ホグワーツでカンテレをかき鳴らしながら (零崎妖識)
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この話に意味はあるのかい?

試験勉強中に思いついて、試験勉強をしようとしたらいつのまにか新作を書いていた。何故でしょう?風が背中を押してくれたのでしょうか。


初めまして、皆さん。私の名はミカだよ。よろしくね。

さて、唐突に始められても困るだろうし、ちょっとした状況説明とかをしようか。

今私の目の前には一枚の手紙がある。羊皮紙の封筒に入った、緑色のインクの手紙。封蝋の中央には大きくHと書かれ、その周りを獅子、鷲、穴熊、蛇が取り囲んでいる。うん、ホグワーツ魔法魔術学校への入学許可の手紙だ。

では、私の話をしようか。カンテレの音でも聴きながら、ね。

 

 

◇◇◇◇

 

 

私はいわゆる転生者って人種だ。一応、十年ほど前に産まれた。

偶然の転生では無く神様転生ってやつだね。神様曰く、この世界を原作通りに導いてほしいって。なんでも、放っておくと原作からかけ離れてしまうかもしれないんだってさ。そうならないように、ハリー・ポッターたちへのアドバイザー的立ち位置の人間を転生させる必要があった。それで選ばれたのが私だった訳だ。

私はガルパン──ガールズ&パンツァーのアンソロジー本を買って帰る途中で事故にあってしまってね。それで転生することになったんだよ。

もちろん、二次創作とかによくある転生特典──私は贈り物(ギフト)って呼んでるけど──は貰った。もしかしたら、他の人とかよりも貰ってるんじゃないかな?だって、七つもあるしね。

一つ目は魔法の才能。とは言っても、普通の魔法使い程度だけどね。得意なのは変身術と呪文学。

二つ目は杖。オリバンダー老の店にあるそうだから、これから取りに行くことになるだろう。

三つ目はホグワーツへの入学。これは神様が勝手につけてくれた。

四つ目は妖精の姿現し。ホグワーツ敷地内でも使える。いつでもハリーの近くに行けるようにってね。

五つ目──ここから三つが私的には一番重要なんだけど──は、ガルパンのミカの容姿。私が最後に買ったアンソロ本も継続高校のだし、ガルパンで一番好きなキャラがミカだからね。ア○マックスでやってた劇場版のガルパンを見てすっかり彼女のことが好きになってしまったよ。

六つ目はカンテレ。神様の手で絶対に壊れないようになってる──それどころか、カンテレでは出せないような音も出せるようになってる。

七つ目は音楽の才能。どうしてもサッキヤルヴェン・ポルッカを弾きたかったからね。

そんなこんなで、今はイギリス魔法界のとある森の中のログハウスに住んでる。神様にお願いされたし、できる限り原作通りに進むようにはするけど──魔法使ってBT-42を作るぐらいは、良いよね?

 

それでは、ミカの姿で転生した、私の物語を始めようか。これを読むことに意味は無いかもしれないけど、読んでみなければ、何も始まらないよ。




さて、ミカの苗字はどうするか。そして、フィンランドでは「ミカ」は男性名なんだよなぁ……。


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ダイアゴン横丁

私はカンテレを抱えてダイアゴン横丁を歩く。すれ違う人の大体が振り向くけど、理由は簡単だ。何故か、私がダイアゴン横丁の都市伝説の一つになってしまってるから。

必要以上のお金は神様が用意してくれていたけど、それだけだと将来が不安だろう?だから、ダイアゴン横丁の道端でカンテレをかき鳴らして代金を取っていたことがあるんだけど、いつからか『ダイアゴン横丁にはカンテレを持った神出鬼没の女の子が居る』だなんて噂が出来てしまった。確かに、後ろについてくる男を撒くために袋小路に入ったところで〈姿眩まし〉たり、人に見られないように全員の視線から外れた瞬間に〈姿眩まし〉たりしたけどさ。

おかげさまで、今の私は小金持ちだ。さすがにどこぞのフォイみたいに大金持ちとまではいかなかった。

さて、今日は何を弾こうかな。……よし、せっかくだし、『ヘドウィグのテーマ』にしよう。今日は七月三十一日。ハリーの誕生日で、彼がダイアゴン横丁に買い物に来る日でもある。この記念すべき日には、ハリポタで最も有名であろう曲が相応しい。ダイアゴン横丁に楽譜売ってたし。

このカンテレは前に言った通り、弦楽器以外の音も出せる。いわば、小さなオーケストラだ。マクゴナガル先生やフリットウィック先生に見せたら分解されてしまいそうな気がする。

 

 

◇◇◇◇

 

 

よし、まずは杖だ。今はお昼ぐらいだし、杖を貰ったらちょうどハリーが杖店に来る頃合いだろう。

と言うわけで、オリバンダー杖店の前に居るよ。早速、店の中へ入るとしよう。

 

「いらっしゃいませ」

 

すぐに、老人が挨拶してきた。

 

「お待ちしてましたよ、ミカ・クリスティさん」

 

「こんにちは。私宛の杖を取りに来たんだけど」

 

「ええ、わかっていますとも。誰とも知らぬ方が貴女用にと、わしに預けた杖。妖精の呪文と変身術が大得意。豊かな感性を持つ、掴み所の無い杖じゃ。おまえさんにはぴったりだろう……」

 

店の奥に向かい、戻って来た彼の手には一つの箱があった。箱の表面には盾のようなマークがついてる。その中には一つの模様──漢字の『継』が書かれている。うん、継続高校のマークだ。

箱の中に収められてた杖は鉄みたいな色をしている。なんだか優しい感じがして、私の手にはよく馴染んだ。

 

「いい風だね」

 

「そうですな。芯材は一角獣のたてがみですが、本体の素材はわかりません。今までにわしも扱ったことの無い素材じゃ。きっと、不思議なことを──それでいて、大切なことを成してくれるじゃろう」

 

お代は既に貰っていると言われ、私はお礼を言って外に出る。すると、そこにはハリーとハグリッドが居た。

 

「こんにちは」

 

「あっ……えっと、こんにちは」

 

彼の手にはいっぱい荷物があった。ハグリッドの片手には白フクロウの鳥籠。あれがヘドウィグだろう。

 

「そんなところで立ち止まって、どうしたんですか?」

 

おっと、考え込んでしまっていたか。

 

「ふふ、その問いにはたして意味はあるのかな?少なくとも、私には敬語とかを使う必要はないよ。同い年だしね、ハリー・ポッター」

 

ハリーが一瞬、ビクッとする。ついでに言うなら、私の誕生日はハリーの一日前、七月三十日だ。

 

「自分が信じることをすべきだよ、ハリー。自分のことを信じないで決めたことで何かを成せるとは思えないからね」

 

私はそう言うと、店の前を離れて横丁の奥の方に歩き始めた。後ろではハリーが何か言いたげにしていたけど、口を開く前に私は人混みの中に紛れていた。そう言えば、今日はドラコ・マルフォイとのエンカウントイベントもあったっけ。そっちは無視しちゃったけど、まあ良いかな。きっと風向きが悪かったんだろう。




ヘドウィグのテーマ…映画『ハリー・ポッターと賢者の石』でハグリッドがオカリナで吹いていた曲。おそらくハリポタ音楽では一番有名。

ミカ・クリスティ…ミカの名字を迷った末にクリスティに決定。元ネタはフィンランド軍戦車『BT-42』、より正確にはその改造元であるソ連軍戦車『BT-7快速戦車』についているクリスティー式サスペンション。製作者はジョン・ウォルター・クリスティー。BT-42は『クリスティ突撃砲』と呼ばれたそうな。


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九と四分の三番線にて

九月一日、キングズ・クロス駅にて。

目の前でハリーが右往左往してる。九と四分の三番線がやっぱりわからないみたいだね。ウィーズリー一家には気づいているみたいだけど、話しかける勇気が無いってところかな?

私は彼に近づき、すれ違いざまに囁く。

 

「時には、誰かを頼る勇気を出した方が良い。そうすれば、君に足りないものがわかるかもね」

 

「えっ──?」

 

ハリーが振り向くけど、すでに私はそこには居ない。風で運ばれて、九と四分の三番線に入っていた。

さて、どこに座るかな。ハリーやロン、ハーマイオニーとかに会うんだったら最後尾の方のコンパートメントだけど、私が原作主要キャラに不用意に接触したら、原作通りに立ちいかなくなるかもだし、無難にラベンダー・ブラウンとかでも捜して、その隣にでも座ろうかな?と言っても、七年次のホグワーツ決戦に戦車持って行こうとか考えてるし、この心配には意味は無いかもね。

 

 

◇◇◇◇

 

 

結局、最後尾の方のコンパートメント──ハリーが乗り込んでくるであろう場所に座ることにした。ちなみに、今の私の服装は継続ジャージだ。何着か持ってるし、継続高校の制服と合わせて普段着として使ってる。マダム・マルキンには感謝してもしきれないね。

ガラッと、コンパートメントのドアが開いた。ハリーとウィーズリーの双子が覗いている。

 

「あの、相席いいかな」

 

「ああ、いいよ。これも何かの縁だろう。こんな言葉もあるからね。『旅は道連れ』って」

 

「それ、本来の意味は違うような気がするけどな。俺はジョージ・ウィーズリーだ」

 

「僕はフレッド。ジョージとは双子なんだ」

 

「よろしくね、二人とも。ところで、二人の荷物はどうしたんだい?その子の荷物しか見当たらないけど」

 

「「俺たちは別の席で悪戯研究さ!」」

 

うん、やっぱりフレッジョは二代目悪戯仕掛け人としての道を歩んでるみたいだ。窓の外ではウィーズリー一家の掛け合いが始まっている。ハリーは窓際──私の目の前に座った。

 

「──ねぇ、確か、オリバンダー杖店の前で会ったよね?」

 

「……よく覚えてるね、ハリー。私はミカ。ミカ・クリスティだよ。よろしくね」

 

ポロン♪とカンテレを鳴らす。ハリーはこれをじーっと見つめている。

 

「その楽器、あの時も持ってたよね?」

 

