南雲家のこと (かず軍曹)
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南雲家のこと

南雲家は帝国海軍、南雲忠一の血筋

父、忠三はキャリアとして警視庁に入庁したが、現場に拘りを持っていた事から、出世のレールから外れていた。

PKOの選挙監視団の一員としてアフリカに渡ったが、反政府勢力の流れ弾に当たり殉職。

若き日のしのぶは、父のPKO派遣を止められなかった母に不満やるせない。

しのぶは父の意志を継ぎ警視庁に入庁を志すが、母の反対を受ける。

母の反対を振り切り、警視庁にキャリアとして入庁したしのぶ。

しかし、母は父の人脈を駆使して、しのぶを閑職に配置させた。

しのぶは閑職に配置されたとはいえ、誠実かつ堅実に職務を遂行するしのぶに対して、上層部もそのまま閑職に置くことに疑問を抱き始めた。

その最中、特車2課新設の話が持ち上がり、しのぶを初代課長に推挙する動きがあったが、母の人脈により、課長就任の話はもみ消された。

しかし、しのぶの能力、人望を惜しむ勢力により、将来の課長就任を前提とした第一小隊長就任で決着が付いた。

 ある日、本庁人事担当から、しのぶの人事の裏に母が関わっていると知らされ、しのぶは激高する。

 

 鬼の形相で母に抗議に行こうとするしのぶの後ろから声が聞こえた。

 振り返ると、同じ特車2課に配置予定の後藤警部補が立っていた。

 後藤は、自分は第二小隊長になると挨拶をするが、それが終わるか終わらないかのタイミングで踵を返し、母の元へ赴こうとする。

 後藤はしのぶを引き留めた。何を怒っているのか分からないが深呼吸をして落ち着こうと提案した。

 そのおっとりとした物言いに、しのぶは怒りの矛先を後藤に向けた。

 あなたが次の職場での同僚になるのは分かったけど、現状では全くの赤の他人なのだからほっといて下さいと、しのぶは吐き捨てる。

 今は、赤の他人かも知れないが、せっかくの美人が怒りの形相では台無しだ、と後藤は返す。

 その一言は、今のしのぶにとっては、着火材に過ぎなかった。

 私が美人かどうかは関係ない。急いでいるから引き留めないで下さいと、しのぶは先を急ごうとする。

 ちょい待ち。後藤の声のトーンが低くなった。微かながら凄みも含んでいた。

 あなた、南雲警視正の娘さんでしょ? だったら、もっと落ち着こうよ。と、後藤は諭すようにしのぶに語りかける。

 父をご存じなのですか? しのぶの表情から怒りが消えて、食い入るように後藤を見つめる。

 警察官としての父を知らないしのぶにとって、後藤から色々と聞き出そうとしていた。

 え? いや、あの方は庁内でも有名だったから、ご存命だったら、そう言うかなぁって思っただけ。

 後藤は、しのぶから視線を外し、恥ずかしそうに答えた。

 そうなんですか。しのぶは落胆の表情を隠さなかった。

 まぁ、お父さんの事を知りたければ、いくらでも耳にする機会があるから、焦ることはない。

 そう言い切ると後藤はポケットからタバコを取り出す。

 刹那、しのぶが一言。後藤さん、ここは禁煙ですよ、と。

 後藤は照れながらタバコをしまい、天井を仰いだ。

 

 警視庁内で有志を対象とした勉強会『南雲教室』

 後藤喜一は第1期生の一人であり、南雲が全幅の信頼寄せるほどの門下生であったことを知る者は少ない。

 

 しのぶの母、妙(たえ)は忠三の大学時代の同級生。

 学校きっての才媛であり、卒業後の進路も一流企業のエリートと噂されていた。

 彼女の人生を変えたのは、忠三の存在。

 見た目は、もっさりとして頼りない感じではあったが、その瞳の奥にあるモノを感じ、妙は忠三とおつきあいを始める。大学2年、春の事であった。

 2人の会話は、いつも小難しい政治や将来の話。

 端から見ていると、喧嘩しているのではないかと思える位に白熱しているように見えるが、その表情は心なしか穏やかであったという。

 妙に変化が現れたのは、2人がつき合い始めてから3ヶ月後、妙は大学を辞めて、防衛大学校に入り直すと宣言。

 家族と忠三の反対を振り切り、妙は防衛大学校に入学した。忠三とおつきあいを始めて1年後の話である。

 とは言え、2人のおつき合いは続いていた。

 そして、忠三は大学を卒業して国家公務員I種試験合格。警察庁に入庁し、警察キャリアの第1歩として警視庁に配属となった。

 忠三は、そこで自分の使命感と官僚組織としての警察の現状とのギャップに打ちのめされた。

 妙は、その2年後に防衛大学を卒業し、富士学校の戦車教導隊研究班の一員として任官する。その何年か後に柘植行人が同じ流れで任官する事になるのだが、それはまた別のお話。

