三雲修英雄計画【BT】ver (alche777)
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三雲修【BT】帰還

はい、大規模侵攻の練習みたいなものです。

色々ツッコミ所がありますが気にしないでください(オイ
ちなみにネタも使い回しだったりします(コラ


 思えば幾つもの希望を犠牲にして来たであろうか。第一次大規模侵攻時に攫われた三雲修は再び故郷の地に立ち感激のあまりに涙が零れ落ちそうになる。

 けれど、今は感涙している余裕などない。なぜなら玄界――他の国は地球をそう呼んでいる――はトリオン兵によって襲撃を受けているのだ。

 

 

『どうやら遅かったようだな、オサム』

 

 

 自身の右腕に取り付いていたトリオン兵――親友の親父さんが生み出した唯一の仲間であるレプリカの言葉に表情が強張る。とある理由でとある国に侵入していた修は故郷である玄界が襲われる情報を察知し、奪った遠征艇で駆け付けたのであった。しかし、遠征艇を動かすためのトリオンは修のトリオンのみ。数回に渡って補給しなくては玄界まで駆け付ける事は不可能だ。レプリカが蓄積したデータを元に先回りするつもりであったが、補給のタイムロスが大きかったようだ。

 

 

「……いや、まだ間に合う」

 

 

 親友の親父さんが言っていたボーダーらしき人物がトリオン兵と戦っているのを目撃する。トリオン兵と戦っている人物は意外にも女性であった。後ろで怯える隊員達を護っているのか終始自分の後ろを伺いながら戦っているのが見受けられる。

 

 

『ふむ。どうやら、彼女は後ろの者達を護っているようだな』

 

「と、なると……。アフトクラトルの狙いは白服を着た者達か」

 

『そう考えるのが妥当だろう。さてどうする、オサム。今のところユーマの姿も確認できない』

 

 

 空閑遊真。修がとある国へ連行されている時に助けて貰った通りすがりの近界民。

 実際は玄界の父を持つ同じ地球人であるが、そんな事など些細な事でしかない。友である遊真がアフトクラトルに捕まり洗脳調教を受けた事を知り、こうして追い掛けて来たのだがレプリカの報せを聞いて複雑な感情を抱く。

 レプリカの問い掛けに考えるまでもなかった。確かに親友の遊真を助け出したい気持ちはあるが、目の前の命を蔑にしていいわけがない。

 

 

「やるぞ、レプリカ。僕が出たら遊真が出て来るかもしれない」

 

 

『心得た。オサムはオサムの道を突き進めればいい』

 

 

「ありがとう。……城塞双璧(カルワリア)起動っ!」

 

 

 第二の故郷であった世界の名を口にする。その名は自身をここまで導いてくれた(ブラック)トリガーだ。修自身は雀の涙程度しかトリオン量を有していない。そんな修がここまで生き延びる事が出来たのはひとえに(ブラック)トリガーがあったからこそだ。

 修の言葉に従い両腕に一枚ずつ盾が装着される。右腕に円盾の分類に当たるバックラー。左腕に修一人は軽く覆い隠せる超大型盾デュエリング・シールド。これまで修と一緒に死線を潜り抜けてきた掛け替えのない相棒たちだ。

 

 

『敵はラービットだ。油断は禁物だ』

 

「三雲了解っ! 浮遊(ホバー)っ!!」

 

 

 左腕に装着しているデュエリング・シールドを無造作に投げ捨てる。本来なら超大型の盾はそのまま重力の鎖によって地面に叩き落とされるのだが、超大型の盾は地面に触れる瞬間に着地するのを嫌う様に空中で停止。

 慣れた様子で浮遊状態のデュエリング・シールドの上に飛び乗ると主人を得たデュエリング・シールドが前進を初め――修が駆けつけたい場所へと加速していく。

 (ブラック)トリガー・城塞双璧(カルワリア)の能力の一つである浮遊(ホバー)は修の意志で自由自在に駆け上がる浮遊盾(ホバーボート)と化す。

 