「カンテレのことかい?私のお気に入りなんだよ。後で一曲弾いてあげようか?演奏代は頂くけどね」

 

「うん、お願い。前払いでいいかい?」

 

ハリーがポケットから金貨を何枚か出してくる。私は、その中に一枚だけ紛れ込んでいたシックル銀貨を受け取った。

 

「普段は一曲につき一シックル貰ってるけど、今日は特別だ。ホグワーツに着くまでの間で一シックルにしよう」

 

外で汽笛が鳴り響き、汽車がプラットホームから走り出す。最初のカーブを曲がったところで、ロンが入って来た。

 

「ここ、空いてる?」

 

指差したのはハリーの隣。原作ではハリーの向かい側だったはずだけど、今は私が座っちゃってるしね。

 

「僕はいいけど……ミカは?」

 

「私もいいよ。けど、挨拶は大事だから座る前にしておこうか。ミカ・クリスティだ。よろしく」

 

「僕はロン・ウィーズリーだよ」

 

ロンが席に座り、すぐに私が抱えている楽器(カンテレ)に興味を示した。

 

「それ、なんだい?パパが持ってるギターに似てる気がするけど……」

 

「これはカンテレって言ってね、フィンランドの楽器なんだ。さて、まずは……『Säkkijärven polkka(サッキヤルヴィン・ポルッカ)』でも弾こうか。フィンランドの民謡で、彼の国の国歌と言われることもある」

 

窓の外が田園地帯になったのを見て、思いっきり弦を(はじ)く。心地よい音がコンパートメントの中を満たしていった。



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ホグワーツ特急での一幕:その1

『サッキヤルヴィン・ポルッカ』を数回繰り返し、続いては『アメリカ野砲隊マーチ』を弾く。二人は私の音楽をBGMとしておしゃべり中だね。ああ、前世がオタク予備軍でよかった。色々な曲を覚えてるからね。

 

「ところでさ、ミカ」

 

「ん、なんだい?」

 

マーチを弾き終わったところでハリーから話しかけられる。さて、何の用かな?

 

「ミカの家族も魔法使いなの?」

 

「ふふ、それは風だけが知ってるんだろうね」

 

今世において、私の家族の記憶はとても曖昧だ。居たかもしれないし、居なかったかもしれない。まさに、『神のみぞ知る』って感じだ。

 

「……ごめん、変なこと聞いちゃって」

 

「ちょっと待って、どんな解釈をしたんだい?」

 

「え、もう亡くなってるのかなって……」

 

まあ、間違っちゃいないだろうけど……。

 

「んー、じゃあさ、さっきからメロディばっかだけど、歌は歌えるの?」

 

「歌えるよ。そうだね、北欧……と言うか北国とかそんな繋がりでソ連、もしくはロシア関係の歌としよう。曲名は、『どこまでも響くハラショー』だよ」

 

艦これの響の歌だ。カンテレの弦に指をかけたタイミングで、扉が開いた。

 

「車内販売よ。何か要りませんか?」

 

おっと、もう十二時半か。お腹も空いてきたし、かぼちゃパイでも貰おう。

 

「買わせてもら……」

 

「全部貰います!」

 

……ハリーに先を越された。車内販売の魔女はニコニコしてるけど、確かこの人って、少なくとも百年は生きてるんじゃなかったっけ。『呪いの子』でそんな記述があったけど。

ハリーは腕いっぱいの買い物を空いてる座席に置くと、かぼちゃパイと大鍋ケーキを私の方に差し出してきた。

 

「さすがにお金だけじゃ悪いかなと思って。いくらでも食べていいよ、ミカ」

 

「持つべきものは友達だね」

 

かぼちゃパイを一つ貰い、口に運ぶ。うん、かぼちゃの甘さがちょうどいい。

気を取り直して、カンテレを弾き始める。さて、上手く歌えるといいけど……。

 

「〜〜♪」

 

「わぁ……」

 

「すっごく上手い……どこでこんな歌覚えたんだい?聞き取れないけど」

 

ハリーとロンが何か言ってるけど無視。ついでに、日本語で歌ってるから基本英語のハリーたちには聞き取れないだろう。暇を見つけて英語に直すつもりだけど。

歌っている間に、どうやって戦車を作るか思案する。楽なのは博物館の戦車を〈双子の呪文〉で貰っていくことなんだけど、問題は〈十七歳未満の匂い〉。これを何とかしないと呪文は使えない。バックには〈検知不可能拡大呪文〉がかかってるけど、これはダイアゴン横丁の人にかけて貰ったものだし……曲の代金として。

もしかしたら、魔法省には匂いを無効化するマジックアイテムがあるかもしれない。まずはそれの捜索、検証。その次は戦車を置いてある博物館の捜索。手始めにBT-42、次はKV-1だ。そこから先は未定だけど……センチュリオンとかマウスとかかな?どうせだったらカール自走臼砲も欲しいけど。

歌い終わってハリーの方を見てみると、百味ビーンズで悶絶してるところだった。どれ、私も一つ貰うとしよう。

 

「ミカ?やめた方がいいと思うよ?」

 

「百味ビーンズぐらいで悶絶するようなら、サルミアッキは食べられないよ」

 

バックからサルミアッキを取り出してハリーとロンに渡す。代わりに白いビーンズを貰う──石鹸味だった。

 

「なにこれ不味い!」

 

「マーリンの髭!」

 

そして二人はサルミアッキで悶絶中だね。

外の景色は荒々しくなってきている。こんな時は……『フニクリ・フニクラ』とかがいいかな?




歌も歌っていくスタイル。

アメリカ野砲隊マーチ…ガルパン劇場版にて流れた曲の一つ。元はアメリカ野砲隊の行進曲。
どこまでも響くハラショー…艦これの駆逐艦『響』のキャラソング。曲の最後にハラショーを何度も繰り返している。
フニクリ・フニクラ…イタリアの曲。アンツィオ関連で聴いたことある人が多いかも。ハワイアンズとか某鬼のパンツの歌の元。

サルミアッキ…フィンランド発祥の『世界一不味い飴』。中毒性があるようで、気づいたら貪っていた人がたまにいる模様。

BT-42…フィンランド軍戦車。ソ連軍のBT-7を鹵獲しイギリスのQF4.5インチ榴弾砲を取り付けた戦車。
KV-1…ソ連軍戦車。ガルパンにおいてプラウダ高校が所有──そのうち一台がいつのまにか継続高校に鹵獲されていた。
センチュリオン…イギリスで開発された化け物戦車。ガルパン劇場版では島田愛理寿が乗っていた。17ポンド砲と7.92mm機関銃を兵装として取り付けている。
マウス…超重戦車マウス。史実では活躍の機会がほとんどなかった。日本軍はこれを元に四式中戦車を開発した模様。
カール自走臼砲…ドイツ軍の化け物戦車その二。スピードは遅いが、攻撃力は異常。少なくとも、コンクリートで2.5Mは貫通する。


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ホグワーツ特急での一幕:その2

現在第七特異点攻略中……クラスunknownの牛若丸強すぎませんかねぇ……


歌っている間に、ネビル・ロングボトムがやって来た。トレバーを探してるけど、残念ながら私は見てないし、ハリーとロンも原作通りなら見てないだろう。

さて、戦車を手に入れたらどこに置いておくか……〈縮小呪文〉をかけてバックの中へ入れるか、必要の部屋に置いておくか、だね。誰も『戦車を置いておくための部屋』なんて想像してないだろうし、ホグワーツで戦車を扱う時は必要の部屋に行くとしよう。

弾頭は……変身術でそこらへんの石ころを変化させるか、厨房から要らなくなった鉄でも貰ってこようかな。

『フニクリ・フニクラ』が終わったところで、今度はハーマイオニーがやって来た。もちろん、ロンはボロボロの杖を振り上げている。

 

「あら、曲は終わっちゃったの?」

 

「残念ながらね。それと、ヒキガエルを見なかったかって質問をしに来たのなら、見なかったって答えるけど」

 

「どこに行ったのかしら……ところで、魔法をかけるの?それじゃ、見せてもらうわ」

 

ハーマイオニーはロンの目の前……つまり、私の隣に座った。ロンのデモンストレーション(失敗確定)が終わったら、次の曲を弾こうかな。

 

「〈お陽さま、雛菊、溶ろけたバター。デブで間抜けなねずみを黄色に変えよ〉」

 

……やっぱり、スキャバーズ(ペティグリュー)はねずみ色のままだ。どんな世界線でも、この呪文は失敗する運命なんだろうね。

 

「その呪文、間違ってない?私も練習のつもりで簡単な呪文を試して見たことがあるけど、みんな上手くいったわ。ホグワーツは最高の魔法学校だって聞いてるけれど……教科書を全部暗記するだけで十分かしら。私はハーマイオニー・グレンジャー。あなた方は?」

 

「私はミカ・クリスティだよ。男名だけど、これでも君と同じ性別だよ」

 

「僕、ロン・ウィーズリー」

 

「ハリー・ポッター」

 

ハリーの言葉にハーマイオニーが食いつく。立て板に水を流すようにスラスラと知識を出していくけど、少しは抑えるのも大切だよ。

『Bad Apple!!』(メロディのみ)を弾きながら、私はどの寮に入ることになるのか思案する。一番いいのはグリフィンドールなんだろうけど……組分け帽子がどう判断するか、だね。

 

 

◇◇◇◇

 

 

少しして、青白い男の子が入って来た。ドラコ・マルフォイだね。私は『魔法少女達の百年祭』を弾いてたけど、そんなこと御構い無しに話しかけて来た。

 

「そういえば、君は誰だい?聞いたことも見たこともないけれど」

 

「……私はミカ・クリスティさ。ところで、良家の子息なんだっけ?」

 

「うん?そうだけど?どうだい、ポッター君と共に家柄の良い魔法族とそうでないのの区別を学んでみないかい?そこのウィーズリー家はおいてさ」

 

「良家の子息なら、演奏中には話しかけないで演奏が終わるまで待つってことを学んでいると思うんだけどね」

 

ドラコがおし黙る。おっと、ゴイルが蛙チョコに手を出してるね。このままスキャバーズが噛みつくんだろう……ほら。

ゴイルは喚き、クラッブとドラコは後ずさり。スキャバーズが離れるとそのまま早足で戻って行った。

ふと、窓の外を見る。森が多くなってきて、少しずつだけど速度が落ちている気がしてきた。さて、ハーマイオニーがもう一度やって来るはずだし、そしたらハリーとロンを一度追い出して着替えるかな。ホグワーツのシャツの上から縦縞カーディガンを着て、その上にローブを羽織ればなんちゃってだけど継続高校の制服の上からホグワーツのローブを着ているように見えるだろう。もしかしたら、ローブがアンチョビの総帥(ドゥーチェ)マントに見えるかもだけどね。




Bad Apple!!…東方Projectの楽曲の一つ。ニコニコなどで有名なはず。
魔法少女達の百年祭…東方Projectの楽曲の一つ。紅魔郷EXステージの道中曲。


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ボートに乗って

ローブを着た後、必要な荷物──杖とチューリップハット、カンテレ──を持って廊下に出る。ハリーとロンが着替えるためにコンパートメントの中に戻って一分ほどで、残り五分で到着するとアナウンスがあった。

汽車が完全に停車して、人の波に押されて外に出る。小さくて暗いプラットホームだ。ホグズミード駅だっけ?

