仮面ライダーARTHUR 王の名を持つ仮面の騎士 (名もなきA・弐)
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キャラクターと世界観

 とりあえず、世界観紹介とキャラクター紹介です。やろうやろうと思っていましたがようやくです。原作に登場するキャラはG○○gle先生やYha○○!先輩で知ってもらうとして、今回は本作に登場するオリキャラや独自設定です。
 もしかしたら、あのキャラの意外な一面が見れるかもしれません。では、どうぞ。
(※)順次更新する予定です。


世界設定

世界観(忍について):

至って普通の現代日本だが『忍』が存在しており、国家所属の忍『善忍』と依頼主となる悪徳政治家や、闇企業の私的な利益のために違法行為も厭わず任務を遂行する忍『悪忍』が存在する。一般人が忍の存在を知ってしまった場合は保護対象とし、証人保護プログラムをつける決まりとなっている。

 

 

精霊と魔力:

「精霊」とは遥か昔から人間の深層意識から生まれ、自身の霊的エネルギーとも呼べる存在であり原初の生命力『マナ』を宿主の体内に取り込ませ魔力へと生成 循環させる機能を持つ。その姿や属性には様々な違いがあり、その人の思想や形成された人格、家系によって決まるが基本的には動物や伝説上の獣がベースとなっていることから「秘伝動物」とも呼ばれる。死んだ人間が精霊として転生するケースも確認されているが詳細は不明。召喚術によって自然界にいる精霊を使役することもある。人々の信仰や自然界で生まれた伝承の精霊(オリジン)は世界の外(裏)側へ去ってしまっており、人間たちが目にすることはなくなってしまっている。

「魔力」とは精霊がマナの亜種である自然エネルギーで宿主が呼吸と共に取り込んだマナを魔力として生成させる。地方によっては霊力や覇気、チャクラとも呼ばれる。基本的に全ての人が持っているが、それを自在に操り、行使するには鍛錬が必要とされており忍たち秘伝忍法の源でもある。意図的に魔力を操るのは精神力を擦り減らすことでもあるため使用が過ぎると疲労で倒れてしまうこともある。

 

 

秘伝忍法と精霊術:

魔力を、武具や己の肉体に用いることで可能とした忍たちの奥義。精霊を具象化させて自らの力とするので「召喚忍法」とも呼ばれる。

精霊術とは魔力を用いて自然の力を人為的に行使する術のことであり有体に言うなら「魔術」と呼ばれるもの。両者に明確な違いはなく、要は言い方の違い。

特殊な術式を施した媒介に魔力を流し込むことよって自身の潜在能力を高める術も存在する。

物質を一度データ状に分解させる、声を媒介にして能力を付与するなど汎用性がかなり高い。

 

 

政宗探偵事務所:

戒の家でもあり、所属している事務所でもある。(※イメージは仮面ライダーディケイドの光写真館)私立探偵 『門矢美緒』が所長を務めているが、引退したため前線には出ない。現在は門矢戒・幸村琴音・リア・千歳の4人が在籍している。業務は主に戒 琴音が外部調査で情報を取集し、リアと千歳はインターネットから情報を収集し最終的に戒が集めた情報を全員に事件の謎(犯行内容と犯人)を分析 解明するという分業体制で行われている。失踪したペット探し 学校の部活の助っ人から殺人事件の捜査など、探偵稼業として幾つもの依頼を受けており、警察から不可解な殺人事件・エラー関連の事件の依頼を要請されることがある。なお、依頼は直接、戒の家である事務所に頼みに行くか、インターネットサイトの掲示板で依頼を頼むことが出来る。

 

 

幸村道場:

『幸村琴音』の道場であり、自宅。キックボクシング・空手などありとあらゆる格闘技を学べる場所でもある。

本編とはあまり絡まないが、幼少期、戒と琴音はここで古武術とキックボクシングを学んでいた。

 

 

不可能犯罪捜査課:

怪奇事件対策のために『徳川秀吉』が設立した部署。オフィスは警察署の三階の一室にある。エラー関連の事件を担当している。

 

 

自然訶学:

表向きは「科学の観点から見た自然エネルギーの研究」だが、実際は人間に宿った生体エネルギー=精霊・精霊術に関する様々な分野の研究を行っており「宿った精霊による潜在能力の引き出し」 、「プログラム化した魔力による電脳世界への直接干渉を利用した新ゲームの開発及び発展」など、他には「データ化した使い魔の実用化」の研究が行われている。

 

 

ミラージュカセット:

英文表記すると「Mirage Cassette」でカセットテープ型デバイス。おとぎ話に登場する「魔法の杖」「魔法陣」の役割を果たす。英霊(サーヴァント)のクラスをプロトタイプとしていたが、後にアプリゲームをモチーフにミラージュカセットを再調整・開発された。

元々は人間が宿した精霊を意図的に違う形に切り替えることで具象化しやすくする発明だったが、余計な改良を施して生まれたのがエラーである。名前の由来は「ミラージュ(幻想)」。

 

 

『救済』:

審判『ミケネ』の元で絶望した犯罪被害者や希望をなくした人間たちがエラーとなり、怪事件を起こすことで欲望を満たし、自身の希望を灯すゲーム。

勝利条件は「事件の完遂」で敗北条件は「ミラージュカセットの破壊」。

大体の人間は正体を特定され変身前に狙われることを避けるため、正体を隠していることが多い。多少派手に暴れる事も容認されているが、あくまで「救済」であるため、ルールに反する行動をしたと判断されれば審判であるミケネから警告を受け、度が過ぎれば幹部によって粛清される。

余談だが、事件を完遂した者は幹部たちにスカウトされることもある。また、絶対的なルールとして『ミケネに逆らわない』という物がある。

 

 

 

 

 

キャラクター紹介

門矢 戒 性別:男性 ICV逢坂良太

年齢:16歳

容姿:普通の高校男子よりやや背が小さい。茶色がかった黒髪に赤色の瞳 中性的な顔立ちをしている少年

服装:黒いボーラーハット(山高帽)に黒いパーカー、またはコートを纏った姿。両手には黒い手袋をはめている。(食事や入浴時には左手の手袋だけ外している)

好き/肉料理、麻婆豆腐、チョコレート ゲーム(美少女ゲーム)、アニメ、読書

嫌い/生エビ、生ホタテ、ナマコ、ブラックコーヒー

設定:

仮面ライダーアーサーに変身する少年であり、「政宗探偵事務所」に所属する高校生探偵でもある本作の主人公。「国立半蔵学院」の「通常科」に通っていたが忍の存在を知ってしまったことで、幼馴染の『幸村琴音』と共に保護という名目で忍学科に編入する。

誰とでも仲良くなれる、明るいマイペースな性格をしているが初心な性格をしており、女子の水着姿を見たり、抱きつかれたりすると顔を真っ赤にしてしまう。

若くして探偵をやっているためか、目上の者には敬語を使うが変身時はため口になる。

探偵としての捜査は現場を観察し、情報を集めていくというもの。与えられた情報同士を組み合わせて犯行内容と犯人を推理するのを得意としている。幼少のころ、近所のお姉さん方に人気があった。一般男子より若干声が高いのが悩みのタネ。

 

 

ウェルシュ 性別(?):男性 ICV関智一

アーサーを支援するためのサポートマシン及びシステムで赤いミニ四駆型の機械で上部には感情を映すディスプレイがある。また、戦闘の際にはアーサードライバーに意識を移す。

機械のボディでありながら人間と同等の知能を持ち、常に冷静沈着かつ穏やかな紳士然とした口調と声のトーンで人語を話す。呼び捨てに対し不満を漏らす、稀な嫌味を言うなど戒や他の人間と円滑なコミュニケーションが取れる。またドライグハートを体の一部として利用しているため、声をリアルタイムでの伝達、単独行動で得た映像や音声をベルトに送信する役割を持つ。かつては人間だったらしいが……?

 

 

幸村 琴音 性別:女性 ICV南條愛乃

年齢:16歳

容姿:日本人らしく、瞳の色は黒。小柄で子どもらしい体系をしている。左側は短く、右側は長いアシンメトリーな髪形をしており、長い部分を赤いリボンで結んでいる。

服装:紺色のブレザーとミニスカート(制服)、ブレザーとミニスカート(私服)その下にスパッツを着用している。その上に家紋の入った薄いピンク色の羽織(巫女服の上着のようなもの)を羽織っている。

好き/たこ焼き、お好み焼き ゲーム、漫画

嫌い/納豆 ボケの多い環境

設定:

「政宗探偵事務所」の一員。『門矢戒』とは幼少のころからの幼馴染である。武道家の娘であり腕っぷしも強い。戒と一緒に行動しており、捜査の時には何気ない一言から解決を導くヒントになることも多い。戒と共に忍学科に編入したが自分のコンプレックス(主に胸)が浮き彫りになっているため少々自虐的になることもある。

小柄な体格のため周囲からは子供扱いされることが多く、本人はそれを嫌がっているが、おだてられることに弱いため直ぐに丸めこまれてしまうが多い…のと同時に溜めこんでいるため、一度火がつくと荒っぽい口調になり敬語を使ってた人にも呼び捨てになる。

フリーダムな戒を止めるストッパー(ツッコミ)となっているがその一方で意外に耳年増であり、その手の話題の内容はちゃんと理解している。とはいえその話題に関することはやはり苦手な様子。激しく動揺したりすると呂律が回らなくなる事が時々ある。

戦闘時にはハルバードと足技を駆使した戦い方をするが、怒り状態では戦斧と武術で鍛えられた喧嘩殺法による豪快な戦い方となる

 

 

幸村 リア 性別:女性 ICV青葉りんご

年齢:15歳

容姿:長い銀髪を結んだ緑色の瞳の小柄な少女。

服装:白いフリルのついた青いドレスを着用している。

好き/食事(和食、ジャンクフード)、子供、かわいいもの、ネットサーフィン

嫌い/イカ、雑草 運動

設定:

「政宗探偵事務所」の一員。『門矢戒』の助手をやっている少女で、ある事件をきっかけに「秘立蛇女子学園」に在籍することになる。彼や琴音の事は「兄様」と「姉様」と呼び敬愛している。情報技術力が高く、コンピュータに関する知識は目を見張るものがあり、検索エンジンや事件ファイルなどを駆使しそこから情報を収集、処理している。

基本無表情だが人懐っこく丁寧、しかし時折息を吐くように毒を吐く毒舌家。可愛らしいもの(熊のぬいぐるみなど)が好きという少女らしい一面も。何より、食べることが大好きでおいしい食事を誰よりも好む。普段は冷静沈着であるが熱くなりやすい面も有り、勝負事となれば手を抜かない。持ち前の直感とポーカーフェイスで賭け事にはことさら強い。貧民街の出身で、千歳と共に生きてきた。

戦闘時には精霊術で召喚した刀剣類による二刀流を得意とする。

 

 

幸村 千歳  性別:女性 ICV近藤佳奈子

年齢:15歳

容姿:豊満な身体つきのした二本のアホ毛が生えた茶髪のセミショートに、オレンジ色の瞳。

服装:黒のニーハイソックスと白いセーター。

好き/ヨーグルト 子供

嫌い/実の親 成金

設定:

「政宗探偵事務所」の一員。『門矢戒』の助手をやっている少女で、ある事件をきっかけに「秘立蛇女子学園」に在籍することになる。戒と琴音の事を敬愛している。プログラミング技術やハッキング技術に長け、忍上層部へのハッキングも仕掛けられるほど。また、ハードウェア方向にも明るい。

クールビューティーで人並みに表情はあるが、人見知りしやすく基本はリアと共にいる。彼女と同じく貧民街の出身で良く自作の紙芝居をそこの子どもたちに見せている。

戦闘時には魔力を凝縮した邪弾による大型火縄銃を駆使するがカポエラを応用した蹴り技も使う。

察しの良い方なら分かるだろうが、NewWaveの千歳と同一人物。

 

 

政宗 美海 性別:女性 ICV田口宏子

年齢:不明

容姿:紅い髪のロングヘアーで、頭にはアホ毛が一本伸びている。眠そうな半目をしている。瞳の色は金色

服装:仕事では黒い軍服のような出で立ちをしており、その上に軍服帽を被っている。プライベートではセーターとネクタイ、ミニスカートとニーソ。

好き/トマトジュース、佑斗の作る料理 可愛い物、片付け、甥

嫌い/魚料理 料理などの家事全般

設定:

エラー関連の事件の捜査を担当する「不可能犯罪捜査課」(拠点は警察署の3階)の設立者であり、階級は警視。『門矢戒』の叔母であり、甥である戒のことを可愛がっているものの、刑事という立場上そっけなく接している。戒からは、「美海姉さん」と呼ばれている。

常にクールで大人びた振る舞いを装うが、実際には相当な照れ屋であり、何かにつけて赤面しやすい。また嗜虐的な素養があるためか、何かにつけて他人をからかいたがる。その一方で責任感が強く、面倒見が良い姉御肌でしっかり者。

同じ部署の『片倉佑斗』とは恋人同士であるのだが恋人らしいことを出来ていないのが最近の悩み。刑事としては非常に優秀で公私混同を心がけているが、佑斗が他の女性に話しかけていると不機嫌になってしまう。料理は得意ではなく、とくに死んだ生魚の目が生理的に苦手だという。戒が仮面ライダーであることを知っている。

ネックレスを精霊術で変化させた銃器を武器とする。

 

 

片倉 佑斗 性別:男性 ICV日野聡

年齢:26歳

容姿:黒い髪に、黒色の瞳。

服装:仕事では軍服のような黒いジャケットを羽織っている。プライベートではジャケットとズボン、その下にパーカーを着こんでいる。

好き/魚料理 料理などの家事全般

嫌い/トマトジュース、自分の黒歴史ノート

設定:

『政宗美海』と同じく、「不可能犯罪捜査課」の一員。階級は警部。美海の「出生」や「家庭事情」を知っている人間でもある。同じ部署の美海とは恋人同士で同棲しているが、まだキスをしたことがない。(美海が恥ずかしくなって頭突きをしてしまうのが原因)

やや鈍感なところはあるものの誠実で優しく、真っ直ぐな性格をしており、相手への気配りが上手なため戒にも懐かれている。料理などの家事全般も得意。実は中二病の歴史があり、今も「闇と光のノート」なるものを所持している。捨てようと思っているが、誰にも見られたくないため捨てられないのが現状。戒が仮面ライダーであることを知っている。

戦闘の際は精霊術で強化した逮捕術と格闘技を駆使する。

 

 

門矢 美緒 性別:女性 ICV巽悠衣子

年齢:不詳

容姿:小柄な体系で青色の少し長いボブカットヘアーに、赤いカチューシャ

服装:丈が長い白のワンピース。その上に黒い上着と白いネクタイを着用している。外出時には日傘を差している。

好き/チョコレート 推理小説、ゲーム、音楽、息子(二人)旦那

嫌い/ネギ 太陽の光

設定:

「政宗探偵事務所」の所長。『門矢戒』の母親であり、観察力・推理力が高く、若いころは数々の事件を解決してきた名探偵であった。今は引退しているため前線に出ることはなく形だけの所長となっている。夫とは「ある事件」をきっかけに結婚。二人の息子を儲ける。息子たちと旦那を愛しているが、長男と旦那は世界を旅しているため、なかなか家に帰ってこない。そのためいつも戒を抱きしめて息子成分を補充している。

それ以外では真面目で物静かで誰に対しても敬語を使うが少々天然が入っている。体が少し弱いため日の当たる場所では常に日傘を差している。戒が仮面ライダーであることを知っている。

 

 

政宗 恵利奈 性別:女性 ICV清水愛

年齢:不明

容姿:銀髪の髪をツインテールにしている。瞳の色は紫。

服装:チェック柄のシャツとネクタイ、上にブレザーを着ている。下にミニスカートを穿いている。また首にヘッドホンをかけている。

好き/オムライス、ハンバーグ 動画サイト、音楽、ウサギ

嫌い/雑音、ハウリング

設定:

ラジオ番組や某動画サイトの生放送、喫茶店の店内放送などでパーソナリティをしている女性。仕事では「DJ ERINA」と名乗っている。『門矢戒』の叔母であり、彼からは「恵利奈姉さん」と呼ばれている。

気配り上手で明るい性格をしている一方、時々下ネタを言うなど少し親父くさい。当の本人は、「学術的見地から来る純粋な興味」と主張している。また、「人間の裸を見て同様しないのは失礼である」という妙な主義がある。戒が仮面ライダーであることを知っている。

スマホアプリとして収納した槍(精霊術)を召喚して戦う。

 

 

政宗 真希奈 性別:女性 ICV akari(ボーカルユニット『doubleeleven undercurrent』,『doubleeleven UpperCut』のボーカル)

年齢:不明

容姿:黒のボブヘアーにオレンジ色の瞳。グラマラスな容姿をしている。

服装:ブレザーと丈の長いワンピース。黒のニーソをはいている。上着のポケットには犬のパペットを入れている。

好き/歌、映画鑑賞(ただしクソ映画)、子供、甥 心太、納豆

嫌い/一人で寝る事、物をひっかく音、ハウリング ピーマン、苦い物

設定:

小さい音楽教室を開いている女性。おっとりとしており少し語尾を伸ばす癖があるが、人柄の良さから小さい子供たちに人気なだけでなく、保護者達からも信頼されている。『門矢戒』の叔母であり、会った瞬間彼を抱きしめる程溺愛している。戒からは「真希奈姉さん」と呼ばれている。

非常におっとりとしていて優しい性格をしている。一人だと不安になるらしく、常に犬のパペットを上着のポッケに入れている。

音楽と歌うことが大好きで時たま子供たちと一緒に音楽に合わせて育児教育を行っているときがある。少年声や活発な女性の声など様々な声を出したり、腹話術・ものまねといった特技が出来る。戒が仮面ライダーであることを知っている。

戦闘の際は、主に音を利用した後方支援だが衝撃波も出せる。

 

 

幸村 桜花 性別:女性 ICV丹下桜

年齢:秘密♪

容姿:薄い金髪のロリ体型で瞳の色は黒。

服装:ブレザータイプの服の上に白いエプロンをつけている。

好き/家事全般 握り寿司、太巻き

嫌い/鮫

設定:

幸村道場の現当主で琴音の母親、子供らしい体系だが立派な成人。基本的に笑顔で天然発言が多い。戒や琴音にとっては格闘技の師匠でもあるため頭が上がらない存在。

美緒とは親友であり、今も仲が良く時たま自分の発言でバトルに突入することもあるが仲直りも早い。ちなみに鮫が嫌いなのは彼女と一緒に映画『ジ○ーズ』を観たせい。

古武術と中心とした様々な格闘技を教えているが本人としては頭突きや追い打ちなどを中心とした喧嘩殺法の方が好きらしい。

 

 

猿飛 柊介 性別:男性 ICV森久保祥太郎

年齢:16歳

容姿:オレンジ色の瞳に黒髪

服装:紺色のブレザーとズボン(制服)、詰襟とズボン(私服)緑のセルフレームの伊達眼鏡をかけている。

好き/懐石料理、焼き魚 音楽(ジャンルは主にJポップ)

嫌い/占い、走る事(足を怪我しているため)

設定:「国立半蔵学院」に在籍している『斑鳩』の義弟。「猿飛」は母方の姓。『門矢戒』とはかつて同じクラスであり、親友である。才能がなかった兄『村雨』の代わりに自分が跡を受け継ぐはずだったが修行中の事故で足を怪我してしまい、養子である斑鳩が受け継ぐことになったが本人は姉のことは恨んでおらず、むしろ尊敬している。

陽気で社交性もあるムードメーカー。誰にでも分け隔てなく接する面倒見の良い性格だが、言動が少しズッコケ気味だったりする。根は情に厚く芯の通った男前な性格であり、周囲の雰囲気をいち早く察知して気配りできる人間でもある。日頃温厚だが怒ると誰もがたじろぐほどの怒気を見せている。

苦労人体質で、琴音に次ぐ第二のツッコミ役となりつつある。運が悪く、朝の占いはモチベーションが下がるため絶対に観ようとしない。

本編に登場する頻度は少ないが、番外編では多く登場するかもしれない。

 

 

潮田 空良 性別:男性 ICV長谷川芳明

年齢:23歳

容姿:灰色の髪の毛に黄色い瞳を持ったあどけない風貌の青年。

服装:黒いスーツを着崩した格好

口調:クールで真面目な口調 一人称は「俺」二人称は「君」三人称は「彼・彼女」

好き/トマト、チャーハン 機械いじり、動物

嫌い/果物 今の自分、猫(好きだがアレルギー)

設定:『仮面ライダーギアル』に変身する青年。冷静沈着でクールな性格をしているが、どこか抜けたところがありマイペースで大抵何があっても平然としている。

ポーカーフェイスだが、動物全般が大好きで、動物の前だと笑みを見せる。

 

 

 

 

エラーサイド

ミケネ ICV水田わさび

ポーントルーパーの進化態。モチーフは「三毛猫」

短い手足と尻尾、黒い体色に、茶色い縞々模様が付いた猫のぬいぐるみであり、目にあたる部分は赤いバッテン、口はギザギザした白い歯をむき出しにしている。

戦闘力は皆無であり、子どもに踏まれるほど弱いが、気配遮断・情報を幹部たちに流すなど隠密活動に非常に向いている。

エラーが起こす事件の審判・管理をしており、自らを「観測者」と呼んでいる。

子どもっぽく明るい口調だが激高する一面あり。事件を起こす犯人たちを「プレイヤー」と呼んでいる。

 

 

レッドゾーン・エラー ICV渡辺久美子

「レッドゾーン(RED ZONE)」のエラーカセットで変身した姿。主に通常エラーの護衛または粛清を担当している。モチーフは「レース用カート」

レース用の赤いカートが人型になったような姿をしており、背中、両肩にはエンジンのパイプが設けられている。人間態は赤と黒のチェックを着たあどけなさの残る少年。

凄まじい馬力とパワーを有しており、自身の魔力を赤熱させ内燃機関の力を引き出すことで、さらに凄まじいパワーを発揮出来る。

普段はあどけない性格をしているが変身すると荒々しい口調になる。

 

 

ユグドラシル・エラー ICV瑞沢渓

「ユグドラシル(YGGDRASIL)」のエラーカセットで変身した姿。主にエラーの護衛・粛清を担当している。モチーフは「ユグドラシル 狩人」

装甲の基本カラーは緑で、全身から植物を生やし狩人を思わせるよう外見をしている。人間態は体のラインが判るシスター服を着込んだ女性。穏やかな物腰をしているが、何処か色香の漂う語り口が特徴。

植物性の毒を生成することが可能で両腕に装着したボウガンから毒の矢を撃ち出すことを可能とする。ただし、使用が過ぎると自身が毒に侵されるのでただの矢として射出している。また、エラーの自我を保ったまま暴走させることも可能。

 

 

フェニックス・エラー ICV小野坂昌也

「フェニックス(PHOENIX)」のエラーカセットで変身した姿。主に救済を行っているエラーの監視や護衛を担当している。モチーフは「フェニックス 魔法使い」

頭部には炎を模した王冠 真っ赤な身体と黒いコートには極彩色のクジャクの羽根がありその姿は魔術師を彷彿させる外見をしている。人間態は黒い和服を着た赤毛の青年で丁寧な物言いだが慇懃無礼な態度を取っている。

ステッキや両肩から放たれる火弾による攻撃や空中浮遊による移動を得意とし、羽根は傷ついた相手を再生すること出来る。

 

 

デッド / アライブ ICV前田剛(男性・パペット共に)

COMBO21から登場した新幹部。現在は独断で単独行動をしており適当に見込みのある人物にエラーカセットをばら撒いている。

COMBO26・27で名前と怪人態を披露。デッドはひび割れた赤いモノアイが特徴の右半身が白く左半身が黒くなっており、アライブの方は水色のモノアイが特徴の右半身が白で左半身が錆びた金色でカラーリングされている。共通モチーフは「ゾンビ」

人間態は黒いスーツと黒頭巾で全身を隠しており首元には白いスカーフを巻いている。左手には四つの眼を持った白いパペット人形をはめている。

マイペースな上に掴みどころのない性格をしているが変人であり、パペット人形はやや汚らしくしばしば毒づいているが感性は彼よりは常識的。

 

 

ドラグハンター / オーナー ICV市来光弘

エラーカセット「ドラグハンター(DRAG HUNTER)」の所有者であり幹部たちから「オーナー」と呼ばれている謎の少年。モチーフは「戦士と恐竜の化石」

銀色の素体に緑と赤に塗り分けられたドラゴンを彷彿させる鎧と右手の手甲、腰には恐竜の骨で作られたバックルがある。エラー共通の特徴であるゲームパッド型ユニットもドラゴンのシルエットがマークされ卵を模ったステンドグラスが埋め込まれており、トリケラトプスのような頭部は三つ又の角が生えている。

人間態は白衣を着た中性的な少年の姿だが、自身の所持するカセットの影響でそうなっているだけである。口調は穏やかかつ贖罪的だが仮面ライダーに対して怒りを露わにしたり破壊されたエラーのことを悔やむなど人間臭い。

 

ドラグハンター・エラー 改造態

ドラグハンターカセットをセットしたチェンジレコーダーガンで融合した姿。以前の姿とは大幅に変わり、ダークヒーローのように洗練された緑のスーツに覆われており、配線のような赤いラインが縦横無尽は知っており、胸部とバイザーにはドラゴンの意匠がある。




 如何でしたでしょうか?ライダーとエラーの解説や紹介についてはアーサーが派生フォームをコンプリートしたら載せます。ではでは。ノシ


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ライダー&怪人紹介

 この作品に登場する仮面ライダーと怪人の紹介です。順次更新していく予定です。
 では、どうぞ。


仮面ライダーアーサー:

門矢戒がカセットテープ型デバイス『ミラージュカセット』を装填したゲームパッド型変身ベルト『アーサードライバー』で変身した姿。共通モチーフは騎士で、スーツの裏モチーフは仮面ライダージョーカー。

決め台詞は「お前の物語、ここで終わらせる!」

変身後は共通して昆虫のような赤く丸い複眼。紫の装飾の黒いスーツを素体としてミラージュカセットで具象化した装備『霊装』を纏い能力を最大限に活用する。戦闘スタイルはリンク(フォーム)ごとに変化する。

 

 

変身ツール

アーサードライバー:

アーサーの変身ベルト。基本カラーは赤。モチーフはゲーム機、タブレット

見た目は四角いパッド型で中央には四角いディスプレイを挟んで赤と緑のボタンがあり、右側にはサイドグリップとトリガーがある。ベルトの左腰にはマゼンダのスロットホルダーが付属しており、下段2つのホルダーにミラージュカセットをセットしておくことが出来る。

ドライバー使用時に発動する機能『シェアリングナイトフォース』により変身者が認めた人間と力の共有…すなわち『繋がる』ことが出来る。普段は携帯しており、腰に当てることで赤を基調としたベルトが出現し巻き付く。

ミラージュカセットを起動させてドライバーの左側にあるスロットにセット、その際「HENSHIN ARTHUR! GAME START!!」という音声と共に和ロックの待機音声が鳴る。「変身!」の掛け声と共にドライバーの右側のサイドグリップのトリガーを引くことで変身完了すると、スーツを生成し変身者に纏わせると、ドライバーの術式によって具現化された装備『霊装』を召喚 装着させる同時に「RIDE UP! ○○(対応するミラージュカセットの名称)! 〇〇!!」の音声と共にアーサーへの変身が完了する。ドライバーに配置されたボタンによってミラージュカセットの固有能力を発動することが出来る。赤いボタンは『強化』 緑のボタンは『特殊能力』が発動する。

スロットに装填されていない状態でサイドグリップのトリガー引くことで変身を解除することが出来る。

必殺技の際は、スロットホルダーにセットしバックルの各種ボタンを押すことで「CRITICAL ARTS! COMBO BREAK!○○(ミラージュカセット名)!!」の音声が鳴り、装填したミラージュカセットの能力に対応した必殺技を繰り出す。

装填されていない状態でボタンを押すと変身を解除できる。またベルト部分はシルク(絹)の赤い生地が貼り込まれている。

 

ミラージュカセット:

詳細については「世界設定(ミラージュカセット)」にて。具象化した宿主の精霊の姿を切り替える能力を持ち、アーサードライバーと組み合わせることで身に纏えるようになる。アーサーが各リンクへの変身(フォームチェンジ)の際に使用するカセットテープ型デバイスで全体的にデフォルメされたデザインが特徴。初期は適合率の高いドラゴン(赤)から、マジシャン(白)・リズム(緑)を所持している。

 

 

各リンク(フォーム)

ドラゴンリンク モチーフ:ドラゴン(牙)とバトルゲームアプリ

変身音声は「牙の連撃!RED KNIGHT!!」

アーサードライバーに「ドラゴンカセット」を装填して変身する熱を操るアーサーの基本形態。竜と鋭い牙を模した装甲を纏った身軽な姿でV字型の角が生えたドラゴン型のバイザーが上部にある。このフォームだけ赤いマフラーが付属している。

驚異的な脚力を誇り、赤のボタンで『脚力強化』、緑のボタンで『熱操作』を行う。

戦闘スタイル :マフラーを翻しながら、キックボクシングと古武術で培った軽快なスウェイとフットワークを活かした足技を主体とする格闘戦と専用武器「グレンバーン」による打撃と抜刀術。

必殺技 :ドラゴンストライク ソニックスマッシュ ブレイズスラッシュ

○グレンバーン :ドラゴンリンク専用の居合剣。刀身及び柄・鍔と鞘の色は共に紅蓮。鞘には橙色のナックルガードがある。頑丈に造られており、打撃武器としても使用可能。

ナックルガードにあるカバーを外し、スロットにセットすることで必殺技を放つ。

 

マジシャンリンク モチーフ:手品師と魔法使い、RPGアプリ

変身音声は「魔法、錬成!WHITE FANTASY!!」

「マジシャンカセット」を装填して変身する防御と攻撃に優れたアーサーの派生形態。シアンカラーのシルクハット型ヘルメットが上部を覆うようにしている。魔法陣が彫られた上半身を覆う甲冑と全体に纏ったローブは、白を基調としている。頭部の『ワーロックマスク』は強固になっている。赤のボタンで『腕力と防御力の上昇』、緑のボタンで『水晶錬成』を行う。

戦闘スタイル :ドラゴンリンク以上の攻撃力と専用盾「マジッグローブ」による防御力・水晶錬成によるダイナミックなパワーファイトを得意とする。

必殺技 :マジシャンスマッシュ オーバーストライク

○マジッグローブ :小型の盾と一体化した紫色のグローブで、魔法陣が刻まれている。防御範囲は狭いが軽量で使いやすく腕力の上昇、及びあらゆる攻撃を防ぐことが出来る。また、魔力を流し込んだ魔法陣によって殴った物質を質量無視で水晶へと変換させる能力を持っている。この武器だけスロットがない。

 

リズムリンク モチーフ:演奏家とリズムゲームアプリ

変身音声は「音色と踊れ!GREEN BEAT!!」

「リズムカセット」を装填して変身する射撃と奇襲に優れたアーサーの派生形態。エメラルドカラーの装甲とパーカーを基本に両肩のスピーカー、頭部のヘッドホンと複眼を覆うゴーグルが特徴。赤のボタンで『解析』、緑のボタンで『スペック上昇』が発動。

戦闘スタイル :対象の情報をリズムとして捕捉・解析するゴーグルとヘッドホン「リズミカルマスク」と2種類の異なる性質を持つ武器「ピアノアロー」によるトリッキーな戦いを得意とする。踊るように軽快なステップを常に踏むのも特徴。

必殺技 :シューティングショット リズムストライク リズムスマッシュ

○ピアノアロー :リズムリンク専用の緑色とピンクを基調とした弓矢型武器(イメージとしては『ガシャコンスパロー』)。トリガーで矢を放つだけでなく「ドレミファ」と「ソラシド」のキーボードを模したボタンを押すことで二種類の攻撃が可能。上部にある横向きのスロットにセットすることで必殺技を発動する。

 

シノビリンク モチーフ:忍者と武者 

変身音声「旋風無双!HIGH SPEED CHAMBARA!!」

「シノビカセット」を装填して変身する風を操るアーサーの中間形態。黒とアメジストカラーの和風の軽鎧に身を包み、頭部上部には金色のバイザーがはめ込まれている。水色のボタンで『超加速』、緑のボタンで『突風操作』を駆使するが身体の負荷が大きく長時間の変身は不可能。

変身者の魔力量を爆発的に増幅するため、体力をかなり消耗する。だが、心を通わせた忍たちに自身の力や能力を最大4人まで分け与えて『忍変身』させることで欠点をカバーすることが出来る。

戦闘スタイル:ドラゴンリンクを上回る超加速能力によるラッシュを得意とする他、忍たちとのチームプレイで相手を追い詰める。

必殺技 :旋風脚 シノビノコブシ 乱閃

各忍たちの忍変身:

半蔵学院の忍(学生服イメージ) :白を基調としたセーラー服に黄色と飾り紐とネクタイ、黒いソックスと茶色いブーツを履いている。また白い手袋を着用している。

紅蓮隊の忍(ジャージイメージ) :オレンジ色のラインが入ったフード付きの赤いジャージに、紅蓮隊のマークが背中にある。

月閃の忍(大正ロマンの和洋折衷) :フリルの付いた白い着物と、たすき。藍色の手甲に白い手袋を着用しており、白いグラデーションにある桜と水色の袴ズボン。腰には藍色のリボンを巻いており、ロングブーツを履いている。

蛇女の忍(軍服イメージ) :紫色のシャツと黒いネクタイの上に黒い軍服を着用し、軍帽を被っている。バックルには蛇女のエンブレムがあり膝までのロングブーツには紫色のニーソが見える。また白い手袋を装備している。

 

 

必殺技

○ドラゴンリンク

ドラゴンストライク:

両足に炎と冷気のエネルギーを集中させとび蹴りを放つのと、周囲を高速旋回するライドラゴンから現れるエネルギーで拘束し、跳び蹴りを叩き込む二種類のバリエーションが存在する。

ソニックスマッシュ:

自身を加速させ、勢いのまま渾身のパンチを食らわせる。

ブレイズスラッシュ:

炎と冷気をグレンバーンに纏わせ敵を連続で素早く斬りつける。ベルトを操作することで斬撃を蹴り飛ばすパターンも存在する。

 

○マジシャンリンク

マジシャンブレイク:

水晶を纏わせたマジッグローブにエネルギーを集中させ、渾身のパンチを食らわせる。

オーバーストライク:

左足にエネルギーを集中させ、とび蹴りを放つ。

 

○リズムリンク

シューティングフィーバー:

ピアノアローによる小型の大量の矢と、両肩のスピーカーから流れる音の斬撃を標的に一斉放射する技。

リズムストライク:

両足に音のエネルギーを集中させ、両足キックを相手に叩き込む。

リズムスマッシュ:

両手の拳に音のエネルギーを集中させ、左のフックで怯まし、右のアッパーで打ち上げた後、左ストレートで相手を粉砕する。

 

○シノビリンク

旋風脚

暴風を纏った両脚で相手を蹴り、粉砕する。

シノビノコブシ

竜巻を纏った拳で相手を貫く。

乱閃

爆発させた魔力から発せられるスピードでグレンバーンを抜刀して無数の斬撃で斬り捨てる技。

 

 

マシン&ガジェット

ドライグハート:

アーサー専用の鎧のような装甲を纏ったバイク。モチーフはVMAX。

基本カラーは赤・銀(※イメージは「Fate/zero」に登場した「セイバー・モータード・キュイラッシェ」の装甲を簡略し、コンパクトにしたもの)。

普段はガソリンを使用するが戦闘時には燃料を魔力に自動切り替えし、爆発的な加速力を可能とする。

単なる移動マシンに留まらず、前述した通り一部必殺技の発動、状況に応じて車体自体を別形態にチェンジして対応するなど、アーサーの戦いに無くてはならないマシンである。また、ウェルシュの指示で無人運転も可能。

なお、本来ならメンテナンスは必要としないが戒自身気に入っているため、時たま清掃やメンテを行っている。

ドライグハート・ブースター:

「CHANGE・DRIGHEART!」のコールと共にドライグハートが変形する飛行形態。

巨大なウィングとファンが模られた装備『ウィングブースター』がドライグハートの両隣に接続することで高速飛行能力やファンによる突風攻撃が可能となる。

ちなみにウェルシュと戒の許可なしに千歳とリアが戦闘機のデータをドライグハートに読み込ませて誕生した代物であり、COMBO21ではウェルシュからありがたいお話を聞かされていた。

 

 

ウェルシュ:

人物像などの詳細はキャラ紹介で。アーサーをサポートするためのマシン。上部に感情を映すディスプレイが付いた赤いミニ四駆の形をしている。ミラージュカセットを体内に取り込む能力を持ち、回収及び配布といった芸当が出来る。

エラーとの戦闘が可能な程の耐久性を備えており、自力での空中移動可能な能力も持つ。また、単独行動で得た映像や音声をアーサードライバーに送信する役割を持つ。

 

 

 

 

仮面ライダーギアル

 フライヤーモード:

ソラがミラージュカセット『ソーシャルカセット』をセットしたギアルドライバーにあるダイヤルを右側に回して変身した姿でアーサーと違い、専用バイクの『マシンユニバース』が装甲へと変形する。モチーフは「戦闘機と検索アプリ」

白いスーツに青を基調とした緑のメカニカルなブースター付きのプロテクターを胴体と両腕に装備しており、バイクハンドルがアンテナへと変形する。灰色に縁取られたゴーグル状の複眼の色はエメラルドであり右側にルーペ型のパーツがある。

対象の弱点を見抜くことが出来る。

戦闘スタイル :専用武器『ギアルショットガン』を片手に近接戦闘を繰り出す他、空中戦も得意とする。

 タンクモード:

ギアルドライバーのダイヤルを左側に回すことで姿を変える。モチーフは「戦車とナビゲーションアプリ」

アンテナが外れた代わりにマシンユニバースのタイヤが両脚に接続されると、左側にナビゲーション先のマークを模した赤いパーツがある。

ボタンを押すことで追尾能力及び追跡能力を付与することが出来る。

戦闘スタイル :スナイプモードにしたギアルショットガンによる追尾能力を付与した狙撃と真正面からの近距離戦を得意とする。

○ギアルショットガン :ソードオフされたポンプアクション式の専用武器であり、散弾での近距離と中距離を得意とするバーストモードと高威力の狙撃を得意とするスナイプモードがある。

 

必殺技(共通)

ギアルインパクト

エネルギーを両足にチャージさせた後、ブースターによる勢いを利用したキックもしくはパンチの強烈なアタックを繰り出す。

 

ギアルシューティング

極限までチャージしたギアルショットガンによる銃撃を行う。

 

変身ツール

ギアルドライバー:

ギアルの変身ベルト。基本カラーは青と白。モチーフは操縦席とゲーム筐体

メカニカルなデザインをしており、左側には歯車型のダイヤル『トランスギア』と中央は長方形を縦にしたようなディスプレイがある。「シュミレーションゲームアプリ」がドライバーに組み込まれている。

普段は携帯しており、腰に当てることで青いベルトが出現し巻き付く。

ミラージュカセットを起動させて上部のスロットにセットすると「FLIGHT UP! Are You Ready? FLIGHT UP! Are You Ready?…♪」と待機音声が鳴る。「変身!」の掛け声と共にトランスギアを左右どちらかに回すことで変身完了する。すると、スーツを生成し変身者に纏わせると、ドライバーの信号をキャッチしたマシンユニバースが霊装へと変形し、変身者に装着させると同時に「RIDE UP! ○○(対応するミラージュカセットの名称)! 〇〇!!」の音声と共にギアルへの変身が完了する。ドライバーに配置されたボタンによってミラージュカセットの固有能力を発動することが出来る。

必殺技の際は回したトランスギアを戻した後、再び回すことで「CRITICAL ARTS! FINAL WEAPON! ○○(ミラージュカセット名)!!」の音声が鳴り、装填したミラージュカセットの能力に対応した必殺技を繰り出す。

装填されていない状態でトランスギアを戻すと変身を解除出来る。

 

ミラージュカセット

「ソーシャルカセット」を所持しており、その名の通り検索とナビゲーションのアプリが術式として組み込まれている。ギアルドライバーと組み合わせることで二つの側面を引き出すことが出来る。

 

 

 

 

エラーカセット:

人間を『エラー(下記)』へ変貌させるデバイスでありアーサーの使用している物と同じだが薄い青と紫のカセットが特徴。『アプリゲーム』を術式として組み込んでおりシンプルな攻撃能力・強力な武器を使用する、特殊能力に優れた個体に融合変身する。「オーラを纏い武器を持った戦士」をデフォルメした絵柄が描かれている。

魔力を通すことで等身大のカード状のデータへと変わり、融合者によって姿と能力が決まる。一つ一つが「人間の悪の心と意思」を宿しており融合することが出来るのは『絶望した人間』に限られ、それ以外の人間は使用することが出来ない。中毒症状こそ起こらないものの、一度融合すると本来の人格が歪められる恐れがあり使用を続けるとカセットと一体化し人間を捨てることになってしまう。

ボタンを押して起動させることで「LOADING…GAME START…」の音声と共に融合者の身体に纏わりつき、変身が完了する。もう一度押すと変身を解除できる。

 

エラー:

英文表記は『Error』。人間が「エラーカセット」と融合変身した姿であり通称『霊子生命体(データせいめいたい)』。全体の共通点として頭部のモノアイ、胸部にはゲームコントローラーを模した銀のユニットが配置されている(基本的に融合者の人格が優先されるが、カセットが言葉を発する際にはプレートが発光する)。普通の人間の兵器では倒すことが出来ず、「仮面ライダー」しか倒すことが出来ない。

モチーフは融合した人間の蓄積された欲望や潜在能力が具現化した物、つまり『人類史に刻まれた自然現象・武器や生物の情報』などの抽象的かつ多岐に渡るものである。極まれに融合者の意思を封じ込めて活動する寄生タイプなども存在する。

 

 

幹部格エラー:

救済を終えたエラーたちのことであり、完全にエラーカセットと融合することで人の身を捨ててしまった存在。

個別名を持つエラーカセットをゲームパッド型ブレスレット『エラーブレス』にセットすることでエラーカセットに移した魔力を完全に解放するで本来の姿である怪人態のへと変身する。

エラーカセットは言わばコアのような物であり、これを破壊されることは『消滅』を意味している。

エラーブレス:

ゲームパッド型のブレスレットであり、「LOADING…~♪!RIDE UP! ○○○(対応するエラーカセット名)! BAD and DEAD END! THE ERROR…!!」の電子音声と共にエラーカセットの力を解放する役割を持つ。

黒と紫でカラーリングされており自動的に装着される。

 

チェンジレコーダーガン:

ドラグハンターとデッド&アライブが使用する変身用デバイスであり、テープレコーダーがモチーフになっている。

エラーカセットをセットすることで内包されたエラーの魔力を憑鎧させることが出来る。武器としての使用も可能。




 まえがきでも触れましたが、この項目も話が進むにつれて更新していく予定となります。ではでは。ノシ


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ANOTHER COMBO
ANOTHER COMBO ツッコミ×テンポ


 今日が最新作の発売日だと失念していたので、番外編を一本投稿します。本当ならPBSのプロローグを書こうと思っていたのに……非常に残念です。
 ですから、その埋め合わせとして昔書いて没にした銀○パロをやります。また、軽いネタバレや、まだ本編に登場していないキャラもいるので「それはいや!」という方はバックをお願いします。それでもよろしい方はそのままお読みください。
 それでは、どうぞ。


半蔵学院・忍学科の教室には五人の少女たちが集められていた。

右側を赤いリボンで結んだ小柄な少女『幸村琴音』・この学校のリーダーであり、赤いスカーフを首に巻いた少女『飛鳥』・まだ本編には登場していないが『月閃女学院』のリーダーであり、白いリボンを頭につけた少女『雪泉』・そして『秘立蛇女子学園』の選抜メンバーの一人である似ても似つかない双子のオッドアイ少女『両備』と『両奈』。

以上の五人がこのクラスに集められていた。

招集をかけたのは未だ姿を見せていない、琴音と両備たちの幼馴染である『門矢戒』。

「一体何が始まるんだろう」と、琴音はため息をつきながら考えていた。

小さいころ…それこそ物心つく前からの仲だが、時々見せるフリーダムさに琴音はいつも頭を悩ませているのだ。

今回も、休日で戒から「学校に来てくれ キラ☆」と連絡があり、その文面に軽くイラッとしながらも琴音は制服と家紋の入った羽織を着て学校へと行った。

そこで教室に入ると例の四人がいたのである。

ちなみに両備と両奈は代理らしく、それは前もって戒に連絡したとのこと。

改めて教室を見渡してみる、別段何も変わっていないが黒板の上の方にあるスピーカーには黒いマイクがセットされており、話を聞いてみると大人の都合や下ネタが入るとピー音が鳴る仕組みになっているらしい。

そして、チャイムが鳴り始めると共に、引き戸が開かれ、戒が姿を見せた。

いつもと変わらず中性的な顔立ち、黒い手袋、黒いコートとズボン、茶色がかった黒髪の上には黒いボーラーハットを被っている。

そのまま教壇に上がると戒は声を出した。

 

「えー皆さん、これから特別学級会を始めます。今回のテーマは…」

 

そう言いながらチョークに手を伸ばそうとしたが、思い出したかのように琴音たちに向き直る。

 

「…とその前に点呼でもしますか。呼ばれた人は返事してください、琴音」

 

「なぜ点呼?」と思いつつも、琴音は「はい」と返事する。

 

「飛鳥さん」

「はい!」

「雪泉さん」

「…はい///」

 

飛鳥は元気良く、雪泉はわずかに頬を染めながら返事する。

 

「貧…」

 

何かを言いかけた戒は、「ゴホン」とわざとらしい咳払いをし、訂正する。

 

「えーと、両備」

「…はい」

「両奈」

「は~い」

 

軽くイラッとした返事をした両備とは反対に、おっとりした口調で返事をする両奈。

全員の点呼をし終えると戒は一つ頷いてから戒は言葉を口にした。

 

「はい。今回はこの俺、議長の門矢戒を入れてこの六人で進めていくんで、よろしくお願いします。それじゃ、今日のテーマ……」

「ねぇ、カー君。どうしてわざわざ点呼したの?」

 

琴音は挙手をして、疑問を口にした。

人数は自分を含めたたったの五人なので、わざわざ点呼をするほどのことでもないと思ったのだ。

 

「どうしてって、メンバーが分かりやすいからに決まってるだろ?」

 

戒はにべもなく、あっさりと答える。

 

「それに、最初にこのメンバーですって言っといたら、この小説を読んでる人も余計な期待しなくて済むだろ。『このあと雅緋さん出てくるのかな』とか『斑鳩さんもいるのかな』とか、気にしなくて済むだろ」

「いや、それはそうなんだけどさ…」

 

言いかける琴音を遮りながら戒はカメラ目線で言葉を続ける。

 

「というわけで諸君。もうこの後、新しいメンバーは出てこないんで、そこのところはご了承ください。まあ、もしもの時は琴音がモノマネで対応するんで」

「いや、無茶ぶりしないでっ!出来ないよ、モノマネなんて」

 

とんでもないことを言い出した幼馴染に慌てて琴音はツッコム。

 

「そんなに怒ることないじゃないですか、半蔵さん」

「ワシはただ、ぅおっぱいの素晴らしさを世に知らしめようと……ってだから無理だよ!」

 

なんとか半蔵の真似をしようとするが、やはり途中で力尽きてしまう。

 

「はい、じゃあお子ちゃまが軽くスベったところで本題に入りますよー」

 

一瞬でも頑張ろうとした琴音を、そんな残酷な一言であしらい、戒はチョークを手にした。

「死にたい……」と言う琴音の呟きも無視し、戒は続ける。

 

「じゃあ、今日議論するテーマを発表するので、全員黒板に注目」

 

言って、戒は黒板になにかを書き始める。

カツカツという小気味よいチョークの音が響く。

響く…まだ響いている。

まだ……まだ……。

 

「いや、どんだけ長文書いてるのっ!?長すぎるでしょ」

 

たまらず琴音がツッコムと、戒はやっとチョークを置き、こちらに向き直った。

 

「今日のテーマは『ツッコミ』についてです」

 

黒板に書かれたのは「ツッコミ」という四文字だけだった。

 

「…ってそれだけ?…あのチョークの音はなんだったの」

 

当然琴音は呆れたように言う。

 

「えー、先ほどから、このお子ちゃまがチョイチョイ口挟んでるが、これが一般的にツッコミと呼ばれている行為です。今日はこのツッコミについて、もろもろ議論をつくしたいと思います」

 

そこまで言ったところで、「戒」と口を開いたのが彼と琴音の小学校からの付き合いである両備だ。

 

「そもそも何で今日のテーマが『ツッコミ』なのか、まずそこから説明しなさいよ」

「えぇ?それぐらい、察しろよ。リアルで今日は何年何月何日だ?」

「……2017年の3月16日だけど」

 

呆れたように質問してきた戒に両備は今日の日付を答えると、戒は満足したように頷き説明する。

 

「だったら分かれよ。作者はな?今日が最新作の発売日だと忘れていたから、急きょボツにした銀○パロのシナリオを改変して投稿してんだぞ」

「いや、それでも両備ちゃんの言う通り最新作とツッコミは関係ないよね?」

 

琴音にまでそう言われた戒は大きなため息を吐くと、愚痴り始める。

 

「なんだよ、おい。テンション下がっちまったよ……たく、こんなことになるなら、気合入れてLED発光の登山用帽子を被ってくる必要なかったなー」

「いや、嘘つかない!」

 

嘆息交りに点を仰ぐ戒の言葉をもちろん聞き逃すわけもなく琴音はツッコム。

 

「今日もいつもの黒いボーラーハットでしょ」

「固いこと言うなよ。琴音」

 

戒は小さく舌打ちする。

 

「どうせ絵が見えているわけじゃねーんだし…あと、お前も人のこと注意する前に、ス、スカートぐらいちゃんと穿けよ/// 目のやり場に、困るだろ…///」

「いや、穿いているから!誤解招くような言い方しないでっ!!」

 

そう言い琴音は自分の制服のスカートを叩く。

 

「けど参ったな。番外だって聞いた途端、急激にやる気なくなっちまったよ。おーい、どーすんですかー。このままじゃ考えるのをやめちまいますよー?」

 

戒はなおもブツクサとこぼす、そこへ雪泉が凛とした声で戒に話しかける。

 

「門矢さん。でしたらやる気が出るように、私が文字で描写をすることが出来ない位の舞をお見せしましょう」

「いや、それじゃやっても意味ないから!分かんないからっ!!これ小説だって言ってるでしょっ!?」

 

だが、構わず雪泉は扇子を取り出し、そしてある物を机に置き、席を立ち上がる。

そして、舞を始めた。

 

「ひっ、はっ、とう…セイハー!!」

「アッハハハハハハ!!スッゲー!その関節の曲げ方!…ぶふっ」

 

文字で描写出来ないような舞踊を見せ、戒がそれを見て爆笑し、それを琴音が指摘する。

 

「だから分かんないって言ってるでしょ!これ小説なのっ!」

「甘いな、琴音。この小説はな、『上上下下左右左右BA』で、漫画が貼ってあるリンクに移動できるようになるんだよ」

「ならないよっ!それただの『コナ○コマンド』でしょ!!」

 

その言葉に戒は不敵に笑って裏技を教えるも琴音がすかさずツッコミを入れる。

言葉の途中で、今日初めてのピー音が教室のスピーカーから流れる。

 

「バッカ。これはギネスにも載った有名なコマンドだぞ。例えば『ドル○ーガの塔』とか。他にも『ゼビ○○』とか、『パック○○』とか『○○○』とか……」

「もうピーピーうるさいよ!」

「待ってカー君!」

 

ピー音が入りまくっている戒のセリフにそう言って琴音は耳を塞ぐと、両奈が立ち上がる。

 

「もう一回両奈ちゃんに言って。え~と、上上下…上だっけ?」

「ほら、おバカさんが信用しちゃってるじゃん」

 

琴音が言ったあと、両奈が手にしている物を見てギョっとする。

 

「てか、両奈ちゃんはなんでコントローラー持ってるの!?」

 

琴音の言葉通り、なぜかツーコンを両手に持っていたのだ。

ちなみに、ツーコンとはファ○コンの所謂2P用コントローラーのような物でありマイクがついているのだ……詳細は各自で調べてくれるとありがたい。

必死にコマンドを入力しようとしていると、そこへ飛鳥が両奈に軽い声で話しかける。

 

「あ、ちょっと待って両奈ちゃん。それを入力する前にツーコンのマイクに向かって『おーい!』って叫ばないと」

「またそうやって…」

「おーーーーーーーーいっっ!!!」

 

言いかけた琴音の声にかぶせてツーコンのマイクにシャウトするバカ犬。

 

「いやもう、うるさいよっ!」

 

「大体そのツーコン、どこでテレビと繋がってるの!」と琴音がそう言葉を続けようとした瞬間。

 

「太巻きいいいいっっ!!!」

「…って何で飛鳥さんまで叫ぶの!?…てか、何でツーコン持ってんのっ!」

 

なぜか飛鳥もツーコンのマイクに向かって叫び出し、それに対し琴音がツッコム。

 

「両備さん死ねええええっ!!」

 

これは雪泉、やはり彼女もツーコンを持っている。

 

「あんたもかっ!何、今ツーコン持つの流行ってんのっ!?」

「あんたが死ね雪泉いいいいいいっっ!!」

「両備ちゃんまで…てか、よく見たらそれジョイスティックだしっ!」

 

とうとう琴音は頭を抱え始める。

「おーい!」・「太巻きぃ!」・「両備さん死ねぇ!」・「あんたが死ねぇ!」などと、見た目は可憐な少女たちが、おのおのツーコンを手に(一人はジョイスティックだけど)シャウトする。

何とも異様な光景だろう……流石に対処に困った琴音が戒の元へと駆け寄る。

 

「ちょ、カー君!早くも収拾つかなくなってるよ!どーすんの、これ!?」

「悔しかったらお前も叫べばいいじゃねーか。ほら、俺のツーコン貸してやるから」

 

しかしこんな状況でも戒は顔色一つ変えずにそう言うと自身のコートの中からツーコンを取り出す。

 

「何でカー君も持ってんの!?」

「つべこべ言うな。いいから、お前も思いの丈をマイクにぶつけてみろって」

 

差し出されたツーコンを、琴音は反射的に受け取った。

叫ぶの?私も……え?叫べばいいの?……。

逡巡する琴音の耳に、全員のバカシャウトの声が流れ込んでくると、頭蓋骨が軋むような感覚があった。

周りのバカシャウトでおそらく理性が破壊されつつあるだろう。

叫んであげるよ、私も……そう意を決し、琴音はツーコンを掴む手に力を込めた。

 

「……みんな……みんな」

 

そこで大きく息を吸い込み、マイクに声を叩きつける。

 

「好い加減にしやがレクイエムウウウウウウウウッッ!!!」

 

直後、教室が静まり帰る。

静寂の中、不意に教室のスピーカーから不思議な電子音が聞こえた。

 

…ピロピロッピッピッピー…。

 

「あ、増えた……」

「や、何がっ!?」

 

その音を聞き、戒が一言呟く、それを琴音はすかさず指摘したのだった。

 

 

 

 

 

「えーと、まあ、ちょいと横道に逸れてしまいましたね。戻しましょう」

 

バカシャウト連続の挙句、不思議な電子音声……それらを「横道に逸れた」と流して話をも戻したのは戒だった。

何やかんやあったが、とにもかくにも特別学級会は再開されるのであった。

 

「改めて本題に入りますよ。テーマは『ツッコミ』ですが、一口にツッコミと言ってもそれに対応する『ボケ』が存在します…と言うわけで琴音、この関係を体感してもらうべく、まずは俺とお前でシンプルに漫才するぞ」

「ちょ、ちょっと待ってカー君。そんなこと急に言われても自信ないよ」

 

戒の言葉に戸惑いながらも琴音は立ち上がる。

 

「心配すんな。台本を用意してあるから」

「にゃ!?で、でも、出来るかな……」

 

コートの懐から台本を取り出して突きつけてくる戒に言われ琴音は少し驚く。

 

「良いから早く来い。軽く打ち合わせするから」

 

急かされた琴音は教壇に上がり、戒と台本の打ち合わせを話し始める。

その際、距離が近かったせいで琴音が少し顔を赤くし、メンバーが少し尖った視線を送っていた。

そして、数分後…戒と琴音の漫才が始まった。

 

「はいどーも、戒でーす」

「琴音でーす」

「二人合わせてサンドウィッチマンでーす」

「いや、違うでしょ。怒られるよ?」

 

戒のボケに琴音がツッコム。

 

「いやー、それにしてもめっきり秋が深まって来ましたね~」

「そうですね」

 

琴音が相槌をうつ。

 

「秋と言えば、食欲の秋、読書の秋、それからアンジェラ・アキね」

「いや違うでしょ。アンジェラどこから来たの?もういいよ」

「「どーも、ありがとーございましたー」」

 

最後のボケにツッコンだ後、二人揃ってお辞儀をした。

 

「…とまあ、こんな感じだ。俺たちがやったことを教壇に上がり、やってもらいます」

 

戒がそう言った途端、両奈が自信満々に名乗り出た。

 

「は~い、じゃあ両備ちゃんと一緒にオリジナルの漫才でやりまーす!」

「はぁっ!?ちょっと、何で両備ま…」

 

自信満々に名乗り出た両奈の言葉に文句を言いかけた両備を戒は遮る。

 

「良いじゃねーか両奈。なら『特別ゲスト』でも呼ぶか…お前らにはその人の前でやってもらうぜ?」

「特別ゲスト、ですか?」

 

幼馴染二人を紅い瞳で見つめる戒の言葉に雪泉は首を傾げる。

それに構わず戒は引き戸の外にいる人物に声をかけた。

 

「じゃあ、入ってきてください」

「は~い」

 

そう言われて現れた彼女を一言で表すならば、おっとりした優しいお姉さん。

全身青と黒を基調とした服装、艶のある黒いロングヘアー、そして、右側には青い花飾りがつけられている。

その正体は…。

 

「こんにちは。二人のお姉ちゃん『両姫』で~す」

 

2015年3月26日に発売された『閃乱カグラ ESTIVAL VERSUS -少女達の選択-』で登場した新キャラクターであり、今日発売の最新作にも登場する永遠の17歳『両姫』だった。

 

「いや、何で!?色々と言いたいことあるけどちょっと待って!え、何?姉さんの前でやるのっ!?姉さんがいる前で漫才しろってこと?」

 

意外すぎる特別ゲストに動揺する両備だが、戒はあっけらかんと答える。

 

「ほど良い緊張感があって良いだろ?」

「いや、こんなの気まずくなるだけじゃないっ!!身内の前で漫才って気まずい以外の何物でもないわよ!!!」

 

あまりの急展開に両備のツッコミもヒートアップしていく。

 

「やるしかないよ、両備ちゃん。ガンガンボケるから、ガンガンツッコンでね」

「いや、そんな勝手…」

 

それに対して両奈はストレッチをし、顔をペチペチと叩き気合いを入れながら両備に話しかける。

両備が文句を言い終わる前に両奈は漫才を始めた。

 

「はいどーも~!両奈ちゃんでーすっ!!」

「え、ちょ……え、えと、両備でーす」

 

両備も何とか両奈に合わせる。

 

「二人合わせてジェミニでーす!いやー、それにしてもめっきり秋が深まって来ましたね~。秋と言えば、食欲の秋、読書の秋、それからほしのあきってなんでやね~ん」

「って別に両備いらないじゃないのぉ!!!!」

 

自分で自分にツッコミを入れた両奈に両備は何処からともなく取り出したスナイパーライフルで殴り飛ばした。

吹き飛ばされた両奈は「いや~ん!♪」と喜びの声を上げながら気絶する。

 

「あとオリジナルって言っときながらアンジェラ・アキがほしのあきに変わっただけだし…」

 

そう両備は低い声でつぶやいたが、なぜか戒がへらへらと笑いながら拍手をし両姫も釣られて拍手をする。

 

「おもしろかったぞー両備。道具を使ったボケはあるにはあるが中々だったぞ。どうでしたか?両姫姉さん」

「うんうん。まるでケチャップとマヨネーズを頭にぶちまけるような勢いのあるツッコミだったわね」

「…それ、褒めてんの?姉さん」

 

戒と両姫の批評に両備はイラッと眉を動かす。

 

「じゃあね、みんな。最新作も宜しくね」

 

手を振りながら両姫は帰って行くと、戒は教壇に戻り、カオスとシュールな空気が充満している教室にいる全員に話しかけた。

 

「はい、と言うわけで『仮面ライダーARTHUR 王の名を持つ仮面の騎士』がどういう作品か、皆さんもよく理解出来たと思います。後、閃乱カグラシリーズについては色々と予習しておくように……それじゃ、代表号令」

「起立…礼」

 

飛鳥が号令をかけた。

それぞれ解散していく中、琴音と両備はため息を一つついてから、声を揃えて言った。

 

「「……家に帰ろう」」

 

普段はこんな感じですが、戒たちの活躍を見守っててください。改めてよろしくお願いします。




 本当に失念していました…楽しみにしていた方は申し訳ありません。カー君のラッキースケベとか、水着ポロリで顔真っ赤にして気絶させてもらおうかと予定していたのですが…間に合いませんでした…本当に残念です(なお戒本人は安堵している模様)
 本編の方は気長にお待ちください。バイシクル・エラーが突き進む憎悪のロードをお楽しみください。ではでは。ノシ


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ANOTHER COMBO2 バカ×サングラス

 本編を期待していた方々は誠に申し訳ありません。今回も番外編です…現在雪泉がメインの話を煮詰めていますが、少し時間がかかるので銀○パロのお話を投稿します。本当に申し訳ありません……。
 今回のメインは戒の母親と叔母たちです。終盤の方に聞いたことある人やキャラが登場しますが、後々書く作品で登場する予定のキャラたちですので本編に絡むことはありませんので「こういうキャラがいるんだ」程度に考えてくれたら幸いです。今回は全編ギャグですし、細かいところは気にしたらいけません。
 それと、第二回アーサーチャンネル!!を少しだけ加筆しました。それでは、どうぞ。


某月某日、門矢家のリビングには三人の女性がもんじゃを焼いている鉄板を囲んでいた。

一人は紅い髪のロングヘアーの女性で頭にはアホ毛が一本伸びており、金色の瞳は眠そうな半目をしている。

二人目はブレザーと丈の長いワンピースに、黒のニーソをはいており、黒い上着のポケットには犬のパペットを入れている黒のボブヘアーのおっとりした女性で、オレンジ色の瞳には香ばしい匂いを漂わせているもんじゃを映していた。

最後にいるのは紫色の瞳で銀髪をツインテールにした女性で、全員のコップにコーラを注いでいる。

三人が思い思いの行動をしていると、台所から一人の女性が現れる。

青色の少し長いボブカットヘアーに、赤いカチューシャを着けた女性で長い白のワンピースの上に黒い上着と白いネクタイを着用していた。

他の三人と比べると小柄な体系をしており、知らない人から見たら女子高校生と間違えられるであろう。

しかし、これでもこのメンバーの中では彼女が最年長なのだ。

カチューシャの女性『門矢美緒』は三人が座っているテーブルに座り、口の前で指を組むというどこぞの司令のようなポーズをとる。

 

「今日あなたたちを呼んだのは他でもありません。『奴』が…奴が遂に動くとの情報が今入ったんです」

「「…」」

「…美緒お姉ちゃん、それ本当~…?」

 

本題に切り出した美緒に黒髪の女性、真希奈が他の二人を代表し神妙な面持ちで、しかしおっとりした口調で彼女に聞く。

 

「間違いありません。私は奴の周りに常にコソ泥(某水色ライダー)を張らせておいたのです。奴もそれに勘づいて大人しくしていたようですが…我慢比べは彼や私の十八番です。さっき報告で我慢出来ずに動き出したと連絡がありました…私はもう後手に回るつもりはありません……!」

 

そこで一度言葉を切り、息を吸って宣言した。

 

「決戦です。奴も、奴の野望も全て潰します…!」

「…そっか。美緒お姉ちゃんがそのつもりなら私たちの命も、お姉ちゃんに預けるよ~……」

「…頼りにしてますよ……さて、難しい話は終わりして本格的に食べましょうか。明太子とチーズとってきますね」

 

そう言うと美緒は台所へと引っ込んでいった。

彼女が居なくなったのを見計った真希奈は隣にいた赤髪の女性、美海と、次回の本編に初登場する予定の銀髪の女性『政宗恵利奈(えりな)』に話し掛ける。

 

「……みぃお姉ちゃん、恵利奈お姉ちゃん。少し聞きたいことがあるんだけど~」

「…?何かしら」

「どったの?」

 

真希奈は間を使った後、彼女たちの方に向き直りこう問いかけた。

 

「……奴って誰かな~?」

「知らないのかいっ!!」

 

美海の渾身の叫びが門矢家に響いたのであった。

 

 

 

 

 

「ドリームアイランド」と呼ばれる数年前に建設された安着過ぎるこの遊園地の前にある時計塔、そのすぐ傍にある広場に戒は来ていた。

三日前、ここである人物と待ち合わせの約束をしており、その相手はまだ来ておらず、近くのベンチに座りスマホを弄って暇を潰していた。

 

「門矢さん!……申し訳ありません、遅れてしまいました」

 

と、そこに自分を呼ぶ声がしたのでスマホから顔を上げると、そこには白いリボンを頭につけた雪泉がいた。

手には可愛らしい青いバッグを持ち、服装は白を基調としたセーターをその上に灰色の上着を着ており、首にはバッグと同じ青いマフラーを巻いていた。

余談だが、その可憐な容姿に近くにいたカップルの男性が思わず目を向けてしまい、隣にいる彼女に無言の腹パンを喰らっていたとか。

 

「いえ、俺も来たばかりですから。そんなに待ってませんよ」

「そうですか、実は電車が遅れていまして」

 

雪泉は、ほっとしたように胸をなでおろし遅れた理由を説明する。

 

「今日は遊園地に行くんでしたっけ?なら早く行きましょう。『善は急げ』ってヤツですよ」

「はい…///」

 

戒は軽く笑うと、彼女をリードするように目的の遊園地へと向かって行く。

雪泉はというと少し顔を赤くしながら三歩下がって戒の後をついて行った。

 

 

 

 

 

しかし、その微笑ましい光景を近くの茂みの中で見ている四人の影があった。

 

「あのアマァ…ふざけないでください。戒はね、あなたが来るのを五分も待ってくれていたのですよ。どうしてくれるんですか?手塩にかけて育ててきた息子二号の人生を五分も無駄にしてくれるなんて…」

 

グラサン掛けてライフル銃で雪泉を狙っているバカ(美緒)がいた…。

そして彼女は怒りを露わにし、より決意を固めた。

 

「仕方ありません…あなたの残りの人生、全てをかけて償って貰います。美海、あなたちょっと土台になりなさい」

 

暗殺を決行するという決意を…。

 

「待たんかいいいい!!あなた何っ!!?奴ってアレ、戒の友達!?ただのデートじゃないっ!!!」

 

だがそんなことを警察官として、それ以前に人として見逃せるハズもなく、当然の如く美海のツッコミが入った。

 

「デートなんかじゃありません!!あんなバインバインな雪女もどきとデートだなんて…ママは絶対認めませんっ!!!!」

「やっかましいわっ!私はそんなあなたが名探偵だったなんて絶対認めないわよ!!」

 

だが美緒も負けていない。

「デート」というキーワードに反応したのか癇癪を起こしたように美海に怒鳴りつけるも、美海も負けじと怒鳴り返す。

 

「美海、美海。恵利奈も君が警察だなんて絶対認めないよ!」

「あなたは黙ってなさい!!…はぁ、冗談じゃないわ。折角の非番だっていうのに、あの子たちのデートの邪魔をしろ?やってられないわ…帰る」

 

双子の妹である恵利奈の煽りにツッコンだ後、美海は自分の呼ばれた理由に呆れてしまい、帰ろうとするがそれを美緒は「ちょっと待ってください」と彼女を引き止める。

 

「私がいつそんなこと頼みましたか?私はただ、あの女の抹消をして欲しいだけです」

「もっと出来るか…!」

 

美海の言った言葉に、銃を構えたまま美緒は彼女の間違いを正すが、とんでもない内容のため美海は彼女に冷たい言葉を浴びせる。

 

「あの子が戒を幸せに出来るとは思えません。それは、確かに戒を好きになった女の子のことは応援してあげたいですよ?それで悩んで悩んで色々必死に考えました…それで、『あ、もう抹消しかないな』という結論に…」

「色々考え過ぎでしょ!!極道かあんたはっ!!?」

 

途中からもはや妄想に近い領域に入ってしまっている美緒に美海はツッコミを入れる。

 

「探偵なんて仕事、ほとんど極道みたいなものですよ」

「元探偵がとんでもないこと言い出したわ」

「母というのはね、息子を護るためなら神様だって殺してみせるものなんですよ」

 

とうとうぶっちゃけた美緒に美海は反射的にツッコムもそれに重ねるように名言を使う。

美緒はもはや、完全に周りが見えない危険な状態になっており、もう美海の言葉は、彼女の耳に届く状態ではない。

 

「はぁ…重症ね。真希奈、あなたもこの親バカに何か言ってやりなさい…」

「…真希奈?誰だぁ、そいつぁ…」

 

美海はため息を吐き、これ以上自分の説得は無理だと判断し、陰でこそこそしている真希奈に応援を求める。

だが、呼ばれた本人はドスの利いた声で、妙なことを口走ったのだ。

そして…。

 

「『殺し屋マキナ13(サーティーン)』と呼べ…」

 

グラサンを装備し、美緒と並んでライフル銃を構えるバカ二号(真希奈)がいた。

 

「……何やってるのあなた、てか『13(サーティーン)』って何?」

「不吉の象徴、『13日の金曜日』借りたと思ったら『14日の土曜日』だったの~…そんなことより美緒お姉ちゃん、私も手伝うよ~!」

「真希奈…」

 

美海の疑問に真希奈はすぐさま普段の声で13の由来を説明するもそれを片隅においやり美緒の手伝いをすると宣言する。

何とか二人を止めようとするも、そうしている内に戒と雪泉は四人から遠ざかっていることに美緒が気づく。

 

「いけません!!ターゲットが遠ざかって行きます!さぁ!!」

「レッツゴ~!!」

「ちょっと!待ちなさいバカ共!!」

 

美海の必死の制止も無視し、美緒と真希奈は茂みから飛び出すと、デビルハンターも顔負けのスタイリッシュな動きで二人の後を追った。

 

「まずいわ…今のバカ共なら本当に…恵利奈!あの二人を止めるわよ」

「誰が恵利奈かな?」

「…は?」

 

美海は汗を流しながら先ほど行ってしまった二人が起こす最悪の未来を回避するため、残っていた恵利奈に呼びかける。

だが、恵利奈の一言によって思考が一瞬フリーズしてしまう。

 

「『殺し屋エリナ13』だよ」

 

そう言ってグラサンを掛けた恵利奈も美緒たちの後に続くように飛び出して行った。

 

「ちょっとおおおおおおおっっっ!!?」

「面白そうだし行ってきまーす♪」

 

そして美海も余計なことを仕出かそうとする三人を追いかけるのであった。

なんだかんだ言いながらも彼女は面倒見のいい女性なのである。

 

 

 

 

 

ドリーム・アイランドと言うファンシー臭い名前の遊園地は、初代園長の夢と希望が詰まった名称のテーマパーク。

さすがに今日は休日という事もありカップルや親子連れなどで大盛況でありごったがえった人でいっぱいだった。

その人混みの中で、戒と雪泉はアトラクションの一つであるメリーゴーランドに乗り、気ままに楽しんでいた。

さすがに子供の乗り物だからか戒は若干恥ずかしがっているが雪泉は目を輝かせながら楽しんでいるように見えた。

だが、その二人を狙う銃口が三つ。

 

「むぅ~…これに乗るなんて~。馬が上下に動くから狙いが中々定まらないよ~…」

「それになんか段々気持ち悪くなってきた……ウエェ」

「それにしても二人共?…これいつになったら彼らに追い付けるんですか?さっきから全然距離が縮まらないんですけど」

 

バカ13たちだった。

真希奈は照準が合わないため撃てず、恵利奈は一点を眺めていたせいで吐き気を催し、美緒は二人が乗っている白馬と黒い馬に追い付けず苛立っていた。

 

「縮まるかあああああっ!!!これメリーゴーランドよ!?土台ごと一緒に回っているのよ、永遠に回り続けてなさいバーカ!!」

 

そんな三人に後ろから美海の罵倒に近い至極当然なツッコミが飛ぶ。

 

「メリーとバント?なんですかそれ?私、士さんとのデートの時はいつも映画館か秋葉原だったから遊園地なんて来たことないから良く分かりません。『大人の遊園地』なら捜査の一環で行ったことはありますけど」

「誰も聞いてないわよ!…良い?早まったことはしないでよ。要するにあの女の子の告白(予定)を阻止すれば良いのよね?なら他に方法はいくらでもあるじゃない」

「何ですか美海、私たちの仲間に入りたいのですか?殺し屋同盟に入りたいのですか?」

「あなたたちが血迷ったことをしないか見張りに来たのよっっ!!!!」

 

美緒は遊園地に来たことないという旨の説明をするも最後の方にとんでもない事実を喋ったので美海は強制的に黙らせると三人の説得を続ける。

しかし美緒はそれを仲間に加わりたいと解釈したのか勧誘しようとするが美海は叫び、一呼吸して心を落ち着かせると冷静な口調で語りかける。

 

「気持ちは分かるけど、私はあの子たちの邪魔する気なんて起きないわ」

「だって見てよ、美海お姉ちゃん~!あの上着からでも分かる膨みを~!?兵器だよ~!?おっぱいが大好きな戒君を悩殺するための兵器なんだよ~!?人間に穴開けるぐらい簡単な兵器なんだよ~!人間なんて元々身体中穴だらけなのに更に穴開けようとするとか…意味分かんないもん~!!」

「落ち着きなさい。私もあなたの言っている意味が全然分からないから」

 

彼女の言葉に過敏に反応した真希奈の反論に冷たい言葉を吐く。

戒と雪泉がメリーゴーランドから降りたのを確認すると、四人もすぐさま降りて後を追いかけるのであった。

 

 

 

 

 

 

「門矢さん、あれは何でしょうか?」

 

 

メリーゴーランドを楽しんだ雪泉がそう言って指をさしたのは、激しい高低差と遊園地を二週ほど巻く長さのレールがある巨大なジェットコースターだった。

 

「『ジェットコースター』ですね。ここのは確か、スピード、長さなどが全てにおいてギネスに載ってるとか」

 

これを見た戒は、あまりの長さに若干引きながらもジェットコースターについて軽く説明をする。

説明を聞いた雪泉は興味深そうに見上げている。

 

「…乗ってみたいですか?」

「え!?あ、えと…はい///」

 

戒の言葉に雪泉は慌ててしまうが数回呼吸をして落ち着かせた後、顔を赤くして肯定した。

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

戒は雪泉の手を取り、ジェットコースターの方へと向かって行く光景を見ていた四人は各々の反応をする。

 

「嘘っ、あの子たちこんなのに乗るの!?」

「…これって確か、良くCMでやっているものですよね!?観たことありますよ!」

「これって今年人気のジェットコースター『デッドトルネード』だよね~?」

「あっ、知ってる知ってる。確かこれに『カップルで乗ったら二人の想いが成就される』ってリスナーから聞いたことあるよ」

 

美海はアトラクションとは思えないほどの長さを誇るジェットコースターを見て驚愕し、美緒は「テレビで見たことある」と言ってテンションを上げる。

真希奈と恵利奈はジェットコースターの名前とそれにまつわる都市伝説を説明する。

どうやら恵利奈の話からすると、吊り橋効果を狙ったやり方のようだ。

 

「はっ!?ま、まさか、戒を無理やり乗せて弱ったところを狙って大人のアトラクションに直行するつもりですね!そうと分かれば…二人とも、私たちも乗りますよ!!」

「「アラホライエッサー!!」」

 

気合いの入った美緒の呼び声に、二人は元気良く応え、一人はため息彼女の後をついて行った。

 

 

 

 

 

デッドトルネード内に入り、しばらくすると四人がジェットコースターに行き順番が来た。

バラバラになるかと思ったが、運良く、戒たちと同じ車両になることが出来た。

しかし、四人が戒たちに見付からないようにコソコソしていると、美緒は単独行動を取り、最終的に三人は最後尾の車両に、美緒は最前列から二列目の…丁度戒たちの真後ろへとなった。

 

「美緒姉さん、一体何をするつもりかしら?」

「なんせ『サディストクイーン』だからね。何仕出かすんだろ?」

「戒君にばれて嫌われなきゃ良いけど~」

 

三人がそうこう話している内に発射するカウントダウンのアナウンスが聞こえる。

 

『発射五秒前…』

「あっ!二人ともしっかり掴まって!!首痛めるよ」

「え?ジェットコースターって最初はゆっくり動く物じゃないの?」

『発射四秒前…』

 

恵利奈は二人に注意をすると、美海はあっけらかんと返事する。

 

『発射三秒前…』

「スタートからすぐに最高速度なんだってさ。それがこのジェットコースターの怖い理由らしいよ」

「「はぁっ!?」」

 

恵利奈からデッドトルネードの特徴を聞き、二人は驚きの声をあげ慌ててベルトを締める。

 

『発射二秒前…』

「みぃお姉ちゃん~…私、ここから無事に帰ったら、カラオケに行くんだ~……」

「いやそれ死亡フラグッ!!」

『発射一秒前…』

 

真希奈は瞳を閉じ、どこか優しい声色で帰った時のことを美海に告げるも、彼女はそれに言葉を返しながら衝撃に備える準備をする。

 

『発射』

 

アナウンスと共にジェットコースターの車両はけたたましい音をたてて発射された。

その加速は凄まじくとてつもない重力が乗客全員を襲う。

 

「うっ!?何これ……!!」

「ふわ~!!すごいよ~!…ってあれ?何か聞こえない~?」

「え?そういえば風の音に紛れて、な~んか聞こえるような…」

 

美海はジェットコースターの急加速の衝撃に驚き踏ん張り、真希奈もコースターの速度に驚く。

しかし途中変な音が聞こえ、恵利奈もそれに気付いたのか耳をすましてみる。

三人は音のする方向、最前列を見てみると……。

美緒が前から飛んで来たのだ。

 

「…ぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!」

「「「え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ええええええええええええええええええ!!?」」」

 

あまりの出来事に、三人は驚愕の声を上げてしまうも、それで止まるわけもなく、そのまま美緒は美海と恵利奈の顔面に直撃してしまう。

 

「ブッ!!」

「アベシッ!?」

 

二人に激突したことでスピードは落ち、美緒はなんとか座席の枕に掴むことに成功する。

だが余程の衝撃だったのだろう、美海と恵利奈は鼻を押さえている。

 

「み、美緒姉さん!!?あなた、何してんのおおおおおお!!!」

「美緒お姉ちゃん!?ベルトは、ベルトはどうしたのさっ!?」

「あばばばばばばば!!!ベルト締めるの忘れたっ、ベルト締めるの忘れましたああああああああああっ!!!」

 

美海と恵利奈は、吹き飛ばされて普段の彼女とは思えないほど慌てる美緒に理由を尋ねる。

ここで事情を知らない人たちのために分かりやすい説明をすると、こうなる。

当初の予定の通り、美緒は直接邪魔をするため戒たちのいる席、つまり最前列の後ろの席に座ったのだ。

だが、邪魔をすることに意識を集中させていたのかアナウンス直前まで、ベルトを締めるのを忘れており、気付いた時にはもう手遅れ。

彼女は風になってしまったのだ……。

人はこれを自爆というのである。

 

「わ、分かった!分かったから!!おおおお、落ち着きなさい!!」

「いや、みぃお姉ちゃんも落ち着いて~!!」

 

だが、そんなことを三人は知るはずもなく、美海は落ち着かせようとするも真希奈に逆に冷静になるように指摘されてしまう。

 

「たたたた、助けてください恵利奈あああああああっっ!!!」

 

錯乱状態の美緒は、あろうことか恵利奈の髪を掴んでしまったのだ。

 

「へっ?…痛っ!!イダダダダダ!!髪、それ髪いいいいいいいいいいい!!!!!」

「わ~!!!美緒お姉ちゃん~!!それ恵利奈お姉ちゃんの髪の毛~!!!」

 

髪を掴まれた恵利奈は目に涙を溜めて叫ぶ。

真希奈は「髪を離せ」と言いそうになるが冷静になって考えてみると、これを離したら美緒は増々危険な状態になるのだ。

その手前、「離せ」と言うことなど言えるわけがない。

そして…

 

「「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!」」」」

 

何も出来ぬまま、四人の絶叫がコースター内に響き渡った。

そして、長くも短くも感じた地獄のジェットコースターは終了した。

 

 

 

 

 

「恵利奈、しっかり」

「美緒お姉ちゃん大丈夫~?」

「「…………」」

 

美緒と恵利奈の腕を首に回して肩を貸している美海と真希奈が二人に話しかけるも、当然二人からの返事はない。

あの後、美海の髪に掴まることで美緒はジェットコースターから無事に生還出来たのだが、

激しい遠心力で揺られてしまい、終わった頃には自分で立っていられないほどグッタリしていたのだ。

それは美緒に髪を掴まれていた恵利奈も同様であり、引っ張られたおかげでボサボサになっており、それを直す気力もなかったのだ。

 

「美海お姉ちゃん、とりあえずこの二人をベンチまで運ぼ~」

「そうね…」

 

ジェットコースターを後にし、美緒と恵利奈を引き摺るようにベンチまで運ぶと、美海は戒たちを追い掛けるのを諦め、少し遠くから眺めて見守ることにする。

真希奈は近くの自販機でオレンジジュースを二本買い、その内の一本を美海に手渡す。

 

「…それにしても楽しそうねあの子たち…」

「私は、絶対に…認めませんよ」

「ウェ…まだ気持ち悪い……」

 

ジュースの缶を傾けながら美海が楽しそうにしている二人を見て物思いに耽ふけっていると、美緒と恵利奈は復活していた。

おぼつかない足取りだったが美緒の目にはまだ光が灯っており、その様子からして諦めていないようだ。

 

「まだそんなことを言ってるの?あれは誰がどう見ても仲のいいカップルよ」

「駄目です、まだ早いです!!男の子は一度盛ると手がつけられなくなるんですよ!?もしかしたら戒だって…」

「そんなわけないでしょ!あなたは息子が可愛くないのか!!」

 

美海は諦めの悪い美緒に呆れるも美緒のあんまりな言い分に思わず怒鳴ってしまう。

すると戒たちを見ていた真希奈から声が掛かった。

 

「あっ、美緒お姉ちゃん~!あれを見て~!!」

「「「…っ!!」」」

 

全員の視線が真希奈の指差す方をみると、それは巨大な観覧車であり戒たちもそこに向かっているのが見える。

 

「観覧車に行くんだよ~!間違いないよチューするつもりだよ~」

「ええ!?そうなのですか!?」

 

真希奈の言葉に美緒は驚く。

 

「そうだよ~。観覧車っていったらチューだよ、チューするために作られた乗り物だよ~」

「そうなの!?…はっ!戒の貞操が危ない!!」

 

美緒はすぐさま立ち上がり、走りだす。

その際、スマホを取り出し何処かに電話をかける。

 

「もしもし…私です…はい、実は今日『あれ』を使って遊園地に来て欲しいのですけど、OKィ?え?知りませんそんなの私の管轄外です…そうそれで良いんです。ありがとうございます…さぁ!最後の一仕事ですよ!!」

「「了解カ~イ!!」」

 

数分の会話の後、美緒は電話を切り真希奈と恵利奈に声をかけるとそのまま三人はどこかへと走り去ってしまった。

そして、三人が走り去るのを見送った美海は……。

 

「ハァ……」

 

ため息を吐き眉間を揉むと、スマホを取り出しある人物へと電話をかけた。

 

 

 

 

 

数ある観覧車の一室、もうすぐ頂上に着き街が一望出来る頃。

 

「フゥ…このように遊ぶのは久しぶりで、ありがとうございます」

「いえいえ、お礼を言うのは俺の方ですよ」

 

二人の少年少女が向かい合って座っている。

しばらく談笑していたがその内、話す話題もなくなってしまい、二人の間に静寂の時間が流れる。

だがそれは気まずいものではなく、どこか心地よさを感じさせた。

 

「…あの、門矢さん///」

 

雪泉は唐突に話を切り出す。

チャンスは今しかない、自分を鼓舞し、雪の結晶のような瞳を彼に向ける。

ほんの少し、頬を赤らめながら息を吸い、彼への想いを伝えようとする。

そして…。

 

「私は……っ!?」

 

外から聞こえる奇妙な音が後に続く言葉を遮った。

絶好のタイミングで邪魔された雪泉は顔をしかめながら音の発生源、つまり真横を見る。

それは直ぐ見付かった。

ホバリングしているヘリコプターだった。

そう、黒塗りのヘリコプターが二人の目の前に存在していたのだ。

 

「へ、ヘリッ!?何で…!」

 

突如現れたヘリコプターに戒は焦りながらも観察すると赤い鳥のようなマーク『鴻上ファウンデーション』のマークが…

すると、ヘリコプターは再び横に旋回しドアがガラッと開く。

そこにはライフルを構えた三人の殺し屋たちの姿があった。

 

「「「殺し屋13!お命頂戴する!!」」」

「「え、ええええええ!!!?」」

 

決め台詞と同時に三人はライフルを構え直す。

そんな超展開に、狼狽することしか出来ない二人。

三人のバカが何も知らぬ少年少女に牙を向けた瞬間…。

奴らは現れた。

 

「そこまでよ!」

「無粋な真似はするものじゃありません」

『っ!?』

 

殺し屋と標的…両者の間に割って入るように新たな声が響く。

彼らは声のする方、観覧車の屋根の上を見ると奴らは…彼女たちはいた。

 

「あ、あれは…」

 

美緒は見覚えのある姿が現れうろたえる。

 

「み、みぃお姉ちゃん~!!?」

「ら、雷華!?ど、どうして…?」

 

そう、先ほど三人を見送った美海と、黒いセーラー服のような洋服を着た黒髪ショートの女性『左雷華(らいか)』だった。

二人ともグラサンをかけており美海はネックレスを精霊術で変化させたバズーカを肩に担ぎ、雷華は自身の契約精霊『霊獣 鵺』を具現化させ、その背に乗っていた。

真希奈と恵利奈は突如現れた二人に戸惑いを露わにするも、彼女たちは不敵な笑みを浮かべる。

 

「美海?誰かしらそれは」

「雷華?ふっ…今はそんな名前じゃありません」

 

そう言うと美海はサングラスを親指で少し上げると腰を落とし、バズーカを三人に向けて構え、雷華に指示を与えられた鵺は口を開けて大気中にあるマナを溜める。

そして二人は高らかに名乗った。

 

「私は、『守護者ミウ13(サーティーン)』」

「同じく『守護者ライカ13』」

「「人の想いを邪魔するバカは…消え去れええええええっ!!!」」

 

守護者13たちが放った攻撃はプロペラの根元を貫いた。

当然それによってヘリコプターのバランスが崩れてしまい、運転手の慌てた声が聞こえる。

 

「え、ちょっ、待っ…」

「「「ああああああああああおっ!!!」」」

 

制御の利かなくなったヘリコプターは、そのままバカ三人+αと共に海の、もとい噴水の藻屑へと消えて行った。

そして、戒たちが遊園地から帰った数時間後…。

 

「あなたたちはねぇ、もう少し常識を弁えたらどうなの?」

「まったくです!そもそも子どもたちの遊びに大人が介入する時点で…」

「「「うぅ……」」」

「あはは……」

 

それから二人による説教が二・三時間続き、その後は美海と雷華によるありがたいお話を受けるのであった。

事情を聞かされたヘリの運転手…パンツにこだわっていそうなイケメンも説教している光景を見て苦笑いするのであった。

本日の教訓『男女の関係は他人が詮索してはいけない。特に身内に関しては』

 

 

 

 

 

 

……Next Stage →COMBO9 正義×狙撃




 銀○パロ楽しいです(白目)、本編の方も微弱ながら進んでいるので安心してください。
 ではでは。ノシ


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ANOTHER COMBO3 憧れ×目覚め

 本編は一休みして番外編です。今回は小学生時代の戒のお話です。特に語ることもありませんが、「こういう子だったんだな」と思いながら読んでみてください。
 ちなみに今回の話で戒や琴音たちのセリフに平仮名を多用していますが意図的です。短いですが、どうぞ。


母が買ってくれたお気に入りの洋服を来て、父から買ってくれたお気に入りのシューズの紐を結ぶと戒は兄の御下がりであるリュックを背負う。

そして、玄関まで見送りに来た美緒と桜花に笑顔を見せる。

 

「行ってきます!おかあさん、おばさん!」

「いってらっしゃい」

「みんなと喧嘩しちゃ駄目だよ、カー君」

 

二人の言葉に元気よく頷くと戒はドアを開けて外へと出かけて行った。

ドアが閉まったのを確認すると、桜花は笑みを保ったままリビングに戻ろうとするが膝と両手を床につき明らかに落ち込んでいる様子の美緒に肩を貸す。

 

「ほら美緒ちゃん、しっかりして」

「だって、心配じゃないですか。あの子が外泊するなんて…」

「両備ちゃんたちのお家の御泊り会でしょ?両姫ちゃんもいるし大丈夫だよ」

 

「しかし」となおもぶつくさ言う美緒を引きづりながらリビングにあるソファに座らせると自身もチェアに腰を掛ける。

 

「可愛い息子が私の手を離れて、なおかつ余所の場所で泊まることに抵抗があるんですよ、私は」

「そう言えば礼司君の林間学校の時も変装して同行しようとしたよねー、真希奈ちゃんと一緒に」

「美海と士さんに妨害された挙句、叱られました…理不尽です」

 

そんな親友同士のやり取りをしていると、ふと桜花が疑問に思ったことを口にする。

 

「そう言えば、礼司君は?」

「部活ですよ、基本的に中学は部活動が義務付けられているそうですから」

 

手元に置いてあった推理小説の文庫本の活字に目を通しながらそう答えた美緒に「ふーん」と納得するがその時、ある言葉を口にした。

 

「彼女とかいないのかな?」

「……は?」

 

途端、空気が凍るが当の本人は気にすることなく話を続けていく。

しかも地雷を無自覚に踏みながらだ。

 

「だって部活動ってことはさ、必然的に女子と交流することになるじゃん?写真部だったよね確か…可愛い子が多いって評判だよね?」

「噂はあくまで噂でしょう?それにあの子は真面目ですから邪な誘惑に流されたりしませんしそもそも認めませんし礼司はまだ未成年ですし大体…」

 

最初はゆっくりと、しかし段々と早口になって行き終いには無駄に綺麗な滑舌によるマシンガントークへと変わっていく。

「本当に美緒ちゃん面白いな」と思いながら桜花はテーブルに置いてあった某週刊少年誌を読むのであった。

 

 

 

 

 

目的地…両姉妹の自宅に辿り着いた戒は息を切らすが何とか呼吸を整えるとインターホンを鳴らした。

 

「はーい…あらあら、戒君。いらっしゃい」

「こんにちわ、両姫おねえちゃん」

 

迎えてくれたのは両備と両奈の年の離れた姉である両姫…学校から帰ったばかりなのかブレザータイプの中学服を着ており灰色と黒のチェックスカートを揺らして優しい微笑みを見せる。

そのまま玄関で靴を脱ぐと両姫に案内されるままリビングへと足を踏み入れた。

一般的な内装だったが質素ながらも何処か女の子らしい雰囲気に落ち着かなくなってしまう…改めて感じる女子に緊張しているのだがまだ子どもである彼には分からなかった。

 

「戒君の家とはちょっと狭いわよね、ごめんなさいね」

「う、ううんっ!全然そんなことないよ!こっちこそゴメン!!」

 

申し訳なさそうに笑みを作る彼女に慌てて謝るとその動きが面白かったのか「ありがとう」といつもの優しい微笑みを浮かべた。

胸を撫で下ろすが、あることに気づく。

 

「琴音たちは?」

「三人とも遊びに行きましたよ」

「何だよ、ぼくだけのけものにして」

 

自分を置いて遊びに行ったことに文句を言いそうになったが目の前に両姫がいるため出そうになった続きを飲み込むと戒はリュックを下ろすと、当時話題になったゲーム機PS○を取り出して起動する。

両姫はカチカチとゲームをプレイする戒の手元を興味深そうに眺める。

 

「何ですか、これ?ドラゴンを狩ってますけど…」

「っ?ゲームだよ。両姫おねえちゃん知らないの、ドラハンX」

「バイトや勉強してると、こういうのに疎くなっちゃって。ファミコンの仲間?」

「古っ!!」

 

彼女の発言に戒は思わずツッコミを入れてしまう、祖父母の家でしか見たことないような骨董品が両姫の口から出るとは思わなかったからだ。

嫌な予感がしてきた戒は恐る恐る尋ねる。

 

「い、一応きくけどさ、ツインファミコンとかって…」

「知ってますよ。ファミコンとディスクシステム両方のゲームで遊べるハイテクゲームですよね」

「だから古いよっ!じゃあ、アイドルの曲は?」

「……硝子の少年とkissから始まるミステリー?」

「古いっ!古い以前にぼく知らないよっっ!!」

 

あまりにも古臭い両姫のチョイスをしながらも、最近のゲームに興味が湧いた彼女にゲームを教えるのであった

ちなみにその数時間後、ダブルスクリーンで話題になったゲーム機DSでリメイクされたマリオに夢中になっていたことは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

「おねえちゃん?両姫おねえちゃん?」

「すぅーすぅー……」

 

ソファに寝ていた両姫に声を掛けるが聞こえてくるのは彼女の穏やかな寝息だけ。

身体ごと振り向くと、戒の考えていた通りソファの上で横になって眠っていた。

 

(…やっぱり、疲れてるのかな?)

 

眠っている両姫を見ながらふとそんなことを考える。

両備と両奈から聞いたが、家事は全て両姫が行っており親せきからの援助はある物のバイトをしたるだけでなく勉強も優秀なことから欠かしていないのだろう。

中学生とは思えぬ彼女のハードスケジュールに危惧した美緒や桜花は彼女たちを食事会に誘ったりいらなくなった備品などを渡しているのを見たことがある。

それに、カレンダーにも「りょうびの日」など書かれていることから二人も負担を掛けないよう手伝ったりしているのだろう。

「それなら」と戒は何も言わず、彼女を労ろうとゲームに没頭することにした。

そして数分後……。

 

「……あきた」

 

DSの電源を切るとそう呟く、いくらゲームが好きでも一人で遊ぶには限界がある。

「漫画でも読もうかな」とリュックに詰めておいたコミックスを取り出そうとした時だった。

 

「んぅ……」

(……やっぱり、おっきいなぁ)

 

漫画に目を通しながらも、戒は横目でちらちらと彼女を見る……中学生にしては均整の取れたスタイルとスイカのような胸、そしてミニスカートから伸びる長く白い脚。

その光景に思わず生唾を飲んでしまう、普段から綺麗だとは思っていたが眠っている彼女は一層美しく見えたのだ。

脚をもぞもぞと動かしている両姫を見て悪戯心が湧いた戒は漫画を置くと周囲を挙動不審に見回し、太ももに指を伝わせてみる。

ハリのある柔肌に気分が高ぶるのを感じると、今度は彼女の頬を指で優しく突く。

人差し指から伝わる柔らかい感触に味を占めたのか今度は黒く艶のある長い髪に触れる。

綺麗な髪に指を通す度、鼓動が速くなっていくと「んぅん」と身体を動かした。

驚いた戒は足早に距離を取って警戒するが、寝返りだったらしくそれ以外の行動をしなかった。

しかし、その際ブレザー越しでも分かる大きさの胸が揺れると彼の目はそこに奪われる。

 

(……ち、ちょっと、だけ…なら)

 

ほんの少し、軽く触れるだけ……。

自分にそう言い訳しながら戒はゆっくりと手を彼女の胸に持っていくと腫れ物のように触れる。

途端、柔らかい胸の感触が伝わってくる。

 

(っ!?や、柔らかい、両姫おねえちゃんの胸…すっごく柔らかいっ!!も、もうちょっとだけ、もう少しだけなら……)

 

両姫に抱きしめられていることで今までその感触を味わうことはあった。

しかし、自分の手から伝わってくる弾力は身体が熱くなったような妙な感覚を覚えていくと同時に鼓動が早鐘を打つ。

そこから戒が手を動かすようになるのに時間は掛からなかった。

 

「ふぅっ、んんっ、すぅー…」

「ん……(何か、変な気分に)///」

 

身体が落ち着かなくなってくる熱に戒は恐怖と興奮を感じるようになる。

しかし、それでも掌は両姫の胸を掴んで離さない。

 

「んぅ、んっ、んぅんっ…」

 

弾力のある胸の感触に顔は真っ赤に染まっており自分で自分を制御出来なくなってくると次第に罪悪感が湧き上がってくる。

それでも、両手を動かすことを止められないし止まらないのだ。

 

「はぁぁ…両姫おねえちゃぁん……///」

 

体感したことのない、自分の知らない感覚に涙目になり切なげな声を漏らすと、眠っている無垢な両姫のブレザーのボタンを外そうとした時だった。

 

「「「ただいまーっ!!」」」

「っ!!??!!!!?」

 

三人の元気な声が聞こえた途端、急速に熱が冷めたのを感じた。

慌てて、消したDSに電源を入れて『今までゲームで遊んでいた』のをアピールすると両備、両奈、琴音が顔を見せる。

 

「あ、カーくんっ!やっと来たんだ!」

「きいてきいてー!今日りょうなちゃんたち、お買いものしたんだよっ!」

「ほらっ、あんたのアイス。か、感謝しなさいよね!///」

 

若干頬を染めた両備に手渡されたのはアイスの入ったコンビニ袋、「ありがと」と言うとアイスの封を破ってソーダ味のそれに被りついた。

アイスの冷たさに頭を痛めていると両姫が目を覚まし一度あくびをすると、寝ぼけ眼で微笑む。

 

「ふぁ…あら?お帰りなさい。両備ちゃん、両奈ちゃん、琴音ちゃん」

「ただいま、ねえさん」

「たっだいまー!」

 

両備が笑って、両奈は飛びついて両姫の胸に顔を埋めると彼女はくすぐったそうに微笑んで抱きしめる。

その光景を見ていた戒は一瞬だけ頬を染めて顔を横に向けた。

両姫と一緒に遊んだり夕飯を食べたりして楽しいお泊り会となった。

そして肝心の戒だが……。

 

「んぅ……おねえちゃん///」

 

家に帰って来てからも、眠るたびに両姫のことを思い出すようになり、そこから琴音などの同年代の異性にも過剰に意識し一時期赤面症になった。

この体験が後々、戒の好みになったのは言うまでもない。

そして…。

 

「カー君があんなことするなんて…は、はれんちだよ///」

「あいつ、何でりょうびたちには無関心なのよ…!」

「りょうなちゃんもカーくんに触れられたいなー」

 

三人は一部始終を見ており、尊敬する姉に悪戯していたことと自分たち以外に頬を染める幼馴染に嫉妬していたが琴音は牛乳を飲むようになり、両備は両姫に忍転身を教示してもらい…両奈は戒の前では少しだけ猫を被るようになった。

なお、まったくの余談だが……。

 

「どうしたんです、戒?」

「すぐ顔が赤くなっちゃうの、どうしたら良い?おかあさん」

「そうですねぇ……じゃあ、これで耐性を着けましょう」

「……『ドキドキクライシス』?」

 

戒が美少女ゲームにのめり込むきっかけを作ったのは別の話である。




 以上、美しい思い出でした。これが原因となって「胸の大きい年上の大らかなお姉さん」がカー君の好みとなりました。
 ちなみに両姫さんは気づいていましたが「男子だから」とスルーしてくれました。
 ではでは。ノシ


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ANOTHER COMBO4 ミレンジャー×解決

 番外編です。EVのスピンオフ漫画『閃乱カグラ てやんでえ!』のある話をモデルにして書きました。
 つまりはギャグパートです、ちなみにある程度改変をしています。
 それでは、どうぞ。


「突然俺たちを呼び出して何の用ですか、小百合様」

「今何時だと思っているのよ…」

「「……すぅー」」

 

ある日のことだった、小百合から早朝五時に呼び出された戒たちと忍学生たちは指示された場所に集まっていた。

戒と両備は目を擦りながら苛立ちを露わにし、紫と葛城に至っては立ったまま寝ている始末だったが、小百合はそれを物ともせずに飄々とした態度で集めた理由を語る。

 

「お前さんたちに集まってもらったのは他でもない。カグラ千年祭が未練を残して亡くなった忍たちのためじゃと言うのは説明したね」

 

一度区切ると、キセルを加えて煙を吐き出す…その際に華風流が咳き込んでいていたがそれを気にせず「そこで」と話を続ける。

 

「お前さんたちには、未練を持った忍たちを成仏させてもらうよっ!」

「何っ!?それはゾンビが出るということか!!」

「きゃう~ん、カー君怖いよ~っ!!」

「うぇっ!?///」

「そこっ、むやみに恐怖心を煽らない!」

「後、離れろバカ犬っ!!」

 

彼女の言った言葉に叢は目を輝かせるが両奈は戒に抱き着いて顔を赤くさせると琴音は叢に、両備は両奈にツッコミを入れる。

一しきり会話の応酬を終えたのを確認すると小百合は口を開く。

 

「それじゃ、自己紹介をしておくれ」

「はっ!」

 

彼女の言葉に応えるように現れたのは赤・青・黄・緑・桃色の忍装束を纏い、顔を隠した五人の男女であり、彼らはそれぞれの決めポーズを取る。

 

「ご紹介に預かりました!リーダー(生前の)…『レッドシノビ』!」

「副リーダー(生前の)…『ブルーシノビ』!」

「食欲全開(生前は)…『イエローシノビ』!」

「チームの参謀(生前は)…『グリーンシノビ』!」

「紅一点(生前だと)…『モモシノビ』!」

 

五人が一息でそう名乗り上げると赤い装束の忍、レッドシノビがポーズを変えると残りも揃って変える。

 

「我ら、五人揃って…」

「「「「「『亡霊戦隊 ミレンジャー』ッッ!!!」」」」」

 

五人全員で決めポーズを取った途端、なぜか五色の爆発が背後で起きた。

ポーズを解いて一度お辞儀をすると、レッドシノビが呆然としている飛鳥たちの元に一歩前に出る。

 

「……あれは、我々が亡くなる前日のことでした」

「えっ!?急に脈絡もなく始まるの、さっきのポーズと名乗りの意味はっ!?」

 

スーパー戦隊らしきテンションとは百八十度違う丁寧な口調で説明を始めた彼に対してツッコンだ琴音だったがレッドシノビは話を進めていく。

 

「我々…ブルーシノビとイエローシノビ、グリーンシノビ、そして私を含む四人はある計画を立てていました。そう……全員でアイドルのライブチケットを手に入れることに」

「ライブのチケットかいっ!」

「イエス、ミーたちはミッションの傍らアイドルグループ『ミルキーポップ』の追っかけをドゥしていたのでごわす」

「それ以前にお前は自分のキャラを固めて来いっ!口調ぶれっぶれじゃねぇかっ!!」

 

レッドシノビに続くように説明を交代したイエローシノビだが、ルー語と出身が不明過ぎる話し方に琴音が切れた口調で叫ぶ。

軽くショックを受けたイエローシノビと変わったのはブルーシノビ。

 

「しかし、チケットを買うアテが外れてしまい、危うく大ゲンカで死ぬところだったんだ」

「恐ろしい世界ですね」

「けど、何とか僕たちは和解したんだ。同じ仲間だし何よりおっぱ…じゃないアイドルを愛する者同士、争うべきではないと判断したんだ」

 

クールな口調で残念な内容を語るブルーシノビに雪泉はアイドルファンの執念深さに驚愕する中、グリーンシノビが説明を続ける。

 

「どうしても、明日のライブに行きたかった僕たちは…当日、人目を避けるために大凧を用いてライブ会場に向かったんだ」

『バカだーーーーーーーっっっ!!!!』

「何しょうもない目的で忍用具を使ってるのっ!本格的なバカかっ!!?」

 

グリーンシノビのライブ会場の出撃…大凧を使ってアイドルグループのライブに向かう方法に全員がシャウトし、琴音も続けて罵倒する。

 

「その時、突如突風が巻き起こり我々は揃って吹き飛ばされました」

 

レッドシノビの言葉に全員が顔色を変える。

その時に亡くなったのかと思い、一歩進んだブルーシノビが口を開いた。

 

「だが何とかバランスを整えることに成功したのさ」

「迫りくるブラストにボディを任せたのでごわす」

「あの時は本当に死ぬかと…」

「もったいぶらずに早よ死ねやっ!」

「どんだけ時間かけてるの!後ぶつ切りにして会話するのやめろ、微妙にイラッと来るんだよっ!!」

 

ブルーに続いてイエローシノビ、グリーンシノビと会話をするが中々亡くなった場面へと移らないことに業を煮やした両備が青筋を浮かべて怒鳴り琴音もウザったらしいメンバーに苛立ちを募らせる。

後ろで二人を宥めている両姫をしり目にレッドシノビが話を再開させる。

 

「誰も思いませんでした…まさか、開幕の打ち上げ花火で全員灰塵となってしまうとは…」

 

そう締め括ると、四人は顔を暗くさせた…飛鳥たちも何も言えなかったがアホらしさと気の毒さが混じった微妙な空気に何も言えずにいる。

雪泉が重くなった空気をどうにかしようとした時だった。

 

「え?アホやろ」

「良い年して恥ずかしくないんですか?」

 

空気を読まずに冷たいことを言い放った日影と戒の言葉にミレンジャーは吐血するも、夜桜がふと思い浮かんだことを尋ねる。

 

「あの…モモシノビさんが登場していないのですが」

「私は、彼らとは違う理由なんです」

 

言い辛そうにすると、モモシノビが語り始めた。

 

「実は、マニアで人気のあるショタアイドルグループに向かう途中…」

 

そこで少し間を置き、少ししてからゆっくりと話し出した。

最初の辺りにツッコミどころがあったがそれを堪えて先を聞く姿勢に入る。

 

「バナナの皮で足を滑らせて頭を打ちました」

「バカかっ!!」

 

古い漫画やアニメのようなありえない事象に琴音が耐え切れず叫んだが慌てて彼女は言い訳を述べる。

 

「嬉しくて周囲が見えなかったんです。だから、そんなバナナことが起こったんだと思います」

「上手くないのっ!何ちょっと面白いこと言ってごまかそうとしてんのっ!!」

 

琴音が一しきりツッコミを入れるがシノビレッドは必死な様子で戒たちに懇願する。

まだブレイクされた心が癒えていないのか若干半泣きである。

 

「アホな我々ですが、とにかくライブを見ないと死んでも死に切れません!」

「「「「「どうか、よろしくお願いしますっ!!」」」」」

 

五人揃って綺麗なお辞儀をしたミレンジャーに対して全員も「仕方ないか」みたいな空気になり、かくして『ミレンジャー成仏大作戦』がスタートした。

 

 

 

 

 

「んじゃ、まずはアタシからね」

 

一番手、四季が法衣を羽織ると小百合に頼んで出してもらった木魚を叩き始める。

そして全員が正座したのを確認するとある詠唱を始めた。

 

「觀自在菩薩行深般若波羅蜜多時…」

 

木魚を一定のリズムで叩きながら般若心経を唱える…確かにミレンジャーたち幽霊にとっては有効だが、五人のテンションはかなり低い。

それ以前に……。

 

「はぁっ、はぁぁぁんっ!き、気持ち良いぃん……!!」

(っ!両姫姉さん、色っぽい…!///)

((何デレデレしてんだっ!!))

 

お経で気持ちが高揚してしまった両姫が艶やかな表情で息を荒げているのを見た戒は頬を赤らめるが鼻の下を伸ばしているのに気付いた琴音と両備が彼の太ももをつねっていた。

般若心経を終えたがミレンジャーはげんなりした顔をすると両腕で✕を作る…まぁお経で成仏出来たら最初から彼女たちに頼まないであろう。

「どうするか」と考えている飛鳥と雪泉たちに、太ももと足にダメージが残ってる戒は倒れながらも自分の意見を告げる。

 

「アイドルのライブが未練になっているなら、ダンスや歌ならどうでしょうか?」

「それでしたら……」

 

その意見を聞いた雪泉は巻物を取り出して忍転身すると両手に持った扇子を広げる。

 

「日本舞踊に精通した私が」

「おおっ!」

「雪泉さんの日本舞踊……ちょっと待ってくださいスマホで映像を…ブベラッ!」

 

葛城は分かりやすく反応し、戒もそそくさとビデオ撮影しようとするが琴音に笑顔で蹴り飛ばされていた。

そこで目を輝かせたのはイエローシノビだ。

 

「ミー、日本舞踊はライクでごわす!アイラブジャパンでごわすっ!!」

「でも、私…日本舞踊はちょっと高尚過ぎて…」

「なら、歌をつけましょう」

 

ついでにモモシノビの未練も晴らそうと、戒は小百合に頼んでスピーカーとマイクを出してもらうと『いろは唄』をセットする…そして忍装束を着た雪泉と軽く打ち合わせをしてから前奏を流した。

曲に合わせて雪泉は華麗な舞を見せた後、戒が歌い始めた。

そして数分後……。

 

「サンキューでごわすぅー……!」

「ショタ顔のイケメンが私に潤んだ瞳で歌ってくれるなんて…幸せですぅー……」

 

無駄に上手だった戒の歌声と華麗に締めた雪泉の舞によってイエローシノビとモモシノビは暖かな光に包まれて昇天していった。

ちなみにメンバーの何人かは赤面していたが、気を取り直すように斑鳩と両備が選抜する。

 

「葛城さん、頼みましたよっ!」

「両奈っ!行きなさいっ!!」

「しゃっ!任せとけっ!」

「はいは~いっ!!」

 

快く了承すると葛城は派手なブレイクダンスを行い、両奈はフィギュアスケートの要領で滑ると華麗なスピンジャンプを決めた。

 

「…ふつくしい」

「カッコ良かった」

「素晴らしいですっ!」

 

異なる二つのダンスを見ることが出来たブルーシノビはそう呟くと光と共に成仏していった。

「一匹減った!」と喜ぶ両備だったが、残るは後二人…レッドシノビとグリーンシノビは先ほどのダンスに感激している様子だったが成仏する気配はない。

何かを考え込んでいた両姫だったが、何かを思いついたかのように両手をぽんと叩く。

 

「蓮華ちゃん。腹踊り、やってくれないかしら?」

「そっす!あれならいけるっす!」

「バ、バカ!あんなの、他人の前で出来るかっ!///」

 

彼女に続くように華毘が言うが蓮華は珍しく顔を赤くして反論する。

しかし、そこで目を光らせたのがあざと系末っ子少女…華風流は冷ややかな声で告げた。

 

「祭りなのに粋じゃない、らしくないよ蓮華お姉ちゃん」

「らしくないっす」

「私も…見たいです……」

「何か別のところから声が聞こえるんだけどっ!!?」

 

割って入ってきた紫にツッコミを入れるも戒やウェルシュが「ぶーぶー」とブーイングを飛ばすと残りのメンバーも連られて大ブーイングとなって蓮華を追い詰めていく。

そして……。

 

「あーもうっ!そこまで言うならやってやるよ、女は度胸でいっ!」

「流石蓮華お姉ちゃんっす!!」

 

即興で自分の腹部に人の顔を描くと、一呼吸する。

そしてやけくそ気味に腹踊りを始めた。

 

「ぽんぽこりん♪ぽんぽこりん♪お腹をぺろんとぽんぽこりん♪!!」

『ぶははははははははっっ!!!!』

 

あまりにも滑稽すぎる踊りに全員が大笑いを始めたが蓮華はその恥ずかしさを堪えて踊りを続ける。

何も起こることなく、踊りは終盤へと向かい最後に珍妙なポーズを取った。

飛鳥と斑鳩は堪えようとするが先ほどの腹踊りを思い出し笑いしてしまい腹を抱える。

おまけに二人のミレンジャーは成仏する気配はない。

流石の蓮華の心も傷ついたのか巫女装束を着替え直すと一言……。

 

「これで良かったのかな……?」

(あ~ん、両奈ちゃんもあんな辱め受けたかったなー…!!)

 

そんな彼女の状況に両奈は勝手に興奮していたが、二人も残っていることに全員は頭を抱える。

何が足りないのか、どんな踊りがあるのか……そんなことを考えていたがやがて琴音があることを思いついた。

 

「あの…」

「どうしました?琴音さん」

「ミレンジャーの人たちってアイドルのライブが見れなくて成仏出来ないんですよね……だったら歌って踊れば良いんじゃ……」

『あっ』

 

まさに目から鱗だった。

そうだ、アイドルのライブが未練なら自分たちで歌って踊れば良いではないか。

琴音の言葉に全員が納得すると戒がすぐさま準備の手筈を始める。

 

「小百合えもん!お願いします!!」

「某青ダヌキみたいに言うんじゃない、ほれ」

 

そう言って、用意したのは人数分のヘッドマイクと白のビキニ…しかし琴音の分はなく、当然彼女はそれに質問をする。

 

「あの、私の分は…」

「お前さんと戒はステージの演出をやってもらうぞ、頼めるか」

「「分かりました」」

 

小百合の言葉に敬礼した二人はすぐさま準備を手早く終える。

そして、衣装に着替えたメンバーも一通りのダンスリハーサルが完了すると持ち場に着く。

カメラマンの琴音がOKの合図を戒に送った。

 

「じゃあ、行きますよー!!よーい…アクションッ!」

 

彼の掛け声と共にスピーカーから『SUNSHINE FES』の伴奏が流れると若き忍たちはダンスを始めた。

笑顔を保ちながらダンスが出来るのは筋が良いからか、それとも体力があるからかは定かではなかったが激しい動きを一糸乱れぬチームワークで揃えており、特にボーカルを兼任することになった飛鳥と雪泉は可愛らしくも綺麗な歌声が響き渡った。

そして全員でポーズを決めたところで曲が終わった。

 

「夢を、ありがとうございます……」

「もう思い残すことはありませんー…」

 

素晴らしいダンスと歌をリアルタイムで見ることが出来た二人は涙を流して感動すると、今度こそ完全に昇天し『亡霊戦隊ミレンジャー』は安らかな眠りについた。

飛鳥たちも水を一口飲むと戒と琴音の元に駆け寄り労いの言葉を掛ける。

だが。

 

「カ、カー君んんんんんんんっっ!!?」

「きゅう……///」

 

先ほどのダンスを間近で見てしまった戒は顔を真っ赤にし、目をぐるぐる回して気を失っていたのだ。

刺激が強かったのだろう、琴音が慌てて呼びかけを行うが返事がない。

 

「きゅう…胸が上下に…うぅぅぅ///」

「~~~~~~~~っ!てめぇは何あんな脂肪の塊に翻弄されてんだあぁっ!?そんなにあれかっ?乳が良いのかっ!ホルスタインが良いのかあぁんっ!!?」

「落ち着いて琴音ちゃん!それ以上揺らされたら戒君危ないって!!」

 

思い切り戒の身体を掴んで揺らす琴音に流石にまずいと判断した飛鳥は慌てて羽交い絞めにするが背中からの感触に増々彼女の怒りに火を注ぐだけであった。

それから数分後、戒と、小百合の当て身をくらって気絶した琴音はホテルに運ばれて水分補給を取らされることになった。

ちなみに、ダンスの映像は小百合の編集でグラビア兼アイドルソングのPVみたいな感じに仕上がり、戒と琴音含む全員に配給された。

なお、完全な余談だが……。

 

「カー君」

「どした、琴音?」

「このキセル持ってる女性の人、誰?」

「本当だ…マジで誰だこの人、何処となく飛鳥さんと面影あるけど…」

 

謎の女性『ジャスミン』の存在がしばらく戒たちの間で七不思議になったことは言うまでもない。




 亡霊戦隊ミレンジャーってなんだよ(真顔)、本来は未練隊にする予定でしたがゴライダーに感化されてメンバーを五人に、色もカラフルにしました(活字だけど)。
 ちなみに最後に飛鳥たちが踊ったのはEVのOPで流れる『アレ』です、あの後小百合様が編集してあのような形になりました。こういう設定が出来るのも二次創作の良いところですね。
 本編の方もお楽しみに、ではでは。ノシ


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ANOTHER COMBO5 山小屋の狼(問題編)

 今回は(一日遅いけど)母の日記念、門矢美緒の事件簿!
 ふとしたことで山小屋に訪れた美緒が人の皮をかぶった狼の姿を暴く。それでは、どうぞ。


息が苦しい、胸が張り裂ける…。

もう一歩も歩けないし脚すら満足に動かせない。

それでも呼吸を整えるために深く息を吸い込むと彼女『門矢美緒』はリュックを背負い直して先行く人物に声を掛けた。

 

「ま、待ってください。小夜ちゃん……!」

「大丈夫ですか?お義姉さん」

 

前を歩いていた夫の妹である『門矢小夜』は息を切らしている自分に苦笑い気味に尋ねる。

何とか頷いて見せるも調子はすこぶる良くない。

「どうしてこうなった」と美緒は自問自答する。

確か……「山の絶景を一緒に見よう」と旅行好きである小夜から誘われて当然断ったのだがなし崩し的に参加することになってしまい、今こうして山道を歩いているのだ。

だが、インドア派である自分からしたら簡単なコースだろうが息を切らす。

リュックは重いし息子たちと夫にも会えないし脚が痛いし、何より息子たちと夫に会えないのが苦しい。

しかし、ここで折れるのは自分のプライドが許さない。

震える脚を叩きながらも小夜と共に脚を進めた時だった。

 

「…えっ?」

 

鼻先に当たる冷たい水滴に顔を上げると、水滴がどんどん落ちてくる…雨だ。

流石にまずいと判断した二人は歩を進めると、目的地の場所でもある山小屋に着く。

安堵した美緒と小夜は山小屋の中へと入って行った。

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、お義姉さん。こんなことになっちゃって……」

「気にしないでください。山の天気は変わりやすいと言いますし」

 

落ち込んだ様子で話す小夜に美緒は笑みを作って返す。

タオルで濡れた髪を拭きながら彼女にも同じようにする。

 

「二人とも、コーヒーはどうですか?…とは言ってもインスタントですが」

「いただきます。『森重』さん」

 

両手に二つのカップを持ったサラリーマン風の男性から感謝の言葉を述べるとコーヒーを受け取ってそれを飲む。

ミルクがないのは心苦しいが身体を温めるためならやむを得ない。

身体が温まるのを実感すると、美緒は山小屋にいる三人の人物を見る。

一人は自分たちと同じ格好をした登山家の若い女性『鷹田良子』…言動は今時の山ガールだがあまり物に頓着しないのだろう、誰かのお古と思わしきリュックなどからそれが分かる。

二人目は二十代後半で『尼野幸雄』と名乗った男性は森重から渡されたインスタントラーメンを啜り、仏頂面のまま外の景色を眺めている。

チェックのYシャツにジーンズの出で立ちから山を登りに来た人物とは思えないが旅をしているらしく無精ひげが妙に似合う男性だ。

そして三人目は先ほど自分にコーヒーを渡してくれたグルメの調査員をしている『森重一郎』であり車を下の方に停めて幻の老舗旅館を目指していたのだが森に迷ってしまったらしい。

見るからに怪しい三人に対して美緒は高速思考を開始するがすぐに首を横に振る…悪い癖だ、変わった人物を見るとすぐに分析しようとする。

残ったコーヒーを飲み干そうとカップに手を掛けた時、自分のスマホが鳴り響いた。

こんな場所でも電波が通る環境に感心しながらも一度室内から出て電話を掛ける。

 

「もしもし?」

「姉さんっ!?今何処にいるのっ!!」

 

珍しい自分の妹…美海の声に驚きながらも自身のいる場所を正確に応える。

 

「……最悪ね」

「どういうことですか」

「良い、落ち着いて聞いて。今から数時間ほど前。姉さんのいる山小屋から離れた別荘で殺人事件が起こったわ」

「っ!」

 

その言葉に美緒の目の色が変わった。

続きを促していくと詳しい情報を聞くことが出来た。

その別荘には数人の男女がいたのだが、皆殺しに遭うという事件となっており凶器については具体的なことは分かっていないが鋭利な刃物による犯行なのは分かっている。

そして……犯人は逃亡中とのことであり付近に潜伏中とのこと。

一度室内に戻って適当な言い訳をつけて小夜に合図を送り同行させる…美緒が質問を始めた。

 

「確かですね?この近くに五人も殺害した『狼』が潜んでいるのは」

「間違いないわ。犯人は逃亡の際、被害者の一人から荷物を奪っているしその中にあるスマホを追跡していたら姉さんたちがいるところで止まった…小夜と山登りするって聞いていたから…嫌な予感が的中したわ」

 

悔しそうに声をにじませる彼女に対して美緒は今までの情報から一つの仮説を話す。

自分で見たわけではないが山小屋にいた三人から考えられることがある。

 

「そうなると、犯人は単独犯で間違いなさそうですね」

「えっ、五人もいる被害者を一人で?」

「めったなことがない限り、複数犯は自分たちの服装を統一するものですから」

 

もちろん例外はあるが、わざわざ山にある別荘を狙い、五人の男女を殺害したことから計画性が見て取れる。

それに、複数犯だったなら人数分の荷物を奪うはずだ。

そこまで話すと美緒は美海に「携帯の電源を入れたままして」と指示を出して通話を終了した。

スマホをポケットにしまうと不安気な表情を浮かべる小夜の頭を撫でる。

 

「大丈夫ですよ、小夜ちゃん。犯人は私が捕まえますから」

「…はい」

 

安心させるように言った美緒に小夜も少しだけ元気を取り戻した。

室内に戻ろうと踵を返した時だった。

 

「っ!誰ですかっ!?」

 

小夜を守るように振り返るとそこには人影があり、それはゆっくりと二人に近づいていく。

やがて、距離を詰めると右手で敬礼をした。

 

「怪しい者ではありません。自分は『鈴木太郎』…この辺りに殺人犯が逃げ込んだという通報が県警からありまして」

「…お巡りさん?」

 

小夜が呟いた通り、その人物は両手に白い手袋と紺色の警官服に身を包み頭には警官帽を被っている。

背丈は小屋にいた男性と二人と同じだろうか…妙に間の抜けたような顔をしているがそれでも警察官には違いない。

少しだけ警戒を解くと美緒は自分の身分を明かす。

最初は訝しげだったが美海の名前と階級を話すとすぐさま緊張した面持ちで敬礼をする…顔が顔なのであまり緊張感がなかったが。

鈴木曰く、近くの派出所の警官なのだが殺人事件は初めて担当するらしい…若干頼りなさそうだったが彼の良い経験になるだろう。

そこからは三人への事情聴取が始まったが、大した情報は得られない。

だが、美緒には勝算があった。

怪しまれないように鈴木と小夜を呼ぶと自分の考えた案を話す。

 

「…スマートフォンを鳴らす、ですか?」

「ええ、犯人は自分の奪った荷物にあるスマホで探知されていることに気づいていないでしょう」

 

幸いにも美海から被害者の携帯番号は分かっている、それを鳴らせば誰の荷物に入っているかで犯人が特定出来るのだ。

しかし、スマホが鳴った瞬間すぐに犯人を抑えないと危険な作戦でもある。

相手は五人もの人間を躊躇いなく殺害した人間の皮を被った狼…『そいつ』の殺意に火が付いたら間違いなくこの場にいる全員を皆殺しにするだろう。

一か八かの賭けに近かったが手っ取り早い手段でもある。

 

「いやー、しかし名案ですな!犯人が盗んだスマートフォンを鳴らせば一発で分かります、流石は名探偵殿だっ!!」

「ちょっとっ!犯人に聞かれたらどうするつもりですかっ!!」

 

感心した様子で大声を出した鈴木に美緒は厳しい声で窘める。

「あっ」と自分で口を塞ぐ彼を横目に室内を覗きこむが変わった様子はない。

二人に合図を送り、美緒はスマホを鳴らした。

 

【~~~~♪】

「っ!!」

 

最近のアイドルグループの歌が流れる中、美緒は音の発信源を探り『ある人物』の前で止める。

その人物……鷹田良子は何食わぬ顔で読書をしている。

鈴木が彼女を取り押さえようとするのを制止すると鷹田の元に近寄り言葉を掛ける。

 

「鷹田さん、携帯鳴ってますよ?」

「えっ?あーしのガラケー?」

「荷物から聞こえたので…違いましたか?」

「あれ、ホントだ。でも着信音が…」

 

美緒の言葉に自分の荷物に聞き慣れない音が聞こえたのを確認した彼女は疑問符を浮かべながらも荷物の中身を確認した途端。

 

「きゃああああああああああああああっっ!!?」

 

恐怖の悲鳴と共に血まみれのスマートフォンを落とした。

全員が騒然となる中、美緒は苦虫を噛み潰したような表情となっている。

携帯電話を持っている人間は聞き慣れた着信音に反応するものだ…しかし彼女はそれを無視していたことから誰かが隙を見て入れた可能性が高い。

いや、もしかしたらそれに気づいてハッタリを利かせたのかもしれない…どちらにせよこれで振出しに戻った。

 

(……人殺しの分際で中々手強い…!!)

 

表情を極力表に出さないようにしつつも、美緒はこの状況をどう打開するか考える。

 

「うぉっ!?何じゃこりゃっ!!」

 

男性の声でふと我に返る…見れば尼野が血だらけのスマートフォンを触っており驚きの声をあげている。

「すいません」と一声謝った美緒は慌てて彼からスマートフォンを渡してもらう。

そこには凄惨な殺人現場が動画として映っており恐らく被害者が証拠を残そうとしたのだろう。

美緒はそれを静止モードにして写真のように映像を見て行く。

刃だけが写ったサバイバルナイフに黄色いレインコートを着ている犯人の姿…ほんの少しだが黒いシャツの裾が見える。

そこから先は犯人が遠ざかって行く映像だけだったが……途端、周囲は暗黒に包まれた。

困惑してしまった美緒は急に地面に倒れる。

誰かに突き飛ばされたのだ。

冷静に状況を把握する中、パニック状態となったメンバーが叫ぶ。

 

「何だっ!?」

「一体何がっ!」

「停電っ!?」

「み、皆さん!落ち着い…うぉわっ!!?」

 

全員が違う言葉を叫ぶ中、鈍い音と共に鈴木の短い悲鳴と共に何かが割れる音が聞こえた。

そして、電気が復旧するとすぐにスマホを探し慌てて拾うが液晶画面が壊れている。

 

(落とした時に壊れた!?…いやっ!)

 

今時のスマートフォンが落とした程度で壊れるわけがない、恐らく犯人が証拠隠滅に踏んで割ったのだろう。

舌打ちしたくなる気持ちを抑えて、簡易ソファに座っていた小夜の安否を確認する。

 

「大丈夫ですかっ!?小夜ちゃん」

「はいっ、でも…お巡りさんが…」

 

尻もちをついている鈴木は腰を擦りながらも「大丈夫です」と笑みを見せると周囲を見渡してある物を発見する。

 

「み、見てください!探偵殿っ!ま、窓がっ!?」

「…あの時、割れたのはこれですか」

 

美緒と鈴木の目の前には大きな窓ガラスが割れており人ひとり分なら余裕で潜れるだろう。

すると何かを閃いた鈴木は彼女に話しかける。

 

「探偵殿っ!もしかして犯人は逃げたのではありませんか!?」

「……というと?」

「つまり!犯人は我々の見えない場所で隠れており、停電になったの『これはチャンスだ』と思った。だから、慌てて室内に入ってあの窓を破って逃走したのであります!!」

 

自分たちの確認出来ない『犯人X』が潜んでおり停電になったから逃げた…確かに彼の推理には筋が通っているが解せない部分もある。

なぜ犯人が山小屋に隠れたか、そしてなぜ今の今まで逃げなかったのか?そもそもそれなら迷い込んだ人間として合流した方がはるかに合理的だ。

それに、このアホ警官は忘れているがスマホを入れるタイミングとも矛盾している。

そうなるとあの窓はフェイクだ……。

だが、おかげで推理に必要なヒントは揃った。

第一に犯人の居場所…これは単純にこの山小屋にいるメンバーの内の誰かだ…血まみれのスマホを入れたタイミングとスマホにあった犯人の姿から、道中で着替えた可能性が高い。

第二に凶器…これもシンプルにスマホにあったサバイバルナイフだ、フェイクの可能性も考えたがあの映像を考えるとあれが凶器で間違いない。

しかし、そうなるとナイフは何処にいったかだ…あれだけ大きめの奴が隠せるとは思えないが……。

 

「皆さん、これから荷物検査を行います」

 

全員が怪訝な様子を見せるが気にせず言葉を続ける。

 

「鷹田さんのように、妙な物が入っていないか確かめるだけですので…お願いします」

「私からも…お、お願いします」

 

頭を下げた美緒に並ぶように小夜も頭を深々と下げる。

流石に女性二人にお辞儀されたことでメンバーたちは了承してくれたのですぐに荷物検査へと入った。

 

「あーしのはこれぐらい」

 

鷹田の荷物はタオルと山の地図、そしてマイカメラ。

 

「ほらよ」

 

尼野は鷹田とほぼ同じだったが焼肉のタレとペットボトルが数本、シャツの胸ポケットには財布…本人曰く「願掛け」とのこと。

そして最後の一人、森重の荷物を確認する。

 

「ど、どうぞ」

 

書類の束とネットの情報を印刷した物と地図と筆箱、そして魔法瓶とインスタントラーメンがあるが中には何も入っていない……全員分をくまなくチェックをしたが凶器は見当たらない。

 

「犯人はもう、凶器を…」

 

増々不安になる小夜だが反対に美緒は凶器が見当たらない理由を考えた。

血まみれのサバイバルナイフならすぐに見つかる、それなのに山小屋を探しても荷物検査をしてもない。

そこにタイミング良く美海からの電話が入る。

 

「…もしもし?」

「警官隊が到着したわ…それと、凶器らしき血まみれのナイフも山道で発見された。写真で送っておいたから」

「ありがとうございます……やはり、そうでしたか」

「ええ、だからそこで大人しく…て、ちょっと待って。今何て…」

「私が時間稼ぎをします。急いでくださいね」

 

そこまで言い切ると、美緒は通話を終了させてスマホで写真を確認する。

血まみれのスマートフォンに映っていたのと同じ種類だと分かると、改めてスマホをポケットに入れる。

そして、深く息を吸い込むと周囲を見渡した。

全てのピースが揃い、そして『事件の全貌』というパズルも完成した。

 

(……さぁて、久しぶりに始めますか)

 

門矢美緒(探偵)狼狩り(推理ショー)が……始まる。




 ある推理漫画の事件をアレンジしましたが犯人は誰でしょう?一応ヒントは全てそろっています。ヒントは…『なぜ凶器を捨てたのか』
 回答編を、お楽しみに。ではでは。ノシ


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ANOTHER COMBO5 山小屋の狼(解答編)

 解答編です、犯人は誰か?嘘吐き狼の正体とは……!?お楽しみください。
 それでは、どうぞ。


自分ほどツイている人間はいない……。

『狼』は内心ほくそ笑んでいた。

まさかあのスマートフォンに犯行の様子を録画されていたのは予想外だったが停電が起こったのは本当に幸運だった。

アクシデントに次ぐアクシデントだったがそれに解決する出来事も起こった…本当に自分はツイている。

飛行機のチケットは既に押さえてある、この場をやり過ごすことが出来れば後は海外に高飛びだ。

あのチビ女には肝を少しだけ冷やしたがどうせ無駄なことだ、あのナイフはもう道に捨ててあるし仮に見つかったとしてもあそこから証拠が出るわけがない。

最も、自分の正体が分かるころには日本には既にいない…『狼』は自分の勝利を確信していた。

「それにしても」と『狼』は思う…無駄な殺生をしなくて助かった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……もはや『狼』にとって犯罪とは手段でしかなかった。

別荘に多くの金があることを知った『狼』は威嚇用のサバイバルナイフと顔と姿を隠すための黄色いレインコートを買って別荘に足を踏み入れた。

言い訳ではないが元々殺すつもりではなかった、ただ騒がれたからナイフを振り下ろした。

それを見られたから他の人間も始末した。

一人始末した辺りで『狼』に抵抗はなくなっていた…一人も二人も同じだったからだ。

金も手に入ったし、後はこの山小屋から逃げるだけ。

 

「ねー、そろそろ帰らない?犯人は逃げたんでしょー?」

「自分も、その誠に言い辛いのですが交代の時間でして」

「俺も帰りたいな」

「私も早く旅館に訪れたいのですが…」

 

全員が全員、思い思いに話す中……一人の人間が口を開いた。

 

「犯人が分かりました」

 

 

 

 

 

美緒がそう言い放った途端、全員に緊張が走る。

この緊張感と猜疑心が入り混じった空気、この中にいる犯人の僅かな恐怖心……何もかもが懐かしい。

自然と自分が微笑んでいることに気づく。

何時からこうするようになったのか分からない、ただこうしていると早鐘を打つ鼓動と緊張感が落ち着いてくる。

美緒が口を開いた。

 

「この中にいます、五人もの人間を殺害し…そして『六人目』の犠牲者を出した恐ろしい『狼』がね」

「ち、ちょっと待ってよ。犯人はこの窓を破って逃走したんじゃないのっ!?」

「あれはフェイクです。そもそも狭い山小屋の中に隠れ潜んでいたのだとしたら気づくはずですよ」

 

もし隠れていたとしたら、ここに隠れている何かしらの痕跡がある。

しかしそれがなかったということはやはりこの場には存在しないことになる。

鷹田の言葉にそう返すと、美緒は話を続ける。

 

「スマートフォンの映像を観た人はいますか?」

 

その言葉に鈴木と尼野がおずおずと手を挙げる。

それに満足した美緒は自分の考えを話し始める。

 

「あの映像を思い出してもらえれば分かりますがあのレインコートと裾から見える黒いシャツ、そしてサバイバルナイフを持っている人間はいませんでした」

「それって、犯人が捨てたからだろ?」

 

「何を今さら」と憮然とした態度で腕を組む尼野に対して美緒は楽しそうに笑う。

 

「なぜですか?」

「そりゃっ、服に血が付いたから…」

「そう、服の場合はレインコートを捨てれば済むことですよね?ではなぜ黒いシャツとサバイバルナイフを捨てたのでしょう?私は犯人の行動を考えてみました」

 

そもそもの話、血が付着したレインコートは証拠になるから道に捨てるのは分かる。

だからこそなぜ黒いシャツまで捨てたのかが分からない。

黒い色ならば血の色は目を凝らさなければ良く見えないし、見つかった場合レインコートよりも決定的な証拠になる。

証拠を残さないため?……それはありえない。

警察は血まみれのスマートフォンのことは知らないし、犯人の服装を知っているのは山小屋でスマホの映像を観た彼らだけだ。

そうなると可能性は一つ。

 

「誰にも見られていない犯人が着ていた服を脱ぎ捨てたのは、警察の目を欺くことだったからです。それと同時に、凶器を持っている意味もなくなった」

「どういうことですか?お義姉さん」

 

美緒の言葉に周囲が騒然としている中、小夜が全員を代表するように尋ねる。

ゆっくりと間を置くと、ポケットから自分のスマートフォンを取り出しながら彼女の問いに答える。

 

「実は、私の妹は刑事でしてね。その子から凶器のサバイバルナイフのことを聞いたんですよ…『凶器らしき血まみれのナイフも山道で発見された』ってね」

 

その言葉に全員が驚きの表情を見せる中、美緒だけはマイペースに推理を続ける。

 

「大事なことだから言い換えます。『山の中に捨てられていた』んですよ、犯人だってバカじゃありません。警察に追われることも想定していたのにですよ?」

 

美緒の頭の中で完成したパズルには血だらけのレインコートを着た黒いシルエットの『狼』が息を切らしながら山道を走っている画が見える。

目を血走らせ、殺意を全身に纏った『狼』の目に映ったのは無垢な得物…何時ものように愛車の自転車を乗っていた紺色の制服を纏った『犬』を……。

 

「そう、犯人はナイフよりも頼りになる武器を見つけたのですよ……『ピストル』って最大最悪の凶器をね」

 

そう言って細めた目で鋭い視線を『狼』……警官服に身を包んだ男性『鈴木太郎』へと向けた。

 

「えっ?あっ、はっ?ち、ちょっと待っ…」

「犯人はあなたです、自称『鈴木太郎 職業:警察官』さん?」

 

鈴木が動揺している間にも美緒は言葉を続けて行く。

煽るように言われた彼は驚きながらも全員の視線を受け止めながら必死に言葉を続ける。

 

「ま、待ってくださいよ探偵殿っ!自分は犯人じゃ…ましてや偽物だなんて言い掛かりでありますよ、マジで違いますって!」

「その間抜けな演技に私もすっかり騙されました。勘が鈍ったと言うべきですか…まぁ良いです。あの時もあなたはわざと大きな声で喋った」

 

その言葉に鼻を鳴らした美緒は犯人を追い詰める。

全員に聞こえるようにしておかなければスマホを鳴らすことを知っている自分が疑われることになる、取り調べの振りをして鷹田のリュックに入れるチャンスのあった自分がだ。

そこまで話すと鈴木は顔を真っ青になりながらも言葉を紡ぐ。

 

「い、いやっ、それだけじゃ自分は犯人と断定するのは早いですよ!大体、全部あんたの推測じゃないですかっ!挙句の果てに偽警官だなんて…あんまりですよ!!」

「そうでしょうか?よくよく考えればあなたの言動は最初から怪しかった。だって、あなたは私が紹介を始めた時、何の躊躇いもなく信じましたよね?」

「そ、それが何かっ」

「普通の警察官だったら探偵なんて怪しい職業の、初対面の人物を信用しません。まして私が美海との関係を話したこともあなたは信じた。普通だったら県警の人間に確認をするものなのにあなたはそれをしなかった、無線の使い方が分からなかったか下手に使うと県警に怪しまれると思ったか…どっちですか?」

「だから違うっつってんだろうがっ!!くそアマッ!!!」

 

美海の言葉に苛立ちを露わにしてきた鈴木が怒鳴る。

今までの彼からは考えられないほどの暴言に全員が驚くが当の美緒は涼しげな表情で笑みを浮かべている。

困惑した全員の表情に気づいた鈴木は慌てて言葉を整える。

 

「いやえとっ、部長からも良く言われるのですが自分は人の言葉を鵜呑みにして良く貧乏くじを引いてしまうんですよ」

「良く警察官になれましたね?尊敬します」

 

素面で言われた鈴木の表情が変わっていく…先ほどまでの間の抜けた表情は怒りの形相へと変わっておりその表情はさながら血に飢えた狼。

そこまで言い終わると美緒は相手の様子を見る。

鈴木は堪えるように、真っ赤な顔を向けており飛び掛かろうとしているのを我慢しているようにも見える。

 

「俺、いや自分は…本物の警察官です。警察官の鈴木太郎であります」

「そうですか……では、警察手帳を見せていただけませんか?この場にいる全員に」

「……はっ?」

 

美緒の止めの言葉に鈴木は口を開いたまま唖然としていた。

笑みを消した彼女が言葉を続ける。

 

「いえっ、長々と推理した私が言うのもあれですけど…警察手帳を見せれば冤罪かどうか分かりますよ。どうします?」

「……」

 

鈴木は顔を俯かせておりその表情は見えることはなかったが彼の身体から殺意が感じ取れる。

やがて帽子を乱雑に放り投げるとホルスターに納まったピストルを突きつけた。

 

「あったまきた…うぜぇ、お前ムカつくんだよ。別荘にいた連中と…あの冴えない爺警官みたいに消してやる…!!」

 

血走った目で銃口を向ける鈴木に対して美緒は素知らぬ顔をしたままだ…それが余計に彼の苛立ちを募らせる。

 

「…私を撃つつもりですか?」

「何っ?今さら命乞い?うけるんだけどさー」

「撃ったら罪が重くなりますよ?」

「はぁっ???何人殺ろうが一緒なんだよ、バーカ♪」

 

狂気に満ちた笑みを見せる鈴木に対して、美緒はため息を吐いた。

どう考えても命の危機に反している、自分が始末した人間たちとは違う表情と態度を見せる彼女に対して怒りで身体を震わせる。

「でしたら」と彼女は口を開いた。

 

「警官なんかに成り済まさず、さっさと外に出るなり全滅させるなりすれば良かったんです。だから上げ足を取られるんですよ、被害者にも…一番ムカつく私にもね」

「はぁっ?何言って…」

 

そこまで喋った途端、乾いた音と共に鈴木の右手に衝撃が走った。

ピストルを落とした彼に美緒が駆け寄ろうとした時だ…尼野と森重が彼を取り押さえ、鷹田は小夜を庇うように立つ。

未だに抵抗しようとする鈴木の顔面に、美緒のハイキックが直撃したことで彼は意識を失った。

ふと、美緒が音の方向を向く。

 

「……時間ぴったりですね、美海」

「デートの待ち合わせには時間丁度で行くタイプだから」

 

拳銃を持った美海はそう言って安堵した笑みを見せるのであった。

 

 

 

 

 

「ただいまー」

「お邪魔しまーす」

 

数日後、事件関係のごたごたを終えた美緒はようやく自宅に帰ることが出来た。

小夜も久しぶりの甥の顔が見たいと思っていたらしく「どうせなら」と彼女を招待したのだ。

疲れた様子で安楽椅子に座る、戒たちは出かけているのだろうと判断した彼女は少し眠ろうと目を瞑った時だった。

 

「あっ、二人ともー♪」

 

小夜の声が聞こえる、礼司と戒が帰ってきたのだろう…「お帰り」と目を開けた時だった。

 

「えっ?」

 

視界全体に広がったのは紅と赤ピンクの花束…カーネーションだ。

目を向けるとそこには幼い戒と礼司がおり両手には花束を抱えていた。

そこで今日の日付を思い出した…五月十四日、『母の日』だ。

 

「おかあさん、いつもありがとう!」

「お礼のカーネーションだよ。母さん」

 

そう言って、二人は大切な母親に美緒は花束を手渡す。

手渡された花束に彼女の目には涙が溜まっており、嬉しそうな顔をしている息子二人に「ありがとう」と感謝を口にした。

そして、リビングの奥から見えてきたのは愛しい彼の姿……。

 

「お帰りなさい、士さん…!」

 

目に涙を浮かべながら、美緒は言葉を紡いだ。

一年に一回の母への感謝を言葉に出来る最高の日……あなたも普段は言えないことを、母親に言ってみませんか?




