仮面ライダースロットル〜憑依ノ章〜( (菊川 数時)
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第零廻

申し訳ございません、遅くなってしまって(∩∪∩)



第零廻

 

「たすけてくれ」

 

後ろを振り返る幻聴だ。無視する。

 

青年、九条 誠一(くじょう せいいち)は砂漠を歩き続ける

 

何もない世界を振り返ることなく歩き続ける

 

最近はよく幻聴が聞こえる、主に自分の目の前で死んでいった人たちの憎悪に染まった声とかが基本だ。

 

『なぜお前だけ』とか

 

『お前が間に合わなかったせいだ』とか

 

俺が生きている事が可笑しいかのように…

 

そうだ、俺は生きられないはずなんだ。

 

星は砕けたというのに……。

 

生きたい、という執念だけが今の俺を動かしている。

 

,『頼む、誰でもいい誰か……』

 

ヤメてくれ、もう俺はお前は救えないんだ

 

俺は遅すぎたんだ、だからもう俺に[無力感]を実感させないでくれ……

 

『オレ、の、妹、の友達、を………たす、けて、くれ』

 

足が不意に止まら、砂漠の砂の舞う音しか聞こえない世界に今更、俺は何を期待してるんだ?

 

『きっと、妹は……、友達が……酷い目にあったと知ったら…きっ、と、悲しむ、俺は妹には…………[笑顔]で、いて、ほしいんだ!!』

 

その時、脳裏を過ぎった一人の青年の姿。

 

青年は誰かに笑っててほしかった、だから戦い続けた。

 

だから、九条誠一は走った。

 

今聞こえるこの声は、誰かの『笑顔』のために戦っている。

 

そして、その思いは今何処かの誰かに踏み躙られている

 

助けを求めている……例えそれが幻だったとしても。

 

「もう、誰一人だって死なせてたまるものか!!」

 

走った、走った、走った、走った、走った、走った。

 

今にも消えそうな声を頼りに走り続けた、そして辿り着いた

 

崖だ。恐ろしいモノが黒い口を開けて待って居るようだった

 

微かに、波の音と海のしょっぱい匂いがする。

 

ここに飛び込むというのか、と九条誠一は小さく嘲笑った。

 

でも、たしかに崖の下からあの声はする、ならもう迷いはない。

 

いざ、飛び込もう。意を決したその時光が水平線の向こう側から現れた

 

あぁ…こんな『世界』にでも日は昇るのか。

 

彼は懐から現れた、白金の〈スロットルドライバー〉を腰に巻き付けた。

 

それと同時に、崖から飛び降りた。

 

重力の強い力に引っ張られていく…………

 

九条は落下中にベルトの3つに連なるボタンを右から左へと叩き込む。

 

《Slot ON》

 

無機質な電子音と共にスロットの場面が回転する

 

《555》

 

場面が写したのはギリシャ文字のΦ、そして白金のベルトは入れ替わるように銀色のベルトが巻かれる。

 

バッシャアッッッ、と水しぶきがあがった…………

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?………グハァッ、オエッ………」

 

目が覚めて最初に感じたのは血の味だった……

 

「ッ!?恭也!気がついたのね!」

 

そして、見慣れない黒髪ロングの女、膝枕されてるのか…

 

首を動かして周りを見渡す。ここは、どこかの廃墟らしい

 

「おや、生きていたのかい?騎士くんは……」

 

嫌な気配を感じ、体にムチを打ち身体を起き上がらせる

そこには、一人の男が居た…白いスーツを着ていて、顔はスッとしていて、さながら美男子と言った所だ……

 

しかし、その背中から真っ黒の羽が生えていた。

 

「内蔵はあらかた破壊しといたはずだが……まぁ、いい

もう一度………殺せばイイヵぁ〜」

 

狂気に満ちたその声に後ろに居た三人が小さく悲鳴を上げた

 

俺はとっさに〈ファイズフォン〉に変身コードを打ち込もうとする

 

『お前が戦うから、いや、お前が存在するだけで罪だ!!』

 

「ッ!?……。」

 

「……ケータイ?それで助けでも呼ぶつもりかい?言っとくけど今の僕は無敵だよ」

 

手が止まってしまう、あの憎悪が未だに俺のココロを蝕んでいる。また、同じ過ちを繰り返すのでは無いか……そんな迷いが俺を惑わす。

 

でも………。

 

「……恭也」

 

温かい手が俺の左手に重なる、黒髪の女性の瞳は恐怖を表していた、でも彼女は笑っていた。必死に笑顔を作っていた……。

 

スッと俺は立ち上がった。身体の感覚はもう無いのに何故か立ち上がっていた、俺の血液が足元で湖を作ってしまう程重症なのに。

 

「………俺は、もう迷わない。迷ってるうちに人が傷つくなら………!!」

 

ー555 Enter

 

『Standing by』

 

「戦う事が罪ならば……俺が背負ってやる!!

 

【変身】ッ!!」

 

『Complete!』

 

瞬間、まばゆいばかりの流体エネルギー、フォトンブラッドが駆け巡り、誠一の全身が超金属ソルメタルで覆われる

 

超金属の仮面の騎士、ファイズがここに降臨した。

 




次回、憑依。
運命は廻り始めた………


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第一廻 憑依

早くやったさ、本当に………


「な、何なんだソレは!!」

 

眩い紅い光りから現れたファイズに氷村は驚きを隠せないでいた。彼は月村家の当主の座を狙っていた……『夜の一族』と呼ばれるそれらは吸血鬼の末裔であった、生まれながら特別な力または、身体能力を持っていた。人間には程遠いモノを持ち合わせていた………だから氷村は自分の一族に誇りを持っていた、自分達以外の生物は全てゴミクズだと思っていた、だからこそ、自分こそが一族の当主にこそふさわしいと………しかし、それは叶わないものになった、従姉妹である月村忍が次期頭首になった。

 

(巫山戯るな!あの女なごときに頭首が務まるか!!)

 

だから、彼は行動に起こした

 

忍の妹であるすずかを攫った、オマケにアリサとか言うガキも。忍を脅して自分のモノにするために用意周到に作戦を進めていた。そんな時とある男が現れた、ソイツは持っていた瓶の液体を飲ましてきた

 

そこで俺は到達した、生物の頂点に!!

 

湧き上がる万能感、迸る力!

俺が全ての頂点!!

 

そして、男は『高町恭也を殺せ』と言ってきた

丁度良い、やってやろうと俺は了承した………

 

全ては上手く行く、そう思っていた

 

なのに、コイツは一体何になったんだ!!!

 

 

 

ファイズが右手を軽くスナップ、それを合図にファイズは氷村目掛けて突進する。

 

「ぐっ、なんだこの力は!?」

 

ファイズは氷村と共に廃墟のコンクリートの壁を破り、下の駐車スペースに落下する

 

落下したファイズはすぐ様立ち上がり、男を見据える

 

「……貴様、その力どこで手に入れた?」

 

氷村の問いに対してファイズはなんの反応を示さない、その態度に氷村の琴線に触れた

 

「もう、良い!!下僕共アイツを八つ裂きにしろ!!」

 

氷村の背後の闇から黒服の男達が現れた、数十人の男達はファイズへと襲いかかる。

 

「クソ!」

 

ファイズは文句をたらす、今相手にコイツ等はもう死んでいる、アイツに操られている肉人形になっている。

 

ファイズの怒りは爆発する

 

ファイズは〈ファイズアクセル〉のミッションメモリを〈ファイズフォン〉に挿入する

 

『Complete!』

 

「十秒間だけ、付き合ってやる」

 

低く呟く。胸のフルメタルラングが左右に展開し、瞳が黄から赤へと変色した。

 

『Start up』

 

瞬間、ファイズの世界から音を置き去りにした

 

赤のフォトンストリームが銀のシルバーストリームに変わり、超高速戦闘形態へと起動が切り替わった。

 

 

地に付いた右足。力を溜め、蹴って溜め、蹴って溜めた。視界の全てが粒状に撹拌。身をかがめ渾身の力で飛翔。跳躍して見下ろした世界が置き去りにされた。デバイスに搭載されたアクセルフォーム。十秒間のみ通常の千倍の速度で動くことが許された、魔法の時間。時を支配したこの空間で、ファイズを遮るものは、何ひとつない。右足に意思が込められた。フォトンブラッドが唸りを上げて白光する。

 ――『Exceed Charge』

 電子音が断罪の庭に降り立つ。叫びが万感の思いを込め、雷鳴のように轟いた。ポインタが眼下の敵を一斉に捉え、神速の蹴りが音域を引きちぎり片っ端から撃破した。

 ――『3』

 ファイズ必殺のクリムゾンスマッシュ。

 ――『2』

 つるべ打ちに射落とされた男達は、ギリシャ文字Φの紋章と共に青白い炎を吹き上げ、その身を原子レベルの灰に変え、大地より残らず消え去った。

 『1――Time out』

 カウントがうやうやしく魔法の時間を刻み終え、『Reformation』の音と共に、フルメタルラングが静かに閉じられる。

 

 

 

 

 

「………なっ、何なんだ………コレは………?」

 

氷村はファイズの力との差に失禁していた、コイツはヤバイ!!本能的にそれを察知していた。ふと、青い炎の咲く大地に立っていたファイズの黄色の瞳と合う

 

「ひっ、ヒイイイイイイイイッッッッッッ!!」

 

恐怖がピークに達した氷村は黒い羽を必死に動かして、上空へと逃げた、しかし、彼は馬鹿ではない。

 

本来の目的、月村忍を自身のモノとする。それを思い出した

 

(忍を攫って、オレ好みの雌豚に調教してやる!!)

 

氷村のファイズに対しての小さな抵抗だった、しかしファイズはすかさずー

 

『AUTO VAJIN Come Closer!!』

 

電子音と共に無人のバイクが轟音と共に現れた、そしてすかさず5826のコードがファイズフォンに装填された。

 ――『AUTO VAJIN Battle Mode!』  

ブレインズコンバータの出力はフル稼働し、内在されたソルグリセリンがピストンも折れよとばかりにシリンダ内を爆発的に叩く。

 

可変型ビークルは車体を瞬時に変形させ、戦闘態勢へと移行した。

 

オートバジンは内蔵されているジェットエンジンを噴射させ、氷村の元へと先回りする

 

「な、ロボット!?」

 

氷村の反応をつかの間、オートバジンのタイヤホイール型のマシンガンが火を吹く。

 

それを直撃した氷村は落下していく、その下には紅い閃光宿したファイズエッジを持ったファイズが待ち受けていた……。

 

「ウアァァァァァァァァァァァッッ!!!!」

 

心からの絶叫、それを劈くようにファイズエッジが紅い閃光を描くように切りつけた

 

次の瞬間、氷村の身体から青い炎が発生し、∅の紋章を浮かばせ、分子レベルの灰へと化した………。

 

ファイズフォンをベルトから取り外し、変身を解いた瞬間、地面に倒れ伏せる。

 

そのまま、意識を、闇へと、沈ませた……………………

 

 

 

 

微睡んだ意識の中、九条誠一は穏やかに留まっていた

 

そんな感じの中で唇に生暖かい感触。それを切っ掛けに誠一はゆっくりと瞼を開ける

 

すると、目の前には瞳を閉じた紫髪の女性が誠一の唇と唇を重ねていた…………。

 

おい、なんだこんな状況?冷静沈着な性格の持ち主の誠一でもこの状況に動けずにいた

 

「ーんッ、……お、起きたのね恭也!」

 

俺が起きたことに気づき女性は何事も無かった様な態度を慌てて取り繕った。

 

「お腹大丈夫なの!?というかあれ何なの、あの〜『変身』?てのは!?」

 

ギャアギャアと喚く女性に鬱陶しさを感じ、思わず。

 

「うっせぇ!黙ってろ」

 

瞬間、自分の発言を後悔する。

女性は瞳をウルウルさせながら、こちらを見ていた

 

「なんだ!恭也が起きたのか!?」

 

「大丈夫なの、恭也!?」

 

すると、俺の怒声を聞きつけて二人の若い男女が病室に入ってきた

 

「て、ちょっと!忍ちゃんが泣いてるじゃないの、何をしたのよ、恭也!?」

 

若い女性がそう言いながら俺の服を掴み、グラグラと揺らしてくる、首が段々と傷んでくる

 

パシッと乾いた音が病室に響く、俺が女性の手を払った音だ

 

「………恭也?」

 

「たく、何すんだよ。痛えじゃねぇか………」

 

「………恭也、お前何か、変だそ?」

 

「変なのはアンタらだろ、人の事をいきなりキスしたり、首を揺すったりして……てか、アンタら誰だよ」

 

「何言ってるの、恭也。私よ貴男の母の高町桃子よ!」

 

「私は、お前の父の高町士郎だ、覚えはないのか…!?」

 

「月村忍、貴方の恋人なのよ!」

 

「……すまない、アンタら勘違いしてるよ、少なくとも俺はあんたらを知らないし、高町恭也という奴でもない」

 

三人の表情は悲愴に染まっていく、悪い事をしてるみたいで気分が悪くなる。誠一はベットから身体を出す

 

「ちょっと、恭也。どこに行くつもりなの!?」

 

「だから!俺は恭也じゃねぇてっ言ってるだろ!!」

 

紫髪の女性に大声で怒鳴る、次の瞬間、オレは頬に激しい衝撃を受け、床に倒れ伏す。さすがの誠一も黙ってはいられなかった

 

「いきなり、何すんだ!!」

 

男だ、高町士郎とか言う奴が倒れた誠一に掴みかかる

 

「………恭也、冗談だって言っていいことと悪いことがある!!」

 

「ちょっと、アナタやめて!!ねぇ、恭也。本当に私達のこと分からない?」

 

「………だから、さっきから言ってるだろ……俺はアンタらの事は知らないし、恭也でもないって……」

 

しばし、痛い沈黙が流れる。

 

数十秒ぐらい経ったあと高町桃子が無言のまま、手鏡を渡してきた

 

「………これで貴方が何者なのか、確認してみて」

 

誠一は言われるまま手鏡を見る、そこには見慣れない青年の顔があった。驚いた誠一は確かめる様に自身の顔を触る、皮肉にも鏡の向こう側の人物も同じことをしていた

 

「………ウソだ。ウソダドンドコドン!!」

 

九条誠一は『高町恭也』になった………………。

 

 

 

 

 

 




昨日に続き、連続して書きました

次回、表面上。運命は廻り始めた………


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第二廻 表面上






砂塗れの幻想の中………

 

とても懐かしく感じて、悲しくなる……

 

砂漠の大地に二人の男女

 

『もう、終わったんだ。何もかも全部終わったんだよ!……、だからこれ以上俺に終わらさせないでくれ!!』

 

『………ダメだ、お前は色んな人の思い、夢を潰した………その罪は重いぞ!!スロットル!!』

 

