私は教授じゃないよ。大袈裟だよ (西の家)
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外伝
外伝:さあ、りこりん‼︎事件が私たちを呼んでいるよ‼︎ 相棒 理子編


急に書きたくなったので、書いてみました。
勿論、本編もしっかり書いていきますので!


武偵高校女子寮にて

 

「この事件も見捨て難いね」

 

私は部屋の壁に貼られたヨーロッパ州の地図を見ていた。

ヨーロッパで10〜20年前に起こった連続誘拐事件を私なりに調べてみたのだ。

地図には様々な新聞の切り抜きはもちろん、当時の証言を纏めた調書、誘拐された被害者の写真なども貼ってある。

 

「この犯人は何が目的なんだろうネ」

 

誘拐された被害者は全員、年齢、国籍、出身地などバラバラだ。しかし、共通するものが2つある。それは、全員が血統書付きと言ってもいいくらいのサラブレッドであることだ。

1つ目は先祖に高名な人間ーー武闘家、科学者、スポーツ選手、政治家などetc.....決まってそういった人間だけが誘拐されている。

2つ目は保護された被害者は全員、身体から一定の血液が抜かれている。

 

「先祖に高名な人間がいるか......前にりこりんが相談してきたAさんの事例と似ているネ。この誘拐犯はVの可能性が高いな」

 

改めて、事件を推理してみると、誘拐事件とりこりんの友達のAさんの過去が類似している。おそらく、誘拐犯はVで決まりだろう。

 

「りこりんの友達のAさんに直接会って、話を聞いてみたいな」

 

Vーー連続誘拐犯

 

Aさんーーその被害者

 

調書では保護された被害者は全員、犯人の姿は見ていない。いや、覚えていないそうだ。

被害者の身体からは薬物反応は無かった。ならば、催眠術だろう。

しかし、前にりこりんの話からVを分析してみたが、Vは他人の力で強くなろうとする人物、しかも自己中心的。

催眠術は他者の心を操作する為に、デリケートな作業が求められる。

つまり、相手の気持ちになれて尚且つ、人間の心という、決まった形の無いものを相手する高度な知識が求められる。

 

「私の見立てでは、Vはそこまで頭がいいとは思えないな。どちらかと言うと大雑把でガサツな性格だネ」

 

Vには少なくとも、2人の共犯者が存在する。

1人は高度な知識を持つ人間ーー科学者か教師タイプの人物かな。

二人目は難しいな。催眠術を使える人間......これは全世界の人間に共通することだ。

催眠術は資格などいらないし、ネットや本で調べれば知識は簡単に手に入る。訓練すれば誰でも簡単にできる。

 

「被害者の記憶を操作するとなると、高度な催眠術が必要になる。自分の身元を隠させるーー重大な仕事を任せられる人物」

 

Vに親しい人物?友達?ーー好き好んで犯罪の片棒を担ぐ人間はそんなにいない。

絶大な信頼を得ているーーVの身内ーー記憶を操作、高度な催眠術を操るとなると、高度な知識と知能、技術が求められるーー女性の可能性大

 

「Vには年頃の娘か妻がいる」

 

再び地図を眺める。

誘拐事件のある時期には女性、それも年頃の若い娘が大勢誘拐された年がある。

Vと似て、妻か娘もほぼ同じような性癖ーー他者を痛めつけ、監禁し愉悦に浸るような性格?それも相手は女性限定?

 

「Vは妻か娘、両方いる。妻子持ちか......」

 

しかし、女性を狙うなんて変わった性癖だね。まるでハンガリーのエリザベート・バートリーのようだ。

彼女は頭痛がすると、年頃の女性を殺害することで頭痛を治めたという。殺害する過程で様々な拷問器具や殺害方法も開発したそうな。

あっ、でもアイアンメイデンは作っていないそうだ。

ちなみに彼女は『吸血鬼カーミラ』のモデルだ。

『吸血鬼』。その瞬間、私の頭にピキンッと閃くものが!

 

「そうか!Vのアジトは吸血鬼の故郷、ルーマニアだ!」

 

私は何かに取り憑かれたように壁に貼られた事件の関係図を洗いなおした。

糸で繋ぎ、繋ぐ、繋ぎ直す、それを繰り返した。

結果、糸はルーマニアに結びついた。

 

「ははは、できたよ。そうか、Vは捜査の手など恐れなかったから、ルーマニアでも犯行に及んでいたのか」

 

ルーマニアでも誘拐事件は起こっていた。被害地の一つだと思っていだが、違ったのだ。

Vは捜査ーー警察や武偵など恐れていない。だから、ヨーロッパで大胆にも犯行を重ねていたのだ。自分のアジトがあるであろうルーマニアでもね。

しかし、ルーマニアか〜。吸血鬼の故郷と呼ばれているけど、あれはルーマニア、ワラキアの君主であるヴラド3世が『吸血鬼ドラキュラ』のモデルになったことで、根付いたイメージだ。

 

「吸血鬼か......そういえば、被害者からは一定の血液が抜かれていたネ〜」

 

Vの正体は吸血鬼だったりして......Vampireなんちゃって♪

私は吸血鬼に会ったことはないが、存在するなら会ってみたいネ。

吸血鬼というと十字架、聖水といった聖なる物が苦手と言われている。気のせいか、Vはヨーロッパの中でも、イタリアやバチカン周辺では犯行に及んでいない。

 

Vの正体ーー吸血鬼?もしくは吸血鬼のなりきり屋さん?

 

「......いれい!れいれい!」

 

「うわ⁉︎何⁉︎」

 

私が思考していると、突然後ろから声が聞こえてきた。

誰だ貴様‼︎と後ろを振り向いてみると、そこには、

 

「さっきから呼んでいるのに、無視なんてヒドイよーれいれい」

 

「あっ、りこりん」

 

ほっぺをぷっくりと膨らませた、りこりんが立っていた。

何だかご機嫌斜めだね。私、何かした?

 

「どうしたのりこりん?私の部屋に上がってさ?何か用があるのかな?」

 

「もう!忘れたの〜今日、学校でクエストを一緒に受けようって、約束したじゃん!」

 

あー、そうだった‼︎専門科で一定の授業を受けた後、何かクエストを受けてみようと思って、掲示板を見ていると、りこりんがやって来て一緒に受けようと誘ってきた。

それで、何にするかはりこりんに任せていたんだった。

 

「ごめんね。りこりんが来るまでの間、過去の事件を調べていたんだよ」

 

「へぇ〜、つまり何かな。りこりんとの約束を忘れるくらいに夢中になってたんだ〜ヒドイぞ〜」

 

「本当にごめん‼︎今度、ケーキ奢るからさ」

 

「もうヒトコエ‼︎」

 

「りこりんの気の済むまで食べまくっていいよ」

 

「いいよ、許してあげる」

 

よっしゃ!りこりんに許してもらったよ。

彼女は甘い物に目がないからネ。知っていてよかった。これぞ、知らぬが損。いや、知らぬが仏だったかな?

 

「それで何の事件を調べ......れいれい、どうやってここまで調べたの?」

 

うん?りこりんが私の作った事件の関係図を見て、呆然としている。

特にルーマニアに焦点を当てた結果に驚いている様子だ。

 

「ああ、それね。私なりに推理した結果だよ。この事件の誘拐犯と、りこりんの友達を監禁したVは同一人物。そして、アジトはルーマニアにあると判明したよ。いやー、まさか吸血鬼で辿り着くとは思わなかったネ」

 

「どうして吸血鬼で辿り着いたの?Vと何か関係があるの?」

 

おや?何だかりこりんの様子がおかしいぞ。うーん、まあ、いいか!このまま続けて、話そう。

 

「私の頭にピキンッと来るものがあってね。最初はVの共犯者を調べていくと、犯人の家族に辿り着いた。ヤツには妻と娘がいるとね」

 

そして、私は自分の推理ーー辿り着いた結果をりこりんに語った。

Vには共犯者がおり、最低でも2人。

共犯者は恐らく、身内。妻か娘。或いは両方とも共犯。

ルーマニアにアジトを構えており、武偵や警察など恐れていない。

しかし、イタリアとバチカンでは犯行に及んでいない。

この二つを恐れている。吸血鬼のなりきり屋さん。

 

「辿り着いたって、それだけで?ねぇ、れいれい......いや、零。お前は何者なんだ?あたしが言うのも何だがお前は普通じゃない」

 

突然、りこりんが男口調で喋り出した。

驚いたー、えっ?何なの一体......イメチェン?遊びでやっているのかな?

 

「うーむ、普通の定義はわかないな。ただ、私は推理、いや、分析しただけさ♪」

 

「嘘つけ。分析にしても限度があるぞ。1人の力でここまで辿り着けるワケがない。お前には協力者がいるんだろう?でなきゃ、これだけの資料が手に入るわけがない」

 

りこりんは床に散らばった書類、壁に貼られた写真や調書に目をやった。

 

「協力者かー、まあ、いない事はないね」

 

協力者といっても、探偵科と鑑識科、諜報科と尋問科、通信科と情報科の皆から資料を''貰っただけ''。あとは、自分だけで纏めただけさ。

彼らは私の協力者というより、友達だよ。

 

「お前はこの事件を調べてどうするだ?まさか......Vを捕まえる気か」

 

「そうだね。私は武偵ーー''正義の味方''だから犯罪者は捕まえるよ。だって、Vのやっていることは、立派な犯罪だからね」

 

なんだろう?正義の味方って単語を自分で聞いているとゾクゾクしてきたぞ。

 

「やめておけ、Vには勝てないぞ」

 

「おや?まるでりこりんはVと面識があるような感じだね。友達のAさんと一緒に会ったことがあるのかい?」

 

「......ああ、そうだよ」

 

うん、素直でよろしい。

りこりんの様子からして、前にアドバイスした通りに、りこりんなりに計画してVに戦いを挑んだが、この様子を見る限り負けてしまったようだね。

しかし、よく生きてたなー。Aさんは兎も角、りこりんが生きているとはね。VならAさんを生かしておくだろう。りこりんはそのまま殺されてもおかしくない。

もしかして、Aさん=りこりんの可能性が大かも。

 

「それで、りこりんから見て、Vはどのくらい強いのかな?私なら捕まえられそう?」

 

「無理だ。零でもヴ、Vには勝てないし、捕まえられない」

 

今、噛みそうになったね。いや、別の言い方をしそうになったから、言い直した感じだね。

 

「ねぇ、りこりん。これが何だが分かる?」

 

私は本棚からある本を取り出し、りこりんに渡した。

 

「何これ?えーっと、『吸血鬼ドラキュラ』?」

 

りこりんに渡したのは、ブラム・ストカー作の『吸血鬼ドラキュラ』だった。私はこの本、結構気にいっているんだよね。

 

「その本に出てくる吸血鬼ドラキュラと呼ばれる怪物は、それはそれは恐ろしい怪物でね。夜中、人間の生き血を啜り、自分の犯行は人間には悟られないようにする。まさにVと似ている」

 

「だから何さ?吸血鬼の話でもしたいのかよ」

 

「落ち着きたまえ。ここからだよ」

 

私は続けて、りこりんに内容を説明した。

トランシルヴァニアに住むドラキュラ伯爵はイギリス人の弁理士ジョナサン・ハーカーを雇い、ロンドンに屋敷を買って移住してきた。

ロンドンに移住したドラキュラ伯爵はジョナサンの妻であるミナ・ハーカーの友人のルーシー・ウェステンラを襲い吸血する。

ルーシーの婚約者であるアーサー・ホルムウッドは原因不明で衰弱していくルーシーの事を友人であるキンシー・モリスとジャック・セワードに相談。ジャックはさらに自分の恩師であるヴァン・ヘルシング教授に助けを求め、ヘルシング教授は原因が吸血鬼にある事を突き留めますがルーシーを助けるには至りませんでした。

その後、ヘルシング教授たちはドラキュラの住まいを発見しますが、逃亡されてしまいます。

ドラキュラ伯爵はロンドンからトランシルヴァニアに撤退し、その際に気に入ったミナを誘拐して連れ去ります。

ミナを連れ去ったことがかえって仇になり、ドラキュラはジョナサン、ヘルシング教授一行に追い詰められます。

そして決戦が行われ、ドラキュラは夕日の中、胸を刺されて塵になり滅びました。

 

「ここまでの話で私が言いたいことは何かわかるかな?りこりん」

 

「......怪物は最後は必ず倒されるってことか?は、そんなの作り話だ。現実は本みたいにはいないぞ」

 

「怪物は人間に倒されなけばならない。私はあの言葉は好きなんだけど......おっと、ごめん、ごめん。さっきのりこりんの答えだけど違うね」

 

「策を練ったところか?」

 

「おおー、いい線いってる。しかし、惜しい。本当に惜しい」

 

「なら何だよ!お前はわかるのかよ」

 

やばい!りこりんが怒っちゃったよ。意地悪し過ぎたな。気をつけないと。

 

「この話にはヘルシング教授一行が出てくるでしょう?つまり、ヘルシング教授は仲間を集めたということさ」

 

「自分だけじゃ、勝てないと思ったか?それが何だよ。早く答えを言えよ」

 

「つまり、怪物と戦う上で、一対一で戦う必要はない、と言うことさ♪」

 

怪物と呼ばれる連中にサシで戦うなんて、私から言わせてもらえば自殺行為だ。そんな役は勇者と呼ばれる生贄だけで十分。

身近な例を挙げるなら、教務科の先生たちがまさに怪物だ。

私が戦っても、かすり傷を与えることもできないだろう。しかし、先生たちといえど、武偵学校の全生徒を相手にはできない。

皆、強かれ弱かれ鍛えられている。中には先生から直接指導された者も少なくない。そんな生徒は自ずと恩師の弱点も知っている。

その弱点を全員が知っていれば、勝てると私は思っている。

おっと、話が逸れてしまった。いけないネ。また、悪い癖が出てしまった。

 

 

 

 

その後、りこりんにある程度のアドバイスしていると、

 

「うわ〜れいれいって、えげつないね。りこりん怖くなっちゃたよ」

 

何時もの口調に戻っていた。よかったー。やっぱり、この感じこそりこりんだよね。

 

「参考になったかい?」

 

「うん!れいれいは本当に頼りになるよ。もし、よかったらさ......犯人のプロファイリングとかの相談に乗ってもらってもいい?」

 

プロファイリング......犯人像を分析し、どんな人間かを分析していく技術だったね。

 

「いいよ。それだけじゃなく、私でよければ他にも力になるよ」

 

「ありがとうー!じゃあさ、この犯人なら''どんな手口で犯行に及ぶ''かも相談してもいい?」

 

「うん?つまり、どう意味だい」

 

「だからさ、れいれいなりに''犯罪をするならどうやるか''を聞きたいんだよ。もう!鈍いぞ〜武偵ならこれくらい把握しないと」

 

「あー、なるほどね。まあ、あくまで考えーーアイデアだからね。実際に犯罪をしたらダメだよ」

 

「うん?何かな、まるでりこりんが本当にやりそうに聞こえるけど?」

 

りこりんが疑問に思っている。

何かはっきりしないけど、りこりんは犯罪者の気がありそうなんだよね〜。あっ、これは失礼か。りこりんだって武偵だし、これはあくまで私の考えを聞きたいだけだよね。

 

「そんな事はないよ。おっと、話し込んでしまったね。肝心のクエストについて話してくれないかい?」

 

「そうだったね!突然ですが、れいれいには私、りこりんと海外に行ってもらいまーす!」

 

海外......ほ〜国外でのクエストか。まだ、受けたことがないね。

しかし、海外となると他国の言葉が喋れないといけない。

私は英語くらいしか喋れないぞ。

 

「クエストの内容は?」

 

「アメリカで誘拐事件だって。何だが地元の武偵もお手上げみたいでさ。それで日本にまで依頼が回ってきたみたいなんだ」

 

へー、珍しい事もあるんだね。アメリカの武偵は仕事を取られるのを嫌う傾向があるのに、日本ーー他国にクエストを回してくるなんてさ。

 

「どんな事件なのかな?」

 

「誘拐だよ。何かストリートチルドレンを狙った連続誘拐事件なんだって」

 

誘拐......丁度、私は過去のヨーロッパでの誘拐事件を調べていたのに.....こんな偶然もあるんだね。バタフライエフェクトってやつかな?

 

「なるほどね」

 

私はテーブルの側に寄り、トン、トン、トンっと、指でついて、思考する。

 

「れいれい!また、考え事してるでしょう⁉︎帰ってきて、れいれい!」

 

りこりんの声でハッと、私は我に返る。

いけない......また、夢中になってしまった。

まだ、りこりんから詳しく事件の詳細を聞いていないのに......早とちりし過ぎた。

 

「ごめん、あーそれで?アメリカの何処かな?」

 

「ふー、帰ってきてくれたね。じゃあ言うよ」

 

りこりんは額の汗を拭うような動作をした後、

 

「アメリカのニュージャージー州 ゴッサム・シティだよ」

 




この話の時間枠は、理子がオリ主に相談して暫くしてからの話です。つまり、まだ手作り料理の餌食にはなっておりません。


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外伝:ダークナイトはすぐ目の前だ‼︎ 相棒 理子編

理子の視点でいきます。
そして、理子ファンの皆さま。ごめんなさい!
口調が違うと思う人もいるかもしれませんが、ご了承ください。



理子視点

 

東京 成田空港・第2旅客ターミナルの3階ーー国際線出発ロビーにて

 

「れいれい遅いな〜」

 

あたしは旅行カートに腰を下ろして、足をプラプラさせながら零を待っていた。

これから私たちはアメリカに向かう。

表向きは武偵のクエストだが、裏では『教授』が関わっている。

これは『教授』からの命令だ。零の実力を図るための仕事。

 

玲瓏館・M・零

高校からの編入生で、入学してすぐに数々の未解決事件を解決している。中にはあたしの所属しているイ・ウーが関わった事件すら解決してやがる。

あの『教授』が自ら立案した計画すら暴き、そして解決した。

自分では動かず、他者に現場に赴かせて犯人を逮捕させている。自分はただ事件を解き、結果を伝えるだけ。

何故、自分の手柄にしないんだ?

 

「やあ、りこりん。お待たせ」

 

あたしなりに考えていると、ロビーの正面入り口から零がやってきた。

服装は武偵制服ではなく、黒のスーツを着ている。スラッとした身長の零には不思議と似合っている。

おまけに銀縁の眼鏡までかけて、肩まで伸ばした黒髪は後ろに上げて纏めている。

 

「どうしたの?その格好はイメチェン?」

 

「私の仕事着ならぬ仕事姿さ」

 

「それって、防弾性?」

 

「勿論さ。装備科の特注品だよ。スーツは戦闘服ってね」

 

「ふ〜ん......あっと、その荷物は何なの?多過ぎない?」

 

零の姿にも驚いたけど、特に目についたのは荷物の多さだ。

ボストンバック3個、キャリーバック3個、アタッシュケース4個

あたしはキャリーバック2個だけなのに、零の荷物の多さは異常だ。何なんだ?まさか全部銃器なんてオチはないよな?

 

「これらかい?私の秘密兵器さ」

 

「中身は何なの?りこりん気になっちゃうな〜教えて」

 

「それは向こうについてからのお楽しみさ。時間が迫っているよ?急ごうか」

 

零の言葉にあたしは腕時計を見る。時刻は10時30分。

マズッ!飛行機は11時に出発するから、30分前には乗り込まないと。

あたしと零は荷物を持って出国ゲートに急ぐ。零と話していると時間の感覚を失う。こいつの言葉は聞いていると、夢中になるというか集中せざるを得なくなる感覚に見舞われる。

まるで学校の教師が「テストの範囲はここですよ」というのを聞こうとするかのようだ。

 

「りこりん!待ってよ。もっとゆっくり走って〜」

 

あたしの後ろで重そうにカートを押していながら、零が話しかけている。

そんなに荷物を持ってくるからだ!カートからはみ出てるし!

 

「れいれい、おっさきー♪」

 

今は急ごう。もう搭乗案内中だ。あたしは海外慣れしているのに、まさか慌てるハメになるとは思わなかった。

 

 

ANA NH2 ワシントン行き

 

ギリギリで飛行機に乗り込んだあたしたちは、ビジネスクラスに座り込んだ。飛行機の旅は快適にしたいから、贅沢しないとね。

あたしは持ってきたお菓子をバリバリと食べていると、隣に座っている零はカバンからノートパソコンを取り出して、カタカタと当たり出した。

パソコンに何を打ち込んでいるんだ?

 

「れいれい、何やってんの?ツイッターかな?」

 

「個人的なスカイプだよ」

 

あたしが画面を覗き込んで確認してみると、なるほど、確かにスカイプだ。

誰と話をしているんだろう?相手のハンドルネームは......『ハンニバル』?ローマ史上最大の敵といわれる軍師の名前じゃん。

零のハンドルネームは......『数学教師』って、なんか似合ってるな。

 

「マイクは使わないの?キーボードオンリーとか疲れない?」

 

「キーの方がしっくりくる。私はこっちの方が好きだよ」

 

あたしと喋りながらカタカタと打っていく。早っ⁉︎情報科でもこんなに早く打ってないよ。しかも、すべて英文......相手はアメリカ圏か英国圏の人間か?

文章を見てみると、えーっと......人喰いレクター、アート、音楽、作品、内臓、分解、心理、調理、食べる、敬まわない、人は物.、神も人を殺す.....意味がわかんない。暗号か?

 

「この『ハンニバル』って、どんな人なの?はっ、まさかれいれいの彼氏とか⁉︎遠距離恋愛だ!」

 

「違うよ。『ハンニバル』とは......意見交換の仲かな?彼女は精神外科医をやっていてね。心理学などでアドバイスなどを貰っているんだよ」

 

ふーん......女で精神外科医ね。零って、意外と外との交流関係が広いね。

武偵高校だけでなく、個人的なネットワークがありそうだ。これは、さらに調べる価値がありそうだね。

画面を眺めていると、写真が出てきた。どうやら相手が送ってきたようだ。これは......料理かな。

写真には、見るからに美味しそうな料理が写っている。

魚の内臓かな?内臓はプルプルだけど表面に程よい焼き目が付いている。血の滴る感じが伝わってくる。

 

「懐石料理じゃん。うわー、美味しそう。これって、『ハンニバル』が作ったの?」

 

「だろうね。『ハンニバル』は料理が趣味でね。古今東西、様々な料理を作っては写真を送ってくれるんだよ」

 

「彼女とは直接会ったことはあるの?」

 

「いいや。まだ会ったことはないね。でも、近い将来会うよ。必ずね」

 

どうしたんだ?まるで会うことがわかっているような言い草だ。

気のせいか?あたしにはワクワクしているような顔に見えるぞ?まるで心理戦を楽しむような知能犯のようだ。

あたしが疑問に思っていると、零はスカイプの画面を閉じた。

 

「あれ?れいれい、もういいの?他にも話すこととか無いの?」

 

「うん、ある程度の意見を聞けたから十分だよ」

 

そう言って零は新しい画面を開いた。今度はなんだ?スゴイ勢いでキーを叩いていく。パスワード画面だ......あたしが見ていても、零は何も言ってこない。見られても構わないってか?

 

「これって......何なんだ」

 

暗号を打ち込んで、零が開いた画面を見てあたしは驚いた。

そこには犯罪の分布図ーー犯行現場、犯人像、容疑者の写真、事件の関係者、犯行手口、逮捕した武偵などのデータが纏められている。

中にはイ・ウーや蘭幫の関わった事件もある。これは......パトラが関わった事件だ。こっちのは夾竹桃の事件、ってカツェとココまであるじゃん⁉︎

 

「リストと言えばいいかな。部屋以外でも目を通せるようーー私なりに犯罪者のデータを纏めてみたんだよ」

 

「これも協力者のおかげ?入学して数ヶ月でこれだけの情報を集めるなんて......誰にでもできることじゃない」

 

「そんな事はないさ。人との繋がり......なんと言えばいいかな〜。今、私はりこりんを見ている。りこりんは私を見ているね」

 

なんだ?突然、零は私の両頬に手を添えた。

その手は気のせいか......触れられていると安心する。

 

「お互いが見ている光景は違う。ここまで言えばわかるね?」

 

「何なの?りこりんにはわかんないよ」

 

「いずれ分かるさ」

 

そう言って零は画面にいくつかのデータを打ち込んだ後、「ふぁ」と大きく欠伸をした。

 

「ごめん......りこりん。着いたら起こして」

 

「あっ、うん。いいよ、お休み〜」

 

チャンスだ!零は人一倍、脳が疲れやすい。

『脳の疲労』これは衛生科で手に入れた確かな情報ーー確か一度、眠りにつくと簡単には起きない。今なら荷物を物色できる。

イ・ウーの事を何処まで掴んでるのか調べてやるぞ。

あたしは零のカバンをガサゴソと漁った。パソコンの中身が一番に気になるが、どんなトラップが仕掛けられているかわからないので、保留にしておこう。

荷物の中にはパスポートと財布、万年筆に『家庭栽培』の本など、どうでもいいものばかりだ。

あたしがガッカリしていると、フッと零のスーツの内ポケットに入っている赤い手帳に目が止まった。なんだ?

抜き取って開くと、中にはたくさんの数字の配列が書かれている。

これも暗号か?あたしにはわからないが、『教授』ならわかるかも。

 



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外伝:アメリカよ!わたしは帰ってきた(嘘です) 相棒 理子編

 

理子視点

 

ワシントン ダレス国際空港ーー

アメリカ合衆国バージニア州にある国際空港。

メイン・ターミナルは、出発階、保安検査場階、到着階、地上交通階の4層からなり、すべての航空会社のチケットの発行、手荷物検査、手荷物の受け取りなどの機能を担っている。

天井の低いターミナルは、珍しくない。成田・羽田のような高いターミナルの方が珍しいくらいだ。あたしは見慣れているから驚きはしないが......

 

「おお〜見てご覧よ、りこりん!天井は低いし、おまけに薄暗い」

 

零は空港に到着して早々、はっちゃけた。アレよコレと見て回っている。

あたしが言える立場じゃないが、聞いていてうるさいよ!

何なの?学校でのクールなイメージがぶっ壊しじゃん!

アメリカ内外の観光客がチラチラと見てるし......

 

「れいれい、早く入国審査の列に並ぼうよ」

 

あたしが零に審査待ちの列に並ぶように促す。

このまま放っておいたら、1日が空港内で終わりそうだ。

 

入国審査を待っている人間は観光客だけじゃない。

商用で来ているスーツ姿のビジネスマン。出稼ぎに来た中国人。里帰りしてきた学生。厳ついスキンヘッドの男。お互い仲良く手を繋いだ男女。松葉杖をついた北欧系の女性。

指紋と顔写真の撮影で、蛇行する審査待ちの列で零は、

 

「入国審査なんてワクワクするネ。見てよ。審査官ーー白人の女性係員さんの目つきが怖いね。勿体無い......笑顔なら可愛いのに」

 

またしても、零ははっちゃけていた。お願いだから、静かにしてよ......あたしがそう思っていると、零は突然だんまりを決め込んだ。目を細めて、自分の前にいる入国審査待ちの列を眺めている。

どうしたんだ?

 

「どうかしたの?れいれい。あっ、もしかして、順番が回ってきたから緊張したのかな〜」

 

「あー、そうだね......国外なんて初めてだし......ここもまた、ワクワクする場所だ」

 

零はニィッと笑った。まるで新しいオモチャを見つけた子供の目をしてる。

何がそんなに面白いんだよ......

 

「おっと、私の番だ。それじゃ、りこりん先に行ってくるよーーこんにちは」

 

そう言うと、スナック菓子を食べている入国審査官の女性にパスポートを渡し、流暢な英語で挨拶している。綺麗な英語だ。日本語訛りが全くない。

 

「ーー入国の目的は?」

 

「戦争」

 

「......は?」

 

「......へ?」

 

零の発した言葉に、思わずあたしと審査官はマヌケな声が出た。

ちょっと⁉︎零ぉぉ!入国して早々になんて事を言ってんの!

 

「聞こえなかったんですか?」

 

「い、いや、聞こえましたが......もう一度お願いします」

 

審査官と零の視線がぶつかった。気のせいか?審査官は零に恐怖を抱いているように見えるぞ。

「ニカッ」と零が笑った。それは、微塵も悪意のない笑顔だった。

もし魔王が笑うのであれば、こんな感じなのかな......あたしはそんな事を考えてしまった。

 

「し、失礼しました......もう一度。入国の目的は?」

 

「仕事ですよ」

 

零は真顔になって、マスターズから発行された依頼書と入国要請書を差し出す。

本当は『教授』が発行したんだけどね。

 

「......」

 

しっかりとそれを熟読し......考えた挙句、カウンター上の指紋読取機に指をかざすように手で示した。さらに、デジカメで零の顔写真を撮る。

同時に宿泊先や滞在期間を尋ねられると、「ゴッサム・シティにいる同僚の家。仕事が済み次第帰ります」などと答えると、審査官は零にパスポートを返した。どうやら入国OKらしい。

はあ〜、よかった。一時はどうなることやら......思わずドキドキしちゃったよ。

そして「次の人」とあたしに声が掛かる。

 

 

入国要請場の先にてーー

 

開けたホールのど真ん中に零が待っていた。

あたしはズカズカと近づき、

 

「ちょっと、れいれい‼︎なんて事言うの!」

 

「なんて事とは?」

 

「戦争だよ!なんで戦争なんて言うの⁉︎下手したらテロリストと思われるじゃん!」

 

「あー、アレね。ちょっと審査官を分析してみたんだよ」

 

分析って、何で審査官を?なんだか今日は「何で」と質問してばかりな気がしてきたよ。

 

「彼女が胸に付けていたネームプレートはピカピカだった。あれは新品ーーこの空港に配属されたばかりの新米。目の下にクマーーナイトクラブに出入りしている。過食症の兆しがあるーーストレス気味。最後に運動不足ーー彼女は来年、肥満体質になるよ」

 

零はその後も自分の分析結果を語った。

空港内ーー審査官、観光客、清掃員など、あの場にいた人間についてあたしに語る。

嘘でしょう......入国審査の僅かな時間で空港内の人間を分析したっていうのか⁉︎

こんな芸当ができる人間をあたしは『教授』くらいしか知らないぞ。

まさかとは思うけど、零は『教授』と同等の能力があるのか?

 

「あと、私が戦争と言ったのは、分析がしたかっただけじゃない。入国時間を伸ばすーー後ろにいた人間たちを遅らせたかったからだよ」

 

「どうして?嫌がせのつもり?」

 

あたしの問いに零は「NO」と返してきた。

 

「私たちの後方の列ーー後ろから7番目にいたスキンヘッドの男。奴は国際指名手配の凶悪犯ーー公共施設専門の爆弾魔ってヤツだ。武偵と警察の両方から追われた。中々ガッツがある。私は御免だがネ。6年前に死亡した事になっているが、それはフェイク。おそらく、替え玉の死体を使って逃げたんだろう」

 

零はパソコンを立ち上げ、あたしにくるりと、画面を見せてきた。

そこには犯人のデータが載っていた。飛行機で見せてくれた項目とは少し違ったが、顔写真・本名・国籍・所属・手口・家族構成・経歴などが事細かに記されている。他にも知らない犯罪者の名前もあった。

 

零......これはリストだよ。多分、FBIやCIA、武偵庁が把握してない犯罪者なんかもチラホラある。

チラッと見た限り、殺し屋・スパイ・政治家・テロリストぽい人もいるし。

 

「それってヤバくない?早く逮捕しないとさ」

 

「今、私たちはゴッサムでの事件を担当している武偵。私たちが出張る必要はない。さっき地元の警察に連絡を入れた」

 

ロビーで待っていたのは、警察に連絡を入れていたからか。。それなら安心.......

 

「が、取り合ってはもらえなかったよ。いや〜参ったね。私って信頼がないのかな」

 

じゃなかった。「ははは」って、ちょっと待ってよ零、それって笑い事じゃないよ‼︎

 

「代わりに武偵には連絡は入れたよ。匿名でね。奴が化学兵器を持っている事と、共犯者、犯行現場について話してあげたら食いついてくれた。ヒーローに手柄を取られたくない、という私欲もあっただろうが、アメリカの武偵は仕事が早くて助かる」

 

零はチラリッと、ロビーの奥を眺めた。

誰かいるのか?あたしも見てみるが、そこには誰もいない。

 

「どうやら、残念な事に地元の武偵の皆さんは、ヒーローに手柄を取られるようだ。さあ、行こうか?りこりん。ここから先は''彼と愉快な仲間たち''に解決して貰おうか」

 

彼と仲間たち?どういう意味だ?零とあたしたちが見ていた場所には誰も......いや、前にイ・ウーでアメリカが光学迷彩マントとかいうモノを開発したって、ココが言っていたぞ。

まさかとは思うけど、それを使って隠密活動している奴らを零は見破ったとでも?

改めて、ロビーの奥を見るがやはり何も見えない。

 

「ヒーローなんて、コミックだけの存在かと思っていたが、いるもんだネ。さて、地元の武偵さんも加わって大混乱にならなければいいけど」

 

「うん?それはどういう意味なの?れいれい」

 

「何でもないさ♪」

 

 




やばいリアルが忙しい!
最近になってトリコを読み出したら、メテオガーリックが食べたいと思ってきました。


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まずは拠点確保だ! 相棒 理子編

 

ゴッサムシティ

凶悪なマフィアや犯罪者、そしてそいつらを遥かに越える怪物共が跋扈する超犯罪都市である。

取り締まる側の司法・警察も一部の例外を除いて汚職に走る有り様で、正体不明のヒーローの手で辛うじて治安が守られている(それでも滅茶苦茶悪いが)。

ちなみにニューヨークの別名でもある。

マフィアがはびこり犯罪都市となった19世紀初頭のニューヨークを「愚か者の町」という意味で「ゴッサムシティ」と呼ぶようになった。

米国で危険な都市ランキング1位を常にキープしている。

 

そんな町にあたしと零は記念すべき第一歩を踏み出した。

高い高層ビル・マンションが建ち並び、右車線の道路にはタクシーや二階建てバス、一般車が忙しなく走り回っている。

違反駐車しているドライバーから賄賂だろうか?お金を貰っている警官の姿を見てしまった。通行人は何も言わない。恐らく、こういった不正がこの町の日常と化しているのだろう。

その証拠に通行人の女性がバッグをひったくられたのに、警官は知らん顔でコーヒーを飲んでいるし......絶対に面倒くさがっている。

 

歩道には路上販売店がちらほらと4店ーーコーヒー・ホットドッグ・サンドイッチ・クレープなど店ごとに販売している商品はバラバラだ。

通行人ーーサラリーマン・学生・作業員・タクシードライバーなど店に並ぶ人は様々だ。そんな人混みの中で、

 

「おじさん!このハム&ガーリックとコーヒーをそれぞれ2つお願いします」

 

零が路上販売店ーー販売店に改造したキャンピングカーでサンドイッチを注文していた。小太りでベースキャンプを被った中年の男性店長が「はいよ」と手慣れた手つきでサンドイッチを零に渡す。

 

「はい、りこりん。食べて私の奢りだよ」

 

「おー、ありがとう!れいれい。いただきまーす」

 

ご丁寧にあたしの分まで買ってくれた。

うん。ガーリックが少し強めだけど、我慢できないほどじゃないね。

モグモグと食べて、コーヒーで流し込む。砂糖が入っている。甘さは丁度あたし好みだ。

 

「りこりんは砂糖は1杯だったね。角砂糖だと1個でよかったかな?」

 

「あれ〜れいれいは何でりこりんの砂糖量が分かるの?前に話したっけ?」

 

あたしの記憶では零にコーヒーに入れる砂糖の量を言った覚えはない。

前に一緒にカフェでお茶をしたことはあるけど、その時は砂糖を入れる姿は見せてないぞ。

 

「りこりんはコーヒーを飲む時、一緒に付いてくるクッキーやチョコレートをコーヒーに軽くひたして、口溶けを楽しんで食べるでしょう?そういった人はコーヒーよりもお菓子を楽しむ傾向が強く、コーヒーに入れる砂糖は少な目にする事が多い。砂糖にお菓子が味負けするからね」

 

相変わらずコイツは人を観察するのが、人一倍ずば抜けている。

でも、そんな技量は探偵科なら誰でも身につけている。あたしだって技量ーー観察目には自身があるぞ。

 

「因みにお菓子をコーヒーに浸して食べるのは、フランス人に多く見られる。りこりんは確かハーフだったねーー日本人とフランス人。多分、お母さんが日本人じゃないかな?化粧の仕方が日本風な所がある。女の子が化粧の仕方を教わるのは、母親からと相場は決まっている。コーヒーの飲み方はフランス人のお父さんの影響。お喋りで自分の意思をしっかりと主張する所もお父さんの影響からだね」

 

間違った.....コイツは桁違いだ。

確かに化粧はお母様から教わったし、性格はお父様似だと自分でも思う。推理通りで怖いよ。

 

「はは、すごいね。れいれいには何でもお見通しなんだ」

 

「そんな事はないさ。私にもわからない事の100はあるよ」

 

100って、零。その言葉、説得力が皆無だよ。ジョークのつもりかよ。

 

「りこりんを分析したお詫びといっては何だけど、私の事も話そうか?りこりんにしか教えない秘密とかさ」

 

秘密だと。あたしはその言葉に食いついた。色々と聞き出したい情報がある。これは丁度いい機会だ。

 

「それじゃ、教えてよ」

 

「いいよ。まずはコーヒーの好みから言おう。私はブラックが好きだ。砂糖を入れる際はコーヒーを飲み干してから、底に残った砂糖をスプーンで掬って食べるのが好き。以上!さあ、行こう!」

 

ちょっと待った⁉︎教えるって、コーヒーの好みかよ!あたしが聞きたいのは、そういった事じゃなくてさ......もっと、謎めいた秘密だよ!

それに行こうって、どこにさ?

零はズンズンとカートに入れた大量の荷物を引きながら、歩道を歩く。そのカートは私物だったんだね。

 

「ねぇ、れいれい。何処に向かっているの?ホテル?それとも事件現場?もしかして、依頼人に会いに行くとか?でも、依頼人は匿名で頼んできたから会えないかもよ」

 

「どれも違うよ。今から向かうのは拠点さ」

 

町を歩く事30分ほど

マンハッタン島の東を流れるイースト川にかかる大きな橋ーーブルックリン橋を渡る。

ブルックリン橋は長い。海風に吹かれハニーゴールドの髪が乱れる。零の漆黒の髪も揺れるが、本人は御構い無しのご様子。

ようやく渡り終えた。

川の向こうから高層ビルが陳列するマンハッタン島が見渡せる。

 

「さあ、こっちだよ」

 

橋のたもとから右折し、川を右手にして走る。

零の案内されるまま、あたしは付いて行く。一体何処に向かっているんだ?空港で零は「仕事仲間の家に泊まる」と言っていたが、まさか本当に仲間がいるのか?

左に曲がると、どこか精密な玩具みたいな街が現れた。

 

「何だかグリム童話に出てくる街みたいだね」

 

「いい例えだ」

 

3階から5階建てぐらいの縦長のアパートがひしめく。玄関前には5段ぐらいの階段。小人が現実にいたら、こんなアパートに住んでいるかもね。

その内の一軒ーーアパートの玄関前で零は止まった。どうやら、ここが目的地らしい。

あたしは玄関のプレートに目が止まった。

プレートには【ニューヨーク・ブルックリン22番地】とあった。

零が玄関をコンコンっと、ノックする。すると、ガチャっと音を立て真っ黒なドアが開く。

 

「あらまあ!ゼロじゃない。お久しぶり!」

 

「本当にお久しぶりです。バートンさん」

 

あたし達を出迎えてくれたのは、年齢は50代風の女性だった。髪は赤毛混じり茶髪で、顔には少なくないシワが目立ち彼女がどれだけ生きてきたか物語っている。

 

「あら、ゼロ。こちらの可愛らしいお嬢さんはどなた?」

 

「こちらは私の学友で名前は......」

 

「ご紹介に上がりました!れいれいのお友達の峰 理子でーす!」

 

あたしは何時ものノリで挨拶した。

 

「まあ!ゼロのお友達だったの。初めまして、このアパートの大家をしてます。ミラ・バートンよ」

 

「バートンさん。突然で悪いんですが、部屋は」

 

零が会話に割り込む形でバートンの前に出てくる。

部屋?まさか零が言っていた仕事仲間の家ってここの事か?知り合いが部屋でも借りているのかな。

 

「もちろん用意しているわ。さあ、上がってちょうだい」

 

バートンはあたし達をアパートに招き入れた。

あたしは遠慮なく、土足で上り込んだ。日本だと玄関で靴を脱がないといけないが、海外ではそんな事はない。

薄暗い廊下は、玄関を閉めると殆ど真っ暗になってしまった。

 

「もっと早く連絡してくれれば、昼食を用意したのに貴女って人は忙しない所があるんだから」

 

「すみません。急な事件の依頼だったもので」

 

零は「ははは」と愛想よく笑う。バートンもつられたように「ふふふ」と笑う。

 

「ねぇ、れいれい。バートンさんとはどんな関係なの?海外で接点とか無さそうだけど?どうやって知り合ったのさ?」

 

あたしはヒソヒソ声で零に話しかける。

 

「ああ、バートンさんとはスカイプで知り合ってね」

 

「スカイプって、飛行機の中でやってたアレな事?」

 

「そうだよ。そのスカイプを通して、バートンさんが事件ーー夫が強盗を働いたと相談してきてね」

 

「わかった!れいれいがその事件を見事に解決ーー真犯人を見つけて旦那さんの無実を晴らしたんだ!」

 

零も武偵だから、依頼人には分け隔てなく接して事件を解決しているんだね。

 

「違うよ。旦那さんの犯行を立証して、刑務所送りにしてやったのさ。因みにバートンさんはそれを境に離婚して、新しい旦那さんと再婚。元旦那さんは懲役15年の刑に服しているよ」

 

前言撤回。あたしの勘違いだった。

 

「そうなんだ......あっ!でもさ、ただのスカイプで知り合ったにしては親しそうだね。玄関での話の様子から部屋まで貸してくれるなんてさ」

 

「ただのスカイプじゃないよ。私個人が作ったスカイプーー『スパイダー』を通して事件の経緯を知ったのさ」

 

個人で作ったって、どんだけ万能なのさ⁉︎

それにしても『スパイダー』か......それが零の情報源かもな。

もしかしたら、零はその『スパイダー』を通して世界中に情報網を張り巡らしているかも......名前の通り蜘蛛だ。

待てよ。前に『教授』に零の事を話したら、「彼女は蜘蛛のようだ。自らは計画を立てるだけ。しかし、時には自ら行動する大胆さも持ち合わせている。どんな細かい情報でも網にひっかけ、徹底的に分析する。まるでかつての宿敵をそのまま女性にしたような子だ」と面白そうに話していたな。

 

「そのスカイプにはどんな人がいるの?よかったら教えてよ」

 

「いいよ。高所恐怖症な暗殺者、結婚詐欺&年齢偽証姉妹、料理が趣味な精神科医、気の弱い恐喝者、自称魔術師、麻酔など要らねえ外科医などなど......」

 

零のお友達って、ヤバそうな人ばかりだね。きっとハンドルネームだよね?

話している内にバートンの姿は消えていた。何処にいったんだ?

零はバートンが消えたことは気にしていない様子で階段を上がる。

階段はギッギッと古い木材の軋む音がする。

上がった先は2階の表通りの部屋。色褪せた黒のドアを開け、入ると

 

「ここが私たちの拠点なる部屋だよ。こちらは居間」

 

零は自信満々に言った。

部屋にはまず大きな窓が二つある居間があった。家具はすでに備えられていて、使い込まれた絨毯と二人がけのソファ、そして一人がけのソファが3つある。

零はその一人がけのソファを一つ眺めている。真っ赤なソファだ。どうしたんだ?

 

「やれやれ......これを持ち込んだのは君か?レクター」

 

零が奥にあるキッチンに向かって、誰かに向かって問いかけた。

一体誰だろう?あたしは気になってキッチンに目を向ける。

すると、キッチンから優雅な足取りで一人の人物が居間にやってきた。

浅葱色のスーツとブルーのシャツを着て、胸元には真っ赤なネクタイ。

身長はスラリと高く、零よりもある。

顔は色白くウエーブのかかった金髪を肩まで伸ばし、目は吸い込まれそうになる程綺麗なグリーンだ。不思議と知的な印象を受ける。胸の膨らみから女性だ。

 

「いいじゃないかゼロ。僕と君の仲じゃないか。家具の一つくらい多目に見てくれよ」

 

発した彼女の声は、優しくて聞いていると安心感を与える声だ。

 

「私のセンスではこの部屋に赤のソファは似合わないと思うけど、まあ、別にいいよ」

 

「れいれい。こっちの人は誰なの?」

 

「おっと、僕とした事が自己紹介も無しに登場とは失礼だったね。初めまして、お嬢さん。僕の名前はレクター、ヘイゼル・レクター。よろしくね」

 

「おお!ボクっ子だ!初めまして峰 理子でーす。りこりんって呼んでね。ヘイヘイ」

 

「ヘイヘイ?それは僕の事かな。それじゃ、僕は君の事をりこりんって呼ぼう」

 

お互い自己紹介を終えた。

握手を交わすが、あたしとレクターは身長差があり過ぎる。レクターが屈んで握手する形になってしまったが。

 

「ヘイヘイはれいれいのお友達なの?もしかしてスカイプで知り合ったとか」

 

「そうだよ。僕とゼロはスカイプを通して意気投合してね。彼女とは、よく心理ゲームなんかして遊んだりもするね」

 

「飛行機の中でやりとりしていた『ハンニバル』が彼女だよ。レクターは心理ゲームに関しては天才だよ。私なんか足元にも及ばない」

 

「おいおい。そんなにひけらかさないでくれよ」

 

レクターは困ったように苦笑する。

ふーん、飛行機の中でやり取りしていた相手ーー『ハンニバル』はレクターの事だったんだ。

 

「ヘイヘイも武偵なの?見た感じ大人っぽいけど、もしかして、まだ学生?」

 

「そうだよ。僕はチェサピーク武偵学校の一年生。専門科目は救護科を専攻している」

 

「彼女はチェサピークではちょっと知れた武偵でね。救護科では有名人さ。現場で負傷した武偵だけでなく、加害者も分け隔てなく助ける様子から『チェサピークのナイチンゲール』なんて呼ばれたりね」

 

「やめてくれ。そのあだ名には参っているだ。僕はナイチンゲールなんかじゃないよ」

 

「ごめん、ごめん。立って話すのは疲れるでしょう?座って話そう」

 

零の勧めで全員ソファに座る。

ふわりとして丁度いい座り心地だ。

 

「さて、どうして君がここにいるんだい?チェサピークの事件で手が空いていないと思ったのに」

 

「その事件ならカタがついたよ。僕の所属するチームが犯人を追い詰めた。しかし、犯人は自殺してしまったよ。手にしていた拳銃で頭を吹き飛ばしてしまってね」

 

「チェサピークの事件って、何なの?りこりん武偵だから気になるな〜。ヘイヘイの武勇伝なんかも聞きたい!」

 

「チェサピークの事件って言うのはね。レクターの住んでいるチェサピークで、犯罪者ばかりを狙った連続殺人が発生したんだ。被害者からは内臓が幾つか無くなって......」

 

「あー、ゼロ。それについては後にしよう。今は君とりこりんの事について話そう」

 

レクターが零の話を止めに入る。うん、それがいい。最後あたりは気分が悪くなりそうだ。

 

「まったく君は実に......まあ、いいか。私とりこりんがここに来たのは......」

 

零は事の経緯をレクターに語った。

レクターはソファにじっと座ったまま聞いている。

 

 

「なるほど。ゼロとりこりんは誘拐犯を追って、わざわざ日本からね。大変だったろう。特にりこりん。ゼロには空港でかなり手を焼いたね」

 

「どうして分かるの?」

 

「だって彼女、海外とか初めてです感が丸出しだもの。この国の空港でワイワイ騒いだりしただろう?」

 

まったくその通りだ。零には空港で思い切り手を焼かされたよ。

 

「いいじゃないか別に......君だって日本に来れば私のようになるさ」

 

「僕は日本に行ったことがあるから大丈夫さ」

 

「さーて、どうだか」

 

「あっと、すっかり話し込んでしまった。君たち、昼食を食べてないだろう?僕が作ろう」

 

レクターが料理をするのか?

零がスカイプで『ハンニバル』ーーレクターは料理が趣味だと言っていたな。スカイプに料理の写真を載せていたし、見るからに美味しそうだった。

 

「本当⁉︎やったー‼︎りこりん楽しみだなー」

 

「ははは、そんなに僕の料理を楽しみにしてくれるとは......作る方も楽しくなるよ」

 

そう言ってレクターは奥にあるキッチンに向かった。

どんな料理を作るんだろう?

 

 

待つこと数十分ーー

 

レクターが居間のテーブルに料理を運んできた。

 

「うわー、美味しそ。何て料理なの?」

 

「子羊の舌包み焼きだよ。小うるさい山羊だったよ」

 

小うるさい山羊?レクターなりのジョークかな。

 

「さあ、食べよう」

 

レクターの言葉であたしと零はフォークを手に取る。

うーん、良い香りだね。

 

「あ!あれは何だ!」

 

突然、零が大声を上げレクターの後ろを指差す。それにつられてレクターが後ろ向いた瞬間、零は料理を皿だけ残して、窓から捨ててしまった。ちょっと⁉︎なんて事をするのさ!

 

「どうしたんだいゼロ。何もないじゃないか」.

 

「ごめん。チェサピークの『切り裂き魔』がいたような気がしてね。私の勘違いだったよ」

 

「ここには居ないさ。おや?もう食べてしまったのかい」

 

「ああ、舌もトロけそうな見事な料理だったよ。ねぇ!りこりん!」

.

「う、うん!メッチャ美味しかったよ」

 

零の迫力に押され、あたしは食べてもいない料理の感想を言わされた。一体、どうしたんだよ?もしかして、すごく不味いとか。

 

「それはよかった」

 

レクターはフォークで羊の舌を刺し、口に運ぶ。

その動作は見とれてしまうほど優雅だった。

 



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外伝:食後の後は観光?いいえ、しませんよ 相棒 理子編

少し短めです。
現在、海外ドラマ『ゴッサム』を見て資料集めしてますが、地図とかあればいいのにと、思ったりしてます。


理子視点ーー

 

料理を食べ終えたヘイゼルことヘイヘイはスーツの胸ポケットからシミひとつない、真っ白なハンカチを取り出し口周りを拭く。

食事中もそうだが、彼女は動作の一つ一つがどれも優雅で絵になる。

 

「さて、料理も食べ終えた事だし、今後の予定は決めてあるのかい?まさか、この街で観光なんて言わないでくれよ」

 

ヘイゼルは自分から見て向かい側ーーあたしの隣のソファで足を組んで座る零に今後のプランを訪ねる。

観光ねぇ、ここゴッサムに観光しに来るヤツなんていないよ。いるとしたら、余程のモノ好きか命知らずくらいだ。

 

「まずはゴッサム市警に挨拶ついでに事件の詳細を尋ねに行こうと思うんだ。レクターも同行してくれないかい?」

 

零は彼女に同行を願う。

まだ零はゴッサムで起きた誘拐事件について、大雑把にしか知らされていない。

情報収集の為にも地元警察に顔を出すのは正しい選択だろう。

 

「僕は大いに構わないよ」

 

「レクターがいれば非常に助かるよ。りこりんもそれでいい?」

 

「全然構わないよ。3人一緒に行動する方が楽しそうだし」

 

コンコン!

あたしの同行承諾を待っていたとばかりに、部屋のドアを誰かがノックしてきた。

誰だろう?このアパートにはあたし達3人と、大家のバートンくらいしか居ないし。

ガチャとドアを開けて入ってきた。あぁ、やっぱりバートンだ。

手には3つのティーカップを乗せたトレーを持っている。どうやら、食後の紅茶を淹れてくれたらしい。

 

「食後の紅茶よ。よかったらどうぞ」

 

バートンはあたし達が座るソファ近くのテーブルにカップを置く。

食後の紅茶か。あたしはまだ何も食べてないけど。

食べる前に零が窓から捨ててしまったのだ。見るからに美味しそうだったのにさ。本当にもったいない事をしてくれたよ。

そんな愚痴を零に溢しながら、あたしはバートンに一言お礼を言ってから出された紅茶を啜る。

ーーずずぅ

あっ、これ『アメリカンクラッシックティー』だ。

 

「姿なき女主人ーーバートンさんが現れた......あっ、紅茶ありがとうございます......ずずぅ」

 

「ありがとう婆や。ずずぅ......うん、美味し」

 

ヘイゼルと零がカップに口を付けて紅茶を啜る。

婆やって、バートンはヘイヘイの使用人って訳じゃないよね?

あたしは紅茶を啜りながら、そんな事を考えた、

 

「誰が婆やですか。私はここの大家であって、貴女の使用人じゃありません」

 

「怒らないでくれよ。婆や」

 

ヘイゼルは『婆や』という単語をワザとらしく強調して言う。

 

「あんまりふざけていると追い出しますよ」

 

バートンはそれだけ言って部屋から退室した。

 

「ねぇ、この部屋ってヘイヘイが借りてるの?てっきり、レイレイが借りてると思ったんだけど」

 

ヘイゼルに質問する傍ら、チラッと横目で零を見る。

 

「ああ、この部屋は僕のモノであり、ゼロのモノでもあると言えば分かるかな」

 

「ウーン、分かんない」

 

ぶんぶんとクビを振って、分かりませんアピールをする。

 

「そうだね......どこから話そうか。僕がこの部屋を借りて間もない頃、部屋の広さを持て余していてね。連帯保証と言うか......家賃を折半出来る''同居人''を探している時に、スカイプで知り合ったゼロが家賃を折半してくれると言ってくたんだ。そうだったよね、ゼロ?」

 

「そうそう、仕事くらいでしか利用しないのにね」

 

2人とも「ははは」と楽しそうに笑いながら話す。

懐かしい思い出に浸っている様子だ。

 

「仕事で?ヘイヘイはチェサピークの武偵だよね。ゴッサムにはよく来るの?」

 

ゴッサムとチェサピークは地理的にも離れている。

仕事とはいえアパートを借りる必要はないと思うけどな〜。あたしならホテルを借りる方を選ぶ。ヘイゼルは変わってるね。

そんなヘイゼルーースカイプで知り合った相手の家賃を折半してあげる零も十分変わってるが。

 

「仕事もあるけど、私用で度々来る時もあるよ」

 

「あれ?それは初耳だ」

 

「この街に何か思入れがあるの?」

 

「アーカムアサイラムを知っているかな?」

 

『アーカムアサイラム』ーーゴッサムシティにある精神治療施設。

この街の犯罪者、俗にヴィランと呼ばれる存在は精神を病んでいる者が多く、捕まるとここに刑の執行を受ける代わりに送り込まれるので、事実上の刑務所と同じ。

なお正気の犯罪者に対しては、ブラックゲート刑務所という通常の収容施設がある。

 

「僕の母方の叔母が精神科医として昔、そこに勤めていてね。その縁あって、僕も精神科医として呼ばれる事があるんだよ」

 

「へぇ〜、そうなんだ。ヘイヘイの叔母さんは今も勤めているの?一緒に仕事したりして」

 

アーカムアサイラムは『イ・ウー』曰く、「あそこは早い話、キチ◯イ病院」らしい。

おまけ、あの病院の創設者である医師が治療にあたった犯罪者に妻と娘を殺害されたことから、徐々に狂気に陥いり、その数年後、治療中の事故に見せかけ、その犯罪者を殺害。その後、完全に異常をきたし、患者として収容され狂死したバックストーリー付きだ。

 

「いいや、随分前に職場恋愛が原因で辞めてしまった。職場恋愛は破滅のもとってね」

 

ずずぅと紅茶を啜る。

破滅って、正しくは破局のもとでしょう。どっちらも変わりないけど。

ヘイゼルの叔母は同じ職場の同僚に恋をした。そして、破局に終わったか。少し可哀想と思えてくる。

 

「さて、話はこれくらいにしてゴッサム市警に行こう」

 

「やれやれ、やっと終わったか。君は自分の話となると長くなるんだから」

 

すっかり蚊帳の外だった零が、呆れ顔で飲み終わったカップをテーブルに置く。

除け者にされていじけているのかな。

 

「それを君が言うかい?この前なんかスカイプ越しで、自分の追ってる事件の詳細を3時間も話しただろう。時差の関係上、こっちは夜中だというのに」

 

「正しくは3時間6分だよ。ヘイゼル」

 

追ってる事件だと。零のヤツ、『イ・ウー』の事をヘイゼルにも話したのか?

あたしは零だけじゃなく、目の前にいるヘイゼル・レクターも要注意リストに加える。

一応、こいつの事を『教授』に報告しておくか。

 

 



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外伝 ◯◯の星よ。金次&

外伝を書いてみました。
理子編の外伝も書いていきますので、ご安心を。


時刻は17時を回った頃ーー

 

「よいしょっと......こんなもんかな」

 

学校が終わるなり、私は速攻でマンションーー制服も脱がず自室に籠ってカーテンを閉め、黙々と部屋の至るところに壺を置いて回った。

壺といても大した物じゃない。前の依頼で、依頼人からお礼として頂いた無機質な黒い壺だーー数は15個ある。

その壺をリビングの至るところに配置する。

いや、別にこの後、怪しい魔法陣とか描いて、黒魔術を始めるわけじゃないよ。

これからやるのは''訓練''だ。

 

「えーっと、あった」

 

ソファにかけてあった赤い手拭いを取り、シュルッと目隠しをする。

そして、太もものホルスターから愛銃ウェブリー・リボルバーを抜くーー勿論、弾は既に込めてある。

銃を構えて、おまけに目隠しをして何を始めるかというと、視覚を遮った状態で的を射れるかの実験もとい訓練だ。

 

反響定位またの名をエコロケーション

音の反響を受け止め、それによって周囲の状況を知ることである。

具体的な例でいえばコウモリだろう。

コウモリは口から間欠的に超音波の領域の音を発して、それによってまわりの木の枝や、虫の位置を知る。

これはコウモリに限った話ではない。人間にも再現可能な能力だ。

杖をたたく音や舌を鳴らした音などの反響で、周囲の状況、例えば横にブロック塀があるといったことがわかるという。

これにより、自転車を運転したり、初めて訪れた場所でランニングを行った例もあるほどだ。

 

私は今からそれを戦闘に応用ーー視覚を遮られた状態で実施する。

長々と語ったが、早速始めるとしよう。

空気の流れ、部屋の外から内に与えられる振動、自分の呼吸音による反響を頼りにーー指を引き金にかけて撃つ。

 

パァン!ガシャン!

 

銃声の後に遅れて壺が割れる音が聞こえるーー爽快でいい音だ。

そして、鼻孔を擽るようなの硝煙の香りが心地良い。

景気良く続けて撃とう。

 

パァン!ガシャン!パァン!ガシャン!

 

「...,...イ!」

 

うん?雑音が聞こえるぞ。私は確かに壺を撃った筈だが......

気に留めることもなく、続けて発砲する。

 

パァン!ガシャ!

 

「......イ!レイ‼︎」

 

右隣から私の名を呼ぶ声が聞こえきたーーこの声はもしや...,.

私は目隠しを外してみると、そこには金次君がいた。

気のせいか血の気の引いた顔で私を見つめる。

 

「やぁ、金次君。そんな真っ青な顔してどうしたんだい?」

 

「俺を殺す気か⁉︎何で部屋で銃をぶっ放してんだよ!」

 

金次君は怒り心頭なご様子。

うーむ、皆目見当がつかないぞ。

まず初めに聞くべき事はーー

 

「どうして君が私の部屋にいるの?まさか......私を襲いに来たのか⁉︎」

 

サッと距離を取り、臨戦状態に入る。

 

「誰が襲うか。忘れたのか?お前が俺に学校のクエストを見繕って、部屋に来いって、言ったじゃねぇか」

 

金次君は言葉の最後にハァーとため息を吐く。

あー、そうだった。思い出したよ。

実験の後で学校のクエストを確認しに戻るのが面倒だから、金次君にクエストを適当に見繕って、後で部屋に来てとお願いしたんだった。

 

「そうだったね。いや〜ごめんね。実験に夢中で忘れてたよ」

 

「これは何の実験だよ?銃の乱射テストか?それとも曲芸撃ちか?」

 

金次君が部屋を見渡す。

リビングの床には割れた壺ーーではなく、蛍光灯・テレビ画面・食器が粉々になって、辺りに飛散していた。

肝心の壺は1つも割れていない。

 

「壺を狙っていたんだよ」

 

「目隠しで......?それにしては1発も命中していないみたいだな」

 

「4発中0発だよ」

 

「あー、見事な腕前で」

 

「いや〜それ程でも〜」

 

銃を持たない空いた手で頭を掻きながら照れてみる。

そんなに褒めないでよ〜。思わず発砲したくなるじゃないか。

 

「褒めてねぇし。撃つんなら射撃場で撃て」

 

分かっていたけど、ナイスツッコミ!

 

「玄関前に来てみれば突然、お前の部屋の中から銃声が聞こえたから、何事だと思って駆け込んでみれば、こんな事をやってたとは......後片付けはちゃんとやれよな」

 

金次君は再度、私の部屋をグルと見渡す。

分かってるよ......分かってますよ。片付ければいいんでしょ。片付ければ。

私は渋々と塵取りと箒を手に部屋に飛び散った破片を集める。

そんな感じで、サッサと片付け終える。

 

「お掃除終わりと......あー!ちょっと金次君、それに触らないでくれたまえ」

 

掃除を終え、私がひと息つこうかなと思った矢先、金次君が私の部屋のモノを弄ろうとした。

私はそれを慌てて止める。

 

「お前の部屋は来る度に、ごちゃごちゃと色んなモンが増えてくるな。コレは何だ?新しい万華鏡か?」

 

1人がけのソファに置かれた細長い筒を指差す。

ごちゃごちゃとは失敬だな!これでも整理整頓してあるんだよ。

ベランダに設置してある望遠鏡、部屋の隅に重ねてある新聞記事、床の開きぱなしの分厚い本、壁にピン止めされた世界地図......ちゃんと整理整頓してある。

 

「それはリボルバー専用の消音器ーーサイレンサーだよ」

 

「オートマチックと違って、銃口以外の隙間が大きいリボルバーには基本的に効果がないんじゃないか?」

 

サイレンサーは、銃の発射音を軽減するために銃身の先端に取り付ける筒状の装置で、映画などではこれをつけることで周りに気が付かれずに暗殺している描写が描かれているが、思ったよりも音がするのだ。もっとプスッってレベルなのかと思ってたけど室内だと反響しちゃうんだよね。

 

「より聞こえにくくするために私は敢えて発射ガスを銃身内側に......」

 

「あー、分かった分かった。お前がリボルバー専用のサイレンサーを作りたいってのが、十分に伝わったよ。そんな便利なモンがあるなら最初から使えよな」

 

私が丁寧に説明してるのに、金次君は途中で区切ってきた。

これから革新的な発明の説明本番って時に...,.それに使って、コレはまだ未完成品だよ。

 

「そんなモン付けるより、オートマチックを使ったらどうだ?それの方が手取り早いだろう」

 

チラッと腰のホルスターに収めてある拳銃を見せてくる。

 

「ヤダ。私はリボルバーが好きなんだ。コレだけは譲らないーー例え地球が崩壊しようともね」

 

私はキリッとした顔で宣言する。ふっ......決まった。

 

「たく、お前の頑固な所ーーリボルバー好きなら兄さんといい勝負だよ」

 

金一さんといい勝負かー、いつか彼とは西部劇風の早撃ちで勝負したいな。

まぁ、今の私ではは十中八九負けるが、勝つ秘策はある。まだ開発中だけどね。

 

「リボルバーについては後ほどしようか。ソファにかけなよ。コーヒーでも出すよ」

 

「普通のコーヒーをお願いするぜ」

 

うん?どうしたんだい金次君。そんなに張り付めた顔で懇願して。たかがコーヒーで大袈裟だなー。

そんな事を考えながらキッチンに向かう。

 

「あちゃー、ここまで被害が及んでいたか......参ったな」

 

キッチンに移動すると、そこにも辺り一面にガラスの破片が飛散していた。いや、ガラスだけじゃない。コーヒーカップーー陶器類も割れている。

食器棚を貫通して壁に命中した際に割れたようだ。

これじゃ、コーヒーが注げないな。何かで代用するか。

辺りを見渡してみるとキッチンのテーブルに実験用のビーカーを発見した。

前に新型の麻酔薬を作る際に使用したけど、しっかり洗ったし、コレにするか。

 

 

「金次くーん、お待たせ〜」

 

コーヒーを注いだビーカーを2つを手にリビングに戻る。

 

「サンキューって......これは理科の実験で使うビーカーじゃねぇか。なんてモンにコーヒー入れてくんだよ。コーヒーカップは無かったのか?」

 

「あー、それがね......私の実験の尊い犠牲となりました」

 

「ようするに割らかしたんだな」

 

「その通りでごさいます」

 

「物は大事にしろ。壊れたら買い換えればいいって、わけじゃねぇんだからな。あと、コレ今日の新聞。玄関の投函入れに入ったままだったぞ」

 

ーーずずぅ

嫌味を垂れながらもビーカー入りのコーヒーを啜る。

私もソファに腰掛け、金次君と向かい合うようにコーヒーを啜りながら、渡された新聞を開く。

ハァー、入れたてのコーヒーは美味い。気のせいか、いつもより苦味が強い気がするが。

 

「それでクエストの方は見繕ってくれたかい?」

 

「お前が興味を持ちそうな案件をリストアップしてきたぞ」

 

金次君は手にした数枚のファイルをひらひらと見せびらかす。

 

「どんな事件を持ってきてくれたのかな?私の灰色の細胞を刺激してくれるワクワクするような事件は果たしてあるのか」

 

「ポワロか。そんな事より言うぞーー東京都台東区の主婦から旦那が行方不明」

 

「海外主張と偽って、若いパート従業員とシンガポールに旅行。因みにお相手は妻の勤め先の同僚」

 

ーーつまんない。

金次君は「えっ⁉︎」という顔をしている。

そんなに驚く事かい?こんな事件は分析するまでもない。

私は再度新聞に目を通す。

 

「おっ!今日は晴れ日よりか.......えっ⁉︎もう9月に入るの」

 

「あぁ、そうだよ。次いくぞ......えーっと、足立区の自営業者を営む女性から何々....パールのネックレスを紛失」

 

「保険金詐欺。夫は妻に隠れてギャンブルに熱中。保険会社から保険金を騙しとり、ギャンブルの穴埋めに使う」

 

「捜査もしてないのに決めつけるな。違ったらどうするんだ?」

 

「こんな事件で間違いを犯さないよ。犯す可能性は天文学的な確率よりも低い」

 

本当につまらん!君は私を退屈死させるのかい?

 

「ハァー、じゃあコレどうだ。江戸川区の男性。ミスコンで死んだ娘の捜査」

 

ピキーン!

私の頭の中で閃光のようなモノが光った。

 

「ミスコンというと東京都文京区の東京ドームホテル?」

 

「いや、文京区は同じだが、最近になって完成した東京シティホテルーーそこで開催されたミスコンで娘が死んだから捜査してくれだってよ」

 

「死んだ日時と状況は?」

 

「詳しくは記入されてない。ただ、娘がミスコンに出たから死んだ。だから捜査してくれとしか書かれていない」

 

ファイルを見せてくる。

うーむ、確かにコレには大雑把に状況が書かれており、捜査してくれとしか記入されてないね。いや、死んだ日時が書かれている。

えーっと、今日遺体が発見された⁉︎早急に捜査を開始してくれって、イキナリだなー。娘が死んだから、気が動転しているのか?

 

「警察も捜査しているのかい?」

 

「コレによると警察にも捜査させているし、俺ら武偵にもお声が掛かってる。おそらく、娘の死の真相を知りたいが為に、猫の手も借りたい状態なんだろうぜ」

 

「クエスト参加人数に制限は?」

 

「特にないな。制限なしの外部との協力ありとある」

 

校内問わず学校のOBーー現役のプロや一般人の協力もよしってワケね。

 

「ミスコンは中止になるのかな?」

 

「いいや、どうやらこのまま続行ーー予選から始め直す予定とある。人が死んだってのにな」

 

金次君は苦虫を噛み潰したように顔を顰める。

 

「死んだ出場者の穴埋めはどうするんだい?誰か当てでもあるのかな」

 

私はソファに背を預け、膝掛けを指でトントンと叩きながら考える。

 

「金次君。学校に戻ってクエスト掲示板を再度漁ってみてくれ。私の読みが正しければ、ミスコン開催のホテルから依頼が来てるだろうーー死んだ出場者の穴埋めの為のね」

 

「武偵に依頼が舞い込むか?仮にあったとして.......お前が出るのか?」

 

「やだよ。私、そういうガラじゃないし」

 

ミスコン会場に潜入となると、人選は慎重にしないとね。

私の見立てでは金次君は女装すればミスコン優勝を狙える!

 

「特殊捜査科にでも声かけてみるか?」

 

金次君が提案してきた。

チィ、私の考えを呼んだか。先手を取られた。

 

「特殊捜査科の人達なら優勝を狙えるかもしれないけど、イマイチピンとこないんだよねー」

 

「特殊捜査科の女では力不足ってか」

 

「いや、別に特殊捜査科の子が力不足って意味じゃないよ。恐らく、今回のミスコンは大人の女性というのがテーマだろう。まぁ、彼女達は十分、大人の女性を演じられるけど、問題が1つだけーー金次君は特殊捜査科と一緒に任務をこなせる自信ある?」

 

「ーー全くないな」

 

うん、素直でよろしい。

特殊捜査科は美少女しか入ることが許されない特別な学科だ。

そこに在籍している女の子は金次君には刺激が強すぎるだろう。

 

「誰かいないかなー。大人の女性で、尚且つ金次君が気兼ねなく、一緒に任務をこなせる理想の......「あっ」」

 

この瞬間、金次君と私は全く同じ答えに行きついた。

金次君の身近にいるじゃないか。

普段は男性だが、女装すると絶世の美女に化ける。

女装の星という名の、宿命を背負ったーーある男性の姿が脳裏に浮かんだ。

 

 

東京都 巣鴨にあるマンションにてーー

 

「ーーというわけです。ミスコンに出場して下さい、金一さん」

 

「ーー断る」

 

私たちは東京都内の巣鴨に居を構える金一さんの元を訪れた。

理由は女装してミスコンに出場し、捜査に協力してほしいとお願いする為だ。

休日の来訪に金一さんは嫌な顔1つせず、私たちを歓迎してくれた。

機嫌のいいウチに来訪の目的を話したが、案の定、一発で拒否された。

リビングのテーブルを挟んで、お互い今に至る。

 

「そもそも何故、男の俺がミスコンに出る必要がある?学校の特殊捜査科や同級生に協力を仰ぐなり、いくらでも手はあるだろう?」

 

まったく、その通りでごさいます。

 

「大方、キンジの女嫌いを考慮しての配慮だな」

 

チラっと私の隣に腰掛ける金次君を眺める。

その目は情けないと語っているようだった。

 

「いい加減、女に慣れろキンジ。我が弟ながら情けない」

 

「すまない兄さん」

 

「それにレイ。君も君だ。外部の、それも男の俺より.....本当の女の方が安全且つ確実に任務をこなせる筈だ」

 

金一さんは女装ーーカナさんになりたくないようだ。

彼は仕事でカナさんになるが、本人は超が付くほど恥ずかしいらしく、金次君曰く「兄さんの前でカナの名前は出さないほうがいい」らしい。

 

「金一さん。今回の事件の犠牲者の親族ーーお父さんは娘さんを亡くして悲しんでます。そんな遺族の無念を晴らす為にも金一さんの強力が必要なのです」

 

「いや、だから俺じゃなくてだな。その遺族には気の毒だが......しかし......俺がミスコン......男としてのプライドが......」

 

今、彼は良心と羞恥心に挟まれている。

正義の塊のような金一さんとしてはこの事件は見過ごせないだろう。

しかし、女装してミスコンーーあり得ないお願いで困惑している様子。

 

(ほらな零。兄さんにミスコンは無理だ)

 

金次君がヒソヒソ声で語り掛ける。

大丈夫さ。金次君、必ずお兄さんに協力させるさ。

私はココで用意していた切り札を切ることにした。

 

「ローマ武偵高への留学。ホームシックになった子。慰め添い寝。お姉様」

 

「ーー‼︎‼︎」

 

ビシィッ‼︎

その瞬間、金一さんは雷にでも打たれたかのように硬直した。

 

「ど、どこでソレを......?」

 

「さーて、どこで聞いたのやら?」

 

これが私の切り札ーー遠山 金一のローマ武偵留学日誌。

私はここに来る前に彼の事を徹底的に調べた。

すると、面白いことが発覚した。

彼は学生時代、ローマ武偵高に転装生ーーカナさんとして留学。

恐らく、ヒステリアモードを使って勉強を捗らせる為だろう。

留学して暫く、ある日カナさんはホームシックになった女の子を慰める為に、その子が寝るまで同じ部屋で添い寝してあげたのだ。

その日からカナさんは周りの女の子達から「カナお姉様」とちやほやされ始めた。

 

「キンジぃぃぃ!まさか、お前喋ったのかぁぁ‼︎」

 

「し、知らねえよ⁉︎一体、何の事だよ」

 

「あっ!金次君は喋っていませんよ。私が独自に調べただけです」

 

金次君に殴り掛かろうとする金一さんを止める。

彼を殴ってもいいのですか〜?その瞬間、アナタの事をローマ武偵の女の子達にバラしますよ?カナさんは男ですってね。

金一さんは「うぐぅぅぅ」と苦しそうに悩む。

好きなだけ悩みなさい。ここからは、ずっと私のターン‼︎

 

「金一さん。任務に協力してくれますね?勿論、報酬は支払いますよ」

 

優しい笑顔でニコッと微笑む。

アナタに残された返事は「YES」しかないんですよ。どうせ、ローマ武偵の女の子達から「お姉様」と呼ばれて良い気分だったんでしょうが。

 

「わ、分かったから、言わないでくれ。頼む......!」

 

「了解です。それじゃ、私達は外で待っているので、しっかりと''準備''して出てきて下さいね♪さぁ、行こうか金次君」

 

私の金次君は部屋を出るーー金一さんの''準備''が整うのを待つ為に。

 

「お前、兄さんに何したんだ?」

 

「さーてね。ただ言えるのは......えーっと、確かマンガだと何って言うんだっけ、あぁ、そうだ!」

 

私は手をポンと叩き、

 

「計算通り」

 

「◯スノートか」

 

笑顔で決めたのに、金次君にビシィっとツッコまれた。

 




ドドドと誰かが階段を駆け上がる音が聞こえるような......


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外伝:ミスコン殺人事件 相棒金次&カナ編

ジャンヌ編はもう少しお待ちください。




東京シティホテル

東京都文京区にそびえる地上43階建ての超高層ホテル。

都内主要5線4駅より徒歩6分圏内と言う好立地で、ビジネス・レジャーでのアクセスとしても便利。9階~41階に位置する客室からの眺望が非常に高評価。

イベント宣伝の効果を狙ってか、3階スーパーダイニングの外から『東京シティホテルの美人コンテスト』と明記された弾幕がデカデカと貼られている。

 

「おお〜見てごらんよ金次君、天まで届きそうだ」

 

私は爽快な青空に向かってそびえ立つ、件のホテルを裏口から眺めがら感傷に浸っていた。

現在の私の服装は何時もの武偵高校のセーラー服ではなく、黒のスーツを着ている。

これはただのスーツではなく、様々なギミック満載の特注スーツなのだ。

スーツが男だけの戦闘服だと誰が決めたのかな?

 

「建設中のスカイツリーほどじゃないだろう。それに高さなら『東京ドームホテル』と大して変わらん」

 

右隣に立つ金次君が悪態をつきながら同じくホテル周辺を眺める。

ホテルの裏口にはミスコンの出場者がステージで着るのであろう、汚れ防止の保護シートに包まれた、様々な衣装が業務用のハンガーフックに掛かっている。

衣装だけじゃない。ステージの照明器具やコイル状の配線、トラックから運び込まれた衣装をホテルに運び込む大勢のスタッフの姿も確認できる。

そして、ホテルに似つかわしくない人達の姿がーー警察だ。

人が死んだと通報を受けてか、ギラついた目で周辺を散策兼警戒している。

軽く見た限り20人くらいはいるね。隠してはいるが、全員不満と疑問に満ち溢れた顔をしているのが分かる。

ホテル側のミスコン続行のせいで、こうも慌ただしく現場を荒らされたんじゃ、捜査に当たる警察からすれば堪ったものじゃないだろう。

 

「確かにね。キンジの言う通り、このホテルは向こうと同じーー双子ビルの様なモノだし」

 

そして、忘れてはいけない人がここに1人。

私の左隣には悪態をつく金次君を見て、くすくすと可笑しく笑う女装した金一さんもといカナさんが立っていた。

服装はふっくらした質感が自慢のモックネックサンドスリットニットワンピース。

色はライトオレンジで、安定したモックネックで膝下丈の安心感とスリットの色っぽさがグッドだ。

厚みがあるため保温性も抜群でゆるいフィットで体型もカバーし、デイリーにはもちろんアンクルブーツとベルトも完璧にマッチしている。

 

「そうですよね〜。カナさんの言う通りでした〜」

 

愛想笑いを浮かべ適当に受け流しながら、カナさんをじーっと観察する。

女の私から見ても女性にしか見えない。

落ち着きと大人特有の色気が合わさった完璧な女性だ。これなら、誰も男とは思わないだろうーー私と金次君を除いて。

 

「ねぇねぇ、金次君」

 

「何だよ?っーか、引っ付くな。スーツ越しに胸が当たるんだよ」

 

金次君の肩を掴んで私の方に寄せる。

その際、私の胸が彼の二の腕に当たるが、これは決して当たってるのでない‼︎当てているのさ。カッコつけてネ。

 

「カナさんって、本当に男なの?改めて観察してみたけど、私の目から見ても女性にしか見えないんだけど」

 

後ろからカナさんが見ているが、私は口元を背中で隠して声音は最小限まで落としてヒソヒソ声で喋る。

 

「そりゃな......大概兄さんの女装姿を見れば誰でもそうなるさ。後、間違っても本人の前でその話題を持ち出すなよ。今はカナだからいいが」

 

視線をソーッと後ろにいるカナさんに移す。

ははぁ〜ん。さては変身解除後の金一さんに戻ってからが怖いんだね。

 

「いや〜本当に女性にしか見えないね。性別が男って嘘じゃないの?」

 

「ば、馬鹿⁉︎何言ってんだッ!」

 

わざとカナさんに聞こえる声で喋ってみる。

おお〜慌ててる。慌ててる。

チラッと後ろにいるカナさんを見るが、本人はコテンと首を傾げて何を言っているのか、分からない様子だ。

 

「しかし、あの胸ってどうなってるんだろう?実に興味深い。私の分析では......」

 

カナさんにふっくらとした胸がある。男である以上、作り物である事は確かだが、うーむ、大きさはB以上はあるネ。

 

「くだらんことを分析せんでええ」

 

ビシッ!

分析結果を言い渡そうとした瞬間、金次君にチョップをお見舞いされた。

痛っ⁉︎よくもやったな〜。よーし、いいだろう。

私は彼にお返しとして、まだまだ試験的なアレをすることにした。

 

「金次君。君はいつから金一さんが兄もとい男だと錯覚していた?」

 

「突然、何を言い出すんだお前は。正真正銘、兄さんは男だ。弟の俺が保証する」

 

「本当に?君は騙されているんだよ。今のあの姿こそが遠山 金一の真の姿なんだよ。普段は男装して、弟である君を騙していたのさ」

 

くいくいと親指でカナさんを指し示す。人を指で指すなとは言わないでね。

 

「そんなワケあるか。仮にそうだとして、男装する理由が分からん」

 

「金次君、本当は知ってるはずだ。思い解してごらん。金一さんが君と一緒にお風呂に入った事があるかい?一緒に海水浴は?お手洗いは?疑問に思う不審な行動があったはずだ」

 

「生憎だったな。兄さんと風呂に入った事はあるし、海水浴に連れってもらった」

 

金次君はハッキリと宣言した。

うーむ、言葉責めの催眠術を試してみたが、うまくいかなかったか。

これで彼が金一さんを姉だと錯覚すれば、どうなったんだろう〜。

やばい!思わずヨダレが......拭かないと。

 

「さっきからずっと二人で何を話しているの?」

 

カナさんがピョコと私と金次君の肩の間から顔を出してきた。

うわっ⁉︎ビックリした〜。全く近づいてくる気配を感じ取れなかったよ。これがプロの実力か......

 

「何でもねぇよ。ただコイツが馬鹿な事を言ってただけだよ」

 

「馬鹿とは何だ!私はただ君の為になる重要な話をだね......」

 

「ハイハイ。二人とも喧嘩しない。早くホテルに入りましょう」

 

カナさんが仲裁に入る。コレが大人の対応ってやつか。

これなら絶対に男女関係なくモテるわ〜。もしかして武偵庁にカナさんに惚れてる人がいたりして......そうなったら、金次君がやきもちを焼いたりするかも。

そんなことを考えながら、ホテルに向かって足を踏み出した。

 

 

裏口からホテルに入る際、入り口を見張る警察官から呼び止められたが、そこは武偵章を見せることでパスした。

その際、警官からすご〜く嫌そうな軽蔑の眼差しを向けられたけど。

そのまま1階のフロントの窓口で来訪目的を伝え、自分の武偵章を眺めながらホールを歩いていると、この前見た時代劇のあるシーンが頭によぎった。

 

「改めてコレいいネ。どこかの印籠みたいで。ひかえ!ひかえ!ひかえ!この武偵章が目に入らぬか!こちらにおわすお方をどなたとこころえる。恐れ多くも先の......」

 

「「くだらない事やってないで早く行くぞ(わよ)」」

 

有名時代のご隠居様を真似てみるが、隣を歩くキョウダイに途中で遮られた。

珍しくカナさんがノってこなかった。注意するその姿は母親そのものに感じられた。

ここから見せ場って時にさ......場を和ませるジョークくらいはいいじゃないか。

文句を垂れながらも、エレベーターに乗り込みミスコン会場がある43階サウンドステージ&ダイニングエリアを目指す。

 

 

エレベーターから降りると、そこは正にミスコン会場と呼ばれるに相応しい場所だった。

広さは武偵高校の第1体育館くらいだろう。

天井には大量の照明器具に会場全体を挟むように左右には大量の音響装置。奥にあるメインステージは扇状で、背後には大型のフルカラーLEDスクリーン画面が『東京シティホテル主催の美人コンテスト主催』という文字を映して3つ並んでいる。

メインステージ前には来客専用のパーティーテーブルがステージ全体を見通せるようセッティングされ、イベント主催者が如何に力を入れているかが感じ取れる。

しかし、そんな会場に似合わないモノが確認できるーーメインステージの中央の降ろした照明だろう。その上にスパコールを着た若い女性が仰向けで倒れていた。

目立った外傷はなく、目を見開いて天井を眺めるようにダランと力無く両腕をステージに垂らしているーー明らかに死んでいる。

その女性の死体を囲うように、ステージ上に2つのグループがーー武偵と警察だ。

キッとした張り詰めた現場の空気がこちらに伝わってくる。

お互いに睨み合って仕事に励んでいるネ。

警察と武偵は仲がよろしくない。警察は武偵を現場を荒らして手柄を横取りするって、思ってる節がある。

本来、警察と武偵は共同で仕事をする事はないが、依頼人の要望でこのような事態になったのだ。

 

「ミスコン殺人事件とはイイね〜」

 

「コラッ!レイ、不謹慎なことは言わないの」

 

カナさんから注意を受ける。

殺人は起きるべくして起きるモノさ。

まぁ、こういった現場で起きた事件は''また''起きてもおかしくないけど。

 

「うん?おい、アレって『家族はツライよ』の夫役で出てる田中アキラじゃないねぇか。何でここにいるんだ?」

 

金次君が眺める先には、ステージ前でタキシードに首には派手な蝶ネクタイの若い男が警察官に事情聴取を受けている。

あっ、本当だ。金曜の夜ドラ『家族はツライよ』に出演している俳優の田中アキラじゃないか。

妻と元恋人の間で揺れる1人の男の心情を描いたドラマで、私は毎週欠かさず見ているよ。妻を取るか、見捨てて元恋人を取るか苦悩する場面が見所なんだよね〜。

でも、最近になって役を演じきれなくなった節がある。そこが少し残念でならない。

 

「どうやら、ミスコンの司会者として呼ばれてるみたいよ。彼のドラマ毎週欠かさず見てるわ」

 

「ほほぅ〜。実は私も彼のドラマ見てるんですよ。妻か元恋人どちらを取るか苦悩する彼の姿は見ものだと、カナさんも思いませんか?」

 

「あら残念。私は苦悩する彼を見て、自分から身を引こうとする元恋人の潔さが素晴らしいと思うわ」

 

カナさんは私とは好みが真逆だった。

元恋人の方が好みですか。カナさんとはドラマ全体では話が合うが、見所では合いそうにないな。

 

「2人してあのドラマを見てんのかよ。って、それどころじゃない。早く現場に行くぞ」

 

金次君を先頭にステージに上がる。

新しく来た私達の姿を見て、ステージ上の武偵と警察が一旦手を止める。

警察の方は私達が何者か気になってるご様子だ。対して武偵の皆さんは見慣れたーー何名かカナさんに面識があるみたい。

その内の武偵の1人がこちらに向かって歩いてくる。

 

「おう、きん......カナさん、お疲れ様。うん?そっちの2人は......」

 

「私の弟とそのパートナーよ」

 

気さくに話しかけてきた武偵はどうやらカナさんと面識があるようだ。

 

同じ職場の同僚か、或いは他所の武偵事務所で会ってるのかな?カナさんだけに会ってるカナなんちゃって♪寒いか......

