クリスマス狂想曲 (神納 一哉)
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1 12月22日 誘い

過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


休日前の放課後。最近の家での勉強の成果あって、珍しく補習の宣告を受けなかった上条当麻がウキウキしながら帰り支度をしていると、後ろから青髪ピアスに声をかけられた。

 

「なあ、カミやん。帰りちょっとつきあってくれんか?」

 

「…最初に言っておくけど、上条さんお金ないですよ」

 

「ボク、カミやんにたかるほど困ってへんで」

 

「くそ、そう言われると何か悔しいな!」

 

「まーまー。ほな、行こか」

 

教室内を見回し、廊下からこちらに向かってくる足音がないことを確認して、上条は鞄を持ち上げた。

 

「そうだな。小萌先生の気が変わっても困るし」

 

「小萌先生の個人指導なんて、ボクから見れば羨ましい限りなんやけどなあ」ハァ

 

「代われるものならいくらでも代わってやるんだけど…」

 

「カミやん。それ、小萌先生に聞かれたら…」

 

「!!い、いないよな!?脅かすなよテメエ!!」

 

ビクッと身体を震わせ、辺りを見回す。担任教師の姿が無いことを確認して、上条は青髪ピアスに掴みかかった。

 

「…カミやん、小萌先生が見たら泣くで?」

 

「まだ言う!?そんなに俺を苛めて楽しい!?」

 

「カミやんが女の子やったら女王様プレイっぽくて愉しいかもしれへんなあ」ニヘラー

 

「!?なんかニュアンスが違う!?」ビクッ

 

身の危険を感じて青髪ピアスを突き飛ばすと、彼はまるでバレリーナのようにくるくると回転して階段の側まで行ってこちらを向いて止まった。

 

「そんじゃ、ちょっとつきあってもらうで」

 

「…言っておくけど、ホントに俺、貧乏だからな!」

 

「あー、ハイハイ、わかってるって」

 

――――――――――

 

繁華街に入ってすぐの場所にあるハンバーガーショップ。財政上の理由で普段なかなか入ることのできない店内の片隅にツンツン頭の少年は座っていた。

 

目の前のテーブルには『ごきげんバーガセット』と銘打たれていたセットメニューが鎮座している。

 

「…」

 

「なんやカミやん。こっちのビックリバーガーの方が良かったか?」

 

「いや、そうじゃないけど…、これ、本当に奢り?」

 

疑いの眼差しで青髪ピアスを見る。

 

「人の好意は素直に受けておくもんやで?」

 

「あとで返せとか言うなよ?」

 

「そんなこと言わん。ま、相談料みたいなもんや」

 

「相談料?」

 

「うん。まあ、その、なんや…」カァッ

 

青髪ピアスは頬を染めた。身長180cmの大男が頬を染めている姿は、傍から見ると正直言ってかなり不気味である。

 

「…あのな、ボク、姫神ちゃんにマジ惚れしたみたいなんや」

 

「ぶっ!?」ゴホッゴホッ

 

「汚なっ!?ボクのポテトにかかってないやろうな!?」

 

「そんなレベルの問題!?」

 

「…カミやん、食べ物の恨みは恐ろしいんやで」

 

「食べ物の恨みの恐ろしさは重々承知してますけど!って言うか、マジ惚れ!?守備範囲の広さを売りにしていたお前が!?」

 

「言わんといて。ボク、後悔してるんや」

 

「後悔…だと!?」

 

「…姫神ちゃんも当然聞いてるやろ?せやからなかなか伝えられへんのや」

 

「…以外とナイーブなんだな、お前」

 

「失礼やなカミやん!ボクの心はガラスのように繊細なんやで!」

 

青髪ピアスは立ち上がってテーブルを叩いた。その音を聞いて周りの席の話し声が一斉に止まり、視線が二人に集中する。

 

「わ、わかったから落ち着け!少しは周りを気にしろ」

 

「せ、せやな…」

 

二人は小さく頷きあうと、青髪ピアスは静かに席に座ってドリンクのストローに口をつける。同時に上条当麻は何事も無かったかのようにバーガーを手に取って食べ始めた。

 

衆人環視の中で何事も無かったかのように振舞うのは結構大変だったが、周囲の視線はその殆どが二人から離れていき、数分後には何事も無かったかのように賑やかな店内へと戻っていた。

 

「教室と同じテンションはやばかったな」

 

「悪かったでホンマ」ショボン

 

「まあ、青ピらしいけどな」

 

「関西人はどうしても突っ込んでしまうからなあ」

 

(いやいや、オマエ関西人じゃないだろ)「…で、なんで俺に?」

 

「カミやん、姫神ちゃんのことボクより知ってそうやし」

 

「…おいおい、ここで一緒に会ったのが初めてなの忘れたのか?」

 

夏休みのある日、ハンバーガーの山を前にテーブルに突っ伏していた巫女装束の少女。それが姫神秋沙であった。

 

「もちろん覚えてるわ。…そういえばカミやん、あのとき一緒にいたちびっこシスターと、女子寮の前で抱きついてきた常盤台のコ、どっちが彼女なん?」ニヤニヤ

 

「ぶふぉおおっ!?な、な、なにを言っているんですか!?この男は!?」

 

突然の質問に、食べていたバーガーを喉に詰まらせそうになってむせる。それでも噴出さずに堪えたのは、貧乏な生活を余儀なくされている悲しい性であろうか。

 

「カミやんお得意の知らんぷりは無しやで?」

 

「知らんぷりもなにも、あいつらはそんなんじゃなくて…」

 

「…カミやん。鈍感もたいがいにしとかんと、大変なことになるで」ハァ

 

「だからテメエはなにを言っているんだ!?」

 

「カミやん、その子らの連絡先、知ってるやろ?どっちでもええから今からボクが言うとおりに電話してみ?」

 

「は?」

 

「いいか?『明日、買い物に付き合ってくれ』って誘ってみるんや。絶対、二つ返事で了承するから」

 

「そんな馬鹿な」

 

「いいから。電話してみ?」

 

「無駄だと思うけどな…」(インデックスは電話に出ないだろうから、御坂にかけてみるか…)



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2 12月22日 約束

過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


――――――――――

 

制服のままベッドに寝転んで雑誌を読んでいると、ポケットの中の携帯電話が振動した。

 

(また黒子ね)ハァ

 

小さく溜息をついてから携帯電話を取り出し、画面に表示された名前を見て、美琴は慌てて身体を起こす。

 

画面には『上条当麻』と表示されていた。

 

(!!え、えええええええ!?ア、アイツから!!見間違いじゃないよね?間違いないよね!!うん、アイツの名前だし!)ンー、ゴホン

 

何度も画面を見直し、軽く咳払いをして喉の調子を確かめてから通話ボタンを押す。

 

「もしもし…」ドキドキ

 

『…あー、御坂か?』

 

「そりゃ、わたしの番号にかけてるんだからわたしが出るわよ」(なんでこんな言い方しかできなくなるのかなー)

 

『ん、まあ、そりゃそうだな』

 

「それで、何の用?」(ああっ!もう!わたしの馬鹿!)

 

『あー、明日なんだけどさ、買い物に付き合ってくれないか?無理ならいいんだけど』

 

その言葉に鼓動が早くなるのを自覚しながら、美琴は平静を装って言葉を続けた。

 

「!!べ、別に無理じゃないわよ」(も、もしかしてデート!?)

 

『…やっぱりそうだよな。悪い。変なこと言って』

 

『無理じゃない』を聞き間違えたのだろうか、断られたと思った上条が会話を終わらせようとする。

 

「ちょっと待てゴラアアアア!!わたしはいいって言ってるでしょうが!OKよ!OK!」(なに勘違いしてるのよ、馬鹿っ!)

 

『へ?御坂さん!?』

 

「だーかーらー、買い物でしょ?付き合ってあげるわよ。どこで待ち合わせ?」(アイツのことだから特売とかかもしれないけど)

 

『じゃ、じゃあ、とりあえずあの公園の自販機前で10時ごろ、いいか?』

 

「りょーかい。じゃあ、明日ね」ピッ

 

通話終了と同時に美琴はベッドの上で思わずガッツポーズを決めていた。

 

(アイツから誘われちゃった!!)ニヘラー

 

――――――――――

 

「どうや?ボクの言ったとおりやったろ?」ニヤニヤ

 

「…ああ」(御坂が俺を?いやいや、そんなそんな…)

 

「セブンスミストとかでアクセサリーでも買ってあげれば完璧やで、カミやん」

 

「あ、相手はまだ中学生だぞ!」

 

「ん?なにか問題あるんか?あー、そうかそうか。…カミやん。意外とエッチなんやなあ」ニヤニヤ

 

「んなっ!?」///

 

「せやろ?エッチなこと考えたから中学生ってのを持ち出してきて誤魔化そうとしたんやろ?ボクはただ、プレゼントしてあげたら?って言っただけなんだけどなー」ニヤニヤ

 

「くっ!」///

 

「いいっていいって、健全な男子高校生なら好きな女の子との行為を妄想するもんや。ボクも姫神ちゃんとなんて考えたりしてな…」グフフフフフ

 

「お、俺は別に…」(な、なんで御坂の顔が浮かんでくるんだ!!)

 

「…そ、そんなことあかんで、姫神ちゃん…。ああ、ボク、耐えられへん」ハアハア

 

「この変態!!こんなところで妄想して悶えるなぁ!!」

 

いきなり身体をくねらせながら身悶える大男(青髪ピアス)を目の当たりにして、上条当麻はぶん殴りたい衝動を懸命に抑え、両手で肩を掴んで強く揺さぶった。

 

「はっ!!ボクと姫神ちゃんの情事を邪魔するなんて、カミやん、貴様という奴は…」

 

「妄想は自分の部屋でしろ!あまつさえ逆恨みするな!」

 

「それもこれも姫神ちゃんが魅力的過ぎるのがいけないんや!!」

 

「そ、そうか。まあでも、時と場所を考えた方がいいと思うぞ?」

 

「ボクの心は姫神ちゃんへの愛で溢れているんや…」ハァ

 

「…」

 

臆面もなく姫神秋沙への愛を口にする青髪ピアスを見て、上条当麻は『あ、コイツ、結構マジだな』と認識を新たにしたのであった。もっとも、本人にはそんなこと言わないが。

 

妄想世界から帰ってきた青髪ピアスは、ストローを咥えて飲み物を一口飲んでから、ボソッと呟く。

 

「なあ、カミやん。ボク、姫神ちゃんにクリスマスプレゼント贈ろうと思ってるんやけど、なに贈ればええと思う?」

 

「クリスマスプレゼント?」

 

「明後日はクリスマスやしな。それをきっかけに姫神ちゃんと仲良くなれるようなもん、なんかない?」

 

「姫神が好きそうなもの…」ウーム

 

「やっぱり、女の子ってアクセサリーとかがええんかな?ネックレスとか」

 

ネックレスと聞いて、姫神秋沙が『吸血殺し』であることを隠すため、イギリス清教から渡された十字架を身に着けていることを思い出してフォローを入れる。

 

「あー、姫神はお守りを着けているから、ネックレスは止めといた方がいいぞ」

 

「お守り?」

 

「お守りの十字架を着けているそうだ」(さすがに魔術系のこと言えないけど、こう言っておけば自然だよな。うん)

 

「巫女さんなのにクリスチャン!?」

 

「巫女姿はバイトみたいなものだったらしいぞ」(実際は祭り上げられてただけなんだが)

 

「姫神ちゃんの巫女さん姿、理想通りやったのに残念やわ~」

 

「…確かに、長い黒髪の巫女さんはぐっと来るものがあるのは、上条さんも否定しない」

 

「せやろ?わかってるなぁ、カミやん」

 

「…姫神は、着物も似合いそうだよな」

 

「せやなー。姫神ちゃんは和服美人やなあ。…ところでカミやん、常盤台のコって超電磁砲?」

 

「!!な、なんでいきなりその話に戻る!?」

 

「まあまあ、カミやん。さっき『御坂』って呼んでたやん。超電磁砲の名前って、御坂美琴ちゃんやろ?」

 

「テメエ、人の電話聞いてたのかよ!」

 

「人聞きが悪いこと言わんといてや。カミやんの声が大きかっただけやで」

 

「ぐっ、こういう店の中って結構騒がしいから、どうしても声が大きくなっちまうんだよ」

 

「で、どうなん?カミやん的に超電磁砲は?」

 

「な、なんでそれをテメエに話さなきゃいけないんだ!?」カァッ

 

「ええやんか。ボクとカミやんの仲やないか。ボクがこんだけ姫神ちゃんへの想いをあけっぴろげにしてるんやから、カミやんも教えてくれても罰は当たらんと思うんやけど?」

 

「なんでそうなるんだ!?」

 

「…姫神ちゃんがカミやんのこと好きかもしれへんし…」

 

「姫神が俺を?それは無いと思うけどな」

 

「姫神ちゃん。カミやんと話すとき、微笑むんやで?」ハァ

 

「吹寄たちと話してるときも普通に笑ってるだろ?」

 

「男で、話しかけて微笑んでくれるのはカミやんだけなんや」

 

「そんなことないだろ?」

 

「ボクや土御門君が話しかけても普通やで」ハァ

 

「話しかけるタイミングが悪いんじゃないか?」

 

「カミやんが吹寄に突っ込まれるのを見ても微笑んでるんやで」(カミやんを見て優しく微笑んでるんや)

 

「…それは間違いなく哀れみの微笑だ」

 

(鈍感で助かるわホンマ)「ま、そういうことにしとくわ。…で、超電磁砲のことは、どうなん?」

 

「だからなんでそうなるんですか!!」

 

「女の子への熱い想いを語り合いたいんや!あ、別にちびっこシスターへの想いでもええで?」

 

「黙秘権を行使する!」

 

「他に好きな子がいるんか?まさか姫神ちゃんじゃないやろうな?」(な~んて、さり気なくリサーチ)

 

「姫神は…いい友達ってことだ」

 

「ホンマ?」

 

「うん。まあ美人だと思うけどな」

 

「やっぱ、超電磁砲がええの?」

 

「御坂は…、アイツといると楽なんだよな…。なんていうか色々…」

 

「それ、本人に言ってやれば喜ぶんちゃう?」

 

「言えるか!恥ずかしい」カァッ

 

「女は好きな男には甘えて欲しいって思うもんやで?」

 

「だ、だいたいだな、御坂が俺なんかのこと…」ゴニョゴニョ

 

「傍から見ればあの子、完全にカミやんにホの字やったけどな~」

 

「テメエの言うことには騙されない、騙されないぞ!」

 

「ま、カミやんは明日、あの子のことよう見てみるんやな」

 

「…」(意識しちまうだろうが)



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3 12月22日 期待

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――――――――――

 

ふたたび、携帯電話が振動する。

 

(まさか、アイツじゃないわよね)ドキドキ

 

少しだけ期待して見た着信画面には、年下の友人の名前が表示されていた。

 

「もしもし。初春さん」

 

『御坂さん?いきなり質問してすみません。カミジョーさんって、彼氏ですか?』

 

周りが騒がしい場所からにもかかわらず、なぜか小さな声でぼそぼそと話す初春。だが、それは問題ではなかった。

 

「な、な、なんで初春さんがアイツの名前を!?」カァッ

 

『えっとですね、学校帰りにお友達とハンバーガーを食べていこうってことになったんですけど、後ろの席で高校生の二人組が御坂さんの名前を言っているのを聞いてしまいまして』

 

「へ、へえ~…」

 

『アオピさんとカミジョーさんて人が好きな女性について話し始めてですね、…御坂さん、カミジョーさんて方に寮の前で抱きついたりしたんですか?』

 

「あ、あ、あれは、仕方なかったのよ!理事長の馬鹿ボンがしつこかったから!!」カァッ

 

『あー、抱きついちゃったんですねー。すごいなあ』

 

「あ、あのね、初春さん…」アセアセ

 

『ええと、話し始めたみたいだからどうぞー。音声最大にしますね』ピピピ

 

「あ、ちょっと…」

 

おそらく通話音量を最大に設定したのだろう。周りの喧騒に紛れて、聞き覚えのある声が聞こえてきて、美琴は口を噤んで耳を澄ました。

 

『だからなんでそうなるんですか!!』

 

『女の子への熱い想いを語り合いたいんや!あ、別にちびっこシスターへの想いでもええで?』

 

(ちびっこシスターって、インデックスのことよね?)

 

『黙秘権を行使する!』

 

『他に好きな子がいるんか?まさか姫神ちゃんじゃないやろうな?』

 

『姫神は…いい友達ってことだ』

 

(…)ホッ

 

『ホンマ?』

 

『うん。まあ美人だと思うけどな』

 

『やっぱ、超電磁砲がええの?』

 

(!!)ドキドキ

 

『御坂は…、アイツといると楽なんだよな…。なんていうか色々…』

 

(え?それって、どういうこと?)ドキドキ

 

『それ、本人に言ってやれば喜ぶんちゃう?』

 

『言えるか!恥ずかしい』

 

(え?え?)ドキドキ

 

『女は好きな男には甘えて欲しいって思うもんやで?』

 

『だ、だいたいだな、御坂が俺なんかのこと…』゙ニョゴニョ

 

(もしかして、アイツ照れてる!?わたしのこと想像して)ニヘラー

 

『傍から見ればあの子、完全にカミやんにホの字やったけどな~』

 

(うぇっ!?そんな風に見えてたの?わたし!?)カァッ

 

『テメエの言うことには騙されない、騙されないぞ!』

 

『ま、カミやんは明日、あの子のことよう見てみるんやな』

 

(アイツの友達もいいこと言うじゃない!)ニヘラー

 

『なあ、カミやん』

 

『なんだよ』

 

『やっぱ、オーソドックスに『好き』って言うんがええ?』

 

『またストレートだな』

 

『カミやんもそう言うのがええんちゃう?』

 

『し、知るか!』

 

『ちょっとカミやん、姫神ちゃん役やってや』

 

『は?』

 

『ボク、今から練習するから』

 

(れ、練習?)

 

『ちょ、ちょっと待て!』

 

『いくで…。やっほー。姫神ちゃん。いつも綺麗やな』

 

『う…。青ピ君。なに。急に』

 

(って、真似するんかい!何気に声高いし!!…姫神って人は知らないけど、そんな話し方なの!?)

 

『いつもそう思ってるんやで。姫神ちゃん綺麗やさかい』

 

『変な青ピ君』

 

『姫神ちゃん。ボク、姫神ちゃんのこと、好きや!』

 

『え。冗談。…だよね?』

 

『マジやで。姫神ちゃん。好きや!』

 

『うわ、ちょっと待てテメエ!いきなり肩を抱くな!!目を瞑るな!唇を突き出すな!!てかそんなことしたら間違いなくボディーブロー喰らうぞ馬鹿野郎!!』

 

『いやよいやよも好きのうちって言うやないか!』

 

『馬鹿かテメエ!』

 

『くっ。カミやんもやってみればわかる!…なによ!こんなところに呼び出して!!』ズバーン

 

『な、なに言ってやがる?いきなり!?』

 

『あなたが呼び出したんじゃない!私、こう見えても第三位だし、忙しいんだけど?』ツーン

 

(へ!?)

 

『なっ!?もしかして御坂の真似か!?』

 

『まさか、なにも考えてないなんてことはないでしょうね?』(多分、高飛車お嬢様っぽかったからこんな感じだろう)

 

『…ちょっと待てテメエ。知りもしないのに勝手に御坂を作るんじゃねえ!!』

 

(え?もしかしてアイツ、怒ってくれている?)ドキドキ

 

『ツンデレお嬢様なんてポイント高いで?』

 

『アイツはそういうのじゃねえんだよ!』

 

『ほー。じゃあどういうのなんや?』

 

『アイツは…なんていうか、甘えるのが下手な奴なんだよ。でも、そこが可愛いって言うかなんて言うか…』ゴニョゴニョ

 

「!!」(か、可愛い!?可愛いって言った?)カァッ

 

『わぁ。御坂さんのこと可愛いって言ってますね』ボソッ

 

「うにゃぁっ!?」ビクッ(そうだった、初春さんの携帯だったんだっけ…)

 

『なんかさらっと惚気てるん?』

 

『そ、そ、そ、そんなことないぞ!』

 

『…カミやん、まさか、特定の女の子のこと『可愛い』とか言っておいて、惚気てへんなんて言わへんよな?』

 

『う…』

 

『よし、ボクも姫神ちゃんの可愛さについて語るで!』

 

『さっきみたいに妄想はするんじゃねえぞ!』

 

『好きな子で妄想するのはむしろ健全なんやで』

 

『場所を考えろって言ってるんだ』

 

ぎゃあぎゃあと言い争いを始めた高校生を背に、初春は小さく微笑みながら囁くように言った。

 

『うふふ。よかったですね。御坂さん』

 

「な、な、な、なにが!?」カァッ

 

『可愛いって』

 

「うにゃあっ!?」///

 

『うふふ。明日のデート、楽しみですね』

 

「デ、デ、デ、デ、デート!?」

 

『はい。セブンスミストでお買い物らしいですよ。カミジョーさん』(御坂さんになにかを買ってあげる予定なのは内緒にしておこうっと)

 

「そ、そうなの?」

 

『はい。あ、じゃあ切りますね。また今度お話しましょう』

 

「あ、うん。また、ね」(セブンスミスト…。特売じゃない…。これって、これってやっぱり初春さんも言ってた…デ、デ、デ、デ、デートってやつかしら!?)ドキドキ

 

携帯を枕元に置き、代わりに側にあった人形を抱き締めてブンブンと頭を振る。

 

(きゃーきゃーきゃー!!)カァァァッ

 

ガチャッ

 

「ただいまですの。お姉さ…ま?」ドサッ

 

ベッドの上でカエルの人形を抱き、ヘッドバンキングをしているルームメイトを見て、黒子は手に持っていた鞄を足元に落とした。

 

「まさかこれは…精神系能力者の仕業!?」ハッ

 

「可愛いって…言ったよね?ね?うふ、うふふふふふ…」ブンブン

 

(…え?可愛い。…ま、まさか…)ワナワナ

 

「脈ありってことよね?ね?どうしようゲコ太?ねえ?どうしたらいい??うふ、うふふふふ…」ブンブン

 

(脈アリって…)ワナワナ

 

「ふぇっ!?黒子!!アンタいつ帰ってきたの!?」ビクッ

 

「た、たった今ですの。ただいまですの。お姉様」

 

「お帰り♪黒子♪いつもご苦労様」ニコニコ

 

「ご機嫌ですわね。お姉様」

 

「あはは。ちょろっとね~」ニコニコ

 

「何か素敵な事がありましたの?」

 

「まあね~」ニコニコ

 

「可愛いものでも見つけられましたの?」(落ち着くのですわ。黒子)

 

「可愛い!?うふ、うふふふふふ」ニヤニヤ

 

「お、お姉様…」

 

「可愛いって…うふふふ。わたしのこと可愛いって…」ニヤニヤ

 

「お、お姉様!?お気を確かに!?」

 

「ふにゃ~」///パタン

 

「お、お、お姉様ぁぁぁぁぁっ!?」

 

――――――――――

 

「~♪」

 

「とうま。なにかいいことでもあった?」

 

「ん?別にないけど?」

 

「鼻歌を歌ってるなんて珍しいんだよ」

 

「うぇ!?俺、歌ってたか?」

 

「うん。歌ってたよ」

 

(俺、もしかして御坂と買い物に行くのを楽しみにしてる?)「…うまい具合に出来たからかも」

 

「いい匂いなんだよっ!チキンライスなんだよ!?」ワクワク

 

「慌てるなインデックス。このチキンライスにふわふわの卵焼きを載せると…」

 

「!!」ワクワク

 

「そう、ボリュームも増えて、なおかつ美味いオムライスになるんだ!」

 

「す、すごいんだよ!とうま!!」キラキラ

 

「もう少しで出来るから、スフィンクスにご飯あげといてくれるか?」

 

「わかったんだよ!」パタパタ

 

(…御坂が?いやいやまさか…)

 

卵をボウルでかき混ぜながら、少年は茶色の髪の少女のことを思い起こす。

 

学園都市第三位の超能力者、超電磁砲の異名を持つ名門女子校に通う中学生の少女。

 

(御坂とはなんだかんだいって縁があるな。勉強も教えてくれるし、たまに食事なんかも作ってくれるし、インデックスのことも何かと面倒見てくれるし、学園都市の外にも一緒に行くようになったし…)

 

『ただし、今度はひとりじゃない』

 

(…って、手を掴まれたときは驚いたよなあ。なんか迫力あったけど)

 

『一応お揃いなんだから、あっさりなくしたりしないでよね』

 

少女の言葉が頭の中を過ぎる。

 

(…あれって、そういう風に解釈していいのだろうか?)ウーム

 

あれから、何かあるとストラップの有無を確かめられるようになった。

 

携帯を取り出して見せるときに、少女が嬉しそうな笑顔を見るのを密かな楽しみにしていたりもする。

 

(俺、もしかして御坂のこと…)

 

コンロの火を点けると、何かを振り払うように頭を軽く振ってからフライパンに油をひく。

 

(ええい!考えるの止め!とりあえず今は夕飯の支度だ!うん)

 

無理矢理に思考を断ち切り、上条当麻はぐっと菜箸を握り締めた。



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4 12月23日 デート開始

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ポケットから小さな紙袋を取り出し、そっと少女の前に差し出した。

 

「これを。私に?」

 

「気に入ってくれると嬉しいんやけど…」

 

「なんだろう?開けても。いい?」

 

「うん」

 

黒髪の少女はクリスマス包装された小さな紙袋のリボンを外し、開ける。

 

「これは!」

 

袋の中には、鈍く輝く指輪がひとつ入っていた。

 

「…ボクとお揃いやったりして」

 

「青ピ君」

 

「姫神ちゃん」

 

「お兄ちゃん!朝だよ~!」

 

「へ?」

 

「お兄ちゃん!朝だよ~!!」

 

ガバッ オニイチャン、アサダヨー カチッ

 

ベッドの上で飛び起きて、枕元に置いてあった目覚まし時計を止める。

 

「夢かいっ!!…いやしかし、姫神ちゃんの『お兄ちゃん』は新鮮やったな~」グヘヘヘヘ

 

――――――――――

 

「とうま。今日、こもえのところに行くけど、とうまも行く?」モグモグ

 

「あー、俺は…友達と約束があるから無理だな」

 

「むー。明日はこもえの家でパーティーなんだよ!ご馳走が出るんだよ!行かないと損なんだよ!」

 

「あー、クリスマスだもんなー」

 

「そうなんだよ!」

 

(…クリスマス、か)

 

「あいさやこもえと明日のパーティーの準備をするんだよ。私も手伝うんだよ」

 

「がんばれよー」

 

「ロースト・ターキー、クリスマス・プティング、フィッシュ・アンド・チップス…ご馳走がいっぱいなんだよ」ジュルリ

 

「…そこまで本格的なのは学園都市じゃ無理なんじゃないか?」

 

「クリスマスなのに?」

 

「んー、七面鳥は鶏の腿肉、クリスマス・プティング?はショートケーキ、フィッシュ・アンド・チップスはフライドポテトになるかなあ?」

 

「ご馳走だからいいんだよ」

 

「食べるものにこだわりがあるわけじゃないのか」

 

「国によって食べ物が変わるのは仕方がないことなんだよ」

 

「そういうものなのか」

 

「そういうものなんだよ」

 

「そうか」

 

「…明日は、……たいな」ボソ

 

「ん?なんだって?」

 

「なんでもない!」ブンブン

 

慌てて首を振る少女を見て、少年は険しい表情を浮かべる。

 

「インデックス…。お前…」

 

「え?な、なに?」ビクッ

 

そっと少女の額に左手を当て、右手を自分の額に当てて呟いた。

 

「んー?気のせいか?なんか熱っぽく見えたんだけどなあ」

 

「き、気のせいなんだよ、とうま」カァッ

 

少年の手から逃れるように少女は身を引いた。

 

「本当か?」

 

「本当だよ。ぜんぜん大丈夫なんだよ!」ブンブン

 

「ならいいけど…」

 

「心配してくれてありがとう、なんだよ。とうま」

 

「お、おう…」(やけにしおらしいけど、言ったら噛まれそうだから言わないでおこう)

 

「…なんかとうまがすごく失礼なことを考えているような気がするんだよ」カチカチ

 

「そ、そんなこと無いぞ」ダラダラ

 

「『疑わしきは罰せよ』なんだよ、とうま」ガブッ

 

「ぎゃああああああ!!不幸だああああああああっっ!!」

 

――――――――――

 

外から小鳥の囀りが聞こえてくる。

 

「…ね、眠れなかった」

 

―――アイツが悪い。

 

目を閉じて、布団を頭から被ると浮かんでくるアイツ。

 

『アイツは…なんていうか、甘えるのが下手な奴なんだよ。でも、そこが可愛いって言うかなんて言うか…』

 

「そこが可愛いって言うか…」

 

「可愛い…」

 

「可愛い」

 

―――可愛い

 

その言葉が、勝手に頭の中で繰り返される。アイツの声で。

 

それがわたしの胸を苦しくさせる。頬が熱くなる。

 

でも、嫌な感じじゃなくて…。

 

「…はぁ」

 

常盤台のエース、学園都市第三位の超電磁砲。そんな肩書も、アイツの前じゃ意味を持たない。

 

アイツは、わたしのことを、ただの電撃使いの女の子として見てくれる。

 

アイツとは、友達くらいの関係にはなれていると…思う。

 

ロシアから戻ってきてから、半ば強引にアイツの手伝いをするようになった。

 

魔術師なんて聞いても最初はトリックか何かだと思っていたけど、実際に魔術を目にして、そんな考えは跡形もなく消し飛んだ。

 

紙切れが遊覧船くらいの船になったりとか、炎の巨人が暴れたりとか、大きな魔方陣が空中に浮かび上がって爆発的なエネルギーの奔流が起こったりとか。

 

まあ、ロシアでアイツがいたところも魔術で作られた空飛ぶ島なんだけど。

 

あんなのをいつも見ていたんじゃ、わたしに対して普通に接する理由がわかる気がした。

 

アイツは、いつもそんな非現実的な世界にいたのだから。

 

―――そんなアイツが、わたしを買い物に誘った。

 

それって、少しはわたしのことを『特別』に思ってくれている?

 

そう、思ってもいいの…かな?

 

アイツは、わたしにとって特別な存在だ。

 

アイツとの待ち合わせまであと3時間ちょっと。

 

眠れなかったけど、それよりもはやくアイツに会いたいと思っているわたしがいる。

 

「…好き」ボソッ

 

そっと呟いてみた。

 

それだけで、胸が苦しくなり、頬が熱くなった。

 

きっと、アイツの前じゃこんなこと言えない。今の関係を壊してしまいそうで怖いから。

 

でも、もしかしたら…。

 

何かが、起こるかもしれない。

 

――――――――――

 

「…あ」

 

「よう」

 

30分ほど前に待ち合わせ場所へ行くと、そこにはすでにツンツン頭の少年が、両手を擦りながら立っていた。

 

「は、早いわね」

 

「誘っておいて待たせるわけにはいかないだろ?」

 

「そ、そう。その、ありがと」

 

「お礼を言うのは俺の方だと思うんだけど?」

 

「そ、そうかな?」

 

「うん」

 

学生服にマフラーを巻いて毛糸の手袋をしているものの、少年は体を震わせていた。

 

一方、少女はロングコートを纏い、カシミアのマフラーを巻いて鞣革の手袋をしているのでそんなに寒さを感じていない。

 

「…アンタ、寒そうね?」

 

「ああ、今日は結構冷えるな」ハーッ

 

「あー、今日はお買い物に行くのよね?どこに行くの?」(寒そうね…。そういえば黒子が良く腕を絡めてくるけど、結構温かいのよね~)

 

「セブンスミストに行こうと思うのですが…」

 

「りょーかい」ドキドキ

 

軽く答えて、少女はさりげなく少年の右腕に自分の左腕を絡めた。

 

「へ?み、御坂っ!?」カァッ

 

「さ、寒いから盾になりなさい!べ、別に変な意味ないんだからっ!」(こんな感じなら自然なはず!)カァッ

 

「お、おう?」(腕になにか柔らかいものが当たるんですけど!?)ドキドキ

 

「い、行くわよ!」(へ、平常心、平常心)ドキドキ

 

「ちょっ!?引っ張るなって!!」(な、なんなんだ!?この状況は!?)