『姉さん!もう、ショッカーは居ないんだ、もう戦わなくて良いんだ!!』

 

『違う!私は自分の意思で戦っている、誠一……貴様を殺し、全ての責任を私が背負う!!』

 

『香織姉さん!!』

 

『誠一!行くぞ、【変身】!!』

 

『俺の罪は俺で背負っていく!【変身】!!』

 

《Slot Change》

 

そして、全てが七色に染め上げられる……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………嫌な、話だ」

 

見知らぬ天井を見上げて、『高町恭也』だった者は呟いた。

 

結局、俺の症状は短期的な記憶喪失ということになった

身体の怪我の方はもう完治してるらしく、すぐに退院することができた……治りが早すぎると普通に思うところだろと俺は医師の話を聞きながら思ったが

 

『高町家だからね、仕方ないね!』

 

と医師は大声で笑って言った………

 

その後、病院から出て最初に連れて行かれたのは『高町恭也』の自宅でもあり喫茶店でもある『翠屋』だった……。

 

「恭也、ここが貴方の家よ」

 

高町桃子が教えてくれた。

 

店内はそれなりに客足があった、常連らしき男達から挨拶をされた時、急なことだったので「……ぁあ」としか答えられなかった、俺の態度にビックリした表情を見せた男達は俺の体調を気遣ってくれた、優しい人達だ。

 

 

 

その後、疲れているだろうと士郎が『俺の部屋』へと案内してくれた。

 

『高町恭也』の部屋。きっと、普通なら帰ってきたと嬉しがるかもしれない、けどここにいるのは『高町恭也』であって『高町恭也』ではない者だ。なんとなく、自分がどんな状況か理解できた。

 

「……奪っちまったのか、俺は。高町恭也の居場所を………………」

 

最低だ。自分が本当に嫌になる、俺は『高町恭也』の未来を潰してしまったのだ。改めて、それを認識した。

 

これから自分は『高町恭也』の思い出、夢、希望を無意識に踏み躙るのだろうか……そう思うと急に泣きたくなった、でも泣いてはいけないと自分に言い聞かせる。本当に泣きたいのは高町恭也のはずなのだから…………

 

 

 

 

 

 

 

高町家にやって来て三日が経った…

 

俺は今、店のレジカウンターの隣で頬杖をして退屈そうに外を眺めていた……。店の仕事を覚えるのは容易くこなすことが出来た、元々実家がパン屋を営んでいて、よく店の手伝いをしていた、その容量でいったら簡単に出来た

 

ふと、空いた右腕で〈ファイズフォン〉を開ける

 

15∶45。そろそろ、アイツが帰ってくる頃かな…?

 

「ただいま〜!」

 

元気溢れる声がドアの隙間から流れる春風とともに聞こえてきた、アイツだ。高町恭也の妹、高町なのはだ。

 

「あ〜、うん、お帰り……」

 

「お兄ちゃん、ちゃんとお仕事してる?」

 

「うっせぇー、余計なお世話様だ」

 

近づいてこちらに体を乗り出してくるなのはに向かってデコピンを喰らわせる、「はうッ」と言いながらなのははおでこを抑える

 

「きょーちゃん!ほら、もっと笑顔でお仕事しよ?」

 

店の奥から出てきたもう一人の妹、高町美由希。なんか俺に良く引っ付いてきてうざったらしい

 

「あ、そうそう、今日ね、アリサちゃんが家に遊びに来たいって言ってるんだけど……、いい?」

 

「もちろん、いつでも歓迎よ。ね、きょーちゃん?」

 

「あ〜、うん…別にいいんじゃないのか?」

 

「ありがとうなの!おにちゃん!」

 

嬉しそうにピョンピョン跳ねるなのは、横目でそれを見ながら俺は、少し不安要素たる存在の来訪を危惧していた。そんな俺の様子に気がついたのかなのはは苦笑いを浮かべながら俺を見た。

 

「林田くんは今日来ないって」

 

林田光輝、最初に出会ったのは俺が退院してすぐのことだった。記憶喪失だと言う事を知ったアイツは愛想よく俺に色々な事を教えてくれた………

 

「……やっぱり、お兄ちゃん記憶を失う前から林田君の事が苦手なんだね」

 

「………別に」

 

嘘だ。俺はアイツがなんか気に食わない、特になのはに向けるあの舐め回すような視線がなんとなく危ない感じがした、ああ言う奴は一番信用できない。

 

「………さてと、」

 

「ん?どこに行くの、きょーちゃん?」

 

「サボる。後は任した」

 

俺はそう言って店のカウンターを飛び越え、店の前に駐車してあったオートバジンに乗り込む。

 

「ちょ、きょーちゃん!!」

 

美由希の声を遠くに置いていく、今日は快晴。春風が何か良い物を運んでいた

 

 

 

 

 

 

 

 

「クシュッ、あれ風邪かなぁ〜?」

 

転生者、林田光輝は真っ暗の闇で戯ける。

 

「まぁ、こんなとかに居るとね……ねぇ、踏み台?」

 

彼は前方に居る人物に尋ねる、それは少年か少女か判別し難いモノだった、身体のあちこちに暴行の痕、生きてるのが可笑しいそんな状態だった

 

「ぅッ……あぁ…ッ」

 

「あぁ、そうだったね。今の君舌、無いんだっけ」

 

少年はその目を冷徹に染め、背後の金の波紋から液体の入った瓶を取り出し、地面に転がるそれにぶち撒ける。

少しの間、ソレは人としての形を取り戻していた、ふとその子供は自身の下半身部分から違和感を感じた。ない、あるべきものがない!

 

「あれぇ、もしかして女体化の薬の方を掛けちゃったかな?ごめんね〜!」

 

わざとらしい声音で意気揚々としている光輝に対して、天照神楽は何もかもが瓦解仕切っていた。何処からだろう、何を間違ったのだろう?彼も光輝と同じように転生者であった、神に間違われて殺されてしまった彼は転生特典とこの転生場所【魔法少女リリカルなのは】の世界にやって来た、彼は大好きなアニメの世界に来れて大いにはしゃいだ、その後の彼の素行は俗に言うテンプレ踏み台、其のものだった………嗚呼それが彼の失敗だった。林田光輝に監禁されてしまったのだ、最初こそ毅然としていた彼だったが、徐々に屈辱的な拷問に神経をすり減らしていた。自身の能力で逃げ出そうとしたが彼を縛る黄金の鎖がそれをさせなかった。それもそのはず、彼の選んだ特典は2つヘラクレスの【十二の試練】と【無限の剣製】、対する林田光輝は古代の英雄王、ギルガメッシュの【王の財宝】である。あまりにも大きすぎる力の差、それが天照神楽の敗因であった……

 

「……ゆる、………し、………て…」

 

「……はぁ〜!何言ってのかなぁ〜き、み、は!君はね僕の運命の人にちょっかい出したんだよ、万死に値するね!!」

 

幼い少年の瞳は狂気が染まっていた。その目が一番恐ろしい、人間がする様な眼ではない

 

「今日も君をね、殺そうかなと思ったんだけど………質問に答えてくれたら今日は許してあげようかと思うんだよ」

 

藁に縋るような思いだった、自分はかれこれ一週間も監禁されていた、その度に一日一回殺されていた、特典のおかげで何回も生き返っているのだ、でも確かにこのままこの状況でいけば五日後には死ぬ。それを何とかして回避したかった、そのため逃げ出せるチャンスをいつも狙っていた、そのための日数を稼げる。顔をゆっくりと上げる、希望が湧いてきた。

 

「……ほん、と?」

 

「嘘じゃないよ、僕は嘘が嫌いなんだ」

 

その言葉を信じた、今はそれしかないと思った。

 

「聞きたい事とはこれだ」

 

光輝が神楽に一枚の写真を突きつける。

 

「これ………なに?」

 

その写真には黄色の瞳の仮面の戦士が写り込んでいた…。

 

天照神楽に希望を与える者はまだあらわれない………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハァ」

 

月村忍は広い自室てため息をついていた

 

「………なんで、恭也がああなっちゃつたのよぉ〜」

 

その原因は、『現在』の『高町恭也』だった

 

氷村の誘拐事件のあと、記憶を失った高町恭也は人が変わってしまった。無愛想で不親切、百年の愛も冷める程の性格になってしまったのだ。

 

「…まぁ、それだけじゃないんだけど」

 

ふと、ベットの枕元にある銀色のボックスを開ける。それは銀色のベルト、そう高町恭也が変身する為のベルトがそこに保管されていた

 

吸血鬼の血に完全に目覚めた氷村を圧倒した力の一片、自分が知らなかったあの力、どうしてもそれを知りたかった、それに内臓をグチャグチャされたというのにそれが一晩で治ったのだ、あの一家は人外の巣窟だがこれはあまりにも行き過ぎていた。そうまるで………、嫌そんなはずはないと自分の考えを否定する。このままでは埒が明かない

 

「………連絡しますか……」

 

忍は傍らに置いてあった携帯電話を手にする、その着信名は『高町恭也』と書かれていた

 

「あ、もしもし、恭也?今ひま、…………暇なんじゃない。どうでもいいけど、今から家に来なさい…………家の場所を知らないだって?どうにかしなさい、自分で!………なんで怒ってるですって!?ああ、もう!!」

 

忍の電話している表情はまさに恋する乙女だと綺堂さくらは語る。

 

 

 




次回、ベルト。
運命は廻り始めた………


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第三廻 ベルト

ふはははははひぁぁぁぁぁ!!やってやったよ、皆!初★感想!!これからも、何卒よろしくお願いします!!

あ、今回の作中に出てくるお店の元ネタ分かった人は餃子好きです。ハイ。


16∶00。いいくらいに日が傾いて、少し過ごしやすい時間。そんな快適空間に眼前の男、そいつは一応私、月村忍の恋人である、とある事件に巻き込んでしまったせいで、記憶喪失になってしまったのだ。それからと言うもの…………

 

 

「そんで、なんの用?どうでもいい事なのなら、もう帰っていいか?」

 

不機嫌そうな表情で問としてくるこいつ、高町恭也。

 

「………いいや、コレの事よ」

 

私は侍らせていたノエルから銀色のスーツケースを受け取り『例のベルト』を取り出す。瞬間、恭也の表情は真剣なものになる。

 

「………やっぱり、お前が持ってたか」

 

「……………ゴメンさないね、ワタシ的には『これ』が何なのか知りたかったし、それ以上に…………」

 

「なんだ?言ってみろよ」

 

「………何でもないわ、続けましょう」

 

私はこう聞きたかった………『アナタはだれなのか?』

理解してるのだ、最初から。これは高町恭也ではないと別の何かであると………。でも何故かそれは聞けなかった。

 

「?………まぁ、いいけど」

 

「それで恭也が変身したのはなんな「ファイズだ」

…………ファイズ?」

 

あっさりと教えてくれた、もっとこう『危険なモノだから教えられない』とか言って、はぐらかすと思っていたが何だか拍子抜けだ。

 

「俺にもよく原理はわからん、でもコレは『戦う』為の力だってのは分かる」

 

前言撤回、こいつなんもわかっていない。

 

「ん〜?『戦う』為?それは『何と』かな、恭也くん?」

 

叔母の綺堂さくらは恭也の言葉の穴にすぐ様に気づき、それを指摘する。それでも恭也は平然としていた……

 

「…………さぁ、な。俺に聞くな」

 

「はぁー!恭也が使っていたなら、分かってる筈でしょ」

 

「その『高町恭也』が今ここにいるのか?」

 

しまった。今の恭也は記憶喪失、だから何も知らない。それを突き通せる。

 

「それで話は終わったのか?ならこれは返させてもらう」

 

恭也がベルトに手を伸ばす、私はそれを遮る

 

「………どういうつもりだ」

 

「恭也の言い分はわかった………でも此方の話も通してほしい」

 

「話ならもうしたろ、なにすん「【変身】して」…………はぁ〜!」

 

さくらさんは恭也の【変身】を見ていない、ちょっとした好奇心で言ってるのだろう。

 

バンッ!と机を強く叩く音が部屋に静寂を齎す。恭也だ…

 

「………巫山戯んな、力ってのはな、『見せる』物じゃねぇんだよ。いざって時に自分が立ち上がるときに自分に『見せつけて』、自分の信じた『道』を再び貫き通す為にあるんだ、それを好奇心紛いのモノで見せてやるか!喧嘩売ってのか!!」

 

その表情にはハッキリとした『意志』があった。確かにそこにある………真っ直ぐとした『証明』だった……

 

「話は終わりだ。帰らせてもらう」

 

そういうと恭也は銀色のベルトを抱え、部屋を後にする。呆気に取られていた私達は少しの間動けないでいた、以前の恭也は簡単に怒鳴ったりはしなかった。それにあんなキザな言葉は言ったりしなかった、益々アイツが誰なのか知りたくなってきた………でも。

 

「………結構、良かったかも「オイ、忍」ひゃ、ヒャイ!!」

 

さっき出ていった彼が戻ってきたなんの用だろう?

すると、彼はドアの隙間から二つの物体を私に放り投げてきた。

 

「………これは?」

 

「『ファイズアクセル』と『ファイズブラスター』だ。お前に預けとく」

 

『ファイズ』というからには何かしらの強化ツールだと思うが

 

「……これを、どうして?」

 

すると恭也はバツが悪そうに頭を掻く

 

「………俺、重い物あんまり持ちたくねぇんだよ……そんじゃあな」

 

そういうと恭也は本当に出ていった、証拠に外からバイクの駆動音が遠くから消えていった………

 

「…………良いの、忍ちゃん?」

 

「良いんです、恭也は今はアレで。それに…………こうして『信用』はしてるみたいですし……」

 

………恭也はやっぱり『恭也』なのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『仮面ライダーファイズ』ねぇ?」

 

林田光輝は自室で頭を捻らせていた、高町恭也が変身した『ファイズ』。それは自分にとってとても予想外のモノだった、それ故、『ファイズ』について調べなくてはいけなかった。

 

「平成仮面ライダーの四代目、モチーフはギリシャ文字のΦ、【ファイズフォン】という携帯型変身ツールに変身コードである【555】を打ち込む事で変身できる」

 

用紙に書かれていたのはファイズの情報、天照神楽から強引に聞き出したのをまとめたものだった。

 

「強化形態は二種類、十秒間だけ通常の1000倍のスピードで行動できる【アクセルフォーム】、そして超殲滅型の【ブラスターフォーム】。…………一回殺してどうしてこんな力を手に入れた?」

 

殺した。そう、その表現は正しいモノだった……

 

月村氷村を目覚めさせたの自分、林田光輝なのだから。最初の動機としては『高町恭也』が邪魔に思えてきたからだ、僕がなのはを愛しく優しく観察しているとナニカと彼は僕を睨んできた。あぁ分かります、嫉妬してるんですね……『僕のなのは』が可愛すぎるからね、皆から愛させれてもしょうがないよね……………けどね、恭也さんアナタ、未来の義弟にその目はなんだい?僕を危険物みたいなモノ様に見たりして………ソンナノ……………

 

 

ボクノセカイニハイラナイ。

 

 

そう思ったら、僕の心の中で『高町恭也』を消すが事が決まった

自分が直接、手を出す訳にはいかない……………

そんな時ふと、『あの事件』の事を思い出した。

 

そうだ、あの時ならば!