 女性初の戦車乗りで空挺レンジャー。妙の自衛隊キャリアは順風満帆であった。

 連日の訓練や海外派遣で忠三に会えなかった妙が、久し振りに会った忠三の姿に愕然とした。

 立ち居振る舞いは、普通の爽やかな警官なのだが、ただそれだけの青年であった。

 妙は忠三に詰め寄る。どうしたの?貴方らしくない。やる気にギラ付いたあの眼光はどこにいったのと。

 忠三は溜め息を吐くように一言『疲れた』と。

 警察キャリアとして、夢と希望と使命感を持ってしても、官僚組織の裏にある息苦しさと本質には勝てなかったと。

 更に、君が羨ましい。順風満帆そのもので華やか、あの頃の夢と希望をそのままに生きている姿は美しい。それに比べて私はどうだ・・・とネガティブな、鬱々とした話しか聞こえてこなかった。

 それ程までに官僚の世界というモノは夢も希望もないのかと妙は思った。

 そして、無意識のまま忠三の胸倉を掴み、平手打ちした。

 平手打ちをされても忠三の表情は変わらなかった。

 痛いよ。どうしたの妙さん? そんなにムキになっちゃって。

 今度は明確に怒りが沸いてきた。

 情けない。私の愛した人はこの程度なの?

 自分に対して、忠三に対して。ただ怒りしか沸かなかった。

 ただ言えることは、別れない。今や情けないこの男とは言え、自分を変えてくれたこの男を捨てるわけにはいかない。

 怒りと使命感が妙を揺さぶる。静かに。

 だんだんと怒りが収まりかけたところに、忠三から意外な言葉が飛び出してきた。

 『広告塔』妙は驚く。

 忠三はたたみかける。陸自にとって、君は広告塔に過ぎない。博学才媛、絵に描いたような模範隊員。生気に溢れ、使命感に燃えるその姿は陸自にとってイメージアップ材料でしかない。

 妙は、ふと思い返してみた。確かに陸自は、私のやりたかった事を反対することもなく、やらせてくれた。私のやる気を後押しするかのように。

後押し? いや、誘導? 妙の表情がだんだんと沈んでいく。

 

そう、妙さんは陸自の手のひらの上で、いかにも自分の実力で登ってきたように見せかけて、今の妙さんを踊らせてきたんだよ。忠三の溜め息にも似た呟き。

 私は辛かった。やる気のある人間を手のひらの上で踊らせて、枠からはみ出そうなところで楔を打つ。組織と言うところにとって、自由とか志とかは要らないんだ。決められた事を決められたとおりに進める。決められていない事には新しく決まりを作って当てはめていく。妙さん。組織って言うところはね、自由とか自分勝手っていうのは、無しなんだよ。そう言うの容認しちゃったら、みんな好き勝手やっていたら組織が成り立たなくなっちゃうんだよ。

 官僚組織の善し悪しじゃないんだよ。これでもかって、ガチガチに行かないと街とか国とか守れないんだよ。とにかく、自分勝手とか例外と言うのが組織にとっては弱点にしかならないんだよ。忠三はまくし立てた。

 自由とか正義とか色んなことが、曖昧のままでは、どうとでもなる。だからそう言うのを定義しなきゃならない。それが法なんだと。

 しかし、私たち公務員は法を守らなきゃならないけど、法は完璧じゃない。線の上、線と線の隙間がある。それだけじゃない。法の網でも救えない人だっている。もう、どうしたら良いか分からなくなってきたんだ。忠三は、うなだれた。

分かったわ。あなたの今の姿の原因が。妙は意を決したように言う。

わたくし、妙は自衛隊を辞めます。

え? 忠三は面食らった。

確かに、妙の自衛隊入隊には反対したし、広告塔として働かされているのも見てて気持ちの良いものではないが、折角、明るい将来が見え始めたのに何故? 忠三が不審に思うや否や。

妙は一言。そして、南雲妙として、あなたを一生支えます。

えええええええェ! 忠三は腰を抜かした。

そう決めましたので、結婚して下さい。妙は忠三に向かい微笑みながらプロポーズした。

す、少し待っていただけますか、返事は? 忠三はドキドキしている。

ええ、良いですよ。荷物は先に家に運んでおきますから。

 

その後、妙は陸上自衛隊を退職。花嫁修業と称し南雲家に押し掛ける。

そして毎日、忠三に気合いを入れつつ支える毎日を送り始めた。

自身を取り戻し始めた忠三に新たな野望が芽吹く。

 

 それが、後の警視庁公安9課の前身であった。

 

 数年後の南雲忠三。警視庁の組織犯罪対策部の1課長という表の顔を持つが、本当の顔は公安9課の初代課長となった。

 そもそも、この公安9課は現在の警察組織では線引きの難しい犯罪を対象とする事と、取り扱いに慎重さを要する対象者を取り扱うことから、その構成員は警察庁をはじめとし、各県警察本部や科捜研に散らばっている。

『南雲教室』とは、この公安9課要員を選考するための側面をも持っていた。

 

 その第1期生の首席である後藤喜一のお話は別の機会にするとしよう。

 

 




しのぶさんのお母さんは伝説の女性自衛官として、不破さんの尊敬する人となっているという設定も入れておきましょう。
そして、お父さんが自信を取り戻してからは、打って変わって、本来の優しい女性に戻ったのですが、お父さんの部下たちは、『怖いお嫁さん』を知っているから、未だに畏れおののいていると思われます。
南雲家女性最強伝説はこんな感じでどうでしょうか?
他にも色々とぶっ込みましたが。w


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