ラブライブ!魔法使いのIFルート (そらなり)
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誘拐

どうも、そらなりです。

今回このタイトルで作ったのはとあるリクエストが来たのでそれを書いてみたいと思ってしまったがための投稿となります。

メイン作品である『ラブライブ!~化け物と呼ばれた少年と9人の女神の物語~』を読んでいただいている方はへぇー、と思うような、まだ読んでないよーって方はこんな展開があるんだっていう感じに楽しんでいただければ幸いです。時間軸的には『先輩禁止!』の後の話になっています。

それでは、今回起きてしまった最悪の事件を見届けてあげてください!


 誰かに穂乃果たちμ'sがさらわれた。その日、俺を起こしたのは明け方に鳴った着信音だった。

「もしもし? こんな時間にどなたですか?」

 非通知からの着信だったため俺は相手が分かるまで静かな対応をしようとした。しかし、その対応はすぐに崩れることになる。

 

 そして受話器から機械に頼った音声が聞こえてくる。不快になるようなボイスチェンジャーを使った声だった。

「よぉ~、化け物。お前みたいなやつが普通の日常を過ごしてるんじゃねぇよ」

 確かに俺のことをその電話をかけてきた相手は『化け物』と呼んだ。そのことを知っているのは俺の過去を知っている穂乃果たちと、穂乃果たちと同じ中学に通っていた同級生だけだった。それ以外の人には知られていないはずの言葉をそいつは口にした。ただ、それだけの情報しかなくそいつが誰なのかはわからなかった。

 

 何もわからない状況下で一番手に入れたいのは情報だ。少なくてもだれなのか、穂乃果たちがどこにいるのかぐらいは聞いておきたかった。

「お前誰だよ。なんでその呼び方を知っている」

 話を長引かせるために呼び方について聞いてみることにした。絞り切ることができない犯人の正体にいち早く近づくためにも話を聞こうとした。

 

 しかし、空也の考え通りの答えは返ってこなかった。本当の名前を教えるようなバカはこんな犯行はしない。だけど何か偽名を教えてくれればそいつの思考のパターンを読むことができると思ったのだが……。

「なんでって、それはお前の過去を知っているからだよ」

 だけどそれだけでは終わらなかった。過去を知っている。それだけで十分すぎるほどの情報を俺は手に入れた。あのことは中学校にいた人物しか知らない。周りに言いふらすとしても証拠がないんだ。言っているやつの言葉を信じることなんて大人にはできない。証拠は俺がつぶしたから。

 

 これが俺目当てのただのいたずら電話だと思っていた。全く経験のないことでどうすればいいのかわからなくなるけどとにかく何を目当てでこんな電話をしてきたのかを確認することにした。

「……それで、なんで電話をかけてきたんだよ」

 あまり相手を刺激しないように、それでいて回りくどい言い方にならないように話しかけることに成功した。……ただ寝起きで言葉遣いが悪くなったことに気にしてはいないだろう。

 

 本当に気にしないでくれたみたいだったけど、要件について話を聞くことに成功した。

「それはね~、君の大事な人たちを誘拐したんだよ~。ただそんなことだけどね。化け物には教えてあげようと思って~。まぁ、どこにいるかなんてお前なんかには教えないけどね。あ、あと警察に連絡しても無駄だよ。何にもしてくれないから」

 この言葉を聞いて、相手がどうしてそんなに優位に立っているのかが分かった。人質がいるから強気な態度でいることができる。もう犯人といっても差支えがないだろう。この犯人は俺の大事な人たちを誘拐したと言った。そして警察が意味のないということも。

 

 それがウソだったとしても、本当だったとしても今はそんなことを気にしている場合はない。大事な人たち。そして俺を化け物だということを知っているものを考えると誘拐されたのはもう限られてきていた。

「…………待ってろよ。お前の居場所をすぐに見つけてお前を消す。それまで穂乃果たちには何もすんじゃねぇぞ」

 それは穂乃果たち。9人か、はたまた3人なのかはわからないためあいまいな表現にしてみたが相手はそのことに気が付かなかったみたいだ。

「まだ、誰を誘拐したか言ってないんだけどね。まぁ、正解だよ~。μ's全員を誘拐したから~」

 あくまでも自分が優位な位置にいると確信しているからこそ、ここまで情報を引き出してくれる。居場所なって物はあとからどうとでもなる。

 

 俺は限界だった。だからすぐに電話を切って対策をするために思考を巡らせる。居場所に関して何もヒントがなかった。わかることは誘拐されたのは穂乃果たちだということと、俺の過去を知っているやつの犯行ということ。そして穂乃果たちはいつ殺されてもおかしくないということだった。逆探知もする手立てがなく電話の向こうには穂乃果たちの声も周りの環境の音も何も聞こえてこなかった。電話番号だって非通知。こちらから連絡を取ることはできない。

「声は誰なのかわからない。普通ならこのまま何もできないだろう。けど、それは俺が普通の一般人であった時だけだ!」

 魔法を使うことのできる俺は居場所を探すなんてことをしなくても見つけて移動することが可能だった。ただ魔法を使うには枯れない桜の力を借りないといけない。俺は本島のこの場所では大きな魔法が使えない。これは前からわかっていたこと。

 

 だから俺は西木野病院に向かった。少しでも早く穂乃果たちを救えるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は待ってはくれない。だから俺はまっすぐに西木野総合病院に向かい医院長である真姫に父親に話をするべく受付の人に呼んでもらった。

「少しだけ真姫のことで話があります」

 少しの間待っていると忙しそうな医院長が俺のもとに駆け足でやってくる。それで俺は話をするべく真姫のことを話題に出して話をつけることにした。

 

 きっと真姫がいなくなったことにすぐに気が付いた医院長はすぐに警察に連絡をしたんだろう。しかしどうにか取り合ってくれない。そんな状況で何かを知っている俺のことを見た医院長は、俺の肩をつかみ話してくる。

「真姫のこと……? 今真姫がどこにいるのかわかるのか!?」

 取り合ってくれなくて反応してくれなかったからこそ、今真姫がどこにいるのかわからない状況での俺の言葉に反応を示してくれた。これで少しの時間だけなら話ができそうだ。

 

 しかし、そう言い寄られても俺は真姫たちの詳しい場所はわかっていない。そして俺はこの人に謝らなくてはならないことがあった。

「詳しい場所はわかりません。そして俺のせいで彼女が誘拐されてしまったことを謝りたいと思います。申し訳ございません」

 真姫がさらわれたのは俺のせいだ。詳しい原因が俺になかったとしても、俺がいたからこそ事件が起こってしまったことにわかりはない。だから誤っておかなければならなかった。

 

 だけど俺が責められることはなかった。やさしい親のような声が俺に浴びせられた。

「君が真姫たちのためにいろいろしているのはわかっている。気にしてはいない。ただ、真姫を救ってほしい」

 真姫のことを頼まれた。それは絶対に達成することだ。だからそれが罪滅ぼしになるのなら俺は喜んですべてを投げ出してでも救おう。

 

 だから俺はすぐにその言葉を受け入れ、これから絶対に必要になるものを手に入れるために医院長であるこの人にある頼みをする。

「もちろんです。それでお願いなのですが私を今すぐに初音島に連れて行ってくれませんか!」

 初音島。俺の第2の故郷でもある場所。今度穂乃果たちを招待しようと思ってたんだけど、今はそこに行かないと助けることを優先しなければならない。だから俺は医院長にお願いする。

 

 ただ、その話を聞いただけでは関連があるとは思えない事だったためか、疑問に思っている医院長は俺の頼んだことについて聞いてきた。

「それが真姫を助けることに関係するのかい?」

 無理もないだろう。俺がやろうとしていることは一般人にはできない。魔法使いである俺がそこにいるから意味があって、俺の得意としている魔法を最大限に使うにはそこに行くしかないからなのだから。それでみんなを救う。穂乃果も、真姫もみんな。

 

 だけど魔法のことを詳しく説明することはできない。言っても伝わるわけがないし、むやみに魔法のことを知っている人を増やすのも適切な行動ではないから。

「はい! あそこに行かないと助けることはもちろん。場所を探し出すのすら困難になります」

 そう。だから捜索が困難になるということを伝えて一刻も早く初音島に迎えるようにしてもらえるようにしていた。

 

 俺がそう言っていること医院長は少しだけ考えるようなしぐさをしていた。

「それはどうやら本当のようだね。わかったすぐに手配する。医療用のヘリを用意するからそこにある水越病院につかせるよ」

 すると俺の聞きたかったことを言ってくれた。ヘリを出してくれるなら今すぐにでも初音島に向かうことができる。

 待っている時間ももどかしいと感じている俺はすぐさまに俺は反応してヘリがあるところに医院長の案内で向かうことにした。

「ありがとうございます」

 待っていろ、誘拐犯。お前はもう、生きていることすら許さない……!

 

 

 

 

 

 俺が少し待つだけで医院長はヘリの準備をしてくれた。職権乱用だとかは今は気にしていられない。どうしても助けたい人たちがいる。そのために俺はなんだってしてやる。それほど大事な奴らなんだ……!

 

 ヘリを飛ばしに飛ばし、数十分で目的地の初音島についた。水越病院の屋上のヘリポートにたどり着いた。そこに降り立った瞬間、俺は真っ先に目的地に向かい走り出す。病人に当たらないように確実に人をよけて病院を出てそのままあの目的の場所に向かう。もうほぼ準備ができている。あとは、穂乃果のいる場所を感知してそこに向かうゲートを開くだけだ。俺にならできる。

 

 

 

 

 

 枯れない桜。俺はこの枯れない桜にたどり着くことができた。俺が最大限に魔法を使えるこの場所に。きっとこれから犯人と戦闘する……。戦闘になるかわからないけど、穂乃果たちのもとにたどり着いた後大きな魔法をもう一度だけ使う。その分の魔力はもらっていくぞ! さくら!

「穂乃果……。待ってろよ……!」

 俺はそっと目を閉じて全神経を穂乃果の現在地を感知するべく尽くした。……魔法は想いの力。どれだけ、そのことを想えるかというのが重要になってくる。俺の想いの対象はμ's、及びその周りの未来。そのためなら普段よりも強い魔法を使うことができる。そんな気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………繋がった。はっきりとわかるそこに穂乃果がいる。そしてその周りには8人の姿も感じることができた。すぐさまゲートを作り、その場所とこの枯れない桜をつないで穂乃果たちのもとに向かう。……合宿が始まったらこのことをみんなに教えないと。

 

 ゲートを潜り抜けると俺の目の前に穂乃果の姿が見えた。そしてその周りにはほかのメンバー無事だった。それが何よりうれしかった。こんなことを誰にも気づかれないように、警察にすら手を回せる相手だ。そんな奴に覚えがあるが、そんなことはないと思い。とにかく今は穂乃果たちの状態だ。誘拐の定番といえば定番の口にガムテープ、手首足首はロープに拘束され、手首のほうは柱に括り付けてあった。そんな状態で座り込んでおり、その目尻には少し涙がたまっていた。こんな廃工場のような場所に急に放り込まれたら、怖いもんな。ごめんな。俺はすぐに助け出して、9人は必ず家に帰すから。

 

 すぐに穂乃果たちのもとに向かい、全員分のガムテープをはがし、すぐにその場を離れる。ロープを壊すには時間が足りない。きっとここには犯人も一緒にいるのだから。だから犯人を見つけるため、穂乃果たちから離れ、身を隠した。

 

 

 

 

 

 犯人を捜すため俺は犯人に気が付かれないように周りを見渡した。この空間には俺と穂乃果たち以外に1人しか気配を感じない。いや気配を感じないのではない。それ以外の気配が全くないのだ。9人を同時に誘拐しているからには複数犯を想定していたが、その心配は必要ないみたいだった。そして犯人の人物はすぐに見つかった。

「お前が穂乃果たちをさらったのか……」

 怒りが頂点に達していることが自分でもすぐにわかる。それほどまでに俺はこいつの存在が許せない。この……大将勝手の存在が。いくら俺のことを罵ろうが、貶めようとしようが俺は気にも留めない。だが、穂乃果を、穂乃果たちを巻き込んだのならそれ相応の報いを受けてもらうぞ。

 

 俺の登場に動揺している犯人がいる。こんな奴の名前を俺は呼びたくない。本当にイライラしているのが分かる。

「なっなんでお前がここにいるんだよ! どうしてここにいるんだよ! あの暗部のやつらがしゃべったのか!? そんなことはないはず……。依頼が終わったことに対してあいつらは何も関わらない。秘密を話したりはしないはずだ!」

 この前オープンキャンパスの時絡まれた際に言った『二度と穂乃果たちに近寄るんじゃねぇ! じゃないと今度は消すぞ』っという言葉を覚えていないのか、それとも来れないと思ってたのかわからないが見つかったせいでかなり動揺している。

 

 そして俺はこいつの疑問に答えてやるほどやさしい性格はしていない。……ただ、お前が使ったものが日本における暗部のようなものだということはわかった。それについては俺がよく知っている。俺に最も親しい人物が所属している場所なのだから。間接的にやってしまったことがあるが、俺は今回完全に自分が望んでこの行動をとる。一般人には使うことのできない、この魔法の力を使って。

 

 ……あぁ、俺は今、霧に飲まれたリッカの気持ち、わかるよ。でもやめない。

「そんなことを今から消えるお前に言っても意味がないだろ。虚無の空間に消えろ。クズ」

 俺は魔法使いの補助アイテムであるワンドを誘拐犯に成り下がった同級生に向けて魔法を発動する。出口のない暗闇のみが支配する、何もない空間が開く。それはブラックホールのようにあいつを飲み込もうとしている。もちろんこれはあいつだけを吸い込もうとしているわけではないが穂乃果たちは柱につながれている。俺は対抗できないほどの強さではない。必然的にあいつだけが吸い込まれる。

 

 そんな状態で余裕のないはずの犯人が笑った。懐から出したものに一瞬何なのかわからなかった。黒光りする何か。持ち手があり、L字型の日本では現物は見ないであろうもの。

「おっお前がいるから彼女たちは不幸になるんだ! お前のせいでμ'sは死ぬんだよ!」

 犯人の手には銃が握られていた。その銃口は俺ではなく穂乃果たちのほうに向いていた。もう何をしてもだめだということを察しているのかわからないけど、何のためらいもなくこの誘拐犯はその引き金を引いた。

 

 穂乃果たちから離れたのがここで仇となるのか……。自分の身を盾に穂乃果たちを守ろうとしたが使おうとしている大魔法のせいで動けなかった。動いても魔法は発動したままなのだが、ゲームでも何でもないのにこの魔法を使うと数秒間動けなくなる。そんなデメリットがあった。だから、身を盾に穂乃果たちを守ることができない……。

 穂乃果たちのほうに向かう銃弾はまっすぐに走っていく。無情にも減速することもなく、そして途中で軌道がずれたりすることもなく。

 そのまま進み穂乃果の額を銃弾は貫通する。そしてそのまま絵里の胸と真姫のお腹にも。そしてそこからは赤い液体が次々に流れてくる。いやだ……、嫌だ! 見たくない!

 

 しかし、何度目を背けても起きてしまった事実は変わらない。今の俺はただただ撃たれた3人の名前を呼ぶことしかできなかった。穂乃果は多分即死、絵里も。真姫に至っては、意識がないし、多分出血が多すぎて今からじゃもう助からない……。

「穂乃果!!! 絵里!!! 真姫!!!」

 俺はそんな3人を見て、今まで以上にこいつに殺意が沸いた。その殺意を込めて俺は撃ったやつのことをにらみつける。すると今まで全体的に吸い込みをしていたブラックホールのような黒い空間の入り口はあいつだけをターゲットに吸い込みを始めた。今までよりも強く。それが起きた結果、もうすでにそこにあいつの姿は存在していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……終わった。あいつはこの世界からいなくなった。それを確認した後、俺は穂乃果たちに近づく。額から血を流している穂乃果、そして場所は違うけど、それぞれの場所で血を流している絵里と真姫。こんな姿になってしまったのも、突き詰めれば俺がいたから。そんなことを考えているから俺は倒れている穂乃果たちに謝る。今は聞こえていないが。

「……ごめんな。穂乃果。俺は何の配慮もなく突っ込んでしまった。だから……」

 俺は怒りのあまり周りが見えていなかった。いや、1つのことに執着しすぎてしまった。あいつを消すということに。もちろん穂乃果たちを助けることを忘れていたわけじゃない。だけど、あいつを消せば無事に穂乃果たちを救えると思ってしまっていた。俺の慢心で……。

 

 しゃべることのできる海未は穂乃果たちを撃たれたショックでもある程度会話ができる状態であった。

「……空也。一体、今までのは何だったんですか! 穂乃果は……穂乃果たちは大丈夫なのですか!?」

 そして今のこと、魔法のことを聞いてきた。ただ魔法に関してはもう話したって意味がない。すぐに…………のだから。

 

 だから俺は穂乃果たちに対しての心配にだけ答えることにした。今はそのことを知っているだけで十分すぎるとわかっていたから。

「海未。大丈夫だよ。穂乃果は大丈夫」

 そう言って俺は穂乃果と絵里と真姫にワンドを向ける。この3人がまた普通の生活ができるように、そして9人で輝かしいステージを見せてくれるように。

 

 もう失われてしまった命は取り返すことはできない。だけど俺には約束がある。ここに来るために利用した医院長の、真姫のお父さんとの約束。そして俺の……な人を救わなくてはならない。絵里には、彼氏だっているのだから。

「こうなった原因が俺にある。命を懸けてとかそんな大層なことはできないけど、俺は想う」

 命の対価となるのは命なんかじゃない。人の命で生き返れるほど命は軽いものなんかじゃない。じゃあ何が退化になるのか。それは今まで過ごしてきた時間そのものだ。その人がいたということを証明する、かかわってきた人物の記憶から生きていることを証明する記録までをなかったものにする。そうすることにより、ある対象となる人物の時間を戻すことのできる魔法。これは禁忌。使ってはならない魔法。周りを巻き込む魔法は概ね禁忌になっていた。これも例外ではない。

 

 俺は何の戸惑いもなくその魔法を発動する。『時空の覇者』最後の一世一代の大魔法だ。これで、あの太陽の笑顔が戻るのならこんなに安いものはない!

 俺のワンドから光が灯り始めた。その光が真姫を絵里を包み込み打たれていない海未たちや、真っ先に撃たれてしまった穂乃果もその光が包み込む。これで穂乃果たちは撃たれる前の状態に戻った。……いや撃たれる前ではない誘拐されてここに監禁される前の彼女たちに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光がなくなるとそこには血なんて何も流れていない3人の姿と残りの6人。そして空也の姿があった。

 

 光が収まり数秒が立つと穂乃果の閉じられていた瞳が動き出す。

「ううん? ここ……どこ?」

 まるで朝、目が覚めたかのように感じさせるような声で穂乃果は起き上がった。そんな彼女には何の外傷もなく、いたって健康な状態で。

 

 それは一緒に撃たれたはずだった絵里と真姫も。何もなかったかのように目を覚まして起き上がる。それだけで俺は十分に救われた。

「穂乃果? ここはどこなのかしら?」

 絵里は見覚えのないこの場所に疑問を感じていた。誘拐されたことすら覚えていないらしい。 

 

 見知らぬ場所で穂乃果が目を覚ましたという現状を認識し、穂乃果に疑問を感じていることりと海未。

「穂乃果ちゃん……?」

 

「穂乃果……」

 きっと、今までに起きたことは何一つ覚えていないのだろう。だからそんな顔ができる。いつもの何をしでかすのかわからない穂乃果に向ける顔が。

 

 こんな状態になっていることまでがどうしても思い出せない希は疑問に思っている点を口に出す。

「確か昨日は……? 何があったか思い出せへん……」

 まだ記憶に混乱があるようだった。昨日は何も特別なことをしたわけじゃない10人でラブライブに向けて練習をしていた。それだけだ。ランキングも50位までに言ったから、よりやる気になってはいたんだけど……。

 

 希と同じくして昨日の出来事を思い出せない凛と、花陽はその場で首をかしげていた。

「そうだにゃ……。何してたんだっけ?」

 

「私も何も覚えてない……」

 夏のあの激しい日差しの中で練習をしたというのに凛と花陽は思い出せないでいるらしい。あれだけ頑張っていたのにな。

 

 だけど、しっかりと今まで何をやってきたのかわかっている人がいた。

「ちょっとみんな大丈夫?昨日は練習をして普通にみんなで帰ったじゃない」

 さすがは部長。あの時にみんなで押しかけて以来、こんなことを口にした覚えはないけど、それでもやっぱあんたはすごいよ。にこ。

 

 にこの言った言葉で考える真姫は、納得はできたようでその場でうなずいていた。

「確か……、そうだったはずだけど」

 そうそう。何にも変なことじゃないみんなで練習をしたんだよ。そう、みんなでね。

 

 真姫と同じくしてにこの言葉で昨日の予定を思い出す穂乃果は不思議そうな顔で俺のことを見ていた。

「そう……だったよね? それで……あなたは誰ですか?」

 …………わかってはいた。わかってはいたけど俺の中で何かが壊れるような音と一緒に何かが無くなった。

 

 俺はこれからこの今までかかわったこともない少女たちをもといた場所に戻さないといけない。そのために俺は嘘をつく。

「……いや、ただここに通りかかったんだ。そしたら君たちが寝ていて」

 はたから見ればそれがウソだなんてすぐに気が付く。通りかかるなんてできるはずもないこの廃工場。そして扉なんて開いていないのだから入ってすぐにこの子たちを見つけたわけじゃない。そんなのがウソだってわかるはずなのに、それでも俺はまだ期待してしまっている。この9人には俺に関する記憶があるのではないかと。

 

 しかし、現実は無情だ。心から願っていてもそれ通りになるなんてほとんどあり得ない。聞きたくもない言葉がとさか頭の少女から言われる。

「そうだったんですか……。心配をおかけしました……」

 お前は俺に敬語を使ったことなんてないだろう。いつも通りに話してくれよ。そう思ってしまうが彼女たちからしたら俺は今初めて出会った名前も知らない赤の他人。無理もなかった。

 

 もう……、この場にいるだけで俺はどうにかなってしまいそうだった。幸い大和撫子のような少女に関しては話し方が同じだったため平静を装うことができた。

「それで、あなたはここからどうやって帰るのかわかりますか?」

 だがこの質問には答えられない。こたえられるような情報を持ち合わせてはいない。ここが日本なのかすら怪しい。

 

 だけど、俺にはそれは関係ない。けど、もう耐えられそうにないや。こんな9人の女神を相手にしているのは。

「うん。みんな。目をつむってくれるかい?」

 せめてこれ以上に悪化することを考慮して9人には目を閉じてもらうことを提案した。

 

 勿論急に言われて若が分からない状況になるのは仕方ない。

「なんでよ」

 この赤髪のツリ目の子の疑問も納得することができる。

 

 でも、それをしてもらわないと俺が俺でなくなってしまうかもしれないんだ。

「大丈夫何もしないから、目をつむって。お願い」

 それが伝わるように俺は頭を下げて9人にお願いする。

 

 

 

 

 

 みんなが目をつむってくれてあとは俺が魔法を9人にかけるだけだった。だけどその前にあることをやっておかないといけない。『これからはお前が作詞をするんだ。頑張れよ』っという想いを込めて俺は大和撫……いや、海未に対して魔法をかけた。俺が今までに培ってきた経験と知識を海未に渡す。

 

 そして最後に9人に対してワンドを振る。これで彼女たちの自宅につけるはずだ。

「じゃあな。"穂乃果"、"海未"、"ことり"、"花陽"、"凛"、"真姫"、"にこ"、"絵里"、"希"。これから頑張れよ」

 最後に俺はこの言葉を送って別れを告げる。そして彼女たちは誘拐されたという結果をも残さずに元の生活に戻った。この時坂空也のいない普通の世界に。

 

 この世界にもう俺のことを知っている人間はいない。いくら長年過ごした幼馴染でも、同じ魔法使いであっても。そして家族だったとしても。俺の使った魔法はすべての人にある自分に対する記憶をすべて消し、そこに存在したという事実をも消して対象人物の時間を戻すというもの。だけど、虚無の空間で未だなお生活できているあいつだけはその空間から出てくることはない。そして時間を戻しても同じ結果にはならない。同じ現象が起きなければ。

 

「まぁ、俺自身は存在し続けるわけだし、穂乃果たちの活躍が見れればいいかな」

 そうして俺は隣で支える者から、遠くで見守るだけの存在になった。そこにはもう俺が存在したという証拠が何一つないというのに。彼女のことだけは見届けたいと、最後までそう思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空也に飛ばされた穂乃果たちはそれぞれの自宅で目を開いた。

「え? ……不思議なこともあるもんだねー。ん? 何かが足りない気がする……」

 何もなかったかのように自室にいることに驚いてしまう穂乃果だが、その驚きもすぐになくなってしまう。それは違和感を感じたから。

 

 穂乃果は部屋の中を探し回り何が足りないのかを調べることにした。最後に残ったのはアルバムに貼ってある写真……。そこには楽しそうに映っている幼い時に穂乃果と海未とことりの姿が映っている写真があった。どれも"3人"で映っている写真か"9人"でとっている写真だけしかそこには存在しなかった。

「まぁ、気のせいだったのかな。それより今日も練習だ! 急いで学校に行かなきゃ!」

 こうして穂乃果のいつも通りの生活が始まった。それが今までと異なる異質な生活であることに気づくこともできずに。

 

 




このEND実際にゲームとかでもあるみたいですね。まったく気にしたわけではないですが私の好きな作品である『D.C.Ⅱ』にも同じようなものがあることに気が付きました。まぁ、結果が同じであってプロセスが違うのですが。

今回ある暗い話をよく書いている方からバットエンドを書いてみてくださいというリクエストがあったのでここに形として投稿させていただきました。

次回はポピュラーなあのモンスターアニメをクロスさせて書きたいと思いますので、興味があれば待っていてください!


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俺と幼馴染とその妹と

どうも、そらなりです。

まず、前回の予告とは違う物語になります! 申し訳ございません!

そしてこれはTwitterでやってたリレー小説になります。参加していただいた方々、本当にありがとうございました!

※主人公は空也ではありません。

それでは、ただただ、普通の日常の始まり始まり♪


 休日の朝。窓から指す穏やかな日差しを浴びながら俺の脳は覚醒しようとしていた。まだ脳が少し寝かけているけど今日の予定を思い出してみる。さて……今日は何があったっけか? μ'sの練習だったか、それともバイトか……。もしくはそれ以外の何かだったか。

 

 まあ、そんなことはどうだっていい。俺はまだ微睡んでいたいのだ……。このお布団の温もりに包まれていたのだ。

 

 だが、知っている……俺はこのあとの展開を……。俺は布団の中で衝撃体勢を取りつつもう一度寝ようか起きるかの葛藤を繰り広げていた。

 

 俺のそんな行動も意味もなく俺の腹部に強い衝撃が襲いかかってきた。犯人は分かっている。くそっ、これは起きておくべきだったようだ。俺は布団の上に乗っているであろう幼馴染みに文句を放った。

 

 しかし、布団の上を見てみるとそこに幼馴染の姿はなく、代わりのあいつの持っているスクールバックがあった。

「もしかして、私が乗っていると思った? もうそんなことしないよー。残念でした~」

 部屋の入り口から俺のことをおちょくるように話している幼馴染がそこにいた。

 

「今すぐ襲ってやろうか、穂乃果」

「きゃー、キミに襲われる~」

 幼馴染みの穂乃果だった。冗談交じりの掛け合いもそこそこに、俺は朝練に向かう準備を始める。穂乃果には部屋から出ていってもらったが。

 ……いや、何故あいつはここにいるんだ? 今日は俺以外は家にいないし、鍵はかかっていたハズ

 

 俺は寝間着から練習着に着替え、準備を整えてからリビングに行くと、穂乃果のほかに穂乃果の妹雪穂がいた。俺は、

「お前らどこから入ってきた」

 と穂乃果に質問した。

 

 穂乃果から飛んできた答えはとんでもないものだった。

 

「何言ってるのー!! お父さんとお母さんが旅行に行ってるから、昨日から一緒に住んでるんじゃん。寝ぼけてるの?」

 

 ……そうだった。お店が少し老朽化してきたから改装工事をするとか何とかでそれを利用して旅行に行ってたんだっけ……。

「そういうこと。兄さん、だからよろしくね」

 

 手を握る雪穂……でもさ、片手でもいいよね? なんで両手で握るのかな? これって恋人繋ぎじゃないの? え? ホワッツ⁉

 

 眠い頭ではまだ理解が追い付かない。それも何故だろうか誰かに見せつけるようにしてるような気もするんだよね……気のせいかな?