 門矢美緒の事件簿、これにて完結です。出来れば母の日に投稿したかったと内心悔しがっております。
 ちなみに、母の日は切り花を送りました。何だかんだで感謝の言葉を言えるのはこの日しか言えませんし…。
 ではでは。ノシ


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ANOTHER COMBO6 監察×あんパン

 ふとネットサーフィンしていたら閃乱カグラNewWaveの16日からのイベントで伊吹のボイスカードが登場していたそうです。彼女の声優(鈴木絵理氏)が決まった記念に今回は自称「普通」の伊吹を主役に銀○パロをやります。
 それでは、どうぞ。


それは、ドラマや漫画ならよくあるような光景だった。

 

「あ、ごめんなさい!」

「いえいえ、私もよそ見をしておりました」

 

二人の女性が歩いていた時に肩がぶつかってしまい、少女の持っていたビニール袋が落ちてしまったのだ。

少女は謝罪をしながらも女性の方はにこやかに返す。

女性の方は色鮮やかな着物と時折見せるしぐさから、所謂『女将』を思わせるような雰囲気を纏っている。

対して少女の方は、服装こそ地味なものの、後ろの髪をツインテールにした黒いカチューシャを着けており、どこか犬のような雰囲気を持った少女。

 

「でも、買い物袋が落ちて……って、あら?あんパンと牛乳ばっかり?」

「あ!いえこれは、その……///」

 

女性がその買い物袋を見て、思わず頭を傾げる。

少女の持っていた買い物袋の中身は、全てあんパンと牛乳だったからである。

そんな女性の反応に、少女は袋から出てしまった大量のあんパンと牛乳を抱え、恥ずかしそうに顔を赤らめる。

 

「ふふ、あんパン……お好きなのですね」

 

そんな少女を見て女性は微笑みながらそう言うとその場から去っていった。

少女も彼女の姿が見えなくなったのを確認すると、すぐさまその場から立ち去り、アパートへと向かって行った。

 

 

 

 

 

「別に好きじゃありません」

 

予め用意されたアパートの部屋で、そう言って苦々しい顔で食べるのは、『秘立蛇女子学園補欠メンバー』が一人、『伊吹』です。

『閃乱カグラNewWave』をやっている人は知っているかもしれませんが別に伊吹はあんパンなんて好きじゃありません。

でも、伊吹が好きじゃなくても『張り込みの神様』は好きだからしょうがないんです。

『あんパンと牛乳』…これは伊吹にとっての張り込みの作法であり、同時に八百万の神様に捧げる供物でもあるのです。

それは、古今東西の刑事ドラマが示している通りなんです。

でも、この方法で張り込みの成功率がグンと上がったのも事実なんですよ?

このおかげで伊吹は密偵や監察といった忍らしい役割を教官に与えられてるのですから…そして後々門矢教官に…わんわん♪。

……と、カツ丼やパフェといった外の誘惑を自分の妄想と雑な思考で逃避しつつも今日も伊吹はあんパンを食らいます。

 

「張り込み対象とは避けるのが常法だろう?お前はそれでも隠密担当か、伊吹?」

 

すると、後ろから声が聞こえてきました。

後ろを見なくても、この自信に満ちた声色から誰だかわかります。

私のクラスのリーダー『総司』ちゃんです。

対象から目を逸らさずにちらりと横目で見てみると、彼女以外にもアホ毛の茶髪少女『千歳』ちゃんと長い銀髪を結んだ緑色の瞳を持つ小柄な少女の『リア』ちゃん。

緑髪の小動物系少女『芭蕉』ちゃんと赤毛の中二病患者『芦屋』ちゃんもいました。

…よく見ると全員片手にう○い棒やらス○ッカーズといった携帯食を持っています。

……腹立ちますね、この人たち。

 

「…張り込みを張り込むなんて良い趣味してますね、なんなら席を譲りましょうか?」

「荒れてますね、伊吹さん」

「願掛けだかなんだか知らぬが、食べるものを食べなければ忍務にもならんぞ」

 

伊吹が不機嫌そうに応えると、千歳ちゃんと芦屋ちゃんはサクサクと小気味良い音を立てながら伊吹の側へと寄り助言をしてくれました。

サクサクいっているのがすごいイラつきしたけど…。

でも確かに二人の言うとおりもうかれこれ十個以上はあんパンを口にしていますし、あの独特な甘さに若干の飽きを感じてもいます。

 

「それで、どんな方でした…?」

「普通に良い人そうでしたよ、とても凶悪な犯罪者の姉とは思えないくらいに……」

 

少なくとも伊吹が見張っていたこの五日間は、芭蕉ちゃんに答えた通り大きな動きを見せていません。

やはり片方がダメだともう片方はしっかりするんでしょうか?

そんなしっかり者の姉を利用しているということに若干罪悪感を抱いてしまいます。

 

「そうか、まぁ弟の方は自分の組織の金を持ち逃げしたんだ。追っているのは私たちだけじゃない、奴にとって逃げ場は姉の所しかないだろう、そこを私たちが捕える」

「あんまり良いことじゃあないですけどね」

 

総司ちゃんの言うことは最もですが、それでもやっぱり嫌な感じです…。

そんなモヤモヤを感じ取ったのか、リアちゃんは何時の間にか作っていた折り紙の兜を頭に被せ、総司ちゃんたちは伊吹に背を見せて外へと向かって行きました。

 

「ふん、汚れ仕事はお前の仕事じゃない、私たちの役目だ」

「伊吹さんは、あの人を守ってあげてください…」

「他の連中もあの女を狙ってくるかもしれんからのぅ」

「任せましたよ、伊吹さん」

 

そう言うと今度こそみんなは外に出て行くと伊吹はあんパンを口に放り込みました。

こうして、伊吹のあんパン生活が幕を開けました。

 

 

 

 

 

―――――伊吹の監察レポート あんパン生活一週間目

好い加減好物のなめこおろしの味が恋しくなってきたけど、相変わらず彼女に動きはありません。

『倉田リリナ』…とある酒屋の女主人。

噂では四年前に父と死別してから女手一つで父の店を継いだ孝行娘らしく、人柄も良く、ここ数年一人で店を切り盛りしてきたらしい。

一方弟の『倉田権兵衛』は札付きの悪たれ野郎、姉が店を継いでからも度々金をせびりにきて来てたとか。

伊吹の任務は、その権兵衛とそのテロリストたちの動きを報告すると共に、彼女を守りきることです。

なんとしても守りきってみせます!

決意を固め、伊吹は今日もあんパンを食らいます。

 

 

―――――あんパン生活八日目

昨日スーパーに行ったらバイトらしき人物が「『アンパンマン』来たww マジ来たwwwwww」とひそひそやっていましたが相変わらず彼女に動きはありません。

店の客も常連さんばかり、非常に穏やかな毎日だ。

「こんな日がずっと続いて欲しい」と悪忍には相応しくないことを願いながら、今日も伊吹はあんパンを食らいます。

 

 

―――――あんパン生活十二日目

気がつけばここ最近誰とも話してません。

最後に話した「あ、袋一緒で良いです」が三日ぶりに発した言葉でした…が、相変わらず彼女に動きはありません。

一瞬彼女がこちらを見ていた気がしたが、気のせいでしょうね。

私は気のゆるんだ心を引き締め、今日も伊吹はあんぱんを食らいます。

…けど、半分残しました。

 

 

―――――あんパン生活十五日目

コンビニに行ったら、「『袋一緒で良いです』来たwww 絶対またあんパンと牛乳買うぜwwww 絶対一緒だぜwwwwww」とバイトらしき人物がひそひそやっていましたが相変わらず彼女に動きはありません。

「このまま何も起きなかったらどうなるんだろう?」と、ふと口に出した邪念を振り払うように、今日も伊吹はあんパンを食らいます。

そして。

 

「オロロロロロロロロ!!」

 

全部吐きました。

 

 

―――――あんパン生活二十日目

あんまり誰とも喋ってないから、声出るかな?…と思ったので「ロードローラーだッ!」と大きな声で叫んだら、お隣さんから「オラオラオラオラァ!」と言う叫び声が帰ってきて久しぶりに会話が成立して嬉しかったけど、相変わらず彼女に動きはありません。

毎日毎日飽きもせずにニコニコニコニコ、世の中にはもっと刺激のある楽しい生活があるのに…例えば、ろくでもない弟が店に逃げ込んでくるとか?

そんなことを考えながら、今日も伊吹はあんパンを…壁に叩きつけます。

 

 

―――――あんパン生活二十二日目

もう好い加減にしてください…何時になったら弟は来るんですか?いつになったら伊吹はこのあんパンの呪縛から解き放たれるんですか…?

そんなことを思いながら壁に頭をぶつけていると別のお隣さんから「神の安眠を妨げるなぁっ!!」と言葉が返ってきましたが無視して頭をぶつけます。

弟ぉぉぉ早く来てくださいぃぃぃ…!!伊吹をこのエンドレスあんパンから救い出してぇぇぇぇ…!!!!

そんな願いを込めて、伊吹はあんパンを……天空に向かってスパーキング!

 

 

―――――あんパン生活二十三日目

スーパーのバイトに向かってスパーキングッ!!

 

 

―――――あんパン生活二十四日目

コンビニのバイトに向かってスパーキングッッ!!!

 

 

―――――あんパン生活二十五日目

総司ちゃんたちに向かって、スパーキーーーーーンッッッッッ!!!!!!

 

 

―――――あんパン生活二十八日目

目が覚めると、部屋中が血まみれで身体に包帯が巻かれていました。

おまけにここ最近の記憶がありません。

しかし、こんな伊吹の変化とは裏腹に、やはり彼女に動きはありません。

いつものように彼女は道にあんパンを巻き、店先にあんパンをあげる。

そして、あんパンがあんパン時にあんパンをするんです。

あんパンがあんパンにあんパンだあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパン…。

 

 

―――――あんパン生活三十日目

あんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパン……以下解読不能。

 

 

―――――あんパン生活三十一日目。

気がつくと伊吹は見知らぬ土地でぼんやりと立ち止まっていました。

どうやらうなされていたようです。

 

「もうこんな生活嫌だああああああああああああああっ!!もう忍務なんて知らない!!弟も姉のことも知りませんっ!!!伊吹はあんパンなんて食べたくないんですううううううううううううううううううううううううううううううううううううううっっっ!!!!」

 

伊吹は身支度をするため、全力疾走でアパートに戻ると、そこには美味しそうな肉じゃがが置いてありました。

手紙が添えられており、差出人は伊吹がこの一週間監視していた彼女からでした。

 

『お向いさんだったんですね。あんパンばかりじゃ身体壊しますよ。肉じゃが作りすぎちゃったんで、よかったら食べてください。いつも見守ってくれてありがとう。 倉田リリナより』

 

その手紙を読んで、伊吹はとても情けなくなりました。

こんなにもひどいことをしていたのに…。

感謝をされるにも値しないのに……。

伊吹は涙のせいでしょっぱくなった肉じゃがを口にしました……。

 

 

 

 

 

ゆっくりと目を開けると、そこは病院だった。

覚醒していない頭で彼女が辺りを見渡すと、そこには総司と千歳がベッドの隣の椅子に複雑な表情で座っていた。

目が覚め混乱している伊吹に千歳は話を切り出した……。

 

「私たちはハメられたようです。倉田リリナと倉田権兵衛はグルだったらしく、金を持ってどこかへと消えました……」

 

そう、餌として監視していたリリナは、弟の権兵衛と共犯だったのだ。

組織の金を強奪したのも姉弟で一緒に行ったこと。

そして伊吹の監視に気づいたリリナが、誤魔化すために一ヶ月もの間芝居を打ったこと。

弱り切った伊吹に、毒を盛ったこと……。

そう、彼女は負けたのである。

倉田リリナに、そして……自分自身に……。

 

「まぁその…周りをうろついていた連中を捕えることが出来ただけでも大手柄だ。二人ほど逃がしても釣りが来る…良く、やったな……」

「よく頑張りましたね、伊吹さん」

 

総司と千歳は労いの言葉を送った。

特に総司に至っては、あの傲慢な彼女にしてはぶっきらぼうながらも、とても優しい言葉であった。

そんなに対して、伊吹は自嘲気味に笑いながらこう言った。

 

「似合わないですよ、二人共。それに……どうせ負けるなら、自分のルールで……負けたかったな」

 

 

 

 

 

そして、数日後。

 

「しかし姉貴、これでしばらく遊んで暮らせるな」

「バカ言わないの。お金は稼ぐために使うものですよ」

 

逃げ切った倉田姉弟は、持ってきた金を今後どうやって使うかを呑気に話し合っていた。

そんな二人の目の前に、地味な服装をした犬系の少女がコンビニ袋を大事そうに抱えてながら歩いてくる。

そして彼女の肩がリリナの肩とぶつかった。

 

「あ、ごめんなさい急いでいたもので~」

「おいおいどこ見てんだよ?大丈夫か、姉貴?」

「いたた……って、袋の中が……あんパン……だらけ?」

 

ぶつかり謝る少女、姉にぶつかったことで怒りを隠さない権兵衛。

そんな二人の最中、落ちた袋の中を見て背筋を凍らすリリナを余所に、少女は権兵衛に対して呑気にこんなことを喋っている。

 

「祭りがあったもので~」

「祭り?んなもんどこでやってんだよ?」

 

そう少女に絡む権兵衛。

この時、リリナには全てが分かってしまったんでしょうね。

その大量のあんぱんを抱える少女こそ……。

この私『秘立蛇女子学園補欠メンバー』が一人『伊吹』だということに!!!

そんな彼女に、伊吹は満面の笑みを浮かべました。

 

「やってますよー、春のパン祭りっ!!」

 

その言葉と共に、二人の顔面にあんパンを叩きつけました。

そのあまりの威力に、二人とも思わず膝をつきます。

道ばたであんこまみれになってしまったリリナは、皮肉も込めて伊吹にこう言葉を贈りました。

 

「あなた、本当に……あんパン好きなんですね……」

「好きじゃありませんよ~だ」

 

その言葉に伊吹は少し黙ってしまいましたが、少しはにかみ、あんパンをむさぼり、そう言い放ってやりました。

今日も伊吹は、あんパンを食らいます。




 ごめんよ、伊吹…嫌いじゃないんだ。ザキと被って見えたのとこの話が好きだったから主役にしたんだ……。
 アホな言い訳はここまでにして伊吹が主役にお話でした。Newwaveキャラは別の形で活躍させたいなーと思っています。


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ANOTHER COMBO7 外伝×稲妻

 今回は完全な番外編です、本編のちょっとした息抜きに……。
 NOVEL大戦とは別ベクトルで進行しているアーサーの番外編となります。所謂夏の劇場版のようなものですね。
 では、どうぞ。


某国某所……そこに人知れず存在する研究所の内部に足を踏み入れる男性がいた。

建物全てが研究所として使用されている内部は鉄の臭気で充満しており目的があって侵入したがあまりにも酷い臭いに顔をしかめる。

 

「…奴らも派手にやったものだ」

 

纏わりつく鉄臭さを誤魔化すように一人ごちると、男性…青年と呼んでも差し支えのない人物がある場所を目指して歩く。

冷酷さを感じさせるその端正な顔立ちを持った青年は黒いコートを埃で汚しながらも進む。

やがて目が慣れて行くとあちこちには赤黒いシミが飛び散っており鉄の臭いをそれが原因だろう。

ここで何があったのかを青年は知っている、だがここで行われていた『実験』は彼の怒りを増幅させるだけでありこのような惨状も奴らの自業自得であることも理解していた。

そして、しばらく自分の目だけを頼りに薄暗い通路を進んで行くととあるプレートの前で足を止めた。

「第五実験室」とプレートに書かれた扉のノブに手を掛け、人間とは思えないほどの力で破壊すると壊した扉に目もくれず室内へと侵入する。

周囲に誰もいないことを確認すると、一台のパソコンに近づいて黒いタブレットとコードを繋ぐ。

そして、パソコンに内蔵されているデータの収集を始める。

 

『……マスター、「 AAA(エー)機関」の実験データの回収を完了しました。これが最後のデータです』

「そうか、これで奴らも終わりだな」

 

懐から聞こえる少女の声に頷いた青年はタブレットをしまい、用のなくなったこの研究所から立ち去ろうとした。

その時……

 

「……」

 

扉の前には白いスーツを着た男性が彼の行く手を阻むように立ち塞がっていた。

しかし、スーツは所々赤黒い血で汚しており顔の半分は焼け爛れていて見るに堪えない…痛々しい容姿をしているのにも関わらず目の前の男性は無機質な瞳で青年を見ていた。

様子がおかしいこと、今まで人の気配がなかったことから青年はスーツの男性に対してある考えが思い浮かぶ。

しかし、それよりも先に男性が口を開いた。

 

「侵入者を、発見。こ、れより…排除を開始、します」

 

何処か無機質なような機械的な口調で喋る男性…だが声帯がやられてしまっているのかその声はとても聞き苦しく、無理に声を出しているようにも感じる。

 

「今頃再起動したってところか?だがもうここのラボは破壊されているぞ、機関の操り人形…いや、『財団X』」

「ターゲットの、言動、から組、織の中枢にいる、ことを確、認。警、戒レベル、を3、から、最大、レベル、に移行しま、す」

 

青年の言い放った言葉に僅かな反応を示した男性は左腕のスーツを破り、そこに装着された赤と白でカラーリングされた鳥の顔を模した腕輪が露わになる。

そして、右腕を腕輪の方に持っていく。

 

「A、■■、Z、■N」

 

潰れた声帯から声を吐き出しながら嘴のスイッチを押し込んだ途端、紫色の衝撃波と熱が放出されるとその姿を変えた。

ダークブラウンの体色と猛禽類を思わせるような特徴的な頭部から動物に詳しい人が見ればハゲタカのように見える怪人の姿……。

緑色の瞳をぎらつかせながらハゲタカの怪人は飛び掛かるように襲い掛かるが青年はそれを最小限の動きで避けると脇腹を蹴り飛ばす。

地面を転がりながらも、何事もなく起き上がる怪人に青年はコートの懐からある物を取り出した。

それは黒でカラーリングされたアーサードライバーであり、『彼』が所持しているのと比べて無機質な印象を受ける。

『プレイアブルドライバー』を腰に当て、自動的に伸びたベルトが巻き付くと今度は金色の飛龍がイラストされたエラーカセットを構えてスイッチを押す。

 

【WRATH!!】

「……変身」

 

今までとは違う少女の声でコールされたエラーカセット『ラースカセット』をスロットに装填すると、青年は左側のサイドグリップを握ってトリガーを引いた。

 

【RIDE UP! WRATH! 憤怒の雷!THUNDER SWORD!!】

 

電子音声が鳴り響くと、青いスーツが彼を覆うとプテラノドン(飛龍)と狼が合わさった月光を思わせる金色の霊装が旋回するとそのまま展開して装着された。

プテラノドンを思わせる翼のような白いマントと金色の頭部、狼の頭部を模した両肩の装飾となる。

 

「『仮面ライダームネノリ』……お前の巣食う悪、ここで断ち斬る」

 

宣言したムネノリにハゲタカの怪人は目の前のターゲットを殴り飛ばそうと拳を振るう、通常の人間ならば受け止めることも不可能な威力だがそれを片手で受け止め、捻り上げると怪人は回転して地面に倒れる。

起き上がろうとする怪人に先手を打つべくムネノリは胴体を思い切り踏みつけた。

それによりもろくなっていた地面は破壊され、戦場は主な研究を行っていた第一実験室へと変わる。

しかし、ハゲタカの怪人は痛覚を遮断している機能が仕組まれており並のダメージでは怯みもしない。

ハゲタカの怪人はすぐに起き上がりボクシングの構えを取る…恐らくベースとなった人間の記憶をなぞっているのだろう。

軽快なフットワークで詰め寄り、フェイントと共にジャブを織り交ぜたストレートを繰り出すがそれをバックステップで躱し、バックルに配置されている銀色のボタンを押す。

 

【ATACK ARTS! RAIKEN SHOURAI!!】

 

電子音声と共に彼の右手には金色と青の稲妻が起き、一振りの太刀へと変形する。

青の鍔と柄、銀色の刀身を持つ専用の日本刀『雷鳴刀剣 エレキノタチ』を両手で構えると、鋭いアッパーカットを放ってきたハゲタカの怪人をすれ違いざまに斬り捨てる。

 

『……!』

「遅い」

 

反撃に出ようとする怪人よりも速く繰り出されるムネノリの剣術に追い詰められていき、防御や回避を顧みない自身の最大の戦術でさえも満足に行えない。

攻撃を行おうとする瞬間を見逃さず、一瞬の隙を縫うように斬撃を浴びせる。

相手の一手を常に読んでいるからこそ出来る達人の域でありその斬撃は速いだけでなく鋭く重い…片手で武器を振るいながらも彼は水色のボタンを押す。

 

【MAGICAL ARTS! BIRBIRI GASSHA-N!!】

「はぁっ!!」

『っ!!?』

 

何億ボルトの電流がエレキノタチの刀身に纏わりつくと、ムネノリはハゲタカの怪人の胴体を斜め上に斬り裂いた。

雷と斬撃による強烈な一撃を受けた怪人は大きく吹き飛ばされるがそれでもなお立ち上がろうとする。

しかし、その足取りは覚束ない…蓄積されたダメージがついに己の身体を蝕み始めたのだ。

 

『マスター…』

「あぁ、これで決める」

 

エラーカセットの人格に力強く頷いたムネノリはスロットからラースカセットを引き抜くと、エレキノタチの鍔の部分になるスロットに装填する。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO STRIKE! WRATH!!】

「はぁぁぁ……!!」

 

刀身に青と金色の稲妻が収束される。

そして、限界までチャージされたエレキノタチを振り下ろした。

 

「はああああああああああああっっっ!!!」

『っっっ!!!!』

 

雷を帯びたその斬撃は大きな衝撃波となり、必殺技『激怒雷牙』に直撃したハゲタカの怪人は大きく吹き飛ぶと実験室の大量の電子機器にぶつかり、断末魔をあげることもなくスパークした機器と共に爆発する。

そして、ムネノリは飛んできた自身の愛機へ乗り込むと連鎖するように大爆発をする研究所を後にするのであった。

 

 

 

 

 

愛機である戦闘機『スカイプテラー』から降りると未だけたたましい音を立てて爆発を起こしている研究所を遠くで眺める。

 

『マスター……これからどうします?』

「一先ずはこれを政府の連中に見せる、上手くいけば脅しの材料にもなるだろう」

 

相棒であるエラーカセット『ラース』の声にそう応えながら変身を解除した青年は研究所に背を見せて歩き始める。

 

――――「また、見たいな…あの子たちと星を……」――――

「あぁ…約束するよ、絢花(あやか)。もう一度、家族四人で星を見よう」

 

愛する人との約束を胸に、青年の姿へとなってしまった彼『神楽坂祐花(ひろか)』は戦い続ける。

例え身体に異常を起こしてでも、彼の覚悟は…意思は決して歪まないだろう。

溢れ出る世界への憤怒を抑え、約束のために戦士は戦う。

「大罪」の名を持つエラーたちと……。

 

KAMEN RIDER MUNENORI……GAME CLEAR。




 如何でしたか?所謂夏の劇場版ライダーの一人である『仮面ライダームネノリ』です。彼の正体は「ある作品」を知っていれば分かるかもしれません(多分)
 今回聞いたことある単語があるかもしれませんが本編に絡むことは絶対にありませんのでご安心ください。
 ではでは。ノシ

仮面ライダームネノリ CV斉藤壮馬
「神楽坂祐花」がプレイアブルドライバーと特殊なエラーカセット『ラースカセット』で変身するライダー。モチーフは「侍とプテラノドン、そして狼」
決め台詞は「お前の巣食う悪、ここで断ち斬る」
変身後は共通してややたれ目気味の緑色の複眼。青いスーツを素体としてプテラノドンと狼を模した金色の装甲を纏う。
合気道と古武術、プレイアブルドライバーで召喚した日本刀「エレキノタチ」の剣術と雷撃を纏わせて攻撃する。必殺技は青と金の雷を纏わせた斬撃「激怒雷牙」
専用マシンはプテラノドンを模した戦闘機「スカイプテラー」
名前の由来は活人剣の思想を提唱した『柳生宗矩』


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ANOTHER COMBO8 外伝×ハッキング

 ムネノリ編第二弾です。今回は強化フォームが登場します、ゴーストの映画でもフォームチェンジがありましたし大丈夫ですよね。
 それでは、どうぞ。


祐花はスマートフォンの画面に映る写真を見つめていた。

そこに映るのは幼い我が子たちと愛する妻の笑顔…そして気恥ずかしそうにはにかむ自分を眺めながら、ある種のホームシックが胸を打つがそれを理性でしっかりと押し留めてスマートフォンをしまう。

 

(…絢花、倫花、乱花)

 

家族の名前を胸中でそっと呟いた彼は、やがて顔を引き締めると移動を開始した。

 

 

 

 

 

ラースが集めた情報では今いる場所…Y国ではAAA機関、すなわち財団Xが中心となって活動を開始しているらしい。

表向きは世界平和・治安維持の為の実行機関だが実態は世界政府に取り入った財団が発足した謂わば世界政府公認の研究部門だ…考えただけでもはらわたが煮えくり返る。

やや治安の悪いここでは追剥ぎや強盗などは日常茶飯事らしく真っ当な人間も泥に染まらなければ生きていけない…そんな連中からしてもこの場を占領している奴らは恐怖の対象なのだろう。

「それにしても」と彼は思う。

例の『ウィルス』は一時期に繁殖したものの、近年になってからはウィルスそのものが消滅する事象が起きている。

詳しいことは分からないが『誰か』がそれを行っていることだけは前回調べた情報で分かった。

ならば自分の役目は奴らの施設を潰す……それだけだ、そのためだけにこの姿を受け入れたのだ。

そして彼は存在感を放つ建物の前で足を止める。

 

「何だ貴様は?」

 

そこに現れたのは数人の女性、しかし彼女たちは並の格闘家でさえも圧倒させるほどの殺気を放つ。

しかし、祐花はそれを物ともせずに歩き始める…一歩一歩、少しずつだが確実にこちらへと近づく彼に女性たちは身構えすらせずただ笑うだけだ。

それは当然だ、彼女たちはウィルスの感染者であり機関のソルジャー…男性ましてや年端のいかない青年に負けるなど想像もつかない。

その驕りこそが彼女たちの失敗だった。

彼の首をへし折ろうと女性の一人が腕を伸ばすが祐花はそれを掴み捻り上げる。

地面に倒された女性は突然自分の視界が目まぐるしく変わったことに動揺するが、彼は頭部を踏みつけ意識を奪う。

 

「なっ!?き、貴様っ!!」

 

リーダーらしき女性は笑みを消すと残りのメンバーも襲い掛かる、しかし祐花は彼女たちの攻撃は難なく捌き、逆にカウンターを叩き込んで彼女たちの意識を奪う。

やがて最後の一人になったリーダーの女性を睨み、指をくいくいと煽るように挑発をする。

 

「っ!!」

 

その態度に女性は怒りで顔を朱に染める…自分はソルジャー、機関の護衛を任されたエリートだ。

それが、こんな少年に良いように挑発されている…こんなことが許されるわけがない。

人間では出せないスピードで女性は祐花に襲い掛かる。

動きを一つすらしない勝利を確信した女性は歪な笑いを浮かべたが、それでも攻撃は届かなかった。

 

「あっ、え…?」

「遅い」

 

何時の間にか召喚したエレキノタチの峰部分が彼女の鳩尾に食い込んでいた。

何が起こったのか分からない女性は呆然と、僅かにある意識で彼の武器を見るがそのまま頭部を殴り飛ばされた彼女はそこでようやく意識を失った。

 

「…獲物を相手に舌なめずりをするのは三流のすることだ」

 

そう言うと、祐花は扉を斬り捨てて内部へと侵入した。

 

 

 

 

 

 

【侵入者確認、侵入者確認、ソルジャー及び所属者たちは直ちに迎撃せよ!】

 

けたたましいアラート音とアナウンスを気にせず祐花は足を進めるがやがて白服を男性と女性たちが立ちはだかる。

 

【M■G■A!】

【■C■AG■!】

 

渋い男性の電子音声が鳴り響いた化石のようなUSBメモリを頭部、左腕に挿し込むと構成員は流れる溶岩と燃え上がる炎のような身体、溶岩を凍らせたような黒い身体と白い体色の異形へと姿を変える。

残りの女性たちは額に現れた何かの投入口に銀色のメダルを投入すると一瞬だけ包帯と銀色のメダルに包まれてバイソンとシャムネコをモチーフに人間の頭部が埋め込まれた異形へとその身を変えており身体の一部が刃物やらハンマーになっている。

それ以外にも元の服装はそのままに骸骨を模した仮面を装着した異形も複数確認出来る。

 

『…確認完了。マスター、彼らの中に人間はいません』

「なら、容赦なくやらせてもらう」

 

祐花はプレイアブルドライバーを装備すると、ラースカセットをコートのポケットから取り出し起動する。

 

【WRATH!!】

「……変身」

【RIDE UP! WRATH! 憤怒の雷!THUNDER SWORD!!】

 

ラースカセットをスロットに装填すると、青年は左側のサイドグリップを握ってトリガーを引いて電子音声を鳴り響かせる。

青いスーツの上にプテラノドンを模した金色の霊装を纏い、変身完了したムネノリは襲い掛かってきたシャムネコの怪物を蹴り飛ばす。

合気道にも似た武術で相手を圧倒し、カウンターを主とした戦闘スタイルで相手を圧倒する。

 

『図に乗るなっ!!』

 

シャムネコの怪物が刀剣を生やした腕を振り下ろすが彼は両腕の籠手で防御し、空いた手で水色のボタンを押す。

 

【MAGICAL ARTS! BIRBIRI GASSHA-N!!】

 

身体中に金色の雷を張り巡らせたことでシャムネコの怪物に何億ボルトの電流が通電するとそれを纏った足で迎撃を行う。

 

『ミギャアアアアアアアアッッ!!!』

 

シャムネコの怪物が吹き飛び今度はバイソンの怪物がハンマーを振り下ろすが近くにいたマスクの怪物を盾にして防ぎ、殴り飛ばす。

マグマの怪物と氷の怪物に至っては攻撃すら出来ないまま一方的に蹂躙されてしまい、怪人たちが一か所に纏められた。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! WRATH!!】

「はあああああああああああああああっっ!!!」

 

ラースカセットを必殺技用のスロットに装填し、翼へと変化した白いマントを軽くはばたかせ、必殺の跳び蹴り『雷神脚』を放った。

その一撃は周囲にいた怪物たちも巻き込み、一瞬で全ての怪物たちを殲滅させた。

 

 

 

 

 

【ATACK ARTS! RAIKEN SHOURAI!!】

 

召喚したエレキノタチで扉を斬り裂き、最上階へと乱入する。

道中抵抗する怪人たちはいたがムネノリにとっては雑魚に等しく、武器を使うまでもなくここまで辿り着いたのだ。

そして、広い部屋の中央にある座席には彼に背を向けるように座っている女性がいる。

ムネノリは武器を肩に担いだままゆっくりと進み、一定の距離で止まる。

 

「良く来たわね、侵入者さん」

 

鈴の鳴るような声でそう言いながら、その女性は座席を回転させて彼の方向を向く。

サファイアを思わせる長く綺麗な髪をなびかせ、味気なくも一目で高級品と分かる胸元を大きく開いたドレス。

そして、モデルのような長身と豊満な肉体を持った美女が艶やかに微笑む。

 

「この研究所を潰しに来た」

「直球ね、そんなことして何の意味があるの?」

「答えると思うか?」

 

構えを崩さないまま、彼女を複眼で睨むが彼女はそれに対して悠然と微笑む。

そして、長い脚を見せつけるように組む。

 

「そうね、確かにウィルスは消滅する運命かも知れない。でも、必要なサンプルは既に財団が回収済み。あなたや他の連中のおかげで機関は解体されるかもしれないけど意味はない…それなら」

 

座席からゆっくりと立ち上がり、ムネノリに近づく。

そして白魚のような指で彼の装甲をなぞるように触れ、艶のある視線を向ける。

その声と動作は並の男ならいとも簡単に陥落させられたであろう…しかし。

 

「お前らの存在は、必要ない…お前の巣食う悪、ここで断ち斬る…!!」

「…そう。残念……ねっ!!」

 

視線を鋭くした美女はバク転してムネノリの顎にハイヒールを履いた足で蹴り飛ばそうとするがそれをバックステップで回避する。

美女は豊満な胸の谷間から白いドームから赤いボタンが突き出た、持ち手部分が黒いスイッチを手に取る。

 

【L■ST ■NE…!!】

「ふふっ♪」

 

瞬間、持ち手が棘状の突起で覆われドームは血走った眼球のように赤くなり、ボタンの位置がドームの中央からずれた形状へと変化したスイッチを躊躇いなく押した。

美女の身体が黒い煙で全身に覆われ、六分儀座の星座が煌めくとそこには青いメカニカルな怪人が現れると排出されるように繭状の白い糸に覆われた美女が倒れる。

背中に六分儀を背負い、右腕にバスターランチャーを装備しておりカブトムシのようにも見える。

しかし、変化はそれだけでは終わらなかった…包まれた美女の身体が粒子状に分解され、その粒子は怪人の身体へと取り込まれていく。

 

『さぁ。身体が火照るような、熱い戦いを始めましょ』

「ちっ!!」

 

そう言った瞬間、六分儀座の怪人はバスターランチャーを発射する。

ムネノリは舌打ちと共にそれを回避するが怪人は他の武装を展開して迎撃を開始する。

エレキノタチに雷を纏わせて高圧エネルギーを両断し、死角からの攻撃を行うがバスターランチャーでそれを防ぐ。

ノーモーションかつ防御のそぶりを見せずに急に防いだ六分儀座の怪人にムネノリは驚く物の、すぐにその場から距離を取る。

 

『酷いわね、レディから離れるなんて』

 

くすくすと笑いながら六分儀座の怪人は内部にあるエネルギーが零れる。

その頭部は十二個の目が忙しなく動いており恐らくあの目と彼女本人の戦闘センスが相まって先ほどのように斬撃を防いだのだろう。

 

「なら…!」

【MAGICAL ARTS! BIRBIRI GASSHA-N!!】

 

エレキノタチを地面に突き立て、荒れ狂う電流が周囲を砕きながら六分儀座の怪人を襲うがバスターランチャーを地面に発射して相殺すると巨体からは想像出来ないほどのスピードで殴り飛ばした。

 

「グゥッ!?」

 

壁に叩きつけられたムネノリは衝撃によって視界がブラックアウトするがすぐに正気を取り戻し、横転して彼女の砲撃を躱す。

 

『そろそろ、フィナーレよ』

 

余裕のある態度でバスターランチャーを構えた六分儀座の怪人に対して、ムネノリは仮面の下で軽く笑い、黒と紫でカラーリングされたカセットを取り出して起動する。

 

【HACK!!】

「…大変身」

【RIDE UP! HACK! 相手を侵食!1・2 HACKING!!】

 

プレイアブルドライバーにスロットを装填してサイドグリップを引いて電子音声を鳴り響かせると、二つの顔を持ったドラゴン型の霊装が代わりに装備される。

『仮面ライダームネノリ ハッキングモード』……多くの戦いを経験していく内にラースカセットが生み出した異なるエラーカセットで変身する強化形態。

 

『姿を変えても、無駄よ♪』

 

嘲るように笑いながらバスターランチャーの砲口にエネルギーを溜めるが慌てずに彼は銀色のボタンを押す。

 

【ATACK ARTS! DOUBLE HACK!!】

「…ハック」

 

エレキノタチに薄い紫色の電流が蓄積されると刀身を地面に勢いよく突き立てた。

その瞬間にバスターランチャーが発射されるが砲口からは紙テープと紙吹雪が勢いよく舞い散る。

 

『なっ…!?』

 

その状況に六分儀座の怪人は笑みを失い、身体に武装された武器で一斉放射を開始するが水色のボタンを押す。

 

【MAGICAL ARTS! KATAKATA HACKING!!】

「……サードハック」

 

手元に魔力で生成したキーボード状のモニターを生成し、それに指を走らせる。

すると、先ほどの電流と同じ色のバリアが球状に包まれたエネルギー弾はそれに通過した途端、砂となってムネノリの周囲に散らばる。

 

『そんな、私の攻撃が…でもっ!』

 

六分儀座の怪人は指を鳴らし、まだ残っていた部下たちを集めて進撃を開始するが乱入者がその部下たちを追い払った。

 

『ぎゃああああああああああっっ!!!』

 

窓を破って侵入してきたスカイプテラーが主を守るかのようにプロペラを回転させながら高速飛行すると、装備された機銃でエネルギー弾を乱射し多種多様の怪人たちを瞬く間に一掃する。

自身のアジトが、城が破壊されていく光景に六分儀座の怪人は現実を受け入れられずに唖然としてしまうがムネノリはそれを見逃すほど甘くなかった。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO STRIKE! HACK!!】

「…ファイナルハック」

 

エレキノタチを下段に構えたムネノリは強く踏み込んだ途端、その姿がデータ状となって消える。

しかし、それはある意味間違ってはいない。

自分の足場ごと相手の間合いに侵入したムネノリは彼女の胴体に刃を通し、そのまま思い切り振り抜いた。

 

『あっ、私が…こんな、ところで…!!』

「お前の悪意は、ハッキング済みだ」

『ああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!』

 

火花を大量に散らしながら、六分儀座の怪人は苦しげな悲鳴と共に爆散した。

爆発を背後にエレキノタチを振るうと、背後から飛んできたスイッチを手に取る…本来ならばこのスイッチを押すことで人間の精神は解放されるが改造を施されていたのだろう。

ある程度まで達したところで排出された肉体を粒子に分解し、『完全に人間へと捨てるシステム』だったのだろう。

怪人へとなってしまった名前も知らない美女に向けて軽く黙とうを捧げると、ムネノリはスイッチを押し消滅させた。

 

 

 

 

 

全ての資料を回収し、施設を完全に破壊した祐花はスカイプテラーに乗り下を眺めていた。

ウィルス感染者が減っている…それを出来る力を持った人物がいる、それだけで少しだけ救われる感じがしたのだ。

「だが」と彼は表情を引き締める…自分の敵は財団Xだけじゃない、『大罪』たちも未だ暗躍を続けている。

それまでは絶対に止まれない、止まるわけにはいかないのだ。

人知れず、彼は決意を固めると大空へと消えて行った。




 仮面ライダームネノリの新フォームです。モチーフはハッキングで共通能力は機能や怪人の能力を誤作動させたり書き換えるなどが出来る形態です。プレイアブルドライバーを使用している仮面ライダーは「○○モード」となります。
 さて、今回ムネノリの口から妻だけでなく娘たちの名前も出ました。知っている方は彼が何者なのか分かります……多分。
 ではでは。ノシ


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ANOTHER COMBO9 葬式×亡霊

 今回は銀魂パロとなります。ちなみに今回はオリキャラが登場します。
 時系列はESTIVAL編より前です。それでは、どうぞ。


商店街のある場所に位置する定食屋は、葬式会場の入口となっていた。

この定食屋は他の店とは違い、金のない人たちにも食事を出してくれること人情派として知られている。

多くの人が集結していた場所を見つけた琴音は親父の生前の人徳に改めて驚いていた。

 

「すごいね、こんなに人が集まるなんて…」

「当たり前だろ。客の好みに合わせて作る定食屋なんてないからな、親父さんの人徳なんだよ」

 

琴音の言葉に戒がそう返すと親父の奥さん、つまり定食屋おばちゃんが戒たちに気付き、近づいてくる。

 

「あらあら、戒君も来てくれたのね…」

「恩人の葬式に顔出さない恥知らずなんていませんよ、おばちゃん」

「よしてよ、恩人なんて大げさねぇ。あの人は明るいのが好きだったから、今日は涙なんかより笑顔で迎えてあげてね」

 

そう言っておばちゃんがそこから離れると、ややあって両備・両奈・忌夢が葬式場に入ってくる。

戒と両備は無言でお互いに近づくと軽く会釈する。

 

「惜しい人を亡くしたな、両備」

「ええ、この街の宝が…一つ減ったわね……」

 

二人が、会話している横で琴音が両奈に話しかける。

 

「両備ちゃんも…?」

「うん、あの人には両奈ちゃんたちもお世話になってたから、知らせを聞いてからしばらく部屋から出てこなかったの」

 

実はここの定食屋の親父には両備たちもお世話になっており、当時中学生でもあった彼女たちの姉を「お手伝い」という名目で雇ってくれたことがあるのだ。

 

「まぁ、ボクたちもあいつらの意思を汲んで親父さんを迎えてあげよう」

「そうだね~」

 

忌夢と真希奈はそう言って悲しんでいる戒と両備を見つめた。

 

 

 

 

 

やがて葬式会場に集まると、そこから間もなくして葬式が始まり、坊さんがお経を読み始める。

だが。

 

「なんまいだ~ゼンマイだ~玄米だ~インベーダ~」

 

そのお経がどうもおかしかったが全員はそれをスルーしていた。

その間もヘンテコなお経は続き、ふと戒が棺のほうを見ると突然半透明の親父が棺の中から起き上がってきた。

そしてジロリ、と遺族たちを睨みつける。

それを見た戒は、震えながら琴音の肩をバシバシと叩く。

 

「ちょっ、何カー君、痛いって…!」

「な、なぁ琴音…あ、ああああ、あれ……」

「えっ?何?」

 

戒は震えながらも半透明の親父に指を指すも琴音は首を傾げるばかりだ。

恐らく彼女には見えていないのだろう。

 

「いやあれ!!おいあれぇっ!!!」

「戒君、何騒いでるの~?静かにしなさい~」

 

呂律が回っていないが、戒はそれでも異常を伝えようとするが真希奈からも注意をされてしまう。

 

「いやいやいや、あれだって!!あれよ、あれぇっ!!」

「おい両備、静かにしろ。何騒いでいるんだまったく…」

 

戒が隣を見ると、両備も自分と同じようなことをして忌夢から注意を受けていた。

冷や汗を流している彼女は、顔をこちらに向ける。

 

「ひょっとしてお前…アレ…見えてる?」

 

戒がそう聞くと、両備はこちらを向き、「あんたも?」といわんばかりに棺のほうを指差すと戒は小さくうなずいた。

 

「な、なななな何よ、何なのよアレ、ひ、ひょっとしてりりり、両備たちだけに見えるとかそういうアレなの?」

「いいいいやそういうアレじゃあねーと思うよ両備、大丈夫だろ」

 

両備が呂律の回らない口調で戒に問いかけるも、「そんなわけない」と両備の言わんとしていることを否定する。

 

「だだだ大丈夫じゃないわよ、そういうアレじゃなくてああいうアレでしょ、だってアレおおお親父さんじゃない」

「そんなわけねーだろ!!親父さんは死んだんだよ!!親父さんの葬式だよこれ!親父さんはあんな半透明じゃなかっただろ、もっと物事ははっきりいう人だったろ!!アレだよ、別人だよ!!」

「そっか、そうよね、親父さんははっきりした人だった。半透明じゃなかったわね」

 

二人は目の前で起きている現象にしばらく言い争っていたが最終的に「親父さんははっきりした人だったからあの半透明な人は別人である」と言う戒の言葉でとりあえず二人は落ち着いた。

だが当然と言うべきか必然というべきか、両備は不可解なことに気づく。

 

「つーかさ、半透明の時点でおかしくない?親父さんかどうか以前に半透明って何よ?おかしいじゃない」

「じゃあ親父さんでいいだろ。ここぞという時は優柔不断だっただろ、半透明だっただろ?」

「そう言えばそうだったわ、あの時ははっきりしてなかった。半透明だったわね」

 

最終的に、「親父である」という結論に二人はようやく落ち着くことが出来た。

しかし。

 

「……ていうか親父さんなら、猶更おかしくない?何で死んだ親父さんが半透明でこんなとこにいるのよ、おかしいでしょ」

「そりゃあ…あれだろ、お化けだからだろ?」

「そっか、お化けか」

「「……」」

 

自分たちで出した最終結論に沈黙してしまう二人。

そして。

 

「「…っ!!!!」」

 

あれがお化けだとわかった途端、戒と両備は一目散に入り口から逃げようとするが、長時間正座していたのと恐怖で足が震えたため派手にすっ転んでしまう。

 

「ちょっとカー君、両備ちゃん!!何してるの!!静かにして!!!」

「トトトトイレに、ちょっとトイレにいいいいっ!!」

「ちょっとバ戒っ!!あんた何足引っ張ってんのよ、手を離せええええええええええええええええええええええええっっ!!!」

 

琴音の注意を受けながらも戒は両備の足を掴みながら「トイレ」と言う。

両備は自分の足を掴んでいる戒に文句をぶつける。

そこで二人はハッとして棺のほうを見ると、半透明の親父がじっと二人を睨み付けていた。

 

(やっべええええ!!!親父さんこっち見てる、すごいこっちガン見してるぞ!!!)

(目を合わせちゃ駄目!!気づいてないフリ、気付いてないフリ!!!)

 

しかし、そんな戒と両備の考えとは裏腹に親父はゆっくりと、しかし確実に、戒たちの方へ歩いてきた。

 

「どうすんのよ、こっち来てる!!親父さんこっち来てるわよ!!!」

「死んだふり、死んだふりしろ!!!」

「いや死んだふりって、むこうはマジで死んでるじゃない!!本職じゃない、通じるわけが…」

 

二人があたふたしている間にも親父との距離は確実に縮まっていた。

そして半分ほど近づいたところで親父が突然ピタリと足を止める。

親父の目線の先には遺族の方々が座っていた。

だが、良く見てみると、葬式中にも関わらずチャラチャラした青年がヘッドホンで音楽を聴いており、母親がそれを注意しているという光景だった。

それを見た親父はゆっくりと青年のほうへ近づいていき、そして……。

 

「ぶほぉっ!!?」

 

思いっきりブン殴った。

ヘッドホン青年は式場の壁が凹むほどの勢いで叩き付けられ、意識を失ってしまった。

 

「タツ?どうしたのタツ!!?……すいません、息子が急に具合悪くなったみたいなので…失礼します」

 

そういって母親にかつがれながらDQNは式場を後にした。

一部始終を見てしまった戒と両備はおそるおそる親父のほうを向くと、そこにはサングラスをかけ、フィンガーグローブを装備し、葉巻を咥えた親父がボキボキと指を鳴らしながらこちらを向いていた。

その瞬間、二人はあっという間に自分の席へ戻る。

 

「あれ?両備ちゃん、トイレ行くんじゃなかったの?」

「い…いや…ひ、引っ込んだわ…」

 

両奈の言葉に両備は震えながらも大丈夫という返事を返す。

 

「引っ込んだって全身震えているよ。体に悪いから我慢しないほうが良いよ?」

「い…いや…大丈夫だから、引っ込んでて…」

 

琴音の言葉に戒が返事を返し、黙らせる。

そこで二人は、ある結論に達してしまった。

親父は、自分の葬式がきちんと執り行われるようにあの世から舞い戻ってきたのだと。

しかもその証拠に、先ほどまで居眠りをしながらヘンテコお経を読んでいたお坊さんの頭に、葉巻を擦り付けていた。

その様子を見た戒と両備は…。

 

((親父さんに祟り殺させる!!!))

 

と、全身から冷や汗をダラダラと掻いていた。

 

(冗談じゃねーよ!!俺はあの気のいい定食屋の親父さんに別れを言いに来たんだよ、あんなハードボイルドな怖い人に会いに来たわけじゃねーんだけど!!!)

 

お坊さんが熱さでのた打ち回っている光景をスルーしながら戒が心の中でツッコム。

両備もまるで別人のような変わった親父に警戒し下手な行動は慎もうと思った。

しかし……。

 

「あの、次の焼香君たちの番ですよ」

「へ?すいません、今なんて?」

 

自分に話しかけてきた遺族に戒がもう一度問いかける。

 

「いや、ですから焼香の順番。もう遺族の方々も終わったので…」

 

どうやら戒たちが親父にビビッている間にも、いつの間にか焼香の順番が回ってきてしまっていたらしい。

 

「ちょっと、どうするのよ?焼香の順番が…」

「ふざけんなよ…この距離でもすでにちびりそうだってのに、あんな間近でゆったりアロマテラピーできるわけねーだろうがっ!ケツから別の香が香ってくるわ!!」

 

あまりの異常すぎる空間と展開に普段冷静な戒はテンパってしまい、良く分からないことを言ってしまう。

 

「そもそも焼香ってどうやってやるんだっけ?前に行って粉パラパラすんのは覚えてんだけど…」

「バッカ!!!あんたそんなことも知らないの、三回おでこに粉持っていってあれをあれしてあれすんのよ!」

「後半あれしか言ってねーじゃねーか、お前もあやふやじゃねーか!!」

「焼香台の前に行けば出来るわよ、あんたとは違うのよ!!!」

 

「じゃあお前が先に行け!」・「ふざけんなあんたが行け!」などと二人が不毛な争いをしている中、突然琴音が席を立ち上がった。

 

「…っ!ちょっと待て琴音、早まるな!」

 

当然戒はそんな琴音を止める。

もし琴音が粗相をしでかしたら親父がどうなるか分からないからだ。

最も、琴音からしたら戒の行動は理解出来ない。

 

「えっ、早まる?何のこと?真希奈さんがやり方あやふやだって言うからお手本見せようかと思って」

「出来るのか、やれるのか!?絶対しくじるなよ、必ず生きて帰って来いよ!!!」

「バカにしてるの?まあいっか、真希奈さん、良く見てくださいね」

 

戒の言動に琴音は頭の上に「?」を浮かべながらも焼香台の前へと向かって行った。

 

①遺族と坊主に一礼

「まず、焼香台の前に行き遺族とお坊さんに一礼」

 

②遺影に合掌

「焼香台の前に立ち、遺影に合掌」

 

③左手に数珠、右手に抹香をつまみ、額におしいだき香炉へ落とす。これを三度

「左手に数珠、右手に抹香をつまみ、額におしいだき香炉へ落とす。これを三回繰り返す」

 

④もう一度遺影に合掌、遺族に一礼

「最後にもう一度遺影に合掌、遺族に一礼して」

 

「これで終わり。真希奈さん、思い出せました?」

「ミッションコンプリート!お前ならやれると信じてたぜ。今日は祝勝パーティだな、おめかしして来いよ!!」

「さっきから何なの、もしかしてナメてるの?」

 

無事に戻ってきた琴音を手放しで褒める戒、だが事情も知らない琴音は彼に対して苛立ちを露わにする。

 

「両備から言わせればまだまだだけど、少しはまともなツラになって帰ってきたんじゃないの?」

「焼香一つでどこまで褒められるの!?どれだけ駄目な奴だと思われてるの私は!!!」

 

たかが焼香なのに歓迎をした両備に琴音は心中穏やかではなかった。

だが、戒たちにとってはあんな厳つい親父の前で粗相の一つもせずに帰ってきた琴音がとても頼もしく見えたのだ。

そのおかげか、親父の顔が心なしか穏やかになっているように見える。

…このまま行けば…。

二人がそう思っていると……。

 

「よ~し、それじゃあ、今度は私が行って来るよ~」

「真希奈姉さん!琴音のやったようにするんですよ、しくじらないでくださいね!!」

「任せて戒君、ばっちり頭に叩き込んだから~」

 

そういって真希奈はゆったりした動きで焼香台の前へと歩いていった。

 

①遺族と坊主に一礼

「まずは、え~と…意外と坊主に一撃」

「はなから丸々違うだろうがああああああっ!!!」

 

こともあろうか真希奈は坊主の脳天に目掛けてチョップを放った。

可憐な外見から想像も出来ないあまりにも鋭い一撃に坊主の鼻から血が噴出する。

その光景に戒は悲鳴をあげる。

 

②遺影に合掌

「イエーイ!!さあ、皆さんもご一緒に~!」

『イエーイ!!』

「い…イエーイ……」

「イエーイで合唱じゃねええええええ!!乗らなくていいから坊さんたちっ!」

 

なぜか真希奈に合わせてノリノリで合唱する坊主(死に掛け)と遺族に注意する戒。

 

③左手に数珠、右手に抹香をつまみ、額におしいだき香炉へ落とす。これを三度

「で、次が……とりあえずこんな感じだったかな~?」

 

そう言うと真希奈は坊主の頭を掴み、香炉に三回叩き込んだ。

 

「坊主うううううううううう!!!」

 

坊主の悲惨な姿に叫ぶ戒。

 

④もう一度遺影に合掌、遺族に一礼

「イエーイ!!」

「い…イエーイ……」

「坊主ううううううううううううううううう!!!!!」

 

そして散々粗相をやらかした真希奈がやりきったような顔で戒たちの元へ戻ってきた。

 

「うん、こんな感じかな~」

「あなたは一体琴音の何を見てたんですか!!誰が坊さんの頭にバッチリ叩き込んでこいって言ったよ!!!」

「ずっと座りっぱなしで足が痺れちゃって~……」

「足関係ないでしょ、痺れてるのはお前の頭っ!!!」

 

真希奈がやらかしてしまったせいで親父の機嫌が見る見るうちに悪くなってしまい、坊主に葉巻を押し付けるという八つ当たりをする。

その際「何で坊主に八つ当たり!?」と戒がツッコンでいたが…。

両備は葬儀を立て直すため、ある作戦を立てる。

 

「フローチャートに作業を一つ加えるわ!『①遺族と坊主に一礼』、その後に、『②坊主を蘇生』、その後に焼香!!!」

「じゃあ次は両奈ちゃんが行って来るよ!」

 

そういって両奈が自信を持って立ち上がる。

 

「両奈!?大丈夫なの、いけるの?信じていいんだよね?」

「うん、絶対ぜーったい大丈夫!さっきのフローチャート通りやればいいんでしょ」

 

両備を安心させるように、そういうと両奈はおもむろにチョビ髭を生やした遺族の隣に立つ。

 

①遺族を一礼で坊主

「まずは、遺族を一礼で坊主…」

「そっから間違ってるけどおおおおお!!?」

 

一礼をしながら遺族が着けていたカツラを奪い取るという暴挙を行った。

当然両備のツッコミが炸裂する。

 

「何フローチャートまで勝手にいじくってんのよ!のっけから一歩も前に進んでないでしょうが!!もう良い、焼香はしなくて良いから坊主だけ蘇生して戻って来なさい!!!」

「はーい!」

 

そう言うと両奈は気絶している坊主の頭に遺族から奪い取ったカツラを、ぱさりと置いて帰ってきた。

 

「何を蘇生させてんだああああああああああああああ!!!?」

 

坊主の蘇生させるポイントを間違え満足そうな表情で戻ってきた両奈(姉)にシャウトする両備(妹)。

 

「誰が坊主の毛根蘇生させてこいっつったのよ!?さっきと何にも変わってないじゃない!!!頭にただカツラ乗っただけじゃないっっ!!!」

「絶対変わってるって!両備ちゃんよく見てよ、心なしか安らかな表情になっているでしょ?」

「良いことあって良かったわね、お坊さん…じゃないわよっっ!!!」

 

真希奈に続いて両奈までもやらかしてしまったため、親父の顔はどんどん濃くなり、坊主の頭部に乗っかっているカツラを、ライターを使って燃やし始めた。

坊主が苦しんでいる姿を見て戒も両備も顔を青ざめる。

 

「おい、親父さんもう完全にご立腹だよ!!!伝説のスーパーサイ親父になってるぞ!!!」

「もうやめてっ!!坊主はもう苦しんでいるから、充分苦しんだからぁ!!!」

 

叫びながらも、もうこうなっては坊主の救出を最優先にすべきだと両備は思い、坊主の蘇生を行ってから、遺族と坊主に一礼に手順を変更しようとする。

だがここで想定外のことが起こってしまった。

 

「おいちょっと待て、遺体が増えてるぞっ!」

 

戒が指差す先には、何と先ほど両奈にカツラを取られた遺族が白目を向いて倒れていた。

 

「何でヅラ取られて死んでんのおおおおおおおおおっ!!?」

 

あまりにも想定外の出来事にシャウトせざるを得ない両備。

 

「どんだけメンタル弱いのよっ!!てかなんで全員ガン無視?ヅラに気付いてない振りしてあげてるの、それが優しさなのっ!!?」

「……仕方ない、このままじゃあ親父さんの葬儀がめちゃくちゃだ。代表してボクが親父さんの葬式を責任持って全て立て直してくるよ」

 

そう言うと忌夢は立ち上がり、焼香台の前へと歩いていった。

 

「忌夢…あんた…」

「とりあえず『①坊さんと遺族の蘇生』、その後に、『②坊さんと遺族に謝罪及び一礼』だ。まあ見ていてくれ、ボクは葬式には何回か行ったことがあるから」

 

この時の忌夢は、戒と両備の目には彼女が荒れ果てた大地を救う女神・救世主のように見えた。

 

「まずは坊さんの蘇生!!…あなたはここでお経読んでいてください」

 

だが、忌夢が蘇生させたのは坊主ではなくカツラがなくなってしまった遺族だった。

 

「いやそれハゲてるけど遺族っ!!」

 

坊主違いに指摘する両備。

だが、忌夢はそれを無視して次のステップへと進んでしまう。

 

「次は遺族の蘇生!!!…迷惑かけてすいませんでした」

 

そう言って遺族の座っていた座布団ににカツラを置いて謝罪する。

 

「それ遺族の遺族うううううう!!!」

 

両備は喉が枯れるぐらいの声量で叫ぶ。

そして、最終ステップへと足を踏み入れた。

 

「そして木魚だ」

「もうお坊さんを許してあげてください…」

 

しかし忌夢が置いたのは木魚ではなく、坊主の頭だった。

両備はもうそれしか言うことが出来なかった。

 

「好い加減にしろよゴラァ!!どんどん状況が悪化してっているでしょーが!!!」

「つーかあの遺族なんで言われるがまま坊主やってんの?」

 

明らかにわざととしか言いようがない忌夢の行動に戒が怒りを露わにし、両備は何も言わずお経を唱え、坊主の頭を木魚の代わりにしている遺族に疑問を挟み込む。

 

「何でも、ショックで一時的に記憶喪失らしくて…」

「喪失したのは頭ん中じゃなくて頭の上でしょうがっ!!!」

 

最後の砦である忌夢ですらまともに焼香が出来なかったため、もう親父の怒りは頂点になっていた。

近くにいた坊主も取られてしまったため今にも元気玉を放たんと言わんばかりのオーラが出てくる。

 

「ああああ、もう知らねぇ!!人の気も知らないで好き勝手しやがってっ!」

「あっ!待ちなさい、自分だけ逃げるつもり!?そうはさせるかっっ!!!」

「ちょっと何やってんの二人とも!まだ葬儀のと…」

 

もうやってられないと戒と両備は二人そろって式場を抜け出そうとする。

それを見た琴音が注意しようとしたが…。

ドサリ、と音を立て倒れてしまった。

 

「…こ、琴音……?」

 

同時に、両備を除く全員が白目を向いて倒れてしまう。

戒と両備は、恐る恐る親父の方向を向いた。

そこには…。

 

((た、魂質取られたあああああああああ!!!)

 

自身の周囲に魂を漂わせている親父の姿だった。

 

後半に続く。




 何でか後編に続きました。魂を取り出されてしまった彼女たちはどうなるのかお楽しみください。
 ではでは。ノシ


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ANOTHER COMBO10 出棺×トラック

 後編です。何だか妙に盛大になってしまってすまない。
 それでは、どうぞ。


「あの、大丈夫?お連れの方」

「あっ大丈夫です。足が痺れているだけなんで」

「嫌でも、白目向いていますけど」

「基本、白目向いているぐらいにお茶目は連中なんで。少ししたら元気になりますから」

 

前に座っていた男性からの問いに、戒や両備が苦し紛れのフォローをする中で魂を浮かばせて遊んでいる親父を見る。

 

「半端ない、半端ないよ親父さん…人魂取ったよ」

「ま、待って落ち着きなさい。本当にあいつらの魂なの?……てか、どうして魂に眼鏡がかかっているのよっ!!」

「魂に眼鏡ってよりも眼鏡が魂なんだよ、きっと!!」

 

ぽつりと呟いた戒を落ち着かせるように、身体が震えている両備が別の可能性を提示するが忌夢らしき魂を見てツッコミを入れる。

それに対して戒が良く分からない理論をぶつけていたが咳払いをして本題へと突入する。

 

「でも大丈夫だ。お葬式も直に終わるし後は出棺…親族の方々だから俺たちが何かするわけでもない」

 

一先ずは、親父の機嫌が直って全員の魂を返してくれることを優先して二人は大人しく正座する。

やがて、出棺の儀へと移っていたがここでおばちゃんがあることを親族たちに打ち明ける。

 

「ごめんなさい、私…腰が今悪くて……そうだ」

 

どうするか困っていたが、何か思いついたおばちゃんは正座をしていた戒と両備の太刀の方に振り向いた。

 

「戒君、両備ちゃん。手伝ってくれない…棺桶運ぶの」

 

その一言を聞いた二人の反応は早かった。

まず戒が左手で自分の右腕を思い切り殴打して捻挫させ、両備は右腕で左肩を外した。

一般人ではまず見えないほどのスピードである。

 

「あのーすいません、両備は今左肩外していて」

「俺も見ての通り、捻挫してるんですー。ごめんなさいおばちゃん」

「あらそうなの?無理言ってごめんね」

 

たった今自分で負傷させた部分を見せてそう謝罪するが、当のおばちゃんは「気にしないで」と言いたげに笑みを見せた。

背後では親父が魂をこねていたが……。

 

「……と、思っていたら気のせいだったぁっ!!やります!是非ともやらせていただきますっ、ね!両備ちゃん」

「いやー!実は一度棺桶持ってみたかったんですよ!ねっ、カー君!!」

 

凄まじいスピードで棺桶のところまで近づくと、笑顔で親族の人たちに話しかける。

だが、内心では笑顔どころではなかった。

 

(やっべえええええ!やれるのっ、いけるの両備っ!?たった今左肩を外したばかりなのよっ!!?)

(俺だって、右腕捻挫してるんだけどっ!?超痛いんだけどっ!!)

「じゃあ、門矢君と両備ちゃんは足の方を持ってね。『せーの』で行くから」

 

激痛が走る左肩と右腕を抑えながら棺桶を持てるか不安を覚えるが、親族が段取りを進めて行くので片腕だけで棺桶を運ぶ覚悟を決めた。

そして「せーの」と親族への合図と共に、片腕に魔力を集中させて息の合ったコンビネーションで棺桶を持ち上げた。

その際、力を入れ過ぎてしまったことで棺桶を男性の方に倒してしまったが…。

 

「おじさーん!?どんだけバカ力を出してるのっ!!おじさんが挟まってるうううううううううううううっっ!!!」

 

棺桶の下敷きになっている男性を見て、親族の一人が悲鳴をあげる中で棺桶の窓が開くとエクソシストみたいな態勢にあっている親父の遺体を見て完全にパニックになってしまう。

「やっべ!」と冷や汗を流した戒は両備と共に戻すがまたしても、必要以上の力を入れてしまったため棺桶から親父の顔が飛び出てしまう。

 

「しまった!戻す、詰め直すわよ!!」

「…くそっ!固くて戻らない……んぐぐぐっ!!」

「嫌、踏んでるからっ!!すんごい罰当たりなことになってるからっ!!」

 

しかし、死後硬直の影響か中々棺桶に戻らなくなってしまったため、どうにか戻そうと力を込めるが足使っているため絵面的にまずい光景になってしまっている。

足に力を込めて引っ込めることに成功したが今度は親父の脚が飛び出てしまう。

 

「足出てきたあああああああっ!!?何、三途の川でシンクロでもしてるの親父さんっ!?」

 

親族のツッコミが響き渡る中、嫌な音をたてながらも脚を掴んで棺桶の中へと詰め戻そうとする。

しばらくしてようやく棺桶の中に入ったが、なぜか親父のナニが棺桶の横から飛び出してしまう。

 

「何かとんでもない物飛び出たああああああああっっ!!どういうこと!?しかも何でありえない場所からとび出てるのっ!?」

「し、死後硬直じゃないですかね…多分」

「いやっ、死後硬直ってあんなとこまで固くなるのっ!!?」

 

戒が苦し紛れの説明をする中、両備がふと親父(幽霊Ver)の方を見ると彼は魂でそばを作り始めていた。

それを戒に知らせた瞬間、彼の顔は青ざめる。

 

「も、もたもたしてられないっ!!さっさと運ぶぞおおおおおおっっ!!!」

「ちょっと!二人ともそんな勝手に…!」

 

親族の声を無視して片腕を器用に使って棺桶を担いで外に待機してある霊柩車へと運ぼうとするが曲がり角でなぜか引っ掛かってしまう。

 

「引っ掛かってる!とんでもないのが引っ掛かってるっ!!」

「んぐおおおおおおおおおっっ!!負けてたまるかあああああああ……!!!」

「待ってえええええええっ!折れるっ、折れちゃううううううううっっ!!!」

 

曲がり角に丁度、親父のナニが引っ掛かってしまい、進行することが不可能になってしまったのだ。

それでも、諦めずに前へ進もうとすると鈍い音と共にナニへのダメージが入ってしまうがそこで落ち着いた声が二人を制した。

 

「戒君、両備ちゃん。曲がり角は身長にね」

「そうそう。仏様は大切にしないと、無理せずこっちの方から曲がって…」

「じゃあ……折るわねっ!!」

 

おばちゃんの声に、親族の人も曲がり角の行き方を慎重に進ませようとするがおばちゃんが飛び出ていた親父のナニを蹴って折った。

 

「『折る』ってそういう意味じゃないからっ!!てか、旦那の大事な物を曲がり角のためにへし折ったよ!?」

「あらっ?釘が抜きかけてる…」

 

そんな親族の悲痛な叫びを無視して、先へ進むように戒と両備を促すが少しだけ出ている釘に気づいたおばちゃんは先ほど折ったナニをハンマー代わりにする。

 

「奥さあああああああんっっ!!何か怨みでもあんのっ!?旦那のアナログスティックに怨みでもあんのっ!!?連射が上手くいかなかったのっ!!?」

「ほりゃぁあっ!!」

 

ツッコミが響く中、おばちゃんがナニを思い切り振り下ろした瞬間棺桶の底から坊主が飛び出してきた。

当然、それに対して親族からのツッコミが入る。

 

「何で坊主だああああああああっ!!変なお経でも悪ふざけにも程があるだろっ!!?てか、さっきのあれって坊主のじゃないのっ!?あっちの方も坊主になっちゃったんじゃないのっ!!?」

 

棺桶から飛び出している坊主はヘンテコなお経を続けているが、今度は坊主が引っ掛かって進行を妨げてしまう。

おばちゃんは何の感慨もなく、坊主を棺桶からへし折ったことで通れるようになったが釘が抜けかけていることに気づいた彼女は坊主を使って釘を打つ。

 

「奥さああああああああんっ!!苛々してたのっ!?変なお経で苛々してたのっ!!もう許してやってえええええええええっっ!!!」

 

渾身の力を込めて坊主を棺桶に叩きつけた瞬間、親父の遺体は勢い余って飛び出してしまう。

親父の身体はそのまま転げ落ちて行くと近くに止まっていたトラックに突っ込んでしまい、それに気づくこともないまま、トラックの運転手は出発した。

戒や両備たち一同が絶句する背後で、親父がそばにした魂を鍋に入れていた。

 

 

 

 

 

戒と両備はおばちゃんを乗せた霊柩車でトラックを追跡していた。

運転は両備が行っておりどう考えても無免許なのだが、ギャグ補正として眼を瞑ってほしい。

アクセルを全開にして霊柩車にあるまじきスピードを出しながらもトラックと並立することに成功する。

両備が運転手に、荷台に親父の遺体が刺さっていることを教えるが大音量で音楽を聴いているためその声は聞こえない。

 

「両備っ!俺が直接回収するっ!!」

「分かったわ!」

 

その声を聞いた両備は霊柩車を寄せて親父の遺体に引っ張り出しやすくするが、荷台へと深く入り込んでしまう。

それと、同時に親父のナニが飛び出してきた。

 

「何でだああああああああっっ!!?」

「どういうことよっ!!一体、中でどんな状況になってるのよっ!!!」

「ち、ちょっと待って!手袋つけても流石にそれは無理っ!!おばちゃん、親父…てよりも親父さんの息子を…」

「えっと、どれ?」

 

おばちゃんのその言葉に戒は荷台の方を振り向く。

荷台からは無数のナニが飛び出しており、はっきり言ってかなり不気味な光景が広がっていた。

 

「どうなってんだああああああああっっ!!荷台から無数のナニが広がっているんだけど!親父さん、一体何本生えているんだっ!?どんだけ欲張りなんだっ!!!」

「待って!雅緋から聞いたことあるわ、あれは非合法で養殖されたミル貝の『スーパーミル貝』…見た目はナニと似ているけど、闇市場で売れば値の張る高級珍味よ」

「珍味って言うか、チン味じゃね!?とんでもねーわっ!!」

 

両備が説明をしたのを戒がツッコム。

恐らく荷崩れを起こしたのだろう、おまけに見た目が似ているためどれが親父のナニなのか見分けがつかない。

どうするか悩んだ時、戒の頭に妙案が浮かぶ。

 

「いやっ、出来る…!おばちゃんなら出来る…何百回、何千回と親父さんのナニを見てきたこの人なら」

「でも、私…」

「自分を信じろ!自分の信じる親父のナニを信じてくださいっ!!」

「親父のナニを信じるって何?」

 

戒の発言におばちゃんは視線を逸らす中、戒はシリアスな表情で彼女の両肩を掴む。

両備は冷静に発言していたが…。

 

「おばちゃん言いましたよねっ!涙なんかより笑顔で迎えたいって…こんな結末じゃ笑えないですよっ!!」

「いやっ、赤の他人が見たら涙流して笑うと思う」

 

両備の冷めたコメントをスルーしながら戒はおばちゃんに話しかける。

 

「今なら間に合うっ!葬儀をやり遂げて親父さんを見送ってあげましょう!それが生きる者たちに出来る唯一のことです!」

 

真剣な表情とその真摯な態度に、不安を覚えていたおばちゃんはゆっくりと息を吸い込んだ。

しばらく眼を瞑ると、やがて開くと態勢を戒と変える。

 

「分かったわ……視覚情報に囚われては駄目よ、感じるの。思い出すのよ、あの○○を、○○を、○○…○○…」

「すごい生々しいことを言ってるんだけどっ!聞きたくないんだけどっ!?」

 

両手を合わせて瞑想するおばちゃんの発言に、両備は顔を赤く染めるどころか聞きたくもなかった事実に顔を青ざめてドン引きするしかない。

やがて、開眼した。

 

「そこだっ!」

 

叫んだ瞬間、おばちゃんが身体を乗り出すと思い切り荷台に生えていたナニの一つを蹴って折った。

 

「だから、何で折るんだあああああああああああああっっ!!?ちょっとっ!どんだけ親父さんのナニに怨みを持ってるんですかっ!!落ち着…」

 

充血させながら荷台のナニを折っていくおばちゃんに戒はどうにか落ち着かせようと羽交い絞めにするがバランスを崩して霊柩車から出てしまう。

何とか支えにしようと咄嗟に荷台に生えていたナニの一つを掴んだ瞬間、荷台から親父が出てきた。

 

「出たっ!親父さんが出たぁっ!!」

「嫌あああああああああっっ!!離したいけど離せないいいいいいいいいっ!!」

 

両備が叫ぶ中、戒はとんでもない物を掴んでしまっていることに半泣きになりながらも話すことが出来ずにいる。

しかもおばちゃんも抱えているため、いくら戒でも限界が近い。

彼女が霊柩車をトラックに寄せようとした時だった。

しかし、親父の遺体が出てしまい、戒とおばちゃんが落ちようとした時に定食屋の親父の亡霊が二人を受け止めた。

何が起こったのか呆然とする中、戒と両備の脳内に声が聞こえてくる。

 

『門矢の坊ちゃん、両姫ちゃんの妹ちゃん…やっぱり君らやみんなは愉快な人たちだねぇ…ありがとよ。涙も引っ込むような賑やかな葬式を…これで後ろ髪引かれることなく安心して逝ける…色々驚かせちまって悪かったな…家内やみんなにも謝ってといてくれ…最後に、オイラの最高の友達に…文字通り魂を込めた料理を送る……』

 

魂が戻っていた全員がお骨を拾い、葬儀が完全に終了してから戒と両備は定食屋へと再び訪れていた。

店内のカウンターには肉うどんと天玉うどんがあり、それが親父の作った物だとはっきり分かる。

二人はそれに対して、何か言うこともせず両手を合わせて「いただきます」と一言。

そしてうどんの麺をすすり始めた。

変わらないあの味に涙を零す中、無事にうどんを平らげたのであった。

底に入っていたスーパーミル貝が発見次第、親父の写真に叩きつけたのは完全な余談である。




 自分は一体、何を想ってこれのパロを書いたのだろう?何も思い出せません、ただ無表情でキーボードをカタカタしていたのは覚えています。
 ではでは。ノシ


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★ANOTHER COMBO11 クリスマス×プレゼント

 メリークリスマス!ってことで、遅れましたAです。
 流石にこの日は投稿しなきゃダメだろと思い、投稿しました。少し短いですが、どうぞ!


12月25日…それはクリスマスの日であり多くの子どもたちがサンタクロースからもらえるプレゼントを待ち望んでいる日でもある。

全国のお父さんお母さん、果てはお祖父ちゃんお祖母ちゃんたちが息子や娘、孫たちにとプレゼントを買う忙しい日でもあるこの日、月閃女学館の選抜メンバーもクリスマスの夜に備えてプレゼントを買ってイルミネーションが施されている岐路を雪泉と四季が歩く。

 

「何とかプレゼントを購入することが出来ましたね」

「んじゃ、後は美野里ちんが寝るまで部屋で待機だね♪」

 

目的を一つ達成したことで上機嫌な様子の二人…。

実はサンタの存在を今でも信じている美野里のために『サンタなりきり大作戦』を開始したのだが、サンタ役を務めることになった雪泉の服装はかなり危うい。

代用品としてサンタ服を模した白い装飾がある赤いビキニであり十二月の現在ではかなり厳しい…氷属性の精霊を宿している彼女自身としてはあまり問題はなかったがその上に赤いマントを羽織り、鈴やリボンをあしらった帽子を被っており率直に言えば露出狂と捉えられてもおかしくはない。

幸い、プレゼントを売っていた店員が女性だったことと事情を汲んでくれたのか定かではないがあまり大ごとにもならず着々と準備が整いつつあるはずだったのだが、そこで事件は起こった。

 

「…て、雪泉ちんっ。前、前っ!」

「えっ、きゃっ…!?」

 

四季との会話に夢中になっていたせいで前がおろそかになっていた雪泉は正面を歩いていた人物とぶつかってしまう。

慌てて謝罪の言葉を口にしようと顔を上げた途端、思わず言葉を失ってしまう。

 

『痛ってぇなっ!気をつけろっ!!』

『後何だ、その格好っ!?自分を安売りしてはいけませんっ!!』

 

そこにいたのは大量の物を詰め込んだであろう白い大袋を担いだ異形…子どもの玩具のような外見をしているが、ラッピングリボンを帯として緑やピンクなどの派手な道着に身を包んでおり大きな袋を担いで走るその様はサンタというよりは盗人に相応しい。

 

「「エラーッ!?」」

 

そう、異形の正体は『プレゼント・エラー』。

幼少時に経験したクリスマスでのトラウマを無理やり掘り起こされたことで融合した彼は、二つの人格で彼女の服装について罵倒しながらも、戦闘行為に移ることなくそのまま走り去ろうとする。

あまりにも唐突な出来事に脳内の処理が追い付かない雪泉は呆然としていたが、すぐに聞き覚えのある声がエラーが走ってきた方向から聞こえてくる。

 

「待ちやがれっ!プレゼント強盗!!」

「みんなのプレゼント返してよー!」

 

走ってきたのはお馴染み、トナカイの着ぐるみを着た戒と琴音にサンタ服に身を包んだ雲雀が走ってきたのだ。

衣装を調達する時に出会った彼女に雪泉と四季は驚きの表情を見せる。

 

「雲雀さん?それに門矢さんたちまで。どうしてここに…」

「あっ、雪泉さんっ!実は…」

 

雲雀も彼女たちに驚きながらも、先ほどのエラーやこれまでのことについて説明を始める。

実は斑鳩と詠、リアと千歳たちが貧民街で行うヒーローショーの後でサンタに扮する雲雀とトナカイに扮する戒と琴音の三人で子どもたちにプレゼントを配る予定だったのだが突如エラーが襲来し、白い袋に奪った大量のプレゼントを詰め込んで走り去ったのを追いかけていたのだ。

事情を知った雪泉は真剣な表情を見せる。

 

「そのような悪、見逃すわけには参りません。私たちもお手伝いします!」

「だね、子供たちの物を奪うなんて理由があっても許せないし」

「二人とも、ありがとー!!」

 

快く了承してくれた二人に雲雀は笑顔で感謝の言葉を口にする間、戒と琴音が口を開く。

 

「しかし、雪泉さん。その恰好…///」

「ツッコむの控えようと思ったんですけど、寒くないんですか?」

「っ!/// あ、あまり見ないでください…!!」

 

片方は顔を赤くし、もう一人が微妙な表情を見せて自分に視線を向けられたことに気づいた彼女は顔を赤くして自分の身体を抱くようにしながらマントで身体を隠そうとする。

恥じらいの表情と少し潤んだアイスブルーの瞳が可愛らしいサンタのビキニとベストマッチしており、それを見た戒は思わず二泊一礼をする。

 

「…素敵なプレゼント、ありがとうございました///」

「カー君、後でお話しようか?」

 

ご参拝しながら、一人ごちる彼に対して琴音は笑顔でプレッシャーを与えるのであった。

 

 

 

 

 

そして、数十分後…かなり早い段階でプレゼント・エラーを見つけることに成功した。

どうやら店内の物は対象外らしく子どもたちが持っていたプレゼントを奪おうと襲い掛かっていたのを発見した戒が飛び蹴りを浴びせて人気のない場所まで移動し、雪泉が召喚した氷の壁で退路を完全に封じたことで改めて対峙する。

 

【DRAGON!!】

「行くぜっ、ウェルシュ!」

『速攻で肩をつけよう!Start Our Heart!!』

 

アーサードライバーを腰に巻き、ドラゴンカセットを起動した戒はベルトに意識を映したウェルシュに声を掛けると、力強い返事をする。

そして、スロットにミラージュカセットを装填した戒は右側のサイドグリップを握ってトリガーに手を掛ける。

 

「変身っ!!」

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

 

ドラゴンと牙を模した赤い騎士に変身した戒は先制攻撃として冷気を纏った飛び蹴りを浴びせると、着地と同時に連続でキックを仕掛ける。

元々戦闘力が心もとないの奪ったプレゼントのせいで動きが鈍っている今回のエラーは、その攻撃を全て直撃して吹き飛んでしまう。

グレンバーンを召喚し、四季も大鎌が構えて攻撃に移ろうとするが…。

 

『うぐっ、欲しい……何があっても欲しい!』

『それを寄こしな!おまえよりも自分が持つ方が正しいのだから!』

 

二つの異なる声でそう叫んだ途端、エラーは唄に出てくるトナカイの鼻のような赤いモノアイを光らせた瞬間、二人の持っていた武器に異変が起こる。

淡い白い光に包まれたと二人が思った時には既に遅く、グレンバーンと大鎌はエラーの手に収まってしまう。

 

「何だそりゃっ!?」

「アタシたちの武器がっ」

 

驚く間もなく、プレゼント・エラーは奪った武器を構えてアーサーたちに襲い掛かろうとする。

まるで使い慣れているように両手に持った異なる武器を使いこなしていたが、幸いにも単調な攻撃だったため難なく躱すことが出来ている。

しかし、武器を奪いそれを使いこなす能力は極めて厄介であり、肉弾戦で挑むにもプレゼントを方に下げている状態では万が一当たる可能性がある。

「どうするべきか」とアーサーが作戦を練っている時だった。

 

「変身」

【RIDE UP! SOCIAL! タンクを動かせLet's NAVIGATION!!】

『ぎゃああああああああああああああっっ!!?』

 

青年の短い声と変身音声が鳴り響いたのと同時に、プレゼントを括り付けていたエラーの右肩に強烈なエネルギー弾が命中する。

悲鳴をあげたエラーが離した拍子に宙に舞ったのプレゼントを黒い影がすぐさま回収する。

 

「空良さんっ!」

「雅緋さんも…て、何その格好っ!?」

「うるさいっ!言っておくがこれは忌夢にサンタ役を頼まれただけであって私の趣味ではないからなっ!?」

 

そこにいたのは、ギアルショットガンを構えた潮田空良こと仮面ライダーギアルとトナカイの角のカチューシャをセットした雅緋。

思わぬ援軍にアーサーと琴音が彼らの名を呼ぶが、雪泉と同じタイプの黒い水着を着用している彼女にツッコミを入れる。

怒りで顔を赤くして叫んだ雅緋は無傷のプレゼントをギアルに渡すとその場で跳躍し、自由落下に任せた黒炎を纏った斬撃で斬り裂く。

 

「ふ、ふふっ、私がこんな格好をする羽目になったのは…貴様のせいかあああああああああああっっ!!!」

『な、何の話…うぐえっ!!』

 

半ばやけくそ気味に、彼女はエラーに連続攻撃を仕掛ける。

やがて秘伝忍法でエラーが上空に高く吹き飛んだのを確認したギアルはソーシャルカセットをギアルショットガンに装填する。

 

【CRITICAL ARTS! FINAL STRIKE! SOCIAL!!】

「…シュートッ!!」

 

スコープでプレゼント・エラーを完全に捉えたギアルは、トリガーを引いて極限までエネルギーをチャージした狙撃弾を発射する。

赤いマーカーを模した弾丸は不規則な軌道を描きながら怪人の元へと向かい…。

 

『ぎゃああああああああああああああっっ!!!』

 

胴体を完全に貫かれたプレゼント・エラーは爆散し、融合が解けて落ちてくるのをアーサーの専用バイクであるドライグハートが救助する。

取り戻したクリスマスプレゼントは無事に貧民街の子どもたちに渡すことが出来、こうしてプレゼント強盗事件は無事に解決したのであった。

 

 

 

 

 

ちなみに…。

 

「クリスマスは両奈ちゃんっ、誰にいじめてもらおうかな~」

「あら、両奈ちゃん」

「んっ?あっ、美緒おば、さん…」

「随分楽しそうですね、まだ自分のドM体質で迷惑を掛けているのですか?」

「そ、そんなことはありませんよ…あ、あはは」

 

発情していた両奈が幼いころ大変お世話になった美緒に門矢家へと強制的に連れて行かれたが、その後どうなったかは定かではない。




 …てなわけで、久しぶりの投稿&クリスマス編でした。もう少しコミカルな内容にしたかったですが、作者の力量不足で…申し訳ありません。
 そして、今回の怪人であるプレゼント・エラーは烈 勇志さんからいただきました!烈 勇志さん、誠にありがとうございます!クリスマス特別編だったので応募していただいたモチーフにクリスマス要素を足したり改変しましたが如何でしたでしょうか?気に入らなかったら申し訳ありません!(涙)
 本編の方も気長にお待ちください。ではでは。ノシ

プレゼント・エラー ICV小杉十郎太・中田譲治
烈 勇志さんから頂いたオリジナルエラー。モチーフは「盗人と武器の扱いに長けた武術家、そしてクリスマス」
子どもの玩具のような外見をしているが、ラッピングリボンを帯として緑やピンクなどの派手な道着に身を包んでいる。
能力は目にして手に入れたいと願ったものを自分の元に引き寄せることが出来る。手に入れたものが武器であった場合、それを使いこなせるようになる。また、奪ったプレゼントを生成した白い大袋に際限なく詰め込むことが可能でそれを身体の一部に固定することも可能。
幼少時のある経験がトラウマとなった男性が抱いていた強欲な一面が形となって融合を遂げた。


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NORMAL COMBO 忍たちとの絆編
COMBOゼロ 忍×騎士


 ようやく本腰を入れることが出来ました。投稿は遅いですが、失踪しないように頑張っていきたいと思います。
 それでは、仮面ライダーアーサーの始まりです。

 (※)実はさっき、誤って削除してしまいました。ごめんなさい!!


それは、午後七時半過ぎ、人気もなく街灯が照らす心許ない光の中、一人の…恐らく十七歳ぐらいの少女が早足で歩いていた。

容姿としては年相応の可愛らしさを備え、多くの女性が羨望と嫉妬の眼差しを送られるほどのスタイルをした美少女だった。

長い黒髪を結んだポニーテールは活発な印象を与え、上下には紺のブレザーとスカートの学生服を身に纏っている。

彼女の名は『飛鳥』…学生数は千人を超える、知る人ぞ知る名門マンモス学校『国立半蔵学院』……の裏の顔『内閣特務諜報部諜報一課付特殊機密諜報部員養成所』通称、『忍学科』に所属する選抜メンバーの生徒である。

現代に生きる忍である彼女に異変が起こったのは、帰路の途中でのことだった。

補修が思ったよりも手間が掛かってしまい、学校を出るころには辺りはすっかり暗くなっていたため、早足で寮にある自分の部屋へと向かっていた時、ふと気づく。

 

(周りが、見えない?)

 

周囲が暗くなっており、何も見えなくなっていたのだ。

真夜中だからではない、自分の姿しか見えないその場所は方向感覚を狂わせ、自分が今何処にいるのかすら、分からなくなっていた。

動揺を警戒を抱き始めた彼女をあざ笑うように、突如声が周囲に響く。

 

『へへへ…今夜の獲物が来たッスね~』

『ふむ、余計な肉こそついているが…まぁ良いだろう』

「…っ!誰!?」

 

飛鳥は懐から二振りの…一目で業物と分かる長短の脇差を構えながら声の方を向いた。

……そこには、異形の存在がいた。

左腰に金色のランプを吊るした簡素な黒いスーツの胸部にあるゲームパッド型ユニットに上には赤いマントを羽織っている。

のっぺりとした白い顔面の黒いモノアイが飛鳥を興味深そうに観察していた。

明らかに人間ではない…見たこともない怪人に飛鳥は警戒をしつつも問いかける。

 

「あなたは、何者…悪忍なの?それとも、妖魔?」

『貴様が何を言っているかは知らないが、生憎どちらでもない』

『いるッスよねぇ…自分の常識だけで判断しようとするバ~カ、が』

 

飛鳥からの質問に腕を組みクールに否定すると、今度は陽気な声でこちらを小バカにするように話してくる…まるで一つの身体に二つの人格があるかのような怪人に飛鳥は絶句していた。

しかし、それが命取りだった。

 

「っ!?しまっ…ぐっ!!」

 

怪人から放たれた鎖の付いた首輪に捕えられてしまい、首輪はまるで意思を持つかのように首を締め付けてくる。

 

『今度こそ、今度こそ今度こそ!きっと、彼女は生き返ってくれる…だが、その魂は必要ない』

 

そう呟くと、怪人は左腰に吊るしてあるランプに手にかけ飛鳥の方へと向けた。

恐らくただの道具ではないのだろう…何となく、彼女の直感がそう告げたのだ。

 

『この中で永遠に暮らしてもらうッスよ。連中と一緒に…ね』

(……ごめん、みんな……!!)

 

目に涙を溜め、大切な友達の笑顔が脳裏に浮かんだ。

しかし、風を切る音と共に、凄まじいスピードで飛んでくる物体が怪人の右肩を貫いた。

 

『ぎゃああああああああっっっ!!?』

「う、ゲホ、ゲホッ!!…え?」

 

自身の右肩を貫いた衝撃に悲鳴をあげる怪人から解放された飛鳥はその場で崩れ落ち、咳き込みながらも怪人を貫いた物体を見た。

それは、一振りの日本刀だった……。

通常の日本刀とは一回り小さく、どちらかと言えば刀身の長い小太刀と言った方がしっくりくるだろう。

柄・鍔と鞘の色は共に紅蓮に輝いておりその輝きは、飛鳥の中に宿った負の感情…絶望を振り払うには十分だった。

 

「か弱い女性を、しかもこんな可愛い女の子を襲うなんて、随分と趣味が悪いじゃないか、赤マントさん?」

『それとも、こう呼んだ方が良いかね?「ハイド・エラー」』

 

二つの声とともに現れたのは、一人の戦士だった。

ゲームパッドを模したバックルと赤いシルク製のベルトを腰に巻いた戦士は、黒と紫のスーツに全身を纏い、マスクにはバッタのような赤く丸い複眼がある。

その上には竜と荒々しさを連想させる牙を模した白いパーツがある赤い軽鎧とバイザーが被さるように装備され首元には赤いマフラーが風で靡いていた。

その姿はさながら……。

 

「仮面の……騎士」

『貴様、何者だっ!』

「うわーお、典型的な悪役のセリフ…俺はアーサー、『仮面ライダーアーサー』…覚えておいてもおかなくても、どっちでも良いぜ?」

 

そう呟いた飛鳥のことを気にも留めず、怪人…否『ハイド・エラー』は忌々しそうに睨みつけるも、仮面の騎士…仮面ライダーアーサーは余裕の態度で流す。

「さて」と左手をスナップすると、バックルのディスプレイを挟むように配置されている赤いボタンを押す。

 

【ATACK ARTS! SONIC BITE!!】

『なっ!?ど、何処に……!?』

「ここだよ、のろま」

「えっ、えぇっ!?」

 

電子音声と共に姿を消したアーサーを探すハイド、すると彼は飛鳥の目の前に…それは宛ら姫を守る騎士のように立っており、手には金色のランプが握られていた。

 

「…『ウェルシュ』、本当に…ほんっとーに、大丈夫なんだな」

『だから、ここに来る前から言っているだろ…きちんと調べた、問題はない』

 

アーサーはベルトに、確認を取る…すると、「ウェルシュ」と呼ばれた声の主はため息交じりに、先ほどと同じ答えを返す。

 

「よし言ったな?言質取ったからな?これで失敗したら洗剤塗れの洗濯機の中に入れてやるから…な!」

『や、やめ…』

 

先ほどの会話で、何をしようとしているのか、察したのだろう…ハイドは制止しようと手を伸ばしたが、アーサーは遠慮なくランプを地面に叩きつけて壊した。

すると、青白く光る球体が、まるで慌てて逃げ出すように飛び出していったのだ。

驚く飛鳥よりも、絶叫する存在がいた…ハイドだ。

 

『あああああああっ!!「魂」がっ!彼女のために用意した「器」にぃぃぃ……お前えええ…』

「うるさい」

 

激昂したハイドはランプを壊した本人に憎悪の言葉をぶつけるが、「黙れ」と言わんばかりに顔を蹴られ、肩に刺さっている日本刀を引き抜かれる。

そのまま、かえす刀で一閃…数メートル先へ吹き飛ばされるとアーサーは自身の得物を橙色のナックルガードがある赤い鞘へと納める。

 

『あ、ああ……器が、器が……』

『おいっ!何やってるッスか!?早く立ち上がるッス!!』

「……あーらら、お前の相棒、諦めたようだな」

 

立ち上がろうとせず、ぶつぶつと呟く相方に慌てて声を掛けるが、アーサーの言葉通り、彼はすっかり、戦意を喪失していた。

しかし、陽気な人格の方は身体の主導権を握り勢いよく立ち上がり、目の前で余裕な態度を取る忌々しい敵を睨む。

 

『こうなったら、アンタをぶっ潰してまた器を集めるだけッス!!』

「やれるもんならやってみな。お前の物語、ここで終わらせる!」

 

「ほざけッス!」とハイドは鉤爪を生やし、切り裂こうとするも鞘に納めた剣『グレンバーン』で防がれ、逆に打撃を叩き込まれる。

怯んだ隙を逃さず、アーサーは抜刀し強烈な居合で攻撃を仕掛け、ハイドにダメージを与えていく。

 

【MAGICAL ARTS! BOWA BOWA KACCHI-N!!】

「オラッ!オラッ!オラァッ!!」

『がっ、ぐほっ!?この…ブベッ!!』

 

緑色のボタンを押し、炎を纏ったキックを浴びせると今度は脚部に冷気を纏わせた膝蹴りを打ち込んでいく。

冷気の膝蹴りをまともに受けたハイドは蹴られた箇所から徐々に凍結していき、行動を制限されていき、そして……。

 

「ほらよっ!こいつで吹っ飛べ!!」

『ぎゃああああああああッス!!!』

 

アーサーは斬撃と鞘による打撃を織り交ぜた攻撃を行い、ハイドに背を見せると鳩尾に当てるように勢いよく納刀する。

その際に発生した衝撃に吹き飛ばされるハイド…しかし、それでも立ち上がろうとするがおぼつかない足取りをしていた。

 

『ぐぅぅぅ…あ、相棒がこんなじゃなかったら、アンタみたいな劣化品にぃぃぃ…』

「止めだ」

 

呻き声を無視し、アーサーはバックルにあるスロットからカセットテープ型のデバイス『ミラージュカセット』を外すと左腰にあるスロットに挿入し、バックルの赤いボタンを押す。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! DRAGON!!】

「はぁぁぁ……!!」

 

態勢を低くし、赤いエネルギーを両足に纏わせると凄まじいスピードから放たれる跳び蹴り『ドラゴンストライク』を掛け声と共に繰り出した。

 

『があああああっ!?……ゲ、GAME OVERッスウウウウウウウッッ!!!』

 

断末魔と共に、ハイド・エラーは爆散…黒いノイズが混じった身体から背の高い男性が排出されると、エラーのボディは粒子状に分解されアーサーの物とは違うカセットテープが音を立てて砕けた。

スマートフォンを取り出し、誰かへと電話を掛けると先ほどの戦闘を傍観していた飛鳥の元へと近寄る。

 

「…と、大丈夫か?しかし、災難だったな…次からは気を付けた方が良いぜ、特にお前みたいに可愛いとさ」

「か、かわっ!?///」

 

わざと心配しながらも、おどけるように言ったアーサーに飛鳥は頬を赤らめ動揺するも、自分の中に巣くっていた恐怖が薄れていることに気付いた。

その表情から大丈夫と判断したのか、背を向けこの場から立ち去ろうとするアーサーを飛鳥が慌てて呼び止める。

 

「ま、待って…あなたは何者なの、それにさっきの…えらー?って…」

「…知る必要はないよ。少なくとも、あいつらは俺と…ウェルシュが止める。そして、奴らのふざけた『ゲーム』も破壊する…それだけだ」

 

それだけ言うと、アーサーは赤いバイク…『ドライグハート』に跨った。

 

「…恩は返したぜ?」

「え?」

 

アーサーの言葉を飛鳥が聞き返そうとしたが、主を乗せたドライグハートは夜の闇へと消えて行った。

 

「……また、会えるのかな?」

 

伸ばした手は、無意識の内に胸の前まで持ってきていた。

それが、どんな感情なのかは分からない…ただ、不思議と暖かい感覚が彼女を満たしていた。

けれど、これは始まりの1ページ……。

少女たちは戦う、全てを脱ぎ捨ててでも、『守りたい物』のために。

少年は護る、自らを傷つけても『歪んだ希望』から全てを……。

 

『KAMEN RIDER ARTHUR……GAME START』




 てなわけで、プロローグです。思ったよりも長くなってしまいましたが、プロローグを分断するわけにはいかないと頑張った結果、こうなりました…申し訳ないです。
 今作に登場する怪人『エラー』については後々言及したり、設定集などに記載しますが、元々は普通の人間で「エラーカセット」と融合することで誕生します。怪人の共通点は『モノアイ(単眼)』と『胸部のゲームパッド型ユニット』です。
 ではでは。ノシ

ハイド・エラー CV白鳥哲
恋人を亡くした男性が融合変身した姿。簡素な黒いスーツの上には赤いマントを羽織り、黒いモノアイとのっぺりとした白い顔面が特徴。左腰には金色のランプを吊るしている。
鎖のついた首輪を飛ばす、対象を他から隠すように黒い結界を張る、金色のランプで魂を抜き取り保存するなど、トリッキーな能力の持ち主だが直接戦闘は心許ない。
亡くした恋人を蘇らせるための器を探すために魂を抜き取っていた。エラーの人格が陽気なのは、彼本来の人格を読み取ったからである。
ちなみに性格モチーフはジュウ○ウジャーに登場したゲスト怪人『ハ○バゴイ』


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COMBO1 再会×変身

と言う訳で第一話です。閃乱カグラを知らない人のために人物の描写をしているため、長くなってしまいました……。
タイトルの通り、飛鳥が仮面ライダーと再会します。


かつては人がダーツや酒を楽しむ場だったクラブ……数年前から使われなくなったその場所で、四つの影があった。

 

『ミナサンに大変残念なお知らせがありますニャ。数日前からプレイヤーとして活動していたハイドが昨夜、GAME OVERとなりましたニャ』

 

言葉を発しているのは人間ですらない存在だった。

黒い体色に茶色い縞々模様が付いた短い手足と尻尾、目にあたる部分は赤いバッテン、口はギザギザの白い歯をむき出しにしたお世辞にも可愛いとは言えない猫のぬいぐるみだった。

 

『はぁっ!?どういうことだ「ミケネ」!ハイドが倒されただとっ!?俺たちに勝てる連中が存在するわけ…』

『仮面ライダー……』

 

背中、両肩にはエンジンのパイプが設けられたレース用の赤いカートが人型になったような怪人が黒猫の名を呼びながら荒々しい口調で問い詰めようとするが、それよりも先に言葉を発した存在がいた。

童謡に登場するような魔術師の格好をしているが炎を模した王冠、真っ赤な身体と黒いコートには極彩色のクジャクの羽根を装飾品にした怪人は言葉を続ける。

 

『我々のゲームを邪魔出来る存在がいるとしたら、それは彼らしかいません…その程度のことは貴方でも分かるはずでは、「レッドゾーン」?』

『……何が言いてぇんだ、「フェニックス」』

『わざわざミケネを問い詰める必要はないということですよ。それに撃破されたのはまだ一人、焦る必要は…』

『ざっけんなっ!!救済を望む連中が、「仲間」が一人倒されたことには変わんねぇだろうがっ!?これ以上ふざけたことをほざくなら…』

 

拳を握りしめて魔術師『フェニックス・エラー』を感情のまま殴り飛ばそうとする『レッドゾーン・エラー』…しかし、それを止めた影があった。

 

『やめなさい。ミケネの「目」がある…この意味が分かるでしょ?二人とも』

 

全身から植物を生やした緑色の狩人『ユグドラシル』は気品のある女性の声で二人を静止させると、ミケネに確認を取る。

 

『それで、今活動しているプレイヤーは?』

『ニャーゴ…昨日キミの渡したカセットが「メタリック」として活動しているニャ』

『そう、なら監視は任せるわ。ミケネ』

 

「仰せのままに」と短い手足でおどけるようにお辞儀をすると、そのまま姿を消した。

ユグドラシルは二人に目配せをすると、左腕に装着していたデバイスからカセットを抜き取り、融合を解除すると続く形で二人も融合を解きその場から立ち去った。

 

 

 

 

 

一体あれは何だったのだろう……。

昨夜のことを、昼の時間に飛鳥は忍学科の教室でぼんやりと考えていた。

自分を助けてくれた彼が通報したであろう警察が駆けつけると、飛鳥は事情を説明した。

その際、自分のことや怪人のこと、仮面の騎士…仮面ライダーだったかのことは伏せておいた、どう説明したら良いか分からない上、信じてもらえるか怪しいと思ったらからだ。

この時話を聞いていた女性の刑事は「相変わらずあの子はカッコつけて」とぼやいていたが何か事情を知っている彼女はそこで打ち切った。

 

「飛鳥さん?大丈夫ですか」

 

心配そうに彼女に声をかけた少女の名は『斑鳩』…忍学科の三年生にして、クラス委員でもある彼女は前髪を切り揃え、黒い長髪が印象的な少女である…彼女も飛鳥と同じ、それ以上にプロモーションを学生服で包んでいた。

事情を登校した飛鳥から聞いた彼女は妖魔とは違う敵に警戒心を抱いたが、何よりも後輩であり、

 

「あ、はい。大丈夫です、ただちょっと……」

 

心配を掛けないよう明るく取り繕う…彼女が考えているのは、仮面ライダーのことだ。

自分を知っているかのように呟いたあの言葉が何だったのか…昨日からずっと考えているのだ。

 

「あんま気を詰めんなよ、飛鳥。辛かったらアタイたちにドーンとぶちまけなっ!!」

「かつ姉…うん、ありがとう!」

 

そこらの男子よりも男らしい言葉を放ったのは斑鳩と同じく三年の長い金髪と制服の胸元を開けている活発な少女『葛城』に飛鳥は嬉しく思い彼女本来の明るさを取り戻した、

 

「…っし!そうと決まったら飯だ、飯っ!二人もそろそろ帰ってくるころだろうしな」

「そうですね、昼食の準備をしましょうか…飛鳥さん、お手伝いをお願いしてもよろしいですか?」

「はいっ!」

 

元気よく返事をすると、飛鳥は斑鳩と共に奥へと向かって行った。

『彼』との出会いまで、後??分……。

 

 

 

 

 

「今日、学校が休みだったのが幸いしたな」

 

そう言いながら、黒いズボンとシャツに身を包み、黒い手袋をつけた少年『門矢戒』は不敵な笑みを浮かべながら警察から借りた資料に目を通した。

 

「良く言うよ、その原因を作ったのはカー君じゃん」

「…学校にサイバーテロを仕掛けろと言われた時は流石に驚きました」

「ですが、兄様らしいと言えば兄様らしいです」

 

戒を「カー君」と呼ぶ、飛鳥たちとは色々と正反対の体型を持つ小柄な少女『幸村琴音』は頬を膨らませながら文句を、タブレットを持った二本のアホ毛の少女『千歳』は憮然と、対照的にスレンダーな身体の少女『リア』は口元に笑みを浮かべて言う。

 

「でも、本当に来るのかな?」

「来るさ」

 

話しの本題へと入った琴音の疑問に、戒は自信を持って答える。

 

「美海姉さんからの情報で確信が持てた。犯人は裏切られたと感じた場所を襲う…そして、残った場所は、『ここ』だ」

「じゃあ、最初に自宅で襲われたあのおじさんたちは…」

「庇っているんだろうね。大切な娘だからか…それとも、彼女に何か言ってしまったか、定かじゃないけどさ」

 

そこで話を打ち切ると戒は愛用のボーラーハットを被り、三人に指示を出す。

 

「琴音は俺と一緒に、リアと千歳は先に別ルートで向かってくれ…じゃ、『政宗探偵事務所』、活動開始!…てね」

 

最後におどけて言った言葉と共に、リアと千歳は姿を消し、戒と琴音は外に出ると西洋甲冑のような赤いバイク……ドライグハートの方へ向かった。

『少女たち』との出会いまで、後?分……。

 

 

 

 

 

「『柳生』ちゃん、早く帰ろうよ!」

「分かっている、走ると危ないぞ、『雲雀』」

 

校庭では三つのリボンを付けた桃色の髪の少女と、白く長い髪をリボンでツインテールにした少女の二人が走っていた。

飛鳥や斑鳩たちと同じく、忍学科に所属する少女、雲雀と柳生である。

一見正反対な二人はとても仲が良いが、仲が良すぎて『そっちの気』があるのでは?と一部から疑問を持たれているが本人たちは特に気にしていない。

忍務を終えた雲雀は早く仲間たちの元へ帰ろうと駆け足で、柳生はそんな彼女を窘めるように少し遅れる形で歩いていた。

やがて校門の前に差し掛かった時、雲雀の目に『ある人物』が入った。

本来なら休日で誰もいないはずの校庭に、半蔵学院の制服を着た一人の女子生徒が立っていたのだ。

その生徒は俯き視線を地面に向けながら、何やらぶつぶつと呟くと、時折左足をさすっていた。

一般の生徒だと判断した雲雀はそのことを疑問に思いながらも心優しい彼女はその女子生徒に近づき、声を掛けた。

 

「あのー、大丈夫ですか?」

「どうして、どうしてよ……」

 

雲雀に声を掛けられた女子生徒は返事をせず、ただぶつぶつと呟いているだけだ。

明らかに様子がおかしい彼女に、雲雀は困ったように柳生に視線を向けるが当の本人はいつもと変わらぬ表情で雲雀の様子を見ていた。

やがて、女子生徒はスカートのポケットから『ある物』を取り出した。

 

「どうして、私を裏切るのよおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!どうしてえええええええええええええっっっ!!!!」

 

顔を上げ、あらん限りの声で叫び血走った目で周囲を当り散らしながら彼女は「オーラを纏い武器を持った戦士」がデフォルメされたイラストのカセットテープのスイッチを押し起動させた。

 

【LOADING…GAME START…】

 

闇を思わせるような暗い電子音声が鳴ると、等身大のカード状のデータが女子生徒の身体に重なるよう包み姿を変えた。

細身ながらも鈍く光る鉛色のボディ、頭部には銀色のモノアイ、何より特徴的なのは左足に包帯のような帯が幾重にも巻かれている。

 

『やっとか!やっと俺の出番だなっ!!良いぞ、破壊だ、破壊の時間だっ!』

『あっははははははは!そうね、壊しましょう!壊して壊して、壊しちゃいましょう!』

 

彼女の欲望『怪我をしない鋼鉄のような丈夫な身体』をモチーフにした怪人『メタリック・エラー』は鎖のついた鉄球を召喚、手に持つとそのまま地面へと叩きつけた。

衝撃によって土煙が舞うと、メタリックの鉄球が土煙で咳き込んでいる雲雀を襲うが柳生は番傘を広げて防ぐも、強烈な一撃で雲雀ごと吹き飛ばされてしまう。

騒ぎを聞きつけた飛鳥、斑鳩、葛城は校庭で暴れているメタリックを見て驚愕する。

 

「あれが…飛鳥さんの言っていた…!」

「おいおい、随分と派手に暴れるじゃねぇか」

「……!」

『あら?健康的な人間が今度は三人も…あっははははははっ!!ぶっ壊してあげる!!』

 

襲い掛かってくる鉄球に飛鳥たちは散開し標準を絞らせないようにするが笑いながらメタリックは鉄球を何度も鉄球を地面に叩きつけ視界を奪うと、鉄球を思い切り振り回し吹き飛ばす。

 

『あれれ?もう終わり?じゃあ壊れちゃって!あははははっっ!!!』

『壊せっ!壊せっ!壊せっ!破壊、破壊しろぉっ!!』

 

衝撃で身動きを取れなくなった飛鳥たちが身構えた時だった……赤いバイクが猛スピードでメタリックと彼女たちの間に割って入った。

 

『なっ!?……きゃあっ!!』

 

突然現れたバイクに動揺したメタリックが突如現れたリアの剣撃と千歳の銃撃によって怯まされている間、運転手である少年はゴーグルを上に上げ、ヘルメットを外すと中性的な顔が現れる…戒だ。

全員が全員…突然現れて、自分たちを守ろうとするように立ち塞がる少年に動揺していたがただ一人、飛鳥だけは彼に既知感を覚えた。

 

(あのバイク…!もしかしてあの子が?)

 

見覚えのあるバイク…ドライグハートから琴音と共に降りると、リアと千歳は二人の両側に並び立つ。

 

「どうやら、完全に取り込まれているみたいですね」

「カー君!」

「わかってる…良いぜ、止めてやるよ。俺が、力づくでな…ウェルシュ!」

 

琴音たちを下がらせると、戒の声と共に赤いミニ四駆…ウェルシュは道路を作り、走行しながら『ある物』を投げ渡す。

戒がキャッチしたそれは赤を基本カラーとした四角いパッドのような奇妙なバックル…中央には四角いディスプレイを挟んで赤と緑のボタンが配置され、上部には何かを挿入するスロット、右側にはグリップとトリガーがあるそれは、見る人が見ればゲームパッドのように見えるだろう。

それ…『アーサードライバー』を腰に軽く当てるとシルクの生地が編み込まれた赤を基調としたベルトが伸び、腰に巻き付いた。

そして戒は懐からもう一つの、小さい物を取り出した。

 

『何っ!?それはっ!!そうか、貴様がっ!!』

 

それを見た男性の人格は敵意をむき出しにする。

戒が取り出した物は他でもない、自分たちより前に開発された純正品『ミラージュカセット』だったからだ。

シャープなデザインをしており、全体的に綺麗な印象を与えるカセットテープだ。

余談だが区別をつけるため相手が使用したカセットは今後『エラーカセット』と呼称する。

メタリックの反応に気にせず戒は赤いドラゴンのファンシーな絵柄をした赤いミラージュカセット…バトルゲームアプリを宿した『ドラゴンカセット』のスイッチを起動した。

 

【DRAGON!!】

 

起動音声と共にバックルの左側に位置するスロットに装填する。

 

【HENSHIN ARTHUR! GAME START!!】

 

すると、和ロックのようなノリの良い待機音声が周囲に鳴り響き、それを背景に戒は左手に軽く力を込めると、それを斜め前に突き出し残った手はバックルのサイドグリップを握り、トリガーに手を掛ける。

 

「……変身!」

 

叫びと同時にトリガーを弾くと四角いディスプレイにドラゴンの赤いグラフィックが映った。

それと同時に、戒の身体を昆虫のような赤く丸い複眼に黒と紫のアンダースーツが全身を包み、カセットの絵柄に描かれた赤い竜…自身の精霊を具象化した『霊装』が召喚されると、パーツ状に展開されてスーツを纏った戒の上に装着された。

 

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

 

電子音声と共に現れたのは門矢戒と言う少年ではなく、赤を基調とした『騎士』がそこにいた。

左右に配置されたドラゴンを模した赤い装甲と牙のような白いパーツ。

マスクの上部に装着されたV字型のホーンが生えたドラゴンのバイザーから竜の騎士を彷彿させ首元に出現した赤いマフラーが変身の余波で靡く。

 

「行くぜ、ウェルシュ!」

『OK! Start Our Heart!!』

 

飛鳥を助けた騎士、『仮面ライダーアーサー ドラゴンリンク』はメタリックを指さし、告げる。

 

「お前の物語、ここで終わらせる!」

 

アーサーとメタリック・エラーの…戦闘の幕開けだった。




取りあえず、変身まで。後半から戦闘パートです。
キャラクターを描写するのが難しいです…勉強勉強。


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COMBO2 共有×説明

気分が上がっているうちに投稿です。オリジナルライダーを書く上で戦闘描写は重要課題ですね、飛鳥たちのキャラも極力崩さないようにしないと……。
と言う訳で、第二話という名の戦闘パートです。どうぞ!
……確かめたけど大事な場面で誤字とかあったらどうしよう……。


飛鳥を除いた斑鳩たち忍学科のメンバーは今、信じられない光景に唖然としていた。

二つの声で話す怪人、そして突如現れた少年の変身した姿……今まで見たこともない光景に全員が固唾を飲んで見守っていた。

 

『くっ、はっはははははっっ!良いぞ、壊し甲斐のある奴が来たっ!!破壊、破壊するっ!』

『あっはははははははっっ!!!』

 

目の前の騎士を明確に『壊すべき存在』と認識したメタリックは鉄球を叩き込もうとするが、隙の多いその攻撃をアーサーはバックステップで躱す。

 

『は?あ、当たれ!当たりなさいよっ!この!このっ!!』

「ふっ、あらよっと!」

 

続けて放たれる攻撃を、身軽な動きで避けていくアーサー。

 

『…ああああああああああっ!さっさと、私の手でぶっ壊れなさいって言ってんでしょおおおおおおおっっっ!!!!』

 

攻撃が当たらないことに苛立ちを感じたメタリックの攻撃は激しくなるも軌道が単純になっていく。

それが命取りとなった。

 

「その瞬間を待ってたぜ!」

 

その言葉と共にアーサーは身体を捻ると、抉るようなキックを鳩尾に叩き込んだ。

 

『がっ!?』

「もう十分動いたろ?こっからは俺のターンだ!」

 

思わぬ反撃を受け後退するメタリックに宣言すると、アーサーはマフラーと共に身を翻し、跳び蹴りを浴びせると、回し蹴りからのアッパーキック、ミドルキックを順に叩き込んでいく。

 

『ぐぅっ!!』

 

次々と繰り出される足技になす術もないメタリック。

武器である鉄球で防ごうにもそれより早くアーサーの蹴りが飛び、攻撃に転じようにもその攻撃をする時間が潰されているのだ。

 

「あの身のこなし…彼は一体……」

「すごい……!あんなに速く攻撃出来るなんて……」

「カッコ良い…!」

 

アーサーのスタイリッシュながらも前衛的な動きに斑鳩や飛鳥、雲雀は感嘆の声を上げ柳生や葛城も何も言わないながらも彼の戦い方に魅了されていた。

 

「オラッ!」

『があああああああっっっ!!!』

 

アーサーから繰り出された二段蹴りをくらい、中央へと吹き飛ばされるメタリック。

 

「どうした、もうヘバったのか?」

『くそっ、くそっ!!それならこれだっ!これで破壊する!!』

 

余裕飄々と言った感じでメタリックの元に近づくアーサー。

だが、エラーが突然叫びだすと鎖を長く伸ばし鉄球を飛ばす…単純な軌道のそれをアーサーは難なく躱す…だが。

 

「うおっとぉ!?」

 

身体中から小さな鉄球の礫を発射してきたのだ…驚きながらも、アーサーはそれを横転して躱すが、休むことなく放たれる礫をくらってしまう。

 

「つっ!痛った!!やりやがったな、この野郎!!」

『戒!ボタンを押して能力を解放するんだ!!』

 

「了解!」とウェルシュの声に応えるとアーサーは態勢を立て直しドライバーの赤いボタンを押した。

 

【ATACK ARTS! SONIC BITE!!】

 

赤いオーラに覆われその場で軽く跳ねると、アーサーの姿が消えた。

 

『なっ、きゃああああああああああああっっっ!!?』

 

驚きの声を上げるも強烈な一撃を何時の間にか浴びせられたメタリックは地面に叩きつけられると同時に、アーサーは再び姿を見せるもまた姿を消し追撃を行う。

この時、攻撃を受けているメタリックや戦いを見ていた飛鳥たちは考える間もなかったがアーサーはバックルに付いているボタンを押すことで自身の魔力を解放し、様々な能力を発動することが出来るのだ。

今、アーサーが使用している能力は赤いボタンの『脚力強化』であり姿が消えたように見えたのもメタリックがその速度に付いて来られなかっただけの話なのだ。

口を開けたドラゴンが噛み砕く魔力のエフェクトと共にアーサーは蹴り技による攻撃を続ける。

更に……。

 

【MAGICAL ARTS! BOWABOWA KACCHI-N!!】

「オラアアアアアアアアアッ!!」

『がああああああああああっっ!!?』

 

白いボタン『熱操作』の能力で炎を纏った両足による締めのドロップキックをくらったメタリックの身体が吹き飛ばされた。

数メートル地面に転がったのを確認するとアーサーは能力を解除し動きを止めた。

 

『ぐっ、うぅ…こうなったら。来いっ!雑兵ども!!』

 

メタリックが叫びながら、二つの黒いエラーカセットを宙に投げると、「NPC」と書かれた胸部の白いプレートに、黒いスーツと手袋の容姿に骸骨の仮面を被った怪人『ポーントルーパー』が六体現れる。

 

『ハカイ、ハカイ』

『ヒャッハー!ブレイクタイムだぁっ!ブレイクブレイクーッッ!!』

『ヤートット、ヤーットット』

 

支離滅裂な言葉を繰り返しながらポーントルーパーはアーサーに群がり短剣を振り下ろしてくる。

アーサーはそれを躱し攻撃を仕掛けるが先ほどまでのメタリックの戦闘と、数で押してくる相手に苦戦を強いられてしまう。

そして、後ろからポーントルーパーが攻撃を仕掛けようとした時だった。

 

「やあっ!!」

『ブレイクッ!?』

 

仲間の制止の声を無視して駆けだした飛鳥が脇差で防いだのだ。

「忍転身」と呼ばれる『忍』としての力を開放するための忍法によって半蔵学院の制服からベージュ色のカーディガンと緑色のチェック柄のスカート、ニーハイソックスとローファーを身に着けた忍装束を身に纏った飛鳥は、籠手を装備した両腕で二振りの脇差でポーントルーパーの短剣を抑えていた。

急に助けに入ったアーサーと琴音たちは驚くが、専用武器…グレンバーンを召喚して三体の戦闘員を斬り伏せると、困ったように言う。

 

「昨日、深入り禁止って言ったんだけどなぁ」

「ごめん。でも…やっぱり放っておけないよ…だって」

 

私は忍だから……。

彼女の言葉を受けたアーサーは一瞬面をくらったが仮面の下で笑う…彼女の純粋ながらも迷いのない言葉に、尊敬し感激したのだ。

飛鳥とアーサー…戒との間に芽生えた絆を認識したアーサードライバーは『シェアリングナイトフォース』機能を展開しアーサーの持つ『エラー破壊能力』を飛鳥と共有する。

 

「何これ、力が…!」

『戒が君のことを認めてくれたことの証明さ、行こう戒!」

「ああ!タッグプレイで一気に終わらせてやる!」

 

宣言と同時にアーサーはバッタのように高く跳躍し飛鳥は二振りの脇差を構えると、メタリックと残ったポーントルーパーに向かって走る。

 

「秘伝忍法『二刀繚斬』!!」

 

メタリックたちが攻撃を仕掛けるよりも早く、飛鳥は前方に跳躍して交差状に斬りつけ攻撃を受けた相手を前方に吹き飛ばす。

だが、それだけでは終わらない…跳躍したアーサーが落下の勢いを利用した踵落としでポーントルーパーの頭を砕き、消滅させる。

 

「よっと!……そして、シュートォッ!!」

『『ぎゃああああああああっっ!!?』』

 

アーサーに足払いされ、うつ伏せに倒れると頭部をサッカーボールに見立てて蹴り飛ばされたポーントルーパーは主であるメタリックを巻き込みながら消滅する。

背後が隙だらけとなったアーサーを攻撃しようと最後の一体が短剣を構えるが……。

 

「させないよ!」

『っ!?』

 

それに気づいた飛鳥が脇差で防ぎ、もう片方の刀で空いた胴体に斬撃を与える。

そしてアーサーが一歩そこから退くと……。

 

「秘伝忍法『半蔵流乱れ咲き』っ!!」

『ガアアアアアアッッ!!』

『ちょ、ちょっと!こっちに来て…ああああああああああっっ!!』

 

飛鳥は前進しながらポーントルーパーを連続で斬りつけ、回転攻撃に移行してメタリックを巻き込み、跳び上がって刀を地面に突き刺すと、尖った岩を前方に三つ発生させた。

攻撃を受けたポーントルーパーは消滅し、メタリックも尖った岩によって吹き飛ばされ地面を転がる。

 

『ぐっ、まさか、俺が破壊されるだと!?バカな、こんなことがっっ!!』

『いや、まだ私は壊していない、壊さなきゃ…いやっ!もう壊したくないっ!!苦しませなきゃ…嫌だぁっ!もう誰も苦しませたくないよぉ……!!』

 

男性の人格は必死に抵抗しようとするが、攻撃を受け続けたメタリックの融合者である女子生徒は正気を取り戻したのかエラーとしての破壊欲求と本来の明るく優しい性格に苦しみ、嘆く。

彼女の悲痛な言葉が聞こえた飛鳥は目の前の騎士……仮面ライダーに自分の気持ちを託す。

 

「……お願い!仮面ライダー!」

「ああ!ラストはこれで決めてやるっ!!」

 

快く了承したアーサーはスロットからドラゴンカセットを抜き取り、左腰のスロットに差し込み、片手で赤と緑のボタンを同時に押した。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! DRAGON!!】

「はぁぁぁぁぁ……!」

 

必殺技を告げる電子音声が鳴り響くと両足に炎と冷気のエネルギーを纏ったアーサーは助走をつけ、勢いよく跳び上がりそして……。

 

「はあああああああああああっっ!!」

 

メタリック目掛けての急降下キック『ドラゴンストライク』を繰り出した。

 

『ガアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

蹴り貫かれたメタリック・エラーはその場で巨大な爆発を起こし、それを背景にアーサーは華麗に着地した。

 

『あ…あぁ……』

 

爆発したエラーの身体がボロボロに崩れ落ちると中から気絶した女子生徒が倒れるように現れ、魔力だけとなったその身体はエラーカセットと共に粉々に砕け散った。

 

「後は美海姉さんに連絡、だな……」

 

アーサーは意識を失った彼女の元に駆け寄り安否を確認すると琴音に目線を送る。

その意味を理解した琴音は頷きスマホを手にすると、美海に連絡した。

 

 

 

 

 

(ど、どうしよう……)

 

幸村琴音は目線を落とし、どうしようもない空気に飲み込まれていた。

エラーを戒が倒し、美海にも連絡を取り、女子生徒も無事に確保され事件も解決した。

しかし、そのまま帰ろうとしたところ、斑鳩が良い笑顔で状況説明を求めたため、琴音たちは、自身の学校である半蔵学院……裏の顔である忍学科の校舎へと案内されたのだ。

詳しい話は彼女たちの担任が来たら話す予定なのでそれ以外では特に話すこともないし、向こうもどう話しかけたら良いか困惑しているようだった。

重い空気に耐えきれず、助けを求めるように隣にいる戒とリア、千歳に視線を向けるが……。

 

「……♪」

「「もきゅもきゅ」」

(何でこの三人こんなにリラックスしてんの!?よく物怖じしないねっ!!)

 

周りの視線や気まずさも何のその、戒はスマホで音楽(おそらくアニソン)を両耳に付けたイヤホンで聴いており、千歳とリアに至っては途中で買った肉まんを同じタイミングでほおばっていたのだ。

無論琴音はそれに対してツッコミを入れたいが余計気まずくなると思ったので口には出さなかったが……。

そんな状態がしばらく続いていたが、扉が開くとそこには一人の男性がいた。

短くした白髪に上下とも黒いスーツ、何処か熟練の雰囲気を漂わせた壮年の男性は戒たちの元に来るとまずは軽く頭を下げた。

戒は自身のしていた行動を止め、彼を見据えると嬉しそうな笑みを見せた。

 

「久しぶりです、『霧夜』先生。やっぱり何か隠してたんだ」

「それはお互い様だ。お前も私に隠しごとをしていたんだからな」

 

そんな二人の会話に驚いたのは琴音だけではなかった。

飛鳥たち半蔵学院のメンバーも驚きを露わにしており飛鳥が代表して彼に尋ねた。

 

「き、霧夜先生!彼と知り合いだったんですか!?」

「ほんの少しだけな。あの時はただの正義感の強い少年だと思っていたが……」

 

そこまで言うと顔を引き締め、霧夜は戒たちに対して鋭い視線を向けた。

 

「今度はきちんと、話してくれるな?」

 

その視線に琴音や肉まんを頬張っていた二人は委縮してしまうも、戒は困ったような表情を浮かべる。

 

「あー、事情は分かるんですけど…話すのはちょっと難しいっていうか、教えられることはないと言うべきか……」

「…オレたちを信用出来ないと……?」

「でも、せめてあの怪物のことを教えてくれても…」

「別にそういうわけじゃありません。こういうのは専門家の出番だって言いたいんですよ」

 

「専門家」と戒の言った単語に忍学科メンバーが、皆一様にして首を傾げる。

すると、道路のような小さい道を造りながら走行する赤いミニ四駆…「ウェルシュ」と呼んでいた機械が現れたのだ。

 

『…やれやれ。なるべく秘密にはしておきたかったが…致し方ない』

「し、喋ったっ!それにこの声……」

『ああ、私は自分の意識をベルトにも移せるからね…初めまして。私は「ウェルシュ」、あの怪物と、仮面ライダーの専門家さ』

 

上部にあるディスプレイで器用に笑顔を見せ、なおかつ流暢な言葉で自分たちと会話するミニ四駆に戒や琴音たちを除く全員が驚きを露わにしており、霧夜も冷静を装っていたが驚きを隠せないでいた。

そんな彼女たちの反応にウェルシュは楽しそうな表情を見せると、話を始める前に忠告をする。

 

『さてと、先ほどのことを説明する前に一つ約束がある。今から私や戒の言うことは他言無用だ。他の人はもちろん友人や家族にも、だ。約束出来るかね?』

 

その問いかけに全員が力強く頷くとウェルシュは質問を促す。

 

『では、まずは何を聞きたい?』

 

そして代表として斑鳩がウェルシュに全員が思っていたであろう疑問を投げかける。

 

「それでは、まずはあの怪物のことです。人が変身したように感じましたが……」

『あれはエラー……ミラージュカセットによって、人間に宿っている精霊の魔力をその身に融合させた霊子生命体(データせいめいたい )だ』

「そしてそれと戦い、人を守るのが俺の…仮面ライダーの役目だ」

 

ウェルシュの話を続けるように戒は一連の話を迷いなく話し始めた。

人間には遥か昔から己の内側に存在する霊的エネルギー『精霊』と『魔力』のこと、そしてそれを利用したミラージュカセットの存在、そして怪人エラーと彼らが起こす事件『救済』のことなど彼らが知っていること全てを……。

やがてしばらくすると戒とウェルシュの話が終わる。

話を聞き終えた霧夜は腕を組んだまま、妖魔とは違う脅威の存在のことを考え出した。

 

「成るほど、我々が知らなかった未知の敵か…………門矢君、幸村君、リア君と千歳君、俺のわがままだが聞いてくれ」

 

霧夜の、いや忍学科のメンバーたちの決意を秘めた眼差しに戒や琴音たちは何も言わず先を進めるように促す。

 

「我々、忍学科は君たちの力を借りたい……どうか、力を貸してくれないか?」

 

その言葉を聞かなくても、戒たちの答えは既に決まっていた。

 

「もちろん、断る理由なんてありませんしね」

「宜しくお願いします!」

「お願いします」

「……」

『これから我々はチームだ。よろしく頼むよ』

 

五人の言葉を皮切りに空気が緩んだような、安堵したような雰囲気が流れた。

 

【門矢 戒  所属:政宗探偵事務所兼国立半蔵学院通常科→忍学科所属】

【幸村 琴音 所属:政宗探偵事務所兼国立半蔵学院通常科→忍学科所属】

 

To be continued……。




 あー、長い……文章が長くなってしまうのも反省点ですね。
 今回の話で出た『シェアリングナイトフォース』はメタ的に言うと、クロスしたキャラを弱くさせないための配慮です。詳しくは次回の番外編で。
 オリキャラたちが出ましたので、タグに追加しておきます。ご迷惑をおかけして申し訳ありません(ペコリ)
 霧夜先生が「君」づけなのは出会って間もない生徒なら言いそうだなと思ったので、次回には名前で呼び捨てになります。
 ポーントルーパー(戦闘員)のセリフは完全にネタです(おい)、適当に思いついた言葉を喋らせています。
 てなわけで、本日のエラーリストです。ではでは。ノシ

メタリック・エラー CV中原麻衣・竹本英史
将来を約束された半蔵学院の元陸上部の女子が融合変身した姿。細身だが鈍く光る鉛色のボディ、頭部には銀色のモノアイがある。左足に包帯のような帯が幾重にも巻かれているのは原因となった怪我があるから。
鎖つきの鉄球による攻撃と身体中から発射される礫が武器、パワーに優れているが攻撃は普通に通るため、防御力が高いわけではない。
両親からも期待されていたが、練習中に足を怪我しその時の両親の表情を見たことにより裏切られたと思った彼女はエラーの力を手に入れた後、声に従って裏切った場所…自宅、病院…そして学校を襲おうとした。
余談だが両親が辛そうな表情をしたのは「娘の大好きな陸上が出来なくなるから」であり、「期待外れだったから」ではない。
ちなみ、半蔵学院が休みになったのは戒の策略だが飛鳥たちがいたのは完全に予想外だったので実は内心焦ってた。


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COMBO EX アーサーチャンネル!!

 今回は番外編です。メタ発言が多いので苦手な方はご注意ください!現時点で分かる設定を戒たちがおもしろおかしく解説していくコーナーです。
 ちなみに閃乱カグラをクロス先に選んだ第一理由は自分が好きな作品だからです。


「せーの」

『「「アーサーチャンネル!!~~~~」」』

 

ラジオのスタジオみたいな場所でウェルシュ、戒、琴音の三人が番組名を口にした途端、拍手や歓声が沸き上がった。

賑やか雰囲気の中、戒は挨拶を始める。

 

「どーもみなさん、おはこんばんにちわ!ボンボンで好きな漫画は『ロックマンX』の門矢戒(かどや かい)です!よろしくお願いしまーす!!」

『おはこんばんにちわ。ボンボンで好きな漫画は「サイボーグクロちゃん」のウェルシュだ。よろしく』

「え?これ言わなきゃ駄目な雰囲気なの?えーと、好きな漫画は『でんじゃらすじーさん』の幸村琴音(ゆきむら ことね)です。よろしくお願いしまーす!」

 

琴音が名乗った瞬間、拍手が止まる。

 

「何でっ!?」

「ボンボンの漫画で答えないから……さあ、やってまいりました『アーサーチャンネル!!』この番組はどんな番組かと言いますと!」

『本編で語れなかったとこ、感想であった身近な疑問を答えていく所謂「質問コーナー」だね、まえがきでも触れたがこの番組はメタ発言が多い…それを好まない人はバックすることを勧める』

「バックします、バックします」

「そこ!読者たちのトラウマを抉らない!!…でもそう言うメタ的な話って作者が直接出て私たちとコントしながら解説するものじゃないの?」

 

戒の言葉にツッコミを入れながらも、琴音はウェルシュに対して疑問をぶつける、確かにそう言った場合、作者が直接出るかもしれない。

だが、ウェルシュはそれに対しての答えを出す。

 

『彼はシャイだからね。それに、「作者とキャラは一線を引かなければならない」と考えているから、今後登場することはないよ』

「何その妙なこだわり…じゃあ作者が私たちと一緒に出ることはないってこと?」

「それだけの覚悟をしているってことだろ?その代わり、作者の声を俺たちが代弁するって形になる。分かったか琴音?」

 

変なところで凝り性な作者についての話を終わらせると、戒たちはいよいよ本題へと入っていく。

 

『さて、そろそろ話の本題へと入ろうか。最初はこれだ』

 

そう言って、ウェルシュは自分たちの真後ろにあるモニターを電子信号で点けると、最初のお題が映った。

 

【精霊について】

「多分、これが一番知りたいだろうなー……本編じゃ解説しきれなかったし」

「実際、今作での精霊の定義って何なの?ウェルシュ」

 

戒が苦笑い気味にしていると、琴音は精霊の専門家であるウェルシュに質問を始める。

 

『ふむ、本編でも触れているが精霊とは一般的に、人間が生まれた時から体内に宿しているとされる霊的エネルギーで、無意識の内にマナを取り込み、放出することによって潜在能力や成長を促しているんだ…「自然訶学」という名前の学問で研究も行われている』

「じゃあ、私たちの中にも精霊はいるの?」

『もちろん。体内に取り込んだマナは「魔力」として変換され、さらに己に宿る精霊を認知することで自然の力を自在に行使することが可能となる……これを「精霊術」と言う。感想の方でも少しふれたが、忍の使う忍法と精霊術は実は同じ存在だ』

「「え!?そうなの!」」

『何で君まで驚くんだ戒……彼女のたちの「秘伝動物」も精霊で、彼女たちが戦えるのもそのおかげという訳さ。オリジナル設定が閃乱カグラの世界観とかみ合ったのもクロスしようとした理由の一つだね』

 

そこまで話したところで、「ただし」とウェルシュは付け加える。

 

『これは、あくまでも一般定義だ。例外として自然界に誕生・生息する精霊と契約してその加護を得る者や、雲雀のように宿している精霊に「自我」が芽生えることもある…とにかく不思議が多いのさ。死んだ人間が精霊に転生したケースも確認されているらしいが、ね』

「それじゃ、『エラー』はどうなの?」

「それについては俺が答えるよ」

 

ウェルシュの精霊についての説明が終わるのを見計らい、次の質問をした琴音に答えたのは、ついさっきまで説明を聞いていた戒だった。

ボタンを押し、次のお題へと切り替えると説明を始める。

 

【エラーと仮面ライダーについて】

「まずエラーについてだけど、本編で語った通りエラーカセットで人間に宿っている精霊の魔力を具現化させて身体に融合させる通称『霊子生命体』だ……漫画を読む人は『イーブルナッツ』、仮面ライダーを知っている人は『ドーパント』や『融合進化態ロイミュード』が近いな」

 

「イーブルナッツって」と戒の微妙な例えにツッコミを入れたかったが、喉の奥まで出かかった言葉を抑え、琴音は話を促す。

 

「融合条件とかってあるの?」

「基本的に幹部たちの目的は『救済』だ。だから条件は悲しみ・憎悪・嫉妬などの『負の感情』を持つ人間だ。だからエラーたちの中には理不尽への復讐って奴もいる」

「知っていたけど……何だか、戦いづらいね……」

「だけど、一度エラーに融合すると精神が歪められるしもう片方の人格が悪質だからな。倒すと言うよりも、犯行を繰り返さないよう止めるって考えている」

 

ちなみに、エラー側の…融合者でない方の人格はエラーカセットが精霊に植え付けた擬似人格のため厳密には融合者が宿している精霊の人格ではない…ただしこれも例外あり。

そして、いよいよ本題は仮面ライダーの話へと入る。

 

「仮面ライダーアーサー…俺が変身するライダーだな。アーサードライバーとミラージュカセットによって変身する。モチーフはゲームと騎士だ」

「名前の由来は、ゲームや漫画で有名な騎士で王様の名前からだよね」

『そうだね、本来はゲームらしい名前にしようと考えていたがそれだとエグゼイドと被ると危惧した作者が名づけたらしい』

「でもハーメルン内で検索を掛けると…?」

「カー君、それ以上はやめよ?次にミラージュカセットだけどこれにもモチーフはあるの?」

 

これ以上は「禁句だ」と言わんばかりに戒を黙らせ、ミラージュカセットへの話題に入る。

 

「基本的にはダブルみたいにモチーフは自由だけど、実はスマホアプリが裏モチーフになっていたりする、基本フォームの『ドラゴン』はソロでも多人数でもプレイできるスマホゲームが元ネタだ」

「だから、アーサードライバーに『シェアリングナイトフォース』っていう機能があるの?」

『いや、元々は閃乱カグラのキャラでもエラーを倒せるように配慮した設定だからあまり関係はない』

「あーそうですか」

 

あまりにも行き当たりばったりな設定に幻滅する琴音……そして、いよいよ最後のお題へと突入していった。

 

【オリキャラについて】

『まだ、始まったばかりだから仕方ないが…登場したのは主人公の戒、琴音、リア、千歳。そして、名前だけ出た美海だね』

「美海姉さんは本編に本格的に登場したら話すとして、ウェルシュは誰から聞きたい?」

『そうだね、一番気になるのは君や琴音の関係だ…二人はいつ知り合ったんだい?』

「「さあ?」」

『「さあ?」って…君たち幼馴染だろう……』

「いや、実は私たちも分からなくて…物心ついた時から一緒だったし」

 

息ぴったりに小首を傾げる二人に呆れるウェルシュを制すると、琴音が話を始める。

 

「小さいころから…それこそ保育園から現在までずっと一緒でね?最初に会ったのが何時かすら思い出せないんだ。お母さんが言うには産婦人科でおばさん…カー君のお母さんに会って意気投合したのがきっかけって言っていたけど……」

「家も隣同士で親同士も仲が良い…まるでライトノベルも真っ青な設定だよな。現に母さんもそう言っていたし」

『では、リアと千歳は?』

 

本人たちが産まれる前から親同士で交友があったことにウェルシュは驚くが続きを聞くため質問を重ねる。

 

「うん。二人は貧民街出身の傭兵でお母さんの後輩の衛宮さんの家で世話していたんだけど、お母さんとお父さんが養子縁組してくれて家族になったんだ。だから戸籍上は私の妹になるよ」

「リアは大人しい毒舌家で大まかなイメージとしては『黒鉄珠雫』、千歳は人見知りなクールビューティ。ちなみに千歳は『閃乱カグラNewwave』で登場するキャラと同一人物だ」

 

「イメージCVは青葉りんご氏(リア)と近藤佳奈子氏(千歳)な」と戒が二人の説明を終えると、琴音は話を続けていく。

 

「私の家は道場で、お母さんはそこの当主なんだ。私と同じで子どもみたいな体型だけど、不良グループを一晩で壊滅させたとか噂があるけど、おっとりして優しい人なんだ」

「小さいころは、琴音と一緒になって鍛えてもらっていたっけ?そのおかげで俺はすっかり足癖が悪く…」

「うん、自分の足癖の悪さをお母さんのせいにしないでくれる?話は変わるけど私の外見モチーフは『DRACU-RI○T!』に登場する『布良梓』でイメージCVはロリ声Verの『南條愛乃』さんだよ」

 

そこで、自分の話を終えると、バトンタッチするように戒が自分の家族についての話を始める。

 

「で、次は俺の話になるけど『門矢』って姓は父方の姓で『政宗探偵事務所』の政宗は母方の姓なんだ。母さんは探偵でペット探しから街のお手伝い、挙句の果てには殺人事件の捜査までやっていたんだ」

『改めて聞くと色々と凄まじいな君の母親は。そう言えば戒は次男だったね、長男と父親は何をしているんだ?』

「母さんが言うには、二人とも『世界中』を旅しているんだと……二人とも仕送りしてくれるから文句はないんだけど、兄さんはフリーダムだからなぁ…引っかけ回すのが好きな人だし……まぁ本編には出ないけど」

 

兄と父親について軽く説明して流すと、話を続ける。

 

「俺のイメージCVは『逢坂良太』氏だけど外見モチーフは特にないな。黒いパーカーとズボン、ボーラーハットと黒い手袋がトレードマーク。母さんの外見モチーフはリトバスの『西園美魚』でイメージCVは『巽悠衣子』氏だな。日傘とカチューシャがトレードマークで俺が中性的な顔立ちなのと推理力は母さん譲り、兄さんは父さん似で長身…理不尽だよな!(泣)」

『遺伝子の悪戯だと思って諦めたまえ。美海は戒の母親の妹で後二人いるがそれはまたの話にでもしよう…話を戻すが君たちの家族はどれほど仲が良いんだい?』

 

途中から涙を流し始めた戒に軽く引くが、強引に話を変えてこの話題から逃げると琴音もそれを察したのか話を広げ始めていく。

 

「今でも二人一緒にお出かけしたり、買い物に行ったりしているよ?でも、私たちが小学校の時は私たちと仲が良かった子たちのお姉さんとも仲が良かったよね、カー君」

「そうそう!妹たちは癖が強いのにお姉さんがとても素敵でさ、優しく大らかで美人で料理も出来て、まさに完璧な女性、おまけに長く伸びた黒髪と笑顔が特に素敵だったんだよ」

「うん、実の妹や弟みたいに可愛がってくれたよね……カー君は『あの人』みたいな女性が好みなの……?」

「胸とお姉さんが嫌いな男なんていない!!」

「へーそうなんだー、ふううううううううん」

 

戒の発言に琴音は不機嫌になっていき空気が重く、ギスギスしてきたが鈍感なりにそれを察した戒は琴音に言う。

 

「ほらほら機嫌を損ねるな。お前だって普通に可愛いんだからそんな顔するな」

「ふえっ!?/// か、可愛いって…!///」

「まぁ、もう少しその胸部装甲が豊かになれば文句はな…」

「誰の何処が洗濯板だゴラァッ!!!」

 

戒のその言葉に琴音は満更でもない表情で頬を赤くしたが、その後の残念な発言をした彼の顎にアッパーカットをぶち込み「ブベラ!」と吹っ飛ばされる相棒にどうしようもなく思うウェルシュだった。

付け加えると、話題に出た三姉妹とも家族ぐるみ仲が良く食事会をしたり、一緒に遊んでましたが、中学に入った時に三人は転校してしまいました。

ちなみに「閃乱カグラSV・EV」をプレイしたことがある人なら分かるので考えてみよう!!

