新なので読者がいるか不安ですが、読んでくれた方々に感謝です。
一応、これからも続けていきます。(たぶん)
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鍛冶屋にて
空気が張り詰め、足のつま先から徐々に体温が下がる感覚が私を襲う。見慣れた石造りの空間は窮屈さを抱かせるが、さすがにもう慣れた。これから何十回もこんな空間に足を踏み入れなきゃいけないことにため息をつく。
「ユウの嬢ちゃん!そっちに行ったぞぉ!」
男らしい声が私を感傷から引き剥がす。私のイメージとはまったく釣り合わない両手剣を背中の鞘から抜く。
右手に片手剣、左手に盾を装備した骸骨《スケルトン・カリバー》と呼ばれるスケルトン系モンスター。がしゃがしゃと骨を鳴らしながら存在しないはずの目で私を見据えるように一直線に走ってくる。
「すぅーはぁー……。よしっ!」
脱力し、両手剣を真正面で構える。赤色の光沢を輝かせながら地面を勢い良く蹴る。距離を縮めソードスキルのアシストに身を任せるように両手剣を振り下ろす一連撃の初期スキル《アバランシュ》。
「はぁ!!!」
スケルトンは盾で防ごうとするが、お構い無しで盾ごと切り捨てる。スケルトンに一本線の攻撃の跡が残り、反撃をする動作を見せずにポリゴンとなって散った。
「ふいぃ〜これで全部ですかぁクラインさん」
優しそうな面持ちに無精髭を生やしたギルド風林火山のリーダーであるクラインさん。ちょくちょくパーティーを組んでもらってダンジョンに潜ってます。
「そうみたいだな。お疲れ!ユウの嬢ちゃん。初期スキルで一撃KOなんて流石だぜ」
「ふふぅ〜ん。私のLUKがあればこんなのどんとこーいですよ」
相変わらず調子に乗ってしまうが私のLUKとクリティカルダメージ激増!!の武器のコンビネーションを知ってからサクサク攻略が進む。
「ユウの姉さァァん!!ウチらも頑張りましたぜぇ!褒めてくだせぇ」
わらわらと集合する風林火山のメンバーさんたち。
「はい、お疲れさんです。各自ポーション飲んで帰り支度!」
何十回も一緒に潜っていると扱いが雑になってしまう。だがしかし、男性というのは特殊な存在らしく、この扱いは逆に喜んでいる。つまり、こじらせている。
「はっはっは!!ユウの嬢ちゃんもあいつらの扱いに相当慣れたな。どうだ?いっそのこと俺らのギルドに入ってくれよ」
「別にいいですけど、私を巡ってドロドロな日々が続き最終的にはギルド崩壊しちゃいますよ」
それは勘弁だな、と楽しそうに笑う姿に私もつられて笑ってしまう。
帰りの道中は大したこともなく無事にダンジョンから脱出しクラインさんたちに別れを告げながら互いの帰路に着いた。
*
カランコロン、とドアの鈴が私の来訪を知らせる。
「やっほぉ〜!お店やってるぅ?」
「やってるわよ。ったく、その言葉は年中無休の商売人への嫌がらせかしら?そうだったら今日は臨時休業にするわよ」
ピンク色のショートカットが似合う第48層リンダースで鍛冶屋を営む鍛冶師のリズベット。みんなからはリズと呼ばれている。
「あぁ〜今日が臨時休業になっちゃうなら、このレア素材は別のところで売ろっかな」
チラッと試すように視線を向けるとリズは悔しそうな表情で両手を上げる。
「はいはい、私が悪ぅござんした。ようこそリズベット鍛冶屋へ。お客様、今日はどのようなご要件でいらしたんですか」
店の中に並んでいる商品を縫うように避けながら、ふくれっ面の友達に近づいてぎゅっと抱きつき頬ずりをする。
「ごめんごめん。そんな不貞腐れないでよリィ〜ズゥ〜。ちゃんと友達料金で素材は売るからさぁ」
「んもぉ、分かったから早く離れなさいよ。今日はどうしたの」
なんだかんだ許してくれるリズにもっと頬ずりしてあげたいけど怒らせたくないので名残りを惜しみつつも離れる。
メニューを開き装備一色を外すついでに着ているものを全部外し、下着姿のままリズに手渡す。
「全部修理してください」
「やだ」
「お願いします」
「絶対にやだ」
下着姿で押し問答なんてしたくないけど、ここで負けるわけにはいかない。ソードスキルかのように決められた動作で膝、手、頭の順番で床につける。
「本当にお願いします!リズベット様」
下着姿での土下座というなんとも犯罪的な姿だけど、これならリズも折れてくれるはず。
「嫌よ!あんたの装備、無駄にレアリティ高いから時間がかかって割に合わないのよ!他の大手とかの鍛冶屋に頼みなさいよ」
見事なまでの正論に心が抉られる。
「だ、だってぇ〜リズ以外の鍛冶師は万が一壊したら嫌だとか、あんたみたいなソロプレイヤーに割く時間はないとか言って拒否するのぉ〜」
思い出すだけで泣けてくる。いや、実際に今思い出して泣いてしまっている。
「うぅ……リズぐらいだもん!レア装備を見せつけてるのか?って嫌がらせを言わない鍛冶屋は……」
鼻をすすり、目を必死に擦って涙を拭う。
「はぁ……分かったわよ。今回は特別だかんね。時間かかるから数日は違う装備でも身につけときなさい」
「あ"り"か"と"ぉ"〜リズゥ〜!!」