 

 雪穂の瞳には俺も……もしかしたら写ってるであろうと考えた穂乃果ですら写っていなかった。……雪穂の瞳から光が一切感じ取れない。

 

 次の瞬間、雪穂が勢いよく俺に抱き着いてきた。このままでは、確実にただでは済まない……! 穂乃果も穂乃果でこっちを見て嫌な笑顔をしているし、何なんだ一体!

 

「なあ雪穂、トイレいきたいんだ。離れてくれないか?」

 

「じゃあ私もトイレいく。」

 

「そっ、それはさすがにその……不味いというか……」

 

 

 

 

 

「雪穂」

 

 嫌な笑顔は変わらない。でも声でわかる。

 

 

 

 

 怒ってる。

 

 いつも明るく元気な穂乃果だけに今の一言には、恐怖さえ抱いた。

 

「お兄ちゃんが困ってるでしょ? あ、お兄ちゃんって呼ばれるの嫌なんだっけ?じゃあなんて呼べばいいのかな? お兄ちゃん? お兄ちゃま? あにぃ? お兄様? おにいたま? 兄上様? にいさま? 兄貴? 兄くん? 兄君さま? 兄チャマ? 兄や? あんちゃん?」

 

「じゃあ、ポッチャマで……」

 

「は?」

 

 ボケたら辛辣な対応が返ってきた。その瞳は汚物を見るようだった。正直、素直で真っ直ぐな穂乃果にそんな目をされると俺は、俺は……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────興奮するじゃないか。

 

 そう言って俺は穂乃果に要求する。

 

「もっと、そんな目で見て蔑んでください」

 

 と

 

「は? なんでそんなことしないといけないの? 穂乃果じゃなくてそこであなたに抱き着いている雪……何とかさんにやってもらえば?」

 

 妹の名前すらしっかりと呼ばない穂乃果にゾクゾクと何かを感じながら、話を聞いていた。雪穂はそんな穂乃果を気にせずに俺に抱き着いている。

 

「穂乃果がいい……。穂乃果が、いいんだ」

 

 土下座の体制で穂乃果の足に擦り寄り、そっと手を這うとガン! とその手を足で蹴り払う穂乃果。

 

 そして俺は振り払われようとした穂乃果の足を受け止めた。穂乃果の足はすべすべとしていてもちっとした肌が気持ちいい。たった一瞬受け止めただけだったが……正直俺はこの時脳内の悪魔によってその後の行為を想像してしまった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは俺の妄想の世界だ。どんなことをしても許される。だから……俺は妄想する。ボンテージ姿で鞭を俺と雪穂のことをものすごく笑顔で殴ってくる穂乃果。

 

 あぁ、気持ちいい! そしてもう片方の手にはろうそくだろ!

 

 定番だけどそれがいい!!

 

 ……いや、待てまだそれが全てとは限らない!

 バニースーツでおずおずと足蹴にされるのもいいかもしれない。あえて痛がって心配させて甘えさせていただくのも甲乙つけがたいかもしれぬ。いやいやまだまだ他の可能性も……。

 

 逆に従順なメイド服を着ているのにもかかわらずこちらのことを罵倒し、さげすんでいる様子もまたいい……!

 

 そんな妄想をしていると……

「ご主人様。いい加減にしないと、息の根止めるよ?」

 

 な……なんで俺の妄想の中身が分かったんだ……!

 

 戸惑いはした。

 

 だがそれで分かった事がある。天啓とも言える……そうこれは夢だ。

 

 俺、寝ちゃってるよこれぇ~明晰夢って知ってるでしょ? 夢で夢と気付くとコントロールできるって奴。今見てる妄想はきっとそれ。

 

 だから何も気にしなくていい。

 

 俺は夢を謳歌したいのでこのまま…………

 

 俺は指を鳴らす。すると俺の思い描いた通りになった。

 それは、穂乃果の冷酷な視線に雪穂を足したものだ。

 あぁ!! 2人の蔑むような目線が俺に刺さる! もうこのまま豚になってこいつらの足元にひざまつきたい! 穂乃果と雪穂……いや、穂乃果様と雪穂様だ!

 どうかこの哀れな豚に罰をください!!!

 

 俺がそう切実に願った瞬間、漆黒の黒が俺を包み込む。……俺は何を考えていたんだろう。

「はぁ? お前らご主人様にどんな態度取ってんだぁ?」

 俺のことをなめた目で見てくる穂乃果たちに睨めつけながら話す。俺に睨まれた穂乃果たちは途端に目とトロンとさせて俺のことを愛おしそうに眺めてくる

 

「ご主人様~。穂乃果が間違ってました……。だから、だからもっと穂乃果を罵ってください! お願いします! 何でもしますから!」

 

「あ! お姉ちゃんずるい!! ご主人様! 私も、罵ってください!」

さっきまでの態度とは一変してそんなことを言いながら2人は俺自身にすり寄ってくる。

 

 ……いいじゃないか。穂乃果と雪穂が俺に抱き着き始める。雪穂は先ほどのようなきつい抱きしめ方ではなく、優しく、そして穂乃果はそれに包み込むように。

 

「何でもする……ねぇ~? じゃあ2人とも、俺の遊び相手になってももらうぞ」

 

「ご主人様の遊び相手!? やりますやります! 穂乃果は何でもやりますよ!」

 

 ……夢のような出来事だった。指を鳴らした途端早変わりするような世界が夢の世界でないのならどんな世界なのだろうか。

 

「ねぇ、ご主人様。お姉ちゃんにいつも先越されちゃうけど、私にも何をしてもいいんだからね」

 

 頬を赤らめ、少し恥ずかしそうにつぶやいているが目がトロンとしたままで俺に魅了されているのは明白。……しかし、恥ずかしいからといってブンブンと俺のことを殴るのはやめてくれないか。マジで痛いのだが。

 

 ……痛い? 夢なのに? もしやこれは現実!? まだ決めつけるには早いがこれは夢でない可能性も考えてもいいのかもしれない。

 

 俺はもう一度指をパチンと鳴らす。

 

 すると俺の目の前にはチャイナドレスを着た穂乃果と、メイド服を着た雪穂がいた。雪穂に至っては露出度が高く胸と、下半身を隠す程度の布の量しかった。

 

 これから遊ぶのは……ポッキーゲームだ。俺はキッチンにおいてあるポッキーを取り出しチョコ側を加え穂乃果のほうに差し出す。

 

 穂乃果はどんなことをしようそしているのかを理解したようですぐさま持ち手部分のチョコのないほうを加えバリバリと食べていく。

 

 次第には俺に穂乃果の鼻息が当たるまでの距離になった。ちなみに俺は一切動いてない。

 

 後5㎝程度で穂乃果とキスができる……。

 

 

 

 

 

 後4㎝……。

 

 

 

 

 

 

 後3㎝……。

 

 

 

 ちょうどその瞬間にリビングのドアが空いた音がした。そこにはもう一人の幼馴染園田海未が立っていた。

 

 ……ヤバイ。しかし俺には妄想を具現化させる能力がある可能性が高い。だから俺は海未も仲間に入るよう妄想する。一部の隙もない妄想を……。

 

「……あなた」

 

 熱が困った声で俺のことを呼んでいる海未……。

 

「あなたたちは……」

 

 その間も穂乃果はポッキーを食べ続け、あと1㎝も残されていない。……勝った! これで俺の勝ちだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう思ったのもつかの間、

「あなたたちは朝から何をやってるのですかー!!」

 海未の回し蹴りが俺の側頭部に直撃。回転しながらテーブルに向かて飛ばされる。……何なんだ!? 俺の妄想は完璧じゃなかったのか!?

 

「う……み……。なぜ……」

 

 意味が分からない。俺は妄想を具現化させる能力に目覚めたはず……。

 

「朝からなんて破廉恥な真似をしているのですか!! 早く練習に行きますよ!!」

 

 ……うん。これは現実だ。指を何度も鳴らしても俺の海未に対する妄想は発動しなかった。……もう、穂乃果たちに対しても。

 

 これでよかったのかもしれない。それはその場で立ち上がり、海未と迷惑をかけた穂乃果たちのほうに向かって歩き出した。

 

 曲がるはずのないほうに曲がっている腕を見せつけながら……。

 

 




今回参加者は……
主催者『そらなり』、参加『文才皆無。』さん、『うぉいど』さん、『5代目の鍵使い』さん、『雪桜(希う者)』さん、『名前はまだ無い♪』さん。その他1名の方でお送りしました。

この度の参加、ありがとうございました。力及ばずの部分があり迷惑をかけたかもしれませんが、とても楽しかったです!


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あったかもしれないただの平凡な日常

どうも、そらなりです。

一向にポケモンクロスを書いてませんが、穂乃果の誕生日ということでこの話を書かせていただきました。ハーメルンで上げた作品では3作品目となるえみつんの楽曲回。今回は『Dear everyday』という曲でお話を書かせていただきました。

今回のお話では現実世界とは異なる点があります。その辺はご了承ください。

それでは、何気ない毎日を過ごす彼女をご覧ください!


 ピッピッピッピッピッピッピ―――――

 

 私は自分のセットしたアラームによって強制的に起こされる。……まぶしい。どうやらカーテンの隙間からサンサンと輝く太陽の光が部屋の中に入っていることに気が付いた。

 

 少しだけぬくぬくするのがいつものことなんだけど、今日は自然とそんな気分にはならなかった。だからひとまず目を覚まそうと窓を開けて外の空気に触れる。大きく深呼吸して外の空気を体内に取り込む。

 冷たい空気が体内に入ってくるとすっきりした気分になり、次第に目は冷めていく。……結局眠いのは変わらないんだけどね。

 

 とりあえず私は朝食を食べるため1階のリビングに向かった。

 

「おはよ~」

 

「お姉ちゃん、おはよう」

 

「今日は少し早いわね。おはよう」

 

 もうリビングにある待っていたお母さんたちに私は挨拶をして2人は返してくれる中、お父さんだけが私に近づいて頭をポンポンと叩いて挨拶をしてくれた。

 

 目は覚めたといってもまだ完全に覚醒しているわけじゃない。いつも朝に飲むあたたかいカフェラテを作って一口飲んだ。

「ふぅ~……」

 そんな時間にほっとしながら今日の予定を思い出す。確か……いつも通り学校に行って、なんか今日は朝会があるみたい。けどそれ以外は授業をして、μ'sの練習をするくらいかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食も食べ終わり準備をして家を出る。私の家はμ'sのみんなに比べると少し遠い。駅を何個もはさむ。いくら遠くても音ノ木坂に通いたかったから私は高校生活が始まった時からずっとこの生活をしていた。

 見た目は昨日とほとんど何も変わらないのかもしれないけど、今日という日はこの時だけしかない。だから、もうすでに始まっている特別な1日を楽しまないと損だよね! 何が起こるのかわからないんだし!

 

 あ、そうそう。私の名前は高坂穂乃果! 音ノ木坂学院に通う高校2年生! 家と学校の距離は少し遠いけどどうしても行きたい学校だから頑張っちゃった。最初は友達とかはいなかったんだけど1年生の時に同じクラスになった園田海未ちゃんと南ことりちゃんの3人で毎日楽しい学校生活を送っていたんだ。

 

 だけど、音ノ木坂が廃校になることを知った。生徒数の減少によるものだったみたい。あんな素敵な学校が無くなるなんて嫌だった……。

 

 だからね! スクールアイドルをして生徒数を増やそうとしたんだ! それが『μ's』。今はなんと! 9人もいるんだよ!

 そのおかげもあって入学希望者は増加、何とか音ノ木坂学院は存続することができたんだ。

 

 これはすごく大きな奇跡だったんだと思う。でも、見方次第で私たちは毎日奇跡に触れているんだ。無自覚のうちに、無意識のうちに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことを考えながら私は駅までの道を歩いていたんだけど……ってあれ? いつもこの信号で止まっちゃうのに今日は青だ。あっ! そうか、今日は家をいつもより5分だけ早く出たから少し違うんだね。

 

「なんかラッキー!」

 

 そんなこともあって少しだけ早くに駅に着いた。駅のホームの電光掲示板を見るともうすぐ快速の電車がくるみたい。

 

 この時間はみんなも通勤通学の時間。だからラッシュアワーになって電車っていつも混むんだよね。でも快速の電車だし少し早く学校につけるから我慢しないと!

 

 私はやってきた快速電車に乗り込んだ。幸いなことに背中を座席の壁に預けられる場所に自分の体を置いた。目の前には普段見慣れない制服を着た男子生徒がいる。黒髪で少しキリッとした目をして、身長は私より頭1個分以上ある。歳は同い年くらいかな? ……なんで私、この人のことこんなにじっくり見てるんだろう?

 

 まぁいいや! スマホを起動して毎日の日課であるネットの占いコーナーを見てみた。私の誕生日は8月3日だから……。うーん、8月の総合運は11位か。しかも恋愛運は最下位……。

 

 この結果に少し肩を落とす私だけどそれは一瞬の出来事だった。なぜなら……占いは占い、気になることはあるけど実際は何が起きるかわからないのが毎日なんだもん! 今日はどんなことがあるのか楽しみで楽しみで仕方ないよ! それに恋愛は……今日がダメでもいつかきっといい出会いがあるはずだもん。1日だけの悪い運勢を気にしていたって仕方ない。

 

 気分をリフレッシュするために私は駅のドアから外の風景を見渡してみた。……わぁ~!! すごくきれい……。少し時間が早いだけでこんなにも景色が変わって見れるんだね。目の前にあるのは人の作った建物とかが多くて自然入ってしまえば少ない。なのに、目の前の太陽の光と一緒になっているその風景はとても神秘的なものに思えた。

 

 私が外の風景を見ている時に前にいる男性が私の近くにいた男の人と何か話してる……。同い年くらいの彼の表情は少し怒って様子で、男の人は何やら困ったような表情を浮かべている。怒られているからなのかその男の人の額には冷や汗が流れていた。

 

「あんた、自分がやろうとしていたことが犯罪だってことに気が付かないのか?」

 

 彼が男の人に向かって話しかける。相手の右手首をつかんで。何があったんだろう? 犯罪って……?

 私の中に疑問がいっぱい出てくる……。その間も男の人は彼にごめんなさいとずっと言っている……。

 

「まだ、未遂だったからいいけどせめて気が付いたんだったら目の前にいる子にくらい謝ったらどうだ」

 

 目の前にいる子……? それって私のこと? 何もされていないのに謝られるのって少し戸惑っちゃうんだけど……。

 

「君……。今回は本当に申し訳なかった!」

 

 満員電車の中でわざわざ頭を下げてまで謝る男の人。何が何だか理解していないんだけど……。

 

「大丈夫ですよ。特に何かがあったわけでもないですし」

 

 とりあえずそう返して話を終わりにする。私の言葉を聞いた男の人はほっと一安心している様子だった。余程、心配していたらしい。

 

 彼も安心した様子で見届けていた。本当に何だったんだろう? そんな疑問を持った私は気が付くと降りる駅の秋葉原駅についていた。

 

 私はさっきの男の人に会釈をして電車を降りる。あ、彼も降りた。……少し気になるな~。聞いてみよう!

 

「あの、さっき何があったのか教えてくれてもいいですか?」

 

「え? 気が付いてなかったの? 君、痴漢されそうになっていたんだよ。女の子なんだから満員電車には気を付けてね」

 

 え……? えぇ~~~~!? 私痴漢されそうになってたの!? ってことはこの人がそれを止めてくれたってこと!?

 

「あ、ありがとうっていえばいいのかな? 防いでくれたんだよね? だからありがとう!」

 

「……どういたしまして。じゃあそろそろ俺は行くね。それじゃ!」

 

 私がお礼を言うと彼は去っていった。何か少し驚いている様子と急いでいる感じがしたけど何だったんだろう? 今日はいろいろといつもとは違うことが起きるな~なんて思っちゃう。とにかく、何も起こんなかったんだから良しとして学校に行こう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駅から学校までは10分くらいで着く。学校までの道では特に何もなく終わった。うん。これが普通なんだよね。さっきのは珍しすぎることだったんだよ。あ、海未ちゃんにことりちゃんだ! μ'sのみんなもいる!

 

「みんな! おはよう!」

 

 私はみんなに挨拶をして微笑みかける。なんだかんだで衝撃なことがあったけど学校はみんなと一緒に過ごせる素敵な場所で、この時間が大好き! 挨拶はそれが始まる秘密のキーワード。みんなが笑顔になる魔法の言葉。

 

「おはようございます。穂乃果」

 

「おはよう! 穂乃果ちゃん」

 

 私に向かっていち早く挨拶を返してくれる海未ちゃんにことりちゃん。何と2人は幼馴染なんだって! それと……

 

「穂乃果ちゃんおはよう」

 

「おはようにゃ!」

 

 ここにいる小泉花陽ちゃんと星空凛ちゃんも幼馴染なんだって。仲よさそうにしている所を見ているとなんか微笑ましくなっちゃうんだよね~。

 

「おはよう、穂乃果」

 

「穂乃果ちゃん、おはよう」

 

 そして生徒会長の絢瀬絵里ちゃんと副会長の東條希ちゃん。2人は1年生の時に出会って以来ずっと一緒にいるんだって!

 

「穂乃果、おはよう」

 

「おはよう、穂乃果」

 

 肩にかかった赤髪をくるくるといじりながら返してくれる西木野真姫ちゃんとそんな真姫ちゃんに抱き着いている矢澤にこちゃん。結構似た者同士で仲がいい。

 今日はここから学校生活が始まる。一体どんなことが起こるんだろう……。楽しい1日になるといいな。それが私の願い。

 

 学年が違うから花陽ちゃん、凛ちゃん、真姫ちゃんは1年生の教室に。絵里ちゃん、希ちゃん、にこちゃんは3年生の教室に向かった。

 

 朝礼があるというらしいから私たちは朝のHRが終わり次第体育館に向かった。……いったい何があるんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全校生徒が集まっている状況で朝会が始まった。壇上には理事長が登壇していた。話の内容はこの学校に入学希望者が多くいたことで廃校が撤回されたという話だった。そして次に生徒会の世代交代があるということ。確かにもう2学期に入って文化祭が終わったころ。生徒会選挙が始まる時期。でも私にはあまり関係ないかな~。

 

 そんなことを考えていたんだけど、次の発表はとても衝撃的なものになった。

 

「そして、今日からこの学校に通うことになった転校生を紹介します。……みんなどんな人か気になるでしょ?」

 

 確かに転校生というのは気になる。他学年であってもわざわざ確認しに行くくらいだし、ここでどんな人なのか知れるのは学校内の混乱が少なくするためのものなのかもしれない。

 でも、私はそんなに気にしていなかった。その転校生の姿をこの目で見るまでは。

 

「今日からこの学校に通うことになりました、初音島の風見学園から転校してきた時坂空也です。今日ざっくりとこの学校を見てみましたが、生徒1人1人がとても楽しそうに生活している姿を見て自分もそのような学校生活がここで過ごせたらなと思います。これからよろしくお願いします! 特に2年生の人たちには」

 

 壇上にいたのは見慣れない……ううん、さっき少しだけ見た制服に身を包んだ私を痴漢から救ってくれた彼がいた。でも、初めて聞いたはずのその名前には妙に懐かしい不思議な感覚を覚えた。

 何だろう……? ずっと前から一緒にいたようなそんな気がする。そんなことを感じたからなのかわからないけど頭が高速で回転するような感じがしてひどい頭痛がし始めた。でもそれも数秒のこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そうか。もっと前から一緒にいたんだね。"空也君"今朝は本当にありがとう。そして、また会ったね。な~んだ、やっぱり占いも当てにならないね。ここでまた巡り合ったよ。私が恋して、大事に想って、一番支えたい人にこの場所でもう一度。

 思い出した瞬間から私の瞳にはうっすらと雫が溜まっていたことに気が付く。本当にあったよ。かけがえのない出会いが。私は決めた。絶対に空也君に話しかける! また同じ学校に、同じ学年で生活できるんだもん!

 

 心にそう誓う。だって空也君は私にとってただの恩人だけじゃない愛おしい人なのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空也君は壇上から降りてこの朝会はお開きとなった。今日の1時間目の授業はLHR。だから今日、朝会があったんだと思う。クラスに戻ってことりちゃんと海未ちゃんと話していると先生が教室に入ってきた。

 

「みんな~。喜べ~転校生はうちのクラスだぞー」

 

 私はこの言葉がどういう意味なのか瞬時に理解した。だってそう願いたかったんだもん。みんなはポカンとしている様子だけどそれも少しの間だけ徐々にみんなが意味を理解していき教室には黄色い歓声が広がっていった。

 

「まぁ、落ち着け。それじゃあ入ってきて」

 

 先生の言葉で教室は再び静まり返る。そしてガラッと教室のドアが開いた。だけど前の扉からは誰も入ってこないし扉さえ開いていない……。先生が前の扉を見ていたからなのかみんなは先生と同じところを見ていた。……でもなんかしっくりと来ないと思った私はなぜか後ろのほうを見ていた。

 

 すると、空也君が入ってきたのは後ろの扉からだった。

 

「お。つられなかったのは高坂だけだな」

 

「1人だけこっち見てましたね」

 

 空也君はそう言いながら黒板前まで歩いていく。少しだけ驚いた表情をしていたけどそれはすぐに戻り平常心のまま私たちのほうに振り返った。

 

「えっと、今日からこのクラスの一員になった時坂空也です。趣味はダンスと料理。特技は秘密です。よろしくお願いします」

 

「だそうだ~。今日はこの後時坂への質問タイムにするからあとは自由にやってくれー。後時坂の席は一番後ろの窓側な」

 

 ……それって私の後ろじゃん!? 前も同じだったよ! 空也君私の後ろの席だったよ!! でも、正直嬉しいな。いろいろと話すきっかけが作れるのは。話すんだったら何を話そう……さっきのお礼をもう一度言って、私が覚えていること言ってみようかな? そんなことを考えている間に1時間目の時間は終わった。

 

 空也君が自分の席に着く。

 

「ねぇ! 時坂君! さっきは本当にありがとう!」

 

「あっあぁ、君か。やっぱりここの生徒だったんだ」

 

「うん! 私の名前は高坂穂乃果! よろしくね」

 

「高坂……穂乃果。うん、覚えた。よろしくね高坂さん」

 

 他人行儀に苗字で呼ぶ空也君。仕方ないのはわかるんだけど少しだけ悲しいな。って私もやってたね。

 

「穂乃果のことは名前で呼んで! 呼び捨てでお願い」

 

「え……? 会ったばかりなのに?」

 

「うん! その代わり私も空也君って呼ぶから」

 

「っ!! あぁ、わかった。穂乃果」

 

 ……あれ? 少し変化があった気がするけど気のせいかな? でも、また私のことを名前で呼んでくれるようになったんだ。やっぱり空也君には名前で呼んでもらう方がしっくりくる!

 

「ありがと! ねぇ……私たちがずっと前、もしかしたら生まれる前に逢っていたって言ったら信じる?」

 

 ずっと気になっていたこと。もしかしたら空也君には私と違って記憶がないのかもしれない。そして、その答え次第で私自身が傷つくかもしれない。だけど聞いてみたい。これが今の私の願い。

 

「あぁ、信じるぞ。なんたって俺はカテゴリー5の魔法使いだからな」

 

 本物だ……。空也君は魔法のことを簡単には話さない。この空也君は私と一緒で前の記憶がある。私と海未ちゃんとことりちゃんの幼馴染でμ's専属の作詞家。そして最高ランクの魔法使い。

 

 分かった瞬間、朝会の時の比じゃないほどの涙があふれてくる。空也君は私と今まで一緒にいてくれた人だ。それだけで今の私には十分だった。文化祭で熱を出した時に私のことを考えてライブの構成を変更してくれたり本気で叱ってくれた。あの時の記憶が今でも残っている。

 

「って言っても思い出したのは、穂乃果に名前を呼ばれた時なんだけどな」

 

「え!? ついさっきじゃん!!」

 

 空也君のカミングアウトに涙止まっちゃったよ!! でもやっぱり空也君らしい。これからの学校生活がもっと楽しくなりそう!

 そんな予感に包まれながら午前中の授業を乗り切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今はお昼休み。空也君と一緒の時間を過ごしたくてある誘いを入れてみる。

 

「ねぇ! 空也君! 屋上に行こ!」

 

「あぁ、いいぞ」

 

 空也君は二つ返事で答えてくれた。だって屋上は私と空也君の特別な場所だから。あそこにまた2人で行きたい。

 

 海未ちゃんとことりちゃんに断りを入れてから2人で屋上に向かった。2人だけでここに来ると少しだけ緊張しちゃう……。

 

「すぅ~」

 

 深く息を吸ってドアを開ける決意をする。この扉を開けるとそこから昨日までとは違う本当の意味で新しい今日が始まる。最愛の人との出会いによってこれからの毎日はとても特別でかけがえのないものになる。

 

 こうして時間を超えて空也君に出会えた奇跡。ささやかだけど特別な奇跡は毎日起きてるんだよ!

 

 だからこんな日常も捨てたもんじゃない! 空也君、この世界でもこれから、もっとよろしくね!

 

 




改めて……穂乃果、誕生日おめでとう! μ'sのみんなを大事に想って、ひたすらに自分のやりたいことに突き進んでいくあなたが大好きです。これからもよろしく!

ってことで今回読んでいただきありがとうございます!

それでは次こそポケモン回! ……って言いたいところなんですけど構想はできていても書く時間がないのでどうなるのかわからない状況です。

まぁ、気長に待っていてください。

それではまた次回もしかしたらの世界で会いましょう!


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せりなが困っているバンドを助ける話

どうも、そらなりです。

最近イロドリミドリというバンドにはまり始めた結果、書いちゃいました。今回は1人だけの登場ですがどうぞご覧ください!


 イロドリミドリのリーダー、ドラム担当の芹菜です。今日は1人で秋葉の街にやってきました! 実はあーりんとかなずなちゃん、なるるんに凪ちゃんも夏のコミックキングダムっていうのに行ってて私だけ行けなかったんだ……。だから今日は1人で秋葉の街を満喫することにしたの!

 

「うわ~!! やっぱり秋葉の町は良いな~! っとまず最初はCDショップに行くんだった! あーりんが好きなセガオワの新譜が出てるんだっけ。じゃあ、早速行きますかー!」

 

 私がCDショップに行くとそこにはやっぱりいろいろなアーティストさんのCDが置かれていました。セガオワのCDもしっかりとゲットして満足していたんだけど……そこで私はあるものを見つけてしまったのです。

 

 それは……

 

「あー!! この前あーりんとなずなちゃんと演奏した『あーりん』だ! あれ? 本当は『えーりん』何だっけ?」

 

 目の前にあるCDには『Help me,ERINNNNNN!!』と書かれた表紙。この曲を聞いて思い出すのは、やっぱりコスプレして演奏したことかな? ……うん! これも買っておこう!

 

 私はもう一度CDの会計を済ませるとそのCDショップを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次はどこに行こうかなー。せっかくの秋葉だからもっと楽しみたいし! あ……そういえばそろそろスティックのストックが無くなってきたんだった。ここまで来たんだし、買っておこうかな。

 

 そう決めた私はすぐさま楽器屋さんに入っていった。たいこ用のスティックをいつもと同じ奴を5セット買うことにした。

 

「スティックはこれじゃないとね! ずっと使ってたからすぐ手に馴染む。この感覚はほかのじゃ手に入らないからね」

 

 ずっと前からこのスティックを使ってた。このスティックを初めて触った時、これならいい演奏ができるってそう感じてこれまで演奏してきた。

 特別な出会いがあったわけじゃないけど、ずっと同じ奴を使っているから思入れはすごくある。だって私の演奏はこのスティックと一緒にあったから。

 

 うん! これでストックも補充できたし、あとは思う存分遊ぶぞー!! あーりんたちに自慢できるように!