 

「イッチ年生!イッチ年生はこっち!」

 

遠くの方──先頭車両の方からハグリッドの声が聞こえる。大きなランプを持ってこちらに──ハリーに近づいて来るけど、私を見つけた途端に少しびっくりした顔を作った。

 

「さて、イッチ年生はこれで全部か?足元に気をつけてついてこい!」

 

ハグリッドが新入生の先頭に立ち歩き出す。狭く暗く、険しい小道。二年後に入学じゃなくて良かったよ。原作三巻の九月一日は大雨だったからね。

 

「みんな、ホグワーツがもうすぐ見えるぞ」

 

ハグリッドが振り返りながら言う。その言葉の通りに、すぐに黒い湖と、向こう岸のホグワーツ城が姿を現した。あちらこちらで歓声が上がっている。

 

「四人ずつボートに乗って!」

 

ハグリッドが岸辺に繋がれたボートを指差す。ハリーと一緒に乗ってもよかったんだけど、今回はハグリッドとご一緒させてもらうとしよう。原作では一人だったけど、別に私一人ぐらいなら沈みはしないはずだ。

 

「みんな乗ったか?よーし、では、進めぇ!」

 

何十艘ものボートが一斉に動き出す。神秘的な光景だね。最も、城の中には更に神秘的な光景が広がってるんだけどさ。

 

「ところでお前さん、ダイアゴン横丁でハリーに何か言ってたよな?」

 

「おや、覚えていたのかい」

 

ハグリッドがこっそりと話しかけてくる。

 

「もしもハリーに何かあったら……そん時は支えてやってくれ」

 

……私に頼むのは御門違いだと思うんだけどね。

 

「私は風に乗って流れてるだけ……それを頼むのなら、彼と一緒に居てくれる人にした方がいいね。私はいつも彼と共に在るとは言い切れない」

 

「まあ、もしもの時だ。そん時に誰もハリーの側に居なかったらって意味だ。……ところでお前さん、何でカンテレ抱えてるんだ?」

 

「もしもの時、か。その時が来ないように祈っておこう。カンテレは私の生きがいの一つだよ」

 

「そ、そうか……」

 

ハグリッドとのおしゃべりを中断して、進行方向を見る。あと三十秒もしないで崖下にたどり着くだろう。

 

「頭、下げぇー!」

 

崖下に到着すると、ハグリッドが大声を出した。蔦のカーテンに隠れている暗いトンネルを潜り抜け、船着場へと進む。

全員が岩と小石の上に降り立ち、ハグリッドがちゃんと全員居るか、船に落し物が無いかを確認する。

 

「ホイ、お前さん!これ、お前さんのヒキガエルかい?」

 

一艘のボートの近くでハグリッドが何かを持ち上げる。ネビルのトレバーだろう。現にネビルが喜びの声をあげてたし。

ハグリッドの後に続いて岩の路を登り、夜露で湿った草むらへと踏み込む。

石段を登った先には巨大な樫の木の扉があり、その前に全員が並んだ。

 

「みんな、居るか?お前さん、ちゃんとヒキガエル持っとるな?」

 

ハグリッドが最終確認し、握りこぶしを振り上げて、城の扉を三回叩いた。



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マクゴナガル先生

扉が開き、エメラルド色のローブを着た背の高い魔女──ミネルバ・マクゴナガル先生が現れる。

 

「マクゴナガル教授、イッチ年生のみなさんです」

 

「ご苦労様、ハグリッド。ここからは私が預かりましょう」

 

彼女は扉を大きく開けて、私たちを中に招き入れる。玄関ホールを横切って、小さな空き部屋へと案内される。うん、この世界は映画版の『ハリー・ポッター』と、小説版の『ハリー・ポッター』が少しばかり入り混じってるみたいだね。基本的には小説の方みたいだけど。

 

「ホグワーツ入学おめでとう」

 

マクゴナガル先生が挨拶をして、ホグワーツについての説明を始める。

 

「新入生の歓迎会が間も無く始まりますが、大広間の席に着く前に、みなさんが入る寮を決めなくてはなりません。ホグワーツに居る間、寮生がみなさんの家族のようなものですから、寮の組分けはとても大事な儀式です。教室でも寮生と一緒に勉強し、寝るのも寮、自由時間は寮の談話室で過ごすことになります。

寮は四つ。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリン。それぞれが輝かしい歴史を持ち、偉大な魔女や魔法使いが卒業していきました。ホグワーツに居る間、みなさんの良い(おこな)いは、自分の属する寮の得点になりますし、反対に規則に違反した時は寮の減点になります。学年末には、最高得点の寮に大変名誉ある寮杯が与えられます。どの寮に入るにしても、みなさん一人一人が寮にとって誇りになるよう望みます。

間も無く全校生こ前で組分けの儀式が始まります。待って居る間、できるだけ身なりを整えておくように」

 

マクゴナガル先生は出て行き、みんなが自分の格好は大丈夫かどうかを確認しだす。私は帽子の位置を整えて、カンテレの音程を調節する。

 

「いや、それは今必要ないと思うわよ」

 

「なんだい、ハーマイオニー」

 

呪文をぶつぶつと呟いていたハーマイオニーに話しかけられた。

 

「そもそも、なんで楽器をここに持ってきてるのかしら?帽子はともかく、楽器は規則違反じゃない?」

 

「『楽器を持ち歩いてはいけない』って規則は無かったと思うよ。それに、規則違反ならバレなければいいだけさ」

 

「そういう問題じゃないわよ!」

 

ハーマイオニーと不毛な議論を交わしていると、後ろの方から驚きの声が聞こえてきた。ああ、ゴーストか。太った修道士とほとんど首無しニックがピーブズに関する話をしている。

そういえば、イギリスでは幽霊付き物件は人気があると聞いた覚えがある。喫茶店には幽霊専用席もあるとかないとか。

 

「さあ、行きますよ」

 

おや、マクゴナガル先生が戻ってきたね。準備が整ったらしい。

 

「一列になって。ついてきてください」

 

私はロンの後ろに並び、列に続いて歩く。二重扉を通って大広間に入ると、幻想的な光景が広がっていた。

何千もの蝋燭が宙に浮かび、そのさらに上──天井には空が映し出されている。四つの長テーブルに座る生徒たちと、その向こう側の教師陣。教師用のテーブルの真ん中にはダンブルドアが座ってニコニコ笑っている。彼の目はキラキラと輝いていた。

この後は確か、組分け帽子による歌の披露だったはずだね。よろしい、即興で伴奏するとしようかな。



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組分け

公式でわかっているレイブンクロー生が少なすぎるのでオリキャラタグを追加しました。ついでに、ミッコみたいな子とアキみたいな子を出すことを決定しました。


帽子のつばのへりの破れ目が口のように開く。それに合わせて、私はカンテレを構えた。そして、帽子は歌い出して私は歌詞に合わせてメロディを奏でる。

 

「私はきれいじゃないけれど

人は見かけによらぬもの

私をしのぐ賢い帽子

あるなら私は身を引こう

山高帽は真っ黒で

シルクハットはすらひと高い

私は彼らの上をいく

ホグワーツ校の組分け帽子

君の頭に隠れたものを

組分け帽子はお見通し

かぶれば君に教えよう

君が行くべき寮の名を

 

グリフィンドールに行くならば

勇気ある者が住う寮

勇猛果敢な騎士道で

他とは違うグリフィンドール

 

ハッフルパフに行くならば

君は正しく忠実で

忍耐強く真実で

苦労を苦労と思わない

 

古き賢きレイブンクロー

君に意欲があるならば

機知と学びの友人を

ここで必ず得るだろう

 

スリザリンではもしかして

君はまことの友を得る

どんな手段を使っても

目的遂げる狡猾さ

 

かぶってごらん!恐れずに!

おろおろせずに、お任せを!