 

少女に視線を向ける。よく見ると耳がほんのりと赤くなっていた。

 

(照れてる?いやいや、まさか)「おい、御坂。これじゃあお前が俺の盾になってるぞ!」

 

「じゃあ、アンタがエスコートしなさいよ」カァッ

 

「エ、エスコートってどうすればいいのでしょうか?」

 

「アンタがわたしを引っ張っていけばいいのよ」ギュッ

 

少女は後輩にされるように腕にしがみついてみた。彼女はその行為が女の子同士だからこそできるスキンシップであることに気がついていない。

 

「そ、そうか」(か、上条さんの手が御坂の大事なところに当たりそうなんですけど!?)カァッ

 

「はい、じゃあよろしくー」ギュッ

 

「あのな御坂。そんなにしがみつかれると、歩けないんだけど」カァッ

 

「わたしは別に平気だけど?」ギュッ(黒子なんてもっとしがみついて来るし)

 

(も、もう限界だ)「あーもー!!御坂さんには恥じらいというものはないのですか!?いろいろ当たったり、当たりそうになってるんですけど!」カァッ

 

「へ?何が?」キョトン

 

「…胸とか…その、俺の手とか」カァッ

 

「うぇっ!?」カァッ

 

絡めた腕を見てみる。少年の腕は胸に密着しているし、肘を伸ばすようにして絡めているため、手の甲はスカートの上の方で握り締められ、今にも下腹部に当たりそうになっていた。

 

「う、うにゃああああああっっ!!」カァァァッ

 

「お、落ち着け!御坂っ!」

 

「落ち着けるかああああっ!!」カァァッ

 

「いいから手を離せええ!!てか、動くな!!触っちまう!」カァァッ

 

「~~~っ!!」カァァッ

 

「そ、そうそう。腕を伸ばして…よし、離れたぞ!」

 

「あ~あうあう…」プシュー

 

「女の子同士ならああいう組み方もいいと思うけど、上条さんは男子ですから気をつけないと、な」///

 

「そ、そうよね…あはは…」シュン

 

「…ま、気にするな」ポンポン

 

「子供扱いしないでよ」ムゥ

 

「そんなこと言うなよ。…上条さんもいろいろテンパってるんですから…」ボソボソ

 

「へ?」(テンパってる?)

 

「な、なんでもない!!」カァッ

 

「気になるじゃないの!」

 

「あーのーなー、健全な男子なら当然っていいますか、その女の子特有の感覚(っていうか触感)に敏感なんです!」カァッ

 

「ふぇ?それって?」クビカシゲ

 

「わからないならいい!忘れろ!というかむしろ忘れてください!」

 

「…まあ、いいわ。許してあげる」(女の子として見てくれているみたいだし)

 

「サンキュー。じゃ、行くか」

 

「うん」

 

少女の目の前に少年の手が差し出される。先ほどまでしがみついていたのとは反対の手。

 

「え?」

 

「エスコートしなきゃいけないんだろ?だから」カァッ

 

「う、うん」カァッ

 

躊躇いがちに右手を差し出すと、少年の左手が優しくそれを包み込んだ。

 

「うし。行くぞ」ギュッ

 

「う、うん」(結構大きいのね。コイツの手)

 

「…」

 

「…」(手をつないで歩いてる…)

 

「…」(な、なにか話題になりそうなことは…)

 

「…」(夢、じゃないよね?)

 

「あー、バスってどこから乗るんだっけ?」(常盤台中学前でよかったと思うけど)

 

「んっと、学校前でいいんじゃない?」

 

「了解」

 

「♪」

 

バス停を目指して歩いているうちに、なんとなく視線を感じるようになってきた。それも複数の人間―常盤台中学の制服を身に着けた少女たち―の視線を。

 

「…」(待てよ…。常盤台って御坂の学校だよな…)ダラダラ

 

「♪」

 

「…御坂。いったん手を離すぞ?」

 

「却下」

 

「ええと、俺とのうわさを学校中にばら撒きたいのか?…もう手遅れかもしれないけど」

 

「は?なに言ってるのアンタ?」

 

「俺たちは今、常盤台中学前のバス停に向かっているわけだ」

 

「うん」

 

「部外者の上条さんと常盤台の御坂さんが手を繋いでいて、それを常盤台の子たちが目にするわけなんだけど…」

 

「…」ダラダラ

 

「実を言うと…さっきからなんとなく視線を感じているわけですが…」

 

「う、うにゃあああああああっ!!」ビリビリビリ

 

「ぎゃあああああ、不幸だああああ」



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5 12月23日 ふたり

――――――――――

 

一騒動を起こしたからなのか、常盤台中学前からバスに乗ったのは彼ら二人だけだった。すばやく乗り込むと、後ろの方の席に並んで腰を下ろす。

 

扉が閉まり、バスが動き出すと、少年は大きなため息を漏らした。

 

「し、死ぬかと思った…」ハァ

 

「あはは~。…ごめん」ショボン

 

「…いや、俺も悪かったし」

 

「へ?」

 

「…普通に手を引っ張っちまってたからな。お前の学校の近くに行くってわかってたのに」

 

「でも、それはわたしが…」

 

「引っ張ってたのは俺。御坂は悪くない」

 

「…わかった」

 

「…」

 

「じゃ、せっかく遊びに行くんだから、この件はこれでおしまいね」

 

「え?」

 

「お互い暗い顔して買い物してもつまらないでしょ?」ニコッ

 

「あ、ああ。そうだな」

 

「あ、そういえばさ、アンタの左手が触ってても、能力使えたわね」

 

「…そういえば」

 

「ちょろっと実験♪右手出して」

 

「あ、ああ」ミギテ サシダス

 

 ミギテ カサネル「…なんなのかしらね?この右手は」ムニムニ

 

右手で相手の右手を握りながら、少女は不思議そうに少年の方へ身を乗り出す。

 

「ねえ、ちょっと…!!」(顔近い!顔!!)///

 

「な、なんでしょう?御坂さん」(顔近い、顔!)///

 

見つめあったまま数秒間、二人は顔を赤くして固まった。

 

「…あ、あのさ、ちょっとアンタの右手をわたしの頭に置いてみてくれる?」(落ち着け、落ち着け)ドキドキ

 

「あ、ああ。これで、いいか?」ポフッ(平常心、平常心)///

 

「ふむふむ。次は肩に置いてみて?」

 

「ああ」ポン

 

「…右手を持ってても使えないし、今も使えないから、アンタの右手が能力者の体に触れていれば、能力が使えなくなるってことみたいね」

 

「…」

 

「じゃあ、今度は右手離して左手を出して」

 

「ああ」スッ

 

差し出された左手を右手で握り、精神を集中する。

 

「…んー。右肩から能力消されちゃうみたいね。でも、右腕以外は守れそうね」

 

「えっと、何を言っているのでしょうか?」

 

「ん?電磁力で弱い防壁を展開しているんだけど、アンタの右腕以外はカバーできてるっぽいのよねー」

 

「へー、何も感じないけどなあ」

 

「弱いって言ってるでしょ。でも、あとで試しておきたいわね。最大出力で」

 

「…何か嫌な予感がするのですけど?」

 

「ちょっとビリッとするかもしれないわね。でも、戦うときに便利なのよ。銃弾ぐらいなら防げるし」

 

「銃弾って、洒落にならないんですけど!?」

 

「あのねえ、普通の人間はそういうもので攻撃してくるのよ。軍隊なんか特にね」

 

「これって、学生の会話じゃないよなあ」ハァ

 

「まあ、いろいろ首突っ込んじゃってるから仕方ないじゃない」

 

「それはそうだけどさ、今日はそういうの無しにしようぜ」

 

「え?」

 

「息抜きってやつ?普通に買い物してみないか?」

 

「アンタがそう言うなら、それでも…いいけど」

 

「じゃ、決まりな」ニコッ

 

「うん」///

 

――――――――――

 

学舎の園の文房具店で買い物を済ませて寮へと戻る途中、オープンカフェの一角で話す少女たちの声が耳に入ってきた。

 

「…やっぱり彼氏とかだったりするのでしょうか?」ヒソヒソ

 

「手をお繋ぎになっていたのですから、そう考えるのが自然だと思いますわ」ヒソヒソ

 

(また、くだらないことを)ハァ

 

「真っ赤になって可愛らしかったですわね」クスクス

 

「相手の殿方も電撃に巻き込まれていたように見えましたけど」

 

『真っ赤になって』や『殿方』まではいつもの下世話な話と思い聞き流していたものの、『電撃』というキーワードが出てきた瞬間、白井黒子の身体が硬直した。

 

(まさか、まさかまさかまさか…)ダラダラ

 

「『不幸だー』なんて叫んでいましたわね」クスクス

 

「そのくせ、手を離さないのですから、もしかしたらあの殿方も電気系の能力をお持ちなのかもしれませんわね」

 

『不幸』な『殿方』が『電撃使い』と手を繋いでいた。それらから導かれることは…。

 

「あんのおおおおおおおおおっ!!類人猿んんんんん!!」グギャアアアア

 

「「!!」」ビクッ!!

 

「…コホン、風紀委員ですの。貴女たち、その不純異性交遊が行われていたのはどこですの?」

 

「え、えーっと…」ビクビク

 

「バス停…です」ビクビク

 

「こうしてはいられないですの!今すぐお姉…じゃなくて不純異性交遊を取り締まらないといけませんですの!!では失礼」シュンッ

 

「…」

 

「…」

 

「なんだったのでしょう?」

 

「さあ?」

 

――――――――――

 

バスを降り、ショッピングモールの入口まで歩くと、少女が足を止めた。

 

「どうした?御坂」

 

「忘れてた。携帯見せて」

 

「ん。ああ」ゴソゴソ

 

「ん。無くしてないわね」ニコッ

 

「…」ドキッ

 

思わず視線を逸らしながら、ふと思ったことを口にする。

 

「…あのさ、お前は無くしてないよな?」

 

「無くすわけないじゃないの。ほら」

 

少女は携帯電話を取り出すと、そこに付けられているストラップを少年の目の前に突き出して揺らしてみせた。

 

「はは」

 

「何よ?」

 

「いや、なんか嬉しくってさ」

 

「え?」

 

「なんていうか、友情?絆?みたいなのを感じられるとでもいいましょうか…」

 

「あー、ふたりだけの約束みたいな?」

 

「そうそう、そんな感じ!」

 

「そういうのも悪くないわね」ニコッ

 

「そうだろ?そうだよな?そうなんです!」(そこでその笑顔は反則だ)

 

「…アンタとお揃いっていうのがポイントなんだけどね」ボソッ

 

「ん?何だって?」

 

「な、なんでもない!」カァッ

 

「今、何か言ったような気がしたけど?」

 

「あー、そのー、喉が渇いたかなー、なんて…」

 

「んー。じゃあ、その辺で何か飲むか?」

 

「うん」ニコッ



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6 12月23日 遭遇

――――――――――

 

(お姉様!お姉様!)シュンッ シュンッ

 

バス停の時刻表を確認し、目標がショッピングモール方面のバスに乗ったと判断して、自らの能力を最大限に利用して進んでいく。

 

(ショッピングモールならまだ先回りできるですの。とりあえずお姉様の後ろに回りこんで、お姉様と一緒に類人猿から離れた場所に飛べば)シュンッ シュンッ

 

考えながら瞬間移動を続けていると、前の方から親愛なる第三位の超電磁砲が一人で歩いてくるのが目に入って、慌ててその場に停止する。

 

「お、お姉様がお一人で…。ああ、颯爽とした凛々しいお姿」ハアハア

 

―――きっと、類人猿を追い払って寮に戻る途中ですのね。みなまで言わなくてもわかりますわ。今、お側に参りますの!

 

そして、ツインテールの少女は、前から歩いてくる少女の背後に瞬間移動した。

 

「お・ね・え・さ・まああああ!!」ダキツキ

 

「敵襲!?とミサカは冷静に相手の腕を掴み、電撃を放ちます!」ビリビリ

 

「ああああああんっ!!愛の鞭ですのおおおおおおっっ!!」ビクビク

 

『緊急事態発生。こちらはミサカ一三五七七号。第七学区を探索中にお姉さまの知り合いと遭遇。ミサカはミサカネットワークに情報の提示を要請します』

 

『ミサカ一〇〇三二号より、ミサカ一三五七七号へ。対象の身体的特徴、着衣、行動などから判断して、ミサカは対象をお姉さまのルームメイト、白井黒子と断定します』

 

『ミサカ一九〇九〇号より、ミサカ一三五七七号へ。風紀委員で空間移動の大能力者。と、ミサカは白井黒子の個人情報を提示します』

 

『ミサカ一〇〇三九号より、ミサカ一三五七七号へ。なぜ一三五七七号は外にいるのですか?と、ミサカは同じ病院内にいるはずの一三五七七号に質問します』

 

『ミサカ一九〇九〇号より、ミサカ一〇〇三九号へ。そんなことは後で聞けと、ミサカは一〇〇三九号に突っ込みを入れます』

 

「…う…ん」

 

『ミサカ一三五七七号より、対象が意識を取り戻したので、言葉遣いを緊急用《御坂美琴モード》に変更します』

 

『ミサカ一〇〇三二号より、ミサカ一三五七七号へ。可及的速やかに撤退することをミサカは推奨します』

 

『ミサカ一三五七七号より、ミサカ一〇〇三二号へ。了解。ミサカはこれより撤退作戦を開始します』「…まったく、急に抱きついてくるんじゃないわよ」『と、ミサカは不満そうに言い放ちます』

 

「ただのスキンシップですの!そんなことよりもお姉様!!あの類人猿に変なことされていませんよね?」

 

『ミサカ一〇〇三二号より、ミサカ一三五七七号へ。類人猿とは上条当麻のことで、お姉さまはそう呼んでいることを快くは思っていません。と、ミサカは補足します』

 

「アンタ、誰のことを言ってるのよ?」『と、ミサカは語気を荒くして言い放ちます』

 

『ミサカ一〇〇三二号より、ミサカ一三五七七号へ。もっと見下すように冷たく言い放っても良い。と、ミサカは提案します』

 

『ミサカ一九〇九〇号より、ミサカ一〇〇三二号へ。私情が混じっている。と、ミサカは一〇〇三二号に突っ込みます』

 

「そんなことよりも、お姉様、頭に何を付けているのですの?御髪が乱れてしまいますの」

 

『あっさり流しやがった。と、ミサカは毒づきます』

 

『ミサカ一〇〇三九号より、ミサカ一三五七七号へ。白井黒子がゴーグルのことを言っているのであれば、それを何らかの実験装置として装着しているということにすれば良い。と、ミサカは提案します』

 

「…実験の計測装置よ。ってか、わたし、今、実験中だからアンタと喋ってると色々とマズいのよねー」『と、ミサカは一〇〇三九号の案に乗ります』

 

「そんな雑な装着の仕方をするなんて…その実験の責任者に文句を言うべきですの!淑女の扱いがなっていないですの!」

 

「ああ、これ、一応秘密だから、アンタはわたしに会っていないし、わたしもアンタに会っていないってことで」『と、ミサカは白井黒子の文句を流し返します』

 

そのとき、一陣の風が少女たちの間をすり抜ける。ツインテールの少女は当然のようにスカートをおさえ、ショートカットの少女もまた、当然のように何もしなかった。

 

ふわりと、ショートカットの少女のスカートがツインテールの少女の目の前で捲れあがる。

 

「ふおおおおおおお!?楽園はこんなところにあったですの!!」(し、縞パンですのっっ!)

 

「なにわけわからないこと言ってるのよ、アンタ」『と、ミサカは白井黒子から迸る変なオーラに本能的な恐怖を感じながら後ずさります』

 

「…」ハッ(お姉様のクローゼットであのような縞パンを見た覚えはないですの。バス停での目撃情報、類人猿、一人で戻ってきたお姉様…)ワナワナ

 

~~~~~~

 

薄汚れた学生寮の一室で身支度を整える少女。

 

お姉様「もう。汚れちゃったじゃない。…さすがにコレは履いて帰れないわね」///

 

類人猿「スマン。でも、これ用意しといたから」

 

お姉様「な、なんでこんなの持ってるのよ!」///

 

類人猿「お前が感じやすいって知ってるから、コンビニで買っといたんだよ」///

 

お姉様「…アンタ、こういうの、好き…なの?」

 

類人猿「ま、短パンやゲコ太プリントよりは似合うと思うぜ」

 

お姉様「ば、馬鹿」///

 

~~~~~~

 

「ぐへへへへ…。じゃなくてっ!!そんなことになっていたら…でも、まさか、いや、しかし…」ガクガクブルブル

 

『今すぐこの場から立ち去りたい。と、ミサカは目の前で百面相をする白井黒子から距離を置くために歩き出します』

 

『ミサカ一〇〇三九号より、ミサカ一三五七七号へ。いったい何が起きた?と、ミサカは一三五七七号に説明を求めます』

 

『ミサカにはわかりません。と、ミサカは戸惑いながら報告します』

 

「お姉様!!」ガシッ!!

 

「馬鹿っ!実験中だって言っているでしょう!」『やばい、捕まった。と、ミサカは逃走方法を模索中です』

 

「ごめんなさいお姉様。黒子は、黒子は、どうしてもお姉様にお聞きしたいことがありますの!」ウルウル

 

「な、なによ…」『なんだこいつ?と、ミサカは涙目の白井黒子を気味悪く思っています』

 

「あの類人…いえ、上条…さんと、短パンについてですの」

 

「えっと…」『短パンってなんのことですか?と、ミサカは緊急に情報を求めます』

 

『ミサカ一〇〇三九号より、ミサカ一三五七七号へ。短パンとはショートパンツのこと。と、ミサカは一般論を報告します』

 

『ミサカ一〇〇三二号より、ミサカ一三五七七号へ。お姉さまは普段、スカートの下に短パンを装着しています。と、ミサカは一三五七七号に報告します』

 

『なるほど。先ほど風でスカートが捲れあがったのを見て、短パンを履いていないことに違和感を感じたということですか?と、ミサカは質問します』

 

『ミサカ一九〇九〇号より、ミサカ一三五七七号へ。おいおい、そんなことがあったのかよ。と、ミサカは一三五七七号に突っ込みを入れます』

 

「…なぜ答えてくださらないのですの?」

 

『ミサカ一〇〇三二号より、ミサカ一三五七七号へ。とりあえず、あの人のためということにしておけば問題ない。と、ミサカは一三五七七号に進言します』

 

「…あー。アイツ、短パン嫌いなんだよねー」『こんな感じでいいでしょうか?と、ミサカは一〇〇三二号に確認します』

 

「…だから…ですの?」ハァ

 

『ミサカ一〇〇三二号より、ミサカ一三五七七号へ。グッジョブ。と、ミサカは一三五七七号を称えます』

 

『ミサカ一〇〇三九号より、ミサカ一〇〇三二号へ。おいおい本当か?と、ミサカは一〇〇三二号に確認します』

 

「そのショーツも…上条…さんの趣味ですの?」ハァ

 

「そ、そうね。…もういいかしら?」『と、ミサカはどす黒いオーラを纏い始めた白井黒子に恐怖を感じています』

 

「いやああああああああああああっっ!!お姉様がっ、お姉様がっ、穢れてしまったですのおおおおおおおおお」シュンッ

 

「!?」『想定外。と、ミサカは混乱を隠せずに姿を消した白井黒子に言い知れぬ不安を感じます』

 

『ミサカ一〇〇三二号より、ミサカ一三五七七号へ。とりあえず早急に病院へ戻るように。と、ミサカは一三五七七号に進言します』

 

『ミサカ一〇〇三九号より、白井黒子は大丈夫でしょうか?と、ミサカは不安を感じていることを報告します』

 

『ミサカ一九〇九〇号より、監視カメラのデータから、白井黒子はお姉さまのいるショッピングモール方面へ向かったのでお姉さまにお任せすれば良い。と、ミサカは提案します』

 

『ミサカ一三五七七号より、撤退開始。と、ミサカは帰院することを宣言します』

 

病院の一室で、一人の少女がベッドの上に腰を下ろしながらそっと呟いた。

 

「お姉さまとあの人の邪魔をしてしまったかもしれませんね」ニヤリ



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7 12月23日 ケーキセット

――――――――――

 

「…」キラキラ

 

ショッピングモールにある喫茶店の店頭ウインドウの中を、少女が瞳を輝かせて見つめている。

 

『クリスマス限定キャンペーン!!カップルケーキセットをご注文のカップルのお客様に、サンタゲコ太、トナカイピョン子のペアストラップをプレゼント!』

 

そんなポスターの下に置かれたガラスケースの中に、どんぶりくらいの大きさのショートケーキが鎮座し、その横にサンタ服に身を包んだ髭を生やしたカエルのマスコットストラップと、茶色いトナカイの衣装を着たまつげの長いカエルのマスコットストラップが仲良く並んで置かれていた。

 

(御坂のやつ、すげえ目を輝かせている。…でもさすがにそれはないだろ)

 

(凄い欲しい、ゲコ太もピョン子も可愛すぎる!!でも、でも…!!)

 

「…」(まさか、な)

 

「…」(ううー。欲しい、欲しい)キラキラ

 

二人はショーウインドウとお互いの顔を交互に見ては、無言でその場に留まっていた。

 

『カップルケーキセットをご注文の際には、お二人がカップルであるという証明を行っていただきます』

 

(…カップルの証明って、嫌な予感しかしないんだが)

 

(ゲコ太欲しいなあ。ゲコ太…)キラキラ

 

(コイツ、このこと気づいてるのか?)

 

(ゲコ太…)キラキラ「ね、ねえ…」ドキドキ

 

「!な、なんだ?」(まさか…)

 

「ちょろ~っと、協力してくれないかな?なんて…」キラキラ

 

「やっぱりそうくる?」ハァ

 

「い、いいじゃないの!可愛いんだもん!!」

 

「ホント、好きだな、お前」

 

「ふぇ!?す、す、す、好きって!?」アセアセ

 

「…それ、えーっと、ゲコ太?」

 

「わ、悪い!?」(焦ったじゃないの!!)

 

「いや、別にいいけど。…ホントにいいのか?」

 

「ちょろ~っと『ふり』をしてくれればいいんだし、大丈夫でしょ?」

 

「いや、そこに書いてあることをよく読んでからにした方がいいと上条さんは思うんだが」

 

「なによ、書いてあることって」

 

「その、『カップルの証明』ってやつなんだけど…」

 

「んー?アンタとわたしならぜんぜん簡単でしょ?」ニコッ

 

「御坂さんがそう言うならいいんですが…」(マジか?)ドキドキ

 

「じゃ、決まりね!すみませーん!!このカップルケーキセットくださーい!」

 

「…」ドキドキ

 

「いらっしゃいませ。では、お二人がカップルという証明をお願いします」ニコッ

 

「あ、アンタ、ちょっと携帯貸して」

 

「あ、ああ」ケイタイ サシダス

 

「サンキュ。…んと、これでいいですか?」フタリノ ケイタイ サシダス

 

「えーっと、はい。これならOKですね。じゃあお席でお待ちください」ニコッ

 

「ほら、ぼけっとしてないで、行くわよ」

 

「あ、ああ…」(いったいどんな技を使ったんだ!?)

 

少女は軽やかな足取りで店内に入ると、適当な席に座って少年を手招きした。

 

「いやー、ラッキーだわ。レアなゲコ太を手に入れられて♪」

 

「よ、良かったな。で、どんな技を使ったんだ?」

 

「技ってほどのものでもないわよ。アンタとわたし、ペア契約してるじゃない」

 

「あ。そっか。そんなんで良かったんだ」

 

「…アンタなに考えてたのよ」

 

「スマン!お前をここで抱きしめたり、キスしたりしなきゃいけないかと思ってた」///

 

「うぇ!?アンタそんなこと考えてたの!?」ビリビリ

 

「だから謝ってるじゃないか!ってか、ビリビリ禁止!」

 

「う~。ゲコ太に免じて許す!」(なに赤くなってるのよコイツは!)///

 

「ありがとうございます、御坂様」

 

「…」(あれ?でも、これって脈ありってこと)///

 

「お待たせしました。カップルケーキセットです。こちらは粗品のストラップになります。ごゆっくりどうぞ」ニコッ

 

「やっぱりサンタゲコ太もトナカイピョン子も可愛い~♪」キラキラ

 

「良かったな。って、これは!?」カビーン

 

ジュースを飲もうとして少年の手が止まる。ショートケーキの横に置かれたストロベリージュースが入っていたのは、花瓶のような大きさのグラスで、そこにはストローが二本差し込まれていた。

 

ショートケーキの横に置かれているフォークも一本だけだったりする。

 

(カップルケーキメニュー…。侮れないな)ゴクッ

 

「どうしたのよ…って」カァッ

 

ストローを凝視して少女の頬が赤く染まる。

 

(本当にこんなのあるんだ…。アイツを見ながら同じジュースを飲むの?)///

 

「あー、喉渇いたから、飲むぞ?」///

 

「う、うん」///

 

少年がストローを口に含むのを見て、慌てて少女もそれを真似る。

 

「!!おまっ、何も一緒に飲まなくても!?」ゴホゴホ

 

「カップルなんだから一緒に飲まないといけないでしょ!?」///

 

「『ふり』なんだから、一緒に飲まなくてもいいんだよ」ボソボソ

 

「へ、変な目で見られたらゲコ太没収されちゃうかもしれないじゃない!協力してよ!」///

 

「そんなことないと思うけど、お前がそう言うなら協力する」ボソボソ

 

「ありがと…」(アイツの顔がこんな近くに)チュー

 

「…」(へ、平常心、平常心)チュー

 

「…」チュー

 

(恋人っぽく…か。じゃあ、やっぱりアレだな…)///

 

少年はストローから口を離すと、フォークを持ち、ショートケーキの一部に切込みを入れてフォークに刺して持ち上げた。

 

「…あ、あーん」(めちゃくちゃ恥ずかしいぞコレ)///

 

「ふにゃっ!?な、なに!?」ゴホゴホ

 

「あー、フォークが一本しかないからこうするものなのかと思ってな」///

 

「そ、そうなんだ…」///

 

「これって結構恥ずかしいんですけど?」///

 

「…あーん」パクッ///

 

「…」(き、緊張する)

 

「…」モグモグ(た、食べさせてもらっちゃった)///

 

「もう一口、どうだ?」アーン

 

「い、いただきます…」パクッ モグモグ

 

(なんだこれ。なんか色々ヤバイ)カチャッ

 

(あ、フォーク置いた。…わたしも、やっちゃおうかな?)「…あ、あーん」///

 

「う…」(もう自棄だ)「…あーん」パクッ モグモグ(あれ?これって間接…)ハッ

 

(あれ、コレって間接キ、キ、キ…)カァッ

 

真っ赤になって見つめ合うふたり。なんだかいい雰囲気である。

 

「しぬぅうぇええええええええええええっい!!!」ブワッ

 

「っ!!あぶねえ!!」ガシッ

 

「!!なによアンタ!?」(あれ、アイツの友達よね?)

 

「テメエ!なにしやがる!!青ピ!」

 

「なに朝から美少女中学生といちゃいちゃしてるんや!!この裏切り者!」クワッ!

 

「!」///

 

「い、いちゃいちゃなんか…」カァッ

 

「同じグラスのドリンク飲んで、同じフォークで『あーん』なんてやっておいて、いちゃいちゃしてないとは言わせへんで、カミやん」

 

「そ、それは…」(いやいや待て、ここは肯定しておかないと御坂のストラップを没収されてしまいかねん)

 

「っ~!」///

 

「…あのなあ、青ピ。俺たちが頼んだのは『カップルケーキセット』なんだから、仕方ないだろ?」(俺たちは恋人って設定なんだよ)

 

(え?それって、それって…)カァッ

 

「カミやん…。それってどういうことや?」

 

(ウエイトレスさんが見てる…)「デ、デートの邪魔をするんじゃねえって言ってるんだよ」///

 

「!!」(デ、デートって言った!?言ったよね!?)///

 

「な、なんやて…。カミやん、いつの間に…」

 

(よ、よし、もう一押し)「わかるだろ?青ピ」

 

「う、うわああああああ!!カミやんの裏切り者おおおおおおおおっっ!!」ダッ

 

この世の終わりのような表情を浮かべ、向かい合って座っている少年と少女を交互に見比べると、青髪の少年は大声を上げながら走り去っていった。

 

「まったく、青ピの奴…。御坂、悪かったな」ハァ

 

「…」(デート、デート…)ニヘラー

 

「御坂?」(なにボーっとしてるんだ?)

 

「ふぇっ!?…あ、その、ゴメン。…はい、あーん」スッ

 

「うぇっ!?…あ、あーん」パクッ モグモグ

 

「…美味しい?」ニコッ カチャッ

 

「…」コクッ

 

「…あーん」アーン

 

「!!…あ、あーん」

 

「…」パクッ モグモグ

 

(なんか自然にカップルしちゃってるんですけど!?)///

 

「はうぁ!?何故あの二人が一緒にいるのですか?幻ですの?…いえ、ここはまず確かめないといけませんの!」シュンッ

 

「ひぅ!?」ビクッ

 

下半身に違和感を感じ、美琴は身体を震わせた。スカートの中で何かが蠢いている。

 

「どうした?御坂?」

 

「な、なんでもないっ!」(コイツに気付かれちゃいけない)///

 

平静を装って机の下を覗きこむと、自分のスカートに頭を突っ込んでいる常盤台中学の制服が目に入った。その右腕にある風紀委員の腕章と、背中に垂れた二本の黒髪の束には見覚えがある。

 

「短パンも履いてますし、ゲコ太パンツですの。…するとさっきのお姉様は偽者!?」

 

「く、く、く、く、く、黒子!!アンタ一度死んどく?」バチッ ビリビリ

 

「お、お姉様が類人猿色に染められていなければ…、黒子はそれで一安心ですのおおおおおおおぉ!?」ビクビクッ

 

「い・い・か・ら離しなさい!!」

 

「ん?白井か?…オマエ、机の下に潜り込んで何してるんだ?」ヒョイ

 

「!!アンタは覗くなあああああ!!」ビリビリ

 

机の下には電撃を喰らって痺れているツインテールの少女がいて、その少女の右手にはクリーム色の短パンが掴まれており、短パンから伸びたすらりとした足の上には、口髭を生やしたカエルのプリントが施された白い布地が燦然と輝いていた。

 

「ス、スマン!!」///

 

「アンタ見たの!?見ちゃったの!?見やがったの!?」///

 

「ふ、ふ、ふ、ふ、不可抗力だ!」///

 

「く~ろ~こぉ~」バチバチ

 

「ああ~んっ!!愛の鞭ですのぉぉぉぉぉぉ!!」ビクンビクン

 

(み、見られた!見られちゃった)カアァァッ

 

ツインテールの少女の手を引き剥がし、短パンを履き直しながら、少女は真っ赤になって俯く。

 

「あー、そ、その。…とりあえず、あーん」スッ

 

「何でそうなるのよっ!?」

 

「馬鹿お前!ここで変なそぶり見せたらゲコ太没収されるぞ!いいから口開けとけ!」ボソボソ

 

「そ、それは嫌!」ボソボソ「…あ、あーん」パクッ モグモグ

 

「もう一口、あーん」

 

「…あーん」パクッ モグモグ

 

「…」カチャッ

 

「…あーん」スッ

 

「あ、あーん」パクッ モグモグ

 

「…なんかとてつもなく凄いことが私の上で起きている気がしますの…」(お姉様が類人猿と食べさせっこをしている!?)ガクガクブルブル

 

「…あ、クリーム付いてる」スッ パクッ

 

「!!」(な、なんですと!?)カァッ

 

「あ…」カァッ(や、や、やっちゃったーーーー!!)