 

 

 

 

 

気絶した戒を復活させ、怒り高ぶる琴音を宥めた後、ウェルシュは話をまとめるように言葉を述べた。

 

『さて、そろそろお別れの時間だね。キャラが増えたりしたらまた似たようなことをするかもしれない。人物紹介やライダーの設定もだが、本編の方も気長に待ってくれるとありがたい』

「以上、お相手は門矢戒と!」

「幸村琴音と!」

『ウェルシュで、お送りしました』

「「『バイバーイッ!!』」」

 

その言葉の後、最初と同じいやそれ以上の拍手と歓声と共に締めくくられた。

アーサー本編もお楽しみに!




 如何でしたでしょうか?『アーサーチャンネル!!』もし好評だったら第二弾も計画していますがあくまでも予定です。
 戒は基本ボケ役で、琴音はツッコミ役、ウェルシュたちは状況に応じてボケたりツッコミを入れたりします。
 戒は元々女の子が苦手で琴音以外の女子に恥ずかしがっていましたが母親が恋愛ゲームを薦めた結果、話したり触れられても大丈夫になりました。初心なところは変わってませんけど。ちなみにそんな彼の好みは黒髪ロングで胸の大きな大らかな性格のお姉さんです。十中八九小学生の時に構ってくれた『彼女』が原因です。
 ではでは。ノシ


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COMBO3 怪盗×初仕事

 少々長くなりましたが…投稿です。
 今回は閃乱カグラを知っている方はご存じ、色々と愛されているお兄様こと「村雨」が登場します。アニメやゲームで声優が違うので今作ではイメージCVは千葉進歩でお願いします。


目覚まし代わりにしているスマホのアラームと穏やかな朝日に照らされると、戒の瞼はゆっくりと開いた。

寝癖のついた頭を掻き欠伸をする、そして、ゆっくりと起き上がり着替えの準備をする…半蔵学院の学生服の一つであるパーカータイプ(実は密かにお気に入りの)、ズボンに着替えるとそのまま下の階へと降りて行った。

 

 

 

 

 

「だーかーらーさあああああ!母さん、好い加減離してって言ってるだろっ!?」

「嫌ですうううう!戒が、私のカワイイ息子二号がケダモノ共の檻にーっ!!」

 

朝食を終え、必要な物をカバンに入れて登校しようとする戒の邪魔をするのは、丈の長い白いワンピースを着た少女を思わせる小柄な女性……何を隠そう戒の母親でもある『門矢美緒』だった。

青色の少し長いボブカットヘアーに、赤いカチューシャが特徴の彼女は息子を学校に行かせまいと彼の両足にしがみつき必死の抵抗をするがそんな彼女を振りほどこうとするという朝とは思えないほどのテンションを見せる親子だがこうなってしまったのには理由がある。

 

「言ったじゃん!?俺は、忍学科に編入したのっ!分かる!?…てか、何で数日前のことをほじくり返すのかなっ!?」

「後で琴音ちゃんから聞きましたよ!?そこは女の子しかいないって、しかも巨乳しかいないって!!そんな場所にあなたを行かせるわけには行きません!」

「巨乳じゃない、爆乳だっ!」

「猶更行かせるわけないでしょうがあああああ!!天よ!私にこの子を守るための力をおおおおおおおっ!!!」

「負けるかぁっ!天よ!我に母を振りほどくための力をおおおおおっっ!!」

 

遅刻する前に登校したい息子と過保護な親バカ…馬鹿な親二人のやり取りは、迎えに来た琴音が「朝から何してるの二人ともっ!?」と、止めに入るまで数分間も続いた。

 

 

 

 

 

斑鳩と葛城はある人物、門矢戒と言う少年について考えていた。

新たに忍学科に編入してきた彼と数日過ごしていたが実のところ、琴音とは違い彼の本質はまるで分からなかったのだ。

言動は一般的な男子のそれだが、目上の者である自分や葛城にも敬意を払っているがそれでも距離を取っている訳ではなく何処か親密さを感じる。

根が善人なのは分かった、だが彼のその本質…『なぜ人を助けようとするのか』までは分からなかったのだ。

だからこそなのか、自分や葛城たちが未だアーサーの力を共有出来ないのは……。

そう、アーサーの力を共有出来たのは忍学科の中では飛鳥ただ一人だけ、そのことについてはウェルシュ曰く、自分たちの中に戒を信用しきれない何かがあるということ…そのことを聞いていた戒は「時間がどうにかしてくれる」と言ってくれたが、斑鳩は申し訳なく感じていた。

自分のそんなマイナスな感情を振り払うと、資料を睨んだまま机から離れようとしない戒に斑鳩は淹れたお茶を近くに置く。

 

「『欲望を盗む怪盗』……」

「ここ最近、同じような事件が立て続けに起きているんだよね?」

 

リアと千歳がまとめてくれた事件の資料を読んでいる戒の横に飛鳥が顔を覗かせる…

欲望を盗む怪盗は最近街を騒がせている事件であり警察も手を焼いている事件である。

その概要は名前の通り『ターゲットである資産家や金融会社の社長などの欲望、特に収集欲を盗み欲望を抜き取られた人間は狂ったように所有物をばら撒きやがて廃人になる』と一見すれば都市伝説のような話だが、既に二・三件起きており警察も動き出す事態になっている。

そして、気になる目撃情報もある…。

 

「『唐草模様の怪物』かぁ……」

「…エラーの可能性が高いというわけか」

 

琴音の呟きに反応した柳生の言葉に全員の顔の表情が引き締まる…しかし、戒だけはなぜか釈然としない表情をしていた。

 

「けど、何で犯人は世間にアピールするような真似をするんだ?少なくとも、何か理由があるはず…」

 

戒が資料にある『頭に手を当てて豪邸から立ち去ろうとする怪人』の写真を見ながら疑問を口にし時、不思議な物体…所謂『煙玉』と呼ばれる忍具の一つ転がり派手な音と共に煙が噴出…戒や琴音たち生徒は一時的に視界を奪われ激しく咳き込む、そして煙が晴れるとそこには一人の男性…霧夜が立っていた。

 

「…ケホ、霧夜先生。もう少し普通に出れないんですか?」

「俺の忍としてのこだわりだ。それよりも戒、お前に依頼が来ている」

 

戒の呆れたような言葉に霧夜は口元に笑みを浮かべながら軽く流すと「入れ」と扉の外にいる人物に声を掛けた。

 

「お、お兄様!?」

「久しぶりだな、妹よ。元気していたか?食事は摂っているか?最近足回りが太くなったと聞…ブベラッ!?」

 

扉を開けた人物に斑鳩が驚く…入ってきたのは彼女の義兄でもある男性『村雨』、くたびれた外見や白服だがこれでも大学では優秀な成績を収め、鳳凰財閥の社長…表の顔に就任する人間なのだ。

所謂エリートな彼は妹に兄らしい言葉を投げ掛けるが最後の余計な一言のせいでその妹に殴り飛ばされていたが顔を腫らしながら戒に視線を向ける。

 

「…で、お前が噂の探偵か……」

「はい。政宗探偵事務所の門矢戒と申します」

「ふむ、礼儀も良いし客に笑顔を向けられる…顔も良い。どうだ?うちの跡取りに…冗談だ斑鳩頼むから飛燕を降ろしてくれ」

 

営業スマイルを浮かべた戒に何を思ったのか村雨はスカウトを開始するが斑鳩からの殺気に一呼吸で謝罪をすると、気を取り直して以来の説明を始める。

 

「依頼と言うのは、『弟』についてだ」

「っ!?彼に、『柊介』に何があったのですかっ!?」

 

村雨のあるキーワードに反応した斑鳩は村雨に食って掛かるが、村雨は「落ち着け」と手で制すると話を続ける。

 

「話を戻すが弟、柊介がここ最近家に帰るのが遅いんだ…いやただ遅いだけなら俺や母さんたちも心配はしていないんだが、帰ってきても様子がおかしい上に食事に呼ぶまでは部屋に籠りきりでは…気になって留守の間に部屋を調べたのだ」

 

そこまで言うと、村雨は一枚の写真を取り出し戒や飛鳥たちに見せる。

 

「っ!カー君、これって…!!」

「なるほど、だから俺に依頼しに来たわけだ」

「頼む…もし弟に何かあったら」

「任せてください。この依頼、引き受けました」

 

その写真には、戒が読んでいた資料の写真とは違う唐草模様の怪人が映っていた。

 

 

 

 

 

その後は『欲望を盗む怪盗』と柊介の尾行の二手に分かれ、飛鳥たちは待機していた千歳と事件の関係者の元に向かい、戒、琴音、斑鳩、葛城の四人が尾行チームとなった。

 

「まさか、あの子が戒さんのご友人だったとは…」

「俺も驚いてますよー、あいつに斑鳩さんみたいな美人の姉がいたなんて」

「なっ!?/// そ、そのようなことを軽々しく…」

「落ち着けって斑鳩、一々気にしてたらキリないぞ」

 

葛城のその言葉に琴音は頷きながら、対象の人物『猿飛柊介(さるとびしゅうすけ)』を尾行していた。

そんな中でも、年相応の話をしながら戒は村雨に渡された柊介の写真を見ていた…クラスこそ違うが自分の友人だとは思わなかったのだ…しかも斑鳩の義弟と知った時はさらに驚いた。

そんな戒だが、飛鳥たちから送られてくる情報を予備のタブレットで確認をする…被害者に話を聞こうにも札束を渡そうとしたり高価な仏像を目の前で叩き壊そうとしてくるため、まともな証言は得られなかったが、現場の周辺に三人の怪しげな人物がいたらしい。

三人の内、一人は「幽霊命」と書かれたハッピを羽織ったボサボサの髪に眼鏡をかけたオカルトマニアの青年…。

楳○かず○みたいな奇天烈な赤と白服を着てジョギングをしていた男性…。

そして最後は帽子を被った新聞配達員の青年の三人だったのだ。

しかし、その三人を調べたリアからの情報でも怪しい経歴(服装は怪しかったが)の持ち主はいなく、警察からの資料でも被害者がかなり争った形跡しかなかった…完全な手詰まり状態に戒は頭を悩ませていたが、「カー君」と琴音の言葉で我に返った。

見ると、柊介は少し一般住宅の前で辺りを警戒していたのだ。

知らない家の前で共同不審な動作……どう考えても怪しい行動に戒はため息を吐きながらも、近づき柊介の手を掴み捻りあげた。

 

「痛ってててっ!?あ、お前…戒か!?何でここに…!」

「こっちのセリフだよ。ここで何しようとした、覗きか?下着ドロか?そういうのはゲームと漫画で楽しめ」

「しねぇよっ!てかお前は俺を何だと思ってるんだっ!?」

 

戒の決めつけに琴音ばりのツッコミを行う柊介だったが、物陰から斑鳩が現れると柊介は罰が悪そうに顔を歪める。

 

「…ここで、何をしているのですか?」

「……お嬢様のご迷惑になることはしておりません。安心してください」

「っ!そういうことを聞いているのではなく…!」

『ぎゃああああああああああああああああっっっ!!!!!』

 

一触即発の空気になりかけた時、住宅から人の…恐らく家主の悲鳴が響き渡った。

恐怖の悲鳴に全員が住宅の方を向いたが、戒は一目散に扉へ向かい無理やり開けると、靴を脱がずに中へと入って行った。

 

 

 

 

 

家の住人…『大野健一』はリビングの中を逃げ回っていた、時たま手に取った物を投げ目の前の侵入者にぶつけるが大したリアクションもなくこちらにゆっくりと向かって来る。

唐草模様の緑色のコートを身に纏い、ルーペのようなモノアイを持つ頭部をフードで目深に被った怪人『シーフ・エラー』は、腰が抜けながらも怯え逃げ惑う大野に近づき踏みつけると、首を締め上げ始めた。

 

「あ、あぁぁ……た、助け…」

『安心しな。真の怪盗ってのは、命までは取らねぇ』

『腐りきったお前の心の中でも、最も欲深い感情を頂く』

 

軽い声で話す言葉と、ボイスチェンジャーが掛かったような歪んだ声を出しながらシーフは大野の顔の前でもう片方の手を広げようとした。

しかし。

 

「変身!」

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

 

変身したアーサーがシーフを蹴り飛ばしたのだ…大野は気絶していたが怪我を負っているだけで命に別条はない、傷を負った大野を見たアーサーはある仮説を立てようとするが窓から逃げ去ったシーフを追うべく、窓に脚を掛けて跳躍した。

しばらくはシーフとの追いかけっこが続くが、やがて噴水のある広場に止まると、アーサーと…遅れてやってきた琴音たち+捕まった柊介の方を向いて立ち止まる。

 

『あーらら。俺たちに追いつくとは、ちょーっと予想外だったかな~?』

『…ふざけている場合か。やるぞ』

 

胸部のゲームパッド型のユニットを点滅させながらお気楽に語る人格を窘めるとシーフはワルサーに似た拳銃と先端が丸いステッキを構えた。

 

「オラッ!」

『……ちっ』

 

アーサーは初撃をシーフに躱されるも、右足を軸にした回し蹴りを浴びせようとするがシーフはステッキを使って防御し、そこから放たれる攻撃をも防ぎきる。

 

『中々やるじゃねぇか?それでこそスリルがあるってもんだぜ』

 

未だ余裕のまま、おチャラけた口調を崩さないシーフは身軽かつトリッキーな動きで翻弄しようとするが、アーサーは軌道を読みその攻撃を防ぐ。

 

『パーティの始まりだ!』

「っ!?そう来るかよ!」

 

高らかに名乗り上げると、シーフは唐草模様をした緑色のコートをはためかせながら三体のポーントルーパーを召喚する。

数が増えたことで手数も増えたシーフだがアーサーは冷静に対処を行い、背後から来ていたポーントルーパーを蹴り飛ばす…しかし、いつの間にか遠くの距離にいたシーフからの銃撃を受けてしまう。

 

「ぐぁっ!?」

「戒さんっ!」

 

受けた衝撃に振り返るが、銃撃を行ったシーフは姿を消してしまう。

 

『ほらほらっ!こっちだぜ?』

「くそっ!」

 

ポーントルーパー二体を踏み台に高く跳躍すると挑発をするシーフにそのまま飛び蹴りを仕掛けるが今度は霧のように消えてしまう。

 

「「「きゃあっ!?」」」

「琴音、斑鳩さん、かつ姉!!…がっ!?」

 

琴音たちの背後に迫っていたシーフがステッキで殴ると、また姿を消しアーサーにも同様の攻撃を放った。

 

『厄介だな…特殊能力もだが、奴自身に戦闘力もある…!』

「だったら、奴の手品ごと噛み砕くだけだっ!」

 

胸のプロテクターから煙を出しながら、アーサーは思考を張り巡らせる…。

すると、何を思ったのか身体の力を抜き始めたのだ。

 

『ふっ、諦めたか…ならこれで終わらせてやる』

 

歪んだ声と共にシーフが現れる…銃を下げ片方の手でステッキを握りなおすと思い切り振り降ろした。

だが、アーサーが狙っていたのはこれだったのだ。

 

「っ!……そこだっ!!」

【MAGICAL ARTS! BOWABOWA KACCHI-N!!】

『何!?……ガアアアアアアアアアアッッ!!?』

 

相手が「勝った」と油断した時の、防御も回避も考えない純粋な攻撃……。

それ一点を集中して狙ったアーサーはボタンを押し、利き足に赤く燃える炎を纏わせる…そして、驚くことしか出来ないシーフの顔面に、炎を纏った飛び回し蹴りが直撃した。

完璧なダメージが入ったシーフは地面を数メートル転がり立ち上がることが出来ず見悶えている。

 

「そろそろ、しつこいっ!!」

『『『がはっ!?』』』

 

シーフの加勢をしようと動き出したポーントルーパーの隙を狙った琴音が自身の力で召喚したハルバードを振り回してダメージを与える。

斑鳩や葛城もダメージが通らないながらも、蹴り飛ばすなどして琴音のサポートを行う…そして、ハルバードから繰り出される琴音の会心の一撃がポーントルーパー三体を粉砕した。

 

『こりゃあ、ちょっとやばい感じなんじゃないの?とっつぁん』

『言ってる場合か!ぐっ、くそ…!!』

「これで終わりだな…」

 

そう呟きながら、アーサーが満身創痍のシーフへと向かっていき、とどめを刺そうとドライバーに手をかけた時だった。

 

「駄目だよお兄ちゃん。その人は大事なプレイヤーなんだ、GAME OVERにしちゃ可哀そうだよ」

 

突如、辺りを響かせる変声期前の少年の声が聞こえた。

まだ十二歳ぐらいだろうか?あどけなさの残る顔立ちをしており赤と黒のチェックの服に身を包んでいた。

少年を見たシーフの、ふざけた口調の人格が喜ぶ。

 

『ナイス!グッドタイミングだぜ~』

「早く逃げなよ、シーフ」

『…分かった』

 

シーフはふらふらと立ち上がると彼らに背を向け、そのまま逃げ去ろうとする。

「待て!」とアーサーたちは追跡しようとするが少年は一歩前に出て、シーフを守るように彼らの行く手を阻む。

 

「……お前、何者だ」

「あっ、油断しないんだ!すごいねお兄ちゃん!!そっちのお姉ちゃんたちもさ……」

 

少年はアーサーの問い掛けに答えず、彼や斑鳩たちが警戒していることに純粋に目を輝かせながら、ポケットをまさぐる。

 

「ふふん、これなら分かるかなー?」

【RED ZONE!!】

『っ!?』

 

笑いながら少年が取り出し、起動したのはエラーカセット…しかし、それは今までのエラーたちが使用していた物とは違い「体中にパイプが配置された機械生命体」のようなイラストが描かれていた。

驚くアーサーたちの反応を楽しむように少年はゲームパッド型のデバイス『エラーブレス』を出現させ、そこのスロットへためらいもなくセットした。

 

【LOADING…~♪!RIDE UP! RED ZONE! BAD and DEAD END! THE ERROR…!!】

 

エンジン音と電子音声が同時に辺りを響かせると、少年の姿はノイズのようなデータ状の魔力に包まれ、レース用カートを人型にした大型の怪人…レッドゾーン・エラーへと姿を変貌させた。

 

「個体名のエラーカセットにエラーブレス…まさかこいつが…!」

『ああ、幹部格だ……!!』

『てめぇ、いやてめぇらはエラーがゲームを行うのに邪魔な存在だ…ここで消えてもらうぜ…仮面ライダーさんよぉっ!!』

 

身構えるアーサーとウェルシュ、飛鳥たちに対してレッドゾーンは先ほどとは正反対の荒々しい口調と共に大剣を召喚して襲い掛かった。

To be continued……。




 実は、この事件…三人の怪しい人物の内にシーフ・エラーの正体がいます。まぁミステリではありませんのでヒントはありますが適当に選んでみてください。
 リアと千歳は協力することになりましたが、半蔵学院には転入しません。これ以上増えると今の自分の技量的辛いので…形式としては各話ごとに何人かで行動するようにします。申し訳ないです。
 今回新しく登場したオリキャラ『猿飛柊介』は村雨の実の弟で斑鳩の義弟になります。本編にはあまり出ませんが番外編ではカー君の良き友人として接する予定です。
 エラーについては後編で解説します。ただエラー側の人格は有名な某泥棒キャラがイメージになっています。


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COMBO4 姉弟×チームワーク

 解決編です。シーフ・エラーの正体や柊介が何をしていたのかが判明します。しかし、もう少し心理描写にも気を付けた方が良いと痛感しています…勉強しなきゃなー。
 それでは、どうぞ。


レッドゾーン・エラーの剛腕から繰り出される剣撃にアーサーは掌底で攻撃を受け流すと、がら空きになったわき腹を蹴り飛ばす。

 

『そんな攻撃…痛くもかゆくもないんだよっ!!』

「う、わっとぉっ!!?」

 

しかし、レッドゾーンはアーサーの脚を掴むと勢い良く投げ飛ばす…何とか受け身を取るが、煙を噴出し内燃機関のパワーを引き出しながら大剣を乱雑に振り回しアーサーを叩き斬ろうとしてくる。

だが単純な軌道であることが幸いし、それを躱して反撃に移ろうとしたが…直後に放たれたストレートをくらってしまい、噴水場に激突する。

 

「かはっ!…たく、スピードと小回りはともかく、力はあっちの方がずっと上だ…どうするかねー…?」

『OK! それなら「アレ」の出番だ』

『何をゴチャゴチャ言ってやがる!これで終わりだぁっ!!』

「っ!!」

 

アーサーとウェルシュが自分を無視して話を始めたことにイラついたレッドゾーンは渾身の力を込めて振り下ろした大剣を直撃させた。

「カー君!」と琴音が悲痛な叫びをあげ、斑鳩たちも目の前で起こった惨状に絶句する……。

 

『な、にぃぃぃ……!!』

 

しかし、レッドゾーンの渾身の一撃はアーサーが召喚したある物によって防がれていた。

その手に握られたのは鞘に納められた一振りの日本刀……鍔や柄が紅蓮に染まり、鞘の部分には緑色のナックルガードがある。

アーサーは武器を滑らし攻撃を受け流すと、態勢を崩したレッドゾーンを蹴り飛ばす。

 

『ってぇな!武器を持った程度でっ!!』

「変わるんだよ!脳筋野郎っ!!」

 

アーサーが叫ぶと、赤のボタンを押し脚力強化による高速移動を行い撹乱すると日本刀『グレンバーン』を抜刀しすれ違いざまにレッドゾーンを何度も斬りつけていく。

「グァッ」とレッドゾーンが呻き声をあげ、少し離れた箇所で距離を取るとアーサーは紅蓮の刀身を鞘に納めた。

怒り狂ったレッドゾーンはアーサーに突撃を仕掛ける…しかしその攻撃は阻止された。

アーサーが何時の間にか抜刀したグレンバーンを投擲し左肩に刺したのだ。

激痛に悶え苦しみながらもレッドゾーンは引き抜こうとするが、その必要はなかった。

 

「……」

『なっ、があああああああああああっっっ!!?』

 

アーサーが指を鳴らした途端、グレンバーンから発生した爆発が彼を包み込んだ。

爆風によって発生した煙に紛れてアーサーはウェルシュによって呼び出されていたドライグハートに乗り、全員に撤退を合図するとその場から立ち去って行った。

 

『くそがあああああっ!!……ぐぅっ!?』

 

追跡しようとするレッドゾーンが激痛によって止まる、エラーブレスを装着している左腕を見ると、自身のエラーカセットに小さな皹が入っていた。

これ以上の戦闘は判断だと判断したレッドゾーンは舌打ちと共に変身を解除すると元の少年の姿へと戻る。

 

「しばらく戦闘は無理か……だけど、次は僕が勝たせてもらうよ、仮面ライダー…!!」

 

呟くと、レッドゾーンだった少年もその場を離れて行った。

 

 

 

 

 

「あー、しんどい……」

「大丈夫?カー君」

『まさか、武器を爆発させるとはね』

 

忍学科にある椅子に身体を任せて戒は思い切り力を抜いた…琴音は心配そうに戒に駆け寄るが伸びをしている辺り問題はないのだろう。

ウェルシュは先ほどの戦闘を思い返し、戒の無茶な作戦に感心していた。

グレンバーンは元々、戒の魔力によって生成された刀をドラゴンカセットの力で改造された代物…それを爆弾代わりにすることでレッドゾーンを退け、結果的に逃げ切ることに成功したのだ。

だが、本題はそこではない……戒はゆっくりと起き上がると教室の隅で座っている柊介に目を向ける。

撤退をした時、戒が無理やり連行してきたのだが、彼は口を開こうとしない。

 

「なぁ、好い加減話してくれよ。お前はどうしてあそこにいたんだ?」

「……」

 

戒からの質問に無言で答える柊介に困った表情を見せたが、「やれやれ」とため息を吐くと言葉を続けた。

 

「当主の座を奪った人の邪魔をしてそんな楽しいか?」

「っ!違う!姉さんは関係ないっ!!これは俺の問題だ!」

「…やっと口を開いたな」

 

戒の冷徹とも言える言葉に柊介は憤るがそれがハッタリだと分かると苦虫を噛み潰したような表情でしばらく黙っていたが斑鳩の顔を見ると、やがてとつとつと話し始めた。

 

「……『大野健一』って知ってるか?あの家にいる奴だ」

「知ってるよ、『リアル熱血教師』って呼ばれている教師だろ?でも…」

「そうだ。あいつは最低最悪の人間だ…!!」

 

柊介はズボンを力強く握り、吐き捨てるように呟いた。

大野健一は世間では『リアル熱血教師』と呼ばれるぐらい、生徒想いな人物として知られており時々半蔵学院の非常勤講師として教鞭を取っているが、その裏には黒い噂が広まっている。

分け隔てなく接しているがその実態は成績だけで生徒を判断し自らの面目のことしか頭にない事なかれ主義の男…戒も仕事柄、彼のそういった噂は聞いていた。

だが、柊介の話し方からするとその話は本当なのだろう…戒は黙ったまま彼に話の続きを促す。

 

「お前は別のクラスだったから知らなかったけど、あいつは目の敵にした生徒を追い込んでいたんだ、そいつは…俺の友人だった」

 

聞けば、大野は自分が目にかけたにも関わらず逆に歯向かってきたのを根に持ち様々な嫌がらせをしてきたという…そして責任を全て擦り付け退学、転校にまで追い込んだのだ。

つまり、柊介はその友人の仇をとる目的で大野の家を調べており、たまたまシーフの写った写真を撮っていたのだ。

話を最後まで聞いた戒はある質問をぶつける。

 

「警察とか、他の先生には?」

「無理だ。警察や他の教師はあいつのことを完全に信頼しきっているし、証拠もなかった…それに……」

 

家族に迷惑を掛けたくなかった……そこまで言った時、斑鳩は口元に両手を当てた。

それに気づかず、柊介は懺悔をするように続けていく。

 

「あの時から、足を怪我して無理だって言われた時…俺はお荷物になったんだ。だから父さんや母さん、社長になる兄貴や当主になる姉さんに……これ以上迷惑を掛けたくなかったんだよっ!!」

 

そこまで言い切った時、拳を握りしめながら柊介は涙を流していた…だが、握りしめた手を優しく包む手があった……斑鳩だった。

 

「そんなこと、ありません。迷惑なことなんて、何一つありません!お父様たちも、お兄様も…みんな、あなたのことを心配していました……!もちろん、わたくしだって…!」

 

その声に柊介が顔を上げた…斑鳩が…義姉が泣いていたのだ、目に涙を溜めている彼女に動揺する彼に戒は独り言のように語り出す。

 

「家族だから、迷惑かけちゃ駄目なのかな。本当に、お荷物だって思っていたのかな?」

 

一見すると、綺麗ごとのように聞こえる言葉……だが、不思議と柊介にはその言葉が響いていた。

だから、柊介は恐る恐る…姉に問いかけた。

 

「俺は、家族で良いの?家族になって良いの……?」

「良いも何も…もうとっくに家族ではありませんか……」

 

その言葉に柊介は大粒の涙を零して嗚咽と共に泣き始めた、姉弟のやり取りに琴音は喜んでいたが葛城と戒は号泣していた…「何で二人とも泣くの!?」とツッコまれていたが……。

そして、一しきり泣くと落ち着いてきたのか、戒は思考を初めある結論へと辿りつく。

犯人…シーフの目的は『大野健一』ただ一人…他の人間を襲ったのは自分の容疑を向けないための撹乱…そこまで考えた時、戒は全ての資料を読み進め、ある部分で目を止めた。

 

「……斑鳩さん、全員に連絡してくれませんか?」

「え?それはどういう……」

「犯人が分かったんですよ」

 

そう言った戒の顔は、犯人の正体に辿りついて楽しそうな表情をしていた。

 

 

 

 

 

「ひっ、ひいいいいいいいいっっ!!!」

『また来るって言っただろ……!』

 

この日の午後、シーフはまた大野の自宅へと侵入し胸倉を掴んでいた。

そのモノアイは憎悪に染まっており彼の情けない声と顔を見るだけではらわたが煮えくりたかる思いをする。

 

「や、やめろ!た、助けてくれっ!!た、確かに俺は色々とやってきた…で、でもそれは生徒のためだっ!出来損ないを乏しめて何が悪い、教師に歯向かう奴を追いこんで何が悪いっ!?」

『諦めな、それがお前の運命だ』

『欲の抜けた人生で…一生を過ごせ…!!』

 

大野の命乞いをシーフの二つの人格が斬り捨てると、頭を掴み彼から欲望を抜き取ろうとした、しかし……。

 

『ぐっ、なっ何が…!?』

「オラッ!!」

 

自分を撹乱するように現れたミニ四駆『ウェルシュ』の体当たりに動揺している間に戒のストレートキックがシーフの胴体に炸裂した。

そして、吹き飛んだ彼に戒はある物…録音機を取り出す。

 

「お前のおかげで大野を破滅するだけの証拠も手に入った、これでお前の仕事は終わりだよ……だから、そのカセットを捨ててください…『潮羽大和』さん」

 

シーフを包囲するように現れた斑鳩と葛城たち、柊介この場にいたが戒は真犯人の名前を指名した。

戒の言葉に観念したのかカセットテープを身体から排出しスイッチを押すと逆再生された映像を観ているように姿が戻っていくと現れたのは二十代の青年…資料に載っていた新聞配達員の人物だった。

 

「……」

「なぜ分かったかって言いたげですね?簡単です、『今までの被害者たち全員』と会えるのがあなたしかいなかったからですよ。配達員のバイトをしているあなただからこそ被害者を選べることが出来たし周囲のリサーチも出来た…他の人間はジョガーと都市伝説マニア、傍から見れば怪しい人間ならすぐに気が付きますしね」

 

この場では言わなかったが、もう一つある…最初の被害者の欲望を盗む時思わぬ抵抗を受けていたのだ、傷を隠しても怪しまれない人物…だからこそ帽子を被っている彼を怪しんでいたのだ。

 

「あなたは学生時代、別の学校で教師をしていた大野に成績が悪いからと悪口を吐かれた挙句学校を追い出されたみたいですね」

 

「全て話してくれましたよ」と戒は潮羽を見ると、その目は怨嗟の表情となっていた。

 

「だから盗むんだよ…こいつが勝手に破滅する姿を見て楽しむんだよっ!!邪魔するんじゃねぇっ!」

【LOADING…GAME START…】

 

再びエラーカセットを起動させシーフ・エラーへと融合変身した潮羽に対して、戒はゆっくりと前に立ち塞がる。

 

「どんな事情であれ、止めますよ。俺は、それを放っておけないから…それが俺だからっ!」

 

その言葉聞いた葛城と斑鳩は、ようやく彼の本質を理解する。

何てことはない、単純だったのだ…彼はただ『誰かが困っているのを放っておけない、誰かを助けるのに理由はいらない』……だから戦うための力で救おうとしているのだ。

放っておけないから助けたのだ…自分と、自分の大切な弟を…そんな本質を理解したのと彼がアーサードライバーを腰に巻いたのと同時に、ベルトが光り斑鳩と葛城に『力』を共有させた…門矢戒との絆を結んだのだ。

 

「二人とも、準備は?」

「問題ありません!」

「言われなくてもっ!」

 

戒の問いかけに斑鳩と葛城は快く応じると、ドラゴンカセット取り出し起動してセットしサイドグリップに手を掛け、斑鳩たちも懐から巻物を取り出した。

 

「変身っ!」

「「忍転身っ!!」」

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

 

三人の掛け声とともに戒はアーサーに変身し斑鳩は金の装飾がある白い軍服のような忍装束に、葛城は前を全開にした身軽さを通り越した学生服をイメージした忍装束へと姿を変えると、代々から受け継がれた当主の象徴でもある長刀『飛燕』と、両脚に装備した具足をそれぞれ構えた。

 

「お前の物語、ここで終わらせる!」

『威勢の良いガキだ…やれるもんなら、やって…あんらぁっ!?』

「てめぇの相手はアタイだっ!!」

 

アーサーの宣告を聞いたシーフはチャラけた口調で挑発しようとする前に葛城の跳び蹴りが顔面に突き刺さった。

窓ガラスをぶち割りながら落ちた二人の後を追うように地面に降り立つとアーサーと斑鳩は目の前に現れた二体のポーントルーパーと対峙する。

 

『……参る』

『大人の仕事に首突っ込むな…怪我するぜ?』

 

短剣を逆手に構えた侍口調のポーントルーパーとS&W M19と酷似した銃を構えるポーントルーパーはアーサーと斑鳩に襲い掛かる。

二体は互いの攻撃の隙を埋めるように攻撃を行うが、アーサーと斑鳩も忍学科で教わった特訓の成果を活かすように二体のポーントルーパーと応戦する。

協力して闘うのには呼吸を合わせる必要がある……一見簡単なようだが片方が駄目だともう片割れも態勢を崩してしまうのだ…だからこそ、互いに声を掛け合い、合体秘伝忍法の際には呼吸を合わせるために必殺技を口にするのだ。

 

「斑鳩さん、俺に合わせて!」

【CRITICAL ARTS! COMBO STRIKE! DORAGON!!】

「はい!」

 

短剣を構えたポーントルーパーを銃を持つ個体の方へ吹き飛ばすと、アーサーはドラゴンカセットをセットしたグレンバーンに赤い炎を、斑鳩も飛燕に鳳凰を模った蒼い炎を纏わせると最初にアーサーが駆け出す。

ポーントルーパーたちを蹴り飛ばすと、入れ替わるように斑鳩が現れ、抜刀術を浴びせると後退するようにアーサーが居合で攻撃する。

即席ながらも二人の息が合ったコンビネーションはやがて一つの技を生み出す。

 

「「合体秘伝忍法『鳳火龍王閃(おうかりゅうおうせん)』っ!!」」

 

まるで舞を踊るかのように繰り出された攻撃は敵にダメージを蓄積しそれぞれの色を纏った炎の一閃の後、二人は同時に刀身を鞘に納めるとポーントルーパーたちが爆散した。

そして、葛城とシーフとの戦いへと移り変わる…戦況は彼女が優勢であり、葛城の強烈なキックに防戦一方である。

 

「そらっ!!」

『グッ!この露出狂がああああああっっ!!』

「うら若き乙女相手に失礼なこと言うんじゃねぇ!!」

 

シーフの罵倒に侵害だと言いたげに跳び膝蹴りを叩き込むと、シーフは地面を転がる。

 

『くそっ!いったん引くぞ!?』

『あーばよー!!とっつぁーんっ!!』

 

戦況が圧倒的に不利だと悟ったシーフはその場で高く跳躍し逃走を図る、だがそうは問屋が卸さない。

「かつ姉っ!」とアーサーが叫ぶと葛城は彼のやらんとしていることを察したのか助走を付けて走る。

軽く跳ねて自分の出した足に降り立ったのを確認すると、アーサーはドラゴンカセットを左腰のスロットに挿入し赤いボタンを押した。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! DRAGON!!】

「「ぶっ飛べぇっ!!合体秘伝忍法『シューティングドラゴン』ッ!!」」

『『なっ、なああああああああああっっっ!!?』』

 

アーサーの必殺技の脚力による勢いを利用した葛城は全力で跳躍すると、龍の魔力を纏った具足を装備した脚はシーフへと向けられている…そんなありえない光景に声を揃えて驚くことしか出来なかった。

 

『バカな、こんな…バカなああああああああっっ!!!』

 

断末魔と同時に貫かれたシーフ・エラーが空中で爆散すると、しばらくしてから葛城が潮羽を抱えて鮮やかに着地する。

勝利の喜びを分かち合うように、斑鳩とハイタッチを行いアーサーには少し照れながらも互いの拳を軽くぶつけあった。

『欲望を盗む怪盗』は、ここで活動を停止したのだった。

 

 

 

 

 

「琴音さん、本日もお疲れ様でした」

「あ、ありがとうございます。斑鳩さん」

 

事件が終わってから一週間後、いつものように斑鳩は緑茶の入ったお茶碗を琴音に渡していた。

あの事件の後、被害者たちは全て元に戻っていた…自分の物がなくなっていたことに対してすごく惜しんでいたが何も求めないよりはまだ良いだろう。

そして、潮羽の本来のターゲットだった大野は命こそ助かったが全てのことが明るみになり警察で事情を受けている…新聞やニュースには『熱血教師の薄汚れた本性!』などの見出しで世間を賑わせているが時が過ぎれば忘れられていくだろう、彼の偽物の栄光と共に……。

そして、忍学科にもだが変化が起こっていた。

まずは柊介が無事に家族と和解出来たことだ、それに関して村雨が戒たちに依頼料を振り込んだと共に「やはり跡取りに」としつこく言っていたがスルーした。

最後の変化だがこれは二つある。

 

「戒さん、お茶をどうぞ」

「あ、どうも」

「…!きゃっ!?///」

「あっつううううううううっっ!!?」

 

この光景が数日に一度の確率で起こることだ……斑鳩が戒にお茶を手渡そうとすると偶然、手袋越しの彼の手に軽く触れてしまった斑鳩が誤ってお茶をこぼしてしまう珍事が起こっていた。

原因は十中八九、戒にあるかもしれないがそれしきのことで動揺してしまう斑鳩にも十分非があるがそれだけではない。

 

「ぶふっ!?…て、かつ姉!?/// ゴ、ゴメ…///」

「何だよ戒~?お姉さんのおっぱいがそーんなに気に入ったか~?このこのっ!」

「か、かつ姉何やってるのっ!?」

「カー君にそんな脂肪押し付けんじゃ…じゃなかった、苦しんでるから離してください!…てか窒息しますよ!?」

 

葛城の戒に対するスキンシップが少し過激になったことだ。

暇さえあればセクハラ行為をしてくる彼女だが、あの事件の後から戒に逆セクハラを訴えられても仕方のない行為を繰り返しているのだ。

元来の性格が初心なのと、彼女自身ナイスバディなのも相まって戒は強く断ることが出来ず他人に預けられたペットのように、顔を赤らめたまま黙ってしまうのである。

メンバーがセクハラに慣れ始めたのと、中性的な顔立ちもあって絶好のからかい相手になってしまっている戒を引き剥がそうとする琴音と飛鳥と言った光景が繰り広げられているのだ。

 

「みんな楽しそうだね、柳生ちゃん」

「…そうだな、雲雀」

 

その光景を見て楽しんでいる雲雀と、口では肯定しながらも内心呆れている柳生は遠くからそれを眺めているのであった。

To be continued……。




 取りあえず、今回は斑鳩と葛城のお話でした…と言っても二人の描写が少し甘かったので番外編で掘り下げていこうと思います。まぁ二人にフラグが経ったことは間違いありません。
 合体秘伝忍法は一応オリジナルです。戦闘描写だけでも精一杯なのに、カッコよく書けたかどうかはかなり不安です。
 今回のエラーの能力は『ゴー○ス○ーズ』に登場したゲスト怪人の能力を参考にしました。多分、あのまま欲がなかったらヤバかったと思います。
 一先ずは、ディケイドみたいに絆を深めていく方針ですかね?フォームチェンジ編の構想やら何やらを色々と考えています。ではでは。ノシ

シーフ・エラー CV松本保典・栗田貫一
唐草模様の緑色のコートを身に纏い、ルーペのようなモノアイを持つ頭部をフードで目深に被っている。泥棒と怪盗を足して二で割ったイメージ。
形問わずあらゆるモノを盗み体内の異空間に入れることが出来る能力を持つほか、装備したステッキとワルサーに似た銃を使用したり一時的に姿を消すなどトリッキーながらも高い戦闘力を持つ。


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COMBO4,5 想い×思い

 新しい話だと思った?残念、幕間だよ!(ドヤ)
 いや、すいません。前回は斑鳩と葛城の描写が出来ていなかったと感じたのでその補完みたいな形で投稿しました。
 今回の話は恋愛描写があります…人の恋の動きを描写するのって難しい…それがすらすらと構想できて、書ける方々を素直に尊敬します…!
 後、閃乱カグラシリーズに登場する『彼』ですが「キャラちがくね?」と疑問に思うかもしれません、しかし自分はSVと2で見せた姿が彼本来の姿だと思っているのでそこを自分なりに書きました……町内鎖鎌大会6位は伊達じゃない!
てなわけで、どうぞ。


ある日の休日、実家に帰省していた斑鳩は自分の部屋で物憂げなため息をついた。

母親は普段外に出ない父親を連れ出して買い出しへと向かい、弟は友人である戒と一緒に遊びに出かけており、この場には彼女一人しかいなかった。

 

(……戒さん)

 

ふと、弟の友人である彼の名前を心の中でそっと呟くと、斑鳩の心中は穏やかではいられなくなる。

彼の本質を理解して以降、仲間となった彼と本当の意味で絆を結ぶことが出来たことに嬉しさを感じたが、それと同時に気恥ずかしさも感じるようになった。

今では、少し肩がぶつかっただけで驚いてしまったり手袋越しの彼の手と触れ合うだけで背筋を伸ばすなど今までにないほど意識をしてしまう。

そして、誰もいない時に何の気なしにふと想像する…もし彼が自分と親しい仲になれたらと、もし自分が彼と恋仲になれたら……。

 

(っ!/// なっ、何を考えているのですか、わたくしはっ!?ど、どうしてそのようなことを…!?///)

 

自分の中で湧き上がった想像(もしくは妄想)を、頭を振って忘れようとするが一度湧き上がった考えはそう簡単には消えない。

元々、周りに同性の友人しかいなかった上に、修行や勉学に明け暮れていた彼女にとって年齢の近い異性と話をしたり触れ合ったりするのにほぼ面識がないのだ。

ましてや、恋愛など自分が読んでいた本の中でしか知らないのも相まって斑鳩の顔は赤く染まっていく。

 

(この顔では、お父様たちの前に出られません……!)

 

少し風に当たろう…そう考えた斑鳩は、部屋から外に出ると広い庭を歩く。

熱くなった頬に当たる風と美しい庭の景色に心が落ち着き始めると、見覚えのある人物…自分の兄である村雨がいた。

愛用している服を脱ぎ、腰にサラシを巻いて木刀で素振りをしている彼は斑鳩の存在に気が付くと素振りを続けながら彼女に聞く。

 

「どうした?お前が外に出るとは珍しいな」

「いえ、特には……お兄様は何を?」

「ただの筋トレだ。最近は何かと物騒だからな、護身程度に体を鍛えておいて損はないだろうと思ってな」

 

斑鳩と軽く話をしながらも、村雨は素振りを止めない。

元々、彼は経営の才能こそはあったが忍の才能は全くなく、当主は柊介に譲るはずだったがその彼も不慮の事故で脚を怪我したため、遠縁の子である斑鳩が養子となったのだ。

最初こそ初めて出来た妹と姉に戸惑い、イヤミの一つや二つを言っていたものだが家族は家族…村雨は『妹大好き検定』なる資格を取り、柊介も敬語こそ使っているものの話をしたりするなど兄妹としての関係を作ろうと相応の努力をしていたのだ。

閑話休題……妹の様子がおかしいことに直感と父親の仕事の手伝いで身に着けた観察眼で気付いた村雨はある質問を斑鳩にする。

 

「妹よ。物事において大切なことが何か分かるか?」

「え?それは、日々の積み重ね…ですか?」

「それも正解だが少し違う…『基礎』だ」

 

素振りをしながら村雨は話を続ける。

 

「勉学も、修行も…その根本となる部分、基礎が大切だ。そこを疎かにし先へと進んでは簡単に乗り越える壁すらも容易ではなくなる、だからこそ基礎を積み重ねることが大切なのだ」

「はぁ…」

 

彼の話を聞いている斑鳩は納得こそするが釈然としない…なぜ自分にそのような話をするのか、脈絡のない話のように聞こえる。

 

「斑鳩、お前が何に思い悩んでいるかは詳しくは聞かん。だが、お前が誰かに抱いているその感情は恥でもなければ忘れて良い物でもない。人間ならば誰もが感じることの出来る『大切な基礎』だ、忘れずに精進しろよ当主様?」

「お兄様……」

 

最後はからかうように言っていたが、自分に助言をしてくれた兄の言葉に、斑鳩は改めて彼に尊敬の念を抱いた。

丁寧にお辞儀をすると、感謝の言葉を口にする。

 

「ありがとうございました、お兄様…ですが最後に一つよろしいですか?」

「何だ?」

「…素振りをするのに衣服を全て脱ぐ必要はないと思うのですが……!!!」

 

そこまで言い切ると、斑鳩は愛と怒りの籠った拳を『腰にサラシだけを巻いていた全裸の村雨』に叩き込んだのであった。

 

 

 

 

 

息子のいない門矢家兼政宗探偵事務所は家族会議の場となっていた。

その場には『不可能犯罪捜査』に所属する警部の紅いロングヘアーの美女『政宗美海(まさむね みう)』と、小さな音楽教室を開く、何処かおっとりした黒のボブヘアーの女性『政宗真希奈(まさむね まきな)』、そして美海の彼氏であり部下である警部補の青年『片倉佑斗(かたくら ゆうと)』と隣の家にいる薄い金髪のロリ体型の女性『幸村桜花(ゆきむら おうか)』がテーブルにある椅子に座っていた。

やがて、議長…今回の家族会議を開いて(有無を言わさず収集した)美緒が話を切り出す。

 

「では、これより!『息子二号に忍び寄るケダモノたちから防御せよ!』の会議を開始します!」

「「わー!!♪」」

「…頭痛いわ、佑斗」

 

ノリノリな姉と、楽しそうに拍手をするマイペースな妹と友人に対して頭を痛める美海に佑斗は「まあまあ」と宥める。

 

「残念なことに、私の可愛い可愛い息子二号である戒は…ある特別クラスに編入させられました…おまけに琴音ちゃんから聞きましたが辺りはモンスターだらけ!」

「え~!?本当なの美緒お姉ちゃん~。私の可愛い甥っこが~!戒君が~!?どうしよう~…このままじゃ戒君が女の子に言い寄られちゃう~っ!!」

 

美緒の話を聞いた真希奈は今にも泣きそうな表情を作り、頭を抱えて混乱するが桜花は笑顔で言う。

 

「私は、カー君や琴音にお友達が増えるのが嬉しいけど…美緒ちゃんたちは嫌なの?」

「い、嫌と言うわけではないんですよ!?ただ、私は自分の息子を守ろうと…」

「じゃあ、礼司君は?彼女連れて来た時喜んでいたよね?」

「あの時礼司は二十歳でしたし、喜びと同時に泣いてました!!」

 

桜花と美緒のやり取りに美海は嫌な予感を感じていた。

だが、空気を読まずに真希奈が二人の会話に入り込んでくる…議論は増々ヒートアップしていく。

 

「待ってよ~!本題は戒君でしょ~!?」

「黙っていなさい、真希奈。この分からず屋とは一回話し合わなければ気がすみません」

「良いよ。美緒ちゃんがそれで満足するならやってあげるね」

 

美緒VS桜花と言う形式になってきた二人を見かねた真希奈は話を無理やり戻そうと割り込んでいく。

言葉と言葉が飛び交い、バトルロワイヤルと化してきた辺りに、カオスが充満して来ると……美海は身体を震わせ、大声の限り叫んだ。

 

「あ・な・た・た・ちぃ……好い加減に、しろおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」

「み、美海ーーーーーっっ!!?」

 

我慢の限界を迎え、暴走する美海を…唯一この場を見守っていた佑斗がこの惨状を止める結果となり、母親を迎えにきた琴音が止めるのであった。

 

 

 

 

 

「は~い。いらっしゃいませ…て、かつ姉様ぁ!!菖蒲に会いに来てくれたんですかぁ!?」

 

ある平日の午前終了時…半蔵学院の忍学科に存在する『購買部』に入った葛城を出迎えたのは、学制服に身を包む少女であった。

顔立ちは可愛い系に分類されるであろう、おっとりした雰囲気を持つタレ目が特徴で腰まで届くほどの黒い長髪をカチューシャで前髪を上げて留めており白い額が見えている。

屈託のない笑顔は、例え営業スマイルだとしても、ここに来た来客を安心させるような雰囲気が有った。

忍学科一年に所属しここでバイトをしている彼女『菖蒲』はハイテンションな口調で目の前の尊敬する先輩である葛城に話しかける。

 

「昼飯買いに来たんだよ、昼飯…おにぎり二つ」

「またラーメンとですかぁ?好い加減にしないと太りますよぉ」

 

「アタイは太らない体質だよ」と菖蒲の忠告を軽く流して財布からおにぎり二つ分の代金を渡す葛城。

菖蒲はため息をつきながらも、辛子明太子とおかかの具が入ったおにぎりをビニール袋に入れて手渡した。

 

「かつ姉さま、最近機嫌が良いですねぇ。もしかして件の編入生ですかぁ?」

「ま、まぁな///」

「ふふ♪どんな殿方なんですぅ?かつ姉様がそこまでご執心な幸せな人はぁ…」

 

少しだけ照れたように肯定する葛城に菖蒲はニヤニヤと笑みを浮かべながら追及すると、彼女は困ったように彼のことを語る。

 

「何て言うかさ、『強さ』を感じたんだよ」

「力が強いってことですかぁ?」

「そうじゃなくて、えーと……一見ふざけているように見える癖に、アタイに抱き着かれると顔を真っ赤にしちまうぐらい初心な奴で、お人よしなんだよ」

 

「でも」と葛城は話を続ける。

 

「そこに、あいつの『強さ』の根本って言うか…あいつの、その……優しさが見えたんだよ///」

「要約すると、彼が優しかったから惚れたんですねぇ……かつ姉様ちょろすぎませんかぁ?」

 

「うっせ!」と菖蒲を黙らせ葛城は照れ臭さを隠すように腕を胸の下に組んだ。

菖蒲は思う、『強さ』に対して必要以上のこだわりを持つ彼女の事情は知っている…大事な家族を守れなかった自分を恥じた葛城は、掟を破り組織を追放された忍…『抜け忍』となった両親と再び出会うために、善忍陣営での地位を得ることで両親の信用を取り戻そうとしているのだ。

そんな彼女が、自分とは違う強さを持つ少年に尊敬と思慕の念を抱いている…それが、自分を不良から助けてくれた先輩の一面を見れたことに嬉しさとわずかな嫉妬を感じていた。

すると、ドアの開ける音に気付いた菖蒲は挨拶をしようとそちらの方を向いた。

 

「かつ姉ー?飛鳥さんから、ここにいるって聞いたんですけど…」

「……」

 

葛城を探しに購買部に顔を出した戒……今まさに話題となっていた同い年の少年を菖蒲は呆然と見つめていた。

中性的な顔立ちと宝石のような紅い瞳、パーカーのような学生服を着こなした一般の男子より低い身長と優しい声、何もかもが菖蒲の好みと完全一致していた。

 

「か…」

「か?」

「カッコ良いですぅっ!何でこんなにカッコ良いんですかぁ!どうしてここに来たんですかぁ!?あ、もしかしてあなたが菖蒲の運命の王子様ですかぁっ!?」

「はっ、はっ!?」

 

目を輝かせながらいつも以上のハイテンションで自分に詰め寄り、手袋をはめた自分の黒い手を握ってくる少女に戒はいつもの態度を取ることが出来ず困惑するばかり……。

初対面でありながら出会ってそうそう、戒に惚れ込む菖蒲に葛城は苦笑いで彼女を制止させようとするが、遅かった。

 

「菖蒲の身体を触って下さい、王子様ぁっ!」

「はっ、はああああああっ!!?/// ちょ、な、なな、何を言って…///」

「さあ、さあっ!遠慮なく触って下さい!菖蒲の身体はもう、かつ姉様と王子様だけのものですからぁっ!!!」

「ま、待って待って待って、ちょっと待って!/// か、かつ姉助けてええええええええっっ!!?///」

 

自慢のサイズをぐいぐいと押し付けて暴走する菖蒲に顔を真っ赤にしながら戒は葛城に助けを求めた。

その後、菖蒲は戒と葛城に謝罪をした後…時々購買部に顔を出す戒と世間話をする程度には仲良くなり母親たちの危惧していたことが半ば事実となりかけていた。

 

 

 

 

 

その夜、社会に馴染めぬ若者たちのたむろ場は一体の異形によって破壊されていた。

騒ぎ、己の不満や欲望をぶち巻け、気に入らない奴は誰であろうと突っかかる…自分たちより優れた者など存在しないとさえ豪語する彼らは、突如現れた『来客』によって蹂躙されていた。

折れた鼻から流れる血ともはや痛みも感じない箇所を抑えながら、気絶を免れた若者の一人は腰の抜けた身体を引きずり、目の前の異形を見る……。

 

『この街は、「彼女」が好きだった街だ。誰もが笑顔でいることに望み、綺麗な街が好きだった「彼女」の街だ……』

 

若い少年の声で異形が独り言のように話す。

錆びたようなイエローとマゼンタのシンプルな身体とスポーツ用ヘルメットを模した頭部…腕部と脚部には銀色のスプリングが装着されており、両肩には横向きになったBMXのアーマーが被されている。

見た目こそ奇天烈だが、若者たちからすれば自分たちを襲い始めたその存在は恐怖の対象だった。

異形『バイシクル・エラー』は逃げ出そうとする若者に気付くとゆっくりと歩を進めていく。

 

『だから消えろ…ここは、「彼女」が眠る街だ。消えろ、消えろ。そして消えろ……安らかに眠る「彼女」の街から』

「…ああああああああああああっっ!!!!」

 

バイシクルが呟きながら車輪型のチャクラムを振り下ろすのを、ミケネは楽しそうに観ているのであった。

 

Next Stage →COMBO5 憎悪×恐怖




 幕間でした。今回は本編で出せなかったオリキャラを何人か出したかったのと、自分なりのカッコいいけど残念な村雨を書きたかったので個人的には満足です。
 次回は柳生と雲雀のストーリーとなります。バイシクル・エラーに関しては詳しく記載しますが、モチーフは言わずもがな、シャカリキスポーツです。
 菖蒲は出したかったんです。新作にも登場しますし、可愛いですし…チョロインを通り越した一目惚れ…これには驚いたかもしれませんが恋に落ちるのってこんなこともあるかな?と思いながら書きました…まぁコメディパートと思っていただけたら。
 ではでは。ノシ


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COMBO5 憎悪×恐怖

 今回は柳生と雲雀のメインストーリーです。カー君少し空気かもしれません…主人公(笑)にならないよう気を付けないと((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル


『きめた!おれ、BMXせんしゅになる!』

 

遠い、遠い記憶だ……暖かくて、幸せで、そしてそれ以上に悲しい…。

だが、そんなことを知る由もない過去の自分は、隣にいる少女に対して楽しそうに語り掛けている。

 

『びーえむえっくすせんしゅ?』

『そう!チャリンコにのってレースしたり、カッケーうごきをいろんなひとにみせるんだ!』

 

言葉の意味が分からず、小首を傾げておうむ返しをする彼女に楽しそうに説明を始める。

しかし、彼女は何処か不安そうな面持ちだ。

 

『でも、きっとこわいよ?――――くんは、こわくないの?』

『もうきめた!おれはBMXせんしゅになって、せかいじゅうのひとをチャリンコでむちゅうにさせるんだ!』

 

その言葉に思わず吹き出しそうになってしまう、そうだ…あのころの自分は年相応にわがままで、頑固で…年相応に複雑な想いを抱いていた。

それが、何だったのかは今となっては分からない…でも、彼女が笑ってくれたのが何よりも嬉しかった。

途端、ノイズが走る…目の前に映るのは己の欲のままに行動する連中と……幸せそうなあの女の顔だ。

ふざけるな、ふざけるな!ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!!

何で彼女が不幸になって、お前が幸せなんだっ!何でお前が生きて彼女が死ぬんだっ!!そうだ、そうだそうだそうだっ!お前が幸せになる権利も生きる資格もない!

オマエガシンデシマエバヨカッタノニ……。

そこで映像が途切れた。

 

 

 

 

 

大きな街となれば何処にでもありふれた道路街にある廃ビルの使われていない部屋では赤黒いシミと辺りに充満した鉄臭さが一人の女刑事、美海の鼻を刺激した。

 

「……ひどいわね…」

 

舞っている埃でクリーニングに出したばかりの、軍服を彷彿させるような黒い制服は酷く汚れてしまい、それを手で払いながらも白いチョークで描かれた線を見る。

現場を検証している捜査一課の刑事(年を見るに若手の方だろう)は不良少年同士の抗争などと話しており先輩刑事らしき人物はそれを窘めるように話している。

 

「……はぁ。やっと、来たのね」

 

後ろで懸命に情報が洩れないように細心の注意を払いながら、捜査している刑事や鑑識の傍目に見ると見覚えのある黒のボーラーハットを発見し、部下である佑斗を連れて捜査を抜け出した。

 

「美海さん、佑斗さん。こんにちは」

 

琴音は頭を下げ、戒もハットを取り軽く頭を下げると状況確認のため現場近くの広場で落ち合う。

 

「駆けつけてくると思ったわ。今回の被害は今までで一番だからね」

 

そこで言葉を切ると、続けるように美海は半目だった目を細めて戒に聞く。

 

「見たわよね?あの惨状」

「嫌ってほどにね。そっちはどこまで事件の犯人に迫ってんの?」

 

やれやれと言った具合で腕組みをする戒は、美海たちに逆に質問をする。

 

「……相変わらず事件になると遠慮がなくなるわね。正直に言うと、全く目星がついていない状況よ」

 

あまりにも確信を突いた質問に苦笑いを浮かべている佑斗を軽く睨み付けると美海はそんな戒に、捜査が行き詰っていることを正直に告げる。

ここ最近連続して起きている連続襲撃事件……被害者たちは皆、社会に馴染めぬ人間…所謂「不良」や「チンピラ」と呼ばれる人間たちのたまり場が襲撃される事件が多発しており、それだけを聞けばメディアで世間に報道される犯罪事件だが、意識のあった少年からの「怪物」と言う証言が美海たちの所属する『不可能犯罪捜査課』の活動を開始させたのだ。

しかし、エラーを倒すことが出来るのは仮面ライダーである戒しかいない…まだ子どもある彼に頼らなければならないという自身への無力感から悔しそうに表情を歪める美海を落ち着かせるように佑斗は彼女の肩に手を置くと、戒に優しく語りかけた。

 

「よろしくな。戒君、琴音ちゃん」

「良い?絶対に無理をしないでよ。あなたたちは子どもでもあるんだから」

 

美海の心配そうな声を聞いた戒はしっかりと、力強く頷いた。

 

「任せとけって。迷子にならないように琴音の手はしっかりと繋いでおくから」

「いや、私のっ!?しかも何で子ども扱い!?体格?私がちんちくりんだから、ねぇ!?」

 

そんなコントのような二人のやり取りを見て、気が楽になったのか、美海はこの日初めて頬を緩めた…その時だった。

戒のスマホに着信が入った。

 

 

 

 

 

美海たちと離れた戒から情報を共有した柳生と雲雀はまだ人通りの多い街を歩いていた。

もちろん、連続襲撃事件の犯人であるエラーを探すためだ…当初は飛鳥か斑鳩たちと組んで捜索する予定だったが、柳生本人から「下手に集団で行動するよりは、ばらけて探した方が効率も良い」と進言し、それに全員が納得したため今この場にいるのは彼女と親友である雲雀しかいなかった。

しかし、エラーを倒せないのは自分たちが良く分かっているので彼女たちはいつでも連絡が取れるよう伝達用の発煙筒を持ち歩いていた。

 

しばらく歩いていると、雲雀があることに気付き先を歩いていた柳生に声を掛ける。

 

「どうした、雲雀?」

「うん、あの人なんだけど…」

 

彼女が指を指したそこには一人の少年が佇んでいた。

黒い髪に、新たに加わった自分の仲間と同じ中性的な容姿を持つ…恐らく中学生ぐらいであろうその少年は自分たちの方を見ながら不気味に笑っており、明らかに様子がおかしいと感じた柳生は彼に近づき、憮然とした様子で話しかける。

 

「おい、一体何の用だ?オレはともかく雲雀にそんな笑みを向けるな」

 

口ではそうは言ったものの、柳生は少年に対して言いようもない悪寒を感じていた。

目の前の少年は、時々自分たちに言い寄ってくる男どもと違う感情を向けていたからだ。

 

「見つけた…やっと、見つけた。けれど、そうか…やっぱりそういうことか」

 

そんな彼女の質問に答えず、少年は嬉しそうな…待ち望んだような、納得したような声色で呟く。

 

「何を言っている?お前は一体…」

「黙れっ!あの子の痛みを、思い知れっ!!」

 

柳生の言葉を無理やり遮ると、少年はポケットからエラーカセットを取り出した。

 

【LOADING…GAME START…】

 

電子音声と共に少年は、イエローとマゼンタの錆びたボディにスポーツ用ヘルメットを模した頭部。

そして腕部と脚部に装着された銀色のスプリングと横向きになったBMXを模した装甲を被さった異形『バイシクル・エラー』へと融合を遂げた。

 

「っ!雲雀っ!」

 

目の前に現れたエラーに驚きながらも柳生は雲雀に指示を送ると、彼女が発煙筒を使用し、戒に連絡を入れている間に体当たりを仕掛けながらある細工を施す。

 

「『忍結界』っ!!」

 

そう叫んだ途端、周囲の景色が一瞬反転すると通常の景色へと戻るが人がいたはずの場所には柳生たち以外誰もいなくなっていた。

忍結界……忍同士の決闘に用いられる結界であり、一般人と器物に被害が及ばないようするための結界である、使用を続けるごとにデメリットこそあるが一般人に被害が及ぶよりは良いだろう。

誰もいなくなった空間にバイシクルは動揺するも、すぐさま体勢を整えると電灯型の黄色く光るモノアイで柳生を見るとゲームパッド型ユニットから声を発する。

 

『ヒャッホー!!俺サマたちのエクセレントハイパーウルトラトリックの、始まりだぜえええええええっっ!!!』

 

使い方が合っているのかさえ、不安な英語交じりにハイテンションで叫ぶとバイシクルは身体のスプリングを利用した機動力で柳生に襲い掛かる。

放たれた蹴りを番傘で防ぐ…どうやら機動力はあるが、威力はそれほどではないと判断した柳生はバイシクルの脚ごと押し返すと番傘の先端を向け銃弾を放つ。

何発かは被弾し煙を上げるが効いている様子はなく、アクロバティックに動き回り攻撃してくる。

やがて、バイシクルのキックは柳生の右肩に直撃し彼女の身体は大きく吹き飛ばされた。

かろうじて脱臼は免れたが蹴られた箇所を中心に激痛が走り。武器を持つことはおろか回避すらままならない…。

 

『消えろ、あの子の、「望ちゃん」の元で…消えて詫びろぉっ!!』

「っ!?まさかお前は…!!」

 

少年の人格で叫んだバイシクルは柳生の脳天目掛けて踵落としを仕掛けた。

しかし……。

 

「オ、ラァッ!!!」

『ぐぎゃっ!?』

 

ドライグハートに乗ったアーサーがバイシクルの身体を大きく吹き飛ばした。

宙を飛び地面に転がったのを確認したアーサーはドライグハートから降りると右肩を抑えている柳生に声を掛ける。

 

「大丈夫か」

「…オレは良い。雲雀は?」

『心配ない、飛鳥たちと合流出来た。じきに来るよ』

 

激痛に顔を僅かに歪めながらも親友の安否を確認する彼女にウェルシュは答える。

すると、ドライグハートに後ろに乗っていた琴音が彼女に手を貸すと同時に飛鳥たちと合流した雲雀が柳生の元に駆け寄る。

 

「さて、と…」

【ATACK ARTS! SONIC BOOST!!】

 

赤いボタンを押して、脚力強化を施したアーサーはバイシクルを見据えて地面を蹴り攻撃を仕掛ける。

しかし、バイシクルも負けてはいない…アクロバティックな動きと共に繰り出されるストレート、ハイキック、膝蹴りと連撃していくがアーサーはそれを召喚したグレンバーンで防いでいく。

アーサーとバイシクルの脚が交差する中、この足技を主体とする戦いにも決着がついた。

 

「そらっ!吹っ飛べ!!」

『がぁっ!!!』

 

攻撃を行うバイシクルの隙を狙い撃つように繰り出されたアーサーのヤクザキックが横っ腹を蹴り飛ばした。

再び地面を転がることになったバイシクルは、蹴られた箇所を抑えると車輪型のチャクラムを装備し魔力を纏わせながら投擲する。

アーサーはグレンバーンを抜刀して防いだがバイシクルが逃げ通せてしまったのを確認するとカセットを抜き取りドライバーのトリガーを引いて変身を解除した。

 

 

 

 

 

「申し訳ありません、警察の方まで巻き込んでしまうとは」

「いえ、不可能犯罪捜査課(われわれ)としても政府公認の諜報機関とコネクト出来たことは大きいわ。情報の共有と引き換えにあなた方の存在は秘匿にする方針で…」

 

生徒たちからしたら新鮮であろう敬語の霧夜と、パトカーで戒の後を追ってきた美海は今後のことについて話をしているのを戒は横目で見ていた。

あの後、美海に散々説教された戒は何とか話をはぐらかそうとしたが霧夜からの電話に横入りした彼女によって忍学科の教室へと連行されたのだ。

だが、少なくとも美海との連携が取りやすくなったのは大きい。

ある意味ラッキーかもしれないなと前向きに捉えつつ戒は今後の方針について考えていた。

被害者たちは不良やチンピラ、しかし柳生を見る目には憎悪とも呼べる感情が籠っていることから、恐らく今後は柳生を狙うだろうと考えていた。

 

(そうなると……)

「少し良いか」

 

そこまで考えていた戒の思考を遮る少女がいた。

少女…柳生は相も変わらず憮然とした表情で戒のことを眼帯のない綺麗な瞳で見ると「実は」と話を切り出した。

 

 

 

 

 

放課後、柳生は近くにあるスケートボード場にいた。

理由はもちろん、バイシクルをおびき出すための囮としてである。

あまりにも危険な行為に戒や美海を含めるメンバーたちが反対したが結局柳生に押し切られる形になってしまったのである。

広げた番傘を回転させているとバイシクルが現れる。

同時に、戒たちが姿を現し彼を取り囲んだ。

 

『……やっぱり罠だったか』

『オォーウ!シット!!』

 

二つの人格で話すバイシクルに臆せず、柳生はゆっくりと口を開いた。

 

「正体を見せろ…『願愛(ねお)』」

『……』

 

本当の名前を呼ばれたバイシクルは黙ってカセットを排出しスイッチを押すと融合を解き少年…願愛の姿へと戻った。

 

「良く分かったね」

「妹から、お前の話は聞いていたからな…」

 

見下した様子で話す彼とは対照的に柳生の顔は辛く歪んでいた。

妹の親友でもあった彼がなぜエラーへと堕ちたのか…心当たりがあったからだ。

 

「望が関係しているんだろ?」

「…そうだよ。望ちゃんはこの街が好きだった、だから最初はああいうゴミ共を掃除しようとして綺麗にしようとしたんだ」

 

「でも」と願愛は笑い始めた。

 

「偶然、本当偶然にあんたを見つけた時決めたよ!あいつらを始末するよりも、あんたを消せば望ちゃんも喜んでくれるってねぇ!!」

【LOADING…GAME START…】

 

そう叫ぶやいなや、バイシクルへと融合すると同時に景色が反転した。

飛鳥たちが忍との戦いで使用する忍法…忍結界だ。

忍でもない彼が使ったことに飛鳥たちは驚きを隠せない、バイシクルは複数のエラーカセットを投げ複数体のポーントルーパーを召喚しながら得意げに語る。

 

『はは、あいつの言ったとおりだ!上手いこと魔力を拡散させれば本当にこっち側の姿を消せるらしいな、このままお前たちまとめて退場させてやる!!』

「はっ、そんな付け焼刃で偉そうに」

 

得意げに語るバイシクルに毒づきながら戒はドライバーを腰に巻き付けるとドラゴンカセットを起動させてスロットに差し込み、そして。

 

「変身!」

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

 

アーサーへと変身すると、バイシクルの間合いに入り鞘に納めたグレンバーンによる打撃と蹴り技で追い詰める。

 

『シット!俺サマのビューティフルテクニックに酔いしれな!!』

 

僅かに攻撃を受けたバイシクルは回避して一旦距離を取るとアーマーと分離する。

分離したアーマーは競技用自転車BMXに変化すると、バイシクルはそれに跨りペダルを踏み始めた。

 

「うわぁっとっ!?野郎、ちょこまかと…ウェルシュ!こっちもドライグハートで…」

『無茶を言うな!狭い空間なら自転車の方がはるかに有利だっ!…というよりも分かって言ってるだろ君は!?』

「ですよねー」

 

華麗なテクニックとスケートボード場の地形を利用した動きで翻弄する相手にアーサーはドライグハートで対抗しようとするが反対されたウェルシュに素直に頷いた。

その一方で美海はポーントルーパー相手に善戦していた。

 

「ふっ!邪魔っ」

『ガッ、ギブゥ!?』

 

首元のネックレスに魔力を通しリボルバーマグナムへと形を変えると、関節技を決めて地面に倒したポーントルーパーの頭部に銃口を向けて引き金を引く。

ゼロ距離での攻撃を受けたポーントルーパーは消滅したのを確認すると、ほぼ無限に近い弾数を持つマグナムで飛鳥たちのサポートを行う。

 

「良い?戒の力があるからって油断しないでっ!一体一体確実に仕留めなさい!」

『は、はいっ!』

 

美海の指示を受けた飛鳥たちは反射的に返事をするが、油断せず二組三組で行動しつつポーントルーパーの除去を開始した。

そして、飛鳥の『二刀繚斬』と葛城の『クロスパンツァー』で吹き飛ばしたのを斑鳩の『鳳火炎閃』と琴音のハルバードによる一撃で全滅した。

 

『ぎゃあああっ!!?』

 

一方様々なトリックを決めていたバイシクルもコースを予測されたアーサーによって蹴り飛ばされていた。

愛車のBMXごと数メートル先へと吹き飛ばされ地面を転がる。

 

『くそ!どうしてだ…どうしてお前だけが幸せになるんだ!どうして望ちゃんがあんな不幸な目に合わなきゃいけないんだっ!』

 

バイシクルはBMXと共に起き上がると柳生の方を睨み、あらん限りの声で罵倒する。

 

『望ちゃんは、あんたを尊敬していたんだ!なのに、あんたはあの子が死んだら代わりの人形に乗り換えたんだ!!あんたは自分を慕ってくれる人形が欲しいだけだっ!』

 

その言葉に、柳生はびくりと身体を震わした。

それ以上の言葉は、聞きたくなかった…必死に彼の言葉を否定しようとする前にバイシクルがそれを遮るように叫んだ。

 

「な、何を言って…」

『お前は見捨てたんだ!あの子を、望ちゃんを裏切ったんだ!』

 

その言葉によって心の奥深くを抉られた彼女は…言いようもない恐怖に晒された。

 

「ち、違う!オレは…違うっ!違う違う違うっ!!」

「待て、柳生!」

『おっと、邪魔はさせませんよ?』

 

感情に任せてバイシクルへと突撃してしまった柳生をアーサーは制止させようとする空から落ちてくる極彩色の羽根と、琴音たちを覆うように巨大な炎の壁が行動を制限させた。

ゆったりとしたスピードその場に降り立つと、黒いコートを翻しながら不死鳥…フェニックス・エラーが左腕のエラーブレスを見せながら姿を現した。

 

「お前、まさかレッドゾーンと同じ…!」

『ご察しの通りです。あなたの小細工によってレッドゾーンの戦闘が困難となったので、私が彼の代役を…ですが』

 

「容赦はしませんよ」と言うなり、フェニックスはステッキから火炎弾をアーサーに向けて飛ばす。

アーサーはそれを躱すが左手に構えたボウガンから大量に射出する羽根型エネルギーをくらってしまう。

 

「グッ!!」

「カー君!」

『おや?どうやら、私との相性は最悪みたいですね』

 

琴音や飛鳥たちが名を呼ぶ中、フェニックスはアーサーが遠距離での手段が少ないことを冷静に分析する。

一方…完全に動揺してしまった柳生は番傘をバイシクル目掛けてめちゃくちゃに振り回すも華麗なテクニックで躱された挙句BMXの車輪で衝突させられてしまう。

 

「ううッ、オレは、オレは…!!」

『この世から消えて…望ちゃんに地獄で詫びろぉっ!』

 

地面を転がり起き上がるも恐怖で番傘を満足に握ることさえ出来なくなった彼女を睨むバイシクル。

BMXをアーマーに戻して合体すると感情によって増幅した魔力をチャクラムに纏わせ無情にも柳生目掛けて放った。

 

「っ!くそっ!!」

『戒っ!何をっ!?』

『おやおや』

 

それを見たアーサーはフェニックスを無理やりグレンバーンで押し返すとバックルの赤いボタンを連打し脚力を超強化する。

動揺するウェルシュと興味深そうに観察するフェニックスを無視してアーサーは柳生の元へと走りそして。

 

「グアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

背中からくる強い衝撃を受けるのだった。

To be continued……。




 バイシクル・エラーは前回でも触れましたがシャカリキスポーツです。バイク系の怪人はいても自転車に乗る怪人は仮面ライダーにはいない(エグゼイドに出たけど)と思ったので考えてみました。詳しい話は次回で。
 ではでは。ノシ


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COMBO6 暴走×疾走

 後編です。眠い…。
 今回は雲雀の成長を少し意識して書いてみました。自分の秘密のことで悩んだり、悪忍について考えを持ったのも彼女だった気がします…多分。


「く、かはっ……!」

『戒っ!大丈夫か、戒!』

 

バイシクルの攻撃を直撃し変身を解除してしまった戒の安否を確認するウェルシュ。

炎の壁が自然消滅するとわき目も降らず駆け寄る琴音が悲鳴に近い声で名前を呼ぶ

命に別状はなさそうだがダメージが酷く、立ち上がることさえ困難だった。

邪魔者を排除出来たことに満足したバイシクルはアーマーを分離させると、そのまま放心状態となっている柳生に狙いを定める。

そして攻撃を仕掛けようとペダルを踏んだ途端…バイシクルの動きが止まり、苦しそうに胸に手を抑えた。

 

『…?どうしました、バイシク…』

『ギ、ガ、アアアアアアアアアアッッ!!?』

 

フェニックスの返答の代わりにバイシクルは絶叫すると、乗っていたBMXごとデータ状の魔力に覆われ、その姿を変えた。

…現れたのは、BMXと合体したバイシクル・エラーだった。

横倒しの姿勢となっているが両腕と両脚に当たる部分はタイヤとなっており明らかに異常な変化を遂げていた。

既に理性はないのか、融合者である願愛の人格もエラーの人格すらも消し飛んでしまっていた。

 

『やれやれ、暴走しましたか…あれでは救済を遂げても無意味でしょうね』

『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』

 

嘆息するフェニックスの声をかき消すように『バイシクル・エラー 暴走態』は獣じみた咆哮をあげると、身体にあるチェーンを高速回転させる。

マゼンタとイエロー魔力を纏うと忍結界を維持したままその場から逃げ去るように疾走していった。

 

『さて、このことは彼らに連絡しておきますか…それでは』

「お待ちなさいっ!」

 

斑鳩が飛燕を振るうよりも先にフェニックスは炎に一瞬で包まれるとそのまま姿を消した。

 

 

 

 

 

「戒っ!大丈夫!?痛いところはない?腫れてない?ゴメンね、お姉ちゃんがいるのに…」

「だから、大丈夫だって美海姉さん。ちゃんと食欲もあるし薬も塗ったから」

 

フェニックスが去った後、忍学科の教室へと戻って美海が真っ先にしたことは事態のバイシクル捜索をリアに依頼することと戒の安否だった。

普段はクールな彼女で甥である戒に対しても素っ気ないが実は美緒と真希奈に並ぶほど溺愛しているのだ。

ただ、仕事柄己を律していることと佑斗の目があること…そして美緒ほど過保護ではないため、それが表に出ないだけの話である。

戒はしつこく心配する美海に返事をしながらも、彼女を心配させてしまったことに少し反省した。

後で「母さんたちにも怒られるな」と思いながら、気分を変えるように教室を見渡すとこの場にいるメンバーの中で一人いないことに気づく。

……柳生がいない。

嫌な予感がした戒は雲雀に聞いてみるが彼女も探していたらしく、飛鳥たちに聞いたところ姿を見ていないという、忍学科に戻ったことは間違い…なら何処に。

 

「どうした。お前たち」

「霧夜先生、実は」

 

教室に入ってきた霧夜に雲雀は事情を説明すると、彼は腕を組み考える仕草をする。

 

「…心当たりがないわけではない、しかし…」

「教えてください。霧夜先生」

 

「お願いします」と頭を下げる雲雀と戒に霧夜は瞳を閉じ告げるべきか迷うが、やがて意を決したように彼らの顔を見た。

 

「分かった。だが、その前にお前らには聞いてもらう話がある」

「話……あいつの『妹』についてだ」

 

そう言って霧夜は柳生の家族について語りだした。

 

 

 

 

 

柳生は一人……最愛の妹が眠る墓地を訪れていた。

どうしてここに来たのかは分からない…ただ、自身の中に巣くう恐怖を払いのけたかったのかもしれない。

手を合わせ、無言のままに佇む…だが、思い浮かぶのは彼女の笑顔ではなくバイシクルの放ったあの言葉。

 

――――『お前は見捨てたんだ!あの子を、望ちゃんを裏切ったんだ!』――――

(っ!!違う、違う!オレは、オレは……!!)

 

呪詛にも似た言葉が柳生を抉る、違うのは分かっている…自分が望を忘れたわけではないのは分かっている。

なら、どうして自分の心はこんなにも痛むのだろうか…どうして、こんなに苦しいのか。

もしかしたら望は自分のことを恨んでいるのでは?

そう考えたら全ての辻褄が合う、合ってしまうのだ。

気が付くと、彼女は番傘を両手で構え銃口となっている先端を自分の喉元へ突き立て…。

 

「…ちゃん。柳生ちゃん!!」

 

聞き覚えのある、自分を安心させてくれる声が聞こえると番傘が払われた。

息を切らした戒…恐らく番傘を蹴り飛ばしたのだろう彼は息と整えると胸倉を掴み無理やり立ち上がらせる。

 

「何やってるんだ、お前……」

「…放せ」

「自分が何をしようとしたのか、分かってんのか!」

「うるさいっ!!」

 

珍しく声を荒げる戒の声に比例するように柳生の声が大きくなる…そして手を払うと顔を俯けた。

その様子に少し頭が冷えた戒は狼狽えている雲雀に視線を向け、意を決したように話しかける。

 

「霧夜先生から聞いたよ。お前の妹のこと…場所も教えてもらった」

「…オレは、望を忘れたんだ。だから、せめてもの償いを…」

「お前の妹の死は、自分が死んで償える程度の軽いものなのか?」

 

その言葉を聞いた柳生は、戒を睨みつけるがそれに引くことなく逆に自分の目を見据えられた。

 

「分かんねぇよ。俺は両親も健在だし妹とかも失ったこともない…でも、人が目の前で死んだ気持ちは、痛いほど分かる」

 

頭をかきながら話す戒の瞳は、何処か悲しそうだった…失ったものがある柳生だからこそ分かってしまった。

彼も、誰かの死を経験していることに。

押し黙ってしまった戒と入れ替わるように雲雀が柳生の手を両手で握る。

 

「柳生ちゃんは、ひばりの『眼』のこと知ってるよね?」

 

彼女の家計は先祖代々から伝わる能力『華眼』によって歴史を暗躍してきた。

しかし、その眼を宿したのは出来の悪い自分だった…失敗しても怒らない兄や姉たちに対して無意識の内に恐怖し能力を嫌悪した。

だが、それを打ち明けても変わらず接してくれた仲間たちが、自分の親友でいてくれた柳生に嬉しく感じたのだ。

 

「だが、オレはお前を望の代用品として…」

「それなら、柳生ちゃんはここに来ていないよ」

 

「え?」と柳生は顔を上げて雲雀の顔を見る。

雲雀は、普段の彼女からは考えられないほど弱々しい瞳の彼女を見据える。

 

「本当に、ひばりのことを望ちゃんの代わりと思っているなら柳生ちゃんはここに来なかったと思う。でも、望ちゃんのいるこの場所に来たのは、望ちゃんのことを忘れなかったからだとひばりは思ってる」

「ひ、ばり」

「だから、生きよう。望ちゃんの分まで…それで、ひばりや戒くんや飛鳥ちゃんたちと一緒に、また遊ぼうよ」

 

その言葉が引き金となった。

嗚咽をあげて泣き始めた柳生を、雲雀は何も言わず自分の胸元に顔をうずめる彼女を優しく慰めていた。

気分が落ち着いた柳生は涙を拭うと、戒の元に近寄り頭を下げて謝罪と二度目の戦闘と先ほどの自分を助けてくれた行為に対する感謝を口にする。

 

「すまなかった。それと、助けてくれて…その、ありがとう」

「いや…俺の方こそ、怒鳴ってごめん…お前の気持ちとか考えてなかった」

「そこは素直に『どういたしまして』と言え」

「余計なお世話だよ」

 

そう言って笑顔を見せる二人と雲雀…緊迫した空気が緩み始めたその時、戒のスマホから電話が鳴る。

 

「どうした?リア」

『バイシクルが動き出しました!忍結界を展開していましたが、何とか位置の特定に成功しました!地図を送ります』

 

リアの言葉を聞いた戒が通話を終わらせバイシクルがいる場所を確かめると、彼はいつもの余裕の笑みを柳生たちに見せる。

 

「行こうぜ。柳生…やること分かってるか?」

「ああ、望の大好きな街で迷惑行為をするあいつの根性を」

「「叩き直す」」

「あはは、もう少し穏便に行こうよ」

 

声を揃えて言った戒と柳生に雲雀は困ったように頬を指でかくと、携帯していたアーサードライバーが起動し、シェアリングナイトフォースで力を共有させた。

 

 

 

 

 

霊園から離れたところに止めてあったドライグハートの元に近づくと戒は柳生に声を掛ける。

 

「乗れ、柳生!」

「……お前の後ろに乗るのか?」

「当たり前だろ」

 

逡巡したが、雑念を頭から払い投げ渡されたヘルメットを被ると柳生はドライグハートに跨っている戒の背中の座席に乗ると戒の身体に手を巻きつける。

 

(…意外と、恥ずかしいな///)

(あんまり意識しないようにしていたけど、神様ありがとうございます!///)

(……とか思っているんだろうなー二人とも)

 

内心欲望を漏らしている二人に雲雀は苦笑いながらも、気を取り直した戒がアーサードライバーを巻き付け…柳生と雲雀も巻物を取り出し変身準備を完了させた。

 

「変身っ!」

「「忍転身!」」

 

戒はドラゴンカセットでアーサーに、柳生は茶色のブレザーと赤いチェックのスカートに黒いマントを、雲雀はブルマと薄いピンクのジャージに似た忍装束へ姿を変える。

ドライグハートはアーサーと柳生を乗せて爆走し、雲雀も忍法で筋斗雲もとい『忍兎雲(にんとうん)』を召喚・乗り込むとバイシクルのいる現場へと動きだした。

 

 

 

 

 

風を感じる…とてつもないスピードを感じながら、バイシクルは道路を駆けていた。

自分が何をしたかったのか、どうして自分が救済に…ゲームにエントリーしたのかも今となっては思い出せなくなっていた。

ただ、走りたかった。

自分の今までやってきたことを否定されたくなかったから、彼はただ魔力を総動員させてBMXと一体化している自分の身体を爆走させていた。

ふと、自分のとは違う車輪の音が聞こえてくる、はっきりとしない意識で背後を見ると…赤いバイクを駆る仮面の騎士とその後ろにいる白いツインテールの眼帯少女…ドライグハートで爆走するアーサーと柳生が追跡していた。

 

 

 

 

 

VMAXをベースとした西洋の甲冑をモチーフにした赤と銀の車体が特徴のシャープなフォルムのスーパーバイク『ドライグハート』は主たちを乗せバイシクルを猛スピードで追跡していた。

 

『見えたぞっ、バイシクルだ!!』

「よし、このまま仕留める…柳生!」

 

ウェルシュの指示した方向には、マゼンタとイエローの魔力を纏いながら走るバイシクル。

暴走する彼を発見したアーサーは後ろに座っている柳生に声をかける。

彼女が頷いたのを確認したアーサーはアクセルを吹かせ隣接すると、ためらいなくそのまま蹴り飛ばした。

 

『ガッ…ア、アアアアアアアアッッ!!!』

 

もはや明確な意識もなくなり、周囲をただただ暴走するバイシクルは本能的にアーサーたちを『敵』と認識したのかスピードを殺して距離を取るとエネルギー弾を飛ばして迎撃する。

 

「……ふっ!」

 

しかし、後ろにいた柳生が番傘の先端に備えた銃口を向けると引き金を引いて発射された銃弾で相殺する。

そして。

 

「秘伝忍法『薙ぎ払う足』…!」

 

そう呟き、身の丈以上のある自身の精霊…秘伝動物である烏賊を召喚すると、それは凄まじい勢いで回転しバイシクルを薙ぎ払った。

 

『ギイイイイイイイッッ!!!』

 

衝撃で身体をスピンさせるが、各部に備わったスプリングで体勢を取り戻すと黒いエラーカセットを射出しポーントルーパー三体を召喚する。

召喚されたポーントルーパーの下半身はマウンテンバイクを一体化しており、両手には巨大なマグナムが装備されていた。

 

「戒っ!」

「分かってる!」

 

柳生の呼びかけにアーサーは卓越したドライビングテクニックでマグナムによる銃撃を回避していく。

一方のバイシクルはスピードを上げるとアーサーと再び隣接し体当たりを仕掛け、ドライグハートごと破壊しようとする。

ドライグハートに傷こそつかなかったが先ほどとは反対に、バランスを崩し振り落とされそうになるアーサーと柳生だがすぐに持ち直す。

アーサーは抜き身のグレンバーンを召喚し緑色のボタンを押すとトップを独走するバイシクル目掛けて投擲する。

 

「そら…よっと!!」

「…そこだっ!」

 

そこにすかさず柳生が雨属性へと変換させた銃弾を撃った。

水気を帯びた銃弾は冷気を纏うグレンバーンの柄頭に着弾…すると、グレンバーンは銃弾の勢いで加速しながら白く刺々しい氷を纏ったジャベリンへと変化しバイシクルへと直撃した。

 

「「合体秘伝忍法『氷の槍』」」

『ガアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』

 

無駄なことを語らない柳生らしいシンプルな秘伝忍法の名前をアーサーと共に呟くとバイシクルが絶叫した。

グレンバーンに纏っていた氷が剥がれ水となったそれは、雨のように流れ落ちポーントルーパーたちを濡らす。

その時、金色の雲がアーサーたちを横切った。

金色の雲の上には目つきの悪いマスコットのような兎『忍兎(にんと)』と、雲雀がおり宛ら西遊記に登場する筋斗雲のように雲を乗りこなす。

撃ち落とそうと、ポーントルーパーからの銃撃に対して空を縦横無尽に飛び回り急停止すると、標的に狙いを定め、雷を溜めていく。

 

「秘伝忍法!『忍兎でブーン』ッ!!」

 

雷を纏った忍兎雲による突進は身体を濡らしていたポーントルーパーたちに大ダメージを与え、消滅させられた。

三体の戦闘員を倒したのを確認したアーサーは車体を雲雀の方へ寄せると柳生は座席に足を掛けて立つ。

 

「「戒(君)っ!!」

「ああっ!お前の物語、ここで終わらせやる!」

 

ドライグハートから忍兎雲に飛び移った柳生を、危なげにキャッチしながらも彼女を支えることに成功した雲雀は、彼女と声を合わせてアーサーに全てを託す。

悲しみと憎悪に囚われたバイシクル…願愛を助けるために。

 

【CRTICAL ARTS! COMBO BREAK! DRAGON!!】

 

必殺技用のスロットにカセットを挿入し緑色のボタンを押して必殺技を発動させたアーサーはドライグハートに冷気と炎を纏わせる。

その場で急旋回してバイシクルと向かい合い、そのままアクセルを全開にして突進してくるバイシクルに勢いよく激突した。

 

「止まれえええええええええっっっ!!!!」

『アアアアアアアアアッッ!!!!』

 

必殺技の魔力を身に纏ったドライグハートの突進を正面から受け止めたバイシクル・エラーは身体中に皹を入れながら爆散する。

アーサーがブレーキをかけて停止し爆発地の後を見つめると、願愛がよろけながらもそこに立ち尽くしていた。

 

「俺は、俺はぁ……」

「オレはどうしようもない人間だ。姉失格と言われても仕方がない奴さ…言い訳もしない」

 

雲雀を妹の代わりとして見ていたことに違いはないから……。

彼女をちらりと見つめ、そう言いながらも、柳生は「だから」と言葉を続ける。

 

「すまなかった、望の想いを忘れてしまって。ありがとう…望のことをそこまで思ってくれて。妹のことを大切にしてくれて……」

 

ありがとう……。

その言葉に願愛は涙を流すと、その場で崩れ落ちた…その顔は、全てのしがらみから解放されたような、安らかな顔をしていた。

 

 

 

 

 

「うわっちゃー…雨か」

 

学校からの帰り道、激しく降り注ぐ雨水を見上げながら戒は一人ごちた。

昼ごろから天気の調子が悪いとは思っていたが、まさかここまでの豪雨とは思っていなかった。

美海からの報告書を書き終えたころには全員が既に帰宅しているため傘を貸してくれる人も入れてくれる人もいない。

幸いにも明日は休みだ、「濡れたまま帰るのもありかな」と前向きに考えながら外に踏み出そうとした…時だった。

 

「……」

「ん?」

 

自分の上に傘を差してくれたのだ。

誰だと思いながら見上げると、無愛想な眼帯の少女…柳生がおり、後ろにはピンクの雨合羽を着ている雲雀もいた。

 

「入れてやる…傘を忘れたんだろ?」

「えっと、良いのか?」

「うるさい、早く来い」

 

無理やり腕を掴まれ引っ張られると、防水を施した番傘の下へ無理やり入らされその横に雲雀が並ぶ。

帰り道を並ぶと、三人は雲雀のゲームや漫画などの他愛もない話をしながら歩いていく……やがてしばらくすると、戒が口を開いた。

 

「なあ……」

「「?」」

「雨って、好きか?」

 

彼からの急な問いかけに二人は顔を合わせると、柳生は薄く微笑み、雲雀は満面の笑みで答えた。

 

「…今日のは、悪くないな」

「大好きだよ!柳生ちゃんたちと一緒に帰れるもんっ!」

「……俺も、かな?」

 

二人の答えに戒は笑いながら答えると、楽しそうに帰路へと向かうのであった。

ちなみに、柳生と雲雀は義理堅くも戒の自宅の前まで送ってくれたため美緒から警戒の目を向けられたことは言うまでもない。

To be continued……。




 今回、戒が出張らなかったのは、家族を失ったこともない彼に何を言わせてもSEKKYOUになってしまうかなと思ったため、付き合いの長い雲雀に任せました。
 まぁカー君も人が死んでいるのを目の前で見ていますが、やはりここは作品を通して成長している雲雀に任せました。
 眠いのでこの辺で。ではでは。ノシ

バイシクル・エラー / バイシクル・エラー暴走態 CV田村睦心・ルー大柴
柳生の妹である望と友人(本人は仄かに恋慕の念があった)が融合変身した姿。通常形態は錆びたイエローとマゼンタのボディとスポーツタイプのヘルメットを模した頭部と電灯の黄色いモノアイ、BMXを模したアーマーを被っている。暴走態は一言で表すとアクセルのバイクフォーム。
脚部と腕部にある銀色のスプリングを駆使した身軽勝アクロバティックな攻撃を得意とし足技と車輪型のチャクラムを武器とする他、分離したアーマーで様々なトリックを決めながら滑走する。暴走態の場合は魔力を纏ったエネルギー弾や体当たりを得意とする。
望の好きな街のために不良共を襲っていたが、幸せそうな柳生を見たことで憎しみの矛先を彼女へと向けた。事件の後はきちんと罪を償うことを決めた。
裏モチーフはシャカリキスポーツ。


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COMBO6,5 出会い×出会い

 筆休め程度に日常編をちょいと…今回で戒と琴音が言っていた『幼馴染』の正体が分かります、後カー君の初恋の人も。
 後今回は試験的に一人称視点で書いてみましたが難しいものですね…銀○みたいなハッチャけたギャグもやってみたいです。


ある日の午前、穏やかな日光に照らされながら俺は街をぶらぶらと歩いていた。

普段なら友人と遊びに出かけるか、家で美少女ゲームをしているかとどっちかだがこうやって一人で出歩くのは本当に久しぶりだった。

一人で外に出歩こうと思った理由はない…ただ何となく、こうして街をぶらついてみただけだ。

 

「……暇だな」

 

しかし、分かり切っていたが流石にこのまま歩いているだけでは暇など潰せるわけがない。

……そういえば、途中で止まっている漫画があったっけ?

一先ずの方針を決めて向き直ると書店に向けて歩を進めようとした時だった。

 

「ん?」

 

何処かから男性の怒鳴り声が聞こえてくる、気のせいかと思ったが声が裏路地の方から聞こえてくる。

普通、こういったトラブルは当人たちの問題であって第三者で赤の他人である俺が首を突っ込む必要はない。

けれど。

 

「放っておけないんだよなぁ」

 

自分の悪い癖に辟易しながらそう呟くと、俺の脚は自然と裏路地の方へと向かっていた。

奥の方へと進んで行くと声の主が見えてきた。

巨体にスケバン風のセーラー服で身を包んでいたので一応女子と分かる…てか、あれは女子の声だったのか。

様子を見るため、モンス…もといスケバン女子の言動を物陰で見る。

もしかしたら、友人同士の喧嘩ということもある…何事もなかったらそのまま帰るつもりだったがどうも違うらしい。

 

「だから、たかがカツアゲの一つや二つ…見逃せって言ってんだよ!!」

「あなたたちの行っているのは弱者を追い詰める行為、すなわち『悪』です。正義の元に、その蛮行を見逃すわけにはいきません」

 

スケバンの風の女子が巨体を揺らしながら灰色の学生服(珍しいワンピースタイプだ)と黒いタイツに身を包んだ女子に突っかかる。

一般人が見たら尻込みするである重圧を放っているにも関わらず、学生服の女子はそれをものともしていない。

ここからでは分からないがスケバンの風の女子が風船のように分かりやすいほど真っ赤になっており今にも掴み掛からんばかりの勢いだ。

…出るなら今か。

ゆっくりと息を吐きながら、物陰から飛び出した。

 

「すいませーん」

「あっ?」

「え?」

 

頭に被った帽子に手を当てながらへらへらと笑いながら出てきた俺にスケバンと制服の女子が同時に声を出す。

それもそうだ、いきなりこんなところに名も知らない一般人Aが出てきたら驚く。

 

「何だか大きな声が聞こえたもので…カツアゲがどうとかって」

「だったら何だってんだ、アァンッ!?」

 

目標を俺に変えたスケバンは俺を睨み付ける…もしラノベやゲームの主人公だったら力を使ったりしてボコボコにするんだろうが俺は好きじゃない。

敵に容赦をしないスタイルはカッコイイが俺自身、敵に情が移るタイプなためそういったことが肌に合わないのだ。

出来れば穏便に済ませたいのが俺としての本音だ。

だが、目の前の御仁はそういったものが通じないらしい……。

俺が口にするよりも早く拳が飛んできたからだ。

振り出された拳ははっきり言って遅い、桜花おばさんの方がよっぽど速いし威力もあの人なら大理石を砕けるだろうな。

そんなことを考えながら、その拳を躱そうとした時だった。

 

「ブベラッ!?」

 

学生服の少女から繰り出された掌底がスケバン風女子の顎を打ち付けていた。

見事なほど綺麗に入った攻撃を受けたスケバンは巨体を宙に浮かして地鳴りにも似た音とともに倒れた。

すごいな、おい……。

 

「ご無事ですか?」

「え?アッハイ」

 

掌底を入れた少女が向き直り呆気にとられている俺に声を掛けてくる。

しかし、彼女の姿を改めて見た俺は思わず言葉を詰まらせてしまった。

第一印象は……『雪』であっただろうか。

華奢で何処か儚げな雰囲気のあるアイスブルーの瞳には月光のような確かな意志を宿しセミロングのグレーの髪は、大きな白いリボンによってキッチリと後頭部で束ねられ、所謂ハーフアップと呼ばれる髪型だ。

そして何よりも、何よりも胸囲部分が凄かった!だって、制服越しでも揺れてるんだぜ?引くなよ、俺は男子だよ。

そこまでの思考を母さん譲りの無駄な頭の回転力で処理し、目の前のGカップ美少女もとい、女子に感謝の言葉を口にする。

 

「ありがとうございました。助けるはずがこんな形になっちゃって」

「そのようなことはありません。あなたの雄姿は立派でした」

「いやぁ、はは///」

 

大したことはしなかったが美少女にそこまで言われると照れるしかない、元々女子が苦手なのでそのまま帰ろうとしたが視界の端に木刀を構えている影が見えた。

 

「危ないっ!」

「え?きゃっ」

 

振り下ろしてきた木刀から少女を助けようと駆け出し、庇うが彼女ごと押し倒す形になってしまい、衝撃が身体を襲った。

 

「痛ったた……(あれ?手に何か柔らかい感触…)」

「あ、あの///」

 

恥ずかしそうな少女の声に顔を上げると、俺の右手は彼女の胸を掴んでいた。

いや、しかし柔らかいな…服越しでこれなら直に触ったら…ていかんいかん!

慌てて上体を起こすと、顔を真っ赤にしてこちらを見てくる彼女に対して慌てて謝罪をする。

 

「す!すすすす、すいません!/// あの、わざとじゃなくてですね!?え、えと事故で、アクシデントであって…いや素敵な感触でしたけど……じゃないっ!!///」

「お、落ち着いてください。他意がなかったのは、その分かりますから///」

 

パニクって何を言っているか分からない俺とは対照的に、頬を赤らめながらも落ち着かせようとする彼女。

やがて、痺れを切らしたようにマスクを装着している不良風の男子がイラついた口調で怒鳴りたてる。

 

「おいっ!てめぇらさっきからイチャついてんじゃ…」

「うるせぇっ!!」

「ひでぶ!?」

 

それどころじゃねぇんだよ、タコ頭!!

木刀で再び襲い掛かってきた不良に対して俺は素早く少女の前に立つと、その胴体を蹴り飛ばした。

その後しばらくして俺と少女…『雪泉』と名乗った彼女は改めて俺の方に向き直ると丁寧な動作でお辞儀をしてくれた。

 

「本当にありがとうございました」

「いえ、こちらこそ」

 

本当は謝りたいことが星の数ほどあったがややこしくなると思ったため、軽く会釈で済ますと踵を返した。

 

「……それでは、雪泉さん」

「はい…また、お会いしましょう」

 

そう言って俺は、目的へと脚を進めた。

 

「はい。ええ…飛鳥さんの仰る通りでした。本当に、素敵な殿方……ふふ♪」

 

もしかしたら、彼女と再び出会うのにそれほどの時間は必要ないのかもしれない。

 

 

 

 

 

スマホで時間を確認すると、まだそれほど時間が経っていないことに気付いた。

時刻は丁度昼時を指しており行きつけの喫茶店で昼食を済ませようと歩を進め、到着するとドアを開いた。

 

「いらっしゃいませー…て、戒君っ!あの時は助かったよー」

「どうも、マスター」

 

知り合いのマスター(本人のこだわり)と軽く会話しながらも、「席が空いているか」と尋ねるが満席らしく空いている様子はない。

 

「相席なら可能だけど、どうする?」

「向こうの人たちが良いなら構いませんよ」

 

この際、相席でも良い…そう判断した俺はマスターに答えると彼は手早く話を済ませ席へと案内された。

 

「どうもすいません。迷惑をおかけしま…」

 

そう言って相席となった二人の少女たちに挨拶をしようとしたが途中で止まってしまった。

見覚えのある緑と青のオッドアイ、そして茶色の長髪を黒い紐リボンでツーテールにし、前髪を赤いカチューシャで纏めている少女とセミロングの金髪の少女に見覚えがあった。

間違いない、俺はこの二人をいや…この双子の姉妹を知っている。

向こうも驚いているだろう…眼をぱちくりとさせながら俺たちは恐る恐る互いの名前を呟いた。

 

「両備と、両奈?」

「「……戒(カー君)?」」

 

相席となった人物は、俺の小学生からの幼馴染でした。

 

 

 

 

 

「こんなところで会うとはね、正直びっくりしてる」

「その言葉、そのまま打ち返してあげるわ」

「じゃあその言葉をバットで打ち返す」

「なら両備はそれをキャッチして…」

「両備ちゃん、カー君。そのやり取りまたやるの?」

 

昼食を終えた後、俺たちはコントまがいのことをしながら話をしていた。

両備と両奈は、俺と琴音が七歳ぐらいの時に遊んでいた幼馴染だ。

金髪でジト目のふわふわした雰囲気を持つ『両奈』が姉で、彼女とよく似た顔立ちのツインテールが妹の『両備』だ。

ちなみに、両奈は左眼が緑で右眼が青のオッドアイで両備はその反対…何かも正反対な二人だが仲が良かったのを覚えている。

それに。

 

「体型もすっかり正反た…」

「それ以上言ったらぶん殴るわよ」

「さーせん、調子に乗ってました」

 

昔から兆しがあったが、すっかり豊満に成長した両奈と幼少のころから全く変わらない両備を見比べて話そうとしたが鬼の形相で睨んでいたすぐに謝罪した。

その際、息を荒げて興奮する両奈がいたがそれを無視…て言うか近い!

 

「両奈、ちょっと近…///」

「だって~、カー君と会うの久しぶりなんだもーん」

 

そう言いながら身体を押し付ける両奈…柔らかい感触が身体に当たって気持ち良い、じゃなくて!

 

「ほら、離れろ」

「あぁん♪」

 

その声にゾクッと来るものがあるがそれを聞き流し両備の方を見る。

……ものすごく不機嫌な表情を見せていた。

 

「ほら、機嫌治せって…アメちゃんあげるから」

「…もらう」

 

妙なところで素直な部分は変わってないな。

苦笑いしながら、俺は棒つきキャンディーの包みを外すと両備に突き出すと、彼女はそれを口に咥えて舐め始めた。

そんな彼女を見ながら俺と両奈は意地悪そうにニヤニヤと笑うのであった。

 

 

 

 

 

「はー……」

 

店を出てからゲームセンターと書店で一しきり遊ぶと、もう空は暗くなっていた。

久しぶりに出会った俺たちは並びながら帰路へと進みながら話をしていると、俺は深く深いため息をついた。

 

「……」

「あんまり、落ち込まないでよ」

「カー君…」

 

俺の顔が辛い表情を見せていることに気付いたのか、両備と両奈が心配そうに声を掛けてくれる。

両姫姉さん…俺や琴音にも優しくしてくれた両備たちの年の離れた姉である人。

そして、俺の初恋の人。

彼女のことを聞いた時はその場でパージして走り回ろうと思ったが両備が頭を殴ってくれたおかげで正気に戻っていた。

けれども、やはりと言うかショックがでかい…あんな綺麗な人が。

だがいつまでも暗い考えのままじゃ仕方がない。

頭に残るショックを振り払うと、俺は笑顔を作って二人にある提案をする。

母さんや琴音、桜花おばさんたちも喜んでくれるだろう。

 

「そうだ、飯食べてくか?夜も遅いし」

「え?でも…」

「良いの、カー君?」

 

両備と両奈は目を丸くさせたが「良いから」と彼女たちの手を繋ぐと走って帰路へと向かいだした。

そして、見慣れた家…俺の帰るべき家のドアを開けた。

 

「ただいま」

 

こうして、奇妙な出会いを経験した俺の日常は終わりを告げた。




 短いですが日常編でした。
 幼馴染は『両備』と『両奈』、そして初恋の人は少し年の離れた『両姫(17歳)』でした。飛鳥との出会いについては彼が初めて変身した番外編にでも。
 本編の方は気長にお待ちください。次回は満を持してのフォームチェンジ回です。
 ではでは。ノシ


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COMBO7 音色×鼓動

 今回は一話完結です。アーサーチャンネルで触れていた例外のエラー、そしてこの作品初めての……お楽しみください。
 前もって言っておきますが、蛇女のメンバーは両備と両奈経由でシェアリングナイトフォース機能で共有しています。半蔵メンバーと同じにすると似たような展開になってしまうと危惧したので…日常編でキャラを掘り下げていきたいと思います。
 それでは、どうぞ。


「今回のプレイヤー二名は極めて『特殊』なケースで誕生しているわ」

 

深夜を指す時刻、あるビルの屋上では深いスリットの入った修道服を着た長身のシスターがミケネに呟いていた。

修道服からでも誤魔化せないほどの容姿を持った美女は手を顔に当てて艶やかな笑みと共に息を吐くと、ミケネは話を促してくる。

 

『それはどゆことニャ?ユグドラシル』

「そのままの意味よ、彼らは今までのエラーたちとは違う形でゲームを進めている。『あの人』も喜ぶでしょうね」

「なら、次はユグドラシルのお姉ちゃんがいくの?」

「いいえ、私はゲームの経過をミケネと見ていることにするわ」

 

独断行動を起こしたエラーの対処についてレッドゾーンが訪ねるが「ユグドラシル」と呼ばれたシスターはそう結論付けて今回の事件を静観することに決めた。

レッドゾーン、フェニックスが己の手の内を晒した今…警戒するに越したことはない。

そう考えながら彼女はミケネを優しく抱きしめると暗く染まる街を眺めるのであった。

 

 

 

 

 

『秘立蛇女子学園』…依頼主となる悪徳政治家や闇企業の私的な利益のために違法行為も厭わず任務を遂行する『悪忍』を養成することが目的しており具体的な規模や拠点の位置などが全て謎に包まれている。

また、「悪は善よりも寛大である」として、善忍の一族だろうと本校の悪忍と戦った者であろうと入学を拒んだりはしないのもこの学園の特徴である。

その学園の訓練場でアーサーはあるエラーと戦っていた。

 

「オラッ!」

『おっと、中々やるな』

 

アーサーの蹴りを避けたのはメカニカルな身体と外の景色が反射するほどの光沢を持った異形『ステルス・エラー』だ。

クールな男性の口調と共にステルスの身体は景色に溶け込むと背後からの攻撃を受けてコンビを組んでいる一体のポーントルーパーの追撃も受けてしまう。

その一方では佑斗が自身の身体を魔力で強化し別個体のポーントルーパーの攻撃を捌いていた。

相手が振るう攻撃を受け流し、カウンターを叩き込んでいく。

 

「…と、くらえっ!」

「ついでにこれも!」

「ぜ~んぶあげちゃう~!」

 

大ぶりな攻撃で隙を見せたポーントルーパーの身体を上空に蹴り飛ばすと、両備と両奈のスナイパーライフルとメリケンサックのような独特な形状の赤と青の二丁拳銃が敵を撃ち抜いた。

 

「雅緋さん!」

「私が合わせる、合体秘伝忍法…」

「「『罪を断つexecution』ッ!」」

 

冷気を纏ったグレンバーンで居合の構えに入るアーサーの言葉に、白い洋装の忍装束に白い髪に凛とした表情を持つ…一言で表すならイケメンの少女『雅緋』は己の得物である黒炎を纏った剣を振るって白と黒の斬撃の衝撃波をステルスに向けてX字に飛ばす。

あまりにも強大な威力にステルスは吹き飛び地面を転がる。

追撃を浴びせようとするアーサーたちから主を守るようにポーントルーパーが割って入る。

 

『ぶ~ん、ボクちんの親方には手出しはさせないぞ~!』

「邪魔だぁっ!」

 

ダークグリーンがベースの軍服と帽子にも似た忍装束を纏い眼鏡と広い額が特徴の少女『忌夢』が怒鳴り声と共に魔力を流した棒を振り回しながら突撃する。

アーサーはそれに合わせるように脚力強化で高く跳躍し急降下キックを行うと同時に力を込めた如意棒による打撃を浴びせた。

 

「「合体秘伝忍法『チーターマン』ッ!!」」

『あ~やっぱりやられた~!!』

 

力の抜ける声で叫びながらステルスの近くに飛ばされるポーントルーパー。

起き上がったステルスに忌夢と雅緋は如意棒と剣を突き付けて睨みつけた。

 

「さぁ観念しろっ!妹は…『紫』は何処だっ!」

「返答次第では、どうなるか分かるな…!」

 

最愛の妹を、自分の大切な仲間でもある親友の妹を攫った異形に殺気をぶつけるも、ステルスはそれを無視してぶつぶつと呟く。

 

『くそっ、やはり動かし辛いな。だが、「あれ」の完成の時には…』

「っ!待てっ!!」

『バリバリ~!』

 

再び姿を消し、逃走準備に入ろうとするのをアーサーは止めようとするがポーントルーパーのエネルギー弾による目くらましによって逃げ去られてしまう。

悔し気に如意棒を地面に投げ捨てる忌夢を尻目にアーサーも変身を解除するのだった。

 

 

 

 

 

ここ数週間、妙な視線と匂いがすると紫が言い出してから異変が起こるようになった。

紫宛てに毎日毎日しつこく届く手紙と人形…酷い時には就寝時や入浴時の写真が送られてくることもあった。

紫はすっかり怯えてしまい、姉である忌夢が付き添っていたがポーントルーパーを囮にした作戦によって紫が攫われてしまい、両備と両奈から戒に依頼が来たのだ。

その際、二人から事情を聞いたが既に戒は忍学科に入っていたため両備たちが拍子抜けしていたのは全くの余談である。

リアと千歳を同行させ、ついでに佑斗を引き込んで蛇女学園へとやってきたのだ。

そして現在は、ステルスの正体と紫の監禁場所を探している最中である。

 

「あまり考えたくはないが、犯人が外からの奴だったら…」

「いや、少なくとも紫さんを攫った奴が外部犯の犯行だとは思えません」

「…どういうことだ、戒君」

 

雅緋の最悪の可能性に戒が反論すると佑斗は首を傾げる。

蛇女学園の構造と、リアと千歳が調べた生徒たちの情報、そして実際に戦ったステルスの言動から導いた仮説を戒は全員に向けて説明する。

 

「この学園自体が巨大な結界でカモフラージュされていますから見つけることさえ困難です。なら、犯人は…最初から結界のことを認知し自在に入れる人物に間違いありません」

『なるほど、それで長期の休暇を取っている生徒、「(ひそか)」と「平賀」の二人が容疑者か』

 

戒とウェルシュは、改めて二人の容疑者が犯人だと証明するが、そうなると片方の内どちらが犯人なのかまでは分からない。

しかし、戒は先ほどの戦闘でのステルスの言葉を思い出していた。

 

――――『くそっ、やはり動かし辛いな。だが、「あれ」の完成の時には…』――――

「(ステルスのあの能力と見た目。あの発言からすると)…やっぱりそういうことか」

「…?どういうことだい」

 

忌夢の疑問に戒は一度頷き説明する…密は手裏剣や刀を得物とするいわば近距離タイプの忍…彼女が融合したエラーなら、そのような発言をするとは思えないしあれほどトリッキーな個体にはならないからだ。

そうなると、残りの平賀はどうだろうか…彼女は自分で開発した忍具を使い捨てて戦い、なおかつステルスの機械的な身体とも一致する。

そして…最後のピースは。

 

「紫さんを隠せる場所は、彼女が独自に所持しているあそこしかありません」

 

彼女のプロフィールに記載されている専用のガレージを指さした。

 

「…根拠は?」

「正直に言えば推測でしかありません。ですが何もしないよりは…」

 

目を細めて問いかける雅緋に、自信のないセリフながらも強い言葉に忌夢は慌てて外に飛び出すと雅緋たちもリアたちを引き連れガレージへと向かった。

 

「…戒君。他に何か隠してないか?」

「……と言うと?」

「刑事の勘、かな?ただ何となく気になってさ」

 

叔母の恋人兼部下の言葉に戒は、「敵わないな」と苦笑いしつつ疑問を口にする。

 

「…どうして、融合者は一言も言葉を交わさず、自分の身体を動かさなかったのかなって」

「どういうことだ?」

「融合しているのは何であれ人間です。攻撃されたらどんな条件であれ反射的に防ごうとするのに、それがなかった…」

『戒…まさかあのエラーは…!』

 

戒の言葉にウェルシュは察したのだろう…佑斗も彼らの反応にただならぬものを感じたのか、その言葉を待った。

 

「あのエラーは…『寄生型』だ」

 

戒の放ったそのセリフに佑斗は戦慄するしかなかった。

 

 

 

 

 

「エラーの融合者の意思が極端に弱い場合…融合者とエラー、双方の人格のバランスが取れずに力が使えない場合がある…」

 

ある場所ではユグドラシルがレッドゾーンたちにエラーの基本情報を説明する。

彼女の言う通り、エラーは二つの人格が存在しており双方のバランスが取れていなければハイド・エラーのように真価を発揮出来ない。

 

『ニャハハ、けれど極まれに融合者とエラーの利害が一致しない場合がある…だからステルスは「最高の発明品をこの手で作りたい」と言う平賀ちゃんの純粋な願いだけを利用したのねん♪』

「そう、ステルスとなったエラーの願いは『愛おしい人との統合』……愛する者をこの手に収めたいのも立派な救済の一つ…ふふふ」

 

ミケネの言葉に頷くとユグドラシルは満足に、それでいて艶に満ちた表情でステルスを監視していた。

 

 

 

 

 

「何だこれは……!?」

 

一足早く現場を訪れた雅緋と忌夢は戦慄していた。

戒の推理通り、確かに紫はいた。

しかし、彼女の名前の通りの紫色の髪は一本に結ばれ、圧倒的な胸囲を誇るその身体にはウエディングドレスを着せられ、ケーブルの詰まった妙な装置に取り込まれていた。

 

「紫っ!」

 

悲鳴に近い声で彼女の名を呼びながら駆け寄り装置から外そうと手を付け、千歳やリアたちも手伝うが外れる気配はない。

 

「うぅっ、あ、あぁ……!」

 

ケーブルから電流が流れる度苦しそうな表情を見せる彼女を見て、手が止まってしまう。

戒と佑斗が辺りを見渡すと。

 

「『婚姻の儀』を邪魔しないでもらおうか…」

 

その言葉と共に平賀が手に持っていた彼女の愛用のクマのぬいぐるみ『べべたん』を弄びながら姿を見せる。

そして不気味な笑みを見せるとエラーカセットを起動すると、データ状の魔力によって平賀の身体とエラーカセットはステルスへと融合する。

佑斗は銃を構えて目の前の装置を開発したであろう元凶を睨み、戒は怒りに震えながらも冷静に尋ねる。

 

「どういう意味だ」

「その前に一つ答えろ、『ステルス』。どうしてそこまで人を苦しめることにこだわった…!」

 

人を執拗に苦しめるステルス…融合者の身体を完全に乗っ取ったエラーの人格に戒は湧き上がる怒りを必死に堪える。

すると、エラーは身を震わせると堰を切ったように勢いでまくし立てた。

 

『どうして?どうしてだと!?そんなもの決まっているっ!!追い詰められた人間の苦しむ顔は最高の見世物だからだ!この宿主もそうだった。自分の発明で関係ない奴が苦しむ姿を見ては何度も何度も悲鳴をあげていた…』

 

「それに」とステルスは戒の様子に気づかずモノアイを歪めながら拘束され苦しむ紫を指さしながら恍惚な声で続ける。

その際、べべたんを床に落とし踏みつけながらだ。

 

『気に入った女の顔が歪むとなぁ…エクスタシーを感じるのさっ!!完全に紫の心を壊し俺と一つになった時、俺の「希望」が光り輝くんだ!!くははははははははっっ!!!!』

「っ!お前ぇっ!!」

 

最愛の妹のぬいぐるみを踏みつけながら放たれた下劣な言葉についに忌夢が怒りに満ちた表情で掴み掛かろうとするがそれを止めた手があった。

その手の持ち主…戒は忌夢に目で合図を送ると彼女は黙って一歩下がる。

一歩一歩踏みしめるように歩くと、戒は身体にある殺気にも似た魔力を解き放った。

 

『っ!?』

 

雰囲気の変わった彼に怯むステルス、驚く雅緋たちと佑斗…しかし千歳とリアは分かっている。

ステルスが、戒の逆鱗に触れてしまったことを。

戒の怒りを表すように背後から彼の精霊『ドラゴン』が現れる…葛城の宿す東洋の龍と違い、小さくも圧倒的威圧感を持った西洋の竜が遠吠えをあげると、辺りは冷気と火の粉が一瞬だけ舞い散った。

深く、自分の心を落ち着けるようにゆっくりと息を吐くと懐からドラゴンカセットとは違う、ヘッドホンを付けた幽霊がデフォルメされた緑色のミラージュカセットを取り出す。

 

「生憎と、お前の計画通りにならないさ」

【RHYTHM!!】

 

スイッチの起動と共にリズムゲームアプリのカセット『リズムカセット』をアーサードライバーにセット。

するとドラゴンは緑色のパーカーを模した霊装へと姿を変え、戒の周囲を踊るように旋回する。

 

「変身」

【RIDE UP! RHYTHM! 音色と踊れ!GREEN BEAT!!】

 

呟きと共にグリップのトリガーを引くと、ノリの良い電子音声と共に霊装はスーツの上に被さった。

エメラルドカラーの装甲とパーカーを基本に両肩のスピーカーが装備され、頭部にはヘッドホン、複眼にはゴーグルが覆っている。

『仮面ライダーアーサー リズムリンク』に変身が完了し、落ちていたべべたんを拾って汚れを落とす。

そして紫が囚われている装置に向かって両腕を突き出し巨大なモニターと台座を出現させる。

 

【ATACK ARTS! MUSIC SEARCH!!】

「ミュージック、スタート!!」

 

赤いボタンを押し、専用の弓矢型武器『ピアノアロー』を台座に固定しパチン、と指を鳴らす。

両肩のスピーカーから音楽が流れ始め、モニターには様々な形をした音符が映し出されるそれをアーサーは鼻歌交じりに、ピアノアローのキーボードを叩いていくとモニター上の音符が「GREAT」の文字と共に消えていき、それは紫を捕えていた装置にも変化が生じた。

 

『な、何っ!?』

 

そう、装置が音を立てながら壊れ始めているのだ。

リズムリンクは『対象の情報をリズムとして捕捉・解析する』能力を持ち、固有能力『解析』とピアノアローと組み合わせることによって未知の機械すらも解体することが可能となる。

その分、隙が大きくなりがちだが……。

 

【DOREMIFA! LOCK ON!!】

『ギギャアアアアアアアアアッッ!!?』

『お、親方ぁ!?ぶぶぅ~ん!!?』

 

奏でた音色は攻撃エネルギーとなり、ピアノアローの『ロックオン』を使うことによって作業をしながらでも相手に…例え目に見えない敵でも攻撃を与えることが出来るのだ。

だが、それだけではない。

 

「…そこです」

「せいっ!」

「紫の痛み、思い知れ!!」

『グッ!?』

 

千歳の白い火縄銃から放たれる邪弾とリアが投擲した剣がステルスの妨害を行い、忌夢や雅緋、両備と両奈の四人もそれぞれの武器を構えて攻撃する。

彼女たちが足止めをしている間にも曲は終わりへと近づいていき…そして。

 

「フィニッシュ!」

『Full Combo!!』

 

最後のピアノアローの鍵盤を叩き、曲が終わった。

すると、装置は静かに活動を停止し中から紫が弾き出されるとアーサーは彼女を優しく抱きかかえる。

 

「……あ///」

「安心しな。もう大丈夫だ」

 

頬を微かに赤く染めた彼女にべべたんを渡すと、アーサーはピアノアローをステルスに向けトリガーを引き発射された緑色の矢型エネルギーが顔面に命中、煙を上げて倒れた。

 

『く、くっそおおおおおおおおっっ!!』

『親方待って~』

 

計画も失敗し、分が悪いと判断したステルスは起き上がると部下を引き連れて逃走する。

アーサーも、紫を雅緋たちに任せると射撃を行いつつ追跡を行った。

 

 

 

 

 

【DOREMIFA! LOCK ON!】

「そらよっ!」

『『グハッ!?』』

 

外へと出たアーサーはピアノアローの矢を連続で放ち、エラーたちを狙撃する。

攻撃を防ごうにも不規則な軌道を描きながら飛んでくる矢は自分たちの急所に確実に命中し体力を削っていく。

ならばとステルスは自身の能力で姿を消し、ポーントルーパーと連携してアーサーを仕留めようとする。

しかし、慌てずアーサーはピアノアローのキーボードと緑色のボタンを押す。

 

【SORASHIDO! DANCING!】

【MAGICAL ARTS! BEAT BEAT! RHYTHM DE BEAT!!】

 

電子音声が鳴りアーサードライバーからノリの良い軽快な音楽が流れると同時に軽快なステップを踏む。

そして。

 

『この…ガハッ!?』

 

ステルスは動揺するも、すぐに姿を消して襲い掛かるがリズム良く繰り出されたアーサーの蹴りにうめき声をあげる。

間髪入れずにアーサーはピアノアローの斬撃とダンサーのような軽快な足技でリズミカルにステルスを追い詰め、ポーントルーパーもウェルシュが自動走行へと切り替えたドライグハートに踏み潰されて粉砕。

融合者の意思を握り潰し、一人の少女への歪んだ情欲の元に行動した霊子生命体、ステルス・エラーの終わりが迫ってきた。

 

『ヒッ!?ヒイイイイイイイイイッッ!!!』

「お前の物語、ここで終わらせる!」

【CRITICAL ARTS! COMBO STRIKE! RHYTHM!!】

 

怯えるステルスに宣告すると、アーサーはピアノアローのスロットにリズムカセットをセットし、充分に音のエネルギーがチャージされると、アーサーはためらうことなくトリガーを引いた。

 

「いけええええええええええっっ!!!」

『ヒ、ヒィヤアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』

 

一発一発が高速振動する七色の矢『シューティングフィーバー』がスピーカーからも放たれると、それら全てが背中を見せて逃げるステルスに命中して爆発すると、囚われていた平賀も無事に解放された。

 

 

 

 

 

事件が終わり、その翌日戒佑斗は雅緋に呼び出されあることを通告されていた。

 

「えっと、俺と佑斗さんを補欠メンバーの教官に?」

「そうだ」

 

彼女の話を纏めるとこうだ。

今回の一軒で戒と佑斗の二人の戦闘力を見た雅緋と忌夢は、いづれ選抜メンバーになるであろう生徒の総司、芭蕉、芦屋、伊吹の教育係に任命したいと申し出たのだ。

 

「けれど、暇な佑斗さんはともかく俺は…」

「分かっている。お前の方は来れたらで構わない……頼めるか?」

 

そう言って頭を下げてくる雅緋に二人は頷くしかなく結果的に了承することにした。

そしてもう一つ。

戒があるクラスの窓を除くと、そこには生徒たち(先ほど話に出ていた総司たちであろう)に囲まれ蛇女の学生服に身を包んだ千歳とリアがいた。

これは養母である桜花が「二人とも友達を増やしなさい」と無理やり入学させたのだ。

リアと千歳は自分と同年代の女子と話すのに恥ずかしそうだったが楽しそうに彼女たちと話をしている様子だった。

その様子に戒が少しだけ微笑むと扉を開け、佑斗と共に教壇の前に立つと教室にいた全員が挨拶をする。

 

『よろしくお願いします!教官!!』

「「こちらこそ、よろしくっ!」」

 

元気のある挨拶に佑斗と戒も元気よく返すのだった。

To be continued……。




 等々初フォームチェンジです、その名もリズムリンク。詳しくは後々解説しますが遠距離戦とダンスのような軽快なステップでリズムに乗って相手を翻弄します。
 次回は第二回目のアーサーチャンネル!!(の予定)。初ゲストも登場します、さぁ記念すべき初ゲストは誰でしょう?ではでは。ノシ

ステルス・エラー CV小野友樹
蛇女学園の生徒である平賀の意思を抑え込み、身体を乗っ取ったエラー。外の景色が反射するほどの光沢のメカニカルな身体が特徴。
気配遮断と姿を消したように誤認するほどの擬態能力を持ちポーントルーパーとの連携が得意。また、平賀本人の知識を利用した発明も出来る。
平賀本人は、誰も傷つけず自分の発明で世間を見返すという純粋な願いだったが、エラーが紫に一目ぼれしたため、彼女の意思を封じ込め暗躍していた。
エラーの方の人格はかなり悪質で変態だったが最後はアーサーによって恐怖心を植え込まれてデリートされた。


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COMBO8 怪談×幽霊?

 前回と少しだけ話が繋がっています。後本編初のギャグ回(まぁ銀○パロですが)ですのでどうぞツッコンでいってください。今回は長くなってしまいました…申し訳ありません。
 後、NewWaveのキャラが登場しますよ!どうぞ。


戒と佑斗が教官に決まったその日…秘立蛇女子学園・学生寮のとある一室では真夜中、選抜メンバーと一般生徒のほとんどがこの部屋に集まっており、語り役である両備の声に神経を集中する。

 

「あれは、今日みたいに季節を先取りしたような日差しの暑い日のことだったわ…両備は友達と一緒に花火やってたら、何時の間にか周りが真っ暗な時間になってて…『ヤバイ!姉さんに怒られる!』…そう思って、帰ることにしたの…」

 

懐中電灯を顔で照らしながら、不気味に語りかける。

雰囲気が出ており、誰もが話しかけることが出来ないでいる。

 

「…それで、散かった花火を片づけていたら、ふっと近くのぼろぼろになった神社を見たのよ。もうこんな時間なのによ?しかも古い神社の窓から、赤い着物の女がこっち見ていたの…!」

『………』

 

両備の話に聞き入っているのかじっと黙る少女たち。

そして、話の方もとうとう終わりの時間がやってきた。

 

「それで流石の両備もぎょっとしちゃってさ、でも気になって、そいつに訊ねたのよ。『こんな時間のこんな場所で、何やっているの?』って…そしたら、ニヤァッて笑ってぇ…」

「デコレーションが足りないぞぉっ!!!」

『キャアァァァーーー!!!!?』

 

突然後ろから聞こえてきた大声に少女たちの絶叫が部屋中に響いた。

そして、部屋に電気が点灯する。

 

「ちょ、ちょっと雅緋!折角盛り上がってたのに、両備の大切なオチを…」

「私の知ったことか。それより、ケーキのデコレーション用のお菓子が切れたぞ。補充を怠るなと言っただろう」

 

後ろにいたのは選抜メンバーのリーダーである雅緋。

彼女の仲間であり語り手となっていた両備は折角の話を滅茶苦茶にされたことに文句をぶつける。

だが、当の本人はそれを一蹴し、かわいらしいクマのマシュマロや犬の砂糖菓子が大量に乗っけられたケーキが見せながら言う。

 

「もう充分にデコレーションされているじゃない!てか何よそれっ!もうデコレーションでも何でもないわよっ!!」

 

そう両備がツッコンでいる間にべべたんを抱えた紫が隣の方をちらりと見る。

すると。

 

「…お姉ちゃん?」

「あーっ!忌夢ちゃん!」

「大変だー!忌夢様がケーキで気絶したぞ、最悪だああああっ!」

 

忌夢が白目をむきながら気絶していた。

驚く両奈、喚く仲間と生徒たちをよそに、雅緋は廊下へと出て行った。

 

「下らん、怪談などしてなにが面白い?」

 

 

 

 

 

学生寮にいた仲間たちと生徒たちとのやり取りの後、雅緋は自分の寮に戻らず教室で書類の整理をしていた。

作業中に、ぷ~ん、という羽音と共に飛んできた蚊を雅緋は手ではたきつぶす。

 

「…最近妙に虫が多いな、まったく目障りな」

 

そんなことを言った時だった。

カーン!という釘を金鎚で叩く音が聞こえてきたのだ。

 

『死ねぇ、死ねぇ、死ねよ雅緋ぃ…!頼むから死んでくれぇ……』

外から聞こえる嫌な声……。

そして釘を金槌で叩く音が聞こえてくる…。

 

「ま、まさか…?」

 

雅緋は意を決して窓を開けて外を見た。

 

「死…」

 

そこには死装束を着て、胸に五寸釘の刺さったワラ人形と金鎚を持つ戒。

 

「何をしている?こんな深夜にそんな格好で……」

「……ト、トレーニング」

「そんなわけあるか!そんな服装でトレーニングなどしていたら警察に通報されるわっ!儀式だな?私に対する嫌がらせの儀式をしていたのだな!?」

 

眉を引くつかせて問いかけた雅緋に対して明らかに無理があるであろう言い訳を口にする戒に対し、至極もっともな言葉を述べる雅緋。

 

「自意識過剰ですねぇ。ノイローゼになりますよ」

「何だとっ!?……?」

 

「やれやれ」と言わんばかりに首を横に振る戒に対して雅緋が文句の一つを言いかけたその時、彼女は垣間見たのだ。

赤い着物を着た髪の長い女性がこっちを見ているのを…。

 

「どうかしました?」

「門矢…今、何か見えなかったか?」

「…?何がです?」

 

戒は見えなかったのだろうか雅緋の問いに対して首を傾げるだけである。

 

(…何だったんだ、今のは?)

 

雅緋がそう思った瞬間

 

『きゃあああああああああああああああっ!!!!』

「「っ!?」」

 

学生寮にいた少女たちの悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

数日後…。

治療室のベッドには、選抜メンバーの両奈と一般の生徒たちで殆ど埋めつくされていた。

 

「酷いな、これで何人目ですか?」

「十六人だな。両奈だけでなく一般の生徒もやられた。流石にここまで来ると、何が原因なのかを探りたくなる」

 

治療室の前で話し合う雅緋と戒。

 

「まったく、冗談ではない。仮にも忍が『幽霊紛い』にやられるなど……」

 

雅緋は溜息混じりにそう言ったが事実はそうなのである。

襲われながらも意識の残っていた少女たちはみな、「赤い着物の女にやられた」と雅緋たちに証言をしている。

 

「違う、ボクは違うよ雅緋!ボクはケーキにやられたよ!!」

「余計に口外出来るか」

 

そう言い訳する忌夢に冷たい対応をする雅緋。

三人は場所を変えるため、紫が待機している選抜メンバーの教室へと戻る。

 

「みんなうわ言のように『赤い着物の女』と言っていますが、もしかして伊吹たちが話していた例の怪談のアレですかね?」

「バカを言え。幽霊など存在するか」

 

戒の言葉を「下らない」と一蹴する雅緋だったが、忌夢は彼女に顔を青くし、話しかける。

 

「いや…霊を甘く見ない方がいいよ、雅緋。きっとこの学園は呪われたんだ、それも、とんでもない力を宿した霊にね…!」

「なにをバカなことを……」

 

しかし、そう言った雅緋の脳裏に浮かび上がったのは昨夜見た奇妙な存在。

そう、口では否定しながらも彼女は妙な者を自分の目で見てしまっているのだ。

 

「…ないな…」

 

それを振り払うかのように自分に言い聞かせる雅緋。

 

「忌夢、連れてきたわよ」

「あ、ありがとう。両備」

 

そこへ、両備がとある三人をつれてくる。

 

「街で捜してきた、霊媒師よ」

「…どうも…」

 

最も、服装がかなり胡散臭い三人組だったが。

 

「何だこいつらは?」

「いやー、御祓いしてもらおうと思ってさ」

「大丈夫なのか?こんな得体のしれない連中に」

「んー……この匂い、何処かで……?」

 

そう問いかけた雅緋に忌夢はさも当然のように答える。

雅緋はあまりの胡散臭さに、紫は何処かで嗅いだことのある匂いに渋っていると、霊媒師の一人であるサングラスをかけた少女は雅緋の方を見て、話しかけようとする…。

 

「あれ?そこの女の人…背中に……」

「何だ、背中に何か?」

 

すると女は隣にいる、笠を被っている少女に耳打ちする。

 

「ひそひそ、ひそひそ……」

「あぁ、あれはもう駄目だな」

「そうじゃな、そっとしておくかの」

「おい、舐めているのか……?」

 

いきなり失礼なことをいう彼女たちに、雅緋は軽く怒る。

 

「あの~先生方、何とかなりませんかね?このままじゃ校内の活動に支障をきたします」

「ああ、我らに任せよ眼鏡」

「あれ、今眼鏡って言いませんでした?」

 

協力を求める忌夢にコートを着たマスクの少女は彼女の特徴でもある部分に対してそう言う。

 

「あ~、ずっとこの建物のことは見させてもらいましたけど、これは相当ヤバい幽霊がいますよオデコさん」

「あの、別に『オデコさん』って、変な渾名付けられても…」

 

サングラスは、忌夢に対して学園の状況を説明するが、忌夢は自分につけられた不名誉な渾名にツッコム。

 

「取り合えず、私たちに任せろ。ついでに報酬金のことなのだが…」

「おい、事を済ませた後のことをもう語るのか?」

 

さりげなく金の話をしようとする笠を被った少女に雅緋は疑問を口にする。

 

「それで、どんな幽霊なんだ?」

「村ちょ…」

 

何かを言いかけたサングラスの少女を、笠を被った少女が殴る。

 

「え、今…なんて言いました?」

「えっと、過労で亡くなったとある村で村長をしていた男性の幽霊だな」

 

笠を被った女性は「村長の幽霊だ」と説明する。

しかし、忌夢が首を傾げて話す。

 

「いや、あの、生徒たちの話だと赤い着物を着た女性だと…」

「間違いじゃ。正しくは過労で亡くなったとある村で村長をしていた男性のお姉さんに似ていると言われてショックを受けて自殺した女性の幽霊じゃな」

「いや、長すぎるわっ!村長の下りは別に必要ないだろっ!!」

 

笠を被った少女の言葉を、コートを纏ったマスクの少女が訂正するが半ば付け足しに近い訂正に対してツッコミを入れる雅緋。

 

「取り合えずお前、両備とか言ったか?」

「え、な、何よ?」

 

三人はゆっくりと両備に近づき、彼女を取り囲む。

 

「お前の肉体に霊を降ろして祓うから」

「ちょ、ちょっと待ちなさい。どういう風に祓う気よ?」

「お前ごとしばく」

「何よそれっ!?誰でも出来るじゃない!」

 

そう叫んだ両備の隙をつき、サングラスの女性は彼女の腹を力一杯殴った。

 

「はい!今これ入りました、霊が入り込んだぞ!」

「霊ではなく、ボディーブローが入ったぞ」

 

笠を被った少女が言った言葉に雅緋がありのままに起こった状況を口にする。

 

「違います。今入ってます『あー忙しい、村の行事がこんなに忙しいと思わなかったわい…』」

「おーい!それって村長の幽霊じゃない!?」

 

すると、サングラスの女性は気絶した両備の後ろに周り人形のように手を動かしながら幽霊の真似をしようとしている。

忌夢は明らかに降霊すべき魂の人選ミスにツッコム。

 

「あれ?何でしたっけ?」

「ば、バカ!過労で亡くなったとある村で村長をしていた男性のお姉さんの幽霊だろっ」

「違うじゃろ…過労で亡くなったとある村で村長をしていた男性のお姉さんの従妹の…って違う……あれ?何じゃったかのう?」

「……というか、今時自殺した霊なんて、ちょっとありきたりではありませんか?」

 

客をほったらかしてひそひそと話を始めた三人になぜか千歳が現れて割って入る。

 

「もう適当で良いじゃろ」

「無理です。適当って言われると余計に演じるキャラのチョイスが難しくなります!」

「誰もそんな本格的なこと求めてるわけないだろ!」

「ああ、もう我がやる。ちょっと貸せ」

 

すると段々小声で話していたものが大声へと変わっていきコートのマスク少女の言葉にサングラスの少女が拒絶する。

 

「嫌ですっ!これは伊吹に与えられた唯一の使命です!誰にも邪魔させませんっ!!」

「どんな使命だっ!寂しすぎるだろ、そんな使命!」

 

後から出てきた緑色の髪に桜の髪飾りを付けた小動物系の少女『芭蕉』が紫色の瞳をオドオドさせながら止めようとする。

 

「あ、あの…二人とも、もうその辺で…」

「「黙ってろ(ててください)っ!芭蕉(ちゃん)!!」」

「「「「……」」」」

 

呆気なく正体がばれました。

 

 

 

 

 

校庭には缶のコーラを手に持っている戒と気絶から回復した両備がおり、手には戒と同じくフルーツオレの缶ジュースを手にしている。

そして彼らの目の前にはある太い丈夫な大木があり、そこには蛇女学園の制服を身に纏った三人の少女たちが逆さ吊りされていた。

彼女たちは蛇女学園の後の選抜メンバーとなるであろう一年生徒で構成されたグループ。

笠を被った霊媒師は挑発的な赤い瞳と茶髪をストレートに長く伸ばしたナルシスト系少女『総司』でサングラスの霊媒師は前髪を犬の耳のように垂らし黒いカチューシャをつけた自称常識人の少女『伊吹』。

そして、最後は尊大な態度を取る赤い髪を伸ばした邪神系少女『芦屋』。

この三人と千歳、芭蕉、リアが補欠メンバーである。

そんな彼女たちがなぜあのような怪しいことをしていたのか?