 

 

***

 

 

 

 三雲修が玄界の戦いに介入する一部始終をハイレイン一同は視ていた。

 

 

「おやおや、これはこれは。まさかこの様な地まで追い掛けて来るなんて。ほほほ、若いとはすばらしいものですな」

 

 

 最初に楽しげに呟いたのは熟練の老兵であるウィザ。修と一戦程刃を交えたことがある身として、再び相まみえた事が楽しくて仕方がなかったようだ。

 

 

「へー。あれがウィザ翁が倒しきれなかったと言うメガネの(ブラック)トリガー使いか。一見、ただのメガネにしか見えないがな」

 

「油断なさらない事です、ランバネイン殿。特にあなたの雷の羽(ケリードーン)はミクモ殿の城塞双璧(カルワリア)と相性はよろしくありません。対面した時は撤退する事をお勧め致しましょう」

 

「ほぉ。それを聞いたら益々興味が湧くってものだな。兄者……でなくって、隊長。俺を奴と戦わせてくれ。倒せなくても時間稼ぎぐらいならばなんとかなるだろう」

 

 

 今回の作戦は玄界を壊滅する事にあらず。多くのトリガー使いをアフトクラトルに連れ去る事なので、自身の出番は少ないかと思いきや予想外の大物が登場した事にランバネインは興奮を隠せずにいた。

 けど、隊長のハイレインはその申し出を却下する。

 

 

「気持ちは分かるが、ミクモオサムの相手は奴に任せてある。そうだな、クガユウマ」

 

「アァ。おさむハ俺ノ敵ダ。必ズ殺ス」

 

 

 一瞬にして(ブラック)トリガーを起動した遊真はハイレインに出撃させろと口にする。

 その隊長に対してのぞんざいな言葉遣いにヒュースが「口を慎め」と注意を促すのだが、遊真は彼の言葉など一向に聞く耳など持たなかった。

 

 

「よい、ヒュース。クガユウマ、お前の目的はミクモオサムの抹殺。あるいは捕縛だ。そうすればお前の親父さんの仇を取る事が可能だろう。存分に励むが良い」

 

「イイカラ、早ク出セ」

 

「ミラ」

 

 

 呼ばれたミラはハイレインの意図にいち早く察して、[[rb:黒 > ブラック]]トリガー窓の影(スピラスキア)を起動させて遊真を出撃させる。

 

 

「よろしかったので、ハイレイン殿。ユウマ殿をミクモ殿と会わせて」

 

 

 遊真が出撃したのを見送った後、ウィザが尋ねる。修が遊真を救う為に単独でアフトクラトルに喧嘩を吹っかけて来たのは有名な話だ。そんな彼に探し人を差し出すのは些かなものか、と尋ねると。

 

 

「構わない。確かに(ブラック)トリガーを失うのは惜しいが、いまあ奴に邪魔をされる訳にはいかない。俺達は俺達の使命を全うするぞ」

 

 

 ハイレイン的には遊真を失っても痛手も何もない様子。

 今は自身の任務の為に厄介な修に邪魔をされる方が嫌なようだ。相手が(ブラック)トリガーならば、同じ(ブラック)トリガー使いをぶつけるのは定石。

 それなら今一番不必要な遊真を出撃させるのが後々の作戦を円滑に進めると判断したのだ。

 

 

「左様ですか。叶う事ならば、今一度刃を交えて雌雄を決したかったところですね。……残念です」




もともと、修【BT】verをSEみたいに書こうと思ったんですが、同じネタで書くのも変だと思ったので、大規模侵攻の練習として書いてみました。

まぁ、色々とツッコミ所満載ですが、あくまで練習なので――と言って言い訳をしてみたりします。


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三雲修【BT】介入

ここの雨取千佳は原作修の立ち位置と考えてもらえるとうれしいです。
遊真がいないだろ? はて、何のことでしょうか。

ま、まぁ。練習などで色々と試しているといった感じです。


 