 

「お、お姉様が、お姉様が類人猿と間接キス、うふ、うふふふふ、うふふふふふ」ガクガクブルブル

 

「あー…」///

 

「…」///

 

「喉渇いたなー」

 

「喉渇いたわねー」

 

二人はそう言うと、ほぼ同時にストローを咥えた。

 

「!!」///(なんでこうなるんですかー!?)

 

「!!」///(なんでアンタも咥えるのよー!?)

 

「ま、真っ赤になって見つめ合っている!?しかも同じ飲み物を!?」ガビーン

 

「く、く、く、黒子!デ、デートの邪魔しないでよね!?」///

 

「!!」

 

「お姉様?今、なんと仰いました?」

 

「わたしたちのデートの邪魔をするなって言ったのよ!」カァッ

 

「お、お姉様が…お姉様が…、穢されてしまいましたのおおおおおおおおおっっ!!」シュンッ

 

「な、なにを言ってるのよ!あの子は!!」カァッ

 

「…」チュー

 

「…で、アンタはなんでそんな普通にジュース飲んでるのよ?」

 

「上条さん、さっきからドキドキしっぱなしですけど!?」

 

「嘘!?」

 

「ホント!もういっぱいいっぱいです!」

 

「そ、そう…」カァッ

 

「…」チュー

 

「…わたしも、いっぱいいっぱい、かな」///

 

「御坂…」

 

「…」チュー

 

「と、とりあえずそれ飲んだら出ようか」

 

「…」チュー コクン

 

(き、気まずい!!)



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8 12月23日 クラスメイト

過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


――――――――――

 

「…」

 

たまには。喫茶店でモーニングセットを食べてみよう。

 

そう思って。ショッピングモールまで来てみたら。上条君が。常盤台中学の女の子とデートをしていた。

 

途中で青ピ君や。女の子の知り合いと思われる子が乱入してきたけど。

 

そのたびに上条君や女の子が。『デートの邪魔』って言って追い払っていた。

 

それからすぐに上条君たちは出て行った。

 

真っ赤な顔の二人は。とても幸せそうに見えた。

 

私に気づかなかったのは不幸中の幸い?かな。

 

小萌の家のクリスマスパーティ。上条君はこないよね。

 

だって。可愛い中学生の彼女がいるんだから。

 

「…」ハァ

 

上条君の家の居候のシスターは。あの子のことを知っているのだろうか?

 

…たぶん。知らない。

 

『クリスマスパーティー楽しみなんだよ!スフィンクスも、とうまも!』

 

あんなに嬉しそうに言っていたのだから。

 

二人が店を出て少ししてから。私も喫茶店を後にした。

 

小萌の家のツリーを彩るクリスマスオーナメントや。小物を見るために雑貨屋へと足を向ける。

 

「…味。わからなかったな」

 

なんでだろう?

 

…上条君たちにあてられたかも。

 

今までに見たことのない表情。

 

真っ赤になって。それでいて相手を気遣っている優しい表情。

 

「…」ハァ

 

「溜息なんてついてると、幸せが逃げちゃうんやで?」

 

「え?」

 

振り返ると。クラスメイトの青ピ君が片手を挙げて立っていた。

 

「やっほー。姫神ちゃん。なんか嫌なことでもあったん?」

 

「ううん。別に」

 

「あれ?もしかして落胆の溜息じゃなくて、感嘆の溜息やった?」

 

「え?」

 

「いや。それ、綺麗やと思わん?」

 

そう言って青ピ君が指差したところには。クリスタルガラスでできた小さな天使像が。下からのライトに照らされてキラキラと輝いていた。

 

「うん。綺麗」

 

「綺麗やなぁ」(姫神ちゃんも綺麗やで)

 

「…青ピ君は。どうしてここに?」

 

「ボク?下宿先のクリスマスオーナメントの買出しとかやな」

 

「下宿?寮じゃなくて?」

 

「うん。ボク、パン屋さんの二階に下宿させてもらってるんや」

 

「そうなんだ」

 

「姫神ちゃん、もしよかったら、一緒にクリスマスオーナメント選んでくれへん?」

 

「え?」

 

「ボクよりセンス良さそうやし」

 

「そうかなあ?」

 

「ボクみたいなむっさい大男が選ぶよりも、姫神ちゃんが選んだ方が百万倍マシに決まってるやん」

 

「私。そんなセンス良くないと思うけど?」

 

「姫神ちゃん。自分を過小評価するのはアカンよ」

 

「でも。着てる服も地味だし」

 

「そういうのは、地味やのうて、スタンダードとかオーソドックスって言うんや。よく似合ってると思うで」

 

「ありがとう。でも。褒められている感じがしないのはなぜ?」

 

「そこは深く考えちゃアカン」

 

「そう」

 

取り留めのないことを話しながら。私は。気になっていたことを切り出してみた。

 

「裏切り者って。どういうこと?」

 

「え?仲間を裏切ること?」

 

「そうだけど。私が聞いているのは。…上条君にそう言ったこと」

 

「なんや、姫神ちゃん。見てたん?」

 

「うん。モーニング食べてた」

 

「あちゃー。恥ずかしいとこ見られたわー」

 

「恥ずかしい?」

 

「うん。まるっきりボクのひがみやもん。ホンマは友達としてカミやんのこと祝福せなアカンのに」

 

「そっか」

 

「でも、カミやんもひどいんやで?あの子、さんざんカミやんにアプローチしてたのに気づいてへんかったし。だけど、今日会うたら『デートの邪魔するな』やって。ひどいと思わへん?」

 

「どのへんが?」

 

「カミやん、気づいてへんかったから、昨日買い物にでも誘ってみ?って言ったんよ。案の定、あの子、二つ返事で了承したみたいやし」

 

「…」

 

「でも、デートに誘ったわけやないのに、デートになっていたってことは、あの子、カミやんに告白したんか!?いや、でもそれはありえへんで」

 

「どうして?」

 

「あの子、超電磁砲やで?常盤台のエースが自分から告白なんて、普通せえへんよね?」

 

「そう?上条君の傍だと普通の女の子にしか見えなかったけど」

 

「さすがカミやんやで。超能力者も関係あらへんなんて」

 

「上条君。誰にでも優しいから。きっとそんなところに惹かれたんだと思う」

 

「…姫神ちゃんも?」

 

「私は。…別にそんなんじゃないよ」

 

「ホンマに?」

 

「うん」

 

「そっか。…っと、そんなことよりもクリスマスオーナメントや。姫神ちゃん。ひとつよろしく頼むで」

 

「んー。どうしようかな」

 

「後でクレープでも奢るさかい。助けると思って!」

 

そう言うと青ピ君は大げさに両手を合わせて拝んできた。特に急いでいるわけではないし。まあ。いいかな?

 

「クレープ。スペシャル頼んでもいい?」

 

「ええよ。飲み物も付けちゃうで。ま、飲み物は自販機やけど。…交渉成立でええ?」

 

「うん」



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9 12月23日 想い

過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


――――――――――

 

喫茶店を出て、気が付くとアイツと手を繋いで歩いていた。

 

アイツの顔は、まるでさっき飲んだストロベリージュースのように赤くなっていて。

 

わたしの顔も、アイツと同じように赤くなっている、と思う。

 

(…ってか、なんなのよ!?この状況!?)///

 

理解不能。意味不明。

 

(コイツはいったいどうしたいのよ!?)///

 

喫茶店を出てからはずっと無言で、だけど、いつの間にか手を繋いでいて。

 

さっきから胸はバクバクしっぱなしだし、掴まれた右手はじっとりと汗ばんでしまっているように思えるし、それはそれで女の子として凄い恥ずかしいっていうかなんていうか…。

 

「ね、ねえ?どうしたのよ?」

 

「…なんて言えばいいのか、考え中です」

 

「なによそれ?」

 

「いろいろしちゃいましたから」カァッ

 

「確かに、いろいろ、しちゃった…わね」カァッ

 

「正直、やりすぎた感じが否めないわけですが、…御坂のアレが一番ヤバかった」

 

「よーし、今すぐ忘れろ忘れるのよ忘れなさい!!」ビリビリ

 

「ちょっと待って御坂さん!自分から舐めといてそれはあんまりじゃないでしょうか!?」

 

「へ?」

 

「その、指で拭ってペロッって…」

 

「ぎゃああああああああ!!なに言ってるのよアンタ!!」(てっきりパンツのことかと思ったじゃないの!)///

 

「いや、でもなあ。アレは反則だぞ」

 

「な、な、仲のいいお友達なら普通のことよ!」

 

「女の子同士ならいいかもしれないけど、上条さん男の子ですよ!?」

 

「ア、ア、アンタならわたし、気にしないけど!?」(って、なに言っちゃってるの!?わたし)///

 

「御坂…。お前俺のことそんな風に見てたのかよ」

 

「うぇ!?そ、そ、そ、そ、そんな風ってどんな風に見られてると思ってるのよアンタ!!」

 

「んー。お前の言葉を借りれば『仲のいいお友達』ってやつか?」

 

「そ、そ、そ、そ、そうね!!そんな感じかしら!?」

 

「そっか。…まあ、そうだよな」ギュッ

 

「!?」(な、なんで急に握り締めるのよ~!?)///

 

頬が熱くなるのを自覚しながらアイツを見ると、アイツはなんとなく寂しげな表情を浮かべているように思えた。

 

なんとなくそれが引っ掛かった。アイツはわたしのことどう思っているのだろう。

 

「ア、アンタは、どう思ってるのよ。…わたしのこと」ギュッ

 

不意に握り締められたお返しにとばかりにわたしは質問とともにアイツの手を握り返した。

 

アイツの視線が、わたしの視線と重なる。

 

「あー。その上目遣いも反則だ」///

 

「アンタわたしより背が高いんだから仕方ないじゃない」

 

「そ、そうか。まあ、御坂は俺のことを、記憶のことも含めてよく知ってくれている数少ない仲間…っていうか、戦友?とも違うな…。うーん。なんて言えばいいんだ?」

 

「…」(まあそんなことだろうとは思っていたけど)

 

「まあ、気心の知れた相手って言えばいいのか?そんな感じだったんだ。…昨日までは」

 

取って付けたように漏らした『昨日までは』という言葉に、美琴は違和感を感じずにはいられなかった。

 

「どういうこと?」

 

「えーっとだな、ちょっと長くなるけど、聞いてくれるか?」

 

「いいわよ」

 

「とりあえず、階段のところにあるベンチまで行こう」

 

「別に歩きながらでもいいけど?」

 

「あんまり他人に聞かせたくないんだよ。あそこなら誰かが来てもすぐわかるし、寒さも凌げるから」

 

「わかった」(他人に聞かせたくないって、どういうこと?)ドキドキ

 

建物の中に入り、ファンシーショップやブティックの間の通路を、二階へと続く階段へと歩いていく。

 

そのまま階段を上り、中二階の登り階段側に置かれたベンチの前で立ち止まると、―気のせいじゃなければ少し躊躇いながら―繋いでいた手を離した。

 

「座って」

 

「うん」

 

促されるまま、わたしはベンチに腰を下ろす。するとアイツはわたしの右横に腰を下ろして、膝の上で両手を組む。

 

「…昨日、お前に電話しただろ?買い物に付き合ってくれってさ」

 

「うん」

 

「あれさ、友達と他愛のない話をしているうちに、御坂のことが話題になって、誘ってみろって言われて買い物に誘ったんだ。アイツが言うには二つ返事で了承するからって」

 

(なんだ。自分から誘おうと思ったんじゃないんだ)ショボン

 

「で、そのとおりになってさ、…正直言うと焦った。断られると思ってたから」

 

「…」(あー。コイツの中じゃ断られること前提だったから勝手に勘違いしたのね)

 

「それで、部屋に帰ってから、気が付くと御坂のこと考えてたりしてさ」

 

(え?それって?)

 

「俺って結構、御坂に助けてもらってるなとか思ったりなんかして」

 

「そ、そんなことない…でしょ?」

 

「御坂に勉強を見てもらったおかげで補修は免れたし、家計がピンチの時にはインデックスともども美味しい豪勢なご飯を作ってもらったし、御坂になら安心して背中も任せられるし」

 

「べ、別にそんな大したことじゃない」アセアセ

 

「いやいや、そんな謙遜しないでくれ御坂。インデックスのこと何かとフォローしてもらったりさ、ホント、感謝してる」オジギ

 

「まあ、女性にしかわからないことってあるしね。むしろアンタが完璧にあの子のことフォローできてたら退くわよ」

 

「はは。確かにな。ま、ともかく上条さんは御坂に感謝してるわけですよ」

 

「はいはい。あの子のことは今、関係ないでしょ?」(今はアンタの話をしてるんでしょうが)

 

「悪い。話が逸れたな。えっと、どこまで話したっけ」

 

「感謝してる、ってトコ」

 

「そ、そっか。…えーっと、そんなわけで今朝も朝も早く目が覚めたりなんかしてさ」

 

(わたしなんて眠れなかったんだから。…なんて言ったらどう思うかな?)

 

「早めに部屋を出て公園で御坂を待ってるときに、なんつーか、凄い楽しみにしてる自分がいてさ」

 

「ちょっと待ってアンタ。そういえば震えてたけど、いつから公園で待ってたのよ」

 

「ん?御坂が来る十五分くらい前かな」

 

「そ、そう」(ん?コイツ今、『凄い楽しみにしてる自分がいて』って言った?)

 

「おう。それでお前が来て、いきなりアレだろ?上条さん頭の中が真っ白になりましたよ」

 

「う、アレは、アンタが寒そうだったからつい、その。…黒子にくっつかれたとき温かかったから、ね」カァッ

 

「やっぱり女の子のスキンシップだったんだな。うんうん。次からは気をつけような」ナデナデ

 

「うにゃっ、いきなり撫でるな!」///

 

「ビリビリ対策です。さすがにここで電撃はよろしくないので」ナデナデ

 

「うぅ」///

 

「それでまあ、ゲコ太のためにカップルケーキセットを頼んで、いろいろやっちゃったわけですけど」カァッ

 

「…何でそこで赤くなるのよアンタ」

 

「…スマン、…その、ゲコ太思い出した」カァッ

 

「よーし今度こそ今すぐ忘れろ忘れなさい忘れるのよ!」

 

「お、お、お、落ち着いて御坂さん!もうちょっとで上条さんの話し終わるから!」

 

「…それで?」

 

「俺は友達に『デートの邪魔するな』って言っただろ?その後、御坂が白井に同じこと言ってさ」

 

「う、うん」///

 

「それを聞いてさ、俺、喫茶店を出ても御坂とデートしていたいって思ったんだわ」カァッ

 

「…え?」

 

「それで御坂の手を掴んで、とりあえずどう伝えればいいものかって考えていたら、声をかけられたってわけ」

 

「…ちょっと待って、整理させてくれる?」

 

「ああ」

 

「昨日から今朝のアンタの心境は、…まあ置いといて」

 

「ひどっ」

 

「簡単に言うと、わたしとデートしたいってこと…かな?」ドキドキ

 

「う…、はい。そうです」カァッ

 

真っ赤になって視線を逸らすアイツ。

 

『デートしたい』っていうのを素直に認めたのは嬉しいけど、問題はそこじゃなくて。

 

「…ねえ、わかってる?アンタ」

 

「なにをでございましょう?御坂さん」

 

「デートの意味」

 

「う…。まあ、わかっているつもり…です」カァッ

 

「ふぅん。じゃあ、…その前にすることがあるんじゃない?」

 

大事な、とても大事なこと。

 

「あー、御坂。ひとつ聞いていいか?」

 

「なによ?」

 

「そうなったら、…お前は俺とデートしてくれるのか」///

 

「…アンタ、ずるい」

 

「な、なんでだよ?」

 

「わたしの答えを聞いて、回避しようとしてるの見え見えじゃない」ハァ

 

「う…」

 

「…まあ、わたしは嫌いじゃないわよ。アンタのこと」///

 

「…」

 

「…」ドキドキ

 

「御坂…」ドキドキ

 

「…」ドキドキ

 

「…」ガバッ

 

アイツは、掠れた声でわたしを呼ぶと、次の瞬間、左手でわたしを抱き寄せた。

 

「ふにゃっ!?」ビクッ

 

「悪い。お前の顔見て言えないから、こうさせてくれ」ダキッ

 

「う、うん…」ドキドキ

 

「好きだ!御坂。付き合ってくれ」///

 

「…」

 

「…」ドキドキ

 

「…うん」

 

―――嘘みたい。これって、夢じゃないよね?

 

「…ね、ねえ?」

 

「な、なんだ?御坂」

 

「わたしで…いいの?」

 

「御坂じゃなきゃ、嫌だ」

 

「ホント?」

 

「本当だ」

 

「じゃあ、もう一回、わたしを見て、言って」

 

アイツの左手をそっと押しながら、わたしはアイツへと向き直った。

 

アイツも、左手を離しながら、わたしの方を向く。その顔は林檎のように真っ赤だった。

 

「わたくし、上条当麻は御坂美琴が好きです。付き合ってください」///

 

「…わたし、御坂美琴も上条当麻が、好きです」///

 

そう返したわたしの顔も、きっと負けず劣らず真っ赤になっているだろう。

 

「み、さか…」

 

想いが止まらない。気が付くとわたしは言っていた。

 

「ずっと、好きだったの」

 

「…マジで?」

 

「…アンタは、まったく気づいてなかったけど」

 

「悪い」

 

「でも、アンタが言ってくれたから、許す」

 

「御坂…」

 

「ねえ、最初のお願い。彼氏なら、わたしのこと、名前で呼んで」

 

「…美琴」

 

「よく、できました」ニコッ

 

「はは。なんだよそれ」

 

「えへへ」

 

「あ、じゃあ、お前も俺のこと名前で呼んでくれるのか?」

 

「ふにゃ!?アンタのことを名前で!?」カァッ

 

「俺だけ名前で呼ぶんじゃ不公平だと思いますけど?」

 

言われてみて気付く。確かに不公平かもしれない。えーっと、コイツの名前は…。

 

「と、と、と、と、とうみゃ!?」///

 

―――思いっきり噛んだ。慣れないことはしちゃいけない。

 

「なに噛んでんだ、落ち着け」

 

「だ、だ、だ、だって、今までそんなこと考えてなかったし」///

 

「付き合うことになったら名前で呼ぶとか思わなかったのお前?」

 

「ことごとくスルーされてる相手と付き合うことになった後のことなんて考えられないわよ」

 

「…あー、スマン」

 

「わかればよろしい」

 

「…俺は、たまに名前で呼んでたけどな」ボソッ

 

「へ!?それってどういうこと!?」

 

「んー。今考えると結構前からお前のこと好きだったのかもしれない。お前が中学生だからストッパーかけてたんだと思う」

 

「そ、そういうものなの?」

 

「たとえば、お前の同級生が小学生の男の子を好きだって言ったらどう思う?」

 

「…ショタコンってやつかしら?」

 

「そうだろ?だから俺が中学生を好きだって言うと、同級生からロリコンと思われるわけだ」

 

「ああ、そういうものなのね」

 

「そうなんですよ」

 

「アンタとわたし、二つしか違わないんだけどねー」

 

「そうだな」

 

「そのくらいの差って普通よね?」

 

「ああ」

 

「じゃあ、考えるのやーめた」ダキツキ

 

「お、おい、当たってる。当たってるから」///

 

「嬉しいでしょ?と・う・ま」ニヤニヤ

 

「お前、キャラ変わってるぞ!?」カァッ

 

「いいじゃない。積極的な彼女は嫌い?」ギュッ

 

「嫌いじゃない、嫌いじゃないけど、ここではヤバイ」

 

「むー。どうしてよ?」

 

「馬鹿!お前、健全な男子高校生の性欲舐めるな!」

 

「せっ!?」///

 

「とりあえず離れる、離れれろ、離れましょう!そして上条さんにクールダウンの時間をください!」

 

「せ、せ、せ…」アワアワ

 

「おーい、美琴さーん?」

 

「ふにゃあああああっっ!!」プシュー

 

「み、美琴!?なんで倒れるの!?ふ、不幸だああああああ!!」



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10 12月23日 明日

過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


――――――――――

 

それぞれ、大きな紙袋を抱えて、巫女装束が似合いそうな黒髪の少女と背の高い青髪の少年が肩を並べてショッピングモールを歩いている。

 

「ホンマ助かったわ。ありがとな、姫神ちゃん」

 

「ううん。こちらこそ。ありがとう」

 

「どうして姫神ちゃんがお礼言うんや?」

 

「私も。クリスマスオーナメント買いに来たから」

 

「ってことは、もしかしてボク、姫神ちゃんとお揃いのツリー!?」ハッ

 

「お揃いってことは無いと思う。あと。小萌のツリーだし」

 

「小萌先生のツリー!?」

 

「明日。小萌の家でクリスマスパーティ」

 

「なんやて!?」

 

「女の子だけ。…あ。あの子は男の子だったかな?」

 

顎に人差し指を当てて考えるようなポーズをとりながら、少女が言うと、少年のこめかみにビキッっと青筋が浮かび上がる。

 

「…ボク、そいつに殺意が芽生えたで」

 

「ふふ。シスターの連れてくる猫だけど?」

 

「猫かい!」

 

「ふふ」

 

「…姫神ちゃん、案外、意地悪やな」

 

「そうかな?」

 

「うん。今のわざとやろ?」

 

「ふふ。どうかな?」

 

そう言って笑う少女を、背の高い青髪の少年は眩しそうに見つめていた。

 

(あかん。その笑顔は反則やで)

 

「どうしたの?青ピ君」

 

「んー?姫神ちゃんは今日も綺麗やなーって思って見とれてた」

 

「青ピ君は。お世辞がうまいね」

 

「お世辞じゃないで?姫神ちゃんはホンマに綺麗やし」

 

「ふふ。さっそく猫のお返し?」

 

「ま、そういうことにしておくわ」

 

「ふふ」

 

パステルピンクに彩られたクレープショップの前で青髪の少年が振り返る。

 

「さ、ついたで。姫神ちゃん、なに食べるん?」

 

「チョコバナナストロベリースペシャル」

 

「じゃ、ボクはハニーベリーズで。…おにーさん、作ってる間に自販機で飲みもん買って来てもええ?ほな、ちょっと行ってくるわ。姫神ちゃん、なに飲む?」

 

「んー。ココア」

 

「おっけー。ほなちょっとここで待ってて」

 

「うん」

 

そう言うと青髪の少年は自動販売機まで走っていき、飲み物を二本買うと、また走って戻ってくる。

 

それから店先に置かれたベンチに持っていた紙袋を置いて、手招きをした。

 

「姫神ちゃん、ここ、ここ座って」

 

「わかった」

 

「はい、ココア」

 

「ありがとう」

 

「お、クレープできたみたいやな?もろてくるからちょっと待ってて」

 

「うん」

 

「おおっ!?スペシャルってごっついなー。スプーンまで刺さってるんや。…ほなこれで。おおきに。姫神ちゃん。お待たせ」

 

「ありがとう。いただきます」パクッ

 

(可愛いで。姫神ちゃん)

 

「ふふ。美味しい。幸せ」パクッ

 

「…ボクも幸せや」

 

「まだ。食べてないのに。幸せ?」

 

「うん。姫神ちゃんの幸せそうな顔見たら、幸せやなーって」

 

「そ。そうなんだ」///

 

「へ、変なこと言うてゴメン。お、ホンマや、美味いで。このクレープ」パクパク

 

「…」パクッ

 

「…」(や、やってもうた)

 

「…」パクッ

 

(ちょい赤くなってる姫神ちゃんもなかなかええなぁ)パクパク

 

「…」パクッ

 

(伏せ目がちなところもなかなか…)モグモグ

 

「…そんなに。見ないで」///

 

「ス、スマン。でも、見惚れちゃって」///

 

「馬鹿」///

 

「…姫神ちゃん、やっぱりわざとやってるやろ。さっきから男の萌えポイントつきまくりやで」

 

「そんなの。知らない」///

 

「可愛い。可愛すぎるで、姫神ちゃん」

 

「青ピ君。なんか。怖い」

 

「姫神ちゃんが可愛すぎるのがアカンのや」

 

「私は。可愛くなんて。ない」

 

「姫神ちゃんは自分の魅力に気がついてないんやな」

 

「もう。知らない」パクパクッ「…ぐむ!?」ドンドン

 

「姫神ちゃん、落ち着いて!ココアを飲むんや!ココア!!」

 

「…」ゴクッゴクッ「…はぁ」

 

「大丈夫?」

 

「…なんとか」

 

「よかった」ホッ

 

「…ごめんね」

 

「なにが?」

 

「心配させて」

 

「心配するんはボクの勝手やん?姫神ちゃんが悪く思うことないんやで?」

 

「でも…」

 

「でももヘチマもないで?」

 

「…」

 

「…じゃあ、明日もボクの買い物付き合ってや。それでご破算」(なーんて)

 

青髪ピアスはあくまで冗談で誘ったのだが、姫神秋沙は唇に人差し指をあてて何か考えるようなそぶりを見せた後、小さく頷いた。

 

「別に。いいよ」

 

「…マジで?」

 

「うん。小萌の家のパーティーは夕方からだし」

 

「言ってみるもんやなー」

 

「ふふ。なにそれ」クス

 

「じゃあ、今日はこれで帰るとしよか。…ホンマは今日買い物しとこ思たけど、明日付き合うてもらえるし」

 

「わざわざ出直すなんて。何を買うの?」

 

「せやなー。姫神ちゃんへのクリスマスプレゼントとか」

 

「ふふ。お返ししなくてもいいなら」

 

「姫神ちゃん。悪女やなー」

 

「ふふ。そういうことにしておく」

 

「じゃ、途中まで一緒にいこか?」

 

「そんなこと言っても。小萌の家は。教えない」

 

「あ、ばれた」

 

「ふふ。残念でした」

 

学生寮方面(常盤台中学前方面)へのバスが出るバス停へ向かいながら、並んで歩く。

 

「で、明日はどないする?」

 

「んー。9時40分ごろにバス停」

 

「また中途半端やな」

 

「バスの時間に合わせただけ」

 

「…姫神ちゃん。できる女やね」

 

「ふふ」

 

「ほなそれで。お、ちょうどバスがきたやん」

 

「ナイスタイミング」

 

「ほな、帰ろか」

 

「うん」

 

(あれ?姫神ちゃんとボク、ええ感じやない?)

 

「どうしたの?青ピ君?」

 

「ん。なんでもないで」

 

「そう」

 

「うん」

 

バスに乗り込むと、少女は運転席の後ろの席に座り、少年はその後ろの席に座った。

 

少女の隣が空いていたが、そこに座る勇気は少年には無かった。

 

「隣。座ればよかったのに」

 

「いや、狭いやろ?」

 

「そうかな?」

 

「そうやで」

 

「まあ。これでも。話はできるけど」

 

「せやな」

 

「…ねえ。青ピ君」

 

「ん?なんや?姫神ちゃん」

 

「今日。楽しかった?」

 

「ああ。楽しかったで」

 

「…そっか」

 

「うん」

 

「…ありがとう」

 

「なんか、今日、姫神ちゃんそればっかりやな」

 

「そうかな?」

 

「そうやで。今日は、姫神ちゃんも楽しんでくれたなら、ボク、それで満足や」

 

「…うん。楽しかった」

 

「そない言ってくれると嬉しいわぁ」

 

「ふふ」

 

目的地がアナウンスされると、少女が手を伸ばしボタンを押した。

 

ほどなくしてバスが停車し、少女が立ち上がる。少年もそれに続いて立ち上がるとバスを降りた。

 

「じゃあ。また。明日」

 

「うん。また明日」

 

少女が建物の影に入って見えなくなるまで、少年はその後姿を見送ると、自分も下宿へと向かって歩き始めた。



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11 12月23日 買い物

過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


――――――――――

 

セブンスミスト2階。紳士服売り場

 

 

「お、これはぬくいな」

 

「わたしのお勧めはこれ。着てみて」

 

「軽っ!?なにこれ?」

 

「カシミアよ。わたしのマフラーやコートと同じ」

 

「へー。いいな。これ」

 

ボタンを留めて体を動かしてみる。軽くて動きやすい。

 

「…じゃ、それにする?」

 

「…へ?」

 

「クリスマスのプレゼント」

 

「いやいや、美琴センセー。これ、上条さん家の一ヶ月の食費並のお値段ですよ!?」

 

「わたしとお揃いって、嫌?」クビカシゲ(お揃いって言っても素材だけなんだけど)

 

「嫌ってことは無いけど、貰うには高すぎるって言うかなんていうか…」

 

「わたしは、お揃いにしたいんだけど」

 

「うーん。でもなあ」

 

「だいたい、この時期になってコートも着ていないなんておかしいわよ」

 

「いや、だから見に来たわけで」

 

「それ、気に入ったんでしょ?」

 

「まあ、そうなんだけど」

 

「じゃあ、わたしが選んだんだし、プレゼントさせて」

 

「だからお値段がですね…」

 

「あのねえ、わたしとしては今朝みたいに震えてるアンタを見たくないの。…わたしの我侭なの。聞いてくれない?」

 

「美琴…」

 

「駄目、かな?」ウワメヅカイ

 

「…貧乏学生の上条さんがこんな凄いコート着てたらおかしくない?」(その上目遣いは反則だって)

 

「デザイン的にはよくある普通のロングコートだし、大丈夫だと思うけど?似合ってるし」

 

「そ、そっか」

 

「うん。いいと思う」

 

「あーもー。負けた負けた。でも本当にいいのか?」

 

「うん」ニコッ

 

「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」ペコッ

 

「じゃ、行きましょ」

 

「え?おい、脱がなくていいのか?」

 

「いいのよ。そのまま着ていけば」

 

戸惑う少年の手を引き、少女は慣れた感じでカウンターにいた店員に声をかけ、カードを出して会計を済ます。その間に別の店員が少年の着ていたコートのタグや留め紐(コートのスリットを×で縫ってあるやつ)を取り除いてくれた。

 

「お待たせ。準備できた?」

 

「ああ。全部取ってもらった」

 

「じゃ、今度は下に行くわよ」

 

そう言うと、少女は少年の左腕を掴む。

 

「腕、組んでいい?」

 

「しがみついたりしなければ、むしろ組みたい」

 

「じゃ、組もっと」ギュ

 

(柔らかいものが当たってるんですけど、気のせい気のせい)「…なんか、店の商品を着たまま出て行くのって緊張するなあ」

 

「ふふ。その気持ち、わかる気がする」

 

「で、何を見るんだ?」

 

「んー。ダウンジャケットがいいかな」

 

「そのコート、よく似合ってるけどな」

 

「ん?あ、わたしじゃなくってあの子にね。あの子も持ってないでしょ?防寒具」

 

「え?インデックスか?」

 

「うん。アンタがコート着てるのを見て、あの子の分が無かったら噛みつかれるんじゃないの?」

 

「う…。ひ、否定できない」

 

「だからあの子にもクリスマスプレゼントってことで。あ、わたしが贈りたいだけだから、アンタは気にしないで」

 

「悪いな。ありがとう」

 

「だーかーらー。アンタに感謝される筋合いは無いっての」

 

「でも、ありがとう」

 

「はいはい」

 

――――――――――

 

「さーて、これで完成ですよ」

 

「なんだか楽しみなんだよ」

 

「ちょっと点けてみましょうか」

 

「じゃあ。スイッチを入れる」カチ

 