そんなカナさんが私と金次君に目配りする。挨拶しろって事だろう。

 

「初めまして武偵高校1年の玲瓏館・M・零です。未熟者ながら探偵科に所属してます」

 

「あー、その遠山 金次です。武偵高の1年で強襲科に在籍してます。あとカナの弟です」

 

「おう!よろしくな、弟とそのパートナーちゃん。俺は江戸川区の武偵事務所に所属してる多田島ってモンだ」

 

軽く頭を下げて挨拶する私に対して、金次君はぶっきらぼうに挨拶する。こらこら、金次君?こういった場面では第一印象が大切なんだよ。状況によっては一生相手の記憶に残るんだからさ。

 

「早速だけど状況は?」

 

私達が挨拶を終え、カナさんが武偵に現場の状況説明を求める。

 

「コンテストマネージャーの石田ナルミに話を聞いたところだ」

 

彼が「ほれあそこに」と指差す先にはステージから少し離れた所で武偵に事情聴取を受ける女性の姿が。

年は40代前半、紺色のドレス姿の堂々とした立ち姿が美しい、何処かキャリアウーマン風の印象を受ける。

遠目からでも武偵の聞き取りにも臆するなく、ハッキリと喋っているのが分かる。

 

「被害者は21歳の美空マミ」

 

そう言って歩きながら状況説明する彼について私達は行く。

ついでに持参した手袋をはめる。

 

「ミスコン美女たちがコンテストのリハーサルをしていた。途中で照明器具を降ろした所......彼女の遺体が上に乗っかっていた」

 

状況説明が終わると同時にステージ上の照明器具に乗っている被害者と対面した。

被害者を前に私達は手を合わせる。

そして、改めて遺体を観察する。

女性の見開いた目には生気は感じられず、ダランと下がった両手は風でも吹けば振り子の様に動きそうだ。肩にはタスキの様なモノを下げている。

遺体の側では数名の鑑識が現場を調べている。

 

「衝撃的だな」

 

「鑑識さん死因は判明したの?」

 

カナさんが鑑識の1人ーー遺体に一番近い鑑識武偵に質問する。

 

「あぁ、キン......今はカナさんか。後ろからタスキで首を絞められた事による窒息死。恐らく、昨日の夜の11時から1時の間」

 

スラスラと死因と死亡推定時刻を伝える。

カナさんは顔が広いな。色々な武偵と面識がありそうだ。

 

「どうして死体は照明器具の上にあったんですか?」

 

私は質問してみる。シャシャリ出るなって言われそうだ。

 

「どうやら照明器具は昨日からステージの真上に置きぱなしになっていたらしい。きっと犯人が上に乗せて引き上げたんだろう。時間稼ぎの為に」

 

カナさんの同行人とあってか、現場の状況説明をしてくれた多田島武偵が丁寧に教えてくれた。

あー、ぱっと見た限り親切そうな人で助かった。

 

「つまり何だ?犯人は機材を扱える奴か?」

 

「いや、金次君そうとは限らないよ。機材の操作は誰にでも簡単にできる。このタイプの照明はタッチパネルだ。ピッと押してハイお終いってネ」

 

照明器具ーー誰にでも操作可能。

 

「一目見ただけで分かるのかよ?俺らでも操作パネルを見て初めて分かったのに。なぁ、カナさん、この子って何者だよ。学生って嘘じゃねのか?」

 

「いいえ、正真正銘彼女は学生武偵よ。そして、私の自慢の弟のパートナー」

 

私の説明に付け加え、カナさんはちゃっかりと金次君を褒める。

 

「最後の目撃は?」

 

「昨日の夜。美女たちはホテルオーナーの馬場氏主催の夕食会に参加していた。終わったのは10時30分。全員、タクシーでホテルに戻った。キーカードの記録だと美空マミは10時44分に入り、どうしてか今に至る」

 

夕食会後、一旦部屋に戻り、その後被害者は会場に来た?ーー本人の意思で?目的は何だ?

 

ホテルオーナー主催の夕食会ーーホテルオーナーの馬場氏に聞き込みする必要あり。

 

「あと、こんなのがあった。調べてみるといい」

 

そう言って鑑識武偵がカナさんに渡してきたのは、黒のスパンコールの一部だった。

『スパンコール』ーー光を反射させるために使用する服飾資材で、穴の空いた金属やプラスチックの小片のことを指すが、表面に光を反射する加工のされた布のことをスパンコールと呼ぶ場合もある。

衣服や装飾品に縫い付けて使用するが、洗濯にはあまり向かず、特にドライクリーニングを行った場合に色落ちや変形が生じる。

 

黒のスパンコールのカケラーー加害者のモノ?

 

「一部欠けてる。被害者の髪の毛に付いていた」

 

「犯人の服のスパンコールね。殺した時に付いたのかしら?昨夜、この会場に誰が入れたか調べてちょうだい」

 

現場責任者というワケでもないのにカナさんが指示する。

それを聞いて武偵達は反論することなく指示に従う。

凄いね〜ある種のカリスマ......いや、単に慕われているだけか。

 

「あっ!ついでにコンテストマネージャーも呼んでくれませんか。このスパンコールを着ていた人がいないか、マネージャーに聞いてください」

 

カナさんに続く形で私も武偵達に指示ならぬ要望する。

私の要望に多田島武偵が「任せとけ」と言ってくれた。素直に聞いてくれて嬉しいよ。

 

「ああ、そうだ。ここに来る前に依頼書で確認したんですが〜被害者には身内の方ーー父親がいるそうですネ。今はどうしているんですか?」

 

「ああ、父親ならあそこに来てるぜ」

 

多田島武偵がクィと顎でしゃくる先には娘の元に駆け寄ろうとしているのだろう、コンテストマネージャーの石田ナルミに引き止められている男性の姿が見て取れた。

様子からして彼が被害者美空マミの父親だろう。

どっしりとした体格だがオドオドした様子が見てとれて何処か頼り無さを感じる。

彼がそうですか〜、警察だけじゃなく武偵にも捜査依頼して現場をギクシャク状態に陥らせた元凶は。

 

 

 

私達は被害者の父親に話を聞くため、一旦ステージから降りて来客専用のパーティーテーブル席に座りながら、彼に事情聴取をする事にした。

 

「この度はお悔やみ申し上げます」

 

カナさんが開口一番にお悔やみの言葉を告げる。それに合わせて私と金次は目を瞑って頭を下げる。

 

「......娘がミスコンを始めたのは10歳の時だった。私は最初反対していたんだが、妻が......熱心でね。妻が死んでからも娘は止めなかったーーきっと妻が懐かしかったんだろう」

 

父親は顔を真っ赤にし涙を堪えながら、自分の娘がミスコンを始めた経緯を語り出した。

娘を失ったことが余程ショックなのだろう。

ああ、成る程ネ。これなら警察だけじゃなく、武偵にも捜査してほしくもなるワケだ。

 

「娘さんに敵はいませんでしたか?」

 

私はズィと座っている椅子から身を乗り出す形で尋ねる。

 

「まさか......!みんなから好かれていたさ」

 

好かれていた、ねぇ?

貴方の見えないところではどうだったか。

 

被害者に敵はいたーー父親の確認できないところでライバルあり?

 

「出場してた女達の中にライバルとかいたんじゃないか?」

 

今度は金次君が少々乱暴気味に質問する。実に彼らしい質問の仕方だ。しっかりと訓練して磨けば尋問科でもやっていけるね。

 

「殆どの子とは付き合いがあったさ。娘が準決勝に進んだ時なんか、みんなハグして喜んでくれた。絶対に優勝できるって」

 

純粋に被害者を祝福してくれた仲間はいたようだ。

 

「このコンテストで優勝することが娘の夢だった。なのに......なのに、何でこんなコトに......!」

 

言い終えると父親は堪えることができなくなったのだろうか、一気に泣き出してしまった。

 

「最後に娘さんと話をしたのはいつですか?」

 

泣き出す父親を気遣うように優しくカナさんが尋ねる。

 

「昨日の朝だ。夜も頑張れって、伝えたくてホテルオーナーの馬場さんの夕食会が終わる時間を狙って掛けたんだが......娘は電話に出なかった」

 

「それは何時頃ですかネ」

 

「11時ちょっと前だ。てっきり眠ってしまったのかと思ってたが、自分の部屋を抜け出して、ここに来てたんだ。理由があって......!」

 

最後にコンテスト会場を見渡しがら答える。

 

「マミ君のお父さん......!」

 

突然、私達の後ろから誰かがやってきた。

振り返ってみると、スリーピースのダークスーツにぴっしりと身を包んだ白髪の少老の男性がそこにいた。

 

「この度はお悔やみ申し上げるよ。犯人は必ず見つける。約束だ」

 

「あぁ、馬場さん、ありがとうございます......!」

 

やってきて早々、父親と握手を交わすこの男がどうやら東京シティホテルのオーナー馬場氏らしい。

会いに行く手間が省けた。

 

「武偵さん方、ちょっと来てくれるかな?」

 

馬場氏が私達3人に来るよう促す。

私達は顔を合わせて頭にクエスチョンマークを浮かべる。

 

 

馬場氏に連れてこられた応接室は、ドアを開けると贅を凝らしたような空間が目の前に広がっていた。

部屋の中には高級品ぽい天蓋付きベッドにソファ、床にはペルシャ絨毯......壁に掛かってるのは油絵、天井にぶら下がってるアレはシャンデリアか?

高級品で埋め尽くして落ち着かないなー。私はこの部屋が好きなれそうにない。

おまけにマスコミだろうか?部屋の中でカメラを回す男達がいる。

 

「まったく、何たることだ!私のホテルの美人コンテストに悲しい歴史が刻まれた。おお、メイサ」

 

「ああ、アナタ。大変ね」

 

入室して暫くして私達を出迎えたのは、金髪のブロンドヘアーにブルーのパーティードレスを着た40代風の女性だった。

誰だろう?馬場氏とかなり親しげで、おまけにアナタって呼んでたし、奥さんかな?

 

「妻のメイサだ。アメリカの美人コンテストの優勝者なんだ」

 

「もちろん知ってますよ」

 

「初めまして」

 

「こちらこそよろしく」

 

そのまま一歩進み、出会い頭に挨拶と、握手を交わす。

その際、私はメイサ夫人の左手薬指に注目した。夫婦の証である結婚指輪をしている指が変だ。

チラッとだが指輪の日焼け後がない。どうやら夫がいないところでは頻繁に外しているようだね。

 

「みんな美空ちゃんの死を悲しんでいるわ。勿論、私達も出場者たちも......だって家族だもの」

 

「彼女とは親しかったんですか?」

 

カナさんが一番にメイサ氏に質問する。

彼女が家族と呼ぶほど出場者たちを大事にしている様子が気になったようだ。

あ、ちょっとカメラマンさん。カメラを回さないでください。気が散る。

 

「まぁな。優しい子で、バイオリンが上手い」

 

「そうだったわね」

 

しかし、カナさんの質問に答えたのは夫の馬場氏だった。

何故、貴方が答えるの?オマケにかなり詳しいみたいだね。

 

「約束するよ。東京ホテル従業員一同、全力で捜査に協力する。必要なことがあれば何でも言ってくれ。だだし、此方からもお願いしたいことがある。ああ〜その......何だ」

 

「何だよ。ハッキリと言ってくれ」

 

「つまり、その月曜日にコンテストの生放送があるんだ。それで美空君の代役を立てたいんだが、君たち武偵の方で代わりを見繕ってほしいのだ。それとマスコミを最小限にしてほしい」

 

成る程、このホテルが武偵にミスコン出場を依頼してきたのは報道による世間体を気にしてか。ホテルで死人それも殺人があったとあっちゃね。

 

「それなら心配には及びません。代役なら既に貴方達の目の前にいます。ご紹介します。遠山 カナさんです」

 

私はコンテスト司会者風にカナさんを紹介する。

拍手〜拍手〜なんちゃって。

 

「何と⁉︎彼女がそうなのか。いやー、助かった。それにしても中々の美人だ。メイサもそう思うだろう?」

 

「ええ、本当に綺麗ね。彼女なら一発で採用よ。宜しくねカナちゃん......あらやだ、カナさんの方がよかったかしら?」

 

どうやら夫婦揃ってお気に召した様子だ。

ふっ......本当は男だとも知らずに。知らぬが仏とは正しくこの事だ。

もしも男だとバレたら......どうなるんだろう〜♪

 

「呼びやすい方で結構ですよ。私の呼び名は兎も角、被害者の為にできる事をしないと。それにマスコミといえば撮影はやめてくれます?リアリティショーじゃなく、殺人の捜査なんですよ?」

 

カナさんがカメラを睨みつける。撮影はお断りのようだ。

下手したら一生残る。本人からすれば羞恥プレイの数々が。

 

「こういうモノも撮影しないと。コンテストの裏側も全部、出場者がお互いの事をどう思っているかとか、彼女達の本音が聞けるだろう?煌びやかな女の子の素顔が見えると視聴者は喜ぶ」

 

「その通りね」

 

それを聞いた金次君とカナさんが揃って馬場氏を睨みつける。

隣で眺める私でも思わずぶるっと震えるほど迫力満載だ。

 

「......だが今はやめたほうがいいな」

 

2人の迫力に気圧されたのか、馬場氏はカメラマン達を部屋から追い出した。

 

「出場者たちはこのホテルに?」

 

ピリッとした金次君とカナさんに変わって、私が馬場氏に質問すると彼は「そうだ」と一言で答える。

 

「被害者の部屋を調べます。あと、防犯カメラの映像をください。昨日の夕食会も撮影してましたか?」

 

「勿論さ」

 

「その映像もください。あと、出場者たちに話を聞きます」

 

「マネジャーの石田に準備させよう」

 

それを最後に私達は馬場氏の部屋を後にする。

 

 

部屋を出た私達3人は暫くして、ホテルのスタッフから出場者たちから話を聞く準備が整ったと知らせを受け、ホテル3階のスーパーダイニングに向かう為、エレベーターに乗り込んだ。

 

「たく......あの支配人なんなんだ。人が死んだってのにコンテストは続行。おまけに生放送だと?ふざけんなっての」

 

「キンジ、あの手の経営者はあんなモノよ。だから気にしないで捜査しましょう」

 

カナさんの言う通りだ。

あの馬場というオーナー、風評を気にし過ぎてる節がある。

私の目から見て、アレは一種の脅迫観念に囚われてるようにも思えた。

 

「被害者の美空氏は煌びやかミスコンを夢見て、出場したのに最後はホラーで終わった」

 

「レイ、ミスコンは夢見る場所じゃなく、人間の長所と短所を引き出すもの凄いプレッシャーのかかる場所なのよ」

 

カナさん、やけにミスコンに詳しいですね〜。まるで出場したことがあるような言い草だ。

さては私と金次君の知らない所で出場したことがあるな。

 

「......それって経験者が言うようなセリフだな。まさか......カナ、出てたのか⁉︎」

 

「違うわよ。ローマ武偵に留学してた頃、ルームメイトの子が出場してたの。お化粧して凄かったのよ」

 

へぇーそうなんだー。ローマでもミスコンをやってるのか。

一瞬アナタも出てたと思ったよ。

そんな会話をしているとエレベーターは3階に到着した。

 




fgoでアラフィおじさんを最終レベルまで上げました。
聖杯を使うか、使わないべきか......やっぱり大好きなキャラだから使おう!
願わくば名探偵も来て欲しい。


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原作前
プロローグ


緋弾のアリア最新刊でやっぱりいましたね。
名探偵が生きているなら、あの教授だって生きていてもおかしくはないと思ってたんですよね。
うまく原作と繋げられるようにやってみます。
タイトルは「憂鬱のモリアーティ」がよかったかな......


スイスーーライヘンバッハにて

滝があったーー底の見えない大きな滝だ。

岩棚にぶつかって幾筋にも分かれるこの滝は、その美しい光景によって観光スポットにもなっている。

そこに2人の男女が居たーー2人とも10代で若い。

男は根暗な雰囲気を放ち、一方で女は知的な雰囲気を放つ。

側から見れば観光に来た恋人同士にも思えるが、そうではなかった。

滝のそばの崖の下に向かって、男は手を伸ばしていたーー手に掴んでいる女を助けるために......

 

「ーー私は間違っていない......っ!間違ってるのはお前だ!遠山金次‼」

 

女は手にした杖を振り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

中学3年、最後の冬

受験シーズンに突入し、進路の決まった人もいれば未だ決まらない人もいた。

この私、玲瓏館・モリアーティ・零も受験シーズン真っ只中の中学3年生だ。

学校帰りで一緒に歩いていた友人達に手を振り、

 

「じゃあね教授」

 

「またな教授さん」

 

「バイバイ教授!」

 

「ハイハイじゃあね皆」

 

別れた。

教授ーーこれは私のあだ名のようなものだ。

何故、このような呼び名か?それは私の名前が原因だろう......

あれは中学に入学し、クラスメイト達の前で自己紹介した瞬間、「教授」、「ライヘンバッハの滝よコナン君!」「ライヘンバッハ滝にご注意を」など、出るわ出るわ。

モリアーティーーこの名を耳にすれば、まず誰もがあの人物を思い描くだろう。

ジェイムズ・モリアーティ

名探偵シャーロック・ホームズの最大の宿敵

彼と同等の頭脳を持ち、イギリス犯罪界のナポレオンと呼ばれた人物

 

同じ名字を持つ私はジェイムズ・モリアーティとどんな関係か?

身内?違いますよ。

偶々、同じ名字なだけです。

私の母はイギリス人で性がモリアーティだけど、母が言うには「偶々同じ名字なだけよ。だから関係はない......」とも言ってたし......

ある時、同級生から「教授さん勉強を教えてください!」と言われたので勉強をみてあげたら成績がぐんと上がったようで、それが評判になり次々と勉強の指導を申し込む人が現れ、ますます「教授」と呼ばれる様になったよ。

ご大層なあだ名でしょう?大袈裟ですよ本当に

まあ、もう慣れたし好きにさせている。

 

中学校生活が終わりに近いのか、思わず懐かしいことを思い出していた。

真っ暗な寒空の下、自宅を目指し歩く。

途中、肩掛けバッグから、

 

「進路......どうしようかな」

 

学校で貰った高校のパンフレットを取り出して、私は呟いた。

進路ーー今後の将来が決まる大事なこと。

好きなことで食っていけるならそれは良いだろう。

私の好きな事と言えば、数学・読書

思い切って、数学者や学校の先生も良いかも!

でも、それだとますます教授が板に付きそうな......

 

「あれ?これ何だろう」

 

私は進路表ーー様々な高校のパンフレットの中に変わった名前が、

 

「東京武偵高校?」

 

武偵ーー武装探偵の略

凶悪犯罪の増加に伴い武装した彼らは警察に準じた逮捕権を有し、武偵法の許す限り権利を行使できる犯罪捜査のスペシャリスト。

その養成学校のパンフレットだった。

 

「何でこれが......」

 

もしかして、間違えて一緒に貰っちゃったかな?

返しに行こうにも学校から離れすぎているし、引き返すのも......折角だし貰っておこう。

それにしても武偵か......

凶悪な犯罪に対抗して作られた機関

最近、ニュースでは物騒な事件が報道されているし、夜に襲われたなんて事件もあるから早く帰ろ。

自宅を目指し、歩くこと15分ーー

 

最初に出迎えてくれるのは

明治・大正時代を思わせる和洋折衷な作りの屋敷。

母方の曽祖父が明治ごろに来日し、建てたそうだ。

青森にも同じような別邸があるのだが、私は中学に入って以来一度も行ってない。

 

「ただいま」

 

「おかえり零。寒かっただろう?」

 

玄関を開けると、黒のセーター、黒のジーパン、黒縁メガネと全身黒づくめのちょいイケメンーー玲瓏館 誠司、私の父が出迎えてくれた。

名前から分かるように父は純粋な日本人だ。

職業は探偵をしているーー武偵じゃないよ!人探しとがメインの探偵だよ。

黒髪・黒目、身長170センチの30代風だが実年齢は45歳。

前に一度、どんな若作りしてるの?と聞いたところ「別に何もしてないよ。強いて言えば、適度な運動かな」と笑いながら言ってたな。

 

「夕食作っておいたから、一緒に食べよう。カバンは預かっておこうか」

 

「ありがとうお父さん。じゃあ、よろしくね」

 

ファスナーが開いた状態のままの肩掛けバッグを渡した。

その際、中に入っている高校パンフレットが顔を覗かせていたので、

 

「おや、これは高校のパンフレットだね。どの学校にするか決まったのかい?」

 

父の目に止まった。

 

「うん、まあね」

 

「ーーそうか。遂にこの時が来たんだね」

 

何やら真剣な面持ちでパンフレットを見つめている。

やっぱり娘の将来を心配しているのかな?

でも大丈夫!将来、学校の先生になると決めましたから!

 

「どうしたの父さん?」

 

「いや、何でもないよ。それより、手を洗って来なさい。夕食を食べながら進路について話そう」

 

そう言われて洗面所に向かったーーカバンとパンフレットを預けたまま。

 

自宅は和洋折衷な為、和室もある。

私の家では食事はいつも、ここで食べることになっている。

和室用テーブルの上には2人分の夕食が置かれている。

今日は天丼だ。

家事や洗濯は父が全部している。

こうして食事を作るのも父の仕事だ。

えっ、母は何をしているかって?

母さんは海外で仕事ーー海外企業の相談役をしているので、普段は家にいない。

疎遠にならないよう電話もしているし、休暇には帰ってくる。

その際、父さんは腕によりをかけた料理を作るのだ。

この前、母さんが帰ってきた時は中華の満漢全席を作ったっけ......ちょっとやり過ぎ。

 

おっと料理のことを思うとお腹が空いてきた。

もうお腹ペコペコだよ〜早く食べよう。

私が席に座り手に箸を持ち、天丼に手をつけようとした時、

 

「零。もう決めたんだね」

 

突然、父さんが遮ってきた。

そこで止めないでよ。

進路で気を張ってたから、お腹が減り過ぎているから食べさせて!

ただでさえ美味しそうなんだから、早く食べたいよ!

 

「うん、もう決めたよ」

 

だから早く食べさせろマイダディ。

 

「なら、好きにしなさい。母さんも父さんも止めないよ。零の決めた道だからね。''自分の思ったようにやりなさい''」

 

パンフレットを見て察したのかな?

伊達に探偵をやってはいないね!流石はお父さん。

私が学校の先生になりたいのを賛成してくれるとは......

 

「受験の申し込みは父さんがやっておくから心配することはないよ。さあ、食べよう」

 

その言葉を待ってたとばかりに、私は天丼に食らいついた。

うん!空腹であればあるほど料理は美味になるのは本当だったね。

食べている間も父さんは何か言っていたが、私は食事に集中していて聞いてはいなかった。

 

 

 

 

 

受験当日

桜が咲く、とある学校の校門前にて

 

「何故よ!」

 

私は東京武偵高校の前で叫んだーーそれもこの学校の受験票を持って

いや、父さん何であなたはこの高校に申し込みをしたんですか⁉︎

私、将来は教師ーー学校の先生になりたかったのに......

この学校では教師になれそうにないよ。

 

「電話しよう」

 

カバンから携帯を取り出し、父さんに掛ける。

何でここにしたんだ!って言ってやる!

 

「出ない!何でこの日に限って......」

 

父さんは電話に出なかった。

やっぱり自分の口から直接言っておけばよかったよ......

これも全て美味しすぎる天丼のせいだ。

 

「はぁ、とりあえず中に入ろう」

 

このまま校門の前に立っていても邪魔なだけだし、中に入ってみよう。

申し込みもしてしまったし、このまま帰るわけにはいかない。

 

学校内は広く東京ドームくらいは余裕でありそうだ。

所々から硝煙の匂いがする。

道行く人ーーここの生徒だろうか?彼らの腰には拳銃がぶら下がっていた。

西部劇の中に迷い込んだ気分だよ〜、西部劇好きだけど現実となるとね。

見ていて暴発しそうだけど、武偵ともなれば扱いから手入れくらいしているよね。

 

「やばいよ。迷ちゃった......」

 

学校内をぶらぶらと歩いていると、完全に迷ってしまった。

受験会場は何処かな?

私は探偵科を受験のすることになっている。

強襲科と呼ばれるドンパチの激しい物騒な所ーー実技試験と違い、おそらくペーパーテストがメインだと思うから、建物内ーー校舎で試験を行う筈......

取り敢えず、誰かに聞いてみよう。

そう思った私は学校関係者を探し回った。

すると其れらしき人を発見。

ちょっとガラの悪く、スーツを着崩したーー前を開け、中にタンクトップを着たポニーテールの女性だった。

 

あの番組とは違うけど、第一学校関係者発見!早速、訪ねてみよう。

 

「あのすみません」

 

「何や」

 

ギロリと、睨みつけられた。

怖っ!おっと、冷静になれ。

見た目で判断しては失礼だよね。

ここはスマイル・スマイル......

 

「突然、すみません。私、本日この学校の試験を受けにきた者でして、実は受験会場がわからなくて......」

 

「ーー見たところ一般中やな、お前何科を受けるんや?」

 

「探偵科です」

 

「......ほう、そうか。ならこっちや、ついて来い」

 

そう言うと、顎をしゃくって来るよう促す。

あれ、意外と優しい?

やっぱり人は見た目ではないね。

 

「ありがとうございます。えーっと......」

 

「蘭豹や覚えとけ」

 

「はい、蘭豹先生」

 

女性ーー蘭豹先生の後をついて行く。

受験生をわざわざ受験会場に連れていってくれるなんて、この先生はきっといい人だ!やったね!

 

そして連れて来られた場所は、本校舎から離れた空き島と呼ばれる所だった。

あの蘭豹先生?ペーパーテストくらいなら本土でやれるのでは?

 

「何にボーッとしとる!早くこい!」

 

ひぇっ!怒られたよ⁉

鬼教官ですかあなたは?

また怒られるのは嫌なので、わたしは慌てて蘭豹先生の後をついて行く。

すると射撃場に到着した。

中では私はだけではなく、他に受験生の姿そして、

 

「よし、好きなモンとれ」

 

大量の銃があった。

ズラリと並ぶ、銃、銃の山。

一般人には馴染みのないものが当たり前のようにそこにあった。

 

「あの蘭豹先生、これは一体?」

 

「あぁん?何アホなこと聞いとるんやワレ!武偵が銃持たんでどうするや!」

 

な、なるほど......探偵科といえど、武偵は武偵。

武偵なら帯銃、探偵科も例外ではないのですね。

どれにしようか迷っていると、

 

「あ、これなら」

 

拳銃の中に見覚えのあるものが一つあった。

S&W M36

9mm口径の回転式拳銃

年季が入っているけど、ちゃんと手入れはされているようだ。

リボルバーって、カッコイイよね。

装弾数はオートマチックに劣るけど、シンプルな構造で信頼性が高い。

試しに触ってみよう。

ボディは鏡のように磨きあげられ顔が映るほどだ。

グリップは吸い付くように手に馴染む。

引き金は勿論、弾が入っていないことを確認し引いてみたが、問題はない。

その後もテレビ・映画・本などで知った拳銃の知識を頼りに点検してみる。

 

「ほお......(随分と手慣れとる。素人やない)」

 

「これにします」

 

「オートやなくてもええんか?」

 

「ご心配なく、これで十分ですよ」

 

「そうか......さあて良し全員拳銃は持ったな。一般中出身の貴様らには動かない的を狙ってもらう。その後で適正を見て試験内容を決めるから、さっさ撃てや! 武偵憲章第五条『行動に疾くあれ。先手必勝を旨とすべし』――既に試験は始まっているんやからな!」

 

いきなりですか⁉

周りを見ると、他の受験生はすでに発砲していたーー何発もの弾が的に撃たれていく。

耳あてなしで聞いていると、ここまでうるさいとは......鼓膜が破れそう。

早く、耳あて付けよう!

 

「ほら、サッサッと撃てや」

 

蘭豹先生が私の後ろにやって来た。

あの先生、何でそんなに睨みつけるのですか?綺麗なお顔が台無しですよ。

取り敢えず、今は射撃に集中しよう。

 

「あれ?点数表示がない」

 

的を見て見るとドラマなどで見る的とは違い、点数表示が書かれていない。

ただ人型の的がぽつんとあるだけだ。

人を撃つ想定だから、急所を狙えばいいかな?

ドラマでも急所は高得点だったし......

 

「好きに撃ってもいいのですか?」

 

「......やってみ」

 

先生からの了解も得たことだし早速、撃ってみよう。

いやー、緊張してきましたよ。

実際に拳銃を持って撃つとなると、手が震えそう。

でも、ここは気合いでなんとかしないとね!

パァン、パァン、パァン!と3発続けて撃った。

銃弾は的ーー人型の頭・喉・心臓部分に命中した。

ーーザワ、ザワ、ザワーー

周りの受験生が騒ぎ出した。

あれ、私なんかやばいことした?

 

「もう一度撃ってや」

 

蘭豹先生が命令してきた。

気のせいか声に怒気がこもっているような......なんか怖いよ!

 

「はい」

 

ーーパァン、パァン!

また続けて5発ーー今度は全弾撃ち尽くした。

的には穴は空いていない。

あれ、外したかな?

 

「ワレこっちこいや」

 

「あのせ、先生?」

 

蘭豹先生に肩を掴まれ、どこかに連行されて行く。

まさか、失格とか⁉

そのまま引きずられ、連れてこられた先は廃ビルのような場所だった。

周りには別の受験生の姿もあった。

射撃場にいた受験生とは違う雰囲気を放っている。

 

「あの先生これは?」

 

「ここで別の試験を受けろや。お前のホンマの実力確かめたる......」

 

射撃が終わったら、今度はペーパーテストかな?

私が頷くと、先生は「そこで待っとけ」と言って去っていた。

待っているのも暇なので周りを人達を見渡して見ると、

 

「せい!ハッ!ヤッ!」

 

「スライドよし、トリガーよし、リングハンマー......ブツブツ」

 

「......」

 

徒手空拳・イメージトレーニング・瞑想など様々な事をしていた。

あの皆さん殺気立ってませんか?いくらペーパーテストとはいえ、そこまで気を張らなくても......

立っているのもなんなので座れる場所を探す。

すると丁度2人がけのベンチを発見し、そこに座っていると、

 

「となり座ってもいいか?」

 

優男風のイケメンがやってきた。

この場にいる殺気立っているーーいかにもチンピラ風とは違う雰囲気を漂わせている。

 

「いいですよ。えっーと、貴方も受験生ですよね」

 

「ああ、そうだよ。君はどこの武偵中?」

 

席を一つ譲ると、

 

「武偵中?ああ、違うよ。私は一般中から編入試験で来たんです」

 

「一般中から......それは大変だね。見たところハーフかな?」

 

「ええ、日本人とイギリス人のハーフですよ。あ、名前は玲瓏館・M・零と言います」

 

「俺は遠山金次よろしく」

 

お互いに握手する。

それにしても、一般中で大変とはどういう意味だろうか?

これでも受験勉強はしてきたつもりだけど......

 

 

 

 

 

 

 




オリ主の名前から何をネタにしたかは、もうわかる人もいますよね。
使用する拳銃はイギリス製がいいかな......
この名前の方がいい何かネタがあれば感想よろしくお願いします。


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ペーパーテスト......だよね?

オリ主の容姿ですが、fateの玲瓏館 美沙夜と思ってください。




「おらガキども!静かにせえや!これから試験を始める」

 

蘭豹先生が戻って来て、第一声に怒鳴り散らした。

その声に殺気立っていた受験生一同は静まる。

凄い威厳があるな......伊達に武偵学校の先生はやってないね。

 

「これからお前らには殺し合いをしてもらう」

 

はい?あの先生今なんて言いましたか。空耳ですよね。

殺し合いって、バトルロイヤルですか⁉

いつからBR法が設立されたんですか!教えてください。

いや、落ち着け私......殺し合い=試験

これは武偵なりの用語の様なものに違いない。

試験はある意味では戦いだから......

 

「これから装備を渡す!各々好きに使え」

 

そう言って渡されたのは防弾チョッキ・9mm弾×10発・閃光弾1発・サバイバルナイフ一本

あの先生⁉ペーパーテストにこんな必要なんですか?

 

「おい、そこの一般中出身!忘れ物や」

 

蘭豹先生は拳銃を渡して来た。

これは射撃場で私が使っていたS&W M36だった。

わざわざ届けてくれた様だ。

優しいけど、拳銃を使うペーパーテストなんて聞いた事がないのですが......

 

「ありがとうございます先生」

 

取り敢えず、黙って貰うのは失礼なのでお礼を述べて頂いた。

無表情も悪いので微笑みを浮かべながら

 

「随分と落ち着いとるなお前。ほら、サッサと他の連中について行けや。まあ、せいぜい頑張れや」

 

「はい、頑張ります。お気遣いありがとうございます」

 

最後にそう言って、他の受験生の後に着いていった。

これから本番の試験か......ちょっと緊張してきたよ。

 

 

 

 

受験生が移動して暫くーー

 

無精髭を生やした40代風の男性教諭が蘭豹の方を向き、

 

「何故探偵科の生徒を強襲科の試験に?」

 

尋ねる。

男性教諭にはそれが疑問だった。

何故、探偵科希望のそれも一般中学出身の生徒を強襲科の実技試験に送りんだのか。

 

「10発」

 

「はい?」

 

「あのガキ......全弾全て急所に撃ち込みよった。何の躊躇いもなく平然とな」

 

「ーー偶然では?」

 

武偵は殺傷を禁じられている。

射撃試験では急所を狙わず撃つようになっている。

しかし、玲瓏館・M・零は急所を狙ったーー大衆の面前で平然と......

最初あの女に声をかけられた瞬間、蘭豹は勘だろうかーー得体の知れない悪意を感じ取った。

自分の怒気にもビビらず、涼しい顔ーー笑顔で受け流していた。

その笑顔を見たとき思わず蘭豹は体の奥から何かが込み上げてきたーー恐怖だ。

底知れない悪ーー巨悪を前にしたそんな感覚だった。

 

「これ見てみ。アイツの撃った的や」

 

「これは⁉」

 

「分かるか?アイツは10発全て急所に撃ちこんだ。頭・喉・心臓に一切狂いなく正確にな。おまけに最後の2発は同じ場所ーー最初に撃ち抜いた頭と心臓に''同じように撃ちこんだ''。しかも、拳銃の扱いも手馴れとった素人やない」

 

蘭豹の渡してきた的を見て、無精髭の教官は驚愕した。

それには8つの弾痕があった。

しかし、頭・心臓の部分にはそれぞれ2回づつ撃ち込んだ跡がある。

まったく同じ場所に撃ち込むーー針に糸を通すような繊細な技術がいるにも関わらず、彼女はそれを平然とやってみせたのだ。

 

「急所を正確に撃てるならその逆、急所を外して撃つこともできる。インパクトでも与えたかったんかーーアイツはワザとそうせんかった」

 

「人格破綻者でしょうか?何か過去のトラウマでこうなったとか?」

 

「それを知るために今調べさせとる。そろそろの筈......」

 

「遅くなってごめんなさい」

 

蘭豹が腕時計で時間を確認していると、1人の女性がやってきた。

レディーススーツを着たキャリアウーマン風の知的な感じのセミロングの女性だ。

 

「おう金田、なんか分かったか?」

 

「彼女の受験申込み用紙のサインから筆跡学である程度は....」

 

筆跡学ーー手書き文字の分析、個々の心理的特性を推測することを目的とする手法。

この女性ーー金田 真名部教諭は探偵科の教諭の1人で筆跡学を教えている。

 

「筆跡の心理分析の結果、筆が上目遣いで非常に高い知性を持っています。文字の下の部分を誇張して書くのは高い創造性を持っているが几帳面。それと筆を傾け全体的に筆圧の強いのは激しく自己中心的........他人にまったく共感できず、モラル意識に至っては破綻しています」

 

「蘭豹先生、今すぐにでも連れ出すべきでは?下手すれば他の受験生が危険です」

 

「私も同感です。モラルが破綻しているーー知能高く冷酷なまでに論理的に行動するでしょう」

 

「危険かどうかは試験を見て決める」

 

「彼女には私が付いてもよろしいですか?」

 

「勝手にせぇや」

 

 

無骨なコンクートの建物

室内は廃墟ビルであるのか、ドラム缶やら壊れた机やらゴミが散乱している。

しかも日当たりが悪く部屋の隅は、局地的に陽が沈んだように暗い。

試験官もいなければ問題用紙もない。

これは一体どういう事ですか?

私、探偵科を受けに来たのですが....

これは探偵科の実技試験ーー犯行現場を想定した試験でも始めるつもりでしょうか?

てっきり人探し、紛失物でも探すかと思ったんですが....さっきからずっと銃声や悲鳴が聞こえてきます。

なんか怖いですよ!

思わず笑みが浮かんできた。

これは「fear grinning(恐怖による笑顔)」と呼ばれるものでしょうか?

自分は危なく無いと、激しく否定しようとして笑いが出てくるというのは本当だったんですね!

まさか本で書かれたことを自分で体験することになるとは....

 

「取り敢えずどうしようかな」

 

渡された拳銃を弄りながら装備を確認してみる。

防弾チョッキーー重く着ていると動きにくいので脱いだ。

流石に実弾を撃ってはこないでしょう。

その証拠に受験生ーー私に配られているのはゴム弾だ。

私以外は全員実弾なんてことはないはず........あっ、でも撃たれたら痛いよね。

サバイバルナイフーー刃がしっかりと研いであるし、少し触っただけで切れそうだ......気をつけないと。

閃光弾ーーこれはピンを抜けば名前の通り閃光が炸裂するのだろう。

 

「はぁ、どうしてこうなったのだろう」

 

握り締めた拳銃を眺めながら、自分の口から思わずそんな言葉が出てくる。

教師志望のはずが今こうして武偵の試験を受けている。

やはり、天丼のせいだ!全ては私をたぶらかした美味すぎる天丼ーー犯人はお前だ!

拳銃を持ったままの腕を振るう。

その拍子にパァンと発砲し、

 

「ぐわっ!」

 

柱の陰から飛び出してきた人に命中した。

えっ、いつの間に⁉︎

心臓に命中した為かうつ伏せのまま動く気配がない。

ど、どうしよう⁉

 

「あの大丈夫ですか?」

 

「ゆ......油断したぜ。まさか俺が飛び出してくるのを計算して撃つとはな」

 

頭を上げ、こちらに顔を向けてきた。

計算してません‼︎ただふざけて....その拍子に偶々発砲してしまっただけです!

しかし、撃たれても平然と喋れるとは流石武偵高校の試験を受けるだけあって、並みの鍛え方はしてないようですね。

これなら大丈夫そうかな........

 

「あの私.....」

 

「いや、何も言うな。急所を撃ったのは偶々だろう?撃つタイミングは完璧だったけど、一般中出身だから仕方ねーよ」

 

気にかけてくれるのは嬉しいのですが、ただの偶然です。

 

「気をつけろよ。まだまだ試験は始まったばか....」

 

ガックリと頭を地に伏せ、そのまま動かなくなった。

返事がないただの屍のようだ....って、違うでしょう!ふざけている場合じゃない。

心臓ーー防弾チョッキに命中したからよかったものの頭に当たってたらどうなってたか.......下手したら後遺症が残ってたかもしれない!

この歳で罪の十字架背負いたくないよ!

動かなくなった受験生を調べてみたが、呼吸は安定しているし、これなら大丈夫そう。

なら早くここから離れよう。

さっきの銃声を聞きつけて誰かがやってくるかもしれないからね。

拳銃を撃てば銃声がなる=場所を知らせるようなものだから。

いや、既にいたりして.......

 

「そこにいるのは分かってます。ずっと見ていたのでしょう?」

 

部屋に無造作に置かれているドラム缶の方を向きながら喋る。

なーんて、いる訳.......

 

「気づいていたか......一般中出身だと思ってたけど中々鋭いな」

 

ドラム缶の後ろから人が出てきた。

いたー‼︎本当にいましたよ。

しかもこの人待合室のベンチで一緒に座ってた遠山金次君じゃないですか。

気のせいか雰囲気が違うような?双子いやそっくりさん?

 

「驚いたよ。ただ立ち尽くしていると思ったら、彼が柱から飛び出してくるのを待っていたとはね。まさに延頸挙踵 (えんけい-きょしょう) 」

 

難しいことわざを使ってカッコよく決めてるところ悪いのですが、

 

「ただの偶然ですよ」

 

ただ天丼の憂さ晴らしでふざけて撃ってしまっただけなんですよ!

 

「そして恐ろしくもある。君は彼を躊躇いなく撃った。それも急所を狙ってね......武偵を目指すなら、それは許されることではないよ」

 

「いえ、別に私は武偵を目指している訳ではありませんよ」

 

本当は学校の先生になりたかったんですよ!

この試験を受けたのは偶然なんです。

 

「......何か他に目的があるのかな?」

 

「それは秘密です」

 

もし、ここで「この試験を受けたのは只の偶然です!武偵になるつもりはありません」とカミングアウトしたら、真剣に試験を受けている他の受験生に失礼じゃないですか!

 

「女性の秘密を詮索するつもりはないけど、さっきの急所狙いは許せないね。しかし、手荒な真似はしたくない。降参してくれないか?そうすれば教務科もお咎めなしにしてくれるだろう」

 

何か拳銃を構えてきたー!凄く怖いよ!

ドラマでしか見たことのないシーンを自分で体験することになるなんて........

撃たれたくない。

自分は人を撃っておいて何を言ってやがるとは言わないで。

撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ........私は撃たれる覚悟はないよ!

に、逃げないと.......でも何処へ?

遠山金次君の後ろーー他の階に行く階段入り口がある。

薄暗く、人が隠れているかもしれない。

あそこまで走って逃げようにも遠山金次君は私から目を離す様子はない。

どうにかして彼の意識を別の場所に向けないと......

 

「さて、どうしましょうか......私も手荒な真似はしたくない」

 

遠山金次君の後ろに目を向け、指をこめかみに当て、トントンと叩きながら考える。

時間を稼ぐのだ!考えろ玲瓏館・M・零

伊達に「教授」と呼ばれていないーーあだ名だけど......

 

「私にばかり気を向けてないで自分の事にも気を遣ったらどうですか?」

 

「どういう意味だい?」

 

「君の後ろーー階段入り口に人が隠れている。ずっと私たちのことを監視しているね。恐らく教諭だろう」

 

デタラメだけどね。

流石の遠山金次君も学校の先生が後ろにいると思ったら、私の方に集中できないはず!

 

「そろそろ出てきてくれませんか?隠れんぼは飽きました」

 

手をメガホンのようにして叫ぶ。

まあ、いる訳ないんですが......ただ金次君の注意を引くだけでいい!

逃げる時間を私にください。

 

「いつから気づいていた」

 

階段入り口の陰から人が出てきた。

またですか!しかも見るからに受験生ーー学生じゃないし!

無精髭生やして眼帯してるし、どこの傭兵ですか貴方は?

 

「最初からですよ。貴方は経験豊かな歴戦の猛者だ。しかし、経験豊かだからこその油断がある。自分より下ーー経験不足な学生を下に見る傾向がある。その為、普段の実力を半分も出さない癖がある。貴方はこれで十分だと思っていたようですが、私は遊びで隠れんぼしていると思いましたよ」

 

顔を見て話さないの失礼だから見て話す。

我ながらよく嘘八百を言えるものです。

とにかく時間稼ぎをしないと!

 

「まさか受験会場に入った瞬間から分析したのか⁉︎会場にいた教諭・受験生全員を......末恐ろしいな」

 

いや、傭兵さん?デタラメですからね?受験会場の人間を全て分析って、そんな芸当ができる訳ないじゃないですか!

全員殺気立ってたし、怖くてビビってましたよ。

なんか話が大袈裟になっているような......

 

「俺のこともあの時点で分析済みだったのかい?」

 

遠山君が尋ねてきたよ。

ど、どうしよう......わかりませんと言うのもカッコ悪いし、ええい!どうにでもなれ。

 

「君は武偵中だけでなく、自己鍛錬も欠かしてはいないね。おそらく実家が道場か代々何らかの武術を継承しているね。その証拠に握手した時、手に拳銃だけでなく何か別の跡ーー手の甲の皮が剥げた跡があったよ。あれは拳銃だけを使っていて、自然にできるものではない」

 

どこの漫画の主人公設定だよ。

自分で言っておいて、凄く恥ずかしい。

何が代々武術を継承する家だよ、そんな人間が現実にいる訳が、

 

「驚いたぜ。まさか、たったそれだけの情報から俺のことを分析するなんてね」

 

......いたよ。目の前にいましたよ。

えっ、厨二病とかじゃないよね?......わかりましたよ。

この遠山金次君は厨二病を拗らせているのだ!

可哀想に......まだ治ってないんだね。

でも大丈夫ですよ。私は他人に言いふらしたりしませんから、だからこそ君のノリに付き合ってあげますよ。

 

「クフフフ、分析ではなく解答と呼んでください。だって、私これでも数学者ーー教授なんですから」

 

うわー、何か凄く恥ずかしいようなこれは黒歴史確定だわ。

 

「さて、話はここまでにしましょうか。遠山君、一時休戦しませんか?」

 

「ーー休戦?」

 

「はい、一緒に先生を倒しましょう。さっきも言った通り、先生は歴戦の猛者ーー経験豊富なのに対して、私たちは学生でまだまだ経験不足なところがある。1人で相手にするのはかなり手こずるでしょう。先生もよろしいですよね?まさか、学生と戦うのが怖いーーなんて言わないですよね」

 

私は薄ら笑いを浮かべながら、傭兵先生(今決めたあだ名)の方を見る。

 

「構わないぞ。しかし、教務課も随分と舐められたものだ。手加減ができんぞ」

 

怖いよー!何か凄く睨み付けてきた!

ごめんなさい傭兵先生、薄ら笑いを浮かべたのはノリだったんです。

だから許して!

 

「遠山君、先生もああ言ってますし、君も一時休戦を受け入れて戦ってくれますね?」

 

こんな時はノリ仲間の遠山君に頼ろう。

私を守って騎士様!

 

「ああ、構わないぞ。俺も教務課とマジで戦うのは初めてだからな。まさか、君と一緒に戦う羽目になるとは思わなかったよ」

 

マジで王子様だわこの人。

まさか本当に騎士だったりして......

 

「私もですよ。前線は君に譲りますよ。だって、その方が得意でしょう?」

 

前に出て戦うなんて怖いし!

私、格闘技ーーボクシングを習ってたけど、あの傭兵先生には通じなさそう。

ここは遠山君に任せよう。

大丈夫、骨は拾ってあげますから。

 

「それも解答していたのか......なら、後援は任せる!」

 

そう言って遠山君は傭兵先生に向かって走っていた。

間合いを詰め、先生の顔に蹴りを放つ。

しかし、躱された。

その後、激しい徒手空拳の応戦が始まった。

打つ、止める、躱す、受け流しーー

やはり、武偵高校の先生は手強い。

このままでは下手したら鉄拳制裁が私にくる!それだけは避けないと

でも私にできることなんて......せめて援護射撃でも!

私は傭兵先生に向けて発砲したつもりが、銃の反動で彼らの頭上ーー天井に向けて、パァンと1発撃ってしまった。

 

「ガァッ!?まさか......コイツを囮に......して」

 

天井から石ーーコンクリートの塊が先生の頭に直撃した。

いくら廃ビルでも脆すぎるでしょう⁉

銃弾1発で崩れるとか危なすぎる。

先生、大丈夫ですか⁉

 

「これも君の解答ーー計算通りかい?まさか俺を囮にするとはね。さっきの射撃ーーコンクリートの塊を俺にもぶつけるつもりだったろう。教務課と俺を戦わせ、最後は2人とも始末する。一石二鳥を狙ったか......美人にしては悪どいな」

 

イヤイヤ!そんな悪い事をするつもりはまったくありませんから⁉︎

ただ私だけボケーっと立っているのも悪いから援護射撃するつもりが反動で天井に当たっただけです。

それに遠山君しれっと美人だなんて...褒めても何もでませんよ。

よく恥ずかしいセリフがポンポン出ますね彼は......やはり厨二病か。

 

「悪どいーーそれは私からすれば褒め言葉ですよ。勝つために利用できるモノを利用するのは悪いことでしょうか?だったらごめんなさい。私、一般中出身なもので」

 

「そうだったね。利用できるモノを利用するのは悪いことではない。しかし、利用するものは選ばないとね」

 

何やら遠山君は構えを取り出した。

どの武術でも見たことのない構えだ。

まさかここまで......厨二病が進行しているとは見ていて本当に可哀想になる。

 

「その構えを取ったということは、一時休戦は終わりと捉えていいのですね。本気でこの私と戦うつもりですか?か弱い一般中出身のこの私と」

 

「今までの行動からして、君は一般中出身にしては変だ。妙に戦い慣れしているーー普通一般中出身の人間はこんな実技試験に放り込まれたら、隠れて縮こまるものなのに君は隠れもせず堂々と身を晒していたーー防弾チョッキも着ずにね」

 

いや、ビビって動けなかっただけですよ!

防弾チョッキは重いし、動き難いから着なかっただけだよ。

 

「それと拳銃の扱いも手馴れている。狙いもタイミングも狂いなく正確に撃ってみせた。一般中の人間が銃の扱いを心得えているなんて考えられない」

 

拳銃に関してはネットや本、それと狩猟で知った知識を元に扱ってみたんです。

 

「ただ狩猟の一環で銃の扱いを知っただけですよ。それに今のご時世拳銃が扱える一般の人間なんて珍しくありませんよ」

 

「人を撃てる一般人がいるかな?人を撃つことは誰にでもできる事じゃない。ましてや、一般中の人間がね」

 

ダメだ何を言っても納得してくれない。

私が呆れて遠山君を見つめていると、ギリリリリーーと喧しいベルの音が聞こえてきた。

 

「そこまでや!ガキども大人しくしてもらおうか?」

 

突然、蘭豹先生が階段から登ってきた。

後ろには見慣れない人たちーーここの先生たちかな?

数人ばかりの先生たちを引き連れて現れた。

気のせいか全員ピリピリしているような......

 

「おい、玲瓏館。おまえ今、遠山に何をするつもりだった?」

 

蘭豹先生が初めて名前を呼んでくれたよ。

おもわず感激してしまった。

中学では「教授」と呼ばれていたからなんだか、名前で呼ばるのは新鮮だな。

 

「別に何もするつもりはありませんよ。今はね」

 

微笑みを浮かべて蘭豹先生、続けて遠山君を見る。

そう、今は何もするつもりはないけど、ここで会ったのも何かの縁ーー必ず遠山君の厨二病を治してみせます!

彼がこれ以上黒歴史を刻みつける前にね。

 

「そうか。何かする前にお前のその腐った性根を叩き直したる!ここは甘くはないぞ。高校入学までの一ヵ月弱。武偵付属中三年分の内容を叩きこんでやるから覚悟しなっ!」

 

「楽しみにしてます。それじゃ、遠山君またね」

 

そう言って私はその場から立ち去った。

 

 

 

後日、試験結果が発表され私は武偵ランクAの探偵科だった。

やったー!ドンパチとは無縁の学科に入れた。

 

 

ーーーー

 

 

玲瓏館 零

知力・戦闘力ともに高い能力あり

実力はSランクに認定ーーしかし、精神面に問題ありの為、Aランクとする。

 

尚、教務科一同この生徒の動向に注意したし

特に強襲科・探偵科の教諭は細心の注意を払いたし

監視も兼ねて、この生徒の専門科を探偵科とする。

 

 

 

 

 

 



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始まる学校生活

評価バーが赤くなってたΣ(・□・)



入学式ーー学校の華やかなイベントに出席し、無事に私はこの東京武偵高校の一員となり、日が経った。

私の専門科は探偵科ランクはA

まだ一年生でわからないーー高校からの編入だったので知らない事もあるが、『聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥』というように授業では躊躇なくわからない事は先生や同級生、先輩に聞くことにしている。

高校編入前の期間、蘭豹先生からのスパルタ教育は正直、死にそうだった......

あの先生、生徒に問答無用で銃を撃ってくるんだよ⁉︎それも象撃ち銃と呼ばれるM500!あんな物で人間撃ったら死にますよ。

瞬き信号とハンドサインがわからなくて質問したら「気合いでどうにかしろや!」とか言うのですよ。

無茶だ......まあ、同級生に尋ねたらわかったけど。

 

現在、私は武偵高校の女子寮にいる。

自宅から通うことも考えたが、せっかくなので寮生になった。

えっ、何故自宅から通えるのに寮生になったかって?

どうせ学ぶなら近くーー身近で24時間、武偵の環境下で学びたかったからさ!

父さんは反対しなかった、いや反対する前に家から姿を消した。

自宅には置き手紙があり、そこには『お父さん海外で仕事することになりました♪学校生活頑張ってね♡』と書かれていた。

おまけに今後の生活費が振り込まれている通帳と判子を残して......

帰ってきたら武偵高校にした理由を聞く絶対に!

 

「えーっと、拳銃よし。制服乱れなし!」

 

鏡を見ながら制服に着替え身だしなみを整える。

この制服は防弾性で大概の拳銃から身を守ってくれる。

防弾と銘打っているものの、TNKワイヤーと呼ばれる特殊繊維を編み込んで作られているから銃弾はもちろん、刃物からも守ってくれる優れもの。

最近の科学って本当に凄い。

 

この学校では帯刀・帯銃が校則で決められている。

私がこの学校で最初に衝撃を受けたことだーーどおりで入学試験で学校を訪れた際、道行く生徒が銃を平然とぶら下げていたわけだ。

帯銃する私の銃はウェブリー・リボルバーにしている。

イギリス帝国時代に作られた1887年代の回転式拳銃で、それも初期モデルのウェブリー Mk I。

古い拳銃と思われがちだが、不思議と手に馴染む。

既に製造されていない回転式拳銃ーー何かロマンがありますね!

この銃は私が武偵高校に入学すると知った母さんがわざわざ海外から送ってくれたものだから、大事に使わないとね。

 

「おっと、これも忘れないようにしないと......!」

 

私は玄関に立てかけておいたそれを手に取る。

握りの部分に〈M〉と金色の刻印の入った黒いステッキだ。

これも母さんが拳銃と一緒に送ってきてくれたもので、曽祖父の形見だそうだ。

しかもこれ、仕込み杖で刀剣になっているーー1度抜いてみたが、真っ黒な刀剣だ。

ひいおじいさん......きっとこれを持ってイギリスを歩いていて、ジェイムズ・モリアーティと勘違いされたんだろうな......なんて事はないか!

おっと、早く学校に出かけないと!

玄関を開けて外に出ると、

 

「あ、玲瓏館さんおはようございます」

 

「白雪さん、おはようございます」

 

艶のある黒髪ロングの美少女がいた。

この人は星伽 白雪さん私と同じ高校からの編入生とあって親しくさせてもらっている。

超能力捜査研究科、通称SSRと呼ばれる専門科目に属している。

超能力・超心理学による犯罪捜査研究を行っている学科で、武偵高校でも秘密主義が徹底されている専門科で、関係者以外で詳細を知る者は少ない。

実家が青森で神社の巫女さんをやっているそうな。

確かに巫女服が似合う大和撫子だね。

 

「金次君と一緒に登校するつもりだね」

 

「ふぇ⁉︎ど、ど、どうしてわかったの⁉︎」

 

顔を真っ赤にして動揺した。

いや、この前も一緒に登校してたじゃん。

おまけに動揺してたら1発でわかるよ。

ちょっと、からかってあげよう。

 

「白雪さんは几帳面で真面目な性格をしている。実家が神社とあって生活態度も規則正しい。そんな人がこの時間帯ーー登校時間ギリギリに起きて登校するわけがない。何らかの理由があるとみて考えていい。しかも、この時間帯は金次君が登校する時間帯と被っている。白雪さんは金次君と幼馴染。かなり親しい関係だったね」

 

一旦、話しを区切り白雪さんの方を見つめる。

 

「うん、そうだよ」

 

首をコック、コックと縦に動かしうなづく。

 

「白雪さんは金次君に好意を持っているね」

 

「こ、こ、こ、こ、好意⁉︎いや、私とキンちゃんは幼馴染であって、それで恋び......いや、まだまだ早い......!」

 

また顔を真っ赤にして、今度は蒸気が出てくるような感じだ。

本当にこの人わかりやすいな......

だってこの前、一緒に登校した時ずっと金次君のことを見つめてたからさ、すぐにわかったよーーあっ、白雪さん金次君のことが好きなんだなと。

 

「落ち着こう白雪さん。ほら、深呼吸、深呼吸」

 

「う、うん。ヒッ、ヒッ、フーッ......ヒッ、ヒッ、フー......」

 

「あの......白雪さん?その深呼吸は一体?」

 

「この前、衛生学部の子に教えてもらったの。女性が苦しいとき、この呼吸をすると楽になるんだって。玲瓏館さんもやってみたら」

 

衛生学部の人間よ白雪さんになんてことを教えるんだ......!

この呼吸法は子供を産む......いや、やめておこう。

 

「とりあえず人前ではやらないほうがいいよ」

 

「どうして?」

 

「知らぬが仏という言葉もあるから。きっと白雪さんが知るにはまだ早い」

 

首をコテンと横に傾ける白雪さんに一応、警告はしておいた。

今、知ったらショックで倒れて病院に行くことになりそう。

 

「さて、話が逸れたけど戻すね。白雪さんが登校時間ギリギリに出てきたのは金次君を迎えに行くため。そして一緒に登校するーーどうかな違う?」

 

「大正解だよ玲瓏館さん!名探偵みたい......」

 

名探偵じゃなくても白雪さんの態度を見れば、100人中100人が私と同じように答えるだろう。

でも何だろう?白雪さんから名探偵と呼ばれて気のせいかーーいい気分じゃない。

 

「あの......玲瓏館さん?どうしたの?なんだか顔が怖いよ」

 

「あっ、ゴメンゴメン。気にしないで」

 

そのまま歩くこと数分ーーバス停に到着した。

 

「あ、キンちゃん。おはよう!」

 

「おはよう金次君」

 

「ああ、おはよう。白雪、零」

 

私たちの挨拶に怠そうに答えたのは、ちょっと根暗そうな優男ーー遠山 金次。

専門科目は強襲科でランクはSだ。

 

私が編入試験でまあ色々とお世話になりました。

編入試験後も会う機会があったんだけど、試験の時と比べて性格が違うような気がするんだよね。

試験だから気を張ってたのかな?それとも厨二病は卒業できたのかな。

 

「まーた、そんな挨拶してる。人から嫌われるよ?」

 

「うるせぇ、お前は俺の母ちゃんか⁉︎」

 

金次君って、なんだか面白いんだよね。

これはギャグの才能あり!

 

「はい私は君のお母さんですよ。ママって呼んでもいいよ?」

 

「......ッ......!何朝からふざけてんだよ。誰が呼ぶか」

 

「玲瓏館さんがキンちゃんのお母さん......私のお義母さんに......」

 

「よう!キンジ」

 

「おはようキンジ君」

 

私が金次君をいじっていると、バス停の向こうーー金次君の後ろから2人の男子が歩いてきた。

ガサつな感じのでも優しさが滲み出ている男子は武藤 剛気。

専門科目は車輌科でランクはA。

乗り物と名のつくモノならなんでも乗りこなすことが出来る凄い人だ。

2人目のイケメンかつ礼儀正しく真面目な性格の常識人ぽい男子は不知火 亮。

専門科目は金次君と同じ強襲科でランクはA。

私と同じ一般中出身でよく気が合う。

 

「おはよう白雪さん零さん」

 

「おはようございます不知火君」

 

「おはよう不知火君。今日もイケメンだね」

 

「ははは、褒め言葉と受け取っておくよ零さん」

 

真っ白い歯を覗かせて笑ってみせたーーこれならモテるわけだわ。

 

「おはようございます白雪さん!」

 

「おはようございます武藤君」

 

武藤君が白雪さんに挨拶した。

さて、この態度からわかる人はわかるかもしれないけど、武藤君は白雪さんに好意を持っている。

しかし、悲しきかな......白雪さんは金次君一筋だ。

まあ、頑張れ武藤君グッドラック。

 

「よう零もおはよう」

 

「おはよう武藤君。今日も専門授業でぶっ飛ばしすぎないようにね」

 

武藤君はスピード狂だ。

前に彼が運転する車に乗せてもらったのだが、降りた後で吐きそうになった。

 

「車は飛ばしてナンボだろう?それよりも零。一般科目の数学のここ教えてくれよ〜全くわからん!」

 

「うん?どれどれ......あー、ここね。難しいよね」

 

武藤君はカバンから数学の教科書を広げて私に見せてきた。

失礼かもしれないが、武藤君・金次君を始めとした武偵中出身者は一般科目の平均値が低い。

授業も遅れているような気がしてならない。

この数学も私のいた中学では終わっているモノだ。

 

「武藤君は車が好きだよね」

 

「当たり前だぜ!車輌科に車が嫌いな奴はいねぇ!」

 

「だからさ、この問題を車のスピードと見立ててね......こうしたらわかるかな」

 

私はペンを取り出して、教科書にサラサラと武藤君にわかりやすいように書き足していく。

 

「おお、なんかわかるぞ!そうか車と思えば......ありがとうよ零!」

 

「どういたしまして。専門授業も大事だけど、一般科目も疎かにしたらダメだよ」

 

「それは難しいぜ〜」

 

「ははは、頑張れ頑張れ」

 

困ったように頭を抱える武藤君を見て、思わず笑ってしまった。

 

「ほら、皆バスが来たよ」

 

不知火君が指差す向こうからバスがやって来た。

私たち5人はバスに乗り込み、学校に向かう。

今日もまた新しい一日が始まる。

武偵高校の専門授業は新鮮でワクワクする。

中学では味わえなかった感覚だ。

今日はどんな事が学べるかな......

 

 

 

 

 

 

 




さて、今後の学校生活はどうしようかな。
オリ主が2年、先輩の立場になった話しを書きたいな。


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食堂

憂国のモリアーティ2巻を買ってきました!
やっぱり面白いな。
月間連載漫画だから続きが待ち遠しい。

今回の話はオリ主の本領?が発揮されるかな......


バスに乗って揺られること10分ほどで学校に到着し、私たち5人は校門をくぐった。

 

「零さんおはよう!」

 

「ハーイ、玲瓏館」

 

「おはようございます零さん」

 

「グッドモーニング、皆!」

 

校内に入って早々、挨拶のマシンガンの連射だ。

私だけでなく、他の人にも挨拶はしないとダメだよ?

 

「入学して1週間で人気者だね零さん」

 

「はは、そんな大袈裟だよ不知火君」

 

「卑下すんなよ零。皆お前のこと頼りにしてるんだぜ?なんたって一般科目の勉強をイヤな顔せず全部教えてくれるんだからよ。俺もそれで助かってるぜ。キンジもこの前、マンツーマンで勉強教えてもらったろう?」

 

「そうだけどよ。勉強くらいで皆大袈裟だろ?零もそう言ってるし」

 

「なんだよキンジ?まさか一般中出身の零に勉強教えてもらって恥ずかしいのか?」

 

「ちげぇよ⁉︎バカじゃねぇのか」

 

「気をつけろよキンジそれと零」

 

うん?武藤君が私と金次君の間に入って、声を落として喋り出した。

 

「偶々、お前らのマンツーマンの勉強風景を見ていた他の連中がキンジに嫉妬しているぜ」

 

嫉妬?なんで金次君に嫉妬する必要があるのだろう?

ただ私は勉強を教えていただけなのに......そりゃあ、放課後に遅くまでそれこそ日が暮れるまで、勉強に付き合ってあげたけどさ。

 

「はぁ?なんで俺が嫉妬されなきゃならねぇんだよ⁉︎」

 

「お前鈍いな〜。まあ、それについては後々話そうぜ」

 

「皆、早くしないと遅刻しちゃうよ?」

 

白雪さんが早く行くように促す。

武藤君の言葉は気になるが今は遅刻しないようにしないと!

 

 

教室に到着した私が席に着くと、

 

「おっはよー!れいれい!」

 

「おはようりこりん」

 

小柄で童顔、金髪のフリフリ改造制服を着たロリっ子が私の前にやって来た。

この人は峰 理子。

専門科目は私と同じ探偵科。一見するとコギャルなイメージがあるが成績は良く、ランクはA。

同じ探偵科で授業もよく一緒になる。

実は私が入学して間もない頃、わからない事があったらよく質問していたのはこの理子さんなのだ。

あっ、「りこりん」というのは彼女がそう呼んでほしいそうだ。

彼女は探偵科、クラスメイトの間では人気者で熱心なファンクラブもあるくらいだ。

おまけに話題も豊富で話していて飽きない。

彼女は会った人にあだ名を付けるのが好きなんだよね。

私が彼女に付けられたあだ名は「れいれい」

パンダみたいだ、とは言わないように。

 

「校門で見たよ。凄い人気じゃん!これは私のアイドルの座を奪いにきたか⁉︎」

 

「ははは、そんな事しないよりこりん。私はアイドルなんて呼ばれる人間じゃないよ」

 

「えー、知らないの?れいれいは男子と女子にかなり人気あるんだよ。意外と鈍感だね〜」

 

「う〜ん、私そのあたりはよく理解できないからね......ごめんね鈍感で」

 

額に手を当て思わず困ったように苦笑いした。

しかし、人気......ねぇ。いつの間にそんなものが?

 

「そんな鈍感なれいれいに私、りこりんがわかりやすく教えてあげましょう!これ見てよ」

 

そう言ってりこりんは何処からかAー4サイズの紙を取り出し、私の机に置いて見せてきた。

そこには、クラスメイトの女子の名前、その右隣に棒グラフが書かれていた。

私が「これは?」と尋ねると、

 

「これはりこりん特製の人気表だよ。ほら、見てよここ。れいれいは人気ナンバー2だよ」

 

自分の名前の欄を見てみると、なるほど、確かに人気があるようだ。

しかし、こうもハッキリと見せられると何だか恥ずかしい......

よく見てみると白雪さんの名前もあったよ。ナンバー3だ。

あっ、チャッカリとりこりんの名前もある。こっちはナンバー1だ。

 

「ねぇ、りこりん。男子の人気表もあるの?」

 

「ヒヒヒ、気になりますか?もちろん用意してますぜお客さん」

 

某ゾンビゲームの武器商人風の声で喋ってきた。

凄っ⁉︎超そっくりじゃん!

私を驚かした後、ちゃんと見せてくれた。これは女子から男子への人気表のようだ。

あれ?なぜ私は男子の人気表が気になったんだろう?

疑問に思いながらも見てみると、不知火君はダントツのナンバー1だ。

そうだ、金次君は?

名前の欄を下りるように見ていくと、あったよ。最下位だ。

金次君......人気無さ過ぎだよ。人付き合いは大事にしないと......

ちなみに武藤君は下から2番目だった。まあ、金次君よりはマシかな。

 

「ありがとうりこりん。凄くわかりやすかったよ」

 

「ヒヒヒ、サンキュー。じゃあ、お代を払ってもらいましょうか」

 

お代?なるほどね。それが目的で見せてきたな。

噂大好きりこりんからして望みの報酬は私の情報かな?

 

「お主も悪よな〜」

 

「ふふふ、お代官様には敵いませんよ。それじゃ、れいれいのこと教えて!」

 

まあ、質問には答えないとね。

 

「好きな事は?」

 

「数学と読書かな。あっ、今ハマっている本は『小惑星の力学』かな」

 

私はカバンから本を取り出し、りこりんに見せた。

ジェイムズ・モリアーティ著作の『小惑星の力学』。

彼は犯罪者だったけど、これを読んでいると彼は学者として本当に優秀な人だったんだなと思えてくるよ。

 

「うわー、難しそうな本を読んでるね。じゃあさ、特技は?」

 

「うーん、ボクシングかな。母さんから仕込まれたからある程度は自身はあるよ。母さんが言うには元拳闘士だった曽祖父から代々受け継がれているらしいよ」

 

右手は顎、左手は目の高さに持ってきて、ジャブを放つ。

あっ、代々武術を受け継がれている人、私だった。

入試の時、金次君に悪い事したな......

 

「カッコイイ!女ボクサーだ。そういえば、れいれいのママは何しているの?」

 

「母さんは海外企業の相談役をしているよ。偶に日本に帰ってくるかな」

 

「れいれいは見たところハーフだよね。発言からしてママは日本人?」

 

「違うよ。母さんがイギリス人で父さんが日本人。日本に帰って来るというのは、母さんはこっちに移住してきた人だから」

 

母さんの実家はイギリスにあるそうだけど、私は生まれて一度も行った事がない。

母方の祖父母にも会ったこともないし、話をした事もない。

母さんが言うには父さんとの結婚が原因で喧嘩別れしたそうな。

ちなみに結婚の経緯については、父さんが母さんに一目惚れした。

その際、隙あれば母さんに''アタック''を仕掛けて、落としたそうだ。

 

「じゃあさ、苦手な物は?」

 

「鹿撃ち帽」

 

「えっ?鹿撃ち帽って、あの頭に被るヤツだよね?どうして苦手なの?」

 

「うーん、なんか見ていると嫌な気分になるから......かな?」

 

自分でもよくわからないのだが、鹿撃ち帽を見ていると何だか嫌な気分になるんだよね。

母さんも同じで「見ていると反吐が出る」と言うくらい嫌ってる。

もしかして、私と母さんの前世は鹿だったりして......

 

「成る程ね。そうだ、れいれい。ずっと喋っていて喉乾いたでしょう?よかったらこれ飲んで」

 

そう言ってりこりんは私にイチゴ牛乳を渡してきた。

りこりんはこれが好きなんだよね。

 

「ありがとうね。じゃあ、ありがたく」

 

私はゴク、ゴクと遠慮なく飲んだ。

うん、甘い。

 

「じゃあ、最後にれいれいのスリーサイズを教えて」

 

「ブホォ......⁉︎」

 

突然のりこりんのトンデモない質問に私は飲んでいたイチゴ牛乳を吹いてしまった。

ちょっと......りこりん絶対にワザとでしょう⁉︎これを狙って飲ませたな!

 

「何でそんな事を知りたいの?やましい思いとかじゃないよね?もしかしてりこりんは百合......」

 

「違いまーす。ただ知りたいだけでーす」

 

最後の辺りを伸ばして喋るのは何で?

しかし、スリーサイズときたか......

 

「まあ、良いけど。じゃあ、耳を貸して」

 

「もちろん♪」

 

りこりんの耳の側に口を持ってきて、ゴニョゴニョと周りには聞こえないように喋る。

はい、そこの男子諸君。聞き耳を立てない。

そうしていると、キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴った。

朝のホームルームの時間だ。

 

「ほら、りこりん席に戻らないと先生に怒られるよ?」

 

「ラッジャー!」

 

両手で敬礼した後、そのまま両手を広げ「キーン」と叫びながら、席に戻っていった。

見ていると本当に小学生みたいだ。

 

「はーい、全員席について。出席を取りますよ」

 

出席簿を持った先生が入ってきた。

何はともあれ新しい1日がスタートだ。

 

 

 

1〜4限までの一般科目が終わり、昼食の時間だ。

私は学校の食堂に移動する。

武偵高校の食堂は広く、メニューも豊富で海外の料理もあるくらいだ。

お金かけているね。

食堂にはすでに大勢の同級生、先輩の姿があった。

私は券売機でかけ蕎麦を選んだ。

 

「おばちゃん、かけ蕎麦ひとつお願いします!」

 

「はいよ。ちょっと待ってね」

 

かけ蕎麦の券を調理師のおばさんに渡す。

白の調理服に頭にミットを被った50代のおばさんだ。

一見するとただのおばさんだが、実は生徒の間では「武偵高最強のおばちゃん」と呼ばれているらしい。

 

「はい、かけ蕎麦ひとつ。お残しは許しませんよ」

 

「ありがとうございます」

 

お盆に乗ったかけ蕎麦を持って移動する。

さて、どこで食べようかな?

周りを見渡すが、どこも満席のようだ。

 

「あ、見つけた」

 

ちょうど隅っこの2人がけの席がひとつ空いている。

席には男子が1人座っているだけだ。

同席させてもらおう。

 

「前いいで......あっ、金次君」

 

「げぇ、零」

 

座っていたのは金次君だった。

後ろ姿だったから、誰だかわからなかったよ。

 

「女子の顔を見て嫌そうな顔をしたらダメですよ。軽蔑されるよ」

 

「大きなお世話だ」

 

「ねぇ、金次君。同席させてもらってもいいかな?他に席が空いてなくてさ」

 

「......勝手に座れ」

 

彼の了解を得て、私は前に座る。

その際、周りから「零さんが......!」「キンジぶっ殺す......」「なぜ、あんな根暗と」「神は死んだ......!」など聞こえてきた。

あの金次君の後ろの男子の皆さん?何故、箸を握り締めながら血の涙が出てくるような目つきでこっちを見るの?

......まあ、いいか!

 

「金次君かけ蕎麦食べてる。奇遇だね私もかけ蕎麦なんだよね。好きなの?」

 

「まあ、嫌いじゃないかな。お前こそ好きなのか?蕎麦」

 

「まあ、嫌いじゃないかな」

 

ちょっと意地悪に鸚鵡返しした後、蕎麦を汁に漬けてズル、ズル、ズルと音を立てて食べた。

 

「なあ、零はハーフだよな。その......蕎麦を食べるときの音とか嫌じゃないのか?外国人は嫌いと聞くぞ」

 

「うーん、私は嫌いじゃないよ。半分日本人の血と小さい頃から食べていたおかげかな」

 

「そうか」

 

「そうだよ」

 

そのままお互い無言のまま黙々と蕎麦を食べるーー気のせいかズル、ズル、ズルという音が被る。

一通り食べ終えた金次君が箸を置き、

 

「あのさ零。言うのが遅くなったけど......この前勉強見てくれてありがとな。正直助かった」

 

金次君がお礼を言ってきた。

顔を少し赤くし、頬をポリポリと掻きながら恥ずかしそうに。

 

「いいんだよ。困っていたらお互い様。それに金次君はなんだか教え甲斐があるんだよね」

 

「なんだか教師みたいな言い方だなーーそれにしても零は本当に教え方が上手いよな。スラスラと覚えられた」

 

「金次君に教えた勉強法は『記憶術』と呼ばれるものだよ。聞いたことない?」

 

「いいや」

 

「記憶術というのはね......」

 

私は金次君に説明した。

記憶術は、大きく2つの系統に分類できる。一つは、純粋に記憶のコツのようなものによって記憶の効率を上げる方法、もう一つは、人間の能力を向上させることによって記憶力を向上させる方法である。

金次君に教えたのは前者だ。

彼は決して頭は悪くはない。寧ろ良い部類に入る。

ただ勉強を覚えるコツがわからないだけだ。

 

「へー、そんなモノがあるんだな。知らなかったよ」

 

「ちなみに武藤君も同じで勉強法を使ってるよ。下手したら彼に追い越されるよ〜金次君。今なら3割引きでもっと効率よく教えてあげるよ?」

 

「悪徳セールスマンかお前は⁉︎」

 

「冗談だよ。金次君は真に受け過ぎ」

 

「お前、悪どいな」

 

「私は悪どいよ〜」

 

冗談だけどね。

 

「ねぇ金次君。話は変わるけど......金次君は何か悩みを抱えているでしょう?」

 

「......どうしてそう思うんだよ」

 

目が右下を向いている。

 

「身体的なことで悩みがあるようだね」

 

私がそう言うと眉毛をつり上げ「......なっ⁉︎」と、わかりやすいくらい驚いた。

やっぱり悩みを抱えているね。

 

「それと金次君はあまり自分からは話さない人だよね。過去に人間関係ーー異性のことで傷ついたことがあるでしょう」

 

「そんなことはない」

 

頻繁にまばたきしている。嘘だね。

動揺を隠しているようだけど、テーブルの上の箸を手で弄っているのが証拠だよ。

 

「あと、黒のハンカチを持ってたね。それは拒否・断念・不安の象徴。しかし、今の現状を変えようと努力はしてはいるが、思うようにいかない。その証拠に赤い色を嫌っていたね」

 

この前、探偵科で習った『嫌いな色があらわす性格傾向』を金次君に試したら「赤が嫌い」と言っていた。

この色を嫌っている人は自分の努力が報われていない感、挫折感・無力感を抱えているからね。

 

「金次君は家族にお兄さんかお姉さんがいるでしょう?多分、キョウダイに対してコンプレックスを抱えているね。お兄さんかお姉さんの職業は武偵・警察または検事......いや、これはお父さんかな」

 

額にダラダラと汗を一杯かいてきたね。どうやらビンゴのようだ。

一人っ子の場合は、親の愛を一身に受けて育つ。

そうなった場合は、親和欲求が強く、ストレス耐性が低い傾向がある。

しかし、金次君のストレス耐性は強いので、キョウダイがいると見ていい。

家族構成は上にお兄さんかお姉さんいや両方いるかな。

お父さんは検事の司法機関に所属している。

 

「身内に対してコンプレックスを抱え、過去に異性で心に傷を負った。そして身体的な悩みを抱えている。最後に述べたモノは他人ーー特に女性には言えない悩みだね。どうかな違う?」

 

「もうやめてくれ。降参だ......」

 

金次君はゲッソリとした顔をしていた。

ちょっとやり過ぎたかな......

 

「ねぇ金次君。私たちはこれから3年間同じ学校の屋根の下で学ぶ者同士......だから悩みがあれば遠慮なく言っていいんだよ」

 

「お前に何がわかるんだよ?」

 

「わからないよ。金次君が打ち明けてくれるまではさ」

 

私を強い視線で上目づかいに見てきた。

視線が強い場合は、相手に反感や怒りを感じている。

しかし、逆にそれは自信がなく相手に頼りたいと思っている証拠でもある。

 

「金次君。さっき私は黒のハンカチを持っているのは、拒否・断念・不安の象徴と言ったよね。でもね、あれはそれを変えようと努力するタイプの象徴でもあるんだよ。きっと金次君は陰で努力を積んでいる。お兄さん・お姉さんに少しでも届くようーーコンプレックスを克服する努力をね」

 

金次君は黙って私の話を聞いている。

「努力」という言葉を聞いた瞬間、彼の目に輝きが戻った。

 

「この前、雨が降ったとき傘を忘れていたね。ああ、気が抜けているというわけではないよ。あれは、いろいろなものに興味をもち、創造的で新しい発想を生み出すのが得意な人によく現れることだよ」

 

その証拠に金次君は強襲科で様々な技を編み出していると聞く。

同級生の中には彼の技を手本にしている人も少なくない。

 

「私にはわかるよ。金次君は常に一歩先に行こうと努力を積んでいる凄い人。他人がどんなに根暗呼ばわりしようと私が否定してあげる」

 

「最後の根暗は余計だ。でも......ありがとうよ。そんな風に誰かに......気にかけてもらったのは初めてだ」

 

ちょっと拗ねているけど、そこは金次君らしいね。

 

「今はダメでも気が向いたらいつでも相談に乗るよ。私、私立相談役だから」

 

「ははは、なんだよそれ。私立探偵の間違いだろう」

 

「あー、そうだね。ははは」

 

まただ。私立探偵と呼ばれて気分が良くない。

 

「どうした零?」

 

「な、なんでもないよ金次君。あ、もうこんな時間だ。もうすぐ昼休みが終わっちゃうね。さっきも言ったけど何でも相談してね」

 

最後にそう言って席を立つ。

次は専門科目だから頑張らないとね。

あれ?そう言えば私、なんで金次君のことあんなに気にかけたんだろう?

それにこの胸のドキドキは一体?

 

 

 

 

キンジ視点

 

俺は席を立って去っていくその女子の後ろ姿を目で追った。

玲瓏館 零ーー変わった女子だ。

あんなに俺の胸の内に踏み込んできた女は初めてだ。

最初、勝手に踏みこんできて不快だったが、「金次君は努力をしている」と言われて気分が変わった。

自分の努力を認めてくれたーーそんな感じだった。

 

「それにしても相談......か」

 

相談に乗ってくれるのは正直、嬉しい。

家族ーーこれについては相談してもいいかもしれないが、

 

「俺の体質についてはな」

 

遠山家の男に代々遺伝するあの困った体質ーーヒステリア・サヴァン・シンドローム通称ヒステリアモード。

俺は性的興奮するとそれになる。

そして......女子に対してフシギな心理状態になってしまう。これには欠点がある。

1つーー女子を、何がなんでも守りたくなってしまうこと。

2つーーその際、女子に対してキザな言動を取ってしまうことだ。

 

「さすがにこれは相談できねーよ」

 

頭を抱えていると、

 

「おい、キンジ〜」

 

「命の貯蔵は十分か遠山」

 

「死ぬがいい」

 

俺の後ろに殺気立った男達がいた。

どいつもこいつも強襲科で見たことのある顔だ。

 

「な、なんだよ⁉︎お前ら!」

 

「うるせぇ!黙って死ね!」

 

「玲瓏館様と一緒に食事とか羨ましいぞ!」

 

「なんでこんな根暗がモテるんだよ!」

 

「おまけに下の名前で呼び合うとは!クソったれ!」

 

突然、襲いかかってきた。

なぜこうなる⁉︎

俺は慌てて食堂から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 




暫くは日常的な会話になるかな......
理子に危険人物と勘違いされるにはどうしたらいいかな。
心理学でいくか!


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探偵科の授業

今回の話は憂国のモリアーティを読んだことのある人ならわかるかな


食堂で金次君と別れた私は探偵科の授業を受けるために、武偵高内に複数ある体育館ーー第3体育館に向かった。

本日はここで事件を想定した模擬推理・調査を行う。

不謹慎と思われるかもしれないが、想定とはいえ殺人事件の現場に行くのを私はワクワクしていた。

思わず笑みが出てくるが、そこはモラルーー道徳心で抑える。

込み上げてくる気持ちを抑えながら、目的の体育館に到着し、中に入ると既に同級生ーー探偵科の生徒たちは到着していた。

あー、私がビリかな?

 

「あ、零。遅かったな」

 

「遅いよ玲瓏館さん」

 

「珍しいな。いつもなら一番に来るのに」

 

「ごめんなさい。食堂のごはんが美味しくてつい食べ過ぎちゃった」

 

同級生からの問いに、頭をコッツン軽く叩いて、舌を出して答えた。

 

「ははは、見かけに寄らず食いしん坊だね」

 

「スタイルいいんだから気をつけないと太るよ?」

 

「大食いクイーン......いいね」

 

場が和んだ。やっぱり笑いは大事だよね。

そんなことを考えていると、私の後ろから誰かが近づいて来る。

この足音は、

 

「りこりん」

 

「うわ⁉︎なんでわかったの?れいれい」

 

「リズムだよ」

 

振り向くとそこには赤いランドセルを背負ったりこりんがいた。

私を脅かそうとしたのだろうか、その手にはクラッカーを持って。

 

「りこりんは歩く時、リズムよくーーケン、ケン、パ!のリズムで歩いて来るでしょう?あと、カバンが揺れて上下する際に聞こえてくる服とカバンの擦れる音も聞こえた。音の具合からして革の鞄ーーランドセル。この学校でランドセルを背負っている人はりこりんくらいだからすぐにわかったよ」

 

「すご〜い。後ろも見ずに音だけで、しかも僅かな時間で答えを見つけるなんて」

 

「おまけにみんな私の後ろに視線を向けてたしね」

 

「ぶー、それはずる〜い。あと、みんな空気読んでよ」

 

頭に指を当てて、ツノに見立てて「ガォー」と怒るりこりんを見てみんな苦笑いしている。

ちょっと、ズルしちゃったかな。

 

「ハイハイ、みんなこれから授業を始めますよ」

 

ワイワイやっていると先生がやって来た。

ショートカットとメガネが特徴の20代の女性だ。

名前は毛利 サラ先生だ。

私たち探偵科を担当している教諭の1人だ。

 

「それじゃ、みんなわたしの後に付いてきてください」

 

そのまま先生に誘導され、体育館内に設けられた現場ーー約180cm×約180cmほどの部屋に到着した。

部屋は黒焦げている。どうやら、火災現場のようだ。

様々な物が散乱ーー椅子、机、窓ガラスと酷い状態だ。

部屋には死体のつもりだろうか、成人男性ほどの人形が仰向けで倒れているーー腹には折れた椅子の足が刺さっている。

 

「課題を配りますので、回してください」

 

そう言って先生はプリントを配った。

内容を確認してみると本日の課題は、殺人か事故かを当てるようだ。

プリントには被害者のプロフィールや死因なども書かれていた。

 

「司法解剖の結果、被害者の体内からは睡眠薬などの薬物は検出されなかったとあるね」

 

「死因は火災の際に出た煙を吸い込んだことによる一酸化炭素中毒か」

 

「えっ、腹部の刺し傷が死因じゃないの?」

 

みんな様々な論議を交えているね。

うん、いいね。ワクワクしてくる。

 

「れいれいはわかったの?何だか嬉しそうだね?」

 

おっと、りこりんに見られていたか。危ない危ない。不謹慎な女と思われていなければいいけど......

 

「うーん、まだわからないかな」

 

「えー、絶対に嘘でしょう」

 

参ったな〜。りこりんが信じてくれないよ。

うーん、わからない時は質問してみよう!

 

「先生、事件当日は被害者は自宅に1人でいたとあります。課題には事故か殺人の二択しかありませんが、自殺という線はないのですか?」

 

「......いいえ、自殺の線はありません」

 

うむ、自殺ではないか......腹に自ら椅子の足を突き刺し、切腹したと思ったが......さすがに現代でそんな事をーーいや、様々な可能性を考慮しよう。

 

「被害者は煙を吸い込んで死んだようですね」

 

「そうだぜ零。司法解剖が証拠になってる」

 

そうなんだよね。煙を吸い込めば誰でも一酸化炭素中毒で死ぬ。

まあ、ミュータントなら死なないだろうけど......現実にいないかな。

 

「じゃあ、何故被害者は腹部に椅子の足が突き刺さっているのだろうね?」

 

「そりゃあ、火事でパニックになってその拍子に刺さって......」

 

「事件は真夜中の2時頃に起きたとある。その時間帯なら大概の人間は寝ているね。おまけに被害者は1人だ。火災が起きても誰も起こしてはくれないだろうね」

 

真夜中だったら私なら熟睡しているよ。火事とか発生したらまず逃げられない。

なんか寝る事を考えると......やばい!なんかウトウトしてきた。

お昼食べ過ぎたか⁉︎

寝る事を考えないようにしないと。

 

「寝てはいない。寝る暇はなかった」

 

「えっ?どういうこと零さん?」

 

思わず口に出しちゃったよ⁉︎恥ずかしい。

どうしよう......眠くならないーーお呪いのつもりだったのに。

なんとか誤魔化さないと。

眠いせいか頭がうまく回らないよ!

 

「被害者は寝られなかっただろうね。腹部に刺さったコレのせいで」

 

わたしは被害者人形に近づき、腹部に刺さった椅子の足を指差す。

動き回れ私!動けば眠くはならないはず!

 

「でもそれは火災が起きた際に刺さったものじゃあ?」

 

「火災が起きる前に刺さったものだとしたら」

 

「そうか!被害者は寝ているところを何者かーー犯人に襲われて、腹部を刺されたんだ」

 

「でも何でわざわざそんな事をしたのさ?殺すつもりなら火を付ければいいじゃん。そっちの方が手っ取り早いと思うけど」

 

「だからさ、犯人は事故死に見せたかったんだよ!考えてみろよ。腹部にこんなの刺さってたら逃げられねえよ。そこに火をつければ」

 

「逃げられない被害者は煙を吸い込んで死ぬ!」

 

「でも何で椅子の足を使って刺したのだろうか?」

 

眠気が覚めてきたぞ!これが現場か⁉︎

なんだか私、ワクワクしてきた!

 

「事故死に見せかける為だよ。火災でパニックになってその際に刺さったように見せかけるためにね。こんなものが刺さっていたら嫌でも意識が残るだろうーー焼け死ぬまでね。その際に肺に煙を吸い込んで」

 

「司法解剖されても一酸化炭素中毒と判断されるでしょう?れいれい」

 

私のセリフを上手く持っていったな〜りこりん。この怪盗め!

 

「私たち一同、この事件を殺人と判断します。どうですか先生?違いますか?」

 

最後に先生に確認を取る。どうだ?

 

「正解です。ここにいる人達は満点でしょう」

 

やったー!正解したよ。何だか複雑な方程式を解いた気分だ。

安心した瞬間、また眠気が襲ってきた。

やばい!