 A級隊員木虎藍は何の前触れもなく攻めて来た敵の一体、ラービットと対峙していた。

 後ろには一般市民の避難を先導していたC級隊員が数名いる。

 彼らは基本的に戦闘を許可されていないので、後ろにいられても邪魔なだけなのだが初めて見る敵を目視して足が竦んだのだろう。

 一向に逃げる様子が見受けられない。

 

 

「(……早く倒さないといけないわね)」

 

 

 初見のラービットが相手にも関わらず木虎は改造を施した短銃の銃口を向け、ワイヤーを射出させる。

 スパイダーと呼ばれるトリガーは直接的な攻撃力はないが、指定した地面に着弾させて足場として活用させることも可能だ。

 ラービットを囲む様にスパイダーを設置し、ラービットの周囲を飛び跳ねながら通常弾(アステロイド)を叩き込んでいく。

 一方的な展開に誰しもが木虎の勝利を疑って止まなかったであろう。だがしかし、木虎の攻撃に耐えていたラービットの後ろから更に二体のラービットが出現した事で形勢は逆転される。

 

 

「(こんなところに新型が二体も? ……なんで? なんでこんなところに)」

 

 

 新型の出現報告は少なかった。木虎が知っている限りでは各方角に一体ずつしかいなかったはず。

 それにも関わらず、この場に二体も出現した。普通に考えればこれは異常な事だ。

 そもそもボーダーは敵の正体は愚か目的すら分かってはいなかった。

 よく見るモールモッドやバムスター、バンダーは警戒区域から脱出する動きを見せるのにラービットだけは正隊員を狙っている節がある。

 初めは捕獲用のバムスターなどの護衛役を担っていると思われていたが、それにしては護衛対象を無視しすぎている。

 以上を持って、木虎が得た結論は一つだけ。

 

 

「(――まさかっ!?)」

 

「木虎さんっ!!」

 

 

 新たに現れたラービットが設置したスパイダーを破壊したと同時に、中学校の友人達を護る為に戦いへ赴いていた雨取千佳が登場する。

 千佳の呼びかけに木虎は思わず後方を振り向いたのがいけなかった。

 目の前にいたラービットが木虎を捕まえるのだ。

 

 

「っ!?」

 

 

 木虎を救出しようとアイビスを展開し、銃口を向ける。

 けど射線上に木虎がいる為に中々引き金を絞る事が出来ずにいた。

 彼女は人に銃弾を放つことが出来ない。

 例えトリオン体で生身に傷が付かないと分かっていても体が言う事を利いてはくれないのだ。

 

 

「雨取さんっ! こいつらの目的は、目的はっ!!」

 

 

 木虎のトリオン体に異変が起こる。

 ラービットが胸部のパーツを露出させると木虎のトリオン体は人型の形状を保つことが出来ず、徐々に変形していく。

 報告に合ったトリオン体を強制的に変化させる技法だ。

 このままでは木虎がやられてしまう。

 しかし、千佳は引き金を絞れない。

 どうにか木虎を避けてラービットだけでも命中させようとスコープを覗くのだが、自身の狙撃が砲撃と呼ばれている事を知っている千佳は撃つに撃てなかった。

 そんな時――。

 

 

 

 ――飛燕(チャクラム)

 

 

 

 風切り音が鳴ったと思った瞬間、木虎を捕まえていたラービットへ飛来する何かが現れた。

 それは高速で回転していた為に目視で判別する事は出来なかったが、木虎を捉えていたラービットの両腕を切断し、彼女を解放させた。

 間一髪トリオン体の形状を保ち続ける事が出来た木虎は直ぐにその場を離脱し、千佳の隣に立つ。

 

 

「木虎さん、大丈夫ですか」

 

「えぇ。大丈夫よ。それより今のは?」

 