それは…。

 

「いや、別に悪気はなかったんだ。別にお金が欲しかったわけじゃないんだ。ただ純粋に人助けをだな…それに美しい私は生まれつき霊感が強くてな、ほらお前らの後ろにもうっすらと霊が見えているんだ」

「あー、きっとあれね。両備たちが小さいころ行ってた駄菓子屋の婆ちゃんね」

「こえーなー。俺あの時、陰口叩いたんだ、どーしよ」

 

総司の言い訳をものともせず手に持ったジュースを飲みながら軽く流す二人。

 

「なら、私たちが何とかしてやる。そのためにはすぐにこれを解放して水をだな…」

「じゃあ、これ鼻から飲んでください」

「ついでにあんたもよ」

 

すると戒は手に持っていたコーラを総司の鼻穴に、両備も特に何も言ってなかった芦屋にフルーツオレを鼻に流し込んだ(おそらく私怨)。

 

「あぐっあっぐ!え、ちょ、何この懐かしい感覚っ!?プールで溺れたかのようなあの感覚がするぅ!あっぐあぐ…」

「何で我までっ!?ケホ、ケッホ…!」

 

ジュースを流し込まれた二人はあの懐かしい感覚を思い出しながらも何とか口を開け、苦しみを和らげようとする。

 

「総司ちゃん、芦屋ちゃん…もう頭パーンてなりそうですぅ、このままじゃ…助け…て……」

「あ、あのっ!伊吹さんが頭爆発するって言っているのですがっ!き、教官っ、両備さんっ!!?」

 

限界が来たのか伊吹が今の状況を伝えた後、そのままゆっくりと両の瞳を閉じてそれっきり何も言わなくなった。

それを見て危険だと感じた芭蕉(彼女を含む千歳とリアは免除されている)は戒と両備の良心に訴えかけたようとするが、二人は返事の代わりに満面の笑みで返す。

それを見て総司は直感で悟ってしまった。

 

「(あ、私たち死ぬんだ…)…誰か助けてくれええええええええっ!!」

 

総司の叫びが木霊するのであった。

そして、その光景を見ているのは雅緋と忌夢、紫の三人。

 

「なぁ、雅緋。そろそろ解放したらどうだい?好い加減にしないと、両備と門矢がSに目覚めるよ…」

「…あの三人も反省しているようですし……」

「何を言っている?あいつらはサディスティック星の住人だぞ。もう手遅れだ」

 

忌夢と紫は二人が起こしている惨状を見て、降ろすように雅緋に説得するも彼女は元凶たちを見てそう口にした。

そして、その数時間後、三人はようやく降ろしてもらえたが全員がまったくの無傷というわけではなく総司と伊吹は地面に大の字になって寝っころがり、芦屋に至っては口元に手を当てて吐き気を堪えたりしていた。

 

「これぐらいで済んだことに感謝するんだな、それに私たちはあいにくお前たちに関わっているほど暇ではない。早く失せろ」

 

雅緋の放った言葉に総司と芦屋は何か気づいたのか調子づいたような顔をする。

 

「ふん、幽霊が怖くて仕事に手がつかないか?」

「おやおや、可哀そうじゃのう。トイレにでも一緒についていってあげようかの?」

「ボクたち選抜メンバーを愚弄するかあああああっ!!…トイレの前まで、お願いしますっ!!」

「お願いするのかいいいいいいいっ!!」

 

忌夢が彼女たちの挑発に乗り激昂すると、芦屋の前で直角九十度の綺麗なお辞儀をした。

そんな彼女の思い切りすぎる行動を見た雅緋がツッコム。

 

「いや、さっきから我慢していたんだけど…どうも怖くて……」

「ほら、行くぞ」

「あ、はい!」

 

芦屋にリードされるように忌夢はトイレがある校舎へと向かっていった。

 

「おい!良いのか!?お前の人生はそんなので良いのかっ!?」

 

雅緋は忌夢の後ろ姿に向かって叫んている雅緋を尻目に両備はため息をついた後、総司たちの方を向く。

 

「あんたたち、頼むからこのことは他言無用にね。頭ならいくらでも下げるから」

「もしかして件の赤い着物の女ですか?」

 

ようやく酔いから立ち直った伊吹が両備にそう言う。

 

「情けない話よ、まさか幽霊騒ぎでこんなことになるとはね…相手に実体があるなら殴るなり蹴るなりするけれど、正体すらあやふやな存在じゃあ対処する方法すら見当つかないわよ」

「ん、なんだ?お前は幽霊を信じてるのか?アイタタタタタ!痛いよぉ!お母さん!ここに頭を怪我した人がいるよー!」

 

幽霊を半ば肯定するような発言をした両備に対し、片腕を抑えながら彼女をバカにする総司。

 

「あんた後で覚えなさい…!」

「雅緋さんも見たのですか?その、赤い着物の女」

「…分からん。だが妙な者の気配は感じた。あれは普通の人間じゃない、恐らく……」

 

彼女の挑発に対し軽くキレそうになる両備をスルーし、戒は雅緋にそう問いかける。

雅緋は目撃したものに対して自分なりの仮説を述べようとするも、途中で言葉を詰まらせてしまう。

彼女が言葉を詰まらせていると…

 

「「アイタタタタタタ!痛い、痛いよぉお父さーん!」」

「絆創膏持って来てぇ!出来るだけ大きな、人一人包み込めるくらいのぉ!」

「お前ら打ち合わせでもしていたのか?」

 

まるで一心同体と言わんばかりに息ピッタリに雅緋のことをバカにする総司と戒。

あまりのウザさに雅緋のこめかみに青筋が立つ。

 

「赤い着物の女か…確かにそんな怪談ありましたね」

「私も聞いたことがあります」

 

先ほどまでのやり取りを黙って眺めていた千歳とリアも、雅緋たちが話していた話題に参加し、「そんな話を耳にした」と口にする。

 

「私たちがまだ幼かった頃、貧民街で一時そんな噂があって。えっと何でしたっけ、確か……夕暮れ時のゴミ捨て場で、一人で遊んでいると……」

 

話している内に詠の口調は小さくなっていくのと比例するように全員が彼女の話に聞き入っていく。

リアは少々間を置きながら千歳の言葉を続ける。

 

「そう、誰もいるはずがないゴミ捨て場に……」

 

彼女たちの口にする言葉の一言一言が、重く感じられる…。

全員が二人の言葉を一字一句聞き逃さないように耳を傾けている。

 

「赤い着物を着た女が現れるって…」

「それで『何をしているの?』って聞くと…」

「うああああああああああああああっ!!!!」

「「「「「「っ!?」」」」」」

 

リアと千歳の説明を遮るように校舎の方、いや、正確にはトイレがある方向、つまり忌夢たちのいる方向から彼女の悲鳴が響き渡る。

あきらかに普通ではない声に全員は急いで絶叫が聞こえたで場所あろうトイレへと向かって行った。

 

「な、何じゃ!どうしたのじゃ忌夢殿っ!?」

 

そこでは芦屋がドアを叩きながら忌夢に呼びかけていた。

 

「芦屋、どうしたっ!?」

「分からん…急に叫び声をあげたかと思えば何も……」

「退けっ!!」

 

雅緋は渾身の力でドアを蹴破った。

そして目の前に広がっていたのは…

 

「……」

「何でこうなるの?」

 

犬神家の如く、便器に頭をつっこんでいる忌夢の姿だった。

 

 

 

 

 

「あ…あ、赤い着物の女が…来る。こっちに、来る…!」

「おーい、しっかりしてください、忌夢さん」

 

雅緋たちの教室に運ばれ、敷布団の上でうなされる忌夢にそう言いながら戒は背後へと周り、なぜかヘッドロックをかけている。

 

「これはアレか?昔泣かせたイジメられっこの逆襲?」

「忌夢はそんな陰湿なことをする人間ではない。私が保証する」

 

雅緋は総司の言葉を否定する。

 

「じゃあお前が昔泣かせたクラスメイトが逆恨みして…」

「そんな性根が腐った人間と関わった覚えはない」

 

総司は新しく立てた仮説を口にするも、雅緋はこれを否定する。

 

「じゃあ何だこれは?」

「私のセリフだ…!」

 

そんな不毛な議論を切り替えるように両備は話を変える。

 

「けど…この学校に得体のしれないモノがいるのははっきり分かったわね」

「やっぱり、幽霊の仕業…?」

「はっ、私は幽霊なんて非科学的な物は信じない。妖魔とラピュタは信じるがな」

 

芭蕉が恐る恐るそれを口にするも総司はその言葉を一蹴する。

 

「付き合いきれないな、私たちはこれでお暇させてもらう」

「あの、総司ちゃん。これは…?」

 

そう言って彼女は立ち上がって仲間たちとこの場を去ろうとした。

伊吹と芦屋の手を握りしめて…

 

「何だ?お前等が怖いと思って美しく完璧な私が気を遣っているんだ、感謝しろ」

「総司、お主の手すごい汗なのだが」

「おい芦屋、何を言って……」

「…あ、赤い着物の女」

 

戒の言葉に反応して、総司は部屋の隅に瞬時に移動し武器である鎖鎌を構える。

 

「…何しているんですか、総司ちゃん?」

「……ラピュタの気配が…」

 

誰がどう聞いても見えすいた言い訳をする総司。

はっきり言ってバレバレである。

 

「総司、お前まさか……」

「な、何だ?何が言いたいんだ教官?」

「雅緋さん、この人……ん?」

 

戒が雅緋に何か言おうとするがいない。

しかし周囲を見ると、雅緋は自身の机に隠れながら武器を構えていた。

 

「……何やっているんですか?」

「…いや、ファンシー王国の入り口が…」

 

戒の冷たい問い掛けに、総司と同等の見苦しい言い訳をする雅緋。

分かりやすい性格をしている。

 

『……』

 

何かを察してしまった戒たちは総司と雅緋を置いて部屋から出ようとする。

 

「待て待て待て!違う!こいつはそうかもしれんが、私は断じて違うぞ!」

「怯えているのはお前だ。嘘八百もいい加減にしろ」

 

子ども以下の低レベルな言い争いを始める総司と雅緋に対して両備は侮蔑の視線を向ける。

 

「はいはい、分かった、分かったわよ。ラピュタの気配でもファンシー王国の入り口でもどこでも調べていなさいよバカ共」

「「なんだその蔑んだ目はっ!?」」

 

両備が放った毒舌に二人の声がぴったり揃った反論をすると、戒たちは何も言わず雅緋たちの後ろを見て沈黙した。

 

『……』

「な、何だ?」

「ふん、驚かそうったって無駄だ。二度目はないぞ」

 

しかし、彼らは沈黙したままであり、じっとある一点を見つめている。

千歳とリアに至っては口を開けたままである。

 

「おい、しつこいぞ」

『きゃあああああああああああああああ!!!!』

 

雅緋がしびれを切らしたようにそう言った直後、芭蕉たち残りのメンバーは悲鳴あげながら逃げてしまった(戒とリアは無言のまま走り去っていた)。

 

「…ったく、手の込んだ嫌がらせを…」

「これだから阿呆は…」

「「引っ掛かるか…」」

 

そう言いながら二人は後ろへと目を向けた。

…二人の背後には、長い黒髪をたらし、赤い着物を身につけた青白い肌をした女性が立っていた……。

 

「「……こ、こんばんわ」」

 

一先ず挨拶を済ませた二人だった。

 

 

 

 

 

「ちょっとおおおお!?い、いた!本当にいたわよ、ゆ、ゆゆゆゆ幽霊!!」

「総司さんんんんんんっ!!」

「忘れろ、芭蕉!もう手遅れだ」

 

まさか、目撃するとは思わなかったのだろう両備はパニックになりながらもそれから逃げようと廊下を走る。

芭蕉は仲間の名前を呼びかけるも戒はそれを無情にも切り捨てると、先ほどの部屋からけたたましい音と共に煙が上がる。

そして、そこから二つの人影が見えた。

 

「あ!切りぬけて来ましたよ!……あれ、ちょっと待って…背負ってる!なんかヤバいの背負ってる!こっち来ないでくださあああああああああいっ!!」

 

そう人影の正体は総司と雅緋…だが、伊吹の言うとおり彼女たちの後ろには変なものがいたのだ。

それに、止まるわけもなく伊吹たち全員はスピードアップをする。

 

「おい待て!何故逃げるんだお前たち!」

「ん……おいちょっと、後ろ重く感じないか?」

「知らん、私は何も知らんぞ!」

 

後ろにいる何かに気がついていないのか雅緋は突然速度を上げ始めた六人に声を上げながらも足を止めない。

すると、総司は今自分が感じている妙な感覚を雅緋に疑問としてぶつけるが、雅緋はそれを否定する。

 

「いやそうだって!絶対なんか乗ってるぞ…!」

「だったら自分で確認しろっ!」

「お前もちょっとくらい見てくれてもいいだろ!?」

 

だが、しつこく言ってくる総司に雅緋はイラつきながらも、「確認しろ」と言うが、彼女は恐怖のあまり、後ろを振り返ることが出来ない。

 

「よ、よし、だったら、『せーの!』で二人同時に振り向くぞっ!」

「お前絶対見ろよ!裏切るなよ!絶対見ろよっ!」

 

雅緋が出した提案に総司は彼女に何度も確認しながらも、その案を了承することにした。

 

「よし、行くぞっ!!」

「「せーの!!」」

 

そして、二人は思い切り止まり、勢いよく後ろを振り向いた。

すると、そこには…

 

「………!!」

「「…こ、こんばんわー」」

 

赤い着物を着た長い黒髪の青白い女が立っており、二人は挨拶をした。

 

「「…っああああああああああああああ!!!!」」

 

そして叫び声が響き渡った。

 

 

 

 

 

「やられた、今度こそやられたちゃいましたよ」

「…これで、私の出番が少し増えるかな…べべたん?」

「言ってる場合じゃないわよ!」

 

忍具や傀儡人形を置いている倉庫の中に避難したメンバー。

順に不安を口にする伊吹、腹黒いことをさらりと言う紫、その言葉に対してツッコミを入れる両備。

 

「あ、マッチ発見。誰か灯り持ってません?」

「…教官、蚊取り線香ならありましたよ……」

「ありがと、芭蕉」

「……いえ///」

 

芭蕉が倉庫で発見した蚊取り線香を戒に渡し、それを手に取り戒は拾ったマッチで着火する。

 

「一体何ですか?エラーは見たことありますけど…あんなの、見たことありません」

「雅緋さんたち大丈夫かな…神隠し、とかにあったりしてませんよね?」

 

千歳は冷静にさっき見たものが何か分析し、紫は仲間たちがその後どうなったのか不安を口にする。

 

「そ、そういえば…ずっと前に春花様が実験で作った新薬を伊吹が花や虫にあげていたことがあります…もしかしたら、それが原因で…?」

「…我も邪神様を呼び出そうと儀式を交わしていた気が…」

「いや、何やってんのよこの駄犬どもっ!」

「……元凶。雅緋さんの仇……えい、えい…!!」

 

伊吹と芦屋のとんでもないカミングアウトに両備は罵倒とツッコミを入れ、それを聞いた紫が伊吹と芦屋にべべたんを押し付けてくる。

 

「あぁもう、狭いんだから止めなさいっ!……全くこんなことしてる場合じゃ…」

「……」

 

そう言いながらドアの方を見る両備。

すると、先ほどの女がドアの隙間からこちらを睨んでいた。

 

「い、いやあああああああっっ!!?」

 

当然両備はそれにパニクってしまい、取り出したスナイパーライフルで乱射する。

それによって土煙が発生し、視界が遮られる。

数分後、土煙が晴れ視界が良好になると赤い着物の女は姿を消していた。

 

「き、消えた…?」

「や、やっぱりあれは本物の…」

「本当に幽霊、でしょうか?」

「……」

 

誰もが姿を消した存在に対して困惑する中、戒は顎を手に乗せしばらく考えると、灯りにしていた蚊取り線香を手に取り今までの情報を引き出す。

昨日からなぜか虫の多い学園、自分たちを襲わなかった赤い着物の女、そして蚊取り線香がある一つの結論へと結びついた。

 

「なるほど、そういうことか…」

 

そう呟くと、戒は急いで治療室の方へと走って行きリアたちも慌てて後を追うのであった。

 

 

 

 

 

一方、赤い着物の女に遭遇した二人はと言うと。

 

「「…うるさいんだよっ!!」」

 

誰もが嫌がるであろう蚊の羽音に苛立ち、茂みに隠れていた雅緋と水場の中に隠れていた総司が出てきた。

 

「お前、生きてたのか?」

「ふん。お前こそ、悪運の強い…」

 

お互いに軽口を叩き合う二人。

どうやらこんな時にでもプライドだけは一人前らしくいつもの強気な態度で総司が雅緋に尋ねる。

 

「おい、奴はどこに行った?」

「知らん。多分他の連中のところにいったんだろう」

「逃げたのか…実は私、さっき逃げてた時、あいつを睨みつけていたんだ。あれだな?」

「ふん、バカを言え。私は逃げている間奴の身体をずっと抓っていたぞ」

「小さいな、私なんか…」

 

茂みからガサリ、と何か聞こえた瞬間、二人はけたたましい音を立てながら同時に水中へ。

そして、ゆっくり顔をあげるとそこには小さいカエルが跳ねていた。

 

「…さて、水を浴びて頭も冷えた頃合いだ。そろそろ反撃と行こうか?」

「無理をするな、声が震えているぞ。奴は私が仕留める、ヘタレは家で怯えていろ」

 

総司のその挑発が普段滅多に怒らない雅緋に火をつける引き金となる。

 

「怯えているのは貴様だろ!わざわざ水に隠れたのは、本当に濡れている場所を隠すためじゃないのか?」

「何だと、幽霊の前にお前を潰すぞ!」

 

そうすると、二人は忍転身を行い忍装束へと姿を変える。

 

「この際だ。お前を打ち倒し、私たちが選抜メンバーとなってやる」

「望むところだ」

 

蚊の羽音が聞こえる中、二人は互いに武器を構える。

睨みあう緊迫した状況の中、羽音が聞こえた。

 

…プーーーーーン…。

 

「「さっきからうっさいぞ!!」」

 

好い加減蚊の羽音に鬱陶しくなり、上空を怒りのまま見上げると。

 

『シャァー……!!』

「「………」」

 

羽音を立てながら上空を飛ぶ、女の姿。

赤い着物を着ており背中には蚊を彷彿させるような翅が生えており、女の胸部にはゲームパッド型のユニットがあった。

 

 

 

 

 

一方、治療室へと戻っていた戒たちは被害者たちの検査をしていた。

そして、彼女たちにある共通点が存在したことが判明する。

 

「…兄様の言った通り、どの方々も蚊に刺されたような赤い跡がある。あれは……幽霊ではなくて」

 

そう呟くリアに肯定するように、背後から戒が現れ自らの答えを述べる。

 

「その通り、あいつの正体は…エラーだ」

 

 

 

 

 

上空を旋回する女…『ブラッド・エラー』を睨みつけた総司の脳内にある考えが浮かぶ。

 

「……よし、折角だ。奴を仕留めた方が勝ちってことで」

「面白い、受けて立つ」

 

総司の誘いに雅緋が乗ると二人は魔力と黒炎を纏った刃を構える。

 

「「はああああああっっ!!!」」

 

そして、武器を振り下ろした。

その瞬間。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! RHYTHM!!】

「オラアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

助走をつけ勢いよく跳躍したアーサーが二人の攻撃よりも先に、ブラッド目掛けて音を纏った必殺の飛び蹴り『リズムストライク』を叩き込んだ。

 

 

 

 

 

翌日、エラーを倒し、変身解除させた女を総司たちが吊るされていた大木に逆さ吊りにし、事情を説明してもらうため、意識を失った生徒たちが話を聞くことになった。

 

「あのー、どうもすいませんでした。私実は忍でして、分かっているかも知れませんが、血を吸収する能力を持ったエラーだったんです」

 

逆さ吊りにされたまま己の素性を明かす赤い女。

だが通常、エラーはミラージュカセットと融合することで、完全な怪人へと姿を変えるのである。

なぜ中途半端な、それも蚊のような姿になってしまったのか?

女はか細い声で語り始める。

 

「最近上司との間に子供がデキちゃって……あの人には家庭があるから、私一人でこの子を育てようと…それで、あるシスターからもらったカセットを使おうとした瞬間、使い魔の蚊も一緒に融合してしまって…」

 

そのせいであのような不気味な容姿となってしまった挙句、融合を解くことも出来ずに困っていたがそれでもお金を稼ごうと吸い取った血液を売血で稼いでいたらしい。

 

「本当に、すいませんでした…でも私、強くなりたかったの!この子を育てるために、強くなりたかったんです…!」

「あのー、すいません。顔の影を変に濃くするのやめてくれませんか?…怖いんで」

 

そう告白した女は、顔の影を濃くする。

彼女なりの意思表示なのだろうが、まぁ、こちらからしたらかなりのトラウマものだが……。

こうして『赤い着物の女事件』は解決したのだが。

 

「雅緋…そんなところで何しているんだい…?」

「…コンタクトを…落とした」

 

この件がしばらくの間、雅緋と…そして総司のトラウマとなったことは言うまでもない。

To be continued……。




 銀○パロは番外編の時に、ほどほどにねじ込みたいと思っています。次回はあの番組が復活!?……するかもしれません。
 ではでは。ノシ


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COMBO EX2 第二回アーサーチャンネル!!

 フォームチェンジもしたので記念すべき第二回目です。今回はゲストも登場しますのでお楽しみください。ではどうぞ。

(※)感想を読んでいた際、書き忘れていた設定を思い出したので加筆します。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。


「せーの」

『「「アーサーチャンネル!!~~~~」」』

 

ラジオのスタジオみたいな場所でウェルシュ、戒、琴音の三人が番組名を口にした途端、拍手や歓声が沸き上がった。

賑やか雰囲気の中、戒は挨拶を始める。

 

「どーもみなさん、おはこんばんにちわ!好きな格ゲーのキャラは『かすみ』と『不知火舞』の門矢戒です。よろしくお願いしまーす!!」

『おはこんばんにちわ。好きな格ゲーのキャラは「ラグナ」と「ノエル」のウェルシュだ。よろしく』

「あ、今回はそういう感じなんだ。えーと、好きな格ゲーのキャラは『マリー・ローズ』と『ハヤブサ』の幸村琴音です。よろしくお願いしまーす!」

 

琴音が名乗った瞬間、再び拍手が沸き上がり「良かった」と胸を撫でおろす。

 

「さあ、やってまいりました第二回目の『アーサーチャンネル!!』、この番組はどんな番組かと言いますと!」

『本編で語れなかったとこ、感想であった身近な疑問を答えていく所謂「質問コーナー」だね、第一回でも触れたがこの番組はメタ発言が多い…それを好まない人はバックすることを勧める』

「じゃあ、解説を始める前にゲストを紹介します!秘立蛇女学園二年『紫』さんです!どうぞー!!」

 

戒とウェルシュの注意事項の後、琴音は今回の特別ゲストである彼女の名前を呼ぶと愛用のぬいぐるみ、べべたんを抱えながら紫が登場する。

 

「ど、どうも…よろしくお願い、します……」

「(…くそっ、何だよあの胸…!)よろしくお願いします紫さん!早速ですけど本作で知りたいことは何かありますか?」

「…これです」

 

自身なさげに挨拶をする紫の胸囲に琴音は内心戦慄しながらも持ち前の明るさで彼女に質問する。

すると、紫はボタンを押した。

 

【千歳と美海たちオリキャラについて】

「…感想の方でもありましたが、千歳さんは…ソシャゲの方で登場するあの『千歳』さんですか……?」

「質問に関しては『イエス』だね。千歳ちゃんの設定は変わっているけど見た目と性格はソシャゲとほぼ同じだよ。差異があるとすればリアちゃんと幼少のころから一緒だったぐらいだね…イメージCVは『近藤佳奈子氏』で考えているらしいよ」

「閃乱カグラ側のキャラとの接点を持たせたいからこのような設定にしたらしい…本当は作者の嫁である芭蕉にしたかったらしいが養子の設定から千歳が適任だしなー」

 

紫の質問に琴音と戒は前回のアーサーチャンネル!!でも触れた設定や裏話を詳しく説明する。

そして、話は戒の叔母である美海たちの話へと進んでいく。

 

「美海姉さんと佑斗さんは『DRACU-RI○T!』に登場する主人公とヒロインをイメージしながら書いていて『田口宏子氏』と『日野聡氏』がイメージCVです」

『この二人は美緒たちの中では比較的真面目な部類に入るね…美海はクールだが君が怪我した時は取り乱していたね』

「美海姉さんは、意外と甘いとこがあるから…俺と兄さんに札束の入ったお年玉を渡された時は正直引いた…佑斗さんと母さんに怒られたけど」

 

そう呟いた戒に対して「あれにはびっくりした」と琴音も苦笑いしていたが、話を進めていく。

 

「真希奈姉さんは母さん側の人間でイメージモデルはこれと言ってないなー…取りあえずグラマラスで子どもっぽいお姉さんが基本イメージで、イメージCVは『akari氏』だな」

『ボーカルユニットの「doubleeleven undercurrent」と「doubleeleven UpperCut」のボーカルを担当している方か』

「佑斗さんは正統派のラノベ主人公を意識して書いているらしい…好青年な感じで美海姉さんとも交際を続けているけど、肝心の美海姉さんが恥ずかしがって頭突きしたりビンタするからキスの一つも出来ないって言ってた」

 

真希奈と佑斗の解説を終えた戒はそこで、一息つくと琴音が自分の母親のことを話し始める。

 

「私のお母さん、『桜花』は格闘家としてもすごい優秀で銃や刀を持った相手でも素手で叩きのめせるけど普段は天然で大人しい人なんだ」

「…怒ったことはないけど、謎の威圧感を持ってる人だよなー…イメージCVは『丹下桜氏』でお願いします」

「お父さんの方は本編には登場しないけど道場の経営を行っているよ。でも銛でサメを仕留めたり百人以上の人数と戦って勝てるぐらい、すごい強い人だよ」

「でも、カラオケとか行くとすごい合いの手入れたりするよなおじさん…選曲も渋いし」

 

戒は苦笑いしながら琴音の父親を思い浮かべる。

ちなみに、琴音パパはカラオケに行くとノリノリで歌ったりしており、今でも戒たちを連れてカラオケに行ったりしている。

得意曲は『JUDGEMENT ―審判―』と『MachineGum Kiss』であり、それを聞いていた戒や琴音、千歳やリアも歌えるようになっている。

(※)彼の合いの手は破壊力が色々な意味で凄まじく初見は確実に噴き出すことで有名。

 

『余談だが美海や佑斗、桜花たちの苗字の由来は戦国武将の「伊達政宗」と「片倉小十郎」、「真田幸村」が元ネタだよ。感想で分かった人がいて驚いたね』

「……そういうことだったんですね…じゃあ次は」

 

ウェルシュの最後の余談を聞いた紫はボタンを押して次の議題へと変わる。

 

【戒と閃乱カグラのキャラたちの合体秘伝忍法について】

「あー…時々作中で出している『あれ』ね。これ、ぶっちゃけて言うけど適当」

「早っ!他にも言い方あるでしょっ!?」

 

ぶっちゃけた戒に即座にツッコミを入れる琴音に対して、彼は「やれやれ」と首を振る。

 

「まぁ技名は主に各キャラの名前の法則に則って考えたりしているけど、全キャラ出せるかどうかと言われたら作者曰く無理かもしれないとぼやいていた」

「そこは根性だそうよ…でも、どうしてオリジナル技なんて出そうと考えたの?」

『当初はそのような予定はなかったのだが、たまたまテ○ルズで遊んでいた身内のプレイを観ている内に捻じ込みたくなったらしい』

「……行き当たり、ばったりですね」

「そこは感想の方でも呆れている人がいるかもなー…でも、一度それを取り込んだからには適当にせず、合体秘伝忍法を極力出していきたいと作者が言っていたから生温かい目で見守ってくれるとありがたいです」

 

大まかなことしか考えていない作者の考えを戒とウェルシュから聞いていた琴音と、べべたんを抱える紫は呆れることしか出来なかった。

二人に対して作者への微妙なフォローを行った戒はボタンを押して次の議題へと突入させる。

(※)暇があったら全キャラの合体秘伝忍法を記載する予定です。

 

【エラーの例外について】

『今回で登場したステルスとブラッドだね…この二体が依然触れた例外のエラーだよ』

「……私を襲ったステルスは『寄生型』でしたね…」

『そう、通常エラーはエラーカセットと融合者の人格があり片方に異変が起こると能力を発揮出来ない、しかし寄生型エラーは融合者の人格を強制的に封じ込め、身体を乗っ取る性質を持つ』

「イメージとしては人間を取り込むレベル30のバグスターですよ、紫さん」

『そして、ブラッドは融合中に異物が混じってしまった突然変異態だね…まぁ本編には登場しないからこれは覚えなくても構わないよ』

 

ウェルシュは紫を襲った寄生型エラー…ステルスに対して説明を始め、戒がそれについて補足する。

「幹部エラーについてはまた別の機会に」とウェルシュがまとめ、最後の議題が近づいてきた。

 

【フォームチェンジについて】

「新しく登場した『アーサー リズムリンク』。音の力とリズムに乗って相手を翻弄するトリッキーな遠距離フォームだな。両肩のスピーカーとピアノアローからの一斉放射『シューティングフィーバー』と飛び蹴りの『リズムストライク』が主な必殺技」

『ドレミファビートがモチーフだが、ダンスのような動きは「キョ○リュ○レッド・カーニバル」をイメージしているよ』

「対象をリズムとして補足することで見えない相手を特定したり、未知の機械を解体することも出来るよね、赤のボタンで『解析』と緑のボタンで『音の付与』だったっけ?」

「……あの時の戒君、カッコ良かった……///」

 

解説を始める戒とウェルシュ、琴音が説明をする中…紫が誰にも聞こえないほどの声量で呟く。

(※)モチーフはDJと狩人だが、裏モチーフはスマホの『リズムゲーム』などの音楽アプリ。

 

「カセットのラベルがヘッドホンを付けた幽霊なのは没になった『ダンスゴースト』の名残で透明化も可能な不可思議な動きを行うフォームを予定していたらしい」

「へー…じゃあ『ピアノアロー』は?感想の方でも触れている方がいたけど、ピアノと弓矢って関連性ないと思うけど」

 

リズムカセットの没案に琴音は納得しながらも、ふと思った疑問を戒にぶつける。

 

「元々はディスコテーブルと銃を合成した武器を予定していたがカチドキアームズやブレイブと被ると思ったからあまり使われていないピアノの要素を弓矢に組み合わせたんだと」

 

頷くメンバーたちの顔を見ながら、「そして」とピアノアローの解説に移る。

 

「ピアノアローは射撃だけじゃなくて斬撃も得意な武器でロックオン機能と斬撃強化が出来る代物で作者曰くガシャコンスパローを意識しているらしい」

 

武器の解説と共に、フォームチェンジの議題が終了した。

(※)この他にも後いくつかフォームが登場するので、楽しみにしていてください。

 

 

 

 

 

「さて、今回は短いけど、そろそろお別れの時間がやってきました。以上、お相手は門矢戒と!」

「幸村琴音と!」

『ウェルシュと』

「紫で、お送りしました…」

「「「『バイバーイッ!!』」」」

 

四人の言葉の後、盛大な拍手と歓声と共に締めくくられた。

キャラが増えたりしたらまた似たようなことをするかもしれないので、人物紹介やライダーの設定、本編の方も気長に待ってください。




 第二回目のアーサーチャンネル!!でした。読者様の声とネタがあれば第三回目をやるかもしれません。
 ではでは。ノシ


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COMBO9 正義×狙撃

 今回は雪泉編です。正直に言うと彼女のキャラデザは完成しすぎているなと思う今日この頃です。清楚なのに何処か色っぽい…その上料理も出来て素敵なお嫁さんを目指す。完璧すぎません?
 あ、後今回のエラーは自分で言うのもあれですが、中々にカッコよくなっていると思います。では、どうぞ。


夜も更けた、午前零時過ぎと言う一般人もいない暗い道の中を雪泉は自分の寮へと向かって歩いていた。

安土・桃山時代から存在した由緒正しき善忍の育成学校『死塾月閃女学館』の選抜メンバーのリーダーが彼女である

忍務を依頼してきた相手が性質の悪い人物でありしつこく彼女に食い下がっていたところを、友人である飛鳥の祖父であり伝説の忍『半蔵』に助けられ、その彼に帰るよう促された雪泉は、彼に頭を下げその場から離れたのだ。

 

「…これでは、おじいさまに顔向け出来ません」

 

学生としても忍としても優秀である彼女にとって、例えどんな忍務でも完璧に遂行するべきもの……。

しかし、第三者に助けられ、なおかつ不良みたいに深夜に帰宅するという行為に今は亡き祖父に謝罪していた。

その気持ちによって自然と歩く速度も上がって行き、このまま帰ろうと思った時だった。

 

「っ!?…今の音は?」

 

軽く弾けたような音が聞こえたのだ。

気のせいかと思ったが、続けて二発、三発と誰もいない路地で音が響く。

瞬時に頭を切り替えた雪泉は音の発生源へと向かうと、そこには惨劇が広がっていた。

雪泉の目にまず映ったのは身体中に空けられた穴から血を流している男性で出血の量から生きていないだろう。

そして、その場には黒い異形がいた。

軍隊における特殊部隊のような漆黒の武装で身を包み、右手にはトカレフを巨大化させたような銃を右手に持っている。

雪泉は悲鳴こそあげなかったが、気配で分かったのだろう…『スナイパー・エラー』は照準器を彷彿させる白いモノアイを持つ頭部を彼女に向けた。

 

『おや?まさか人がいるとはな、どうするマスター』

『…無駄な殺生は好まん。だが…』

 

「しばらくは眠ってもらう」とクールな男性の人格に呟きながらトカレフを捨てたスナイパーは狙撃銃を召喚すると彼女に向けて構え発砲した。

 

「…くっ……!!」

 

予想よりも早く放たれた銃弾に回避することも出来ず脇腹に命中する。

殺傷能力がなかったのか傷こそなかったが、衝撃によって彼女は撃たれた場所を抑え、膝をついてしまう。

本来の彼女ならば造作もないことだったが忍務を終わらせてきた今のコンディションではどうすることも出来なかった。

そして、スナイパーが二発目を発射しようとした時だった。

 

『ガハッ!?』

 

雪泉の背後から放たれた衝撃波がスナイパーを怯ませたのだ。

突然の事態に驚いた二人は視線を向ける。

 

「うぇっぷ…気持ち悪い……」

「いや、上出来上出来。さっすが真希奈」

 

そこには、気持ち悪そうにしている黒のボブヘアーの女性と、彼女に肩を貸している銀髪をツインテールにした女性がおり、会話から担がれている女性が先ほどの衝撃波を飛ばしたのだろう。

突然の乱入者に驚きながらもスナイパーは狙撃銃を構えるが…。

 

「よっとっ!!」

「んぅ…すぅー……」

 

銀髪の女性『恵利奈』が召喚した槍を投擲する。

人ひとり担いでいるのにも関わらず凄まじいスピードで飛んでいくのに合わせて黒のボブヘアーの女性『真希奈』が吐き気を堪えて息を吸うと、先ほどと同じように音の衝撃波を飛ばした。

高速に振動する槍の一撃をまともに受けたスナイパーは身体に煙をあげながらも態勢を崩さず彼女たちを睨む。

 

『クッ!…まあ良い。標的は後一人だ』

 

加工された声で呟くと新たに召喚したマグナムの銃弾を撃って地面から煙を発生させると、それに紛れて姿を消した。

煙が晴れたのと同時にスナイパーの気配が完全に消えたのを確認した二人は傷口を抑えている雪泉の元へと駆け寄る。

 

「大丈夫?」

「はっ、はい…ありがと、う…ご、ざ…」

 

声を掛けてきた恵利奈に感謝の言葉を言おうとするも、その途中で彼女の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

「ん、んぅ……」

 

眼を覚ました雪泉が最初に見たのは知らない天井だった。

ベッドで寝ている彼女は寝ぼけ眼で昨日のことを思い返してみる。

見たこともない怪物に襲われて…そして……。

 

(確か…あの方たちに)

 

そう、助けられたのだ。

そうなるとここはあの二人の家、もしくはどちらかの自宅だろうか?

雪泉の思考を遮るように近くに置いてあった自分のスマホが振動する。

スマホの画面には「夜桜」と表示されておりスマホを手に取り通話状態にしたそれを耳に当てる。

 

『雪泉っ!?無事ですか!一体何があったんじゃっ!?』

 

予想以上に大きかった声に雪泉は少しだけスマホから距離を取るも彼女に事情を説明し何とか落ち着かせる。

最初は夜桜も彼女を助けた人物に警戒していたが、雪泉の必死の説得により落ち着きを取り戻してきた。

 

『そうですか…では安静にしていてください。ですが、もしその二人が怪しい反応を見せたら…!』

「分かりました。では、失礼します」

 

そこで通話を切ると、雪泉は上体を起こし掛け布団を捲る。

ピンクカラーにパンダがプリントされた自分の趣味と合わない寝間着に着替えさせられており(サイズが微妙に合わなかったのは内緒である)、先ほどスマホがあった場所の近くに自分の学生服が畳まれていた。

雪泉は名前を知らない恩人に感謝すると、自分の来ていた学生服に着替えようとパジャマのボタンを外していく。

ボタンが外れていく度に、本人の意思とは裏腹に成長している胸が微かに揺れ、肌色の面積が広がっていく

そして四つ目のボタンに手を掛けた時にドアがいきなり開いた。

 

「「え?」」

 

ドアを開けた本人…戒と雪泉が揃って声を出した。

戒の手にはタオルを持っており恐らくは恵利奈か真希奈に頼まれて持ってきたのだろう…そんな彼の目の前には以前出会ったGカップ美少女が着替えており白い柔肌の谷間が大きく見える。

両者は互いに何が起こっていたのか処理が追いつかなかったが、やがて現状を理解し始めていき……。

 

「…き……///」

「え、えとっ!その、ち、違…///」

「きゃああああああああああっっ!!!///」

「ご、ごめんなさ…ブベラッ!?」

 

顔を赤くし瞳を潤ませた彼女は手元に置いてあった自身のスマホを渾身の力で投げると、同じく顔を赤くし動揺しながらも何とか事情を説明しようとした戒の顔に見事クリーンヒットしたのであった。

 

 

 

 

 

雪泉を保護した場所…真希奈の音楽教室兼自宅内では戒が、着替えを終えた雪泉に対して頭を下げていた。

 

「すいませんでしたーーーーーーーーっっっ!!!!」

「あ、頭を上げてください。私にも非がありますので」

 

地面に両手と頭をつく見事なまでのDOGEZAをする彼に、雪泉は戸惑いながらも先ほどの事故を許す。

戒はわざとドアを開けたわけではないし、雪泉の反応も年頃の少女としては当然の反応である。

その後、しばらく互いに謝罪をする謝罪合戦が続いたがおじやを作っていた恵利奈と真希奈が来たおかげで終止符を打つことが出来た。

助けてくれた二人に雪泉は頭を下げると、恵利奈たちは改めて自己紹介を始める。

 

「私は政宗恵利奈。ラジオパーソナリティをやってるよ、よろしく雪泉ちゃん」

「政宗真希奈だよ~。ここで子どもたちに音楽教室を教えているんだ~♪」

「月閃女学館三年の雪泉と申します。この度は助けていただき、感謝いたします」

 

互いに挨拶をした三人はしばらく談笑をすると、雪泉は改めて戒の方を向く。

 

「お久しぶりです。門矢さん」

「こちらこそ。飛鳥さんから聞きましたけど忍だったんですね」

「あっ、えっと……」

 

戒の発言に雪泉は恵利奈たちの方を見ながらどう答えようか迷うが、恵利奈たちは「普通じゃないから大丈夫」と軽く流してくれたため自身の素性と、昨夜のこと…スナイパー・エラーが人の命を奪っていた現場を改めて話す。

警察は既に動き出しているが、恵利奈と真希奈から事情を聞いていた美海と佑斗は独自のルートで活動を開始しており、半蔵学院の生徒たちと共に行動を共にしている。

事情を聞いた戒が呟く。

 

「やっぱり…美海姉さんが今朝話してくれた事件と同じ、か」

「私の秘密能力、正義アンテナが役に立ったね~」

「あなたは深夜までぶっ続けで飲んでただけでしょうが」

 

真希奈の戯言を流しながら身支度を始める戒に対して雪泉は疑問をぶつける。

 

「あの、どちらに…」

「情報収集、ですかね?」

 

彼女の質問に、にへらと笑った。

 

 

 

 

 

「ええ、確かに菅井さんはうちの患者さんだね。丁寧な物腰をしていたが…こう上手くは言えないのだが何処か胡散臭くてねぇ…まぁきちんと治療は施したよ」

 

そう話すのは、ここ『黒宮病院』に勤務する医者『源田』…少し猫背気味の中年の男性だが眼鏡の奥に温厚そうな瞳を宿している。

戒はその男性と話としていた…理由はもちろん、最初の被害者である菅井についてである。

 

「誰かと話したりは、していませんでしたか?」

「いやぁ……そう言えば、誰かと会う約束をしていたみたいだが詳しくは…」

「ふむ……」

 

収穫なしか……一先ず源田に感謝の言葉を述べて外に出ようとしたが、ふと彼の机に会った写真に気付き、質問する。

 

「この写真は…?」

「ああ、せがれの昔の写真です……口は悪いが素直な奴でね。サッカーが、好きだったんですよ…」

 

そう言って暗い表情を見せた彼に「すいません」と謝罪するが、源田は「気にしなくて良い」と笑顔を取り繕う。

そんな彼に再び一礼すると、戒はボーラーハットを被りその場を後にした。

 

「だからですかね、どんな人間であれ治したいと思えるようになったのは」

 

誰に聞かせるわけでもなく、一人彼はそう呟くのであった。

 

 

 

 

 

待ち合わせの場所である病院の食堂に行くと、そこには恵利奈たちが待っていた。

ただし。

 

「む~……」

「どうだ?お嬢ちゃん、これで終わりだ」

「うわっちゃー、轟さん容赦ないよー」

 

真希奈と、「轟さん」と呼ばれていた初老の男性が碁を打っていたが。

囲碁に夢中の三人を無視して戒は雪泉の向かいの席に座って事件の概要をまとめようとすると、先ほどの男性『轟』が割って入る。

 

「坊主、菅井のことを知りたいんだろう?嬢ちゃんたちから聞いたよ、教えてやろうか」

 

真希奈と交代している恵利奈と打ちながらも、轟は勝手に話し出す。

 

「あいつ、いやあいつらはな…若者を狙って金をむしり取る悪質な『詐欺師』さ」

「……随分とはっきり言いますね、お爺さん。根拠はあるんですか?」

「そう言われると困っちまうなぁ…けど外であいつが会話をしているのを偶然聞いちまってな、偉く楽しそうに話していたよ」

 

あまりにも突拍子もない内容…しかし目の前の男性は口元に笑みを浮かべながらもぎらついた視線を一瞬だけ向ける。

それに対して戒は警戒しつつも黙って話を聞く。

雪泉も戒と轟のただならぬ雰囲気を感じ取り両方の顔を見ている。

 

「『田荘』って奴が事故で脚を骨折したとかで入院している。俺の話が本当かどうかはそいつに聞いてみたらどうだ、坊主」

「貴重なお話、ありがとうございました…事件と関係ありませんが以前は何を?」

「国を守る正義のヒーロー。可愛い孫に胸を張って答えられる仕事をやってたよ」

 

そう言って恵利奈をあっさりと下した轟は携帯用碁盤を自分のトレンチコートにしまうと、食堂から出て行ってしまった。

息を吐くのと同時に無意識に入れていた力を抜くと、雪泉が尋ねる。

 

「門矢さん。これからどうするおつもりですか?」

「そうですね……あのお爺さんの話が本当かどうか確かめるためにも、田荘って奴に話しを聞く必要が…」

『うわああああああああああああああっっっ!!!!』

 

戒の言葉を遮るように、男性の悲鳴が響き渡ると入院していた患者や見舞客らがパニックに陥ってしまいその場にいた医師や看護師たちが落ち着かせようとする。

周囲の人たちの非難を恵利奈や真希奈たちに任せると脱兎のごとく、戒は悲鳴のあがった方へと向かった。

 

 

 

 

 

片足にギプスをはめていた男…田荘は自慢の七三ヘアーを乱しながら、自分を追跡して来る存在、スナイパーから松葉杖を駆使して必死に逃げ延びていた。

その際、両腕を狙撃されたため松葉杖を落としてしまうが、それでも這い蹲りながら必死に命乞いをする。

 

「や、やめてくれっ!!か、金ならいくらでも払う!だ、だから…」

『マスター。話に聞いた通りの救いのない男だな、こいつは』

『……すぐに仲間の元に送ってやる』

 

片足は元々の事故で怪我し、無事だった両腕もスナイパーに狙撃されたためまともに動かすことも出来ない。

恐怖で顔をグチャグチャにした田荘に、銃口を押し付けた時だった。

 

「オラ!」

『ぐっ!?』

 

戒がスナイパーに体当たりを仕掛けてバランスを崩した隙に真希奈と雪泉が避難誘導を行い、恵利奈が気絶した田荘を安全な場所まで運んだ。

 

「そこまでだ、銃撃事件の犯人さん?」

『やれやれ、こんなとこまで出張ってくるとは余程の暇人だな。仮面ライダー殿?』

 

皮肉気に問い掛けた戒に負けじとスナイパーの青年の人格が皮肉を飛ばすと両者は互いに対峙する。

全ての状況を終えた雪泉が戒の元に行くと、昨夜自分を襲ったエラーを見て驚愕し彼を守ろうと武器である扇子を構えて向かおうとするも真希奈に止められる。

 

「あれは……門矢さん!」

「大丈夫だよ~雪泉ちゃん。戒君なら大丈夫だから~」

「え?」

 

おっとりとした彼女の言葉に、雪泉は唖然とすると戒はアーサードライバーを装着しドラゴンカセットをスロットに装填し、バックルのグリップに手を掛けて叫ぶ。

 

「変身!」

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

 

戒がアーサーへと変身した雪泉は、口を開けて呆然としていたが我に返るとアイスブルーの瞳を輝かせていた。

 

「か、仮面ライダー……!?門矢さんがっ?」

 

以前仲間である四季が話していた都市伝説が本当だったとは……。

元々、正義を掲げている彼女にとって仮面ライダーと言う騎士は特別な存在だったのだろう…本物の仮面の騎士と出会えたことに感動を覚えるも、恵利奈に肩を叩かれた。

 

「ちょっと下がっててね、こいつらの相手しなきゃいけないから…サインは後でもらってね?」

 

あっけらかんと話すと、周囲には何時の間にかポーントルーパーが武器を構えており完全に包囲されていた。

恵利奈はスマホを起動させてある槍のマークをしたアプリをタップすると西洋タイプの槍を召喚し、真希奈も喉の調子を確かめるように「あーあー」と声を出すとポーントルーパーに向かって笑顔を向けた。

 

 

 

 

 

『……』

「オラッ!」

 

恵利奈たちから距離を取ったアーサーはグレンバーンを抜刀しスナイパーに斬りかかるが二丁のリボルバーで受け止めしばらく鍔迫り合いが続く。

弾き飛ばすとスナイパーはアーサーの胴体を蹴り飛ばして距離を離すと銃口を向けた。

 

「っ!?」

『踊れ。銃弾の雨の中でな』

 

青年の声と共にスナイパーはリボルバーから無数の銃弾を連射するアーサーは走って銃撃の嵐を避けていく。

しかし、それに翻弄されるほどアーサーは甘くもなければ未熟でもない。

赤いボタンを押して脚力を強化すると高速で動き回り、照準を合わせないようにする。

 

『くっ!』

 

小回りに動き回って銃弾を回避していくアーサーに焦りを見せ始めたスナイパーはリボルバーを投げ捨て、刃の付いたライフル銃を召喚するとアーサーに向かって振り下ろし、アーサーの身体を切り裂こうとした時だった。

 

『っ!?』

 

捕えたと思ったアーサーの姿が消えていたのだ。

しかし、周囲が薄暗くなったことに気付いたスナイパーが頭上を見上げた時だった。

 

「オラアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

ドーパントは慌てて頭上を見ると抜刀したグレンバーンを上段に構えたアーサーが落下の勢いを利用した炎の刀身でスナイパーを斬りつけた。

 

『ぐあああああっ!!』

 

縦一文字に火花を散らしてよろめいたスナイパーを追撃するようにアーサーは鞘による打撃と足技を絡めた戦闘スタイルで追いつめて行ったと同時に恵利奈たちの方でも決着がついた。

恵利奈が槍で周囲のポーントルーパーを浮き上がらせ、真希奈の音の衝撃波で粉砕するとアーサーが締めのストレートキックで吹き飛ばした。

 

『っ!?避けろ戒っ!!』

「うわっ!」

 

ウェルシュの声の通りに今いた場所からバックステップすると、止めを刺そうとするアーサーを邪魔するように火炎弾が周囲に放たれ爆発する。

顔を上げるとその場にはフェニックスが立ち塞がっており、手にはボウガンを構えている。

 

「またお前かよ。鳥擬き」

『これも、我々の仕事ですよ。悪く思わないでください』

『……余計なことを』

『だが、逃げるならここしかない』

 

アーサーと対峙するフェニックスをスナイパーは忌々しそうに睨むが、エラーの人格の言葉に頷くとそのまま姿を消した。

 

『では、また私に倒されてくださいな』

 

ステッキとボウガンを向けると、火炎弾と羽根型の矢を大量に飛ばしてアーサーを圧倒させようとする。

今までのアーサーであったならば苦戦を強いられただろうが、今の彼にはとっておきの『切り札』があった。

 

『戒、あれを使うぞっ!』

「ああ!括目しなっ!!」

【RHYTHM!!】

【RIDE UP! RHYTHM! 音色と踊れ!GREEN BEAT!!】

 

ウェルシュの指示を受けるとドラゴンカセットを抜き取り、リズムカセットをセットしてバックルのトリガーを引きズムリンクへと姿を変えると、ピアノアローでフェニックスを狙撃する。

単純な軌道のそれをフェニックスは躱すがロックオンを発動させると矢は方向転換を行い背後に命中。

 

『ぐっ、何っ!?』

「どんどん行くぜっ!!」

【MAGICAL ARTS! BEAT BEAT! RHYTHM DE BEAT!!】

 

流れる音楽のリズムに乗って発射される無数の矢を撃ち落とそうとするが不規則な軌道とタイミングで放たれる射撃になす術もなくくらってしまう。

そして、赤のボタンを押してトリッキーな動きに手間取っているフェニックスの死角を解析するとそこ目掛けて放たれた矢に命中し、地面に叩き落とされてしまう。

 

「止めだっ!」

【CRITICAL ARTS! COMBO STRIKE! RHYTHM!!】

『っ!!』

 

シューティングフィーバーがフェニックスに全弾命中しその場で爆散した。

爆発が止むとフェニックスは立つこともままならない満身創痍の状態であったがボウガンを自身に向けて構えて引き金を引くと、羽根型の魔力が胸部に突き刺さる。

 

「なるほど、『回復能力』……」

『まさしく名前の通り、か…』

 

フェニックスが炎に包まれると、今までのダメージが全て消え去っており最初の内は息を荒げていたが次第に正常な呼吸へと戻る。

 

『はぁっ!はぁっ!…油断、しました。これは認識を改めなければなりませんね…!!』

 

そう一人ごちると、マントを羽のように変化させてその場から飛び去るがアーサーはそれを追跡することはせず変身を解除して雪泉たちの元へと向かった。

To be continued……。




 さて、今回は雪泉メインです。残りのメンバーについては近い内にシェアらせる(シェアリングナイトフォースさせるの略語)予定です。
 待て、次回。


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COMBO10 解答×微熱

 後編パートです。雪泉さんのクールさと可愛らしさが表現できているか不安です。それでは、どうぞ。


フェニックス・エラーを退け、一度真希奈の音楽教室へと戻った戒は琴音からの情報を電話越しで聞いていた。

 

『やっぱり菅井と田荘はコンビで詐欺をしていたみたい…リアちゃんと千歳ちゃんが詐欺に関する証拠を探してくれた』

「そうか…んで、襲われた可哀想な被害者さんは?」

『すっかり錯乱しちゃって、しきりに「殺される」とか喚いていたよ』

「それだけ話せれば十分だな」

 

「ありがと」と情報を送ってくれた彼女に感謝すると、通話を終了させソファに腰を掛け一息つく。

今は自分と雪泉しかいない空間を見渡す…恵利奈と真希奈、ウェルシュはジュースを買いに出かけておりこの場には二人しかいなかった。

椅子に座って考えことをしている雪泉を横目に戒は菅井と田荘に関する情報を読む。

大まかにまとめるとこうだ…共に詐欺の常習犯であり主に十代から二十代の若者、何れも立場の弱い者たちから金額を騙し取っていたらしく、彼らのせいで自ら命を絶った者も少なくはない。

挙句の果てに、一度関わったらしつこく付きまとい被害者の身内にすら手を出そうとするほどの陰湿さから彼らの仕事に関わった連中からも「毒虫」と蔑まれる始末。

弱い立場の者から卑劣な手段で追いつめて金を搾り取る…まさに「悪党」を呼んでも何ら差支えのない人物に戒は少しだけ気分を悪くさせたが、すぐに調子を戻すと先ほどから黙っている彼女に不安を覚えた戒は声を掛ける。

 

「どうしました。雪泉さん?」

「……田荘と言う方を守る必要があるのでしょうか?」

 

戒からの問い掛けに気まずそうに答えた雪泉に何も言わず、話を促すように口を噤んだ。

僅かに顔を上げた彼女は言葉を続ける。

 

「私は、常に正義について考えています。ですが、あの人の目的は私腹を肥やす者を仕留めること…彼の行いを、止める権利があるのか……分からないのです」

 

その言葉に戒は合点がいった。

恐らく自分よりも先にあの資料を読んだのだろう…まだ出会って間もないが、彼女が悪を許さない、正義感の強い人物だと言うのは分かる。

飛鳥から聞いたが彼女は彼女なりに『正義』について考えており、そしてその答えを必死に探そうと努力しているのだ。

そんな彼女をまるで雪のようだと戒は思った。

雪のように純粋だからこそ、自分の変身した姿に子どものように素直に喜び…悪を許さない心を持っているからこそ今こうして悩んでいるのだ。

 

「……雪泉さんは、どうしたいんですか?」

「私は、犯人を助けたいです。しかし、それが目の前の悪を見逃すと思うと……」

 

そこまで言うと、雪泉は再び俯いてスカートの裾を力強く握りしめていた。

戒はそんな彼女の頭を撫でていた。

あまりにも突拍子のない行動に雪泉は慌ててその手をどかそうとする。

 

「なっ、何を…」

「いや、リラックスさせようと…嫌でした?」

「別にそう言うわけでは……」

 

嫌と言うわけではない、むしろ心地好い……。

しばらく、頭を撫でていた戒だったがやがてその手を離し椅子に座ると雪泉と向き合った。

 

「俺は、たくさんの人を守りたいから戦っているんです。それは犯人に対しても同じなんですよ」

「え?」

「シンプルに考えましょうよ。犯人を助けて田荘も裁く、それで充分でしょ」

 

あまりにも単純な答えに雪泉は唖然とするしかなく、割り切った考え方の出来る彼に何処か羨ましく思っていた。

 

「門矢さんは、すごい方ですね」

「いやぁ全然、優柔不断な奴って良く言われます」

 

そう言ってへらへら笑う彼につられて雪泉も微笑んだ。

 

「あ、笑ってくれた。雪泉さんのこと綺麗な人だと思ってたけど、笑うと可愛いですよね」

「そ、そうでしょうか?自分のことはあまり興味なくて…///」

 

「綺麗」や「可愛い」の言葉に雪泉は顔を赤くする、良く周囲からも言われるがあまり自覚がないのだ。

だが、鈍感や朴念仁を地で行く戒は、男子に対してあまり免疫のない彼女に熱を与えていく。

 

「そうですよ、初めて会った時は天使か何処かの姫様みたいだと思いましたもん…」

「も、もうおやめください……羞恥でどうにかなってしまいそうです///」

 

その言葉の通り雪泉の顔は真っ赤に染まっており、体温もこれ以上言われたら噴火でもするんじゃないかと思われるほど熱を持っていたのだ。

そんな話をしていると、ウェルシュだけがタイミングを狙ったかのように出てくる。

小さな道を作りながら戒たちの元まで走行すると、ディスプレイで感情を表しながら茶化すように話しかけてくる。

 

『お邪魔だったかな?』

「いや…てあれ。二人は?」

『あー……まだ買い出しをしていてね。○ァンタを買うかド○ペを買うかで揉めていたから私だけ帰ってきたよ』

 

ウェルシュの歯切れの悪い言葉に疑問符が浮かんだが、彼は話を変えるように戒に推理の進展を訪ねる。

 

『それよりも、犯人の目処はたったかな?』

「ああ……よしっ!休憩終わり!!」

「…行くのですか?」

「えぇっ…犯人のゲームをこれで終わらせます。行こう、雪泉さん」

「……はいっ!」

 

二人の絆を感じ取ったアーサードライバーに内蔵されたシェアリングナイトフォースはエラーを破壊するための力を、正義の証明者たる彼女に共有させたのと同時に、二人は犯人が来るであろう場所へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

なお、この時真希奈と恵利奈が様子を見ようと隠れており……。

 

「む~、戒君の周りに女の子が増えた~……」

「はいはい、私たちは美海と美緒お姉ちゃんに連絡するよ」

 

大事な甥っ子に女の子が増えたことに内心複雑な真希奈と楽しそうにそれを見ている恵利奈が彼女を慰めると、姉たちに連絡を取った。

 

 

 

 

 

その人物は田荘が今潜伏しているであろう病院を訪れていた。

周囲を見渡し、警察の関係者がいないか確認すると彼はゆっくりと歩を進めた。

一歩一歩踏みしめるように病院へと近づいていく…。

もう少し、もう少しで全てが終わる…昨日から、その言葉を頭の中で何度も何度も繰り返しながら歩く。

最初のターゲットを仕留めた時、国や人を守るための手が汚れたのだと分かった。

だが、これしかなかったのだ…自分が、あの子が救われるにはこうするしかなかったのだ。

目的地まで後数メートルと言ったところで足を止めた。

仮面ライダーの少年…戒と、最初の事件の目撃者にさせた挙句、銃器を向けてしまった少女…雪泉がいた。

 

「……俺も鈍ったなぁ」

「平和を謳歌出来ている証拠ですよ。そのまま止まってくれませんか?『轟修吾』さん」

 

戒のその言葉に、彼……轟は自虐的な笑みを浮かべると「なぜだ」と彼に問い掛ける。

 

「最初の被害者の検視結果を見た時、全ての急所が外されていることに気付いた。犯人は身体の壊し方を知っている人物…けど、それだけだと医者の源田さんも候補に入る」

 

「そこで」と戒は自信の推理を続ける。

 

「考え方を変えました。あの場所で犯行を行う理由です……深夜とはいえ人がいる可能性もある。現に犯人は雪泉さんに見られていた、でもそうしなければ戸籍を誤魔化していた犯人を見つけることが出来なかった。それには膨大な時間が必要となる」

「だから、職についている源田先生に犯行は無理だと…なるほど。証拠も押さえてあるんだろ?」

 

無言で頷いた彼に轟はため息をついていると、道中で戒から推理を伝えられていた雪泉が口を開いた。

 

「田荘たちの犯罪の証拠は警察が押さえてあります。もちろん、田荘本人も既に……」

 

その先は言わなくても轟には分かった。

警察が既に田荘の会社を取り押さえられ、その本人も逮捕。

つまり、彼がもう救済を行う理由がなくなったと言うこと…しかし、それでも彼は止まらない、もう止めることが出来ないのだ。

ポケットに入れてあるエラーカセットを起動させる。

 

【LOADING…GAME START…】

『頼む、救済をさせてくれ…頼むよ』

「……例え、それであなたが救われても…俺は止める」

『あなたは…まだ引き返せる。人間を捨てるべきじゃない』

 

スナイパーへと融合した彼は、悲痛な声で訴えかけるが戒とウェルシュはその目を正面から受け止めその場から離れない。

そして雪泉も、自分の出した答えをスナイパーに向けて話す。

 

「私は、あなたに人を殺めて欲しくない。陳腐な言い方かも知れませんが…あなたは優しい方です」

 

「だから」と彼女は巻物を取り出して構える…彼を止めるために、自身の『正義』を証明するために。

 

「私が、私たちが止めます!私の正義のために!!…忍、転身っ!」

「変身っ!!」

【RIDE UP! RHYTHM! 音色と踊れ!GREEN BEAT!!】

 

雪泉は雪女を彷彿させるような白い和服……両肩と胸元を大きく露出させた清楚な雰囲気と艶やかな雰囲気を両立した忍装束に姿を変え、戒も緑色のパーカー型霊装…リズムリンクのアーサーへと変身する。

そして、スナイパーに掴み掛かると病院から離れた場所へと戦いの場が変わった。

 

『どうあっても、邪魔をするか…来いっ!』

 

アーサーを蹴り飛ばして距離を離し、宙に投げたエラーカセットを狙撃すると右腕がライフルと一体化したポーントルーパーが一体召喚される。

スナイパーと共に狙撃を開始するがアーサーは軽快なステップからの横転で、雪泉は魔力で生成した氷の盾で防ぎ、入れ替わるようにアーサーはピアノアローによる斬撃で怯ませると、緑のボタンを押して音楽を流すと攻撃を開始する。

雪泉も得物である扇子を振って日本舞踊に似た動きでスナイパーたちを翻弄させると、隙を狙って氷弾を飛ばす。

 

『……!!』

 

雪泉の方を脅威と判断したポーントルーパーは氷弾を躱すとライフルと一体化した右腕を彼女に向けて発砲するも、それを舞うように避けてから距離を詰める。

がら空きになった胴体に掌底を浴びせてからステップを踏み、脳裏にベートーヴェンやバッハといったクラシック音楽の譜面を思い浮かべながらそれに合わせて扇子や掌底を絡めた攻撃で敵を追い詰めていく。

 

「ふっ!そこです、秘伝忍法『黒氷』っ!!」

『ギィッ!』

 

フィナーレを飾るように精霊術で生成した五つの氷弾を生成すると、それを一つに合わせた鋭い氷塊を前方に飛ばす。

一方でアーサーとスナイパーは射撃戦を展開していた。

 

『そこだっ!』

「おっと、そらっ!」

 

銃器を狙撃銃からピストル、マグナムからショットガン、マシンガンピストルへと立て続けに変えながら発砲されるスナイパーの狙撃弾をアーサーが襲う。

それを横転して躱すと共に、軽快なステップで動くアーサーがピアノアローで撃った矢を彼は召喚した銃器で防ぎそれを足場代わりにして銃撃を開始する。

堅実な動きと確実な狙撃のスナイパーと、スピーカーから流れる音楽に乗ってダンスのような軽快なステップでテクニカル&トリッキーな動きで翻弄しながらも精密な射撃を行うアーサーの戦いは熾烈を極めていた。

すると、曲の終わりと同時に雪泉と戦っていたポーントルーパーが吹き飛ばされる形で乱入するとアーサーはスナイパーもろとも蹴って距離を離した後、ドラゴンカセットを起動させて赤い騎士…ドラゴンリンクへと戻る。

 

「雪泉さんっ!」

「はいっ!」

【MAGICAL ARTS! BOWABOWA KACCHI-N!!】

 

アーサーのやろうとしていることを感じ取った雪泉が返事をすると、緑色のボタンを押して両脚が冷気を纏う。

雪泉は秘伝忍法『樹氷扇』で巻き起こした冷気の渦にアーサーは飛び込むと、巻き込まれたスナイパーとポーントルーパーに赤いドラゴンの魔力を纏った冷気の蹴りによる連撃を浴びせた。

 

「「合体秘伝忍法『暴牙竜氷旋(ぼうがりゅうひょうせん)』っ!!」」

『『ガアアアアアアアッッ!!!』』

 

二人の奥義をまともに受けた二体は渦から弾き出され地面に転がる。

身体中に黒いノイズが走っているが、それでも立ち上がろうとするスナイパーに対してアーサーと雪泉は言葉を掛ける。

 

「……もう、苦しまなくて良いんだよ。これ以上、自分を追い詰める必要もない」

「全ての原因は、田荘たちです。ですから…あなたの責任ではありません」

『っ…気付いていたのか』

 

その言葉にスナイパーは構えていたライフルを下ろす……互いに語らずにいると、スナイパーはポーントルーパーを撃ち抜く。

 

『……ずっと、考えていた。俺に何が出来るのか、な。だからこの道を選んだが…結局は……そうか』

『マスター……』

 

一人で納得すると、スナイパーは武器を消して両腕を広げた。

その姿勢から先ほどのような、敵意や威圧感は感じない……。

 

『負けたよ、仮面ライダー…それと、お嬢ちゃん。俺を、解放してくれ』

『俺からも頼むよ。雇い主が腑抜けたんだ…役目を終えた傭兵はただ消えるだけさ』

「……」

 

彼の言葉を聞いたアーサーはリズムリンクに姿を変えるとピアノアローにセットし、構えると、引き金を引いてシューティングフィーバーを放つ。

美しい七色の音の矢は、まるで孫娘が好きだった演奏と重なって見えた。

 

『…ありがとうなぁ』

 

呟きと共に、スナイパー・エラーの身体は爆散した。

 

 

 

 

 

「すぅー…すぅー…」

 

寝息を立てて眠る戒の腕を自分の首に回して雪泉は歩いていた。

あの戦闘の後…魔力と精神力を使い果たしていた戒は轟の身柄を佑斗に任せると、その場で倒れるように寝てしまったのだ。

恵利奈からも頼まれた雪泉はこうして彼を自宅まで送っている最中である。

ふと、彼の横顔を見ると雪泉は目を逸らしてしまう…もしこの場に第三者がいたら、熱のこもった視線を彼に向けていただろう。

あの時の言葉が、手袋越しでも伝わる温かさが自分の心に小さな微熱を与えていた。

 

(……いつか、もしその時が来たら///)

 

彼の素敵なお嫁さんになりたい……。

そこまで考えた雪泉はすぐにその思考を切り離すも、彼への想いと頬から感じる微熱を消すことなど出来なかった。

そんな考えをしていると、目的の家に着いた…ここが彼の家だろう。

雪泉はインターフォンを押した。

 

「戒ですかっ!?恵利奈から聞きましたよ、また無理をしているって…え?」

 

ドアを開けて出てきたのは当然の如く美緒…しかし、この瞬間彼女の時間は止まった。

なぜなら、彼女の目に映っているのは眠っている息子二号に肩を貸している謎の美少女(しかもGカップ)がいたからだ。

おまけに、彼女の目線からだと眠っている愛息子の顔に胸を押し付けているようにも見える。

 

「……」

 

一瞬の静寂、そして…。

 

「あ、あああ、あなたは誰ですかっ!?私の息子二号に何をするつもりですかっ!乱暴するつもりですね!薄い本みたいに、薄い本みたいにっ!!」

「えぇっ!?あ、あの…」

 

何やらとんでもない勘違いをする彼女に雪泉は誤解を解こうとするが、増々ヒートアップして自分に問い詰めてくる美緒になす術もない。

 

「お、落ち着いてください。門矢さんのお母様、ですよね?私は月閃女学館の…」

「誰が『お義母様』ですかっ!あなたにお義母様と呼ばれる筋合いなんてありませんっ!!」

 

増々誤解を深めてマシンガントークをする美緒に、この後雪泉はしばらく圧倒されるのであった。

To be continued……。




 雪泉がメインのお話でしたが、いかがでしたでしょうか…フラグが立ってしまいましたがカー君は朴念仁ですので気づいてません。
 近いうちに月閃メンバーを出演させて、その後は新フォームのお披露目の予定となっております。次回はコメディチックです。
 ではでは。ノシ
スナイパー・エラー CV大塚明夫・諏訪部順一
元自衛隊員の『轟修吾』が融合した姿。軍隊の特殊部隊のような漆黒の武装に身を包んでおり、照準器のようなモノアイが特徴。
銃器による精密射撃を得意とし、スナイパーライフルからピストル、リボルバーやマシンガンピストルなどの銃器ならば、魔力がある限り無尽蔵に召喚することが可能。
自殺に追い込まれた孫娘の復讐のために、エラーカセットに手を染めたが幹部エラーのことは信用していなかった模様。エラーの人格の方も融合者と意気投合していた。


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COMBO11 両手×水晶

 今回と次回で一つの目途が立ちます。そして……現時点で使えるアーサー最後のフォームが登場します。短編を読んでくれた方はすぐに分かるかもしれませんが…とにかくこれで基本フォームが揃いました。
 それでは、どうぞ。


戒と琴音が現場に駆けつけると、人々で賑わっているはずの商店街は随分と様変わりしていた。

至る所に、兎やら犬やらをファンシーにした何処となく一般のセンスとはかけ離れたぬいぐるみが辺りに埋め尽くされており、とても満足に移動出来る状態ではなかったからだ。

 

「うわ…何これっ!?」

「……あれは」

 

琴音が埋め尽くされているぬいぐるみたちに驚く中、戒は少し離れた距離で戦っていた雪泉たちに気が付く。

一方の彼女は自分の仲間である少女『四季』と共に動くぬいぐるみに苦戦している。

色素の薄い金髪に血のように紅い瞳を持つ顔にはメイクが施されており、口元のホクロが彼女のセクシーさを引き立てている。

飛鳥たちと負けず劣らずの豊満な身体を、魔女を彷彿させる黒い忍装束に身を包んだ彼女はダメージの通らないぬいぐるみたちに驚愕しながらも攻撃の手を止めない。

 

「雪泉ちん!何なのこいつ、アタシらの攻撃がまるで通用しないんだけどっ!?」

「事情は後で話しますっ!四季さんたちはこの人形を…!?」

『無駄やでぇ~。ワタシの丹精込めて作った、オンリーワンの、ぬいぐるみは絶対に壊れないんやでぇ~』

 

雪泉の言葉を嘲笑うように、兎のような耳を持ったピンク色のドクロとボタンのようなモノアイ。

そして、ぬいぐるみを白い身体にゴチャゴチャ身に着けた異形『ファンシー・エラー』が姿を現すと身体にあるぬいぐるみが動きだし雪泉たちへと向かう。

 

「きゃっ!?と、止まりなさ…ひゃんっ!?」

「雪泉!こんのぉっ!離さんか…きゃっ!?」

 

和服の中に潜り込まれて変な声を出してしまう雪泉を助けようと、花飾りを付けたおかっぱの少女『夜桜』がぬいぐるみたちを追い払うが逆に服の中に潜り込まれてしまい、一般の女性よりも大きめのサイズをした水色のブラジャーを盗まれてしまう。

 

「か、返せっ!!返さんか!」

「んな…っ!?」

 

ぬいぐるみたちが持っているブラジャーを見た琴音は一瞬だけ動きを止める。

そして、自身の……恐らく一般の高校生よりは平らな胸に視線を向け、目の前の少女との圧倒的差に絶望して膝をつく。

 

「…神よ……どうして、私にばかり、こんな試練を……」

『ふぁ~はっはっは!人間など所詮身に着けている物を取っ払えばこんなものやでぇ~っ!』

『……一人、無力化も出来た』

 

自身の作り出したぬいぐるみに翻弄される雪泉たちを見て高笑いをするエラーの人格に対して融合者らしき少女の声が響く。

だが、変身したアーサーがファンシーの後頭部を蹴り飛ばすと雪泉たちの元に駆け寄り、ぬいぐるみたちを剥ぎ取って行く。

 

「か、仮面ライダー!?本物だー!!」

「……ぬぅ」

「雪泉さん!ぬいぐるみの足元狙って!」

 

突如現れた都市伝説の存在に、ハムスターの形をしたリュックサックを背負っている長い茶髪をツーテールにしたトランジスタグラマーの少女『美野里』や般若の面を着けた…五人の中では長身の少女『叢』が驚きを露わにするも、アーサーはそれを無視して雪泉に指示を送る。

彼の指示に素直に従うと、雪泉は扇子を広げてそこから発生する冷気でぬいぐるみの足元を凍らせて動きを制限した。

しかし、凍結から逃げ出せていた何体かは琴音の方に飛び掛かり、服の中に潜り込もうとする。

 

『あ~、そいつは良い良い。壁みたいな女にその戦法は通じないでぇ~』

 

エラーの人格による凄まじい暴言が飛んだ瞬間、ブチィ!と何かが切れた音が聞こえた…気がした。

 

「おい……あんた今、この胸のこと何つった……!?」

『んっ?』

『あ…嫌な予か…』

 

腹の底まで響くような声にファンシーが殺気を感じた時には遅かった。

そこにはぬいぐるみの一体を踏みつけ、もう一体の個体の頭部をわし掴みにしている琴音がおり、手足を動かしてもがいている身体を掴むと、思い切り引きちぎった。

アーサーは「やっちまったか」と何かを諦めたように天を仰ぎ、ぬいぐるみに悪戯を仕掛けられている雪泉たちも殺気に近い魔力を発する琴音の方を向く。

余談だがこの時、目撃者たちは口を揃えて「右目部分に影が差し、左目が赤く発光しているようだった」と証言していたらしい。

そんなことは露知らず、琴音はいつものハルバードではなく、黒と金で装飾された無骨な戦斧を召喚するとそれを思い切り地面に叩きつけた。

 

「誰の胸がぺったんこの絶望的まな板だゴラアアアアアアアアッッ!!!」

『『ひっ、ひいいいいいいいいいいっっ!?』』

 

衝撃と怒鳴り声による気迫に悲鳴をあげたファンシーは己の身を守るように、目の前の鬼神に向けて大量のぬいぐるみを差し向けるも琴音はそれを踏み潰し、片手で引きちぎり、戦斧で叩き割るなど喧嘩殺法で吹き飛ばしていく。

アーサーも緑のボタンでぬいぐるみたちを焼き払いファンシーへの道を作って行く。

 

『ちょ、待てよ。ぬいぐるみに火をつけるのは反則やでぇ~!?』

「知るかっ!」

 

ぬいぐるみたちを燃やしながら、自分の方へと向かって行くとアーサーは炎を纏ったグレンバーンで打撃を行うと熱の籠った左手でアイアンクローを決める。

最初は高熱でじたばたと暴れていたが、やがて両腕を下げるとぼそりと呟く。

 

『あちち…ワタシの芸術的センスを理解しない奴には…おしおきやでぇ~』

「…よしっ!何とか……えっ?」

 

ファンシーはアーサーの手を振り払うと、ブラを奪還して気が緩んでいた夜桜の方に直進し自分の手の中に牛のぬいぐるみを召喚し、押し付けようとする。

しかし、アーサーは脚力強化による高速移動してファンシーの攻撃から彼女の庇うと左手に押し付けられてしまった。

淡いピンクと黄色に発光すると、アーサーの右手は牛のぬいぐるみと一体化しており当然、自分の手に起こった異変にパニクってしまう。

 

「嫌ああああああああっ!?手があああああっ!て、手が…牛君にいいいいっっ!!」

『か、戒っ!落ち着きたまえっ!!このままでは…』

 

「敵の思うつぼだ」とウェルシュが続けようとする前に、ファンシーは取り出したカエルのぬいぐるみを右手に押し付け、紫と緑の淡い光が周囲を少しだけ照らすと今度は右手がカエルのぬいぐるみと一体化してしまう。

 

「ああああああっ!!こ、ここ、今度はカエル君にいいいいっっ!!!?」

『ふぁ~はっはっは!良い様やでぇ~!では、ワタシはこれにてオサラバ…』

「カー君の手を戻しやがれ、ヘンテコ野郎っ!!」

 

ブチギレモードの琴音が戦斧をファンシーに向けて叩き込むと軽い悲鳴と共に吹き飛ばされるが何とか起き上がる。

 

『あだだ、ワタシは別にやることがあるのでな、サラバやでぇ~』

「くっ!?お待ちなさいっ!!」

 

動き出すぬいぐるみに手こずっていた雪泉が逃げようとするファンシー目掛けて氷弾を飛ばすが巨大なクマのぬいぐるみを眼前に召喚する。

それが消滅すると、ファンシーは既にその場から姿を消していた。

 

 

 

 

 

戒と琴音は月閃女学館にある選抜メンバー用の教室にいた。

ファンシーの行方は美海や飛鳥たちが追っているが、捜査網に引っ掛かっている様子は見られないらしく苦戦しているらしい。

リアたちもインターネットから調査を進めているが一つしか集まっていない。

その情報は、最近この近くにある付近の建物に未確認生物が出没するという噂が立て続けに三件も起きているのだ…偶然ではないだろうが琴音にはピンと来るものがなく頭を抱えるしかなかった。

 

「「はー…」」

 

琴音と雪泉は揃ってため息をつく。

情報が入ってこないのもそうだが、もう一つ頭を悩ましている問題があった。

 

「門矢さん。お味はどうですか?」

「美味しい、ですけど…///」

「わしのことを気にしないでください。い、今限りはあなたの手としているだけですから///」

 

今琴音の視界に映っているのは、恥かしげな様子の夜桜から食事をさせられている光景…なぜこうなったかは詳細まで説明すると長くなるので割愛するが戒に助けてもらった彼女は自分のミスのせいで両腕がパペットになってしまった彼に少しでも恩返しでもしようと、昼食時に戒の両手の代わりになろうとしているのだ。

まぁ、平たく言えば「あーん」してもらっている戒に…恥ずかしそうにしている幼馴染に不機嫌な表情を見せる琴音と、表情をこそ出さなかったが落ち着かない様子を見せる雪泉。

昼食が終わってからも受難は続いた。

 

「門矢ちーん♪アタシ実はブログやっててさー、ツーショット撮って良い?良いよね!」

「あ、あの…漫画のキャラの参考にしたいので…ス、スケッチして良いですか?」

「みんなずるいっ!仮面ライダーさん、次は美野里と遊ぼっ!」

「ま、待って!…ち、近いし柔らかいのが周囲に…///」

 

四季に至っては無自覚なのか意図的なのか隣にすり寄ってくるし、なぜか面を外した叢が彼の姿をスケッチしようと正面に来るし、美野里に至っては戒の腕に引っ付いてくるなど結果的に容姿端麗の美少女たちに囲まれる形となった。

頬を赤らめながらも満更でもない表情を見せる戒に、琴音の堪忍袋も限界を迎えたのだった。

 

「てめーらぁ……これ以上カー君に近づくんじゃねーーーっっ!!!!」

 

琴音のシャウトが教室中に響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

少女『浅海』は孤独だった。

両親には先立たれ、親戚にはたらい回しにされていた彼女にとって唯一信頼出来るのは母と父が誕生日にくれたぬいぐるみたちだけだった。

しかし、あるぬいぐるみ…ミケネに渡されたエラーカセットを起動した時、友達が自由に増やせるようになったのだ。

実験として商店街で暴れ回ったが、あの様子だと自分の魔力が続く限り召喚・操作出来るだろう。

……そこまで考えた彼女は自らのアジトとしている廃棄された工場でファンシー・エラーへと融合し、足を進めようとした時だった。

 

「みーつけた」

『っ!?』

 

工場の入り口には戒たちが立っており、ファンシーの行く手を阻むようにいた。

自分の隠れ家がばれて動揺しているエラーの周囲をウェルシュが旋回しながら戒たちの元へと着地した。

どうやらウェルシュが彼女の後を追跡していたらしい…悔しげに拳を握るファンシーに笑みを見せると戒はカエルのパペットと化している右手を突き出す。

 

「散々人をおちょくってくれた礼は返すっ!頼む、琴音っ!」

「うんっ!」

【MAGICIAN!!】

 

彼の言葉を聞いた琴音は、シルクハットを被った手品師がデフォルメされた絵柄のある白いミラージュカセットを構える。

手品アプリもしくはRPGアプリの『マジシャンカセット』のスイッチを押して起動させると、アーサードライバーにセットしてグリップのトリガーを引いた。

 

「変身っ!」

【RIDE UP! MAGICIAN! 魔法、錬成!WHITE FANTASY!!】

 

変身音声と共に白いローブを模した霊装が現れると、スーツだけとなっているアーサーの上に覆い被さりドラゴンリンクともリズムリンクとも異なる形態となった。

シアンカラーのシルクハット型ヘルメットは上部を覆い、紫色の魔法陣が彫られた上半身を覆う甲冑と全体に纏ったローブは白を基調としている。

 

【MAGICAL ARTS! PRISMA PRISM…SHOW TIME!!】

「ふんっ!!」

 

アーサーの変身が完了したのを確認した琴音は緑色のボタンを押して能力を発動させると、両手を一体化している牛とカエルのぬいぐるみを拳同士でぶつけ合うように叩きつけた。

すると、ぬいぐるみがクリアカラーの水晶に変化すると同時にけたたましい音を立てて砕ける。

 

「……すっご」

「きれーっ!!」

「「……」」

 

砕け散った水晶は破片となって舞い散り、その中心にいるアーサーの姿に四季や美野里、夜桜たちも魅了されていた。

元に戻った両手には魔法陣が刻印された小型の盾と一体化した紫色のグローブ『マジッグローブ』が露わになる。

これぞ、アーサーが使用出来る最後の形態……。

『仮面ライダーアーサー マジシャンリンク』である。

 

「お前の物語、ここで終わらせる!」

『ただのこけおどしよっ!!』

 

宣言して歩いてくる無防備なアーサーを好機と捉えたのかファンシーは大量のぬいぐるみを放つ。

小さく爆ぜる中、アーサーはそれを物ともせずただゆっくりと歩を進めていく。

攻撃を受けているはずなのに彼の身体にはダメージがまるで届いていないようであった。

 

『な、何でダメージすら負ってないんやでぇ~っ!?』

 

自分の攻撃に全く動じないアーサーに驚いたのか焦った声を出すファンシーに対して鼻を鳴らすとアーサーはゆっくりと赤いボタンを押した。

 

【ATACK ARTS! CHARGE!!】

「オラッ!!」

『ガハッ!?』

 

『腕力強化』を施したアーサーのボディーブローの衝撃で身体を揺らされたファンシーは膝をつきそうになるも、それよりも先にマジッグローブから繰り出される一撃が身体を浮かした。

そして。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」

『グベグボベラガダベエエエエエエエエエエエエッッ!!?』

 

アーサーから繰り出されるラッシュを浴びるファンシー……そして止めの一撃とばかりのストレートが顔面を捉えると地面を削りながら吹き飛ばした。

 

『ゲホ、ゲホッ!!ま、まだやでぇ~…お、おしおきやでぇ~っっ!!!』

 

身体中ボコボコにされながらも、何とか立ち上がったファンシーはぬいぐるみを終結させると巨大なぬいぐるみへと変化させる。

だが、彼の一面と活躍を見ていた夜桜たちは彼の加勢に入る…と同時に『シェアリングナイトフォース』が起動し力を共有した彼女たちの一撃はぬいぐるみの巨体を揺らした。

ウェルシュが呼び出したドライグハートに乗り込んだアーサーも彼女たちの輪の中に入ると、今の自分と最も相性の良い人物…夜桜に合図を送る。

 

「夜桜さんっ!頼む!」

「はいっ!」

 

その声を聞いた夜桜はドライグハートを踏み台に跳躍すると、右の籠手を巨大化させる。アーサーはそれに合わせるように緑色のボタンを押して巨大な水晶の足場を作ると、アクセルを全開にして巨大なぬいぐるみ目掛けて突貫する。

打撃と同時に近距離で爆発を連続させる夜桜の秘伝忍法『極楽千手拳』と、巨大な水晶を利き手に纏った拳をぬいぐるみに発動させる。

 

「「合体秘伝忍法『阿修羅千手拳』っ!!」」

 

爆発と棘のように出現した水晶が巨体を貫くと、ぬいぐるみはゆっくりと消滅するように音を立てて倒れた。

とっておきの切り札が倒されたことに唖然とするファンシー…だがそれを見逃すほどアーサーは甘くなかった。

スロットからマジシャンカセットを抜き取り、左腰のスロットに装填…赤いボタンを押す。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! MAGICIAN!!】

 

腰を低く落としマジッグローブにエネルギーを集中させると勢いよく駆け出し、拳を叩き込んだ。

 

「オラアアアアアアアッッ!!!」

『やでえええええええええええええっっ!!!』

 

必殺技『マジシャンブレイク』で殴り飛ばされるとファンシー・エラーは爆散、しかしエラーカセットは無事であり融合者である浅海もはっきりとした意識が残っている。

アーサーはそんな彼女に対してカセットを渡すよう説得しようとした時……。

 

「楽しそうだな、俺も混ぜてくれよ」

 

少年の声が響き渡った。

To be continued……。




 満を持して登場しましたマジシャンリンク。読めば分かるかもしれませんがアーサー唯一のパワー系フォームです。攻撃と防御に重きを置いておりあらゆる物質を質量保存の法則を無視して水晶に錬成できます。
 最後に登場した少年については次回の最初の方で明らかになります。ではでは。ノシ


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COMBO12 元締め×世界

 さて、今回でファンシー・エラーとの決着です。さて、ファンシーの目的と少年の正体とは一体……それでは、本編をお楽しみください。
 月閃キャラについての掘り下げは後々やっていこうと思います。


『なぜ、貴様が…貴様がここにいるっ!?それに、その姿は……!!』

 

目の前に現れた人物……戒や琴音と同い年であろう白衣を着た少年にウェルシュは驚きを露わにする。

今までの彼からは考えられない様子であり、その声には「恐怖」の感情を示していた。

 

「ウェルシュ、あいつは?」

『……救済を取り仕切るオーナー。エラーたちの元締めだ』

 

彼の反応にただ事ではないと判断したアーサーの問い掛けに、ウェルシュは声を震わせながらも答える。

対する少年は、口元に笑みを浮かべながらも落ち着いた口調でウェルシュとアーサーに語りかける。

 

「久しぶり…と言いたいところだけど、ファンシーのことは見逃してくれないか?」

「……どういう意味だ」

 

そう言い放った言葉に、アーサーは警戒をしながらそれについて尋ねると少年はあっけらかんと答える。

 

「あの子は…エラーはただ自分を救うために行動しているんだ。だから…」

「ふざけるなっ!寄生型エラーは明らかに悪意の元に行動していた…お前の言葉は明らかに矛盾しているぞっ!!」

「……確かに、寄生型についてはこちらも困っていた。それは素直に謝罪しよう」

 

「だが」と彼は言葉を続けると、アーサーに対して敵意にも似た視線を向ける。

 

「他のプレイヤーはどのような形であれ救済を果たすべき存在だ。それの邪魔をするのは許さない…!!」

【DRAG HUNTER!!】

 

怒りに声をにじませた少年は自身のエラーカセット…角を生やしたドラゴンに剣を突き立てる戦士の絵柄があるそれを起動させると、召喚したエラーブレスの近くに持っていきそして…。

 

「……憑鎧(ひょうがい)

 

掛け声と共にエラーカセットを装填した。

 

【LOADING…~♪!RIDE UP! DRAG HUNTER! BAD and DEAD END! THE ERROR…!!】

 

レッドゾーンと似た電子音声と竜の遠吠えにも似た音声が周囲に鳴り響くと少年の姿は『ドラグハンター・エラー』へと変わった。

銀色の素体に緑と赤に塗り分けられたドラゴンを彷彿させる鎧と、右手には手甲が装着されており、腰には恐竜の骨で作られたバックルがある。

エラーの共通点であるゲームパッド型ユニットもドラゴンのシルエットがマークされ卵を模ったステンドグラスが埋め込まれている。

さらに、トリケラトプスのような頭部は三つ又に生えた角が生えていた。

その姿はまさしく、ドラゴンハンター……。

アーサーは琴音たちに「下がって」と一歩前に出るとマジッグローブを装備した両腕を構えて突貫する。

体重を乗せた重い拳を繰り出す、が…。

 

『ふぅんっ!!』

「なっ…!?」

 

パワーに特化したマジシャンリンクの攻撃にも関わらず、ドラグハンターは手元に召喚した片手剣…牙を模した刀身のそれで防ぐと手甲を装備した右手でアーサーの胴体を殴る。

あまりにも強い衝撃に膝をつきそうになるが、肩を掴んで無理やり立ち上がらせると片手剣で胴体を切り裂き、地面に叩きつけられてしまう。

 

「ガハッ!くそっ…何て力だ……」

『お前は、俺の…龍の逆鱗に触れた。それ相応の痛みを与えてやる…!!』

 

その言葉と共に、ドラグハンターに蹴り飛ばされたアーサーは地面を数メートル転がったところで勢いが止まる。

 

『戒っ!琴音たちと逃げろ、今のままでは勝てんっ!!』

「はっ、格上相手に立ち向かうのは…いつものことだろ?」

『無駄だっ!そんな力じゃ俺には傷一つつけられない…これで終わりだ!!』

 

よろめきながらも立ち上がるアーサーにドラグハンターはゆっくりと近づくと、握っていた片手剣を振り下ろした時だった。

 

「ウェルシュッ!」

『っ!了解した!!』

 

マジッグローブで攻撃を防ぎながら発した言葉は、今まで逃げ腰だったウェルシュの心に火を付けた。

通常時に使用しているミニ四駆の身体をオートで動かし、地面に散らばったリズムカセットをアーサードライバーに装填させると、アーサーはグリップを引きリズムリンクへと姿を変える。

ピアノアローを至近距離で連射すると、ドラグハンターの身体が揺れる。

 

『グッ!?』

 

呻き声をあげるが、大したダメージではないだろう…しかし、アーサーにとってはそれだけで十分だった。

その隙を狙うように流れる動作でドラゴンリンクへと変身すると、抜身のグレンバーンを胴体へと押し込んでいく。

 

『な、何を…!!』

「呆けている暇があるのかよっ!」

【CRITICAL ARTS! COMBO STRIKE! DORAGON!!】

 

捨て身の行動に動揺するドラグハンターを無視してアーサーはグレンバーンのスロットにドラゴンカセットを装填した。

 

『っ!?まずい!』

 

一振りの刀へと魔力が集中していくのを感じたドラグハンターが一歩引こうとした時には、もう遅かった。

 

「行けえええええええええええっっ!!」

『グゥッ!?がああああああああああっっ!!』

 

激しい火花と同時に、グレンバーンの刀身がドラグハンターを斬り裂こうとする。

しかし、ドラグハンターも右手で握り拳を固めると魔力を込めた拳をアーサーへと叩き込んだ。

両者は火花を散らしながら、凄まじい衝撃によって吹き飛ぶ。

 

「はぁ…はぁ…ぐっ!」

『ゲホ、ゲホッ!!』

 

お互いに距離を置き、満身創痍となりながらも、二人はゆっくりと立ち上がる。

やがて、胸を苦しそうに抑えたドラグハンターが楽しげな声で話す。

 

『…はは、なるほど。どうやら君たちは、俺にとっても楽しめる存在らしいな』

 

満足げに語ると二人の間に緑色の矢と槍が降り注ぐ。

煙が晴れるとドラグハンターの傍には緑色の植物を生やした怪人…ユグドラシル・エラーが立っており、彼に肩を貸していた。

 

『今回は、ここまでよ。それじゃあね』

 

その言葉と共に二体の身体はデータ状に変化するとそのまま姿を消す。

それを見届けたアーサーは変身が解除されると同時に地面へと倒れてしまった。

 

 

 

 

 

「「大がかりな計画?」」

「はい」

 

声を揃える雪泉と夜桜に対して、月閃女学館の保健室で包帯を身体に巻いた戒が答える。

あれほどの傷を負ったのにも関わらず茶碗二杯分の食事を済ませた彼は、月閃メンバーと琴音に自身の推理を話す。

 

「リアたちが調べてくれた情報にヒントが乗っていました」

「門矢ちん、どゆこと?」

 

地図を広げると、戒は青いペンで次々と印をつけていく。

すると、不規則に見えていたファンシーの行動が浮き上がるように青の丸印が一定の法則へと出来上がっていく。

 

「警察は、こういったオカルト系の雑誌を読まないから分からないかもしれないけど、ヒントは最初からここにあったんだ」

 

飛鳥たちが各ポイントに行くと、そこには縫い付けられている兎やらクマやらのぬいぐるみを発見しており恐らく未確認生物の正体であろうそれらを送ってくれたのだ。

そして、ファンシーの融合者『人形(ひとがた)浅海』についての資料を手にする。

 

「ここまで言えば、分かるはずです。ファンシーの目的が……ね」

 

その言葉に、雪泉や琴音たちはしばらく考え込む…三つのポイントにファンシーの動機、ポイント内にあったぬいぐるみ。

やがて「あっ」と声をあげたのは夜桜だった。

しかし彼女の顔は驚愕の表情となっており戒に慌てた様子で問い詰める。

 

「そんな、こんなバカげたことをするつもりでっ!?」

「そのバカげたことをするつもりなんですよ、ファンシーは災害を起こすつもりです。マナで強化したぬいぐるみたちを使ってね」

 

あまりにもありえない答えに夜桜は動揺するも戒はそれをあっさりと口にする。

突拍子もない解答……しかし、それを実現させようとしているファンシーに対して背筋が凍る不気味さを覚える。

しかし、その空気を払うように戒がいつもの余裕ある口調で次にすべき行動を提示する。

 

「とにかく!奴の目的が分かったんです。なら次に目指すのは…ここしかありません」

 

そう言って、ファンシーが現れるであろうポイントに赤い印をつけた。

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……ぐっ…!」

 

戒が琴音たちに推理を話した同時刻、古びたゲームセンターで融合を解除したユグドラシルに担がれたドラグハンターはそこにある筐体に背中を預けながら、苦しげな表情と共に息を荒げていた。

端正な表情を歪めながら胸を抑える彼に、レッドゾーン…そしてフェニックスが姿を現す。

 

「…随分とボロボロね、オーナー」

「無茶ばっかするなぁ。僕のこと悪く言えないじゃん」

「一先ずはこれを…」

 

彼女たちの苦言に、苦笑いしながらもフェニックスに与えられた羽根を胸に突き立てアーサーとの戦闘で負った傷を再生させる。

しかし、傷の治りが遅く…今のままでは戦闘など不可能だろう。

 

「……面白かったよ」

「そう」

「こんな世界にも、綺麗な眼をした人がまだいた」

 

ドラグハンターの言葉にユグドラシルは笑みを浮かべながら相槌を打つ。

今の汚れた世界に、真正面から自分に反論した上に致命傷を与えた人間がいることに怒りよりも嬉しさを覚えた。

だからこそ……。

 

「この汚れた世界を、変えなければならないんだ」

 

その言葉に、フェニックスたちは無言で頷いた…彼らは自分の目的もあるが何よりも『救済』のオーナーである彼の思想に何処か共感したからこそ付き従うのだ。

やがて、一部の始終を見ていたミケネがタイミングを狙ったように言葉を発する。

 

『ニャハハ、ファンシーが活動を再開したニャ』

 

ミケネの宣言を聞いたレッドゾーンは、起動したエラーカセットをエラーブレスにセットすると怪人の姿へと変わる。

 

『さぁ…ひと暴れさせてもらうぜっ!!』

 

荒い口調と共にレッドゾーンはファンシーの護衛へと向かって行った。

 

「…大した人間たちを見つけたな、『アルトリウス』……」

 

誰に聞こえることもなく、彼はそう呟いた。

 

 

 

 

 

逸る気持ちを抑えるように、浅海は目的の場所へと脚を進めていた。

もうすぐ、もうすぐ計画が始まるのだ…自分の友達が大嫌いな全てを破壊して支配する。

ああ、何て素晴らしいのだろうっ!!

これから起こる美しい光景に感情を高ぶらせながら彼女は建物の内部へと入った。

そして、上着に入っている白いマネキンを模したぬいぐるみを手に持った時だった。

 

「……とぉっ!ぎりぎりセーフだったな、ファンシー!」

「っ!?」

 

その言葉が聞こえると、ドライグハートに跨った戒が彼女の進行を邪魔するように止まると、琴音と雪泉たちが包囲するように現れる。

 

「まさか、自分のアジトを計画実行場所にしていたとはな…けど残念ながらここまでだ」

 

後少しの所で……!!

悔しさに顔を俯かせた浅海だったが、やがて肩を震わせて不気味な笑みを見せる。

 

「いいえっ!まだ私のゲームは終わっていない!」

 

そう叫ぶや否や、彼女は手に持っていた白いマネキンのようなぬいぐるみを壁に向かって投げつけるとそれは落ちることなく引っ付き、細かい振動を開始した。

 

「何っ!?」

「もうすぐよ、もうすぐ…友達がたくさんいる世界に変わるっ!!」

 

戒と琴音たちも驚きを隠せないでいる中、エラーカセットに飲み込まれた浅海が目を輝かせ狂ったように笑い始めた。

 

「あははははははっ!私はもう一人じゃない、一人じゃなくなるのよっ!!」

【LOADING…GAME START…】

 

ファンシー・エラーに融合すると、彼女は縫い目だらけの兎のぬいぐるみを戒たちに向かって投げつけるがそれを躱しドラゴンカセットを起動させる。

 

「まだだ!あれさえ破壊すれば…変身っ!」

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

 

ドラゴンリンクへと変身したアーサーがぬいぐるみを破壊しようとするが、それを邪魔するように現れたレッドゾーンがタックルを仕掛けて来た。

 

『よお、仮面ライダー…シーフでの借りを変えさせてもらうぜぇっ!!』

「…こんな時に」

 

アーサーの声を無視してレッドゾーンは大剣を振り回して攻撃をしてくる。

それを防ぐ中、琴音たちもファンシーの召喚したぬいぐるみたちに翻弄されてしまう。

いくらエラーを破壊出来るようになったとしても、的の小さな敵との戦闘経験がない彼女たちにとっては苦戦するのも仕方のないことだった。

ファンシーは高笑いをしながらも、彼女たちの行動を制限しようと大量のぬいぐるみを展開する。

万事休す……そう思われた時だった。

紫色の弾丸がファンシーに直撃したのだ。

 

『だ、誰やでぇ~!?』

 

エラーの人格が襲撃者を特定するため周囲を見渡すと、そこには白い忍装束を身に纏った千歳が白い火縄銃を構えていた。

リアから居場所を聞き、たまたま周辺の近くを調査していた彼女が助太刀に来たのだ。

 

「兄様っ!」

「ナイスタイミングだ!千歳、頼むっ!!」

 

レッドゾーンの攻撃をグレンバーンで防いでいるアーサーの言葉を聞いた千歳は片目を瞑り、火縄銃を構えると壁にくっついているぬいぐるみに照準を合わせる。

 

『このアマァ……何しようとしてやがるっ!』

【RIDE UP! MAGICIAN! 魔法、錬成!WHITE FANTASY!!】

「「させるかっ!!」」

 

千歳のしようとしていることに感づいたレッドゾーンが彼女の元に向かおうとするが、それよりも早くマジシャンリンクに姿を変えたアーサーと、琴音が抑え込む。

振りほどこうとするが元々脳筋気味の彼は叩きのめそうとアーサーたちの方に意識を向けてしまう。

 

『レ、レッドゾーンッ!?……はっ!』

「我らの相手をしてもらうぞ」

 

レッドゾーンの行動にファンシーが叫ぶが、何時の間にかぬいぐるみを退けていた叢から繰り出される包丁と槍による攻撃と、四季の円盤型の大鎌によってぬいぐるみごと吹き飛ばされてしまう。

アーサーたちが足止めをしてくれる中で千歳は意識を集中させる。

そして……。

 

「……そこっ!」

 

引き金を引くと邪弾はぶれることなく直線に飛んでいき、ぬいぐるみに命中すると、風穴が空いたそれは小さく爆ぜて破壊されたと同時に三つのポイントに行き渡らせてた魔力の供給が停止する。

吹き飛ばされたファンシーはそれを目撃してしまい、戦意を喪失してしまう。

 

『嘘っ、私の、世界が……』

『チィッ!ならユグドラシルからもらったこれで…!!』

 

唖然とするファンシーに対して舌打ちをすると、アーサーたちを退けたレッドゾーンはユグドラシルから予め渡されていた鋭い木の破片を取り出すと彼女に向けて突き立てた。

レッドゾーンが退散すると同時にファンシーはデータ化した緑色の魔力に包まれ肥大化していく……巨大なツギハギだらけの兎のぬいぐるみを彷彿させる姿へと変貌したのだ。

 

『よくも、ワタシの主の希望を潰してくれたなぁ…お前ら全員、おしおきやでぇ~~~っっ!!』

 

『ファンシー・エラー 暴走態』はボタンのようなモノアイを光らせ、エラーの人格で叫ぶと手足を振り回して暴れ始めた。

だが、いくら巨大化しても単調な攻撃から繰り出されるそれはアーサーや忍たちにとっては格好の餌食だった。

ファンシーを翻弄するように各自散開すると、雪泉たち月閃メンバーは秘伝忍法を仕掛ける。

 

「秘伝忍法『黒氷』っ!」

「秘伝忍法『影朗』…!」

「秘伝忍法『地獄極楽万手拳』っ!!」

 

まずは雪泉が氷塊を放ち、叢の契約精霊である二匹の狼『小太郎』と『影朗』で撹乱すると、夜桜の巨大化した両の篭手から放たれた巨大な黄色の球体がファンシーに直撃する。

 

「秘伝忍法『シキソクZEX』ッ!」

「秘伝忍法『パンパンケーキ』ィッ!!」

 

一年生コンビの紅い霧からの突撃と、仕上げと言わんばかりの巨大なパンケーキに下敷きにされながらも何とか立ち上がるファンシー…。

だが、千歳が撃った高威力の邪弾と琴音がハンマー投げの要領で投げ飛ばしたハルバードが顔面に直撃する。

頭部からくる衝撃から解放された時にはもう遅かった。

 

「お前の物語、ここで終わらせるっ!!」

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! MAGICIAN!!】

 

彼の視界に映ったのはドライグハートで自分目掛けて爆走するアーサー・マジシャンリンク…。

左腰のスロットに装填して緑色のボタンを押すと、ドライグハートとアーサーを包むように水晶を纏ったまま直撃した。

 

「これで終わりだああああああっっ!!!」

『やでぇええええええええええええっっっっ!!!!!』

 

ファンシー・エラー暴走態の身体を貫いたアーサーが華麗に着地すると、背後で巨大な爆発の後から気絶した浅海が倒れていた。

 

 

 

 

 

「「こんにちは」」

「門矢さんに幸村さん、こんにちは」

 

数日後、戒と琴音は事件でお世話になった月閃のメンバーたちに顔を見せていた。

丁寧に挨拶を返してくれた雪泉にお土産を渡すと、二人は改めてお辞儀をする。

 

「今回は、色々と助けてくれてありがとうございました」

「いえ、私たちも助けていただきましたし…感謝いたします」

 

そう言ってお辞儀をした雪泉は顔を上げると戒たちにある提案をする。

 

「実は…叢さんや夜桜さんが、お二人と是非手合せしたいと申しておりまして…」

「うーん、まぁ構いませんけど」

「私も全然」

 

歯切れが悪そうに言った彼女の言葉に二人は快く了承すると、雪泉は安心したように訓練場へと案内していった。

To be continued……。




 そういう訳で後編でした。ようやくアーサーのフォームがひと段落したので次回はアーサーチャンネルの予定となります。次回のゲストは二人です。
 今回、エラーのリーダー的ポジションが登場しましたが、彼については機会があれば解説します。
 ではでは。ノシ

ファンシー・エラー/ ファンシー・エラー暴走態 CV沢城みゆき・ホリ
両親を亡くした孤独な少女『人形浅海』が融合した姿。通常態は兎のような耳を持ったピンク色のドクロとボタンのようなモノアイがあり、様々なぬいぐるみを白い身体に身に着けている。暴走態は頭部こそ同じだが、巨大なツギハギだらけの兎のぬいぐるみのような姿になる。
身体に着けているぬいぐるみを自在に操作する能力と生成する能力を持つ。この能力を駆使して街を破壊しようとした。暴走態はそれらの能力を使用しなかったが一応使えた。
エラーの人格の方は独特な声と喋り方であり、時たまキ○タ○のものまねをしていた。
エラーの人格モチーフはタイムボカンシリーズの『ド○ロベエ』と『○ヤダーマ』


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COMBO EX3 第三回アーサーチャンネル!!

 アーサーのフォームがすべてそろったで三回目のアーサーチャンネルです。今回はゲストが二人も登場します。どうぞ、お楽しみください。ではどうぞ。


『さん、はい』

『「アーサーチャンネル!!~~~~」』

 

いつもの場所で、いつものタイトルコールを行うウェルシュと琴音に対して多くの拍手が彼らを出迎える。

拍手がある程度止んだ辺りでウェルシュが挨拶を始める。

 

『皆さん、おはこんばんにちは。ルパン三世で好きなキャラクターは「次元大介」のウェルシュだ。よろしく』

「(金曜日にルパンがやってたからかな?)おはこんばんにちは、ルパン三世で好きなキャラクターは「銭形警部」の幸村琴音です。よろしくお願いしまーすっ!!」

 

二人の挨拶の後に先程と同じ拍手が起こると、ウェルシュは満足そうに番組を進行させていく。

 

『さて、この時点で気付いている方がいるかもしれないが…今回、戒は欠席だ』

「理由としては、予習のために閃乱カグラEVの映像を観ていたらOP辺りで顔を真っ赤にしてダウンしたので急きょ欠席となりました」

『その埋め合わせというわけではないが、今回はゲストを二人用意したぞ。門矢美緒と雪泉の二人だ…では、どうぞっ!!』

 

ウェルシュの呼びかけの後に、美緒と雪泉(忍装束Ver)の二人がスタジオに入り頭を下げる。

 

「おはこんばんにちわ。ルパン三世で好きなキャラクターは主役の『ルパン三世』の門矢美緒です。よろしくお願いします」

「お初にお目にかかります。ルパン三世は主要人物しか分からない雪泉と申します。所属は死塾月閃女学館の選抜メンバー、学年は三年です。よろしくお願い致します」

 

美緒は白い日傘を差しながら軽く挨拶を行い、雪泉の方は丁寧に自身の紹介をすると深々と頭を下げた。

頭を上げた雪泉に対して、美緒は日傘を畳むと彼女の方に向き直って頭を下げる。

 

「あの時はすいませんでした。息子を助けてくれたのにあんな酷いことを…」

「あ、頭をお上げください!ご子息のことを思うのは当然のことです」

「そう言っていただけると助かります…本当にすいませんでした」

 

互いに謝罪を終えたのを見計らってウェルシュが話に割って入る。

 

『ちなみに、あの後どうなったんだい?』

「桜花からお説教をくらいました」

「だからお母さん、カー君の家にいたんだ」

 

当日、門下生たちに顔を見せなかった母親に何処か納得した琴音はスマホで時間を確認すると、本筋へと軌道修正する。

 

「第一回、第二回を呼んでくれた方は察しがついていると思いますが、本編で語れなかったとこ、感想であった身近な疑問を答えていく所謂『質問コーナー』だね、例によってメタ発言が多いので、苦手な人はバックすることをお勧めします」

『では、さっそく本題に入ろうか。最初のお題はこちら』

 

琴音の注意事項の後に、ウェルシュはモニターにお題を映す。

 

【美海たちの能力と出生、琴音の父親について】

「精霊術です」

 

お題が映った瞬間、即答する美緒に対して雪泉がおずおずと手を挙げて質問する。

 

「では、真希奈さんの衝撃波や恵利奈さんの槍も?」

「ええ。基本、精霊術は何でもありの技術ですから武器をデータ状にしてスマートフォンに収納したりネックレスの魔力を流して異なる物質に変えるなど造作もありません」

『そうは言っても、データとして分解するのは相応の機械や技術を必要とするから下手に…それも生身で真似すると収納しただけで体力を持って行かれる危険性もある』

「それを平然と出来るって…おばさんたち本当に何者なんですか?」

 

美海の解説に付け足すように言ったウェルシュの説明に軽く引いた琴音は続けて『彼女たち』に関する質問をする。

すると、美緒はフリップを取り出してマジックで何やら書き始める。

そして両手に持って全員に見せるように掲げた。

 

「『仮面ライダーディケイド The After』…いつ更新されるか分かりませんが、戒たちが産まれる前の話…つまり、私たちと出会うお話で明らかになります。リマジ世界とオリジナルの世界が混合してしまった世界をディケイドメンバーと、エグゼイドを除く平成二期のライダーたちが旅するストーリーとなっています」

「…て宣伝かいっ!!」

「そうは言っても、本編で語ると本筋からずれますし何よりこれは戒とあなたたちの物語。老兵が出る幕ではありません」

 

なぜか宣伝を始めた美緒に対して琴音がツッコミを入れるが、それを理路整然と流した彼女は逆に琴音に対して質問する。

(※)「ディケイド The After」はアーサーの目処がついたらちょくちょく進めていきます。

 

「そう言う琴音ちゃんはどうですか?お父さんについて漁師やら猟師やら色々と言われてましたが……」

「そこで私にふる?えっと、私のお父さんは道場の経営や設備の管理などをお母さんから任されています。後は、ゆるキャラのアクターやってたり喧嘩を売ってくる街のチンピラ叩きのめしたりしてるけど、ピーマンが苦手な一面もあるんだ」

「子どもらしい一面もあるのですね、幸村さんの父上は」

 

雪泉にそう言われた琴音は恥ずかしそうにする。

何だか温かい雰囲気になったところで美緒がボタンを押して次のお題へと切り替える。

 

【戒の嫌いなものについて】

「生エビ、生ホタテ、ナマコの三つですね、これ答える必要あります?嫌いな物は嫌いで良いでしょ?高級品だろうが…あの子が嫌いと言ったら嫌いなんです」

「おばさん落ち着いて、これ別にカー君ディスってるわけじゃないし」

 

マシンガントークへとなりかけている幼馴染の母親に琴音は苦笑い気味に必死に宥める。

雪泉も琴音の援護射撃をすべく幼少時代の話に質問する。

 

「幼いころはどうだったのですか?」

「礼司と違って元々食わず嫌いの子でしたけど…きっかけは小学校の時に給食でベビーホタテと生エビが入ったクラムチャウダーが出た時です。覚えてますか琴音ちゃん?」

「あー、確か無駄に豪華だったので覚えてるけど…普通に食べてたような……」

「出された食事は何も言わずに完食する子でしたからその時も文句言わずに食べたんでしょう…で帰ってきたら必要以上にうがいと口をゆすぎ始めてたので『どうしたんです?』って尋ねたら『もう食べたくない!』て泣き出して」

『それで、生エビと生ホタテが駄目になったのか…ナマコはどうなんだい?』

「あのコソ泥がナマコ怪人なる話をしてトラウマになったからですよ…!!物を盗むのと逃走するのと裏切るしか能のないドブネズミの分際で私の可愛い可愛い息子二号を泣かせやがってそもそも…」

「はい、次の話に入りまーすっ!!」

 

これ以上は流石にまずいと判断した琴音は彼女の怨嗟の籠ったセリフを遮りながらボタンを押すと強引に話題を変えた。

(※)ナマコ怪人は『粘液を吐き出すヌメヌメした赤褐色と暗青緑の怪人が人間を丸飲みする』というホラーテイストのお話。ちなみに本人に悪気はないし作者のお気に入りのキャラクターです。

 

【キャラを書く上で意識していること】

「ある程度の種類に分けています。例えば年上で真面目の斑鳩ちゃんと雪泉ちゃんを例に出しましょう」

 

気持ちを落ち着かせた美緒がパチン、と指を鳴らす。

 

斑鳩の場合

「知ってますよ。確か、有名なキャラクターでしたよね」

「なな、何を言っているのですかっ!?そのようなことを言うのは、風紀に反しますっ!///」

 

雪泉の場合

「はぁ……愛らしいですが、これが人気なのですか?」

「いえっ……ありがとう、ございます///」

 

「このように、斑鳩ちゃんの場合は常識に通じているのである程度の知識があって、読書家なのと男性に免疫がない部分を押し出してます」

『対して、雪泉の方は少し天然というか流行りなどに疎いイメージがあるね。同じ性質のキャラの場合はこうして差別化しているのか』

「まぁ、書いてる時はあまり意識していませんがね。作者なりにベクトルを書くキャラにつけるよう、心掛けています」

 

ウェルシュの言葉に頷いた美緒はつまらなそうに解説を終えると、彼女がボタンを押した。

 

【マジシャンリンクについて】

『アーサーの現時点で最後のフォームだね、スピード重視のバランス、テクニックに続いてパワー系のフォームだね』

「能力は腕力強化と水晶生成だっけ?名前の割にはごり押し系の戦闘スタイルだよね」

『魔法系で遠距離だとありきたりだろう?それに作者はウィザードを観た辺りから「近距離で魔法を使いながら真正面から敵を叩き潰す」ファイトスタイルを考えていたらしい』

 

ウェルシュの言葉に「へー」と納得する琴音と雪泉…それに対して補足するように美緒が会話に入る。

 

「水晶にしたのは『ガ○ヴォ○ト』に登場するボスの能力が面白かったから、武器をグローブにしたのは徒手空拳で戦うフォームが欲しかったからボクシングスタイルで相手を圧倒するマジシャンリンクが誕生しました」

 

「ちなみに」と彼女は言葉を続ける。

 

「実は色についてですが、ドラゴンリンクを除く二つのリンクは『超次元ゲイム ネプテューヌ』に登場する女神『ホワイトハート』と『グリーンハート』をモデルにしています」

「えっ、嘘っ!」

「嘘じゃありません。スーツの色は『パープルハート』と『ブラックハート』、マジシャンはホワイトハート、リズムはグリーンハートがモチーフです」

「……事情は分かりませんが、アーサーのカラーにも意味があったのですね」

 

あまりゲームに詳しくない雪泉だが、色々と凝った設定に嘆息するしかなかった。

(※)理由は単純にゲーム繋がりなのと自分が好きだったから。

 

 

 

 

 

『さて、そろそろ終わりの時間がやってきたか…大体が質問への回答になってしまったが楽しめたかな?』

「楽しんでいただけたら幸いです。それと同時にお知らせがあります」

 

そう言って、琴音は金色のボタンを押してテロップを切り替えた。

 

【仮面ライダーアーサー新章突入兼NOVEL大戦決定!!】

『物語に一先ずの区切りがついたので以降からEV編と映画版に当たる話を別作品枠で登校する予定だ』

「NOVEL大戦では閃乱カグラ2を軸にした話を展開する予定です。私たちは登場しませんが飛鳥さんたちや焔さん率いる『紅蓮隊』がご活躍します」

「ここで焔さんたちとシェアリングナイトフォースでリンクする予定です。EV編は『あの人』も登場しますのでカー君が狂喜乱舞しそうで不安です」

 

上からウェルシュ、雪泉、琴音の順に番宣を終えると美緒が締めの挨拶を始める。

 

「以上、お相手は門矢美緒と」

『ウェルシュと』

「幸村琴音と!」

「雪泉でお送りしました」

「『「「バイバーイ!!」」』

 

四人の言葉の後、盛大な拍手と歓声と共に締めくくられた。

リアルの都合で遅くなるかもしれませんが温かい目で見ていただくと幸いです。




 第三回目のアーサーチャンネル!!でした。これから一体どうなるのか、楽しめるよう頑張っていきたいと思います。
 ではでは。ノシ


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ESTIVAL COMBO 選択と未練
COMBO13 お参り×未知


 お待たせしました(どうかは分かりませんが)。EV編、開幕です。
 今回のメインは両備と両奈、そして琴音と戒の幼馴染組です。この話では作者も理屈抜きで好きな『あの人』がいよいよ登場しますがきちんと描写できるか不安です。
 それでは、どうぞ。


もしも、大切な人が黄泉から戻ってきたら…人はどうするのだろうか?

泣いて喜ぶのだろうか?それとも、拒絶するのだろうか?

少なくとも、穏やかな気分ではいられないのだろう。

そんなことは不可能だ、不可能なことだと分かっているからこそ人々は生きていくのだろう。

だけど、自分はそんなことは耐えられない、耐えられるわけがない。

そのために力を手に入れたのだ。そのために人の身を捨て、新たな名と姿を手に入れたのだ。

「不死鳥」を……。

 

 

 

 

 

戒と琴音は両備と両奈の二人と共にある森林を訪れていた。

森の中は特に険しい地形でも複雑な構造でもなかったこと、道を知っていた両備たちが率先したのもあって四人は『そこ』に辿り着いた。

 

「今日はカー君と琴音ちゃんを連れて来たよ、お姉ちゃん」

 

両奈がそう呟くと手に持っていた花束を両備と共に置いた。

ここは両備と両奈の姉であり育ての親である両姫が眠る墓…とは言ってもそれは蛇女の教師である涼音がそう述べているだけなので本当なのかどうかは分からない。

だが、このように花を用意出来るのは忍の道を生きる二人からしたら立派な墓地なのだ。

戒は生前彼女が好きでよく飲んでいたミルクティーの缶を置き、琴音が違う種類の花束を置いたのを確認すると、瞳を閉じ両手を合わせて弔う。

戒たちからしても、彼女にはよくお世話になった…それこそ弟や妹のように可愛がってくれた。

そんな胸中を表に出さずに、しばらく弔いをしていると戒はゆっくりと目を開いた。

それに続くように両備や琴音も顔を上げたがあることに気付く。

 

「あれ?両奈は何処行った?」

「え?」

 

戒の言葉通り、両奈が見当たらなかったのだ。

三人は辺りを見渡すが、茂みから聞こえてくる音の方に身体を向ける。

結論から言うと両奈はいた。

いたにはいたのだが、彼女は上半身を茂みの中に突っ込んでおり丈の短い学生服を着用しているからか水玉模様のパンティーが露わになっていた。

 

「ぶふっ!?///」

「見るな変態!」

「何て格好してんの、よっ!!」

 

顔を赤らめて噴き出す戒の目を塞ぐ琴音と、滑稽な姿を見せている姉に苛立ちを募らせた両備は平手打ちを浴びせる。

その際、両奈から嬉しそうな声が聞こえたが目を塞がれている戒が呆れた様子で尋ねる。

 

「何してるんだ、お前は…」

「とにかく見て!こっちを見てぇ~」

 

両奈の急かす声に三人は疑問符を浮かべると、彼女に言われた通りに茂みの中に潜り込むと、そこには信じられない光景が映っていた。

森林の中で何かの儀式を行っているであろう三人の巫女と老婆…。

恐らくあの四人の中では中心核であろう巨大な白い数珠を首にかけて、赤いスカーフを巻いた老婆が何かの詠唱を始めており四人は轟々と燃え盛る炎を前に並んでいる。

その際、戒の学生服の懐にいたウェルシュが姿を見せて伝える。

 

『……戒。あの場所、忍結界が張ってある。微弱だが魔力も感じる』

「でも、一体何を……」

「そんなことより、あの火の中に飛び込んだら熱いよね?両奈ちゃん、絶対気持ち良いよねぇ!?」

「「この、バカっ!」」

 

ウェルシュと戒は結界を張っている四人…恐らく忍の関係者であろう人物について考えるが、シリアスな雰囲気を壊すようにマゾヒズム全開の両奈のセリフに琴音と両備があまり言葉を出さない代わりに彼女の頭をはたく。

気を取り直してしばらくこの奇妙な光景を見ていると老婆が詠唱を止めた。

その時、赤々と燃えていた炎が紫色へと変化したのだ。

突然の現象に四人は驚くことしか出来なかったがやがて紫色の炎は幾つかに分裂するとそれはやがて死覇装を纏った女性たちへと姿を変えた。

その光景に少しばかり驚いたが、それでも彼らは自分の心を必死に押さえつける。

しかし、それは長くは続かなかった。

 

「っ!?」

「嘘、だろ…?」

 

両奈と戒、そして両備と琴音は驚愕する。

なぜならその女性の内一人は、自分たちにとって見間違うはずのない人だったのだから…。

生気のない表情だったが間違いない、間違えるはずがない。

戒たちの脳裏に、常に優しい笑みを浮かべていた彼女の顔がフラッシュバックする。

老婆がその人物の頬に触れようとした時だった。

 

「『両姫』お姉ちゃんに、手をださないでぇっ!!」

 

悲痛な叫びと共に両奈は二丁の拳銃を召喚すると、結界に向けて発砲しながら走る。

侵入者が現れたのにも関わらず、老婆はそれを楽しそうに見ていたが彼女はそれを気にせず、皹を入れた結界を蹴って割ると両姫らしき人物を追いかけ始める。

 

「…っ!待て、両奈っ!」

 

「くそ!」と戒は両奈の後を追うと彼の行く手を阻むように長い茶髪をツインテールにした巫女が前に出る。

だが……。

 

「邪魔だっ!」

「っ!?」

 

勢いを殺さず、彼女の身体ごと受け流すと両奈の元へ走り、慌てて両備たちも追いかける。

バランスを崩した相手は追跡してこなかったがそんなことを考える暇は今の戒にはなかった。

一方両奈は両姫らしき人物を追いかけるが、その人物が静止すると地面から青と白、そして黒で塗り分けられた棺…棺桶が出現するとまるで主を迎え入れるようにゆっくりと開く。

両奈は何とか彼女に手を伸ばそうとするが棺桶は閉じてしまう、しかし棺桶の蓋に手を掛けて開けようとする彼女を見た両備は迷いながらも彼女の手伝いをする。

近くに来た琴音はどうしたら良いか慌てていたが戒は追手が来ないか、目の前にいる人物への攻撃に備えて鞘に納めた日本刀を構えて警戒する。

巫女たちの顔は分からなかったが丸いサングラスをかけた老婆は彼らの行動を楽しそうに見ているだけだった。

そして、二人が蓋を開けた途端…眩いほどの光が周囲を包みこむのを感じた戒たちはそこで意識を失った。

 

 

 

 

 

「動き出しましたか」

 

同時刻、膨大な魔力反応を感知したフェニックスは普段から愛用している黒い着物を着用すると、ゆっくりと椅子から立ち上がった。

この時からずっと待ち続けていたのだ…ようやく、ようやくこの時が来たのだ……。

自分の内から湧き上がる感情を必死に押し込めながらも、自分の笑みを隠すことが出来ないでいた。

「しかし」と彼は思う。

 

「流石は小百合様ですね。巫女の手を借りたとはいえ、あれほどの結界を短時間で創り上げるとは……」

 

フェニックスはこの場にはない、尊敬していた人物へ賛辞の言葉を贈るとエラーカセットを起動して怪人態へと融合を遂げる。

ようやく待ち望んだチャンスが来たのだ、既にオーナーからは許可を取っている。

後は、自分のさらなる救済を遂げるだけだ。

フェニックス・エラーは首を傾けて鳴らすと、楽しげに呟いた。

 

『ゲームスタートです。待っていてください』

 

そして、彼はマントを広げて巨大な一対の極彩色のした綺麗な翼へと変化すると大空を飛び立った。

その後、誰もいなくなった部屋に残されたのは……。

翼からひらりと舞い散った、一枚の羽根だけだった。

 

 

 

 

 

「ぐっ、うぅ……?」

 

身体から走る痛みで戒の意識は覚醒した。

軽く頭を振って無理やり回復させて周囲を見渡す…場所は先ほどと同じだが何処か違和感のあるその場所に戒は疑問を感じたがそれよりも目に入った物があった。

 

「……何やってんだ、あいつら?」

『目が覚めたか、戒』

 

「まぁな」と起き上がると、双子で行っている言い合い(と言っても両備がツッコムを入れているだけだが)を宥めている琴音という図式となっている今の状況をウェルシュに尋ねる。

どうやら、先ほどの衝撃で興奮した両奈に対して心配した両備が怒鳴っているのを琴音が間に入って止めているらしい。

本当に、あいつはシリアスが長く続かないな……。

喉の奥まで出かかった言葉を飲み込むと、両備たちの元へ向かう。

互いの無事を確認し合い落ち着いたところで両備が話を切り出した。

 

「さっきのあれ…姉さんよね?」

「そうだよ!あれ絶対両姫お姉ちゃんだったよ!」

「だけど、両姫姉さんは亡くなったはずだろ?それが何で…」

「実は生きていた……とかはないよね?」

 

両奈、戒、琴音が口々に話す中でウェルシュがある考えを全員に向けて話す。

 

『私の推測だが…彼女は精霊として転生したのではないか?』

「どういうことだ?ウェルシュ」

『戒には話したことがあるかもしれないが、極まれに強い魂を持った人間は精霊として転生するケースがある…』

 

ウェルシュの言葉を要約するとこうだ。

あそこで結界を張っていたのは周りの目を隠すためなのと同時に精霊としてこの世に留めるために必要なことだった。

そしてもう一つは……。

 

『私たちが飛ばされたこの場所とも関係があるかもしれない。先ほど調べたが、この場所は密度の濃いマナで構成されている。専門ではないから詳しくは分からないが「精霊を生前の状態のまま具現化させる」のに最適な環境である可能性が高い』

「「「ふむ……」」」

 

確かにそれならば合点が行くには行くが……釈然とせずに考え込む三人に対して両奈はある提案をする。

 

「とにかく、両姫お姉ちゃんを追いかけようっ!」

「追いかけるって言っても、ここが何処か分からないんじゃ……っ!?」

「「っ!」」

 

琴音が意見を言おうとした時…周囲から何者かの気配を感じハルバードを構える。

戒も軽くその場で跳ね、両備も自身の得物であるスナイパーライフルを召喚して構えたのと同時に黒子のような人物が複数現れるといきなり襲い掛かってくる。

 

「うわっ!?」

 

驚きながらもそれを防ぐ琴音だったが、敵の攻撃から問答無用と判断した琴音は刃を潰して非殺傷にしたハルバードを振り回して黒子たちを吹き飛ばす。

 

「「忍転身っ!!」」

 

忍転身をして両備は黒いロングスカートに白い服に赤い上着を着込んだ忍装束に、両奈は背中に翼の飾りがある白いバレリーナを彷彿させる装束へと変わるとスナイパーライフルと二丁の拳銃を召喚して攻撃を行う。

ハルバードを振り回す攻撃をしている琴音に対してインファイトへと持ち込もうとする黒子を蹴り飛ばすと、近くでダンスをするように銃を乱射している両奈に声を掛ける。

 

「両奈ちゃん!」

「うん!」

 

琴音からの呼びかけに全てを察した彼女はハルバードの上に乗り絶妙なバランス感覚で降り立つとその場で回転を始める。

それと同時に琴音もハルバードを身体ごと振り回した。

 

「「合体秘伝忍法『時が止まるワルツ』ッ!!」」

 

ハルバードによって生じた暴風と両奈からの射撃によって一掃されるが、回転が止むと二人は目を回してしまう。

その隙を狙おうと黒子が動き出そうとした時だった。

 

「オラッ!」

「両備たちを忘れてんじゃないわよ!ほらほらっ!!」

 

戒が跳び蹴りを黒子にくらわせる一方、両備はサディスティックな笑みを浮かべながら狙撃を行って黒子たちにタップダンスを強制的に踊らせる。

背後から狙おうとする黒子をライフルで殴り飛ばし、黒子から奪い取った武器で応戦している戒に鋭い声で命令する。

 

「戒っ!あれやるわよ、息を合わせなさいっ!」

「了解っ!」

 

小太刀と鞘の二刀流で二人、三人四人と打ち倒すと両備の元に駆け寄り、今度は近くに落ちていた銃を拾うと同時に構える。

 

「「合体秘伝忍法『JACK POT』ッ!!」」

 

同時に放った二人の銃撃が残っていた黒子たちを一掃した。

気絶した黒子たちは起き上がると、深々とお辞儀をしてから煙玉を地面に落としその場から退散していった。

 

「見たことない忍だったけど…まいっか!行こ、みんな!」

『まぁ、先ほどの女性の魔力は覚えたが…』

「…あー、うん……」

「……」

 

現れた忍たちに疑問を持った両奈だったが今すぐに両姫を探そうと提案する。

しかし、戒は困ったようにボーラーハットに手を掛け、両備も乗り気じゃないようだ。

流石に様子がおかしいと感じた琴音は両備に問い掛ける。

 

「どうしたの両備ちゃん?」

「どうもしないわよ!……ただ、心の準備が…」

「お前が胸にパッドをしていること…調子に乗って本当にすいませんでしただからその銃しまってください」

 

落ち着かない彼女が言った言葉に戒が余計なことを言おうとしたが無言でスナイパーライフルを向けてきたので一息で謝罪する。

戒を黙らせた両備は話を変えるように両奈に向けて噛みつく。

 

「大体あんたこそ、そう言う変態チックなところ姉さんに見せないでよね!」

「そんなことないもん、両姫お姉ちゃんは両奈ちゃんのこと大好きだもん。両奈ちゃんのこと好きだって何度も言ってくれたもん!」

 

両備の言ったことに両奈は腕を動かして反論するが、それに対してさらに反論を行う。

 

「あんたがそんな調子だと、姉さんも梅酒みたいに顔をくしゃくしゃにしてドン引きするわっ!!……て、おいおい。それを言うなら梅干しだってーの」

「「「……」」」

『……』

 

最後にギャグとツッコミを入れた彼女だったが、あまりにもしょうもないギャグとツッコミの内容に三人とウェルシュは沈黙してしまう。

特に両奈に至っては真顔だ。

 

「両備ちゃん、その一人ツッコミ一人ボケはやめた方が良いよ。特に両姫お姉ちゃんの前では」

「正直ドン引きだわ」

「ゴメン、両備ちゃん。フォロー出来ない」

『ノーコメント』

「うるさいうるさいっ!!さっさと姉さんを探しに行くわよ!ほら案内しなさい、ガラクタミニ四駆!!」

 

両奈、戒は冷めた目で見つめ、琴音は申しわけなさそうに謝りウェルシュにすらも引かれた両備は彼の身体を揺らす。

「ガラクタはないだろう」と文句を言いながらも、ウェルシュは先ほどの人物の魔力を探知すると、そこに向かって走行を始める。

両奈が先陣を切って後を追いかけると琴音を慌てて後を追うが戒は立ち止まっている両備に顔を向けた。

 

「…姉さん。今更、どんな顔して会えば良いの……?」

「……両備」

 

そう呟いた彼女に、戒は何も言うことが出来なかった。

 

 

 

 

 

両奈たちは会える気持ちを抑えながら、同じ景色の道を走り続けていた。

一人はあの人物が本物なのか。

一人は本当にあの人に会えるのか。

一人は純粋に自分が慕う姉に会いたいから。

一人は姉に対して言葉に出来ないでいる複雑な感情を胸に残しながら。

それぞれの想いを抱きながら四人はただ、ウェルシュの示していた道をひたすらに進んでいた。

走り始めてから数分後、ようやく長くも短いこの道に終わりが見えてきた。

森林を抜けるとそこには青い空と海、そして白い砂浜が視界に広がっていた。

目の前の光景を夢や幻のように思ったが身体から感じる温度と耳から聞こえる波の音が、この景色が夢ではないことを教えてくれる。

動揺する戒たちだったが両奈からの呼び声に我に返ると、彼女の示した方向には最初に見た棺桶が佇んであった。

やがて、ゆっくりと開くとそこには……やはり彼女が眠っていたのだ。

死覇装ではない黒と青を基調とした、何処となく両備の忍装束に似たドレスを纏っており右側に青のリボンをつけた美しく黒いロングヘアーは太陽の光によって輝いている。

両奈には劣るもののそれでもバランスのとれた母性本能溢れる身体…。

ただ一つ違う点があるとすれば、某少年漫画で使われていた黄色い輪っかが頭上にあったがそれ以外は戒たちが覚えている姿と何ら変わっていなかった。

やがて、彼女……『両姫』はゆっくりと目を開くと棺桶から音を立てずに前に進み出る。

 

「両備ちゃん、両奈ちゃん。お久しぶりね……」

 

あの頃と変わらぬ、優しい口調で語りかけた彼女は青い瞳を琴音、戒へと向けていく。

 

「大きくなりましたね。琴音ちゃん、戒君……」

「「っ!!」」

 

自分たちのことを覚えていてくれた……それだけで琴音は両手を口元に持っていき、目に涙を浮かべてしまうが戒は涙を見せないよう帽子を目深に被って、情けない表情をしているであろう顔を隠す。

そんな彼らに対して両姫は嬉しそうに微笑み、そして……。

 

「お姉ちゃん、生き返っちゃいました♪」

 

邪気も何もない満面の笑みで明るく告げたのだった。




 プロフィールだと両姫さんの好きなものはナスときゅうりなのですが、「あれってあくまでも死んだあとのプロフィールだよな」と思ったので生前の好きな飲み物をミルクティーにしました。何だか好きそうでしょ?え?自分だけ?
 初恋の人に再開してしまったカー君はどうなるんでしょうね?取りあえず恥ずかしい思いをしてもらう予定です。
 ではでは。ノシ


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COMBO14 祭り×恥じらい

 さて、両姫さんのターン…と言ってよいのか分かりませんがまだEV編はプロローグ。よって少し短いです。ご了承ください。
 原作と似通っているところは文章で流したり、もしくは各キャラの視点で描写する予定です。
 それでは、どうぞ。


「はー……」

 

音を立てる青い波の景色を眺めながら、砂浜に腰を下ろした戒は何度目かのため息を吐いた。

両姫と再会してからその数時間後、この島に召喚された半蔵学院と蛇女学園、月閃女学館と紅蓮隊のメンバーらと合流し、先ほど儀式に参加していた老婆『小百合』から状況を説明された。

飛鳥たちメンバーが呼ばれた理由は『カグラ千年祭』を行うために必要な役者であったかららしい。

小百合曰く「無念の内に死んだ忍たちの魂を安らかに成仏させるための祭り」であるらしく、今戒たちがいる世界では現世では故人である忍たちも生身の人間と同じように活動を行えるらしい。

よって、戒たちを襲ってきた黒子も先代の忍であり謂わば実力を試すために攻撃を仕掛けて来たのだと…詳しいことを彼女は教えてくれなかったがウェルシュの分析が正しければ恐らくここは魔力によって作られた結界の中である可能性が高い。

洋服やトイレットペーパーと言った生活に必要な品物は全て揃えられており何不自由もない。

しかし、携帯などの通信機器も身近の人間には通じるが外部の人間への通信は不可能な状態となっている。

おまけに、祭りが終わるまでは帰ることが出来ないらしい…あまりにも周到な用意に戒は呆れるしか出来なかったが同時にこれほどの空間を造れることに感嘆した。

 

「はー…」

『…これで何度目のため息だ、戒?』

 

「圏外」と表示されたスマホを見てまたしても息を吐いてしまい、それをウェルシュに窘められるが、「だって」と戒は言い訳を始める。

 

「俺たちは両姫姉さんの墓参りしていたら、何時の間にか見知らぬ世界に飛ばされてその挙句祭りに参加しろって……ため息だってつきたくなるだろ?」

『君の場合、他のことも考えているだろ?』

 

その言葉に頷く戒…実を言うと千年祭の概要を説明された後、カグラ千年祭の執行部として小百合に協力している『巫神楽三姉妹』の長女…戒があしらった少女でもある『蓮華』と、次女の『華火』に目をつけられてしまったのだ。

元来、あまり女性に対して耐性がない戒にとっては、豊満なスタイルを持つ美少女たちは心臓に悪く、適当な言い訳をつけてあの場から離れ、こうしてやっと一息つける場所を見つけたのである。

 

『エラーとの戦闘では乗り気なのに、こういった戦いについては消極的だよな君は』

「こう見えても平和主義だよ。それに……胸とか身体に当たったら恥ずかしいし…///」

 

「思春期の中学生か君は!」とツッコミを入れたウェルシュだったが、それを無視するように戒は海の景色を眺めていた。

普通ではお目にかかれないようなその光景に、今までの悩みでざわついていた心が徐々に落ち着いていく。

そのまましばらくぼうっとしていたが急に視界が暗くなったのと同時に後頭部に柔らかい感触を感じる。

 

「ふふ、だーれだ?」

「えっと…両姫、姉さん?」

 

楽しそうに笑う声が聞こえたが動揺とは裏腹に戒の頭は冷静に思考を紡いでいく。

声の方向からして自分の背後、両目部分に当たるすべすべした感触は彼女の両手…そうなると、今自分の後頭部に当たっている物は……。

 

「うわわわわわっっ!!?///……あだっ!?」

 

そこまで考えに至った途端顔を真っ赤にし慌てて立ち上がり彼女の方を向こうとするもボーラーハットがずれて視界が悪くなったのと何かに躓き、尻もちをついてしまう。

 

「あらあら、急に立ち上がったりするからよ?」

 

そう言って微笑みを浮かべる両姫の姿を見る。

最初のドレスタイプの忍装束とは違い、ノースリーブの白いワンピースを着ており頭には麦わら帽子を被っている。

スリムタイプだからか彼女の胸が強調され、黒く長い髪が白い服との対照的な美しさを出している。

そんな自分の容姿に見惚れているのに気づいているかは分からないが両姫はハンカチを取り出すと落とした戒の帽子を拾い、付着した砂を払う。

 

「はい。綺麗になりましたよ」

「あ、ありがとうございま…///」

 

帽子を手に取って、照れながらも感謝の言葉を戒は口にしようとするが人差し指を口元に突き出される。

 

「そんな他人行儀じゃなくて、昔みたいに、『両姫お姉ちゃん』って呼んで」

「ええっ!?えと、その……///」

 

口元に笑みを浮かべてそう言われた戒は、顔を増々赤くしながら動揺する。

昔ならともかく、この年齢でそう呼ぶのには抵抗がある。

両姫にそう言われた戒は驚きながらも、自分に向けられるまっすぐな視線から逃げられないと分かり、リクエスト通りに昔の呼び方で彼女の名を呼ぶ。

 

「り、両姫……お姉、ちゃん///」

 

もし今、鏡があったらな自分の顔は茹ダコのように真っ赤になっているだろう…羞恥で目に涙が溜まってきた彼に微笑みを向けると両姫は戒を抱き寄せ豊満な胸に顔を埋める形となる。

顔から伝わってくる柔らかくも張りのある感触に慌てて抵抗しようとするが体勢と以外にも強い力によって無駄な抵抗で終わった。

そんな彼に対して、彼女はあの時のように優しい声で語りかけると身体を包み込むように抱く。

 

「うふふ♪からかいすぎましたね。ごめんなさい、戒君」

「……///」

 

知らず知らずの内に、頬が赤いままの戒は彼女の身体に腕を回していた。

恥かしさと心地良さが混じった不思議な感覚にその身を委ねた。

 

 

 

 

 

一方、その頃の門矢家…。

 

「っ!?」

「どったの?美緒お姉ちゃん」

「今、懐かしいような、それでいて息子二号の危険が迫ったような…とにかく嫌な予感がしましたっ!」

 

何処かから変な電波を受信した美緒はホットチョコレートの入ったカップと、もう片方の手に持った推理小説をテーブルに置くと席から立ち上がって周囲を右往左往する。

いつもの病気かと練乳の入ったコーヒーを飲んでいると合鍵を使って入ってきた真希奈が現れる。

 

「戒君の危険を受信したよ~!!可愛い甥っ子の危機だよ~っ!」

「うん、とりあえず二人とも黙ろうか」

 

「美海が来てくれないかな」と思いながら、騒ぎ出す二人が余計なことをしないか見張るのであった。

 

 

 

 

 

カッコ悪い……。

ボーラーハットを目深に被りながら戒は森林の中を歩いていた。

あの後、冷静さを取り戻した戒は両姫から「両備の様子がおかしい」と相談されたため、こうして捜索をしている最中なのだ。

だが、初恋の人を前にしてカッコつけることはおろか普段の態度すら出すことが出来なかった上に、子どもみたいに抱きしめられた。

あんな情けない姿を見せてしまった恥じらいを消すように戒は歩を進める。

 

『憧れの女性と触れ合えて良かったな、戒♪』

「海に投げ捨てるぞガラクタミニ四駆」

『その呼び方やめてくれないかっ!?割と傷つくんだぞ!』

 

茶化してきたウェルシュに毒を吐くと、戒は森の奥にある小川の近くで両備はしゃがみこんでいた。

 

「何してるんだ?」

「っ!?…戒」

 

顔を上げた彼女の顔は、何処か弱々しい年相応の少女の顔をしていた。

 

 

 

 

 

ここから、戒が両姫との交流を得ている時間より数時間前に遡る。

両備は両奈と共に改めて亡き姉との再会を果たしていた。

両奈は満面の笑みで胸に顔を埋めて彼女の身体を抱きしめると両姫はそれを優しく受け入れる。

伏し目がちに「久しぶり」と言ったが彼女はあの頃と変わらぬ笑みと共に自分の身体を抱きしめてくれた。

それでも胸中は穏やかではなく、むしろそこに巣食うもやもやが増えるだけだった。

 

「おんどれ!触るなっ、ぶっ飛ばすぞっ!!」

 

突如聞こえた罵声に両備は驚いて顔を上げる。

声の主は両姫だった。

穏やかだった笑みは怒りの形相となっており、抱き着いている両奈を放送禁止用語を使いながら口汚く罵っている…当の両奈は頬を赤らめて嬉しそうにしていたが。

 

「……姉さん?」

 

アホみたいに口を開けてしまった…まさしく開いた口が塞がらない。

「生き返ったせいで性格が変わった!?」と驚く両備とは対照的に両奈があっけらかんと答える。

 

「えっ?両姫お姉ちゃんは前から怒るとこんな感じだったよ?」

 

どうやら両奈はこの状態の両姫を知っているらしい…そうなると自分が中学生の時だろうか?それなら知らないのも納得がいく。

そう考えていると両奈が頭の輪っかに手を触れると、両姫はいつもの穏やかな表情へと変わる。

輪っかによってオンオフの切り替えが出来る、と何処か冷静に判断していると両姫は歩き出して何時の間にか来ていた雅緋と話を始めた。

その際、もう一度触れようとしたらしい両奈は転んでいたが特に気にせず二人の会話に耳を傾けた。

両姫は自分と両奈を養うために働いてくれた…「唯一のワガママ」と称して月閃女学館に入学したが、選抜メンバーに選ばれて間もなく遺体となって帰ってきた。

その時は、当時彼女と戦っていた雅緋が仇だと思っていたが後に誤解だと分かり、今はこうして彼女の仲間として日々を過ごしている。

 

「あの時はごめんなさいね。先にやられちゃったりして」

「いや、謝るなら私もだ。私がもっと強ければだれも死なずに済んだんだからな」

 

そう言って、頭を下げると二人は楽しそうに話を続ける。

二人はライバル同士だったらしいがそこには険悪な様子はなくむしろ互いを認め合っているようにも見えた。

……もう耐えられない。

 

「ちょっと、トイレ」

 

適当に言い訳をすると、この輪の中から離れた。

道なき道を分け入り、三人の姿が見えなくなったのを確認すると森の奥を両備は走っていた。

息を切らしながら走ると小川に差し掛かる。

しばらくここで時間をつぶそう……そう考えた彼女はそこにしゃがみ込んだ。

雅緋と姉は互いに頭を下げていた…本当ならば、自分もその場で謝りたかった。

だが両姫が亡くなる前日、自分は取り返しのつかないことを言ってしまったのだ。

姉と再会出来たことは何よりも嬉しい、だけど……。

 

「何してるんだ?」

「っ!?」

 

急に自分に向けて掛けられた声に驚いて顔を上げて振り向いた。

 

「…戒」

「よっ」

 

いつものと変わらずへらへら笑って敬礼の真似をする戒に両備は視線を小川へと戻る。

自分の様子がおかしいことにとっくに気付いているのだろう、目の前の幼馴染が右隣に座った。

 

「「……」」

 

互いに何も喋らなかったが、やがて両備が意を決したように話を切り出す。

戒がわざわざ理由もなしに森林の奥まで来たとは考えられないからだ。

 

「……姉さんに頼まれてきたの?」

「まぁな。お前の様子がおかしいって、さ」

「おかしくない」

「じゃあ、両姫姉さんと何かあったのか?」

 

確信を突かれたことに顔を埋めたくなるが、その代わりに近くの小石を思い切り投げると、それは水を切って対岸まで辿り着いた。

 

「…まぁ、深くは聞かないよ」

「ありがと、そう言うあんたは?」

「子ども扱いされた…おかげで恥ずかしい思いをしたよ。役得だったけど」

 

そう照れ臭そうに笑う戒に、両備は胸にちくりとした痛みを覚える…。

気に食わない…姉と出会って嬉しそうな笑顔を見せる両奈も、自分には見せない表情を彼にさせる姉も、三人にそんな感情を抱く自分にも……。

悔しくて悔しくて仕方がなかった。

もやもやした気持ちを吹っ切るように両備は黙々と小石を投げ続ける。

 

「私は、何をやっても姉さんに敵わないんだ」

 

無意識に出してしまった言葉に戒が反応した。

だが、彼は何も言わずに両備の頭を撫でる。

 

「な、何よ…///」

「気持ちの整理が出来たら、俺たちに話してくれよ」

 

幼馴染なんだから……。

頬を赤らめた自分に優しくそう言うと、戒は自分に背を見せてそのまま去って行った。

彼が去って行くのを確認すると、しばらく水面に映る自分の顔を眺める。

両姫は「大人っぽくなった」と喜んでくれた。

だが、自分には…彼女が亡くなる前の幼稚な自分に見えた。

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、姫お姉ちゃん。買い物に付き合ってくれて」

「良いのよ。琴音ちゃんも女の子だから、オシャレに気を使うのは当然です」

 

琴音は申し訳なさそうに両姫に謝ると、彼女は楽しそうに笑ってくれた。

「本当に昔から変わらないな」と琴音は心の中で呟いた。

「お姫様みたい」なのと彼女の名前にちなんで名付けた愛称で「もう一度呼んで」と言われた時は困惑したがそう呼んだ途端、二人はすっかり昔のような関係へと戻っていた。

その二人が何をしているのかと言うと、琴音は自分の水着を買うために、両姫は彼女に似合う水着を選ぶために購買部に向かっている最中である。

 

「戒君とも会ったけど頼もしくなっていたわね。恥ずかしがり屋さんなところと可愛い部分は変わってませんでしたけど」

「あまりからかっちゃ駄目ですよ?最近スケベになってきましたから」

「あらあら、もう男の子なんですね。お姉ちゃんも気をつけなくっちゃ」

 

「うふふ」と笑う両姫に、琴音は苦笑いする。

普段なら少しばかり妬いてしまうが完璧な人が身近にいるとこうも対抗心が薄まるのか、そんなことを考えながらも「購買部」と書かれた店に足を踏み入れた。

 

「いらっしゃいませー!あっ、琴音さんっ!」

「菖蒲ちゃん、本当に何処へでも現れるんだね」

 

ピンク色のエプロンを着用している菖蒲は、半蔵学院で時々昼食を買いに来てくれるお客兼同年代の友人である琴音との再会に喜ぶ。

『何時でも何処でも商売繁盛』をモットーにしていると以前自分に対して言ってくれていたが、まさかここで会うことになるとは…。

驚きながらも、琴音はある重大なことに気づく。

 

「あれ、服はどうしたの…まさか」

「違いますよぉ。水着の上にエプロンを羽織っているだけですぅ、エアコンの温度を極力下げないよう極力薄着にしてて。それにこれなら戒君も悩殺出来る…」

「それ以上言ったら怒るよ菖蒲ちゃん?」

 

笑顔で威嚇してきた琴音に「冗談ですぅ」と流すと菖蒲は水着コーナーへと案内する。

自分のような『一般の』サイズから紫レベルのサイズまで揃えており、柄や色も豊富な種類があった。

どれを選ぶか悩んでいたが、水着を見ていた両姫が手に取る。

 

「琴音ちゃん。これならどうかしら?」

「うわぁ、可愛い…!!」

 

彼女が見せてきたのは桜をイメージした上下着用タイプの水着であり、薄いピンクで彩られた水着は琴音の好みとも一致していた。

試着してみるとサイズもぴったりであり、すぐに買うことを決めると財布を取り出そうとする。

しかし、それよりも先に両姫がレジに向かうと先ほどの水着と、黒と青を基調とした水着分の代金を菖蒲に払う。

 

「ひ、姫お姉ちゃん?」

「お姉ちゃんも丁度、水着が欲しかったから…ね♪」

「ありがとう!」

 

楽しそうにウィンクすると、琴音は満面の笑みを浮かべるのであった。

水着に入った袋を楽しそうに手に提げながら両姫と共に話をしていたが、やがて視界の隅に何か奇妙な物が入る。

 

(……?)