 

「それじゃ私はこれで」

 

「あっ、待ってよ。れいれい!」

 

その場を後にするが、りこりんが付いて来る。

お願い私を寝かせて!本当に眠いの!

 

 

 

毛利 サラ視点

玲瓏館・M・零。

教務科一同から要注意人物とされている生徒。

監視も兼ねてこの探偵科に属させた。

同僚の金田の筆跡分析によれば、モラル意識は破綻しており、冷酷なまでに論理的に行動するとある。

教務科を警戒してか、入学後はなりを収めている。

筆跡も入学前と違いーーモラル意識があると思わせる筆跡だ。

生徒からの評判はよく、面倒見がいい、勉強を見てくれる、困ったことがあったら何でも相談に乗ってくれるなど人気がある。

しかし、私にはわかる。あれは演技だ。

おそらく相談に乗るのは相手を徹底的に分析するための手段だろう。

その証拠に彼女は探偵科では心理学を必ず勉強している。

相手とマンツーマンになれる相談は彼女にとっては最高の環境だろう。

 

 

「司法解剖の結果、被害者の体内からは睡眠薬などの薬物は検出されなかったとあるね」

 

「死因は火災の際に出た煙を吸い込んだことによる一酸化炭素中毒か」

 

「えっ、腹部の刺し傷が死因じゃないの?」

 

他の生徒は論議を交わしているのに対し、玲瓏館は黙ったまま現場を観察している。

しかし、気のせいか?同級生の方をじっと見ているようにも見える。

まるでどんな推理をするのか、興味津々だ。

 

「れいれいはわかったの?何だか嬉しそうだね?」

 

彼女の顔が歪んでいるーー笑ってやがる⁉︎

模擬とはいえ事件現場で笑うなど狂ってやがる。

 

「うーん、まだわからないかな」

 

「えー、絶対に嘘でしょう」

 

峰 理子の問いに適当に答えた。

顔は落ち着いた表情に戻っているが、どこかワザとらしい......

 

「先生、事件当日は被害者は自宅に1人でいたとあります。課題には事故か殺人の二択しかありませんが、自殺という線はないのですか?」

 

「......いいえ、自殺の線はありません」

 

突然の質問に私は思わず、男口調で答えそうになったが堪える。

何故、自殺だと思う?

 

「被害者は煙を吸い込んで死んだようですね」

 

「そうだぜ零。司法解剖が証拠になってる」

 

男子生徒の方を見て確認をとる。

 

「じゃあ、何故被害者は腹部に椅子の足が突き刺さっているのだろうね?」

 

「そりゃあ、火事でパニックになってその拍子に刺さって......」

 

落ち着いた口調で話す。いつの間にか彼女は和の中心にいる。

その姿をはまるで生徒に授業を教えている教師のようだ。

 

「事件は真夜中の2時頃に起きたとある。その時間帯なら大概の人間は寝ているね。おまけに被害者は1人だ。火災が起きても誰も起こしてはくれないだろうね」

 

人形を見つめるーーその目はどこか冷たい印象をうける。

まるで何でもないかのように。

 

「寝てはいない。寝る暇はなかった」

 

「えっ?どういうこと零さん?」

 

女子生徒の方を見る。その顔は「これくらいもわからないのか間抜け」と言っているようだ。

 

「被害者は寝られなかっただろうね。腹部に刺さったコレのせいで」

 

彼女は人形に近づき、腹部に刺さった椅子の足を指差す。

ただ立って推理せず、現場を探るとは......行動力はあるようだな。

おそらく、自ら手を汚してでもそれが最大の解決策だと思えば躊躇いなく行動するだろうーーそれが殺人でも。

 

「でもそれは火災が起きた際に刺さったものじゃあ?」

 

「火災が起きる前に刺さったものだとしたら」

 

出来の悪い生徒にわかりやすく教えている。

 

「そうか!被害者は寝ているところを何者かーー犯人に襲われて、腹部を刺されたんだ」

 

「でも何でわざわざそんな事をしたのさ?殺すつもりなら火を付ければいいじゃん。そっちの方が手っ取り早いと思うけど」

 

「だからさ、犯人は事故死に見せたかったんだよ!考えてみろよ。腹部にこんなの刺さってたら逃げられねえよ。そこに火をつければ」

 

「逃げられない被害者は煙を吸い込んで死ぬ!」

 

「でも何で椅子の足を使って刺したのだろうか?」

 

その言葉を待っていたとばかりに彼女の目つきが変わった。

あの目は......犯罪を楽しむ人間の目だ!

 

「事故死に見せかける為だよ。火災でパニックになってその際に刺さったように見せかけるためにね。こんなものが刺さっていたら嫌でも意識が残るだろうーー焼け死ぬまでね。その際に肺に煙を吸い込んで」

 

「司法解剖されても一酸化炭素中毒と判断されるでしょう?れいれい」

 

最後のセリフを峰 理子に取られたことが可笑しいのか、面白いのか、彼女は最後に笑ってみせた。

 

「私たち一同、この事件を殺人と判断します。どうですか先生?違いますか?」

 

最後に私に微笑みかけて確認を取ってきた。

だが、私にはそれが「もっと私を楽しませろ」と挑発しているように見えた。

 

「正解です。ここにいる人達は満点でしょう」

 

私の言葉を聞いた彼女は「つまらない」とばかりに背を向け、

 

「それじゃ私はこれで」

 

「あっ、待ってよ。れいれい!」

 

その場を後にした。

やはり彼女は危険だ。

あれは事件を解くことを楽しんでいるのではない、事件が起こるーー事件そのものを楽しんでいる!

監視を強化したほうがいいな......諜報科にも掛け合ってみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は理子との会話がメインになるかな......


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相談という名の講習

この話はどうするか迷いました。


ね、眠ーい‼︎

何なんですか、この眠気は⁉︎

私、玲瓏館・M・零は急激な睡魔に襲われていた。

専門授業が終わった瞬間、一気に眠気がやってきたのだ。

 

「は、早く寮に帰らないと......!」

 

頭を抱えながら、フラフラと危ない足取りで寮を目指す。

今、私の願い事は翼ではなく、寝床がほしい!

 

「れいれいー!待ってよ〜!」

 

後ろから聞き慣れた声がーーりこりんだ⁉︎

 

「追いついた!二ヒヒヒ、逃がさないぞ〜」

 

私の前に回り込むと、通さんぞとばかりに両手を広げて道に立ちはだかる。

お願いりこりん!そこを通して!

 

「あー、りこりん?悪いんだけどそこを通してお願い」

 

「どうしても通りたければ私の屍を越えていけ!」

 

ある意味、懐かしい名場面だけど今はそれどころじゃない!

 

「れいれい凄かったね。あっという間に事件を片付けちゃった。りこりん思わず尊敬しちゃった」

 

「ありがとう。でも、あれくらい誰でも少し考えれば解けるよ」

 

あっという間に......あれは眠くて早く帰りたかったからだよ。

 

「ねぇ、れいれいはどんな相談にも乗ってくれるって、前に言ったよね?」

 

「うん、言ったね」

 

「じゃあさ、りこりんのお悩みも聞いてくれる?」

 

りこりんの悩み?珍しいな......いつも元気一杯で明るいりこりんに悩みがあるなんて......いや、りこりんも人の子だから悩みの一つくらいはあるか。

 

「勿論だよ。どんな相談にも乗るよ。だって私、私立相談役だからね」

 

「ぷぷ、そこは私立探偵の間違いでしょう?」

 

まただ。何だろう?私立探偵というワードを聞いた瞬間、この頭の奥から込み上げてくる不快な感情は一体?

気のせいか眠気がなくなってきた......妙に頭が冴える。

 

「どうしたのれいれい?気分でも悪いのかな?」

 

「ごめんごめん、何でもないよ。じゃあ、りこりんのお悩みを聞かせてくれるかな?」

 

「うん!実はりこりんのお友達がね......」

 

そう言ってりこりんは語り出した。

りこりんのお友達ーーここではAさんとしよう。

Aさんはある家のお嬢様だった。

代々高名な一族で、初代は偉大な人だったそうだ。

ある日、両親が事故で亡くなり家は没落。使用人は散り散りになり、財産は盗まれてしまった。

1人だけ残されてしまったAさん。そんなAさんにある日、転機が訪れる。

親戚を名乗る人物ーーVが養子にならないか?と申し出てきたのだ。

他に行く当ても無かったAさんはその申し出を受けた。

しかし、それがAさんのさらなる不幸の始まりだった。

養子の話は嘘で、VはAさんを暗くて狭い檻に閉じ込めたのだーー監禁だ。

ろくに食べ物も与えず、衣服はボロ布を纏わせるだけ......最悪の一言に尽きるだろう。

しかし、Aさんは檻から逃げ出したーー脱出したのだ。

これで助かった、もう悪夢は終わったと思われたが、そうでは無かった。

逃げ出したAさんの元にまたVが現れたのだ。

このままではまた監禁されると思ったAさんはVと戦ったが、敵わなかったーー負けたのだ。

負けたAさんにVは「Aが初代を越えるまでに成長し、その成長を証明できればもう手出しはしない」と言ってきた。

その条件を呑んだAさんは自由になる為、今も必死に頑張っているそうな......

 

「なるほどね......りこりんはその友達を助けたいのかな」

 

「うん。でもどう助ければいいのかわからなくてさ」

 

「しかし、妙だね......」

 

「何か気になることでもあるの?れいれい」

 

「いやね。何故、VはそこまでしてAさんにこだわるのかなと思ってさ」

 

そこが疑問なのだ。

りこりんから聞いただけだが、何故、VはAさんにこだわる?ある意味で異常だ。いや、監禁する時点で既に異常か......

 

「Vなりの考えでもあるんじゃないの」

 

「そう、そこだよ。その考えとは一体何か?監禁・誘拐する犯人には必ず動機がある」

 

私は様々な可能性を計算してみた。

 

動機として考えられるのは身代金ーーしかし、Aさんの両親は亡くなり家は没落、お金なんてないだろう。それはV自身も知っていたはず。

身代金を要求しようにもAさんには要求する身内がいない。

 

異常な性癖の持ち主ーーまあ、これもありえる。ろくに食べ物も与えず、ボロ布を纏わせ監禁するくらいだから。

 

Aさんに何らかの弱みを知られていたーー逃げ出したAさんをわざわざ追いかけてくるくらい......しかし、弱みを知られたら、捕まえた時点で口封じで殺すだろう。しかし、りこりんの発言からしてAさんはまだ生きている。殺せない理由がある?

 

Aさん自身が目的ーーAさんが何らかの特異能力の持ち主。一般人にはない何かがある。特異体質・DNA・Aさんの一族にしかない何か。

 

「VはおそらくAさん自身が目的だったんじゃないかな?」

 

「......どうしてそう思うの?りこりん気になるなー」

 

りこりんがじーっと、私を見つめる。

どんな事を言ってくるのか気になるのかな?やっぱり友達のことを気にかけているんだね。

 

「おそらくVは人間収集家じゃないかな。海外には殺した人間の体の一部を収集する猟奇殺人者もいると聞く。Vもそれと同じ仲間の類いだろうね。Aさんを自分のコレクションの一つにしたいから監禁したと考えられるね」

 

「で〜も〜さ〜、なんでりこりんのお友達をコレクションしようと思ったんだろう」

 

気のせいかりこりんの声には憎悪・怒気・不快な感情がこもっているようにも思える。

あー、お友達をモノみたいに言ったのが悪かったかな。

 

「りこりんから聞いた話によれば、Aさんの家は高名な一族。Vはそういった人間を集めることに高い執着心がある。いや、コンプレックスの裏返しかもね」

 

「コンプレックス?」

 

「うん。大概の人間は自分より優れた人間を見れば劣等感を覚える。Vもそれだろう。優れた人間をそばーー監禁し、自分はお前らより優れているぞ!と小さな虚栄心を満たしている臆病者。私の見立てではVは激しく自己中心的、過去の栄光に頼り向上心がない.......いや、あるが自分の力で成し遂げず他人任せ。それなりの権力が過去にあった人物だと思うよ」

 

「......本当に凄いねれいれいは......理子から聞いただけで答えを導くなんてさ......」

 

うん?りこりんの声が暗いような......?

 

「でも私が聞きたいのはVのことじゃなくて、お友達を助けるにはどうしたらいいのかだよ。これじゃ、推理だよれいれい」

 

「あ、そうだったね。ごめんね。考えるとつい......」

 

いけない、相談がいつの間にか推理になってたよ。私の馬鹿!

考え過ぎると要らないことまで答えを導こうとするのは私の悪い癖だな......気をつけないと。

 

「それじゃ、早速。さっきも言ったけどVは根は臆病者。心の奥で激しい劣等感を抱えている。そこを突くんだよ」

 

「どうやるの?」

 

「相手のコースに油を撒いてやれ」

 

「えっ......?」

 

「いや、マシンに細工をするのもいい案だね」

 

「いやいや、れいれい?どういう意味なの?理子わかんないよ」

 

あー、例えが悪かったかな......なら、

 

「りこりんがお友達を助けるーーそれは一緒になってVと戦うという事。失礼かもしれないけど、真っ向から戦っても返り討ちにあうのが関の山だろうね」

 

「......うん」

 

りこりんが俯いているーー今にも泣き出しそうな感じだ。

ちょっと厳しく言い過ぎかな......

 

「例えるならVはF1カー、りこりんとAさんは軽自動車。同じコースを走っても勝てない。じゃあ、勝つにはどうしたらいいか。狡猾になることだよ」

 

「狡猾......?」

 

「そう狡猾にね。お友達を助けるーーそれは立派な善行、正義だ。正義の名の下であればどんな『卑怯』も許される。りこりんにはその才能があるよ。私が保証する」

 

これは私の母からの貰い言葉だが、不思議と私は気に入っている。

りこりんの助けになればいいのだけどな。

 

「なるほど......ありがとうれいれい!すごーーく参考になったよ。またねー!」

 

「あ、りこりん」

 

りこりんはそのまま走って去っていった。

大丈夫かな......例えばの話で助けになればいいけど。

あっ、よくよく考えれば、教務科や同級生、先輩を頼るという案もあったじゃん⁉︎

何故私は狡猾になれと言ったのだろう......

うっ⁉︎また眠気が⁉︎

ダメだよここで寝ては風邪を引く......寝ては......

私はそのまま意識を失った。

 

 




さて次回は倒れたオリ主を助けるのは誰か?
もうわかる人はわかりますね?あの女たらし......


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部屋まで

キンジ、アーメン。


話の内容を変更してみました。
やはり恋愛は......


「イタタタ......アイツら、問答無用で殴ってきやがって」

 

俺は強襲科の授業を終え、男子寮に帰ろうとしていた。

何故か今日は不幸だ。

食堂では同級生に襲われ、強襲科の授業ではヤケに俺と組手をしてくる奴が多かった。

組手するたびに「死ね死ね!キンジ!マジで死ね!」「地獄に堕ちろ!」「お前の命は今日ここで終わる」「この人でなしが!」と叫んでくる。おまけに女子まで......

あいつら今日は妙に殺気立ってたぞ。何故だ?

俺は疑問に思いながらも、第3体育館前を通りすぎた。

あとはこのまま校門を目指すだけだ。

 

「うん?誰だあれは......?」

 

体育館前ーー俺の進行方向に誰かが倒れている。武偵高校セーラー服を着た女子だ。

 

「おい、大丈夫⁉︎」

 

俺は駆け寄った。

 

「って、零⁉︎」

 

倒れていたのは同級生の零だった。

目立った外傷はなく、呼吸は正常ーーしかし、目を覚ます様子はない。

 

「おい⁉︎起きろ零!零!」

 

俺は耳元で呼びかけるが、目を覚まさない。

どうしたんだよ一体?何があった⁉︎

 

「クソったれ......!」

 

俺は零を抱えて、衛生学部に向かった。

 

 

 

衛生学部ーー

 

「疲労ね」

 

「疲労......?」

 

衛生学部に零を抱えて飛び込んだ俺は零を診断した女子の先輩から椅子に座って、診断結果を聞いていた。

診断書を持った先輩は座っていた丸椅子から立ち上がって、

 

「おそらく、脳を過度に酷使したことによる疲労かしら。それで脳が休息を欲して、睡眠に入っている」

 

ベットの上で眠っている零を見下ろしながら言う。

脳の疲労ーー俺の兄さんは長時間ヒステリアモードになれるが、同時に脳に過大な負荷がかかる。その際、長時間の睡眠が必要になる。

今の零の状態は正にそれと同じだ。

まさか、零も兄さんと同じような力があるのか?

 

「まあ、それ以外に目立った異常はないし、ゆっくり寝かせておけば大丈夫でしょう。目が覚めたら送ってあげなさい」

 

「なんで俺が零を......?」

 

俺が疑問に思うと、先輩はやれやれと首を横に振り、最後にハァとため息を吐く。何故だ?

 

「君......よく鈍感って呼ばれるでしょう?」

 

確かに武藤からはよく言われるが、強襲科の特訓は積んでいるし、遅れはとっていない自覚はあるぞ。

 

「普通は男子ならこういったシチュエーションを喜ぶんだけどなー。お姉さん残念だなー」

 

なんだよ突然。その間伸びした言い方は?

 

「あっ、お姉さんこれから教務科にいかないと!じゃあ君、彼女のこと宜しくね」

 

「ちょっ⁉︎待っ......!」

 

「大丈夫。彼女が目を覚ましたら動かしてもいいから。あと鍵はかけなくていいからね♪」

 

そのまま先輩は「バァイ」と言って部屋から出て行った。

待ってくれよ......おい。

同級生の女子と2人きりとか勘弁してくれ......

 

「それにしても零って、こういう顔して寝るんだな......」

 

俺は未だベットで眠っている零を見る。

肩まで伸ばした黒髪、きめ細かい白い肌、細く整った眉毛、綺麗な小顔。

そんな女子が静かに寝息を立てている。

普段は知的でクールな印象を受けるが、寝顔を見ていると可愛げのある女の子だ。

まじまじと見ていると、血流が!ヤバい!ここでヒスるなよ俺!

ヒスったら何するかわからん。

 

「う〜ん、そこにいるのは誰......かな?」

 

俺がヒスらないよう奮闘していると零が目を覚ました。

よ、よかったぜ。危うくヒスるところだった......

 

「あ、金次君だ」

 

「迷子センターの子供かお前は」

 

起きて早々、俺を指差して名前を言う。まるで子供みたいだ。

 

「ここは?ああ、衛生科目の教室だね。もしかして、金次君がここまで?」

 

「ああ、そうだよ。お前、第3体育館の側で倒れていたんだぞ」

 

「ごめんね。心配させて。何だか急に眠くなってね。ご飯食べ過ぎたせいかな?」

 

「食べ過ぎで倒れるのはわかるが、眠くなるのは聞いたことがない」

 

俺が呆れていると「はは、そうだね」と頭の後ろに手を当て笑い出した。

起きて早々、元気だなコイツ。

 

「ここまで運ばせてごめんね。それじゃ......きゃ!」

 

「おい....⁉︎」

 

ベットから降りようとして倒れた。

俺は慌てて体を支える。よかった、どこも打ってないな。

 

「大丈夫か?零」

 

「ははは、ごめんね金次君。まだうまく身体が動かないや」

 

困った、困ったなと苦笑いする零を見て、

 

「ほらよ」

 

「ちょっ!金次君......?」

 

俺は背中を貸してやる。

かなり軽いな。これなら余裕だぜ。

 

「おぶってくれるなんて......さすがに悪いよ金次君」

 

「いいから黙ってろ。少し揺れるが我慢しろよ」

 

「それじゃ、お言葉に甘えて」

 

握り手に〈M〉の刻印が彫られている黒いステッキを持って、俺の背に体を預けた。

気を失っていた時もこれだけは握っていたな......

女でステッキを持っているのはコイツくらいだろう。不思議と似合っている。

そのまま零をおぶったまま衛生科目の教室を後にする。

 

 

尚、零をおぶって学校を出て行くキンジの姿を''たまたま見ていた''強襲科の生徒達が後日、「うん、キンジ殺そう」と決意し、連合を組むことになるのをこの時のキンジはまだ知らない。

 

 

 

零をおぶってお互い黙って歩くこと数十分ーー女子寮に到着した。

うっ⁉︎外にいるのに女の匂いがするぞ⁉︎

 

「ほらよ到着したぞ零」

 

俺は匂いに負けないよう気を引き締め、零に声をかける。

しかし、歩くことに集中していて気づかなかったがコイツもいい匂いだな......月光花のような香りだ。

 

「うん。ありがとうね金次君。ここからは自分であるい......」

 

「無理すんな。このまま部屋まで送ってやるよ」

 

「さすがに悪いよ金次君。だって女子寮だよ?下手したら女子のみんなから袋叩きに......」

 

「されねぇよ。それにベットから降りようとして倒れたのは誰だよ?そんな女を歩かせられるか馬鹿」

 

「ば、馬鹿......?ははは、初めて言われたよ。金次君が記念すべき第1号だね」

 

「俺は仮面ライダーじゃねぇよ。ほら、何階だよお前の部屋?」

 

「3階ですよ。ナイト様」

 

ナイト様って、侍ならわかるがナイトはないぞ。

 

女子寮に入ると、俺は零に言われた3階を目指して階段を上がる。

一段一段慌てずゆっくりと上がる。

踏み外して倒れたら大変だからな。

 

「凄いね金次君。人をおぶったまま階段を上がるなんてパワフルだね」

 

「そりゃ、伊達に強襲科で鍛えられてないからな」

 

強襲科の訓練は厳しいものが殆どだが、まあ慣れればどうって事はない。

しかし、今日の訓練ーー組手はやけに厳しかったぞ。何故だ?

そんなくだらないことを考えていると、3階に到着した。

 

「部屋はどこだよ」

 

「あの一番奥の部屋だよ」

 

零の指差す方を見るーー俺から見て右手側の奥の部屋だ。

 

「ほら、降ろすぞ」

 

「ゆっくり降ろしてね。また倒れるかも」

 

た・お・れ・る・な!

部屋の前に到着し、ゆっくりと零を降ろす。

 

「今日は本当にありがとうね金次君。おかげで助かったよ」

 

「まあ、人助けは家の家訓にあるからな」

 

「はは、まるで正義の味方だね」

 

「そんなご大層なものじゃねぇよ俺は」

 

「そうだ!折角だし部屋に上がっていきなよ金次君」

 

はぁ?何でだよ!

 

「何でだよ、って思ったでしょう?金次君は本当にわかりやすいな」

 

「またお得意の心理学か。そうやって相手の心を読・む・な」

 

本当にこの女は油断も隙もない。

相手の心の底を暴いてくる。入学試験から只者ではないと思ったが......

 

「ごめんごめん。つい相手の事を観察してしまうの。探偵科でついてしまった癖......かな?」

 

いらん癖をつけやがってコイツめ......

俺が呆れていると零はパァン!と手を叩き、

 

「まあ、私の事はさておき、上がっていきなよ。ここまで運んで貰っておきながら何もお礼をせずに帰すのも後味が悪いし」

 

俺の背を押しながら「さあ上がって、上がって」と急かす。

わかったから押すなよ。しかし、急に元気になったよなコイツ。

衛生学部のベッドから降りて倒れたのに......

 

「散らかっているけど、そこは我慢してね」

 

「あ、ああ......」

 

部屋に上がると香水の匂いはしない。

香水はつけないのか?

部屋の中は本で一杯だ。

床にも何冊もの本が積み重なっている。

本棚にもビッシリと本が並べてある。

部屋の中央に置いてあるテーブルにも本があるぞ。いや、本だけじゃないパソコンとチェス盤もある。

 

「本が好きなんだな」

 

俺が尋ねると零はリビングからキッチンに移動していた。いつの間に?

 

「うん好きだよ。本はいいよー。色々ためになるし。金次君も読んでご覧よ。もしかしたら勉強で役立つものが発見できるかもよ」

 

キッチンで何かしながら後ろ向きで答えた。

まあ、気が向いたら読んでみるのもいいかもな。

しかし、零はどんな本を読むんだ?

俺は周りにある本を見渡して見る。

『心理学大全集』『世界の犯罪者一覧』『犯罪における初動捜査』『これであなたも今日から怪盗!変装のコツ』『世界のトリック』などなどある。

中には物騒なタイトルもあるぞ?『猟奇的な殺人とは』『なぜ彼女は彼を殺したのか』『世界の拷問集』『完全犯罪』

まあ、どんな本を読むかは本人の自由だよな......

俺は他に何かないか見て回る。

 

「これは新聞か?」

 

部屋の隅ーー窓から離れた場所に大量の新聞が棚に収めてある。

これは新聞の切り抜きだな。

手に取って見てみると、最近の新聞記事もあれば......こっちは昭和の新聞の切り抜きだ。

窓から離れて置いてあるのは陽の光に当たって変色を防ぐためか?

 

「こっちは化粧台か。まあ、零も女だからな」

 

探偵科に属している為か、変装の道具がある。

鏡付きの化粧台の上にはカツラーー金髪、茶髪など種類が豊富だ。

眼鏡もある。うん?これは付け髭か。何故こんな物が?男装でもするのか?

 

「金次君お待たせ」

 

零が戻ってきたーーその手に飲み物を乗せたお盆を持って。

 

「はい、金次君。コーヒーだよ」

 

「いただくぜ」

 

本やチェス盤の置かれたテーブルにコーヒーを置いた。

俺は遠慮なく飲んだ。

うん、丁度いい熱さだぜ。温くもなく熱すぎない。

おまけに俺の好きなブラックだ。

 

「金次君の好きなブラックだよ」

 

「ちょっと待て。俺はお前にブラックが好きだと言った覚えがないぞ」

 

「だって金次君男性的なところが強く出ている人だからね。そういった人はコーヒー派でブラックが好きな人が多いからね」

 

最後にティーカップに口をつけて終えるーーお前は紅茶派か。

ぐっ!ムカつくが様になっているぜ。

 

「あと先導役に最適かな。将来リーダーになって人を率いていく才能があるね」

 

「......俺はそんなガラじゃねぇよ」

 

リーダーって、俺にはそんなもの務まらない。

 

「君は将来必ずリーダーになれるよ。金次君にはカリスマ性がある」

 

「お前、武偵よりも占い師になったらどうだ?」

 

占い師の零ーー黒い衣装に身を包み、水晶玉に手を当てる光景を想像した。

ぷっ、ダメだ。笑ったら......でも、凄く似合っているような......

 

「それじゃ金次君の要望通りに占い師になろうかな私」

 

「真に受けるなよ」

 

「嘘だよ」

 

また人を揶揄いやがって......本当にコイツは掴み所がない。

 

「ねぇ金次君。今度の日曜日に一緒に新国立劇場にオペラを観に行かない?気分転換にさ」

 

突然、零が話を変えてきた。

日曜日か......まあ、大丈夫だろう。

 

「俺はオペラなんてわからないぞ。それにあれ、英語で喋るからまったく内容が理解できん」

 

「そこは大丈夫。最近の劇場には液晶モニターがあってね。それに日本語が字幕として映し出されるんだよ。だから金次君でもわかるよ」

 

それなら俺でも内容がわかりそうだな。

最近の劇場はそんな物まで完備しているとは知らなかったぜ。

 

「演目は何だよ」

 

「ドン・ジョヴァンニだよ。知らない?」

 

「知らないな」

 

そもそもオペラなんて初めて観るから知らないぞ。何だよドン・ジョヴァンニって?

 

「どんな内容なんだ?」

 

「それは行ってからのお楽しみだよ。ここで内容を言ったらつまらないでしょう?」

 

まあ、確かに。

マジックでもネタとタネがわかっていたら、つまらないからな。

 

暫くして、零の部屋でお茶をご馳走になった俺は部屋を後にした。

 

 




恋愛はワンクッションが大事だと実感しました。
話を少し変えました。


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オペラ座①

ちょっと短めです。


日曜日ーー東京駅

時刻は午前9時30分まだ肌寒いが何とか我慢できる。

私と金次君はここで10時に待ち合わせをしている。

ただ待ち合うのもつまらないので、ちょっと意地悪しようと思う。

おそらく、金次君は約束の時間よりも15分前に来るだろう。

なので私はそれよりも30分早くここいるのだ。

彼は律儀な男子だからね。女子を待たせたと知ったらどうなるか。

 

「さて金次君は......」

 

「どんな顔して来るか?だろう」

 

突然背後から声をかけられた。

思わず振り返ると、

 

「いつからそこにいたのさ?金次君」

 

「お前のことだから、俺より早く来て『女子を待たせるなんて酷いぞ』とか言うつもりだったんだろう?お見通しだ」

 

金次君がいた。

いつの間に背後に⁉︎おまけに私の考えを読むとは!成長したね〜

 

「よくぞ見破ったね金田一君」

 

「それを言うなら明智君だろうが」

 

探偵科で今、流行っているギャグなんだけどなー。

金次君は笑ってくれない。

彼の服装は上は黒のシャツ、下は黒のジーパンを履いている。何だか服のセンスが父さんに似ているね。

ちなみに私の服装は白のシャツの上にフード付きの紫ジャンパー、下にはブルーのミニスカートを履いて、肩に鞄をかけている。

うん?金次君が私から急に視線を逸らしたぞ?

 

「どうしたの金次君?」

 

私が尋ねると、彼は「な、何でもねぇよ!」と少し顔を赤くした。

あっ、なるほどね〜

 

「私を見て興奮でもしたのかな?」

 

「馬鹿なこと言うな!誰がするか......!」

 

そう言って金次君はそっぽを向いて、ズカズカと走っていた。

ははは、どこへ行こうというのかね?

ちなみにそっちは新国立劇場とは反対ーー秋葉原方面だぞ。

 

 

駅改札口を通り、新宿線の電車に乗り込んだ。

まずは新宿駅まで行って、そこから乗り換えないと。

幸い席は空いており、ボックス席に私達は座った。

ただ駅まで到着するのも退屈なので、辺りを観察してみる。

これは探偵科で最初に教わったことで、「如何なる時も気になったものは観察してみろ」との事だ。

 

「なあ、零。さっきから何を見ているんだ」

 

「全てだよ。この電車、乗客を観察しているんだよ。あっ、もちろん金次君のこともね。私と会うまでの間、何があったか当ててみようか?」

 

「勘弁してくれ......」

 

しょぼーんと、落ち込んだね。本当に金次君は喜怒哀楽がはっきりしているよ。

 

「まあまあ、そんなに落ち込みなさるな若者よ」

 

「お前はどこの老師だ」

 

うん!いいツコミだね。100点、パーフェクトだ。

そんな金次君にはご褒美をあげないと、

 

「はい、金次君。喋っていて喉が渇いているでしょう?唇が乾燥しているのが証拠だよ」

 

私は鞄から缶コーヒーを出して、金次君に手渡す。

これは私がコンビニで購入しておいた物だ。

 

「なあ、零。これいくらだ?」

 

「100円だよ」

 

どうしてそんな事を聞くのかな?

疑問に思っていると、金次君はポケットから財布を取り出して、

 

「ほら、払うよ。コーヒー代」

 

「えっ、いいよ別に」

 

100円玉を私に渡してきた。

どうして?何故渡すの?わからない......

 

「女に奢ってもらうワケにはいかない。払うから貰ってくれ」

 

そういうことか......これは不意を突かれた。

本当に彼は律儀な人だなー。でもそこがいい。

 

「男子が女子に奢ってもらうのはダメって、決まりはないよ」

 

「何だか格好がつかないんだよ。女に奢ってもらったと家に知られたら俺が殴られる」

 

おー、鉄拳制裁ありの家なんだね。

だったら、ここは遠慮なく......

 

「じゃあ、これは頂くとするよ」

 

私は100円玉を貰った。

こういった心遣いはいいね。将来は人望ーー特に女性から多く集めそうだね。

 

「そういえば、まだ金次君の家の事を詳しく聞いたことがなかったね。よかったら聞かせてくれない?」

 

「お得意の心理学で当ててみろよ」

 

おや?何だか挑戦的だね〜。

よし、なら当ててあげよう。

 

「ただ当てるだけじゃあ面白くないからゲームをしよう」

 

私が提案すると、金次君は「ゲーム?」と言って、

 

「そう。もし私が一つでも当て間違えたら、一つだけ金次君の質問に何でも答えてあげるよ」

 

「いいぜ。後で後悔するなよ?」

 

提案に乗ってきた。

チャレンジャーだね。何だか今の彼を見ているとワクワクしてくる。

 

「じゃあ早速、金次君はおそらく、父方の祖父母の家でお世話になっている。お家は代々、警察か検事・弁護士などの役職に付く家柄」

 

律儀で義理堅いーーこれは周りの環境、家庭が彼をそういった人間とした将来だ。

お父さんとお爺ちゃんから厳しく育ててもらったかな。

 

「そして最後に上にお姉さんがいる」

 

金次君は甘えん坊な所があるからね。これは小さい頃、異性のキョウダイに可愛がってもらった証拠。

 

「残念だったな零。最後のはハズレだ」

 

何ですと⁉︎おかしいな......私の見立てでは、確かにキョウダイーーお姉さんがいる筈なんだけどな。

年はそこまで離れてはいないーー離れていても3〜4歳ほど。

 

「じゃあ、お兄さん?」

 

「あー、そうだな」

 

う〜ん、何か引っかかるな。

金次君の態度から嘘は言っていないが、微妙な反応をしている。

もしかして......

 

「お兄さんって、コッチ系?」

 

私が頬に手を当てると、

 

「頼む!兄さんの前でやらないでくれ!色々な意味でヘコむ。特に兄さんが」

 

どういう意味だろうか?

まあ、いつか彼にお兄さんを紹介してもらおう。その時にハッキリするだろう。

 

 

その後、東京駅から新宿線を使い、新宿駅から京王新線に乗り換え、初台駅に到着した。

駅を出れば新国立劇場はすぐ目の前だ。

 

 

 




零の質問は次回に持ち越しました。
金次の心理状態が聞ける状態ではないので(苦笑)


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オペラ座②

地図で見たら、東京は本当に線路が張り巡らされています。
自分だったら、間違って違う電車に乗りそう......
東京内を毎日、電車で通勤する人達は本当に凄い!
東京の地理を書くためにもっと勉強ーーまずは電車・駅・路線から知らなければ......


新国立劇場ーー東京渋谷区にある劇場で、ここで行われる舞台芸術はオペラ、バレエ、現代歌舞伎、演劇だ。

面積は68,879m²、中には小劇場、中劇場、オペラ劇場の計3つの劇場が備えられおり、オペラ劇場だけで座席数1814もある。

劇場だけでなく、レストラン、託児室、情報センター、リハーサル室、研修所なども備えられている。

 

初台駅を降りた私たちを新国立劇場が迎えてくれた。

全体的にシンプルな外見だ。

 

「さあ、入ろうか」

 

私が促すと金次君は「ああ」と短く答えた。

 

 

私たちは入場し、陽の光が天井から差し込む一階ロビーを抜け、私と金次君がまず向かったのはオペラ劇場ではなく、3階ーーレストランだ。

オペラ開始は13時ジャスト。現在の時刻は11時30分、まだ早いのでここイタリアンレストランで昼食を摂る算段だ。

入店してみると、まず目につくのは壁に飾られた大量の皿だ。

一枚一枚にサインが書かれている。有名な俳優や女優、芸能人の名前だ。

店内は全体的に明く、誰か演奏でもするのだろうか?年季の入ったピアノが置いてある。

窓から差し込む光に照らされ、床はピカピカーーワックスがかけてある。ゴミやシミ一つもない。

私と金次君は一番隅っこの席ーー窓から明るい日差しが差し込む席に座ることにした。彼は隅っこが好きだからね。

 

「何にしようか?」

 

備え付けられているメニュー表を手に取り、開いてみる。

さすがイタリアンレストランだ。メインはイタリア料理だよね。

 

「金次君は何にする?」

 

「俺はイタリア料理なんて初めてだから、イマイチわからん。零と同じものでいいよ」

 

金次君は初めてかー。ならば......これだ!

 

「すみません。この『オードブルバリエ+パスタ+デザート』を二つお願いします」

 

私は側を歩いていたウェイターに注文した。

イタリアならパスタだね。おまけにデザート付き。

ここのお店のデザートは日によって変わるから何がくるかな?

 

「なあ零。電車での約束を覚えているか?何でも質問に答えるやつ」

 

料理を待っていると金次君が話しかけてきた。

忘れていなかったんだね。

 

「勿論。何が知りたいのかな?はっ!もしかして、私のスリーサイズとか⁉︎」

 

「ちげぇよ!誰も知りだからねよ。そんなモン」

 

私が手で体を覆うようにして身を引くと、金次君は全否定した。

そ、そんなモン......聞かれなくてホッとしたような、残念なような......

 

「俺が知りたいのは....なんで零は武偵になろうと思ったんだ?一般中の出身だから気になっていてさ」

 

なるほど......でも、それを言うなら不知火君も同じだよ。

そういえば、入学前、彼は私と違って蘭豹先生のスパルタ教育を涼しい顔で受け流していたっけ。同じ一般中学出身者とは思えなかったな。

 

「そうかー。実はね金次君。私は最初、武偵になろうとは思っていなかったんだよ。本当は学校の先生になりたかったんだ」

 

「じゃあ、なんであんな物騒な学校に入学してきたんだよ?武偵と教師は共通点がないだろう?」

 

「それはね......」

 

私は金次君に入学までの経緯を語った。

語っている間に料理がきた。

せっかくなので料理をつまみながら、ゆっくり語ろう。時間はたくさんある。

 

「なんだよそれ......つまり、父親の判断で勝手に届け出されて入学して来たのかよ......」

 

「ははは......そういう事だね。うん」

 

話を聞き終えると呆れたような顔で私を眺める。

まあ、そうなるよね。

 

「じゃあ、将来は転校するのか?」

 

「うーん、実はね......転校については迷っているんだ」

 

最初は転校しようと思っていたが、今は違う。

私は正直言って今の学校ーー東京武偵高校が嫌いではない。

一般の中学・高校では習わないーー射撃・犯罪学・捜査など刺激の多い場所だ。

勿論、将来は学校の先生になりたいという思いはなくなっていない。

でも、今の武偵としての生活は気に入っている。

そのおかげか......将来、武偵にもなりたいと思えてきた。

 

「珍しいなお前が悩むなんて......初めて見たよ」

 

「私だって人の子。悩む事だってあるよ。悩まない人間なんていないさ」

 

悩むーーそれは思考する事ではなく、生きる事だと私は思う。

悩んだ果てに答えを見つけることは素晴らしい。まさに生きていると実感できる。

答えを見つける方法は、自分だけじゃなく他人と一緒になって見つけるのもいいだろう。

おっと⁉︎いつの間にか食べ終わっていたね。いけない思考し過ぎて、食事を意識していなかった。

でも今、お店から出てもオペラまで時間はあるし......

 

「それはそうと......金次君は何で武偵になろうと思ったの?聞いてみたいな」

 

「俺が武偵になろうと思ったのは兄さんの影響かな......」

 

そう言って、金次君は語り出した。

お兄さんは現役の武偵ーー武偵庁に勤める特命武偵という。

彼から語られるお兄さんの人柄はまさに理想の武偵ーー1度は子供が憧れる存在ーー正義の味方だ。

おにぎり一つで依頼を受けたこともあれば、大きな病院を建てたこともあるという。

語っているときの金次君の目は人一倍輝いている。

これを見るだけで自分の兄に尊敬・憧れているのが、ひとめでわかるぞ。

でも同時に危うくなる......まだまだ半人前いやゼロ人前の分際で、こんなことを言うのは偉そうだが......私たち武偵は命の危険と常に隣り合わせ。

危険が日常と言っても過言ではない。

お兄さんの実力はまだハッキリとしていないが、武偵庁に勤められるだけあって、その実力は折り紙つきだろう。

しかし、実力あり=死なないわけではない。

もしも、兄が死んだら彼はどうなるのかな......将来の目標を失い絶望でもするのか?はたまた、兄を奪った存在・社会に復讐でもするのか......

金次君からお兄さんを奪ったら、ドウナルノカーーその答えを解きたい、知りたいな......

 

「...い、おい零?聞いているか?なんかぼーっとしているぞ」

 

金次君の声で我に帰る。

ちょっと待ってよ......今、私は何を考えていたんだ?

金次君からお兄さんを奪ってみたいだと?馬鹿なことを考えるな。

不謹慎にも程があるよ......

 

「何でもないよ!ちょっとお腹が一杯になって、ぼーっとしていただけだからさ!ははは」

 

「変な奴だな......」

 

「金次君に言われたくないよ!もう」

 

やめやめ!この話題は暫く考えないようにしよう。

気分転換に早くデザートを食べようと皿に目を移すと、皿の上には何にもなかった。

もう食べてた......あっ、金次君。よかったらそのショコラケーキを分けてくれないかい?

 

 

ーーレストランを後にした私たちはそのままオペラ劇場に向かった。

公演まであと20分。すでに入場は開始されている。

他の人に続いて私たちも劇場に入った。

劇場はとにかく広い。

客席の壁・天井は厚いオーク材で仕上げられ、歌手の肉声が理想的に響く設計となっており、まるで劇場そのものが楽器のような空間だ。

全1814席ーー1〜4階の4階層に客席が配置されている。

1階868、2階354、3階292、4階300といった具合だ。

客席正面には主舞台があり、オーケストラーーフル編成120人が演奏できるだけの広さ。

オペラの字幕装置は舞台左右に設置され、縦書きで表示される。

 

「えーっと?私たちの席は......あっ!ここだ」

 

私と金次君は席に座る。彼は私の左側の席だ。

席は1階の前席ーー舞台のすぐ前方だ。

ここからなら主役がよく見えるね。

 

「もうすぐ始まるね」

 

「何だか見ていると小さな子供みたいだな。零はそんなにオペラが好きなのか?」

 

「うん。好きだよ」

 

母さんが日本に帰ってきた時はよく連れられていたしね。

父さんはオペラではなく、演劇が好きだったな。特に悲劇が大好きだった。

アナウンス用のスピーカーから、ビーーと音が鳴り出した。どうやら始まるようだ。

舞台の幕が上がる。『ドン・ジョヴァンニ』の開幕だ。




だだの気分転換ではない......


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オペラ座③

ドン・ジョバンニ......キンジにお似合いな演目でしょうな。
彼の未来とならなければ......


「面白かったね。金次君」

 

「あー、そうだな。でもラストで主人公が地獄に堕ちるのはな......」

 

オペラを観終え、私達はオペラ劇場を出る。

時刻は16時ジャスト。うん、予定通りに終わったね。

 

「そうだ!これから一階のシアターショップで買い物しない?家族にお土産でもさ」

 

「シアターショップって言ったら音楽関係の物くらいしかないだろう?うちの家族で......いや、兄さんなら好きそうだな」

 

この新国立劇場はシアターショップも完備されている。しかも、1階ーー私達がいるオペラ劇場と同じ階層にある。

音楽雑貨・小物・インテリア、ここでしか買えないオリジナルグッズ も販売されている。

オペラを見終えた後に買い物をするにはもってこいだ。

 

「シアターショップと言っても音楽関係だけじゃなく、他にも色々なものがあるよ。もしかしたら、金次君の気にいる物が見つかるかもよ」

 

「なら見てみるか」

 

おや?興味津々だね。感心、感心。

金次君にしては珍しい。

 

「うん。何ごとも好奇心さ」

 

「好奇心は猫を殺すと言うぞ」

 

「ここではそんな事はないよ」

 

物騒だな〜。武偵歴が長くなるとそんな考えしかできなくなるのかな?

 

 

一階を歩くこと数分ーー

青がトレードマークのシアターショップに到着した。

自動ドアが開き、中に入ってみれば既に10人ほど先客がいた。

3組ほどカップルが混ざっているね。うん!見ていて微笑ましいね。

壁にあるショーケースの中には様々な商品ーーアクセサリー、カップ、置物が並んでいる。

 

「どれにしようかな......迷うね」

 

「あー、すまんが零。俺は向こうの商品を見てるよ」

 

金次君が離れていく。何故だろう?

ちなみに君が向かってるのは恋人向けの商品コーナーだよ。

白雪さんにでも何か買ってあげるのかな?......まあ、いいか!

私は商品を物色する。このお店は実際に手に取って見るのは自由だ。

 

 

買い物開始から1時間経過ーー

私が選んだのはト音記号エナメルブローチ、シルバーのイヤリング、フェルトポーチの三点だ。

会計を済ませ、お店の出口に向かうと金次君が待っていた。

 

「長かったな。良い物が買えたか?」

 

「勿論さ♪」

 

私は某ハンバーガーショップのマスコットキャラ風に答える。

そういえば、ここ最近ハンバーガー食べてないな......ちなみに私はチーズバーガーが好きだ。

 

「金次君は何を買ったの?」

 

「別に......大した物じゃない」

 

何を買ったのかな?彼の手提げ袋を観察してみるか。

袋の下げ具合からして重たい物ーー慎重に持っているから陶器類だね。

それも一つだけでなく、最低二つは購入しているーーマグカップだ。

白雪さんに買ってあげたのかな。いや、白雪さんはコーヒーは飲まない。

ならば家族にだね。

私が思考していると、金次君が突然、

 

「そうだ零」

 

そう言ってゴソゴソと手提げ袋から、

 

「今日のお礼だ。よかったら受け取ってくれ」

 

小さな紙袋を手渡してきた。

うん?何だろう。

 

「中を見てもいいかい?」

 

「勝手にしろ」

 

彼の了解を得て、中を見てみるとシルバーのリングが入っていた。

 

「女子に今日のお礼として渡すとしたら、これがいいって店員が言うから買ってみたが、気に入らないか?」

 

ほほう。中々味のあるいい事をするじゃないか。

しかし、このシルバーリング......何を表すモノだったのかな?

うーむ、思い出せない。いや、考えると頭がズキズキしてくる。何故?

「そんな事はないよ。ありがとう金次君」

 

しかしお礼か。気分転換で誘ったんだけど、本当に彼は義理堅い性格をしている。

任侠になれるのでは......いや、そっち系の女性から好かれるね。彼の性格なら。

 

「なら私からもお礼をしないとね」

 

「いらねぇよ。電車でも言っただろ。女子から奢ってもらったら俺が殴られる」

 

「違うよ。奢りじゃないよ」

 

そう言って私はこっちこっちと手招きし、彼を寄らせて頬に軽くチュッとした。

 

「なっ⁉︎何すんだよ!」

 

金次君は頬に手を当て、顔を真っ赤にしてテンパってる。

見ていて面白い!ウブだね。若いね。最高だね。

 

「リングのお礼だよ。これは貰っても殴られたりしないよ」

 

「ば、馬鹿じゃねえのか⁉︎人の頬に......」

 

「私じゃあイヤだったかな?白雪さんならOK?」

 

「はあ?何で白雪が出てくるんだよ?」

 

白雪さん......君の想い人は気づいていない様子。

彼と一緒になりたいなら、ここから先は山あり谷ありだよ。

そして最後に一言、good luck。

 

「俺だったら良かったものの、他の奴にはするなよ」

 

「ハイハイ。了解しましたよナイト様」

 

うん?何だろう。背後ーーホールの柱から視線を感じるな。

おまけに寒気が襲ってきた。おかしいな暖房は効いてるはず......

 

「零!今すぐここから出るぞ!」

 

「えっ?ちょっと金次君⁉︎」

 

突然、金次君は私の手を取ると走り出した。

どうしたんだろう?何か危険を察知したのかな?

私が観察した限り、危険な物は無かったはず......

 

 

そのまま新国立劇場を出て走るとーー再び初台駅に戻ってきた。

 

「どうしたの金次君?突然走り出して、何かあったのかい?」

 

「ああ、俺にもお前にも危険なモノがな......」

 

金次君だけじゃなく私にとっても危険な物?

新国立劇場には危険な物ーー私が観察した限りは無かった。

あの時、誰かの視線を感じた。金次君が言う危険な物の正体はあれか。

金次君が真っ先に気づくとは......やはり彼の方が武偵歴が長い。

私も武偵としては、まだまだ未熟な証拠か。

 

「その危険なも......」

 

「危ない!」

 

突然、金次君が覆い被さるように私の頭を下げさせた。

同時に、私達の頭の上を何かが通り過ぎる。

何だ?

 

「し、白雪......」

 

私達の背後に巫女装束に身を包んだ白雪さんがその手に日本刀を持って立っていた。

気のせいか怒っているようにも見える。

 

「玲瓏館さん?これは一体どういうことですか?」

 

「デートだよ」

 

「ちょっ⁉︎零⁉︎」

 

なーんちゃって。ただの気分転換だよ、と続けて言おうとした瞬間、シャキンと白雪さんが私の前に日本刀を向けてきた。

 

「デート......私だってキンちゃんとしたことないのに......それなのに玲瓏館さんは......いや零は......あんな事やこんな事を......」

 

あれ?ジョークのつもりだったんですけど?白雪さーん戻ってきて。ただの冗談だよ。

突然、駅の前で日本刀を抜いた巫女さんの登場に通行人はガヤガヤと騒ぎ出した。

マズイな。ここで警察沙汰になったら後々、面倒。

 

「皆さんすみません!実は私達、映画の撮影をしているんです!お騒がせして大変申し訳ありません!」

 

とりあえず、ここは映画撮影と言っておこう。

これであまり騒ぎにはならない筈だ。

 

「白雪さん話を聞いて。ただの気分て......」

 

「問答無用!天誅!」

 

刀を上段に構え、突進してきた!

やるしかないか。ここからどうするか思考する。

気のせいか落ち着いて考えられるし、白雪さんの動きがゆっくりに見える。

服装は巫女装束ーー緋色袴典型的な服装だ。

履物は白袋に草履。

精神状態はかなり興奮している。これは怒りによるもの。冷静な判断はできない。

獲物は日本刀。ここには障害物はないから振り回せるだろうーーおまけにかなりの熟練者で素人じゃない。

まずは刀を無効化する。

柄に掌打を打ち込み、振り下ろすタイミングを遅らせる。続けて手首を掴み、刀ごと下に下ろした後、地面に固定。

最後に足払いを決め、後ろに転倒させる。完璧だね。

実行に移そうとした瞬間、

 

「やめろ!白雪」

 

金次君が私と白雪さんの間に入ってきた。

刀は金次君の鼻先寸前で止まった。

どうして前に出たの?だって白雪さんの持ってる刀は本物だよ。下手したら自分が切られていたかもしれないのに......

 

「どいてキンちゃん!私はそこの泥棒猫を成敗するんだから!」

 

「話を聞け!俺と零はだな......野外授業をしていたんだ!」

 

野外授業?

 

「野外授業って、2人で演劇を見ていたじゃない......それのどこが授業なの?」

 

白雪さん。正しくは演劇じゃなくてオペラだよ。まあ、違いは殆どないけどさ。

 

「オペラは英語で喋るだろう?英語の授業も兼ねて観ていたんだよ。零はイギリス人とのハーフだから英語がわかるみたいでさ」

 

金次君の言う通り、私は英語が喋れる。母さんはよく私の前では英語で喋るからね。

父さんは日本語一筋だけど......

 

「じゃあ、お店の前で零さんが......キ、キ、キンちゃんの頬にキスしたのは何で!」

 

なるほど、あの視線の持ち主は白雪さんだったのか......

一通りの発言からして、どうやら東京駅から尾行していたようだね。

彼女は探偵科でもやっていけるな。

 

「それは......その」

 

金次君が困っている。

よし、ここは助け舟を出してあげよう。

 

「もしかして白雪さん柱の影から見ていたんじゃない?」

 

「う、うん」

 

「だったら勘違いだよ。あれは金次君の頬にゴミが付いていたら吹いて取ってあげたんだよ」

 

まあ、嘘だけどね。でも嘘も方便と言うでしょう?

 

「そうだよね。金次君?」

 

「あ、ああ!そうなんだよ白雪。零がゴミを取ってくれただけなんだ。白雪の勘違いさ」

 

「そうだったんだ。私、てっきり玲瓏館さんがキンちゃんにキスしたんじゃないかって思ったよ」

 

そう言って白雪さんは刀を鞘に収めた。

金次君の言う事は落ち着いて聞くんだね......これは危ないような気がするぞ。

 

「さて!勘違いも解けたことだし、これから白雪さんも一緒にマックでも食べに行かない?この近くにあるしさ」

 

「マック?何なのそれ?」

 

おや?知らないのかな。これは箱入り娘と呼ばれるヤツだね。

 

「金次君もそれでいいよね?これから白雪さんにマックとは何かを教える野外授業に突出だ!」

 

「そ、そうだな!野外授業だ」

 

 

 

 

こうして私達はマックに向かった。

お店で白雪さんは目立ったよ。何せ巫女装束だからね。写真を撮る人までいたけど、そこは金次君がSP顔負けの護衛をして守ってあげた。

カウンターで注文する時、白雪さんはどうすればいいのかわからなかった。

見ていられないので白雪さんには私と同じーーチーズバーガーセットを注文させた。

チーズバーガーはいいよ。これでチーズ派ーー仲間が増えたね。

ちなみに金次君は照り焼きバーガー派だった。

各々注文した品物を持って席に座る。

 

「ほら、白雪さん。こうやって食べるんだよ」

 

「こ、こう?」

 

私は白雪さんにハンバーガーの食べ方を教えた。

ケッチャップが口の周りに付くが、それは白雪さんも同じだった。

見ていると何だか可愛い。

 

「お前ら仲がいいな。まるで姉妹だ」

 

金次君はポテトをポリポリ食べながらこっちを見る。

君はポテトから食べる派か⁉︎私からしたら、バーガーを最後に食べるのは邪道だぞ!

 

「姉妹というと白雪さんがお姉さんになるかな」

 

「そんなことないよ。玲瓏館さんは私より物知りだし。お姉さんは玲瓏館さんの方だよ」

 

「零」

 

「えっ?」

 

「今度から零って呼んでよ。私の苗字長いでしょう?遠慮なく下の名前で呼んでよ白雪さん」

 

玲瓏館と呼ばれるのは嫌いじゃないけど、親しい人からは下の名前で呼んでほしい。

 

「じゃあ、零さん」

 

「はは、それでもいいよ」

 

コーラで喉を潤す。うん、コーラはいいね。いつか本場アメリカのコーラと飲み比べてみたいものだ。

そういえば、今ハマっているネットのオンライン対戦チェスの相手もアメリカだったな。男か女かはわからないが、かなり強い。

現在の成績は64戦中49勝15敗0引き分けで私が勝っているが、油断はできない。

相手は守備よりも攻撃派。

かなり攻撃的だが、部下ーーキング以外の駒もけして無駄にはしない戦法を取ってくる。

サクリファイス派の私もそれで不意を突かれたな......今度はどんな戦法を見せてくれるのかな?

 

「ゴホ、ゴホ、何これ喉が痛いよ」

 

白雪さんがコーラを飲んでむせた。

あー、白雪さんにはコーラは早かったか......

 

「大丈夫かよ白雪。ほら、よかったらこれ飲めよ。まだ口つけてないから」

 

金次君が白雪さんに自分のドリンクを渡してきた。

ストローを刺していないから、まだ手をつけていないのは本当みたいだ。

確か金次君が注文したドリンクは爽健美茶だったね。

珍しくコーヒーじゃない。

 

「ありがとうキンちゃん」

 

白雪さんはドリンクを受け取ると、遠慮なく飲み出した。

あ、別にカップを外して飲まなくてもいいんだよ。ストローの刺し口があるし、まあ、それでも間違いじゃないけど。

 

「そうだ零さん。今日は本当にごめんなさい。キンちゃんとの野外授業を邪魔しちゃって......」

 

「ははは、いいんだよ白雪さん。紛らわしい事をした私にも責任があるしね」

 

「......何が紛らわしいだ」

 

はい、君は余計な事を言わない。ここで血の雨を見たいのかね?

私はテーブルの下から金次君の足を蹴った。

 

「金次君?」

 

「すまん......」

 

「どうしたの?2人とも」

 

「なんでもないさ♪」

 

その後、三人で雑談や学校での愚痴をこぼした。

金次君は蘭豹先生について愚痴ってた。

今度蘭豹先生に「金次君がこんな事を言ってましたよ!」と言ってあげようかな......いや、やめてあげよう。金次君が確実に殺されるね。

下手したら私も口封じで殺される......

 

「これから3年間、私達は同じ学校で学ぶ仲間」

 

「どうした零?突然」

 

「そうだよ零さん。それに仲間って私達はもう仲間だよ。ねぇ、キンちゃん」

 

その台詞は日本刀を振り回す前に言って欲しかったよ......

いや、そうするように差し向けたのは私か!

 

「一般中出身で足手まといになるかもしれないけど、これからも仲間としてよろしくね」

 

「もちろんだよ!零さん」

 

「まあ、足手まといにならないよう頑張れ」

 

これから3年間こんな感じで仲良くやっていけたらいいな......

あ、白雪さん。人の手を握る時は手を拭かないと......ケチャップがついてるよ。




次回は話がとぶかもしれません。
夏か、事件それともキンジの実家訪問であのお姉......バァン!
うん?外から銃声が......お前は⁉︎


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夏だ!海だ!海水浴?⓵

こちら西の家。現在、逃走中‼︎このまま投稿を継続する。

マジでヤバイよ......何なの?黒いコートを着たあの長髪のイケメン......突然、家にやって来て銃をぶっ放してきたぞ。
私が何をした⁉︎



6月

女子寮の自室にてーー

 

「う〜ん......もう朝か......」

 

エアコンの効いた室内で私は床に転がって寝ていた。

カーテンの隙間から差し込んだ朝日で目が覚める。

どうやら眠り込んでしまったようだ。起きないと......

まずはカーテンを開け、外を眺める。

外は燦々と明るい日差しーー6月の夏の日差しが降り注いでいた。

武偵高校に入学して初めての夏を迎えた。

 

「あちゃー、これは流石に片付けないとね......」

 

自分の部屋を見渡してみると、室内はごちゃごちゃしているーー足元には様々なタイトルの本のが散乱しており、開いたままの本もあれば、中には新聞の切り抜きも散らばっている。

我ながらよくここまで散らかしたものだ......べ、別に片付けられないわけじゃないよ!

これには深い訳があるのだ。

 

「だいぶ繋がってきたな」

 

私は目をこすりながら、壁際に移動する。

壁には極大サイズの東京都内の地図が貼られており、様々な箇所に新聞の切り抜き、人物写真、メモが貼られ、それらは赤い糸で繋げらている。

これは現在確認されている未解決事件を私なりに図に表した物だ。

視覚に働きかけることで聴覚ーー聞いただけじゃ見えてこない真実を発見する為にこうしている。

もっと見ていたいが、時刻はすでに6時30分ーー8時頃には学校だから早く行かなければ。

 

「朝食は食べないとね」

 

1日の元気の源だから、しっかり食べないと。

キッチンに移動し、冷蔵庫を開けて卵2個とソーセージ3本を取り出す。

続いて、エスプレッソマシンでコーヒーを入れる。

食材をフライパンで焼いている間にトースターで食パンを焼いてしまおう。

私は朝はパン派だ。ご飯も嫌いではないが、どっちかと言えばパンの方が好きだ。

フライパンで卵とソーセージを焼き終えると同時に、チーン!とトースターが鳴る。食パンが焼けた。

さっそく皿に移して、マーガリンと苺ジャム、コーヒーを持ってテーブルに移動する。

 

「いただきます」

 

まずは食パンに噛ぶりつく。うん、マーガリンと苺ジャムをたっぷりと付けただけあって、甘くて美味しい。

続いて、目玉焼きとソーセージにも苺ジャムを付ける。

これがかなり美味いんだよね。

偶然、食パンに付けた苺ジャムが目玉焼きとソーセージの上に落ちて、退けるのも面倒だからそのまま食べたらこれが美味かったんだよ。それがきっかけで今、様々な料理に付けて食べている。合うか合わないかの実験だ。

今度、金次君と白雪さんにも勧めてみよう。それがいい!仲間が増えることは良いことだ。

2人に進めるとしたらジャム付きの寿司がいいかな。

まだ私は試したことはないが......

さて最後に朝のコーヒー・エスプレッソを頂こう。

私は朝はコーヒー・エスプレッソを飲むことにしている。

これは武偵高校に入学してからだ。入学前は紅茶を飲んでいたが、今はこれに変わった。

多分、金次君の影響かな?彼はよくコーヒーを飲んでいるからね。

エスプレッソは、日本ではあまり普及していないが、イタリアやフランスでは最もポピュラーなコーヒーであるといわれており、コーヒー或いはカッフェといった場合、同地ではほぼ間違いなくエスプレッソのことを指す。

蒸気により高圧をかけて短時間で抽出しているため、シャープで濃厚な風味を持つ。

そうした濃厚さの一方で、深煎りのコーヒー豆(焙煎の途中でカフェインが揮発している)を使用していることや、短時間で抽出しているため、カフェイン含有量は普通のドリップ式のコーヒーよりも少なくなっているのだという。

 

「うん、朝のエスプレッソはソロかリストレットに限るね」

 

飲みだして分かったことだが、私はエスプレッソのルンゴ・ドッピオが苦手、いや、嫌いだ。

ソロはエスプレッソの基本で約7gの豆で抽出する。基本を大事にしている。

ルンゴ・ドピッオはソロの2倍の豆と水量で抽出するから、飲みごたえあるが味の強さが弱くなる。おまけに多めのお湯で抽出するので、やや薄い感じ。雑味が出るため嫌いだ。

リストレットはお湯は少なめで抽出。うま味がぎゅっと凝縮され、パンチの効いた濃い味に。これは金次君にオススメだ。

何度かルンゴ・ドピッオで飲んでみたが、どうしても好きになれない。何故だろう?

金次君にはルンゴ・ドピッオは作らないように言っておこう。

 

 

朝食を食べ終えて、制服に着替える。

半袖の白い薄手の制服ーーもちろん、これも防弾性だ。

時刻は7時30分ーーあちゃー、この時間帯だと白雪さんとは一緒に登校はできないね。

 

「身だしなみ良し。帯銃よし」

 

もう習慣的になった決まり文句を言いながら、鏡で自分の装備を確認する。忘れ物はないね。

 

「これもちゃんと付けないとね」

 

私は左手の人差し指にそれをはめるーーシルバーのリングだ。

これはオペラ座のお礼として金次君から貰ったものだ。折角、貰ったのだから、はめないと勿体無い。

最初、左手の薬指にはめて登校し、彼に見せると「もうはめてきたのかよ」と言ってきたな。

その後、「金次君から貰ったのだからはめるのは当然でしょう?」と言うと、それを聞いた同級生達に「遠山金次を確保。これより尋問科に連行する」と拘束され連行されて行った。何故だろうね?未だそれがわからないな〜。私にも理解できないね〜。

そういえば、りこりんがやけに食いついてきたな。

その後、解放された金次君に何故連行されたのか聞いてみても「俺が知りてえよ!」の一点張りだったし。

また連行されるのも可哀想なので、今は左手の人差し指にはめている。

 

玄関のドアに立てかけてあるステッキを手に取り、部屋を出る。

今日も一日頑張りますか!

 

 

教室にてーー

いつものメンバーと共に登校して来なかった私が教室に入ってくると、みんな物珍しい目で私を見てきた。

りこりんの姿は見えない。どうやら任務で海外に行っているようだね。

あっ、金次君を発見。机に顔を伏せている寝不足かな?

そんな彼を見ながら自分の席に着席すると、

 

「おはよう零!珍しく遅れてきたな」

 

武藤君が声をかけてきた。朝から見ていて清々しいね。

 

「おはよう武藤君。いやね、寝坊しちゃってさ」

 

「ははは、寝坊って何をしてたんだよ?」

 

「秘密だよ」

 

犯罪捜査についてはあまり外部には話さないようにしている。

たとえ同級生でもね。

 

「しかし、今日も暑いね。武藤君は暑くないのかい?いくら室内は冷房が効いていても、外は暑いよ」

 

私は思わず襟首をパタパタさせる。

うん?どうしたかな武藤君。そんなに私の首元を見つめてさ?

 

「こ、これくらい真夏のエンジン点検に比べたら、へでもないぜ」

 

「おお〜、流石だね」

 

室内派の私には言えないようなセリフを言ってくれるじゃないか。

やはり武藤君は野外派だね。それも夏が似合う男の子だ。

 

「そういえば、夏は山か海のシーズンと聞くね。武藤君は夏は山派?それとも海派かい?」

 

武藤君の性格からして山派ーー山岳地帯でドライブを楽しむタイプ。

 

「俺は山派だぜ!山でのドライブがこれまた最高なんだよ」

 

やっぱりか。でもね、飛ばし過ぎて山から転落しないようにね。

傾斜面を転がり落ちて、そのまま炎上なんてしたら山火事に成りかねない。

 

「でもよ。今年は海にしようと思ってるんだ」

 

おや?どういった心境の変化かな?車でのドライブが大好きな武藤君にしては珍しいね。

 

「おやおや、どうしてかね?」

 

「特に深い理由はねぇけどよ......なあ零。今度の休みにみんなで海水浴に行かないか?」

 

「それは金次君、不知火君、白雪さんとかな?」

 

「おう!いや、実は不知火は行けないみたいでよ。なんか都合が悪いみたいでさ」

 

不知火君がね。そういえば、教室を見渡してみたが今日は来ていないね。

 

「大丈夫だよ。OKOK」

 

「じゃあ、決まりだな!詳しい日程は後でこっちから連絡するぜ」

 

そう言って武藤君は席に戻っていった。

海か〜いいね!

ならば水着を用意しないとね。生憎、今持っている水着は学校の授業で使うものしかない。

海水浴用を購入しておこう。

 



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夏だ!海だ!海水浴?⓶

視点が変わるのでご了承ください


森戸海水浴場ーー神奈川県三浦郡葉山町にある遠浅の波穏やかなビーチで、沖合いの名島や灯台を望む景観がすばらしい。シーズン中の賑わいは葉山町でもトップレベル。また名島沖に沈む夕日の美しさでも知られる。

 

森戸海岸パーキングエリアにて

 

「あっという間に到着したぜ!」

 

「まあ、武藤の運転だからな。けどよ公道で飛ばし過ぎだろ?途中でパトカーのサイレンが聞こえたぞ」

 

そうなのである。

武高校門前で武藤君を待っていると、ブロロロと車のエンジン音らしきものが聞こえてきたので、音のした方を向くと武藤君がいた。HUMMER H14ドアワゴンに乗って......

驚く私達を乗せ、武藤君はそのまま出発した。

白雪さんを乗せているから安全運転と思ったら、とんでもない!

途中ーー東京国際空港から公道16号線に乗ってからがヤバかった......どうしたのか......スイッチが入ったように暴走し出したのだ!乗っている私達の制止も無視して飛ばすわ。

パトカーのサイレンが聞こえたがあれは気のせいだよね......

 

「まあまあ、金次君。武藤君がここまで運転してくれたのだから、細かいことは言わない」

 

「そうだよキンちゃん。気にしない気にしない」

 

「......なんか変わったな白雪」

 

現在私は金次君、武藤君、白雪さん達と一緒にこの森戸海水浴場に来ていた。

空には燦々と太陽が輝いており、砂浜と海を照らす。まさに海水浴にはもってこいの日だ。

海水浴場エリアにそって9軒の海の家がある。

ここで更衣や浮き輪、パラソル、ボートのレンタルが可能で、シャワー室もある。

遊泳区域とは別に貸しボート専用の航路もあり、ここでボートを使用できる。

早くも武藤君が目を爛々と光らせている。どうやらボートに乗る気満々のようだ。さすが乗り物なら何でも乗りこなす車輌科。

 

「浜辺でのバーベキューが楽しみだぜ。この日の為に松坂牛の肉を買ってきたんだからな」

 

H14のトランクを開け、バーベキューセットを取り出す。

グリル・コンロ

鉄板・プレート・網・鉄串

トング(肉用、魚用、野菜用、炭用にわけてある)

炭・着火剤・軍手

紙皿・紙コップ・箸

レジャーシート・テーブル・イス

など一通りの道具が揃っている。

そして、最後にクーラーボックスには切り分けたお肉と調味料まで入ってる。本格的だ。

おそらく、白雪さんが来るから気合を入れたね。

松坂牛......かなりの出費だと思うけど、ここはありがたく頂きましょう。感謝するよ武藤君!

 

「おお、すげぇな武藤」

 

「焼肉なんて私、初めてだよ」

 

「大丈夫ですよ白雪さん!俺がちゃんと白雪さんの分を焼きますから!」

 

「あっ、あれ見てよ。どうやらここではバーベキュー禁止みたいだよ」

 

「なんだってえぇ⁉︎」

 

ただ残念な事に遊泳区域周辺では火気の使用ーーバーベキューなどをすることが禁止されている。

武藤君はバーベキューがやりたがっていたが、禁止の看板を見て、できないと知って残念そうだ。

頭を抱え、地面に伏せている。うん、見ていて可哀想だ。

 

「まあまあ、別に浜辺である必要はないよ。昼食時間になったら移動するとかしてさ」

 

「けどわざわざ移動する必要があるか?海の家があるんだし、そこで済ませばいいだろう」

 

「でもキンちゃん。せっかく武藤君が用意してくれたんだよ?それじゃ悪いよ」

 

「し、白雪さん......!」

 

武藤君が泣いているよ。あれは感激の涙かな?白雪さんに心配してもらって感謝の極みだね。

 

「なら昼食は海の家で済ませて、夕食は別の場所に移動ーーそこでバーベキューにしようよ。武藤君もそれでいいかな?」

 

「そうだな!よし、それでいこう」

 

私が提案すると、武藤君は立ち上がった。

うわー、立ち直るの早いわ。白雪さんエールが効いてるなこれは。

 

「なら腹が減るまで泳ぐとするか......」

 

「それじゃあ水着に着替えないとね」

 

「ならあの海の家で着替えよう白雪さん」

 

私はすぐ目の前にある海の家ーー『はまの屋』に白雪さんと一緒に向かった。

 

「私、海なんて初めてだよ零さん」

 

「白雪さんの実家ーー青森は寒いから泳いだりはしないのかな」

 

「違うよ。学校以外で神社の敷地から出たことがないの。だから海は初めて」

 

そうなんだ。かなり閉鎖的な環境で育ったんだね。

私だったら耐えられないかな。

来る前に聞いたが、白雪さんの実家は学校と神社以外の外出を禁止しているそうだ。

なので今回、海に行くのを断っていたが、金次君が行くと聞いて「私も行きます!」と答えた。いいのかい⁉︎

行くのはいいが、白雪さんは海水浴用の水着を持っていないと言ったので、この前ーー海水浴2日前に新宿の水着専門店で一緒に水着を購入してきた。

どれがいいか迷ったよ。

 

「なるほどね。じゃあ、これを機に海を満喫しようか白雪さん!」

 

私の一言に白雪さんは「うん!」と答えた。海に関しては素人か......ならば私が色々と教えてあげないとね。

中に入ると利用料金は海の家自体ーー更衣室の使用料金とシャワー室の利用料金は別々だった。

お金を払い、更衣室で水着に着替える。

 

 

キンジ視点ーー

零と白雪が更衣室に行っている間に残った俺と武藤はパーキングエリアで着替えた。

着替えたと言っても、ズボンの下にあらかじめ水着を履いておいたからな、これならわざわざ更衣室に行かなくてもいい。

 

「なんかワクワクしないかキンジ」

 

「何がだよ......?」

 

着替え終わり、白雪と零を待っている時、武藤がそんな事を言ってきた。

海で泳ぐのにワクワクって、明日の遠足が楽しみで眠れない小学生かよお前は。

 

「そんなことはないな」

 

「お前は馬鹿か⁉︎男なら誰でもワクワクして当然だろうが!」

 

「はぁ?なんでだよ」

 

「だってよ白雪さんと零の水着姿だぜ!学校では見れない違った姿......俺は今日という日にマジで感謝してるぜ」

 

握り拳を作り、空に向かって嬉しそうに号泣してやがる。

まさかそれが見たいが為に海に行くのを提案したのか?妙だと思ったぜ、夏はドライブばかりしているコイツが海に誘ってきたのはこれの為かよ。

 

「ごめ〜ん、待たせちゃったかな?」

 

海の家の方角から零の声が聞こえてきた。

振り返ってみるとそこには頭にサングラスをかけ、真っ赤なビキニを着た零がいた。

なんて格好だよ⁉︎それ本当に水着なのか?

イギリス人の血が入っている為かーー肌は日本人より白いが不健康ではない証拠に程よい赤みを帯びている。

すらりとした身体の曲線は整い過ぎていて、まるで人形のようだ。

 

「おお、すげぇ水着だな零」

 

「新宿で見つけて買っちゃった」

 

新宿ーー車の中で言っていたが、白雪と一緒に水着を買いに行ったらしいな。コイツの性格からし白雪に変な水着を勧めなかっただろうな?白雪は疑わず真に受けるから心配だ。

 

「待ってよ零さーん」

 

零に続いて白雪がやって来た。

頭に麦わら帽子を被り、黒のビキニ姿だ。おい⁉︎胸が納まりきれてないぞ!

白雪の胸は大きいーービキニでは隠しきれていない。あれは一種の肉食獣の牙や爪だ。

おまけに黒のビキニが真っ白い肌を強調している。

 

「白雪さん凄く似合ってますよ!最高です」

 

「そ、そうかな?零さんが勧めてくれた水着だから......」

 

おい、零。白雪に勧めるなら、もっと生地の多い水着にしろよ。これじゃまるで下着だぞ。

 

「おや?金次君。白雪さんの水着姿を見て嬉しくはないのかね?」

 

零が俺の腕に抱きついてきた。

こら!胸を当ててくるな⁉︎白雪ほどではないが零の胸も大きい。

理子から零はボクシングをやっていると聞いていたが、腕と胸周りの筋肉は程よく絞り上げてある。

強襲科の俺から見てもしっかりと鍛えてあるのがわかるぞ。

 

「あっ!零さん抜け駆けはいけませーん!」

 

白雪まで抱きついてくるな⁉︎なんでお前まで胸を当ててくる?

俺は白雪と零から挟まれる形で抱きつかれた。

後ろで武藤が「くそがぁ!」と叫んで泣いているが何故だ?

とりあえず早く浜辺に行こう。

 

 

零視点ーー

 

「ほら、金次君。早く浜辺に移動しようよ」

 

「わかったから急かすな」

 

クフフ、上がってるね金次君。そんなに水着姿がよかったかな?

大胆すぎる水着姿を見るとドキッとするという男子は多いと聞く。

おまけに白雪さんも水着姿だからね。

 

「白雪さん金次君に付いてあげなよ」

 

「えっ?ちょっと零さん!」

 

金次君を白雪さんに任せて私は後ろを歩いている武藤君の隣に移動した。

パラソルやマットを持っている。完全に荷物持ちだね。

 

「白雪さんじゃなくてガッカリした?」

 

「いや、そんな事はないぜ......」

 

いや絶対にガッカリしているでしょう君?

あまりにも可哀想だからせめて隣を歩いてあげよう。

6月とはいえ浜辺には先客がいるね。泳いでいる人もいれば、浜辺で日焼けしている人もいる。

武藤君は貸しボートをレンタルしにいった。

日焼けは嫌だなー。日焼け止めを塗らないとね。私は日焼けしやすいのだ。

 

「白雪さん、金次君に日焼け止めを塗ってもらいなよ」

 

私は日焼け止めの容器を白雪さんに渡す。

白雪さんの肌も白いーーこれは早めに塗らないとまずいぞ。

 

「キンちゃんに⁉︎でも私は......その......えーっと」

 

「いいから、ほら!金次君。白雪さんの身体に塗ってあげなよ。日焼けしたら大変だからね」

 

「おい⁉︎何で俺がしないといけないんだよ?零が塗ってやれよ」

 

君は実に鈍いなー。遅いぞ金次!じゃなくて、なぜ彼はここまで白雪さんの事を......

 

「まったく......君は実に馬鹿だな〜」

 

思わず私は首を横に振る。

 

「やめろ。妙に様になっているから、なんか見ていて腹が立つ」

 

仕方ない。鈍感君に代わってここは私が白雪さんの体に塗ってあげよう。

 

「ほら、白雪さん。まずはシートにうつ伏せになって」

 

私の指示に白雪さん「こ、こう?」と戸惑いながらも従ってくれた。

うん、素直でよろしい。

 

「零さん。何だか冷んやりしているよ......」

 

「はい、我慢しましょうね」

 

そのまま全身に塗っていく。

おお、背中がまるで一枚の真白なキャンバスのようだ。手に塗ったクリームが満遍なく届くぞ。

そーれ。ここも......

 

「くすぐったい......よう⁉︎」

 

そのまま思わず胸まで塗り込んでしまった。白雪さんが声を上げる。

何だろう?白雪さんの反応を見ているとイタズラしたくなる......

 

「それじゃあ、今度は脚を塗っていくよ〜」

「まだやるの?」

 

まだまだ行きますとも。

太ももから足の裏まで塗り込んでいく。意外と足が長いね。

ほーれ、ここはどうかな?

 

「ひぅ!そこはダメだよ......!」

 

足の指の間をくすぐるように塗っていく。

そんな顔してもダメだよ白雪さん。もう何もかも手遅れなのさ!

ははは、私を止めることは誰にもできん!

 

「おい、零。もういいだろう」

 

金次君が私の肩を掴んで止めた。

私の邪魔をするとは......覚悟はできているのか貴様!なんちゃって♪

 

「横になれよ零。俺が塗ってやるよ」

 

ほう、珍しくね。金次君がそんな事を言ってくるとは......

いいでしょう!お手並み拝見といこうか。

私はそのままシートに寝っ転がり、

 

「それじゃお願いしますよ」

 

金次君に日焼け止めクリームを背中に塗ってもらう。

おっ、意外と上手だね。力もあるし整体師さんになれるのでは?いやこれは整体師さんの才能があるぞ。

 

「気持ちいい〜、このまま寝てもいいかい?」

 

私が尋ねると金次君は「勝手にしろ」と言ってきた。ならば、遠慮なく......はぁー、いいきも......ち......だ。

うん?なんか痛いぞ⁉︎足の裏が痛い!

異変に気付き脚の方を見てみると金次君が私の足の裏を思い切り押していた。

これは足つぼマッサージか⁉︎

 

「痛い!ちょー痛いよ!本当に痛いから......!」

 

「ここが痛いのですかなお客様」

 

あまりの痛さにジタバタするも脚を固定され逃げられない。

金次君は暴れる私を抑えつけて尚、足つぼマッサージを継続する。

ぐわー!足がおかしくなる!指先をプレスするな!グリグリしないで⁉︎

 

「白雪に何か言うことは?」

 

「ごめんなさい!調子に乗りました!」

 

私の謝罪を受けとめると、金次君は解放してくれた。

不覚だった......!まさか金次君がこんな特技いや、凶器を持っていたとは⁉︎

 

「君って、女の子にこういった事をすると興奮するタイプだったの?」

 

私は若干涙目で尋ねた。まだ足つぼの余波が残っている。

 

「......ッ......!誰が興奮するか!」

 

隠そうとしなくてもいいんだよ?顔が赤いね〜私の方を極力見ないようにしているのが、何よりの証拠だよ。

この借りはキッチリと返させてもらいましょうか。

 

「おーい!貸しボート持ってきたぜ」

 

どう仕返ししようか考えていると武藤君がボートを抱えて戻ってきた。

チッ!タイミングが悪い!すごく悪いぞ。

いや......これはいいぞ。

 

「ねぇ、武藤君。誰とボートに乗るのか決めてあるのかい?」

 

私が尋ねると武藤君は「いや、まだだぜ」と返してきた。

このボートは二人乗りーーこれは使える。

まあ、武藤君としては白雪さんと一緒に乗りたいだろうけど......

 

「なら誰と乗るか、決めないとねーーここはジャンケンで決めようか」

 

ふふふ、金次君。とびきりの仕返しをしてあげよう......

 

「それじゃ、金次君と白雪さんも加わって......」

 

「待てよ。何で俺も乗る前提なんだよ?」

 

「おや?せっかく武藤君が借りてきたのに無下にするのかな?」

 

「いや、男2人で乗るのはな......」

 

「まあまあ、そんな事を言わずに友達なんでしょう?なら一緒に乗るのは何の問題はない。それにジャンケンで決まるんだから乗るとは限らないよ」

 

「まあ、それなら......」

 

「白雪さんもそれでいいよね」

 

「うん、いいよ」

 

「なら''勝った人が乗る''でいいね」

 

3人で輪を作る方でジャンケンをする。武藤君は遠目から眺めながら「白雪さん来い!白雪さん来い!」と言っているが、残念だがそんな未来は来ないよ。

 

「それじゃ、ジャンケンーーポン!」

 

私の掛け声で一斉に出す。結果は3人ともグーのあいこだった。

まあ、最初は当然か。

人は緊張した状態でジャンケンすると、手に力が入りグッと、握りたくなる。これは緊張感を和らげる為にする行動だ。

続いて「あいこでーーしょ!」で私と白雪さんはパーを金次君はチョッキを出した。

 

「ゲェ⁉︎負けた......!」

 

「武藤君とのボートツアーは金次君に決定しました」

 

「神は死ンダァァァァァ」

 

武藤君がこの世の終わりのような叫び声を上げた。

両手で頭を抱えて膝をつき天を仰ぐとは......そこまでショックを受けなくてもーーなんか目から血の涙が出てるよ?

まあ、私は''負けた人が乗る''とは一言も言っていないからね。

こういった勝負では最初が肝心なのさ。おまけに相手の了解を得ればもう最高だ。

 

「さあ、白雪さん。私たちはあっち行こうか?金次君は武藤君とボートに乗るからさ」

 

「ちょっ......!零さん⁉︎そんなに引っ張らないでよ。こけちゃうよ」

 

白雪さんの手を取り場所を移動する。

私たち部外者は邪魔をしてはいけないからね。

それじゃ!金次君。武藤君との楽しいボートツアーを満喫したまえ!

 

 

 

 

 

「キンちゃん達、大丈夫かな?」

 

「大丈夫、大丈夫。ほら見てよ。あんなに楽しそうにボートに乗ってるよ」

 

金次君と武藤君はボートで沖まで出ていた。遠目からだけどーーうん!楽しそうで安心したよ。なんか2人で立ち上がって話し合いまでしてる。本当に仲がいいね。

まあ、私がそうなるように仕向けたんだけどね。

ジャンケンの時、私は白雪さんの指の筋肉の動きを観察し、同じ手を出したのだ。そうすればいずれは金次君が負けるからね。でも、まさか初め辺りから負けるとは......意外だったな。

 

「まあ、金次君たちのことは置いて、これに集中しようか?」

 

私と白雪さんは浜辺でポンポンと砂の城を作っていた。

白雪さんが作ってみたいと言ったのだ。でも作るなら本格的なものを作らないとね。

砂の耐久性とバランス、質量も計算してと......この土台部分ーー黄金比が素晴らしい!我ながら傑作だ。

 

「ねぇ、白雪さんは金次君と幼馴染だよね」

 

「そ、そうだよ。どうしたの突然?」

 

「好きなんでしょう?金次君の事がさ」

 

「ふぇあ!」

 

白雪さんが城にダイブした。あー、傑作が壊れたよ。まあ、形あるものは壊れるからしょうがないか。

 

「す、す、す、好きだよ。でも何でそんな事を.......」

 

前にも言ったことだけど、殆ど変わってないな。

 

「うーん、何となくかな?でね、もしも金次君が他の人ーー女の子と付き合ったらどうする?あ、私は除外してね」

 

「成敗します」

 

さっきまでの態度とは裏腹にキリッと人が変わった。

おお、怖い怖い。彼女を敵に回したくはないね。

これは行けるところまで行くタイプーー止める人がいなければ暴走する人間の鑑だね。

 

「白雪さん。金次君も男の子。これからの学校生活で多くの人、中には女性とも出会うかもしれない」

 

「......」

 

「でね、もしかしたら恋人ができるかも」

 

「そんなの私が許しません!成敗、いや天誅!」

 

立ち上がる白雪さんを「座って座って」と促し、落ち着かせる。

 

「想像してご覧よ。もしその恋人が白雪さんより強かったらどうするのさ?天誅もなにもないよね」

 

「だったら星伽直伝の呪術で......」

 

なるほど呪い殺すパターンか。でも『人を呪えば穴二つ』と言うよ?白雪さんにも何か悪いものーー不幸が降り注ぐかも......いや、彼女ならそれでも構わないだろう。

私なら呪いよりも闇討ち、毒殺や誰かをけしかける事をオススメするけどね。

 

「私が言いたいのはね。このまま幼馴染の立場で満足なのかい?という事だよ」

 

「それは.....」

 

「白雪さん。いつまでも幼馴染のままではいけないよ。君が恋人にならないとさ」

 

「私がキンちゃんの恋人......でも自信がないよ」

 

顔を曇らせている。何か不安な事があるようだね。

実家の事が関係しているのか、それとも自分の事かな?

私は白雪さんの手を取り、

 

「大丈夫だよ。金次君と白雪さんはお似合いのカップルだと思うよ。私が保証してあげる。それに男女の恋仲なんて不安で当たり前なんだから」

 

「不安で当たり前?それじゃ恋人とは言わないのじゃないの?本当の恋人なら不安な事なんてないものじゃない?」

 

「恋人だからこそだよ。不安を安心に変えてこそ2人の絆が試される。不安は寧ろ男女の絆を高める試練のようなものだよ」

 

「不安は試練......零さんって、変わった感性の持ち主だね」

 

少し安心したのか笑ってくれた。うん、白雪さんはやっぱり笑顔が一番だね。安心したよ。

 

「だって私は私立相談役だからさ」

 

「もう、それじゃ答えになってないよ」

 

「それはそうだね」

 

いつの間にか2人で笑っていた。待ってよ?何で私はいきなり白雪さんの恋心について尋ねたんだろう?

疑問に思っていると金次君と武藤君が帰ってきた。

 

「あっ、2人とも楽しかったかい?」

 

「「楽しくねぇよ‼︎」」

 

何をそんなに怒っているのだよ?それと武藤君、なぜ私と白雪さんの方をブルブルと震えて見ているのだね?

 

「なあ、白雪さんと零はそういった関係じゃないよな」

 

そういった関係?あー、なるほど想像力があるね君は。

 

「違うよ。お友達だよ。ねぇ、白雪さん」

 

「うん、零さん」

 

2人で手を取り合って見つめ合う。

武藤君ーーけして私たちはそういった関係ではないからね。

誤解しないように。

それにしてお腹が減ってきたなー。

 

「そろそろお昼にしない?」

 

もちろん、金次君と武藤君の奢りでね♪

 




次回は夏祭りか実家訪問の同時進行になるかも......