「分かりません。いきなり飛んで来たかと思ったら――」

 

 

 千佳は何かが飛び去った先へ視線を向けるとそれは大きく旋回して戻ってこようとしていた。

 まるで意志を持っているかの様にその飛来物は更にラービットへ向けて突撃し、木虎が戦っていたラービットの両足を切裂いていく。

 

 

「……なに、あれ?」

 

「えっと、分かりません。敵ではないと思いますが」

 

 

 謎の物体が目の前の強敵をあっさりと無力化していく光景に二人は唖然と見るしかなかった。

 そんな二人に対して新たなラービットが襲い掛かろうとした時、進路を阻む様に割り込んできた一つの影が降り立つ。

 

 

『間に合ったようだな』

 

「そうだね。……レプリカ、分身して後ろの彼女達と情報交換を持ちかけて。僕は目の前の敵を蹴散らす」

 

『心得た』

 

 

 地面に突き刺さったデュエリング・シールドを掴みとり、自身の元へ戻ってきたバックラーも装着し直して構える。

 そんな修にラービット二体は容赦なく襲い掛かって行った。

 

 

「誰? あれ?」

 

 

 戦闘に割り込んできた第三者に見覚えはなかった。

 木虎は隣で唖然としながらアイビスを抱えている千佳に一応問うてみるが、彼女も首を振って「分かりません」と答える。

 そんな二人に豆物程の小さな物体が近寄って来る。本体から分離した小型レプリカだ。

 

 

『初めまして、私の名はレプリカ。オサムの協力者だ』

 

「……トリオン兵?」

 

『その通りだ。この世界に侵入してきたアフトクラトル軍を追い掛けたらここへ来た。あなた方らに危害を加えるつもりはない』

 

「それを信じろと?」

 

『信頼を得る為に、いま侵入してきた敵の情報を提供しよう』

 

「……なんですって?」

 

 

 予想外の言葉が飛び込んで来た事に木虎の表情が強張る。

 先も言ったがボーダーは敵の正体を知るどころか、目的すら分かりかねていた。

 自身の推論が正しければC級隊員の略奪が狙いだろうと思ってはいるが、敵国アフトクラトル軍とやらの詳細な情報は全く持って皆無である。

 それを教えてくれると言うならば……。木虎はしばし考え込み、結論を付ける。

 

 

「いいわ。本部と繋げるから、あなたは私の質問に答えなさい。それでいいかしら?」

 

『理解が早くて感謝する』

 

 

 

 ***

 

 

 

 木虎とレプリカがアフトクラトルについて情報を共有している間、雨取千佳は一人でラービットと対峙している少年――修に視線を向ける。

 両腕に個性溢れた盾を装備している以外に武器らしい武器は見当たらない。

 あれでどうやって戦えるのか、と不安に思いつつ見守っていると二体のラービットが同時に修へ向かって走り寄って、拳を振り下ろそうとしていた。

 

 

 

 ――反撃(カウンター)

 

 

 

 デュエリング・シールドを突き出して城塞双璧(カルワリア)の能力を起動。

 内蔵された杭状の何かが地面を貫き固定させ、銀色の光がデュエリング・シールドを包んでいく。

 ラービット二体の拳が盾に触れた瞬間に閃光が迸り、攻撃をしたはずのラービット二体の方が後方へ突き飛ばされたのであった。

 

 

 

 ――飛燕(チャクラム)

 

 

 

 その隙を突いて修は再びバックラーをラービットに向けて放る。

 距離が延びるに連れて飛行速度も加速していき、先ほど木虎と千佳を助けたのと同じように風切り音を纏ってラービット一体の胴体を真っ二つに引き裂いていく。

 

 

「す、すごい」

 

 

 木虎が倒しきれなかった敵を一瞬にして無力化した破壊力に慄く。千佳がアイビスでぶっ放せれば同じ結末にすることも不可能ではないが、あそこまであっさりと命中させて倒す事は今の自分では無理であろう。