 

 と意気込んでみたはいいものの……

 

 急に私の体の中からある音が鳴った。音が出てきたのはお腹から……。

 

「……お腹すいちゃった。うーん、ここはカレーを食べて敵情視察をするか、それとも秋葉らしいものを食べるか……」

 

 私が悩んでいるととある会話が聞こえてきた。

 

「なぁ、穂むらに行ってもいいか? 久しぶりに揚げ饅頭が食べたくなったんだよ」

 

「うちに来るの? でも、空也君自分で……」

 

「自分じゃダメなんだって。穂むらの揚げ饅頭が食べたいんだよ」

 

 ……お饅頭。そういえば最近は全然和菓子関係食べてなかったな~。家がカレー喫茶っていうのもあるんだけど、話を聞いてると食べたくなってきちゃった。うん! 今日のお昼は和菓子にしよう! うぅ!! お昼に和菓子なんて女の子としては贅沢だな~!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ということで私は今、和菓子屋さんの『穂むら』というところに来ています! 近くにはさっき話していた男女2人組がいます。……でも、あの女の子はどこかで見たことがあるような気がするんだけど……。

 まぁ、今は和菓子を食べることにしましょう!

 

「すいませーん! 注文良いですかー!!」

 

 私は声を上げて店員さんを呼んだ。やってきた店員さんは中学生くらいの女の子だった。

 

「はーい。ご注文はお決まりですか?」

 

「うん! え~っと、このあんみつと揚げ饅頭、それとこの穂むらまんじゅうを1つずつ!」

 

「……! あ、えっとあんみつと揚げ饅頭と穂むらまんじゅうですね。かしこまりました。少々お待ちください」

 

 私が注文をすると店員さんの子は少し驚いた様子を見せた。ん? なんでだろう……。あ、さっきの2人組と話してる。もしかして知り合いだったのかな?

 え……? 2人組の女の子のほうがこっちを見た? なんで? 私はただ注文しただけだよね? あ~助けてあーりん! って違うか。

 まぁ気にしていても仕方ないし来るまでとにかく待ちましょう。

 

 待つといっても、そこまで時間がかかるわけじゃないんだけどね。私の頼んだ3つはすぐにやってきた。……持ってきたのはさっきの店員さんじゃなくて私のことを見ていた女の子だった。

 

「お待たせしました! あんみつと揚げ饅頭、そしてほむまんです!」

 

 オレンジがかった髪の毛の色をしている右にサイドポニーをしている青い瞳の女の子。そして驚くことは……私と声がおんなじということ。

 

「ありがと~!」

 

「わ! 本当に声が同じだ!」

 

 あ、じゃあさっきこっちを向いたのは店員の女の子から声のことを聞いたからなのかな。それなら納得。それにしても話し声が似ている人っているんだ。

 

「ねぇ! あなたの名前は? 私は高坂穂乃果!」

 

「私は、明坂芹菜。よろしくね! 穂乃果ちゃん!」

 

 ……ん? 高坂穂乃果……。そういえばどこかでその名前を聞いたような……。あ! スクールアイドルμ'sのリーダーの子じゃん!

 

「うん! よろしくね! 芹菜ちゃん! って明坂芹菜……? もしかしてバンドやってたり?」

 

「やってるよ。イロドリミドリってバンド! そういう穂乃果ちゃんもスクールアイドルやってるでしょ?」

 

「そうだよ! μ'sってグループで活動しているんだ!」

 

 やっぱり私の記憶は正しかったみたい。それにしても私のことも知ってるなんて意外だったな~。まだ学校以外で演奏はしてなかったはずなんだけど。

 あ、このあんみつおいしい。餡子の甘さは控えめで、黒蜜の甘さとけんかせずにお互いを強調しあってる! この揚げ饅頭はさっきのあんみつの餡子よりも甘さをほんの少し強めにしていて生地も揚げてあるから表面はしっかりとサクッとしている。その揚げ饅頭とは違ってもちもちとした食感の生地に今までの中で一番甘めにしてある餡子が口の中に広がる。……美味しい! うーむ……再現できるかな……。

 

 そんなことを考えながら食べてると穂乃果ちゃんから声がかかる。

 

「芹菜ちゃん、芹菜ちゃん! どうかな? うちの和菓子」

 

「うん! どれもおいしいよ! お土産にちょっと買って行こうかな」

 

 どれもおいしかった。これはみんなに食べてほしい。そう思ったから、せっかくだしお土産にしよう!

 

 とそんな話をしているとすっかりテーブルの上にあった和菓子たちはなくなっていた。お腹もいっぱいになったし満足満足! 私はお土産と一緒にお会計を済ませてまた秋葉の町に行こうとした。

 

 だけど、なんかお店の中で一つの男声の声が聞こえてきた。どうやら電話をしているみたいだった。

 

「はぁ? キーボードとドラムが風邪で倒れた? わかった。キーボードは俺がやるから、ドラムはそっちで……」

 

「私がやる!」

 

 ドラムなら私ができる! バンドは本番までいっぱい練習を重ねて人に見せられるようになるまで努力して来てる。それを無駄にすることなんて、しちゃいけない。たとえ見ず知らずの人でも、土壇場でどうにかしようとしている人が本気じゃないわけがない。だから手を貸してあげたい。そう思った。

 

「えっと……。あぁ、君はドラムができるのか。やってくれるのかい?」

 

「うん! そのバンドの人もいろいろ頑張ってきたと思うから、それを無駄にさせたくない。だから、やらせて」

 

「ありがとう。ドラムのできる人を見つけた。今からそっちに行くから待ってろ」

 

 電話越しにそう言った男の人はすぐに電話を切る。

 

「悪い。多分分かると思うけど、バンドの手伝いすることになったから、先行くな」

 

「うん。まだ少し時間あるよね? あとで行くから、カッコいい所見せてよね!」

 

「もちろん! じゃあ行こうか。えっと確か明坂さんだったっけ。俺は時坂空也。これからよろしく」

 

「うん! 時坂君ね。わかったよ!」

 

 私は時坂君についていった。まさかここにきてたいこをたたけるなんて、少しでも力になれたらいいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は秋葉のイベントとしてバンドのライブがあったみたいで、それに参加するということだった。……やれる曲は多くて3曲みたい。やったことのある曲なら問題はないけど、もしやったことのない曲だったら即興で覚えないといけない。特にリズム隊であるドラムはバンドのかなめ……。

 

「なぁ、それでいったいどんな曲をやるんだ? それさえもわかっていないんだけど」

 

「えっとやる曲は『No brand girls』と『Help me,ERINNNNNN!!』最後に『Change Our MIRAI!』です。時坂先輩はできると思うけど……」

 

「……って君はイロドリミドリの明坂芹菜さん!?」

 

「え!? 本人!?」

 

「うん。イロドリミドリのドラム担当、明坂芹菜です! 良かったー全部知ってる曲だ。最初の曲は叩いたことがないけど曲自体は覚えてるからすぐにできるよ!」

 

「俺も大丈夫だ。しかし、歌はどうするんだ? 全員で歌うのか?」

 

「『Change Our MIRAI!』に関してはみんなで歌います。『Help me,ERINNNNNN!!』は基本歩が歌いますが、コールは他でって感じで、『No brand girls』は俺とドラム、キーボードで歌うはずでした」

 

 ってことは私が歌うのは『No brand girls』と『Change Our MIRAI!』か……。うん! 大丈夫だ! あ、でも今回はあーりんって言わないようにしないといけないんだよね。うぅぅぅ……強敵だ~!

でもこの人たちの努力は無駄にさせたくないのは本当だし、やるしかない! ごめんね、あーりん!

 

「じゃあ、1回だけ合わせてみるか。それぐらいはできるんだろ?」

 

「えぇ。ですが本当に1回だけです。そろそろ時間なので行きましょう」

 

 リハは1回の通しだけ……。触ったことのないたいこでどこまでできるか……。ううん! 弱気じゃダメ! しっかり自分に合ったセットをすればできる! ちょうどスティックもあることだし、きっと大丈夫!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからリハが始まった。私はいつもの調子でドラムをたたく。『No brand girls』は少しだけてこずったけどなんとなく感覚はつかんだ。本番ならもう少しだけいい演奏ができる自信がある。

 でも、意外にも『Change Our MIRAI!』はいつもの調子だとかなり違うことに気が付いた。あ、そうか。もう少し早いんだこの曲。

 

「ねぇ。『Change Our MIRAI!』なんだけどもう少し早くできるかな? 確かに少し暗めな曲なんだけど、それでもその暗さを曲の遅さにはしていないんだ。だから遠慮なく弾いちゃっていいよ!」

 

「やっぱりそうか。少しドラムが走っているような気がしたからもしかしてとは思ったけど。わかった。冒頭はこれくらいでいいかな?」

 

 そう言って時坂君は頭の部分を理想に近い形で弾いて見せた。それを聞いたギターとベースの子もそれに合わせて近い形になってきた。これなら遠慮なくたいこをたたける!

 

「そうそう! そんな感じ! 後は大丈夫だったから音楽に合わせて歌えばもう大丈夫! って時間は大丈夫?」

 

「えぇ、問題はありません。このあともう一組で手から出番ですから」

 

 ベースを持った子が置きながら私に順番を教えてくれた。そうか、まだ時間はあるんだ。じゃあ……

 

「私少し歌詞を見てくるからちょっと待ってて!」

 

 『Change Our MIRAI!』は全然大丈夫。……でも『No brand girls』は1番と2番がごちゃごちゃになっている。このままじゃだめだ。少しでも長く歌詞を読んでおいたほうがいい。

 

 すると後ろから時坂君の声が聞こえてきた。

 

「それ、俺の書いた詩なんだ。わからないところがあったら聞くよ」

 

「ううん。大丈夫。1番と2番がごちゃごちゃになっちゃってただけだから。しっかりと歌詞を見れば大丈夫なんだ」

 

「そう。さぁ、そろそろ時間だ。さっき穂乃果と話していたから知ってると思うけど、君は穂乃果の声に似ている。だから『No brand girls』は思いっきり歌ってくれ。そうしたほうが君に合ってると思う」

 

「うん! わかった。じゃあ行こうか。時坂君」

 

 そうして私たちはステージに向かった。初めて演奏をするメンバーとともに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まずは、さっき頑張って歌詞を覚えた曲『No brand girls』から始まる。歌詞を書いたという時坂君が初めのパートを、その次にベースの子が歌い私の番になった。話を聞くとこのパートは穂乃果ちゃんが歌っているところだという。でも最初の曲はワンコーラス。そこからサビに入って1曲目は終わった。

 

 演奏途中に観客席にいる穂乃果ちゃんを見つけて、この曲が来たことに驚いていた。まぁ、自分の曲が急に来たら驚くよね。でもそこから嫌な顔は一切見せず、むしろ演奏を楽しんで盛り上がって聞いてくれていたのが見えた。

 

 次の曲からはやったことのある曲。『Help me,ERINNNNNN!!』。コールのほうを担当することになっているから精いっぱい頑張ろう。……あーりんって言わないように。

 

 私のスティックの音から始まる『Help me,ERINNNNNN!!』は歩と呼ばれた子が歌いだし、軌道に乗った。この曲はワンコーラスというわけにはいかず最初のサビからえーりんコールが続いて最後のサビに。観客たちとコールをして現在の会場の雰囲気は最高潮まで高まっていた。

 

 曲が終わると少しだけ間ができる。でもそれはトラブルとかではなくわざと作ったもの。……あーりん、なずなちゃん、なるるん、凪ちゃん行くよ。イ・ロ・ド・リ・ミ・ド・リ 単位を~ゲットー!!

 

 この掛け声が心の中でできると私は他の3人にアイコンタクトで準備ができたことを伝える。私たちのうただもん、やっぱこれをやらないと!

 

 少し暗めの演奏からはいるこの曲『Change Our MIRAI!』そして私のたいこの音から曲は軌道に乗り出す。そして歌が始まる前にギターで完全に曲は進む。まっすぐに、観客のみんなに届けるように。

 

 今回も空也君の歌いだしで始まる。最初に歌ってるのはキーボードの凪ちゃんだから。そこはしっかりと再現するみたい。そして凪ちゃんパートが終わるころみんなで歌う場所が出てくる。そこもしっかりと声をそろえて歌うことができた。

 

 続いてなずなちゃんのパート。ギターの子が歌い始める。私たちのバンドにはギターが2人いる。だからこのバンドでやるとギターの子が少し大変だけどしっかりとできている。次は私のパート。

 

 サビにつながるパートに渡すとても重要な場所。私のところから少しだけ曲調が変わり始める。嵐の前の静けさのように。

 

 私が歌い終わるとベースの子が歌い始める。このパートはなるるんのところ。そしていよいよサビが始まる。

どんなことがあってもまっすぐ進み続けることを曲にした。みんなで言葉を出し合ってなずなちゃんが作った曲。サビには私のソロが少しだけ入っている。あーりんとの掛け合いのように歌う場所。だから受け取ってね、ギターの男の子!

 

 私の想いは通じたみたいでしっかりとギターの子は歌ってくれた。そのままサビを歌い切り、休むことなく最後のサビに。

 

 ここからはギターの君の見せ場だよ。しっかりとね! あーりんみたいにとは言わない。だけど君らしく、君の思う最高の表現でここにいるみんなを圧倒しちゃって!

 

 一瞬だけ完全な無音が会場を支配した。……ここからだ。

 

「走れ!」

 

 今回も私の想いは通じた。そう、ギターの子はやり遂げた。でもこれで終わりじゃない。ここからさらに盛り上げていくよ!

 

 演奏は激しくなり、またほんの少しの私のソロパートになる。あれだけのものを見せられたんじゃ、やり遂げるしかないね! 行くよ。これが私の全力だ!

 

 みんなの全力が見えたところでこの曲は終わる。私たちは未来を変えられるという歌詞を最後に歌い切って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会場は歌い終わると一瞬の静寂に支配された。……しかし、次の瞬間客席からは大きな拍手の音が鳴りだした。

 

 今回のライブは即興であったとしても大成功と呼べるものになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私たちは会場を後にして一休みしていた。すると……

 

「今日は本当にありがとうございました!」

 

「本当に助かりましたよ! 風邪で2人が倒れたってなってもうだめかと思ってたのにここまでできて……」

 

 そうだよね。せっかく練習してきたのが無駄になっちゃうのはやっぱり悲しいよ。

 

「まぁ、本当に明坂さんがいたことが奇跡だよな。お礼を言うなら彼女にだな」

 

「いやー。私も思う存分たいこ叩けたから楽しかったよ! 今日はお疲れ様。また次のライブ、頑張ってね!」

 

 同じバンドをやっている人としてしっかりとしたメンバーでまたやってほしい。強くそう思った。そしてまた似たようなイベントであってみたいな。この子たちと。

 

 あ、そうそうギターの子は三条歩って子で、ベースの子が星空タクト君っていうんだって。だからまたこの2人に会えるのを楽しみにしつつ、私と時坂君はこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい! 空也くーん、芹菜ちゃーん!」

 

 会場だったほうから穂乃果ちゃんがやってきた。その顔は笑顔。つられて私も笑顔になっちゃうくらいだった。

 

「穂乃果ちゃん! どうだった? 私の演奏!」

 

「すっごく良かったよ! 『No brand girls』が穂乃果のところを違った感じに歌ってるし、ドラム叩きながらえーりんってしているところがすごかった! あと芹菜ちゃんのうたを生で聴けて嬉しかったよ!」

 

 さっきの感想をまとめていってくれる穂乃果ちゃん。……なんか照れますな~。

 

「じゃあ今度、一緒に歌おうよ! そっちも楽しそうだし!」

 

 同じ声の人が同じ曲を一緒に歌ったらどうなるんだろう? そんな純粋な疑問が私の中に芽生えたからすぐに提案してみた。

 

「いいんじゃないか? 今度、合同イベントとか企画すればできそうな気がするし」

 

「そうだね! やろう! 今度はイロドリミドリのみんなとμ'sと一緒に!」

 

 あはは。これで1つの目標が決まっちゃったね。でも、楽しそうだ! みんなでやろう!

 

「……ってあ! そろそろ時間が……」

 

「あ、そうだった。これ!」

 

 そう言って穂乃果ちゃんが私に渡してきたものはさっき買ったお饅頭だった。そういえば穂乃果ちゃんに預けていたんだった。

 

「ありがとう。それじゃあ私は帰るね。さっきの絶対約束だからねー!」

 

 私はそう言いながら駅のほうに向かう。……ん? ちょっと待って……。

 

 あ! 1つ大事なこと忘れてた!

 

「穂乃果ちゃん! 連絡先交換しよう!」

 

 そう、約束はしたけど連絡手段がないといろいろと困っちゃうから。

 

「そうだったね。えっとフリフリでいい?」

 

「うん! 大丈夫! じゃあさっそく」

 

 そうして穂乃果ちゃんとの連絡先の交換が終わった。これでいつでも連絡できる。じゃあ、おうちに帰りますか。

 

 楽しかった1日ももう終わり。今日であった人たちは本当に良い人たちで、これからが楽しみな人たちだった。

 

 またいつか一緒に演奏できたらいいな~。

 

 




ちょっと芹菜のキャラが違うような気がする……。やっぱりハマり始めだからまだまだですね。次までには表現がしっかりできるように研究してきます!

それでは次回はどんな話になるのか……お楽しみに!


ポケモンクロスが間に合わない……。


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お昼の天使と色とりどりのバンド

どうも、そらなりです。

今月はこの作品に入っているコンテンツ2つのライブがあります。そして今日はその1つ目のライブの開催日になっています。なので記念回としてこの話を投稿します。

それでは、どうぞ!


 穂乃果です。今日は今度やるライブの下見として神奈川県の厚木市に来てみました。どういう道順で行くかちゃんと決めてから来たから、大丈夫だとは思うけど……。とにかく行ってみないとわからないもんね!

「って来てみたはいいけど……。ここ、どこ?」

 みんなと一緒に行動していたのにμ'sの9人とも目的の場所である厚木公園にたどり着けていない。しっかりしている海未ちゃんとか絵里ちゃんもいるのにどうしてだろう?

 

 来たことのない土地で少し戸惑っている私は周りを見渡してあたふたしていた。

「そんなこと言っていないで穂乃果もここがどこなのか地図を見て確認してください!」

 そんな私とは少し違い、だけど余程余裕がない海未ちゃんも焦っているみたいだった。このままでは目的の場所にたどり着くどころかアキバまで帰ることもできない。

 

 私は慌ててスマホの電源を入れて地図を開いた。とりあえず地図を見れば何かわかるかもしれないと思ったから。

「んーっと。あれ? 現在位置が出ないよ!?」

 だけど、地図を確認してみると本来自分のいる位置を教えてくれるはずのカーソルが地図上に存在しなかった。ナビゲートをしてくれるアプリのはずなのにこれじゃ全くの使い物にならない。こういう時は地図で現在位置の確認をするのがいいんだろうけどみんなのスマホの画面を見ているとそこには全く違う場所を示している地図が存在していた。

 

 今の状態だと穂乃果たちはどこにいるのかが全く分からない。打つ手はほとんどない状態になってしまっている。

「現在位置が分からんと何もできないんよね」

 電柱に何丁目とかは書いてあるがそれがどこにあるのかをスマホで探すのもできない。この状態に勘がとても強い希ちゃんもお手上げ状態になっている。

 

 スマホを懸命に操作しながらにこちゃんが呟く。

「まったく……。大丈夫なの?」

 

「まったくわからないもんね。今どこにいるのか……」

 

「こういう時は気の向くままに歩いて行ったほうがいいよ!」

 にこちゃんの話に同調する花陽ちゃんと、道に迷い今どこにいるのかわからないため、頑張って今穂乃果たちがいるところを探している中、凛ちゃんはどんどん突き進もうと言い出した。

 

 子供の時はそうやっていろいろ歩いて回っていたけどその度に思ったことがある。ここがどこなのかわからない状況でむやみやたらに場所を移動しないほうがいいということ。

「それは良くないわ。今よりも現状が悪化してしまう可能性のほうが高くなってしまうから」

 穂乃果が思っていることを絵里ちゃんが凛ちゃんに言う。いまよりも悪くなっちゃったら多分もうどうしようもなくなっちゃう。

 

 そんな中真姫ちゃんが周りを見てあることに気が付いてくれた。

「……あ、みんな。あそこに誰かいるわよ」

 そう言いながら真姫ちゃんは自分たちのいるほうに歩いてくる人がいることを穂乃果たちに教えてくれる。その人が地元の人であってほしいと穂乃果は心の中で願っていた。

 

 みんながその人のことを目で確認して、最初に動いたのはことりちゃんだった。

「あ!本当だ!ちょっとことり、話を聞いてくるね!」

 アルバイトをしていたから慣れているのかその人に向かってことりちゃんは駆け足気味に近寄っていった。

「すいません。ちょっといいですか?」

 笑顔でことりちゃんは歩いてきた人に話しかける。するとその人も立ち止まりことりちゃんのほうに顔を向けた。

 

 ことりちゃんが話しかけたのは、とても小さい女の子だった。髪の毛の色は水色で、身長は穂乃果たちよりも低い。多分150センチもない女の子だった。頭の上には猫の耳のようなものがありとても不思議な少女だった。

「なんでスカ?? お話なら聞きまスヨ!!」

 そんな女の子はことりちゃんの問いかけに反応する。振り返るとよく見えるのだがおへその見える服装に全体的には髪の毛の色と同じ水色の服装になっていた。

 

 穂乃果はその女の子の外見にばっか気にしていたけどことりちゃんはそことは違う場所に驚いていた。

「え!? 穂乃果ちゃんと……声が、一緒!?」

 良くことりちゃんの声が聞こえなかったため少し近寄り穂乃果はことりちゃんにどこに驚いているのか聞いてみることにした。

「どうしたの?ことりちゃん」

 

「はわわっ! 急に驚いてどうしたんでスカ!?」

 私と同時にその女の子も急に驚きだしたことりちゃんに驚いてビクリとした。

 

 穂乃果とは違いことりちゃんの言っていたことを聞いていた絵里ちゃんは、ことりちゃんの言っていたことが分かったようで、私と声の一緒なその女の子に驚いていた。

「確かに穂乃果と声が一緒ね。でもそれより今はここがどこで、どこに行けば厚木公園に行けるかを尋ねましょう」

 私もさっきの声で気が付いたけど少し穂乃果より声が高い気がするけど確かに私と同じような声だと思った。そう思っているみんなとは違い驚きながらも絵里ちゃんは今聞くべきであることをその女の子に訊ねることを提案した。その女の子が地元の人であることを願いながら。

 

 もともとそのことを聞くために話しかけたのだからと海未ちゃんはその女の子と同じ目線の高さとなり話しかける。

「そうですね。すいません。厚木公園に行きたいのですが、どう行けばいいのかわかりますか?」

 幼い少女に話しかけるように海未ちゃんはその女の子に厚木公園までの道を聞くことにした。通行人が他に誰もいない状況ではこの女の子が唯一の希望。

 

 その希望は打ち砕かれることなく明るい笑顔と一緒に穂乃果たちが待っていた答えと一緒に帰ってくる。

「もちろんわかりまスヨ!! 1000ちゃん(せんちゃん)についてきてくだサイ!!」

 自分のことを1000ちゃんと名乗る少女は海未ちゃんだけでなく私たちにも笑顔を向けてくれた。

 

 ただよく聞きなれない名前だったからか、花陽ちゃんは戸惑いながらちゃんの部分をさんに変えて1000ちゃんのことを呼んだ。

「えっと……、千さん? よろしくお願いします!」

 恥ずかしがり屋の花陽ちゃんは勢いよく1000ちゃんに向けてお辞儀をした。

「よろしくにゃー!」

 それに合わせるように凛ちゃんも笑顔でいる1000ちゃんに向けて道案内をお願いした。

 

 ただ花陽ちゃんの言ったことは訂正しておきたいと思ったのか少しほほを膨らませてその部分を1000ちゃんは訂正する。

「1000さんじゃないデス。1000ちゃんデス! 皆さんもこう呼んでくだサイ!」

 きっとちゃんを含めて名前なんだろうとその時私は判断した。みんなにもそう呼んでほしいと1000ちゃんはお願いする。

 

 穂乃果は出会った1000ちゃんがそう呼んでほしいといってくれたので、いつもと同じμ'sのみんなに話しかけるように1000ちゃんに話しかける。

「うん! わかったよ。1000ちゃん!」

 笑顔には私も自信があったから1000ちゃんの輝く笑顔に負けないように穂乃果は新しく友達になる1000ちゃんに一番の笑顔を向けた。

 

 だけど元からちゃんをつけて呼ぶことに慣れていない真姫ちゃんは少し戸惑い気味に1000ちゃんのことを呼ぶ。

「えっと……1000ちゃん? よろしく頼むわ」

 そして何か1000ちゃんに違和感を持っているのか希ちゃんはじっと1000ちゃんのことを見つめていた。

「うーん……」

 見つめながら希ちゃんはずっと考えるようなそぶりをしていた。何かに引っ掛かりがあるかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1000ちゃんに案内されてすぐにみんなで行こうとしていた厚木公園が見えてきた。道中には少し演奏しているのか楽器の音が聞こえていた。

「つきましタヨ!」

 私たちが目指していた厚木公園に案内され、そして1000ちゃんが着いたと宣言してくれたところは女の子5人が楽器を披露している、そして今度私たちがライブをするステージが見えた。

 

 ここに来るまでにずっと迷っていたにこちゃんはたどり着いた場所と連れてきてもらった1000ちゃんを見て唖然としていた。

「あっさりついたわね……。さっきまで迷っていたのがウソみたい……」

 そして私はにこちゃんと同じことを考えはしたけど、それよりもここに連れてきてくれた1000ちゃんに感謝した。

「1000ちゃん、ありがとう!」

 穂乃果と同じように1000ちゃんに向けてことりちゃんも同じことを言う。多分あのままじゃ、ここにたどり着くこともできずに帰ることもできなかったと思う。

「ありがとう」

 だから大げさかもしれないけど私たちを救ってくれた1000ちゃんには感謝しか感じなかった。

 

 そうやってここに連れてきたことへのお礼をしていると1000ちゃんは何かを思い出したかのように私たちに話しかけてくる。

「そういえば、今日はこの公園にどんな用事で来たんでスカ??」

 1000ちゃんに言われて気が付いたけどあまり高校生が近場以外の公園に来ることってあまりないよね。多分だから1000ちゃんはわからなくて質問したんだと思う。ここに来るまでの話は厚木の事ばかりだったから。

 

 穂乃果が答えるよりも先に絵里ちゃんが1000ちゃんに向けてこの場所に来たかった理由を話してくれる。

「あ。私たちはμ'sってスクールアイドルで今度ここでライブをしようってことになったから今日は下見に来たのよ」

 ここに来たのはライブ会場の下見をするため。もうすでに会場を使うことの許可は取ってあるからあとは下見をしてどういう風にステージを作るかを今日決めるつもりだった。そのついでに少し観光しようかと思ったけどそれで迷っちゃたんだよね。

 

 絵里ちゃんの話を聞いた1000ちゃんは思い出したかのように手をポンとたたいて私たちのほうを向いて口を開いた。

「あ!あなたたちがμ's、だったんでスネ! 今度のライブ、楽しみにしていマス!」

 どうやら私たちのことを知っていたみたいで本当に楽しそうに私たちにそう言ってくれた。

「私たちのことを知ってくれていたんですか! これは頑張るしかないね!」

 

「そうだね、かよちん。凛も頑張るにゃ!」

 その言葉は私たちにとっては本当にうれしい言葉だった。だから花陽ちゃんと凛ちゃんは次のライブに向けてのやる気を一層上げていた。

 

 すると目の前でやっているバンドのことを指さして私たちに話しかける。

「今日はちょうどそのステージであるバンドの練習が行われているんデス。見ていきまスカ?」

 同じ音楽ということで私たちに見てみないかと誘ってくる1000ちゃん。少しステージに上がれたらと思ったけどこの様子だとできないみたい。

「そうなんですか……。それじゃあ今日はステージに上がってみることはできなさそうですね」

 そのことを少し残念がる海未ちゃんだけど、

「そうやね。けど少し気になってしまうな」

 希ちゃんは少しそのバンドに興味があるみたいで1000ちゃんの提案を受け入れようとしていた。

 