段ボールの中はいい。ここなら安全かもしれない。


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料理とは配合いや爆発だ

 

料理とは配合だ。

組み合わせ次第で美味しくも、不味くもなる。

料理とは発見だ。

未知なる味を求め探求心をくすぐらせる。

私は寮の部屋ーーキッチンで料理に明け暮れていた。

何故、料理をしているかというと白雪さんの影響かな。

海水浴以来、白雪さんは金次君にお弁当を作っては昼食時間に一緒に食べている。

白雪さんの作るお弁当は凄いのだ。

何を張り切っているのか重箱ーー5重の弁当なのだ。

拝見させてもらったが、どう見ても2人前ではない。「白雪さん......今日は運動会だったかい?」と言いたくなる程に豪華すぎるのだ。

毎朝起きて、幼馴染いや恋人ーー金次君の弁当を作る白雪さんには感心するね。

彼女は積極的になったと思う。弁当だけでなく時間の都合次第では一緒に下校もしている。

 

「まずはマグロの切り身を......」

 

そんな白雪さんを見習って、私も本格的に料理をしようと決めた。

しかし、ただレシピ通りに作るだけでは面白くないので新しい料理ーーアレンジして作るようにしている

冷蔵庫から解凍したマグロの切り身に黒あんを塗り、パン粉をまぶして揚げる。

うん、外見だけは豚カツ風だけど味の方はどうかな......自分で食べるのもいいが、まずは誰かに食べさせて意見を聞いてからにしよう。

誰に食べさせようか考えているとピンポーン、とインターホンが鳴った。

誰だろう?玄関を開けると、

 

「ヤッホー!れいれい。遊びに来たよ」

 

りこりんがいた。第一被験者発見!本当にいいタイミングだ。丁度、味見してくれる人が欲しかったんだよね。

時刻は午後18時......うーむ、りこりん?遊びに来るには遅いのではないのかね?この子は本当に自由だな〜。

 

「いらっしゃい、りこりん。上がって上がって」

 

「お邪魔しまーす。おや⁉︎この匂い〜貴女は〜、料理してましたね〜?これは揚げ物ですね」

 

このダミ声は古畑任三郎か......探偵科で流行っているんだね。

 

「よくぞ見破ったね。明智君」

 

「そのネタはもう古いよ、れいれい。今は〜私の時代なんですねぇ〜〜〜んーふっふっふ......」

 

明智小五郎はもう古いのか......これも時代ですかね。

 

「なるほど、教えてくれてありがとうね。そうだ!りこりん、お礼によかったら私の作った揚げ物を食べてみない?」

 

「いいの⁉︎やったー、れいれいの手作り料理を食べられるなんて幸せだよ」

 

りこりんはその場でピョンピョンと飛び跳ねて嬉しそうだ。

私も嬉しいよ味見してくれる人がいてね。

 

「それじゃ用意するからリビングで待っていてくれたまえ」

 

「ラッジャー!」

 

私はそう言ってキッチンに移動する。

いやー、まさか作って初日に味見の機会が訪れるとは......本当についている。

 

「お待たせーりこりん......?」

 

マグロの黒あんカツをもって、リビングに戻ってくるとりこりんが壁に貼られた世界地図ーー今、世界中で発生している未解決事件を私なりに考え、関係図に表したものを眺めていた。

 

「ねぇ〜、れいれい。これは何かな〜、りこりん気になっちゃった」

 

「それは私の作った事件の関係図だよ」

 

料理を一旦、テーブルに置いて答える。

 

「この図を見るとーー今、世界中で発生している未解決事件には法則がある」

 

「法則?もっと詳しく教えてよ」

 

「じゃあ、この『武偵殺し』と『魔剣』から説明しようか。この2つの事件は決まって世界中で起こっている」

 

 

『武偵殺し』最近になって活発的に活動しているーー武偵ばかりを狙った爆弾犯。殺しという名が付いているが、実際は武偵の乗った乗り物に爆弾を仕掛け、遠隔操作した武装車両で追い回し、最後は海に落とすなどといった幼稚な犯人だ。

 

『魔剣』正体不明の誘拐犯。誘拐の対象は超能力者武偵ーー通称『超偵』と呼ばれる武偵を誘拐する。犯行の中には強引に誘拐する場合もあれば、超偵とコンタクトをとり勧誘する場合もある。

 

「この2つの事件ーー犯人には共通点がある」

 

「共通点?」

 

「犯行計画ーー作戦立案術がよく似ている。いや、『魔剣』の立案術を『武偵殺し』が真似ていると言った方がいいかな」

 

「同一人物じゃないの?『武偵殺し』は武偵に爆弾を仕掛けて追い回している間、別の場所で『魔剣』として犯行を行なったとも考えられるよ」

 

「私も最初はそう考えたけどやめたよ。だって、犯人像が違いすぎる。『武偵殺し』は無秩序型、『魔剣』は秩序型の犯人だもの」

 

私はりこりんに分析結果を説明する。

犯人像には大きく分けて2種類ある。

秩序型ーー全てにおいて秩序立っている人格が特徴で、高い知能を持っている。尊敬される立場にあり、魅力的で異性に人気がある傾向にあり、犯行の準備段階から徹底していて、犯行を誰にも気づかれずに速やかにこなし、犯行後、警察からの尋問されることさえ想定している。

 

無秩序型ーー秩序型とは正反対に、社会不適応で孤立して、知能もそれほど高くない。外見に無頓着で総じて無秩序さが見られる。

このタイプの犯人は両親がおらず、自分自身も高校を中退するなど、身の振り方ががさつ。犯行を楽しむ愉快犯の場合、犯行の余韻に浸りたがる傾向があり、犯行現場をビデオに収めたり、犯行現場に戻ることがある。

 

「私の推測だと『魔剣』は国籍はフランス人だね。ほら、ここ見てよ」

 

私はりこりんに世界地図ーーヨーロッパ州を指し示す。

 

「これを見てわかるように『魔剣』の犯行範囲はヨーロッパがメインだね。決まってヨーロッパの国々では強引な誘拐はしていない。全て勧誘している。特にフランス周辺ではその傾向が強く出ている」

 

「ヨーロッパーーフランスに思い入れでもあるのかな?もしくはアジアに恨みがあるとか?」

 

「いや、恨みはないだろうね。仮にあったとしてもこの犯人は私情ーー恨みを持ち込まない。そんなものがあれば、ここまでの犯行はできない」

 

怨念を挟み込んだ犯行には必ずほころびが出てくる。しかし、『魔剣』にはそれがない。戦闘能力のある超能力者を攫うとなればなおさらだ。

 

「さっきも言ったけど『魔剣』はフランス人、そして高い知性を持ち、作戦立案術と情報収集能力、カリスマ性にも優れている。おまけに超能力者だ」

 

「どうして超能力者だと思うの?誘拐の対象が自分と同じ超能力者だから?」

 

「そうだよ。超能力者と呼ばれる人たちは優れた力を持つが故に孤独でもある。大概の人間は自分とは違った存在を恐れるーー超能力者はその対象になりやすい」

 

孤独な超能力者の前に『魔剣』と呼ばれる超能力者が現れたらどうなるか?答えは簡単だ。孤独な超能力者は仲間ができたと喜ぶだろう。そして喜んで自分から勧誘されるだろうーー勧誘してくる相手がカリスマ性に優れていればなおさらだ。『魔剣』はその孤独感を見事についてくる。ここまでくると誘拐というよりスカウトだね。尊敬するよ。

 

「凄いね〜。『魔剣』が聞いたら真っ青だね。じゃあさ、『武偵殺し』は?」

 

一通りの結果を説明し終えると、りこりんは『武偵殺し』について尋ねてきた。りこりんも探偵科だから気になるのかな。

 

「『武偵殺し』はヨーロッパ州だけでなく最近になってアメリカにも現れている。犯行の手口は、最初はバイク、次がカージャック。乗り物に『減速すると爆発する爆弾』を仕掛けて自由を奪い、遠隔操作でコントロールしているね」

 

高みの見物と洒落込んでいるが、遠隔操作ーー操作には電波を使う。電波には一定のパターンがあり、何度も使えば簡単に居場所を特定されるが犯人は捕まっていない。

 

「そして、爆弾の扱いがとても上手い。ターゲットの武偵に悟られず、乗ってから初めてわかるようにするなど狡猾だ」

 

ターゲットの武偵も訓練ーー車両を点検してから乗車する者もいることを想定して爆弾を仕掛けるなど誰にもできることではない。

 

「この犯行には計画性がないように見えるが、しっかりと作戦を立案して犯行に臨んでいる。『魔剣』と同じようにね。おそらく、『武偵殺し』と『魔剣』は協力関係ーーそれもかなり親しい関係にある。過去に共通するものがあるか、あるいは出身地が同じーーフランスだったりね」

 

「どうしたの〜れいれい。私の方を見てさ?」

 

「うん?いや、なんとなくかな」

 

そういえば、りこりんの欠席と『武偵殺し』の犯行発生が重なっているような気がするんだよね。

 

「ねぇ、他にわかったことはない?何かあれば教えてほしいな」

 

「この犯人は努力家にも思えるんだよね。無秩序型だけどヤケにならず自分を高めるーー向上心に溢れている。いや、力に貪欲と言った方がいいね」

 

「努力家か......『武偵殺し』が聞いたらどう思うかな?」

 

「さあ?けど私から言わせて貰えば、この犯人は向上心があって素晴らしいと思うよ」

 

「えー、れいれいは武偵でしょう?武偵が犯罪者を褒めていいの?」

 

確かに武偵が犯罪者を讃えるのはマズイだろう。教務科に知られたら銃殺されかねない。

 

「純粋に褒めているんだよ。犯行はバイクから車ーーエスカレートしている。これは次のステップーー新しいことに挑戦しているように感じられる。向上心豊かで停滞を良しとしない。実に素晴らしいと思わないかい?」

 

「あはは、『武偵殺し』が聞いたら喜びそうだね。でも、犯罪を暴くだけじゃなく犯人を褒めるなんて、れいれいには犯罪者の才能がありそう」

 

犯罪者の才能か......まあ、武偵と犯罪者の境界線は曖昧だからね。武偵の中には犯罪ギリギリなこともやる人もいるし。

 

「じゃあ、『武偵殺し』と『魔剣』だけじゃなく、他の事件についてわかったことはある?」

 

「他の未解決事件は、そうだね......''共通点があるのに共通点がない''かな」

 

「なにそれ?ナゾナゾ?りこりんにはわかんない〜」

 

「同じような犯行があるけど違う。なんと言えばいいかな......まるでお互いの犯行手口を提供しているように感じられるんだよね」

 

異なる犯人が自分の十八番を他者に伝授し、その人が実行に移している気がする。

この未解決事件の犯人たちはまるでお互いが生徒であり教師にも見える。

 

「犯人たちの逃走経路は海。空だとあからさまだし、陸だと追跡されるーーどこまでもね。となれば残るは海ーーかと言って船じゃない。潜水艇だ。海でしかも潜水艇なら居場所を探られない。潜水艇は移動するし、拠点としても使えるからさ」

 

「凄い!凄いよ!名推理だよ、れいれい。もし犯人たちのリーダーが知ったられいれいに興味が湧くかもね」

 

リーダー?あー、そうか。犯人たちには頭目がいる可能性があったね。そこに気づくとは......りこりんもやるな!

 

「もしこの犯人たちにリーダーがいたら会ってみたいね」

 

「クフフフ、大丈夫だよ。れいれいなら近いうちに会えるよ.....きっと楽しくなるからさ」

 

「うん?どういう意味だい?」

 

「それは内緒でーす」

 

内緒って、どこの泥棒ですか?

『世界の泥棒』という本に「女は秘密を守ってこそ美しくなる」と、どこかの女泥棒が言っていたな。この様子ならりこりんは将来、綺麗になるだろうなー。まあ、今でも十分綺麗だけど。

 

「おっと!推理に夢中になってしまったね。料理が冷えてしまう」

 

「そうだった。ごめんね〜りこりん夢中になっちゃって」

 

2人でテーブルに着く。料理は温かい内に食べないとね。

 

「ほら、このソースもかけて」

 

私はりこりんのマグロ黒あんカツに''特製ソース''をかける。

 

「このソースも手作りなの?」

 

「そうだよ。色々なものを混ぜて作ったんだ。さあ、遠慮しないで」

 

「それじゃあ、遠慮なく。いただきまーす」

 

そう言ってりこりんは、かっぷりと可愛らしく噛ぶり付き、

 

「むごがおおおおおおおおおお⁉︎」

 

今まで聞いたことのない断末魔を上げ、のたうち回り倒れた。

りこりん⁉︎どうしたのさ⁉︎体がピクピクしているよ。ああ!口から泡まで吹いてる⁉︎

何がいけなかったんだ!ソースか?それともマグロが痛んでいたのか?いや、マグロは新鮮だった......ソースはハバネロとジンジャーエール、その他を混ぜただけだし......わからん!

いや、今は考えている場合じゃない。早く衛生科に運ばないと!

 



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共同の依頼 報酬は......

今回は短いです。すみません。
これも全てあの英霊アーチャーが‼︎素材が‼︎


「なぁ、お前理子に何かしたのか?」

 

「何のことさ?」

 

登校して開口一番に金次君からそんなことを言われた。

りこりんは登校して来なかった。いや来れなかったのが正しい言い方だろう。

昨日、りこりんが私の料理を食べて倒れたので衛生学部に運び、学部の先輩に事情を説明したら「そのソースが死因ね......」と言われた。りこりんは死んでないよ!

まさか私の''特製ソース''が原因だったとは......ほんの少しアレンジしただけなのにね。私は別に何ともないのだけど。

今度お詫びにりこりんに何か差し入れ持って行ってあげないと。

 

「クラスの間で有名だぞ。あの理子が倒れてうなされているってな。しかも、その原因が零だって噂だぞ」

 

「何かの間違いじゃない?私は別にナニモシテナイトモ」

 

「おい、こっちを向いて喋れーーすげぇ怪しいぞ」

 

金次君の追求に思わず、私は視線を逸らしてしまった。そんなにジーと見つめないでくれたまえ。

 

「まあ、その件はとりあえず置いて......私のところに訪れたのはりこりんの事だけじゃないんでしょう?」

 

「......何でそう思うんだよ?」

 

「あっ、今喋るのを躊躇ったでしょう。それが証拠だよ。金次君は女の子に頼るのを躊躇するからね」

 

「またお得意の心理学かよーーああ、そうだよ」

 

私の指摘に金次君は「はあー」とため息を吐いた。

ため息を吐くと幸せが逃げると言うが、それは間違いだ。寧ろ、ため息は吐くといい。息を吸って吐くことは自律神経のバランスを整えてくれる。

特に血圧、血流には良い。身体に悩みを持つ金次君にはオススメだ。

 

「あなたは〜何か悩みを抱えていますね〜」

 

「お前、もう本当に占い師になれよ」

 

ダミ声で古畑任三郎風に喋った。これでOPがあれば最高なのだが。

それにしても占い師か。まあ、同級生ーー女子に対して占い師の真似事はしているけどね。

 

「当ててあげようか。君はそうだなー。専門授業ーー強襲科で何か困っている。授業についていけない?いや、違うね」

 

金次君の強襲科としての成績は素晴らしい。射撃もそうだが特に身体能力は飛び抜けている。

そんな彼が強襲科の授業で遅れを取ることはない。

 

「授業は上手くやっている。なら、残る可能性は......単位かな」

 

最後の指摘に金次君は目を見開いたーービンゴだ。

この学校では単位を修得ーー授業に出席するだけでは貰えない。

ならどうやって単位を修得するか?それは依頼をこなすしかない。

武偵は学生の内から依頼を受けることができる。

教務科が定めた依頼をこなすことでそれが生徒の単位になる。

依頼には様々なものがあり、特に高ランクな依頼=危険な依頼ほど多い単位がもらえる。しかし、それに伴い命の危険も高くはなるが......

 

「しかし、妙だね。強襲科の依頼ーー言い方は悪いけど危険な物が多いでしょう?それなら単位には困らないと思うんだけど......」

 

「危険な物ばかりとは限らねぇよ。依頼人や公共施設の警護なんかもあるからよ」

 

「いやいや、それもある意味では危険な仕事だよ。今度、SPを見てご覧よ」

 

依頼人の警護なんかは特に危険が伴うだろう。武偵とはいえ撃たれば血が出るし、場合によっては死んでしまうのだから。

まあ、プロの犯罪者なら警護ーー武偵なんか相手にせず、ターゲットだけを仕留めるくらいはできるだろうけどさ。

 

「なんか単位を見たら全然足りなくてな。このままだと進級できないかもしれない」

 

自分の単位くらいは把握しないと......後から気づくと取り返しがつかないよ?

 

「それで私に相談してきたわけか。だったら、進級に足りる単位の依頼をこなせば......」

 

「強襲科の依頼掲示板を見たら高単位の依頼は全部取られていた」

 

早い者勝ちか......善は急げと言うけど、今の金次君にはお似合いの言葉だね。

しかし、金次君。なぜ君はそんな嘘を言うのかな?依頼全部が取られたとしても低ランクの依頼をこなせば単位は稼げると思うのだけどな。

 

「でも強襲科と探偵科ーー共同で行う依頼だけは残っていた。だから......」

 

「一緒に依頼をこなしてくれ。そう言いたいのでしょう?」

 

金次君は「ああ」と答えた。

共同の依頼か......まあ、初めてではないし、何度かこなしたことはある。

それに、ここ最近は世界中で起きている未解決事件の関係性を探ることばかりやっていたので、気分転換にはなるかもしれないね。

 

「1000万」

 

「ーーはぁ?」

 

「依頼料は1000万円だ」

 

「お前はどこの無免許外科医だ⁉︎」

 

私のボケに見事なツッコミを入れてくれた。これなら漫才師になれるよ!

 

「ははは、ジョークだよ」

 

「本当に揶揄うなよ。一瞬、マジかと思ったぞ」

 

金次君に1000万円なんて払えるとは思っていないし、それに''彼''にはそんな要求はしないよ。

 

「それで肝心の依頼の内容ーー事件は?」

 

「コロシ(殺し)だ」

 




次回は殺人事件に挑みます。
探偵科と強襲科の共同の依頼は難しいな......


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糸を繋ぐ為の情報

上手く表現しきれていない所もあるかもしれませんが、ご了承ください。


殺人とは、人を殺すことであり、人の命を奪うことである。

殺人は、重い犯罪として規定されていることが一般的である。法域によっては殺人を行った人は死刑に処される可能性がある。

「殺人」と言えば、一般的には自分以外の人を指すことを指していることが多い。だが、「殺人」に自分自身を殺すことも含めている場合もある。「自殺とは自分に対する殺人であり、罪であり、だから自殺してはいけない。」と言われることがある。自殺もやはり殺人として、殺人罪に問える、問うべきだと規定している国もある。

 

 

東京の住宅街ーーとある一軒家

一本道を挟むように左右に住宅が並ぶ。

一軒の住宅の庭に水道業者の車が止まっていた。水漏れがあったようだ。

 

「水漏れは見つかった?水漏れを見つけるだけでどれだけかかってるのよ」

 

家の家主の女性の声が床下に響く。

 

「まだですよ......まったく、床下に潜るこっちの身になれよ」

 

水道業者の男性は愚痴をこぼしながらも床下を這って進む。

床下は大人が這って進むのがやっとの広さだ。おまけに懐中電灯が無いと少し先も見えない。

懐中電灯の明かりを頼りに進み続け、家の土台ーーコンクリート付近のパイプから水漏れを発見した。

 

「ここか......うん?なんだこれ?」

 

コンクリートから何か飛び出ている。

細く、骨のように見えるモノが......

 

 

時刻は17時40分、この時季はこの時間でも太陽が昇っている。まだ夕暮れにはなりそうにない。

 

「うん、見事に死んでるね」

 

「ーーそりゃ、白骨死体だからな」

 

私と金次君はとある住宅街の一軒家に来ていた。

 

周りには同僚ーー武偵の皆さんも来ている。

場所は捜査情報の規制対象だから言えないが......

今、私たちの目の前には一体の白骨死体がある。

周りは青いシートに覆われ、外からは中が見えないようになっている。これなら野次馬に写真やら動画を撮られることはないかな。

 

「この白骨死体はどこから発見されたのかな?」

 

「この住宅の土台ーーコンクリートの中から発見された」

 

私の質問に同僚の武偵ーー鑑識科の鉄仮面同級生が答える。

 

「死体発見までの経緯は?まさか死体が自分から這い出てきたとか......」

 

「なわけねぇだろう」

 

金次君、少しはジョークを言ってもいいでしょう?

私が呆れていると、

 

「この家の家主が水漏れがあるから水道業者に連絡、それで業者が床下に潜って土台近くの配管の漏れを調べていたら、たまたまコンクリートからはみ出ていた死体ーー白骨化した指を発見した」

 

鑑識科の同級生は淡々と答える。

うーむ、この鑑識科さんは仕事に生きるタイプだね。ギャグは受け付けてくれそうにない。

 

「説明ありがとう」

 

軽くお礼を言った後、私は再び死体に目を通す。

見事に白骨化しているね。

 

「南無阿弥陀仏......」

 

「お経が唱えられるのか?」

 

「お経はラップだと思えばどうってことないよ」

 

「そのうち絶対バチが当たるぞ」

 

これくらい大丈夫だよ。仏様も大目に見てくれるさ。

何処かの破戒僧は唱えるのが面倒だから録音したテープで唱えているけど......

 

「家主が殺して埋めたのか?」

 

「違うだろうね。死体が白骨化するのに必要な年月は、地中だと5〜8年はかかる。調べによると、この家が建ったのが10年前。家主が購入したのが2年前だからシロだね」

 

もしクロだったら、死体の埋まっている床下を調べさせようとはしない。

まあ、持ち主は家を売るだろうね。

 

「この白骨死体は男か?」

 

「違うよ金次君。この人は女性だよ。ほら、ここ見てよ」

 

私は死体の骨盤部分を指差す。

 

「骨盤の形状が高さの低い横楕円型になってるでしょう?あと骨盤の下部の恥骨下骨は、男性は逆V字型で狭いけど、女性は逆U字型で広い。女性は出産するので、骨盤腔の幅が広くなってる。だから、この骨は女性だよ」

 

「ーーなあ、零。間違ってもこういうことを他の奴にはペラペラ喋るなよ。特に最後の辺りはな」

 

何を恥ずかしがっているの?これくらい保健の授業で習うでしょう?

金次君は将来、絶対に検死官にはなれないな。

骨盤部分だけじゃなく頭蓋骨からも性別が判断できるのだけどね。

 

男性の頭蓋骨は女性より大きく、がっしりしている。かたや女性の頭蓋骨は男性より小さく華奢で丸みを帯びている。眉の上の部分の眉弓(びきゅう)は、男性は大きく発達しているが、女性は小さく未発達だ。目の上と前頭骨が接する部分の眼窩上縁(がんかじょうえん)は、男性は太く大きいが、女性は鋭く薄く小さい。耳の後ろの隆起した骨である乳様突起(にゅうようとっき)や下顎骨の頤(おとがい)は、男性は大きく発達しているが、女性は小さく華奢だ。

 

「うわ〜金次君、肋骨を見てご覧よ。これは酷いね」

 

「ーー酷い傷だな。刃物による傷か?」

 

2人して肋骨に注目する。刺されたような傷が10ヵ所もある。

私はルーペを取り出し、死体を観察する。

 

「傷口はーーこれは変わっているね。湾曲しており縁にギザギザの歯がついた刃物でつけられた傷のようだ」

 

「まるで鰐にでも襲われたような感じだな」

 

傷は刺創ーー刺してできた傷にも見えるし、切創ーー切られてできた傷にも見える。殺しに使われたのは普通の刃物じゃないね。

金次君が言ったように鰐にでも襲われたような傷だ。

前から刺されているから顔見知りによる犯行かな。

 

「おまけに後頭部に髪の毛一本分のヒビがあるよ」

 

「ーー鈍器による傷か?」

 

見落としやすいけど後頭部に小さなヒビがある。明らかに鈍器ーー固いモノでついた傷だ。

 

「うん?これはーー金次君。ピンセット貸して」

 

「ほらよ」

 

頭蓋骨ーーに変わったものを発見した。

私は金次君からピンセットを借りて、それを摘んだ。

 

「何だよそれ?小さいな」

 

「何かの粒ーーこれは砂と塩の結晶だね」

 

頭蓋骨に付着していたのは2mm程度の小さな白っぽい砂粒と塩の結晶だった。

 

「何で頭蓋骨に砂と塩の結晶が?砂はこの辺りのーー家の土台か?」

 

「いや、家の土台に使われる砂利じゃない。これは海ーー砂浜にある砂と似ているね」

 

「それじゃ、この被害者は海岸で殺された後、ここに埋められたのかーー」

 

「そうかもしれないけど......そうじゃないかもしれない」

 

海岸で殺した後、わざわざこの場所に埋めるなんて面倒だと思うけどな。

東京から離れた海という可能性もあるかもしれないけど、それこそ面倒だな......

 

「どこの砂浜の砂か調べてみようか」

 

「おいおい⁉︎砂浜って、どれだけあると思うんだよ」

 

「わからないよりはマシだよ」

 

取り敢えず採取した砂を保管する。専門家ーー鑑識科の施設を借りて詳しく調べよう。

続いて死体が埋まっていた土台のコンクリートを調べる。

先に到着した武偵は家主の許可をもらって外側からコンクリートを砕き、中に埋まっていた死体を外に出した。

続けて家の土台を切り抜き調べ易くしてもらっている。これは助かるよ。

 

「コンクリートが乾くと死体の形がそのまま残るから助かるね」

 

「水漏れがなかったら永遠に見つかることなかっただろうな」

 

「確か10年前、この辺りは更地だったね」

 

「そんで家が建ってそのまま売りに出された、と」

 

それが犯人の狙いだろうね。

この辺りの土地事情に詳しい人間ーー不動産関係者、建築家......上げるとなるとかなりのパターンがある。

 

「あっ、金次君。ほら、この死体の顔が埋まっていた部分だけど顔の形が取れそうだよ」

 

「復顔できそうか?」

 

「それは鑑識科に任せようよ。私にはまだ復顔技術はないよ」

 

復顔とは、頭蓋骨をもとに生前の顔を法医学により推定し、型どりした物に粘土等で肉付けして義眼を嵌め、色付けしたりかつらを被せたりして復元する技術である。

身元不明の白骨死体の身元調査のために公開して情報提供を求めたり、考古学で遺跡などから発掘された頭蓋骨より、頭部の人種的特徴などを確認するために行われる。

 

「まだって......いずれ身につけるつもりかよ。どんだけチートだよ」

 

「チートだなんて......大袈裟だよ」

 

ゲームじゃないんだからチートなんか使えないよ。金次君は本当に大袈裟だな。

 

「鑑識科に復顔してもらって行方不明者リストを調べてもらおう。該当者がいるかもしれない」

 

「身元がわからないのは可哀想だからな」

 

 

 

東京武偵高校ーー鑑識科

 

「なあ、零。海にはどれだけ砂つぶがあると思ってるんだよ。調べるだけ無駄じゃないのか?」

 

死体から採取した砂つぶを顕微鏡を使って覗き込む私に金次君がそんな事を言った。

ひどいな〜無駄な事なんて無いと思うんだけどな。

無駄という言葉が嫌いな人が聞いたら金次君は確実に撃たれるかもね。

金次君の言葉を無視して顕微鏡を見ていると、

 

「これは......自然の砂じゃないね」

 

「どういう意味だ?」

 

「自然の砂じゃないと言っても、人工的な物だよ。見てご覧」

 

気になるものを発見したので金次君に見せた。

 

「なんだこれは?ゴツゴツした物が見えるぞ」

 

「自然の砂なら表面が滑らかだけど、人工的な砂は顕微鏡で見てみるとまるで岩だ」

 

「死体が埋められていたコンクリートが剥がれ落ちたのか?」

 

「いや違うね」

 

金次君の意見を否定し、彼に一枚の紙を渡す。

 

「鑑識科の分析によると長石と石英だったよ。この学校の鑑識科は本当に優秀だね」

 

「いつの間に頼んだんだよ。というか、お前がわざわざ顕微鏡まで使って砂を調べなくてもよかったんじゃないのか?」

 

何でも鑑識科に任せてばかりでは楽しくない......おっと、これは被害者に対して不謹慎かな。

 

「まあまあ、そう言わずにさ。自分で調べることによって発見できるものがあるかもしれないでしょう?」

 

「ハァー、お前って奴は......まあ、その意見は賛同できるかな」

 

おお!珍しいね。私の意見に賛同してくれるなんて嬉しいよ。

おっと、それよりもーー

 

「話を戻すけど、これはクラッシャー(粉砕機)などにかけられ、細かく砕かれた物だよ」

 

「つまり?どういう事だよ」

 

「君は実に馬鹿だな〜」

 

「それ本当にやめろよ。あと何処ぞの猫型ロボットの声で喋るな」

 

金次君......いくら強襲科とはいえ、仮にも武偵なんだから推理くらいしようよ。もし彼が探偵科に入ることになったら私が先生になってあげないとね。

 

「つまり被害者は海では殺されていない」

 

「じゃあ、一体何処で殺されたんだよ?いや、塩の結晶はどうなるんだよ?」

 

「さぁ?まだまだ事件の糸を繋ぐ為の答えが足りない」

 

取り敢えず今あるモノを繋いでみるか。

 

被害者は海では殺されていないーー陸地で殺された。

 

殺害に使われた凶器ーー湾曲して縁がギザギザ?鰐のような歯?

 

陸地の何処で?ーー人工の砂がある場所

 

人工の砂ーー砂時計?人工の砂浜?鋳造工場で排出される腐砂?

 

塩の結晶ーーやはり海岸での犯行?海魚の水槽

 

「もしかしたら被害者は水槽の近くで殺されたのかもしれないね」

 

「水槽?ペットショップか水族館で殺されたとか」

 

いい線だね。水族館かペットショップ......金次君にしてはいい推理だね。

 

「おい!今、変なこと考えなかったか?」

 

「何の事かな?私にはサッパリだよ」

 

失礼だな〜褒めているのに......それにしても水槽か。

死体の後頭部にはヒビが入っていたね。あれは鈍器によるものではなく、水槽に頭をぶつけたことによる傷かもね。

 

後頭部のヒビーー水槽に激突したことによる傷

 

「なあ、零。もう答えは出ているのか?」

 

「いや〜ダメだね。まだ答えを導き出すには情報が足りない」

 

今ある情報では答えを導き出せない。これは復顔に期待してみるか。

 



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糸を繋げ

名前をどうすればいいのかわかない。リアルの人物名は問題になるし......
今回の話で出てくる人物の名前を変更してほしいと思った方は是非とも感想をください。


 

人間は、男女を問わず、自分が生まれもった容姿によって、必ず性格形成または社会的立場に影響を受ける。

人間は、その人の生まれつきの「容姿のタイプ」によって性格や能力を判断される。また、外見から判断され、特定の役割を期待されることを幼少期から積み重ねることによって、性格のうち、後天的に形成される部分がある程度影響され、人格そのものが変化する、ということも充分にあり得る。

程度の問題はあるが、容貌は、私たちの自己像、他人への認識、そして社会生活に何らかの影響を与えるのだ。

 

武偵高校 鑑識科ーー

 

「ーーお前が復顔をするのかよ」

 

「鑑識科の子達に頼んだらアッサリと承諾してくれたよ」

 

現場から切り抜かれたコンクリートを前に私と金次君はそんな会話していた。

鑑識科に復顔をしてみたいと頼んだら「構いませんよ。寧ろもっと頼ってください!」と言ってくれた。鑑識科には相談に乗ってあげた子がたくさんいるからね。人の縁とは大事だ。

 

「ほら、手袋をはめて。金次君も手伝ってよ」

 

「俺もかよ。どうやればいいかわからないぞ。というか、お前はわかるのか?この前、復顔の技術はないと聞いたが......」

 

「大丈夫。頼むついでに鑑識科から聞いてきたから。あと、ドラマなんかで見たことがあるし、それらも頼りにすればやれるよ」

 

「ドラマかよ......それで大丈夫なのか?」

 

「できないことはないさ。さあ、手伝って。これも科学だよ」

 

「誰のセリフだ」

 

私はシリコンの入った容器を金次君に手渡す。

まずはシリコンで型を作成しないとね。

 

「これでどうやるんだ?」

 

「こうやるんだよ」

 

私は金次君の手を取り、一緒にシリコンをすくい上げると型を作る為、死体の埋まっていたコンクリートーー顔が埋まっていた場所にシリコンを当て型取りをしていく。

共同で作業するのもいいね。

 

「なんか粘土細工を作ってるみたいだな」

 

「それと似たようなものだからね」

 

金次君はぎゅっとシリコンを当てて型取りをしていく。

力があるけど、あまり強すぎるとコンクリートが壊れてしまうよ。

 

数十分後ーー

暫くしてシリコンが固まり、形が崩れないようコンクリートから剥がしていく。

 

「ーー形が不細工だな......これじゃ役に立たないな」

 

「光の当たり方次第で影が形を作るんだよーーこれならどうかな」

 

型取りしたシリコンに手を加え、顔の半分を作成する。

うーむ、まだまだだね......鑑識科にはまだ敵わないかな。

 

「今の私にはこれが限界かな」

 

「そんな事はないぞ。素人の俺から見ても立派なものだ」

 

「ははは、お世辞かい?」

 

「褒めてんだよ。そんなに卑下するな」

 

「ありがとう。金次君からそう言われるなんて新鮮だね」

 

次に予め作っておいた頭蓋骨のレプリカに型取りした顔半分ーー左半分のシリコンを貼り付ける。

 

「顔の右側も作らないと感じが掴みにくい。左右対称じゃないけど見た目の違和感はない」

 

「そうなのか?てっきり同じかと思った」

 

人間の頭蓋骨は左右対称であることは滅多にない。ほとんどの場合で、何かしら歪みがある。骨の形を見ながら、顔の歪みに合わせて表情筋ーー粘土をつけていく。

顔に粘土を薄く塗る事で型との境をなくし、肉付けしていく。

 

「なんで皮膚を半分だけしか貼らないんだ?」

 

「顔の印象を見るためだよ」

 

そして皮膚を付けるのだが、顔全体に貼り付けると骨の形がわかりにくくなってしまうので、半分ずつ付けて顔の印象を見る。その後で全体の皮膚をつけて彩色し、毛穴やキメをいれていく。

 

「頬骨と鼻の形から日本人の系統だね。この人はきっと黒髪かな」

 

日本人の大部分は遺伝形質的には髪の色は漆黒であり、褐色や茶色を帯びている人は少数なので、黒のセミロングのカツラを被せる。

 

「茶色?黒色の眼球じゃないのか?」

 

「日本人の眼球色は黒と思われがちだけど、茶色なんだよ。遠目から見れば黒に見えるけどね」

 

義眼をはめ込む際、金次君がそんな事を言ってきた。

金次君、今度鏡で自分の眼を見てごらん。君の眼は見事な茶色だからさ。

それにこっちの方が写真の写りがいいからね。

 

「よし完成だ」

 

復顔が終わり、完成したのは美人というよりも愛嬌のある女性だった。

少し微笑むと、その丸く肉付いた頬にまで表情が溢れそうだ。

 

「10〜20代前半くらいか?でも白骨化していたし、もっと歳をとっていたかもしれないぞ」

 

「若い女性だよ。頭蓋骨のつなぎ目がまだあったし、歯並びもしっかりしていた」

 

頭蓋骨のつなぎ目を見れば、成人の年齢は分かるが、50歳を過ぎると特定が難しくなる。一方、成長途上の子どもや未成年なら、成長の度合によって、成人よりも細かく年齢を推定できる。たとえば、3歳の乳児なら、頭蓋泉門(ずがいせんもん)が埋まるので、1〜2年程度の誤差の精度で年齢を特定できる。

 

「それじゃ、この顔を基に行方不明者リストを当たってみようか」

 

 

後日ーー時刻は13時

私たちは東京足立区のとあるマンションの一室に来ていた。

遺体の身元が判明したからだ。名前は山中 苗さん。行方不明時18歳。

昨日の晩にリストを調べていると、捜索願の中に彼女が該当した。

そして、今日の朝に彼女の身内ーー母親である山中 由梨さんに連絡し事件の経緯を説明した。電話越しに母親はかなりショックを受けていた。

今日、私たちがここに訪れたのは詳しい話を聞くためだ。

リビングで座っていると、由梨さんがアルバムを持ってきた。

うむ、親子だからかーー彼女と同じように愛嬌のある女性だ。年齢は50歳ほど。ショックを受けたせいか頬の皺が目立つ。

 

「あの子に何が起きたか知りたいんです」

 

テーブルにアルバムを広げ、私たちに娘について語り出すーーその目に涙を浮かべながら......

 

「何としても犯人を見つけます」

 

そんな彼女を気遣ってか、金次君が励ます。

金次君は犯人が許せないのか、その顔には正義感が溢れている。

警察官の鑑だね。いや武偵の鑑かな?

 

「スポーツは好きでしたか?」

 

「ええ、特に野外スポーツが大好きで」

 

アルバムには外でスポーツをしている写真がある。その中の一枚に、

 

「スキューバダイビングもしていたのですか?」

 

「将来は資格を取るのが夢でした」

 

海でダイビングを楽しむ光景を撮った写真があった。

 

「娘さんはいなくなる当日か、その前日に誰かと出かけましたか?ダイビングとかビーチとか......」

 

「いいえ、私の知る限りでは」

 

「いなくなるまで貴女とずっと一緒だったのですか?」

 

「山田 キリオと一緒でした。キリオは今でも豊島区に住んでいます」

 

キリオね......私はアルバムの中に男と一緒に写っている苗さんの写真を発見した。

程よく日焼けした体格のいいスポーツマンタイプの男だ。年齢は20代。おそらくこの男がキリオだろう。

 

「そのキリオさんには娘さんがいなくなったーー当日、警察や武偵も話を聞いてきたのでしょう?」

 

「聞かれたそうですが、何もしてませんよ」

 

「何故わかるのですか?」

 

彼女の答えに金次君が疑問をもって尋ねる。

確かに何故そんなことがわかるのだ?

 

「彼は愛していました。羨ましいくらいに......」

 

「......喧嘩をしたことは?」

 

「愛し合っていれば喧嘩なんてしないでしょうーーあの子も夢中でした」

 

語り終えると口に手を当て、泣き出してしまった。

様子からして嘘をついてはいないね。

 

「お話ありがとうございました。全力で犯人を見つけてみせます」

 

「ーーええ、お願いします」

 

話を聞き終えると私たちは部屋を出た。

 

「どうだ零。さっきの話は本当に思えるか?」

 

「うーむ、嘘をついてはいないから本当じゃないかな」

 

「またお得意の心理学かーーこのセリフ何回目になることやら」

 

「さぁ?それよりも今度は豊島区に住んでいるキリオ氏に話を聞いてみよう」

 

由梨さんから聞いたキリオ氏の住まいに向かうことにした。

何かわかればいいのだが......

 

 

東京 富島区ーー住宅街

聞いた住所を頼りに来てみたが、立派な一軒家だ。表札には山田とある。間違いなくここだ。

キリオ氏は事件当時は21歳。現在は31歳で結婚しているそうな。

さて、どうなる事やら......私はインターホンを鳴らす。

 

「はい......どちら様ですか?」

 

ドアを開け出てきたのは、フェーブの黒髪の30代風の女性だった。

少し痩せ気味だが、不健康と呼ばれる程ではない。左手の薬指には指輪をはめている。おそらく彼女がキリオ氏の結婚相手だろう。

 

「突然すみません。私たち東京武偵の者です。あっ、こっちは私の助手です」

 

「だれが助手だ。お前の助手になった覚えはないぞ」

 

私と金次君は武偵手帳を見せ、身分を明かす。

ドラマなんかでも刑事がするからね。身元を明かせば相手も自分の事を相手に明かさなければいけないと思うし。

 

「武偵が何の用ですか?」

 

彼女が私たちに尋ねていると、

 

「沙良、誰が来たんだ?」

 

玄関に面した廊下の部屋から1人の男性が出てきたーー山田 キリオだ。

 

「実は、10年前の山中 苗さんが姿を消した件を調べています。上がってもいいですか?」

 

「......ええ、どうぞ」

 

家主のキリオ氏は少し警戒してか、間を空けて私たちを家に上がらせた。武偵は評判があまり良くないからかなー。

 

「彼女は......苗は見つかったのですか」

 

「殺されていました。何年も前のことです」

 

「おい⁉︎いきなり」

 

キリオ氏の問いかけに私は答える。

それに反応して金次君が慌てるが無視する。こういったときは、前置きはない方がいい。

 

「......そうですか。残念です」

 

キリオ氏は顔を伏せる。彼の妻ーー沙良氏も顔を伏せる。彼女も苗さんの事を知っているのか。

 

「家の中を見せてもらってもいいですか?」

 

「苗と暮らしたのは一ヶ月だけ。10年も前ですよ......ご自由にどうぞ」

 

「ありがとうございます。さあ、行こうか金次君」

 

キリオ氏の許可をもらい、家の中を調査していく。

調べている間、キリオ氏とその妻、沙良氏も付いてきた。自分達の家が調べられていれば気になるよね。

私と金次君が一階を調べていると、

 

「おや、これは......金次君。これを見てよ」

 

「ーーその水槽がどうかしたのか?」

 

広くピカピカしている黒塗りの床が張ってある、リビングの一室に水槽を発見した。

4面の150cmのガラスの水槽だ。

 

「これはミノカサゴですね。色合いが綺麗だ」

 

「ええ、そうです。私の妻が好きでね......苗も好きだった」

 

水槽の中にはミノカサゴが泳いでいた。

私はヒョウモンダコとホオジロザメが好きだが......

 

「ーー見かけは綺麗だけど、背びれには強い毒がある」

 

私が水槽を鑑賞していると、ギシと何かが軋む音がした。

音のした方を向くと、キリオ氏が歩いていた。

 

「何か?」

 

「すみませんが、床を調べてもいいですか?」

 

キリオ氏が立っている床が軋んでいる。立派な家なのに......

足を退けてもらい、床を調べていると、

 

「板がそっているのですよ」

 

「初めからそうよ」

 

夫婦揃って床について話し出した。

うーん、成る程ね。

 

「海水魚の水槽をここに置いたことはありますか?」

 

「多分......ずっと前に。なぜ?」

 

「誤ってこぼした事は?例えば壊れて」

 

「覚えてませんよ」

 

「自由に見てもいいのですよね?」

 

私の質問にキリオ氏は「ええ」と短く答えた。

私は床に伏せ、バタフライナイフを取り出すと軋んでいる板を剥がした。簡単に剥がれたね。

 

「何なんですか一体?そこに何かあるのですか?」

 

「終わったら戻しますよーー見てご覧、金次君」

 

「これは砂か?」

 

リビングの板の下から砂つぶを見つけた。死体についていた砂つぶは水槽のものだった。

 

人工の砂ーー海水魚の水槽

 

「キリオさん、水槽はここにあった。ガラスが割れて海水と人工の砂がここに溢れたんでしょう?」

 

私の問いかけにキリオ氏は顔を伏せ、妻の沙良氏も顔を伏せ夫の後ろに隠れた。

 

「すまないが帰ってくれ」

 

「いいですよ。また来ますのでーーそれじゃ行こうか金次君」

 

「って、おい⁉︎零」

 

採取した砂を持って家を後にする。

 

「いいのかよ零。あの夫婦メッチャ怪しいぞ」

 

「金次君から見ても怪しいかい?まあ、同意見かな」

 

あの人は怪しい。おそらく犯人は間違いなく''あの人''だ。

 

「下手したら証拠を消されるかもしれないんじゃないのか?」

 

「大丈夫。証拠は消されないよ」

 

あの証拠はまず消されない。これは保証できる。

あの人は消そうとするが、できないだろう。

あとは逮捕するためのステージを作るだけだ......これには金次君が最適かな。

 




次回はキンジ視点になるかもしれません。


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事件の後は

キンジ視点ーー

 

俺と零は後日、再び山田 キリオの家に来ていた。

万が一に備え、他の武偵それも強襲科の連中も応援に来ていた。

護送車まで用意して、逮捕する気満々だな。

 

「おい、零。このジュラルミンケースは何なんだ?」

 

武偵高を出る際に零から渡されたが、気のせいか重い。しかし、片手で持てない重量ではない。

 

「鑑識の道具一式が入っているんだよ。鑑識科の子たちから借りてね」

 

鑑識科から借りたって、自分達で捜査せず他人に貸し出して捜査させていいのかよ......今回の事件は鑑識科にも単位になるのによ。

それにしても、こいつは鑑識科に顔が利く。いや、鑑識科だけでなく武藤の所属する車輌科や俺と不知火の所属している強襲科にも顔が利く。

特に探偵科と諜報科では絶大に信頼されている。

 

「さあ、金次君。事件にカタをつけようか」

 

そう言って零は家のインターホンを鳴らした。

望むところだぜ。こんな事件はとっととカタをつけるのに限る。

死体を埋めるなんて犯人にはムカついていたからな。

 

 

昨日と同じように家主の山田 キリオとその妻である沙良が出迎えてきた。

家に上がって早々、俺たちは一番に水槽のあるリビングに向かった。

気のせいか床が昨日来た時より綺麗になっているぞ。

 

「随分と綺麗になってますね。掃除機をかけましたか」

 

「掃除機はかけました。何をしているのか教えてくれませんか?」

 

俺たちは床に伏せ、床板を剥がしたが砂は綺麗に無くなっていた。

入念に掃除したようだなーー綺麗だ。

 

「事件の真実ーーこの部屋の本当の姿を解く作業ですよ。金次君、部屋の明かりを消して」

 

零に言われて俺はリビングの明かりーー部屋の入り口に備えつけられたスイッチを切った。

スイッチを切ると案の定、部屋は真っ暗ーーいや、水槽のライトだけが光っている。

これから何をするつもりだ?

疑問に思っていると、零がジュラルミンケースから何かを取り出した。霧吹きのようだが......

 

「さて、出てくるかな」

 

零がシュッシュッと霧吹きを床に吹き付ける。

 

「何をするんですか⁉︎床が濡れるでしょう」

 

おいおい、キリオ氏が怒っているぞ。

しかし、そんな事お構いなく床に吹き付け続ける。

こいつは人の話を聞かないタイプか......

 

「ルミノールだからすぐに乾きますよ」

 

ルミノール......確か化学捜査に欠かせない試薬で過酸化水素とともに用いると、血液の存在を強い発光で知らせる。その発光反応をルミノール反応と呼ぶんだったよな......それを吹きかけているってことは、ここに血液が付着していたかもしれないんだな。

 

「うーむ、表面は反応しないか......」

 

「血痕があるか調べているんですか?」

 

「主人は何もしていないのに何故こんな事をするの⁉︎」

 

妻の沙良は旦那が疑われていると思ったのか、少々ヒステリック気味だ。

血痕がないなら、被害者はここでは殺されていないのか?

暗がりからチラッと零を見てみるが、落ち着いている。気のせいか笑っているようにも見えるぞ?

 

「金次君、ケースからブルーレーザーを取り出して、ここを照らしてくれないかい」

 

「ルミノールでも出ないのなら、レーザーでも見えないだろう?」

 

「ルミノールは表面だけだよ。レーザーは血液中のタンパク質を求めて、板の中まで届くよーー床板は楓なのに磨かず、塗料だけが塗ってある。変だとは思わないかい?」

 

確かに変だ。楓は磨けば光沢が出るのに、その上に塗料ーー黒を塗るなんておかしい。

 

「何かを隠すために塗ったのか!」

 

「そうだよ。さあ、その何かとご対面しよう。レーザーを照らして」

 

零に言われるがまま、俺はケースからブルーのレーザーポインターを取り出し、床に向かって照射した。すると、

 

「これは......!」

 

「これがこの部屋の真実だよ」

 

床板にはべっとりとした血痕が姿を現した。

点々としたモノもあれば、被害者のものだろうか手形の血痕もあった。

被害者はここで殺されたのか!

 

「消していいよーー明かりを点けて」

 

明かりを点ける。再び部屋が明るくなった。同時に血痕も見えなくなったが......

夫婦は目を丸くして、何も言えない表情だ。これで言い訳はできないぞ。

 

「キリオさん、ここで何があったか言いませんか?」

 

「私は何も知らない!」

 

零の問いかけにキリオは否定する。何を言っても無駄だぜ。あんなに血痕を残しておいて、何も知らないなんて白々しいぞ。

まさか「自分の血です」なんて言わないだろうな?

 

「苗さんがいなくなった日に激しい喧嘩になった。その際、彼女は水槽に頭をぶつけ脳震盪を起こし倒れた」

 

キリオの代わりに零が事件の経緯を説明する。まるで推理小説の探偵だぜ。

なるほどな。遺体の頭部にヒビがあり、塩の結晶が検出されたのは、水槽が割れて海水を被った所為か。おまけに海水だけでなく、水槽の砂も一緒に......

 

「怒りに任せて殺そうとしたが、意識を取り戻した彼女が貴方を押しのけて這って逃げようとした」

 

床板に被害者のモノと思われる手形があったのは這って逃げようとした所為か。

 

「そうはさせないと息の根を絶つーー苗さんを殺すのに何を使ったのですか?」

 

逃げようとした被害者を衝動に任せて殺すなんてーー見かけによらずひでぇ事をしやがるぜ。それだけでは飽き足らず、その遺体をコンクリートに埋めるなんて、想像するだけで胸くそ悪い。

しかし、凶器は何なんだ。遺体には鰐に襲われたーー湾曲しており縁にギザギザの歯が付いた刃物で殺されていたが、凶器の正体がわからない。

 

「止してくれ!殺していない!」

 

キリオが声をあげて、全面否定する。

まだシラを切るつもりかこいつは.....!

 

「凶器が普通のナイフではないのは確かだね。そして、死体を東京の住宅街に運んで、流し込んだばかりのコンクリートに埋めた」

 

「私は知らないんだ!本当に知らない」

 

「キリオはあの日は家にいませんでした。仕事があったから!」

 

「それじゃ何の為に床に塗料ーーラッカーを塗ったんだよ」

 

血痕が残っている床に塗料、それもラッカーを塗るなんて怪しすぎるぜ。

 

「過去から逃げられなかったようですね」

 

「私は殺していない!愛していた!今でも愛している......!」

 

「......」

 

キリオの言葉に場が静まり返った。妻の沙良はショックを受けたのか、絶句している。

 

「......沙良、すまない。謝るよ」

 

「まだ愛しているの?」

 

「山田 キリオさんを殺人の容疑で逮捕します」

 

向かい合う夫婦に向かって、零が冷酷に淡々と容疑を告げる。

同僚の武偵の1人が手錠をはめる。

 

「......父に連絡して弁護士をーー殺していない。大丈夫だ」

 

妻を落ち着かせるためか、キリオは最後にそう言って連れて行かれた。

 

「金次君、私も一緒に行ってくるよ」

 

後に続いて零も去っていく。

 

「俺も行くぜ」

 

「金次君はこの場に残っていて。ここが犯行現場だからまだ詳しく調べないといけないから、見張っておいてくれないかい。あとで専門家を派遣するから」

 

現場保存か......疑いたくはないが、妻が夫の為に証拠を消すかもしれないしな。そう言えば掃除機をかけたのは誰だ?

 

「ーーわかった。できるだけ早くしてくれ」

 

「勿論さ。それじゃ宜しくね」

 

そう言って部屋から出ていった。犯行現場ーーそれも殺人現場にはできるだけ居たくはない。

強襲科でも殺人ーー現場を見たことはあるが、あそことは違った雰囲気がするんだよな......

気分転換に部屋の中を見て回っていると、

 

「これは山登りの写真か?」

 

リビングの壁に額縁に入れられた写真を見つけた。

夫婦揃って山登りしている光景を捉えた写真だ。これは彩雪期の富士山か?

リュックを担ぎ、手には......これはピッケルか。

うん?待てよ。凶器は湾曲しており、縁にギザギザの歯が付いた刃物だったよな。

この写真に写っているピッケルがそれに当てはまるような......

 

「なあ、奥さん。あんたは旦那と山登りするのか?」

 

俺が背中越しに質問すると、

 

「ええ、そうよ。それで殺したのよ」

 

俺に拳銃を向けた沙良がそこにいた。

くそっ!油断した。まさか一般人が拳銃を持っているなんて。

銃規制が緩いのにもほどがあるぞ。いや今はそれどころじゃない。

さっき、この女は「殺した」とハッキリと言ったぞ。それじゃ犯人は

 

「フー、フー、キリオが留守だったから......ハー、ハーここに来て......苗に言ったのよ。キリオを返してほしいって」

 

興奮しているのか荒い息遣いでジリジリと俺に接近してくる。

どうする。できることなら荒っぽいことはしたくないが。

 

「なぁ、取り敢えず銃を下ろしてから話そうぜ」

 

「それまでは私と婚約していたのに......辺りは血だらけ。そこらじゅう......今は見えないけど、わかってるわ。消えてないんでしょう」

 

俺の声が聞こえないのか、さらに距離を詰める。

ダメだ!話ができる状態じゃない。

 

「フグゥ......ハー、死体の重さ、忘れられない」

 

「気が済むまで付き合うから、落ち着けよ。その銃を俺に渡してからさ」

 

「できないわ!ごめんなさい......!だってキリオを逮捕したじゃない!」

 

距離を詰められ、いつの間にか背中に壁が当たる。逃げ場がない。

仕方ない、荒っぽいが組み倒してから......

 

「そこまでにしてくれませんか?」

 

突然、部屋の入り口から声が聞こえた。

俺が目を向けると同時に彼女も拳銃を構えたまま声のした方を向くと、

 

「いいですか。できれば私も撃ちたくはない」

 

拳銃ーーウェブリー・リボルバーを構えた零がいた。

零。戻って来てくれたのか!

 

「この10年間、さぞ苦しかったでしょう」

 

「フゥ......ヌグ......ハー、ハー」

 

零は落ち着いた声で沙良氏に語りかける。

零の説得に彼女は涙を浮かべて、拳銃を持った手をガタガタと震わせる。

おい⁉︎今にも撃ちそうだぞ。

しかし、零はそれでも距離を詰め、彼女の拳銃に手を当て下に降ろさせると没収した。

手から拳銃を離した彼女は床に手をつき、泣き出してしまった。

 

「大丈夫かい?金次君」

 

「あ、ああ。なんとかな。助かったぜ」

 

「さあ、奥さん。行きましょうか」

 

床に伏せた彼女の肩に手を当て、立ち上がらせて連れて行く。

 

 

 

時刻は16時30分ーー

沙良氏を護送車に乗せて見送った後、教務科に事の経緯を報告し終えると、俺と零は豊島区を歩いていた。

 

「なぁ、零。お前は旦那じゃなくて妻の沙良が犯人だとわかっていたんじゃないのか?」

 

俺は開口一番に零に疑問をぶつけてみた。

 

「さぁ?なんでそう思うんだい?疑問には必ず理由がある。言ってみてよ」

 

零はしらばっくれているのかーー嘘をついている。

気づいていないだろうが、お前は嘘をつくとき目が僅かに大きく見開くからな。

ありのままを話すぜ。

 

「あの時、お前は旦那を犯人と断定した。しかし、お前にしては早計すぎると思った」

 

「ふむ、それで?それ以外にはないのかい?」

 

「そして、救助にくるタイミングがあまりにも良すぎた。まるでここぞとばかりに機会を伺っていたかのようにな」

 

俺が話し終えると、零は腹に手を当てて「ぷははは」笑い出した。

何なんだ?突然笑い出してよ。そんなに俺は可笑しい事を言ったか?

 

「強引な論理的推論だけど大正解。金次君70点」

 

「70点って、100点じゃないのかよ。それと助けるなら早くしてくれよ。マジでヤバかったんだからな」

 

「ごめん!本当にごめんね。どうしても彼女の犯行を裏付ける証拠、いや、状況を作り出したかったんだ」

 

状況を作るだと?どういう意味だ。

 

「沙良氏は旦那キリオ氏を愛していた。そんな旦那が他の女を愛していると言ったら?それも自分が殺した女だったら?」

 

まあ、逆上かショックを受けるだろうな。自分が殺した女となれば尚更だ。

 

「そしてキリオ氏が誤認逮捕され、連れて行かれたら混乱するだろうね。『自分のせいでキリオが!どうすればいい⁉︎』と錯乱し、ヤケを起こす」

 

だからキリオを逮捕したのかよ。旦那を愛している妻の心情を利用して......おまけに俺を囮につかうなんて。

 

「ーーお前、悪魔だな」

 

「悪魔だなんて大袈裟だよ」

 

ステッキを裏手でクルクルと回転させながら答える。悪魔がいたらこんな感じか?こいつなら悪魔でも騙せそうだな。

 

「それに誤認逮捕でもないんだよね」

 

「キリオの事か?殺人ーーあの男は殺してないだろ?」

 

「確かに殺してはいないけど、殺人者を庇ってはいたね」

 

庇う?待てよおい、それって⁉︎

俺の心情を察したのか零はコクリとうなづく。

 

「犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪、わかるでしょう?」

 

犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪とは、刑法に規定された犯罪類型の1つで、犯人をかくまったり証拠を隠滅したりすることで、捜査や裁判など国家の刑事司法作用を阻害する犯罪のことをいう。

 

「キリオ氏は妻が殺人を犯した事を知っていたんじゃないのかな。護送するついでに彼から『妻は春にはリビングの床を異常なまでに掃除する』という発言をした」

 

「その発言が何になるんだよ?事件とはーーいや......!」

 

「そう。10年前の春に苗さんは行方不明ーー殺された。それと同時に妻の沙良氏はリビングの床を異常なまでに掃除しだした。あまりにも状況がぴったりだと思わないかい?」

 

確かにぴったり過ぎる。自分の妻がリビングの床を決まって春ーー苗氏がいなくなった時期に、異常なまで掃除をする妻を見れば不審に思うはずだ。

 

「内心では妻が殺したんじゃないかと薄々、感じていたと思うよ」

 

「証拠はあるのか?」

 

「さぁね。証拠はないけど尋問すればわかると思うよ。ウチの学校の先生ーー尋問科は優秀だから......ふわぁ」

 

零は一通り話すと口元に手を寄せて、いきなり欠伸をした。

目をゴシゴシとかいて、眠たそうだ。

そうか。『脳の疲労』が近づいているんだな。

 

「ごめん......金次君。何だか眠くなって......きた」

 

頭をコクコクと上下に揺らし、今にも倒れそうだ。

参ったな......ここから学校の寮までは距離があるぞ。

休ませようにも......いや、ある。

ここ豊島区は近い。俺の実家である巣鴨に。

 

「取り敢えず俺の実家に運ぶが、いいか?」

 

「うん......いいよ。金次君の実...家か。初めてのほうも......」

 

「もう喋るな。寝てろ」

 

ウトウトする零をおぶって歩き出すと、安心したのか零はそのまま眠ってしまった。

手からステッキがカランと音を立てて、地面に落ちた。

前は眠ってもコレだけは握っていたのにな。

俺は拾って持ってみると、少し重量があることに気づいた。

丁度、刀くらいの重さだ。仕込み杖か?

俺が杖をいじっていると、♪〜♪〜と音楽ーー携帯の着信音が聞こえてきた。

零のポケットからだ。この着信音はシューベルトのピアノ5重奏曲『鱒』だ。シューベルトが好きなのか?

勝手に出るわけにもいかないので、無視して歩き出すが着信音は止まない。

おい、一体誰だよ⁉︎もうずっと鳴り続けているぞ!シツコイにも程があるぞ。

 

「すまん零」

 

俺は零に一言、謝ってから彼女のポケットから携帯を取り出した。

着信画面には『父』とあった。零の親父さんか......娘に電話を掛けるのにしては異常だぞ。

俺は恐る恐る通話ボタンを押し、

 

「あー、もしもし」

 

『おや?おや?誰かな君は?確かに娘の番号に掛けたはずだか......』

 

電話に出たのは若い声の男だった。

 

「突然すみません。おれ......自分は零の同級生の遠山金次といいます」

 

『金次君ね。なるほど金次......金次ね』

 

電話越しでブツブツと喋る。

零には悪いが何だか不気味な親父さんだな。俺の父さんとは真逆ーーまるで父さんを裏社会の人間にしたような感じがする。

 

『どうも初めまして金次君。私は玲瓏館 誠司。零の父です』

 

自己紹介に俺は「どうも」と短く答える。

さっきまでの不気味な雰囲気とは違ってカラッとしている。

何なんだこの人は?

 

『私の娘は今どうしているのかな?はっ!まさか私の娘を無理やり連れ込んで......』

 

「違いますよ!実は......」

 

勘違いした親父さんに俺は経緯を説明する。

零は親父さん似だな。人を小馬鹿にする感じがよく似ている。

 

『ハハハ、ごめんごめん。金次君は何だか揶揄い甲斐あるから少しふざけてしまった』

 

マジで勘弁してくれ......この親あって子ありか。

 

『まあ、さておき金次君。零は眠っているんだったね。なら伝言を頼まれてくれないかい?』

 

伝言か......まあ、それくらいならいいか。

 

「いいですけど」

 

『ありがとう。それじゃ話すけどいいねーー実は今度うちで海外から居候ーーホームステイする子を預かることになったから、顔合わせの為に今度の土曜か日曜に実家に帰っておいでと伝えてくれたまえ。それじゃ、いずれまた』

 

一方的に言うとそのまま電話は切れてしまった。

いずれまたって、まるで会いに行くかのような口ぶりだな。

俺はそんな事を考えながら、巣鴨にある実家を目指した。

 




さって実家に運んでくれたお礼には......手作りのアレを


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実家で休ませてもらったからお礼を

 

「うーん......はぁー、よく寝た」

 

目を覚ました私は身体を起こし、大きく伸びをして周りを見渡す。

布団が敷かれた和室ーーどうやらここが金次君の実家のようだね。

眠ってしまった私の為にわざわざ布団まで敷いて寝かせてくれるなんて、本当に優しいね。

感傷に浸っていると、ガラッとふすまを開けて、

 

「よう、起きたか零」

 

金次君が入ってきた。こらこら、ノックくらいしたまえ。いや、ここは金次君の実家だし、それにふすまをノックするのは不自然かな。

 

「いや〜ごめんね。実家にお邪魔させてもらってさ」

 

「別に気にすんな。休ませるには俺の実家が近かったからな」

 

近くにね。豊島区からここまでとなると......巣鴨辺りかな。

見るからに和風でかなり古いが、この部屋の作りからして広い家だ。

豊島区で古い一戸建ての多い住宅街となると巣鴨くらいだね。

 

「そうだ零。寝ている間にお前の親父さんから電話があったぞ。何でも今度の土曜か日曜に実家に帰ってこいだとさ」

 

父さんから?珍しいね。父さんは自分から電話を掛けることは滅多にない。

私の知る限り、自分から誰かに電話を掛けた事があるのは8回くらいだ。

 

「教えてくれてありがとうね金次君」

 

私がお礼を言うと、金次君は「ああ」と短く返答した。

しかし、電話があったという事は彼は私の携帯を開いたという事だよね。まあ、そこは大目に見てあげよう。事件の時、彼を囮に使ってしまったし、これでおあいこにしよう。

 

「あと、こう言ったら悪いが.....お前の親父さん電話を掛けるのにしつこいぞ。豊島区を歩くーーお前をおぶっている間、ずっと電話が鳴りっぱなしだった」

 

なんと⁉︎それなら電話に出るしかないね。

金次君の様子からして嘘はついてない。

父さん......電話くらい程々にしようよ。

 

「ごめんね。今度、父さんに会ったら注意しておくからさ」

 

「会ったらって、親父さんに今は会えないのか?」

 

「うん。何かさ海外で仕事をしているんだって」

 

「海外で仕事ーー何をしているんだ?」

 

「探偵だよ」

 

父さんは探偵をしている。それも人探し専門にしている。

人探しに関してはそこら辺の武偵よりも秀でていると思う。

前に仕事を手伝った事があるけど、本当に凄いんだよね。

20年も前に行方不明になっていた人ーー殺害された死体を見つけ出したのだから。

父さん曰く「生きた人間と死んでいる人間を探すのでは、時間と手間が違ってくる。依頼を受けた時点でそこを判断できれば探すのは簡単さ」らしい。

 

「珍しいな。今時、探偵なんて」

 

「なんか武偵は肌に合わないらしいよ。まさに、武偵が主流の時代に生き残った人さ」

 

「シーラカンスかよ」

 

シーラカンスね......うーん、何か父さんには合わない表現だ。

私が考え込んでいると、

 

「キンジ、連れの同級生は起きたか?」

 

「兄さん」

 

部屋に誰かが入ってきたーー男だ。

男にしては長いーー腰まである長髪、そして胸元を少しはだけさせたシャツを着ている。

その顔ーー目が金次君と似ている。さっきの金次君の発言からして、この人は......

 

「突然、お邪魔してすみません。初めまして、東京武偵高校1年の玲瓏館・M・零といいます」

 

「ああ、初めまして。俺は遠山 金一。キンジの兄だ」

 

やっぱり金次君のお兄さんだったか。なかなかのイケメンだね。

私の目から見て、かなりの修羅場を潜り抜けてきたのが分かる。

前に金次君からお兄さんは武偵庁に勤める特命武偵だと教えてもらったけ。

 

「取り敢えず、居間に移動しないか?起きて早々に悪いが、君と話をしてみたい」

 

おや?私と話をしてみたいとな。奇遇ですね〜私もアナタと話をしたかったんですよ。

 

「ええ、構いませんよ」

 

私はそう言って、金一さんと金次君の後に付いて行く。

寝ていた部屋から卓袱台のある畳の居間に移動した。

卓袱台か......私の家にはないな。

 

「まあ、座ってくれ。キンジ、台所からお茶と菓子を持って来い。客人に何も出さないワケにはいかん」

 

「あっ、お構いなく。突然、お邪魔してしまったのに......」

 

「気にしないでくれ。これも我が家のあり方のようなものだ。ほら、早くしろキンジ」

 

「分かったよ。兄さん」

 

そう言って、金次君を台所に下がらせる。

金次君と同じで律儀な人だな。この兄あって弟ありだね。

 

「すみません。何から何まで親切にしてもらって」

 

「キンジが君をおぶって帰ってきたから驚いたが、事情を聞いたら何でも『脳の疲労』で休眠に入ったそうだな」

 

『脳の疲労』ーーこれは衛生科と救護科の先輩から聞いた事だが、私の脳は人一倍疲労しやすく、限界を迎えると休息を欲して突然の睡魔が襲ってくる。

中学時代はこんな事はなかったんだけど......武偵高校に入ってからだな。

 

「そうなんですよ。武偵高校に入学してから休眠に入りやすくなって」

 

「武偵高ーーキンジから聞いたが、君は一般中出身者だそうじゃないか。何でまだ武偵になろうと思ったんだ?正直に言って武偵は危険な仕事だ」

 

「あー、それなんですが......」

 

私はオペラーー国立劇場で金次君から聞かられたように答えた。

 

「つまり親御さんに送り込まれたと......災難だったな」

 

「ははは、まあそんなところです」

 

金一さんは呆れ気味に答える。やはり兄弟だね。呆れ顔までよく似ている。

 

「でも入学してから悪いことばかりじゃないですよ」

 

「ほう?いい事でもあったのか」

 

「はい、中学では習わなかったことばかりーー武偵の授業は新鮮で学習意欲が湧いてきます。あっ、私は探偵科を専攻してます」

 

「探偵科か......あそこはドンパチとはあまり無縁だから危険はそこまでないか。そういえば、強襲科のキンジとは気が合うそうじゃないか。君が寝ている間、あいつが言っていたよ『零には本当に世話になっている』とな」

 

金次君がそんな事を言っていたなんて......私の前では喋った事はないのにね。あの照れ屋さん......

 

「金一さんは武偵庁に勤務しているのでしたね。今日はお休みですか?」

 

「いや、偶々仕事が早く終わったから実家に顔を出しにきたんだ。俺は......」

 

「乃木坂にお住まいですね」

 

「......!俺は君に乃木坂に住んでいるとは言った覚えはないが?」

 

金一さんは驚いて目を丸くしている。

はは、驚いた顔までそっくりだ。ここまでそっくりなのはこの兄弟くらいかな。

 

「さっき仕事が早く終わったから実家に来たといいましたよね?となれば巣鴨に近い場所にお住まいなのは確実です」

 

「巣鴨に近い場所なら他にもあるが?」

 

「金一さんが着ているシャツーーそれは乃木坂にある東京ミッドタウンのユニクロの品です。この東京でファション店は沢山ありますが、服の状態からしてかなり愛用していますね。そうなれば、ユニクロで買い物ーー失礼」

 

私は金一さんの顔をジーっと眺める。うん、顔色も良く健康だ。食生活は規則正しいようだ。

 

「俺の顔に何かついているのか?」

 

「顔色も良く健康ーー食生活はしっかりしている。コンビニで済ませず、ご自身で料理している。乃木坂周辺はコンビニが少ないからスーパー特に六本木ストアーで食材を買って調理してますね」

 

一人暮らしとなれば自炊するしかない。

金一さんの服装は綺麗だ。しっかりと洗濯をしている証拠ーー綺麗好きな人は料理が得意な事が多い。

どうせ料理するなら綺麗な環境ーーちゃんとした部屋で料理したいからね。

そして食材も選んでから料理する。コンビニで食材を買うとなると限られてくる。

 

「医学にも精通しており、外科医のライセンスを取得している」

 

見るからに清潔的で普段から衛生に注意している。これは医者によく見られる特徴だ。おまけに発音に英語のニュアンスが混じっている。

 

「身体に何らかの問題......この季節、長袖のシャツと冬物ジーンズを着ている様子から自律神経が狂っており、体温調節がうまくできていない様子だ」

 

「驚いたな。まさか、それだけの情報で俺の事を分析するとは......とても一般中出身とは思えん」

 

「明白ですよ」

 

金一さんから絶賛されたが、私はまだ未熟者ーー知識が足りていない。まだまだ勉強することは沢山ある。

 

「そして変わった趣味、いえ性癖をお持ちですね」

 

最後に私は気になっていたことを言う。これは大事な事だ。今後、金一さんが人生を全うするために‼︎私からの警告なのだ。

 

「.........それはどういう意味だ?」

 

「女装癖があるでしょう?」

 

一瞬だが私から目を逸らした。ビンゴだね。

 

「......なぜそう思うんだ。理由があるのだろう?」

 

「貴方は歩く時、何度かつま先に体重を乗せて歩きましたよね?一般的に男性は踵に体重を乗せて歩くのに......見るからに足に怪我を負っている様子はない。そうなると、よく頻繁につま先に体重を乗せて歩くーーこれは女性の歩き方です」

 

女性の私はつま先に体重を乗せて歩くから、金一さんの歩き方ーーつま先に体重を乗せて歩くから変だなと思ったんだよね。

 

「髪の手入れもしっかりしている。仕事終わりにシャワーを浴びてきましたね。香りからして、これは女性に人気があるティエラコスメティクスのシャンプー」

 

おしゃれを思いきり楽しむ大人のための、美髪ベースメイクシャンプー・トリートメント。

カラーリングやパーマによる乾燥、紫外線のダメージから髪を守り、艶やかでしなやかな髪へ導く。

熱に反応して蓄積ダメージを補修するナノリペアー成分や、アルガンオイル、紫外線ダメージから守るシアバターなど、美髪成分を贅沢に配合しているから大人の女性に人気がある。

因みに私はFORM/フォルムを使っているけどね。

 

「お肌の手入れにも気を使っていますね。男性にしては肌の水分と油分のバランスが取れている。女装時の服装は......」

 

私が続けて結果を喋ろうとしたら、金一さんはガタンと卓袱台に顔をつけて、

 

「降参だ......それ以上は言わないでくれ」

 

燃え尽きた。真っ白に燃え尽きてしまった。ジョーいや、金一‼︎立つんだ金一‼︎

 

「そんなに落ち込まないでください。金一さんはパーツが整ってますし、女装しても大丈夫ーー綺麗だと思いますよ」

 

「ガバッ....!」

 

「それに趣味は人それぞれですし......」

 

「......もうやめてくれ」

 

まずい⁉︎さらに落ち込んでしまった。言い方がまずかったか......でも正直に言っただけだ。金一さんは見るからに美形だし、女装ーー化粧や服装次第では女性にしか見えないだろう。

 

「何か理由があるのでしょう?お仕事の関係ー潜入調査ですか?」

 

「......キンジが信頼している君になら話してもいいかもしれんな。実は......」

 

そう言って金一さんは身の上ーー遠山家の男子について語り出した。

ヒステリアモードーー性的興奮で自身の能力を何倍に引き上げる遺伝子。自分たちは遠山 金四郎の子孫である事。

 

「成る程......金次君が異性で傷ついたのはそれが原因だったのですね」

 

「キンジが君に話したのか?珍しいな。あいつがことを女子に喋るとは......」

 

「前に彼を分析してみたんですよ」

 

「あいつはわかりやすいからな。君にはお見通しか」

 

金次君はすぐにわかるからね。金次君の事を考えていると、

 

「お茶と菓子を持ってきたぞ」

 

台所からお茶と菓子を持って金次君が戻ってきた。

噂をすれば何たらだね。

 

「零、兄さんと何を話していたんだよ?」

 

「人生についてさ♪」

 

そう言って出されたお茶をズズッと啜る。はあー、お茶がうまい。

 

「人生って、兄さんこいつに助言でもしてやったのかよ」

 

「まあ、そんなところだ」

 

「そうそう。特に女装について金一さんから助言をいただきました」

 

ジョークで言ったつもりだったが、金一さんはまたしても卓袱台に顔をつけてしまった。

そんなに恥ずかしいのかな?

 

「......まさか、兄さんを分析したのかよ⁉︎」

 

「あー、うん。女装は趣味ではなく、仕事をするために必要なトリガーだという事をね」

 

「......ゴフッ......!」

 

「頼む。それ以上は言うな。兄さんのライフはもうゼロだ」

 

まさかここまでとは......意外だったな。金一さんを女装ネタでいじるのはやめてあげよう。しかし、反応を見ているとオモシロイ。

 

「それと君の事ーーヒステリアモードについても聞かせてもらったよ」

 

「......ッ......!聞いたのか。軽蔑しただろう?」

 

「どうして私が金次君を軽蔑する必要があるの?」

 

「気持ち悪くねぇのかよ?女に興奮して強くなる体質なんて......」

 

金次君は中学時代にその体質を女子に利用されて、都合のいい正義の味方として使われていたそうな。

だから異性や正義の味方という言葉に対して、あんなに凹んでいたのか......トラウマってやつかな。

 

「全然。金次君はご先祖様が嫌いかい?自分にそういう体質を受け継がせた家の人がーーお父さんやお兄さんを含めて」

 

「そんなわけねぇだろう‼︎」

 

金次君は声を張り上げて否定した。

 

「金次君。君がその力を代々受け継いだのには、何か意味がある筈だよ」

 

「意味って、何だよ?」

 

「力には大きな責任が伴う。力を受け継げるのは自分を戒めることができる人間」

 

「ーー誰の名言だ」

 

「自論だよ。金次君がその力を受け継いだのは、君が力の使い方を正しいものにできる人間だからだよ」

 

力といっても様々なモノがあるけどね。

 

「......力には正しいものがないようにも聞こえるぞ」

 

「力は無数にある。だが正しい力なんて存在しない」

 

「全部間違いだと言うのか......?」

 

「違うよ。それを正しいものにしていくんだよ。金次君が自分の力を正しいものにできそうないなら、私が隣に立って一緒に正しいものーー誇れるものにしてあげる」

 

金次君は何だか放って置けない。入学してから彼は危なっかしい所があるからね。私が隣に立ってあげないと。そして、力の使い方を教えてあげるよ。タダシイモノヲネ。

 

「そんな事を言われたのは初めてだ」

 

「よかったじゃないかキンジ。お前のことを受け入れてくる女子がいて」

 

いつの間にか金一さんが復活していた。誰が復活の呪文を唱えたのかな?

 

「キンジ、この子を相棒にしてみたらどうだ」

 

復活して早々、金一さんがそんな事を言ってきた。

相棒か......それはいいアイデアだ!それなら隣にいて講義できるしね。

 

「相棒って、零はいいのかよ?こんな俺でも......」

 

「私は金次君と相棒になりたいな。これからずっと」

 

まあ、高校卒業か長くて大学までは相棒でいたいな。

 

「そ、そうだな......相棒ーー武偵としての相棒だよな」

 

どうしたんだい?そんなに顔を赤くしてさ?私は何か変なことでも言ったかい?

 

その後、3人で卓袱台を囲んで雑談を交わした。

金一さんとはリボルバーの話で盛り上がった。彼はコルト・シングルアクション・アーミーを使用している。

試しに持たせてもらった。うーむ、素晴らしい。

 

「ピースメーカーは偉大な銃ーー世界で最も高貴な銃だと思いませんか?」

 

「わかるか⁉︎俺もそう思うんだよ」

 

金一さんが私の言葉に食いついてきた。

そんなに目を爛々と輝かせるとは、本当にこの銃を誇りに思っているんだな〜。けど、この銃は平和の作り手と銘打っているが実際は暗い事情があるんだよね。西部を征服した銃ーーアメリカの先住民達を......おっと、この話はやめておこう。

 

「リボルバーに1発ずつ弾を込めていると何だか命を吹き込んでいるような感じがしません?」

 

「ああ、シリンダーを出して1発ずつ弾を込める、あの感覚がたまらない」

 

「そんなに回転式拳銃はいいのかよ兄さん?あれは最大で6発しか入らないだろう」

 

なんて事を言うんだよ金次君!君にはリボルバーの魅力がわからないのか。彼はオートマチックだったな......

 

「キンジ......それは宣戦布告として捉えていいのだな」

 

金一さんは私からピースメーカーをヒョイと取り返すと金次君に向けて、ジャキッと構えた。

 

「ごめん、兄さん!だから銃を向けないでくれ!ここで撃ったらマズイから。近所迷惑になる」

 

「そうですよ金一さん。その銃は高貴な銃ーー人を撃つための銃じゃないのですから」

 

ここで流血沙汰は面倒なので私は止めに入る。

 

「まだ金次君にわからないか〜、リボルバーのクラシカルな美学が」

 

「何だよクラシカルな美学って?」

 

クラシカルな所がリボルバーの最大の魅力なんだけどな......金次君に今度、リボルバーについて講習してあげようかな。

 

「そういえば零もリボルバーを使っているんだったな」

 

金一さんが訪ねてきた。

私だけ手の内を明かさないのは失礼なので、ホルスターからそれを抜き、金一さんに渡した。

 

「ウェブリー・リボルバーか......それも初期モデルのウェブリーMr1とは中々の年代物を使うんだな」

 

「イギリスを代表する中折れ式リボルバーだから好きなんですよ」

 

中折れ式リボルバーあるいはヒンジフレーム式リボルバーとは、文字通り銃のバレル部分が折れる仕組みになっており、そして弾の排莢、装填ができる。

詳しく言うと、銃身の付け根の真下あたりに、ジョイント部分がある。リアサイト付近にある、止め金を外せば、シリンダーごと前へ折ることができ、自動的に排莢が行われる。西部劇でおなじみのピースメーカーより、少しばかり進化したリボルバーだ。

 

「フレームの強度から威力の強い弾が使えない。装填は早いが、機構の複雑さがあだとなり、今はスイング・アウト方式のリボルバーにとって代わられているが、それもまたこの銃の個性だと思うな」

 

「おお、まさかそこに個性を見出す人がいるとは話がわかりますね」

 

やはり金一さんとは話が合う!これを気に私も金一さんと同じ銃ーーピースメーカーを使ってみようかな〜装備科にお願いすれば用意して貰えるかも♪

 

 

「すっかり話し込んでしまったな」

 

「いいえ、楽しかったですよ。リボルバーについてこんなにも語ることができて」

 

時刻は18時ぴったりだ。本当に話し込んでしまった。お腹が減ってきたな。

 

「取り敢えず、なんか食べるか。零も食っていけよ」

 

金次君が提案してきた。嬉しい話だが家で休ませてもらったし、お礼はしないとね。

 

「だったら私が作るよ」

 

「料理できるのかよ?でも客人に飯を作らせるのは......」

 

「いいよ。気にしないでテーブルに座って待っていたまえ。金一さんもいいですよね?」

 

「構わないが......うちの台所にある食材では和食くらいしか作れないぞ」

 

ご心配なく、限られた食材で料理を作る事で新しい発見があるかもしれない。寧ろ、楽しい状況ですよ!

2人の了解を得て、私は台所に移動した。

 

「えーっと、何があるかな?」

 

冷蔵庫を開けて、食材を確認する。

卵、玉ねぎ、鶏肉、トマトケチャップーーこれならオムライスができるね。

私は早速、調理を開始する。

 

数十分後ーー

チキンライスが完成した。あとは溶き卵を乗せるだけだ。しかし、それだけでは何か足りない。せっかく、実家で休ませてもらったのだから、美味しいーーアレンジを加えたモノを出したい。

他に何かないか探しているといい物を発見したーーねりからしだ。

これはいいぞ!私は早速、チキンライスにねりからしのチューブを丸ごと一本加えて混ぜた。ねりからしはいいんだよね〜食べるとスカッとする。

 

「他には何かないかな?」

 

探してみると、あるある。様々な食材が置いてあるではないか!探せばあるものだ。

辛子明太子、唐辛子、わさび、ショウガを発見した。全部刻んで混ぜて味見してみた。うーむ、まだ何か足りない。

フッと台所を見てみると、にんにくを発見した。これだ!

 

 

 

「お待たせしました」

 

私はできたオムライスを持って、居間に戻ってきた。

 

「オムライスか......よくうちの食材だけで作ったものだ」

 

「意外だったぜ。まさかお前が料理できるとはな」

 

失礼だな金次君!私だって料理くらいできるさ。

 

「ほら、金次君。あーん」

 

私はスプーンでオムライスをすくって金次君に食べさせようとした。

 

「おい⁉︎ガキじゃないんだから変な事すんな!」

 

「ははは。キンジは恥ずかしやがり屋だな。いいじゃないないか相棒から食べさせてもらえ」

 

金一さんは面白そうに笑って眺めると、オムライスを口に運んで、

 

「自分で食うから必要ない」

 

金次君はそう言ってタイミングぴったりにオムライスを口に入れて、

 

「「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎あひは!ふひは!」」

 

兄弟揃って断末魔を叫んで、足をバタバタさせ卓袱台をひっくり返した!

2人ともどうしたのさ⁉︎私が疑問に思っていると2人は「み、水ぅぅぅぅ‼︎」と叫ぶながら這って台所に駆け込んで行った。

 

「これって、私のせいかな?」

 

何であんなに叫んだんだろう?味見した時、私は何ともなかったけどな。

 

 




今度はシチューにしようかな


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愛を取り戻......いいや奪っちゃえ♪

最初に武藤君ファンの皆さま、ごめんなさい‼︎


 

東京武偵高校ーー車輌科にて

時刻は午前12時40分、お昼休みだ。

 

「武藤君、例の物は手に入ったかい?」

 

「勿論だぜ。確認してくれ」

 

私は武藤君と一緒に車輌科のガレージに来ていた。

何故ここに来たかというと、武藤君を始めとした車輌科の人たちにあるブツをお願いし、受け取りにきたからだ。

 

「ほらよ、ご対面だぜ」

 

武藤君はそう言って、ガレージのシャッターをガラリと開けた。

薄暗いガレージの中にあったのは、黒塗りの車ーーポルシェだった。

 

「ポルシェ356aーー水平対向エンジンを搭載。旧車マニアの間では、コイツは、たまらない名車中の名車だぜ」

 

これこそ私が武藤君ーー車輌科にお願いして、手に入れてきてもらったブツだ。

ポルシェ356A

ボディから独立してガード付きバンパー、曲面形状のシングルピース・フロントウインドウに丸型テールライト

1956年代のスポーツカーであり、ポルシェと言う名前を世界中に広めた名車だ。

決して、某子供探偵に登場したから気に入ったのではない!

偶々、車のパンフレットを見てたら気に入ったので、車輌科にお願いして探してもらったのだ。

 

「せっかくだから、エンジン吹かしてみろよ」

 

武藤君がキーを私に投げて渡してきた。

そうだね。せっかくだし、エンジンをかけてみよう。

運転席に乗り込み、キーを挿し込んで回すとブォォォォォオンというエンジン音がガレージに響く。

うーむ、この独特の不等長なアイドリング音は実に素晴らしい。

高校1年生で車の運転ができるとは、武偵免許は本当に便利だよね♪

 

「探しくれてありがとう、武藤君」

 

「いいって事よ。零に世話になりぱなしだったから、借りが返せてよかったぜ」

 

世話......あっ!勉強のことだね。

大袈裟だな〜私はほんの少しだけ、少しだけアドバイスしただけさ。

 

「しかし、零も渋いな。ポルシェ356aを欲しがるなんてさ」

 

「この丸みを帯びたポルシェ独特のフォルムが気に入っちゃってさ。それよりも本当に良かったのかい?相場の半分の価格でさ?」

 

この車は勿論、私のお金で買った物だ。武藤君ーー車輌科には探し出してもらっただけ。

最初は相場の金額を武藤君たちに渡そうとしたのだが、「そんなに要らないぜ。半額で手に入れてくる」と言ってきたのだ。

頼もしいと思った私は、お手並みの拝見も兼ねて任せた。

武藤君の態度を見るからに本当に半額で手に入れてきたようだね。

 

「構わねえよ。特定の車を探し出して、限られた金額で手に入れるのも俺たち車輌科の仕事だからな」

 

限られたって、そっちが提示してきたじゃないか。

無理せず相場の価格でよかったと思うけど......まあ、いいか!