小さいながらも細々と飾り付けられたクリスマスツリー。その電飾がキラキラと光を放つ。

 

「綺麗なんだよ!」

 

「うん。綺麗ですねー」

 

「…なんか、こういうのも悪くないわね」

 

「ふふ。そうですね」

 

「綺麗」

 

インデックス「小さいけど、ヤドリギには使えそうなんだよ」ボソッ

 

「シスターちゃんはロマンチストですねー」

 

「そ、そんなんじゃないんだよ!?」カァッ

 

「…」

 

小萌に冷やかされてぱっと頬を染めるシスター。上条君。罪な人。

 

「ヤドリギって、なんだっけ?」

 

「ふふふ。北欧にはクリスマスのヤドリギの下でキスをしたカップルは永遠に幸せになれるという言い伝えがあるのですよ」

 

「あー、私には関係ないわね」

 

「わ、わ、私にも関係ないんだよ!シスターとしてこもえやあいさやあわきがそういう風にしたくっても大丈夫だって思っただけなんだよ!」カァッ

 

「シスターちゃーん?どこにそんなヤローがいるのか先生に教えてくれるかな?」

 

「だから私は関係ないって言ってるじゃない。それに、ヤドリギの下って言うくらいなんだから、こんなツリーじゃなくってショッピングモールのツリーの方がいいんじゃない?」

 

ショッピングモール。上条君と女の子が一緒にいたところ。

 

「あいさ。どうしたのかな?」

 

「…上条君は。明日はここに来ないかも」

 

「とうまが?なんで?」

 

「えっと。ごめん。正直に言う。上条君。さっき女の子とショッピングモールでデートしてた」

 

「…そっか。たぶんみことだよね」

 

「みこと?」

 

「うん。たまにご飯作ってくれたり、服とか買ってくれたりするの」

 

「上条ちゃんも隅に置けないですねー。超能力者と付き合っちゃうなんて」【注:新約2巻での砂場に落とした磁石に付いた砂鉄的な遭遇後、門前払い後に電気を纏いながら暴れているのは第三位の御坂美琴だと結標に説明されている】

 

「あれ、姫神さんも会っているはずだけど?常盤台の女の子に」

 

「うーん。覚えていない」【注:新約2巻での砂場に落とした磁石に付いた砂鉄的な遭遇時、暴れる吹寄を抑えていたため】

 

「とうまが幸せなら私はそれでいいんだよ」ポロッ

 

「シスターちゃん、泣かないで」

 

「あれ?おかしいな。なんで…ふぇ、ふぇぇぇぇん」ポロポロ

 

「よしよし、上条ちゃんは悪い子ですねー。シスターちゃんを泣かせるなんて」ナデナデ

 

「とうまのせいじゃないんだよ。みことのせいでもないんだよ。でも、涙が出ちゃうんだよ」ポロポロ

 

「はいはい。思いっきり泣いてすっきりしちゃいましょうねー。夕御飯は豪華絢爛焼肉セットですよー」ナデナデ

 

「ふぇぇぇぇぇんっ」ポロポロ



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12 12月23日 独占欲

過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


――――――――――

 

「…なあ」

 

「なーに?」

 

「今日、上条さん的にはクリスマスプレゼントとして髪飾りでも贈ろうかと思っていたのですが」

 

「そ、そうなんだ」

 

「その、名前で呼び合える仲になったことだし、…上条さんって実は独占欲が強いわけでして」ギュッ

 

(独占欲って)///

 

「ペアリング、なんてどうだ?あまり高いのは買えないけど」

 

「うん!嬉しい!」ギュッ【注:この話では、新約3巻のアレはありません】

 

「じゃ、じゃあ、どの店がいいかな?」

 

「そうね。友達がよくネックレスとか見ているお店があるから、そこに行ってみよっか?」ニコッ

 

「お、おう」

 

必然的に少女が少年を引っ張っていく格好となる。少女はとても嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

――――――――――

 

「あ、これなんて佐天さんに似合いそうですよ」

 

「さっすが初春。あたしの好みを良くわかっているわね」

 

「あ、これなんか御坂さんに似合いそう」

 

「どれどれー?おー、確かに」

 

「あー、可愛いわねー」ヒョイ

 

「あ、御坂さん」

 

「ちょうど御坂さんに似合いそうなヘアピンの話をしていたんですよーって、ぬっふぇ!?」

 

「なに変な声出しているんです…か」///

 

二人の少女は声をかけられたので友人の方へ顔を向ける。するとそこには友人と男性が仲良く手を繋いで立っていた。

 

「あははー。邪魔しちゃってゴメンね。姿が見えたから声かけなきゃって思って」(ついでにコイツの紹介なんかしちゃったりして)///

 

「いや、それはわざわざ恐れ入ります御坂さん。で!そちらの方は、つまり、その、御坂さんの、…彼氏さんでよろしいですか?」

 

「あー、うん」///

 

「はっ、はじめまして。私、柵川中一年の初春飾利です」(あっさりと認めた!?)

 

「あたしは柵川中一年の佐天涙子でーす。はじめまして」

 

「あ、はじめまして。…なあ美琴?いきなりお友達紹介はハードル高いんじゃないか」ボソ

 

「うっはっ!聞いた初春!?御坂さんを名前呼びだよ、名前呼び!」

 

「!」///

 

「さ、さ、さ佐天さーん!失礼ですよー」アワアワ

 

「んでんで、御坂さんは彼氏さんのことなんて呼んでいるんですか?やっぱり名前呼びだったりします?」

 

「う、うん」///

 

「いや、最初だけでさっきから呼んでくれないじゃないか」

 

「ア、アンタは余計なこと言わない!」///

 

「御坂さーん、彼氏さんもこう言ってるんですから、呼んであげたらどうですか?」ニヤニヤ

 

(しまったー。佐天さんのスイッチ入っちゃった!!)///

 

「さ、佐天さん!御坂さんすみません」アセアセ

 

「彼氏さんも名前で呼んで欲しいですよね?」

 

「そ、そうだな…」ボソッ

 

「!」

 

(そこで肯定しちゃうの!?カミジョーさん!!ああ、御坂さんが真っ赤になって…)

 

「…と、当麻」ウワメヅカイ

 

(み、御坂さん~!?そこで名前呼んじゃうの~!?)

 

「ぬっふぇ!熱い、熱いですねー」ニヨニヨ

 

「…まー、相思相愛ってやつだったからな」ボソッ

 

「ひゅふっ!?」///

 

「なっ!?な!?何を言っちゃってるのアンタ!!」カァッ

 

「また呼び方戻ってるぞ。美琴」

 

「う、あ、と、当麻」///

 

「ど、ど、ど、どうしよう初春。ラブラブカップルが目の前にいる!!」

 

予想外の展開に慌てている少女を見て、頭に花飾りをつけた少女はすばやくその腕を掴む。

 

「じゃ、じゃあ御坂さん!私たちこれで失礼しますっ!お邪魔しました!!」

 

「え?あ、うん」

 

「え?初春?なに言って…てか危ないから引っ張らないで!!ねえ、うーいーはーるー…」ジタバタ

 

「行っちゃった」(ちゃんと紹介したかったんだけどな)

 

「いやーテンション高かったなー」

 

「あはは。佐天さん、スイッチ入っちゃうと止まらないから」

 

「まあでも、あの子のおかげで、また名前で呼んでもらえたからよしとするか」

 

「あ、そういえば…さ」///

 

「ん?」

 

「さっき『相思相愛』って…」///

 

「ま、まーな。ま、間違ってないだろ?」///

 

「…うん」///

 

なんとも形容し難い空気が二人を包み込む。それはそれで心地いいのだが、先に雰囲気に負けたのは少年の方だった。

 

「…あー、指輪ってあっちの方か?」

 

「うん。いこっか」

 

「ああ」

 

―――ショーケースを覗きながらコイツ―当麻―と手を繋いで歩く。たったそれだけのことなのに、凄く楽しくて、嬉しい。

 

昨日までのわたしだったら、手を繋いだまま佐天さんや初春さんに声をかけようなんて夢にも思わなかっただろう。

 

でも、今はコイツと一緒にいるのを隠そうとは思わない。

 

「んー。結構ゴツイのが多いな」

 

「基本的にファッションリングだからね」

 

「俺は普段着けていても邪魔にならないようなシンプルなのがいいと思っているんですけど」

 

「え?ずっと着けているつもりなの?」

 

「ペアリングってそういうものじゃないの?」

 

「ゴメン、常盤台ってそういうの厳しいから、普段着けるのは難しいと思う」

 

「…なあ、その、正当な理由があれば着けることは可能か?」

 

「指輪を着ける正当な理由なんて…」

 

どくん。と胸が高鳴った。

 

「…婚約指輪とか」///

 

「ア、アンタ、なに言ってるの!?」カァッ

 

「さっき言っただろ?独占欲強いって」

 

「…まあ、正式なものならいいかもしれないけど、中学生でそんなものしてる子いないわよ」///

 

「そうか。…じゃあ、ペアネックレスとかにする?ネックレスなら隠れるだろ?」

 

「…やだ」

 

「へ?」

 

「ペアなら指輪がいい」

 

「でも、いつも着けてられないんだろ?」

 

「…当麻とお揃いなら指輪がいい」

 

言いながら、わたしも彼に負けず劣らず独占欲が強いことを自覚した。

 

同時に携帯を取り出して、ある番号に電話をかける。

 

「わたしも独占欲強いからね。…覚悟して」

 

「へ?」

 

コール音が途切れ、相手が電話に出る。わたしは大きく息を吸って話し始めた。

 

「あ、ママ。ちょっといい?」

 

(なぜ美鈴さん!?)

 

『いきなりなーに?美琴ちゃん。ママ、昨日飲みすぎちゃって眠いんだけど』フアー

 

「典型的な馬鹿大学生ね。…まあいいわ。あのさ、大覇星祭のときに会った人、覚えてる?」

 

『美琴ちゃんがいじめる。っていうか、大覇星祭のときに会った人って白い修道服の女の子かなー?』

 

「違う、男の方」

 

『あー、詩菜さんの旦那様』

 

「わざとか?わざとね!わざとなのねこのヤロー!!」

 

『うふふ。美琴ちゃんってからかいがいがあるから。で、上条当麻君がどうしたの?』

 

少女は少年に視線を向ける。

 

―――さあ、覚悟しなさい。

 

「彼に、プロポーズされた」

 

「んなっ!?」///

 

『え?美琴ちゃん?今なんて?』

 

「だーかーらー、プロポーズされたの。それで、ママの了解を貰おうと思って」

 

『りょ、了解って?どういうことなの?』

 

「婚約したい。――当麻と」///

 

『うっわー。ママの予想をはるかに超えていたわー。やるわね、美琴ちゃん。ママ、すっかり目が覚めちゃった♪』

 

「茶化さないで!真剣なんだから」

 

『…上条君はそこにいるの?』

 

「うん」

 

『代わりなさい』

 

「…代わってって」ケイタイ サシダス

 

「わかった。…代わりました上条です」

 

『いやーん!!上条君!美琴ちゃんになにしたの?ナニしちゃったの?奪っちゃったの!?』

 

「まだ何もしてねええええ!!いきなりなんなんですか!そのノリは!?」

 

「!」ビクッ

 

『やだなあ、婚約したいなんて美琴ちゃんが言ってるから、全部済ませちゃったのかなーって。で、で、…避妊はちゃんとしたの?』

 

「まだ何もしてませんってば!!」

 

『それなのに婚約って、気が早すぎない?もし相性悪かったらどうするのよ』

 

「あ、いや、その。なんて言いましょうか、その、そういうのって美琴さんとしか考えられないので、約束手形が欲しいといいますかなんといいましょうか…」

 

(わたしとしか考えられないってなに言ってるのよ)///

 

『うーん。弱いわね。一時の気の迷いじゃないの』

 

「それはないです。俺は、…美琴を俺のすべてをかけて守りたい。…決して一時の気の迷いなんかではないです」

 

「…」///

 

『美琴ちゃんを、愛してる?』

 

「…はい」///

 

『じゃあ、美琴ちゃんにわかるように言葉にして』

 

「…上条当麻は、御坂美琴を、愛しています」///

 

「ふぇっ!!」(あ、あ、あ、あい、あい、あい、あい…)///

 

『…また清清しいまでに言い切ったわね。上条君。美鈴さんの負けだわ。…美琴ちゃんをよろしく。代わってくれる?』

 

「…」ケイタイ サシダス

 

「あい、あい、あい…」ニヘラー

 

「美琴!電話」///

 

「ひゃいっ!?も、もしもし」///

 

『美琴ちゃんはどうなの?上条君を、愛してる?』

 

「…うん」///

 

『じゃあ、上条君にわかるように言ってみなさい』

 

「御坂美琴は、上条当麻を、世界中の誰よりも、一番愛してる!!」///

 

「!!」///

 

『見事に言い切ったわねー。美琴ちゃん。いいわ。認めてあげる』

 

「ありがとう、ママ」

 

『いきなり婚約なんて言って、いかにもどこかの店内から電話してくるってことは、指輪でも買ってもらうのかしら?若いっていいわねー』

 

「へ?なんでわかったの?」

 

『落ち着いた音楽と喧騒が聞こえてくるし、学校で指輪をつけていても咎められない理由が欲しいんでしょ?』

 

「う、うん」///

 

『じゃ、学校には連絡しておくわ。美鈴さん公認の許婚ができたってね』

 

「…」///

 

『とりあえず、結婚できる歳まではエッチしちゃ駄目よー』

 

「なっ!なに言ってるのよ!!」///

 

『まあ、若いふたりは耐えるのは難しいかもしれないわね。じゃあ避妊だけはしっかりすること!ゴムよりも学園都市製経口避妊薬の方が確実よ』

 

「アンタ中学生の娘になに吹き込んどるんじゃあああ!!」///

 

『あはは。じゃあ、近いうちにみんなで会いましょうねー。バイバーイ』

 

通話を終えて携帯電話をポケットに入れる。それから辺りを見回して胸を撫で下ろした。

 

「ママが電話で『人の喧騒が聞こえる』とか言うから焦っちゃったわ。悪目立ちしてなかったみたいね」

 

「あんまり人いなくて助かったな」

 

少女はもう一度辺りを見回してから、頭を少年の肩に預ける。

 

「み、美琴?」///

 

「嬉しかった。ちゃんとママに言ってくれて」

 

「俺も、嬉しかった」

 

「…」ギュッ

 

「…」ギュッ

 

(なんか、幸せ…)

 

「…なあ、あれなんて、どうだ?」

 

そう言って少年はシンプルなメタルリングを指差した。光の加減でうっすらと青みがかって見えるプレーンリング。

 

「あ、すみません。そこのペアリング、見せてもらってもいいですか?」

 

店員を呼び、ショーケース内の指輪を出してもらい、それぞれ左手の薬指に嵌めてみる。

 

「あ…」

 

「うそ…」

 

その指輪は、まるであつらえたかのように、お互いの指にぴったりと納まった。

 

「ヤバイ、なんか運命的なものを感じる」

 

「うん、凄い馴染んでる感じ」

 

「じゃあ、これください。あ、このまま着けてってもいいですか?」

 

「ええ、構いませんよ。タグの紐を切らせていただきますね」ニコッ

 

「ありがとうございます」

 

「いえいえ。彼女さんも…はい、これでいいですよ」ニコッ

 

「あ、ありがとうございます」

 

「いえいえ。はい、じゃあ確かに頂きます。ありがとうございました」

 

手を繋いで店を出る。少女は自分の左手を広げて指輪を眺めながら微笑を浮かべていた。

 

「許婚、か」ニヘラー

 

「俺も親に電話しないといけないなあ」

 

「…今、かけちゃう?」

 

「…そうだな。じゃ、階段のところまで行こうか」

 

「うん」

 

―――引っ張ってくれる手に、さっきまでは無かった硬いものの感触があって、それが心地良かった。

 

階段のベンチに並んで腰を下ろすと、彼が携帯電話の通話ボタンを押した。

 

「もしもし」

 

『あら、当麻さん。珍しいわね?どうしたの?』

 

「いや、えーっと、なんといいましょうか…。母上様、驚かずに聞いていただきたいのですけれども」

 

『当麻さん…まさか女の子を孕ませてしまったとかじゃないでしょうね?』

 

「…アンタ自分の息子をどんな目で見てるんだコラ!」

 

『だって当麻さん、刀夜さんと同じでいつの間にか女の子と一緒にいることが多いんじゃないのかしら?うふふ』

 

「最後の笑い怖いよ!それにそんなことないですから!」

 

『自覚しないと、そのうち酷い目に会うわよ』

 

「だーかーらー、何でそういう話になってるんですか!?じゃなくって、俺は真面目な話があるんだ」

 

『なにかしら?』

 

「大覇星祭で会った人、覚えてる?」

 

『美鈴さん?』

 

「の娘さん。御坂美琴」

 

『ええ、覚えていますよ。彼女が何か?』

 

「事後承諾で悪いけど、…御坂美琴と婚約しました。美鈴さんには了解貰ってます」///

 

『え?当麻さん、もう一回言ってもらえるかしら?』

 

「御坂美鈴さんの了解を頂いて、御坂美琴と婚約しました」///

 

『…当麻さん。中学生を手篭めにしたの?』

 

「してねえよ!まだ指一本触れてねえよ!」///

 

「ふぇ!?」///

 

『え?それで婚約って気が早くない?』

 

「なんで女親って揃いも揃って同じこと言うんだ。上条当麻は御坂美琴を愛してる!それが理由だ文句があるか!」

 

(ま、また言ってくれた!)///

 

『あらあら、若いっていいわねー。ところで、美琴さんは傍にいるの?』

 

「ああ」

 

『代わって』

 

「…代わってくれって」ケイタイ サシダス

 

「か、代わりました。御坂美琴です」///

 

『当麻さんとしちゃったの?』

 

「ぶふぉっ!?いきなりなに言ってるのアンタ!!」///

 

『お母さま公認で当麻さんと婚約っていうから、てっきりそういうことかなと思ったのだけど』

 

「そういうことしなくっても、お互い愛してるんだから約束してもいいじゃないですか!」///

 

「!!」///

 

『ねえ、美琴さん。当麻さんはね、疫病神、不幸の使者と呼ばれていた子ですよ?…本当にそんな子と一緒にいたいのかしら?』

 

「そんなの!!そんなの関係ない!!アイツは、当麻はわたしにとって、かけがえの無い人だもの!!いくら親でもそんな風に当麻のこと言うのは許せない!」

 

(美琴…)///

 

『…ありがとう』

 

「え?」

 

『当麻さんのために怒ってくれて。あの子のことお願いします』

 

「あ、いえ、こちらこそお願いします」ペコリ

 

『あ、美琴さん。避妊だけはしっかりしなさいね。スキンよりも経口避妊薬の方が確実よ』

 

「お、女親ってそれしか言えないのかあああ!!」///

 

『うふふ。美琴さんだって、まだ母親にはなりたくないでしょう?』

 

「そ、それはそうですけど…でも、当麻との…なら…」ゴニョゴニョ

 

『まあまあ。当麻さんも幸せ者ね。こんなに可愛い彼女が傍にいてくれて』

 

「…」///

 

『当麻さんと代わってくれる?』

 

「あ、はい…」ケイタイ サシダス

 

「…変なこと吹き込まなかっただろうな?」

 

『当麻さんの悪口言ったら、怒ってくれたわよ。それだけで当麻さんの嫁として合格です』

 

「なっ!?」///

 

『当麻さん。一度守ると決めたのなら、最後まで貫きなさい』

 

「…ああ。約束する」

 

『じゃあ、近いうちに美琴さんを連れて家にいらっしゃい。刀夜さんと一緒に嫁いじりして楽しむから』

 

「そんな危険なところには連れて行かない!」

 

『あらあら。可愛い嫁を連れてこないなんて親不孝者ね。当麻さん』

 

「だー!もー!!以上!連絡終わり!」

 

通話を終えて、少女を見る。少女が小さく微笑んでくれるだけで、少年にも自然と笑みがこぼれた。

 

「どうしたの?」

 

「散々からかわれた。…けど認めてくれた」

 

「そ、そっか」///

 

「ああ。美琴は上条家の嫁ってお墨付きをいただきました」

 

「よっ、よ、よ、よ、よ、よ、よめっ!?」カァッ

 

「ま、まあアレ、ほら、許婚だからな!」///

 

「そ、そ、そ、そうよね!!許婚だもんね!」///

 

「ははははは」///

 

「うふふふふ」///



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13 12月23日 許嫁

過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


――――――――――

 

手を繋いでバス停へと向かう途中、少年の携帯電話が鳴った。右手で携帯電話を取り出して画面を見る。

 

「小萌先生か。なんだろ?ちょっとゴメン」

 

「うん」

 

「もしもし…」

 

『上条ちゃんはお馬鹿さんですから、シスターちゃんは今日、先生の家にお泊りなのですよー』

 

「インデックスを預かってくださるのは助かりますが、なんなんでしょうか?その棘のある一言目は!?」

 

『明日のクリスマスパーティーは女の子限定ですから、上条ちゃんは来ちゃ駄目なのですよー』

 

「スルー!?そして上条さんにご馳走を食べる権利が無くなった!?」

 

『上条ちゃん?大事な人がいるのに、クリスマスに先生に世話になろうなんて思っちゃいけないのですよー?』

 

「大事な人?え?え?」

 

『御坂美琴さん、でしたか?上条ちゃんも隅に置けませんねー』

 

「う、え…」(な、なんで知ってるんだ!?)

 

『今もデート中なのでしょう?』

 

「ま、まあ…」///

 

『ふふふ。壁に耳あり障子に目ありですよ。上条ちゃんと常盤台の子がデートしているって聞いたものですから』

 

「まいったな…」

 

『ひとつだけ聞かせてください。上条ちゃんは、御坂さんを選んだのですね?』

 

「…いまいちなにを聞かれているのかがわからないのですが?」

 

『上条ちゃんの周りにいる女の子の中で、一番大事な人は御坂さんということでいいのですよねー?』

 

「あ、えーっと…。はい」///

 

『じゃあクリスマスは御坂さんと仲良くするのですよー。あ、でも、学生としての節度は守るのですよー』

 

「なっ!?」///

 

『ではでは、良いクリスマスをー』

 

「ちょ、ちょっと!?小萌先生!?」

 

一方的に通話を切られ、少年は困惑して携帯を見る。

 

「どうしたの?」

 

「ん?小萌先生がインデックスを今日泊めるってさ。それで、明日のパーティーは女性のみでやるから俺は来るなって。それで、クリスマスは美琴と過ごせってさ」

 

「ア、アンタとわたしのこと、何でアンタの先生が知ってるのよ!?」///

 

「あー、青ピから連絡行ったか、誰かに見られたのかもしれない」ウーム

 

「何でアンタそんなに冷静なのよ?」

 

「ん?だって俺たち許婚だろ?親公認だし、別に隠す必要も無いかなって」

 

「~っ!!」カァッ

 

「自分も独占欲強いとか言っておいて、何で照れてるんでしょうね美琴さんは」

 

「うぅ。それはそうだけども…」(やっぱり恥ずかしい)///

 

「ま、ゆっくり慣れてけばいいよな」ニコッ

 

「…うん」

 

「さて、と。じゃあ今日の夕飯と明日の食事はどうするかなあ」

 

「あ、そっか。あの子いないんだっけ」

 

「そうなんですよ。ま、今日は適当に作るとして、明日は…、明日もデートしようか」カァッ

 

「デ、デート!?」///

 

「今日みたいにショッピングでもいいし、どこか遊びに行くのでもいいし」

 

「う、うん。…あ、あのさ?」

 

「ん?どこか行きたいところとかあるか?」

 

「そうじゃなくって、その、さ。…今日の夕飯とか、明日のご飯とか、作ってあげようか?」

 

「…ホントに?」

 

「うん」

 

「うわ。すっげえ嬉しい」

 

「ふふ。じゃあ、スーパー寄っていこう。何か食べたいものとかある?」

 

「美琴センセーにお任せします」

 

「じゃ、行こっか」ニコッ

 

少年に向かって微笑むと少女は手を引いて歩き出す。その顔はとても楽しそうであった。

 

――――――――――

 

「御坂」

 

「は、はい。なんでしょうか?」

 

スーパーで買い物をして、少年の家でカレーなどを作ってから門限ぎりぎりの時間に寮へ戻ると、寮監から声をかけられた。

 

「ちょっと私の部屋へ来てくれ」

 

「わかりました」(なんだろう?)

 

部屋に入り、促されるままダイニングテーブルの椅子に座る。部屋の主はティーカップとティーポットをテーブルの上に置き、少女の対面に座る。

 

「飲むか?」

 

「いただきます」

 

「砂糖はいるか?」

 

「いえ」

 

「そうか」

 

寮監は優雅に紅茶を一口飲むと、音を立てずにソーサーにカップを置き、まっすぐに少女を見た。

 

「まずは、おめでとう。と、言っておこう」

 

「は?」

 

「…婚約だ」

 

「…は、はい」///

 

「お前を呼んだのはその件だ。常盤台は淑女を教育するための学校でもあるから、親公認で許婚ができることもまあ珍しくは無い。だが、正直に言うと、私にはお前に許婚というのは想定外だった」

 

「…」

 

「話が逸れたな。とりあえず、許婚がいる場合、門限や外泊に関しての規則が緩和されることになる。もっとも、届出は必要になるが。…まあ、お前の場合は研究協力なども多いから今までとあまり変わらないかもしれないが」

 

「…」

 

「あとは、その、親公認である場合は、薬剤が処方される。なるべくはやく薬局へ行って処方してもらってこい。これが処方箋だ」ペラ

 

「はい。わかりました」(薬?)

 

処方箋に目を通した少女の顔が一瞬で紅に染まる。

 

(こ、これ、これ、これって~~~!!)///

 

薬剤の備考欄には『常盤台中学校 特措×-○における対象生徒 健康管理のための処方 エストロゲン調整剤 PI:0.1 要継続摂取』と記されていた。

 

授業で習っているため、エストロゲン調整剤の意味を少女は知っていた。エストロゲン調整剤、簡単に言えば経口避妊薬である。

 

「まだ早いとは思うが、なにぶん相手もあることだし、学校としては不測の事態を避けるためにもあらかじめ処方することにしている」

 

「あ、あはは~。わたしにはまだ早いと思いますけど」///

 

「服用は月経が終わってから、準備期間は一週間だ。それまで、性行為は慎むように」

 

「せっ、せっ、せっ!!」アワアワ

 

「お前がまだ早いと思っているのはわかるが、男というものは征服欲が強い。まして許婚ともなれば家単位で法律よりも慣習を優先させる傾向がある」

 

「…」(ア、ア、ア、アイツと…)///

 

「御坂。私はな、寮監という立場上、そういった生徒を見てきた。だから、お前が傷つかないよう服薬をすることを勧めさせてもらう。傷つくのはいつも女の方だからな」

 

「…」

 

「私からは、常盤台の学生として、節度ある行動を心がけるよう行動してくれとしか言えない」

 

「…はい」

 

「次は装飾品についてだが、婚約指輪や慣習で引き継がれる貴金属は校則で禁止されているアクセサリー類からは除外される」

 

「…」///

 

婚約指輪という言葉に反応して、そっと左手に触れ、少女は頬を染める。その様子を見て、寮監は小さく首を傾げた。

 

「…御坂は、許婚に対して恋愛感情を持っているのか?」

 

「ふぇ!?」///

 

「いや、すまない。家の都合で婚約するものが多いから、お前みたいに嬉しそうにしているのは珍しいから…な」

 

「あ、えっと、はい。…好きです」///

 

「相手もお前のことを好いていてくれるのか?」

 

「は、はい」///

 

「…そうか。それは良かった」

 

「…わたし、恵まれてるんですね。好きな相手と、婚約できて」

 

「そうだな。だが、私は、婚約とは本来そういうものであって欲しいと願っている」

 

「…」

 

「だから、御坂。私はお前が相思相愛で婚約したということを、常盤台の寮監としてではなく、一人の知り合いとして祝福したい。おめでとう。御坂」

 

「あ、ありがとうございます」///

 

「ところで、公表はするのか?」

 

「友人以外には言わないと思います。まあ、すぐに広まるとは思いますけど」///

 

「そうだな。学校というものはそういう話に敏感だからな」

 

「…彼にも言われたのですけど、親公認だから、その辺は開き直ってしまおうかと思いまして」///

 

「許婚はどんな奴だ?」

 

「わたしよりも二つ年上で、お人よしで、おせっかいで、正義感が強くて、超能力者だろうがなんだろうが特別視しない人です」

 

「高校生か。超能力者だろうがなんだろうが特別視しないということは、学園都市の生徒か?」

 

「ええ、まあ」

 

「…そういえば一時期、常盤台の超電磁砲が追い掛け回している無能力者がいるという噂があったな。お前の相手はその噂の相手なのか?」

 

「うぇ!?」(う、噂になってたんだ)///

 

「幼馴染か何かか?」

 

「あー、幼馴染ではないです。でも縁があるというかなんというか…」

 

「見知った仲ではあるということか」

 

「まあ、そうです」///

 

「…学園都市で知り合って、親公認の許婚か。…それは運命の相手と言えるのではないだろうか」///

 

どこか遠くを見るような眼差しで、寮監は言うと頬を紅く染めた。

 

「…へ?」

 

「幾多の困難を乗り越え、将来を誓い合うふたり。そこにあるのは真実の愛」ウットリ

 

「りょ、寮監様?」

 

「…羨ましい」ボソッ

 

「あ、あはは」(あれ?寮監ってこんな人だった?)///

 

「…んっ、ゴホン。ともかく、おめでとう」///

 

「あ、ありがとうございます」(あ、戻った)

 

「…報告はいつでも受け付けるからな」

 

「ほ、報告なんてしません!!」(やっぱり戻ってない!!)///

 

「そうか。遠慮しないで良いのだぞ」ニコッ

 

「し、失礼します」(寮監が壊れた…)バタン

 

まるで年下の友人のように恋愛話を聞きたそうにしている寮監に恐れを抱いた少女は、すぐに立ち上がって部屋から出た。

 

(寮監も乙女だってことかしら…)ブルブル

 

幸い寮監が追いかけてくることはなかったので、そのまま自室へと足を向ける。

 

(そういえば黒子に文句言わないといけないわね。黒子のせいでアイツにパンツ見られちゃったし)///

 

軽く頭を振って恥ずかしさを振り払うと、部屋の扉を開けた。

 

「ただいま。黒子」

 

「……………………」ブツブツ

 

ルームメイトはベッドの上で体育座りをして、なにやら呟いていた。

 

「お姉様が類人猿と間接キスをしていただなんて黒子は認めないですの。でもお姉様が類人猿の口に付いたクリームを指で掬ってペロッと舐めたのは事実。いえ、あれはきっと何かの間違いですの。黒子は疲れていた。お姉様は実験をしていた。でも、実験をしていたお姉様は類人猿の好みで短パン+ゲコ太パンツを履かずに縞パンを履いていた。つまり類人猿によって穢されていて、そんなこと、そんなこと黒子は、黒子は認めないですの」ブツブツ

 

「アンタはなに呟いてるんじゃゴラアアアア」ビリビリ

 

「ああ~んっ!!愛の鞭ですのぉぉぉぉぉぉ!!」ビクンビクン

 

「てか、実験って何よ!アンタどんな妄想してるのよ!」

 

「…ハッ、黒子はなにも見ていません!お姉様とは会っておりませんの!縞パンなんて見ておりませんの!」(実験のことは秘密でしたの!)