 

そう、月村すずか誘拐事件だ……確か、氷…村?という奴が月村忍を自分の物にしょうとして失敗するんだっけ?まぁどうでも良い、まずは氷村の『吸血鬼の血』わ完全に目覚めさせ、高町恭也を殺した時点で僕が颯爽と現れて、氷村を殺す………そして、僕は月村家から無類の信頼を手にすることができる。邪魔な奴も消せて、信頼も得る。一石二鳥だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、それは思い通りにはならなかった………

 

僕は見た。覚醒した氷村が高町恭也の腹の中を掻き回す音も聞いた。

 

なのに、なのに、何故アイツは力を手に入れ、帰ってきた!!

 

 

『仮面ライダー』なんて、特撮の中だけの存在だろ!

………もしかして、アイツは『高町恭也』ではなく僕と同じように『特典』を手に入れた『憑依者』なのかもしれない!?

 

そうだとしたら、なのはが危ない!!あの踏み台と同じように擦り寄ってくるに違いない!

 

……しかし、『高町恭也』は様々の人に慕われている、僕が『アイツは憑依者なんです!偽物なんです!!』と言っても鼻で笑われるだけ…………

 

 

ドウスレバ、ドウスレバ、ドウスレバ、ドウスレバ、ドウスレバ、ドウスレバ、ドウスレバ、ドウスレバ、ドウスレバ、ドウスレバ、ドウスレバ、ドウスレバ、ドウスレバ、ドウスレバ、ドウスレバ、ドウスレバ、ドウスレバ、ドウスレバ、ドウスレバ……………………。

 

 

ふと、手元の資料が目に止まる。

 

「………ふ、フフフフフフフハフフフフフフフフフフフフヒハヒヒハハハハハ……………大丈夫だよ、なのは。少しの間待っててくれ、そのバケモノからスクッテアゲルカラネ☆」

 

狂気は止まらない、見つけてしまったのだ林田光輝は。

 

『ファイズの装着者は誰でも成れるわけではない……その身に《オルフェノク》の因子がなければならない』

 

「………与えるということは、与えられるということ………そうだよね、母さん」

 

その目は何も映さない、ただ………その壁一面に飾られた『高町なのは』の写真以外は…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『海鳴臨海自然公園』

 

最近の高町恭也のお気に入りの昼寝ポイントである………『高町恭也』になる前からの唯一の趣味が『陽のあたる場所で気持ちよく昼寝をする』だからだ。

 

 

と、言っても。夜の21:00まで寝てしまうのはどうかと思う………

 

 

「やっちまった……」

 

眼前に広がる星空にため息をつく『高町恭也』がいた。

 

彼は月村忍からベルトを取り戻した後、街をバイクで一通り疾走した。街の地形を頭に入れておく必要があった……何故か?答えは一ついつでもバケモノの所にすっ飛んで行けれるようにだ。

 

また、氷村みたいな奴が現れないとは言い切れない……だからその時に備えて準備をしている。

 

我ながら馬鹿な話だ。と自嘲してしまった、なにも救えなかった俺がまた誰かをまた守ろうとしているのが………そんな思いが頭いっぱいに募る。

 

そんな時は昼寝に限る!そして何かに導かれるようにこよ公園へと足が運ばれ、日のあたりが良さそうな場所をすぐさま見つけ、息もつかない内に安息の世界へと旅立った………

 

「……帰るか………痛てッ」

 

立ち上がろうとしたとき、右手の掌になにか鋭い感覚が走る。なんだ、恭也は先程まで右手の置いてあった場所を探る。

 

「なんだ、これ?」

 

それは、なにかの卵のようなモノだった……青白い光を弱々しく出しながら手の平に転がす。細かい装飾が施されており、表面にはローマ数字のⅣが刻まれていた………まじまじと謎の物体ⅹを観察していると…………

 

 

 

 

「……そ、その……持っている石を……わ、渡してください」

 

背後から少女のような弱々しい声。ハッと後ろを振り返る

 

そこには、オオカミといっては過言ではないといえないほど大型犬を連れた金髪のツインテールの少女が立っていた

 

俺は驚愕していた。その女の子の美しさに?連れている犬の大きさに?違う、自分が彼女たちの気配を微塵も感じていなかったことだ………曲がりにも『仮面ライダー』、寝ていたとしても気配を感じることができる。それなのにコイツ等は音も無く現れた!警戒心のためか、ポケットの中にあるファイズフォンを強く握りしめる。

 

「あ、あの……聞こえてますか?その石を渡して欲しいのですが?……………どうしよう、無理矢理にでも奪わないといけないのかな」

 

「あ〜!もう、焦れたいね!!アンタ、早くそれを渡しな、カブっと首元に齧り付くよ!!」

 

次の瞬間、少女の連れている犬が女性に変化する

 

(……ここまで来たら、なんでもありだなオイ!)

 

恭也の内心は焦りまくっていた、しかし同時に確信を得ていた。コイツ等は間違無く何かしら知っているこの『異変』のことを、そしてこの石がアイツラにとって何かしらの意味を持っている。聞き出さなければ、それこそ戦うことになってでも………

 

触発一発の状況、海風が後ろから冷たく頬をなぞる。

 

緊張した状況で動き出したのは金髪の少女ーーー

 

……グウゥゥゥゥゥゥ

 

ーーーの腹の状況を告げるものだった………。

 

一瞬にして、緊張感が霧散する。金髪の少女は紅く頬を染めながら羞恥に悶えている

 

とりあえず、一言。

 

「…………色々と台無しだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の名前はフェイト·テスタロッサ。

 

母さん。プレシア·テスタロッサに頼まれ、ロストロギアのジュエルシードの回収をしていた………それなのに、私は今お兄さんに連れられて、『中部日本餃子CBC』というお店に来ていた…………。

 

ちなみに、お兄さんの名前は高町恭也というらしい。ジュエルシードは昼寝して偶然見つけたらしい。

 

「おやっさん、茹で五、焼き五、にんにく増量!!」

 

「ハイよ!茹で五、焼き五、にんにく増量!!」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!私達今、お金ないんですけど……」

 

「ん?いいよ、俺が払うよ」

 

「え?……でも!」

 

「とある奴のばあちゃんは言っていた………『子供は宝、傷つけることは許されない』って、ガキが腹を空かせるほど悲しい物は無いからな……」

 

恭也さんはそう言いながら、右手の人差し指で天を指していた。何か意味があることなのかな?

 

「……ところで、この石は何なんだ?」

 

テーブルの上にジュエルシードを置いて、恭也さんはこちらの様子を伺ってくる。

 

「……アンタには関係ないだろう」

 

「残念ながら、関係なくは無い。もしかしてコレの仕業で俺の内臓の殆どがはじけ飛んだかもしれないからな」

 

その言葉を聞いて、私は血の気がサァーと引いていった、私達がジュエルシードの反応を察知に遅れたからだだから恭也さんはそんな怪我をしてしまったのだ、だったら知りたいと思うのは当然だし、知る権利もある…………

 

「ーーー分かりました、話します………『ジュエルシード』について………」

 

「『ジュエルシード』?」

 

それから、私は知っていることを全て話した……

 

『ロストロギア』のことや。

 

『ジュエルシード』のことや。

 

『魔法』のことや。

 

私がジュエルシードを母さんの頼みで集めていること。

 

恭也さんは静かに私の話を聞いてくれた、そして最後に…………

 

「…………一ついいか?」

 

「なんですか?」

 

「すまんかった!もしかして、俺。その『ジュエルシード』とやらを壊したかもしれん。」

 

ーーー今この人はなんて言った?

 

『ジュエルシード』を破壊した?古代の遺物『ロストロギア』を破壊しただって!?

 

「……実は、変なバケモノになった奴がいて。俺の恋人?を傷つけようとしてたから俺がぶっ潰したのだが……多分その時そいつと一緒に灰になったかもしれんーーーーーホントに済まない、お母さんの為に集めていた物を壊しまったんだ、どうにかして詫たい」

 

恭也さんが低く頭を下げてくる、なんでこの人は謝っているのだ、むしろわたしが頭を下げるべきなのに……

 

「………なんで、謝るんですか?普通ならわたしが謝るべきだと思うんですけど」

 

「え?だって、フェイトは別に悪くないだろ、むしろ俺はお前の母さんが必死に探しているものを壊したんだぜ……人の物を壊したなら素直に謝るべきだと思うが………」

 

………なんだか、子供ぽい。さっきの雰囲気と打って違いなんか安心した。きっとこの人は『嘘』をつかない人だ……私が『高町恭也』に抱いた第一印象だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに恭也さんは何十個に及ぶ数の餃子を一人でペロッと平らげました。




次回、始動
運命は廻り始めた………


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第四廻 始動

今回の主人公のコンセプトは『仮面ライダー』の名を重んじる孤独な戦士です……、そして彼にラブコメを期待してはいけません、絶対ですよ!!


ーーー今でも良く覚えている、小学三年生の時の授業。

 

『我、使命を受けし者なり』

 

将来の『夢』は何か?という内容だった。

 

『契約のもと、その力を解き放て』

 

周りの皆は思い思いに自分の『夢』を語っていた。

 

『風は空に、星は天に、そして不屈の魂はこの胸に。 』

 

すると、隣の席の林田君が微笑みながら私に「将来の夢はなに?」と聞いてきた

 

『この手に魔法を。』

 

………そういえば、あの時私はなんて言ったのだろうか?

 

『レイジングハート、セットアップ!!』

 

《stand by,ready 》

 

《set up!!》

 

ーーーその日の放課後私は『運命』を拾った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………餃子って、美味しよな?」

 

「恭也、僕は悲しい。お前がこんな不良に育ってしまったのが……」

 

高町家の中庭に逆さ吊りされた高町恭也がいた、なぜこのような状況になっているのかというと、恭也が店の仕事をほっぽり投げ、あまつさえ最近できた『中部日本餃子CBC』で働きたいと言ってきたのだ。士郎は変わり果てた息子、高町恭也を見て幾度も溜息をはいた。

 

「………そんなに、餃子か良いの?恭也」

 

そこに現れた、漆黒のオーラを纏った高町桃子がその場の男達を震え上がらせる、高町桃子の据わった目が恭也を射続けた

 

「あぁ、そうだ!教えてやろう、餃子ってのはな一種の芸術になるんだぜ、あの皮をどれだけ綺麗に包み込みそして、ソフトな食感にするかが重要なポイントなんた!!それに中にある具も重要だ、安直なニラとひき肉のコンボか?はたまたおつまみにもなるチーズを入れたパリってくる新種か!そこには無限の可能性が広がっている!!しかし、あの店はその可能性を捨て、あえて庶民的なメーニュ、それでは飽きてしまうのではないかと俺は思ったが…………それ間違いだと俺は気づかされた、あの店は古典的、しかしそこにホンモノが実現されていた!ちゃんと客が満足するにんにくの量、そして食べやすい適度な温度!素晴らしい!!ーーーー」

 

その後、ナニガアッタノカ良く覚えていない………

 

 

俺はフェイトに協力することにした。

理由を適当にこじつけさせなんとか納得させた、ジュエルシードとやらを集めているフェイトの母さんの目的がなんとなく気になる、それにフェイトが心配だ。アイツどう見たって無理していることが分かる、絶対倒れるに決まっている。

 

「……ままならねぇ」

 

「ん?何か言った、きょーちゃん?」

 

「………別に」

 

 

高町家の道場でひたすら木刀を振る美由希を横目に溜息に付きながら俺も木刀を適当に振る、不良ってのはね身体を動かせば治るてっ!と高町桃子に脅すような視線で言われ、いやいやながらも木刀を振っていた、周りのガキ共が『今日の恭也さんキレがないな』『風邪とか?』『いや、ありえねぇ…あの戦闘民族タカマチ家だぞ。風邪なんかひいた日なんてSEKAI NO OWARIだわ』『ハハハ、無駄口が叩けるということはもっと頑張れるよね』『ア、ハイ』ーーー士郎に地獄へと連れて行った。

 

「ところで、きょーちゃん何か思い出すことある?」

 

「…………特に」

 

「……そっかー、前のきょーちゃんは鍛錬するのが好きだったからこうすれば何かおもいだせるかな〜と思ってさ」

 

ーーー『高町恭也』は剣道が好きだったのか、だから身体が鍛えられていたのか。動きやすいのは良いのだか………俺も真面目に木刀を振ることにしょう、考えても仕方ない俺は『高町恭也』のことを知らなければならないのだから。

 

「頼もー!リベンジしに来たぞ、高町恭也!!」

 

道場の扉を蹴飛ばし現れた少年は鋭い視線で恭也を睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大城浩介、全日本小学生ボクシング大会で三年連続一位を取っていた。彼は純粋に『強さ』を求めて戦う、己の弱さに打ち勝ち何者にも淘汰されぬ様に……そんな彼の二つ名は『弾丸』。ただひたすらに勝利と強さに向かって突っ走る姿から取られたものだ、彼自身そのあだ名を気に入っていた、だから競技の壁を超えとにかく強い人間と戦いまくった。しかし、ある古道場でとある青年に出会った……そう高町恭也だ。彼はいつも通り道場の誇りを賭けて戦えと挑発した、それを買った恭也と試合した、瞬間自身は床に倒れ伏せていた………何が起きたのか理解できなかった、どうして自分は地に伏せられている?そこで彼は初めての敗走に至った………。悔しかったただその屈辱が彼の心に深く刺さった、たがら彼は修行わした、あの男わ倒すために自分が最強だと納得する為に…………………しかし、届かない未だにあの速さを見切れていない、あれでは前と同じように瞬殺されてしまう、躓き転ぶ。その先に光が見えた気がした……ひたすら手を伸ばす、あの頃の弱っちい自分に戻りたくない、必死にただ必死に。その願いは『強さ』。そして、その青白い光を灯す石は彼に『力』を授けた………。

 

 

「さあ、もう一度戦え!高町恭也!」

 

なんか熱血系のガキが俺に対して戦うように促してくる、頭にリストバンドを付けたガキは口を三日月の様にして俺を睨む。

 

「………嫌だね、それ以前にお前誰だ?」

 

「ッ………!大城浩介だ、弱者の名前を覚える気がないというあてつけか!」

 

なんか、逆ギレし始めた。最近の子供ってのは皆危ないやつなのかよ

 

「…………どうだっていいけど、俺はやる気がないからそれにガキを虐める趣味を俺は持ってねぇ。さっさと帰れ」

 

「ーーーほぅ、怖いのか?師範代がこのなのだったらこの道場の底が知れる」

 

「どうとでも言えよ、とにかく俺はお前に構ってやれるほど暇じゃない、帰れ」

 

この後、図書館に行って調べものをするんだ………………店をサボって。

 

「………だったら、こいつらを痛みつけるか」

 

『ヒィッ!?』

 

浩介の殺気が篭った視線が門下生達を捉える、蛇に睨まれた蛙といったところだ。

 

「ーーー………仕方ねえ、やってやるよ」

 

「きょーちゃん!?」

 

「そうこなっちゃ!あの時のようにはいかんぞ!」

 

まったく、『高町恭也』は面倒事をおいて行きやがった。九条はそう思いながら心の中で『高町恭也』を批判した。

 

 

 

「………おい、高町恭也。」

 

「さんを付けろ、ガキが」

 

「……なぜちゃんと構えない、俺をおちょくってんのか!?」

 

今の俺は竹刀を右手で持ち、空にぶらつかせた状態である。剣道をする状態では無いと分かる、しかし今の『高町恭也』が出来る最強の型なのだ

 

「うっせぇーな、さっさと来やがれ」

 

「ッ!後悔するなよ!」

 

瞬間、床のきしむの音が聞こえた。

 

(早いッ!?でも!)