 

「......なあ、零。ちょっと相談したいことがあるんだが、いいか?」

 

おや?急にどうしたのかな?また、勉強......いや、最近の武藤君の一般科目の成績は向上している。

この態度を見る限り、勉強関係ではなさそうだね。

 

「構わないよ。どうしたのかな?悩み事があるなら言ってごらん」

 

「ああ、実はよ......白雪さんについてなんだ。最近、キンジと恋人になったと聞いてよ」

 

あー、なるほど。武藤君はまだ白雪さんのことが諦めきれていないんだ。

白雪さんは最近は積極的になって金次君の側に付いている。「自分こそキンちゃんの恋人だ!」と言わんばかりのイキオイだ。

白雪さんは武藤君の気持ちに気づいていないな。

 

「白雪さんのことが諦められないんだね」

 

「ーー白雪さんを巡って、キンジとランバージャックをやったが勝てなかった」

 

ランバージャックか......懐かしいね。あれは入学直後に、金次君と武藤君が徒手でやった。

白雪さんと仲良くしている金次君が気にくわなくて、武藤君から仕掛けたんだっけ。お互いヘロヘロになるまで戦って、最後は金次君が勝ってたな。

 

「また白雪さんを巡って、ランバージャックを申し込むのかい?やめておいた方がいいよ」

 

「なんでだよ?」

 

「白雪さんは金次君一筋だからさ」

 

残酷かもしれないが敢えて、私はハッキリと武藤君に伝える。

それを聞いた武藤君は握り拳を作り、

 

「それくらい、とっくにわかってんだよ!白雪さんの気が俺にないことくらい!でも、でもよ......今でも好きなんだ」

 

声を張り上げたと思ったら、悔しそうに悲しそうにトーンを落としていった。

これは重症だね〜未練を自分の好きな物ーー車で紛らわしていたが、白雪さんと金次君が仲良くしている光景を見て、思いがぶり返したんだ。

 

「ーーじゃあさ、奪っちゃえばいいんだよ」

 

「奪うって、キンジから白雪さんをか?どうやってだよ?いや......親友に対してそんな事は......」

 

ありゃ?言い方がマズかったか......奪うという表現は外聞きが悪いね。

 

「武藤君ーー君の白雪さんに対する愛は本物だと私は思うよ。だからさ、その愛を白雪さんにぶつけるんだよ」

 

愛には様々な形があるからね。純粋な愛もあれば歪んだ愛もある。しかし、どれも愛に変わりはない。

 

「古来から女性というのは強い男性に惹かれるものさ。武藤君が金次君より強いことを証明すれば、きっと白雪さんは武藤君に振り向いてくれるはずさ」

 

「その方法がわかんねぇよ......また、ランバージャックでもやればいいのか?」

 

「うん、そうだよ。もう一度、金次君と戦うんだよ!そして、今度こそ勝利を掴むんだ」

 

まあ、私の計算では十中八九金次君が勝つだろうがネ。

武藤君は体格的に金次君に勝っているが、それでも負けた。何故か?金次君は幼い頃より祖父、父親や兄から戦い方を習って育った。スペックーー育った環境が違いすぎる。まあ、応援はさせてもらうよ。

これで金次君と戦って負ければ、武藤君も未練を断ち切れるだろう。

彼には新しい恋をしてもらいたい。

 

「武藤君はもっと自由になっていいと思うよ。それこそバイクみたいに」

 

「なんでバイクなんだ?例えになってないぞ」

 

「バイクは車道を走れるし、歩道も走ろうと思えばできるでしょう?」

 

歩道を行けば歩行者に迷惑だが......下手な例えかな。それを言うなら自転車の方がいいだろう!なんちゃって。

 

「......確かに......そうだ。そうだよな......!」

 

なんか武藤君が納得してしまった。

おーい、今のは冗談だからね。

 

「ありがとうよ零。なんかスカッとした。そうだよな......もっと自由になればいいんだよ。なんで今まで気づかなかったんだよ、俺はよ!」

 

「あー、うん。そうだよ自由にね。でも、程々にしてね」

 

「となればどうやるか......ランバージャックでいくか?でも、リング役はどうすればいい?不知火はいねえし、理子は入院中だしよ」

 

私の声が聞こえていないのは、武藤君は1人でプランを練っていた。

それにしても、りこりんか......土曜日に差し入れ持って絶対に行こう。

 

「同じ車輌科の人たちにリング役をお願いしてみればどうかな?」

 

「あー、でもよ......あいつらにも予定があるし、俺の戦いに巻き込むのはな」

 

「だったら私が説得してみようか?」

 

「本当か⁉︎ありがとうよ零。早速、頼むぜ」

 

 

 

 

キンジ視点ーー

 

「はい、キンちゃん。あーん」

 

俺は今、白雪と一緒に校庭の芝生にシートを敷いて、飯ーー白雪が作ってくれた弁当を食べている。

こうも変わらず5重の弁当箱とは、朝起きて作るのは大変だろう?

 

「そういう事はいいって、白雪。自分で食べるからよ」

 

「そんな......!酷いよキンちゃん」

 

おいっ⁉︎そんなに落ち込むなよ白雪。たかが弁当くらいでよ。

 

「......わかった。ほら、食わせてくれ」

 

「うん!はい、あーん」

 

白雪の掛け声に合わせて、俺は口を開ける。

うん、うまいな。白雪の飯は本当にうまい......零よりも遥かにな!

あいつの料理はある種の兵器だ。

ヤバイ!思い出すのだけで昨日の料理の味が......!

出てくるな!白雪の料理ーー味が汚染される!

俺と兄さんはあの時、オムライス(外見だけは見事な)を食って死にそうになった。

1つしかない台所の蛇口を求めて、奪い会いになったんだぞ!しかも、兄さんは俺に桜花を打ち込んでくるし......最悪だ。

結局、俺はそのまま洗面所の水道を使った。

 

「なあ、白雪。今度、時間がある時でいいから零に料理の基本を教えてやってくれ」

 

「別にいいけど......どうして?零さんは料理が得意そうに見えるけど」

 

得意だと⁉︎とんでもない。

確かにあいつの料理は外見だけは美味そうだが、中身は食べられた物じゃない。

零の舌ーー味覚はどうなってんだ?

 

「あいつの料理を一度食ってみればわかる......」

 

「......そんなにすごいの、零さんの料理?」

 

ああ、ある意味でスゴイ。白雪も食べてみれば......いや!ダメだ。白雪が死ぬ。

そんな事を思っていると、背後からブォォォォォオンという喧しいエンジン音が近づいてきた。

誰だよ⁉︎こんなにエンジンを吹かしてるのは⁉︎それにこのエンジン音はカワサキのGPX250じゃねぇか。俺が後ろを向くと、

 

「ヒャッハー!キンジ発見‼︎」

 

「よ〜う!キンジ〜お昼ご飯でちゅか〜!」

 

「白雪ちゃんと一緒にお昼とはいい身分じゃねかよ‼︎」

 

「羨ましいな〜俺らも混ぜろよ」

 

ドッドッドッドッドッドッというエンジン音をBGMに何十台ものバイク集団がいた。

何だよコイツら⁉︎いや、待って。落ち着いて観察してみれば、どいつもこいつも見たことのある顔ーー車輌科の連中じゃねぇか⁉︎

 

「キ、キンちゃん......何なのこの人たち?怖いよ......」

 

おれの背後で白雪が震えている。それもそのハズだ。全員、半袖の革ジャンに何故かトゲ付きの肩当てをつけている。

自己主張の為なのだろうか、派手なメイクをしている奴もいるれば......あ、頭をモヒカンにしている奴もいるぞ⁉︎

手には釘バットやナイフ、マシンピストルやAKー47まで持ってやがる。

 

「お前らどうしたんだよ⁉︎揃いも揃って変なカッコしやがって......!」

 

「うるせぇー‼︎これはな......自由の証なんだよ!」

 

じ、自由だと?何を言ってんだよ。誰が見てもダサい格好だぞ。恥ずかしくないのかコイツら?

 

「俺たちはな何ものにも縛られない自由武偵になったんだよ!」

 

「おうさ!武偵法なんかクソ食らえだ!」

 

「他人の決めたルールではなく、自分の決めたルールに従うと決めたんだ!」

 

待て待て!武偵が武偵法を守らなくなったら無法者じゃねぇか!いやコイツらは最早、無法者か......

俺が呆れていると、集団を掻き分けて一台のハーレーダビッドソンが現れた。

 

「ヒャッハー‼︎会いたかったぜ。キンジ〜久方ぶりだな」

 

「武藤......⁉︎」「武藤君......⁉︎」

 

ハーレーに乗っていたのは武藤だった。

髪を金髪に染めて耳にはピアス、首には髑髏のネックレスをしている。服装は半袖の革ジャンにトゲ付きの肩当てしている。お前もかよ‼︎

髪を染めていたから一瞬、誰だがわからなかった。

 

「コレは仮装パーティーのつもりか?車輌科はいつから無法集団になったんだ?」

 

「黙れぇ‼︎俺らはな、束縛から解放されたんだよ」

 

武藤は何処からかナイフを取り出し、ペロッと舐めて答えた。舌を切るから危ねぇぞ。

見るからにただのチンピラだ。

待って......さっき武藤は解放されたと言った。こいつら誑かしたヤツがいるのか?

 

「おい!武藤。一体、誰に誑かされた?こんなふざけた事をするよう命令でもされたのか?」

 

「命令〜?違うね。俺たちはあの方に自由に生きるようアドバイスを貰っただけさ!なあ、お前ら?」

 

武藤の問いに「おうよ‼︎」と他の連中が答える。

あの方?やっぱり誰かが武藤たちを誑かしやがったのか......⁉︎

ふざけやがって......武藤は時々ぶっ飛んだ所があったが、ここまでやる奴じゃない。許せねぇ。

 

「お前らの目的は何だよ?団体で来るってことは何か用があるのか?」

 

「ああ、そうだよ!遠山 キンジ!俺はお前にランバージャックを申し込むぜ!」

 

ランバージャックって、入学直後にやったアレか......何で今更?

 

「それもあの方とやらのアドバイスか?自由と言っておきながらまるで犬だな」

 

俺の言葉を聞いて、他の連中が「あぁん?」とキレだした。

これくらいでキレるなよ。車輌科は大雑把なヤツが多かったが、俺が知るかぎり、ここまで短気じゃなかったぞ。

 

「ヒャハハハハハ、犬、犬、犬ときたか。ハハハハハ」

 

武藤は狂ったように笑い出した。

だ、大丈夫かよ。本当に武藤だよな?

 

「俺たちを犬呼ばわりした罰を与えてやるぜ。おい!」

 

武藤の命令と共に、ヒュンと俺の首に鎖が巻きついてきた。

苦しい....突然、何しやがる!

 

「ランバージャックの前にグランド100周の刑だ!」

 

ブォォォォォオン‼︎ブォォォォォオン‼︎とエンジンが火を噴く。

それとも「ヒャッハー!」と声から、パラリラパラリラというクラクションが鳴り響く。

 

「行くぞお前ら!」

 

武藤の掛け声に合わせて発進する。

待って⁉︎このまま、引きずって行くつもりか!

 

「キンちゃぁぁぁぁぁぁん‼︎」

 

白雪の声が遠ざかっていく。

それと共に俺はバイクで引きずられていった。

 




ランバージャックの結果はーー

黒焦げのバイクの残骸が辺りに散らばっている。全て一瞬で高温の炎によって焼かれたようなひどい状態だ。
そんな中でキンジと武藤、頭に結んでいた白いリボンを解いた白雪の3人だけが立っていた。

「俺が欲しかったのは......白雪さんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

武藤は最後にそう言うと、力尽きて倒れた。


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犯人は......お前だ‼︎

この話で誰もが「お前が言うなぁぁぁぁぁ‼︎」と思うでしょう......




 

キンジ視点ーー

 

土曜日だというのに、俺は武偵病院のベットの上で寝ている。

武藤ーー車輌科の連中はランバージャックの前に俺を鎖で繋ぐと、そのままバイクでグランドを走り回りやがった。

あらかた走り終えると、間を入れずにランバージャックを開始した。

 

「あー、くそっ!思い出すだけで痛くなる......」

 

あれはランバージャックという名のリンチだったぞ!

俺と武藤を囲んでいた連中は武藤に味方するし、武藤に至っては凶器ーー散弾銃まで持ち出しやがった。

それに対して俺は素手で勝負するしかなかった。ダチに銃を向けるなんてしたくなかったからな。

 

「しかし......武藤はどうしちまったんだよ!」

 

武藤の様子は明らかにおかしかった。

あいつは偶にイッテルところがあったが、あそこまではひどくはなかった。

真っ直ぐで曲がったことが大嫌いな感じのいい奴だったのに!

武藤について考えていると、ガラリと部屋のドアを開いて、

 

「やあ、金次君。お見舞いに来たよ〜」

 

零が入ってきたーーその手にフルーツの盛り合わせが入った籠を持って。

炎天下の中、歩いてきたのだろうか?夏用の制服は汗で濡れて透けている。おいっ⁉︎下着が透けてるぞ!

しかも、く、黒だと⁉︎

待って⁉︎近づいてくるなよ!

 

「おや?どうしたのかな金次君〜興奮しているのかい?ならば思う存分興奮したまえ。知っているかい?興奮することで血流が早くなると、傷の治りが早くなるんだよ」

 

零は俺の側に寄るとやたらと胸の辺りを強調してくる。

そんな知識知らねえし!知りたくもねえよ!

こいつは本当に俺を揶揄ってくる......絶対にこいつでヒステリアモードになってたまるか!もしもなってみろ。その時はさらに揶揄われるに違いない。

 

「何の用だよ?こんな俺を見て笑いにきたのか?」

 

「そんなわけないよ。相棒が怪我を負ったと聞いてお見舞いに来たんだよ。さっきも言ったでしょう?」

 

零は丸椅子を持ってくると、俺の側に座って籠からりんごを取り出し剝きだした。

うん?何だよその変わったナイフは?

零の使っているナイフーー柄は丸くスイッチのようなモノが付いている。

 

「変わったナイフだな。かなり大きいし、重くないのか?」

 

「これかい?これはワスプナイフと言ってね。前に装備科の子から相談に乗ってあげたお礼として貰ったんだよ」

 

ワスプナイフーー直訳するとスズメバチのナイフ。文字通り蜂の一刺しのごとく、ナイフの柄の部分に仕込んである高圧ガス(炭酸カートリッジボンベ) が、スイッチを押すことで刃の部分から一気に噴射されるというもの。これにより刺した臓器や対象物は瞬間冷凍され、そのまま木っ端微塵に粉砕されてしまうという恐ろしい代物だ。

おいおい⁉︎なんて物でりんごの皮を剥いてんだよ。

それは本来、海でダイバーがサメに襲われた場合に備えて持っている物だぞ。

 

「間違っても人間に使うなよ。刺した瞬間、木っ端微塵だからな」

 

「大丈夫♪人間に使うなんて、そんな恐ろしい事を私がする訳ないじゃないか」

 

悪いが零......お前ならやりそうな予感がする。

いや考え過ぎか。こいつも武偵だし武偵法はしっかり守るだろう。

 

「それよりも金次君。聞いたよ、武藤君を始めとした車輌科の人達と乱闘したんだってね。うちのクラスはその話題で持ちきりだよ」

 

あー、そうなるよな。グランドのど真ん中であれだけの騒ぎを起こせば人目につくか......

俺と武藤と何十台ものバイク集団、おまけに全員おかしな服装に頭をしていればな。

 

「おまけに白雪さんも乱闘に加わったんだって?意外だなー、あの大人しそうは白雪さんがね」

 

白雪か......ランバージャックという名のリンチで一方的にやられている俺を見て白雪がキレた。

突然、頭に結んでいた白いリボンを取ると炎を出しやがった。

そして、その炎で車輌科の連中が乗っていたバイクを焼き払った。

白雪の話ではあれは超能力の一種で、普段はリミッターとしてリボンを結んで抑えているそうな。

 

「白雪は、あいつは何も悪くない。悪いのは不覚を取った俺の方だ」

 

「自虐的だね。いや白雪さんを庇うーー優しい所は金次君のいいところだね」

 

「褒められても嬉しくねぇよ」

 

「そうかい。それにしても白雪さんは入院していないみたいだね。受付で確認してみたけど居ないって言われたよ」

 

白雪はあの後、教務科に連れて行かれた。

後で確認したら、何でも青森の実家ーー星伽神社に呼び戻されたそうだ。

 

「あいつは実家に帰ったよ。なんか星伽の禁を破ったとか何とか......」

 

「なるほどね。白雪さんの実家は神社だし、色々と訳ありぽいね。まあ、そこは踏み込んであげない方がいいかもしれないね。はい、りんご」

 

そう言って零は剥き終えたりんごを俺に差し出してきた。

確かに......白雪の実家は閉鎖的な所があるし、色々と訳ありな事もあるか。

 

「どうしたの金次君?ほら、遠慮なく」

 

「ーーなあ、零。これは自家栽培とかそんなんじゃないだろうな?」

 

俺は思わず、こいつの料理について考えてしまった。

こいつの料理は食べられた物じゃない!前に試しに自分で作った料理を食わせてみたが、平然としてやがった。こいつの味覚は本当にどうなってるんだ?

 

「自家栽培だなんて......フルーツはしてないよ」

 

フルーツ以外はするのかよ!こいつの育てものはどうなるんだ?まずい!考えただけで胃が⁉︎

 

「なら、いい」

 

俺は意を決して、りんごをシャックと一口齧った。う、うまい⁉︎りんごがこんなにうまく感じなんて⁉︎普通の食材は素晴らしいぞ。

 

「ーー零。お前は武藤たちの事をどう思う」

 

「武藤君たちがどうかしたの?あー、気になるよね。あれだけボロボロになれば」

 

俺はりんごを食べならがら、零に武藤たちについて尋ねた。

行儀が悪いとか細かい事は気にしている場合じゃない。これは重大な話だ。

 

「怪我の事じゃない。実はな......武藤たちは誰かに唆されたようなんだ」

 

「武藤君たちが?うーむ、武藤君たちの様子は私から見てもおかしいなとは思ったね」

 

「......なんだか見ていたような口振りだな」

 

「うん。見てたよ。私も加勢しようと思ったんだけど教務科の先生たちに止められてね。ごめん、相棒のピンチに駆けつけられなくて。相棒失格だね」

 

零はショボーンと、落ち込みだした。

そんなに落ち込むなよ......これじゃ俺の方が悪いみたいじゃねぇかよ。

 

「ーー言い方が悪かった。すまん、教務科に止められたんじゃ仕方ないよな」

 

「いや、気にしないで金次君。さて、気を取り直して話の続きといこうか?どこまで話したっけ?」

 

「ああ、武藤たちは誰かに唆された気がしてしかたないんだ。武藤は俺と戦う前に『俺たちはあの方に自由に生きるようアドバイスを貰った』と言った。俺はあの方という奴が今回の乱闘騒ぎの黒幕だと思うんだ......それと」

 

俺は零に事の顛末を語った。

 

 

 

 

「......ふーん、なるほどね。あの方とやらの正体は直ぐにわかるとも思うよ。武藤君から直接聞けば......」

 

「それなんだが、武藤はまだ意識を取り戻していないんだ。医者の話では肉体のダメージが酷いみたいだな」

 

武藤を始めとした車輌科の連中はランバージャックの後、全員病院送りになった。

幸いにも一命を取り留めた。もしも死人が出たら大変だからな。

 

「うーむ、武藤君から話が聞けないのは痛いね。なら意識が戻るまでの間、私たちで黒幕を見つけようじゃないか」

 

「手伝ってくれるのか......!」

 

「当たり前じゃないか。私もその黒幕とやらに腹が立っているんだよ。金次君のダチは私のダチでもあるからね」

 

ダチって、零もそんな言葉を使うんだな。意外だったぜ。

 

「それじゃあ、今ある情報で推理してみようか。あっ、一個貰うよ」

 

そう言って零は林檎を丸ごと1つガリッと齧った。

おい⁉︎剥かないのかよ。

そのままモグモグと口を動かしながら、

 

「うーむ、まず武藤君が何故、そんな暴挙に出たか?金次君、何か思い当たる節はないかい?」

 

俺に尋ねてきた。俺も人のことは言えないが口に物を入れて喋るな。

 

「武藤は最後に『俺が欲しかったのは白雪さんだぁぁぁぁ』って言ったんだ。多分、白雪が関係していると思う」

 

「いや、正確には白雪さんと金次君じゃないかな?知っているかい?クラスの間では白雪さんと金次君は恋人同士だって噂だよ」

 

恋人って、俺と白雪はそんな関係じゃないぞ。一体誰だよ?そんな噂を流したのは?

 

「じゃあ、武藤がああなったのは俺と白雪のせいだって言うのか?」

 

「いや、そうじゃないよ。武藤は恐らく、なんと言えばいいかな......金次君。最近、白雪さんと一緒にいる時間が多くなかったかい?」

 

そう言えば確かに、最近は白雪と一緒にいる時間が多かった。昼食や放課後なんかが特に一緒にいたな。

昼食なんか白雪が作った弁当を食べたりして......

 

「恐らく、武藤君は白雪さんが好きだったんだよ。思い当たる節があるんじゃないのかい?例えば......入学直後のランバージャックとかさ」

 

「武藤のあれは白雪を巡ってのだったか......そう言えばやる前にやたらと白雪について喋ってたな」

 

「そしてランバージャックで金次君に敗北し、白雪さんの事は諦めた」

 

「俺に負けた?すまんが、ランバージャックについては、よく覚えていないんだ」

 

俺は武藤とランバージャックをしたのは、覚えているが結果は知らない。お互いボロボロになるまでやったのは覚えているが......

 

「私の知る限り、勝ったのは金次君だよ。おっと、話を戻すね」

 

零は話に一区切り付けると、また林檎を齧りだした。

 

「武藤君はそれを境に白雪さんへの思いを諦めた。しかし、金次君と白雪さんが仲良くしている光景を見て、昔の想いが蘇ってしまった」

 

武藤......そう言えばアイツは「俺はお前と白雪さんが仲良くしている光景を何度も何度も何度も見せられて、悔しかったんだよ‼︎」って泣きながら言ってたな。

 

「武藤君はあの方とやらに、その想いを利用されたんじゃないのかな?」

 

零はそう言うと林檎を食べ終えた。

お前は林檎の芯まで食べるのかよ。せめてタネは捨てろよな。腹を壊すぞ。いや、こいつなら心配ないか。

 

「それじゃ何か?武藤はまんまと踊らされたのかよ‼︎くそっ、人の想いを利用しやがって......‼︎」

 

クソッタレ‼︎胸くそ悪いぜ。黒幕もそうだが、武藤の心情に気づいてやれない自分にも腹が立ってきた。

 

「......本当に酷いよね。人の想いを利用するなんて最低だ」

 

「俺は何が何でも黒幕を見つけ出す!そして、この落とし前をつけさせる」

 

「私もいるよ?」

 

零は突然、俺の手の甲に自分の手を乗せてきた。

ふんわりとして、肌は白く見るからにスベスベだ。

 

「金次君、私は君の相棒......確か武偵は『仲間を信じ、助けよ』だったかな?ごめんね。その辺りはまだ覚えきれてなくてね」

 

「いや、まあ、だいだい合っているぞ」

 

「全部1人で抱え込む必要はないよ。どれ、私も抱えてあげようじゃないか。お荷物1つ1000万で‼︎」

 

「って、タダじゃないのかよ⁉︎しかも1000万とか高すぎだ!」

 

「ははは、ジョークだよ」

 

まったく、こいつは......冗談も程々にしろよな。

 

「まあ、ありがとうよ。なんか気が楽になった」

 

「どういたしまして」

 

こいつは俺を揶揄ってくるが、不思議と頼りになる。こいつと一緒にいれば、近い内に武藤を誑かした黒幕にも辿りつけるだろう。

俺が決心していると、部屋のドアが再びガラリと開き、

 

「キー君、ちょりーす」

 

理子が入ってきたーーその手に沢山のお菓子を持って。

そういえばこいつの病室は俺の隣だったな。

 

「おや、れいれいじゃん!どうしてここにいるの?」

 

「不甲斐ない相棒のお見舞いさ♪」

 

おいっ!不甲斐ないって、どういう意味だよ?

 

「相棒⁉︎すごいじゃんキー君!どうやって攻略したのさ?れいれいは難易度MAXなのに」

 

理子はベットの周りを走り回りがら騒ぐ。

うるせぇぞ‼︎病院では静かにしろよな。

ちょっとは零を見習えよ。

 

「まあまあ、りこりん。これでも食べて落ち着きたまえ」

 

零は理子に自分が持ってきたフルーツの盛り合わせを差し出した。

それは俺の見舞いの品じゃないのかよ。

 

「ありがとうれいれい。じゃあ、私もこれあげる」

 

理子は持ち込んでいた菓子の1つーーまんじゅうのようなものを零に差し出してきた。

 

「......」

 

「どうしたのれいれい?ももまん嫌いだった?」

 

「あー、ごめんね、りこりん。私、これ苦手なんだ」

 

零はまんじゅうーーももまんを見て、苦笑いした。どうしたんだ零。そんなにももまんが苦手だったのか?

俺には何だか大嫌いな物を見ているように見えるぞ。

 

「そうだったんだ〜ごめんね。りこりん知らなかったよ」

 

「ははは、気にしないで。さあ、フルーツをお食べ」

 

「ねぇ、これってどこで買った物なの?」

 

「それかい?私の自家栽培さ♪」

 

「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

突然、理子は叫び出すと病室から走って逃げっていった。

おい、どうしたんだ理子⁉︎待て、確か理子の入院した原因は......

 

「なあ、零。お前、理子に手料理を食わせたか?」

 

「......さあ、ナントコトカワカラナイナ」

 

嘘吐け‼︎

理子の入院の原因はお前か......理子のあの様子は尋常じゃなかったぞ。

あれはトラウマものだな。うっ⁉︎なんだ料理の事を思い出すと急に腹が......⁉︎痛い‼︎凄く痛むぞ‼︎おまけに目眩が!

 

「金次君?どうしたんだい?金次君!応答して金次くーーーーん‼︎」

 

零のそんな声を聞いて、俺は意識を手放した。

 




林檎ーーこのアイテムが意味するものとは。

白雪は実家に......理子は入院が延び......武藤は記憶が飛んだ


次回はホームステイ。さて男か?女か?
あの狙撃の名手さんをどうするかな。


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黒に染まれ

急展開になるかもしれませんが、ご了承ください。では、どうぞ!


「うーん、この車はいいね」

 

私はポルシェ356aに乗って、実家を目指して走っていた。

今日は実家にホームステイする子がやってくるので、その歓迎の為に途中でスーパーに寄り、カレーの材料を買った。

カレーはいいよねー万国共通だし、大概の人は食べてるし。

 

「しかし、武藤君たちには悪い事をしてしまったね」

 

武藤君ーー車輌科の人たちのことを思い出す。

自由になりたいという武藤君の手伝いにと他の車輌科の生徒にも協力を要請してみたが、まさか他の人たちまで自由になりたがっていたとは意外だった。

私が「せっかくだし、もっとファンキーになりなよ」と一言を付け足すと、各々好き放題しだしてあのザマだ。

 

「まあ、結果的にいいものが見れたし結果オーライだよね!」

 

ただ自由にするだけでは勿体ないので、車輌科を使って金次君の実力テストを行うことにした。

金次君&白雪さんのコンビは学校内では周知の仲で、常に一緒にいることはわかっていた。そんな2人の前にお構いなく武藤君たちが向かうこともね。

危ないと思うかもしれないが、私の計算上、安全だと判断したので行うことにした。

金次君は単体でも強いが、彼が真に力を発揮する瞬間は誰かを守るーー異性を守ろうとする時だ。これは金一さんから聞いた遠山家の男子の特徴。

白雪さんの前に武藤たち(ヒャッハー状態)が現れたらどうなるか?

金次君なら身を呈して守るだろう。

 

「金次君だけじゃなく、白雪さんもテストに参加してくれて助かったよ」

 

ランバージャックで最初、金次君は押され気味だったが、白雪さんが現れると変わったーーあれがヒステリアモードと呼ばれるものだろう。

その後は形勢逆転し、武藤君を追い込んでいった。しかし、ピンチに見舞われた武藤君はあろうことか車輌科に助太刀を頼んだ。

パワーアップした金次君でも、数十人にも及ぶ車輌科を相手にするのは苦戦を強いられた。

あれは殆どリンチだった。そんな金次君を見ていられないと白雪さんが助けに入った。

いつも頭にしていたリボンを外し、炎を出すと「キンちゃんに近づく汚物は消毒‼︎消毒‼︎しょーどーく‼︎」と叫びならが車輌科の面々を焼いていった。勿論、バイクだけだよ。

 

「おっ!見えた」

 

一昨日のことを思い出していると、懐かしき実家が見えてきた。

相変わらずの和洋折衷な造りの屋敷だ。

私は車を敷地内に止めると、そのまま降りた。時刻は11時30分だ。

 

「さて、ホームステイする子とご対面しましょうか」

 

今日の朝ーー午前5時頃に父さんから突然電話が掛かり、「ホームステイする子には家の鍵は渡してあるから」という連絡をもらった。

父さん......電話する時間を少しは考えてよ。

私、就寝前にネットオンラインチェスをやっていたから眠かったんだよ。

相手はイギリスでハンドルネーム『むにゅえ』と呼ばれる人ーー最近になって見つけた強敵だ。初戦で私が勝ったが、相手は中々の負けず嫌いで何度も再戦を申し込んできた。

結果、私は33戦中16勝17敗0引き分けで終わった。正直、悔しい。

機会があれば再び戦いたいね。

そんな事を思いながら家の玄関の鍵を開け、中に入ろうしたが鍵は開いていた。

おや?もうすでに中にいるのかな?

 

「ただいまー」

 

少し間伸びした声で帰宅を知らせると、奥から

 

「お帰りなさいませ」

 

金髪で中性的な顔立ちの''女の子''が現れた。身長はスラリと高く170はある。私よりもあるぞ。

頭はシニヨンと呼ばれる結い方で纏めている。この髪形にはかなり長い髪が必要になるので解けばおそらく、肩まで余裕で届くだろう。

服装は白のワイシャツに黒のズボンだ。

 

「えーっと、君がうちにホームステイするって子かな?初めまして、私の名前は玲瓏館・モリアーティ・零です」

 

「本日からこちらでお世話になります。セバスチャン・モランと申します」

 

「セバスチャン・モラン?もしかして貴女......セバスチャン・モラン大佐と関係があったりする?」

 

セバスチャン・モラン大佐

1840年生まれ。イートンとオックスフォードで教育を受けた後、アフガンに従軍し、カーブルに駐屯。

退役後、ロンドンに戻る。モリアーティ教授に見出されて彼の部下となる。射撃の名手、猛獣狩りの名人、カードゲームの達人である。

シャーロック・ホームズに「ロンドンで2番目に危険な男」と称された。

 

「はい。セバスチャン・モランは私の曾祖父で間違いありません」

 

彼女はキッパリと答えた。

なんと⁉︎モリアーティ教授の右腕といわれたモラン大佐の子孫と会えるとは....しかも、同姓同名とは彼女の両親はどんな思いがあって、同じ名前を付けたのだろうか。

 

「あなたの事も聞いておりますーー私の曾祖父と縁深きお方、ジェイムズ・モリアーティ教授のお身内だという事を」

 

はい?今、なんて言ったの?私がモリアーティ教授の身内⁉︎.

 

「あー、ごめん。私の聞き間違いかな?誰がモリアーティ教授の身内だって?」

 

「貴女の事ですが?何か問題でも?」

 

問題大ありです‼︎モリアーティ教授ってシャーロック・ホームズ最大の宿敵、悪のカリスマじゃん。いや、落ち着け。

 

「ジョークだったりする?アメリカンジョークなんちゃって」

 

「いいえ、冗談ではありません。それと私はアメリカ人ではありませんよ」

 

彼女の様子から嘘はついていない。えー、嘘でしょう。誰でもいいから冗談だと言ってよ。

 

「てっきり貴女の父君いえ、母君からお聞きしているものかと思いましたが、聞いていないのですか?」

 

「聞いたことがないね。初めて知ったよ」

 

母さん......関係ないと言ってたけど、あれは嘘だったのかい。

これは母さんと連絡を取って、詳しく聞いてみないとね。

 

「......まあ、とりあえずこの話は置いておこう。立ち話もなんだし、場所を変えて話さない?貴女の事を色々聞いてみたいし」

 

「はい、構いません」

 

彼女ーーモランは淡々と答えた。

この子は生真面目な性格をしているな。

あ、居間に行く前にキッチンに食材を置いていかないと。

 

 

 

 

私とモランは玄関から居間に移動した。

テーブルには2人分のお茶と菓子が置いてあった。いつの間に⁉︎

 

「このお菓子とお茶はモランが用意したのかい?」

 

「はい。僭越ながらご用意させていただきました。迷惑でしたか?」

 

「そんな事はないよ。ありがとう。それじゃ、座って話そう」

 

そう言って私は座る。それに続けてモランも座った。

私は和室では正座でいることにしている。イギリス人の母の影響で足の骨が純粋な日本人に比べて、正座に適してはいないが、そこは訓練で克服した。日本人の父さんがその辺りに拘りがあり、小さい頃から正座に慣らされたものだ。

私の真似だろうか、モランも正座だ。さーて、どのくらい持つかな。

 

「モランは日本に来た目的は留学かな?」

 

「はい。来週の月曜から神奈川武偵中学校に、来年度からは東京武偵高校に進学する予定です」

 

来年度から入学というと、私より年下なのかー。見た感じそんな風には見えない。

モランの身長は170はあるし、顔のモリもあって中学生ーー14歳には見えないよ。

 

「へー、遥々日本の武偵高校に......それなら私の後輩になるね。専門科は狙撃科だね」

 

「......なぜ私が狙撃科を選択すると?宜しければ、お聞かせください」

 

「君が着ているその服装は、はっきり言えば地味だ。ああ、悪口じゃないよ。狙撃手は必然的に身を隠すことになり、高度なカモフラージュの技術を求められる。敵に見つかっていては狙撃もできないから普段から目立たない工夫が求められる」

 

カモフラージュ、これは敵に「何処からともなく撃たれる」という心理的な圧力を与えることも期待している。

 

「狙撃手には高い射撃技術のほか、長時間の任務に耐えるスタミナや偽装・移動・サバイバルなど多岐にわたる技能が要求される。モランは長時間あの場所ーー玄関で私が帰ってくるのを待っていたのでしょう?それも殆ど座らずに。その証拠にズボンのお尻の下部と膝の裏にシワがない」

 

私が寮を出たのが午前10時30分頃、ここに到着したのが11時30分ぴったり。ここまで1時間かかっている。1時間も立ちっぱなしは辛い。

1時間も立ったまま私が到着するのを待っていたとは......正直、本当に凄いよ。

 

「僅かに頬を左側に寄せている。脇も締めているね。それは脇を締め、銃のストックに肩を当てスコープを覗き込む姿勢だ。おまけに肩が少し上がっているよ」

 

腹這いで狙撃をするみたいだね。

窓などから撃つ為にテーブル等に銃を載せて撃つ場合、椅子に座った姿勢から撃つ場合もありそうだ。

 

「......感服致しました。僅かな情報から私が狙撃手だということを見抜くとは......主と呼んでも宜しいでしょうか?」

 

気のせいかモランはキラキラした目で私を見つめる。

主って、大袈裟だな〜まあ、教授と呼ばれるよりはマシかな。

 

「あー、別にいいよ。それよりモランは日本語が上手だね。どこで習ったの?」

 

「おや?てっきり見抜いていると思ったのですが」

 

「いやー、同級生から人の事をやたら分析するなと言われていてね。モランも自分の事を見抜かれ過ぎるのはいい気持ちじゃないでしょう?できれば、モランの口から聞かせてくれない?」

 

金次君からすごーく止められているからね。

 

「私は別に気にしませんよ。でも主がそう言うならば仕方がありませんね。では質問に答えます。私はドイツで語学を習いました。日本語を初め15ヶ国の言葉は話せます」

 

15ヶ国か......私は英語だけしか喋れないし、モランを見習ってもっと他国の言葉を勉強しよう。

 

「へ〜、じゃあモランはドイツ人なの?」

 

「いいえ、私はイギリス人です。しかし、生まれがイギリスで育ちがドイツなので曖昧なのですよね。正直に言えば英語よりもドイツ語の方が喋りやすいですし」

 

イギリス国籍ーーしかし、イギリス生まれでドイツ育ちか。

ドイツといえばベルリンの壁があるね。あれは勘違いで壊れたというから有名なんだよね。

あと「ジー◯ハイル‼︎」と街中で叫んで、どっちの手か忘れたけど挙げると、警察と武偵が5分もしないうちにとんできてボコられる事でも有名だ。間違っても絶対にやらないようにね。

 

「ドイツにも武偵学校があると聞いたけど、モランは入学当初から武偵だったのかい?それとも途中編入かな」

 

「途中編入ですよ。ドイツの山奥で狩猟をして生活ーー狙撃の腕を買われて武偵になりました。その後はアフガンなど中東を回ったりもしましたね」

 

「もしかして、その時に私の父さんと会ったりしたの?私がモリアーティのひ孫だということも聞いた?」

 

「はい。主の父君ーー誠司さんからお聞きしました。私は巡り合わせだと思いましたよ。そして、興味が湧きました。私の曾祖父が腹心として仕えた方の子孫がどのような人なのかと」

 

さらにキラキラした目で私を見つめる。

うっ⁉︎そんな目で私を見ないで!なんか眩しいよ。

父さん......モランに何を吹き込んだの?美化し過ぎていないだろうね?

 

「モランのひいお爺さんは......犯罪組織ーー私の曾祖父が作った組織にいたよね。その......周りから冷遇されたりしなかったかい?」

 

「それは私が犯罪者の子孫だからですか?それを言うなら主だってそうじゃないですか」

 

うっ!確かにそうだけど....言い方がマズかったね。犯罪者の子孫だから何だよ!的な感じかな。

 

「まあ、そうですね。中にはそういった人もいましたが、そんな人には''お礼''をさせていただきました」

 

あっ、これはアカン。追求したらやばい内容だ。

 

「そうか......なら私の事が憎くないのかい?君が冷遇される原因を作った人の子孫だよ」

 

「そんな事はありません。私は主の曾祖父であるモリアーティ教授を尊敬しております」

 

尊敬って、相手はイギリス犯罪界のナポレオンだよ。武偵が犯罪者を尊敬するのは......あー、でも武偵の中には犯罪者から技術を盗んで活用する人や司法取引した元犯罪者とコンビを組む人もいるし、そこはいいか!

それにモランのこの尊敬の仕方は普通じゃない。そんなにモリアーティ教授ーー私の曾祖父は尊敬に値する人だったのかな?

よくよく考えれば、私はジェイムズ・モリアーティという人間を犯罪者ーー悪者として認識していた。

もしかしたら、彼には彼なりの良いところがあるのでは?これを機会に曾祖父の事を調べてみよう。

 

「そう言ってくれてありがとうね。何だか気が楽になったよ」

 

「勿体ないお言葉です」

 

「ねぇ、突然で悪いけどモランはタバコを吸っているでしょう」

 

「......何故、タバコを吸っていると分かったのですか?」

 

あっ、そこは否定しないんだね。

 

「トルコの煙草葉のカスが僅かだが、袖に付いている。巻く時に付いたのだろう。わざわざ紙に一から包んで巻いて吸うなんて拘りがあると見えるが、未成年の喫煙は感心しないね」

 

袖だけでなく彼女の体から僅かだが臭ってきた。強く臭ってこなかったのは外で吸った後で、消臭剤を身体に撒いたのだろう。

何故、トルコ葉だと分かったかというと、尋問科の教諭である綴 梅子先生が前に吸っていた物と同じ匂いがしたためだ。

まあ、あの先生はすぐに違う煙草に変えたけどね。なんでも好みじゃないそうな。そして変えた煙草だけど、金次君曰く「絶対に違法だ!」そうな。

 

「辛い味と香りのトルコ葉に、ふくよかな香りと味の黄色い葉のバージニアを、ミックスしたものを吸っているね」

 

「......はい、その通りです。ちなみに曾祖父はトルコ葉だけしか吸わなかったそうです。私はバージニアをミックスしたものが好きですが」

 

なるほどモラン大佐はトルコ葉だけしか吸わなかったのか〜って、そこで煙草の好みを言ってどうするのよ!

 

「いや、煙草は未成年から吸ってはいけないのだよ」

 

「そこを何とか!何卒!ご慈悲を!」

 

テーブルに頭をドガンッと思い切りつけて懇願した。

それに伴い、テーブルがスイカ割りのようにぱっかりと割れてしまった。

ああ!うちのテーブルが⁉︎あとお茶が!

 

「も、申し訳ございません‼︎」

 

「ああ、いいよ。それより......煙草を吸うのには理由があるのかい?」

 

「それは......家庭の事情でして」

 

そうかー、家庭の事情なら仕方ないね。なわけねぇだろうが‼︎なんちゃって♪何時もなら金次君がツッコミをかけてくれるんだけどな。

 

「まあ、喫煙は程々にね。あと学校では吸わないようにね。先生に見つかったら大変だよ」

 

「ありがとうございます‼︎なんと慈悲深きお方」

 

そう言って泣き出してしまった。そんなに泣かないでよ。なんだか私が泣かせたようじゃないか。

りこりんに見られたら「わーるいんだ!わーるいんだ!先生に言ってやろう」と言われそうだ。

 

「とりあえず片付けをしよう」

 

今はメチャクチャになったテーブルと畳の上に溢れたお茶を片付けないとね。

モランに手伝ってもらって片付けていると、時刻は午後13時になっていた。お昼の時間だ。

 

「そろそろお昼にしようか。モランはカレーは食べられるかい?」

 

「はい、問題ありません。それでは私が作りますので、主は座ってお待ちください」

 

「いいよ。モランは座って待っていたまえ。私におもてなしをさせてくれよ」

 

「そういう訳にはいきません。主を働かせて私だけ休むなのど、あってはならないことです!」

 

モランは声を張り上げた。凄く響くな......かなり肺活量があるとみえた。

しかし、様子からして引く気はないな......どうしよう。

 

「なら一緒に作ろうか。それならいいでしょう?」

 

「わかりました。早速、一緒に作りましょう」

 

そう言っ私とモランはキッチンに向かった。

ニコニコしているけど、そんなに嬉しいのかな?

 

 

キッチンに来た私たちは早速、調理を開始する。

今日はりんご入りカレーだ。

 

まずは私が野菜ーージャガイモ、人参、玉ねぎを適当な大きさに切る。

そしてモランが鍋で野菜を炒める。

おお〜上手いね。

私が絶賛していると、モランがりんごを手に取り、

 

「スゴイ!りんごを握って果汁を絞り出すなんて」

 

「これくらい容易いことです」

 

そのまま握りつぶして果汁を絞り出し始めた。

握力いくらなの?私にはとてもできそうにない。

続けてルーを入れるのだが、ここで私が交代する。

 

「モラン、テーブルに食器を並べてくれる」

 

「畏まりました」

 

そう言ってモランは食器を持って居間に移動する。

さて、配合の時間だ。

苺ジャム、味噌、甘みを出すためにホイップクリームと蜂蜜も加える。

あと苦味も欲しいからセロリとゴウヤ、青汁とコーヒーを加えよう。

おっと、カレーといえば辛味がないと話にならないからね。

最後に楽天の通販で買ったキャロライナ・リーパーを加える。

よし、完成だ!

 

「食器を並べ終えました」

 

丁度、タイミングピッタリにモランが戻ってきた。

私は完成したカレーを持って居間にいく。

 

 

 

居間で向かい合うようにして座る。

 

「いい香りですね。主がアレンジしたのですか?」

 

「そうだよ〜さあ、冷めない内に食べよう」

 

そう言って、お互い手を合わせて

 

「「いただきます」」

 

食べる。うーん、少し辛味が足りないな。もっと加えてもよかったかも。

 

「......おいしい。こんなカレーを食べたのは初めてです」

 

モランはスプーンを止めて、絶賛してくれた。

 

「おっ、そんなにおいしいかったかい?お口に合ってよかったよ」

 

「主......よろしけばレシピを教えいただきませんか?私もコレと同じようなカレーを作ってみたくなりました」

 

なんと⁉︎そんな事を言ってくれたのは、君が初めてだよモラン君!

嬉しいな。試行錯誤を繰り返すこと数ヶ月......人から認めてもらえるなんて......涙が出できた。

 

「どうしました主?私は何か傷つくようなことを言いましたか?」

 

「いいや、これは歓喜の涙だよ。さあ、食べよう」

 

ああ、これが料理する者にしか、わからない幸福ってヤツかな

よし、この感動を基にさらなる料理の発展に力を注ごう。

 

 



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山はいいね。

狙撃銃のアイデアをありがとうございます‼︎迷いました。ボルトアクション、単発式もロマンがあっていいかもしれないけど、現代の銃も捨てがたいぃぃぃぃ‼︎
頂いたアイデアーーさまざまな銃は状況に応じて使い分ける型を取ろうと思います。
今回の話では年代物の狙撃銃が登場します。


 

滋賀県ーー時刻は10時

 

 

「う〜ん、自然はいいね〜モランもそうは思わないかい?」

 

「はい、主」

 

私は車ーーポルシェ356aから降りると、大きく伸びをした。

私とモランは滋賀県の比叡醍醐山地に来ていた。東京からここまで長かったな〜

何故、ここにいるかというと、

 

「それじゃ、モラン。早速、君の実力を見せてもらおうか」

 

「主の期待に応えられるよう頑張ります」

 

モランの実力を確かめるためだ。

本当なら人間ーー武偵庁が定めた犯罪者を使ってテストしたかったが、丁度いいクエストがなかった為、山での狩猟で把握することにした。

ある程度、分析して実力は把握できていたが、実際にこの目で確かめたくなってモランにお願いしてテストに参加してもらった。

モランは二つ返事で承諾してくれた。本当に素直な子だ。

 

「モランは山育ちだったね。やっぱり狩猟なんかは朝飯前かい」

 

「狩猟は日没後から日の出までの時間帯は禁止されていますので、朝飯前ではありませんね」

 

ははは、そうきたか......ボケを返してくれない。

でも、モランの言っていることは正しい。闇夜の山は危険だ。都会と違って、明かりなど存在しない。一度迷えば、遭難するのは確実だ。

流石は山育ち。

狩猟は本来なら免許が必要なのだが、そこは武偵免許で通った。武偵免許って、便利過ぎでしょう。

 

「そういえば、まだモランがどんな銃を使うのか聞いてなかったね。見せてくれるかい?」

 

「はい、私が使うのはコレです」

 

肩にかけた虎のキーホルダーが付いたライフルケースから銃ーースナイドル銃を取り出した。

スナイドル銃ーーイギリスのエンフィールド造兵廠(RSAF)が前装式ライフル銃であるエンフィールド銃を改造した後装式小銃である。

ストックを始めとした木製パーツはグラスファイバー製に変えられている。おそらく、気象によって膨張・収縮するので木製からグラスファイバー製に変えたのだろう。

 

「ほ〜、なかなかの品物を持っているね。見たところしっかりと手入れされている。100年以上の銃とは思えない」

 

「銃はしっかり手入れすれば何年でも使用できますよ。その証拠に主の銃も100年以上前の物にも関わらず、使用できるでしょう?」

 

「確かに」

 

モランの指摘に私は思わず笑みがこぼれた。

しかし、スナイドル銃か......大概の人間が見たら「それはこだわりじゃない。時代遅れだ」と言うかもしれないが、とんでもない。

当時、高い命中率と1,000ヤードまで延長された射程を実現したスナイドル銃は、歩兵運用の基礎条件を大きく変えてしまった。

スナイドル銃を装備した部隊とマスケット銃を装備した部隊が交戦した場合、マスケット銃側は有効射程の100ヤード(マスケット銃の命中率は50%)まで接近するためだけに、最大で900ヤードに渡る死のロードを友軍の屍を乗り越えつつひたすら進まねばならなかった。

スナイドル銃は30〜40回の射撃が可能であるため仮に1,000人のマスケット銃兵を相手にした場合でもスナイドル銃装備の部隊は理論上25人の小部隊で無傷のまま相手を全滅させてしまう事ができた。

 

「それはひいお爺さんの銃かい?確かモラン大佐は空気銃を使っていたと思うけど......」

 

「確かに曽祖父は空気銃を使用していました。それ以前は様々な銃を使用していたと聞いています」

 

「モランも空気銃を使ったりするのかい?」

 

「御望みとあらば今すぐにでも変えますが......」

 

「ああ、別に今すぐに変えなくてもいいよ」

 

スナイドル銃......ロマンがあっていいと思うよ!

個人的にはマルティニ・ヘンリー銃と空気銃も捨てがたいと思うけどな〜。

きっとモランに似合いそう♪来年の高校入学祝いに送ってあげよう。

装備科にはある程度顔がきくから見つかるだろう。

 

「今、主は空気銃がいいかもしれないと思いましたね」

 

「何故それを⁉︎君はエスパーだったのか!」

 

「私は超能力者ではありません。主の顔を見ればわかります」

 

いや、それはある意味では超能力かもしれないよ。顔を見ればわかるか......今度から気をつけないとね。

 

「現在、曽祖父が使っていた空気銃はドイツの知人に預けていますので、主が用意するまでもありません」

 

「ドイツの知人......それはガンスミスかい?もしかして装備科だったりする」

 

「ガンスミス......間違いではありませんね。しかし、あの人は重火器が好きで、狙撃銃はあまり作らない変わった人でしたね」

 

重火器が好きなガンスミスか。重火器は男のロマン!なんちゃってね♪まあ、重火器はぶっ放す感じがたまらない。その辺りでは気が合いそうだ。今度、モランに紹介してもらうとしよう。

 

「おっと、話し過ぎましたね。さあ、主」

 

モランが山へ入っていく。私もその後を追って山へ入っていた。

 

 

 

今の季節は7月とあって暑い。少し歩いただけでダラダラと汗が出てくる。

モランは山育ちとあって、山に慣れているようだ。

その証拠に足場の悪い獣道をザクザクと歩いていく。おまけに汗を1つもかいていない。

背には銃だけでなく、リュックまで担いでいるのに不自由していない様子だ。

 

「止まってください。主ーーあれを」

 

モランが突然止まり、指差す先には一頭のツキノワグマがいた。

本来は夜行性だが、果実が実る時期になると昼間でも活動する。

名前の由来通り胸部に三日月形の白い模様がある。しかも、大きい......立ち上がれば170〜180はあるだろう。この目で生のツキノワグマを見たのは初めてだ。

熊ならモランの相手には丁度いいかも。

 

「主はこのまま草陰から見ていてください」

 

私が感動しているのに対し、モランは落ち着いていた。熊など見慣れているのだろうか......

このまま草陰から狙い撃ちするかと思ったが、モランはリュックを置いて草陰から出た。狙撃手がターゲットに姿を見せるなんて......。

モランの姿を捉えたツキノワグマは「ヴオオオオ」と唸り声を上げて、モランに接近した。このまま襲われると思われた。

 

「落ち着けチビ」

 

モランは迫り来るツキノワグマにビビりもせず、落ち着いた口調で話しかけた。

 

「ヴオッヴオッ......ヴオッ」

 

「クマに出会ったら背を向けて逃げるのは自殺行為。死んだふりも意味がありません」

 

背を向けると熊は獲物とみなし追いかけてくる。死んだふりが意味をなさないのは熊は腐った死体も平気で食べる。熊からしたらご馳走が落ちているのと同じだ。死んだふりをしたら、そのままパクリで終わり。

 

「カフッカフッ」

 

「ジッと動かず落ち着く。怒ったままで襲い掛かられたら撃っても勢いが止まらないので危険です。目を逸らさず興奮が鎮まるまで待つ」

 

熊と出会ったら目を見るのは危険だ。目を見つめると熊は相手の出方を窺う。まあ、腕に自信があれば見つめてもいいかもしれないが......

ツキノワグマはヌウッと立ち上がった。私の見た通り、180はある。

モランは170、1人と1頭は頭一つ分くらいの差しかない。

 

「立ち上がるのは攻撃のためではなく、私と主のほかに敵がいないか安全確認です」

 

「ハゥ、ハゥ......ハゥ、ハゥ」

 

「呼吸がだんだんと落ち着いてきたら、あとはゆっくり......」

 

「おや?予備の弾は出さないのかい?単発銃を使う人間はみんな、撃ち損じたとき素早く予備の弾を装填できるように、指にいくつか挟んでいたけど」

 

モランは予備の弾を1発も指に挟んでいなかった。

狙撃科には単発銃を使う人間もいる。そういった人は必ず予備の弾を指に挟むものなのに......

 

「予備があれば、その分だけやり直せるなどと、勘違いしてはいけません」

 

ゆっくりと銃をスーッと、構えた。

 

「1発で決めなければ殺されます。1発だから腹が据わるんです」

 

その言葉とともに、ダアァン!と発砲した。

銃声とともにツキノワグマはズズーンと、音を立てて地面に倒れた。

私は草陰から出て、見てみると銃弾はクマの心臓を撃ち抜いていたーー即死だ。

 

「お見事。心臓をドンピシャとはやるね」

 

「熊は急所を狙わないと倒せません。それ以外を撃っても興奮させるだけですから」

 

「それなら頭を狙ってもよかったんじゃないかい?」

 

「熊は頭の大きさの割に脳が小さいので、脳に弾が入らないかぎり死ぬことはありません。お望みとあらば、次は頭を狙ってみせますが」

 

「別に構わないよ。でも、何故自分から姿を現したんだい?狙撃手がターゲットに姿を見せるのはまずいんじゃ......」

 

「それは......主に私と獲物の真っ向勝負を見てもらいたかったから」

 

モランは顔をポッと赤くして答えた。

その反応に私は思わず、「ブフォッ‼︎」と吹いてしまった。

 

「ぷははははは、ひーはははははは、ハハハハハ」

 

「あ、主......‼︎そんなに笑わないでください......!」

 

「ははは、ひー、ごめんごめん。つまり私にカッコイイ所を見せたかったらかー。いいね。ますます気に入ったよ」

 

「あ、ありがとうございます......」

 

まさかその為だけにあんな行動に出るとはやるね〜。

道理で変だと思ったよ。狙撃手は待つのが基本なのにさ。

 

「ところでコレはどうしようか?せっかく仕留めたのにこのまま放置するのは勿体無いし」

 

「でしたら昼食にしましょう」

 

そう言ってモランはサバイバルナイフを取り出し、慣れた手つきでツキノワグマを解体していく。

 

「おお〜慣れているね。やっぱり、山で生活するならこれくらいはできないとダメかい?」

 

「自然と身につきました。熊以外も解体できますよ」

 

顎から肛門まで真っすぐナイフを入れ解体の始まりだ。

まず、手、足も先に向かって切り裂く、後はひたすら毛皮を破かないようにナイフで剥いでいく。

 

「この毛皮は貰ってもいいかな。寮で敷皮にしてみたい」

 

「別に構いませんが、しっかりとナメさないと酷い悪臭を放ちますよ」

 

ナメス......防腐処理のことかな。ふーむ、装備科か衛生科に頼めば加工してくれるかも。

ふっと私は切り落とされたツキノワグマの手足に目がいった。

 

「大きな手足だね。私の頭くらいはあるかな」

 

「丁度、主の頭部くらいはありますね」

 

なんか見ていると背筋が凍ってきた。おお、怖い怖い。こんなので殴られたら一発で天国行きだね。

そんな手足を持った獣と真っ向で向かい合えるモランは凄いね。

そんなモランは内臓を取り出し始めた。色鮮やかだね。

 

「さあ、コレもどうぞ」

 

「それは何だい?プルプルしているけど」

 

「クマの胆嚢です。乾燥させれば生薬になりますよ」

 

ほぉ、これがクマの胆嚢か。採れたてとあって、真っ赤な色をしている。

 

「ありがとうね。モラン」

 

衛生学部のお土産になりそうだ。ありがたく頂こう。

 

「内臓を取り出したけど、全部食べられるのかい」

 

「熊は捨てるところがありません。肉はもちろん食べられますし、毛皮は防寒着になり、骨は装飾品、脂は火傷の薬になります」

 

骨ーー装飾品。カッコイイかも!

 

「ねぇ、モラン......」

 

「はい、骨はちゃんと取り出し、装飾品にしますのでご安心ください」

 

ははは、もう君はエスパーで決定だな。なんで私の考えがわかるの?もしかして、また顔に出てた?

 

「さて、今日の昼食はこのモランが獲れたての熊で腕を振るった料理をお作りいたします」

 

モランはリュックから鉄串を取り出し、熊の内臓ーー心臓を突き刺し、そのままライターで起こした焚き火で焼き出した。

パチパチと火を立てながら、心臓を焼いていく。時折、心臓から垂れた脂と血が火に降りかかる。

 

「心臓上手に焼けました」

 

こ、このネタは某狩人ゲームのセリフではないか!モランも知っていたんだね。

 

「さあ、主。熱い内に召し上がって下さい」

 

「それじゃ、遠慮なく。いただきます」

 

私は心臓にかぶりつく。うまい‼︎噛めば噛むほど肉と血の味がする。新鮮な証だ。

 

「熊の血は滋養効果がありますから、怪我をしていたら食べるといいですよ」

 

それはいいね。滋養効果か......金次君と武藤君に飲ませたい。特に金次君に飲ませてあげたいな。どうなるんだろ♪

 

「それとコレも美味しいですよ」

 

そう言ってモランが取り出したのは熊の小腸だ。

いくつかに切り分けてあるが、元はかなり長かったはず。

さらに続けてモランはリュックからミネラルウォーターを取り出し、

 

「小腸を裏返し水で洗い、熊の腹腔に溜まってプルプルになった血の塊を詰めて縛り焼くと.....血の腸詰めの完成です」

 

これはソーセージじゃないですか!熊のソーセージなんて初めてだ。

早速、ムグムグと食べてみた。うん......これも血の味がしてうまい!

これはさらなる料理の発展ーー高みに登れそうだ。

私が食事に夢中になっていると、

 

「アオーーーーン‼︎」

 

背後から犬のような遠吠えが聞こえてきた。

後ろを振り向いてみるとそこには大きな犬がいた。

 

「ガウッ」

 

「うるさい」

 

私に向かって飛びかかってきた犬に向かって、モランがダアァン‼︎と発砲した。

銃弾はそのまま犬に直撃するかと思われたが、犬はくるっと身を捻って躱した。銃弾は犬の背を少し掠めただけだ。

しかし、犬はごてんとその場に倒れた。

 

「やるじゃないか。わざと弾を掠めて脊髄を麻痺させるとは」

 

「主を襲った不届き者の正体を確かめるためにしました」

 

敵の正体を明かすためとは味な真似をするじゃないか。

私は犬に近づき観察する。

 

「これはニホンオオカミじゃないか」

 

ニホンオオカミとは、かつて日本に生息していた、イヌ科イヌ属の、その名の通り日本固有のオオカミである。

絶滅動物であり、日本固有の絶滅動物としては有名な種類の一つ。過去は山狗(ヤマイヌ)と呼ばれており、ニホンオオカミという呼称は明治頃に定着したものである。

 

「明治の末に絶滅したと言われていたのに、生き残りかな」

 

「おそらくそうかと......大方、人の目から隠れて生きている犬でしょう」

 

どうしたんだい、モラン?なんだかオオカミが嫌いに見えるよ?

私が疑問に思っていると、モランはニホンオオカミの頭にチャッキと銃を構えた。

 

「主の食事を邪魔するとは......死ねクソ犬」

 

ちょっと、モラン。オオカミに対して犬はないでしょう。せめてドッグと呼んであげたら?

しかし、このまま死なせるのは勿体無い気がするけどな〜。

モランが引き金に指を入れたその瞬間、バズと銃声が響いた。

その音を聞いて、モランが「主‼︎」と叫んで私に覆い被さる。

なんだろう?

 

「そのオオカミから離れて下さい」

 

草陰から人が出てきた。

緑色の髪にヘッドホン、武偵高の女子制服を纏い、その手にはAKー47を再設計した銃ーードラグノフを構えた女子がいた。

 

「あ、レキさん。どうしたのこんな所で?」

 

現れたのはレキさんだった。『ロボット・レキ』と呼ばれるほど、無口で無表情だが、狙撃成功率99%以上の狙撃科所属のSランク武偵だ。

有名人でミステリアスな人だが、私は嫌いじゃない。そんな人が私たちに向かって銃を構えている。

 

「レキさん。とりあえずソレを下ろしてよ」

 

私の問いかけにレキさんは反応しない。ただジッと私を眺めて銃を向けてくるだけだ。

そんな私を見て、モランが盾として前に出る。

 

「なんですかアナタは?主に銃を向けるとはいい度胸ですね」

 

「そういうアナタこそ、そのオオカミを殺そうとするとはいい度胸ですね」

 

「私はただ主に害を及ぼす害獣を駆除しようとしただけですが?何か問題でも?」

 

「オオカミは害獣などではありません。人間が勝手にそう決め付けただけです」

 

あー、ヤバイね。モランは何かキレそうだ。目元がピクピクしているのが証拠でわかりやすい。

 

「寧ろ害を与えたのはあなた達のほうです。この辺りはそのオオカミのナワバリ......そこへ勝手に侵入したあなた達のほうに非があると思いますが?」

 

「獣のナワバリなどイチイチ気にしていられませんね。まあ、こんな小さな山をナワバリにしているようでは、ソレの器量が容易に測れますが」

 

モランが倒れているニホンオオカミを指差しながら答える。

こらこら、モラン。ソレ呼ばわりは失礼だよ。せめて、ワンちゃんと呼びなさい。

 

「人間の目から隠れて暮らすには、この山は最適だからです」

 

「成る程、つまり人間の目から怯えながら暮らすには最適だと」

 

「オオカミは賢く強く良い生き物です。決して、怯えてなどいません」

 

気のせいかレキさんから怒気のようなモノが伝わってくる。まるで自分の好きなものを侮辱されたような怒りだ。

 

「あー、はいはい。そこまで、モラン?ダメだよ〜目上の人にそんな口きいちゃ」

 

私は2人の間に入って仲裁に入る。

 

「しかし、主......」

 

「しかし、じゃないよ。この人はレキさんと言って、私の所属する東京武偵の一年生ーーつまり君の先輩。そんな人に向かって失礼な態度はダメ。ほら、謝って」

 

「......失礼しました。センパイ」

 

「私にではなく、その子に謝ってください」

 

レキさんは倒れているニホンオオカミに目を配る。

 

「はぁ?何故、ケモノごときに私が謝らないと?」

 

あっ、これもう手遅れだ。

レキさんを観察する。

 

ドラグノフの発砲、それも躊躇いなくモランの頭部に向けたもの。

しかし、モランは私を突き飛ばすとそれを躱す。同時にレキさんに接近し、手加減なしーーフルスイングの右ストレートパンチを顎にヒットさせる。

レキさんは倒れるが、それは油断させるためのフェイク。

すかさず立ち上がり懐に仕込んだナイフで切りつける。やるね。狙撃科は接近戦が苦手な人が多いが、レキさんはそうじゃないみたいだ。しかし、それはモランも同じだよ。バックステップで躱し、距離を取る。

レキさんはナイフをドラグノフに装着、銃剣術に変えたか。

突進とともに突き刺すが、モランは掴んで止める。同時に再装填しておいたスナイドル銃をレキさんの頭に至近距離で発砲。防弾制服を警戒してかーモランも容赦ないな。

しかし、同時にレキさんもモランの心臓部......だけではなく、その後ろにいる私もろとも撃ち抜く。防弾繊維を貫く貫通弾だね。

結果、三者とも死亡。

 

相打ち覚悟か......死ぬのが怖くないのかな?

私は腰のホルスターから拳銃を引き抜き、空に向かってパァン!と発砲した。

 

「はーい、レキさん。怒りを鎮めて。レキさーん、静まりたまえ〜なんちゃって♪」

 

私のギャグにレキさんは笑ってくれなかった。某国民的映画のシーンを真似てみたのに......

 

「貴様ぁ......主のギャグを受けないとは......いい度胸ですねぇ」

 

いや、モラン。そこは怒るところじゃないよ⁉︎

それとジ◯リ映画は知っていたんですね。

 

「さて、話を纏めてみるとレキさんはオオカミに謝ってほしい。そうだね」

 

私が問うとレキさんはコックリとうなづいた。

 

「しかし、モランはオオカミに頭を下げたくはない。そうだね」

 

続けてモランに問うと「はい」と答えた。うん、正直で宜しい。

 

「なら、ここは武偵らしく、戦いで決めようじゃないか」

 

「主、戦いといいますと、狙撃ですね」

 

「その通り!それも狩猟での狙撃じゃない。いや、ある意味では狩猟だね。マンハントと言う名のね」

 

「......お互いが獲物」

 

「うん、正解だよレキさん。狩るもの狩られるものーーそれは君たち2人を意味する。お互いが狩人であり、獲物でもある」

 

私は手を広げ、山を見渡す。

 

「君たち2人には狙撃勝負をしてもらう。この山全てが戦いの舞台だ。ああ、勿論使う銃弾はペイント弾かゴム弾ね。一発でも、一発でも被弾すれば即終了。被弾した人は狙撃した人の要求を飲む。これでどうかな?」

 

「主の決定とあらば従います」

 

「私もそれで構いません」

 

承諾してくれたね。さあ、面白くなってきたよ。

Sランク武偵の狙撃手レキさんと、ヨーロッパ随一の狙撃手セバスチャン・モラン大佐のひ孫との戦い。

勝つのはどっちだ⁉︎できればモランに勝ってもらいたいな。

 



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猟犬と狼

グタグタしてますが、どうか暖かい目でご覧ください。
狙撃手って、索敵と配置が基本でしたよね(苦笑)


「それでは主、行ってきます」

 

「......」

 

「うん、頑張ってね」

 

モランとレキさんは山に入っていく。森林に4、5歩ほど入った所だろうか。二人は互いに背を向けると、それぞれ反対方向ーー深い森の中に消えていった。

私?勿論、見学さ!これは狙撃手の戦いだからね。邪魔をしてはいけない。

ああ、結果が待ち遠しいな。

 

「君もそうは思わないかい?ワンちゃん」

 

側で気を失っているニホンオオカミに話しかけるが、応答はない。

せめて、ガウかワンでもいいから吠えてよ。

オオカミを観察してみる。戦いの前にレキさんが介抱し、容体は安定している。その証拠に脊髄の麻痺は抜けて、スースーと寝息を立てているし。

 

「シミュレーションしてみるか」

 

私は地面に腰を下ろし、目を閉じて瞑想を開始する。

この戦いをイメージしてみる。

まずは地理の把握ーー比叡醍醐山地・標高848.3 m・私たちがいたのは滋賀県の西部よりだ。

 

モランとレキさんは、まずお互いに身を隠す。

モランは途中で拾った葉っぱと枝で迷彩服ーーギリースーツとトラップを作成ーー地中に弓矢を仕掛ける。

仕掛け終えると見晴らしいのいい高台ーー木に登る。凄いな......銃を片手に指の力だけで登っていく。さすがは野せ......ゴホン、狩猟をしていただけはある。

 

レキさんは......早い。こっちも山育ちだろうか?ササッと苦もなく山道を駆け巡る。おまけに腰を曲げての行動が早い。

制服姿のまま草むらに飛び込み、うつ伏せでドラグノフを構えた。

最近の狙撃科生は汚れるのがイヤで、地面にうつ伏せになるのを躊躇うのに、レキさんには躊躇いがない。

汚れなど気にせず、ジッとしている。まるで獲物を待つオオカミだ。

 

お互いに暫く静観を決め込むが、ここでモランが仕掛ける。索敵だ。

獲物を取りたいのなら、敵が自分の前に来てくれることを待つよりも、こちらから獲物を探しに行くか。

太い枝を選んで、木を飛び移っていく。地中に仕掛けたトラップなど気にせず堂々と移動する。

 

レキさんも索敵開始。

白の防弾制服は目立つので、ワザと土で汚して見つかり難くしている。走る、ひたすら走り抜ける。草原でも走っていたのだろうか?この速度は異常だ。

だが、そこでストップだ!罠を発見ーーモランの即席の弓矢だ。

地中に仕掛けられていることを確認すると、矢を撃ち出すトラップに繋がった細いロープをナイフで切り無効化。

 

木の上でモランがレキさんを発見ーー背後から狙い撃ちできる。

罠を警戒して慎重に索敵を開始するレキさんを背後から発砲!

弾丸は突き進んで行くが、突然ここでレキさんが反転からの発砲、銃弾はモランの弾とぶつかり合い、軌道をズラした。

おお、凄いな。モランが使用している577 Snider弾はボクサーパトロンと呼ばれており、丸みを帯びているからレキさんの7.62mm弾の軌道をズラすが、レキさんはそれを把握している。

「馬鹿な⁉︎あの体勢から発砲だと⁉︎」とモランは驚く。一発に拘るが為に外されたことがショックみたいだ。その所為で次の動作が遅い。

 

その隙を逃さないとばかりに、今度はレキさんが発砲ーー狙いはモランが乗っている枝だ。銃弾は枝をへし折り、モランは地面に落下。

体勢を整え、地面に着地したモランにレキさんは間髪を入れず、連射する。ドラグノフ狙撃銃は箱型弾倉ーー装填数10発だ。

弾丸はビシッ、ビシッとモランのギリースーツを剥がしていく。これは挑発だね。やろうと思えば落下する時点で仕留められるだろうに......

 

ギリースーツを剥がされながら、モランは逃亡ーーしっかりと再装填することはいいことだ。

しかし、逃げた先には自身が仕掛けたトラップーーモランはトラップの弓矢で右足を負傷する。

激痛に襲われながらもモランはフッと考える。「何故だ?殺ろうと思えばあの時点でできたはず?」と思う。

ここで初めて自分が挑発されていた事に気付く。

あちゃー、これはキレるぞ。

 

レキさんはモランを追う。これって、狙撃手の戦いだよね?

そして草陰に隠れているモランを発見。投降を促すが、モランには届かないーー頭に血が上っているからだ。

唸り声を上げ、自分に向かってくるモランに発砲ーー狙いは両足だ。

しかし、両足を撃たれながらもモランは止まらない。まるで野獣のようだ。

一旦、退避を開始したレキさんをモランは追跡する。

おい、おい。私は一発でも被弾したら試合終了と言ったよね?

 

 

シミュレーションを終えると、丁度山から発砲音が聞こえてきた。

最初に2発、少しして5発だ。

これはモランの負けだな。

 

「頭を冷やせモラン」

 

自分でも驚く程の低い声が出た。

すると山が静かになった。どうしたんだ?野鳥の気配もしないし、モランとレキさんの気配もしないぞ?

私が謎に思っていると、ガサッと背後の草むらからモランとレキさんが出てきた。モランは右足に矢が突き刺さったままだ。

ああ、そんな怪我をして。

 

「モラン、大丈夫かい?」

 

私は心配になり、モランに駆け寄ると、

 

「主!何卒、もう一度チャンスを与えてください」

 

モランは私に懇願してきた。ははは、モラン?君は何を言っているのかな〜

 

「今度こそ、必ず仕留めてみせます!私は......まだ負けていない!」

 

「モラン?私は言ったよね。一発でも被弾した時点で終了だと?まさか......頭に血が上って忘れた、とは言わないよね?」

 

私が尋ねると、モランはビクッと身を震わせて、ワナワナと狼狽し始めた。その様子は飼い主に捨てられそうになっている犬のようだ。

 

「主......私は......私は......‼︎」

 

モランは目に涙を浮かべ悔しそうだ。

えっ?モランって、こんな顔ができるの⁉︎ヤバい!何だか可愛いよ。これは前にりこりんが言っていた、ギャップ萌えってやつかな?

 

「モラン......君は負けてしまった。これは事実だ。でもね。君の様子を見れば頑張ったことはわかる。そんな怪我をしてまで私の為に戦ってくれたんでしょう?」

 

モランの側に寄って、宥めるとグスンっと泣きべそをかきながらモランはコクリッとうなづく。

 

「ほらほら、可愛い顔が台無しだよ」

 

私はハンカチでモランの顔を拭いてあげる。

170cmあるからつま先立ちしないと顔に届かないよ。

 

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!主ぃぃぃぃぃ!ごめんなさいぃぃぃぃ‼︎」

 

モランは私に抱きつき、本格的にワンワンと泣き出してしまった。

おおー、よしよし。そんなに悔しかったかモランちゃん......うんうん。わかるよ。キャラが被っているレキさんにムカついていたんだよね〜

 

「レキさん。モランはこんな感じだから謝罪は私がするけどいいかな?」

 

私はオオカミの側にいるレキさんに尋ねる。

 

「あなたは何なんですか?」

 

「どういう意味だい?」

 

レキさんが逆に私に尋ねてきた。何って、私は......モリアーティさ‼︎なんちゃってね。

あっ、こらこらモラン。そんなに私の胸に顔を埋めないでくれたまえ。何だかくすぐったいよ。

 

「風は言っています。あなたの存在そのものが間違っていると」

 

うーむ?質問の意味がわからないよ。そもそも風って何?レキさんの友達かな?でも、誰かと連絡を取っている様子はないし、いやあのヘッドオンかな?あれで連絡を取っているとか。

 

「それじゃ、その風さんに伝えてよ。私は間違ったことはしないとね」

 

武偵法に則って犯罪者を裁く意味だけどさ。

 

「警告します。あなたは自身の間違いを理解しないまま死ぬ」

 

「ははは、それは予言かな?それじゃ、私はその予言を覆してみせよう」

 

正直、何のことだかわからないな。

私はモランを連れて、山から去っていく。

さて......今のモランではレキさんを倒すことはできないな。早急にモランを強化しないと......まずは装備の変更からだ。装備科に駆け寄って、

いくつか見繕ってもらおう。

おっと、その前に傷の治療からだよね。

 

「もう一つだけ警告します。滝にご注意を」

 

去り際にレキさんがそんな事を言ってきた。

滝ぃ?ナンノコト?

 




次回は装備科に訪問します。


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プレゼント

平賀さんにモランを改造してもらおうかな


装備科棟は地上1階から地下3階で成り立っている。

私は今、行きつけのカフェで買ったケーキを手に、装備科へ足を運んでいた。

セキュリティー管理の厳重な1階から階段で地下に降りると、無数の銃器がラックに収められ、廊下に並んでいる。

おお〜、スゴイね。剣呑で不用心な感じが、ビンビンするよ。

大型の銃はケースに入れた方がいい気がする。セキュリティーを無効化されたら、「どうぞ取ってください」と言っているようなものだ。

そんな事を考え廊下を歩いていると、『ひらがあや』と書かれた表札のついた作業室に到着した。私がノックすると、

 

「はーい、開いてますのだー」

 

中から子供みたいな声が聞こえくるーー平賀さんだ。

扉を開けると、室内は◯ンキホーテみたいに物だらけだ。

装備科だけに大小様々な工具、銃器のパーツがケースに収められて積み重ねられている。

 

「平賀さん。こんにちは」

 

「おおっ⁉︎零ちゃん!さあ、入ってなのだ」

 

この人の名前は平賀 文。

江戸時代の発明家 平賀 源内の子孫で、機械工作の天才児だ。

幼い頃から実家の町工房で銃の作成に携わってたそうな。

初めて会った時、私のウェブリー・リボルバーをキラキラした目で改造しようとしたんだよね。

絶対に強力な銃弾を撃てるように改造しようとしたよね?あのまま任せていたら、銃が壊れていたかもしれない。

 

「平賀さん。注文した物はできているかい?」

 

「あはっ!もちろんバッチグーなのだ」

 

平賀さんは小ちゃな手で、私の手を引きながら案内する。

足元に散らばった工具やパーツを避けながら室内を進むと、作業台に通された。

作業台の上には大量の狙撃銃があった。

DSR-1、WA2000、L96A1、FPK、AW50、リーエンフィールド狙撃銃、そしてドラグノフ.....etcなどケースに収められたままの銃もある。

これらは私が平賀さんに頼んで、オーダーメイドーーモラン仕様で全て作ってもらった。

 

「ありがとうね平賀さん。これだけの銃を作るのは大変だったでしょう?」

 

「これだけの狙撃銃を注文したのは、零ちゃんが初めてなのだ!頼まれた時は驚いたけど、やり甲斐があったのだ」

 

やり甲斐ねぇ......平賀さんは自分の仕事を誇りに思っているんだね。装備科の中には自分の作った銃が犯罪に使われて、精神を病んだ人もいるけど、平賀さんはどうかな......自分の作った物が犯罪に使われたら。

 

「不思議なのだ。零ちゃんは探偵科なのに、何でこんなに狙撃銃を欲しがるのだ?」

 

「これらは私じゃなく、後輩へのプレゼントだよ」

 

「後輩にプレゼントとな⁉︎零ちゃんは優しい人なのだ」

 

優しい人か〜平賀さん、それは間違いかもしれないよ。

あっ、

 

「その後輩は狙撃科なのか?そんなに狙撃銃を欲しがる様子を見る限り、決まった得物がなくて困っている気がするのだ」

 

おや?何でそんな事がわかるんだい?装備科だけに使おうとする人間の特徴がわかるとか。

 

「まあね〜。ああ!そうだ。アレもできているかい?」

 

「もちろんなのだ。今、取ってくるから待ってほしいなのだ」

 

平賀さんはそう言って、奥の倉庫に走っていた。

こんなにゴチャゴチャした足元を転ばずに歩けるな〜。

暫く待っていると、平賀さんは両手にケースを抱えて戻ってきたーー拳銃用のケースだ。

私の側に寄り、パカッと開く。中には回転式拳銃が入っていた。

 

「特注品のコルト・シングルアクション・アーミーなのだ」

 

コルト・シングルアクション・アーミー通称、ピースメーカー。

これも平賀さんに頼んで特注で作ったもらった品だ。

何故、ピースメーカーを頼んだかというと、金一さんの影響だろう。

金一さんの持っていたモノはシルバーだが、私のこれはブラックだ。

私は手に取り、構えてみる。うーむ、手に張り付くようにしっくりくるぞ。違和感もない。

 

「カッコイイなのだ!零ちゃんにはブラックが似合っているなのだ」

 

「ありがとう。例の改造もしてくれたんだろうね?」

 

「もちろんなのだ!シリンダー部分の回転速度は通常の2倍速。重量も軽くしてあるのだ」

 

それはいいね。

私は腰のホルスターにピースメーカーを納め、西部劇のガンマンのようにシュバッと、早撃ちしてみる。もちろん弾は入っていないよ。

 

「おお〜まるで西部劇のカウボーイなのだ!でも気をつけてなのだ。早撃ちはシリンダーとグリップを痛めやすいから程々になのだ」

 

「忠告ありがとうね。それじゃ、狙撃銃は私の寮に届けてね」

 

私がそのまま作業室を後にしようとしたら、ある事を思い出したので引き返す。

 

「ねぇ、平賀さん。追加でコレも作ってみないかい?」

 

懐からある人物の写真をヌッと取り出し、平賀さんに見せた。

 

「ブッ。これって蘭豹先生なのだ」

 

そうなのである。それも、前に隠し撮りした蘭豹先生の怒りの表情だ。

写真には、不機嫌そうに眉間にシワを寄せ、鋭い眉毛は跳ね上がって獣のように歯を剥き出しにした蘭豹先生が正面に写っている。

前に強襲科にお邪魔した時に、偶々偶然見かけたので撮ったのだ。

我ながらよく撮れたものだ。

 

「こんな表情の銅像を作りたいと思わないかい?」

 

「ぷはは、確かに面白いのだ」

 

「でしょう!平賀さんもそう思うよね!」

 

2人の笑い声が作業室に響く。

平賀さんはノリがいい。面白いと思ったモノは何でも作ってくれる。平賀さんに頼んでよかった。

銅像は皆、真顔で表情がまったくないからね。

 

「せっかく作るんだし、服も変えてみようか」

 

「なら、偉そうな服がいいのだ!何かこうカッコイイ服が似合いそうなのだ」

 

平賀さんが服のカタログを取り出したので、私も一緒になって見る。

 

「おっ!これなんかどうなのだ?」

 

平賀さんが何かを見つけたようだ。どれどれ?

それは旧日本軍の陸軍将校の軍服だった。

 

「ぷははははは、ヤバイよ。絶対に似合うって‼︎」

 

「なははははは、あややもそう思うのだ‼︎あと軍帽も被せてみようなのだ‼︎」

 

そのまま悪ノリして、1時間ほど意見を出し合った。

 

「3週間ほどかかるのだ。それまで待ってほしいのだ」

 

「うん、お願いね」

 

「待ってなのだ。コレを忘れてないのだ?」

 

平賀さんは手で円を作っていた。忘れていないとも!決して、どさくさに紛れて踏み倒そうなんて、野蛮な考えは持ち合わせていないよ。

私は懐からカードを取り出し、平賀さんに渡すと決済してくれた。

 

「毎度ありなのだー。零ちゃんは払いがいいから助かるのだ」

 

平賀さんはお金にガメツイところがある。

ぼったくりと評してもいいくらいだ。

 

「探偵科はそんなに儲かるとは思えないのだ。どうやって稼いでいるのだ?よかったら教えてほしいのだ!」

 

それは偏見だよ〜。探偵科だって儲かる仕事の一つや二つあるさ。

まあ、私の場合は探偵科だけでなく、''他の仕事''も受けているけどねーー主に仕事の相談、人間関係や人生相談など表にはできないモノが多いね。

 

「まあ、機会があればね。そうだ!ねぇ、平賀さん。君は何か悩みを抱えているんじゃないのかい?」

 

「あややに悩みなんてないのだー。毎日、ウキウキしているのだ」

 

平賀さんはニパッと笑ってみせた。

そうかい?私には仕事に没頭して何かを忘れようとしている印象があるが......もう少し聞いてみるか。

 

「平賀さんは自分の銃が悪い事ーー犯罪に使われたらイヤかい?」

 

「もちろんなのだ。あややの作った銃が悪いことに使われるのは、イヤなのだ」

 

最後の辺りーー声のトーンが少しだけ落ちたね。瞳孔も開いている。

装備科にとって、自分の作った物が犯罪に使われるのは耐えられない屈辱だろう。平賀さんもそんな経験がありそうだ。

 

「それじゃ、もしも平賀さんの銃を悪いヤツが使っていたらどうする?」

 

「ウーン......強襲科に連絡なのだ!」

 

平賀さんは頭を捻らせながら、自信満々に答えた。

ははは、強襲科に連絡か。

 

「誰にも連絡できなかったらどうするんだい?そんな時は......」

 

「あややはたたかうなのだ‼︎悪いヤツはやっつけろなのだ!」

 

いい返事だ!思わず100点満点をあげたいくらいだよ。

そうだよね。平賀さんの銃を悪用する悪いヤツはやっつけないと。君自身の手でね。

 

「いい意見をありがとうね。あっ!そうだ。これよかったら食べてよ」

 

私は買ってきたケーキを平賀さんに渡すーーショートケーキとチョコケーキだ。

 

「ありがとうなのだ!零ちゃんはお土産を持って来てくれるから大好きなのだ‼︎」

 

「そう言ってくれてありがとう。それじゃね」

 

私は作業室を出て、地下室を後にする。

1階のセキュリティー室に上がってみると、数名の装備科の男子たちがいた。みんな深刻そうな表情だ。

おや?どうしたんだろう。私は近づいてみる。

 

「皆、どうしたの?男子で集まってさ」

 

「あっ!零さん。こんにちは」

 

1人が私に気付きあいさつすると、つられる様に「こんにちは」と全員あいさつしてきた。

 

「何か悩み事かい?よかったら相談に乗るよ?」

 

「本当⁉︎零さんが相談に乗ってくれるとか......おい」

 

「丁度よかった。実は俺たち装備科が作成した銃器が盗難にあったんだ」

 

それをスタートに男子たちは語り出した。

最近東京を騒がせている銃密売組織が密売だけでなく、銃器の盗難、装備科生の誘拐にまで手を出し始めたそうな。

しかも銃の盗難対象は学生武偵の所持している銃ーー特に東京武偵校に在学している人をターゲットに選んでいる。

うちの学校の装備科はいい仕事をするからね。物や人にしてもいいモノばかりだ。

学生武偵かプロの武偵を狙うとしたら、学生の方がやり易いとみたか。学生の中にはプロ顔負けの人ーー金次君とかいるのにね。

 

「装備科では登下校時に注意しろって、教務科から勧告がきたんだ」

 

「それは先生たちがあなた達を心配してくれているってことだろう。それが気に入らないのかい?」

 

「そうじゃないよ。ただ、黙ってこのまま何もせずーー他の学科に任せっきりでいいのか?と思っているんだ」

 

ツナギを着た男子生徒が答える。

成る程。装備科は前線からは程遠いが、彼らもまた武偵。血が騒ぐと言えばいいのかな?何かしたいんだね。

 

「だったら行動に移せばいい」

 

「で、でもよ。零さん。俺たちは装備科で......」

 

「だから?装備科は前線ーー前に出て行動してはいけないという決まりはないよ?『武偵は自ら考え行動せよ』というでしょう?」

 

 

 

 

キンジ視点ーー

 

「あー、ようやく退院できたぜ」

 

俺は退院後、久しぶりに外に出られた事に感動していた。

何故か?それは零の見舞い品を口にして生還できたことさ!ちゃんと地に足をつけて外にいることが、こんなに感動するなんて......今までなかったことだ。

俺が外を歩いていると、

 

「よ、よう。キンジ」

 

「武藤.......」

 

武藤とパッタリと出会った。

何でここに......ああ、そうか。コイツも退院できたんだな。よかったぜ。

 

「なあ、キンジ。怪我はもう大丈夫なのか?ランバージャックって言っておきながら、俺は......」

 

なんだ?まだランバージャックの事を引きずってやがるのかよ?

 

「あー、よせよせ。もう、その事は忘れた」

 

「でもよ!俺は車輌科の連中を使って、お前を寄ってたかって傷つけたんだぞ!憎くねえのかよ⁉︎お前から殴られても何も言えないんだぞ?俺は......俺は」

 

苦渋の表情を浮かべて武藤は俯いてしまった。

そんなに思い詰めてたのかよ......まさか病院のベッドの上でもずっと。

 

「はぁー。なぁ、武藤。俺はお前の事を恨んでもいねぇし、憎まない。だからさ、そんなに思い詰めるな。そんな感じだと事故るぞ?」

 

「けどよ......俺は......」

 

まったく......こいつは責任感が強いぜ。まあ、そんな所がコイツの長所かもな。

俺は武藤の肩にポンと手を置いて、

 

「納得いかねぇなら、気が済むまで話そうぜーー飯でも食いながらよ」

 

「ぶはは、飯でもって、お前が奢ってくれるのかよ」

 

「バーカ。割り勘だよ」

 

「そこは奢るって言えよ」

 

気がつけばお互い笑ってた。

武藤は何時ものようにサッパリした顔に戻っていた。

 

 

ファミレスにてーー

俺と武藤は夕食を食いに、行きつけのレストランに来た。

自動ドアが音を立てて開き、中に入ると店員がやって来て「2名さまでしょうか?」と尋ねてくるので、「そうだ」と答える。

今日が平日、しかも夕食の時間帯とあって客は多いが、席は空いていた。適当に空いている席に俺たちは腰を下ろした。

 

「なあ、キンジ。ありがとうよ」

 

俺はメニューを開いて、何を注文しようか迷っていると、武藤が礼を言ってきた。

 

「突然、どうした?」

 

「いや......俺はてっきりお前から絶交されるんじゃねぇかと思ったんだが、お前は俺を許してくれた」

 

「堅苦しいな......もっとフランクになれよ。俺はもうランバージャックの事は忘れた。水に流した」

 

「ははは、お前のそんなサッパリした所はいいぜ。本当にありがとうよ」

 

武藤はテーブルに頭が付くのではと、思うくらいに頭を下げた。

だから、もう水に流したと言っただろう。

話題を変えないと、いつまでもこの話に......いや、このままいこう。武藤には聞かないといけない事があったんだ。

 

「武藤......覚えているだけでいいんだ。お前が言っていた『あの方』って誰の事なんだ?」

 

「すまん......その事はわからねぇんだ。覚えてない」

 

覚えてない......入院中に武藤は尋問科にも同じ事を言っていたそうだ。

尋問科の間では武藤は洗脳あるいは催眠術にかかっていたのでは?という見解らしい。

武藤だけでなく、車輌科全員も同じ答えだ。

 

「些細な事でもいいんだ。俺はな武藤......お前をいい様に使いやがった黒幕が許せねえ。真に怒る対象はそいつだ」

 

「キンジ......あー、クソ⁉︎なんか覚えてねぇのか俺は......‼︎」

 

武藤は頭に両手を当てて、唸りだした。頼む思い出してくれ!お前の仇を俺は取りたい。黒幕を見つけだして、ケジメをつけさせる。

 

「そういえば......チカチカと光を浴びた。いや、強い光を見た記憶があるぜ」

 

「光?それはどんな光だよ」

 

「病院の診察室にあるような光だ。待ってくれ......だんだん思い出してきた。光の中にシルエットーー人影がある」

 

人影⁉︎そいつが黒幕か。

 

「どんな奴だ⁉︎もっと繊細に教えてくれ」

 

「ダメだ......影になって顔が見えねえ。けど、そいつから『君は躊躇いなく行動する』って、言われたような気がする』

 

『君は躊躇いなく行動する』か、黒幕の口癖かもしれないな。犯人を見つけるヒントになるかも。前に零から「犯人を見つけるコツは相手の癖を見つけことだよ」って、言われたけな。

 

「ありがとうよ武藤。他に何か思い出したら、俺に報告してくれ」

 

「ああ、すまねぇ。そうするぜ」

 

それを最後に武藤はテーブルに置いてあったお冷に手を伸ばす。

任せろ。必ずお前の仇を取ってやる。

しかし、黒幕は何者なんだ?自分は手を汚さず、他人を操り犯行を行うなんて.....まるで、巣を張り獲物がかかるのをジッと待つ蜘蛛のようだぜ。もしかしたら、武藤だけじゃなく他にも被害者がいるかもな。

せいぜい巣の中心で待ってろ。巣を辿って駆除してやるぜ。

俺が決意を固めていると、

 

「やあ、金次君に武藤君。2人してデートかい?」

 

背後からフザけた事を言われた。デートって、なワケがあるか⁉︎

武藤は飲んでいた水をブッと、吹いてるし。

発言者の顔を見てやろうと、俺が振り返ると、

 

「零かよ......なんでここにいるんだ?」

 

「夕食さ」

 

零がいた。

お前な......人を揶揄うのは程々にしろって、あれほど言ったよな?飯食っている途中だったら、下手したら喉に詰まらせてたぞ。

 

「零じゃねえか!久しぶりだな」

 

「本当に久しぶりだね武藤君。退院おめでとう」

 

そう言って零は俺の隣に座りやがった。

おいっ、そんなに近づくな。

 

「遠目で見てたけど、何か話してたのかい?よかったら付き合うよ?」

 

「お前には関係ねぇよ。これは俺の案件だ」

 

「どうしたんだキンジ〜。零が来た途端、顔が赤くなったぜ〜」

 

馬鹿ッ⁉︎何を言ってやがんだ武藤⁉︎

慌てて俺は自分の血流を確認する。よかった....これなら大丈夫そうだな。

 

「おや〜もしかして、私に会えなくて寂しかったのかい?言ってくれれば、会いにいってたのに」

 

「会いに来れない原因を作ったのはお前だろう」

 

見舞い品事件が思い出される。あれが原因で病院内で見舞いの品は、必ず検査にかけることが決定したからな。

 

「お前が持ってきた見舞いの品で生死の境を彷徨ったんだぞ。どんな自家栽培をしたらああなるんだ」

 

「ひどいな〜。ただ水の代わりにビタミン剤などを与えただけさ」

 

「なあ、キンジ。零って、家事下手か?」

 

頼む武藤でもいいから、こいつに家庭の授業をしてくれ。

武藤は一人暮らしでしっかりしているから、いい教師になるぜ。

そんな事を考えていると、突然、俺たち3人の携帯がなった。

画面を開いてみると、教務科からだった。内容は......