 

(縞パンって、確か妹達が履いていたわよね…。妹達の一人が偶然、黒子に会って実験中とか言って誤魔化したのね、きっと)「そうよね。アンタは喫茶店でわたしの短パンずりおろしただけよねぇ…」ビリビリ

 

「お、お姉様!?落ち着いてくださいませ。あれは、お姉様の貞操を確認したかっただけですの」

 

「アンタねえ。デートの邪魔しておいて言いたいことはそれだけかしら?」

 

「デ、デ、デート!?今、デートと仰いましたの!?」

 

「ええ。アンタ、わたしのデートを邪魔したわよね」

 

「あ、あ、あの類…殿方とお姉様がデート!?」

 

「そうよ。わたし、当麻と付き合うことになったから」

 

「な、な、名前呼び…」ブルブル

 

「別に、彼氏のことを名前で呼んでもいいでしょ?」

 

「お、お、お姉様が、お姉様が殿方のことを彼氏と…。黒子は、黒子は、少し外の風にあたってきますの…」フラフラ

 

ツインテールの少女は虚ろな表情で立ち上がると、そのまま部屋から出て行った。

 

(なんか思ってたよりも静かだったわね。もっと騒がれると思っていたんだけど)

 

ベッドに仰向けになり、左手を上げて薬指を見る。

 

(許婚、かあ)ニヘラー

 

幸せそうな微笑を浮かべて、少女はしばらくの間、指輪を眺めるのであった。



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14 12月23日 それぞれの想い

――――――――――

 

―――お姉様が…殿方と恋仲に…

 

寮の屋上へと移動したツインテールの少女は、夜空を見上げながら溜息をついた。

 

―――わかっていたことですの。でも、お姉様から直接言われると、やはり堪えますわ。

 

夏頃からあのツンツン頭の少年を追い掛け回していたのは知っている。『電撃が効かないムカつく奴がいる』と、楽しそうに話していた。

 

秋が近づくにつれ、ツンツン頭の少年のことを話すたびに赤くなったり、挙動不審になったりすることが多くなった。

 

第三次世界大戦の後、しばらくの間ツンツン頭の少年のことを呼んで魘されていた。

 

―――なにがあったのかはわかりませんが、あの時のお姉様はそれはもう酷い有様でしたわ。今にも壊れてしまいそうなくらい打ちひしがれていて…。でも、いつの間にかお元気になられて、殿方のことを呼んで微笑んだりして…。

 

秋の初め頃、研究協力の一環として外泊することがあった。その頃には常盤台のエースの名に恥じない超能力者第三位に戻っていた。

 

―――なぜか私服を持っていかれたりしましたけど。もしかしたら学園都市の外の協力企業への出向だったのかもしれませんが。

 

黒子「…」ハァ

 

―――あの殿方と一緒にいるときのお姉様を見てしまうと、黒子が入る隙は無いですの。

 

しばらくの間、空を見上げながら、ツインテールの少女は呟いた。

 

黒子「上条当麻…お姉様を泣かせたりしたら許しませんですわよ」

 

――――――――――

 

とある男子学生寮の一室

 

ベッドの上の寝具を床に置いてあったものと取替えると、少年はその上に仰向けに倒れこんだ。左手を上に上げ、薬指の付け根をじっと眺める。

 

「許婚、か」

 

自然と、頬が緩む。

 

待ち合わせ場所で抱きつかれた時に、自分の中にあった想いを自覚した。

 

喫茶店で自分の想いを確信して、そのままの勢いで階段の踊り場で告白して、両想いだったことに幸福を感じた。

 

いつでも一緒のものを身に着けていたい我侭から、お互いの親に連絡をして許婚になった。

 

「…結構ぶっ飛んだことをしたよなあ」

 

後悔はしていない。むしろ絆が深まったことに幸せを感じている。

 

(それだけ俺は、美琴のことが好きだったんだな)

 

夕飯に作ってもらったカレーは、今まで食べたカレーの中で一番美味しかった。

 

寮の前まで送ろうと思ったのに、『抱きしめて欲しいから』と言われて、公園で抱きしめた後、姿が見えなくなるまでそこで見送った。

 

(しかし、何であんなにいい匂いがするんだろうな)///

 

頬を赤くしながら、天井を見上げて両手を挙げる。

 

「幸せだー」

 

――――――――――

 

布団の中で、銀髪の少女は目を開けて天井を見た。

 

(とうまとみことがデートをしていた)

 

頬を赤く染めていた茶髪の少女の顔が思い浮かぶ。

 

茶髪の少女は、安全ピンで留めた修道服を『そんなの着ていると危ないから』と言って縫ってくれた。

 

『女の子は身嗜みも大切よ』と言って、ショッピングモールへ連れて行ってくれて、下着や部屋着、小物、生活用品を買ってくれた。

 

たまに部屋に来ては同居人のツンツン頭の少年に勉強を教えたり、わざわざ材料を持ってきて食事を作ってくれた。

 

ときどき外に連れていってくれて、一緒に遊んでくれた。

 

(最初はとうまを虐める酷い奴だと思っていたんだよ)

 

茶髪の少女は、外で会うと必ずと言っていいほど、ツンツン頭の少年に向かって雷撃をぶつけてきた。

 

でも、何度か見ているうちに、攻撃というよりは、話すためのきっかけを作るためにそうしているんだと気が付いた。

 

ツンツン頭の少年と話している時の茶髪の少女は、とても嬉しそうで、楽しそうだったから。

 

(やっと、とうまに想いが届いたんだね)

 

銀髪の少女の口元に優しい微笑が浮かぶ。そして再び目を閉じた。

 

(よかったね。みこと)

 

――――――――――

 

学習机の椅子に座り、右手でシャープペンシルを弄りながら、黒髪の少女はノートに視線を落とす。

 

(上条君。楽しそうだった)

 

常盤台中学の女の子と真っ赤になりながら、ケーキを食べさせあっていたツンツン頭のクラスメイトの少年。

 

青髪ピアスのクラスメイトの少年が乱入した時には『デートの邪魔をするな』と言って、しっかりと女の子をかばっていた。

 

(デート…か。あれもデートになるのかな?)

 

青髪ピアスのクラスメイトの少年に頼まれて、一緒にクリスマスオーナメントを選んだ。そのお礼にと、クレープとココアを奢ってもらった。

 

(私は。どうして。OKしたんだろう?)

 

青髪ピアスのクラスメイトの少年との約束。明日も彼のショッピングに付き合うことになっている。

 

(別に。今日買ってもよかったと思うんだけど)

 

青髪ピアスの少年はどうしてわざわざ明日を指定してきたのだろう。

 

(まあ。楽しかったから)

 

青髪ピアスの少年との他愛の無い話や、クリスマスオーナメント選びは思っていたよりも楽しかった。

 

(青ピ君…か)

 

青髪ピアスの少年のことを思い出しながら、少女は小さく微笑んだ。

 

――――――――――

 

12月23日夜、とあるふたりのメール

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:今日は

 

本文:ありがとう。嬉しかった。夢じゃないよね?わたし、当麻の婚約者だよね?

 

―――――――――

From:上条当麻

 

Subject:Re:今日は

 

本文:夢だったらどうする?俺は泣く。

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:Re:Re:今日は

 

本文:泣くだけなの?わたしは死んじゃうかも…

 

―――――――――

From:上条当麻

 

Subject:安心しろ

 

本文:御坂美琴は上条当麻の婚約者だ。冗談でも死ぬとか言うな。好きだぞ。

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:わたしも

 

本文:よかった。ごめんなさい。大好き。

 

―――――――――

From:上条当麻

 

Subject:明日

 

本文:10時に自販機前で待ち合わせでいいか?ゲーセンでも行こうぜ。

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:Re:明日

 

本文:了解。一緒にプリクラ撮りたいな。新作のゲコ太フレームのやつが出たんだ。

 

―――――――――

From:上条当麻

 

Subject:Re:Re:明日

 

本文:ゲコ太に邪魔されないツーショットが欲しいかも。

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:Re:Re:Re:明日

 

本文:うん。それも一緒に撮ろうね。

 

―――――――――

From:上条当麻

 

Subject:Re:Re:Re:Re:明日

 

本文:ゲコ太は確定かよ。まあいいけど。

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:ゲコ太

 

本文:イヤ?

 

―――――――――

From:上条当麻

 

Subject:Re:ゲコ太

 

本文:イヤじゃないぞ。好きなんだろ?

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:Re:Re:ゲコ太

 

本文:うん。でも、当麻の方が好きだからね。

 

―――――――――

From:上条当麻

 

Subject:Re:Re:Re:ゲコ太

 

本文:サンキュー。俺も、好きだぞ。

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:あのね

 

本文:言葉で、聞きたいな。

 

――――――――――

 

常盤台中学学生寮208号室

 

ベッドの上に横になり、茶色い短髪の少女は携帯電話を握り締めていた。

 

ルームメイトであるツインテールの少女は、勉強机の前に座ってノートパソコンを開き、キーボードに何かを打ち込んでいる。

 

他愛の無いメールのやり取り。それはそれで楽しかったのだが、文字だけでは物足りなくなってくる。

 

(わがままだなあ。わたし)ハァ

 

小さく溜息をつくと同時に、握っていた携帯電話が震えて、少女は小さく体を震わせた。

 

ディスプレイに表示された、『上条当麻』の文字に頬が赤くなるのを自覚しながら、少女は通話ボタンを押す。口元に幸せそうな笑みを浮かべて。

 

「も、もしもし」///

 

『まったく、お前は甘えん坊だなあ』

 

「わ、悪い!?」

 

『いーや、悪くないですよ美琴さん。…ホントのこと言うと、俺もお前の声、聞きたかったし』

 

「ホ、ホント?」

 

『お前に嘘ついてどうするんだよ。あー、…好きだぞ。美琴』

 

「わたしも、好き!」///

 

その言葉を聞いて、ツインテールの少女の身体が小さく震え、キーボードを打つ手が止まる。(彼女に聞こえているのはルームメイトの少女の声だけ)

 

(まさかとは思いますが…殿方とのラブトークですの!?)ブルブル

 

『…上条さん、幸せを噛み締めてるんですけど』

 

「ふふ。当麻♪す~き♪」

 

「―――!!」(ギュオエエエエエエエエエッッ!!あの類人猿めえええええええっっ!!)ギリギリ

 

『あー、もー!なんでこう美琴さんは、今日一日でこんなに可愛くなっちゃったんですか!』

 

「当麻が告白してくれたからに決まってるじゃない!わたしはずっと、当麻のことが好きだったんだから!だから、当麻が好きって言ってくれたから、わたしも素直になれたの」///

 

(告白ですとおおおおっ!?こ、これはまずいですの。この後は延々とお姉様の惚気話が続くかもしれなくて、そのようなもの、わたくしには耐えられませんの…)ガタガタブルブル

 

『上条さんは幸せ者です。こんな素敵な彼女がいて』

 

「わ、わたしも幸せ!当麻の彼女になれて」///

 

『美琴』

 

「当麻」///

 

「…!!」(酸素、酸素が足りませんわ!お姉様が電気分解でオゾンでも精製させておりますの?)ゼエゼエ

 

『やべ。これ以上話していると会いたくてたまらなくなる』

 

「ホントに?わたしも今、同じこと考えてた」

 

『はは。似たもの同士だな』

 

「えへへ」

 

『じゃあ、また明日。おやすみ』

 

「…もう一回、好きって言って?」

 

「――!!」(げ、限界ですの…)パタリ

 

『美琴。好きだ』

 

「わたしも、好き。おやすみ。当麻」

 

『おやすみ。美琴』

 

少女は携帯電話を閉じると、それをそっと胸に抱いた。

 

(おやすみ。当麻)

 

「…」



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15 12月24日 メール

過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


12月24日朝 とある友人たちとのメール

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:Re:彼氏さん

 

本文:ゴメン。さっき読んだ。えっと、なんていうか、その、お付き合いしています(照)

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:Re:すみません

 

本文:初春さんが佐天さんを連れて行ってくれて、正直助かった。ありがとう。

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:Re:明日のご予定は?

 

本文:ごめんなさい。さっきメールを読みました。折角のお誘いですが、今日は予定が入っちゃってます。本当にごめんなさい。湾内さんと泡浮さんによろしく。

 

 

―――――――――

From:佐天涙子

 

Subject:Re:Re:彼氏さん

 

本文:お付き合いしてるんですね!優しそうな彼氏さんで羨ましいです!あー。でも、彼氏さんの名前聞きそびれちゃったなあ。じー。(期待の眼差し)

 

―――――――――

From:初春飾利

 

Subject:Re:Re:すみません

 

本文:佐天さん暴走してましたからね(笑)そういえば御坂さんの彼氏さんのカミジョートウマさんってどう書くのですか?

 

―――――――――

From:婚后光子

 

Subject:残念ですわ

 

本文:正直言いますとわたくしの連絡ミスですの。御坂さんには連絡したつもりでいましたのよ。お友達たちだけで過ごす初めてのクリスマスパーティーですもの。御坂さんはわたくしにとって真っ先にお誘いするに値する方ですから。来年は予約しておいてもよろしいかしら?

 

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:Re:Re:Re:彼氏さん

 

本文:上条当麻

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:Re:Re:Re:すみません

 

本文:上条当麻

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:Re:残念ですわ

 

本文:あー、ゴメン。来年も無理だと思う(汗)

 

 

―――――――――

From:佐天涙子

 

Subject:昨日は

 

本文:上条さんに何か買ってもらったりなんかしちゃったのですか?お会いしたのアクセサリーショップでしたし。

 

―――――――――

From:初春飾利

 

Subject:もしよろしければ

 

本文:おふたりの馴れ初めなんて聞いちゃってもいいでしょうか?

 

―――――――――

From:婚后光子

 

Subject:もしかして

 

本文:ご迷惑でした?

 

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:Re:昨日は

 

本文:ペアリングを買ってもらった(照)

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:Re:もしよろしければ

 

本文:えっと、わたしがスキルアウトを更正させようとしていたとき、わたしが絡まれてると思って勝手に助け出そうとしたのが彼。まあそれから色々あって、告白されました。(照)

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:そんなことない!

 

本文:婚后さんはわたしにとっても良いお友達です。でもね、あの、特別なイベントの日は、(他の人には内緒にして!)許婚と過ごしたいので(照)

 

 

―――――――――

From:佐天涙子

 

Subject:Re:Re:Re:昨日は

 

本文:ラブラブですね御坂さん。いいなあ。うらやましいなあ。

 

―――――――――

From:初春飾利

 

Subject:Re:Re:Re:もしよろしければ

 

本文:御坂さん。危ないことはしないでくださいって言ってるじゃないですか!そんな御坂さんを止めてくれた上条さんに感謝ですね。告白ですか?ど、どんな風に!?(ワクワク)

 

―――――――――

From:婚后光子

 

Subject:許婚!?

 

本文:もしかしてお相手は海原さんですか?

 

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:恥ずかしいなあ

 

本文:スキルアウトの件はゴメン。えーっと、普通に『好きです、つきあってください』的な(照)

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:Re:許婚!?

 

本文:何でそこで海原さんが出てくるの!?違うから!!わたしの許婚の名前は、上条当麻です(照)

 

 

―――――――――

From:初春飾利

 

Subject:Re:恥ずかしいなあ

 

本文:わあ。情熱的ですね。うらやましいなあ。ところで、白井さんは上条さんのことをご存知でしょうか?今日、風紀委員で一緒になるんですが、もし内緒にしているのでしたら協力します。

 

―――――――――

From:婚后光子

 

Subject:失礼いたしました

 

本文:機会がありましたらご紹介いただけますか?御坂さんが選んだ殿方に興味がありますわ。きっと素敵な方なのでしょうね。

 

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:Re:Re:恥ずかしいなあ

 

本文:黒子にも言ってあります。えーっと、しばらく黒子が迷惑かけるかもしれないけど、よろしく。

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:Re:失礼いたしました

 

本文:えーっと、普通の高校生です。まあ、機会があったら紹介します。(照)

 

 

―――――――――

From:初春飾利

 

Subject:お任せください!

 

本文:御坂さんと上条さんのデートの邪魔をしないように努力します!

 

―――――――――

From:婚后光子

 

Subject:それでは

 

本文:近いうちに学舎の園の甘味処へ参りませんか?御坂さんの都合の良い日をご連絡ください。

 

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:Re:お任せください!

 

本文:ありがとう(照)

 

―――――――――

From:御坂美琴

 

Subject:Re:それでは

 

本文:了解。また連絡するね。



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16 12月24日 デート

過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


――――――――――

 

10:00 セブンスミスト前

 

青髪の少年と巫女装束が似合いそうな黒髪の少女は、ショッピングモール前のバス亭からショッピングビルへ向かって歩いていた。

 

「今日もええ天気やなー。ホワイトクリスマスは望めなさそうやけど、出かけるにはちょうどええなー」

 

「でも空気が冷たいから。雪が降っていなくても長時間外にいるのは辛い」

 

「じゃ、とりあえず、中に入ろか」

 

「うん」

 

ビルの中に入り、あてもなくぶらぶらとファンシーショップやアクセサリーショップの店先を冷やかす。

 

「姫神ちゃん。今日も付き合うてくれてありがとな」

 

「別に。暇だったから」

 

「せや、姫神ちゃん。何か欲しいものある?」

 

「んー。服とかはこの前吹寄さんと見にきたし」

 

「ひ、姫神ちゃん。男が服を贈る意味、知ってるやろ?」アセアセ

 

「ん?服は見に来たばかりだからいらないってことなんだけど」

 

「どわぁ!今言ったこと忘れてや!」(何やってんのや!)///

 

「?」

 

「じゃ、じゃあ、アクセサリーとかは?」

 

「んー。あんまりちゃらちゃらした物は着けたくないなあ」

 

「そ、そっか」

 

「ピアスって。痛くない?」

 

「ボクはそんなに痛くなかったけど。姫神ちゃん、興味あるん?」

 

少女は自分の耳たぶを弄りながら首を傾げる。

 

「やっぱりいいや」

 

「着けピアスってのもあるんやで?」

 

「着けピアス?」

 

「粘着テープみたいので貼るやつ」

 

「なんか。痒くなりそう」

 

「姫神ちゃん、肌弱いん?」

 

「んー。どうだろ?」

 

「もし何か着けるとしても、無理にピアスやなくて、イヤリングで全然問題ないと思うで」

 

「まあ。そうなんだけど」

 

「実はボクを見て、ピアスしてみたいとか思ってくれたとか?」

 

「ピアス着けてるの。クラスじゃ青ピ君だけだしね。それから考えると。ちょっとは影響してるかもしれない」

 

「嬉しいわあ、ボク。…少しは期待してもええ?」

 

「え?何を?」

 

「姫神ちゃんともっと仲良うなれるって思ってもええ?」

 

少年はまっすぐに少女を見る。心なしか頬が少し赤くなっているようにも見えた。

 

「…少なくとも昨日よりは。仲良くなってると思うけど」

 

「え?」

 

「そうじゃなければ。わざわざ待ち合わせまでして一緒に買い物なんて来ないし」

 

早口でそう言うと、少女はくるりと身を翻らせて歩き出した。

 

「…減点かな」ボソ

 

「ちょ、待ってや。姫神ちゃん!?」

 

「待たない」

 

「堪忍してや!姫神ちゃん!」(姫神ちゃんがボクに『減点』て、『待たない』って、なんやこれ!?)

 

少年が慌てて駆け寄ると、少女は口元を小さく綻ばせながら言った。

 

「次はどのお店を見ようか?」ニコ

 

――――――――――

 

10:45 第七学区 ゲームセンター ラヴリーミトンプリクラ内

 

「じゃ、じゃあ、後ろから抱き着いてくれるかな?」///

 

「こうか?」

 

少女の肩に顎を乗せ、腋の下に腕を通して少女のお腹の辺りに左手を置き、右手で自分の肘を掴む。

 

「えへ。後ろから抱きしめられちゃった」///

 

言いながら少女は少年の左手を自分の右手で押さえ、嬉しそうに微笑む。

 

「…ええと、美琴さん?」///

 

「どうしたの?」

 

「なんと言いましょうか、この格好はですね、いろいろマズイと上条さんは思うのですが」///

 

「少しの間だからいいじゃない。…イヤなの?」

 

「イヤじゃないけど…その」///

 

「なによ?はっきりしてよ」

 

「ええと…怒らない?」(後ろから抱きついてる俺の手を、自分で胸に押し付けてるのが判らないのかあああああ!!)///

 

「なんか変なこと考えてるんじゃないでしょうね?」

 

「上条さん的には大変嬉しいことなんですけど、…お前が右手で押さえてるもの」///

 

「ん?アンタの手よね?」

 

「うん。で、俺の手は何を押さえてる?」///

 

「え?」

 

少女の右手は、後ろから回された少年の手の甲を上から押さえていて、少年の左手は、少女の右胸を包み込むような形になっていた。

 

「あ、あぅ…」///

 

「ほら、右手を離せ、離そう、離しましょう美琴センセー」///

 

「…このままでいい。後ろからぎゅってされてる写真欲しいんだもん」///

 

「上条さんの理性が臨界点を超えそうですよ!美琴センセー」///

 

「ほ、ほら、カメラ見て、笑って」

 

ぎゅっと少女の右手が少年の左手を握る。

 

「お、おう…」(て、掌に柔らかな感触があああああ!!)///

 

フラッシュが光って撮影の終わりを告げる。だが、ふたりはそのまま動かない。

 

「ほ、ほら、終わったぞ?」

 

「うん」///

 

「離さないと、上条さん左手をにぎにぎしちゃいますよ?」

 

「ふぇ!?」(に、にぎにぎって!?)///

 

「だあああ!!右手を離しなさい美琴センセー!ホントににぎにぎするぞ!」///

 

少女は慌てて手を離し、少年も速やかに戒めを解く。少女は自分を抱くように胸を隠しながら、キッと少年を睨んだ。

 

「な、何言ってるのよアンタ!馬鹿!スケベ!」///

 

「お、俺の手を胸に持っていったのはお前だぞ!」///

 

「だ、だって、…ぎゅってして欲しかったんだもん」ショボン

 

(そんな風に言われたら怒れないじゃないか)「…あー、ゴメン。俺が引っ張られるまま手を動かしちまったから触っちゃう形になったんだな」

 

「え?」

 

「美琴も良く考えて行動するようにすれば、こういうことも減るだろ?」

 

「う、うん」

 

「ってことで、この話題はこれまで。な?」

 

「…なんか強引に纏められた気がする」

 

「あのな。折角のデートなのに喧嘩するのは嫌だろ」

 

「まあ、そうだけど」

 

不満そうな少女の肩に手を置いて前に向かせると、少年は画面を指差して言った。

 

「ほら、じゃあ次のフレーム選ぼうぜ?」

 

「…じゃあ、一番上のゲコ太とピョン子のやつ」

 

「俺が右、お前が左でいいのか?」

 

「うん」

 

「これはどんな格好で?」

 

「…また、ぎゅってしてくれる?」

 

「手、気をつけてな」

 

「…別に当麻になら触られてもいいんだけど」///

 

「いきなりそういうこと言わないの!」///

 

「なんでよ?」

 

「抑えがきかなくなるだろうが。美琴さんは自分の魅力についてもっと真剣に考えるべきだと思います!」

 

「み、魅力?」

 

少女の後ろから抱きつき、手で自分の肘を押さえるようにして事故を防ぎながら、少年は囁いた。

 

「あんなこと言われたら止まれなくなるぞ。上条さん、健全な男子高校生ですから」

 

「!?」///

 

「こんなところでなんて、美琴も嫌だろ?誰が見てるかもわからないし」

 

「うぅ…」

 

「まー、くっつきたいのは上条さんも同じだから、お互い注意しような」

 

「うん。注意する」

 

「素直な美琴、可愛いな」ギュッ

 

「ふにゃ!?」///

 

抱きついたまま、少女の肩に顎を乗せて目を閉じる。

 

「あー、なんか安心する。ちょっとだけ、こうしててもいいか?」ギュッ

 

「う、うん」(と、当麻がわたしに甘えてる!?)///

 

(いい匂いだなー)ポー

 

「ね、ねえ?そのままでいいから、一枚撮っちゃっていい?」

 

「別にいいけど、いい写真にはならないんじゃないか?」

 

「わたしから見るとすっごくいい感じなのよ」(当麻が甘えてくれるなんてこの先あるかわからないし)///

 

「じゃ、撮り終わるまでこのままにしてる」ギュッ

 

「うん。ありがと」///

 

それから少なくとも五分もの間、ラヴリーミトンプリクラで撮影が行われることは無かったのであった。

 

――――――――――

 

11:30 セブンスミスト アクセサリーショップ

 

店先のショーウィンドウを覗き込み、青髪の少年は言った。

 

「お、この店、値段も手頃やし、デザインもええわあ」

 

「ピアス?」

 

「うん。あの青い石が入ってるのなんて、いいと思わん?」

 

少年が銀色の台座に青いガラス球が埋め込まれているピアスを指して言う。

 

「ピアス。髪に合わせてるの?」

 

「いや、別にそういうわけやないけど。シンプルでええなあと思って」

 

「そっか。今。着けているのも青い石だから。髪に合わせているのかと思った」

 

「たまたまやで。まあ、確かに青は好きな色やけど」

 

「私は。赤の方が好きかなあ」

 

「姫神ちゃん、赤、好きなん?」

 

「んー。好きって言うかアクセントとしてはいいかなって」

 

「そっか。そっちにイヤリングあるで?」

 

「どれ?」

 

イヤリングに視線を移し、ピアスで見ていたのと同じようなシンプルなデザイン-クリップの前面が台座になっていて、そこにガラス球が埋め込まれている-のものを探す。

 

「あ。これ良いかも」

 

そう言って少女が指したのは、クリップの前面に赤いガラス球が埋め込まれた金色のイヤリングだった。

 

「それ、気にいったん?」

 

「うん」

 

青髪の少年は少女が指したイヤリングを見つめながら口を開く。

 

「…姫神ちゃんがよければ、それ、ボクにプレゼントさせてや」

 

「え?」

 

「姫神ちゃんにクリスマスプレゼントを買うってのが、今日の目的やねん」

 

「そうだったんだ」

 

「うん。その、迷惑やったらやめるさかい」

 

視線をイヤリングに落としたまま、少女は思案する。

 

今いるアクセサリーショップは学生をメインターゲットにした店のようで、値段的にも貰うのに抵抗があるというほど高価なものではない。

 

友達同士でアクセサリーをプレゼントし合えるような店だった。

 

(…友達としてなら。貰ってもいいかな)「じゃあ。お言葉に甘えて」

 

「え?」

 

「ありがとう」

 

「ホンマ!?すんませーん。このイヤリングください。あ、プレゼント包装で頼んます」

 

少年が店員を呼んだ後、少女は少し躊躇いがちに声をかけてくる。

 

「青ピ君。ちょっと。席はすずね」

 

「あ、うん。ほな、ボク、一階の階段の前で待っとるから」

 

「うん。じゃあ。後で」

 

「うん」

 

少女の背中を見送って、少年はひとつ大きな溜息をついた。

 

(とりあえず、受け取ってもらえるんやし、少しは期待してもええんかなあ?)



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17 12月24日 見つめる先

過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


――――――――――

 

13:30 第七学区 スーパーマーケット内

 

ツンツン頭の少年の押すショッピングカートの籠の中に、茶髪の少女が食材を入れていく。

 

「あの、美琴センセー?」

 

「ん。なーに?」

 

「なんか量が凄いんですけども」

 

「シチューみたいな煮込み料理ってさ、たくさん作った方が美味しいのよ。それに、インデックスもたくさん食べるでしょ?」

 

「いやー、何か悪い気がして」

 

「わたしが好きでやってるんだから気にしないの。それに、か、彼氏と過ごす初めてのクリスマスだし、気合入っちゃうんだから」///

 

「上条さんは幸せ者です」///

 

「えへへ。他に何か食べたいものある?」

 

「ビーフシチューにポテトサラダにローストチキンがあれば十分だと思います。ケーキは店先で売ってたのでいいよな?」

 

「さすがにケーキまで焼く時間ないしね」

 

「飲み物は…と、アレでいいか?ゲコ太のクリスマスオーナメント付いてるぞ」

 

そう言って少年が指差した場所に、サンタのコスチュームを着たゲコ太の絵が描かれたポスターが貼られているクリスマスカクテル(ノンアルコール)が置いてあった。

 

缶の上にプラスチックの蓋のようなものが被されていて、その中に入っているキャラクターのラベルが貼られている。

 

「全六種か。買いね」

 

「味は三種類だから、それぞれ二本ずつ買おうぜ」

 

「うん。…えへ。サンタピョン子可愛いなあ」

 

「…可愛いな」ボソ

 

「ア、アンタもそう思う!?可愛いわよね!」(ついに当麻もゲコ太の良さに気付いてくれた!?)

 

「ああ。可愛いぞ。美琴」

 

「ふにゃっ!?」///

 

「思わず笑顔に見惚れてしまいました」///

 

「えへへ…」(可愛いって言われちゃった)///

 

「美琴…」

 

「当麻…」

 

見つめ合うふたりには、周囲など見えていないのであった。

 

――――――――――

 

14:00 第七学区 ファミリーレストラン内

 

「ボク飲み物入れてくるけど、姫神ちゃん、何にする?」

 

「んー。ティーポットとダージリン。お願いしてもいい?」

 

「ええよ。ついでやし。砂糖とかはいる?」

 

「いらない」

 

「ほな、ちょっと行ってくるわ」

 

「うん」

 

青髪の少年はドリンクバーへと歩いていく。その背中に視線を送りながら黒髪の少女は小さく微笑んだ。

 

(加点1かな)

 

トレイの上にソーサーとティーカップ、ダージリンのティーパックを置き、ティーポットにお湯を注ぐ。

 

(これって、デートと思ってもええんかな?)