 バックラーが遠方へ流れていくのを好機と思ったのか、もう一体のラービットは再び修に向かって突撃する。

 

 

噴出(ジェット)

 

 

 デュエリング・シールドを水平に――まるで殴り込む体勢になり――構え、修の指示に従ってデュエリング・シールドの端部から暴風が噴出す。

 さながらジェットエンジンの様に風を輩出したデュエリング・シールドは修諸共ラービットに向かって突撃する。

 一人と一体の拳が触れるまで間合いを詰めた両者は同時に拳を振り被って、渾身の一撃を叩き込む。

 

 

 

 ――鉄杭(パイク)

 

 

 

 デュエリング・シールドがラービットの拳に触れた瞬間、城塞双璧(カルワリア)の特殊能力が発動される。地面へ固定する為に使われた杭状の何かが勢いよく飛び出し、ラービットの腕を破壊したのだ。

 一連の行動をただ黙って見ていた千佳は目先の光景に言葉を失うしかなかった。




お気づきかもしれませんが、このBTもとある設定の使い回しです。
ほんと、使い回しばかりだな(苦笑


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三雲修【BT】遭遇

色々と理由づけをしていたら、可笑しすぎるだろうって自分で突っ込んでしまいました。


 敵の名はアフトクラトル軍である。

 木虎藍から敵国の情報が流れてきたボーダー本部は困惑してきた。

 それは仕方がない事であろう。

 突然に隊員から敵の正体と詳細な情報が来た事に疑問を抱かない訳がない。

 

 

「木虎隊員。その情報はどこで手に入れたものだ?」

 

 

 ボーダーの最高責任者たる城戸司令が代表して尋ね返す。

 

 

『はい。何でもアフトクラトル軍を追い掛けて来た近界民(ネイバー)がいるみたいです。私達はその彼と遭遇し、不本意ですが助けられました。利害が一致している為、独断と思いましたがご報告に上がった次第です』

 

「……そうか。その者に代わる事は可能か?」

 

『はい。……えっ!?』

 

 

 例の協力者に変わろうとした時、木虎から驚愕の声があげられる。

 それを聞いた本部一同は襲撃を受けたのかと勘違いするが、次の一言でほっと胸を撫で下ろす事になる。

 

 

『あの新型をこの短時間で倒したの!? しかも二体も』

 

『今のオサムならば可能だ。……初めまして、上層部の方々。私はレプリカ。オサムの協力者にして多目的トリオン兵である』

 

 

 通信越しから聞こえてくる無機質の声に城戸は姿勢を正す。

 相手は何者か知らないが、第一印象が肝心だ。

 総司令たる威厳を保って相手と話す必要がある。

 

 

「私はボーダー総司令の城戸だ。お前たちの目的を聞こう。場合によってはお前達を葬らなくてはいけない」

 

『了解だ、キド司令。我々の目的はアフトクラトル軍に攫われたユーマの救出。同時にオサムの故郷たるミデンの守護である』

 

「なんだと?」

 

 

 玄界(ミデン)

 それは敵が自分たちの世界を指す名前である。

 この場にいる誰しもが知っている事であるが、重要なのはそこではない。

 レプリカは言った。

 故郷たる玄界(ミデン)の守護が目的の一つだと。

 つまり、レプリカが言うオサムたる人物は近界民(ネイバー)ではなく近界から戻ってきた同士だと言っているのだ。

 

 

「些か信用できないな。その証拠はどこにある?」

 

『証拠は示せないが、そちらの情報端末から割り出す事が可能であると推測する。三雲修15歳。それだけ伝えれば、そちらで調べる事は可能であろう』

 

「沢村くんっ!!」

 

 

 忍田が直ぐに補佐役の沢村響子に指示を出す。

 既に市民のデータベースにアクセスして検索をかけていた沢村は三雲修がヒットした事を確認する。

 