 

「金次君、武藤君。これって......」

 

「ああ、なんてこった⁉︎平賀さんが......‼︎」

 

零と武藤は驚きを隠せていない様子だ。

教務科から届いたメールには『装備科所属の平賀 文が誘拐された。本人から救援要請あり。手の空いている武偵は至急、武偵高校に集合』とあった。

 




次回は装備科の本領発揮。車輌科も頑張るかな......



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平賀さん誘拐事件

皆さんゴールデンウィークはどうでしたか?
私は......人手が足りなくて大変とだけ言っておきます(泣)

・零の呼び方に違いをつけるために、武藤はレイ、金次は零と呼ぶようにしました。
・そして、レキファンの皆さん。ごめんなさい!決して違いますからね。




キンジ視点ーー

 

「平賀さんが誘拐って、どうして誘拐されたんだよ」

 

携帯に届いたメールを再度確認し、俺は訳がわからなかった。武藤と和解のつもりで夕食に食いに来たのに、注文する前にコレかよ。

 

「これって、最近多発している武偵ーー装備科をターゲットにした誘拐犯の仕業か?」

 

「正確には武器密売組織だよ武藤君。まあ、密売が主で誘拐は二の次だろうけどさ」

 

誘拐・密売も犯罪に変わりはねぇよ。

しかし、零の武器密売という言葉にピンとくるものがあった。

最近、東京を中心に活動している謎の武器密売組織。武偵から強奪した銃を密売することで名が上がっている連中だ。

先に武藤が言ったように、武偵の中でも装備科が狙われている。

装備科の作る銃は質が高いからな。おまけに前線向きじゃないから、それが狙われやすい原因になっているのかもしれない。

 

「教務科いや、正確には平賀さんからの''依頼''だし、早く助けに行こうよ」

 

「だな!みんなのマスコット平賀さんのピンチだぜ。ここで助けに行かないとあっちゃ、男の名が泣くぜ」

 

誘拐は1分1秒を争う事件だ。今は座っている場合じゃないな。

会計を済ませ(何も注文していないが)、全員で店を出る。まずは武偵高に戻って、教務科から正確な情報を提供してもらわないとな。

自動ドアを抜けて、

 

「遠山 金次と玲瓏館 零だな?」

 

店の外に出ると、突然見知らぬ3人組の男たちから声をかけられた。

服装は着崩しており、おまけに目つきが普通じゃない。

なんだコイツら?見るからにガラの悪い奴らだ。

男の1人は手に写真のようなものを持って、俺と零を見比べている。

 

「なんだよ。俺らに用でもあるのか?」

 

「あの私たちに急いでいるんですが......」

 

「そこを通してくれよ。緊急事態なんでな」

 

俺と零・武藤の3人はいつでも銃が抜けるよう警戒しながら、男たちの様子を伺う。

 

「間違いねぇ。このカップルだ。やれ!」

 

1人の男の掛け声とと共に、2人の男が俺と武藤に襲いかかった。

しかし、動きが素人だな。遅すぎる。ひらりっと、簡単に背後に回れた。

覆い被さるように襲ってきた奴の背後を取ると、そのまま腰に蹴りを放った。

見かけによらず随分と軽いな。ゴロゴロと転がっていったぜ。

 

「あらよっと!」

 

一方、武藤の方はというと懐に飛び込み、顎にアッパーカットを放った。武藤の巨体から放たれたパンチをくらって、体が宙に浮いたぞ。

おまけに1発K.Oだし。コイツら弱すぎだな。

 

「ウッ⁉︎」

 

後ろから零の呻き声が聞こえた。

慌てて振り返ると、ドサッと音を立て零は倒れた。

零の後ろにはバチバチと、スタンガンを持った2人の男が立っていた。しまった!伏兵が潜んでやがったか!

 

「おい!遠山金次。この女がどうなってもいいのか!」

 

倒れた零の髪を持ち上げるようにし、喉元にナイフを突きつける。

くそッ!人質を取られたか。

 

「おい!てめえ、レイから離れろ!」

 

「止めろ武藤!」

 

男に向けて、銃を構えた武藤を俺は止める。

 

「へへ、それでいいんだよ。大人しく来い!」

 

引っ張られる形で俺と零は、近くに止めてある(おそらく連中の)車にドンッと押し込められた。

 

「キンジ!レイ!」

 

武藤が追いかけようとしたが、連中の仲間から腹に蹴りをくらわされ地面に蹲る。

 

「おっと、騒ぐなよ」

 

武藤の様子を見て思わず、車の窓から身を投げ出そうとした俺の首筋にナイフが突きつけられる。どうにかしたいが、今は気を失った零もいる。ここは大人しく従うしかないか.......

 

 

 

 

 

車の中で目隠しと後ろ手に縄をされ、おまけに銃まで取り上げられた。暫く走ると何処かに停車した。ここが目的地ーー連中のアジトか?

 

「おら!とっとと降りろ!」

 

怒鳴りつけられ、俺は車から降ろされた。

降りる際、鼻腔から潮の香りが入ってきた。ここは海に近い場所なのか?

目隠しされてわからないが、おそらく零も一緒だろう。車の中で意識を取り戻した様子がなかったから、連中に抱えられる形で降ろされたか。

 

「ほら、歩け!」

 

背中に冷たいモノが突きつけられる。多分、銃だな。

後ろでガラガラと扉が閉まる音が聞こえる。

そのまま歩かされると、パサリと目隠しを外された。

ここは......何処かの倉庫か?

まず目に付くのは、辺り一面まで埋まっている木箱の山だ。まだ梱包されていないのだろうーー箱の蓋が開いたままの物がある。箱の中には銃器がギッシリと詰まっている。

これは武偵から奪ったか、自分たちで密造した銃だな。

倉庫の中には俺と零を誘拐してきた連中の仲間だろうかーー10人ばかり姿を確認できる。

 

「とっとと座れ!」

 

パイプ椅子に座らされた。隣を見ると零と平賀さんもいる。2人とも俺と同じように後ろ手に縄をされているーーまだ意識を失っているのか、零の方はグッタリとしているが。

 

「平賀さん無事か?」

 

「大丈夫なのだ。ちょっと怖いけど、とーやま君と零ちゃんが助けに来てくれて元気が出てきたのだ」

 

助けに来て、俺らも誘拐されたけどな。

でも、何で連中は俺と零を誘拐したんだ?零は探偵科、俺は強襲科ーー装備科とは無縁なのに。

 

「なあ、平賀さん。何で誘拐されたんだ?」

 

「前に零ちゃんから差し入れで貰ったケーキが急に食べたくなったのだ。それ学校の帰りにお店に寄ったら、連れていかれたのだ」

 

つまり、零に買って貰ったケーキが食べたくなって、買いに出かけたら誘拐されたと。

 

「う〜ん......あっ、金次君。平賀さんおはよう......いや、こんばんは」

 

零が意識を取り戻した。

目覚めて、早々こんばんは、じゃねぇよ。自分の置かれた状況を理解してんのか?

 

「ここは......何処だい?金次君わかる?」

 

零は辺りをキョロキョロと見渡す。

 

「知らね。でも、何処かの倉庫じゃねえかな」

 

「喋ってんじゃねえ!」

 

連中の1人からガッと殴られた。

 

「金次君⁉︎」

 

「とーやま君⁉︎ああ、血が出ているのだ」

 

心配してくれて悪いが、こんなの蘭豹の鉄拳に比べたら、大した事ねぇよ。

 

「ガキ共!今からボスが来る。大人しくしろよ」

 

ボス?コイツらの親玉か。

誘拐されて災難だったが、連中のボスの顔を見れるとは丁度良い機会だぜ。面を拝んでやる。

暫く待っていると倉庫の奥ーー木箱の陰から1人の男が歩いていた。

洒落た青のスーツに、長髪の若い男だ。

こいつがボスか。そいつは手下にパイプ椅子を持って来させると、俺らの前にイキヨイよくガッと座りこんだ。

 

「ようこそ我がアジトへ」

 

「あなたは......」

 

「静かにしろ!」

 

誰かと尋ねる零に手下の1人が大声で怒鳴る。てめえの方が静かにしろうるせぇよ。

 

「荒っぽいのは許してくれよ。どうしてもお前らに聞かなきゃならねぇ事があって来てもらったんだ......何だか分かるよな?」

 

「......何でしょう?どうもここは学校ではなさそうですね。となければ私や金次君・平賀さんには皆目見当も付きませんが」

 

「下らなねぇ事抜かしてんじゃねぞ。お前らがパクった商品をどこにやったかって聞いてんだよ!」

 

零の言葉に親玉はキレたのか。零を顔をバシッと平手打ちした。叩かれた零の顔は赤く腫れた。コイツ......!女の顔を叩きやがったな!

反撃しようと縄を解こうとしたら、零がこっちに顔を向けてパチパチと瞬きをした。これは瞬き信号か。

意味は、大丈夫・止まれ・機会・伺え・耐えろだった。

機会を待ってか......わかったよ。

 

「部下の報告によると、お前らがパクって隠し持ってるそうじゃねぇか」

 

さっきからコイツは何を言ってやがる?俺らが何をパクったっていうんだ?商品がどうの言っていたーー密造・強奪した銃器のことか?

全く心当たりがねぇぞ。

 

「武偵サマには過ぎた玩具だろう?返してくれよ。まんまと全部奪われたなんて上に知られたら俺の首がヤベェんだよ......さぁ吐け!」

 

「オイラー等式......それが答えですよ」

 

身に覚えがない俺や平賀さんの代わりに、零の口から出た答えは見当違いなモノだった。

確か......解析学における等式だな。

e^iπ + 1 = 0

e: ネイピア数、すなわち自然対数の底

i: 虚数単位、すなわち二乗すると −1 となる複素数

π: 円周率、すなわち円の周の直径に対する比率

前に零から教えてもらったが、意味がわからんくてそのままにしていた。取り敢えず、答えがゼロになるとだけは覚えていたが......

 

質問の答えが気に入らなかったのか、親玉はゴッと殴った。

 

「クソがッ‼︎ナメてんじゃねーぞ‼︎」

 

零は再び、自分を殴ろうとした親玉の鼻先スレスレまで足を上げ、ス......と静かに足を組む。

その動作は思わず見惚れてしまう程、優雅で気品に溢れている。気のせいか。零の座っているパイプ椅子が玉座ーーそこに座る零は女王のように見えるぞ。

 

「東京を中心に活動する武器密売組織''刀狩り''。意外だったね。神奈川しかも横浜の倉庫街がアジトーー堂々とした場所にあるなんて。どうりで見つからない訳だ。アナタの組織の後ろには相当の権力か、社会的影響力のある人物がいる様だ。こんな立派な倉庫街をポンッと貸し出すなんてーーそんな相手には武偵もなかなか手を出しにくい」

 

刀狩り......それが連中の名前か。つーか、零。お前はいつから分かってたんだ?

相手の情報ーー横浜の倉庫街、組織名など俺はわからなかったぞ。また、お得意の分析か?

 

「......ハッどうやら本当に死にたいらしいな」

 

「......だから''君達''を利用させてもらった。キミに私と金次君の写真を送りつけてね」

 

写真......レストランを出てすぐに声を掛けてきた男が待っていた写真のことか?うん?ちょっと待てよ。

 

「正確に私と金次君を攫ってもらう為に送ったんだ。横浜をウロウロしていたキミの部下を装ってね。レストランでちゃんと声を掛けてくれて助かったよ」

 

「......待って。お前は一体何を言ってんだ⁉︎」

 

「......まだ分からないのかい?なら、教えてあげるよ。これは全て私が企てた事なんだ。私立相談役のこの玲瓏館・モリアーティ・零がね」

 

「零ちゃん。なんだかカッコいいのだ‼︎」

 

おい、平賀さん。そこは黙って聞いておこうぜ。多分、これは零のキメ台詞だと思うからよ。

企てたって......まさか密売組織の存在を知った時から、逮捕するために罠を張ってたのか‼︎こいつの知略には畏れ入るぜ。

それにしてもMはモリアーティの頭文字だったんだな、初めて聞いたぜーーそれにしても、モリアーティか......何処かで聞いたような?

 

「ありがとうね平賀さん。さてと......君達は最初から私の手の平の上で踊る駒に過ぎない」

 

零はス......と足を上げ、

 

「もう一つ教えてあげるよ。さっきの数式の答えは......ゼロだよ‼︎」

 

ダンッと床を叩いた。

それと同時にドドンッという爆発音が鳴り、倉庫が揺れる。

 

「何だ⁉︎」

 

「おい!外に誰かーー」

 

外の様子を確認しようと、倉庫の扉を開けた手下の1人がサッと入って来た何者かに、ダダダンッと撃たれ後ろに倒れる。

それを合図に一斉に何者かが、なだれ込んで来たーーTNK製の防弾ベルト。強化プラスチック製の面あて付きヘルメット。武偵高の校章が入ったインカムをつけている。あれは武偵高の連中だ。

SATやSWATにも似たこのC装備は武偵がいわゆる『出入り』の際に着込む、攻撃的な装備だ。大概は強襲科が着込むのに、俺が見た限り強襲科だけでなく、前線とは程遠い装備科までいるぞ!

ダダダダダッと激しい銃声が倉庫内に鳴り響く。

よく見るとPP-19-01 Vityaz、トンプソン・サブマシンガン、スパス12、ウージー、ARー18を躊躇いなく撃ちまくっている。銃検に通せば1発でアウトな武器ばかりだ。

おい⁉︎弾はゴム弾とかプラスチックの模擬弾だよな?撃たれたヤツから血が出てないから大丈夫だろうが......

 

「な......武偵だと⁉︎どうしてここが......」

 

親玉は状況が理解できない様子だ。

それを見た零が俺に顔を向ける。今なんだな!

後ろで縛られた縄を解き、周りにいる手下の急所ーー顎、首、鼻に後遺症が残らない程度に攻撃を叩き込む。

簡単に攻撃が入るってことは連中の練度は高くないなーーまったく、こっちの攻撃に反応もできていない。

俺の隣ーー零が縛られている場所から、ガンッと音が聞こえた。向いて見ると、

 

「アナタの兵の練度は思ったより低いね。人質の縄すら満足に縛れないとは」

 

パイプ椅子を手に立っている零がいた。その足下には殴られたのだろう。手下が頭から血を流して床に伏せていた。やり過ぎだぞ!

 

「あと『どうして』と言ってましたね。簡単だよ。誘拐されたあの時から仲間たちがずっと付けていたんだよ。発信器のついた私をね。ロクに身体検査もせず、銃だけ取り上げるなんてお粗末だね」

 

「この......!」

 

親玉が右手を懐に突っ込んだ。銃を取り出すつもりか!

 

「さぁ罰を下しましょうか!」

 

そんな事御構い無しに零はパイプ椅子を振り上げた。

零を押し退け、俺は親玉の右手から銃を叩き落とし、顎にストレートをかましてやった。

それだけで親玉はノビた。よ、弱い......親玉なんだからもう少し骨があってもいいだろ。

 

「もう、金次君。手出しは無用だったのに」

 

「お前、問答無用でコイツの頭を砕くつもりだったろう?」

 

平賀さんの縄を解きながら、零は俺に文句を言ってきた。

俺の見間違いだったのだろうかーー零はパイプ椅子で殴ろうとした瞬間、笑っていた。あのままやらせていたら取り返しのつかない事になっていたかもしれない。

 

「そんな訳ないさ。金次君の気のせいだよ」

 

「じゃあ、何でそこの手下は頭から血を流しているんだ?」

 

「思わず力が入り過ぎたんだよ」

 

入り過ぎたって、軽いノリで言うな。

零は悪いと思ったのか。手下に応急処置を施す。妙に手馴れている。こいつも武偵だからこれくらいできて当然か。

 

「キンジ!レイ!助けに来たぜ」

 

完全に制圧したのだろうーー倉庫で立っているのは武偵高の連中だけだ。密売組織の連中は1人残らず、地に伏している。し、死んでないよな?

連中の波を掻き分け、武藤がやってきた。お前も来てたのか。できればスパス12を置いてきてほしいぜ。

 

「おお、武藤君なのだ!」

 

「平賀さんも捕まってたのか。キンジとレイ・平賀さんも助けられて一件落着だな!」

 

「だね。さて......偶然、犯人達は武器密売組織で偶然、私と金次君・平賀さんは誘拐されてしまった。はてさて、教務科に何て報告しようか」

 

零の言葉に俺は呆れた。

偶然で済ませられる訳がねぇだろう。誘拐されたって、教務科から知られたら怒鳴られる事間違いなしだなーー特に強襲科の俺はな!

 

「なあ、零。親玉が『商品をパクられた』と言っていたが、まさか本当にパクッてないよな?やってたら証拠隠滅罪になるぞ」

 

「まさか。私はやってないよ。そう思わせただけさ。丁度、彼らの組織の武器が何者かに強奪されたという情報を掴んでね。それを利用させてもらった。あとで情報科に駆け寄ってごらんよ」

 

そんな情報まで掴んでたのかよ。それを利用し、ワザと誘拐されてアジトを突き止めるとな。クールに行動するのではなく、大胆に行動するんだなコイツも。

 

「あとよ。発信器なんて何処に仕込んでたんだよ?もし身体検査されたらバレるし......」

 

「ここだよ」

 

零が指し示した場所は......胸の谷間だった!

ハダけた制服から谷間と僅かながら黒の下着まで見える。

なんて場所に隠してやがるんだ⁉︎

 

「どうしたんだい?あっ!そうか〜私の計画に加担したご褒美が欲しいんだね。ほら、眺めてもいいよ」

 

胸をアピールするように、ズイズイと距離を詰めてくる。

計画に加担って、犯罪ぽく言うな!おまけに近づいて来るな!

武藤助けろ!俺は武藤たちに助けを求めるが、全員鼻の下を伸ばして「うひょー‼︎」と零を眺めてる。こ、この......エロガキどもめ!

 

「おお、何だか面白そうなのだ!あややもするのだ」

 

零につられて平賀さんまでも悪ノリし、ズイズイと距離を詰めてくる。平賀さんは......大丈夫だな。

取り敢えず、今は逃げることから始めないとな!

 

「おーい、金次君。待ってよー」

 

「待つのだ。とーやま君」

 

後ろから零と平賀さんが追いかけてくる。来ないでくれー‼︎

せめて前のボタンを閉めてからにしろよ!

俺は逃げながら、零のMーーモリアーティという名前が不思議と頭から離れなかった。あいつのミドルネームを初めて聞けたな。

 

 

事件の翌日に聞いた話だが、横浜市内で一台の大型トレーラーが発見された。探偵科と鑑識科が調べた所、武器密売組織''刀狩り''の車両と断定。荷台は空っぽだったが、運転席には頭を撃ち抜かれた遺体を発見ーー他殺体だった。殺害に使用されたのは、7.62mm弾ーードラグノフの見方が強い。

 




次回は物語を原作に突入できるように早くします。時間枠は冬あたりになるかな。金一の行方不明ーー豪華客船事件に挑む。
早くアリアとの面会が書きたい。やりたいネタが沢山あるのに(泣)


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読書の秋?いいえ、事件の秋さ!

女子寮ーー

 

夏も終わりを迎え、季節はすっかり秋に突入した。

休日の秋に何をするか?読書・食事・遠出と人によって違うだろうが、私は女子寮の自室でパソコンをカタカタと当たっていた。

休日は決して暇というワケではない。

パソコンの画面には蜘蛛のシルエットがクルクルと回っている。

これは私が開発したプログラム『スパイダー』だ。

どんなプログラムかというと、情報収集プログラムだ。

事件の真実を人には言えない人が心の寄りどころにしている裏サイトを運営ーー要は密告サイトだね。

日本一国だけでなく、私はそれを世界中のどの国でも運営しそれぞれの情報を分析し関連づける。

『スパイダー』とはそれを処理する画期的なプログラムだ。どんな細かい情報でも網にひっかけることができる。

このプログラムを作ろうと思ったキッカケは、情報科でパソコンについて勉強していた時に思いついたのだ。

今の社会、ネットの力は凄いものだ。パソコン一台で世界中と通信できる。どこかの英国探偵とは違う。

ネットで公表された情報と自ら動いて調べた情報では、ネットの方が早く手に入る場合がある。ネットの力を最大限に利用しないとね。

勿論、手に入れた情報はプリントアウトして関係図ーー蜘蛛の巣にして分析するけどね。

 

「おや?事件かな」

 

画面に映る蜘蛛のシルエットが輝いた。何か引っかけたようだ。

見てみると5件の密告が届いた。

早速、クリックだ。

 

「何かな〜。えーっと、フィンランド国防博物館に展示されていたパンツァーファウストが30クラウン、それと駆逐戦車が盗難されたか......」

 

パンツァーファウストーー第二次世界大戦中のドイツが開発した携帯式対戦車擲弾発射器。ファウストパトローネ(拳の弾薬)とも呼ばれた。いわゆるロケット弾とは異なり、弾体自力での飛翔能力は持たないが、その分後方へ噴出される爆炎が少なく、トーチカや塹壕からでも比較的安全に発射できた。

 

駆逐戦車ーー戦車および対戦車車両の一種であり、敵戦車の撃破を目的とした装甲戦闘車両である。発祥地のドイツ語からヤークトパンツァーと呼ばれ、英語圏でも呼称として定着した。

 

「うーむ、どちらもドイツと縁深いモノだね」

 

頭の中で情報を整理してみる。

パンツァーファウストが30クラウンーー盗まれた数量からして犯人は戦争でもしたいのか?重火器とはいえは第二次世界大戦時代の物だ。現代では、性能の高い携帯式戦車擲弾発射器が沢山あるのに......

 

駆逐戦車ーーこれも第二次世界大戦時代の物だ。性能の高い戦車は沢山あるにも関わらず、これを盗むのは何故?

 

以上の2つの盗難品ーーどれもドイツ原産。わざわざ盗むとは余程の物好きだ。

 

犯人像ーードイツマニアーー特にドイツのミリタリーが大好き。もしくはナチスの残党の可能性あり。

 

犯人は余程のドイツマニアだね。ナチスの残党だったら、ハーケンクロイツを身に付けているくらいにーー私生活では外しているかもね。

この事件は面白い。手口よりも犯人に興味かある。是非とも会ってみたいな。

 

「こっちは......米軍が開発中の量子ステルスマント?の試作品が盗難」

 

ステルスマント......あっ!前にアメリカに仕事に行った時、空港で確認したアレか〜。誰かが被っていたけど、私からすればまだまだだったね。まあ、それでも十分、民間人には見えていなかったけど。

それが開発中に軍施設から盗難されたと......

 

米軍が開発中の試作品ーー外部に持ち出せるのは限られた人間。内部犯の可能性?外部の犯行は難しい。

 

試作品を手にする人間ーーアメリカ国内の人間ーー軍人・武偵。外部ーー国外の人間に貸し出すのは低い。わざわざ軍施設から盗まなくてもよいーーやはり外部の人間の犯行。

 

何故盗んだ?ーーステルス能力が高い。潜入・暗殺にはうってつけの品物だ。国外の人間ーー犯行が自身の能力向上あるいは自国の軍施設に提供するため?国から依頼されたか......いや、国絡みではなく、個人的に盗んだーー被れば透明になれる的な感じで。

 

犯行像ーー潜入・暗殺に特化した人間ーー武偵なら探偵・諜報科。まるで忍者のような人間。

 

私の分析と武偵としての知識からして、犯人は医療知識もあり、権力もある。英国辺りが怪しい。貴族か......公爵いや、伯爵か子爵あたりだ。

 

「何か......この犯人について知ろうとすると嫌な気分になるね。この事件はパスしよう。次は......北欧の病院にて、北欧系の少女の血液パックAB型を200ガロンも購入した不審な中国人の客?」

 

うーむ、血液の購入は今の時代、別に珍しくない。一見して事件性はないが......北欧の少女それもAB型の血液200ガロンもね〜。

 

血液を購入ーー医療関係者?情報では購入した客は中国人。中国の医者?

 

血液量ーー200ガロンもあれば10人単位で輸血がてきる。湯船にはいれるくらいだーーまさか血のお風呂に入りたい?

 

血液型ーーAB型は中国人でも珍しくはない。わざわざ北欧まで行って購入してくる必要性なし。

 

東欧の少女の血ーー北欧マニア?北欧の少女趣味?血液フェッチ?

 

うーむ、血液型AB型の少女の血......これだけではね。しかし、中国人というのは気になる。血液を好む習慣や文化は中国にあったかな?血液を好むといえば『吸血鬼』が一番ピンとくるが......

 

購入者ーー中国の吸血鬼ファン?北欧マニア?吸血鬼信仰者?中国国内の吸血鬼のなりきり屋?

どれも違う気がする。

 

「この不審な中国人がカギだね。これは保留と......他には絶滅危惧種のドクササコが30kgも乱獲されるか。密猟者だね」

 

ドクササコーー担子菌門のハラタケ綱 ハラタケ目に属し、キシメジ科のParalepistopsis属に分類される 毒キノコの一種。

他の多くの毒キノコとは異なる、薬理学的にも特異な中毒を起こす。主要な症状として、目の異物感や軽い吐き気、あるいは皮膚の知覚亢進などを経て、四肢の末端(指先)・鼻端・陰茎など、身体の末梢部分が発赤するとともに火傷を起こしたように腫れ上がり、その部分に赤焼した鉄片を押し当てられるような激痛が生じ、いわゆる肢端紅痛症をひきおこす。

 

「場所は......長野県、三重県、兵庫県、愛媛県か」

 

長野県では絶滅危惧I B類(EN)、三重県では情報不足(DD)、兵庫県では要調査種、愛媛県では県調査種にそれぞれ分類されているが、具体的な保護対策としては、兵庫県において発生環境の保全が指摘されているに過ぎない。しかし、私は絶滅危惧種には変わりないと思う。

 

「この密猟者は何故、ドクササコを密猟したのかな?松茸ならわかるけど......ドクササコはね」

 

救護科・衛生科・鑑識科の子から教えてもらったが、ドクササコの有毒成分は、中枢神経毒のアクロメリン酸、中枢神経毒のスチゾロビン酸やスチゾロビニン酸、クリチジン、異常アミノ酸、オピン類などである。特にアクロメリン酸とクリチジンは毒性が強いとされるが、発症のメカニズムは未だ不明な点が多い。

以上のように、毒性画分が複雑である。このキノコを私的に取り扱うとしたら、相当の科学・薬学知識か求められる。

 

密猟者ーー薬学知識が豊富な人間。あるいはその人物が密猟者に依頼した。

 

密猟地ーー場所は日本。地理に詳しい人間ーー日本人?目撃者がいないので不明。

 

薬剤学ーー毒性の高いドクササコを欲しがる理由ーー毒薬?

 

毒薬ーー毒をもって毒を制すーー新薬の開発?ーー薬剤学者

 

「ドクササコの他にはキノコ関係はないかな」

 

私は『スパイダー』で検索をかける。内容はキノコそれも毒性のヤツだ。

検索して数分もしない内に結果が出た。自分の作ったプログラムながら素晴らしい性能だ。

 

「ベニテングタケとワライタケが大量に採取されたか」

 

ベニテングタケーー北半球の温暖地域から寒冷地域でみられる。比較的暖かい気候のヒンドゥークシュ山脈や、地中海、中央アメリカにも生息する。

童話に出くるような外見をしており、主な毒成分はイボテン酸、ムッシモール、ムスカリンなどで、摂食すると下痢や嘔吐、幻覚などの症状をおこす。

 

ワライタケーー中毒症状として中枢神経に作用し幻覚症状を引き起こす神経毒シロシビンを持つキノコ。毒性分は他にもコリン、アセチルコリン、シロシビン、5-ヒドロキシトリプタミンなど。

 

これらのキノコも強い毒性を持っている。大量に採取された時期がドクササコの乱獲と一致している。偶然とは思えないね。

 

「この2つは目撃者がいるのか。えーっと、場所は中央アメリカ。目撃者によると東洋人が採取している光景を見たとあるね。おっ!話し声も聞いたのかーー中国語ね」

 

ワライタケは兎も角、ベニテングタケを東洋人、それも中国人がわざわざ中央アメリカまで取りに行くのは怪しいね。

中国人といえばさっきの北欧の血液パック購入者も中国人だった。このキノコ事件にも中国人が関わっている。

北欧や中央アメリカに行けるくらいだからお金や権力があるーー中国人バイヤーあるいは中国の秘密結社。

もしかしてドクササコ乱獲にも中国が関わっているかもね。

薬剤学者が依頼ーー中国人バイヤーが承諾ーーキノコ乱獲

ははは、実に興味深いよ!毒キノコを欲しがる薬剤学者と中国人バイヤーの2つの存在がね!

中国人バイヤーとは個人的な関係を築きたいね。今後の''私の武偵活動''に役立ちそうだ。

薬剤学者はうちのスミスと仲良くなりそうだ。あの子、麻酔は嫌いなクセに毒薬や細菌が大好きだからね。

 

「さて、最後は......純砂金10㎏にノルマンディー産の軍馬を現金一括で購入した中国人ね」

 

またしても中国人か。おそらくキノコと血液パックの件と関わりが絶対にあるね。

 

いま純金は高いのに現金一括で購入とは羽振りがいいーー購入者は金持ちあるいは背後にいる者が権力者?組織?

 

組織ーー中国に本拠地を置く密売組織?暴力組織?あるいは両方の可能性。

 

密売組織ーー反社会組織ーー砂金を購入ーー誰かに購入を依頼された?

 

金価格は相場より高くして販売ーー利益にならない。

 

「反社会組織に購入を依頼するなんて依頼人は金が好きみたいだねーー今は相場が高いのにも関わらずね。相手を反社会組織と知っていながら依頼するなんて、確実にボッタくられるのに.......まあ、どうでもいいか」

 

金が好きか......金といえばカリブ海やエジプトの遺跡に眠る黄金を思い浮かべるね〜ロマンがある。特にエジプトの財宝はいいね。

金の加工技術が高く、芸術的な金の装飾品が数々ある。

古代のエジプトは他国から金の加工を依頼され、加工した金を輸出していたほどだ。

もしかして、中国の組織に購入を依頼した人間はエジプト人だったりして......前に砂金の盗難事件もあったし、いや砂金だけで決めつけるのはダメだ。今回は購入しているし、事件性はなしでいこう。

 

「ノルマンディ産の軍馬。それも白毛の牝馬で、しかも馬鎧と馬具も購入」

 

こっちらも正規の手順で購入されたモノだ。

ノルマンディはイギリス海峡に臨むフランス北西部の地方。

フランスには強い馬が多い。馬の品種改良はフランスが始めて、軍馬もフランスが作ったというくらいだ。

白毛の牝馬は高いーー日本円で1500万〜2000万円はする。

馬具と馬鎧は世界的な高級ファッションブランドであるエルメス製。

エルメスはかばんや財布などを中心としたファッションブランドとして世界中でとても人気がありますが、実は馬とも非常に深いつながりがあるのです。

エルメスはフランスのパリで1837年に創業したが、創業者であるティエリ・エルメスは馬具をつくる職人だった。

質のいい乗馬用のブーツなど、エルメスの馬具はフランスの富裕層を中心とした顧客に好評で、ヨーロッパを代表する一流馬具メーカーとして発展していった。

 

購入を依頼した人物ーー購入依頼者が反社会組織にも関わらず依頼ーー品物にこだわりあり。

 

フランスに拘るーーフランス人の可能性あり。

 

ノルマンディ産の牝馬ーーフランスの女性。パートナーに選ぶ馬は同性がよい。

 

「購入を依頼した人物はフランス人だね〜。実にわかりやすい」

 

背景にいる中国の組織とは早く関係を持ちたくなってきた。

金次第では何でも受注してくれる筈だ。

私が決意していると、♪〜♪〜携帯が鳴ったーー私のお気に入りシューベルトのピアノ5重奏曲『鱒』だ。

画面を開いてみると相手はモランだった。

 

「ハイハイ。どうしたのかなモラン?」

 

『そろそろお時間です。主』

 

「時間?ああ!そうだったね」

 

私は時計を見る。時刻は11時ジャスト。今日はモランと出かけるのだった。モランが電話を掛けてくれて助かった。

 

「ごめんね〜ちょっと事件を繋ぐのに夢中になっちゃったよ」

 

『いいえ、構いません。それでは寮までお迎えに上がっても宜しいですか?』

 

「あっ!その前にいつものアレをする時間なら十分あるでしょう」

 

私の言葉にモランは『ええ』と答える。いつものアレとは、学園島に生息する野生の鳩に餌をやることだ。

ベンチに座って餌をやるひと時が楽しい。鳩にエサをやるのは......まあ、多目に見てほしい。

電話を切り、出かける準備をする。今日は少し冷えるので、黒の外套を持って玄関に向かう。

 

「おっと、忘れてはいないよね」

 

私はポケットに入れているある物を確認するーー赤い手帳だ。

これは只の手帳ではない。これには私が今まで稼いできたお金や物資ーー財産を記してある。様々な依頼や相談に乗って、解決や改正を成功させて稼いだ資金だ。

最初は手帳など無くても、自分の財産を管理できたが、資産が大きくなり過ぎて書き示す必要性ができてしまった。

これをベンチに座わって新しく書き足していくのが、ささやかな楽しみの1つだ。

中身は誰かに見られても大丈夫な様に暗号化してある。そして、この暗号はあるモノがないと解けないようになっているのだ。

出かける前に『スパイダー』で調べた事件を図面ーー関係図にして部屋に貼る。これでよし!

 

「おっと」

 

「きゃ......!」

 

玄関を開け、外に出ると女子生徒にぶつかりそうになった。大丈夫かな?

 

「大丈夫?怪我はない?」

 

「大丈夫です。あ、もしかして玲瓏館・M・零さんですか?」

 

「うん、そうだよ。君は?見たところ中学生かな?ここは高等部の寮だけど何か用かい?」

 

「始めまして!私、中等部3年の前島さなと言います。実は私、零先輩のファンなんです!握手してください!」

 

前島さなと名乗ったその少女は私に向かって、手を差し出してきた。

中学生が高等部の寮に来るのは珍しいね。

それに私のファンだなんて。そんなに有名だったかな?それにしても、握手か〜まあ、いいか!

私は少女に握手してあげた。

 

「ありがとうございます!この手、もう洗いません」

 

「いや、洗ってね」

 

「あれ?先輩どこかにお出かけですか?」

 

「うん、ちょっとね」

 

「だったら寮の外まで同行します。あ、外套をお預かりします」

 

「あ、結構だよ」

 

私は反射的に身を躱す。何だろうね〜この子の変な感じがするぞ。

私のファンというのは嘘っぽい。ちょっと分析......いや、今はモランとの約束があるし、急がないとね。

 

「ごめんね。私は今、急いでいるから」

 

私は早足で寮を出て行く。少し気になるが、今はいいか。

 

 

 

 

 

別視点ーー

 

零を見送った''少女'は顔に手を当て、

 

「あーあー、れいれい行っちゃった。手帳、取り損ねちゃったよ」

 

ベリベリと変装マスクを剥がし、前島さなの顔から自分の顔に戻った理子はボヤいた。

 

「ジャンヌ。もう出てきていいよ」

 

寮の廊下の物陰に向かって、喋ると銀髪で長身の美少女ーージャンヌが姿を現した。

 

「あれが『教授』の言っていた玲瓏館・M・零か」

 

「そうだよ。ジャンヌから見て、どうだった?」

 

「......只ならぬ悪意を感じるな。私がイ・ウーで見てきた無法者よりもーー圧倒的な悪意の化身だなアレは」

 

「そんな悪意の化身である零について調べろ、なんて『教授』も変わっているね」

 

「まったくだ。『教授』は珍しく面白そうにしていたな。前に理子が報告した玲瓏館の自作した事件の関係図ーー蜘蛛の巣だったか?それを話したら大笑いしたな。あの場にいた全員が目を丸くしていたぞ」

 

「くふ。そうだよね。あれにはあたしも驚いたよ」

 

理子はイ・ウーでの報告会について思い出していた。

イ・ウーのリーダーである『教授』に零について報告すると、突然大笑いし始めたのだ。続けて「その子は面白いね。蜘蛛の巣を張り巡らせるのでなく、解き明かすとは......ハハハハハ。あの子の性質上、逆なのにね。いや、あの子ならどちらもやってみせるか」と腹に手を当てて笑い出した。

 

「それじゃ、早速『教授』も興味津々の零のお部屋に突撃しよう!」

 

「大丈夫なのか?ヤツはかなりの用心深く見えたが......」

 

「心配無用!わたくしにはコレがあります。ジャジャーン!」

 

そう言って理子が取り出しのは鍵だった。

 

「それは部屋の鍵か?」

 

「その通りです☆前に零からいつでも遊びに来ていいよって、合鍵を貰ったんだ」

 

「部屋に監視装置があるやもしれんぞ。ワザと侵入させて......」

 

「もうジャンヌは心配性だぞ。その辺りは『教授』から『あの子は自分の部屋にカメラや盗聴器の類ーー自身のプライベートな空間には仕掛けない。そんな所は曽祖父である彼と似ている』って、言ってたからさ』

 

「『教授』のお墨付きなら大丈夫か。しかし、玲瓏館の曽祖父とは一体何者だ?理子は知っているか?」

 

「『教授』の昔の宿敵だってさ」

 

「『教授』の宿敵だと⁉︎それはまさか」

 

「今は仕事に専念しようよ。ジャンヌ」

 

理子はそう言ってガチャッと鍵を開けた。

中に入った2人はまずリビングに向かった。

零の部屋ーー内装をわざと使い古された感じにアレンジしており、壁には柄付きの壁紙が貼られて落ち着いた雰囲気。

柄付きの壁紙の壁には長ソファーが置かれ、向かい側には一人がけのソファー2つがお互い向かい合うように置かれている。

奥のダイニングテーブルの上にはパソコン・チェス盤。

窓から離れた場所にある本棚には犯罪関連・心理学・哲学・数学・天体力学関連の本でギッシリ。

本棚の隣には陽で変色しないようスクラップにした新聞の切り抜き・週刊誌(主に事件関係が殆ど)が暗い場所に束になった状態で置かれている。

壁・天井にはピンで止められた事件の調書・写真・地図・新聞の切り抜きを糸で繋いだ関係図ーー通称蜘蛛の巣が作成されている。

テレビの周りには理子が持ち込んだゲーム機・ソフトがある。ゲームソフトの中にはR15・18のゲームが......

 

「零の部屋は前に来たことがあれけど、此処までは凄くなかったよ」

 

「理子。これを見てみろ」

 

ジャンヌが理子に差し出したのは新聞の切り抜きだった。

 

「何?えーっと、これってあたしの事件じゃん」

 

「それだけじゃない。こっちの切り抜きは私の事件について。これはパトラ、こっちのはココまであるぞ。此処にあるのはイ・ウーに関する事件ばかりだ」

 

「でも新聞の切り抜きだけで驚くのは早いと思うよ。あたしの知る限り、零はまだまだイ・ウーについて調べる。もっと部屋を調べてみようよ」

 

理子はそう言うとキッチンに向かった。

キッチンには実験道具が満載ーーフラスコ・試験管・様々な薬品が並べられた棚・ハンガーにかかった白衣など、一通りの道具が揃っていた。とても調理場とは思えない光景だ。

冷蔵庫の中は食材だけでなく、奇妙な液体が入った瓶がある。当たらない方がよさそうだ。

白雪から教えてもらったレシピもあるが、途中で本人が''アレンジ''を加えるのでいかにも台無しになっている。

棚の中にはお菓子がある。ただし、ももまんだけはない。

 

「理子!こっちに来てくれ」

 

ジャンヌが呼んでいる。別室からだ。

 

「どうしたのジャン......」

 

部屋に入り、そこにあるモノを見て理子は絶句した。

そこにあったのは蜘蛛の巣だった。

部屋の正面ーー中央の壁には世界地図が貼られ、それに事件ーーイ・ウーが関わった事件の詳細・新聞・写真・調書などが所狭しと貼られている。床か天井には様々な国の詳細の地図が貼られ、それにもイ・ウーの事件がピンで止められている。

極め付けは、それらが赤い糸で全部繋げられ関係性を表している。

正しく蜘蛛の巣だ。

 

「これが噂の蜘蛛の巣か。実物を見るのは始めてだ。特にこれ程の規模の物はな」

 

「零って、トンデモないヤツだな。流石は『教授』の宿敵のひ孫だね。思わず尊敬しちゃうよ」

 

「これを見てみろ。私の起こした事件だ。馬鹿な⁉︎フランスに集約している。私がフランス人だと見抜いているのか......!」

 

ジャンヌは床に貼ってある蜘蛛の巣を見て驚いた。

それは『魔剣』と呼ばれる自分が起こした事件の関係図だった。ご丁寧にタイトル『魔剣』と書いてある。

ヨーロッパ諸国を幾重にも糸が交差し、最終的にはフランスで終わっている。誰が見ても『魔剣』はフランスに関係ありと見るだろう。

 

「こっちはあたしの事件だ......まだ制作中みたいだね」

 

理子は天井に貼ってあるタイトル『武偵殺し』の蜘蛛の巣を見た。

アメリカ・ヨーロッパ諸国と糸が繋げられている。途中には捜査中を区切られているが、零が書き足したのか。次に『武偵殺し』が事件を起こすであろう場所がピックアップされている。

その場所は次に理子が犯行を計画している場所と合致していた。

 

「他にあるぞ。これはパトラ、こっちのカツェだ。ココの蘭幫にまで捜査の手が、いや蜘蛛の巣が巡っていたのか。うん?どうした理子」

 

「これ見てよ。あたしの犯行の予想図ーーアンベリール号とある。計画実行は12月頃って、何で零はそんな事まで予想できるんだよ⁉︎ドンピシャ過ぎて怖いくらいだよ」

 

「アンベリール号?ああ、金一を完全にこちら側へと誘うための事件か。あくまで予想に過ぎないだけで......」

 

「予想で済まされるかよ!これ見てみろよ。アンベリール号の項目、その下にターゲット候補とある。その中で金一の写真が目立つようにあるよ」

 

「ヤツは魔術師や預言者の類か?」

 

「もしかしたら、『教授』と同等の推理力があるかも」

 

「ここにあるモノ全て記録して、イ・ウーに持ち帰ろう。そこで緊急会議だ。今後の計画を見直す事になるやもしれん」

 

ジャンヌはカメラを取り出し、パシャパシャと部屋にある蜘蛛の巣を撮影する。

 

「それじゃ、あたしは零の部屋にある本を全部撮影するよ」

 

「本だと?まさか、残らず撮影する気か?」

 

「うん。『教授』から零の所有する本全てを調べろってさ。何かその中に零の活動資金に繋がるヒントがあるって」

 

 



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家宅捜査?

別視点

 

理子はリビングに戻り、零が所有する本を記録し始めたーー本棚にあるモノだけじゃなく、床やテーブルに置かれている本も全てだ。

 

「うわ〜、零って、こんな本も読むんだ。明らかに武偵向きのモノじゃないね」

 

床に置いてある本ーー『世界の拷問一覧』『殺人鬼』『ゴッサム・シティのビラン』『ネルグ街の悪夢』『凶器と狂気』『殺人を無罪にする方法』などタイトルからしてヤバいモノばかりだ。

 

「こっちの本は何度も読んでるみたいだね。表紙と背表紙のシワが大きいし......あっ!フセンがしてある」

 

理子はテーブルに置かれている本に目が止まった。

『司法取引』『刑事告訴』『刑事免責』『取引後の犯人』『逮捕されない犯人』『時効反対』『撤廃』『家庭栽培』ーーテーブルに置かれているこれらにはフセンがしてあり、明らかに何度も読んでる事がわかる。

試しに何冊かパラパラと巡ってみると、

 

「『刑事免責』と『取引後の犯人』って、本のページにシワがある......これはグシャッと握って出来たものだ。零は本を大事にするのに何でだろう?」

 

2冊の本ーー『刑事免責』と『取引後の犯人』のページには、零だろうか?ーー誰かが握った為かグチャグチャになっていた。

零が本を大事する事を理子は知っていた。誰かに貸して、傷物にされたの手元に残した?

もしくは、零本人がグチャグチャにしたのだろうか。

 

「理子。そっちは捗っているか?こっちはある程度、記録したぞ」

 

リビングにジャンヌがやってきた。どうやら、別室にあった蜘蛛の巣を記録し終えたようだ。

 

「お疲れ〜。こっちはまだだよ。零って、色んな本読むから記録するだけで一苦労だよ」

 

「手伝おう。うん?何だこの本はいくつかのページがグチャグチャだ」

 

「そうなんだよね。零って、本を大事にするのに変だと思ってさ」

 

理子は2冊の本を眺めていると、ある事を思い出した。

 

「そういえば......零が前に担当した事件で刑事免責で罪に問えない犯人が許せないって、言ってた」

 

「それはどんな事件だったんだ?」

 

それは7月に入る少し前、子供を狙った連続誘拐事件を解決してほしいと零に直接依頼が舞い込んできたーー入学してから、幾つもの事件を解決して有名になっていた武偵だから珍しくはなかった。

事件は10年前から行われ、それまで7人の子供が誘拐された。7人の内、2番目と3番目の被害者は遺体となって発見された。

犯行の手口は子供を誘拐し、現場にメッセージの入った風船を置いていくという武偵や警察に対する挑戦状だった。

 

「零は見事に誘拐犯を暴き出したんだけど、誘拐犯には共犯者がいたんだよーー最初に誘拐された子供だったんだ。誘拐された当初、10歳で今は20歳になってたから、十分罪に問えたけど、零は誘拐犯ーー首謀者を逮捕するために取引を持ちかけたんだ」

 

「取引......ああ、成る程な。刑事免責か」

 

取引というワードにジャンヌは納得した。

刑事免責ーー刑事訴訟において,自己が刑事訴追を受けるおそれがあるとして証人が証言を拒否した場合に,証言義務を負わせることと引換えにその罪についての訴追の免除の特権 (免責特権) を裁判所が与えること。アメリカ合衆国の連邦法や多くの州法に規定があり,共犯者に免責を保障し,首謀者の訴追を確保することをおもなねらいとする。

 

「刑事免責を持ちかけ、首謀者である誘拐犯を逮捕したんだろう?共犯者は罪に問えなかったが、そいつも被害者の1人だ。取引は妥当だと思うぞ」

 

「違うよジャンヌ。逆だったんだよ。誘拐された子供の方が首謀者だったんだよ」

 

「首謀者だと⁉︎しかし、共犯者の方は当時、子供だったハズだ」

 

「誘拐されて10年の内に立場が逆転したんだよ。自分を誘拐した犯人をそいつは支配下に置いて、自分が首謀者になった。後は話さなくても分かるでしょう?」

 

「首謀者ではなく共犯者になり、刑事免責を利用して罪を逃れたわけだな。中々、頭が回るようだ。それで事件はどうなった?」

 

ジャンヌは理子に問うた。事件の結末がどうしても気になったからだ。

 

「刑事免責のおかげで罪にとえない事に零は激怒してたよ。あれはよく覚えいるよ。犯人にも、そして取引を持ちかけた自分に対してもね。それから零は撤退して罪を立証するために、頭を働かせてたよ」

 

理子は当時の事を思い出していた。

零は徹夜して法律関係の本を読み漁り、司法機関、武偵検事に片っ端しに電話をして、首謀者から共犯者になった犯人を罪にとえる方法を探し続けた。

 

「それでね。零は刑事免責の穴ーー共犯者という名目に目をつけたんだ」

 

共犯者ーー犯罪を共同で実行した者。または犯罪に関与した者。

 

「共犯者がどうしたのいうのだ?」

 

「零は犯人が共同で行なっていない誘拐ーー単独犯として行なった誘拐事件を立証して、逮捕したんだよ。でも単独で行なった誘拐は3件目の誘拐だけで、他は共犯者として行なった事になっていたから、事実上、一件の犯行しか立証できなかったけど......」

 

「成る程な。だから、この『刑事免責』の本はここまでグチャグチャなのか。余程、悔しかったのだろう」

 

「まあ、結局、その犯人は護送中、被害者遺族に誘拐されて殺されちゃったけどね」

 

事件があっけない結末で終わったからかーー理子はつまらなそうに、はぁーと溜息をつく。

 

「零の回想は終わりにして、調査を再開しようか」

 

「そうだな」

 

2人は再び調査を再開し始めたーー理子は再びリビングを、ジャンヌはキッチンの方に向かった。

 

「ここは化学実験室か?とても調理場とは思えないな」

 

中に入ってみると、そこは化学実験室だった。

実験装置は驚くほど本格的で、ずらりと並んだ大きなビーカーには気味の悪い緑色の液体が入っていて、そこから煙が立ち上っているーー換気扇は回っているので問題ない。

リビングに戻って取ってくるのが面倒なのだろうか?本棚がある。

ジャンヌは本棚を眺めてみると、古くてボロボロの学術書がコレクションされている。毒物に関する本だけで一段すべてが埋まっている棚もある。一番下の段には、『種の起原』、『女王蜂を隔離した場合の巣』、『人体の解剖学』、『発火現象』、『アレイスター・クローリー』などがあるーー隅には『緋色の研究』も置いてある。

キッチンのテーブルには、蜂蜜と苺ジャムとマーガリンがある。

 

「うっ⁉︎これはカエルの死体か?何故、そのままにしている?」

 

直径20cmほどの銅製の容器に5匹のカエルがプカプカと浮いているーーどうやら死んでいるようだ。

容器の隣には、死んだカエルの経過を調べる為だろうかーー解剖されたカエルの死体がある。おまけに解剖セットもそのままだ。

 

「こっちはサンプル棚か。どこのモノだ?」

 

キッチンの壁際に置かれた古い棚には、無数の土層サンプルと血液サンプルと歯の入った瓶類の重みでたわんでしまっている。

 

「うん?これはバイオリンか?何故、こんな物がここにある?」

 

瓶の横にあるバイオリン・ケースに目が止まった。明らかに、キッチンいや、化学実験室には不似合いだ。

 

「ジャンヌ〜、こっち来てよ」

 

理子の呼ぶ声が聞こえてきたので、ジャンヌはリビングに戻った。

 

「どうした理子?」

 

「見つけちゃった☆」

 

理子は手に万札を抱えていた。パッと見た限り、500万円はあるだろう。丁寧にロール状にして輪ゴムで止めてある。

 

「そんな物、どこから見つけてきた」

 

「リビングに置いてるクッキー缶の中にありました〜。零って、ベタなところがあるから、もしやと思って開けてみたら、ありましたよ」

 

「欲に駆られて盗むなよ理子。奴が確認したら、1発でアウトだ」

 

「も、勿論じゃん。あくまで調査の一環で開けてみただけだよ」

 

理子は渋々と札束をクッキー缶に戻す。

 

「それで他にめぼしい物はあったか?」

 

「うーん、めぼしいと言うか、変な物ならあったよ」

 

理子はジャンヌをベランダに方に案内した。

ベランダには様々な植物ーートマト・キュウリ・ピーマンが植えらていたが、どれも枯れている。

 

「どれも枯れているな。妙だな......奴は几帳面な性格をしていると思ったんだが」

 

「そんな零が植物を枯らしちゃうなんて変だよね。これも記録しよう」

 

理子はカメラでベランダの光景を撮影する。

ある程度、撮影し終えた2人はリビングに戻り、

 

「よくベランダの植物に気づいたな理子。私なら見落としていた」

 

「くふ。零からアドバイス貰ってたんだよ。『いかなる事も観察して、分析してみたら』ってね。おかけで観察眼に自信が持ててきたんだよね」

 

ジャンヌは知らないだろうが、零は理子を始めとした探偵科の生徒達を集めて講習をしている。

そこでは自信が感じた捜査の現状、不満、改善点などを指摘し合える場を設けているのだ。

零は探偵科の生徒にアドバイスも与え、武偵ランクや捜査能力を向上させた生徒を何人も輩出している。理子もそんな生徒の1人だ。

 

「リビングの他に気づいた事はないのか?」

 

「あっ!そうそう、これなんかウケるよ」

 

理子が差し出してきたのはパイプだった。ビリヤードと呼ばれるボウルが大きく曲がったパイプーークラシカルな形で、一般的なタイプだ。ボウル部分にはMと刻印されている。

 

「奴は喫煙者か?いや、この香りからして精油だな」

 

「郵便物として届いた物みたいだね。ほら、ゴミ箱に包み紙が捨ててあるよ。差出人は......イギリスのベイカー街ってあるね。氏名は読めないーーグチャグチャだ。誰かからのプレゼントかな?」

 

ゴミ箱の中には郵便物の包み紙が沢山捨ててあった。

側のテーブルの上をよく見れば、他にも沢山の郵便物があるーーどれも未開封の物だ。

品物は、油彩画・化石・昆虫標本・剥製など小包ごとバラバラだったが、共通する事が1つだけあった。

差出人は皆、イギリスのベイカー街。氏名はワザとだろうか。名前の欄はグチャグチャとなぞり書きーー読めないようにしてある。

 

「ベイカー街......『教授』に縁深き場所だな。それにしてもパイプか」

 

「ぷぷ、ダメだ。零がパイプ吹かしながら謎解きする光景が目に浮かんじゃう」

 

理子は口に当て、必死に笑いをこらえる。無理もない。あの『教授』の宿敵のひ孫がパイプを吹かしながら謎解きをするのだ。

 

「絶対に『教授』が知ったら、爆笑もんだよ!あー、ダメだ。お腹痛くなってきた」

 

「確かにな。これに奴が鹿撃帽でも被れば......プ、ダメだ。私も可笑しくなってきた」

 

「ぷはは、やめてよジャンヌ。笑わせないでよ!」

 

2人して笑い始めた。

 

「あー、パイプを吹かしながら『知恵の泉が私に囁いているのだよ』とか『混沌のカケラを再構築してやろう』って、言いそう。頼んだらやってくれるかな」

 

「何かのアニメの台詞か?」

 

「そうだよ☆絶対に零に言わせよう」

 

あり得ないかもしれないが、鹿撃帽を被り、手にパイプを持っている零の姿は何ともカオスな光景だろう。

そんな零の姿が見たくて、来年の文化祭で着せてやろうと計画する理子であった。

 

 




次回は零の新しい仲間達を登場させる予定です。
その後はあっちの『教授』と対決させるつもりです。
対決が終わったら、原作突入させます。


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集うワルたち

お待たせしました。スランプってヤツを体験しましたよ。部下の面子を決めるのが大変だとは知りませんでした。
部下のアイデアを提供していただきありがとうございました。大いに参考にさせて貰います‼︎


・ベレッタと理子には何の恨みも御座いません!
・この話の中で主人公の歪みが見つかります。矛盾・悪意・偽善なんでもござれ。
・そして、理子とあのクズ野郎はまったく違います‼︎本当に違いますからね!





「こうしてモランと二人でドライブするのは久しぶりだね」

 

「はい、主」

 

私は愛車のポルシェ356aの助手席にモランを乗せて、東京の実家に向かって走っていた。

ホームシックになったわけではない。

 

「主。今回、ご実家に帰郷する目的をまだ聞いていないのですが......」

 

「ねえ、モラン。君はこの国の武偵法をどう思っている?」

 

私はモランに質問をしてみた。もちろん、視線は前を向いた状態でね。脇見運転はダメだ。

 

「はい?......そうですね。私からすれば、この国の武偵法は甘いと思います」

 

「そう思うよね〜。特に9条『武偵は如何なる時でも殺傷を禁ずる』の項目はね。あれがあるから犯罪者は殺されないと高を括る」

 

この国の武偵法は甘い。甘すぎる。ある一定の犯罪者は殺意むき出しで襲ってくるのに対し、武偵は非殺傷を心掛けなければならない。

強襲科を始めとした武偵の死亡率が高い原因の1つにもなっている。

今の武偵法が未来ある武偵の命を奪っていると言っても過言じゃない。

犯罪者が犯行手口を変えてくるのなら、武偵も武偵法も変わるべきだーー多くの武偵の生存率を少しでも上げる為に......

 

「突然どうされたのですか主?」

 

モランの声で我に帰る。いけない深く考え過ぎた。今は武偵法じゃなく、

 

「うーん、実はね今日、私の実家に彼らを呼んでいるんだよね」

 

私は話しの話題を変えた。

彼らというのは私が''武偵活動''の折、独自のルートでスカウトしてきた者たちだ。

その都度、モランにも同行してもらった。

 

「彼らを呼んだのですか⁉︎まさか、その中にはあいつらも......」

 

モランが凄く嫌そうな顔をした。あいつらというのは十中八苦あの二人の事だろう。

まあ、そこは我慢しなさい。

 

「主......彼らを呼んだということは、私だけでは不満なのですか⁉︎」

 

隣でモランが声を上げたので、チラリと見てみると目をウルウルさせ今にも泣きそうなモランがそこにいた。

ちょっと待って!そんな子犬のような目で私を見つめないで!

 

「不満って訳じゃないよ。ただ......これからの''武偵活動''に人手が必要でね。例の組織と戦う為に」

 

「例の組織......主が追っている秘密犯罪組織ですね」

 

秘密犯罪組織ーー組織名は不明な為、ここではアンノウンとしておこう。アンノウンは世界中のあらゆる場所で犯罪を行なっている。世界中で起こっている未解決事件には、必ずこのアンノウンが関わっていると見て間違いない。

アンノウンには、『武偵殺し』『魔剣』など名だたる犯罪者が所属しているだろう。

改めて、考えてみるとトンデモナイ組織だね。司法組織もお手上げ、

まるでロンドンの未解決事件に関わっていた私の曾お爺さんの組織のようだ。あれとは違い舞台はロンドンではなく、全世界ときた。

おそらく、組織の規模は曾お爺さんを余裕で超えている。

そんな組織を相手取るのに個人の力では限界がある。なので、私は集団ーー組織で対抗する。

 

「私はねモラン。その組織がどうも気に入らなくてね〜。前にアメリカ、イタリア、ドイツーー海外の事件解決に誰かの邪魔が入ってね。私は例の組織が関わったとしか思えないんだ」

 

「主の邪魔立てをする者は私が全て排除します」

 

モランがキリッと答える。おお〜頼もしいね。

彼女は私の一声で何でもしてくれるーー例えそれが表向きの武偵活動の...おっと、これはいいか。

 

「お!見えてきたよ」

 

車を走らせる事、1時間ほどで我が家に到着した。

狙撃銃のケースを肩にかけたモランと一緒に車を降り、玄関に手をかける。さーて、誰が来ているのかな?

私は期待に胸を高鳴らせ、ガチャッと玄関を開けると、

 

「モリちゃーん!久しぶり‼︎」

 

陽気な声が響くともに、小柄な人影が私の腹部にイキオイよく飛び込んで来た。

髪は薄い銀髪のツインテールで、身長は140ほど。顔は程よく日焼けしてた可愛らしい女の子だ。服装は黒を基調としたフリフリのゴスロリで小柄な体型によく似合っている。

 

「やあ、アップル。久しぶりだね」

 

私の腹部で猫の様に甘えてくる彼女の名前はアップル・ワース。

アメリカ出身の泥棒。冗談ではなくガチの職業泥棒だ。

殺しを嫌い、強盗まがいな盗みはしない事をポリシーにしている。まるで怪盗アルセーヌ・ルパンのようだ。

だだし、ルパンと違い彼女はお金で盗みをする。お金次第では何でも盗んできてくれる。

テンションの高さから、りこりんとカブるんだけど彼女は、とびきりの才能持ちの泥棒だ。武偵のりこりんとは違う。

 

「モランちゃんも久しぶり!」

 

「え、ええ。お久しぶりですねアップル」

 

モランは苦笑いで挨拶する。

モランはテンションの高いアップルを嫌っている訳じゃないけど、彼女のテンションについていけないだけだ。

 

「ねえ!ねえ!モリちゃんは彼氏とかできた?いたら紹介してほしいな」

 

アップルが会って早々、私にそんな質問してきた。

彼氏?うーん彼氏って、訳じゃないけど相棒ーー金次君ならいるよ。

 

「そんなモノいるわけないだろうが‼︎」

 

モランが声を張り上げた。うわ⁉︎何ビックリした。

 

「主にちょっかいを出すモノは私が全て射殺する‼︎覚悟しておくように‼︎」

 

「じょ、冗談だよー。もう!モランちゃんは大袈裟だぞー」

 

なはははと、アップルは明るく笑って誤魔化すが、ちゃっかりとゴスロリの袖に仕込んでいるスリープガンを抜けるようにしている。

コラ!喧嘩はダメだぞ。

 

「アメリカから私の呼びかけに応じてくれて、ありがとうねアップル」

 

「モリちゃんの頼みとあればいつでも来るよ!たんまりと貰いましたしね〜」

 

手で円を作り、ゲヘヘヘを不気味に笑う。おおー、流石お金にガメツイね。彼女に頼みーー正確にはお金で雇っている関係だけど、何故か彼女は嫌いになれないんだよね。

 

「それでアップル。主の呼びかけに応じたのは貴女だけですか?他は......例えばヘルダーは来ていないのですか?」

 

「ヘーちゃんは何か『ルガーは永遠の現役じゃあ‼︎私の母国の銃を時代遅れ呼ばわりしたベレッタをちょっと潰してくる‼︎』って、言ってイタリアに向かったよ」

 

「あの人は......何をやっているんですか......」

 

モランが呆れた様子で話を聞いている。

ヘルダーは生粋のドイツ人で、ドイツ原産の武器を誇りにしているからね。残念だな〜来ていたらフィンランド国防博物館盗難事件について聞きたい事があったんだけど...

 

「今日来ているのは貴女だけですか?」

 

「いいや、モラン。今日はアップルを含めて、4人来ているよ」

 

「あれー?どうして分かるのモリちゃん?」

 

「玄関の前ーー砂があるね。どれも類似していない砂ばかりだ」

 

私たちがいる玄関には砂が所々、溜まっている

玄関には家に上がるうえで脱いだ靴が在るはずだが、それがない。おそらく、イタズラも兼ねてアップルが隠したのだろう。

 

「こっちの砂は粗粒砂、これは中粒砂。そして細粒砂。どれも種類がバラバラだ。靴底に挟まった砂が脱ぐ際に落ちたのだろう。この辺りーー東京では見かけない地層の物もある。遠方から人が来ているのは明白だよ。粗粒砂はアップル。中粒砂は多いね。これは2人組だろう」

 

「ほえー、モリちゃんの推理って、いつ聞いても惚れ惚れしちゃうよ。大正解。そう、私の他に後3人来ているよ」

 

「みんなの所に案内してくれるかい?」

 

「お任せあれ!」

 

アップルにグイグイと手を引かれ、私は実家の居間に案内される。

居間には私の推理通り、3人の客人がそこにいた。

 

男は燃えるような赤い巻き毛を目元まで伸ばしており、顔立ちは判然としない。臙脂色のベストを身に着け、両手を背中に回して立っている。

 

「おお、ジャック君じゃないか。よく来てくれたね」

 

「......ご無沙汰しています教授」

 

赤毛の男がぼそりと答えた。

彼の名前はジャック。苗字はない。

イギリス出身で年齢は私と同い年くらい。まあ、彼自身も正確な年齢・生年月日は知らないんだけど......

それでは不憫だと思って、海外渡航する為に私が表向きの戸籍ーーパスポートを作ったりしたね。

 

「ジャックはいつコッチに到着したのかな?」

 

「......1週間前です」

 

また、ジャックがぼそりと答えた。

1週間前⁉︎いつ来るかは各々に任せたけど、もっと遅くーー2日か3日前でもよかったのに。

 

「ジャックさん。主の前では、もっと元気よく喋ってみてはどうですか?それでは根暗だと思われますよ」

 

モランが保育園の先生みたいにジャックに促す。

 

「......善処する」

 

ジャックはコクリと首を縦に振り、答える。

元気よくか〜ジャックが突然、元気一杯テンション高めのキャラになったら苦笑いしそう......

私がそんな事を考えていると、

 

「ギャハハ、ジャック注意されてやんノ‼︎」

 

「ソれもセバスに‼︎おい、セバス。お前はジャックのママかよ!」

 

ジャックの後ろーーテーブルに座っている''美女''2人がゲラゲラと笑い出した。

全体的に黒エナメルの服にエンジニアブーツ。金髪は無造作に伸ばしたまま。首筋には弾痕の跡が3発ほど見える。

もう一方は黒のカーゴパンツにフィールドジャケット、頭にサングラス。片割れと同じ金髪は傷んでいる。こちらの首筋には大きな切り傷が3本交差するように見える。

 

「やあ、ボニーそしてクライド。相変わらず元気だね〜」

 

この2人の名前は先に述べたのが、ボニー・パーカー・バロウ。後に述べたのがクライド・パーカー・バロウ。

二卵性の双子で、嘘か本当か1930年代前半にアメリカ中西部で銀行強盗や殺人を繰り返したカップルのひ孫だそうな。

2人が座るテーブルには持参だろうーー空の酒ビンが無造作に転がっている。口から飲み残しの酒が下に垂れている。ああ、畳にシミが出来ちゃうよ。どうも酒臭いと思ったら、この2人の仕業か。やれやれ。

 

「貴様ら......主の前で無礼過ぎではありませんか?」

 

「何だよセバス?やんのかヨ」

 

「イつでもOK牧場だぜ!」

 

モランが怒り心頭で睨みつける。

対して2人の''美女''が腰のホルスターに手を伸ばす。

ダメだよモラン。君じゃあ、この2人に早撃ちでは敵わないよ。

この3人仲が悪いんだよね〜

 

「ハイハイ。2人ともやめやめ。モリちゃんの前だよー」

 

3人の間にアップルが入る。

 

「どけよチビ!この犬やろうを躾けられねだろうガ!」

 

「アップル。貴女は下がってください。このバカ共には言葉など通じません」

 

「アあん?ちゃんと言葉、通じてんだろうが。それともお前あれか?No speak Englishってやつか?」

 

「英語など話せますよ。英語だけでなく、15ヶ国は話せます」

 

「うわー、自慢話しキター。自分は外国語ペラペラですヨ発言キター」

 

「......黙れ」

 

3人の口喧嘩に呆れたのか、ジャックがボソリと喋った。

それだけで、この場の室温がヒンヤリと下がった。いや、この場にいる全員の背筋にゾッと何かが通り過ぎた感じだ。

 

「おい、ジャック。殺気むき出しすんなヨ。ただのじゃれ合いだつーノ」

 

「コワコワ」

 

双子は笑って見せたが、明らかにカラ元気なのは見え見えだ。

この2人黙っていれば美人なんだけどね。

あっ何故、美女ではなく、美人かと言うと2人の内、1人は片割れと性別が逆なんだよね。

つまり、1人は男なんだよね。この件については双子は触れて欲しくないそうな。

何かこの2人を見ていると金一さんと金次君を思い浮かべるんだよね。あの2人、女装したら絶対に美女ーー姉妹になれるよ。正義の味方だけに変身ってね。

女装した兄弟でナカヨシコヨシしたら......ヤバイ!プレイにしてはハード過ぎるよ。でも、面白そうだ。今度、2人をモデルにした同人誌でも書いてみよう。タイトルは「仲良しキョウダイ」。ふふふ、ご飯が進みますなー。おっと、それどころじゃなかった。

 

「場を治めてくれてありがとうジャック。さて、遠路遥々ご苦労だったね2人とも、ようこそ日本へ」

 

「マちくたびれたぜモリー!いよいよ始めんだろう?」

 

「その為に俺たちを呼んだんだロ?え⁉︎」

 

「まぁまぁ落ち着いて......何事にも段階があるんだよ......ところでソッチ方面の腕は錆び付いてないよね?」

 

「「愚問だな」」

 

私の問いかけに、2人の返事は見事にハモった。おお〜、一卵性って訳じゃないけど、流石は双子、息が合う。

 

「なあ、モリー。アレやってくれヨ」

 

ボニーが私に何かを求めてきた。アレとは?うーむ、ああ成る程ね。

 

「YOUは何しに日本へ?」

 

「「強盗さ‼︎」」

 

某テレビ番組のノリで質問してみると、案の定、思った通りの答えが返ってきた。

 

「ハァー、まったくアナタ達は主の手伝いをする気があるのですか?」

 

「モちろんだ!大物狙いと聞いちゃ強盗の血が騒ぐぜ」

 

「なぁ、モー。いつ決行するんだヨ。例の組織の頭の首を取りに行くんだロ?お前は頭の首で、俺とボニーは組織の金が欲しいんだけド」

 

「勿論、財産ーーお金は好きにしていいよ。私の目的は例の組織を壊滅させる事だから」

 

例の組織は本当に目障りだ。存在を確認した時から、どうも気に入らない。消さないと枕を高くして寝られない。

 

「さて、これ以上待っても他は来ないようだし、今ここに居るメンバーに今後について話そうか」

 

私はテーブルの横に移動する。

それだけで騒がしかったボニーとクライドは口をつぐった。

ジャックとモランは直立姿勢で、アップルは私のそばーーテーブルに手をついて話を聞く。

 

「私は今の武偵法ーー法律を変えたい。ここにいるメンバーならそれが可能だと確信している」

 

「変えるって、正確にはどうやんだヨ?」

 

「ソうだぜ、モー。法律なんて直ぐには変え......うぇ法律って自分で言っちゃった」

 

「......法律は直ぐには変えられない......でも今直ぐ始められる事はある」

 

私は皆に背を向け、両手を大きく広げて、

 

「ここ東京を地獄の底に叩き落とし、犯罪都市にする」

 

その言葉と共に全員の顔が仰天した。

 

「ねぇ、モリちゃん。もっと分かるように言ってよ。どういう意味なの?''武偵法ーー法律を良くする''っていう本来の目的と違わない?」

 

「犯罪は''目的''じゃないよ。方法なんだよアップル」

 

首をコテンとさせ、疑問で一杯のアップルに私は説明する。

 

「さっき言った通り、法律は直ぐには変えられない。でも人の心なら一瞬でだって変えることが出来る」

 

「......心」

 

ジャックがボソリと答える。うん、やっぱり元気良く喋っていいよ君。

 

「人には様々な感情があり、人はそれで動く生き物なんだ。君達もそれは痛いほど知っているだろう?」

 

私は一旦、言葉を切り、

 

「......そして最も人の心を打ち動かすものーーそれは''死''だよ」

 

キッパリと言い切る。

 

「同意見だぜモー。死は何よりも役立つゼ」

 

「これから東京市民は私の仕立てた多くの''犯罪と死''を見ていく事になる......つまり犯罪によって街は舞台と化し、市民はそれを目撃する観客となる」

 

「主の犯罪によって、東京の街そのものが劇場化ですか」

 

「そして観客に見せるテーマは、この国の法律ーー武偵法の歪みが最も顕になるような''死''ーー私達が演出し飾り立て意味を持たせた''死''こそが、真に人々の......この国の目を覚まさせる事になる」

 

「俺らがソのトリガーを引くって、訳だな。オもしろいじゃん」

 

ボニーとクライドは悪そうな笑みを浮かべて楽しそうだ。いいね〜まさにワルの顔だ。

 

「話はわかったけどモリちゃん」

 

アップルはスッと立ち上がり、

 

「けどこれまで以上の大掛かりな仕事になるよ?今のワタシたちじゃね......」

 

「心配いらないよアップル。その為の準備は既に整っているから」

 

心配しているアップルを落ち着かせる。

そう、準備は整っている。私が稼いできた手に入れたモノーー金・武器・人材・ルート・情報など必要なモノは全て揃っている。

私はポケットにしまっている赤の手帳に手をやった。

 

「幕を開ける時が来た。今回の大きな舞台で''劇''が成功すれば何だって出来るばずさ」

 

「主の思うがままに」

 

「モリちゃんについて行くよ!お金次第でね」

 

「......教授の好きなように」

 

「早く始めようゼ!」

 

「ヤろうぜ!」

 

皆が一斉に答えはバラバラだけど、答えてくれた。

頼もしいね〜

 

「では紹介しよう。栄えある最初の出演はーー『武偵殺し』だよ」

 

 




会議後ーー

「さて、親睦をさらに深めるために食事にしよう」

「オっ!なんだよモー。飯でも食わせてくれんのかよ?」

「どこに行くんだヨ。東京の酒場カ?」

「なははは、昼間から酒を飲む訳ないじゃん。それちモリちゃんは未成年だし」

「私の手料理だよ」

「「「え」」」

その瞬間、時が止まった。
ジャックの姿は確然、消えた。

「...,...ねぇ、モリちゃん。因みに何を作るの?」

「うん?ビーフシュチューだよ」.

「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「ヤめてくぇぇぇぇぇぇぇ」

「死にたくなイぃぃぃぃぃ」

「貴様ら....主の手料理が食えぬのか‼︎」

「「「お前だけだよ‼︎」」」



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とある事件 シャーロック最初の敗北

これをやりたかった


11月下旬の武偵高校にてーー

 

「相談に乗ってくれてありがとう‼︎零さん」

 

「どういたしまして」

 

私は空教室で日課となっている生徒の相談に乗ってあげた。

机に座り、相手と面と向かって喋るのが私のスタイルだ。

相談相手は様々ーーランク向上のアドバイス・現在の学科でやっていけるか・友達などあるが、ただし、恋愛相談は苦手だ。それ以外ならOKだけどね。

最後の相談相手にバイバイと手を振るうと、

 

「主」

 

相手と入れ替わるようにモランが入って来た。

今、彼女は中等部からの研修生として高等部に出入りしている。モランは外国人で背も高いから、かなり目立つ。高等部ではある種の有名人だ。私の同級生達、特に男子からは人気がある。モランは知らないだろうが、中等部の間でも人気があるんだよね(特に女子に)

そんなモランが私の隣に座り、

 

「どうぞ。頼まれていたオペラのチケットです」

 

懐からオペラ座のチケットを取り出し、私に差し出してきた。

おお、チケットが取れたんだね。私はチケットを確認する。

場所は神奈川の横浜市。神奈川芸術劇場。演目は『ドン・ジョバンニ』座席はS席。

前に金次君と一緒に見た演目だが、私はこれが気に入っている。開演日に予定が空けば、必ず見に行く事にしている。まあ、今回は''ただ見に行くだけじゃないけどね''。

 

「楽しみですね主」

 

モランは再び懐に手を入れ、チケットを取り出した。演目は同じ『ドン・ジョバンニ』だった。しかも、座席は私の隣だった。

二枚も購入するなんて、S席は1万円近くもするんだよ。

 

「残念だけどモラン。君の分は必要ないよ」

 

「……本当に残念です。オペラを楽しみにしていたのに......」

 

モランは残念そうにチケットを懐にしまった。ごめんねモラン。君にはやってもらう事があるからね。

私の意図を理解したのか、モランは席を立ち教室から出ていった。

 

 

 

神奈川 横浜市某所ーーとある倉庫内にて

外は暗く、辺りに人はいない。そんな倉庫に2人の少女がいた。

 

「おい、ツァオツァオ。何でイ・ウーからの依頼を蹴った?」

 

峰 理子はイ・ウーの天才技師ツァオツァオを問い詰めていた。

理由はツァオツァオが突然、イ・ウーからの依頼を断って、別の客に爆弾を作った為だ。

ツォツォは守銭奴で、莫大な金と引き換えに何でも作る。イ・ウーはツァオツァオに対して、それなりの金を払っている。それこそ、最優先客となるくらいに

 

「それは......言えないアル」

 

『匿名の依頼人だねツァオツァオ君』

 

ツァオツァオが黙秘しようとした瞬間、理子の持っている携帯から第三者『教授』ことシャーロック・ホームズの声がスピーカーから聞こえてきた。

 

『僕の推理では相手はイギリス人と日本人のハーフだね。金もあり、それなりの権力もある。君の所属する蘭幫の庇護もしている』

 

理子はツァオツァオことココに携帯の画面ーースピーカーが聞こえるように向ける。

シャーロックの声を聞いて、ココは脱力して地面に座り込んでしまった。おそらく、安心感か開放感によるモノだろう。

 

「シャーロック様の言う通りネ。ソイツはツァオツァオや蘭幫を支持しているヨ。金と権力を持ち、そして......恐ろしく頭が回るヤツネ」

 

「なあ、ツァオツァオ。何があったんだ?あたし達イ・ウーを蹴って、ソイツに肩入れしたのは何か理由があんだろう?」

 

「ツァオツァオは悪魔と契約してしまったネ。仕事はまもなく今夜、完了してしまうヨ」

 

『爆弾を仕掛けたんだねツァオツァオ君』

 

「おい、どこに仕掛けたんだ?そいつは何をするつもりなんだよ?」

 

「恐ろしい計画を実行に移すように依頼されたネ」

 

ココはワナワナと震え出した。そんなココの姿を見て理子は驚いた。

ココがこんなに怯える相手とは一体?

 

「話せよツァオツァオ。『教授』がきっと助けてくれるから」

 

「ちょっと遅かったネ。姉妹を人質に取られたヨ」

 

姉妹ーーココに姉妹がいる事に理子は驚いた。まさか、万武の武人ココに姉妹がいたとは。

 

『爆弾の場所を教えてくれないかいツァオツァオ君。必ず君の姉妹を助ける』

 

「姉妹は無事ヨ。約束したくれたネ。ソイツとネ......証拠は決して残さない。それが姉妹を救う唯一の手段ネ」

 

ココは懐に手を伸ばし、

 

「爆発まで10分ネ」

 

『理子君‼︎止めるんだ‼︎』

 

拳銃で自分の頭を撃ち抜こうとした。

『教授』の叫びに、理子は思わずココの腹部に掌打を打ち込み、ココを気絶させた。

万武の武人ココに簡単に攻撃を当てられた事は意外だった。それほど、ココは追い詰められていたのか。

 

「ねぇ、『教授』。これからどうするの?」

 

『安心してくれたまえ。爆弾の場所もツァオツァオ姉妹の監禁場所も推理できている。理子君は爆弾を始末してくれ。僕はツァオツァオ姉妹を助けに行こう』

 

「了解。それで爆弾の場所は?」

 

『神奈川芸術劇場だよ』

 

 

 

神奈川芸術劇場ーー

 

理子は平凡な女性スタッフに変装して劇場に潜入した。

今日の演目は『ドン・ジョバンニ』。開演初日とあって、客は満員だった。

演目はラストに突入し、主人公ジョバンニが石像に生き方を改めよと促される場面だ。

 

「あっ、ごめんなさい」

 

理子は道具置き場を通る際、人とぶつかりそうになった。相手は金髪で中性的な顔をしており、背は高く170はあるだろう。肩に布で巻かれた細長いモノを持ち、頭をシニヨンと呼ばれる結い方にしている。おまけに口にタバコを吸っている。香りからして、トルコタバコだ。

 

「お気になさらず」

 

相手はそれだけ言って去っていた。

少しに気になる理子だったが、今は『教授』からの依頼を優先すべきだ。

『教授』の推理では、爆弾は楽屋側の裏方ーー大道具・小道具・音響・照明など、客からは直接見えない場所に仕掛けられている。

 

『理子君。そこだ』

 

「ここ?」

 

『教授』の声で理子は止まった。

そこは、セリと呼ばれる舞台の床の一部分を長方形に切り抜き、その床を昇降させる装置だった。今まさに石像役の役者が舞台に上げられる所だ。

 

『その装置の真下に爆弾が仕掛けられているはずだ。調べてくれたまえ』

 

理子は指示に従い、装置の下に潜り込んだ。

装置の下を覆っている布をナイフで切り開き、中を覗くが、

 

「『教授』何もないよ」

 

『⁉︎』

 

装置の下には何もなかった。理子からの報告を聞いて『教授』ことシャーロックは驚きを隠せなかった。

卓越した推理を予知まで近づけたーー『条理予知』を覆させられた事に。

 

「ねぇ、『教授』。どうすんの何もないよ⁉︎」

 

理子は慌てたようにシャーロックに指示を仰ぐが、携帯からは何も聞こえてこない。

理子がどうするか迷っていると、フッと装置についている小窓に目がいった。近づいて開けてみると、チェストの駒ーー黒のキングがぽつんと置かれていた。

手に取ってまじまじと見るが、特に変哲も無い駒だ。

理子はその場から離れようとしたが、小窓からよく知る顔が見えた。

 

「何で零がここにいるんだよ」

 

小窓から見える席ーーS席に零がいた。私服姿でオペラを楽しそうに見ている。気のせいかこっちを見て、ニィと笑ったような気がする。

 

『間違えた......ここじゃない』

 

シャーロックがボソリと呟く。

 

「『教授』?」

 

『ここじゃなかった。間違えた。理子君、急ぐんだ。本当に爆弾が仕掛けられている場所は、ローズホテル横浜だ』

 

 

 

ローズホテル横浜ーー

神奈川芸術劇場からさほど離れていない、横浜中華街に位置するローズホテル横浜は、山下公園、元町にも徒歩5分と絶好の観光拠点になっている。四川料理で有名な「重慶飯店」の新館やアロマテラピーサロンもホテル内にある。

 

そのホテルに向かって理子は走っていた。人混みをうまく潜り向け、ホテル前に来た瞬間、ドガァァァァァンとホテル4階が吹き飛んだ。辺りに割れた窓ガラスが舞い、ホテル周辺にいた人間は何が起こったかわからず、パニック状態だ。

野次馬を駆け抜け、理子は4階に向かった。

 

「うっ......!」

 

爆破のあった部屋は惨劇だった。

家具は粉々、壁には血が飛び散り、床には即死だろう10人の死体が転がっている。

 

 

 

 

イ・ウー本部ボストーク号にてーー

 

「ここから打ったようだね」

 

『教授』ことシャーロックは、ステッキを銃のように構える。

シャーロックは自室に、理子とジャンヌを招いて、ホテル爆破事件について説明していた。

部屋にあるパソコンにはホテル周辺の地図ーー特にホテル向かい側の空きビルが大々的に表示されている。

現場の写真ーー理子が後で撮影したモノである。

 

「ねぇ、『教授』。ツァオツァオ達はどうなったの?」

 

「安心しなさい理子君。ちゃんと救出したよ。なんたって蘭幫の諸葛君の部下だからね」

 

「それで『教授』。この惨劇はツァオツァオ達を誘拐した者による犯行だというのか?」

 

「間違いないよジャンヌ君。これを見たまえ。三脚と腰掛け兼用のステッキを使っている」

 

シャーロックは理子が撮影したホテル向かい側の空きビルーー屋上のとある場所を指し示す。そこには何か細長いモノを置いた跡がある。

 

「いや、待て『教授』。もっといい場所を見つけた。僅かだが、三脚を引き摺った跡がある......ここだ」

 

ジャンヌが写真に写る僅かな跡に気づいた。

そこにはジャンヌの指摘通り、三脚を引き摺った跡がある。跡を追っていくと、ホテルからかなり離れた場所で終わっている。

 

「よく気づいたねジャンヌ君。正解だ」

 

「500mはあるね」

 

「いや、理子。600はある。風速は3mほどだろう」

 

「あと、手すりにタバコを押し付けた跡もある。おそらく、ここでタバコを消したんだろう」

 

3人は写真をまじまじと見る。

屋上の写真には手すりの上に風速計を置いた丸い跡と、タバコを消した焦げ跡があった。

 

「三脚のタイプからして、使われた銃はマルティニ・ヘンリー銃だね。消音器付きに改造してある」

 

「随分と古い銃だな。今時使っている者など私は見たことがない」

 

「でも『教授』。どうしてホテル爆破現場の周辺を調べろって、言ったの?この狙撃銃の跡と何か関係が......」

 

「僕の推理では、ホテルの爆破は囮だろう。本命を狙うためーー爆破によってターゲットを、誰を狙っていたか分からなくする狙いがあったんだろう」

 

「巧妙だな。爆破現場では誰も銃弾の跡など探さない」

 

ジャンヌは謎の狙撃手の姿を思い浮かべた。

屋上でタバコを吸い、銃を組み立て装填、風が吹く中ターゲットのみを射殺するーーおまけに爆破に合わせて。

 

「狙撃現場には何か他に残っていなかったのか理子?」

 

「あっ、そういえばこんなモノが落ちてたよ」

 

理子はポケットから袋を取り出した。袋には刻んだ葉っぱのような物が入っている。

 

「これは煙草葉だね。香りからしてトルコ葉だけじゃなく、バージニアもミックスされている」

 

トルコ葉......そして、狙撃。この2つにシャーロックはある人物を思い出した。過去に自分を射殺しようとした、とある大佐の事を......