 

物凄いスピードて迫る浩介をブラつかせた竹刀で地面にはたき落とす

 

「喰らえっ!」

 

それを諸共せずに倒れた姿勢のまま、俺の右ばらに蹴りを叩き込もうとするが、それを竹刀でガード。

 

「グッ!!(これがガキのパワーか!?)」

 

しかし、衝撃の勢いを殺せずそのまま道場の端まで吹き飛ばされてしまう、ほんの少し背中に痛みが走ったがかまってられない、戦闘続行だ。パキッ…………………………………………………………………………………竹刀折れた!?

 

「折れたぁー!」

 

思わず声に出してしまった、しかしそんな事を他所に浩介は恭也に向かって突進してくる、あの目はダメだ。確実に殺り来てる目だ。次に恭也が取った行動は単純だった。

 

「ーーーシャアっ!」

 

折れた竹刀を地面に叩きつけて、ファイティングポーズをとり、両足を軽くスナップさせた………それと同時に向かってくる浩介に走り出した。

 

「クッ!」

 

「ソリャア!」

 

二人の拳が交差する。身体的に上を往く恭也に浩介の拳は届かず、恭也の拳が胸部に到達する。拳の勢いを捌ききれずに浩介は後退をしてしまう。すぐさま体勢を立て直し恭也を捉えようとする……その瞬間、地面と水平になった蹴りが浩介の顔面を捉えた、その勢いと衝撃は浩介の意識を刈り取るの容易かった………。

 

「………まあまあだな、お前」

 

衝撃と屈辱。浩介の薄れていく意識に深々と刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………図書館てのは、いつも好きになれないね」

 

小声で海鳴市立図書館を彷徨く青年、高町恭也はあまりにも不機嫌な様子だった……、あの試合の後恭也の蹴りによって気絶させてしまった大城浩介はすぐに覚醒した大城浩介は様子を見ていた恭也を鬼の形相で睨みつけ、そのまま無言で走り去っていった、その間道場内に微妙な空気が流れていた、その状況に耐えきれず高町恭也は道場を飛び出し、ここに逃げてきたのだ。

 

閑話休題。

 

 

彼が今日此処に来る訳があった、この世界の『仮面ライダー』の有無、そして怪しい噂または都市伝説の調査。つい最近、魔法少女なる者と遭遇し、この『世界』も異常性があると判断したからだ。

 

「………俺てっいう存在がイレギュラーだけどな」

 

『仮面ライダー』が存在する『世界』は必ず人類を脅かす『脅威』が現れる。一種の法則が彼の脳裏を過る、だから調べるしかない、自分という存在のせいでもうなにか起こっているかもしれない、だから知らなけてはいけないそれが『九条誠一』の罪なのだから………

 

「…………あの、すいませんが退いてくれませんか?」

 

不意に声をかけられた、声の主は車椅子に乗った少女だった、どうやら考え事をしていて気付かなかったらしく彼女の道を塞いでしまったらしい、俺は無言のまま道を譲る。

 

「……おおきに」

 

下手な大阪弁だ。

 

 

 

 

 

 

数冊の本を抱え、陽のあたる机に腰を掛けた。横を見ると先程の少女が静かに読書を満喫していた、自分も調べ物に取り掛かろえとした時、少女が読書をしていた本の題名に目が止まった。

 

 

「…………なあ、アンタ、その本」

 

少女が不意にかけられた俺の声に遅れて反応して、こちらを見てくる。

 

「………えーとっ、この『仮面ライダーの全て』ていう本がなんでしょう?」

 

「いや、その本をどこに置いてあったのかなてっ……」

 

「え、あぁ、この本ならいつも棚の隅っこに置いてあったやけど……」

 

《仮面ライダーの全て》

この本の事はよく知っている、俺の、『九条誠一』の世界にいた俺の唯一の親友が書いたものだ。この世界にあるはずもない物が此処にあるのに驚愕していた、でもそれ以上に嬉しいと感じた。いつの間にか涙が瞳に集まっていった。

 

「え、だ、大丈夫?お兄さん」

 

「いや、大丈夫だ。ありがとう、ちょっとな友人が書いた物がここにあったのがつい感極まってな…」

 

「へぇ〜、この本を書いたのがお兄さんの友達なんか……これはおもしろいなあ、こんなめぐり合わせがあるもんか」

 

「世界、なにが起きるか分からないしな。事実俺が今それを体験してるし」

 

こんな嬉しいことがあるか、世界てっのは大嫌いだがこんなのは悪くないと思えている。頭を過る友人との楽しい思い出の日々、忘れ去っていた思いがこんな場所で気付かされた。

 

「……なあなあ、お兄さん。この本の作者さんと友達なんやろ?だったら面白かったって伝えといてくれん?」

 

「…………あぁ、いいぜ。あいつも喜ぶしな」

 

「ありがとうなぁ、うち八神はやてって言うねん。お兄さんは?」

 

「俺か?……俺はな『高町恭也』っていうんだ、よろしくな。」

 

車椅子の八神はやてと握手を交わす、これが彼女との最初で最後の言葉の交わし合いだった……。

 

 

 




次回、強者。
運命は廻り始めた………


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第五廻 強者

2話連続、疲れました……。
これ書いていると左肩が痛くなります、どうにかしたいものです

久しぶりの戦闘シーンなのでうまく書けているか分かりません、できれば良い出来であってほしいのですが…………………。


その場所は光の指す場所だった……

 

その場所は歓声の鳴り響く場所だった……

 

その場所は『強者』だけが立つことが許された場所だった……

 

その場所から下を見渡す、転がっている『弱者』達がいる、涙を呑んでその場から消えるだけ。

 

圧倒的勝者。そんな優越感が彼を満たす

 

『…………まあまあだな、お前。』

 

黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ………。

 

 

 

 

 

おれはなんでつよくなりたいんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お兄さんに出会ったのは、偶然やった。

 

うち、八神はやては幼い頃両親を失った、さらに足の自由も失った。

 

小学三年生にて、一人暮らしを余儀なくされた。

 

ただ寂しい。そして虚しい。朝起きて食事を作り一人だけの食卓で箸を動かす音が響く、昼になれば図書館で時間を潰し、夜になれば誰も『お帰り』と返してくれない家に帰って寝るだけ、そんな悪循環な日々。

 

「………寂しいなぁ〜ッ!」

 

そんな泣き言をただ喚く日々、嫌気が差してくる、もう母さん達のもとに逝きたい。

 

………そんな日々を破壊するような出会いがあった。

 

いつも通り、暇を潰すために図書館に来たうち。

 

大抵の本を読み尽くしていた私は図書館の一番奥の棚に面白そうな本を探しに来ていた、なんというかその場所は別の空間として存在していたその場所だけこの図書館から切り離された。不気味だった、とりあえず恐怖からその場所を離れようとした

 

「……」

 

「……ん?誰かいるんか?」

 

声がかけられた気がした、振り返っても誰もいない。でも確かに声が聞こえたのだ。

 

「…………ち、ちよっと確かめてみるか」

 

好奇心が私を動かした、ちょっぴり怖いがそれより知りたいという欲が打ち勝つ。数十メートル先を車椅子て移動した、奥に行けば行くほど段々と薄暗くなっていく、ここは本当に図書館なのだろうかもしかして別世界にいるのではないかと思えてしまった、引き返そう。そう思ってもと来た道を戻ろうとしたとき。

 

ガタッ

 

「ヒィッ!?なんや!?」

 

物音をした恐る恐る振り返る。そこには一冊も本が入っていない本棚が配置されてあっただけだった……………嫌、違う。その本棚の一番下の段に一冊の書物が横向きに倒れていた。

 

 

 

「…………なんやこれ?」

 

きっとさっきの物音はこの本が倒れた音だったのだ、そう納得し、ホコリを被った本を拾い上げフゥッと息を吹きかけた。ホコリが舞い上がり、少しむせてしまった

 

「《仮面ライダーの全て》?」

 

これが《運命》との出会いだった………

 

 

 

 

 

 

その本は小説でありながら図鑑のようなものだった。主人公の《十条 誠》が《グロンギ》という怪人に襲われたところから物語が始まる、十条はその時運命的にも《スロットルドライバー》を手に入れ、《仮面ライダークウガ》に変身してしまう。そして、彼は十八の世界から来る怪人に十八の《仮面ライダー》の力を携えて戦った………………。

 

「『この雨だって絶対止むよ!そしたら青空になる!今だってこの雨を降らせてる雲の向こうには、どこまでも青い空が広がってるんだ!』か……」

 

この言葉がなんとなく心にストンと入ってきた、今は雨が降っていてもいつか青空が姿を表す。いつか自分もそうなるのだろうか………イヤ、きっとそうなる。だから陰気なことを考えずに笑顔に生きようそう思った…………。

 

その一週間後、『高町恭也』お兄さんに出会った。

 

 

 

 

 

 

海鳴臨海公園の片隅にある人気のない街灯が当たるベンチに一人。餃子を頬張る青年、高町恭也かそこに居た。

時刻はすでに20:00を過ぎていて、公園にはもうすでに昼間のような活気は消えていた。その中で恭也は餃子の温かい湯気が昇る夜空を見上げた。なにか感慨深いものだ巡り合わせと言うものを初めての感じた気がした、あの『世界』の軌跡は自分だけしかないと思っていたが、まさかあの本が有ったなんて、この世界に来てから感じていた孤独感が霧散した。ファイズフォンを取り出し電話番号をプッシュする、通話先は高町家だ。

 

「もしもし、恭也だけど」

 

『あ、お兄ちゃん。どうしたの?』

 

「なのはか、いやな今日も遅くなるって伝えといてくれ」

 

『どうしたの、なにかあったの?』

 

「………いやな、ただの野暮用だ」

 

『………そう、なんだ。』

 

「………なんかあったか?」

 

『う、ううん。何でもないよ、あ、お母さん凄く怒ってたよ。また、サボったって』

 

「………」

 

『お兄ちゃんは変わったよね、いや、記憶がないからよく分からないか……』

 

「そういうもんか?」

 

『うん、前はね。もっとカッコよかったよ、真面目だったし。』

 

「………それは遠回しに今の俺が不真面目でカッコ悪い奴と言いたいのか」

 

『ち、違うよ。今のお兄ちゃんもカッコ良いよ……………………ちょっとだけ』

 

「…………なのは」

 

『ん?なに、お兄ちゃん』

 

「……頑張れよ」

 

『…………うん、お兄ちゃんも。』

 

「じゃあな」

 

そこで通話を切った、そして食べかけの餃子をベンチに置き、立ち上がった。

 

「……………出てこいよ、殺気をガンガンとぶつけてくれちゃって気持ち悪いんだよ!」

 

すると、闇の中から幼い影が現れた。

 

大城浩介だ。しかし、その表情は生気が完全に抜けていて、別人に見えてしまうくらいまで様変わりしていた。

 

「……………こういうのさ、鴨が葱背負ってきたてっいうのかな?」

 

くだらない冗談をこの状況に合わせた、彼はここで待っていたのだ大城浩介という名の鴨を。

 

殺気がいきなり鋭く恭也を射る、その時浩介の胸から青白い光が発生し辺りを包み込む。数十秒過ぎた辺りで光は収縮していく、その光から現れたのは一人の青年だった、上半身は筋肉質で構成されており体温が高すぎるせいか蒸気が身体のあちこちに立ち上がっていて、その両拳には真紅のグローブが嵌められていた。

 

「………やる気満々てか」

 

恭也はコートの前をはだけさせ、現れたのは銀色のベルト。そして右手に握っていたファイズフォンにコードをプッシュしていく。

 

 

ーーー555、Enter

 

《Standing by》

 

「変身ッ!!」

 

《Complete!!》

 

ファイズフォンをベルトの中央部分にセットする。

 

刹那、紅い流体エネルギーフォトンブラッドが恭也の身体中を駆け巡り、超合金ソルメタルの装甲が纏われる。

 

仮面ライダーファイズがそこに立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『じゃあな』

 

短い兄との通話の後、私は電話の受話器を静かにおいた。

 

本当に兄は変わってしまった、記憶喪失だと初めての聞いた後、私は兄とどんな風に接すればいいのか分からず困惑していた。なにを話すか?そう悩んでいると不意に兄が言葉を掛けてきた。

 

『………大丈夫か』

 

短い言葉だったが、気付くことがあった。兄さんは兄さんなのだ。兄は記憶を失って一番大変なのに、そんな兄になにを話そうかと悩んでいた自分を気遣ってくれたのだ。その後の行動は簡単なモノだった。

 

『お話しよ!』

 

「フッ、さてとがんばなくちゃね!」

 

これから訪れるあらゆる出来事に向かって頑張っていこう、そう決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィィィッン!!