 私としてもちょっと興味があるから見れるなら見たいと思った。だから希ちゃんと同じくして1000ちゃんの申し出を受け入れるつもりでみんなに話しかけた。

「そうだ! ちょっと見せてもらようよ!」

 今日は基本的にここ以外に行かなくちゃいけない場所はない。みんなは私の言葉にうなずき、また1000ちゃんの案内でステージのほうに向かうつもりになった。

 

 それが通じたようで1000ちゃんがステージのほうを指差しながら目的地として案内してくれるみたいで、

「じゃあこっちにきてくだサイ!」

 また私たちは1000ちゃんについていく形でそのバンドがいるというステージに向かっていくことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私たちは1000ちゃんに連れていかれステージにやってくるすると曲が始まりだし私たちはそれをキラキラした目で見て聞いていた。最初は少し暗いような感じの曲だったけどサビに入る前にドラムの娘が歌いだした瞬間、その曲は姿を変え明るくテンションの上がるリズムを作り出した。穂乃果たちはただひたすらにその曲を楽しんで聞いていた。それは隣にいた1000ちゃんも。

 

 演奏が終わりだすと曲が明るくなるきっかけを歌っていたドラムの娘がほかのメンバーに話しかけ始めた。

「今のは良かったんじゃない!? ね! あーりん!」

 自分たちの演奏に満足したようにギターをもっている金髪のメンバーに今の演奏について聞いてみる。

 

 そのあーりんと呼ばれた女の子は穂乃果と同い年ぐらいで少し汗の書いている額をぬぐいながら、

「そうね。今までの中ではできたほうだったわね」

 ドラマーの娘に向かって自分の感じた今の演奏の評価を言う。すごく今の演奏は自分たちでもかなりいい感じでできていたようだった。

 

 そう話しているともう一人のギターの娘がその場にバタンと座りだした。あーりんと呼ばれた女の子と同じくらいの汗をかいていて、

「ふー。なんか疲れちゃったよー」

 少し色っぽく座り込むピンクの髪の色をした眼鏡をかけた女の子は疲れたようにそう呟いていた。

 

 そして私たちの視線に気が付いたツインテールでベースを弾いていた黒髪で小さい女の子は、未だ気が付いていないドラマーの娘とギターを持っている2人に向けて話しかける。

「……なんかみられてないか?」

 ジト目でこちらを見てくるそのベースの子は少し警戒しながらこちらを見て来る。

 

 ベースの子同様に気が付いていたキーボードの女の子は座り込んでいるギターの女の子に話しかける。

「そうですね。なずな先輩、少ししっかりと座っていたほうがいいかもしれないです」

 確かに座り込んでいる娘の姿は同性の私からもドキドキするような格好であったためそれを注意してくれたのは少しありがたかった。注意をしてくれたキーボードの子は白髪で肩までの長さの女の子だった。

 

 演奏をしていた娘たちにジト目で見られながらも見ていた1000ちゃんは演奏をしていた5人の女の子たちに向けて拍手をしていた。

「良かったよ! なんかわからないけどテンション上がってきちゃった!」

 穂乃果も1000ちゃんと同じように拍手をしてしまう。そうしてしまうほどのその演奏には自分を熱くするものがあった。

 

 座って聞いていた穂乃果が立ち上がって5人に向けてそう話しかけているとことりちゃんが隣から肩をたたいてきて、

「そうだけどとりあえず落ち着こう?穂乃果ちゃん」

 穂乃果に落ち着くように話しかけてくる。アハハ……確かに熱くなりすぎちゃってたかも。

 

 そんなことをきっかけにみんながその場に立ち向かい、聞いていた感想をいうにこちゃん。

「いい演奏するじゃない。にこたちには及ばないけど」

 少しすねながらにこちゃんは演奏をしていた5人に言う。……素直にいい演奏だったっていえばいいのに。にこちゃんは素直に今の演奏の感想を言えないでいたみたい。

 

 そう話していると私の大声の感想に気が付いたのかベースの子が私たちのほうを見て、気になることを言った。

「ん? 芹菜(せりな)の声が聞こえた気がしたんだが……?」

 私たちのほう、というより私のことを見て知らない名前を言ってきた。多分ほかの4人の中のだれかのことなんだろう。

 

 穂乃果の考えは当たってたみたいでその名前を呼んで反応するのが後ろのドラムをたたいていた娘だった。

「え? なるちゃんどこ向いているの? 私はこっちだよ!」

 曲を盛り上がらせるきっかけを作っていた女の子が芹菜という名前らしい。その子は私と同じような声をしていたためかベースの子も勘違いしてしまっていたようだった。

 

 改めて芹菜と呼ばれた女の子の声を聴いた海未ちゃんは少し呆れたようにしていた。

「……またですか。穂乃果の声に似ている人と今日はよく会いますね」

 今日2度目の同じような声を持った人に出会い、珍しいことなのにこんなに連続して出会うのがもう驚かなくなってしまっていたみたい。

 

 いわれると1000ちゃんも気が付いたみたいで驚いていた。

「本当デス! 珍しいでスネ!」

 

「本当だ!」

 穂乃果も1000ちゃんに同乗して同じ声を持っている芹菜と呼ばれた女の子に向けて驚いていた。でも、これだけ連続で同じ声の人と出会うと珍しいはずなのにそれを忘れちゃいそうになるね。

 

 そんな穂乃果たちのことでみんなも思ってるであろうことを希ちゃんが口にした。

「不思議なこともあるもんやな~」

 本当に1日で同じような声を持った人と出会うのは不思議というか珍しいというか……。それは本人である私も思っていることなんだけどね。

 

 あまりのことに声を失ってしまっていた絵里ちゃんも希ちゃんの言ったことには反応することができた。

「え、えぇ……」

 だけどそれは短い受け答えで本当に驚いているからこそあまり声が出せないみたい。

 

 その一方で穂乃果たちのように同じ声を持った人と出会ったことのない凛ちゃんは少し羨ましそうにしていた。

「なんかいいにゃー。凛も同じような声の人と会ってみたいにゃ」

 自分と似た声を持つ人と出会ったときの気持ちが分かるのは同じ事を体験した人だけで、多分凛ちゃんは穂乃果たちが今どんなことを思っているのかが気になっているみたい。

「でも、ちょっと怖いね」

 けどうれしいと思う反面、花陽ちゃんの言う通り少し怖いとも感じている。この声は自分だけのものだと今までの生活の中でそう思い込んでいたから感じることのできる感情みたい。

 

 私たちがそんな話をしているとステージの上のほうにも変化が現れたみたい。

明坂(あけさか)先輩。目をキラキラさせて何を考えているんですか?」

 キーボードを担当していた女の子が輝かしい笑顔で私たちに近づいてきている女の子に質問した。多分だけど今、あの子がやろうとしていることが穂乃果にはわかる。同じ状況になったら私だってそうするかもしれないから。

 

 だけど何をしようとしているのかはバンドの子たちにはわからないみたいで、芹菜と呼ばれた女の子の行動に疑問を持っていた。

「芹菜ちゃん? あ、もう行っちゃった……」

 それでも歩みを止めることのないドラマーの娘は私たちに着々と近づいてくる。それは、1000ちゃんの時にも感じた笑顔をもって。

 

 これからやろうとしていたことがあったみたいであーりんという女の子は歩いているドラムの子に少しあきれていた。

「まったく……。これからいろいろ話し合いがあるっていうのに……」

 確かにグループでやっている以上話し合いは絶対に必要だと思う。私もだれも見ている人がいなかったなら話し合いを始めようと思うことだってある。だけど今はそれよりも大事だと思えるものがあった。

 

 それが分かっているからこその歩いている女の子の発想がある。ここには1000ちゃんを含め、10人の演奏を聞いていた人たちがいる。

「それはあとでもできるでしょ! 今はどうだったかこの人たちに話を聞こうよ!」

 そうすると一番は聞いていて客観的な意見を持っている人たちから感想を聞くことが大事だということにドラマーの娘は気が付いていてそれを実行に移そうとしていたみたい。ここまでやっぱり行動的に私と同じ部分を感じた。

 

 意見を聞こうという提案を聞いてベースの子が得意げな顔になり、ドラマーの娘の行動を理解した。

「まぁ、そうだな。人の意見は参考になるし、褒められるのはうれしいからな~」

 どこか私たちのメンバーのうちの一人に似ているようなことを言ってそのままドラマーの娘の行動を止めることはなかった。

 

 なんで私が同じようなメンバーがいると思ったかというと、その自信満々な発言を聞いてのことだった。

「褒められるの前提なのね……」

 あーりんと呼ばれた人もそう思ったのかその部分をいう。そう、にこちゃんと同じだった。自信満々で自分の音楽に絶対的な信頼を持っているにこちゃんに似ている。

 

 私たちは芹菜と呼ばれた女の子が来るまでのやり取りを聞いていたためもうすでに話の流れは理解している。

「ってことで、お話聞かせてもらってもいいですか?」

 そのことを理解してか、はたまた説明するのが苦手なのかそう私たちは提案された。そしてその提案に私たちμ'sとここに来るまでに案内をしてくれた1000ちゃんは顔を見合わせみんなが笑顔になった。

 

 その答えを代表して私が言う。

「喜んで!」

 あれだけの演奏を聞かせてくれたから、何か力になりたい。そう思ったり頼られているなら力を貸してあげたいと思ったから私たちはその提案を受け入れることにした。

「デス!」

 そして私の言葉の後に笑顔で1000ちゃんも演奏についての感想を伝えることに賛成のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして話をしているうちに話題はバンドの話からお互いの音楽の話に入った。座っているところにはちょうど真姫ちゃんが持っていたμ'sの楽曲の楽譜があった。それを見ながら、自己紹介を済ませて一通りみんなの名前を知ることができた。

「じゃあμ'sの皆さんはスクールアイドルをやっているんですか」

 私たちのことを聞いてきたあーりんと呼ばれていたのは私と同い年の2年生でリードギターっていうのが担当のイロドリミドリというバンドのバンドマスターらしい。名前は御形アリシアナ(おがたありしあな)ちゃんって言ってお母さんがイギリス人なんだって。絵里ちゃんみたいにスタイルもいいし、いいな~。

 

 私たちのことを知っている1000ちゃんは穂乃果たちの代わりに今度のライブのことをイロドリミドリの人たちに教えてあげてる。

「それで今度ここでライブをしてくださるんデス! 楽しみデス!」

 なんか今日は1日の密度が高くて本来の目的を忘れそうになるけど私たちはライブのステージの下見に来たんだった……。私は1000ちゃんの言葉でここに来た理由を思い出した。

 

 そんな中さっき私が思っていたことを実現するかのようににこちゃんがライブのことについてしゃべり始める。

「まぁ、にこがいれば当然よね」

 本当に似てるな~と思いながらその言葉を聞いていると多分私と同じようなことを考えたのかキーボードの子が口を開く。

「……ツインテールでちっちゃい人は自信過剰の人が多いいんでしょうか?」

 彼女は小仏凪(こぼとけなぎ)ちゃんという名前で高校1年生のキーボード担当のメンバー。しっかりとした言動で少し実年齢よりも少し上のように見える気がする。

「そうだね~。なんか似てるよね」

 そしてその凪ちゃんの言葉に同調するようにバンドのリズムギターを担当しているという天王洲なずな(てんのうずなずな)ちゃん。ゆるふわとした印象を受ける女の子でスタイル的にはアリシアナちゃんと同じくらいのものを持っている気がする。……どことは言わないけど……。

 

 凪ちゃんの意見に同調する人も出てくれば言われた当人たちは否定したいみたいで、その発言をした凪ちゃんに向かって反論する。

「「それってどういうことよ(だ)!?」」

 にこちゃんと同じく反論していたのは箱部なる (はこべなる)ちゃん。こうやってにこちゃんとなるちゃんの息が合っているこの場面を見るとどうしても似た者同士に見えちゃうんだよね。

 

 2人にものすごい勢いで迫られているというのに全く動じない凪ちゃんは先ほどの全く変わらない声のトーンでにこちゃんとなるちゃんに先ほどの自分の発言についていう。

「いえ、他意はないです」

 凪ちゃんがあっさりとそう答えるからか、多分不満は残っているんだろうけどそれからはにこちゃんもなるちゃんも何も言わなくなった。

 

 その話もひと段落したのを見計らって今度はイロドリミドリを作ったリーダーの明坂芹菜ちゃんが私に話しかけてくる。

「それで、やろうと言い出したのが穂乃果ちゃんなんだね」

 μ'sの始まりのことを話したからそのことについても当然話したんだけど、実は芹菜ちゃんも同じようなことをしていたみたいで、成績が足らないから学校にある噂を信じて学園祭でいい演奏をしようとしたみたいで出来たのがイロドリミドリらしい。

 

 でも、μ'sの話になったらまずはあのことを話さないと始まらない。

「うん! 廃校を阻止することが目標で始めたんだけどやっぱり音楽って楽しいね」

 あの事。つまりは音ノ木坂の廃校問題があってそれを無くすためにやって来たんだけど、話すとしても今は、そこまで重要ではない。音楽が楽しいということさえ伝わればここにいるみんなには十分すぎる言葉になる。

 

 その証拠に私の言葉はすぐに芹菜ちゃんに伝わった。本当に楽しそうに演奏していたからそこについてはあまり芹菜ちゃんのことは知らなくてもわかる。

「うん! 私も、太鼓をたたいてるとき楽しいな!」

 明るすぎるくらいの笑顔で芹菜ちゃんはそう言った。穂乃果の推測は間違っていなかった。話している芹菜ちゃんもそうだし、イロドリミドリのみんなも、さらには1000ちゃんまでうなずきながら話を聞いていた。

 

 そう。ここにいるみんなは全員、音楽にかかわっている。それは案内をしてくれた1000ちゃんも例外なく。

「それにしても、1000ちゃんまで歌にかかわってたなんてね」

 ただ、真姫ちゃんの言うようにまさか1000ちゃんが音楽をやっているとは思わなかった。自己紹介の話の中で自分の歌を持っているということを聞いたときは驚いたなぁ~。

 

 でも私たちのこの驚きはほんの少しのことだけに過ぎなかったことにすぐに思い知らされる。

「この間デビューしちゃいまシタ!」

 あっさりと告げられる事実に私たちは今まで以上に驚くことになった。音楽に関わっていると聞いたときに驚いたけど、まさかデビューしちゃっているとは思わなかった……。

 

 デビューをしている。つまりは1000ちゃんはアーティストとして活動していることになる。

「まさか、プロだったんですか!?」

 そんなことを聞かされて普通に今まで道案内を頼んでいた人がそうだと思うことができなかった。

「こんなところで普通にしてていいんですか?」

 そしてプロのアーティストであるということが周りにばれればファンや、あまりよく思っていない人たちから襲われてしまうことがあるのだが、そこを心配した花陽ちゃんは1000ちゃんに大丈夫なのかと尋ねてみる。確かに普通にこうやって話をしているだけでも危なそうに感じるけど……。

 

 でも、花陽ちゃんの心配している部分は全く心配に思っていないようですぐに1000ちゃんは明るい笑顔になり答える。

「大丈夫デス!」

 どうして大丈夫なのかはわからないけど、それがウソでないことは穂乃果にはなんとなくわかった。……嘘をつく理由もないしね。

 

 そんな話をしていると2匹のお腹の虫が鳴き声をあげた。……だ、誰だろうね……。

「「お話してたらお腹すいてきちゃった……」」

 はい……。私です。いろいろ話していたら時間はもう12時を指していた。私の体内時計正確すぎじゃないかな?それにしても芹菜ちゃんが一緒で少し安心した……。

 

 私と芹菜ちゃんの発言で1000ちゃんは時計を見て何かを思い出したかのように立ち上がる。

「はッ、少しだけ失礼しマス。

おっ昼だぁ〜☆☆☆

お昼ご飯、しっかり食べて午後も頑張っていきまショーネ!!

マスター♡」

 急にそんなことを言い出す1000ちゃんに驚く私たち。でも、1000ちゃんにとってそれは日常のようなものみたいですぐにその場に座りなおしみんなのほうに向きなおる。

「あ、いつものやつなので気にしないでくだサイ。できればこれからも一緒にお昼だ~してほしいでスガ」

 やっぱり穂乃果の思ったことは当たりみたいで今まで通りの1000ちゃんのまま私たちに話してくれた。

 

 お昼ということで穂乃果はいつも食べている『パンパック』のパンを食べようと取り出し一口、いつものようにかぶりついた。

「今日もパンが……? まずい?」

 いつもと同じ言葉を言おうとしたけど、その言葉が出ることはなかった。今開けたばかりなのにパンはぱさぱさしているし、いつも食べている味と同じはずなのに味が全くしなかった。

 

 穂乃果のお昼にいつも一緒にいる海未ちゃんとことりちゃんは私の言葉を意外そうに聞いていた。穂乃果もパンでまずいなんて言う日が来るとは思わなかったけど……。

「珍しいですね。穂乃果がパンをまずいと言うなんて」

 多分毎日私の『今日もパンがうまい!』を聞いているからこそ信じられないといった様子で私のことを見ている海未ちゃんと、

「そうだね。いつも食べているやつだし、賞味期限がきれているわけでもないのに」

 私の持っているパンを隅々まで調べていることりちゃん。本当に何もないのに今日は穂乃果はどうしてもそのパンをおいしいとは言えなかった。

 

 穂乃果がどんなパンでも大好きだということはμ'sの中では知られていること。なのに今の私の言葉を聞いた希ちゃんは、不思議そうにつぶやいた。

「珍しいこともあるもんやな~」

 今日はなんだか希ちゃんの言う通り珍しいことがある日だと思う。パンの件もそうだし、同じ声を持った人と出会ったり、スマホの地図が使い物にならなかったりしていろいろなことが起きている日になっていた。

 

 だけど私のパンがまずいという言葉に1000ちゃんはみんなとは違う反応を示した。

「ということは……」

 立ち上がった1000ちゃんはそう言って周りを見渡して何かを探しているみたい。何か今の話にきっかけがあるみたいで。

 

 しばらく1000ちゃんが周りを見渡していると、1000ちゃんにとある連絡がきたみたいで、私たちからは背中しか見えないけど誰かと話しているみたいだった。

「あ、プリマちゃんから連絡デス」

 1000ちゃんはプリマちゃんという人から通話が入ったみたいだった。

 

 すぐに1000ちゃんとは違う声が私たちの耳に聞こえてきた。声からして少しお嬢様チックな女の子だったと思う。

「1000ちゃん!近くにマズマズ獣がいます!」

 そしてその声から聴きなれない言葉が聞こえてきた。マズマズ獣。一体何なんだろうと思っていると、1000ちゃんがまた歩き出した。

 

 その後ろ姿は少し怒っているように感じられた。パンがまずくなってしまった原因を作ったということはなんとなくわかったけど、それ以外のことは全く置いてけぼりの状態だった。

「そうですか……。今日仲良くなったお友達にこんな思いをさせるなんて許せないデス!」

 そんな風に今私たちが思っていても1000ちゃんの進む足は止まらない。きょろきょろ何かを探している風に1000ちゃんはしていた。

 

 私たちもつられて周りを見渡してみるとそこには普通なら見ることのできない。そして一生見たくはなかったものが存在した。

『我名はパックパン。王女を出さないとこの公園を壊してやるー!』

 穂乃果の食べているパンを大きくして怪獣のようにしてしまったような化け物がそこにはいた。大きさは街路樹ぐらいのサイズでとても大きく感じられた。

 

 目の前の信じられない光景に絵里ちゃんも心を乱し、混乱しているみたいだった。

「あ、あれは何なの!?」

 まったく今起きていることが飲み込み切れない。すぐに逃げなきゃいけないのに1000ちゃんはどんどんその化け物のほうに向かって行っちゃうし、まだ私たちは動けるような精神状態じゃない。

 

 だけど意外にへっちゃらな感じをしている人も中にはいた。それはあまり大変だと思っていないなずなちゃんと、

「パンみたいなお化けかな~。でも、今はお昼だし~」

 

「なんかスピリチュアルやね」

 心霊現象にはとても興味のある希ちゃんは興味津々な様子でそのパンの怪物のことを見ていた。

 

 歩きながら進み続けている1000ちゃんはようやく私たちに話をしてくれた。だけど私たちのほうは見ないで歩き続けたまま。

「私が倒しますカラ、皆さんは安全なところに避難してくだサイ」

 私たちの中でも身長が低いほうなのにまったく歩くことをやめないで進み続ける1000ちゃん。まっすぐ透き通った声に恐怖心は感じられなかった。

 

 1000ちゃんの無謀だと思える答えに私は驚きながらも言葉を返すことができた。

「大丈夫なの!?」

 心配になってしまう。あんなの小さい女の子があんな怪物に向かっていくなんて。本当なら私たちが止めなきゃいけないのに何もできないでいる。そんな私に向かって1000ちゃんは大丈夫と返し、化け物のいるところに駆け足で迫っていく。その間に1000ちゃんに言われたように私たちは近くの茂みに隠れることができた。

 

 ある程度化け物との距離が詰まると1000ちゃんはその場で止まりその手にはマシンガンのようなものが握られていた。目が真剣になると1000ちゃんがそのマシンガンを打つ。その無数の弾丸はまっすぐ化け物のほうに飛んでいく。動きが遅かったからなのか全弾発が化け物にあたった。しかし、少し動きが止まるだけでダメージは全く入っていないような状態だった。

 

 距離を詰めていたことが仇となったみたいで1000ちゃんに攻撃をしようと動き出す化け物。まだ、当たるには時間があるけどそれでも大きな銃を持っている1000ちゃんにはよけることができないと思った。

(このままじゃ1000ちゃんが!? 誰か1000ちゃんを守って!!)

 とっさに私は手を組んで神様にお願いするかのように、届かないであろう願いを祈った。今の私じゃ何もできない。だからせめて助けてあげられる人をっと思ったら……。自分たちがいたステージのちょうど中央に光が集まっていくのが見えた。

 その光が次第になくなっていくとそこには音ノ木坂学院の制服を男子生徒用にしたものを着ている1人の男性がたっていた。

 

 その男の人は何が起きたのかわからない様子で周りを見渡していた。

「ここは……?」

 そこにいてもたってもいられなかったから私はその人に避難するように声をかける。今はせめて1000ちゃんの邪魔にならないようにしないといけないと思ったから。

「そこにいる人!! 早く逃げてください!!」

 必死になって逃げてくれるように大声で少しでも早くここから逃げ出してくれるように声を出した。

 

 その男の人は私の声に反応して私たちのいる方を見てきた。すると私が声を出したからなのか穂乃果と目が合った。

「穂乃果……? いや、そういうことか」

 小声で何かを言っているがここでは何を言っているかわからない。だけど何かを考えているようにしていた。その時に私から目線をずらし怪物のいるほうに目を向けていた。

 

 次の瞬間に穂乃果の言葉とは反して男の人は化け物に立ち向かっていく。姿勢を低くして1000ちゃんのいるところにまっすぐ走っていく。1000ちゃんの時と同じように無謀だと思われたその男の人の手に木の棒のようなものが握られていたことに気が付いてもそれで何かできるとは思えなかった。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

助っ人side

 

 急にこの場所に来たと思ったら穂乃果が逃げろというし、名前を呼ばないし、女の子が戦っているしで現状を把握するのに少し時間がかかった。だけどこの子を助けないといけないということはなんとなくわかった。そしてここが俺の普段いる世界じゃないことも。

「えっと、そこの君。少し俺が変わるから、もう少し力をためてくれないか?」

 そして俺はこの怪物を倒すほどの力を持っていない。できるのはせいぜい足止めをするぐらい。だから俺はこの子にとどめを刺すことを託した。

 

 女の子は俺にこの怪物を対処するのが難しいと思っているようで不安げに訪ねてくる。

「大丈夫なんでスカ?」

 まぁ、俺が普通の一般人だったらこの反応が普通であると思う。だけど残念ながら俺はただの一般人ではない。数分程度の時間ならいつでも稼げるくらいできる。

 

 それにしても相手の正体がわからない以上むやみに攻撃するのは悪手でしかない。だから知っていそうな女の子に訊ねてみることにした。

「あ、あとあいつがどんなやつなのか教えてくれると楽かな」

 すると女の子はすぐに教えてくれる。その時声が穂乃果と同じように感じたのは今は必要じゃない。

「えっと、敵さんはマズマズ獣といいマス。近くにいるだけで食べ物がおいしくなくなってお友達を傷つけるんデス!」

 話によると怪物の名前はマズマズ獣というもので暴れまわっていることからして普通に敵であるということが分かった。そして見た目からしてあれはパンをまずくさせる怪物なんだろう。……穂乃果にとっては絶対に存在してほしくないやつだなあれは。

 

 とにかく情報はある程度つかんだ。あとは俺とこの女の子の動きをよくできるようにあのことを頼んでおこうと思う。俺は絶対にそうなるんだけど女の子はわからないけど。

「それとそこにいるみんな! なんかテンションが上がる曲を頼んでいいか?」

 テンションが上がれば自然に自分の動きにリズムができ普段よりいい動きができる。そのため、μ'sに歌を歌ってくれるようにお願いをする。

 

 急に歌ってくれと言われたからか穂乃果は少し意外そうにしていたが、

「え……?」

 その近くにいたスティックを持った女の子は返事を返してくれた。

「わっ分かった!」

 ……この子も穂乃果と同じような声の持ち主なのね。どこかの孤高のカトレアさんを思い出すわ。

 

 ステッキを持った子が言ったことに驚いたギターを持っていた金髪の女の子が今からどうするのかの会議を始めた。

「ちょっと、どんな曲やるのよ! 『Change Our MIRAI!』は期待に沿えないし、『ドキドキDREAM!!!』はまだ不完全よ!?」

 彼女たちも歌を持っているみたいだが今の俺の注文にこたえられるような曲は持ち合わせていなかったみたいだ。

 

 その近くにいるにこはある曲を思いついたみたいでμ'sのみんなにその曲をやることを提案する。

「……『No brand girls』しかないわね。演奏はできるかしら?」

 多分μ'sの曲の中で一番テンションが上がる曲はその1曲なのだろう。自信をもってその曲を候補に挙げる。

「そうだね。一番はその曲しかない」

当然、異論はなかった。穂乃果が賛成した瞬間μ'sはその曲をやる気になっていた。

 

 ただ問題となるのは今音源を持っていないということみたいだ。

「できますか? イロドリミドリの皆さん」

 μ's以外にいるのはバンドのメンバーらしく海未が演奏をすることができるかどうかを尋ねていた。

「まぁ、あの曲なら一度譜面見たし、難しくなさそうだったからできなくはない」

 するとベースを持った子は自信をもってできると宣言した。

 

「大変だけど、できなくはないよ~」

 

「問題ないです」

 それを皮切りに残りのギターを持ったピンクの髪の女の子と今は何も持っていない女の子ができると言った。

 

 その発言に意外そうな表情を見せている金髪の女の子が口を挟む。

「え!? 大丈夫なの?」

 確かに今日見ただけの譜面ならできるかどうかわからないため怖いのはわかる。

 

 最後の一人である返事をしてくれたスティックを持った女の子もできると言い出し、今度は金髪ギターの子を挑発するかのように話しかける。

「私も大丈夫だけど、あーりんはダメなの?」

 今のこの状況で相手を挑発するほどの余裕を持っていることに驚くこともできるが今はそんなことよりも早く演奏をしてもらいたい。

 

 そんな俺の願いが通じたのか最後までできるかどうか不安がっていた女の子は前のこの言葉を聞いてやる気になった。

「でっできないわけないでしょ!? それじゃあやりましょうか」

 その言葉をみんなが聴くと14人がステージのほうに登った。

 

 それぞれのメンバー通しが円陣を組みこれからの演奏に気合を高めていく。

「ってことでμ'sの皆さん行きましょう!」

 グループは違ってもこれから同じ曲を作り上げるためμ'sに話しかけるスティックを持った女の子。

「うん! 行くよ!」

 それにμ'sのリーダーである穂乃果が答える。

 

『μ'sミュージック~スタート!』

『イ・ロ・ド・リ・ミ・ド・リ、勝利を~ゲットー!』

それぞれの掛け声を終えてやる気を高めた14人は一気に演奏に入る。

 