「琴音ちゃん?」

 

一言謝罪を入れながら、視界の隅に映った方向に足早に向かう。

しかしその場には誰もいなかったが地面に落ちてある物に気づく。

ハンカチを広げてそれを拾い上げると、彼女は驚愕した。

なぜならそれはこの場にいるはずのない……フェニックス・エラーの極彩色の羽根が落ちていたのだから。

それは、まるで後の運命を予言するかのように不気味に煌めいていた。

To be continued……。




 カー君が若干キャラ崩壊しているような気もしないでもないですが、初恋の人と出会ったら年頃の少年ってこんな感じかなと思いながら書きました。ぶっちゃけこれがカー君の素です。しかし何で自分は野郎のデレを書いているのでしょう?
 原作になぞる形になってしまいましたが、今回は両備の視点も織り交ぜました。恋する年頃の少女らしい複雑な感じに出来たかどうか不安です。
 琴音はもう「敵わないな」と思っているので両姫に嫉妬の感情は湧きません。菖蒲とは購買部に顔を出すのでその縁で知り合ってます。
 両姫お姉ちゃんの口調が未だ安定しません…キャラの口調を安定させるのも課題の一つだと実感しました。
 ではでは。ノシ


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COMBO EX4 第四回アーサーチャンネル!!

 本来は予定してなかったアーサーチャンネルです。何で急きょ投稿したかは自分の作品の宣伝も兼ねてと…後は自分の誕生日だからです。
 今回はいつもと少し違います。それでは、どうぞ。


「せーの」

「「「アーサーチャンネル!!~~~~」」」

 

ラジオのスタジオみたいな場所で美緒、桜花、美海の三人が番組名を口にした途端、拍手や歓声が沸き上がった。

賑やか雰囲気の中、美緒が挨拶を始める。

 

「どーもみなさん、おはこんばんにちわ。好きな仮面ライダーはディケイドの門矢美緒です。よろしくお願いします」

「おはこんばんにちわ。好きな仮面ライダーはフォーゼの幸村桜花です。よろしくお願いしまーす!」

「おはこんばんにちわ。好きな仮面ライダーはドライブの政宗美海です。よろしくお願いします」

 

美海の挨拶が終わると、拍手が起こるが当の本人は「何で私が」と頭を抱えるばかりだが、それを無視して美緒と桜花は番組の概要を説明する。

 

「もう知っている方はいるかもしれませんが、この番組は本編で語れなかったところ、または感想であった身近な疑問を答えていく所謂「質問コーナー」です。この番組はメタ発言が以下略」

「いや注意事項が長いからって略すなっ!!」

「それじゃ、ゲストを紹介します。どーぞー!」

 

「話を聞けぇっ!」とマイペースに物事を進めていく二人に美海は涙が出そうになるも、無情にも番組は進行され、ゲストが召喚された。

 

「おはこんばんにちわ。好きな仮面ライダーはジョーカーの左雷華です。よろしくお願いします」

 

黒いセーラー服のような洋服を着た黒髪ショートの女性はそう名乗るとお辞儀をして席へと座る。

 

「雷華は『ANOTHER COMBO2 バカ×サングラス』の最後の方で登場しましたね」

「いや待って、美緒姉さん」

 

ゲストの紹介に移ろうとする美緒に待ったをかける美海。

 

「何で、番外編で登場したキャラをゲストにするの?それ以前に私たちが司会やっている理由とか説明するべきじゃないの」

「それは気になったな、どうして美緒ちゃん?」

「そうですね……まずは司会をやっている理由を説明すると単純に戒たちが不在だからです。あの子たちが何処かに飛ばされたのは分かります。でも連絡がつかないんですよ、その代理として私たちが。雷華をゲストにした理由は本人の口から語ってもらいます」

 

不在となった戒たちの代理として呼ばれたらしい、それに納得した美海と桜花だがまた別の疑問が湧きあがる。

 

「でもどうしてこの日なの?」

「作者の誕生日ですから」

「そんな理由っ!?」

 

美海がシャウトしたの見計らって今まで黙っていた雷華が口を開く。

元来真面目な性格の彼女は美海と並ぶ常識人なのだ。

 

「みぃ姉さん、美緒姉さんがこうなのはいつものことです。無視するのが賢明ですよ」

「姉に対しての言葉とは思えませんね。まぁ良いです、お願いしますよ雷華」

 

美緒にそう言われた雷華はテーブルにあった自分のペットボトルに入っている水を一口飲んで潤すと説明を始める。

 

「私がこの場所に呼ばれた理由は単純です。最近投稿した【仮面ライダー×仮面ライダー W&ARTHUR NOVEL大戦ブレイク】と今日中に投稿する【W&ARTHUR スピンオフ大戦ブレイク】に登場する人物だからです」

「翔太郎さんのヒロインですものね、あなた」

「なっ!?/// 違います!仮面ライダーを支える立場なだけです!大体私は彼に惹かれたわけではありません。あのままだと結婚出来ないと思っただけの、言わばお情けであって…///」

 

美緒の一言で顔を赤くした雷華はツンデレめいた口調でまくし立てるがそれを無視して桜花がお題のボタンを押していた。

 

【両姉妹との幼馴染設定について】

「…て何ボタンを押しているの桜花さん!?」

「話が長くなるかなって」

「まぁこの際構いません。クロス先が決まった時、他のキャラと絡みやすくするために幼馴染設定を入れる予定だったんですよ」

 

マイペースに事を進めている桜花に美海は指摘するが美緒は赤面しながら言い訳を続けている雷華を無視して説明を始めるがそれに対して、美海が待ったをかける。

 

「それだったら飛鳥とか選びそうだけど」

「最初はその予定だったんですけど、丁度その時両備ちゃんと両奈ちゃんのプロフィールを見た時、丁度同い年で同学年だったので『使える』と思ったらしいですよ?おかげで両姫ちゃんが戒の初恋の人という設定も生やせましたし」

「だから、年上とおっぱいが好きになったんだね。カー君」

「まさかあの子の性の始まりが両姫ちゃんだったとは……だからですか?私が平坦だから避けているのですか?」

「安心しなさい、それは関係ないから」

 

辛辣に返した美海はあることを疑問に思ったため二人にそれをぶつける。

 

「そう言えば気になったけど、両姉妹とは何時出会ったの?」

「カー君と琴音が小学校低学年の時かな?二人が両備ちゃんたちの家に遊びに行ったのが切っ掛けで私たちも両姫ちゃんと話すようになったんだ。そこからはもう何やかんやあって家族ぐるみの付き合いに」

「ちょっと待って、何やかんやって何よ?」

 

「何やかんやは何やかんやだよ」と笑顔で言った桜花に美海はツッコミを入れたくなるも、それを遮るように美緒が話を始める。

 

「両姫ちゃんは、私たちに節約術とか教えてくれましたし一緒に買い物とかも行きましたね…店員が私たちを年下に見ていたのは今でも腹立たしいですが…!」

「そりゃ、あなたたちが小さいからでしょ。初見であなたたちが大人だと見抜ける人はいないわよ」

 

あの時のことを思い出した美緒は握り拳を固めるも美海はそれを宥めて次のお題へと進む。

(※)両姫と一緒に並ぶと若い母娘もしくは姉妹に見える、通称年齢不一致トリオ。

 

【美緒の探偵としてのスキルについて】

「……これは、翔太郎さんやフィリップ君も気になってましたが…どうなんです?」

 

やっと正気に戻った雷華がからからになった喉を潤すために水を飲むと、美緒の探偵スキルについて尋ねる。

 

「ぶっちゃけ言いますが、護身程度の格闘技術と不可能犯罪の犯人を見抜く程度の推理力を持っているだけです。変装スキルは紙ですし尾行も得意ではありません」

「探偵と言う職業を根本的に勘違いしてるスキルしか持ってないわよね。いやある意味間違っちゃいないけど」

「美緒ちゃん、どんな事件を解決したの?」

 

まるで推理漫画や小説に登場する探偵のような能力の振り分けに美海は呆れるように言うと、興味を持った桜花が尋ねるが美緒は淡々と語る。

 

「そうですね。印象に残った事件をあげるなら、魔女の伝説がある名家の私有地の島で起こった親族と使用人含む連続殺人事件ですかね?」

「一時期話題になったあの事件?」

「ええ、色々とネットなどでも話題だったあの事件です。中々にエグい真実でしたので関係者全員に話さなかったのはこれが初めてです」

 

「へー」と目を輝かせる桜花に対して、美緒が苦笑いする……それに何かを察した美海と雷華は話題を反らす。

 

「あんまり本筋と関係ない話だから次のお題に行かない?」

「みぃ姉さんに賛同します。美緒姉さん、ボタンを」

「(ありがとうございます)では…ポチッとな」

 

二人の意図に感謝を目で表すとボタンを押した。

 

【『仮面ライダー×仮面ライダー W&ARTHUR NOVEL大戦ブレイク』と、『W&ARTHUR スピンオフ大戦ブレイク』について】

「前者に至ってはW編なのでこれからですが、スピンオフについてはいくつかのコーナーを短編として投稿します」

「具体的には、『ハードボイルド探偵 左翔太郎』と『シスター雷華の懺悔室』、『フィリップ先生と忍学生のアイテム研究室』と『戒とウェルシュの変身講座』などを予定しています。ぶっちゃけきついですが感想くれたら作者のモチベも上がります」

 

そこまで行ったところで桜花が笑顔で終わりの挨拶を始める。

「今回は短いけど、ここまで!お相手は幸村桜花と!」

「門矢美緒と」

「はぁ、政宗美海と」

「ゲストの左雷華でお送りしました」

「「「「さよーならーっっ!!!!」」」」

 

四人の言葉の後、盛大な拍手と歓声と共に締めくくられた。

遅くなるかもしれませんが温かい目で見ていただくと幸いです。




 急きょ投稿したので完成度が低いですが楽しんでいただけたでしょうか?どうなるか楽しみにしていてください。
 ではでは。ノシ


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COMBO15 異常×夏

 まず一言、戒君たちが絡むとやはりと言うか原作通りの展開にはなりません。よって、彼女たちのポロリや爽やかな百合が見たい場合は原作を買うことをお勧めします。
 本当に申し訳ありません。閃乱カグラとクロスしてはいますが根本はやはり仮面ライダー…本編を進めなければどうしようもありません。
 一応、EV編での日常編はANOTHER COMBO枠として投稿する予定です。それでは、どうぞ。


森林の奥深くで、フェニックスは目を瞑っていた。

仮面ライダー、もしくはその関係者が自分の落とした羽根に気づくはずだ…そこからの行動を考える。

そもそもフェニックスが羽根を落としたのは偶然でもミスでもない、ただ単純に自分の存在を気づかせるためにわざと置いたのだ。

これは自分の願望を叶えるための暗躍…それと同時にこれはゲーム。

そう、ゲームなのだ…救済を果たすために必要な試練でありエントリーするに値する最高の娯楽。

 

(ワンサイドゲームではつまらないですからね)

 

ゆっくりと目を開き、エラーカセットとある物をばら撒くとそこからゆっくりと何かがせり上がり、人の形を成していく。

彼は、その場から立ち去った。

 

 

 

 

 

「フェニックスの羽根、か……」

 

琴音から手渡された羽根を眺めながら、戒は呟いた。

自分たちと忍以外は存在しないこの空間で見つかった羽根に警戒の色を持つ…ウェルシュの結果待ちだがこれがフェニックス・エラーの羽根だった場合、相当に面倒なことになる。

丁度その時、ウェルシュの分析が終わる。

 

『…確認をした。間違いない、魔力の波長が一致している』

「つまり、良く似た別の生物の羽根じゃない…と」

 

彼のその言葉にため息が出そうになるが、今は琴音もいる。

それを堪えて目の前の景色に目を移した。

そこには、飛鳥たち半蔵学院のメンバーが水着に着替えておりこの世界の夏と海を満喫していた。

祭りのことはどうしたのやら、五人は楽しそうに遊んでいる。

 

「柳生ちゃんに貝殻のペンダント作ってあげる!」

「そ、そうか?ならそれを一生大事にする」

 

ピンクと白の可愛らしい水着を着用した雲雀と、黒い水着の柳生が貝殻を拾っている。

二人とも楽しそうだ。

 

「ほら、飛鳥!アタイが日焼け止めオイル塗ってやる、全身までくまなくっ!」

「じ、自分で塗るから大丈夫だよっ!かつ姉に頼むと変な触り方するんだもん!!」

 

青い水着を着た葛城と緑色の水着を身に着けた飛鳥が肌と肌と密着させている。

楽しそうに、そう…スタイルの良い美少女たちが遊んでいるのだ。

 

「……っ///」

「はい、カー君」

 

色とりどりの水着に身を包んだ飛鳥たちを見て顔を真っ赤にしてしまった戒に不機嫌な声で桜色の水着を着た琴音がシャーベット状になった水のペットボトルと濡れたタオルを渡す。

完全にお遊びムードの中、白いビキニを着た斑鳩が風紀委員として注意する。

 

「皆さん、少しはしゃぎ過ぎではないでしょうか…今は忍の盆踊りの真っ最中なのですよ?」

「でも、色々と不鮮明なことが多いですよね?…ヤグラの壊し合いで忍の道が開かれるって話も怪しいですし」

 

顔にタオルを巻いて顔の熱を冷ましている戒を横目に琴音は斑鳩の言葉に反応する。

彼女の言った通り、ルールはヤグラの破壊なのだがどうも分からないことが多すぎる…それは斑鳩自身も感じていたことだが「遊んでばかりでは」と言葉を濁す。

 

「…まさか、カグラとヤグラをかけているのか?」

「柳生ちゃん、するどーい!きっとそうだよ!!」

「「いや、上手くないし」」

「みんな、ゴメンね。ばっちゃんがわけの分からないことを言いだして……」

 

真面目な表情で洒落を言う柳生と、驚く雲雀に対して葛城と琴音が声を揃えてツッコム中、飛鳥が申し訳なさそうに謝罪する。

すると、タオルで顔を隠していた戒が全員に話しかける。

 

「ふぐごふほほ、ふぐぐふごふふふほふほ…」

「ゴメン、カー君。せめてタオル外して喋って」

「ぷは…少なくとも、すぐに動く必要はないと思いますよ?」

「どういうことですか?」

「ほら、あれですよ。無理に動くよりは様子を見た方が良いってことです」

 

斑鳩からの問いに戒は自分の考えを口にするとまた顔をタオルで巻く。

要約すると、闇雲に動くよりは良いと言うことでありその意見に柳生と斑鳩も賛成する。

自分の祖母が何をしようとしているのか飛鳥は疑問符を浮かべていたが、戒はゆっくりと起き上がりタオルを外すと飛鳥たちに背を向けた。

 

「戒君、何処行くの?」

「他の人たちの様子を見て回ってきます」

 

琴音に目配せすると、彼はそのまま立ち去った。

 

 

 

 

 

心臓に悪い……。

白いタオルで熱くなった頬を冷ましながら戒は白い砂浜の中を歩いていた。

夏と海で予感はしていたがまさか全員が露出の多い水着だとは思わなかった。

役得だとは思っているがあまりにも目に毒過ぎるしあの場所にいたら恐らく、顔から湯気を出して気絶していたであろう。

とことん、唯一の男子としては辛すぎる環境に自分の帰巣本能が働いている始末…そんな戒の様子を察したウェルシュは話題をフェニックスへと移す。

 

『飛鳥たちには伝えなくて良いのか?』

「琴音が何とかしてくれるってさ。昔からあいつはそう言ったフォローが得意だし、大丈夫だろ」

『なるほど…ならフェニックスの捜索かい?』

「一先ずは様子見。フェニックスの気配が感じない以上、下手に動くのは危険だ」

 

戒の考えに納得すると、ウェルシュはカグラ千年祭のことについて尋ねる。

 

『君は祭りには参加しないのかい?」

「ああ、この祭りは飛鳥さんたちじゃなきゃ成立しないよ」

『…まさか戒、もう……』

 

この祭りの真意が分かったのか……。

ウェルシュの言わんとしていることを察したのだろう、戒がいつもの笑みを見せる。

 

「そりゃあ、あんだけヒントを出してくれたら嫌でも気づくよ」

『…伝えなかったのは、飛鳥たちのためか?』

「いんや、俺はただの部外者。忍のための祭りなら俺は傍観者でいた方が良いだろ?」

 

そんな軽口を叩きながら、歩いていると見覚えのある人影が見えてきた。

間違いない、月閃のメンバーだ…真面目な印象のある彼女たちも開放的なロケーションに気分が高揚しているのか楽しそうな雰囲気を醸し出している。

戒が声を掛けようとした時だった。

 

「あ、門矢さん」

 

雪泉が彼の存在に気づき笑みを浮かべる。

彼女も例によって露出の多い水色の水着を着用しており白い肌が眩しく見えた。

全員が全員、目のやり場に困る格好で動き回って遊んでいた。

当然、彼女たちの揺れる胸にも目が行くわけで……。

 

「……きゅう///」

「か、門矢さんっ!?しっかりしてください!」

 

顔を赤くし目を回して気絶してしまった戒を雪泉たちが介抱するのだった。

数分後、湿らせたタオルで顔を隠した戒は彼女たちと談笑していた。

「タオル外したら」と四季に言われたが、断固として拒否したため顔にタオルを巻いた少年と、楽しそうに話す少女と言う奇妙な風景が出来上がっているが気にしたら負けだろう。

 

「しっかし、夜桜さんが楽しそうですね」

「ええ、私たちもあのようにはしゃぐ彼女を見たことがありません」

 

海の方では満面の笑みを浮かべて夜桜が美野里と遊んでおり、二人とも楽しそうである。

その際、何か言いたげな表情をしていたがすぐにいつもの表情に戻ると「それじゃ」とグループから離れて行った。

彼の言おうとした言葉に雪泉はしばらく考えていたが、この空間に来た時に感じた懐かしい気配を感じる。

 

「おじい様……」

 

戒のことも気になったが、懐かしくも自分が最も敬愛する人物『黒影』に対して雪泉は誰にも気づかれることなく呟いた。

 

 

 

 

 

「さーて、どうするかねー?」

『正直に話せば良かっただろ。どうして何も言わなかった』

「だって雪泉さん。別のことを考えているみたいだったから、『エラーがいます』なんて言えないと思って」

 

彼の言い分にウェルシュは上部のディスプレイで呆れた表情を見せると、自分たちが止まる予定のホテルに到着する。

テレビや雑誌でしか見たことないような豪勢なホテルに戒は感嘆の声をあげる。

 

「これが、魔力で出来ているなんて驚きだよなー」

『まったくだ。専門家が見たらあちこち解体されて終わりだろうけどね』

 

ホテルに入ろうした戒だったが、人の気配を感じたため近くに隠れる。

すると、巫女服を着た三人の姉妹…巫神楽三姉妹が何やら話をしており戒は黙ってそれに聞き耳を立てる。

薄い茶色の長髪を持つ蓮華とショートカットしたオレンジの髪を持つ、活発さと人懐っこい雰囲気を持つ華毘が会話を始める。

 

「…たく、何なんだよあいつら。忍の盆踊りを真面目にやる気ねーな」

「そうっすよねー、きっと小百合様はめっちゃ怒ってるっすよー」

「でも、私たちとしてはだらだら遊んでくれた方が助かるわ……その分、時間が稼げるもの」

 

二人の言葉に、愛想のないジト目が三女『華風流』が入ってくる。

その言葉に戒が疑問符を浮かべる…執行部である彼女たちからしたら時間が長引くことはあまり好ましくないはず。

しかし、目の前の少女たちはこの祭りが長引くことを望んでいるのだ。

怪訝な表情の戒に気づかず、三人は会話を続ける。

その後の会話だと、どうやら彼女たちにも何か理由があるらしい…しかも小百合にも独断で事を起こそうとしている。

その際、華毘が考えすぎたせいで起きた忍法の暴発によって服が若干焦げたが、動くと気づかれるため黙って戒は姿勢を維持する。

二人は彼女を考えさせないようにするが、根が真面目なのか再び考え込んだ華毘に対して華風流は蓮華に提案する。

 

「蓮華お姉ちゃん!いつものやって、このままじゃまた爆発しちゃう!」

「また『あれ』やるのか!?いつもいつも私じゃないか!」

「だって、蓮華お姉ちゃんの方が上手いし、私なんかじゃまだまだ無理だと思うの」

(……賢い子だ)

 

そこからは華風流の独壇場だった…あれよこれよと褒められた蓮華はすっかり乗り気になってしまい彼女たちが言う『あれ』の準備をする。

まずは上着を緩める蓮華。

 

(…っ!?///)

 

肌色が露出した彼女に頬を赤くするも、彼女は腹部に人の顔を描くとそのまま踊りを始めた…所謂『腹踊り』だ。

 

「こほん、行くわよ……ぽんぽこりん♪ぽんぽこりん♪お腹をぺろんとぽんぽこりん♪」

 

珍妙な歌と共に腹踊りを見せる蓮華…冷めた目で見つめる華風流とは対照的に華毘は腹を抱えて笑っている。

 

「ぷ、くく……」

『駄目だ、戒。笑うな、今笑っては、ふふ…』

 

あまりにも滑稽な踊りからくる笑いに戒とウェルシュは耐えきろうとするが……。

 

「『ぶはははははははははははっっ!!!』」

「はっ!?てやんでぇ、何もんだっ!!」

 

声を揃えて爆笑してしまった。

自分たちしかいないはずの場所から聞こえてくる笑い声に蓮華は自身の得物である太鼓のバチを笑い声のする方に向ける。

すると、笑いを堪えながら戒…最初に自分の攻撃を受け流した挙句祭りの際にも自分のことをスルーした少年が物陰から出てくる。

 

「あ、あんた…見てたのか……?」

「ち、ちょっと待って…ぽんぽこって、ぶふっ!!」

『笑うな戒、ここまで笑うのは流石に失礼…ぶっははっ!!!』

「うわあああああああああああっっ!!?やめろ思い出すな笑うなー!!///」

 

震え声で問いかけたが、戒とウェルシュは未だに爆笑している始末…それとは対照的に蓮華は顔を赤くして叫んだ。

身内ならまだ許せる…しかし、赤の他人はおろか異性に自分の腹踊りを見られたことに羞恥で顔を赤くするとその場でしゃがみ込む。

そんな長女を無視して華風流が警戒の籠った目で睨む。

 

「…何処まで聞いたの?」

「はは、んん!ごほん…ほんの少しですよ。具体的には『…たく、何なんだよあいつら』辺りからです」

「全部じゃないっすか!!」

 

咳払いをして、気を取り直した戒は普通のスタイルを持つ少女への質問に素直に答えるが華毘にツッコミを入れられる。

 

「それよりも、トイレって何処ですか?」

「何なのよあんたはあああああああああっっ!!!」

 

脈絡もないボケにシャウトする華風流に、「この子面白いな」と僅かにS心を目覚めさせた戒。

しかし、突然彼女と…赤面してしゃがんだままだった蓮華を抱き抱えるとその場から距離を取る。

「何を」といきなり抱きつかれたことと、異性に振られたことで顔を赤くした華風流が文句を言おうとしたが突如降ってきた鉄球とそれに生じた地割れで身をすくませる。

 

『くっはははははははっっ!!!破壊、破壊の時間だっ!今度は全てを破壊するっ!!』

 

好戦的な言葉と共に落下してきた鉛色の怪人…メタリック・エラーは獲物を威嚇するように鉄球を振り回す。

だが、メタリックは戒によって倒されたはず……ウェルシュが冷静に分析結果を口にする。

 

『戒っ!こいつの身体に人間がいないっ!!純粋な魔力のエネルギー態だ!』

「ようは、再生したボスキャラってことか!」

 

彼の助言に返すと、アーサードライバーをセットする…後ろに三姉妹がいるが今は状況を説明する時間も逃げる暇もない。

戒の闘志をバトルゲームアプリとして変化したドラゴンカセットを起動させてスロットに装填するとグリップのトリガーを引いた。

 

「変身っ!」

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

 

ドラゴンと牙をモチーフにした白いパーツがある赤い鎧を纏った騎士、アーサーへと変身する。

戒の変身した姿に驚く三姉妹たちに気にする様子もなく、アーサーはメタリックに対してキックを仕掛ける。

だが……。

 

「痛ってぇっ!!野郎っ!」

 

鉛色のボディによって逆に痛めてしまい、もう片方の脚で攻撃しようとするも逆にメタリックの拳をくらってしまう。

前より強くなっている……。

攻撃を中止し、距離を取ったアーサーに対してメタリックは得意げに語る。

 

『当然だっ!俺はレベルアップしたっ!もう貴様に破壊されない、仮面ライダー!!』

「っ!」

 

メタリックの攻撃を躱すと、ドラゴンカセットを抜き取り、マジシャンカセットを装填する。

 

【MAGISIAN!!】

【RIDE UP! MAGICIAN! 魔法、錬成!WHITE FANTASY!!】

『無駄だ無駄だぁっ!!』

 

マジシャンリンクへと姿を変えたアーサーに気にすることなくメタリックは鉄球を叩き込もうとするが、赤いボタンを押して腕力を強化したアーサーに防がれる。

「何!?」と驚愕する彼の鳩尾目掛けて殴る。

 

『がはっ!?』

「今度はこいつだっ!」

【MAGICAL ARTS! PRISMA PRISM…SHOW TIME!!】

 

足元に転がっていた石ころを拾うと上空へと投げる。

そして、落ちてくる石をタイミングよく殴ると巨大な矢へと変化した水晶が敵の顔面へと直撃したのを確認すると地面を殴って出現した水晶の柱で行動を制限させる。

 

「借りるよっ!」

「私の…」

 

救出する際に落とした華風流の武器…イルカを模した鉄砲を拾うと今度は杭状の水晶を生成して利き腕に纏わせると鉄球ごとメタリックのボディを貫いた。

衝撃によって吹き飛び地面へと転がったエラーから視線を外すことなくアーサーは必殺技発動へのシークエンスを行う。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! MAGICIAN!!】

「オラアアアアアアアアアアアッッ!!!」

『っ!!』

 

急降下しながら繰り出したマジシャンブレイクによる一撃を受けたメタリック・エラーは悲鳴を上げる暇なく爆散…やはりウェルシュの言う通り、融合者はいなかったがある物を発見する。

 

「これ……」

『携帯用の傀儡人形だ。なるほど、傀儡に今までの融合者たちのデータを埋め込んでエラーカセットと融合させたのか』

「だから、メタリックの能力と見た目が一致していたのか」

 

壊れた傀儡に一瞥するとアーサーは唖然としている蓮華たちを見る…いくら本人たちの性格や忍であろうと、見たこともない怪人と騎士を見れば無理もないだろう。

 

(……良いこと考えた♪)

 

何か思いついたアーサーは変身を解除して戒の姿に戻ると三人の元へと近寄ると、満面の笑みを見せた。

 

「取引してくれませんか?」

 

微笑みと共に言ったその言葉は、有無を言わせぬ迫力があった。

To be continued……。




 さて、恒例の再生怪人が登場しました。序盤はメタリック・エラー…防御力が強化されていましたが同じくパワーアップしていたアーサーによって粉砕されました。
 今までの話で伏線を張り忘れましたが、フェニックスの正体にもある程度推察が出来ると思います。もう気づかれたかな?
 カー君が提示した取引とは?ではでは。ノシ


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COMBO16 事情×未練

 次回からリアルの都合で更新が少し遅れるかもしれません。ですが失踪する予定はないのでご安心ください。
 今回カー君赤面しっぱなしです(笑)後、飛鳥とのシーンも入れましたがもう少しイチャイチャさせたいです(切実)。
 それでは、どうぞ。


森林の奥ではファンシー・エラーは自身の怨敵に対抗していた。

 

「そらよっ!」

『やでぇっ!!?』

『イーッ!?』

 

アーサーのグレンバーンによる抜刀がファンシーとポーントルーパーを捉えると、ファンシーは吹き飛び、片方は両断されて消滅する。

地面を転がった後、起き上がったファンシーは等身大サイズのぬいぐるみと別個体のポーントルーパーにアーサーに襲わせるが鞘に納めたグレンバーンで殴り、脚力強化した足技で圧倒する。

いくらレベルアップしようと、数が多かろうと一度戦った相手に負けるほどアーサーは弱くもなければ慢心もない。

 

「どうした?もっとゆっくりしない、ファンシーちゃん?」

『こんのぉぉぉ……!!!』

 

余裕な態度で自身を挑発するように左手をスナップするアーサーにファンシーは怒りで身体を震わせるが、少し遠い距離ではけたたましい音と共に複数のぬいぐるみが吹き飛んでいた。

そこには上半身と腰回りを隠したセクシーな忍装束の蓮華と、赤と白の横シマの薄手のシャツの上に薄い緑色のハッピのような忍装束に身を包んだ華毘がぬいぐるみとポーントルーパーたちを相手に無双していた。

 

「てやんでぇっ!!私はこの程度じゃ止まらないよぉっ!!」

「どんどん行くっすよー!!さあさあ、ご覧あれぇっ!!!」

 

蓮華は神輿と太鼓が合体した物体をバチでリズムよく叩く秘伝忍法『紫電・改』によって生じた雷撃と、華毘は黒い巨大なハンマーを叩いて敵を浮き上げるとそこから打ち上がった花火による秘伝忍法『スーパー・メガボンバー!!』で殲滅する。

自慢の精鋭が全滅し唖然としている中で水色の園児服の忍装束を着た華風流がイルカ型の鉄砲を突きつける。

 

「お人形ちゃんが全滅しちゃいまちたよ~、マジワロスwwww。はい論破」

『ぐぎぎぎぎぎ……っ!!!』

 

赤ちゃん言葉とスラングで挑発する少女にファンシーは眉間に青筋を立てた。

そもそも、巫神楽三姉妹がアーサーこと戒と行動を共にしているのは昨夜……つまり前回の最後まで遡る。

それは、戒の部屋でのことだ。

 

 

 

 

 

「簡単ですよ、あなた方の隠し事を秘密にする代わりに俺に協力してほしい…ただそれだけです」

「それが私たちとどう関係があるの?」

「そっちは祭りを少しでも延長したい……大方、自分たちを救って死んでしまった人に再会してお礼を言うための時間が欲しいのでしょう?」

「な、何で…むぐっ!?」

 

戒の取引は単純にフェニックス捜索の協力を頼む代わりに小百合に口を紡ぐことだった。

半ば約束にも近い条件に華風流は警戒するも、それを軽く流してから放った彼の言葉に華毘が反応する。

最も、蓮華と華風流が慌てて口を塞いだがその反応で分かった。

盗み聞きしていた辺りからそんな予感はしていたが、三人の反応で確信が持てた…戒が話を続ける。

 

「俺はあなた方が気になっていることを全て話しました」

『次は君たちが話す番だ。最も、嘘が苦手な三人でどうにか出来るならこの話はなかったことにしてくれて良い』

 

少し悪い言い方になってしまったがこうしたのには訳がある、延長の理由について確信は持てたがなぜそこまで秘密にしたいのか分からなかったからだ。

本人たちの口から聞きたい、そう思ったから戒はエラーと仮面ライダーのことを全て話したのだ。

 

「……話すよ」

「蓮華お姉ちゃん!?」

「仕方ないだろ、ここまで正直に話してくれたんだ。ここで黙ったら女が廃るってもんでいっ!!」

「そうっす、華風流ちゃん!門矢君はここまで言ってくれたっす!!なら、うちらも全て話すべきっすよ!」

 

真っ直ぐ過ぎる二人の姉に圧された華風流はついに根負けしてしまったのか「勝手にすれば」と顔を横にそらしてしまった。

 

「あんたの言う通り、私たちは…私たちを助けてくれた『あの子』に会うためだったんだ…」

 

胡坐をかいた蓮華が自分たちの目的を話し始める。

三人は幼いころから巫女になるために修行をしており、修行場でもある村の中で、『その少女』と遊んでいたそうだ。

その少女が何者かは知らなかったが、少なくとも特別な訓練を受けていた自分たちに追いつくことが出来たのだ。

彼女に聞いても忍なのか、それとも余所から来た別の巫女なのか…それは分からなかったがそれでも四人は仲良く遊んだ。

ある日、今まで黙っていた少女がふと口を開いた。

 

――――「明日の夜十一時、妖魔がここに来るよ」――――

 

でも、まだ幼かった蓮華たちはそれを冗談だと思っていた……。

だから村の人には何も言わなかった…残ったのは妖魔から自分たちを守るために散って行った少女の赤いリボンだけだった。

勇気がなくてゴメン、信じてあげられなくてゴメン、助けることが出来なくてゴメン…。

心の中でずっと謝罪をしていた…その時、小百合が来たことでチャンスだと思った三人はカグラ千年祭であの子に会おうと決心したのだ。

 

「……てことだ、分かったか?」

「……」

 

蓮華が話を締め括ると同時に手を叩いて無理に笑顔を作っていたが戒だけは黙っていた。

しばらく、沈黙していたがやがてゆっくりと立ち上がり歩くと……。

トイレの方へ向かった。

 

「…って何処に行ってんだあんたはあああああああああっっ!!!」

 

華風流の投げた携帯電話が戒の後頭部にクリティカルヒットした。

 

 

 

 

 

「じゃあ、俺はあなたたちの行動を黙認する代わりに、あなたたちは俺の目的のために協力してもらう…てことで構いませんか?」

 

頭にタンコブの出来た戒がそう締め括ると同時に三姉妹が頷くとアーサードライバーが光り、シェアリングナイトフォースを起動する。

ようやく話が終わった蓮華は身体を解すように腕を回すと、衣服に手をかけてそのまま服を脱ぎ始めた。

 

「はっ!?ち、ちょっと何してるんですか!!///」

「何って、風呂に決まってんだろ?部屋に戻るのも面倒だから使わせてもらうよ」

「いや、待ってください!こ、ここ、困ります!!///」

 

顔を赤くした戒が止めようとするが半裸になった彼女は彼の首に腕を回して身体を密着させて笑う。

 

「気にするなって、私は構わないから!」

「そうっすよ!門矢君も一緒に入るっす!!」

「良いから!別に良いですから!!や、やめてえええええええええええっっ!!!///」

 

乗り気な蓮華と華毘、それを頑として止める華風流とそんな一幕があったが戒は三姉妹と協定を結ぶことにしたのである。

そして、時間軸は再び先ほどの戦い……ぬいぐるみを空間のあちこちに張り巡らせて暗躍しようとしていたファンシーとの激闘へと戻る。

 

 

 

 

 

「「合体秘伝忍法『ドルフィンフィーバー』ッ!!」」

 

リズムリンクにチェンジしたアーサーと華風流が上空に向かって発射されたイルカ型の音のエネルギー弾はファンシーたち目掛けて突撃する。

着弾した後も、まるで意思を持っているかのように縦横無尽に動くイルカに翻弄されている間にマジシャンリンクへとチェンジすると隣に立っていた蓮華と共に走る。

そして彼女が紫電を帯びた太鼓型のエンブレムをアーサーの前に召喚すると水晶生成を発動させたマジッグローブで殴る。

 

「「合体秘伝忍法『紫電・結晶』っ!!!」」

『やでぇ~~~~~~っっ!!!?』

 

波紋が幾重にも広がるように召喚された雷を帯びた水晶がポーントルーパーを巻き込みながらファンシーに大ダメージを与える。

そしてドラゴンリンクに戻ったアーサーが脚力強化で加速すると、生き残っていたポーントルーパーとぬいぐるみを蹴り上げた。

そこを華毘がハンマーで花火玉をノックの要領で上空に飛ばすと熱操作で炎を発生させたグレンバーンを抜刀し発火させる。

 

「「合体秘伝忍法『スターマイン』ッッ!!!」」

『っ!!』

 

グレンバーンを帯刀すると同時に色鮮やかな花火と共にポーントルーパーたちを星にする。

ファンシーはやけくそ気味にアーサーに殴りかかるがそれを軽く避けるとすれ違いざまに脇腹を蹴り飛ばした。

蹴られた箇所を抑えて地面に蹲るファンシーを見下ろしながらドラゴンカセットを左腰のスロットに装填して赤いボタンを押す。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! DRAGON!!】

「オラアアアアアアアアアアッッ!!!」

『サラバやでぇえええええええっ!!』

 

ドラゴンストライクで蹴り貫かれたファンシーは悲鳴と共に爆散した。

媒介となっていたエラーカセットと傀儡が音を立てて壊れたのを確認したアーサーは変身を解除する。

一息つくと蓮華たちの方に目を向ける。

各々の手には何時の間にか矢文が握られており、苦虫を噛み潰したような顔をしていることから恐らく小百合からの文だろう。

蓮華が軽く謝罪すると三姉妹は本業を全うすべくその場を後にした。

 

 

 

 

 

ファンシーを撃破し、巫神楽三姉妹と別れてから戒は何の気なしにホテル周辺を歩いていた。

最初の内はウェルシュと行動していたが「海の景色を録画したい」と彼が言い出したため、ここから別行動を取り戒はプールのあるエリアへと足を踏み入れたのだ。

 

「あ、戒君」

「飛鳥さん?」

 

一人で泳いでいた飛鳥が彼の存在に気づくと、元気よく手を振る。

濡れた妙に艶めかしい身体と彼女の活発な性格がアンバランスな魅力を出しており、またしても戒は軽く赤面してしまうも気づかれないように手を振り返す。

プールサイドの端に腰を掛けると飛鳥もこちらの方に来ると口を尖らせて話す。

 

「琴音ちゃんから聞いたよ、一人で行動しちゃって……」

「すいません。迷惑かけない方が良いかなーとかって考えたり…」

「そっちの方がよっぽど迷惑」

 

苦笑い気味にそう言う戒だったが逆に手厳しいお言葉を返されてしまい、困った表情を見せる。

そんな彼を見た飛鳥は不機嫌な表情からいつもの明るい表情に戻すと話題を切り替える。

 

「あのさ、戒君と私って会ったことある…かな?」

「…どうしてそう思うんですか?」

「戒君とは初対面のような気がしなくて…それに初めて会った時に言われたことが気になって」

 

「あれか」と戒は思う。

確かに、あの時自分はそう言った……でもあの話をしても彼女が覚えているかどうか微妙だし、今自分が初めて変身した時のことなど話しても仕方ないだろう。

 

「近い内に、みんなに話しますから…ね?」

「うーん、分かったよ」

 

戒の言葉に飛鳥は納得がいっていないようだったが信頼している彼からの頼みに頬を綻ばせるとプールから出てくる。

しかし……。

 

「うわっとと…!」

「危ないっ!」

 

タオルで身体を拭きに行こうと荷物を置いているチェアの方へと歩いた途端、バランスを崩し転びそうになる飛鳥を支えようと戒が駆け寄るが。

 

「うわっ!?」

「きゃっ!?」

 

軽い悲鳴と共に二人揃って倒れてしまった。

幸い、戒が下敷きになったおかげで衝撃がこなかったが自分を助けてくれた彼に感謝の言葉を口にしようとする。

 

「あ、ありがと…ひゃんっ!?」

「へ?…うわわっ!!ご、ごめんなさい!///」

「だ、大丈夫!ちょっとくすぐったかっただけだし、それに…嫌じゃないから///」

 

今の戒は倒れ込んだ飛鳥に両腕を回して抱きしめる形となっておりその際彼女の背中を擦ってしまい変な声を出してしまう。

その声に気づいた戒は顔を赤くして慌てて謝罪するが飛鳥は満更でもない様子。

 

「「……///」」

 

その後、妙な沈黙が両者に緊張感を生み同時に温かい心地よさを覚える。

飛鳥は初めて感じる異性の身体に頬が赤くなるのを感じると鼓動が早鐘を打つのが分かる。

一方の戒は密着したことで自分の身体から感じる女性の身体と豊かな胸による弾力に体温を上昇させた。

「しばらくはこうしようか」と互いに思った時だった。

 

「何、してるの?」

「「っ!!?」」

 

底冷えする声が聞こえてきた。

慌てて声の主を確かめようと振り向くと、その場には琴音がおり制服を着ていることから休憩中なのだろう。

しかし、その表情はいつもの屈託のない笑みではなく夏の天気さえも凍えさせるような冷たさを醸し出していた。

能面のような顔だったがやがて琴音は笑みを作る、が…目は笑っておらずむしろ恐怖が増しただけだ。

 

「ち、違うの琴音ちゃん!こ、これは事故でね!」

「そうだよ!えと、転びそうになったから俺が支えようと…!」

 

飛鳥と戒は揃って弁解を口にするが、起き上がらず何時までも身体を密着させている二人を見ている琴音は身体を震わせ、そして……。

 

「御託は良いから、さっさと離れろやあああああああああああっっ!!!」

 

さんさんと輝く太陽の下、琴音の嫉妬と怒りによる叫びが木霊するのであった。

 

 

 

 

 

小百合は波の音が聞こえる浜辺を歩いていた。

今頃、両姫の妹である双子と黒影の孫である雪泉、そして愛孫を含む忍たちは悩みながらも祭りに参加するだろう。

そして分かるだろう、千年祭の意味が……。

「それにしても」と思う。

忍でない人物がこの空間に入った時には少し焦ったが様子を見るに、あの二人は率先して介入するつもりはないことが長年の経験から来る直感で分かった。

ならば彼らには純粋に楽しんでもらおう、可愛い孫の大切な友人であり少年の方は将来の跡取りになるかもしれない。

そんなあり得るのかも分からない遠い未来のことを考えていた時だった。

 

「相変わらず子供にお優しいですね、小百合様」

「……お前さんだったんじゃね。『カグラ千年祭元執行部 段蔵』」

 

背後から聞こえた声に振り向くことなく、小百合はかつて所属していた青年の肩書と名前を口にする。

「段蔵」と呼ばれた黒い和服を着た赤毛の彼は感情の籠っていない声で彼女に返す。

 

「…その名は捨てました」

「空間のあちこちで騒がしいと思っていたけど、まさかお前の仕業だったとはね」

「やはりお気づきでしたか、それではなぜ?」

「あの少年、噂の騎士なんじゃろ」

 

その言葉だけで納得した。

彼女は仮面ライダーに全てを任せるつもりなのだと…それは責任の逃避ではなくある種の信頼の念を抱いているということだ。

やがて、彼女はゆっくりと振り返り鋭い視線を向けた。

 

「お前さん、何を企んでおる……?」

「あなたにお話しする義理はありません……忍転身」

【PHOENIX!!】

【LOADING…~♪!RIDE UP! PHOENIX! BAD and DEAD END! THE ERROR…!!】

 

その掛け声と共に起動したフェニックスカセットをエラーブレスに装填すると、赤いデータ状の魔力に身を包まれてフェニックス・エラーへと変貌する。

彼の忍装束と秘伝動物にも似たその姿と、発せられる魔力の余波……そして時折身体に走るノイズに小百合が目の色を変えた。

なぜ今まで気づかなかったのか、彼の『異常』に気づいたのだ。

 

「まさか、あんた……!!」

『ええ……今の私は秘伝動物、すなわち精霊その物です。使いこなせるようになると完全に人の身を捨てるみたいです』

 

「ですが」と彼は話を続ける。

 

『「彼ら」の痛みに比べたら、苦でもありません』

「っ!段蔵…」

『祭りの最終日、楽しみにしていますよ』

 

フェニックスのセリフの中にあったキーワードに反応した小百合が声をあげようとするが、彼はそれを遮ると翼をはためかせて何処へと消えた。

飛び去った彼を追うように彼女は空を見上げ、寂しそうに口を開く。

 

「…本当に、不器用じゃの。お前さんは……」

 

そんな言葉は、彼に届くことはなかった。

 

 

 

 

 

『段蔵、か……』

 

一部始終を見ていたウェルシュは呟いた。

人の気配を感じたためとっさに隠れてしまったが思わぬ情報を聞けてしまった。

フェニックスの目的は未だに分からなかったが彼が完全に関与している証拠が揃ったのを確信すると戒に報告しようとその場を後にするのだった。

彼の元に来たのは良かったのだが不機嫌な琴音と、彼女に何かを弁解をしようとしている戒と飛鳥(なぜか両者共に頬が赤かった)を見てため息をつくのであった。

To be continued……。




 とうとう、フェニックスの正体がばれてしまいました。しかしその目的は謎が多いです。ぶっちゃけ彼の伏線を張っておけば良かったと少し後悔しています(おい)
 飛鳥のシーンは入れたかったんです、彼女は主人公ですから何かしらの出番を与えました。個性的なキャラが登場する中、飛鳥は一周回って好きなキャラです。
 そう言えば、Ni○tend○ S○itchで閃乱カグラの情報が出てましたが何なのでしょうか?色々と気になっている今日この頃です。
 ではでは。ノシ


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COMBO17 会話×不死鳥

 今回も再生エラーが登場しますが、後何体残っていたかど忘れしていました。確か、スナイパーとバイシクルと…後誰でしたっけ?
 さてと、そろそろクライマックスに近づいているような近づいていないような…時系列があやふやになっている感があるEV編ですが自分は元気です。
 それでは、どうぞ。


「段蔵、か……」

『フェニックスの名前…いやコードネームか?どちらでも良いがこれで彼の姿にも合点が行った』

 

戒とウェルシュは自室で今まで溜まった情報をまとめていた。

フェニックスが忍だったことに驚いたがウェルシュは何か根拠があったのか言葉を続ける。

 

『通常、エラーは動物の姿を取ることはない…大半の人間は内に宿る精霊のことを認識していないからだ。だが、忍…すなわち己の精霊を認識している者は獣に近い姿を取ることが極まれにある』

「フェニックスは上忍に位置する存在だったから宿した精霊である不死鳥の姿を取った…てわけか」

 

「なるほど」と彼の説明に納得した戒はベッドの上で横になる。

そんな彼にウェルシュは難しい顔をディスプレイに映しながら「どうする?」とこれからのことについて尋ねる。

 

「……ドライグハートは?」

『完全に転移するのにまだ時間が掛かる。まだ一人でやるつもりか?』

「いや、飛鳥さんにも怒られたしみんなの力を借りるよ」

 

それだけを言うと、戒はホテル内にある温泉へと向かって行った。

 

 

 

 

 

大浴場に張られた熱い湯の中に身体を沈ませると、もやもやしていた頭がはっきりとしていく…ウェルシュにはああ言ったが協力してもらう人物は選ぶつもりだ。

少なくとも両備と両奈、雪泉はやめた方が良いだろう、ただでさえ悩みを抱えているのに重ねるように問題を提示するのはあまりにも酷だ。

そんなことを考えていた時、扉の開く音がした。

「ウェルシュか?」と戒はぼうっとした頭で音の方を向くと、一瞬で思考が停止する。

 

「あらあら、タイミングが悪かったかしら?」

 

バスタオル姿の両姫がその場にいたのだ。

豊かな胸元から下半身までは白いタオルで隠しているが、すらりと伸びた綺麗な脚が露わになっており湯気の影響か微かに汗が滲んでいる。

 

「な、ななっ!!?何してるんですか両姫姉さんっ!!!///」

「うふふ、久しぶりに戒君と一緒に入ろうかなって思って」

 

別の理由で顔を真っ赤にした戒とは対照的に両姫はあっさりと答える、慌てている彼に対してくすくすと笑う。

戒は顔を横に反らそうとするも、思春期男子としての性かどうしても豊満な彼女の姿を脳内フォルダに焼き付けようと視線をちらちらと向けてしまう。

それに気づいたのか両姫は楽しそうに笑うと、衝撃的なことを口にした。

 

「タオルの下が気になるのですか、それじゃ特別に見せてあげますね♪」

「はっ、はぁっ!?///ちょっと、待っ…」

 

戒が制止するも既に遅く、両姫はバスタオルを両手で広げ始めた。

両手で視界を隠そうとしたが指と指の間を僅かに開けていたことは言うまでもなかったが気絶する事態には至らなかった。

 

「じゃーん、どうかしら戒君」

「……///」

 

目の前にはバスタオルを外した両姫がいた…しかし、全裸と言うわけではなく青と黒を基調としたビキニを下に着用していた。

全裸でないことに安堵した戒だったがそれでも刺激が強いことには変わりないため顔は赤いままだ。

嬉しいような嬉しくないような微妙な気持ちとなるがすぐに切り替えると銭湯から出ようとするが両姫が入ってくる。

おまけに密着するほど隣にまで来たせいで余計に緊張してしまい、冷静な判断が出来なくなってくる。

 

「ふぅ……良い湯加減ですね」

「…そうですね」

 

いつも通りの様子で自分に微笑みを向ける彼女に対して冷静さを取り戻した戒が答える。

 

「昔はこうやって一緒に入っていたわよね、懐かしい気持ちです」

「あの頃は、みんな泥まみれになったりして遊んでましたもんね」

「その度に四人でお風呂に入って…うふふ♪」

 

昔の思い出に浸っているのか、両姫が楽しそうにくすくすと笑った。

そこからは、何の気ない会話をしていたがあることに気づいてしまう。

 

(……む、胸が浮かんで…!?///)

「…?どうしました、戒君」

 

ふと視線を下に向けると、ビキニに包まれた両姫の豊かな胸が風船のようにぷかぷかと浮いていたのだ…戒はそこを凝視してしまっていたが彼女の言葉で我に返る。

すると、今度は湯煙によって色っぽく見える両姫の姿に顔を赤くしてしまう。

やっぱり心臓に悪い……!

見えない場所でタオルを腰に巻くと、戒は慌ててこの場から立ち去ろうとするが両姫は「戒君」とそれを呼び止める。

 

「背中、流してあげるわね」

「えっ!?いや良いですって!///」

「だーめ、体はもう一度洗わないといけませんよ?」

 

「良いから」と戒が答えるよりも早く、洗い場へと向かい彼に腰を下ろさせるとボディソープを泡立たせたスポンジで彼の身体を洗い始めた。

 

「ふふ、かゆいところはありませんか?」

「…ない、です///」

 

からかうように尋ねる両姫に、戒は顔を真っ赤にして答える。

非常にまずい……。

女性が自分の背中を洗ってくれている…それだけでも頭がくらくらしそうなのに、相手があの両姫なので彼の心臓は破れそうなぐらいバクバクしている。

おまけに。

 

「よいしょ…と」

(…む、胸が当たって…!!///)

 

両姫が身体を動かす度にマシュマロのような柔らかい感触が背中に当たり、それがさらに彼の顔を赤くさせる。

当然、このようなことをされたら男子として正直な反応をしてしまうわけで……。

 

「きゃっ…もう戒君。前に行ったら背中が洗えませんよ」

「いやっ、でも…///」

 

前のめりになっている戒に優しく注意すると言い訳をしようとする彼の背筋を無理やり伸ばした。

身体を洗っていた両姫が口を開いた。

 

「蓮華ちゃんたちのこと、教えてくれない?」

「あー…もしかしてそれで?」

「うふふ、半分はそれでもう半分はこれ」

 

巫神楽三姉妹の隠し事について尋ねてきた彼女に苦笑いする。

しかし、一緒に温泉に入りたかったのは事実のようであり本心であることが分かると再び顔を赤くした。

しばらくすると、シャワーで背中についた泡を洗い流すと両姫は戒に伝える。

 

「はい、終わりましたよ」

「…ありがとうございます///」

 

お礼の言葉を述べると、足早に浴場から出ようとした時だった。

 

「「えっ?」」

 

何と、戒の腰に巻いていたタオルが落ちてしまったのだ。

両姫と違って彼は何も身に着けていない……つまり。

 

「あ…あぁ……」

「…戒君」

 

生まれたままの姿となってしまった戒は呆然としており、冷静な思考をすることもままならない。

それとは対照的に両姫は彼の下半身に視線を向けると少し間をおいて…。

 

「あらあら、随分と元気みたいね」

「っ!!///」

 

くすりと微笑まれた途端、戒の恥ずかしさは頂点にまで達した。

自分のタオルを掴むと、大浴場から飛び出すように退室し身体を拭くと自身の部屋へと戻り電気を消して就寝した。

その際、「どうした戒!?」とウェルシュが焦るように聞いてきたが無視した。

 

 

 

 

 

「エラーの気配はないのか、ガラクタミニ四駆」

『好い加減機嫌を直したまえっ!!何があったか知らないがそろそろ泣くぞっ!?』

 

翌日…つまり三日目の午前十時ごろ、戒とウェルシュは再生エラーの捜索を始めていた。

昨日の件もあって不機嫌な戒に対してウェルシュは涙声で抗議するがそれをスルーして森の中を散策する。

すると視線の向こうに一人の男性がその場で胡坐をかいて地面に座っているのが見えた。

しかし、戒とウェルシュは崖の先にいる人物に思わず萎縮してしまう…見た目からして既にご老体の身であることは確かだが威圧感と頼もしさ、寂しさを与えた。

 

『ほう、懐かしい顔だな…』

「っ!?お前は…」

 

彼を守るように現れたのは黒い狙撃手…スナイパー・エラー。

だが、彼は身構えた戒とウェルシュに対して武器を召喚することはおろか戦闘態勢にすら移らない。

ウェルシュは未だ警戒していたが戒は肩の力を抜く。

敵対の意がないことに分かったのだろう、するとこちらに背を向けていた老人が口を開いた。

 

「知り合いか?スナイパー」

『いやっ、元敵同士さ。黒影』

 

知人のように気安く声を掛けた老人…黒影に対してスナイパーは皮肉気な口調で返す。

戒の視線を受け止めた彼は鼻で笑うと事情を説明する。

 

『何、俺は奴に勝手に復活させられてね。命令を聞く必要もないから適当に歩いていたら偶然彼と会ってな、それ以来こうして世間話をしている』

 

そう言いながらもスナイパーはペットボトルのお茶を投げ渡すと地面に腰を下ろした。

戒も疲れたように近くの岩に座ると、黒影が口を開いた。

 

「君が、門矢君か」

「えっ?ああ、はい」

 

いきなり自分の名前を呼ばれたことに驚きながらも頷くと黒影は「ふむ」と納得したように話しかけてくる。

そこでようやく思い出す、以前雪泉が自分と琴音に対して話してくれた敬愛すべき忍のことを……。

 

「雪泉が…孫が世話になっている」

「いえ、俺も話だけでしたが雪泉さんたちから聞いてます。敬愛すべき人物だって」

 

思ったことを話すと彼は恥ずかしそうに表情を変えたが、すぐに先ほどの真面目な顔に戻ると本題へと切り出す。

 

「君に、聞きたいことがあってな……」

「はい…」

 

空気が変わったことが分かると戒の身体にも自然と力が入ってきた。

黒影の次の言葉を待つ…そして。

 

「…雪泉たちのことはどう思っている」

「……はっ?」

「五人もそろそろ年頃の少女だ、俺としては将来のこともだが男女関係のことも気になってしまってな…」

 

シリアスな雰囲気でそう言った彼に戒は呆然としてしまうも、黒影は気にせず言葉を続けていく。

あまりにも家庭的な内容についていけずにいる彼のことなどはお構いなしだ。

 

「君は雪泉と仲が良かったな、それに胸に触れたり着替えを覗いたり…」

「人聞きの悪いこと言わないでくれます!?全て事故ですっ!」

「では、嬉しくなかったと?」

「素敵な胸でした本当にありがとうございます!」

 

などと、老人と少年のカオスなやり取りが繰り広げられていたがウェルシュとスナイパーが止めに入り収束へと導くことに成功した。

 

「少し脱線したが、これからもあの子たちのことを頼む」

「……はい」

 

咳払いの後にそう頭を下げた黒影に戒は快く返事をする。

去って行った戒たちの場所をしばらく見つめていたが、ある気配を感じると懐かしげな表情を見せる。

 

『…俺はしばらく辺りをぶらついているよ』

「すまない」

 

スナイパーも黒影の財産でもある最愛の少女たちが来ることを察したのであろう、両足に銃器を召喚、装備するとジェット噴射の要領で木々に飛び移って姿を眩ませた。

上を向いて空の景色を眺める、現世のそれと何ら変わらない青い空と穏やかに吹く風は今まで苛まれていた自分の心を落ち着かせるようであった。

どれぐらいそうしていたのであろうか、複数の人物たちの息の切れる声が聞こえた。

振り向くと、そこには愛孫たちが立ち尽くしている。

しばらくして彼女たちは目に涙を溜めるがやがてせきを切ったように彼を思い思いに抱き着き始めた。

顔を埋めて泣きじゃくる彼女たちは、まるで小さい頃と何ら変わっていなかった。

 

 

 

 

 

カグラ千年祭、五日目……。

今のところこれと言った変化がない、再生エラーもフェニックスの反応も感知出来ないまま無意味な時間を浪費していた。

しかし、森林での捜索をする中でも戒とウェルシュは雑談をする。

 

「お嫁さんにしたいキャラはsakiの霞さんかな、だって年上で黒髪で、おまけにお姉さんでおっぱいだし」

『君はそこしか目が行かないのか。私だったら妥当にサクラ大戦の真宮寺さくらだな、日本の大和撫子だぞ』

「それお前が単に外国出身なだけだろ」

 

好きなキャラ同士のトークをしながらも、森林での捜索をしている最中だった。

羽根を模したエネルギー弾が戒の地面に着弾すると音をあげて爆発する。

襲撃者はもちろん…。

 

『……』

 

フェニックスは灰色の煙をあげる爆発地の方を見るが、手に持ったボウガンを下ろさない。

自分たちのゲームを尽く邪魔してきた忌々しい仮面の騎士がこんな簡単に倒されるとは思っていないからだ。

距離を詰めようとした時だった。

 

【RIDE UP! RHYTHM! 音色と踊れ!GREEN BEAT!!】

『っ!?』

 

変身音声と共に緑色の弾幕がフェニックスの視界を遮った。

それがピアノアローから発射された大量の矢だと分かった時には身体を吹き飛ばされており、空中で回転してからバランスを整えると着地する。

煙を払いながら登場したリズムリンクのアーサーは武器を構えると対峙したフェニックスに語りかける。

 

「随分と、姑息な真似をしてくれたな段蔵さん?」

『忍とは元来、闇に紛れて動くものです。それと、私はフェニックスです』

 

不意を突いたことににべもなく応える怪人にアーサーは「やれやれ」と呆れた表情を仮面の下で見せるとロックオンと解析を合わせた射撃を行うがフェニックスはそれを躱しながらも、話を始める。

 

『ここは、最も大切な者と出会える素晴らしき世界。そして時の止まった永遠の世界』

「…何が言いたい」

 

不気味に笑うと、フェニックスは言葉を続ける。

 

『この世界を終わらせたいと思いますか?私は絶対に思えません。大切な人と一生会うことが出来るなんて、素晴らしい世界ではないですか……!!』

 

恍惚とした声色で語るフェニックスにピアノアローを握る手が震える。

再認識したのだ、いくら冷静な言動を取ろうとエラーだと言うことに。

致命的な部分が壊れているし、自ら望んで人間の身体を捨てた異常者を目の当たりにしたアーサーは赤い複眼で睨みつける。

 

『お遊びはここまでです、私は失礼させてもらいますよ』

「待てっ!…っ!?」

 

炎の壁を展開して逃走しようとするのを防ごうとするが、背後からの殺気に振り返ってピアノアローで防ぐ。

 

『へへへ、ここで会ったが百年目ッスよ。仮面ライダーアアアアアアッ!!!』

『ハイドかっ!?…戒っ!』

 

憎悪の籠った声で叫ぶのは簡素な黒いスーツを着た白い仮面の異形…ハイド・エラーは鉤爪に力を込めようとするが鳩尾を蹴り飛ばすとフェニックスの方に向き直るが既に姿を消し去っていた。

「くそっ」と舌打ちをするが、首輪によって首を絞められて苦しげな声を漏らす。

 

『へへへ!!首をへし折って…ゲボッ!!?』

「COMBOゼロで瞬殺された雑魚キャラが粋がるなっ!」

『雑魚キャラは雑魚キャラらしく、瞬殺されていたまえ!』

 

顔面を狙撃されたハイドは鎖を緩めてしまい、ピアノアローで切断するとアーサーとウェルシュは彼を罵倒しながらリズムカセットを必殺技専用のスロットに装填する。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! RHYTHM!!】

「ふっ!はっ、オラァッ!!」

『GAME OVERへのCONTINUEはなしっすかあああああああああっ!!?』

 

両手の拳に音のエネルギーを集中させ距離を詰めると、左のフックで怯ましたハイドを右のアッパーで打ち上げた後、左ストレートで貫いた。

『リズムスマッシュ』を叩き込まれたハイド・エラーは爆発四散しエラーカセットと傀儡を破壊された状態で転がる。

それを無視してウェルシュはフェニックスの残留した魔力を調べて行方を確かめようとするが反応はない。

 

『……駄目だっ、もう反応がない』

「だけど、これで奴の動機もはっきりした」

 

ウェルシュの悔しげな言葉にそう呟きながら、アーサーは青空に高く存在する太陽を見上げるのだった。

To be continued……。




 さてと、そろそろEV編の日常パートを挟むべきですかね?そうなると、どのような話にしようか…ぶっちゃけ戒を辱めてなおかつ琴音を怒らせるストーリーを考えています。
 いや、それよりも最近影の薄いリアと千歳を出すべきだな。よし、番外編はそんな感じにする予定です。
 ではでは。ノシ


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COMBO18 幼馴染×言葉

 そろそろ語ることがなくなってきました…今回は幼馴染組のターンです。どうやってクライマックスへと向かわせるか構想を練っています。
 両奈のデレってどのようにすれば良いのか手探り状態です。しかし、本格的にリアたちの出番がないな…マジで番外編で挽回するしか……。
 短いですが…それでは、どうぞ。


フェニックス・エラーとハイド・エラー戦後、森林から抜け出ると飛鳥に連絡を入れた戒とウェルシュは浜辺を歩いていた。

海の景色を眺めながらも一人と一機は会話を始める。

 

『フェニックスはこの空間をいたく気に入っている。やはり、カグラ千年祭の結界を永久に留めることなのだろうか…』

「かもしれないな、あの声…間違いなく本気だった」

『何れにせよ、再生エラーの残りも少ないはずだ』

「そうなると、残りは……」

 

そう言って、スマホを起動させるとエラーの顔写真が入っている画面へと切り替わる。

即席で作った再生エラーのリストだ、先ほど撃破したハイドの顔をタップして✕字にすると残りのエラーを数え始める。

残りは、シーフ・エラーとバイシクル・エラーにステルス・エラー…そしてマグネティック・エラーの四体。

ブラッド・エラーは突然変異なのとエラーの人格を持たないため、登場しないのではないかとウェルシュが断言したため無条件で削除する。

厄介な奴が残ったな……。

そうため息をつきながらも、歩を進めていた時だった。

 

「カー君~っ!!」

「へっ?…ぐぼっ!?」

 

聞き覚えのある声と呼び掛けに立ち止まって前を向いた瞬間、腹部に強烈な衝撃が入り倒れそうになるも何とか堪える。

視線を下に向けると見覚えのある金髪があり、体当たり紛いのハグをしてきた人物の名前を咳き込みながらも呼ぶ。

 

「ゲフッ。り、両奈…何を」

「丁度良かった!一緒にご飯食べよっ!!」

「ご飯ねぇ」

 

どうするかと考えたが、腹の虫が鳴いているのを聞いた両奈は笑顔で彼の手を握って連れて行こうとする。

 

「ほら、早く早くっ!琴音ちゃんや両姫お姉ちゃんもいるから」

「うわー、マジか」

「両姫お姉ちゃん、お風呂のこと気にしてないって言ってたよ?」

「何で話すのかなぁ、あの人はっ!?」

 

両姫の名前を聞いた戒は気まずげな声を漏らすも両奈がフォローをするが逆にツッコミを入れる結果になってしまった。

リードされる形で戒は行動を共にするが、目的地らしき場所で煙と音があがっているのに不安を抱く。

 

「…何か、昼食の雰囲気とは思えないぐらい殺伐としているんだけど両奈さん?」

「両奈ちゃんがお姉ちゃんの輪っかを触ったからだよ、多分反抗期の両備ちゃんと戦っているんじゃないかな?」

「あの輪っか、そんな設定があったのっ!?」

 

そんな二人のやり取りを黙って聞いていたウェルシュは「飾りじゃなかったのか」と思いながらも、あえて言葉にはせず幼馴染二人の会話を黙って聞いていた。

そんな中、ふと戒は自分の手を握っている両奈の手を軽く握るとまじまじと見る。

突然の彼の行動に疑問を持った彼女は歩くのを止めると首を傾げて尋ねる。

 

「どうしたのカー君?」

「いや、両奈の手綺麗だなーって」

「っ!?///」

 

急にそんなことを言いだした戒に普段とは違う反応を見せた両奈は顔を真っ赤にすると、彼の手を離そうとするが今度は戒が彼女の手を離さない。

 

「あんまり意識してなかったけど、何だろ…触っていて気持ち良い」

「…何で、そんなこと…///」

「いや、気分?」

 

普段らしくない彼女に疑問符を浮かべながらも、理由を話す。

事実、戒は急に突飛な言動をすることがあり幼少期のころからもそのような部分があった。

今回もそんな悪癖が出ただけだと割り切ろうとしたが両奈の鼓動は意思とは反して速くなっている。

元々被虐体質の彼女だが戒にだけは少しでも女の子らしくしようとしている彼女からしたら彼の褒め言葉は罵詈雑言(ごほうび)に等しいのだ。

オッドアイを忙しなく動かして明らかに動揺している両奈に戒が声を掛ける。

 

「どした?両奈」

「へっ!?ううんっ、何でもない!何でもないのっ!さっ、行こうカー君っ!」

 

まくし立てるように喋ると彼の手を握り、赤くなった顔を隠すように走ると自然と戒も彼女に引っ張られるように走り出した。

 

 

 

 

 

「どう、戒君。美味しい?」

「……ん」

「両奈ちゃん、飲み物取って」

 

目的地に着いてから数時間後、戒は蛇女学園のメンバーと琴音、両姫がいる場所で昼食を取っていた。

おにぎりを頬張っている自分に対して頭を撫でてくる両姫に頷き、琴音は両奈から渡された飲み物を飲む。

雅緋や忌夢たちも食事を楽しんでおり、紫もやや距離を置きながらもおにぎりを味わって食べているなどしばらくは楽しく穏やかな時間が流れていたが立ち上がってその場から離れようとしている人物がいた。

 

「…もひほうはま」

「ん?両備、今何て言ったんだ?」

「御馳走様ですって」

 

口にまだおにぎりを含んでいるのかもごもごと話した彼女に忌夢が疑問を浮かべると両姫が笑みを保ったまま通訳する。

しかし、飲み物を飲んでいた戒が待ったをかける。

 

「もう少し食べて行ったらどうだ?両姫姉さんのご飯美味しいぞ」

「ふあべふあたほおああらむほうく。ふあんふあふぃふあはんふぇいふあい」

「口に物を含んでる奴が何言ってるんだよ、それに関係あるなしの話だろ」

「ふっふあい、ふぇふふあい」

「誰が変態だお前っ!」

「いや何でさっきから言葉が通じてるの!!」

 

なぜか会話が成立している戒と両備に対して琴音がツッコミを入れると、ゆっくりと立ち上がった両姫が彼女の前に立つ。

 

「両備ちゃん、どうしてお姉ちゃんを避けているの?」

 

悲しそうな表情を見せる彼女に対しておにぎりを飲み込んだ両備が、気まずそうに口を開く。

 

「……分かるでしょ、それぐらい」

「分からないから、聞いているの」

「…両備が最後に言った言葉、憶えてるでしょ?」

「っ?そんなこと、言われたかしら」

「嘘っ!しらばっくれないで!!」

 

感情を露わにし始めた両備に対して琴音は止めようとするも、戒がそれを抑える。

本当に憶えていないのだろう、思い出そうとしている両姫に対して彼女は顔を横に反らして、あの日言ってしまった言葉を口にする。

 

「……死んじゃえば良い。私は姉さんにそう言ったんだよ」

 

一字一句間違えずに、忘れるはずもないあの言葉を口にする両備だが言われた側である両姫は口元に手を当てて思い出したように呟く。

 

「そういえば、そんなことも言われた気がするわ」

「気がするって…」

「でも、お姉ちゃんは怒っていないし、何にも気にしていないからそんなことで避けなくて良いのよ」

「……そういうところが嫌いなの」

 

 

何時もの微笑みを見せた両姫だったが、それが余計に両備の胸を締め付ける。

やがて小さく呟いた言葉に、彼女が「えっ」と驚いた時だった。

 

「死ねって言われて気にしてないとか、どんだけ心臓に毛が生えているのよっ!!」

「そうは言われても……本当に気にしてないから」

「っ!!もう良いっ!」

 

両姫の言葉に過敏に反応した両備はこの場から走り去ってしまった。

逃げるように走って行く彼女を呼び止めようとするがそれよりも早く動き出した影があった。

…戒と琴音、両奈は両姫にアイコンタクトを取るとその場から離れる。

一瞬だけ寂しそうな表情を見せた両姫だったが三人の後ろ姿に頼もしさを感じると、何処か安心した笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「ぜー…ぜー…!お前っ、足速っ…!」

「はぁっ、はぁっ…!手っ、離しなさいよ…!!」

 

数時間後、両備に追いつくことが出来た戒は息を切らしながらも彼女の手を掴むことに成功する。

一方の両備も全速力で走ったのか深呼吸を何度も繰り返して手を離すように言うも却下される。

息を荒げながらも自分に追いついた琴音と両奈に逃げられないと悟ったのか両備は肩の力を抜いた。

 

「……中学生の時」

「えっ?」

「中学生のころから、私は姉さんに対して負けたくないって思うようになったの……」

 

両備は三人に話し始める。

…中学生になり始めた時、何でも出来る姉に対して何時しかコンプレックスを抱くようになってきた。

きっかけは何だったのだろう、幼いころからあった嫉妬心なのかもしれないが両備はとにかく姉に勝ちたかった。

だから、料理だって必死に覚えたし嫌いだった勉強も一人で頑張るようにした。

姉に弱みを見せないために隠れて努力を重ねてきた。

けれど、両姫が常に自分の一歩上を進んでいた…それを鼻にかけることなく自分を褒めてくれたことが余計にみじめにさせた。

あの日だってそうだった…疲れているのに一切の苦労を顔に出さずに笑顔でいる姉に対して不満を覚えた、つまらない妬みだった。

だから、だから口に出してしまったのだ…「死んじゃえば良い」と。

実のところ、両備はその言葉に対して深い意味はなかった。

両奈に対するいつもの調子で吐き出してしまっただけだ、本心で言ったわけではない。

だが、両姫が亡くなってしまった…それがいつまでも自分の心に突き刺さり、仇を討とうとしたのも罪滅ぼしの意味合いが強かった。

そこまで話すと、両備は息をゆっくりと吐いた。

琴音と両奈は何も言わなかったが戒はおもむろに彼女の頭を撫でる。

 

「頭を撫でるな…て痛っ!?」

「たく、急にシリアス入ったから何かと思ったら…」

「あはは…でも、両備ちゃんらしいな」

 

抗議しようとするがデコピンされて額を抑える両備に対して戒が呆れたように顔に手を当てるが、琴音は笑ってフォローを入れる。

二人に対して憮然とした表情を見せる彼女に戒は言葉を続ける。

 

「上手く言えないけどさ、正直に言ったらどうだ?」

「謝れって?けど…」

「両姫姉さんが忍の盆踊りに参加した理由を考えて見ろ、そうすれば分かる」

「多分だけどさ、両備ちゃんは姫お姉ちゃんに伝えたいことが他にあるんだと思うよ」

 

笑ってそう言う二人に困惑した表情を見せるも、両奈が両備の元に駆け寄る。

 

「両備ちゃん。明日から雅緋ちゃんや雪泉ちゃんたちを調査しよう」

「何で両備が…」

「絶対だよ、両奈ちゃんとの約束!」

 

笑って言い切られた両備は首を縦に動かすと両奈はさらに笑みを深めて彼女に抱き着いた。

当然、両備から蹴り飛ばされていたがそれでも二人は僅かながらも笑顔を見せていた。

「よし」と戒が伸びをすると提案をする。

 

「じゃあ解散するか。琴音、疲れたからおぶってくれ」

「体格差考えてっ!無茶だからねっ!?」

「じゃあ両奈ちゃんがおんぶしてあげる!」

「わ、私が…」

「お前は別に良いわ」

「どういう意味だこらっ!」

 

そんな楽しそうに会話する四人を物陰から見守っている人物がいた。

 

「あらあら、私の出る幕はなかったかしら」

『行かなくて良いのかい?』

「お姉ちゃんが出たら、空気を壊しそうだから」

 

「そんなことはない」と言うウェルシュだったが、その人物…両姫は純粋に楽しそうな笑みを四人に向けている。

そこには寂しさがなく、彼らの幸せを祈っているようにも見える。

しかし、ウェルシュはわざとらしく走行し彼女の背を押すようにさりげなくぶつかると、衝撃によって両姫は物陰から出てしまう。

 

「きゃっ…えと、こんにちは?」

 

両姫が困ったように微笑んであいさつすると両奈と琴音が彼女の手を掴むと、強引に輪の中へと入れる。

その光景を、ウェルシュが見守っているのだった。

To be continued……。




 短いですが、そろそろクライマックスですのでそれに向けて意図的に短くしています。色々とカットしていますが焦点を両備に当てているからね、是非もないです(泣)
 本当は色々とやりたいことがあるんですけどねー(遠い目)両奈のデレは無理やりぶち込みました。戒君たち込みで全キャラ回すのは本当に難しいです。
 ではでは。ノシ


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COMBO19 輪廻×狂気

 今回は連続更新です。短くなってしまいましたがあまりぐだぐだ長くするのもあれかなと思ったので。そろそろ二号ライダーも登場させなきゃいけませんし(ボソ)。
 では、お楽しみください。


ゆらり、ゆらりと輪郭がぼやける。

まるで炎のように、決して消えない絶望と悲哀が自分を燃やしていく。

激情に駆られて妖魔を始末しても彼らの無念は消えない、決して忘れてはならない。

 

――――「先生、■■■■て生きて……」――――

――――「ごめんなさい、先生」――――

 

違う、違うっ!あなたたちは何も悪くない、自分が悪いんだ。

あなたたちを死なせてしまった、自分の……。

責任を負わされた自分はカグラ千年祭執行部に異動となったが今の状況では未来ある忍たちに教鞭を取ることなど無理だったし、都合が良かった。

その時、あの方から聞かされたのだ…忍の盆踊りを。

特別な結界による時間停止と亡くなった人物との永遠の時間、愛する人たちを決して失わない理想郷。

悲しみが存在しない世界……。

そして、彼と出会った自分は救済を終わらせ、人間を捨てた。

 

「……私は、誰も悲しませないために世界を塗り替える」

 

その言葉と共に決意を固めたフェニックスは怪人態へと融合し、羽根を撒き散らしながら空へと飛び立った。

 

 

 

 

 

戒はホテルの部屋にあるベッドに寝そべりながら天井を見つめていた。

その近くではウェルシュが難しい顔をしており自分の見ている映像を彼に伝える。

 

『……始まったぞ、戒』

「そっか」

 

彼の言葉に短く応える。

今日で祭りも最終日に入るだろう、根拠も何もない…それこそただの勘だが今日で祭りは終わる。

そんな予感がするのだ。

ベッドから起き上がると、冷蔵庫に入っていたペットボトルの水を飲む。

「ぷは」と一通り飲み終えた時、インターフォンが鳴った。

 

「カー君、私」

「ん……」

 

来客…琴音の声を聞いた戒は扉を開けて彼女と対峙する。

特にお互い語ることもなく、彼は外に出ると琴音と共に外へと向かった。

 

「……何か今回、シリアスだな」

「台無しだよ、カー君」

 

気を紛らわそうと言ったセリフだったが怒られた。

 

 

 

 

 

両備は両奈と共に、戦う準備に備えていた。

戦う相手は小百合でも、ましてや巫神楽三姉妹でもない……育ての親であり憧れであり、嫉妬の対象であった両姫。

伝えたいことがある、だけどそれには言葉じゃない。

戒に言われたことを思い出す。

両姫が自分たちの前に現れた理由…それはきっと。

 

「両備ちゃん」

 

両奈に自分の名前を呼ばれたことでふと我に返った。

慌てて前を向くと、そこには琴音と戒がいた。

軽く挨拶を交わすと彼は自分の前に来る。

 

「…見つかったか、答えは?」

「私は…両備たちは姉さんと戦う。だけど、それは姉さんに謝りたいからでも妬ましいからでもない……『ありがとう』って伝えたいの」

 

彼女の言葉を戒たちは黙って聞く中、両備は続けていく。

本人は気づいていなかったが両姫と面影がある笑みを見せており、吹っ切れているようにも見えた。

 

「ずっとお母さん代わりになってくれて、優しくしてくれて、見守ってくれて……ありがとう。素直な気持ちで、姉さんに伝えたい」

「……そっか」

「ありがとう、か…良いんじゃないかな」

「でしょっ!両奈ちゃんも大賛成したんだ!!」

 

戒たちの反応に気恥ずかしくなった両備はそれを隠すように両奈の頭を小突くと改めて彼の方を向く。

そして、小さな声で呟いた。

 

「……あんたが幼馴染で良かった///」

「俺もだよ」

 

短く言葉を交わすと、二人はその場から立ち去って行った。

 

 

 

 

 

両備たちと話していた戒たちだが、肝心なことを忘れていることがあった。

そう、自分たちは半蔵学院の生徒…流石に飛鳥たちと顔を見せなければまずいと判断した二人はウェルシュの助けで彼女たちのいる場所へと向かう。

幸いにも飛鳥たちはすぐに見つかった、汚れた忍装束と息を切らしていることから戦闘が終わったのだろう……が、彼女たちの他に先客がいた。

斑鳩のように黒く長い髪をなびかせ、黄色いシャツと赤いスカーフが特徴の女性であり左腕には黒い象のようなマスコットがくっついている。

 

「おや、あんたたちも来たかい?随分と遅かったね」

「少し野暮用で…て、誰ですかあなたっ!?」

「あれっ、確かPVで出ていた…」

 

自分たちのことを知っている女性に二人は警戒するが、飛鳥は困ったように女性の正体を教える。

 

「二人とも、この人…私のばっちゃん」

「何だ、小百合さんか…て、えっ?」

「はっ?」

「何だいその顔は…」

 

飛鳥の衝撃発言に脳の処理が追いつかない戒と琴音は呆然としており、その表情に小百合(?)は苦笑いする。

 

「いやいやいやいや、おかしいですって。何で梅干しの妖怪みたいな姿からナイスバディの素敵なお姉さんに変わっているんですか?まさか、脱皮したんですかっ!?」

「よし、あんたがあたしをどう思っていたのかよーく分かった…」

 

混乱のあまり、地雷を踏み抜いた戒が彼女から拳骨をくらうと改めて小百合もとい『ジャスミン』から話を聞く。

 

「しかし、ここまで祭りが進んだのはお前さんが口を噤んでくれたおかげだよ」

「あー…やっぱり気づいていました?」

「やはり、戒さんはこの祭りの真意に気づいていたのですね」

 

斑鳩の言葉に頷いた戒はジャスミンの方に向き直る。

 

「この祭りの真意…それは千年に一度来る災厄に備えて鍛え上げること。違いますか?」

「……そこまで分かっているなら何を知りたい?」

「この空間ですよ。あなたは自分で作り出したと言いましたが『元になる場所』がなければここまで完全に再現出来るわけがない。俺の仮説が正しければこの場所は…」

「全員が妖魔によって死んだ世界…そう言うわけだよ」

 

その言葉に全員が驚いたが戒だけは表情を崩していなかった。

最初に疑念を持ったのは生活必需品が大量にあったこと…この時点では特に気にしていなかったがホテルを一望した時にその疑念が膨れ上がった。

シャワーもあるし露天風呂もある、ホテルに必要な設備が完備されていることに気づいたのだ。

同時に最初の方で言っていたウェルシュの言葉を思い出す。

――――『まったくだ。専門家が見たらあちこち解体されて終わりだろうけどね』――――

 

つまり、このような現象を一から創ることは現代の精霊術では不可能だと言うこと。

そこまで考えた途端、別の疑問にぶち当たる…元になった世界は何処から見つけたのか?

その答えがようやく彼女の口から語られた。

 

「…並行世界」

「そう、ここは何もかもが妖魔によって滅ぼされた世界…それをあたしがチャクラの塊として固定させた。これが真実だよ」

 

「さて」と、一通り話を終えたジャスミンはスケールの大きい話に唖然としている飛鳥たちの方に鋭い視線を向ける。

 

「これで分かっただろう、甘さだけでは誰も救えないし守ることも出来ない。さっきのように手加減せずに戦い抜いた。それが、情を捨てると言うことじゃ……」

「捨ててないよ」

 

祖母の言葉に飛鳥はゆっくりとそれを否定する。

そして、彼女は語り出した。

 

「ばっちゃんへの情があったから、私たちは思い切り戦う決意が出来たんだよ」

「……あくまで情は捨てていない、と?」

 

自分への問いに頷いた飛鳥に対して、ジャスミンは「やれやれ」と首を横に振ると背を見せて去って行く。

恐らく他の忍たちと相見えるのだろう、煙幕と共に姿を消した。

戒は飛鳥たちに尋ねる。

 

「飛鳥さんたちはこれからどうします?」

「この祭りを続けることにするよ。戒君たちは?」

「俺は見学してますよ。琴音、しばらく頼む」

 

琴音の肩を叩いてそう言うと、またしても何処かへと去ってしまった。

彼の姿を見た飛鳥たちも、顔を合わせて自分たちのすべきことのために動き出した。

 

 

 

 

 

戒は最初の日に黄昏ていた場所にいた。

なぜここに来たかは分からない、ただ何となくこの場所にくれば彼女に会えると思ったからだ。

そして、彼女はここにいた。

 

「両姫姉さん」

「はい、どうしました戒君?」

 

優しく微笑んでくれる両姫に戒は少し気恥ずかしそうにするが、やがて意を決したように彼女に抱き着いた。

両姫は少し驚いたが彼の背中に手を回す。

 

「…今から、我が儘言っても良い?」

「……」

「俺、両姫姉さんと別れたくない。琴音と両備、両奈と一緒に騒いでいたい…両姫お姉ちゃんと、離れたくないよぉ……!!」

 

服の裾を強く握りながら、涙目で懇願する彼に対して両姫が微笑むと黙って話を聞く。

 

「ずっと、会いたかった」

「私もよ」

「死んだって聞いて悲しかった、もう会えないって思ったら…!!」

「でも、両備ちゃんたちの前では泣かなかった。気を使ってくれたんですよね」

「今更こんなこと言って、最低だ」

「そんなことない」

 

戒の言葉に両姫は頭を撫でながら返事をする、時折彼の手袋に覆われた両手に触れる。

 

「大きくなったわね、戒君」

「うん」

「昔は可愛かったけど、今はとっても可愛いですね」

「カッコ良くない?」

「うふふ、カッコ良いですよ」

 

しばらくの間、二人は似たようなやり取りを繰り返していた。

数時間後、落ち着きを取り戻した戒は手で涙を拭うと両姫の目を見る。

 

「…もう良いの?」

「ありがとう、両姫姉さん。だけど、もう大丈夫」

 

その言葉に彼女は嬉しそうに頷くと、ゆっくり立ち上がって笑顔を見せる。

だが、その表情が真剣その物になる。

 

「そろそろ、来るみたいね」

「そっか…両備が来るまで耐えてよ」

「もちろん♪」

 

忍転身をして青と黒の忍装束に姿を変えると、自分の武器であるショットガンと盾を構えて眼前で構える敵…半蔵学院のメンバーに銃口を向けた。

 

「命はないけど……命、燃やし切りますっ!!」

 

 

 

 

 

両備と両奈は走っていた。

もう迷いはない、恐れもない、ただ自分の想いを伝えるために彼女の場所へと走る。

さっき、けたたましい音が聞こえた…きっとあの場所で彼女が戦っている……自分たちと戦うために、彼女もまた『忍』としてあの場所で自分たちを待っているのだ。

そうして二人は、両姫と初めて会った浜辺へと辿り着いた。

両備たちの目の前には、満身創痍の両姫が立っているが瞳に宿した闘志からまだ戦えることが分かる。

戒と琴音は離れた場所で気絶した飛鳥たちの介抱をしている。

気を利かせてくれたのだろう、「余計なお世話だ」と思いながらも彼らに感謝すると両備は両姫を見据える。

 

「……来たのね」

「忍学生としては失格だと思うけど……姉さん、はっきり言うね。両備は、妖魔も忍の最高位であるカグラもどうでも良いの」

「……あら」

 

その言葉に、彼女は小首を傾げるが気にせず両備は話を続けていく。

 

「姉さんに勝ちたい、両備の願いはそれだけなの」

「うーん。随分と小さい願いなのね」

 

そう言って、両姫は腕を組んで考え込む動作をしながら彼女に視線を向ける。

 

「小さいとか大きいとか両備には関係ないの。小さい胸でも想いがいっぱい詰まっていればそれはもう爆乳って呼んでも良いはずだから」

「それはないぞーっ、爆乳は胸が大きいから爆乳と呼ぶんだーっ!」

「両備ちゃん、何か話がずれてるよ……」

「勝手に喋るなっ!バカ犬とその他っ!!」

 

両備の言葉に戒と両奈は野次を飛ばすが反射的に彼女は二人にツッコミを入れると、改めて両姫に自分の想いを吐露していく。

 

「両備は何をやってもすごい姉さんに反抗しているだけの子どもだった……だから、言っちゃったんだと思う。『姉さんなんて死んじゃえ』って……」

 

そしてそれは自分の本当の想いを縛り付けることになった、だから今まで彼女に対して素直に気持ちを表現出来なかった。

でも、今は違う……。

 

「そっぽ向いて反抗なんてしない。両備は、真正面から姉さんと向き合うから」

「……」

「忍の誇りは何時でも高く持っている。けど、妖魔から世界を救うこととカグラを目指すことは、姉さんを乗り越えてからの話」

 

「だから」と、両備は拳を握り締めた。

 

「両備は姉さんに勝つ!そして姉さんを成仏させてあげるっ!!」

「……本当に、立派になったわね」

 

迷いのないその言葉に両姫は微笑んだ。

両備だけではない、両奈も、戒も、琴音も…自分が子どもだと思っていた彼女たちは逞しく、大きく育った。

本当に嬉しい、その気持ちに嘘偽りはない……だからこそ。

 

(二人を返り討ちにしなくっちゃね♪)

 

気持ちの整理をつけると、両姫も武器を構えた。

 

「両姫お姉ちゃんは……何時でも強く!何処でもたおやかに!忍の道を貫き通しますよっ!!」

 

その言葉が激闘の合図となった…忍転身をした両備はすぐさまスナイパーライフルで狙撃する。

当然、両姫はそれを盾で防ぐが距離を詰めた両備が鋭いハイキックを繰り出す。

不意を突かれた両姫だがそれをバックステップで躱すと、着地点を狙うように両奈の銃撃が襲い掛かる。

 

「くっ!」

 

少し被弾するが、大したダメージではない。

盾を少し前に突き出すと、内蔵されていた銃器が露わになる。

 

「秘伝忍法『HAPPY MISSILE』ッ!!」

「きゃっ!?」

 

そこから発射されたミサイルランチャーによる爆撃に両備は巻き込まれるが煙に紛れるとスナイパーライフルを構える。

精霊術で生成した機雷を放すと、魔力で生成した一発のライフル弾を装填して発射した。

 

「秘伝忍法『リコチェットプレリュード』ッ!」

 

連鎖的に起こった爆発が両姫を包み込む、ダメージを与えることに成功したが彼女の手元には盾がない。

疑問を覚えた両備だったが両奈の声で上空に顔を向けると、両姫の真上にあるのを確認した。

 

「秘伝忍法『HAPPY RAIN』!」

「うわわっ!?」

 

ショットガンの散弾を周囲に跳弾させた秘伝忍法に両備たちは慌てて回避するも、両奈は二丁拳銃を乱射して追撃を阻止する。

 

「う~、やっぱり両姫お姉ちゃんは強過ぎるよ」

「……本当にそうなの?」

 

「え?」と両奈が聞き返すよりも先に両備はショットガンを突きつける両姫に尋ねる。

 

「姉さん、本当にそれが姉さんの全力なの?」

「……」

 

沈黙する彼女だが、これで確信を持てた。

強い意志を瞳に宿した両備は手加減をする両姫に自嘲的な笑みを零す。

 

「分かるよ、それぐらい。本気か本気じゃないかくらい……でも、手加減して戦っておいて、両備たちの想いはそんなものなのっ!?」

 

指を突きつけた両備は両姫に向かって強い口調で叫ぶ、お互い悔いを残したくないからこそ彼女は要求する。

 

「戦うんだったら、本気で来いっ!それで死んだって本望……両備は忍なんだ!!」

「……そうね、ごめんなさい。両備ちゃんの言う通りだわ」

 

自分が本気じゃないのに、向こうには本気で戦えと言っても説得力はない。

それは勝負ではない、自分はあの二人と本気で戦う義務がある。

だから……。

 

「……殺す気で行きます」

 

自分の手で、自分の意思で輪っかに触れた。

途端、両姫の身体には激情と闘争心が湧き上がると内に秘めていた魔力が緑色のオーラとなって溢れ出る。

絶・秘伝忍法『HAPPY TURN』……自身の戦闘能力を増幅させる奥の手中の奥の手。

 

「これが本気の本気じゃあああああああああっっ!!今更土下座しても許さんからなああああああああっ!!!」

 

ショットガンと盾を投げ捨てると、最初に自分が眠っていた棺桶を手元に呼び出し、地面に叩きつける。

途端、叩きつけられた箇所から罅割れが起こる。

 

「ごらああああああああっっ!!クソボケ両備とアホンダラ両奈あああああああああっ!かかってこんかあああああああっっ!!!」

「来いっ!!」

 

荒々しい口調でまくし立てる両姫に、改めて両備と両奈も武器を構えた。

両姫が地面を砕きながら前進すると棺桶を振り下ろす。

それを躱すと地面に叩き付けた棺桶から上方向にミサイルが数発発射される。

 

「それ本当に棺桶っ!?何でそんなもの内蔵されてるのよ!!」

「両備ちゃん!言ってる場合じゃないよっ!?」

 

二人が驚くも、それを無視して彼女は棺桶を構え直すと今度はガトリンガンが顔を見せる。

そのまま高速回転すると無数に近い弾丸が発射されるが両奈と両備の銃撃で相殺する。

両姫との距離を詰めた両備と両奈が一撃を浴びせると、彼女の身体は吹き飛ばすが受け身を取って地面に降り立つ。

もう一度、ミサイルを発射しようと棺桶を展開した時だった。

 

「っ!?」

 

両姫の周囲には六つの機雷が旋回していたことで攻撃を一瞬だけ躊躇してしまう。

それが命とりだった。

両奈が前方へ滑走しながら銃撃し、そこから回転して周辺を銃撃すると片足で回転して広範囲にキックと銃撃を浴びせた後、ポーズと共に自分の周りに氷を発生させる絶・秘伝忍法『リベリオンコンチェルト』が両姫を襲う。

そして、彼女は見た……円形の射撃ユニットを召喚、武装している両備を。

 

「絶・秘伝忍法『メヌエットミサイル』」

 

ユニットから発射されたミサイルを三個ずつ十六回発射し、最後に六つのミサイルをまとめた巨大なロケットを両姫に向けて発射した。

爆風が止むと、そこには膝をついた両姫がいる……決着がついたのだ。

 

「はぁっ、はぁっ!…強く、なったわね。両備ちゃん、両奈ちゃん」

「姉さん、ありがとう」

「両姫お姉ちゃん……」

 

元に戻った彼女の元に、両備と両奈がゆっくりと歩み寄ると彼女に手を貸した。

全員が全員、彼女たちの戦いを見届けており、やがて戦いを見ていた小百合が前に出る。

ようやく、この祭りが終わる……だが、これまでの戦いを観察していた襲撃者はその終わりを許さなかった。

 

「やっと終わりましたか」

「っ!がはっ!?」

「ばっちゃんっ!!」

 

その声に小百合が振り向いた時には既に遅かった。

腹部に鋭い衝撃が走ると彼女の身体は吹き飛ばされ、地面に倒れるのを飛鳥と焔が駆け寄る。

雪泉たちは突如現れた襲撃者に攻撃しようとするが、彼を守るようにバイシクル・エラーとシーフ・エラーが並び立った。

一方の襲撃者…フェニックスはわざとらしい拍手をすると恭しくお辞儀をする。

 

「若き忍の皆さん、誠にお疲れ様でした。つきましては、ここからこの私…フェニックスが不肖ではありますが後夜祭の指揮を行わせていただきます」

 

彼女たちの言葉や動揺を無視して、フェニックスは自身の巻物を取り出すと自身の得物であるステッキを空にかざす。

 

「…我流・秘伝忍法『輪廻転生』」

 

呟いたのと同時に、ステッキを地面に突き刺した。

その瞬間、大きな揺れが全員に襲い掛かりそんな中で戒はフェニックスを睨む。

 

「何をしたっ!」

「簡単ですよ、この空間を現実世界と一つにさせるのです。私の羽根をこの空間の全体にばら撒いておきましたので完全に馴染むはずです」

 

彼の発言に戒は驚いた表情を見せる。

フェニックス・エラーの目的はこの空間を永遠に留めることが目的だと思っていたからだ…彼の顔を見たフェニックスは楽しげな笑みを彼に見せる。

 

「流石にあなたにも分かりませんでしたか?なぜ私が『この空間を忙しなく動き、再生したエラーを動かしていた』のか……」

 

その言葉が戒の頭の隅に入れておいた疑念にぴったりと噛み合う。

そうだ、思えばフェニックスは一つの場所に留まらずにいくつもの場所に現れていた。

疑問を持つことはあったが再生エラーの除去に集中していたためスルーしていたのだ。

だが、もし再生エラーが囮だったとしたら?作戦を円滑に進めるために必要な駒だったとしたら?フェニックスが自分の分身とも呼べる羽根をあちこちにばら撒いていたとしたら……!?

 

「まさか、最初からこのために…!!」

「気づいたところで、もう遅い……これで世界はこの空間そのものとなるっ、もう誰も死なない、誰も傷つかない世界へと変わるのですっ!!」

 

そう狂ったように笑うとフェニックスは「忍転身」と呟き、起動させたエラーカセットをエラーブレスに装填する。

 

【LOADING…~♪!RIDE UP! PHOENIX! BAD and DEAD END! THE ERROR…!!】

 

濁りきった電子音声が鳴り終わると、彼の身体は怪人としての姿……フェニックス・エラーに変わる。

しばらく歓喜に満ちた笑いをしていたフェニックスだったが怪訝な表情をする。

全員が全員、自分に対して敵意を向けた視線を送っていたからだ。

「なぜ」と驚く彼に対して、両姫がゆっくりと立ち上がる。

 

「あなたは勘違いしているわ、『死』がなくなった世界に意味なんてない。そんな世界、理想郷でも何でもない」

『死人風情が口を開かないでください、残された者の気持ちなど分からない癖に』

「…両姫姉さんの言う通りだよ」

 

両姫の想いを斬り捨てるが、その言葉に賛同したのは他でもない…戒だ。

帽子の汚れを取り払って被り直すと彼から視線を逸らさずに正面から見据える。

 

「誰も死なない世界?誰も傷つかない世界?ふざけんな、結局のところお前は誰かの死が怖くて駄々をこねているだけのだ臆病者だ。もう一度言うぞ、ふざけんな」

『…死を恐れて何が悪いのですか、そんな世界を望んで何が悪いのですかっ、死に対して臆病になって何が悪いのですかっ!!それは、当たり前の感情じゃないですかっ!!!』

 

その言葉にフェニックスは初めて感情を露わにする。

壊れた彼は自分に向けて放たれる言葉が理解出来ない、なぜ拒む?なぜ否定する?なぜそんな悲しい視線を向ける。

混乱するエラーに、両姫は優しく言う。

 

「そうですね…それでも、あの子たちは生きていくのですよ」

『っ!好い加減にしなさいっ!!』

 

彼女に向かって火炎弾を飛ばすがそれを弾き飛ばす物体があった。

赤く輝くマシン…ドライグハートが両姫を守ったのだ。

 

『時間はかかったが、これでアーサーの装備は全て揃った』

「さぁて、と……反撃開始だ」

 

左手をスナップしてからアーサードライバーを腰に巻きつけると、戒はドラゴンカセットのスイッチを押して起動する。

 

【DRAGON!!】

「変身っ!」

 

グリップを握ってトリガーを引いた途端、ドライバーから竜を表すグラフィックと電子音声が流れた。

 

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

 

戒の周囲をドラゴンの霊装が旋回すると、黒いスーツを纏ったその身体に覆い被さる。

その場に降り立つのは王の名を持つ仮面の騎士。

 

『何なのですか…あなたは、あなたは何者なのですかっ!?』

 

フェニックスは睨む、自分の思いを理解せず、否定しなおも眼前に立ちはだかる少年を。

 

「仮面ライダー…」

 

アーサーは名乗る、絶望に染まり身も心も怪物へと堕ちてしまった『人間』へと。

 

「俺は、仮面ライダーアーサー!さぁ……お前の物語、ここで終わらせるっ!!」

『Start our heart!!』

 

仮面ライダーアーサーは宣言すると、フェニックス・エラーへと駆けだした。




 EV編もクライマックスです。フェニックスはどうなるのか?両姫は最後に何を語るのか?色々と期待していてください。
 ではでは。ノシ


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COMBO20 終焉×別れ

 EV編、これにて完結です。前半はバトルが多いですがそこは大目に見てもらえると嬉しいです。
 ちなみフェニックス戦は『Spinning Wheel(歌:門矢戒・幸村琴音・両備・両奈)』でエンディングはEVのエンディングテーマでもある『夏火(歌:両備)』でイメージしてください。
 後、活動報告の方である募集を行っていますのでよければ覗いていってください。
 それでは、どうぞ。


何時の間にか距離を詰めていたアーサーの蹴りがフェニックスの頭部を捉えた。

動揺していたフェニックスはすぐに気を取り直すとバックステップでアーサーたちから距離を取りボウガンとステッキから弾幕を放とうとする。

しかし……。

 

『何っ!?』

「狙い撃つわっ!!」

 

両備の狙撃によって弾幕が相殺される、威力を強めるがアーサーによる冷気を帯びた抜刀を胴体に受けると、今度は琴音のハルバードを浴びる。

体勢を崩したフェニックスに新たに召喚した戦斧を叩き込もうとするがボウガンで防御し、弾き飛ばす。

 

『図に乗るなっ!秘伝忍法「火炎一葬」っ!!』

「させないよっ!」

 

魔力で生成した火炎弾を飛ばすが両奈の変則的な射撃術とリズムリンクにチェンジしたアーサーのロックオン狙撃で競り勝つ。

同時にアーサーと両奈は合体秘伝忍法を発動する。

 

「「合体秘伝忍法『ガンショットノクターン』ッ!」」

『ぐあああああああああああっっ!!?』

 

リズムゲームアプリの力を利用した不可視と無音のショットをフェニックスに発砲する。

なす術なく吹き飛ばされたフェニックスは翼を広げると、ボウガンとステッキを構える。

 

『秘伝忍法「紅蓮天翔翼」っ!』

「両奈っ!ぐぅっ!!」

「カー君っ!」

 

炎を纏った急降下を利用したタックルが、両奈をかばうために突き飛ばしたアーサーに命中する。

タックルと高熱によるダメージに身体を蝕まれるが、ファンタジー系アプリのマジシャンカセット起動しドライバーにセットするとグリップのトリガーを引く。

 

【RIDE UP! MAGICIAN! 魔法、錬成!WHITE FANTASY!!】

【ATACK ARTS! CHARGE!!】

『っ!しまっ…』

「遅いっ!!」

 

腕力強化したマジシャンリンクのパンチを叩き込まれたフェニックスは地面に激突してワンバウンドすると片足を掴んだアーサーに再度叩きつけられる。

しかし、捕まれていた自分の脚を斬り捨てると胸元に羽根を突き刺して脚を再生する。

同時にポーントルーパーを複数召喚すると両者は対峙する。

 

「器用な奴」

『はぁっ、はぁっ!やって、くれましたね…!!』

『気を抜くな、四人とも…行くぞっ!』

 

ウェルシュの掛け声と共に四人は一度に駆けた。

 

 

 

 

 

『ヒャッホー!!エキセントリックなスーパーテクニックで行くぜえええええっ!』

『さぁ飛ばすぜっ!』

 

暴走態となったバイシクル・エラーに跨って暴れ回るシーフ・エラーに雪泉たちは近づけずにいるが焔たちが張ったロープに引っ掛かって派手に転ぶと飛鳥たちがそこを狙う。

互いに縁のある者と組むとバイシクルとシーフに武器を構えて突貫する。

 

「春花さんっ!」

「行くわよ、雲雀」

 

春花の傀儡で足止めした隙に雲雀が忍兎で起き上がろうとしたバイシクルに直撃すると、未来の弾幕で撹乱と共に雨属性を帯びた柳生の弾丸が撃ち抜く。

 

「…もっと撃てるか?」

「当然っ!まだまだやるわよっ!!」

 

一方、シーフはポーントルーパーを利用したコンビネーションを始めようとするが詠が大剣で怯ませた三体を斑鳩の居合を浴びせた後、身体の柔らかさを活かし両脚で挟んだ怪人を投げると、葛城はバッティングの要領で蹴り飛ばした。

 

「流石ですね、詠さん」

「斑鳩さんも腕は衰えていないようですわね」

「葛城、最後や」

「よっしゃっ!!」

 

最後の一体を蹴り上げた途端、上空にいた飛鳥が斬り裂くと地上にいた焔の後ろに並び立つ。

 

「それが、あいつの力か…」

「うん、戒君が繋いでくれた私たちの力だよ」

「そうか」

 

飛鳥の言葉に焔は頷く…男性に対してあまり良い思い出がない彼女だが友である飛鳥の言葉を否定しないほど愚か者ではない。

未だ話したこともない少年に興味と期待を抱きながらも、目の前の敵に対して武器を構えた。

 

「サポートは私がやる、止めはお前に任せるぞ」

「うんっ!」

 

 

 

 

 

巫神楽三姉妹と両姫は極めて厄介な二体のエラー…ステルス・エラーとマグネティック・エラー戦っていた。

ステルスの奇襲とマグネティックの能力による移動制限、そして後ろにいる小百合を守りながらの戦いに苦戦を強いられる。

やがて、ステルスの一撃が華風流の身体を吹き飛ばした。

 

「ぐぅっ!!」

「「華風流(ちゃん)っ!!」」

 

地面に倒れる彼女を抱き抱える蓮華と華毘の隙を狙うようにマグネティックが生成した鉄塊が襲い掛かるがそれを両姫のショットガンで相殺する。

 

『くそっ!!忌々しいっ、忌々しいぞっ!仮面ライダーも、その味方をする貴様らにもっ!!』

『ですが、所詮は人間と精霊の転生体…我々に勝てる道理などありません』

 

苛立ちを露わにするステルスと、彼とは対照的に冷静なマグネティックが歩を進めた時だった。

彼らの影にクナイが刺さった途端、まるで金縛りにでもあったかのように身動きが取れなくなる。

 

『何ですかこれはっ!?』

『ぐっ、うぅっ…!!?』

 

困惑する二体に背後からある存在が近づいてくると、ステルスの後頭部に固い物体を押しつけた。

固い物体……銃口を突きつけられた彼は驚愕する。

 

『き、貴様…』

 

遮るようにその存在…スナイパー・エラーは引き金を引いて頭を撃ち抜かれたステルスが消滅したのと同時にマグネティックの頭部をショットガンで粉砕した。

二体のエラーが消滅したのを確認したスナイパーが合図を送ると岩場の陰から黒影が出てくる。

 

「……黒影」

「何とか、間に合ったな」

 

得意気に喋る黒影だったがその身体は既に限界が来ており、粒子化が起き始めている。

未練のなくなった忍はあの世へと返される…だが、彼は最後の最後で友の妻でありかつて愛した女を救ったのだ。

小百合は立ち上がると彼の元に歩み寄る。

 

「…何か言い残すことはあるかい?」

「ない……もう未練はなくなったからな」

「…そうかい」

 

小百合と黒影は互いに笑みを見せると彼は光に包まれて姿を消した。

それを見届けたスナイパーはこの場から立ち去り、やがて人気のないところまで来る、そしてライフルを召喚して自身に向けると躊躇なく引き金を引いた。

発砲音と共に地面に倒れた彼は視界に広がる綺麗な空を眺める、エラーカセットの一人格でしかない自分が空の美しさを知った…勿体ないぐらいの収穫だ。

 

『……俺も、正義のヒーローになれたかな?マス、ター…』

 

この場にいない自身の融合者に呟いた彼の身体は黒いノイズ状になって原型を失うと、壊れたエラーカセットと傀儡だけが残った。

 

 

 

 

 

「「合体秘伝忍法『12の乱舞曲』っ!!」」

 

両備が生成した十二個の機雷を無数のポーントルーパーたちの周囲に設置すると琴音は地面を戦斧に叩きつけたことで生じた衝撃波を飛ばす。

すると、機雷の爆破と衝撃波によってポーントルーパーが殲滅したのと同時に両備は、リズムに乗ってピアノアローで攻撃しているアーサーと並んだ。

 

「「合体秘伝忍法『JACK POT』ッ!!」」

『がああああああああああっっ!!!』

 

音速のスピードで放たれた銃撃と矢がポーントルーパーたちの隙間を縫うようにフェニックスの顔面に命中した。

煙を上げる顔を抑える彼は、猛禽類を思わせるモノアイで忌々し気に睨むと懐から木片を取り出す。

 

『こんなところで終われるかあああああああああっっ!!我流・秘伝忍法『不死鳥変化』っ!!』

 

炎となった魔力を全身に放出させてから、ユグドラシルから譲り受けた木片を胸に突き刺すと、最後のヤグラを巻き込みながら赤いデータ状の魔力が彼の姿を変貌させていく。

 

「何だよ、あれっ…!?」

『まさか、ここまで強大とは……!!』

『ピイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!!』

 

アーサーとウェルシュが恐れる中、『フェニックス・エラー 暴走態』が鳴き声をあげる。

ヤグラを思わせるような赤い甲冑に身を包んだ巨大な不死鳥の怪物は空高く舞い上がると空間全体に向けて火柱を起こす。

 

「何だあれはっ!?」

「と、鳥っすよ華風流ちゃんっ!!」

「……段蔵っ」

 

突如現れて火柱を起こす存在に雅緋は驚きの声をあげ、華毘に至っては完全にパニクってしまい隣にいる末っ子の肩を叩いている。

そんな中、小百合だけは『彼』を人間として見ていた。

一方のアーサーたちはフェニックスによる攻撃を回避するのに必死であり上空にいる敵に対して対策を練る。

 

「どうすんのよっ!?あれじゃ攻撃も届かないじゃない!」

「じゃあじゃあ!両奈ちゃんがあの熱いのに飛び込んで…」

「消し炭なるからね、両奈ちゃんっ!?」

『このままでは…うん?』

 

両備が三人に叫ぶと両奈は半ば自殺願望に近い発言にツッコミを入れている中、ウェルシュも作戦を考えていると、ふとマテリアライズに成功したドライグハートが光っていたのだ。

「戒っ!」とアーサーに指示を出すと、彼はドライグハートの中に近づく。

 

「何だ、一体…?」

 

ドラゴンリンクへとチェンジしたアーサーが恐る恐る手を触れた時だった。

何とドライグハートの装甲から赤い魔力の粒子が散布されるとマシンの横に着くように巨大なウィングとファンが模られた装備『ウィングブースター』が現れる。

かなりのサイズがあるそれは人ひとり乗せることも可能となっている。

 

「ウェルシュッ!?」

『いや知らないぞ私は…リアと千歳め、私に無断で勝手に改造していたなっ!!』

 

あまりにも急な装備にアーサーは驚いてウェルシュに尋ねるが、彼はこの場にはいない二人に文句を述べる。

だが、これはチャンスだ。

 

「乗れっ!みんなっ!!」

「「「っ!!」」」

 

彼の声を聞いた琴音と両備、両奈は迷うことなく『ドライグハート・ブースター』となったマシンに乗る…その際、琴音がアーサーの後ろに座り少し空気が重くなったのは気のせいだろう。

全員がドライグハートに乗ったのを確認したアーサーはアクセルを全開にするとウィングブースターにエネルギーが集まり大空へと飛び立つ。

 

「フェニックス!!」

『ピイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!!』

 

自分の名を呼ぶちっぽけな虫けらにフェニックスは威嚇すると、羽根を弾幕にして発射するがアーサーはドライビングテクニックで回避し、両備と両奈は当たりそうな攻撃を秘伝忍法で相殺する。

 

「絶・秘伝忍法『メヌエットミサイル』!!」

 

複数のミサイルと巨大ミサイルはフェニックスの弾幕を吹き飛ばしながら空を縦横無尽に飛び回るフェニックスの巨大な翼を迎撃する。

 

『ピイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!』

「よし、翼逝ったっ!!」

「ナイス、両備っ!!」

 

激痛で身体を悶えさせたのと翼を狙われたことで動きを制限されたフェニックスを見た両備はガッツポーズすると、アーサーは彼女にサムズアップを送りドライグハートは空高く浮上する。

ウィングブースターの上で両奈は牽制による銃撃を行いながらも、ドライグハートはフェニックスとの距離を詰める。

次に動いたのは琴音だった。

 

「このまま、落ちろおおおおおおおおおおおおおっっ!!」

 

飛び上がった琴音が自由落下に勢いを足した戦斧による一撃をフェニックスの脳天に振り落とした。

続くように、ウィングブースターから飛び降りた両奈が魔力を纏わせた回転キックを数回行い、前方へ蹴り上げて脚を振り下ろした。

もちろん、アーサーはドライグハートを動かして二人を無事に救出する。

 

「秘伝忍法『スケーターズワルツ』ッ!!」

『ピイイイイイイイイイイイイイイイッ!!?』

 

琴音の重い一撃と両奈の秘伝忍法による致命傷を負ったフェニックスに対してドライグハートが突撃してきた。

直撃したことでフェニックスは大きなダメージを負い、高度も低くなっている。

やがて、ダメージが蓄積されたことで正気に戻った彼が問いかける。

 

『何故、デスカ?何故、アナタ方ハ大切ナ人トノ別レを恐レナイノデスカ…!?』

「確かにさ、怖いよ。大切な人がいなくなることは怖いし、別れることは辛い」

 

「だけど」とアーサーは顔を上げる。

迷いのない声で、はっきりと言葉に出した。

 

「それを受け止めることで、人は強くなれる。どんな悲しくても辛くても、前を進めるようになるんだっ!だから俺たちは生きているんだよっ!!」

 

そうフェニックスに向けて叫ぶと、アーサーはドラゴンカセットを抜き取り左腰のスロットに装填すると赤と緑のボタンを同時に押した。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! DRAGON!!】

「これで終わりだあああああああああああっ!!フェニックスウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッ!!!」

『ピイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!!』

 

オート操作に切り替わったドライグハートから射出されるようにアーサーの飛び蹴りが炸裂した。

炎と冷気+強化された脚力によって繰り出された『ドラゴンストライク』がフェニックス・エラーの胸に突き刺さると、フェニックスは内部から漏れ出すエネルギーによって爆発する。

そして一人と一体は隕石のような勢いで、けたたましい音と共に森林へと激突した。

 

 

 

 

 

「ぐぅ、うっ……!!」

 

人間態へと戻ったフェニックスは森林の奥を歩いていた。

エラーブレスにセットされたカセットに皹が入る度に激痛が走る。

この損傷では変身することも出来ない、ましてや回復することだって不可能だ。

……救いたかった。

フェニックスは人間だったころの自分を思い出す。

そうだった、自分は若者たちに忍の存在意義と厳しさを教えていた。

生徒たちは五人と少なかったが、それでも自分の授業に真摯に聞いたり眠っていたり、特訓では涙を流しながらも最後にはみんな笑顔だった。

卒業生となった彼らを自分は一人一人祝福した。

生徒の一人は弱き者を守る忍を目指すと言ってくれた。

生徒の一人は善悪関係なく、人間を守る忍になると言ってくれた。

生徒の一人は交際している女性がおり、愛する人を守れるような忍になると言ってくれた。

生徒の一人は大人しかったが、強い忍になると言ってくれた。

生徒の一人はクラスの紅一点で、やりたいことを両立出来る忍になると言ってくれた。

だが、彼らは妖魔の手によって全滅した…他ならぬ自分の力不足のせいで。

実を言うと、そこからのことは覚えていない……気が付いた時には妖魔は灰となって消滅していたのだ。

そして数年後、知ったのだ…カグラ千年祭の秘密とその概要を。

ならば無理ではないか、いくら鍛えたところで何時かは死ぬ。

あんなことを体験させるつもりなのか?亡くなった人に合わせて、その人の古傷を抉ることがそんなに楽しいのか?そんなの不条理だ、誰も望まない。

自分には、耐えられない……。

自分のように残された人間が苦しむのを見ていられなかった。

自身の秘伝動物のように、死してなおも復活する不死鳥のように……この悲しみから解放されたかった。

だが、救済のオーナーはその想いを受け止めてくれた、力をくれた。

今度は自分が救う番だ。

死の概念が存在しない、亡くなった最愛の人と永遠の時を歩み続けることが出来る…誰も苦しまない世界に変えるために……。

 

「ガハッ!!」

 

カセットに大きな皹が入り、地面に倒れてしまうもそれでも進むことをやめない。

どうして進もうとしているのかも分からないまま身体を動かそうとすると、一人の人物が現れる。

 

「小百合、様」

 

その人物……小百合はあの時と変わらぬ表情で話しかけてくる。

 

「段蔵……本当に不器用じゃの、お前さんは」

「……」

 

彼女の言葉に返事をすることすら出来ない…荒い息を吐くことしか出来ない自分に困ったように微笑むと小百合は言葉を続ける。

 

「お前さんのやろうとした世界は…望んだ世界には確かに恐怖はないじゃろう。素晴らしいことかもしれんが、やはりあたしは賛成出来ん」

 

「なぜですか」と視線を動かすと、その意思を受け取った彼女はゆっくりと頷く。

 

「その世界では、ただ歩み続けることしかしないからじゃ。恐怖を受け止めて歩むこととは全然違う…じゃからこそ、その歩みは特別なものになるんじゃ」

「……」

「勇気じゃよ…あたしは生と死も必要なことじゃと思っている…そこで大人しくしておれ」

 

そう言って小百合はこの場から去って行く。

カセットの亀裂が酷くなっていく……そろそろ限界だろう。

「一人で消えていくのか」と自分の末路に自嘲的な笑みを見せると、ゆっくりと瞳を閉じようとした時だった。

 

「……先生」

 

聞き覚えのある声と、懐かしい呼び方に顔を上げる。

そこには、何時の間にか五人の男女がおり全員が彼を見下ろしていた。

 

「先生、無茶しすぎですよ」

「真面目な癖にバカなとこは変わっていないよな」

「君が言えたことじゃないでしょ?」

「でも、先生は僕たちのために」

「……」

 

懐かしい姿で、懐かしい声で、懐かしいやり取りを自分の前で行う彼らに段蔵は涙を零していた。

やり取りをしていると、最後の一人が自分の前に屈んで話しかけてくる。

 

「こんな身体になってまで、本当にバカだよ。先生、私の言ったこと覚えてる」

 

何だったか?確か……そうだ、どうして忘れていたのだろう。

口を動かす。

 

「うん、『前を向いて生きて』……やっと思い出してくれたね、先生」

 

涙を零して嬉しそうに頷いた彼女に申し訳ない表情をする。

教え子の遺言一つすら有言実行出来ないとは情けない話だ。

 

「行こう、先生」

「また教えてくれよ、先生」

 

彼らの笑顔を見ていると、何故だか痛みが引いてくる…そうか、もう自分は苦しまなくて良いのか……。

その時の光景は幻だったのか分からない。

彼らと共に、自分が光のある道へと歩いていく光景を見届けると、段蔵はゆっくりと瞳を閉じた。

 

【GAME OVER】

 

無機質な電子音声とエラーカセットが音を立てて壊れると、段蔵の姿は粒子状の魔力となって消滅した。

 

「……」

 

その光景を見届けた戒は帽子を深く被ると、黙ってその場から去って行った。

 

 

 

 

 

あの激闘から数時間後、騒々しかった場所は落ち着きを取り戻しており戒がここに戻ると、両備は両姫に話しかけていた。

その声には心配の色があり、素直な気持ちを出している。

 

「姉さん、大丈夫」

「平気よ、両備ちゃん」

 

微笑んでそう言葉にした彼女に安堵すると、両姫は両備に話を始める。

 

「両備ちゃんに死んじゃえって言われたこと……気にしていないってのは嘘」

「……やっぱり、そうだったんだ…ごめんなさい。両備、何て謝れば……」

 

申し訳なさそうに謝罪をする両備に対して、両姫は「ううん」とゆっくり首を横に振ると話を行う。

 

「ううん、謝るなんて逆。お姉ちゃん、嬉しかったんだよ…ずっと、私の後を子犬みたいについて来ていた両備ちゃんがあんな風に反抗するようになって…『ああ、成長したんだな、大人になったんだな』って。本当に嬉しかったの」

 

そう話す両姫の表情はとても楽しそうであり、嘘偽りがないように見えた。

彼女は話を続ける。

 

「だから、両備ちゃんも両奈ちゃんも忍になったら、姉も妹も関係なく同じ女の子として、一緒に競い合ったり悩みを相談し合うのが本当に楽しみだったの」

 

そうすれば、また両備と仲良く出来ると思ったから……だけど、その前に自分は亡くなってしまった。

それが本当に悔しかった。

 

「ごめんね。死んじゃって、本当にごめんね」

「「……」」

 

その言葉に両備は何も言わず、戒と琴音も黙っていた。

しかし、その目には涙が溜まっており泣きそうになるのを堪えていた。

両姫も目に涙を溜めているが、指でそれを拭き取ると何時もの笑みを見せる。

 

「でも、二人の成長も、戒君と琴音ちゃんも成長もしっかりと肌で感じられたわ。もう心残りなんてない」

「両姫。良くみんなの壁になってくれた、心から礼を言うぞ」

「本当にありがとうございました、両姫さん」

 

両姫の言葉に小百合と飛鳥の二人がお礼の言葉を述べる。

「だけど」と飛鳥は先ほどの小百合の言葉を訂正する。

 

「私からしたら、両姫さんは『盾』でした。だって、私たちのために身体を張って戦ってくれたんですから」

 

そう言って飛鳥は握った拳を胸の前に持っていく。

忍にとって必要な力である『刀と盾』……幼いころから祖父に教わったその言葉はずっと言い聞かされていたが改めて知ることが出来たのだ。

その表情を読み取った小百合は締めの挨拶をする。

 

「それではこれにて祭りは終いとなる、優勝は…」

「待って…両備は先に負けているから優勝は無効だよ。でも、もし妖魔と戦うことが忍務になったら、命を懸けて戦うから…悪忍の誇りに賭けて」

 

小百合の言葉に待ったをかけた両備は改めて自分の決意を言葉にする。

それを聞くと、彼女は巫神楽三姉妹に指示を下す。

 

「それでは、巫神楽三姉妹…終わりの儀式の準備じゃ!」

「「「はいっ!」」」

 

三人が儀式の準備を始める中、両姫の元に集まるように戒と琴音、両備と両奈が駆け寄る。

やがて、両姫が意を決したように口を開いた。

 

「…みんな。お姉ちゃんは、世界で一番幸せなお姉ちゃんだったわ」

「両備たちも、世界で一番幸せな妹だったよ」

「うん、うんっ!両奈ちゃんも、絶対…そう思うっ!!」

「姫お姉ちゃん、久しぶりだったけど…とても楽しかったよ」

「ありがとう、両姫姉さん」

 

両備に続くように両奈、琴音、戒が返事をするが、その声は震えており涙が止まらなかった。

そして、両備が一番言いたかった言葉を口にした。

 

「ありがとう。お姉ちゃん、本当にありがとう。ありがとう!ありがとう…」

「両備ちゃん、両奈ちゃん、戒君、琴音ちゃん。ありがとう、さようなら……永遠に大好きよ」

 

その言葉が、最期の挨拶となった。

三姉妹の舞踊が開始されると、両姫の身体は淡い光に包まれていく。

そして、小百合に一礼した彼女は全員に見送られる形で天へと昇って行った。

両姫が成仏したのを見送ってから数時間後、飛鳥は自分の祖母に疑問をぶつける。

 

「……あれ?ばっちゃん、もう祭りは終わったんだよね?どうして元の世界に帰れないの」

「当り前じゃ、まだまだカグラ千年祭は終わらんよ……と言うわけで、第二回『ドキ!忍だらけの水上運動会 ポロリもあるよ!』を開さ…」

 

そこまで言い続けた途端、ガラスの割れるような音が響き渡った。

見ると、上空には割れた空間がありそこには謎の人影がある。

何事かと全員が身構えると三人の人物が不時着する…いや、少なくとも戒や琴音などの幼馴染組はすぐに分かった。

一人の人物がすぐに目当ての人物…つまり戒へとタックル紛いのハグを行った。

 

「ふ、ふふ…見つけましたよ息子二号ううううううううっっっ!!!!」

「げふううううううううっっ!!?」

 

己の母親でもある美緒の突撃に悲鳴をあげながら転がるが彼女は胸ぐらを掴むと思い切り彼を揺らす。

 

「携帯の連絡が通じないと思ったのでもしやと思いましたがこんな浦島太郎状態の空間にいるなんて、とてつもなく心配したじゃないですかごらあああああああっっ!!」

「……」

「何とか言ったらどうですかあああああああああっっ!!?」

「お、おばさん。落ち着いて!カー君気絶してる、気絶してるからっ!!」

 

気絶してることに気づかない美緒はひたすら戒の身体を揺らすが硬直状態から立ち直った琴音が必死に引き剥がそうとする。

だが、それよりも前に二つの影が現れるとその内の一つが戒の右腕を抱き締める。

 

「兄様、大丈夫ですか?安心してください、私が来たからには安心ですよ」

「リア、どいてください。次は私です。」

「じゃあ、二人で右腕を引っ張りましょう」

「ちょっと、両備たちの戒に何すんのよっ!!」

 

どさくさ紛れに恋人繋ぎをしようとしているリアと千歳に両備が噛みつき、それに両奈が便乗するというカオスの中、小百合は「やれやれ」とため息をついた。

……忍の道は死の定め、影に生まれて影に散る。

それでも少女たちは忍の道をひたすら走る、片道切符の運命と知ってはいても止まることなどありはしない。

だから、忍の道は儚いし報われない……それは誰も知らない名もなき花。

そして、王の名を持つ仮面の騎士は改めて決意する。

人間を捨ててまで得ようとする希望と絶望から、戦うことを……。

 

ESTIVAL COMBO……GAME CLEAR。

→To be Next Stage……。




 最後の最期でどうして美緒を出したかって?はは、気分ですよ(笑)。本当は千歳とリアだけにする予定でしたが、オチが弱いと思ったので美緒も強制的に出演させました。
 さて、フェニックスはこれで完全退場です…某ユウゴさんとは差別化を図ったりもしましたが正直もっと活躍させたかったと後悔しています。しかし中々綺麗な終わり方には出来たのではないかと思ったりします。
 色々と語ることは次のアーサーチャンネルで語りたいと思います。ではでは。ノシ


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COMBO EX5 第五回アーサーチャンネル!!