 

金属が何かにぶつかる音が海鳴臨海公園に響く、ファイズが浩介の拳に吹っ飛ばされ、砂浜を転がる。

 

「ぐっっっ!!」

 

ダメージが体に蓄積されているのが分かる、先程からジュエルシードによって強化された浩介のスピードに圧倒されているのだ。ファイズアクセルは今所持指定ないのが失敗だった。しかし、無いものを気にしてはいけない今の状態であのスピードにどう打ち勝つか、それだけを考えるべきだ。砂を踏み出す音が聞こえる、浩介がもうやってきたのだ。バッと立ち上がり浩介を睨みつける、それと同時に間髪入れず物凄い脚力で砂を蹴った浩介を右ストレートで打ち返す。

 

「当たれっての!!」

 

しかし、そのかい虚しく攻撃が空を切る。俺の懐に潜り込んだ浩介は必殺の右ストレートを叩き込む。

 

「グワハァッッッッ!?」

 

ファイズが宙を飛ぶ、そのまま数十秒間の空中浮遊を終え、ファイズは海岸の岩石地帯まで吹き飛ばされる。岩盤に背を預けた状態でゆっくり迫る浩介を見やる。

 

「………めんどくせぇ」

 

吹っ切れた。考える事を放棄した。ただ眼前にいるクソガキを叩きのめす、という単純な考えだった。ファイズはファイズフォンをベルトから取り外し、103、とコードを打ち込んだ。

 

ーーー《Single Mode》

 

電子音を聞き、ファイズフォンの上画面を左に傾け『フォンブラスター』を突きつけるように浩介に向けて、引き金をひいた。

 

「ッ………!」

 

瞬間、紅い光弾が浩介の体を貫き浩介はたじろぐ。それを見逃さないファイズはファイズフォンをベルトに戻し、ミッションメモリをデジタルカメラ型パンチングユニット《ファイズショット》に挿入し、ファイズフォンのEnterのボタンを押す。

 

《Exceed Charge》の音声が発せられると共に、

フォトンストリームを経由してフォトンブラッドが注入され、ファイズショットに挿入されているミッションメモリが輝く。

 

二人が睨み合う。次の一撃が最後の一撃、これを外したら後がない。

 

緊張が辺りに漂う。

 

「………うおおおおおおお!!」

 

先に動いたのはファイズだった、拳を構え突進してくるファイズを冷静に浩介は待ち受けていた。そして、二人が、交差する……………………とファイズが浩介の拳が当たるギリギリに飛び上がり、浩介の真上を往く。咄嗟の事に反応が遅れた浩介はすぐさま振り向く、が。刹那、腹部に強い衝撃が奔る。ファイズだ。

 

二人はそのままの状態で静止した。

 

そして、浩介は地面に倒れ伏せた。

 

 

元の姿に戻った浩介を確認したファイズは変身を解き、落ちていたジュエルシードを拾い上げその場から去ろうとする

 

「ー……まっ、てぇッ!!高町恭也!!お前は何故それほどまでに強い、俺と何が違うだていうのだ!!答えろ高町恭也ッ!!」

 

少しの沈黙、そして恭也は浩介を横目で見ながら口を開けた。

 

「………さぁな、ただ俺は、力でなにを『証明』すべきか分かっているだけだ」

 

恭也の言葉は続く。

 

「結局のところ、『力』なんて物はな『壊す』ことしかできない、それで何かを守りたいだなんてそもそもが矛盾しているんだ」

 

「けどな、それでも何かを証明しなきゃいけないんだ。『力』て言うモノを持つやつの責任ていう奴だな、それを持つ意義を。それで何を現実にするのか。『護る』も『壊す』も自分次第てな…………」

 

その言葉を後に恭也は光へとあるき出した。

 

 

 

 

 

 

あの人はまだ来ない、隣には餃子だけが置かれている。きっとここには来ていたのだ。フェイトはベンチに座って高町恭也を待ちぼうけていた。

 

彼と知り合って一日が経つ、彼との約束で一日の終わりごとにここで会い、ジュエルシードの情報などをやり取りすることになっているのだ。

 

「それにしても、アイツ。遅いねぇ、来ないんじゃないかね」

 

使い魔のアルフが苛ついているのがわかった。

 

「大丈夫だよ、アルフ。あの人はそういう人じゃないよ」

 

「だと良いんだけどね」

 

すると闇の向こうから足音が聞こえる、彼だ。

私はベンチから飛び降りた、彼が来る方向を見る。

 

そこから現れたのはボロボロになった彼の姿だった……

 

「ど、どうしたんだい!?アンタ」

 

「………ちょっとした、野暮用だ。それにほれ。」

 

彼が私に何かを放り投げた、それは私達が探し求めていたジュエルシードだった。なぜこれを、もしかして、これを手に入れるために彼は怪我をしたのでないか、罪悪感が私の胸に満ちる。

 

「………その、すみま……」

 

謝罪の言葉を発しょうとした時、彼の大きくて温かい手のひらが私の頭に乗せ、穏やかな笑みを浮かべていた

 

「気にすんな、俺が勝手に怪我しただけだ、気にすんな」

 

そういうと彼はベンチに置いてあった餃子を抱え、その場を後にした。

 

私達を残した場に冷たい夜風が通り抜けた………。

 

 

 

 

 

 

 




次回、邂逅。
運命は廻り始めた………。


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第六廻 邂逅

待たせたな、最終フォームは回しで行くのよ!!


 私、高町なのはは聖祥大附属小学校に通う普通(···)の小学三年生だったんだけど………ある日の放課後に不思議な声が聞こえたの、そこには傷ついたフェレットがいたんだけど、実はそのフェレットは“ミットチルダ”てっ言う異世界から来た魔法が使えるフェレットさんだったの。あ、名前はユーノ君って言うの。

 

 そして、私は『魔法』の力を手に入れて、この街に落ちた『ジュエルシード』を封印する為に頑張ってるの!

 『ジュエルシード』てっ言うのは危険な物らしくて、放っとくと暴走したり周囲の生物を取り込んで暴れたりするらしいの……。

 

 だから、私はユーノ君から『魔法』の力を借りて、未然にそういう事件を防ごうと思い、日夜奮闘しています。それにユーノ君の力にもなってあげたいし。

 

 実は私以外にも力を貸してくれる仲間がいます!名前は林田光輝君、光輝くんは私より先に魔術師として活動していたらしくて、魔力量が私の何倍もあるんだって。すごいなぁ、昔からなんでもできた彼だから、そんなに驚かったの。

 

 そんな、日々戦っている私達にも休息が必要なわけなのです。たまの日曜なのでサッカーの応援をしに行きます。

 

「…………なぁ、どうしても行かなきゃいけないことから?」

 

「何言ってるの恭也、記憶がないと言ってもあのサッカーチームを支えてきたのは貴方なのよ。試合の時に来てくれたらあの子達だって良い励みになるの、ほら、無駄口叩かずさっさと動く!」

 

あぁ、またなの。お兄ちゃんの高町恭也が恋人の月村忍さんに絡まれている、これで何回目がわからないの。

 

 実はお兄ちゃんは今記憶喪失なの、だから恋人である忍さんがよく家に来て、お兄ちゃんを街を連れ回すの。

そんな忍さんが嫌なのか、お兄ちゃんはよく家を留守にしてるの。前に何処に行ってるのか聞いてみたら公園で昼寝してるんだって……………それじゃあ、唯の穀潰しなの。

 

そんな、家族ですが。私は元気です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たまの日曜にも関わらず今日もこの女、月村忍は笑顔で俺が運転するオートバジンの後ろに乗っている。

 

「ところで恭也、前々から思ってたんだけど………貴方バイクなんて持ってたかしら?というか免許証は?」

 

「知るか俺に聞くな、それにこのバイクは普通のバイクじゃねぇのはお前が一番しってるだろ」

 

「う〜〜ん、まあ、そうなんだけどさ……」

 

なんとか誤魔化せた。こいつ妙に感がいいからな、できればまだ、俺が『高町恭也』では無いと知られたくないしな。すると、周囲の車が動き始めていたどうやら考え事をしている内に信号が青に変わったのだろう。後ろの車がクラックションを鳴らしながら早く行くように促してくる、再びエンジンの爆発力でオートバジンを動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………だるいな」

 

「恭也、言いたいことは分かるけどさ…今は控えとこうよ」

 

燦々と照らす陽気な太陽の光がどうにも恨めしく思えてしまう、何故眼前で元気に少年たちは白黒の円形状のゴムボールを蹴り合うことができるのだろうか。若さというのは神秘に構成されいたのかと馬鹿な考えが恭也の頭にあった。

 

「……ねぇ、今ね恭也が考えている事大体分かるんだけど、私はただ単に『一族の血』のせいで元気が出ないだけです!!」

 

なにを言ってんだこの女、恭也は心の中で呆れたため息を付く。このままでは面倒くさいことになるだろう、話題転換を図ることにした

 

「………やっぱり、一族的に太陽って駄目なのか?」

 

「う〜ん、全然駄目って言うわけでは無いんだけどね、やっぱり苦手って感じはあるのよね」

 

『夜の一族』とやらはどうやら『吸血鬼』の生き残りの子孫らしく、月村家はそういう連中のボスをやってきてるらしい。

 

「まぁ、ご先祖さまみたいに吸血衝動はあるんだよね」

 

「………え、なに。そういう時ってお前はどうしてんだよ?」

 

「献血した血を吸ったりして抑えたり、まあ対処は色々あるんだけど、中には全然飲まなくても大丈夫っていう人も居るんだよ。結局の所性欲に似たものだから抑えることはできるんだけね」

 

「へぇ〜、でも本当に吸いたいってという時はどうすんだよ?」

 

「……それは、……ねぇ〜〜?」

 

忍の扇情的な意志が篭った視線が俺の身体を舐め回すように見てくる。よし、決めた俺絶対こいつの前で必要以上に接触しない。

 

「あ、そうそう……………恭也」

 

「なんだ?」

 

「前に預かった『ファイズアクセル』と『ファイズブラスター』返すわ」

 

「……………いいのか?」

 

「うん、さくらさんが三徹しても構造が理解できなかったらしくて、だったらもう返しちゃた方が良いかなってそれにアレがなくて恭也が色々困るかもしれないしね」

 

それもそうだ、先日の戦いでその他の強化パーツが無くて、苦戦したのは事実だ。それにコイツも色々と納得したらしいしな。

 

「すいません、恭也さん」

 

唐突に背後から声がかけられた、振り向くとそこには一番会いたくない人物、林田光輝その人がニコニコした笑顔でそこに居た。

 

「あ、光輝くん。元気?」

 

「はい、お陰様で」

 

「……………それで、なんの用だ?」

 

「…………いえ、少し二人っきりで話しくて……迷惑でしょうか?」

 

「別に」

 

「そうですか、良かったです!」

 

そういうと俺は林田に連れられて、建物の隅っこへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、なんの「オルフェノク、なんでしょ?」………なんだと?」

 

今、こいつは何と言ったか?一瞬理解が追いつかなかった。そんな俺の様子が面白いのか林田は未だにニコニコと嘲笑っていた。

 

「聞こえないんですか、『オルフェノク』なんでしょ恭也さんは?」

 

何故こいつはオルフェノクのことを知っている、この世界にはオルフェノクの存在しない筈だろ。そんな悩んでいる俺の様子を察してか、言葉を紡ぐ。

 

「オルフェノクのことは、私の『友人』から聞きました。もちろん『ファイズ』のことも、ね。」

 

あざとく首を傾げる。こいつは一体何を言っている?というか俺が一番気になるのはその友人って奴だ。そいつが『仮面ライダー』のことを知っていて、それをこいつに教えたと言うなら、色々とヤバい

 

「…………それで、なにが目的だ?」

 

「あれ?否定はしないんですね」

 

「どっちにしろ、お前は分かりきってるんだったら誤魔化す理由はない」

 

「へぇ〜、案外さっぱりしてるんだ。偽物のくせに。」

 

偽物か…………随分と懐かしい言葉だな、なるほどコイツはわかっているわけか、俺が『高町恭也』じゃないって言うことに…。

 

「まあ、いいか。それで『目的』でしたっけ……………簡潔に言わせてもらうと『この街から出ていってください』」

 

「…………随分と直球なことで」

 

「笑い話じゃねんだよ、お前は危ないんだよ。存在的にも。世界的にも。バケモノ」

 

林田は切り替えるのように先程のニコニコとした笑顔から反転して今は、恭也に向かって鋭く冷たい殺気がにじみ出ていた。

 

「…………………………………残念だか、それは無理な相談だ」

 

「……なに?」

 

俺っていう存在がこの『世界』に害を成すことは重々と承知していた、しかしだそれでも俺はこの街を離れられない『約束』があったのだ、とりあえずそれを成し遂げるまでここを離れるわけにはいかないのだ。それに……

 

「少なくとも、俺は『今の高町恭也』として、なのは達の笑顔を守らなきゃいけない」

 

少なくともこれが俺の存在理由、そんな俺の言葉が気に入らないのか林田は怪訝そうな表情で俺を睨みつけた。

 

「…………………後悔しないでくださいね」

 

その場を去ろうとする林田、そんな林田を見送る俺はいつの間にか拳を作って、強く握りしめていた。

 

「ーーーあ、そうそう少し良いですか?『魔法少女リリカルなのは』っていう言葉に聞き覚えは?」

 

「は?なんだそりゃ」

 

「……知らないなら、いいです」

 

その質問を後に林田は振り返らずに歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれは危ないな、そんな言葉が風に乗ってかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、恭也!遅いよ、何してたの試合終わっちゃったよ!?」

 

急いで忍のもとに戻るとどうやら試合が終わっており、忍たちが待ち呆けていた

 

「………すまねぇ、色々とあった」

 

「そういえば、林田くんと話してたけど何をはなして晩御飯たの?」

 

「ん?う〜んと別に大したことじゃないよ」

 

どうやら、林田はあの事を話す気はないらしい。

 

「さて、そろそろ帰るか」

 

皆それぞれの荷物を背負い、夕焼けで紅く染まり上がっているグラウンドから続々と帰路に向かって足が伸びていく、子どもたちの会話からは今日の晩御飯はなんだろうか?や今日の試合は勝って良かったと喜び合う声が聞こえた。

 

「……………みんな、それぞれの『家』に帰るんだな」

 

恭也、いや『九条誠一』の家はもう存在しない。どんなに足掻いても救えなかった結果として自分以外の存在の消滅が起こってしまった『彼の世界』は帰れない場所になってしまったのだ、しかし今は少なくとも『高町恭也』として目の前にいる『大切な人達』を守らなきゃいけない、それだけが自分の心の根底に有った。

 

「お兄ちゃん、早く行こ?」

 

「…………あぁ、そうだな。『帰ろうか』」

 

 哀愁漂う恭也の様子にその歳独特の可愛らしさを持った笑顔で手を引っ張るなのは。きっと、明日も恭也は『自分の居場所』の為に戦うのだろう。

 

今日が終わっていく。恭也はなのは達の隣に立ち家路を急いだ…………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぎゃあーー!!』

 

『たすけて!誰かぁッ!?』

 

『なんだ、コレはァ!?』

 

瞬時に耳が捉えた助けを求める声、恭也は辺りを切羽詰まった表情で見渡す。なのは達は気づいていない様子、それもそのはず今こうしてなのは達が捉えられない叫び声を拾えるのは『オルフェノク』としての性質故だ。

 

「ッ!!」

 