 そして始まりだす『No brand girls』。さっきからずっと待っていた曲が始まり俺はそのリズムに合わせてステップを踏みながら動いていく。多分今までより動くは早くなったと思う。そして攻撃をけん制するために魔法を使い、相手を転ばせたりして時間を稼ぐ。

 

 曲はもうそろそろ最後のサビに入るところまでやってきた。そろそろ時間もいいころだろうと思い後ろでパワーをためている女の子に話しかける。

「そろそろ、パワーはたまったかい?」

 俺の問いかけにその女の子は大きな明るい声で答えてくれる。

「ハイ! 大丈夫デス! もういけマス!」

 先ほどの形の少し異なる武器を持っている女の子はそれをマズマズ獣へと向けていた。持っている武器は銃から剣に代わっており、それそれを横に大振りで振った1000ちゃんはマズマズ獣に背中を向けた。無防備な状態だが俺にはその状態が不安にはならなかった。

 

 それはなぜかというと、もうすでにマズマズ獣は攻撃ができる状態ではなかった。もうあと数秒で倒れてしまうだろう。

『あまり被害を出さないように公園に人があまり来ないようにしていたのにー! やーらーれーたー!』

 ……なんか良心的な怪物もいるんだな。でも悪いことをしようとした時点でアウトだ。っと思いながら立っていると俺の足が消え始めていた。この世界で俺が活動できる時間の限界が来たみたいだった。もう少し話をしたかったと思うけど俺はそのままおとなしくこの世界から消えることにした。その場に桜の花びらを散らせながら。

 

 そのあとに男のお願いした曲は終わりを無事に迎えることができた。

「壁は! ……」

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穂乃果side

 

 あの化け物との出来事が終わり1000ちゃんはその報告だか何だかをするために帰っちゃって今はいないけど話題は先ほどの1000ちゃんと男の人との戦いについての話になっていた。

「1000ちゃんがこうやって普通に外を歩いている理由がわかった気がする」

 確かにあれだけ動けているんだから護衛の人とかはいないほうがいいのかもしれない。私は真姫ちゃんと同じ意見だった。

「そうね。あれだけできるんだからボディーガードなんていらないわよね」

 それはにこちゃんも思っているみたいだった。

 

 でも、あんなことに会いながらも私たちは男の人に演奏をしてほしいといわれて歌ったけどそれがとても楽しく感じていた。

「ふぅー。楽しかった~」

 ちょっと疲れたけどそんなことが気にならないくらい本当に楽しい時間を過ごせたと思う。

 

 自分でも思ったけどあんなことがあったからこんなに楽しそうにしている私が意外なのかことりちゃんが話しかけてくる。

「あんなことにあったのに本当に楽しそうだね」

 やっぱりそうだった。今までいろいろあったけど生バンドでのライブっていうのがなかったから新鮮で楽しかったんだけど状況が状況だったからね。もっと心の底から楽しめるような状況でライブをしたいと思った。

 

 でもこれだけ楽しめたのには理由がある。それはあのライブ中、なぜかわからないけど優しい安心感があったから。

「うん! 誰かわからないけど男の人が助けてくれたし、1000ちゃんが倒してくれたんだもん!」

 だから私はあの時みんなよりもライブが楽しく感じることができていたんだと思う。

 

 1000ちゃんと男の人の動きを見ていた海未ちゃんは武道をやっているからかその動きに着目してみていた。

「すごかったですね」

 普段はしっかりと自分の感じたことをはっきりという海未ちゃんだけど今回に限って言っちゃうと本当に何をどう言えばいいのかわからないくらいその状態を示す言葉が見つからなかったみたい。

 

 そして今回のライブで変わったことがもう一つあった。それは、μ'sとイロドリミドリのみんながより仲良くなれたこと。

「同感です。ちっちゃいのにあんなに動けるんですから」

 1000ちゃんの動きに見とれていた凪ちゃんは感心したような感じで海未ちゃんの言葉に同感していた。身長も1000ちゃんと同じぐらいだもんね。

 

 そして同じく身長の低いなるちゃんは1000ちゃんのことを思い出しているようにしている。

「これも未来への希望か~」

 確かにあの身長であれだけ動けると自分もできそうな気がしてきても無理はないとは思うけど、少し無理があるかもしれない。

 

 そして話は戻り先ほどのライブの話になる。アリシアナちゃん……。……あーりんでいいや。は最後までやることに戸惑ってたけど、それでもライブは楽しかったみたい。

「でも、初めてやる曲だったけどすごく楽しかったわね!」

 初めて合わせたはずなのに違和感のないように最後まで通すことができて意外そうにあーりんちゃんはしていた。

 

 話の中で少し体が弱いと聞いていたなずなちゃんが演奏してみての感想を口にする。

「そうだね~。あんなに激しいのは大変だったけど、すごかったね~」

 あの曲は激しい部分が多い。だから疲れてしまうのはよくあると思う。けど私たちの曲を楽しそうにしてくれたのはすごくうれしかった。

 

 あのライブのことは多分この14人全員が忘れなれないくらいのものだったと思う。

「凛も、初めて生演奏でライブしたから新鮮だったにゃー」

 私たちにとってはさっきも思ったように初めての生演奏でライブをできたことで楽しいライブができたと思う。

 

 そして、それは演奏してくれている時にも効果を発揮したみたい。それはテンションが上がってたからなのかいつもよりいい動きができた。

「しかもいい感じに踊れたし、普段より良くできたかもしれへんな~」

 私の感じたことは希ちゃんも感じていたみたいで、本当に何もかもがいい方向に向かっていった1曲だったと思う。

「うん!やっぱりこっちも楽しんでたからいい感じにできたのかもしれないね」

 今日のあのライブの成果はみんなが楽しめたということ。そして被害もなくあの怪物を倒せたことだと思う。

 

 そして今日得ることができたものもある。それは初めて生演奏でライブをしたからこそ気が付いたこと。

「あとは、普段とは違う緊張感もあったからかな」

 それはやっぱりライブには緊張感が大事だということ。楽しむのも大事だけどそれはもうすでに自然にできている状態。ライブは緊張することがあっても慣れてしまうとそれほど感じなくなってしまっている。新しい環境が私たちを普段とは違う緊張感を感じさせてくれたからこそ気が付いたことだった。

 

 しかもあれは普段じゃ絶対に感じることのできない緊張感だった。だって怪物が目の前にいるんだもん。恐怖とまではいかなくても少し怖かったことも含めるとあれだけの緊張は今日しかできないと思う。

「あんなに緊張して楽しいと思えるなんて普段は感じられないからね。それでお願いといいうか、さっき楽しかったからできればμ'sの曲のカバーをさせてくれると嬉しいんだけど……」

 それは芹菜ちゃんも思っていたことで、何かと穂乃果と考えていることが一緒なところがあるような気がしていた。そして芹菜ちゃんから提案されることがあった。それは私たちの曲をカバーしたいということ。

 

 その提案を受けた私は正直言って、何も言わずに使ってくれてもよかった。ただ聞かれたからにはちゃんと反応しないといけないし、私以外の意見も聞かないといけなかった。

「え? いいんじゃない? みんなもいいよね?」

 私の言葉にμ'sのみんながうなずく。これでイロドリミドリとμ'sはより親睦を深めることになった。おんなじ音楽をしている者同士、これからもたがいに頑張っていこうという誓いを交わして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう日が傾き始めそれぞれが帰ることになった。

「芹菜ちゃん。またね」

 私たちは東京に向かうため駅に向かう。だけど芹菜ちゃんたちは家が厚木よりも東のため公園で別れることになった。

 

 最後に芹菜ちゃんが私たちにある提案をしてくれる。それは私たちにとってとてもありがたいものだった。

「穂乃果ちゃんたちもまた今度コラボしようね!」

 それは今度ライブを一緒にやろうという提案。初めて生演奏でライブをしたからその良さに私たちはどっぷりとはまってしまっていた。

 

 でも、どうやらそう思っているのは私たちだけじゃないみたいでイロドリミドリの5人もそう感じてくれているみたいだった。

「演奏だけに集中できる演奏もいいと思ったしな~」

 確か聞いたときはみんな演奏をしながら歌っていた。だからか演奏だけに集中できるのは珍しく、それはそれで楽しいみたい。

 

 なるちゃんの言葉を皮切りに凪ちゃんも私たちに向けて次のライブの話をしてくれる。

「また今度もやりましょう」

 この言葉を聞くとどうしても次で生演奏でできるライブが楽しみになってしまう。残念ながらもうすでに次の厚木でのライブは予定がびっしり詰まっていて時間もそれほどないからできないけど近い未来にまたイロドリミドリとμ'sが一緒のステージに立つことができたらと思った。

 

 私たちという表現をしたからわかると思うけど一緒にライブをしたいと思っているのはイロドリミドリだけはなかった。

「そうね。どちらかのライブに参戦しましょうか」

 もちろん合同ライブを楽しみにしているのはμ'sだって同じこと。絵里ちゃんも、凛ちゃんだって。みんなが生演奏でライブをできるのを楽しみにしている。

「それ楽しそうにゃ!」

 とても楽しそうな笑顔で凛ちゃんはそのいずれやってくるライブのこと想像していた。

 

 にこちゃんに至ってはいつも通りな感じで、より大きく活動することができることにうれしがっていた。

「どんどんにこの良さが広がっていくのね!」

 それを華麗にスルーして真姫ちゃんが話し始めた。

「それは置いといて、連絡先も交換したんだし、やれるときはいつでもやれるでしょう」

 ライブのことを話している時にもうすでに連絡先は交換済みだった。だからこれでいつでも日程を決めることができる。

 

 それにタロットカードで今後について占っていた希ちゃんはその占いの結果を教えてくれる。

「またできるってカードも言ってるから問題ないと思うで!」

 希ちゃんの占いはよく当たるからこの結果になったことに純粋に穂乃果はうれしい。絶対に実現させたいと思った。

 

 次のライブが絶対にできると言い切ってくれたおかげで私たちはより一層その日が待ち遠しくなった。ことりちゃんに至ってはそのライブの時に着る衣装のことばかりを考えている。

「じゃあ今度はことりの作った衣装も見せてあげるね!」

 多分この衣装の中にはイロドリミドリのみんなの衣装も含まれているんだろうなと穂乃果は思った。……ことりちゃんならやりかねないよね。

 

 そしてことりちゃんのその言葉に反応するのが可愛いもの好きということを聞いていたなずなちゃんだった。

「かわいいのかな~。いっぱい見せてね~」

 イロドリミドリの衣装はなずなちゃんが担当しているみたいで衣装班通しどこか通じるものがあるみたいだね。

 

 なずなちゃんのお願いにことりちゃんは嫌な顔をすることなくうなずく。

「うん!」

 ことりちゃんは自分の作ったものを見てもらうことがうれしいんだもん。断るわけないもんね。

 

 もう今日あったばかりの友達とは思えないほどの関係に今日は慣れたと思う。今はここにいない1000ちゃんも。

「なんか、今になって余計に打ち解けあってますがこの調子ならそう遠くない未来にできるでしょうね」

 だから今度ここでライブをする時もそうだし、未来に同じステージに立つ時だって、イロドリミドリのライブの時だってこれからもいい関係を築いていける気がする。本当にこのままならいつか絶対にライブができちゃいそう。

「これからもいっぱい一緒にライブしようね!」

 私たちの思っていることを花陽ちゃんが代弁して伝えてくれる。その言葉にイロドリミドリのみんなは笑顔でうなずいてくれて、ここにいる14人全員が笑顔になった。それを最後にそろそろ帰らないとまずいとのことで今日は解散となりみんなは帰路についた。

 

side out

 

 

 

 

 

希side

 

実はうち、1000ちゃんに会った時から少し疑問に思っていたことがあったんよ。それは1000ちゃんが人ではないということ。だけど幽霊とか心霊的な存在でもないことから何なのか少しわからなかったんだけど家に帰ってきて少し占ってみたら正体がわかってしもうた。

「1000ちゃんはやっぱりロボットだったんやね」

 まさか1000ちゃんの正体がロボットだったとは思わんかったわ。でもこれはあまり知る意味もないことやし、みんなに言うのはやめておこう。っとうちはそう思った。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1000ちゃんと初めて会ったとき以降μ'sとイロドリミドリのみんなが12時になると決まって『おっ昼だ~』と明るく言うようになったのはまた別の話だとかなんとか……。

 




ということで今回の話はイロドリミドリと1000ちゃんから登場していただきました。

そして前書きに行った今日のライブはイロドリミドリのライブになります。私自身も参加させていただき、楽しんで来ようと思います。実はこのイロドリミドリの曲には東方のカバーやチュウニズムの収録曲のカバーなんかもあるので興味を持っていただけたらYouTubeにあるイロドリミドリのチャンネルを覗いてみてくださいね。私としてもこれをきっかけに興味を持っていただけるのは嬉しいことなんで!

それでは、今回はこの辺で。次回は本当にポケモン回を書きます。年末に更新予定なのでお楽しみに!


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空間を司る伝説と空間を操る者

どうも、そらなりです。

今回はようやくリクエスト企画第二弾ということで、ポケットモンスターとのクロスオーバー作品になります。
リクエストしていただいた方に満足いただけるように頑張りましたので読んでいただけたらと思います。

それではポケモンとラブライブが直接的に交わったらどうなるのかを……ご覧ください!


 ここはシンオウ地方のやりのはしら。そこにいたのは伝説のポケモンだった。

 

『ぱるぱるぅ~!!』

 

 空間を司ると言われているポケモン、パルキア。そのパルキアは空間に異常を感じたのか空間が震えるほどの鳴き声を上げていた。

 

「パルキア!! いったいどうしたんだ!!」

 

 その反対側にいる少年、サトシはバトルしていたパルキアの様子がおかしいことに気が付き語りかける。しかし、パルキアはもうバトルなんかはどうでもいいと思っているのかサトシの言葉に耳を傾けようとしない。

 

「パルキア……。ピカチュウ!! 10まんボルトだ! パルキアを元に戻してやってくれ!!」

 

『ピッカ!!』

 

 サトシの相棒ピカチュウに指示を出す。明らかに普通じゃないパルキアがもとに戻ってくれることを信じて。

 

 でも攻撃がパルキアに当たっても全くも気にせずにいた。それどころか余計様子がおかしくなる。なぜ? そんな感情がサトシの、ピカチュウの頭の中から離れない。

 

 刹那、パルキアの腕が赤白く輝き始める。パルキアだけがつかえる特別な技"あくうせつだん"。それをピカチュウに向けて放つのかと思われた。

 

「サトシ! あくうせつだんが来るぞ!」

 

「サトシ!!」

 

 後ろで観戦していたタケシとヒカリも攻撃を仕掛けてきたと思ってサトシに注意を促す。

 

 けどパルキアはピカチュウのほうを見ているようで見ていなかった。サトシにはそれが分かる。

 

(こっちを見ていない……?)

 

 パルキアはピカチュウに攻撃することはなかった。ではなぜあくうせつだんを発動したのか。それは……。

 

 あくうせつだんがやりのはしらの空間を切り裂いたのだ。赤白い残像が見えると完全に切り裂かれた空間が見える。そう。パルキアは空間を司るとされる伝説のポケモン。空間を切り裂くなんてことはすぐにできるし、空間を移動することさえもできる。

 

 このシンオウ地方では神様として扱われている存在のパルキアが空間に異常を感じたためにこうなってしまったのだ。ただただ逃げるというわけではなく空間の歪みを直すために。

 

 けどそれは周りのサトシたちも巻き込んでしまいかねない方法だった。パルキアによって切り裂かれた空間から吸い寄せられるような感覚を覚えたサトシはピカチュウに戻るように指示をする。ただのポケモンが、人間があの場所に入ったらただでは済まないと直感で感じ取ったようだ。

 

「ピカチュウ! 戻れ!」

 

『ピッカ!』

 

 サトシの指示通りピカチュウは戻っていったのだがまだ吸い込まれるような感覚は消えない。むしろ強くなっているような気がした。そんな間にもパルキアはその場所に入り込もうとしている。いや入り込んでしまった。パルキアが作った空間の裂け目はパルキアが入ってしまえばだんだんと小さくなっていく。これで一件落着になると思われたがそうはいかなかった。

 考えてみればわかることだ。パルキアが入れるほどの大きく切断された空間。それが小さくなっていけば吸い寄せられる力は自然と大きくなる。であればぎりぎり耐えていたサトシたちはどうなるだろうか?

 

 少しずつ少しずつサトシとピカチュウは吸い寄せられる。タケシとヒカリは柱に抱き着いてなんとか無事な様子だ。けど先ほどまでバトルしていたサトシの近くに柱なんてものはない。確実に吸い寄せられて、抵抗むなしくサトシとピカチュウはパルキアが作り出した裂け目に吸い込まれてしまった。

 

「うゎあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 そんな状況でもピカチュウのことを抱きしめて何とか安全な場所までと流れに身を任せ空間のはざまをさまよい始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって関東地方にある東京都の秋葉原と神田、神保町の間にある音ノ木坂学院ではある男子生徒が異変を感じた。

 

「……っ!!」

 

 わずかだが、確実な空間の歪み。まるで他の世界の何かがこの世界にやってくるような異常な歪みを俺は感じた。

 

「全く……帰って来て早々なんだよこれ?」

 

 音ノ木坂学院の屋上にいる俺は感じた違和感が今までにないものであったことに驚いていた。空間を操る魔法を使えるのは基本的には俺だけのはず……。場所を移動するとかならほかの人にできるかもしれないけど、別の空間を作ってそこに入るといったことができるのは俺だけ。なのに、他の人がそれを使ったような感覚が俺にはあった。

 

「空也君? 何かあったの?」

 

 俺が感じた違和感にきょろきょろしていると穂乃果が俺に話しかけてくる。……でも、どういう風に説明したらいいのかわからない。

 

「あ~。まぁ、あったと言えばあったかな」

 

 だから少し曖昧な返事をしてしまう。

 

「どうしたんですか?」

 

 最初に気が付いた穂乃果につられ、今度は海未も俺に対して何があったのかを聞いてきた。それに続いてことりや真姫、他のμ'sのメンバーが俺の周りに集まってくる。……魔法のことを話して以来、何か不思議なことがあるといつもこうして集まってくるんだから……。

 

 まぁ、ここは正直に自分のわかっている範囲でみんなに説明をしますか。

 

「いや、ちょっと魔法関係で感じたことがあって」

 

 でも、俺が言えることはこういうことだけ。詳しくは空間魔法関係となるがそこまで説明しても穂乃果たちが理解することができないだろう。だからわかってくれる範囲での説明になった。

 

 こと魔法のことになると、未知のことからなのかみんなが不安そうにしている。俺が隠していたからあまりよくないことだとは思っているみたいだけど、魔法関係で感じた=確実に悪いことということでもなかった。

 

「それって大丈夫なの?」

 

 だから俺は不安そうにしていることりの問いを断言することはしなかった。

 

「わからない。使ってるってことはわかってるんだけど、それが悪影響になるかまでは……。って!」

 

 現状は悪いことが起こっているのか、それとも何か良いほうに転がるようなものなのか判断が付かない。ただ、違和感を感じた。それだけの状況なのだ。

 

 そんな話をしていると不意に見上げた空に大きな穴が開いていることに気が付いた。

 

 あれは……!! 親方! 空から女の子が! ……じゃなくて男の子が落ちてる!? 何がどうなってるのかわからないけどあのまま背中から落ちたんじゃ、絶対に助からない。なんとか……間に合え!!

 

 俺は赤い帽子をかぶって何かを抱えている少年が落下すると思われる地点まで走りこんだ。

 

 なんとか屋上の範囲内で落ちてくれて助かったよ。しっかりと抱え込んで少年はぎりぎり受け止めることができた。

 

 にしても、パラシュートなしでスカイダイビングするような体勢じゃなかったし、何よりこの場所は適さないだろ……。じゃあなんでこの少年は降ってきたんだ?

 

「空也! その子は大丈夫だった!?」

 

 俺から遅れて絵里たちが心配そうにまた駆け寄ってきた。こうして目に見えて危険な様子の子供が降ってきたらそれは心配になる。

 

「あぁ。今は少し気を失ってるだけみたいだ。真姫、念のため見てやってくれないか?」

 

 けど、本当にけがのない少年の姿を見せるとみんなは安堵の様子でその少年を見つめていた。

 

「えぇ。でもどうして空からなんて……」

 

 医療知識がこの中では一番ある真姫にも目立った外傷が見られず脈も正常であることから大丈夫であると判断する。そのあとに気になってくるのはこの子が現れた現象について。なぜ何もなかった空から少年が降ってきたのか。

 

「それはまだわからないけど……とりあえず保健室までこの子を連れてくか。ことりもついてきてくれ」

 

 それについては現状全く分からないけど、こうして降ってきた少年をこのままにしておくわけにはいかない。

 だから俺は保健委員のことりと医療知識のある真姫に助けを求めてこの少年の様子を見ることにした。詳しくはわからないけど、このタイミングからしてきっと空間に異常となにがつながりがあるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ことりが保健室の先生に話を通してくれたおかげでスムーズに彼を休ませることに成功した。本当だったら仰向けで眠らせてあげたかったんだけどずっと何かを抱えているからそのままの恰好で寝かせている。……にしても何かを抱えているんだろう?

 

「本当に、どうなっているのかしら?」

 

 だんだん落ち着きを取り戻し始めたことりと真姫だけど、気になってくるのはやっぱり一つだけだった。

 

「うん……。空から男の子が降ってくるなんて……」

 

 どうして少年が空から降ってきたのか。非日常すぎる体験を初音島でしてきたばかりだったけど、こうして完全で意味の理解できない非日常を目の当たりにするとどうしても平常心のままではいられなかった。

 

「これも、空也と同じ魔法が原因なの?」

 

 でも考えてみれば、今日先ほどまでの会話を考えてみれば何かしらのヒントがあるのかもしれない。そう思ったようで真姫は魔法だと思い俺に尋ねてくる。

 

「近いものだとは思う。けど、この子は魔法使いじゃないよ」

 

 確かにこの子が出現した穴のようなものからは魔法と似た何かを感じ取ることができた。けど、それはこの子が出現させたわけでもないし、この子からは魔力が何一つ感じ取ることができなかった。

 

「そんなこともわかるの?」

 

 魔力の有無に関してわかるということは、そういえば言ってなかったっけ。初めて聞くことりは首をかしげながら俺に聞いてくる。

 

「あぁ……。でも、今一番気になってるのは……」

 

 けど、俺にはほかにも気になることがあった。

 

「気になってることは……?」

 

 それが何なのか真姫は俺に聞いてくる。そんなのは一つしかない……。

 

「この子が抱えている黄色い何かは何なのかということだ。なんか動いてるし……」

 

 呼吸しているかのようにもぞもぞと動いていることから生き物であることはわかる。けど、人間というには小さすぎるし、黄色のぬいぐるみを着ているようにも見えなかった。黄色い動物なんて早々みることはないし、いったいどんな生物なのか俺はそこが気になっていた。……もしかしたらこの世界のものではないのかもしれないという仮説を立てながら俺は少年と生き物をじっくり見ていた。

 

「あ! 本当だ……。なんなんだろう?」

 

 俺が気になり始めるとことりも目が行ったようでじっくりとその黄色い何かを見つめる。

 

 と、そんな話をしていると少年の目がぴくぴくと動き始めた。少しうるさかったかな? けど、これで話が聞ける。この黄色い生き物についても、空から落ちてきた理由についても。

 

「うぅん? ここは?」

 

 ……ただ、この少年、どこかで見たことがある気がするんだよな……。でも、混乱しているようだからまずは説明か。

 

「学校の保健室だよ。目が覚めたみたいだ良かった~!」

 

 ことりはその少年に向かってここがどういうところなのかを説明する。突然知らない場所で目が覚めればそういう反応を示すのも当然だし、何の不思議もない。

 

「がっこう……? あ! ピカチュウ!!」

 

 けど、学校に疑問を持つものなのか? 見たところ日本人みたいだし、学校を知らないなんてことはないと思うんだけど……。

 それに少年は目が覚めると何かを思い出したかのように抱えていた何かに向けて話しかける。……ピカチュウ? どこかで聞いたような……。

 

『ピカ?』

 

 黄色い姿で雷のような形をしているしっぽを持った明らかにこの世界のどこにもいない獣を少年は大事そうに抱きしめていた。目は真ん丸で可愛らしくもどこかりりしいその姿は……。

 

 ……思い、出した!! これポケモンだよね!? この子、サトシ君だよね!? なんで!? アニメの中のキャラクターが何でこの場所で寝てるの!?

 

「いいいいい、一応名前を聞いてみてもいいかな?」

 

 ヤバい! サトシ君だとわかった瞬間に緊張してきた。だって!? 本来会うことすらできないような人物なんだよ!? しかも、子供から大人まで知っている作品の主人公だよ!? 興奮せずにはいられないでしょ!!

 

「何そんなに緊張してるのよ。ただの子供でしょ?」

 

 って!! 真姫は知らないんかーい!! マジで!? この有名人知らないの!?

 

「かわいい! ねぇ、ちょっと抱っこさせて!」

 

 しかもことりはサトシ君のことを放っておいてピカチュウに夢中だし……。

 

 けどそんな中でサトシ君はしっかりと自己紹介をしてくれる。

 

「あ、俺はマサラタウンのサトシ。俺をここに運んでくれたのって……?」

 

 生で……生で聴けたよこのセリフ!! でも、これで確定した。この少年、サトシ君はアニメ『ポケットモンスター』における主人公のサトシ君であることが。

 

「やっぱりあってた~!!!(あぁ。俺たちだよ)」

 

 そう分かった瞬間……。あ、心の声としゃべろうとしたことがあべこべになった。え!? 俺ってこんなに混乱してたの!?