 

ティーポットをトレイに載せ、コーヒーカップをドリップマシンに置き、ブレンドコーヒーのボタンを押しながら、青髪の少年は昨日の友人の姿を思い出していた。

 

(いやいや、カミやんみたいにラブラブなのがデートなんやろうな。ボクと姫神ちゃんはまだ、友達同士のショッピングってとこやね)

 

砂糖とミルク、ソーサーとスプーンをトレイに載せるのとほぼ同時に、ブレンドコーヒーが出来上がった。

 

(ま、カミやんは元から好かれてたっぽいしなあ)ハァ

 

コーヒーカップをトレイに載せ、少女のいる席へと戻るために歩き出す。

 

(ちょっとは、仲良うなれたと思うんやけど)

 

席に戻りテーブルの上にトレイを置く。

 

「お待たせ。…ホンマに砂糖とか要らんかった?」

 

「うん。ありがとう」

 

少女がティーパックの袋を取り出して、ティーポットの中に入れると、透明のお湯がたちまち琥珀色に染まっていく。

 

「なんか、一瞬で色が変わると感動するわあ」

 

「ふふ。私もそう思う」

 

コーヒーに砂糖とミルクを落としてかき混ぜながら、少年はティーポット越しに少女を見る。

 

「…綺麗やな」ボソ

 

「青ピ君。意外と詩人?」

 

「そうやなあ。ボク、ロマンチストやもん」

 

「確かに。クリスタル細工を見て綺麗って言える男子って珍しいけど」

 

「綺麗なもんは綺麗って言っても、別に悪くないやろ?」

 

「うん」

 

少女がティーポットを持ち上げ、ティーカップに紅茶を注ぐ。少年はそんな少女の顔に視線を向けて呟いた。

 

「…綺麗や」

 

「ふふ。青ピ君も紅茶にすればよかったのに」

 

「…姫神ちゃんが、やで」

 

「え?」

 

まっすぐに少女を見て、少年は言う。

 

「姫神ちゃんが綺麗やって、言ったんや」///

 

「私?」

 

「うん」

 

「もしかして。からかってる?」

 

「ボク、本気やで」

 

「…」

 

少女は胸元に右手を置き、服越しに十字架に触れる。

 

「私は。別に綺麗じゃないと思うけど」

 

「それは謙遜やで。姫神ちゃん」

 

「そうかな?」

 

「うん。姫神ちゃんは美人やし、魅力的な女の子や」

 

「いきなりそんなこと言われても。困る」

 

視線をティーカップに落としながら、少女は言った。

 

「ゴメン。でも言いたかったんや」

 

「どうして?」

 

「昨日と今日で姫神ちゃんとボク、少しは仲良うなれたと思ったんや。一緒にクリスマスオーナメント選んでもろうたり、プレゼント受け取ってもらえたり、食事したりして、姫神ちゃんと仲良うなれたと思ったんや」

 

「…」

 

「そしたらな、ボク、馬鹿やさかい。舞い上がってしもうて、姫神ちゃんも同じ気持ちかと思うてしもうて」

 

「…」

 

「今なら姫神ちゃんが綺麗やって、ずっと思ってたこと。伝えられるかなって」

 

「青ピ君…」

 

「はは。なんかカッコ悪いなあボク」

 

「…そんなこと。ないよ」

 

そう言うと少女は横に置いてあるバッグから何かを取り出し、掌に載せて少年へと差し出す。

 

「これ。クリスマスプレゼント」

 

「…ボクに?」

 

「うん」

 

「開けてもええ?」

 

「うん」

 

袋を開けて小箱を取り出し、小箱の中身を見て少年は目を見開いた。

 

「え!?これ…」

 

小箱の中にあったのは赤いガラス球が嵌め込まれた金色のピアスだった。少年が少女に贈ったイヤリングと同じデザインである。

 

「…一応。お揃い」

 

「そ、そやな」

 

「それだけ?」

 

「いや、いきなりやったから、なんて言ってええか判らなくて」

 

「困るでしょ?さっきの私と同じ」

 

そう言って少女は小さく微笑む。

 

「姫神ちゃん…。ボク」

 

少年が何か言おうとするのを、少女は自分の唇に人差し指を縦に当てる仕草で止めた。

 

「今はまだ。友達でいた方がいいと思う」

 

「姫神ちゃん…」

 

「雰囲気に流されているだけかもしれないし。お互いをもう少し知ってからの方がいいと思う」

 

「ボクはクリスマス前から…」

 

「見た目だけじゃわからないし。私のこと知って欲しいし。…青ピ君のこと知りたいし」

 

少年が何か言おうとするのを少女は言葉で遮った。最後の方はほとんど聞こえないほど小さな声で。

 

(そんな急になんて。切り替えられないし)

 

―――ただのクラスメイトからいきなり恋人というのは無理がありすぎる。順番的にもまずは友達から。うん。別に変じゃない。はず。

 

「とりあえず。連絡先交換しよう」

 

「ええの?」

 

「うん」

 

少女はバッグから携帯を取り出し、赤外線データ受信モードに切り替える。

 

「ほな、送るで?」

 

「…受信完了。じゃあ次は私が」

 

「っと、準備OK」

 

「じゃあ送信」

 

「…姫神ちゃんのアドレスゲット。ボク、感激やわ」

 

「それは。大げさ」

 

「大げさやないんやけどなあ」

 

「そう言ってまた困らせる。…減点1」

 

「また減点!?てかそれって何の点数なん?」

 

少女は少年を見ると、自分の顎に人差し指の先を当てて小さく微笑んだ。

 

「青ピ君の点数。かな」



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18 12月24日 クリスマスパーティー

過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


――――――――――

 

14:30 風紀委員第一七七支部

 

「ねえ初春さん。白井さん、どうしちゃったの?」

 

「し、白井さんがどうかしましたか?固法先輩」

 

「何か元気が無いのよね。上の空って言うかなんて言うか…」

 

「あー。たぶん御坂さんが原因です」

 

「御坂さんが?どういうことかしら?」

 

「固法先輩、白井さんが御坂さんを慕っているって知っていますよね?」

 

「ええ、まあ」

 

ツインテールの少女がルームメイトで同じ学校の先輩である御坂美琴のことを、様々な意味で慕っているのは知っている。

 

「昨日、私は非番だったので、佐天さんと一緒にセブンスミストへ行ったんですけど、御坂さんとお会いしたんですよ」(本当は佐天さんの案で御坂さんを探しに行ったんですけど)

 

「あなたたち、本当に仲がいいわね」

 

「あはは。まあ、そのときですね、御坂さんは一人じゃなかったんです」

 

「白井さんはそのとき巡回中だったから、白井さんじゃないわよね?」

 

「ええ。御坂さん、彼氏さんと一緒だったんですよ」

 

「え?」

 

「御坂さんは彼氏さんと一緒にセブンスミストに来ていたんです」

 

「か、彼氏?御坂さんに?」

 

「はい。手を繋いで名前で呼び合ってました」(ホントは佐天さんが呼ばせたんだけど)「御坂さんも彼氏って紹介してくれましたし」

 

「へえ。御坂さんやるわね。じゃあ白井さんの様子がおかしいのは、御坂さんに彼氏ができたからなのかしら?」

 

「おそらくは。と言うかそれしか考えられないですね」

 

「最近の中学生は進んでるわね」

 

「あ、御坂さんの彼氏さんは高校生ですよ」

 

「いったい、どういった経緯で知り合ったのかしらね?ちょっと興味あるわ」

 

「御坂さんがスキルアウトを更正させようとしていたときに、スキルアウトに絡まれていると思って助け出そうとしたのが彼氏さんで、それからみたいですけど…」

 

「まったく、御坂さんてば。危険だって言ってるのに。今度会ったら釘を刺しておかないと」

 

「私も注意したんですけどねー。あ、彼氏さんから言ってもらえば良いのか。御坂さん、彼氏さんの前だとすごく可愛かったし」

 

「機会があったら御坂さんの彼氏に注意してもらいましょう。…それで、御坂さん、どんな風に可愛かったの??」

 

「もじもじして上目遣いで彼氏さんのことを呼んだりとか、嬉しそうに寄り添ってたりとか」

 

「み、見てみたい気がするわ。そんな御坂さん」

 

「あはは。そのうち街で見ることができますよ。きっと。ラブラブでしたから」

 

風紀委員といえども年頃の女の子。まして知人の恋愛事情となると、知らず知らずのうちに話が盛り上がってしまうのであった。

 

――――――――――

 

15:00 とある高校男子学生寮の一室

 

 

「当麻。意外と器用ね」

 

「ふっ。上条さんの料理スキルを侮ってもらっては困ります」

 

「普通に包丁で皮を剥けるのには驚いたわ。授業でも普通はピーラー使うし」

 

「何かあれ苦手なんだよな」

 

「慣れればピーラーも具合いいわよ」

 

「まあそうなんだろうけど」

 

「ふふ。でもこうやって一緒に料理するなんて、考えたことなかったわ」

 

「そういえば、夕飯作ってくれた時って、台所に入れてくれなかったよな?どうしてだ?」

 

「あ、あの時は付き合ってなかったから、一緒に料理なんてできるわけないじゃないの馬鹿!」

 

「なんでだよ?」

 

「ここ狭いじゃない。…アンタと肩とか手なんか触れちゃったら料理なんてできないって思っちゃって…」///

 

真っ赤になって視線を逸らすと、少女は恥ずかしそうに身を捩った。

 

「そ、そっか。いや、なんていうか、ゴメン」

 

「…何で謝るのよ」

 

「いや、そこまで惚れられてたのに、全然気づいてやれなくてさ」

 

「本当よ。苦労したんだから」

 

「悪い」

 

「…でも、今こうして当麻と一緒に居られるから、いいんだ」

 

「俺も、今こうして美琴と一緒に居られるのは嬉しい」

 

「ホント?」

 

「ああ」

 

「ねえ、当麻。ちょっと困ったことになっちゃったんだけど」ウワメヅカイ

 

「どうした?」

 

「料理中なんだけどさ、ぎゅってして欲しくなっちゃった」エヘ

 

「そ、そっか。…じゃあ、とりあえず鍋に水を入れて、切った野菜をその中に入れて…と」

 

「ちょっと、何スルーしてるのよ」

 

「…こいつをコンロにかけて…と」

 

「…馬鹿」シュン

 

「…よし、お次は、ぎゅー…と」ウシロカラ ダキツキ

 

「ふぇ!?」///

 

「お求めはこちらでよろしかったでしょうか?姫」ギュッ

 

「うん。…ありがと」

 

「どういたしまして」

 

「ね?お鍋が煮えるまで、このまま?」

 

「お望みのままに」

 

「じゃあ、このままで」

 

「ああ。わかった」

 

――――――――――

 

19:30 とある高校男子学生寮の一室

 

「片付け終わったぞー」

 

「お疲れ様」

 

台所からリビングへと戻ると、少年はテーブルの上で何かを弄っている少女の前に座る。

 

「何してるんだ?」

 

「ふふ。ゲコ太もピョン子もケロヨンも可愛いわ」ニヤニヤ

 

「ホント好きだな」

 

「当麻もこの良さが判ってくれると嬉しいんだけどなー」

 

「いや、男子高校生がそういうのを前にしてニヤニヤしてたらやばいだろ。常盤台のお嬢様がニヤニヤしてるのもアレかもしれないけどな」

 

「べ、別にいいじゃない!誰かに迷惑かけているわけじゃないんだし!」

 

「まあ、俺の部屋とか自分の部屋ならいいけど」

 

「じゃあ問題なし」

 

「ま、そうだな」

 

少女は六種類のクリスマスオーナメントを弄びながら、そのうちのひとつ、クリスマスツリーの下にゲコ太とピョン子が立っているものを手に取った。

 

(…そうだ。これをあの紐に掛ければ)

 

立ち上がると、頭の上にあった部屋の蛍光灯の紐に手に持っていたクリスマスオーナメントを結んで再び腰を下ろす。

 

「えへ。一応、クリスマスツリー。机の上に立たなから結んじゃった」

 

「お。いいんじゃないか」

 

「食べる前に気付けば良かったんだけどねー」

 

「いやいや、充分すぎるほどクリスマスしてました。ホント、美味しかった」

 

「良かった」

 

そう言って小さく微笑むと、少女は真っ直ぐに少年を見て、先ほど結んだクリスマスオーナメントを指差した。

 

「あのさ。これ、クリスマスツリーってことでいい?」

 

「ん?いいと思うぞ」

 

「じゃあさ、ツリーの下に女の子がいるんだけど、当麻は何もしないの?」

 

「どういうこと?」

 

「…ヤドリギなんだけど」

 

「ヤドリギ?」

 

「もしかして知らない?」

 

「…悪い」

 

「別に謝らなくていいんだけど。えっとね、クリスマスの日、ツリーに飾られたヤドリギの下に居る女の子には、キスをしていいことになってるのよ」///

 

「え?」

 

「もちろん、女の子に断られたらしちゃ駄目だけどね。はい。説明終わり」

 

「ええと、…つまり、美琴さんはその…?」(キスしてもいい…のか?)

 

顔を赤くする少年を上目遣いで見ながら、少女は小さく言った。

 

「…当麻なら、その、断らないわよ」///

 

「そ、そうか」

 

ごくりと唾を飲み込んで少年は立ち上がると、少女の前へと歩いて行き、その肩に手を置く。

 

「いいんだな?美琴」

 

「…」

 

返事の代わりに少女はゆっくりと瞼を閉じた。

 

「…」

 

「…」

 

柔らかな感触がお互いの唇を刺激する。軽く触れるだけの優しいくちづけ。

 

「…えへ。ファーストキス」(夢、じゃないよね?当麻、キスしてくれたんだよね?)

 

「上条さんもファーストキスですよ」(夢、じゃないよな?美琴とキスしたんだよな?)

 

「そっか。嬉しいな」(もう一回、したいな)

 

「美琴…」(可愛いな。美琴)

 

「お返し、するね」(いいや、わたしからしちゃえ)

 

「…んぅ!?」///

 

「ん…」チュッ

 

先ほどの触れただけのものとは違い、少し唇を吸ってみる。言葉に言い表せない気持ちが少女の中を走った。

 

(ちょっとだけ、当麻を奪ったような気がする)///

 

「…美琴」(俺も…)

 

「んっ!?」

 

「…」チュッ

 

少女がしたのと同じように、軽く唇を吸う。蕩けそうな感覚が少年を襲う。

 

(こ、これって、奪われてる感じがする)///

 

「…ヤバイな、コレ。止まらなくなりそうだ」///

 

「…もう一回だけ」チュッ

 

「…ん」チュッ

 

しばらくの間、お互いに唇を吸い合う。しばらくしてから名残惜しそうに唇を離すと、少年は少女を抱きしめた。

 

「好きだ。美琴」

 

「わたしも好き。当麻」

 

「キスでこんな気持ちになれるって、凄いよな」

 

「うん。キスって凄いね」

 

「こんな気持ちになれるのは、美琴とだから。…美琴とだけだから」ギュッ

 

「わたしも、当麻とだけだから。当麻じゃなきゃこんな気持ちにならないんだから」ギュッ

 

「ありがとう。美琴」

 

「ありがとう。当麻」

 

お互いに素直な感謝の気持ちを伝えると、なんだか可笑しくなってきて、気が付くとふたりで顔を見合わせて笑った。

 

「なにやってんだろうな、俺達」

 

「ホント。でも、素直に言いたいこと言いあえるのって、嬉しい」

 

「ん。そうだな」

 

「だから…、ねえ?…もう一回、しよ?」

 

「み、み、み、美琴センセー!!その言い方はエッチすぎます」///

 

「エ、エ、エ、エッチってどういうことよ!?」///

 

「アレのおねだりにしか聞こえません…ハイ」///

 

「ア、ア、ア、ア、アレって何よ!?」///

 

「えーっと…、エッチの最終段階?」///

 

「ど、ど、ど馬鹿ああああああっっ!!」///

 

「あーもー!!男子高校生の性欲舐めるなって言ってるだろうが!」///

 

「あ…う…。と、当麻は、その、わたしのこと、そういう目で見てくれてるんだ?」///

 

上目遣いの少女の言葉に、少年はビクッと身体を震わせた。

 

「お前…それ、反則」(可愛すぎるんだよお前)

 

「え?何か言っちゃいけないこと、言った?」

 

「…もう喋らないようにその口を塞ぐことにする」

 

「え!?…んむっ!?」///

 

唇を重ね、舌先で相手の唇を軽く舐めながら少しづつ差し込んでいき、湿った場所に触れる。

 

(これって美琴の…)

 

(し、し、舌!?いわゆるこれって大人のキスってやつ!?てかわたしもしないと!?)///

 

ぬるっとした感触がお互いの舌先に触れた瞬間、ふたりはほぼ同時に唇を離した。

 

「わ、悪い」

 

「わ、わたし、舌出しちゃ駄目だった!?」

 

「え!?いや、その、イヤじゃなかったか?」

 

「こ、こ、恋人のキス…でしょ?イヤじゃない、わよ?」

 

「いや、もう、でも、その…」///

 

「今度は、わたしが塞いじゃおっと♪」

 

「んんっ!?」///

 

(い、入れちゃっていいのかな?いいよね?)///

 

(なにこれ!?なにこれ!?舌、シタ、したぁぁぁ!?)///

 

(あ、歯だ。この下が…舌よね?)///

 

(舐めていい、のか?やべ、ディープキスってやつかこれ?)

 

(やだ、唾が垂れそう。…ええい吸っちゃえ)チュル

 

(やべ、吸いたい。いいか。吸っちまえ)ジュル

 

最初はぎこちなく、徐々に大胆にお互いの舌を絡ませながら、ふたりはその行為に没頭するのであった。



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19 12月24日 伴侶と家族

過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


――――――――――

 

20:05 とある高校男子学生寮の一室 

 

 

「…ね、インデックスはいつ戻ってくるの?」チュッ

 

「ん…。そろそろ戻ってくるはず…」チュッ

 

「…んぅ。じゃ、それまで、こうしてても、いいよね?」チュク

 

「…ああ」チュ

 

「…はむ」チュゥ

 

「ん…」ピチャ

 

「…」チュッ

 

「…」チュゥ

 

ピンポーン

 

「!!」ビクッ

 

「!!」ビクッ

 

「とうまー。ただいまなんだよー」ドンドン

 

「…時間切れだ」

 

「…そうね。残念だけど」

 

「冷蔵庫からケーキとジュース出してきてくれるか?」

 

「りょーかい」

 

お互い立ち上がって小さく微笑み合い、軽く唇を合わせてから少年は玄関へ、少女は台所へと向かう。

 

「おかえり、インデックス」

 

「ただいま。とうま。む。美味しそうな匂いがするんだよ!」

 

「美琴がたくさんシチューを作ってくれたからな。明日の朝は豪勢だぞ」

 

(む。自然に名前で呼んでる)「…さすがみことなんだよ!」

 

「おかえりなさい。インデックス。ちょうどケーキを食べようと思っていたところよ」

 

「いいタイミングで帰ってきたんだよ!」

 

「ふふ。手を洗ってきなさい」

 

「わかったんだよ!」

 

洗面所へと走っていく銀髪の少女を見送ってから、テーブルの上にケーキとジュースを置いた茶髪の少女は、部屋の隅に置いておいた袋を見て眉を顰める。

 

「良く考えたらインデックスって外出着は修道服しか持ってなかったっけ…」

 

「簡素な(激安)ワンピースなら持っているはずだぞ。まあ飛行機に乗るときくらいしか着ないけど、またどうして?」

 

「修道服だと袖が邪魔でダウンジャケット着れないかなー?って思って。でも大きめなもの買ってきたし大丈夫かな?」

 

「そもそもアレの上から着ていいものなのか?それって?」

 

「宗派によると思うけど、学舎の園のシスターは修道服の上から普通にマント羽織ったりしてるから大丈夫だと思う」

 

「そっか」

 

「わわっ。おっきいケーキなんだよ!」キラキラ

 

「ふふん。上条さん驕っちゃいましたよ」

 

「偉いんだよ、とうま!」

 

「あ、インデックス、ちょろっとフード取って両手を水平に伸ばしてくれる?」

 

「なぜ私が磔刑の真似事をしなくちゃいけないんだよ?」

 

「ああ、違う違う」ゴソゴソ

 

不満そうな少女に向かって、美琴は慌てて紙袋から白いダウンジャケットを取り出して広げる。

 

「これ、インデックスにと思って。合わせてみようかなってさ」

 

「あったかそうなんだよ!?えっと、フードを取って…。みこと、これでいい?」

 

ダウンジャケットを見て、銀髪の少女は言われたとおりにフードを外し、両手を伸ばした。

 

「うん。修道服の袖を押さえて持ってねー。…よっ、と。うん。着れるみたいね」

 

「もこもこで暖かいんだよ!?」

 

「よかったあ。着られて。これで外行く時も寒くないでしょ?」

 

「ありがとうなんだよ!みこと」

 

「どういたしまして。脇にポケットがあるから、そこに手を入れるといいわよ」

 

「確かに暖かいけど、危ないかも」

 

「確かにそうねー。じゃ、明日、手袋とか買いに行こうか?」

 

「いいの?」

 

「女の子だもん。もっとお洒落しないとね」

 

もそもそとフードを被りながら、銀髪の少女は言う。

 

「でも、美琴はいつも同じ格好だよね?」

 

「う、これは学校の制服で、アンタの修道服と同じようなものだから仕方ないのよ」

 

「そっか」

 

「はは。インデックス。なんかスノーマンみたいだな」

 

フードを被り終わった少女を見て、家主の少年がそう言った瞬間、何かが弾けるような音と共に、室内の空気が変わった。

 

「えーっと、インデックスさん?」ダラダラ

 

「…どうやらケーキの前にとうまの頭を齧らないといけないみたいなんだよ」ガチガチ

 

「待ってくださいインデックスさん!み、美琴?インデックスを止めてくれ」

 

「…当麻ゴメン。さすがに女の子を『スノーマン』って言っちゃうのは擁護できないわ」

 

「え?なんで?ちょっと落ち着いてくださいインデックスさん!?可愛いじゃんかスノーマン!」

 

(みことも普通にとうまのことを名前で呼んでいるんだよ)「…私は女の子なんだよ、とうま!」ガブッ

 

「ぎゃああああああああっ!!不幸だあああああっっ!!」

 

――――――――――

 

「とうま。みこと。私に言うことあるんじゃないの?」モグモグ

 

ケーキを頬張りながら銀髪の少女が言うと、同じようにケーキを食べていた少年と茶髪の少女の手が止まった。

 

「…インデックス」

 

「…」

 

大きく息を吸い込み、少年は真っ直ぐに銀髪の少女を見た。

 

「俺、美琴と婚約した」

 

「え?婚約!?」

 

「あー、なんていうか、自分の気持ちに素直になったらさ、美琴を離したくないって思って」///

 

「当麻」(なにこれ、嬉しすぎる)///

 

「驚いたんだよ。みことがとうまのこと好きだっていうのはバレバレだったんだけど、とうまがみことのことをそんなに好きだったなんて思わなかったんだよ」

 

「うぇ!?わたし、そんなにわかりやすかった!?」///

 

「暇さえあればとうまを見ていて、頬を染めていれば誰だってわかるんだよ」

 

「そ、そんなことしてた?わたし!?」///

 

「うん」

 

「…」(俺はてっきり怒って睨んでるのかと思ってたんですけど!?あれ、照れてたのか?)

 

「まったく、とうまは女の子の気持ちに疎いんだよ」

 

「疎いも何も、俺なんかに好意を寄せてくれる子なんているわけないだろうが!」

 

「ここに居るわよ馬鹿!!」

 

「美琴…」ジーン

 

「当麻…」

 

「いきなりふたりの世界に入るのはやめて欲しいんだよ」ハァ

 

「わ、悪い」///

 

「ご、ごめん」///

 

「…とうま」

 

銀髪の少女は皿の上にフォークを置き、真っ直ぐに少年を見る。

 

「どうした?インデックス」

 

「とうまは、伴侶としてみことを選んだんだね?」

 

「…そうだ」

 

「…」(やっぱり、インデックスも当麻のこと…)

 

「みことも、伴侶としてとうまを選んだんだね?」

 

「…うん」

 

「おめでとう。とうま、みこと」ニコ

 

「あ、ああ」

 

「ありがとう、インデックス」

 

銀髪の少女に返事をした後、少年はいつの間にか伏せていた顔を上げて銀髪の少女を見る。どことなく寂しそうな表情。

 

「あ、あのな、インデックス!俺と美琴は恋人になったけど、お前はこのままここに居ていいんだぞ!上手くいえないけど、その、お前は俺にとって家族みたいなもんで…」

 

「みことととうまが姦淫しないよう、シスターである私がしっかり見張ってあげるんだよ!」

 

「ちょっと待て!なにさらっと凄いこと言ってやがる」

 

「か、か、か、かん、かん、かん………」アワワワワ///

 

「美琴、落ち着け」ポン

 

「ふにゃー」///

 

「…その様子なら大丈夫そうなんだよ。…それで、ね、とうま。…本当にいいの?」

 

「何がだ?」

 

「私、ここにいても、いいの?」

 

真っ直ぐに少年を見つめて、銀髪の少女は言った。

 

(インデックス、アンタ…)

 

「お前なにを言ってるんだ?」

 

「家族でも恋人でもない私が、ここにいてもいいの?」

 

「お前…。何でそんなこと言うんだよ」

 

「だって、私、他人だし」ショボン

 

「なっ、お前、いまさら何言ってやがる」

 

少年は銀髪の少女の頭に手を置くと、そのままぐりぐりと撫でる。

 

「痛いんだよ、とうま」

 

「インデックス。俺は『御坂美琴と彼女の周りの世界を守る』って約束してるんだよ。そして、その世界にはもちろんお前も入っている」

 

インデックス「…とうま」

 

「美琴。俺はインデックスのことを家族と同じように考えてる。だから、こいつがこのままここに居ることを許してやってほしい」

 

「許すも何も、アンタが家族だって言うんならわたしがどうこういうことじゃないでしょ」(わたしと私の周りの世界を守るって…)///

 

「スマン」

 

「…みこと」

 

「それに、と、と、と、友達を追い出すような真似、わたしにはできないわよ」///

 

「ともだち?」

 

「わ、わたしは、インデックスとは友達だって思ってるけど…駄目、かな?」

 

「ふ、ふえええええんっっ!!」

 

「だああああっ!泣くなインデックス!」

 

「わっ、わっ、何で泣くの!?そんなに嫌だった!?」

 

「う、嬉しいんだよ。とうまが居ても良いって言ってくれて、みことがともだちって言ってくれて嬉しいんだよ!ふええええんっ!!」

 

「インデックス…」ナデナデ

 

「…」

 

茶髪の少女は銀髪の少女の後ろに回り、背中から抱きしめた。

 

「みこと?」

 

「…ごめんね」ボソ

 

「…いいんだよ」ボソ

 

「ありがとう」ボソ

 

少年に聞こえないように言葉を交わすと、少女達は小さく微笑みあった。

 

「む。なんかハブられてる気がする」ムスッ

 

「はいそこ、女の子に嫉妬しない」

 

「鈍感の癖に嫉妬深いんだよ。とうま」

 

「「ねーっ」」

 

「…」(なんか突っ込んだらマズイ気がするからスルーしておこう)

 

「はー。安心したら甘いものが食べたくなったんだよ。それも、食べていい?」

 

そう言うと銀髪の少女は半分以上残っているホールケーキを指す。

 

「おう、いいぞ」

 

「いっただきまーす」

 

「全く衰えないその食欲。アンタらしいというかなんというか、凄いわね」

 

「もぐもぐ。美味しいんだよ、むぐ」

 

「まあ、俺達も食べたからいいだろ」

 

「まあ、そうね。インデックス、明日は何時に迎えに来ればいい?」

 

「朝ご飯にシチューを食べるから9時ごろで良いんだよ」

 

「いや待て、学校あるだろうが」

 

「え?常盤台は昨日から冬休みだけど?当麻、授業あるの?」

 

「なんですと!?俺の高校は火曜日まで登校日だぞ」

 

「そうなんだ。ご愁傷様。わたしは休みだからインデックスとお買い物」

 

「くっ、なんか悔しいな」

 

「まーまー。明日もご飯作ってあげるから、がんばって勉強してきなさい」

 

「それは嬉しいな。サンキュ。美琴」

 

「みことのご飯は美味しいから大歓迎なんだよ!」

 

「ふふ。ありがと。さて、じゃあそろそろ帰らないと」

 

「送っていく。インデックス、留守番頼むぞ」

 

「任せてなんだよ!」

 

「じゃあ、インデックス、また明日ね」

 

「うん。またね。みこと」



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20 12月24日 寮内放送

過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


――――――――――

 

20:45 とある公園 自動販売機前

 

自動販売機の陰で抱きしめあい、やや長めに恋人のキスをした後、少女が名残惜しそうに背を向ける。

 

そんな少女の右手を掴むと、少年は言った。

 

「やっぱり、寮まで送る。ってか送りたい」

 

「うん。ありがと」ギュッ

 

「どういたしまして」ギュッ

 

指を絡ませて手を繋ぎながら、少女の寮へ向かって歩き出す。

 

「その、いっぱい、しちゃったね」///

 

「そ、そうだな。でも、その言い方はちょっと問題がありますから注意してください美琴センセー」///

 

「あ、う、そ、そうね。ゴメン」///

 

「いや、謝らなくてもいいんだけど。気をつけてくれればな」

 

「うん。その、さ、当麻は、その、したい?キスじゃなくって、さっき言ってた最終段階ってやつ」///

 

「気をつけろって言った矢先にそういうこと聞くのかよお前は!?」///

 

「ゴ、ゴメン。でも、その、したいなら、その、女の子には準備があるから、その、ね?」///

 

「したくないって言えば嘘になるけど、美琴はまだ中学生だろ?さすがにそういうのはまだできねえかなって」

 

「あー、その、ね。一応さ、学校から処方箋出てる、から…」///

 

「へ?処方箋って、薬?お前、どこか身体の具合悪いのかよ!?」

 

「あー、そうじゃなくってさ、その、…ピルって言えば、わかる?」///

 

「ピ、ピ、ピルゥ!?な、何考えてるんだ常盤台は!?」///

 

「えーっと、家庭の事情を勘案してってやつよ。わたしの場合は許婚がいるからってことで、さ」

 

「え?俺達って常盤台公認!?」

 

「うん。ママが連絡してくれたから」

 

「そっか。俺達、親公認だしな」

 

「うん。その、さ。家同士の取り決めで許婚になる子とかいるから。処方箋もそういう子を守るためのものだと思うんだけど」

 

「あー。そういうのって本当にあるんだな。お嬢様も大変だよな。それ考えるとさ、俺達って恵まれてるな」

 

「…うん」

 

「好き合って許婚になれて、上条さんは幸せ者ですよ」

 

「わ、わたしも、幸せ者だもん」

 

そう言って腕にしがみつく少女の頬を、少年は優しく撫でた。

 

「ふわっ!?」///

 

「あーもー、可愛いな美琴は」ナデナデ

 

「あ、ん」///

 

「…その、女の子の準備ってやつはさ、美琴に任せる。俺も、男の準備はしておくから」///

 

「な、な、なに言っちゃってるのアンタ!?」///

 

「馬鹿お前、いつまでも我慢できるわけねえだろうが!」///

 

そう言うと少年は少女を抱きしめる。

 

「!?」///

 

「…美琴が好きって気持ちが俺の中でどんどん大きくなってんだよ。美琴のすべてを知りたいし、俺のものにしたいって」

 

「…わたしだって当麻のこと知りたいし、わたしのものにしたいわよ」

 

「お互い素直に言いたいことが言えると嬉しいな」

 

「そうね」

 

「じゃあさ、キスしていいか?」

 

「そんなの、聞かなくてもわかるでしょ?」

 

ふたりは小さく笑い合って、唇を重ねた。お互いを存分に味わってから唇を離すと再び歩き始める。

 

「えーっと、素直に言うのが嬉しいって言うから正直に言うけど、その、わたしのアレって月の中頃くらいだから、女の子の準備終わるのって早くても来月の終わりくらいだから…」///

 

「そ、そうか」///

 

「うん」///

 

「いやいやいや!なんですること前提になってるんでしょうか!?美琴センセー」///

 

「だって、我慢できないんでしょ?」

 

「いやいやいや!美琴センセーが結婚できる歳になるまでは上条さんも我慢しますよ?」

 

「その、…わたしがしたいって言ったら?」///

 

「………我慢できないかも」///

 

「当麻のえっち」///

 

「自分から誘っておいてそれはないんじゃないでしょうか?美琴センセー!?」

 

「さ、誘ってなんて…」///

 

「ほう。『わたしがしたいって言ったら?』なんて言ったのはどちらさまでしたっけ?」

 

「うぐっ。…と、当麻としかしたくないんだからね」///

 

「俺だって美琴としかしたくないからな」///

 

「じゃあ、いいや」

 

「だな」

 

「えへへ」

 

「ははは」

 

笑い合いながら二人は寮の前で立ち止まる。

 

「…着いちゃった」

 

「ああ。門限ぎりぎりってところか?」

 

「うん。あとちょっと」

 

「そっか。じゃ、部屋に戻ったらメールするから」

 

少年を見つめてから、少女はそっと瞼を閉じる。

 

「…おやすみのキス、して?」

 

「いいのか?寮の前だぞ?」

 

「許婚だから隠す必要ない…んむっ!?」

 

話し終わる前に少女の唇が少年の唇で塞がれ、口内に舌が差し込まれた。

 

「ん…ふっ」(あ、吸われてる、…わたしも)チュク

 

「…んぅ」(応えてくれた。美琴…)チュク

 

恋人のキスを充分に堪能してから唇を離す。ふたりの間に透明な糸が伸び、切れた。

 

「おやすみ。当麻」

 

「おやすみ。美琴」

 

「おかえり。御坂」

 

「ただいま戻りました。寮監…様!?」

 

「ずいぶん情熱的な接吻だったな?御坂」

 

「ふ……」(み、見られた!?見られちゃった!?)///

 

「ふ?」

 

「!!」(マズイ!)