 第五回アーサーチャンネルです。五回目だけに今回のゲストは五人と多くなりました。それでは、どうぞ。


『さん、はい』

『「「アーサーチャンネル!!~~~~」」』

 

何時もの場所で、何時ものタイトルコールを行うウェルシュだが、今回司会席にいるのはリアと千歳であり多くの拍手が彼らを出迎えてくれた。

拍手がある程度止んだ辺りでウェルシュが挨拶を始める。

 

『皆さん、おはこんばんにちは。エグゼイドで好きなライダーは仮面ライダーレーザーのウェルシュだ。よろしく』

「おはこんばんにちは、エグゼイドで好きなライダーは仮面ライダーゲンム(アクション)の…出番が全然なかった幸村リアです。よろしくお願いします」

「おはこんばんにちは、エグゼイドで好きなライダーは仮面ライダーパラドクスの…同じく出番が全くなかった幸村千歳です。よろしくお願いします」

 

二人の挨拶の後に先程と同じ拍手が起こると、ウェルシュは慣れた手順で番組を進行させていく。

 

『さて、長々と前置きをするのもあれなので特別ゲスト五人を紹介しよう。それではどうぞっ!!』

 

ウェルシュの呼びかけの後に、特別ゲスト…門矢戒・幸村琴音・両備・両奈・両姫がスタジオに現れると、大きな拍手で迎えられる。

 

「おはこんばんにちは、エグゼイドで好きなライダーは仮面ライダーエグゼイドの門矢戒です。よろしくお願いしまーす!」

「おはこんばんにちは、エグゼイドで好きなライダーは仮面ライダーポッピーの幸村琴音です。よろしくお願いしまーす!」

「おはこんばんにちは、エグゼイドで好きなライダーは仮面ライダースナイプの両備よ。よろしく」

「おはこんばんにちは、エグゼイドで好きなライダーは仮面ライダーゲンム(ゾンビ)の両奈ちゃんだよ、みんなよろしくーーーっ!!」

「おはこんばんにちは、エグゼイドで好きなライダーは仮面ライダートゥルーブレイブの両姫お姉ちゃん…17歳です♪よろしくお願いします!」

 

一度に自己紹介を終えた本日のゲスト五人はゲスト席の方へと座ったのを見計らって、ウェルシュは戒に話しかける。

 

『さて、と。今回はゲストとして登場したがどうだい?ゲスト席に座った感じは』

「何か新鮮だなー、今まで司会席にいたから特に」

 

「ねー」と琴音が賛同する中、両備は呼ばれた理由を尋ねる。

 

「で?どうして両備たちが今回のゲストなの?」

「EV COMBOはあなた方五人のお話でもあったので、今回の功労者でもあるあなたたちをゲストとしてお呼びしました」

「まぁ、私たちが今回の司会なのは出番が少なかった反動らしいですけど」

 

千歳とリアが彼女の質問に答える中、戒と話をしていたウェルシュが話を切り出した。

 

『さて、この番組はどんな番組は本編で語れなかったとこ、感想であった身近な疑問を答えていく所謂「質問コーナー」だね、第一回でも触れたがこの番組はメタ発言が多い…それを好まない人はバックすることをお勧めするよ』

「では、今回はゲストに議題を決めていただきます」

「ゲストの方々、ボタンを押してください」

 

ウェルシュが注意喚起を行い、リアと千歳がゲストにボタンを押すように促すと両姫がボタンを押した。

 

【幹部エラーとフェニックス・エラーについて】

「最後の最後でフェニックス…段蔵様はエラーカセットの破壊と同時に消滅しちゃったけど、何か関係があるのかしら?」

『ふむ。まずは幹部エラーの特徴について話そう』

 

両姫からの質問に、ウェルシュは少し考えると幹部エラーについての説明を始める。

 

『幹部エラーの特徴は大まかに言うと、個別名を持つエラーカセットとエラーブレス。そして本体がエラーカセットと融合していることだ』

「前者二つは分かるけど最後が良く分からないんだけど」

『人間の身体を完全に捨てる、つまり完全な怪人へとなってしまうんだ…その際の強大な力を抑制するために魔力をエラーカセットへと送り込む。そうすることでレッドゾーンやフェニックスと言った名前を持つ幹部用のカセットへと変化するんだ』

 

全員が「へー」と納得する中、リアがフェニックス・エラー個人の話へと変わる。

(※)謂わば擬似精霊のような存在となっているためエラーカセットの人格も統合される形になります。簡単に言うと幹部用のエラーカセットはロイミュードのコアのような物。

 

「次にフェニックス・エラーですが、作者曰く『一番差別化したキャラ』とのことです」

「確か、フェニックスって仮面ライダーウィザードにも登場したからね」

「ファントムの方が『好戦的・粗野・限度ない不死性・近距離主体・戦士・救いのない終わり』だったのでエラーのフェニックスは『慎重派・丁寧な口調・限度ある不死性・遠距離主体・魔術師・救いのある終わり』と真反対にしています」

「こうすると、きちんと差別化されてるんだね」

 

フェニックス・エラーのキャラ構成に関する秘密に両奈が目を輝かせて感心する。

説明を終えると、今度は戒がボタンを押した。

(※)段蔵は忍育成機関所属の教師でしたが教え子たちを妖魔に殺された責任を取るため、カグラ千年祭執行部に異動。そこからエラーとして活動した後、幹部格へと昇格しました。

 

【EV編について】

「正直、一番苦労した話とのことです」

「すごい、カミングアウト…でも確かに色々カットされたところもあったよね」

 

千歳の複雑な表情を見た琴音は苦笑い気味に話す。

原作なら本来は群像劇めいた部分があったため全キャラに見せ場のような部分があるのだが、大幅にカットした部分があったのだ。

 

「これについては作者曰く『ほぼ原作通りになるなら書く必要ないかな?』と思ったためカットしました」

『それに、EV編は君たち五人の話を重点的にしたかったから他のキャラを出すのは難しいと判断したのもある』

「原作通りの話をぐだぐだやっても、五人に焦点が当てられないと駄目ですしね」

「だから、戒君や両備ちゃんのシーンが多かったのね」

 

流石の両姫も困ったように笑っており、弁解の言葉すらもない。

「ただ」とウェルシュが話を続ける。

 

『読んでくれた方には申し訳ないと思っているが、話のテンポと自分の力量を考えた結果、原作部分も完全再現すると、失踪していた可能性が高いと判断した上の苦渋の決断だったのでその部分は分かってくれると嬉しい』

「そう言った部分は、きちんと反省したいと言っていたので大目に見てください。本当にご迷惑をおかけしました」

 

ウェルシュとリアが謝罪を行うと、琴音が何時の間にか流れていた音楽に気づく。

 

「あれ?この曲って…」

『気付いたかな?これは、フェニックス・エラーとの戦いをイメージするため作者が聞いていた、ドライブの「Spinning Wheel」だよ。それの君たちVerだ』

「真希奈姉さんに呼ばれたのかと思ったらいきなり歌えだもんなー。あれには本当にびっくりした」

「元々三人用の曲だから、私完全に場違い感すごかったよ」

「でも、琴音ちゃん歌上手だったよ」

 

自嘲的な笑みを見せた琴音に対してフォローを入れた両奈に感謝の言葉を口にする。

一しきり語ることを終えると、今度は両備がボタンを押して次の議題へと移った。

(※)ちなみに進兄さんパートは戒と琴音、剛パートは両奈、チェイスパートは両備になっており、一番苦労したのは戒と琴音のパートとのこと。

 

【戒のフラグについて】

「カー君、ちょっと目と耳塞いでて」

「えっ?」

 

琴音がそう言われた戒は何時の間にか置かれていたアイマスクとヘッドホンを装着する、ミニ四駆とヒロインたちの会話が開始された。

 

「どうなのよ、ウェルシュ?ここにいる全員はフラグ立ってるけど、後何人とフラグを立てる予定なのよ」

『詳しくは分からないが、雅緋と忌夢、レジェンドを除くほとんどらしい。後は半蔵と蛇女の補欠メンバー、PBSに登場した夕焼と麗王も候補らしい』

「どんな一夫多妻!?私、絶対やだよっ!」

「それよりもさ、両姫お姉ちゃんはどうなの?」

 

ウェルシュの言葉に琴音は戦慄するが、それよりも両奈は一番気になっていたことを両姫にぶつける。

全員の視線が集まる中、両姫が笑みを見せて口を開いた。

 

「うふふ、どっちでしょう♪」

『……』

 

悪戯っぽく微笑んだその言葉に聞く気がなくなったウェルシュとヒロインズは各々の席に戻ると、戒にヘッドホンとアイマスクを外すように指示を出す。

 

「あれ、終わった?」

「うん、とりあえず後で考えることにしたから。全員……」

 

その言葉に戒は疑問符を浮かべるが、その様子を両姫は楽しそうに見守っていた。

 

(…本気になっちゃったらごめんね)

 

そんな彼女の心境を知ることなく、番組は続いて行った。

次にボタンを押したのは琴音と両奈…同時にボタンを押すと二つの議題がモニターに映り、やがて一つの議題へとなる。

 

【今後の方針】

「一先ずの区切りがついたので当分はゆっくり番外編と本編の構想を練るそうです」

『NOVEL大戦を進めたり、もしかしたら別の作品を投稿するかもしれない。気長に待ってくれると嬉しい』

「作者もそろそろリアルの事情が忙しくなりそうですのでご理解いただけると嬉しいです」

 

リア、ウェルシュ、千歳の順でそう言葉にすると締めの挨拶へと移行した。

 

『ここで、お別れにしようか。お相手はウェルシュと』

「幸村リアと」

「幸村千歳と」

「ゲストの門矢戒と!」

「幸村琴音と!」

「両備と」

「両奈ちゃんと!」

「両姫お姉ちゃんで、お送りしました」

 

『バイバーイッ!!』

 

全員の言葉の後、盛大な拍手と歓声と共に『第四回アーサーチャンネル!!』は締めくくられた。




 リアと千歳を今回のパーソナリティにしたのは出番が少なかったからです(汗)出番は増やしてあげないといけませんからね。
 両姫さんは番外編では少しは出してあげたい(願望) ではでは。ノシ


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NORMAL COMBOⅡ
COMBO21 ツン×デレ


 GW最後の投稿です。今回から活動報告で募集してくれたオリジナル・エラーが登場します。そして、今回は子どもっぽい三姉妹の末っ子のお話…それでは、どうぞ。


突然だが、華風流には気に入らない男がいる。

その男のことを考えただけでイライラするし、胸の奥が締め付けられる感覚がする。

おまけに、彼の話題が自分以外の口から出ただけで機嫌が良い日も最悪な日へとシフトチェンジしてしまう。

それもこれもあの男……『門矢戒』のせいだ。

彼を特別意識するようになったのはカグラ千年祭で自分の身体を抱えられた時…あの感触を今でも覚えている。

華奢ながらも鍛えていることが分かる身体と少女を彷彿させる端正な横顔、その時の自分はさながら王子様に救われたお姫様だったのかもしれないと、自分の考えとは思えないほど浮かれていた。

 

「……はぁ」

 

ため息をつく…こんなにも調子が悪いのも子どもらしい考え方をするのも全部「あいつのせいだ」と内心毒づきながらも華風流は箸を進めていた。

今は夕食時間であり、この日の当番は自分だったが美味しく出来ている。

そんな自己評価をしていると、ふと姉の一人である華毘が落ち着かない様子で食事をとっていることに気づく。

何か話したい様子だったが食事を優先するかどうか迷っているのだろう…呆れた様子で華風流は話しかけた。

 

「華毘お姉ちゃん」

「えっ?な、何すか華風流ちゃん」

「食事終わったら話しても良いから」

 

その言葉を聞いて安堵したのか彼女はようやく箸を進めだした。

 

 

 

 

 

『それの何が不満なんだ、お嬢?』

 

話を聞いていた彼女の契約精霊…イルカの秘伝動物の『ルカ』は疑問をぶつけた。

ルカが聞いた話を要約するとこうだ。

焔紅蓮隊と半蔵学院との旅行を戒から聞いて「自分たちも行きたい」と言い出した華毘が彼と共に今回の旅行を組み立て、そして夕食後サプライズとして発表する予定だったのだ。

……まぁ、自分たちにはバレバレだったわけだが。

そんな話を聞いた彼の問い掛けに華風流はため息を吐いて答える。

 

「私に内緒であのバカと約束したのが気に入らないの。しかもよりによって華毘お姉ちゃんと……」

 

そう、気に入らない。

そして想像してしまう、自分たちの中で一番のスタイルの良い華毘と仲良くしていたという事実が心を乱す。

苛々する……けど明日は早い。

明日着るための自分の中で一番オシャレな服と…なけなしのお小遣いで買った可愛い下着を出そうとした時だった。

 

「随分とお悩みだねぇ、何ならお兄さんが手伝ってあげようか?」

「っ!?…んぐっ!!」

 

突如声が響いた。

姉たちの声とは違う男性の声に振り向いて武器を取るよりも前に口を塞がれて持ち上げられる。

「お嬢!」とルカが迎撃しようとするがあっさりと下されてしまう。

口を塞がれているため悲鳴をあげることも出来ない彼女に対して謎の人物はポケットからエラーカセットを取り出す。

 

「何、これはゲームだよ。君が意中の相手を射止めるための……ね」

 

右手に握らされたエラーカセットの感触に恐怖に近い感情を抱く、そしてそんな思いを相手の人物は無視して起動させた。

 

【LOADING…GAME START…】

 

 

 

 

 

そして、翌日…門矢家では。

 

「えっへへー♪かーい、かーい。んーふふ///」

「…えっと」

 

華風流が戒の胸に顔を埋めて頬をすりすりしていたのだ。

自分の匂いを彼に押し付けるような行為と普段の彼女とは違う様子に混乱するしかない戒は蓮華と華毘の二人に目を向けるが当の彼女たちも困惑した表情を隠せない。

何しろ、家を出るまでは何時もの小生意気な彼女だったのだが戒の家に着くなり抱き締めてきたのだ。

頬を赤らめ、目にハートがあるような錯覚を覚えるほどデレデレしている彼女に少しだけ不機嫌になっている琴音が説得を始める。

 

「ねぇ、華風流ちゃん。カー君困っているから離れよ、ね?」

「嫌」

 

短く一言でバッサリと斬り捨てた彼女に琴音は軽く怒りを覚えるがそれを堪える。

その一方で混乱から抜け出せた戒は華風流を刺激しないよう、優しく言う。

 

「離れてくれない、華風流?」

「えー?んふふ、仕方ないわねー♪///」

 

最初こそ訝しんだ表情を見せたが頬を赤らめた彼女はすぐに離れる、あまりにもキャラが違う妹の様子に蓮華と華毘も恐る恐る尋ねる。

 

「なぁ、本当に華風流か?」

「お姉ちゃんたち怒らないから正直に答えて欲しいっす」

「何?私は私、巫神楽三姉妹の三女華風流。好きな食べ物はチューチューアイス、てか偽物なら気づくでしょ?はい論破」

 

二人の言葉にすらすらと自分の役職と名前、そして好きな食べ物まで言った挙句彼女の口癖まで言われたら流石の二人も本物だと思わらざるを得ない。

「本当に本物なのか」と姉二人が頭を悩まし始めている中、華風流の手にはポッキーの箱を持っており口には一本のポッキーを咥えている。

それを見た琴音はある警戒するが、当の本人は気にせず戒の元へと来ると再び彼の膝へと座りポッキーゲームを強要してくる。

 

「ちょっ…近い近いっ///」

「んー、んー♪」

「華風流っ、好い加減に…」

 

流石に悪ふざけが過ぎる彼女の行動に蓮華が長女として注意しようとした時、突然華風流が苦しみだしたのだ。

すると、華風流の身体が淡い光に包まれると驚くべき現状が起こった。

 

「「「「はっ、はあああああああああああああああっっ!!?」」」」

 

華風流を除いた全員が驚く、流石に家中に響き渡るほどの悲鳴を聞いたウェルシュと…そして魔改造の件で話を受けていたリアと千歳も駆けつけると驚くべき光景に目を見開いていた。

そう、()()()()()()()()()()

 

「ええっ!ぶ、分裂した…まさかっ!巫神楽姉妹は実は四姉妹だった…とか」

「そんなわけないって、私たちは三姉妹だっ!!」

「そうっす!流石にうちもこれだけは分かるっす!」

 

あまりの光景に見当違いの発言をする戒に姉二人はツッコミを入れるが二人の華風流は言い争いを始める。

顔が赤くなっている方の華風流が話を切り出す。

 

「あ、あんた何してんのよ!あ、ああ、あんな奴にべたべたべたべた…気持ち悪いっ!///」

「私は好きだから行動してるだけ。大体、あんたは私だから私の意思はあんたの意思…つまりこれはあんたが望んだこと。はい論破」

「論破してないっ!私はあいつが大っ嫌いなのっ!!す、すす、好きなんかじゃない!///」

「自分を全否定とかwwwwwマジワロスwwwwww」

 

全く同じ声と容姿で言い争う二人だが若干顔を赤らめていない華風流の方が優勢だ。

自分に論破されるとは思っていなかっただろう、目に涙を溜め始めた顔が赤くなっている方が地団太を踏むと自分の服のポケットに手を入れて、ある物を取り出した。

 

「好い加減に黙れえええええええええっっ!!!///」

『っ!?それはっ!!』

【LOADING…GAME START…】

 

ある物…エラーカセットを取り出して起動すると二人の華風流は姿を変えた。

両者共に背が伸びており、女性らしいラインの黒い素体と瞳を閉じたモノアイが特徴的だがエラーカセットを起動した華風流の方は氷柱やシアンカラーが基本デザインのブレザー服を来たエラーに、論破していた華風流はピンクのブレザー服に赤いリボンが全身に巻かれた装飾を持ったエラーへと変貌した。

『コントラスト・エラー クールサイド』は地団太を踏んでから『コントラスト・エラーホットサイド』に掴みかかろうとするが、あっさりと掴まれると外に追い出されてしまう。

 

『えへへー♪ポッキーゲームの続きは後でね///』

 

そう戒に言うと、コントラストHは外へと飛び出してしまった。

呆然としていたが、すぐにウェルシュの声で我に返る。

 

『戒っ!追うぞっ!』

「分かってる!」

 

 

 

 

 

二体のコントラストはビルの屋上で戦っていた。

コントラストCは刺々しい氷を拳に纏わせるとそれを叩き込もうとするがコントラストHはそれを捌く。

勢いをつけたことによって転んでしまったコントラストCはしばらく転がると、地面を拳で殴りながら言葉をぶつける。

 

『あいつに抱き着くなんて頭がおかしいんじゃないのっ!?』

『すごく落ち着いた、それに温かかった///』

『私はあんな奴大っ嫌いっ!!』

『好き好き大好きっ!戒のこと大大だーい好き!!///』

『う、うるさいうるさーーーいっっ!!!!///』

 

起き上がって再び攻撃を仕掛けようとするコントラストCにコントラストHも迎撃しようとした時だった。

 

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

『『っ!?』』

 

戒の変身したアーサーがグレンバーンの鞘と刀身を喉元に突き付けていたのだ。

動きの止まった二人にアーサーは言葉をかける。

 

「何があったか分からないけど、とりあえず落ち着けってっ!」

『ちょっと、余計なことしないでっ!』

『えへへー♪私が心配で来てくれたんだ、嬉しい///』

『黙ってなさいよっ!』

「ああ、もう厄介だな…」

 

落ち着かせようにも口喧嘩を始めるコントラストに対してアーサーは頭を抱えそうになる。

しかし、そんな彼の言葉が二体のコントラストを高ぶらせた。

 

『はぁっ!?い、いきなり何言ってるのよっ!!バッカじゃないのっ!?///』

『そんな、まだ昼なのに…恥ずかしいじゃないっ///』

「…はっ?」

 

コントラストCは焦ったように叫び、コントラストHは心底嬉しそうに見悶える。

それに唖然とするのは他ならぬアーサーだ。

自分が言った言葉を思い返してみる……間違いない、自分は何もおかしいことも誤解させるようなことも言っていない。

だが無情にも二体のコントラストは独り言を続けていく。

 

『何よ何よ何よっ、私に気がない癖にそんなこと言って…その優しさが頭にくるのよっ。大体、わ、私以外の女に優しくするなんて生意気だし…』

『言われちゃった、戒に言われちゃった。えへ、えへへへへへへへ♪』

「あ、あのー」

 

増々ヒートアップ(片方氷だけど)をしていく二体にアーサーが呼びかけようとした途端…。

 

『い、一発殴らせろおおおおおおおおおおっっ!!!///』

『頭撫でてキスしてダッコしてええええええええっっ!!!///』

「い、いやああああああああっっ!!?」

 

今までのエラーとは違う、完全に敵意のない言動で襲い掛かってくるコントラストに嫌な予感を抱いたアーサーは二体の攻撃を捌く。

コントラストCは氷柱と氷を駆使した攻撃的なスタイルでアーサーを殴り飛ばそうとするが、そこから不意を突くようにコントラストHが抱き締めようとしてくる。

良く見ると身体中が赤熱しており、もし捕まってしまったら一溜りもないだろう。

戦いにくい相手に対して回避するしかないアーサーだが、マジシャンリンクにチェンジして二人に掌底を浴びせる。

 

『『きゃっ!?』』

 

攻撃を受けたコントラストCとコントラストHは同時に地面を転がる、その時に蓮華と華毘、ルカと琴音がアーサーと合流した。

立ち上がった二体に対して蓮華、華毘、ルカの二人と一匹が説得する。

 

「華風流っ!融合を解除しろ!」

「そうっす!大人しく門矢君の家に帰るっすよ!」

『これ以上、暴れたら周りに迷惑だぜっ!お嬢っ』

 

蓮華と華毘は妹に何が起こっているのかまだ理解出来ていなかったが「どちらも本物の華風流」と確信めいたものがあったことで二体に話しかける。

しかし、ここでもコントラストに異変が起こった。

 

『はっ、はあああああああああああっっ!?れ、蓮華お姉ちゃんも華毘お姉ちゃんも何考えてんのよっ!!デリカシーなしにもほどがあるわっ!///』

『バッカじゃないのっ!?で、でも…下着は一番自信があるの持ってきたから大丈夫だけど…///』

「「いや私(うち)ら至極全うなことを言ったつもりだけどっ!?」」

(…またあの反応)

 

地団太を踏むように喚き散らすコントラストCと、何処か覚悟を決めたかのように自分に喝を入れるコントラストHに対して二人は珍しくツッコミを入れるが当のアーサーはコントラストの反応に注目していた。

 

『と、とにかく自分のことは自分で何とかするっ!誰が好き好んでこんなケ、ケダモノの家に行くかっ!!///』

『えへ、えへへへへへっ♪もう少しおめかししてから行くから…待ってなさいよ戒っ!!///』

 

互いに正反対なセリフを吐くとコントラストCは巨大な氷柱を目くらましにするとコントラストHと共に去ってしまった。

 

 

 

 

 

古びたゲームセンターにいるドラグハンターは亡き戦友…フェニックス・エラーについて考えていた。

彼は自分のことを信じてくれたし自分も彼のことを信じていた。

だが、ミケネにゲームオーバーの報せを受けた時、言いようもない不安感に包まれた。

妖魔衆の件もあるため、しばらくは救済を中断しているがそれでも心は晴れない。

 

『気にすることはないニャ。フェニックスは自分の本分を全うしただけ、オーナー様が気に病むことはないニャ』

「…分かってるさ、ミケネ。だけど、理屈じゃないんだ…例え分かっていても、仲間がいなくなるのは、とても悲しいことなんだ」

 

自分の肩に座っていたミケネの言葉にそう返した時、扉の開く音がした。

来客者…ユグドラシルはドラグハンターに近づくと座っていたミケネに尋ねる。

 

「どういうことかしら、ミケネ?」

『ニャ?』

「惚けないで。エラーが動いている、しかも私たちが把握していない個体がね。ゲームは中断しているんじゃなかったのかしら?」

『ニャニャッ!?そんなはずは…』

 

彼女の言葉に驚いたミケネはすぐに自分の能力を使うがしばらくすると心底驚いた表情を見せる。

エラーが動いている、しかも同一の反応がある二体のエラーだ。

 

『プレイヤー名、コントラスト…だ、誰の仕業ニャッ!?』

 

自分の把握していないプレイヤーの情報に驚きを露にするミケネだったがドラグハンターはある確信があった。

常に独断で行動していた『彼』の存在を……。

 

「しばらくは見届けよう、コントラストの救済をね」

 

一人と一体にそう話すと、彼はダーツの矢をダーツ盤に向かって投げた。

 

 

 

 

 

『彼女の身体を調べたが…紛れもない本物だ、二人ともね』

『それはつまり、オレみたいに純粋な魔力の塊じゃないってことか?ミニ四駆の旦那』

 

ウェルシュの結果にそう尋ねたルカに対して彼は「ああ」と短く肯定する。

そして、千歳が二体のコントラストのデータを映し出す。

 

『恐らくだが、二つの相反する欲望があったから二つの特性を持つエラーになった……しかし、二人に分離したことの説明がつかない』

「でも、どうして華風流ちゃんは急に暴れたんだろう?」

 

困った表情をディスプレイに映すウェルシュとは別の疑問を持った琴音が口を開く。

融合した彼女はエラーカセットの人格に寄生されている様子はなかったしどちらも無差別に街を暴れることはしなかった…つまり、はっきりとした理性があるのだ。

その疑問に蓮華と華毘は「そうだ」と声をあげた。

 

「私たちは普通に言ったら様子がおかしくなった、なぁ華毘」

「そうっす、うちらが説得したら華風流ちゃん急に一人で喋りだして…」

「思考が固定されているのかもしれない」

 

華毘の言葉を遮るように言った戒はゆっくりと椅子から立ち上がると全員に分かるように説明する。

 

「俺が彼女に対して言った時、コントラストは急に照れたり怒ったりした。その言葉自体には特に深い意味はなかったけど…違う意味で受け取ったなら話が早い」

「えっと、どういうことっすか?」

 

「つまり」と戒は千歳が映してあるディスプレイに触れると絵を描き始める。

 

「俺の言った言葉『厄介だな』って言葉を、華風流は『可愛いお前が二人に増えるなんて厄介だな』と受け取ったんだ」

「カー君…それ本気で言ってる?」

「けど、それなら急に暴れだしたことへの説明がつく。俺の言動、もしくは俺に関することは全て前向きな言葉として思い込まされているんだ」

「つまり、私たちの『家に帰ろう』って言葉は…」

 

蓮華の言葉に頷いた戒は少し照れくさそうにするが咳払いをして誤魔化すと続きの言葉を言った。

 

「『家に戻って思う存分甘えてもらえ』みたいな感じだったと思います」

 

その言葉に全員が沈黙した。

あまりにもバカバカしい絡繰りに開いた口が塞がらなかったからだ……脱力と呆れが入り混じった微妙な空気にウェルシュは言いにくそうに話す。

 

『だが、このまま彼女を活動させるのはまずい…元々一つしかない人格と身体が二つに別れたままだと元に戻れなくなる可能性がある』

『マジかよ、お嬢は大丈夫なのか!?』

「融合してからまだ時間は経っていませんが、とにかく急いで…っ!?」

 

リアがルカを宥めるように言った直後、自身のタブレットが反応するとすぐさま画面を見る。

 

「兄様っ!華風流…コントラストを発見しました!」

「場所はっ!?」

「……っ!場所は中央公園…半蔵学院のメンバーが駆けつけています」

 

その言葉を聞いた戒は家から飛び出すとドライグハートに跨ってからアーサードライバーを巻き付ける。

 

【DRAGON!!】

「変身っ!」

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

 

ドラゴンの霊装を纏って変身したアーサーはドライグハートを発進させた。

 

 

 

 

 

忍結界を張った半蔵学院のメンバーはコントラストCとHに苦戦していた。

声を聴いた最初こそ驚きはしたが事情を後で聞くために、彼女たちと応戦しているのだが無駄に良いチームワークによって斑鳩と葛城、柳生が倒されてしまう。

残った飛鳥と雲雀は武器を構えるが、飛鳥はコントラストに尋ねる。

 

「何で、華風流ちゃんがエラーなんかに」

『変な男に襲われた時に無理やり変身させられたのっ!そのせいでこんな奴が…』

『あんたたちが戒の話をするから苛々したのよ…襲い掛かって、ゴメン』

 

不機嫌な声色で事情を話すコントラストCとしおらしくなって謝罪をするコントラストHに対して雲雀は少しだけ考える仕草をすると二体に質問した。

 

「もしかして華風流ちゃん。戒君のこと好きなの?」

『は、はぁっ!?何であんな奴…嫌いよ嫌い、大っ嫌いっ!!』

『好き好き、大好きっ!』

『蓮華お姉ちゃんたちの胸見てデ、デレデレするし』

『私だって後数十年したらなるわよ!』

『誰にだってへらへら笑うし』

『私だけにその笑顔を見せて欲しいのよ!』

 

互いに反対のことを口にするコントラストだったがそのまま二体とも言い争いを始めてしまう。

緊張感のない戦いに飛鳥たちはおろか、倒れていた斑鳩たちも流石に苦笑いするしかない……するとタイミング良くドライグハートに乗ったアーサーが割って入る。

 

「無事か、みんなっ!」

「戒君っ!」

 

アーサーの声に飛鳥が喜びの表情を見せるとコントラストの心中が穏やかじゃなくなっていく。

後から来た琴音たちに疲労困憊の飛鳥たちのことを任せるとアーサーは二体のエラーと対峙する。

 

「迎えに来たぜ、華風流」

『べ、別に来て欲しくなかったし…よ、余計なお世話よっ!!///』

『迎えに来たなんて…えへへへ♪///』

『……どうやら、君の予想通りみたいだね』

 

指を突き付けて怒鳴るコントラストCと照れたように笑うコントラストHの反応にウェルシュは困った声色で話す。

恐らく、今の言葉も自分を力づくで攫いに来た肉食系男子のようなセリフに聞こえているのだろう……それでもアーサーは召喚したグレンバーンを構えた。

 

「すぐに正気に戻してやる」

『なっ!?なななななななななななっっ!!!?///』

『し、周囲の目も考えなさいよっ!ほ、本当に大胆なんだから///』

「……リアちゃん、何て聞こえたのかな?」

「恐らく…『俺のキスですぐに正気に戻してやるよ』的な感じだと思います」

「誤認ってレベル超えてないっ!?もはや妄想の域だよそれっ!!」

 

アーサーのセリフに対して過剰に反応するコントラストに対して琴音はリアに聞く。

琴音に尋ねられた彼女は自分の推測を口にしてツッコミを入れられたがあながち間違いでもないのだろう。

「あいつ意外と初心だな」と見当違いの考えをする蓮華たちの尻目にアーサーとコントラストの戦闘が開始された。

 

『むううううううううう…!!/// わ、私の前から消えろこの変態、スケベ、朴念仁、ド変態っ!!』

「ふっ、よっと!」

 

地団太を踏んで攻撃を開始したコントラストCだが元々中距離・遠距離が得意な彼女の攻撃ではいくら身体能力と格闘技術が向上しようと場数が違うアーサーの前では届かない。

拳を掌底で受け流し、カウンターを叩き込もうとするがコントラストCはそれを氷を纏わせた両腕で防御する。

しかし、隙を縫うように抱き着こうとしてくるコントラストHの魔の手が迫るが…。

 

『チャオッ!!』

『ぐっ、ルカ…あんた…!!』

『悪いなお嬢、契約者を止めるのが俺の役目ってな!!』

 

自分の邪魔をした秘伝動物である彼に歯ぎしりをするが、ルカはキザな口調と共にコントラストHをかく乱する。

コントラストCを投げ飛ばしたアーサーは隙が出来たコントラストHの胴体を蹴り飛ばす。

 

「ナイス、イルカッ!」

『そっちもな!それと、俺はルカだ。惚れるなよ、旦那っ!』

「惚れるかっ!」

 

そう軽口を叩き合うと、巨大な氷柱型のミサイルを飛ばしてくる…コントラストCだ。

一人と一匹はそれを難なく躱すがアーサーは何時の間にか後ろに忍び寄っていたコントラストHによって羽交い絞めにされてしまう。

 

『えへへー♪捕まえたわよ///』

「あちちちちちちっ!!?」

『戒っ!』

 

赤熱化しているコントラストHの力強いハグによってアーサーはダメージを受けるが緑色のボタンを押して熱操作するとアーサーの身体は冷気を纏っていく。

デレ状態であるコントラストHはそれに気づかず抱き締める力と熱量を強めていくが、それよりも先にアーサーの一本背負いが炸裂した。

地面叩きつけられて転がるとコントラストCも苦し気な様子を見せる。

 

『どうやら、ダメージも互いに共有しているみたいだね』

「どちらにせよこれで決める!」

【RHYTHM!!】

【RIDE UP! RHYTHM! 音色と踊れ!GREEN BEAT!!】

 

リズムカセットを起動してリズムリンクへとチェンジしたアーサーはすぐにピアノアローにカセットを装填し、必殺技であり極力見栄えの良いシューティングフィーバーを放とうとしたが。

 

【LOADING…~♪!RIDE UP! D■A■ ■L■■E! BAD and DEAD END! THE ERROR…!!】

「っ!?」

 

突如聞こえたエラーブレスの電子音声…だが所々ノイズの入ったその音声が鳴り終わるとコントラストを守るように全身に黒いフードを被ったエラーが立っており白い盾でその攻撃を弾き飛ばした。

驚くアーサーたちを無視するようにフードを被ったエラーはコントラストCとHを連れて去ってしまった。

To be continued……。




 今回の怪人…コントラスト・エラーは麦蕎那支さんからいただきました!麦蕎那支さん、誠にありがとうございます!ツンデレな感じが再現できたか微妙です…正直怖いっ(ガクブル)。
 応募してくださった皆さんをお待ちください、きちんとエラーはアーサーを苦しめるぐらい活躍させますので!
 話を本編に戻しますが華風流をエラーにさせた男は何者なのか?そして最後に登場したエラーの正体とは!?
 次回も気長に待ってくださると嬉しいです。ではでは。ノシ


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COMBO22 言葉×暗躍

 後編です。おかしい、自分は後編を書いていたはずでは……どうして甘い雰囲気になっているんだ?
 それはさておいて……言葉を誤認してしまう厄介なエラーにどう立ち向かうのか?それでは、どうぞ。


コントラスト・エラー(クールサイド&ホットサイド)はフードを被ったエラーに首根っこを掴まれていた。

「離せ」と彼女たちは抵抗していたが動じている様子はなく、しばらく歩くと二体を突き放した後、フードを被ったエラーは姿を消す。

 

『何なのよ、あいつっ』

『せっかく戒とデート出来ると思ったのに』

『そんなこと思ってないっ!///』

『言ったでしょ?私はあんた…そんなことも分からないんでちゅかー?はい論破』

 

コントラストCとHはまたしても口論を始めるが、それでもHの口が上手く、論破されてしまう…そもそも、コントラストCは『好意に気づかない戒へ苛立ち』が形作られたのに対してコントラストHは彼女自身の好意が具現化したエラーであるため本音で語る彼女に口喧嘩で負かすことなど到底不可能な話だ。

再び険悪になった二体のコントラストは再びバトルへと突入しようとした途端、声が響いた。

 

「こらこら、自分同士で喧嘩するのは良くないよぉ。お兄さんは悲しい」

『…あんたっ』

『あの時の……!!』

 

声の主はコントラストに無理やりエラーカセットを渡して強制的に融合させた人物だった。

黒いスーツと黒頭巾で全身を隠しており白いスカーフを首元に巻いている男性は両腕を後ろに組みながら、ゆっくりと彼女たちの元まで歩く。

人を逆なでするような言動を繰り返す男性に対して彼女たちも次第に苛立ちを募らせる。

だが、コントラストCとHが攻撃するよりも先に男は言葉を続ける。

 

「君たちの目的はお兄さんと戦うこと?それとも自分同士と戦うこと?違うよねぇ、君たちの目的は…生きて戒君を自分の物にすることじゃないかなぁ?」

『『っ!!』』

「愛しい相手…戒君だっけ?彼は君たち対して動揺していた、困っていた。それはどういうことか分かるかなぁ」

 

男性の言葉に二体のコントラストは黙って聞く。

しばらく考え込むとコントラストCとコントラストHは顔を上げて喋った。

 

『そ、そそ、それはつまり…ありえない、ありえない!キモイキモイキモイッ!!///』

『そっかそっか。戒は私のことが可愛いから困っていたんだ…えへ、えへへへへへへへへへ♪///』

 

彼女たちが異なる反応をする中、その様子を男性は楽しそうに観察している。

感情が高ぶりと比例するように彼女たちの身体から冷気と高熱が魔力となって放出されていく。

やがて、感情がピークまで達したコントラストはこの場から逃げるように去ってしまった。

それを黙って見ていた男性は楽しそうに笑うとやがて口を開く。

 

「まさか、ここまで対照的とは驚いたねぇ。君もそう思わないかなぁ?」

『思うわけねーだろ、このドM野郎』

 

彼の独り言に返したのは妙に甲高い声…後ろ手に組んでいた両腕を解くと左腕に装着している四つの眼を持った白いパペット人形が動いた。

パペット人形はやや汚い口調で男性に対して話を始める。

 

『だけど、良いのかよ。テメーのやっていることは単独行動だろ?』

「大丈夫さ。マキムラ君は優しいからねぇ、でも世界樹ちゃんと車君は許してくれないかもしれないけどねぇ…そうなったらお兄さん死ぬかもしれないねぇ、怖いなぁ」

『どの口がほざきやがる「生ける自殺志願者」が』

 

傍から見れば腹話術の芸にしか見えない光景だが彼らはまるで世間話をするかのように会話を続けており、パペット人形が罵倒すると男性は否定せず楽しそうに笑う。

やがて男性がパペット人形に対して話した。

 

「…細工は?」

『あっ?……あぁ、首根っこ掴んだ時に。多分倒されるまで抵抗するだろうよ』

「若いことは良いねぇ、それは実にロマンチックだよ」

『趣味が悪いんだよ、根暗野郎』

 

パペット人形がそう吐き捨てると、男性はこの場にいる用はなくなったのかそのまま姿を消した。

 

 

 

 

 

門矢家に戻った戒たちはしばらくウェルシュの話を聞いていた。

斑鳩と葛城、柳生は今回裏方に周り飛鳥と雲雀のサポートをするらしくリアと千歳と連携してコントラストの行方を追っている。

全員が全員、リラックスした態度だがその顔は終始真面目であり特に蓮華と華毘、ルカは普段の笑みが鳴りを潜めている。

 

『先ほどの戦闘で分かったことだが、コントラストのダメージ、感情は共有している。つまり、片方のどちらかさえ倒せば華風流は救えるはずだ』

「本当か、ウェルシュッ!?」

「華風流ちゃんは助かるってことすよねっ!?」

 

二人の言葉に笑顔の表情をディスプレイで映して肯定するとその表情にようやく笑みが戻るが、華毘が思いついたような表情にすると疑問を口に挟む。

 

「でも、どうするつもりっすか?一番何とかなりそうなピンクの方っすけど氷の方の華風流ちゃんがいたらすごい面倒っすよ」

「そこだよなぁ…」

 

彼女の言葉に蓮華は頭を悩ます。

個体別として見れば大したことはないし、互いにいがみ合っているが、共通の敵を見つけると抜群のコンビネーションで相手を追い詰めて行くのだ。

コントラストCが冷気と氷を駆使した相手を追い詰め、止めにコントラストHのベアハッグもといハグで相手を焼き尽くす。

現に飛鳥たちも彼女たちのコンビネーションによって全滅一歩手前まで追い込まれたのだ。

「どうするか」と悩んでいる琴音たちだったが、戒はゆっくりと伸びをすると手早く準備をする。

 

「とにかく、飛鳥さんたちに任せるのもあれだし…別に探して見ましょう」

「…だな、ここで考えるのも私たちらしくないしな」

 

彼の言葉にそう肯定した蓮華は自分の頬を叩いて喝を入れると、琴音たちも行動を開始した。

 

 

 

 

 

「見つからないなー」

「そうだなー」

「そうっすねー」

 

数時間後、戒と蓮華、華毘の三人は椅子に座って適当に喋りながらクレープを口一杯に頬張っていた。

一応彼らの弁解をするがこれはサボりではない、華風流の捜索している時に小腹が空いたからクレープを買っただけだ…決して疲れたからってサボッているわけではない、そう決してだ。

大好きなチョコバナナクレープを頬張りながらちらりと左右を見ると二人も美味しそうに食べている…ちなみに華毘はベリー&ベリー、蓮華は生キャラメルとバニラアイスをトッピングしてある。

束の間の休息を楽しみにながらも、ふと右隣に座っていた華毘の口元に目が行く。

彼女にひと声かけた戒は相手が返事するよりも先に指で口についているクリームを取る。

 

「ふぇっ!?な、何をっ…///」

「いや、ついていたから…何か?」

「えっ、えと…ありがとうっす///」

 

 

頬を赤らめて俯いたまま黙々と食べ始めた彼女に「悪いことしたかな」と軽く謝罪して自分のクレープを食べる作業に入る。

その光景を見ていた蓮華は何を思ったのか自分の食べていたクレープに目を向け、次に戒の方に目を向ける。

そして……。

 

「戒、私のクレープ食べてみないか?」

「良いんですか?」

「おう、その代わりお前のクレープ食べさせてくれよ」

 

突然の要求に驚いた戒だったがそれに快く了承するとクレープを持っていた手を交差させて食べる。

甘ったるい味が伝わってくるが、蓮華もチョコバナナの甘い味に満足すると再び自分のクレープにかぶりつく。

 

(……あれ?これって関節キス…///)

 

そこまで思った雑念を払う…自分らしくない、あまり異性と触れ合っていなかったから変にテンションが上がっているだけだ。

そんなことを考えながら、ほのぼのした空間でクレープを食べていた時だった。

 

『……何してんの、蓮華お姉ちゃん。華毘お姉ちゃん…』

「「「えっ?」」」

 

ぞっとするような声色で、その方に向くとそこには『氷鬼』がいた。

 

『ねぇ、どうしてそいつにべたべたしてんの?何、ラブコメみたいな空気醸し出してんの?』

『戒にそんなことさせるなんて、羨ましい…!!』

 

氷鬼……コントラストCは絶対零度と表現することが出来そうな声で二人の姉に聞くと、その横に現れたコントラストHは高熱を出しながら怒りを露わにして喋る。

 

『戒にべたべたしているんじゃないわよ、私の戒に…』

『こんな奴に骨抜きにされてんじゃないわよ、気持ち悪い』

『あんたもあんたよ、私は魅力ないの?』

 

最初こそ静かに話していたが、次第に二体のコントラストは声を大きくしていく。

嫌な予感がした戒は慌てて理由を説明しようとする。

それがいけなかった。

 

「待った。華風流、俺たちは別に仲良くクレープを食べていたわけじゃない」

『『じゃあ、何よ』』

「えっと…あ、お前を探していたんだよ、うん」

 

その言葉を聞いたコントラストCとコントラストHは「愛しいお前を探していた、口の中に舌を入れてやるよ」と認識した二体の機嫌は直るがそれは同時に彼女たちの理性を崩壊させるのに相応しい言葉であり……。

 

『~~~~~~っっ!!?し、信じらんないっ!バッカじゃないのっ!!!///』

『そ、そんな…愛しいだなんて。えへ、えへへへへへへへへへ♪///』

「あー……やっぱりこうなるのか」

 

身体を怒りと羞恥で震わせるコントラストCと、もはや言っていない言葉を呟きながら両手を顔に当てて喜びを露わにするコントラストHの姿を見て困ったように笑った戒はアーサードライバーを腰に巻きつけると起動させたマジシャンカセットをスロットに装填する。

 

「変身っ!」

【MAGICAL ARTS! PRISMA PRISM…SHOW TIME!!】

 

マジシャンリンクに変身したアーサーは赤いボタンを押して強化した腕力で飛び掛かってくるコントラストCの攻撃を防御する。

生成した巨大な氷塊を両手で持ってぶつけようとするがアーサーはそれを砕き、カウンターパンチを叩き込む。

ダメージを共有する形で蓮華と華毘と戦闘していたコントラストHも二人から距離を取った後、苦しそうに膝をつく。

 

『…んでよ』

「っ?」

『何でこんなに胸がドキドキするのよっ!?わ、私はこんなに軽い女じゃないっ!あんたなんか大っ嫌いだもんっ!!///』

『戒と一緒にいるからドキドキしちゃってる、この胸の高鳴り…聞こえていないよね?えへへへへへ///』

 

攻撃を受けたはずなのになぜか照れたり怒ったりするコントラスト。

「吊り橋効果または吊り橋理論」と呼ばれる心理現象がある…人は吊り橋のような高くて揺れる場所では、その恐さで興奮してしまう、それを頭が勝手に恋によるものだと勘違いしてしまうといったものだ。

その似たような現象が二体のコントラストにも起きていたのである。

つまり、「仮面ライダーに敗北する」というある種の生命の危機に対する心理状況を『恋による胸の高鳴り』だと勘違いしているのだ。

おまけにコントラストは戒の言動及び彼に関する事柄は全て誤認してしまうため彼女たちの行為もヒートアップしていく。

 

『もおおおおおおおおおっ!!絶対にあんたを許さないんだからっ!何よ同い年の癖に偉そうにっ!!』

『まるでお兄ちゃんみたいでカッコ良かった///』

『嫌い嫌い嫌いっ!蓮華お姉ちゃんたちと一緒にクレープ食べて、オシャレのつもり!?』

『私も食べたいっ!「あーん」してもらったり、く、口についたクリームを舐め取って欲しいっ!!///』

 

言葉と共に攻撃が激しくなっていくコントラストCとコントラストH、いくら防御力に絶対の自信があるマジシャンリンクでもこのままでは倒すことも難しい上に長引かせると融合者である華風流にも何が起こるか分からない。

抱き着いてきたコントラストHを投げ飛ばした時、そこでふとある考えが浮かぶ……今までの言動から華風流は自分を慕っていることが分かった。

だから自分の言葉は全て好意を伝える言葉として伝わっているのだ。

決意を固めたアーサーは「華風流」と強く呼びかける。

 

「俺は、お前が好きだっ!!」

『『っ!?///』』

「「はっ!!?」」

 

突然の言葉にこの場にいた全員が驚くも、アーサーは言葉を続けていく。

 

「お前の気持ちは分かった、だから俺も伝える…華風流、お前のことが好きだ」

『『な、ななななななななななななっっ!!?!?!!?///』』

 

思いもしなかったアーサーからの告白にコントラストCとコントラストHは混乱し、冷静さを失っていく。

そして、頭が完全に沸騰した二体は身体を震わせると照準を完全にアーサーへと向けた。

 

『は、ははは、恥かしいことを言うなバカアアアアアアアアアアアッ!!!///』

『えへ、えへへへへへへへへへ♪わ、私も大好きいいいいいいいっっ!!!///』

 

二体同時にこちらに突っ込んでくるのを確認したアーサーは勝利を確信する。

マジシャンカセットを左腰のスロットに装填して緑のボタンを押す。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! MAGICIAN!!】

「ふんっ!!」

 

マジッグローブで地面を殴りつけた途端、巨大な水晶が次々と地面から生えていくと二体のエラーは巨大な水晶に拘束される。

 

「はああああああああああああっ!!」

 

水晶越しにマジシャンブレイクを叩き込まれたコントラスト・エラーの二体…クールサイドとホットサイドは水晶が砕けたのと同時に爆散。

元の姿へと戻った華風流の身体が水晶の欠片と共に倒れてくるのをアーサーが優しく支えるのであった。

 

 

 

 

 

「やられちゃったねぇ、残念だねぇ」

 

物陰でコントラストの撃破を見て、やや大げさな言動で喋る男性に対してパペット人形は相方に毒を吐く。

 

『ならもっと残念にそうに言え、どうすんだ?』

「うーん、しばらくは適当にエラーカセットをばら撒もうかなぁ」

『さっさとマキムラたちに顔を見せに行け、自虐系男子が』

 

パペット人形からの毒舌に軽く笑って流すと男性はその場を後にした。

 

 

 

 

 

その日の翌日、迷惑を掛けた人たちに謝罪を終えた華風流は戒と一緒に商店街を歩いていた。

彼女が誘ったわけではない、戒の方から誘われたのだ。

戸惑いながらも了承した彼女は二人きりのデートを口では否定しながらもその表情は楽しそうであり、見る人が見ればカップルのデートに見えるだろう。

しばらく歩いたことで小腹が空いた二人は昨日の場所でクレープを食べる。

その際、「食べさせてやろうか」とからかうように言った戒に華風流は睨むというワンシーンがあったがやがて意を決した彼女は昨日のことを尋ねる。

 

「ねぇ、昨日の言葉…あれって」

「えっ?あー、あれね。本当だけど」

「そ、それって…///」

 

その言葉を聞いた華風流は顔を真っ赤にする、間違いなく彼は「本当」だと言った…つまり、その言葉に嘘偽りはない。

期待なんかしていない、あくまでも気になっただけだ……そう、曖昧なままだと「私が廃る」と自分に言い聞かせた答えを待つように彼女は戒の顔を見た。

 

「友達として」

「……はっ?」

 

その一言で周囲の空気が重くなる、それを敏感に感じ取りながらも戒は言葉を並べる。

 

「いや、ほら…あの時焦ってて。それであんなキザなセリフをだな…何か誤解させたなら、ゴメン」

「……」

 

申し訳なさそうに頭を下げる戒だが華風流のオーラは上昇を続けている。

察しの良い方々ならこのオチは分かったかもしれないが戒は鈍感だ、だから彼女の片割れが起こしていたデレ状態は『兄みたいに慕っている』感情だと勘違いしていたのだ。

もちろん、「好き」と言った本心は本物だ…LoveではなくLikeの方だが。

まぁそんなことを言っても、そろそろ今回のオチが近づいてきた。

 

「えと、華風流さ…」

「一回沈め、この朴念仁んんんんんんんっっ!!」

 

湧き上がる苛立ちを隠さず、華風流は綺麗なアッパーカットで戒を宙へと浮かしたのであった。

ちなみに、こっそりと後をつけていた姉の蓮華と華毘は彼女に対する同情と彼の鈍感さに安堵していたのであった。

余談だが一番彼と付き合いの長い琴音曰く。

 

「カー君の好きは基本Likeの好きだから」

 

とのこと…少女たちの受難は、まだまだ続きそうである。

To be continued……。




 コントラスト・エラーの出番はこれで終了です。麦蕎那支さん、素敵なエラーを本当にありがとうございました!
 カー君は鈍感ですが意外と空気が読める子です。てか自己評価が普通なので一周回って気づかないんです。気づくときは気づきます…多分。
 もう分かったかもしれませんが謎の男は幹部格のエラーです。どんな能力かはお楽しみに。ではでは。ノシ

コントラストエラー CV井澤詩織
麦蕎那支さんからいただいたオリジナルエラー。共通モチーフは「ツンデレとハート」
華風流が謎の人物によって融合させられてしまった姿で『クールサイド(氷柱モチーフ)』と『ホットサイド(リボン)』の二体に分離し身長が伸びている。
共通として目を瞑ったモノアイを持つ黒い素体にハートの片割れを模した装飾がある。
クールサイドは水色カラーで氷柱の刺々しい学生服がデザインとなっているが、左側にハートの片割れを模した装飾があるホットサイドはピンクカラーと全体に巻いた赤いリボンのブレザーが特徴。
クールサイドは攻撃的で氷と格闘戦を得意とし、ホットサイドは無害を装い近づいて全身から高熱を出し抱きつくなどの行動で敵を焼き尽くすがダメージを共有しているのが弱点なのと、アーサー(戒)の言葉は全て口説き文句として認識してしまう。
クールサイドはワガママさと計算高さを持つ所謂通常の華風流だが、ホットサイドは彼女の隠された好意の塊であるため子どもらしい純真爛漫さがあるが重い。


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COMBO23 金×大切

 今回は1話完結です。正直一番ストーリーに苦戦しましたが、リアと千歳を重点的にしました。
 それでは、どうぞ。


ジャラジャラと音が聞こえる…一定のリズムで聞こえてくるその金属音は自分いや…『自分たち』をさらに高ぶらせる。

 

『ニャハハ♪』

『…あは』

 

気づけば、自分たちは笑っていた。

多くの金が集まることも、金の手に入るゲームが出来ることも…ゲームに敗れた負け犬どもの顔を見ることも。

何もかもが楽しかった。

……そう思えてしまう自分が何よりも怖かった。

 

 

 

 

 

千歳とリアは自分たちの故郷でもある貧民街で子どもたちに自作の紙芝居や折り紙芸を見せていた。

元来、手先が器用な方である二人は自身の特技を生かした芸を駆使して子どもたちを笑顔にしていた。

 

「こうして、お爺さんになってしまった青年は鶴へと変身し、同じく亀へと変身したお姫様と末永く暮らしたのでした…めでたしめでたし」

「これをこうしたら…はい、魔法少女の完成です」

 

千歳は可愛らしくデフォルメしたキャラクターを描いた紙芝居を見せて、リアは水色の折り紙を折って立体的な魔法少女を作り上げて子どもたちを湧かせていた。

完全なボランティアだったが子ども好きである彼女たちは故郷でもあるこの場所を少しでもより良い場所にしようと内緒で活動しているのである。

無論、こうした慈善活動をしているのは彼女たちだけではない。

 

「『KP仮面』…参上っ!!」

『わーーーーーーーーーーっっ!!!』

 

マスクを装着した斑鳩が悪役のスタッフたちと激しいアクションを行っており詠や叢も斑鳩に続く形で名乗りを上げている。

三人も同じように慈善活動をしている中なのだが千歳はあの三人がどうも好きになれなかった。

リアは嬉しそうにしていたが実の両親と他人に裏切られ続けてきた彼女にとって、信じられるのは身内だけであり赤の他人を信用することはとても難しい。

そんな複雑な感情を向けたまま、千歳は黙ってヒーローショーを眺めていた。

 

 

 

 

 

午前の部が終了し、昼食の時間となった。

斑鳩と詠が作った『特製 もやし豚汁』に全員が舌鼓を打っており子どもたちの顔にも笑顔が浮かび上がっている。

千歳も一口すする…悪くない味だ(というよりも美味い)。

頬が綻びそうになるのを堪えながらも豚汁を黙々と食べていると、隣に座っていた少年が声を掛けてきた。

 

「ねーねー、千歳お姉ちゃん」

「っ?どうしました?」

「『命のギャンブラー』って知ってるー?」

 

命のギャンブル……?

子どもの口から「ギャンブラー」などというキーワードが出てくるとは思わず、少し驚いたが好奇心が勝った千歳は話を聞こうとするよりも早く斑鳩と詠が話に割り込んでくる。

 

「聞いたことありませんね…どういったお話ですか?」

「わたくしも興味がありますわ」

 

割って入ってきた二人にむっとするも、リアが「まあまあ」と宥めてきたため仕方なく子どもに続きを促す。

 

「最近、貧民街(ここ)で噂になっている都市伝説だよー。お姉ちゃんたち知らないの?」

「ふむ……聞かせてくれないか」

 

「都市伝説」と聞いて漫画を描くためのインスピレーションが刺激されたのか叢がメモとペンを持って尋ねると、子どもは笑顔で答えた。

 

「えっとねー、お金をたくさん持っている人の前に必ず現れるギャンブラーがいるんだってー」

 

子どもは朗らかな表情で話を始めた。

 

 

 

 

 

「待ちやがれっ!!」

『好い加減しつこいにゃんっ!!…たく、どうしてこんなことに…!』

 

戒は女性の声で喋る一体のエラーを追いかけていた。

きっかけである連続昏睡事件の解決依頼を受けた彼は蛇女学園の補欠メンバーを連れて佑斗と共に行動を開始しており、被害者がいる豪邸に踏み入れようとした時だった。

 

――――「ぎゃあああああああああああああっっっ!!!」――――

 

悲鳴を聞いた戒たちが豪邸に入るとそこには一つ目の猫又がおり、ルーレットやトランプ、サイコロなどのギャンブルの道具をあしらった金色の鎧を纏った異形『ハトゥール・エラー』と引っ掻き傷を負った倒れている男性がおり、侵入者に気づいたハトゥールはテーブルに置いてあった金のインゴットを口に含んで体内に取り込むと、慌ててその場から逃げ出す。

佑斗にその場を任せると、戒たちは追跡を開始したのだ。

そして、再び現在へと変わると戒はボーラーハットに手を当てながら脚を速める。

 

『ひぃ、ひぃ…ち、ちょっと休け…』

「オラァッ!!」

 

機動性はあるのだが体力はあまりないのだろう…全力で走って数分で息を切らしてしまったハトゥールはその場で動きを止めてしまい、その隙に戒の跳び蹴りが叩き込まれた。

「ぶぎゃ」と悲鳴をあげながら地面を転がる羽目になったハトゥールは起き上がると、戒を狐のように吊り上ったモノアイで睨みつける。

 

『くそっ、ギャンブルの邪魔だにゃんっ!!こうなったらお前も始末してやるにゃんっ!!』

 

両手に持ったエラーカセットを投げてポーントルーパーを複数召喚すると、その内の一体が戒に襲い掛かるが振り下ろされた攻撃を躱して蹴り飛ばす。

そしてアーサードライバーを腰に巻きつけて、起動したドラゴンカセットを装填してサイドグリップを握った。

 

「変身っ!!」

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

 

アーサーへと変身してグレンバーンで殴る。

目の前の少年が仮面ライダーだったことにハトゥールは驚くが呪術が施された鉤爪でアーサーを引き裂こうとするが……。

 

「甘いっ!!」

『ミギャッ!?』

「…そこですっ!!」

 

総司が放った鎖鎌が右腕に絡め取られるとそこを間髪入れずに芭蕉の大型筆に仕込んだ刃がすれ違いざまに繰り出されたことでハトゥールは派手に転んでしまう。

その一方で芦屋と伊吹がチャクラムと大鋏でポーントルーパーを消滅していく。

二人とアーサーがポーントルーパーを全滅させたころに、何とか鎖鎌を引きちぎって立ち上がったハトゥールだが瞬時に距離を詰めたアーサーの前蹴りが彼女の顎を捉えていた。

 

「そらよっ!!」

『ニャアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』

 

浮き上がったところを間髪入れずに蹴り飛ばして再び地面を転がるハトゥール…致命傷を与えようとマジシャンリンクにチェンジしたアーサーのパンチが繰り出されようとした時だった。

 

「ぐわっ!?」

「教官っ!」

 

右腕に走った激痛に蹲るアーサーに芭蕉と総司が駆け寄っているその隙にハトゥールはトランプ型のエネルギー弾を手裏剣のように飛ばして地面に着弾して発生した煙を目くらましに逃走する。

総司は標的を見失ったことに憤るが教官である戒の安否を確認する。

 

「教官っ、無事か!?」

「ああ、でも…」

 

アーサーは傷口を見るが大した外傷はなく、何時もなら絶えることの出来る怪我だった。

ただ分かったのは、視界の端に映った黒い生物的な剣…あれが投擲されて自分の右腕に当たったのが原因なのは分かる。

 

(…面倒なことになったな)

 

未知の敵に警戒しながらも、アーサーはゆっくりと立ち上がってからドラゴンカセットを抜き取るとグリップのトリガーを引いて変身を解除した。

 

 

 

 

 

「やれやれ、危なかったねぇ…強力な能力だったから大丈夫だとは思ったんだけどなぁ」

『所詮は一般人の女で寄生型だ、強力な能力を持とうが宝の持ち腐れだろ』

 

エラーの融合を解除した男性はパペット人形に言い訳を口にしていた。

パペット人形は相も変わらず毒のある言動で男性を罵倒するが、それに対して彼はただ笑うだけ。

一人と一体が会話をしていると、やがてハトゥールが足早にこっちに来る。

 

『た、助かったにゃん』

『テメーが不甲斐ないから手伝ってやったんだ、少しは頑張りやがれ』

 

「分かってる」とハトゥールはパペット人形そう返すとその場から立ち去ろうとするがそこに男性が声をかける。

 

「頑張ってねぇ。『猫に小判』なんて結果にならないようにお兄さんは健気に応援しているからさぁ」

『余計なお世話だにゃんっ!!!』

 

その言葉に苛立たしげに返したハトゥールは、今度こそ足早にこの場から去って行った。

男性もこの場から立ち去ろうとした時だった。

 

『見つけたぞてめぇ…!!』

「んんっ?」

 

行く手を阻むように現れたのはレッドゾーン・エラー。

モノアイは怒りに染まっており、今にも飛び掛からんばかりの敵意を持っている。

 

「久しぶりだねぇ、車君。相変わらず口調が安定しな…」

 

男性がフレンドリーに話しながらこちらに駆け寄ろうとした途端、レッドゾーンは彼を殴り飛ばしていた。

凄まじい勢いのまま、男性は壁に叩きつけられるとその場に崩れ落ちる……しかし。

 

「痛いじゃないかぁ。お兄さん、ボディランゲージは嫌いじゃないけどやり過ぎは好まないなぁ」

 

何事もなく立ち上がった男性は服に付いた誇りを払い、改めてレッドゾーンに向き直る。

男性は笑っていたが一人だけ過剰な反応を示す存在がいた。

 

『テメーッ!!ふざけた真似してんじゃねぇぞ、ジャンク野郎っ!死んだらどうする気だっっ!!!』

 

パペット人形は恐怖と怒りをにじませた口調で両腕を大きく動かしながら騒ぎ立てる。

レッドゾーンはそれを無視して話を始める。

 

『何でオーナーに顔を見せねぇ?』

「マキムラ君のとこには後で行くつもりだよ。だけど、お兄さんはエラーカセットをいくつかばら撒いてしまったからねぇ…それの監視をしなきゃいけないんだよぉ」

『それはボクちゃんの仕事ニャ』

 

彼の言葉に反応したのは何時の間にかレッドゾーンの肩に座っていたミケネ…その声は僅かながら呆れの感情が見えており、目の前の男性が如何に面倒なことをしているのか分かるだろう。

ため息を吐いた男性は「やれやれ」と首を振ると両手を大げさに上げる。

 

「分かったよ。マキムラ君のところに案内してくれないかなぁ、黒猫君と車君?」

『ちっ』

『耐えるニャ、レッドゾーン。何時ものことだニャ』

 

自分のペースを崩さない彼に舌打ちをするレッドゾーンを窘めるように言うと、ミケネはこの場にいるメンバーをデータ化してこの場から立ち去った。

 

 

 

 

 

「…で、そのギャンブラーとの勝負に負けると魂を奪われちゃうってお話ー」

『……』

 

話しが終わると五人はその話について考えていた。

教えてくれた子どもにお礼を言うと、顔を合わせて話し合いを始める。

 

「これはもしや…」

「エラーの可能性、がありますわね」

 

斑鳩と詠が話しあう中、千歳は帰り支度をしておりリアが彼女に声を掛ける。

 

「千歳?」

「兄様と琴音のところに行きます。もしかしたらもう事件に関わっている可能性が…」

「我も協力する」

 

叢が彼女の肩に手を置くが、千歳はそれに少し驚きながらも「大丈夫です」と返す。

リアは少し注意するように彼女に対して口を開く。

 

「千歳、好い加減にしてください。協力出来るのでしたら力を借りるべきです」

「分かっているでしょ、リア。私はあなたみたいに他人を信じることは…っ!?」

 

リアに対して千歳が反論しようとした時だった。

 

『金、金っ!金っ!!』

『うわああああああああああっっ!!?』

 

切羽詰まった様子の猫又の怪人…ハトゥールが転がるようにこの場に現れたのだ。

突然現れた怪物に全員が悲鳴をあげてパニック状態に陥るが叢とリアが避難誘導を開始する。

一方のハトゥールは周囲から聞こえる悲鳴にヒステリックに頭を掻きむしると叫ぶ。

 

『うるさいっ!!!静かにしろにゃんっっ!!』

 

ハトゥールは「黙れ」と言わんばかりに大量のポーントルーパーを召喚してからトランプ型エネルギー弾を撒き散らすとその内の一つが千歳の元にぶつかろうとするが忍転身した斑鳩がそれを庇い、右肩をかする。

 

「な、何でっ…!?」

「だって、戒さんの友達は…わたくしの友達ですから」

「……っ!!」

 

笑顔でそう言った彼女に対して千歳は罪悪感が湧き上がるが、ハトゥールは斑鳩を見た途端、歓喜と狂喜に満ちた声を出す。

 

『お、お前っ!!鳳凰財閥の娘だにゃんっ!!勝負っ、私と勝負するにゃんっ!有り金全部と魂を賭けたゲームをするにゃんっ!!!』

「っ、どうしてこのようなことを…!」

 

彼女の問いにハトゥールは一転して苛立たしげに喋る。

 

『うるさいうるさいっ!!お前みたいなブルジョワにはバンピーの気持ちなんか分からないにゃんっ!!!』

 

そう叫ぶと、声高々に話を始める。

 

『金は世界一大切な物品だにゃんっ!それを欲しがるのに理由なんてないにゃんっ!宿主は弟の手術費を手に入れた途端、「自首する」とか言い出したにゃんっ!冗談じゃない、私は金が欲しいんだにゃんっ!!!金っ!金っ、金っ、金っ、金金金金金金金金金金金っっ!!だから私と勝負するにゃんっ!!無様な負け顔晒してさっさと有り金寄こすにゃんっっ!!』

 

まくし立てるハトゥールに対して斑鳩は辛い表情を見せる。

寄生しているエラーの発言には憤りこそ覚えるが、融合してしまった彼女は本当にお金が必要だったのだろう…それに対して自分は何も言うことも行動することも出来ない。

しかし、だからといって……。

 

「わたくしは、あなたと勝負しません」

 

彼女の要求を呑むことも、彼女の意思に反して好き勝手に暴走するエラーを見て見ぬふりなど出来ない。

正面からそう断った斑鳩に対してハトゥールは地団太を踏む。

 

『お前の意見は聞いてないっ!!勝負しろにゃんっ!全てを賭けろにゃんっ!!それが出来ないなら…金を置いて消えろっ!!』

 

ハトゥールが斑鳩目掛けてエネルギー弾を発射するが、それを全て相殺する影があった…千歳と詠だ。

火縄銃と大剣を担ぎ直すとポーントルーパーを二体排除した叢とリアが並び立つ。

その様子にハトゥールは理解出来ずにいた。

 

『お前ら…金のない匂いがするにゃんっ。ならどうしてこいつの味方をするにゃんっ!?金のない者同士、手を取り合うべきだにゃんっ!!!』

「…一緒にするな」

「確かに、私も金持ちは嫌いです」

「私もですわ」

 

三人の言葉に同意するように千歳も頷くと口を開く。

 

「でも、彼女は…私たちの『友達』です。それなら私たちがあなたの邪魔をする十分な理由になります」

『友達ぃっ?あっはははは。そんなもので世の中上手くいくわけないにゃんっ。金以外にっ、正義なんかないにゃあああああああああああああんっっ!!!』

 

ヤケになったハトゥールは鉤爪を構えて突撃しようとするが戒の乗るドライグハートがハトゥールを跳ね飛ばした。

 

『ニャガアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

地面を転がるハトゥールを横目に戒がヘルメットを外して千歳に話しかける。

 

「どういう状況だ、千歳?」

「後で説明します、兄様」

「はいはい」

 

この場に斑鳩たちがいることや大量のポーントルーパーに疑問符を浮かべるが代わりにリアが彼の背中を押して起き上がったハトゥールと対峙させる。

「まっ、良いか」と流した戒はアーサードライバーを巻きつけて変身シークエンスを行い……。

 

「変身っ!」

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

 

アーサーへと変身するとハトゥールに向けて宣言する。

 

「お前の物語、ここで終わらせるっ!!」

『ほざけにゃんっ!』

 

頭の煮だったハトゥールはエネルギー弾をばら撒きながら鉤爪を振り下ろそうとするがグレンバーンで防がれ、逆に蹴り飛ばされる。

主を守ろうとポーントルーパーたちが襲い掛かるが、千歳の邪弾とリアの斬撃で迎え撃ち、そこから詠と斑鳩、叢がフォローを入れる。

 

「行きますわよ、千歳さん」

「…ふん」

「よろしくお願いします、斑鳩さんと叢さん」

「はいっ!」

「任せろ…」

 

五人はそれぞれの武器を構えると、一斉にポーントルーパーの群れへと駆けだした。

 

 

 

 

 

ハトゥールは苦戦していた。

自身の最大の武器でもある鉤爪を振るおうにもグレンバーンで全て防がれてしまい、逆に冷気、または炎の抜刀術を浴びせられてしまう。

ポーントルーパーたちを呼ぼうにも何時の間にか来ていた総司と芭蕉、芦屋と伊吹によって足止めをされており大した期待が出来ない。

脚力を強化した足技で吹き飛んだハトゥールに対してアーサーはリズムカセットを取り出して起動する。

 

「今度はこいつだっ!」

【RHYTHM!!】

【RIDE UP! RHYTHM! 音色と踊れ!GREEN BEAT!!】

【MAGICAL ARTS! BEAT BEAT! RHYTHM DE BEAT!!】

 

リズムリンクにチェンジして緑色のボタンを押すとアーサーの舞踏会が幕を開けた。

ピアノアローで狙撃しながらも軽快なステップを踏み、近づいてきた彼に鉤爪を振り下ろそうとしてもハトゥールの太ももを踏み台に、上空からの狙撃を行う。

曲の終わりと同時にピアノアローの斬撃が胴体に直撃した。

同時に千歳たちもポーントルーパーを倒しており、残るは彼女だけとなる。

 

『ミギャアアアアアアアッッ!?……こ、こんなところでぇぇぇぇ…!!!』

【CRITICAL ARTS! COMBO STRIKE! RHYTHM!!】

 

尚も立ち上がろうとするハトゥールに対してアーサーはピアノアローにリズムカセットをセットし、狙いを定めてからトリガーを引いた。

 

「『フィニッシュ!!』」

『猫も小判だにゃああああああああああああああああんっっっ!!!!』

 

シューティングフィーバーの直撃を受けたハトゥール・エラーは爆散、融合者であり寄生されていた女性も無事に救出されたのであった。

 

 

 

 

 

翌日、千歳とリアは貧民街で子どもたちと触れ合っていた。

ただし、今回は少々特殊であり……。

 

「こうして、彼女はPK仮面と名乗り、子どもたちのため戦うことを決意したのでした…めでたしめでたし」

 

そう、PK仮面を主役にした紙芝居を子どもたちに話していたのだ。

「同じ慈善活動をしているのだから互いに連携をするべきだ」と斑鳩と詠が提案したため、その一歩として共同の紙芝居を作ることにしたのだ。

設定は詠と斑鳩が、ストーリーは叢が担当しその絵を千歳が描くという中々時間が掛かったが終了すると、子どもたちからの評判は上々であり惜しみない拍手が送られた。

その一方で……。

 

「芭蕉、良く見てください。ここをこう折ったらモアイ像の顔に…」

「えっ、えっと…こうして」

「てか、無理じゃろっ!?器用もここまで来ると不気味じゃわっ!!」

「見ろっ、伊吹っ!完璧な私をモデルにしたんだぞっ!」

「何ですかそれっ!?福笑いじゃないですかもうっ!!」

 

リアは子どもたちに折り紙教室を開催しており、芭蕉は彼女の折り方を見てモアイ像を折ろうとしているが、芦屋はツッコミを入れ総司に至っては良く分からない物が出来上がっており、それを伊吹に言われる始末。

楽しそうな妹分たちの光景に戒は折り紙を折りながらも楽しそうにしていた。

そして、自分も適当に一枚使って何かを折ろうとしたが……。

 

「あっ、ペガサスが出来ちゃった」

『どうしてそうなったっ!!?』

 

折り紙で出来たペガサス(戒作)に全員がツッコミを入れていたのであった。

To be continued……。




 今回の怪人…ハトゥール・エラーはハムショコーポレーションさんからいただきました!ハムショコーポレーションさん、誠にありがとうございます!シーフ・エラーと被らないようにギャンブル要素を足しましたが如何でしたでしょうか?気に入らなかったら申し訳ありません!(涙)
 本当に男性の正体は何者なのでしょう?幹部エラーですが怪人態の名前と姿が明らかになるのをお楽しみください。ではでは。ノシ

ハトゥール・エラー CV菊地美香
ハムショコーポレーションさんからいただいたオリジナルエラー。モチーフは『猫または猫又、ギャンブラー』
とある女性が弟の手術費のために融合したエラー。「命のギャンブラー」として金持ち相手に荒稼ぎをしていたが、目標金額まで稼いだため自首しようとするもエラーの人格に乗っ取られたことで寄生型として活動していた。
狐のように吊り上がったモノアイで猫のようなボディにはトランプとルーレットをあしらった黄金の鎧を纏っており、二股の尻尾が特徴。
金を集める能力を持ち、集めれば集めるほど強くなっていく。自分の邪魔になるような敵には両腕にある猫のような爪で呪詛による衰弱を行う他、トランプ型のエネルギー弾を繰り出す。
『ハトゥール』はヘブライ語で「猫」を意味するらしい。


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COMBO24 審判×純粋

 さて、今回は夜桜がメインとなります。特に語ることはないのですがエグゼイドが面白くて続きが気になります。クロノスをどうやって対処するのか気になります。
 それでは、どうぞ。


世の中は常に不条理だ…だからこそ、正義や裁きが執行されない。

だけど、そこから一歩踏み出すことでそれを行える可能性が出来るのだ。

そう、それをするだけの勇気があればだ……。

少年『風本護(かざもと まもる)』は恐怖で速くなっている鼓動を抑えるように両手を胸の前に置いていた。

目の前に映るのは自分と同い年ぐらいの少女…彼女の周囲には柄の悪い男性、数人の不良がたむろしており、下種な視線を向けている。

目の前の少女が怯えている…そしてこの現場に気づいたのは自分だけ、それならば自分が助けるのが道理だ。

だけど、怖い……。

もしもこの後自分があの連中に絡まれたら?もしもその次の日に顔を覚えられていたら?

そんな妄想にも近い恐怖心が彼の内に宿る正義感を鈍らせていく。

 

(僕は…僕はっ!!)

 

ぎゅっと強く瞑っていた目を開くと、その足を一歩踏みだしていた。

 

「やっ、やめろっ!!!」

 

必死に声を搾り出して、大声を張り上げる。

裏返ったその声は確かに周囲に響き渡り、先ほどまで上機嫌だった不良たちの顔が怪訝なものに変わると、自分を睨みつける。

 

「何だ、てめぇ?」

「や、やめろっ…その子、嫌がっているだろっ」

 

口調こそ強気だったがその弱々しい言動がおかしかったのか不良たちは爆笑する。

逃げ出したい気持ちや恥じらいの中に宿ったのは微かな怒り…まるで炎のようにそれが燃え上がって行く。

ニヤニヤと笑いながら不良の一人が近づいていく、「もう駄目だ」と思った時だった。

 

「何をやっとるんじゃっ!!」

 

一人の女性の声が響いた。

 

 

 

 

 

護は帰り道を重い足取りで歩いていた。

あの後は自分より年上の女子高生に不良たちは追い払われてしまい、絡まれていた少女も無事に助かった。

彼女は自分の行いについて「勇気ある行動でした」と褒めてくれたが何も嬉しくはなかった。

結局のところ、自分は何も出来なかった…あの不良たちに臆してしまい何をすることが出来なかった。

だからこそ彼は思う、もしも自分に力があればと……。

自分に、悪を滅ぼすための力と勇気があれば良かったのにと……。

その思いは、やがて現実となる。

 

『だったら、テメーの本当の力を解放してやるよ』

 

エラーという歪んだ形として……。

 

 

 

 

 

夜桜は昨日のことが頭から離れなかった。

忍務の帰り道に不良に襲われている中学生二人を見つけ、追い払うことが出来たがあの男子中学生のことが気になったのだ。

あの時の彼の目…自分の正義こそが絶対だと信じてならないあの目、まるでかつての自分たちのような少年の目に嫌な予感を覚えた。

もちろん、自分の気のせいだということはある…だがどうしても頭から離れない。

何か、嫌なことが起きるような……。

 

(…て、何を考えているのですかわしは!!)

 

頭を振って思考を止める、今自分のすることはこの場にいない少年のことではなく食材の買い出しだ。

必要な材料は買ったし「後は」と夜桜が紙のメモを取り出して確認していた時、小石か何かに躓いてしまったのか前のめりになってしまう。

受け身を取ろうにも両手は持っている買い物袋によって塞がれているため、どうすることも出来ない。

 

(倒れるっ!)

 

夜桜が衝撃に備えて目を瞑ったがしばらくしても衝撃が来ない、恐る恐る目を開けると視界には黒い何かに覆われており一瞬何が起こっているのか分からない。

 

「大丈夫ですか?」

 

優しい声に顔を上げると見覚えのある少年の顔が見える。

 

「……門矢君」

「こんにちは」

 

へらへらと笑う彼と今の状況…彼に支えられている状況に少しだけ夜桜は顔を赤くするのであった。

 

 

 

 

「よい、しょっと。これで大丈夫ですか?」

「は、はいっ。ありがとうございます」

 

買い物袋を二つ持って尋ねる彼に夜桜は笑顔でお礼を述べる。

自分の持っている袋の量を見て戒が手伝ってくれたのだ、最初こそ彼女は「気を遣わなくて良い」と言ったが放っておけないらしくこうして持ってくれたのだ。

そんな彼に対して夜桜は再び胸の内で感謝すると帰路を歩き始める。

 

「結構多いですけど、何時もこの量を?」

「はい、全員が良く食べるので」

 

「へー」と感心する彼に対して夜桜は楽しそうに笑う…まるで弟のような彼の反応に懐かしさを感じる。

「雪泉が気に入るのも分かるな」と思いながらも彼女は戒に対して思慕の感情を抱いていたが…。

その後は他愛もない会話を楽しそうに交えている中、ふと帰り道にある空き地に昨日の不良たちと、そして少年がいるのを見つける。

複数の不良たちと対峙する一人の少年…まるで昨日の出来事を再現しているかのようだ。

 

「あの子…?」

「知り合いですか?」

「いえっ、ですが昨日も不良たちを立ち向かおうとして」

「どちらにせよ、放っておくわけには…っ!?」

 

夜桜と話しながらも、戒は彼らの元へ向かおうとするが少しだけ立ち止まってしまう…今さら臆病風に吹かれたわけでもない、ならば何故止まってしまったのか。

それは少年から異様な気配を感じたからだ。

 

「昨日の臆病者君じゃーん、何っ?今日はあのボインなねーちゃんはいねーの?」

「別に良いんじゃね?昨日の慰謝料ってことでこいつからもらおうぜ」

「良いねー、賛成っ!!」

 

そう言って、笑い合う不良たちに対して少年…護は握っていた拳をさらに強く握り締めるとやがて小さな声で話し始めた。

 

「……が」

「あっ?」

 

聞き取れない声量で呟いた彼に対して不良の一人が眉をひそめて聞き返そうとするが、それよりも早く護が大きな声で叫んだ。

 

「ゴミがって言ったんだよ、害悪どもっ!!!」

 

その言葉に楽しげに笑っていた不良の表情が怒りで赤く染まる、その様子を夜桜は驚き最初に抱いていた嫌な感覚が湧き上がる。

不良たちの殺気にも表情を変えず、正義は独り言を言いながらポケットからエラーカセットを取り出し、両手で持ったそれのスイッチを押した。

 

「腐ってるっ、お前たちは腐っているんだ…だからみんな腐って行くんだ、だったら…!!」

【LOADING…GAME START…】

 

電子音声と共に護の身体はデータ状の魔力に包まれて変化していく。

一言で表すならば全身に白い炎を纏った狐のような姿だが白いボディには赤いラインが所々ペイントされており、何処かヒロイックな印象を与える姿だ。

炎のように燃え上がる青白いモノアイを持つ炎の異形……『フラム・エラー』は白い西洋剣を生成する。

 

「はっ…な、何だよっ、お前っ?」

 

その姿に、今まで得意気であった不良たちも恐怖してしまう…対して護が融合変身したフラムはぶつぶつと呪詛のように言葉を紡ぐ。

 

『腐ってる…世界のゴミは…灰に帰さなきゃ……』

『あはははははっっ!!そうだ、今の君はヒーローだ!さぁ、ゴミ掃除といこうじゃないかっ!!』

 

フラムの言葉に、自我を獲得したエラーカセットが少年の声で楽しそうに叫ぶと西洋剣を構える。

そこでようやく不良たちは理解する、本気で自分たちを始末するのだと……。

 

「うっ、うああああああああああああああっっっ!!!」

 

恐怖に耐えられなくなった不良の一人が逃げ出そうとするが、フラムの身体から白い炎が放出されるとやがてそれはフラムそっくりの姿へと変わる。

次々と逃げ道を封じるように現れた分身たちに完全に包囲された彼らを見下すように、フラムは西洋剣を両手で構える。

 

『言い残すことは、ある…?』

「頼むっ!た、助けてっ、もうこんなことはしないっ!だから命だけはっ!!」

 

その言葉に残りの不良たちも土下座などで彼に対して必死に謝罪を繰り返すが、それはフラムの内に宿る『炎』を増幅させるだけだった。

自分はどうでも良い、昨日の少女や…それ以前にも彼らに絡まれて金を無心された罪のない人々が大勢いる。

巨悪よりも小さいがそれでも悪は悪だ…生きる価値などない。

フラムは西洋剣を掲げるように上げると……。

 

『お前たちみたいなゴミは……抹消する……!!』

 

そのまま彼らに向かって振り下ろした。

しかし、その攻撃は届かなかった。

 

「駄目じゃっ!!」

『『っ!?』』

 

その言葉と共に攻撃を防いだのは夜桜であり両腕に備えられた手甲でフラムの西洋剣をガードしているのだ。

そして、背後から不意打ち気味に何者かの跳び蹴りがフラムの胴体に命中し、彼は後ろに数歩下がってしまう。

 

「たくっ、危ないことするなっての」

 

その人物、戒は腰が抜けている不良たちに声を掛ける。

 

「ほらっ、さっさと逃げたらどうですか?あれに火葬されたいんなら残っても良いですけど…どうします?」

 

その言葉に我に返った不良たちは恐怖の悲鳴をあげながら空き地から逃げ出す、無論フラムは分身たちを使って追いかけようとするがドライグハートに乗って現れた真希奈と後ろに乗っていた琴音が進行を妨げる。

追跡が困難だと判断したフラムは改めて夜桜を見ると驚いたように狼狽える。

 

『昨日の、お姉ちゃん……』

「どうしてっ、こんなことを…」

『正義の、ため…だから…!!』

 

彼女の問いにそう答えたフラムは彼女を牽制するように武器を突きつけるがそれを庇うように戒が前に出る。

 

「お前がどんな奴かは知らない、でもその力は危険だ。だから融合を解除してくれ」

 

そう言ってエラーカセットを渡すように説得するがフラムは首を横に振って拒絶する。

「仕方がない」とばかりに戒はアーサードライバーを腰に巻きつけて変身シークエンスを開始する。

 

「変身っ」

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

『っ!仮面、ライダー…!?』

 

ドラゴンリンクに変身したアーサーは驚きを露わにするフラムの胴体にキックを叩き込もうとするがエラーの人格が西洋剣で防ぎそのまま武器を振るう。

アーサーはそれを回避すると、自身もグレンバーンを召喚して構える。

敵対行動を取る彼にフラムは絞りだすように声をあげる。

 

『邪魔をしないで…僕は…正義の……』

『面白くないなぁ…じゃあ、君たちが遊んでくれるの?』

 

正反対のことを口にしたフラムはぱちんと指を鳴らすと残りの分身たちも襲い掛かる。

だが、相手はアーサー一人ではない。

 

「させないっ!」

「わしらが相手じゃっ!!」

「二人とも、頑張れ~」

 

分身したフラムの攻撃をハルバードで防御している間に真希奈は言葉の魔力で二人の戦闘力を向上させる。

分身体の方は本体と同じ能力を駆使するがそれら全てが単純な動作となっておりあまり強いとは言えない。

しかし、中々に連携の取れた動きをしてくるため油断は出来ない…夜桜は分身体の攻撃を防御する。

西洋剣はフラムの身体から生成されたせいか炎の軌跡を描きながら斬撃を浴びせて行くが交代した琴音がハルバードを叩き込んで吹き飛ばし、真希奈の衝撃波で止めを刺す。

一体一体の分身を確実に倒す一方で、アーサーは炎を纏ったグレンバーンを抜刀する。

 

「オラァッ!!」

『ははっ、無駄無駄♪』

 

アーサーの攻撃は本体であるフラムの西洋剣に防がれただけでなく、グレンバーンの炎が吸収されているのを目撃する。

「まずい」と判断したアーサーはフラムを蹴り飛ばして距離を取る。

 

『フェニックスと違って、炎を吸収するタイプか』

「厄介だな、でもっ!!」

【MAGICAL ARTS! BOWA BOWA KACCHI-N!!】

 

もう一度、ボタンを押して冷気を纏うと抜刀術と蹴りを織り交ぜた戦闘スタイルで攻撃を行う。

やはり融合者が大人しいのもあるのか自身の能力を活かせず、攻撃を受けてしまい最終的には強烈なキックを受けて吹き飛んだ。

 

『ぐっ、うぅ…痛いっ』

『あーあーあーあー、もう飽きちゃったよ。主サマのチュートリアルも済んでいないし…バイバーイッ!!』

「待てっ!!」

 

強烈な炎を西洋剣で巻き起こすと、フラムは既に逃走しており夜桜たちと戦っていた分身たちも消滅する。

完全に敵がいなくなったのを確認したアーサーは変身を解除する。

その際、地面に落ちていた手帳らしき物体を拾うとぽつりと呟く。

 

「…面倒だな、あのエラー」

 

融合者ではなく、エラーカセットの方に警戒しながらも彼女たちのいるところへと向かった。

 

 

 

 

 

『この力、すごい…!!』

 

白く燃える炎が裏路地まで辿り着くと、人型へと変わる。

アーサーから逃走したフラムは荒い息を吐いていたが、自分の両手を見て驚きと歓喜に染まった声を出す。

この場にいるのはフラムだけだったがそんな彼に声を掛ける存在がいた。

 

『素晴らしいっ!ブラボーッ!!まさに君は僕の主サマに相応しいよっ!!!』

 

フラムが使用しているエラーカセットの人格だ。

自分の身体から聞こえてくる少年の声に戸惑いながらも彼は自分の中にいるもう一人の存在について知っていた。

知っていたというよりは少しばかり語弊がある…フラムがエラーカセットを使用した途端、エラーに関する情報が頭の中に入ってきたのだ。

そんなフラムに気にすることなく、明るい少年の人格は話を続ける。

 

『この力は主サマの潜在能力、つまり本来宿している力そのもの』

『僕の、力……』

『そうっ!!あの腐った連中に憤り、怒りの炎を燃やすその正義感が今の姿っ!まさに君は正義のヒーローだっ!!』

 

まるで彼の中にくすぶる炎を燃やすように、彼の純粋な想いを燃やしつくように……フラムに言葉を重ねて行く。

やがて、その言葉を聞いていたフラムのモノアイは青白く燃え上がる。

 

『僕の力、僕の姿…僕が、正義のヒーロー…!!』

 

身体中に白い炎を放出させると、フラムは彼らを追跡すべく炎と一体化して裏路地から姿を消した。

 

 

 

 

 

『風本護。「月野光中学校」の二年、クラスからの評判も悪くなければ良くもない。友達もいる普通の中学生です』

「他には?」

『警察官の父親がいたらしいですが…詳しいことまでは』

「分かった」

 

「ありがとう」とリアとの通話を終了させると、戒は脚を進める。

琴音と真希奈は標的となった不良たちの行方を追っており、戒と夜桜はフラム…風本護の行方を捜している。

クラスメイトたちにも話を聞くことが出来たが全員が「良い奴」・「悪い奴じゃない」と口々に証言しておりリアの情報と合わせれば彼の人柄は言いようもない真実なのだろう。

そして、現在二人は彼の自宅へと訪れていた。

 

「すいません、わざわざ拾っていただいて」

「いえ、当然のことをしただけですので」

 

頭を深々と下げる護の母親『風本美耶子』に対して戒は笑顔でそう告げると出されたお茶を飲む。

「あなたの息子が怪物になって悪党を襲っています」と彼女に言ったところで信じてもらえないだろうしあまり負担をかけないために『生徒手帳を届けに来た』という名目で彼女から話を聞いていたのだ。

 

「夫が亡くなってから、あの子は変わりました。門限を守るようになったし弟の面倒も見るようになりました。勉強も自分でするようになって…」

「…あんまり、嬉しくなさそうですね」

「無理をしているような感じがしているんです。まるで、あの人の代わりになろうとしているような、そんな気がして」

 

夜桜の言葉に美耶子は悲しそうに顔を伏せたが「すいません」と一言謝罪する。

どうやら、彼の正義感は父親が関係しているのかもしれないと考えていた途端、スマホに着信が入る。

「失礼」と短く言うと、琴音からの電話を始める。

 

『カー君っ!フラムを見つけたっ!!』

「…場所は?」

 

美耶子に気づかれないように冷静に尋ね、彼女からフラムの居場所を聞いた戒は通話を終わらせる。

そして、彼女にお礼を言ってから外に出ると二人は止めてあったドライグハートで現場へと急行する。

そして、走行しながら戒は腰にアーサードライバーを巻きつけてドラゴンカセットを起動させる。

 

「変身っ!!」

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

 

アーサーはドライグハートのスピードを上げて現場に到着すると、後部に座っていた夜桜と共に跳び上がると彼はグレンバーンでフラムに攻撃する。

夜桜も琴音と真希奈が戦っていた分身体に手甲による打撃を叩き込むと戦闘を開始する。

 

「はっ、そらっ!!」

 

斬撃と蹴りを織り交ぜた攻撃でフラムを追い詰めようとするが身体を炎へと変化させるとアーサーの後ろに回り込んで西洋剣を振り下ろす。

 

「甘いっ!」

 

しかし、振り向きざまの一閃で防がれてしまいアーサーとフラムはそのまま鍔迫り合いを開始する。

互いの剣による摩擦で火花が散る中、フラムは西洋剣を振り払うとそのままアーサーを斬り裂き、後退させる。

 

『…何でゴミを助けるの……?』

「ゴミ?」

 

その言葉を聞き返したアーサーに対してフラムは頷くと話を始めた。

 

『あいつらは罪のない人々を、世界を腐らすゴミ…!だからっ、だから僕がそいつらを抹消する……だからっ、邪魔、しないでっっ!!!』

 

フラムは再度アーサーに西洋剣を振り下ろすがグレンバーンでそれを防ぐと鞘から抜刀して逆に斬ろうとするがそれを躱してバックステップする。

 

(最初の時よりも強くなってる!?)

 

アーサーの疑問の通り、フラムの戦闘力はかなり上がっておりぎこちない動きからヒーローに相応しい動きへと進化しているのだ。

 

『おやおやぁ?最初の時とは全然違うじゃーん、これは主サマが正義の体現者として相応しいってことだよねぇ!!』

『僕が…相応しい……』

 

エラーカセットの楽しそうな声にフラムは何処か高揚したような声色で呟く。

やはり、あの明るい人格の方は正義感でも、ましてや融合者のためでもない……ただ面白いから焚き付けているのだ。

二重の意味で厄介なエラーに毒づきつつも、フラムは距離を詰めて西洋剣を振り下ろした。

 

「それで、何とかなるほど甘くないんだよ」

【RHYTHM!!】

【RIDE UP! RHYTHM! 音色と踊れ!GREEN BEAT!!】

 

しかし、その攻撃を紙一重で躱すとリズムカセットを起動してリズムリンクへとチェンジすると、ピアノアローを至近距離で乱射する。

矢の弾幕に圧されるようにフラムは仰け反り続けるが、追撃するようにアーサーはピアノアローのキーボードを押す。

 

【DOREMIFA! LOCK ON!!】

「はっ!!」

『ぐぅっ!?』

 

ロックオンを付与したピアノアローで射撃を行い、フラムはそれを西洋剣で防ごうとするが不規則に変化する矢の軌跡にどうすることも出来ない。

 

【ATACK ARTS! MUSIC SEARCH!!】

 

弱点を解析したアーサーから放たれたピアノアローの狙撃はフラムを貫いた。

 

『ああああああああああああああっっ!!!』

 

吹き飛ばされて地面を転がるが、すぐに起き上がるとエラーカセットが融合者に話しかけてくる。

 

『主サマ、こうなったら…』

『えっ、で、でも…』

 

その後、しばらく色々と話し込んでいたが結果的にフラムの方が折れると西洋剣に炎を集め始める。

やがて、西洋剣から炎が噴き出すと思い切り振り下ろした。

膨大な熱量と火力を持った斬撃の衝撃波はアーサーとは違う方向へと向かう。

「何処を」と驚くが、すぐに気付いた。

 

「えっ……」

 

強大な斬撃波が分身たちと戦っていた琴音たちの方へと向かって行った。

To be continued……。




 今回の怪人…フラム・エラーは146(名前考え中)さんからいただきました!146(名前考え中)さん、誠にありがとうございます!少しだけヒーローらしいデザインにしましたがどうでしたか?気に入らなかったらすいません…orz
 エラーカセットに翻弄される風本少年を戒と夜桜は救うことが出来るのでしょうか?次回をお待ちください。
 ではでは。ノシ


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COMBO25 強さ×変われること

少し、スランプ気味なってきました…しばらくはリフレッシュ期間に入ろうと思います。さてフラム・エラー編後編です。
少し短くなってしまいましたが、どうぞ。


「させるかっ!!」

【CRITICAL ARTS! COMBO STRIKE! RHYTHM!!】

 

リズムカセットをピアノアローに挿入したアーサーは必殺技…シューティングフィーバーがフラムの放った炎の斬撃波を相殺した。

衝撃の余波でフラムの分身たちは消えるように消滅するが本体のフラムはとっくにこの場から立ち去っており、舌打ち気味するとアーサーは変身を解除する。

攻撃から助かった琴音たちは戒にお礼を言うと、彼の安否を確認する。

 

「大丈夫?」

「ああ、何とか」

 

短くそう返した戒はフラムがいなくなった場所を見つめていた。

 

 

 

 

 

アーサーたちから逃げることに成功したフラムの身体は震えていた。

自分の手を見ると先ほど自分のした行為に対して恐怖で震えが止まらない…そんな彼に対してエラーカセットの人格は語りかける。

 

『何ビビッてんのさぁ、悪いのは君の邪魔をしたあいつら…自業自得なんだよ、分かる?』

『でも、でも…!あんなの、僕のしたかったことじゃない……』

 

フラムははっきりとした言葉で反論する。

確かに邪魔をしてきたのは事実だが、あそこまでする必要も…ましてやあんな悪党のような行動をしてしまったことに恐怖を感じる。

このままでは、自分の正義が狂っていく……そう考えた彼は融合を解除しようとするがもう一人の人格がそれを止める。

 

『あれれ?良いのかなぁ、正義が果たせなくなっちゃうよ』

『っ!!』

『元の臆病な自分に戻りたいんだったら、主サマの好きにしなよ。ただし…無様に死んだお父さんの代わりになれないかもしれないけどねぇ!!』

 

その言葉にフラムは頭を振って「やめろっ!!」と拒絶するがそれでもエラーカセットは明るい声で彼を狂わせる。

 

『正義のヒーローなら、黙ってゴミを掃除するんだよ』

『違う……!僕は…僕は……!』

『違わないさっ!さぁ、掃除の続きを始めようじゃないかっ!!』

『……』

 

そう高笑いする怪物に、フラムは何も言うことが出来なかった。

その光景を、見ている影があった。

 

(やれやれ、随分な奴が誕生したニャ)

 

物陰でミケネはフラムを煽り、焚き付けているエラーカセットに対して苦い顔をする。

根っからの寄生型だがあそこまで我の強い個体は見たことない、本来ならば即刻デリート対象だが今の自分たちの行動を仮面ライダーたちに気づかれるわけにはいかない。

一先ずは様子見することに専念したミケネはフラムの監視を続けるのであった。

 

 

 

 

 

『フラムはエラーカセットの言葉に従い続けている…下手をすると融合者の人格が歪められたままになってしまう』

「それじゃ、どうすれば…」

 

一度、門矢家に集まったメンバーはウェルシュからの話を聞いており琴音が頭を抱える。

しかし、戦闘を行ったから分かるが融合者…風本護は純粋で優しい少年だ…そんな彼を凶行へと駆り立てようとするのはエラーカセットの少年の人格だ。

一体どうしたら彼を助けることが出来るのか……。

 

「フラムを説得するのが一番の確実だが…」

 

そう言って戒は難しい顔をする…彼が今抱えている正義感を否定すれば多少はどうにかなるかもしれないが同時に彼の持っている正義を否定することになる。

元来、お人好しな戒には難しい。

しかしそんな中で口を開く人物がいた……。

 

「わしに、任せてください」

 

意を決した表情で夜桜は彼の目を見るのであった。

 

 

 

 

 

――――「正義を見失うな」――――

 

それが父の口癖だった。

警察官でもあった彼は自分たちに何時もそう言い聞かせてくれた。

厳しくも優しい、そんな良き父親であったと思う…同時に憧れの存在でもあった。

だけど、どんなに素晴らしい人間も呆気なく死んでしまう。

万引きをした少年を車から救おうとして代わりに撥ねられたのだと言う…だから父の言葉に従って自分も彼のようになろうと決意した。

嫌いだった勉強も頑張った、誰かに迷惑を掛けないように必死に頑張った、それでも自分は何も出来なかった。

誰も助けられない……でも、もう終わりだ。

自分の足元で尻もちをつく不良たちを睨む。

 

「あっ、あぁ…助けて……」

『…うっ、うぅ…あぁ……!!』

 

埋めぎ声をあげるフラムが西洋剣を思い切り振り下ろした、しかし…。

 

「「はぁっ!!」」

『っ!!』

 

またしても自分の攻撃が防がれてしまい、乱入者…戒と夜桜のカウンターによって後退してしまう。

三度も邪魔をした彼らにどす黒い感情を胸に宿したフラムとは対照的にエラーカセットは笑う。

 

『あははははははははっ!良いよ!君たち最高に面白い!でも…ちょっと遅すぎだ』

 

その言葉通り、既にフラムはエラーカセットによって負の感情に支配されており彼を愉しませるための傀儡となってしまっている。

それにめげず、夜桜はフラムとなっている融合者に声を掛ける。

 

「護君、でしたね…母君からあなたのことは聞きました。父君のことも」

『……』

「わしや友達と似ています。悪のない世界を目指そうとしたわしらに」

 

話を始めた夜桜を茶化そうとするエラーカセットを戒は目で黙らせると、彼女のは話を続けて行く。

 

「だけど、新しく出来た友達は…もう一つの正義を教えてくれました。そこで分かったのです、正義にも様々な形があると」

 

フラムは黙って彼女の話を聞き続ける…話が聞こえているのかは分からなかったがそれれも夜桜は話を続ける。

 

「あなたの正義を否定するつもりはありません…でも、歪んでしまった正義を見ていることだけは…耐えられません」

『……!!』

 

「歪んでしまった正義」という単語に僅かに反応を示すフラム……。

 

「本当にこれがやりたかったことなのですか!命乞いをする人間も、無関係な人すらも傷つけようとするその姿はあなたが思っていた正義なのか!!違うじゃろっ!!」

『っ!!』

 

その言葉にフラムの意識が急速に覚醒する…そうだ、自分は悪を倒したいからじゃない。

父親に憧れたからヒーローになったんだ、誰よりも優しい警察官に……。

 

『僕は…僕はっ……!!』

『やめろっ!!耳を傾けるなっ!無視しろっっ!!!』

「もう一度聞きます、どうして正義を志そうとしたのですか?」

 

正気を取り戻し始めたフラムに対してエラーカセットは慌てて対処しようとするがもう遅い…一度息を吸った夜桜は改めてフラムに問い掛ける。

 

『憧れたから。強くて優しい…父さんに憧れたからっ』

 

泣いた声でそう話したフラムは西洋剣を地面に捨てて膝を崩した……完全に正気を取り戻したのだ。

年相応に泣きじゃくる様子に一安心する夜桜と戒だがそれを許さない存在がいた。

 

『ふざけるなああああああああああっっ!!よくも邪魔をしてくれたなぁっ!絶対に許さないぞおおおおおおおおっっっ!!!』

「許さないのはこっちのセリフだ」

『懺悔での準備は出来たかね?』

 

エラーカセットが身体の主導権を奪って勢いよく立ち上がると青白いモノアイで睨むが戒とウェルシュは軽口を叩いて挑発する。

怒りを燃やすフラムは分身体を生成するが控えていた琴音と真希奈が現れる。

戒は起動したドラゴンカセットを装填したアーサードライバーのサイドグリップを握り、夜桜も巻物を手に取り互いに叫ぶ。

 

「変身っ!」

「忍転身っ!!」

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

 

姿を変えた二人はフラムに突撃すると、同時に攻撃を与える。

一方で琴音と真希奈は分身体の相手をするが、何度も対戦したこともあってか瞬く間に分身体を倒していく。

分身の一体が後方支援をしていた真希奈を狙うが攻撃の瞬間を狙うように胴体に拳を叩き込んだ。

 

「『まだまだ甘いよ』…てね~♪」

「すご、お母さんそっくり」

 

桜花の真似をした真希奈は彼女と酷似した動きで分身体を殴ったり蹴り飛ばしたりを繰り返し地面に倒れた分身体の頭部をサッカーボールに見立てて蹴り上げる。

真希奈は基本的に音を利用した精霊術を使うが相手の声や癖を観察する能力があるためある程度の『ものまね』が出来るのだ。

母親の戦闘スタイルと酷似した動きに琴音は感嘆するがハルバードを分身体に向かって投げつけると戦斧で分身体を全て吹き飛ばすのであった。

そしてアーサーと夜桜は本体のフラムに攻撃する。

 

『このっ!僕の楽しみの邪魔はおろか、攻撃を浴びせるなんてっ!絶対に許さないっ!!』

 

苛立ったようにフラムは燃え上がる西洋剣を振って反撃を開始するが感情に身を任せた荒い斬撃を繰り出していく彼に夜桜は籠手によるガード、掌底による受け流しを使って攻撃を防いでいく。

 

「オラッ!!」

『ぐっ!!』

 

その隙を狙ったかのように現れたアーサーの前蹴りが右脇腹にめり込む。

ダメージによってバランスが崩しフラムに追撃が行われる。

グレンバーンを召喚したアーサーは緑のボタンを押して冷気を身体と武器に纏わせると、今度は抜刀術を一閃・二閃と繰り出していく。

 

『こ、こんな……』

「こいつはおまけだ!持って行けっ!!」

 

最後に強烈な居合がフラムの胴体に直撃した。

夜桜との息の合った連携、そしてアーサーの連続攻撃を受けたフラムは後退する。

そして、悔しそうに地団太を踏むと自身の身体を炎と一体化させてそのまま逃走しようとするが……。

 

『…させないっ』

『なっ、このっ、邪魔をするなぁっ!!』

 

フラムの融合者が逃走を妨害したのだ。

元来、融合が進むごとにエラーカセットと融合者は感情と思考が一体化していくものだが正気を取り戻した『彼』がそんなことを許すわけがない。

思うように動かない身体に動揺し憤るフラムに夜桜の右ストレートが炸裂する。

 

「護君っ!」

『お姉ちゃん、仮面ライダー…頑張ってっ!!』

「待ってな、すぐに助けてやる」

『後は私たちに任せたまえ』

 

フラム……護の言葉を聞き届けたアーサーは快く了承し、頷くと鞘に納めたグレンバーンをフラムの脇腹に強烈な打撃として叩き込むと、その勢いで反転させた後ろ蹴りを浴びせて怯ませる。

ミドルとハイキックを絡めた連続蹴りを行い、続けて膝蹴りを叩き込んでいく。

冷気を纏った連続攻撃によってフラムは凍結していくが炎を放出させると西洋剣を振り下ろしてアーサーを両断しようとする。

しかし、それを抜刀したグレンバーンで防いで流し、カウンターによる斬撃をフラムに浴びせる。

止めとばかりに最速の居合がフラムの身体を拭き飛ばした。

 

『ぐあああああああああああっっっ!!!こ、こんなはずじゃあ…やだっ、やだあああああああああああっっ!!』

「逃がすかっ!!」

 

自身がGAME OVERとなることに恐怖したフラムは二人に背を見せてそのまま逃走しようとするがそれよりも早く動いた夜桜が巨大化した右の籠手でフラムを殴りつけると近距離で爆発が連続する。

 

「秘伝忍法『極楽千手拳』っ!!」

『アギッ!!?』

 

自身の能力も上手く使えなくなってきたフラムに止めを刺すべく、アーサーはグレンバーンにドラゴンカセットをセットする。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO STRIKE! DORAGON!!】

「はぁぁぁ……」

 

炎と冷気を纏わせたグレンバーンを構えると、勢いよく駆ける。

そして、フラムを連続で目のも止まらぬ速さで斬り裂いた。

 

『ぎゃああああああああああああああああああああっっっ!!!!』

 

『ブレイズスラッシュ』をまともに受けたフラム・エラーは後ろを向いたアーサーが納刀した直後に爆散し、護も倒れたように現れるとエラーカセットを粉々に砕けた。

 

 

 

 

 

事件は終わり、風本護は無事に助け出すことが出来た。

彼はお礼の言葉を口にしておりその表情からも変わることが出来るだろうと分かった。

自宅で報告書を書き終えた戒はゆっくりと伸びをすると、隣にいた琴音が冷蔵庫から出したお茶を汲んだコップを彼に渡す。

真希奈もおり、今はパソコンで音楽を聴いている最中だ。

 

「お疲れ様」

「ありがと」

 

短い掛け合いだがそれだけで互いの考えが伝わっているようなやり取りに遊びに来ていた夜桜は少しだけそわそわしていると、戒が彼女にお礼を言う。

 

「今回は夜桜さんのおかげです、本当にありがとうございます」

「そんな、わしはただ自分の思ったことを伝えただけで」

「でも、あの少年が助かったのは事実ですし、今度何かおごりま…」

 

そんなことを戒が言っている時だった。

足元を見ていなかったのか真希奈が使っていたパソコンの充電器ケーブルに躓くとソファに座っていた夜桜の胸元にダイブしてしまう、琴音は「やっちゃった」と言わんばかりに原因の一端となった真希奈の首根っこを掴んで退散するとこの場にいるのが戒と夜桜だけになる。

 

「なっ、なな……!!///」

「ぷはっ。ご、ごめんなさいっ!あの、これはわざとじゃなくて…!///」

「何をするんじゃああああああああああああっっ!!///」

 

顔を真っ赤にした夜桜のアッパーカットが見事に炸裂したのであった。

 

 

 

 

 

護は帰路を歩いていた…自分を助けてくれた彼らには感謝しても感謝しきれない。

彼らの言葉ははっきりと聞こえていたが本当に自分に正義が成し遂げられるのか不安を覚える。

すると、階段を上ろうとする老婆を見かける…しかし、荷物が多いらしく階段を歩くのさえも一苦労だ。

それに対して、護は彼女の元へ駆け寄ると声を掛ける。

 

「手伝い、ます…」

 

そう言われた老婆は驚いた表情をしたがすぐに「ありがとうね」と微笑んだ。

重い荷物を背負いながら、彼は考える。

しばらくは、人を助けてみよう…変わることから初めてみようと思う……。

自分を助けてくれた…正義を教えてくれた恩人たちのために。

To be ontinued……。




 正義をテーマにしたお話は難しいですね…改めて実感しました。
 今回は夜桜をメインにしてみましたが如何でしたでしょうか?あまり活躍できていなかったら申し訳ありません。
 そして、フラム・エラーの出番はこれで終了です。146(名前考え中)さん、素敵なエラーを本当にありがとうございました!
 ではでは。ノシ

フラム・エラー CV小林裕介・鈴木達央
146(名前考え中)さんからいただいたオリジナルエラー。モチーフは『炎と狐 ヒーロー』
風本護の正義感と悪への怒りで融合した。全身に白い炎を纏った狐のような姿をしており、赤いラインが所々ペイントされている。その名の通り炎を自在に操る能力を持つ。
炎で武器や分身を作ることもでき、一定時間自身の体を炎に変え、攻撃を回避することが出来る。ちなみに、炎を吸収可能。
主な攻撃方法は、炎を固形化して生成した剣での攻撃。また、体を炎に変えられるため、攻撃の自由度は高い。
裏モチーフとして『ウルトラマン』の要素があり『フラム』は「炎」を意味する。


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COMBO EX6 第六回アーサーチャンネル!!

 アーサーチャンネル第六弾です。今回は少しオリキャラの製造方法についても述べています。需要があるかは分かりませんが……。
 それでは、どうぞ。


「せーの」

『「「アーサーチャンネル!!~~~~」」』

 

ラジオのスタジオみたいな場所でウェルシュ、戒、琴音の三人が番組名を口にした途端、拍手や歓声が沸き上がった。

賑やか雰囲気の中、戒は挨拶を始める。

「どーもみなさん、おはこんばんにちは!素敵なお姉さんとの出会いを期待している系男子の門矢戒です。よろしくお願いしまーす!!」

「おはこんばんにちは。そんな世迷言を抜かしている隣の幼馴染を殴りたい系女子の幸村琴音です。よろしくお願いしまーす!」

『おはこんばんにちは。そんなことを笑顔で言う隣の女子が怖い系男子のウェルシュだ。よろしく』

 

ウェルシュが名乗った瞬間、笑い声と再び拍手が沸き上がり、それに満足した戒は説明を始める。

 

「さあ、やってまいりました第六回目の『アーサーチャンネル!!』、この番組はどんな番組かと言いますと!」

『本編で語れなかったとこ、感想であった身近な疑問を答えていく所謂「質問コーナー」だね、第一回でも触れたがこの番組はメタ発言が多い…それを好まない人はバックすることを勧める』

「じゃあ、解説を始める前にゲストを紹介します!月閃女学館二年『夜桜』さんと巫神楽三姉妹の末っ子『華風流』ちゃんです!どうぞー!!」

 

戒とウェルシュの注意事項の後、琴音は今回の特別ゲストである二人の名前を呼ぶと忍装束を着た夜桜と華風流が登場する。

 

「えと、月閃女学館二年の夜桜です。よろしくお願いします」

「どうも、朴念仁を見ると苛々する系女子の華風流よ。よろしく」

 

緊張した面持ちで夜桜は挨拶を行い、華風流は不機嫌そうに紹介を終える。

 

【オリジナルエラーについて】

『応募してくれたエラーたちだね。作者が怪人のネタに困ったのとほんの好奇心で募集を行ったのだが思いのほか応募が来て嬉しかったと言っていたな』

「びっくりしたなー。ドーパントやロイミュードみたいな既存の怪人ならまだしも完全オリジナルの怪人だから来た時は本当に驚いたらしい」

「で、その結果が私のエラー化?」

 

ウェルシュと戒の二人が話す中、不機嫌そうに華風流がチューチューアイスを咥えながら話に割って入る。

 

「そう不機嫌になるなって。でも、本当に個性的なキャラが多くて作者本人も良い勉強になったらしい」

「モチーフが自由な分、逆にエラーの設定に困るってジレンマがあったもんねー」

「やはり色々と大変だったのですね」

 

宥めている戒に続くように、琴音は困ったように裏事情を言うと話を聞いていた夜桜が納得したように頷く。

 

『しかし、まだまだオリジナルエラーはいるから…我々も気を付けなければね』

 

話をまとめたウェルシュは次の議題へと移るべく、ボタンを押した。

(※)改めて応募してくれた皆様方、ありがとうございました!

 

【オリジナルキャラについて】

「スピンオフ大戦ブレイクでフィリップ先生が授業で教えてくれたことの使い回しだけど、作者はまず『気に入ったキャラの声や性格、見た目』から考える」

『戒の場合は黒鉄一輝の声から、琴音の場合はあるゲームキャラの見た目から細かい設定を練っているよ』

「そうは言うけどさ、カー君、ウェルシュ。それって意外と難しくない?」

 

琴音からの質問に戒は「そんなことない」と彼女の言葉を否定する。

 

「見た目が決まれば後は連想ゲームみたいに決まる。例えば作者のお気に入りキャラの一つ、アンデルセンで考えると…見た目と声、口調が気に入っているからそれに合うように自分なりにカスタマイズする。ダボついた白衣と眼鏡をつけて科学者らしい神経質なキャラにして髪形は少しパーマにする。そしてキャラの方針としてなるべく長台詞が特徴にして…これでオリジナルキャラの完成」

『そして、キャラが立っているかどうかセリフを喋らせる』

 

戒の説明の後にウェルシュが音声の再生ボタンを押す。

 

インテリ系毒舌のオリキャラ ICV子安武人

「はっ、『なぜ』だと?お前らニンゲンがあまりにも不甲斐ないから俺たちが代わりに支配してやるんだろうが。もっとも、下等生物には理解出来ないがな」

 

「うわ、随分嫌味なキャラになったわね」

『あくまでも一例だからね。気に入らないと思ったキャラはすぐに没にして次のキャラを作っているよ』

 

再生されたセリフに華風流が顔をしかめるがウェルシュが注意事項を促すと戒が説明を始める。

 

「後は、キャラに『死ね』とか『クズ』とかを極力使わせないようにしているぐらいだな。はい次のお題」

 

ボタンを押して最後の話題へと突入する。

 

【仮面ライダームネノリと登場した怪人、組織について】

「ANOTHER COMBO7で登場した仮面ライダーじゃな!?」

「そうですけど…夜桜さんテンション高いですね」

 

半笑いで尋ねた戒の言葉に目を輝かせた夜桜は頬を赤く染めると俯いてしまうが戒が慌ててフォローを入れる。

 

「いやでも可愛いですよ?年相応って感じがして」

「なっ!?そんなことは…///」

「はいはい、話を始めるよー」

 

そんな彼女の反応を気にせず、手を叩いた琴音は説明を始める。

その時、華風流が表情を増々不機嫌にさせていたのは恐らく気のせいだろう。

 

「詳しい設定は本編を見てもらうとして…ムネノリは夏の劇場版に値する番外編で登場する限定ライダーだよね。モチーフは侍、プテラノドンと狼の変わったチョイスだけど剣術と雷撃のみで相手を追い詰める戦法を得意としているよ」

「何か裏モチーフはあるのですか?」

「『雷鳴の勇者 キョウリュウゴールド』だよ。でもモチーフがモチーフだったから詳しい人はすぐに分かっちゃったみたいだけどね」

 

苦笑いする琴音に夜桜は「なるほど」と納得したように何度も頷くと、ウェルシュは続きを説明する。

 

『組織と怪人については番外編なので思い切って登場させたのが作者の本音だ。本編には絶対に登場しないので安心したまえ』

「てか、その話だと○○○機関と○○○(読んでいない方のための自主規制)の二つが登場したけど関連性はあるの?」

「そこは作者オリジナルの設定だが同一の組織だよ。○○○機関は○○○が世界政府に取り入って発足させた人体実験専門の機関だ。ムネノリはその殲滅や残党の始末を行っているらしい」

 

華風流の問いにすらすらと戒は答えるが二人の会話には所々ピー音が入っており聞き取りにくくなっている。

 

「だけど、他の藩士を比べると随分暗いお話よね」

「作者がVシネの仮面ライダーエターナルをイメージしているからな、必然的に暗い話になってしまったらしい」

「じゃあ…」

「はい、そこまで。これ以上の詳しい設定はネタバレになるから言わない」

 

なおも質問をしようとする彼女に対して戒は笑みを見せて、華風流の口元に人差し指を当てて言葉を遮る。

突然のことに彼女は顔を赤くしたが特に気にすることもなく、彼は「ちなみに」とあることを教えようとする。

 

「変身者はある作品に登場するキャラの関係者となっています。ヒントは高木Pと変身者の苗字と名前…これで分かった人は作者と思考が同じです」

「そこっ!不名誉な称号を読者に与えない!!」

 

カメラ目線で話す戒に対して琴音がツッコム中、いよいよ最後の時間が近づいてくる。

(※)もし彼の正体が分かっても名前を書くなどの『ネタバレは禁止』でお願いします。

 

『さて、そろそろお別れの時間がやってきたがどうだったかな二人とも?』

「門矢君や他の皆さんとお話が出来て面白かったです。また読んでくださると嬉しいです」

「べ、別に戒に会いたくて来たわけじゃないんだから…勘違いしないでよ」

「はいはいツンデレツンデレ」

 

「ツンデレ言うな!」と何時も通りの戒に怒る中、ウェルシュは締めの挨拶に入る。

 

『では、本日はここまで!お相手はウェルシュと』

「門矢戒と!」

「幸村琴音と!」

「華風流と」

「夜桜でお送りしました!」

『バイバーイ!!』

 

全員の言葉の後、盛大な拍手と歓声と共に『第六回アーサーチャンネル!!』は締めくくられた。




 今回は、ちょっとした筆休めのお話です。そろそろ他の作品もすすめなきゃ…でもリアルの都合が…と四苦八苦している状態です。
 もしかしたら仮面ライダームネノリのお話を更新するかもしれません。
 ではでは。ノシ


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COMBO26 召喚×落書き

 何だかお久しぶりです。リアルの都合で少し不定期になるかもしれません、申し訳ない……。
 今回は、鎧武(トッキュウジャー)やドライブ(ニンニンジャー)で行われた春休み合体1時間スペシャルのノリでストーリーが進みます。
 それでは、どうぞ。


薄暗いマンションの一室には一人の人間…怪人がいた。

白い指揮者を彷彿させるスーツの上にモザイク風のカラフルな汚れが付着した白いエプロンを着用しており漫画の雲のような白く大きな特徴的なアフロを被っている。

まるで子どものように床に座り込んでいる怪人…『サモン・エラー』は床に散りばめられているクレヨンを手に取る。

 

『赤、青、黄色、緑…紫、群青色、こげ茶色……』

 

ぼそぼそと、しかし楽しそうに呟きながらクレヨンを自身の身体の中へと貯め込み今まで脱色したようなモノトーンのモノアイはカラフルなものへと変わっていく。

そして、最後のクレヨンを取ろうとするが目的のクレヨンが見つからずサモンの右手は床を這い回る。

 

『ママ、マジェンタが見つからないよ』

『大丈夫よ、僕ちゃん。さっ、お仕事に行きましょ』

 

優しく女性の声でそうサモンに語りかけたエラーカセットの言葉に頷くと、彼はゆっくりと立ち上がり部屋を後にした。

 

 

 

 

 

(……あーあ、どうしてこんなことに)

 

黄色いスカーフを首に巻いた少女『風魔』は商店街の至るところにある落書きをホースと雑巾を使って洗浄していた。

半蔵学院の学生服を着た彼女は普通の女子よりもスタイルが良く、短く切った茶髪とちょんまげのように纏めたヘアースタイルは飛鳥のように活発な印象を与える。

風魔は半蔵学院の忍学科に所属する一年生であり飛鳥たち選抜メンバーの候補生にあたる存在だ。

普段の成績とやや空気が読めないところがあり、補習の常習犯ではあるが潜在能力は一番と尊敬する先輩の飛鳥と霧夜から太鼓判を押されている。

今日は、通常科から忍学科へと渡り、瞬く間に選抜メンバーへと上り詰めた天才少年『門矢戒』が教官として自分たちのクラスに任命&稽古という予定だったのだが急きょ戒に依頼が入り落書き塗れの商店街へと駆り出されたのだ。

風魔としては憧れの先輩が一目置く少年に教えを乞うが出来ると内心喜んでいたがその彼とのファーストコンタクトが落書き掃除……。

「はぁ」とため息を吐いた途端、誰かに頭を軽く小突かれてしまい慌てて後ろを向くと学生服の上にエプロンを身に着けた戒が呆れた様子で口を開く。

 

「何、残念そうな顔をしているんだよ?まぁ、掃除に駆り出したのは悪かったとは思うけど…」

「いやっ、そうじゃなくて…教官君って何時もこんなことを?」

「まぁな。探偵らしくないかもしれないけど大体はこんな感じの仕事が大半だよ」

 

そう言って笑うと、ホースで地面に水をまきながらデッキブラシで赤と青でペイントされた落書きを洗い流す。

落書きは水を使えば簡単に洗い流せるので問題はないが、それでもセンスの欠片は感じられず色と色との相性すらもなっていないのが大半だ。

しばらくして、雑巾と水が入ったバケツを手に持っている依頼人の青年『夢見謙一』が申し訳なそうな表情で会話に入ってくる。

 

「悪いな戒君。こんな仕事を手伝ってもらっちゃって」

「いえっ、商店街の皆さんにはお世話になっていることも多いですしその恩返しだと思えば安いものですよ」

 

「ちょっと疲れますけどね」とおどけたように話す彼に夢見と風魔もつられて笑う。

しかし、こんな嫌がらせをしたのは誰なのか……戒は何か目撃したか彼に尋ねるが…。

 

「実は、俺もこの惨状を知ったのは今日の朝でさ…犯人の詳しい姿までは分からないんだ」

「そうですか」

 

再び頭を下げる彼に対して「気にしないでください」と返し、戒は落書きだらけの商店街を見渡す。

風魔の他にも四人の候補生が洗浄作業に参加しており彼女たちも真面目に…。

 

「『清明』、好い加減起きてくださいっ!!後『村正』っ!ホースを上に向けてはいけませんっ!!」

「…ZZZ……」

「ニャッ!」

 

透き通るような水色のショートにアホ毛を生やした少女…清明は、長く伸ばした茶髪を一本に纏めた凛々しい顔立ちの少女『土方』に担がれて眠っており、眠っている彼女に向かって注意する。

そしてホースを上に向けて虹を作ろうとしている候補生の中ではスレンダーなスタイルを持つ小柄な金髪の猫耳少女…村正に対しても注意をする。

最も、彼女自身は赤と紫のオッドアイを輝かせており土方の話など聞こえていないだろう。

この中では意外にも菖蒲が手際よく作業しておりおばちゃんたちと仲良く談笑しながら掃除をしている…時たま、「濡れて透け透けになったわたしと戒君、ぐへへ」と何やら呟いていたがスルーすることにした。

 

(しかし、何でまたこんな悪戯を……)

 

別の場所に行った夢見と別れ、手を動かしながらも戒は思考を働かせる。

ただの落書き事件ならば、また犯行を繰り返そうとした時に捕まえれば良い…しかしウェルシュが初めて落書きを目撃した時に魔力の反応をキャッチしたのだ。

エラーの仕業だとしたら一体何のために、どのような負の感情を抱えているのか……そんなことを考えながら止まっていた手を進めた時だった。

 

「……ん」

「起きましたか、清明。なら…」

「怪物は、何処……?」

 

周囲を寝ぼけ眼で見渡して清明のか細くもはっきりと聞こえる声に土方は首を傾げるが、その言葉に嫌な予感を覚えた戒は二人の前に立った。

同時に、上空から落下してきた存在の攻撃を召喚したグレンバーンで防ぐ。

落下してきた存在…サモン・エラーは絵筆のような長槍に力を込めるがそれよりも先に戒は胴体を蹴り飛ばすと身軽な動きで後ろ回し蹴りを叩き込んだ。

突然の怪物に周囲はパニックとなるが我に返った土方と菖蒲が避難誘導を行う中サモンは頭を抱えて唸り声をあげる。

 

『蹴り飛ばすなんて酷いじゃないかっ!!マジェンタ、マジェンタを寄こせっ!!!』

 

脈絡もない言葉を加工された声で話すサモンに対して戒は視線を逸らさずにアーサードライバーを腰に巻きつけると起動させたドラゴンカセットを起動させる。

 

【DRAGON!】

「変身っ!」

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

 

スロットに装填してアーサードライバーのサイドグリップを握り、トリガーを引いてドラゴンリンクに変身したアーサーは鞘に納めたグレンバーンで殴る。

顔面を殴られたサモンは「痛い」と蹲るがそのまま連続蹴りを叩き込まれる。

その戦闘スタイルに風魔と村正、寝ぼけ眼の清明は目を輝かせており土方と菖蒲は感嘆の表情を浮かべていた。

攻撃された箇所を抑えながらサモンは距離を取る。

 

『痛い、痛いよぉママ……』

『大丈夫よ。私が…いいえっ。私たちの能力を使う時よ』

 

まるで子どもを慰めるように優しくサモンを諭すと、自分の頭を両手で掴んで思い切り揺らす。

途端、サモンの白いアフロが淡い光に包まれる……そしてそこから二つの白い雲が分離するように現れると人の形へと変わった。

 

『オラオラ行くぜえええええええええっっっ!!!!』

『ヘイ、ホー。ヘイ、ホー』

「うぉっ!!?」

 

赤い甲羅を持ったサングラスの亀の怪物がハイテンションに叫び、頭と手足を引っ込めてスピンをかけた体当たりを仕掛ける。

黒い頭巾と黒い丸のような三つの穴の白い仮面をつけた兵隊がスイカの種のような弾丸を口から発射する。

アーサーはそれを紙一重で躱すがカーブをかけて亀の怪物は再び彼目掛けて突貫する。

しかし、黒い頭巾の兵隊がタイミングをずらして乱射した弾丸に攻撃を受けてしまい装甲が煙を上げる。

 

『凄い、カッコ良い、あはははははっ!!』

『もっと暴れなさい、私たちの子どもたちっ!』

 

サモンは上機嫌に、エラーカセットの人格は先ほどとは違う女王様然とした口調で二匹の怪物を応援するが土方が召喚したハンマーを思い切り叩きつけた。

 

『『がっ!?』』

 

強烈な一撃にのけ反るサモン…僅かに出来た隙を見た彼女は「教官!」とアーサーに声を掛けるとリズムリンクにチェンジし、ピアノアローで狙撃を行った。

その攻撃は吸い込まれるようにサモンに直撃し暴れていた二匹の怪物は白い雲へと戻りそのまま消滅する。

「分が悪い」と判断すると、長槍を振るいそこから溢れ出るカラフルな魔力の奔流に紛れるように姿を消した。

 

 

 

 

 

オーナーは一人、サモンとアーサーとの戦いをミケネから送られてくる映像を観戦していた。

ただただゲームの経過を観察する中、彼に近寄ってくる人物がいた。

 

「マーキムラ君♪」

「……随分と久しぶりじゃないか、『デッド』・『アライブ』」

『悪いな、挨拶が遅れちまった』

 

飄々と話してくる男性『デッド』にオーナーは彼らの名前を呼ぶとパペット人形の『アライブ』は申し訳なさそうに頭を下げるが彼は気にせずに微笑む。

元々オーナーは彼の行動だと分かった時点で独断行動を不問にしていた。

なぜなら、彼に何かを言ったところで正直に従うとは思わないからだ。

 

「気にしなくて良い。どうだった、海外の方は……」

「駄目だねぇ。ミニ四駆君が残した遺産は思いの外厄介でねぇ、あの連中はかなり面倒でさぁ……」

『海外での活動は無理だ…でも、成果はあったぜ』

 

デッドは困ったようにオーバーな動作をするがアライブは表情豊かに動かす。

目を向けたオーナーの意図を理解した彼は言葉を述べた。

 

「『奴』は負けたよ、お兄さんたちの周りをぶんぶん飛び回って目障りだったからねぇ。幹部なきまでに敗北させたよ」

『完全に叩きのめしたが最後にミラージュカセットを解放させて逃走しやがった…だが、仮に生きていたとしても記憶に問題が残るだろうな』

 

不意に低くしたトーンで語るデッドに続くようにアライブは冷徹に言ったその言葉にオーナーは満足したように頷くと、『彼ら』と共にモニターに目を移した。

 

 

 

 

 

その一方、戒たちは落書き掃除を完了させ探偵事務所へと集まっていた。

初めてお邪魔する異性の家に土方と菖蒲は妙に緊張していたり、美緒は「また違う女の子を連れて来た」と軽くショックを受けていたが後々面倒になるので無視していた。

リアと千歳からもらった違う現場の落書きの写真を調べたが特に共通点はないように見えるが……。

 

「母さん、『マジェンタ』って何の色?」

「マジェ…?あぁっ、マゼンタのことですか?色の三原色の一つでピンクに近い色ですがとても綺麗なのですよ」

 

全員にお茶を用意していた美緒は戒の言葉に返して自分のスマホのケースを見せる。

 

「これがそのマジェンタなんですか?」

「ええっ、実はこれ夫が使っているカメラと同じ色なんですよ。お揃いなんですよお揃い、きっかけですか?それはもう語るも…」

 

途中から惚気話に突入しようとしたので千歳が疲れたような表情で美緒を奥の部屋に引きずると戒は考え始める。

 

「落書き…マジェンタ…一体何が目的で…」

 

そう呟いていた時、「カー君!」と聞き慣れた声が聞こえ、階段のある方向を向くと二階から琴音が降りてくる。

 

「琴音、お前また自分の部屋から俺の部屋に…」

「言ってる場合じゃないって!外で、エラーが暴れているっ!!」

『はぁっ!!?』

 

その言葉に全員が驚きながらも、戒は慌てて外に出ると残りのメンバーもつられて後を追いかける。

そこにはサモン・エラーが手に持った絵筆を模した長槍でカラフルな魔力の奔流でセンスのない落書きを始める。

 

『イヤッフーッ!!』

「人の家で何してんだっ!!」

 

上機嫌で自分の家と琴音の家に落書きをしているサモンに流石に怒りを露わにした戒は跳び蹴りを叩き込もうとするが赤い光弾がサモンに直撃した。

 

『ぎゃあああああああああああああっっっ!!!?』

 

強い衝撃にサモンは煙を上げながら地面を転がり、戒は光弾が放たれた方向…自分の後ろを振り向く。

 

「…近所迷惑です、落書きなら余所でやりなさいな」

 

後ろには茶色く分厚い本を開いたまま構えた美緒が立っており、戒が振り向いたころには何かのビジョンの消滅と同時にギリシャ神話のマークと青い蝶がデザインされた栞が手元に現れる。

呆然としている彼らに気づいたのか彼女は何時も通りの様子で話しかける。

 

「……後で掃除手伝ってくださいね」

 

それだけを言って自宅に避難した美緒を横目に気を取り直して戒はアーサードライバーを装着する。

そして、起動したドラゴンカセットをスロットに装填して変身シークエンスを開始した。

 

「変身っ!!」

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

 

戒はアーサーへと変身すると強烈なキックで起き上がった直後の相手を吹き飛ばし、近くの広場へと戦いの舞台が変わる。

体勢を立て直したサモンは自分の頭を振って王様を思わせる巨大な二頭身のキノコを模した怪物と赤、黄色、黒、緑の鉢巻と甲羅を持った四匹の亀の怪物が現れる。

 

「最初の亀と言い、こいつらと言い…まさか」

『戒、避けろっ!!』

 

アーサーが何かを言おうとした時、ウェルシュの声と同時に巨大なキノコの怪物がその脚で踏み潰そうとして来るがそれを躱してカウンターキックを浴びせる。

 

『ぬぬ~!生意気だぞ貴様~~~っ!!』

「それっ!」

 

憤るキノコの怪物に風魔は手裏剣を投擲し、相手にダメージを与えると同時に装着されていた鎖で雁字搦めにされる。

その隙を狙うように清明のロケットランチャーがキノコの怪物を浮かす。

 

「ナイスだ二人ともっ!!」

【MAGICIAN!】

【RIDE UP! MAGICIAN! 魔法、錬成!WHITE FANTASY!!】

 

マジシャンリンクとなったアーサーは緑色のボタンを押し、そのまま落下してくるキノコの怪物目掛けて鋭いアッパーを叩き込んだ。

 

『やっ、や~ら~れ~た~っ!!』

 

キノコの怪物は巨大な水晶に変化し、その直後に粉砕する。

一方で琴音はハルバードで四匹組の亀を吹き飛ばし、菖蒲の蹴りと村正の拳が追撃として放たれる。

しかし、レッドカラーの亀の怪物は立ち上がると仲間と遠くで観戦していたサモンに声を掛ける。

 

『こうなりゃ奥の手(たったいま思いついた)を見せてやる!坊ちゃんと姉御っ、来てくださいっ!!』

『『っ?』』

 

指示されるまま、サモンは赤・黒・黄・緑の順となっている亀の怪物の天辺に立つ。

そして、赤い亀の怪物が叫んだ。

 

『くらえっ!ネオスクリューアタックッ!!』

「うぉっとぉっ!?」

 

急速回転を始めたまま突撃を開始した。

四色の竜巻はアーサーたちを狙うが単純な軌道のため難なく躱されてしまう、しかしサモンが長槍を振るってエネルギー弾を撒き散らすため厄介なことこの上ない状況となっている。

 

『はーっはっはっ!見たかっ、もう一度!』

「「させるかっ!!」」

【ATACK ARTS! CHARGE!!】

 

赤いボタンを押してパワーを底上げしたアーサーと、ハンマーを上段に高く構えた土方は同時に地面を叩く。

すると、衝撃によって亀の怪物たちは顔を覗かしてしまっただけでなくバランスが取れなくなってしまう。

 

『うわわわっ、く、崩れるううううううううううっっ』

「もらったっ!!」

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! MAGICIAN!!】

 

再度赤いボタンを押して左の拳に力を込め、高く跳躍したアーサーはマジシャンブレイクを叩きつけて亀の怪物たちを粉砕する。

四匹の亀の怪物はそのまま消滅すると、バランスを崩したサモンはそのまま地面に落ちてしまう。

そして、アーサーの二撃目が炸裂しようとしていた。

To be continued……。




 今回の怪人…サモン・エラーはエルミンさんからいただきました!エルミンさん、誠にありがとうございます!妄想を召喚するので漫画表現でよくある白い雲みたいな吹き出しを頭部にするなど少し弄ってしまいましたが大丈夫でしたか?(ガクブル)
 さて、次回は有名なあのヒーローが登場しますが一体誰でしょう?ヒントは今回の話でサモンが召喚したモンスターがヒントです(それ答えやん)
 ではでは。ノシ


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COMBO27 マジェンタ×スーパーヒーロー

 サモン編の後編です。今回はサブタイトルの通り、スーパーヒーローがゲスト出演します。誰かはお楽しみに。
 そして、今回はオリジナル・エラーが少しだけ登場します。
 それでは、どうぞ。


アーサーの放った二撃目がサモン・エラーへと向かう…しかし、その攻撃が届くことがなかった。

 

「何っ!?」

 

黒い剣がその打撃を防ぎ、アーサーの拳を弾き飛ばしたからだ。

強烈な勢いに押され、地面を踏ん張って耐える。

そこに現れたのは二体の怪人だった。

二体の内一体は水色のモノアイが特徴の右半身が白で左半身が錆びた金色でカラーリングされており、二体目の方はひび割れた赤いモノアイが特徴の右半身が白く左半身が黒くなっている。

二体のエラーは左腕にエラーブレスを装着しておりサモンを守るように立ち塞がる。

 

『悪いけど、このまま倒されるわけにはいかないねぇ』

『オラ、さっさと逃げろっ!』

 

黒いエラーは自身の半身と同じ、細かい刃がある黒い剣を肩に担いで口を開いている間に金色のエラーは白い盾を構えながら尻もちをついているサモンに指示を飛ばすと立ち上がった彼はそのまま逃走を開始する。

「待て!」と後を追いかけようとするがそれを二体のエラーが邪魔をする。

 

『君が日本の仮面ライダー君だろぉ?初めまして、お兄さんはデッド・エラー、そして…』

『アライブ・エラーだ。覚えておいてもおかなくても構わないぜ』

 

黒いエラー…『デッド・エラー』と金色のエラー『アライブ・エラー』はそう名乗りをあげてアーサーと対峙する。

対するアーサーも拳を構えており何時でも迎撃のタイミングを狙えるようにするが不意にデッドが構えを解いた。

 

『まっ、今回はただの気まぐれ。お兄さんたちと戦うのはまた今度にさせてもらおうかなぁ』

『…てことだ。じゃあなっ!!朴念仁野郎っ!!!』

 

アライブがそう叫んでエネルギー弾を飛ばして、アーサーたちの視界を奪うとそのままと姿を消してしまった。

新たな幹部格が現れたことに警戒しながらもアーサーはミラージュカセットを抜き取りそのまま変身を解除した。

 

『新たな幹部エラーか、手強いぞ戒』

「ああっ、でも…」

 

一先ずは逃げたサモン・エラーのことを優先して、再度スマホに保存しておいた事件現場の写真を順々に調べる。

そして、彼の言動を脳内で再生させる。

 

「マジェンタ、寄こせ…」

 

そもそも、なぜサモンは自分たちを襲ったのか…マジェンタが欲しいなら雑貨店なりデパートなりを襲って手に入れれ良いだけの話だ。

しかし、彼は絵の具を持っている様子がない自分たちを襲ってきた…だとしたら。

 

「犯人にとって、マジェンタはただの色の一つじゃない」

 

そう呟いてから、次の思考へと突入する。

犯行時間は基本疎らだが全て夜の十時や深夜に行われている、その内の現場には若者が集まる場所もあるため少なくとも壮年の男性ではなく十代から二十代の人物で一人暮らし。

もし家族や恋人がいるのなら、誰かがそれに気づくはずだし時間を統一させるはずだ。

そこまで考えて、戒は千歳に連絡を入れる。

 

「千歳、頼みがある…リアと協力して調べてくれないか……」

 

彼からの頼みを聞いた千歳はリアと共にすぐに『ある人物』の情報を調べ上げる。

そしてその数分後、到達した情報を戒に伝える。

 

「……そうか、だとしたらサモンの正体は」

 

二人の情報によって完全に事件の全貌が見えた戒は「ありがとう」と彼女に感謝の言葉を口にすると候補生たちを呼ぶ。

 

「…あれ?風魔は何処行った」

「えっ、確かさっきまでは私たちと一緒に…」

 

土方がそう口にした途端、彼女のスマートフォンに着信が入る。

慌てて画面を見ると、それは風魔からの着信でありすぐに通話をする。

 

「風魔っ!今何処にいるのですか!」

『声が大きいって!それよりも教官君に伝えて…エラーがいたんだって!』

「なっ、待ってください!どういうことですか!?」

 

どうやら、アーサーがデッドたちと対峙している間に風魔は逃走したサモンの後を追い始めていたらしくサモンのアジトを特定したらしい。

慌てて土方は戒にそのことを伝え、電話を彼に手渡す。

 

「場所は何処だ?」

『えっと、結構寂れているから多分廃工場だと思うけど…あっ!『✕✕工場』って書いてあるっ!!』

「よし!独断行動に関しては後で説教するがナイスだ風魔っ!!」

『えへへ///』

 

戒の言葉に風魔は照れ臭そうな声を出す。

そんな中、戦闘を終えて眠っていた清明が急に目を開けると戒が持っていた土方のスマホをひったくるように奪う。

 

「…風魔っ」

『あれ?清明、どうしたの一体…』

 

風魔の言葉が鈍い音と共に途切れ、そして通話が終了する。

清明は珍しく焦った表情で戒の学生服の裾を掴む。

 

「風魔が…危ないっ」

「どういうことニャッ!?」

「もしかして、清明ちゃん…見たんですかぁ?」

 

村正が動揺する中、清明は菖蒲からの問い掛けに首を縦に振る。

清明は予知夢の能力者であり、その内容は彼女が眠っている間ランダムに起きるのだ。

しかしその内容は断片的でありありきたりな日常やバカバカしいものが大半なのだが今回は仲間の危機に関する夢を見たのだ。

しかし、それを事前に彼女から聞いていた戒は息を深く吸って気持ちを落ち着けながらも琴音に美海の連絡を任せ、風魔がいるであろう廃工場へと目指した。

 

 

 

 

 

サモン・エラーは気絶させた風魔を担ぎながら誰もいない廃工場の中へと歩を進めていた。

周囲には廃棄となっている塗料や絵の具が大量に積まれており元々それに関する工場だったのだろうが彼は気にせずに内部へと進む。

もう少し奥まで進もうと足を進めるが鉄臭い機材の臭いに思わず顔をしかめてしまう。

そして、彼の脳内に過去の記憶がフラッシュバックする。

 

――――「何やってるのよ!マジェンタがなくちゃ完成しないでしょ!!この下手くそっ!真面目にやりなさいっ!!」――――

――――「やっぱり、あんたはパパに似たのよ。あのろくでなしにっ!!」――――

――――「ママ?マジェンタがいっぱい出てるよ?……ママ?」――――

『あっ、あぁ…あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!』

 

忌まわしい、思い出したくもない記憶にサモンは何度も何度も頭を地面にぶつける。

しかしそれでも映像は断片的に映し出される。

何度も何度も酷いことをする大好きなママ、寒いのに外に出されようとする自分、そしてカッターナイフをママに突き立てる度に流れ出る『マジェンタ』…命乞いをするマ…。

 

『…ちゃん……僕ちゃんっ!!』

『っ!!?』

 

エラーカセットの鋭い声に映像がなくなり、同時に周囲には自分の頭部から流れ出るマジェンタが流れ出している。

 

(そうだ、ママはここにいる……あれはママじゃなかった。そうだ、ママはここにいるんだ……!!)