 いてもたってもいられない、恭也は爆発的に走り出した。その肩に銀色のベルトを背負い込んで。

 

「ちょっと、恭也どこ行くのよ!?」

 

 忍は急に走り出した恭也を追いかける。しかし、恭也はそんなことに構ってられなかった。とにかく、今も聞こえる声を頼りに路地を駆け抜ける、やっとこさ暗い路地に出口の光が見えだした。近い!研ぎ澄まされた五感が本能的に理解する。

 

 

「危ない!!」

 

瞬間、上空から強い衝撃があった。金髪のツインテールの少女のフェイトその人だった。

 

「何すんだ、フェイト!?」

 

「こっちのセリフです!!ジュエルシードの魔力反応があったから、来てみれば。貴方がまた危険に突っ込もうとしてたんですよ!この前に言いましたよね、もう危険な事をしないでくれって!?」

 

恭也に跨った状態でキャラぶっ壊れで説教してくるフェイトに圧倒され、沈黙するしかない恭也を後ろからやってきた赤毛のアルフが深くため息をついていた。

 

「………てか、やっぱりジュエルシードか」

 

「えぇ、そうです。どうやら、現住植物わ取り込んで巨大な樹木が暴れている状況です」

 

淡々と真面目な表情で説明を聞きながら恭也は『ヘルヘイムの森』の事を思い出す。

 

「…………因縁臭えな」

 

「?……まぁ、今回は相手が違い過ぎます。だから大人しくして、…………ってちょっと待ってください!?」

 

フェイトの拘束を無理やり解き、恭也は事件の現場へと飛び出した。そこには、巨大な樹木が段々と木の枝を鞭

のように使いながら、ビルなどの建造物を飲み込んでいた。まるっきし『ヘルヘイムの森』じゃねぇかと恭也が苦笑した。

 

「ちょっと、危ないですって!!」

 

「そうだよ、恭也。ここからはあたいたちの領分だ、下がっていな」

 

「…………………すまんが無理だ、なにしろ俺は」

 

 銀色のベルト『ファイズドライバー』を勇ましく腰に巻きつけた

 

ーーー555 Enter

 

《Standing by》

 

「……………偽物でも化物でもーーー俺は『仮面ライダー』だからな!!」

 

「変身ッ!!」

 

天に掲げたファイズフォンをベルトに叩き込む。瞬間、フォトンブラッドが恭也の身体中を駆け巡り、眩い光となってそれは存在した。

 

《Complete!!》

 

 

仮面ライダーファイズ。

 

偽物の青年は闇を切り裂き、光を齎す仮面の戦士と化す

 

「な、………なんですか、それ?」

 

「あんた、魔道士だったのかい?」

 

「………今、答えたはすだッ!!」

 

 変身完了と共に樹木はファイズを得体の知れない標的として捉え、木の根を器用に振り飛ばした。

 

「シャアっ!!」

 

すかさず攻撃を避け、木の根に拳を叩き込む。しかし効果は薄く、木の根は少しヘコんだだけだった。攻撃を反転させ反撃に移った木の根の鞭の様にスナップの利いたなぎ払いはファイズをビルの壁にめり込ませた。

 

「(さすがに、コイツは失敗したな……)」

 

地面に叩きつけられる前に体制を立て直したファイズは劣勢な状況だっだ。フェイト達は他の木の根を相手にしているので応援は期待できない、何も考えずに突っ走ったのが悪かった、できればあの時忍からファイズアクセルだけでも返してもらえば良かったと後悔していると恭也はオルフェノクの超人的な感覚によって近くに人間の気配を感じた。

 

「まだ、誰かいんのかよッ!!」

 

すぐさま、気配のもとに走り出すが巨大な樹木の枝が恭也の進行を妨げる

 

「邪魔なんだよッ!!」

 

《Exceed Charge》

 

 電子音と共にフォトンブラッドが右脚に取り付けられているファイズポインターに充填されていく、そしてファイズは必殺のキックーーー『クリムゾンスマッシュ』を叩き込む。次の瞬間、木の枝はピッタッと動かず青い炎が内側から吹き出しΦの文字を浮かばせて灰と化す。

 

「大丈夫か!?………ってはやてか」

 

そこにいたのは車椅子が横倒しにされて震えていたはやての姿だった

 

「…………仮面ライダーファイズ!?いやてか今の声っておにいさん!?」

 

「話はあとだ、さっさと逃げるぞ!!」

 

ファイズは倒れているはやてを素早く抱き上げる、次の瞬間、グシャッという金属が潰れる音が聞こえた。その光景を見たはやては冷や汗をかかずにいられなかった、先程まで使っていた車椅子が巨大な巨木によって見るも無残なモノに変形したからだ。

 

「………あれ、高かったのにな〜!」

 

「そんな、こと言ってる場合か!?って囲まれたか……」

 

どうやら、大樹も馬鹿ではないようだ。ファイズのキックの威力を知り、バラバラに攻撃しても意味がないと理解し、ジリジリと閉じ込める戦法に切り替えたそうだ

 

「(………さすがに、この壁をぶっ壊せるほどの火力は今のファイズでは出せない)」

 

絶体絶命。しかし、運命はファイズを味方した。

 

「恭也!!これ使って!!」

 

遅れてやって来た忍がビルの二階からファイズブラスターを投げつける。

 

「これを待ってたぜ!!」

 

「………もしかして、『ブラスターフォーム』か!?生で見れるなんて運がえぇな、うち。」

 

ファイズはベルトからファイズフォンを取り外し、アタッシュケース型強化パーツ『ファイズブラスター』に装填する。

 

ーーー555 Enter

 

《Awakning!!》

 

電子音が合図に再びフォトンブラッドがスーツ全体に行き通る。

 

次の瞬間、紅い巡行が光を齎す。誰もがその光に勇気を貰う。

 

紅いライダースーツに黄色の大きな瞳。そして背中にはPFF(フォトン・フィールド・フローター)というマルチユニットを装備している。

 

《仮面ライダーファイズブラスターフォーム》

 

ファイズの最強の姿がそこに顕現した!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、逃走。
運命は廻り始めた………。


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第七廻 逃走

これから、段々と鬱要素をぶち込んでいくんで、そこんとこヨロシクお願いします


ーーー143 Enter

 

《Blade Mode》

 

 電子音の後、ファイズブラスターを展開させ『フォトンブレイカーモード』を起動させる。そして、ファイズブラスターから黄色の刀身が出現する

 

「ウラァッ!!」

 

 ファイズはファイズブラスターを力いっぱいに振りかざす、ズバッと豆腐を切るみたいにかんたんに切断されていく木の根。

 

『■■■■■■ッ!!』

 

樹木の声の無い絶叫が荒ぶる様子から伺えた。それもそのはず、ファイズブラスターフォームは基本的な攻撃能力は『フォトンブラッドによる毒攻撃』なのだから。

 

 そもそも、フォトンブラッドというのはオルフェノクに対して最も強い毒性が働く物質。その粒子は例え他の生命体に害を及ぼすことはない…………………毒の性能では。これが今回の話のキモとなる、フォトンブラッドはもともとライダースーツを構成する上で膨大の熱量が必要となる。つまりフォトンブラッドは『膨大な熱量を持った毒』ということになる。

 

切り飛ばした樹木の枝は先端から灰化していく、しかし樹木には強大な再生エネルギが存在していた。両断された枝は先端から再生していく、このままでは埒が明かない、そう考えた恭也はファイズブラスターの『Enter』をプッシュする。

 

《Exceed Charge》

 

するとファイズブラスターの刀身から一メートルぐらいに構成された紅いエネルギー剣が生成される。

 

「しゃがめッ!!」

 

 ファイズは大振りでファイズブラスターを回転させながら周囲の枝を振り切った。膨大なフォトンブラッドで構成された刀身に切断された木の根は青い炎を拭き上げ灰と化す。

 

「お、終わったんか?」

 

「まだだッ!」

 

 殆どの枝を破壊尽くしたとしてもまだ本体である樹木にはなんのダメージはない。ファイズはすぐさまファイズブラスターにコードを打ち込む。

 

ーーー5532。

 

 次の瞬間、フォトンストリームに沿って高濃度のフォトンブラッドがファイズポインターに凝縮されていく。

右脚が紅く光り輝く、それと同時にファイズは走り出した………………………。

 

「ウッ!?グワアアアアアアアアアアアアッッッ!?」

 

 しかし、急に恭也が苦しみだした。ファイズのフォトンストリームがあやふやになり始めスーツは形を保っていられず、変身が解けてしまう。ガシャッと音を立てベルトが地面に落ちる。

 

「な、なにが起きたの?」

 

 分からない、恭也は視界が歪む中で思考を張り巡らせた。ふと恭也は右手に力が入らないと違和感を感じた、右手を抱えて見る。

 

「ッ!!」

 

 驚愕した、というより予想が的中してしまった。恭也の右腕の掌は真ん中が鼠色に染まっており、その部分が灰化していた。

 

 体がついに追いついてしまったのだ。恭也の身体でついにオルフェノクの性能を全て開放してしまった。

 

《スロットルドライバー》

それは拾八の仮面ライダーの力を一週間ごとに手に入れられる力を持っていた。それ故、そのライダーに変身するリミットと条件を全て兼ね備えなければならない、一種の呪い。その呪いが今更になって帰ってきた、今までの変身は色々と無茶があった、ファイズに変身する為にオルフェノクの因子がまだ完璧に発揮されていなかった。それでも今までうまく変身できたのは幸運と言えただろう、しかし、今のがキッカケで呪いは戻ってしまった。九条は恭也を『バケモノ』にしたしまったのだ……………

 

「大丈夫!?恭也」

 

忍の手が差し伸ばされる。しかし、恭也はその手を振り払った。

 

「きょう、や?」

 

「…………………俺にはその手を掴む『資格』はない!!」

 

恭也は走り出した。あらゆる物を放り投げ逃げ出した。

 

 誰もソレを止められなかった。彼のその苦悶な表情から忍はただ涙を流すことしかできなかった………。

 

ーーーその後、ジュエルシードの樹木は謎の巨大ピンク光線によって封印された。

 

 

 

●●●✖●●●

 

 

 

 

 

 高町なのはは待ちぼうけていた。急に居なくなった兄、恭也は3日経っても帰宅しなかった。三日前に封印したジュエルシードの樹木にやられたかと心配したが忍が言うには何処かへ消えてしまったという。

 

 いつのことだったろうか、幼い頃公園のブランコに一人で何かを待っていた記憶がある。そのときは林田君が私の手を引いてくれた、一人じゃないと教えてくれた。その時兄は何をしていた?ただ木刀をがむしゃらに振り続けていただけだ。

 

「ーーー嘘つき」

 

 未来は歪を増すばかりだった。

 

 

●●●★●●●

 

 

ガシャッ。

 

 金属製の手錠が地面に落ちる、同時に一人の少女が地面に叩きつけられた。

 

「………ウッ、ううああッ、逃げ、なきゃ」

 

 彼、いや彼女だ。天照神楽その人だった。彼女はあれから5日間拷問され続けた。

 

ーーーある日は胎盤にこぶし台の蟲を打ち込まれ、腹を食い破られたり。

 

ーーーまたある日は身体が限界まで風船みたいに膨張され、身体が風船みたいに爆発したり。

 

ーーーあるい、あるいは………。

 

 そんなことを繰り返せば彼女の精神は壊れるのは目に見えていた、が。彼女の特典【十二の試練(ゴットハンド)】の効力のお陰で自我をなんとか保っていた。なんとか逃げ出せる機会を窺っていた。そしてその日は来た!

 

 原作の事件に立て込んでいるのかアイツは最近こっちに来ていない、その内に捕まる前に投影した手錠の鍵を差し込み脱出。神楽は傷付いた身体を引きずり外へと急ぐ、どうやら捕らえられていた場所は何処かの廃墟だったらしいがそんなことを気にしている暇はない。

 

ーーー早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早くッッ!!

 

出口だ、廃ビルの出口が見えだした。力いっぱいに足を動かす、逃げ出せる!!希望の光が見えだしてき、雲に隠れていた月が顔を見せた。

 

ーーーあ。

 

 

しかし、そこは希望の光は無かった。月の光が照らす出口の向こう側に一種のジレンマを感じさせる嘘っぽい笑顔を浮かべたそいつがいた。

 

「…………………こんな日にお出かけかな?お嬢さん★」

 

「ーーーう、うああああああああッ!?」

 

林田光輝は怪しく嗤っていた。絶望が私の心を埋め尽くす、もうダメだお終いだ。こいつの特典に勝てるわけがない、私はあの『正義の味方』の様に強くはない。腰が引けてうまく立ち上がらない、呼吸ができない。私はコイツに深いトラウマを刻まれている、服従の意志が根底にこびりついている。

 

「駄目じゃないか、勝手に抜け出して。まぁ、どっちにしろ今日、殺すつもりだったけどさあッ!!」

 

「けど僕も鬼じゃない、君には《仮面ライダー》の情報を教えてもらった恩がある。だから、逃がしてもいいと思っている」

 

 驚愕。アイツがそんなことを言うなんてオカシイ。けどなりふりは構っていられない、生きなければどうにかして、生きなければ。

 

「………一つ、ゲームをしょう」

 

「ゲーム?」

 

 そういうと林田は指を鳴らす、次の瞬間私の背後からドスンッ!と地響きが起きる。何かいる、恐る恐る後ろを振り返る。

 

 見えたのは茶色の羽毛の2つの剛脚、それを辿る様に視線を上へと向ける。荒い鼻息と獣臭が酷く臭い、それは一層存在感を増していく、その手には三メートルはあるような不格好な棍棒、全身は分厚い獣毛、そして2つの曲湾した巨大な角。それを何かに例えるとしたらギリシャ神話に出てくる魔物【ミノタウロス】

 

「…………………実はさ、俺の宝具の中に【魔獣創造】というがあったからさ。試しに作ってみるとこれがうまく行ってさ試したかったんだよね。」

 

 林田は未だにニコニコと笑っている。狂ってるこんなの。おかしいよ。唖然している私は林田に対して恐怖を抱くしかできなかった。

 

「あ、一応訂正しておくけどゲームのルールはこいつから逃げ切ることだけと、たとえ捕まったとしてます殺されないよ」

 

「…………どう、いう、こと?」

 

「フフッ、じゃあね【罰ゲーム】のヒント教えちゃうな。ヒントは【ギリシャ神話】、【お姫様】です!!」

 

 ギリシャ神話とお姫様?ミノタウロスのことだから、つまり………………………!!