 

 自分がいかに混乱していたのかを理解すると不思議と緊張感がとけ、何とか冷静を取り戻すことができた。

 

「何なのよさっきから……」

 

 でも、情緒不安定な俺の様子を見ていた真姫は何事かと思って若干引きながら見ていた。……アハハ、うん。客観的に見るとその反応になるよね。本当にアツくなってた。

 

「あれ? マサラタウンって確か……」

 

 ただ、ピカチュウにお熱だったことりもサトシ君の自己紹介は聞いていたみたいで気になった単語に反応する。それはサトシ君の出身地であるマサラタウン。

 

「お姉さん、マサラタウン知ってるの!?」

 

 自分の出身地を知っているような口ぶりで話していたことりにサトシ君は嬉しくなったのかかなり食い気味に話を聞こうとする。

 

 けどそんなことりが思い描いているマサラタウンとはこっちの世界でのもの。

 

「うん……確か、ゲームで出てくる町だよね?」

 

 そう、この世界ではポケットモンスターという作品がゲームやアニメとして存在している。そして今目の前にいる人物がその空想上の主人公ということだった。だからこそ、ことりはその場所が出身であるということに疑問を持っていたのだ。……今目の前にいるサトシ君がこの世界の住人であると勝手に思い込んで。

 

「……? ゲーム?」

 

 ことりの言葉を聞くとサトシ君はまた首をかしげる。それはそうだ。だって自分が住んでいた町がゲームで出てきたと聞いてピンとくるわけがない。

 

 でも、ことりの言っていることは少しだけ間違っている。それは俺が先ほど答えを出したに等しいのだが、このサトシ君のいたポケットモンスターの舞台はゲームではなく……。

 

「ことり、確かにそうだけどこのサトシ君はゲームの中のキャラクターじゃない。彼はアニメのほうのサトシ君だよ」

 

 アニメであるということだ。帽子についているモンスターボールのマークが青色だからこのサトシ君はダイヤモンドパールの時代からやってきたのだろう。そこまで考えはつくのだけど、やっぱりこうしてこの世界に来た理由が全く予想が付かなかった。

 

「アニメ……?」

 

 けどサトシ君は、そんな俺たちの話はよくわかっていない様子だった。まぁ、説明もしていないし無理ないか。

 

 そしてそれは真姫も同じ。ありえないことを話している空也に対してツッコミを入れる。

 

「いったい何の話をしてるのよ!? アニメのキャラがここにいるわけないでしょ!」

 

 そう、アニメのキャラがこの場所にいるなんてことはあり得ない。では、なぜこうしてサトシ君がここにいるのか。ここにいられるのか。

 

 それは俺が考えればすぐに検討が付くものだった。なぜなら……。

 

「俺がどんな魔法が得意か忘れたのか? 空間関係なら右に出るやつはいないぞ。空間。つまり別空間の話がこの世界ではアニメや漫画になっていることなんてよくあることなんだよ」

 

 俺がカテゴリー5の魔法使い、"時空の覇者"時坂空也だからだ。二つ名の通り、俺は空間に関係することならこの世界で誰よりも知識と技術があると自負している。だからこそ断言ができる。人の想いが詰まった世界が平行世界として存在しないわけがないということを。

 

 って、そんなことを語っているとサトシ君を置いてけぼりにしていたことに気が付いた。……やっぱりまだ興奮していたみたいだ。リラックスリラックス……。

 

「あ、ごめんね。ちょっと取り乱してたよ。それで、なんで君は空から降ってきたのかな? 思い出せる範囲で教えてくれないかい?」

 

 やがて落ち着いた俺は現状の打開策を考えるためになぜこの場所にサトシ君がやってきたのかを聞いてみる。

 

 突然の俺の問いにサトシ君は首をかしげながら考えるように腕を組んだ。ピカチュウはもうサトシ君の肩に移動している。

 

「え? ……あ。俺パルキアとバトルしてて、途中でパルキアがおかしくなっちゃって、空間に亀裂を入れたら吸い込まれて……」

 

 サトシ君が思い出しているそばでピカチュウもうんうんと頷いている。……可愛いな。ってそうじゃない! 今すごいポケモンの名前を聞いたような気がするんだけど……。

 

「パルキア? 確か空間を司るポケモンだったよな……。ん? 空間を司る……?」

 

 しかもそのポケモンの名前がパルキア。作中で空間を司るポケモンとして描かれた存在だったはず。司るということは言ってみれば統括しているということで……。

 

 もしかして……俺が初音島でやったことが原因なのか? 司るとなれば空間が一時的に増えればそれは異常が発生したのと同じ状態になる。だとすれば……。

 

 そう考えているとパルキアについてある程度知っていることりが反応する。

 

「じゃあもしかしてあのおっきなポケモンがこの場所に来てるってことなの!?」

 

 そうだ。パルキアの大きさは4メートルをはるかに超える。そんなポケモンがこの世界に出現したとすれば大惨事になっていることだろう。

 

 けどそんなニュースが入ってきた覚えはないし、出現したとすれば普通に避難警報が出てもおかしくない。なのにそれがないということは……。

 

「え? 大きいの?」

 

 今は真姫の質問に答えている余裕がなかった。すぐにでも推測を立てないといけない。だから真姫はいったん置いておいて話を進めると……。

 

 サトシ君がこの世界に来たという経緯はきっと……。

 

「君がこの場所に来たのもきっとパルキアがその場所からこの世界に来る時に作った亀裂に飲まれたんだと思う。だから、パルキアはもっと先にこの世界にやってきていると考えていい」

 

 亀裂に飲み込まれて流され続けたサトシ君よりも絶対にパルキアのほうがこの世界にやってきたのは早いだろう。なぜならパルキアでないとその空間を切り裂くことはできないから。入り口でそんな行動を下となればきっと出るときも空間を切り裂いて出てくる。きっとサトシ君はその出口に流されるようにして出てきたんだろう。

 

「こうしちゃいられない! 何とかパルキアを助けないと!」

 

 自分より先にこの世界にパルキアがやってきたということを聞いたサトシ君はベッドから立ち上がり外に出ていこうとする。

 

「うん。それには同感だよ。何とかしないといけない」

 

 サトシ君の考えであるパルキアを何とかしないといけないという部分に関しては俺も同感だ。この世界にもともといるものではない存在がいつまで原形をとどめていられるかという問題も出てくるし、何より未知の生物を一般人が見つけてしまった時にどうなるのかを考えるだけでも背筋が凍ってしまう。

 

「でも、考えてみると大きな何かが突然現れたなんて聞かないよ?」

 

 けど、探すとなれば大きなポケモンが出現したという部分を考えようとする。

 

 しかし、その情報はもうすでに出ていたっておかしくない。出ていないということはパルキアが透明になっているか、それとも……。

 

「そうだろうな。世界には整合性というものが存在する。他の言ってしまえば異分子がこっちの世界に合わせて変えられてしまうということ。ピカチュウがこのまま来たってことは形自体は変わらなかったんだと思うけど、きっと犬や猫と同じような大きさになってると思う」

 

 この世界の整合性によって大きさが変えられているかの2択だった。透明になることはパルキアの特性上できないことはわかっている。というか、この世界にきてできるはずがなかった。だってこの世界にはパルキアが大きいままで行動できるほどのエネルギーがないのだから。

 

「それなら情報がないのもうなずけるわね」

 

 俺の話を黙って聞いていた真姫はどこか納得するようにして考えていた。だからこそ、この大きな世界の中で小さいパルキアを見つけないといけないのだが……。

 

 けど周りに被害を与えることはないからそこの部分に対しては安心できる。

 

「だからその分力もない。空間を移動することはもちろん、他の技を出すことさえ」

 

 きっと今できるのは猫や犬にもできるようなことくらいだろう。

 

 そんな話を聞いたサトシ君は大きさの変わらないピカチュウに向けて確認のためある指示を出す。

 

「じゃあピカチュウはどうなんだろう? なぁ、俺に10まんボルト」

 

 ……サトシ君のドM行動が出たね。時々こうやって自分に技を出させるんだもんな……。サトシ君の体ってどうなってるんだろ?

 

『?』

 

 サトシ君の指示を聞いたピカチュウの技は見事成功する。やっぱりか。この世界にいても大きさが一緒であれば体内でエネルギーを生成することができる。そうなら技が繰り出せる。

 

「え!? 何をやってるの!?」

 

 まぁ、サトシ君の行動を見るとその考えをする前に驚いちゃうよな。

 

「ピカチュウは大きさがそのままだからここでも技を使えるよ。要は体内でエネルギーを作れるかどうかの問題だからね」

 

 けどその行動だって俺の予想通りだし、結果も同じだった。何故ピカチュウが技を使えるのかを説明するとサトシ君は安堵の様子でピカチュウを見つめている。……髪の毛アフロだけど。

 

「そうか、良かった……」

 

 けどサトシ君はピカチュウがいつも通りであることにほっと一安心する。余程大切なんだろうな……。

 

「あ、他のみんなはどうなんだろう?」

 

 ピカチュウのことが大丈夫だとわかった今、サトシ君が気になるのは他のポケモンだった。いつも同じ時間を共にしていたのだから心配になるのは当然か。でも、モンスターボールが機能するかどうか……。

 

「え? まだいるの?」

 

「見せてみせて!」

 

 まだほかにポケモンを持っているということを聞いた真姫は少し戸惑いながら、ピカチュウを見たことりは他に可愛いポケモンがいると思って興奮気味にサトシ君に聞いていた。

 

「あぁ! ってこの場所だと出せるのは……」

 

 自分のポケモンに興味を持たれたことに嬉しく思ったサトシ君は元気よく返事をする。けど保健室内を見渡してここでは出せないと判断した。

 

「じゃあ屋上に戻ろうか。いつまでもここにいられないし、あまり見られるのもよくないだろうし」

 

 まぁ、いつまでもここにいたって意味はないし、広い屋上に向かうのが今は一番いいか。

 

「それもそうね。穂乃果たちも心配しているだろうし、戻りましょうか」

 

 俺の提案に真姫が乗り俺たちは屋上に戻ることになった。……サトシ君、さっき俺の言ったこと覚えなかったのかな? 大きさはこっちの世界に合わせられるのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちは屋上に戻ってきて一通りサトシ君のことについて、この場所に来たことについて話をした。

 

「空間を司るポケモン……ですか」

 

 その中には当然パルキアがこの世界に来たということも含まれている。

 

「なんか、現実感ないね……」

 

 こんな話を聞かされてすぐに納得できるかといわれればほとんどの人がノーと答えるだろう。

 

「それを言うなら空也君も十分現実感ないにゃ」

 

 けどμ'sは違った。俺という非日常の権化たる人物がいるからなのかいつも通りのまま話を聞いていた。

 

「でも、スピリチュアルでいいやん!」

 

 というか、驚くどころか興奮している人もいるし。

 

 でもとりあえず今やることは……

 

「じゃあ出すぜ。みんな! 出てこい!!」

 

 他のポケモンの様子を見ること。

 

 サトシ君は上半分が赤、下半分が白の球体を投げる。その球体は空中で開き、青白い光と共に猫や犬と同じくらいの大きさのポケモンたちが出てきた。やっぱりね。現状出てきたポケモンはドダイトス、ゴウカザル、フカマル、ムクホーク、グライオン。

 

 元の大きさとの違いが顕著なドダイトスをはじめとするみんなを見ているとサトシ君はかなり驚いていた。

 

「あ……。そっか。ここだと大きいポケモンは小さくなるんだっけ……」

 

 俺の先ほど言った言葉を思い出したサトシ君は驚きながらもすぐに納得する。

 

「そうだよ。大きさが変わってないポケモンっている?」

 

 けど、今重要なのはその大きさ。もし全員が変わってしまっていたのなら少し考えようだけど、俺の記憶上きっと変わらないポケモンもいるだろうとは思っていた。

 

「そうだな……。ピカチュウと、フカマル。後、ムクホークにゴウカザルかな」

 

 サトシ君が大きさの変わっていないポケモンたちをリストアップする。じゃあ大きさが変わったのはドダイトスとグライオンだけってことか。

 

「わぁ~!! かっこいいし可愛いし! 本物ってやっぱすごいね!」

 

 ポケモンを知っている穂乃果も目の前に広がるこの世のものではない新しいものを見て興奮していた。

 

 ポケモンがつかえるのであればポケモンたちが独特に感じる空気感も知ることができる……。だとしたらパルキアを見つけるのも幾分楽になるかもしれない。

 

「サトシ君。ムクホークとか空を飛べるポケモンで空からこの近くをさがしてくれないか?」

 

 俺はそう考え、空を飛べるムクホークに偵察に行ってもらえるように頼んだ。飛べるポケモンが通常のサイズで出てきてくれた本当に助かったよ。

 

「大丈夫だ。……でも、どこまでをさがすか見当をつけないと」

 

 確かにこの星全体をさがそうとすればそれ相応のスタミナが必要だし、時間もかかる。だから場所を検討づける必要があった。

 

「確かに、この世界?に来ていたのだとしても地球を丸々探してたら時間がいくらあっても足りないわよ」

 

「でも、空間を司るポケモンで何か異変を感じてこの世界に来たんだとしたら……」

 

「あの場所かもね」

 

 けどその検討は俺以外にもついていたみたいだ。そう、その場所というのが……。

 

「……初音島」

 

 俺の第二の故郷であり、初めて魔法使いであることをみんなに教えた場所。そして空間を作って練習した場所だった。

 

「あぁ。俺もそのどっちかだと思ってる。だからムクホークには悪いんだけど初音島まで飛んでいってほしいんだ」

 

 だから先にムクホークには全体を観察してきてほしかったのだ。

 

「大丈夫だ! な! ムクホーク!」

 

 その俺のお願いにサトシ君は快く引き受けてくれる。良かった……。

 

「その言葉、心強いよ。それで場所なんだけど……」

 

 サトシ君からその言葉が聞けたから俺はムクホークに初音島の場所を教える。ここから少し遠いから頑張ってもらわないといけないけど、今は少しでも早くパルキアを見つけないといけない。

 

「じゃあ、ムクホーク。頼んだ! あとで俺たちも向かうから!」

 

 そして今すぐにムクホークは初音島に向かう。サトシ君は自分のポケモンを励ましエールを送った後、しっかりと真っ直ぐな目線でムクホークを見送った。

 

 どれだけ初音島とこの音ノ木坂が離れているかを知っている海未たちはムクホークに対して不安になる。

 

「……大丈夫なのでしょうか?」

 

「うん……心配だね」

 

 しかも今まで見たことのない世界でいろいろ戸惑うことだってあるはずだ。だから心配になるのだってきっと自然なものなのだろう。

 

「きっと大丈夫だよ! あの子は強いから!」

 

 けど穂乃果のように信じて送り届けるのも今は必要だ。一刻も早くパルキアを見つけるためには絶対に。

 

「にしても、あとはこっちを何とかしないといけないのね」

 

 さて、あとはやることが決まった。

 

「うん。早くしないと困っちゃうしね」

 

 一刻も早くパルキアを見つけるために。

 

「でもなんとかしないといけないんだから早く探しに行くにゃ!」

 

 俺たちも行動を始めないと……。

 

「じゃあ、行くぞ。初音島に」

 

 向かうはムクホークと同じ目的地の初音島。絶対にパルキアはそこにいる。そんななく賞が俺にはあった。

 

 




まさか終わらないという……。

大まかな流れに関しては全部できているのですがこれ以上なると長くなるので今回はここまでとさせていただきます。

長らくお待たせしたポケモンクロスなのに力不足で申し訳ないです。けど、意外なクロス内容になって驚いていただけたでしょうか? 次回はこの続きを更新します。なのでそれ以外の話をここに投稿する予定はありませんのでゆっくりとお待ちください!

この作品では今年が最後になります。それではよいお年を!


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くうかんポケモンとの邂逅

どうも、そらなりです。

今回はリクエスト作品第二弾の後編です。1話で終われると思ったら長引いてしまいました。

さて、空也のいる世界にやってきたパルキアはいったい今どんなところにいるのでしょう?

それでは、今回も物語が始まります!


 真姫の伝手で俺たちは水越病院から医療用のヘリを使って初音島にやってきた。乗れる人数上、俺とサトシ君、真姫とことりの4人でこの場所にやってきた。

 

「まさかこんな早くにここに戻ってくるとはな」

 

 夏休みに入って1年ぶりに合宿で一時的にこの初音島に帰ってきたけどまたこんなすぐに戻ってくるとは思ってもみなかった。この場所は瀬戸内に浮かぶ1つの島。つまり東京からは普通に離れた場所にあるのだ。それをこんなにすぐに来てしまうとは思う方が無理があるというものだ。けど、それはこの話を通してくれた人にも言える。

 

「ほんとだよー。話し通すのに苦労したんだよ~」

 

 それがこのさくらだ。俺が通っていた学校風見学園の学園長にして島の人に顔のきく有名人。だからこそこの飛行機が通ることのない島に空からやってくることができたのだ。ヘリポートなら病院にあるからな。

 

 そしてこのおかげでこの島にいるパルキアを探すことができる。

 

「さくら……。ありがとな。これで探せる」

 

 くたくた気味に話してくるさくらにありがとうを伝えたところで病院の外に出る。すると空のほうからこちらに向かってくる影が一つ。その影に俺は心当たりがある。だってそれは俺が指示を出して出した結果だ。

 

「ムクホーク! お疲れ様! 見つかったか?」

 

 サトシ君は自分のムクホークを抱きかかえる。しかしサトシの問いに首を横に振るムクホーク。その答えを聞いたサトシ君は疲れ切っている様子だったのですぐさまボールに戻した。この場所にポケモンセンターはない。人間の医療が通用するとも思えないのでその判断は賢明だと思う。

 

 でも、あとは自分たちの手で探し出さないといけなくなってしまったということで……。それはかなり骨が折れる。この場所に来てしまえば俺は魔法が思う存分に使える。であれば、おびき出すことも可能。なのだが、パルキアの様子を考えるとそうも言っていられない。

 いくら世界の整合性が保とうとするために大きさやパワーが変化するとはいえ見た目が変わるわけではない。だからこそ、この世界で見ることのできない姿のパルキアが見つかってしまうのは何としても避けていところだ。

 

 こうなったらまた、ここに来たように範囲を絞るしかないか……。

 

「じゃあ手分けをして探すか!」

 

 そう俺が考えているとサトシ君が全くの反対の作戦を提案する。

 

「……いいや、一か所だけみんなで行こう」

 

 けど自分が考えた作戦のほうが確実性があると考えた。小さい初音島だと言ってこの島全体をさがすのは時間がかかる。だからこそ、可能性の一番高いところをみんなで探す方が見落としが少なくなるとそう考えたのだ。この作戦の欠点は的外れな場所を探してしまう可能性があるということだけど、俺は1つの確証があった。きっとそこにいるだろうという確かな予感が。

 

「心当たりがあるの?」

 

 自信満々にそう宣言した俺にことりが聞いてくる。そう。心当たりがあるのだ。

 

「あぁ。おそらくいるとしたらあの周辺しかない」

 

 パルキアがここに来ることになった原因を考えてみると俺が魔法を極限まで使える場所にいるだろうということが感覚的に伝わってくる。

 

「そこってもしかして……」

 

 こんな表現をしたからか俺が考えている場所が真姫にもことりにも、そしてさくらにも伝わる。この場所で一番パルキアがいるであろうという場所。それは……

 

「枯れない桜。だよね?」

 

 そう。枯れない桜。1年中枯れることのない魔法の桜。そして俺が魔法を使う上で一番必要な依り代。俺の空間の魔法を使うのに必要な場所。

 

「そうだ。じゃあ行くぞ!」

 

 だからこそ、そこにいるだろうという確証を得たのだ。

 

「おう!」

 

 そんな確証があるから俺たちは枯れない桜に向かう。ゼッタイにそこにいるパルキアを探すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走って病院から枯れない桜の下へたどり着いた俺たちはいち早くパルキアを見つけ出すためにこの場所を手分けして探すことになる。今は長期休業中でないため観光客もこの近くにいないから行動もしやすい。

 

「この周辺にいると思う」

 

 だから俺はこの周りにいるであろうパルキアの存在をみんなに伝える。ここに来てから近くにパルキアがいるような予感がより強くなってくる。

 

「なんでそう思ったの?」

 

 感覚的に理解している俺の予想に疑問を持ったことりがその理由を尋ねてくる。

 

 それも普通のことだ。魔法についてパルキアが反応したのであれば初めて空間移動の魔法を使ったさくらの家に出るはず。なのに枯れない桜にやってきたのか。そんなのは簡単なこと。

 

「この木は俺の魔法の依り代だ。俺が原因で呼び寄せてしまったのであれば、この場所に来るのは当然だと思ったんだ」

 

 それは依り代だから。単純な話だけどこれで俺にとっては十分すぎるほどの判断材料だったのだ。そしてさくらの家の可能性を切ったのが誰からも連絡がないことからだ。あの家にさくらはいた。なのに気が付かないなんてことがあるわけがない。だからこそ、候補の1つであるさくらの家が選択肢からなくなったのだ。

 

「じゃあこの周辺にいるかもしれないってことね」

 

 この確証はきっとことりにも真姫にも伝わっていないだろう。けど確実な自信のある俺の言葉は信じてくれる。だから真姫も周りを簡単に見まわしてパルキアがいないかどうかを確認している。

 

「だったら早く手分けをして探そう!!」

 

 ここにいる。そういう確信があるのだということだけは理解したサトシ君の言葉に全員が頷き周りに散っていった。一刻も早くパルキアを見つけるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手分けして探し始めてから俺は文字通り単独行動をしていた。そして地面を見て探していた。その理由はなんてことはない、ただパルキアが空中を飛べないと思っていたから。けど一向に見つけることができなかった。異質な足跡も何かが通っているような気配もない。

 

 ということは考えられることは一つしか思い浮かばない。確かな自信を持ってここにパルキアがいる筈だと思って来たのに、一向に成果が見られない。

 

「おかしいな……。俺の考えが間違ってたってことなのか?」

 

 もしかしたら他のみんなのところでは変化があるのかもしれないから一概に俺の感覚が間違っているとは言い切れない。これは他のみんなの結果に期待しないといけないか。

 

 ということを考えていると俺の耳に聞きなれない声が聞こえてくる。しかもそれは人間が発しているような声ではなくもっと違うもの。本来この世界にいる者からの声には聞こえなかった。

 

『貴様が、空間に異常を作った者か?』

 

 この声を聞いた覚えは当然ない。けど、ひとつだけ俺が知っている可能性があるのは確かだ。この世界にもともといない生物で人間ではない者。そんなのはサトシ君が連れてきたポケモン以外には一つしかない。それを裏付けるように話してきた内容が後押しをしてくれる。俺たちがこの初音島に戻ってきた理由。

 

「もしかして、パルキアか!?」

 

 そう。パルキアだ。ポケットモンスターダイヤモンドパールの世界で空間を司るポケモンとされている伝説のポケモン。そして俺がこの世界に呼んでしまった存在。その声が今まで耳に聞こえていたように感じていたがどうやらテレパシーの一つのようなもので話しかけてきているようだということもわかった。

 

『いかにも、我が空間を司るポケモン、パルキアだ』

 

 俺の予想通り話しかけてきたこの声はパルキアのものだった。パルキアが自身のことを空間を司るポケモンだと言う自覚があったのは驚きだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。とにかく今はなんとかしてサトシ君を元の世界に戻してあげないといけない。今はポケモンが元の世界に生きている生物のサイズに変化しているだけで済んでいるもののこれからどんなことが起こるのかはわからない。もともと異世界の住人はそんなに滞在していいわけではないのだ。特にこの世界における非日常の世界からやってきているサトシ君やパルキアを含むポケモンたちはより変化が出てくるだろう。

 

「早く姿を見せてくれ! お前のせいでこっちの世界に来てしまった少年だっているんだぞ!」

 

 だからこそ、早くサトシ君たちを元の世界に戻すために今はまだ見えていないパルキアに姿を見せてくれるようにお願いをする。

 

 しかし、俺の願いはパルキアには応えてくれないかった。

 

『それは出来ない』

 

 なぜそんなことを言うのかはわからない。パルキアにはパルキアのやるべきことがあって答えているのかもしれないし、それがどうしても重要なのかもしれない。けど、今はそんなことを優先するよりも犠牲者であるサトシ君を元の世界に戻すことが重要だと俺は思っている。

 

「なんでだ!!」

 

 だからこそ、俺はパルキアの答えに納得がいかない。が、冷静に声がどこから聞こえてくるのかを考えているとどうやら上の方から聞こえてくるようだ。テレパシーなのにはっきりとパルキアが声を発している場所がわかる。それが枯れない桜を取り囲むようにして生えている桜の木の上から。

 

 気になった俺は声のした方向の上を見てみた。するとそのタイミングで強い風が俺を取り囲むようにして吹き荒れる。そのせいだろうか? 桜の花びらが舞う中俺は確かにパルキアの姿を見た。それはサトシ君の手持ちにいたドダイトスのようにこの世界にあった大きさの小さなパルキア。だけど俺が見た先にあったのはそれだけではなかった。俺の視線に映し出されているそれには……

 

 そこには、桜の木に引っかかっているゲームで見たことのあるパルキアの姿があった。

 

「…………」

 

 それを……木に引っかかっているパルキアを見た瞬間にさっきの納得のいかない気持ちがどこかに行った。ゲームでは、アニメでは伝説のポケモンらしくかっこいい姿を見せてくれたパルキアが小さくなっているだけなら、理解はできる。伝説のポケモンだって大きさは変わる。問題は状況だ。あれだけかっこいい姿を見せてくれたパルキアが桜の木に引っかかっていると言うところを見ればどこか覚めた目で見てしまうのはきっと仕方のないことなんだと思う。

 

『な、なんだその目は! そんな目で我を見るでない!』

 

 きっと俺の目はジト目と大差がないほど呆れているような瞳をしているんだと思う。けど、それをするなと言う方が無理であるし、今はパルキアのペースで話すものなんだか変に感じていた。それに、きっと姿を見せて欲しいと行った時に断った理由もこの状況から考えることは容易い。

 

 だから俺は交渉で有利に発つために周りで探しているサトシ君たちを呼んだ。

 

「おーい!! サトシくーん! パルキアいたぞ!!」

 

 俺の言葉はみんながすぐさま反応し、全員集まる。手を泥だらけにして探し回っていたであろうサトシ君を始めとして汗をかきながら探してくれていたことりと真姫、さくらの全員が俺の視線の先にいるパルキアの存在に気がついた。

 

「あ! パルキア! 早く俺たちと元の場所に戻るぞ!」

 

 そしてたびの仲間を残してこの世界にきているサトシ君は一刻も早く戻りたいのかパルキアに強気で当たる。……パルキアってサトシ君の世界では神にも等しい存在だったんじゃなかったっけ?そんな存在に強気で当たれるなんてサトシ君はすごいな……。

 

『それは出来ない……』

 

 そんな強気のサトシ君に少しバツが悪そうな感じで答えるパルキア。……アレ? でもこれもしかしてみんなに聞こえてないんじゃ……。

 

 周りを見渡してみるとどうやら本当にパルキアの声はサトシ君たちには聞こえていないようだった。普通ならなんで元の世界に戻せないのか聞くと思うからそれが判断材料になる。

 

「それは出来ないってさ」

 

 だから聞こえていないみんなにパルキアが言っていたことを伝える。……さくらも聞こえてないってことはどう言うことなんだろう? てっきり魔法使いだけが聞こえるとかそう言うのだと思ったんだけど……。

 

「空也君何言ってるのかわかるの!?」

 

 まぁ、ことりの反応も当然だと思う。だって理解不能な言語を話しているパルキアの言葉が理解できているんだからそれは驚くだろう。

 

「……空也だもんね」

 

 が、驚くのも一瞬のこと。次の瞬間には納得した表情になる。そして真姫の言葉で何が言いたいのかなんとなく察することができた。

 いや確かに俺だからできたのかもしれないけど、それでもそんなストレートに言われるとなんか複雑なんだけど……。

 

「なんだよその『俺だから仕方ない』って認識は!?」

 

 喜んだ方がいいのか? それとも人外だと言われてショックを受けた方がいいのか……。ただ、ぶっちゃけこの程度ではもうショックは受けないんだけど。けど、真姫にはいつかこの分のお返しをしておかないといけないかな。

 

 と関係ない話をしているとさくらが話の本題に戻してくれる。

 

「そんなことより、なんでできないの?」

 

 そう。今一番知りたいのがなぜできないのかと言うこと。空間を司るポケモンだからすぐにできると思っていたけどそれが通じないとなるとどうしてもわからない人からすれば疑問が出てくるだろう。

 

『この者の異常の原因がわからないことだ』

 

 そう言って俺の方にみんなの視線を向ける。あぁ……。やっぱり俺のことで来たのね。だったら話は早い。パルキアを納得させればいい。

 

「あぁ。それなら俺が勝手に空間作ってるだけだから問題はないぞ。この世界では俺しか開けないし」

 

 俺が勝手にやっていること。無責任に感じてしまうかもしれないけど絶対に空間に異常ができないように集中してやっていることから安全であると俺は言い切る。それにこの世界で空間魔法が使えるのは俺だけだ。だからパルキアが気にするほどのことでもない。空間を司ると言っていることからそれだけじゃ済まないとは思うけど、それは実際に見てもらうしか方法はない。

 

「……なんか空也がニャースみたいだな」

 

『ぴかぴか』

 

 翻訳することなく俺はパルキアと話していたせいでサトシ君が俺を奇怪な目で見始める。しかもそれをサトシ君自身から見て最も近いものに例えられる。……確かにアニメ版のロケット団ニャースはポケモンとの翻訳の役割を持っていたことから確かに今の俺はニャースのような存在なんだろう。ピカチュウも納得してるし。……けどピカチュウの言葉はわからないんだよな……。

 

 そして一番の理由がパルキアから告げられる。

 

『それと……、降りられないし技も使えない……』

 

「降りれないし自分でも戻れないって」

 

 そのパルキアの言葉を俺はみんなに伝える。気まずそうに話していたパルキアの言葉を簡潔にまとめて言う。やっぱりか。まぁ木に引っかかってるところを見ていると降りられなくなってるのはわかるだろう。

 

「にゃはは! 面白いね!」

 

 俺がみんなにパルキアの今の状況を告げるとさくらはお腹を抱えて笑い始める。

 

「じゃあ早く降ろしてあげないと」

 

 そしてことりは降りられなくなっているパルキアのことを案じて、パルキアが引っかかっている木の下で両手を広げて降りてくるのを待っている。……おいパルキア。今飛び降りればことりの胸に合法的にダイブできるみたいだぞ。

 

「ちゃんと受け止めてやるから落ちてきていいぞ」

 

 俺はと言うと早く降りて来て欲しいのはことりと一緒のためことりと一緒にパルキアのいる木の下に向かう。

 