腰にしがみつき私の語彙力が許す限りの感謝の気持ちを伝える。
「た、だ、し!これからは一つか二つずつ持ってきなさい!わかった?」
「はい!」
「よろしい」
厳しめの表情から一転、母性溢れる優しい笑顔。私が男だったら嫁にしているぐらい魅力的である。
それからは、ほのぼのと何層のどこどこにあるお店のケーキか美味しいだとかで盛り上がっていると再び鈴の音が聞こえ、店の入口のドアに視線を向ける。
綺麗な栗色のロングヘアをなびかせ、彫刻のように整った顔立ちをしている一人の美少女が入ってきた。
「あれ!?ユウちゃんも来てたの!」
私がいることを予想していなかったらしく驚き半分、嬉しさ半分といった顔をしているがそれでも絵になる美しさ。
「おひさぁ〜アスナちゃん。今日は装備のメンテ?」
「おひさぁ〜。そうだけど、ユウちゃんはどうしたの?」
それはね、と前置きをしてから視線をカウンターの奥に置かれている山積みの装備一式に向ける。
「あ、あぁ〜……なるほどね。それだとメンテはまた今度かなぁ」
「遠慮しなくていいわよ。元はといえば、この!LUK全振りプレイヤーが原因なんだから。先にアスナのメンテをしてもいいわよね?」
NOという選択肢を排除されてしまい首を縦に振るしかできない。申し訳ない気持ちで心がいっぱいである。
ごめんね、と苦笑いのアスナちゃんは腰に携えているレイピアをリズに差し出す。
アスナちゃんを交え再びガールズトークに花を咲かせていると何かを思い出したアスナちゃん。
「そうそう、今度のボス攻略会議にユウちゃん出ない?クラインさんから聞いた限りだとレベルも十分足りてるらしいし、団長も早く来て欲しいって言ってたよ」
「良い機会じゃない。あんたもそろそろ誰かのためにその幸運を振りまきなさいよ」
「う〜ん。みんな優しくしてくれる?ぽっとでの新参者に無理難題を押し付けたりしない?」
今まで会った最前線の攻略組はキリトくんを初めとするクセがあるが全員優しかった分、その他大勢がどんな人たちなのか心配でしょうがない。
「そんなネガティブな考え方しなくても大丈夫だよ。みんな優しいから。それに私個人の気持ちだと女性の割合がすごく少ないからユウちゃんには早く来て欲しいの」
両手を握られながら熱弁したアスナちゃんの気持ちに答えるべく、二つ返事で参加することを決めた。
最前線攻略組の初参加の前祝い、とアスナちゃんはメニューを開き何かをオブジェクト化した。武器でもアイテムではない香ばしい匂いが店の中を包み、こんがりと焼けた円形の食べ物。
「クッキーだぁ!!!」
嫁力の高いアスナちゃんは裁縫や料理スキルを鍛えてるから作るものはどれもクオリティが高い。リアルの味をSAO内で再現するのは大変だと聞いているが、努力家のアスナちゃんなら本物並の味にしているに違いない。
「じゃあ私は紅茶でも持ってくるわ。最近奮発して高級な茶葉を買ったんだよね」
これまた女子力もとい嫁力が高い者が一名。一人だけで何も持ってこないのは負けた気がするからアイテムストレージから楽しみにとっておいた伝説のクリームと呼ばれているレア食材『ジュエルクリーム』を取り出す。
「せ、せせせ折角だから、み、みみみんなで食べよう」
入手方法の過程がとんでもなく多いから入手するまでの辛かった時間がフィードバックし、手が震えてテーブルに置くのを躊躇ってしまう。
無理しなくていいんだよ、と女神の囁きが私を諭してくれるがリズに迷惑をかけた謝罪の気持ちとして覚悟を決め中央に置く。
「それじゃあ気を取り直して女子会でも再開しましょっか。って、これジュエルクリーム!?誰の!?アスナ?」
「ううん。ユウちゃんからの差し入れだよ」
「太っ腹だねぇ〜。これで装備の件はチャラにしてあげよっかな。しっかりと味わってもらうわ、ありがとね」
「私からもありがと」
二人からの感謝と笑顔でほんの少しは救われた。そう言い聞かせてる私がいました。目の前にはクッキーに紅茶にクリームとオシャレな女子会が開催されようとしたが、
「そうだ!せっかくだからシリカちゃんも呼ばない?」
ナイスアイディアと言わんばかりにリズと一緒に親指を立てる。それを確認したあとアスナちゃんはぱぱっとメッセを打ち返信を待っている。
シリカちゃんはSAO内唯一と呼ばれているビーストテーマーである。ピナと名付けている小竜を相棒として中層でアイドル的な存在として活躍している。
「シリカちゃんすぐに来れるって」
「早く来てぇ〜シリカちゃんぅ」
女子会を始めたいという欲求よりもシリカちゃんをモフりたいという衝動が私の心を駆り立てる。
「そういえば、あんたシリカとはどうやって知り合ったの?」
「それ私も気になる」
「ふふ〜ん知りたい?」
「「知りたい知りたい!」」
「では、教えてしんぜよう」
はてさて、シリカちゃんが来るまで昔話に花を咲かせましょうか。
これからぼちぼち投稿していくので感想や意見もドシドシよろしくお願いします。
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