 

「ふにゃああああああああああああっっ!!」ビリビリビリ

 

「不幸だああああああああああああっっ!!」

 

――――――――――

 

21:05 常盤台中学学生寮 寮監室

 

 

「砂糖は?」

 

「あ、結構です」

 

「どうぞ」

 

「いただきます」

 

一口飲んでソーサーにティーカップを置き、視線を自分の前に座っている女性から、自分の肩に頭をもたれさせている茶髪の少女に移して、上条当麻は頭を掻いた。

 

(美琴が気を失っちまったから部屋に連れて行けばいいと思ったんだが、なんでここにいるんだ?しかもお茶なんか出されてるし)

 

「君が、御坂の許婚か?」

 

「はい」

 

「まあそうでないと困るのだが。だが、許婚とはいえ、寮の前での接吻はできれば自重してもらいたかった」

 

「う、すみません」(そういえばこの人に見られたんだっけ)///

 

「御坂もわかっているはずなのだがな。…まったく、恋は盲目とは良く言ったものだ」

 

「…」

 

「特に今日はクリスマスイブだからな、寮生達もそういうものには敏感なのだ。困ったことに」

 

「…」

 

「私が門前に出たことで多少は防げたと思うが、それでも効果はないだろうな」

 

「…それってどういう意味?」

 

上条が尋ねると、寮監は立ち上がって扉の前に置かれている衝立の向こう側へと歩いて行く。

 

「君はそこから動かないように。あと、御坂が気付いたら黙らせておいてくれ」

 

「え?」

 

「まあ、すぐにわかる」

 

扉を開ける音がすると同時に、廊下の向こう側から複数の少女の声が聞こえてきた。

 

「寮監様、御坂様は!?」

 

「逢引なさっていたとか」

 

「門前でせ、接吻をしていたとのことですが…」

 

「御坂様が殿方と!?」

 

「御坂様が!?」

 

「寮監様!本当ですか!?」

 

「お前達、静かにしろ。御坂には今厳重注意をしているところだ。今回の件については御坂家にも厳重に注意をする」

 

「御坂様の家にも注意をするということは…婚約者ですか?」

 

「御坂様に婚約者が!?」

 

ひときわ大きい声が聞こえてきたところで上条にもたれていた少女が小さく身動ぎした。

 

「…ん」

 

「…美琴、目、覚めたか?」ヒソヒソ

 

「当麻?…ここ、どこ?」パチパチ

 

少年は人差し指を自分の唇に当てて静かにするよう合図をしてから言う。

 

「ここは、お前の寮の寮監さんの部屋で、寮監さんが寮の人に説明をしているところだ。静かにしてろ」ヒソヒソ

 

「説明?」ヒソヒソ

 

「おやすみのキス、何人かに見られたかもしれない」ヒソヒソ

 

「うぇ…むぐっ!!」

 

茶髪の少女が叫びそうになるのを察知して、少年は慌てて右手で少女の口を塞ぐ。

 

「静かにしてろって言っただろ」ヒソヒソ

 

「~っ!!」ジタバタ

 

「美琴。今から手を離すけど、声出すなよ」ヒソヒソ

 

暴れる少女の耳元でそう囁くと、少年は少女の顔を覗き込む。目が合うと、少女は小さく頷いた。

 

「…苦しかった」ヒソヒソ

 

「スマン」ヒソヒソ

 

「謝るだけ?」ヒソヒソ

 

「…ちょっとだけだぞ?」ヒソヒソ チュッ

 

「…ん」チュッ

 

「お前たち、正直に言え。誰が何を見た」

 

「寮監様、たまたまですが私、二階の廊下の窓から御坂様が門の前で殿方と接吻をしているのを見てしまいました」

 

「!!」

 

「そうか。他にはいないのだな?」

 

「…」

 

「全く、御坂にも困ったものだ。まあ、年に一度のことだし、お前たちも大目にみてやってくれ」

 

「それって、あの殿方は御坂様の婚約者、ということでしょうか?」

 

「否定はしない。詳しくは御坂に聞け」

 

「御坂様に婚約者が!」

 

「御坂様に彼氏が!」

 

「御坂様に恋人が!」

 

「さあ、解散だ。解散」

 

「「「「「「失礼します」」」」」」

 

寮生達の挨拶を背中で受け、寮監は寮監室へ入ると扉を閉めた。

 

「まあ、あんな感じだ。明日には寮内に広がっているだろう…」

 

「…ん」チュゥ

 

「…んぅ」チュッ

 

「お前達…」

 

「ふにゃっ!!」ビクッ

 

「あ、その、これは…」ビクッ

 

「御坂が目覚めて大声を上げそうになったから唇で塞いだとかそういうことか?」

 

「は、はい、すみません!!」

 

「あ、あ、あ…」(見られた、また寮監に見られちゃった)ピリ…パチッ

 

「うわわわわっ、美琴、落ち着け!」

 

少年が少女の頭に右手を置く。それと同時に少女から漏れ出していた放電が消えた。

 

「!」(御坂の力を止めた、だと?)

 

「ど、ど、ど、どうしよう、どうしよう当麻!?また寮監に見られちゃったよ」アワアワ

 

「お前は悪くない、悪いのは俺だ。だから落ち着け、な?」ナデナデ

 

「当麻ぁ…」グスッ

 

「よしよし」(やべ、可愛い)ナデナデ

 

「君は無能力者と御坂から聞いているが、今、御坂の力を消しているのは君の力ではないのか?」

 

「あ、いや、これは生まれつきというかなんというか、俺の右手、能力消しちゃうんですよ」

 

「ほう。それは興味深いな。だが超能力が消せるなら無能力者とはいえないと思うのだが」

 

「でも、身体検査にひっかからないんですよね」

 

「ふむ。それは第七位と同じ原石と呼ばれる力なのではないか?」

 

「よくわからないです。ははは」

 

「…」(統括理事会は当麻の力を”幻想殺し”として、管理しているけれど、無能力者扱いなのよね…)

 

「第三位より強い無能力者か…。まあそれもいいかもしれないな」

 

「いやいやいや、そんなことありませんから!」

 

「御坂が君に身を委ねている時点で、君の方が御坂より強いと思うが?」

 

「え?」///

 

優しい眼差しで茶髪の少女を見ると、寮監はほうっと溜息をつく。

 

「そのような御坂も、新鮮だな。実に初々しい」

 

「は、はは…」(また、寮監が壊れた)

 

「ああ君、そういえばまだ名前を聞いていなかったな。聞かせてもらえるか?」

 

「あ、はい。上条当麻と申します」

 

「ふむ。すると御坂はゆくゆくは上条美琴になるのだな」

 

「え?あ、はい…」///

 

「改めて言われると何か恥ずかしいな。いや、嬉しいんだけどさ」///

 

「えへへ」///

 

「上条君、御坂。今日のことは不問とするが、今後このようなことが無いよう寮の近辺及び内部では節度を持って行動してもらいたい」

 

「「はい」」

 

「先ほどは夢中で聞いていなかったと思うが、御坂に婚約者がいるということが寮全体に広がるのは時間の問題だと思われる」

 

「…まあ、仕方ないです。んー。そうすると明日には学校、いや、学舎の園ときて、第七学区、学園都市全体へと伝播するでしょうね。こういうことってあっという間に広がるから」

 

「そういうもの!?」

 

「ま、ね。たぶんアンタの学校でも話題になるわよ。『超電磁砲に婚約者!』ってね」

 

「女というものはそういう話に弱いからな」

 

「まあ、アンタの名前までは出ないわよ」

 

「…俺は別に名前が出ても構わないけどな」

 

「え?」

 

「言ったろ?独占欲強いって。別の奴とお前が噂になるくらいなら、俺の名前出してもらった方がいい」

 

「わたしも、当麻以外の人と噂になるのは嫌」

 

少年と少女は見つめあう。

 

「…ふむ。じゃあ御坂、いっそ寮内放送で発表するか?」

 

「え?」

 

「お前自身が発表すれば変な噂をたてられずに済むぞ」ニヤリ

 

茶髪の少女は少年を見て、それから静かに口を開いた。

 

「そうします」

 

――――――――――

 

21:30 常盤台中学学生寮208号室

 

(門限も過ぎていますのに、お姉様は一体どこに…。はっ、まさかまだ上条さんと一緒にいるのでは)ワナワナ

 

~~~~~~~~~~

 

美琴「当麻…。わたし今日帰りたくないの」

 

上条「美琴…」

 

美琴「…ねえ?当麻。ホワイトクリスマスにしてくれる?」

 

上条「俺、雪は降らせられないぞ」

 

美琴「もう、わかってるくせに」

 

上条「なにがだよ」

 

美琴「ナニよ」

 

上条「俺色に染め上げてやるぜ~」ガバッ

 

美琴「ああーん。優しくしてーん」

 

~~~~~~~~~~

 

「お姉様がそんな破廉恥なことするわけないですのおおおおおおっっ!!」ギャアアアアア

 

ピンポンパンポーン

 

ツインテールの少女が妄想に悶えていると、室内のスピーカーから軽快なチャイムが流れてきた。寮内放送の合図である。

 

(寮内放送?こんな時間に?)

 

『夜分遅くに失礼する。これより、寮生二年、御坂美琴から全寮生に向けて報告がある』

 

(お姉様!?)

 

『二年の御坂美琴です。夜分遅くに申し訳ありません。私事で恐縮ですが、わたし、御坂美琴は先日とある高校一年の上条当麻氏と婚約いたしましたことをご報告申し上げます。なお、この件に関しては常盤台中学に報告済です。以上、ご静聴ありがとうございました』

 

ピンポンパンポーン

 

「……………………は?」

 

ぽかんと口を開け、主のいないベッドを見つめる。

 

(なんですの?お姉様と上条さんが婚約…??)

 

まるで何かに殴られたかのような眩暈にも似た感覚が少女を襲った。

 

―――婚約。それすなわち男女が将来における結婚の約束をすること。

 

「婚約ぅぅぅぅっっ!?」

 

そんな少女の叫びは、ほぼ同時に寮内から湧き上がった嬌声によって掻き消されるのであった。



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21 12月25日 モーニング

過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


――――――――――

07:00 常盤台中学学生寮208号室

 

「…ん」

 

布団の中で、少女は小さく身体を震わせ、半覚醒状態のぼやけた頭で目を擦る。

 

自らの指と共に硬いものが額のあたりにあたるのを感じ、掌を持ち上げて薬指を見て、とても幸せそうに微笑んだ。

 

(そういえば、学校だって言ってたっけ…)

 

ヘッドボードに手を伸ばし、携帯電話を取る。それから軽く咳払いをして、声の調子を確かめる。

 

「…ん、あーあー、よし、おっけー」

 

小さく呟いてから携帯電話を操作して受話器に耳を当てる。数コール後、相手が出た。

 

『…ふわい。もひもひ』

 

「お・は・よ。当麻」

 

言った瞬間、隣のベッドからドガン!と何かが思い切り叩き付けられるような音が聞こえてきたので、受話器を押さえて注意する。

 

「黒子。静かにしなさい」

 

「…はいですの」

 

普段は語尾を付けない言葉にあえて語尾を付けて返事をしたのはツインテールの少女の精一杯の抵抗だったのだが、恋する少女は気づかない。そしてツインテールの少女の方から今度はピリピリと布を裂くような音が聞こえてきたが、通話の邪魔になる大きさではないので気にしなかった。

 

『…おはよう。どうした?こんな時間に?』

 

「今日学校でしょ?寝坊しないように電話したんだけど…」

 

『…これはもしかして彼女のモーニングコール!?上条さんは幸せ者です』

 

「えへ。ほんとはね、朝起きて指輪を見たらね、当麻の声が聞きたくなっちゃったの」///

 

ピリピリと何かを裂くような音がシクシクというすすり泣きの声に変わったが、相変わらず恋する少女は気が付かない。

 

『…すげえ嬉しい』

 

「えっ?」

 

『いや、声を聞きたかったなんて言われると、美琴に愛されてるって実感できてさ。それに、俺も声が聞けて嬉しい』

 

「当麻、好き!大好き!!」

 

「ギュオエエエエエエ!!聞こえませんの、聞こえませんの、黒子には何も聞こえませんの、聞こえませんのおおおお…」ブツブツ

 

『俺も好きだ。美琴』(なにか悲鳴みたいなのが聞こえたけど、白井か?)

 

「えへ。嬉しい」

 

電話をしている相手が聞こえるほどの大きさのなのに、恋する少女はルームメイトの叫びに気づくことなく幸福感に浸っていた。

 

「まさかまさかまさか…黒子は、黒子は、お姉様のお惚気を朝から毎日聞かされることになりますの?そんなの、黒子は、黒子は、耐えられませんですのおおおおおおおおお!!」

 

(…スマン、白井)『モーニングコール、サンキュな。美琴。おかげで今日一日頑張れそうですよ』

 

「えへへ。頑張ってね」

 

「はっ、わたくしの名前に置き換えれば、お姉様の甘いささやきがすべて黒子のものに…」(『黒子、好き!大好き!!』)「ああ~ん。お姉様あああああんっ!!」ハアハア

 

(…心配するだけ無駄だった)『ああ、じゃあまたな』

 

「うん。またね」

 

「お姉様、ああお姉様、お姉様。愛のささやき、黒子幸せ」グフフフフ

 

「黒子。静かにしなさい」(黒子、朝からテンション高いわね…。わたしも人のこと言えないけど)///

 

「…はいですの」ショボン

 

――――――――――

08:05 とある高校 一年七組

 

モーニングコールのおかげでいつもよりも早い時間に学校へと着いたツンツン頭の少年が教室に入ると同時に、教室の扉が閉められてクラスメイト達に周りを取り囲まれた。

 

長い髪をきっちりとオールバックにしてヘアピンで留めた、おでこDX状態の少女が少年の前に出て仁王立ちする。

 

「おはよう上条。さて、貴様に聞きたいことがある」

 

「いきなりクラスメイトに取り囲まれるってどういうこと?上条さん、自分の席にも座れないのですか!?」

 

「貴様に拒否権は無い」

 

「…手短にお願いします」

 

少女は腕を組むと、大きく息を吸い込んでから口を開いた。

 

「では単刀直入に聞こう。お前が常盤台中学のエース、超電磁砲こと御坂美琴と婚約したという噂が流れているのだが、事実かしら?」

 

「もうここまで広がってるのそれ!?」

 

「どういうこと?」

 

「いや、それって、昨日の夜、美琴が常盤台中学の寮で発表したことなんですけど、広がるの速いなあと思って」

 

「なぜ貴様がそれを知っている?というか、今、超電磁砲を名前で呼んだかしら?」

 

「なぜって美琴が発表した時、俺も常盤台の寮に居たからだけど。あと、自分の彼女を名前で呼ぶのは別に普通だろ?」

 

「……………え?」

 

「…おい、今、上条の奴、何て言った?」

 

「超電磁砲のことを彼女って言ったよな?」

 

「いやそれよりも常盤台の寮に居たってどういうことよ?」

 

「上条君、中学生に手を出しちゃったの?」

 

「くっ、年上のお姉さんタイプが好きだって言っていたはずなのに、なんで中学生!?」

 

「常盤台のお嬢様、しかも超能力者…。勝てない、私みたいな平凡な同級生なんかとは格が違うわ」

 

「そもそもどうすれば常盤台のお嬢様と知り合いになれるんだ!?」

 

少年の言葉に、教室内のクラスメイト達がざわめき始める。

 

「…ええと、つまり上条は御坂美琴と付き合っていると?」

 

「まあ、そういうこと」ポリポリ

 

少し頬を染めながら左手で頬を掻く少年。おでこDXの少女はその指にあるものを見逃さなかった。

 

「薬指に指輪…」

 

「あー、まあ。一応、婚約指輪です、はい」///

 

「「「「「「「「なんだってえええええええええっっ!!」」」」」」」」

 

「いや、俺が婚約したってこと確かめようとしてたんだろ?お前ら。なんで驚くんだよ」

 

「………」

 

「あのー、吹寄さん?無言で睨むのは勘弁していただきたいのですけども」

 

「死刑」

 

「なんでっ!?」

 

「風紀を乱した」

 

少女の言葉に、少年を取り囲んでいたクラスメイト達が呼応して包囲の輪を狭めていく。

 

「いや、ちょっと待てテメエら。ただの妬みだろそれ!?」

 

その言葉に、教室内の空気が変わる。

 

「雉も鳴かねば撃たれまいに。貴様はいつも一言多い」ドガッ

 

「え?ちょっと待って吹寄さん!?ふげろぼぉ!?」

 

おでこDX少女の頭突きを喰らって後ろに吹き飛んだ少年を、クラスメイトのひとりが捕まえる。

 

「上条ォく~ン。わかってるよねェ」ニタア

 

「ちょ!?なんで超能力者第一位みたいな喋り方になってるのオマエ!?」

 

「第三位だけじゃなく第一位まで知り合いかよ、ある意味すげえな上条」

 

「まーまー。それよりも今は…」ニタア

 

「お・し・お・き・か・く・て・い・ね♪」

 

女子達は超能力者第四位のようなことを口走っていたのだが、第四位の喋り方を良く知らない少年は気づかなかった。

 

「なんでそんな息ぴったりなんですかアナタたち!?そして上条さん絶体絶命!?」

 

そのとき後ろの扉が開いたので、ツンツン頭の少年は扉の向こう側に助けを求める。

 

「お、おい、助けてくれ!」

 

「…カミやん。それはできない相談やなあ」

 

「美少女中学生と婚約した裏切り者には制裁だにゃー」

 

返ってきた言葉は少年にとって非情なものだった。それでも、一縷の望みを託して少年はおでこDXな少女に視線を向ける。少女は小さく微笑んで言った。

 

「安心しろ上条。骨は拾ってやる」

 

「ぎゃああああああ!!不幸だあああああああああああっっ!!」



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22 12月25日 阿吽

過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


――――――――――

 

08:08 常盤台中学学生寮208号室

 

朝食を終えて部屋に戻るのとほぼ同時に、ポケットの中の携帯電話が振動した。

 

(…こんな時間に誰?…って、当麻!?)「…も、もしもし?」ドキドキ

 

『御坂美琴さんですか?』

 

「…………どちらさまですか?」

 

恋人からと思っていたのに別人の声が聞こえてきたので、思わず怒鳴りそうになったが、ふと恋人の不幸体質を思い起こし、もしかしたら携帯電話を拾った誰かが学園都市では有名人である自分の名前を電話帳で見つけて電話をかけてきたのではないかと思い至り、小さく尋ねる。

 

『常盤台の超電磁砲の御坂美琴さんですか?…この携帯電話の持ち主の婚約者の?』クックッ

 

「アンタ!?アイツに何かしてないでしょうね!?」

 

『アイツ?』

 

「その携帯の持ち主よ!わたし、御坂美琴の婚約者の上条当麻!!」

 

「ヒギィッ!?」ビクッ

 

『…………みんな聞こえたかにゃー?【御坂美琴の婚約者の上条当麻】って超電磁砲が言ったにゃー』

 

『ばっちり聞こえたぜー!』

 

『うう。本当だったのね』

 

『冗談じゃなかったのかよ!』

 

受話器からは大勢の悲鳴とも怒号ともとれる声が聞こえてくる。

 

「……………は?」

 

『いや、まだだ、まだ信じないぞ!』

 

『上条に告白させろ!』

 

『それいいわね。ツンデレお嬢様だから否定するかもしれないし』

 

『熱いの頼むぜ!上条ォく~ン』

 

(えっ~と、これってもしかして、教室で吊るし上げ喰らってるってこと?)

 

なんとなく状況を理解すると、少女はほっと溜息をついた。

 

『………あ~。美琴?』

 

「ずいぶん楽しいクラスみたいね?」

 

『まあな。わかってると思うけどさ、これ、スピーカーホンになってて、だだ漏れ状態なんだけど…』

 

「別に聞かれても問題ないでしょ?婚約してるのは親公認だし」

 

『『『『『『『『『『なんだって!?』』』』』』』』』』

 

『そうなんだけど。こいつら、まだ冗談だって思ってるみたいでな。上条さんとしては完全に払拭させたいんですけど、いいか?』

 

「ふふ。じゃあ、アンタにもわたしにも手を出そうなんて思えないようにしちゃおっか」

 

そう言うと小さく微笑み、少女は大きく息を吸いこんでから叫ぶように言った。

 

「当麻。大好き!!愛してる!!」

 

「ギュオエエエエエエッッ!?」バタッ

 

『俺も大好きだ美琴。愛してる!!』

 

『『『『『『『『『『ぎゃあああああああああっっ!?』』』』』』』』』』

 

「えへへ。ねえ?夕御飯、何が食べたい?」

 

『え?リクエスト募集中?』

 

「やっぱ、だ、旦那様になる人の好みとか知りたいかなって」///

 

「……何も聞こえませんの何も聞こえませんの何も聞こえませんの何も聞こえませんの…」ブツブツ

 

『惚気を超越している!?』

 

『通い妻状態かよ!?』

 

『上条君が臆面も無く惚気るなんて!?』

 

『上条さん感激です。美琴は百二十点な嫁ですよ。…そうだなあ、温かい鍋なんか食べたいな』

 

「りょーかい。当麻への愛情たっぷり入れて作っちゃうんだから」

 

『それは楽しみだ~』

 

「うん。じゃ、勉強がんばってね」

 

『サンキュ。美琴』

 

――――――――――

 

08:10 とある高校 一年七組

 

「ま、まさかカミやんが惚気を隠さないなんて…」

 

「まさかの嫁発言」

 

「あそこまで臆面も無く惚気られると何も言えなくなるわね…」

 

「なんだあの阿吽の呼吸は…」

 

「負けた。すべてにおいて負けた…」

 

「あ、あれがバカップルってやつなのかしら…」

 

「おそらく。そう」

 

ある者は項垂れ、ある者は机に突っ伏して先ほどの会話を頭から振り払おうとしていた。

 

「おはようございます。あれ?なんか皆さん元気ないですけどどうしちゃったのですか?それから、上条ちゃんはちゃんと椅子に座ってください」

 

「そうしたいのはやまやまなんですが、ちょっと動けなくてですね」

 

「ま、ま、まさか、私のクラスでいじめ!?」

 

「違う」

 

「じゃあなんでそんなことになってるんですか~」

 

「御坂美琴。惚気話」

 

「はい?どういうことですか?」

 

黒髪の少女は無言で携帯電話を取り出し、ボタンを押した。

 

ピッ

 

『…だって思ってるみたいでな。上条さんとしては完全に払拭させたいんですけど、いいか?』

 

『ふふ。じゃあ、アンタにもわたしにも手を出そうなんて思えないようにしちゃおっか。………当麻。大好き!!愛してる!!』

 

『俺も大好きだ美琴。愛してる!!』

 

『『『『『『『『『『ぎゃああああああああああああっっ!?』』』』』』』』』』

 

ピッ

 

「「「「「「「「「ぎゃああああああああああああっっ!?追い討ちっ!?」」」」」」」」」

 

「これを聞かされた」

 

「なに録音しちゃってるんですか!?姫神さん!?」

 

「上条ちゃんはラブラブなのですね~」

 

「ま、まあその、はい」///

 

「あっさり肯定!?」

 

見た目小学生な教師が驚きで固まったのを尻目に、ツンツン頭の少年は黒髪の少女に視線を向ける。

 

「…姫神。その録音データくれないか?」

 

「…どうして?」

 

「彼女の愛の言葉を保存しておきたいから、かな」///

 

「か、上条が愛…だと!?」

 

「もう惚気はいいかげんにして…」

 

「………」ピッ

 

「待て、消さないでくれ!姫神!!」

 

「うん?送ろうかと思ったんだけど。良く考えたら。上条君のアドレス知らなかった」

 

「謹んで送らせていただきます」ピッ

 

「確かに。じゃあ送るね」ピッ

 

「サンキューな。姫神。…これは後で美琴の声だけ抜き出して着信音に…」ニヤニヤ

 

「か、上条が自分の世界に入り込んでいる…だと!?」

 

「あんな笑顔見たこと無いわ…」

 

「上条をここまで骨抜きにするとは…恐るべし超電磁砲」

 

メールの着信を確認して満面の笑みを浮かべるツンツン頭の少年を見て、見た目小学生な教師は大きな溜息をついて言った。

 

「はぁ…。幸せ真っ只中ですけど上条ちゃんは放課後補習ですからね。あと、とっとと椅子に座りやがれ」

 

「なっ!?不幸だ…」



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23 12月25日 家族

過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


――――――――――

 

10:30 セブンスミスト

 

白いダウンジャケットを羽織った白いフードを被った少女と、黒いロングコートを羽織った常盤台中学の制服の少女がショッピングモールの店先を冷やかしながら並んで歩いていた。

 

「みこと、みこと」

 

「なに?インデックス」

 

「あのパジャマ、可愛いと思うんだけど?」

 

「んー、わたしは奥にあるやつの方がいいかなー」

 

言いながら茶髪の少女は店内へと入り、銀髪の少女が指差したパジャマの後ろにあった黄緑色のパジャマを手にする。

 

「…その柄はちょっとお子様すぎるかも」

 

「な、ゲコ太を馬鹿にするな!」

 

「別に馬鹿にしていないんだよ。ただ、中学生が着るにはお子様かもしれないって思っただけなんだよ」

 

「………いいじゃない。好きなんだから」

 

不満げに頬を膨らませるが、パジャマは手に持ったまま離さない。

 

「ふーん。みこと、それ、お泊まり用に買うの?」

 

「ぶほぉっ!?いきなり何言ってるのよアンタ!?」///

 

「だって、美琴の部屋にはパジャマあるでしょ?」

 

「そりゃあるけども、なによお泊まりって!」

 

「あれ?みことはしたことないのかな?友達同士のお泊まり」

 

きょとんとした表情で銀髪の少女は茶髪の少女を見る。

 

「………………え?」

 

「……………もしかして、とうまと一緒に寝るとか考えてたの?みこと」

 

「そ、そ、そんなことないからっ!!」///

 

「真っ赤になってバレバレなんだよ」ハァ

 

「…そりゃ、ちょっとは考えたけど」///

 

「む。これは注意しないといけないんだよ。みことの歳で異性との同衾は早いんだよ」

 

「ど、同衾って。だ、だいたい当麻の布団に二人は入れないでしょ?」

 

「とうまのお布団は普通のお布団だから、入ろうと思えば入れるんだよ」

 

「何で知ってるのよ!?」

 

「…寝ぼけてとうまのお布団に潜り込んだことがあったりして」エヘ

 

「なに羨ましいことしちゃってるのよアンタ」

 

「でも、次の日からとうまはお風呂場で寝るようになっちゃったんだよ!」

 

「うん、それ、間違いなくアンタが布団に潜り込んだのが原因だから」

 

はぁ。と大きな溜息をついて茶髪の少女は手にしたパジャマをぎゅっと握る。

 

「ま、アイツらしいけどね。でもさすがに秋を過ぎてもお風呂で寝ているって聞いたときはびっくりしたわよ」

 

「どうして?」

 

「普通あんなところじゃ眠らないでしょ」

 

「うん」

 

「寝るなら台所の方がまだましよ。まあどっちも水場だから寒いといえば寒いけど、浴槽よりは板の間の方がいいに決まってるし」

 

「みことに言われてから、とうまは台所で寝るようになったんだよ」

 

「アイツ頑固だから苦労したわよ。入口にカーテン付けて、カーテンに鈴ぶら下げるってことでやっと了解したんだから」

 

「むう。そんなに潜り込まれたくないのかな」

 

頬を膨らませる銀髪の少女の額を、茶髪の少女は人差し指で突いた。

 

「痛いんだよ、みこと」

 

「あのねえ、アンタが女の子だから当麻は別の場所で寝るようにしてるのよ」

 

「なんで?」

 

「エ、エ、エ、エッチな事故が起きないようにするためよ!アンタが潜り込んできて同じ部屋で寝るのはマズイって思ったんでしょ」

 

「裸を見られたり着替えを見られたりする方がえっちな事故だと思うんだけど?」

 

「な、なによアンタ!?アイツに見られちゃったりしてるの!?」

 

「私だけじゃないかも」

 

「あの野郎っ!」

 

「でもね、私や女の子とえっちな事故が起きた後、とうまは謝ってから必ず『不幸だ』って言うんだよ。酷いと思わない?やっぱりみこともえっちな事故の後、『不幸だ』って言われた?」

 

「うーん、わたしはアイツとそういう風になったこと無いからなあ」

 

「…仮にみこととえっちな事故が起きても、とうまの不幸にはならないかも」

 

「え?それってどういうこと?」

 

「好きな相手とのえっちなことって、不幸って言うよりも幸福だと思うんだよ」

 

「………あー、そう、ね」///

 

昨日の行為を思い出し、茶髪の少女は頬を染める。

 

―――不幸ではなかった。むしろ幸せすぎてどうしようもなかった。

 

「む。なんで赤くなるのかな?」

 

「…当麻とそういう事故が起きたと想像してみたら、不幸じゃないかなー、なんて」///

 

「その考えは危険なんだよ。みこと」

 

「どうしてよ!?こ、こ、こ、恋人なんだからいいじゃない!」

 

「…とうまもみことも貞操の危機なんだよ」

 

「なっ!?なに言ってんのよアンタ!?」///

 

「そのままの意味なんだよ」ハァ

 

小さくため息をつくと、銀髪の少女はやれやれと首を振った。

 

「みことって、えっちな子だったんだね」

 

「ぶふぅっ!?」///

 

「ふたりとも、私がしっかり監視しないといけないんだよ!」

 

「なっ!?なっ!?」///

 

真っ赤になって固まっている茶髪の少女の前で腰に手をやって胸を張りながら、銀髪の少女は宣言した。

 

「ふたりの貞操はシスターである私が守るんだよ!」

 

――――――――――

 

12:15 とある国の酒場

 

中南米のとある国の小さな酒場で、二人の東洋人の男がお互いの肩を抱きながらカウンター席で酒を飲んでいた。

 

「いやー。嬉しい。実に嬉しいですぞ。こんなところで再び出会えるなんて」

 

「また奇遇ですなあ」

 

「これは何か運命的なものを感じますなあ。はっはっは」

 

そう言ってバンバンと人の肩を叩きながら、人の頼んだ小エビのフライを許可も得ずに手掴みで摘むダンディ紳士。

 

「ま、いいけどさ。相変わらずあまり酒は強くないみたいですね」

 

「んん?安くて酔えるんだからいいんじゃね?」

 

バリバリと尻尾ごと小エビを噛み砕き、泡の薄い地ビールで流し込むと、ダンディ紳士はズボンのポケットに手を突っ込み、振動する携帯電話を取り出してディスプレイを見る。

 

「ちょっと失礼」

 

「ああ、お構いなく」

 

「もしもし、ああ、うん。こっちはだいたい夜の九時ってところかな。そっちはお昼?うん。で、どうしたの?」

 

空になったジョッキをカウンターの上に置き、手を上げておかわりを要求しながら、ダンディ紳士は携帯に耳を傾ける。

 

しばらくして泡の薄いビールで満たされたジョッキが運ばれてきたとき、電話の邪魔をしないようにと一つ席をずらして小エビのフライを摘んでいたもう一人の東洋人の隣に、ダンディ紳士が携帯電話を耳にあてたままにじり寄ってきた。

 

「どうしたんです?まだ電話中でしょ?」

 

「…アンタ、上条さんだったよね?」

 

「そうですけど?」

 

「もしかして、息子さん、学園都市にいる?」

 

「ええ、まあ」

 

「まさかと思うけど、当麻って名前?」

 

そう尋ねられた東洋人の片割れ―上条刀夜―は、荒々しくジョッキをカウンターに置くと、ゆっくりと立ち上がり肩からダンディ紳士の手を払いのけて睨みつける。

 

「…私の息子に何か文句でもあるのか?コラ」

 