君を私の手に委ね(私に手なんかないけれど)

だって私は考える帽子!」

 

歌が終わり、広間に居た全員が拍手を帽子に送る。帽子は四つのテーブルと真ん中の新入生にそれぞれお辞儀をして、再び静かになった。

 

「──組分け帽子の歌に伴奏をつけてくれた生徒に感謝を送りましょう。新入生のようですので、組分けが決まったら、その子が所属することになった寮に十点を与えましょう。では、ABC順に名前を呼ぶので、呼ばれた生徒は帽子をかぶって椅子に座り、組分けを受けてください。

では──アボット、ハンナ!」

 

金髪のお下げの少女が前に出る。帽子をかぶり一瞬の静寂の後、

 

「ハッフルパフ!」

 

と帽子が叫んだ。右のテーブルから歓声と拍手が上がる。

次のスーザン・ボーンズもハッフルパフ、テリー・ブートという少年はレイブンクローに決まった。

そろそろCの段に入るだろう。神様の目的からしてみればグリフィンドールに入るのが一番なんだろうけど、私はどこに入るのかな。

 

「クリスト、アキーナ!」

 

原作では見なかった名前の子がCの中では一番最初に呼ばれた──んだけど、私はその子に見覚えがあった。この世界ではなく、前世で。

クリーム色のツインテールの髪の毛に、少し垂れ気味の目の大人しそうな少女──ガルパンのアキだ。

思わず周りを見渡すと、茶色い髪を上の方でツインテールにした活発そうな女の子──ミッコの姿も見えた。私も含めて、継続高校戦車道の三人組の容姿をした人が、この学校に揃った。

 

「レイブンクロー!」

 

アキーナはレイブンクローに決まり、その次はグリフィンドールに決まった。そろそろ私の番だ。

 

「クリスティ、ミカ!」

 

呼ばれたので前に出る。私が持ったままのカンテレを見つけたマクゴナガル先生は少し満足げに頷いた。

 

「貴女が伴奏をしてくれたようですね」

 

組分け帽子を手渡されて、椅子に座った私は帽子をぐいっとかぶる。視界は帽子で閉ざされ、見えるのは闇だけ。

 

「ふむ、あの伴奏は非常に良かった。私からも感謝を言わせてもらおう」

 

低い声が耳の奥で聞こえる。帽子の声だね。

 

「──面白い。非常に面白いが、同等に難しくもある……グリフィンドールに入ることが良いと考えているようだが、君が取るのはスリザリンのような手段だろう。私に全てを委ねてくれるかね?君に一番合った寮を告げてあげよう──よろしい。では、この寮が君の本質に最も近しいだろう──レイブンクロー!」

 

レイブンクロー寮から歓声が聞こえる。まぁ、レイブンクローでも問題はないさ。一番原作に出てこない寮だ。その分、どこでハリーと接触してもおかしくない。

私はアキーナの隣に座る。彼女は目をキラキラと輝かせていた。

 

「さっきの曲ってあなたのだったんだ!私はアキーナ。アキって呼んでね」

 

「私はミカ・クリスティだよ。よろしくね、アキ」

 

アキと挨拶をしていると、再びこのテーブルから歓声が上がった。私の次の人もレイブンクローに決まったようだ。さて、誰かな──って、え?

 

「あたしはミコスール・クリスティアだよ。ミッコって呼んでねー」

 

先ほど見つけた少女が私の目の前に座った。これは何の因果なんだろうね。継続高校メンバーが揃うなんて。これは、もしかしたら寮の部屋でも一緒になるパターンかな?

あ、ハーマイオニーとネビル、ハリー、ロンはちゃんとグリフィンドールに入って、ドラコ・マルフォイはスリザリンに入ったよ。




注)転生者はミカだけです。アキとミッコは他人の空似。ミカを出すのなら二人も出したかったんです。


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アキとミッコ

一番最後に名前を呼ばれた少年──ザビニがスリザリンに決まって、マクゴナガル先生は帽子を片付けた。そして、アルバス・ダンブルドアが立ち上がる。

 

「ところで、料理ってまだかな。ソーセージ食べたいんだけど」

 

「私もサンドイッチ食べたいなー」

 

ミッコとアキはダンブルドアの話はどうでもいいらしく、早く料理を食べたいと言い始めた。まあ、私もだけどね。

そして、ダンブルドアが話し始める。

 

「おめでとう!ホグワーツの新入生、おめでとう!歓迎会を始める前に二言、三言、言わせていただきたい。まず始めに、組分け帽子の歌の伴奏をしてくれた生徒──ミカ・クリスティに感謝を送ろうかの。そして、この後はみなへの言葉じゃ。では、いきますぞ。そーれ!わっしょい!こらしょい!どっこらしょい!以上!」

 

小説を読んでた時も思ったけど、この人は聡明なはずなのに、時々暴走するような気がする。何か考えがあるのかって思うんだけど……作品中だと、このシーンが一番ふざけていたシーンなのかな?

 

「お、ソーセージ発見!」

 

ミッコが焼かれたソーセージを見つけて、いくつかを自分の皿に取り分ける。ついでにベーコンも。アキは野菜多めだね。私はポテトとソーセージをいただこうか。

 

「美味しいね!」

 

「うーん、イギリス料理は不味いって聞いてたんだけど……」

 

「誰からの情報かな、ミッコ?」

 

「あたしの祖父。ドイツ人のスクイブでねー。昔は軍で戦車に乗ってたんだってさ。で、イギリスとの戦いで捕虜になった時に食べた料理がすっごく不味かったって言ってたんだ」

 

ミッコ、戦車に関わっていたことが発覚。

 

「まぁ、私も『イギリスで美味しい料理を食べたいなら朝食を三回取れ。もしくはティータイムのお菓子を食べろ』って言われたけど……本当はどうなの、ミカ?」

 

「私は自給自足に近かったからわからないけどね。少なくとも、ホグワーツでは料理の味の心配はしなくても良さそうだよ」

 

三人とも食べ終わり、続いてデザートが出てくる。アイスクリームだけもらおうかな。いちご味のやつ。

 

「ミカ、それだけでいいの?もっと食べなきゃ筋肉とかつかないんじゃない?」

 

「デザートを食べても太るだけさ。それに、女の子が筋肉ってどうなんだろうね、ミッコ」

 

「戦車乗り視点だけど」

 

ミッコがそう言った途端、さっきまで黙々とデザートを食べていたアキが顔を上げた。目が輝いている。

 

「ミッコって戦車に乗るの?」

 

「お爺ちゃんの影響でね。一度乗せてもらったんだけどさ、操縦がとても楽しいのよ」

 

「わかる!私も乗ったことはないけど、とってもワクワクするんだろうなぁって思うの」

 

……よし、戦車要員の確保は出来そうだ。私とアキとミッコ。この三人でなら、戦車で暴れまわることは簡単だろう。これも、北風のおかげかな。




ミコスール・クリスティア
レイブンクロー生。イギリス人の父とドイツ人の母のハーフ。半純血で、母親の方が魔法使いの家系。祖父がスクイブで、『魔法が使えないなら機械に走ろう』と戦車乗りになった。父も戦車乗り。ミッコ枠。

アキーナ・クリスト
レイブンクロー生。純血ではあるがマグルの機械などにも興味を持っている家系。アメリカ人。アキ枠。


イギリス国籍以外がホグワーツにいても良いのか?→ゲーム版では日本人いましたし。とりあえず、細かいことは気にしない。


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レイブンクロー談話室

皿のデザートが消えて、ダンブルドアが再び立ち上がる。

 

「エヘン──全員よく食べ、よく飲んだことじゃろうから、また二言、三言、お知らせをしておこうかの。まずは、構内にある森に入らぬように注意しておきますぞ。特に、一年生と何人かの上級生は。

管理人のフィルチさんからじゃが、授業の合間に廊下で魔法を使わないようにと注意がありました。

今学期は、二週目にクィディッチ選手の選抜があるので、寮のチームに参加したい人はマダム・フーチに連絡するように。

最後にじゃが、とても痛い死に方をしたくない者は、今年いっぱい四階右側の廊下に入らぬことじゃ」

 

最後の言葉に何人かの生徒──主に一年生──から笑いが漏れる。けれど、他の生徒たちは大真面目に聞いていた。

四階右側の廊下には賢者の石を隠した部屋があり、その前には幾つもの罠がある。どれも死ぬ危険があるから、ダンブルドアは生徒を立ち入らせたくないんだろう。クィレル──ヴォルデモートをおびき出すために言った可能性もあるね。

 

「では、寝る前に校歌を歌いましょうぞ!」

 

あ、来たね。他の先生たちの笑顔がこわばり、スネイプのしかめっ面はさらに眉間の皺が増える。

ダンブルドアが節くれだった杖を動かし、金色のリボンを出した。そのリボンは文字を書き、キラキラと光っている。

 

「みんな自分の好きなメロディで。もちろん、誰か伴奏をしてくださっても構いませんぞ?」

 

彼のキラキラとした目が私に向けられる──よりも前に、私はカンテレを弾く準備をしていた。

 

「では、さん、し、はい!」

 

弦を思いっきり弾く。生徒たちの歌声に負けないぐらいに。最初は全員がバラバラに歌っていたけど、半分も歌わないうちにピッタリと揃った。そして、ダンブルドアは指揮を始めていた。

曲が終わると、ダンブルドアは誰にも負けないほどの大きな拍手をした。

 

「ああ、音楽とは何にもまさる魔法じゃ!この余韻をいつまでも味わっていたいのじゃが、残念なことに就寝時間じゃ。それぞれの寮の監督生たちは寮生をつれて談話室に戻り、部屋割りを発表するように。それ、駆け足!」

 

四つのテーブルに座っていた人たちが立ち上がり、スリザリン、ハッフルパフ、レイブンクロー、グリフィンドールの順で大広間を出て行く。

名も知らぬレイブンクローの監督生について行き、到着したのは西塔のてっぺん。

 

「レイブンクローの談話室に入るにはドアノッカーの出す謎を解かなければならない。さて、挑戦したい一年生はいるか?」

 

意気揚々と手を挙げたのはミッコ。おずおずとアキも手を挙げた。

 

「じゃあ、そこの元気そうな女の子だ。やってみて」

 

ミッコが鷲のドアノッカーを叩く。

 

「あなたという存在を証明できますか?」

 

我思う、故に我あり(コギト・エルゴ・スム)でいいかな?」

 

「模範的な回答ですね」

 

ミッコの答えを聞いて、ドアが開く。その先には、青を基調としたインテリアと星座の意匠の天井があった。

 

「ようこそ、レイブンクロー談話室へ。ここからはホグワーツの敷地が一望できる。『高みより全てを学ぶ』、『計り知れぬ英知こそ、我らが最大の宝なり』。学べ、知識を蓄えろ。他のどの寮よりも──ハッフルパフよりも、スリザリンよりも、グリフィンドールよりも!掲示板に部屋割りを貼っておくから確認しておいてくれ。部屋は七年間ずっと変わらないから、最も大切な友達を得ることだろう──知識が友達で恋人なんて奴もいるけどね」

 

男子監督生はそう締めくくり、表を貼った。さて、私のルームメイトは──

 