 

荒い息を繰り返しながらそう繰り返したサモンは地面に染み渡るマジェンタを舐め取ろうとするがそれを制したのは他でもない、エラーカセットの人格だ。

 

『駄目よ、それじゃ理想の色は出せないわ』

『じゃあ、どうするの?』

『だから彼女を捕まえたんじゃない』

 

優しいその声に視線を向けた先には、マジェンタがいっぱい詰まっている少女が横たわっていた。

 

 

 

 

 

「ん、んぅ……」

 

意識を取り戻した風魔は痛みが走る頭を抑えながら周囲を見渡した。

確か、自分はエラーの居場所を突き止めてそれで……。

そこまで分かった途端、慌てて周囲を調べる…内部からして恐らく廃工場の内部だろうがサモンがいる気配がない。

自分の失態に風魔は唇を噛み、悔しさを露わにするがすぐに思考を切り替えると廃工場から逃げ出そうとした時…。

 

「あれ?君は確か…」

「あっ!夢見さん」

 

現れたのは戒の依頼人だった青年、夢見謙一であり頭を抑え朦朧とした意識のまま風魔を見つけるなり声を掛ける。

一方の風魔も顔見知りの人物に出会ったことで安堵するが、なぜかここにいる彼に疑問を抱く。

 

「あの、夢見さんはどうして?」

「いや、俺も気が付いたらここにいて…それに頭や顔が痛くて」

 

そう言いながら彼は一番痛むであろう頭部を抑えており、嘘をついている様子はない。

落ちこぼれだが曲がりなりにも忍である風魔は彼と行動を共にする。

しかし、道中は何事もなく…それどころかサモンの気配すらないため彼女も「逃げちゃったか」と少し表情を暗くさせるがやがて廃工場の入り口が見え、同時に戒たちが姿を見せる。

 

「風魔っ!」

「教官君!ごめん、あたし…」

 

風魔が謝罪の言葉を口にするよりも早く、戒の蹴りが夢見の身体を蹴り飛ばした。

吹き飛ばされた彼の身体は少しだけ宙に浮くとそのまま塗料が積み込まれている箱に激突する。

突然のことに彼女は混乱するが戒は気にせず夢見の方を見る。

 

「あぁぁぁぁ…痛いっ、痛いよぉっ!!ママァッ!!痛いよぉっ!!!」

 

彼は蹴られた箇所を抑えてのた打ち回っており、その付近に彼が持っていたであろうカッターナイフが落ちている。

やがて、彼がゆっくりと立ち上がり涙を流しながら叫ぶ。

 

「ママァッ!!こいつらが僕をいじめるよぉっ!!僕はマジェンタが欲しいだけなのに、痛いよぉ!」

 

好青年の面影は見る影もなくなっておりまるで子どものように泣き叫ぶ。

その狂気じみた様子に風魔は怖気が走るが…。

 

「ああああああ!…あれ?門矢君、それに手伝ってくれた子たちまで…助けに来てくれたのか!重ね重ね本当にすまない。今度何か…」

 

急に動きが止まると、夢見は最初に出会った時のような穏やかな物腰で話しかけてくる。

先ほどまで泣きわめいていたにも関わらず知らないように振る舞う。

しかし。

 

「ママッ、うん…大丈夫だよ。それにほら、いっぱい来たよっ!あそこにね、マジェンタがたっぷり詰まっているんだよ!前もそうだったんだ」

 

また子どものような言動をする彼に、風魔は困惑し…予め戒から説明を聞いていた土方たちも絶句している。

やがて、戒が口を開いた。

 

「夢見謙一は…多重人格者だ」

 

その単語に風魔は反応する。

『多重人格』……よくテレビや漫画で聞いたことがあるが一人の人間の中に複数の人格が眠っているというものだったはずだ。

しかし、それが作り話だと思っていた風魔にとってそれは衝撃的な話であり簡単に受け入れられる話でもなかった。

戒もそれが分かったのか全員に説明するように言葉を続ける。

 

「詳しくは分からないが、幼いころに壮絶なトラウマ体験によってその部分だけ記憶を切り離して全体を保護する副人格が生まれる…それが多重人格だ。まさか、『副人格にエラーカセットを渡す』とは思わなかったけどな」

『あるいは、エラーカセットを起動した瞬間にトラウマが掘り起こされて副人格が誕生したか…だが』

 

ウェルシュは夢見を見るが、当の彼はぶつぶつと呟きながらポケットからエラーカセットを取り出した。

 

「マジェンタを寄こせえええええええええええええええっっっ!!!!」

【LOADING…GAME START…】

「くっ、変身っ!」

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

 

スイッチを押して起動させると、夢見の身体は魔力へと包まれてサモン・エラーへと変貌し、戒もアーサーへと変身する。

そして、激突した衝撃で散らばった塗料と絵の具をかき集めて自身の身体へと取り込んでいく。

そして、頭を強く振り始めると白い雲が分離して人の形を作っていくとその姿を確立させていった。

それは赤い帽子に青いオーバーオール、小柄な体型をしているが立派なヒゲがトレードマークのそれは白い手袋と茶色いブーツを装着している。

 

「イヤッフー!!」

「……マリオ?」

 

声を出したその『妄想』にアーサーは驚いたように仮面の下で呆然とした表情となる。

マリオ…『ミスター・ニンテンドー』・『ミスター・ビデオゲーム』の異名を持つ言わずと知れたスーパーヒーロー。

デフォルメチックな見た目と紙のような見た目から恐らく『ペーパーマリオシリーズ』だろう。

今までの戦闘でも分かっていたが、どうやらサモンはマリオシリーズに強い思い入れがあるらしい。

唖然としているアーサーに対してサモンのエラーカセットはマリオに対して指示を飛ばす。

 

『さぁ、奴らを地べたに這い蹲らせなさい!!』

『やっちゃえっ、マリオッ!!』

 

サモンの言葉に、アーサーは思わず身構えるがマリオは微動だにせずただ黙って彼らを交互に見る。

それどころか、構えすらもしない。

 

『命令よっ!!』

 

苛立ったようにエラーカセットの人格が身体の主導権を一時的に握ると彼の肩に手を置こうとするが、それを払い木製のハンマーを構えるとそのまま思い切り殴り飛ばした。

殴られたサモンは召喚した長槍で防ぐが勢いを殺し切れず、後退する。

 

『まさかっ、私たちに歯向かうのっ!!召喚された紛い物の分際でっ!!?』

 

ヒステリックに叫ぶサモンたちを無視してマリオはこちらまで走るとアーサーに手を差し出す。

その行動にアーサーや風魔たちは驚くもすぐにその行動を理解した。

 

「一緒に、戦ってくれるのか?」

「……」

 

その言葉にはっきりと頷いたマリオに対して、アーサーは喜びを露わにしその手を握り返した。

そして、マリオがサモンの方を向いて対峙するとアーサーたちも目の前の敵へと視線を向けた。

 

「お前の物語、ここで終わらせるっ!!」

『僕の、僕のマリオを返せええええええええええええっっっ!!!』

 

自分の召喚した存在が歯向かってくる事実にサモンは怒り狂ったように地団太を踏むと頭を激しく振って現れた大量の雲からガンマン、侍、兵士などなどグチャグチャの色が混ざった軍団を召喚する。

そして、大量の軍団と七人の戦いが始まった。

まずはガンマンがライフル、マグナムなどの銃器をそれぞれに構えて風魔と村正目掛けて一斉放射をするが忍転身をした風魔はそれを躱すと、手裏剣を投擲してガンマンたちを一掃するが身体が欠損したにも関わらず銃撃しようとする。

 

「甘いニャッ!!」

 

同じく忍転身をしてスクール水着のような紺色の装束に着替えた村正がメカニックな手甲を振るって吹き飛ばす。

吹き飛んだ瞬間を見逃すことなく、風魔は鎖で拘束して凄まじい回転をする手裏剣で一刀両断した。

 

 

 

 

 

場面は変わり、身の丈以上の刀を振り下ろす侍に対して…西洋騎士を彷彿させるような赤と白を基調とした忍装束の土方はハンマーを器用に操って攻撃を防ぐ。

重い一撃を得意とする彼女だが、防御に関して広報性の中で随一であり相手の攻撃を中々通さない。

痺れを切らした侍が刀を振り下ろそうとした時だった。

 

「それっ!!」

『ギッ!?』

 

後ろから飛び出した菖蒲が忍転身を行い、白いワイシャツと赤いスカートの装束に変わったと同時に攻撃の隙を狙うように飛び蹴りを叩き込み、そのままコンボを続けるようにストレートジョブを入れてダメージを蓄積させる。

 

「これで、止めですぅっ!!」

『ギィッ!!』

 

ストレートキックを叩き込まれ侍はよろめいて後退し、残りの侍たちも襲い掛かってくるが土方が地面を思い切り叩いて地面から浮き上がらせると、薄い緑色のパジャマのような忍装束の清明が寝ぼけた眼で標的をロックオンする。

 

「……シュート」

 

その呟きと共に、ランチャーから射出された大量のミサイルが侍たちを一掃させた。

そして近くで戦っていたアーサーたちの方にも決着が着こうとしていた。

マリオは大量に襲ってくる兵士たちの攻撃を躱すように高く跳躍すると頭を踏みつけるように次々と蹴散らしていく。

アーサーは脚力強化で相手を蹴り飛ばしていき、グレンバーンで相手を斬り捨てながらも着実に兵士を消滅させる。

そして、マリオは水色のブーツを模したバッジを胸元に装着し武器を振り下ろした兵士を思い切り踏みつけると、エフェクト共に兵士は消滅する。

そして、バッジ『ガツーンジャンプ』を外すと今度は紫色のハンマーを模したバッジ『ドカーンナグーリ』を装備して後ろにいた兵士の攻撃を受け流すとがら空きになった背後目掛けて殴り飛ばした。

殴られた兵士は弾丸のように吹き飛び、残りの兵士を巻き込み壁に激突したと同時に消滅した。

 

『どうやら、精密な設定がないと召喚した物体の力が完全に再現されないみたいだな』

「何にせよ、これで止めだっ!!」

 

護りが手薄になったサモンに一瞬で詰め寄ったアーサーは彼の顎を蹴り上げてからラッシュを叩き込む。

そして、冷気を纏った踵落としを浴びせてからヤクザキックで蹴り飛ばした。

 

『あっ、あぁ…』

『やめてっ、これ以上この子を……』

「すぐに解放してやるっ!!」

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! DRAGON!!】

 

緑色のボタンを押して炎を纏って跳躍したアーサーを見たマリオは跳躍して自身のペラペラな身体を利用してドリルのように変形させるとやがて一つの必殺技を生み出し、落下の勢いを殺さずに突撃を開始した。

 

「いけええええええええええええええええっっっ!!!!!」

『ぎゃあああああああああああああああああああっっっ!!!』

 

奇跡の必殺技『ミラクルアクション』をまともに受けたサモン・エラーは断末魔と共に爆散し、気を失った夢見と砕けたエラーカセットが残った。

両者が地面に着地すると、身体を元に戻したマリオは苦しげな表情を見せる夢見に駆け寄り優しく頭を撫でる。

すると、彼の表情が何処か安らかな表情へと変わったのを確認すると自分の身体が淡い光に包まれていく。

恐らく創造主を倒したことで自分も元に戻ろうとしているのだろう、最後に自分と同じヒーローに振り向き…。

 

「ヒュイゴー!」

 

自分が話せる最大限の激励の言葉を喋ると、アーサーは嬉しそうにサムズアップをする。

それを見たマリオもサムズアップをするとそのまま消滅していった。

 

 

 

 

 

夢見謙一は幼少時、両親が喧嘩の末に離婚し彼は母親に引き取られるようになった。

芸術家でもありエリートでもあった彼女は旦那の面影がある彼に暴力や暴言…所謂DVを行っていたらしい。

だが、それに耐え切れなくなった彼はカッターナイフを振り回し実の母親を亡き者にしてしまったのだ。

当時の小学校の担任が様子を見に来た時、彼は呆然とした表情で「マジェンタが出てる」と呟いていたらしい。

子どもの犯行と数々の虐待から同情も集まり、裁判になることはなかった。

その後は、本人もその記憶を喪失し普段通りの生活を送るがふと目にした絵画ポスター…マジェンタに染まったイラストと渡されたエラーカセットによって虐待を受けていたことで生まれた小さなトラウマが副人格となり、エラーとして暗躍をしていたのだ。

自分の思い描いた妄想で喜んでいた、両親のことを思い出しながら……。

 

「はぁ……」

 

もやもやする感情を胸の中に押し留め報告書を書き終えた戒はファイルを棚にしまい、どうするか考えを切り替えた。

 

「これが、幼少時の戒の写真です。それでこれが小学生に上がった時の写真でとてもとても可愛くて…」

 

アルバムを見せて延々と語っている美緒をどうやって退散させるか、だ。

候補生たちと共に自宅と琴音の家に描かれた落書きの洗浄が終わると、美緒が徐にアルバムを取り出して自分の過去を話し始めたのだ。

おまけにそれに対して全員が興味津々(土方と菖蒲は鼻を抑えていたけど)なので自分の意見が素直に通るとは思えない。

そして、自分の黒歴史も段々と暴露され始めたのだ。

 

「ちなみに、戒はこの時おね…」

「言わせねぇよっっ!!?」

 

世話の焼ける、それでも優しい母親に対して鋭いツッコミを入れるのであった。

To be continued……。




 サモン・エラーの出番はこれで終了です。エルミンさん、素敵なエラーを本当にありがとうございました!
 そして、最初に登場したデッド・エラーとアライブ・エラーの二体で一組のエラーは麦蕎那支さんからいただきました!麦蕎那支さん、誠にありがとうございます!幹部の方はキャラクター紹介で追記させていただきます。
 今回は半蔵学院の候補生たちを出しましたが次は誰を登場させようか考えています。楽しいなー(笑)
 それでは、また次の機会に。 ではでは。ノシ

サモン・エラー CV鈴村健一・坂本真綾
エルミンさんからいただいたオリジナルエラー。モチーフは『絵師』・裏モチーフは『指揮者』
「夢見謙一」の副人格が『思い描いた妄想を現実に出したい』と言う欲望で融合変身した。指揮者のような白いスーツの上に、モザイク風のカラフルな汚れが付着した白いエプロンを着用しており雲のような白いアフロを被っている。カラフルなモノアイも特徴。
頭を振ることで妄想した物を「召喚」して己の力として使役する。妄想や設定が精密でハッキリしていればいるほど、召喚されるものにも正確に反映される。ただし、本体の戦闘力は特別高くなく、護身程度でしかない。


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COMBO28 親子×家族

 今回は寄生型エラーですので、一話完結です…が、今回はウェルシュのことが少しだけ分かります。そして彼の名前も…。
 それでは、どうぞ。


夜中の十時頃、人気のない街を走る一人の女性がいた。

その女性は少し紫がかった長い白髪の女性であり、ズボンとYシャツの上には白衣を羽織っている。

モデルのようにすらりと伸びた起伏のある身体は、白衣越しでも十分に分かるほどの美女であった。

しかし、その女性はしきりに後ろを気にしながら長時間走り続けたことで限界が来た身体を休ませようとほんの少しだけペースを落とそうとする。

だが……。

 

『み、つ…け、た……』

 

その声に気づいた彼女はスマホを起動させ、「式神」と呼ばれる魔力と電子で作り上げた人工精霊を召喚する。

武者を模した式神が武器を構える中、『追跡者』は拙い口調と共に暗闇からゆっくりと姿を現した。

 

真っ暗なのっぺらぼうと同化するように暗いモノアイがあり、黒い身体と首に巻いてある薄汚れた白いストールからは常に煤が零れており、背中には鎖で縛った和・西洋の墓石が大量にぶら下がっている。

大衆がイメージするギャングと一昔前のホラー映画に登場するような怪物『キル・エラー』は手に持ったハンマーを両手で構えながら黒いモノアイで相手を睨みつける。

 

『……う、ばう……おまえから……いのち、の…かがやき、を……!!あ、と…おまえの、それ…も、うばう…めい、れ、い……』

 

キルはたどたどしくも、何処か興奮しきった少年の声で語りかけながらにじり寄ってくると女性は視線を逸らさぬようゆっくりと下がる。

やがてキルが大きくハンマーを振り被った時だった。

 

「…っ!!」

 

空き缶のような金色の物体を白衣のポケットから取り出すと、それを彼目掛けて投擲した。

キルは煩わしいようにそれを払うがそれは間違いだった。

 

『っ!?ぐっ、うぅ……!!』

 

瞬間、辺りに強烈な閃光が周囲を眩しいほどに包み込むと、不意を突かれたキルは思わず顔を手で覆ってしまう。

やがて閃光が治まり、視力が回復するころには女性の姿はいなくなっており困ったように周囲を見渡すがやがて後ろから蹴り飛ばされた彼は前のめりに転ぶ。

 

「…何をしているのかなぁ、君は」

『あいつの持っている奴を回収しろっつったろうがよぉ、あぁっ!!?』

『…ご、め…ん……』

 

怯えるように蹴り飛ばした人物…デッドにキルはぼそぼそと謝罪の言葉を口にするが、彼は嫌悪を孕んだ視線を向けながら吐き捨てるように命令する。

 

「んんぅ?お兄さんの命令を忘れちゃったのかなぁ、この役立たずは」

『……あるとりうす・ぺんど、の…あきれすけん、と、ろっくされている……みらーじゅかせっとを、はかいする……』

『分かってるならよぉ……さっさと行きやがれこのウスノロ間抜けがぁっ!!!!』

 

「ひいいい」と恐怖するようにキルはこの場から逃げるように走り去ると、デッドは冷ややかな目でそれを見ていた。

 

「まったく、まさかあんな奴が出てくるとは思わなかったねぇ」

『てめぇが死刑囚の寄生型なんざ使うからだろうが…けど、こちらとしては丁度良いがな』

「所詮、道具さ。用が済んだら捨てるだけだよ」

 

彼らの会話から分かるだろうが、今回のエラーは彼らの独断で誕生させた寄生型エラーであり加害衝動の塊で生き物を傷付け動かない状態にすることで生の実感を得る死刑囚を、寄生型エラーにしたのだ。

明らかに救済のルールとは逸脱した行為に嫌悪感を募らせており、その鬱憤を晴らすかのように彼を痛めつけているのだ。

 

「……それに、倒されたとしてもどうなっているかは知らないけどねぇ」

 

そう不気味に笑いながら、デッドはパペットのアライブと会話しながらその場を後にした。

 

 

 

 

 

「……これが、最後にあなたのお母さんが残した手紙なのですね」

「……」

 

政宗探偵事務所の居間では、戒が今回の依頼人である少女と話をしていた。

県立志野塚工業高校の学生服に身を包んだ…白髪の女性と何処か面影のある少女は『霞』……最新のノートパソコンを首に下げている彼女は失踪した母親を探すため、そして失踪した理由を知るために政宗探偵事務所のドアを叩いたのだ。

 

「分かりました。とりあえず、こちらでもいろいろ調べて見ますから…しばらくくつろいでいてください」

 

そう彼女に優しく微笑むと、戒は二階に上がり…リアと千歳達がいる部屋へと入る。

依頼の内容を聞いていたのだろう……二人はパソコンとタブレットを忙しなく動かしており、所在を探そうとしている。

そんな彼女達の邪魔をしないよう、戒はこの部屋に隠れていたウェルシュに話しかける。

 

「どうしたんだ、ウェルシュ?何時ものお前らしくないぞ」

『いや、そんなことは……』

 

言葉を濁す彼に戒は疑問符を浮かべる。

普段冷静な彼がこのような態度を取るのは珍しい……もう少し詳しい事情を聞こうとした時だった。

 

「兄様、見つけました!」

「…場所はっ!?」

「それが、何かから逃げているのか移動を開始しています」

『どうやら、一刻も早く動かなければならないな…戒っ!』

 

「言われなくても」と短く了承した戒はすぐに一階へと降り、扉に向かおうとするが慌ただしく下りてくる彼に驚いた霞は合成音声ソフトを内蔵したパソコンで会話を始める。

 

『あの…何かあったのですか?』

 

音声ソフトの割には、綺麗に聞こえるがそんなどころではない彼は短く母親が見つけたことを答える。

それを聞いた霞は少しだけ表情に変化を見せると、彼の袖を掴む。

 

『私も、連れて行ってください』

「…でも」

 

「危険だ」と言いたかったが今は一分一秒時間が惜しい…戒は念を強く押してからリアたちのナビゲートを元にドライグハートを発進させた。

 

 

 

 

 

女性……瞳は真っ赤に染まった腕を抑えながらキルから逃げていた。

廃墟で仮眠を取り、行動を開始しようと外に出た瞬間にキルが落下してきたのだ。

攻撃したキルの攻撃を回避することには成功したのだが右腕をやられてしまい、足も捻ってしまったためどうすること出来ず、土埃で汚れた眼鏡越しに相手を睨むことしか出来なかった。

その様子を見たキルは興奮した口調で話す。

 

『あぁ……い、いいなぁ……うばうって……!!』

 

自分よりも弱い人間が必死に苦しみながら抵抗する…それに対して言いようもない支配力に覆われてしまい、それが更なる興奮を促す。

それは自分が寄生している人間に対しても同様だった…自分と同じ異常性を持った彼から無理やり魔力を引き出しながら自分の中で悶え苦しむ様に興奮を覚える。

そして、これからその興奮を堪能するのだ…キルはモノアイを歪めながら身体に下がっている墓石を投石した。

それに瞳は固く目を瞑った。

 

【RIDE UP! MAGICIAN! 魔法、錬成!WHITE FANTASY!!】

「…オラァッ!!」

 

その時、マジシャンリンクに変身したアーサーがドライグハートを操作しながら襲い掛かる墓石を全て破壊したのだ。

マジッグローブを装備した両腕から繰り出されるラッシュで全て打ち砕くとドライグハートから降りる。

「お母さん」と彼女に駆け寄る霞の姿を横目にアーサーはキルと対峙する。

 

『気を付けろ、戒っ!!奴のパワーは桁違いだっ!容赦なく叩き潰せ!』

「分かってるっ!」

「……今の声」

 

ウェルシュの声を聞いた瞳は聞き覚えのあるその声に一瞬だけ目を見開くが、アーサーは気にせずキルの胴体に拳を叩き込む。

怯んだ彼はハンマーで思い切り相手を叩き潰そうとするが逆にハンマーを破壊されてしまい、右腕に槍状の水晶を生成した左腕で顔面を殴る。

 

『い、たい…おとなしく、う、うばわれろ…』

『やかましいっ!!』

 

珍しく激昂したウェルシュの言葉に動揺しながらも、アーサーは腕力強化したマジッグローブでラッシュを浴びせる。

そして、少しだけ宙を浮いたキルの鳩尾目掛けて拳を打ち込むと手足をばたつかせながら吹き飛び、地面を転がる。

 

『く、そ…いたい、の、は…きらい、だ』

 

モノアイを光らせながらぶら下げた十字架型の墓石を引きちぎり、ハンマーのように持って地面に叩きつけると土煙に紛れて姿を消した。

煙を払いながらキルのいた場所に駆け寄るが、既に遅かった。

 

 

 

 

 

『「下霜草一」…十数年前、大勢の人間を手に掛けた正真正銘の殺人犯よ』

「聞いたことがありますよ…確か死刑判決が出たはずじゃ…」

『まだ拘束されていたのよ…昨日脱獄したのには違いないんだけど……完全にこちらのミスだわ』

 

人気のない、寂れた廃墟に隠れた戒は美海と連絡を取っていた。

美海が言うには現在警察が総力を挙げて捜査しており、周囲に警戒を呼び掛けているが…エラー絡みともなると話は簡単には終わらない。

戒はリア達を経由して場所を伝えるようにすると、美海の心配そうな声に「大丈夫」と返して通話を終える。

そして、目の前にいる依頼者とその母親は…ウェルシュをじっと見ていた。

ウェルシュは気まずそうな表情をディスプレイに映していたが、やがて瞳は意を決したように口を開いた。

 

「アルト…何でしょ?」

『……何のことだ、私は…』

「嘘っ」

 

言い訳を口にしようとする彼を遮るように彼女は真っ直ぐに彼を見る。ウェルシュはどうにかして話題を変えようとするが、彼女の…当時からまったく変わっていないその目に彼は苦笑する。

 

『……久しぶりだな、瞳』

 

ウェルシュ…『アルトリウス・ペンド・波柴』は『波柴瞳』と再会した。

それを聞いた霞は詳しい事情こそ分からなかったが、彼が何者なのか気づいたのだろう…恐る恐る、自分の声で話しかける。

 

「…お父、さん」

『あぁ。しばらく見ていなかったが…大きくなったな、霞』

 

その言葉に彼女の目に涙が溜まり、瞳は優しくハンカチを渡す。

そこに戒が場を和ませるように割って入ってくる。

 

「…既婚者だったんだな。てっきり研究一筋の独身だったのかと」

『隠していてすまなかったな。彼女とは若い頃、前の職場で知り合ってね』

「所謂、職場結婚…だったのかな…」

 

照れ臭そうに話す彼女だったが、やがて表情を引き締めるとウェルシュに言葉を掛ける。

 

「教えて、十二年前に何があったの?」

『……全ては、彼を…「槇村」を止められなかった私の責任だ』

 

そして、ウェルシュは過去を語り始めた。

学生時代から、日本にある某大学で研究をしていたアルトリウスは友人でもあり研究仲間でもある瞳と、『槇村欣司(まきむら きんじ)』と共に精霊術について研究していた。

そして、数十年後に彼らは精霊術である研究を行おうとしたのだ。

ウェルシュは教え子達と共に『宿った精霊による潜在能力の引き出し』を、槇村は『プログラム化した魔力による電脳世界への直接干渉を利用した新ゲームの開発及び発展』と、互いに目指すものは異なっていたがそれでも彼らは互いに研究を進めていた。

その過程で、ウェルシュは潜在能力を引き出しやすくするためにアプリゲームをモチーフにしたミラージュカセットを製作し、槇村もそれに協力をして進めていた。

しかし、何を思ったのか狂気に囚われた槇村は未完成品でありオリジナルでもあったがミラージュカセットを使用し…世界で初のエラーへと覚醒し…救済のオーナーとして仲間を増やしながら、最終的にアルトリウスを殺害した。

しかし、事前に教え子達に自分が狙われることを教えていた彼は、自身の魂を電子化した魔力…霊子を生前作っていた自動操縦ミニ四駆に送り込み、難を逃れた。

教え子達もウェルシュが予め製作していた「フェイクガンナー」と「アヴァロンブレス」らを使用して海外にいるエラー達の殲滅を行い、活動の中心である日本で新たに完成したアーサードライバーの使用者を探していたのだ。

 

「それが、俺ってことか」

『あぁ…と言っても君には初めて会った時に大体のことは話していたか』

 

腕を組みながら呟いた戒にウェルシュは自嘲するように笑うと、瞳はバッグからある物を取り出し彼に見せる。

 

『…それはっ』

「研究室の跡地から見つけたカセット…ロックが掛かっていたから調べようと思ったら」

「エラーに襲われたってわけか」

『なるほど、戦力を削るのと私のアキレス腱を断つためにか…!!』

 

彼女がエラーに襲われた理由を理解したウェルシュは怒りに声をにじませながらも、彼女に話す。

 

『すまない、俺のせいで…だが君は俺が護る…絶対にっ』

「…そんな姿になってもずるいなぁ、アルトは///」

 

その言葉にほんの少しだけ顔を赤らめた瞳だが、ウェルシュはそれに気づかずに戒に話しかける。

 

『戒…我が儘なのは分かっているが』

「良いさ、どうせその姿じゃ何も出来ないし…俺も手伝うぜ」

 

「ありがとう」とウェルシュと軽く微笑み合う二人から感じる力強い姿に霞は知らず知らずの内に惹かれて行き…そしてアーサードライバーがシェアリングナイトフォースを起動させた。

 

『…千歳からの連絡を受信した』

「りょーかい…ここで待っていてください」

 

それだけを言うと戒とウェルシュは、外にいるキルの元へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

一方、キルは僅かな反応を手掛かりに目の前にある廃墟へと訪れていた。

そろそろ寄生している人間が瀕死の状態なので速く片付けなければいけないの加えて、任務を果たさなければデッド達に何をされるか分かった物ではないのだ。

廃墟ごと叩き潰そうと十字架の墓石を振り下ろそうとした時だった。

 

「させないよ」

『悪いが…貴様の物語、ここで終わらせてもらう』

【DRAGON!】

 

ドラゴンカセットを起動させた戒はアーサードライバーにセットしてサイドグリップを引いた。

 

「変身っ!」

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

 

変身したアーサーは距離を詰め、グレンバーンを抜刀する。

攻撃力は高いが巨体のせいで小回りが利かないキルにとってはマジシャンリンク以上に相性が悪く、墓石を無茶苦茶に振り回すが炎を纏った両脚で蹴り飛ばされてしまう。

 

『お、まえ……きらいだぁっ!!』

 

忌々しくそう叫ぶと黒いエラーカセットを地面に捨てて思い切り叩き潰すと、そこからポーントルーパーがゾンビのように現れる。

キルが召喚したためか、好戦的に前進して来るポーントルーパーの攻撃を躱して相手を蹴り飛ばすとこちらに向かって飛んでくる弾丸を弾いて一掃する。

それでも数は増えてくる上にキルも攻撃を開始しようとした時だった。

 

『ギャッ!!?』

 

頭を撃ち抜かれたポーントルーパーが短い悲鳴と共に消滅すると、そこにはパトカーから降りてきた美海と佑斗が立っており、美海はマグナムを構えていることから撃ったのは彼女だろう。

 

「意外と早かったな、美海姉さん」

「これでも、デートの時には早く待ち合わせに行くのよ」

 

そう微笑むと伸ばしてきた腕を掴み、捻り上げて狙撃し佑斗も身軽な動きでフランケンシュタイナーを掛けると襲ってくる個体に足払いを仕掛けエルボーを叩き込む。

援軍はこれだけではなかった。

半透明な鎧武者や武装した鬼のような物体が現れると、ポーントルーパーを装備した太刀で斬り裂いていく。

突然現れた存在にポーントルーパーはなす術もないまま消滅する。

 

『式神……霞かっ!!』

 

ウェルシュが驚きと我が子の成長を喜ぶように声をあげると、窓には霞が少しだけ身を乗り出しており目にも留まらぬスピードでキーボードを叩きながら式神の操作とキルの弱点を探す。

そして……。

「……っ!!」

『戒君、お父さんっ!!あいつの胴体に少しだけ皹が出来てるっ!』

 

何かに気づいた霞はパソコン本体の音量を最大にして、アーサーとウェルシュに説明すると、それを聞いたアーサーはドラゴンカセットをグレンバーンにセットして居合の構えに入る。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO STRIKE! DORAGON!!】

 

電子音声を鳴らし、構えているアーサーにキルは目の前に存在している命を奪おうと足音を踏み鳴らして墓石を振り回しながら突撃するが、一瞬の隙を見つけたアーサーは抜刀し弱点を貫いた。

呻くキルを無視して刀身を引き抜き、ゆっくりと納刀すると彼の身体からエネルギーと火花が飛び散る。

 

『あ…あぁ……!!……もっ、と……うばい……たか……』

 

命乞いをするように、名残惜しむように…キル・エラーはアーサーの背後で爆散すると寄生されていた下霜が泡を吹いた状態で倒れており、美海は気絶している彼に手錠をかけたのであった。

 

 

 

 

 

事件は終わり、報告書の作成を終えた戒はアイスココアを飲んで一息ついた。

ロックがかけられているミラージュカセットも回収したため、これでもう狙われる心配もないだろう。

スマホを起動してゲームをやろうとしたが…。

 

『霞、やめてくれっ!!私はこの色が気に入ってるんだっ!』

「待って、お父さん」

 

何やら二階で物音が聞こえるとウェルシュが慌ててこちらに来る。

続いて父親に会いに来た霞もパソコンを抱えたままこちらに来たので戒はウェルシュに尋ねる。

 

『いや、ちょっとこの子が我が儘をだな』

「……我が儘じゃないっ」

 

彼の言葉に霞はパソコンの画面を二人に見せるとそこには白や花をイメージしたガワが映し出されている。

彼女曰く、「結婚式のための花婿の衣装」らしい。

 

『確かに、式はやっていないが…ミニ四駆だぞっ!?ミニ四駆と花嫁ってカオスの光景が繰り広げられるだけじゃないか!!』

「だから、似合うように友達にデザインしてもらった…事情は教えていないけど」

 

ウェルシュの言葉に負けじと言い返す霞…この事件以降彼女はほんの少しだけ話をするようになり、笑顔を見せるようになっていた。

事情を知った戒は少しだけ考えると、ある提案が思い浮かぶ。

 

「良しっ、神父は俺にやらせてくれ」

『アホか君はっ!!』

 

真剣な表情でボケた彼にウェルシュは鋭いツッコミを入れるのであった。

To be continued……。




 今回の怪人…キル・エラーはホワイト・ラムさんからいただきました!ホワイト・ラムさん、誠にありがとうございます!デッドたちの犠牲になってしまい申し訳ありません……その代わり不気味さや残虐さを全面的に出してみました。
 次回は美海と行動を共にしている彼のお話を予定しています。ではでは。ノシ

キル・エラー CV悠木碧
ホワイト・ラムさんからいただいたオリジナルエラー。モチーフは『ギャングと墓場』
死刑囚であるみたいな凶悪犯…下霜草一の『強い力を弱い奴に振るいたい』という加害衝動の塊のような欲望で融合した。真っ暗なのっぺらぼうと暗いモノアイで常に体と首に巻いた汚れた白いストールから煤が零れており、背中には鎖で縛った墓石が大量にぶら下げている。
手に持つハンマーが武器で直接的な戦闘力は高く十字架型の墓石による投石も行う。
基本的にひらがなで無口だが攻撃中は興奮した声色になる。
救済のルールとは逸脱した形で誕生したエラーのためか、張本人であるデッドとアライブからは理不尽な言動を取られていた。ちなみに寄生されていた下霜は無理やり魔力を引き出された激痛で半殺し状態だったが一命を取り留め、来月に刑が執行された。


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COMBO28,5 眠り姫×小動物

 今回は作者のお気に入りのキャラである二人の視点でのお話です。最後には次回の本編に繋がるようにしています。
 恋愛と女性の一人称視点の練習のようなものですので展開などについてはあまりツッコまないで頂けると幸いです。
 それでは、どうぞ。


突然だが、門矢戒は半蔵学院と蛇女学園の教官を請け負っている…基本的には幼少時に琴音の道場で行っていた鍛錬(地獄のような)をやったり、缶けりや鬼ごっこなどの遊びを取り入れた訓練も行っている。

今回はそんな彼女たちの内の二人から見た彼のお話である。

 

 

 

 

 

――――清明の場合

授業が終わると、覚束ない足取りで私はある場所へと向かう…校舎から離れた場所である一本の木がそびえ立っているその場所は入学してから私が見つけた絶好のお昼寝スポットだ。

芝生で作られた天然の布団に、生い茂った葉っぱからの木漏れ日や穏やかな風が吹くそこでお昼寝をすると勉強や訓練での疲れが一気に吹き飛ぶ。

 

「…ふぁ」

 

いけない…その場所を思い出すだけで欠伸をして眠ってしまいそうだ、以前もそうやって廊下で寝ていたら制服が汚れたし土方にも怒られた。

湧き上がってくる眠気を堪えながら外に出て待ち焦がれたあの場所へと私は訪れることが出来たが、そこには『先客』がいた。

 

「……教官?」

 

思わず呟いたそこには私たちの教官…戒君がおり木の幹によっかかって規則正しい寝息を立てていた。

同年代でありながら戦闘の訓練を先輩たちと教えてくれる彼の…黒い手袋に覆われた手には文庫本があり、恐らくここで読書をしている内に寝落ちしてしまったのだろう。

…思わず周囲に誰もいないか確認をすると、私はそそくさと教官の隣まで移動しお互いの肩が触れ合うぐらいの距離まで来る。

 

(……温かい。それに、何だか落ち着く///)

 

抱き枕とは違う人肌の感触に私はほんの少しだけ頬を赤らめながらも、彼の身体に腕を回して力を込める。

華奢で抱き心地が良く、服越しからでも僅かに感じる筋肉は彼が男子なのだと意識してしまう。

すると…。

 

「…んぅ」

「っ!!?///」

 

教官がこちらを押し倒すように体勢を崩した。

思わず驚いて離れようとするが彼の力は強く離れることが出来ず、私は抱き合う形となってしまう。

 

「……ひゃっ!?///」

 

教官の回した手が私のお、お尻を掴んだ。

思わず変な声を出すが教官をそれに気づかないどころか気持ちよさそうに眠っている。

それにこの体勢となってしまったことで互いの顔も近く、彼の中性的な顔立ちが良く見えることで余計に心臓が早鐘を打つ。

……ふと、彼の少女のような唇が目に入った。

今まで気にしていなかったのに一度そこに目が行くと後から後から思考が流れ込んでくる。

「今ならやれる」という悪魔の声と、「健全な関係を最初に築くべきだ」という天使の声が聞こえる。

でも、このチャンスを逃すわけには……!!

そうだ、これはあれだ…マーキングのようなものだ、別に唇じゃなくても良いし頬にでも大丈夫だ。

 

(よ、良し…!!)

 

ゆっくりと私は顔を近づけようとした時……ふと感じた気配に横目を向ける。

…そこには琴音が笑顔を浮かべてこちらを見ていた。

 

「っ!?……えっと、これは」

「……」

 

私が何か言い訳を口にしようとするが琴音はただじっとこちらを見つめているだけであり笑顔を見せている。

…背後から圧倒的なまでのオーラが出ているが彼女は満面の笑みを浮かべている。

 

「……」

 

声すら出なくなっている私に笑顔を向けたまま、彼女は両手で「話は聞いてやるから、体育館裏に来い」と合図を送り拘束が緩くなっていた教官の腕から離れ、体育館裏へと脚を進めたのであった。

ちなみに怒られるかと思ったが、「カー君は意外と寝相悪いから気を付けなよ」と忠告されただったので今後は彼がいない時にあの場所を使おうと決めたのであった。

 

 

 

 

 

――――芭蕉

今日もこれと言ったトラブルがなく、一日が終わり私は久しぶりに学園にある大浴場を使うことにしました。

制服と下着を全て脱いで、バスタオルを身体に巻いた私はゆっくりと戸を引きます。

時間が時間なのか他の生徒の気配はなく、露天風呂のような浴場は実質貸切状態になっていることに少しだけ浮き足立ちながらもまずはシャワーで身体を洗ってから湯気の立つ湯船の中に足から身体へと浸かります。

 

「「はぁー……」」

 

身体の芯から温かくなる心地良さに息を長く吐いて肩まで浸かると、まるで今日の疲れが洗い流されるような錯覚さえ感じます。

本当に心地良い……ん?

今、誰かの声が聞こえたような……それにこの声は女子じゃなくて男子の…。

 

「えっ?」

「んぁっ?」

 

湯気が晴れて視界がはっきりと見えるようになり、恐る恐る右を向くと…そこには呆けた様子で同じようにこちらを向いた門矢教官でした。

 

「な、なななっ……!!///」

「きゃっ…///」

 

互いに顔を赤くする中、教官は混乱しており私も感情に任せて叫びをあげようとしますが自分の両手で慌てて口を封じます。

もし、このまま私が叫んだら教官にあらぬ疑いが掛かってしまいます…そ、それに。

 

「ごめんっ!お、俺出るから!!」

「まっ、待ってくださいっ!」

 

素早く腰にタオルを巻いた教官に、考えるよりも先に彼を制止させる。

 

「だ、だだ、大丈夫…ですから///」

「へっ?」

「わ、私は、教官がいても大丈夫です///」

 

……あれ?私は何を言っているんでしょう、焦って変なことを言ってしまいました!!

で、でで、でも教官がくつろいでいる時間を邪魔するわけにはいきませんし…急に言われたら教官だって。

 

「そ、そう?それなら、別に良いけど…」

 

あれ?もしかして教官も焦って思考が追いついていない?

ぎこちない動きで再び湯船に浸かるとしばらくは気まずい時間が流れ、それに焦った私は何を思ったのか彼に話しかけます。

 

「せ、背中を流しましょうか?」

「う、うん///」

 

私の言葉に教官は何の反応もせず、首を縦に振ります。

顔が真っ赤なのは熱い湯船のせいなのか、それとも私のように緊張しているのか分かりませんでしたが洗い場へと向かいました。

……きっと、この時の私は焦っていたのでしょうし上せていたのかも知れません。

何を思ったのか、私は自分の胸にボディソープをつけて泡立たせました。

 

(こ、これは私なりのお礼で教官の日頃の疲れを癒すための行為であって決してやましい行為ではありません!そ、そうです!)

 

茹った頭のまま、私はゆっくりと教官の背中に近づこうとした時でした。

 

「何やってるのかなー?」

「へっ?」

 

声のした方を向くと、そこにはバスタオルを身体に巻いた琴音さんと千歳さんが立っていました。

しかも琴音さんに至っては笑顔を浮かべていてかなり怖かったのを覚えています。

 

「千歳ちゃん」

 

彼女の声に気絶していた教官を千歳さんが運ぶと私はしばらく説教され、しばらくの間「脳内ピンク」なる渾名を付けられてしまいました。

……この事件を機に、大浴場を使うのは控えようと心に決めました。

 

 

 

 

 

そして、その数日後。

 

「カー君、あれ取って」

「ん」

 

昨夜の事件のことなど頭の中から綺麗さっぱりなくなっていた戒はいつも通り、事件のない暇な日々を過ごしていた。

どうやらあまりにも刺激が強すぎたのか、それとも千歳が何かしたのかは定かではないが記憶がなくなっており琴音と当事者である芭蕉たちはそれを封印したのだが関係ない話なのでここら辺で終わらせよう。

とにかく、自宅でゆっくり休日を過ごしていた時だったがスマートフォンから着信にしていたアニソンが鳴り響くとそれを手に取る。

 

「もしもし?どうしたんですか、佑斗さん」

『悪いっ!何も言わずに今から落ち合う場所を覚えてくれっ!!』

「えっ、ちょっと!?……切れちゃった」

 

叔母である美海の彼氏の佑斗からの電話だったが、全速力で走っているらしく何やら焦った声で落ち合う場所を戒に伝えると一方的に通話を切ってしまう。

その様子からしてただ事ではないことを悟った戒はすぐに身支度を終えると、佑斗が指定した場所へとドライグハートを走らせた。

 

Next Stage →COMBO29 逃走×追跡




 この二人は見ていて本当に癒されるので彼女たちに焦点を当ててみました。PBSではどうしてこの二人が出なかったのだろうと今でも思っています。
 次回は佑斗がメインのお話になります。ではでは。ノシ


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COMBO29 逃走×追跡

 お待たせしました、今回は佑斗の視点でのお話となります。今回はVシネの仮面ライダーアクセルを少しイメージしています。
 そう言えば、今日の午後六時に生放送があるようですが諸事情で観るのは難しいかもしれません…おのれリアル。
 それでは、どうぞ。


「悪いっ!何も言わずに今から落ち合う場所を覚えてくれっ!!」

『えっ、ちょっと!?』

 

通話先の相手の言葉を聞かず、青年こと『片倉佑斗』は一方的に終えると自身のスマートフォンをポケットにねじ込み、両脚に力を込めた。

体力には自信のある彼だが終わりの見えないマラソンに身体は辟易とし始め、周囲への警戒も怠らないようにする。

佑斗の戦闘力ならばそこらのチンピラやポーントルーパーも倒せるが今回ばかりは事情が異なっていた。

 

「あ、あの……」

「大丈夫、絶対に助けるから!」

 

手を引きながら一緒に走っている『少女』が申し訳なさそうに声を掛けるが彼はそれを制して速度を速めた。

 

 

 

 

 

それは、遡ること数時間前になる。

 

「んー……とっ」

 

佑斗は久しぶりの休暇を満喫していた。

いつもの軍服を模した黒い仕事着とは違い、黒いズボンに白いパーカー…その上には黒いジャケットを羽織っておりその服装から彼が完全なプライベートであることが分かる。

本来ならば、上司兼恋人である美海も休暇を取りデートをする予定であったが何やら身内ごとで急用が入ったらしくキャンセルとなった。

しかし、自分が休日であることには変わりはない……一人の時間を満喫するべく佑斗は背伸びをしながらこれといった目的地を決めずに街を歩き始めた。

まずは図書館でゆっくり読書をした後、ゲームセンターで遊んでその後は喫茶店で食事でもしようかと足を進めた。

 

「……おやめなさいっ!」

 

ふと微かに聞こえた凛とした少女の声に、佑斗は思考を切り替えて声の聞こえた方まで足早に歩く。

声の方向…裏路地の方まで歩くとそこには一人の少女と三人の男性がおり、男たちの服装からお世辞にも真っ当な人物には見えないだろう。

対して少女の方は身なりの良い衣服にスタイルの良い身体を包んでいる。

少し広いオデコと三本のアホ毛が特徴の長く伸ばした薄い茶髪は軽く巻かれており、青みがかった瞳が特徴的な優雅さを持っている。

恐らく、彼女の美貌につられた連中が無理やり彼女とお近づきになろうとしているだろう、虚勢だと思っているのかニヤニヤと笑っているだけだ。

そんな状態に置かれてもなお、少女は凛とした表情で彼らの誘いを断ろうと口を開こうとした時だった。

 

「何をやってるんだ?」

 

低い声色と共に現れた佑斗に、全員がこちらを見るがそれよりも先に警察手帳(常に携帯している)を見せて男性たちに睨みを利かせる。

彼は何も言わなかったが、言わんとしていることは分かったのだろう…男性たちは舌打ちと共にすごすごと去っていくのを確認した佑斗は軽くため息を吐き、少女に話しかける。

 

「大丈夫だったか?」

「は、はい。ありがとうございます」

 

先ほどの連中よりも柔和な笑みを見せる彼に困惑しながらもお礼を言う彼女に「仕事だから」と軽く返した佑斗は自然な動作で彼女を裏路地からエスコートする。

 

「あの、すいません。差し出がましいのは分かっているのですが…その、食事の出来る場所は知りませんか?」

「近くにある、案内するよ」

 

笑顔で答えると、佑斗は付近にある喫茶店に進んだ。

 

 

 

 

 

……同時刻。

先ほどの少女にすり寄っていた男性たちは地面へと倒れていた。

微かだがまだ意識は残っておりリーダー格らしき一人はポーントルーパーに両脇を固定されている。

そして、丸いシルエットが特徴の怪人が思い切り彼を殴り、気を失わせると役目を終えたポーントルーパーは姿を消す。

 

『ふー…ふー……!!』

『…順調そうだな、おい』

 

ボイスチェンジャーで加工された声で息を荒くする怪人に対して、話しかけるのはアライブ・エラー。

後に続くようにデッド・エラーも現れ、二体は丸いシルエットの怪人と対峙する。

 

『随分と血の気が多いねぇ、君は。いや、むしろ彼らは運が良かった方かなぁ?』

「…何の用だ」

『冷たいなぁ、おい。お前がお熱になっている奴を見つけたってのによ』

 

飄々としているデッドに露骨な嫌悪感を示しながら怪人から融合を解いた青年は苛立たしげに声を出すが、アライブの挑発するように放たれた言葉に反応を示した。

 

「『胡蝶』たんが…胡蝶たんが見つかったのか!?あぁっ、行かなきゃ、会いに行かなきゃ、prprしなきゃっ!!」

 

薄気味悪いセリフを一息で喋ると、青年はデフォルメされた戦士の絵柄があるエラーカセットを起動させると、丸いシルエットの怪人はポーントルーパーを引き連れてその場を後にする。

それを見届けたデッドは腕に装着してあるエラーブレスからカセットを抜き取り、アライブの身体と一つになって元の姿へと戻る。

 

「完全に染まっているみたいだねぇ、あの様子だと」

『実の両親を消しときながら、素知らぬ顔で仕事してたんだ。絶望に染まったも同然さ』

 

完全に、エラーカセットに毒された怪人を話題にしながら一人と一体も後にするのだった。

 

 

 

 

 

喫茶店で昼食を済ました佑斗は先ほど助けた少女…『胡蝶』と談笑していた。

話を聞くに、彼女は有名なお嬢様学校『都立薄桜女学院』に所属する風紀委員長であり、束の間の休日を楽しそうと地域の防犯も兼ねて外の世界に足を運んだところ、チンピラたちに囲まれたらしい。

一応、護衛の運転手とメイドがいたのだが彼女の好奇心も相まって一人で行動している方が好きらしい。

まさかのお嬢様に佑斗も一瞬だけ面食らったが元々非常識な出来事は仕事や美海を通じて経験しているため特段驚くようなことはしなかった。

 

「だけど、すごいな。地域の防犯もしているなんて」

「そんなことありませんわ、私はただ自分のすべきことを行動しているだけですので」

 

慣れ親しんだ友人のように会話をする二人の表情には笑みが零れており、傍から見たら年の離れた兄妹にも見える微笑ましい光景だろう。

しかし、それを破壊するかのように突然、二人の後ろにある席の窓が割れると同時にある存在が飛び込んでくる。

 

「なっ…!?」

 

そこにいたのは今まで何度も見てきた異形…ポーントルーパーは突然の出来事で呆然としている人々を気にもせず、こちらに首を向ける。

 

「……くっ!!」

 

財布から代金分を出し、ポーントルーパーを店外に蹴り出すといった動作を僅か数分で終わらして、パニックになる前に彼女と共に外に出る。

彼女の手を取り、よろめきながら立ち上がったポーントルーパーを挑発しながら足を動かす。

先ほどの反応からして、あの雑兵の本体は恐らく自分か胡蝶を狙っている…理由は分からないがこのままでは危険だと判断した佑斗は器用にポケットから自身のスマートフォンを取り出し、専門家である弟分の彼に電話を掛けた。

 

 

 

 

 

そして、時間は再び冒頭へと戻る。

あれからポーントルーパーが数体登場し、自分たちへと襲い掛かってきたがその攻撃を躱してはカウンターを行い、廃工場の中へと突入する。

 

「うぉっ!?」

「きゃっ!?」

 

背後からの殺気に慌てて身を屈めてポーントルーパーの攻撃を避ける。

その攻撃が合図となったのか天井から、左右からぞろぞろと這い出てくるポーントルーパーたちに佑斗は舌打ちをする。

胡蝶は視線を彷徨わせ、何か行動に移そうとしていたが事情があるのかどうすべきか考えているようにも見える。

 

「っ!佑斗さんっ!」

「…ラァッ!!」

 

隙を狙って襲い掛かるポーントルーパーの胴体を後ろ蹴りで怯ませて佑斗は攻撃を仕掛ける。

足元に転がっていたペンキ缶を投げて気を反らし、大勢の敵を巻き込むように相手を掴んで投げ技を多用する。

ある程度を一掃したのを確認した佑斗は、再度腕を取って走り始める。

 

『っ!!』

「邪魔だっ!」

 

逃げ道を阻むようにポーントルーパーたちが立ち塞がるがスライディングでそれを対処し、高所から奇襲しようとした個体の攻撃を躱し、踏み台代わりにする。

通路にあった台車を蹴飛ばし、凄まじいスピードで滑ってくる台車にどうすることも出来ず激突する。

ポーントルーパーからの攻撃を捌いていく内に、やがて二人は廃工場から脱出するがその時、野球ボール大のエネルギー弾が地面に着弾した。

 

「っ!?伏せろっ!!」

「きゃっ!?」

 

胡蝶を庇うように地面に伏すと着弾した場所から大きな爆発が起こる…辛うじて致命傷は避けたが佑斗の脇腹にダメージが入る。

痛みに歯を食いしばりながらも攻撃が行われたであろう方向を見据える。

そこに現れたのは珍妙な丸いシルエットに手足が生えた異形…近づいてくるとその姿ははっきりと視認出来るようになり、ラメの入った水色のボディに頭部には黒いちょんまげのような装飾がある。

背後には数十体のポーントルーパーが隊列を組んでおり、規則的な動きで守るように武器を構えている。

スーパーボールと多くの人が思い描く殿様像を合わせたような異形『バウンド・エラー』を睨む。

 

「お前がっ、彼女を襲った犯人か!」

『その通り、麻呂たちの忠実な兵士たちを倒すとは見事』

 

佑斗の言葉を公家口調のエラーカセットが答えると、わざとらしい拍手をしながら彼らの元に近づく。

同時にポーントルーパーも列を崩さずに前進し、守りを完全に固めている状態だ。

 

『……やっと見つけたよぉ、胡蝶たん』

「な、なぜ私を…?」

 

バウンドがボイスチェンジャー越しでも分かる粘着質な声に胡蝶は嫌悪と恐怖を感じながらも真っ直ぐな眼差しで問いかける。

 

『答えは単純明快、お主が欲しいからでおじゃる』

 

そう喋ってから身体を反転させると、ピンク色へと変わり淡い光と共に黒い帯のような影で縛り付ける。

 

「やめろっ!!…ぐっ!」

 

佑斗は彼女を守ろうと動き出すがポーントルーパーがそれを許すはずもなく、そのまま嬲るように彼を殴り続ける。

それを鼻で笑い、バウンドがモノアイを光らせた時だった。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! DRAGON!!】

「オラアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

『おじゃあああああああああああああっっ!!?』

 

電子音声と少年の掛け声と共に、炎と冷気を纏った急降下キックがバウンドを吹き飛ばした。

同時に、鎧のような装甲を纏った赤と銀色のカラーリングのバイク…ドライグハートが佑斗を襲っていたポーントルーパーたちを蹴散らし、胡蝶を拘束していた影も消滅する。

そこに現れたのはドラゴンと牙を彷彿させるような白いパーツが施された赤い騎士…腰にはゲームパッドを思わせるような赤いアーサードライバーが巻かれており、スロットにはデフォルメ化した赤いドラゴンが描かれたミラージュカセットが装填されている。

黒いスーツの上に赤い霊装を纏い、赤いマフラーを靡かせながらバウンドの方向を大きく赤い複眼で睨む。

強烈な一撃を不意打ちで受けたバウンドは忌々しげに仮面の騎士を睨みつけた。

 

『お前、何者だぁっ!!』

「騒ぎを聞きつけた、通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ……てな」

 

アーサーはそう返し、距離を詰めてバウンドの丸い身体を蹴り飛ばす。

もちろん、バウンドは自身能力で帯状の影を操って応戦するがグレンバーンで斬り捨てられ、逆に抜刀術を叩き込まれてしまう。

 

『ふんっ!』

「うわっとぉっ!?」

 

しかし、突如身体を反転させて元の水色のボディに戻るとアーサーの攻撃を防いで殴り飛ばそうとする。

紙一重でそれを躱すが先ほどとは明らかに違う威力に仮面の下で驚きを露わにする。

 

「気味悪い攻撃しやがって…」

【MAGICIAN!】

【RIDE UP! MAGICIAN! 魔法、錬成!WHITE FANTASY!!】

 

シルクハットを被った手品師がデフォルメされた絵柄のある白いマジシャンカセットを装填してマジシャンリンクに変身し、マジッグローブを装備した左腕でストレートを浴びせるがバウンドはそれを防ぐとアーサーと同じカウンターパンチで殴り飛ばす。

 

「うわぁっ!!?」

 

マジッグローブでどうにか直撃を避けるが衝撃を完全に殺すことが出来ず、数メートルまで吹き飛んでしまう。

 

『無駄だっ、ようやく解放されたこのバウンド様が…やられてたまるかぁっ!!』

『麻呂たちは絶対に倒せん…でおじゃる』

 

ボクシングスタイルで構えるアーサーに得意気な様子を見せる中、バウンドはピンク色に反転させてモノアイを光らす。

するとポーントルーパーは陣列を整え、武器を構える。

 

『麻呂たちは相手を絶対的に支配出来る、それは心ない兵士とて例外ではないでおじゃる』

 

自身の能力でポーントルーパーを意のままに操り、三人を追い詰め始めた時だった。

 

『ぎゃあああああああああああっっ!!!』

 

突如地面が爆発したかと思うと、バウンドはポーントルーパーらと共に爆風に呑まれる。

どうやら、ピンク色…所謂『支配態』は防御力が高くないのか先ほどまでのアーサーを追い詰めた屈強さはなく煙を上げながら地面を転がる。

見れば、少し離れた場所にはパトカーに乗った美海が窓から上半身を出しておりネックレスを変化させたバズーカを構えている。

 

「ナイス、美海姉さん」

『現場に直行する前に電話したのはこれだったのか』

 

ウェルシュの言葉通り、アーサーは佑斗に指示された場所に辿り着いたのだがそれよりも先にスマホで美海に連絡し…そして彼女は場所を調べ、バズーカを放ったのだ。

自慢の兵士たちも霧散したことで不利な状況となったバウンドは水色の『反発形態』へとなり、エネルギー弾を地面に着弾させて土煙を起こすとそれに紛れて姿を消してしまった。

エラーが完全に消えたのを確認したアーサーは変身を解いて、地面に腰を下ろしている佑斗に手を伸ばし、彼もそれを取って立ち上がる。

一方の美海も先ほどまで囚われていた胡蝶に駆け寄り、「大丈夫」と安否を確認し上着を彼女に被せる。

傷だらけとなった佑斗は戒の肩を借りながら彼女が無事だと判断すると、美海に視線を向ける。

 

「美海…」

「お互い、ちゃんとした休日を送れないわね」

 

大人びた笑みを浮かべる彼女だったがやがて眠そうな半目を鋭くさせ、彼の胸倉を掴んだ。

 

「それで、どうしてあなたは女子高の生徒と一緒にいるのかしら…!」

「えっ?」

 

その言葉に、佑斗は一瞬だけ面を食らう。

状況を考えれば、自分は襲われていた彼女を守るために共に行動をしていたはずだ…それは間違いない。

ならば、なぜ自分は怒られているのだろうか?

 

「佑斗さん、美海姉さんは他の女子と仲好さそうにしているのが気に入らな…ブベラッ!?」

 

少し顔を赤くして殴り飛ばした美海を見て、彼は苦笑いしながら少し不機嫌になっている彼女の頭を撫でるのであった。

To be continued……。




 今回の怪人…バウンド・エラーは麦蕎那支さんからいただきました!麦蕎那支さん、誠にありがとうございます!「バウンド」という名前と内に秘めた支配欲からスーパーボールと殿様をイメージしましたが如何でしたか?(汗)
 何だか終わっている雰囲気になっていますがバウンドはまだ生きています、果たして彼の正体とは……?
 そう言えば、エグゼイドが8月で終わるそうですが、自分としては変にグダグダになるよりは良いかなと思っているので次回作のビルドに専念したいです(小並感)
 ではでは。ノシ


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COMBO30 追走×決着

 お待たせしました、多少短くなってしまいましたがバウンド・エラー後編です。
 さて、胡蝶を襲ったストーカーの正体とは……?それでは、お楽しみください。


美海と佑斗が所属する不可能犯罪捜査課では、二人と戒…そして胡蝶の四人がいた。

あの後、美海に事情を説明してから保護者である胡蝶の使用人に電話し、署内で詳しい話を聞くことにしたのだ。

 

「…学校内では、風紀委員としての仕事をしていたのもありますが、休日や地域の見回りの際に妙な視線を感じるようになりましたわ」

 

いつもならば真面目にはっきりと答えていたのだろうが、今は未知の怪人に襲われたのと自分のせいで怪我を負った佑斗に対して後ろめたさがあるのか視線を落とし小さな声で話している。

やはり、彼女も学生なのだろう…恐怖心によって普段の感情が押し潰されようとしている様子に美海は優しく肩を叩く。

 

「大丈夫よ、落ち着いて」

 

気休めに過ぎない言葉だが、それでも彼女には必要な言葉だったのだろう…息を深く吸ってから最近のことについて語り始めた。

自分が誰かに監視されていると思ったのはここ数週間前のことであるらしく、校内以外での場所で視線を感じるようになったらしい。

そのことを、護衛を務めていた使用人たちに説明し、学校を除く場面では常に使用人がいたのだが今週になってぱったりと止まり何も異常なく暮らしていたのだ。

もちろん、使用人には護衛を続けさせてもらっており今日の休日でも二人の使用人がいた。

 

「…以上が、事の次第ですわ」

「ありがとう、話してくれて」

 

佑斗がお茶を差し出し、胡蝶がそれで喉を潤していると扉を開けて入ってきた制服を着た警官に続くように燕尾服を着た丁度二十代の男性と、エプロンを外しているが黒いロングドレスを着た同じく二十代ほどの女性が現れる。

 

「お嬢様っ!」

「御無事でよかった」

 

ロングドレスの女性…『田中』と燕尾服の男性…『加藤』は安堵した表情を見せるとわき目も振らず、一目散に駆け寄る。

一しきり胡蝶の状態を確認した二人は佑斗たちの方を向き直ると恭しく頭を垂れて感謝の言葉を口にする。

 

「この度は、お嬢様を助けていただき感謝いたします」

「いえ、これが俺たちの仕事ですので」

 

慌てて頭を上げさせようとする佑斗に使用人二人はようやく頭を上げると、加藤が話を切り出す。

 

「本当なのでしょうか?お嬢様が襲われたのと言うのは」

「はい、言動からして彼女を付きまとっていたストーカーである可能性が高いかと」

「左様ですか…どうしてお嬢様が怪物などに」

 

加藤は顔を蒼くさせるが、それを落ち着かせるように田中が肩を叩く。

我に返った彼は彼女に話しかける。

 

「田中さん、私はお嬢様を帰らせます。後のことは……」

「分かりました」

 

短いやり取りを終えると、加藤は胡蝶と共にこの場を後にする。

しかし……。

 

「……何のおつもりですか?刑事さん」

 

佑斗が加藤の手首を掴んでいたのだ…その目は今までのような温厚な瞳ではなく、鋭い視線を向けている。

困惑した表情を向ける彼に戒は呆れたようにため息を吐く。

 

「まさか、あんな古典的なミスをするなんて…わざとらしいにも程がありますね」

「先ほどから何を…」

「あんた、何で胡蝶ちゃんが襲われたのが『怪物』だと知っている」

 

加藤の言葉を遮るように佑斗は腕を掴む手の力を強めながら発言する。

その言葉に加藤は首を傾げるが事態を呑み込めていない田中は忙しなく視線を両者に向けている。

 

「あの、怪物って何の話を…」

「やだなぁ、田中さん。私に話してくれたではないですか、お嬢様は怪物に襲われたってそこの刑事さんが…」

「私は、怪物の話なんて一度もしていないわよ。襲われたのを彼女に伝えただけ」

 

その言葉を遮るように美海はあっさりと答える。

彼の反応は傍から見ても怪しいものに変わって行き、歯ぎしりをしながらもこの場を切り抜けることを考える。

やがて、何かを思い至ったように言葉を発する。

 

「だ、大体。なぜ私が疑われているのですか!?そんな揚げ足を取ったぐらいで…犯人は第三者で…」

「それがおかしいのですよ、そもそも第三者がストーカーだったのならなぜ最近になってそれがなくなったのか。当然だ、わざわざ監視をしなくても合法的に監視が出来る立場になったんですから」

「校内で監視をしなかったのは自分の仕事があったのと疑われないためだな」

 

その反論を戒は言いくるめるように潰し、佑斗がそれを追い込む。

正直、物的証拠は何もないが彼はエラーとなって自分たちの前に現れ、正気とは思えない言動をしていた……つまりは、自制が出来ていない証拠だ。

言い逃れが出来ない状況にまで追い詰められた加藤は目を見開き、汗を流すが…やがてその表情が何の感情もないものに変わると指を鳴らした。

 

「うわっ!?」

 

突如現れたポーントルーパーが複数現れ、戒たちを二人掛かりで拘束する。

不意を突かれた四人の横目に、加藤は胡蝶の腕を掴んで無理やりこの場を後にする。

無論騒ぎを聞きつけた警官や刑事が行く手を阻もうとするがただの人間が神秘の存在であるポーントルーパーに勝てるわけもなく、瞬く間に蹂躙されてしまう。

冷たい笑みを共に外に出ると自分の運転する車の後部座席に彼女を押し込み、自分も運転席に座り演じるを掛けるとハイウェイへと走り始めた。

 

 

 

 

 

「この…野郎ぉっ!!」

 

本体が離れたことで能力が切れたのか身体中に魔力を流して強化を施した戒は思い切り振り払うと田中を拘束していた個体を蹴り飛ばす。

美海もネックレスを変化させたハンドガンで頭を撃ち抜き、佑斗も一本背負いを決める。

 

「戒君っ!」

「っ!美海姉さん、後はよろしくっ!」

 

彼の呼びかけに、戒は力強く頷き美海にその場を任せると加藤たちの後を追跡するべく走り始めた。

 

 

 

 

 

加藤が運転する車内では、重苦しい空気が充満していた。

その元凶でもあり運転手でもある彼は呑気に鼻歌を歌っており上機嫌な様子だ。

しかしその瞳はビー玉が嵌め込まれかのように感情がなく、濁っているとも表現出来る……やがて、胡蝶は意を決したように顔を上げた。

 

「なぜですの?なぜあなたが私を…!!」

 

その視線は恐怖で潤んでいるようにも見えたが、加藤を射抜くように芯のある真っ直ぐな視線を向けている。

その視線をバックミラーで確認しながら、彼は楽しそうに答える。

 

「お嬢様。私…僕はね、両親にずっと厳しく育てられてきました。将来の夢にしようと書いていた漫画は目の前で破り捨てられ、教育に打ち込んできた母は勉学のために健康と成績だけを重視してきた」

 

とつとつと語り始めた彼は、彼女の反応を確かめるように粘着質な視線を鏡の奥にいる彼女を見つめる。

 

「だけど、それは全て僕のためだった。虐待じゃない、二人なりの愛があったと確信しています……でも、でもぉっ!!鬱陶しいんだよっ!やれお前は仕える者だ、やれお前は私たちの自慢だだの、人を苛立たせることばっか重ねてさぁっ!!」

 

途中で荒々しく叫ぶ彼に、胡蝶は愕然とするしかない…田中ほどではないが年が近いのもあって幾分か心を許していた彼がここまで感情的な姿を見たことがなかったからだ。

 

「お嬢様、僕はね…自由になりたかったんですよ。『これ』をもらい、両親をこの手に掛けた時、確信したんです。僕は誰にも抑制されたくなかった」

 

運転席から隠していたエラーカセットを取り出し、語り続けながら「でも」と彼は言葉を続ける。

 

「それでも僕は、両親の教えに従って陰ながらあなたに仕えた。なぜだか分かりますか?」

「……」

「『あなたが欲しくなった』からですよぉっ!!一目見た時、運命だと思った。天啓だと思ったっ!!抑制されて何も執着出来なかった空っぽな僕が、ようやく執着出来た唯一の女性(ひと)…それがあなただ」

 

情愛と狂喜が入り混じった視線を向けられた胡蝶は自分で自分を抱く…嫌悪感からではない、何もかも得られた思っていた彼の絶望に恐怖を感じたからだ。

既に壊れてしまっている彼は、笑みを浮かべたままなおも喋り続ける。

 

「だから、護衛の話が来てラッキーだと思いました。これで、合法的に…あなたを手に入れることが出来るってね」

【LOADING…GAME START…】

 

運転をしながらも、エラーカセットを起動させて支配態のバウンド・エラーへと融合を完了し、帯状の影で身体を固定させてモノアイを光らす。

悲鳴をあげようとしても猿轡のように口を塞がれ喋ることも出来ない。

 

『さぁ、麻呂たちの妃となってもらうぞ』

 

好色染みた声色でエラーカセットの人格が呟くとモノアイの光が強くなる…眼を閉じようにも能力なのか開くことしか出ない。

 

(誰か…助けて……!!)

 

涙を零し、薄れゆく意識の中でそう願った時だった。

 

【MAGICAL ARTS! PRISMA PRISM…SHOW TIME!!】

『な、何でおじゃるかぁっ!?』

 

突如進路方向を遮るように現れた巨大な水晶によってバウンドは能力を解除してハンドルを右に切ろうとするが、それが彼らの作戦の内だった。

 

「こっちだっ!」

「佑斗さん…」

『なっ、いつの間に…!?』

 

後部座席に侵入していた佑斗が、ウェルシュから渡された精霊術を施された刃物で影を千切り、彼女を抱えて車内から飛び出す。

「何をっ!」と突然の出来事だらけで困惑するバウンド…彼が胡蝶と共に飛び降りたのはかなりの高所…自殺行為に等しい行動だったがマジシャンリンクのアーサーがドライグハート・ブースターで救出する。

人気のない場所を確認して運転したのが完全に仇となったバウンドは悔しさで拳を強く握る。

 

「さて、お姫様は返してもらったぜ?ボール野郎」

『ぐううううううううっっ、こうなったらお前らをぶちのめすだけだぁっ!!』

『麻呂たちの邪魔をした数々の蛮行、死を持って償ってもらうでおじゃるっ!』

「やれるもんならやってみろ。お前の物語、ここで終わらせるっ!!」

 

反発態に反転したバウンドは怒りに身を任せて掴みかかろうとするが、圧倒的なパワーと防御力を持つアーサーと取っ組み合いになる。

このままではあっさりと投げ飛ばされてしまうだろうが、バウンドは驚くことに力で負けているのだ。

 

「お前、その状態だとカウンター攻撃しか出来ないだろ?」

『っ!!?』

 

その言葉にバウンドは絶句する……バウンド・エラーは二つの形態を持っており相手を自身の影での拘束、モノアイを光らせて相手を支配するピンク色の支配態と…ボール型のエネルギー弾と相手の攻撃を倍返しにする反発態がある。

一見弱点がなさそうな反発態だが、実は『相手の攻撃を受けて』からでないと怪力能力を発揮出来ないのだ。

そして、アーサーは今攻撃をしているのではなく動きを止めているだけ…攻撃にはカウントされない。

 

『バ、バカがっ!!だったらお前を支配して…』

『ま、待っ…』

「バカはお前だぁっ!!」

 

焦りを露わにしたバウンドだがすぐに支配態に反転してアーサーを支配しようとする。

しかし、それこそが彼の狙いだった。

何かに気づいたエラーカセットの言葉を遮るようにアーサーは両腕でバウンドの胴に腕を回してクラッチして持ち上げて自ら後方に反り返るように倒れ込む。

所謂バックドロップでけたたましい音と共に頭部を地面に叩きつけられたバウンドは声にならない叫びをあげながらのた打ち回る。

しかし、その隙を逃さずに赤いボタンで腕力強化したマジッグローブを装備した拳で思い切りアッパーカットを叩き込んだ。

 

『ぎぎゃああああああああああああああっっ!!!』

 

本物のボールのように吹き飛ぶバウンドだがアーサーが生成した水晶でまるで本物のピンボールのように激突と反射を繰り返す。

やがて、地面に叩きつけられたバウンドはふらふらと立ち上がりピンク色の身体は傷だらけになっている。

 

『く、くそっ!速く反転して…』

「させるかっ!」

 

融合者から身体の主導権を交代したエラーカセットの人格は慌てて反転しようとするが佑斗が外に出る際に用意した拳銃で相手の気を反らす。

それが、命とりだった。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! MAGICIAN!!】

『っ!!』

 

必殺技のシークエンスを終えたアーサーは宙を跳んでおり、そのまま力強い急降下キックを叩き込んだ。

 

『おじゃあああああああああああああああっっっ!!!!』

 

跳び蹴り『オーバーストライク』が直撃したバウンド・エラーは爆散し、砕けたエラーカセット共に融合を解除された加藤が倒れた。

勝利したアーサーに、佑斗は安堵しながらも胡蝶の緊張を解くように頭を撫でるのであった。

 

 

 

 

 

事件が終わった数日後、基本暇な不可能犯罪捜査課では報告書作成と資料の整理を行っていた。

美海はパソコンのディスプレイと睨めっこをする中、佑斗は白い手紙を読んでいる。

 

「…胡蝶ちゃんから?」

「んっ?まぁな」

 

真面目な彼女故なのか、ただ単に佑斗のアドレスを知らなかっただけなのか…彼女から送られた手紙から一度目を放して佑斗は彼女に微笑む。

あれから、事件は解決し彼女も風紀委員会の仲間たちと共に仕事を全うし『風紀の乱れを正す』と書いてあった。

それに対して、複雑な表情を見せるのは美海…事情は分かっているし仕事ではプライベートを挟まないのが彼女だがそれでも彼氏が女性(厳密には女子高生だが)と触れ合っていたのが落ち着かないらしい。

もちろん、それに気づかないほど佑斗は鈍感ではない…椅子を滑らして彼女の元まで近づくと頭を優しく撫でる。

 

「……何?///」

「浮気はしないから…な」

「…分かってるわよ、それぐらい///」

 

彼の言葉に少しだけ笑みを見せた美海は、優しい微笑みを向けるのであった。

 

 

 

 

 

「……カー君、私たちはどうすれば良いのかな?」

「甘い空気が終わったら、突入しよう…まずはこの光景を映像に収めて」

『出歯亀なことはやめたまえ』

 

丁度外では、気まずそうな琴音と…スマホで録画しようとする戒と窘めるウェルシュがいたがそれに気づくのは後数秒のことである。

To be continued……。




 バウンド・エラーの出番はこれで終了です。麦蕎那支さん、素敵なエラーを本当にありがとうございました!
 さて、今回は佑斗のお話でした…主人公らしい要素をある意味で持っている彼の活躍が書けていたかは微妙ですが、カッコ良いと思っていただけたら嬉しいです。
 ではでは。ノシ

バウンドエラー CV櫻井孝宏・池田秀一
麦蕎那支さんからいただいたオリジナルエラー。モチーフは『スーパーボールと殿様』
ラメの入った丸いシルエットにちょん髷が乗っかった頭部と、手足がある。
能力は二形態が存在しており、攻撃を反発して怪力を得る能力とエネルギー弾を放つ水色のボディの「反発態」に、相手を支配するチャーム能力と触手もしくは帯のような影を持つピンク色のボディを持った「支配態」がある。
支配態でポーントルーパーたちを手足のように操り、強力なカウンターでアーサーは苦しめた。ただし、反発態は怪力能力もカウンターにしか使えないこと、支配態は防御力が低いといった弱点がある。


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COMBO31 アイドル×植物

 えー、今回はミルキーポップを登場させたのですが……マジで申し訳ありませんっ!!(土下座)、ネタが思いつかなかったので一話完結となってしまいました。
 アホみたいに多重連載をしていたことが祟ったのか本編の更新が遅くなってしまいました、そこにリアルがあるので遅くなった挙句、完成度の低い作品となってしまいました…ごめんよミルキーポップ(泣)
 ですので、今回は一話完結です。それでは、どうぞ。


ありきたりな構造となっている舞台は、この時ばかりは極めて幻想的な場所となっていた。

大き目なステージは色取り取りのスポットライトで照らされており、それにマッチした音楽と歌声が響き渡る。

ライブ会場となっているステージでは五人組の少女が踊り、笑顔で歌を歌っていた。

可愛らしくも豊満で健康的な彼女たち…『アイドルユニット Milky Pop』は自分たちのために集まってくれた観客たちに感謝の気持ちを伝えるように歌声を響かせる。

ギターやキーボードの音色がポップに奏でるミュージックをバックに、彼女たちは笑顔で歌い続ける中それを聞いている影があった。

その人物は彼女たちを照らしているスポットライトを吊り下げた上部に立っており、ステージへ釘づけとなっている観客たちはおろかMilky Popのメンバーやスタッフたちも気づかないだろう。

作業服を着てスタッフへと成り済ました『彼女』はポケットからエラーカセットを取り出して起動させた。

 

【LOADING…GAME START…】

『……耳障りだ』

 

緑と茶色を基本カラーにした植物ような身体に透明なケースを模した装甲で覆っている赤い花と黄色いモノアイを持った頭部の怪人『プラント・エラー』は右腕を園芸用のハサミのような刃へと変形させると、スポットライトを支えているチェーンとロープに切り込みを入れていく。

ゆっくりと力を入れる度に音を立てていくと、プラントは何のためらいもなくチェーンとロープを切り落とした。

 

 

 

 

 

支えを失ったスポットライトはそのまま重力に従って落下していく。

自由落下に任せたスポットライトは、ピンクと白のアイドル衣装を纏った黒髪の少女…グループの中心的存在でもある『舞』の頭部へと当たり、赤い花をステージ上に咲かせた。

……はずだった。

 

「危ないっ!」

 

そんな言葉と共に突進してきた少年によって舞の身体はステージの中央から大きく外れてしまう。

多くの人間が驚き憤る中、けたたましい音と共にスポットライトが落ちた。

突然の出来事に全員が困惑する中、少年…戒は周囲を確認する。

そして、自分が庇った少女に怪我がないことを確認すると安堵するように息を吐くが我に返った舞が呟いた。

 

「あ…血……」

 

彼女の呟きの通り、戒の右腕は袖が切られておりそこからうっすらと傷が見える。

恐らく先ほどの事故で掠ったのだろう、彼もそれに気づいたが人差し指を口の前に立てて「気にしないで」と彼女に伝えると、逃走しようとするプラントを追いかけ始めた。

その際、自身の生徒手帳を落としたのを気づかずに。

 

 

 

 

 

「待てっ!」

『ちぃっ!しつこい子どもだっ』

 

しばらくは追いかけっこが続いたが、周囲に誰もいないのも確認したプラントは女性の声で呟くと、振り向いて自然の多い公園で戒と対峙する。

一方の戒もアーサードライバーをセットして、ドラゴンカセットを起動させた。

 

【DRAGON!!】

「変身!」

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

 

アーサーへと変身すると、グレンバーンによる抜刀術で攻撃する。

しかし、プラントはそれを右腕で防ぐと切れ味の鋭いハサミでアーサーを斬り裂こうとする。

プラントの胴体を蹴り飛ばして怯ませると、グレンバーンの刀身と鞘を組み合わせた連続攻撃と足技でアーサーは追い詰めて行くがプラントはまるで予知でもしているかのように攻撃を躱し、防いでいく。

 

「くそっ!攻撃が当たらないっ!」

『無駄だっ!我々は常に自然と共にある、貴様らには負けんっ!!』

 

男性の声でそう叫んだプラントは左腕を蔓へと変形させてアーサーを拘束する。

力を込めて締め付けながらも、プラントは腕を引いてハサミの餌食にしようと近づけさせる。

「それなら」とアーサーは白いボタンを押した。

 

【MAGICAL ARTS! BOWABOWA KACCHI-N!!】

「オラァッ!!」

『があああああああああああああああああああああっっ!!?』

 

両脚に炎を纏ったアーサーは、助走を付けて軽く跳ぶと勢いのままにドロップキックをプラントの胴体に直撃させた。

全身が植物となっているプラントには大ダメージであり燃え盛るに苦しむように地面を転がる。

拘束から解放されたアーサーが左手をスナップしながら近づこうとした時だった。

 

『邪魔はさせないわ』

 

現れたのは緑色の装甲に、全身から植物を生やした狩人を思わせるようなエラー…ユグドラシル・エラーだ。

両腕に装備したボウガンを構えながらプラントを庇うように前に出ると、鎮火したプラントの男性の人格が喜びの声をあげる。

 

『おぉっ!世界樹様っ!まさかあなたが来て下さるとは…!!』

『あなたに力を与えたのは私だから。それだけよ』

 

短く会話を終えた、ユグドラシルは植物性の毒を持ったボウガンの矢を弾幕のように発射させるがアーサーはそれをグレンバーンで焼き払い、彼女との距離を詰める。

 

『…っ、まさか刀だけで。でも!』

「遅いっ!」

 

木の枝を模した槍を胴体から射出しようとするが、それよりも早くアーサーの居合がユグドラシルを切り裂いた。

火花を上げながら仰け反った彼女はプラントに支えられながらも、アーサーの方を見据える。

 

『ふぅ、嫌ね。子どもだと思って油断していたわ…退くわよ、プラント』

『御意っ!』

 

その言葉と共にユグドラシルとプラントは全身を植物に包み込ませると、そのまま姿を消した。

戦闘が一先ず終了したのを確認したアーサーは変身を解除してその場を後にした。

 

 

 

 

 

その日の翌日、教室で戒は死んだような表情をしていた…理由は簡単、昨日生徒手帳を落としたからである。

どうして落としたのかを自己嫌悪する戒に対して、琴音は呆れたように話しかける。

 

「もう、ポケットに入れっ放しにするのはカー君の悪い癖だよ」

「だから、忘れてたんだって」

「そんなこと言って、小さいころからずっとじゃん。ポケットのティッシュを入れっ放しにしておばさんに怒られてたのに」

 

普段からポケットに入れた物を中々出さない戒は時たまに、こういったアクシデントがある。

最近になってようやくカバンやらに入れるようになったのだが今回もその癖が出てしまったのだ。

今日何度目かのやり取りを琴音としながらも柳生が話題を変えるように口を開く。

 

「だが、意外だな。オレはアイドルに興味がないと思っていたが…」

「わたくしの弟に誘われたのです。ですが、事故が起きるとは思ってもいなかったようですが…」

 

戒の代わりに答えたのは斑鳩だ、何を隠そう戒がアイドルのライブに訪れたのは彼女の弟でもある柊介に誘われたからであった。

ライブに行くことなど初めてのことだったので、それに了承したのだが今回の事件に巻き込まれてしまったのだ。

ちなみに戒がプラントと交戦している間、柊介はパニックとなっていた観客たちをスタッフと共に落ち着かせていたらしい。

何処に失くしたかを戒が必死に思い出そうと頭を働かせている時だった。

 

「…もしもし?」

『兄様、依頼人が来ているのですが…』

「分かった」

 

短く言葉を終えると、戒は準備を整える。

琴音も当然、ついて行くが飛鳥と斑鳩も立ち上がる。

 

「戒君、今回は私たちも行くよ。一人よりも三人四人の方が良いでしょ?」

「わたくしも行きます。弟が夢中になっているアイドルにも興味がありますし」

「分かりました。えっと、残りの三人は」

「アタイはパス。霧夜先生から忍務を任されちまったから」

 

二人の提案に戒は快く了承する。

葛城は忍務で、柳生や雲雀も何やら別件があるらしく同行は無理とのこと……今回のメンバーを連れて戒は自宅へと直行した。

 

 

 

 

 

政宗探偵事務所へと戻った戒たちはリアに案内されるまま今回の依頼人であろうスーツを着た女性とマスクをつけたコート姿の女子と対面する。

 

「探偵の門矢です」

「マネージャーの『薬師寺』です。それと…」

「Milky Popの舞です。あの時は、助けてくれてありがとうございます」

 

そう言って、舞はマスクを外して戒たちに素顔を見せる。

当然今人気アイドルを生で見た飛鳥と琴音、リアは驚いているがあまりアイドルに関心のない戒は軽く頭を下げる。

そうして、薬師寺は依頼内容を口にした。

 

「『(スメラギ)植物園』でのライブの護衛…それが今回の依頼ですか?」

「えぇ。最初は悪戯だと思っていたのだけど…昨日の事件に、今日事務所にこんな物が」

 

戒の言葉に、頷いた女性…ミルキーポップのマネージャーは一枚の紙切れを見せる。

文字はかなり歪に書かれており、何とか読めるがその内容はかなり不気味なものであった。

「皇植物園でのライブを即刻中止しろ。さもなくば自然の代行者が裁きを下すであろう」といった不気味な文面であり数週間前にも似たような内容の文面が届いていたのだ。

そして昨日の事故が起きたのだ。

警察にも伝えたがどうしても対応が遅れるらしい、だが話を聞いていた女性の刑事…「美海が政宗探偵事務所に行けば良い」と教えてくれたのだ。

 

「あ、これ…生徒手帳」

「ありがとうございます。アイドルに落し物を返してもらえるなんて一生の物の思い出ですね」

「そ、そんな…///」

 

笑って感謝の言葉を口にした戒の笑顔に、舞は顔を赤くするがそれに気づいた琴音が薬師寺に尋ねる。

 

「それで、皇植物園ってどのような場所なんですか?」

「最近話題になっている植物園よ。マイナーだけど、珍しい植物も一杯あるの」

 

彼女の説明に琴音は「へぇ」と納得する。

皇植物園はあまり知名度がない植物園なのだがメジャーな木々や植物から図鑑やインターネットでしか見たことがないような花々が多く確認出来る知る人ぞ知るメジャースポットなのだ。

当初からその神秘的な場所でライブを行う予定であり、皇園長や助手兼職員である『月読御門』らも認めていたのだが一人だけ反対している人物がいた。

『佐野蔵一心』は職員の中でも若手の方だが、植物への愛着が強いこともあり「大音量でストレスを与えたらどうするつもりだ」と抗議したこともある。

実際のライブでは最低限の配慮はするのだが、納得しなかった職員でもあった。

その話を聞き、調べる必要があると判断した戒は依頼を受けることを伝える。

 

「それじゃ、よろしくお願いするわね」

「お願いします」

 

こうして、ミルキーポップの護衛が始まった。

 

 

 

 

 

 

「こちらA班、異常なし。どーぞ」

『B班、同じく異常なし。どーぞ』

 

皇植物園の事務所内で、戒たちは無線機を使いながら怪しい人影がないか見回りをする。

やはりと言うべきか、現時点で一番怪しいのが佐野蔵一心であり彼は挨拶こそしたがそれきり自分の作業場へと戻ってしまったのだ。

しかし、それだけで容疑者と捉えるほど戒はバカではない…職員全員に警戒しながらも戒たちは見回りを続ける。

戒と飛鳥、琴音と斑鳩、リアと千歳の二人組に分かれて探索をしているのだが…。

 

「こちらA班、異常なし。それと小腹が空いた、どーぞ」

『B班、こちらも異常なし。事件終わったら好きな物を食べなよ、どーぞ』

『こちらC班。私もお腹が空きました、ついでに異常がありません。どーぞ』

 

琴音とリアが軽くふざけたやり取りをしながらも、周囲を確認していると通りがかった白衣の男女…皇園長と月読の二人だ。

柔和な笑みを向けた彼らに対して戒と飛鳥は挨拶をする。

 

「こんにちは」

「こんにちは。お仕事頑張ってね」

 

どう考えても子ども扱いしているが、それを一々気にしていたら仕事など出来ない。

同じく笑顔で返した二人はその場から離れて調査を開始する。

三組に分かれて植物園に異常がないか確認をしていると佐野蔵が周囲を気にしながら、そそくさとある部屋へと入って行った。

 

「こちらA班、怪しい挙動の職員を発見。追跡する、どーぞ」

『C班了解。パインサラダを準備して待ってます、どーぞ』

『それただのフラグじゃん。どーぞ』

 

そんな余裕があるのか、ふざけているのか分からないがそんなやり取りをしてから飛鳥と共にゆっくりと佐野蔵の入った部屋を扉の隙間から覗き込む。

明るい部屋だったが彼の後ろ姿の白衣しか見えず、屈み込んで何やら物を取り出しているようにも見える。

怪しい動きに戒と飛鳥はゆっくりと近づく。

 

「何をしているんですか?」

 

彼の言葉に、佐野蔵はびくりと身体を震わして右手に持っていた物を握ったまま二人の方を振り向いた。

佐野蔵は「舞ちゃん命!」と書かれたうちわを所持しており他にもハッピやらサイリウムやらが両腕から零れ落ちる。

 

「あわわ…」

 

慌てて落ちた物を拾おうとしている彼に対して、飛鳥が呆然としている中で戒は呆れたような口調で質問する。

 

「何ですか、それ?」

「あ、あれだよ…サイン色紙とハッピ」

「えっと、どうしてそれを…」

 

忙しなく目線を泳がせながら答えた彼に対して、飛鳥は追いつかない頭で問いかけると佐野蔵は観念したように口を開いた。

 

「ぼ、僕…舞ちゃんの大ファンなんだっ!そりゃ、ここの植物のことを考えたら反対したけど…マネージャーさんの言葉を聞いて大丈夫だったから僕も楽しみにしてたんだ」

「ちなみにですけど、事務所に手紙を送ったりとかは…」

「無理無理無理!僕ファンレターを送ったことなんかないよっ!!」

 

慌てたようにまくし立てる彼を観て戒はため息を吐く。

嘘をついているようにも感じないし、考えられない…思考を切り替えた戒は素を見せた佐野蔵に対して質問をする。

 

「怪しい人はいませんでしたか?例えば、変な動作をしていたとか」

「べ、別に見なかったけど…でも、あんなに真面目な月読さんがあっさり頷いたのが珍しかったってのはあったけど」

「そうですか」

 

「ありがとうございます」と一先ずお辞儀をした戒は飛鳥と部屋に出ようとした時だった。

 

『こちらC班っ!兄様っ、プラントが襲撃しましたっ!!融合者は…』

「月読御門だろっ!場所は…!?」

『二階の舞さんたちが控室にしている空き部屋です!…このっ!』

 

電話の向こうから激しい物音が聞こえており、恐らく戦闘が開始されているのだろう。

廊下を蹴って目的の場所まで到達した戒の目に入ったのはポーントルーパーと交戦するリアたちと舞に向けてハサミを向けるプラント。

戒と飛鳥の行動は早かった。

飛鳥は残りのメンバー…如水・篝・珠姫・夕霧の四人を庇いながら戦っているリアたちの加勢に入るように二刀の小太刀で相手を斬り裂く。

怯んだ隙を狙って千歳は火縄銃で狙撃し、リアは召喚した剣を投擲して倒す。

それを見たプラントは左腕を振るって鞭のようにしならせた蔓でリアたちを一掃しようとするが、後から現れた斑鳩と琴音が飛燕とハルバードを振るって切断する。

リアたちがポーントルーパーを倒している一方、戒はプラントの胴体を蹴り飛ばして舞を庇うように立つ。

 

『自然を食い物にして、傷付け、泣かせる者に裁きを…』

『処刑執行。歴史の中で自然が味わった痛みを思い知れ!!』

『……完全に暴走したか』

「だったら、ここで止める!」

 

アーサードライバーを装備した戒はドラゴンカセットを起動させてスロットに装填すると、サイドグリップのトリガーを引いた。

 

「変身っ!」

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

『ふんっ!』

 

変身したアーサーは窓からプラントを蹴り落とそうとするがそれを抑え込むと、二人揃って外へと飛び出す。

グレンバーンを構えたアーサーは脚力強化をして高速移動で撹乱すると、炎を纏った斬撃をプラントにぶつけようとするが、不意を突かれたにも関わらず防御する。

 

「また攻撃を防がれた…!」

 

仮面の下で苦虫を噛み潰したような表情をするが、昨日のように攻撃を防いだプラントに対して焦りを覚えながらも冷静に考える。

プラントはどうやって攻撃を防いでいるのか、どうして防御されるのか、昨日のことを思い返す。

目でこちらの動きを観察している様子はないし、身体に何か細工されているわけでもない、それならばどうして…そんなことを考えながらも、ある考えが思い浮かぶ。

 

「一か八かだっ!」

【RHYTHM!!】

【RIDE UP! RHYTHM! 音色と踊れ!GREEN BEAT!!】

 

リズムリンクにチェンジしたアーサーはピアノアローで狙撃する。

プラントはそれを防ごうとするが、不規則な軌道と共に彼女の胴体に命中する。

 

『ぐっ、何っ!?』

「やっぱりな、心を読む能力だったら俺の攻撃も防げるはずだ…植物のモチーフから考えると…お前の能力は『周囲の植物の声を聴く』ことだ」

『分かったからどうした?我々はここに生きる自然のために戦うのだっ!木々を枯らし破壊する人間たちを間引く…』

『あのアイドルたちが良い例よ。自然のことを何とも思っていない最近の人間たちの歌なんて聴かせられると思うっ!!そうよっ、ワタシはシゼンのダイベンシャ…ジャマをするヤツらはここでハイジョするううううううううううううっっっ!!!!!』

 

途中からエラーカセットの声と混じり合ったような声を張り上げながら右腕のハサミで攻撃する。

アーサーはそれを紙一重で躱すが、ピアノアローが切断されてしまう。

その光景にぞっとしながらも新たなピアノアローを魔力で生成して構えた時だった。

 

「それは違いますっ!」

 

突如、マイクを通した声が響き渡る。

声の方を向くと設置されたステージにはミルキーポップが集まっており、舞が自前のマイクスタンドを持っている。

突然の出来事に呆然としている二人に対して、舞は言葉を伝える。

 

「私たちは、みんなに笑顔になってほしいから踊りと歌を続けています…でも、それはファンだけではありません」

『ナンですって?』

「私たちがこの植物園を選んだのは…ここにいる植物にも聴かせたいと思ったからです。園長さんや職員さんたちの手で育てているこの子たちにも、私たちの想いを伝えたかったから…ここを選びました」

 

訝しげに睨むプラントに、舞は自分の正直な想いを言葉に乗せる。

しかし、それに対してプラントは嘲笑う。

 

『バカなことをイわないで。そんなキベンをワタシがシンじるとオモっているの?』

「だからこそ、この場で証明します…行くよ、みんなっ!Milky Pop……」

『みんなの夢と舞い踊るっ!!』

 

五人でそう前口上を述べた彼女たちに合わせるように、いつの間にかステージにいた琴音たちがそれぞれ手に持った楽器を奏で始める。

彼女たちの歌…『Let's Try Together』は植物園に響き渡り、騒ぎを聞きつけてきた職員たちもその歌に聞き惚れる。

プラントは耳障りなライブを潰そうとするが、突如頭を抱えて動揺する。

 

『ど、どうして…?どうしてあなたタチはこんなウタをっ!?こんな、こんなふざけたことが…』

「あるんだよ、あの人たちの歌は……植物すらも笑顔に出来る。それが答えだ」

『ミトめない、こんなバカなことをミトめてたまるかああああああああああっっ!!』

 

植物たちにも裏切られたと思い、錯乱したプラントは歌っている彼女たちに飛び掛かるがピアノアローの狙撃で撃ち落とすとステージから離すように蹴り飛ばす。

 

「そんな物を使っているから聴き取りにくいんだ。お前の物語、ここで終わらせるっ!」

【MAGICAL ARTS! BEAT BEAT! RHYTHM DE BEAT!!】

 

ボタンを押すと、スピーカーから彼女たちの歌声が流れたのを確認したアーサーはステップを踏むとピアノアローを狙撃しながら軽快な動きでプラントを狙撃する。

特殊能力を使おうにも植物たちの心は彼女たちの方へと向けられており、むしろ「これ以上はやめよう」とプラントを止める声さえ聞こえてくる。

 

『ぐぅっ!ワ、ワタシはシゼンをケガすオロかモノをダンザイするためにっ!!』

「ラストコールだっ!」

【CRITICAL ARTS! COMBO STRIKE! RHYTHM!!】

 

ドライバーのスロットからピアノアローのスロットにリズムカセットをセットし、充分に音のエネルギーがチャージしたのを確認したアーサーはトリガーを引いた。

 

「いけええええええええええっっ!!!」

『あああああああああああああああああああああああっっ!!!!』

 

シューティングフィーバーがピアノアローとスピーカーからも放たれると、最後まで両腕を振るって抵抗しようとするプラントに命中すると、曲の終わりと共にプラント・エラーは爆発する。

 

「あぁ…本当に、良い曲…ね」

 

最後の最後で正気に戻った彼女は眠るようにその場から崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

事件が終わってからの二日後、戒たちは皇植物園に設置したステージの裏で待機していた。

マネージャーが事件の解決のお礼として『特等席』を用意してくれたのだ。

普段見ることが出来ない場所でのライブに、琴音や飛鳥たちがそわそわしている中で舞が戒たちの前に顔を出す。

 

「今回はありがとうね、門矢君。それに琴音ちゃんや飛鳥ちゃん、斑鳩ちゃんやリアちゃんも、みんな本当にありがとうっ!」

 

メンバーを代表してお礼の言葉を言うと、観客たちのボルテージが彼女たちを期待するように上がって行く。

マネージャーが合図を送ったの皮切りに、メンバーたちがステージに向かう中で舞は戒に何かを伝えようとするが…。

 

「ありがとう///」

 

最後にもう一度、それだけを伝えると彼女はステージの中央へと向かった。

 

「みんなー!今日は私たちのためにありがとー!!行くよ最初の一曲…『Love Wars』ッ!!」

 

彼女の元気の良い言葉と共に、ミルキーポップのメンバーは笑顔の歌を観客たちに響かせる。

ライブに来たファンや戒たち、それを見守る職員たちはおろかこの場にいる植物たちも喜んでいるように感じた。

その絆に呼応するように、ウェルシュが解析を続けているミラージュカセットが僅かに光った。

To be continued……。




 今回の怪人…プラント・エラーはエルミンさんからいただきました!エルミンさん、誠にありがとうございます!植物モチーフのエラーだったのですが、一話完結となってしまって申し訳ありません……。
 ミルキーポップは忍だったのか、ただのアイドルだったのか。それに関しては読者様の想像にお任せします。
 ではでは。ノシ

プラント・エラー CV河原木志穂・小山力也
エルミンさんからいただいたオリジナルエラー。モチーフは『植物園』・裏モチーフは『自然あふれる楽園』
植物を研究する化学者「月読御門」が自然を守りたいと言う欲望から融合変身した。基本カラーは緑と茶色だが透明なケースを模した装甲に覆われている。頭部は赤い花のようで黄色いモノアイが特徴。
左腕を蔓のように振るったり右腕を園芸用のハサミのように変形させるなど植物を自在に操る能力に加えて、周囲の植物の「声」を聞くことが出来る。これによって植物のある場所の周囲で何が起こっているか、どんな人物がいるかなどの様々な情報を得ることが可能となる。


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COMBO32 フェスティバル×ミスターX

 今回と次回で応募エラーは終了となります。今回は意図せずしてフォーゼらしいお話になったかなーと思ってます。
 それでは、どうぞ。


『うぅむ……』

 

門矢家の一室では、ウェルシュが困ったようにディスプレイを表情に映しながら妻である瞳に渡されたミラージュカセットの解析を進めていた。

その近くにはリアと愛娘の霞が真剣な表情で見つめており、そんな視線を感じながらも彼はスキャンをして解析を続けるが深く息を吸い込むと脱力するように息を吐く。

 

『駄目か…』

 

疲れ切った声でそう呟いたと同時に、戒が入室して来る。

「ノックをしてほしい」と一言言いたかったが疲労している彼は身体を入室者へと向ける。

 

「よっす。何か分かったか?」

『あぁ、一先ずはこれで変身出来るようになるまではロックを解除出来た…が、使うのは控えた方が良い』

「…どういうこと?お父さん」

 

ウェルシュからの言葉に小首を傾げる戒の代わりに、動向を見守っていた霞が問い掛ける。

 

『調べて分かったが、このミラージュカセットは変身者の魔力を爆発的に増幅させることが出来る。「変身者の負担を無視して」だ』

「つまり、変身する上でのデメリットがでかいと」

 

「参ったな」と戒は首を振る。

折角、幹部各エラーたちにも対抗出来るかもしれない力を手に入れたかと思っていたがこれでは逆にミラージュカセットに身を滅ぼされるかもしれない……。

戒は解析を終えたミラージュカセットを手に取って懐に入れる。

その光景に驚いたのはウェルシュだ。

 

『待て待て待てっ!話を聞いていただろ!!君が使うには荷が重すぎるっ!』

「大丈夫だよ、ほんのちょっとだけだから、ほんの少しだけで良いから」

『その「ほんのちょっと」でもリスクが大きいんだぞっ!』

「大丈夫大丈夫、どうせ次の話になったら何事もなかったように動いているから」

『メタいっ!?ギャグ補正に頼る主人公など初めて見たぞっ!!』

 

しばらくはウェルシュと戒のコントが繰り広げられていたが、結局そのミラージュカセットは戒が所持することになり、『絶対に使わないことを』を条件にこの話は終了した。

 

「んじゃ、難しい話は終わりにして、おやつでも食べようぜ?二人とも小腹が空いたでしょ?」

「…はい」

「確か、冷蔵庫にジュースがありましたよね」

 

そんな話をしながら、三人とウェルシュが階段を下りてリビングへと到着した時、インターホンが鳴る。

「どうぞ」と軽い返事をすると、扉が開いてある少年が入ってくる。

その少年、柊介は陽気な表情でこの場にいるメンバーに挨拶をする。

 

「よっす、相変わらずだらけてんのか?」

「これがデフォだよ。お前こそどうした?出番が少ないから顔でも出しに来たか、ん?」

「何で喧嘩腰なんだよ、じゃなくて依頼だ依頼」

 

戒の言動にツッコミを入れながらも、来客用のソファに座った柊介は彼に自身の依頼を口にした。

 

 

 

 

 

その日、戒は半蔵学院の体育館に集まっていた。

もちろん、忍学科のではなく表の顔の体育館である……そこには多くの一般生徒たちが準備を進めており、全員が活気づいている状態だ。

その中で戒はパイプ椅子を指示された並びで手早くセットしていく。

 

「たくよー、何かと思えば文化祭擬きの手伝いって…」

「カー君!手が止まってるっ!!」

 

琴音の鋭い声に「へーい」と返して、作業を再開する。

やがて体育館の装飾とパイプ椅子の設置が無事に終了すると戒は腰を軽く叩いてから伸びをする。

柊介が手伝いをしてくれた戒たちに労いの言葉を掛ける。

 

「お疲れさん、助かったぜ」

「そりゃどうも。んで、何をやるんだよ?」

「『学院コンテスト』よ」

 

その問いに答えたのは柊介ではなく、勝気な印象のある女子生徒で長く伸ばした髪を耳に掛ける。

普通科にいたころのクラスメイト、『倉石美奈津』は数か月間のブランクを感じさせないほどのフランクさで戒に説明する。

 

「手品やダンス、歌やモデルで多彩なアピールを行って一番を競い合う…それが学院コンテストって奴よ」

「毎年の恒例行事だから、部活に入っている生徒たちはこぞって参加をするし中には目立たなかった生徒も参加したらしいよ」

 

彼女に続くように話に参加をしたのは学生服を着た男子『光仁輝明』は名前に違わない耀笑顔で説明をする。

彼も同じくクラスメイトであり、目立ちたがりなのがたまにキズだが持ち前の明るさとフレンドリーさから数日でクラスの男子と女子と打ち解けたこともあるほどだ。

彼女らの説明を聞いた琴音は「へー」と楽しそうに目を輝かせる。

彼らは、入学から少しして忍学科に編入したので半蔵学院の表向きの行事は体験したことがないのだ。

特に琴音はこういった祭りは好きなのである。

そんなことを思いながらも戒は装飾が施された体育館を見渡しながら、柊介ともう一人の男子生徒との会話に入る。

 

「でも、参加する生徒っているのか?」

「結構いるらしいぜ、優勝者は一週間分の食券が手に入るし一躍人気者だ」

「……でも、人気者になったらなったで大変そうだけどね」

 

もう一人の男子生徒…輝明の幼馴染で何処か大人しそうな雰囲気の『佐藤佳右』が苦笑いするように話す。

今まで忘れていた高校生らしい会話を楽しんでいると、一般生徒たちが次々に体育館から入ってくる。

「たまには年相応に楽しもうかな」と戒は一番後ろの余分な座席に琴音と座った。

 

 

 

 

 

「レディース&ジェントルメン!さぁ、やって参りました半蔵学院コンテスト!通称『H・Zコンテスト』!!司会はわたくし、『喋栗益雄』が致しますのでよろしくお願いします!」

『うおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!』

 

ステージから現れたサングラスに蝶ネクタイの玩具を首に取りつけた男子生徒がマイクを片手に饒舌なトークを進めると、生徒たちの叫びが聞こえる。

ちなみに、輝明や佳右はステージのスタッフをやっているらしく姿が見えない。

その盛り上がりに戒と琴音は驚くが司会はそれに喜ぶように進行する。

 

「おっしっ!!盛り上がってくれてこちらも嬉しいぜっ!それじゃあ、最初のメンバーはこいつだっ!本当はバラードの響き語りが大好きな軽音部…ペンネーム『MITSUO』だああああああああっっ!!」

 

司会の紹介と同時に、現れたのは見るからにパンクロックな服装をしている男子生徒だったが、いざギターを構えると見た目とは正反対の美声とギターの音色を奏でる。

そのあまりのギャップに全員が驚きながらも演奏が終わったころには拍手の喝采であり照れ臭そうにステージからはける。

その後も、可愛らしい衣装でダンスをする女子や二人組でコントをする男子生徒たちやボディビルダー部の机を使ったジャグリングなど目を奪われるようなアピールに観客や先生たちのボルテージも上がって行く。

そこで、突然司会が歓喜の声をあげる。

 

「おおっと!ここで乱入者の登場だっ!!小粋なチャレンジャーは……ミスター、X?」

 

そう名乗った瞬間、ステージのライトが突然消える。

観客や生徒たちがざわめく中、ステージに突然二つのライトが照らされた。

そこにいたのは一体の異形…紫と赤の光沢の有る派手な格好をした奇術師の衣装と、ピンスポ型のモノアイにピエロの様な仮面と赤いボールのような鼻。

突然の出来事に生徒や先生たちはもちろん、戒や琴音もしばらく間固まってしまう。

 

『ヒャハハハハッハ!!ミーはミスターXッ!またの名を「スポット・エラー」!レディー&ジェントル!以後お見知りおきを~』

 

おどけるように自身を紹介したスポット・エラーはモノアイから強烈な光と同時に光線を発射して体育館の上にある暗幕を焼く。

それを見た生徒たちは本物の怪物にパニックを起こす。

 

「ば、化け物だああああああああああああああっっ!!?」

『わあああああああああああああああっっ!!』

 

生徒の一人の叫びに木霊するように生徒たちは我先にと体育館から逃げようとするがパイプ椅子や人数のせいで思うように動けない。

 

「落ち着けみんなっ!先生の指示に従って列になって逃げろっ!!」

 

「先生!」と柊介は近くにいた先生に呼びかけて、生徒たちのほとんどが逃げたのを確認した戒はステージ上で派手に暴れているスポットを蹴り飛ばして怯ませる。

その隙に気絶をしていた司会を琴音がステージの上手まで引っ張り、戦闘の準備が整った。

 

【DRAGON!!】

「変身!」

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

 

変身を遂げたアーサーは、先制攻撃とばかりに跳び蹴りを仕掛けるがスポットはそれを躱して軽快なステップを踏む。

 

『おおっと、ユーはミーのステージにはノーサンキュー!ご退場願おうか?この世からもねっ!!』

 

甲高い声でそう告げたエラーカセットの人格に、答えるようにスポットは掌に備わっているスポットライトとモノアイから目くらましをする。

強烈な光にアーサーが顔を両腕でガードすると、その隙を狙うようにスポットは先端がフックとなった杖で殴り飛ばさそうとするが、彼はそれを防いで逆にカウンターをする。

 

【MAGICAL ARTS! BOWABOWA KACCHI-N!!】

「オラッ!」

『グヘッ!?ヒャッハハハハ……』

 

炎を纏った蹴り技を受けて怯みながらも、スポットは不気味に、それでいて楽しそうに笑う。

その様子にアーサーはグレンバーンを召喚して構える。

 

「何がおかしい」

『ヒャハ!やっぱり目立つのは楽しいって…そう思っただけさっ!!』

 

道化師のように笑いながらスポットが三つのライトから強烈な光をアーサーに浴びせた。

先ほど以上の光に顔を背けてしまう。

光が治まったころには、既にスポットはいなくなっており琴音とアーサー…そして気絶している司会だけが取り残された。

 

 

 

 

 

当然、怪人が出たことでコンテストは一時中断となり隣の空き教室で戒と琴音、そして柊介の三人が舞っていると、教室に斑鳩と葛城が入ってくる。

自分の姉が来たことに柊介は驚きの言葉を口にする。

 

「姉さん、どうして?」

「学院にエラーが現れましたからね、刑事に扮して葛城さんと共に調査する予定です」

「まぁ、アタイがこの中じゃ一番大人っぽいからな」

 

弟からの問いに斑鳩は微笑んで答える、見れば葛城の衣装も刑事らしいスーツ姿であり腕章もつけているので何処からどう見ても警察関係者に見えるだろう。

飛鳥や柳生、雲雀の三人は怪しい行動をしている生徒がいないか見張っているのだと言う。

しかし、きちんとスーツを着こなす斑鳩と違って葛城はシャツの胸元のボタンを開けているため嫌でも気になってしまう。

少し頬を赤らめている戒の視線に気づいたのだろう、葛城は楽しそうに彼に近づく。

 

「どうした?久しぶりにお姉さんのおっぱいが気になるのか、ん~っ?」

「ちょっ///」

「はいはい、やめよーね葛姉。カー君をからかうのは」

 

からかおうとする彼女を琴音が笑って制していると、今度は美海と佑斗、それに続くように霧夜が入ってくる。

 

「どうでした、美海姉さん」

「中止にすべきだって進言したけど、犯人に先手を打たれていたわ」

「校長の部屋にこんな手紙が置いてあった」

 

佑斗が袋に入っている脅迫状を彼に見せる。

ゴチャゴチャにデコレーションされたその文面は長々と書かれていたが要約すれば「中止にしたら校舎を破壊する」であり、その証拠を裏付けるように窓ガラスが光線で焼き切られた痕跡もあった。

 

「しばらくは、犯人の要求通りに進めるしかない。幸い、校長も忍学生と政宗警視たちの捜査を認めてくれた」

 

方針としては、コンテストを通常通り進めるしかなくステージには残りの参加者たちが待機している最中らしい。

「犯人の目的は一体」と霧夜は顎を手に当てて考える仕草をするがそれに対して口を開いたのが戒だ。

 

「恐らくですが、今回の犯人はステージにいた生徒たちだと思います。体育館にいた生徒たちだったら席から離れないといけないし、俺と琴音は後ろの座席にいました」

「そう思って参加者に話を聞きましたがチームやコンビだった生徒たちはシロと考えて良いと思います」

 

斑鳩のその言葉に断言するように戒も頷くと、今度は葛城が口を開く。

 

「念のため、ステージのスタッフ…お前のクラスメイトだっけ?二人にも聞いてみたぜ。定位置にいたらしいがあまりぱっとしていない。最後に避難したのもこの二人だ」

 

「ふむ」と戒は考える仕草を取る。

彼女たちの捜査能力は信用出来るし、かつてのクラスメイトを疑うのは心苦しいがこれ以上被害を拡大させないためにも頭を働かせようとした。

その時、柊介のスマホに着信が入り、「すいません」と一言謝ってから電話に出る。

 

「もしもし、どした倉石?……はぁっ!?ど、どういうことだよっ!!お、おいっ!」

 

電話の相手…学級委員でもある倉石だったため「説教か何かか?」と少し警戒していたが彼女の話している内容に顔を青ざめると慌てて問い詰める。

しかし、倉石は電話を切ってしまい通話が終了する。

 

「くそっ!」

「どうした柊介?」

「倉石が、怪物を…エラーを見たってっ!!」

 

その言葉に全員が驚きを露わにしており、戒が慌てて彼に詰め寄る。

 

「場所はっ!?」

「体育館の近くにある待機室だ!」

 

柊介から言葉を聞いた戒はアーサードライバーを装備して窓を開けてそこから飛び降りながら、起動したリズムカセットを装填してサイドグリップのトリガーを引いた。

 

「変身っ!」

【RIDE UP! RHYTHM! 音色と踊れ!GREEN BEAT!!】

 

軽やかに着地すると、体育館へと急いで向かった。

 

 

 

 

 

倉石美奈津は吹奏楽部の部員たちの避難を誘導しながら共に怪人…スポットから逃げていた。

友人を応援しようと彼女たちが待機している部屋に訪れて差し入れを持ってきたのだが、突如現れたスポットが部員を襲い掛かろうとしたのだ。

ペットボトルを投げて怯んだ隙に彼女たちを非常口から逃がして校舎の裏へと逃げるがスポットはしつこく追いかけてくる。

やがて、足元を見ていなかったのか倉石は転んでしまう。

 

「美奈津ちゃんっ!?」

「良いから逃げてっ!」

 

友人が自分に駆け寄ろうとするが、逃げるように促しスポットを強気な視線で睨む。

 

『ヒャッハハハハハハハハハハハッッ!!!吹奏楽部より先にミーのパフォーマンスを見せてあげるよんっ!!』

 

スポットの攻撃に倉石が目を強く瞑った時、緑色の矢が怪人胴体を射抜いた。

突然の攻撃に怯んだ隙を狙うように複数の矢が不規則な軌道でスポットを襲うと、煙と火花を上げながら地面を転がる。

 

「倉石っ!」

「猿飛君」

「良いから、早くっ!」

 

柊介が尻もちをついてる彼女の肩を持って遠くへ離れると、アーサーはピアノアローを構えて対峙する。

同時に、周囲の景色が一瞬だけ反転すると琴音たちが武器を構えて現れる。

忍結界の中でなら、いくら暴れても人に見つかることはないし器物が壊れることもない。

万全の準備を整え、戦力的に不利であるにも関わらずスポットはただただ笑うだけだ。

 

『ヒャッハハハハハハハハハハッッ!!ヒャハハハハハハハッ!』

 

スポットは黒いエラーカセットを投げて複数のポーントルーパーを召喚する。

まずは、忍転身をした斑鳩たちがポーントルーパーたちと激突する。

バトンやカラーボールを持ったポーントルーパーは思い切り投擲して斑鳩を攻撃するが、それを回避して飛燕で次々と切り伏せて行く。

 

「秘伝忍法…『凰火炎閃』っ!!」

 

魔力で具現化させた蒼い鳳凰を前方に飛ばし、群がっていたポーントルーパーを破壊する。

葛城も、バク点をしながらこちらへ近づいてくる個体を蹴り飛ばし、上空から攻撃を仕掛けようとする個体をサマーソルトで迎撃する。

 

「そらよっ!!」

 

彼女の秘伝忍法『トルネードシュピンデル』で中心に竜巻を発生させると、周囲を攻撃上空で襲ってきたポーントルーパーを撃破する。

琴音はハルバードで囲うように襲ってきたポーントルーパーを吹き飛ばし、距離を詰めてきた個体に膝蹴りを浴びせて怯ませてから武器で殴り飛ばす。

美海や佑斗も格闘術で相手の攻撃を絡め取りながら、着実に数を減らす。

その一方で、アーサーはスポットを相手に優勢だった。

 

「シュートッ!!」

『ぐっ!!ヒャハ、まだまだっ!』

 

ピアノアローの狙撃を受けながらも、スポットは武器である杖を振るってアーサーを攻撃しようとするが、彼は難なくそれを躱すとピアノアローの斬撃を浴びせる。

しかし、この戦いに乱入者が現れる。

 

『こらこらぁ、六対一は卑怯だろぉ。お兄さんは見過ごせないねぇ』

『ユグドラシルの借り、返させてもらうぜぇっ!!』

 

デッド・エラーとレッドゾーン・エラーは、アーサーに狙いを定めると其々武器を召喚して襲い掛かる。

突如現れた助っ人にスポットは楽しそうに笑う。

 

『ヒャッハハハハハハッ!!ナイスだよっ!それじゃ、こうしてあげようかなっ!!』

 

スポットは身体から光を発しながら光線をアーサーに放射する。

 

「ぐぁっ!」

 

ダメージを受けたアーサーを狙うようにレッドゾーンの大剣が直撃して吹き飛ばす。

「カー君!」とポーントルーパーを片付けた琴音はデッドに向かってハルバードを叩きつける。

確かな手応えと共にデッドは膝から崩れ落ちる。

しかし…。

 

『駄目だなぁ。そんな攻撃じゃお兄さんは倒れないよぉ』

 

攻撃を受けた箇所から紫色の魔力を零しながら、デッドは琴音のハルバードを掴んで地面に叩きつける。

それを助けるように斑鳩や葛城もデッドに攻撃を仕掛けるが攻撃を受けている本人は魔力を零すだけである。

 

『お兄さんを倒す気があるならぁ、ちゃんと攻撃をしなよぉっ!!』

 

やがて苛立ったように、デッドは彼女たちを振り払うと黒い剣でアーサーとの距離を詰めて切り裂いた。

 

「ぐああああああああああっっ!!」

 

思考が停止するほどの激痛と同時に地面を転がるアーサー。

二体の幹部各の力にどう対処をすべきか頭を回転させると、ある妙案が思い浮かぶ。

そして彼が取り出したのはウェルシュが解析していたミラージュカセット。

 

『待て、戒っ!?危険だっ!変身をしたらどうなるか分からないぞっ!!』

「でも、今はこれに賭けるしかないっ!!俺を信じてくれ、ウェルシュッ!」

『分かった、こちらでも出来る限りのことはするっ!!』

 

ウェルシュの許諾を得たアーサーは例のミラージュカセット……『シノビカセット』を構えてスイッチを押した。

 

【SHINOVI!!】

 

背中に刀剣を携えた紫色の忍者をデフォルメさせた絵柄のミラージュカセットを、リズムカセットを外したスロットに装填して、『あの掛け声』と同時にグリップのトリガーを引いた。

 

「忍、転身っ!!」

【旋風無双!HIGH SPEED CHAMBARA!!】

 

電子音声が鳴り響くと、アーサーを覆うように強烈な風の渦が吹き上がる。

今まで感じたことのない魔力量に美海はおろか、斑鳩たちも風の余波に気を付けて彼の方を見る。

やがて、風を振り払うように『新たな姿を得たアーサー』が腕を振るった。

 

「はぁ…はぁ…!ぐっ!!」

 

黒とアメジストカラーの和風の軽鎧に身を包み、マスクの下部にはクラッシャーに上部には金色のバイザーがはめ込まれている。

自身の内部で連鎖的に爆発する魔力に苦しげな息を荒げながら、水色の複眼で標的を睨む。

『仮面ライダーアーサー シノビリンク』はすぐにシノビカセットを必殺技のホルダーにセットして、バックルにある赤と緑のボタンを順番に押す。

 

【ATACK ARTS! DENKOUSEKKA!!】

【MAGICAL ARTS! BO-FU-NINJA!!】

「……ふっ!」

 

『超加速』と『突風操作』を発動した彼はドラゴンリンク以上の凄まじい速度でレッドゾーンに左足を繰り出した。

 

『があああああああああああああああああっっ!!!?』

 

あまりのスピードに目が追いつかなかった彼はなす術もなく、火花を上げながら地面を転がる結果となる。

「何っ!?」と焦りを見せたデッドを横目にアーサーは召喚したグレンバーンにシノビカセットをセットして、居合の構えを取る。

 

「我流秘伝忍法『乱閃』…!!」

『くっ?なっ、そんな…!?』

『ヒャハッ!?こ、こっちに…!』

 

爆発させた魔力から発せられるスピードでグレンバーンを抜刀すると、デッドとスポットに向かって無数の斬撃を浴びせる。

デッドたちが反撃する暇もないまま、彼らもレッドゾーンと同じく火花を上げながら地面へと吹き飛ばされる。

隙が出来たのを確認したアーサーは再度突風を起こすと、超加速で全員を抱き抱えてその場かた立ち去った。

To be continued……。




 今回の怪人…スポット・エラーはホワイト・ラムさんからいただきました!ホワイト・ラムさん、誠にありがとうございます!ピエロがモチーフでしたが独断でスポットライトなどの器具もモチーフに取り込みましたが如何でしたか?お気に召さなかったらすいません(汗)
 後編に続きます、ではでは。ノシ


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COMBO33 ショータイム×スポットライト

 後半です、スポット・エラーとの決着をつけます。
 それでは、どうぞ。


校庭では、飛鳥と柳生、雲雀の三人がアライブ・エラーとの戦闘を展開していた。

後者を調査している時に、木の上でこちらを見ていたアライブを発見した彼女たちは忍結界を展開して戦闘を行っているのだ。

アライブは巨大な盾で攻撃するが、飛鳥はその盾を踏み台に跳躍して小太刀の斬撃を浴びせようとするが、それを回避する。

だが、柳生の番傘と雲雀が魔力の籠った攻撃を仕掛ける。

盾で防いだアライブと飛鳥たちは距離を取る。

 

『……ちっ、あの根暗野郎。失敗しやがったな』

「…?何の話をしているの」

『てめぇら牛女どもに話すほど俺はバカじゃないんだよっ!!』

 

雲雀に対して口汚くそう罵った彼はエネルギー弾を地面に着弾させて土煙を発生させると、それに紛れて姿を消した。

アライブが逃げたのを確認した飛鳥たちは忍装束を解くと、霧夜からの連絡が入る。

 

「戒君たちが戻ってきたみたい」

「…なら、オレたちも行くぞ」

 

忍結界を解除し、飛鳥たちは忍び学科の教室へと戻った。

 

 

 

 

 

忍学科の教室で、戒は痛む身体を必死に抑え込んでいた。

幸いにも骨折などは免れており痛み自体も次第に引いてくるだろう。

そんなことを思いながらも、彼は目の前にいる叔母にどう言い訳をしようかと考える。

 

「ねぇ、本当に…ほんっとーに、大丈夫なのね?」

「もちろん、ほらこの通り…あだだだだだっ」

 

美海の真剣な眼差しに戒は必死に腕を動かすが、それによって生じた激痛に悲鳴をあげる。

しかし、その態度に幾分か安心したのだろう…美海はため息を吐くと霧夜に話しかける。

 

「それで、怪しい人物は見つかりましたか。先生」

「いえ、残念ながら…しかし猿飛君から吹奏楽部は辞退することにしたそうです」

「それだけじゃない、吹奏楽部以外にも襲われた参加者たちもいる。中には楽器を壊されたり脅されたり…酷いことをするもんだ」

「でも、あんな怪物に襲われたら誰だって…」

 

二人と佑斗の会話を聞いていた琴音は辛そうに表情を歪めるが、痛みの引いた戒が口を開く。

 

「現時点で怪しいのは、光仁と佐藤だ。その中で動機がありそうなのは…」

 

そこで戒は思考を積み重ねる。

スポットの姿から最初に容疑者として浮かぶのは光仁だ、理由としては単純で彼が目立ちたがりだからだ。

根が善良な彼があのような蛮行をするとは思えないが、エラーカセットで人格を歪められたら話は別…自分が我先に目立つためにミスターXと名乗って暴れることで周囲への視線を集めようとした。

それなら筋は通るが…何処か釈然としない。

しかし、仮に佐藤だとしたら動機は何なのだろうか。

古い仲である光仁に怨みを持っていたから、ミスターXと名乗って彼に罪を擦り付けるために暴れたのだろうか。

 

「でも、姿が分からないからって酷いよ…相手を傷つけることに変わらないのに」

 

雲雀がそう呟いた途端、戒の頭に推理のパズルがぴたりと合わさる。

そして、今まで不鮮明だった犯人像がそのピースを中心に集まって形成されていく。

戒が顔を上げた。

 

「そうか、それなら…!」

 

彼は、スマホで柊介に連絡を取る。

 

『もしもし?』

「犯人が分かった、そこで頼みがある」

『えっ、えぇっ!?…そ、それで頼みって』

 

保健室に倉石を運び終えたのであろう柊介は戒から告げられた内容に驚くが、彼の要求に応えるべく、先を促す。

戒は少しだけ間を置くと、やがて笑みを浮かべた。

 

「……軽音部から楽器を貸してくれるよう手配してくれ」

 

 

 

 

 

スポット・エラーの融合者は不安気な生徒たちを見て楽しそうに笑っていた。

もちろん、周囲に怪しまれないよう心の中でだったが後半のステージが始まるのを今か今かと待ち侘びている。

参加者たちは全員、参加出来ないように妨害工作をしたし事態の報告を聞いて内心跳び上がりそうなほどの喜びを露わにしていた。

やがて、予定された時間へとなる。

 

「えー…ドーモ、ミナサン。猿飛柊介です。司会は喋栗先輩から変わり、一年の自分が担当することになりました。よろしくお願いしまーす!!」

 

司会交代を告げた新たな司会…自分のクラスメイトである柊介がテンション高くするが、怪物に襲われたという情報が流れている生徒たちのテンションは低い。

それでも、めげずに柊介は司会の進行を続ける。

 

「参加者たちは全員、不幸な事故によって事態となってしまいましたが……ここでニューチャレンジャーが参加してくださいましたっ!!」

 

「何っ?」と顔を上げる。

そんなバカな、『怪物が参加者を襲っている』と言う噂を広めたのにわざわざ参加をする奴が来たと……。

湧き上がる疑問を抑えながら、彼は司会である柊介の言葉を持った。

 

「それでは、登場していただきましょう!『Team JAINN』ですっ!!どーぞっ!」

 

その言葉と共に、顔の上半分をマスクで覆った四人のメンバーが楽器を持って現れる。

突然現れたマスクの男女に困惑している生徒たちを余所に彼らは楽器をセッティングしていくと、小柄な少女がスマホで予め打ち込んでいて専用の音楽ファイルをセットする。

 

「ワン・ツー・ワンツースリーフォー…!!」

 

そうして、演奏が始まる。

ギターベースの音からギターの音が重なり、そこからドラムと音楽ファイルの音が違和感なく溶け込み、奏でて行く。

更なる盛り上がりを見せる前奏の中、スタンドマイクを持ったボーカルの少年が口を開いた。

 

「~~~~simulation♪」

 

何処か、ゲームを彷彿させるような心を滾らせる歌が体育館にいる、気分の沈んでいた生徒たちや教師、参加者の心を躍らせる。

演奏が激しくなるのと比例するように、ボーカルの歌も盛り上がって行く。

やがてサビが入ったころには生徒たちは合いの手を入れるようになったり、拍手をする者もあらわれる。

最後のクライマックスには全員の心に歌声が広がっていた。

全員が、Team JAINNに拍手を送っていると司会である柊介も興奮した面持ちで現れる。

 

「サンキュー!Team JAINNッ!!優勝者はお前らに決まり…」

「ふざけんなああああああああああああああああああああっっっ!!!!」

 

彼の声をかき消すように、ステージから現れたのは……佐藤佳右だった。

全員が突如現れた彼に困惑する中、佐藤はポケットから取り出したエラーカセットを取り出してスイッチを入れる。

 

【LOADING…GAME START…】

 

スポット・エラーへと融合を遂げた彼は、ボーカルの少年を襲おうとするがそれよりも早く腕を絡めて関節技を決める。

その間に、体育館の端で待機していた美海と佑斗、そして霧夜が生徒たちの避難誘導を行い、誰もいなくなったを確認したボーカルは蹴り飛ばしてマスクを外す。

 

『なっ、ユーッ!?』

「その通りだよ、佐藤」

 

マスクを捨てながら、自慢げに笑う戒に続くように残りのメンバー…琴音と斑鳩、葛城もマスクを外して素顔を露わにする。

混乱する彼に対して、ステージの奥で待機していた倉石と光仁の二人も現れる。

 

「最初は、光仁かと思っていたけど…もしあいつが犯人だったら『ミスターX』なんて芸名は付けない。派手に行動しておきながら自分が犯人に繋がる物を残していない、だからこう思ったのさ…『犯人は普段、目立つことが苦手な人間』だってな」

「だから、猿飛君に頼んで私たちが参加出来るようにしたの」

 

琴音の言葉に、スポットはモノアイで睨みながら悔しそうに歯ぎしりをする。

そんな中で、ゆっくりと近づいたのは彼の友人でもある光仁だ。

 

「佳右、どうして?」

『決まってるだろっ!?小さいころからずっと思ってた、面白いことをして目立ちたいって!でも、何でも出来る目立ちたがりなユーと一緒にいるとそんなことすら出来ないっ!!小学校でも中学校でも高校に入ってもっ、ミーはずっと二番煎じ!もううんざりなんだよっ!だからこのコンテストで証明するのさ、ミーが一番だって、ミーの方が目立てるってっ!!ヒャハッ、ヒャッハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!』

 

完全に暴走を始めたスポットはモノアイを光らせて光線を放とうとするが、戒が彼を蹴飛ばしたことで未遂に終わる。

豹変した友人の姿に、光仁は崩れ落ちそうになるが柊介がそれを支える。

 

「なぁ、柊介。佳右は、佳右は良い奴なんだよ。誰よりも周りが見えてて…」

「知ってるよ、あいつはただ怪物になって暴走してるだけだ」

「そうよ、私の知ってる佐藤君は…周りの気配りが出来る優しい人よ。あれが本心だとしても、今までの彼のことを否定したくない」

 

そう話す彼らに、柊介はフォローをする。

エラーになった人間は人格が歪められてしまう、彼の言ったことは本心かも知れないが『目立ちたかった』と言う純粋な願望を歪曲させられたに過ぎない。

二人を安全な場所に避難させたのを見送った戒はアーサードライバーをセットしてマジシャンカセットを取り出す。

 

【MAGICIAN!!】

「本当のパフォーマンスって奴、見せてやるよ。変身っ!!」

【魔法、錬成!WHITE FANTASY!!】

 

白いパワー型の装甲とローブ、マジシャンリンクへと変身したアーサーに不意打ちするようにスポットはライトによる目くらましをするが気にせずマジッグローブで彼の右頬を殴る。

 

『がっ!?』

「まだまだぁっ!!」

【MAGICAL ARTS! PRISMA PRISM…SHOW TIME!!】

 

スポットの胴体を殴って水晶に閉じ込めた後、アーサーはチャージを行って砕く。

強烈なダメージを受けたスポットは舞い散る水晶の破片と共にステージから落とされる。

 

『ふざけるなぁっ!!ミーが、僕が一番なんだ!あいつより、あいつなんかより何倍も目立てるんだあああああああああああああああっっ!!!!』

「うるさいっ!!」

 

激昂するようにスポットは杖を振り下ろすが、水晶の破片を生成しながら演出を行うアーサーが顔面を殴り飛ばす。

パイプ椅子をなぎ倒しながら地面を転がる羽目になったスポットを横目にアーサーは、必殺技のホルダーにマジシャンカセットを装填する。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! MAGICIAN!!】

「舞台の幕から下りる時間だっ!」

 

緑のボタンを押したアーサーは低く腰を落としてからマジッグローブにエネルギーを集中させると勢いよく駆け出し、拳を叩き込む。

 

「はああああああああああああああああっっ!!!」

『ぎぎゃああああああああああああああっっ!!?』

 

マジシャンブレイクによる一撃を受けたスポット・エラーは一瞬だけ水晶に包まれると、すぐに爆散した。

 

「嫌だ、嫌だぁ…僕から、光を奪わないでくれよ……やっと、やっとあいつの影から出られたんだ……もう、誰にも見てもらえない自分に戻りたくないんだ……」

 

悲しげな声を出しながら、ステージを唯一照らすスポットライトへ覚束ない足取りで近寄る。

しかしエラーカセットが小さく爆ぜた瞬間、それに合わせるように倒れて気を失った。

 

 

 

 

 

翌日、半蔵学院の食堂で戒は窮地に立たされていた。

目の前には倉石が真剣な表情で見つめており、ややあって彼女はある物を取り出して見せる。

ある物、学校新聞には『謎の仮面バンド!?Team JAINN』の見出しで昨日の出来事が掛かれている。

 

「…てわけで、お願いっ!もう一度、あのメンバーでライブをやってくれない?」

「嫌だよ、俺だって必死だったし楽器だって琴音任せだった。需要なんてないだろ?」

「私たちがあるのっ!!あの興奮を、ねっ!?」

 

必死に詰め寄ってくる彼女に、戒はどう言いくるめようか頭を悩ませる。

別にライブ自体に問題ないのだが斑鳩と葛城は忍学生だし会場は体育館…何か拍子で正体がばれるかもしれないのでほぼ不可能だ。

 

「とにかく、俺はもうバンドをやらないし…琴音はともかく他のメンバーは忙しいから無理っ!」

「じゃあ、私と猿飛君が代わりに入るからバンドを…」

「しつこいっ!てか、それもう別物じゃねっ!?」

 

終いには本末転倒なことを提案する倉石に対して、戒は鋭いツッコミを入れたのであった。

 

 

 

 

 

一方、レッドゾーンは苛立たしげに近くにある物や筐体に当り散らしていた。

それで収まるはずのないストレスを発散するように彼は小さい身体からは想像出来ないほどの力で破壊衝動を満たす。

それを見ていたドラグハンターの肩に座っていたミケネが窘める。

 

『落ち着くニャ。レッドゾーン、今回は仮面ライダーの運が良かっただ…』

「うるさいっ!!」

 

近くにあった椅子を蹴り飛ばしてひしゃげさせると、荒い息を繰り返しながら血走った目で頭を掻きむしる。

 

「くそくそくそっ!!あいつぅっ、あいつがあんな姿にならなきゃ…!!」

「…レッドゾーン、そろそろお前も遊んで来たらどうだ?」

 

ドラグハンターから言われた言葉に、レッドゾーンは言葉の意味が分からず呆然としていたがやがて表情が変わる。

 

「本当に、『救済』に参加して良いのっ!!」

「もちろんだ。そろそろお前も自分のゲームを再開する時だ、そのためのプレイヤーも俺が用意した」

 

肯定したその言葉をはっきりと聞いたレッドゾーンは表情を輝かせると、楽しそうに笑う。

狂喜の笑い声をアジトに響かせながら、彼はレッドゾーンカセットを起動させた。

 

【LOADING…~♪!RIDE UP! RED ZONE! BAD and DEAD END! THE ERROR…!!】

『あっははははははははははっっ!!!やっとだっ、やっとこの時が来たぜぇっ!!覚悟しやがれゴミカスどもっ!!!今度はどん底になんか突き落とさねぇ…スクラップにして地獄に叩き落としてやらぁっ!!あーっはっはっはっはっっ!!!』

 

雄叫びをあげるように、狂気と狂喜が入り混じった憎悪の言葉を吐き出すレッドゾーン・エラーを見て、ドラグハンターとミケネは楽しそうに微笑むのであった。

To be continued……。




 スポット・エラーの出番はこれで終了です。ホワイト・ラムさん、素敵なエラーを本当にありがとうございました!
 シノビリンクの紹介については後々更新する予定です。そして、次回はレッドゾーンのゲームが始まります。それと同時に彼の動機も明らかになります。
 ではでは。ノシ

スポット・エラー CV山口勝平(一人二役) 
ホワイト・ラムさんからいただいたオリジナルエラー。イメージは『スポットライト』で裏モチーフは『パワースポット』
佐藤佳右の目立ちたい願望と友人の嫉妬心から融合変身した姿。紫と赤の光沢の有る派手な奇術師の衣装とピンスポ型のモノアイ、ピエロの様な仮面と赤いボール状の鼻を持つ。
攻撃方法は先端がフックとなった杖による格闘だが直接戦闘は心許ないので両手とモノアイを光らせた目くらまし、または光線で戦う。
常に笑い声をあげて、ひたすらハイテンション。


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COMBO34 暴走車×見えない都市

 お待ちかねのレッドゾーン編です。彼の正体とは、なぜエラーへと堕ちてしまったのか、分かります。
 あ、今回は全面シリアスです。それでは、どうぞ。


その女性はただひたすらに逃げていた。

自分を追いかけてくる存在から必死に逃げ回り、ヒールが外れてしまってもそれが気にならないほど逃げ回る。

右腕に負った傷を抑えながら息を荒げながら必死に足を動かす。

 

(何で、どうして…!?)

 

さっきから逃げている、なのにどうして…怪物から距離を放せない。

どうして……。

 

(自分の知らない場所へ辿り着くのっ!!?)