 

「ーーー気づいたみたいだね、そうミノタウロスというのはどうやって生まれてきたのかに辿り着くよね。とあるお姫様がポセイドンの呪いを受け、白い雄牛に発情しまぐわって生まれ落ちた存在。それがミノタウロスさっ!!…………後は、言わなくても分かるよね?」

 

 こいつは!こいつは!私が捕まったらミノタウロスの子供を孕ませようとしているッ!!おかしすぎる、こいつは人間を『人間』だと思っていない。最初コイツに出会ったとき普通の『踏み台転生者』だと思っていたが、そんなのじゃないこいつは!【化物】だッ!?

 

「………さぁ、時間が惜しいからねさっさと始めようか」

 

「ま、待ってくれ。いや、待ってください!!」

 

「駄目だよ、か·ぐ·ら·ちゃん!お前の罪はなのはに触れたことだ、それは許されないことだ」

 

 ドスが利いた恐ろしいくらい低い声、陽気な表情が消え圧倒的な殺意と憎悪だけが私を射続ける。

 

「…………じゃあ、妊娠しない様に頑張ってね!後、舌噛んで死ねないように、ミノタウロスに触れられたら胎内の蟲が媚薬を出すように成ってるから、僕それ喰らったこと無いからよく分からないけど、相当ヤバイらしいよ。じゃあね、ば、い、ば、い!」

 

 その言葉を最後に林田は金色の波紋に包まれ、消える。それと同時に先程まで鼻息を荒くしているミノタウロスが動き出した。

 

「ヒッ!こ、来ないで!!」

 

 

「ーーーブゥモオオオオオオアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 轟音にも近い猛々とした声が私の耳を劈く、そして暴走した機関車の様にミノタウロスは突進してくる。私は勇気を振り絞って立ち上がり、私の中の魔術回路を叩き起こす。

 

「『同調、開始(トレース·オン)』!!……………あれ、魔術が、ゴフゥッ!!」

 

 魔術が不発し困惑しているとミノタウロスの棍棒が顔面に物凄い勢いでぶち当たる。勢いはかぐらを外まで吹き飛ばした。顔の感覚がない血がたくさん流れている、頭がグワングワンと揺れるが、ヘラクレスの宝具によって回復されていく。撲殺ならすでに受けていたので先程の攻撃では死ななかったようだ。

 

「なんで、魔術が!?」

 

 魔術回路には異常は無い。しかし、神楽の魔術は起動せずスカを繰り返すだけ。

 

「ヴモオオオオオッ!!」

 

「ヒィッ!!孕みたくなあいッッ!!」

 

 再び突進してきたミノタウロスにとてつもない生存本能が感じられる。かぐらを子を成すだけの道具として手に入れるそんな風に興奮していたミノタウロスから逃げるという手段を取ったかぐら。

 

ーーー嫌だ、嫌だアッ!!私まだ『人間』でいたい!!

 

 

●●●☆●●●

 

どれだけの距離を走っただろうか、天照神楽は体全身の痛みを堪えながら逃走していた。

 

ーーーなんで、こんなふうになったのだろうか?

 

 彼女、いや彼は転生する前は至って普通の好青年だった。トラックに轢かれそうになった子猫を助けて死んでしまった彼の行動に胸を打たれた神なる者は彼を『魔法少女リリカルなのは』の世界な転生することにした。

 

 彼は喜んだ、生前好きだったアニメの世界に行ける、それ程嬉しいものがあるかと大層はしゃいだ。そのうえで彼は決意した、『物語』を破壊し、みんなを幸せにすると。その誓いを込めて彼は『正義の味方』の特典を選んだ。

 

 何回目だろうか、過去を振り返るのは……。

 

 

 瞬間、足から力が抜ける。森の中で彼女は倒れ伏す。

 

ーーーダメだ、早く、立ち上がらなきゃ

 

しかし、彼女の足はビクとも動きやしない。ドスンッドスンッ、ミノタウロスが地面を揺るがしながら近づいてくる。そして、鼻息が届く距離まで接近を許してしまった、ミノタウロスは彼女の両足を掴み持ち上がる。神楽とミノタウロスのむさ苦しい情熱が篭った瞳がぶつかり合う。

 

 そして、彼女の下半身部の更に奥から熱いモノをかんじた。その熱は彼女の身体、そして頭を侵していく。

 

 それに答える様にミノタウロスのソレが下半身からそそり勃つ、ソレは人間の比を軽く越して長く、そして太い。神代の雄のフェロモンが彼女の精神をかき乱す。

 

ーーーもう、むり…。

 

消えかけの自我の中で彼女は一つの存在を思い出す。

 

《仮面ライダーファイズ》

 

 子供の頃、憧れたヒーローの存在がかろうじて彼女の自我を踏みとどめた。でも何かできる訳でもない、状況は絶望的。投影魔術も使えなければ、助けも呼べない。それでも彼女は言うのだろう、呼ぶのだろう。

 

 どんな世界も救う最強のヒーローの名前を!!

 

「助けて、………………《仮面ライダー》ッ!!」

 

 闇が深まる森に木霊する希望の名前、だから『彼』はやって来るのだ、助けを呼ぶ声が聞こえる限りにッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………変身ッ!!」

 

《Awakning!!》

 

 森の深淵の中に眩い紅い光が満ち溢れる。次の瞬間、闇の中で紅い閃光が動いたのが見えた。するとフワッと地面に引っ張られる感覚が起きるがそれはすぐさまなくなる。神楽の目の前には黄色の瞳の戦士がいた、どうやら戦士がミノタウロスの腕を切り飛ばしたのだろう、ミノタウロスは地面を転がって痛みに悶えていた。

 

 戦士は近くの木に神楽を寄りかかせる、すると戦士は優しい声音でこう言った

 

「大丈夫、もう大丈夫だ。よく頑張った、後は俺に任せろ」

 

 彼は怒りに燃えるミノタウロスに向き合う、ミノタウロスは血管を浮き上がらせ、仮面の戦士を睨みつける。

 

「ヴモオオオオオッンッ!!」

 

ミノタウロスが叫ぶ、それはまるで神楽が自分のモノだと言い張るように。

 

「ごちゃごちゃ、うるせぇ。ガキに発情すんじゃねぇよ!!牛野郎ッ!!」

 

 

 大きくて広いその走り出す背中を微睡んだ意識の中で神楽は見送る、その背中に何かを安堵し、瞳を閉じた。

 

 

 

 




次回、救い。
運命は廻り始めた………。


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第八廻 救い

遅れました、スミマセン。思いほかバンドリが面白くて……


 鼻孔をくすぐるような懐かしい味噌の匂い、魚が焼けるようないい匂い、炊きたてのご飯の水水しい音。天照神楽が覚醒に至るには十分なものだった。

 

「…………十時、もうそんな時間か。」

 

 部屋を見渡す、懐かしい空間だ。ここが自分の部屋と気づくにはあまり時間は必要なかった。体にかかっている布団を畳み、リビングへと向かう。体中に包帯が巻かれていた、丁寧で適切な処置に感嘆した。

 

「…………やっぱり、あの人だよね」

 

 神楽の記憶が途切れた最後の場面はミノタウロスによって捕まえられ、行為を始められる時に《ファイズ》に助けられたことだった。神楽の言うあの人とはその人物を指していた。きっと怪我の処置も、気を失った自分をここまで運んだのも、いま台所で料理をしているのもきっと『あの人』なのだろう。リビングへの扉、彼女はゆっくりと開けた。そこには……。

 

「ーーー高町、恭也…………さん!?」

 

「ん?あぁ、起きたのか………。すまないが台所を使わせてもらってるぜ、もうすぐ朝食ができるから座って待ってろ。」

 

 何気ない表情の高町恭也に促された私は大人しく食卓に座す、チラッと恭也さんの方を見る。あの恭也さんが花柄のエプロンを見に纏って、朝食を作っているなんともシュールな光景だ。しかし、よくよく考えてみれば疑問点がある。あの人は料理なんかできないタイプだ、なのに今現在我が家のキッチンで鮭を焼いて微笑んでいる。これはおかしい、もしかしてこの人は『高町恭也』と呼べるものなのか?そう思ったら体全身の筋肉が強張る。

 

 すると恭也さんが出来上がった朝食を持ってきた、豆腐の味噌汁にホカホカの白いご飯、おかずとしていいくらいに焦げ目の入った皮を持つ鮭と卵焼き。理想的な朝ごはんといえるだろう。

 

「…………俺が、『高町恭也』じゃないと疑っているのは分かる。お前も同じような体験をしたようだしな、『転生者』」

 

 そう言いながら恭也さんは黒革の手帳をテーブルに放り投げた。私の日記である、その中には転生したことや原作のことを書いていた、それで私が『転生者』だと知ったのだろう。

 

「………なら、アナタは私達と同じ『特典』の力を貰った人間なのですか?」

 

「………『特典』?何言ってんだ、『ファイズ』のこと言ってんなら、あれは元々俺が持っていた力だ。」

 

 ーーー呆気にとられた。この人は神様から『特典』を貰っていない!?どういう事だ、この人の言っていることが本当ならこの人は、《本物の仮面ライダー》なの!?じゃあ、つまりこのひとは………!!

 

「ーーーオルフェノク?」

 

「………ッ!?おい、お前なんでそのことを知ってんだ!!教えろッ!!」

 

 物凄い形相で問い詰めてくる、必死に何からか弁明するようにも見えた。でもこれでわかったこの人は、『オルフェノク』なんだ。とても危険な怪人なんだ。正義の味方のようになるためこれは必要なコトだ。焦燥のような物を体中に感じた、それと同時に、身体の中の魔術回路を叩き起こす

 

 魔術回路の起動、工程完了。投影·開始(トレースオン)!!

 

 瞬間、手のひらに夫婦剣 干将·莫耶が精製される。恭也の驚いた表情を他所に私は身体強化の魔術をかける、椅子を思いっきり踏みつけ恭也さんの懐に潜る。

 

ーーー殺った。

 

 確信を感じた瞬間、私は刃を恭也さんの右脇腹へと薙ぎ払った。しかし恭也さんは間一髪身体を少し横にずらしていたので、脇腹に少しかすった程度で済んだ

 

「ッ!?いきなり何すんだ、クソッ人間業じゃねぇぞ!!」

 

「………アナタは、危険だ。バケモノは退治しなきゃならない」

 

 血を流している脇腹を苦悶な表情で抑えている恭也さんを睨みつける。なんだろ、これはきっと正しい筈な事なのに『間違っている』ような気がする………。

 

「………危ない奴は危ないから殺すか……、大層な『正義』だなッ!?」

 

 そういうと恭也さんは近くにあった窓ガラスを破って逃げ出した。ここは10階なのに……。

 

 下を見やると、高町恭也は必死に逃げお失せていた。私も後を追うように窓から飛び出た。

 

 その部屋には朝食の温かい残り香が漂っていた……

 

 

 

●●●▽●●●

 

「………しかし、生きている。というよりは逃げられたとはな」

 

 一連のやり取りを遠くのビルから観察していた少年、林田光輝がいた。

 

「しかし、厄介な。あのミノタウロスを一撃の蹴りで灰にしてしまうだなんて、《仮面ライダー》やはり始末すべきか………」

 

 顎に手を添えながら悩む、しかし光輝にあの《ファイズ》を倒せる手段を考えつかなかった。自身が直接戦わないで。

 

「……、まあアイツの仕掛けが効いているうちは雑魚で相手をしとくべきか」

 

 頭の中でその場しのぎの策を思いつき、自身の背後から、《王の財宝(ゲート·オブ·バビロン)》から一つの紅色の宝玉を取り出す。

 

「コスト的に、竜牙兵かな。大量生産の方針で、さぁターゲットは『高町恭也』と『天照神楽』で。」

 

 なにか宝玉を操作すると光輝はその宝玉をビルの屋上から滑るように手から落とした。ガシャンッというガラスが割れた音を確認した。

 

「ーーーまぁ、十分に抗ってくれよ。《仮面ライダー》、どちらにせよこの世界は正しい世界《原作通り》なのだから………フハハハハハハハハハハ!!」

 

 九条を嘲笑うように光輝は運命を仕組んでいった。

 

 

●●●⑦●●●

 

 

「………どこだ?」

 

 高町恭也の血の痕を追い、鳴海臨海公園へとやって来た。しかし、草むらに逃げ込まれたおかげで血の跡がパタッと消えた。しかし、あの傷だ遠くには行けまいきっと近くにいるはずだ。

 

「ーーーオルフェノク、アイツラは只のバケモノ、この世界の異物だ」

 

 テレビで観ていた時の怪人が居る、それはこの世界には要らない。そう言い聞かせるように呟いた。何かに催促されている様な気分をかき消すように。

 

「ーーーそこッ!!」

 

 気配を感じ、右影の草むらに干将·莫耶の一対を投げつけた。それは勢いを増し草むらの中の気配とぶつかる、そこから現れたのは盾と剣を持った何かの骨の兵士だった。疑問が頭を満たす、しかしそんな時後ろの茂みからもう一人の骨の兵士が剣を神楽目掛け振り下ろしてきた。

 

「くっ!?もう一匹だと!!」

 

 それに気づき瞬殺に受け止める、強い衝撃が手に響く。女子の筋力の事を考慮をしていなかった、神楽はその剣を横へ流し骸骨兵の腹部を薙ぎ払う。

 

ーーー単調だ、これは楽勝だ。

 

 そう思ったのも束の間、横腹に強い衝撃がが奔った。その衝撃は神楽のひ弱な女子の身体を吹き飛ばすには十分な威力であった。空中を舞、海の直上にある木製の簡易歩道へと着地する。

 

「ーーーなん、だっ!?なにが起きたの?」

 

 頭が混乱して状況を上手く把握できていない、口には鉄の味が広がるばかり。そんな神楽をさらに追い込むように森の中から一匹、また一匹と先程の骸骨兵の伏兵が数百という数が神楽を囲んだ。

 

投影開始(トレース·オン)!!……………なんで、なんで機動しないのよッ!?」

 

 魔術が発動しない、何度も同じ工程を繰り返す。しかし魔術回路はうんともすんとも言わない。骸骨兵は段々と神楽へと歩みを進める。

 

ーーー絶望、結局あそこから逃げ出しても私の末路は決まってたのね。

 

 神楽の表情には諦めの意思が見えていた。顔中の穴という穴から液体を垂らして、恐怖に歪んだ顔だ。

 

「ーーーたす、助けてください」

 

「しょうがねぇなっていうか、やれやれだな。」

 

 どこからともなく聞こえた声、そして肌けた肩を叩き彼が骸骨兵の前に躍り出る。そう高町恭也だ。

 

 高町恭也の出現に一層警戒心を見せる骸骨兵を他所にめんどくさそうに頭を掻く。

 

「………なるほど、ね。これは俺たちを狙ってのことか………なら手加減無しだな」

 

「■■■■■■■■ッッ!!」

 

 

 骸骨兵達の声の鳴らない咆哮が空気を揺らす、そして高町恭也目掛けて武器を構え走り出した。そんなのにも臆せず高町恭也はいつの間にか装着していた白金のスロットマシンの様なバックルの三つに連なった赤いボタンを慣れた手つきで叩き込む。

 

《Slot ON》

 

 ベルトの電子音と共に高町恭也を中心とするように拾八のとある紋章が半径十メートルに勢い良く陽気なサンバの音楽と共に展開し回転する。結界にも似たそれは骸骨兵の侵入を許さなかった、無理に入ろうとすると跡形もなく吹き飛ぶ。私はそんなところの中心でその光景を見ていた、この空間の中で金色の光と音が響き渡り、それは幻想的な『世界』が広がっていた、すると高町恭也が右手をゆっくりと前に突き出す。拾八の紋章が高町恭也に集う。

 

《カブト》

 

 次の瞬間、カブトムシの形を模し『ZECT』と書かれた紋章が高町恭也を通り抜け、白金のベルトが入れ替わるように銀色ベルドに変化する。

 

「ーーー来い、カブトゼクター」

 

 その言葉で十分だった。その呼び声に答えるように『それ』は骸骨兵をなぎ払いながら現れ、恭也の手の中に収まった。その手に有ったのは機械づくりの赤いカブトムシだ。そして、高町恭也は少し目を閉じ再び目を開き骸骨兵を睨んだ。

 

「ーーー変身」

 

《Hen-shin》

 次の瞬間、ベルトを中心に銀色の無骨な鎧が展開される。ヒヒイロカネという金属で構成された装甲、カブトプロテクター。そして青い瞳のコンパクトアイ。

 

《仮面ライダーカブト·マスクドフォーム》

 

 天の道を行き、すべてを司る男の力がそこにあった。




次回、変化。
運命は廻り始めた………。


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第九廻 変化

スミマセン遅れました。中間とか色々あって………。今回アリサ、すずかさん初登場!!