 だけど、それでもパルキアは降りてくる気配はなく、その理由が……。

 

『怖い!!』

 

 あれ? パルキアって本当に伝説のポケモンだったっけ? 思った以上に情けないと言うかなんと言うか……。ポケモンにとって技が使えないことが不安につながるのかな? いつでも空中に移動できるから大丈夫なのかと思ったけど、そういえば落ちる感覚はそうそうないだろうし当然といえば当然なんだろうか。

 

 仕方ない。

 

「……サトシ君、悪いけどムクホークをもう一回出してもらっていいかな? 本当にすぐ戻していいから」

 

 サトシ君の持っている唯一の飛行ポケモンにお願いするしかない。ここに来るまでとこの島を大まかに探しに行ってくれたせいで疲れてしまったムクホークをもう一度というのが非常に心苦しいがここは頼らせてもらおう。

 

「わかった!」

 

 俺の言葉通りにムクホークを出してくれるサトシ君。そのムクホークも水越病院であった時よりは体力が回復しているようでそのままパルキアの近くまで飛翔する。そして背中にパルキアを乗せサトシ君の元に戻ってくる。……サトシくんたちの元では絶対にありえない光景だよな、これ。

 

 ムクホークはサトシ君の元に戻るとモンスターボールの中に戻されて行く。きっと今日一番頑張ったポケモンであるムクホークにお疲れ様と感謝をしながら。そして残ったパルキアを大事に胸に抱える。わずかに震えているようなパルキアがサトシ君に抱えられるとどうやら落ち着いたようでその震えも止まり、このまま話をすることができるだろう。

 

「さてと。これであとは戻るだけだな」

 

 パルキアが無事にサトシ君の元に降りてこられたのであればもうやることはひとつだけだ。サトシ君たちを元の世界に戻すだけ。

 

『しかし、貴様の言葉を信じていいものか……』

 

 しかし、先ほどの俺の言葉だけではやはり信じきれないみたいで元の世界に戻るのを躊躇い始めるパルキア。だけど、技が使えないからパルキア1体じゃ戻れないんだよね。

 

「また異常があった時に来ればいいじゃないか」

 

 それに異常があった時にまたくればいいのだ。帰れなくはなるけどパルキアは空間を司るポケモンなのだ。だからこそいつだってこの世界にくることはできる。

 

『そんなに簡単に言うがな……』

 

 ただ、それにもパルキアは反論する。確かにここの世界に来るためには特別な技を使わないといけないし、それに使う労力だってバカにはならないだろう。けど、こうしてサトシ君を巻き込んでしまったことには変わりない。だから今は一刻も早く帰って欲しいのだ。ポケモンたちに異常が出ないうちに。

 

「まぁ、俺が空間移動ができるとわかれば納得してくれると思うけど」

 

 だから俺はこの島にいる間しかできない空間移動を使ってパルキアに俺が空間を移動できることを作り出せることを証明することにした。自分ができる範囲で確実にパルキアに納得させることのできる方法はやっぱりこれしかない。

 

 けど、こうしてパルキアとタイマンで話しているとパルキアの言葉を理解できないみんなは置いてけぼりの状態。けど、俺の言葉からどんな話をしているのかはサトシ君以外は理解しているようだ。さすが、俺が魔法使いであることを納得した人たちだ。

 

「でもそれは、サトシ君たちを戻してからな」

 

 そう言って俺は懐からワンドを取り出す。魔法使いの補助アイテムのような存在のこのワンドを使えば、大きい魔法も今の俺には発動することができる。それに今回は俺自身が空間に入るわけではなく他者だけを送る魔法。この世界とサトシ君たちが元いた世界を繋いで一瞬で送り届ける。そのために少し意識を集中する。

 

「ほら、サトシ君も疲れてることだし、さっさと戻るよ」

 

 そして魔法が発動できる準備が整い、俺はワンドを振るう。するとそこにはいつもの、俺が空間を作る時に出て来る白いゲートが出現した。その瞬間に俺の依り代でもある枯れない桜が急激に光り出し、ゲートの感性とともに光は弱くなっていく。これは俺がゲートを開いていることのできる残りの時間を示している。だからこそ、開いた今のうちに早くゲートをくぐって欲しい。

 

『……!? どうやら本当らしいな。貴様なら空間も整合性と保ったまま何とかできるだろう』

 

 ただ、今の魔法を見たパルキアは俺が空間を関係する魔法を使えて、それを使いこなしていることを理解してくれたようだ。今まで言葉で説明しても信用してくれなかったのに見れば一発って……。最初から見せてればよかった。

 

「それはどうも。じゃあサトシ君、これをくぐったらもう元の場所だから」

 

 でもまぁ、認めてもらったんだ。このままサトシ君たちが帰ればきっとこの世界に来ることはもうないだろう。

 

「わかった! 今日はいろいろありがとう! 助かったよ」

 

 それがわかっているのかどうかは定かではないけど、サトシ君は俺たちに向かってお礼を言ってくれる。

 

「困ったときはお互い様。向こうの旅仲間が待ってるよ」

 

 そんなサトシ君に向けて俺は一言そう言った。向こうにいるのはきっとシンオウ地方を一緒に旅している仲間だろう。その人たちが待っている。俺は手を振ってサトシ君たちを見送る。さくらたちも同様に大きく手を振ったり肘までの動きで手を振ったりととにかく手を振っていた。

 

「もう少しかわいいポケモンたちも見たかったな~」

 

「そうも言ってられないでしょ。あの子にはあの子のいる場所があるんだから」

 

「そうだね。元気でね!」

 

 さくらたちも同様に大きく手を振ったり肘までの動きで手を振ったりととにかく手を振っている。ことりと真姫は少しだけ寂しそうにしながら、さくらはとにかくサトシ君たちが元気であることを願ってお見送りをする。

 

 そしてサトシ君たちがゲートをくぐり終わると、俺たちの方からはゲートが見えなくなり、それと同じタイミングでわずかに輝いていた彼ない桜の光が消える。つまりこれが示すことは魔法が成功したということだ。繋いだ世界を一瞬で移動できるからこそわかるこの感覚に俺は少しだけ嬉しくなった。

 

「これにて一件落着ってね」

 

 これは俺が招いた事故だったのかもしれないけど、このことがきっかけで出会うことになったサトシ君たちやポケモンのことを俺はいつまでも忘れないだろうとそう思った。それほどまでに濃度の濃い時間を過ごしたと、若干の達成感とともにいい気分になった。

 

 まぁ、この後はまた医療用のヘリを使って音ノ木坂に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は戻りシンオウ地方。少年、サトシがいなくなってしまってから旅の仲間のタケシとヒカリはサトシの帰還を待っていた。

 

 

「ん? あ、あれはなんだ!?」

 

「白い……白い光?」

 

 そんな2人の前には白いゲートのようなものが展開される。それも一瞬だけ。突然出てきた変化にタケシとヒカリの2人は驚くが、それすらも一瞬で感情が変わってしまう。そのゲートからくぐるようにして出てきた一緒に旅をしてきた仲間、サトシが帰還したからだ。

 

 その隣には相棒のピカチュウ、そしてここにいるときは敵対していた野生の伝説のポケモンであるパルキアがいた。

 

 タケシとヒカリの2人はサトシたちの帰還に喜び、駆け寄る。当然近くには元の大きさになったパルキアがいるのだが、今回の一件でバトルする気にもなれなかった。

 

 というより桜の木から降ろされた時に震えていたパルキアを落ち着けるかのように抱きしめた温かいぬくもりを感じたパルキアはのちに、サトシの手持ちポケモンの1体となったのだった。

 

 




ようやく、ポケモンのクロスオーバーが書けました! やり遂げたよ! 最後まで!

ぶっちゃけ言うとポケモンはそこまで詳しくなくてゲームはBW2からしばらくやっていなかったのをUSUMで若干復帰したような私が私なりに書いてみました。

アニメも、BWまでしか見ていなかったためにどこの世界観とつなげるのかを考えると自ずと答えが見えてきてしまい、DP時空のサトシ君に登場していただいたわけです。

なぜその時空を選んだのか、それは物語を読んでいただけたら分かると思います。一番大きかったのが……。パルキアの存在ですね。空間をつかさどるとされているポケモンであるパルキアはこういったクロスオーバーにはもってこいのステータスを持っていたのです。

そのおかげで私が私らしくこの作品を書ききることができました。

物語の最後の最後でちょろっとサトシ君がアニメ本編と違う手持ちを増やしてしまいましたがこれもやりたかったことだったり。……このサトシ君はもしかしたらリーグ優勝してたかもしれませんね。

それでは今回はこの辺で。ここまで読んでいただきありがとうございました!



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あなたとシャッターラブ

どうも、そらなりです。

今回はえみつん楽曲回第5弾! 『WONDER! SHUTTER LOVE』がベースになってます。そして2016年のライブに行ったことがある人もしくはBlu-rayを見た人なら懐かしいと思う内容を含んでおりますのでお楽しみに!


 μ'sを一旦終わりにすることをあの海で決めてから初めての休日。私、高坂穂乃果は空也君とデートの約束をしたんだ。結果としては空也君も受け入れてくれて今、準備をしているの。

 

 急だと言って空也君は少し疑問に思っていたみたいだけど、あの日気がついちゃったんだ。想い出を保存して置ける写真って素晴らしいものなんだって。だから私は空也君と写真を撮りに行きたいと思った。2人だけで、2人だけの思い出を作りたい。そう思っちゃったの。

 

 でも穂乃果にはデジカメを買うお金はなかった。……まさかこんなところで無駄遣いしちゃう癖が私に攻撃するなんて思ってもいなかったよ……。っとそうじゃなくて、そんな穂乃果でもカメラを入手することができたんだ!! まさかお父さんがちょっと古いとはいえカメラを持っていたなんて思いもよらなかったよ! けど、これでデートができる!!

 

 ……って経緯でデートができることになったんだ。お父さんにもらったカメラはカメラなのに撮った写真が確認できないみたいだけど、普通にデジカメを使うみたいに使っていれば写真は撮れるよね?

 

 デート当日、穂乃果は首にお父さんからもらったカメラを下げて空也君の待っている秋葉原駅に向かった。なんか、私たちの集合場所ってお互いの家とかじゃなく秋葉原駅なんだな~。向かう途中でそのことに気がついた私はなんだかいつもより秋葉原が特別に思えてきた。

 

「空也くーん!! 待ったー?」

 

 私は首にカメラを掛けて、待ち合わせの場所に走って向かった。目の前にいるのはクリスマスの時に待っていた場所と同じ改札前の柱に寄り掛かっている空也君。時計をチラチラ見てるからもしかしたら結構待たせてたのかもしれない。

 だからデートの定番でもある言葉を言ったんだけど、その反応は予想してたものではなかった。

 

 柱に寄り掛かっていた空也君は壁を押し込んでその反動で穂乃果のほうに数歩歩き寄ってくる。

 今の時間は10時10分。10時ちょうどに待ち合わせをしたから完全に穂乃果の遅刻だからしょうがないんだけど、空也君はジト目で穂乃果のことを見つめている。

 

「……あぁ。待った。超待った」

 

 むぅ……。そんなこと言わなくたっていいじゃん。そりゃ、穂乃果が悪いんだけど……。それにしてもその反応はどうかと思うな! ……だって今日は穂乃果、デートのつもりで来たんだし。

 

「え~、そこは俺も今来たところだよっていう場面じゃないの~?」

 

 恋愛漫画とかでよくあるシチュエーション。女の子は大概こんな夢のようなシチュエーションに憧れている。だからもしかしたら空也君もそうしてくれるかもしれないと淡い期待を抱いてたけど、そうはいかなかったみたい。

 

「もうそんな嘘通じるような仲じゃないだろ。だから素直に言ったんだよ。このお寝坊さん」

 

 空也君の言葉に私は確かにと思ってしまう。けど、その後空也君は穂乃果の額に親指で押さえつけた中指を近づける。その瞬間に穂乃果は目をつむる。だけどいつまで待っても何かが起こるような気配はない。だから片方の目を開けて空也君のことを見ようとしたんだ。

 でも、穂乃果が目を開けると額に一瞬だけの弾かれたような痛みがやってきた。この状況で起きたことを想像するなんてことは穂乃果には造作もないこと。つまり、穂乃果はデコピンを空也君にされたということだ!

 

 って、えぇ!?

 

「む~……。こうなったら穂乃果の反撃だよ!!」

 

 穂乃果だってやられてばかりいるわけじゃないよ!! 絶対に空也君に反撃してあげる。穂乃果にはちょうどいい反撃の道具があるんだよ!! 私はカメラのレンズを空也君に向けてシャッターを押そうと指を掛ける。レンズキャップは家で取ってきてるから今すぐにでも写真を撮れるよ。

 

「はっ!? ちょっとやめろよ!?」

 

 フフフ……。嫌がっても駄目だよ~。穂乃果のなかなかできない空也君への仕返しなんだから絶対に撮ってあげる。

 空也君は私に撮られないように必死でレンズに手をかぶせてカメラを撮ろうとするけど、空也君が手を出す場所なんて穂乃果にはわかっちゃうんだな~。これが。

 

「やだよー。ほらほらこっち向いて笑ってよ! 空也君」

 

 だから空也君にカメラを撮られることなく、何回かシャッターを切って空也君の写真を撮った。

 

「…………」

 

 数枚撮っているともう空也君はカメラを取り上げることは諦めたみたい。けどそっぽ向いたままずっと喋らないでいる。

 

「聞こえてない振りしないでよー! 穂乃果の声が聞こえないっていうのー!?」

 

 穂乃果はこっち向いてって言ってるのに……。写真くらいいいでしょ~。とりあえずカメラを構えるのだけはやめて空也君にそう言った。

 

「……はいはい」

 

 私がそんな風に思っていると穂乃果のほうを空也君が向いてくれた。けど仕方ないと言わんばかりの態度……。

 

 そんな態度の空也君にはもう少しお仕置きが必要なのかもしれない。だから私は空也君がこっちに無効としているタイミングで素早くカメラを構える。

 

 けど、カメラを撮られないように空也君が動く場所を避けて逃げていた穂乃果のように、同じ時間を過ごしてきたのは空也君も一緒なんだと思い知らされる。カメラを構える度に空也君は穂乃果のほうから顔を背け続ける……。

 やっぱ過ごした時間は同じだと、何も言わなくてもタイミングとかはわかっちゃうみたい。

 

「もぅ……」

 

 でもね。そんな空也君も嫌いじゃないよ。むしろ大好き! 空也君、かっこいいのに写真は撮る方ばかりで自分はそんなに移ろうとしないんだもん。だからあるのは集合写真ばかり。穂乃果や海未ちゃん、それにことりちゃんの3人共、空也君と2ショットできたことはなかった。だから、今日こそ穂乃果は空也君と2ショットしてみせる!

 

「にしてもなんで急にカメラなんだよ?」

 

 そんなことを意気込んでいたら空也君が不思議そうな目でちらりとこっちを見て聞いてきた。……あぁ~、穂乃果まだカメラ構えたままだった……。

 

 私は構えたカメラを解いて、首にぶら下がるままにカメラから手を離した。

 

 カメラ……というより私は写真が撮りたかった。永遠に残るきれいな思い出になる写真が欲しかった。

 

「え~? なんかね。あの日みんなで証明写真撮ったでしょ? その時何もない出来事でも覚えていたいなって思ったんだ」

 

 あの時は特別だったのかもしれない。けど、そんな特別な日は何気ない本当にただの日常があってやってくるもの。それに見方を変えれば何気ない日だって特別になる。だってこの一瞬一瞬は二度と訪れないものだから。

 

「ふーん……。いいんじゃないか? カメラっていうのは瞬間瞬間を切り取って永遠に保存してくれる、まるで魔法みたいなものだしな」

 

 穂乃果の考えを聞いた空也君は面白そうに笑いながらそう言う。元々魔法のことはなかなか口にしない空也君がそういうことを言うとは思っていなかった私はちょっぴり驚いちゃった。

 

「何それ~。空也君らしくないよ~」

 

 そう。らしくない。けど目の前にいるのは確かに空也君で……。もしかしたら空也君も私みたいにドキドキしているのかな? だから、いつもと違うようなことを言ってるのかも……。

 こんなことを考えたら穂乃果、なんだか恥ずかしくなってきちゃった! 絶対頬赤いよ……。うぅ……。空也君にこんな表情見せたくないな……。あ! そうだ! こうなったらごまかしちゃえ!

 私は右手の人差し指を立てて、その指先を空也君の左頬に向かわせる。無抵抗だった空也君の頬に触れることができたからそのまま、手首を小刻みに回してうりうりといじくり回した。

 

「……うるせ、カメラ持ってる穂乃果に言われたくねぇよ」

 

 私のごまかしが今度は空也君を恥ずかしくさせちゃったみたいで頬を赤くしたまま再びそっぽを向いてしまう。左頬を穂乃果から遠ざけるように顔をそらしたから指先からも逃げられちゃった。

 

「それは……。って、そろそろ移動しよう? 早く写真撮りたいんだ~!!」

 

 だから穂乃果の手は何の役割を持っていないフリーな状態に戻っている。だからかな? 手をあわあわと振っていたら、首にぶら下がっているカメラに少し手の甲が当たった。

 

 そうだった! 穂乃果には目的があったんだ。それに向かって楽しんでいればこの気恥ずかしさも紛れるよね。それに写真をいっぱい撮ってみたいというのも本当に気持ち。

 

「はいはい。で、どこに行くとか決めてあるのか?」

 

 私がそう思っていることがどうやら伝わったみたいで、空也君は早速穂乃果に行こうとしている場所を聞いてくる。

 穂乃果が誘ったんだもんね。それに今日は穂乃果がやりたいことをやる日。空也君はとことん私に合わせてくれるみたいだった。

 

「うん! でも、まずは……」

 

 空也君は穂乃果の行きたい場所を聞いてくれた。けどね、まずはここでやりたいことをやってからじゃないとそこには行けないんだ。思い出巡りの前に、ここで1つの思い出を作りたい。だから正面に立っている空也君の腕をつかんで穂乃果のほうに寄せた。腕組状態になっちゃった……。恥ずかしい。けど気にしないでカメラのレンズを自分たちに向けてシャッターに指を添える。

 

「ここでの思い出も残しておこうよ!」

 

 UTX高校がバックになるように向きを合わせて穂乃果はシャッターを押した。

 なんか空也君はカメラのほうをじっくり見てたけど何があったんだろう? 穂乃果、別に変なことをしてないよね?

 

 ちょっとだけ空也君のことが気になったけど、時間は有限。早く最初の目的地に行かないと日が暮れちゃうかもしれない。今はまだお昼前だけど楽しい時間っていうのは何かと早く過ぎちゃうものだから、特に気を付けないと!

 

 少し急ぎ足で穂乃果たちは次の目的地に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の思い出の写真を撮って歩きながら穂乃果は空也君に最初に行く場所を教える。学校の外で近場、そんな限定的な範囲だけどみんなで何かをした思い出の場所を巡ろうと思ってる。

 

「まず行くところはね~、前にことりちゃんが働いてたメイド喫茶!!」

 

 今日はこの場所以外にも行きたい場所があるからかなりキツキツのスケジュールになるかもしれない。

 

「ここからだと、少しだけ離れてるのか……。じゃあ早く行こうか。他にもあるんだろ? 行きたいところ」

 

 それに空也君の言うように穂乃果には他に行きたい場所がある。だから急いで行かないと!

 

「うん!」

 

 私はそう答えて空也君と一緒に並んで目的地に向かう。

 

 だけどどこか穂乃果は違和感を感じた。

 

 いつも通りの速さで歩けない……? 穂乃果は別に風邪気味とかそういうわけじゃない。体調は万全。なのにいつも通りに歩くことができなかった。もしかしてことりちゃんに選んでもらったこの靴のせい? 買う時もちょっとヒールが高いとは思ったけど、結構歩きづらかったみたい。これじゃあ空也君と距離が離れちゃう……。

 

 そう思って前にいるだろう空也君を追いかけようとする。だけど……。

 

「おい。どこに行くんだよ」

 

 走ろうとした私の腕を大きな手がつかんでくる。そして、前にいるであろうと思った空也君の声が聞こえた。

 

「え?」

 

 おかしい。だって空也君はいつものペースで歩いてたら絶対に前にいるはず。なのに、どうして……?

 

「そんな靴で早く歩けるわけないだろ? 慌てなくていいから自分のペースで歩きな」

 

 けど、空也君の言葉を聞いてよくわかった。空也君は穂乃果の靴のヒールが高いことを知っていた。だから穂乃果のペースに合わせてくれたんだ。そう分かると胸が高鳴る。

 

「……うん。わかった」

 

 熱くなる顔をごまかすように下を向いちゃうけど空也君は穂乃果のペースに合わせながら隣を歩いた。

 

 その間、どうしても嬉しい気持ちを抑えきれずにまともに空也君の顔を見ることができなかったけど目的地の場所に着くころには普通に会話できるくらいには回復していた。

 

 そしてたどり着いた場所は店内ではなく、外。

 

「じゃあ、早く空也君撮るよー」

 

 ある場所に空也君を誘導して穂乃果はカメラを構える。

 

「……ここって」

 

 でも空也君はここがどんな場所か、どうして私が選んだのかすぐに分かったみたい。

そう。この場所は初めて学校外でライブをした場所。ことりちゃんがバイトをしているというコネもあってできたライブ。路上ライブをした場所。

 

「うん! 私たちが初めて路上ライブをやった場所だよ!」

 

 そう言いつつもカメラを構える手を動かさない。手振れを抑えるために脇を絞めてシャッターに指を置く。

 

 画面越し見える空也君は穂乃果のほうに手を向けていた。……どうしたんだろ?

 

「カメラ貸してみ。俺なんか撮るより可愛い穂乃果を撮ったほうがカメラも喜ぶだろ」

 

「かわっ!? もぅ!! 急に何を言い出すの!? 今は穂乃果がカメラを使いたい気分だからいいの!!」

 

 全く……空也君は狙ってなのかそれとも天然のなのかよくわからない発言するんだよね……。しかも、聴いててこっちが恥ずかしくなることなんだからズルいよ。もぅ、本当に空也君は卑怯者だ。私のことをキュンキュンさせすぎ。

 

 赤く火照った顔を隠すように私はカメラを再び構える。ファインダーを覗いてみるとやっぱり顔をそらす空也君の姿があった。

 ……でも、こういうのも個性なんだよね。それにこれも空也君。だから私はためらうことなくシャッターを切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここでの写真も撮り終わり、目的は次の場所になる。

 

「じゃあ次はどこに行く?」

 

 次の行き先は私にしか分かってないから、空也君が穂乃果に聞いてくる。

 

 次に私が行きたいと思っている場所。ずっと学校内で活動してきたから外で思い入れのある場所はかなり少ない。穂乃果の家とかにこちゃん、希ちゃんの家も想いではあるけど、家だけは撮ろうとは思わなかった。だから音ノ木坂学院以外で一番思入れのある場所を次に行こうと思う。

 

「うーん。神田明神かな?」

 

 朝にいつも練習をしてた大事な場所。ほぼ毎日行ってたから特別という感情は薄いのかもしれないけど、大切な場所であることには変わらない。

 だから特に何の予定もない平平凡凡な日常でもあそこに言ってみたいと思った。もしかしたらまた違った発見があるかもしれないと、そう思って。

 

「戻るのか?」

 

 けど確かに空也君の言うようにことりちゃんの元バイト先から神田明神までは結構離れてる。というより、普通に穂乃果の家から行けば近かったんだけど、待ち合わせは自然とあそこになるから先にこっちに来たんだけどね。

 

「うん! 集合場所があそこだったから先にこっちに来たんだ」

 

 秋葉原駅からこの場所と神田明神だと、こっちのほうが近かった。ただそれだけの理由なんだけど、神田明神はたっぷりと時間を撮りたかったから後回しにしたのかもしれない。

 自分でも直感的に順番を選んだからどうしてこの順番になったのかよくわかってないけど、納得できた順番だった。

 

「さよですか。ちょっと離れちゃったけど走るなよ」

 

 私が神田明神を後回しにした理由が分かった空也君は一つ大きな伸びをして私にそう注意する。

 

「うん。わかってるよ」

 

 もう言われなくても分かってる。私のペースに空也君が合わせてくれるのなら、思いっきり甘えちゃうからね、空也君。

 

 神田明神に向かう最中に通る道はいつも通っている道と同じ。だけど、自然とカメラを向けちゃう。

 

 空也君と一緒に過ごしている時間は最も特別で、大切で、絶対に忘れたくない光景。いつもより色鮮やかに見える1秒1秒が貴重で、いつもの日常が空也君がいるだけで、空也君といるだけで不思議と特別だと感じる。

 

 さっきみたいにヒールが高い時に気がついてくれたり、めんどくさそうに頭を掻いているけど最後までしっかり付き合ってくれたり。そんなさりげないそして何気ない出来事が特別で愛おしくて。

 

「あぁ……。この時間が永遠に続けばいいのに」

 

 そう思った。だけど、空也君はそう思っていなかったみたい。

 

「何言ってんだ。時は進むから価値がある。俺たちは人間だ。永遠に生きることも、永遠にあり続けることもできない。人間に永遠はないんだよ。だから一瞬一瞬を思い出せるようにカメラがあるんだ。永遠にはなれないけど、あの時の思い出を思い出していけるように」

 

 確かに、とそう思う。空也君の言いたいことはなんとなくだけどわかる。私たちは永遠に生きていられるわけじゃない。年を取って、老いて死んでいく。スクールアイドルだって同じ。限られた時間の中で精いっぱい輝いているから大切に思える。

 

「空也君……。そうだね。確かにそうかも。よーし!! じゃあ、ばんばん写真撮ってくよ!! 次は笑顔を見せてね。空也君」

 

 だからその記録が大切になって、もっと時間が流れたらその記録を見てあんなことがあったんだなんて思い出が蘇ってくるんだ。そんな場面を想像していると、早く経験してみたいと強く思っちゃった。

 いつまでもカメラから目をそらす空也君を撮るのもいいけど、やっぱ空也君は笑顔でいてほしいな。いたずらっ子のような曇りのない純粋に楽しんでいることが分かるそんな笑顔で。そしてその笑顔を私は永遠に記録していたいな。

 

「……善処はする」

 

 ……空也君の善処するは基本100%やってくれる。良かったー。これで穂乃果のやりたかったことができるよー。……けど空也君、今すっごい笑顔だ。何かあったのかな?

 

「ちゃんと穂乃果が撮るから、絶対に見せてよね!」

 

 でも今撮るべきじゃない。そう思ってカメラを構えつつも、空也君にそう宣言して胸を張った。空也君の笑顔をしっかりとこのカメラに収めなくっちゃ!