『ミカ・クリスティ

アキーナ・クリスト

ミコスール・クリスティア』

 

やっぱりだったか。



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寮室にて

みんなが寮室へと上がったから、改めてレイブンクローの談話室を見渡してみる。

広い円形の部屋で、どことなく清涼な雰囲気がする。壁の所々にはアーチ型の窓があって、日中なら山々が見えることだろう。ドーム型の天井と濃紺の絨毯には星が描かれ、星座の姿が形作られている。そして、扉の反対側の壁のくぼみには、背の高い白い大理石の像──ロウェナ・レイブンクローの像がある。繊細な髪飾りの輪を石で再現した像の横には寮室に続く扉。

 

「『計り知れぬ英知こそ、我らが最大の宝なり』、か」

 

私は部屋をもう一瞥して、ミッコとアキの待つ寝室へ向かった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

蒼銀のビロードのカーテンがかかった天蓋付きのベッドに腰掛け、二人と視線を交差させる。

 

「改めて、自己紹介でもしようか。私はミカ・クリスティだよ。趣味はカンテレの演奏。好きなものは音楽と戦車だね。ミカと呼んでくれるかな?」

 

「あたしはミコスール・クリスティア。イギリス人とドイツ人のハーフで、半純血だよ。戦車大好きだし、これからよろしく。あ、ミッコって呼んでね」

 

「えーと……私はアキーナ・クリストよ。アキって呼んで。七年間、よろしくお願いします。二人と同じく戦車が好きだよ」

 

自己紹介を終え、誰からか戦車の話が始まった。どの戦車が好きだとか、どんなところが好きなのかとか。

あと、ミッコの感が鋭いってこともわかった。

 

「まだ知り合って数時間だけどさ、ミカって何か隠してる気がするんだよねー。それも、すっごく大事なことを」

 

ミッコはこれから大成するかもしれないね。だけど、今はまだ知らない方がいいかもね。時が来たら教えるつもりだけれど──

 

「──よし、尋問しよう。てことでミカ、隠してるであろう秘密を教えろー!」

 

「ちょ、ミッコってば、何してんのぉ!?」

 

「ちょ、やめ、くすぐったいからあっははははは!」

 

しばらくは教えないでおこうと決めた途端ミッコにくすぐられた。それも脇腹や脇、足裏。だめだ、笑い死ぬ……って、ちょっと胸は絶対にやめ──ひゃん!?

 

「秘密は聞き出せなかったけど目の保養にはなった」

 

「後半は私も否定はしないけどさー……無理やり聞き出そうとするのは良くないよ、ミッコ。ミカが言いたくなるのを待つ方がいいって」

 

「あ、そうだ。これはあたしのお母さんからの情報なんだけど……ホグワーツには『必要の部屋』っていうなんでも隠せる部屋があるんだってさ。そこに、在学中に戦車を一両隠したって」

 

「ほんとに!?どんな戦車を?」

 

「詳しくは教えてくれなかったけど、ドイツ軍の戦車だってさ。ただ、乗り回すなら必要の部屋の中だけにしろって。でっかいから」

 

私がミッコのせいで痙攣している最中に話が進んでいたけど、すでに必要の部屋に戦車を隠した人がいるのか。大きなドイツ軍の戦車……ティガーとかパンターとかかな?

 

「どうせならあたしたちの代で、その戦車庫をさらに大きくしたいなー」

 

「うーん、でも、作るにしても材料も技術もないし、どこかから取ってくるにしても……」

 

「先輩方曰く、あたしら学生は学校の外では魔法を使ってはいけない、か。数代前の先輩方には、麺を小麦から作るって五人が居たらしいけどね」

 

ちょっと待て、今某アイドルグループが居なかったか?あの人たちはレイブンクローだったのかい?

 

「まあ、なんにせよ明日からだね。必要の部屋の捜索と戦車を手に入れる方法を模索しないと」

 

「そうだね。おやすみ、二人とも」

 

「おやすみー」

 

……私が関与しないうちに話がまとまった……。



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戦車を手に入れる方法

入学翌日。

私は二人よりも早めに起きて〈検知不可能拡大呪文〉のかかったバッグからトランペットを取り出した。そしてミッコの近くへ移動する。ふふ、昨日の仕返しだよ。

マウスピースに口を当てて、ミッコの耳元で『パンツァー・リート』を吹く。

 

「うわあっ!?」

 

「うわっ」

 

ミッコとアキが飛び起きた。ミッコは耳を抑えてキョロキョロしてるね。

 

「おはよう、二人とも。よく眠れたかい?」

 

「あ……おはよう、ミカ。もしかして……」

 

「おはよー。ところでさ、今の大音量、ミカでしょ?」

 

ミッコの問いには答えずにトランペットをしまう。ちなみに、バッグの中には大量の楽器があったりする。呪文をバッグにかけてくれたのがマッド-アイだからね。容量はまだまだあるんだ。

 

 

◇◇◇◇

 

 

授業開始一日目の夜、私たちは戦車談義に花を咲かせてたんだけど、やっぱり話は戦車をどうやって調達するかになった。

 

「自分で作る?」

 

「いや、技術的に無理だから」

 

「変身術なんて手もあるよ」

 

「現実的だけど……そこまで上手くなるのに時間かかりそうだよね」

 

案は出てくるけど実行するには難があるものばかりだ。

 

「学校外で魔法を使うと魔法省に感知されるんだけど、私たちには『匂い』って言うのがついてるんだ。十七歳になったら消えるんだけど、それを無効化する物がもしかしたら魔法省にあるかもしれない」

 

「……なんとなーく察しはつくんだけど、一体何をする気なのか言ってくれる?」

 

「魔法省に忍び込んでそのアイテムをかっさらう」

 

スパパンッ!と私の頭が衝撃とともに音を立てる。アキとミッコに叩かれた音だね。私は至極真面目に言ったんだけどな。

 

「ミカ、犯罪、ダメ絶対」

 

「アキの言う通り。他にいい方法が確実に……あ」

 

「何か思いついたのかい?ミッコ」

 

「いやー、戦車があるのって必要の部屋でしょ?その人に必要な物を出してくれる部屋。もしかしたらさ……匂い消しのマジックアイテムも出てくるんじゃない?」

 

……そんな手があったとは。アキの方を見てみると、ポカーンとした顔をしている。おそらく、私も似たような顔をしているだろう。

なんてことだ。あれだけ悩んだことがあっさりと解決するだなんて。

 

「でも、どうやって戦車を調達するのかがまだ決まってないよ?」

 

「匂い消しさえあれば、どこかの博物館にでも行って展示されてる戦車を貰ってくればいいのさ。〈双子の呪文〉をかけて本物の戦車をそっくりそのままコピーして、その状態で固定してしまえば簡単に手に入る。足りない機構や部品は変身術でパーツごとに作ればいい。ふふ、腕がなるね」

 

アキの顔が明るくなる。入学二日目にして戦車を手に入れる目処が立ったからだいぶ余裕ができるだろう。次の日曜日にでもBT-42を手に入れに行こうか。フィンランドのパロラ戦車博物館ってところに展示されてるそうだし、あとは場所さえわかれば簡単だ。

いつになく気分が良くなった私はアキをベッドに引きずり込んで抱き枕にして眠りについた。

 

「ちょっと、起きて、起きてってばー!恥ずかしいから離してー!」

 

アキが何か言ってるけど聞こえなーい。




思いついてからは早かった……必要の部屋になら匂い消しのマジックアイテムもあることでしょう。

授業風景?そんなものほぼ全部カットですよ?


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Troll in Hogwarts on the Halloween.

英文間違ってたら教えてくださいませ……


それからしばらくは必要の部屋を探す隙を見つけられず、十月に入ってしまったよ。その間には飛行訓練でネビルが落ちたり、ハリーがクィディッチ選手に選ばれたり、ハリーが決闘しようとしてマルフォイに嵌められたり、アキとミッコに継続制服とジャージをプレゼントしたりとかがあったね。

そして、十月三十一日、ハロウィーン。最後の授業が終わってすぐに、私は大広間に向かってカンテレを弾き始めた。曲名は『終曲』。とあるハロウィーンにまつわる映画のエンディングだね。コウモリにスケルトン、かぼちゃのランプ(ジャック・オー・ランタン)に歌う胸像。とても幻想的だ。

 

「楽しいね!」

 

「楽しむ事に意味はないかもしれないけれど、今は楽しまなければ損をしているだろうね」

 

アキと話しながら曲を紡ぐ。ミッコは食べる事に集中している。ハーマイオニーがグリフィンドールのテーブルに居ないことは確認済みだし、さて、あとどのくらいでクィレルが来るのか……来た。ちょうど、曲が終わったタイミングだ。

 

「トロールが……地下室に……お知らせ、しなくてはと……」

 

駆け込んで来たクィレルが倒れこむ。そして、大広間は大混乱に陥った。

 

「あわわっ!ど、どうしようミカ!トロールが侵入したって!」

 

「落ち着けよアキ。ミカがどれくらい落ち着いてると思ってるの?」

 

「だってミッコ、このままこっちに来たらどうするのー!?」

 

「その考えに意味はないね。だってトロールがまっすぐ大広間に向かって来たり、レイブンクロー寮に来る確率はとても低いんだから」

 

ダンブルドアの指示を聞いて、監督生たちが動き出す。私はレイブンクローの列の最後の方を歩く。

 

「そうだ……ハーマイオニーがトロールが入って来てることを知らないよ!」

 

「でも、僕たちじゃ危険だよ……」

 

「何言ってるんだハリー!危険でも行かなくちゃ!」

 

おや、原作とは違ってハリーが臆病だね。私はハリーにそっと近づいて、耳元で囁いた。

 

「やる事に意味はないかもしれない。でも、やらなかったら後悔するだけだよ」

 

「えっ……ミカ!?」

 

「どうするかは君次第だ。君がどちらを選んだとしても、私はそれを応援しよう。それじゃ、また明日にでも結果を聞かせてくれ」

 

呆けているハリーに背を向けて、人波の中に入っていく。少し進んだところで、アキとミッコに追いついた。

 