 

「出ました、三雲修。第一大規模侵攻時に行方不明となっています。恐らくは――」

 

「自力で近界から帰還したとでも言うのか!? 信じられない」

 

 

 沢村の報告に忍田は驚きを隠せずにいた。

 例えどんな優れた人間であろうとも自力で帰還する事なんて不可能だと思っている。

 そもそも捕まった人間の運命など催眠調教されるかトリオン器官を奪われて死ぬだけだ。

 それに加えて帰還するには遠征艇と呼ばれる移動手段がなければならない。

 普通に考えればレプリカが名乗った者が言っている情報は信憑性の欠ける内容であると言い切れる所であるが、事が事である。

 忍田は振り返って城戸の指示を仰ぐことにした。

 

 

「司令」

 

 

 忍田の言葉に軽く頷き、レプリカに伝える。

 

 

「そちらの言い分は了解した。利害が一致している以上、協力を受け入れる。まず、そちらが保有するアフトクラトル軍の情報開示を要求させていただこう」

 

『心得た。協力感謝する』

 

 

 レプリカは自分達が知っているアフトクラトル軍に関する情報をボーダーに伝える。

 新型のトリオン兵の正体がラービットであり、使用目的はトリガー使いの捕縛であること。

 敵は角トリガーと言われている特殊なトリガーを使用する事。

 また角の色が黒であるならば敵は(ブラック)トリガー使いである事。

 あと、玄界(ミデン)に来るか分からないが、厄介な(ブラック)トリガー星の杖(オルガノン)の使い手が存在する事。

 敵の狙いがC級隊員であろうと、包み隠さずにレプリカは情報を公開していく。

 

 

「忍田君。これらの情報を直ぐに戦闘中の全隊員に伝達。敵の狙いはC級隊員であるとな」

 

「了解」

 

 

 命令を受けた忍田が直ぐに沢村に伝え、全隊員に知り得た情報を伝える様に命令する。

 

 

「新型――ラービットの相手はA級隊員にお任せする。部隊が揃っているB級隊員は散開しているトリオン兵の駆除。それ以外のB級隊員はC級隊員の救出に動け」

 

 

 全隊員に忍田の命令が下される。その命令は修と対峙している木虎と千佳の二人にも届いたのだった。

 

 

 

***

 

 

 

「雨取さん。私達は後ろにいるC級隊員を安全な場所まで移動させましょう」

 

 

 もともと木虎は雨取の援護をする為に部隊から離れて単独行動をしている。

 トリオン怪獣と呼ばれている彼女であるが、まだまだ実戦経験不足の為に危なっかしい印象が感じられる。

 気づけば自然に彼女と行動を共にしている事が多くなっていた。

 

 

「それなら僕も手伝おう」

 

 

 バックラーを装着し直した修が二人に提案する。

 木虎は雨取を護る様に一歩前に歩みだして庇う様な位置取りを取る。

 警戒心むき出しの彼女に「まるっきり信用されていないな」と苦笑した修に、木虎は「当然でしょ」と言い返した。

 

 

「そもそも、あなたは何者なのよ。突然、現れて」

 

「何者って……。レプリカに聞かなかったの?」

 

 

 先ほどレプリカと上層部で修の名前が挙げられていたが、木虎はあえて聞かなかった振りをして修に問い質す。

 アフトクラトル軍についての情報は提供してくれたが、修自身に関する情報は何一つ教えてはくれなかった。

 警戒心を解けと言う方が難しいだろう。

 

 

「……僕は三雲修。通りすがりの(ブラック)トリガー使い、かな?」

 

 

 そこで疑問符を付けられても対応に困るのだが、木虎が気にした点は別の所であった。

 

 

(ブラック)トリガーですって!?」

 

 