 

 とそんな話をしていると、穂乃果がまず最初に撮りたかった場所に着く。いつも私たちが練習している神田明神に行くために上る大きな階段。『男坂』。私たちはここでいっぱい走ってきた。練習の始まりの場所。

 

「ねぇ、ここで写真を撮ろうよ」

 

「それ、いいな。じゃあ撮るか!」

 

 さっきの言葉通り空也君を撮るために穂乃果はカメラを構える。男坂を何段か上がった空也君が手すりにつかまりながら穂乃果のほうを向いた。そこにあったのはさっき穂乃果に約束した笑顔。しっかりとカメラの……いいや、穂乃果のほうを笑顔で見ていた。

 やっと撮れる! そう思った私はためらうことなくシャッターを押した。

 

 写真を撮り終わったことが分かったのか空也君は私のほうに再び手を出した。

 

「……なぁ、今度は俺に撮らせてくれよ。お前のことを」

 

 しょうがなくとか、そんな風には見えない。本当に取りたいと思っているとそう感じた。

 

「うん。いいよ! きれいに撮ってよ?」

 

 だから穂乃果はこんな言葉と一緒にお父さんから借りているカメラを空也君に渡す。

そして私は空也君がさっき立っていて場所に向かう。

 

「了解。任せろ」

 

 その最中に空也君は自信満々に穂乃果に宣言してくれる。立とうとしていたポジションにたどり着くと穂乃果は空也君の方向に向き直って、写真が撮られるのを待つ。

 何か空也君はカメラを弄っているみたいだけど何をしてるんだろう? そんなことを考えていたら空也君がカメラを構える。

 

 私はさっき空也君がしていたような背を向けながら顔はカメラのほうを向くなんてことは出来なかった。だから普通に写真を撮るように笑顔でカメラに向かってピースをする。

 

 パシャリとシャッターを切った音が鳴り、今の時間がカメラのフィルムに切り取られた。

 

 撮り終わると空也君がが穂乃果のほうにカメラを返しに歩いてきた。

 

「じゃあ、次はどうする?」

 

 ここで写真とをるのは終わり。そして目的地は次の場所へと移動する。もちろんその場所も決まっている。

 

「うーん。上に行ってみない?」

 

 そう上。神田明神の中に入ろうと思っていた。あそこには穂乃果たちμ'sの原動力が分かった大切な絵馬たちがある。そこで写真を撮れたらと、穂乃果は思っていた。

 

「そうだな……。じゃあ行ってみるか」

 

 空也君も私の言ったことに賛成みたいで、男坂を登り始める。……穂乃果の手を握って。

 きっとヒールが高いことを気にしているみたい。本当に心配性なんだから空也君は。けど今日はとことん甘えるって決めたんだもん。いっぱい甘えちゃうよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は穂乃果の撮りたいように写真を神田明神で撮っていた。するとだんだん空が黒くなってきた事に気がついた。

 

 その黒い空には無数の輝く点が散りばめられている。……この光景を上を向いて眺めているとなんだかここ……。

 

「なぁ、この空……」

 

 どうやら空也君も気がついたみたい。季節は違うはずなのに、星座とかも変わってくるはずなのに、目の前に広がる夜空はどこからどう見ても……。

 

「うん! あの時みたい……」

 

 空也君が私たちのことをまた信じてくれるようになったあの日の空によく似ている。

だからかな? 予定にはなかったことを空也君に提案する。

 

「ねぇ、この空撮ってみていいかな?」

 

 この空が見れたのは本当にただの偶然。だから、この一瞬を切り取りたいと思った。

 

「あぁ。あ、でもその前にカメラ貸して」

 

 穂乃果は首からカメラを外して空也君に渡す。

 

「いいけど……?」

 

 けど何をしようとしているのかよくわからない。

 

「これで良し! じゃあこれで撮ってみな」

 

 穂乃果からカメラを受け取った空也君はまたカメラを少し弄って穂乃果に返してくれる。

 

「うん!」

 

 穂乃果は空に向けてカメラを構えた。

 その隣で空也君も空の様子を見守っていた。……ねぇ、不思議だね。空也君と見上げる空って絶対にキラキラ輝いてる。だからこの空を切り取って残したいな。写真を見れば思い出は蘇るんだから。永遠に、私たちの中で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この写真を撮った後、穂乃果たちは家に帰った。今日撮ったものを写真にするのはお父さんに任せて。

 

 その結果を空也君に見せようと持ってきたんだけど、どうしよう……。お父さんからとんでもないことを聞かされた私は、ちょっとだけ空也君に謝らないといけないのかもしれない。

 

「あの時の写真? どうだった? 見せてくれよ」

 

 あの時の写真の事と言ってからどうしても言葉が出なくなってしまった私に空也君は手を出して穂乃果から渡されるはずの写真を待っている。

 

「……はい」

 

 もうこれ以上隠すことは出来ない。観念した私は後ろに隠していた写真を空也君に渡す。ある謝罪とともに。

 

「ごめんなさい! フィルムカメラってこと知らなくて全然撮れてなかったみたい……」

 

 フィルムカメラなんて知らなかったんだもん! デジカメみたいに操作すれば大丈夫だって思うじゃん! あ~!! 空也君のいい笑顔を残せなかったのがすごい悔しいよ~……。

 けど、それだけでは終わらないはず……。

 

「……穂乃果」

 

 怒られる……。そう思った。けど、その後に続いた言葉は穂乃果が予想していなかった言葉だった。

 

「知ってたよ? 撮れてないこと」

 

「……え?」

 

 知ってた……? ……あ!! 空也君にカメラ渡した時なんか弄ってたから、あの時フィルムを巻いていたんだ!!

 

「だってフィルムカメラなのにフィルム巻いてないんだから気付くでしょ」

 

 空也君が気がついていたことに気がついた私の考えは空也君の言ったことと同じだった。だって現像できたの空也君がカメラを触った直後の写真だったし……。

 

「知ってたんだったら言ってよ~!! 空也君の意地悪!」

 

 本当に意地悪! だからあんな笑顔をカメラの前でしてくれたのかな? ……けど始まりの場所での写真が……穂乃果の撮った写真が~……。

 

「まぁ、いいじゃないか。ほら、2枚は撮れてるみたいだし」

 

 そんな悲しみにあふれていた私に空也君が2枚の写真をもって励ましの言葉をかけてくれる。

 そこには空也君が撮った私の写真と、穂乃果が撮った最後の夜空の写真があった。

 

「……そうだね。一番残したかったものものが残せたみたい。でも、今度もまた付き合ってもらうからね! 空也君」

 

 本当に偶然出会えた一番撮りたかったものが残ったのは立ち直るのに十分な効果を与えてくれたみたい。けど、これで終われるわけがない。終われないよ、空也君!

 

 だからもう一回次にやる時は失敗しないように心に誓い、空也君と一緒にやることを約束した。

 

「はいはい。仰せのままに」

 

 空也君がそう答えると穂乃果と空也君の間に自然と笑顔が溢れだした。

 

 大切な思い出をまた一枚一枚瞬きするたびに撮って行けたらいいな!! 私と空也君のちょっと不思議なシャッターラブな想い出を!!

 

 




えみつん1stライブで『WONDER! SHUTTER LOVE』を歌ってる時に写真を撮るというパフォーマンスをしていたのですが、その写真の行方が半年後に開催された追加公演のつなぐメロディ-で明らかになりました。

結論から言いますとフィルムカメラだったらめフィルムが巻けず撮れてなかったみたいです。

まさか半年ごしのドジつんが見れるとは思っておらず、嬉しい半分、写真が見てみたかったなとちょっとだけ残念になりました。

そんな思い出を今回の話に織り交ぜてみましたが、追加公演に参加した人、あるいはBlu-rayを見た人は気がついたでしょうか?

今日6月30日は新田恵海ライブツアーの最終日。『EMUSIC32 -meets you-』が思い出の地"NHKホール"で行われます。

NHKホールと言えばμ'sとして立ったステージの1つ。そして年に1度しか開かれない年末の有名番組『紅白歌合戦』の会場です。そんな会場に今回はえみつんと、生バンドの方々で立たれるということで今からとても楽しみにしています。

当日券もあるそうなので興味がある方は是非!!










ところで、作中にあったあの空というのが気になった人は『ラブライブ!~化け物と呼ばれた少年と9人の女神の物語~』第111話[もうひとりじゃないよ]をチェックだ!


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存在が消えた魔法使い

お久しぶりです。そらなりです。

最近は学校でゲームばかり作っています。死にかけながら……() 
楽しいは楽しいんですがやっぱり締め切りに追われると厳しいですね……。こんなところで以前の毎週投稿が生きてくるとは思いもしませんでした。

長々となってしまいましたが、今回の話はこの作品の最初のお話のアフターストーリーとなります。前編になりますが、楽しんで読んでいただければと思います。


 禁忌。それは自分の周囲だけではなく世界全体を巻き込んだ魔法が大体を占めている禁じられている魔法。使用を禁止されているもので基本的に禁忌は世に知られていないものであるはずなのだ。しかし、誰も知らないというわけではなく、ごく一部のものが知っているからこそ、禁忌として成り立っている。

 

 その禁忌とされている魔法は例えば台風レベルの風を簡単に起こして見せたり、4月30日のワルプルギスの夜になれば少し過去の11月1日まで時間を戻すというものまである。

 

 その禁じられた魔法をとある少年は使った。命というかけがえのないものを操るという禁忌の中でも特殊なものを……。

 

 事あるごとに少年に絡んできた大将勝手を存在ごと消そうとした時に苦し紛れで撃った3つの弾丸が人質になっていた穂乃果、真姫、絵里の3人の体を撃ち抜いた。額を撃ち抜かれた穂乃果、腹部を撃ち抜かれた真姫、胸を撃ち抜かれた絵里。3人の様子を見てもとても助かるような状態ではないことが嫌ほど伝わってくる。だから少年は3人を助けるために禁忌を使った。

 

 命と対等なものはなんだか知っているか? 命と同じ重さなのは命だって言葉があるけど実のところ、それは正しいものではない。確かにどの命もかけがえのないもので、何物にも変えられないのは事実だけど、他人が生きてきた人生とその先の未来はその人にしかないものだ。その癖に他人の命が自分と同じなんてことは一切ない。命自身は確かに平等だ。しかし、目に見える命があるからその人の人生がある。過去と未来すべてを構築している見えない命は生き方次第で価値を変える。

 

 では、何がその見えない命と対等なのか。それは自分という概念……つまりは自分という存在だ。自分が生きていたという確かな証。それを犠牲にすることで今までの過去とこれからの未知の未来を供物に他人の命と対等なものになりえる。

 

 多分これだけで察せる人は察せるのだろう。こんな禁忌を使ったのだから肉体があったとしても、寿命があったとしても、生命活動をそのまま続けていたとしてももうそこには存在しないものになっています。いわば無の存在。感知はしてもらえる。見られたり、会話したりすることができる。なのに記憶には残らない。これはただ他人から見えなくなって、忘れられていくよりも辛い、未来に何の希望もない時間を過ごさないといけない。死ぬよりもずっと辛いことだ。

 

 まだ、この禁忌を使って1日も経っていないからある程度覚悟しているとはいえ、少年はその苦しみを実感できていない。とそんなことを考えていると少年の頭の中に一人の少女の顔が思い浮かぶ。全く違う方法で似たようなことが起きた少女、アイシアのことを。けど、なんで今アイシアのことを思い出したんだろう? と少年が疑問に思う。しかしそれも数秒の事次の瞬間……あぁそうかと理由が分かった。いま少年がいる場所が第二の故郷である初音島だから。どうしても、少年のことを覚えていないμ'sに会いたくなかったから初音島(ここ)に来た。ここならμ'sのみんなにも合わないだろう。みんなはこの場所と少年を結びつけることなんてできないのだから。

 

 久しぶりにゆっくりと初音島を見て回っている少年はきっと安心しきっているだろう。ここなら自分に気がつく人はいないと。μ'sの誰にも会うことはないんだと……。見知った顔の両サイドにおさげを付けた女の子を見つけるまでは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって音ノ木坂。デパートで東條希は福引の列に並んでいた。一人暮らしの彼女にとって生活費の足しになるものは何としてでも手に入れたいところだろう。

 

「ほな、1回お願いします」

 

 1回分引ける抽選権を店員に渡し、希は店員の準備ができるのを待つ。

 

「はい。では左に好きなだけかきまぜた後、右に1回だけゆっくり回してください」

 

 店員は希にジェスチャーを交えて抽選機の回し方を説明した。希は店員の説明の後軽く新井式回転抽選器の持ち手を握り、祈るように中身をかき混ぜる。狙うは上位賞。ステーキは一人暮らしの希にとってうれしいものだし、ケーキバイキングは女子として目を引くものがある。そして旅行好きである希の最も目の引いたものが特賞にあった。このどれかを引いていきたい。そう思うのはガラガラを回す人にとっては当然の欲望なのだろう。

 

 ガラガラと中にある玉がぶつかり合い、音を鳴らしていく中、希はいよいよ右側に持ち手を移動させた。もうここからは己の運次第。いくら運がいい希でもずっと運がいいわけではない。だから外れるときもある。そのことを頭の片隅に入れながら、希は時の流れ、運の流れに身を任せた。

 

 覚悟を決めた希はそのまま抽選機の排出口が受け皿に近づくにつれてスピードを落としていく。やがて回っていた抽選機から1つの玉だけが出てきた。その玉をのぞき込めば希の姿が反射して見えるほど輝いたそれは、希の運の良さを物語っていた。

 

 受け皿に出た玉を見た店員は近くにあったベルを持ち上げ高らかにならす。

 

「おめでとうございま~す!! 特賞"初音島2泊3日旅行券"です!」

 

 ベルの音を聞いたお店にいるお客さんの拍手が上がる。でもその拍手が聞こえないくらい希は感動していた。

 

 初音島。1年中枯れることのない桜がある島として観光地にもなっている瀬戸内海にある三日月形の島。1年中桜が枯れないということでいつでもお花見をすることもできることから大型連休の際はかなりの観光客でにぎわっている島ではあるが希はまだ初音島に言ったことはなかった。それも過去に2回何の脈絡もなく枯れたことがある。その度また何の脈絡もなく復活している不思議な島でもある。行ったことのない地、しかも不思議なことが起こっている島に行くことができるという事実が希の好奇心をくすぐっていた。

 

 旅行券を手に入れた希はそのまま浮かれた足でデパートを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日、希の所属しているアイドル研究部では少しだけ奇妙なことについて話し合われていた。

 

穂乃果「でもさ、本当にこの動画は誰が撮ってくれたんだろう?」

 

 アイドル研究部にある唯一のパソコンにはμ'sが学校の設備紹介をしている動画が再生されていた。常にμ'sの9人が映っているその動画は"9人"しかいないアイドル研究部だけでは撮ることのできない動画だった。

 

 このことに気がついたとき、穂乃果たち2年生組はいつも手伝ってくれているヒデコたちにこの動画を撮ってくれたかどうかを確認していた。

 

 しかし、ヒデコたちにこの動画を撮った覚えはないという。ヒデコたちの答えがきっかけで今このことについて話し合われている。もしかしたらこの動画を撮った時のことを覚えている人がμ'sの中にいるかもしれないという僅かな期待をもった穂乃果たちから始まったこの話し合い。けど、どうやらみんなはその時のことを覚えていないようだ。

 

「でも、これは私たちの自己紹介の映像なのよ? ただのインタビュー動画なら三脚を使って私たちだけでできるけど、学校紹介も兼ねてるわけだしいろいろ校内を見て歩いてる。移動してる間も映像はあるし、みんな移動の時に移ってるから私たちの中で取ったわけでもない。それがいつも手伝ってくれる子たちじゃないとしたら一体誰がやったのかしら?」

 

 絵里は自分の考えを言う。確かにそうだろう。実際穂乃果たち2年生組以外がヒデコたちの答えを聞かずにこの動画を見ても何も思わなかっただろうが、手伝ってくれていたと思った人が手伝ってないと言えば、なぜ動画が撮れているのか疑問が出てくる。そしてその矛先はどうして動画があるのかではなく、誰が撮ってくれたのかという単純な疑問に行きついた。

 

「そうだよね……」

 

 絵里の言葉を皮切りにみんながそれぞれ考えてみる。そして最初にありえそうな可能性を見つけたのは海未だった。

 

「先生に手伝ってもらったというのは?」

 

 先生に手伝ってもらった。確かにいつも手伝ってくれているヒデコたちではないのであれば学校を紹介してる点を考慮しても学校側の人間である可能性は高い。それに先生が撮ってくれているのであれば学校のいろんな場所に行くのも難しくはない。現状一番あり得るような考えだった。

 

 しかし、例えその場面だけを見て先生に手伝ってもらったのだとしてもあることが説明できない。

 

「だったら私たちが覚えていないと思う? 私たちは学生なんだから先生が絡むと記憶に残るでしょ?」

 

 にこたちは学生だ。学生というものはいくら仲が良くたって、先生の前ではある程度緊張するもの。それも学校紹介という学校にとって大事なものを背負ってる中おちゃらけていつも通りにしていることなんていくら何でもできないだろう。それにカメラマンが先生であるなら、にこたちの記憶に根強く残っているはずだ。

でも誰一人としてその映像を撮った人のことを覚えている人はいなかった。

 

 にこの言葉からだんだんとこの現象への疑問が湧き出してくる。

 

「にこちゃんの言うとおりね。先生が一緒だと変に緊張することだってあるし」

 

 先生でもない、いつも手伝ってくれてる人たちでもない。これがどんなに不自然なことか、それは考えなくても分かることだろう。

 そしてここまで考えれば気になることはただ一つ。

 

「でも、ヒデコ先輩たちじゃなくて、先生でもないなら一体だれが?」

 

 この映像を撮ってくれた人は誰なのかという最初の疑問と同じこと。

 

「それなんやけど、アイドル研究部って本当に9人やったっけ?」

 

 凛が誰が撮ったのかと問うと、希が何かを考えながら呟いた。希がなぜそう思ったのか見当もつかない他の面々は信じられないという様子で希のことを見る。

 

「え? μ'sは9人だよ? それは希ちゃんが言ったことでしょ?」

 

 そして希以外の全員が思っているであろうことを穂乃果が代表して希に尋ねる。

 

「確かにμ'sは9人やけど、アイドル研究部としては本当に9人やったんやろうかって思ったんよ。ほら、そこに使ってない椅子があったし」

 

 希の言いたい言葉が他のみんなにも大体伝わり始めた。いち早く希の言いたいであろうことに見当がついた絵里は信じられないといった様子で口を開いた。

 

「つまり希はこの部に少なくてももう1人部員がいたって言いたいの?」

 

 震えた声の絵里の言葉に希は静かに頷いた。

 

「そうやな。多分そうなんだと思う」

 

 希がそう言い切った瞬間、驚きからみんなの目が見開いた。

 

「だとしても私たちが覚えてないのよ? それはどうやって説明するのよ」

 

 ありえない。きっとみんなの心の中にある考えはこの一つが大部分を占めているのだろう。にこもその例に洩れないようで納得のいかない部分を希に尋ねる。

 

「確かにそうなんやけど、ここにあるパイプ椅子って部員が増えてからその人数分揃えていたやんか? なのに1つだけ余ってるっておかしいと思ったことあらへん?」

 

 希はその考えに至った経緯を思い出しながら口にする。現在、このアイドル研究部の部室内には9人と10個の椅子がある。あらかじめ多めに椅子を用意していたと言われてしまえばそれまでのことだが、春までは1人しかいなかったこの部室は増えた部員の数だけ椅子を増やしていた。であればここに10個目の椅子があるのはおかしいのだ。

 

「確かにそれは思ったかも」

 

 希の言葉はみんなが今まで無意識のうちに覚えていた違和感を呼び起こす。それに加え、他にもよくわかっていなかった現象についても思い出させていた。

 

「それになんでかはわからないんですが、足りないような感じがするんですよね。変に間が空いている写真とか」

 

 海未の言う写真はμ'sとして撮った写真から過去に幼馴染たちと撮った写真までのことだ。

 

「あ! 確かにそれ凛も思った!! μ'sの集合写真もなんか左側が空いてるな~って」

 

 海未の言葉を聞いて、みんなが確かにと頷き始める。

 

「そう言われてみれば……。ただ単に写真を撮るのに失敗しただけかもしれないけど、それをホームページに載せてるのは違和感がありますね」

 

 花陽の言うようにただ失敗したと片づけることだってできるのだが、それをファンが見るホームページに掲載しているとなればただ失敗しただけではないのかもしれないという考えに至らせる。

 

「そうなんよ。しかもその間人一人を入れるとちょうどよくなるとは思わん?」

 

 写真のことからさらに希が考えていたことが告げられる。1人分の空白があるということを。

 

「確かにそうだとは思うけど……そんなことありえるの? みんなの記憶からその人だけの記憶が無くなるって」

 

 しかし、希の話を聞いたとしてもそう考えれば辻褄が合うとしても非日常的な現象があり得るとは今の真姫には思えなかった。

 

「でも、この違和感を解決しようとするならみんなの記憶から10人目の記憶が無くなっていて、もともとは10人目がいたって考えたほうが自然になるんやないかな?」

 

 それでも、こう考えれば辻褄が合うことだって事実。特に、占いという日常とは違う非日常的な部分を信じている希にとってこの答えは正解に近いものだと信じていた。

 

「それも……とても大事な人だったんだと思う」

 

 10人目の話題になった瞬間にずっと黙り込んでいた穂乃果が口を開く。

 

「最初はただ何かが足りないなって思ってただけだった。でもそれが日に日に強くなって、この動画を見ておかしいって気がついたんだ。上手く言葉では表せないけど絶対に私たちが経験してないようなことがあるんだと思う」

 

 この話し合いの根本を持ってきたのは確かに穂乃果だった。今まで感じていた違和感はここにはいないもう一人のことを認め始めている。それもとても大事な人だと認識したうえである。

 

「うちも穂乃果ちゃんの考えに賛成」

 

 希の言ったこと、穂乃果の感じたことを聞いたみんなはだんだん10人目の存在を認め始める。そんな話し合いをしていると部活動終了の時間になった。

 

 それから少しして練習も10人目のことが気になって身が入らなくなってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 練習に身が入らないことを何とかしようと少しの間練習は休みにすることになった。

 

 その休みを利用して希はくじ引きで当てた初音島の旅行に出発した。

 

 新幹線で中国地方のほうまで行き、そこからフェリーで数時間かけて初音島に向かう。一年中桜が咲き続ける不思議な島。初音島。その島に希は初めて上陸した。

 

「ここが初音島……。本当に桜が咲いてる……。もう8月も半ばなのに。本当にスピリチュアルな場所見たい」

 

 初めての地、知ってる人はいないからこそ抜ける似非関西弁。目の前に広がる夏真っただ中にある咲き乱れる桜の様子はそれだけ希の心を乱させていた。

 

 最初に希が向かうのはこの旅行で止まることになっている宿だった。特に高級感は感じることはないが昔からあるような素朴な雰囲気を醸し出している宿泊宿。部屋数も多くなく、そんなに広いわけでもないこの宿は外に広がっている風景と合っていてとても心地よく感じた。

 

 荷物を置いた希が次に向かったのは初音島にある神社だった。胡ノ宮神社に向かった希は男坂にも似た石段を登り、鳥居をくぐる。いつも働いている神田明神とは違う見慣れない神社の風景。ココも初音島の中であるのだから当然ではあるのがだ8月なのに桜が咲いた胡ノ宮神社は希にとって明らかな非日常を感じる場所になっていた。

 

 その後希はお賽銭を済ませ、この宮神社を後にする。そんな希のことを驚いた様子で見ている少年に気がつかずに。

 

 希はその後商店街を見て回ったりとこの島の施設を少しだけ堪能していた。そして今日、最後に向かった場所は……。

 

「ここが、枯れない桜……」

 

 この島の象徴にして最も大きい桜の木がある場所。この島は年中桜が咲いていることで有名だが、それはとある伝説でこの大きな桜の木が原因であるとされている。こんな不思議な現象を起こしている桜の木だ、スピリチュアルを求めている希にとっては外すことのできない観光スポットなのだろう。

 

「……やっぱり、他の桜の木とは何かが違う……」

 

 桜の幹に触れ、高く咲いている桜の花びらを見る。その先に見慣れた制服を着た見慣れない人物がいることに気がつく。

 

「おーい。そんなところでなにやってるん? その制服、音ノ木坂の制服でしょ?」

 

「……っ!? 希か……」

 

 何かぼそぼそと喋っているようだがその声は希の耳には届かなかった。

 

 この場所にいることがバレたため、少年は桜の木から飛び降りた。高さにして学校の2階から飛び降りるくらいの高さ。明らかに大けがに繋がるであろうことをしている少年に対して希は驚きをあらわにする。

 

 しかし、少年が着地する寸前、ふわりと少年の体が浮いたような気がした。そして急に減速し、そっと地面に足を付けた。

 

「確かに、私は音ノ木坂の学生でしたよ。東條副会長」

 

「うちのこと知ってるん?」

 

 希は自分のことをスクールアイドルだと認識しているならこんなことは聞かなかっただろう。しかし少年が希を呼んだ時副会長であることを知っていると言った様子で話しかけられればこう聞いてしまうだろう。

 

「えぇ。ついこの間まで通ってましたから」

 

 希の問いに少年は短くそう答えた。

 

「転校したってこと? でもそんな話聞いとらんけど……」

 

 これでも希は生徒会の副会長だ。学校の基本的な情報くらいは生徒会に入ってくる。特に転校生や転校していく生徒に関しての情報はしっかりと先生を通じて入ってくるのだ。

 

 それなのに希はその話を知らない。そして見慣れない目の前の少年には違和感を感じざるを得なかった。

 

「記録も完全になくなってますからね」

 

 しかし、少年は希がそのことを知らないであろうことを知っていたかのような口ぶりでそう言う。

 

 記録が無くなっている。その言葉が希は引っかかった。転校したという記録が無くなっていて、今も学校にいないことになっているということは、そもそも入学、あるいは転校してきたことすら記録から何者かが消しているということ。そしてそれは記録を消した関係者でしか知るすべのない出来事だった。

 

「……あなた、何か知ってるの?」

 

 少年の言葉からそう思った希は真っ直ぐな瞳で少年のことを見つめながら、尋ねる。

 

「さっきの言葉だけでそこまで想像がつくなんて本当に東條副会長は鋭いんですね」

 

 かく言う少年も少しの言葉である程度の話を想定できた希に少しだけ驚く。……いや、評価しなおしたと言った方がおそらく適切なのであろう。

 

 希は少年に細かい話をしてくれるように、先日アイドル研究部内で話題に上がったことについて話し始める。

 

「ちょっとな、とある場所で話題になったんよ。記録も記憶もないけど確かに部活にいた人がいるって。そのことを覚えてたからやと思う」

 

 誰かがいたという記憶は希たちにはない。けれど、誰かがいたという痕跡だけは残っていて、それでも記録には残っていない。そんな不自然なことがあった後のこの出会い。どうしても関連付けて考えてしまう。

 

「へぇ……そんな話が……」

 

 自分のいない間にそんな話をしていることを知った少年は意外そうに笑った。

 

「だから教えてほしい。君は私たちμ'sと何かかかわりを持ってたんじゃない?」

 

 そんな反応をしている少年にさらにもう一歩歩み寄る希。自分たちとかかわりを持っていたのではないかという直接的な問いを尋ねる。

 

「……結論から言えばYes。そうですよ。……私はあなたたちの歌う曲の詩を書いていました。多分記憶上園田さんが担当していたと思いますけどね」

 

 ほんの少しの沈黙の後に返ってきた答えは肯定の言葉。そして少年は関わっていた時に担当していたことを告げる。

 

「確かに海未ちゃんが作詞を担当している。じゃあ聴きたいんやけど、学校紹介のPVを撮ってくれたのは君?」

 

 少年の言う通り記憶には海未が作詞を担当していた。だから嘘だと言い切ってしまうことも可能だったわけなのだが、なぜか少年の言葉には偽りの話をしているという感じはしなかった。

だから少年が話している内容が正しいという前提であの話題になったきっかけのことを聞いてみる。

 

「そういえばありましたね」

 

 それも当時のことを思い出しているのか遠い目をした少年は肯定する。

 

「やっぱり……。ねぇ、君の名前は?」

 

 やはり見ていてもうそをついている感じはない。そして、今の今まで聞いていなかった少年の名前を聞いた。その名前から何かを思い出せるかもしれないという淡い期待を抱きながら。

 

「時坂空也。……どうせ、すぐ忘れちゃいますけどね」

 

「時坂君……。空也君……。なんか思い出せそうなんやけど……」

 

 名前を復唱する希。自分の口から発せられる名前にはどこか懐かしい気分にさえなった。

 

「じゃあ、私はこれで。もう日も落ちてきましたし、東條副会長も早く戻るんですよ」

 

 しかし、空也は名前を教えた後日がかなり傾いていることを希に告げ、話を切り上げようとする。

 

「分かった。空也君、うちのことは名前でいいから。じゃあね、空也君」

 

 空也の言う通り時間は6時を回り、夕焼けと夜空の間の空が見える。踵を返し、空也に向けて小さく手を振りながら少し駆け足で宿泊する宿に戻る希。

 

「わかりました。希先輩」

 

 戻っていく希にそう言い、送り届ける空也。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、空也と別れた希は宿の前で立ち止まり枯れない桜のほうを見た希はひとつの疑問を口にする。

 

「……あれ? 私、誰と話してたんだっけ?」

 

 もやもやとしたまま希は自分の止まる宿へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初音島を出るまであと2日。

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。

この後はどうなるんでしょうか? そして次の投稿はいつになるのでしょうか? いろいろと不透明すぎて混乱してしまいそうですがやり遂げるので安心してお待ちください。


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