「ちょっと、どこに行ってたのよミカー。非常事態なんだからちゃんと一緒に行動しないと」

 

「ふふ、アキは私のことを心配していてくれたのかな。なら、遭難するかいもあるかもね」

 

「いや、その前にアキが心配しないような行動を取れよ」

 

「ミッコの言う通りだよ!」

 

「アキ曰く、私は捻くれてるからね。ついついアキに心配してもらいたくなるのさ」

 

二人と談笑しながら階段を上っていく。ハリーとロンの姿はもう見えなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……どうするんだい、ハリー」

 

「……決めた。僕、行くよ。たとえマクゴナガルに何を言われても、きっとハーマイオニーのところに行くよりかは後悔しないはずだ」

 

「そうこなくっちゃ。パーシーに見つからないようにしなきゃだけどさ」




パンツァー・リート…ドイツの行進歌。ガールズ&パンツァーでは黒森峰のテーマとして知られる。
終曲…諸事情により詳しく書くことはできないが、ハロウィーン関係の映画のエンディング。


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必要の部屋探し

大きく原作からかけ離れた出来事もなく、十一月のとある日。ハリーのクィディッチ初参加の日だね。緊張してるようだし、どれ、一言助言にでも行こうか。

 

「やあ、元気かい?」

 

「あ、ミカ!あの時はありがとう」

 

「君が助言しなかったら、僕らはハーマイオニーのところに向かわなかったかもね」

 

「あら、ならミカが私の恩人ってことになるのかしら?ありがとう。ところで、グリフィンドールのテーブルに何の用かしら?」

 

上から順に、私、ハリー、ロン、ハーマイオニーのセリフだよ。フライドポテトを一本もらって、カンテレを鳴らしながら私はハリーに言う。

 

「君が緊張してることに意味はないよ。それに、君がどれだけ頑張ろうと意味はないんだろうね」

 

「──ちょっと、何てこと言うんだよ、ミカ。ハリーがどれだけ緊張してると──」

 

「だって、君の活躍を評価するのは君じゃなくてそれを見たみんななんだから。君は君ができることをやるだけ、そうだろう?」

 

「──うん、そうだね。ありがとう、ロン。僕のために怒ってくれて。ありがとう、ミカ。頑張ってみるよ」

 

「言ったろう?頑張りには意味はない。けれど、頑張らなければ何も始まらないよ」

 

私はレイバンクローのテーブルに戻る。そして、ミッコとアキに質問責めにあった。何でグリフィンドールのテーブルに行ったのか、だとか、ハリーとはどういう関係だ、とか。どれもはぐらかしておいたけどね。

 

 

◇◇◇◇

 

 

十一時、ほとんどの生徒や教師はクィディッチ競技場へと向かった。けれど、私だけは城に残った。今日が一番、必要の部屋を探しやすいからね。

場所は確か、八階の、『バカのバーナバス』の絵の向かい側。まずは、そこまで辿りつけるかどうかが心配だね──

 

「おや、君は競技場へは行かんのかね?」

 

「──ダンブルドア校長ですか。私はクィディッチにはあまり興味がありませんから。それよりも、城の探検をカンテレ片手に行ってる方がよっぽど楽しいです」

 

「そうかね、ミス・クリスティ。しかし、たまには陽の光を浴びることも大切じゃよ。お友達の二人は競技場に居るのじゃろう?」

 

ダンブルドアと周り合わせることはしない。開心術を使われると厄介だからね。しばらく黙って居ると、ダンブルドアは私を競技場へ向かわせることを諦めたようだった。

 

「やれやれ。あんなにも面白いスポーツは無いと言うのに。変なところに入り込まぬよう注意して、冒険するのじゃぞ。もちろん、例の部屋には入ってはならんし、森にも立ち入り禁止じゃ。図書館の禁書棚にものう。それと、図書館の本にイタズラ書きなどをしないように。前に、『超物質的変身術理論』の本に何気なくイタズラ書きしたら、その本に頭を激しく打たれてしもうたからの」

 

笑いながら、ダンブルドアは歩いて行った。なるほど、私が『石』を隠した部屋に入らないようにと思って忠告に来たんだろう。あ、そうだ。

 

「ところで、八階の『バカのバーナバス』のタペストリーって、どこにどうやって行けば見れるんですか?」

 

「それなら、君の寮のゴースト──『灰色のレディ』に聞くのが一番早いじゃろうな。わしですら、この城の全貌はわからんからのう」

 

「ありがとうございます」

 

さて、レディを捜そうか。



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指輪

本日二つ目


レイブンクローの寮室近く、校庭が見える位置に彼女は漂っていた。

 

「やれやれ、灯台下暗しってやつかな。捜したよ、『灰色のレディ』」

 

「……あなたは、レイブンクローの一年生ですか。何の用です?」

 

「必要の部屋って知ってるかな?そこに案内して欲しいんだよ。ああ、安心して。『レイブンクローの髪飾り』とか、創始者たちの遺品が欲しいわけじゃないから」

 

「何を求め、その部屋を探すのですか?返答次第では、そこに案内することはできません」

 

「あなたなら知ってると思うけど、前に必要の部屋に戦車を隠した人が居てね。その戦車を探すのと、戦車庫をもっと充実させるために未成年の匂いを消すための魔法具が欲しい。どこに部屋があるかは知ってるけど、具体的な位置は知らないからね」

 

なかなか信用してくれないレディ。けれど、根負けしたように八階のタペストリー前まで案内してくれた。

 

「この石壁です。廊下の端から端まで三往復、求めるものを強く思い描き通りなさい。そうすれば、扉は現れます──それと、もう一つだけ」

 

「……おや、何です?」

 

「母の──ロウェナ・レイブンクローの髪飾りを見つけることがあったら、壊していただけませんか。本来ならば談話室の石像に返還するか、母の墓に埋めたいのですが、あれはもう、悪しき者の手で穢されてしまいましたから。まあ、あまり期待はしませんが」

 

レディ──ヘレナ・レイブンクローは壁を通り抜け、どこかへと消えて行った。探し出してもいいんだけど、あれを壊すのはハリーの役目だ。より正確には、原作ではクラッブの、映画版ではゴイルの悪霊の火の役割だ。最も、見つけやすい位置に置いておくぐらいはするかもだけれどね。何かをしても誰にも気づかれなければ意味はない。けど、誰にも気づかれずに誰かの手助けをするだなんて、かっこいいだろう?

まぁ、それよりも前に魔法具なんだけどね。未成年の匂いを消すアイテムを三つ欲しいって思いながら廊下を往復する。そして、三度目に壁を通り過ぎて振り返った時、壁には磨き上げられた扉があった。真鍮の取っ手に手を伸ばして、部屋の中に入る。窓はなく、中央に丸テーブルが一つだけ置かれている。そのテーブルだけがスポットライトが当たっているかのように明るく、金色の指輪三つが輝いていた。

 

「これで……学校の外で魔法を使っても大丈夫……な、はず」

 

指輪をポケットにしまい、一つだけ自分の指にはめる。少しぶかぶかだった指輪ははめた途端私の指のサイズにぴったりあった大きさになった。

一度部屋を出て、扉が消えたのを確認する。今度は戦車が隠された部屋を出そう、と思った時、外から歓声が聞こえてきた。試合が終わってしまったようだ。あと二十分ほどはマーカス・フリントが喚いて時間稼ぎをしてくれるだろうけど、ここからレイブンクロー寮まで遠いからね。さっさと帰ろう。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「魂を証明しなさい」

 

「人が死んだ時、体重が少しだけ減るそうだよ」

 

「あなたはマグルの医者ですか?」

 

ドアノッカーは呆れたような声を出しながらも開いてくれた。私は自分の部屋に戻って、ベッドの上で残り二つの指輪を指で弄ぶ。ふふ、二人は驚いてくれるかな?アキの慌てた顔は可愛いからね。楽しみだよ。



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戦車発見

十二月ももう半ば。指輪を二人に渡して、驚いた顔のアキを堪能した私はカンテレを弾きながら学校探索をしていた。探している部屋は、『みぞの鏡』のある部屋。あの部屋にハリーが現れるのはクリスマスの夜だし、その前に部屋を見つけたい。……それに、私が何を望んでいるのかも気になるね。

 

「あ、やっぱりここに居た」

 

「おや、見つかってしまったね」

 

「だって、この時間はだいたいのこ場所に居るじゃない。寒くないの?」

 

私が居る場所は、フクロウ小屋へと続く道とは反対側にある渡り廊下。大きな窓ガラスのない窓に腰掛けカンテレを弾いている。この場所から見る森や山、湖が綺麗で、週に一度はここでカンテレを弾いている。毎回お昼頃だからアキはここに探しに来たんだろう。

 

「ミカはクリスマスどうするの?」

 

「学校に残るよ。家に帰ってもやることはないし……戦車を取りに行くのは夏休みでもできる。アキはどうするんだい?」

 

「私も残ろうかなー。ホグワーツのクリスマス料理は豪華だって聞いてるし。……ミカ、何か悪巧みしてないよね?」

 

「私はいつも悪巧みなんてしてないよ」

 

「……信用できない」

 

もう少しで、クリスマス休暇が始まる。

 

 

◇◇◇◇

 

 

休暇初日、私たち三人は必要の部屋へ向かった。戦車の確認だ。

 

「何が待ってるかな?」

 

「使いやすいと良いけど……」

 

戦車の隠された部屋を思いながら壁の前を三回通り過ぎる。現れた扉の中にあった戦車は……

 

「おっきい……」

 

「これって……」

 

「Ⅷ号戦車……だね」

 

Ⅷ号戦車こと、超重戦車マウス。ナチス・ドイツ時代に開発されていた化け物級戦車。そんな怪物が、ホグワーツには残されていた。

 

「……なんでお母さんはこんな怪物を残したんだろう……」

 

「でもよかったじゃないか。モスクワまで行く手間が省けて。マウスはモスクワ近郊の博物館に展示してある一両しかないそうだよ」

 

壁にはスパナとかの整備用の器具がそろっている。これなら、すぐに使えるようにできるだろうね。

 

「ねぇ……思いついたことを言ってもいい、ミカ?」

 

「どうしたんだい、アキ?」

 

アキが私の服の裾を引っ張り聞く。どんなことを思いついたのかな?