 (ブラック)トリガーは木虎達が所有しているトリガーよりも性能が一つ二つも上回る高性能トリガーである。

 しかし、(ブラック)トリガーは適正者でないと使用する事が出来ないし、何よりとある理由で量産する事は不可能とされている。

 

 

「そうだよ。今はまだ詳しい情報は教えられないけどね。ちなみに名前は城塞双璧(カルワリア)。第二の故郷の名を貰っている。……無駄話はこれぐらいにしよう。今は白服の人達を安全な場所まで避難させるのが先決だ」

 

「……そうね。なら、あなたが攻撃してこない限り信用してあげるわ。感謝しなさい」

 

「なはは。ありがとう。後ろの子もよろしくね」

 

「う、うん」

 

「雨取さん?」

 

 

 先ほどから会話に入って来なかったから気付かなかったが、千佳は大きく目を見開いたまま修を見ていた。

 まるで死んだ人間と出会ったかの様に信じられないと口元を抑えて。

 

 

「雨取?」

 

 

 聞き覚えのある家の名であった。

 その名を聞いて最初に思い浮かべた人物は――。

 

 

「……雨取千佳?」

 

 

 ――両親の付き合いで幼い頃から交流を持っていたお隣さんただ一人だけだった。

 

 

「やっぱり、修くんなんだ」

 

「はは、こいつは驚いたな。雨取さんってボーダー隊員だったんだ」

 

 

 修の知っている雨取千佳はボーダー隊員になる様な強い女性ではなかった。

 兄である雨取麟児によく甘えていた。

 そんな彼女が血生臭い戦場に立っているなんて、いったい何が彼女をこのような戦場へ駆り出したのだろうか。

 四年前にこの地から連れ出された修には分からない事であった。

 

 

「……知り合いなの?」

 

 

 そんな二人の反応を見て、木虎が千佳に話しかける。

 

 

「あ、はい。隣に住んでいる三雲さんの――」

 

「……三雲さんのって、香澄さんの弟さん!? ウソ」

 

 

 雨取と付き合いだしてから何回か三雲香澄と顔を合わせている。

 若くて確りしたお姉さんだな、と言う印象を持っていた木虎に修は間髪入れずに訂正する。

 

 

「いえ、息子です」

 

「はい?」

 

「だから、息子です」

 

 

 二度同じ事を伝えたにも関わらず、木虎は修が言った意味を分かりかねていた。

 困惑する木虎に千佳は苦笑しながらも真実を伝える。

 

 

「あの、木虎さん。あの人はお姉さんじゃなくって修くんのお母さんなの」

 

「……えっ!? そうなの。とても一児の母に見えなかったんだけど」

 

 

 仰天する木虎に「よく言われたな」と懐かしそうに呟いた修は背後から近づく何かを察知する。

 直ぐに思考を戦闘モードに切り替えて、城塞双璧(カルワリア)を構える。

 戦闘態勢に入った修を見て、二人もこちらに敵が近づいてきたのだろうと理解したのだろう。

 それぞれ武器――木虎は短銃を、千佳はアイビスを――構え、迎撃態勢を取っていると現れたのは同じボーダー隊員の迅悠一であった。

 

 

「……迅さん?」

 

「やっほ、雨取ちゃん。無事でよかったよ。そして、御宅が件の(ブラック)トリガー使いだね」

 

 

 色々と交流が多い迅の登場に千佳はアイビスを解き、迅の元へ駆け寄る。

 彼女の師匠である木崎レイジは迅と同じ玉狛支部の人間だ。

 千佳は本部所属であるが、色々と玉狛支部の人間にはお世話になっている。

 

 

「そう言うあなたは?」

 

「俺は実力派エリート、迅悠一。木虎ちゃんと雨取ちゃんの場所に(ブラック)トリガー使いが来る未来が視えてね。こうして出向いたわけよ」

 

「未来が視えた?」

 

「迅さんのサイドエフェクトよ」

 

 