 

「犯行現場には武偵が駆けつけたんじゃないかい?」

 

「うん。ホテルの近くにいたあたしの学校の連中が駆けつけてきたよ」

 

爆破のあったホテル周辺に武偵が偶々、いるなど都合が良すぎる。

 

「犯行はおそらく、『武偵殺し』つまりは理子君。君の仕業と断定される」

 

シャーロックはパイプを吹かしながら続ける。

 

「はあ⁉︎なんでだよ⁉︎あたしはやってないのに......!」

 

「現場から採取された証拠品ーー理子君が使っていた爆弾の部品と同じ物が発見されるだろう。ココ君が君に伝授した爆弾がね」

 

「ツァオツァオ姉妹を誘拐した者ーー黒幕は理子に恨みがあるのか?」

 

「いや、理子君に恨みはないだろう。これは''方法''だろう」

 

「方法?どういう意味だよ『教授』」

 

「この爆破事件は序章に過ぎない。いや、もしかしたら僕への挑戦かもね」

 

 

 

後日ーー

ローズホテル横浜爆破事件はニュースで大々的に取り上げられた。

犠牲となったのは海外の某貿易商の重役10名だった。

犯行は『武偵殺し』によるものだと断定。マスコミは『武偵殺し』が初めて武偵以外を狙った事を連日に渡り報道した。

しかし、この『武偵殺し』を英雄視する者が現れた。

殺害された10名は貿易商を隠れ蓑にした人身売買組織の一員だった事が発覚した。




ちょっと要素が足りないかな(苦笑)
もっと文章力が欲しい!(´;ω;`)


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それぞれの12月

海外ドラマ エレメンタリーにハマりました。今、シーズン1が終わる所です。


イ・ウー本部 ボストーク号にて

 

男装の麗人エル・ワトソンは艦内の廊下を歩いていた。

目指す場所はイ・ウーのリーダー『教授』ことシャーロック・ホームズの自室だ。

目的はシャーロックがワトソンの所属する組織ーーリバティーメイソンに頼んだ、''とある人物''の資料を届ける為だ。

その資料はもっているだけ危ういレベルの品物だ。

カッカッと歩くと目的の部屋が見えた。

部屋の前に立つと、コンコンとノックをして、

 

「失礼しますホームズ卿」

 

「入りたまえワトソン君」

 

断りを入れてから入室しようとした時、タイミングを合わせたように部屋の主シャーロックが返事を返してきた。

 

「ホームズ卿。頼まれていた......」

 

入室して早々、ワトソンは手にした資料を渡そうとしたが、そこで手が止まった。

そこは、いつも訪れているホームズ卿の部屋ではなかったーー室内はカオスだった。

床や壁一面に貼られた国・世界地図に、その国で起きた事件の詳細・新聞の切り抜きが辺り一面に貼られ、それらには赤い糸が繋げられていた。

 

「よく来たねワトソン君。さあ、こっちに」

 

室内の中央の安楽椅子に腰掛けているシャーロックがワトソンを招く。

ワトソンは床に貼らた地図を踏まないよう慎重に歩く。

 

「ホームズ卿。これはもしかして、蜘蛛の巣ですか?」

 

「その通りだよ。まだ僕が若い頃、様々な事件に関係性を持たす為、僕が考案したモノだよ」

 

蜘蛛の巣ーー事件を糸で結び、関係性を調べていく捜査方法だ。

ワトソンはこの光景に覚えがあった。

 

「英国にいた頃は、自分の部屋だけでは収まり切らなくてね。それでルームメイトであった、君のひいお爺さんの部屋を.......」

 

「その話なら聞いたことがありますよ。僕の曽祖父、初代ワトソンが『僕の部屋を使われた』と文句を言っていたそうですが......」

 

「あの時のワトソン君はとても嫌そうな顔をしてたね。今でもハッキリと覚えているよ。結婚して部屋を引き払ったというのに」

 

「それと結婚話についてですが、ホームズ卿に『新婚旅行を台無しにされた』とも聞いてます」

 

「それは誤解さ。助けたの間違いだよ」

 

シャーロックは誤魔化すようパイプを咥えて言った。

助けたという話に何かを付け加えるなら、新婚旅行に向かう列車から親友であるワトソンの妻メアリー・モーストンを川に突き落としたエピソードもあるが......

 

「突然どうしたんですか?蜘蛛の巣など作らなくても、ホームズ卿には『条理予知』があるじゃないですか」

 

「ああ、それなんだがね。今回、僕が調べている事件ーー事件の首謀者には『条理予知』が通用しない」

 

「なっ......⁉︎」

 

シャーロックからのカミングアウトにワトソンは驚きのあまり、目が一瞬点になった。

自身の敬愛するシャーロック・ホームズの推理ーー予知のレベルまで高められた『条理予知』が通用しない相手の存在に。

 

「それは誰なんですか⁉︎まさか僕に、リバティーメイソンに調べるよう依頼した相手なんですか?」

 

ワトソンは自身の手にしている茶封筒に目をやった。

 

「まあ、その前に僕の作った蜘蛛の巣を辿ってごらん」

 

ワトソンはシャーロックに言われがまま、彼の作った蜘蛛の巣ーー自分のすぐ手前にあるものから辿っていた。

 

「インドの陸軍将校を巻き込んだスキャンダル......中国の蘭幫上海方面幹部中毒死......ロシアのロマノフ王朝展示会での盗難事件......アメリカ不動産王の事故死......ヨーロッパ鉄道王の病死......その共通点はーーワトソン君、例の資料を」

 

シャーロックに言われ、ワトソンは資料の入った茶封筒を渡した。

受け取ったシャーロックは、ペーパーナイフで封筒を開け、そこから一枚の写真を取り出すと、蜘蛛の巣の共通点・終着点ーーイギリスに写真を打ち立てた。

それは人物写真だった。写真には、手入れの行き届いた金髪を肩まで伸ばし、すらりと脚は長く顔は小顔だが、知的な印象を与える赤い瞳が特徴の麗人の姿が椅子に座って映っていた。

 

「ーーバージニア・モリアーティ3世」

 

「その通り」

 

シャーロックはコックリとうなずく。

 

「ホームズ家そして僕、ワトソン家の宿敵ーージェームズ・モリアーティ教授の直系の子孫ですね」

 

「天才数学者にしてプログラマー。幼少期に何度も革新的なコンピュータプログラムや論文を発表するほどの天才。まさに彼の孫娘だね」

 

「ケンブリッジ大学を首席で卒業。その後は曽祖父と同じダラム大学で講師として勤務。クリーヴランド公・ハワード王子の元家庭教師にして、元女子ボクシングイギリス王者でもありますね」

 

ワトソンは写真に目をやった。

 

「彼女にはリバティーメイソン。そして、MI6による監視が付いていたーーそうだねワトソン君」

 

「はい。モリアーティ一族はリバティーメイソンやMI6だけでなく、英国のあらゆる機関が24時間体制で監視していました。幼少の子供にいたるまでーー彼女も例外なく.」

 

モリアーティの身内というだけで、英国政府から監視し続けられるなどワトソンからすれば、堪ったものではない

 

「この蜘蛛の巣ーー事件にはバージニアが関係しているのですか?しかし、彼女には監視が......」

 

「これだよ」

 

シャーロックは関係図の1つをトントンと叩く。

それはイギリスタイムズ紙の切り抜きだった。そこには『ロンドン塔で世紀の大泥棒⁉︎』という見出しで盗難事件について書かれていた。

 

「ロンドン塔に期間限定で展示されていたイギリス王朝の王冠が盗難された事件ですか......しかし、ロンドン塔の警備はイギリス国内随一を誇ります。いくら、彼女でも......」

 

ロンドン塔での盗難事件ーーその事件にワトソンは覚えがあった。一時、イギリス中を震撼させた盗難事件。

イギリス随一の警備システムを誇るロンドン塔が破られ、展示されていたイギリス王朝の王冠が奪われたのだ。

犯人は不明、盗まれた王冠の行方も掴めず。事件は迷宮入りかと思われたが、盗難されてから1週間後に王冠は戻ってきたーーご丁寧にホームズ邸に送られて、『ホームズをゲット』というメッセージカード付きで。誰が見てもホームズへの挑戦状と捉えるだろう。

 

「彼女は天才数学者にしてプログラマー。ロンドン塔の警備システムを破るくらい朝飯前だっただろう。それこそ監視の目を盗んでね」

 

ロンドン塔を攻略ーーそれはイギリス国内のあらゆる警備を無効化できるにも等しい行為だ。

イギリスの銀行・ネット機関・コンピュータ管理など自由自在に操れるだろう。

 

「そんな彼女ーーバージニアには、今から15年ほど前に突然、ダラム大学での講師を辞任しているーー丁度、ロンドン塔の事件から1年後のね。その後は君たちの方でも行方が分からないのだろう?」

 

「はい。イギリス最高峰の諜報機関MI6でも行方が掴めませんでしたーーリバティーメイソンの情報網を使ってもです」

 

リバティーメイソンは、ヨーロッパだけでなく、世界中に構成員が潜んでいる。そんな構成員の目を欺くなど普通ではない。

 

「それでホームズ卿。このバージニア・モリアーティが貴方の『条理予知』が通じない相手なのですか?」

 

「いいや、バージニアにはあくまで、僕の『条理予知』が通じない相手の原点ーー生みの親に過ぎないよ」

 

生みの親?ワトソンは思考する。

 

「まさか......バージニアに子供がーーモリアーティ4世が存在すると言いたいのですか⁉︎」

 

ワトソンは驚愕した。

ここに来る前に、バージニア・モリアーティ3世については、ある程度、調べてあった。彼女は天才モリアーティの名に相応しく、大学でその高い知能とカリスマ性を大いに振るった。そんな彼女の一粒種がいるなど......それに加え、お目に叶う伴侶がいるなど考えもしなかった。

 

「僕が蜘蛛の巣を作ったのは、4世君について知るためだったんだ」

 

「それなら、バージニアではなく、始めからモリアーティ4世についての関係図を作成すればよかったじゃないですか。こんなに部屋を埋め尽くして......」

 

「いや〜、イキオイにノッて作っていたら、いつの間にか、ここまでの規模になってしまったよ」

 

シャーロックは「困った困った」と付け加える。

後で片付けさせようと、決心するワトソンであった。

 

「それで、肝心のモリアーティ4世の関係図はどれなんですか?こんなにあっては、さすがの僕でも分かりませんよ」

 

「付いてきたまえワトソン君」

 

シャーロックは安楽椅子から立ち上がり、部屋を出て歩き出したーーワトソンの歩くペースを考えた歩みだ。

彼の後をワトソンは追う。

暫く艦内を歩くと、2人は誰も使っていない部屋の前に到着した。

 

「さすがに僕の部屋だけじゃ、収まり切らなくてね。だから、空いている部屋を使わせてもらった」

 

シャーロックはドアノブを回して、ドアを開け入室する。

後に続くようにワトソンが部屋に入ると、そこにも蜘蛛の巣があったーーシャーロックの部屋の規模程ではないが、十分過ぎる規模の蜘蛛の巣だ。

この蜘蛛の巣にワトソンは見覚えがあった。

 

「これはイ・ウーが関わった事件の全てじゃないですか。モリアーティ4世とは関係ないのでは?」

 

「まあ、そう思うだろう。でも、これを見ても同じ事が言えるかな?」

 

シャーロックはワトソンに一枚の写真を渡す。

ワトソンが写真を見ると、それは蜘蛛の巣を撮影したものーー今いる部屋と同じモノだ。

 

「それはモリアーティ4世が作成した蜘蛛の巣だよ。イ・ウーの事件を全て洗い出し、見事に結びつけた」

 

モリアーティ4世はイ・ウーを調べていた。

 

「4世君が作成したモノには、これからイ・ウーが起こす事件までも予測いや、推理してピンポイントで当てている。まるで、僕の『条理予知』さながらだ」

 

「これには、パトラ、理子、ジャンヌ、ブラドなどがありますが、あくまで予測では?まだ、本人達が計画しているわけでは......」

 

ホームズ卿の推理力ーー『条理予知』と同等などありえない。そう思うワトソンだったが、

 

「本人達に確認した所、見事に一致したよ」

 

シャーロックの言葉にワトソンは声が出なかった。

そんなワトソンの反応を面白そうにシャーロックは観察していた。

ここまでの2人のやり取りを第三者が見たら、「わざわざ蜘蛛の巣を作らなくても、写真を見せれば早いじゃん」と言いたくなるだろうが、そこはシャーロックのイタズラ心だと思ってほしい。

 

「モリアーティ4世は何がしたいのでしょうか?まさか、イ・ウーと戦うつもりじゃ......」

 

「本人はやる気満々だろうね。その証拠に、この半年で何度も僕の推理を覆してきたーー何だか久しぶりにワクワクしてきたね」

 

シャーロックは楽しそうだーーまるで、長年待ち続けた宿敵に出会ったかのように、本当に楽しそうだ。

 

「でも、僕も負けてばかりではいられない。そこで4世君の推理を覆してあげようと思うんだよ」

 

「こちらから、仕掛けるんですか?」

 

「そんなに大袈裟な事じゃないよ。ただ、ちょっと計画を立て直すだけさ」

 

 

 

零視点

 

12月上旬ーー

 

私は寮の自室の机で、パイプを吹かしながら、同人誌を描いていた。

このパイプはネットのオンライン対戦ゲームーー賭けチェスで勝ち取ったものだ。相手は前から対戦していたイギリスの『むにゅえ』だ。

初めてハンドルネームを明かしてくれた時は嬉しかったな〜。ハンドルネームとはいえ、名前で呼べるのだから。因みに私のハンドルネームは『数学教師』だ。

『むにゅえ』は強い。今までの対戦成績を足しても、76戦中43勝33敗0引き分けで私が今の所は勝っているが、油断のならない相手だ。

ある日、『むにゅえ』が私に賭けチェスを提案してきたので、面白そうだったからやってみたーー形式は5分の早指しチェスだ。

結果、私が勝った。そして、景品として『むにゅえ』は私にこのパイプを送ってきたのだ。

 

「精油の香りがいいね」

 

私はこのパイプが気に入っているーー洒落でミドルネームのMも刻印するくらいに。

コレをくれた『むにゅえ』には、本当に感謝だ。いつかリアルで会いたいな。

 

「おっと、手が止まっていた......!」

 

マジマジとパイプを見つめるあまり、作業が疎かになっていた。

続きを書かないとね。私が今、作画している同人誌のタイトルは「仲良しキョウダイ」ーー2人のキョウダイが主人公だーーキョウダイのモデルは金一さんと金次君だ。

無断で描いてはいない。ちゃんと金一さんーーカナさんに許可を貰いましたよ。あの人、「面白そうね!完成したら見せてちょうだい!」って、楽しそうにしてたな〜。

金一さんは私の見立て通り、女装したら美人だったね。変身してもらった甲斐があった。記念すべき完成第一作品をプレゼントしてあげよう。

いや〜、まさか姿だけでなく、人格まで変わるなんて思わなかったよ。まあ、''本人''であることは間違いないし、問題はないだろう。

しかし、金一さん結婚して子供が出来たら立場はどうなるのだろうか?ヤバい!なんか面白くなってきた。

 

「金一さんに子供が出来たら、君のパパはねママでもあるんだよって、言ってみたいな」

 

私は頭の中で構想する。うん!カオスな光景が広がっている。

女装関係に触れたら、金次君だけじゃなく私まで撃たれるね。

その前にお子さんが混乱しそう......

 

「あっ!また、手が止まっていた......」

 

いけない!変な妄想はやめよう。今は作画に集中!

私はスラスラと登場人物を書いていく。金次君がモデルの弟さんだ。女装時の姿はメーテルをモデルにした。

あっ!よく考えたら、まだ金次君に許可もらってない.....まっ、いいか!

私が再び作画に取り掛かろうとしたら、タイミングを見計らったように携帯が鳴った。開いて見てみると、相手は母さんだった。

 

「母さん!久しぶり」

 

『本当に久しぶりねレイ。学校では上手くやってる?』

 

この脳に直接、響くような声は間違いなく母さんだ。

こうして母さんと話をするのは、本当に久しぶりだ。武偵高校に入学してからは、殆ど電話していなかった。

海外の企業相談役は忙しい事は小さい頃から知ってはいたが、こうして声を聞くだけでも嬉しい。

 

『聞いたわよレイ。貴女、武偵として大活躍中じゃない。もしかして、''天職''だったりしてね』

 

「もう〜大袈裟だよ。私なんてまだまだ未熟者だって......!」

 

天職だなんて、母さんは本当に大袈裟だな〜。

 

「ねぇ、母さん......」

 

『うん?何かしらレイ。何か聞きたそうな感じね』

 

これから聞く事は重大な事だ。本当に大切な......

 

「前に母さんが言ってたーージェイムズ・モリアーティとうちは関係ないって、アレはウソだよね。私、聞いたんだモランに......あっ、モランっていうのは父さんが連れてきた......」

 

『あちゃー、暴露しちゃったんだ〜。あの子、父親と似て軽い所があるから』

 

「うん?なんだかモランを知っているような口振りだね」

 

私はモランについて、母さんには話していない。

それに加えーー

 

「初めからうちはモリアーティ教授の身内だって、知っていたようにも聞こえるよ」

 

『うん☆大正解。モリアーティ教授は私のお爺様で、貴女にとってはひいお爺様よ』

 

母さんの軽くハッチャケたカミングアウトーー我が家の家系を聞いて、私は机からズリ落ちそうになった。

 

「どうして嘘を付いたの?もしかして、私の為に......」

 

『違うわよ。ただ、真実を知った貴女の驚いた反応がどんなモノか知りたかったからよ☆』

 

ガタン!......違った。母さんの言葉でとうとう私は机からズリ落ちた。

シリアスな内容だと思った私が馬鹿だった。

腰が抜けたが、力を振り絞って机に戻る。

 

「はぁ〜、つまり、私の反応の見て楽しむ為だったと......」

 

『正解☆そんなに気を落とす必要はないわよ。お爺様は世間では悪者扱いだけど........実際はそうでもないのよね〜。本当の悪者ーー悪魔はシャーロックの方なのに』

 

悪者ではない?どういう意味だろう。ジェームズ・モリアーティ教授ーー私のひいお爺さんは犯罪組織の頭目だった筈......それにシャーロックが悪魔って?

 

「どういう事なの母さん?」

 

『まあ、それについては置いておきましょう。私の計算では、近い将来知る筈だから。今はお爺様の事より貴女の話を聞きたいわ』

 

気になるけど......でも母さんの言う通り、今は置いておこう。

私は母さんに武偵高校での出来事を語ったーー武偵高の編入試験・入学してからの寮生活・金次君を始めとしたクラスメイト達・モランがホームステイして来た日・友達の相談役になったなど......

 

『へぇ〜レイは私立相談役をやってるんだ〜優しいじゃないの』

 

「うーん、実はね。相談の中でも私、恋愛関係の相談は苦手でね。それで今、困っているんだ」

 

最近、私の所に恋愛関係で相談に来る同級生が多い。私はどうも恋愛について疎い。

 

「そういえば、母さんと父さんの出会いについて、まだよく聞いた事がなかったよね」

 

『あら、どうしたの突然?』

 

「あー、うん。2人が出会った経緯を聞いて、同級生達に何かアドバイスできる事があったらな〜と、思ってさ」

 

振り返ってみれば、私はまだ父さんと母さんがどう出会ったか、よく聞いた事がない。父さんが母さんに一目惚れして、隙あれば''アタック''を仕掛けて、母さんをおとしたと聞いたが......

 

『う〜ん、お父さんとの出会い、ね......まあ、いいわ。娘の頼みだし、教えてあげる。実はね〜私、お父さんに......とっっっっっても、イラッとさせられたのよね』

 

どうしたの母さん?何だか、声が澱んでいるよ?気のせいか電話の向こうで、母さんの目が座っているような......

 

『でも、とっても甘〜い恋やワクワクドキドキの大冒険もしたのよね』

 

今度は打って変わって明るくなった。電話越しで「ウフフフ」と笑っている。

 

『お父さんとの出会いはね。私がイギリスの大学で講師をしていた時に出会ったのよ』

 

大学の講師だって⁉︎初めて聞いたよ。あっ!でも、考えれば私が中学生の時、勉強を教えてもらったっけーーあの時の教え方はまさに教師さながらだった。誰かに対して勉強を教える事に慣れていたような......

 

『でね。お父さんはその時、私の勤めていた大学の学生ーー日本からの留学生だったのよ。初めは講義の時に、チラッと見かけただけ。一生徒という印象だったわ』

 

イギリスに留学してたんだ父さん。でも、何でわざわざ日本からイギリスへ?何か目的でもあったのかな?

 

「どうして父さんはイギリスに留学したの?」

 

『う〜ん、お父さんはイギリスに留学する前、日本で検事をやってたそうなのよ。でも、仕事場の同僚ーー普段は物静かだけど、怒ると鬼みたいにオッカナイ同僚とウマが合わなくて、頭にキタから日本から出て行ったそうなのよ』

 

父さんが検事⁉︎嘘でしょう......あのノホホンとした父さんが、探偵の前に検事やってたなんて、まさかタダの検事じゃなく武装検事だったりして......それはないか!

 

『それで、どこに行くか適当に決めてイギリスにしたそうよ。それでお父さんたら入国して早々、何したと思う?』

 

突然、母さんから話を振られた。

 

「観光じゃない?」

 

『不正解。まったく、我が娘ながらバカだね』

 

うわ〜久しぶりに聞いたなそのセリフ。私が問題ーー特に数学を間違えた時に言われたな。

 

『まあ、その答えは本人の口から聞くか、自分で調べる事ね。でも、私も悪魔じゃないからヒントくらいはあげるーーイギリスの為に働く人達に喧嘩を売った以上』

 

以上って、それだけですか。

しかし、父さん......イギリスの誰あるいは何処に喧嘩を売ったの?下手したら国際問題になるよ。まさか、イギリス王室に喧嘩を売ってないよね?

 

『お父さんの経歴はここまで。話を戻すわよ。私がお昼の講義を終えて、大学の自室に校庭を通って戻ろうとした時、お父さんが私の前に現れたのよ』

 

おっ!まさか父さん、母さんが来るのを待ち伏せしてたのか〜。それで食事に誘ったりして....

 

『会って早々、私に「300%惚れた。結婚してくれ」って、言ったのよ。一瞬、目が点になったわ。ウフフフ』

 

私の予想の斜め上を行っていた。父さん⁉︎会って早々に結婚してくれとかないでしょう‼︎

 

「それで母さんは何て返事したの?」

 

『丁寧に「500%無理」って、お断りしたわ』

 

当然そうなりますよね〜

 

『でもね〜、お父さんたら諦めず、時間が空くたびに私に告白してくるのよ。当時、私は教師でお父さんは学生。付き合うにしても、''周りからの目''もあったから微妙だったのよ』

 

学生と教師の恋愛は普通の学校だったら、色々とあるからね。最も武偵高校では、そんなことはないだろうけど。

 

『その度、私はお父さんに''丁寧にお断り''や''嫌ってますアピール''・''関わらないでと警告''を発したんだけど、お父さんには効かなくてね。ことごとく受け流して''アタック''して来たわ』

 

この辺りで母さんが、イラッとしているのが分かる。

お父さん鈍感だったのかな。女性の気持ちが分からなかったとか。

 

『私の講義は必ず出席してきたわ。あと、論述は見当違いな答えーーThis is the pen. wonderful.なんて書くのよ!決まって私が採点する時に限ってね!』

 

完全に嫌がらせに見えるけど、父さんなりに母さんの気を引きたかったんじゃない?

 

「そんな事が続くから、最終的に嫌々ながらも付き合ったんだ」

 

『いいえ。お父さんたら、ある日、私のお金をちょろまかしたのよーーある''大事なイベント''に使うための大金をね。思わず私「セイジメェェェェェェ‼︎」って、空に向かってはしたなく叫んじゃった』

 

最後に母さんは『テヘ☆』と付け加えた。母さん.....もう45になって「テヘ」はないと思うよ。

しかし、お金ね〜私が言えた立場じゃないけど、お金はちょろまかしてはいけないよ父さん。でも、このお金の件。何か関係しているんだろうか?

 

『生まれて初めて敗北感を味わったわ。新鮮な感じでもあったし、悔しくもあった。だから、私はお父さんに同じ......いいえ、''それ以上の敗北''を味わわせないと気が済まなくて、お父さんと半ば''ツキアッタ''の』

 

付き合ったって、自分に初めて敗北を味わわせた相手とね〜母さんも酔狂な人だ。

おそらく、自分の好きなタイミングで倒して、敗北させる為にだろう。

 

『ツキアウ過程で、様々な事があったわね〜。ボートでのクルージング・荒野での散歩・列車旅行・中国を観光したりしたわ』

 

何だか楽しそうだね母さん。思い出に浸っているんだろうか。

 

「付き合う過程は分かったよ。ついでに結婚のきっかけも教えてよ!」

 

私は続きが気になって、母さんにせがむ。

 

『もう!欲張りな娘だこと。でも、特別に教えちゃう。結婚のきっかけは、お父さんが私の命を救ってくれたからよ』

 

命を救ってくれたって、母さん死にかけた事があるの⁉︎しかも、父さんが助けたとは......

 

『接着剤のような名前の不審者に私、突然襲われちゃってね。もうダメだと思った時、お父さんが助けてくれたのよ』

 

「どうやって助けたの?」

 

『そいつをフライパンで殴りつけて気絶させたのよ。あの時は命の危機にも関わらず爆笑しちゃった』

 

父さん、何でフライパンなんか持ってたの?料理でもするつもりだったの?

それに不審者の正体は一体?気になるけど、今は母さんの話がメインだ。

 

『その後、何で助けたんだって、尋ねたら「君が死んでしまったら、僕は誰に''アタック''すればいいんだ‼︎」って言ったのよ』

 

母さんは堪えていたのだろうーー吹き出したように笑い出した。

ワーオ、父さんやるね〜カッコいい。

 

『その言葉を聞いて、''この人にしよう''って決めたのよ。それで大学を辞めて、お父さんの故郷ーー日本に移り住んだの』

 

大学を辞めるーー大学の講師になるのは簡単ではない。そんな講師をやめて父さんに付いて行くなんて、それ程、父さんに惚れたんだ。

 

『でもね。移り住む前ーーお父様が......ああ、貴女のお爺様がすっっっっっっっごく、お父さんとの結婚に反対したのよね。結婚だけじゃなく私が大学を辞めて、お父さんと日本に移り住む事もね』

 

お爺様ーー私のお爺ちゃんか......会ったことがないから、想像が難しいが、母さんのこの話を聞く限り、父さんが気に入らなかったようだね。

 

『けど、大叔父様は賛成してくれたわ。お父さんとの出会いを話したら、爆笑して大受けしてくれたのよ「結婚して日本に移住したい?OKOK」ってね』

 

「大叔父様って?」

 

『ひいお爺様のお兄さんよ』

 

ひいお爺さんにお兄さんがいたのか......ちょっと待ってよ。ひいお爺さんって、今から100年前の人だったよね⁉︎そんな人のお兄さんって、軽く100歳超えてるじゃん。

いや、延命手術やステルスで寿命が伸ばせる話を聞いたことがあるーー多分、大叔父さんもそれかな。

 

「大叔父さん的には、そんな軽いノリで承諾してよかったの?それと何やってる人なの?意見できる程だから、それなりの地位がありそうだけど......」

 

『元イギリスの軍人よ』

 

退役軍人ね。でも、元軍人だからって、結婚話に口を挟めることができるだろうか?ただの軍人ではなさそうだ。

 

『大叔父様が説得しても、頑なに首を縦には振らないから、半ば駆け落ちする形で出て行っちゃったけどね』

 

駆け落ちか......2人がそれを選んでくれたおかげで、私が生まれてきたんだけど。

あっ!いつの間にか恋愛のアドバイスを貰うのではなく、母さんの昔話になってた。

私は当初の目的に戻ろうとしたが、

 

『はい、話はここまで。久しぶりにレイとお話しできて、母さん嬉しかったわ。これから''大変''だろうけど頑張ってね』

 

そう言ってガチャリっと、電話が切れた。

ああ、ちょっと突然電話切らないでよ。まあ、母さんと話ができたし、いいか!

私は電話を置き、同人誌に取り掛かろうとし、フッと時計を見て見ると時刻は17時になっていた。いけない!この時間帯はニュースをチェックしないと。

私はテレビのスイッチを入れる。ちょうど、夕方のニュースが放送されていた。

 

「これは......どういう事なんだ」

 

私は放送されたニュースの1つに釘付けになった。

それは『武偵殺し』が次に犯行を行うであろうと、予測したクルージング・イベント会社所有の日本船舶アンベリール号が、浦賀沖で沈没したニュースだった。

そんな馬鹿な......私の見立てでは、犯行開始は12月の下旬のはず。

ターゲットは特命武偵 遠山金一だったはず。

マズイな計画が狂ったぞ。せっかく、金一さんをオトリにしようと思ったのに......

 




アタック=告白ではありません。
MI6の監視?コネがあればどうにでもなります。

次回は金次が零の所に......


おまけ

15年前、とある日のダラム大学にてーー

バージニアは大学の自室で面倒な人物ーーセイジの相手をしていた。

「いい加減、私の前から消えてくれ」

「そんな冷たい事言わないでくれよバージニア」

「馴れ馴れしくしないでくれ」

「ま〜た、しかめっ面して〜綺麗な顔が台無しだよ」

バージニアは、殴りたい衝動を抑える。

「僕はただ、バージニアとお話がしたいだけさ。まあ、その前にフィッシュ&チップス買ってきてよ。勿論、君のお金で♪」


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本当の相棒

キンジ視点

 

ーー兄さんが死んだ。

俺は、いつものように強襲科で訓練をしていると、急に教務科から呼び出しをくらった。

何事かと思い、教務科ーー職員室に向かうと、そこで浦賀沖海難事故を聞かされた。

日本船舶のクルージング船・アンベリール号が沈没し、乗客1名が行方不明となり......死体も上がらないまま捜索が打ち切られた。

死亡したのは、船に乗り合わせていた武偵......遠山 金一。俺の兄さんだったーー警察の話によれば、乗員・乗客を船から避難させ、そのせいで自分が逃げ遅れたのだそうだ。

だが、乗客たちからの起訴を恐れたクルージング・イベント会社、そしてそれに焚きつけられた一部の乗客たちは、事故の後、兄さんを激しく非難した。ネットで、週刊誌で、そして遺族の俺に向かって吐かれた、あの罵詈雑言の数々。

ーー兄さんはなぜ、人を助け、自分が死んだ?

ーーなぜ、助けた人間から罵倒される?

ーーなぜ、スケープゴートにさせられた?

ーーヒステリアモードのせいなのか?

ーー武偵なんかをやっていたからか?

学校にいる間、俺の頭の中は様々な疑問で一杯だった。訓練について行けず、初歩的なミスを連発した。教務科の怒鳴り声も、どこか上の空で聞いていた。

フラフラした足取りで歩いていると、いつの間にか校門の前に来ていた。このまま、自分の部屋に帰ろう。1人になりたい。そのまま、校門を出て、寮に戻ろうとしたら、

 

「金次君」

 

校門の陰から零が姿を現した。まっすぐと俺の顔をとらえ、哀れむような目で見てきた。

 

「......何の用だ。何もないなら退いてくれ」

 

今は誰とも喋りたくないだ。頼むから、俺を1人にしてくれ。

 

「ちょっと、私の部屋まで付き合いなよ。なぁに、直ぐに済むからさ」

 

零は校門の向こうーー女子寮がある方角を親指で、クイクイと指す。

今は付き合っているヒマはない。

 

「悪い......また、今度な」

 

俺は零の横をそそくさと通り過ぎるが、後ろからガシッと手を掴まれた。

 

「離してくれ......いや、離せよ」

 

「いいや、離さないよ。そんなヒドイ顔をしている相棒を、このまま帰してたまるか」

 

ヒドイ顔?鏡がないから分からないが、零が言うくらいだーーきっとヒドイ顔なんだろう。

しかし、なんで俺のことを心配する?ああ、成る程な。お前もクルージングの事故を知ったのか。コイツなら、俺のことを観察すれば分かるか。

俺は零の手を振りほどき、そのまま逃げようとしたが、爪を立てられた。

 

「いてっ」

 

「いいから、黙ってついて来てよ」

 

俺の手を引っ張り、急ぎ足で寮に向かって歩いていく。

 

 

 

女子寮に到着すると、そのまま零の部屋ーーリビングに通された。

部屋の中は相変わらず、本や訳の分からん実験器具でいっぱいだったが、そんな事どうでもよかった。

 

「まあ、ソファーに座ってよ。コーヒー出すから」

 

俺を1人がけ用ソファーに座らせて、キッチンの方に向かった。

キッチンからは、零がスイッチを入れたのだろうーーゴポゴポとエスプレッソマシンが豆を焙煎している音が聞こえる。

暫くして、零が戻って来たーーその手に週刊誌を持って。

そのまま俺の向かい側ーー同じ1人がけ用ソファーに座った。

 

「聞いたよ。金一さんの一件。大変だったよね」

 

「慰めの言葉を言う為に、俺を部屋に入れたのかよ」

 

零はパラパラと、持ってきた週刊誌を確認するように眺めるーー兄さんを非難した記事だ。

そんな不快なモノを俺に見せないでくれ。

 

「しかし、マスコミも言いたい放題、やりたい放題だネ。金一さんは命懸けで、乗客を救ったというのに」

 

やめてくれ。

俺の気持ちをつゆ知らずか、零は記事を見せてくる。

 

「金一さんも災難だネ。正義の味方が、これでは悪党みたいだ」

 

「ヤメロヨ」

 

俺は自分でも驚くほど、低い声が出た。

それ以上、兄さんを侮辱するな。

 

「まったく、金一さんは大変だネ。自分がちょっと行方不明になったくらいで、凹むような金次君をーーダメな弟を持ってさ」

 

「やめろって言ってんだろうが‼︎」

 

俺は思わず、零の制服の襟を掴みそうになったが、寸前の所で思い留まった。

 

「ねぇ、金次君。金一さんは死んだと思うかい?船が沈没したくらいで、ましてや、逃げ遅れるようなヘマをするような武偵だと思うかい?」

 

ーーやめろ。やめてくれ。お前まで兄さんを侮辱するのか?俺の相棒であるお前が。

 

「はぁー、後輩の鏡であるプロの武偵が、あの体たらくでは、未来ある武偵の今後が心配だネ。まったく、あのクソ武偵は......」

 

「それ以上兄さんを侮辱すんじゃねえ‼︎俺の敬愛するあの人をーー正義の味方を悪く言うな‼︎」

 

「だったら......生きてるって、信じなよ‼︎君の大好きな兄さんを‼︎君が両親を失って、失意のどん底にいた所を救ってくれ正義の味方をさ‼︎」

 

零のその言葉を聞いて、俺はナニかを撃ち抜かれたような錯覚を覚えた。

今なんて言った?生きてるって......待てよ。俺はいつから兄さんが死んだと思っていた?

 

「金次君。今、この瞬間、最も金一さんを侮辱しているのは君だよ」

 

「なんでそうなるんだよ⁉︎俺がいつ兄さんを侮辱した⁉︎」

 

俺が兄さんを侮辱するなんてあり得ない。侮辱しているのは、世間の方だ。

 

「君が自分のお兄さんをーー遠山 金一を死んだと勝手に決めつけて、それで終わろうとしている。それは金一さんにとって最大の侮辱だよ」

 

零の言葉に俺は何も言い返せなかったーーただ、黙って聞く事しかできなかった。

 

「マスコミが、世間が何だ‼︎ナニが『遠山 金一は死んだ』だ‼︎そうやって弟である君が、勝手に解釈してしまったら、金一さんはーー君のお兄さんは本当に死んでしまうじゃないか‼︎」

 

零は、自分と俺との間にあるテーブルをバァン‼︎と手で叩きつける。

その動作に俺は活を入れられた。同時に目が覚めたように思えた。

そうだ......俺は兄さんを......あの人を死んだと勝手に解釈していた。しかし、

 

「捜索はされたが、兄さんは発見されたかったんだぞ」

 

「死体は上がったのかい?」

 

「いいや......上がっていない」

 

俺の一言を聞いて、零は「ふむ」と言い、何処からかパイプを取り出し咥えたーーツヤのある黒いパイプで『M』と金字の刻印がしてある。

おいっ!お前、未成年だろうが!何で平然と吸ってやがる。いや、この匂いは精油か。

そのまま、パイプを吹かしながら、ソファーの肘掛け部分をトントンと指で叩く。これは、零が思考している時に見られる癖だ。

 

「カオスのカケラを再構築してあげよう」

 

「突然どうした?頭でも打ったか?それとも変なモノでも食ったか?」

 

零がワケの分からん事を言い出した。カオスのカケラを再構築って、何だよ。本当に何があった?

俺は考えられる限りの事例を上げる。

頭を撃たれるーーコイツなら撃たれるヘマはしないな。

変なモノを食べるーーコイツは昔から変なモノを平然と食う。

うっ、こいつの手料理を思い出すと胃が......⁉︎

ダメだ。分からん。

 

「何か前に、りこりんが私のパイプを見つけて、謎解きするときはコレを咥えて、さっきのセリフを言ってほしいってさ。リクエスト通りにしてあげたら、大爆笑してたね」

 

理子......お前、零に何を吹き込んだ?大方、アニメの台詞だな。

それと謎解きだと?どういう事だよ。

 

「なあ、零。謎解きって、あの事故に何か思う事があるのかよ?」

 

「そもそも事故という前提が間違っているのだよ」

 

零は一旦、言葉を区切り「フゥー」とパイプを吹かす。その姿は、どこか優雅さを感じさせる。

吹かし終えると、再びパイプを咥えながら、週刊誌を眺める。

 

「沈没の原因は機関ーーエンジントラブルとあるが、大嘘だね」

 

「大嘘って、警察が調べたんだぞ?嘘ついて何になるんだよ」

 

「今の時代、エンジントラブルで船が沈没するなんて、そうそう起きるモノじゃない。沈没の原因の大多数を占めているのは、他船との接触なんだよ」

 

零はソファー近くーー隣にあるテーブルから一冊のファイルを俺に寄越した。何だコレは?

俺は零に断りをいれてから、ファイルを開く。

それは近年、起きた船舶事故を纏めたモノだった。

零の言う通り、船舶事故ーー特に沈没は他船との接触が原因だ。

 

「これが何の証明になるんだ?いや、まさか......!」

 

「君も私と組んだおかげで、少しは頭を使えるようになったようだね。関心関心」

 

零は「ふふふ」と笑ってみせる。

うるせぇ、大きなお世話だ。

 

「あれはただの事故ではなく、故意に起こされた事件だってのか」

 

「その通り」

 

俺が閃いた可能性を伝えると、零はコックリとうなづく。

 

「私の推理いや、分析では、船体の外板ーー船底それも浮力タンクに近い部分に、風穴を開けて沈めたんだろう」

 

今、推理じゃなく分析に言い換えたな。そこは素直に推理って、言っておけよ。こいつは何故か推理という言葉を使いたがらない。

 

「浮力タンクは、その名前の通り船体を海に浮かせる役目を果たす。そこを......パアン!」

 

零は手をグッと握り、パッと開く。コレは爆弾を表現しているのか?

 

「一体誰が船を沈めたんだよ?沈めて何になる?まさか、クルージング会社が保険金目的で、沈めたんじゃないだろうな」

 

「まあ、悪くない例えだね。私がその会社ーー保険金目的で沈めるなら、7通りほど思い付くが......」

 

「やめろ!やるんじゃない!お前なら本当にやりそうで怖いんだが......!」

 

「失礼だなー、ほんの例えだよ。金次君は真に受けすぎだよ」

 

零はぷくっと頬を膨らまる。普段、クールな印象のコイツがこんな動作をすると、新鮮な感じがするな。って、今は見惚れている場合じゃない。

 

「その一つ、シージャックがポピュラーだね」

 

「シージャックって、船を乗っ取ってどうするんだ?ハナっから、船を沈めるつもりなら、余計な手間だろう」

 

「''シージャック''だからこそだよ。だだの事故なら会社に責任があるけど、船が乗っ取られ、オマケに沈められたなら、その船ーー船舶会社も立派な被害者だ。正規の手順で、保険会社から保険金が支払われる。さらに、沈没の責任をシージャック犯に向けられるし」

 

「なら、クルージング会社が沈没させたのか......!」

 

保険金の為に、そんなくだらない理由で俺の兄さんを......!

俺はクルージング会社を憎悪しそうになった。

 

「早とちりしないでよ金次君。件のクルージング会社は白だよ」

 

「何でだよ」

 

「まったく、のび......金次君、君は実にバカだな〜」

 

「やめろ。あと、完全にド○えもんの声で喋るな」

 

そのセリフ、久しぶりに聞いたぜ。オマケに前に比べて声も似せてよ。あと、のび○君はバカじゃないぞ。勉強は兎も角、あの射撃の腕は、武偵として尊敬する。

 

「白だと思うには、何か証拠があるのか?」

 

俺の問いかけに、零は「これだよ」と週刊誌ーーそれも、クルージング会社の声明文が書かれた記事のページを開いて、俺に渡してきた。

こんなモノ、見たくもないが零に進められ、仕方なく読んでみる。

案の定、そこにはクルージング会社の保守的な、声明文がダラダラと書かれていた。これが何の証拠になるんだよ?

 

「その声明文が証拠だよ。そこには『我が社は悪くない。事故の責任は遠山武偵にある』と書かれている」

 

「だから何だよ。早く言えよ」

 

「まったく君は......少しは頭を使えるようになったと、私は思ったのに......やれやれ」

 

零は欧州人がやるような『困ったよポーズ』をする。

ぐっ!ムカつくが、非常に様になっている。

 

「クルージング会社は『事故』と言っているーー自分たちが責任を負うことになる事故とね」

 

事故......そうか!

 

「自分たちが賠償責任を負う可能性があるにも関わらず、事故と認めている」

 

「さっきも言ったように、沈没の責任を取りたくないなら、シージャック犯ーー第三者による犯行にしてしまえばいいのに、会社は金一さんに責任を押し付けている。これだと、世間から無責任だと罵声される上......」

 

「事故だと保険金は下りても、会社としての信頼を失う。しかし、第三者による犯行なら会社も被害者なワケだ。これなら世間からの信頼も、そこまで落ちないし、保険金も下りるーー事故と認めている事が証拠なワケか!」

 

逆転の発想とは、まさに零に似合う言葉かもな。事故そのものを証拠にしてしまうなんてな。

 

「クルージング会社が白だって事は分かったが、誰が沈没させたんだよ?会社に恨みのあるヤツか?」

 

「ふーむ、恨みね......違う気がするね。クルージング会社はコレといった事故......ああ、勿論、この事件の前の話だよーー事故はなかったし、会社内・接客でトラブルなし、船体調査・造船過程での事故もなし。誰かに恨みを買われる事はしてないね。あと、脅迫文・怪文章の類もなし。....それから」

 

零は長々と語る。

 

「お、おい。いつから調べたんだよ?事件があったのは、1週間前だぞ」

 

いくら何でも知りすぎだ!一体、いつから調べていたんだ?

俺の疑問ーー反応を見て、零は咥えていたパイプを離し、

 

「金一さんが行方不明と知った時ーー私の銃を褒めてくれた素晴らしい人がさ」

 

零はホルスターから、愛銃であるウェブリー・リボルバーを抜く。

もう一方のホルスターにも拳銃があるぞ。そっちは抜かないのか?俺は、もう一方のホルスターに納められている銃を見る。

グリップからして、その銃は......兄さんと同じコルト・シングルアクション・アーミーじゃねぇか。色は兄さんのシルバーと違いブラックだ。

 

「私ね、ウェブリー・リボルバーが好きだよ。でも、一部の人から時代遅れだって、言われて他の銃に替えようかな思っていた時期があるんだ」

 

「......それで?」

 

「丁度その頃、金次君の実家で金一さんにあったじゃない」

 

ああ、前に『脳の疲労』で眠りについた零を実家に運んだ時の事か。

その時、兄さんにあって話をしたんだっけな。特にリボルバー関係で、兄さんと盛り上がってたのを覚えているぜ。

 

「でね、金一さんが私の銃を見て『個性的で素晴らしい銃だ』って、褒めてくれたんだ。あの時、初めて自分の愛銃が褒められて、嬉しかったな。それから、私はこの銃が、さらに大好きになったんだ」

 

零はウェブリー・リボルバーを愛おしく撫でる。

 

「そんな大恩ある人が、人命を救ったのに関わらず、罵倒されるのは許せないんだ。悔しいのは、君だけじゃないんだよ金次君」

 

今度は俺の方を真っ直ぐと見つめるーー強い意志を秘めた目だ。思わず、マジマジと覗き込んでしまった。

 

「ハッキリと言うよ。コレは事故じゃない。第三者が犯した事件だよ。それも恨みなんかじゃないーー別の目的の為にね」

 

「別の目的?」

 

「金次君も聞いたことがあるんじゃないかい?『武偵殺し』という犯人を」

 

『武偵殺し』......確か、武偵の車なんかに爆弾を仕掛けて自由を奪った挙句、マシンガンのついたラジコンヘリで追い回しーー海に突き落とす。そんな手口のヤツだったか。

 

「兄さんが、『武偵殺し』に狙われたって言いたのか⁉︎でも、『武偵殺し』がシージャックするなんて、聞いたことがないぞ」

 

「君は知らないだろうけど、日を増すごとに『武偵殺し』の犯行はエスカレートしているーー付いて来たまえ」

 

零はソファーから立ち上がり、リビングから出て行った。俺はその後を追う。

案内されたのは、別室の前だった。

零はドアノブに手をかけ、「どうぞ」とドアを開けて、俺を入れる。

部屋の中は、リビング以上にごちゃごちゃだった。

壁や天井、床にいたるまで地図で埋め尽くされていた。さらに、目を引いたのが、地図には......その国で起こった事件だろうか?ーー事件の詳細・犯行現場を撮らえた写真・人物画・新聞記事が貼られ、それらは、青い糸で繋げらていた。

 

「驚いた?コレはね私が作った事件の関係図ーー通称『蜘蛛の巣』だよ」

 

「関係図って、事件を結びつけて共通点を見つけ出すってヤツか?」

 

「その通り。因みに、この部屋を訪れたのは金次君が初めてだよ」

 

零はニコッと笑ってみせる。

おい、何で笑うんだよ?俺を招き入れたのが、そんなに可笑しいのかよ?

 

「これをご覧よ」

 

零はトントンと『蜘蛛の巣』のひとつを叩く。

俺は近づいてみる。コレは『武偵殺し』に関する事件か!目で追っていく。

事故ってことになっているだけで、実際は『武偵殺し』の仕業で、隠蔽工作されているヤツもある。よく調べたな。

 

「この図を見ていくと『武偵殺し』の犯行は、零の言った通り、エスカレートしているな......自転車ーバイクー車そして......船か」

 

最後にアンベリール号の沈没に行き着いた。

 

「本当に兄さんは『武偵殺し』に狙われていたのか?模倣犯の仕業って事も」

 

「いいや、それは無いね。用意周到な手口・犯行計画など挙げられるモノからして、模倣犯ではない」

 

「コイツに兄さんは......」

 

俺は『武偵殺し』に対し、煮えたぎるような怒りを覚えた。

 

「待ちたまえ。まだ、お兄さんがやられたとは限らないよ」

 

やられたとは限らないだと?それは死体が上がっていないからか?

 

「金次君。君にとってお兄さんはどんな人だい?」

 

「イキナリ何だよ?」

 

俺が疑問に思うと、「いいから、答えて」と急かす。

 

「俺にとって兄さんは......正義のヒーローさ。誰よりも真っ直ぐで、カッコイイ理想のヒーローだ」

 

「そんな敬愛する正義のヒーローが、『武偵殺し』みたいなチャチな小悪党に負けると思うかい?ましてや、命を取られるなんてヘマをさ」

 

零の言葉で、俺は兄さんの姿を思い描く。

兄さんは強いーー俺なんかよりも。誰よりも義に生きる人で、遠山家の長男。俺の兄だ。俺の憧れたヒーローだ。

 

「そうだよな......兄さんが、遠山 金一が死ぬワケがない」

 

兄さんは生きている。きっと、何処かで必ず。今は、何か理由があって姿を現すことができないだけなんだ。

 

「行方不明=死んだというワケじゃない。君のお兄さんは生きている」

 

「それは推理によるものか?お前のお墨付きなら、信じられるぜ」

 

「いいや、勘だよ」

 

って、勘かよ‼︎推理だと期待したのに......俺は思わずガックリとする。

 

「そんなにガッカリしないでよ!私が勘に頼る事なんて、殆ど無いんだよーー今回、頼ったのは、金一さんの件が初めてさ」

 

「いつもの分析じゃなく、何で勘なんだよ?」

 

「......内緒」

 

零は口に人差し指を当てる。そこは言えよ。

すげぇ気になるぞ。

 

「しかし、『武偵殺し』が兄さんを襲った事に間違いない。乗っていた船を沈められたんだーー少なくとも兄さんは遅れをとった」

 

「何か不安そうだね。言ってご覧よ」

 

「......そんな相手に勝ち目はあるのか?」

 

俺が問いに、零は「ふっ」と不敵に笑い、

 

「ゼロじゃないさ」

 

ハッキリと言い切った。

ゼロじゃない。勝ち目がある。まだ、望みはあるってことか。

 

「君は1人で『武偵殺し』と戦うみたいだけど、それじゃ勝ち目はない」

 

そう言って、零は右手を差し出してきた。

 

「何も全て抱え込む事はないよ。私もいるよ?私も一緒に戦わせてよ。なんたって相棒だからね」

 

「ははは、まさか有料じゃないだろな?」

 

「相棒だから無料にしてあげるよ」

 

ここで有料なんて言われたら、ズッコケていたな。こいつのギャグはシャレにならん。

俺は零の手を取った。

 

「よろしく頼むぜ相棒」

 

「任せてくれ相棒」

 

お互い笑顔で握手した。

この時、俺は零と初めて本当の相棒になれた気がした。

こいつとなら、どんな事件でも乗り越えられる。待っていてくれ兄さん。あんたの仇は俺と零が捕まえる。

 

 

 

ーーーーーー

 

スイス ライヘンバッハにて

大きな滝があったーーライヘンバッハの滝だ。

シャーロック・ホームズとジェームズ・モリアーティの最終決戦の舞台として、知られている名所だ。

そんな断崖絶壁の上に2人の男女がいた。

滝からの水飛沫でお互い、びしょ濡れに関わらず、

 

『零‼︎お前は間違っている!』

 

『なんで分かってくれないの⁉︎間違っているのは......君の方だ‼︎』

 

銃を構え、そして、パァン!と2つの銃声が轟音にも関わらず、滝に響いた。

 

 




次回は遂に原作突入します。アリアとの対面......気づけば30話超えていた。
やりたいネタが沢山あります。


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武偵殺し
新学期の始まり


東京 目黒区にある某教会ーー

 

「.......あなたのお話は分かりました」

 

私は懺悔室の一室ーー網目状の小窓を挟んだ向こう側で、ある人物の''相談''に乗っていた。

相談相手は40代の男性。無精髭を生やし、着ているシャツとズボンはヨレヨレ。白髪交じりの頭にヒドく痩せている。予め年齢を確認していなかったら、50歳と思っていたかもしれない。

 

「たとえこれで、命を落とす事になっても構わないと?」

 

「勿論だ。どの道この体は不治の病に侵され、もう長くない......私の望みは、ただ一つ......ッ」

 

男はキッ!と顔を上げ、

 

「奴にこの地獄の様な苦しみを味わわせる事が出来るなら、私の命など......‼︎」

 

ハッキリと言い切った。

命など惜しくないーー覚悟があるようだ。

 

「計画は追って伝えますので、連絡をお待ちください」

 

私がそう伝えると、男は教会から去っていた。

 

 

 

某教会から離れた場所ーー西大井広場公園

 

朝の公園には、ジョギング・ラジオ体操する人がいる。

私はベンチに座って、いつものアレーー野生の鳩に餌をやっていた。

本当は学園島の鳩にやりたいが、然程変わりないだろう。

最近、鳩の餌やりは糞などで問題視されているが、ここでは問題視ーー餌をやる私に注意してくる人間はいない。

座りながら手帳を開いていると、

 

「おはようございます。主」

 

「グットモーニン‼︎モリちゃん」

 

私の前にモランとアップルがやってきた。

モランは肩に狙撃銃のケースを担いで、不動の姿勢だ。それに対して、アップルはビシッと手を上げ、挨拶してくる。

ハハ、アップルは朝からテンションMAXだねー。

 

「主。間も無く、学校の始業式が始まります」

 

「おっと、そうだったね」

 

今年ーーこの春から私は2年生になる。一般中出身の私が武偵高で一年を生き残ったのは、奇跡いやモラン達のおかげかな。

専門科目は去年と変わらず、探偵科だ。

 

「モランは今年で高校一年生。私と同じ校舎で学ぶから、顔を見せにこれるね」

 

真新しい純白のブラウス。臙脂色の襟とスカートを着たモランに言う。

モランは今年で高校一年になった。専門科目は中学と同じく狙撃科を選択している。因みにランクはBだ。少し低いと思われるが、モランの狙撃の腕は余裕でAランクを超える。しかし、Bランクに留めさせたのは、私が指示したからだーーその方が都合がいい。

モランも今年で高校生か〜、あっという間だね。って、私は母ちゃんか‼︎

 

「はい......ボソ(主に堂々と会いに行ける!)」

 

うん?モランが何か言ったような気がした。おまけに顔が少し赤い。熱でもあるのかい?

 

「ねぇねぇ!モリちゃん。因みに私は?」

 

アップルがクルリとターンして見せた。

モランと同じ純白のブラウスと臙脂色のスカート。神奈川武偵中の制服だ。

アップルには、今年から武偵として編入してもらったーー専門科目は特殊捜査研究科(CVR)を選択している。この時期に編入はおかしいと思われるが、武偵中ならスンナリと編入できた。

勿論、アップルーー編入には別料金を払ったけどね。そこはしっかりとしている。

 

「うん。可愛いよアップル」

 

制服はアップルの改造だろうーー袖やスカートにはフリルが付いている。えーっと、何だっけ?前にりこりんが言ってたな......甘ロリだっけ?

 

「ありがとうモリちゃん!いやー改造した甲斐があったよー」

 

改造ね......一般の学校では制服改造は禁止されているけど、そこは武偵の育成機関だから......ね?

 

「それはそうと主。例の相談者......アップルの情報網で見つけて来たそうですが......信頼できそうですか?」

 

モランがいつものキリッとした顔に戻っていた。

イケメンだね〜。その顔なら女子ーー特に年下と同年代ならイチコロだよ。

相談者......ああ、彼の事か。

 

「私の情報網と観察眼に狂いなし‼︎じっちゃんの名に懸けて‼︎」

 

アップルは顔の横にVサインしながら、元気良く答えた。

じっちゃん......某高校生探偵のセリフか。

最近、アップルは日本のアニメにハマってしまったーーそれはもうドップリと。

休日にはよく秋葉原に行っている。

 

「アップル。私は主に質問しているのです。少し静かにして下さい」

 

「そんな‼︎ヒドイよ‼︎」

 

モランに注意され、アップルはガーン‼︎とショックを受けた。

 

「彼はとある実業家に対し、強い恨みを持っている。しかし、相手が雇っている武偵の警備は厳重......近づく事すら出来ず絶望している。死期も近く、天涯孤独の身。この世にもう復讐以外の未練なんて無いんだよ。そういう人間は信頼できる」

 

私は相談の為、教会に訪れた男について語る。

死が近い人間ーー特に復讐に駆られた者は何でもする。躊躇や後悔だってない。

 

「......そうですか。後は例の犯罪組織の件ですか、今後の不安要素になるようなら言ってください。いつでも消します」

 

「私も協力するよ‼︎勿論、有料でね☆」

 

「アップル!そこは無料、無理ならせめて割引と言いなさい!」

 

ははは、本当に愉快で頼もしい仲間だ。この子達となら何でも出来そうだ。

 

「ありがとうモラン、アップル。でも少し待ってね」

 

私は鳩たちに最後の餌をやり終え、軽く手をパンパンと叩く。

 

「今回の依頼とは別ーー『武偵殺し』の件を利用して、彼を試してみようと思うんだ」

 

「彼......遠山 キンジですか?」

 

モランが金次君を呼び捨てした。コラ!先輩を呼び捨てにしちゃダメだぞ。

気のせいか?モランの声に憎しみと憤怒が籠っているーーこのモランの様子は尋常じゃない。

金次君......まさか、モランに手を出したんじゃないだろうね⁉︎流石は巷で『ジゴロの金次』と呼ばれるだけはある。

 

「ああ、彼が適役じゃないかなー、と思っているんだ」

 

「適役?何の」

 

アップルが答えを求める。

 

「私達が仕立てる犯罪を、より多くの民衆に周知する為に必要なもの」

 

私はベンチから立ち上がる。

 

「民衆がその境遇に賛同出来る''犯人''。そして法律ーー武偵法と人間の腐敗を世間に暴く''正義の味方''。その正義の味方こそが、私達の犯罪の''主人公''なんだよ」

 

「主人公......‼︎」

 

アップルはキラキラした目で感動する。しかし、モランはチッと舌打ちしそうな顔だ。あれ?私、何か変な事を言った?

 

「さて、話はここまで。早く学校に行かないとね」

 

私はポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認する。時刻は6時ジャストだ。

車なら余裕で間に合うが、その前に......

 

「お伴します。主」

 

「あっ、ゴメンねモラン。学校に行く前に金次君の所に行かないと」

 

その一言でモランの顔が死んだ。

 

「何故......ですか?」

 

「いや......だってね〜金次君、お寝坊さんだから、誰かが起こしに行かないと、遅刻するからさ。始業式に遅刻とか、後輩に示しが付かないでしょう?」

 

金次君は本当にお寝坊さんだ。私の推理いや、分析では目覚ましをかけ忘れ、おまけにトランクス一丁で寝ているだろう。

そんな金次君を心配して幼馴染の白雪さんは、昨日から伊勢神宮に合宿しているだろうーー金次君を起こしに行く為だけに。

白雪さんなら絶対にやるーー私の全財産賭けてもいい‼︎

 

「そう言う訳で、金次君の様子見がてら男子寮に行ってくるよ」

 

私は公園の外に止めてある愛車ーーポルシェ356aの所に向かう。

向かいながら、私は金次君と白雪さんの朝のやり取りを考える。

白雪さんの事だから、起こしに行くだけじゃなく朝食も持って行く。メニューは、玉子焼き、エビの甘辛煮、銀鮭、西条柿あたりかな。

まだ確定じゃないが、豪華食材だーー運動会にでも行くのかな?まあ、これくらい去年からやってたし、今更、金次は驚かないだろう。

 

「モリちゃん!行ってらしゃ〜い」

 

「お気をつけて主......」

 

アップルとモランに見送られながら、私は公園を後にした。

モランが泣いているような気がするが、気のせいだろう。

 

 

 

別視点ーー

 

「いや〜朝から良いモノが見れたね、モランちゃん!アレは、もうデキてる〜ね☆」

 

「......」

 

アップルが某魔法師アニメの猫の様な声で喋るが、モランは何も答えない。ただジッと立っているだけだーーその姿は豪傑武蔵坊弁慶のようだ。

 

「......してやる」

 

「えっ?何だって?モランちゃん。おーい」

 

アップルはモランの前に移動し、背伸びすると彼女の目前で手を振る。

 

「駆逐してやる......‼︎この世から......一匹残らず‼︎」

 

モランの顔は憤怒していた。目には悔し涙を浮かべ、はるか向こうーー男子寮がある方角を眺めていた。

 

「それ進撃の◯人じゃん⁉︎モランちゃん知ってたんだ」

 

アップルはモランが某アニメのセリフを知っていた事に感心した。

モランとアニメについて語れると思ったが、

 

「因みに何を駆逐するの?あと、所属は何処にする?調査兵団?それとも......」

 

「遠山キンジを駆逐してやる......‼︎主に近づく悪いムシめ‼︎」

 

「いやいや⁉︎駆逐したらダメだって‼︎それにキンジは、1人しかいない!もし駆逐しちゃったら、モリちゃんの計画が狂ちゃうよ‼︎」

 

ズカズカと走って行くモランを、アップルは慌てて止める。

ここで止めないと本当に駆逐するイキオイだ。

 

「退けぇぇぇぇぇぇぇ‼︎私は......主を助けに行くのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

「ここを通りたければ、私の屍を超えてからにしろ‼︎」

 

アップルは冗談半分でモランに対し、通せんぼするが、

 

「ならば超えてやる‼︎」

 

モランは肩に担いだ狙撃銃に手を掛けた!

 

「ちょっ⁉︎待っ......!」

 

アップルは慌てて、臨戦態勢に入った。

2人の女子が公園のど真ん中で、乱闘を繰り広げたが、何故か騒ぎにならなかったーー道行く人は過ぎ去るし、ラジオ体操する集団は知らん顔で体操を続けた。

丁度その頃、零が愛車のエンジンの吹かし、公園から去った。

それを合図に公園内にいた全ての人間が、2人の女子の喧嘩を止めに入った。

 




次回はキンジ視点の寮のやり取りから始めます。
先延ばしにしてすみません。


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キンジの部屋にて

原作1巻にコーラをこぼしてしまった‼︎びしょ濡れで読めないよ(涙)
新しいのを買って来ます。゚(゚´Д`゚)゚。


キンジ視点ーー

 

『......火事だぁ‼︎』

 

「うお......‼︎」

 

俺は誰かの叫び声で、目が覚める。

今、火事だと言ったか⁉︎火は何処だ⁉︎

俺は飛び起きて部屋を見回すが、何処も火の手はない。

 

『火事だぁ‼︎火事だぁ‼︎』

 

枕元には無機質な目覚ましのスピーカーから、さっきの叫び声が響く。こ、これは前に、理子が無理矢理プレゼントしてきた目覚ましじゃねぇか!

すぐに目が覚めるからって、押し付けられ仕方がなく使ってみたが、こんな目覚ましコールはいらねぇよ。

近所迷惑なのでスイッチを押すが、

 

『泥棒だぁ‼︎地震だー‼︎逃げろ!!借金取りだぁ‼︎開けろ‼︎』

 

鳴り止み気配なし。

こ、こんな目覚ましコールしかないのか?

本体の電源を切り、時間を確認する。時刻は7時ぴったし。まあ、自分でセットしたんだし、この時間に目覚めて当然か。

 

......ピピピ......

 

キッチンからアラーム音が聞こえる。

豆と水を入れ、7時にタイマーセットしたエスプレッソマシンが、豆を焙煎し終えたんだろう。

もそもそ、とワイシャツをはおり制服のズボンをはくと、俺はキッチンに向かう。

 

「おっ、できてるな」

 

マシンのスイッチを押し、コポコポと焙煎されたコーヒーをカップに移す。このエスプレッソマシンは零の勧め(半端強制的に)で買ったが、気に入っている。

コーヒーの種類は4種。ソロ、リストレット、ルンゴ、ドッピオ。

 

「うん、美味い」

 

軽く一杯だけ飲む。

俺はリストレットを飲む事にしている。うま味がぎゅっと凝縮され、パンチの効いた濃い味だから、すぐに目が覚める。

そういえば、前に零がルンゴとドッピオは飲まない方がいいって、言ってたな。こっそり飲んでみたが、別に美味いんだけどな。

コーヒーを持って、テーブルに着くとテレビを点ける。

丁度、朝のニュースをやっていた。見慣れたニュースキャスターがピックアップしたニュースを報道する。

 

「ますます物騒になったな......」

 

【豪華客船内で白昼堂々の殺人⁉︎犯人は現役の政治家】【ルパン復活か⁉︎大英博物館に予告状届く】【米国 銀行強盗発生率UP過去最高値】など目立つが、最近は殺人などの凶悪犯罪が増えた気がする。

それに伴い、『武偵法の改善を‼︎』などの『武偵による殺傷を許可』する法案を求める声が高まるが、俺はこの法案には反対だ。

 

......ピン、ポーン......

 

ドアチャイムが聞こえてきた。

誰だ?いや、あのチャイムの慎ましさからして白雪だな。

俺は1人で住むには広い、マンションの部屋を渡り......ドアの覗き穴から、外を見た。するとそこにーー

 

「ほらな」

 

やっぱり白雪が立っていた。いや、白雪だけじゃない零も立っていた。

2人とも純白のブラウス。臙脂色の襟とスカート。シミ一つない武偵高のセーラー服を着てーー白雪は漆塗りのコンパクトを片手に、何やらせっせと前髪を直している。

零は覗き穴に満面の笑みで、イエィとピースしている。

武偵高の生徒会長と副会長が、朝から何やってんだ?

俺はガチャとドアを開けた。

 

 

零視点ーー

 

「キンちゃん!」

 

寮の廊下で、案の定金次君を起こしにやって来た白雪さんが、ドアが開くなり入室した。

朝から大胆だね〜突撃!朝の金次君。いや、白雪さんかな?

 

「その呼び方、やめろって言ったら」

 

「あっ......ご、ごめんね。でも私......キンちゃんのこと考えたらつい、ごめんねキンちゃん」

 

「まぁまぁ、呼び方くらい別に良いじゃない。堅いぞ金次君」

 

金次君を見るなり、あわあわと慌て出したので、私が助け船を出す。

 

「ていうか、ここは仮にも男子寮だぞ。よくないぞ、軽々しく来るのはーー特に生徒会長と副会長がな」

 

金次君の言う通り、私と白雪さんは生徒会に入っている。

私が生徒会長で、白雪さんが副会長だ。いやー、何故か投票で白雪さんと競う事になったんだよね。あれは、よく覚えている。

 

「いやー、白雪さんが昨日まで伊勢神宮に合宿していてね。キンちゃんのお世話かできなーいって、言うから面白そうだと思って来ちゃった♪」

 

「ちょ、ちょ、ちょっと零さん!それは私が......言おうと思ったのに‼︎」

 

白雪さんが顔を真っ赤にして、狼狽し出した。

白雪さんは本当にイジリ甲斐があるね〜。もっとイジリたいが、これ以上やると金次君による、地獄のツボ押しマッサージが来るから止める。

 

「分かった分かった!いつまでも廊下に居られると面倒だから、取り敢えず上がれ」

 

金次君の許可を得て、部屋に上がる。

 

「お邪魔しまーす」

 

「おじゃまします」

 

白雪さんは深ぁーいお辞儀をしてから玄関に上がった。そんなに畏まらなくてもいいのになーー2人とも幼馴染なんだからさ。

 

「で、何しにきたんだよ」

 

「これ......」

 

「それくらい推理したまえよ金次君」

 

私はポケットからパイプを取り出し、口に咥える。精油を切らしているから、ただ咥えるだけだ。

 

「......白雪が持っている和布の中身は箱か?」

 

金次君は少し考えてから答えた。

箱ーーうん!正解だが、何の箱かまで言えたら80点、中身を当てられたら、100点だったね。

 

「白雪さん」

 

「うん。これ......キンちゃんに作ってきたの。よかったら食べて」

 

白雪さんは正座すると、持っていた和布の包みを解いた。

そして出てきたのは漆塗りの重箱を金次君の前に差し出すと、フタを開ける。

そこには玉子焼き、エビの甘辛煮、銀鮭といった豪華食材と、白く輝くごはんが並んでいた。

おおー、私の分せ......待って。西条柿がないぞ。

 

「ねぇ、白雪さん。本当なら西条柿も入れるつもりだったんじゃないかい?」

 

「うん、そうだよ。よく分かったね零さん。最初は入れるつもりだったけど、丁度切らしちゃってて......」

 

「そんな事、どうでもいいだろう。まあ、取り敢えず......ありがとうな白雪」

 

金次君は照れ隠し丸出しで、白雪さんにお礼を言う。白雪さんは「うん!」と嬉しそうに笑った。

どうでも良くないよ‼︎私の分析がぁぁぁ‼︎私の賭けた全財産がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎

あっ、1人で勝手に決めた事だし、どうでもいいか。しかし、外れることがあるとは......

私もテーブルに着き、白雪さんの料理をパクパクと頂く。うん!美味いねーー特に玉子焼きが。今度、私も挑戦してみよう。

 

「って、お前も食うのかよ」

 

「別にいいじゃない。白雪さんには許可を得ているよ」

 

チラッと、白雪さんを見てみると正座したまま、蜜柑を剥き始めた。

 

「......えっと、いつもありがとうな」

 

「キンちゃんもありがとう......ありがとうございます」

 

「ははは、なんで白雪さんがありがとうなんだい?あと、三つ指ついていると、土下座しているみたいだよ」

 

「だって、キンちゃんがお礼を言ってくれたから......」

 

白雪さんは嬉しそうに顔を上げ、目を潤ませている。そんなに嬉しかったんだね。

そんな白雪さんを見て、金次君は慌てて目を逸らした。

原因は白雪さんのセーラー服の胸元、ちょっと緩んで開いて見える黒い、レースの下着だろう。

黒だと!さては、私の真似したな〜。胸元を開けるのも真似るとは、白雪さんに悪知恵が付いたね。関心関心。

金次君は白雪さんから逃げるように、その場から立ち上がる。

ここでヒスったら面白い事になってたのに〜。

 

「金次君。今日からみんなで2年生だね。はい、防弾制服」

 

「ありがとうよ零。って、俺の銃がねぇぞ」

 

「ここだよ」

 

私はテーブルの下から金次君の拳銃を取り出す。

テレビの脇に無造作にあった拳銃を盗んでおいた。白雪さんに見惚れている間にね♪

これはアップルから学んだ技術だ。

 

「武偵たるもの『拳銃と刀剣の携帯を義務づける』だよ」

 

「悪かったな。ほら、返せ」

 

金次君は私の手から拳銃を取ろうするが、私はヒョイと躱す。

 

「君は〜昨日の夜〜疲れ果ててましたね〜。服を脱ぎ散らかし、拳銃も適当にテレビの側に、そして、お風呂ついでに歯を磨き、水を飲んだ後、そのままトランクス一丁でベットに入りましたね〜。う〜ふふふふふ」

 

私は古畑任三郎風に答える。

 

「何で分かるんだよ」

 

私はリビングに脱ぎ捨ててある服とキッチンに目をやる。

 

「床に脱ぎ捨ててある服は見たところ、昨日のモノ。テーブルから始まりリビングの外ーー風呂場で終わっている。脱いで風呂場に向かったのは明白。キッチンの炊事場にはコップが一つ。洗ってないところを見ると、大して汚れないーー水を入れていた。私達を出迎えるために、寝間着からシャツに着替えた様子がないところを見て、トランクス一丁で寝たのは明白だよ」

 

「キンちゃんが......下着一枚で......」

 

私が分析結果を語り終えると、聞いていた白雪さんは、顔を真っ赤にしていた。大方、金次君のトランクス一丁姿を想像したのだろう。

 

「あー、そうですよ!推理通りですよ!クソったれ!」

 

「凄いね零さん。流石、キンちゃんの師匠だね」

 

「待ってよ白雪。俺はこいつの弟子になった覚えはないーーまあ、探偵科に転科したけどよ」

 

金次君は今年から、正確には去年の12月の下旬から探偵科に転科した。私が勧めたのだ。

探偵科に転科した金次君は本当に教え甲斐がある。

 

「『武偵殺し』を追うために、探偵科の捜査技術を身につける為だものねー」

 

「でも、零さん。その『武偵殺し』は逮捕されたって......」

 

白雪さんの言葉に金次君は、グッと悔しそうに握り拳を作る。

白雪さんだけじゃなく、金次君にも届いていたかーー『武偵殺し』は逮捕され、模倣犯が現れたという偽情報が......本当は模倣犯に成りすましているのが、本命なのにね。

 

「それは違うよ白雪さん。『武偵殺し』は逮捕されていない」

 

「えっ、でも教務科から周知メールが来たよ?『武偵殺し』は逮捕されて、模倣犯が現れた警戒せよって」

 

「そうだぜ零。『武偵殺し』はもう逮捕された......代わりに『武偵殺し』を語る模倣犯は現れたがな」

 

「まったく、教務科からの情報をそのまま信じるなんて、金次君と白雪さんはピュアだね」

 

私はパイプを咥え、

 

「カオスのカケラを再構築してあげよう」

 

「ねぇ、キンちゃん。零さんどうしちゃったの?」

 

「あー、白雪。気にするな」

 

そんな事を言わないでくれよ金次君。君も探偵科なら分かるでしょう?

このネタは探偵科ーー金次君以外には大ウケする。りこりんはお腹を抱えて爆笑してくれる。

みんながウケる中、りこりんはドサクサに紛れて、私に鹿撃帽を被せようとしたっけ。その時、私は思わずりこりんの後方から、腰に腕を回してクラッチしたまま、後方に反り投げてーージャーマン・スープレックスをくらわせてしまった。

あの場にいた探偵科のみんなは呆然としてたっけ。

りこりんは脳天を抱えて「ぬごおぉぉぉぉぉ!」と唸り、のたうち回ってたな。本当に悪い事をしてしまった。

 

「ナンタラを再構築中、悪いんだが時間だ。そろそろ出ないとヤバイ」

 

金次君に言われ時刻を確認すると、いつの間にか7時55分になっていた。しまった......分析結果を報告し過ぎたかな。

これでは、金次君と白雪さんは58分のバスに間に合わないね。

 

「それは悪い事をしてしまったね。再構築についてはまた今度話そうか」

 

私はスッと立ち上がり、

 

「時間を取らせてしまったお詫びに、学校まで送っていくよ」

 

「学校までって、零さん車で来たの?」

 

「白雪は知らないのか?こいつは一丁前にも、ポルシェに乗ってやがるんだ」

 

「ドイツのアマガエルも偉くなったねー。金次君に嫉妬されて」

 

「うるせぇ。俺は自転車で行かせもらう」

 

強情だネ。自転車では行かない方が身の為だよ。お兄さんの仇も打てぬまま、木っ端微塵にはなりたくないだろう?

ここに来る前、金次君の自転車を調べたが、サドルにプラスチック爆弾が仕掛けられていた。十中八九、『武偵殺し』だろう。このまま、金次君を囮にして『武偵殺し』のシッポを掴むのもいいが、金次君は囮に使いたくはないんだよネ。何故だろうか?

まあ、このまま『武偵殺し』の良いようにさせるのもイヤだし、爆弾は此方の方で''有効的に使わせてもらうがネ''

 

「そんな事を言っちゃダメだよキンちゃん。折角、零さんが送ってくれんだし、お言葉に甘えさせてもらおうよ」

 

「まあ、白雪が言うなら別にいいけどよ......」

 

白雪さんの説得に金次君は折れた。ふふ、金次君は白雪さんに弱いね。さては、白雪さんを遅刻させたら悪いと思ったな。

 

「それじゃ、三人で学校に向かいますか!」

 

そのまま、三人で部屋を出ると、寮の外に止めてある私の愛車に乗り込む。

 

 

 

 

ーー生涯、私はこの時間帯に車で学校に向かったことを悔やむだろう。

何故ならこの後、空からあのピンク頭が降ってくるのだから。

神崎・ホームズ・アリアが。

 

 

 




丁度、原作プロローグ辺りーー本編に入る所でコーラをこぼしてしまいました。
ベタベタでよく読めない。゚(゚´Д`゚)゚。
コーラ飲みながら、読むんじゃなかった......


お気づきかもしれませんが、既にこの時点で教授VS教授の戦いーー謀略合戦は始まってます。


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空からアイツがやって来たーーピンクの悪魔が

・アリアに恨みは御座いません!
・ツインテールの方に恨みは御座いません!
・タランチュラ愛好家に恨みは御座いません!


零視点ーー

 

私の推......あー、もう推理でいいや。に、付き合わせてしまった金次君と白雪さんを愛車に乗せ、武偵高に向かっていた。

窓の向こうには、海に浮かぶような東京のビル群。

武偵高校は、レインボーブリッジの南に浮かび南北およそ2キロ・東西500メートルの長方形をした人工浮島の上にある。

そんな浮島を車を走らせながら、私達は眺めていた。

 

「いやー、こうして車で通勤ならぬ通学するのもいいね。特に大好きな学友達と一緒にね」

 

私は助手席に座る金次君、後部座席に座る白雪さんに声をかける。

金次君はブスとした顔で、少々不機嫌気味ーー見ていて可愛い。

白雪さんは、初めて私の車に乗ったのか、少々緊張気味だ。

2人ともシートベルトはしている。安全第一だからね。

 

「本当にありがとうね零さん。車まで出してもらって」

 

「お前が謝る必要はねぇよ白雪。自分の推理に付き合わせたコイツに責任がある」

 

そんな事を言うなよ金次君。君も探偵科に転科したのだから、人前で推理を披露する時が......ダメだ。金次君が「犯人は貴方だ」という光景を想像しただけ笑えてくる。ぷぷぷ

笑いを堪えるあまり、ハンドルを持つ手がプルプルと震える。

手に力が入らない所為か、車が車線をはみ出た。

 

「危ねぇ!おい、零‼︎車線はみ出てるぞ!戻せ!」

 

「えっ?どうしたのキンちゃん?」

 

金次君が助手席で叫ぶ。

その声に私は、ハンドルを切って車を車線に戻す。

うお!危ない危ない。セーフ。

 

「危なかったー」

 

「危なかったじゃねえよ!思い切り車線を超えてたじゃねぇか。お前、本当に車の免許持ってんのか?」

 

「失礼な!私は武偵である以上、武偵免許で車の運転はできます。因みに車の運転は武藤君仕込みだよ♪」

 

最後に「てへ☆」と付け加える。

懐かしいな〜車の運転の際、武藤君が教えてくれたっけ。武藤君だけじゃなく、車輌科のみんなが教えてくれた。

 

「間違ってもアイツーー武藤の様な運転はするなよ?俺だけじゃなく白雪も乗ってんだからな」

 

「零さん武藤君から運転を習ったの?そうなんだ......安全運転でね?」

 

気のせいか、後部座席にいる白雪さんが冷や汗をかいている気がするね。さては、去年の海水浴の事件を思い出したんだね。アレは、アレでいい思い出だと思うけどね。

思い出に耽っていると、車は探偵科の専門棟を横切った。

探偵科ーー私は高1の1学期、金次君は3学期から入った所で、古式ゆかしい推理学や探偵術を学ぶ。

その先にあるのが通信科、さらに向こうが鑑識科、この辺りはよく私がお世話になっている専門科棟だ。

そうしてもう少し先には、去年まで金次君が在籍していた強襲科がある。

私は体育館に向かって、車を走らせた。

よし、この調子なら始業式には間に合いそうだね。1学期の始業式に生徒会長の私と、副会長の白雪さんが遅刻したら何だからねーー

 

「その 車には 爆弾 が 仕掛けて ありやがります」

 

奇妙なーーツギハギにしたような声がした。

 

「何なの今の?キンちゃん何か言った?」

 

「いや、俺は何も言ってねぇぞ」

 

金次君と白雪さんは辺りをキョロキョロする。すると、

 

「車を 降りやがったり 減速 させやがると 爆発 しやがります」

 

再び、妙な声が聞こえた。

あっ、これはあれだね。ネットで人気のボーカロイドじゃん。りこりんやアップルが好きだったね〜。

りこりんとカラオケでボーカロイドの歌を一緒に歌ったけ。

私が「初音◯クの消失」をフリ付きで歌ったら、携帯で動画撮りまくるし。

そんな過去を振り返っていると、聞こえたセリフの一部を思い出す。

爆弾......ねぇ?

私はこめかみに右手を添えて思考していると、私の愛車にはいつの間にか妙な物体が併走していた。

車輌を2つ平行に並べて走る、カカシのような乗り物ーー『セグウェイ』だ。

 

「助けを 求めては いけません。 ケータイを 使用した場合も 爆発 しやがります」

 

セグウェイは無人で、スピーカーとーー1基の自動銃座が載っていたーーUZIだ。

秒速10発の9ミリ弾を放つ、イスラエルIMI社の傑作短機関銃だ。おお〜いい品物を持っているじゃないか。

 

「なっ......何なのコレ。怖いよキンちゃん......」

 

「落ち着け白雪。くそッ!誰のイタズラだっ!」

 

白雪さんは金次君に助け求める。後部座席で震える白雪さんを宥め、金次君は叫ぶが状況は変わらない。

 

「どうやらカージャックのようだね〜」

 

「何呑気に言ってやがる。コッチには白雪がいるんだぞ」

 

「キンちゃん......!キンちゃんが......私のこと......心配してくれた」

 

金次君は後部座席の方にチラッと目をやる。

どうやら白雪さんが心配なんだね。おや、白雪さん。顔を赤くしてどうしたんだい?心配されて嬉しいのかい?

 

「どうする零。このセグウェイが言うには減速するなって......」

 

「うん。よって私は運転に集中するしかないね。まあ、取り敢えずは......ねぇ、君!」

 

私は運転席の窓ーー併走するセグウェイに向かって叫んだ。

私達の様子を観察する為だろうーーカメラが仕掛けてある銃座部分をジッと見つめながら話す。

話しかけられるとは思わなかったのかーーセグウェイが一瞬、動揺したように見えた。

 

「君は減速させたり、車を降りたり、ケータイを使用したら爆発させると言ったね?爆弾を探したりするのはOUTかい?」

 

「なっ⁉︎何でカージャック犯に聞いたんだよ⁉︎」

 

「そ、そうだよ零さん!あ、危ないよ......!」

 

「別に『話しかけたら爆弾させます』とは言ってないし大丈夫だよ。ねぇ!どうなんだい?爆弾を探すのはSAFE?それともOUT?」

 

私は相手の回答を待つ。

向こうは悩んでいるのか、返事が遅い。ただ、無言で併走し続けている。

 

「そんなのOUTに決まって......」

 

金次君が呆れている。

こらこら、諦めるのは早いよ。よく言うじゃないか「諦めたらそこで試合終了だよ」って、監督がさ。

 

「SAFE で やがります」

 

「って、セーフかよ⁉︎」

 

セグウェイからの意外な回答に金次君が驚く。

ナイス!とても素晴らしいツコミだよ。日が増すごとにツコミに磨きが掛かっているね。

 

「さて、相手の承諾も得られたし、2人とも爆弾を探してくれないかい?見ての通り、私は運転に集中しないといけないからさ」

 

「分かったよ......白雪。一緒に爆弾を探すぞ」

 

「うん!分かったよキンちゃん」

 

金次君と白雪さんは車内を調べ始めた。

2人は車内ーー座席下、ボックス、天井などを探すが、爆弾らしき物は発見されたなかった。

 

車内に無いとすると車外か?

車外ーー車体の下?ーー乗る前に点検したのでNO.

エンジンに直接仕掛けた?ーーこれも点検したのでNO.

ガソリンタンクに仕掛けた?ーー発火物を仕掛けるにはリスクがあるーー電気発火で爆発するモノーープラスチック爆発。

 

車を爆発させるなら、プラスチック爆発が相場と決まっている。朝に金次君の自転車に仕掛けられたモノと同じくらいがね。

あの大きさからして、自転車どころか自動車でも跡形なく吹き飛ばせる。金次君がターゲットだったとしても、過剰すぎるね〜。もっと効率のいい仕留め方を伝授したいよーー『武偵殺し』にね。

 

「この手口。白雪が言ってた『武偵殺しの模倣犯じゃねぇか」

 

金次君が朝のやり取りを思い出したようだ。

 

「どうして模倣犯が私達を狙うの?」

 

「いいや、これは模倣犯じゃないよ白雪さん。でしょ?『武偵殺し』さん」

 

私は再び窓の外ーー併走するセグウェイに向かって話す。

セグウェイは又しても、動揺したように見えた。ははは、分かりやすいな〜何だか可愛く見えてきた。

 

「はぁ?何言って.......いや、零。お前、朝も言ってたなーーそのまま信じるな、って事は捕まった『武偵殺し』は......」

 

金次君か思考し始めた。おっ!どうやら、朝の私とのやり取りを覚えてくれたんだね。

 

「捕まったヤツは替え玉か......模倣犯が本物の『武偵殺し』か⁉︎」

 

「正解だよ。その『武偵殺し』が正に私達を狙っております!拍手〜」

 

私は場を和ませるつもりでギャグを言ってみたが、シーンとしていた。白雪さんまで「へ?」とした顔で私を見ているよ。

外のセグウェイーー『武偵殺し』まで呆然している気がしてきた。

 

「この状況でボケてる場合か‼︎」

 

金次君が私の頭にチョプしてきた。

痛っ!運転している人間にチョプはないでしょう!

 

「何をするんだ君は⁉︎私はタダ、怯えてる白雪さんを和ませようとしただけだよ‼︎」

 

「だからって、もっといい方法があるだろうが‼︎その位ご自慢の頭脳で考えろよ!」

 

「私の頭脳でも直ぐに出来ない事くらいあるさ!」

 

「ちょっと、2人とも喧嘩している場合じゃないよ!」

 

「ごめんね白雪さん。直ぐに終わらせるから待っててね」

 

私は後部座席の白雪さんに謝る。

 

「痴話喧嘩 を してやがる じゃない であります」

 

セグウェイのスピーカーから変な単語が聞こえてきた。

痴話喧嘩......だと?

その一言に私と金次君はカチッーンときた。

 

「「うるさい(せぇ)‼︎テメェは黙ってろ‼︎」」

 

私と金次君はホルスターから拳銃を引き抜き、『武偵殺し』が操っているであろうセグウェイに向かって、パァン!パァン!と発砲した。

発砲の際、金次君の腕が私の胸に当たる。

苦しいよ!そんなに腕を押し付けないでくれ!

至近距離から撃たれた為、セグウェイはバラバラに破壊された。

 

「ちょっと金次君!私の胸に腕を押し付けないでよ!」

 

「仕方ねぇだろう‼︎運転席側にいたんだからよ!」

 

「だからってね。もっといい方法が......」

 

「2人とも......やめなさーーーーいッ!」

 

後部座席の白雪さんが叫ぶ。

同時に私と金次君の頭にビシッとチョップが降ってきた。

痛っ!金次君より痛いよ!

 

「もう!2人とも喧嘩している場合じゃないよ!こんな状況下だからこそ協力しないといけないのに!」

 

「いや......白雪。俺は......」

 

「いやね......白雪さん。私ときん......」

 

白雪さんがギロリと睨むーー恐ろしい眼光だ。

目だけで人を燃やせそうだよ。

 

「「すみませんでした」」

 

「はい。よくできましたね。いい子いい子」

 

白雪さんは子供をあやす様に私と金次君の頭を撫で撫でする。

君は保育園の先生なのかい?この状況を収めて見せた。副会長、侮りがたし!

 

「まぁ、零。さっきの射撃は探偵科一筋にしちゃ見事だった」

 

突然、金次君が褒めてくれた。

おやおや、さっきのお詫びのつもりかな〜。

 

「いや〜それほどでも〜」

 

「何処ぞの五歳児の声で喋るな」

 

「そう言わずに。金次君も見事だったよ。セグウェイに爆弾が仕掛けられていないとわかると、すぐに破壊に移るなんてさ」

 

私なら証拠隠滅・反撃防止の為、神風仕様にするけどね。

私が褒めると金次君は「えっ?」と固まった。うん?どうしたんだい?そのヤバそうな顔は?