 

「あのさ……わざわざ盗みに行かなくても、必要の部屋に願えば……戦車、手に入るんじゃない?」

 

「……………………あ」

 

ミッコと二人して固まる。そうか、そんな手が。

 

「ミカ、どう?」

 

「……その案に意味はないかもしれないけれど、やってみる価値はあるかもね」

 

三人で一度部屋の外に出て、扉が消えるのを確認。次はBT-42を思い浮かべながら壁の前を通る。

 

「あ……扉、出た」

 

勢いよく扉を開けると、そこには少し歪な体型をした戦車──BT-42があった。この指輪を手に入れた意味はなかったようだ。

 

「落ち込まなくてもいいんじゃない?だって、これで家でも魔法の練習ができるし」

 

「ミッコの言う通りだよ、ミカ」

 

……ともかく、これであとは〈縮小呪文〉を覚えるだけになったわけだ。今は、素直にこのことを喜ぼう。

……それと、あと数日以内にみぞの鏡を探さなくちゃ、ね。どこの教室にあるんだろう。




そうだよ……必要の部屋なら戦車も出てくる可能性あるじゃん。なんでこんな簡単なことに今日まで気がつかなかったんだ私は。まぁ、主人公たちの学校外での魔法使用制限がなくなったことだけでも良しとしよう。


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みぞの鏡

十二月二十三日、ようやく『みぞの鏡』を見つけた。

使われていない教室を中心に探したら見つけてしまったんだけど、ちょうどそこにダンブルドアが居て、鉢合わせになってしまった。

 

「それで、君は何を探しに来たのかね?」

 

「さあね。私はただ、風に流されて旅をしているだけさ。あなたこそ、ここで何をしてるのです?ご老体なのですし、大人しく部屋でココアを飲んでいるのがよろしいかと」

 

「ほっほっほ。酷い言われようじゃのう。わしが察するに、君はこの鏡を探しに来たのではないかのう、ミス・クリスティ。君はこの鏡がホグワーツにあることを知っておったようじゃのう。それに、君は秘密を抱えておるようじゃ。どうかのう?」

 

私は彼の問いには答えず、微笑んでカンテレの弦を弾いた。ダンブルドアはそれで満足したようで、私から目を離して鏡に向き合った。

 

「この鏡の特性は知っておるじゃろう?君には何が見えるのかね?不躾なことだとはわかっておるのじゃが、気になってしまうのじゃ」

 

「私が正直に言うと思ってるのですか?だとしたら、アキに笑われてしまいますよ」

 

「わしは、君が正直に話してくれると信じておるよ」

 

ダンブルドアのキラキラとしたブルーの目が私を見つめる。やれやれ、この人には敵わないだろうね。

 

「その信頼に意味があるとは思えない。けれど、あなたの思いには答えようか。私の目には──ああ、アキ、ミッコと仲良く暮らしてる姿が見えるよ」

 

偽りなく、真実を伝える。私とアキ、ミッコの三人で戦車に乗りながら世界を旅する、そんな光景が鏡の中には広がっていた。

 

「それは素敵な望みじゃ。わしの目には、後悔しか見えんからのう」

 

「……それは、私があなたの見ている光景を知っていると言いたいんですか?」

 

「その通りじゃよ。ほれ、これが必要じゃろう?」

 

ダンブルドアが微笑み、羽根ペンと羊皮紙を渡してくれる。

私は一言、『酒は呑んでも呑まれるな、だよ』と書いておき、鏡に貼り付けた。

 

「いい言葉じゃ。この鏡を扱う時の注意をうまく表しておる。

ああ、もう一つだけいいかのう?ハリーのことを、そして、彼らのことを、よろしく頼む」

 

「頼まれた。私が直接手助けすることはないだろうけど、背中を押すぐらいならしてあげよう。何か曲のリクエストはあるかい?一曲につき一シックルもらうけどね」

 

「では、適当に……暗めで、しかしアップテンポな曲はあるかな?」

 

私は微笑みで答え、弦を弾き始める。曲は、『Bad∞End∞Night』で、歌詞はなくメロディのみ。さすがにこれを一人で歌うのは無理だからね。

曲が終わる四分ほどの間、ダンブルドアはじーっと鏡を見続けていた。

……サービスで『U.N.オーエンは彼女なのか?』も弾いてあげるとしよう。




Bad∞End∞Night…ボカロ曲。八人で歌う曲。小説あり。

U.N.オーエンは彼女なのか?…東方project。フランドール・スカーレットの曲。有名ですよね。

酒は呑んでも呑まれるな…みぞの鏡ってある意味お酒ですよねー。


ダンブルドアはミカの秘密(転生者であること)について知っていません。ただ長年の勘で何か秘密があることに気がついています。それがハリーや自分、ひいては今後のイギリス魔法界に関わっていることも。


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一年生でのクリスマス

そして、十二月二十五日のクリスマス。二人よりも早く起きた私は、某夢の国のお化け屋敷で、クリスマスの間使われている音楽を弾いていた。さすがにゴーストホストとかのセリフは言わなかったけどね。占い師のセリフは言ったけど。弾いている間に、ミッコとアキは起きていた。

 

「おはよう、二人とも。メリークリスマス」

 

「んー。メリークリスマス」

 

「メリークリスマス。えへへ、プレゼントは何かなぁ?」

 

おやおや、アキはプレゼントが楽しみなようだね。かく言う私もだし、早く確認しよう。

ベッドの足元に置かれたプレゼントの山を開ける。このオカリナはハグリッドからかな?楽器の手入れ用品はダンブルドアだね。それと──一番待ちわびていたプレゼントがあった。

 

「ミカ、その熊のぬいぐるみは何?」

 

「包帯とか絆創膏とか貼られてるけど」

 

「これはマダム・マルキンに作ってもらった人形でね。私は好きなんだけど、こっちの方じゃ売ってる場所がなかったんだよ」

 

まあ、売ってるところがあったら驚きだけどね。ボコられグマ、通称ボコ。この良さがわかる人は滅多にいないだろう。色物という見方もできるけど。

 

「さすがマダム・マルキン。ふわふわだね」

 

「どう思う、ミッコ。あれ可愛いかな?」

 

「可愛いと思えば可愛い。微妙と思えば微妙。つまり見た人次第、かな?」

 

「そこ、コソコソ話さない」

 

「「ごめんなさい」」

 

私たちは笑いあって、下へと続く階段を降りていった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

クリスマスのご馳走は、最高に美味しかった。上手く伝えることができないんだけどね。でも、みんなにサルミアッキを配ったらみんなドヨーンとしてたんだけど、なんでだろうね?

昼過ぎには、ウィーズリー四兄弟とハリー、それにミッコが猛烈な雪合戦をしているのを見ながらカンテレを弾いていた。私に寄りかかって眠ってたアキの体は暖かかったよ。

それと、翌日にはハリーがちゃんと透明マントを使って鏡のところへ行ったこともわかった。私が書いたメモがなくなってたんだ。さて、ハリーがちゃんと忠告に従ってくれてるといいんだけど……ダンブルドアはちゃんとハリーに言ってくれるかな?

 

 

◇◇◇◇

 

 

クリスマスから数えて三日目の夜。私はこっそりとハリーを追いかけて鏡のある部屋に来ていた。もちろん、アキとミッコには内緒だ。

ハリーは鏡の前で体育座りして、呆けたように鏡を見つめている。そして、暗がりからスーッとダンブルドアが現れた。彼は私に微笑むと、壁際の机に座り、原作通りにハリーに話しかけた。

クリスマス休暇が終わるまでに、私がハリーにアドバイスすることはもうないだろうね。あるとするなら、ニコラス・フラメルのことぐらいかな。いや、確かあれはネビルのおかげで見つけたんだっけ?なら、しばらくは戦車の方に集中できるかもしれないね。




夢の国のお化け屋敷で、クリスマスの間使われている音楽…iTunes Storeに売ってるので聴きたい人はどうぞ。もしくは、ハロウィン〜新年にかけて夢の国に行けば聴けるかも。


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休暇明け

クリスマス休暇が終わるまで、宿題をやりつつ戦車の整備とかをしたり、歌ったり、その他色々としていた。

 

「で、危うくマウスの主砲を暴発させようとした言い訳はあるの、ミカ」

 

「後ろを振り向いていては未来に進むことはできないよ」

 

「いい事を言って誤魔化そうとしない」

 

残念、逃げられなかった。足回りや何やらを確認している時に、うっかり12.8cm主砲を撃ちかけてしまったからね。弁解のしようもない。

明日には休暇が終わる。今日帰って来たハーマイオニーとすれ違った。そして、耳元でそっと呟く。

 

「君が探している場所には、本当に探し物はあるのかい?」

 

「え?あら、クリスティじゃない。どうしたのよ、いきなり。それに、今日もカンテレ持ってるし……」

 

「何かを探しているようだったからね。どうせなら一曲聴くかい?落ち着くかもしれない」

 

「……ええ、お願いするわ」

 

よしきた、と私はカンテレを構える。ちゃんと一シックルは貰い、一つの曲を弾き始める。今回は歌付きだ。題名は、『KIDNAP THE SANDY CLAWS』。日本語題は『サンディ・クローズを誘拐しろ』だね。若干季節は過ぎてしまったけどまあいいだろう。『終焉ノ栞』も考えたけどね。

 

「……サンディ・クローズって、サンタクロースのことよね?なんで彼を誘拐?」

 

「街に戻ったらとある映画を見てみるといい。そうすればわかるさ」

 

彼女に微笑み、レイブンクロー寮に戻る。さて、これで彼女がニコラス・フラメルを見つけてくれるといいんだけど。

 

 

◇◇◇◇

 

 

授業が始まって、あまり戦車の場所に行けなくなった。次に行けるのは日曜日ぐらいかな?あとは、クィディッチの試合の時か。ネビルには遠回しにだけど「君はちゃんと勇気を持っている」と言っておいたし、観客席でクラッブ、ゴイルと乱闘してくれることだろう。ついでにボクシングの本を進めるのもよかったかもしれない。

次はBT-42の整備だね。使うのはこっちをメインにするつもりだから、ちゃんと整備しないと。それに、来年には活躍してもらうつもりだしね。

……あ。大蜘蛛の巣の場所を探しておかないと。じゃないと、来年フォローするのが難しくなる。

それに、ハリーがドラゴンをチャーリーに預けることを言うように刷り込みしておかないと。うーん、忙しくなって来たね。宿題もあるし……アキはすぐに終わらせるけど、ミッコはギリギリまでやらないからね。私も早くないけどさ。

 

…………面白そうだし、フラッフィーのところにも行ってみようかな?