 首を傾げる修に木虎が補足説明をする。

 サイドエフェクト、通称副作用。

 能力の差異はあるが一言で申すと超能力的なものと覚えていた修はその効力に驚かずにいられなかった。

 

 

「それで、その迅さんとやらが何の御用でしょうか?」

 

「キミの選択の一つで色々と未来が変わるみたいでね。けど、どうやら杞憂だったかな? こうした二人の傍にいるところを見ると」

 

 

 未来の一つに修が二人から離れて戦いに赴く姿があった。

 その選択肢をしても二人に悪影響があるわけではないのだが、より良い未来を導くためには修がボーダーと連携するのが望ましいと思ったからである。

 そこで初めて修は城塞双璧(カルワリア)を向けるのをやめる。

 自分に危害がない事を理解した修は傍で浮遊していたレプリカに声をかける。

 

 

「……レプリカ。人型の出現は確認できたか?」

 

『まだだ。どうやら、奴らは様子見を決め込むつもりらしい。その隙に彼ら彼女らを安全な場所へ移動させるのが望ましいだろう』

 

 

 レプリカのレーダーに引っ掛からないところを見ると、まだラービットを主体に攻め込むつもりらしい。

 あの程度ならば問題ないだろうと踏んだ修は迅に向かって言う。

 

 

「あなたは、これからどうするつもりで?」

 

「敵の狙いがC級隊員と分かった以上、後ろの子達を蔑にする訳にはいかないからね。本部まで護衛したのち、俺はトリオン兵の駆除に戻るよ」

 

 

 戦力的には充分だと思われるが、複数で攻められると大勢のC級隊員を護りきるのは難しい。

 迅の考えに大きく頷いた修は木虎に「先を急ごう」と話を促す。

 

 

 

***

 

 

 

 修達が迅と合流した時、ミラの窓の影(スピラスキア)玄界(ミデン)に到着していた。

 

 

「例の(ブラック)トリガーがいる位置を送るわ。勝ってお父様の仇を取りなさい」

 

「言ワレルマデモナイ」

 

 

 

 ――『弾』印(バウンド)

 

 

 

 ジャンプ台トリガー『弾』印(バウンド)を起動させて遊真は宙を駆け上がる。

 狙うは唯一の肉親であった父親、空閑有吾を殺した三雲修を抹殺し、(ブラック)トリガー化した城塞国(カルワリア)のマザートリガーを奪取する事である。

 宙を駆け上がった遊真は迷う事無く修達がいる地へと飛んで行く。

 何人かのボーダー隊員が目撃するもあまりの速さに攻撃を当てる事が出来ずにいた。

 最初の狙撃手(スナイパー)と呼ばれた東でさえ銃を撃つ前に飛び去ってしまったのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 遊真が修に接近する様子を見ていたハイレインは出番を待ち兼ねていた部下に命令する。

 

 

「……よし、頃合いだな。ランバネインとエネドラは東西に分かれて好きに暴れて来い。お前たちの目的はあくまで陽動だ。ラービットを倒せる戦闘員を出来る限り相手をしろ」

 

「了解だ、隊長」

 

「ハっ。やっと出番かよ。待ち疲れて昼寝するところだったぜ」

 

 

 命令を下された二人、ランバネインとエネドラはミラの(ブラック)トリガー窓の影(スピラスキア)を使って現場に急行する。

 二人が出撃したのを確認して、残っているウィザとヒュースに命令を下す。

 

 

「ウィザ翁とヒュースは金の雛鳥の確保。ユーマがオサムの相手をしている間に金の雛鳥を連れて来い」

 

「御意」

 

「彼との決着をつけたかったのですが致し方がありませんね。ご命令しかと承りました」

 

 

 遅れてウィザとヒュースも出撃する。

 その数分後に遊真が修に向けて『弾』印(バウンド)によるライダーキックで強襲するのを確認した。




普通に考えればマザートリガーがブラックトリガーするのかよ、って思いますが練習――で許されますかね?


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