 

最初自分は慣れ親しんだ街並みだったはず、なのに今自分は見たこともない不気味な空間に迷い込んでいる。

バカげた話に聞こえるかもしれないが、それが彼女の恐怖を倍増させていた。

そして、体力の限界だった彼女が転び地面へと倒れてしまった時だった。

 

『地獄に落ちろ』

 

その声と同時に、彼女の頭に大剣が叩き込まれた。

 

 

 

 

 

翌日、至って変哲もない道路には白いカバンから化粧品やスマホなどが散らばっており、その付近にあるシートを僅かに広げて戒は下にある亡骸を覗きこむ。

露出の多い服からホステスを思わせており、顔も上品で悪くない…そんな彼女の頭部には一目で分かるほどの大きな傷が見える。

それに気分を悪くしながらも、戒は美海に視線を向けた。

 

「被害者は『歩原鞠華』。職業は…謂わなくても分かるわね」

「何となくは。死因はこの傷で間違いないんですか?」

「検視官の話じゃ間違いないそうよ。『鉈でもこんな傷にはならない』って驚いていたけど……これで二件目」

 

そう言って、ため息を吐く。

二日前にも同じような現場状況と死因で一人の女性が襲われて死亡した事件が起きているのだ。

普通の人間では不可能な凶器もあるが、異常だったのはそれだけではない。

 

「何で、この遺体にも『汗をかいた形跡』があるのかしら?」

「全速力で走ったことは分かりますけど…ね」

 

今回の件も含めて、被害者たちは何かから逃げようとした痕跡があり傷だらけになっている両足からはっきりと分かる。

怪人から逃げられるわけがないのは分かるのだが、今回は住宅街…不審な物音や人影を住人たちが一切認知していないのだが奇妙なのだ。

 

「一人目の海野美菜子はフリーターで共通点はないと思ったけど、調べて行く内にとんでもないことが分かったわ」

「とんでもないこと?」

 

戒の言葉に頷くと、美海は資料が入っている封筒を差し出した。

 

 

 

 

 

「海野と歩原は学生時代、一人のクラスメイトを対象に陰湿ないじめを行っていたらしい」

 

情報を整理するように一度自宅へと帰った戒はそこにいた飛鳥と琴音、リアたちに説明する。

当時学生だった海野と歩原、そして主犯だった人物の三人はクラスメイトだった少女…『森蘭花』に対して執拗なまでの嫌がらせを行っていた。

ハサミや道具を使った暴力はもちろん、強引に万引きをさせたり、ゴミを頭からかけられるなど陰湿なまでの行為を繰り返していたのだ。

そして、彼女は自ら命を絶った…学校の屋上から転落したのだ。

学校は当然それを調べ、海野たちが犯人であることを突き止めたのだが森の身内は当時十歳だった弟しか身寄りがなく、裁判になることはなかった。

たちの悪いことに彼女たちの両親は大手会社の社長だったり、そこそこ裕福で名前のある会社の関係者だったりしたので学校側も対応することが出来なかったのだ。

そしてその事件はただの「いじめ事件」と終わり、話題に上がることもなかった。

その事件から一週間後、定額が明けた彼女たちがいじめを行っていたことが動画サイトで暴露されたのだ。

住所や名前なども全て特定され、いじめの内容を告発されたその動画に危機感を覚えた学校側は彼女たちを退学させたが悲劇はそれだけでは終わらなかった。

今度は彼女たちの自宅に執拗なまでの嫌がらせが行われるようになり、それによって家庭は崩壊し彼女たちは誰かに頼ることも出来ず、一人で生きて行くことしか出来なくなったのだ。

 

「じゃあ、今回の事件は…」

「その少女の復讐ってことだろうな……そして」

 

「これがその弟の写真だ」と戒はテーブルの上に一枚の写真を置いた。

それを見た彼女たちの表情は驚愕に染まる。

 

「っ!?この子…!!」

「あぁっ、『森伸介』…彼女のたった一人の身内で、弟だ」

 

そこには姉と共に笑顔を浮かべている赤と黒のチェックを着た…戒たちが「レッドゾーン」と呼んでいる少年の姿だ。

全員の言いたいことが分かったのだろう、戒はゆっくりと頷く。

 

「恐らく、彼女たちに嫌がらせをしたのはこいつだ。エラーになる前からこいつは三人の人間の人生を滅茶苦茶にしたんだ。そして…」

「今度は自分の手で仇を討つために人間を捨てた…」

 

彼の言葉に続くように琴音は口を開く。

エラーに変身してからのあの苛烈なまでの性格…そう考えるとあの時の彼は復讐心に呑まれている状態だったのだろう。

そして彼は人間を捨てて幹部各のエラーへとなった。

 

『…彼はもう、人間を捨てている。もはや元に戻すことは不可能だろう』

「だったら……その前に止めるだけだ」

 

戒のコートから顔を覗かしながら喋ったウェルシュに戒は拳を握る。

その瞬間、スマートフォンから着信音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

ドラグハンターとデッド&アライブ、ユグドラシルはレッドゾーンのゲームをミケネの目を通して観測していた。

活き活きとした様子で暴れるレッドゾーンを見てドラグハンターは楽しそうに微笑む。

 

「レッドゾーンのゲームは順調のようだね」

「でも、良いの?救済の基本ルールは『一つのゲームにエラー一体』…幹部とは言え、少しやり過ぎじゃない?」

「問題ないんじゃないかなぁ…その措置としてポーントルーパーを廃止しているからねぇ。無問題さ」

 

腕を組んで困った表情を見せるユグドラシルに答えたのはデッドだ。

全身黒ずくめの彼は楽しそうに、粘着質な声でレッドゾーンが行っている追加ルールを説明する。

今回、レッドゾーンは一体のエラーと共謀して救済を行っている……その代わりとしてポーントルーパーを使用していることを禁止しているのだ。

そのことを聞いた彼女は「なるほど」と納得してモニターに視線を移す。

 

「無理をするなよ、レッドゾーン」

 

仲間となった少年に、ドラグハンターは不安気な瞳で見つめるのであった。

 

 

 

 

 

レッドゾーン・エラーは憎むべき人間を追いかけ回していた。

最愛の家族である姉の陥れた怪物…『笹井百合』は自分の姿を見て悲鳴をあげるや否や身を翻して逃走する。

だが、それは不可能だ……自分から逃げることも、誰かに助けを求めることなど決して不可能なのだ。

そうして、霧が深くなる…彼女は何処にも逃げられない、レッドゾーンの術中にはまったことにさえ気づけない。

後は笹井の精神を折るだけだ…レッドゾーンはただ獲物を追いかけているだけではない、わざと追い詰めているのだ。

それだけのことを彼女たちはしたのだ、慈悲の心も必要ない…無様な表情を見せながら始末されるのがお似合いの末路である。

やがて体力の限界となった笹井が転ぶ…今までの被害者たちと同じように泣き叫び、ヒステリックに叫ぶ。

 

『うるせぇな…姉ちゃんは泣き叫ぶことも出来なかったってのに、マジで苛つくなおいっ』

 

レッドゾーンはわざとらしく声をあげながら、ゆっくりと近づいて来る怪人の姿に笹井は後ずさりをして命乞いをするように視線を彼に向ける。

 

『これは裁きだ、お前らが殺した…蘭花姉ちゃんのなぁ…!!』

「蘭…花…!?」

 

鸚鵡返しした彼女の表情は更に恐怖へと染まる…分かってしまったのだ、人生のどん底へと落とされた自分がどうして狙われたのか。

それは、自分たちが死に追いやった彼女への復讐だと、ようやく理解したのだ。

レッドゾーンは愕然とする笹井の脳天目掛けて、大剣を振り下ろそうとした時だった。

 

『っ、ちぃっ!!』

 

瞬間、三つの軌跡がレッドゾーンの攻撃を弾き、彼はよろめきながら後退してしまう。

そこにいたのは忍転身をした焔と雪泉、そして雅緋。

彼女たちは戒が戻る際に、予め連絡を受けており笹井を見張っていたのだ…そして予想通り、彼は姿を現して彼女を襲い始めたのでこうして現れたのだ。

 

『て、てめぇらっ!!どうやって「この街」にっ!?』

「姿が見えなくなったのには驚きました…ですがお忘れですか?私たちは忍です、結界を認知することなど容易いことです」

 

そう宣言した雪泉に対して、レッドゾーンは苛立ちを募らせる。

忘れていた…目の前にいる連中は忍、結界の構造を誰よりも理解している人間なのだ。

「くそ!」と苛立つ彼に雅緋は「やれやれ」と自嘲気味に笑う。

 

「人を救うのは悪忍の性分ではないが、門矢には借りがあるからな」

「同じく」

「レッドゾーン、神妙にしなさいっ!!」

 

武器を構えた三人にレッドゾーンは大剣を構える。

所詮は三人、仮面ライダーの力を分け与えられただけの人間に負けるとは考えられないし自分の有利には変わりはない。

レッドゾーンが大剣を構えた途端……聞こえるはずのないバイクのエンジン音と共に霧の奥にある陰から人影が現れる。

 

「…と。主役は遅れてやってくるってね」

「お待たせ、三人とも!」

 

ドライグハートから降りたアーサーと、ヘルメットを外してから降り立った飛鳥は其々に武器を構える。

最後の標的である笹井も飛鳥が結界の外へと出してしまい、まさに多勢に無勢…だがレッドゾーンはただ笑うだけだ。

 

『数が増えたから何だよ…ここじゃてめぇらが勝てる確率は、ゼロだぁっ!!』

 

レッドゾーンがそう叫んだと当時に周囲が霧に包まれる。

周囲が見えなくなるほどの霧に全員が警戒するが、武器を構えていた飛鳥が吹き飛ばされるとそれに驚いた雪泉が殴り飛ばされてしまう。

 

「くそっ!」

 

焔が両手に構えた六刀を振るうが、空を切るだけであり逆にレッドゾーンの攻撃を受ける。

雅緋は黒炎を放っても当たる様子がない。

辛うじて彼の黄色く光るモノアイで方向をある程度予測することが判明するが、どうしてもそこから反撃に移ることが出来ない。

レッドゾーンが振り下ろした斬撃をグレンバーンで防ぎながらアーサーは考える。

彼をサポートするように周囲を覆い隠す霧、結界から発生しているのは分かるがレッドゾーンの能力であることは考えられない。

戦った経験からレッドゾーンは凄まじい馬力自身の魔力を赤熱化させて内燃機関の力を引き出すこと…この特殊な能力と一致しないのだ。

考えたアーサーはリズムカセットを取り出して起動する。

 

【RHYTHM!!】

【RIDE UP! RHYTHM! 音色と踊れ!GREEN BEAT!!】

「みんな!下手に動かず攻撃を耐えてくれっ!!」

 

リズムリンクへとチェンジしたアーサーがそう叫ぶと、飛鳥たちは武器を構えて防御の姿勢へと移行する。

 

【ATACK ARTS! MUSIC SEARCH!!】

「……」

 

赤いボタンを押して能力を発動させたアーサーはピアノアローを構える。

四人がレッドゾーンの攻撃を耐えてくれる中、彼は神経を研ぎ澄まして思考をクリアにさせる。

そして、僅かに聞こえた物音の方向目掛けてロックオンを付与したピアノアローから矢を発射した。

 

『っ!?しま…』

『ぎゃああああああっっ!!?』

 

動揺するレッドゾーンとは別に激痛から発した悲鳴があがると、そこ目掛けてアーサーは集中砲火する。

やがて、霧が晴れると死角となっている曲り角から転がるように一体のエラーが煙を上げながら姿を現した。

右肩には公園の乗り物や砂場を思わせるようなオブジェがあり左肩には高層ビルを思わせるような白い装飾、そして巨大な城を彷彿させる灰色のボディ…様々な文化の街の要素を取り込んだ異形『タウン・エラー』は窓のようなモノアイで睨みつける。

 

『この、邪魔をするなっ!!私は…私はあの悪魔どもに騙された息子の仇を討つんだっ!!』

 

タウンはそう叫んで、再び霧を起こそうとするが雪泉の放った氷弾と飛鳥の斬撃によって吹き飛ばされる。

すると周囲の霧が晴れて周囲は寂れたような街並みであり、ビルや住宅街に室外機が異様なほど存在した不気味な外観が見える。

恐らく、彼の能力だろう…周囲に結界を張り、その内部から自身の思い描く『街』を想像して創造するのがタウン・エラーの最大の特徴である。

 

『ぐっ、うぅ…ならば…!』

 

起き上がったタウンは魔力を練り上げると、地形や建築物を変形させて障害物を増やす。

そこをレッドゾーンが身体中に生えたパイプから蒸気を発生させながら仕掛ける突進に吹き飛ばされる。

 

「がはっ!?」

 

地面に叩きつけられたアーサーは赤く発光するレッドゾーンを睨もうとするがあることに気づく。

飛鳥や焔、雪泉と雅緋たちが苦しげな表情で立ち上がろうとしていたのだ……元々は自分が戦うべきはずであるのに生身である彼女たちに戦わせてしまっている。

そんな罪悪感が僅かに芽生えたアーサーだったが近づいてくるレッドゾーンを見てすぐに思考を切り替える。

このままだと全員敗北する…そう考えたアーサーは例のカセット、シノビカセットを取り出して起動した。

 

『っ!危険だ、戒っ!!また倒れる気かっ!?』

「全滅するよりましだっ!忍…転身っ!!」

 

そう叫んでアーサーはシノビカセットをアーサードライバーにセットしてサイドグリップのトリガーを引いた。

 

【旋風無双!HIGH SPEED CHAMBARA!!】

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」

 

内側から爆発するほどの魔力で身体がきしむのを感じながらアーサーはグレンバーンを構えようとするが先ほどのダメージと相まって気を失いそうになる…しかし。

 

「戒君っ!!」

「っ!?」

 

自分の名前を呼ぶ飛鳥の声にアーサーは我に返る……気づけば自身を蝕む激痛が和らいだ気がする。

「行ける」と確信したアーサーはグレンバーンにシノビカセットをセットした。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO STRIKE! SHINOVI!!】

「我流秘伝忍法『乱閃』っ!!」

 

直進するようにレッドゾーンの懐へと潜り込んだアーサーの抜刀術が斬り裂く。

いくつもの斬撃を同じ箇所に浴びせられたレッドゾーンは地面を削りながら後退する。

火花を大量に散らした彼は、忌々し気に隣へ来たタウンへ視線を移す。

 

『くそったれがぁぁぁぁ…一端退くぞっ!!』

『し、しかし…』

『あんなクズ、いつでも狙えるっ!!』

 

戦況が悪いと判断したレッドゾーンの放った言葉にタウンは何か言おうとするが気迫に押されたのか大人しく撤退する。

同時に、結界が解除されて元の道路や街並みへと戻り戦闘が一先ず終わったのを確認したアーサーは変身を解除し、飛鳥たちも元の衣装へと戻る。

シノビカセットを使った戒は以前のように倒れると思ったが、普通に立っていたのだ。

 

「戒君…何ともないの?」

「はい、でもどうして…?」

 

飛鳥の問いに、戒はそう答えながらも戸惑っている表情のまま、手に持ったシノビカセットを見つめていた。

To be continued……。




 レッドゾーンの基本ベースは復讐に染まった人間の末路をイメージしています。
 大切な人を理不尽に奪われた憎悪から、人の皮を被った怪物たちを粛正する…自分が怪物となっていることに気づかない復讐者が彼の基本ベースです。
 次回で全面決着です。ではでは。ノシ


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COMBO35 忍転身×変身

 お待たせしました、後半戦のスタートです。今回でシノビリンクの本領が発揮されます。イメージ挿入歌はパラドクスの『Real Game』で『門矢戒&飛鳥&焔&雪泉&雅緋』の五人が歌っているのをイメージしてください。
 それでは、どうぞ。


融合を解除したタウン・エラー…『町田悟』は苛々するように周囲を歩いていた。

壮年でありながらも何処か気品のある彼もレッドゾーンと同じく、悪魔のような三人によって息子を殺されているのだ。

彼の息子が笹井たちに何をされたのかについて言及するのはあえて控える…ただ一つ言えることは、それに対して町田には復讐心が宿り、ドラグハンターに渡されたエラーカセットによって暴走したのだ。

学生たちに歴史を教えていた元教員でもある彼はレッドゾーンと共謀し、霧に包まれた街を創り上手くいっていたのだが邪魔者が現れた。

その存在に対して警戒する町田に対して、融合を解除していたレッドゾーンは立ち上がる。

 

「次だ…次あいつを見つけたら確実に始末する…例え、どんな犠牲を払ってもね」

「しかし、それは…」

「後一人なんだ、ここまで来て終わってたまるか……絶対に、絶対に仕留めてやる…!!」

 

そう言って、憎悪で瞳を輝かせる目の前の少年に町田は目を背けてしまう。

子どもに従っているからではない…自分が教鞭を取っていた少年と同年代の彼が罪を犯しているのに悲哀を感じたのだ。

 

(いざという時は…私一人が倒されれば良い)

 

この復讐が終われば、彼も年相応に笑うのかもしれない…そう思った町田は人知れず決意を固めるのであった。

 

 

 

 

 

門矢家へと戻った戒はウェルシュと二人きりである話をしていた。

飛鳥たちもいるが、現在は別の部屋で琴音と千歳の手当てを受けており次の戦闘に向けて鋭気を養っている最中だ。

テーブルの上に置いたミラージュカセット…シノビカセットを見てウェルシュは口を開く。

 

『本当なのか?身体が楽になったのは』

「間違いない。最初は激痛が走ったけど、途中からその痛みが和らいだんだ」

 

戒の言葉を聞いたウェルシュはディスプレイに悩んだ表情を映しながら考える。

彼の言っていることが本当だとしたら、シノビカセットには今までのミラージュカセットとは違う使い方がある。

そしてそれは戒の身体に負担を掛けずにシノビリンクを扱えるようになるのだ。

だとすれば、その使い方とは何か…。

 

「…なぁ、ウェルシュ。飛鳥さんたちを戦わせるのは間違っているのかな?」

『どうしたんだ、急に?』

「いや…本来ならエラーと戦うのは俺たちの役目だろ?…倒れていた飛鳥さんたちを見たら、さ……」

 

少し落ち込んだ様子で語る彼に、ウェルシュは黙って話を聞く。

 

「今回は、運が良かっただけだ…もし、今度みんながあんな目に遭って…酷いことになったら……怖くなって」

『そんなことはない』

 

年相応な表情を見せる戒に彼ははっきりと否定する。

今までもそんな考えがあったのだろう、いくら仮面ライダーでも戒はまだ十六…心優しい彼なりに考えていたのだ。

顔を上げた彼にウェルシュは優しく話しかける。

 

『君は、みんなに甘えて戦っているように思っているのかもしれないが…彼女たちは自らの意思で君と戦うことを決めたんだ。そんなことを言うのはお門違いだよ』

「だけど…」

『彼女たちだって誰かを守りたいと思ったり、君のことを信じているからこそシェアリングナイトフォースが起動したんだ…その絆を、君が得た絆は否定してはいけない』

 

そう語ったウェルシュに、戒はしばらく黙っていたがやがてノックされてからドアが開くと、飛鳥が顔を見せる。

 

「戒君っ!リアちゃんがレッドゾーンたちの反応を見つけたって!みんな待ってるから、早く!」

 

飛鳥が彼の手を引いて外に出ると、戒の目の前には焔と雪泉、雅緋の三人が待っていた。

呆然としている彼に対して彼女たちは軽く笑う。

 

「あれぐらいじゃ、私たちはやられないさ」

「いつでも行けます」

「さぁ、あいつに借りを返そうじゃないか」

 

彼女たちは、戒の力があるからエラーと戦っていたわけではない…彼と同じく誰かを守るため、もしくは恩を返すために共に戦ってくれるのだ。

そのことを改めて認識した戒はいつもの笑みを見せる。

 

「こっちも休憩が終わりましたし…始めますかっ!!」

 

その言葉に、全員が頷くと同時にウェルシュが持っていたシノビカセットが淡く輝き出した。

 

 

 

 

 

タウン・エラーは怯えながら歩く笹井の様子を監視していた。

病院で警察が護衛をしていると事前に情報を得たタウンはすぐさまエラーカセットを使って融合するとそのまま監視を行っていたのだ。

あれから警察が護衛をしていたが、彼女自身が警察を信用出来なくなったのか隙を見て逃げ出した。

ポロシャツとミニスカート、ハット帽と言った地味な格好だったが、あの特徴的な茶髪を目に焼き付けていたタウンはレッドゾーンに連絡する。

連絡を終えたタウンは結界を張り、霧に包まれた街を創造すると行く手を阻むように人間態であるレッドゾーンが現れる。

 

「さっ、覚悟は良いかな?笹井のお姉ちゃん♪」

 

そう楽しそうに笑ったレッドゾーンがエラーカセットを取り出した時だった。

徐に彼女はハット帽を取り払うと、茶髪を掴んで思い切り引っ張った。

 

「んなっ!?」

「あら?私の顔をお忘れで?」

 

おどけるように両足をクロスさせた笹井…否、門矢戒(意外と似合う女装姿)を見たレッドゾーンは絶句する。

何で、どうして、笹井は何処に……。

そんな思考が混ざり合って混乱する彼に、一瞬で元の服装へと戻った戒は思い出したように口を開く。

 

「笹井なら、今も入院してるぜ。まさかこんな単純な作戦に引っ掛かるとは思わなかったけどな」

 

その言葉と同時に飛鳥たちが姿を見せる。

自分たちが騙されたことに気づいたタウンは隣にいたレッドゾーンに声を掛けるが、当の本人は笑みを崩していない。

 

「だったら何だよ?お前たちを始末して、あいつを始末すれば良いだけだっ!!」

【RED ZONE!!】

 

そう叫んで、体中にパイプが配置された機械生命体のようなイラストのレッドゾーンカセットを起動した彼はエラーブレスのスロットへためらいもなくセットする。

 

【LOADING…~♪!RIDE UP! RED ZONE! BAD and DEAD END! THE ERROR…!!】

 

エンジン音と電子音声が同時に辺りを響かせると、ノイズのようなデータ状の魔力に包まれ、レース用カートを人型にしたレッドゾーン・エラーへと姿を変貌させた。

 

『もう手加減はしねぇ…ここで叩き潰してやるっ!!』

 

大剣を地面に叩きつけるレッドゾーンに便乗するように、タウンも両手に魔力を宿して街の景色を変動させる。

その光景を見ながらも戒は、アーサードライバーをセットしてからミラージュカセットを取り出した。

 

「さぁ、こっからが本番だぜっ!!」

【SHINOVI!!】

 

戒が宣言したと同時にシノビカセットを起動させると、同じ形をしたミラージュカセットが飛鳥、焔、雪泉、雅緋の四人の手に集まる。

突如……自分の手に渡ったシノビカセットに困惑しながらも彼女たちはスイッチを起動させた。

 

【【【【SHINOVI!!】】】】

「変身っ!!」

「「「「忍・転身っ!!」」」」

 

戒は、『チャンバラ無双ゲームアプリ』の術式を組み込んだシノビカセットをアーサードライバーの左スロットにセットしてからサイドグリップのトリガーを引く。

 

【RIDE UP! SHINOVI! 旋風無双!HIGH SPEED CHAMBARA!!】

 

電子音声が鳴り響くと周囲を覆う強烈な風の渦が吹き上がり、黒とアメジストカラーの和風の軽鎧に身を包み、マスクの下部にはクラッシャーに上部には金色のバイザー…シノビリンクへと変身する。

それと同時に、忍の少女たちの姿も変わった。

飛鳥は学生服をイメージした白い手袋を着用し、白を基調としたセーラー服に黄色と飾り紐とネクタイ、黒いソックスと茶色いブーツを履いた忍衣装に…。

焔はオレンジ色のラインが入ったフード付きの赤いジャージの忍衣装へと変わり、紅蓮隊のマークが背中にある。

雪泉は大正ロマンの和洋折衷を彷彿させるフリルの付いた白い着物と、たすき…そして藍色の手甲に白い手袋を着用した白いグラデーションにある桜と水色の袴ズボンの忍衣装へ…。

雅緋は紫色のシャツと黒いネクタイの上に黒い軍服と軍帽、蛇女のエンブレムがあるバックルに膝までのロングブーツから紫色のニーソが見えており、白い手袋を装備している忍衣装へと姿を変えた。

これこそがシノビカセットの本来能力…シノビリンクは心を通わせた忍たちに、爆発して増幅させた魔力や能力を分け与えることが出来るのだ。

 

「さぁ、お前たちの物語…ここで終わらせるっ!!」

『ほざくなぁっ!!』

 

その宣言を聞いて叫んだレッドゾーンが大剣を構えてタウンと共に突進すると同時に、アーサーたちも各々の武器を構えて激突する。

まずはアーサーが先制してタウンとレッドゾーンに突風を纏った居合と足技で攻撃した後、飛鳥と焔の攻撃が彼らを襲うと雪泉と雅緋が氷と黒炎で追撃する。

威力こそ落ちたものの、体力の消耗は極限まで抑えられアーサーは今までは違う動きで相手を翻弄し、代わりに魔力と能力を与えられた忍たちがダメージを与えて行く。

レッドゾーンの攻撃を跳躍して躱した飛鳥の斬撃がレッドゾーンの胸を切り裂くと、建造物の壁を走ってから跳躍した焔が武器を振り下ろす。

 

『ぐぅっ…くそがぁっ!!』

「そこですっ!秘伝忍法『黒氷』っ!」

 

雪泉は生成した五つの氷弾を一つに合わせた鋭い氷塊を前方に飛ばすが、レッドゾーンはそれを剛腕で粉砕する。

しかし、目の前の氷塊を破壊したことで視界が奪われてしまい、飛鳥とアーサーたちに懐へ入り込まれてしまう。

 

「「合体秘伝忍法『三刀繚斬』っ!!」」

『ぐおおおおおおおおおお……!!』

 

三つの斬撃がレッドゾーンに直撃するが、両腕を交差させた彼はそれを地面を踏み締めて耐え切る。

その間にも、焔と雅緋はタウンを追い詰めており自身の能力を駆使しようにも隙のない連続攻撃にどうすることも出来ない。

 

「もらった!秘伝忍法『悦ばしきInferno』ッ!!」

『ぐっ!?このっ!!』

 

雅緋が素早く連続してふるった五回の連撃がタウンを襲い、反撃をしようとモノアイからエネルギー弾を飛ばす。

しかし、それを焔が六刀流で防ぎアーサーと雪泉の一撃が彼を地面へと転がす。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO STRIKE! SHINOVI!!】

「焔さんっ!」

「息を合わせろっ!!」

「「合体秘伝忍法『(あかつき)』っ!!」」

 

両腕で構えた焔の六刀に纏った炎を斬撃として飛ばし、突風を纏ったアーサーの斬撃によって威力を上げる。

そして、真っ直ぐに放たれた炎と風の斬撃が避けることも出来なかったタウンへと直撃した。

 

『がああああああああああああああああっっっ!!?』

 

絶叫と共にタウン・エラーは爆散、砕けたエラーカセット共に融合を解除されて元の姿へと戻った町田が地面に転がる。

仲間を倒されたレッドゾーンは、憤怒の叫びをあげながらパワーを増幅させた大剣から斬撃を飛ばす。

 

「おっと」

【ATACK ARTS! DENKOUSEKKA!!】

 

超加速を発動させるとアーサーは焔を担いで、その場から退散する。

同時に、左右から現れた飛鳥と雪泉が秘伝忍法による攻撃を浴びせて地面を転がってしまう。

 

『こんな、こんなことがあってたまるかあああああああああああっっ!!!』

 

レッドゾーンは己にある憎悪や憤怒を精霊の身となった赤い身体に魔力として取り込み、赤熱化して最大限の攻撃を浴びせる。

振り下ろされた斬撃が五人へと迫るが、突風操作を行ったアーサーがグレンバーンを地面へと突き立てた瞬間、巨大な風の障壁となって防御する。

 

『そ、んな……』

「これが、憎悪だけで戦ったお前の力だ」

 

そう宣言したアーサーは、シノビカセットを必殺技のホルダーに装填して緑色のボタンを押す。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! SHINOVI!!】

 

電子音声が鳴り響いたのを確認したアーサーは高く跳躍する。

それと同時に、飛鳥たちも各々の武器を構えて魔力をチャージする。

 

「絶・秘伝忍法『深淵のParadiso』ッ!!」

 

最初に攻撃したのは雅緋だ、六枚の羽根を出し宙に浮いてから前方を剣で左右方向に斬り、止めとばかりに直下して叩きつける。

火花を散らすレッドゾーンに焔が七本目の太刀を抜くと、自分の周辺で六本の刀を回転させて前進すると、連続攻撃を浴びせる。

 

「絶・秘伝忍法『蓮』っ!!」

 

その後、停止して炎を巻き上げてレッドゾーンを吹き飛ばした。

扇を広げて魔力を練り終えた雪泉は閉じていた目を開く。

 

「絶・秘伝忍法『雪蜘蛛』…!!」

 

自身の精霊である氷の蜘蛛を召喚すると、回転して自分を中心に竜巻で周辺を巻き起こしてレッドゾーンの身体を凍てつかせる。

 

『な、何だ…身体が…!?』

 

突然、自分の身体が皹割れ始めたことに困惑する…レッドゾーンは知る由もなかったがこれは「ヒートショック」と呼ばれる現象である。

加熱してから冷やすことで大きくなった温度差によって割れやすくなる現象のことであり、自身の赤熱化と焔の斬撃によって急激な上がった身体を雪泉の攻撃によって生じた極端な温度差によって身体がもろくなったのだ。

困惑するレッドゾーンを気にせず、飛鳥が印を結び己の魔力を解放する。

 

「絶・秘伝忍法『ガマ召喚』っ!!!」

 

飛鳥が自身に乗ったのを確認した精霊…ガマはムチのようにしならせた舌で前方を薙ぎ払うようにレッドゾーンを吹き飛ばした。

そして、吹き飛ばれた先は……。

 

「我流秘伝忍法『旋風脚』っ!!」

『ぐっ、ぐううううううううううううっっ!!!』

 

アーサーが空を跳んだ場所での丁度真下…。

自由落下+爆発的なまでに高められた魔力を纏った跳び蹴りをレッドゾーンは防ぐ、しかしアーサーは更に風を纏わせて回転するように身体を捻った。

 

「はああああああああああああああっっ!!!」

『ぎゃああああああああああああああああああっっ!!』

 

地面へと叩きつけられたレッドゾーン・エラーは大規模な爆発を起こす。

着地したアーサーの元に飛鳥たちが駆け寄る。

 

「ぐっ、あぁ…畜生ぉ…!!」

 

人間態へと戻ったレッドゾーンはなおも立ち上がろうとするが、レッドゾーンカセットに皹が入る。

それに気づいた彼は、何処か諦めたようにカセットを落とす。

 

「あーあ…負けちった…」

 

呟きながら、アーサーたちに視線を向ける。

その目には、今まで自分に向けていた年相応のものでも先ほどまでの憎悪が籠った視線でもない。

全てから解放されたような、安らかな笑顔だった。

 

「ありがとう…ごめんね、お姉ちゃん……」

 

自分を解き放ってくれた仮面ライダーたちに、そして遺言を守らなかった最愛の家族へ謝罪の言葉を漏らした瞬間、レッドゾーンカセットが砕けた。

 

【GAME OVER】

 

レッドゾーン…『森伸介』が消滅するのを、変身を解除したアーサーと飛鳥たちはその場で黙とうを捧げる。

そして、『霧の中にある都市事件』は解決した。

 

 

 

 

 

事件から数週間後…美海の報告では、町田は警察に身柄を拘束されている。

エラーカセットが破壊されたことで、幾分か毒気が抜けたのか素直に取り調べに応じているらしい。

幹部の一人を倒すことが出来たが、彼もまたエラーカセットに人間を捨てた被害者の一人…エラー自体がいなくなったわけではないので戒とウェルシュは人知れず覚悟を決める。

そして、平日の半蔵学院の忍教室では。

 

「ほら見て、葛姉っ!女装した戒君だよ、ほら!」

「おー…これはかなり良いですなぁ。元々似合うとは思っていたけど…良い」

 

飛鳥がスマホで写メをしており、その写真を見ている葛城はニヤニヤと楽しそうに笑っている。

戒の女装はほんの一瞬だけだったのだがその様子を飛鳥が写し、生徒たちに見せていたのだ。

それを見た琴音は苦笑いし、注意しようとした斑鳩は写真を見て「…良いかも」と頬を染めて凝視している。

 

「すごーい!戒君お姫様みたい!!」

「……良い///」

 

雲雀が純粋に感動し、柳生がマジトーンで呟いている様子を見て戒は項垂れるしかない。

囮でやるしかなかったのは重々承知しているが、まさか写真を撮られているは予想外…どんな時でも遊び心を忘れない飛鳥に戒は机に顔を突っ伏すことしか行動に移せない。

 

「ねぇねぇ戒君っ!今度忍務の時には女子の制服で…」

「やめたげてよぉっ!!」

 

とんでもないことを提案する彼女と、賛同している他のメンバーに対して戒は涙を流すことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

「うーん、次の話はどうしようか…」

 

焔紅蓮隊の一人…未来はアジトの周辺にある川辺で自作小説の構想に考えていた。

Web上で公表している小説を書いている彼女はアルバイトをしながらも、こうして外で考えていることがあるのだ。

「ネタの神様が下りてくれないかな」と思いながら、川辺を歩いていた時だった。

 

「えっ?」

 

思わず目を丸くした。

なぜなら、川辺にはこの場所には不釣り合いな物体があったのだ。

いや、それは物ではなく人…ボロボロになっている青年が川辺で横たわっていたのだ。

 

「わっ、あわわ…!!」

 

そこに倒れていた見知らぬ青年に驚きながらも、未来は彼に駆け寄って安否を確かめる。

呼吸が微かに聞こえることから息があることが分かるが、このままでは危ない……。

そう判断した未来は、彼を揺すって必死に声を掛ける。

 

「ねぇ!ちょっと!?大丈夫!ねぇっ!!」

「未来ちゃん。どうしましたの?」

「詠お姉ちゃん!!人が、人が倒れてる!」

「えぇっ!?」

 

未来に昼食の時間と呼びに来た詠が声を掛けるが、彼女は人が倒れていることを教えるとそれに驚いた詠は口元に手を当てる。

 

「まだ息があるから、運ぶのお願いっ!私はみんなに知らせてくるっ!」

「わ、分かりましたわ」

 

詠は彼女に言われた通り、青年の身体をおぶって運ぶ。

彼女たちが気付くはずもなかったが、青年の懐には歯車と中央に長方形を縦にしたようなディスプレイがある…メカニカルなデザインをした青と白のバックルが微かに光った。

 

NORMAL COMBOⅡ……GAME CLEAR。

→To be Next Stage……。




 さて、これがシノビリンクの本来の能力です。絆を紡いだ忍たちに自分の爆発させている魔力をミラージュカセットとして譲渡し、能力と魔力を与えることが出来ます。
 ちなみに、忍衣装は『シノビマスター 閃乱カグラ NEW LINK』の衣装がイメージとなっております。
 ライダー紹介でシノビリンクについての説明を行います。ではでは。ノシ


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COMBO EX7 第七回アーサーチャンネル!!

 シノビリンクとレッドゾーンなどについて、戒たちが面白おかしく語り合います。
 そして、今回のゲストは最大四人!誰が登場するかお楽しみに。
 それでは、どうぞ。


「せーの」

『「「アーサーチャンネル!!~~~~」」』

 

ラジオのスタジオみたいな場所でウェルシュ、戒、琴音の三人が番組名を口にした途端、拍手や歓声が沸き上がった。

賑やか雰囲気の中、戒は挨拶を始める。

 

「どーもみなさん、おはこんばんにちは!DOAXがパソコンで新しく配信されると聞いて内心ドキドキしている門矢戒です。よろしくお願いしまーす!!」

『おはこんばんにちは。シノビマスターの登場する新キャラを作者が組み込むのか考えているウェルシュだ、よろしく』

「おはこんばんにちは。将来は背の高い巨乳なお姉さんになれることを祈っている幸村琴音です。よろしくお願いしまーす!!」

 

琴音が名乗った瞬間、拍手が沸き上がるが心なしか「おっ、おう」と微妙な空気が流れているような気がしたが気のせいだろう。

拍手は止んだのを確認した戒は話を進める。

 

「さあ、やってまいりました第七回目の『アーサーチャンネル!!』、この番組はどんな番組かと言いますと!」

『本編で語れなかったとこ、感想であった身近な疑問を答えていく所謂「質問コーナー」だね、第一回でも触れたがこの番組はメタ発言が多い…それを好まない人はバックすることを勧める』

「それでは、今回のゲストをご紹介します!前回と前々回で活躍した各所属のリーダーたちです、どーぞっ!!」

 

ウェルシュの説明の後に、琴音が本日のゲストを紹介すると飛鳥と焔、雪泉と雅緋の四人が拍手の中でステージに空いている席に座る。

 

「半蔵学院二年、飛鳥です!よろしくお願いします!」

「焔紅蓮隊のリーダー、焔だ!よろしく頼む、ところで肉はないのか?」

「二度目ですが死塾月閃女学館の雪泉です。よろしくお願い致します」

「蛇女子学園のリーダー、雅緋。不慣れな場所で失礼が多いかも知れないがよろしく頼む」

 

各々挨拶を終えたメンバーが改めて席に座ったのを確認した戒は、ゲストの一人である雪泉に話しかける。

 

「いやー、雪泉さんは三回目の放送以来ですね。どうですか心境は?」

「またこうしてこの場に立てたことを嬉しく思います」

 

そう照れ臭そうに微笑んだ彼女に、観客席からは「可愛いー!」と男女関係なくコールされる。

その人気ぶりに琴音は感心しながらも、飛鳥に向かって喋る。

 

「飛鳥さんたちは初めてだけど、どうですか?」

「まだ始まって間もないけど、すごく楽しいよ!…でも、どうして私はこんなに遅いんだろう?最初のゲストは紫ちゃんだったし雪泉ちゃんに至っては二度目だしどうして私は七なんて中途半端な登場なの?地味だから?やっぱり私が普通だから…」

『焔や雅緋はどうかなっ!?初めてのゲストだがどんな心境かな、うん!』

 

途中からトラウマスイッチでも入ったのか、頭を下げてぶつぶつとネガティブなことを言い出した彼女を遮るようにウェルシュが残りの二人に言葉を掛ける。

二人は暗いオーラを出している飛鳥にドン引きしながらも空気を変えるようにフォローしてくれたためどうにかなった。

気を取り直して琴音が「最初はこれ」とボタンを押す。

 

【レッドゾーン・エラーとシノビリンクについて】

『本名「森伸介」…それがレッドゾーンの本名だ』

「たった一人の身内だったお姉さんが亡くなったことで復讐に走っちゃったんだよね…」

「おまけに、エラーになる前からこいつは標的に病的なまでの嫌がらせをやっていたからな…仕方ないとは思うがかなりえげつなかったな」

『モチーフはレース用のカート…これは彼が車好きだったのと復讐によって理性のタガが外れたことで「レッドゾーン(危険度の高い状態を示す)」の名前になった』

 

司会の三人がレッドゾーンの解説を行う中、飛鳥が挙手をする。

 

「レッドゾーンのモデルになったのってDMのクリーチャーから?」

「実はそうです。当時あのクリーチャーを見た時に『絶対に幹部にしよう』と決めたのがきっかけとなってレッドゾーン・エラーが誕生しました」

「なるほど……ところで話は変わるがシノビリンクについて何か話すことはあるのか?」

 

戒の言葉に、全員が納得すると次の話題に入るように焔がシノビリンクについて話題を変える。

 

「実は基本フォームだった」

「マジか…もしかして紫色なのはパー○ルハートが裏モチーフだからか?」

『まぁ、そうだね。だけど急きょドラゴン系のフォームを書きたい衝動に駆られた作者が中盤の強化フォームとして出したのがこのシノビリンクだ』

「チャンバラ無双ゲームアプリが一応のモチーフだけど、単体で使用すると爆発的に上昇した魔力で身体がボロボロになるんだっけ?」

 

戒のカミングアウトに彼女が驚く中、ウェルシュと琴音がシノビリンクのモチーフやデメリットなどの解説を始める。

飛鳥が渡された台本を読みながら捕捉を入れる。

 

「でも、絆を結んだ忍…つまり私たちに力を分け与えることで戒君の負担を抑えながら能力を活かせるんだね!」

「その時は私たちの衣装も変わりましたよね。あれもシノビリンクの力なのですか?」

『Exactly…こうして紡いだ絆を力とするのがシノビリンクなのさ』

「まぁ、それでも負担が大きいことに変わりはなさそうだがな」

 

「使用には気を付けろ」と雅緋が戒に警告したことで、一先ずシノビリンクについての解説を終わらせて次のボタンを押す。

 

【今後のアーサーについて】

「最後の青年が何者なのかも気になるが……もしかしてこれが第一クールの終わりか?」

「そうですね。EV編を入れましたがこれでワンクールが終了しました…かなり長かったですがこれからは幹部との戦いや二号ライダーも乱入して物語が動く!…と思います」

 

戒と雅緋がそう話す中、ウェルシュが思い出したように口を開いた。

 

『そう言えばだ、実はアーサーの基本フォームである「ドラゴンリンク」のカラーをオレンジに変えることがほぼ決定している…どういうことかは活動報告を読んでくれるとありがたい』

「別に連載しているドラグーンの共通モチーフが「赤龍帝」だからねー…あっちはスーツが赤だけど」

 

困ったように笑う琴音に戒たちが「うんうん」と頷くと、これで一先ずの話題が終わった。

「これで終わりか」とゲストが様々な反応を見せる中、戒は金色に光るボタンを力強く押した。

瞬間…ステージが暗転し、何処からともなく現れたモニターがある映像を映し始めた。

 

 

 

 

 

仮面ライダーディケイド……『門矢士』は仲間たちと共に、これまでと変わらず光写真館を拠点として異世界を巡る旅を続けていた。

そして、彼らが訪れた次の世界は……。

 

「これは…お城でしょうか?」

「うわっ!?見ろよ、士っ!!写真館がっ!!」

「僕の眼鏡に適う、目ぼしいお宝はあるかな?」

 

この世界は、仮面ライダーや怪人でなくても人々が異能を使える世界…そこで、彼らはその世界の中心とも言うべき人物と出会う。

 

「私は『政宗元臣(もとおみ)』…ディケイドいや、門矢士。お前に協力してほしいことがある」

「何だと…?」

 

彼から告げられた新たな使命、それは9つの世界を再び巡ることだった。

増え続ける世界の核となる基本世界『O.R.WORLD(オリジナルライダーワールド)』と、士たちが旅をした並行世界『A.R.WORLD(アナザーライダーワールド)』。

元臣が告げたことは、限りなく近く限りなく遠い…決して触れ合うことのなかった二つの世界が融合したことで緩やかな崩壊を遂げてしまうという、衝撃的な事実だった。

 

「俺は、世界の破壊者だ…やることはいつもと変わらない」

 

そして、旅を始める士たちに新たな仲間が加わる。

 

「下手くそな写真ですね。私でも上手に撮れますよ」

「なら、見るな」

 

元臣の娘である物静かな自称名探偵『政宗美緒』と……。

 

「これも依頼だ…よろしく頼むぜ、ディケイド?」

「やれやれ。さっきまでパニクっていたのは何処の誰だい、翔太郎?」

「『ライダーは助け合い』…俺も協力します!」

「ライダー…キターーーーーーーーーーッッ!!…けど、卒論に間に合っかなぁ…」

「良いぜ?魔法使いと破壊者のショータイムだ」

『ここからは、俺たちのステージだ』

「ベルトさん…異世界でも、ひとっ走り付き合えよ」

『OK! Start your Engine!!』

「人間の、仮面ライダーの可能性はムゲン大だ!」

 

新たな個性と共に戦う仮面ライダーたち。

そして彼らは混じり合った世界の旅を始める……。

 

「剣崎一真っ!お前だけは、お前だけは俺が倒すっ!!」

「今更、俺が何を言ったところで言い訳にしかならない」

「私は…カズマさんの命の方が大切です…!」

 

残ったアンデッドと、突如現れたトライアルシリーズが手を組み世界を支配しようとする『剣の世界』。

 

「仮面ライダードライブ?何かお前を見てると……懐かしい気持ちになる」

「ボクは…スマートブレイン・ハイスクールを、壊す…!!」

「それでも、私は熱いお茶を美味しそうに飲んでるタッくんの顔が好きだな」

 

スマートブレイン・ハイスクールを中心に、憎悪と夢の青春ストーリーが展開される『ファイズの世界』。

 

「お前は、俺と同じ匂いがするな…天の道を行く者の、な」

「ははは。面白いな、君…でも買い被りさ。俺は、天の堂に座しているだけの…ただの『お兄ちゃん』だ」

「違う!妹や家族のために戦えるあのお人好しが、臆病なわけないっ!!」

 

「二体のカブト捕獲作戦」を実行するZECTから二人の漢が逃げる『カブトの世界』。

 

「まだだ…!ヒビキさんはまだ戦えた。僕だって…」

「焦りは心に隙を産む。少年、自分がどうして鬼になったのか立ち返ってみろ」

「わたしも…強く、なりたい……!!」

 

自分の力に焦りを抱き始めた…大人になりかかった少年に一人の鬼が修行をさせる『響鬼の世界』。

 

「裏切者はあんたじゃないのか?紅渡……」

「僕は、僕はただ…みんなの音楽を守りたかった…それだけだったんだ…!!」

「あんたがそんなんじゃ、本当に理解し合うのなんて夢の又夢よ」

 

原因不明で暴走したファンガイアが、人間と共存した同胞たちを襲う『キバの世界』。

 

「俺、参上っ!…て、何で俺たちのリマジはいねぇんだよっ!!」

「多分…存在が限りなく近かったから、一緒になったんじゃないかな?」

「ねぇ、時ってそんなに大事な物なの?」

 

いつもと変わらぬメンバーで時を駆ける『電王の世界』。

 

「不可能犯罪…お前、この事件に心当たりがあるのか?」

「任せてください!俺もあなたと同じ、アギトなんで!」

「お前の叔父は…戦うこと選んだぞ。どうするんだ、テツヤ?」

 

不可能犯罪の現場付近に必ず現れる「もう一人のアギト」の謎を暴く『アギトの世界』。

 

「やっぱり…この国の裁判は、何かがおかしい…!!」

「ライダー同士が戦うことも、それで罪が決まるのも、こんなの間違ってるっ!!」

「Wシンジくん。服脱いで」

 

ライダー裁判の始まりと闇…全ての謎が明かされる『龍騎の世界』。

 

「大丈夫!俺、クウガだし」

「もうあんたは戦わなくて良いんだよ!俺が、俺があんたの分まで戦うから…みんなの笑顔を守るから…!…だから見ていてください、俺の『変身』」

「ユウスケさんって、無職なんですか?」

 

全ての始まりとなった『クウガの世界』。

9つの世界を巡り、政宗の娘たちと仮面ライダーとの絆を繋ぐことで…『世界の破壊者』と、ドライブとゴーストの技術で製造された彼に付き従う怪人集団『魔進ナリーズ』の正体が明らかになる。

 

『仮面ライダーディケイド The After』

全てを破壊し、全てを繋げっ!!→連載未定っ!!

 

 

 

「お前、何者だ?」

「世界を旅した破壊者(仮面ライダー)だ。頭に刻んどけ」

 

仮面ライダーディケイド…9つの世界を巡り、二人の『ツカサ』はその瞳に何を見る…?

 

 

 

 

 

映像が終わった途端、ステージに照明がついて司会はもちろんゲストたちも止まっていた息を吐く。

 

「…て、わけで。アーサーとドラグーンが一段落したら連載する予定の、ディケイドThe Afterの予告でした」

 

感慨深いように戒は拍手をしながら、ゲストの飛鳥たちに感想を求める。

 

「これは、所謂過去編ですよね?」

「だとしても、予告のタイミングが悪すぎるだろ」

「政宗家について、色々読者がツッコンでいたが本当に明らかになるのか?」

「いつ連載するの?」

 

しかし、雪泉や焔は苦い顔をしており雅緋と飛鳥は思ったことを口々に話しておりあまり受けが良くないようだ。

終いには戒たちに質問をぶつけるようになり、宛ら記者会見で質問攻めされている関係者のように見える。

収集が付かなくなることを悟ったウェルシュは最後の挨拶を始める。

 

『では、今回はここまで!お相手はウェルシュと!』

「えと…幸村琴音と!」

「門矢戒と!」

 

戒がパスをするように、先頭にいた飛鳥に指を指すと彼女は条件反射で口を開いた。

 

「ゲストの飛鳥と!」

「焔と!」

「雪泉と」

「雅緋でお送りし…ました」

『ばいばーい!!』

 

そうして強制的にアーサーチャンネルを終わらせたのであった。

(※)予告は全てプロット段階の物です、もしかしたら設定が変わることがあるかもしれませんのでその時はご了承ください。




 次回から第二クールの始まりです。これに続いて新キャラも登場します。
 気長に待ってくださると嬉しいです、ではでは。ノシ


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NEXT COMBO
COMBO36 ネオ×新たな仮面ライダー


 お待たせしました、ここから第二クールのスタートとなります。同時に、タイトルにもあるように新たな仮面ライダーが…それでは、どうぞ。


『神宮博士』は白髪の混じった髪を掻きむしりながら額を冷たい研究机に押し付けていた。

どうすることも出来ない諦めと裏切者への憎悪が入り混じった複雑な感情を抱いている彼は何度も自分の額を机へとぶつける。

許せない…自分の発明を奪ったあの男を。

許さない…日本の未来のために発案した計画を我が物顔で朗々と語るテレビに映っているあの男を。

やがて、彼が憎悪と絶望に染まり始めた時だった。

 

『ナァーゴ♪』

「っ?」

 

誰もいないはずの研究室に猫の唸り声にも似た音が聞こえた神宮博士はゆっくりと声の方向を振り向いた。

そこにいたのは、「猫」と呼ぶには不恰好で…「道具」と呼ぶには些か無骨過ぎる一体のガジェットだった。

全体的に黒猫を彷彿させるような外観をしており、腹部にはデフォルメされたオーラを纏い武器を持った戦士の絵柄のあるカセットテープが見える。

見たこともない機械に戸惑う彼を横目に、机を軽快に上ったガジェットは赤い目を光らせると、驚くことに自分の声色で言葉を発した。

 

『…ピロピロ。お前、復讐したいか?』

「…はっ?」

『自分の研究を奪っておいて我が物顔でテレビに映る奴に復讐したいか?』

「な、何を言ってる?悪戯なら…」

『答えろ』

 

誰かの悪戯だと思った彼はガジェットから逃げるようにその場を後にするが、機械的な口調で問い詰める機械に思わず頷いてしまう。

その反応に喜んだガジェットは嬉しそうに鳴き声をあげると、次の言葉を発する。

 

『ピー、認証完了。ゲームを開始する』

「な、何を…」

 

自動的に手足を折り畳んだガジェット…『ネオエラーカセット』は神宮博士の右手に収まった彼は反射的に起動スイッチを押してしまった。

 

【EVOLUTION! LOADING…GAME START…】

 

低い電子音声が鳴り響いた瞬間、まともな人間としての神宮博士の意識はそこで終了した。

 

 

 

 

 

鈍痛と共に彼は意識を取り戻した。

まだ意識がはっきりとしていなかったが、周囲を見渡してここが何処なのか確認をする。

第一印象は洞穴…しかし、テレビやノートパソコンがあり鍋やまな板があることから誰か…少なくとも数人で暮らしているのは確定だろう。

そして彼はある結論を下す。

 

「ここは…地底人のアジトか…!」

 

そう一人ごちた彼は納得したように何度も頷く。

もし第三者がいれば「何を言ってるんだ」とツッコミが入るかもしれないが、この時点での彼は本気でそう思っているし至って大真面目なのだ。

彼は考える……一体地底人は何を目的として自分を助けたのか。

『奴』との戦闘で敗北をした自分はミラージュカセットの力で日本に来ることが出来た…結果として地底人に助けられたがその理由が分からない。

近くに干してあった自分のスーツを着用したと同時に、左目に眼帯を付けた長い黒髪の…何処となく猫を思わせるような少女が顔を見せた。

少女…『未来』は自分が助けた青年が起きたことに安堵し、声を掛ける。

 

「あっ、目が覚めたの。大丈夫?」

 

やや警戒しながらも、安否を確認するその言葉に彼は衝撃を受けた。

何のことはない…自分を助けたのに理由や利点などなかったのだ。

下心や野心もない純粋なその言葉に熱い物が込み上げてくるのを感じた青年は最大限の感謝の言葉を口にした。

 

「いや、問題は無い…ありがとう、地底人さん」

「いや、地底人って何っ!?」

 

結果的としてすぐに未来にツッコミを入れられたが……。

 

 

 

 

 

「なるほど…つまり君たちは地底人ではなく、色々な事情で地底人のような生活をしていると」

「うん。まぁ、そうなんだけど…その地底人発言はそろそろやめてくれない?」

 

意識が目覚め、目の前の幼女の説明を聞きながら彼は詠特製の野菜炒め(もやしのみ)を頬張りながら説明を聞く。

二人以外にも仲間たちが集まっており彼を興味深そうにみたり、警戒しているのに気付きながらも彼はマイペースに「御馳走様」と食事を終える。

 

「助けてくれた礼だ。俺の名前は『潮田空良』…好きな野菜はトマトだ」

「何で好きな野菜を言ったんですの?出せと、トマトを出せと?」

 

「もやしに人生を捧げている」と言っても過言ではない詠が青年…空良の自己紹介を聞いて立ち上がったのを春花と焔が抑える。

水を飲んでいる彼に未来は気になったことを尋ねる。

 

「ねぇ、どうしてあんなところにいたの?あんな傷だらけになって」

「む……実は海外でパンケーキを焼いたら失敗して…」

「そんなわけあるか!!あんた嘘が下手過ぎるだろ!!」

「な、なぜ分かったんだ!?」

 

八割の真実に二割の嘘を混ぜて相手を信じさせる手法を使った彼だったが案の定、未来に指摘されて動揺してしまう。

そのコント染みた光景に毒気を抜かれた他のメンバーたちは脱力したような態度となっており、そんな中で日影が無表情のままある物を掲げて尋ねる。

 

「…これあんたのか?」

「そうだ。えっと…パンケーキを作るために必要な…」

「しつこいっ!!…てか、何で事あるごとにパンケーキを言い訳に使うのっ!?」

 

メカニカルなデザインをした青と白のバックルのような物体を見た空良は動揺しながらも、はぐらかそうとするが結果的にボケとなってしまう。

未来にツッコミをされながらも、「ありがとう」と手渡されたバックルを受け取った空良は身支度を整える。

 

「お、おい。大丈夫なのか?」

「問題はない。こう見えても鍛えているからな」

 

焔の言葉に、そう返した彼はもう一度お礼の言葉を言うと洞穴から青空が見える外へと出る。

穏やかな風と何処までも見える空に少しだけ笑みを見せた彼は、彼女たちのアジトから離れたところで懐にあるミラージュカセットを取り出して確認する。

灰色のルーペと赤い矢印が交差しているデザインのカセットは見たところ、破損している様子はない。

「試しに」と空良はカセットのスイッチを押して起動する。

 

【SOCIAL!!】

 

電子音声が響いた途端、彼の近くに青を基調とした緑色の装飾があるバイクが出現する。

自身の愛機が召喚出来たことに安堵しながらも、マシンのあちこちを触って不備がないか確認をする。

異常がないことを確認した彼は附属していたヘルメットと手袋を装着した彼は、この地にいるはずの『彼』と合流するべくバイク『マシンユニバース』を走らせた。

 

 

 

 

 

その数時間後、多くの人が賑わう場所でorzしている空良の姿があった。

考えたら、彼はあの激闘の際に持っていたスマートフォンを壊したか紛失してしまったことで連絡が取れない状況だったのだ。

しかし、場所を調べてもらおうにも上手い言い訳が思い浮かない……「もはやここまでか」と地面に手を付いていた時…ある少女と出会った。

 

「何してるの?潮田さん」

 

そこには未来が呆れた様子で立っており、ついさっきぶりの再会に空良はすぐに立ち上がる。

 

「未来ちゃんか!君こそどうしたんだ?」

「どうしたって…バイトだけど」

「君みたいな小学生がか?」

「私は高校生だっ!!」

 

彼の言った禁句に、未来は大声を出すが小柄な見た目と相まって今一説得力がない。

文句を言っている彼女をスルーしながらも、空良は今後のことを考えていたが…。

 

「な、何すんだっ!!」

 

誰かと言い争うような聞こえた彼と未来は気になってしまい、その場を振り向く。

見れば、尻もちをついたスーツを着ている神経質そうな男性と白衣を着た初老の男性が立っており恐らく彼が突き飛ばしたのだろう。

睨みつけている男性に気にせず、初老の男性は不気味な笑みのまま口を開く。

 

「それはこっちのセリフだ。『中田』君、君は私の助手でありながら私の研究成果を持ち逃げした…あれは大事なんだ。返してくれないか?」

「神宮博士、あれはあなただけの成果じゃない。あの場にいた私も関係しているんですよ?それに、私は博士よりも華がある。研究一辺倒のあなたとは違うのですよ」

 

敬語を使ってこそいるが、見下した言動をする中田に対して潮田は深くため息を吐く。

「呆れて物が言えない」と言わんばかりの態度に流石の彼も怪訝な表情となる。

 

「それなら仕方がない。意地でも返してもらおうか」

 

神宮博士が両手を広げた途端、何処からか凄まじい速度で走る物体が現れる。

黒猫のようなデザインのネオエラーカセットを折り畳んだ彼は、スイッチを押して起動させた。

 

【EVOLUTION! LOADING…GAME START…】

 

瞬間、カセットは淡い緑色の魔力へと変化して全身を包み込んで融合を遂げた。

ゲームパッドのようなユニットとカメラレンズのようなモノアイに両肩の白いキャノン砲、機械仕掛けの黒いボディと左肩と腕には赤い巨大なアームがある。

ロボットのような異形『マシーン・エラー』の姿に、中田は腰を抜かしてしまう。

しかし、マシーンはぎこちない動きで彼に近づく。

 

『ピー…ピコピコピコ。システム起動』

 

機械的にそう告げた彼は、そのままアームで中田の身体を捻り潰そうとするが空良がそれを蹴り飛ばしてのけ反らせる。

 

「逃げろっ!」

「ひっ、ひいいいいいいいいいっっ!!?」

 

訳も分からぬまま、中田は情けない悲鳴と共に逃げ出したことに安堵したのか空良の力が僅かに抜けてしまう。

その隙を逃さなかったマシーンの強い力によって突き飛ばされてしまい、未来は慌てて駆け寄る。

 

「ちょっと!?何エラーに挑みかかってんのっ!!」

「ぐっ…んっ?何で君はあれのことを知っているんだ?」

「えっ?それは…」

 

彼女の発言を聞いて気になった彼が訪ねてきたことで、未来はどう話すべきか悩む。

だが、タイミングが良いというべきなのか赤い甲冑のバイク『ドライグハート』が割って入る。

同時に、飛鳥や焔…琴音も到着する。

 

「門矢っ!」

「未来、その人を頼む」

 

嬉しそうに名前を呼ぶ未来に対して、戒は人がいないのを確認した後、赤を基本カラーとした赤と緑のボタンと左側にスロットがあるバックル『アーサードライバー』を腰に軽く当てる。

シルクの生地が編み込まれた赤を基調としたベルトが伸びて腰に巻き付いたのを確認した彼は自身に宿った精霊の力を引き出すミラージュカセット『ドラゴンカセット』を取り出す。

 

【DRAGON!!】

 

具象化した精霊である炎と冷気を纏った赤いドラゴンが戒の周辺を浮遊する。

それに気にせず、彼はアーサードライバーのサイドグリップのトリガーを引いた。

 

「変身っ!!」

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

 

掛け声と同時に鳴り響く電子音声…中央のディスプレイにはドラゴンの赤いグラフィックが映る。

すると、彼の身体を赤い複眼を持った黒と紫のアンダースーツが纏わりつくと西洋の甲冑へと展開された『霊装』が覆い被さる。

装備した赤い軽鎧は荒々しい牙のような白いパーツが装飾されており、マスクの上部にはV字型のホーンが生えたドラゴンを彷彿させるバイザーが覆っている。

首元に出現した赤いマフラーが変身の余波で靡かせながら彼の変身は完了した。

 

「あれは…仮面ライダー…?そうなると、彼が?」

 

考えるように思考の海へと沈んでいく彼を気にせず、戒が変身した騎士はマシーンへと直線に向かう。

 

「オラッ!!」

 

「先制攻撃」と言わんばかりの跳び蹴りを浴びせるのは『仮面ライダーアーサー』……。

バトルゲームアプリの術式が施されたドラゴンカセットで自身に宿った精霊の力を引き出した彼の攻撃はマシーンに躱されてしまう。

しかし、着地をしたアーサーは態勢を整えると下段から上段へのキックを浴びせる。

 

『ピピピピッ!?強烈な一撃を確認、これより仮面ライダーの消去を開始する』

 

マシーンが機械的に告げた途端、黒いエラーカセットから戦闘員『ポーントルーパー』が現れる。

人海戦術で相手を追い詰めようとするが、戦えるのは仮面ライダーだけではない。

 

『はぁっ!!』

 

忍転身を遂げた飛鳥が両手に構えた小太刀二刀流による斬撃を行い、焔は六刀で巻き起こす炎と斬撃で薙ぎ払う。

琴音もハルバードを振るってポーントルーパーを蹴散らす中、未来と共に遠くに避難している空良は観察をする。

一方でマシーンとの戦闘を開始していたアーサーが戦闘の剣であるグレンバーンを振り下ろした時だった。

 

『警告、マシーンの破壊は不可能』

「っ?…がっ!?」

 

突如アーサーの腹部に鋭い衝撃が走ると吹き飛ばされてしまう。

ロケットパンチのようにアームを飛ばしたマシーンは両肩からエネルギー砲弾を躊躇なく放つ。

 

「ぐあああああああああああっっ!!!」

「カー君っ!」

 

強烈なダメージを受けたアーサーは変身解除こそされなかったが、グレンバーンを杖代わりにして立ち上がろうとする。

同時に、ある違和感も覚えた。

 

「こいつ…ただのエラーじゃない。寄生型にしては力が…!」

『回答不正解。コードネーム、マシーン・エラー。ネオエラーカセットで我々は肉体及び、精神を完全同化させた』

『ネオエラーカセットだと!?槇村の仕業か…』

 

聞き覚えのない単語にウェルシュとアーサーが動揺する中、マシーンがアームを放とうと左腕を突き出した時だった。

 

『っ!?』

 

突如感じた気配にマシーンは思わず振り向く。

そこには未来の制止を無視して歩く空良…手にはメカニカルなデザインをした青と白のバックルを持っており、その瞳は真っ直ぐにマシーンを見つめている。

 

「下がってろ」

 

アーサーを庇うように立った彼は短く言うと、左側には歯車型のダイヤルと中央に長方形を縦にしたディスプレイがある、操縦席やゲーム筐体を彷彿させるそれを軽く腰に当てると青いベルトが伸びる。

バックル『ギアルドライバー』が完全にセットしたのを確認した空良はミラージュカセットを取り出す。

 

【SOCIAL!!】

 

『ソーシャルカセット』のスイッチを押して起動した彼は、そのまま上部のスロットに装填する。

その際、「FLIGHT UP! Are You Ready? FLIGHT UP! Are You Ready?…♪」と軽快な待機音声が鳴り響く中、空良は短くはっきりと呟いた。

 

「変身」

【RIDE UP! SOCIAL! 検索しながらFLY HIGH!!】

 

ダイヤル『トランスギア』を右側に回して変身音声を鳴り響かせた途端、白いスーツが身体を覆う。

マシンユニバースが信号をキャッチしたマシンユニバースが霊装へと変形して宙を旋回すると、青を基調とした緑のメカニカルなプロテクターが胴体と両腕に装備された。

プロテクターにはブースターがあり、バイクハンドルは相手のデータを受信するアンテナへと変形する。

右側にルーペ型のパーツがある灰色に縁取られたゴーグル状のエメラルドカラーの複眼で対象を睨みつけた。

 

「俺は、『仮面ライダーギアル』。これより任務を開始する」

 

宣言したギアルは地を蹴ってマシーンとの距離を詰めると、渾身の力で相手を殴り飛ばした。

To be continued……。




 新たに登場した仮面ライダーギアル…どのような能力を秘めているのかは次回で。
 ではでは。ノシ


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COMBO37 ギアル×デッド&アライブ

 ギアルの初陣です。どのような活躍をするのかぜひご覧ください。
 それでは、どうぞ。


突然の事態とギアルの放った不意打ち気味の攻撃によってマシーンは吹き飛ばされてしまう。

自分たちの前に突如現れた謎の仮面ライダーに動揺するアーサーに気にせず、ギアルは彼の所まで近づくと脳天に鋭いチョップを入れる。

 

「痛った!?」

「まったく、君はまだ子どもだろう。いくら先生に選ばれたといっても無理をし過ぎだ」

「何を言って…大体あなたは誰…あだっ!?」

 

軽く腹パンをされて蹲るアーサーに気にせず、ギアルは説教をする。

仮面ライダーが仮面ライダーに説教されている様子を見て琴音や飛鳥たちは何とも言えない状態にいる。

無理やりバックルを取り外して変身を解除させたギアルは、文句を言おうとする戒の襟首を掴むとそのまま飛鳥たちの方へと投げ飛ばした。

慌てて飛鳥は戒をキャッチするが、その際胸に顔を埋めてしまったことで琴音に怒られていたが気にすることなくギアルは起き上がったマシーンと対峙する。

 

『ピコピコ。破壊を開始する』

 

マシーンは巨大なアームで彼を殴ろうとするが、ギアルはそれを躱すと厚くない装甲を殴り飛ばす。

怯んだ隙を逃さずに、彼は拳を主体とした戦闘スタイルで攻撃を叩き込んでいく。

彼が攻撃を狙う箇所はマシーンの死角、もしくは弱点となっているところでありそこを重点的に狙っているのだ。

 

「初めて戦う敵なのに、何で…?」

『ギアルの能力だ。戦っている間にエラーの弱点や死角を検索したのだろう、集中力の高い彼だからこそ出来る芸当だ』

 

新たな仮面ライダーの戦い方を見た戒は、戦闘の経験だけでは成し得ない戦い方に驚くがウェルシュは自慢げに戒を含む周囲の人間にギアルの能力を語る。

ギアルは二つの側面を引き出せる仮面ライダーであり、戦闘機をモチーフにした『フライヤーモード』の彼はソーシャルカセットの一部である検索アプリの能力を使っている。

本来なら別の物事を行いながら能力を引き出すことは不可能だが、彼自身の持つ優れた集中力によって必要な検索結果を受け取りながらスムーズに相手を追い詰めることが出来るのだ。

ウェルシュの解説を余所に、ストレートパンチでマシーンとの距離を無理やり広げたギアルは専用武器『ギアルショットガン』を召喚して構えると、銃口から散弾を放った。

 

『ビガガアアアアアアアアアアアアッッ!!?』

 

強力な銃撃を受けたマシーンは火花と共に煙をあげながら仰け反ったのを確認したギアルは、そのまま銃弾と格闘術を組み合わせて相手を追い詰める。

ギアルショットガンの銃身による一撃と同時に放たれた散弾によって大ダメージを受けたマシーンは左腕に装備した巨大なアームと両肩からキャノンを放射する。

迫りくる攻撃に焦ることなく、ギアルはトランスギアを定位置に戻すと今度は左側に回す。

 

【RIDE UP! SOCIAL! タンクを動かせLet's NAVIGATION!!】

 

先ほどとは異なる電子音声が鳴り響くと、アンテナが外れた代わりにマシンユニバースのタイヤが両脚に接続されると、左側にナビゲーション先のマークを模した赤いパーツが装備される。

『フライヤーモード』から戦車とナビゲーションアプリの『タンクモード』へと切り替えたギアルは両脚のタイヤを高速回転させると、凄まじい勢いを込めたタックルを浴びせる。

悲鳴と共に地面を転がる結果となったマシーンを横目にギアルはショットガンをポンプアクションでスナイプモードに変形させる。

スコープを覗きながら、照準を合わせた彼はそのまま引き金を引く。

同時に赤い矢印がマシーンの頭部に浮かび上がり、放たれた狙撃弾は不規則な軌道を描き…。

 

『ギギギギギギギギギギイイイイイッ!!!』

 

最短の道を進みながら目的地(マシーンの顔面)へと正確に命中した。

煙をあげるマシーンを横目に、ギアルはトランスギアを回してフライヤーモードへと戻ると定位置に戻した後、再度右側に回す。

 

【CRITICAL ARTS! FINAL WEAPON! SOCIAL!!】

 

必殺技を告げる電子音声を鳴り響かせたギアルはブースターの推進力でそのまま大空を飛ぶと、勢いよく両足を突き出した急降下キック『ギアルインパクト』を繰り出した。

 

「はああああああああああああっっ!!」

『ビガガガッ!?中枢部の損傷を確認…戦闘、終了』

 

そのままゆっくりと着地したギアルの背後では、マシーン・エラーが巨大な爆発を起こした。

凄まじい力の仮面ライダーに戒たちが呆然とする中、爆発地には破壊されたネオエラーカセットと神宮博士がいる……はずだった。

 

『酷いなぁ。まだまだ彼には頑張ってもらう予定だったのに』

 

そこに現れたのは皹割れた赤いモノアイがある白い右半身と黒い左半身が特徴の異形『デッド・エラー』と、水色のモノアイがある白い右半身と錆びた金色となっている左半身が特徴の『アライブ・エラー』…。

気を失っている神宮博士とネオエラーカセットの残骸を見ながら、深いため息を吐く。

幹部エラーの登場に戒はアーサードライバーを構えるのに対して、ギアルは身体を震わせていた。

それは恐怖などではなく、怒りによる体の震えだった。

 

「吉良あああああああああああああああああああっっ!!!」

 

怨敵を見つけたギアルは、雄叫びと共に「吉良」呼ばれた男性…デッドへと飛び掛かる。

しかし、それを守るようにアライブが盾を持った腕で殴り飛ばす。

地面を転がりながらも、起き上がったギアルはトランスギアを左に回してタンクモードへと姿を変えるとスナイプモードに移行させたギアルショットガンを乱射する。

狙撃弾はデッドとアライブに当たることなく、地面や建造物を破壊してしまうが気にせずギアルは攻撃を続ける。

 

「っ!忍結界っ!!」

 

このままでは被害が悪くなることを考えた飛鳥は忍結界を張って、最小限に留めることに成功するがギアルはタンクモードの重厚なプロテクターを活かしたタックルを繰り出す。

しかし、デッドは相手の痛覚を倍増させる黒い剣で彼を斬り払うと傷痕を抑えてのた打ち回る。

 

『まったく、君もしつこいねぇ…そんなだから、お兄さんたちに敗北するんだよ。ボロ雑巾みたいにねぇ』

「貴様あああああああああああああああああっっ!!!」

【RIDE UP! SOCIAL! 検索しながらFLY HIGH!!】

 

フライヤーモードへと切り替わったギアルが衝動のままに、再び二体のエラーに飛び掛かろうとするが、それを抑えた人物がいた。

 

「ちょっと!落ち着いてくださいっ!!」

「どけっ!!こいつは、こいつだけはぁっ!!」

 

尚も暴れるギアルを戒が必死に抑えようとするが、頭に血が上っている彼はデッドたちを見たまま暴れるのをやめない。

琴音や飛鳥たちはどうするべきか悩むが、やがて戒はギアルの仮面を殴った後にギアルドライバーを無理やり外すと思い切り殴った。

 

「がふっ!?」

 

魔力を込められていたのか、勢いのあるその拳に吹き飛ばされた空良は戒を呆然と見る。

そして、周囲を見渡した彼は破壊された設備を見て絶句するが戒は口を開く。

 

「大丈夫ですよ、結界が張ってありますから…でも、放っておいたらあなたは街を破壊していた」

「……」

 

その言葉に、空良は顔を俯けてしまう…自分の力は誰かを守るためだったのに、激情に任せて破壊をしてしまった。

悔しそうに唇を噛む彼に戒はギアルドライバーを差し出す。

 

「俺は、門矢戒……あなたは?」

「…潮田空良だ」

 

互いに、短く名乗った二人は襲い掛かろうとゆっくり近づくデッドとアライブを見据えるとドライバーを腰に巻きつける。

そして戒はドラゴンカセットを、空良はソーシャルカセットを起動した。

 

【DRAGON!!】

【SOCIAL!!】

「「変身っ!!」」

【RIDE UP! DRAGON! 牙の連撃!RED KNIGHT!!】

【RIDE UP! SOCIAL! 検索しながらFLY HIGH!!】

 

異なる電子音声が鳴り響く中、二人は仮面ライダーアーサーと仮面ライダーギアルに変身を完了すると二体のエラーに投げ掛ける。

 

「お前たちの物語、ここで終わらせる!」

「これより任務を開始する!!」

 

力強く宣言したアーサーはアライブを蹴り飛ばすと、ギアルはデッドにギアルショットガンを叩きつける。

攻撃を受けたアライブは「くそがっ」と口汚く罵ってエネルギー弾をばら撒くが、それを回避する。

脚力強化を施してから跳躍したアーサーはグレンバーンをアライブの脳天に突き刺してから着地し、蹴り飛ばす。

 

『痛ってぇなっ!!こんな傷…』

「再生するよな、でもどっちの傷を再生させる?」

『あっ?』

 

アライブが聞き返すのを遮るように、アーサーは熱操作で冷気を纏ってからキックを浴びせると今度は炎の膝蹴りを仕掛ける。

すると、アライブの傷は再生することなく着実にダメージを重ねていく。

 

『な、何だぁっ!?き、傷の治りが…!!』

「オラッ!!」

 

跳び蹴りが直撃したアライブは地面を転がる。

アライブ・エラーは生を求める欲望によって姿を得たエラーであり、攻撃を受ければ即座に再生する能力を持っている。

しかし別の個所に傷を負った場合…『最初の傷を優先して再生するデメリット』が存在しており、グレンバーンが突き刺さっている状態では再生能力が打ち消されているのだ。

引き抜こうにもアーサーの連続攻撃に邪魔され、盾に宿した死に対する恐怖心を倍増させて動きを鈍くさせようにも器用に躱す彼には不可能だった。

 

「まだまだ行くぜっ!」

『くそ……たれがあああああああっっ!!』

 

 

 

 

 

デッドは一度勝利したはずの相手に追い詰められていた。

黒い剣を振るって攻撃を浴びせようとするが、ギアルは武器であるギアルショットガンでそれを受け流し、銃弾を叩き込む。

自身の不死性が鈍くなっていることに対して、彼は今まで出したこともない焦りの言葉を口にする。

 

『なぜだ、なぜお兄さんの能力が…』

「検索済みだ。お前の能力は自分の死への渇望がモチーフになっている、だったら死なない程度に追い詰めてやれば良い」

 

「前回の時は考えていなかったがな」と自嘲する彼に対して、デッドは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

『そんな屁理屈で…』

「だが現にお前は追い詰められているっ!!俺の考えが当たっている証拠だっ!」

 

無茶苦茶な意見を語る彼に対してデッドは苦言を呈すが、自分の意見を押し通すように強く断言したギアルは腹部に強烈なパンチを打ち込む。

威力は加減してこそいるが傷と痛みすらも再生するアライブと違い、デッドはダメージが蓄積するようになっている。

 

【RIDE UP! SOCIAL! タンクを動かせLet's NAVIGATION!!】

「ふんっ!!」

『うおっ!?』

 

タンクモードへと切り替えたギアルはデッドの腕を掴み、振り回してから投げ飛ばす。

同時にアーサーが蹴り飛ばしたアライブが倒れているデッドの方へ転がる。

 

「決めるぞ、門矢君」

「ああっ!!」

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! DRAGON!!】

【CRITICAL ARTS! FINAL WEAPON! SOCIAL!!】

 

顔を合わせた二人は互いに必殺技のシークエンスを終えると、アーサーは助走つけてから跳躍し、ギアルは両足のタイヤを高速回転させると脚をデッドとアライブに突き出した。

 

「「はああああああああああああああああああああああっっ!!!」」

『『ぐっ、そんな…ああああああああああああああああっっ!!!』』

 

ドラゴンストライクとギアルインパクト(タンクVer)を別方向から同時に受けたデッド・エラーとアライブ・エラーは爆散する。

そこから、人間態である白いスカーフを巻いた黒いスーツと黒頭巾の男性と、左手には四つの眼を持った白いパペット人形が倒れる。

エラーブレスは破損してこそいたがエラーカセット自体は無傷であり、表情こそ分からなかったが楽しそうに笑っている。

パペットの方は死の恐怖に直面したのか絶望に染まった声色でうわ言のように呟いている。

 

「くはははは…!どうやら、お兄さんの目に狂いはなかったねぇ」

『死にたくない、死にたくねぇよ……!!』

「何を言って…っ!?」

 

何かに気づいたギアルがバックステップをすると、銃弾が地面に着弾して煙をあげる。

そこに現れたのはドラグハンター…しかし、その姿はダークヒーローのように洗練された緑のスーツに覆われており、配線のような赤いラインが縦横無尽は知っており、胸部とバイザーにはドラゴンの意匠がある。

 

『迎えに来たぞ。デッド、アライブ』

『…っ!槇村…!!』

 

聞き覚えのある声に、ウェルシュは声を漏らす。

姿の違うドラグハンターにアーサーたちが警戒する中で、気にせず彼はデッドに肩を貸しながら口を開く。

 

『仮面ライダー、よくもレッドゾーンを…と言いたいところだが、生憎と俺には俺の使命がある。邪魔をするならその分お前を叩きのめしてやる』

『待て、槇村っ!その姿は何だっ!?一体何を…』

『アルトリウス、俺はエラーの生みの親だ……作り直したんだよ。エラーの力を引き出すデバイスをな』

 

ウェルシュの問いに、答えたドラグハンターはテープレコーダーと拳銃を組み合わせた変身奏銃『チェンジレコーダーガン』を構える。

 

『また会おう。仮面ライダー』

 

それだけを言い捨てた彼『ドラグハンター・エラー 改造態』は、銃口から高密度の魔力弾を乱射して煙を発生させてその場からデッドと共に姿を消した。

 

 

 

 

 

『……というわけだ。彼は潮田空良、私の教え子の一人で海外にいたエラーの殲滅も担当していた青年だ』

「他にもいたってわけか」

「よろしく」

 

翌日、門矢家ではウェルシュが終えた説明に対して戒が納得したように頷いている中、空良はマイペースに琴音に握手を求める。

彼女がそれに応じながらも、戒は一緒に戦う仮面ライダーが増えたことに内心喜んでいたがウェルシュはあることに尋ねる。

 

『空良。あの時、デッドたちに対して君らしくない反応をしていたが…何かあったのかい?』

「…それはっ」

『いや良い。今の少し無神経だった、時期が来たら話してくれ』

「…ありがとうございます、先生」

 

何も言わずにいた恩師に対して、お辞儀をする中で空良は戒に対して振り向く。

 

「これからはよろしく頼むぞ、後輩」

「こちらこそ、先輩♪」

 

改めて、二人は固い握手を交わしたのであった。

 

 

 

 

 

そのころ、ドラグハンターたちが使用しているアジトではある出来事が起こっていた。

リーダーのドラグハンターと救済の審判を務めるミケネ、ユグドラシル少なくなったメンバーに寂しさを感じながらも、デッド&アライブはある物を渡される。

ある物…チェンジレコーダーガンを受け取った彼はまじまじと興味深そうに見つめており、手渡した本人であるドラグハンターはユグドラシルに尋ねる。

 

「良かったのか、ユグドラシル?お前の分も作ったのだが…」

「構わないわ。私にとってこの力は子どもたちを救うためのものだから」

『ニャッハッハッハ』

 

彼女の言葉に納得したように笑っている間に、デッドは自身の本体であるエラーカセットを起動させる。

 

【DEAD・ALIVE!!】

 

そして、紫色のボディに赤と緑の配線が散りばめられたチェンジレコーダーガンにセットすると待機音声が鳴り響く。

 

「『憑鎧』」

 

短く呟いた彼は銃口を己の頭部に向けて引き金を引いた途端、異なる電子音声が鳴り響く。

 

【HEARLING UP! DEAD&ALIVE! BREAK YOUR BODY!!】

 

新たな姿へと変えた彼を見て、ドラグハンターとミケネは不気味な笑みを零すのであった。

To be continued……。




 デッド&アライブエラーと因縁のあるギアルこと空良は検索アプリとナビゲーションアプリの二つの力を切り替えて戦う仮面ライダーです。
 変身する際には専用バイクのマシンユニバースがプロテクターとなって装着することになります。
 ついでに色々なフラグをたてましたが多分何とかなると思います。
 ではでは。ノシ

マシーン・エラー ICV中村浩太郎
神宮博士がネオエラーカセットによって融合した姿。名前の通り、機械仕掛けのようなボディを基本に、左腕の赤いアーマーとアームと両肩のキャノン砲が装備されている。
左腕のアームを使った格闘戦を得意としており、アームを射出して遠くの敵を攻撃する能力を有している。またキャノンによる砲撃も得意とする。


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COMBO38 改造態×船

 大変お待たせしました、ギアルが主役の回です。
 まだどういったキャラなのか分かっていない人もいると思うので、その掘り下げみたいなものです。
 それでは、どうぞ。


某所……夜中の道端では、アタッシュケースを両手にスーツを着た男性が息を切らしながらも逃げ惑っていた。

ある存在から満足に動かない両脚で必死に走るが、とうとう彼は壁に追い詰められる。

彼を追い詰めているのは、上等な白い基本カラーに黒いパイプやら木製の面舵が剥き出しになった豪華客船をモチーフにした怪人『シップ・エラー』だ。

負の感情や絶望を秘めた人間が「ネオエラーカセット」と呼ばれるデバイスによって具現化させた魔力で融合変身したエラーは女神の像がある船頭を模したモノアイで男性を品定めするように見ていたが。

 

『消えろぉっ!!』

 

怒りを露にするようにシップが一歩踏み出した時だった。

……その時、壁を乗り越えてやってきた赤い仮面の騎士がシップを蹴り飛ばす。

不意打ちを受けたエラーは地面に転がり、蹴られた箇所を抑える。

 

『ぐっ、うう……?』

「そこまでだ、連続襲撃犯」

 

そう言いながら仮面の騎士…基本フォームのドラゴンリンクである仮面ライダーアーサーは男性の前に立つとそのままシップに向かって走り出す。

鞘に納めたグレンバーンによる抜刀術で追い詰めようとするが、負けじとシップを面舵を模したチャクラムで防御する。

 

『このっ、邪魔をするなっ!!』

『船長の邪魔をするんなら、ここで追放させてもらおうかぁっ!!』

 

ゲームコントローラーのような胸部ユニットを発行させながら、異なる二つの声で激昂したシップはチャクラムを捨てると片手剣サイズのアンカーを取り出して振り下ろすが、アーサーは納めたグレンバーンの鞘でそれを防ぐ。

 

『なっ…!?』

「遅いっ!!」

 

そのままシップを前蹴りで吹き飛ばすと、そのまま続けて回し蹴りで追撃する。

近くの公園にある滑り台の辺りまで追い込まれたシップは、自身の欲望や潜在能力から生み出された能力を発動する。

 

『出航準備!面舵一杯っ!!』

『アイアイサーッ!!』

「はっ?」

 

その言動にアーサーは小首を傾げるが、その間にもシップは身体に魔力を纏わせて『変形』させていく。

まるで某トランスフォーマーのように身体を変形させていくと、そこに現れたのは一回り小さい豪華客船……至る箇所から汽笛を鳴らしたシップはアーサー目掛けて突進を仕掛ける。

 

「危ねっ!?」

 

横に跳んでどうにか躱すが、船の形態へと変形したシップはすぐに方向転換をすると汽笛を鳴らして先ほどと変わらぬ勢いで迫ってきた。

 

「ぐあっ!!」

 

魔力によるエネルギー弾を少し被弾したことで怯んだアーサーにシップが激突する。

凄まじい衝撃とダメージを受けた彼は苦しげな悲鳴と共に公園にあった噴水へと叩きつけられる。

びしょ濡れになりながらも、慌てて立ち上がってシップがいた場所を見るが姿は見えない。

逃走を許してしまったことに「くそっ」と毒づきながらも、アーサーはドラゴンカセットを抜き取ってから変身を解除する。

 

『大丈夫か、戒?』

「何とかな…」

 

ウェルシュに声を掛けられた戒は適当に返事をしながらも、噴水から出ると予め呼んでいたドライグハートへと足を進める。

 

『戒、せめて身体を乾かしてからの方が』

「そんな時間ないって」

 

「面倒だし」と彼はヘルメットを被ってそのまま帰路へと自身の愛車を走らせるのであった。

 

 

 

 

 

「昨日で三件目、か……」

 

翌日、軍服のような黒い警官服を纏った女性…美海に渡された書類に目を走らせる。

それを歩きながら青年…潮田空良は考える仕草と共にここ最近になって世間を騒がせている襲撃事件について頭を回転させる。

狙われた者たちには悪質な当たり屋という共通点こそあるが、彼らを恨んでいる人間が多すぎるため容疑者の絞り込みに苦労している状態なのだ。

そこで空良と共にいた二人の女性が口を開く。

 

「しかし、ここまで恨みを買っている人間がいるとはな……」

「逆に尊敬するね、どんな人生を送ってきたんだか…」

 

呆れたように話すのはイケメン系女子の雅緋とオデコがチャームポイントのメガネ系女子忌夢。

今回の捜査に協力するように頼まれたため、こうして空良と行動を共にしているのだ。

 

「だが、エラーの姿は既に確認されている。門矢君と先生が最後の力を振り絞って遺してくれた証拠だ」

「別に死んでいないけどね」

 

悔しそうに、何処か誇らしげに取り出した写真を握り締める彼に対して忌夢は細目でツッコミを入れる。

ちなみに戒は昨日の戦闘で水浸しになったまま帰宅したため、風邪を引いてしまったのだ。

こうして行動不能になった彼の代わりに空良が、今まで集めた手掛かりから雅緋たちと共に今回の連続襲撃事件を調査しているのである。

 

「エラーは融合者の欲望や願望を魔力で象る」

「つまり、エラーの姿=その人間の特徴が表れているということか」

 

空良の言葉に「なるほど」と雅緋は納得したように続ける。

確かに今までのエラーはエラーカセットと融合した人間の感情がそのまま能力となっていた。

そうなるとシップの正体にも自ずと目星が付く。

 

「この中でそれに該当するのは、『こいつ』しか……っ!」

 

戒が今まで集めた手掛かりと自分たちが集めた情報から今回の事件の犯人であるエラーの正体に勘付き始めた途端、全身から湧き上がる嫌悪感と今の現代日本に相応しくない銃声に思わず振り向く。

そこにいたのは黒いスーツと黒頭巾で全身を隠し、首元に白いスカーフを巻いた男性で左手には四つの眼を持った白いパペット人形をはめている。

 

「お前かっ、吉良…!!」

『こっちとしても、てめぇらと会いたくなかったけどな。シップの邪魔はさせねぇ』

 

そこには紫色のボディに赤と緑の配線が散りばめられた拳銃型デバイス『チェンジレコーダーガン』を構えたデッドの人間態がおり、パペットのアライブが減らず口を叩く。

空良の射殺すような視線に気にすることなく、デッドは肩を竦める。

 

「せっかくだ。お色直しをしたお兄さんたちの姿を見せてあげるよぉ」

【DEAD&ALIVE!!】

 

心底楽しそうにデッドはパペットを装着した手で、自身のコアでもあるエラーカセットを器用に起動するとチェンジレコーダーガンの銃身に設けられた斜めのスロット装填すると、待機音声が鳴り響く。

 

「『憑鎧』」

【HEARLING UP! DEAD&ALIVE! BREAK YOUR BODY!!】

 

短く呟いた彼は銃口を己の頭部に向けて引き金を引いた途端、エレキギターの音声と共に不気味な電子音声が鳴り響く。

すると赤と緑のノイズに包まれると、その姿を変えていく。

そうして姿を見せたのは今までの姿とは違うデッド&アライブの怪人態……。

生物のような鈍い金色のスーツの上にはゾンビのような骸骨を思わせる装甲が覆い被さっている。

見たことのない姿にギアルは警戒を抱くが、一方の彼は気にすることなくレコーダーガンを回す。

 

『さて……前回のリベンジマッチをさせてもらおうかなぁっ!!』

 

赤く罅割れたモノアイを光らせた瞬間、『デッドアライブ・エラー 改造態』はチェンジレコーダーガンの銃口から禍々しい紫色の弾丸を数発発射する。

 

「くっ!変身!」

【RIDE UP! SOCIAL! 検索しながらFLY HIGH!!】

 

横転して弾丸を回避した彼は、その際に腹部へと巻きつけたギアルドライバーに起動したソーシャルカセットを装填してトランスギアを回す。

ギアルへと変身し、激しい銃撃戦を開始する。

 

『だったら、これでどうだよっ!!』

 

アライブがそう叫ぶや否や、雅緋や忌夢たちに向けてエネルギー弾をばら撒く。

 

「こんなものっ!!」

 

雅緋は迫りくる弾丸を全て弾くが、その間にもデッドアライブが突進する。

そのまま左腕で殴り飛ばそうとするのを瞬時に割り込んだ忌夢が棍棒で防ぐ。

 

「ぐぅっ!?」

 

しかし、その威力は強大で鍔迫り合いと共に後ずさりすると、彼女の身体は吹き飛ばされてしまう。

「忌夢っ」とギアルが叫ぶ間もなく、デッドアライブはチェンジレコーダーガンから魔力弾を放つ。

追撃を続けようとトリガーを引くよりも早くギアルの放ったギアルショットガンによる攻撃が命中する。

 

『やってくれるねぇ』

「ふっ!」

 

すぐに距離を詰めたギアルは蹴りを放つが、同時にデッドアライブの放った蹴りと激突する。

そのまま続けざまに二発・三発とキックの応酬が続く。

時には互いの武器から魔力による弾丸を放ちながらも、身体を逸らして躱して距離を取る。

 

『……ちっ』

 

これ以上は分が悪いと判断したアライブの舌打ちと共にその場で回転して周囲に弾幕をばら撒く。

銃弾による煙に視界を覆われたギアルはすぐさまギアルショットガンを構えるが煙が晴れたころにはデッドアライブの姿はなく、仮面ライダーと二人の忍だけであった。

To be continued……。




 今回の怪人…シップ・エラーはエルミンさんからいただきました!エルミンさん、誠にありがとうございます!お待たせして本当に申し訳ありません!!(涙)


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COMBO39 チェイス×巨大船

 短くなってしまいましたが、ギアルのメイン編の後半です。
 それでは、どうぞ。


デッドアライブの襲撃後、場所を移した三人はシップの動向について考えていた。

アライブが「邪魔はさせない」と言っていたことからも恐らく、融合者の正体が確定だろう。

そして……。

 

「ふーっ、ふーっ!ゲホッ、ゲッホ!!」

「ごめん、門矢君。いや本当にごめん」

 

風邪を引きながらも自分の推理を手帳でまとめた戒のおかげで完全にシップ・エラーの動機や正体も明らかになった。

ちなみに門矢家に来た時点で咳と高熱と戦いながらも手帳に全てをまとめていたため、忌夢が本気で申し訳ない目をしていたのは余談である。

閑話休題……部屋へと戻った戒やそれの看病しようとして親バカを発揮する美緒を止める琴音の様子を無視して、空良は一呼吸おいて話を始める。

 

「エラーの目的は分かった。絶対に止めるぞ、二人とも」

 

その言葉に、忌夢と雅緋も頷くのであった。

 

 

 

 

 

闇に染まりつつあるアパートの一室で、青年『浦波吹雪』は一枚のポスターに心を奪われていた。

 

「ああ……何て美しいんだっ、あいつらは本当にバカな奴らだ」

『くかかか……』

 

恍惚とした表情で豪華客船のポスターに頬ずりをする様子は明らかに常軌を逸しており、身も心も完全にエラーを起こしている。

その様子を楽しそうに見ているのはエラーの人格がインストールされているネオエラーカセット……自信のコレクションを売却されそうになった彼は衝動的にメンバーの一人を手に掛けてしまい、その後はデッド&アライブに渡されたエラーカセットで残りのメンバーを口封じに襲撃していたのだ。

 

「お楽しみのところ失礼するよぉ」

 

そんな彼に呼び掛けたのは彼に力を与えた張本人であるデッド。

楽しげな様子の彼に浦波は慌てて振り向いて頭を下げるが、気にすることなくデッドはゴルフボールサイズの青い透明な物体を二つほど放り投げる。

 

「うわっ!?これは、宝石……?」

『そうは言わねぇ。そいつは水属性のマナを結晶化させた物さ』

 

その言葉をアライブが否定してから訂正する。

聞けばシップは水辺の戦闘では全ての能力にブーストを掛けることが可能となることが観測者であるミケネの報告で分かっており、マナの結晶を制作したのである。

 

「それは君の能力を上昇させるのに最適でねぇ、戦闘に入ったら試しにそれを噛み砕くと良い』

 

「効果は保障する」と、それだけを言ってからデッド&アライブはその場から姿を消した。

しばらくは結晶を見つめていたが、やがて意を決した浦波はネオエラーカセットを掴んでボタンを押す。

 

【EVOLUTION! LOADING…GAME START…】

 

白を基調とした豪華客船をモチーフにした怪人『シップ・エラー』へと融合するとすぐさま青い結晶を口に放り込んで噛み砕く。

瞬間、水属性のマナがエラーの身体に流れ込み、力が湧き上がってくるのが分かる。

 

『出発、進行……!!』

 

心底楽しそうに、自身の願望を満たすためにシップは勢いよく外へと飛び出した。

 

 

 

 

 

「見つけたぞ!大人しくするんだっ!!」

 

車の間を掻い潜りながらカーブを強引に曲がって巨大な船へと変貌したシップを空良は追跡する。

しかし、船の中からポーントルーパーが放出されると彼目掛けて襲い掛かるが、それを阻止したのは雅緋と忌夢の二人。

空良がシップのコースを検索し、目当てのポイントに彼女たちが待機していたのだ。

邪魔者がいなくなった空良がスピードを上げる中、とてつもないスピードで首都高を我が物顔で泳ぐそれは周囲の車に気にすることなく、恍惚とした声色で侵攻を開始する。

 

『僕が船…世界一の船は僕自身なんだあああああああああああっっ!!!!』

 

完全に発狂しているシップはデッドアライブから与えられた水属性のマナの塊を噛み砕き、船頭にあるモノアイを光らせながら能力をブーストさせる。

交渉の余地がないことを理解した空良は器用にギアルドライバーを腰にセットする。

 

【SOCIAL!!】

「変身!」

 

真横にマシンユニヴァースを並ぶように走行しながら、空良が腹部に巻いていたギアルドライバーのダイヤルを回して変身する。

 

【RIDE UP! SOCIAL! タンクを動かせLet's NAVIGATION!!】

 

トランスギアを回転させてタンクモードのギアルに変身すると、両脚のキャタピラに魔力を総動員させて火花を散らしながら追跡を再び始める。

元々彼のプロテクターがスーパーマシンだったのもあってか限界を超えた速度を更に加速させて距離を詰めたギアルは、シップの巨体を狙撃する。

 

『船旅をプレゼントしてあげるよ。死後の世界への船旅だけどねぇっ!!』

 

執拗な追跡を続ける彼に業を煮やしたのか、エラーの人格でそう叫んだシップは砲塔を出現させるとそのまま強烈な砲撃を開始する。

しかし、ギアルは冷静にその攻撃を躱して更に近づくとタンクモードによる強烈なタックルを叩き込む。

傷こそつかなかったが、怒りを覚えたシップはそのままゆっくりと宙へと上がっていく。

 

「飛んだっ!?」

『撃てーーーーーーーーーっっ!!!』

 

驚くギアルだったが、海面を進むように空を飛んだシップはそのまま下にいる標的に向けて砲撃を再開する。

慌ててキャタピラの稼働させて攻撃を躱すが最後に放った一撃が命中し、黒々とした煙が上がる。

 

『はは……っっ!!?』

【RIDE UP! SOCIAL! 検索しながらFLY HIGH!!】

 

煙の向こうから見えるシルエットにシップの笑い声が止まる。

ギアルのボディは飛行に特化した形態……フライヤーモードへと切り替わっており、ブースターを駆使してシップと並ぶ。

 

『人が飛ぶなんてどういうことだっ!?』

「君が人に言えたことかっ!!」

 

そんなやり取りをしながらも、戦いは空中戦へと突入する。

シップを追い、空へと舞い上がったギアルは検索能力を駆使して巨大な船その物となっているエラーの弱点を検索する。

弾幕のように発射する砲撃を不規則な高速飛行で躱しながらも、ついにシップの弱点……融合者の欲望によって完全に再現された船の機関部を発見する。

そして、ギアルショットガンを乱射して注意を惹きつけたギアルは空高くへと上昇して必殺技を発動。

 

【CRITICAL ARTS! FINAL WEAPON! SOCIAL!!】

 

電子音声が響いた瞬間、空中を飛んでいたギアルはジェット噴射を利用した急高速の落下によるライダーキックの構えを取る。

その際ギアル自身に青と緑の魔力が収束されると、ギアルインパクトをシップの弱点目掛けて叩き込んだ。

 

 

「はあああああああああああああっ!!」

『ぐおああああああああああああああああああっっ!!!』

 

高密度の魔力を纏った強烈な一撃と共に爆炎が立ち上がるとシップ・エラーは元の人間に戻り、壊れたエラーカセットが転がった。

 

 

 

 

 

事件が終わり、犯人の浦波が逮捕されたその日、空良は喫茶店でコーヒーを飲んで待ち合わせをしていた。

腕時計で時間を確認していると、目的の二人が現れる。

 

「やぁ、待っていたよ。二人とも」

「良い心がけだな。潮田」

 

そう言って笑みを見せるのは雅緋と忌夢。

実は今回の仕事を手伝ってくれたお礼として空良がケーキが美味しいことで有名な店を奢ることにしたのだ。

 

「それじゃあ、ボクたちの初仕事終了に」

「「「乾杯」」」

 

そうして三人に新たな絆が生まれたのであった。

 

「ケーキとコーヒーで乾杯ってどうなのだろう?」

「せっかく雰囲気作りしたのにっ!?」

 

空良の何気ない一言に忌夢がショックを受けていたのは言うまでもない。

To be continued……。




 今回の怪人…シップ・エラーはエルミンさんからいただきました!エルミンさん、誠にありがとうございます!モチーフが豪華客船だったので白をイメージしてみました。

シップ・エラー
エルミンさんから頂いたオリジナルエラー。モチーフは『豪華客船』
船をこよなく愛する青年…浦波吹雪が復讐心とブレーキの壊れた船への愛情から融合変身した姿。上等な白い基本カラーに黒いパイプやら木製の面舵が剥き出しになった豪華客船のような姿をしており、モノアイは女神の像がある船頭を模したとなっている。
自分自身を豪華客船に酷似した船の形にして相手に突進する等、自分の体を利用した戦いを得意とする。水のある場所で戦うと、元々の能力をブーストさせることが出来る。


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COMBO40 遊戯×救済

 待っていた方がいらっしゃるか分かりませんが、お久しぶりです。そして何か月も待たせてしまって大変申し訳ありませんでした(土下座)
 今回は待って頂いた皆様には消化不良な展開になっていると思います(汗)。それでも良ければどうぞ・


「忍結界」

 

一言……第三者を介入させないための結界を雲雀が展開する。

彼女の近くにいるのは戒と空良の二人……そんな彼らと対峙するのは三体のエラー。

メタリックな鋼のボディにワニの牙を彷彿とさせる頭部、胴体には背中や肩に鉄骨や鉄板などが突き出している不気味な外観をした『スティール・エラー』。

クラゲのような白く透明なボディ、左腕はシャチで右腕にはシャワーのような装飾が設置されている女性型エラー『シャワー・エラー』。

そして、紺色のユニフォームにサッカーボールのような白黒のボディが特徴の『プレイ・エラー』。

一見すると関連性のないモチーフのエラーたちだが、彼らにははっきりとした『繋がり』が存在しているのだ。

今から三人は、この三体は撃破しなければならない。

それが使命だからだ。

 

「……君たちはあの子との約束を果たしてあげるんだ。変身」

 

プレイの相手を雲雀と戒に任せ、空良はギアルに変身すると地面を蹴ってスティールとシャワーの二体へと迷うことなく直進する。

彼の気持ちを受け取った二人は、先ほどから動くことなくこちらを見つめているプレイと正面から対峙する。

 

『……来てくれたんだ。お兄ちゃん、お姉ちゃん』

「うん。タクヤ君も待っててくれたんだね」

 

雲雀の優しい声に、まだ声変わりのしていない声で「うん」と頷く。

戒は意を決したようにアーサードライバーをセットし、シノビカセットを起動する。

 

【SHINOVI!!】

「約束通り、一緒に遊ぼうか」

 

 

 

 

時間は、数日前に遡る。

その日雲雀は珍しく一人での休日を満喫していた。

いつもなら親友の柳生と行動を共にしているが実家に帰っているため、今日は久しぶりの一人の時間というのを楽しむことにしたのだ。

お気に入りの店でパフェを食べ、近くのゲーム屋で話題のゲームをチェックする。

そんな当たり前の日常を謳歌して帰路へと向かおうとした時、公園である物体が目に留まったのだ。

それが、プレイ・エラー。

人目を気にしながら、自分で作り出したボールでリフティングやドリブルで遊んでいる様子を雲雀は物陰から見る。

本来ならすぐに戒や仲間を呼ぶべきだったが、一人で遊ぶ彼の姿にかつての自分を重ねてしまったのだろう……。

気づけば、彼女は声を掛けていた。

 

「ねぇ、何してるの」

『っ!?』

 

急に聞こえた声に驚いたプレイは慌ててその場から逃げようとするが、雲雀は「待って」と慌てて止める。

容姿は幼く見えるのも理由だったのだろう、多少怯えながらも彼女の方に振り向いて答える。

 

『遊んでるの……僕、外で遊ぶの初めてだから』

「そっか」

 

楽しそうに話す彼に、雲雀は小さい子どもと話すように普段の調子で答える。

加工されていないその声から、年端のいかない少年であることを直感した彼女はプレイの手を取ってある提案をする。

 

「ねっ、お姉ちゃんと遊ばない?」

『え?』

「一人で遊ぶより、みんなで遊んだほうが楽しいよ。ねっ、戒君」

 

この場にいない名前に小首を傾げるが、エラーの反応をウェルシュ経由でキャッチして少し前から現場に到着していた戒とウェルシュが姿を見せる。

苦い顔を機体のディスプレイで表示する彼に対して、戒も困った表情をする。

どんな事情、人間であれエラーは何れ暴走し絶望を振り撒く存在になる。

「どうするべきか」と悩むが……。

 

「負けるのが怖いの?」

 

笑顔で言い放った雲雀のセリフに戒が反応する。

分かりやすいまでの挑発、自分の乗せるための発言なのは誰が聞いても明らか。

 

「ほう?言ったな雲雀」

『沸点低いな君はっ!?てか、挑発されて怒るキャラじゃないだろ!』

 

何処となくメタい発言をするウェルシュを華麗にスルーし『雲雀に挑発されたから』という大義名分を得た戒は軽く伸びをする。

雲雀に急かされるまま、サッカーボール型のエネルギーを取り出したプレイに指をさし宣言する。

 

「かつて『百発百中シュートの門矢』と言われた俺のシュートを見せてやらああああああああっっ!!!」

『そして二つ名がださいなおいっ!!』

 

流れるようにボケを繰り出す彼にツッコミを入れるウェルシュ……この際、琴音の普段の苦労が身に染みたことは全くの余談である。

そこからはサッカーを始め、次にかくれんぼや鬼ごっこ、そして缶蹴り(何故かこの時だけ戒はマジモードになっていた)などの遊びを行い辺りはすっかり夕方になっていた。

 

『僕、そろそろ帰るね』

 

夕焼けを見ながら、プレイはそう口にする。

戒と雲雀も特に口に挟むことはなく、ウェルシュもプレイについての対策を考えるためその提案に賛成の意を示す。

「その前に」と、彼は戒たちの方を振り向く。

 

『僕のお願い、聞いてくれる?』

「お願い?」

 

聞き返した戒にプレイは頷き、やがて意を決したように口を開いた。

 

『一つは、また一緒にここで遊ぶこと』

 

「そして」と、彼は一呼吸置く……。

 

『おかしくなった僕たちを止めて』

「……分かった」

 

その言葉を理解した戒は目を鋭くし、その依頼を受け取る。

彼らは、この場所でもう一度遊ぶことを約束し、それぞれの戻るべき場所へと帰っていった。

 

 

 

 

 

そして、時間は再び現在へと戻る。

ギアルの放った銃撃がシャワーに直撃し、激昂したスティールが剛腕から繰り出される一撃を浴びせようとする。

しかし、タンクモードへと切り替えて受け止めたギアルがカウンターによる一撃を繰り出す。

吹き飛んだのを確認し、すぐさまフライヤーモードへと戻す。

 

『ずっと、不幸だった』

 

自分の愛した男は、みんながみんな自分を騙した。

 

――――「君を愛せるのは僕だけだよ」――――

――――「俺には君しかいない」――――

 

そんな歯切れの良い言葉で縛り付け、搾取を繰り返した。

許せなかった。

平気で自分を裏切る連中も、「この人なら」と思ってしまう自分のことも……。

パペット人形の男からエラーカセットを渡された時、この力で自分を騙した連中に報復するつもりだった。

でも……。

 

『私は、私を愛してくれる本当の人と出会えた』

【CRITICAL ARTS! FINAL STRIKE! SOCIAL!!】

 

そう呟いたのと同時に、ギアルショットガンの銃撃が彼女の身体を貫いた。

 

 

 

 

 

愛する人が崩れ落ちる姿を見たスティールが声にならない悲鳴をあげる。

獰猛な獣のように、策も何もない無謀な突進を行う。

ギアルはそれを躱すことも出来たが、あえてそうせずタンクモードへと切り替えて真正面からそれを受け止める。

その衝撃に少しだけ後ずさりするも、完全に勢いを殺すことに成功した彼はそのまま右拳に力を込めて殴る。

剛腕からのラッシュにスティールも負けじと殴り合いを始める。

 

『……俺は、無力だ』

 

妻と早くに死別し、病弱な息子一人さえ守ることも出来ない。

そんな自分がたまらなく嫌でたまらなかった。

職場の人間も、そういった事情を理解してくれるからか率先して自分の仕事を手伝ったり引き受けてくれたりもした。

それが、どれだけ自己嫌悪を強めたか……それは本人だけにしか分からなかっただろう。

だが、雨に打たれている女性を見かねた時、それが転機だったのかもしれない。

美しい瞳をした女性、妻のことを忘れたことはなかったが何処か放っておけない危うさを彼女から感じ取った。

女性の方は警戒していたが、何回か顔を合わせる内に自然と惹かれ合うようになった。

息子も彼女が優しい女性だと理解してくれたのか、年相応に甘え笑顔を見せてくれる。

まるで本当の家族のようだった。同時に、今湧き上がる子の感情が亡き妻への裏切りなのではないか……幸せと同時に葛藤することも多くなった。

だから、答えを出そうと思い二人のための旅行を計画したのだ。

同僚や上司たちも快く了承してくれた。

車を走らせ、自然が生い茂る景色を見ていく中で自分の希望は守れるのだと思い始めていた。

だが。

 

『どうして……あんなことが起きたんだ』

「……っ」

 

淡々と、悲しみも怒りも感じなくなったその声に僅かな反応を見せるギアル。

しかし、止めることなく放たれた必殺の一撃はスティールを浮かせるだけでなく鋼鉄のボディに皹を入れた。

 

 

 

 

 

「変身」

「忍、転身…」

【RIDE UP! SHINOVI! 旋風無双!HIGH SPEED CHAMBARA!!】

 

ドライバーのサイドグリップにあるトリガーを引いてシノビリンクのアーサーへと変身し、雲雀もシノビリンク衣装へと姿を変えたと同時にプレイがサッカーボール型のエネルギー弾を蹴り飛ばす。

アーサーはそれを躱すことなく、逆に足を使って受け止めると軽くリフティングしてから蹴り返す。

当然、返されるとは思ってなかったプレイの顔面に直撃し後ろへと倒れてしまうがすぐさま起き上がる。

 

『痛い、痛いけど……何でだろ?あんまり悲しくない』

 

「病気の時も痛かったのに」と自分の顔を擦りながら、自嘲するように笑う彼にアーサーは軽く挑発する。

 

「やられっ放しは嫌だろ?今度は三人で遊んでやる」

『ううん。今度は「八人」だよ』

 

その言葉と共に五体のポーントルーパーを召喚し、プレイは再びエネルギー弾を取り出して地面に置く。

ゆっくり、ゆっくりと息を吸い声を発した。

 

『シュートしたボールを相手に当てた方が勝ち。僕の考えたオリジナルの遊びだけど……どうかな?』

「ちょっとだけルールを足さない?ほら、身体に当たって地面に落ちるまでにボールを拾えばセーフとか」

 

「どうかな」と雲雀が周囲を見渡す。反論はない。

誰も異論がないことを確認するとプレイはすぐさまエネルギー弾を一体のポーントルーパーへとパスする。

パスを受け取ったポーントルーパーはそのままドリブルで直進し、雲雀に向かってシュートするがそれを受け止め、膝で軽くリフティングしてからアーサーへとパスする。

受け取ったアーサーは一度宙へ高く上げてからシュートを繰り出す。

素早い速度での軌道はプレイへと直撃するが、まだエネルギー弾のボールは空中にある。

 

(あれを受け取れば、まだ勝機が……!!)

 

取ろうと動き始めるプレイだったが、それよりも先に助走をつけた雲雀が飛び上がり、プレイの左肩に脚を掛けて更に高く跳躍する。

 

「戒君っ!!」

 

雷属性の魔力を纏った足で、騎士の名前を呼びながら彼女はパスを渡す。

それを受け取ったアーサーも再び跳躍し、同時に必殺技のシークエンスを開始する。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! SHINOVI!!】

「これでゲームセットだああああああああああっっ!!!」

 

託されたボールに突風を纏ったオーバーヘッドキックを叩き込むと、雷と突風を纏ったエネルギー弾がプレイへと直進する。

明らかに受け止められるわけがない威力だが、彼はそれをあえて受け止めようとする。

しかし……。

 

『ぐっ!ああああああああああっっ!!!』

 

威力に耐え切れず、プレイは爆散。

尻餅をついたように倒れるからだったが、身体には魔力の粒子化が起き始めている。

それに恐れることも悲しむこともなく、プレイは自分と最後まで…全力で遊んでくれた二人を見上げる。

 

『ずっと、遊びたかったんだ』

 

プレイはポツリ、ポツリと語り始める。

物心つく前に母親が亡くなって、身体は病気になって父親に負担になることしか出来ない。

それがどうしようもなく悲しくて辛くて、痛いことだった。

本当は父親に怒られるぐらい遅くまで遊んで、泥だらけになって遊んでいたい……そう願っていた。

 

『父さんがあの人と一緒に旅行しようって言った時、もしかしたら三人で遊べるって思ったんだ』

 

「だけど」と、少年は続ける。

 

『あの事故が、僕たちの希望を奪った』

 

不慮の事故だった。

山道の運転での急な災害、誰のせいでもなく第三者による原因があったわけでもない……本当にただの不幸な事故だったのだ。

「どうして」と三人は自問した。

幸せを手に入れようとした自分たちが、こんな最期を迎えるのか……誰かを憎むことも出来ないその事故に絶望することしか出来ない。

丁度その時だった。

 

【EVOLUTION! LOADING…GAME START…】

 

ネオエラーカセットが起動したのは……。

 

『ネオエラーカセットは、融合者の精神でも融合することが出来る……槇村は、君たちを縛り付けたんだ』

『それでも、僕たちは……幸せを掴みたかった』

 

ウェルシュの言葉に、プレイは首を横に振る。

デッドという男から自分たちの肉体は、実質植物状態で例え融合を解除したとしても目覚めるかどうかも怪しい……。

だからこそ、『今』を楽しみたかったのだ。

 

『ありがとう、お兄ちゃんお姉ちゃん。僕たちは、もう寝ることにするよ』

 

「もし」と、少しだけ地面に視線を落としたプレイは再度戒と雲雀を見上げる。

 

『もし僕たちが目覚めたら、その時は一緒に遊んでくれる?』

「……ああ。今度は俺たちだけじゃない。みんなで遊ぼう」

「雲雀たちの友達も、いっぱい連れてくるから……だから、今は眠ろう?」

 

二人の優しい言葉に、プレイは満足したように頷くと……いつの間にか立っていたスティール・エラーとシャワー・エラーの方を振り向く。

 

『お休み。父さん、母さん』

『お休みなさい。私たちも眠りましょ?疲れちゃったわ』

『……分かった』

 

互いに、何度も頷き合った『家族』は完全に消滅し、本来のあるべき肉体へと戻る。

それを忘れないよう、戒と雲雀は目を閉じ、奇跡が起きることを祈った。

これは、いつもと違う物語。

絶望に縛り付けられた、三人の家族を助けた騎士と少女の小さな物語……。




 今回の怪人たち…プレイ・エラーはバルバロッサ・バグラチオンさん、シャワー・エラーとスティール・エラーは覇王龍さんからいただきました!お二方、誠にありがとうございます!流石に原案通りだと上手くシナリオが組めなかったので自分なりに解釈して改変しました、申し訳ありません。

プレイ・エラー ICV小松未可子
バルバロッサ・バグラチオンさんから頂いたオリジナルエラー。モチーフは『サッカーボールとサッカー選手』
旅行中の事故で植物状態になった身体の弱い少年『タクヤ』の精神とネオエラーカセットが融合した姿。紺色のユニフォームに白黒のボディが特徴。
遠距離からサッカーボールをモチーフにしたエネルギー弾による攻撃を得意とする。また、劇中では披露しなかったがバットによる近接攻撃も可能。

シャワー・エラー ICV西村ちなみ
覇王龍さんから頂いたオリジナルエラー。モチーフは『シャワー、シャチなどの水を連想させるもの』
旅行中の事故で植物状態になった女性の精神とネオエラーカセットが融合した姿。クラゲのような白く透明なボディ、左腕はシャチで右腕にはシャワーのような装飾が特徴。
高圧水流を武器とし、ウォーターカッターなどが扱える。
多くの男性に騙され、翻弄されていたがスティール・エラーだった男性と出会い、本当の愛を掴むことが出来た。

スティール・エラー ICV稲田徹
覇王龍さんから頂いたオリジナルエラー。モチーフは『ワニと鋼』
旅行中の事故で植物状態になったタクヤの父親の精神とネオエラーカセットが融合した姿。メタリックな鋼のボディにワニの牙を彷彿とさせる頭部、胴体には背中や肩に鉄骨や鉄板などが突き出している。
目立った特殊能力はなく、桁外れのパワーと防御力が特徴で自身及び他者の性質を好戦的にすることが出来る。
息子を守れるぐらい『強くなりたい』という純粋な願いだったが、エラーの力によって歪曲させられてしまった。


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COMBO41 始まり×最初の出会い

 お久しぶりです。今回は過去編、戒が仮面ライダーに変身した経緯が語られます。
 それでは、どうぞ。


人気のない夜道を若い男が走っていた。

仕事帰りなのだろう、スーツを着こなしカバンを手に持った彼は乏しい電灯の明かりが照らす、その暗い道を何度も躓き、足をもつれさせながらも無我夢中で走る。

静まり返った辺りには恐怖で顔をひきつらせ、男の苦しそうな息遣いと足音だけが響いていた。

 

「来るな……来るなっ、来るなあああああああああっっ!!!」

『……耳障りな声を出すなっ』

 

何かに恐怖するように、悲鳴をあげる彼に対して『それ』は憎悪を孕んだ声が響く。

不意に、さっきより暗くなった自分の周囲と声に思わず上を向いた。

 

「あ、ああ……!?」

 

上を向いた男の視界に入ったのは、ゲームパッドのような鎧とモノアイがある一体の怪人。

ダークブラウンの毛皮に覆われた狼や猟犬を思わせるような怪物の上に、金の手甲や具足を身に着けており、古びた鎖をアクセサリーのように首や身体に巻き付けている。

更に恐怖したのは、その怪物が鳥のような巨大な翼で空を飛んでいるということだ。

常識さえも超越した、理解し難い怪人が自分を狙っている……それだけで男は腰を抜かしながらも必死に逃げようとする。

だが、怪人はそれを許さない。

 

『逃がさないよ』

『逃がさねぇぞっ!』

『あんたも……相応の罰を受けろっ!!』

 

三つの異なる声で、恨みの言葉を口にした怪人は地面へと降り立ち男性を獣のようなモノアイで射殺さんばかりに睨みを強くする。

そして、右肩に存在する巨大な猛犬の口が開くと……。

 

「……ああああああああああああああああああっっ!!!」

 

男の悲鳴が静かな夜を響かせた。

 

 

 

 

 

探偵は正義のヒーロー……。

小さいころは仕事をする母親の姿に憧れていた。

悲しむ依頼人を救い、その身を挺して真実を掴み取って犯罪を明らかにする。

それが自分の信じた探偵像であり、そうであろうと努力して数々の事件を解決してきた。

けど、真実を明らかにするのが遅かった。

もっと早い段階で気が付くべきだったのだ。

だから……。

 

「……んっ」

 

最悪の目覚めと共に、少年は目を覚ました。

寝癖でぼさぼさになった茶色がかった髪の頭を掻き、眠そうな目から赤い瞳が開いている。

起動したスマホを見れば、時刻は午後……普通ならまだ学校にいる時間だ。

そう、普通なら。

 

「……ゲームでも買お」

 

私服へと着替えを終えて、怪我を隠すために手袋を着用した十四歳の少年『門矢戒』は財布を握り締めて外へと出かけるのであった。

 

 

 

 

 

頭に靄がかかったような感覚が続いている……それが今の戒の状態だった。

少年探偵として活動していた彼の身に起きた事件、それは右手に負った火傷だけでなく心までも傷つけた。

それ以来だ、気分がどんよりと何事に対しても興味を持てなくなったのは……。

学校へも行かなくなり、他人との関りを避けるようになった。

部屋で勉強はしているし、家事の手伝いもしているため世間一般での引きこもりとは少し違う。

身内も周りの目を気にすることなく、「行きたくなったら行けば良い」という言葉に甘えてしまっている状態なのだ。

そんな自分に対しての自己嫌悪も募らせているため、増々外へ行く気がなくなるという悪循環に陥っている。

自堕落な生活を送っているようで、本人は困っている……そういった事情を考えれば引きこもりの切迫した心理状況なのかもしれない。

もちろん、今の戒に喝を入れたくなる人間はいるわけで。

 

「見つけた」

「んあ?」

 

そこにいたのは、上着を羽織った学生服の少女。

小柄で子どもらしく、左側は短く右側を長くしたアシンメトリーな髪形をしており、長い部分を赤いリボンで結んでいる。

だが、右手には場違いな木刀を担いでおり上着も「喧嘩上等」と刺繍されている。

 

「何だ、琴音かよ。お前もさぼりか?」

「うっせー。私は頼まれたんだよ、あの忌々しい牛女たちにな」

 

苦い顔と共に「ほら」と首を向けるように指示をする。

首を傾げながら指示された方を振り向くと、そこにいた二人の人物に顔をしかめる。

 

「出たな、お節介姉妹」

「誰がお節介姉妹よ!」

「まぁまぁ『乱花』ちゃん」

 

そこにいたのは黒がかった長い髪を腰まで伸ばした私服の少女と髪を結んだ少女。

戒と琴音が通う『半蔵学院・中等部』在籍しているクラスの同級生である姉の『神楽坂倫花』と、その妹である『神楽坂乱花』。

この二人(と言っても妹の方は姉に連れられてだが)、学校に行かず遊んでいる戒を見かねてなのか、それとも女顔にも見える中性的な彼を見て姉としての本能が疼いたのか積極的に関わってくるのだ。

……以前、二人に絡んでいたチンピラを撃退したことも関係しているかもしれないが特に言及することはないだろう。

 

「はい、これ」

 

カバンから取り出した倫花が渡したのはノート。

どうやら昨日渡し忘れた授業の内容を届けに行こうとしたらしい。

特に断ることもないため、「サンキュ」と感謝の言葉に受け取った戒はゲームが入った袋へと入れる。

昼休みの時間を利用してまで、それも不登校のクラスメイトにわざわざ会いに来る彼女たちに背中を見せて去ろうとするのを止めたのは倫花だ。

右腕を抱き締めるように身体を密着させてくるので、戒は思わず動きを止める。

 

「なっ!?///」

「駄目だよ戒君?ちゃんと学校に行かないと」

 

中学生とは思えぬ、豊かな胸に顔を赤らめる彼に気にすることなく倫花は見上げるような形で見つめる。

だらけた態度の戒だが性欲事態は健全に残っているため、柔らかい感触に自然と胸が高鳴ってしまう。

 

「ちょっと!お姉ちゃんから離れなさいよ!!」

「…て。てめぇも年下の癖に抱き着いてんじゃねぇよっ!!」

 

不機嫌になった乱花も逆の腕に抱き着くと、流石に堪忍袋の緒が切れた琴音が乱入する。

その際、乱花と琴音が「どけチビ先輩」やら「黙れ駄乳」と低レベルな争いを続けていたが、天国のような地獄のような空間に戒のスマホから着信が入る。

取り出して画面を調べると、映った名前に顔を歪める。

 

「わ、悪いっ。俺、もう帰るから」

 

一言謝ってから、慌ててその場から逃げるように去り、人気のない公園まで走ってきた戒は着信が続いている電話を慌てて取る。

 

『Hello、戒。答えは出たかな?』

 

声の主は渋く落ち着いた男性。

だが、何処か警戒心を解かせるような声色で戒はうんざりしたように返事をする。

 

「またあんたか。言っただろ?俺はあんたの勧誘を受ける理由はない」

『答えは変わらない、とでも言いたげだね』

 

その答えはとっくに予想していたのか、声の主は楽しそうに笑う。

向こうの様子に戒の機嫌は下がる一方だ。

ほんの数か月前から、この謎の主からの勧誘が続いている。

悪戯電話かと思ったがその後も続く勧誘に戒は律儀にも付き合っている状態なのだ。

 

「悪いけど他をあたってよ。俺はもう探偵なんかじゃ…」

『君は名探偵だよ、今も前も変わらない。ただエンジンのかけ方を忘れているだけさ』

「…っ」

 

その言葉に、少しだけ言葉が詰まる。

名探偵と言われたからじゃない、彼の言う『エンジンのかけ方』に少しだけ思うところがあったのだ。

……ふと考えていたことが口に出る。

 

「まるで、あんたの誘いに乗れば俺のどんよりも晴れるみたいな言い方だな」

『興味が湧いたかな?』

 

同時に、風を切るような音とモーター音が電話の方から聞こえると、戒の視界に赤いミニ四駆のような物体が走ってきた。

突然出てきた玩具に戒は思わず二度見をする。

 

『ふふ。そんなに驚かないでくれ』

「へっ?」

 

電話から聞こえる声と……あろうことかミニ四駆から聞こえる声に戒は変な声を漏らしてしまう。

 

『改めまして、私はウェルシュ。よろしく、戒』

「……はああああああああああああああああっっ!!!?」

 

喋るミニ四駆…ウェルシュに戒はただただ驚愕の叫びをあげることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

場所は変わり、門矢家。

 

「……これが世間を騒がせている連続傷害事件の資料ですか?」

「そうよ。正直、一般市民に情報を渡すのは複雑だけどね」

 

物静かな様子で、刑事であり妹でもある美海から渡された書類を眺めているのは戒の母である美緒。

書類にある凄惨な現場写真に物ともせずに事件の概要に目を通した彼女はその犯行方法に疑問を覚える。

 

「被害者は二度と起き上がれないように半身不随にしたにも関わらず、被害者宅に乗り込んで全てを無茶苦茶にしている……何故こんなことをしたのでしょうか?」

「少なくとも、今までの被害者たちは過去に自分たちの悪行を動画サイトに投稿している。本人を襲うだけじゃ飽き足らなかったんじゃない?」

 

荒らされた被害者の自宅の室内が荒らされている状態に、二人は思考を張り巡らせる。

だが、それ以上に不可解だったのは。

 

「ビルのないところで転落。巨大な獣に襲われた痕跡……人間の仕業じゃなさそうね」

「……精霊術を使った犯行も、視野に入れる必要がありそうね」

 

普通の人間じゃ引き起こせない、奇妙な犯行方法に美緒と美海は今回の資料を眺めるのであった。




 久しぶりなので短くなってしまいました、申し訳ないです(汗)


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COMBO42 初変身×初戦闘

 ただいま。


場所は変わり、何処かの廃工場……そこに二体の異形がいた。

 

『どうですか「ケルベロス」?ゲームは進んでいますか』

『問題はないっ、次で一先ずは終わりだ』

 

そう落ち着いた声色で尋ねるのは魔術師と鳥を組み合わせたような不死鳥を思わせる赤い怪人、そして鎖を巻き付けて三つの首を持った猟犬のような怪人……。

赤い怪人『フェニックス・エラー』は『ケルベロス・エラー』に力を与えた張本人であるため、上の者に連絡するための状況確認をしているのだ。

 

『あなたがゲームクリアすることを、他の者も期待しています。どうか、ご自分の復讐を堪能してください』

 

楽し気に笑うと、フェニックスは深々と頭を下げてから赤い羽根と共に姿を消す。

一方のケルベロスは宿した憎悪を魔力として放出するように深い息を吐く。

 

『あぁ……存分に楽しませてもらうよ』

『楽しむ!楽しむっ!』

『何もかも噛み砕いてやるよ!』

 

エラーの人格が口々に嗜虐に満ちた声色で叫ぶ。

その声を耳にしながら、ケルベロスもその場から立ち去るのだった。

 

 

 

 

 

戒は街を歩いていた。

買ったばかりのゲームで遊ぶ気も起きず、かと言って何かをする必要があるわけじゃない。

ただ、先ほどの奇妙なやり取りを思い返していた。喋る赤いミニ四駆……ウェルシュの話だ。

まずは、エラー。

人間の絶望に反応して怪人へと変貌してしまった存在。

ウェルシュ曰く、この街……いや世界で人の絶望につけ込んで犯罪へと至らせる敵がいると。

今は彼とその仲間たちが世界各国にいるエラーと戦っているらしく、日本が手薄になっている状態らしい。

そしてエラーと戦うことが出来るのが、仮面ライダー。

その仮面ライダーに戒が選ばれたのだ。

街の景色を眺めながら、歩き考える。

 

「俺に、何が出来るんだよっ」

 

その想いが口から出てしまう。

少年探偵……数々の難事件や怪奇事件を母親譲りの推理力で解決してきた。

そんな自分にいつしか相棒が出来、彼と共に舞い込んできた事件を解き明かした。宛らホームズとワトソンのように思っていた。

けど、現実は違う。

『あの事件』が、戒の心に傷を残した。

簡潔に言ってしまえば、その犯人は戒の相棒だった。

被害者たちは、彼の恋人を辱め自殺にまで追い込んだ連中だった。

戒の相棒になったのも全ては復讐のため……自分の持つ捜査能力を間近で観察し、学ぶためだったのだ。

全ての謎を解き明かし、彼がアジトにしている場所を推理した戒は必死に叫んだ。

あの時、どんな内容のことを言っていたのかは正直覚えていない。

ただ頭が真っ白で、ブレーキの壊れた相棒を止めたくて、とにかく今までのことを全部叫んだ。

そんな言葉が復讐鬼を人間に戻す。

その結果が、犯人の自害……相棒の喪失だ。

復讐の象徴であるアジトに火を放ち、その中で彼は自らの死を選ぶ。それがこの事件の顛末だった。

後始末は、全て戒と美海が行った。

生き残った連中の真実を白日の下に晒し、全てを終わらせた瞬間に彼は燃え尽きた。

結局のところ、自分は何も出来なかった。彼の苦しみも葛藤も復讐心も、何も理解していなかった。

 

(本当に大事なものを、俺は見ていなかった)

 

そんな自分が、仮面ライダーに変身して戦う?

おこがましい。戦う理由を持った戦士になれるわけがない。

探偵失格……気力もない今の自分には無理だ。

そう、ぼんやりと上を見上げていた時……。

 

「待って~~~~~~っ!」

「……んっ?」

 

ふと聞こえた声に思わず後ろを振り向く。

見れば胡散臭い恰好をした女子と、それを追いかけている制服を着た少女(恐らく高校生)の姿がこちらの方へ走ってくるのが見える。

前者は手に財布らしき物を持っており、恐らく制服の少女からスッたのだろう。

ほんの一瞬見て全てを悟った戒は溜息と同時にスリを働いた少女に……。

 

「……ぶべっ!?」

 

足を思い切り引っ掛けてやった。

逃げることに夢中で戒のことを視界に入れていなかったスリ少女は地面を滑りながら見事に転倒。

起き上がろうとするその背中を思い切り踏みつけ、スマホ片手に口を開く。

 

「今ここで盗んだ奴全部置いていくのと、ネットに素顔晒してから豚箱にぶち込まれるのどっちが良いですか?」

「ひっ!?」

 

有無を言わさない彼の赤い瞳を見たスリ少女は大人しく今日盗んだ物を全て捨てるようにその場に差し出す。

盗品がこれで全てであることを表情で悟った戒は足をどけると、そそくさと逃げ出した。

それを横目に財布を拾うと、ようやく追いついて息を切らす少女に投げ渡す。

 

「あ、ありがとう!」

「いえっ、別に……!?」

 

そのまま立ち去ろうとしたが、胸元に財布を入れる姿に思わず視線と動きを止めてしまう。

健全な十五歳、これは仕方がないだろう。

 

(ま、まじか……高校生になると、あ、あんな大胆に///)

 

先ほどまでの冷静な思考が一気に煩悩に染まる。

よく見ればかなり可愛い。黒髪を後ろに纏めたポニーテールが活発な印象を与えているし、それに胸も大きい。それにスカートも動く度に……。

 

「っ?どうかしたの」

「いえ別に」

 

視線に気づいた少女の言葉に戒に冷静さが戻る。

一先ず目の前の美少女にお礼をもらえたことと先ほどの光景を脳内フィルダに納め、改めて立ち去ろうとする。

 

「あのさ」

「はい?」

「えっと、何か悩んでいる?」

 

動きが止まった。

まるで核心を突かれたような問いに、何の縁もゆかりもない少女の口から言われた一言に一瞬だけ表情が引き攣る。

動揺を隠し、何とか笑顔を保つ。

 

「えっと、まぁ。はい……ちょっとスカウトされていて」

 

あんたには関係ない……。

そう言って立ち去れば良かったのだが、何故かつい喋ってしまう。

もちろん正直に全て話さずに当たり障りのない内容にしたが、別に嘘は言っていない。どうも目の前にいる少女は、人の警戒心を解く才能があるらしい。

 

「そっか!スカウトってモデルさんとか?」

「まぁ、そんなとこです。でも、俺なんかがやったところでって話ですよね」

「んー……」

 

彼の発言に少女はしばし考える素振りを見せる。

やがて、納得したように口を開いた。

 

「じゃあ、私からのアドバイス!『自分に正直になる』!」

「えっ?」

「君はさ、他のことを考えているんだと思う。だから自分が何をしたいのかが決まっていても、それを隠しちゃうんじゃないかな?」

 

彼女の話を、戒は黙って話を聞く。

何処となく先輩風を吹かせながら、笑ってそう語る彼女が何故か眩しく見える。

何だかおかしくなって、思わず笑みを零してしまう。

 

「むー。笑わないでよ」

「すいません。でも……ありがとうございます。何か、ちょっとだけ気持ち軽くなった気がします」

「そっか!じゃあ、私はこれで。友達が待っているから!」

 

「それじゃあね」と元気良く手を振って少女は颯爽と走り去っていった。

戒も軽く手を挙げて返すと、「良い人だったな」と思いながら自宅に帰ろうとした時だ。

スマホから着信音が響く。

取り出して確認すると、相手は琴音だ。

 

「もしもし?」

『戒君、助けてっ!』

「神楽坂?」

 

声は幼馴染ではなく同級生の倫花の声だ。

彼女からの突然のSOSに戒の表情が変わる。

探偵としての直感が、彼女の焦った声色から冗談でないことが伝わってくる。

 

「場所は何処だっ!?」

 

彼女たちの元に向かうべく、地面を蹴って走り出した。

 

 

 

 

 

少し、時間を巻き戻そう。

 

「あー……疲れた」

 

公園のベンチに座った琴音が一息吐く。

今の彼女は特攻服を羽織っていない。総長の証であるあの上着は信頼出来る後輩に託し、晴れて自分は足を洗ったのだ。

……とはいっても、彼女のグループは性質の悪いナンパ野郎や不良どもから人を助ける義賊みたいなことをしていたため傍から見れば「ごっこ遊び」の範疇でしかない。

まぁ琴音は「ナイチチ野郎」と挑発してきた不良グループを木刀と蹴りだけで殲滅した記録があるのだが、話が逸れるので割愛しよう。

一人の少女へと戻った琴音は近くの自販機で買った缶ジュースを飲みながら夕焼けに染まった空を見上げる。

 

「琴音ちゃん」

 

突如、自分の名前を呼ばれ首を向けて露骨に顔をしかめる。

戒と自分にお節介を焼いてくる神楽坂姉妹だ。

正直彼女はこの二人が好きではない。

別に嫌いとかでもないのだが、あのスタイルで戒や自分に近づいてくるのが心底気に入らないだけだ。

あのバインバインを押し付けられる度に如何に自分が小さい存在かを思い知らされる。

 

「……て、誰の何処が小さいだごらぁっ!!」

「ええっ!何の話っ!?」

 

謎の電波を受信して急に怒り出した琴音に倫花が驚き、その態度を見た琴音が「ごほんっ」と咳払いをして気を落ち着かせる。

話を聞ける段階になったところで、倫花は話を始めた。

 

「えっと、戒君が何処に行ったのか知りたくて」

「カー君?この時間ならもう家に帰っていると思うけど……」

「本当に?何なのあいつ、お姉ちゃんがこんなに声かけてくれるのに」

 

隣にいた乱花が口を尖らせる。そんなこと言いながらも姉について来る辺り、戒に対して悪い感情は抱いていないのだろう。

鼻を鳴らした琴音がベンチから立ち上がった時だった。

 

(……っ!?)

 

嫌な気配を感じた。

曲がりなりにも母親から護身術を教わり、不良どもの喧嘩で培った第六感が危険信号を発している。

敵意……違う。

これは相手への強烈な憎悪と、殺気……!

 

「伏せろっ!」

 

その感覚に従うまま、琴音が倫花と乱花の二人を地面に押し倒した瞬間、その頭上を『何か』が通り過ぎた。

それは琴音たちが先ほどまでいたベンチに激突しけたたましい音を立てて破壊される。

だが、しばらくして音が変わった。

何かが砕けるような、硬い物を咀嚼しているような……そんな不快な音だ。

琴音が二人を庇うように前に立つ。その際にスマホが落ちてしまったが気にする余裕がない。

やがて『何か』が起き上がった。

 

「……何、あれ……!?」

 

あの強気な乱花の声が震えている。

それが変態や不審者であったのなら、どれほどまともだったのだろうか。

そう思えるほどに、目の前の『何か』は異常だった。

 

『グルルルルル……!』

『不味いね』

『不味いよっ!』

 

翼を生やした三つの首を持った猛犬のような異形が、不気味な単眼でこちらを睨みつけている。

二つの口はベンチだった残骸がまるで紙屑のように容易く食い千切りながら、目の前にいる血肉を口々に求めている。

不気味な怪人、あの怪人は現実に存在してはいけない……!

まだ捨てていなかった木刀を構えるも怪人……ケルベロス・エラーは獣の見た目に違わない速度で詰め寄ると木刀をはたき落とし、琴音の首を掴む。

 

「ぐっ……こいつっ」

『ここは、そうだ。あいつの好きだった場所、そうだそうだった……妹を傷つける奴らは絶対に許さねえ!地獄の底まで突き落としてやるっ!!』

 

どうにか振り解こうとするも、普通の人間がケルベロスの力に叶うはずがない。

やがて、意識が遠のき始めた時だった。

 

「オラッ!」

『ぐっ!?』

 

彼女の細い首を掴んでいた腕に向かって鋭い蹴りが放たれた。

その乱入者は強引に琴音を開放すると、小柄なその身体を優しく抱える。

 

「げほっ、げほっ!カー、君っ?」

 

自身の助けた幼馴染の名前を呼ぶ。

琴音は知る由もなかったが、あの時スマホを拾った倫花が急いで戒に電話し、場所を聞き出して通話を終えた戒は叔母の美海に連絡しながら急いで駆け付けて来たのだ。

戒は琴音が無事であることに一先ず、安堵するも背後からケルベロスの爪が迫る。

 

「くそっ!」

 

それを躱し、倫花と乱花に彼女のことを任せると自分に狙いを定めるように誘導する。

 

「こっちだ犬っころ!」

『ガアアアアアアアッッ!!』

 

攻撃を捌き、躱しながら彼女たちから離すべく動き続ける。

しかし、その逃避はすぐに終わった。

 

『捕まえたよっ!』

『捕まえたぞ!』

 

二つの声が響くと同時に、ケルベロスの腕が伸びた。

不意を打たれた突然の動きに戒は驚き、捉えられてしまう。

 

『ちょろちょろしやがってガキがっ!俺の復讐を邪魔しやがって!』

 

獣の口から放たれたその言葉に戒が反応する。

復讐……その単語が最近になって発生した連続傷害事件と結び付く。恐らく、目の前にいるこの怪人が犯人なのだろう。

そうなると、腑に落ちない点が多々ある。

 

「どうして?あんたの目的は復讐だろ、あいつらは関係…」

『関係ないっ!?妹を失ったことを関係ないだとっ!!ふざけるなっ、ふざけるなっ!!』

 

遮るように吠えるケルベロスは、戒の胸ぐらを掴むと濁り切ったモノアイで睨む。

 

『妹は、あいつらに辱められた。挙句の果てにその時の様子を動画に取られていた……分かるか?だから俺は奴らに社会的な制裁を加えたっ』

「だったら…」

『それで充分?違うっ!俺は許せないのは妹の死に気にすることなく平凡に生きている奴ら全てだ!!そんな奴らを俺の牙と爪で切り裂くのは……楽しかった』

 

その声は、この世の全てを憎んでおりケルベロスの声が人を傷つけることへの快感に震えている。

狂ってる……そこで戒はウェルシュの言葉を思い出す。

エラーと融合した人間は本来の人格を歪められる。

そうなった者は絶望という狂気のままに、大勢の関係ない人を巻き込むようになる。

そんなこと……。

 

「ふっざ……けんなっ!」

『……っ』

 

両脚に魔力を込めて、ケルベロスの胴体を蹴り飛ばす。

気が逸れたことで拘束から無理やり脱出した戒はその場でへたり込み、咳き込む。

思いもよらぬ反撃に、エラーは怒りを露わにして再び彼に手を伸ばそうとする。

だが、一発の銃声が動きを止める。

 

「止まりなさいっ!」

 

リボルバーを構えているのは、戒が電話で読んだ刑事……美海だ。

怪人の存在に内心驚くも表上は顔に出さず、両手で拳銃を握り締めて威嚇する。

背後には琴音たちもいる。

しかし、警察……妹の死に何もしなかった

『……そうか。お前たちから始末されたいようだなぁっ!』

「やめ、ろっ……!!」

 

標的を再び彼女たちへと狙いを定めたケルベロスが襲い掛かろうとする。

いくら美海が精霊術の使い手だとしても、如何に琴音たちが武道に心得があっても、怪物が相手ではどうすることも出来ないだろう。

だからこそ望む。

力が欲しい、と。

相手を倒すための力ではない。

目の前の誰かを救えるような、復讐でその身を怪物へと変えてしまった人間を助けることが出来るような……そんな優しい力を。

 

『出来るさ。君のその優しい心があればね』

 

男性の、ウェルシュの声が戒の耳に入る。

顔を上げれば、ミニ四駆が赤い軌跡を描きながら縦横無尽に動いてケルベロスを翻弄している光景が目に映っていた。

追い払うように距離を取ったケルベロスを確認したウェルシュは戒にある物を投げ渡す。

それ…ゲームパッドを思わせるようなバックルのアーサードライバーをキャッチした戒は無意識の内にゆっくりと腰へ軽く当てる。

そこか赤いベルトが伸びて完全に固定されると、今度はプッシュボタンがあるドラゴンがイラストされた赤いカセットテープを受け取る。

 

『……戒。君は相棒とも言える人物を失った。だが、今なら救える。私いや、私たちと仲間がいれば、奴らと戦える。絶望に苦しむ人たちを守ることが出来る』

 

巻きつけた途端、意識をアーサードライバーに移したウェルシュの声が聞こえる。

その言葉が、今まで綺麗ごとにしか聞こえなかった言葉が凍り付いた心を解かしていく。

あの時、何も出来なかった、相棒の罪はおろか周りを見ることさえ出来なかった……違う、「救えなかった」を理由に行動しなかっただけだ。

目の前には、唸り声をあげる獣へと堕ちたケルベロス……。

今の自分では無理だったかもしれないし、正直に言うと怖い。

だけど、今は戦える『力』がある。

目の前の人を守れる、そして、怪物になってしまった彼を救えることが出来る。

それならば……。

 

「……なら、やるしかないだろっ!」

 

覚悟は決めた、後はもう自分の心のままに動き出すだけだ。

上着に入れていたミラージュカセット『ドラゴンカセット』を起動させる。

 

【DRAGON!!】

 

起動音声と共にバックルの左側に位置するスロットに装填する。

 

【HENSHIN ARTHUR! GAME START!!】

 

和ロックのようなノリの良い待機音声が周囲に鳴り響き、それを背景に戒は左手に軽く力を込めると、それを斜め前に突き出し残った手はバックルのグリップを握り締め、トリガーに手を掛ける。

 

「……変身!」

【RIDE UP! DRAGON! 連・撃!RED KNIGHT!!】

 

叫びと同時に戒がトリガーを弾くと四角いディスプレイにドラゴンの赤いグラフィックが映ると同時に、昆虫のような赤く丸い複眼に黒と紫のアンダースーツが全身を包む。

カセットの絵柄に描かれた赤い竜を模した『霊装』が召喚されると、パーツ状に分解しスーツを纏った戒の上に装着し、彼を赤い騎士へと変えた。

竜を模した装甲と上部に装着されたV字型のホーンが生えたドラゴンのバイザーから竜の騎士を彷彿させ首元に出現した赤いマフラーが変身の余波で靡かせる。

 

『Start Your heart!!』

『な、何者だっ、お前!?』

 

ウェルシュの声が響く中、ケルベロスは突如変身した騎士に動揺した声で問いかける。

答えは決まっていた。

今の自分は、弱い人を守るヒーロー。

 

「……『仮面ライダー』」

『何っ?』

「俺は仮面ライダーアーサー!お前の物語、ここで終わらせる!」

 

歪んだ正義を、悲しい復讐劇という物語をこの手で終わらせるべく、戒が変身した仮面ライダーアーサーは左手をスナップしてエラーへと走り出す。

 

『このっ、邪魔をするんじゃねぇよっ!!』

『こけおどしだぁっ!何があっても俺は、俺は大切な者を……妹を絶対に護って見せるんだっ!!』

 

変身した姿に驚くも、エラーの人格が身体の主導権を握って迎え撃とうとする。

しかしアーサーは地面を滑り、スライディングのように叫ぶケルベロスの股下を潜り抜けると瞬く間に背後を捉えた。そこからすかさず先制攻撃として鋭い蹴りを叩き込むも効果は薄い。

そこにウェルシュの声が響く。

 

『戒。バックルにあるボタンを押すんだ』

「ボタン、てことは……」

【MAGICAL ARTS! BOWABOWA KACCHI-N!!】

 

アーサードライバーにあるボタンを押すと、両脚に高熱と冷気が纏わりつく。

それに一瞬だけ驚くもアーサーはすぐに冷気を宿した右脚で後ろを向こうとするケルベロスを蹴り飛ばした。

 

「オラッ!!」

『があああああああああっ!』

『こ、このっ!』

 

先ほどとは比べものにならない、背中からの激痛に苛まれたケルベロスの悲鳴が辺りに響く。

しかし右肩の獣の口から巨大な盾を出現させると、アーサーの方へ向き直ったエラーは迫りくる蹴りのラッシュを防ごうとする。

最初は一発二発と防ぐことが出来たが、段々と早くなってくるラッシュに盾での防御が間に合わなくなってくる。

「ならば」とケルベロスは武器で殴り飛ばそうとするが、アーサーは柔軟な体捌きで難なく回避すると隙だらけのボディに突き刺さるような高熱を纏った跳び膝蹴りをお見舞いする。

 

『ぐぅっ!?こ、このガキッ!!』

 

重い一撃に息苦しさを感じながらも、ケルベロスは巨大な口を開けてアーサーを噛み砕こうとする。

しかし、攻撃を受ける直前に彼は直感で赤いボタンを押した。

 

【ATACK ARTS! SONIC BITE!!】

「よっと」

『がっ!?』

 

赤いオーラに覆われたと同時につっかえ棒のように脚を突き上げる。

じたばたと暴れて何とかアーサーの足ごと噛み砕こうとするも、脚力を強化されている今の彼の前では無力だ。

すると、身体を捻ったアーサーのサマーソルトがケルベロスの横っ面を蹴り飛ばした。

吹き飛んだエラーは地面を転がり、どうにか起き上がるとモノアイを光らせながら叫ぶ。

 

『くそっ、くそっ!どうして俺たちがこんな目に合うんだ!俺や妹は被害者なんだぞっ!?それなのにっ、何でええええええええええっっ!!!』

「……今のお前は、復讐どころか無関係な人間にも手をかけたただの犯罪者だっ」

『何だとぉっ!!?』

「お前は俺の友達をっ、無関係な人も殺そうとした!そんな復讐、俺は認めない。お前の暴走も、悲しみもっ!絶望に染まった物語を全て終わらせてやるっ!!」

 

宣言したアーサーはドライバーのスロットからドラゴンカセットを抜き取り、必殺技専用のスロットへと装填する。

瞬間、今までの音声とは異なる電子音声が響き渡った。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! DRAGON!!】

「ふっ!」

 

両脚に先ほど以上の魔力を宿したアーサーは助走をつけて勢いよく走る。

地面を蹴る度に炎と氷の跡を残しながらも、ふらついた状態で起き上がっていた標的からしっかりと狙いを外さない。

そして、空高く跳躍した。

 

「オラアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

そして、そのまま急降下してきたのだ。

ドラゴンのエフェクトを纏ったスピードに乗った左脚による必殺の跳び蹴り『ドラゴンストライク』は満身創痍となっていたケルベロス・エラーに直撃した。

 

『がああああああああああああっっ!!!』

 

束縛を衝撃で破られ、ケルベロス・エラーは一撃を受けた時点で宙に浮かび、地面に向かって吹き飛んだ。

そして、力無く地面に叩きつけらたエラーのボディからは暴発するように火花となった魔力が漏れ出る。

 

「GAME OVERだ」

『ぐっ、あああああああああああああああっっ!!!』

 

アーサーのセリフと共に、ケルベロスの身体は悲鳴と共に爆散。

琴音や神楽坂姉妹はその姿に、仮面の騎士の初陣にただ見とれることしか出来なかった。

エラーのボディから気を失った男性が倒れたのを確認した彼は、すぐさま美海に連絡を入れる。

 

『……戒』

「んっ?」

『これからも、私と共に戦ってくれるか?』

「…ああ。これからも頼むぜ?ミニ四駆のウェルシュ』

 

「余計な一言だよ」とウェルシュが返事をすると、変身を解除した戒とミニ四駆に意識を戻した彼は拳と機械のボディを軽くぶつけるのであった。

 

 

 

 

 

 

『戒、エラーの反応……恐らく今回の事件を起こしているハイドの仕業だ』

「んあ?」

 

十六歳になった戒にウェルシュが声をかける。

彼の両手には横向きになったスマホがあり、ゲームをしていることは明白だ。

 

「マジかよ……もう夜だぜ?」

『今回の犯人は人気のない時間帯を選んでいる……君が以前言っていたことだろ?』

 

「そーでした」と彼の言葉に返す。

だが、移動手段が徒歩なため、変身していった方が良いかもしれない。

そう思いながら、ドライバーをセットして外に出ると見覚えのない物が視界に入った。

 

「……バイク?」

『そう。君のためのマシン「ドライグハート」さ。免許を取っていると美緒から聞いたからね。私なりのプレゼントさ』

 

思わぬ贈り物に、戒は赤く輝くマシンへと手を触れる。

ドラゴンや甲冑のようなデザインに少しだけ心を躍らせながらも、付属されていたヘルメットとゴーグルをつけてエンジンを起動する。

 

「さぁ、行くぜウェルシュ!」

『OK! Start Your Engine!!』

 

こうして二人は、再び忍の少女と出会う……。




 『閃乱忍忍忍者大戦ネプテューヌ -少女達の響艶-』が発売されると聞き、モチベを上げつつ投稿しました。本当にすいませんでした!(土下座)
 今回の『ケルベロス・エラー』は烈 勇志さんの投稿していただいたエラーを参考に登場させました。誠にありがとうございます!

ケルベロス・エラー ICV花江夏樹(エラーの人格と兼役)
妹を自殺に追いやった連中に復讐し、その尊厳を守るべくエラーカセットと手にして融合した。モチーフは『ケルベロスとナベリウス』
特殊な力こそ持たないが、その分破壊力や鋭い爪による攻撃を得意としており、強靭な牙で嚙み砕く。また翼を持っているため飛行も可能。


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