「………ねぇ、すずか。最近のなのは何か変じゃない?」

 

 

「…………………アリサちゃんも気づいていたんだ」

 

 

 送迎用リムジンに乗る二人の少女達、その表情から何か深刻な物が見受けられた。金髪の少女、アリサ·バニングスは最近の高町なのはがおかしいことにとっくの等に気づいていた。それは月村すずかも同じであった。

 

 なのはの異変はニ週間前から見受けられた。何か林田光輝と一緒にコソコソしている、聡明なアリサはそれに感づいた。しかしそこに敢えて触れないのはアリサなりの信頼の証なのだろうか。

 

 しかし、ある日ちょうど三日前の日曜日からなのはの態度は一転していていた。焦っている。なんというかそんな感じだ。授業なんて上の空で、なぜか時間を気にするようになった。学校か終わるやいなや限界まで引き絞られた弓の如く、高速で教室を飛び出していく。

 

 これには流石のアリサ達もほっとけないという事で、林田光輝を捕まえて問い詰めた。しかし、林田光輝は笑って誤魔化すばかり『なのはにも色々あるんだよ』ーーーこちらが聞きたいのはその色々なのよッ!!と叫びかけるが息と一緒に飲み込む。

 

「まったく、光輝はバカだし、なのはは何か変だし、すずか達は『夜の一族』とか言うのだし、恭也さんは………………」

 

 瞬間、沈黙が車内に満ちる。彼女らは思い出していた、つい最近に巻き込まれた事件と血の匂いを未だに…………。そして高町恭也が変身した赤い仮面の戦士の事を……………。

 

「………………ねぇ、すずか。ほんとにあの『恭也』さんが成ったモノ、あれ何か忍さんから聞いてないの?」

 

「……よく、分からないんだ。お姉ちゃんは何も教えてくれないし、それに最近『本』ばっか読んでるし。」

 

 無力。その一言がアリサの胸に突き刺さる。守られてばっかりでなにも自分は何もしていないではないか、それがとてつもなくムカついた。

 

「…………ねぇ、すずか一ついい提案があるんだけど」

 

 だから、知りに行こう。振り出しに戻ろう。あの疑惑が始まったの『場所』へと……。

 

 

●●●❖●●●

 

 

 

「■■■■■ツ!!」

 

 竜牙兵はカブトに大群で襲いかかった。しかし、カブトに焦りは見られない、カブトはその手にある《クイナガン》銃モードで一匹一匹を撃ち倒す。

 

「■■■■■ッ!!」

 

「……カラカラうっせぇッ!!」

 

 一斉に竜牙兵は剣をカブトの鎧に叩きつけられた、しかしカブトの分厚い装甲には無意味だった。カブトはクイナガンを斧モードに切り替えて、竜牙兵の腹部を横に薙ぎ払った、そしてカブトは何かを確かめるように右手の開閉を繰り返す。

 

「………………こんなもんか」

 

 ふと呟いた。九条はベルトのカブトゼクターのカブトホーンに手を付けた、眼前には数百という数の敵。しかし動揺はしないまるで自分が勝つのが当たり前だと言わんばかりに。当たり前である彼は『仮面ライダー』。多対一はお手の物である。

 

 

 九条はベルトのカブトホーンを中くらいの位置まで起こす。するとカブトの装甲がプシューという音と水蒸気を排出し、今か今かと鎧が浮き上がっている。

 

「■■■■□□□ッ!!」

 

「ーー……キャストオフ」

 

《CAST OFF》

 

 カブトホーンを左に倒した次の瞬間、カブトのヒヒイロカネ製の装甲が初2000km/hという超高速で吹き飛ぶ。吹き飛んだ鎧にぶち当たった竜牙兵は跡形も無く消し飛ぶ。脱皮した鎧の中には真紅のアームドが現れる、そして収納されていたカブトホーンが顔に直立して、定位置につく、そして青色のコンパクトアイか輝く。

 

《Change Beetle!!》

 

 これがカブトの真の姿、《仮面ライダーカブト·ライダーフォーム》だ。分厚い装甲を脱ぎ捨てた高速戦闘フォームである。

 

「さて、付き合ってやれるほど暇じゃない。…………………『クロックアップ』」

 

《Clock Up》

 

 瞬間、世界はカブトのスピードに置いて行かれた。超高速で空間を駆けるその力《クロックアップ》はカブトだけに許された『世界』だった。

 

ーーー遅い、ただ一言に尽きる。カブトは超高速で竜牙兵を蹂躙する。竜牙兵の骨の欠片が幾つも上空に飛ぶ。ゆっくりとゆっくりと地面を目指す。

 

バキッドカッガキィッンン!!

 

 ある程度の駆除を終わらせ、数十匹を一つの場所にまとめる。するとカブトはベルトのカブトゼクターの《フルスロットルボタン》を順番に押していく。

 

《one.twe.three……》

 

 準備は整った、そう言わんばかりに腰を低く落とし、カブトゼクターのカブトホーンを逆方向に倒す。そして再び勢い良く角を左に倒す。

 

「ーーー………ライダー…キック!!」

 

《Rider kick!!》

 

 カブトが上空に飛び立つ、空中でキックの体制に入る。太陽が重なり合い真っ赤の鎧が神々しさをさらに際立てさせ、まさにその姿は《太陽の神》と言えるものだった。

 

 カブトの蹴りが竜牙兵を巻き込み、《タキオン粒子》が竜牙兵の体中に駆け巡る。

 

《Clock over》

 

 そして、再び世界は元の時間を取り戻した。竜牙兵達を中心として轟ッ!と爆発する。竜牙兵の体の欠片がカラカラっと音が墜ちる。

 

 爆炎と砂塵の中カブトは『誓い』を指し示した。右手の人差し指が天を指す、突如に一風が吹き砂塵を吹き飛ばす。その指の先には燦々と輝く太陽があった。

 

 祝福の光がカブトに照らされる。世界は『カブト』を待ち望んでいた、刹那自分の背後に殺意が迫ってくるのを感じ、横に避ける。少女だ、『天照神楽』と言う少女が白黒の双剣を構え何か切羽詰まった表情で襲い掛かってきたのだ。

 

「喰らえッ!!」

 

 神楽がカブトの首元に刃を振るおうと迫る、しかしカブトは即座に少女の顔面に拳を軽く叩き込む。それに怯んだ少女の双剣を奪い、遊歩道の手すりに蹴り飛ばす。実に数秒の間の出来事であった。

 

●●●★●●●

 

 何が起きたのだろうか、一瞬の出来事に対処仕切れない私はただ背後から吹く冷たい海風に当たるだけしか出来なかった。ふと顔を上げると『カブト』が私から奪った『干将·莫耶』を手に迫ってくる。

 

ーーー終わりか。

 

 早い諦めであった、何を思って俺は『彼ら』に挑もうとしたのだろうか。勝ち目なんて最初からないのを分かってたのにどうして戦おうとしたのだろうか?

 

ーーー……嫉妬だ。彼らの偉業に俺は嫉妬したのだ。自分が転生する際何故『無限の剣製』を選んだのか、俺は『覚えて』ほしかったのだ。自分は誰かに知って欲しかったからこの力を選んだのだ。ヒーローの紡いだ歴史は絶え間なく続いている、誰かの心の中に英雄(ヒーロー)は存在し続けて、そして『意味ある人生』なのだったとヒーローは思うだろう

 

 自分の生前はただ『社会の歯車』として生きていた……いや、『生かされていた』。ふと思った、いずれ自分は死んでしまいこの世から消え去るだろうと。それ自体にはどうしょうもないモノだと割り切っていたが、しかし自分は一体この世に残せるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 想像したら、突如体中に寒気と恐怖が湧き上がった。

自分は何も成してはいない、自分はただ一匹の、一個の歯車なのだ。部品が無くなったとしても補充すればいいだけの話。そこに絶対として自分専用の『席』は無い。だから恐れた。『死ぬ』ことを恐れるのではなく『去ぬ』事を恐れた。

 

 だから望んだのだ『ヒーロー』を。自身を救い、世を掬う『英雄』を。

 

 

 

「(どっちにしろ、無意味だったが)」

 

 自分は赦されない罪を犯してしまったのだ、越えてはいけないラインを超えてしまったのだ。『偽物』が『本物』に挑むこと自体が甚だしかったのだ。ゆっくりと目を閉じる、カブトが自分の目の前で立ち止まったからだ。今で言うこの状況は『悪』を追い詰めた『ヒーロー』という図であろう。だったら潔く逝こう、そう思った……………………。

 

 しかし、幾らか待っても何も起きない恐る恐る目を開けると変身を解いた高町恭也が可哀想なものを見るような目で自分を見下ろしていた。

 

ーーーなんだ、その目は。なんでそんな目で見てくるんだ私を………

 

 その視線に憤りを感じた。すると高町恭也は双剣を地面に落とし、神楽に背を向けて歩き出した。

 

「待ってェッ!!何故だ、何故殺さない!!」

 

 高町恭也に憤りを顕にして訴える。分からないなぜ自分がこれほどまでに憤っているのか、憎んでいるのか!それがむやに嫌悪感を覚えて気持ち悪くて、悪感情が循環する。すると高町恭也は背を向けたまま立ち止まった。

 

「………………ずっと前に『人間』を守る、って決めたから」

 

 神楽の何かが瓦解した。『偽物』と『本物』の圧倒的な差を叩きつけられた瞬間を知った、視界が霞む、呼吸が上手くできない。何もかもがあやふやに感じてしまう。ただ………………………哀しい。

 

「うああああああああああああああ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!ー!ーーーーーーー!!!!!!!!!」

 

 哀しい咆哮が空に空回る。嗚咽は誰にも届かない、ただ哀しい男の血跡が続いていた。

 

 

 

●●●★●●●

 

「………ここね」

 

「…………うん」

 

 

 少女二人が廃墟の前に立つ。少女たちの表情からは決意と恐れが滲み出ているのがわかった。彼女等は、アリサとすずかはやってきたのだ。自分たちが巻き込まれた誘拐事件の現場に。

 

 普通ならトラウマなどで行くことさえ憚る行為と言えるだろう。しかし彼女らはやってきたのだ、知りに来たのだ。自分たちが知りたい真実を追って、ここまで勇気を振り絞って、やってきたのだ。

 

 

 

「アリサちゃん、これ……」

 

「ん?どうし…………血ね」

 

 二階に登る階段の途中で血痕があった。それにまだ液体としてのみずみずしさが見受けられ、これはつい最近のものだということは彼女らにもわかった。

 

ーーー何かある!!

 

 血痕を辿っていくとそれは一つの部屋の前で途切れていた。緊張感が彼女らの無言によって構成されていくのがわかる。ゴクッと息を呑む音が聞こえてしまうほどの無音。アリサがすずかと視線を交わす、どうやらすずかは覚悟できたらしい、ドアノブにアリサが手を掛ける。そして意を決してドアを開いた!!

 

「ーーーなっ!恭也さん!?」

 

「お兄さん!?」

 

 扉の向こうには壁側に寄りかかって腹部から出血している高町恭也の姿があった。

 

 

●●●★●●●

 

 

「…………どうしたの、なのは?」

 

 光輝くんが私の顔を覗いてくる。私はその声掛けによって現実に引き戻らされた。お店のテーブルを使って私達はジュエルシードに付いて話し合っていたのだった。

 

「う、ううん。なんでもないよ光輝くん、それでなんの話だったけ?」

 

「……大丈夫なのは?なんか疲れてない?お兄さんの件で最近寝れてないでしょ?」

 

「大丈夫、大丈夫なのユーノ君」

 

 心配してくるユーノくんに笑顔を繕って元気な事をアピールする。それならいいけど、とユーノくんがつぶやく。ごめんねユーノ君、君にあまり心配を掛けたくないんだ。

 

「ほら、この前のもう一人の魔術師のことだよ」

 

 そうだった、この前すずかちゃんの家でジュエルシードが見つかって封印しようしたら金髪の女の子が現れて私たちに攻撃したんだ。とっても強くて歯が叩かなくて

ボロボロにやられちゃったのだった。

 

「とりあえず、彼女が何者なのでどんな目的があるか分からないが、彼女は何かしらの意味を持って『ジュエルシード』を狙っているということだけだ」

 

「ジュエルシードを独占しょうとしてるから、大層な目的とは思えないけどね」

 

 淡々と話し合う二人の間に入れない私はあの少女の事を思い出していた。哀しい目をしていた、何者にも触れさせないようにただひたむきに隠そうとする、そう、まるで…………………。

 

「………………昔の、今の私みたいに」

 

「な、なのはぁーー!!」

 

 厨房から転げ出てきた姉、高町美優希が鬼気迫る表情で駆け込んできた。何事か、とお客さんが私達の方を見やる。少し恥ずかしかったのでお姉ちゃんに一杯水を飲ませた。

 

「……それで、どうしたのお姉ちゃん?」

 

「そ、そうなのよ!キョーちゃんが見つかって病院に搬送されたの!」

 

 私はその言葉を聞いて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、ムカシ。
運命は廻り始めた………!!


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