「いやね、コレ、ウチの奥さんからの電話なんだけどさ、ウチの娘の婚約を認めたって言うのよ」

 

「…それ、私の息子と何の関係が?」

 

「アリもアリ、大アリですよ?だってさ、聞いてよコレ。…うん、じゃ、流して」

 

そう言って携帯電話をスピーカーモードにするダンディ紳士。

 

カチッ

 

『…上条当麻は、御坂美琴を、愛しています』

 

聞こえてきたのは、紛れも無く自分の息子―上条当麻―の声だった。

 

「と、当麻!?」

 

『…また清清しいまでに言い切ったわね。上条君。美鈴さんの負けだわ。…美琴ちゃんをよろしく。代わってくれる?』

 

『………ひゃいっ!?も、もしもし』

 

『美琴ちゃんはどうなの?上条君を、愛してる?』

 

『…うん』

 

『じゃあ、上条君にわかるように言ってみなさい』

 

『御坂美琴は、上条当麻を、世界中の誰よりも、一番愛してる!!』

 

『見事に言い切ったわねー。美琴ちゃん。いいわ。認めてあげる』

 

カチッ

 

『もうっ、ふたりともすごく初々しかったんだから!講義用のPICR持ってて良かったわ』

 

「あれ?もしかして、大覇星祭のときの…」

 

『あ、お久しぶりです。詩菜さんの旦那様』

 

「え?じゃあ御坂さんって、あの常盤台の娘さんと姉妹にしか見えない御坂美鈴さんの旦那さんなの!?」

 

『あらー。褒められちゃった。でも詩菜さんには負けますけど』

 

「いえいえ。あの、それよりも、いつの間にウチの奥さんと仲良くなったんでしょうか?」

 

『あら?ご存じないですか?上条さん引っ越してこられたのウチの近所なんですよ。それでご一緒させていただく機会が増えまして』

 

「それはそれは。どうかこれからも仲良くしてやってください」

 

いかにもご近所の井戸端会議みたいな会話になってきたところで、ダンディ紳士―御坂旅掛―が突っ込みを入れる。

 

「いやいやどういうこと?なに自然に会話しちゃってるの?もしかして俺だけ除け者で、もう顔合わせ済んじゃってたりするわけ?」

 

『違うわよ。そちらの上条さんとは大覇星祭の時お昼をご一緒しただけ。そのときはまだ美琴ちゃんの片思いぽかったんだけど、いつの間にかラブラブになってたみたいねー』

 

「あの美琴ちゃんが『世界中の誰よりも、一番愛してる』って言い切ってるもんなあ…。どんだけベタ惚れなのよ?」

 

『美琴ちゃん、天邪鬼だからねえ。私もびっくりしちゃった。…でも』

 

「ん?どうしたの?」

 

『美琴ちゃんも素直になれる場所ができたんだな。って思ったら嬉しくって』

 

「親としては複雑だけどなあ。まあでも、学園都市で一緒に居てやれることもできないし、それ考えるといいっちゃあいいのか?」

 

旅掛は顎に手を置いてうーんと唸ると、片目を開けて刀夜を見る。

 

「ま、奥さん達も子供達も仲良しになっちゃったわけだし、我々も友誼を深めるとしますかね?上条さん」

 

「は?ええ、まあ。御坂さんがいいなら私としても異論はございませんが」

 

「よし、決まり!ってことで、ゆくゆくは親戚付き合いになる父親同士の、最初の相談なんだけどさ」

 

そう言うと携帯をスピーカーモードのままカウンターの上に置いて、刀夜の肩に手を回してニッと笑いかける。

 

「父親に報告してこなかった子供達にさ、ちょっとした悪戯、仕掛けてみねえ?」



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24 12月25日 友人たち

過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


――――――――――

 

12:30 第七学区 ショッピングモール

 

「この手袋、とってもあったかいんだよ!」

 

「ふふ。よかった」

 

「それと、これは凄く助かるんだよ」

 

そう言って抱えるように持ったランジェリーショップの袋を持ち上げる。

 

「さすがに、こういったものはとうまに買ってもらうわけにはいかないし」

 

「そ、そ、そ、そうね。ってかアイツに買ってもらう!?そんなの、そんなの駄目駄目駄目!!」

 

「…みこと。変なこと考えてる」

 

「へ、へ、変なことなんて、か、か、考えてにゃい!!」

 

「真っ赤になって否定しても説得力無いんだよ」

 

「あうう…」///

 

ティーンズ雑誌から『男性が女性に洋服を贈るのは脱がせるため』というアダルトな情報―中学生にしては―を得ていた美琴としては、インデックスの身に着けるものを上条に買わせるわけにはいかないのである。

 

「そ、そんなことより!お昼御飯にしよっか?」

 

「むう。誤魔化そうとしているんだよ」

 

「なっ!?インデックスがご飯に興味を示さないなんてっ!?」

 

「馬鹿にしないでほしいんだよ!」

 

銀髪の少女はそう言うと、足元に紙袋を置いてから腰に手をやって胸を張る。どうやらそのポーズがお気に召したらしい。

 

(困った…)

 

「御坂さん?」

 

どうしたものか悩んでいると、後から名前を呼ばれたので、美琴は渡りに舟とばかりに振り返る。

 

「こんにちは。婚后さん」

 

「こんにちは。奇遇ですわね。お友達とお買い物かしら?」

 

「あ、うん。そんな感じ」

 

「わたくしはてっきり、御坂さんは許婚の方とご一緒だと思ったんですけれども」

 

婚后は扇子を口にあて、銀髪の少女に聞こえないように言った。

 

「あー、この子、アイツの家族みたいなもので、アイツが学校行ってる間に買い物に来たってわけ。婚后さんは?」

 

「わたくしは、湾内さんと泡浮さんに教えていただいたカフェでランチをいただこうと思い立ちまして」

 

そう言って胸を張る婚后。美琴はその豊満な胸に一瞬目を奪われて、慌てて視線を外す。

 

「湾内さんたちと一緒に来れば良かったのに」

 

「湾内さんと泡浮さんは部活動ですわ。ところで御坂さん。確か許婚の方は、上条当麻さんと言いましたわね?」

 

「う、うん。そうだけど?」///

 

「ご家族の方が、どう見ても西洋の方にしか見えないのですが?もしかして上条さんってハーフとか?」

 

「いや、違うから!当麻は日本人だから!」

 

銀髪翠眼の上条を想像して、美琴は『それはないな』と、即座に頭を振る。それから上目づかいで婚后を見た。

 

「えーっと、その、私の妹みたいな『訳アリ』なんだけど、家族みたいな存在、なんだ。だから聞かないないでくれると、助かる」

 

「わかりましたわ。では、ご一緒にランチでもいかがです?御坂さん」

 

「婚后さん。…ありがとう」

 

「なんのことかしら?」

 

扇子で口元を覆いながら、婚后は小さく微笑んだ。

 

「みこと。その子は誰なのかな?」

 

「あ、ごめん、紹介するね。こちらはわたしと同じ常盤台中学の友達の婚后さん。婚后さん、この子は…」

 

インデックスを婚后に紹介しようとして美琴は言葉に詰まる。いったいなんと紹介すればいいのだろう。

 

「………イギリス清教のシスターのインデックス」

 

少しだけ考え、そう紹介する。まあ不自然ではなかったはずだ。

 

「インデックスだよ。よろしくね。…えーと、名前を聞いてもいいかな?」

 

「わたくし、婚后光子と申します。よしなに。インデックスさん」

 

優雅な微笑を浮かべて婚后が言うと、インデックスも無邪気な笑顔で応えた。

 

「よろしくね。みつこ」

 

「………インデックスさん、もう一度、仰ってくださいます?」

 

「?よろしくね。みつこ」

 

「っ!!」

 

両手で自らの肩を抱き、感極まった表情でインデックスを見る婚后。

 

「こ、婚后さん?」

 

「どうしたの!?みつこ!」

 

「インデックスさん。その、わたくしも貴女のことを呼び捨てにしていいでしょうか?」

 

「別に構わないんだよ」

 

「ああっ!わたくしの長年の夢が今、叶いますわ!」

 

「夢?」

 

「ええ。わたくし、その、家族ではない同性の方と名前だけで呼び合うことが夢でしたの!」

 

「そうなんだ」(言ってくれればわたしも名前で呼んでもらって構わないんだけどなあ。でも今から光子って呼ぶのは変な感じはするけど。うーん…)

 

そんな美琴の葛藤に気付かず、婚后はインデックスと向き合っていた。

 

「…で、では、いきますわよ…」

 

ごくりと唾を飲み込んでから、婚后は大きく息を吸い込む。

 

「…インデックス」

 

「みつこ?」

 

「インデックス!!」

 

ぎゅむっと音がしそうな勢いで、婚后はインデックスを抱きしめる。

 

「みつこ、苦しいんだよ!」

 

「ご、ごめんなさい。その、嬉しくて」

 

「嬉しい?」

 

「ええ。わたくしを名前だけで呼ぶのって、お父様しかいなかったものですから」

 

それを聞いたインデックスはきょとんとした表情で婚后を見つめる。

 

「ねえみつこ。みことは友達なんだよね?」

 

「御坂さん?ええ、大切なお友達ですわ」

 

「みこと。みつこは友達なんだよね?」

 

「え?う、うん。友達よ?」

 

「じゃあ、お互い名前で呼べばいいと思うんだよ?」

 

「み、御坂さんを名前で!?」

 

扇子で口元を隠しながら、婚后は上目づかいで美琴を見る。そんな彼女を見て、美琴は小さく微笑んだ。

 

「…そうね。婚后さんさえよければ、これからは光子って呼ばせてもらおうかな」

 

「御坂さん。…ええ、もちろんよろしいですわ」

 

嬉しそうに言う婚后に、美琴は人差し指を立てて左右に動かしながら片目を瞑って言う。

 

「そこは美琴、でしょ?」

 

「…美琴」

 

「よかったね。みつこ」

 

「インデックスのおかげですわ。ありがとう」

 

「別にいいんだよ」

 

「あの、インデックスもわたくしとお友達になってくださったのですよね?」

 

「みつこさえ良ければ、私たちは友達なんだよ」

 

「もちろんですわインデックス。そうですわ。お近づきの印に、ランチをご馳走しますわ」

 

「ご飯!?そういえばおなかが空いたんだよ!おなかいっぱい食べさせてくれると嬉しいな」

 

「ええ。いいですわよ」

 

「楽しみなんだよ!」

 

「ふふ。わたくしもですわ」

 

「…驚くわよ。間違いなく」

 

ぼそっと美琴が呟くのを聞いて、婚后は首を傾げる。

 

「驚くって、なんのことかしら?」

 

「インデックスのことだけど。満腹になるまでなんていったら、そうね、30人分くらいなら軽く食べるから」

 

「…冗談ですわよね?」

 

「ねえ、インデックス。この前レストランでパスタを何皿食べたっけ?」

 

「38皿食べたんだよ!美味しかったんだよ!」

 

その言葉を聞いて呆然としている婚后に、銀髪の少女は満面の笑みを浮かべて言った。

 

「早く行くんだよ!みつこ」



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25 12月25日 暗雲

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――――――――――

 

14:00 とある携帯電話の通話

 

「珍しいな。君から電話がかかってくるのは」

 

「ご無沙汰してしまったのは謝る。だが、今回はちょっと事情が特殊なんでね。君の力を借りたいんだ」

 

「君のことだから、悪い話ではないのだろう?で、どうしたんだい?」 

 

「ウチの娘なんだけど、俺に内緒で婚約したって言うのよ。なんで、ちょっと悪戯をしてやろうと思ってね。急で悪いんだけどさ、29日に学園都市の二十三学区のホテルにあるレストランに一部屋と、ツインルームを二部屋、用意してくれない?」

 

「また急だな。まあでも、他でもない君の頼みだ。何とかしよう」

 

「悪いな。恩に着る」

 

「で、上座には誰を?」

 

「上条刀夜、詩菜夫妻とその息子の当麻君を」

 

「わかった。ところで、本当にツインルームは二部屋でいいのか?」

 

「さすがに中学生の娘に男に抱かれろなんて言わねえよ」

 

「はっはっは。冗談だ、冗談。それはそうと、入場許可は取れているのか?」

 

「それはまた別のルートで上条さんの分も俺達の分も取得済みだから大丈夫だ」

 

「そうか。では29日に君は学園都市にいるというわけだな?」

 

「ああ。そうなるな」

 

「では、都合が付いたら私も出向くとしよう」

 

「ああ、楽しみにしてる。じゃあな」

 

―――

 

16:00 とある高校男子学生寮の一室

 

お土産に美琴が買ってきた缶詰をがっついている三毛猫を眺めながら、インデックスが尋ねる。

 

「ねえ、みこと。なんでみつこの寮にお呼ばれされたら、スフィンクスを連れて行っちゃいけないの?」

 

「…光子が飼っているのは大蛇なのよ。学舎の園のペットショップで餌を買うのに付き合ったことがあるんだけど、それが真空パックのネズミだったのよね…」

 

袋越しとはいえネズミの死体を手に持ってしまったことを思い出して、ぶるっと肩を震わせる。

 

「大丈夫だと思うけど、丸呑みされちゃうかもしれないから、さ」

 

「大蛇って、どのくらい大きいの?」

 

「んー。4mくらいあったかしら。頭の大きさがスフィンクスくらいあるし」

 

「大きいんだよ!」

 

「そ。だからスフィンクスは連れて行っちゃ駄目よ」

 

「わかったんだよ」

 

屈託の無い笑顔に微笑み返してから、美琴はスーパーの袋を持って台所へと向かった。入口の端に畳んである布団が視界に入り足が止まる。

 

(当麻の…布団。いやいやいや、何考えてるの!?わたし!)///

 

真っ赤な顔でブンブンと頭を振り、布団の中に飛び込みたい衝動を追い払いながら、冷蔵庫へと歩いていく。

 

(それにしても光子は意外だったわ。インデックスの食事量を見ても驚いていたのは最初のうちだけで、最後にはむしろ感心していたし、名前で呼ばれるのが本当に嬉しかったみたいだし。部屋に招待するとか、学舎の園のケーキショップに連れて行くとか、インデックスと色々約束してたしね)

 

婚后のことを思い出しつつ、冷蔵庫の扉を開ける。

 

(でも、友達と名前で呼び合うのっていいわね。名前で呼び合うと一気に仲が良くなった気がするし。…あれ?そういえばわたし、同じ歳の友達を名前で呼ぶのって初めてだ)

 

冷蔵庫に食材を入れながら、小さく微笑む。

 

(美琴、か。ふふ。何かくすぐったい)

 

婚后が自分を呼ぶ声を思い出し、それから上条が自分を呼ぶ声を思い出して美琴はそっと自分左手の薬指の指輪に触れた。

 

(…でもやっぱり、当麻に名前を呼んで貰うのが一番嬉しいわね)

 

――――――――――

 

21:00 常盤台中学学生寮208号室

 

ベッドの上で携帯電話を弄りながら、美琴は上条の部屋へ戻ってからのことを思い出していた。ルームメイトは風紀委員の仕事で不在である。

 

夕食に作った寄せ鍋は大好評だった。

 

公園まで送ってもらい、自動販売機の陰で抱きしめてもらってから恋人のキスを何回か交わして寮へと戻った。

 

部屋に戻ってから、メールで取り留めの無いことを送りあい、美琴がメールを送信したところで、携帯電話が振動した。

 

画面に表示された母親の名前を確認すると、美琴は通話ボタンを押して受話器を耳に当てる。

 

「美琴ちゃん…」

 

いつもと違う、どことなく暗い声。

 

「ママ?どうしたの?」

 

「ちょっと、困ったことになったかも」

 

「困ったこと?」

 

「美琴ちゃん、上条君のことパパに報告してないでしょ?今日パパから電話があったんだけどね…その、上条君のお父さんとウチのパパ、出張先で知り合ったらしくてさ、父親同士で喧嘩になっちゃったみたいなのよ」

 

「え?ちょっと待って!?その、当麻のお父さんとパパが喧嘩?」

 

慌てて聞き返す美琴の耳には、わざとらしいくらいに大きな美鈴の溜息が聞こえてきた。

 

「うん。それでね。パパが出張から戻ったら、その足で美琴ちゃんを連れ戻しに行くって言ってるのよ」

 

「…いつ帰ってくるの?」

 

「29日。でもね美琴ちゃん。ママも詩菜さんもふたりの味方だから」

 

「ありがとうママ」

 

「いいのよ。私たちはふたりの婚約を認めたんだし。それじゃあ、ふたりで29日、第二十三学区のKALロイヤルホテルへ午後1時頃に来てくれる?」

 

「うん。わかった」

 

母親が味方になってくれると聞いて、美琴はほっと胸を撫で下ろす。

 

「上条君には詩菜さんから連絡が行くと思うけど、ふたりで話しておいた方がいいと思う」

 

「うん。あと、パパにも電話してみる」

 

「あー。パパ、美琴ちゃんからの電話には出ないわよ。拗ねちゃってるから」

 

「あの馬鹿親父!」

 

「まあ父親なんてそんなものよ。でもね美琴ちゃん。報告貰ったママも結構驚いたんだから、寝耳に水状態だったパパの気持ちも少しは考えてあげてね」

 

「寝耳に水ってことは、もしかしてパパ、当麻のお父さんからわたしの婚約のこと聞いたの?」

 

「うん。その、ゴメン。ママが伝えればこんなことにならなかったんだけど」

 

少し口ごもるように美鈴は言う。

 

「あー。確かに他人から娘の婚約のこと聞かされればパパなら拗ねるわね。でもそれで連絡取れなくなっちゃうのは考えものだけど」

 

「まあそれだけパパも美琴ちゃんのこと愛してるのよ」

 

「…うん」

 

「もちろん、ママも美鈴ちゃんのこと愛してるわよ」

 

「…うん」

 

「それじゃあ、29日に会いましょう。上条君によろしく」

 

「ちょっ、ちょっと!?よろしくってなによ!?」

 

「あらーん?だって美琴ちゃん、この後、上条君と話すでしょう?」

 

「そ、そりゃ、話す、けどさ」

 

美琴は反論できずにもごもごと呟く。

 

「だから『よろしく』よ。ああ、それと美琴ちゃん、早まったことはしないようにね」

 

「なによそれ!?」

 

「なにって、そりゃ駆け落ちとか、子供作っちゃうとか」

 

「な、な、な、な、な、なに言ってるのよアンタ!!」///

 

「んー?追い詰められた恋人が行き着く先。でもね美琴ちゃん、パパにはそういうのまるっきり逆効果だからね」

 

「…子供なんてまだ早いし、そもそも29日までにそうなるのって無理だから!!それに、駆け落ちって言っても、わたし、超能力者だから学園都市から逃げられないわよ」

 

「ま、そうね。まあ変に思いつめないでってこと。こと子供のことに関しては母親の方が強いんだし、母親を味方につけている時点で悪いことにはならないから、どーんと構えてなさい」

 

「うん。わかった」

 

「じゃあね」

 

美鈴は途中から演技をやめ、普段どおりの隙あらば美琴をからかう調子で会話していたのだが、美琴は気付いていなかった。

 

(…パパ、か)

 

電話帳で上条の番号を選択し、通話ボタンを押してから美琴は父親の顔を思い浮かべて小さな溜息をひとつついた。



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26 12月26日 それぞれの朝

12月26日

 

07:00 学舎の園・常盤台中学学生寮 食堂

 

「おはようございます。婚后さん、泡浮さん」

 

「おはようございます。婚后さん、湾内さん」

 

「おはようございます。湾内さん、泡浮さん」

 

三人の常盤台中学生はごく自然に挨拶を交わし、同じテーブルの席に着いた。

 

「おはようございます。お飲み物はなにになさいますか?」

 

「わたくしはカフェオレでお願いします」

 

「わたくしもカフェオレで」

 

「わたくしも、カフェオレの気分ですわ」

 

「あら、婚后さん。珍しいですわね」

 

「お二人と同じものを嗜んでみようと思いましたのですけど…、いけませんでした?」

 

「そんなことありませんわ。その、上手くいえないのですけれども…」アセアセ

 

「同じものを飲んでみたいって言っていただけて、婚后さんともっと仲良くなれた気がして嬉しいですわ」ニコ

 

「泡浮さんの言うとおりですわ」ニコ

 

二人の笑顔に、婚后も小さな微笑みを返す。

 

「その、実はわたくし、先日、名前を呼び合える友人ができましたの」

 

嬉しそうに言いながら、婚后は上目づかいで二人を見る。

 

「それでですね、その、もしよろしければなんですけど、お二人のことも名前で呼ばせてもらえて、わたくしのことも名前で呼んでいただけると嬉しいなんて思ったのですけれども…」///

 

「婚后さんがそうしたいのであればわたくしは構いませんですわ」

 

「それはとても素敵なことですけれども、わたくしたちは年下ですから、その、光子さんと呼ばせていただきますわ」

 

「わたくしは絹保、万彬と呼ばせていただいてもよろしいかしら?」

 

「ええ、構いませんわ。光子さん」

 

「改めてよろしくお願いいたします。光子さん」

 

気恥ずかしそうな二人に、婚后は昨日インデックスに言われたことを思い出して提案する。

 

「お二人も、この際、名前で呼び合うようにするのはどうかしら?」

 

「そうですね。じゃあ、これからは万彬さんでいいかしら?」

 

「うふふ。よろしくお願いいたします。絹保さん」

 

「その、よろしければ光子さんがお名前で呼ぶお友達はどのような方なのか教えていただけますか?」

 

「一人は貴女方もよく知っている御坂美琴ですわ。もう一人はシスターのインデックスですの」

 

「御坂様と。さすがは光子さん、凄いですわ」

 

「シスターのインデックスさん?ずいぶん珍しいお名前ですわ」

 

「インデックスはとても可愛らしい子ですわ。よろしければお二人にも紹介したいのだけれども」

 

「部活のない日でしたら、ぜひご一緒させていただきますわ。ね?絹保さん」

 

「ええ、もちろんですわ。それにしても、なんて言いましょうか…」

 

湾内が指を唇に当てて少し言いよどむ。

 

「名前で呼んだり呼ばれたりするのって、なんだか恥ずかしいけれど、親密さが増した感じがして、良いですわね」

 

「うふふ。そうですわね」

 

「呼び捨てにするともっとそう感じますわよ」

 

「わたくしは、その、もう少しこのままで」///

 

「今までもさん付けで呼んでいたので、急に呼び捨てにはできないですわ。…でも、御坂様と光子さんは呼び捨てなのですよね?同じ歳ならば呼び捨ても有りですの?」ウーン

 

小首を傾げて泡浮を見つめたまま、湾内はぼそっと呟く。

 

「ちょっと試してみますわ。…万彬」

 

「…」///

 

「なんだかすごく親密になった気がしますわ」

 

「ではわたくしも…き、絹保と呼ばせていただきますわ」///

 

「ふふ。ではわたくしも万彬と呼ばせていただきますわ」ニコ

 

――――――――――

 

9:20 常盤台中学学生寮 208号室

 

「ではお姉様。わたくし、風紀委員の仕事に行って参りますの」

 

「あ、うん。いってらっしゃい」

 

「お姉様は今日どうなさいますの?」

 

「うーん、とりあえずお昼に当麻と待ち合わせ。まあ門限までには帰ってくるわよ」

 

「そ、そうですの。くれぐれも常盤台生としての節度をお守りになってくださいまし」

 

「はいはい、許婚として健全なお付き合いをしてきます」

 

「いやあああああっっ!!お姉様が穢されてしまいましたのぉぉぉぉぉっっ!!」シュンッ

 

「まだそういうことはしてないわよっ!!って、あの子、寮内で能力使って、寮監に見つからなければいいけど」ハァ

 

――――――――――

 

9:21 常盤台中学学生寮 エントランスホール

 

「白井、何か言い残すことはあるか?」

 

「寮監様。わたくしこれから風紀委員の仕事がございますの…」

 

「安心しろ。第一七七支部には遅れると連絡しておいてやる」

 

「…ご恩情、感謝いたしますの」

 

「では、安らかに眠れ」ゴキッ

 

一瞬で白井の意識を刈り取ると、寮監はそのままエントランスホールのソファーに白井を横たわらせ、その首に『寮則違反:エントランスホールの清掃を命ず』と書かれたプラカードをかけた。

 

「さてと、風紀委員に電話をしてから御坂に話を聞きに行くとするか」ニヤリ

 

――――――――――

 

11:30 風紀委員第一七七支部

 

「白井さん、なんで遅刻してきたんですか」

 

パソコンの画面から目を離さずに、初春は遅れてきた同僚に声をかけた。

 

「…野暮用ですの」

 

「罰掃除よね?」

 

「なぜそれを知っておりますのおおおおっっ!?」

 

「だって、寮監さんから電話をいただいたもの」

 

「罰掃除って…。白井さん、いったい何をしたんですか」

 

「お姉様の惚気を聞くわけにはいかず、空間移動で部屋を出たところを運悪く寮監に捕まりましたの」ハァ

 

「御坂さんの惚気?」

 

「上条さんとの話ですか!?」

 

「なぜその名前を知っておりますのおおおおおっっ!?」

 

「メールで御坂さんに教えてもらいました」エヘ

 

「つまり、上条さんというのが御坂さんの彼氏、噂を信じれば許婚なのかしら?」

 

「ええ、誠に不本意ながら、上条さんはお姉様の許婚ですわ。さすがは常盤台中学のエース、超能力者第三位のことは広まるのが早いですわね」ハァ

 

「えっ?えっ?許婚って、うわあ。御坂さんって大人~」

 

「初春、その言い方はやめなさい。地味にダメージがきますの」グスン

 

「でも、許婚ってことは………ですよね」///

 

「想像させないでくださいまし!!」シクシク

 

「ああ、ほら、白井さん。泣かない、泣かない」

 

「お姉様ぁ……」シクシク



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27 12月26日 予定調和

――――――――――

 

11:45 学舎の園・常盤台中学学生寮 とある一室

 

「エカテリーナちゃん、ご飯ですわ」

 

冷蔵庫の中から丸々と太ったネズミの真空パックを取り出して封を切り、尻尾をつまんで持ち上げてから水槽の中に差し入れて落としたとき、テーブルの上に置いておいた携帯電話が鳴った。

 

「…っ!お父様。…もしもし?」

 

『久しぶりだな光子。元気にしているか?』

 

「ええ、恙無く」

 

『それは良かった。学校はどうだね?』

 

「充実しておりますわ。その、名前で呼び合える友人もできましたの」

 

『それは重畳』

 

「お父様の仰ったとおり、友人は良いものですわね」

 

『そうだろうそうだろう。その名前で呼び合えるご友人の名前を聞いてもいいかな?』

 

「シスターのインデックスと、同級生の御坂美琴、後輩の湾内絹保、泡浮万彬の4名ですわ。もっとも後輩のお二人からは光子さんと呼ばれておりますが」

 

『その4人もそれぞれ仲が良いのかな?』

 

「インデックスと美琴は仲良しですわね。絹保と万彬も良き友人同士といった感じですわ。グループが違うから何とも言えませんけれども」

 

『ふむ』

 

婚后父は言葉を切ると、軽く咳払いをしてから話し始める。

 

『29日だが、第二十三学区のうちのホテルにインデックスさんと一緒に来れるかい?』

 

「大丈夫ですけれども、美琴も呼んではいけませんか?」

 

『ああ、実を言うとその美琴さんの御父君とは旧知の中でね、彼が言うには父親に黙って婚約した美琴さんにサプライズを仕掛けるとのことで、29日にうちのホテルを会場として用意して欲しいという要請があったのだよ。時間が取れそうだから私も赴くことにしたし、どうせなら私からもサプライズを用意させてもらおうかと思ってね。光子とインデックスさんなら美琴さんを驚かすのには最適ではないかと思うのだが』

 

「具体的にどうするのですか?」

 

『レストランの一室でお互いの両親を交えての婚約式をやるんじゃないかと思うのだがね、光子たちは旅掛、つまりは美琴さんの御父君のサプライズが終わった後に私とともにクラッカーを打ち鳴らしながら出ていくというのはどうかな?』

 

「ふふ。美琴の驚く顔が見られそうですわね。美琴と仲の良い方々もお招きした方が良いかしら?」

 

『人数が多い方がサプライズにはなるだろうね』

 

「それでしたら美琴のお友達の他に絹保と万彬にも声をかけてみますわ」

 

『29日の午後1時に呼び出しているから、11時頃にレストランの小宴会場に集まって貰おうかな』

 

「わかりましたわ」

 

『では、29日に会えるのを楽しみにしているよ』

 

――――――――――

 

19:30 とある高校男子学生寮の一室

 

「とうま。29日なんだけど、みつこからお誘いがきているから、10時くらいからお出かけしてくるね」

 

美琴特製の夕食(唐揚げ、出汁巻き卵、豚汁、胡瓜の即席漬け)を平らげた後、インデックスはそうのたまった。

 

「えーっと、婚后さんだっけ?美琴の同級生の」

 

「うん、そう。インデックス、スフィンクスは連れていっちゃ駄目よ」

 

「みつこはでっかい蛇を飼っているんだよね」

 

「そういうこと。大丈夫だとは思うけれども、念のためね」

 

「俺たちも29日は出かける予定だったから助かっちゃったな。婚后さんにお礼言っといてくれよ」

 

「そうね。寮に帰ったら電話するわ」

 

上条が食器を洗いながら言うと、美琴は食器を拭きながら返事を返す。

 

「ふたりとも、なんか所帯じみてるんだよ」

 

「インデックスさん、それはわたくしたちが夫婦っぽく見えるということでしょうか?」

 

「うん。新婚夫婦みたい」

 

「ふぇっ!!」///

 

「はいはい、慌てない慌てない。落としたら食器割れちゃうでしょ」

 

「なんで当麻はそんなに冷静なのかしら?」

 

「夫婦っぽく見えるってことはさ、それだけ俺たちの仲がいいってことだろ?別にいいじゃん」

 

「そう言われてみればそうね」

 

「とうまの開き直りが凄いんだよ。みこともとうまに追従しちゃうし、これって俗に言うバカップルってやつなのかな?」

 

ジト目でこちらを見るインデックスに、美琴は何と返していいのかわからずに上条に視線を送り、上条が小さく肩をすくめるのを見て微笑んだ。

 

――――――――――

 

20:45 常盤台中学学生寮前

 

寮を出て、いつもどおり公園のベンチでイチャイチャした後、常盤台中学学生寮まで美琴を送ってくると、エントランスの扉の前で繋いでいた手を放して、名残惜しそうに視線を合わせる二人。

 

「じゃあ、またな」

 

「うん。当麻は明日から休みだっけ?」

 

「いや、明日が終業式。まあ授業はないし、午後からは休みだけど」

 

「じゃあ当麻の分もお昼ご飯作っといた方がいい?」

 

「そうしてくれると助かる」

 

「りょーかい。オムライスでいい?」

 

「すげえ楽しみ」

 

「じゃあ、また、明日」

 

「ああ。おやすみ、美琴」

 

「おやすみ、当麻」

 

美琴が見送りながら胸の前で小さく手を振ると、上条が振り返って大きく手を振り返してくれた。

 

「大好き」

 

小さくそう呟くと、エントランスの扉を開けて寮へと入る。

 

「…恋する乙女な御坂もいいものだな」

 

「ふえっ!?」(もしかして見られていた?)

 

「おかえり御坂」

 

「た、ただいま戻りました寮監様」(気のせい…かしら?)

 

「…大好き、か」ボソ

 

「ええぇっっ!?」///(聞かれた!?聞かれちゃった)

 

「私の部屋で紅茶でもどうだ?御坂。少し話を聞かせてくれ」ニコッ

 

「……わかりました」

 

美琴はがっくりと肩を落とした。彼女には寮監の招待に応じる以外の選択肢は存在しなかった。

 

「はあ。不幸だわ」



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