 

「いや、爆弾が仕掛けられていないなんて、俺は知らなかったぞ」

 

金次君のカミングアウトに私と白雪さんはサーッと顔が青くなった。

 

「そんな事も知らずに発砲したのかい君は⁉︎」

 

「いや、お前が先に撃ったから思わず俺も撃ったんだよ!」

 

「いや、君が早かった‼︎」

 

「いいや、お前の方だ‼︎」

 

「なんて事だぁ!そんな軽はずみで君は......私の胸に腕を押し付けてーーもうお嫁に行けないよ‼︎」

 

ハンドルに顔を押し付けて、うわーッ‼︎と思わず泣いてしまった。

 

「わー‼︎分かった!俺が悪かった!だから前を見ろ!前を......!」

 

金次君が必死に謝ってくる。

 

「だったら今度、『武偵殺し』について私の部屋で話をしようよ。そしたら、許してあげる」

 

涙目で顔を少し斜めにして、金次君を眺める。

 

「分かったよ。今度、部屋に行ってやる」

 

「キンちゃんと......零さんが......2人きりで......」

 

やったぜ。言質は取ったよ。もう少し、要求したかったが、白雪さんがヤバそうなので止める。

 

「しかし......これからどうするんだよ?いつまでも、走りっぱなしとは行かないぞ?」

 

「そうだよね。ねぇ、零さん。ガソリンは後どのくらいあるの?」

 

金次君と白雪さんが心配するのも無理はない。

ガソリンメーターは半分を切った所だ。

 

「心配には及ばないよ。このまま武偵高に向かおう」

 

「何だよ?学校に爆弾処理でも呼んで解体してもらうのか?まぁ、セグウェイもいなくなったし、助けを呼べるが、走る車ーー何処に仕掛けられているのか、わからない爆弾を解体するのは無理だぞ」

 

「あっ!もしかして、爆弾の場所がわかったとか」

 

「いいや、爆弾は仕掛けられていないよ」

 

第2グランドへと車を走らせた。

金網越しに見えた朝の第2グランドには、いつも通り誰もいない。

ここなら誰には被害は出ないね。

 

「何で爆弾が仕掛けられていないって、断言できるだよ?」

 

「この車の車両重量は770kg。『武偵殺し』が十八番として使用するC4ーープラスチック爆発の密度の相場は1.6g/㎤。この車を木っ端微塵にしようなら、約1232立方センチ以上は仕掛けないといけないね」

 

私の知る限り、『武偵殺し』はカジンスキーB型のプラスチック爆発を使う。

中国の蘭幫が開発した「爆泡」ーー無色無臭の気体爆弾も捨てがたいが、アレはクセがあるから素人が使うとなると難しい。

私も使った事があるが、アレを使い熟すのに2日も掛かったよ。

今の『武偵殺し』が使い熟すには、ちょっっっっと難しいかな♪

なので、気体爆弾の線はない。

 

「仕掛けた爆発の分だけ車も重くなるーーそう言いたいの零さん?」

 

「勿論、金次君と白雪さん・私の体重を差し引いてね。何だったら、白雪さんの体重を当て......」

 

「やめて零さん!キ、キンちゃんがいるのに......」

 

白雪さんがアワアワとテンパり始めた。

当ててもいいが、やめてあげよう。下手したら丸焼きにされる。

 

「車に乗る前に点検してみたけど、特に重量に変化はなし。爆弾は仕掛けられていないよ」

 

「でもよ、そんな感覚だけじゃあよ......」

 

「知らないのかい金次君?プラスチック爆発は僅かだがアーモンド臭がするんだよ。車内からはしないだろう?」

 

「それは車内だけで外は......」

 

「断言しよう。この車に爆弾は仕掛けられていない。私を信じてくれ金次君、白雪さん」

 

私は金次君の目を真っ直ぐと見つめる。

 

「はぁー、分かった。勝手にしやがれ。白雪もそれでいいか?」

 

「うん!私は零さんを信じるよ。だって、友達だもの」

 

「2人ともありがとうね」

 

「もし間違って爆発したら、化けて出てきてやるからな」

 

おお〜怖い怖い。でもね金次君。もし爆発したら私も死んじゃうよ?そしたら、化けるもナニもないよ。

私はフッとサイドミラーを見る。そこには後方から、何かが追ってくるのが見えたーーセグウェイだ。

増援といった所かーー

 

「どうやらヤッコさんは遊び足りないみたいだね」

 

「このままじゃ、蜂の巣にされるぞ。一旦、第2グランドに迎え」

 

金次君も気づいたようでーー私にグランドに向かうよう指示する。

 

「うん?何だアレ」

 

「どうしたの零さん?」

 

その時だった。

グランドの近くにある7階建てのマンションーー女子寮の屋上の縁に、女の子が立っていた。

あれは武偵高のセーラー服じゃないか。うちの生徒?

遠目にも分かる、長いピンクのツインテール。

彼女は飛び降りた。

 

「飛び降りやがった......!」

 

「えっ⁉︎何なのあの子⁉︎飛び降りちゃった......!」

 

(自殺?いや、その気配はなかったね)

 

ウナギみたいにツインテールをニョロニョロさせ、虚空に身を踊らせた彼女はーーふぁさーっ。と。予め準備していたらしいパラグライダーん、空に広げた。

へぇ〜器用だネ。車を運転しながらその光景を見ていると、彼女はこっちに降下してきた。

 

「バッ、バカ!来るな!今、この車はーー」

 

金次君は車の窓から身を乗り出し叫ぶが、間に合わない。彼女の速度が意外なまでに速い。小柄だから空気抵抗が少ないようだね。

ぐりん。ブランコみたいに身体を揺らして方向転換したかと思うと、左右のふとももに着けたホルスターから、銀と黒の大型拳銃を2丁抜いた。

 

「ほらそこのバカ!さっさと頭を引っ込めなさいよ!」

 

「危ない!金次君......!」

 

金次君が頭を引っ込めるより早く、バリバリバリバリッ!問答無用で車の後方ーーセグウェイを銃撃した。

ヘェ〜不安定なパラグライダーから、おまけに2丁拳銃。それも水平撃ちとはね。

バックミラーで確認すると、セグウェイはバラバラに破壊されていた。

あんな子、うちの学校にいたかな?転校生か留学生かな。

2丁拳銃をホルスターに収めた彼女は、今度は私の車上に飛んできた。

気のせいだろうか?彼女に上をいかれると何だかムカつく。

彼女を眺めていると、

 

「何だ......コレ?」

 

一瞬、ドドドドと滝の音が聞こえた。

こんな場所に滝などないし、幻聴かな?

 

「助かったぜ。ありがとうよーーえっーと......」

 

「何なのこの子......今、キンちゃんを撃とうしたよね。零さんも見たよね!ねぇ!見たよね⁉︎」

 

どうやら白雪さんは、彼女が金次君ごと撃とうと思ったらしい。

 

「見た違いだと思うよ白雪さん。彼女に金次君を狙うーー敵意が見られない」

 

件の彼女を少しだけ、弁護していると、

 

「ーーバカっ!」

 

金次君の頭上に陣取った彼女は......げしっ!金次君の脳天を踏みつけた。何をやってやがるんだこいつは?

 

「武偵憲章1条にあるでしょ!『仲間を信じ、仲間を助けよ』ーーいくわよ!」

 

「ーーはぁ?」

 

「ど、どうしたの零さん?何だか怖いよ」

 

突然、金次君を踏みつけて武偵法が、何たらを言い出したピンク頭に私はムカッときた。こんな事は初めてだ。

こんな奴は放っておこう。私はグランドに向かってアクセルを全開にした。

 

「バカ!待ちなさいよ!」

 

グングンと離れていく車をピンク頭は追ってきた。

あー!もうシツコイな〜。

もっと加速させようとした時、ピンク頭は前方に回り込んだ。

 

「な、何をする気なんだあの子?」

 

ピンク頭はふともものホルスターから拳銃を抜いた。そしてーー

バリバリバリバリ‼︎と車のフロントガラスを割った。

衝突の際、飛散防止フィルムを貼っていないフロントガラスは粉々になった。割れたガラスがキラキラと車内に舞う。

 

「私の車になんて事をしやがるんだよ‼︎」

 

「うるさい!車くらいで喚くんじゃないわよ!」

 

「この車は車輌科のみんなが探してくれた大切な車なんだよ!」

 

「だから何よ!そんなに大切なら、また同じ車を買いなさい!」

 

「うるさい!弁償しろピンクウナギ頭‼︎」

 

「何よ!真っ黒タランチュラ頭‼︎」

 

走行する車と、それに合わせて滑空するパラグライダー。

それぞれを操作する両者の間でギャーギャーと口論が勃発した。

タ、タランチュラ頭だと〜?この髪は父さんと同じ綺麗な黒だから気に入っているのに......よりにもよってタランチュラ。あっ、タランチュラはペットとして好きだよ。でもね‼︎

 

「そのツインテールは何なの?ウナギを模しているかな?」

 

「あんたの髪は蜘蛛の脚みたいに見えるわ!」

 

「あー‼︎もう静かにしろ!」

 

「2人とも黙ってよ!」

 

金次君と白雪さんが仲裁に入る。

私とピンク頭はいつの間にか、ゼェーゼェーと息が上がっていた。こんな体験は初めてだよ。

 

「君!こんな強引な手段に出たのは何かワケがあるんだろう?」

 

金次君がピンク頭に尋ねる。

何だろう?金次君がこのピンク頭と話していると、いい気分じゃない。この胸の辺りに湧き出る黒いモヤモヤは何?

 

「その車には爆弾が仕掛けられているのよ!ほら、いくわよ!」

 

ピンク頭はグランドの対角線上めがけて再び急降下し、こっちへ向けてUターンする。

そして、ぶらん。ブレークコードのハンドルにつま先を入れ、逆さ吊りの姿勢になった。そのまま更に接近してくる。

これはしがみ付けと言っているのかな?3人も一緒に助けるつもり?

このピンク頭に従うのはイヤだな。

私は車のブレークをダン!と踏み込んだ。

急ブレークに車体がキキィー‼︎と唸る。同時に身体にGが襲ってくる。

私と金次君・白雪さんは前に押し出されるが、シートベルトをしているので大丈夫だ。しかし、接近して来たピンク頭は車体にゴッチン!と身体をぶつけた。

 

「おい⁉︎零。お前......なんて事を......」

 

「遂にやっちゃったね......零」

 

2人が青ざめた顔で私を見てくる。

早とちりしないでよ。大丈夫さ。その証拠に......

 

「いったぁーい‼︎いきなり何すんのよ‼︎って、爆発......!」

 

ピンク頭は起きて早々、「ハッ!」とした顔で車を眺めるが、いつまで経っても車が爆発する様子はない。

ボンネットの上で呆然とすると、ピンク頭に私は車から降りて、

 

「ほーら!ほーら!ほーら!」

 

「う、うるさいッ!どうしてよ減速爆弾が仕掛けてあると思ったのに......!」

 

「思った?ま〜さ〜か〜勘。なんて言わないよね〜」

 

「えぇ、そうよ‼︎勘よ‼︎なんか文句でもある?」

 

「大有りよ‼︎勘に頼って有りもしない爆弾に踊らされて...私の車をこんな風にして......!」

 

私はフロントガラスが粉々になった愛車を指差す。被害はフロントガラスだけじゃなく、ブレーキの際、車体にピンク頭がぶつかってできた凹みもあるが......

 

「悪かったわね!弁償すればいいんでしょう!それで文句ないでしょう......!」

 

「まぁ弁償してくれるならいいけど...勘で行動するんじゃないよ」

 

ボソッと最後の一言が聞こえたのか、ピンク頭は額にD字の青筋が浮かんだ。

 

「勘で行動して悪いのかしら?そう言うあんたは勘で行動する派じゃなさそうね」

 

「勘よりも論理的に思考してから行動するのが良いと思うけど?」

 

「あんたガチガチに考えるから行動が遅いでしょう!」

 

私に向かって、ビシッと指差してきた。

その一言で私の額にM字条の青筋が浮かんだ気がした。鏡があれば1発で分かるのだが......

 

「ご心配無用。私には行動をサポートしてくれる相棒がいますので」

 

「その相棒がいないと、素早く行動できないようにも聞こえるわね」

 

「ハハハ、勘に頼ってばかりのピンク頭」

 

「ノロマのタランチュラ頭」

 

又してもタランチュラ頭と言ったな〜。

不思議だね。次々とこのピンク頭をけなす言葉が浮かんでくるよ。

 

「あんたは自分の思考に頼る余り、勘に頼る事を忘れてしまったようね」

 

「ご名答。君の言う通り、ここ最近は勘に頼った事はないよ。でも、大丈夫さ。勘など必要ない」

 

「思考に頼ってばかりだと、身を滅ぼすわよ」

 

「勘に頼ってばかりだと、早死にするよ」

 

「はぁ?」

 

「あぁん?」

 

お互いの視線が交差する。バチバチと火花が散っている気がするよ。

 

「勘頼りで仲間いや、家族から除け者扱いされているでしょう?」

 

「......ッ!勘を馬鹿にするな‼︎」

 

おや?何かこの部分だけは偉く怒るね。これは使えそうだ。

 

「勘頼り!勘頼り!勘頼りのぶ・て・い!」

 

「何よ‼︎何よ‼︎勘に頼ったら悪い?私の勘を馬鹿にするな......!」

 

「でも、そのご自慢の勘は外れたよね?」

 

私は車を指差す。

 

「〜〜〜ッ!今すぐ謝罪しなさい!私に、いいえ。私の一族の勘を馬鹿にした事を......!」

 

「へぇー、謝罪がお望みなのかい。じゃあ、こうしよう。次、何か事件があったら勘で捜査するといい。もし、当たって解決できたら謝罪してあげるよ」

 

「その時は土下座しなさいよ......!」

 

ピンク頭の一言に私は「ふん!」と鼻を鳴らし、

 

「土下座なんてパフォーマンスだよ‼︎いくらでもやってあげるよ」

 

「「半沢 直樹(かよ)⁉︎」」

 

いつの間にか車から降りていた金次君と白雪さんが仰天していた。

白雪さん、『半沢 直樹』を知っていたんだね。最終回は燃えたね。

このピンク頭を土下座させてみたいなーー土下座させるのは私だ!

 

「おい、零。さっきから聞いてたが、大人気ないぞーーこんな小さな子に対してよ」

 

「そうだよ零さん。まだ中学生なのに.....えーっと、お嬢ちゃんお名前は?」

 

白雪さんが屈んで、ピンク頭に名前を尋ねる。

そういえば、まだ名前を聞いていなかったっけ。尋ねなくても、始業式ーー武偵高の生徒は名札をしているよ。

ピンク頭の名札を確認する。名前はーー『神崎・H・アリア』。

 

「アタシは神崎・H・アリア。名札に書いてあるでしょう!あと、中学生じゃない‼︎」

 

「......悪かったよ。インターンで入ってきた小学生だったんだな。しかし凄いよ、アリアちゃんはーー」

 

金次君が褒めているのに、今度は、がばっ。

ピンク頭改め、アリアが顔を伏せた。そして、ばぎゅんぎゅん!

 

「うおっ!」

 

「きゃっ!」

 

金次と白雪さん、私の足元に2発の銃弾を打ち込んできた。

 

「あ た し は 高 2 だ ‼︎」

 

えーーーー‼︎嘘でしょう⁉︎この子、りこりんよりも小さくない?りこりんは少なくとも中学生。アリアは小学生にしか見えないし。

 

「ププ、小学生に間違えられてやんの」

 

「うるさい!うるさい!風穴開けるわよ‼︎」

 

アリアは2丁拳銃を私に向けて構えた。私もホルスターから拳銃を抜こうとしたが、その時ーースガガガガンッ!

銃声が聞こえた。これはUZIだ。銃声の方角ーーグランドの入り口からはセグウェイが、銃弾を撒き散らしながら入ってきた。

 

「クソッ!まだいたのかよ......!」

 

「どうしよキンちゃん」

 

「とりあえず、あの廃車を盾にするわよ‼︎」

 

3人は走り出した。ちょっと待ってよ。廃車って...私の車ぁぁぁぁ!

車までたどり着くと、情け容赦ない銃弾が撃ち込まれた。

アリアもそうだが、私の愛車を......『武偵殺し』許せん。

 




戦闘シーンは飛ばします。ごめんなさい。





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神崎・H・アリアァァァァァァァァ‼︎

最初の一発は某海賊映画のネタです。


零視点ーー

 

「神崎・H・アリアめェェェェェェェェェェェッ‼︎」

 

「零さん落ち着いてッ‼︎」

 

私は金次君とアリアがいなくなった第2グランドのど真ん中で、天に向かって絶叫した。その私に白雪さんが駆け寄る。

側にはバラバラになったセグウェイ、そして、そのセグウェイの銃撃により、廃車となった私の愛車ーーポルシェ356aがあった。車体はUZIの9ミリ弾によって穴だらけ。フロントガラスを始めとした窓ガラスは粉々。びらんと開いたボンネットからは煙を上げるエンジンが顔を覗かせている。車内には割れた窓ガラスと9ミリ弾が散乱しているーー誰がどう見ても、廃車と言うだろう。

 

「うわぁぁぁぁぁ‼︎私は神を憎むッ‼︎この世に神もクソもあるものかぁぁぁぁ‼︎」

 

「零さん本当に落ち着いてッ‼︎女の子がそんな言葉を使っちゃダメだよ‼︎」

 

グランドの土に手を付け、さっきまでの光景を振り返る。

これも全て、神崎・H・アリアのせいだ‼︎あのピンク頭、セグウェイがグランドに侵入してきた途端、よりにもよって私の愛車を盾にしやがった‼︎グランドの倉庫には防弾性の運動器具があるにも関わらずにね!

私の愛車を盾にし、セグウェイと銃撃戦を繰り広げる上で、金次君はアリアでヒステリアモードになるしーーまあ、彼のおかげでセグウェイは全滅できたけどさ......おまけにホックが壊れて、困っているアリアに自分のベルトを貸す始末。

ヒステリアモードになった金次君に揶揄われ、顔を真っ赤にしたアリアは、逃げる金次君を追って行ったが、

 

「私の......私の.......アマガエルがぁぁぁぁ!」

 

「零さん......車は仕方ないよ。また車輌科ーー武藤君たちにお願いすれば、きっと同じ車を探してきてくれるよ。だから、ね?」

 

白雪さんが慰めてくれる。

その優しさに思わず、私は彼女を抱き締めてしまった。

胸の中でオイオイと泣いてしまう。

 

「あの車はカージャクの証拠品として、探偵科と鑑識科に調べてもらおう?零さんもそれでいいよね?」

 

「.....うん」

 

私の承諾を得て、白雪さんは携帯を取り出したーー探偵科と鑑識科に連絡する為だろう。

神崎・H・アリア......そして、『武偵殺し』この借りは必ず返す!

 

 

金次視点ーー

 

アリアから逃げた俺は、武偵高に到着した。

零が車を出してくれたおかげで、始業式には間に合いそうだ。

校門を潜ろうとした時、

 

「誰かー!そいつらを捕まえてくれー‼︎」

 

校門外ーー通りから誰かが叫んだ。視線を移してみると、俺のすぐ側を二人乗り原付バイクが通り過ぎた。

チラッと見たが、乗っていたのは、如何にもガラの悪いヤツらだった。その後を武偵高の生徒が追うーー見た感じ、強襲科に所属する後輩だな。さては、護送中に捕まえた犯人に逃げられたな。しかも、原付バイクーー逃走車まで使われるとは......大方、近くあったモノを盗んだか。

見過ごす訳にもいかないので、俺は新学期の始まりがてら、加勢してやろうと思った。その時ーー

 

「ヒとーつ。人の世の生き血を吸い」

 

「ふたーツ。ふらちな悪業三昧」

 

俺の後ろからドロロ〜とした、聞き慣れた声が聞こえてきた。

こ、この声は⁉︎

嫌な予感がしながらも、そーっと振り返ってみると、案の定ソイツらがいた。

1人は無造作に伸ばした金髪にエンジニアブーツ。首筋には撃たれたのだろうーー弾痕が3発見える。

もう1人は傷んだ金髪を伸ばし、頭にサングラス。足にはジャングルブーツを履いている。こちらの首筋には交差するように3本の切り傷が見える。

2人とも武偵高のセーラー服を着ているが、どちらも独特なダメージ加工を施しており、正直目のやり場に困る。

 

「ボニー!そしてクライド⁉︎」

 

強襲科の問題児姉妹ーーボニーとクライドである。

去年の秋頃にアメリカから留学して来た、強襲科2年の双子の姉妹である。

 

「ミいーつ。醜いこの世の悪を倒してあげよう!」

 

姉妹の片割れーークライドがガチャリと構えたのはRPGだった!

RPGーーソ連、ロシアの対戦車擲弾。RPG-2以降は対戦車擲弾発射器とされている。

第二次大戦中にドイツ軍で使用されたパンツァーファウスト250がRPG-2の原型として模倣され、その後RPG-7に改良進化され、現在も数々の発展改良型が存在している。

おい⁉︎ちょっと待て!まさか、お前らそれで原チャリを撃つのか‼︎

俺は慌てて、止めに入るが、

 

「オれたちゃ、処罰はしないぜ......処刑してやる‼︎」

 

非情にもクライドはトリガーを引きーードパ!

RPGーー弾頭は放たれ、キィーンと逃走する原付バイクに、

ドガーーーーンッ‼︎

停車していた周りの車を巻き込んで命中した。

命中した場所ーー辺りには黒煙が上がっている。周りにいる武偵はただ呆然としている。

 

「ヨっしゃー‼︎大命中だぜーー‼︎」

 

「さすガ俺の片割レ。よくやっタ‼︎」

 

姉妹は満面の笑みで「ヘイ!ヘイ!」とハイタッチしている。

そんな2人の態度に俺は思わず、

 

「よくやったじゃねよッ‼︎なんて事しってんだ、おバカ姉妹‼︎」

 

「おっ!キンケツじゃねぇカ」

 

「Hello.キンケツ」

 

怒鳴り散らしてしまった。

しかし、お馬鹿姉妹はケラケラした態度で挨拶してきた。

くそッ‼︎ナメやがって。相変わらずキンケツと呼んでくる。

この姉妹が俺の事をキンケツと呼ぶのには訳がある。

あれは前に零が「金次君の名前って、『次』からにすいを取ると、金欠になるね」と笑いながら言いやがった。その会話を偶々この姉妹が聞いていたのだ。それ以来、この2人は俺の事をキンケツと呼んでくる。

この姉妹にナメられるのは零のせいだ!

 

「原チャリをRPGで撃つヤツがあるか‼︎思い切り、9条破りじゃねぇか!」

 

「ピーピー騒ぐなヨ、キンケツ。安心しろヨ、ちゃんと死なねぇよう火薬の量を減らしたからサ」

 

「オまけ、衛生科の連中を呼んでおいたからよ」

 

クライドが指差す方向には、救命セットを抱えた衛生科の連中が大慌てで駆けつけて来た。

全員、まさかこの様な事態になるとは思っていなかったようで、顔面が蒼白だ。

現場に到着して早々、救命に当たる。

 

「これで何度目だよ。やり過ぎにも程があるぞーーこの前は車で逃走する犯人をバナナマシンガンで車ごと撃つわ。さらにその前は、銀行強盗を車で跳ねて捕まえるわ。どれだけ問題行動を起こせば気が済むんだ?退学になっても知らんぞ」

 

俺の知る限り、この姉妹がやらかした事は沢山ある。

1台の逃走車を捕まえる為に、一般車両10台を巻き添えにする。

犯人が立て籠もるビルのフロアに、『マトリックス』のワンシーンさながら、ヘリからミニガンを発砲する。

その逆、『ターミネーター2』のようにビルの1フロアから、他の武偵車両を巻き込んで、犯人の車両をミニガンで破壊。

上げるだけでもキリがない。

 

「何だよ〜シんぱいしてんのか〜コイツ〜」

 

「ヤけるぜ〜このこの」

 

両サイドから俺の頬をツンツンと突いてくる。

ええい!やめい!鬱陶しい。

間近で見るが、コイツら本当に高校生ーー同い年か?外国人は日本人より年上に見えやすいから、年上に見えるだけかもしれんが.......

 

「コラァァァ‼︎また、お前らかぁぁぁぁ‼︎」

 

俺らの後ろーー校舎の方から聞き慣れた怒鳴り声が響く。

この声は蘭豹だ。

ズンズンと走ってきた蘭豹はお馬鹿姉妹にゴツン、ガツン!と拳骨を食らわせた。

 

「いってえナ⁉︎何しやがるんダ!」

 

「イきなり可愛い生徒に鉄拳とか頭イッテんのか⁉︎」

 

「何が可愛い生徒や!あとな、頭イッとんのはお前らの方じゃあ!逃走犯捕まえんのに、ロケット砲ぶっ放すアホがおるか‼︎」

 

「「はい!ここにいます」」

 

手を上げてアピールする2人に蘭豹は再び、鉄拳をお見舞いする。

ナイスタイミングだぜ蘭豹。このお馬鹿姉妹を止められるのは、あんたしかいないぜ。蘭豹の登場に周りの生徒は安堵する。

どうやら、他の連中もお馬鹿姉妹をどう扱うか困っていたようだな。

 

「来いお前ら!覚悟せぇよ、教務科で反省文1000枚書かせたる‼︎」

 

「やめてくレェェェェ!俺は反省文が嫌いなんダァァァ!」

 

「コろさないでェェェェ!俺は反省文アレルギーなんだぁぁぁぁ!」

 

「あー‼︎喧しい!黙って来い!」

 

「「Help キンケツ‼︎」」

 

お馬鹿姉妹は蘭豹にずりずりと引き摺られながら、連れて行かれる。

自業自得だ馬鹿め。あとよ反省文アレルギーって、何だよ。そんなアレルギーがあってたまるか。

いかん。お馬鹿に付き合ったせいで時間を取られた。

このままだと始業式に遅れるぜ。

俺は始業式のある体育館に急いだ。

 

 

 

零視点ーー

 

武偵高校にてーー

 

始業式には白雪さんと共に何とか間に合ったーー生徒会長と副会長が遅刻したらマズイからね。

体育館で会長として、新たな学校生活・挨拶を終えた私は体育館を後にすると、

 

「零先輩!おはようございます!」

 

「えぇ、おはよう」

 

「零会長。どこに行くんですか」

 

「新しい教室だよ」

 

「途中までご一緒してもいいですか?」

 

「うん、いいよ」

 

「先輩。私、クッキー焼いたんです!よかったら食べて下さい!」

 

「ありがとう。頂くわ」

 

「今日も綺麗な黒髪ですね!」

 

「君の茶髪もね」

 

体育館を出て早々、後輩ーー強襲学科・諜報学科・探偵学科の生徒達に取り囲まれた。

まあ、この光景は生徒会長に就任してからは、もう慣れた事だ。

 

「ハイハイ!みんな〜お話は昼休みに聞いてあげるから、教室に向なさーい。遅れると、怖ーい先生の雷が降ってくるぞ♪」

 

「「「はい!零先輩!」」

 

後輩達と一通り話し、ある程度話し終えると皆を教室に向かうよう誘導する。

 

「ははは、皆、素直で可愛いね」

 

私は後輩を見送ると、再び教室に向かう。その際、朝のやり取りを思い出す。

学校に到着して、カージャクについて教務科に報告ーー私の愛車は証拠品として押収された。

武藤君にお願いして、同じ車を探してもらおう。アレは非常に気に入っているのだから......

新しいクラスーー2年A組の教室に向かう為、一般教科クラスがある校舎を歩いていると、

 

「零先輩!」

 

後ろから声を掛けられた。振り返ってみると、

 

「あっ、ライカちゃん」

 

スラリとした身長165㎝。金髪をポニーテールに結い、勝気そうな翡翠色の瞳をした、男勝りな女子ーー強襲科の一年生。火野 ライカが私の後ろにいた。

彼女とは今年の2月頃から顔見知りだ。正確にはモランが紹介してきてくれたんだけどね。いや〜紹介してきてくれた時は嬉しかったなーーモランに友達が出来てたからさ。

 

「おはようございます!始業式のスピーチお見事でした!」

 

「ははは、ありがとうね。ねぇ、ライカちゃん。そんなに畏まらなくても良いんだよ。もっと軽い感じで接してきてよ」

 

「そ、そうすっか?なら、そうします」

 

まだ、少し硬いけどいいか。

確か彼女はアメリカ人と日本人のハーフだったね。彼女とは仲良くできそうなんだよね〜。同じハーフだからかな?

 

「そういえば、モランとは仲良くやってる?あの子たら、プライべートの事は余り話さないから困ってるんだよね〜」

 

「先輩、まるでモランのママみたいすね。モランとは同じ強襲科とあって仲良くやってますよ。射撃とかじゃ、見習う事もあったり勉強になりますよ」

 

ライカちゃんはモランを褒め称える。

へぇ〜モランは強襲科で慕われているんだね。安心したよ。

 

「知ってますか先輩。アイツ、強襲科の女子に大人気なんすよ。中性的な顔もそうだけど、キリッとして性格が女子にウケるみたいで」

 

「それは始めて知ったよ。なるほどーーモランは強襲科ではアイドルなんだね」

 

「あー、まあ、そうも言えますね......」

 

ライカちゃんが苦笑いしながら、目をそらす。

うん?どうしたんだい?私、変な事を言ったかい?それにしても、モランがアイドルかー。

私はモランがアイドルーー可愛らしいファッションに身を包んで、ステージで歌を歌う光景を思い浮かべる。

今度、モランにお願いすればやってくれるかな。

 

「あっ!そうだ、零先輩。先輩は戦姉妹は誰にするか決めてるんですか?」

 

ライカちゃんが尋ねてきた。

戦姉妹とはーー特定の先輩と後輩が2人で活動する、徒弟制度。

通常は下級生から教務科を通して『あなたの徒弟になりたい』と上級生へ申請を上げ、上級生が下級生をテストし、それに合格すると晴れてコンビを組ませてもらえるものだ。

それが男子同士の場合は戦兄弟、女子同士の場合は戦姉妹と書く。

これは上級生・下級生共にメリットのある制度で、戦姉妹になると先輩は後輩に無償で仕事を手伝わせる事ができ、後輩は先輩から技術を学ぶことができる。だが、警察に準ずる活動も行う武偵の仕事は......荒事が多い。出来の悪い後輩を戦妹にしてしまったために、命を落とすリスクだってある。なので、先輩側は後輩の選抜を慎重に行うのが通例だ。

私が戦妹を誰にするか気になる視線を向けてくる、ライカちゃんに私は、

 

「おや?ライカちゃんは聞いてないのかい?私の戦妹はモランだよ」

 

「えっ⁉︎あたし、聞いてないすよ。モランは一言もそんな事、あたしに言ってこなかった」

 

ライカちゃんは目を見開いて仰天している。

 

「まったく......あの子ったら、そんな重要な事をクラスメイトーーそれも友達に言ってないなんて。ごめんねライカちゃん。モランを許してあげて。さっきも言ったけど、あの子はプライベートの事をあまり言わないから」

 

「そんな!先輩が謝る必要ないすよ。それくらいでモランを嫌いになりませんって」

 

ちょっとショボーンとした声で謝る私に、ライカちゃんはアワアワし始めた。見ていて可愛いね。

 

「ありがとうね。ライカちゃん」

 

「いいですって、それくらい......あっ!そうそう!先輩、戦妹申請はモランから申し込んで来たんですか?」

 

「そうだよ〜」

 

私は戦妹申請ーー当時の事を思い出す。

アレは確か、私が寮の自室で同人誌「なかよしキョウダイ」を書いていると、モランが突然、部屋に入ってきて「主‼︎私を......私を戦妹にしてくださいッ‼︎」と申請書を持ってリビングーー私の前に土下座して懇願してきたのだ。

突然の事に私はポトリとペンを落としてしまったっけ。

懇願するモランは凄まじい気迫だったなーーあの状態で「やだ」と言ったら自決するくらいに......

モランの気迫に負け、私は「いいよ」と言って、申請書にサインしてあげた。すると、モランは満足したのか「我が生涯に一片の悔いなしッ‼︎」と叫び、号泣しながら拳を天井に向けて上げたーーその後、武蔵坊弁慶のように立ったまま気絶した。

そういえば、モランが戦妹申請してきた時期と、探偵科に転科した金次君と私が本格的にコンビを組んだ時期が重なるな.....偶然だよね?

 

「どんなテストをしたんですか⁉︎零先輩の事だから、きっと難解なテストだったんですよね!くそッ〜モランが羨ましいぜ。零先輩の戦妹になれるなんて......!」

 

「あー、まぁね(実際はテストも何もしてないけど)」

 

今度は私が苦笑いして答えた。

モランの能力は発展途上だし、戦妹にして損はないーー鍛え甲斐がある。それに手元に忠実な部下がいるのは、いい事だしね♪

 

「あっ、先輩。モランについてなんすけど」

 

ライカちゃんが何か思い出したようだ。

 

「モラン、何かあったんですか?」

 

「何かあったと言うと?」

 

「いや、実は......アイツ、今日ボロボロの状態で登校してきたんすよ。どうしたんだって、本人に聞いたら『私の邪魔をするヤツと戦ってきた』って、言うですよ。何か知らないですか?」

 

ライカちゃんの報告に私は思う事があったら、

そういえば始業式で見かけたモランは制服と髪が乱れていた気がする。真面目な性格のモランにしては変だーーまるで、ひと暴れしてきたかの様だった......

 

「ごめんね。私は知らない。でも、報告してくれてありがとうね、ライカちゃん。後で私の方でモランに尋ねてみるよ」

 

私はニコッと笑顔でライカちゃんにお礼を言う。

大切な戦妹兼部下のモランについて教えてくれたのだ。これくらいはお礼をしないとね。

 

「ふぇ⁉︎いやいや!いいすよ!ただ、あたしは友達が心配で......!」

 

「ははは、もう!ライカちゃんは可愛いね」

 

「か、か、可愛い......⁉︎」

 

ライカちゃんはボン!と、白雪さんの様に顔を真っ赤にして、テンパり始めた。

 

「ははは、あっ!そろそろHRが始まるね」

 

私は時刻が気になり、ポケットから懐中時計を取り出し時間を確認するーーこの懐中時計はアメリカのオークションで買った。

時刻はもうすぐHRが始まる頃だ。少し話し過ぎたかな。

 

「お話しできて楽しかったよ。今日も一日、学校頑張ってね」

 

「あっ、はいッ!」

 

私は「バイバイ」と言って、ライカちゃんと別れる。

HRが始まるし、急がないと!

 

 

別視点ーー

 

零と別れたライカは、暫くその場でボーッとしていた。

 

「あっ!ライカ、ここに居たんだ」

 

「探しましたよライカさん」

 

ライカの後ろから、同じクラスメイトーー間宮 あかりと佐々木 志乃が現れた。どうやら、ライカを探していたようだ。

 

「ねぇ!ライカ!ライカったら!」

 

あかりはライカを呼ぶが、当の本人は心ここに在らずだ。

 

「うおっ⁉︎あっ、あかり。それに志乃も」

 

「どうしたのライカ?ボーッとしちゃって」

 

「そうですよ。ライカさんらしくない」

 

「あっ、いや、ちょっと零先輩と話をしててよ」

 

「零先輩?誰なのソレ?」

 

あかりはコテンと首を傾げる。零が誰か本当に知らない様だ。

 

「って、あかり⁉︎お前、零先輩を知らねぇのかよ」

 

「う、うん」

 

「零先輩と言うのは、この東京武偵高校の生徒会長を務めるーー探偵科2年の玲瓏館・M・零さんの事ですよ。あかりさん」

 

零が何者かわからないあかりに志乃が解説する。

 

「というか、今日の始業式の挨拶してたじゃん。その人だよ」

 

「あ、それなんだけど......居眠りしちゃって聞いてなかったんだよね」

 

あかりは「ははは」と笑いながら、答える。始業式ーー体育館で立ったまま居眠りを決め込むのは、ある意味で根性がある。

 

「あかり......お前、ある意味スゲェな。零先輩のスピーチで居眠りするなんて......」

 

「ねぇ、零先輩って、どんな人なの?武偵高校の生徒会長をやってるって、事は分かったけど」

 

「えっーと、確か3月の役員選挙に立候補。その時、同じく立候補した星伽 白雪先輩と会長の座を巡って争ってました。ねぇ、ライカさん」

 

「ああ、よく覚えてるぜ。選挙期間は、それでお祭り騒ぎだったしな。零先輩と白雪先輩、どっちが会長になるか、どっかのクラスが賭博を開いていたって、噂も出てたくらいだし」

 

「へぇ〜あたし、全然知らなかった........」

 

「何度にも及ぶ投票の結果、会長の座を勝ち取ったのは零先輩でした。そして、会長に就任すると、それまで会長の座を巡って、自分と争った白雪先輩を副会長に任命したんですよ。それも、会長就任宣言の場ーー全校生徒の前で。あれはインパクトがありましたね」

 

「そんで会長になってからは、相当な型破りな方策に出たんだよな」

 

「型破りって?」

 

「とにかくイベント好きな人でーー就任した途端、学園祭やら部活の予算やらどんどん増やして」

 

「ある程度、制限のあった制服改造も銃検も武偵活動ーー捜査方法も全部自由化しちゃったんだよな」

 

「ふ〜ん」

 

この時、零の方策に対してあかりの頭にある疑問が浮かんだ。

 

「でもそんなに自由にしちゃったら、学校が無法地帯になっちゃうんじゃない?一時期、うちの学校の車輌科の先輩が無法者になったって、噂もあるし.....」

 

「あっ!それなら私、聞いたことがあります。何でもヒャッハーと叫びながら暴れ回ったとか......」

 

もしも、この場に武藤を始めとした車輌科生がいたら、顔を真っ赤して暴れた挙句、ナイアガラの滝にバイクに乗って飛び込むだろう......

 

「それがどういう訳だが、不良も不登校もすっかり減って、むしろ平和になってんだよなー」

 

「何だか不思議な話だね。零先輩のおかげかな?」

 

「多分そうなんじゃねえかな。あの人、会長に就任する前、色んな生徒の相談に乗ってたし。おまけにただ、相談に乗るだけじゃなく、自分から進んで問題解決に尽力してくれたらしぜ。今でも時間の許す限り悩み相談に乗ってくれるし」

 

「悩み相談?カウンセラーみたいな事をやってるの?」

 

「何でも先輩曰く、『私立相談役』をやってるそうですよ」

 

友達から零の事を聞いて、あかりは件の会長に直接会ってみたくなった。

 




過去ーー
茨城県某所ーー

「私の一族は家を焼かれーー奴らによって家族は散り散りにされた......!」

あかりは目に涙を浮かべ、”ある人物”に心の内を訴えた。

「復讐を望むのかい?」

「正義を......!復讐は手段だよ」


ーーーー

○1人の教授ーー玲瓏館・M・零はカッカッと黒板に向かって、何かを書いていたーーそれは複雑な数式だった。
「犯人は明白だね」
1・数学教授ーー

「仕事だよモラン。手を貸してくれ」

○山に向かって、狙撃銃を発砲する中性的な麗人ーーセバスチャン・モラン
「何処へでもお伴します主」
2・狙撃手ーー

「かなり難解な仕事ですか?」

「簡単じゃないね」

「何人ほど集めますか?」

「集めるられるだけ」

○ドル札を手にするお金が大好きな小さな女の子
「もっとお金を貯めて、リッチに暮らすんだもん☆」
3・泥棒ーー

○プロ仕様の調理器具で見事な料理を作る長身の麗人
「この中にベリタリアンはいないよね?」
4・精神科医ーー

○高い場所を避ける赤毛の男
「......高い所は嫌いだ」
5・暗殺者ーー

○某所の銀行を襲撃する二人組
「「生きても死んでも、取り敢えず金を出せ!」」
6、7・銀行強盗ーー

ーーーー

「ワルが集結かよ」

「......最悪のチームだ」

「敵は警察も手を焼く犯罪組織だゼ?」

「こっちは7人しかいないし☆」

「作戦はあるのかい?」

「ド派手にやろう♪」

ーー7人の流儀で裁く


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新しいクラスメイト

時間が欲しい。
何故、私は学生時代にこのサイトに出会わなかったのだ‼︎


零視点ーー

 

ライカちゃんと別れた私は新しいクラスーー2年A組に向かった。

教室のドアを開け、入室する。

 

「みんな!おっはよー‼︎」

 

教室に入ると、私は新しいクラスの仲間ーー新しい顔のクラスメイト、前から同じクラスメイトに挨拶する。

皆「おはよう!」「零、おはよう!」と各々、返してくれる。

一通り、挨拶し終えた私は自分の席に向かう。私の席は金次君の前だ。

 

「金次くーん。朝、会ったけどおはようございます」

 

私は金次君の耳元で、手をメガホン状にして挨拶するが、彼は無反応だ。憂鬱な顔をして頭を抱えているだけだ。

 

「おーい、金次くーん?もしもーし」

 

ダメだ。これは重症だね。原因は何かな?

さては、久しぶりにヒステリアモードになって恥ずかしいのかな?

あんなチビピンクに興奮するなんて、許容範囲が広いね。罪な男ですな〜。あっ!まだベルトしていない。返されてないのかな?

 

「よっ!零。おはよう」

 

「あっ!おはよう武藤君」

 

金次君の隣ーー右隣の武藤君が挨拶してきた。

相変わらず、優しさが滲み出るいい男だね〜。挨拶もしっかりしてくるしさ。

 

「キンジの奴、どうしたんだ?ずっと、こんな感じでよ」

 

金次君をまじまじと見つめる。

 

「ツッコまない方が彼の為だよ」

 

私の答えに武藤君は頭の上に「?」マークを浮かべる。

きっと今、金次君は過去の出来事を「うわー‼︎」という気持ちで振り返っているだろうからさ。

 

「ヤッホー!レイレイ!」

 

「おはよう。りこりん」

 

金次君の左隣の席に理子ーーりこりんが座ってきた。どうやら、ここが彼女の席のようだ。

やって来て早々、挨拶してくれるのは嬉しい。

 

「聞いたよレイレイ。キーくんとユキちゃんを車に乗せて、登校する時にカージャックにあったんだって?」

 

りこりんが開口一番にそんな話題を持ち出して来た。

彼女も探偵科に所属しているから、報告くらい届いているか。

おまけにりこりんは探偵科一の情報収集能力がある。言うなれば現代の情報怪盗だ。

でも、カージャクか......正直、今は思い出したくない内容だよ。

 

「うん、そうだよ......」

 

「珍しいね。レイレイがカージャックされるなんてさ。何時ものなら、犯人の裏をかいて逮捕に追い込んじゃうのに」

 

「マジかよ⁉︎もしかして、キンジの奴が憂鬱なのは、それが原因か?」

 

「武藤君は知らないか。りこりんは知ってるかも知れないけど......」

 

私は朝の出来事を語った。車で金次君の寮に向かった事。白雪さんと共に学校に向かった事。カージャックでのやり取り。そして、アリアとの出会いを......

 

「そうか......ポルシェ大破しちまったんだな」

 

「ごめんね武藤君。折角、武藤君が見つけて来てくれた車なのに」

 

「いやいや、お前が謝る必要はねぇよ。悪いのはカージャック犯だろ」

 

「うーん、そうだよね」

 

「そうだって!レイレイが気を落とす事ないって!」

 

気を落とす私を、武藤君とりこりんが励ましてくれた。

りこりんが私の肩をパンパンと叩く。

 

「ねぇ、レイレイ。因みにカージャックを捕まえる予定はある?」

 

りこりんが突然、そんな事を聞いてきた。

どうして聞きたがるの?りこりんも探偵科だから気になるのかな?

 

「そりゃ、当たり前だろうよ理子。なんたって、零は自分の愛車をスクラップにされたんだしよ!なぁ、零?」

 

「分かるかい武藤君⁉︎そうとも......私の愛車を......フロントガラスを直せば、まだ使える筈だったアマガエルを......蜂の巣にしたカージャック犯を私は必ず捕まえる......!」

 

私は握り拳を作りながら、宣言する。

あー、ダメだ。朝の事を思い出すとイライラしてきた。カージャック犯もそうだが、愛車がスクラップになる原因を作ったアリアにもイライラしてきたぞ。

 

「だ、だよねー。そうだよねー。あっ、そうだ!ねぇ、ゴウくん。これを気にレイレイに同じ車ーー新車を見繕ってあげたら?足がないとレイレイ大変だろうし」

 

「おっ!そうだな。よっしゃ!任せとけ!車輌科のツテを使って見つけて来てやるよ」

 

「えっ?いいのかい武藤君?武藤君も忙しいんじゃ......」

 

「気にすんなって!零には何時も世話になってるしよ。新車の一台や二台見つけて来てやるよ。後、サービスで改造もしてやるぜ〜」

 

「ありがとうね武藤君。それじゃあ、お願いするよ。でも、改造は勘弁して」

 

自然と3人で笑っていた。

りこりんが話を持ちかけてくれたおかげで、武藤君に新車の予約する事ができたよ。正直、お願いするのは気が引けてたんだよね。

助かったよ。りこりん。

暫く、3人で会話をしていると、

 

「は〜い。みんな、席に着いてくださーい」

 

探偵科担当のゆとり先生が入って来た。どうやら、彼女が私達のクラス担任らしい。

あの人は、武偵高の常識人とされているが、私は騙されない。だって、あの人は心の内では戦いを求めているのだもん。

 

「ねぇレイレイ。時間が空いたらでいいからさ、そのカージャック犯について意見交換しない?りこりんも探偵科だから、犯人が気になってさ」

 

りこりんがまた、カージャック犯についての話題を持ち出してきた。

 

「随分と気になるようだね〜りこりん」

 

「うん!レイレイが犯人について、どれだけ情報を掴んでいるか気になっちゃってさ」

 

りこりんがお願いオーラ全開で私にねだる。

情報怪盗だけに捜査の進行状況が気になるのかな?

 

「いいよ。今度、時間が空いたらでいいかな?」

 

「モチのロンだよ!じゃあ、何時ものカフェでね!」

 

りこりんと約束する。

何時ものカフェーー人工島にある私とりこりんの行きつけのカフェだ。落ち着いた感じがあって私は気に入っている。

メニューも豊富......イヤな食べ物を思い出したーーももまんだ。

誰も聞いてないけど、諸君!私はももまんが嫌いだ。大嫌いだ。もの凄く嫌いだ。

何なのアレ?桃の形をしたあん饅だけど、食べたら下痢になったよ。お店の食品衛生はしっかりしているから、食中毒じゃないようだけどさ。どうやら私の身体はももまんを受け付けないようだ。

食べたせいで、お手洗いで1時間も格闘する事になったよ......あれはアレで嫌な思い出だ。それ以来、私はももまんを見ると吐き気がする。

 

「うふふ。じゃあまずは3学期に転入してきたカーワイイ子から自己紹介してもらっちゃいますよー」

 

ゆとり先生がHRの前置きをしてきた。

先生には失礼かもしれないが、私は金次君をつんつんと突き遊ぶーー相変わらず無反応だ。

転校生ね......3学期辺りは金次君と一緒にコンビを結成した時期だ。一緒に捜査していたから、転校生には気を止めてなかったなー。

そういえば、あのピンク頭ーーアリアは見た事がない顔だったね。

 

「先生、あたしはアイツの隣に座りたい」

 

何だか甲高いーーりこりん風に言うとアニメ声が聞こえてきた。

転校生の声かなーーアリアもこんな感じの声だった......な?

私はイヤーな予感がして前を見てみると、ヤツはいた。

ーー神崎・H・アリアだ。

クラスの生徒たちは一瞬絶句して、それから一斉に金次君を見て......わぁーっ!と歓声を上げた。

アリアの登場に気づいたのだろうーー金次君はイスからズリ落ちた。私もイスからズリ落ちたい気分だよ......

 

「な、なんでだよ......!零、教えてくれ。これは夢だよな?悪い夢だと言ってくれ。頼む......!」

 

「あぁ、悪い夢だよ。悪夢さ。私達は悪夢に囚われたのさ......あのピンクの悪魔のね」

 

金次君が現実逃避し始めた。残念だがこれは現実だよ。

何故ヤツが?転校生とはアリアの事だったか。クソッ!会長として調べておくべきだった。

しかし、いきなり金次君の『隣に座りたい』だと?バカめ。寝言は寝てから言え。誰がどう見ても、金次君の隣には座れ......

 

「よ......良かったなキンジ!なんか知らんがお前にも春が......いや、もう来ているか?まあ、いいか!先生!オレ、転校生さんと席代わりますよ!」

 

まるで選挙に当選した代議士の秘書みたいに金次君の手を握ってブンブン振りながら、右隣に座っていた武藤君が満面の笑みで席を立つ。

武藤君......君は死にたいのかい?よりにも寄ってアリアと席を変わるとは......またヒャッハー化させて......イヤ、ダメだ。彼には私の新車を見つけてもらわないと。

 

「あらあら。最近の女子高生は積極的ねぇー。じゃあ武藤くん、席を代わってあげて」

 

ゆとり先生は嬉しそうにアリアと金次君を見てから、武藤君の提案を即OKしてしまった。

 

わーわー。ぱちぱち。

「零にライバル登場⁉︎」「レイからキンジを奪いに来たのか......⁉︎」「チャレンジャーだ!」

教室はとうとうお祭り騒ぎを始めてしまった。

ちょっと待ってよ。ライバル?金次君を奪う?ナンノコト?チャレンジャー?私に?こんなピンク頭が?

私はゆとり先生に抗議しようとした時、

 

「キンジ、これ。さっきのベル......」

 

金次君を呼び捨てにしつつ、第2グランドで金次君が貸したベルトを放り投げようとした、アリアと目が合った。

 

「何でアンタがここに居んのよ‼︎」

 

「私の教室だからだよ。文句があるのかい?」

 

「大アリよ!よりにもよって、アンタと同じクラスなんて......最悪よ」

 

「あぁ、奇遇だネ〜私もだよ」

 

バチバチとお互いの目から火花が散る。

教室は又しても、お祭り騒ぎになった。

「えっ?ナニコレ」「あんなレイさん初めて見るよ」「あの転校生は一体何者?」「スゲェー、武偵高の女王とガン飛ばしてる」

今はそれどころじゃない。よりにもよって、同じクラスとは......教室じゃなくて、あの子ーースミスが経営している殺人ホテルに放り込んでやりたいよ。1日も持たないだろうーー運が良ければ2日は持つかもね。

 

「理子分かった!分かっちゃった!ーーこれ、フラグばっきばきに立ってるよ!」

 

金次君の左隣に座っていたりこりんが、ガタン!と席を立った。

 

「キーくん、ベルトしてない!そしてそのベルトをツインテールさんが持ってた。これ、謎でしょ⁉︎でも理子には推理できた!できちゃった!」

 

りこりんが何か分かった様だ。

ほーう、ならば聞かせてもらいましょうか?峰 理子君。

 

「キーくんは彼女の前でベルトを取るような何らかの行為をした!そして彼女の部屋にベルトを忘れて、自分の部屋に戻った。そして、そんなキーくんをレイレイは朝迎えに行った際、知ってしまったーーキーくんが転校生さんに誘惑されたと!つまり3人はーー熱く激しい、三角関係の真っ只中なんだよ!」

 

ツーサイドアップに結ったゆるい天然パーマの髪をぴょんぴょんさせながら、りこりんは推理をぶち上げる。

りこりん......私は知ってるよ。金次君がコイツの部屋に行ってない事も。そんな事実はない事もさ。でも、何だろう?りこりんの推理結果を聞くと、本当にそんな気がしてきた。凄くイラッとする。

りこりんの推理にクラスは大盛り上がりしてしまった。

「キ、キンジがこんなカワイイ子といつの間に⁉︎零さんがいるにも関わらず......!」「影の薄いヤツだと思ったが、三股かけてたとは......」「零さんを裏切るなんて最低......!」「フケツ!」

顔見知り率は高いけど、新学期なのに、息が合いすぎだよ皆。

 

「お、お前らなぁ......俺と零は」

 

「そ、そうだよ......私と金次君は」

 

あれ?何か顔が熱くなってきた。

 

ずぎゅぎゅん!

 

鳴り響いた2連発の銃声が、クラスを一気に凍り付かせた。

ーー真っ赤になったアリアが、二丁拳銃を抜いて撃ったからである。

 

「れ、恋愛だなんて......くっだらない!」

 

広げたその両腕の先には、左右の壁に1発ずつ穴が開いていた。

コラッ!誰が直すと思ってんだテメェ。ここがスミスのホテルだったら、あの子キレるな。

 

「全員覚えておきなさい!そういうバカなことを言うヤツには......風穴あけるわよ!」

 

又しても奇遇だネ。バカな行動をする君に、私は風穴あけたいよ。

 




とあるホテルの一室にて

「はぁー、モリモリ。また、遊びに来てくれないかなー。お友達沢山連れて」

ダブルベッドでゴロゴロ寝返りを打つ少女は暇そうにしていた。
綺麗な長い黒髪を羽のようにベッドに広げている。着ているフリル付きの白シャツと黒のスカートは皺になっている。目は爬虫類のような真っ赤な色をして、部屋の天井をジーッと眺めている。


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ももまんの滝よ金次君‼︎

キンジ視点ーー

 

ーー夕方。

クラスのバカどもからようやく解放された俺は、どっかりと自室のソファーに座りながら、ある資料に目を通していた。

それは俺の人生を180度変えた事件ーー『武偵殺し』についてだ。

『武偵殺し』ーー俺の兄である遠山 金一の仇。

ある日、逮捕されたニュースを知った瞬間、俺の中に湧き上がったのは安堵感、そして消失感だった。

もうこれ以上、兄さんのような武偵が被害者にならない。

自分の手で犯人をあげられなかった悔しさ。

複雑な感情が俺を襲った。そんな思いから逃げるように俺は『武偵殺し』の捜査から足を洗った。その後は、零と共に重大な事件や他愛のない事件なんかを追ったーー今、思えば複雑な感情から逃げたいが為にヤケクソになってたかもな。

しかし、今朝の零が発した言葉で『武偵殺し』を捕まえてやろうという感情が蘇った。

捕まったのは模倣犯ーー落ち着いて考えれば簡単な事だった。

兄さんを行方不明に追い込んだ犯人がそう易々と捕まる筈がない。『何事も疑って掛かれ』探偵科で習う初歩的な事だ。ニュースをそっくりそのまま信じた自分を殴りたいぜ。

ーーパラパラと一通り目を通し、考えるがピンと来るものがない。まだ、情報が足りないか......

 

(ああ、静かだ......)

 

今朝のカージャックが、ウソみたいだ。

あの件に関しては、セグウェイの残骸と廃車になった零の車を鑑識科が回収し、探偵科も調査を始めている。

一緒に捜査するのもいいが、俺はこの件は自分でカタをつけたい。

だからこうして......

 

ピンポーン

 

ドアチャイムの音で、ハッと我に帰る。

......いけね。どうやら思考に老けってたようだ。

ソファーから立ち上がり、マンションの部屋を渡り......ドアの覗き穴から、外を見た。

するとそこにーー零がいた。何でドアチャイムを鳴らしたんだ?朝もそうだったが、俺の部屋の合鍵は渡したハズだ。

ーーガチャ。

 

「零」

 

「ヤッホー金次君。遊びに来たよ」

 

ドアを開けると、零はヨッ!と手を上げて挨拶し、靴を脱いで遠慮なく入って来た。

いくらコンビを組んでるからって、ここは男子寮なんだぞ。女子がそれも生徒会長様が軽々しく来るなよ。また、変な噂を立てられるぜ。

零は上がって早々、一目散に部屋ーーリビングに向かった。

いかん!リビングには『武偵殺し』の資料が出したままだ。

俺は慌てて、リビングに向かうが時既に遅し。零は資料を手に取り、パラパラと捲っていた。

 

「あれ〜金次君。『武偵殺し』について調べていたんだね」

 

「お前には関係ないだろう」

 

「お兄さんの仇が、本当は捕まっておらず、模倣犯として犯行を行っていると知って、ワクワクしているのかい」

 

「そんなんじゃねぇよ。俺はただ......」

 

俺が1人で『武偵殺し』を捕まると決めたのは、他の誰かに『武偵殺し』を捕まえられたくないのと、相棒であるコイツを危険に晒したくないからだ。

『武偵殺し』は兄さんを追い込んだ程の凶悪犯だ。正直、無傷で何も失わずに捕まえられる保証がない。

零は頼りになる相棒だ。それは去年から知っている。一般中出身とは思えない行動力・類稀な頭脳・戦闘能力。どれを取っても頼りになる武偵だ。俺が『武偵殺し』を捕まえたいと言えば、喜んで協力してくれるだろう。

しかし、俺が追ってる犯人は危険なヤツだ。相棒であるコイツを......

 

「危険な目に合わせたくないって、顔をしているね金次君」

 

零が俺にズイと顔を近づけてきた。って、近っ!

あまりに近すぎる為、思わず零の顔をまじまじと見つめてしまう。

白いが健康だと分かる程よい赤みのある肌、キリと整えられた眉毛、ぷるんとした唇。息遣いまで聞こえてくる。

自分の中でジワと血が熱くなる。

や、やばい⁉︎ここでヒスったら⁉︎マズイ。

俺は慌て零から距離を置く。同時に血流が落ち着いてきたのが分かる。

 

「大丈夫かい?」

 

「あ、ああ。って、今ヒスらせようとしただろう!」

 

「ごめんごめん。君が私を除け者扱いしようとしたから、ちょっと揶揄ってみたくなってね」

 

「......俺が『武偵殺し』を1人で追うって、知ってたのかよ」

 

「まぁね」

 

そう言って零はボフンと近くのソファーに座り込んだ。

 

「ねぇ、金次君。去年の12月、私達は約束したよね?一緒に『武偵殺し』を捕まえようって」

 

「覚えてたのか......」

 

去年の事を思い出す。

12月上旬ーー俺はあの日、兄さんが乗り合わせた船の事故に巻き込まれて、行方不明になったと知らされた。

マスコミは事故を防げなかった無能な武偵と、兄さんを誹謗中傷した。そして、マスコミにかられた世間は身内である、俺までも追い込んだ。

有りもしない批難を浴びせられ、俺は武偵を止めようとした。

しかし、そんな俺を零は救ってくれた。武偵というモノに絶望していた俺をどん底から引き上げてくれた。

一緒に『武偵殺し』を捕まえようとも言ってくれた。

 

「俺の知る限り、『武偵殺し』は狡猾なヤツだ。替え玉を用意できる程、非常に頭も回る」

 

「おっ!私の分析と同じだね〜。あっ、続けて」

 

「『武偵殺し』を調べていくうちに、こいつはヤバイと思ったんだ。だから......」

 

「私を危険な目に合わせたくないと?まったく、君は......このバカ!」

 

ーードフッ!

零はソファーから立ち上がると、俺のボディに拳を叩き込んだ。

痛ってぇ‼︎思わず床に膝を着きかかるが、グッと堪える。

ボクシングをやっているだけに中々のパンチだぜ。

 

「ヤバイ犯人だからこそ、協力しないといけないじゃないか!金次君にとって私って何に?」

 

「そ、そりゃ相棒......だ」

 

「......他には?」

 

零は何かを求めるような目で見つめる。

少し頬を染め、こっちを眺めてくる顔はなんだか可愛い。

 

「意地悪な所はあるが、頭脳明晰で頼りになる相棒だと思ってる」

 

「最初の方は余計だよ。ま、まあ......そうだよね〜相棒だよね......」

 

零は顔を晒す。

どうした?何故、そこでズーンと沈んだ様な顔をするんだよ?こっちはお前の事を褒めてるんだぞ。

訳がわからないでいると、零は「ゴホンッ!」とワザとらしく咳をして、

 

「金次君。私だって武偵。危険は承知な上だよ。だからこそ君と一緒に捜査がしたい」

 

「いや....だからよ。俺は......」

 

引き下がらない俺に零はそっと手を当てる。

ボクシングで鍛えた手とは思えない、ふわふわした柔らかい手だ。

 

「まったく......男の子って、どうして意地を張るのかな。本当は不安なんじゃない?」

 

「どうしてそう思う?」

 

「一目見ればわかるよ。伊達にコンビを組んでないし」

 

零は呆れたように、やれやれと首を振るう。

確かに零の言う通り、多少の不安はあるーー俺の兄さんを行方不明に追い込んだ犯人だ。俺に勝ち目はあるのかと。

 

「前も言ったと思うけど、何も全て抱え込む必要はないよ。私もいるよ?」

 

「......今まで体験したことのない危険に直面するかもしれないぞーー命を落とすかもしれない。それでもいいのか?俺と違って、お前には両親だっているし」

 

すでに両親を亡くしている俺とは違い、こいつには両親がいる。娘が死ねば悲しむだろう。死ぬ方と残される方。辛い思いをするのは残される方だ。それは俺がよく知っている。

 

「大丈夫さ。私は命を落とさないよ」

 

「どうしてそう言い切れる?」

 

「だって金次君が守ってくれるって確信してるんだもん」

 

零は「ふふふ」と笑いながら答える。

確信って、こんな不甲斐ない俺を信用しているのかよ。

 

「まったく......現場で四五六時中守れるとは限らないぞ。でもーーいいんだな?」

 

俺は零に最終確認をする。

 

「勿論さ。一緒に『武偵殺し』を捕まえよう」

 

「勝算がゼロでもか?」

 

「私と金次君が組めばゼロじゃないさ」

 

「お前、それ絶対にキメ台詞にしてしているだろう?」

 

「い、いいじゃないか!キメ台詞の一つや二つ......!」

 

零はぷんぷんと怒るが、最後は笑った。俺も釣られる形で笑った。

笑い声が部屋の中に響く。

まったく......零の言う通り、俺は意地を張ってたかもな。

 

「さて!気を取り直して早速、『武偵殺し』の捜査を始めようか」

 

ピンポーン。

 

「捜査って、まさか模倣犯が現れた時から始めてたって、言わないよな?」

 

ピンポンピンポーン。

 

「ふふふ、まだまだ探偵科としては甘いね〜。模倣犯=偽物とは限らないぞ。模倣犯=成りすまし犯とも思わないと」

 

ピンポンピンポンピピピピ!

 

「入学当初から探偵科伊達に疑い深いってか?」

 

ピポンピポンピピピピピポーン!

 

「ヒドイな〜。探偵科として当然の......」

 

ピポピポピポピピピピピンポーン!ピポピポピポピンポーン!

 

「「あー!うっせえな!」」

 

誰かがさっきから俺の部屋のチャイムを連射している。

あまりの喧しさに耳を塞いだ零と声がカブる。

 

「ちょっと金次君。誰か見てきてよ」

 

零に言われるがまま、玄関まで移動し渋々、ドアを開けるとーー

 

「遅い!あたしがチャイムを押したら5秒以内に出ること!」

 

びしっ!

両手を腰にあて、赤紫色のツリ目をぎぎんとつり上げたーー

 

「か、神崎⁉︎」

 

制服の 神崎・H・アリアがいた。

なんで コイツが ここに ⁉︎

 

「アリアでいいわよ」

 

言うが早いかアリアは靴を玄関に脱ぎ散らかし、とてててと俺の部屋に侵入してきてしまった。

 

「お、おい!」

 

俺はそれを止めようとしたが、するっ。ヤツの子供並みの身長のせいで、屈んでかわされる。

 

「待て、勝手に入るなっ!」

 

「トランクを中に運んどきなさい!ねえ、トイレどこ?」

 

アリアは俺の話なんか耳を貸さず、ふんふんと室内の様子を見回す。そしてトイレを発見すると、小走りに入ってしまった。

 

「金次くーん?誰が来たんだい?」

 

リビングから零の間延びした声が聞こえる。

......いかん。

今、リビングには零がいる。そして、トイレにはアリアが入っている。この2人はなぜか知らんが、非常に仲が悪い。今朝のカージャック然り、HR然りだ。鉢合わせしたら、どうなるか分からんぞ。

 

「てか、トランクって......」

 

玄関先にはアリアが持ってきたと思われる車輪つきのトランクがちょこーんと鎮座していた。小洒落たストライプ柄のトランクだ。

 

「あんたここ、1人部屋なの?」

 

トイレから出てきたアリアは、俺には目もくれず部屋の様子を窺っている。そしてリビングに侵入し......

 

「何でアンタが此処にいんのよ!」

 

零と鉢合わせした。

零を視界に入れたアリアは、ぐるる〜と犬歯を剥き出しにし唸る。お前はイヌか⁉︎いや、小ささから必死に威嚇する子猫に見える。

 

「私は金次君の相棒だからさ。なんか文句ある?」

 

威嚇された零は喧嘩口調で話す。

こちらはぶわと広がった黒髪で顔に影ができ、おまけに目が座ってるーーゴミを見るような目だ。その姿はまるで前足を上げて威嚇する毒蜘蛛のようだ。

 

「今すぐ出てけ!」

 

「君が出ていけ。3秒以内に」

 

バチバチとお互いの目から火花が散る。

俺はゴシゴシと目を擦るが、未だに火花が見える。幻影じゃないのか⁉︎疲れているから幻を見ているだけだよな?

 

「金次君に何のようだい?此処に来た限り、金次君に用があって来たんだろう?」

 

「そ、そうだったわ!アンタに構ってる場合じゃなかったわ」

 

アリアはリビングの一番奥、窓の辺りまで来ると。

くるっーと。

その身体を夕陽に染め、アリアは俺に振り返った。

 

「ーーキンジ。あんた、あたしのドレイになりなさい!」

 

「.....」

 

「ーーはぁ?」

 

無言が支配する空間に第一声を投じたのは零だった。

投じた声は今まで聞いたことのないような声をしていた。怒りと憎しみを込めた感じだ。

 

「君は意外と前頭葉が発達していないようだね」

 

「何よ?話があるなら5分だけくれてやるわ」

 

「ありがとう。では早速......いきなり部屋に上がり込んで来て、金次君にドレイになれとは一方的な馬鹿な要求をするもんだな〜と思ってさ。ねぇ、金次君?」

 

「あ、ああ......ドレイってなんなんだよ。どういう意味だ」

 

「強襲科であたしのパーティに入りなさい。そこで一緒に武偵活動するの」

 

一緒にって、俺は探偵科に転科した上に零とコンビを組んでいる。アリアとコンビを組むことはできん。『武偵殺し』を追いたいしな。

 

「それって、私から金次君を奪うって捉えていいのかな?私の相棒をさ」

 

零。言葉に気をつけろ。奪うって、変な捉え方をされるぞ。

 

「アンタの事聞いたわよ。玲瓏館・M・零。探偵科所属Aランク。一般中からの編入生でありながら、超新星の如く現れ数々の難事件を解決した。事件の中にはプロの武偵ですら手を焼く未解決事件すらね。そこのキンジとも」

 

アリアは俺に視線を移した。

そこのは余計だ。確かに俺と零は未解決と呼ばれる事件も解決したが、あれは殆ど零が解決に導いたようなモノだ。

 

「ロンドン武偵高でも噂は聞いてたわ。最初、会った時はわかんなかったけど、まさかあんたが『天才(ジーニアス)』とは思わなかった」

 

「ロンドンまで名前が通っていて嬉しいよアリア」

 

「ほら!さっさと飲み物ぐらい出しなさいよ!無礼なヤツね!」

 

ぽふ!

盛大にスカートをひらめかせながら、アリアはさっき俺が座っていたソファーにその小さなオシリを落とした。

 

「コーヒー!エクソプレッソ・ルンゴ・ドッピオ!砂糖はカンナ!1分以内!」

 

無礼者はそっちだ。

てか、エクソプレッソでルンゴ・ドッピオって、零が勧めてこないヤツじゃねぇかよ。

 

「金次君はそのままアリアの相手をして。コーヒーは私が出すから」

 

「何よ?アンタ、コーヒー出せるの?だったら早く出しなさい。さっきも言ったけど」

 

「ご心配なく。エクソプレッソのルンゴ・ドッピオで御座いますよね。オキャクサマ」

 

零はそれだけ言うと、キッチンにあるエクソプレッソマシンへと向かう。そして1分もしないうちに戻って来た。

 

「はい、金次君の好きなリストレットだよ」

 

ソファーに座って待つ、俺に零はコーヒーを差し出してくれた。

カップをテーブルに置く際、物音も立てず静かに差し出す、その姿はウェイターの様だ。

丁度良かったぜ。俺もコーヒーが欲しかったところだ。

 

「はい、アリアもどうぞ」

 

ガチャ!

 

アリアの方ーーカップを差し出す際、物凄い音を立てながらテーブルに置いた。僅かにカップからコーヒーが溢れた。

俺とは扱いが全然違う。

 

「もっと静かに置きなさいよ!ていうか、キンジと扱いが違うし!アンタわざとやってるでしょう⁉︎」

 

「さーて、ナントコトカナ?わかりませんね〜。ほら、入れてやったらんだら早く飲めよ。冷めちゃうよ」

 

「まあ、いいわ。飲んでやるわよ......ずず」

 

文句を言いながらもコーヒーをすすり、

 

ブゥーーーー‼︎

 

盛大に吹いた。漫画でしか見たことない光景だ。

うわっ‼︎汚ねぇ!俺の方に吹くな!

 

「これルンゴ・ドッピオじゃない!リストレットだし!おまけに砂糖が入ってない!」

 

「あっ!ごっめーん。間違えて金次君と同じ、リストレットを入れちゃった♪」

 

「間違えて入れるワケないでしょう!絶対わざと入れたわね!思いっきり苦味を凝縮して入れてるのが証拠よ。言い逃れなんて許さないから!」

 

「お〜、勘だよりの武偵さんにしては考えたね。前頭葉が発達していないと言って悪かったね。前略撤回するよ」

 

「馬鹿にして......!前頭葉が発達していないのはアンタの方よ。もし、本当に入れ間違えてたなら、頭の中を見てみたいわ。こんな初歩的なミスをする頭をね」

 

「私は君の舌の作りを調べてみたいな。砂糖なしコーヒーで吹くようなお口の中をね」

 

俺を挟んで、2人の美少女が嫌味を言い始めた。

頼むから、俺の部屋で発砲騒ぎに発展しないでくれよ。

 

「あたしはアンタの感性を知りたいわね。こんな緩いコーヒーを平気で客に淹れるなんてね」

 

アリアはカップを手に取り、ヒラヒラと見せびらかす。

そうか?俺は丁度いい熱さだと思うが......

零の方を見ると、額にビキッ!とM字状の青筋が浮かんだ。

 

「そうだね〜。転校生ちゃんはこんな緩いコーヒーは飲まないよね。ゴメンゴメン。淹れなおしてくるよ」

 

アリアのカップを手に取ると、再びキッチンに戻っていった。

その横顔は笑っていたが、目は一切笑っていない。俺には分かるーーアレは怒っている顔だ。

待つこと1分ーーキッチンから零は出て来た。

 

「はい、お待ちどうさま」

 

ガチャ!

 

ミトン手袋をした手でカップをテーブルに置く。

カップのコーヒーはボコボコと泡立ち、凄まじい熱気で湯気が立っている。あまりの熱にカップはガチャガチャと振動して、今にも割れそうだ。

なんじゃこりゃ⁉︎熱いにも程があるぞ。ガスバナーで炙ったのか?

 

「さあ、冷めないうちにどうぞ」

 

満面の笑みを浮かべ、アリアに飲むよう勧める。飲めるものなら、飲んでみろと顔で言っている。

 

「そ、そうね。これくらい熱くないとね」

 

と、両手で左右から持ったカップを顔に近づける。

おい、本気で飲むのかよ。カップを持ってる手が真っ赤だぞ。

 

「ずず......ま、まだ......ずず。ちょ、ちょっと緩いわね」

 

本当は熱いのだろう。顔を真っ赤にしながらもコーヒーをすする。

痩せ我慢全開で出されたコーヒーを飲み干した。

そんなアリアの様子を零は驚きながら見ていた。まさか、本当に飲めるとは思わなかったようだ。

 

「おなかすいた」

 

アリアはいきなり話題を変えつつ、ソファーの手すりに身体をしなだれかけさせた。

 

「なんか食べ物ないの?」

 

「あん饅ならあるぞ」

 

下のコンビニで買ったあん饅をキッチンに置いたままにしていた。

相棒の零が好きなんだよな。よく張り込み捜査の時、よく囓ってた。

そのせいか?俺も思わず考えなしに買ったが俺は肉まんが好きだ。

 

「あん饅?ももまんはないの?」

 

ももまんーー一昔前にちょっとブームになった、桃の形をしただけの要するにあん饅。

ももまんもあん饅も大して変わらんだろう。

 

「ももまん〜?何、君ってあんなモン食べるの?」

 

零はももまんが嫌いだ。前に頼まれてあん饅を買いに行ったら、無かったので代わりにももまんを買ってきたら、右ストレートパンチが飛んできた、アレには俺でもK.Oしかけたぜ。

 

「ももまんが好きで悪い?あっ、分かったわ!アンタ、ももまんが嫌いなんでしょう。食べて下痢になったクチね」

 

「...,...何でそう思うんだい?」

 

「勘よ‼︎」

 

「何が『勘よ‼︎』だ!もっと具体的に述べたらどうですか〜?」

 

「アンタ、一瞬だけ狼狽した上に言葉が詰まったでしょう。それが証拠よ。動揺しまくりで分かりやすくて助かるわ」

 

「はぁ〜?相手の態度を見ただけで分かるスキルが君にあるんですか〜」

 

零よ。お前なら相手の顔を見ただけで、一発で分かるだろうーー相手を構築する情報全てを。

 

「アタシには分かる。あんたは過去に、ももまんを食べて下痢になった。ももまんを嫌ってるのが証拠よ!」

 

「嫌ってるのは認めよう。しかし、食べて下痢にはならないよ」

 

零は最後まで食い下がらない。

すまんな零。アリアの話を聞く限り、そんな気がしてきたぞ。

コイツのももまんの嫌い感はハンパない。明らかにももまんで何かあったのは明白だ。

 

「じゃあ、証明してやるわ‼︎キンジ、そこの松本屋のももまんを買ってきなさい。コイツに食わせてやるわ」

 

アリアは俺の方にととんと歩いてくると、う、おい、近いよ、と思うぐらい顔を近づけて命令してくる。

 

「やめろーー⁉︎コイツの命令に従うな!行かないで金次‼︎」

 

零が大声を上げ、俺を引き止める。イヤイヤとばかりに目を涙を浮かべる。

あっ、零。お前、認めたな。

 

「ハッ!」

 

自分の失敗に気づいたのかーー零はアリアの方を見る。今の零は、まるで探偵に「犯人は貴女だ!」と、名指しされた犯人のようだ。

アリアは勝ち誇った様子で、

 

「それは肯定と捉えていいわね。ほら、見なさい!やっぱりももまん食べて下痢になるじゃない」

 

ニィと勝利の笑みを浮かべ、零をビシッと指差す。その姿はまさに名探偵さながらだ。

 

「あー!そうですよ!下痢になりますよ!何か文句ある⁉︎」

 

零が暴露した。ヤケクソだな。

 

「私の勘が当たった。覚えてるわよね?今朝の事を!」

 

今朝ーーあれか、零がアリアの勘を馬鹿にして、次で勘で何か当てたるか、事件を解決したら土下座して謝るってヤツか。

 

「私の勘を、一族の勘を馬鹿にされた、怒りを、苦しみを、悔しさを、アンタにも思い知ってもらうわ。やりなさい。やれーー‼︎レイーー‼︎」

 

半沢直樹かよ⁉︎アリアは最終回のセリフを少し弄って大声で叫ぶ。

お前も見た事あるのか?あの最終回の名場面を。

零の方に視線を移すと、

 

「ああぁぁぁぁ!ああ......あ、あああぁぁぁ......‼︎」

 

某常務さながら膝に手をつけ、必死に土下座を拒絶する。しかし、プルプルと膝が床に触れる所で、

 

「って、やるわけないでしょうが‼︎このピンク頭‼︎」

 

アリアに飛びかかった!

 

「この嘘つき!土下座しないよ‼︎」

 

グッグと取っ組み合いが始まった。

 

「うるさーーい‼︎土下座するのはお前の方よ!私の愛車をボロボロにしやがって......‼︎」

 

「あんなアマガエル廃車も同然よ!それに廃車にしたのはアタシじゃない!」

 

お互い組み伏しながら、ゴロゴロとリビングを転げ回り暴れる。

転げ回る際に、俺の部屋の家具ーーテーブルやソファーが倒れる。蹴り倒されたテーブルから、カップが床に落ちて割れた。

 

「フロントガラスをバカスカ撃ち抜いてよく言えるわね!この悪魔!」

 

「悪魔はアンタの方よ!嘘つき腹黒女!」

 

「君って、絶対に推理が苦手でしょう!勘に頼らないと何もできないヘボコ武偵!」

 

「そういうアンタはガチガチに考えてからじゃないと、行動に移せないでしょうが!ビビり武偵!」

 

「お、おい!落ち着けよ2人とも」

 

「むぎーー‼︎」

 

「うがーー‼︎」

 

2人はゴロゴロと転がり、リビングの一番奥ーーベランダに出た。

ベランダまでくると、2人は立ち上がり態勢を整え、取っ組み合いが再び始まった。

アリアは零の顔を捻り、零はアリアのツインテールを引っ張り始めた。幼稚園児の喧嘩かよ。それとベランダで喧嘩するな‼︎危ねぇぞ。

 

「このウナギみたいなツインテールかば焼きにしてやる!」

 

「その蜘蛛みたいな面ひっぺ剥がしやるわ!」

 

ベランダの手すりに背中を預け、アリアのツインテールを引っ張りる。アリアは零のほっぺを両手で抓る。

ベランダの外ーー真下には海が広がっている。

 

「ロンドンでアンタの作戦立案を見たけどね、どれもこれも古臭いのよ!よくこんな作戦で生き残れるって、感心しちゃったわ!」

 

「はぁ⁉︎私の作戦の何処が古いのよ!感心しちゃったって、絶対に嘘でしょうが!嘘が下手過ぎ!」

 

「あーー‼︎もう最悪よ!最初、アンタの作戦ーー『囲い』は素晴らしいと思ったわ。アタシも参考にしたのに!でも、まさか考えた武偵がこんなヤツだったとはね!」

 

「あんただったのねーー‼︎私の作戦パクったの!このパクリピンク頭‼︎」

 

零はアリアの言葉に思い当たるものがあるか、一際態度を改め怒りを露わにした。

ツインテールを引っ張る手に力が入る。

 

「パクって何かいないわ!それ言うながらアンタの方こそ!」

 

アリアも零の言葉に思い当たるものがあるか、犬歯をむき出しにして怒る。

零の頬を抓るアリアの手にも力が入る。

 

「うるしゃーーいッ!パクったでしょうテメェー‼︎よくも自分の手柄にしやがったな!なーにが、最優秀学生武偵だ!」

 

「あたしが解決したんだからもうパクりじゃないわ!」

 

ベランダで死闘?を繰り広げる2人は足を縺れさせ、バランスを崩して、

ーーズル!

 

「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ‼︎」」

 

甲高い悲鳴を上げながら、真っ逆さまに落ちていき、

ドッボーーン!

海に落ちた‼︎何やってんだあの2人は⁉︎

俺は慌てて、水面を見るがボコボコを水泡が上がるだけで浮いてくる気配がない。

居ても立っても居れず、俺は2人を助ける為に海に飛び込んだ。




とある浮世絵にてーー
2人の美少女と1人の年若い男が描かれている。
小学生ほどの緋色のツインテールをなびかせる少女と、肩まで伸ばした真っ黒な髪をした少女が、取っ組み合いしている。
その2人を止めようとする少し根暗ぽい男子。


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ホームズ......いいえ教授の帰還です。

ベランダでの一件から暫くしての話です。



キンジ視点

 

女子寮前の温室にいた理子からアリア対策の為、アイツの情報を得た俺は自分のマンションに戻らず、零のいる女子寮に向かった。

以前話していた『武偵殺し』について解った事があるから情報交換をしようとの事だ。

男子の俺が女子寮に足を踏み入れるのは、気が引けるが兄さんの仇である『武偵殺し』を捕まえる為だ。ココはこらえよう。

 

女子寮に入り、途中ですれ違う女子達の痛い視線を無視しながら、俺は真っ直ぐと零の部屋を目指す。

3階の奥にある部屋のドアに到着し、ドアチャイムを鳴らす。

 

ピンポーン

 

「零。来たぞ」

 

「どうぞ 入って来たまえ 開いて ますよ」

 

ドアチャイムを鳴らし、声をかけると変な返事が聞こえてきた。

確かに零の声だが、少々おかしいーーまるでツギハギにしたような声だ。

疑問に思いながらもドアノブを捻る。

 

ーーガチャ

 

言われた通り、部屋の鍵は開いていた。

不用心だな。いくら武偵高の寮とはいえ侵入されたらどうするだよ。

俺はドアを開けて、部屋の中に入るとギョッとした。

零の部屋の中は植物園だった。

理子との待ち合わせ場所に指定した温室と同じような状態だった。

玄関で俺を最初に出迎えてくれたのは、モンステラと呼ばれるビル内の飾りとして見られる、びりびりに破れたデカイ葉っぱの観葉植物だった。

なんじゃこりゃ⁉︎前に来た時はこんなの無かったぞ。

よく見ればモンステラだけじゃない。

温室でよく見られる黄色い花が特徴のアランダ、「森のバター」と呼ばれる黒色の実のアボカド、花の後ろから垂れる距の部分が長い白い花のアングレカム・セスキペダレ、5弁の星のような花の夜来香。

 

色とりどりの花だけじゃなく、最初のモンステラのような植物ーー背が高く葉っぱが細長く幅は狭い棕櫚竹、白い糸のもじゃもじゃが特徴の滝の白糸、葉っぱの広がりがユニークなパキラ、細長い葉っぱのパピルス、ハート形の葉っぱのホア・カーリー。

 

ここはジャングルかよ。アイツはいつから探検家に転職したんだ?しかも、かなり暑いな。女子寮前の温室とはエライ違いーー温度差だ。

あまりに暑いので、上着を脱ぐ。

ガサガサと植物をかけ分けながら、零がいるであろうリビングを目指す。

 

「庭師が必要だな」

 

ーーコッコッ

ーーメェ〜

 

歩いていると植物の中から何かの鳴き声が聞こえてきた。

聞こえた方に俺は目を向けると、ニワトリとヤギがいた。

ニワトリは俺の前を横切って植物の中に消えて行き、羊は何かしらんが紙をムシャムシャと食べながら、ジーと俺を見つめている。

いつからココは動物園になったんだ......

 

「キンジ君のアホー、キンジ君のアホー」

 

呆れる俺の真上から間の抜けた声が聞こえてきた。

誰がアホだ‼︎

視線を上に向けると、そこには木に止まったオウムが目に付いた。

俺に発見されても気にも止めずアホと連呼する。

犯人はコイツか......しかもアホだと?零のヤツ、オウムにいらん言葉を覚えさせるなよ。

オウムを無視して再びリビングを目指した俺は、ようやくお目当の人物である零を発見した。

ソファーをベランダ側に向けて座り、俺の方に背を向けている。

 

「おい、零。来たぞ」

 

「よく見つけたね。感心したよ」

 

ベランダの窓に顔を向けて俺の方に目を向けてこない。

背中越しに見ただけだが、零から生気を感じない。

疑問に思った俺は、近づいてみると疑問の正体を知った。

零だと思ったソレは零じゃなかったーー零そっくりの人形だった。武偵高校のセーラー服を着せた人形をソファーに座らせただけだ。

どういう事だ?確かに零の声が聞こえた筈だが......

人形を調べてみると、人形の胸の部分に小型スピーカーが仕込まれていた。どうやらコレで話していたようだ。

俺が話しかけたタイミングといい、何処かで俺を見ているのか。

 

ーーバシュッ!

 

空気を切れる音と共に背中に痛みを感じた。

痛ッ!何だ⁉︎

俺は背中に手を回してみると、細長いモノが手に触れた。抜いてみると、それは吹き矢だった。

スポーツ用品や玩具としての吹き矢ではなく、狩猟などで使われる本格的な細長い吹き矢だ。

どうして突然こんなモノが刺さってくるんだよ?毒とか塗られてないだろうな?

矢が飛んできた方向を見るが、そこにはココに来る途中で出会った羊が、相変わらずムシャムシャと紙を食べているだけだった。

 

「あーあ、金次君一回死亡」

 

今度は森林の中から零の呆れたような声が聞こえきた。

何処にいるんだよ?隠れんぼのつもりか。

 

「お前の勝ちだ。負けたよ」

 

俺は諦めてリビングの空いたソファーに腰を下ろす。

俺は隠れんぼをしにきたんじゃないんだぞ。付き合ってられん。

 

ーーバシュッ!

 

ソファーに座る俺に空気の切れる音ーー吹き矢の飛んで来る音が聞こえた。

痛ッ!今度は胸に刺さったぞ。

 

「ふふふ、驚いたかい?」

 

ガサガサと草を掻き分けて来た零の姿を見て、俺は飛び上がりそうになった。

零はバスタオルを一枚身体に巻いただけだった。

真っ白なバスタオルからは、零の綺麗な素足が丸見え状態だ。

暑い室内のせいか、バスタオルを巻いた胸部には汗が滲み出ている。

 

「何でバスタオル姿なんだよ⁉︎服を着ろよ!」

 

「いや〜、観賞用植物を飾る為に室内を温室にしていたら、汗を掻いちゃってね。軽くシャワーを浴びてきたんだよ」

 

「だったら早く服を着ろ」

 

「ヤダ。また汗掻いちゃう」

 

零はキッパリと言い切る。

バスタオル巻いた姿で威張るな。正直目のやり場に困る。

目をそらす俺を見た零は、ニヤッと悪そうな笑みを浮かべると、

 

「暫くしたら服を着てあげるよ。チラッ」

 

バスタオルの下部ーー太ももの奥武藤曰く、絶対領域が見えるか見えないかの絶妙な部分をピラッと捲ってみせた。

 

「馬鹿ッ!見せてくるな!」

 

俺は慌てて腕を前にして視界を遮る。

人前ではしたない事をするなよ。お前は痴女か!

 

「ごめんごめん!ほら、コッチを見て」

 

謝る零に俺はソーッと顔から腕を退かす。

 

「と見せかけて、ばぁーん‼︎」

 

「うおッ!」

 

掛け声と共に零はバァッ!と身体に巻いたバスタオルをとった。

俺は咄嗟にソファーから飛び上がり、零に背を向けた。

やめろ‼︎バスタオルを取るな!後ろを振り向くなよ俺。何があっても後ろを向くな。ある意味でコレはホラーな状況だ。後ろに貞子がいると思え遠山 金次よ。目を合わせたら死ぬ。

必死に背を向ける俺の後ろで「ププッ!ぷぷぷ」と零が笑いを堪えている。

 

「ごめん!ふざけすぎたね。コッチを見てよ金次君」

 

「誰が見るか。この痴女め」

 

「あー、まったく。ほら!」

 

「うわッ!」

 

背を向ける俺の前に零がやって来た。

バスタオルは巻いていなかったが、代わりに水着を着ていた。

去年の海水浴で着ていた真っ赤な水着だ。日焼けを知らない肌が水着を目立たせる。

本当にこいつは白いな。野外でも活動するから、少しは日焼けしてもいいんだが。

 

「驚かすなよ。寿命が1年縮んだぜ」

 

「私の水着姿を見たんだから、そこは1年伸びたと言いなよ」

 

「その格好でいられると迷惑だ。さっきも言ったが早く服を着ろ」

 

風邪を引いても知らんぞ