サンディ・クローズを誘拐しろ…ハロウィン×クリスマス映画の歌の一つ。悪ガキ三人組によるサンタクロース誘拐作戦。

終焉ノ栞…ボカロ曲の一つ。都市伝説をテーマとしたボカロ曲集の一つ。


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賢者の石防衛へ向けて

頑張って、ハリーにチャーリー・ウィーズリーのことを思い出させることに成功した。しばらくして、グリフィンドールとスリザリンの点数が減っていたから、ちゃんと原作通りに進んだんだろう。

数ヶ月後、期末試験が終わって、とうとうハリーたちが賢者の石を守るために行動する日だ。午前中はすることがない。行動するのは午後。日が落ちてからだ。できれば、アキとミッコが眠ってから。問い詰められるのは面倒だしね。

……一つだけ、午前中にやっておくことがあった。

私はこっそりとカンテレを持って四階へと向かう。目指す場所は、悪魔の罠の先の部屋。

即興曲でフラッフィーを眠らせて、仕掛け扉の下へ滑り込む。悪魔の罠に着地して、すぐに魔法火をつける。これで、先部屋にたどり着いた。

部屋の空気や状態を慎重に確認、記憶していく。これで準備は整った。あとは、時間を見計らってここに〈姿現し〉するだけだ。

私は一度カンテレを鳴らし、寮の部屋へ〈姿くらまし〉した。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

夜、みんなが寝静まったころ。私はベッドからこっそり抜け出して、談話室に降りた。ここなら、誰にも見つからずに〈姿くらまし〉が使える。一息ついたその時、後ろから声が聞こえてきた。

 

「なーにしてんの、ミカ」

 

「なにかするんだったら、私たちにも教えてよ」

 

ミッコとアキだった。ミッコはニヤリと笑い、アキは眠そうに目をこすっている。

 

「一年近く一緒に暮らしてたんだからさ、ミカの考えなんてあたしたちには丸わかりなんだよね。隠れてコソコソと、あたしたちにはわからないことをやってるってことは」

 

「確かに、私たち二人でもミカには勝てないけどさ……少しは信用して、教えてほしいなーってね」

 

「……ふふ、ははは」

 

思わず笑いが溢れる。ああ、私はこの二人に信頼されてたんだね。嬉しいよ、すごく嬉しい。

 

「キングズ・クロスで私の家の住所を教えるよ。夏休み中に来るといい。そこで、私の秘密を教えてあげるよ。正直、アキとミッコに知られるのは怖い。でも、二人が私を信頼して、信用してくれてるなら、私も二人を信頼して、信用しないわけがないだろう?」

 

いってきます、と、私は〈姿くらまし〉をして悪魔の罠の場所へ向かった。その瞬間に見えた二人の顔は、綺麗な笑顔だった。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

木の椅子に腰をかけ、『Säkkijärven Polkka』を弾く。一度弾き終えて、もう一度弾こうとしたところで、悪魔の罠の方からハリーたちがやってきた。

 

「やあ、待ちわびたよ」

 

「あれ……ミカ?どうしてこんなところに?」

 

ハーマイオニーがハリーの後ろから、私に向けて杖を構えた。警戒してるんだろうね。

 

「私は、君たちがしようとしていることには興味はないよ。そもそも、なんで私がここにいるかなんて、考えても意味のないことだ」

 

「いいえ、それは違うわね。あなたがここにいるってことは、可能性は二つに一つ。あなたが賢者の石を盗もうとしている人の仲間か、もしくは先生方が仕掛けた罠の一つか」

 

「それを答える意味はあるのかな」

 

「あるわね。少なくとも、わたしたちにとっては」

 

ハーマイオニーが前に出てくる。ふふ、なら、答えようか。

私はもう一度カンテレを弾き始める。

 

「私がここにいる理由はね、君たちに言葉を伝えるためさ。自らの得意なことを活かすといい。それが、この先の部屋で助けになる。ハリー、恐れるのは当然で、そして大切なことだ。恐怖を忘れてはいけない。その感情を持ってるからこそ、君は大切なものを守れるんだ」

 

ひときわ大きな音を鳴らす。同時に、私は談話室へと〈姿現し〉した。

あれからどうするかは彼ら次第。結果は、もう数日でわかるだろう。




ミカがホグワーツ内で姿現しを使える理由→転生特典の一つが『妖精の姿現し』のため。人間の姿現しとは違い、妖精の姿現しはホグワーツでも使える。


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一年の終わり

私がハリーたちを待ち構えた日から、三日が経った。学校中に、ハリーが悪者だったクィレルを倒した、と噂が流れている。その噂を流したのは実は私なんだけどね。

 

「明日でホグワーツともお別れかぁ。寂しいなぁ」

 

「いや、一ヶ月もしたらまた来るから」

 

隣の席では、ミッコとアキが漫才みたいなことをしている。見慣れた日常だ。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

蛇の横断幕が掲げられた大広間で、私は二人とかぼちゃジュースを飲む。一ヶ月ほど、この味ともお別れだ。戦車の整備もあまりできなるなる。

 

「ミカの家って、どんな所なの?」

 

「普通のログハウスだよ。ハグリッドの小屋よりかは広いかな」

 

「なんか、動物がいっぱい寄ってきそうなイメージがあるんだけど……」

 

「わかる。ムー○ン谷って感じ」

 

「誰がスナ○キンだって?」

 

バタン、と大広間の扉が開く。現れたのは、ハリーだった。全員が彼の方を向き、静まり返る。そして、またうるさくなり始めた。

すぐにダンブルドアが現れ、彼の話が始まった。

 

「また、一年が過ぎた。さて、ご馳走にかぶりつく前に、この老いぼれの話を聞いてほしい。良い一年じゃった……しかし、もうすぐ夏休み。おそらくは、夏休みの間に君たちの頭の中は綺麗さっぱり、空っぽになるじゃろう。わしは宿題は出さんよ。様々な先生から山のように宿題が出されているはずじゃからのう。主に、マクゴナガル先生から」

 

大当たり。マクゴナガル先生からは夏休み半分を使ってようやく終わる、というほど多くの宿題が出ている。

 

「では、お待ちかねの寮対抗杯の表彰を行うとしよう。四位はグリフィンドール、三百十二点。三位、ハッフルパフ、三百五十二点。二位のレイブンクローは四百二十六点。スリザリンは四百七十二点じゃ」

 

スリザリンのテーブルから歓声が巻き起こる。反対に、グリフィンドールのテーブルの空気は重く、暗い。

 

「スリザリンはこれで七年連続なんだってさ」

 

「まさか、来年もスリザリンが取ったりしないよね?」

 

アキとミッコは気づいていないみたいだけど、ダンブルドアの目が、悪戯っ子のようにキラキラしている。やっぱり、大番狂わせは起きるようだね。

 

「スリザリンはよくやったと褒めよう。しかし、つい最近の出来事も勘定に含めなくてはなるまいて」

 

部屋全体が静まり返り、ダンブルドアに注目する。

 

「駆け込みの点数をいくつか与えよう。まずはロナルド・ウィーズリー君。ここ何年か、ホグワーツで見ることのできなかった、最高のチェス・ゲームを見せてくれた。よって、五十点をグリフィンドールに」

 

浮かぶろうそくが揺れ、いくつかの火が消えた。それほどに、グリフィンドールからの歓声は大きかった。パーシーがはしゃいでいる。

 

「次はハーマイオニー・グレンジャー嬢じゃ。火に囲まれながら、冷静な論理を用いて対処したことを称える。五十点をグリフィンドールに与えよう」

 

再び歓声が上がる。そして、その歓声が鳴り止まぬうちに、次の追加得点が発表された。

 

「三番目はハリー・ポッター君。その完璧な精神力と、並外れた勇気を称え、グリフィンドールに六十点を与える」

 

ようやく付いたろうそくの火が再び消えた。耳が割れるほどの騒音が、グリフィンドールのテーブルから上がった。

 

「これで、グリフィンドールとスリザリンが並んだね」

 

「でもさ……ダンブルドア、まだ何か企んでない?」

 

「正解、だろうね」

 

ミッコの言う通り。ダンブルドアが右手を上げてみんなを黙らせる。

 

「勇気にも色々ある。敵に立ち向かうには大きな勇気がいるが、味方の友人に立ち向かうにはもっと勇気がいるじゃろう。そこで、わしは、ネビル・ロングボトム君に十点を与えたい」

 

瞬間、大広間から全ての音が消えた。より正確に言うなら、グリフィンドールの大歓声により、全ての音が掻き消され、うるさ過ぎて歓声も聞こえなくなっていた。パーシーは人目を憚らず狂喜乱舞していた。

 

「えー……誰も聞いておらぬとは思うが、もう一人だけ。敵と認識されるかもしれん状況下で、適切なアドバイスを授けたことを称え、ミカ・クリスティに十点を与えよう。

よって点数が大きく変更されたのう。レイブンクローが四百三十六点に、グリフィンドールが四百八十二点に上がった。したがって、大広間の飾り付けを変えねばならんのう」

 

私の名前はさらっと流され、ダンブルドアが手を叩く。スリザリンカラーの幕はグリフィンドールカラーに変わり、蛇は獅子に変化する。

そのあとは、スリザリン以外は飲めや歌えやの大騒ぎ。ペネロピー・クリアウォーターとパーシー・ウィーズリーが抱き合ったり、ネビルが胴上げされたり、私がミッコとアキに弄られたりして、宴は終わった。



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